法制審議会民法(債権関係)部会 第1分科会           第2回会議 議事録 第1 日 時  平成24年1月24日(火)自 午後1時00分                      至 午後6時09分 第2 場 所  法務省小会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○中田分科会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第1分科会の第2回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,昨年11月に開催されました第1回会議の積み残し分と,その後新たに第1分科会に割り当てられた論点の検討をしたいと思います。具体的には,「代理」のうちの残った部分,「契約の解除」,そして債権の目的のうち「種類債権の目的物の特定」について御審議いただく予定です。   まず,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 お手元の資料について確認させていただきます。   まず,右肩に「分科会資料1」と記載した資料をお配りしております。この分科会資料というカテゴリーは新たに設けたものですけれども,これは分科会における補充的な審議をより充実したものとするために,事務当局において必要に応じて部会における議論の整理を試みた資料を用意してはどうかと考えて,通常の部会資料とは異なるカテゴリーを設けたものであります。部会と分科会の審議を架橋する補助的な資料という位置付けでありまして,新たな審議項目を提示する趣旨のものではありません。この分科会資料は,部会資料と同様に,法務省ウェブサイトで公表することといたします。正式な会議資料の一つですので,本来であれば事前に分科会メンバーにお届けすべきものですけれども,今回は,先週開催された部会での審議項目を翌週の分科会で取り扱う関係で,やむを得ず当日配布となってしまいましたことを御理解いただきたいと思います。この資料の内容は,後ほど関係官の新井から説明いたします。   また,委員等提供資料として,潮見佳男幹事から「債務不履行解除の規定の在り方について」と題する書面が提出されております。それから,高須順一幹事からも「債務不履行解除の規定の在り方について」と題する書面の提出がありました。 ○中田分科会長 よろしいでしょうか。   それでは審議に入ります。   審議の進め方ですが,第1回会議の際には次のようにいたしました。すなわち,議題を適宜区切って,その区切りごとに,まず事務当局から部会での審議状況と部会から分科会に付託されている事項をリマインドするための御説明などを頂きます。その後,私のほうで本日御審議いただくべき主要なポイントを整理し,その上で御審議を頂くという方法でした。また,分科会は詰めをしていくべき場ですので,委員,幹事はもとより,事務当局の皆様にも適宜御発言を頂くということにいたしました。今回も大体このような方法で進めるということでよろしいでしょうか。   ではそうさせていただきます。   本日の進行予定ですが,まず「代理」,次いで「契約の解除」の順で審議を進め,休憩前までに部会資料34,第3,1の「(2)無催告解除」までを御審議いただきたいと思います。休憩後,部会資料34,第3,1の「(3)履行期前の履行拒絶による解除」以降を,そして最後に「種類債権の目的物の特定」について御審議いただきたいと思います。   それでは,前回の積み残しからですが,部会資料29の「第3 代理」,「2 表見代理」の最後にあります「(5)重畳適用」に関する論点です。事務当局から説明をお願いします。 ○金関係官 御説明します。部会資料29の81ページを御覧ください。アにおいて民法第109条と第110条の重畳適用,イにおいて民法第112条と第110条の重畳適用について記述をしております。この論点については,部会の第33回会議で審議がされ,分科会では規定の要否等について審議することとされておりますので,よろしくお願いいたします。 ○中田分科会長 ただいま御説明ありましたように,この議題につきましては,規律の内容自体にはそれほど異論がなさそうですが,このような細目についてまで明文の規定を置く必要はないという御意見もありましたので,規定を置くべきかどうかについて更に検討することになっています。   この他,部会では主張立証責任についての御注意もありましたが,これについては各条文で用いられている主張立証責任の規律を合わせるということで足りるのかもしれませんので,この点は,もしも何か御意見があればお出しいただくという程度にしたいと思います。   そこで,本日はこのような規定を置くことの当否を中心に御審議いただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○高須幹事 強い意見というほどではないのですが,現実問題として重畳適用が実際上,認められていて,判例等も存在するということであれば,分かりやすさという観点から規定を設けるということに一定の合理性があるのではないかと思います。そういう意見を持っております。 ○中田分科会長 他にいかがでしょうか。 ○中井委員 弁護士会は二つに分かれています。今,高須幹事がおっしゃったように,現実に適用されているのだからそれを明文化したらいいのではないかという意見と,他のところで同じような場面がどの程度あるのか,全体を通じて考えてはいませんけれども,二つの規定が合わさって使われるというのは一般的にはあり得るだろう,それをここに限って規定するのかということについて慎重意見もあります。   とするなら,一つは,どういう表現の仕方があるのかということは一方で考えながらも,他の分野についての議論も十分に尽くして,同じような類型といいますか,二つの規定の適用を条文として明らかにしておく場面というのがあるのかないのか,検討を重ねた結果,もう一度振り返ってこの分科会で議論をする,それを最終的に部会に御報告する,こういう考え方でもいいのではないかと思っております。 ○中田分科会長 今,二つの考え方をお示しいただいたわけですが,いかがでしょうか。 ○山本幹事 補足的な情報にすぎないかもしれませんが,重畳適用が問題になるのは,109条,110条,112条が同じ趣旨に基づく規定であるという考え方が基礎にあるからだと思います。つまり,表見代理の規定については,立法当初は,109,110,112条はそれぞれ別個の制度であると理解されていたと言われています。そうすると,重畳適用というのは簡単には出てこないはずですが,その後の学説で,これらは,表見代理という表見法理の一つの表れである制度として位置付けられるという形で体系的な基礎付けを与える学説が有力になって,それが受け入れられたことから,それならば重畳適用の可能性が認められてよいのではないかということで,実際にそれを認める裁判例が出てきたということではないかと思います。   ですので,他にどのような場合があるかと言われますと,ここではまず,このような三つの規定が同じ趣旨に基づくものであるという考え方が基礎とされていることを確認する必要があると思います。その点について,もし異論があるのであれば,重畳適用を認めることには問題がある。したがって,規定しないということも考えられますが,そうではなくて,表見代理はこのような趣旨に基づく規定であって,これら三つの規定は,要件は違うかもしれないけれども,趣旨は共通しているという共通理解が得られるのであれば,先ほど高須幹事がおっしゃられましたように,例外的かもしれないけれども実際に問題になる場合があるとしますと,このような形で重畳適用を認める規定を置くこと自体には問題がない,むしろ説明がつくのではないかと思いますが,いかがでしょうか。   また,これは分科会に投げられた問題ではないのかもしれませんが,補足的に申し上げておきますと,表見代理について規定する際に,109条,110条,112条という個別的な規定を置くという立場を維持するか,それとも表見代理を基礎付ける統一的な一般条項のようなものを定めるかということは,理論的にもあり得る立法的な選択肢だと思いますが,部会でもそうでしたし,これまでの様々な立法提案でもそうだったと思いますけれども,これまでのところ,表見代理について統一的な一般条項を設けるという提案はされていないと思います。   それは理由があって,一つは,そのようなものを認めると,本人に当たる者が,代理権を与えてもいないのに法律行為をしたという責任を課せられる場合が非常に広くなってしまうおそれがある,それは問題ではないかということです。表見法理についての現在の学説の考え方でも,本人側の帰責性を非常に重視するようになっていることからしますと,一般条項化は問題が大きい。それが一つですが,もう一つは,従来の裁判例を見ていても,この三つの条項ではどうしても賄えない問題は必ずしも出ているわけではない。そうすると,そこを変えなければいけない理由は現時点ではない。したがって,三つの規定を定めるという基本姿勢は現行法のまま維持してよい。ただ,その上で,重畳適用は現に問題になっているし,先ほどのように定めてよい理由もあるということから,提案がされているのだろうと思います。 ○内田委員 なぜわざわざここで重畳適用の場面についての規定を置くかと考えますと,110条の要件を厳格に解すれば,これらの重畳適用というのは出てこないと思います。ですから,同じ趣旨だから重畳的に適用できることを確認的に規定するというのでは全くなくて,110条の要件を厳格に解すれば出てこないはずのものを判例は認めている。そのルールをきちっと書こうということだと思いますので,積極的な意味があるのではないかと思います。 ○中田分科会長 ここに規定を置くという御意見が多いようですが,もしも他にも同種のものがたくさん出てきたら,それはそれで考えることがあるかもしれない,ということになりましょうか。 ○鹿野幹事 同種のというお話が出ましたので一言申し上げます。例えば,これ以外に,94条2項と110条を重畳的に適用するというような場面があるかもしれません。けれども,これを表見代理規定の重畳適用の場合と合わせて,両者につき同じような取扱いを考えるのが適切かというと,それには私は疑問を感じます。  表見代理における109条と110条,あるいは112条と110条の重畳適用は,判例法理としても既に安定しているのではないかと思います。これに対して,例えば,先ほど例に挙げた94条2項と110条の重畳適用,あるいは両規定の法意に照らした解釈ということについては,また別に検討するべきであり,一方を明文化するから他方も同様ということには直ちにはならないのではないか,そのように考えております。 ○山本幹事 規定を置くかどうかということに加えて,内容についても1点だけ指摘させていただいてよろしいですか。   109条と110条のほうですが,これは証明責任の問題とも少し関係しているところがあるのですが,109条については,代理権授与表示があれば,原則として表見代理の成立を認めるけれども,相手方が代理権がないことを知っていた,又は知らなかったとしても過失があったときには,表見代理の成立は否定されると考えるとしますと,悪意があった,又は過失があったことが阻却要件,つまり抗弁として登場してくることになります。   問題は,部会資料の3行目辺りですが,「相手方がその表示された代理権がないことにつき善意・無過失であり」というのは,109条からすると,要件になりそうなのですが,重畳適用の場合は,その表示を超えた代理権が与えられていると信じた,そして信じたことに正当の理由があると言えて初めて重畳適用が認められると思います。そうすると,表示されたものを超えた代理権があると信じたことが証明できないと,表見代理は成立しませんので,この場合に,表示された代理権が与えられていないことを知っていたことはあり得ない。したがって,これは要件から落ちてしまうのではないか。広げられた代理権があることについて信じて,かつ正当の理由があることの評価根拠事実を主張・立証しないといけませんので,この場合に,表示された代理権がないと信じたことについて過失があることを問題にする必要はあるのでしょうか。つまり,何が言いたいかといいますと,重畳適用の場合には,現に行われた行為について代理権があると信じたことについて正当の理由があることが要件になりますから,表示そのものについての善意・悪意ないしは悪意・過失は,それに吸収されてしまうので,独立の要件にする必要はないのではないかということです。   念のために言いますと,次の112条と110条の重畳適用の場合は,現に行われた行為,つまり広げられた行為について代理権があると信じたとしても,かつて与えられていた代理権が消滅していたことは知らなかった,ないしは過失があるということは,それとは別に観念できますので,こちらのほうは両方の要件が,証明責任の所在は別として,維持されてよいと思いますが,109条と110条の重畳適用型の場合は統合されるのではないかと思います。   その意味では書き方の問題ですけれども,3行目から4行目にかけて,「表示された代理権がないことにつき善意・無過失であり,かつ,相手方がその他人に当該法律行為の代理権があると信じたことにつき正当な理由があるとき」と並べて書くのは,丁寧そうに見えて実は無用のことではないかと思います。 ○高須幹事 今の山本先生の御示唆ですが,私も同じような意見を持ちました。今聴いてそうだなと思った程度のことで恐縮ですが,私は,今回の改正において,取り分け第三者の保護規定については,明文化に当たり丁寧な書きぶりをすべきという意見を持っておりまして,ここのところもきちんと目配りをして,全体を見渡した第三者保護規定の在り方というのが意識されているという形にしたらいいのかなと思いました。そこをもう少し御検討いただいて最終的な御提案を頂ければと思います。 ○金関係官 基本代理権と実際に行われた代理行為の代理権との間には何らの関連性も要しないというのが民法第110条の一般的な理解だと思いますが,そうしますと,基本代理権の存否に関する主観的要件,ここでは善意かつ無過失ではなく悪意又は有過失を問題にすべきだと思いますが,いずれにせよ,基本代理権の存否に関する主観的要件が,実際に行われた代理行為の代理権の存否に関する主観的要件のところで統合されると言ってよいのか,少し疑問を持っております。 ○山本幹事 最上級審裁判例で109条と110条の重畳適用が実際に問題になったケースは,少し古い裁判例ですけれども,簡単に言いますと,白紙委任状が交付されて,白紙委任状とともに売渡証書も交付された場合で,それだけ見ると売却については代理権を与えるという表示が行われたと解釈できるけれども,実際に行われたのは山林の交換契約だった。この場合に,売却とは異なる行為が実際に行われて,白紙委任状のほか併せて交付されたもの,その他の事情等から,交換契約を行う代理権が授与されたものと信じ,そう信じたことに正当の理由があると判断されたケースです。正当の理由が最上級審裁判例で具体的に争点になったわけでは必ずしもなさそうなのですが,ケースとしてはそのような場合に初めて重畳適用を認めたというものだと思います。   この場合は,交換契約を行う代理権が与えられたものと信じ,かつ信じたことに正当の理由があることが主張・立証されるべきことではないか。売却について代理権授与表示が行われて,それを信じていなかった,ないしは信じたとしても,過失があることは,争点にならないのではないか。つまり,先ほど申し上げたように,表示を超えた代理権授与が行われたものと信じたというケースですので,信頼保護要件は一括されるのではないかと思ったのですが,いかがでしょうか。 ○高須幹事 イメージみたいな言い方で申し訳ありませんが,別個独立だと関係官から御指摘があり,確かに別個独立だと思うのですが,それが重なるということはあり得るのではないかというふうに思いました。関係官の御指摘は分かったのだけれども,主観的要件の面では,それを踏まえた上での検討ができるのではないか,そういうふうに思います。 ○山本幹事 少なくともそのような形で整理をしてはどうかという問題提起だと受け取っていただければと思います。 ○内田委員 山本さんの御意見に触発されて発言いたします。今のような先例の事例の場合に,交換契約についての代理権があるかどうかというのは,当然相手方は考えるわけですが,同時に,109条が重畳適用される事案というのは,この人に対して代理権を与えているということについての信頼というのもあるのではないかと思うのです。本当に代理権を与えていたのであればその代理権の範囲だけが問題になりますけれども,表示ですので,本当に代理権を与えていたのかどうか自体についても,信頼があったかどうかが問題になり得る。典型は白紙委任状ですので,この人が白紙委任状を持っていることが不自然ではないのかどうかということも考慮されるのではないかという気がするものですから,そこのところをもう少し議論してはどうかという気がいたしました。 ○鎌田委員 109条,110条の重畳適用例について,山本幹事はどちらかというと110条の中に包摂されるという整理だったのですけれども,私は,109条,110条は少し性質が違うという意識を持っているからかもしれないですけれども,109条の拡張適用として考えた方が良いように思っています。109条では,109条代理権授与表示があったときに,表示された範囲内で行われた代理行為については,その表示を信頼した相手方との関係で表見代理が成立しますと,こういうのが109条の規定の中身なのですけれども,現実に表示されたものと相手方が信頼した代理権の範囲が食い違っているときに,実際に表示者の意図し,あるいは客観的に表示されたものを超えて,相手方の信頼した範囲まで109条はカバーしますよというふうに考えるべきだと思っています。それではなぜその拡張が認められるかというと,110条の法意に照らしてそこの拡張が認められるということではないかと思います。   だから,109条1本でいけるのではないかという考え方で,109条,110条の重畳適用型というのは考える必要がないのではないかと私自身は思っていて,そういう意味で,重畳適用というのは,結果的に重畳適用なのだけれども,ここで言うように,要件を二つ重畳してクリアしたときに初めてというのとは,ちょっと考え方が違いそうな気がしています。その点は山本幹事的な整理でも全然差し支えないですし,規定を設けることはいいだろう思うのですけれども,ここで要件をこういうふうに固定することが本当に妥当なのかどうかということについては,検討の必要がありそうな気がかねてよりしていました。それ以上にこだわりませんが。 ○中田分科会長 ありがとうございました。   それでは,規定の要否につきましては,必要だという意見が比較的多いようですけれども,他とも比較しながら更に考えると。その際の視点についても今日お示しいただいたかと思います。それから,主張立証責任とも関係いたしますが,その要件については,一元化するという意見と,二つ別の観点があるんだという意見があるということで,論点が出たと思いますので,更に検討していきたいと思います。   それでは次に進ませていただきます。次の論点は,部会資料29の第3,「3 無権代理」の「(2)無権代理と相続」です。説明をお願いします。 ○金関係官 御説明します。部会資料29の84ページを御覧ください。冒頭に規定の要否を問う記述があり,アにおいて無権代理人が本人を相続した場合,イにおいて本人が無権代理人を相続した場合,ウにおいて他人が無権代理人及び本人の双方を相続した場合について記述をしております。この論点についても,部会の第33回会議で審議がされましたが,特に合意が形成された点はありません。分科会では,規定の要否とアからウまでの具体的な問題点等について審議することとされておりますので,よろしくお願いいたします。 ○中田分科会長 この論点につきましては,今お話がありましたように,規定の要否と具体的論点について更に検討するということが課題になっております。規定の要否につきましては,一般的な議論は先ほどの重畳適用のところでも出ておりますが,ここでは無権代理と相続の場合における規定の要否について,更に御意見があればお出しいただきたいと思います。また,仮に規定を置くとしたら,アからウまでの具体的な規定の仕方がどうなるかについても御検討をお願いします。いかがでしょうか。 ○高須幹事 弁護士会の中の議論を紹介させていただきます。もちろん弁護士会が全てこの意見ということではありませんが,基本的には余り細かな規定は要らないのではないかという意見が多数です。判例を見ても,いろいろなケースがあるわけですから,ケース・バイ・ケースでどんどん分かれていくということになるのですが,その全てを論理的に網羅して何々型,何々型みたいに全部規定するというのは,立法の在り方としてはやや細か過ぎるかなと。したがって,基本的なところである程度押さえていったらどうだろうかというのが,弁護士会の中ではやや強いかというニュアンスでございます。   したがって,その中でもまた差があるわけですけれども,例えばこの中で言えば,アとイぐらいは定めておいて,あとは条文になくても,それとの兼ね合いで,判例法理がおのずと,既に形成もされているわけですけれども,引き続き形成されていくのではないかと,この辺りでよしとするという意見が比較的強かったと思います。 ○中田分科会長 ありがとうございます。他にいかがでしょうか。 ○中井委員 弁護士会としては,相続の場合について特段の規定を設ける必要があるのかという基本的な疑問が,なお強く言われています。無権代理のこの場面でここだけに規定が設けるのか,必要ないのではないかという考え方です。それに対して,ここも相当判例がありますから,最小限の部分について整理することについての合理性を認める意見もあるわけです。それもなるほどと思うのです。部会のときでも指摘がありましたが,様々な類型があるわけで,共同相続のことを考え出すとかなり複雑になります。本当にそこまで規定を置くのですかという疑問があり,他方,分かりやすい民法という観点からも明文化をしてはどうかという賛成意見も相当数あるわけです。   そこで,高須幹事からもありましたが,ア,イ,ウと三つの場面が提示されているわけですけれども,ウについては,判例と異なる整理で,そういう意味でまだ確立しているわけでもないという点から,ウを一つの方向性を決めて定めることについては,規定を設けるという考え方に立ったとしても消極意見が多いというのが実情です。   そこで,共同相続を考えない単純パターンのアとイを定めておいて,他の様々な場面についてはその二つの基本原則から考えていただく。ウの場合については留保し,解釈に委ねておくという選択もあるのかと思います。   そして,イについては,ここの御提案の趣旨を明文化するという考え方に賛成が多かった。それでいいように私も思っております。   アについては,甲案,乙案が,弁護士会ではほぼ半分に分かれるのですけれども,個人的には乙案がいいのではないか。本人が既に追認拒絶をしている場合について,甲案のように決めておくのがいいのか,なお解釈に委ねることとしてはどうかと考えております。 ○中田分科会長 いかがでしょうか。 ○岡崎幹事 裁判所でも,無権代理と相続のようないろいろな場合が考えられるような論点について詳細な規定を置くことについては,反対をするという意見が多かったです。   アとイの場合だけ規定をするのがいいのかについては,明示的に裁判所の意見を確認したわけではないのですけれども,いろいろな場面が想定される中で,断片的に規定を置くことに関しては,慎重な検討を要するのではないかと思っております。 ○中田分科会長 ウについて,あるいは更に詳しく規定を置いたほうがよいという立場からの御意見がもしございましたら。   特にないようでしたら,ア,イについて規定を置くか,あるいはそれも置かないかという,二つぐらいがここでの御意見ということでしょうか。 ○山本幹事 今の御指摘の趣旨は,ウについて規定を置くべきだという意見がないかということだったのですか。 ○中田分科会長 ウについて,あるいはそれよりも更に詳しい規定を置くべきかどうか。 ○山本幹事 ウについては,私は規定を置くべきだと考えています。それは,仮に規定を置かないとしますと,アとイの書き方にもよりますけれども,現時点での書き方であれば,ウについては,少なくとも現在の判例法を変更しなければならないという趣旨は出てこないだろうと思います。ですので,ウについて現在出ている判例の立場が維持されることになる。少なくとも裁判実務ではそうなるだろうと思いますが,それは適当とは言い難いのではないか。したがって,ウについては,やはり明文の規定を置くべきであるという意見を持っています。 ○中田分科会長 ウを超えて,更に共同相続についてまで規定を置くということは考えておられない。 ○山本幹事 その点についてコンセンサスが得られるのであれば,明文の規定を定めることもあり得ると思います。ただ,そのような規定を定めるべきかどうかについては,細かくなり過ぎるから定めるべきではないという考え方もあるほか,現在の判例法の立場は,追認及び追認拒絶権は不可分のものであって,一体として行使されなければならないという考え方を基礎に展開されているものだと思いますが,仮にこの判例法を基礎として明文化するとすれば,追認・追認拒絶権ないしは形成権に相当するものの相続について,一定の立場を採用すると受け取られるような立法を行うことになる可能性があるので,慎重にすべきではないかという意見が学者サイドではかなり強く出されているところです。その意味では,相続法のルールに関わる立法については,もう少し慎重に考える必要があるのではないかという観点から言いますと,広くコンセンサスが得られる限度にとどめて,共同相続に関するルールについてはなお解釈に委ねることもあり得る考え方だろうと思います。したがって,両論併記にするか,少なくともそのような指摘があったということにとどめるか,いずれにせよそういうものであって,特に積極的に必ず立法をすべきだという強い意見を持っているわけではないというところです。 ○鹿野幹事 私も,分かりやすい民法ということから言うと,判例法理として確立しているものについては明文化をしたほうがよいのではないかという考えを一般論としては持っているのですが,この問題,つまり無権代理と相続の問題に関しましては,少々ちゅうちょを覚えます。特に,部会でも指摘があったのですが,現実には単独相続より共同相続のほうが多いのにもかかわらず,単独相続の場合を念頭に置いた規定だけを取り出して設けるということが果たしてよいのかという点が引っ掛かるところです。かといって,共同相続の場合まで全て規定を置くのかというと,先ほど山本幹事がおっしゃったような問題も含めて,いろいろなところに配慮しなければいけないことになって,容易ではないと思われます。   ただ,それは取りあえずおくとして,仮にコンセンサスが得られる限度で規定を置くとした場合の内容を考えるなら,私自身は,まずアの問題については,乙案を支持したいと思います。確かに甲案のような内容の判例が存在するのではありますけれども,本人が既に追認拒絶をしていた場合に,その本人を相続した無権代理人はいつでもその追認拒絶の効果を援用することができるのかというと,そうではなく,なお権利濫用の法理等によってその援用が否定されるような場合もあり得るものと思われます。ところが,甲案のような書き方をすると,誤解を招くおそれ,あるいは今言いましたのと逆の方向でルールが進んでいくおそれがあるのではないかと思います。ですから乙案に賛成です。   次に,イについては,内容的にそれほど異論はないのですが,ウにつきましては,甲案には疑問があります。これについても,甲案のような内容の判例があることは認識しておりますが,この判例に対しては,御存じのとおりいろいろと批判が多いところでありまして,私自身も,個人的にはむしろ乙案の考え方を支持しているところです。しかし,このように大いに議論がある問題だということを考えますと,ウについては,これを明確に定めるということには,かなり慎重であるべきだと思っております。   先ほど山本幹事からは,定めないということになると今の判例法理のままということになるから,むしろ定めるべきだという御発言がありました。確かに,その点はそうかもしれませんが,かといって乙案の内容で果たしてコンセンサスが得られるのかというところは心配です。私自身は,今申し上げましたように内容的には乙案に賛成という立場ですから,ウにつき乙案で部会の意見が一致し,それが一般に支持されるということであれば,乙案の内容で規定を設けるということをもちろん支持したいとは思いますけれども,それは難しいかなという感じを持っております。 ○中井委員 先ほど,ウについては定めないという意見を述べさせていただきましたけれども,仮に全体の意見としてアとイを定めたならウも定めるとなったときの意見ですけれども,弁護士会の多くは,甲案ではなくて乙案に賛成する意見が多かったことを御紹介しておきます。 ○内田委員 この問題について,ア,イ,ウと分けて具体的な規定が置かれると,確かに特定の非常に限られた問題に異様に長い規定があるというアンバランスな印象を与えるのではないかという御意見は,非常によく理解できます。   そこで,個別の紛争類型ごとの規定を置くのではなくて,全体の解釈の指針になるような規定が一つ置けるといいのではないかという感じがします。それは結局は,ウの場合には乙案を採るということが前提になりますけれども,本人あるいは本人の包括承継人が相続人となっている場合については,被相続人である無権代理人の立場に拘束されないという趣旨が,できるだけシンプルな原則として書かれれば,あとは解釈でいけるのではないかという感じがいたします。 ○中田分科会長 今おっしゃったのは,被相続人の無権代理人の立場に拘束されないという御趣旨ですが,相続人が無権代理人である場合については。 ○内田委員 それについては特に書かないという趣旨です。無権代理人を本人が承継するという,それが一番典型ですが,その場合についての原則が,本人の包括承継人の場合でも同じように妥当して,本人の包括承継人の地位を有する限り,被相続人である無権代理人の地位に拘束されないという趣旨を書くことができれば,無権代理人が相続人になった場合の扱いについては,その反対解釈といいますか,趣旨を裏返して解釈で導くということは可能ではないかと思いました。 ○山本幹事 正確かどうか分かりませんが,ウの場合も含めるとすれば,「本人又は本人の資格を承継した者は,無権代理の資格を有するとき又は承継したときでも,本人の資格に基づく権利行使を妨げられない」という一文でいけるという御意見だろうと思いました。中身は一緒だけれども,一文で済むという御指摘ではないかということです。 ○鎌田委員 それは,規定がないとそういうふうにならないですか。 ○山本幹事 現行民法下での解釈は,少なくとも判例法によると,本人相続型の場合はそのような解釈を導いていますけれども,双方相続型の場合はそのような解釈を導いていませんので,必然的ではないだろうと思います。先ほどの内田委員の御指摘はアとイの場合だけだったかもしれませんが,私の場合はウまで広げましたので,そうなったということです。 ○中田分科会長 ウについても乙案を採るという立場を前提とされるものですから,山本幹事と共通していると思います。 ○山本幹事 そうしますと,必然的ではないということになると思います。 ○中田分科会長 今,新たな御提案を頂いたわけですけれども。 ○内田委員 新たというか,既にあるものをどう書くかというときに,できるだけ単純化を図るとそういう可能性もあるのではないかということです。 ○中井委員 内田委員がおっしゃった考え方自体について,弁護士会は恐らく特段反対はないのでは。その反対場面を,更にアを入れるかどうかは別として。 ○山本幹事 アについて規定するかどうかは,もちろん問題ですが,その中での甲案と乙案について,先ほど御意見がありましたけれども,要するに乙案のように書くことは,無権代理人が本人を相続した場合は,無権代理人は追認を拒絶することはできないとのみ書くわけでので,本人が追認しているときにそれを援用することは,この規定からは妨げられないことになるはずです。そうすると,実は甲案と同じ結果に実質的にはなるように思います。   ただ,鹿野幹事がおっしゃいましたように,そのような場合でも,現在の学説も指摘しているところですけれども,本人が追認したことを無権代理人が援用することが信義則ないし権利濫用に当たる場合は,事案によってはあり得ることに変わりはない。それで解釈としては問題がないのではないかという御指摘で,それであれば甲案からも反対はないはずであって,仮に書くとすれば,無権代理人は本人の資格を承継したときでも,本人の資格に基づいて追認を拒絶することはできないとのみ書けば,それでこの場合もカバーできるということです。   ただ,先ほどの内田委員の御指摘は,先ほどの一文を書けば,その反対解釈で今のようになるし,そしてまた現行法下でもこの結論については異論がないのであるから,大丈夫ではないかという御指摘かもしれません。 ○金関係官 本人は無権代理人の資格に拘束されないということに加えて,無権代理人は本人の資格を使えないという趣旨のことを書くと,本人がした追認拒絶を無権代理人は一切使えないという解釈がされるおそれはないでしょうか。もしそうだとすると,逆の場面はむしろ書かないほうが良いようにも思いました。 ○山本幹事 先ほど申し上げたのは,本人の資格に基づいて追認ないし追認拒絶をするという,追認ないし追認拒絶権の行使が許されないということであって,本人が追認ないし追認拒絶をしたことを援用するのは,それとは別問題であるという仕分けをすれば,問題はないのではないかと思いますが。 ○内田委員 私が逆の場合について書かないというふうに先ほど申しましたのは,アの甲案の結論に余り賛成ではないということがあって,そこはブランクにして解釈に委ねておいたほうがいいのではないかという意図もありました。 ○山本幹事 先ほど,判例を前提にしても,本人が追認拒絶したことの援用が信義則に反する,ないし権利濫用に当たるということでカバーできるではないかという見解を御紹介しましたけれども,これはそれでカバーするしかないという見解でして,その主張者のお一人が内田先生ですが,実は私も含めてなのですけれども,学説ではそのような指摘をしている方が何人かおられます。その意味では,書かないほうがよいのかどうかと言われると,迷うところはあることはあるのですが,仮に書くとしても先ほどのような対応が可能であるという点は変わらないと思います。 ○鹿野幹事 繰り返しになりますが,まずウについては,内田委員がおっしゃったような形で,基本的な考え方がシンプルに書けるのであれば賛成です。   それから,アについては,私も先ほど,甲案ではなくて乙案を支持すると申しましたが,それは,甲案には基本的に反対だという趣旨でもありました。甲案というのは,本人が既に追認拒絶をしていたときには,無権代理人であっても基本的には追認拒絶の効果を援用できるという考え方を採るものですが,これには支持できないところがあります。効果の援用が権利濫用の法理などにより否定される可能性があると先ほど申しましたけれども,むしろ権利濫用に当たるような場合が多いのではないかと,個人的には思っているところです。   内田委員は先ほど,裏返しについては書かなくてもとおっしゃったのですが,裏返しを全く書かないというのも不親切なような気がします。そこで,先ほど山本幹事がおっしゃったような限度でアの問題について書くということはあり得るのではないかと思いますし,その限りで山本幹事の御発言を支持したいと思います。 ○金関係官 限度とおっしゃったのは,本人がした追認拒絶を無権代理人が相続後に援用することはできるけれども,本人の追認拒絶し得る地位を相続した無権代理人自身がその地位を利用して追認拒絶をすることはできないということを書くという御趣旨でしょうか。鹿野幹事の御発言は,むしろ,本人がした追認拒絶を無権代理人は援用することができないとすべきであるという御主張のようにも感じましたので,確認をさせていただければと思います。 ○鹿野幹事 個人的にはその場合に援用を認めるべきではないと思っているのです。ただ,それをそのまま明文で書かなければならないということではなくて,ウについて基本的な考え方を書くのであれば,その裏返しというか,表の関係であるアについても,本人を相続した無権代理人が本人の地位に基づいて追認拒絶権を行使することはできないという考え方を書けばよいのではないか,そのように山本幹事が先ほどおっしゃったと私は捉えまして,その点で賛成だと申し上げました。 ○中井委員 確認ですが,金関係官の御質問は,相続開始前に追認拒絶があったときにどうかということですね。今の鹿野幹事も,地位を引き継いだ後はそのとおりなのでしょうけれども,地位を引き継ぐ前に追認拒絶があったときはどうお考えなのか。これは一般法理で解決するのであって,特に明文化しないという御趣旨と理解してよろしいでしょうか。 ○鹿野幹事 追認拒絶が相続前にあった場合ですよね。追認拒絶が相続前にあった場合についても,基本的に私自身は,今も申し上げましたように,無権代理人が本人のなした追認拒絶の効果を援用するということは信義則違反あるいは権利濫用に当たるとして,援用は認められるべきでないと解すべきではないか,あるいは少なくとも援用が認められない場合が多いのではないかと思っております。   ただ,それを一切否定するということまで明文に書くのかというと,そこまで絶対的に常に否定されるということでもないかもしれないし,少なくともそこまでのコンセンサスを得るのは難しいだろうということも含めて,あとは解釈に委ねるという意見を私自身は持っているところです。 ○中田分科会長 大体よろしいでしょうか。詳し過ぎて細目にわたる規定は置くべきではないという指摘について,それではもう少し一般的な形でまとめたものを置いてみてはどうかという具体的な御提案が出まして,そのワーディングは詰める必要があると思いますけれども,それは更に検討していくというのが一つだと思います。   それから,判例との関係あるいは実質的にどうあるべきかについては,まだ意見の分かれが若干あるかと思いますけれども,それは意識しながら,一元化のワーディングを考えていって,どこがなお残っているのかを検討するということになるかと思います。   それから,相続法との関係については,山本幹事から御指摘がありましたとおり,この部会でどこまでできるかということもありますので,できる範囲のことをまずやってみようということかと思います。大体その辺りでよろしいでしょうか。   それでは次に進みます。次は,部会資料34の「第3 契約の解除」の「1 債務不履行解除の要件としての不履行態様等に関する規定の整序(民法第541条から第543条まで)」の「(1)催告解除(民法第541条)」及び「(2)無催告解除」について御審議いただきます。この点について事務当局から説明をお願いいたします。 ○新井関係官 催告解除,無催告解除につきましては,部会資料34の24ページから32ページまでが該当の部分でございまして,この部分については,部会の第39回の会議において審議がなされたところでございます。   判例法理の趣旨を明文化するという方向については,異論がないと確認されたと思われますが,具体的な要件の在り方につきましては様々な意見があったところです。   そこで,今回,当日の配布になってしまいましたが,「分科会資料1」という,図によって,部会における議論を事務当局において試みに整理したものを作ってみました。   このメモを作った基本的な考え方というのは,催告手続の位置付けが一つの議論の分かれ目ではないかと考えまして,取り分け催告手続の経過や催告手続の間の事態の推移などについて,解除の可否を判断するに当たっての不履行の重大性とか契約目的不達成の判断の一要素として捉える,ある意味で実体的な要件として捉える考え方が示されている一方,催告期間の経過などについては,不履行の重大性や契約目的不達成とはまた別軸のものである,つまり,催告ないし催告期間内の事態の推移というのは不履行の重大性とは別の手続的な要件であるという考え方が示されています。この議論の対立点を一つの切り口としまして,前者のような立場を仮に甲説と呼び,後者の立場を仮に乙説とネーミングいたしまして,それぞれから見た解除の可否に関するファクターとそれらの相関関係について,ビジュアルな形で整理することを試みたものです。   表面が「1 催告解除」として,催告解除についての整理をビジュアル化することを試みたものでございまして,裏面を見ていただくと,「2 無催告解除制度」として,甲説乙説それぞれの立場から,無催告解除が認められる場面というのはどういう場面かということを整理してみました。その際,一つの試みとして,催告を無意味にする事情がある場合に無催告解除ができるという整理に基づき,催告解除制度との対比も踏まえながら,解除の可否をめぐるファクターとその関係の整理を試みております。   こういった整理は飽くまで試みの整理です。この整理自体にも当然異論もあり得るのではないかと思っておりますし,取り急ぎ作成したものということもありますので,必ずしも各委員,幹事の方の御意見のニュアンスをカバーし切れていないという可能性もあるとは思っておりますが,まずはこれが一つのたたき台になればと思いまして,事務当局の試みの整理を提示したものでございます。したがいまして,図の書き方の適否というところまで議論の対象にするということは想定していないところですが議論の一つの参照軸となり,充実した審議の一助となればと思って作成したものです。   それに基づいて議論を整理させていただきますと,催告解除制度について,催告の位置付けを実体的な要件と考える甲説はどのように考えられるかというと,まず,上の囲みの「債務不履行」というところにあるものと,「催告期間経過(その間の弁済の有無等)」というのを総合的に考えて評価して,それが重大不履行又は契約目的不達成と評価された場合には解除ができるという思考プロセスをたどると整理されるのではないかと思われました。   重大な不履行ということの典型例として挙げられるものとしては,売買契約などを念頭に置きますと,売買の目的物を引き渡さなかったということと,催告をしたけれども,その間にもやはり引渡しはなかったという場合であれば,重大不履行なり契約目的不達成の典型例に当たるのではないかとも考えられるところです。   一方,乙説は,当方の整理としては,催告期間経過というのを,重大不履行と契約目的不達成とは別の要件であると考える説としておりますが,それによると,まず催告期間経過とか催告期間の中の弁済の有無等とは別に,債務不履行,ここで言う債務不履行というのは,違反した義務の内容とか程度などが念頭に置いていますが,債務不履行自体が「重大不履行」あるいは「契約目的不達成」と評価される必要があると思われます。そして,催告期間が経過したときに,その期間内に阻却事由がない,この阻却事由というのは,典型的には弁済などを念頭に置いているものですが,弁済等がないということを併せて,両者が満たされた場合には解除ができると整理されるのではないかと思われました。   それぞれの考え方につきまして,いろいろ指摘が考えられるところでございます。例えば,甲説のような債務不履行と催告期間経過の状況などを総合的に勘案して,何らかの規範的な評価を施して解除の可否を判断するという考え方については,全くの無履行のような場面において,そのような規範的な評価という思考プロセスを経ることは,いささか重過ぎるのではないかという指摘も考えられるところです。それが,分科会資料1の「1 催告解除制度」の甲説の下の矢印で書いているところの指摘です。   一方,乙説についてですが,いかなる債務不履行をイメージするかにもよるかと思いますが,例えば役務提供契約などで,債務不履行の中身自体はもしかしたらそれほどひどいものではなかった場合であっても,催告をして,その後の追完の態様等が余りにもひどいものであったということを総合的に勘案して,解除の相当性を判断したほうがふさわしい場面があるのではないか,という指摘が考えられるところでございます。この指摘を,乙説の図の下に矢印とともに記載しております。   それと,1点補足させていただきたいのですが,この図については,必ずしも主張立証責任の分配まで念頭に置いたものではありませんし,二重囲み内の「重大不履行」ないし「契約目的不達成」というワードもまだ仮置きのものであるということは,従前のとおりです。   そして,分科会資料1の裏面を見ていただきますと,先ほどの催告解除についての甲説,乙説それぞれの立場から,仮に催告を無意味にする事情があったときに,無催告解除を認めるということになったときにどうなるかということをビジュアル化しておりますこれを見ますと,「催告を無意味にする事情」というのは,「重大不履行」なり「契約目的不達成」との関係でどのように位置付けられるのかという問題が想起されるようにも思われました。   繰り返しになりますが,これは飽くまで事務当局の試みの整理でございます。この分科会資料1の図と各委員,幹事の方々のイメージとのずれがございましたら,それも踏まえて御意見を頂けると,非常に有益ではないかと思っております。   以上を踏まえまして,催告解除,無催告解除の要件の具体的な在り方について御審議いただきたいと思います。 ○中田分科会長 この論点につきましては,先週の部会で活発な議論がございました。この分科会に求められておりますことは,催告解除と無催告解除を通じて意見の分岐点がどこにあるのかを意識しながら,様々な意見の整理を進めまして,最終的には中間試案に向けて,一つあるいは若干の案に絞り込む,そのための準備作業をするということではないかと思います。   ただいま新井関係官から御説明のありました分科会資料1も,そのための一つの材料ということでありまして,これは,ただいまの説明にもありましたとおり,飽くまでも議論を整理するためのイメージ図ということで,厳密なものではありません。ですので,この図の書き方の適否自体を議論するというのは生産的ではないと思います。この図は飽くまでも御参考ということで,皆様のそれぞれのお立場で自由に御議論していただきますようお願いいたします。   それでは,催告解除,無催告解除について御意見をお願いします。   何人かの方からペーパーをお出しいただいていますけれども,まずその御説明を頂けますでしょうか。どなたからでも。 ○高須幹事 まず,前座から説明させていただきます。   今日のために配布をお願いいたしました,私の名前を右上に書かせていただいた「債務不履行解除の規定の在り方について」というものを出させていただきました。   全部読む時間がありませんので,アンダーラインを引いたところを御説明させていただきます。今,事務当局サイドで作っていただいた案で言えば甲説的な発想に立っているというイメージを持っておりまして,そういう前提でお聞きいただければと思うのですが,その上で,私のペーパーで強調させていただいているのは,催告解除の重要性というところでございます。   まず,1ページの意見の理由ところからまいりますが,催告解除制度が有する明確性というものがある,あるいは予測可能性という言葉で言われる場合もあると思うのですが,要するに解除する側から見て,催告をしてそれに応じなければ基本的には解除は認められますよと,後日そのことについてトラブルが発生することを回避することが,全てとは言いませんけれども,比較的できますよという安心感というか信頼感というか,こういったものを催告解除は持っているのだろうということを,普段の仕事で強く思っております。   その催告解除は,そうなると単純明快な要件でないといけない。そこにいろいろなものが入ってくると,安心して解除できますよと弁護士が言えなくなるという,この要件をクリアすれば解除できるのですがみたいな相談をしなければならなくなるということになりますので,やはりシンプルに単純にと考えておりまして,頂いたペーパーとの関係では,もちろん債務不履行がなければならないわけですから,債務不履行があった上で,相当期間を定めた催告と催告期間にその履行がないと,こういう非常に分かりやすい,すぐに答えの出る要件をもって,催告解除を基礎付けたらどうだろうかというところがまず出発点です。現行の規定に近いわけですが,こういうふうに思っております。   2ページ目にまいりますが,そうは言いましても,催告解除の場合でも,催告さえすれば全てそれで正当化されるのだというのは,それは確かに行き過ぎではないか。催告をしたとしても,それ以外の要素というものが考慮されて解除の有効性が決まるということは,そこを全て否定するということはできないだろうということで,2ページ目の4行目からですが,「さりとて,催告解除の場合における解除権発生の根拠(正当性)を催告にのみ求めることは,催告以外の一切の要素を捨象することになり妥当性を欠く。催告解除は,相手方に対し再度の履行の機会を与え,また,解除権者による迅速かつ明確な処理に資することから,催告の事実自体に一定の実体法上の要件性が付与されると考えるべきである。しかし,同時にそれのみでは解除は正当化されず,契約当事者に,契約関係からの離脱を認めることを相当とする事由が併せ考慮されるべきである」と書きました。この場合の相当な事由をどう捉えるかが大変難しい問題だとは思っているのですが,抽象的には,債務者の債務不履行により債権者が被った不利益が一定の程度に達する場合を想定してきたのではないかというようなことを考えると,そこに達しない場合については幾ら催告をしても解除ができない,こういう言葉を何らかの形で表現するならば,「軽微」という言葉を当てはめてもいいのかなと。したがって,債務不履行が軽微な場合には,幾ら催告をしても解除できないという立て付けをしてもよろしいのではないか。   ただし,その問題としては,では催告プラス軽微でないことという積極的な意義付けですかとなると,ここで私の考えが出てしまうわけですけれども,催告自体が持っている重要性に鑑みて,軽微であるという要件はただし書にして,解除を争う者が軽微であることを主張立証すると解すべきだと。立証責任のところでの配慮みたいなものも含めて解除制度を作っていくべきではないか,このように考えた次第でございます。   そのように考えますと,恐縮ですが1ページへ戻っていただいて,第1の意見の趣旨の,「想定される条項案の骨子」の1のところのような表現,最初の1番目のところは現行の541条に近いわけですけれども,債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行を催告し,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約を解除することができるとなるわけです。その上で,ただし書で,一定の事情に照らし軽微なときは,解除することができないと,こういう抗弁と位置付けられるような規定を設けようと。   その場合の判断要素みたいなものをどこまで書くかということも考えてまいりました。決して自信があるわけでも何でもないのですが,「相手方の被る不利益が,契約の趣旨,債務の性質・内容,不履行の原因・態様,催告時及び催告後の事情に照らし軽微なときは」みたいなものを置いたらいいのかなと。余り置くとかえって難しくしますという御指摘も弁護士会の中では頂いておりましたので,簡単にしろ,シンプルにしろと言いながら,何でこんな難しいことをいっぱい置くのだという御指摘もあるのですが,総合的判断ということはどうしても避けて通れない部分があって,悩ましいところなのですが,このようなものが考慮に値するのではないかと,このように考えてみた次第です。   次に,無催告解除の在り方ということになるわけですが,これは2ページの意見の理由の2のところへまいります。下のほうでございますが,飽くまで催告解除を原則と捉える観点からは,一定の債務不履行の場合には,催告を要求することに合理性が認められない場合,今日のペーパーにも少しその趣旨の記述をしていただいている,催告を無意味にする事情という形で頂いているわけですが,そういう場合に無催告解除が導かれると,こう考えるのが分かりやすいのではないか。そうすると,2ページ一番下のところですが,このような考え方からは,無催告解除が許される場面を明確にするために規定を置くということが有効だと思われまして,3ページ3行目の最後のところからですが,「催告をしても債務者の履行が明らかに期待し得ない場合や,債権者が履行を受領しても契約目的を達することができない場合」などという表現で,先ほどお作りいただいた関係官のペーパーによれば,催告を無意味にする事情の中身をこのように考えたらどうだろうかとことでございます。   一言で「契約目的を達成することができない事由」と書いてもいいとは思っているのですが,少し具体的にというか,言葉遣いを多くしようかと思ったときに,この二つぐらいのことを書けるかなと思った次第です。前半の「履行が明らかに期待し得ない場合」というのが,言わば履行不能ということを考えておりますし,「履行を受領しても契約目的を達することができない場合」というのが定期行為ということを念頭に置けるのかと思ってのワーディングでございますが,もとよりこだわるものではありませんので,もっと適切な表現があれば,それに改めていただければと思います。   このような,要するに催告解除はシンプルに単純に,要件としてこれとこれがあるときに認められて,その催告が無意味な場合には無催告解除が認められますよと。ただ,その無意味な場合を限定して絞りましょうというか,絞ると言うと誤解を招くかもしれませんが,要件立てをしましょうという考え方を採っておりまして,3ページの真ん中ぐらいになりましょうか,「以上のようなモデルは」というところなわけですが,催告解除と無催告解除とを制度的に峻別し,かつ,催告解除を原則として,無催告解除をその例外とするような要件ぶりみたいなものを考えてまいりました。   あとは理論的な問題で,むしろ私どものような者が言うとかえって誤解を招くのかもしれませんが,イメージとしては,アンダーラインのところですが,私は,無催告解除と催告解除,どちらも正当化根拠は契約の拘束力からの離脱という一番大きなところで捉えていいのではないか。したがって,必ずしも両者が根本において別個なものと捉える必要はないのではないか。ただ,そこから出てくる具体的な要件ぶりというのは二つに分かれるといいますか,催告解除制度と無催告解除制度があると,それは要件として設定すれば,それはそれでいいというところではないかという考え方をしております。   そのようなことで考えますと,1ページへ戻りますが,想定される条項案の骨子の2項のところは,「前項の場合」というのは,当事者の一方がその債務を履行しない場合という意味ですが,催告をしても債務者の履行が明らかに期待し得ない場合や,債権者が履行を受領しても契約目的を達することができない場合は,催告をせずに,契約を解除することができると,そのような感じの規定になるのではないかと,このように思った次第でございます。 ○中田分科会長 ありがとうございました。   あとお二方についても続けて御紹介いただきたいと思いますが,今の時点で,高須幹事の御意見について確認的な御質問があれば,お出しいただきたいと思います。中身の議論は三つ出てからにしたいと思います。 ○新井関係官 いわゆる不完全履行の場面を念頭に置いて質問させていただきたいと思います。例えば,ある物の売買において瑕疵があって,瑕疵の修補の催告をした,それで解除ができるかどうかということを問題にする場面を念頭に置いているのですが,高須幹事の御提案ですと,催告解除の可否を判断するに当たっては,その物の瑕疵の程度とか内容,更にはその後の債務者側から提供された追完の内容あるいは追完の容易性,そういった事情を総合的に勘案して,それで義務違反が軽微だと評価されるときには解除ができなくなると,そういうお考えであると理解してよろしいでしょうか。 ○高須幹事 基本的にそのように考えて,できるだけシンプルに考えようという発想でございますので,そのように考えております。 ○新井関係官 実務的な感覚というのを教えていただきたいところなのですけれども,主張立証責任は解除を争う側が負うとしても,最後に催告解除ができるかどうかというのは,ある意味,義務の軽微性という規範的な要件の充足の可否に掛かってくるということになってくると思われます。つまり,規範的要件ですから総合考慮になり,催告解除のメリットというのがなくなるか,かなり減殺されてしまうのではないかという指摘もあり得るのではないかと思いますが,その点はどのようにお考えでしょうか。 ○高須幹事 御指摘のとおりで,確かにシンプルに単純にと言いながら,そこに評価規範を持ち込めばシンプルにはならなくなりますというところはあるのだろうと思います。そういうことを言い出せば裁判が長引くというのは,おっしゃるとおりだとは思っているのですが,さりとてこの軽微性という要件は外せないのではないか。今まで条文では書いていなかったけれども,いろいろな意味で全く考慮していなかったわけでもないのだろうと思いますから,軽微の程度をどの程度認定していくかというのは,これからの,もしこういう形で法律ができれば,正にそこは運用というか,法の適用の中で,妥当というか,適切な適用・運用ができるかに掛かってくると思うのですが,考え方としては,入れざるを得ないというか,入れるべきであると,そのように思っております。 ○中田分科会長 内容については後でまた詳しく議論したいと思いますが,今は確認だけにとどめて。   他に確認的な御質問がございませんようでしたら,あとのお二方についてもお願いしたいと思います。どちらでも。 ○潮見幹事 お配りしているものは,元々は,私が今日発現する際の手持ち資料にするつもりのものでした。一晩考えて,やはり席上配布したほうがよいと思って,お配りしたものです。その意味で,私自身の解除の捉え方はこのペーパーの中に書いていません。それゆえ,私自身の捉え方というものも,併せてお話しさせていただければと思います。   その前に,新井関係官が先ほどお話しになられた組み立て方と,私の組み立て方とがちょっと違うということを申し上げたいと思います。新井関係官は,催告手続の位置付けが議論の分かれ目であるということをおっしゃられたのですが,私はそうではないと思っています。このことを一言申し上げた上で,話を先に進めます。   そもそも解除というのは,先ほど高須先生のお話にもありましたけれども,債務不履行に遭遇した債権者を契約の拘束力から解放してやる制度であると捉えるべきだということについては,今回の部会のメンバーは,全員というわけではありませんが,ほぼ共有の理解をしているのではないかと思います。   この場合に,解除が正当化されるのは一体なぜかというと,それは契約あるいは契約関係を維持しておくということを債権者になお求め続けるのは,債権者にとってもはや期待できないような状況だから,そのような場合には解除という形で契約の拘束力からの解放を認めてやるべきであるというのでしょう。このことが,契約を維持しておく正当な利益が奪われた,あるいは挫折したからだとか,契約目的を達成することができないからだという形で表現されているのではないかと思います。   そうしたら,次に,契約あるいは契約関係を維持することが債権者に期待できないのは一体どういう場合かということを考えたとき,大きく分けると二つの場合があると思われます。一つは不履行自体が重大であるという場合。それからもう一つは,そうでなくても催告をして相当期間が経過することによって,契約を維持するということが合理的に期待できなくなったという場合,時の経過の重大性と言いましょうか,時間の重大性と言ったらいいのでしょうか,そういう観点から契約を維持することが債権者には期待できないという事態が生じていると見ることができる場合です。   そのように考えた場合には,事務当局で出しておられるところの無催告解除に対応するのが「不履行自体が重大型」で,催告解除に対応するのが「時間の重大型」なのではないかと理解できるわけです。私自身,催告解除は重大不履行の一つの場面ではないかということを,これまで部会で何回か発言はさせてもらったのですけれども,この発言の基礎にあるのは,今申し上げたような二つの「重大型」パターンで解除の枠組みを組み立てていき,条文化をしていくのが望ましいのではないかというものです。   そうなりますと,配布資料の催告解除のほうでは,3ページ目のC案とかC-2案とか,この辺りに近付いてくることになろうかと思いますし,無催告解除のほうは,どう組み立てるか次第によりますから,一つしか挙げていませんけれども,このようなスタイルになるのかなという感じがするというところでございます。   以上が,配布資料に書いていない私個人の意見ということでして,あとは,お配りしているものに沿って簡単に御説明させていただきたいと思います。   ここに書いてありますのは,前回の部会あるいはそれ以前の部会で委員の先生方から出た意見を基に,こういう考え方の違いがあるのではないかということを示したものです。甲案とか乙案とかという形では二極化できないような要素があるということを併せて指摘したいと思います。   まず催告解除のほうですけれども,そこに挙げているような議論が前回までの部会で出てきたのではないかということの確認です。   まず,①です。催告解除については,これを一般的な制度としては残してほしいという要請が,取り分け実務界,弁護士の先生方からは強かったと思います。ここには,債務不履行の重大性の有無だとか,―契約目的達成の可能・不可能にかかわらず,およそ不履行を受けた債権者を当該契約の拘束力から早期に,迅速に解放してやるべきであるという理解が潜んでいるように感じられます。このような理解を仮に是とするならば,重大な不履行を理由とする解除あるいは契約目的達成不能解除とは目的を異にする制度として,催告解除の制度を立てたほうがよいかもしれないと思います。私自身の意見とは,先ほど言ったようにちょっと違うところがあります。   次に,②です。もっとも,催告解除を一般的な制度として残してほしいと考える立場も,催告解除が一定の場合に制約されるべきであるという認識はどうもお持ちのようだと思います。ここにおいて,催告をして相当期間を経過しても解除が認められるべきではない場合,これにはどういう場合が含まれるのかという点に関して,次の二つの場面が主として想定されているようです。前回の議論を聴いていて,複数の委員の方々の意見の中には,ここにニュアンスがあるような印象を持ちました。   一つは,些細な債務,要素たる債務ではない債務の不履行の場合。従来,付随的債務の不履行を理由とする解除に係る最高裁の裁判例の中で展開されてきたのはこういうタイプのものでなかったかと思います。ただ,最高裁の裁判例は,御案内のとおり,催告解除とその例外というコンテクストで扱われたものではないということについては,留意しておく必要があろうかと思います。   あるいは次の(ⅱ)ですけれども,不履行がされたために催告をして相当期間を経過したが,それでもなお履行がされない状態をもって,契約の拘束力からの解放を認めるのが不適切であると考えられる場合でして,部会のこの前配られた資料では,軽微な不履行として想定されているのがこの場面ではないかと思います。   もとより,(ⅱ)の場合であっても,契約の拘束力からの解放を認めるのが適切かどうかの主張・立証責任を債権者側に課すのが適切であると考える場合には,催告解除が認められるための積極的要件として,このことを示すのがよいのではないかと思われます。   他方,実務家の先生方の中には,部会の場では出なかったのですが,他のシンポジウム等で拝聴している意見の中では,現行民法の541条の下でも催告解除を認めないことがあるという認識を示す方がいらっしゃいます。配布資料では「書かれざるただし書」構成という形でまとめましたが,規定がなくても,催告解除が適切さを欠く場合には権利濫用法理とか信義則で制限できるのではないかというところにつながろうかと思います。   さらには,なお,当初の債務不履行を評価したときに重大な契約不履行のおそれがある場合,ないしは契約目的達成が困難になるおそれがある場合にのみ催告解除を認めるべきであるという立場もありそうです。この立場からは,催告解除の制度が妥当する債務不履行,言葉は悪いのですが,催告解除の要件を充たす当初の不履行自体に,そもそも限定が加えられるべきであるということになろうかと思います。もちろん,ここでも主張・立証責任の転換ということも考えられないわけではありませんが,配布資料では,元々手持ち資料として用意していたため,省略しています。   その上で,(2)に行く前に,3ページのほうに行っていただければと思います。こういう幾つかの考え方を基礎に据えて考えていった場合に,催告解除について幾つかのニュアンスがある捉え方があるのであって,立法に当たっては,ここをどう詰めるかということ自体が,私は大事なのではないかと思っているところです。A,B,C,C-2,Dと挙げておきました。   A案を御覧になってください。「当事者の一方がその債務の本質的部分を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる」ということで,債務の本質的部分というところにウェイトを置いたものです。ちなみに,これも主張・立証責任を転換させれば,ユニドロワの解除の考え方に近付いていくのではないかという印象を持っております。   B案は,「当事者の一方がその債務の本質的部分を履行せず,これにより契約をした目的を達成することが困難となる恐れがある場合において」,以下同文でありますけれども,これは本質的部分の不履行プラスそれによる契約目的達成困難という絞りを掛けるというものです。   C案は,本文のところでは,債務の不履行によって,あるいは債務不履行という要件のところでの絞りは掛けていません。ただし書に,「期間内に履行がないにもかかわらず,契約の効力を維持することによって債権者の受ける不利益が軽微なものであるときは」ということで,先ほどの「時の重大性」タイプと整合性があるのかもしれませんけれども,期間の渡過,経過というものによって債権者が受ける不利益が軽微な場合には催告解除を認めないというものです。   その上で,軽微性ということを積極的な要件として書いているのがC-2案です。履行しない,相当期間経過,しかしこれにより契約した目的を達成することができないというものでして,民法(債権法)改正検討委員会の基本方針が基礎に据えていた考え方はこれではなかったかと思います。   D案は今のままの規定で,あとは解釈によってやりましょうというものです。   いろいろ意見を聴いている限りでは,これぐらいのバリエーションがあって,どれを採るのかによって催告解除の捉え方自体が違ってくるし,あるいはこの中での組合せもあるのかなというところを考えなければいけないのではないかと思ったというところです。   他方,(2)の無催告解除のほうですが,2ページに行っていただければと思います。これは議論の整理だけのものです。   まず,①です。どのような債務不履行の場合にも催告無用の解除を認めるべきであるという立場は,部会の中では示されていなかったと思います。   次に②です。他方,この種の解除が認められる場合において,無催告の解除を正当化する根拠,あるいは正当化原理として,先ほどの契約の拘束力からの離脱という考え方があるという点においても,直前の高須先生の御発言をそん度すれば,恐らく部会の中では強い異論はないのではないかと思います。   他方,③ですが,どのような場合に催告をしなくても解除が認められるのかという点に関しては,重大な契約不履行と考えられる場合であるとか,契約目的を達成することができない場合であるとか,契約の下で債権者が期待することのできた利益を実質的に,あるいは正当に奪う場合などといった観点からの制約を課すべきであるという意見が出されていたと思います。これらの言語表現の下では,いずれも,催告を待たずに解除できるのは,契約の拘束力からの解放が正当であると評価できるほどの不履行であることが必要だという理解が基礎に据えられているのではないでしょうか。そうだとすれば,この部分もそんなに大きなずれはないと思います。   問題は,④でして,今申し上げた③の基本的な発想は共通するものの,どのような言語表現を用いるのかによって,契約の拘束力からの離脱が正当化される場合が異なってくるのではないかという意見も出ているのではないかと思います。典型的には,この前の部会での山本敬三幹事の契約目的達成不能という言葉と重大不履行という言葉で表現される内容が同じか違うかという発言に表れているのではないかと思います。   例えば,契約目的達成不能という枠組みで捉えるときには,正に契約目的を達成することができなくなったということ自体が評価の対象となる半面,契約目的を達成することができなくなるに至った経緯,取り分け不履行をもたらした債務者側の態様ないし事情も考慮する余地がなくなることも指摘されているのではないかと思います。もとより,契約目的達成可能・不能の中でこれが組み込まれないことはないという考え方もあるかもしれません。   ⑤ですが,今申し上げたような理解を基礎に据えて制度を具体的に組み立てる際に,契約の拘束力からの離脱が正当化されるかどうかを判断する要素が何なのか,また,その要素をどのように考慮して解除の可否を判断するかを確認しておかなければならないという意見も強いように感じました。取り分け,ここでは,債務者側の態様ないし事情をどのように考慮の枠組みに取り込むのか,あるいは取り込むべきでないのかが議論の重要論点となっているように感じました。もとより,債務者側の態様ないし事情が考慮されるべきだと論じられるときも,論者にあっては,債務者の主観的態様ではなく,債務者の行為に対する,契約プラスアルファに照らしての客観的評価が想定されているようです。中井委員の発言はそうではなかったかという感じがしました。   なお,以前の部会審議での議論も踏まえますと,この文脈では,債務者による無履行・不完全履行の追完を解除制度に組み込むかどうかも考慮に入れておくべきであろうと思いました。これは前回の部会では出ておりませんでしたが,以前の部会で私が少し発言をしましたものです。   以上のように見たとき,無催告解除にあっては,契約の拘束力から債権者を解放することが正当であると評価できるほどの不履行であるかどうかを,どのような要素を用いて,どのように判断すべきか,⑤に関する態度決定が決定的に重要だと考えます。これが固まるのを待って,次にこの判断過程を適切に文言表現する作業が行われるのが適切ではなかろうかと思っております。   4ページ目を開けていただきますと,一つのサンプルのような形で,挙げさせていただきました。   1項は,契約をした目的を達成することができないとき,重大な不履行をしたときというのは,いろいろ御議論いただければと思います。趣旨は,先ほど述べたことで分かっていただけると思います。無催告解除ということを書いているものです。   問題は2ですが,契約をした目的を達成することができない不履行,あるいは重大な不履行か否かは,債務の内容及び性質,これは債務の本質性みたいなことです。それから,不履行の内容及び態様,それから契約の効力を維持することによって債権者の受ける不利益,これは先ほど申し上げましたように,解除制度の趣旨,目的というものを考えた場合に,なお不履行があったにもかかわらず,契約に債権者を縛り付けておくということが正当化されるかどうかということですから,もし契約に縛り付けた場合に,債権者がどのような不利益を受けるのかということは考えておく必要があるといいますか,重要な因子ではないかと思って,ここに挙げております。   次に,債務者による追完の可能性及び追完に関する費用,これは先ほど申し上げたようなところです。こういう契約不履行で,債務不履行で解除が認められるということになった場合に,不利益を受ける債務者側の事情というものを一体どう考慮したらいいのかということに関わるのですが,従来言われているもの,比較法的なところも踏まえて申し上げますと,大きく二つあって,一つは履行の準備をした債務者の努力というもの,それから履行の準備とかに債務者が費用をかけた費用というものを考慮してやるべきではないかという観点と,もう一つは,ユニドロワ原則以降だと思いますけれども,追完という面,追完利益と言ったものが債務者側の考慮されるべき事情というところに挙がっております。このうち,履行の準備とか履行の費用というのは,不履行の内容・態様のところで取り込むことができると思いましたものですから,追完のところだけ書き入れて,その他の事情という受皿を置いて書いてみたものです。   飽くまでも議論の整理のためにお配りしたものですから,いかようにでも利用するなり,あるいは利用せずに置いておかれるなりしていただいても結構かと思います。 ○中田分科会長 ありがとうございました。   ただいまの潮見幹事の御説明について,確認的な御質問があればお出しください。 ○大浜関係官 前提として確認したいのですが,帰責事由という言葉を入れるかどうかという論点が別にあって,帰責事由という言葉を入れない場合には,債務者側の事情を考慮しないのではなくて,重大不履行かどうかという判断において考慮するのだというようなお話があったかと思います。頂いたペーパーを拝見したところからしますと,潮見幹事のお考えは,債務者側の事情とかを考えて解除するかどうかというのは無催告解除において考慮するということでしょうか。これまでは,帰責事由を考慮して解除の可否を考え,その上で催告を要するという運用がされていたのではないかと思っているのですが,潮見幹事のお考えでは,これまで,債務者側の事情も考えて解除ができるとされ,更に催告も要するとしていた場面において,その催告を不要にするということになるのでしょうか。 ○潮見幹事 申し訳ないですが,催告解除について,一つは,債務者の帰責事由というものが考慮されていたのが実務であり,実際にそうなっているかという認識は,大浜関係官の認識と私の認識とは違っているのではないかと感じました。   それから,催告解除の場合に帰責事由,帰責事由と言いましょうか,債務者側の事情ということをどこまで考慮しておく必要があるのかという点については,催告をして,それから相当期間を与えて,猶予期間を与えているという部分で考慮されています。債務者側の追完とか履行する利益というものは保障されているのであって,更にそれに加えて何か付け加える必要はないのではないかと私自身は感じております。 ○大浜関係官 その確認をしたかっただけですので。 ○中田分科会長 よろしいでしょうか。他に御確認はありますか。 ○潮見幹事 もう一つ言えば,C-2のような考え方を仮に採った場合には,Cでもいいのですけれども,先ほど高須幹事がおっしゃった意味と全く同じかどうか分かりませんが,軽微性といった部分で,債務者側の事情を考慮するという組み立て方もできるのではないかと思います。それはここの部会や分科会の皆さんが考えていただければと思います。 ○山本幹事 念のための補足ですけれども,債務者側の事情というときにはいろいろなものをイメージできると思うのですが,債務者が無過失であるという意味での事情が,無催告解除のルールであれ,催告解除に関するC-2案のようなものであれ,考慮されるかというと,私は,そのような意味での債務者側の事情は解除の可否については考慮されるべきではないとおっしゃっていると理解していますが,よろしいでしょうか。 ○潮見幹事 私はそうですけれども,ただ,大浜関係官がおっしゃられた意味が,帰責事由イコール過失という趣旨でおっしゃられたのかが分からなかったので,述べなかっただけです。 ○山本幹事 従来の実務で一般的に理解されていた意味での帰責事由と実際には余り変わりませんよと言われたかのように受け止められるけれども,本当にそうかというのは確認しておいたほうがよいのではないかと思っただけです。やはり違うのではないかと思います。 ○中田分科会長 今の段階ではよろしいでしょうか。   それでは中井委員,お願いします。 ○中井委員 私の提案は,今のお二人のように十分整理したものではないのですけれども,部会で申し上げていたことを明らかにするためのものです。催告解除については,民法第541条本文として,「当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる。」とし,そこにただし書として,「ただし,その債務の不履行の内容・程度・態様が,契約の趣旨及び社会通念に照らして,軽微であるときは,その限りではない。」として加える,というものです。   無催告解除については,民法第542条を維持し,「契約の性質または当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは,相手方は,前条の催告をすることなく,直ちにその契約の解除をすることができる。」とします。そして,民法第543条は,「履行の全部または一部が不能となったとき,その他履行の催告をしても契約をした目的を達することができないときは,相手方は,541条の催告をすることなく,直ちにその契約の解除をすることができる。」とします。   催告解除のところですけれども,解除というのは重大な効果を及ぼすものだから,催告をしたにもかかわらず不履行だったという過程が極めて重要だと考えています。それは部会でも申し上げましたけれども,仮に重大な不履行があったとしても,期日に代金を払わない,期日に納品をしない,重大だから無催告で解除できるという制度は基本的に考えていなくて,そのときでも債務者に履行のチャンスを与えて,にもかかわらず履行しなかったときに初めて解除ができる,これが解除の基本だと理解をしています。それを実質的にという意味では,高須幹事からもありましたし,部会のときにも申し上げていますけれども,解除できるかどうかということについての手続的な安定性というのが要求される。それは催告という手続を経て,それが履行されないという事実をもって明確に表現されているので,それによって解除できるという形が好ましい。   そういう意味で,解除というのは,契約の拘束力から解放がどうかということはさておくとしても,また,それについてそれほど異論はないだろうと思いますけれども,催告というのは,手続的に意味があるだけでもなくて,実質的な意味付けのある行為だというふうに理解をしております。   これに対して,仮に重大不履行ないし契約目的不達成,私は,両方とも,その概念といいますか,幅について,必ずしも正確に理解をしていないのかもしれませんけれども,これらの要件を積極的要件と定めて,その場合に解除できるというのは,解除できるかできないかについての見通しの悪さをどうしても与えると思いますので,消極的な意見です。   そう考えると,原則は催告して不履行なら解除できるという枠組みになるわけですけれども,それであっても,一定の場合,解除ができない場面があるだろう。それを軽微な場合と表現をしているわけです。この軽微な場合というのは,単に量的な軽微だけではなくて,付随的な義務に違反する場合も,軽微なという評価概念の中で処理されることを念頭に置いております。   ではそれはどういう場面なのか。それは私の理解では,そんな軽微な不履行で解除を認めるのは債務者に酷ですね,そういう場面では解除を認めません。ここは債務者の視点からですが,潮見幹事の分類から言えば,債権者の視点から考えてもいいのかもしれません。そのときは債権者が受ける不利益が軽微だということなのかもしれませんが,そのような構成を考えています。   そう考えると,潮見幹事の整理したA案からD案の中で,考え方としてはC案に近くて,問題はただし書の表現とその中身なのかもしれません。形は似ていても,ただし書の中身が違えば違うのですけれども,それが催告解除制度の枠組みだと理解しています。   それに対して無催告解除制度というのは,原則催告解除に対する例外として位置付けていますので,必ずしも要件は同じではない。それは先ほどの関係官の整理から読めますように,催告しても意味がない場合を想定して無催告解除を認める。典型的には,定期行為であり,不能の場合,現在の542条と543条に定めている場合がその典型例である。それ以外にあるとすれば,ここで考えているのは,追完不可能な不完全履行などもそうかもしれませんし,履行期前に,履行期後の履行拒絶が明確な場合においても,催告しても意味がありませんから,そういう場面でも場合によっては無催告解除ができる。催告しても意味がないという場面をいかに表現するかという問題と理解しています。   そう整理したときに,催告解除の場合の不履行債務の内容・程度と,無催告解除の場合の不履行債務の内容・程度は,私は同じとは考えていないということになります。   そこで,その考え方を明らかにできるのかどうか分かりませんが,今日の分科会資料1を見させていただいたときに,催告解除制度の甲説で[重大不履行/契約目的不達成]と枠が出ています。この[重大不履行/契約目的不達成]というのは,乙説でも出ていますし,2の無催告解除制度の甲説,乙説でも出ています。仮に一つ目をⒶ,二つ目をⒷ,三つ目をⒸ,四つ目をⒹと考えたときに,私の理解を申し上げますと,ⒶとⒷは同じものでは決してなくて,私の場合は,ⒷはⒶよりも広い,重大でなくても不履行であればいいわけですから,広い。次に,無催告解除制度の甲説のⒸは,Ⓐと実質的には同じもの,つまり一元化的に考えているのではないかと思っています。その理解が正しいのかどうか分かりませんけれども,催告という要件が入ることによって重大不履行になったときと,無催告解除における重大不履行は,結果としては同じ位置付けで,だからこそ解除という権利が発生すると理解しているのではないかと思っています。   それに対して,乙説は,ⒷとⒹを比較した場合,私の理解では,Ⓓは極めて限定されたものです。催告しても意味がないような不履行,不能は典型な場合です。したがって,Ⓑは広いけれどもⒹはぐっと狭い。そこで,三分説というのがここでも登場してくるのかもしれません。   それを整理させていただいて,表現をしたものが先ほどの私の条文案です。   ただ,潮見幹事のメモを拝見して,無催告解除のときの①は,形式だけは私のと同じですけれども,②の中に様々な要素を盛り込んでいただいています。この考え方は,実質的にはよく理解できるところだと思っています。先日の部会の議論を通じて,ここで帰責事由に関して,解除について不要説を承認してしまうと,その後の危険負担において窮地に陥るということについては,相当の覚悟が必要だと理解し,ここの帰責事由をどう位置付けたらいいのか,整理がつきません。そこで,帰責事由の位置付けについては,危険負担との関係で留保させていただきたいと思います。 ○中田分科会長 ありがとうございました。   全体の議論に入る前に,ただいまの中井委員の御意見について確認的な御質問があればお出しください。 ○潮見幹事 1点だけ,形式的な,確認というか,私の弁明になるのかもしれませんが,中井委員のお示しになられた催告解除の案というものが,先ほどの私のメモのC案的なものだとおっしゃられましたが,むしろお書きになられている「541条本文ただし書き(例外規定)」ということの中身を見たときには,不履行自体の軽微性ということを問題にしているというところからすると,Cとはちょっと違うのではないかと思います。Cのほうはむしろ,先ほど期間の経過というところを少し申し上げましたし,前の部会資料でも出ていたと思いますけれども,相当期間が経過した状況を捉えて軽微か否かを判断しようということで,中井委員のただし書のほうはその債務の不履行の内容・程度ですから,当初不履行と言ったらいいのでしょうか,それの軽微性というものを,少なくとも御提案されている文言上は示しているのではないかとも読めます。 ○中井委員 私の案は,債務不履行の内容・程度・態様なのですが,当初不履行時点における不履行の内容・程度も問題になるでしょうし,それから催告がされている間に行われた何らかの追完的なこともあるのかもしれませんけれども,それは態様の中に入れている趣旨です。 ○潮見幹事 分かりました。ありがとうございます。 ○中田分科会長 よろしいでしょうか。他に御確認はありますか。 ○内田委員 中井先生の示された提案の「軽微」の対象なのですが,潮見さんのペーパーの中では,債務の種類の問題と不履行によって生ずる不利益の問題とを分けて議論されていると思います。高須幹事の案は不利益の程度の問題です。これに対して,中井先生の場合には,債務の不履行の内容・程度・態様とずっと挙がっているので,債務の種類も,債務不履行によって生じた不利益の大きさも,全部を考慮するという趣旨でしょうか。 ○中井委員 昨日もその点が弁護士会でも議論になって,私はこの言葉の中に全部放り込んでいるのです。ここは,例えば付随的債務については切り分けて,それについては別立てがあり得るのではないか。付随的な義務違反の場合は,それが契約目的不達成でないと解除を認めないという幾つかの裁判例がある。そうだとすると,付随的義務については,ある意味で格上げというのですか,重要な債務,要素たる債務になっていないと駄目なのではないか。とすれば,それをただし書の中に書き分けて行う必要があるのではないか。そちらに合わせていくとすれば,このただし書は軽微ではなくて,その不履行が契約目的不達成ではない,若しくは重要な債務ではないという否定形という考え方もあり得る。   そうなっていくと二分説的になるわけですけれども,私としては重た過ぎる。表現が適切かどうか分かりませんけれども,これは軽微な場合に限る方向で,ただし書の内容を限定した趣旨でございます。全ての要素は放り込む,その上で限定しているという理解です。 ○中田分科会長 他にございませんようでしたら,3人の御報告あるいはそれ以外の点でも結構でございますので,御自由にお出しください。 ○山本幹事 最初にこの時間辺りで休憩とおっしゃられた記憶があるのですが。 ○中田分科会長 一旦休憩を挟みましょうか。では,御提案に従いまして,休憩を取ることにいたしましょう。           (休     憩) ○中田分科会長 それでは,時間が来ましたので再開したいと思います。  催告解除,無催告解除について,御自由に御意見をお願いいたします。 ○新井関係官 分科会資料について,補足させていただきます。   分科会資料の中にあります[重大不履行/契約目的不達成]と書いた四角についてです。四つある[重大不履行/契約目的不達成]が同じなのか違うのかといった御指摘があったかと思いますが,作った者としては,同じかもしれないし,違うのかもしれないという前提でございます。そこは委員,幹事の方がいろいろ御意見があろうと思われるところで,正に規範的な評価をするということを示すための仮置きのワードであるということを申し上げておきたいと思います。   潮見幹事のほうからまとめていただいた意見書分科会資料1の整理とを,無理やりに接合するようなことを申し上げるようで恐縮なのですが,私が潮見幹事のメモ,特に3ページの541条のA,B,C,C-2までを拝見していて思ったのは,私としては,A案とB案というのは,分科会資料の中では,どちらかというと乙説的な整理と親和的ではないかと思いました。さらに,C案とC-2案とは,甲説と書いた整理と親和的であるのではないかと感じた次第です。 ○中田分科会長 中井委員に確認したいのですけれども,先ほど,分科会資料1についてⒶからⒹまでおっしゃいましたけれども,それぞれは,分科会資料の,例えば1の甲説の左上にある「債務不履行」をⒶとしたのか,それとも[重大不履行/契約目的不達成]という太線で囲ってある部分をⒶとされたのか。 ○中井委員 分科会資料1の[重大不履行/契約目的不達成]という二重で囲われたところを先ほどⒶ,Ⓑ,Ⓒ,Ⓓと申し上げたわけです。 ○中田分科会長 そうしますと,今の新井関係官の御理解と一致しているということでよろしいですね。 ○中井委員 はい。 ○鹿野幹事 意見というより確認をさせていただきたいのですが,今,3人の委員,幹事の方々がそれぞれの御意見をお話しくださいました。そこで幾つか共通する質問があります。一つは,いずれも催告解除について,催告期間は経過したけれども解除ができない場合を,ただし書等に例外として置いていて,そこに「軽微でないとき」という表現が見られるのですけれども,ここにいう「軽微でないとき」とされるところの意味を確認させていただきたいと思います。特に,これが契約目的の達成という概念とどういう関係にあるのかという点についてです。   もちろん,契約目的の達成が可能か不能かということ自体が評価的な概念なので,それをどう捉えるのかということも問題なのですが,契約目的達成の可能・不能というものは,従来から民法の規定の中,あるいは判例法においても一定用いられてきた概念であります。そこで,そういうものを念頭に置いた場合に,その概念とここで用いられている概念がどういう関係があると考えてお使いなのかということを伺いたいと思います。言い換えると,契約目的達成不可能とは言えない場合であってもなお解除ができるという御趣旨で,あえて目的達成の可能・不能という言葉ではなくて,軽微という概念を用いていらっしゃるのでしょうかということ。これが第1点です。   それから二つめは,軽微という言葉を使ったただし書によって,付随的な債務の不履行などもカバーされるのか。このような不履行の場合も,このただし書において,軽微か否かということによって解除の可否が決まると考えていらっしゃるのでしょうかという点です。   それから,三つめですけれども,軽微とされているただし書の主語についてお聞きしたいと思います。高須幹事のメモでは,相手方の被る不利益が軽微なときはとされ,不利益が軽微か否かということが基準となっています。潮見幹事のメモの中にも,少なくともC案としては「不利益が」という言葉が出てきました。これに対して中井委員の御意見ですと,「不履行の内容・程度・態様が」となっており,不履行が軽微かどうかということが問題とされているように見えます。そこに意識的な違いがあるのかどうかについて伺いたいと思います。   四つめに,直前の点と関連して,先ほど潮見幹事が,御本人のメモの3ページのところで,C案とC-2案とは立証責任を変えた案であるような説明をなさったように私は聞いたのですが,これを見ると,本当に立証責任だけの問題なのか,もっと実体的に違ってくるのではないかという気がします。その点についても確認させていただきたいと思います。   それから,最後に,解除の可否の判断において考慮される事情についてお聞きしたいと思います。先ほど山本幹事が御指摘になったところとも関連するのですけれども,潮見幹事においては,催告解除の場合において,解除の可否につき,不履行の原因がどこにあるか,債務者に過失があるか,あるいは債務者には必ずしも原因がなくて,例えば不可抗力等によって遅れているのかというようなことは考慮されないようにも聞こえました。これに対して高須幹事及び中井委員の御意見によると,そのような事情も考慮要素の中に入ってくるように見えるのですけれども,そのような理解でよろしいのでしょうか。   幾つか申し上げましたが,以上,確認をさせてください。 ○中田分科会長 潮見幹事には5点,他の方には4点かと思いますけれども,全部でなくても結構ですが,どなたからでも。 ○中井委員 まず第1点目については,鹿野幹事が御指摘したようなことを意図して,私は軽微という言葉を使っています。   二つ目は,先ほど内田委員からも同じ趣旨の御質問だったと思いますけれども,付随的義務違反についても,私はここに含めて処理をすることを念頭に置いております。そうすると,軽微というのを,意識的に重大ではない,契約目的不達成ではないとすると,仮に付随的義務違反のときに重大な債務不履行ないし契約目的不達成でないと解除できないという判例法理があるとすれば,それに修正をもたらす可能性があることを否定しません。   三つ目の軽微の主語は,私のは記載のとおり不履行の内容・程度・態様でして,ここには,これも先ほどの内田委員の質問にも関係するのかもしれませんけれども,債権者にとっては不利益の程度になるでしょうし,債務者にとってはその程度の不利益で解除というのは酷だという,そういう要素も含めた意味で,内容・程度・態様になっています。   五つ目の帰責事由は,どんな形で盛り込むことができるのかということについて,なお留保しています。御質問に対しては,内容・程度・態様の中に入れようと思えば入れられないわけではないという意味での留保付きと御理解いただければと思います。 ○高須幹事 私が発言させていただいた内容についてでございますが,御質問に対する答えとしては,基本的には,今,中井先生の考えているのとほぼ同じような内容になると思って聴いておりました。   まず,軽微というものは,契約目的が達成できる,できないとは別なものとして使わせていただいている。軽微というのは,言葉どおりで何の説明にもなっていませんけれども,もうちょっと程度の,本当に限られたものなのかなと。無理に当てはめようとしますと,頂いた分科会資料1の「1 催告解除制度」,甲説のところに「債務不履行+催告期間経過」と書いてあるわけですが,そこに「軽微でない債務不履行+催告期間経過」で,契約の拘束力からの離脱を相当とする場合になると。それが重大な不履行となるとかいうと,また関係性がややこしくなってしまうので,下のところは,最終的な表現であるところの契約の拘束力からの離脱というふうに二重で囲んであるところは,私なりには整理しているのですけれども,それで軽微という言葉を使い分けているというつもりではあります。   それから,二つ目の付随義務の問題,これも悩ましくて,実は昨日の晩まで答えも出ていなくて,今日も無理やり答えを出してきたような話なのですが,判例法理の表現だけ見ていると,契約目的の達成という概念を使って切り分けをしているやに見えましたのですが,そう言ってしまうと,ただし書を軽微として置いた場合に,それでは収まり切らないという場合が出てきてしまうのですが,本日現在の考えとしては,付随義務の問題も含めて軽微の中で処理を何とかできないかと。どうしてもできないのであれば外へ切り出さなければならないと思いますが,そうはせずに何とか軽微の中で処理していけないかと思っております。   主体のところは,客観的には中井先生も不利益ということを考慮されるということで,一緒なのですが,様々な事情を考慮すると,「債務の不履行の」というだけではちょっと違うのかなということで,表現自体をもう少し広げるために,「債権者の被った不利益」という言葉で考えてみたということでございます。債務者側の事情についても,軽微の中でできるだけ考慮していこうという発想を持っております。 ○潮見幹事 幾つかあるのですが,軽微の対象はもういいと思います,他の先生がおっしゃった内容に特に付け加えることはありません。   次に,C案とC-2案というものが表裏の関係にあるのか,あるいはそこで言うところの軽微というものが契約目的達成不能というものとどう関係するのかということの御指摘があったと思いますけれども,自分の考え方に引き付けて言いますと,C案とC-2案の考え方というものは,契約目的達成可能・不能というところで表裏の関係にあると思っています。   ただ,正にその部分,つまり軽微性ということを契約目的達成不能・可能というところに結び付けて考えるべきなのかどうかということを分科会で考えなければいけないのではないかと思います。先ほどのメモでお配りしたところの冒頭,1ページ目のところに書きましたけれども,催告解除というものが何か特殊なある一定の,何らかの政策的な観点から早い時期に,あるいは何らかの要件の下で契約から当事者を離脱させるべきであるという観点に入れたものだということで仮に考えるのであるならば,C案に挙げた軽微性という観点からではなく,そのような政策的観点が分かるよう形で表現をすべきであろうし,さらに,その表裏で考えるのであれば,C-2のところの「契約をした目的を達成することができなかったとき」という言葉はミスリーディングであって,むしろ,より適切な言葉でもって置き換えるのが望ましいということになるのだと思います。   その意味では,催告解除というものを,いわゆる重大不履行解除,契約目的達成不能解除と同質のものと捉えるのか,それとも異質の制度としてこれを構想していくのかというところの態度決定が,正にここに端的に示されることになるのではないかと思います。   それに関わってくるのですけれども,付随義務違反を理由とする解除も,私がここで挙げたC案,C-2案の考え方,しかも表裏で,C-2があってC案も連動しているという捉え方をした場合には,軽微な瑕疵の場合,あるいは付随義務の違反ケースは,下線を引いた部分で対応が可能であると思っています。   しかし,前回の部会でこれも考え方次第であるとの趣旨を申し上げましたが,軽微な瑕疵であっても催告解除を認めるべきであるという考え方を採用すべきであるということになるのならば,それはそれとして別立てをする必要があるのであって,これは分科会で議論すべきことなのか,それとも部会のほうで議論すべきことなのかは分かりませんが,少なくともこの部分の態度決定は必要であり,それを反映させるような文言で条文を立てるべきだということについても,私自身の定見はありませんけれども,お考えいただければいいのではないかと思います。   主なところはそんなところでしたでしょうか。 ○中田分科会長 債務者の事情を考慮するかどうかという点は。 ○潮見幹事 これは先ほど申し上げましたように,無催告解除の場合には,まず相当期間というものを設けることによって,債務者に履行の機会を確保すべきであるという点が考慮がされるべきであろうと思います。これが一つ。   それからもう一つは,先ほどの軽微性あるいは契約目的達成不能・可能という部分で,先ほどの繰り返しになりますけれども,ある立場を採れば,その部分が考慮されることになるであろうし,そんなことは考慮しないでいいということになれば,考慮しないということになろうと思います。 ○中田分科会長 鹿野幹事,今のお答えでよろしいでしょうか。 ○鹿野幹事 最後の点だけ,更に潮見幹事に確認させていただきたいと思います。最後の,催告解除において債務者側の事情が考慮されるかという点については,潮見幹事としては,ある立場を採ればその中に考慮されることになるかもしれないし,別の考え方を採るとされないということにつながるという言い方で控え目におっしゃったのですが,それについては,考慮される必要はないという強い御主張というわけではないと理解してよいですか。 ○潮見幹事 ないです。ただ,これはマジックワードになっているのですけれども,債務者側の事情とは一体何なのかということがはっきりしないのです。むしろ,それぞれの方々がおっしゃっておられる債務者側の事情というものを,言葉はちょっときついのですけれども,赤裸々に出していただいて,それを反映するにはどうしたらいいのか,あるいは反映すべきでないということであれば,それを防ぐような措置を文言表現上取るべきかどうかという形で議論していくほうが,むしろ生産的ではないかと思います。 ○中田分科会長 恐らく,債務者側の事情の要素を挙げるという話と,債権者を契約の拘束から解放することと債務者の帰責性を考慮することとの間でどういうバランスを取るのかという話があり,両方が一緒に議論されているので,そこを切り分けろということでしょうか。 ○内田委員 今の論点と違ってもよろしいですか。議論の前提となる基本的な政策の話なのですが,現行民法の条文は,債務不履行を特に限定せず,債務不履行があれば催告解除できると書いてあって,非常に広く解除を認める条文になっているわけですね。ところが判例は,それに債務の種類について限定を加えたり,契約目的達成の可否という言葉を加えたりして制限を加えてきた。   それをどう評価するかということなのですが,ここからはそれぞれのお考えだと思います。私の考え方は,契約関係というのは通常は維持できるならばしたほうがいい。つまり,一方が契約関係の存続を望んで何とか関係を回復しようと努力をしているときには,できるだけそれに配慮して契約関係を存続させる可能性を残すほうがよい,というものです。元々は当事者が合理的な判断に基づいて,メリットがあると思って契約を結んだわけですから,そのメリットを生かせるようにしたほうがいいのではないか。そういう観点から判例も,解除を制約する法理を,条文にはないにもかかわらず加えてきたのではないかと思うのです。   そういう基本的な発想からすると,特に弁護士会の先生方は,催告解除を認めやすくせよということをずっとおっしゃってきたのですけれども,本当にそれで実務はいいのだろうかという疑問があります。一方当事者はもちろん解除したいと思っているのでしょうが,他方当事者は何とか存続させたいと思って努力をしているというような場面で,存続への努力に配慮できるような要件立てにする必要はないだろうか,催告解除についてもですね。そういう基本的なポリシーについて,やはり一定の態度決定は必要ではないかと思います。   他方で,それと逆方向の議論に見えるかもしれませんが,軽微という言葉について疑問があります。この言葉が,債務の種類について使われる場合はまだ理解できるのですね。中心的あるいは本質的な債務と,そうではない,付随的あるいは軽微な債務という区別,それは分かるのですが,債務不履行によってもたらされる不利益の大きさについて軽微という場合,これは高須幹事の案が典型ですけれども,もちろん高須幹事の案はいろいろな要素を挙げておられますので,それを全部読めばそうではないということは分かると思うのですが,不利益が軽微というと,一見,損害の大きさを問題としているかのように読めて,それはここでの判断基準とは違うのではないか。契約によっては,債務を履行しないことによって債権者に生ずる損害はごく軽微な場合もありますけれども,契約を結んだ趣旨からして目的が達成できなくなっているという場合には,解除を認めるべきなのですね。先ほどは契約はなるべく存続させたほうがいいと申しましたけれども,契約の趣旨からして,目的が達成できない場合には,たとえ生ずる損害が軽微であっても解除を認める必要がある。そういう判断がきちんと反映できるような枠組みにしたほうがいいのではないか。そうすると,不利益が軽微というのはミスリーディングではないかという感じがしました。 ○高須幹事 二つぐらいの御示唆だったと思うのですが,まず一つは,実務界は催告解除をできるだけ広く認めろという意見があるということではないかということで,最終的にはそういうことなのだと思うのですが,私が,あるいは私どもが申し上げているのは,今よりもっと要件を広げようという意味ではなくて,今,催告解除が持っている見通しの良さみたいなものを守りたい,こういう意識でございます。   今日は何となく話が脱線して,ひんしゅくを買っているかもしれないのですが,結婚したらできるだけ添い遂げたほうがいいという例え話をしますと,そうは言っても離婚という場合もありますよねと。そのときに,できるだけ離婚しないほうがいいのかどうかという議論であれば,離婚しないほうがいいのだけれども,もう一つ大事な視点は,仮に離婚するにしても泥沼離婚は避けたいねと。要するに円満にトラブルにならずに離婚したいねと,こういう視点というのはそれなりに大事だろうと思っておりまして,取り分け実務に就いている人間はそういうことを思うものですから,それと同じような発想というのは,比喩にもなっていなかったかもしれませんが,今の見通しの良さみたいな催告解除の利点を残したいと。   そうすると,先ほど関係官からも御質問があったのですが,規範的な評価概念をどんどん入れていくと見通しが悪くなるのではないですかという御指摘があって,適度なレベルにとどめたいという意識で出てきたのが軽微かなという,率直にそう思っているのですが,そんな意識でございます。   それから,利益という問題は先生御示唆のとおりで,損害の大小みたいに取られてしまうのはいけないかもしれないというのは,そのとおりだと思いまして,表現がより適切なものがあれば,もちろん改めることはやぶさかではありません。ただ,一番広い概念としてはそうだったかなと,総合的にいろいろ評価できる概念の主語としてはそうだったかなと思ったという次第でございます。 ○山本幹事 前提になる事柄を申し上げておきたいと思います。私も全て立法例をきちんと見ているわけではないですけれども,解除に関する立法の方向性については,大きくまとめると二つのタイプがあります。一つは,催告解除を基本に据えるというタイプのもので,これは最近ではドイツ法のみかもしれません。これは,催告をして解除するのが基本であるとした上で,催告をせずに解除できる場合を限定的に認めるという形で二元的な仕組みを採用するものです。   これは,私自身がきちんと調べたわけではないですけれども,これまでの研究を見ていますと,元々は19世紀に商法の領域で催告解除を認めるという考え方が承認されて,それが民法に一般化されたという側面を持つと指摘されています。つまり,迅速に当該相手方との関係を切って代替取引が簡単にできるようにするという要請に応えるのが元々の催告解除制度の趣旨で,それを基本に据えたところにドイツ法の特徴があり,2002年の現代化を経てもなおその立場は維持されているということです。   もう一つが,最近のCISGをはじめとした国際条約ないしモデル法等で採用されている考え方です。それによると,契約からの離脱は,重大な契約違反ないし契約の重大な不履行に相当するものがあって初めて認められる。したがって,その意味で契約の不履行自体が重大なものであり,重大な契約違反に当たると言えて初めて解除できる。そう言えなければ解除は基本的に認められないけれども,催告をして履行がない場合は解除が認められる。そのような意味での二元的な仕組みが採用されています。   催告解除については,物によって考え方が少し違うのですが,例えばCISGは,売買を対象としていますので,引渡債務に限定して催告解除を認めています。その他,履行の遅延について催告解除を認めているのもありますが,債務の種類を限定するもの,あるいは限定しない場合には,ユニドロワがそうですけれども,先ほど内田委員が言われましたように,債務が些細なもの,軽微なものであるときには解除を認めないという形で催告解除を限定するものもあります。   これは,今も言いましたように,元の考え方が基本的に違っていまして,基本は,契約からの離脱は,契約の不履行自体が重大なものと言えて初めて認められるのであって,催告は飽くまでも例外であるという位置付けになっているということです。   ですので,今回お示しになられている弁護士会の案は,ドイツ法型の考え方を更に進めようという方向ではないかと思いました。高須幹事が明言されていますし,恐らく多くの弁護士の先生方が考えておられるのは,取引の迅速性というよりは,明確性,あるいは単純明快に法律関係を確定できるという趣旨のようですけれども,催告解除は本当にそのような制度なのかと言いますと,評価は分かれるのではないかという気もします。元々は,迅速に当該相手方の関係から離脱するためのものであるであって,正にそのような方向につながる可能性がある。つまり,契約の拘束力を弱める制度になりそうだけれども,本当にそれでよいのかというのが,先ほどの内田委員の問題提起ではなかったかと思います。無用の補足だったかもしれませんが,以上です。 ○中井委員 ドイツ型がそうだということをお教えいただきましてありがとうございます。催告を基本として手続を組み立てるというのが弁護士会の案です。その出発点となったのは,重大不履行という形で解除の制度を組み直してはどうかという立法提案に対して,皆さん大変懸念をしたというのが正直なところではないかと思います。それは,重大な不履行があれば原則,無催告解除ができる,これは誤解なのか分かりませんけれども,そのことが一つの要因です。実務的に重大な不履行があっても,代金を期日に支払わなくても,無催告解除ができるとは考えていなくて,それは相手方に履行のチャンスを与えるという催告があってこそ,その後の不履行に基づく解除が正当化できる,かつ手続的にも明確になる。繰り返しになりますけれども,そこに無催告で重大な不履行があれば解除できるというところの出発点に対する疑問があるように思います。   二つ目が,そこにおける無催告解除と催告解除の要件が一元化している点です。そうだとすると,一方で広過ぎて一方で狭過ぎると理解をしたわけです。一方で広過ぎるというのは,それで無催告解除を認めることは広過ぎる,契約の拘束力を尊重すると言いながら,重大な不履行があったら催告せずとも解除できる,それは解除できる場面が広過ぎませんかと。一方で狭過ぎる。それは催告をして不履行の場合に,重大な不履行に限るという点で,契約で債務の内容が確定しているわけですから,にもかかわらず約束を期限までに守らなかった,それはそのときに催告しても不履行だったら解除できていいではないか,そこに重大性を持ってくることに対する,それは円滑な取引を害するという面もありましょうし,重大性の判断に対する懸念と言いますか,解除ができるかどうかが分からないという懸念,そういうことから狭過ぎる。そう考えれば,催告制度を原則にするのが好ましい。出発点はそこなのだと思います。   先ほどの潮見幹事もそういう趣旨だと思いますけれども,そこの態度決定をしないと次の話が進めにくい。二つの制度を認めたときに,催告して不履行だったけれども解除できない場合を弁護士会も認めているわけです。そのただし書の中身について,軽微というので足りるのか,また軽微の要素が何なのか,更に,軽微ではなくて重大な不履行でない,若しくは契約目的が達成できないレベルまで高まったものなのか,焦点がそこであればそこの詰めた議論をすれば集約して次にいけるのではないか。一元化をおっしゃられると,弁護士会はなかなかついていけないというのが正直なところです。   もう1点,先ほど内田委員から,軽微というのが債務の内容については理解できるけれども,不利益についてはどうかという御指摘があったのですけれども,催告して不履行でも解除できない場合を選び出すときの考慮要素としては,結局は様々な事情が考慮されると言わざるを得ないのではないかと思っているのです。メインの基準となるべきものが何かということを詰めて,これが基準なのだと,前に契約の趣旨と社会通念の議論でもありましたけれども,どちらがメインなのか,その基準を明確にしないと基準ではないではないかという御指摘を研究者の皆さんからしばしば受けますけれども,最終的な判断としては,諸要素を総合考慮して相関関係的に決まるというのが実務ではないか。潮見幹事が,543条2項のところで指摘されている諸事情というのは,そういう相関関係的に考慮すべき事情を挙げていただいているのではないかと,こう理解をしているのですが。 ○岡崎幹事 解除の要件を考えるときに,重大ですとか軽微ですとか契約目的不達成という言葉において何を考慮するかというところをもう少し明確にしたほうが,生産的な議論になるのではないかと思っております。御意見をおっしゃる方々において,内実が一致しているかどうかというところが分かりにくいとも思っております。   それから,切り口は違うかもしれないですけれども,現行法では責めに帰すべき事由を一つの要件としているのですが,この帰責事由の中で考慮していると考えられる,例えば債務者側の事情などが,今のそれぞれの新しい提案でどの程度考慮されているのか,考慮しないのかも明らかにしてはどうかと思います。つまり,基本的には現行法と考慮要素としては余り変わらないという御見解なのか,それともそこは違うのだという御見解なのか,この辺りを明らかにしたらどうかと思っています。   先ほど潮見幹事から債務者側の事情として何を考慮するかという話がございましたけれども,いろいろな要素があると思うのですが,大ざっぱに言うと,不履行の原因が債務者の側にあるのかないのかというところなのかなと思うのです。その点に関して言うと,今の改正提案がどういう立場に立っているのかという辺りを少しクリアにしていただきたいと思います。 ○山本幹事 潮見幹事に言っていただいたほうがよいのかもしれませんが,正に不履行の原因がどこにあるかは問わないというのが,少なくとも学説レベルで言われている考え方の中心部分だと思います。不履行の態様というときにも,どの程度の大きさの不履行なのか,つまり履行されていない分量の程度とか,履行されていない質の程度とか,そういったものは考慮することがあるとしても,原因がどこにあったのかは問わない。例えば,不可抗力が原因であったとしても解除は認めるというのが,譲れない一線ではないかと私は思っていますが,いかがでしょうか。 ○潮見幹事 私はそのように考えています。さらに,その前の,むしろ中井委員の御発言に少し関係することで,別に一元化であろうが二元化であろうが,どうでもいいと言ったら怒られますけれども,その前に,高須幹事にも同じことをお聞きしたいところがあるのですが,催告解除の枠の中だけで考えたら,催告をして相当期間が経過すれば解除を認めるべきであるという考え方が一方にありながら,催告解除の場合にも,催告をして相当期間が経過しても解除は認められるべきではないという場合があることもお認めになるのですね。原則例外と言うか言わないかは別として,催告をして相当期間が経過したものの,解除は許されないという場合に,なぜ解除が許されないとお考えなのか。その場合に実務でそう判断するときに何が決定的な意味を持つのかというところをおっしゃっていただいたほうがいいのではないか。これによって,それが,従来から言われている契約目的の達成の可能・不能を考えるときの判断要素と同じなのか違うのかも明らかになろうと思います。多分,中井委員からは「判断要素が違う」という発言が出てくると思うのですけれども,違うということになったら,どこがどう違ってくるのかというのが若干分かりにくいのですね。よろしければ御教示をお願いします。 ○高須幹事 非常に悩ましいところだとは思っているのですが,私は基本的には,催告解除においても一番,根本的なところでは,契約の拘束力からの離脱を相当とするということが掛かっていると実は思っているのです。それでは理論的にはめちゃくちゃになってしまうという批判を受けるのかもしれないですが,私のように考えても,催告解除制度を無催告解除と共通性を持って作らねばならないのかとなると必ずしもそうではない。そこは制度設計の問題ではないか。ですから,軽微な債務不履行の場合に,幾ら催告をしても解除を認めないのは,そのようなケースの場合には拘束力からの離脱を認めてはいけないからだ,相当ではないからだというところへ最終的には行き着くのではないかと思っております。   そうなると,重大な不履行という問題と物すごく違うのですかと言われれば,そんなには違わないのだろうと。ただ,制度設計上ははっきり違いを設けますよ,この部分は,催告が持っている利点を生かすためにそうしていただければというようなイメージを持っている次第でございます。 ○中井委員 高須幹事のニュアンスとは,私は少し違うのかもしれません。先ほど鹿野幹事からの五つの質問のうちの第1番目だったと思いますけれども,軽微というのと契約目的不達成との関係についての御質問だったと思うのですけれども,契約目的が達成できないわけではない場面であっても解除を認めることができるというのが私の立場ですから,表,裏の関係には立たない。 ○高須幹事 途中で口を挟んでしまっていいですか。私は,表,裏という意味ではなくて,無催告解除で言われている重大な不履行という問題と,範囲も一緒だという意味ではなくて,考え方自体と物すごく遠いものですかと言われると,契約の拘束力からの離脱を相当とする場合を検討しているという意味では共通なフィールドに立っているのではないかと思っています。私もどちらかというと先生と同じように,表,裏ではなくて,3段階あるかなみたいなニュアンスは持っているのですが。論理的に一貫していないのかもしれませんがそのように思っております。 ○中井委員 潮見幹事の質問への回答になるのか分かりませんけれども,潮見幹事のメモのC案とC-2案ですけれども,ここについて表,裏との関係にあるような説明だったと思うのです,潮見幹事の認識としては。私は,これがそういう意味での,C-2案を裏に抱えたC案だとすれば,この意見ではないということになります。   そうだとしたときの,潮見幹事の私に対する質問は,では軽微の基準は何なのか,そこをもっと明確にしろと,こういうことなのだと思います。そこについて明確な基準として示せてなくて,丼になっているというところが一番の弱点なのか,全ての諸要素を考慮すると言っているものですから。   そこで,例えば債務の不履行の程度,不履行債務の内容ですか,それが非常に小さいとか,全体100のうちの1だとか,これはもちろん重要な要素かもしれません。また,主要な債務ではなくて付随的に合わせて合意された幾つかの約束事の一つなどというのも,それに入るのかもしれません。そういう意味では,不履行債務の中身というのが一番重要。それが量的な問題もあるでしょうし,合意なされた契約の趣旨に照らした質的な問題もあるでしょうし,加えて,催告してから催告期間中に債務者が取った対応というものも考えなきゃいけないと思っています。そこに,先ほどおっしゃった原因を入れることは全く駄目だと言われると,原因を入れるか入れないかというのは,非常に大きな問題になってくるのかもしれません。それらを放り込んでしまっていますから,基準は何か示せと言われたら,それ全部となってしまうので。 ○潮見幹事 中井委員に伺ったほうがいいのかもしれませんが,形を変えて伺いますと,次の二つの質問にどうお答えになるのかということなのです。一つは,契約目的は達成できるのだけれども,催告をして相当期間が経過すれば解除できる,これはなぜなのか。そのお答えを伺った上で次の質問をしたほうがいいのかもしれませんが,二つ目は,お答えとなった理由が,不履行が軽微な場合になぜ妥当しないのか。この二つなのです。 ○中井委員 一つ目は,私は催告自体に意味を持たせているのでしょうね。 ○潮見幹事 それはなぜなのでしょうか。 ○中井委員 債務不履行になった相手方に履行のチャンスを与えた,にもかかわらず履行しなかったことの帰責性の大きさというのが実質的根拠になっているのかもしれません。約束事をした,不履行だった,だから債権者は履行を促した,にもかかわらずそれを履行しなかったという事態が生じているわけですね。だとすれば解除は甘受して当然ではないですか。それを法的にどう言えばいいのか。 ○中田分科会長 今,二つの御質問が出ています。1番目が契約目的が達成できるのに相当期間が経過すれば解除できるのはなぜか,2番目がその場合に不履行が軽微であればなぜ解除できないのか,この2段階の御質問だったと思います。 ○内田委員 1番目ですが,契約目的が達成できるというのが潮見さんの質問の前提です。つまり,債務を履行しない,催告期間が経過して,それでも履行しないというとき,通常は,契約目的を達成できないと評価できますよね。でも,達成できるということは,つまり債務者は履行の準備をしている。催告期間は経過したけれども,あと1日もたたずに履行ができることは明白である。そしてそれだけ待つことは債権者にとって何の痛痒もないという場合に,形式的に期間が経過したというだけで解除を認めますか,というのが潮見さんの提起された典型的な場面だと思うのです。契約の目的達成には何の不便もない。 ○中井委員 今のような例を出されたら,契約目的達成という概念についての誤解かもしれません。認識が共通でないということに,ひょっとしたら無駄な論争がなされ,無駄な時間を掛けているのかもしれません。 ○内田委員 契約目的達成の可否というのは,要するに解除を正当化するだけの事由があるかどうかという判断の言い換えでしかないので,契約目的が達成できるということは,繰り返しになりますが,催告期間を経過しても間もなくなされる履行を待つことが債権者にとって何の不利益もない,そういう場面ですね。 ○中井委員 でも,1週間ないし10日間与えて,普通であれば3日か4日でできることを,我々は慎重に,猶予を与えて履行催告するわけですね。にもかかわらずその期間内に履行しなかった。当然解除権が発生して直ちに解除を意思表示してよいのではないか,その意思表示が効力ないというのは,やはり理解ができないのですね。 ○内田委員 それは目的が達成できないと評価する場面なのだと思います。 ○中井委員 だとすると,契約目的不達成・達成の概念について,私は理解していないということですね。 ○中田分科会長 整理したいのですが,潮見幹事の御質問は,契約目的が達成できるのに相当期間経過すれば解除できるのはなぜかですが,それは不履行時の判断なのか,それとも催告期間経過後の判断なのか。今の内田委員のお考えは催告期間経過後のことを考えてのことでしょうか。 ○内田委員 潮見さんは多分そうだと思います。 ○中田分科会長 ただ,御質問が,契約目的が達成できるのに相当期間経過すれば,ということでしたので,当初の不履行時のことのようにも聞こえたものですから。今の前提で中井委員,お答えいただけますか。 ○中井委員 回答は変わらないのですね。期限を一月と定めた,しかし期限経過した2日後に履行できるような状況だった,でも現実には期限には履行しなかった,そのとき解除権が発生して解除の意思表示ができる,若しくは催告のときに停止条件付き解除の意思表示をしているとすれば,その停止条件付き解除の意思表示の効力が妨げられるということは考えていません。だとすると,催告して,期間満了時において現実に履行がされていなかったとすれば,債務者はその時点であと3日後には履行できたかもしれないという事情が仮にあったとしても,解除権は発生しているし,それは停止条件付き解除だとすれば,有効に解除できているのではないでしょうか。それはおかしいのでしょうか。 ○内田委員 3日後とか何とかと言うとだんだん微妙になるのですが,典型的には,催告期間は経過したけれども1日もたたずに履行ができる。実際の事案としては,現実に履行が提供された,しかし債権者が飽くまで解除を主張するというような場合ですね。 ○中井委員 多くの場合は,実務的には,翌日履行してきたら受け入れる債権者が多いのではないでしょうか。それは解除するコストを考えれば,よほどそのほうが円滑に,紛争は発生しませんし……。 ○内田委員 私の発言の趣旨は,契約目的が達成できるかできないかというのは,実は中井委員と同じことを言っていて,軽微と表現されているものは裏返しではないとおっしゃるけれども,実は裏返しなのではないかということなのです。 ○岡崎幹事 今の内田委員のおっしゃられたような事例は,中井委員としては,解除権が一旦発生しているのだけれども,それがその後の交渉によって消滅するという法律構成ですよね。 ○中井委員 そうですね。行使しないということが多いでしょうね。 ○岡崎幹事 訴訟の事案を見る限りは,催告して相当期間経過した段階で解除権が発生し,その後は,履行の提供がされてもそれは遅いとして,解除権の発生を一律客観的に決めているのが実務ではないかという印象を持っています。このように一律に解除権が発生するという扱いをしないというのであれば,契約目的達成なる概念について,もう少し中身を詰めなければいけないのではないかという気がします。 ○内田委員 中井委員の御提案の中では,催告期間が経過しても軽微な場合には解除できないのですね。だから,催告期間が経過すれば必ず解除できるというのではなくて,軽微な場合はという例外が作られている。その例外は,実は契約目的が達成できるときは解除できないと言うのと実質は同じだと思いますということを申し上げているわけです。 ○中田分科会長 それは先ほどの潮見幹事の二つ目の御質問だと思いますけれども。 ○潮見幹事 この辺りがしゃべりたくて。 ○鹿野幹事 先ほど,確認として幾つかの質問をさせていただいたのですが,その一つに,軽微ということの意味について確認をさせていただきました。そして,軽微ということが,契約目的達成の可能性ということの裏返しの関係にあるのかどうかという質問をさせていただいたときには,それは違うとおっしゃったので,それを前提にすると,少なくとも中井委員の御提案というのは,今までの現行法で解除の可否を考える場合より,解除を広く緩やかに認めるということにつながるのではないかと私は理解しました。   そうすると,どうしてそのように緩やかに解除を認めるのかという疑問を私は感じます。これは先ほど内田委員がおっしゃったことともつながるところだろうと思います。解除の要件における根本は,契約の拘束力からの離脱を認めることが相当かどうかという点にあるということについては,恐らく異論ないだろうと思いますが,そのときに,今までは厳し過ぎた,だからもっと解除を広く認めるべきだということに果たしてなるのでしょうか。特に,例えば一部不履行の場合とか,目的物に瑕疵がある場合とか,付随的な債務の不履行の場合とかまで含めて考えてみると,軽微という概念を用いた場合には,これらの場合に従来よりも緩やかに解除が認められることになりそうでありますが,それは疑問です。   そもそも,債務不履行があった場合の救済手段としては,一方で損害賠償請求という手段もあるわけですから,損害賠償という金銭的な解決ではなくて,契約の拘束力から離脱させなければならない,それを相当とするということは,契約目的との関係で一定の線が引かれるべきなのではないかと私は考えております。そこで,先ほどおっしゃったような意味での軽微という概念を前提として,軽微でない限り解除を認めるとすることについては疑問を感じるということを申し上げたわけです。   さらに,あと2点申し上げたいと思います。一つは,いずれの表現を採るにしても,催告解除の場合について,解除に何らかの要件的制約が掛かるときに,その制約における考慮要素の中に債務者側の事情が果たして入るのかということが問題とされていますし,私も最初の質問でそれについて確認をさせていただきました。この点につき,先ほど山本幹事は,学者はそれは入らないと考えていると言われたのですが,果たして学者が全て入らないと考えているのでしょうか。むしろ従来,判例においては,正に総合的な判断の一要素として,不履行の原因がどこにあったのかということも考慮されていたのではないか思いますし,それを基本的に支持する学者も少なくないと思うのですが,その点はいかがでしょうか。   私も,債務者に帰責事由がなければ解除は一切できないとすることは,契約の拘束力からの離脱という解除の基本的な意味ないし機能からいって適切ではないと考えます。ですが,拘束力からの離脱を相当として解除を認めるかどうかを判断する際の一考慮要素としては,特に催告解除の場合に,債務者側の事情は入り得るのではないか。たとえ解除の要件として重大な不履行という言葉を仮に使ったとしても,あるいは契約目的の達成可能性という言葉を使ったとしても,あるいは軽微という言葉を使ったとしても,それを一要素として考慮に入れるという余地は十分あると考えてよいのではないかと思うわけです。   それから,これで最後にしますけれども,第3点は,先の質問の一つに挙げた主語の点についてです。これは先ほど内田委員がおっしゃったことでもありますけれども,「不利益」が軽微かどうかという言い方をすると,損害の大きさが一番重要なポイントになるようにも見えるので,果たしてそれが適切なのかと疑問を感じて先の質問をした次第です。お答えを聴くと,あるいはここに書いてあることからも,いろいろな事情を考慮した上での総合判断ということが意図されているようなので,実質は変わらないようなのですが,「不利益」が軽微という言い方は誤解を招くのではないかと思います。 ○山本幹事 2点目に指摘された点については,学者は全てというのは,重大な契約違反という要件を採用すべきだという提案をしている学者においてはということであって,総合判断とおっしゃいましたけれども,不履行解除が認められるかどうかについても,帰責事由ないしは過失に相当する要素を考慮すべきだという学説があることは否定していません。   その上でお聞きしたかった,ないしは問題提起したかったのは,先ほどの議論との関係で,不完全履行の場合に催告解除が認められるのかどうかという問題です。これは部会のときに潮見幹事も最初のほうに問題提起されていたところで,これが正に比較法的にも大きな論点の一つになっていると思います。   中井委員及び高須幹事が御提案されている催告解除の要件を見ていますと,不完全履行に当たるものも排除されていない。したがって,催告解除は認められるようである。ただ,軽微と言うかどうかは別として,不履行が-何が主語か問題ですが-ともかく軽微であるときはその限りでないというような形でカバーしようとされている。問題になるのは,これも前に潮見幹事でしたかが御指摘されていたのですが,目的物に契約不適合に当たるもの,瑕疵と言ってもいいかもしれませんが,そのようなものがあり,それが必ずしも軽微とは言えない。しかし,それがあるために契約をした目的を達成することができないわけではない。このような場合に,催告をして,相当期間内に修補ないし追完等に当たる行為が行われないときに,解除を認められるのか。どうもこれだけを見ていると,軽微には当たりませんので,認められないことになりそうである。本当にそれでよいかどうかというのが,実は問題になっているポイントの1つだと思います。   そして,先ほど挙げたCISG,ウィーン動産売買条約ですけれども,これは引渡しに限定していて,契約不適合の場合は催告解除を入れていません。これは明確にそのような意図の下に排除しています。ヨーロッパ共通売買法の案を見ましても,ウィーン動産売買条約と同じ考え方が採用されているようです。つまり,催告解除を認めるとしても,契約不適合それ自体が重大な契約違反に当たると言えれば解除を認めてもよいが,そうでない場合は,催告して相当期間内に追完がなされないときに解除を認めるという形で,契約からの離脱を容易に認めることは否定されているわけです。   もちろん,そうでない考え方もあり得るところであって,それがここでの問題だと思うのですが,このような問題についてどう考えるべきかということが明示的に論じられた上で結論が導かれるべきではないかと思います。いかがでしょうか。 ○中田分科会長 今の御質問の途中で,目的物の瑕疵があって,軽微でなく目的が達成できない場合でも,修補しなければ解除を認めないのか…… ○山本幹事 軽微ではないけれども,目的が達成できないわけではない場合です。 ○鎌田委員 軽微ではないけれども,目的が達成できる。 ○山本幹事 ですから,三分説で言う真ん中の場合について問題提起させていただいたということです。 ○中田分科会長 真ん中の場合に,修補しないときは解除を認めないのかという御質問になったように聞こえたのですが。 ○山本幹事 正確にもう一度言い直しますと,中井委員及び高須幹事の御提案では,軽微ではない以上解除できることになりそうだけれども,本当にそれでよいのかというのがここで検討されるべき事柄であるということです。 ○高須幹事 今の点に関しては,定まった答えを持っていたわけではないものですから,さてどうしましょうということではあるのですけれども,従来,不完全履行で追完可能であれば催告をして,その催告に応じなければ解除できると。したがって,今,先生から御教示いただいたウィーン売買条約とかヨーロッパ共通売買条約などとは違う結論になっているということについては,率直に言えばそう思っていたと認めざるを得ないと自白をしていると思います。それがいかに不合理なことかということがあるのであれば,もう一回よく考えますとしか,今は言いようがないのですが,基本的にはそう思っておりましたと申し上げざるを得ないと思います。 ○中田分科会長 山本幹事に確認なのですが,CISGなどとの違いという点,現在の日本法はどういう状態にあると御認識ですか。 ○山本幹事 現在,売買に関して言いますと,570条がありますので,瑕疵に当たるとすれば,契約をした目的を達することができないというのが,積極要件か消極要件か争いはありますけれども,要件になります。そこで一般的に想定されているのは,瑕疵自体が重大であって,契約をした目的を達することができない場合だと思います。それに対して,瑕疵自体は必ずしも重大でないけれども,催告して,しかし修補されない場合をどう考えるかという点については,法定責任説を前提にしますと,修補義務に当たるものを認めないことになりますので,そもそも問題が立たないことになると思います。契約責任説の場合ですと,修補義務に当たるものが認められますので,催告しても修補しない場合に,それもプラスアルファして契約をした目的を達することができない場合に当たると言えるかどうかは,論点としてはありますけれども,明確に述べておられる方は,私が知らないだけかもしれませんが,ないのではないかと思います。それが正にここで問われている事柄だと思います。 ○中田分科会長 分かりました。 ○高須幹事 今の御指摘はよく分かったのですが,先ほどイメージしていたのは,飽くまで債務不履行解除を考えておりました。瑕疵担保責任の570条の解釈の中で私が考えてそう申し上げたということではなく,帰責性があったときに,債務不履行として解除するというときに追完可能なときどうかという認識をしておりました。したがって,瑕疵担保のときはまた別な考えになると思います。そういうつもりで申し上げたということだけ付け加えさせていただきます。 ○中井委員 鹿野幹事がおっしゃられた,現在の解除できる場合に比べて,弁護士会提案は解除できる場合を広げているのではないかという点ですが,弁護士会,私も含めてそうだと思いますけれども,解除できる場合を現在より拡大する,広げるという意図はないです。この表現がそうなのだとすれば,その指摘を踏まえて考えなければいけない。   ただ,先ほど留保を付けたのは,付随的義務違反については,現在の裁判例は契約目的不達成という概念,ないしは少し表現が変わってきて要素たる債務という言い方になっているのかもしれませんけれども,それとの比較で,軽微の中に付随的義務を放り込んでもいいのかということは,弁護士会内部でも議論をしているところです。議論はしたのですけれども,取りあえず今日の提案としては,ここに出したような形になっているということが1点です。しかし,いずれにしろ拡大を意図したということではなくて,解除できる場面についての明確性をこういう言葉で表したと理解しています。   二つ目は,契約目的達成・未達成の概念について,これは我々が一方的に誤解をしているのかもしれませんけれども,先ほどの内田委員のお話を聴いて,そういうことなのかという素朴な疑問を持ちました。契約目的達成・不達成の概念についてもう少し整理と言いますか,理解を深めるほうが生産的なのかと思います。   それとの関連で申し上げますと,先ほどから,物の給付について主に議論をしていましたけれども,仮にこれが金銭の給付,対価としての金銭の支払について債務不履行があった。その場面において,これは部会でも申し上げましたけれども,契約目的達成・不達成というのは一体どういう結び付きになるのか。その概念を金銭債務不履行について当てはめるとすれば,できれば具体例をもって御教示いただきたい。   その点は,少なくとも我々の素直な理解としては,これは債権者がそう決断したときですけれども,一定の金銭支払義務がある,相手が債務不履行して払わない,期限を定めて催告をする。ほとんどの場合,停止条件付き解除の意思表示も含めて催告をしていると思いますけれども,期間の渡過によって当然解除になる。それはそういう理解で共通しているとすれば,契約目的不達成だからと説明されるのですか。少なくとも機械的適用で解除の効力が決まるという考え方がいいのではないかと思っているということです。   それから,瑕疵,不完全履行についての意見と言いますか,どう理解するのだという御質問がありましたけれども,少なくとも瑕疵担保については,売買の規定の中で,代金減額請求,修補請求,加えてどういう場合に解除できるかということは,決められるのだろうと思っています。それは契約の総則で一定の方向を採ったとしても,合理的な修正がなされてしかるべきではないか。ここの一般原則がそのまま瑕疵担保,これを仮に債務不履行構成としたときに,全く同じように妥当するのかということについては,留保しておきたい。そこで議論して更に詰めればいいのではないか。同じように請負契約についてもそうです。継続的契約関係,賃貸借についても,将来に向けた解除の効力,将来に向けて契約関係が終了する賃貸借や雇用ではまた別途の考慮が必要なのだろうと思っていますから,必要な規定はそういうところで更に検討していいのではないか。   そうすると,ここでは典型的に,物の給付に関わる単純な事例を想定した議論を弁護士会はしているとことになるのかもしれません。 ○山本幹事 これはいずれまた部会で検討することですけれども,瑕疵担保責任と従来言われてきたものについて,契約責任説の考え方に従った立法を行うとすれば,そこでの効果は基本的には,「総則」で定められたルールがそのまま妥当するということですので,一々特則を設けていくという発想がそもそも契約責任説とはかなり違う理解につながるように思うということだけは申し上げておきたいと思います。   そして,今,中井委員が最後に言われた点ですけれども,物の引渡債務で引渡しがなされないときを典型例として想定して,このような催告解除ルールが出てきているのではないかと思います。しかし,提案されている規定上はそのことが表れていませんので,そのイメージと規定とのギャップが先ほどから問題になっているようにも思います。 ○中田分科会長 かなり時間を費やしまして議論をしてまいりましたけれども,大体は論点が出たかと思います。幾つかの層があるわけです。まず,解除制度をどう考えるのか,あるいはその中で催告解除制度の持つ意味をどう考えるのかという,非常に一般的なことがあります。次に,それについての一定の理解に基づいて,制度の枠組みをどう考えるのか,つまり催告解除と無催告解除を一元的に考えるのか別のものと考えるのかです。3番目に,債務者側の事情をどのように考慮し評価するのか,過失との関係,それから債務者側の事情というのはそもそも何なのかと,こういう辺りの話があると思います。4番目に,もう少し具体的に,重大とか軽微とか契約目的が達成されないということの意味とその内容が問題になっていると思います。意味というのは,なぜその場合に特別に扱うのか,これは全体の話と関係すると思います。更に,具体的な考慮要素としてどのようなものを考えるのか。それから時期ですね。当初の不履行を想定するのか,それとも催告期間経過後の状態を考えるのかという辺りです。最後に出てきましたのが,瑕疵担保との関係ということで,具体的な債務内容との関係をどう考えるのか,この辺りが話題に出ていたのかと思います。   他にもあるかもしれませんが。どうぞ。 ○中井委員 付随的義務違反についてもう少し議論が出るかと思ったのですけれども。部会のときにも申し上げた例で言いますと,土地の売買契約を締結したときに,境界確定をすることを契約で明らかに売主が約したという例を想定して,決済期日までに境界の確定ができなかった。これは土地の売買目的が,買った土地の上に自宅を建築するというのであれば,境界が確定しなかったからといって建物は建つ。売主としては引渡しをして所有権移転をすれば,主たる債務としては履行できるという例を想定したときに,決済期日の前で境界確定ができないことが明らかになったということを想定して,買主はそれであっても当該100坪の土地を買い受けなければならないのか。不備なまま,契約・約束違反をしたままの土地を買い受ける義務まで認めることについて,私としては違和感があるわけです。そこでは当然,境界確定をしてください,時間が足りないから1か月の猶予を与えて催告して,それでもできなかったら,当然,買主としては,そんな境界の決まっていない土地は要らないと言えると思っているのです。   これを契約目的という概念,私の理解が間違っているのかどうかですけれども,仮に,買手が不動産開発業者であれば,それは明らかに契約目的不達成になるから当然解除できる。個人の場合は解除できないという結論を用意しているのだとすれば,それはどうかと思っています。この点は私の誤解なのか,教えていただきたい。 ○中田分科会長 今の具体的な例について,いかがですか。これは部会でもお出しになられた例ですね。もしあるようでしたら。 ○内田委員 皆さんそれぞれに感覚が違うかもしれませんけれども,宅地100坪の売買で境界の確定をきちんとしなければ,買った後で境界紛争が起きれば,目的が達成できませんので,私は契約目的が達成できない不履行に入ると思います。ただ,数万坪の山林で元々境界がはっきりしていないという場合において,契約上の境界の確定の義務をきちんと履行しなかった,しかし引渡しは終わっているというときは,それが解除原因になるかというと,微妙だろうと思います。   ですから,当該契約の趣旨に応じて目的を考慮していく。その目的というのも,形式的に,宅地は建物を建てるのが目的だから,建物が建てば目的は達せられるのだという発想ではなくて,契約した当事者の主観も含めた目的ですね。結局は解除を正当化するだけの債務不履行と言えるかどうかという判断になると思いますが,それを目的達成という表現で言っているにすぎないというのが私の理解です。ですから,余り特定の言葉にこだわって,議論が袋小路に入ってしまうのは,生産的ではないという感じがしました。 ○中井委員 確認ですけれども,今のような事例でも考慮されるべきは,土地の大きさであったり当事者の主観であったり,他に,様々な相互の事情が考慮されて,契約目的達成・不達成も判断されていると,こういう理解でよろしいですね。 ○内田委員 私はそういう理解です。 ○潮見幹事 中井委員の先ほど言われた誤解でしょうかという部分ですが,内田委員がお考えになっているのと,ニュアンスはあるのかもしれませんが,誤解だと思います。むしろ,今お出しになられたような例があるからこそ,高須幹事の案は置いておくとして,中井委員がお考えなっているような案を採った場合に,きちんと整理をしておかなければいけないのではないかと感じました。と申し上げますのは,先ほど冒頭で申し上げたのですが,催告解除と言われている場面で,催告をして相当期間が経過したという場面で,なぜ解除が認められるのかという場合に,それは期間内に履行もしないのだから,そんなもので契約の目的達成することができないではないかとか,もはや契約の維持を期待することができないではないかという,一種の契約目的達成不能型でこれを正当化するのであれば,これは催告解除の問題として捉えても,あるいはいわゆる無催告解除の問題として捉えても,結果的に基準は同じ,あるいは観点も同じことになると思うのです。   ところが,無催告解除の場合には,言語表現はともかくとして,契約目的達成不能・可能という観点から解除の可否を考え,他方で,催告解除の場合には,中間的なものと正におっしゃっておられるように,何かそれとは違った観点なり基準で解除の可否というものを決めるといお立場を採った場合に,今出てきたような境界を画定する債務の不履行で解除が問題になる局面で,これを催告解除の問題として捉えていくのか,それとも催告解除ではない,催告不要の解除という形で捉えていくのかによって,解除の可否,基準というものが違ってくる可能性があるのです。もし基準が同じだということになれば,結果的にそれは催告解除の場面でも,これはワーディングの問題でしょうけれども,契約の目的を達成することができない,あるいは契約の維持をもはや期待することができないという観点から,解除の可否というものを判断していることになって,同じことになるからよいのでしょう。むしろ中井委員の立場のような見解こそ,今のようなところをきちんと整備しなければいけないのではないかと思います。   同じことが,先ほど山本敬三幹事が言われたような中間的なというか,重大な瑕疵ではない,軽微な瑕疵でもない,真ん中の瑕疵がある場面で,瑕疵修補義務を負っている債務者が修補をしない場合に,仮に催告解除の可能性も認めたとき,催告解除のルートを取るのか,それとも,契約目的達成不能解除のルートを取るのかによって要件や結論が違ってくるというのが果たして妥当かどうか。違うというのならば,なぜそれが違うかということが正当化できるのかということが重要になってくるのではないでしょうか。 ○鎌田委員 誰に対する質問というよりも,要は今,どういう考え方が提示されていて対立しているのかということですが,一つは契約目的不達成という言葉にどういう意味を盛り込むかが必ずしも一致していないので,そこの理解が違っていることがあるのかもしれないですけれども,こういう整理をすること自体が間違いかもしれませんが,債務内容が非常に重要であって,それ自体が客観的に見て,その不履行は直ちに重大な不履行だと見られるようなもの,これを一つの重大な不履行という概念で措定すると,部会で出た松本案というのがどちらかの端なのだと思うのですけれども,重大な不履行,これは不能もあれば定期行為違反もあるのですけれども,それ以外にも本質的債務の不履行があるとして,重大な不履行である場合には基本的には無催告解除が原則でありますが,遅滞型については催告手続を踏んでくださいという,これが一つの考え方だと思うのです。   それからもう一つは,分科会資料の甲説というのがどちらなのかがよく分かりませんが,重大な不履行,契約目的が達成できないというような不履行があれば,無催告解除ができて当然だ。その重大な不履行のメニューの中に,定期行為や確定的な不能と並んで,債務不履行プラス催告期間とかというのがある,そういう整理が甲説の整理かなとも思うのですけれども,例えばヨーロッパ契約法原則などを見ると,重大な不履行解除というのがあって,それと並んで,履行の遅滞が重大でない場合において,被害当事者が合理的な長さの期間を定める通知をしたときは,被害当事者はその期間が満了したときに契約を解除することができるとしています。だから,重大不履行を客観的に重大な不履行を意味するものと措定したときに,重大な不履行ならば無催告解除ができます。これに加えて,債務不履行プラス催告期間徒過ということがあると,この場合にも解除権が発生しますというものがあります。これは第3の考え方になるのかな。それが甲説の中に包摂されると考えないとすると,三つのパターンがあることになります。中井先生の御見解はどちらかというと第3説的な発想に近い整理なのかもしれないと思っていたのですけれども,現に部会の中で主張されている議論というのはその三つという整理自体が間違っているのでしょうか。 ○山本幹事 それが正に最初のほうに潮見幹事が指摘されたもので,広い意味での重大な契約違反と狭い意味での重大な契約違反があって,それが同じ言葉で言われているので混線するのですけれども,狭い意味での重大な契約違反は,その不履行自体が重大なものである場合である。比較法的に言いますと,その不履行によって当該契約で債権者が得られると正当に信じたものが得られない場合が,狭い意味での重大な契約違反だと思います。   それに加えて,この債務者からはもはや履行が得られないだろう。債務者の態様等から見てそう考えられる場合も広い意味での重大な契約違反に当たるとして無催告解除を認めるという考え方が,一部に見られる。それに対して,催告解除に関しては,今,鎌田部会長がおっしゃいましたように,狭い意味での重大な契約違反がなくても催告解除が認められる場合がある。ただ,これは更に分かれていて,広く認めるものもあれば,先ほどの軽微な債務の不履行は除くというものもあれば,CISGなどのように,引渡債務の遅延に限っているものもあるという整理になるのだろうと思います。   ですので,おっしゃるように,重大な契約違反のどれを指しているかということをはっきりさせないと,非常に混乱すると思います。最初に新井関係官がお示しになったのは,コンセンサスを得ようとしてということだと思いますけれども,要するに広い意味での重大な契約違反に包摂することによって,何とか立場の違いを克服できないかと考えられたのだろうと推察しますが,やはり詰めるときには狭い意味と広い意味は分けて論じないと,実はコンセンサスが得られていないことになる可能性があるのではないかと思いました。   ですので,重大な契約違反と言うか,契約目的の不達成と言うかどうかは別として,狭い意味では,当該契約によって債権者が正当に得られると期待したものが得られないということをはっきりさせる必要があると思います。さらに,部会のときには松本委員が主観的なものとおっしゃったのですけれども,主観的なものではなくて,この債務者から履行は得られないだろうということが確定できる場合も,解除が認められてしかるべきものであって,それを広い意味での重大な契約違反と呼んでも構わないという整理はしてよいのではないかと思います。潮見幹事が最初に言われた時の経過の重大性は,今の広い意味での重大な契約違反の一部かもしれませんが,次の履行期前の履行拒絶も含めて考えますと,催告せずとも,この債務者からは履行が得られない場合はあり得ますので,そのような場合を含めて考えると,時の経過の重大性だけではないタイプの広い意味での重大な契約違反もあるように思いました。 ○中井委員 今,山本幹事は,狭義と広義とおっしゃったので,この分科会資料1の甲説のほうで,下で二重囲いをしているところではなくて,その上の,甲説のすぐ右に書いてある「債務不履行」と,次の無催告解除における甲説のすぐ後ろの「債務不履行」,ここについて,無催告解除における債務不履行というのは,限定された意味での契約目的達成できないような,期待ができないような債務不履行を指している。それに対して,催告解除制度の甲説の債務不履行というのはそれより広い,そういう理解をしてよろしいでしょうか。結果としては,いずれも,下の重大不履行という,これは評価においては,私が先ほど言ったⒶとⒸは同じ評価になる。Ⓐがなぜ同じ評価になるかと言えば,そこには催告期間経過という事実が加わるからという趣旨と理解してよいのでしょうか。 ○山本幹事 少し違うと思いました。というのは,無催告解除の場合の甲説の重大な不履行は,先ほどの狭い意味での重大な不履行の他に,この債務者からは債務の履行が得られないだろうということが確定的にうかがえるときも,考え方によって分かれるところなのですけれども,入り得ると思います。その意味では,無催告解除を正当化するに耐えるだけの重大な不履行がまたある。つまり,三つに分かれるということなのかもしれませんが,そのようなものではないかと思いました。潮見幹事に整理していただいたほうがいいかもしれません。 ○潮見幹事 整理はしませんが,この先の分科会での議論のやり方の提案なのですけれども,鎌田部会長や山本敬三幹事が言われたところとつなげて申し上げますと,債務不履行自体で解除が認められる場合,催告しなくていいのですよという場合,言わば一発レッド型があるという認識は,共有されているのではないかと思います。どんな場合でも,常に催告をして解除でなければいけないということは,ここにいらっしゃる皆さんで支持する方はいらっしゃらないと思うのです。   そうであれば,一つは,一発レッド型で解除が認められるというのはどういう場合なのかを判断する枠組みというのでしょうか,基準でもいいのですけれども,それを片方でまず議論し,もう片方で,一発レッドではない場合,つまり債務不履行それ自体を捉えた場合には解除をすることができない場合になお解除というものが認められる場合に,それはどういう場合であって,なぜなのかを議論したらいいと思うのです。後者の一つの場面が催告解除であって,その催告解除の場合には,なぜ,一発レッドではないのだけれども,催告をして相当期間が経過したら解除が認められるのか。認められない場合は一体なぜなのかというところを,そこでもう一つ別に詰めていき,そこで解除が認められる場合と認められない場合というものの区分けができた場合に,その区分けと最初の一発レッド型の場合の解除の要件,あるいは判断枠組みとが同じか違うかというところを整理してみたらいいのかなと思います。   もしそこで,一発レッド型と催告解除型で,判断基準の検討をしてみたら同じような基準で同じことが狙われていたのだとするならば,それはそれとして一本化して説明していいし,違うのならば,それは催告解除にこれこれの独自性があったのですよねというところの説明がつくのではないかと思うのです。ここで実際に問題になっているのは,先ほど中井委員がおっしゃったような付随的な義務の違反の場合であるとか,瑕疵が問題になるような場面の処理だとか,そういうものがありますから,それを見ていけばいいのかなと思います。   この議論自体が混線するのは,一方において,契約目的達成不能というものに対する,支持する側は支持する側である思い入れがあり,おかしいなと思うほうはその部分についてのアレルギーが有り,他方で,そのような解除類型を認めた場合には,なぜか催告解除というものが片隅に押しやられてしまうような意識がどこかにあって,催告解除からまず議論しなければいけないのだという意識もある。催告解除の例外として無催告解除を捉えなければいけないのだという,妙な枠組みの縛りというものがあるような感じがします。一度その枠組みを取り払って何とか考えていけば,幾つかの成案的なものは出てくるのではないかと思います。その中から,どれを選ぶは部会で決めていただくというのではいかがでしょうか。 ○中田分科会長 どういう相違点があるかというのと作業の手順と両方お示しいただいたわけですが。 ○山本幹事 分科会で指摘しておいたほうがよい論点ないしは考え方をもう一つだけ最後に付け加えようと思っていたのですが,それは,催告解除の場合に例外をどのような形で定めるかという問題です。先ほどから出ている弁護士会からの案は,何が軽微かは別として,軽微であることが要件になるというものだと思います。ですので,債務者側が軽微であることを主張・立証するという仕組みになる。あるいは,要件を一元化すべきだとすると,契約目的を達成できるではないかということを主張・立証するという構図になるだろうと思います。   特に後者のほうは,より一層問題なのですが,無催告解除の場合には契約目的が達成できないことを債権者側が主張・立証するのに対して,催告解除の場合は,それが反対になる。催告制度とはそういうものだという理解があるのかもしれません。   これは一つの考え方なのですが,もう一つの考え方は,内田委員が示唆されていた考え方ですけれども,催告解除が認められている下で,債務の不履行があり,催告したが,履行がないということが主張・立証されれば,解除が認められる。それに対して,その債務は軽微である,あるいは,ユニドロワがそうですが,些細な債務である。要するに,債務が主たる債務に当たらないことが主張・立証されれば,催告解除は認められない。そこから先はどうするかというと,予備的請求原因になるのかどうかはともかく,債権者側が,契約をした目的を達することができないということを主張・立証して初めて解除が認められる。つまり原則に戻る。恐らくこのほうが合理性があるような気がします。   これはよく考えなければなりませんが,債務者側が契約目的が達成できることを主張・立証しなければならないというのが,本当に合理的な仕組みなのかどうかということも考える必要があるということだけ指摘させていただきたいと思います。 ○中田分科会長 ありがとうございました。今の主張立証責任も論点の一つとして,当然重要な点だと思います。   それでは,予定された項目がまだ三つほどあるのですけれども,せめて解除のところは是非やりたいと思いますので,先に進んでよろしいでしょうか。申し訳ありません。   それでは,続きまして部会資料34の第3,1「(3)履行期前の履行拒絶による解除」について,御審議いただきたいと思います。事務当局から説明していただきます。 ○新井関係官 それでは,御説明します。   「(3)履行期前の履行拒絶による解除」につきましては,部会資料34の32ページが当該箇所でございます。   履行期前の履行拒絶を解除原因として明記することについては,部会において異論がなかったものと思われますが,その要件立てにつきましては,本文で記載した②の催告の要否あるいはその催告の位置付けなど含め,様々な指摘を頂きました。他の催告解除等との平仄にも留意しつつ,規定の具体的な在り方について分科会で補充的に検討していただくことになったものです。よろしくお願いいたします。 ○中田分科会長 この論点につきましては,履行期前の履行拒絶を解除原因として明記するという部会の方向性を受けまして,分科会では具体的な詰めの議論をしていくことが課題かと思います。問題を大きく分けますと,どのような場合に解除権が発生するのかということと,催告についてどう考えるのかということ,この二つがありそうです。   解除権の発生については,(3)アの履行拒絶の定義とイ①で示された要件とが問題になります。部会では,履行期前の履行拒絶により填補賠償請求権が発生する場合の定義・要件との関係がどうなるのかについて複数の意見がありました。これは,履行拒絶をいわゆる履行不能に準じるものと位置付けるかどうかということとも関係するかと思います。   第2に,催告については,履行拒絶をいわゆる履行不能に準じるものとすると不要ではないかという意見,終局的・確定的拒絶であることを念押し的に確認するためのステップとして要件とするのがよいという意見,また,催告解除において契約はできれば存続させ履行させるほうがよいという考え方があるのだとすると,ここでも要件としてよいという意見があろうかと思います。ここでは,先ほどの履行拒絶を履行不能に準じるものと位置付けるのかどうかということと,ここでの催告と催告解除における催告との関係をどう見るのかということもありそうです。また,催告解除とは異質のものだとすると,ここでは催告とは別の言葉を使ったほうがよいのかどうかという問題もあるかもしれません。   こういったことですが,大きく分けて二つの問題について御審議いただければと思います。 ○中井委員 ここは,履行期前の履行拒絶による填補賠償のところでも議論をしたわけですけれども,不能に収れんできるのではないかという意見もありますが,このこと自体も明示する方向で,議論は部会のほうでも進んでいると理解をしております。そこで,これを明示する方向で検討していくことを前提にしております。   私は,催告なくして解除できるという542条の定期行為,543条の履行不能の考え方は,契約をした目的を達することができない,それは催告をしても意味がないというもので,履行期前であれ,履行期において催告をしても履行拒絶が明確なので,結局は履行してくれないわけですから,契約の目的を達成しない。まずそのことが必要なのだろう。かつ,事前の段階ですから,それが明らかでなければならないという要件が入る。これも部会資料のイの提案に書かれているとおりと理解をしております。   その上で,催告の要否ですけれども,ここでの催告の中身というのは履行の催告ではない。相手方は履行しないという意思を表明しているわけですから,あえてここで確認するとすれば,なお履行する意思があるのかないのかについての意思確認という意味での催告なのだろうと位置付けています。結論として,それを重ねて行ってもいいのではないかという意見が弁護士会の中でもありました。しかし,ここでは,事前に履行しないという意思が明示的に確定的に表示されている,だから履行されないことが明らかということを要件にすれば,その明らかという要件の中に意思の確認は終わっていると読み込めるのではないか。とすれば,重ねて意思の確認を求める要件は要らないのではないかと考えています。   実際的には,明らかであることを確認するために,最終意思の確認方法として,催告をして確認することはもちろんあり得るでしょうし,明らかであることを後日証拠として残すためにそういう意思確認をすることだってあるかもしれませんけれども,逆に,既に書面等で明確に履行しない旨が表示されているのであれば,明らかであるにもかかわらず意思の確認をする必要はない。そういう意味で,条文となったときには,催告,ここでは意思の確認という意味での催告ですけれども,不要ではないかと考えています。  以上を整理した結論として,第543条の2として,「当事者の一方が,債務の履行期前において,履行期に債務の履行をしない意思を明示することにより,相手方が履行期にその履行の催告をしても契約をした目的を達することができないことが明らかであるときは,相手方は,履行期前といえども,直ちにその契約の解除をすることができる。」という提案をします。 ○中田分科会長 他にいかがでしょうか。 ○高須幹事 ここもそれほど強い意見というわけではないのですが,部会では催告を必要とすべきではないかという意見を言わせていただきました。弁護士会の中でも意見は分かれているわけですけれども,私は催告を必要とすべきと考えている,弁護士会内でもそういう意見もあるということも言わせていただきました。飽くまで履行期前だということを考えたときに,履行期前に履行拒絶をしている,終局的・確定的に拒絶するという意思があるというのは,もちろん大前提にはなる話だと思うのですが,というのはそれが終局的・確定的でなければ,履行期前なわけだから,何と言おうとそれは履行期に履行するかどうかがポイントになるわけですから,ここで御指摘いただいているように終局的・確定的に拒絶する意思が必要だと,これはそのとおりだと思います。   そのときに,履行期後のような話であれば当然,履行不能に準じてということでしょうねという発想につながると思うのですが,履行期前だということを考えたときに,もう一確認手段を必要としてもいいのではないか。ただし,この場合の催告というのは,通常の履行遅滞のときの催告ということとは少し意味が違うのだろうと。履行期前ですから,1週間以内に履行しなさいと言えるわけもないわけですから,したがって,先行している終局的・確定的に拒絶する意思なるものが本当に間違いないのですかという確認がこの場合の催告の意味なのだろうと思います。この確認をするという作業は,ある意味では,より慎重だということになるのかもしれませんけれども,要求してもいいのではないかと思っております。   どの程度の事実があれば履行期前に解除が認められるかという,一番根本の問題なのかもしれないですが,私はそこは慎重でもいいのかなということで,明らかであっても1回は確認をしましょうという制度にしたらいかがかと,このように思っております。 ○中田分科会長 先ほど中井委員から,条文に書かなくても,実務ではどちらにしても確認的な通知をするであろうという,そこの御認識は共有されている。 ○高須幹事 それは絶対というのはあり得ませんけれども,ほぼすると思います。債権者が確認したいというのは通常の事柄だと思います。 ○中田分科会長 中井委員は,であればわざわざ条文に書かなくてもいいのではないかというお話だったのですが,そこはどういうお答えになるのでしょうか。 ○高須幹事 一言でいえば,私は心配症だからということです。心配症だからというのは,仮にそうであっても法律できちんと定めておいたほうが,みんなが幸せになれる社会を作れるのではないでしょうかと,そういうことです。 ○新井関係官 催告の趣旨なのですけれども,確定的な拒絶意思を明確にするという側面と,もう一つは,翻意の機会を与えるという趣旨で催告手続を説明するという考え方もあり得るのではないかと思うのですけれども,その点,いかがでしょうか。 ○高須幹事 確かに御指摘のとおりではありますから,なぜ確認をするかというときには,そのときの確認者の気持ちとしては,両方の場合があり得る,あるいは両方交じっている場合もあると思いますから,そういう意味では翻意の可能性ということも否定するわけにはいかないと思います。その確認というのも否定するわけにはいかないと思います。 ○鹿野幹事 私も,催告という言葉が適切かどうかは分かりませんけれども,普通の催告が履行を促すということであるとすると,ここでは翻意を促す,つまり履行拒絶の意思を翻す気はないかとして翻意を促すという意味があるのだろうと思います。   それからもう一つ,結論について定見があるというわけではないのですが,少し疑問に感じたことを申し上げます。先ほど来,中井委員と高須幹事が,通常の解除の場合について,ルールの明確性ということをしきりにおっしゃっていました。そういう考え方からすると,ここでも,債務者による履行の拒絶があったときにおいて,債権者は,債務者に対して翻意を促し,一定の期間待ったけれども債務者が翻意しないというときに解除ができるというルールを設けたほうが,明確性という点では利点があるのではないか。もちろん常に括弧付きの催告がないといけないというわけではないとしても,この手続を踏めば解除ができるというルールを作ることには,明確性という点で一定の意味があるようにも思ったのですが,いかがでしょうか。 ○高須幹事 私はそういう趣旨です。私なりの趣旨とは一貫するかなと。したがって,ここでも明確に,後日争いの種を残さないようにするにはそのほうがいいのかしらと思った次第です。 ○中井委員 それは認識した上でですけれども,明らかという要件を入れたときに,その中に取り込まれることになるのかなと理解をしたわけです。余りこだわらないですが。 ○潮見幹事 高須幹事,それから中井委員,両方にお尋ねですが,部会で少し発言させてもらったのですが,履行期前の履行拒絶で填補賠償が認められる可能性を今回検討していますね。それについて,私の記憶違いでなければ,お二人の先生とも,それに対する,その可能性を認めるという御意見ではなかったと思うのですが,それぞれ,例えば中井委員が御提案されている543条の2で解除について条文案を立てておられるのですが,履行期前の履行拒絶を理由とする損害賠償,填補賠償については,どういうものをお考えになっておられるのか。   それから,高須幹事のほうでは,履行意思の確認としての催告ですか,それを履行期前の履行拒絶を理由とする填補賠償の場合にも,同じように要求されるのかということです。 ○中井委員 まだ条文化までは何も考えていなかったですが。先ほどの第543条の2は解除のために用意した提案です。 ○潮見幹事 解除の場合と填補賠償の場合で要件が違ってもいいという。 ○中井委員 いえ,そういうことではありません。 ○潮見幹事 ではないですね。 ○中井委員 はい,ありません。まだ条文化したものを作っていないだけで,要件を変えてくださいという趣旨ではございません。 ○高須幹事 簡単な答えではないかと言われると,試験を受けている学生みたいな雰囲気になりまして,間違ったらどうしようという意識になっているのですが,実は正直言って,今日の段階でそういうことをよく考えていなくて,そういう意味では間違うのかもしれないですが,今回は,催告というのは,基本的には解除のために何が必要かという観点から考えさせていただきましたので,そのことと必ずしもリンクさせなくてもいいのではないかと,今,とっさには思ったのですが。 ○潮見幹事 ついでながら,1点だけ追加的に高須幹事に,あるいは,中井委員にも関わるのかもしれません,要件事実的に言いますと,履行期前の履行拒絶を理由とする損害賠償だとか解除の場合に,債務者が履行期に債務の履行をしない意思を明示したこと,あるいは表示したことですか,高須先生の場合には。そして,債権者が履行意思の確認をしたことですか。 ○高須幹事 はい。ではないかと思います。 ○潮見幹事 それで解除。 ○高須幹事 はい。 ○潮見幹事 もちろん債務発生原因があって。 ○高須幹事 はい。 ○潮見幹事 中井委員の場合には,履行しない意思を明示したことと,契約目的達成不能ということになりますか。 ○中田分科会長 両者が同じか違うかというのは,履行期前の履行拒絶の定義の問題と,解除の場合に,更にイの①,②で付加されている要件が必要かどうかという点があるかと思いますが,恐らく定義については同じだということではないでしょうか。その上で付加的な要件をどう考えるのかということの違いかと思います。大体この辺りでしょうか。 ○中井委員 むしろ潮見先生の御意見を。 ○中田分科会長 では,山本幹事におっしゃっていただいて,それからもしあれば潮見幹事に。 ○山本幹事 先ほどの解除の一般要件をどう定めるかということと少し関係しているかもしれないという点を指摘しておきたいと思います。   狭い意味での重大な契約違反ないし契約の重大な不履行のみを定めるのであれば,問題は生じないのかもしれませんが,それ以外に,先ほど少し示唆しましたように,当該債務者から債務の履行を得ることができないことが確実であるとき,そのような表現でよいかどうか,修正したい点もあるのですけれども,そういったものも解除の事由に当たると考えますと,そのような広い意味での契約の重大な不履行が,履行期前においても将来生じることが明らかであることが要件になると考えられます。実際,そのような定め方を,例えばヨーロッパ契約法等では取っているわけです。このように,解除の一般要件をどう定めるかということと合わせませんと,文言を確定できないように思います。ですから,中井委員が御指摘になっている案も,ひょっとすると趣旨は変わらず書き方を合わせる必要が出てくる可能性もあるという点だけ指摘しておきたいと思います。 ○中井委員 関連して,私はそれを意図してというか,解除の一般原則において無催告解除が認められる場合について,私は相当絞りをかけて,催告をしても意味がない場合,契約目的を達成しない場合,定期行為であり,履行不能であり,追完不可能な不完全履行であったりする場合の他に,履行期前であっても履行しないことを確定的に意思表明している場合は,催告をしても意味がない場合の一類型に入り得るのだろう。そういう意味での拡張の一場面と理解しております。 ○山本幹事 御専門の潮見幹事に確認させていただきたいのですけれども,多くの国際条約やモデル契約法で,CISGは少し違うのですけれども,履行期前の履行拒絶という定め方をせずに,将来履行期において重大な契約違反が生じるであろうということを要件として定めているだけなのですけれども,履行期前の履行拒絶がこれに当たることが想定されていると思うのですが,それ以外の場合,例えば,日本だと履行不能と言っていますけれども,履行期前なのだけれども,もはや履行期が来ても履行不能になるということが確定している場合も含めるという趣旨なのでしょうか。そのような形で広げて書いているのか,そうでないのか。どちらにしても問題なのかもしれませんが,要するに解除の一般原則以外にわざわざ書くときに,何を書くか。履行期前の履行拒絶問題に絞って書いてよいのだということであれば,中井委員の先ほどの御指摘のとおりかもしれませんが,その点はどうなのでしょうか。 ○潮見幹事 履行期前の履行不能という問題をどう捉えているのか,そこははっきりしません。ただ,一つ,それに関連するのかどうか分からないですが,申し上げたいことがあります。履行期前の履行拒絶を解除原因とする際の構成には,少なくとも2つのものがあるということです。   一つは,履行期前の履行拒絶という場合に,履行期前の履行拒絶それ自体を債務不履行と捉え,かつ,それが重大な不履行に当たるかどうかということを問題にして解除の可否を捉えていくものです。ドイツ民法がこれです。その意味では不能を拡張しているという見方にも通じるものです。   それに対して,他方で,PECLなどそうですが,履行期前の履行拒絶というのは一つの事実にすぎないと捉え,その上で,更にこの状態が続いたならば,履行期においてもはや契約の目的が達成できないような状況が出てくるかもしれないという場合に,その点も付加して考慮に入れて,解除ということを認める,認めないということを考えていこうという立法様式もあるわけです。   両者は,結果的には同じなのかもしれませんけれども,前者のような考え方を採った場合には,正に履行不能のアナロジーという形で考えていくことになり,かつ,だからこそ先ほどの無催告解除の場面での解除の枠組みと同じように考えなければいけないということになっていくでしょうし,後者のように考えた場合には,先ほどの催告解除でもない,無催告解除でもない,もう一つ独自の解除類型というものをここで作ったのだということになりましょう。それは現時点では履行期前の履行拒絶状態があるから,それを評価の一つの基礎に据え,次に将来の履行期の状況を想定して,現時点で解除を認めることにしてしまうというもので,履行不能を理由とする解除とは枠組みが違うのですね。   細かく言いますと,そうしたことを含めて考えていく必要があるし,中井委員が捉えられた枠組みというのは実は後者に近いというか,発想はよく似ているのであって,成り立つことは成り立つのではないかと思います。だからこそ,そうなると,先ほどの履行期前の履行拒絶を理由とする填補賠償の場面と要件が同じになるのか,ひょっとしたら違ってくるかもしれないということが問題となのです。先ほど言外に申し上げたかったです。 ○中田分科会長 今の山本幹事の御指摘と潮見幹事の御指摘は一致しているのですか。山本幹事がおっしゃったのは,履行拒絶の場合以外であっても履行期に履行がされないことが明らかである,契約が危殆化されているというような場合を含んでいるかのように聞こえたのですけれども。 ○山本幹事 含んでいるのでしょうかという質問ですけれども,必ずしも定かではないのかもしれないというように伺いました。 ○中田分科会長 分かりました。そうすると,履行期前の履行拒絶についてどう規律をするかということと,それを超える分と申しますか,山本敬三幹事が問題提起してくださった分について,更に解除原因とするかどうか,こういう問題があるということですね。 ○山本幹事 調査をする必要があるのかもしれません。誰がするかという問題もありますけれども。 ○中田分科会長 幾つかの論文が出ていますから,そこはそういうものを参照するということかもしれません。 ○潮見幹事 これは別のところの議論と切り離してお聞きいただければと思うのですけれども,例えば中井提案にあるような,債務の履行をしない意思を明示するという形で明確に書いてしまうと,今の履行期前の危殆化は全部外れてしまうのですね。ただ,先ほど定かではないと申し上げたのは,履行期前の履行拒絶という意思という枠組みを使いながら,実はそうしたものが取り込まれているかどうかというのは,私自身は定見はありませんが,条文を作るという以上は,その辺りははっきりさせておいた上で,どういう文言にするのかというのを考えたらいいのではないかと思います。 ○鹿野幹事 先ほど山本幹事から御示唆があった点ですけれども,履行拒絶ということでなくても,履行期前において,債務者が履行期に履行できないことが明らかであるという場合には,最初の基本に戻ると,債権者を契約に拘束するということがおよそ無意味なわけですから,これを履行拒絶の条文とどういうふうに関係させるのかということはともかくとして,履行期前の解除については規定を置くべきだと思います。もちろん,どういう条文化が考えられるのかということについては,他のモデル法その他調査をするということは必要かもしれませんけれども,検討する必要があるのではないかと思います。 ○中田分科会長 分科会で新たな問題提起というのは,本当は具体的にこういう案があるということを出したほうがよろしいかと思いますけれども,問題提起というだけでも次のステージで検討対象になることもあろうかと思います。 ○潮見幹事 履行拒絶の場合以外であっても履行期に履行がされないことが明らかである場合の処理について,一言補足をさせてください。英米法とかヨーロッパ大陸法を前提にした議論を見ていくと,履行拒絶というところが前面に出てくるのですが,ドイツなどでは,履行期に履行がされないことが明らかである場合を付随義務違反と評価できる場合に,付随義務違反を理由とする解除の枠組みで問題を処理する考え方があります。これと履行拒絶のかを理由とする解除との関係をどのように捉えるかは,さきほど述べたように履行拒絶をどのように捉えるか次第で,複数の可能性がありましょう。英米法では,anticipatory breach of contract,日本語で何と訳したらいいのか,実はちょっと難しいですけれども,この場面では,履行拒絶の意思のある場合以外に,客観的に見て履行することができない,危なくなっているという場面も含まれていたように思います。これについては松本恒雄教授の研究とかいろいろありますので,それらを御参照いただきながら,並べて比較してみるだけであれば,そんなに大掛かりな調査は要らないのかもしれない。 ○鹿野幹事 思い付き的で申し訳ないのですけれども,ここでは,履行期において履行がなされることを全く期待できない場合が問題となっているのだろうと思いまして,その典型的なケースとして,事前に明らかな履行拒絶があった場合と,もう履行不能であることが確定しているような場合とがあるということだと思います。そして,条文化においては,両者を含むような形で規定を置くのか,それともその二つを典型的な場合として規定を置くのかというと,いずれも考えられるのではないかと思います。 ○鎌田委員 それは履行期前の不能と履行期後の不能とを区別する必要はなくて,不能の規定を,履行期を問わず適用できるものにすればいいだけではないかという気がしますけれども。 ○鹿野幹事 確かに,不能について,履行期の前後を問わずということを文言として入れるのであれば,そこでカバーされますので,新たにこちらに入れる必要はないということになると思います。ただ,履行期後の一般的な問題と,履行期前でも例外的に解除できる場合があるという形で,時期的に分けて規定を置くとすると,こちらのほうに引き付けた規定の置き方もあるだろうと思います。 ○山本幹事 具体例だけ挙げておきますと,請負契約の場合で,工事が遅延していて履行期には完成しないことが明らかになっているという段階で,どのようにして解除できるか,そしてどの規定を使って解除するかという問題なのでしょうね。 ○内田委員 不能に関しては,履行期前であっても履行が不能になれば,履行不能による解除を認めるというのが,これまで日本の判例だと思いますので,別にそれを変える必要はないのではないかと思います。   不能以外の場面について,履行期前に明示的に確定的に履行拒絶の意思を表示したという場合は,今,特則を置こうとしているわけですが,それ以外の,山本幹事が今おっしゃった請負の場合,これは請負人が一生懸命履行すると言っているのに,どうせ間に合わないでしょうと言って解除するような場合ですか,そういう場合,多くは履行不能に包摂されると思いますが,包摂されないものについて比較法的な調査をした上で,事務当局において原案を作成せよというのは,ちょっと無理だと思います。ですから,やはり部会なり分科会なりで何らかの案が出てこないと,こちらで比較法的調査を基に原案を作るというのは,困難であるということだけ申し上げておきます。 ○中田分科会長 それをやり出すと,今度は担保を積むかとか,そういう話になってきて,だんだん複雑になると思うのですが,もし可能であれば,御提案いただいた方々が具体的な御提案なり資料なりをお出しいただければ,より有益ではないかということかと思います。   6時まであと十数分しかないのですけれども,次の話題,548条をどうするかというところに進んでもよろしいでしょうか。   それでは,ひょっとしたら6時を少し過ぎるかもしれませんけれども,548条に進みたいと思います。部会資料34の第3の「4 解除権者の行為等による解除権の消滅(民法第548条)」について御審議いただきたいと思います。事務局当局から説明をお願いします。 ○新井関係官 御説明します。   当該論点の掲載箇所は,部会資料34の40ページです。   第39回会議におきましては,本文記載の甲案と乙案に加えまして,民法第548条削除案が提案されまして,これについて,賛成する意見が部会の中でも示されております。   その上で,全部削るか,一定範囲に絞るかということは別として,民法第548条の適用場面を狭めるという方向性については異論がないということが,部会において確認されております。そこで,甲案,乙案,そして第548条の削除案,これらの案の問題点等を補充的に検討していただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○中田分科会長 ただいま新井関係官から整理していただいたとおりであります。   なお,一言追加しますと,仮に548条削除案を採った場合には,削除した場合にどのような帰結となるのかについても検討しておくということが当分科会に求められていると思います。   それでは,548条について御意見をお願いします。 ○中井委員 この点については,弁護士会で,余り数は多くないのですけれども意見を聴きました。そもそも数が多くないというのは,ほとんどの弁護士が,この条文の規定を関して何らかの紛争を経験した者がほとんどいないという事実がうかがえます。方向性については異論のないところは,関係官がおっしゃられたとおりです。   その上で,甲案,乙案について議論したところ,これは部会でも申し上げているかとは思いますけれども,乙案については,「契約に照らして負う義務の違反」という,この中身について具体的なものが想定しにくくて,賛成意見はほとんどなかった。甲案について,少なくとも知らなかった場合について消滅しないという考え方については,異論はないのですけれども,その解決だけでいいのかということについては,幾つかの疑問が提示されていたところです。部会資料でも,知・不知のみで解除権の消長を決するのは硬直的ではないかという御指摘がありますが,そのような意見でした。   そもそも解除権があるかどうかについても,必ずしも明確に知・不知と言えない場面もありますし,解除権の発生の原因を知っているのか,解除権の発生を知っているのか,いずれにしろ,知・不知のみで判断することについては硬直的ではないかという意見がございました。   そういう中で,前回の部会で,潮見幹事からだったと思いますけれども,全文削除という案について,弁護士会は,少数ですけれども意見を聴いたところ,一定の支持を得たことを申し上げておきます。結局は,解除権者が解除せずにそのものを使ってしまって処理が終わるか,若しくは解除して,その後の清算,原状回復の中で相当な処理がなされるか,それは解除権者に委ねていいのではないかという意見だったように思われます。 ○潮見幹事 部会で申し上げたように,物が滅失しても価値返還義務に転嫁すべきであるという考え方を採るのが望ましいのではないかと思っています。   ただ,そのときに,実際に条文を作るときに少し御検討いただければと思いますのは,前の部会資料34の73ページから74ページにかけて,ドイツ民法の346条の規定があるのです。これは解除の効果を定めた規定で,2項のところに価値の賠償を行わなければならないと。これは価値の返還を行わなければならないというのと同じ意味と理解していただければと思いますが,これを原則と認めた上で,ページをめくっていただいた74ページに3項がありまして,価値賠償義務が以下の場合に消滅するということで,例外的に,物が滅失して価値返還に変わるということを認めたとしても,そういう価値返還義務というもの自体が消滅するという場面を幾つか認めているのです。このようなものを認める必要があるのか,あるいは認めるとしたらなぜ認めるのかというのは,考えなければいけないのかなと思います。   個人的には,以下の場合に消滅するなどという規定は,もし立法をするのであれば要らないとは思っているのですが,もちろんそれとは違う考え方もあろうかと思いますので,引き続き御検討いただければ有り難いところです。 ○鹿野幹事 私は,元の解除権者の行為等により目的物の返還が不可能になった場合における解除権の消滅の規定については,削除する案に賛成です。と申しますのは,今,潮見幹事もおっしゃったように,解除をした場合には,いずれにしても価値の返還義務は課されるということになるのですから,目的物自体が変質しあるいは滅失したということによって,解除権自体を奪う必要は必ずしもないのではないかと思うのです。そうしたら,結局お金を返し合うだけだから意味がないではないかと思われるかもしれませんけれども,そもそもの価値が等価値な場合とは限りませんし,瑕疵があるような場合をも想定すると,一定,解除に意味があることもあるのではないかと思います。   それからもう一つ,今,潮見幹事が御指摘になった,その上で価値賠償義務が消滅する場合について規定を置くかどうかという新しい問題提起についてなのですが,私自身は,これについて,74ページに記載されているほどに具体的な列挙が必要かどうかはともかくとして,一定の場合には価値返還義務が消滅するということを,規定として置いてよいのではないかと思います。要するに,目的物が返せないときには,価値を返還しなければならないということが原則なわけですが,目的物の滅失が,目的物の瑕疵に起因するという場合も含め,相手方にその原因があるような場合についてまで価値を返還させるという必要はないのではないかと考えているところです。 ○潮見幹事 1点だけ補足なのですが,先ほどのドイツ民法の346条の3項みたいなものは,私は嫌だなと思っていますのは,この場面での価値返還義務というのは,立場が変われば違うのでしょうけれども,給付利得あるいはそれに相当するようなものなので,そこに2項とか3項という,これは正に過失ということを問題にして,過失があるかどうかということを基準に,瑕疵返還義務が消える,消えないという区分けをしているので,そのような考え方を導入して価値返還義務の消滅局面というものを認めるというのは,ちょっと変ではないかと思ったというところです。   もちろん,それ以外に価値返還義務というものが,こういう場合には消えたらいいのではないかというところ,鹿野先生の意見というのは,そういう場面があるのであれば,そういうものをここで議論していただいて,認めることについては,特に私のほうから申し上げることはありません。 ○鹿野幹事 一言付け加えですけれども,例えば危険負担の規定について,危険負担を廃止するかどうかということについて議論があるわけですが,いずれにしても536条の2項の規定にあるような考え方は維持する必要があるということが,以前別の機会に部会で出されたと思いますし,私もそう考えます。ここで問題となっているのは巻き戻しの関係ではありますけれども,先ほど申し上げた部会資料の74ページの(3)に書いてあることの中には,そのような考え方に基づく部分が含まれているのではないかとも思われます。ですから,このままこれを入れるべきだという意見ではないのですけれども,そのような趣旨に基づく規定は設ける必要があると思いますし,そういう意見を申し上げたつもりでした。 ○内田委員 削除案のメリットについて質問したいのですが,目的物はもう既に来ているわけなので,解除する原因というのは,非常に重大な欠陥があったというような場合なのだろうと思います。目的物を加工したり,場合によっては費消・滅失するというときに,解除をなお認めるとしますと,加工した目的物が手元にあっても,返すのはそれではなくて,受け取った価値の低いものを価格で返す。そして解除ですから,代金が返ってくる。ということで,結果的には減額をするのと同じになるのですね。そうすると,解除を否定して,加工した商品は手元にあって,担保責任で減額請求するというのと結論は同じような感じがするのです。結論が同じであるにもかかわらずあえて解除権を認めるメリットとしては,価値の賠償義務が消える,あるいは小さくなる場合がある。そうであれば結論が違ってくるだろうと思うのですが,そういう理解でよろしいですか。 ○鹿野幹事 私は,一つは,先ほど申しましたように,価値の返還義務が消える場合というのも一定考えられるし,それを規定すべきだと考えております。   それからもう一つは,全てが給付された場合とも限らず,給付がまだ残っているような場合もあり,その残っている場合には,もしかしたら違ってくるかもしれないと思います。 ○潮見幹事 にわかに申し上げることはどうかと思うのですが,代金減額の場合の減額の割合をどのように捉えるのかということと,加工した場合に元の物の価値を返還するということで,返還義務と代金の返還債務との相殺といった場合で,同じ結論になるのかというのは,私は分からない。 ○内田委員 同じにならないとかえって変な感じもしますが。 ○中田分科会長 元々返還義務と言いますか,賠償義務の算定が困難であるというのでこの規定を置いたというのが起草者の説明ですね。この状態が生じるのが,今,内田委員の御指摘になった目的物に瑕疵があるという場合と,鹿野幹事のおっしゃった一部のみが履行されているという,これは量的一部ということもあるでしょうし,付随的な義務が履行されていないということもあるでしょうが,そういう場合,この両方の場面を考える必要があるということでしょうか。 ○山本幹事 潮見幹事が指摘されたのは,代金減額が,受けた給付の物の価値に相当する代金に縮減されると見るならば同じになるだろうけれども,受けた物の価値と本来ならば受けられた物の価値の比率で代金を縮減するとしますと,受けるべき物の価値の客観的な価格と代金とが必ずしも一致していないようなケースでは,ずれが生じてきて違いが生じるかもしれないということではないかと思います。ですから,代金減額をどちらの考え方で考えるかで結論が異なる余地もあるということでしょう。 ○中田分科会長 先ほど中井委員がおっしゃったことですけれども,弁護士で経験された方がほとんどいらっしゃらないということだったのですが,裁判例なども調べてみたのですけれども,実際,ほとんどないですね。大審院1件,最高裁1件で,しかも548条には当たらないというケースです。本当に使われていないのであれば余り機能していないのかなと思うのですけれども,もし実務で548条が使われたケースについて何か情報があれば,どなたでもお教えいただければと思うのですけれども……。では,それはまたお調べいただくということにしまして。 ○中井委員 余り想像してもよくないのかもしれませんが,この548条をストレートに紛争経験を持った弁護士はいなかったわけですけれども,使ってしまった以上は,解除権行使しないで損害賠償請求で金銭的解決がなされ,基本的に物を行き来するということは,実務的にはほとんどないのではないでしょうか。結局,裁判所に持ち込まれるときは,ほとんどは損害賠償請求の形になって,そこで解決できている,紛争はそういう形になっているのではないかという推測ですけれども。 ○鎌田委員 放射能汚染された砕石を,解除するからばらして持って帰ってくれとか,そういうのは言えないということですか。 ○内田委員 住宅に使ったものを加工した状態で……。でもそれはできないですよね。加工してしまえば物を返すという義務はなくなるわけなので。価値の返還だけだと,結局,解除してもしなくても結論は同じかなという感じもするのですが。 ○中田分科会長 結論が同じだと,どういう……。 ○内田委員 保守的に言えば,現行法を変える立法事実があるかということですね。 ○潮見幹事 考えていることは内田委員と似ているのかもしれないですけれども,だから548条の現行法で,加工・改造してしまうと解除ができなくなるという,解除権を封じるという態度決定をしていること自体がおかしい。むしろ解除権の行使を認めて,結果的に同じであれば同じように扱えばいいのかもしれませんけれども,どうしてそういう場合に解除することが認められないのかという点に,引っ掛かりがあるのです。 ○中田分科会長 それについて起草者が言っていることは,余り評価する必要はないということでしょうか。 ○潮見幹事 はい。私も少しだけ確認はしたのですけれども。 ○中田分科会長 賠償額の算定が困難ということと,先ほど代金減額との関係が出てきましたけれども,比率をどのように考えるのかということの困難さが相手方にはあるので,そうすると帰責性のある債権者の解除権を封じるのがよいと,そういう判断が取られていたわけですが,その必要はなかろうということですね。 ○中井委員 実務で紛争になっていないというところから,解除権行使していなくて損害賠償請求で終了している,だから現行法のままでいいという結論になっているわけでは決してありません。この条文を見る限りにおいては狭過ぎるから,解除権が消滅しない場面は広げなければいけませんと。さらに,削除案についても,それはそれで解除権を行使して,その上で金銭的な処理をする,そういう選択肢が解除権者にあっていいですね。それについてそれほど違和感はなかったというところですので,私の先ほどの,実務が現行法のままでいいということを積極的に言っているわけではないということだけ。 ○内田委員 解除を封じたところで,あとは損害賠償で処理をしようというわけですから,賠償額の算定が困難であるとその処理もできなくなってしまいますね。価額算定の困難さは,余りいずれかの立場を採る決定的な理由にはならないような気がします。ただ,価値の返還義務が一定の場合になくなる,あるいは小さくなるという特則を置くと,明らかに結果が変わってくるので,それは積極的なメリットになるのかもしれません。 ○中田分科会長 今,現行規定を削除するという案に対して,現行規定でもいいのではないかということですが,内田委員の御提案の,548条に全く触れないということではなくて,限定するということはよろしいわけですか。つまり,部会資料で示されているアにしてもイにしても,滅失・損傷は入っていないわけなのですけれども,そこはよろしいでしょうか。 ○内田委員 私は現行法を維持せよと主張しているわけでは全くなくて,削除案が出されたので,そのメリットが何であるかを確認したいというだけです。 ○中田分科会長 548条を残すとしても適用範囲を狭めるということについては,大体方向性が部会でもまとまっていたということなのですけれども,滅失などの場合についてはどこで規定するということになるのでしょうか。   いずれにしても,解除の場合の原状回復をどのようにするかということと非常に密接に絡んでいることだと思いますので,滅失・損傷の場合について原状回復をどうするのかということとの関係で検討していくということでしょうかね。   他に,548条についてはいかがでしょうか。大体御意見を頂いたということでよろしいでしょうか。   それでは,本日の予定いたしました議題はもう一つあったわけですけれども,もう予定された時間も過ぎておりますので,積み残した議事は次回の冒頭で引き続き御審議いただくということにしたいと思います。   他に,全体について何か御意見等はございますでしょうか。   ないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,事務当局から連絡事項がありましたらお願いします。 ○筒井幹事 次回の日程,場所は未定です。2月と3月には,第2分科会,第3分科会がそれぞれ開催される予定であり,この分科会の次回会議は4月以降ということになります。先週の部会の際に御案内いたしましたように,まだ次年度の部会・分科会のそれぞれの日程が決まっておりませんが,原則として火曜日に開催することになると思いますので,次年度も火曜日の日程確保を引き続きよろしくお願いいたします。   次回会議の議題について,本日積み残された部分と,来週の部会で審議予定の部会資料34「第4 危険負担」以降の中から,分科会に振り分ける論点が出てきた場合には,第1分科会で審議するという方向が既に鎌田部会長から示唆されましたので,そういった論点が次回のこの分科会での議題になる見通しです。また,それ以外にも,次回までに新たに付託された論点についても,御議論いただくことになろうかと思います。 ○中田分科会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   本日も熱心な御議論を賜りましてありがとうございました。 -了-