法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会 第7回会議 議事録 第1 日 時  平成24年2月17日(金)   自 午後 1時31分                         至 午後 4時32分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○吉川幹事 ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会の第7回会議を開催いたします。 ○本田部会長 皆様,本日は大変お忙しい中御出席いただきまして誠にありがとうございます。   本日の議事は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,前回に引き続きまして論点整理の議論をし,その議論が終わりましたら,各種資料の説明をお願いすることとしております。   この各種資料の説明に関し,その趣旨等をお話しさせていただきたいと思います。まず,法務省が昨年8月に公表した取調べの可視化の勉強会取りまとめ結果に対して,日本弁護士連合会から意見書が出されています。これは,今後の取調べの録音・録画制度の検討に資すると考えましたので,この意見書の説明をしていただくこととしました。   また,前回の会議で,村木委員から,できるだけ客観的なデータを示してもらいたいという御希望がございました。確かに,今後の議論を行う上で,客観的なデータというのは大変有益ですので,まずは犯罪情勢や刑事手続に関する基礎的なデータについて説明をしていただくこととしました。   さらに,今後の刑事司法制度に関する議論をするに当たり,研究者の方,実務家の方から,刑事司法制度の現状について,どのような認識が示されていたかを把握することも非常に有益だと思われますので,その点に関する代表的な論文等の内容を紹介していただくこととしました。   それでは,本日の配布資料について説明してもらいます。 ○吉川幹事 それでは,配布資料について御説明いたします。   まず,資料22の「第2回・第6回会議における意見要旨」は,資料21として前回お配りした「第2回会議における意見要旨」に,前回の第6回会議で述べられた御意見を盛り込んで,改めて整理したものです。大きく7項目に分けて記載しており,1ページ目に「1 刑事司法制度全体について」,3ページ目に「2 供述証拠の収集について」,7ページ目に「3 客観的証拠の収集について」,8ページ目に「4 公判段階の手続について」,10ページ目に「5 捜査・公判段階を通じての手続について」,11ページ目に「6 刑事実体法について」,12ページ目に「7 その他」として記載しております。適宜御参照いただければと存じます。   資料23から資料25につきましては,本日,論点整理に関する議論の後に,それぞれ内容説明が行われる予定ですので,ここではごく簡単に御紹介するのみとさせていただきます。   資料23-1,2は,いずれも日本弁護士連合会の意見書です。資料23-1は,昨年8月に法務省が公表しました被疑者取調べの録音・録画に関する法務省勉強会取りまとめに関する意見書であり,資料23-2は,取調べの録画の際の撮影方向等についての意見書です。資料24は,犯罪情勢に関する統計資料であり,警察庁が作成したものです。資料25-1,2は,刑事手続の流れ図と刑事手続に関する統計資料であり,事務当局が作成したものです。   その他,参考資料として,刑事司法制度の現状等に関する研究者や実務家の代表的な論文をまとめたものを併せてお配りしております。   配布資料の説明は以上です。 ○本田部会長 それでは,前回に引き続き,論点整理の議論を行いたいと思います。   今回も,活発な意見交換をお願いしたいという観点から,適宜挙手をしていただいて御意見を述べていただきたいと思います。なお,前回御発言のなかった委員・幹事の方からも是非御発言をお願いしたいと思います。もちろん,前回意見表明された方も,更に御発言いただいて結構です。   それでは,御発言を希望される方は挙手をお願いいたします。 ○宇藤幹事 前回発言がなかった幹事ということで初めに発言させていただきます。今日の資料の中で,先回の意見要旨ということでかなりの論点が指摘されておりますので,新たに付け加えるところがどのぐらいあるのかというのは少し難しいところなのですが,二点お話をさせていただきます。一点目が総論的な話,二点目がやや各論的な話ということになると思います。   一つは総論的な話の方ですが,取調べによって得られる供述的証拠が公判においてどの程度の重みを有しているのかという点について考えてみる必要があるだろうということを指摘させていただきます。当部会でのこれまでの意見の中でも,起訴の基準が,捜査と公判の関係それ自体,あるいはバランスに大きな影響を与えるということが指摘されておりますが,供述的証拠それ自体に限ってみても,それが公判での事実認定に有する重みというものが,捜査機関の取調べの多大な影響を及ぼすところだろうと推測いたします。しかるに,この種の供述的証拠が事実認定においてどの程度の役割を果たしているのかという点については,必ずしもはっきりしないところがあるように思われます。   確かに,供述に大きく依存した認定というのは問題がある,あるいは,逆に供述がなければ事実認定ができないような事件があるという点が既に指摘されておりますので,そのような側面がそれぞれあるのだろうということは私も把握しておりますが,全体の刑事手続の中で取調べの位置付けを考える場合には,裁判官が現実の事実認定に際して実際にどのような重みを与えているのかということ,また,関連して公判維持に携わっておられる検察官がどのような認識を持っておられるのか,裁判官と共通の認識を有しておられるのかという辺りが大事だろうと思われます。したがって,議論の基礎として,一度この点について確かめておく必要性があるのだろうと思います。その点で,できれば,裁判官の先生方がふだんの裁判において取調べを通じて取得された供述的証拠にどの程度の重きを置いているのか,一度お話をお聞かせいただければ,今後の議論に非常に有益だろうと思います。   次に,二点目でございますが,取調べあるいはそれ以外の方法で供述的証拠を取得される場合,その取得についてどのような環境で行われているのかということを確かめておく必要性はないだろうかと思っております。例えば,先日の北九州・福岡の視察に際して,現地の警察官・検察官の方々がお話をされましたが,現時点での実際の運用において,任意ではありますが,証人保護に類似するような運用が行われているというような御指摘がございました。翻って我が国の今までの議論を考えてみますと,証人保護の話に関して言えば,諸外国,特にアメリカ合衆国の話を参照しながら紹介あるいは検討を詳細にするというものはあったかと思いますが,先日の視察で出たように,我が国の現状はどうなっているという指摘というのは,私の勉強不足かもしれませんけれども,余りなかったように思います。その点で,実際に運用に当たっておられる方々のお話は非常に衝撃的なところがあったように私は思いました。   先般の会議でも,供述的証拠の取得に向けて新しい捜査手法,あるいは制度の必要性について既に御指摘のあるところではありますが,その必要性の程度の見極め,あるいは,必要となったときの制度設計の進め方の議論の支えとして,可能な限り我が国の現時点での運用を踏まえた議論が必要ではなかろうかと思います。既に,これまでの本部会の資料によって,取調べそれ自体の捜査手続の各段階での運用,あるいは,視察等によって,取調室がどうだとか,そういった物理的な環境はある程度把握できるようになっているかと思いますが,先ほどの視察での体験等を踏まえて,もう少しこの点でのお話を伺って議論を進めるのが有益ではなかろうかと思う次第であります。 ○周防委員 すみません,今の言葉遣いについての質問なのですけれども,「供述的証拠」というのはどういう範囲なのですか。供述証拠と供述的証拠は違うのですか。 ○宇藤幹事 それほど違いはありません。一般的に供述証拠であると把握されて特に問題はないかと思いますが,「供述的証拠」という若干広めの概念を使わせていただきました。 ○周防委員 そこら辺は曖昧に聞いておいても大丈夫ですか。 ○宇藤幹事 私はこの議論との関係では問題はないかと思います。 ○大野委員 まず,前回の論点整理の議論の中で何人かの委員の方たちから,刑事司法制度に関する各論的な議論をする前に,在るべき望ましい刑事司法制度の在り方といった総論的な議論を先行して行うべきではないかといった御意見がございましたけれども,私も同じ意見を持っております。これまで当部会でなされた警察官あるいは検察官に対するヒアリングの結果からも明らかなように,現在の刑事司法においては,捜査段階における真相解明ということが重視され,その際,警察・検察による被疑者等の取調べが真相解明に重要な役割を果たしてきました。   そして,検察の実務では,検察官が起訴する場合の嫌疑の高さというのは高度なものが要求され,私たち検察官は,的確な証拠に基づいて有罪判決が得られる高度の見込みがある場合に限って起訴するという原則に厳格に従って実務を行ってきております。このことは,無実の者を極力起訴しないという面からは望ましいとも言えますが,他方から見ますと,公判が捜査の結果を追認する場と化してしまう原因となっているのではないか,あるいは,公開の裁判所で行われる審理こそ真相解明の場であり,より公判における審理を重視すべきではないかといった批判もなされているところです。   今後,取調べや供述調書への過度の依存から脱却する方向で制度改革を志向するとして,現状のように慎重な起訴を維持するのか,それとも,一応の証拠があれば起訴して,あとは公判での判断に委ねることとするのか,この点をどのように考えるかによっても,捜査・公判の具体的な在り方は大きく変わってくるように思います。すなわち,今後も慎重な起訴を行うということになれば,その前提として十分な捜査が必要ということになるはずですし,そうではなく,言わばあっさり捜査をしておおらかに起訴するべきという判断をするとすれば,公判で適切な事実認定を行えるだけの証拠をどのようにして獲得していくのかといったことがより一層大きな問題となることになると考えます。この問題は,捜査と公判のウェイトの掛け方,あるいは,捜査と公判とがそれぞれ担うべき役割をどのように捉えるのかといった問題ですが,具体的な法整備の在り方を考えるためには,このような視点をも含めて,総論的議論を行っていくことが大切ではないかと思います。   次に,各論的な論点について幾つかの視点から申し上げたいと思います。   まず,証拠の収集の在り方ということに関して申し上げますと,事実認定を適切に行うために,客観的証拠の収集・分析が重要であることは言うまでもありませんし,これを充実させるための議論が必須であることも異論のないところだと思います。ただ,その一方で,客観的証拠が万能ではないということにも留意する必要があります。すなわち,刑事司法において,被疑者や参考人からの信用性の高い供述も客観的証拠と同様に重要であり,客観的証拠とあいまって初めて適切な事実認定が可能となるものです。被疑者や参考人の供述は真犯人の検挙・処罰のためだけでなく,真犯人ではない者を捜査対象から除外することにも欠かせません。   そして,先日の視察等でも明らかになりましたように,暴力団組織などの組織犯罪等においては,被疑者や参考人の供述なくして組織の上部の者の関与は解明できません。そのような実情の中で取調べへの依存度を下げるということであれば,被疑者からの真実の供述を誘引する制度が必要になると考えます。例えば,真実の自白や組織犯罪の真相解明への協力をしたような場合に,量刑の軽減を受けられたり,そのこと自体を理由とする不起訴処分にすることが可能な仕組みを設けることが検討されるべきであると考えます。このような供述の誘因となるものを法律上規定することは,被疑者に対する説得材料が増え,無理な取調べをする動機付けが相対的に低減されることにもつながってくるように思われます。   また,先日のヒアリングにおきまして,私どもの同僚であります最高検の稲川検事からの指摘もございましたけれども,現在の刑事司法制度は正直者が馬鹿を見る仕組みであるといった批判もあるところで,そのような状況を改めることにもつながっていくのではないかと考えます。さらに,同様に被疑者に供述の誘因を与えるという文脈で言いますと,司法取引についても検討されるべきであると考えますし,争いがない事件については,これを迅速に処理する有罪答弁制度も併せて検討していいのではないかと考えます。   それから,刑事司法にとって,事件についての重要な知識や情報を持っている参考人の協力が極めて重要であることには皆様異論がないと思われますけれども,法務省が取調べに関する国内調査の一環として行ったアンケート調査によりますと,半数以上の検事が,近時,参考人からの供述獲得が困難となっていると回答しています。そこで,参考人に捜査機関への協力を促すための制度などが検討されるべきと考えます。   また,現行法では,重要な参考人が任意の取調べへの出頭や供述を拒否した場合に,検察官の請求により起訴前に証人尋問を行うという制度が設けられておりますけれども,実際のところ,この証人尋問はほとんど活用されていないというのが実情です。そこで,この制度が使いにくい理由はどこにあるのかといった問題点を解明するなりして,とにかく使いやすいものとするために,要件の見直しなどを検討するべきと考えます。   次に,公判段階の手続について申し上げます。今後,捜査段階での供述調書への依存度を見直していくということにするとすれば,これまで以上に公判廷での被告人や証人の供述が事実認定の資料として重要になると考えられます。そうすると,公判において被告人や証人から真実の供述を得られやすくするための仕組みについて検討する必要があると思います。この点,被告人については,証人についての偽証罪の制裁のように,その供述が真実であることを担保する仕組みは何もありません。もちろん,被告人の黙秘権については十分に配慮すべきですが,法廷で黙秘せずに供述する以上は,虚偽の供述に対して制裁措置を設けるなど,虚偽の供述を抑止するための方策を検討すべきであると考えます。   また,弁解やアリバイ主張を含めて被疑者・被告人が事件について説明できることは,捜査段階から早期に説明してもらうことが事案の真相解明に資すると考えられますし,また,それが被疑者・被告人にとって大きな負担を伴うものとも思われません。そのため,被疑者・被告人の供述態度いかんによる不利益事実の推認等の制度も検討されてしかるべきと考えます。他方で,証人から事案の真相解明に役立つ証言を得られやすくするための方策として,例えば,諸外国に見られる刑事免責制度のようなものについても検討すべきであると考えます。また,現行の制度では,不出頭や宣誓・証言の拒否に対する制裁が非常に軽いものとなっており,証人の協力を確保する上でネックとなりかねないので,これらの法定刑の見直しなどの検討も必要であると考えます。   以上申し上げたことに限らず,捜査・公判を通じて,虚偽供述や証拠隠滅行為は,捜査官,そして裁判官による事案の真相解明を誤らせ,ひいては無実の者を引き込むことにもなりかねません。そこで,証人買収,被疑者による証拠隠滅行為,被疑者・参考人の虚偽供述などの制裁措置を設けるなど,広く司法作用を妨げる行為に対する対処の在り方についても議論する必要があると思います。   さらに,証人等の保護方策についても極めて重要な課題であると考えております。先ほど宇藤幹事が触れられましたし,先日の北九州視察においても指摘されておりましたけれども,証人として出廷することは,そのこと自体が一般国民にとっては大きな負担でありますし,ましてや,それが組織的犯罪であり,被告人に不利な証言をするとなると,大きな精神的負担にとどまらず,組織からの報復の恐怖さえも加わってくるものです。そこで,犯罪被害者を含めて証人の保護については,これまでも付添いや遮蔽などの制度整備がなされてきましたけれども,証人の負担をできる限り軽減し,また証言した後の保護ということも念頭に置いて,更なる制度の整備について検討すべきではないかと考えます。   いろいろ各論を申し上げて恐縮ですが,最後に刑事実体法の在り方という視点から申し上げたいと思います。我が国の刑事実体法では,犯罪成立要件として故意や目的などの主観的要素が必要とされております。このことは,非難に値する行為の範囲を画するという点で重要な意義を有していると言えますが,他方で,例えば,贈収賄罪における金品授受の趣旨の認識や,薬物犯罪における違法薬物の認識などのように,被疑者の自白によらなければ直接の立証が困難なものも少なくなく,その反面,被告人からの反証が比較的容易なものについて,検察官がその存在を十分に立証しようとして被疑者から詳細な自白を得ようとすることにつながっている場合もあるのではないかとも考えるところです。そこで,取調べへの依存度を下げるという観点から,そのようなものについては主観的要素の推定規定を設けるなど,刑事実体法の在り方についても御検討いただくのがよいのではないかと思います。 ○椎橋委員 申すべき論点についての議論は大分出ておりますので,重複を避けたいと思いますが,最も基本的と言われるかもしれませんし,最近この議論も散見されてきておりますけれども,録音・録画制度が果たして権利なのか,それとも,取調べを適正にするための,あるいは自白の任意性を担保するための立法政策なのか,こういう問題があるかと思います。もし権利だということであれば,憲法上の権利なのか,それとも刑訴法上の権利なのか,それはどこに条文上の根拠を持っているのかということが問題になると思います。権利であれば,その条文の立法趣旨,あるいはその論理的帰結から,どういう内容のものであるのかということが導き出し得ると思いますし,例外も,他の権利との衝突の調整といったことで,その例外はどういう場合が認められるのかということが導き出し得ると思います。立法政策ということになると,権利論とは違う様々な考慮事項を入れていろいろな衡量判断がなされるのではないかと思います。   ちなみに,可視化を取り入れた国として出されますアメリカでは,アメリカ全体としてやっているのではなくて,一部の州でやっているというのが正確だと思いますが,身柄拘束下の取調べを規律する方策としては,ミランダ原則によるというのが主流だと思います。ミランダ原則による場合には,被疑者の自己負罪拒否特権,あるいは黙秘権がどういうものなのか,それを制限するのはどういう場合なのか,例外はどういうものかということは,権利の中身を検討することによって導き出し得るということで,非常に説得力があると思います。そういう意味で,最も基本的なことでありますけれども,その辺りも議論していただければと思います。 ○舟本委員 前回も若干のことは発言させていただきましたけれども,簡単に,改めて論点整理に関して考えを述べさせていただきたいと思います。   一つは,先ほど大野委員もおっしゃいましたけれども,私は,まず総論的な議論を是非していただきたいということに賛成でございます。すなわち,現在の刑事司法制度がどのように評価されるべきなのか,されているのか,また,それが問題があるとすれば具体的にどのような問題であるかということを議論して,在るべき刑事司法について考えてみるということはとても大切なことであろうと思っています。その際,国民がどのような刑事司法制度を望んでいるのか,そうした国民感情との適合性というものが図られるのかといった視点は不可欠であろうと思います。   それから,前回申しましたので,具体的には割愛しますけれども,取調べの在り方と客観証拠の収集の在り方の議論は是非パッケージで議論していただきたいということを重ねてお願いいたします。   あと,新たな捜査手法につきまして,一言申し上げたいと思います。今日のように科学技術や情報化社会の進展で社会が大変な急変をしておりまして,おのずとそれによって,犯罪形態の変容,あるいは犯罪に用いるツールの高度化や複雑化という状況があるわけであります。それに対応していくためには,新たな捜査手法や捜査手法の高度化ということは不断に検討しなければならないと思います。そうした観点から,諸外国にあって我が国にはないという捜査手法の導入につきまして,その必要性・相当性を十分勘案しながら,幅広く検討する必要があると考えます。   また,真犯人でない方が逮捕されたり有罪とされたりすることのないようにするという観点からも,客観証拠を収集するための捜査手法を充実させることは必要であると考えています。そこで,諸外国で導入されている捜査手法を幅広く検討の対象とした上で,そのうち特に我が国で導入の必要性が高いと認められるものにつきましては,更に進んで個別具体的に検討を進めるという形で議事を進めていただければ有り難いと思っています。   最後に,これは補足でありますけれども,先般,当部会におきましても,国家公安委員会委員長が主催する「捜査手法,取調べの高度化を図るための研究会」の中間報告につきまして説明をさせていただきましたけれども,近いうちに同研究会による最終報告が公表される見込みとなりました。この最終報告は,当部会の諮問事項と極めて密接に関係するものでありますので,近い機会にその内容につきまして是非説明させていただきたいと考えています。 ○但木委員 論点整理ということですので,具体的な中身の意見にはできるだけわたらないように申し上げたいと思います。   戦後,日本の刑事手続というのは,日本なりに大局的に言えば非常にうまくやってきたと評価できるのだろうと思います。日本の高度成長期に合わせて,法秩序も,裁判官,検事,司法警察職員,弁護士などのプロの人たちがきちんと支えてやってきた,国民としては,プロの皆さん一生懸命やってくださいねということで,それぞれの国民が抱えている問題を一生懸命やってきた,そういう時代だったと思います。しかし,時代がこういう時代に転換して,成熟した社会になってくると,今度は成熟した社会にふさわしい刑事手続を考えていかざるを得ない。今はそういう段階に入ってきているのだろうと思っております。   したがいまして,成熟した社会にふさわしい刑事手続というのは,一つ二つどこかの部品を入れ替えればそれで出来上がりますというわけにはいかなくて,むしろ根本的に日本の裁判の在り方,あるいは捜査の在り方を問い直すものでなければならないと思っております。そういう意味で,総論の部分において一体我々は何を目指すのかということをはっきりさせなければならないだろうと思っております。   憲法上,裁判は公開という原則が決まっているわけですが,この裁判公開のルールは,国民が裁判に出て,その裁判のやり方を見て,その内容が理解できて,そこからどうやって判決が導かれるかを論理的に追求できる,それに対して批判があれば批判することができる,そういう基盤を手続上保障していかなければいけないということだろうと思っております。そういうルールを前提にいたしますと,成熟した我が国では,相当手続を変えざるを得ないのだろうと思います。   まず,今までのような調書中心主義,あるいは,裁判官が家に記録を持ち帰って,家の中で心証を形成するという裁判の在り方が変わらなければならず,公判において提出された証拠は国民が理解できるものでなければならない。この点は,裁判員裁判がその最も典型的な事例だろうと思っております。ただし,日本における裁判の公開というのは一体どういうことを表すのかについては,論議する必要があると思います。全てを証人尋問でやるのか,調書でやる場合があるのか,調書でやる場合にはどうしたらいいのかというようなことについて,日本における裁判の公開の問題をどのように考えるべきかということを総論的に議論する必要があるように思います。   第二番目に,裁判員裁判が裁判作用を担う以上,裁判に提出される証拠は真実性を持っていなければいけないのだろうと思っております。それは,被告人の供述であろうと,参考人の供述であろうと,あるいは,取調べで作成された供述調書の提出であろうと,その真実性が担保されなければなりません。したがって,その真実性を担保するためにどのような手法が必要であるのかを議論すべきだと思います。録音・録画もまた一つの有力な方法であろうと思っております。   それから,提出される証拠が国民にとって分かりやすいものでなければならない,また,判断しやすいものでなければならない,そういう意味で,客観的な証拠というのはこれまで以上に非常に重要な役割を果たすべきであろうと思っております。その客観的証拠をいかなる方法で収集するのか,それは諸外国にたくさんの例があります。ただし,日本の社会と諸外国はイコールではないので,日本において,国民から見て公正であると思われる証拠の収集方法をみんなで検討していかなければならないと思っております。   また,法律の体系の問題としては,先ほど御指摘がありましたように,現在の実体法のままでいいのか,実体法にそれなりに手を加えなければならないのかという問題も,非常に大きなテーマとしてあるのではないかと思っております。   いずれにしましても,この審議会は,成熟した新しい社会にふさわしい刑事手続全体を構築し,あるいは探し求めていかなければならないという意味で,根本的な議論が必要なのだと私は思っております。 ○安岡委員 前回も発言しましたので,今回は,全般的な意見と,お手元の「第2回・第6回会議における意見要旨」の中で私の発言から拾っていただいたと思える項目がありますので,それについての若干の補足説明,大きく分けてこの二つについて述べます。   まず,全般的な意見です。今の但木委員の発言を聴いて安心したのですけれども,言おうとしていたことは,この部会で討議する論点をなるべく幅広く取り上げてほしいということです。それは,今回の諮問の趣旨であります時代に即した新しい刑事司法の構築ということは,今,但木委員が御指摘になったとおり,裁判員候補である一般の国民が理解でき,支持できるものにすることだと私は解釈しています。残念ながら,今の刑事司法の現状というのは,新聞記者時代に取材し,記事を書いてきた経験から申しますと,そこから相当離れていると私は感じています。国民の理解と支持を得るためには,相当広い範囲に及ぶ現状の制度の改善が必要だと考えています。したがって,この部会で検討する論点をなるべく幅広くしていただきたい。   私が最も懸念していたのは,この部会を立ち上げる契機になった一連の事件から,取調べの可視化の法制化と,それの反対給付というか補償的な措置として,新しい捜査手法の法制化に審議が局限されては非常にまずいということです。そもそも可視化と新捜査手法の引換えという発想自体,私はおかしいということで納得していない。これは前回申し上げました。それは置いても,可視化と新捜査手法に審議が局限されては困るなと思っていたのですけれども,これまでの委員の皆様方の意見を聴いていますと,そういう懸念は杞憂にすぎなかったと思うわけでありますが,改めて論点整理を踏まえ,取り上げるべき論点は幅広くしていただきたいと申し上げておきます。   なお,前回,私はスピード感のある審議をお願いしたいと発言しましたけれども,審議すべき論点を幅広くしても審議の迅速性は損なわれないと思います。その理由は,前回述べたとおりですけれども,司法制度改革審議会とか検察の在り方検討会議で,この部会で話し合うべき論点はかなり論じられているわけで,それを受けた形で議論を進めれば,かなり幅広い論点について議論をしても,スピード感のある審議はできと考えます。   次に,個別の論点についての補足です。お手元の意見要旨に現れてくる順番で補足的に意見を述べます。   まず最初は,1ページ目の上から五つ目の○,「刑訴法1条」から始まっているところです。この中の「大原則の明文化」の例示として,最後に「身柄拘束の条件」と書いてありますけれども,これは舌足らずでした。これは,なぜ身柄拘束を捜査当局に認めるのかという目的をはっきり書くべきではないかということ,それから,身柄不拘束での捜査が原則であるべきだと明文化していただけないものだろうかということです。これは人質司法からの脱却という効果を考えてで,身柄拘束の条件というのはそういう意味です。   二番目が,同じ○の中に書いてある,刑事訴訟法を読んで分かる構成・条文にしてもらいたいということですが,ここにいらっしゃる委員のほとんどの方は専門家ですから,どこが分かりにくいかというのが非常に分かりにくいと思うので,素人である私が記者時代に必要に迫られて刑訴法を頭から読み始めたときにつまずいた部分がたくさんありますので,その一例を挙げます。   まず,これは通則になじまないと思える条文である第1編の8章,9章,「被告人の召喚・勾引及び勾留」,「押収及び捜索」の章が総則編に入っている。これは何かおかしいなという感じがまずこの法律の理解を妨げたわけです。しかも,その条文を読むと,公判裁判所が,被告人の身柄を押さえるという強制処分の主体になっている。ここで何か変な感じだと。この感じを「鏡とガラスでできた迷路に入り込んだ気分になった」というふうに表現したいと思うのです。   更にこれを読み進めていくと,第2編「第一審」の「捜査」というところで,捜査官による逮捕,捜索・押収が,全てこの総則の被告人の召喚とか押収・捜索を準用して行うという諸規定になっていて,ここまで来たのをまたひっくり返して元に戻って見なければ分からない。これで迷路感がどんどん増してくるわけです。   そして,207条の1項によって日本の刑事司法では起訴前の保釈が認められない制度になっていると取材で教えられたのですけれども,この条文を読んで,こういうふうに書いてあるから日本の刑事訴訟法では起訴前の保釈は認められないと分かる国民が果たしてどのくらいいるのだろうかと。私は仕事柄,文章を読んで解釈するというのは,一般の国民の方よりは磨いてきたつもりですけれども,これは絶対に分からない。   そういうのは幾つもあると思いますが,条文の内容を変えずに構成を改める,あるいは条文の書きぶりを改めれば,分かりにくいところはかなり解消できるのではないかということで,「読んで分かる構成・条文」とはそういうことをお願いしています。   それから,三番目は,意見要旨の8ページにある「公判段階の手続について」の一番上の○の「有罪答弁制度の導入を検討すべきである」というところについてです。先ほど委員の御発言にもありました有罪答弁制度の導入というのは,自分で言っておいて実態はどういうものなのか,もう一つイメージとして浮かばないのですけれども,アメリカの検事補さんが書いた本などを読むと,有罪答弁制度を入れるためには,現在行われている被疑者国選弁護の拡大が必要だろうと。それから,取調べの現場に弁護人の立会いを認めることも必要だろうと。捜査の早い段階から法律家としての弁護人が被疑者と一緒に捜査の在り方を知るという制度は欠かせないだろうと。他のところ,例えば10ページとか3ページに被疑者国選弁護の拡大とか弁護人の取調べ立会いを認めるということを検討項目として挙げてありますけれども,有罪答弁制度を検討する場合にもそういった措置は必要だろうということです。   それから,同じ8ページの上から七つ目の○のところで,「証拠開示の徹底」から始まっている文章の「供述調書を証拠に使えない原則(例外規定は厳格に)について検討すべきである」ということです。裁判員制度の導入に合わせて刑事訴訟法の証拠法の部分を改正すべきだったとの意見を,実務家,主に弁護士の方とか,仲間の記者からよく聴きました。現在の刑訴法の証拠法関係の各条は,検察出身で最高裁判事を務められた横井大三さんが起草されたということですが,横井さんが最高検の公判部長時代に講演をなさっていて,その記録を法律雑誌の中に見付け,それを読みましたところ,次のようにおっしゃっています。「旧刑訴法は,証拠につき形式的な制限をせず,原則として全ての証拠に証拠能力を与え,その証明力を裁判官の判断に任せるという態度を取った。」中略。「もし素人が裁判に関与する制度を採る場合には,このようなやり方は極めて危険であります。日本でも陪審法ではかなり厳しい証拠能力の制限をしていました」と述べられております。現在は新刑訴法に切り替わっているわけですけれども,横井さんが「極めて危険」と表現した旧刑訴法的運用が定着しているとは,よく指摘されるところだと思います。したがって,供述調書の証拠能力については,是非とも審議対象にしていただきたいということです。   最後に,9ページの上から八つ目の○,「法廷供述の真実性を確保する措置」というところです。ここに,今日も何人かの方から御指摘がありました「証人の保護」を付け加えたいと思います。具体的には,身体的な保護もありますし,証言がしやすくするように,現在取り入れられているビデオリンク方式の証言とか,遮蔽物を設けての証言とか,いろいろなやり方があると思いますけれども,証人の保護を論点として加えていただきたいと思います。 ○井上委員 安岡委員の御発言に若干コメントさせていただきたいと思います。   最初に,取調べの録音・録画あるいは可視化と新たな捜査手法の導入との関係について,バーターのような印象があるということですが,検察の在り方検討会議でもそのような捉え方をしている方がおられましたが,あの会議で新たな捜査手法について議論をしたのは,被疑者・弁護人側と検察・捜査側の武器をバーターするという発想からではありません。刑事司法において真相の解明というか,正しい事実の認定が不可能ないし困難になると誰が困るのかといいますと,直接的あるいは表面的には検察や捜査側の人たちが困るように見えるのですが,それらの人たちはそういう制度になってしまえばその中でやれることをやるしかないと割り切ってしまうこともできなくはないと思いますけれども,本当に不利益を被るのは国民なのです。事実が十分かつ正しく解明できないことも被疑者・被告人たちの権利が侵害されるということも,結局は国民にとって不都合なことである。そのように捉えるべき事柄であり,バーターという見方は正しくないと私は思っています。   もう一つ,刑事訴訟法という法律の構成や規定ぶり,法規の話ですが,率直に言いまして,私も安岡委員と同じ感想をずっと持ってきました。大学で講義をしても,総論から始まるわけではなく,手続の順序に従って捜査から始めるのですが,例えば,捜査機関が行う強制処分としてどういうことがどのような場合にどのような要件の下でできるかということについては,「捜査」の章の条文だけを見ても分からない。ほとんどが総則の裁判所が行う処分についての規定を準用していて,それに捜査に特有の規定を幾つか加えているという構成なので,両方を見ないと分からないのです。これは初学者にとっては非常に分かりにくいですし,研究者や実務家でも,まれにですが間違った理解をしていることもあるのです。なぜこのような構成になっているかというと,元々旧刑事訴訟法がドイツ法に倣った構成になっていて,裁判所の公判を中心に組み立てていて,捜査は,言わば公判の準備段階であり,公判で裁判所が行うことに関する規定を,必要な限りで準用すれば足りるという位置付けであったので,旧法もそういう構成だったのです。これを戦後現行の刑訴法に改めるときに,非常に短く急な時間の中で,手当てをするところだけ手当てをしたため,法典の構成はそのまま残ってしまったのです。これを今の時代の要請である,法律も国民に分かりやすいものとするためには,手続の順序に沿って全部をきれいに整理し直す必要があります。そういう必要性は恐らく多くの人が感じていると思うのですが,この作業自体,形式的で簡単なことのように見えるかもしれませんけれども,実はものすごく大掛かりなことなのです。それをこの機会にやれるのかどうかは甚だ疑問ですが,ただ,問題意識は持っております。   証拠法については,また中身に入ったときにお話させていただきたいと思いますが,あと二点だけ,論点整理との関係で付け加えていただきたいことがあります。   一つは,前回も少し申し上げたことですけれども,有罪答弁や司法取引を導入するということになると,前回は「弁論主義」という言葉を使ったのですが,要するに当事者がその事件を処分することができるという考え方,民事訴訟では基本的にはそうで,真実がどうであろうと当事者の話合いで決着をつけることができる,これが基本なのですけれども,そういう方向に近付いていくかもしれないので,刑事司法というものは真実というか,正しく認定された客観的事実に基づいて行われなければならないという,これまで共有されてきた考え方との間にあつれきが生じてくるため,そういう大掛かりな議論,視点も必要ではないかということを,論点として付け加えていただきたいと思います。   もう一つは,録音・録画が焦点になることは間違いないのですが,意見要旨には,録音・録画というのは取調べの過程を適正化する,あるいは,後で任意性や信用性が争われたときに,それを判断しやすくする,こういう枠組みで論点が拾われているのですが,もう一つの論点として,検察の在り方検討会議のときに少し指摘させていただいたのですけれども,録音・録画の記録を証拠としてどのように使えるのかという問題があります。今までの文脈ですと,録音・録画の記録は,任意性あるいは信用性の立証のための証拠という位置付けなのですが,その記録自体を,供述内容,つまり,こういうことをやりました,あるいは,こういうことがありましたと言っている,その事実の存否の証明に使えないかといいますと,理論上それを妨げる理由は恐らくないと思うのです。現行法の下ででも,それは当然使える話なのですが,ただ,この点について,弁護士会を中心に,そういう使い方を認めるべきでないという御意見もあるので,これも論点として付け加えて,きちんと議論しておくべきだとと思います。 ○髙橋委員 私も,在るべき制度について幅広く総論的に議論した方がいいということについては大賛成でありますけれども,現在,私は,捜査の現場を担当しておりまして,日々様々な事件と相対しているという立場にありますので,そういう立場から各論について二点ほど述べさせていただきたいと思います。   一つは客観証拠の収集についてであります。警察におきまして,現在でも,犯罪捜査を行う中で,客観証拠の収集には相当力を入れているところであります。更に今後客観証拠を一層重視していこうということについては,もちろん賛成でありますけれども,客観証拠を強力に収集していくことを可能とする手段,道具を検討していただきたいと思います。薬物犯罪の捜査を例に御説明いたしますと,薬物犯罪は,暴力団や来日外国人の犯罪組織が関与している事例が数多くあります。警視庁におきましては,毎年,全国の警察において薬物犯罪で検挙される人員の約15%から20%,5分の1ぐらいの人員を検挙しておりますけれども,ここ5年ぐらい連続して減少傾向にあります。こういう検挙人員の減少は,実際に薬物犯罪自体が減少したからというよりも,どちらかと言いますと,取引関係者の手口が巧妙化したり,悪質化したり,潜在化したり,そういうことによって摘発がかなり困難になってきているというのが実態ではないかと考えております。警察の方が勝てていないという場合もあるのではないかと思います。そういう薬物犯罪の売買ルートを解明すべく様々な活動をしておりますけれども,付近の状況から違法薬物を所持している蓋然性が非常に高い容疑者に対して職務質問をしても,任意でありますので,所持品検査に応じてくれない,令状を持ってこいということで令状請求の手続をしているとその場を離れてしまう,現在は飽くまでも任意ですので,説得するしか方法がなくて,結果として悪質な犯人を取り逃がしてしまうという事例が多くあります。後日検挙する場合もございますけれども,案の定,客観証拠を消去されると言いますか,隠滅されるということで,売買ルートとか,組織の上層部への捜査が頓挫してしまうというのが実態でございます。こういう状況を踏まえますと,今後,一定の要件を満たすような場合には客観証拠を強制的に収集することが可能となるような,例えば緊急捜索や緊急差押え等の捜査手法の導入について検討していくことが,現場としては必要ではないかと考えております。   もう一つは供述証拠の収集についてであります。連日のように振り込め詐欺事件の発生の報道がなされておりますけれども,都内におきましては,全国の振り込め詐欺事件のうちの3割ぐらいの事件が発生しておりまして,昨年も被害額が36億円ぐらいになっているというのが実態です。2月に入ってからも,80歳のおばあさんが3,700万円の被害に遭ったという事案がありました。もちろん,警視庁としても検挙に力を入れておりますし,検挙した犯人から組織に関する情報を聞き出すことはしているのですけれども,なかなか容易に聞き出すことができない,簡単にしゃべらない,ようやく自供したときには既に犯罪組織の方はアジトから逃げてもぬけの殻になっているということで,供述証拠はもちろんのこと,犯行のマニュアルや犯行に使った名簿などの客観証拠についてもなかなか押収できずに,犯罪の実態が解明できないというような状況にあります。   そういう意味で,先ほど大野委員もちょっと触れられましたし,先月の北九州視察の際に福岡県警の暴力団捜査の警察官も要望としてお話されていましたけれども,捜査の初期の段階で取調べによらずに被疑者の方から供述を得て,その供述が有効であれば刑を減免するような制度を導入するなど,ある意味証拠の隠滅を阻止する,あるいは捜査の迅速化が図れるような制度について検討していただければ有り難いと考えております。 ○本田部会長 ありがとうございました。   今日,龍岡委員は御欠席ですけれども,論点整理に関する御意見のメモを頂いておりますので,それを御紹介させていただきたいと思います。 ○坂口幹事 それでは,龍岡委員の御意見を代読させていただきます。   論点整理について(意見メモ)。   1 既に前回までの当部会でも,諮問事項に関する論点についてはかなり広く提示されており,私も,第2回の会議で本部会で検討すべき事項について概括的な意見を述べさせていただきました。   2 これまでに提示された論点は多岐にわたっていますが,論点整理の観点から,問題提起的な意味をも兼ねて若干付言させていただきます。   3 当部会において既に提示されている論点については,(1)現行法の改正によるべき事項,(2)新しく法制化・立法する必要性・内容等について検討すべき事項,(3)運用によって賄える事項などに分けられると思われます。   (1)については,例えば,通信傍受について,より使いやすいように規定を見直し,より適正かつ有用なものに拡充することなどが考えられます。   (2)については,例えば,1)取調べの可視化に関する事項があります。これに関し,立法化の要否・当否は様々な角度から十分な検討が必要であります。現在,検察・警察で一定の範囲で録音・録画の試行が進められており,その結果について十分な分析・検討が必要であって,その結果を踏まえて,制度化するとした場合の対象・範囲,方法,活用方法など手続上,運用上,その他の問題点について,他の諸制度と関連させ,刑事司法全体を視野に入れながら,諸外国の制度,運用の実態・実情,これを導入した背景事情等についても参考にして,十分検討することも必要であると思われます。   2)過度に供述によらないためにも,新たな証拠収集の手段についても,諸外国の例をも参考にしながら,十分検討する必要があると思われます。例えば,刑事免責制度,司法取引,アレインメント制度の導入の可否・当否についても検討していくべきではないかと思います。刑事免責制度や司法取引の制度などは,我が国の国民感情からは抵抗感がないではないと思いますが,社会や価値観が複雑化し,犯罪も巧妙になり,重大事犯も少なくなくなってきている時代の変化等にも鑑みますと,正面から議論をしていく時期にきているのではないかと思います。   もちろん,こうした制度は,その導入・運用に国民の理解や支持が得られなければ十分に機能しないと思います。国民の理解や支持が得られ,かつ,有効に機能する手続・方法が検討されなければならないと思います。これらは,捜査・公判を合理化し,効率的な司法の運用という観点からも,検討の価値があると思います。もちろん,適正手続,人権保障の観点から,裁判所・裁判官によるチェック,例えば,アレインメントについては,犯行を認める供述のほかに,それが虚偽のものではないことを確認できるだけの資料を要求することなど,手続的規制がなければならないと思います。   その他,幾つか例示的に挙げられている科学的捜査手法についても,事案の真相を解明するにどの程度有用か,これに伴う人権保障上その他デメリットはないか,あるとすればそれを解消する方策はないかなども検討すべきことは当然であり,採用するとしても,これらの検討を踏まえて手続を整備する必要があると思います。   以上でございます。 ○本田部会長 ほかに御意見はございませんか。 ○島根幹事 捜査実務家の側からの意見も既にもう何人か出ておりますので,なるべく重ならないような形で申し上げさせていただければと思います。   犯罪捜査や刑事司法が刑事訴訟法等の規律の下に行われているわけでありますけれども,取り扱われる事件は非常に多岐にわたっておりまして,凶悪な殺人事件もあれば,日々多数発生している窃盗事件もありまして,どのような事件を主に念頭に置くかによって,例えば現状にどのような問題があると認識するのか,その解決に向けてどのように考えるかということは差異があるのではないかと考えております。裁判員裁判というものも導入されまして,一つの区分ができておりますけれども,その辺をどのように考えるのかということについて,若干総論的に申し上げさせていただきたいと思います。   警察におきましては,いわゆる刑法犯について強制・任意合わせて年間約30万人以上を検挙し,約160万件の取調べを実施しております。その中には,犯情が軽いといったことで起訴に至らない事件も相当数あります。また,被疑者が起訴まで否認している場合もありますが,早い段階から認めるなど,争いがほとんどない場合もかなり多いわけであります。取調べの時間も事件によって相当に違うというのが実態であろうと思います。   こういったことからしますと,今回の議論でこれから焦点になってまいります,追求すべき目的をどのように考えるか,その目的に照らして有限の捜査資源をどのように振り向けるかといった観点は,決して小さなものではないのではないかと考えております。警察といたしましては,無辜の方が罰せられることがないようにということは当然大前提とした上で,処罰されるべき者,捕まえるべき者を確実に検挙することによって,国民の安全,そして治安維持の責任を果たさなければならないと考えられますので,そういった点で複合的な視点から是非御議論をお願いしたいと考えております。   それから,取調べの機能・役割について,もう既にいろいろ御紹介がありましたけれども,一つ追加というか補足的に申し上げたいと思います。現在,警察で実施しております取調べというものは,もちろん犯罪事実の特定に必要な事項について行われるわけでありますが,それに関連しまして,例えば動機等の背景事情を明らかにするということで,雑談的なことを含めましていろいろな話をして,被疑者と捜査官との間で対立しながらも一定の関係を作るということが大事であります。また,組織犯罪のような場合には,犯罪組織の構成や活動の実態がどうなのかといった,供述調書に必ずしも記載はしないけれども,組織犯罪対策にとって必要な事項を把握するということも,取調べによって得られる重要な内容であります。そうしたことについて録音・録画によって影響が生じるのではないかというのが,実際に一線で取調べを行っている多くの捜査員の認識であるということを簡単に紹介させていただきたいと思います。   三つ目,これが最後でございますけれども,いわゆる客観証拠の収集ということで,広く捜査を取り巻く環境について申し上げたいと思います。証拠の収集のためには,現行の刑事訴訟法では捜索・差押えといった方法が用意されておりますし,また最近では,サイバー社会の進展に対応して電磁的記録に関する保全要請といった手続も新設されました。しかし,こうした手続に乗ってくるためには,証拠になり得る物なり情報が残っているということが前提になります。   これは警察の所管法令ですけれども,質屋営業法,古物営業法といった法律がありまして,盗品等の処分先として可能性が高いということで,質入れとか処分しようとする相手方,あるいは対象の物を帳簿に記載して,一定期間保存することを義務付けています。こういったことで犯罪の予防・発見を容易にするという仕組みが設けられております。それから,犯罪の発見ということを直接の目的としているわけではありませんが,例えば,自動車ナンバーがあることで,ひき逃げ車両の目撃者が当該車両のナンバーを覚えておいてくださって通報してくださる,それで速やかな検挙につながるということもございます。   このように,社会に存在する様々なインフラには,被疑者特定の端緒として活用できたり,犯罪の痕跡として残るという場合が少なからずありまして,それを捜査に活用させていただくことができれば,貴重な客観証拠になり得るわけであります。また,携帯電話や銀行口座,それからインターネットといった,現代社会の利便性の象徴である社会的ツールが犯罪に悪用されるという場合も増えてきております。捜査の立場からすれば,こういうものをいざというときに使わせていただきたい,そのためには一定期間そういったものを残しておいていただければ非常に有り難い,そういうことで,こうした社会全体での犯罪対策というような意義について検討することが望ましいのではないかと思います。   これはある意味,刑事訴訟法の土俵の問題では直接ないかもしれませんけれども,いろいろな管理コストとか,データ管理の問題,それから,そもそも事業者からすれば,捜査にはやむなく協力するということが通常本音のところだろうと思いますので,こうしたことに社会的意義があるとされること自体大きな意味があるのではないかと考えております。 ○宮﨑委員 第2回・第6回の議論をまとめていただいた意見要旨と,本日の様々な御意見を見ますと,非常に幅広い論点が展開されておりまして,まるで分厚い刑事訴訟法の目次が全部出てきているような感じがするわけであります。この論点の中には,今まで余り議論されてこなかった課題や,細々とした捜査手法の話題も出てきておりますし,成熟度も各論点ごとに異なるわけであります。これらをどのようにしてこれから議論して,速やかな答申に至ることができるのかという,論点の絞り込みが不可避ではないかと思っています。幅広い議論の一方でメリハリの利いた議論がこれから要求されるのではないかと思っています。   可視化につきましても,それが捜査手続全体に及ぶ広がりを持つ問題ではありますけれども,検察の在り方検討会議の提言では,これらが既に法務省等において調査検討が行われている成熟した課題であるということを踏まえまして,可視化に関する法整備の検討が遅延することがないように,特に速やかに議論・検討が行われることを期待したいと述べています。   これから議論が始まるわけでありますけれども,進行に当たっては,この在り方検討会議の期待に配慮しつつ,メリハリの利いた進行が求められているのではないかと考えております。以上,進行について意見を述べました。 ○露木幹事 客観的証拠収集の在り方については,前回,私からも意見を申し上げましたし,今,島根幹事からも話がございましたので,その点については繰り返しません。その上で,議論の進め方で少し気になっている点がございまして,その点について申し上げたいと思います。   今日もお話がございましたけれども,諸外国との比較について言及されるケースが多いわけであります。これこれの国では取調べ全過程の録音・録画がされているとか,これこれの国にはこういう捜査手段があるとか,そういった議論でありますけれども,それそのものを私も否定するものではありません。ただ,聴いておりますと,抽象的な制度の比較だけがされているのではないかということが気になっております。   事実があって制度があるわけでありまして,今日も後半,犯罪統計についての説明があると思いますけれども,比較するならば,その国の犯罪の発生状況はどうなのだろうか,どういう犯罪が発生しているのだろうか,その検挙はどうなのだろうか,有罪・無罪の比率はどうなのだろうかといった事実の比較も併せてやらないと正しい分析はできないのではないかと思います。「犯罪白書」では,毎年,主要国の犯罪発生状況なども紹介されておりますので,そういったものも可能であればここにお示しいただき,各論に議論が及ぶ際にはそういったものも適宜参照しながら実質的な議論がされることを希望いたします。 ○本田部会長 今,宮﨑委員からもお話がありましたけれども,これまで2回にわたって皆様の御意見を伺ってまいりました。できるだけ幅広い観点からいろいろな御意見を頂き,その上で論点を整理していこうという考えで議論を進めてきましたが,これまでに,皆様から多岐にわたる十分な御意見を頂いたと思いますので,論点整理に関する議論はこれで終わりにさせていただきたいと思います。次回までに,今まで皆様から頂きました御意見を私なりに整理いたしまして,次回会議の冒頭で論点整理のペーパーをお出ししたいと考えております。   ただ,現時点でも私なりに論点整理のイメージを持っており,その認識をできれば皆様と共有したいので,今の時点での考えを御紹介させていただきたいと思います。   前回の会議の後,皆様の御意見を踏まえて,本日の資料の「第2回・第6回会議における意見要旨」というものをまとめるときに,そのイメージに沿った形で大きく七つの項目に整理させていただきました。また,本日御意見を伺いましたけれども,いずれも,この七つの項目で整理することができると思っております。したがいまして,論点整理の大枠といたしましては,この「第2回・第6回の意見要旨」にあります七つの項目,すなわち,一つ目が「刑事司法制度全体について」,つまり総論的な議論ということ,二つ目が「供述証拠の収集について」,三つ目が「客観的証拠の収集について」,四つ目が「公判段階の手続について」,五つ目が「捜査・公判段階を通じての手続について」,六つ目が「刑事実体法について」,七つ目が「その他」という七つの項目で整理するのが適当ではないかと考えています。もちろん,今申し上げたのは大項目でございますので,それぞれの項目の中で更に必要な小項目も考えていきたいと思います。   次回の冒頭に論点整理のペーパーをお出ししたいと思いますが,今申し上げましたようなイメージでいかがでしょうか。もしよろしければ,今申し上げたような形でペーパーをまとめた上で,次回の冒頭にお示しして,御確認いただいた上で論点整理を終えたいと思います。   なお,論点整理を終えた後は,早速,実質的な論議に入りたいと考えておりますので,取り急ぎ,次回に何を議論するかということは決めておく必要があろうと思います。本日の御意見にもありましたが,まず個別の制度を議論する前提として,刑事司法制度全体に関わる総論的な議論をすることが大事であるという御意見を多くの方から頂きましたし,私もそのように考えております。   そこで,次回は,まず刑事司法制度の在り方に関する総論的な議論をするのが適当であろうと考えます。そして,皆様の御意見を踏まえますと,その総論的な議論におきましては,刑事司法の目的や果たすべき役割,捜査と公判がそれぞれ担うべき役割,事実認定の在り方などが議論の対象になると思っております。次回の会議では,このような刑事司法全体に関わります総論的な議論をいたしまして,その上で,個別論点の議論に移っていきたいと考えておりますけれども,よろしいでしょうか。 (「異議なし」の声) ○本田部会長 ありがとうございました。   それでは,ここで休憩に入らせていただきたいと思います。           (休    憩) ○本田部会長 それでは,再開いたします。   冒頭に申し上げましたように,次回からの議論に有益であるということで,本日の配布資料の内容を説明していただきたいと思います。   まず,資料23-1と2の2通の意見書につきまして,小坂井幹事から御説明いただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○小坂井幹事 幹事の小坂井です。昨年の12月15日に日弁連が関係各機関に出稿いたしました意見書二つ,23-1と23-2,一つが,昨年8月に法務省が省内勉強会において発表されました「被疑者取調べの録音・録画に関する法務省勉強会取りまとめ」についての日弁連意見です。この法務省取りまとめは当部会の第3回会議でも御説明いただいたわけですけれども,これに対する批判的な検討が23-1です。ただ,法務省側からは,この23-1につきましては,日弁連も随分柔軟になったなと言われているというふうにもお聞きしております。これについて主に説明させていただきます。23-2の方は,時間がありますれば最後に少し触れますけれども,録画などのアングルについての論点について言及しているものです。   法務省取りまとめのうち,法務省側の御見解として,「被疑者取調べの可視化の在り方」の検討結果が,法務省取りまとめの39ページ以下にあります。これに対して日弁連の意見書は反論する形になっています。本文が18ページのもので,別紙1と別紙2が付いておりますが,23-1の末尾には,それを要約したものが2枚ほど付いております。一応本文に即して解説させていただければと思います。   本文の1ページは,可視化の目的等について,法務省取りまとめが,いわゆるえん罪の発生を防ぐとともに不適正な取調べを抑制するということを可視化の目的として挙げていらっしゃるわけで,これについては法務省の見解を評価するというものです。これが本文1ページです。   他方,2ページ以降になります。法務省見解は,公判において自白の任意性をめぐる争いが生じた場合に的確な判断を可能にするために可視化をすべきであって,これが中核的な目的であるという形で記載されているわけです。けれども,ここはちょっとどう読むかについては議論が分かれようかと思うのですが,もしかしますと,ここを強調されていることによって,この中に一部録画でも足りるのだという発想をお持ちなのかもしれない。ちょっと分かりかねますけれども,そういう感じがなきにしもあらずなので,その点を指摘して批判しているのが2ページのところであります。   私どもは,任意性の判断と言いましても,当然それは全過程の録画・録音が論理必然であろうと考えているわけです。けれども,法務省の取りまとめの,後から触れますが,各論を見せていただくと,全過程にはやや消極的,あるいは,かなり消極的というふうなお考えが見えなくもないので,その辺はもしかするとここに目的を絞るような形で書かれていることに原因があるかもしれないなということで批判させていただいております。   2ページから3ページにかけましては,対象事件の範囲についての法務省の議論に関して意見を述べております。対象事件の範囲につきましては,本来は全事件を対象とすべきだということをそこにまず総論的には書かせていただいております。その上で,4ページ以下に,制度導入時としては一定程度限定しながら進めることも現実としてはあり得るだろうということで,四つの事件類型,あるいは被疑者の類型を挙げております。一つは,法務省見解でも書かれております裁判員裁判対象事件です。それから,二番目の類型として,4ページから5ページの(2),(3),(4),いわゆる供述弱者という類型になろうかと思いますけれども,知的能力等に起因する一定の事情が認められる被疑者の事件,あるいは少年事件,あるいは要通訳事件,これは可視化の必要性が高いだろうという趣旨を述べております。三つ目の事件類型としましては,これも試行されております検察官の独自捜査事件。四つ目といたしまして,被疑者又は弁護人が録画を請求した事件についても,過渡期的な措置としては可視化の対象とすべきであろうという見解を述べております。これに関しましては,請求がある限り全事件というのは現実性が薄いのではないかという法務省見解もあるわけですけれども,一定の事由があって全過程の録画・録音を請求するというのは総体的な数として多いわけでもないかと思われますので,取りあえず導入時としてはその四つの類型をイメージしております。これをもって制度導入の最初の出発点にするのがいいのではないかと思っています。この意見書には触れておりませんけれども,その後の段階論と言いますか,これは段階的拡大を制度導入から数年掛けて何回かに分けてやっていくべきではないかということで,そういった制度構想論は現在検討中でございます。   それから,6ページ以下の対象とすべき取調べの範囲ということですけれども,身体拘束との関係ということが法務省見解で述べられているわけですが,制度化に向けては在宅の任意取調べと言われるものも含む制度にすべきであろうということを述べております。法務省取りまとめは,最終的には身体的拘束時だけという見解を述べていらっしゃるわけです。けれども,最近のえん罪とされているものを見ていきますと,それこそ宇和島事件であれ,志布志事件であれ,氷見事件であれ,足利事件であれ,在宅の任意取調べと言われている段階のものが問題となっているわけです。ですので,これを対象外とするわけにはいかないであろう。7ページ辺りになりますけれども,法務省側では実務上あるいは実際上の困難さというものも指摘されているのですけれども,見解で述べられていることが必ずしも在宅段階を排除しなければならない理由にはなっていないのではないかなと考えております。その旨を述べております。   次に,全過程か否かということで,7ページから10ページにおいて議論を展開しております。結論を申しますれば,当然全過程ということになります。そういう意味では,7ページの2の表題自体,身体拘束という言葉がかぶっているように読めますので,誤解を招くかもしれませんが,ここで言う「全過程」の趣旨は,身体拘束時に限定するというものではございません。どういう不都合があるかということについては,例えば最近の事例で,これは報道の限りですけれども,一部録画であるがために可視化はしないようにという誘導を取調官がされているケースが報道されたりもしています。あるいは,弁護士会内の最近の事例報告ですけれども,録画終了後に改めて取調べをされているというケースも報告されてきたりしております。一部に限定することについては,9ページにも書かせていただいておりますとおり,その場面のみが印象付けられて,録画されていない場面の取調べの実態は逆に隠されてしまうという問題がありますので,全過程にすべきだということです。負担・コスト・費用といったことも法務省見解で述べていらっしゃいますけれども,それを大きな障害と見るべきものではないでしょうし,長時間の取調べを所与の前提とすべき必然性はないのではないかと思っています。   それから,次に,取調べの機能に関わる問題に法務省見解の中でも触れておられるわけで,この部会での基礎的な論点でもあるわけですけれども,これも結論的なことを申し上げますと,いわゆる真相解明機能なるものが可視化によって害されるということにはならないであろうというのが私どもの見解です。例えば,それは今日も議題になりました証人保護の問題でクリアできる問題であったり,もちろんこれは裁判公開の問題をどう考えるのかという議論があり得るわけですけれども,おおむね公判再生を制限する方向といったものでクリアできる問題なのではないかと考えます。法務省見解の中には,取調べの中では書かないことがあるという所与の前提を置いて議論していらっしゃるところがあるのですけれども,書かない,ありのままを残さないこと自体がおかしいのではないかということで,議論を展開しております。   例外問題は15ページないし16ページ以下になってくるわけですけれども,これも今申し上げたとおり,基本的には公判再生の問題でプロテクトすべきもので,そうできるのではないか。あるいは,現行の,飽くまでも「現行の」という前提を置いてですけれども,証拠開示制度の下では,いわゆるインカメラなどでのブロックが可能なわけですので,そういったことも考慮すべき余地はあるだろうと思います。   最後の段階で,17ページになりますけれども,制度論について法務省見解を見せていただきますと,法務省取りまとめの54ページ辺りに三つほど例示が挙がっております。今回のこの意見書で明らかにさせていただいているのは,制度と呼び得るのは,原則全過程で,場合によっては例外を設けていこうというのが法務省の取りまとめの三つ目の例示として挙がっているのですが,もし制度というのであればそれ以外はちょっと考えにくい,捜査官の裁量に任せる形での制度論というのは考えにくいということを述べております。それから,当然のことながら証拠能力ですね,17ページに書いていますけれども,これとはリンクすべきであって,これが制度化を担保するであろうというのが,日弁連の意見書の大枠であります。   それからもう一つ,23-2の「撮影方向等の意見書」について若干述べておきます。現在試行されていて,ほぼ固定された2画面という形になっていて,何でこういう構造になっているのか私はよく存じ上げないところがあるのですけれども,例えばラシター教授という心理関係の方の研究等によれば,被疑者にフォーカスを当てている形であると,見た側は任意の供述に見える度合いが極めて高いという報告が挙がっている。必ずしものこの2画面に固定しなければならない必然性はないわけですので,現在の試行の段階で様々なアングルと言いますか,フォーカスの定め方を試していただくべきなのではないか。あるいは,制度化の場合もアングルについて,少なくとも現状のアングルを固定するような形で撮影方法を決める必要はないのではないか。ラシター教授の研究によりますと,横から撮る形のイコールの形,両方がイコールに撮る形が一番公正な撮影方法ではないのかということです。そういう研究結果もありますので,そういったものも踏まえながら,今後の試行ないし制度設計は考えていくべきだという意見を述べております。   取りあえず以上です。 ○本田部会長 ありがとうございました。   ただいまの説明に対しまして,何か御質問がありましたら,どうぞ。 ○加藤幹事 他におありにならないようでしたら,私の報告に対しましても小坂井幹事から御質問を頂きましたので,御質問させていただきたいと思います。内容の評価にわたる部分につきましては,今後の部会での御議論になろうかと思いますので,そこには触れないことにいたしまして,むしろ後ろに付いている資料の関係について意識を合わせておく観点から,今後の議論の基礎としてどの程度利用できるものであるかということについて,二点ほど確認をしておきたいのです。   一つは,別紙2で,法務省の国内調査結果報告書の事例集に関する非常に詳細な検討をしていただいております。非常に細かく評価をしていただいていて,大変有り難いのでありますが,ここで一点,法務省の報告書がもしかしたら誤解を招いてしまったのではないかと思われる点もありますので,その点を確認しておきたいところであります。   別紙2の2ページ以下のところで,「調査結果の問題点(概要)」というところがございます。ここから始まりまして,4ページにいきますと,「自白有用事例に関する調査結果の問題点」というところがございます。その1の(2),4ページの一番下でありますが,「法務省の取りまとめは,自白有用事例における自白の有用性を強調することによって,可視化がされた場合に自白が得られなくなってしまう危険性を印象付けようとしている」という記載がございますが,これは誤解なのではないかと思っております。   むしろ,ここで示されております「自白有用」というのは,現状では自白が証拠として重視されざるを得ないということを述べているにすぎないものでありまして,今回の日本弁護士連合会から頂いている意見書の本文12ページの辺りにもありますように,全過程の録音・録画を行った上で,自白に頼ることなく客観的な証拠を収集・分析して真相に迫ればよいのではないか,こういう御見解があるわけですが,それに対して,ここに挙がっているような事例を見ていただければ,自白を重視せざるを得ない事案があるのではないかと,その議論のために示されているという事案であるわけです。   つまり,これらの事案の中で更に録音・録画になじむものがあるのか,あるいは録音・録画になじまないものがあるのかという議論とは別に,その前提として,自白の役割自体の重要性を論証するために事例が挙がっているということでありまして,この事例を挙げることによって録音・録画による取調べの影響の有無を論じようとしているわけではない,その点はこの後ろでいう,今回の意見書でいうと「影響事例」というふうに整理されているものの方で論じるべきものだと考えられているものでございます。私どもとしては,そのように考えているのでありますが,この点,意見書の取りまとめに当たられた先生方はどのように理解されているのかということを確認しておきたいというのが一つであります。   もう一つは,その前に付いている別紙1の「被疑者取調べの一部録画に関する調査結果」でありますが,2010年7月に弁護士会内でアンケートをされた結果でございます。時期が裁判員制度施行後早い時期なので,余り回答数が多くないようにも思われるのでありますが,当時の事件数からしてもそれほど多数の回答が得られているようにも思われないところです。このデータが弁護士の先生方のお考えを代表するものとしてどの程度有用なものだとお考えであるのか,あるいは,同種の調査を引き続きなさっておられるのかなどについて教えていただければ幸いです。 ○小坂井幹事 一つ目のところは,確かにこちらの捉え方が,あるいは早急,短絡的だったのかなという感じがお話を聴いているとしないわけでもないのです。けれども,正に本文12ページでこちらが述べさせていただいておりますとおり,取調べの全過程の録画によって取調べの適正化を確保しながら,取調べをしていただいて別に自白を得られないことはない。要するに,適正な取調べの下で自白を取るということについて,こちらは何も否定しているわけではございませんので,そこはもしかしたら議論自体がずれているところがあるのかもしれません。   ただ,法務省のこの有用事例をこちらがそういうふうに捉えた理由はある意味でお分かりいただけるかと思います。つまり,全過程の録画・録音をすれば,取調べの真相解明機能は落ちるのだという前提で従来議論をされていることはそうだと思うのですけれども,私どもは従前から相対的に低下すること自体があり得ないと申し上げているわけではないですけれども,少なくとも適正な取調べの範ちゅうでの自白あるいは供述が得られないと考えているわけではございませんから,そこで元々のずれがあるところがこういう表現になって表れているのかなというふうに御理解いただければと思います。そういう意味で言いますと,影響事例として法務省が挙げていらっしゃるのは,これは本文でも触れていることですけれども,必ずしも格段の影響があるようにも見受けられない例ではないのかなというのがこちらの見解でございます。   それから,別紙1につきましては,正に御指摘のとおり,全て合わせて280件という回答数ですから,こちらとしては,辛うじて母数としてはそこそこの数になったのかという段階だということで,中間的な取りまとめという意味も含めて調査結果を出させていただいております。けれども,調査自体は現在も続けております。しかも,試行で拡大されましたから,調査項目自体は相当変わる形で継続的な調査はさせていただいております。ただ,この種のアンケートは,正直に申し上げますけれども,日弁連のアンケートは基本的に回収率が非常に悪いんです。どのような調査でもそうなんです。ですから,いきなりそれが代表するのかしないのかと言われても,こちらとしても直ちにお答えはしかねるところがあります。ただ,この280件につきましては,そこそこの数は集まっているし,ここで出ていることについては,それなりの通用性と言いますか,録画・録音を経験した弁護活動として導かれたものの意見としては一般的なものなのではないのかなという認識を持っております。 ○安岡委員 今の質問に関連するのですが,意見書の本文の一番最後の文章に,取調べの可視化は,「今後も取調べによる真相追及を続けていく上でも必要不可欠の制度である」とあります。この「取調べによる真相追及」というのを証拠収集の方法として一面ちょっと高く評価されている,取り調べて供述調書を取るというのをある程度真相究明の道具として評価されているように受け取ったのですが。   一方,加藤幹事の御質問にありました12ページの「取調べによる真相解明との関係」というところの結論では,「自白に頼ることなく客観的な証拠を収集・分析して真相に迫るといった捜査が重視されるべき」と書かれています。この意見書をまとめられたチームの統一的な見解と言いますか,共通の認識として,取調べの真相解明機能をどう評価されているのですか。 ○小坂井幹事 率直に申し上げて非常に難しい御質問なのですが,恐らく最後の文章が「真相追及」という文言を使っていることについては,日弁連内では恐らく異論があろうかと思いますし,率直に言いますと,正にこの辺りが日弁連も柔軟になったなと評価していだたいているゆえんなのだろうと思います。しかし,要はここで言いたいことは,12ページであれ18ページであれ,別に違ったことを申し上げているつもりは,書いている側の人たちにはなくて,正に可視化をすることが大前提ですよと,その上で適正な取調べをしていただいて,その上であれば説得もあり得るでしょうと。「追及」ということがどこまでいいかは確かに議論があり得ると思いますけれども,そういうことをしていただくことは一向に構いませんよというスタンスを置いていることは事実です。ですから,そこは議論が分かれると思うんですね。   真相解明機能は間違いなく落ちるんだという立論をされる方も一方ではいらっしゃるし,一方では,何を言っているんだと,可視化すればそれだけ正確な情報収集過程が明らかになるんだから,それは結果的には真相解明に資するんだという見解もあります。それを「メリット」,「デメリット」という言葉で言うことが正しいのかどうか分かりませんけれども,少なくとも明らかにメリットの方が上回っているという前提の下に,最終的にはこういう文章にまとまっているというのが実情です。 ○本田部会長 それでは,他の資料の説明もございますので,これらの意見書に対する質問はこれで終わらせていただきたいと思います。   次に,我が国の犯罪情勢に関する資料24につきまして,警察庁の島根幹事と露木幹事から御説明いただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○島根幹事 お時間を頂きましたので,私から犯罪情勢について御説明をさせていただきます。   まず,一枚目,「刑法犯の認知・検挙状況の推移」というグラフを御覧ください。ここで刑法犯と言っておりますのは,主に刑法に規定する罪であり,特別法犯,それから,道路上の交通事故に係る業務上過失致死傷といったものは含んでおりません。「認知」という言葉,「認知件数」と使っておりますが,もちろん犯罪の発生件数というのは暗数があるので,これは飽くまでも警察の方で把握した,事件の発生を確認したというものです。それから,検挙というのは,犯罪について被疑者を特定し,送致等に必要な捜査を遂げることを言っております。そして,検挙率というのは,認知件数が分母,検挙件数が分子というものでございます。   認知件数につきましては,青色の棒グラフでございますが,平成8年から14年にかけて戦後最多の記録を更新し続けて,平成14年には約285万件ということになりました。この辺りで治安が危険水域に入りつつあるという危機感から,警察はもとより,政府におきましても,犯罪対策閣僚会議といったような会議が設けられ,いろいろな諸対策を講じたということで,平成15年からは減少に転じ,その後幸いなことに減少傾向が続いておりまして,昨年は150万件を切って,約148万件ということになっております。   検挙件数,検挙人員につきましては,赤色と緑色の折れ線グラフを御覧いただきたいと思いますが,昨年の検挙件数が約46万件,検挙人員で約30万5,000人ということになります。検挙率につきましては,紫色の折れ線グラフになりますが,昭和期はおおむね60%だったのですけれども,平成に入って急激に低下しまして,平成13年が19.8%ということで戦後最低,その後上昇に転じましたが,現在はほぼ横ばい状態で,昨年は31.2%ということで,非常に単純に言うと,検挙率3割ということは,残り7割は残念ながら未解決という実態でございます。   一枚めくっていただきまして,刑法犯の主な内容でございます。左側の認知件数のグラフを見ていただきますと,窃盗,器物損壊,占有離脱物横領とあります。これは,自転車が被害品である事案が多いのですが,この三つの罪名でほぼ9割近くを占めています。それから,検挙件数については,窃盗と占有離脱物横領で全体の4分の3ということになっております。このグラフを見ていただきますと,いわゆる殺人,強盗,放火,強姦といった重要・凶悪な事件は認知検挙件数全体の中では数は僅かでありますけれども,こうした犯罪の発生が国民の体感治安に大きな影響を与えているのではないかと考えております。   次のページでございます。「重要犯罪の認知・検挙状況の推移」ということでございます。重要犯罪というのは,警察で位置付けているものでして,国民の生命・身体を大きく侵害するものということで,一番下に六つの罪種を書いてございます。いわゆる殺人,強盗といったものであります。全体的な状況については資料を御覧いただければと思います。   一枚めくっていただきまして,その中で殺人と強盗を簡単に紹介させていただきます。殺人の認知件数は,平成16年以降減少傾向となっておりまして,昨年は約1,100件,これは戦後最小となっております。ここの殺人の認知件数というのは既遂と未遂の両方を含んでおります。昨年中の検挙件数は,前年と同数の約1,000件で,検挙人員が約970人。この殺人の認知・検挙状況と言いますのは,その国の安全度の指標として国際比較でもよく用いられますけれども,日本は,平成14年以降でも94%以上,昨年は約98%と,この罪種につきましては高い水準を維持しております。   次に,その下の強盗です。この認知件数は,平成16年以降減少傾向となっておりまして,昨年は約3,700件でありました。昨年の検挙件数が約2,400件,検挙人員も約2,400人ということで,検挙率は約65%となっております。平成14年当時は50%前後ということで,この強盗は,コンビニや飲食店等でかなり発生するということ,また,連続的に敢行されることが多い形態ですので,とにかく早く止めなければいけないわけですが,残念ながら,この検挙率は現在60%程度という状況でございます。   次の放火以降の罪種については,省略させていただきますので,グラフは後ほど御覧いただければと思います。   次に,何枚かめくっていただきまして,「4 捜査本部設置・解決状況の推移」という表を御覧いただければと思います。国民の皆様の関心も極めて高い,いわゆる捜査本部事件の状況について,御説明をさせていただきたいと思います。ここで,捜査本部設置事件と言いますのは,真ん中ぐらいに「注1」と書いてございますが,殺人が絡む特に重大凶悪な事件というものでありまして,刑事部門以外の他の部門でも捜査本部を作ることはありますが,ここは主として刑事部門の捜査本部ということで考えていただければと思います。場合によっては100人を超える捜査体制でかなり長期間にわたって捜査をしなければいけないということで,最も捜査が困難な事件の一つであるとお考えいただければと思います。こういった事件が発生しますと,報道の扱いも非常に大きいですし,解決できるかどうかという帰すうについて国民の関心を大きく呼び,体感治安にも非常に影響を与えるものであろうと考えております。   設置事件ですけれども,平成14年の176件をピークに,以降減少に転じております。昨年は54件とかなり少なくなっております。捜査本部事件は,もちろん犯人を必ず検挙するということを目指しまして,発生した県警等では総力を挙げて取り組んでおりますけれども,残念ながら相当数の未解決事件があるのが実態でございます。また,殺人につきましては,公訴時効が廃止されましたから,警察としては,より一層この種事件についての努力・工夫をしていかなければならないと考えております。   捜査本部事件は,解決に相当の期間が掛かることが多いというのが特徴でありまして,左下の表にありますように,3年以上掛かって解決するもの,もちろんかつてであれば時効直前まで頑張って解決するというものも,数はそれほど多くありませんが,現実にはそういうものもございます。最近は,客観証拠ということで,いわゆるDNA,指掌紋,それからビデオの画像といったものが捜査に活用されておりまして,長期未解決事件の継続捜査班による事件見直しが行われた結果,検挙につながるということもございます。こういったものがない事件につきましては,被疑者の自供や関係者の供述を基にいろいろな裏付け捜査をして,様々な事項を積み重ねて解決に至っているというのが実態でございます。   次の資料は「振り込め詐欺の認知件数・被害総額の推移」ということですが,最近非常に特徴的な犯罪ということで御紹介をさせていただきます。この図を見ていただきますと,平成16年,17年,18年は,2万件前後,被害総額も250億円を超えるということで,大変懸念される状況でございました。これも,いろいろな対策を講じ,金融機関始めいろいろな方々の御協力も頂きまして,何とか頑張って,平成21年にはかなり認知件数・被害額を減らしたところですけれども,その後下げ止まっているということで,撲滅という目標に向けては依然として厳しい情勢となっていると考えております。   その実態ということで,一枚めくっていただきますと,振り込め詐欺の被疑者グループというのはどういうものなのかということで,モデル的なものを記載しております。振り込め詐欺被疑者のグループは,もちろん検挙したもので分かった情報でありますけれども,20代から30代の闇金や暴走族の経歴のある者等が中核となっております。グループにおきましては,役割の細分化が進んでおりまして,組織の中心である首魁や中核メンバーの下に,被害者に電話をかけてだます「架け子」,ATM等で被害者が振り込んだ現金を引き出す「出し子」,被害者から直接現金やキャッシュカードを受け取る「受け子」といったような者がおります。そして,このグループの周辺には,マンション等の犯行拠点を準備いたします「代行屋」,あるいは,携帯電話,預貯金口座等の犯行ツールを準備する「道具屋」,それから,名簿等を準備する闇サイト業者や名簿屋等の違法・悪質業者がおりまして,これら全ての者が摘発の対象となります。   犯行の態様といたしましては,架空又は他人名義の携帯電話を利用し,親族や区市町村の職員,場合によっては警察官を装うというようないろいろな形態で行われておりまして,被害者に電話をかけて現金を振り込ませる,あるいは,キャッシュカードを直接受け取って,暗証番号を聞いてお金を引き出すといったようなことも行われております。この「出し子」や「受け子」につきましては,例えば,ATMの現場や取りに来るところで接点ができますので,この末端構成員の検挙は何とかできますけれども,中核メンバーは,直接の接点がない,電話で連絡するだけとか,いろいろな状況がありまして,接点を取るのが難しいということで,突き上げ捜査が行き詰まっているというのが大きな問題でございます。こういったいろいろな仕組みを悪用して犯罪が行われるということは過去からありましたけれども,携帯電話,預金口座というものを誰でも簡単に入手できているというのが現状でありますので,こういった利便性の陰の部分を直視することが大切なのではないかと考えております。   最後になりますが,「刑法犯本件・余罪別の検挙件数と割合の推移」という資料を御覧ください。「注」で書いてございますが,ここで言う「本件」と言いますのは,被疑者の取調べを開始するまでに一定の証拠を収集した事件,「余罪」はそれ以外の事件ということであります。グラフを見ていただきますと,平成12年までは余罪事件が本件事件よりも多くて,検挙件数の6割以上を占めておりました。その後,平成13年に余罪事件の検挙件数が本件事件の検挙件数を下回って,昨年は3割台にまで落ち込んでおります。これは,主に泥棒などの事件,よく新聞記事の見出しで「余罪100件以上の泥棒を検挙」などというものでありますけれども,このように減ってきている要因は,捜査側,被疑者側,いろいろな要因が影響していて,一概にこれという分析はできておりませんけれども,こういう実態になっているということを御紹介させていただきます。   続きまして,露木の方から暴力団情勢について御説明をさせていただきます。 ○露木幹事 資料をめくっていただきまして,「7 暴力団構成員等の推移」から御説明いたします。平成4年から暴力団対策法が施行されましたので,その前後からの数字を取っております。赤の折れ線グラフにありますとおり,大体9万人でございましたけれども,最近は8万人前後で推移しているという状況です。   また一枚めくっていただきまして,暴力団は団体として幾つあるのかというのがこの日本地図でございます。指定暴力団は,後で御説明いたしますけれども,暴力団対策法に基づいて都道府県公安委員会が指定した暴力団を指しておりまして,全国で22団体ございます。北九州の視察の際に,福岡は一番多く指定されているという説明がありましたけれども,福岡はこのとおり5団体指定されている,全国で最も多い県になっております。   次のページでございます。暴力団犯罪の検挙状況はどうかというデータでございます。赤が検挙件数,青が検挙人員でございますけれども,件数の方は,最近は6万件前後で推移しており,人員については3万人前後で推移しております。   次のページを御覧いただきたいと思います。検挙されている犯罪の内訳でございます。一番上の青の折れ線グラフが覚醒剤で,これが一番多くなっております。次が黄緑の傷害だったのですけれども,最近はこれが減ってきておりまして,赤の窃盗が二番目になっております。三番目に青い恐喝があったんですけれども,これも今は一番落ち込んでおりまして,代わりに詐欺が増えてきているという状況です。以前,ヤクザは盗人とだましはやらないというのが相場だったようですけれども,最近は,カネのためには何でもやるという状況にございます。   次のページが「対立抗争事件の発生状況」であります。これは暴対法の効果が一番効いていると思えるものですけれども,平成元年当時から見ますと激減しているという状況にございます。   ただ,次のページを御覧いただきたいのですけれども,九州の北部を中心に対立抗争がなお続いております。福岡県の久留米市に拠点があります道仁会という組織が平成18年に内部分裂を起こしまして,分かれた九州誠道会との間で対立抗争を引き起こしております。これまでに40数件発生しておりまして,死者が12名,病院入院中に組員と間違って撃たれた方が亡くなるという事件も発生しております。   次のページでございます。暴力団同士ではなくて,暴力団が一般の市民に銃口を向けているという事件でございます。平成22年が11件,23年が27件,今年が2件発生しております。九州が中心でございます。合計40件ほどになりますけれども,検挙できているのは4件,10分の1にすぎません。写真にございますとおり,左側は名古屋で発生した事件ですけれども,みかじめ料の要求を拒否した風俗店に,暴力団員がガソリンをまいて火をつけて,従業員を殺傷したという事件でございます。山口組の組員が検挙されております。右側は,九州でも説明がありましたけれども,ガス会社の社長さんの御自宅の前に手りゅう弾が投げ込まれたという事案でございます。これは未検挙であります。   次のページは暴力団対策法,正式には暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律という名称の法律ですけれども,その概要を説明したものでございます。一番上にございますとおり,暴力団のうち①,②,③の要件,例えば前科を持っている者が一定の比率以上であるといった客観的な要件に該当する団体を指定暴力団と都道府県公安委員会が指定いたします。指定されますと,真ん中にございますとおり,その構成員に対して一定の規制が及びます。例えば,みかじめ料を要求する,先ほどの事例にございましたけれども,例えば風俗店に対して,「ここで商売をするのだったら,挨拶料を出せ」とか,恐喝にわたらない程度のすれすれの行為でそういったことを要求する,こういった行為を法律で禁止する。あるいは,組織を維持・拡大するために,少年に加入を強要するとか,あるいは,抜けられないように指詰めを強要するとか,入れ墨を強要するとか,こういった行為を禁止する。あるいは,対立抗争が発生した場合にはその事務所の使用を禁止する。こういった禁止行為を法律で定めまして,違反があったときに直ちに処罰をするのではなくて,「それはやめなさい」と都道府県公安委員会が命令する。その命令に違反してもう一回違反があったときに検挙すると,こういう二段階構成の仕組みになっております。   その他,下の方にございますけれども,指定暴力団の構成員が一般の方に,例えばみかじめ料を要求するといったような被害を及ぼしたときに,その組員の他に組長に対して使用者責任が追及できるようにする仕組みとか,あるいは,住民の方々と一緒になって暴力追放運動を推進するための団体に関する制度などを規定している法律でございます。   次の資料は,先ほど申し上げた行政命令,暴力団対策法に規定する行為に違反したときにまず最初に出される公安委員会の命令の件数でございます。二つ命令の種類がございまして,中止命令と再発防止命令を足して最近は2,000件前後で推移しております。下の方は,対立抗争が発生した場合に事務所の使用を禁止する命令の件数であります。平成23年は,先ほどの福岡の発生がございましたので,件数が増えております。   最後に,今国会に警察庁の方から暴力団対策法の改正案を提出する予定にいたしております。その内容でございますけれども,現在,対立抗争を引き起こして人を殺傷している,あるいは,一般の事業者に銃口を向けて人の殺傷の結果が生じている,こういった指定暴力団の中でも特に危険な団体を,更に特定抗争指定暴力団とか特定危険指定暴力団というふうに絞り込んで指定をいたしまして,その構成員については,二段階の規制ではなくて,いきなり検挙する,禁止行為を犯罪化するといった内容,あるいは,先ほど御紹介しました,住民と一緒に暴力団の追放運動を推進している暴力追放運動推進センターに,住民の方に代わって暴力団の事務所の使用差止め請求の訴訟を起こせるように原告適格を付与するような制度,あるいは,現在,暴力団対策法では,罰則が1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となっているのですけれども,これを更に引き上げまして,3年以下の懲役又は500万円以下の罰金というように罰則を強化する,こういった内容のものを現在検討している状況でございます。   以上でございます。 ○本田部会長 ありがとうございました。   ただいまの説明につきまして,何か御質問がありましたらどうぞ。   御質問がないようですので,次に,刑事手続の流れと刑事手続の基礎的な統計データをまとめた資料25-1と2につきまして,事務当局から御説明をお願いしたいと思います。 ○吉川幹事 ただいま犯罪情勢についての御説明を頂きましたので,私からは,検察庁が事件を受理して以降の刑事手続に関する統計データを御説明いたします。資料25-1は,刑事事件における主な手続の流れを記載したもの,資料25-2は,検察庁における事件の受理及び処理や裁判所における判決に関する統計データを記載したものです。これから,資料25-1を用いて刑事手続の流れをざっくりと御説明しながら,適宜,資料25-2の統計データを御説明いたしますので,この二つの資料を併せて御覧いただければと存じます。   まず,検察庁において事件を受理するまでの手続について御説明いたします。資料25-1を御覧ください。検察庁において受理する事件の多くは,司法警察職員による捜査が行われて検察官に送致される事件です。なお,この資料の左上の方に記載されていますが,司法警察職員には一般司法警察職員と特別司法警察職員があって,一般司法警察職員は警察官のことです。特別司法警察職員は,特別の事項について捜査権限が認められている海上保安官や麻薬取締官などのことです。   司法警察職員の捜査におきましては,被疑者の身柄を拘束せずに在宅事件として捜査する場合と,被疑者を逮捕して捜査する場合がありますが,いずれの場合でも,原則として全ての事件を検察官に送致することとされています。ただ,検察官があらかじめ指定した犯情の特に軽微な事件については,例外的に送致を要しないこととされており,このような事件について送致しない手続を取ることを微罪処分と呼んでいます。また,司法警察職員が被疑者を逮捕した場合には,48時間以内に検察官に送致しなければならないこととされておりますが,送致前に被疑者を釈放し,在宅事件として送致することもございます。このほか,検察庁において事件を受理する場合といたしましては,検察官が告訴・告発を受けたり,自ら犯罪を認知して捜査に着手したとき,あるいは,他の検察庁が受理したものを更に検察庁から移送を受けたときなどがございます。   この検察庁における事件の受理に関する統計データが,資料25-2の1ページ目の「1 検察庁新規受理人員」とある部分に記載されていますので,そちらも御覧ください。一番上に書いておりますが,平成22年に検察庁において受理した事件は182万5,000件であり,(1)のグラフは,受理した事件について,その受理事由,つまり,どういう形で受理したかというものの内訳を示したものです。警察官からの送致事件が約155万3,000件と全体の約85%を占めており,特別司法警察職員からの送致事件は約9,000件,検察官が告訴・告発を受けたり,自ら犯罪を認知した事件は約6,000件であって,それぞれ全体の約0.5%,約0.3%となっています。   次に,検察庁において事件を受理した後の手続について御説明いたしますので,もう一度,資料25-1を御覧ください。司法警察職員が在宅事件として検察官に送致した場合は,通常,検察庁において受理した後も在宅事件として捜査が行われます。他方で,司法警察職員が被疑者を逮捕し,釈放せずに検察官に送致した場合は,検察官は,身柄拘束の必要がなければ直ちに被疑者を釈放し,その必要があるときは24時間以内に裁判官に対して勾留を請求しなければならないこととされています。また,検察官は,24時間の制限内に起訴をする逮捕中起訴などの処理を行うこともあります。勾留を請求して,これが認められた場合,勾留期間は10日間であり,延長が認められれば最長で20日間となります。検察官は,通常,この勾留期間内に起訴・不起訴等の事件処理を行います。このほか,検察官が告訴・告発を受けたり,自ら犯罪を認知した事件等について,検察官が被疑者を逮捕することもあります。この場合,検察官は,48時間以内に裁判官に対して勾留を請求しなければならないこととされております。   ここで,もう一度,資料25-2の1ページ目を御覧ください。ここにある(2)のグラフは,検察庁において受理した事件について,罪種ごとの内訳を示したものです。道路交通法違反等の事件が約60万6,000件,自動車による過失致死傷,これは自動車事故ですが,これが約74万1,000件でして,これらの交通関係の事件が全体の約4分の3を占めています。残りの約4分の1の約47万8,000件が,交通関係以外の刑法犯及び特別法犯の事件になります。   (3)のグラフは,交通関係以外の刑法犯及び特別法犯の事件について,検察庁において受理した後の被疑者の身柄拘束状況の内訳を示したものです。被疑者の身柄が拘束されずに在宅事件として捜査された事件が約36万件と全体の約4分の3を占めており,被疑者が勾留された事件は全体の約4分の1の約11万5,000件となっています。   さらに,(4)のグラフは,被疑者が勾留された事件について,その勾留期間の内訳を示したものです。勾留期間が10日以内の事件が約4割,10日を超えている事件が約6割となっています。   続きまして,検察庁における事件処理に関する手続について御説明いたしますので,再度資料25-1を御覧ください。検察官による事件処理の内容としては,起訴,不起訴,少年事件についての家庭裁判所送致などがございます。このうち,起訴には公判請求と略式命令請求の2種類があり,公判請求をした場合には,裁判所において公判審理が行われ,判決が言い渡されます。また,略式命令請求をした場合には,書面審理のみの簡易な手続により,罰金刑等を科する略式命令が発せられます。他方,不起訴処分の理由には,起訴猶予,嫌疑不十分,嫌疑なし,罪とならずなどがございます。   検察官による事件処理に関する統計データが,資料25-2の2ページ,「2 検察庁既済人員」という部分に記載されていますので,そちらを御覧ください。平成22年に検察庁において処理した事件は約182万5,000件であり,(1)の円グラフは,この全事件についての処理の内訳を示したものです。不起訴が約91万3,000件と全体の約50%を占めており,略式命令請求は約40万9,000件で約22%,公判請求は約11万件で約6%となっています。   また,(2)の3つの円グラフは,罪種ごとに処理の内訳を示したものですが,①のグラフのとおり,交通関係の事件を除く刑法犯及び特別法犯の事件では,公判請求が約20%と比較的割合が高くなっています。他方で,②及び③のグラフのとおり,交通関係の事件では,いずれも公判請求は全体の約1%となっています。   次に,3ページの「主な刑法犯の検察庁新規受理人員及び公判請求人員の罪名別内訳等」とある一覧表を御覧ください。これは,主な刑法犯の罪名別に,検察庁における受理人員や公判請求人員などを記載したものです。なお,裁判員裁判など,法定刑等を基準に対象事件が定められている制度もありますので,この表では,法定刑の重い順に罪名を並べております。また,受理人員及び公判請求人員のそれぞれ右側に記載しています割合は,刑法犯全体の件数に対する割合を示しております。   受理人員及び公判請求人員ともに,4ページの中段辺りにある窃盗が最も多く,受理人員が約17万件,公判請求人員が約3万2,000件であり,いずれも刑法犯全体の50%近くを占めています。そのほか,同じ4ページ目の上段の方にあります詐欺,それから,3ページ目の一番下にあります傷害などの割合が高くなっています。   次に,6ページ目の「4 主な特別法犯の検察庁新規受理人員及び公判請求人員の罪名別内訳等」とある一覧表を御覧ください。これは,主な特別法犯の罪名別に受理人員や公判請求人員などを記載したものです。特別法犯については,例えば,覚せい剤取締法違反の中に輸入罪や使用罪などが含まれているなど,同じ罪名の中に法定刑の異なる犯罪が含まれていて,法定刑を基準に並べると非常に複雑になりますので,受理人員の多い順に法律の名前を並べています。受理人員及び公判請求人員ともに,一番上の覚せい剤取締法違反が最も多く,受理人員は約2万件,公判請求人員は約1万6,000件となっています。   最後に7ページを御覧ください。ここには,地方裁判所において公判審理が行われた事件の判決に関するデータが記載されています。まず,「5 通常第一審(地裁)の終局人員の裁判結果別内訳」とある一覧表は,平成22年に地方裁判所で判決が言い渡された事件について,その裁判結果ごとの件数などを記載したものです。このうち3年以下の有期懲役・禁固の判決がなされたものを全て合計しますと,全体の約9割を占めていることが分かります。   その下の「6 通常第一審(地裁)の無罪率等」という一覧表は,平成17年から平成21年までの5年間の1年ごとの無罪率,つまり,1年間における全判決人員に対する無罪人員の割合などを示したものです。この間,全部無罪と一部無罪を合計した無罪率は0.2%程度で推移しています。また,被告人が公訴事実を争うなどした,いわゆる否認事件に限った無罪率は2.5%程度で推移しています。   統計データに関する説明は以上でございます。 ○本田部会長 ありがとうございました。   何か御質問はございますか。   御質問がないようですので,最後に,刑事司法制度の現状認識に関する代表的な論文をまとめた参考資料につきまして,事務当局から概要の御紹介をお願いいたします。 ○加藤幹事 お手元の参考資料の1から9のタグの付いた厚い資料は,今後の総論的議論の御参考に資するために,現在の刑事司法制度及びその運用の在り方がどのように認識され,評価されているかについて,研究者,実務家の論稿の中から代表的と考えられるものを選んでお配りしたものです。   これらの論稿は,多数の関連論文等の中から,頻繁に論及される著名論文を選択したものですが,その選択及びこれから申し上げる内容の要約につきましては,事務当局の責任によって行ったものですので,お気付きの点などについては,特に研究者の委員・幹事の皆様からも補足等を頂きたく思います。   なお,紹介する各論稿の内容について,事務当局として特段の見解を有するものでないのは無論です。   まず,前提として,我が国の刑法あるいは刑事訴訟法の成り立ちについてごく簡単に御確認いただくために,参考資料1の「大コンメンタール刑事訴訟法第1巻」の冒頭部分をお配りしております。これは中山善房元裁判官が執筆されているものです。5ページの「Ⅱ 刑事手続法・刑事訴訟法の沿革・変遷」という部分におきまして,我が国の刑事訴訟法の成り立ちなどが詳しく記述されておりますが,本日は時間の関係もございますので,ここは後ほど御覧いただければ幸いです。   引き続きまして,以下,個別の論稿につきまして,我が国の刑事司法制度の特徴とされる点の記述を中心として御紹介したいと存じます。   参考資料2の「現行刑事訴訟の診断」を御覧ください。これは昭和60年に故平野龍一博士によって著されたものでございます。平野博士は,昭和32年から昭和56年にかけて東京大学教授を務められ,その後,同大学総長も務められた,刑法・刑事訴訟法研究の第一人者です。「現行刑事訴訟の診断」は,昭和60年に團藤重光博士の古稀祝賀論文集に載せられたものです。 (引き続き,加藤幹事から,参考資料2の内容について説明がなされた。) ○加藤幹事 次の参考資料3と4は,こちらにお見えでいらっしゃいます松尾浩也先生の御論稿です。松尾先生は,長く東京大学教授を務められて,その後も,複数の大学での教授職,あるいは多数の公職を歴任されている,刑事訴訟法研究の第一人者であられることは御存じのとおりです。我が国の刑事司法の現状を言い表すのに頻繁に用いられる「精密司法」あるいは,「ガラパゴス的状況」といった用語は,元々松尾先生の御論稿に由来しているものでありますので,ここではそのような用語の趣旨や意義を著された文献を紹介させていただきます。 (引き続き,加藤幹事から,参考資料3及び4の内容について説明がなされた。) ○加藤幹事 続きまして,平野先生の先ほどの論稿に対しては,学界や実務界から様々な反応があったところでありますが,その代表的なものとして,参考資料5,当時,裁判官でおられた石井一正元札幌高等裁判所長官の「わが国刑事司法の特色とその功罪」がございます。石井元長官は,昭和38年から平成14年まで裁判官として在職された刑事裁判実務家であり,その後,法科大学院における教職にも就いておられる方です。「わが国刑事司法の特色とその功罪」は,昭和62年に司法研修所の論文集に掲載された論文です。平野先生のが60年ですので,その2年後ということになります。 (引き続き,加藤幹事から,参考資料5の内容について説明がなされた。) ○加藤幹事 さらに,参考資料6ですが,土本武司博士の「もう一つの診断」です。土本博士は,長く検事として在職された後に,筑波大学ほかの教授職を務められた刑事法の研究者です。「もう一つの診断」は,検察官としては退官された後の平成元年に法務総合研究所発行の「研修」という雑誌に掲載された論文です。 (引き続き,加藤幹事から,参考資料6の内容について説明がなされた。) ○加藤幹事 最後に,参考資料7から9までは,いずれも平成14年発刊の「新刑事手続Ⅰ」に集録されたものでありまして,比較的現在に近い時期に,法曹三者が我が国の刑事司法の特色について共同執筆をした文献として紹介するものです。 (引き続き,加藤幹事から,参考資料7から9までの内容について説明がなされた。) ○本田部会長 ありがとうございました。   何か御質問はございますか。 ○村木委員 お願いがあります。この資料は大変勉強になったのですが,先ほど論点整理で総論の議論から入りましょうというお話があって,その中で,今の時代に合った刑事司法改革をするのだということがありました。そのとおりだと思うのですが,その一つの大きな流れが裁判員裁判の導入ということだっただろうと思います。そういう意味でいうと,こういういろいろな意見があったことを踏まえながら,大きな司法制度改革があって,裁判員裁判が今行われているわけですので,こういうものの何を取り上げて,どういう考え方で裁判員裁判が始められて,その裁判員裁判で改善されたものは何で,あるいは,変わったものは何で,まだ変えられていないとか,不十分だと言われているものは何かというのは,まだ日が浅いので難しい部分もあるでしょうけれども,そこを言っていただけると今の出発点に立てるように思うので,是非お願いをしたいと思います。 ○本田部会長 確かに裁判員制度が始まってからまだ余り時間がたっていませんが,御指摘の点については検討させていただきます。   それでは,ほかに御質問等もないようですので,ここで資料説明を終えたいと思います。   これで予定しておりました事項は全て終了いたしましたので,本日の議事を終了させていただきたいと思います。本日の会議につきましては,特に公表に適さない内容はなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思います。なお,本日お配りしました参考資料につきましては,著作権法との関係でホームページには掲載しないということ,議事録につきましても,参考資料の説明部分は著作権法に配慮して作成させていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。 (「異議なし」の声あり) ○本田部会長 どうもありがとうございました。   次回は,冒頭で論点整理を終えた後,刑事司法制度の総論的な議論を行いたいと思います。よろしくお願いします。次回の日程は,3月16日金曜日の午後1時30分を予定しております。場所は,本日と違いまして,東京高検第2会議室にお集まりいただきたいと思います。   本日はありがとうございました。 -了-