法制審議会民法(債権関係)部会          第40回会議 議事録 第1 日 時  平成24年1月31日(火)自 午後1時00分                      至 午後5時56分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第40回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日は新たな部会資料の事前送付はございません。積み残し分の審議をする関係で,部会資料34と35を使わせていただきます。これらの資料の内容は,後ほど関係官の新井と金から順次,御説明いたします。   このほか,机上には「第1分科会第2回会議の開催について(報告)」という紙を配布しております。ここに記載のとおりに開催されましたので,その旨を御報告いたします。また,この第1分科会第2回会議の際に配布された資料を,念のため部会でも改めて配布しております。その一つが,右肩に「民法(債権関係)部会分科会資料1」と書いてあるものです。これは,分科会での補充的な審議の参考に供するために,事務当局において部会での議論を整理いたしまして,分科会での説明の便宜のために配布したものです。新たな論点を追加する等の性質のものではありませんので,分科会限りで配布いたしましたが,分科会開催の報告と併せて,部会の場でも念のため配布することとしたものです。次に,右肩に「別紙 比較法資料(補遺)」と書いてあるものを机上配布しております。これも,同じく第1分科会第2回会議の際に,審議の参考とするために若干の比較法資料を追加して配布いたしました。これについては,本日,改めて部会で配布するとともに,この比較法資料が関係する部会資料は主に部会資料34ですので,部会資料34の末尾に補遺として編てつした上で,法務省ホームページで公表することにしたいと考えております。また,その一部は部会資料31にも関連いたしますので,部会資料31にも同様に補遺という形で編てつして,公表することにしたいと思います。更に,第1分科会第2回会議で配布されました資料を机上に配布しております。高須順一幹事の「債務不履行解除の規定の在り方について」と題する意見書,それから潮見佳男幹事の「債務不履行解除の規定の在り方について」と題する意見書です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   本日は,部会資料34の「第4 危険負担」以降及び部会資料35について御審議いただく予定です。具体的には休憩前までに部会資料34について御審議いただき,適宜,休憩を入れることを予定しています。休憩後,部会資料35について御審議いただきたいと思います。   最初に,部会資料34の「第4 危険負担」について御審議いただきます。この部分につきましては,前回,既に事務当局から説明がありましたので説明は繰り返しません。「1 債務不履行解除と危険負担との関係」につきましては,前回,御意見をお伺いしたところですが,時間の制約上,十分に発言ができなかったというふうな事情から,前回の議論に付け加える御意見があれば,まず,それをお伺いして,その後に,「2 民法第536条第2項の取扱い」について御意見をお伺いしたいと思います。   「1 債務不履行解除と危険負担との関係」に関連して,と申し上げて差し支えないかと思いますけれども,先ほど御紹介のありました松本委員の要望書が提出されておりますので,まず,松本委員からそれに関して御発言を頂ければと思います。 ○松本委員 ありがとうございます。   前回の議論,それから,その前の400条を廃止するという提案についての議論の両方で,私は何となくもやもやとした違和感を感じておりました。そのときはなぜ自分がそういう違和感を感じているのか,よく分からなかったんですが,その後,ひょっとしたらこういうことかもしれないという点に思い当たりましたので,そこを部会としてクリアにしていただくことが今後の審議,それから,分科会で帰責事由の問題について議論することになっておりますので,その点の議論を活性化するのに役立つのではないかということで,こういう文書をまとめさせていただきました。   結論から言うと,400条廃止論あるいは危険負担廃止論の背景にある共通の考え方があって,それは特定物売買において契約締結時点より前から存在するところの原始的瑕疵と,それから,契約締結後に生じた後発的瑕疵を契約責任として全く同じように評価して,債務不履行としての瑕疵担保責任の規定を適用するという考え方,これは第1ステージにおける部会資料15-2詳細版15ページでは「債務不履行一元論」という立法論的提案とまとめられておりますが,この考えに基づいて400条廃止論,危険負担廃止論というのが出ているのではないかということに思い当たったわけです。   確かにこれは瑕疵担保責任の瑕疵の基準時の問題という一面があります。瑕疵担保責任における瑕疵の基準時をどこに置くかという問題,すなわち契約締結時点において既に存在している瑕疵を瑕疵担保の問題として取り上げるのか,それとも,そういう限定をしないで危険の移転時,引渡し時,あるいはそれ以外の時期における瑕疵の有無で瑕疵担保責任を考えるのかという論点につきましては,様々な考え方があり,これは瑕疵担保の性質論との関係で出ておるところであります。   ところが,中間的な論点整理の補足説明295ページでは,「基準時の明文化の要否という論点について,特段の意見がなかった」と整理されておりまして,部会資料ではかなり詳細な議論の紹介がされているんだけれども,部会では全然議論されなかったということであります。これは,瑕疵担保の性質論について立法論的提案であるところの「債務不履行一元論」を採るとか,あるいはそれ以外の立場を採ることで部会として一致したというわけではなく,また,瑕疵の基準時の明確化は不要だという点で一致したわけでもなくて,余りこの点の重要性がきちんと認識されないまま,瑕疵担保責任の性質論一般の中に溶け込んでしまっていたからではないかと思われます。したがって,400条廃止論や危険負担廃止論がはっきり出てきた今の段階でこそ,この瑕疵の基準時をどう考えるのかという点をじっくり考えなければならない,あるいはこちらのほうを先に考えないと他の論点について十分な議論ができないのではないかということであります。   部会資料34というのは,今日,議論する資料でありますが,これの45ページで危険負担を廃止して,解除一元化案を採る場合のメリットとして挙げられているところの「目的物の損傷の場面では,帰責事由のない損傷によって対価が当然に一部消滅するという危険負担の処理より,債権者が対価の減額請求のほか,修補請求や契約解除などの選択肢が与えられる解除一元化案のほうが柔軟な試案の対処ができる」という考え方が書いてあるわけですが,これは契約締結後に発生した特定物の後発的瑕疵についても瑕疵担保責任を適用するという意味での「債務不履行一元化論」に立った場合に,こういうメリットがあるということになるわけで,ある立場に立った場合のメリットだということです。この点が私はちょっと理解できていなかったので,違和感があったわけです。   同じように,部会資料34の46ページの「契約の一部解除としての側面を有する代金減額請求権と危険負担による代金債務の当然一部消滅との関係も,いずれを優先させるべきかが解釈上,問題になり得る」という事務当局の解説も,やはり特定物の後発的瑕疵にも瑕疵担保責任を適用するという「債務不履行一元化論」を採って,瑕疵担保責任が危険負担と全面的に競合するという立場に立った場合に初めてこういう論点が出てくるということです。   400条廃止論についての部会資料31の45ページの「他方,目的物引渡債務の不完全履行を理由とする損害賠償請求に対して,保存義務を尽くしたことが免責事由として機能し得るとの指摘がある。しかし,瑕疵が契約締結前から存在し,契約締結後の債務者の保存の態様に注意義務違反がなかったとしても,特定物引渡義務につき目的物の品質が債務内容に含まれ得るとする立場からは,瑕疵の存在が契約に適合しないと評価される限り,債務者は契約責任を免れず,保存義務を尽くしたことが免責事由となるわけではないと考えられる」との記述も,その前半は契約締結前から存在する瑕疵のみを念頭においた記述のように見えるものの,後半は後発的瑕疵も含む記述のように見えます。そして,実際に部会第36回会議での議論においては,後発的瑕疵についても債務者が保存義務を尽くしたことは免責事由とならないとの立場で議論が進められました。ここでも400条廃止論の根拠として瑕疵担保責任についての「債務不履行一元論」に立っていると考えれば,それなりに納得できるということであります。   さらに,部会資料32では債務不履行による損害賠償一般の免責要件の規定の在り方につきまして甲案と乙案という二つの具体的な文言の書き方の案が出ております。「契約の趣旨に照らして債務者がそのリスクを負担していなかったと評価される事由によって債務不履行が生じた場合」という書き方の甲案と,現行法に近い「債務者の責めに帰することができない事由によって債務不履行が生じた場合」という書き方の乙案のどちらがいいかという問題提起であります。この点をきちんと考えようとすると,債務不履行の中にどこまで入れるのか,すなわち,「債務不履行一元論」を採るということを前提にする場合と,そうでない場合で違ってくるのではないか。債務不履行一元論を採った上で危険負担を廃止するとどうなるかというと,全てが一旦債務不履行の中に入ります。その上で帰責事由のある・なし,あるいは免責事由のある・なしで判断するということになるわけで,帰責事由(免責事由)のウェイトというのが現行法以上に大きくなってくるということがあります。   しかし,私の個人的感覚では契約締結時より前の事情によって既に目的物が滅失している場合と,事後的事由により滅失した場合の中で従来であれば危険負担で処理されていたような場合を全く同じ基準で判断するのが適当かどうかは,なお,慎重な判断を要するにように思われます。例えば地震による建物被害が契約締結時点において既に生じていた場合に,それを契約責任の問題として処理をするという立場を採るとしても,なお,契約締結後に地震が生じて建物に被害が生じたような場合の特定物の瑕疵をも全く同じに扱うということには違和感があります。   それから,部会資料31の債務不履行の免責事由のところでは,どういう文言にするかは「債務不履行の帰責事由(免責事由)の在り方との整合性にも留意して検討する必要がある」とされておるわけですが,この論点につきましては第3分科会で補充的に議論するということにされておりまして,私は第3分科会を担当している関係で,ここをきちんと議論しようと思うと,債務不履行一元論を採るのか,採らないのかという論点をまず明確にしないと,適切な文言が置けないのではないかという気がしております。   そして,この論点,瑕疵担保責任を廃止して「債務不履行一元論」を採るかどうか,というよりはむしろ瑕疵担保責任がもっと大きくなって債務不履行責任を吸収するという表現をする方が適切かもしれませんが,その上で,400条や危険負担を廃止するかどうかというのは大変大きな話で,日本民法の履行障害法の言わばグランドデザインに関わるものです。今,挙げた論点以外にも,例えば隠れた瑕疵の隠れたという要件をどうするのかということにも恐らくつながってくるだろうし,他にもいろいろなところで飛び火してくる論点だと思います。したがって,グランドデザインをまずはっきりさせた上で,各論でこの条文は不要だ,不要でないという議論をしたほうが生産的だと思いますので,そこをまず議論していただきたい,明らかにしていただきたいという要望です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   大変重要な御指摘だと思うんですけれども,債務不履行一元論で今後の議論を一本に集約するかどうかをこの場で決められるかというと少し難しいところがあります。これらの御指摘の点は大変重要で,今後,これを意識しながら議論していかなければいけないと思いますけれども。 ○松本委員 ですから,私の違和感の前提を先ほど御紹介しましたが,「部会資料作成者が「債務不履行一元論」に立っているという認識にたどり着くまでに大変時間が掛かったんです。だから,最初から「債務不履行一元論」に立てば,この場合はメリットがあるとか,この考え方はおかしいと書いていただければ理解できたんだけれども,そこがなくて一般論として,これがデメリット,これがメリットだと書かれたことで,私の頭は大変混乱したということです。今後,この論点を将来に先送りするのであれば,今後,部会資料である考え方を批判する場合,あるいはある考え方のメリット,デメリットを書く場合に,みんなが共通に理解している立場からのメリット,デメリットならいいですが,そうでないある説を採った場合のメリット,デメリットである場合は,その前提をお書きいただければ混乱しないと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。そこは今後の資料の作成の際にも十分に配慮をすることとします。ただし,性質論が決まらないと議論できない問題と,考え方の違いがあっても具体的な要件効果については一致できる場合もあろうかと思いますので,十分にそれぞれの問題の性質に応じて,御指摘のあった点を配慮して資料を整理し,また,議論をする際の進行にも注意をしていきたいと思っています。この問題で一番象徴的に表れてくるのは瑕疵担保のところかと思いますので,瑕疵担保について議論するときには,今,御指摘の点を十分に配慮すると同時に,そこでの考え方が御指摘にありました危険負担その他の部分にどういう影響を及ぼすかということについても,十分,確認しながら議論を進めさせていただきたいと思いますけれども,今日のところはそのような取扱いでよろしいでしょうか。ありがとうございます。   他に,「1 債務不履行解除と危険負担との関係」についての補足的な御発言はございませんでしょうか。特にないようでしたら,「2 民法第536条第2項の取扱い」について御意見をお伺いいたします。 ○筒井幹事 「第4 危険負担」の2の部分について,本日,御欠席の安永委員から事前に発言メモが提出されておりますので,これを読み上げる形で紹介いたします。   民法第536条第2項の取扱いについて申し上げます。   まず,第536条第2項の射程距離についてです。裁判実務上で民法第536条第2項が用いられる事件としては,「使用者が解雇を主張して労働者の労務の受領を拒否したが,解雇が無効とされた場合」など,労働者が就労できなかった期間の賃金を請求する根拠として,民法第536条第2項を主張する事案が多く,このタイプの事件は,第536条第2項に関する主張のなされる事件全体の約半数以上を占めています。また,これ以外には,請負契約や委任契約の中途解約をめぐり,請負人や受任者が報酬請求権の根拠として主張するケースもあります。   労働契約は,雇用のみならず,請負・委任に該当する場合もあり,また,請負人や受任者が労働者か否かにかかわらず,契約の中途解約に際し,請負人や受任者の報酬請求権を保障することが必要です。第536条第2項の適用範囲については,雇用に限定することなく,役務提供契約全てに適用すべきであると考えます。   次に,第536条2項の文言についてです。民法第536条第2項の危険負担の発生要件に関して,現行の条文に規定されている「債務者の責めに帰すべき事由」及び「履行不能」の概念は残すべきと考えます。この点,検討の方向性として記述されている「その実質的な規律内容を維持するものとしてはどうか」という表現は,現行の条文にある「債権者の責めに帰すべき事由」という文言を手直しすることを前提にしていると思われます。   しかしながら,従来の判例及び裁判例を見たとき,従来の第536条第2項の条文にある「債権者の責めに帰すべき事由」という要件及び「履行不能」の概念は,特に大きな問題なく機能し,解雇,休業,使用者の受領拒否の場合の賃金請求権の有無についての判断基準も蓄積されています。現行法上の「債権者の責めに帰すべき事由」という要件と「履行不能」の概念は,そのまま残しても支障はないのではないでしょうか。この要件を修正して,従前積み上げられてきた判例法理の不安定化を招くことには賛成できません。   部会資料の47ページでは,「その実質的な規律内容を維持するものとしてはどうか」と記載されていますが,この表現については,「第536条第2項は,少なくとも役務提供契約類型には適用するものとした上で,現行民法の「債権者の責めに帰すべき事由」という要件の変更の要否については,役務提供契約に関する検討の場において,引き続き検討すべきである」と改めるのが適切であると考えます。 ○鎌田部会長 これに関連して,536条2項関係の御発言はございますか。 ○山川幹事 ありがとうございます。   部会資料47ページの1の536条2項の実質的規律内容を維持することには賛成でございます。あとはどの程度,この部会で議論するのかという問題があるかもしれませんが,それ以降の点について若干申し上げますと,解除制度の見直しとの整合性につきましては,特段,異論ないし意見はございません。もう一つ,履行不能ないし帰責事由という要件との関係につきましては,現在,労働法上の裁判例の蓄積ないし取扱いがほぼ安定していると思われますので,その実質的内容を維持するようにする必要があるのではないかと考えておりますが,その前提として,若干,確認しておきたい点を多少,申し上げさせていただきます。   履行不能という要件の使われ方ですが,労働契約の場合に使用者が受領を拒絶した,あるいは解雇の場合もそうですが,そのような場合には労務提供の機会が失われることによって,時々刻々と履行不能になっていくという説明であろうかと思います。そういう意味で,履行不能という要件に該当すると考えられております。   帰責事由についてですけれども,この点は,故意,過失又は信義則上これと同視すべき事由であると一般論を述べた労働事件の裁判例もありますが,解雇の場合は後でまた申しますけれども,通常の受領拒否の場合ですと,債務の本旨に従った履行の提供を使用者が拒絶した場合には,原則として536条2項の帰責事由があると考えられて,あるいは取り扱われているのではないかと思います。下級審裁判例が幾つかありますけれども,そこでは使用者のほうで受領拒絶の合理的理由ないし正当理由を主張・立証すべきであるとされているかと思います。適法な履行の提供等があれば,帰責事由の評価根拠事実の主張・立証としては十分であって,あとは評価障害事実の問題として受領拒絶の合理的理由等が問題になるということが,最高裁判決はないですけれども,一般的な扱いではないかと理解しております。   解雇の場合は,使用者が契約関係の存在をあらかじめ否認する点で,事前の明確な受領拒絶があるということで,その後の口頭の提供等を問題にすることなく,ほぼ解雇の有効・無効によって帰責事由の有無が判断されております。これは明示的ではないですが,最高裁の判例でも口頭の適用があったかどうかについては問題とされていないようです。以上のような扱いが維持されるような形にすべきではないかと思っております。   帰責事由については,安永委員のメモにありますように現在の条文でしたら支障はないと思いますが,この点は一般的な帰責事由ないし危険負担の取扱いによって変わってくる可能性がありまして,そちらについては,門外漢なものですから余り私としては議論しにくいので,少なくとも以上のような取扱いの実質を維持してほしいということです。あと,立法提案の中で挙げられている義務違反という文言では,以上のような裁判例上の取扱いを維持した運用が今後もなされていくかどうか,やや不安がありますし,また,後で出てきますけれども,受領義務という考え方を前提にして義務違反を要件とする場合も,履行強制ができるという意味での受領義務ではなくても,信義則上,一般に使用者に労務の受領義務があるとはまだ労働法学では解されていないものですから,現在の運用が狭まってしまうのではないか,やや不安があるところです。   すみません,あと一点,若干長くなりますが,(3)の適用範囲の問題につきましては,これも労働契約特有の問題でない部分があるので何とも言えないのですが,判例では請負についても536条2項が適用された事例が最高裁判例も含めてあるようでして,そうすると,536条2項の実質的な規律内容を維持するという場合には,そちらのほうも含めるということになるのかなと思っております。これはちょっと門外漢ですので何とも言えない部分もありますけれども,いずれにしましても,少なくとも役務提供契約,請負の中でもどの範囲かという問題はあるかもしれませんが,労働契約に限らず,この536条2項の中身を維持するということが個人的には望ましいように思っております。   ただ,その場合,そうすると危険負担と言いますか,536条2項という一般的規定だけでいいのか,あるいは雇用ないし役務提供契約について規定を置かなくていいのかという問題が起きますが,これは役務提供契約の議論のときにも出てまいりましたように,報酬債権ないし賃金債権の発生そのものは,現在の536条2項では条文上,直ちに基礎付けにくいという問題がありますので,別個,規定を置いても差し支えないように思います。あるいは536条2項自体につき,反対債権を失わないということではなく,請求できるといった中立的な表現にするなどの考え方もあり得るかとは思いますけれども。 ○潮見幹事 幾つか申し上げたいことがあります。   いろいろなパターンを考えなければいけないと思いますが,例えば前回,問題になった解除と危険負担の関係で,危険負担という制度を仮に一般的に残すべきだ,あるいは解除と併存すべきだという考え方を採る場合,この場合にはもちろん536条2項の規律を維持するということになるでしょうが,その場面でも債権者の責めに帰すべき事由という言葉をどうするかということについては,この前の415条のところの責めに帰すべき事由の議論と平仄を合わせる形で調整をすべきではないかと思います。   他方,解除と危険負担について解除に一元化すべきであるという考え方を採った場合には,そこで言うところの536条2項の基本的な考え方は維持すべきだとも私は思いますが,もちろん,責めに帰すべき事由という言葉自体を先ほど申し上げたのと同じような理由で,少し検討していただいたほうがいいと思いますし,義務違反というのは山川幹事の先ほどのお話ではありませんが,少し狭いと思います。しかし,それ以上に解除に一元化した場合に,536条2項の規律内容をそこに反映できるような形にしていただきたいという希望があります。具体的には債権者が契約を解除することはできないことを明確に書くということと,それから,債務者が反対給付を債権者に請求することができるというルールを書くことです。そうすることによって,仮に解除に一元化した場合にも,536条2項の趣旨というものは基本的に反映されるのではないかと思いますので,是非ともお願いしたいところです。   その上でのことですが,解除に一元化した場合でも,先ほどから少し問題になっておりますような雇用ほか,役務提供契約などの局面では,危険負担的な処理を残さなければならない状況が出てこようかと思います。その場面で果たして536条2項のような規律をどのように条文化していくかという点では,安永委員のメモにあるほどは単純なことではないという感じがいたします。536条2項絡みのこの間の10年ほどの裁判例をいろいろ拾い上げて見てきましたが,もちろん,圧倒的に多くは雇用,それから,請負がそれに続くというようなパターンなのですが,仮に役務提供型の場面に特化した形で536条2項類似のルールを設ける場合には,債権者の責めに帰すべき事由というところで表現されているものの中身を,その場面に特化した形で書き上げたほうがよいのではないかという感じがいたします。   先ほどから出ていたような意見に加え,労基法26条の使用者の責めに帰すべき事由との関係はどうなるのかという議論もあったかと思います。さらに,過失責任主義とここに言うところの536条2項の責めに帰すべき事由というものが労働契約あるいは役務提供契約の場面で同じなのか,違うのかという議論もあったと記憶しております。こうしたことも含めて考えましたならば,役務提供に特有のルールを作るのであれば,責めに帰すべき事由に該当する部分についての表現あるいはルール化については,個別に慎重にやっていただければと思います。   いずれ,役務提供契約の審議の際に申し上げるかもしれませんけれども,今日のところは以上で止めておきます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   他にはいかがでしょうか。前回の事務当局の御提案によりますと,民法536条2項の実質的内容を契約類型間の通則のルールとして維持することの要否は最終的に部会で決定することを前提として,仮に契約類型間の通則として維持するとした場合の関連制度の見直しとの関係,具体的には解除の要件としての帰責事由の要否等が問題になるわけですが,その関係で留意すべき点等を更に掘り下げて検討するため,分科会で補充的に審議をしていただいてはどうかと,こういう御提案でございましたけれども,この点については分科会に以上のような審議をお願いするということでよろしいでしょうか。あるいはもっとここで部会として議論しておくべき点があるということでしたら,御意見を頂ければと思います。   よろしいですか。雇用ないしは役務提供契約について賃金債権の帰すう等,特有の規定を設ける必要が更にあるかどうかという点につきましては,雇用契約又は役務提供契約の部分で別途,検討するということは当然の前提ということで,先ほどのような御提案に従って分科会での補充的検討をお願いするということに決めさせていただきたいと思いますが,よろしいですか。 ○佐成委員 確認ですけれども,確かに536条2項というのは,今,潮見幹事がおっしゃったとおり,そういう役務提供型の裁判例が多いということだと思うのですけれども,それ以外の物の給付に関わるものについても,当然,適用される可能性があり得るので,その辺も含めて補充分科会で議論されるという趣旨でよろしいのでしょうか。 ○鎌田部会長 はい。むしろ,全体に共通の通則として維持する場合にどのような問題があるか,どういう規定内容にすべきかということを主として検討していただくということです。 ○佐成委員 ありがとうございました。 ○中井委員 念のためですけれども,弁護士会としてはこの536条2項の規定については,通則として残す方向に賛成で,その内容についても実質的な規律を維持する方向に賛成です。そのときに責めに帰すべき事由という文言を,ここに義務違反というのが例として挙げられておりますけれども,その義務違反という言葉に置き換えることについては,慎重に検討する必要があるだろうし,山川幹事からも御発言がありましたけれども,それは狭いのではないかという意見がありました。したがって,というよりは,むしろ,これまで判例等で形成されてきた理解が帰責事由の中に共通のものとして成立していると考えておりますので,帰責事由という概念を残す方向の意見です。 ○潮見幹事 中井委員の発言がございましたから,一言申し上げます。判例等で形成されている536条2項の責めに帰すべき事由の枠組みというのは,先ほどから繰り返し申し上げておりますように,役務提供型でのものです。それが佐成委員がおっしゃられたような場面も含めて一般法理として立てられた場合に,判例法理として一般化することが可能かということに対しては,私自身は疑問を持っておりますので,もし,少し分科会で検討されるときには御留意いただければと思います。 ○中井委員 それなら,この部会でその疑問点を確認的におっしゃっていただくと大変有り難いのですけれども。 ○潮見幹事 労働契約の場面は,むしろ山川幹事に補っていただいたほうがいいのかもしれませんけれども,従来,民法の世界で責めに帰すべき事由と言われていたようなもの以外に,一種の領域説的な発想だとか,そのようなものも含めて帰責事由というものが捉えられ,さらに,それに対応して証明責任についても若干の修正が加えられているように伺われます。そのような状況が一般の債務不履行での危険負担等で問題となる場面での帰責事由の概念や議論と対応するのかと言われると,対応しないと思います。それは労働契約,役務提供に何か特有のものがあるからかもしれない。ですから,その部分も含めて検討していただいて,役務提供契約や労働契約で帰責事由として展開されているものの内実が,債務不履行や危険負担でいう帰責事由にそのまま一般化可能であるということであるのならば,それはそれとして受け入れられる余地はあると思いますけれども,しかし,そうではないとも思われますので,この点の検討を抜きにした中間省略はやめておいたほうがよいという意味です。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。   それでは,続きまして,「3 民法第534条(危険負担の債権者主義)の規定の要否等」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○松岡委員 解除に帰責事由は要らない,したがって,危険負担との関係を見直すことを前提にした意見ではあることを最初に申し上げておきたいと思います。その上で,甲案,乙案の二つがある中では甲案に賛成です。乙案ですと買主に物が引き渡されているが当事者の契約その他によってまだ所有権は移転していない場合において,偶然の事情によって滅失したようなときにも,買主はなお解除ができることになってしまいます。その結論は適切ではなく,物に関する有体的な滅失の危険が移転した時期以降に,買主が負うべき危険を解除権行使によって売主に転嫁することはできないという趣旨で解除権の制約を設けるべきだと思います。その意味で甲案に賛成です。   その上で,甲案は,管理可能性が移転した時期に加えて,更に登記又は登録も危険移転の基準に加えていますが,これは必ずしも適切ではないと感じます。たしかに,所有権が移転しますと占有が売主に残っていたとしても,占有改定が行われたと評価される場合がかなりあり,その場合には占有改定でも引渡しがされたことになり,危険も買主に移転します。これに対して,契約の中身によっては登記又は登録が先にされているが,実質的な管理可能性はまだ売主に残っていて,占有改定の合意もない場合において,目的物が偶然の事情で滅失したときは,管理可能性の残る売主が危険を負担すべきであって,解除ができないのはおかしいのではないかと思います。   やや古く異説かもしれませんが,川村泰啓先生がこの534条に関して,有体的危険に結び付いた意味では引渡しを基準とするが,観念的な所有権(タイトルとおっしゃっていたと思います)と結び付いた危険移転のルールは別であるという解釈論を主張されていまして,それは聴くべきところが多いと思います。もし,観念的なタイトルについて,契約締結後,その移転前に偶然の事情によってそれができなくなったりタイトルに制限が加わる事例についても規定するのであれば,それは引渡しや管理可能性の移転とは違って,正に登記や登録に結び付いた危険の移転として整理すればいいと思います。だから,細かく規律するのであれば,有体物の危険と観念的タイトルの危険を二本立てにすべきであって,そこまで細かいことは要らないというのであれば,今,ここで提案されているとおり,飽くまで有体的な物の滅失・損傷に関する危険に限定し,登記・登録は危険移転の決め手にはならないと思います。 ○鎌田部会長 他に御意見はございませんか。特に乙案支持説があるかどうかという点について,御意見があればお伺いしておきたいと思います。特に積極的に乙案を支持する意見はないと理解してもよろしいでしょうか。ありがとうございました。   イ,ウにつきましては……。 ○中井委員 アについて,弁護士会も甲案に賛成であるということを申し上げておきたいと思います。その上で松岡委員の御発言との関係で申し上げますと,基本的には危険移転の時期に関してですけれども,支配という点を重視して引渡しを基準とする考え方,これを基本とするところには賛成です。ただ,不動産の場合の登記の移転と引渡しの時期が異なった場合,通常はほとんど実務では同時決済されているので,問題が生じることは少ないとは思いますけれども,登記と引渡しが異なる場面では,弁護士会の各単位会によって結構意見が異なっております。   引渡しより前に登記の移転があったときは,登記を基準にすべきではないか,逆に,引渡しより後に登記がある場面については,原則どおり引渡しを基準とすべきではないかと,私個人は考えておりますので,先ほど松岡委員が二つの基準,二つの仕組みとおっしゃられたのか,それをどう整合的に理解されるのかがよく理解できなかったものですから,もし,今の私の意見と松岡委員の意見が違うかどうか,御説明いただければ有り難いと思いました。 ○松岡委員 分かりにくくて申し訳ありません。有体的な物の滅失・損傷の危険移転の要件は引渡しで足りて,観念的なタイトルの移転の障害については登記・登録を基準とすると分けて考えると申し上げました。したがって,中井委員のおっしゃった御意見とは,場合によっては結論に少しずれが生じます。 ○中田委員 今の観念的なタイトルの移転という言葉の意味なんですけれども,所有権の移転と危険の移転とをリンクさせるという考え方と今の御発言とは,どのような関係にあると理解したらよろしいでしょうか。 ○松岡委員 中田委員が御指摘のとおり,例えば広中先生などの学説は所有権の移転と結び付けて534条の制限的解釈を主張しておられます。しかしながら,詳しい理由をここで展開する時間的な余裕も能力もございませんが,所有権の移転と危険の移転を必ずしも一致させる必要はないということは,現行規定の立法時にも次のような説例で説明されていました。   当時,国会議員の資格は一定以上の財産を持って納税額も幾ら以上の者に限られていました。そういう被選挙資格のある人が今度,議員に出たいので選挙資金が要る。その資金として,一種の売渡担保なのでしょうけれども,不動産を担保に金を貸してほしいという説例で,被選挙資格を失うと困るので選挙が終わるまで所有権は移転しないという約束をしたときは,契約を結んだだけでは所有権は当事者の合意によって明らかに買主には移っていないけれども,534条をそのまま適用して債権者である買主が危険を負担する,と起草委員は説明していました。その結論の当否は別途問題になりますが,権利の移転と危険の移転は,観念的には別であると申し上げることができると思います。 ○鎌田部会長 今の例はそれでいいかと思うんですが,逆のケース,つまり所有権は移転しているけれども,占有が移っていないというときに危険は移転しなくていいのかという,そちらのほうはどうですか。 ○松岡委員 それは先ほどの発言で申し上げたつもりですが,所有権が移って,かつ,それにより売主が正に所有者になっている買主のために占有をしている場合ですと,両者間に占有改定の合意があって引渡し済みで,管理可能性も買主に移っていると考えて,占有移転の基準によっても目的物の有体的な危険は買主が負担することになろうと思います。これに対して,何らかの事情があって当事者間で所有権移転登記だけを先にするが,売主に自主占有が残っていて目的物を管理しており,代金と実際の物の引渡しがなお同時履行の関係にあるというようなケースが考えられまして,その場合には危険はまだ買主には移転していないと考えていいのではないかと思っております。 ○中田委員 この問題について分科会で更に審議するということですが,その前提について御確認をお願いしたいと思います。アの甲案を採った場合の括弧の中で,引渡しあるいは登記・登録ということになっていて,実質的管理可能説を基本としているようにも見えるのですけれども,他方で,所有権と危険等をリンクさせるという考え方もありますし,比較法的にもそういうものがあると思います。所有権とリンクさせるということは,分科会では検討の対象になるのか,ならないのか,それはここで決めていただく必要があるのだろうと思います。仮に所有権の移転時期とリンクさせるということになりますと,今度は物権法のルールとの関係が問題となってきまして,非常に大きな問題にもなります。そこで,分科会で何を前提に検討したらいいのかをここで確認していただければと思います。 ○中井委員 分科会で検討する範囲については,この後,確定していただければと思いますが,実務に照らせば,私の説明が間違っていれば,他の実務家委員から,御発言いただきたいと思いますけれども,基本的に特定物売買,典型的には不動産を考えたときに,契約をして危険の移転時期について合意があれば合意に従うのは言うまでもない。次に所有権移転についての合意があれば,基本的に所有権移転のときに危険は移転している,実務の理解としてはそうではないかと思っています。   危険の移転についての合意もない,所有権移転についての特段の定めもない。実際,余りそういう契約はないとは思うのですけれども,そのときに現実的な支配可能性の問題になって,引渡しを基準にすべきとなる。加えて,不動産の場合は必ず所有権移転登記が伴いますから,引渡しと所有権移転登記が前後したときにどのように考えるのか,登記が引渡しより先行したときはそのときで,登記が引渡しより遅れたときは,やはり実質支配管理可能性の引渡し時を基準にすべき。所有権との関係ではそのように実務では理解しているのではないかと思います。 ○松本委員 部会長の御指摘された点ですが,所有権の移転時期を危険の移転時期とすべきだという主張をする人がいたとして,所有権の移転時期がいつになるかはどうでもいいけれども,所有権の移転時期と一致すべきだという主張をされる方は恐らくいないと思うのです。したがって,その主張をされる方が考えている所有権の移転時期とはいつかということを明らかにしていただいた上で,それを物権法の言葉にしない形で規定できれば,恐らくここに書かれているどれかに多分,当てはまってくるから,所有権の移転時期をまず決めないと駄目だという議論はする必要はないんだろうと思います。 ○潮見幹事 松本委員と同じようなことを考えていたので,余り言うべきことはないのかもしれませんけれども,危険の移転が所有権とリンクするという考え方を仮に基本に据えた場合には,今の現行の534条1項だってどこが悪いのだということにはならないでしょうか。松本委員がおっしゃったことを裏返して言っているのですが,例えば今の場合には契約によって,意思表示によって所有権は売主から買主に移転するというようなことも言われておりまして,危険の移転についての特段の合意はないと場合に,売買契約を締結すれば所有権は買主に移ってしまいますから,このこと自体によって,危険は買主の負担となるというようなことにはなりはしないかという感じがいたします。   ここからが本来,言うべきことなのかもしれませんけれども,要するに危険の移転あるいは危険の負担ということを何にリンクするのかということで,中田委員の御発言にも少しありましたが,所有権の所在に注目をして,危険の移転あるいは危険の負担というものを捉えていくべきなのか,それとも,それとは違う実質的な支配の移転が何かあったことに注目をして,危険の移転あるいは危険の負担を捉えていくのかというところで基本的に考え方の違いがあろうかと思います。   そして,そのうちの正に松岡委員が言われた実質的支配の移転ということに危険の移転,危険の負担をリンクさせる場合,次にこの実質的支配の移転というのは何によって生じるのかということが問題になり,そこで,一つの考え方としては物の滅失とか損傷が問題になっているわけであるから,そこでは物の占有というものの所在が決定的な意味を持ち,その場合には引渡しということを基準に実質的支配の移転というものを捉え,かつ,そこに危険の負担も当然結び付けていこうというのが考え方としてはあり得るし,松岡委員がおっしゃられたのはこの立場であり,私もその立場です。もっとも,それとは違う形で実質的な支配を考え,占有の移転のみならず,登記だとか登録だとか別の徴ひょうがあれば,これは所有権の移転とは関係なしに,その場合にも実質的な支配の移転というものを認め,債権者危険負担になるとすべきだと考えるのも,また,一つの考え方かとは思います。   中井委員がおっしゃられた,弁護士会の方々あるいは実務家の方々が考えられている引渡しがなくても危険が移るというところで想定されているのは,所有権とリンクした危険の移転というよりも,むしろ実質的な支配ということが,単に占有にとどまらないということを捉えておられるのでないかという印象を持ちました。そうであれば,そのような形でむしろ条文化をし,更にそこに所有権を結び付けて説明したい人がいれば説明をすれば,それはそれで足りるのかなという感じもしないわけではありません。 ○道垣内幹事 一点,まず,感想なのですが,中井委員がおっしゃったところ,すなわち,所有権の移転時期についてあえて合意をしたときには,そのときに危険が移転するのではないかということに関しましては,それは所有権の移転時期を定めているともに,危険の移転時期を定めているという意思解釈の問題なのだろうと思います。仮に現在の判例法理を前提として,特定物売買においては,売買契約のときに所有権が移るというルールを一方で置き,しかし,危険の移転時期は別だと考えながら,他方で,所有権の移転時期についてあえて合意をしたときには,その時期に危険も移るというルールはなかなか置きづらいだろうと思います。   私が発言を求めましたのは,実は別の問題が主でして,松岡委員のおっしゃった学説のことなのです。が,タイトルないしは所有権の移転に係る危険移転という観念を入れるというのがよく分かりませんでした。つまり,松岡委員の具体的な説明を伺っておりますと,所有権の移転時期の話ではなくて全てが引渡しに係っているように理解できるところ,そのような御見解と,所有権ないしタイトルの移転に関わる危険の移転という話の関係がよく分からりませんで,御説明いただければと思います。 ○松岡委員 分かりにくくてすみません。私もうろ覚えなので,正確にお話しできるかどうか分かりません。例えば当事者の支配できない法令による権利行使の禁止や制約が行われた場合を考えます。当事者の合意に従えば既に権利が買主に移転しているのであれば買主がそういう危険も負担し,代金を支払わなければならない。しかし,まだ売主に権利が帰属しているのであれば,売主がその危険を負担する。この解除の話で言えば,履行不能により買主は解除ができることになるのでしょう。そういう例だったように思います。 ○松本委員 すみません,私も道垣内幹事と同じで,そこがよく分からないんです。契約締結後に当該物の取引が法令によって禁止されたという,英米法で言えばフラストレーションの場合を危険負担で処理をするということなんですか。 ○鎌田部会長 その辺の理論的な検討は追ってしていただくことにして,御指摘があったように534条については,所有権に基づいて危険は移転するという考え方は一つの考え方としてあるんですけれども,中田委員がおっしゃられたように,その考え方を採るのか,採らないのかが決まらないと規律が作れないかというと,正に潮見幹事もおっしゃったように所有者主義を採るか,採らないかにかかわらず,何をもって危険移転の徴憑とするかというところで,結論的には一致することがあり得るわけですね。現実的支配の内容をどう考えるかによっても変わってくるので,理論的な説明が先決問題で,そこが決まらない限りはできないとは考えなくてもいいのではないか。その上で分科会で御検討いただいている過程で,そこが決まらないとどうしても提案内容が一義的に定まらないということであれば,その点をまた部会のほうへ御提案いただければと考えますけれども,そういう形でよろしいでしょうか。 ○中田委員 私は,むしろ所有権とリンクさせるという考え方を,ここで排除するということが前提になるのかどうかを知りたかったんですが,そうではないということだと理解できましたので,了解いたしました。 ○中井委員 先ほどの私の発言について,潮見幹事と道垣内幹事からお話があったんですけれども,何も合意のないときに所有権に基づいて危険が移転するという考え方は採っておりません。支配が移転したときに危険は移転する。危険の移転については特段の合意はしていないけれども,所有権の移転について合意をしていたときはどうなのか,所有権移転時点で危険は移転するだろう。その理解の仕方としては道垣内先生がおっしゃったように所有権移転の合意というのは,そのときに危険が移転する合意があったということだろうと私も理解します。 ○鎌田部会長 他にはよろしいですか。ここは基本的に甲案の考え方が委員,幹事の異論のない考え方である。ただし,その中身は少し詰めて検討していただく必要がある。事務当局の提案では,基本的な方針が部会で決まったことを前提にして,規定の在り方について分科会で御検討いただくというふうなことであったと思いますので,アの論点については甲案を基礎として,具体的な規定の在り方について分科会で補充的に御検討を頂くということにしたいと思います。   イ,ウについては特にこの場で……。 ○岡委員 アで一点だけよろしいですか。弁護士会で議論しているときに,自動車については必ず登記・登録が先行すると,ナンバープレートを付けてから引き渡すので,類型的に登記・登録が先行するという話がございました。今,いろいろお話を伺っても,登記・登録があるから危険が移転するという考え方と,それから,占有の引渡しがあると見られるから,登記・登録のところで移転するという考え方と,所有権移転の合意があったと見られるから,そこで移転すると。何か,考え方も三つあって,そういうものをどう法律に表現するのがいいのか,それはどう考えたらよろしいんでしょうか。 ○鎌田部会長 多分,自動車の場合,特に新車の登録をした上で現実の占有を移すというときに,取引通念上,登録した時点で危険が移転してしまったとするのは実態に合わなくて,それは引渡しのプロセスの中の一段階でしかないというふうな考え方を採るべきだとしたら,そういった結論を妨げないような規定の仕方をすべきであるし,登録によって経済的利益は完全に移転しているんだから,利益は全部持っているのに,危険だけは他人に押し付けるのはよくないというふうな考え方であれば,そういう場合であっても登録で危険が移転するというふうな考え方を採るべきだというふうな,そういう理解も成り立つと思うんですけれども。ただ,取引実務にどちらがより適合的かというふうなことを,弁護士の方々あるいは取引界の方々からの御意見を伺いながら,実務に適合的な解釈を妨げない規定ぶりを,御苦労ですけれども,分科会のほうで御検討いただくということになろうかと思いますけれども,いかがでしょうか。 ○中井委員 分科会でお願いしたいと思います。先ほど私は不動産について登記のみを意識的に申し上げています。自動車についての登録がそういう問題になるとの指摘も受けておりますので,検討していただければと思います。 ○鎌田部会長 あと,イ,ウにつきましては特にこの場で御意見は出されておりませんけれども,こういった提案をした場合の問題点等について,分科会で補充的に御検討いただくというのが事務当局の御提案でございましたけれども,それに従って分科会で補充的な御検討をいただくということでよろしいでしょうか。それでは,そのような取扱いにさせていただきます。   続きまして,部会資料34の「第5 受領遅滞」について御審議を頂きたいと思います。事務当局から御説明いただきます。 ○新井関係官 それでは,御説明いたします。   「第5 受領遅滞」では,「1 効果の具体化・明確化」において現行法では不明確と指摘されております受領遅滞の効果を具体的に明文化することを提案するとともに,明文化を検討すべきと考えられる効果について本文で列挙しております。この点については関連する制度である弁済の提供(民法第492条)の効果の明文化を検討する論点との整合性にも留意しながら,検討する必要があると考えられます。   「2 損害賠償及び解除の可否,受領の強制」では,アにおいて受領遅滞の効果として解除及び損害賠償を,条文上明記することの要否等について問題提起しております。甲案は受領遅滞の効果として損害賠償及び解除を明記するとの提案,乙案は判例等を踏まえて合意又は信義則により受領を義務付けられている場合に,受領遅滞の効果として解除及び損害賠償を認めることを明文化するとの提案です。丙案はこの点について特段の規定を設けないとの提案です。イでは受領を合意していた場合に,受領の強制ができることを明文化するとの提案を取り上げております。   これらの論点うち,「1 効果の具体化・明確化」では,具体的な規定の在り方等を分科会で補充的に検討することが考えられますので,この論点につきまして分科会で検討することの可否についても御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いしたいと思いますが,「1 効果の具体化・明確化」につきましては,これまでの審議の中でも,具体化・明確化を図ること自体については,特に御異論のなかったところでございます。事務当局からは細部について分科会で補充的な検討をという御提案がございましたけれども,そのような取扱いをさせていただければと考えているところです。 ○松岡委員 補充的な検討でいいのかどうか,少し気になるのは,ウの特定物の引渡しの場合の保存義務が軽減される点についてです。そのこと自体には異論はないのですが,本文の説明にも出ていたと思いますけれども,受領遅滞により自己のためにする財産におけるのと同一の注意へと注意義務の程度が下がるのか,それとも軽過失は免責されて重過失・故意についてだけ責任を負うと,違反の程度を問題にする形で軽減されるのか,二通りの考え方があると思います。あるいは,そういうことを学理的に決めない,実質的にはそれほど差はないのではないかという指摘もあるようですから,どちらでもいいのかもしれませんが,それは分科会で検討して済む話でしょうか。この部会である程度,議論をしておいたほうがいいのではないかという気もするのですが。 ○鎌田部会長 何かお考えがあれば。 ○松岡委員 多数説は自己の財産におけるのと同一の注意へと変わると解しています。現行規定ですと,契約類型の中で自己の財産におけると同一の注意でよいという規定は無償寄託にしかありません。しかし,契約類型をもう少し一般化し,例えば民法研究会の提案のように無償契約一般に自己の財産におけると同一の注意義務を定めますと,最初から注意の程度の低い義務が定められている契約の場合に受領遅滞になれば,一体,どうなるのかが説明しにくいということもございますし,立法例としては紹介がありますようにドイツ民法は軽過失免責で義務の軽減を図っており,それを支持する少数説も十分あり得ると個人的には思っております。 ○山川幹事 資料53ページの効果の例示の中にアからオまでありまして,そのうちのオについては,これは危険の移転ということを,物権の設定又は移転を目的とした契約を前提として書いているものと思われますけれども,先ほど申し上げたこととも関連して,例えば役務提供契約における危険の移転ということが考えられるかどうか,これはお教えいただきたいというお話です。この点については,新版注釈民法で潮見幹事が書かれておられますけれども,そこでは役務提供契約について危険の移転的な発想が示されておりまして,そうだとすると先ほどのような労働関係の取扱いにも影響を与える可能性があると思われます。ただ,55ページの下の3にありますように,先履行義務の消滅というのは,危険負担とは別の問題で,それを規定することは不要かとは思っておりますけれども,それとは別に,役務提供契約における危険の移転というものをどのように考えるか,あるいはそれが分科会等で議論の対象になるかどうか,その辺りを可能でしたらお教えいただければと思います。 ○潮見幹事 まず,山川幹事がおっしゃられたところからですけれども,私は確かそんなことを書いたと思います。というか,むしろ,一般論として役務提供契約を排除するものではないということと,それから,これはどこでどう議論したらいいのか分かりませんけれども,役務提供契約の場合に既に受領遅滞自体に帰責事由がある場合,ない場合のそれぞれをどのぐらい広く取るか,また,そこにおいて履行遅滞があると捉えるのか,履行不能ありと捉えるのかによって,通例の危険負担の処理から落ちてくる場合があります。そういう場合に受領遅滞後の不能ということがあり得るので,そのことをコメントしたものです。逆に言えば,今のところからお察しいただけるかと思いますけれども,特に役務提供型の場合にこんな場合はないということであれば,それはそれとして,しかるべき処理をすれば十分であって,わざわざ受領遅滞のところで細かな手当てをする必要はないと思います。   それから,先ほど松岡委員がおっしゃった部分ですが,何からの形で受領遅滞後にどうなるのかというのは,明確に示しておいたほうがいいのではないかとは思うのですが,どのように示したらいいのかはかなり難しい問題があると思います。自己の財産におけるのと同一の注意という形での軽減というのは,それなりに理屈は立つんですよね。本旨に従った履行の提供がされて,それを受領しなかった,相手が受け取らなかったのだから,あとは自らの財産と同一のレベルで保管をすれば足りるのだという一般化が可能であるということならば,自己の財産における注意ということで説明はつくのですが,これに対して,重過失に変わるというときには,どうして重過失に限定されるのかというのが分かりにくいかもしれません。   無償の場合もおっしゃるとおりで,当初から自己の財産におけるのと同一の注意であれば,受領遅滞が起ころうが,後は変わらないではないかという御指摘はごもっともだと思います。そういう場合に,無償の場合に,それぞれの個別の問題となる無償契約の類型で何か各則的な規定を置くのが好ましいのであれば,そっちのほうがいいのかなとも思います。故意,あるいはそれに準ずる重過失という形で負担軽減をするというのもあるかもしれません。   もとより,債権者は受け取らなかったんだから,あとは債務者自身が自分の財産の同一のレベルで保管すればいいと言いましたが,契約の中で債権者が受け取らなかったことを想定したような形でのルールを明確な形で示してはいないけれども,何からの形で当該契約書等から読み取れるような場面では,果たしてそういうところを考慮しなくていいのかという問題もありそうです。もちろん,任意規定だから,それでいいと言われればそうかもしれませんが,こうした問題も若干あるということを申し添えておきたいと思います。   あわせて,もう一つ,質問とは関係なく,問題提起をしておきたいことがあります。それは,結果債務と分類されている債務の場面で受領遅滞が生じたときに,その後の債務者の債務は一体,どういうふうなことになるのかということです。その債務はもはや結果債務ではなくなるのでしょうか。それとも,手段債務と言っていいのかどうかはともかく,合理的な注意を尽くして保管をすれば,それで免責されるようなことになるのかは,考えておく必要があると思います。   フランス法につまびらかではないので,詳しい先生方に補っていただければと思いますけれども,フランスの場合に結果債務という議論はありますが,他方,受領遅滞というような発想は確か,ありませんよね。そうなると,結果債務というようなものを受領遅滞の枠組みで構成したときにどうなるのかというのは,正直に言って,余り詰められていないのです。   少し聴いた話ですと,フランスでもこの辺りの議論はなさそうで,手段債務的になってしまうというような考え方もあるし,また,その一方で,結果債務で受領遅滞が生じた場合には,日本流に言ったら債務者の責めに帰することのできない事由による債務不履行という枠組みで不可抗力を拡張して捉えていけば足りるというような考え方もあるようですので,その辺も含めて,知恵を出したほうがよいと思います。   お答えと感想と意見です。 ○山本(敬)幹事 補足をさせていただければと思います。今,潮見幹事がおっしゃられた点についてですが,結果債務の場合,物の引渡債務をお考えいただければと思いますけれども,引き渡された物に損傷があったという場合に,一定の性質を持った物を引き渡すことが契約内容になるという考え方を採りますと,損傷があれば,不履行というか,瑕疵かというかは別として,契約責任が問われることになるはずです。   そのときに,売主ないしは債務者の側に過失がなかったことは,免責事由にはならないという考え方を前提としますと,債務者が保存義務を尽くしていた,つまり善良な管理者の注意をもって保存していたということ自体は,免責事由にならないことになります。もちろん,不可抗力等によって損傷した場合は免責されるけれども,保存義務を履行していたこと自体は免責事由にはならない。ここで,受領遅滞の効果として保存義務が軽減されることが,それとの関係でどのような意味を持つかということが問題になるというのが,今,潮見幹事が指摘された問題だと思います。   これは非常に難しい問題なのですけれども,私自身がこうかもしれないと思うところを申し上げておきますと,目的物に損傷があった場合に,契約の不履行に当たる。したがって,このままですと,損害賠償責任が認められることになるわけですが,債務者の側が提供して,債権者が受領しなかったということが示されれば,損傷があっただけでは責任を問われることはなくなる。この場合は,その後,軽減された注意義務を尽くさなかった結果として損傷が生じたことが示されれば,それが債務不履行であって,損害賠償責任を基礎付ける。  理論的に言いますと,元々は契約上,一定の性質を備えた物を引き渡すことが契約の内容として合意されていたわけですけれども,受領遅滞があった場合には,その後は軽減された注意義務をもって目的物を保存し,それを引き渡すという債務内容に言わば変化するという説明をするのではないかと思います。   いずれにしましても,証明責任とも関係するところでして,先ほど言いましたことをもう一度言い直しますと,債権者側が,目的物に損傷があり,それによって損害が生じたということで損害賠償を請求するのに対して,債務者側は,債権者側に受領遅滞があったと言えれば,それで,損傷があったということのみに基づく損害賠償請求は阻却される。それに対して,債権者側が,確かに受領遅滞があったかもしれないけれども,債務者は軽減された保存義務を履行しなかった結果として損傷が生じていると言えて初めて,損害賠償請求が認められる。つまり,債務者側が自分は軽減された注意をもって保存する義務を尽くしていたことを主張・立証する必要はなく,飽くまでも不履行があったことを債権者側が主張・立証する必要があるという仕組みには変わりないと思います。少し細かなことを言いまして申し訳ありませんが,以上のとおりです。 ○松本委員 よく分からないんですが,これは私が最初に問題提起した話と密接につながっている論点だと思うんです。400条廃止論からいけば,履行期に約束されたものを約束されたとおりに渡さなければならないだけの話だから,軽減の基になる義務は何もないわけです。そうすると,それ以降の軽減ということは無意味になってくる。受領遅滞以降の保存義務というのは何ぞやということを裸で考えなければならなくなってくる。そこで,潮見幹事が自己のために保存する義務でいいのではないかとおっしゃった。恐らくそれが答えだと思うんです。ところが山本敬三幹事はまた別のシチュエーションを出されて,引渡しのときに既に欠陥,瑕疵が生じていると。それは伝統的な意味での責めに帰すべき事由かどうかとは関わらない,言わば厳格責任的な意味の非常に重い責任であると。   しかし,受領遅滞があると既に生じている瑕疵についても責任が消えてしまうと,簡単に言えば,こういうことですよね。その場合にどうして遡って責任が消えてしまうのかというところが分からないんです。伝統的考えからいけば,前に帰責事由がなかったんだから責任はないということで分かりやすいんですが,受領遅滞があった場合のみ,遡って責任を負うということの意味が。 ○山本(敬)幹事 正確に言いますと,問題を単純にしたほうがいいと思いますので,契約時には特に瑕疵も何もなかった。提供して債権者が受領拒絶したときにも瑕疵はなかった。しかし,その後,債権者がその物を持ち帰って保存しているときに瑕疵が生じた。それを債権者に実際に引き渡したら,瑕疵があるではないかということが問題になったという場面について申し上げたつもりですので,前提が違うのではないでしょうか。 ○松本委員 そうなんですか。受領遅滞後に発生した瑕疵で,しかも保管している債務者に帰責事由がある場合を念頭に置いておられるということですか。私は,履行期に既に瑕疵があった,受領遅滞時に既に瑕疵があった場合を想定されていると思ったんですが,違うんですか。 ○山本(敬)幹事 違います。 ○道垣内幹事 お二人が議論されて,分からないとおっしゃっている点につき,私がここで気が付くような問題を議論されていないとはとても思えないので,申し上げるのが恥ずかしいんですが,確認のためにあえて恥をかきますと,それは危険負担の問題ではないのでしょうか。危険が仮に1のオで移っていて,そこにおける責めに帰することのできない事由というのが自己のものと同一の注意を払っている場合だとしますと,そのように債務者が自己のものと同一の注意を払っていても生じた損傷の危険は債権者が負担するという話では済まないのですか。 ○山本(敬)幹事 今,問題にしていたのは,飽くまでも保存義務違反に基づく損害賠償請求の場面でした。 ○道垣内幹事 それはそうなのでしょうが,損傷が,必要とされる注意を尽くしていないことによって生じたのであれば,それは損害賠償の問題になるわけですが,注意を尽くしているという状態で滅失したというのは危険負担の問題になる。だから,債務内容が変容するということの意味が私にはよく分からないのですけれども。 ○鎌田部会長 あえて言えば,債務者の責めに帰すことのできない事由であるかどうかの判断基準が受領遅滞の前と後では水準が変わりますという,そういう話だと理解しているんですが。 ○潮見幹事 問題になるのは,もう一度,申し上げますと,売買の引渡債務のような結果債務の場合に,債務の本旨に従った履行の提供があったという前提で,債権者がそれを受領しなかった,あるいは受領を拒絶したということによって受領遅滞という状態が発生したという場合です。この点は先ほどの松本委員と山本敬三幹事のやり取りから察するに,お二人の間で一致していると思いますし,道垣内幹事もこれを前提に議論をされているものだと思います。   さて,その後,受領遅滞が起きた後,売主の引渡債務と言われている債務が結果債務のままなのか。そうであれば,受領遅滞後に再び提供があり,その提供が不完全なものであった場合に,これは結果債務としては不履行ですから,損害賠償の問題が出てきます。そこで,免責事由という形で,具体的過失の意味での保存義務を尽くしたということを理由とする免責が認められてよいのでしょうか。従来の言い方をしたら,結果債務を理由とする損害賠償の免責は不可抗力免責なのでしょうが,受領遅滞の後は無過失の抗弁が立つといったならば,結果債務だということと矛盾しないのか。そこをどう説明するのかです。   しかも,過失については債務者側が無過失の抗弁という形で証明責任を負うところが,もし,債務が結果債務ではなくて,手段債務的なものになってしまった場合には,債権者の側で保存義務の違反があったことについての証明責任を負うことになりはしませんか。   これらのことを含めて,受領遅滞後の債務の在り方というものがどのようなものかを考えておく必要があるのです。山本敬三幹事は,受領遅滞前は結果債務として捉えられていたようなものも,受領遅滞後は債務の内容が,債務者の注意を尽くした保管という内容に変わ理,それが債務の内容になっているんだという理解をしているのではないでしょうか。 ○道垣内幹事 余り結論は変わらないと思いますので,理論的な議論をどこまでしてよいのか分かりませんけれども,履行がなされるまでの間の危険負担が売主側にあるから,結果債務であるというだけの話であって,危険が買主に移転するということは,滅失した部分に係る債務は消滅するのではないのですか。そうすると,結果債務から性質が変わるという話のものではないのではないでしょうか。結論が異なりますか。 ○潮見幹事 違う。 ○道垣内幹事 違うのですか。 ○鎌田部会長 結果債務という概念の中に,どういう内容を盛り込んで議論するかによっても,議論の仕方が変わってきてしまいますので,法的性質論に関わる部分については宿題にさせていただければと思います。   松岡委員から御提案のあった点ですけれども,400条廃止論を採ったときに,この規定はどうなるのかということも関連してまいりますし,保存義務の軽減というような規定で果たして妥当なのか,もうちょっと具体的に書くときに,内容は典型的には有償契約と無償契約でも変わってきてしまうだろうから,そこのところをもうちょっと明確にすべきであるという,こういうことですけれども,大変,もっともな指摘ですし,そういう問題があるということは部会資料にも書かれているところですので,どちらを前提にして規定内容を検討してくれということをここで決めてしまうよりも,部会の御検討の中で,こういう案とこういう案があり得ますというのを出していただいて,何を部会においてきちんと議論する必要があるかということを具体的な規定の形で出していただいた上で,最終的に部会で御判断を頂いたほうが効率的ではないかなという気もします。 ○松本委員 今,部会長がおっしゃったことをもう少し具体化することかもしれないんですけれども,正にウの話は400条廃止論の話との関係の検討が必要だし,オも恐らく危険負担廃止論との関係を見なければならないわけです。危険負担廃止論を採ると,債務の履行期までは危険負担ということは考えないけれども,履行期に受領を拒否した場合には,危険負担というものが表れてくるという立場にこのままだとなるわけで,危険負担という制度を全廃するのであれば,オももう少し別の何かにしなければならないということだろうと思います。 ○山本(敬)幹事 まず,松岡委員の問題提起に対する部分ですけれども,確かに責任を債務者が負うか,負わないかというレベルだけで見ますと,どちらの定め方もあり得るとは思いますが,保存義務に関しては,やはり履行請求もできることを前提にする必要があると思います。そうすると,重過失という書き方は,少なくとも履行請求を問題にする場面では適当な用語ではないとしますと,自己の財産に対するのと同一の注意と表現するかどうかは別として,もう少し履行ができるような形で定める必要があると思います。   次に,松本委員の御指摘の点に関しては,「危険の移転」の意味の問題でして,危険負担制度の下での危険の移転と読むこともできるわけですけれども,解除一元化論を採用する場合には,解除ができなくなる時点がいつかという意味で「危険の移転」という言葉が使われると考えられます。したがって,その点についてどのような立場を採るにしても,この意味での「危険の移転」を規定する必要があるということではないかと思います。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。今,いろいろと御指摘のあった点を踏まえて,分科会での問題点の検討というのはなかなか難しい仕事かと思いますけれども,分科会で……。 ○中井委員 時宜に遅れているかもしれませんけれども,今,ウからオについて議論があったんですが,イの同時履行の抗弁権の消滅について,遅滞の効果の部分と引換給付の部分について,どのような考え方で分科会に整理をお願いするのか,この部会でも議論しておく必要があるのではないでしょうか。 ○山本(敬)幹事 部会資料のイでは,「同時履行の抗弁権の消滅」ということが挙がっているわけですけれども,これは,債権者が債務者の不履行を理由として損害賠償を請求するという場面の問題と,債権者が債務者に対して履行請求するという場面の両方で問題になると思います。   このうち,債務不履行を理由として損害賠償を請求する場合に,債務者が債務を履行していないとしても,なぜ履行していないかというと,同時履行の抗弁権があるから履行していないときは免責がされる。つまり,債務を履行しないことに正当な理由があるので,免責される。この場合に,受領遅滞があったので,同時履行の抗弁権は認められないという理由で,債務不履行に基づく損害賠償請求が認められるというのはよいかもしれないけれども,債権者が債務者に対して履行請求をする場面では,たとえ債権者に受領遅滞があったとしたとしても,それで請求を認容してしまってよいのか。債権者としては,引換給付が認められれば,それで利益を確保することはできるわけだから,ここで同時履行の抗弁権を否定してしまうのは問題ではないか。裁判例を見ても,この場合は同時履行の抗弁権を認め,引換給付判決を認めている。そうすると,単純に「同時履行の抗弁権の消滅」と言ってしまうのは,問題があるのではないかということです。 ○鎌田部会長 受領遅滞まで待たなければいけないのか,弁済の提供でいいのかというのも,更に検討の対象になるかもしれません。 ○岡委員 弁護士会で中井さんが言ったように,イについて引換給付の抗弁は残るのではないかという意見とアの履行停止権の発生,これについても慎重意見がそれなりにございました。 ○鎌田部会長 他にはよろしいでしょうか。   「2 損害賠償及び解除の可否,受領の強制」についての御意見を頂ければと思います。 ○岡委員 2のアについては,甲案,乙案,双方の意見がございました。ただ,議論しておりますと,乙案のように絞る実益は何なのかと。ほとんどの場合,合意により受領義務はあるのではないかと,そういう意見は強かったものの,全てについて受領義務があると法律で言い切ってしまうのは,不安が残るねということでございました。甲案,乙案でどこに違いがあるのか,本当はないのかもしれないけれども,乙案のほうが安心できるねと,そういうのが弁護士会の多数意見でございました。   イにつきましては反対意見が圧倒的でございました。 ○鎌田部会長 他にはいかがでしょうか。 ○潮見幹事 イは,私はあってもいいと思いますが,別にこだわりません。   アですが,特に損害賠償の辺りなのですが,この規定が契約上の債権関係から生じる債権のみに適用されるのか,それとも不法行為を理由とする損害賠償請求権にも適用があるのかということも考えて議論しないことには,例えば甲案を採ったような場合ですと,被害者が受領しない場合に,債務者による損害賠償請求ができるというようなことにもなりかねません。加害者が賠償金を持ってきたけれども,被害者が受け取らないと,受領遅滞だ,損害賠償だとなると,もちろん何が損害かというのはまた別に残りますが,それども問題があると思います。実際,今申し上げたことは,債務不履行説を全ての債権関係に展開するのは問題ではないかという論者が根拠としていることの一つです。ただ,もちろん,この規定自体が契約上の債権に関する規定であり,法定債権についてはまた別の規定で対処するとか,準用規定を置くということになると,今の前提は崩れます。 ○鎌田部会長 他に御意見は。 ○佐成委員 経済界での議論の状況でございますけれども,アの論点については,特段こだわりがあるわけではないのですが,乙案の,判例を明文化するという方向性は一応支持できるのではないかというところかと思います。イについては,受領強制まで認めるのはやや実務感覚としては行き過ぎではないかという意見がありました。 ○道垣内幹事 今の佐成委員の話はよく分かりました。これに対して,弁護士会において,イについて反対であるという話については,二通りがあり得ると思うのです。つまり,受領義務を認めることは妥当でないというのと,補足説明の中にもありますけれども,認めるべき場合というのもあるだろうけれども,それは信義則等で対応することによるべきであり,明文の規定を置くことによって合意がないときには受領義務がないともなりかねないので,妥当でないというのとあると思うんですが,いずれのお考えの下で反対ということだったんでしょうか。 ○岡委員 ちょっと記録を見ますので,進行しておいていただければと思います。 ○松本委員 受領義務を強制するという場合の強制の方法は,間接強制ぐらいしか考えられないですよね。それを念頭に置いているわけですか。一般論として,代替執行としての代替受領もありですか。今,登記という話が出ていますけれども,特殊なタイプのものは当事者の意向と一切無関係に受領義務を実現できるということがあるかもしれないけれども,そうでない場合に受領強制ということが実態として何を指すのか。間接強制でもって,受領するまでは一定の金銭を払い続けろなんていうのが適切なのかというと,ちょっと,それは違うのではないかなと思います。受領強制ということが字義通りの受領強制ではなくて,単に受領義務違反に対する一定のサンクションを与えるという意味であれば,解除とか損害賠償はどうかという議論は十分やれると思いますが,強制という言葉にこだわるとなると,一体,何を念頭に言っておられるのかという疑問がございます。   それから,もう一つ,前の話に戻りまして,1のアの括弧の部分,「債務者の履行停止権の発生」の部分について慎重論だ,疑問があるというのが弁護士会の意見でしたが,55ページの解説を読むと,履行停止権とは何ぞやというのが分かりにくいところがあります。弁済の提供を継続しなくても,債務不履行責任等を問われないという意味であれば全く問題ないんですが,債権者の側が履行請求をしてきても拒める権利がずっと続くというのでは,何か,おかしな感じがするんです。債権者が履行に協力する姿勢を示すまでは,債務者の履行停止が正当化されるべきだという点は,単に弁済の提供を続けなくてもいいということを言っているだけであれば,あえて履行停止権と言わなくてもいいわけです。債権者が気を変えて履行請求をしてもなお拒めるんだということであれば,履行停止権あるいは履行拒絶権という言葉を使ってもいいかと思うんですが,一体,これは何を意味しているのか,私もよく分からないので,弁護士会が慎重論というのは恐らく意味が分からないということかなと思います。 ○鎌田部会長 履行停止権の点については,御指摘のようにどういうことなのか,もっとはっきりさせた上で,どう対応するかの御検討を頂くようにしたいと思います。 ○岡委員 道垣内先生の先ほどの質問でございますが,記録を見ると,受領強制できる場合があるというのは認めた上で,それは債務不履行の一般論に任せればよく,あえて明文化する必要まではないのではないかと。この場合にだけ明文化すると,それ以外の場合にどうなるか,分かりにくくなると,こういう意見が多うございました。   履行停止権については催告だとか,受領を希望した場合においてどのような帰結となるか,全体像がよく見えないから慎重にしてほしいという意見が多かったようでございます。 ○中井委員 2に戻りますが,資料で57ページの上の(2)の真上ですけれども,私も弁護士会の多くは乙案ですが,仮に乙案を採った場合で損害賠償ないし解除ができるとしても,そのとき,受領しなかったことについて債権者の帰責事由が必要となる,としています。私は,基本的にそうではないかと思っていますが,教えていただきたいのは,債務者に帰責事由なくして解除できるという考え方を採る場合に,債権者に受領義務を合意で定めたときに,この受領義務の遅滞ないし場合によっては受領できない不能という場合もあるのかもしれませんけれども,そのときには債権者側の帰責事由なるものを観念されているのか,それとも,それも要らないというお考えなのか。 ○鎌田部会長 どなたからでも。  受領遅滞,受領不能も債務不履行の一態様であると考えれば,要件的には同じに考えるということになると思いますが,そうではないというふうな考え方があるでしょうか。 ○潮見幹事 そもそも,受領義務が何を意味しているのかについて,幾つかの異なる考え方があります。大別すると,本旨に従ってされた履行を合理的な注意を用いて受領するという作為を内容とする義務として捉える立場と,そうではなくて,受領することへの規範的拘束を受けた一般的な地位として,受領義務なるものを捉える考え方とがあろうと思います。   前者のような考え方を採った場合には,受領義務を尽くしたか否かという部分で,帰責事由の問題はクリアされていますから,改めて帰責事由があったかどうかという議論自体は不要なものになります,他方,受領義務といった場合に,何もその時点において債権者が合理的な注意を尽くして受領したかどうかに限らず,後者の観点から結果債務的なものというように捉えたときには,債権者の債務不履行を理由として債務者が損害賠償を求めるとなると,免責事由の問題が出てきます。しかしながら,いずれにしても,受領しなかったという債権者の行為を捉えて,債務者の債務不履行と評価し,債務者の側が何らかの救済を求める場面では,債務者がどのような救済を求めることができるのか,その場合の要件効果がどのようになるのかということに関していえば,免責事由の問題も含め,何らかの特別扱いをする必要はなく,鎌田部会長が言われたような債務不履行の一般準則に従い,その枠組みの下で粛々と考えていけばいいのではないかと思います。 ○山野目幹事 アの論点でございますけれども,丙案もあり得るという意見を申し述べさせていただきたいと考えます。乙案は当然といえば当然のことでございますし,甲案のように一般的に受領義務を認めるという考え方にはちゅうちょを感ずる部分がございます。そのようなことから丙案が十分あり得ると考えますし,今しがたの潮見幹事の御発言ではなくて一つ前の潮見幹事の御発言で,不法行為に基づく損害賠償請求権のことをおっしゃったのですが,契約に基づく債務不履行の場合にも,不法行為に基づく損害賠償請求権と実質はかなり近いようなものもあるものでございますから,やはり,その点が危惧される部分が,ここの規律が契約に限ると考えても残るであろうと考えます。  それから,今しがたの潮見幹事の御発言にありましたように,受領義務という概念の人によっての理解と言いますか,どういう輪郭,概念把握で考えるかということについて,論議が熟していない部分があるのではないかとも感じます。そのようなことを総合して考えたときに,従来どおり,解釈に委ねるという考え方もあり得るものであるということを申し述べさせていただきたいと考えます。 ○鎌田部会長 他に御意見はいかがでしょうか。 ○山本(敬)幹事 私も迷うところではあるのですけれども,少なくとも先ほどの御質問との関係で言いますと,受領遅滞の場合の損害賠償及び解除の可否については,可能な限り,一般原則に基づいて解除や損害賠償が認められるということは,確認しておいたほうがよいと思います。その意味では,甲案は,先ほどのような潮見幹事の御指摘や山川幹事の御指摘もありますし,契約に限ったとしても,契約の趣旨に関わりなく損害賠償や解除ができるかのように受け止められるとしますと,一般原則とどうも平仄が合わないのではないかと思います。   そうしますと,丙案でもよいわけなのですけれども,ただ,部会資料でも指摘されていますように,仮に何も書かないとしますと,従来の議論を前提にすれば,受領遅滞の場合については損害賠償や解除は結局認められなかったのであると受け止められる可能性もないわけではありません。そこが一番悩ましいところです。その意味で,確認のために乙案のような書き方で定めることも,あり得るかもしれないと思います。ただ,その場合に,乙案の2行目に「受領遅滞の効果として」とあるのは,ミスリーディングなところがありまして,やはり債務不履行及び解除の一般原則に照らして損害賠償及び解除が認められることは,確認しておいたほうがよいのではないかと思います。   併せて指摘しておきたいのは,債権者側が負うかもしれない義務の非常に重要なものの一つが受領義務であることは確かかもしれませんが,契約によっては狭い意味での受領義務以外に,様々な協力義務とでも言うべき義務を債権者が負うことがあると思います。その義務違反を理由とした損害賠償や解除も当然考えられるところでして,それは一般原則に照らして,その要件を満たす限りは認めてよいのだろうと思います。そうしますと,乙案のように受領遅滞について特に規定を置くとしますと,受領遅滞の効果として書くと余計にそうなのですが,受領遅滞の場合はこれにより,その他の協力義務違反は一般原則によるというように根拠規定が違ってくるような説明になるのはよくないでしょう。むしろ,これは一般原則によって認められるものであり,受領遅滞については疑義が生じないように確認のために規定したというような説明が必要ではないかと思います。 ○鎌田部会長 他にはいかがでしょうか。 ○中田委員 私も今の山本敬三幹事の御意見とほぼ同じことを考えておりました。乙案について,更にもう一つ,当事者の合意又は信義則によりという,この部分が必要かどうかがよく分かりません。他にも担保提供義務ですとか,担保保存義務とか,義務付けられている場合の効果を考えることがあり得るわけですが,発生原因を書くかどうか他の規定とのバランスも考える必要があるかなと思いました。   それから,受領義務について様々な概念があるということは,今まで出ているとおりでありまして,その意味でも,イについての規定を置くかどうかは別にして,受領義務というのと,それから,受領を強制することまでできる場合というのと,少なくとも,そこは二段階あるんだということは確認しておいたほうがいいのかなと思いました。 ○鎌田部会長 受領義務はあるけれども,強制はできないという場合があり得るということですね。 ○中田委員 受領義務違反というときに,一体,何を意味しているのかということが問題になると思います。そのときに受領強制までできるという義務を観念するのではなくて,そこまではいかないけれども,一種の協力義務のような間接義務としての受領義務というのを区別して観念しておくほうが,他のところでも議論が整理しやすいのではないかということです。 ○鎌田部会長 すると,アのほうでも受領義務があると一旦認定されると,当然に損害賠償も解除も,解除には重大な不履行という要件がかぶるのかもしれませんけれども,可能になりますが,従来の議論では損害賠償までは認めるけれども,解除はいかがなものかというようなことも含めて,債務内容に応じて効果もいろいろに考えていたのかもしれません。それが,全体としては受領義務があるかないかということで,全部一律に決まりそうな提案内容になっていないかということもちょっと気になるんですけれども,効果のほうはどうなんでしょうか。債務不履行と解除も,山本敬三幹事は,それも普通の債務不履行と同じ枠内で考えればいいとお考えですか。 ○山本(敬)幹事 解除についても,解除の一般的要件を満たしたと評価できる場合には,解除を認めてもよいということです。 ○松本委員 私も今の山本敬三幹事の意見にかなり賛成したいです。受領遅滞,受領義務のみを特出しするというのは,今までそれについての条文もあって議論がされていたからなんでしょうけれども,確かに債権者の様々な義務という観点から考えると,その中には,その義務違反について一定のサンクションが課されるタイプの義務もあるだろう。損害賠償に結び付きやすい義務,それから,場合によっては解除に結び付く義務がある一方で,受領強制と結び付く場合というのはやはり非常に限定されているんだと私は思います。間接強制ということで受領するまで金銭を払えという形の強制は,相当,限定されていて,多くは解除か,損害賠償でけりを付けるべきだろうと思います。だから,そういう趣旨をうまく一般的な条文として組み込めれば,他の分野での条文化にも影響が出てきていいのではないかと思います。   それと別に,先ほどの1の部分の法定効果,どれも法定効果といえば法定効果なんだけれども,サンクションの中のかなり小さなサンクションについては,受領遅滞の従来の議論の蓄積として明文化して,大きなサンクションの部分は,もう少し債権者の債務不履行一般的な感じにして書くほうがいいという意見です。 ○中井委員 先ほどの質問に対するお答えについては理解をいたしました。それとの関係で,また戻って恐縮ですが,受領遅滞の1の効果の具体化・明確化のオについてです。これも先ほど松本委員からも御発言があったと思いますが,ここでは危険が移転する,危険を債権者が負担する,こういう記載になっています。いわゆる危険負担制度をなくす,いわゆる解除一元化の考え方を採った場合は受領遅滞後,つまり債権者が負担するということは,解除ができないという構成が考えられる。   そうすると,もう一つ前に戻って49ページの3の534条のところの危険の移転についても,確か松岡委員もその趣旨の御発言があったかと思いますけれども,危険の移転時期を引渡しと定めたとしても,引渡し以降に滅失した場合に解除できないという書き方が想定されるのか。534条の書き方は幾つかあろうかとは思いますけれども,いずれにしろ,解除を原則にすることによって,解除できる時期や場面の変更というのが,あちこちに入ることが想定できるわけです。前の解除の要件のところに戻ってしまうんですけれども,そのような構成になること自体が分かりやすいのかということについては,改めて指摘をしておきたいと思います。 ○内田委員 今の危険の移転とか,あるいは危険負担という言葉の使い方ですが,ウイーン売買条約はいわゆる危険負担について,契約の解消はもちろん解除一元化なのですが,しかし,危険の移転と題する独立の章を持っていて,危険移転についての詳細な規定を置いています。ですから,危険負担の廃止という言い方はミスリーディングで,534条1項の危険負担はやめて,その場面は解除で処理しましょうというだけであって,危険とか危険負担とか危険の移転という言葉が使えなくなるわけではありません。どういう用語で条文を書くか,全てを解除ができる,できないと書くか,それとも危険という言葉を使って書くかは,いずれも可能なわけですが,もう少し後の段階で決めてもいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。 ○潮見幹事 2のアに戻りますけれども,話としては二つのことがあったと思います。   一つは,債権者が受領義務を負うという部分の表現が「受領」では狭くて,その他の協力義務みたいなものを負うということが適切であろうという何人かの御意見で,私もそのほうがいいと思います。ただ,そのときに気になるのは,先ほど部会長がおっしゃられたことなのですが,受領その他の協力義務が仮にあった場合の効果がどうなるのか,条文でそれをどう書くのかです。損害賠償,解除,これらは別に構わないんですが,それだけでいいのかということです。先ほどの岡委員の紹介された弁護士会のもう一つの意見などというのがあったものですから,若干,気になりました。   気になったのは,契約関係に限って申し上げますと,受領義務や協力義務があった場合に,それを債権者が尽くさないときに,受領遅滞のところに明文の規定を置かなければ,受領義務,広くはこれらの義務の履行強制をすることができるのか,できないのかということです。受領遅滞の箇所に受領強制のことを書かなければできないということならば,受領強制は認めるべきでないということにしたいのならば,受領強制なるものを書かなければ済むことですが,弁護士会の一部の方々はこれで納得されるのか。逆に,債権法の一般原則として履行強制ができるということを前提としたとき,受領強制は認めるべきでないということにしたいのならば,受領強制はできないと明文で書かなければならないのか。少しだけ気になりましたものですから,発言させていただきました。 ○深山幹事 今の潮見先生の御発言と関連もしますが,先ほど来,お話が出ているように受領義務の捉え方自体がいろいろ従来の議論としてはある中で,今,ここで議論しているのはどういう義務を前提にしているのかなとずっと分からないまま聴いていたんですが,ここまでの議論を聴いて,大分,頭がクリアになりました。クリアになったという意味は,通常の債務不履行を議論するときの義務に限りなく近い受領義務を観念して,そうであるがゆえに,その効果として解除や損害賠償の議論につながっていくという議論であると理解しました。   そうなると,要件についても債務不履行の要件がそのままかぶってくるという整理をされる御発言があって,特段,それに異論がないようなので,それならそれで一つの理解として分かるんですが,そうなったときにどうかなと思ったのは,潮見先生が言われたイのところです。ここで言う損害賠償,解除という効果をもたらすような受領義務違反というものが,債務不履行の一般論に解消されていくような議論だとしたら,論理的な帰結としては強制もできるとなって完結をするんだと思うんですね。最後のところで,そこだけは違うんですということになると,やはり違う義務違反なのかという気がして,違うのなら違う義務なり,義務違反なんだということを書く必要があるし,そうなってくると,そこだけを違わせればいいのかという気がします。   若干,関連して申し上げますと,従来は,受領義務違反の効果について,損害賠償は比較的認められる余地があっても,解除まで認めるのはかなり例外的だと解されているという認識を持っていて,そのこととの関係で,解除の要件についてさんざん前回議論があって,最終的にどこに落ち着くかということは分かりませんけれども,重大だとか軽微だとか,あるいは契約目的を達成する,しないとか,そういう要件がかぶってくるということになると,本来の債務を履行しない場合にはそういう問題が出てくるわけですけれども,受領をしないということによって,それが重大であるとか,契約目的を達成しないということにはならないのではないかなと思います。   そういう意味でいうと,債務不履行の要件をそのまま持ってきたときに,結果として受領義務違反によって解除が認められる場合というのは,実際にはかなり狭まってくる,少なくなってくるということになって,従来の規律とそう変わらなくなるのかなという気がします。先ほどの話に戻って,そもそも一般論で規律していいかどうかという部分について,なお,イのところも含めて考えると,本当に全く同じ規律なり,一般論に解消されるのかどうかということが分からなくなってしまったので,やはり,そこは従来の議論を引きずって,受領義務なり,受領義務違反というものが通常の債務不履行と同じなのか,違うのかということをもう少し分かる形にして,それを条文にも反映して,違うものなら違うものとして規定し,同じものであれば同じことを二つ書く必要はないので,この場合にはこの規定によるみたいな条文とし,同じルールだということをはっきりさせる必要があるような気がいたします。 ○沖野幹事 今までの御議論を伺っておりまして,私自身は一般則に従うということではないのかと思っております。そのときの一般則は損害賠償・解除だけではなくて,履行の請求や強制という点も含めてというつもりです。問題は既に部会長から御指摘があり,あるいは潮見幹事からより明快な御指摘があったところですが,受領義務の内容というのが様々なものがあり,様々な段階のものがあるという点です。   効果をどこまで許容するかは,そこまでの効果を許容するような義務として合意されていたのかとか,そのようなものとして制度から出てくるのかに関わるところ,それがかなりのバリエーションがあるという点に特殊性があるのだと思います。そこから導かれる義務の内容に応じた効果が付与されるというのは,義務があっても強制ができないものは一般的な債務者の債務でもあるということからしますと,そのレベルの一般論では変わらないのだけれども,しかし,典型的に想定されるものがどうかに違いがあって,それが解除の可否や,強制の可否など,その広狭の違いに関わってきているのではないかと思います。   ただ,そうは言っても,債権者側が負う義務について一般則に従った各種の効果が認められる余地があるということは,明らかにしておくのがよいと思います。そうだといたしますと,一般則に従った救済なり効果なりが認められるということとともに,具体的な義務内容によって,かなりバリエーションが出てくるということを表すような表現ができないだろうかということを考えております。例えば,他のところで出てきております発生原因あるいは合意,契約の趣旨に照らして一般則によるというような表現ぶりで内容を書き,説明を加え,そして,中間試案にまとめていくということが考えられないだろうかということです。   そういう表現の工夫の余地があれば,それも含めて分科会で検討していただけると有り難いと思います。最終的な規定は,例えば,債務不履行の債務者の不履行の場合の各種の効果を債権者について,そういう義務の内容に様々なバリエーションがあるという含みを出すような表現を用いつつ準用するとか,規定の仕方によって工夫の余地はあるのではないかと思います。ともあれまずは中身を打ち出す必要があり,その中身としては今のような考え方でどうだろうか,そういうことも一つの選択肢として,検討の俎上に載せていただいたらどうかと思います。 ○鎌田部会長 ここは分科会にお任せするには問題が大き過ぎるかなと思って,事務当局としても分科会に御検討をお願いするリストに入れていないんですが,今日,頂いた様々な御意見も踏まえて,少し事務当局のほうでもう一度,整理・検討をさせていただきます。   他に受領遅滞関連で御意見はございますでしょうか。   特にないようでしたら,大分,遅れていますけれども,時間の区切りがちょうどよくなりましたので,ここで休憩を取らせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,そろそろ再開をさせていただきます。   続きまして,部会資料34の「第6 債務不履行に関連する新規規定」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明をしてもらいます。 ○新井関係官 それでは,御説明いたします。   「第6 債務不履行に関連する新規規定」に関しては,「1 追完権」において,不完全な履行があった場合に,債務者が一定の要件を備えた追完の提供をしたときには,損害賠償等の債権者の権利行使に優先するとする,いわゆる追完権を明文化するとの提案を取り上げております。   「2 第三者の行為によって債務不履行が生じた場合における債務者の責任」については,第三者の行為によって債務不履行が生じた場合における債務不履行による損害賠償責任の免責要件につき,明文化することの要否及び規定の在り方等について問題提起しております。   「3 代償請求権」では,判例が認めているいわゆる代償請求権を明文化するとの提案を取り上げるとともに,明文化する場合の具体的な規定の在り方につき,甲案から丙案までを提示しております。   これらの論点のうち,「2 第三者の行為によって債務不履行が生じた場合における債務者の責任」については,規定を設ける場合における具体的な規定の在り方について,分科会で補充的に検討することが考えられるほか,「3 代償請求権」についても規定を設ける場合における在り方等について,分科会で補充的に検討することが考えられますので,これらの論点を分科会で補充的に検討することの可否についても御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明のありました部分のうち,まず,「1 追完権」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○岡田委員 消費者の場合は,この場合に関しては債権者になる場合が多いのかなと思うのですけれども,事業者のほうの不完全履行に関して,こちらとしてみれば,もういい加減,商品を交換してほしいとか,解除したいと思っていても,修理させろとかいう対応で追完権というものがない現在でも,結構,強く要求される場合が多いものですから,やはり,それが追完権という形になると,消費者としては今以上に強く迫られるような不安を持ちます。ましてや,ここに書いてあるような債権者に不合理な負担を課すものではないとか,それから,非通知解除ですか,そうなるとかなり範囲が広くなってしまうのではないかと思うので,追完権が認められる場合が広くなるようなことは消費者側からすると反対と考えます。 ○鎌田部会長 ただいまのは反対の御意見でございますけれども。 ○中井委員 弁護士会も多くが,追完権を新設することについては消極の意見が多かったということです。理由は幾つかあるんですけれども,一つは今,岡田委員もおっしゃいましたが,要件として明確な形で定めていくことができるのかと。追完の方法にしても様々なものがあるわけで,他方で,債権者側も追完請求権に幾つかの種類がある中で,優先順位を要件化して定めることが果たしてできるのか。定めるとしても相当曖昧と言いますか,抽象的な概念を使わざるを得なくなって,それが規範として機能するのか,そのことによって紛争が増えるのではないかという危惧が一つです。   また,そもそも論から,不履行した債務者,少なくとも一旦不完全な履行をして不履行しているわけですから,その者に権利として一定の優先権的なものを与えること自体の当否について疑問がある。それから,具体的な例として,一旦,問題があるものの供給を受けたときに,修理できるからといって,それを強制される,それだったら自分でもっと信頼できる業者に修理をさせて,修理費用を請求したい,こういう場面も十分考えられますので,権利としてまで優先権を与える必要まであるのか,こういう指摘があって,結論としては消極意見です。 ○鎌田部会長 他に御意見はございますか。 ○佐成委員 やはり経済界内部での議論の状況でございますけれども,今のお二人の委員の御意見と基本的には同じような消極的な意見が多数だったということです。債務不履行が生じたときに何が一番救済になるかというのは,まず第一次的には債権者側の判断に委ねるのが適切ではないかといったところが根拠になっていて,あえて,そのような一方的な追完権のようなものを認めなくても,合意でやったらいいのではないかとか,あるいは債権者側が過大なことを言うのであれば,権利濫用で防げばいいのではないかとか,そういった消極的な意見が非常に多かったということでございます。 ○潮見幹事 前から繰り返していますように,追完が問題になる場面というのは,填補賠償請求がされた場合に債務者側が追完をする局面と,解除権が行使されるような場面で追完をするから解除しないほしいという局面があります。また,追完に代わる損害賠償請求がされた場合に,追完をするからこれで勘弁してくださいという場面でも問題となります。   これら三つの場面,つまり,填補賠償請求,解除,追完に代わる損害賠償のところで,債務者の側の追完の利益ということが考慮に入れられて制度設計がされる場合には,あえて,ここで追完権なるものを立てる必要はないと思いますし,逆に,追完権というものを独自の規定として置くのであれば,今申し上げた三つの場面で仮に債務者側の追完する利益というものを考慮に入れているのならば,それとの平仄を合わせるべきではなかろうかと思います。   ただ,先ほどの弁護士会の御意見とかを伺っていて,気になるところがあります。というのは,追完に代わる損害賠償が問題になるような場面,それから填補賠償請求の場合も同じなのですが,催告をして相当期間を経過した場合に,追完がなお可能であっても追完に代わる損害賠償を請求することができるという仕組みが以前に議論になりました。   仮にこういう枠組みを採用したときにですが,以前の深山幹事の意見に関わるのかもしれませんが,追完に代わる損害賠償請求がされた場合に,債務者の側から追完をするとき,損害賠償請求は否定されるべきだというような考え方を採るのであれば,それぞれの権利の発生要件とは別に追完権なるようなものを立てておく必要があると思います。このような場合があるかどうかというのは,少し見極める必要があるのかもしれません。しかし,このような追完の可能性を考慮しなくてよいというのであれば,この文脈でも,追完権というものを特別に独立で書く必要はないのではないかと思うところです。   併せてもう一つ,ここでは不完全履行の場合の追完ということが書かれておりますけれども,無履行の場合に追完が問題となる場合との平仄を合わせておく必要もありはしないかと思います。 ○鎌田部会長 これまで出てきた意見は,全てどちらかといえば消極的な意見ということでございますけれども,やはり設けるべきだという意見があれば,お出しいただいておいたほうがよろしいかと思うんですけれども。 ○内田委員 先ほど岡田委員から追完権と解除との関係に少し言及されましたし,潮見幹事からも言及がありました。しかし,ウイーン売買条約は追完権についての規定を置いていますが,解除に対しては解除のほうが優先するという内容です。そういう規律の仕方もあるわけです。つまり,解除できるような大きな不履行が起きた場合には追完させろといっても,それはもう駄目だということです。   あと,潮見幹事が幾つか類型を挙げられましたけれども,もう一つ,追完の仕方について,修理をするか,代物で替えるかという問題もありまして,この点が実務的に見て追完権の規定がなくていいのだろうかとちょっと心配なところです。   今の民法のように何も書いていなければ,いきなり追完権の規定があるのは,ぎらついて違和感があるというのはよく分かるのですが,債務不履行があったときに,債権者が取り得る手段についてきちんと丁寧に規定を置いていったときにどうなのか。修補請求もできるし,代物請求もできますという規定がある。そういう規定の下で,債権者が断固,修補せよというのに対して,債務者が代物で替えさせてほしいということもあるのではないか。最近の家電製品などはそういう例があるのだそうですけれども,内部が非常に複雑になっていて,しかも単価が安くなっている。したがって,修理するとものすごくコストが掛かるけれども,新品で取り替えると簡単であるというときに,債権者のほうには新品にすることに何の不都合もないのに,飽くまで修理を請求するというような場合,代品で替えさせてほしいということが権利として言えたほうがいいのではないか。   あるいは全く逆の場合もあって,自動車などがそうなのだそうですが,あるパーツを取り替えて修理すれば簡単に直せるのに,新品をよこせと請求される場合がある。そのようなときに,債権者に何の不都合も与えないならば,修理で追完できるという権利があってもいいのではないか。   債務者は債務不履行をした張本人なんだから,権利を行使するのはけしからんというのは感情論としては分かりますが,債務者としては完全なものと思って給付したのにたまたま何か欠陥があって,修補という問題が出てくるというのが典型的な場面ですので,そういう場合の利害調整の規定として追完権は意味があるのではないか。あると考えたからウイーン売買条約に入っているのではないかと思います。これは売買の規律ですが,今のような問題は売買だけではなくて,サービス契約についてもあり得ることです。今,ここで賛成がなければ,この規定は置かないということに方針は決まると思いますけれども,本当に実務はそれでいいのか,懸念を感じるところがございます。 ○潮見幹事 今,内田委員がおっしゃられた点については,追完が問題になる場面で追完内容を誰が決定することができるのかというルールとして,このようなルールを特定の場面,あるいは一般的に設ける必要があるのかという観点から,議論をしたらよいのではないかと思います。このこと自体を議論すること,あるいは必要があればこの種のルールを置くことに私自身は反対をするつもりはありません。ただ,難しいかなとは感じます。   ついでに言えば,これまでの議論を伺っていて,修補と取り替えというものを一つにまとめて追完という形で考えていくのがいいのかという点にも,問題がありそうだと思いました。 ○松本委員 内田委員の御説明を聴いていて,更に今までの様々な改正提案等を聴いていて感じるのは,今回みんなが一致しているわけではないけれども,かなりの人が言っている流れとして,結果として,債務不履行責任を軽くしようというか,認められやすくしようということがあります。債務不履行になる場合をうんと広げよう,履行期に約束した履行がなければ全部債務不履行だ,極めて限定された場合のみ,債務者は免責されるんだという方向に持っていくと。   それとの釣合いで債務不履行に対するサンクションとしての効果の内容について,従来だと債務者に帰責事由があることが前提で,立証責任は別にして,そういう悪い債務者が追完権を行使するというのはおかしいのではないかという発想が多分あったのが,債務不履行の内容が大変軽くなったことによって,バランス上,一旦,債務不履行というレッテルは貼るんだけれども,債務者の側の対応についても従来よりは様々な可能性を与えようという形でバランスを取っているのではないかと,私は理解をしております。賛成か,反対かは別にして,債務不履行のほうの要件をうんと軽くして,ほとんど全てを債務不履行でカバーするんだということになると,それとの釣合いで確かに債務者のほうにも一定の権利を与えたほうがいいのではないかという考えは,十分成り立ち得ると思います。 ○鎌田部会長 債務不履行の成立の範囲の広狭の問題と,必ずしもワンセットではないような気がするんです。不完全履行のときの救済方法の多様化を図って,最も適切なところへ落としていくために,最初から適切な救済方法だけが認められるという方式を採るか,多様な請求をさせておいて債権者側からの追完権の行使等との応答の中で落ち着くべきところへ落ち着かせようというふうな発想の対立というふうな捉え方もできそうな気がしますけれども,それは検討して。 ○佐成委員 内田委員から御指摘された事例は,正に実務でも実際にそういうことはありまして,日用品や安価な家電製品などでは,債務者としては,修理が容易な場合を除き,コストや迅速性の点で,修理せずに直ちに新品に取り替えてしまったほうがいいという場合はかなりあります。あるいは逆に,自動車の例が今出てきたとおり,新品に取り替えるのではなく,できるだけ修理で対応する方がはるかにいいという場合もあります。その意味で,確かに債務者側の追完の利益というのはある程度考慮しないと,実務的には問題があるのだろうとは思うのですが,ただ,具体的に追完権の規定を新設するということについては,私が個人的にどう思っているかは別にしまして,経済界で議論している限りでは,相当,慎重論が強いというのが現実でございますので,それだけ申し添えておきたいと思います。 ○鹿野幹事 先ほど松本委員がおっしゃったことに私も共感を覚える部分があります。確かに,その後に鎌田部会長がおっしゃったように,債務不履行の要件と追完の問題とが全くそのまま連動するというわけではないでしょうが,無関係とは言えないように思います。先ほど,中井委員が,不履行をした当事者に追完権を与えることに対して疑問があるという趣旨のことを言われました。その御意見は,債務者がその帰責事由ないし過失により不履行を行ったことを念頭に置かれ,そのような不履行をしたにもかかわらず,その債務者に追完という権利まで与えるのは妥当ではないと考えられたのではないかと推測します。   しかし,少なくとも過失という意味での帰責事由要件は要らないという枠組みを仮に採るとすると,その評価に違いが生ずるかもしれません。それを前提とすると,例えば,債務者が客観的事実としては瑕疵のあるものを引き渡してしまったが過失の非難は必ずしも当たらず,追完することがすぐにできるしその意欲もあるという場合において,債権者のほうが直ちに損害賠償を請求すると言ってきたときに,債務者はそれにいつも応じなければいけないのかというと,そうではなく,追完という形で履行をするチャンスを与えることが合理的だということが,より言いやすいのではないかと思いました。そういう意味では,要件論とこの問題とは関連があるのではないか。これだけが理由というわけではなく,必然ではないにせよ,帰責事由要件を外した新たな債務不履行体系を考える方向は,債権者の追完についての利益を保護するような規律を置く方向と,より結び付きやすいように思います。 ○内田委員 誤解を招くといけないので念のための発言ですが,債務不履行を認めやすくすることとのバランスだと松本委員が言われて,それに対して鎌田部会長が応答されたわけですが,私の理解は鎌田部会長と同じでして,債務不履行責任を認めやすくしようなどという法改正を今,しようとしているのではないというのが私の理解です。帰責事由を過失責任主義と捉えて,無過失であれば債務不履行の責任は免責されますというのは,現在の裁判実務とは違うだろうということで,実際に実務で行われていることに合わせた条文にしよう,実務のルールが分かるようにしようというのがこの部分の改正の趣旨であると私自身は理解をしております。ですから,債務不履行責任を広げる意図など私には全くありません。しかし,現在の裁判実務と全く同じですけれども,債権者が取れる手段というものを丁寧に書いていくということになると,債務者が取り得る手段についてもきちんと書かないと,バランスを失するのではないかという懸念を持ったというだけです。 ○松本委員 今の点こそ,私が冒頭で発言させていただいた今回の法改正の,正に肝であるところのグランドデザインをどうするのかという話の根幹に関わってくるところです。そこをはっきりさせれば,こういう議論はさっと終わってしまうんですが,そこをはっきりさせないから,細かいところで議論の時間が大変掛かるということなので,是非,履行障害法のグランドデザインをできれば早く決めていただきたいということです。私の印象としては「債務不履行一元論」というのは,従来よりは債務不履行の範囲を広げるという結果に,しかも瑕疵担保責任的な意味での債務不履行責任を広げるということになっているのではないかと思いますから,それは誤解かもしれないですが,だからこそ,そういう議論をまずやっていただきたいと思っております。 ○鹿野幹事 前提として,確かに,帰責事由要件を外すことが,今までより債務不履行が認められる範囲を拡大することになるのかどうかは,それだけでは分かりません。従来の裁判例でも,必ずしも,かつての学説が言ってきたような故意・過失という意味で帰責事由を捉えてはいなかったのではないかということは,おっしゃるとおりだと思いますし,そういう意味で,直ちに拡大するものと表現できるかについては留保したいと思います。しかし,私が先ほど,松本委員の意見に共感するところがあると申しましたのは,議論の前提とされた不履行のイメージです。先ほど,中井委員の御発言を引合いに出しましたけれども,債務不履行ということのイメージが,その債務者はけしからんという非難可能性と常に結び付くものとして捉えられ,そこから,追完権は与えるべきではないと主張されているとすれば,それはちょっと違うのではないかと,それを申し上げたかったということであります。   ついでに,もう一点,申し上げます。これも新たな不履行体系をどうするかということとも関わりますけれども,従来,瑕疵担保の規律の枠内においては,追完の請求は,規定もないし権利としては認められないということだったのでしょうけれども,こういう瑕疵担保の規定をどうするかということが一つ問題となります。また,これは内田委員がおっしゃったこととも共通すると思いますが,より一般的に,債権者の権利として積極的に追完請求権というものを認める規定を置く場合において,それと債務者の追完の利益とのバランスをどこで取っていくかということを検討する必要があると思います。追完権という表現が適切かどうかは分かりませんけれども,債務者の追完権と債権者の追完請求権との関係に係る規律が必要なのではないかと思っているところです。 ○鎌田部会長 基本認識の部分については,余り結論に直接影響していないので深入りしないほうがいいと思います。それと同時に私の考え方が古いのかもしれないんですけれども,例えば種類売買で数量不足とか,品質の劣ったものを給付したというのは私の感覚では未履行なんですね。債務の本旨に従った履行がなされていないのですから帰責事由も何も関係なく,債務の本旨の履行請求ができるはずなので,これは全然,一番,帰責事由と関係のない場面だと考えています。故意も過失も関係ないですよね。債務の本旨に従った履行をしていなかったら,本旨に従った履行をしてくださいというだけですから。それをゼロから本旨弁済をしろというのではなくて,追完という枠の中で処理しようというようなスキームになったときに,何が最も適切な追完の仕方なのか,あるべき状態へどう到達させるのかという,ある意味で非常に技術的な制度作りではないかなという感じがしています。その点もあって,帰責事由論とこの問題を関連付けるというのは,十分には理解できないと思っています。 ○中田委員 私も基本的な問題によって,ここが直ちに決まるものではないというのは,部会長のおっしゃるとおりだと思います。ただ,議論が幾つか錯綜しているようです。まず,債務不履行の領域の問題,つまり,原始的不能なども債務不履行として取り扱うかという問題と,債務不履行の成否の問題,つまり,過失責任主義にするのかどうかという問題は,一応,別の問題だろうと思います。それから,今,おっしゃった一部未履行の問題にすぎないのではないかどうかということは,恐らく債権の効力としての履行請求権と救済手段としての追完請求権あるいは完全履行請求権と言われるもの,そして追完権との関係という問題ですから,また,別の議論になると思います。そうしますと,今,両論が出ているわけなんですけれども,ここで決定するというのではなくて,もう一つの可能性として59ページに,契約各則において必要に応じて個別的に規定を設けることも考えられるという提案が出ておりますが,これは今後とも,いずれにしても引き続き考えておく必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 意見の対立点はほぼ明確になってきたと思いますので,それを踏まえて事務当局で検討もらいたい……。 ○松本委員 すみません,誤解されると困るんですが,私は追完権を置くべきだという主張をしているわけではないんです。前提としてのグランドデザインがもしこうであれば,追完権を置かないとバランスが取れないのではないかという主張でありますから,グランドデザインのほうが決まらない限りは,ここの部分の意見は言えないということです。 ○道垣内幹事 私は追完権はあったほうがいいと思うのですが,ただ,債務不履行で追完をさせるのが適当な場合というのは多々というか,種々あるわけでありまして,そこにおいて不完全な履行という言葉を使うというのは,これまでの債務不履行の三分論を彷彿とさせる気がします。それならば,債務者が債務不履行をした,というのも変かもしれませんけれども,「債務を履行しない場合において」で十分なのではないかという気が私にはいたします。 ○鎌田部会長 それでは,それらの御意見を踏まえて,事務当局で更に検討を続けさせていただきます。   次に,「2 第三者の行為によって債務不履行が生じた場合における債務者の責任」についての御意見をお伺いいたします。 ○潮見幹事 2の第三者の行為によって債務不履行が生じた場合における債務者の責任に関する記述としては,私は甲案とか乙案で示されているような規定は置く必要はない,丙案でよいと思います。むしろ,この前提としての,債務者が契約又は法律の規定に従って債務の履行のために第三者を使用することができるという内容の基本規定のほうを設けるべきではないのでしょうか。自己執行原則との関係もありますので,この際,契約の定めあるいは趣旨に従って債務の履行のために第三者を使用することができるのだという原則ルールを挙げておくほうに意味があるのではないかと考えるのです。それを挙げておけば,あとは債務不履行の一般準則で処置をすることが可能になりますから,それでよいのではないかと思います。   それから,ここで言うべきことではないのかもしれませんけれども,併せて申し上げます。履行補助者の問題は弁済のところでも意味を持つわけでして,この補助者による弁済は債務者による履行と評価されるのだというルールも,規定として置いておくということもあるのではないかと思います。   甲案を採れないのは第三者の類型化といっても,どういうふうな観点から類型化するのか,契約というものを離れた類型化というものが果たして可能なのか,逆に契約と結び付けた場合の類型化というのがどうやってできるのかということに対して疑問があるからです。それから,類型に応じた帰責ないし免責の要件というものを一体,どのように決めるのかということも,さっぱり分かりません。乙案についても,どこまで債務の内容に取り込まれていたかを何によって,どうやって決めるのかということを抜きにして,乙案のようなルールを設けるのは難しいのではないかと考えるからです。 ○高須幹事 今の部分ですが,弁護士会の意見は分かれておりまして,甲案,乙案,丙案,いずれもあるという立場です。分かれている理由はやはり本来の債務者の債務不履行責任との兼ね合いで,第三者の故意によって債務者が責任を負う場合がどれぐらいあるかということは考えねばならない,ここの点に何も疑問を持っているわけではないんですが,それは一般原則の中で書き込めることではないかという発想をすると丙案になります。   そうでなく,やはり併せて第三者側からの場合のことも書いておこうと,両側から書いておいたらいいのではないかとなると,意見が分かれるというところです。私としては両側から書くというのは何か親切なように聞こえますけれども,そこに差異が出たような場合に,非常に解釈論上,疑義が出る場合もあると思いますので,ここはやはり本来の債務不履行の一般原則の中で考えていくべきであって,丙案で考えたらいいのではないかと考えています。私の所属する東京弁護士会も一応,そのような形で丙案というような形になっておりまして,いろいろな意見がある中でも,そういう意見が弁護士会の中ではあるということです。 ○鎌田部会長 他にいかがでしょうか。   甲案,乙案とも支持する意見もあったということですが,例えば甲案というのは,この場合は履行補助者,履行代行者とか,そういう意味での類型化を使うのがいいというお考えなんでしょうか。 ○高須幹事 弁護士会の中では,甲案というのは,従来,そういう議論をしていたので,そういう考え方を採ることの是非という形で議論をして,それはそれでいいのではないかという意見があったということでございます。 ○岡田委員 私たちの立場からすれば明文化していただきたい。専門家のところにたどり着けば今までどおりでいいという理論が成立するかもしれませんが,たどり着かない,ないしは消費者センターレベルで処理するといったときは,甲案の明文化に賛成です。 ○鎌田部会長 他の御意見は。   甲案,乙案,丙案と,それぞれ支持する意見があるということで,その場合の具体的な規定の在り方については,分科会で補充的に御検討いただくというのが事務当局の提案で,甲か乙か,どっちかに絞れていると検討の対象は狭くなるんですけれども,絞れないまま,分科会に御検討をお願いするということに……。 ○道垣内幹事 私は丙案でよいと思いまして,高須幹事のおっしゃったことにほぼ賛成ですが,第三者の行為によって債務不履行が生じる場合という問題類型はないと考えていますので,その点で前提が違います。乙案は,第三者の行為による責任がどこまで債務の内容に取り込まれたのかという問題なのだろうかという気がします。つまり,第三者であろうがなかろうが,結果としてあることが実現できないということになるならば,それで債務不履行になるということなのか,それとも,このような第三者に委ねれば,それで一応,債務者としての責任は尽くされたことになるのかという債務内容の問題であって,取り込まれているものはどこまですべきことが,どういうふうな状態をもたらすことが債務内容なのかということなのであって,第三者の行為による責任の取込みではないのではないかという気がいたします。ただ,そう考えますと乙案というのは,ある種,当たり前の話であって,特に規定する必要はないのではないかと思います。 ○松本委員 ここも何回も言いますけれども,結局,グランドデザインの問題になるわけで,潮見幹事は正にその御説明をされたわけで,私は大変分かりやすかったんです。結局,最後に約束どおりの履行をしたか,していないかだけで決めればいいんだと。あとは非常に限定された免責要件を満たすかどうかだけの話だと考えれば,こういう個別の規定は何も要らないということです。それは分かりやすいんだけれども,その前提して,結局,そういうグランドデザインを採るか,採らないかによって結論が変わってくるというのが一つ。それから,そのような定め方が一般の人にとって分かりやすいかという問題もあります。つまり,個別にこういう場合はこう,こういう場合はこうというルールがあったほうが,一般の人は分かりやすいのではないかという主張は十分あり得るわけで,その辺をどう両立させるのかという点です。一般の人の分かりやすさよりも理論の透明性のほうを重視すれば,恐らく丙案になるというか,グランドデザインをこうだと決めれば丙案になる。ただ,そういうグランドデザインを採るか,採らないかは別問題であるということです。 ○鎌田部会長 そうは言いましても,現在,履行補助者の故意・過失みたいなものは,教科書の中でも議論されているわけで,その問題については全く応接しませんというわけにはいかないというので,こういう項目が上がってきているんだと思います。それについて,おっしゃるように,あるグランドデザインに基づけば,それは独立の論点として取り上げる必要のない問題になるのかもしれませんけれども,一応,やはり項目としてはかなり重要な論点の一つであるので,独立の検討対象として掲げられていると理解しております。   先ほどのような御意見を踏まえて,これも大変御苦労でございますけれども,分科会で仮に甲案,乙案的なものを採用するとしたら,こんな規定の仕方があり得るとか,あるいは明確な要件を立てるのは非常難しいんだというふうなことを御検討いただいて,それを踏まえて規定の要否については部会で最終的に決定をさせていただければと思います。   次に,「3 代償請求権」についての御意見をお伺いいたします。この点につきましても事務当局としては,最終的に規定を設けることの要否は部会で決定するということを前提として,具体的な規定の在り方については分科会で,もう少し深まった検討をしていただければという御提案でございますけれども,そういう取扱いでいいかどうかも含めて,御意見を頂ければと思います。   そもそも代償請求権に関する規定を設ける必要はないということであれば,分科会への検討の依頼もしなくて済むということでございますけれども,これまでの議論では,規定を設ける必要はないというふうな意見が非常に強かったということではないように思いますけれども,分科会へ検討を依頼するということでよろしいでしょうか。その際,この点に十分配慮しろという御意見があれば,ここでお出しいただいておけばと思いますけれども。 ○高須幹事 代償請求権の明文化を置くべきかどうかも,弁護士会の中にも議論があることはあるんですけれども,慎重に検討をというような形で,否定するものではないというような辺りなのだろうと思います。そういう意味では,議論していただいて,いいものができれば明文化していただくというスタンスだと思うんですが,この場合の甲案と乙案の内容につきまして,一点だけ,こういう観点もあるのではないでしょうかという意味なんですが,乙案を採った場合に債務者の帰責事由の欠如というものを要件化すると,何か,論理的にはそれでいいようなイメージも受けるんですが,実際の裁判のときに,これをどう要件立てるのか,要するに原告と被告が争う中で,その欠如の立証をどちらに課すのかというようなことも,実際の裁判の場面だとやや難しい要件になるかなという考えを持っておるものですから,立証責任も考えながら乙案の妥当性は検討していくことが大事ではないかと,このように思っております。 ○岡委員 弁護士会の意見を多少,補足いたしますと,甲案がやや多いという現状でございます。ただ,乙案も大きな弁護士会が支持しておりますので,弁護士会全体としてどうだというのは現在は難しい状況です。 ○鎌田部会長 他によろしいでしょうか。 ○潮見幹事 今,高須幹事がおっしゃられたことに関連するのですが,私は甲案でいいと思っているのですが,仮に乙案を採った場合,債権者が債務者に対して代償請求をしたときの請求原因は,一体,どうなるのでしょう。抗弁以下もどうなるのかが分からない。あるいは乙案というのは,填補賠償請求をして,それがかなわなかった場合に初めてというか,予備的に代償請求ということが認められるべきだという提案なのでしょうか。もし弁護士会のほうでその辺りも議論の上,先ほどの高須幹事のような御発言になったのであれば,御教授いただければ有り難いところです。 ○鎌田部会長 何かあればどうぞ。 ○高須幹事 そこは分科会でお願いしたい。それまでに考えてまいります。 ○鎌田部会長 分かりました。では,その点も含めて分科会で御検討を頂くことといたします。   次に,部会資料35の「第1 債権者代位権」のうち,「1 債権者代位権制度の在り方」及び「2 債権者代位権の基本的要件」について御審議いただきます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○金関係官 それでは,部会資料35について御説明します。   「第1 債権者代位権」の「1 債権者代位権制度の在り方」の第1パラグラフでは,本来型の債権者代位権制度を存置するという方針を提案しています。また,第2パラグラフでは,転用型の債権者代位権制度について明文の規定を設けるという方針を提案しています。   「2 債権者代位権の基本的要件」,「(1)本来型の債権者代位権の無資力要件」の「ア 無資力要件の要否及びその内容」では,本来型の債権者代位権の要件として債務者の無資力が必要であることを条文上明記するとともに,無資力の内容について破産法第16条第1項で定義された債務超過と同様のものとすることを提案しています。   「イ 強制執行の前提としての登記申請権の代位行使の場合の例外」では,アの無資力要件についての例外を認め,強制執行の前提として本来型の債権者代位権に基づく登記申請権の代位行使をする場合には無資力要件を不要とするという考え方を取り上げています。   「(2)転用型の債権者代位権の根拠規定の在り方」のアでは,判例上確立された転用例について個別の規定を設けるとする甲案と,そのような個別の規定に加えて転用型の債権者代位権の一般的な根拠規定を設けるとする乙案を提案しています。また,イでは,乙案を採ることを前提に,転用型の債権者代位権の一般的な要件について,判例法理を明文化すべきであるとする乙-1案と,被保全債権の実現が妨げられ,かつ,他に適切な手段がないことを要件とすべきであるとする乙-2案を提案しています。   「(3)被保全債権及び被代位権利に関する要件」のアでは,債権者代位権の被保全債権に関する要件として,期限未到来の場合についての民法第423条第2項を維持するほか,被保全債権に執行力・強制力がない場合についても債権者代位権を行使することができないとすることを提案しています。また,イでは,被代位権利に関する要件として,債務者の一身専属権の場合についての民法第423条第1項を維持するほか,差押えが禁止された権利についても代位行使をすることができないとすることを提案しています。   以上の各論点のうち,「(1)本来型の債権者代位権の無資力要件」の「イ 強制執行の前提としての登記申請権の代位行使の場合の例外」については,仮に例外規定を設けるとした場合における具体的な規定の在り方等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明がありましたもののうち,まず,「1 債権者代位権制度の在り方」及び「2 債権者代位権の基本的要件」のうち,「(1)本来型の債権者代位権の無資力要件」について御意見をお伺いいたします。ちょっと中途半端な切り方ですけれども,いずれにしろ,本来型を典型にして御意見をお伺いしておきたいと思いますので,御自由に御発言ください。 ○筒井幹事 本日,御欠席の安永委員から事前に発言メモが提出されておりますので,読み上げて紹介いたします。「1 債権者代位権制度の在り方」に関する御意見です。   債権者代位制度に関しては,「労働債権保護を後退させる制度変更を認めることはできない」という意見を,労働の立場から第1ステージで申し上げてきました。実際の労働の現場では,各労働者から委任を受けた労働組合が商社や問屋に債権者代位権を行使する旨の内容証明を送って,倒産企業に対する商社等の支払を停止させ,交渉で解決するケースが多く,これは,「本来型の債権者代位権」の典型例です。日本において「本来型の債権者代位権」は,企業倒産時における労働債権確保の手段として重要な役割を担っています。   この点,今回の第1の1の提案では「本来型の債権者代位権」を存置することが示されており,これ自体には賛成いたします。しかし,併せて提起されている「所要の見直し」については,3(2)の相殺の禁止など「本来型の債権者代位権」の制度を,使っても実効性がない制度に抜本的に修正するものが含まれており,事実上,労働債権保護のためには使えない制度となるのではないかとの危惧を持っています。 ○鎌田部会長 他の御意見をお出しください。 ○中田委員 無資力要件なんですけれども,これはいずれまた,破産法などに造詣の深い方からお教えいただけると思うんですが,ここでは破産法16条1項の定義をそのまま持ってきている,詐害行為取消権ともそろえているというのが今回の御提案だと思います。無資力と債務超過が近い概念だというのはそのとおりだと思います。従来,信用とか資金調達能力が無資力には入るという点で違いがあると言われてきたけれども,債務超過でも資産の評価を機械的にするわけではないのだから,それほど違いはないということもそうだと思います。ただ,破産法の定義をそのまま持ってきていいのかどうかについて,幾つか分からないところがありますので,お教えいただきたいと思います。   一つは,債務超過は破産手続の開始原因としての意味を持っているのに対して,無資力は債権者による代位あるは詐害行為取消しの要件としての意味を与えられている,それに伴う違いがあるのではないかということです。例えば債務超過はある程度の持続性を持った客観的状態を意味するのだとすると,それが債権者代位権や詐害行為取消権においても適当かどうかという問題がある。これが第一点です。   それから,第二点は信用や資金調達能力という無資力で考慮されてきたことと,債務超過における継続事業価値というのが同じかどうかということです。破産法では支払不能と債務超過の違いとして,支払不能には債務者の信用や資金調達能力も含むけれども,債務超過には含まないという説明がされることもあります。そうすると,信用や資金調達能力と継続事業価値というのは違うのではないかという疑問があります。債務超過については継続事業価値を基準とするという説と,事業活動の継続中は継続事業価値を基準とするけれども,事業活動が停止して清算過程に入ると,清算価値を基準とするという説もあるようですけれども,こういった破産法の議論をそのまま民法に持ち込んでいいのかどうかということも,議論の対象になると思います。   三番目は,逆手に取るような余り質のよくない議論なんですけれども,無資力と債務超過が全く同じ概念だとすると,同じ定義を与えながら異なる言葉を使うというのはかえって混乱を招くのではないかということです。むしろ,民法でも無資力にかえて債務超過という言葉を使うべきだということになるのではないかというのが三点目です。   それから,四点目は実質的なことですけれども,現在の無資力概念を債務超過と同じとするということが債務者の信用や資金調達能力は除外するという趣旨だとしますと,現在よりも無資力と認められる範囲が広くなって,結果として債権者代位権がより認められやすくなるのではないかということです。ただ,そういう効果が生じることは,債権者代位権制度を民事執行制度との関係を精査しながら適切に位置付けていくという方針と,少しそごがあるのではないかという気がいたします。  そういたしますと,無資力について要件とするということはいいと思いますし,それから,無資力が債務超過と近い概念だというのはそうだと思うんですけれども,破産法16条1項と全く同じ定義を置くのではなくて,もう少し解釈の余地を残す定義を置くか,あるいはむしろ定義を置かないという方法もあるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   何か事務当局から。 ○金関係官 先ほどの説明の際に破産法の規定と同じと申しましたが,必ずしも破産法と絶対に同じ解釈をしなければならないということではなく,端的に「債務者が,その債務につき,その財産をもって完済することができない状態」という内容の文言を民法に書くとした場合の問題について御議論いただければと思っております。 ○鎌田部会長 逆に,無資力という文言を民法の中で書くわけではない,こっちの書き下したほうで規定を作ることを考えていると理解していいですか。 ○金関係官 無資力という文言を使うことももちろんあり得ると思いますけれども,差し当たり,括弧内にある書き下したほうを民法に書くことの問題について御議論いただければと思っております。 ○中田委員 今のお答えは,私の疑問の第三点で同じ概念を使いながら,別の言葉を使うのはおかしいのではないかということについての御説明として理解いたしました。ただ,それにしても全く同じ定義を置いておいて,実質が違うというのは分かりにくいというのはまだ残るのではないかと思います。 ○松岡委員 誠につまらない,変なことを聞いて申し訳ないのですけれども,この定義で本当にいいのかがよく分かりません。教室説例なので,現実的には生じないかもしれませんが,債務者が時効に掛かりそうな例えば1,000万円の債権を持っている。他には財産はない。債務者に対して,債権者が例えば300万の債権を持っている。その債権の弁済期はまだ来ておらず,したがって,債務名義も取っていなくて強制執行はまだできません。しかし,放っておくと債務者の唯一の財産である1,000万円の債権が時効に掛かってしまいますので,代位行使したい。この場合,ここの定義ですと債務超過にはなっていないので代位行使ができないようにも見えますが,従来,こういう場合にも債権の保全の必要性があるので,代位行使を認めてよいと理解してきたように思います。そういう例はめったにないから問題にしなくていいのでしょうか。そもそも,保全の必要性と無資力は,本当に全く一致するのかが根本的に疑問としてあります。 ○金関係官 今の御発言は,保存行為の代位行使の場合には無資力要件は不要ではないかという御趣旨でしょうか。 ○松岡委員 特に保存行為の場合に問題になりやすいとは思います。しかし,あらゆるパターンを考えているわけではありませんので,思い付いた例を申し上げただけです。 ○金関係官 失礼しました。無資力要件の定義をどうするかという問題と,無資力要件が保存行為の代位行使の場合にも必要かという問題は,一応別の問題だと思いますので,その観点から確認をさせていただきました。 ○高須幹事 ここも,今,御指摘があったように保全の必要性というのは無資力要件よりはもう少し広い,いろいろなことを含められるものではないかという議論は,実は弁護士会の中にもありまして,そのことはまた,随時,他の先生方からも意見が出ると思うんですが,したがって,それは留保しておくんですが,取りあえず,無資力要件というものを従来は考えてきた,そのことが一般的ではあったと思います。   そのときの無資力の,今回,この御提案ではその内容についてどのような形で明文化するかという点に絞らせていただきますと,今,既に御指摘が中田先生からも出ておりますように,破産法の概念をそのまま使うと,それで意味が違うんだと理解するのは結構難しいのではないか,分かりにくいのではないかと思いますので,やはり書き下すということは一つの考え方だとは思うんですけれども,4ページにあります債務者がその債務につき,その財産をもって完済することができない状態という言葉を使ってしまうと,それを膨らませなければならないみたいな何となくイメージが浮かびますので,もう少し言葉を変えてもいいのではないかと考えています。   例えば,ある弁護士会から出ているんですけれども,資力及び信用その他,これに準じる事由に照らし,その負担する債務を完済することができないときとか,要するに資力とか信用ということも含むんだというようなことをもう少し明確にしてもいいのではないかと,この表現がいいかどうかはまた別でございますけれども,もう少し民法ではこういう表現を使い,それはこういう意味ですというのが分かりやすいのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 中田委員は,何か,こういう表現にしたほうが適当だという御提案はありますか。 ○中田委員 それを思い付かなかったものですから,定義を置かないで無資力という言葉にしておくということが,今日,考えてきたことなんです。ただ,遡りますと,そもそも無資力という言葉自体,起草者自体が考えていたわけではなくて,その後に出てきたという概念ですから,そこまで遡るとまた別の考え方もあるとは思います。具体的な案は更に検討したいと思います。 ○中井委員 まだ,整理ができていないのですが,次回も債権者代位権の議論が進むと思いますので,次回までに整理したものをお出ししたいと思っています。私自身もこれまで,債権者代位権を行使するとき,債務者の無資力が要件であると理解し,無資力の中身について,今,議論が進められているようなことについて議論をしなければならない,そういう方向で考えていたわけです。ところが,私の所属する大阪弁護士会で違う意見が取りまとめられようとしております。私が的確にここで説明できるわけではありませんので,書面にまとめて次回までに提出させていただきたいと思っております。   正確に説明できるかどうかはさておき,その触りだけでも申し上げさせていただくと,無資力が要件ということを明記しなければならないのか,慎重に検討する必要があるのではないかと思っております。松岡委員の例を単純化すれば,債権者は300万の債権を持っている,債務者は第三者に対して1,000万の債権を持っている,他に債務者は何も財産を持っていない,ほかには資産も負債もない,明らかに資産超過である。しかし,その債務者が権利行使しないときに,代位債権者は何もできないのか。そのとき代位債権者の権利が遅滞に陥り,にもかかわらず,債務者は弁済もせずに第三者債務者に対する権利行使もしないときに債権の保全の必要性があれば,債権者代位権を行使してもいいのではないか,という類いの質問につながるのではないかとも思うわけです。   債権者代位権について,確かに従来は債務者の無資力を要件としていた。その効果としては,今後議論されるように,債務者に処分の制限効があるのか,第三者の弁済が禁止されるのか,若しくは事実上の優先弁済効を認めるのか。従来,債権者代位権の効果については,結構,強い効力を与えていたことに対して,恐らく今後の審議の中で大きな見直しをされるのではないか。つまり,債権者代位権を行使しても債務者には処分制限効が及ばずに,債務者は自ら債権の行使もできるし,弁済の受領もできる,第三者債務者も弁済ができる,事実上の優先弁済も否定するという方向での議論となってきたときに,果たして債務者要件を従来と同じ考え方でいいのかという疑問です。   債権者代位権についての枠組みについて,基本的には保全・執行制度を完成させて本来はやるべきこと,これが在るべき姿で,今後もそれを追及していくべきだろうと思いますけれども,それでも,保全・執行制度では必ずしも十分でない場面が出てくる。その十分でない場面をフォローする制度として機能させる。   典型例で債権の仮差押えをした。このときは保全の必要性で仮差押命令は出るわけですけれども,ところが被差押債権,債権者代位でいうならば被代位権利について時効が成立するようなときに,債権者代位権で被代位債権の権利行使をすれば時効は止まるとしたとき,その要件として保全の必要性以上のものを求めると,仮差押えはできるんだけれども,債権者代位権は行使できない,つまり,時効を止めることはできないという結論になって,果たしていいのかという疑問です。   したがって,無資力要件なくして行使できる場面があるのではないか。先ほどの松岡委員の例,今のような例も考えていくと,自己の債権を保全するために必要があるときに,代位権は行使できるという一般的な要件の立て方のほうが好ましいのではないか。もちろん,想定されるメーンは債務者が無資力,債務超過になった場面で,だからこそ,保全の必要性があって代位権を行使できるわけですけれども,常に無資力,債務超過でなければならないのかということに対する疑問です。   次に議論される登記申請権については,無資力要件を課さない方向での議論になると思います。登記申請権は別途,不動産登記法等で異なった観点から整備されることになるのかもしれませんけれども,仮にこれを債権者代位権で処理しようとすれば,無資力要件を課さずに代位債権者の債権を保全するために債権者代位権の行使を認める事例ですから,これもある意味で自己の債権を保全するために必要があるときの範ちゅうの中でくくれるのではないか。   いずれにせよ,次回までに書面化したものを大阪弁護士会有志から出させていただきたい。私自身の意見は留保した上で,申し上げておきたいと思います。 ○佐成委員 今の点ですけれども,保全とか,保存行為とか,そこについての回答のようなことは必ずしも申し上げられないのですけれども,この問題についてはまず債権の効力として,債務者の財産管理に干渉できるという,かなり大きな権能が特徴的に表れている部分ですから,原則として無資力要件が必要であり,無資力要件をどういう内容にするかは別にして,およそ無資力要件なしに干渉できるというのはかなり飛び過ぎているという気がしております。それが一つでございます。   それから,無資力要件の中身については破産法上の債務超過という概念がこれに近い概念として言われていますけれども,資力というのは変動するものですから,一体どの段階で干渉ができるのかというところで,債務超過という概念だけだと時期的に早過ぎる場合もあり得るかなという気もしております。まだ定見があるわけではないのですけれども,無資力要件の中身についても慎重に考えなくてはいけないと思います。  しかし,少なくとも原則的な本来型の代位権行使に関しては,やはり無資力要件が必須になるのではないかという感想を持っております。 ○潮見幹事 中井委員の発言の中で御自身のお考えではないということなのですが,そうなんですか。 ○中井委員 考えているところです。 ○潮見幹事 今の御発言のような考え方でいった場合には,本来型の債権者代位権というものは要らないということになりませんか。もし,必要であれば仮差押え,仮処分に準ずるような制度をどこか特別に個別に規定を置くことによって処理することで,対処は可能なのではないでしょうか。あるいは保全の必要性についても証明なのか,疎明レベルで足りるのかという問題もありますので,民事保全の枠組みをそのまま債権者代位権のところに持ち込んで,果たして維持できるのかというような若干不安も感じます。   それから,先ほど中田委員,あるいは松岡委員経由で話が出た部分なのですが,伺っていて,幾つかのことが交じり合っているような感じがいたしました。まず,松岡委員が発言された部分は,正に債権者代位権で考えるときに,債務者の責任財産の範囲をどのような観点から考えていくべきなのか,代位行使される権利とその価値というものを責任財産の範囲から抜いて考えるのか,それともこれも入れて考えるのかというところに関わるような問題であって,そのことを抜きに,このような定義をさらっと置いただけで,問題は解決できるというレベルのものではないと思いますし,私は松岡委員の問題意識には共感を覚えます。   その上で,中田委員からの話が出ていたのは,無資力という要件を書いた場合に,そこで考慮されるべき要素として,財産の価値というもの,計数上のもの以外に例えば信用だとか,あるいは資金調達能力だとか,あるいはそれ以外のものといったようなものを含めて,無資力というものを考えていく必要があるのかないのかということと,それから,債務超過や支払不能で言われている判断要素や枠組みが無資力と共通しているのかどうかということを五つぐらいに分けてお話になられたのではなかろうかと思います。   これについては,手続法で言われる債務超過や支払不能で考えられている枠組みや要素と,債権者代位権のところで無資力が問題になっているところで語られているものが,同じなのか,イメージが湧きません。どうも無資力を話題にするときには,信用や資金調達能力など様々な要素を考慮に入れて,無資力か否かというものを判断していっているようには感じます。   とはいえ,債務超過とか支払不能で言っているところと似ているところもありますけれども,若干,違うところもありましょうし,さらに,本当に違っていてよいのかも問題となりそうですので,分科会で話をするべき事柄なのかもしれませんけれども,手続法と民法の両方の角度から照らし合わせていく必要がありましょうし,そのときには民法から考えている側からすると,倒産処理法のテキストや体系書を拝見している限りでは,いろいろな方がいろいろなことをおっしゃっておられて,どれにどう依拠したらいいのかというのが見通せない部分もありますので,手続法の先生方からその部分についての御教授を頂けると,この議論が前に進むのではないかと思いました。 ○深山幹事 弁護士会で議論していると,比較的,代位権を使いやすくと言いますか,代位債権者の立場に立って柔軟に使えるようにという方向の議論が多いと感じているんですけれども,私自身はどちらかというと逆で,それほど使いやすい制度にする必要があるのだろうかと思っています。   議論の前提なんでしょうけれども,既に発言が出ているように,そもそも債権者といえども,債務者の財産に干渉していく,他人の権利を行使するということをそう簡単に認めていいのかということがまずありますし,責任財産の保全であれば民事保全制度もあるし,権利の実現については民事執行制度がある中で,なお,この制度の存在意義をどこに見出すかというと,本来型については,そうそう緩やかに認めるべきものではないのではないかと考えています。では,要らないという議論ですかと言われれば,そこまでは思っていません。やはり,かなり限られた領域での必要性なり,存在価値というのはあると思っていますので,無くせということではなくて,必要に応じた限りでの制度となるよう要件を考えるべきだろうと思います。   これも既に発言が出ていますけれども,要件を考えるときには効果とセットで考えるべきでありまして,ざっくり言えば,厳しい効果,強い効果を認めるのであれば要件は絞るし,効果のほうで例えば優先弁済のようなものを認めないような緩やかな効果であれば入口は緩くてもいいという議論にもなるんだろうと思います。そういう意味では要件だけを議論して,その後に控えている効果のイメージが違うまま議論すると,なかなか,かみ合わないというようなことが弁護士会でもありました。ここで議論するときもそういうことだろうと思うんですが,さりとて,順番に議論していくとするとまずは要件ということになります。債務超過かどうかということについては,そのほかに保全の必要性あるいは現行法の保全のためにという要件に引き付けた文言が候補としてあるわけですが,その二つを比べたときにどっちが広いか,狭いかというのも一概には言えません。弁護士会の議論でも債務超過に限定するのはよろしくないので,要件を広げる意味で保全の必要性としたらいいのではないかというような意見もあるんですが,必ずしも保全の必要性とすることによって広がるとも私には思えなくて,今,申し上げたような私の制度観からすると,それほど広げるべきではないという観点から,むしろ絞り込む方向で保全の必要性を,具体的なワーディングはともかくとして,規律として採用することはあっていいのではないかと思っています。   もっと言えば,債務超過であるというようなことも,保全の必要性の中に折り込んだ形で要件立てができればいいなと思っておりますし,それから,先ほど来,出ているように,債務超過という破産法16条の定義と同じ言葉を使うというのは,それで違う解釈と言いますか,違う読み方をするのはかえって混乱するという意味でも,それと同じにするという提案については賛成できないです。従来の判例の中でも,代位しなければ債務者の資力が債権を弁済するのに十分でないときというような言い回しの判例もあるようですが,例えばそういう要件とすることも一つの候補にしつつ,必要な限度で認める制度としてはどうかと思います。そういう発想からすると,単純に債務超過ということで資産負債のプラスとマイナスを比べればいいということでもないでしょうし,保全制度によらずに,あるいは債務名義を取らずに,一定の権利行使を認めてやってもいいし,その必要性がある場合という観点から,ここの要件を考えるべきと思います。具体的な提案を,次回までに私も考えてきたいと思いますが,全体のイメージとしてはそんなことを考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○山本(和)幹事 アの点ですけれども,私も大体,今まで,皆さん,委員,幹事が言われてきたことと同じ意見です。どういう要件を設定されるかというのは,民法で考えられることだと思いますけれども,破産法の言葉をそのまま使うということは,やや問題がありそうな気がいたしました。   破産法の16条の債務超過というのは,法人の破産手続開始原因についての規律で,これでいろいろな解釈がされているのは,私の理解するところでは純粋に計数上の処分価格等で債務超過を判断してしまうと,従来の日本の法人というのは間接金融に大幅に頼ってきた状況があって,かなりの企業が実質,債務超過と見られるようなことになりかねないということがあるので,それは相当ではないだろうということで,そういう継続企業価値,動いている企業についてはゴーイングコンサーンバリューでのれんとかを乗せて,債務超過とは考えないというような解釈が一般的になってきているんだろうと理解しておりまして,そういう意味ではかなり,そういう場面で議論されてきた概念であるように思うので,そういう解釈もそのまま引き受けて,民法でここで使われるのならば,この言葉を使うということは結構だろうと思いますけれども,必ずしもそういう前提とは違って切り離して,先ほど金関係官が言われたように,解釈としては違うことがあり得るとすれば,やはり破産法の立場としては,混乱を避けるために違った言葉を使っていただきたいと。   もちろん,別の法律ですから,同じ言葉を使って違う意味内容を指すということはあってもいいのかもしれませんけれども,ただ,これが債権代位だけならまだともかく,詐害行為取消権にもそれが使われるということになりますと,必然的に破産法の160条の詐害行為否認は,詐害行為取消権の延長線上で同じ要件でやっているものですから,結局,破産法のほうに跳ね返ってこざるを得なくて,そうすると破産法内部で同じ言葉が使われていて,違う概念を指しているというようなことにもなりかねないので,それはかなりの混乱を呼ぶ可能性があるように思います。ですから,是非,これは民法の先生方に御工夫を頂いて,もし,違うものを指すのだとすれば,違う概念をお考えを頂きたいということです。   イのほうは後にしたほうがよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 どうぞ,ついでに。 ○山本(和)幹事 イのほうの登記申請権の代位行使のほうの話ですけれども,強制執行との関係で考えるとすれば,基本的な考え方は債務者の責任財産に帰属している財産については,債権者は必ず強制執行ができる権限を持っているべきだというのが基本的な理解だと思います。それは,私は裁判を受ける権利の一環であろうと理解しております。ですから,本来的には執行法の中で,言わば自立的に強制執行ができるような手段を債権者に与えておいてしかるべきなのだろうと思っています。   強制執行がテクニカルな理由で不動産については登記とか,動産については占有というものを指標にして,差押えをするという形にしているわけです。動産については占有が第三者にある場合には,動産引渡請求権を差し押さえて,それで動産執行につなげていくという仕組みを執行法は内在的に持っているわけですが,不動産執行については残念ながら,そういう仕組みはない。パラレルに考えれば,登記移転請求権とか,登記申請権を差し押さえて,不動産執行につなげていくという仕組みがあってもいいんだろうと論理的には思えますけれども,そういう仕組みは持っていないので,言わば債権者代位権を借りて,そこのところをつないでいるということなんだろうと理解しているところです。   ですから,民事訴訟法を変えろとか,あるいは不動産登記法のほうで対処しろというのは一つのあれですが,資料にはこの部会の任務の範囲外であるとその点は書かれていますので,それはそうなんだろうと思いますから,ですから,もし,あれであれば解釈に委ね続けるというのが一つの方法ですけれども,無資力要件ないし,それに代わるものを明文として書くとすれば,登記申請権等の場合だけ解釈で臨むということは難しくなって,どうしても書かざるを得ないということはあるのかもしれないと思っています。   その場合には,ここで書いていただくということはよろしいかと思うんですけれども,ただ,その場合には私は登記申請権だけではなくて,登記請求権も同じではないかなという感じがします。資料の11ページの辺りで登記申請権と登記請求権をディスティングィシュされているわけですけれども,私はこの議論は必ずしも説得的であるとは感じませんでした。結局,まだ,第三者のところに登記があるという場合であっても,それが債務者の責任財産に属しているのであれば,債権者は差し押さえることができてしかるべきであると思います。   もちろん,無資力でないとすれば,他の財産を差し押さえればいいではないかということにはなるわけですけれども,基本的には民事執行は債権者が差し押さえられる債務者の財産を選択できるというのが基本的な民事執行の立場ですので,債務者が第三者の名義に不動産をしてしまって,その結果,債権者がその財産を差し押さえられなくなってしまうということになると,債務者のほうで債権者が差し押さえる財産を制限できるということになってしまうと思われますけれども,その帰結は正当ではないような感じがいたします。ですから,そういう意味では,私自身はこういう制度を明文で置くんだとすれば,登記申請権だけではなくて登記請求権についても同じような形で,無資力ではない場合でも代位権を行使できるという規律にすべきではないかと思っております。 ○中井委員 弁護士会におけるこの無資力要件の要否に関する意見は,先ほど深山幹事がおっしゃられたように無資力要件ないし債務超過要件という,ここの定義の問題はともかくとして,それが必要であるという意見が有力であることは間違いございません。ただ,他方で複数の単位会から保全の必要性で足りるのではないかという意見が出ているのも,また,事実です。   深山幹事からもありましたけれども,最高裁の昭和40年10月12日判決が示されているわけですが,そこでは債権者は債務者の資力が当該債権を弁済するについて十分でない場合に限って代位行使ができるという表現になっていて,必ずしも債務者の全ての資産と全ての負債を評価して,それが処分価格か,事業継続価値かはともかく,無資力を立証して行使できるという説明ではなくて,当該債権者の持っている債権が債務者の資力によって満足できない事態に至っておれば行使できるという形になっているのではないか。そうすると,本当に債権者代位権で,無資力を要件としていたのだろうか疑問がないわけではありません。   念のために更に申し上げておくと,詐害行為取消権の要件とは変えるということを意味しております。詐害行為取消権については,一定の法律行為を取り消すという重大な効果が生じるわけですから,そのような他人の行った法律行為に対して重大な制約を課す権利を債権者が行使するとすれば,その要件はおのずと厳格でなければならないと考えているわけです。それに対して債権者代位権の対象は,債務者が自らの債権を行使しないという怠慢な状態にある中で代わりに行使する,自らの債権は遅滞に陥っている,債務者は自ら持っている債権を行使しない,そういう場面で行使しない自由をそれほど保護しなければならないのかという観点でもあります。   そこで,そう考えたときに,念頭に置いているのは,金銭債権の金銭債権に対する債権者代位についてでして,債権者代位の中でも形成権の代位行使を同じ土俵で議論するのかというと,それは適切でない。仮に保全の必要性で足りると考えたときの保全の必要性の中身ですけれども,解除権,取消権の形成権の代位行使となったときには,その効果の重大性から考えて債権者が債務者財産に介入するとすれば,無資力要件が必要ではないかと思っています。少なくとも金銭債権の金銭債権に対するものについて,果たして無資力要件が必要なのか。   実務的に考えたときにも本当に代位債権者が債務者の無資力を主張・立証できているのだろうか,債務者の全ての資産と全ての負債を評価しない限り,本来,出てこないはずでして,実務的には債権者の権利行使をしようとしても,それが足りるに十分な財産が債務者にないことが要件として,行使が認められているのではないかと思われる面もあって,それが今の意見に結び付いているわけです。 ○深山幹事 今の中井先生の発言に関連して,私も詐害行為取消権のいわゆる無資力要件と,それから,債権者代位権における無資力要件というのは,必ずしも同じように考える必要はないと考えておるんですが,ただ,そこから先は少し中井先生の発言とは違う考え方をしています。詐害行為については,無資力要件とは別に,詐害性という別の要件が入るので,結果として絞り込まれるということはあるんですが,無資力のところだけでいえば,詐害行為取消しで問題になる行為というのは正に債権者を害する行為をした場合です。それを取り消すときに,取消債権者がどういう場合に取消しという介入ができるかという問題ですが,債権者代位権のほうは単に債務者が権利を持っていながら,それを行使しないというだけのことなわけです。怠慢で行使しない場合もあれば,あえて権利行使しないという判断をしている場合もあり,いずれにしろ,特段,直ちに債権者を害するようなことをしているわけではなくて,自分の権利を行使していないというだけの状態なわけです。   そのような状態を比べますと,詐害行為取消しと債権者代位を比べて,詐害行為取消しよりも代位権行使のほうが無資力要件において緩やかでいいということには必ずしもならないのだろうと思います。問題のある行動を是正するという観点と,別に直ちに問題とは言えず,債権の回収が危ぶまれているというだけであって,債務者の行動としては特に非難されるべきことをしていないと言える中で,にもかかわらず代位権行使をするのだったら,私はむしろ代位権行使のほうが無資力要件に関していえば,厳しめでいいのではないかと考えておるところです。 ○岡本委員 1ページの1のほうについて余り意見がないようですので,1ページの1のほうについての賛成意見だけ述べておこうと思います。 ○佐成委員 深山幹事の御発言と趣旨は同じです。結論的にはちょっと違いますけれども,私も同じように,債務者の財産管理にどの程度介入できるかという効果の点で債権者代位権と債権者取消権には大きな差異がありますので,要件的にも大きな違いがあってしかるべきであると考えております。その要件の違いを無資力要件というところでも出すかについては,一応,考えてはみたのですが,結論的には,無資力要件以外の付加的な部分の差異だけで,債務者の財産管理への介入の程度の差異を正当化できると考えます。要するに,債務者自身が財産管理を懈怠をしていること,即ち,自分の権利を行使していないということが無資力要件に付加されており,債権者はせいぜい懈怠の解消をしてあげているにすぎませんし,実際,債務者自身が権利行使すればもはや債権者代位権の行使はできなくなるのですから,債権者代位権の要件としては,財産管理の懈怠だけで十分で,更に無資力要件の中身にまで差異をつける必要はないだろうと考えた次第です。それに対して債権者取消権に関しては,確かに,債務者が既になした財産管理を覆すという強い権能であるとはいえ,詐害行為という,言わば正当な財産管理の範囲を逸脱する行為がなされたのですから,それを覆すためには,そういった付加的要件の中で対象範囲を絞っていくことで十分正当化できるだろうというのが私の考えです。ですから,結論的にいうと無資力要件でそれほど差異を設けるということは必ずしも必要ではなく,むしろそれはちょっと難しいのではないかというのが私の意見でございます。   それと,今,申し上げた点を更にふえんしますと,債権者代位権については現行の条文では債務者自身が権利行使している場合については,代位債権者が権利行使できないということが直ちには明らかではありません。判例はそうなっておりますが,条文には書いておりません。しかし,そこは明確にしていかないと,今,申し上げた点,つまり,債務者の財産管理への介入根拠が十分に明示されないように感じます。無資力要件があって,かつ債務者が現実に権利行使しておらず,財産管理を懈怠しているということ,その二つの要素,無資力要件と財産管理の懈怠という二つの要素がやはりクリティカルではないかと感じておりますので,そこははっきりと条文上明確にしていただきたいという意見を持っております。 ○中井委員 先ほどの発言に追加させてください。(1)のイにも関係しますが,先ほど山本和彦幹事が登記申請権だけではなくて,登記請求権についても同じ規律にすべきではないかというお話がありました。具体的には第三者名義である場合にも強制執行が実現できる制度であるべきだと,こういう御意見と理解をしたわけですけれども,強制執行するときにはもちろん債務超過要件,無資力要件は不要なわけです。   それでは,将来,強制執行するために訴えを提起して債務名義を取得する,その準備をしながら債務者財産である不動産が第三者名義にあるとき,この第三者名義の登記を他に移転されては困るわけですから保全をしたい。そのときには従来から言われているように債権者代位権を行使して,債務者の持っている第三者債務者,つまり,登記名義人に対する登記請求権,これを被保全権利にして処分禁止の仮処分をすると思います。   そのときは,もちろん,仮処分という保全の必要性の要件は充足しなければなりませんけれども,加えて代位行使するために無資力要件を必要とするのか。将来の強制執行を保全するために,登記名義人の登記を動かさないということをするために,債権者代位権を行使するとすれば,そのとき無資力要件は要らないのではないか。それは債権者の持っている権利を保全するために必要があるからではないでしょうか。無資力要件を必要とする場合に,被代位権利を被保全債権とした処分禁止仮処分ができなくなるのではないかということに対して,どう答えるのかという問題があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   第1の1の債権者代位権制度の在り方に関しましては,特に御異論はなかったと受け止めさせていただきます。   2の(1)のアにつきましては,ワーディングについての御議論が一つはある。それから,もう一つは実質要件として,いわゆる無資力とか債務超過では足りないといいますか,それに付加するものがあるのではないかという御議論がありました。それを保全の必要性といえば,それでカバーできるかどうかについては,なお,問題が残りますけれども,かと言って,無資力要件不要説と言っているわけではないんですね。その辺の,ワーディングの問題と,実質的な要件について純粋無資力以外に必要な場面があるのではないかという御提案があって,ここについてはまた,追って具体的提案をなさるということもありましたので,継続して議論の対象にしたいと思います。   (1)のイにつきましては,執行法の御専門の先生も交えた上で,分科会で補充的に検討していただきたいというのが事務当局の御提案でございますけれども,併せて登記申請権だけでいいのか,登記請求権も強制執行の前提として行う場合には,無資力要件不要でいいのではないかという,こういう御提案のあったところでありますけれども,これはまた,かなり影響の大きい部分がありますので,問題提起を受けて継続的に検討させていただきます。実質的に登記請求権まで拡張できるかという点については,分科会でも御専門の立場を交えて御検討いただくとして,部会としても,新しく提起された問題でもございますので,転用型の議論などとも絡めながら,継続的に御議論を頂きたいと思っています。   既に事務当局から説明を頂いた部分の残りの部分,「(2)転用型の債権者代位権の根拠規定の在り方」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○岡本委員 12ページの2(2)のアにつきましては,転用型の債権者代位権が認められるべきケースは,甲案の①から③に限らないのではないかということがありまして,一方,甲案ですと,これに限られるように読めるものですから,甲案ではなくて乙案のほうに賛成したいということです。   それから,イについてですけれども,乙-1案と乙-2案については乙-1案のほうに賛成するという意見がございました。乙-2案につきましては,他に適切な手段がないことを要するという要件がありますが,これが場合によっては厳し過ぎはしないかという危惧がありまして,かと言って,その要件を除いて乙-2案の前半部分だけということになると,範囲が広がり過ぎるということもございまして,その結果としては乙-1案のほうに賛成するという意見です。 ○鎌田部会長 他の御意見はいかがでしょうか。 ○中井委員 ここは弁護士会の意見の御紹介になりますけれども,甲案か,乙案かという立て付けになっていますが,丙案があるのではないかという意見です。つまり,乙案は例示プラス一般的根拠規定というのに対して,丙案というのは一般的根拠規定のみという考え方です。   その理由ですけれども,確かに甲案①②③は判例上,認められているわけですけれども,例えば③について言うならば,賃借権に基づく妨害排除請求権として発展していくわけで,場合によっては対抗要件のない賃借権についても妨害排除請求権を仮に認めるとすればという仮定の話ですけれども,つまり,権利生成過程のものをこういう形で明文化したときのデメリットとして,権利の生成を阻害することになるのではないかという危惧があります。   この規定の内容について異議があるわけではないんですけれども,一般的に承認されていることであるとすれば,書くことによる分かりやすさというメリットと,書くことによる権利生成に関する阻害要因となりかねないというデメリット,この兼ね合いをどう考えるかというところになるのかもしれません。そこで,丙案は,個別に書かずに一般的規定だけでもどうかと,こういう考え方です。御紹介しておきます。   それから,イにつきましても,乙-1案,乙-2案で両説が分かれています。乙-1案が本当に判例を十分に表現しているのか,判例の事案でもこの形だった漏れる例があるのではないか,昭和50年の最判の事例では乙-1案では不十分だという御指摘があったかと思います。そういうことからすれば乙-2案のほうがいいのではないか。ただ,乙-2案も,適切な手段というところのワーディングも含めて,更に考える必要があるというところで,意見が分かれています。更に要件の明確化については検討していただきたいということになります。 ○山野目幹事 中井委員がお名前を与えてくださった丙案に賛成です。すなわち,乙案の中の,甲案の個別規定に加えて,という部分を削った上で,考えていただくことがよろしいと考えます。 ○鎌田部会長 他にはいかがでしょうか。 ○佐成委員 (2)ですが,経済界内部での議論の状況としては,少なくとも現在,判例上,確立した転用例については明文化するのが望ましいという限度では概ね一致しているように感じています。ただ,それだけですと将来にわたる発展可能性を阻害する危険性もあるので,乙案的なものを考えるべきかもしれないという意見はあるにはあるのですけれども,ただ,ここに提案されている乙-1,乙-2についてはまだどちらがいいというような踏み込んだ議論状況ではないというところでございます。 ○深山幹事 私も丙案的な考え方をしているんですが,甲案で掲げられている①②③について,規律としてこういう規律は,判例上,認められておりますし,実務的にも必要性があるので,何らかの形で明文化するべきだろうと思います。したがって,代位権の中での転用型として規定するというのも一つの方法でしょうけれども,例えば,一番取り上げやすいのは③かもしれませんけれども,賃借権に基づく妨害排除請求権を賃貸借の規定の中に盛り込むという可能性がもしあるのだとすれば,それはそれで一つの考えであると思います。   そのときに,対抗要件具備を要件にするかどうかとか,いろいろ詰めなければならない議論は当然あろうかと思いますが,それはそこで議論するとして,確立した規律をそれぞれの場所で規定をするということができれば,必ずしも代位権の中に入れる必要はないと思います。もし,それぞれの場所に規律を置けないということであれば,ここに置くという甲案もありかなと思います。明文化するということもありかなと思いますが,ただ,それに限定するという意味ではなくて,一般的規定もあったほうがよかろうと思いますので,そういう意味では,一般的規定を置くことを前提に,①②③を何らかの形で明文化するということを検討したらどうかと思います。   ちなみに,イのほうの乙-1か乙-2かについては,どちらかというと私は乙-2案の適切な手段がないことという補充性的な要件と言いますか,その観点も加味すべきではないかなと考えます。やはり,本来型のほうも,必要な限度でという基本的な発想からすると,転用型も含めてどうしてもこれが必要だという観点を要件の中に入れるという意味で,この程度の絞りというのはかけておくべきではないかと思っています。 ○鎌田部会長 丙案の御提案というのは,一般的な根拠規定は乙-1,乙-2又はその修正案の形でいいということでございますか。 ○中井委員 はい,そういうことです。 ○内田委員 丙案という考え方を支持される方に,中井委員と山野目幹事ですか,御質問したいのですが,甲案の②というのは学説上,それほど議論されていたわけではないように思いますが,①とか③の規定も置くべきではないという,そういう立場でしょうか。例えば③について,代位権の規定としてではなくて直接の妨害排除請求権の形で置くこともあり得るわけで,甲案はそれも含んでいると私は理解しているのですが,そしてまた,配置も代位権のところに置くという選択肢だけではなくて,例えば③は賃貸借のところに置くということもあり得る,そういう広い選択肢を持った上で,ともかく,これまで確立したものについては,きちんとそれが分かるようにルールを書こうというのが甲案です。丙案というのは私が伺ったところでは,それを置くべきではないという御提案のように聞こえたのですが,そんなことで本当にいいのかどうか。   それから,③については中井委員のほうから,今,生成途上の権利について明文で固定するのはどうかとおっしゃいましたけれども,制定以来100年以上たって,今まで認められたものは不動産賃貸借の事例だけです。動産についてもやはり認めるべき可能性があると,積極的に政策的な判断をされるのであれば,それはあり得る選択肢かと思いますけれども,あるかどうか分からないし,ちょっと無理かもしれないという程度であれば,現にあるルールをきちんと明文化するほうが重要ではないだろうかと思いますが,いかがでしょうか。 ○山野目幹事 内田委員のお話を伺って,そういう意味ですか,と少し驚きました。③は賃借権に基づく固有の請求権を書くこともあり得るというふうに,今,おっしゃいましたが,そのように読むことができるものでしょうか。代位行使と書いてあって,置き場所の議論はいろいろまたあってもよいと考えますけれども,これは明らかに転用例の一類型を掲げているものであると私は受け止めましたし,そうであるからこそ,中井委員は賃借権に基づく固有の妨害排除請求権の生成発展を阻害するおそれもあるということをおっしゃったものであり,私の甲案の理解が不勉強で,内田委員の仰せの御理解と異なっていたのかもしれませんけれども,内田委員とは異なる,したがってまた中井委員と同一の理解の下に,①②③の例示を置くことは相当でないという意見を申し上げました。一言,付け加えますと,そのようなものとしてのいわゆる丙案を採るのであれば,イの論点は乙-2が相当であると考えます。 ○内田委員 今の山野目幹事からの御指摘について,補足説明の13ページには直接の妨害排除請求権を規定することもあり得ると書いてはあるのですが,太字の部分について,私のような理解をするのであれば部会資料がミスリーディングだという御指摘はよく分かりました。その上で,乙案を採った場合の乙-1,乙-2なのですが,乙-2は狭いという評価を受けているようですが,文言上は,多分,使用貸借についても転用の根拠規定になり得るのではないかと思います。それでもいいという御理解でしょうか。 ○山野目幹事 これは意見が分かれることがある問題であるかもしれませんが,使用貸借の場合には保全すべき権利を果たして適切に認識することができるか,という問題があると感じます。賃借権の場合には使用収益させることを請求する債権というものを考えることができますが,使用貸借の場合には使用を認めて容認してあげるというふうな債務,そのことを請求することができる債権しかないと考えるのならば,債権者代位権行使の基礎となるところの保全されるべき債権を十分に観念することはできないということになりますから,乙-2案のみならず乙-1案でもそうかもしれませんが,転用型の規定を置いたときに,必ずしも借主のための転用が簡単に認められてしまうということにはならないと考えますし,利益考量はそれでよいと感じます。  ついでですが,乙-2案は,補充性をこのような仕方で処することがよろしいと思います。第一読の検討をしたときに松岡委員からもそのような趣旨の御発言があって,今日も乙-2案をおっしゃってくださるのかもしれないと想像いたします。 ○松岡委員 既に発言があるので発言しなくてもいいかと控えていたのですが,今,山野目幹事が御指摘になったとおり,債権者代位権の転用を余り広く認めて,本来の他の制度に悪影響が出るおそれが心配されますので,転用についてはしかるべき歯止めを掛けるべきであるというのが第1ステージのときから申し上げていることです。したがって,乙-2案のほうが望ましいと思います。ただ,先ほどの内田委員からの御質問に対して,山野目幹事のお答えでよく分からないのは,甲案のような①②③の例示を積極的に必要でないとされる理由です。もう少し補足していただけませんか。 ○山野目幹事 これは中井委員からおっしゃっていただいたほうが,より強く説得力ある明快な御説明になるかもしれませんが,先ほどの中井委員のお話をそのまま引用させていただくとすると,例示を挙げることによって,これらの事象,取り分け中井委員がおっしゃったとおりで私も③について感ずることですが,そこについての理論の,あるいは判例における運用と言ってもよいかもしれませんが,それらの展開を必ず妨げるとは言いませんが,妨げるようなことになりかねないか,ということであり,詳しい規定を置くことにより個別のフィールドの運用展開が攪乱されるような結果になることは,杞憂かもしれませんが,避けたいと感ずるものでございます。 ○中井委員 山野目幹事からおっしゃっていただいたのと同じ理解です。①②③というのが既に確定しているものであることについては理解していますが,③について言うならば,積極的に賃借権に基づく妨害排除請求権が債権者代位によるのではなくて認められているという理解もしています。あえて例文を置くことによって,仮に対抗要件のない賃借権に基づく妨害排除請求権なるものができるという,私はできることが正当だと言っているわけではなくて,仮にそういう権利生成がもしあるとすれば,ここで限定することによって,そういう発展を阻害しませんかという危惧だったわけです。そういう説明をしたつもりです。 ○松岡委員 今の点で,議論を混乱させるのは嫌なのですけれども,中井委員の御意見とは異なり.私の理解では,賃借権に基づく妨害排除請求権の代位行使の場合には,賃借権の対抗要件の有無はそもそも問題になっていないと思います。 ○鎌田部会長 むしろ対抗要件のない場合にも直接の妨害排除請求権が認められるという方向に行くはずなのに,これがあると代位行使に行かざるを得ないという形になってしまうという,そういう御指摘ですね。 ○中井委員 そうです。 ○道垣内幹事 丙にして,乙-1,乙-2のいずれかを置くというのはよく分かるのですが,先ほど内田委員からも話が出ましたように,判例・学説による新たな解釈の生成を阻害する条文はよくないと同時に,生成を無限定にする条文もよくない,少なくともよくない場合があると思うのです。そして,乙-1,乙-2のような文言を置くということによって,生成をしかるべくコントロールすることが可能なのかが私には非常に疑問に思われます。私も甲案がいいとそれほど思いませんが,甲案支持という人がいないのであえて言っておきますと,①②③と出すことによって,それに準じるものには拡大していくというふうな生成の仕方も十分にあるのではないか。乙-1又は乙-2を出すよりも,それのほうが私は山野目幹事のおっしゃった利益向上とか,そういうことが可能になるのではないかという気がするのですが。 ○永野委員 今の御発言に同調するものでありますけれども,今までの転用事例というのは所詮転用にすぎず,論理というよりも事案の性質を見ながら,解釈論として転用が認められてきたと思います。つまり,転用を認めた事案の中に理由が込められていたにすぎず,転用の一般的な論理があったわけではないということになるのではないかと思います。したがって,ここで仮に乙案のようなものを設けた場合には,今後,出てくる事案のうちどのようなものが転用事例となるのか,予想がつかないところがあって,本当に適切な形で歯止めが効くのかは,実務を担当している者として危惧観を持つところであります。   他方で,甲案の①から③のようなものが仮に規定をされていたとした場合に,それが今後の転用の足掛かりになるかどうかという面で考えてみた場合には,やはり一つの足掛かりにはなるのだろうと思っています。そういう意味では,転用事例として扱われてきたものであるという前提に立つならば,それを表から根拠付ける規定を設けることは,これまで転用という形で発展してきた法ルールについて,一つの別のファクターで,それを推進することにはなると考えております。 ○中田委員 無限に広げ過ぎる条文はよくないという道垣内幹事の御意見に賛成です。その上で,どう規律するのかということなんですけれども,確かに甲の①②③だけを置いて,あとはその類推という方向はあり得ると思うんですが,なぜ,それが認められているのか,単に政策的判断だけなのかどうかということは,もうちょっと検討する必要があるのではないかと思います。今,転用型という言葉が出ておりまして,本来型ではなく転用型だから例外であって,補充性が要件となるのだという考え方と,先ほど,松岡委員から出ましたけれども,本来の制度の潜脱となってしまうのではないか,それがならないように絞りを掛けるという観点も必要になってくると思います。   それから,もう一つは権利者の権利の相手である義務者の関与の機会の保障も,どうやって設けることができるのかということも考える必要があるわけでして,甲の①②③をまとめて書くのか,あるいはそれぞれの場所で書くのかということとは別に,本来型ではないもう一つの債権者代位権の利用の仕方ということを根拠と,それから,実績に考慮すべきファクターを考えながら,更に追求していくのがよいかと思います。  最後に言葉だけなんですが,仮に乙-2案,これは,今,広過ぎるという感じはしていますが,を採るとした場合に,2行目に被保全債権の実現が妨げられておりとなっているんですが,これは債権には限らないのだとすると,被保全権利という表現もあるだろうと思います。 ○松本委員 二点,申し上げたいんですが,一つは,ここに三つしか判例上,確立された転用例として挙がっていないですけれども,四つ目の本来型と転用型の重なったようなタイプと言われている,共有不動産の売却で,他の共有者が買主からの移転登記に応じない場合に,売主の一人が自らの代金債権の行使の前提として,買主の同時履行の抗弁を封じるため      に買主の登記請求権を代位行使する例もあるわけですが,そういう判例上,確立したものは全て明文化するというルールは採らないというのがこの提案なのでしょうかということです。その辺り,どういう判例について条文化しようとしているのか。別に条文化しようが,しまいが,判例として確立しているのだから一緒なんだということであれば,この①②③も要らないということになるのかもしれないというのが一つ。   それから,もう一点は,五つ目の転用例として一時期,出てきたところの抵当権に基づく妨害排除請求ができないから,取りあえず,債権者代位権を転用していたのが,その後,ストレートな抵当権に基づく妨害排除請求権を判例が認めたので転用の必要がなくなったという例です。必要がなくなったからここには出てこないということでしょうが,それとの関係で乙-2案の趣旨についてです。他に適切な方法があるのであれば,転用はする必要がないというのはそのとおりなんだけれども,そうすると,他に方法があれば転用型の債権者代理権の行使はできないというところまでの意味を乙-2案が持っているのか。   例えば③の場合に,判例の言い回しをよく覚えていないんですが,他に方法がない場合にのみという限定的な言い方を判例がしていたのであれば乙-2案のとおりなんでしょうが,そこまで限定していなくて,ひょっとしたら占有訴権が行使できるような場合でも認めているということであれば,乙-2案を採ることによって,既存の判例の射程を積極的に狭めようということになるかもしれないので,それでいいのかどうか。乙-2案というのが①②③という例示列挙された場合以外の新たに生成してくるものについてのみ,枠をはめようとするものとして働くのか,そうではないのかという辺りも,ちょっと検討する必要があるかと思います。 ○筒井幹事 ただいまの松本委員の御意見のうち,後半で乙-2案の評価について言及された部分は,部会の場で更に議論していただければよろしいかと思いますが,甲案について部会資料で①②③を列記した点については,私から補足して説明しようと思います。これについては,資料作成上,甲案の冒頭の部分に「例えば」と書いてあるところに大きな意味があります。つまり,判例上確立された転用例を明文化するという甲案の考え方に立ったときに,具体的に何を条文に書き込むかは,大いに議論のあり得るところですので,部会資料ではそのサンプルをお示ししたにとどまっております。   先ほど話題になりましたように,③を条文化することがよいのかどうかは大いに議論がありましょうし,それから,②もかなりレアなケースを取り上げるものであって,条文化は適当でないという議論があり得るのではないかと思います。一方,松本委員から御指摘がありました④といいますか,相続による共有不動産のケースについては,判例上確立した例と挙げられることがありますけれども,それを条文化して固定することが適当かどうかは,これは実質に関わる議論ですけれども,これも議論があり得るのではないかと思います。したがって,甲案を採る場合に,あるいは乙案を採る場合であっても,具体的な転用例として何を条文化すべきであるかについては,この部会資料では「例えば」ということで,サンプルを御提示しているだけであり,いずれにしても具体的な内容については更に議論を深めていただきたいと考えております。 ○沖野幹事 今の点に関して,まず,甲案につきまして配置の場所をここにするか,それとも,まとめて債権者代位の転用例として書くかという点ですが,いずれであるかというのはかなり大きな性格の違いを生み出すと思っております。個々に書くということは確かに現在,展開した判例のルールを書き出すということではあるのですけれども,むしろ,それぞれの規律が適切か,例えば既に議論の出ております③については直接の妨害排除請求自体の射程の問題として考え,それぞれの規律が適切かということを考えていく,むしろそちらに重点が置かれるようになるのではないか,各所で検討すべき課題になってくるのではないかと思います。   それに対して,債権総則の部分に転用例として認められるものだけを書くということになりますと,今度はその具体性が気になります。その部分にこのような具体的な規律だけが例えば三つだけ置かれているというのはやや違和感のあるところです。筒井幹事がおっしゃいましたように,そもそも①②③を挙げるということ自体が甲案の確立した提案ではなくて,例示としてのものであるということですから,それ自体を考えていく必要があると思いますが。ちなみに①②③について申しますと,③は直接の妨害排除請求との関係ということを考えると,書いてよいのかというのはためらわれますし,②は確かに判例はあるわけですが,本当にそれほど重要で書く必要があるのか,ルールとして確立して,更に今も重要な意義を持っているのかというとかなり疑問に思います。むしろ,こういうことを書くのであれば,資料に書かれてあるような対抗要件一般の規律にするほうが,まだ有用性があるのではないかと思っております。   それに対しまして,具体的なものをこの部分に挙げるということであれば,乙案の一般的な規定を,しかし,乙-1,乙-2では十分に絞り込めないので,例示をすることによって一定の範囲付けを行うというような意味であるならば,このような具体的なものを一つないし二つ入れるということは,意味があるものではないかと考えます。   以上は丙案を否定するというつもりではありません。乙-2案について松本委員がおっしゃった点に更に関連してですが,他に適切な手段がないという補充性によって絞りを掛けるというのは,転用型の意義を,他では十分ではないようなところに手当てする点にある,あるいは本来と言いますか,その領域でこれからの生成を含みとして持たせるということであれば,そのような意義の捉え方を実現するものだとは思うのですけれども,これが置かれることによってどのようになるのかが気になります。例えば先ほど抵当権の例が挙げられましたけれども,抵当権の話をここに書くかどうかは別としまして,判例の展開を見ますと,一方で,423条の法意に従い,として債権者代位権に即した妨害排除請求権の代位行使が認められるとともに,並行して抵当権自体を基礎とする直接の請求も認められるとされてきたという展開を見ますと,そういった判決はこれで出せなくなるのかということです。つまり,直接請求が認められるのであれば,補充性がないということになってしまいます。また,直接行使ができるようになれば,もはや,それは歴史的な使命を終えたということで,以後は使えないということを乙-2案は含意するものなのかどうか,この場で決定することではないのかもしれませんが,乙-2案でいった場合に思わぬ効果を生まないかということが気になりますので,留意をしておく必要があるかと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。いろいろ御意見を頂きましたし,文章だけを見ると,従来は保全の必要性という中でいろいろなものを総合的に考慮しできたのですが,そのうちの転用を認めないと,本当に不都合なんだという部分,転用を認めてまで保護しなければいけない必要性みたいな部分が必ずしも十分に読み込まれているかどうか,若干,疑問もないわけではないので,その辺も含めて,今日,いろいろな観点からの御意見を頂きましたので,これはまた,次の部会での審議に向けて事務当局で検討を続けさせていただきます。   (3)について御説明を既に頂いておりますので,ここまでは御意見を頂いておきたいと思います。「(3)被保全債権及び被代位権利に関する要件」のア及びイについて,御意見があればお出しいただければと思います。   ここについては特に異論はないと考えてもよろしいでしょうか。 ○山本(和)幹事 私が申し上げるのは余り適当ではないのかもしれません。イの②なんですけれども,差押えが禁止された債権が被代位権利にならないというのは,本来型では当然だと思うんですが,転用型も含んだ規律なのかどうかということです。転用型の場合には差押えというのは金銭執行に関する規律ですので,必ずしも被保全債権は金銭債権ではないと思いますし,文字どおり読めば,妨害排除請求権とか,登記請求権というのは差し押さえられないようにも思うんですけれども,恐らくは本来型だけの規律なのかなと思いました。 ○鎌田部会長 今の山本和彦幹事の御指摘については,当然,そういう前提で準備していると考えてよろしいですね。 ○金関係官 はい,差押えが禁止されているということと,そもそも観念的に差し押さえられないということとでは,若干視点が異なるように思いますが,しかし,御指摘のとおり,転用型の場合にこの規律が適用される場面があり得るのかという問題はあると考えております。ただ,全く適用場面がないかと問われると,それも少し確定的に答えられないところであると思っておりまして,ここでは本来型,転用型に共通する規律であるような書き方をしております。 ○鎌田部会長 他にはよろしいですか。内容的には特に御異論はないと理解させていただきました。 ○山本(敬)幹事 ここだけの問題ではないのですけれども,中身はよいと思うのですが,イの①債務者の一身に専属する権利は,他でも出てくると思うのですが,解釈上どこまでの権利を指すのかが争いになるところだと思います。また,言葉自体のイメージも古いものでして,一般の方々には分かりにくいこともあるだろうと思いますので,この点については,全体を通じてかもしれませんが,より適切な用語に置き換える可能性をどこかで検討する必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。その点については十分に配慮したいと思います。   他にはよろしいでしょうか。 ○中井委員 (3)ですが,金関係官の御説明からすると,転用型も含んで記載されたようです。ある弁護士会から指摘を受けたのですが,アの①の被保全債権の履行期が未到来の場合には,保全行為を除いてできないということの関連で,宮崎地裁昭和40年3月26日判決とか,名古屋地裁昭和58年3月7日判決とかは,農地が転々売買された場合について県知事の許可がない段階の,まだ停止条件付きの所有権移転請求権について訴訟による代位行使を認めているというようです。つまり,期限未到来の場合と停止条件付きを,パラレルに考えていいのかという問題はあるのかもしれませんが,停止条件付き所有権移転請求権について,債権者代位権の行使ができるかどうか検討していただく必要があるのではないかと思います。 ○金関係官 御指摘の裁判例は,条件未成就と期限未到来とをパラレルに考えた上で,期限未到来又は条件未成就の債権は原則として被保全債権たり得ないという規律が転用型の場合にも及ぶことを前提に,しかし,期限未到来又は条件未成就の債権であっても非訟事件手続法に基づいて裁判上の代位の許可を取得すれば被保全債権たり得るとされていることを踏まえて,裁判上の代位の許可を取得しないまま債権者代位訴訟を提起した場合であっても,その訴訟の中で裁判上の代位の許可の要件を審査して債権者代位権の行使を認めることができるとした裁判例だと思います。したがいまして,御指摘の裁判例は飽くまで(3)のアの規律を前提としたものであると思います。 ○沖野幹事 今のやり取りに関して,資料の51ページだと思うのですけれども,裁判上の代位の制度をどのように扱うかという問題として定式がされています。私自身は裁判上の代位自体は,現在の期限未到来の場合に備える制度としては,もはや必要がないのではないかと考えております。実際の利用例もないですし,訴訟の中で端的に判断すれば足りるというのが現在の取扱いだと理解しています。しかし,そうだとしましても,被保全債権の履行期の到来を常に要求するという要件化が果たして適切なのかという,その観点から,この問題を扱うべきではないかと考えており,それが中井委員が御指摘になった事項ではないかと思います。ですので,後ほど51ページ辺りで出てくる問題ではあるのですが,むしろ,改めてその履行期要件について,例えば訴訟によるならばできるとかいうことがあるのかもしれませんけれども,裁判上の代位の項目の箇所で併せて検討する必要があり,その意味で若干の留保をさせていただきたいと思います。 ○金関係官 部会資料35の「第9 裁判上の代位の存廃」のところで,裁判上の代位の制度は利用されていないから廃止するという議論だけではなく,もっと本質的な議論として,期限未到来の債権を被保全債権とする保存行為以外の代位行使を一切否定してよいのかどうかという議論をしていただきたいと考えております。その際には,例えば責任財産保全のための制度である民事保全の場合には被保全債権は期限未到来のものでもよいとされていることとの関係で,債権者代位権も責任財産保全のための制度であるならば必ずしも被保全債権の期限の到来を必須の要件とする必要はないという考え方もあり得ることを前提に議論をしていただければと思っております。 ○鎌田部会長 部会資料35の第9のほうでも51ページの一番下から52ページにかけて,そういう問題提起があるんですね。ここでの提案を採り,かつ,裁判上の代位をなくしてしまったときに大丈夫なのかという,こういう問題を検討する必要があるというふうな形で問題提起がされていますので,裁判上の代位のときにこれを忘れてしまうことは多分ないだろうと思いますので,そこで改めて検討させていただければと思います。   他によろしいでしょうか。本日もまた大量の積み残しを作ってしまったんですけれども,本日,積み残した部分は次回の冒頭で引き続き審議することとさせていただきたいと思いますが,他に何か御発言はございますでしょうか。 ○金関係官 無資力要件のところで少し確認をしておきたいことがありまして,代位債権者が債務者に対して300万円の債権を持っている,債務者が第三者債務者に対して1,000万円の債権を持っている,しかし,債務者はその1,000万円の債権以外には全く財産を持っていないという事案について,先ほど無資力要件を充足しないことを前提に議論がされていたようにも思いましたが,この事案はむしろ無資力要件を充足する事案なのではないでしょうか。債務者が1,000万円の債権を行使しないことが許されるのは,債務者がほかに財産を持っているからこそだと思います。無資力要件の充足を判断する際に被代位権利自体をプラスの財産として算入することは,債権者代位権制度が予定していないところではないかと思われます。 ○沖野幹事 同じ疑問ですけれども,それを含むような形の表現ぶりを考える必要があるということではないかと思います。詐害行為取消しと混同しているのかもしれませんが,詐害行為取消しのほうでは,債権者を害するという要件について無資力状態を指すとされ,その理解として当該行為によって無資力,債務超過に転落する場合もそれに該当すると考えられていると思います。そうだとすると,債権者代位についても行使をしないことによって消滅時効に掛けてしまい,それによって無資力や債務超過となってしまうという場合も含むと考えられ,表現としてそれらの場合を含むようなものでなければいけないのだけれども,しかし,それが今のワーディングから十分に読めるのかという問題提起ではないかと思います。 ○松本委員 私は少数意見なのかもしれないけれども,以前,この問題を調べたときは,ありふれたケースであるにもかかわらず,積極的に債権者代位権を行使できると明言している文献が見つからなかったので,今のパターンは無資力ではないから,残念ながら,債権者代位権の対象にはならないとするのが通説だと理解したんですが,通説はそうではないですか。ただ,消滅時効の進行を止めるための保全行為というのは当然できるというのが大前提でしょうけれども。 ○鎌田部会長 消滅時効の進行を止めるために給付請求するのが本当に保存行為というのだったら,どの部分を捉えて保存行為というのかという問題も起きてきて,概念的な整理はラフなところがあることは間違いないのではないですか,ここの要件の検討については。それらの点も含めて,それが松岡委員の要件の書き方についての問題提起のかなり重要な部分にもなっていたわけですので,それらを誤解なく理解できるようにするための検討は続けさせていただければと思います。   他に御発言がないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきますが,よろしいでしょうか。   次に,分科会についての御報告を申し上げます。本日の審議において幾つかの論点について分科会で補充的に審議することとされました。危険負担,受領遅滞,債務不履行に関連する新規規定に関する論点については第1分科会で審議していただくことといたします。債権者代位権については,本日の審議した範囲では一点のみしか分科会へお願いする項目はございませんでしたけれども,これは第2分科会で審議していただくことといたしまして,手続法の研究者の先生にも参加していただくことといたします。また,どの分科会で審議していただくかをこれまで留保しておりました民法第414条(履行の強制)の取扱い,部会資料32の第1の2でございますけれども,これにつきましても,手続法の研究者の先生に参加していただくことが有益であると考えられますので,債権者代位権の論点と併せて第2分科会で審議していただくことといたします。中田分科会長,松岡分科会長を始め,関係の委員,幹事の皆様にはよろしくお願いをいたします。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 次回会議は2週間後の2月14日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省20階第1会議室です。次回の議題は,本日の積み残し部分に加えまして,新たにお届けする部会資料36,これには多数当事者間の債権及び債務,保証債務,それから,債権譲渡のうち譲渡禁止特約に関する論点を盛り込むことを予定しております。よろしくお願いいたします。   続きまして,分科会の日程の変更がありましたので,御案内を差し上げます。先ほど部会長から第2分科会に債権者代位権についての論点を割り当てるという報告がありましたが,それに先立ちまして,あらかじめ手続法の先生をメンバーに含む形で日程調整をさせていただきました。その結果として,次回の第2分科会は,当初は2月21日に予定されておりましたが,この第2分科会を3月13日に変更し,3月13日に予定されておりました第3分科会を2月21日に開催するという形に変更させていただきます。変更後の形で申し上げますと,2月21日に第3分科会,3月13日に第2分科会を開催することになります。いずれの分科会につきましても,開催時期がもう少し近付いた段階で,議事内容を含めた御案内を差し上げたいと考えております。 ○鎌田部会長 本日もまた大量に積み残しを作ってしまいまして,予備日を全て使ってもなお審議日程が不足するような事態に陥らないか,少し心配になってまいりましたので,次回以降の効率的な審議に御協力いただければと思います。   本日の審議はこれで終了とさせていただきます。本日も熱心な御議論を賜りまして,ありがとうございました。 -了-