法制審議会民法(債権関係)部会           第41回会議 議事録 第1 日 時  平成24年2月14日(火)自 午後1時00分                      至 午後5時53分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 定刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第41回会議を開会いたします。   本日は御多忙のところ御出席いただきまして,誠にありがとうございます。    (幹事の紹介につき省略)   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 まず部会資料36と37を机上に配布させていただいております。部会メンバーには事前に電子データを順次お届けしておりましたが,全体が完成し,印刷物を配布するのは当日となってしまいました。会議当日の配布になりましたので,これらの部会資料は本日の審議の対象外という扱いにさせていただこうと思います。   本日の審議では,積み残しとなっております部会資料35を使わせていただきます。この資料につきましては,後ほど関係官の金から御説明を差し上げます。   この他に委員等提供資料がございます。まず,高須順一幹事から「詐害行為取消権(部会資料35の第2)についての意見」と題する書面を御提出いただきました。この書面については,高須幹事からの御要望もありまして,事前送付をさせていただいております。   また,本日の机上配布ですが,中井康之委員の御紹介で,大阪弁護士会民法改正問題特別委員会有志の方からの「債権者代位権の条文提案」と題する書面が提出されております。それに加えて,中井康之委員御自身から,「債権者代位権について」と題する中井康之委員の名義の資料の提出を頂いております。   それから,同じく委員等提供資料として日本弁護士連合会の「保証制度の抜本的改正を求める意見書」が提出されておりますので,机上に配布いたしました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   本日は,部会資料35「第1 債権者代位権」のうち「3 債権者代位権の基本的効果」以降及び「第2 詐害行為取消権」について御審議いただく予定です。具体的には,休憩前までに「第2 詐害行為取消権」の「1 詐害行為取消権制度の在り方」までについて御審議いただき,適宜休憩を入れることを予定いたしております。休憩後に,部会資料35の残りの部分について御審議いただきたいと考えているところですので,よろしく御協力のほどお願いいたします。   まず,部会資料35の「第1 債権者代位権」のうち,「3 債権者代位権の基本的効果」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明をしてもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「3 債権者代位権の基本的効果」,「(1)直接の引渡しの可否及びその効果」の「ア 直接の引渡しの可否」では,被代位権利が目的物の引渡しを請求するものである場合において,代位債権者がその目的物を自己へ直接引き渡すよう請求することができるとすることを提案しています。   「イ 直接の引渡しの効果」では,第三債務者が被代位権利の目的物を代位債権者へ直接引き渡したことの効果として,被代位権利に係る第三債務者の債務者に対する債務が消滅することを明文化することを提案しています。   「(2)事実上の優先弁済の可否(相殺の可否)」では,代位債権者が被代位権利の目的物である金銭を第三債務者から直接受領したことを前提として,代位債権者がその金銭の債務者への返還債務と債務者に対する被保全債権とを相殺することを禁止することを提案しています。   「(3)被代位権利の行使範囲」では,被代位権利の行使範囲を被保全債権の額の範囲に限定すべきかどうかという問題について,本文では,被保全債権の額の範囲に限定すべきであるという考え方を取り上げ,他方,補足説明の2では,被保全債権の額の範囲に限定すべきではないものの,被保全債権の額の範囲を超えて複数の債権を代位行使することはできないという考え方を別案として取り上げています。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○安永委員 (1)の「直接の引渡しを求めることを認める」という提案には賛成をいたしますが,(2)の「相殺の禁止」という提案には反対をいたします。仮に相殺が禁止された場合,強制執行手続が完了するまでは,他の金融機関その他の利害関係者であって債権譲渡担保その他の権利を有する者が,代位債権者である労働者が獲得をした売掛金に関して強制執行手続を取って,その全部又は一部を横取りすることが可能となります。これでは,相殺により労働者が債権を直接回収し,優先弁済を受けることが認められてきた従前よりも,労働債権の保護水準は大きく後退をいたします。雇用関係に基づき生じた債権については,先取特権において社会政策的配慮から優先弁済を受けられるとしています。このような趣旨に照らしてみれば,仮に一般的に相殺を禁止するとしても,労働債権については相殺禁止から除外するなど,現行の債権回収機能を制限しないよう検討していただきたいと考えます。   なお,債権者代位権を使わなくても,民事執行法に基づく強制執行手続あるいは民事保全法に基づく仮差押えを利用すればよいのではないかという意見もあるかもしれません。しかし,通常,労働者個人が強制執行手続や民事保全手続を利用することは現実的ではありません。労働者個人が労働債権に基づく先取特権を行使して,強制執行申立てを行うためには,一人一人の労働者に関して多くの資料をそろえなければならず,労働者一人当たりの金額が高額でない場合には,弁護士費用の負担も大きいため,強制執行手続の利用は事実上困難と言わざるを得ません。   一方,債権者代位権の行使では,労働組合が多数の組合員から一括して委任を受けて,債権者代位権行使の内容証明郵便を発送した上で,直接交渉により早期解決を図ることが可能です。交渉力の弱い労働者は,他の債権者と異なり,自ら担保を設定して債権の履行を確保することは困難です。   雇用関係に基づき生じた債権については,様々な社会政策的配慮から先取特権も付与されているところですが,破産管財人等による保護を受けることができない場合,労働組合や労働者は労働債権の回収を自力で行うこととなります。   日本の倒産制度では,破産法や会社更生法が適用される場合は管財人が管理することとなりますが,労働の現場の実感としては,管財人の付かない任意整理のケースが依然として少なくありません。特に,企業倒産時に会社に相応の財産が残っている場合には,経営者が倒産処理法の適用申請を行わずに任意整理を行って,企業財産を隠しながら労働債権を踏み倒そうとする例が少なからず生じています。また,倒産法制が使われるケースでも,民事再生法の場合は労働債権と租税は民事再生手続の外に置かれて,労働債権の債権届出手続も配当手続もありません。   現行の本来型の債権者代位権や詐害行為取消消権の制度は,自力による労働債権回収を行うための重要な手段として機能しています。労働債権保護についての手当てがされることなくこのような債権者代位制度の機能制限を行うことは,労働債権保護という観点から賛成できません。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   他にいかがでしょうか。(1)に関しましては特に異論がないという御発言がございましたけれども,これに関連して他の委員,幹事の方からの御発言はございますでしょうか。   (2)の事実上の優先弁済の可否につきましては,意見も分かれるところかと思いますけれども,御意見がありましたら。 ○岡委員 事実上の優先弁済のところでございますが,弁護士会は意見が分かれております。事実上の優先回収としての相殺を残してほしいという意見もかなりございます。   その理由として,今よりも債権者代位権の効力が今回の提案だとかなり弱まるはずでございまして,第三債務者の債務者に対する弁済も自由になる。規制されない。債務者の取立ても許される。そういうふうにかなり緩やかになっている状態であれば,最後の相殺を残しても,言われているような弊害はそう多くないのではないかという点が一つでございます。それから,100年間これを使ってきたという実績もありますし,その観点からも残してほしいと。   相殺を認めるべきでない場合も確かにありますけれども,それは支払不能後に負担した債務との相殺を禁止するという規律が入るか,入らないとしても相殺権の濫用という規律で,偏頗な相殺を禁止すれば足りるのではないか。代位権の場合に,代位権を原因とした返還債務について一律禁止すると,それは少しきつ過ぎるのではないかと,そういう意見でございます。 ○中井委員 先ほど御紹介がありましたように,大阪弁護士会有志から債権者代位権の条文提案をさせていただいています。大阪弁護士会の意見を少しふえんして,今の論点について申し上げたいと思います。   大阪弁護士会有志の意見は,保全執行制度が相当程度完備されているので,責任財産の保全はそれらの手続に本来的にはよるべきなのだけれども,保全執行制度では賄えない部分がどうしても残る,債権者代位権は,その場面で機能するものとして位置付けるという考え方を基本としています。前回の部会で議論になった無資力要件についても,そういう観点から,必ずしも無資力でなければならないという要件設定ではなくて,保全執行制度を補完するという観点から保全の必要性を考えていこうという立場です。   前回,私が舌足らずで申し上げたことに対する部会での議論を踏まえて,大阪では,この3週間の間に議論をして,要件について更に精緻化を図ったと聞いております。詳細は見ていただければと思いますけれども,執行保全制度では賄えないという特別の理由が一つ必要なのだと。それと併せて保全の必要性が必要なのだという,二つの必要性を要件としています。しかし,無資力ではない。無資力要件とすると,一方では広くなり一方では狭くなる。   こういう立場から,今議論になっています事実上の優先弁済との関係で言いますと,保全執行制度を基本とするのですから,事実上の優先弁済を認めないという立場に立っています。ただし,債権者に対する直接給付について,保全の必要性の範囲内で認める。それを債務者に返還する義務を負う。保全執行制度を使って,その後は基本的には強制執行という形で回収を図る。こういう考え方を示しております。大阪有志意見は,一貫した立場の提案です。   これに対して,事実上の優先弁済に関して弁護士会の意見が分かれていることは,先ほど岡委員から紹介のあったところです。   私自身もこの点は大変迷いがございます。基本的には,保全執行制度が完備されていくことについて何ら異存はないわけです。実務を見ましても,債務者と第三債務者との間で協力が得られない関係,つまり通常は敵対的関係になることが多いものですから,そういう場面では訴訟手続を使って債権者代位権を行使していくわけです。そうすると,必然的に代位権を行使するとしても,保全執行制度と組み合わせて使っていくことになるだろうと思います。その限りにおいては大阪弁護士会有志の基本的な考え方に特段違和感ないわけですけれども,実務では,それ以外に裁判外での行使場面というのは否定できないものがあります。   現に債務者が行方不明の場合はともかくとしても,債務者が積極的な事業意欲を失うなどして,もはや事業活動に専念しない,一生懸命にならないがために,債務者財産が散逸する,若しくは売掛金が取り残される場面がある。そのときに,債務者の多くの債権者,それが少額債権者であったりするわけですけれども,その人たちが,債権者代位権を根拠として第三債務者から回収するという実務はこれまであった。その場面で事実上の優先弁済により優先的回収が図られるわけですけれども,それがどこまで異常な事態といいますか,否定的に評価すべきなのかというところが意見の分かれ目なのかと思っております。少額債権にも債務名義を取得するところまで求めて,強制執行を最後の手段としなければならないのかという点について,そこまで重たい制度にしなくてもいいのではないかと考えるわけです。   その理由として,仮に相殺を禁止するという中身を考えたとき,この部会資料からは必ずしもうかがえませんでしたけれども,債権者からの相殺のみを禁止するのか,若しくは債務者からの相殺若しくは合意相殺も禁止するのか。これは第一読会のときでも,確か山野目幹事から,債務者からの相殺は認めてもいいのではないかというお話もあったように記憶しております。債務者としては,例えば債権者に売掛金の回収代金の代理受領権限を与えることは本来できるわけで,仮にそういう債務者側の意思に基づくものであれば許容される。つまり,債権者代位権を行使した結果として,債権者が第三債務者から直接受領したものを返還するに際しても,債務者の意思が,つまり債務者からの相殺若しくは債務者との合意相殺若しくは返還して直ちに弁済を受けるという形で,領収書だけもらうというのもあるのかもしれませんけれども,そういう形で債務者の意思を介すれば許容されるのではないか。とすると,制限するのは債権者からの相殺のみになり,かなり限定される,というのが1点です。   もう1点は,相殺を禁止するという制度を作ったときには,強制執行という形になるわけですけれども,返還債務に対して直ちに債権者は債務名義をもって差し押さえれば,第三債務者は自分ですから,直ちに取立てが完了するわけですから,相殺禁止をしたとしてもそれほどの実効性があるのか。これは裁判所のパブリックコメントにおいても指摘されていた論点ではないかと思います。そうすると,相殺禁止は,理論的な説明としては非常によく分かるわけですけれども,実際的にそれほど大きな差があるのかと考えたときに,これまで使われてきた事実上の優先弁済を否定することまで必要なのか,なお疑問と思っているわけです。   ○高須幹事 弁護士会の中の意見は分かれているという,またその続きで申し訳ありませんが,相殺の禁止を懐疑的に考える立場と,今,大阪弁護士会の意見のように相殺の禁止という形で貫くという考え方,この二つに分かれるというのは,弁護士会に限らずあり得ることかと思うのですが,実は弁護士会ではもう一つ,真ん中の意見といいますか,一定期間相殺を禁止するという形で,完全に相殺禁止を貫かないけれども,かといって,今のような比較的広範囲,自由な事実上の優先弁済を認めるという考え方は改める,こういう考え方がございます。   私も,基本的にはこの考え方がいいのではないかと思っている者の一人でございます。と言いますのは,代位権,取消権でも共通する部分もありますけれども,責任財産保全のための手段ということを考えれば,そのために債権者が債務者の一定の行為に関与できるということについては,やはり一定の歯止めといいますか,責任財産を保全して強制執行の準備をするためにある制度だということを忘れてはいけないだろうと。それを全く抜きにして,事実上の優先弁済あるいは個別債権回収のための制度とは完全に認めてしまうというのは行き過ぎではないか。その意味では,相殺を全く自由にするという扱いについて,今回の改正でそれを是とするというのはいかがなものかと思います。   他方で,詐害行為取消権に関しましては,これは債務者の法律行為を取り消して,既に受益者ないし転得者のところで形成されている財産状態といいますか,そういったものを無にして覆すわけですから,かなり強い効果を持っているという意味では,私は,責任財産の保全という趣旨に特化させるというのは重要だと思いますが,代位権に関しましては,同じ制度趣旨と言いながらも少し程度が違うところがあり,飽くまで債務者が行使していない権利を代わりに行使するという意味でございますから,そこには少し幅があってもいいのかもしれないと考えております。   具体的には,代位権行使は裁判外の行使も可能とされておりますし,仮に裁判になったとしても,事実上,和解的な合意ができて,裁判を取り下げるという場合も幾らでも,幾らでもというのは言い過ぎかもしれませんが,経験的にあるところでございますから,ある意味では,詐害行使取消権のように判決で宣言されるという形の明確な基準がないまま代位権が行使されているということが間々あるのかと思います。このとき,相殺を禁止して強制執行を強制すると,必ず強制執行をやりなさいということになると,安永委員から先ほどお話もあったように,そこまで普通やりませんよねというような状態が間々出てくる,こういうケースがあるのかと思います。   そうなると,どこかでは,仮に強制執行ということをしなくても,一定の段階になったらそれをもって相殺なりで処理をして,法律関係の結末を付けるということを認めてもいいのではないか。そうしないと,何年たっても,時効が完成するまでは預かったままですよというような形になって,後日,別な債権者がそれに対して権利行使をしてくるということを排除できない。そういう不安定な状態が長期間続くと,そういう可能性があるのではないかと思います。   そういう意味で,私としては,代位権に関してはという留保が付くのですが,取消権と別な配慮という意識なのですが,一定期間の相殺禁止という,やや中途半端かもしれませんけれども,その辺りのほうが現実の使い勝手としてはよいのではないか,つまり必ずしも強制執行に行けということを制度的に強制し切れないのではないかという場面においては,相殺を認める形での結末を付けるということに利点があるのではないかと思っておりまして,一定期間の相殺禁止という考え方も一つあり得るのだろうと思っております。   そういうことで,弁護士会は三つに分かれている,そういう状況でございます。 ○松本委員 中井委員のおっしゃった債務者からの相殺とか合意相殺はどうなのだということとの関係で,少しどうなのかなという疑問点が出てきました。それは,代位権を行使した債権者が直接引渡しを受けた金銭なり物について,債務者が,では私にお返しくださいという返還請求が代位債権者に対して当然できるわけですね。これを代位債権者が拒めないのか拒めるのかという点です。強制執行の準備段階ということであれば,拒めるというふうにしないと,何のために代位権を行使したのだということになりそうですが,単に預かっている,代わりに預かっているだけだということであれば,当然,直ちに返還すべきだということになりそうです。これはどうするのですかという話が一つ。   二つ目が,金銭でも物でも,代位債権者の手元に存在するものについて,他の債権者が強制執行を行う場合に,これは多分,民事執行法上の問題になると思うのですが,債務者が代位債権者に対して有しているところの返還請求権を差し押さえるという話なのか,それとも,代位債権者の手元にある金銭なり物なりを直接差し押さえるという話になるのか,一体どちらなのでしょうか。恐らく,代位債権者がどういう立場でその物を保有しているのかによって執行のやり方が変わってくるのではないかという気がいたします。 ○鎌田部会長 今の松本委員のは御質問にわたる部分があるのですが,事務当局から説明してください。 ○筒井幹事 その前に中井委員から問題提起があった債務者側からの相殺が許されるのかという点ですが,部会資料で提示している考え方は,専ら代位債権者からの相殺を禁止するということであって,債務者の側からの相殺については何ら制約しないというものです。   それから,松本委員からは,代位債権者への直接の引渡しがされた後に債務者から代位債権者に対して引渡しの請求があった場合に,代位債権者がそれを拒めるのかというお尋ねがありましたが,それは拒めないというのが部会資料で提示している考え方であります。それは,元々債務者のところに財産を戻すことが目的ですので,債権者代位権が行使された場合であっても,部会資料では後に出てまいりますが,第三債務者は債務者に対して弁済することを制限されない。したがって,一旦は代位債権者のところに支払われたとしても,それについて債務者が引渡しを求め,それによって債務者のところにその財産が戻ること自体は,制度が本来予定している姿であって,それを制限する必要はないというのが,ここでの考え方であると思います。 ○松本委員 そうしますと,強制執行の話も当然,債務者が有しているところの引渡請求権なり返還請求権を差し押さえるということになりますね。 ○筒井幹事 おっしゃるとおりです。 ○山野目幹事 いわゆる事実上の優先弁済なるものが全くコントロールなしに許容されてよいとは考えません。しかしながら,部会資料で示唆されております相殺の禁止という手法に関する限り,幾つかの疑問があるように感じます。   二つ申し上げますが,1点目は,法律論というよりも,自分を第三債務者とする債権の債権執行という,一般からは分かりにくい技巧的な手順により,その後の問題処理がされることになるということがございます。   それから,もう1点申し上げますと,私も部会資料の理解については,筒井幹事が先ほど御説明いただいたのと同様に理解をしてまいりましたから,債務者からの相殺は許されるであろうし,それからまた,恐らく債権者と債務者の合意による相殺というものも,それを妨げるべき決定的な理由はないのではないかというふうにも想像されますから,そうしますと,相殺禁止の規律における実効性の確保という点から見て疑問も出てまいろうと思います。   一言で申し上げますと,相殺の禁止という手法はエレガントな手法であるとは感じられないものでございまして,その点に関する限りは,中井委員が個人としておっしゃったことに同調いたします。大阪弁護士会有志で御提案になっている意見については,やはり同様の問題があるのではないかというふうに感ずるものでございます。 ○深山幹事 弁護士会の意見が様々だということは既に発言のあるとおりであります。   私自身の考えは,基本的な制度の在り方については,先ほど中井先生から紹介のあった大阪弁護士会の考え方にかなりの部分近いものがあります。具体的に言えば,本来は執行制度,保全制度を活用すべき場面であり,そこで賄われない問題を解決する等の限られた場面で,債権者代位制度の存在意義が認められるのではないかということで,そのことは前回の会議でも申し上げました。そういう意味で,債権者代位権制度の要件については,ある程度,絞り込んだ形で入口を狭くすべきではないかと考えております。   ただ,大阪弁護士会の考え方と各論的なところでやや違ってくるのですが,執行・保全の制度以外の第三の制度としてこれを認めるべき場面を考えてみると,現実の使われ方としては,債権者の債権回収の場面で専ら用いられていて,債務者の責任財産の保全,それも総債権者のためにというような観点からの使われ方をしているという現実はないと認識しております。   そういう現実の使われ方も踏まえますと,入口は限りなく狭めるにしても,使われてよい場面では,それなりの機能が発揮されなければ,制度として残す意味もなかろうという気がいたします。   前置きが長くなりましたけれども,事実上の優先弁済権,取り分け相殺の可否については,結論的には相殺を認めてもいいのかなと考えております。これはぎりぎりそちらに振れているというぐらいな感覚です。本来であれば,この制度は,債務者が権利行使しない権利を債権者が代わって行使をして,言わばあるべき債務者の財産状態を実現するという制度ですから,そこから先の自らの回収というものは次の問題です。本来あるべき姿を実現する制度と考えれば,債務者に戻すべきものを,更にそれを自らの回収に充てるということについては,それをストレートに認めるほど強い効果を与えることには,一方では疑問があります。   そういう意味で言うと,戻すべき先は,第三債務者から債務者へというのが考え方としては原則になるべきだと思いますし,不動産であれば,その点に異論がないところでありますが,金銭その他の動産については,なお(1)のところで問題にされているように,債務者ではなくて代位債権者に戻すことの可否が問題になり,これは実効性の観点等々から,私も結論として,代位債権者に戻してよいという結論を支持しているのですが,そういう結論を認めた上で,相殺を認めるかどうかについては,制度の本来の在り方からすると,そこから先のことまでこの制度で賄ってしまうのは,考え方としては行き過ぎのような気がいたします。   しかし,相殺を禁止して,強制執行手続という本来の手続につなげて,そういうもう一手間掛けなさいということにどれほど意味があるかということについては,既に複数の方々からの御発言もあるように,理念的には筋が通っていても,どれほど意味があるのか,あるいは迂遠ではないかという疑問がやはりあります。   現実的には,債権者が自らの回収の場面で使う制度であると,ある程度割り切って考えると,一定の要件を満たしたうえで債務者に代わって債権者が受領した金銭なり動産については,あえて強制執行という本来の手続をとらずに相殺という処理を認めることとしても,それなりの制度としての合理性があるのかなと考えている次第です。 ○金関係官 先ほど来何度か御指摘があります,代位債権者からの相殺を禁止したとしても債務者からの相殺,債務者との合意による相殺,債務者に金銭を返還した上での債務者からの弁済が禁止されていないから実益がないという点ですけれども,後者の三つ,すなわち債務者の行為を要素とするものについては,無資力の債務者がした弁済や相殺として詐害行為取消しの対象になり得ると思いますので,他の債権者としては詐害行為取消権を行使する余地があるのに対して,代位債権者からの相殺については,債務者の行為を要素としない以上,他の債権者としては詐害行為取消権を行使する余地がないと言えるように思います。代位債権者からの相殺と先ほどの三つの行為とではこのような違いがありますので,代位債権者からの相殺だけを禁止することにも実益があるのではないかと思いました。   次に,代位債権者からの相殺を禁止したとしても代位債権者が自分を第三債務者とする債権執行をすれば取立権付与までの1週間を待ってすぐに回収することができるから,他の債権者がそこに介入してくることは事実上なく,結局のところ代位債権者に余計な一手間を掛けさせるだけのことになってしまうという御指摘についてですけれども,これについては,例えば債務者の信用状態が悪化したことに気付いた二人の代位債権者が第三債務者の下へ集まったものの,タッチの差で負けてしまった2番手の代位債権者がいるという場合においては,仮に相殺が禁止されていなければ,1番手の代位債権者による相殺がされるだけで2番手の代位債権者が何らかの手段を採る余地はないのに対して,仮に相殺が禁止されていれば,2番手の代位債権者もその後の強制執行手続に入っていくことができると言えるのではないかと思いました。   最後に,今申し上げた二つの点は主に債権者間の平等という観点からの議論だと思いますけれども,それとは少し異なる観点から,そもそもなぜ債権者代位権という責任財産保全のための制度を用いて代位債権者が債権の満足まで得てしまうのかという根本的な問題がやはりあるように思います。この問題に関連して,先ほど,被保全債権が少額である場合には強制執行手続を使うと費用倒れになってしまうという御指摘があったと思いますが,しかし,債務者が不動産しか持っていない場合であれば,たとえ債権が少額であっても当然債務名義を取得して不動産執行をするはずですし,債務者が債権を持っている場合でも,債務者が到底無資力とは言えないような事案であれば,債務名義を取得して債権執行をするはずです。そうすると,なぜ,債務者がたまたま債権を持っていて,かつ無資力であるという場合にだけ,代位債権者は債務名義を取得せずに強制執行手続を経ないで債権の満足まで得てしまうのかという根本的な問題があるように思いました。 ○沖野幹事 繰り返しになりますけれども,4点あります。   まず,相殺を禁止することについて実効性が確保できないという点と,禁止した後,結局は容易に回収できるではないかという点について,それぞれ申し上げたいと思うのですが,それを問題と考えるかということ自体が問題であると思います。   相殺の禁止自体は,相殺を禁止することそのものに目的があるということではなく,強制的な回収を図るという点,それをどこまで認めるかということだと思います。相殺については,債務者側からの相殺,そのイニシアチブによる相殺,合意であれ一方的な意思表示であれ,それは禁止はされないわけですので,そうだとしますと,ここで問題としているのは,債務者の協力が全く得られない中で強制執行によらずに回収まで図るということを認めるかという点だろうと思います。それ自身は強制執行の要件を満たさないという場合であってもこのような形での強制的な回収ができるのかということです。とりわけ債務名義なくしてできるか,あるいは債務名義と同等の担保権ですとか,一定の幅はあると思いますけれども,そういうものがない中でそこまでの回収を認めるかということですので,債務者の協力が得られれば,最初から債権譲渡を受けるなり,取立ての委任を受けるなり,幾らでも方法はあり,問題は,債務者の協力がない中で強制的な実現というのを,強制執行によらず債務名義もないままでできるのか,それをどこまで許容するかという問題ではないかと思います。その意味では,債務名義の存在というのをどこまで重視するかということではないかと思います。   それに対しては,その後実現しようと思っても非常にコストが掛かる,実際には実行できないのも同じではないかという批判が考えられます。それに対して,容易にできるのであれば,むしろそれは,容易にできるのだからその方法によればよいという方向に働き得るので,かえって相殺禁止を支えるものとも考えられます。その意味では,挙げられた点はいずれにも評価ができるものではないかと思います。   2点目として,自らを債務者とする債権についての強制執行になるというのは,技法としてやや技術的であるという点はあります。しかし,そういう場面は他にもあり得ることですので,この場合にのみ問題にするべきものだとは考えられません。   3点目は,詐害行為取消権との違いという点でありますけれども,これもまた両方に働き得ると考えられまして,第三債務者から金銭の引渡しを受けるということは,基本的に債務者が第三債務者に対して金銭債権を持っているということですから,端的に差押えをするなり,あるいは仮差押えをするなりということができ,本来的には手続を踏めば端的な実現はできる場合です。それに対して詐害行為取消しは,そのままではそれができないという場合であり,代替手法がないという中で,更にアクションを起こさなければいけないというものであって,この点で債権者代位はそうではないということがあります。それにもかかわらず,自らへの直接の交付を求めるということ自体が許容されるのは,それは第三債務者の下で散逸する等々の懸念のあることもありますので,まずはそれを確保するというところまではやるという話ではないかと思われます。そういたしますと,私自身は,基本的には,大阪弁護士会の有志の案とされた考え方,債権者代位権を執行・保全との関係でどういう制度として位置付けていくかということから考えますと,相殺を禁止するという方向は,それなりに合理的な説明が付くのではないかと思います。   しかしながら,ここから更にですけれども,4点目です。そうは言っても,実質的な債務名義ですとか,それに代わる資格といいますか,その不在が問題であるならば,あえて強制執行の一手間を掛けなくても,その要件を満たしているならば,かつ,強制執行によって考慮されている他の債権者の行使の機会ということが確保されるのであれば相殺を認めるということは,なおあるのかもしれません。   もしそのような考え方を入れるとしますと,高須幹事がおっしゃった一定期間,それは直ちに強制執行を掛けたら,どのくらいで回収ができるかということも考慮した上での一定期間ですが,それを待ち,かつ,要件を更に加重する形で,その場合には相殺が認められるとすることが,大阪弁護士会の有志案を基礎とした上で,調整点として考える余地があるのではないかと思います。 ○山野目幹事 簡単に,金関係官がおっしゃった3点の御指摘のうちの1点目についてのコメントがございます。   一つ前の私の発言において,長くなりますから触れなかったのですけれども,おっしゃるとおりでありまして,債務者がする相殺の意思表示や,債務者が債権者との合意でする相殺は,いずれも債務者のする法律行為でありまして,それらが債務消滅行為を詐害行為取消権による攻撃対象とすることができる要件を満たす場合には,そのようなものとして法的に処理されるということは,確かにあり得ることでありまして,部会資料の77ページ,論点の第2,2(3)オ(ア)で論じておられる問題との連関ということを御指摘になったものだろうと思いますが,それはあり得るとしましても,相殺を禁止しておいて,それについて債務者からする相殺などは,詐害行為取消権の要件を満たしたときに,そのチェックを経て別な処理をするというのは,技巧の上に技巧を重ねるものでありまして,その上,債務消滅行為の詐害行為取消しの要件を満たさなければ果たし得ないことでありますし,また,それを満たすに当たっては,主観的要件の立証など,またそのことをめぐって紛争が起こるものでございまして,果たしてそのようなことが,私,先ほどエレガントでないと申し上げたのはそういう趣旨ですが,実にエレガントであると言えるものであろうかということは,気になるところであります。   しかし,そういうことであっても,事実上の優先弁済を規制する規律として成り立たないことはないということも仰せのとおりですから,沖野幹事がおっしゃったように,それは両様の評価が成り立つのではないかと感じます。 ○松本委員 事務局御提案のような形で制度が変わった場合に,果たして使われるようになるのだろうか,使われなくなるのではないかという点です。つまり,優先弁済的な効果は否定する,相殺はできない,しかも債務者から返せと言われればすぐに返さなければならない。そんな手間を掛けて誰が債権者代位権を行使するのでしょうか。せめて返還請求に対して総債権者のために私が代わりに預かっているのだと主張して,引渡しを拒否できる権利でも認められればまだ若干メリットがあるかもしれないですが,不誠実な債務者のところに戻してしまうと,金銭などどこに消えてしまうか分からないということになりかねない。   それでは,代位債権者がすぐに差し押さえればいいではないかということですが,債務名義があるのであれば,わざわざ債権者代位権を使って自分への引渡しを求めるよりは,直接債権執行をしたほうがより確実です。つまり,債務者の手元に金銭が戻って消えてしまうというリスクを侵さなくて済むわけです。   そういうふうに考えると,この制度は変わった途端に使われなくなるのではないか。もちろん,ゼロにはならないと思います。第三債務者の資力が怪しい,このまま放っておくと第三債務者の支払いができなくなる可能性があるという場合に,ぎりぎりのところで第三債務者から代位債権者に払わせて,すぐに債務者に返してでもいいですが,第三債務者の無資力のリスクをぎりぎりのところで阻止するという意味はあるかもしれない。あるいは,前から認められております時効を停止するために使うという形で,債権が消えてしまうのを防ぐとか,回収が不可能になるのを防ぐためというぎりぎりの使用方法はあるかもしれないですが,それ以上の使い方ができなくなるので,結果的には,もう使わないでくださいということになると思います。本来,強制執行あるいは保全処分等でやるべきなのだから,それができないごく特殊なものだけについて,債権者代位権を使える余地を残しておくと,そういう政策判断をするということであれば,私はそれはそれで十分成り立ち得る考えだと思います。 ○筒井幹事 今回の部会資料で事務当局が提示している案は,ただいま,松本委員が最後にまとめてくださった考え方であります。ですから,積極的に活用することを推奨するのではなくて,実際には金銭債務を保全するために金銭債権を代位行使するという形では,ほとんど使われなくなるだろうと思います。しかし,その形で利用される可能性を完全に排除するのは適当でないという考慮の下に,制度としては残すということですので,正に松本委員が,それなら賛成できるとおっしゃったのが事務当局が提示している考え方であると思います。 ○深山幹事 直前の議論に関して,私も,先ほど来申し上げているとおり,そんなに幅広く使われる制度にする必要はないと思いますので,そういう意味では御提案の考え方に近いのですけれども,もう一つの提案として,一定期間相殺を禁止するという,やや折衷的な考え方も示されており,そこで考慮されていることとして,他の債権者の差押え等の機会を与えるという趣旨も含まれているような発言もあったかと思います。   確かに,他の債権者との公平ということも一方では考慮する必要があると思います。しかし,同じ債務者に対して債務名義を持っている他の債権者がいるのであれば,代位債権者が代位権を行使するまでの間に,あるいは,代位行使して代位債権者のところに直接引渡しをするような事態になる場面よりももっと早い段階で,積極的に自らの債務名義を行使して,債務者の第三債務者に対する権利の差押えを通常はするだろうと思います。代位権が行使された段階になってから,慌てて実は私も債権者ですと名乗りを上げるという場面というのは考えにくいのではないかと思います。   そういう意味で言うと,他の債権者の公平というのは,考え方としては配慮すべきですけれども,そのために相殺禁止の期間を制限するということには,必ずしも合理性がないのではないかと考えております。 ○佐成委員 先ほど松本委員がおまとめいただいた部分ですけれども,経済界で議論していたときにもそのような意見がありました。つまり,本来型の債権者代位権の利用では,今まではどちらかというと,強制執行等のコストを掛けると費用倒れに終わるような非常に少額なものについて,第三債務者の任意の協力が得られるような場面,あるいは債務者の協力が得られるような場面で活用している例があるが,もしこういった形で事実上の優先弁済を制限していくと,次第に使われなくなるだろうという指摘です。  問題はそれに対する評価なのですけれども,経済界で議論している限りでは,それは困るとか,それでもいいという,いずれかの方向性を積極的に主張するような意見は余りありませんでした。ですから,使われなくなるという事態にはなるだろうけれども,それに対して強く反対するとまで言う意見はそれほどなかったということでございます。   ただ,現実には,優先弁済が認められていることを前提として,長らく実務が運用されてきましたので,それを改めるということについては慎重に検討してもらいたいというのが,経済界一般の共通認識だと思います。けれども,積極的にそれを擁護しなくてはならないといった,そこまで強い主張というのは,現時点では経済界の中には見られなかったように感じております。 ○中井委員 大阪弁護士会の立場で申し上げますと,債権者代位権についての立法提案をすると,前回の部会で申し上げた成果もあって,大阪弁護士会有志は一生懸命になって今日の提案をしました。そこで,詐害行為取消権についても次回までに提案をさせていただきたい。それを申し上げた理由は,先ほど深山幹事が大阪弁護士会案に一定の理解を示されながら,若干留保されたものと関係しているのですが,取消権について大阪弁護士会は,取消債権者に対する直接給付を認めない立場に立って,取消し相手方に債務者に対する給付を命じて,取消債権者はそれに対して強制執行をしていくことを構想しています。その前出しをしておきたいのが1点目です。   二つ目は,私の立場でございますけれども,先ほど沖野幹事が,相殺の問題点について,そのことを問題にすること自体が問題ではないかという趣旨の御指摘があったと思います。今回の提案は,債務者に対して事前に権利の行使を,債権者代位権行使する前に通知をするという制度がセットされる。したがって,債務者にとってはいつでも第三債務者に権利を行使して回収できる,そういう立場にあったわけです。にもかかわらず権利を行使しないので債権者が代わりに回収した,そういう場面を想定しているので,自らはそういう債務不履行をしながら,かつ自らの権利は行使しない,そのような債務者に対する保護として,事前の通知等で足りているのではないかと考えています。   三つ目は,これは高須幹事に確認の意味でもあるのですけれども,仮に一定期間相殺を禁止するという提案の中身ですけれども,それは当然に,返還義務を負うけれども,相殺禁止期間は当然に返還を拒否できるというのとセットになっているのかということです。そうでなければ,先ほど松本委員からも御指摘がありましたけれども,相殺は一定期間経過後にできるとはいえ,債務者から返還請求を受けて返してしまうと,結局その機会が確保できないということになります。いかがでしょうか。立法提案の内容を確認したいのです。 ○高須幹事 一定期間の相殺制限期間を設けましょうという,その趣旨は,ある程度の期間になったら相殺という形で法律関係を確定できることにしょうというところにございます。ですから,その相殺制限期間内は絶対債務者からの相殺をさせないということまで認めないと意味がないとまで,実は私は考えていなくて,何もしないで期間が経過してしまった場合に,強制執行していない限りは,あなたはただ預かっているだけですよと言われるのをどこかの時点で排除すると,相殺をそこで主張させるというところにあるということを想定しています。   具体例を申し上げますと,例えば,下請が元請に対して一定の下請代金を持っている。元請が倒産して行方不明になった。元請が注文者に対して一定の代金債権を持っているときに,元請が行方不明になった関係があって,注文者と下請との間では,仕事をしてくれたのだからお金を払うよというようなケースになった。それは弁護士も何も付いていなくて,債権者代位権の行使だという明確な意識もないわけですけれども,言わば常識的に許されるのだろうと思って受領していた。そのときは当然,債務者は行方不明ですから,何も言わないわけですけれども,2年,3年たって戻ってきたときに,考えたら預けたままだったよねみたいな,強制執行していない以上は返してもらえるんだよねみたいなことがいつまでも続いてはよくないのではないか。そこで,何か月か,あるいは1年か,そこはまだ分かりませんけれども,一定期間経過後は相殺を許すと。戻ってきて,返してくれと言ったら相殺の意思表示をすればいいと,こういう形で認めることがあってもいいのではないか。   先ほど沖野幹事から出ましたように,理論的には一定期間の相殺制限みたいなものは余り理論的ではないのかもしれないけれども,実質的に強制執行できるだけの権利を持っている場合には,どこかでそれを認めてやってもいいのではないかという発想というのは,特に訴訟外の代位権行使のときにはあり得るのではないか。弁護士を頼んで法的構成をきちんとした上で訴訟を提起するということではないケースにおいて,結局あなたが行ったことは代位権行使でしたよねと。それについて今さら蒸し返されるようなことは幾ら何でもかわいそうですよねという場合には,今の代位権行使が相殺という形で結末が付いているということを認めてもいいのではないか,そういう趣旨でございます。   もう1点,では相殺禁止期間内に返してくれと言われたらどうするのだという場合には,そこは恐らく強制執行するしかないだろうと。債務名義を取っていなければ仮差押えを掛けるべきだろうということで,強制執行なり保全なりという手で事実上の回収を防ぐということであって,そこは法的な手続でやるしかないのではないかと,このように思っております。 ○沖野幹事 高須幹事のおっしゃった2点目のことを申し上げようと思っておりました。私も,一定期間待つという場合に,待つことによって相殺を確保するという趣旨でもなくて,その間,債務者から返還請求は掛けられると考えています。ただ,当該代位債権者が債務者の当該代位債権者に対する権利について強制執行していくという選択肢はあると考えております。   そして,発想なのですけれども,なぜ一定期間待てば相殺を許容するということを考えているかという点ですけれども,これはそのまま強制執行するということになるとどうなるかと言えば,その要件を満たしているのであれば,自らを第三債務者とする債権を差し押さえ,一定期間経過後取立権を得て,そして自らから取り立てるということになります。実際には取り立てないわけでして,結局,端的に充当するわけでしょうから,そこで行われるのは,一定期間経過後は相殺をしているというのと同じ実質ではないか。それを,既に要件を満たしているのであれば,あえて強制執行の手続を取らなくても,その機会さえ与えられれば,その実質を実現させるということでも構わないのではないかというつもりです。   では待つまでもないのではないかと言われるかもしれませんけれども,その部分が強制執行による回収の実との調整ということで考えているところでして,その間に他の債権者が掛かってくるとか,債務者の返還請求に対しては,事実としては拒んだ上で,差押えか仮差押えで押さえておくという行動になると思いますけれども,そういうものが掛かってくることは排除していません。ただ,そうしますと,考慮としては,所詮その程度のものであるものについて,あえて一定期間経過後の相殺ということを認める必要があるのか,むしろ端的に強制執行でいくべきではないかという議論はあるのかと思います。 ○内田委員 民法学者と実務界から様々な御意見を伺ったのですが,もう一つ私は,手続法の先生の御意見をお伺いしたいと思います。   事実上の優先弁済を認めるかどうかという議論をしていますけれども,認めるということになると,限りなく債権執行の手段の一つを作るという話に近づくわけで,今までよくこの部会では,そんな規定をなぜ民法に置くのかという議論があったわけですが,なぜここでそれが出てこないのだろうという気がいたします。   債権執行は民事執行法でいくとすると,債務名義を取ってということになるわけですが,少額の債権で債務名義を取って差押えをするなどということがペイしない場合があるというお話が中井委員からありました。それならば,少額の債権について債務名義なしに差し押さえることを認める手続を民事執行法に作ればいいわけで,なぜそういう議論にならずに民法にバイパスのような形で作ろうとするのか。   債務名義を取るというプロセスは,無用の負担を課すためにやっているわけではなくて,債務者,第三債務者の保護や手続保障という理由があると思うのですが,そういう観点から,債務名義なしの差押えという手続を認めることが民事執行法上は無理だということであれば,それが民法でできるのはおかしいのではないかと思います。   民事執行法ができる際,債務名義なしの配当要求の手続が旧民事訴訟法にあったわけですが,これが民事執行法の制定とともに廃止された。配当要求も債務名義が必要であるということになったわけです。その理由は,虚偽債権による濫用の弊害があるということでした。そのような建前を取った民事執行法が一方でありながら,債務名義なしの債権回収を認めましょうという議論が別途進行するというのは,何とも奇妙な感じがするものですから,手続法の先生方が今進行している事実上の優先弁済を許容するという議論に対してどうお考えになるのか,お伺いできればと思います。 ○山本(和)幹事 今,内田委員が御指摘のところは,我々から見ればそのとおりという感じはいたします。   先ほどは労働債権のお話が出ました。労働債権については,民事執行法は例外的に,債務名義を取らないで,一定の署名文書に基づいて先取特権を実行するという方法を,執行名義なしに担保権を実行する方法を認めているわけです。少額の債務名義については,債務名義は必要であるということではありますが,それだけに債務名義を取りやすいようにということで,少額訴訟という制度を民事訴訟法の改正で作り,司法制度改革ではその範囲を拡大するということ,更に,強制執行もやりやすくするために,少額訴訟債権執行という少額訴訟のために特別の簡易な簡易訴訟,簡易裁判所でできる執行手続も認めました。   そういう意味では,今のような執行手続には費用や時間が掛かるという御批判に対しては,ずっと執行法としては応えようとしてきたと。これは次の詐害行為取消権の否認権の問題も同じだと思いますけれども,そういう執行手続とか倒産手続が取れない,だからそれについての便法を設ける必要があるというのは,我々から見ればそれは邪道としか言いようがないわけで,それが難しいのであれば,本来の執行手続や倒産手続をより利用しやすいものにしていくということが本来のやり方であって,それでできるだけ努力をしていただきたいと個人的には思いますけれども,飽くまでもそれは希望です。 ○畑幹事 執行法の立場からすると,今,山本幹事がおっしゃったとおりだろうと思います。ただ,そうは言っても,執行法の改正なり改良なりが十分ではないではないかと言われると,そうかもしれないというところもあり,若干のちゅうちょはあるというところであります。   ちなみに,事実上の優先弁済とか債権回収の機能に対して否定的な立場を取るのであれば,そもそも,先ほどの(1)の債権者に引き渡すというところも認めないというのが一番シンプルですっきりしているように思います。ただ,先ほど少し沖野幹事がおっしゃったのですが,物なら物を第三債務者のところにとどめておくのがいいのか,債権者のところに一旦取るのがいいのか,そうすると債権者のところで何かあるかもしれないという問題もまた出てきそうですが,そういう問題はあるかなという気はしております。   それからもう一つですが,債権回収の機能なり,事実上の優先弁済を広く認めるということになるとどうなるかということですが,第三債務者が債務者に本来の履行ができるかどうかという問題が後に出てきます。これを仮に肯定すると,第三債務者はどちらに渡すかという選択権があることになり,どちらを選ぶかによって,代位債権者が非常に有利な地位を得るか得ないかという違いが出てくるので,それも制度としては気持ちがよくないのではないかという気はしております。後の問題とも関係しますが。 ○中井委員 1点,山本幹事のおっしゃられたことに関連して,もちろん執行制度,保全制度を使って行われるのが好ましいことについて,何ら異論を挟むものではありませんし,それが発展・充実して使いやすいようにしていただくことは望むところです。   私は優先回収を認める立場ですけれども,それは執行法を潜脱するという意図があるわけでは決してありません。債権者代位権を行使するとき,債務者に給付するのではなくて直接債権者に給付することを認める,これはそれなりにコンセンサスが得られていると思います。債務者に給付ができるものについては,債務者の下で強制執行し,みんなが取り合う。債権者に給付されるものを金銭と物に分ければ,物は相殺ができないわけですから,債権者が物に執行していく。同じように,金銭についても債権者が回収したとき,強制執行で回収して構わない。   ただ,民法には相殺制度が別途設けられている。金銭を返す債務があり,その債権者が債務者に債権を持っていたときに,簡便な決済方法として相殺制度が存在しているから,債権者代位権との組合せの結果として事実上の優先弁済ができる,私はそのように理解をしております。それは相殺制度の結果であって,積極的に意図したというか,それをもって潜脱しようとする意図ではない。   事実上の優先回収と言われているものは,他の場面にもあります。例えば,商事留置権についても,留置権自体に優先権がないと言われながら事実上の優先弁済機能がある。その根拠は何かと言えば,結果としての相殺制度ではないか。これに相通じるのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   (1)については御異論のないところで,(2)につきましては,賛否両論のほか第三の提案があって,これは新しい提案としてお出しいただけるとなると,高須幹事と沖野幹事で,若干ずれているところもあるかもしれませんが,御相談の上,提案内容をまとめて記述して出していただければと思います。   そして,(2)での事実上の優先弁済を認めるという立場を取ると,特に(3)の被代位権利の行使範囲についての制約が出やすいのに対して,強制執行の前提として考える,つまり事実上の優先弁済機能がないというときに,(3)についてどう考えるのかという点につきましても,関連して御意見を頂いておいたほうがよろしいかと思いますが,(3)関連の御発言はございますでしょうか。 ○中田委員 (3)につきましては,今,正に部会長がおっしゃいました,事実上の優先弁済機能を認めないという方向と被保全債権の額に限定するというのは整合しているのだろうかという問題があると思います。   それからもう一つ,第三債務者を害する可能性ということも考えておく必要があるのではないかと思います。第三債務者の側からすると一部請求をされることになりますけれども,そうすると過誤払いのリスクがあるわけです。また,供託しようとしましても,今回の御提案では第三債務者の供託はできないということですので,第三債務者は非常に困った立場に置かれる。また,被代位権利が金銭債務以外の場合には,一部代位となって複雑になるという問題もあると思います。この資料の中では被代位権利が複数の債権である場合の例を挙げておられるのですけれども,それは保全の必要性のほうで押さえることができるのではないかと思います。   したがいまして,先ほど本案と別案を御紹介いただきましたけれども,もう一つ,26ページの,この項目の最後に出ております「自己の債権を保全するため」という要件の解釈に委ねておくという方法もあるのではないかと思います。 ○金関係官 一部請求の場合の過誤払いの問題ですけれども,今回の部会資料では,第三債務者は債務者に支払えば過誤払いのリスクを避けられると考えているのですが,それだけでは解決できない問題という御趣旨でしょうか。 ○中田委員 おっしゃるように,第三債務者は,代位債権者からの請求があったにもかかわらず,それを拒絶して債務者に払うということでリスクはなくなるという,それは制度としては理解できるのです。ただ,第三債務者の実際の立場を考えてみますと,先に代位債権者から請求されているという状態を考えると,やはり事実上の危険というのは残るのではないかという懸念があるように思います。 ○中井委員 (3)に関してですが,この資料は,債務者に対して給付する場合においても,被保全債権の額の範囲に限られるというふうに素直には読めます。   その点も含めてですけれども,被保全債権を保全するために必要な範囲において行使できるというのが基本的な考え方ではないか。それは先ほど中田委員がおっしゃられた考え方に共通すると私は思っているわけですけれども,仮に債務者に引き渡す場合であっても,その保全の必要の状況によって引き渡すべき範囲は変わってくる可能性がある。物の例では,物は可分でない場合もあるでしょうし,また,他の債権者が参加してくる可能性もあるでしょうから,保全の必要性の判断において引き渡すべき範囲は異なってくるのではないか。   債権者に引き渡す場合は,金銭に限って言うならば,私は事実上の優先弁済を認める立場ですから,被保全債権の範囲で引き渡す。しかし,金銭以外の動産類だとすれば,果たして額の範囲という限定が有効に機能するのか,動産がどのような換価になるかも分かりませんので,ここは解釈問題になって,結局は,被保全債権を保全するために必要な範囲で引渡しを請求することができると言わざるを得ないのではないか,このように理解しています。 ○岡委員 被保全債権の額に限定すると書き切ると,いろいろな不都合があるのではないかという問題意識が弁護士会の中にかなりございました。その一つが今の中井さんの意見でありますし,保存行為については限定しなくていいのではないかという意見もございました。   また,26ページに書いてあるような,被代位債権が1個の債権の場合には限定なしでいいではないか。動産の場合もそのように言えると思いますが,そういう場合にまで被保全債権の限度に限るというのは行き過ぎだろうという意見がございました。   もう一つは,競合債権者がある場合には広げてほしいという実務的な要請もあります。それを条文に組み込むのはちょっと難しいとは思いますが,そのような意見もございました。 ○金関係官 先ほどの中井委員の御指摘について少し確認をしたいのですけれども,被保全債権の額の範囲に限って直接の引渡しを認め,その余の部分は債務者への引渡しのみを認めるという御趣旨だとすると,第三債務者としてはわざわざ代位債権者と債務者とに分けて支払うのではなく,債務者に全額を支払うのではないかと思いました。前提が違っていれば申し訳ございません。 ○中井委員 債権者に金銭を引き渡すべき場合について,私が被保全債権の額に限ると申し上げたこととの関連で,その額より被代位債権が大きいときは二つに分かれるではないか,そういう御指摘と理解してよろしいでしょうか。そのような場面まで具体的に考えなかったのですけれども,直接引渡しを求めるときには,基本的には被保全債権の額というのが基準になっていいだろう。それが金銭の場合はそうなるのではないかという原則を述べました。   ○松岡委員 横から割って入って申し訳ないですが,今の金関係官の御質問の趣旨は,優先弁済を認めながら債務者のほうに払ってもいいとすれば,2回に分けて払う煩を避けて,第三債務者は債務者のほうに払ってしまうから,事実上の優先弁済そのものが成り立たなくなって,中井委員のおっしゃっている趣旨と反するのではないかと理解しました。 ○金関係官 確かに先ほどの私の疑問を推し進めると松岡委員がおっしゃったところに行き着くのではないかと思います。 ○中井委員 すみません。松岡先生,もう一度。 ○松岡委員 金関係官から直接御質問いただいたほうがよいと思います。 ○金関係官 私自身は必ずしも事実上の優先弁済のところまで意識していたわけではなかったのですが,被代位権利を行使する際に,直接の引渡しを求め得る部分は被保全債権の額の範囲に限るけれども,被代位権利の行使そのものは被保全債権の額の範囲に限らないとするならば,被保全債権の額の範囲を超える部分は債務者に支払えということになると思いますけれども,そうした場合に,第三債務者が自由に債務者に支払ってよいことを前提とすれば,第三債務者はわざわざ代位債権者と債務者とに分けて支払うのではなく,債務者に全額を支払ってしまうのではないか。そうすると,事実上の優先弁済の前提である代位債権者への直接の支払がされないことになってしまうので,結局,事実上の優先弁済そのものが成り立たなくなってしまうのではないか。このように考えていくと,当初の私の疑問は松岡委員がおっしゃったところに行き着くのだと思いました。 ○中井委員 そういう趣旨であれば,第三債務者が債務者に払うことについては,私は何ら制限しませんので,それはやむを得ないというだけのことです。 ○潮見幹事 少し気になるので1点だけ申し上げます。補足説明で書かれている考え方というのは,仮に事実上の優先弁済というのを否定するという立場を取った場合には,従来の債権者代位権のところで説明されていた考え方とは真っ向から反する立場を採用するということになるのでしょう。   債権者代位権制度というのは,この前からも少し議論がされていますように,強制執行の準備ということを目的としており,その中では,代位債権者のみならず,総債権者の債権回収の利益もその後に控えているという前提で,この制度というものは成り立っていると思います。そのように考えたならば,本来の債権者代位権の制度目的に純化して考えていこうという立場を取れば取るほど,そもそも制度として被保全債権の上限というところにはいかないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 そうすべきだという御主張ではない。 ○潮見幹事 被保全債権を上限とすべきでないということです。 ○鎌田部会長 上限とすべきでないという制度にすべきであるという積極的な御主張であると理解していいですね。 ○潮見幹事 はい。 ○松本委員 先ほど部会長が途中でまとめられようとされたこととは違うお考えということで,つまり,従来の優先弁済の制度を残すという前提の下で上限は要らないというのが潮見幹事の御提案なのでしょうか。私は,制度目的のほうをはっきり決めれば,あとの議論は余りしなくていいという部会長のまとめで,それでいいと思うのですが,制度目的をはっきりさせないで(3)の議論をするというのは,無理があるのではないですか。 ○潮見幹事 そのとおりで,私の考えは,事実上の優先弁済は禁止すべきであるという立場です。 ○鎌田部会長 したがって,(3)については三通りの考えになるということですかね。事実上の優先弁済があるから,したがってそれの枠内というのと,事実上の優先弁済機能はないけれども,自己の債権を保全するのに必要な範囲内という制約が掛かるというのと,事実上の優先弁済的機能がないのだから上限額を設定すべきでないという,三つのパターンの御意見が出されていると理解いたしました。 ○岡委員 潮見先生の筋から言ったらそうだろうと思いますが,債権者が費消する,あるいは倒産するリスクを実務家としては考えますので,そちらの観点から最小限に絞るという考え方は十分あり得ると思います。 ○山本(和)幹事 補足説明にも書いてありますので,確認ですけれども,民事執行法でも民事保全法でも,債権の執行あるいは債権の仮差押えの範囲については,民事執行法の146条ですけれども,対象が一つの債権であれば全部差し押さえられるけれども,複数の債権であれば,基本的には差押え債権者の債権額を限度でしか,差押えあるいは仮差押えはできないという超過差押えの原則があり,その場合は他の債権者が配当要求で入ってくれば,按分になってしまうわけですけれども,それはそういうことで制度は仕組まれているということは,確認させておいていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。   それでは,恐縮ですけれども先に進ませていただきます。   部会資料35の「第1 債権者代位権」のうち,「4 代位債権者と債務者との関係」について御審議いただきます。事務局当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「4 代位債権者と債務者との関係」の「(1)代位債権者の善管注意義務」では,代位債権者が債権者代位権の行使に当たり債務者に対する善管注意義務を負うことを明文化することを提案しています。   「(2)代位債権者の費用償還請求権」の「ア 費用償還請求の可否」では,代位債権者が債権者代位権の行使に必要な費用を支出した場合には,債務者に対する費用償還請求権を取得することを明文化することを提案しています。   また,「イ 先取特権の付与の要否」では,その費用償還請求権について,共益費用に関する一般の先取特権が付与されることを明文化することを提案しています。   以上の各論点のうち,「(2)代位債権者の費用償還請求権」の「ア 費用償還請求の可否」及び「イ 先取特権の付与の要否」については,仮に規定を設けるとした場合における具体的な規定の在り方等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,まず「(1)代位債権者の善管注意義務」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○松本委員 先ほどの議論に戻るのですけれども,本来型の代位権については,使われなくなるだろうという方向に制度改正をするということですね。そうすると,使われなくなることを前提としてなぜこんな細かい規定を置くのか。置いたからといっても使われないわけで,そうすると,わざわざ議論する手間,無駄な手間を掛けるだけではないかという気がするのですが。そのほうが法典としてきれいだという理屈かもしれないですけれども,本来の狙いである使われないようにしようということと,制度を整備してもっと使いやすくしようということがちょっと矛盾しているのではないでしょうか。 ○金関係官 先ほどの議論は,本来型の債権者代位権が機能する場面として今まで想定されていたもののうち,少なくとも一部については残す必要があるという議論であったと思いますので,その残す必要があるものについては善管注意義務の規定などを整備する意味があると考えております。 ○岡委員 弁護士会の多数意見は,善管注意義務に賛成でございます。ただ,一部に,自己の財産におけると同一の注意で足りるのではないかと,事実上の優先回収を認める立場のほうから,特にそのような意見が述べられておりました。 ○岡本委員 (1)の善管注意義務の点ですけれども,代位債権者が債務者に対して善管注意義務を負うということ自体はそれで結構だと思うのですけれども,注意義務の程度について,代位債権者の保全の必要性の程度と相関的に捉えることはできないのだろうか。保全の必要性の程度が大きいときには,それだけ注意義務の程度が低くなって,保全の必要性の程度が小さければ,それだけ注意義務の程度が高くなるといった捉え方はできないだろうかという意見がありました。   それからもう一つは,銀行のグループ会社の投資信託があったとしまして,それを銀行が債権者代位権を使って解約するといったことを想定した場合に,その投資信託の契約において,中途解約の際に多額の手数料が設定されるといった場合に,一種の利益相反とも言い得るような状況になるように思われると。そういった場合に注意義務違反といった問題が生じるのだろうかといった疑問を呈する意見もございましたので,申し上げておきます。 ○道垣内幹事 岡本委員がおっしゃった最後の問題は難しい問題で,よく分からないのですが,岡委員と岡本委員の注意義務に関する御発言に関連して,岡委員には,なぜ一部に自己のものと同一の注意で足りるという見解があったのかということと,岡本委員には,なぜ保全の必要性が高いときに注意義務が軽減されるという考え方が出てきたのだろうかということについて,是非お教えいただければと思うのですが,私にはとても想像できないです。 ○岡委員 善管注意義務が高過ぎるという意識があるのかもしれません。先ほど申し上げたように,最終的には自己の債権のためにやっているのだから,なぜ高い義務を負わなければいけないのだという素朴な感情だろうと思います。私は少し想像できます。 ○岡本委員 私の発言のほうについて,そういう意見はあったのですけれども,理由までは十分聞いてこなかったところがありますので,この場ではお答えできないです。 ○深山幹事 (2)の費用償還請求権のことについて申し上げたいと思います。   結論的には,規制を設ける必要はないのではないか,アの費用償還請求権のほうも,それからイの先取特権についても,いずれも明文の規定は不要ではないかと考えております。   その理由とするところは,必ずしも費用償還請求権が認められないとか,それについての先取特権が認められないということではなくて,現行法の307条の規定があることを前提に,場合によっては307条によって先取特権が認められる余地はあり得ると思います。この制度の在り方なり使われ方と密接に関わるわけですけれども,先ほども申し上げましたように,現実には,総債権者のために共益的な行為として代位権を行使する場面というのは,実務的にはほとんど見られないという認識に立っておりまして,そうでありながら,常に費用償還請求権を認め,それに優先的な権利を認めるということが現実にマッチしないと思います。もちろん,こういう明文の規定を設けたからといって,当然に先取特権がノーチェックで認められるということにはならないのかもしれませんけれども,明文規定を設ければ,そういう解釈に引っ張られるのではないか,あるいは少なくともそういう主張が当然のように出てきて,代位権を行使した場合にはその費用は優先される,先取特権が認められると主張されるという状況が生まれるとなると,現実の代位権行使の在り方とマッチしないのではないかと思います。   さはさりながら,極めて例外的にであれ,複数の債権者のためにある債権者が代表して行使するという場面もなくはないでしょうから,そのときには現行法の307条で処理されるということは,それはもちろん否定しませんが,別途,この代位権の規定の中にこういう明文規定を設けることについては,そこまでの必要性はないのではないかという気がいたしております。   それともう1点,仮に費用償還請求を認めるとなったときに,その費用にどういうものまで入ってくるのか,弁護士会でも議論しましたけれども,いわゆる弁護士費用まで入るのか入らないのかとか,そういう議論もしないといけないと思いますが,そういう点も含めて明文規定は要らないと考えております。 ○山本(敬)幹事 分からないのでどなたかにお教えいただきたいのですが,(1)の善管注意義務,(2)もそうなのかもしれませんが,代位債権者が債権者代位権を行使して受け取ったものがあるときに,その受け取ったものは債務者に返さなければならないということが当然の前提になっています。それは,明文の規定を置くという提案はないですけれども,当然である。それが不当利得構成によるのか,あるいは事務管理的なものとして見るかは,書いていない以上,解釈の問題になっているのだろうと思います。   ただ,受け取ったものが全部又は一部滅失するようなケースはあり得るだろうと思いますが,不当利得構成ですと,受け取ったものは返さないといけない。少なくとも悪意のはずなので,現存利益の限度で足りるという利得消滅の抗弁は認められないのではないかと思います。もちろん価値補償の問題が更に出てくるわけですけれども,このような問題につながっていくだろうと思います。   それに対して,事務管理的なものとして見ていくとどうなるか,私はよく分からないのですが,受け取ったものは受け取ったものとして現にある状態で引き渡す。もちろん,その受け取ったものについて,委任の規定を準用した善管注意義務の違反があるとするならば,その部分については損害賠償という形で対処するという方向に行きやすいのではないかと思います。   そのような中で,善管注意義務の規定や費用償還請求権の規定がここで置かれますと,何となく事務管理構成なのかなというイメージがするのですが,これは一体どのように考えればよいのかということを,私はよく分からないものですので,御専門の方に御説明いただければ有り難いのですが,いかがでしょうか。 ○松本委員 今の関係で,私も最初,山本敬三幹事のように考えていたのです。つまり,ここで言う善管注意義務というのは,代位債権者が直接引渡しを受けた後の当該金銭とか物についての善管注意義務だと最初は考えたのですけれども,どうも,注の付け方などを見ますと,そこよりもうちょっと前の段階の,債務者の債権を代位行使するという局面における善管注意義務を主として見ているのではないか。つまり,返還の場面であればわざわざ特別の規定を置かなくてもいいという感じがいたしまして,そうすると債務者の権利を代わりに行使する際に,注意深くやらないと駄目だというところに焦点があると,今は理解しているのですけれども,いかがでしょうか。 ○山本(敬)幹事 しかし,費用償還請求権は必ずしもその段階にとどまらないものですね。ですので,意図がどこにあるかは別として,規定を置くと,もう少し広いものとして捉えられる可能性が出てくるようには思うのですが,その点も併せていかがでしょうか。 ○中田委員 よく分からないのですけれども,この資料は不当利得構成を採っているのかなと思っていたのです。というのは,34ページの下から3行目に「代位債権者に対する不当利得返還請求権を取得する」と書いてありますので,そうなのかなと思ったのです。ところが,先ほど山本敬三幹事の御指摘の部分は,事務管理のような話も出てくる。ただ,これは本来,事務管理というよりも,元々学説では,法定委任関係というような言い方をすることがあったと思うのですけれども,それも必ずしもはっきりしないということで,ここは,特に費用償還請求権については,余り性質決定をはっきりさせないということなのかなと,読んでいて思いました。 ○松本委員 (1)のほうが先に出ていることからすると,(1),すなわち債権者が債務者の権利を代位行使するという局面は,不当利得か事務管理かと言うと,事務管理としてやっていると考えるのが民法的には一番据わりがいいのではないかと思います。   そうすると,それを受けて,債務者の権利を債権者が代位行使する際に掛かった費用についての費用償還請求権と,それから,自分が受け取って保管のための費用が掛かるようなタイプの物の場合についての費用償還請求権というのが(2)で出てくるのではないか。金銭の場合は保管費用というようなものは恐らく何も出てこないと思います。そういう意味でいくと,やはり事務管理のほうが分かりやすいのではないでしょうか。 ○松岡委員 それもちょっと気持ちが悪いところがあります。本人が債務の履行を請求しないのですから,それを代わって請求するのは,ある意味では本人の意思に反しています。反してでも行使できるのが債権者代位権なので,その行使を常に事務管理と性質付けるのは難しいのではないでしょうか。 ○松本委員 不当利得,すなわち法律上の原因無くして取得したのかというと,法律上の原因はあるのです。合法的に受け取ったわけなので,それを不当利得だと言われるとちょっと…… ○松岡委員 受け取るところまでは法律上の原因はあるのでしょうけれども,受け取ったままで保持して債務者に返さないでいいという理由はありません。 ○松本委員 だから事務管理ということでしょう。 ○潮見幹事 資料27ページのところにありますように,債権者代位権とは,債務者が自分の財産を管理しないときに,その財産管理権を債権者が代わって行使することを法律が,423条以下で認めたものであるから,ここでは,不在者の場合と同じように,法律上,委任関係あるいはそれに類するものが設定されていると捉え,善管注意義務というものを位置付けているのが,これまでの多くの考え方ではなかったかと思います。   もちろん,事務管理とか,その他の考え方も成り立ち得ないというわけではありません。どちらにしても,この程度の義務というものはあって,その義務の内容は,先ほどの岡委員の発言とかもございましたけれども,基本的に今まで認められていたのではないかと思います。私自身は,法定委任という言葉がいいかどうかは別として,債務者の財産管理権の行使という側面から問題を捉えていって,こうした注意義務を認めていくということについて,基本的に賛成したいと思っております。   そういう目で見た場合に,次の(2)の費用償還請求のほうですが,今のような説明で考えていくのか,それとも,事務管理だとか不当利得のアナロジーでこの問題を捉えていくのか,どれが実体に即しているのかを,少し考えてみる必要はあるのではないかと思います。ある意味では,無理に事務管理だの不当利得というところに押し込むことなく,財産管理という側面から,代位債権者の地位というものを捉えて,その者が投下した費用というものをどのような形で誰に負担させるのか,そう言ってしまうと,不当利得だ,投下費用の回収の問題だと言われるかもしれませんけれども,そのような特殊の領域,場面だと位置付けて,この提案のような形で考えていくというのも,私は有りではないかと思います。 ○松岡委員 先ほどいろいろ申しましたが,結論は潮見幹事の御意見と同じで,性質論をここで論じても仕方がないのではないか,むしろ規定をはっきりさせておいたほうがいいのではないかという意見です。 ○松本委員 私も全く同じ意見で,一種の法定事務管理だろうと思います。本人の意思に反してでも法律が事務管理をすることを許している制度だと整理すれば分かりやすいわけで,事務管理の法理をかなり結果として使えるのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 私が問題提起したかったのは,性質論を論ぜよということでは全くありません。そうではなくて,代位債権者が受け取ったものが滅失ないし損傷した場合に,その後の事後処理のルールはどうなるのか。このような規定を仮に置いた場合には,いろいろな解釈の余地が出てくることになる。そのまま放置しておいてよろしいのでしょうかという質問のつもりでした。 ○松本委員 占有権の章にある191条といった類いの規定を個別に置いたほうがいいのではないかということでしょうか。非常に似ていますね。 ○山本(敬)幹事 置いたほうがいいというのではなく,このままだとどういうことになるのかというのをまずお教え願いたいというのが質問です。 ○沖野幹事 善管注意義務というのが代位権の行使に掛かっているというときに,例えば目的物の引渡しの債権について代位行使するという場合,かつ,自らへの調整交付を求めるというときに,債権自体の代位行使と,それからその後の保管と,どこまで掛かってくるのかという問題提起が松本委員からされていたと思うのですけれども,これは後の保管も含めて掛かってくるのではないかと理解をしておりました。そういたしますと,物の保管についても善管注意義務が掛かるということがこれによって明らかにされており,その下で滅失等が起これば,保管義務を尽くしたかという点から問題になるという規律になるのではないかと私自身は理解をしております。 ○鎌田部会長 ということでよろしいですか。 ○松本委員 そうしますと400条ですね。 ○鎌田部会長 400条廃止論。 ○松本委員 400条廃止論を採る。だから代わりにここで400条と同旨の条文を規定しましょうかというのは,何か変な感じがします。400条を残しておけばこれは要らないですね。受け取ったものを返還する際の善管注意義務というだけであれば,正に400条そのものなので,独自に必要だとすれば,権利行使の部分まで含まないと,無意味になりますね。 ○沖野幹事 権利行使の部分も含んで,そしてこの場合の規律を明らかにしているということではないかと思います。 ○鎌田部会長 山本敬三幹事の御趣旨,もう少しふえんしてください。 ○山本(敬)幹事 私自身は,非常に素朴に,現行法の説明としては,先ほども少し出ていましたように,代位債権者が受け取ったものは,説明はともかくとして,保持することについて法律上の原因がないので,不当利得として債務者に返還しなければならない。その意味での不当利得返還請求権と他方の債権との相殺という話が出てくるということだと理解していました。   しかし,もし不当利得返還請求権だとしますと,先ほど申し上げましたように,代位債権者自身は債務者に帰属すべきものだということを分かった上で取得しているわけですので,悪意に当たる。したがって,受けた利益は全て返還しないといけないという704条の原則が妥当するのではないかと了解してきました。それがよかったのかどうかは次の問題かもしれませんが,そうだと理解していました。   そうすると,今の沖野幹事のようになるのかなと,私もこれを見たときに思いました。そうすると,従来の素朴に理解していたのとは違う結論になるかもしれない。それはよく分かった上で,それで良いということなのかどうか。そういう意味での問題提起をしたつもりでした。私自身,定見があるわけではなく,どうなるだろうか,それでよいのかという問題提起だと御理解いただければと思います。 ○道垣内幹事 山本さんのおっしゃっていることが今一つ理解できないところがあるのですが,第三債務者から給付されるものが金銭の場合と動産の場合とがあり得るわけですね。金銭の場合に,それが不当利得なのか,それとも特別な返還義務なのかというのはあって,それが不当利得だとみなすと,不当利得時において決まってくるというのは,これは理解できるところですが,そうなりますと,今度は管理などという問題が起こってこないような気がします。   それに対して,例えば動産であると考えたときには,その動産の所有権は債務者にあるのではないかという気がするのでして,そうなりますと,不当利得の利益がその時点で確定して,悪意の占有者として,滅失にもかかわらずそれが残るという話ではないのではないかという気がするのですが,私が十分に理解できていないのかもしれません。 ○鎌田部会長 部会資料の作成に当たっての基本的な考え方は,先ほど潮見幹事からも御指摘があったし,27ページの下3行にも書いてあるように,法性決定についていずれの考え方を採ろうとも権利行使に関しては善管注意義務を負うべきであるとして,その具体的な内容を明らかにする。費用償還も多分,いずれの法律構成を採っても,まあまあこの線に落ち着くだろうという具体的な部分をだけを明示的に規定して,法律上の性質論については解釈上の議論に任せると,こういうスタンスでいるわけですけれども,その場合に,保管中のものの滅失,毀損のときにどういう問題が起きるのかというときには,この規定があることが解釈に一定の影響は及ぼすだろうと思いますけれども,これで逆に全て演繹的に決まってしまうかというと,かなりブランクとして残っているところというふうに考えるほうが素直なのではないかと思いますけれども,いかがでしょうか。 ○松本委員 もし山本敬三委員のおっしゃるような疑念があるのであれば,条文がなくても対処可能だと思うのです。事務管理的に考えるか不当利得的に考えるか,あるいは求償利得的に考えるというのもありますし,対処可能だと思うので,なくてもいいと思います。   ただ,ない場合に,では不当利得で,しかも悪意の侵害利得だと考えるのかというと,それは,こういう制度を作って,債務者の権利を代位行使してもいい,決して違法ではないということを宣言して,余り濫用してほしくはないけれども行使してくださいと言っておいて,でもこの権利を行使したら侵害利得だというのでは,法律上の自己矛盾に陥ります。そうであれば,法律が認めた事務管理としておけば,事務管理者にはかなりの義務が掛かってくるわけですね。説明はそれで付くわけだから,理論に任せるということでもいいし,それを法定化すればこういう条文になるかもしれないということで,いいのではないかと思います。悪意の侵害利得というのはかなり抵抗があります。 ○道垣内幹事 同じ(2)のイに移ってもよろしいでしょうか。先取特権の付与についでなのですが。 ○鎌田部会長 どうぞ。 ○道垣内幹事 仮にアを認めたときに,イでよいのかというのがちょっと気になるところです。と申しますのは,例えば民事執行法には,手続費用は債務名義なしに同時に取り立てることができるという条文があるわけです。そして,その手続費用は共益費用ですから,優先的な配当がその部分についてはされることになるわけですが,そのときには強制執行をされて換価された額の範囲内だけで処理がされるわけです。しかるに,一般的に,代位債権者に一般先取特権である共益費用の先取特権を与えるということになりますと,代位債権者は債務者の全財産に対して先取特権を有することになるのではないかと思います。それはおかしいのではないかという気がしまして,先取特権付与の趣旨としては,当該権利行使をして,例えば他の債権者が配当要求してくるときに,それは先に取れるとか,あるいは,場合によっては返還をするというときにも,その部分を引いて返還できるということを基礎付けようとしているのだと思いますので,そうすると一般先取特権を与えるという形にはしにくいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 御指摘の趣旨は大変よく分かります。そういったことも含めて,これはかなり細かい詰めの必要な内容になってきますので,事務当局の御提案としましても,(2)に関しては,こういった規定を設ける必要があるかどうかというのは,今御議論いただいているように,この部会での御議論でお決めいただくことになりますけれども,どんな制度の仕組みにするのが適切かということについては,分科会での御検討をお願いしたいということですけれども,そういうことでよろしいでしょうか。 ○高須幹事 分科会に掛けていただくことは全く異存はないのですが,規定を設けるかどうかを議論してきて,設けるとしたら分科会にという論法だとすると,ここの部分に関してだけ言うと,先ほど深山幹事もおっしゃったように,費用というものが何を指すのか,これが必ずしも十分に分かっていない段階で,規定だけ設けるとか設けないという判断はつきにくいと思います。とりわけ弁護士費用というものを入れるか入れないかで相当大きな違いが出てくると思いますので,分科会で詰めた上で,規定を設けるかどうかも含めて考える,今すぐでなくていいわけですけれども,その余地は残していただいたほうがいいかなと思います。 ○鎌田部会長 先取特権の在り方にしろ,費用償還請求権の内容,取り分けどの費用がカバーされるのかというものについて,分科会で御検討いただいた具体的な結果が出てこないと,そういう規定を設けることが適当かどうかという判断もつきにくいだろうと思いますので,分科会で御検討いただいたものを踏まえて,必要かどうか,適切かどうかということを最終的に部会で御審議いただくという進め方にしたいと思います。 ○岡委員 方向性は結構ですが,高須さんと深山さんの意見が先ほど出ましたけれども,弁護士会の多数の意見は賛成の方向でございます。中には,深山さんのように必要がないのではないかという意見もありましたし,相殺を認める立場からはそもそも実体的に要らないという意見が少数ございましたけれども,方向性としては,いいのではないかというのが多数でございました。 ○中井委員 メモに記載したとおり,善管注意義務は設けてはどうか,費用償還については深山・高須意見と同じ意見を持っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。善管注意義務のほうについては,内容には大きな異論はない。ただ,こういう規定をわざわざ設ける必要があるかという問題提起のあったところでございます。   (2)につきましては,不要説もありますが,分科会の補充的な検討を経て具体的な規定の姿がもう少し明らかになったところで,果たしてそれが妥当かどうか,必要かどうかということをもう一度御検討いただければと思います。   それでは,続きまして,部会資料35の「第1 債権者代位権」のうち,「5 代位債権者と第三債務者との関係」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「5 代位債権者と第三債務者との関係」,「(1)第三債務者による抗弁の対抗」の「ア 債務者に対して有する抗弁」では,第三債務者が債務者に対して有する抗弁を代位債権者に対しても主張することができることを明文化することを提案しています。   また,「イ 代位債権者自身に対して有する抗弁」では,転用型の債権者代位権に基づいて代位債権者が被代位権利の目的物を自己に直接引き渡すよう請求した場合において,第三債務者は代位債権者自身に対して有する固有の抗弁を主張することができるという考え方を取り上げています。   「(2)第三債務者による供託(供託原因の拡張)」では,債権者代位権が行使されたことを供託原因とする新たな供託の規定は設けないことを提案しています。   以上の各論点のうち,「(1)第三債務者による抗弁の対抗」の「イ 代位債権者自身に対して有する抗弁」については,仮に規定を設けるとした場合における具体的な規定の在り方等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 では,ただいま説明がありました部分のうち,まず「(1)第三債務者による抗弁の対抗」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。   内容的には余り異論はないのではないかと思うのですけれども,いかがでございましょうか。または,そういう規定の要否という点では御意見があるかもしれませんし,イの部分につきましては,事務当局から御提案がありましたように,もしこういった規定を設けるとしたら具体的にどんな規定を設けるべきかについては,分科会でもう少し詰めた検討をしていただいたほうがよろしいと思いますが,その点も含めて(1)のア,イについての御意見があれば,お出しいただければと思います。 ○沖野幹事 内容はそのとおりだと思うのですけれども,以前より気になっておりますのは,イの場合というのが,どのくらいあって,どういう場面を想定したらいいのか。転貸借というか,他人物賃貸借があったような場合ですとか,考えられなくはないのですけれども,極めてレアケースのようにも思われます。ですので,どういう場合があるかを含めて文言の検討を分科会でということになるかと思います。 ○金関係官 一般的に教科書などで紹介されている例ですと,土地の賃借人がその土地上に建物を建てるために請負契約を締結し,請負人がその建物を完成させたものの,注文者である土地の賃借人が請負代金を支払わないために,請負人がその建物を引き渡さないという場面において,注文者である土地の賃借人が,賃貸人である土地の所有者に代位して,請負人に対する所有権に基づく建物退去土地明渡請求権を行使した場合には,その代位行使を受けた請負人は,注文者である代位債権者に対して,請負代金の支払との同時履行の抗弁を主張することができるという例があります。ただ,この例については,そもそも転用型の債権者代位権の行使を認めてよい事例なのかどうかという問題がありますので,例として適切かどうか若干疑問もあるところです。   また,権利濫用の抗弁の例が挙げられることもありますが,これについては,(1)イの規定がなくとも債権者代位権の行使そのものが権利濫用に当たるのであれば当然に第三債務者は代位債権者に対する権利濫用の抗弁を主張することができるというべきか,この規定があるからこそ代位債権者に対する権利濫用の抗弁を主張することができるというべきか,どちらなのかという問題があるとは思います。 ○中井委員 弁護士会の意見を申し上げますと,アについてはほぼ異論がなく,こういう考え方でいいのではないか。   ただ,イについては意見が分かれています。私自身の意見はメモに書いているとおりでして,イについては規定を置く必要はないのではないかと思っています。それは,今,金関係官がおっしゃられたように,そこで挙げられている例が,星野先生の教科書に書かれているようですが,そもそも転用型の債権者代位権が行使できるのか,その必要性と補充性の要件のところで成立しない事例ではないか。   他に考えられるとしたら,所有者から賃借りを受けた借地人が更に承諾なくして転貸をしたような事例で,所有者にとっては不法占有者になっている場面で,借地人が,所有者の不法占有者に対する明渡し請求権を代位行使する。しかし,この場面も借地人が占有している者に対して何らかの引渡し等について権利義務があるのではないかと思いますから,こういう例を想定しても,転用型の債権者代位権が行使できるかどうか,そもそも問題のある事例ではないか。つまり,転用型の成立の要件,必要性,補充性の要件で十分判断できるのではないか。他に想定できる事例があるのかもしれませんけれども,わざわざこのような規定を置く必要はないのではないかと考えております。 ○鎌田部会長 それでは,イについては,設けるとしたらどのような規定の在り方にすべきかを分科会で御検討いただくというふうに事務当局からは提案されましたけれども,併せて,こういった規定がなければ対処できないようなケースというのはどんなものがあるのかという点についても,分科会で少し御検討いただいて,ほとんど必要性がないということであれば,それを踏まえて規定の要否について改めてこの部会で検討していただければと思います。 ○松本委員 今の点ですが,金関係官のおっしゃった一つ目のケースについては,中井委員と同じ見解で,それは必要ないのではないか。   二つ目の権利濫用という一般法理の話ですが,債務者が第三債務者に対して有している権利の行使自体が権利濫用になるということであれば,それは,アの話になるわけです。固有の権利濫用というのは,代位行使することが権利濫用になるかどうかなので,これまた,先ほどの債権者代位権を行使する以外に適切な手段がないという要件の中に吸収されていると思います。そうなると,どちらも,転用型の債権者代位権が認められるかどうかというところで十分論じられているものだと思います。こういう一般的なものを作ると,逆に弊害が 出てくるリスクのほうが大きくなると思いますから,是非慎重に御検討いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,引き続きまして(2)の第三債務者による供託についての御意見もお伺いいたします。 ○岡委員 第三債務者は代位権行使されても債務者に弁済できるという条項があれば,新たな供託原因はなくていいのではないかという意見に賛成の弁護士会が多数でございました。ただ,訴訟で代位権の行使をされているときには供託を認めてもいいのではないかという少数意見がございました。 ○鎌田部会長 他に御意見ございますでしょうか。 ○中井委員 意見ではなくて,整理のためです。メモにも書いてあるのですが,仮に,債権者代位権を行使したけれども代位権行使の要件を充足していなかった,そのときに第三債務者は,代位債権者に対して物の給付なり金銭の給付をしたとき,それは要件を充足していない以上,当該弁済は債務の履行としては正当ではないので,原則効力がないと考えざるを得ない。そうすると第三債務者の保護を考えておかなければならない。   それに対しては,今,岡委員からもありましたように,私もそれでいいのかと思っていますが,ここの規律としては,第三債務者に対しては債務者への履行を全く禁止しませんので,リスクがあると思えば債務者に払えば,それで足りる,それでいいと思っています。それでも,行使要件なくして代位債権者に弁済したときの第三債務者の保護を考えておく必要があるのではないか。   そのとき,代位債権者が債権者代位権の要件を充足しているようにして請求してくるのですから,債権の準占有者のような要件を充足すれば,第三債務者としては,債権者代位権行使の要件がないにもかかわらず交付しても救済される,こういう理解をしてよろしいのですねということを,確認したいと思ったのですが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 私は個人的にはそのとおりだと思うのですけれども,私の保証が付いても何の価値もないので……。 ○深山幹事 今の中井先生の質問にストレートに答えることにはなっていないのですが,むしろそういうことも踏まえると,そもそも供託原因の拡張の規定を認めないものとしてはどうかという問い掛けの仕方が,そもそも供託は認めないという趣旨なのか,原因を拡張しなくても現行の規定の供託原因の中で対応できるという趣旨なのかが必ずしもよく分からないし,補足説明を見ると,考え方によって答えは両方あり得るような感じもしております。   補足説明の一番最後に一つの考え方が示されているように,債務者が行方不明の場合を想定して,債務者のために供託をするという道を認めることにはそれなりの合理性があると思っております。といいますのは,この制度が使われる場面を具体的に想定すると,債務者が行方不明であったり,あまり積極的な存在感がない場合がイメージしやすいので,その場合に,取消債権者に払っておけば,準占有者に対する弁済のような形で救済されるということなら,それはそれで良いとは思わなくはないのですが,そういう規律に委ねるよりも,第三債務者の保護,安心ということを考えると,一定の要件の下に供託を認めるという考え方のほうが,ストレートといいますか,直截だと思います。そういう考え方を採ったときに,現行の供託原因で足りるのかと考えると,もし足りないのだったら,それが拡張になるのか確認的になるのかはともかく,供託できるということを明文で明らかにするということは,あってよい考え方だと思います。 ○中田委員 議論の前提として,第三債務者は債務者に弁済できるということが前提になっているのですが,それは代位訴訟の提起によっては妨げられないという話と,代位訴訟の判決があった後どうなるのかという,2段階あると思うのですが,それはこれから議論するところではないかと思いますので,今までの議論は,いずれの場合も第三債務者が債務者に対する弁済を妨げられないという前提を採った場合に,という議論だという理解でよろしいでしょうか。 ○筒井幹事 今回の部会資料では,御指摘があったように弁済禁止の効力がないという前提で,それぞれの論点についての記述がされておりますけれども,その前提には反対で,弁済禁止の効力があるという立場から,ここで供託原因を拡張すべきであるという御提案であれば,ここで御発言いただいたほうがスムーズであろうと思います。 ○沖野幹事 この場面でどう働くかということで1点確認したいことがございます。第三債務者による供託自体が第三債務者への配慮の一環としてここまで必要かという観点から考えております。債務者に対して支払うことができ,その拒絶ですとか,あるいは行方不明も含めて受領できないということであれば,一般の供託が使えるというので十分ではないか。それは前提をそのように構成するならばそうではないかと思うのですけれども,問題になるとすれば,形成権が行使されて,その結果金銭の支払があるというタイプのもので,形成権の行使自体は,債務者との間で債務者にとって選択権があるところ,代位債権者のほうは行使をして,例えば解約権を行使して返戻金を受けたいとか,回収したい。一方,債務者の意向はこれは持っておきたい,形成権行使はしないというような場合です。この場合に,例えば,この後出てまいりますものですが,通知の要件ですとか,他に,代位債権者の保全される債権の要件ですとか,債務者の経済状態ですとか,そういった債権者代位権の要件を充足しているかどうかというのは,第三債務者からは分からないわけですけれども,債務者としては,自分は解約権はこの段階では行使しないと言っているというときも,代位債権者が行使したという以上は,それを前提に金銭の支払債務があるということで債務者に提示したところ,自分は行使していないと,あるいは行使する気もないということが明示されたときは,これは受領拒絶として,現行法の下でも供託ができるという理解でよろしいでしょうか。 ○筒井幹事 よろしいかどうか確たることは言えませんけれども,債務者が受領を拒絶しているのでしたら,私はそれでよろしいのではないかと思います。 ○沖野幹事 そうであれば,基本的にカバーできるのかと思いました。 ○松本委員 今の御質問の趣旨が半分分かって半分分からないのですが,例えば,解除権という形成権の行使を債務者が拒めるかというと,生命保険の場合,債権者が代位で解除して解約返戻金を請求しますよね。このように拒めないタイプもかなりあるわけだから,今の御議論は,一身専属権と呼ばれているものについてはという議論ではないのですか。それとも形成権一般の話,あるいは不法行為の損害賠償請求権を行使するかしないか,本人が決断していないのに債権者が代位行使できないという話をされているのか。 ○沖野幹事 問題関心をはっきりとさせずに失礼しました。形成権は一身専属かということではありませんで,金銭債務を想定しますと,弁済をすることは,義務として弁済しなければならないことに疑問がないときには,全て債務者のほうに提示して,受領拒絶がされればそれで一般の供託によるのでよいということになると思うのですが,今の話は,形成権の行使についての債権者代位の要件を満たさないという場合があり得ると思います。それは債務者の状態から保全の必要性が否定される場合ですとか,被保全債権の要件の話ですとか,この後に,通知の問題が出されて,しかもそれが要件として提示され,法的な効果として債権者代位権の行使の要件を欠く結果,それが効力を否定されるという提案がされておりますので,通知がされたかどうかも問題となりますが,そのようなことが第三債務者から分からないということもあり得ますので,したがって,債権者代位として有効でないために代位債権者の形成権の行使が認められない,その結果金銭債務も弁済期に来ていない。しかも,債務者のほうは,それなら自分も行使するとか認めると言うならば,それでいいのですけれども,債務者のほうは形成権の行使はしないと言っているという場合には,実体的には義務はないと思うのです。その場合にも弁済供託を使えるかということを確認したかったというつもりです。   それは結局,債務者に対して提示して,受け取らなければ供託の道があるということで,十分に債権者代位の要件を満たしているかどうかについて,特に裁判外で,とりわけ形成権などの場合のように,そこで法的な効果が発生してしまうというときに,その判断リスクを第三債務者に負わせることが適切かという点への配慮をこの供託ということで手当てする必要があるのではないかという問題関心に出ているものですから,そういう場面が残るのかということを確認したいというつもりでした。基本的には残らないだろうというご回答だったと思うのですが。 ○松本委員 いまだに少しよく分からないですが,例えば生命保険の解約をしたとすると,第三債務者である保険会社に通知を当然しますね。どういうシチュエーションなのかが分からないものですから。 ○鎌田部会長 どんなものでもいいんですよね。解除して代金返還請求でもいいのだけれども,そもそも解除権の代位行使ができるという債権者代位のほうの要件が整っていないから,形成権行使の効果が発生していない。したがって,第三債務者には債務がないというときに,第三債務者にはそのことはよく分からない。債務者のほうに弁済していいと言うけれども,債務者は別に解除する義務も何もないから,何を言っているのですかという,そういう状況に置かれた第三債務者はどうするのかと,そういう話ですね。 ○松本委員 つまり,債務の内容がまだ具体化していないかしているかが分からないという話ですね。ただ,本来の金銭債権であっても代位の要件を満たしているかどうかが分からないという場合は,一杯あるわけです。ただ,それに加えて更に,解除の効果としての金銭債権化はまだしていないという反論が成り立つはずだということですか。 ○鎌田部会長 金銭債権で普通に,代位行使される金銭債権自体はあって,債権者が債権を持っていれば,そこへ持っていけば弁済ができるわけだけれども,今みたいなケースだと,弁済しようと思っても,そもそも……。 ○松本委員 それは,保険契約を保険会社から任意に解約できますかというと,それはできないでしょうから。 ○鎌田部会長 そういうケースであっても現在の供託規定でカバーできている,だから新たに供託原因を拡張しなくても,第三債務者にそういう部分での判断リスクを負担させることにはならないということができると,そういう御判断ですね。 ○内田委員 沖野さんの御質問の趣旨は分かったのですが,議論の前提として,そんな立場に第三債務者を置かせるような形成権の代位行使そのものに疑問をお持ちなのではないですか。 ○沖野幹事 それはそれとしてあると思います。 ○内田委員 そこが根本問題ではないかと思います。   それから,ついでにもう一つ,中井委員から準占有者の弁済の話が少し前に出ていましたけれども,あれも,代位債権者が要件を満たしてきているのであれば,そこに弁済すれば,仮に間違っていたとしても準占有者になり得るという御趣旨であったかと思うのです。しかし,ここでの前提は債務名義がないということです。今までの議論は,きちんとした債権者が代位権を行使する前提で議論が進行していますけれども,債権があるかどうか分からない,訳の分からない人間が幾らでも出てくるという前提で議論する必要があると思うのです。   そうすると,債権者代位権としての要件が整っていますよといろいろ言われても,そう安易に信じていいのかという疑問がありまして,簡単には準占有者にはならないのではないかという気がいたします。 ○鎌田部会長 それはそうだろうと思いますけれども。 ○中田委員 他のところとの関係で,ここで供託を認めるかどうかという問題が留保されているのですけれども,被保全債権の額に限定されるという立場をとって,かつ,代位訴訟の確定の効果として弁済禁止を認めるという立場に立ったときには,供託によって第三債務者を保護すべき要請があるかもしれないと。ただ,その二つの前提についてはそれぞれ議論があると思いますので,それに依存するということだろうと思います。 ○鎌田部会長 今の点はよろしいですか。   それでは,(2)につきましては,今,中田委員から御指摘のあったような点に配慮をする必要がありますが,全体としては,あえて追加的に独自の供託原因を作らなければいけないという場面は,具体的には今の段階では想定されていないと考えます。   恐縮ですけれども,ここで休憩を取らせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開いたします。   部会資料35の「第1 債権者代位権」のうち,「6 代位権行使の場合の通知,代位訴訟提起の場合の訴訟告知」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「6 代位権行使の場合の通知,代位訴訟提起の場合の訴訟告知」の「(1)代位権行使の場合の通知の要否」では,債権者代位権を行使する代位債権者は債務者に対してその旨の通知をすることを要するとする一方で,債務者が所在不明であるなど通知をすることが著しく困難である場合には例外的に通知を要しないとすることを提案しています。   「(2)代位訴訟提起の場合の訴訟告知の要否」では,債権者代位訴訟を提起した代位債権者は債務者に対して訴訟告知をすることを要するとの提案をしています。   「(3)通知及び訴訟告知の効果」の「ア 取立てその他の処分の禁止」では,債権者代位権が行使されたとしても,債務者は被代位権利について自ら取立てその他の処分をすることを禁止されないとすることを提案しています。   また,「イ 弁済の禁止」では,同じく債権者代位権が行使されたとしても,第三債務者は被代位権利について債務者に対する弁済をすることを禁止されないとすることを提案しています。   以上の各論点については,いずれも,仮に規定を設けるとした場合における具体的な規定の在り方等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,これらの点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   (1),(2),(3)のいずれにつきましても,規定を設ける場合における具体的な規定の在り方等は分科会で補充的に検討していただきたいという御提案が付いておりますけれども,それを前提にして,まず(1)につきまして御意見をお伺いいたします。   異論はないと思ってよろしいでしょうか。 ○松本委員 通知が必要だということを前提にして,先ほどの沖野幹事の御意見,御質問とも重なってくるのですが,第三債務者に対して直接請求する場合に,通知をしたということを証明しないと,第三債務者に対する権利行使ができないという構造にするのかどうか。もしそうであれば,先ほどの沖野幹事のおっしゃった解除されたかどうか分からないからという部分は,解除権を代位行使しますという通知をしていることの証明を債権者が第三債務者に対してすれば,そこはクリアできるということになる。この通知というのが,行為義務としての通知にしかすぎなくて,第三債務者との関係では,通知があったかなかったかというのは所詮関係ない。第三債務者は債務者に弁済すればいいのだから,債権者に権利があるかどうかと関わりなしに,第三債務者は債務者に弁済すれば救済されるのだからというロジックでいくのであれば,証明しなくてもいいということになるのかもしれないですが。 ○金関係官 部会資料では,債権者代位権の行使要件であるという整理をしております。つまり,無資力要件や被保全債権の存在と位置付けとしては同じと考えております。 ○鎌田部会長 他によろしいでしょうか。 ○岡本委員 仮に,債務者に対して通知したことを第三債務者に対して証明するというか,そういう仕組みにしたとしても,第三債務者としてはその他の要件が充足しているかどうか分からないので,先ほど沖野幹事が指摘された問題点というのは残るのかなとは思います。 ○中井委員 この通知に関しては二つの問題があると思っています。まず,通知をするという基本的な考え方については賛成です。その上で考えるべきことが二つあるという理解です。一つは例外をどのように定めるのかという点です。もう一つは,今議論になっている効果をどのように定めるのか。   例外について,大阪弁護士会有志の意見を申し上げますと,お手元にお配りした条文提案の8ページから9ページのところで1007条という形で提案をしています。四つの例外を挙げています。   一つが,部会資料にもあります所在が不明であるときです。二つ目が,裁判上,債権者代位権を行使する場合,三つ目が,債権者が執行力のある債務名義の正本を有するとき。四つ目は,受皿規定ですけれども,その他通知をしないことについて正当な理由があるとき。この中身についてまだ十分議論はできていないのですけれども,こういう四つの例外を定めています。   この全てが例外として必要かどうかは更に慎重な検討が必要なのですけれども,やはり通知しなくても良い場合があるだろう。第一読会のときにも,一定,密行性が必要な場面がある。例えば,債権者代位権の被代位債権を被保全債権にして,第三債務者の手元にある財産に対して仮差押え若しくは仮処分をするような場面です。これは仮差押え若しくは仮処分という裁判上の手続を用いて債権者代位権を行使する場合ですけれども,そういう場面では,通知を要しないとすべきだろうと考えています。   また,債権者代位権を,裁判で行使する場合についても,訴訟告知を予定していますので,事前の通知を必要としないのではないか。このような例外規定をもう少し慎重に検討する必要があるのではないかと考えています。中井メモでは,もう少し緩やかに,包括的に提案をしております。   二つ目は,効果についてです。部会資料では行使要件としているようですけれども,果たしてそこまでするのが適当なのか,疑問を持っております。   大阪弁護士会有志案は,同じ9ページのところですけれども,債権者代位権を行使する他の要件とは異なって考えています。通知がなければ第三債務者は履行拒絶できるけれども,通知がないにもかかわらず債権者に履行したとき,債務者に弁済するなら,どちらにしろ有効で問題ありませんけれども,通知がないにもかかわらず代位債権者に弁済したときは,通知のないことのみを理由に無効とするのは適当ではないという理解です。そういう意味では,他の債権者代位権の要件とは異なった考え方を取っています。   私自身もそういう考え方でいいのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。関連した御発言はございますでしょうか。 ○中田委員 次のところと関係するのですけれども,通知の要件をどうするのかというのは,訴訟告知の要件をどうするのかということとも関係するのではないかと思います。併せて考えたほうがいいと思うのですが,訴訟告知の要件を欠いているときに,訴訟要件がないので訴え却下になるのか,実体法上の要件がないとして棄却になるのか,それとも判決の効力が債務者に及ばないだけなのか,選択肢があると思うのです。それとの関係で,事前の通知の効果も整合的に考える必要があると思うのですが,もし今の段階で事務局のお考えをお聞かせいただければ,議論がしやすいのですけれども。 ○金関係官 先ほど通知は債務者の無資力や被保全債権の存在と同じく債権者代位権の行使要件であると申し上げたことからすれば,また,通知と訴訟告知が同じ位置付けのものであるとするならば,訴訟告知がされない場合には訴訟要件を欠いて訴え却下になると思います。ただ,その前提として,ここにいう訴訟告知がされないまま判決までいくことがあるだろうかという疑問は若干あります。 ○鎌田部会長 逆に中井委員のようなお考えの場合の訴訟告知の効力はどういうことになるか。 ○中井委員 その前に,金関係官にお尋ねしたいのは,訴訟提起をする場面でも訴訟提起前に通知を必要とするのか,この点をまず確認したいわけです。大阪弁護士会有志と私は,事前通知は必要ではないという理解に立っています。そうだとすると,事前通知無くして訴え提起しても,通知のないことを理由に却下されることはない。   次に,訴え提起すれば訴訟告知を義務付けていますから,訴訟告知はなされるので,その後,却下,棄却という議論の出てくる余地は事実上ないだろうと思っています。 ○金関係官 飽くまで一つの考え方としてではありますが,訴訟提起による代位権行使の場合にも事前通知は必要であるということを考えております。まず債務者に事前通知をして,その上で代位権行使である代位訴訟の提起をして,その上で代位訴訟の訴訟手続上求められる訴訟告知をするという理解です。もちろん,迂遠ではないかという疑問があり得るところですけれども,他方で,代位訴訟を提起する場合であっても事前に訴訟外で第三債務者に対する何らかのアクションを起こすのが通常の実務ではないかという疑問も少しあるところで,それも含めて御議論いただきたいと思っております。 ○中田委員 私は,効果のほうは,抽象的に言うと複数あり得るので,その上でどの立場を取るのかというのは議論の対象になると思うのですけれども,今の金関係官のご説明は,訴訟告知のほうはそれを欠くと訴え却下になるという,これは一般的な考え方だと思いますけれども,そういう前提で,更に,訴訟前の通知についても同じような性質のものと見ると,こういうことですね。そうしますと,中井委員の御質問とも関係するのですが,そのときに二重にする必要があるのかどうかという点で,議論が分かれる可能性があると思います。 ○高須幹事 基本的には今の御発言と同じような部分があって,通知とか訴訟告知ということをこの制度の中でどの程度の重きを置くかは,考え方があるのかなという気はいたしております。   株主代表訴訟も似たような構造は取るだろうと思いますけれども,株主代表訴訟というのは,未熟な実務的な感想でしかないのですけれども,これは大掛かりですから,訴訟を行うには相当の手続を経るというのは,それなりに理解もできるところなのですが,代位訴訟も同じ構造にして,例えば訴訟提起を予定しているのに,事前に通知をして,本人に1回,自ら行使するかどうか機会を与えるということまで考えるのが,果たして制度的によいのか,やや重過ぎないかということもちょっと思っております。   それから,効果の問題としても,行使要件で無効になってしまうというところまで本当に必要なのかどうか。通知あるいは訴訟告知の実益を上げるためにはそれなりのペナルティーがなければ,確かに無視されるという場合があるわけですけれども,かといってそこまでの効力なのかどうかというようなところは,もう少し柔軟に考える余地があるのではないか。仮に,今,金関係官がおっしゃったような強い効力を認めるとすれば,あるいは訴訟告知制度を民事訴訟法の中でもう少し,裁判所の職権による訴訟告知を認めるとか,何か制度的手当てをしないと,必ずするという前提でいいのかどうかというのは,やや心配なところもあると思いまして,もうちょっと軽い制度もあるかなと思っております。 ○山本(和)幹事 もう訴訟告知のほうに入っているのでしょうか。今の高須幹事の御意見はよく分からなかったのですけれども,訴訟告知は,この場合には原告がやるわけですね。遅滞なくしなければならないという規定があって,遅滞なくしないと訴えは却下されると。訴訟担当の要件を満たさなくなるので訴えは却下されると。訴えを却下されたくなければ,原告は訴訟告知をすることになるという仕組みだろうと思うのですけれども,それでどこが不都合なのかということがもう一つよく分からなかったのですけれども。 ○高須幹事 確かに不都合ではなくて,そう割り切れていればそれでもいいのかなとは思います。ただ,もう一つの考えとして,これは訴訟法的にはそこまで配慮する必要はないということかもしれないですが,訴訟告知をそこまで強いものとするなら,本人の自己責任とするという以外の方法もあるのではないかと,ちょっと思ったものですから。ただ,むしろ却下ということで担保されていると考えるのも一つの解決方法だとは思います。 ○山本(和)幹事 民事訴訟法の議論,この議論はずっとしてきたわけですけれども,一つは,債務者の手続保障で敗訴判決が出たときに,債務者に効力を及ぼすのに,債務者に何もその訴訟係属を知らせないということは問題ではないかという一つの問題意識があり,他方,訴訟告知をしなかった場合に,債務者に判決効が及ばないこと,中田委員が言われた一つの選択肢ですが,判決効が及ばないということにすれば,債務者の手続保障の問題はなくなるわけですが,今度は,第三債務者がせっかく頑張ってその訴訟に勝ったのに,また債務者から再度訴えを提起されるということになって,今度は第三債務者の手続保障を害する結果になるので,その両方を解決しようとすれば,訴訟告知を訴訟要件にして,訴訟告知をしなければ訴えを却下するというのが,私自身は一番合理的な解決かなと思っております。 ○中井委員 先ほどは通知の関係で行使要件とする必要はないと申し上げましたけれども,訴訟告知については,今の山本和彦幹事の御意見に大阪弁護士会も反対ではありません。 ○道垣内幹事 中井委員及び大阪弁護士会の意見の前提を伺いたいのですが,保全制度であって密行性が必要であるということなのですが,中井委員は,債務者が第三債務者に対して有する債権に基づく仮差押えを,第三債務者の財産に対して行うという例を挙げられたのですが,そういった場合には事前の通知を不要とすべきであるというときは,債権者代位権の行使がされれば,第三債務者は債務者に対して,もはや弁済してはならないという効果が生じることを前提としていらっしゃるのか,それともそことは無関係にそうなのだということなのでしょうか。お聞かせいただければと思います。 ○中井委員 そういう効果を認めていません。大阪弁護士会も私もそこはフリーです。第三債務者は債務者に対する履行をして構わないということです。 ○道垣内幹事 しかし,そのときになぜ密行しなければいけないのかがよく分からなかったのですが。 ○中井委員 私の想定している事例は,住管機構やRCCが活用しているもので,債務者財産が事実上,第三債務者財産の中に隠匿等されるような形態のときによく起こるのですが,債務者に代位権行使をするぞと伝えれば,債務者と第三債務者は意を通じて第三債務者のところにある財産を更に隠匿する,こういう行為が行われる可能性がある。そこで,債務者の第三債務者に対する被代位債権を代位行使して,第三債務者のところにある財産を保全する必要がある,こういう事案が相当程度あったことから,代位権行使にはどうしても密行性が必要な場面があると申し上げたのです。もっと具体的事例を申し上げなければいけないでしょうか。 ○道垣内幹事 いえそうではありません。 ○中井委員 そういう必要性から,債権者代位権行使について,一定の場面では,事前通知を課してもらうと困るという実務があるということです。 ○道垣内幹事 ただ,その実務の前提は,債権者代位権が行使されると,もはや債務者は第三債務者に対して権利を行使できないということに裏付けられなければ,余り意味がないのではないかという気がしたのですが,そんなことはないのでしょうか。 ○中井委員 債務者が第三債務者に権利行使してもらうのが困る場合は,民事保全で仮差押えをしますし,第三債務者が債務者に弁済してもらうと困るときにもそうしますから,保全との組合せになります。   大阪弁護士会有志は債務者に対する処分禁止効を認めませんし,第三債務者の履行も許すという,この基本的な考え方には立っています。私も同じです。 ○道垣内幹事 債務者が第三債務者に対して有している債権を差し押さえることによってストップして,別途代位権で取り立てるということですか。 ○中井委員 はい。二つの制度を使うということになります。 ○道垣内幹事 よく分かりました。 ○中田委員 一般的なことなのですけれども,訴訟告知の要件を規定するとして,それは民法に書くのかどうか,仮に書くとすると,その効果についてはどうするのかという問題があると思います。効果のほうは多分,民訴法のほうでは自明のことだということなのかもしれませんが,民法だけ見るとよく分からない。それから併せて,代位訴訟の判決の効力についても,現在では判例,学説が大体固まっているのだろうと思いますけれども,それも民法の規定だけ見てもよく分からないわけです。   それからもう一つ,代位訴訟の判決によって弁済禁止効が発生するという考え方も,一般的にはあり得ると思うのですけれども,それを採らないのだとすると,それも書かなくてよいのか。あるいはそもそもそれを採る必要がないのかどうか。ここは私,実務的な必要が分かりませんので,何とも言えないのですけれども,そういったように効果についてどう考えるのか,あるいは民法の中で規定するかどうか。規定することは難しいかもしれませんけれども,何らかの方法で明らかにしておく必要があるのではないかと思います。 ○筒井幹事 中田委員から問題提起がありましたように,代位訴訟に関する規定については,最終的にはどの法律に規定を置くのかという問題が出てくるであろうと予想はしておりますが,差し当たり民法に規定を置く可能性があるものとして,是非この部会において御議論いただきたいと思います。その上で,規定の内容について,一定のコンセンサスができたときに,更にどの法律に置くのかということについても御意見を伺う場面があるかもしれませんが,当面はそのように進めてはどうかと考えております。   規定の置き場所が民法かどうかによって規定すべき内容が異なるのではないかという議論は,確かにあり得るのですけれども,また,詐害行為取消しについても同じ問題が出てくるかもしれませんけれども,債権者代位権制度の見直しについて議論しているこの部会で,並行して代位訴訟についても議論するほうが効率的に中身の議論ができると考えておりますので,そのように議論していただければよろしいのではないかと思っております。 ○中田委員 最終的には筒井幹事のおっしゃるとおりだと理解しております。その上で,効果についてのコンセンサスがもし得られるのであれば,まとめておいたほうがよいのではないかということです。それが最終的に条文になるのか,あるいは解説のような形になるのかは分かりませんけれども,一定の共通理解を得ておいたほうが議論が明確になるのではないかと思った次第です。 ○鎌田部会長 その点は,今後の議論の中で十分配慮させていただきます。今,項目としてはこの議論に上がっていないですが,その点は検討させていただきます。 ○松本委員 今の点ですが,事務局のお作りになっている案の流れからいくと,判決が出ようが出まいが影響がない。第三債務者が債務者に弁済する分については,訴訟が起こされようが,進行中であろうが,判決確定後であろうが,強制執行までいけば駄目でしょうけれども,それまでであれば,債務者に弁済することによって強制執行を止めることができるということに,恐らく事務当局の考え方をふえんしていけばなると思いますし,そういう制度設計で作るというのは一貫しているから,それでいいのではないかと思います。恐らく,そんな訴訟を起こす人はいないだろう。よほど特殊なケースを除いては,訴訟まで起こして代理権行使というのはないだろうけれども,制度だけは整備しましょうということだろうと思います。 ○中井委員 債権者代位権は,裁判外で行使する場面と裁判で行使する場面では,様相はがらりと違う。裁判外で行使するときは基本的に代位債権者と第三債務者は極めて親和的なわけです。裁判上行使しなければならないときは,債務者と第三債務者は相手方,ある意味で債権者にとっては敵なわけです。そこで,債権者代位権を何らかの形で有効に活用するときには,必ず保全なり執行制度と組み合わせてやらないと最終決着まで付かない。したがって,訴訟を提起した後であっても,訴訟告知をした後であっても,別に債務者に権利行使を許しても,第三債務者に権利行使を許しても構わない。何となれば,必ずセットで民事保全をするからです。保全で押さえて,そこに重ねて,債権者代位権を行使していく,こういう場面と思っています。   それに対し,裁判外で行使する場合は敵対的関係ではなくて,任意に給付を受けて,その後どう処理するのかが問題になる。研究者の皆様方から債権者代位権は非常に評判が悪いものですから,債務者の権利行使は基本的に自由にし,第三債務者が債務者に履行することも自由にすることによって,この場面では認めてねと,こういうのが弁護士会の立場です。 ○佐成委員 本来型だけではなく転用型も含めて議論されていると思うのですけれども,今,中井先生から御指摘のあった裁判外と裁判上という区分ですが,裁判上の中にも,本案の手続のみならず,保全手続,とりわけ,仮処分の中で転用型の代位権行使をするということも,実務上はしばしばありますし,私自身もそういう経験がありますので,そういうケースも想定はされたほうがいいのかなと思います。定見があるわけではないのですけれども,そういうケースも想定しつつ,通知なり,訴訟告知なりの効果といった辺りも分科会で議論されたほうがいいのではないかと感じております。   要するに,債権者代位権の裁判上の行使は訴訟と,それに付随して執行なり保全をやるという想定だけではなくて,最初から仮処分の中で代位権行使をしていく場面は結構あるものですから,それも考えたほうがいいということを念のため指摘したいと思います。 ○鎌田部会長 併せて,(3)の通知及び訴訟告知の効果につきましても御意見をお伺いいたします。 ○安永委員 代位権行使の場合に通知,代位訴訟提起の場合に訴訟告知を課して,その効果として取立てその他の処分や弁済を禁止しない旨の提案がされていますが,私は,これまで申し上げてきたこととの関連で,労働債権の保護水準の後退を招くという危惧を持ちますので,反対いたします。 ○岡本委員 (3)のイのほうですけれども,イの提案に賛成します。   第三債務者は,元々債務者に対して弁済することができる地位にあるわけで,債務者に対する通知あるいは訴訟告知があったからといって,それが奪われるいわれはないのではないかということで,賛成するものです。   第三債務者は,先ほどから出ておりますように,債権者代位権の行使が正当なものであるか判断できる立場に普通ないということでございまして,債権者代位権の行使があった場合に,債務者に対して弁済することによって債務を免れることができないということだといたしますと,第三債務者の保護に著しく欠けることになると考えます。 ○岡委員 先ほど中田先生がおっしゃった,代位債権者に直接引き渡せという判決が確定した後のところですが,部会資料になかったので,まだ弁護士会では議論しておらないのですけれども,その判決が確定した後も債務者に弁済できるとすると,何のために裁判をやったのだということになりますので,訴訟告知もして,債務者に対して手続上の保障を与え,なおかつ裁判の中で,債務者に渡せではなくて代位債権者に渡すべき理由があると判断して,それが確定したのであれば,そこでは弁済禁止効を考えてもいいのではないかと,取りあえず思いました。それは今までに余り学説等では議論されていないところなのでしょうか。今,初めて中田先生から聴いたような気がいたしますので,もし議論の蓄積があるのであれば,それは是非教えていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 この点について,どなたか御発言ございますでしょうか。 ○松岡委員 そもそも前提として,非訟事件手続法によらない場合であっても弁済禁止効があるというほうが多数説で,裁判外の行使でしかも期限到来後であるため非訟事件手続法による必要がない場合に,一片の通知だけで弁済禁止効が生じるとするのは第三債務者の立場を考えると妥当でないとする反対説が有力に唱えられている,というのが現在の学説状況だと思います。岡委員がおっしゃった問題は,余り議論されていないと思います。 ○松本委員 恐らく議論していなかった前提は,優先弁済権が事実上認められているということがあって,したがって,実際は優先弁済権付きの強制執行に近いということから,訴訟を起こした以降は駄目だとか,ましてや判決が出た後,債務者に弁済するなどというのは許されないというロジックだと思うのです。だから,優先弁済効を認めるのであれば,処分禁止効というのは一貫した考えだけれども,今回の案はそれは一切認めないということで,非常に限られた特殊な場合にのみ債権者代位権の制度を使えるようにすれば十分だという債権者代位権制度の安楽死説だと思いますから,そうなると,論理の一貫性からいけば,判決が出ようが出まいが,債務者のものなのだから,債務者のところに資産がいけばそれでいいのだと,その後は本来の強制執行なのだということだと思います。   その点で,中井委員の先ほどの敵対的な場合,すなわち債務者と第三債務者がグルになって,第三債務者がそもそも弁済をしようとしないというケースにおいて,今のような債務者に戻すのがルールなのだという立場を取った場合に,それでもなお,債権者代位権というのを使いますかという質問なのですが,そうなれば,本来の強制執行でいくということにはならないでしょうか。 ○中井委員 最終的には本来の強制執行で回収することになります。でも,その前段階で保全に債権者代位権を使うということになるだろうと思います。例えば,債務者の資金が第三債務者に流れている,若しくは債務者の資産,不動産が第三者名義になっている,それを第三者の下から回収したい,こういう典型例を考えていただいて,債権者代位権を使って保全措置をとる。その後,それと同時並行的に保全執行制度で最終的な回収を行う。訴訟手続を使うときはそういう場面が一番多いと思います。そう考えたときに,別に第三債務者が債務者に弁済することを自由に認めていても,保全で止めますので問題がありません。   大阪弁護士会有志案は,そういう形で徹底しています。基本的には保全・執行制度の補完なのだと,債務者に対して債務名義を取り,債務者から第三債務者に対する債権に対して強制執行していくのが本筋なのだけれども,それだけでは,例えば時間的に間に合わないとか,今のように第三債務者の下で資産が隠されるとか,そういうときに債権者代位権を使って,保全執行制度では賄えない部分を補っていく,こう理解していただければと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか。判決確定後の取扱いにつきましては,中田委員からは,判決確定後は債務者の弁済を禁止するという考え方はあり得るという御提案があったところですけれども,これについて,初めてそういう問題が議論の俎上に上ったということもありますので,今日この場で議論し,結論を出すというよりも,持ち越させていただいてよろしいでしょうか。   それ以外の(1),(2),(3)につきましては,本日出されました御意見も踏まえながら,具体的に規定を設けるとしたらどのような規定の内容にすべきかということについては,分科会で御検討いただき,それを踏まえて最終的にその採否については部会で結論を出す,そういう手順にさせていただければと思います。よろしいでしょうか。 ○佐成委員 一言だけですけれども,先ほど中井委員が,債務者と第三者債務者が代位債権者に対して敵対的な関係にあるという主張をされておりましたけれども,転用などのケースだと,むしろ,代位債権者と債務者が第三債務者に対して協力的な関係で臨むという構図も十分あり得るので,それを一定のステレオタイプだけに基づいて決めつけてしまうと,問題状況が非常に変になるかなという気がしたので,それだけ念のためコメントさせていただきます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   次に,部会資料35の「第1 債権者代位権」のうち,「7 代位訴訟提起後の差押え」及び「8 代位訴訟への訴訟参加」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「7 代位訴訟提起後の差押え」では,債権者代位訴訟が提起された後に他の債権者が被代位権利を差し押さえた場合には当該差押えが債権者代位訴訟に優先することを前提としつつ,債権者代位訴訟の進行自体については中断又は中止等の措置を講じないことを提案しています。   「8 代位訴訟への訴訟参加」の「(1)債務者による訴訟参加」では,債務者が係属中の債権者代位訴訟について共同訴訟参加,独立当事者参加,補助参加をすることを認めるという提案をしています。特に,先ほど御審議いただきました6(3)のアにおいて債務者による取立てその他の処分を禁止しないとする提案をしていることとの関係で,債務者による共同訴訟参加を認めるという提案をしています。   「(2)他の債権者による訴訟参加」では,他の債権者が係属中の債権者代位訴訟について共同訴訟参加,補助参加をすることを認めるという提案をしています。   以上の各論点のうち,「7 代位訴訟提起後の差押え」については,規定を設けない場合における執行手続等との関係について分科会で補充的に検討することが考えられますし,また,「8 代位訴訟への訴訟参加」の「(1)債務者による訴訟参加」と「(2)他の債権者による訴訟参加」については,仮に規定を設けるとした場合における具体的な規定の在り方等について分科会で補充的に検討することが考えられますので,これらの点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました分のうち,まず「7 代位訴訟提起後の差押え」につきましては,規定を設けないこととし,規定を設けない場合における執行手続との関係等について,分科会で補充的に検討していただいてはどうかと,こういう御提案でございますけれども,御意見がありましたらお出しいただければと思います。よろしいでしょうか。 ○中田委員 結論はそれでいいと思うのですが,中間論点整理で示されていた方向と今回の御提案との関係について御説明いただければと思うのですけれども。 ○金関係官 関係というのはどのような御趣旨でしょうか。 ○中田委員 中間論点整理では,差押えを優先する方向で更に検討ということになっていたわけですけれども。 ○金関係官 失礼しました。今回の提案は,差押えが優先することを前提とした上で,第一読会で議論がされた中断・中止等についての規定は設けないという趣旨のものです。 ○畑幹事 実質のことなのですが,大きく言って差押えが優先するというところは,手続法的にはそうだろうと思うのですが,差押えが先行した場合には,債権者代位訴訟は提起できないという前提になっているのでしょうか。今,ぱらぱらと見ていてよく分からなかったのですが。 ○金関係官 部会資料35の42ページ以下にそれぞれの先後のパターンについて記載をしておりますが,差押えが債権者代位訴訟の提起に先行している場合については(1)に記載をしておりまして,そこでは,差押えの後に債権者代位訴訟を提起しても不適法として却下されるということを前提としております。 ○畑幹事 それが現在の一般的な理解かどうかということには,ちょっと疑問がありますが。 ○金関係官 そこは独自の見解というつもりではありませんでしたが……。 ○畑幹事 独自な見解だと申し上げているつもりはないのですが,もし債権差押えがあっても,債務者自身は給付請求を維持できるというのが現在の判例であり,私自身は若干疑問を持っていますが,それを前提とすると代位もできるという考え方も十分あり得そうですが。 ○金関係官 差押えがされると取立てその他の処分は禁止されるけれども訴訟を提起することはできるという御議論なのでしょうか。 ○畑幹事 議論というか,給付訴訟は維持できるという判例があるということです。 ○金関係官 恐らく今の話は,既に訴訟を提起している場合の差押えのことかと思いますけれども。 ○畑幹事 ええ。 ○金関係官 失礼しました。先ほど私が申し上げたのは,差押えがされた後に訴訟を提起した場合のことでした。訴訟を提起した後に差押えがされた場合については,また別の問題だと考えておりまして,部会資料35の42ページの(2)に記載しておりますとおり,その場合には訴訟の維持が可能であることを前提としております。 ○畑幹事 御趣旨は分かりました。ただ,また分科会で議論すると思いますけれども,差押えがされた結果,処分権などの関係がどうなるかということが,訴訟の提起との先後で変わるというのは,ちょっと妙な気もするということであります。 ○鎌田部会長 分かりました。その点も含めて検討の対象とさせていただきます。   次に,「8 代位訴訟への訴訟参加」につきましても,(1),(2)のいずれにつきましても,規定を設けることの要否は最終的に部会で決定することを前提として,規定を設ける場合における具体的な規定の在り方等を分科会で補充的に検討してもらいたいというのが事務当局の提案でございますけれども,その点も含めて御意見を伺えればと思います。 ○山本(和)幹事 中身のことを申し上げてもよろしいですか。簡単に申し上げます。   3点ですが,結局,先ほどの,訴訟告知がされた後であっても債務者の処分が禁止されないということを前提としたときに,今までとかなり前提が違ってきそうな感じがするということです。例えば,共同訴訟参加とか独立当事者参加ができるということですが,そういう手続にしてしまいますと,債務者の訴訟上の処分権限を代位債権者が制約できることになります。つまり,民事訴訟法40条が適用になりますので,債務者が請求の放棄等をしようとしても,債権者がそれに反対すれば放棄はできなくなります。あるいは自白をしようとしても,自白は効力を生じなくなります。それが先ほどの規律と,実体法上は,債務者が債権免除しても免除できるという,債権者代位訴訟が提起されても免除できるという御提案だと思うので,それが果たして整合的なのかどうかということが私にはやや疑問です。   それから,独立当事者参加については,現在の判例は,債権者代位訴訟の提起によって債務者の管理処分権がなくなるので,被保全債権があれば,債権者の請求については法案判決がされるのだけれども,債務者の請求については訴えが却下されるということが前提となって,それで権利が法律上両立しないという結論を導き出しているのではないかと思うのですけれども,恐らく現在の提案だと,被保全債権があったとしても,債権者の請求が仮に認容されるとしても,債務者の請求も認容されるということになるのではないかと思うのです。そうだとすると,被保全債権があろうとなかろうと,債務者の請求はいずれにしても認容されるという結論になるとすれば,果たして,請求の非両立性というものがあるのかどうかということは必ずしもよく分からないという気がします。   ですから,独立当事者参加の前提があるのかどうかということで,従来も民事訴訟法学においては,代位権を行使された場合でも,債務者の管理処分権は失われないという見解があって,その場合には独立当事者参加を認めないという見解が,三日月先生など有力な見解としてそう言われていたので,今回,法律でそういう前提を取った場合に,なお独立当事者参加が認められるかどうかというのは,やや疑義があるように思います。   他方,独立当事者参加を債務者について認めるとすると,今度,他の債権者の独立当事者参加を認めないというのが,これも私にはよく分からなくて,債務者の独立当事者参加を認めるとすると,他の債権者も同じような,代位債権者の被保全債権がないという主張をして,独立当事者参加をするということは,十分認められそうな感じがしております。   ということで,この御提案について幾つか疑問の点があるということだけ,ここで申し上げたいと思います。 ○金関係官 最後の点は,他の債権者も独立当事者参加をすることができるようにすべきだという御趣旨でしょうか。 ○山本(和)幹事 最初の代位訴訟を起こした債権者の被保全債権がないということ。要するに,あいつには支払ってもらう権利はないということを主張して独立当事者参加をすると。債務者ができるのであれば,他の代位債権者もできてよいのではないかということです。 ○金関係官 その点につきましては,他の債権者は飽くまで債務者の第三債務者に対する債権を訴訟物として訴訟をするにすぎないということとの関係が少し気になっております。他の債権者による独立当事者参加を認める必要性は,おそらく他の債権者が第三債務者に対して何らかの権利を有していることを前提とするもののようにも思いますが,そもそも,代位債権者の第三債務者に対する直接の引渡請求が認められるといっても,それは,語弊を恐れずに言えば,債務者の第三債務者に対する債権,すなわち代位訴訟の訴訟物である債権についての執行方法のようなもので,少なくとも代位債権者の第三債務者に対する実体法上の権利として直接の引渡請求が認められているわけではないと思われますので,そのことを踏まえますと,他の債権者による独立当事者参加を認めるべきかどうか若干疑問を持っております。 ○山本(和)幹事 余り議論をしても仕方がないですけれども,独立当事者参加をする場合は,最初の代位債権者の被保全債権利がない場合なので,あいつは債権者ではないと,俺たちの仲間ではないということを主張しているわけですね。なのに,あいつに渡されるということがおかしいと,それなら自分に渡せという意味で,権利は非両立なのではないかと,そういう認識だとすれば,十分認められる余地はあるのではないかということです。 ○鎌田部会長 具体的な規定の在り方等について分科会でという御提案でございますけれども,実質的な内容につきましても,民事手続法の理論ともすり合わせの必要があると認識いたしましたので,その点につきましても,恐縮ですけれども,分科会でしっかり詰めた議論をしていただいて,8に関わる規定,設けるとしたらどんな規定になるべきであるのかということを御提案いただければと思います。 ○山野目幹事 山本和彦幹事と金関係官の間で意見交換がありました8(1)の独立当事者参加の問題は,伺っていて,まだ私としては納得できないものが残りましたから,是非,部会長がおっしゃったように,分科会で補充的に御検討いただきたいと考えます。   それから,8の関係で別のお尋ねとして,部会資料の前提となっている制度運用のイメージを,金関係官が前提としているところがおありだったら教えていただきたいのですが,本日,今まで議論してきた別な論点のところで,直接の引渡しを代位債権者が求めることができるという前提がほぼ共有されたと感じます。それから,議論はありましたけれども,代位債権者の債権額を上限としてのみ権利行使をすることができるという議論もされました。それらの議論と組み合わせたときに,8(1)で債務者が共同訴訟参加したり,8(2)で他の債権者が共同訴訟参加したりしたときの判決の主文というものはどのようになるものであろうかということを教えておいていただいて,そのようなことを参考に考えを巡らせながら,分科会の御議論が更に進んでいけばよいというふうに感ずるものですから,もし御高見がおありだったらお教えいただきたいと考えます。 ○金関係官 今の御質問は,判決の主文が一つであることを前提とされているようにも思いましたけれども,共同訴訟参加の場合にはそれぞれの当事者間の訴訟関係についてそれぞれの主文があるということが前提となると思いますので……。 ○山野目幹事 幾つであっても宜しいですから,お教えを頂ければ幸いです。   差し当たり御教示がなければ,その辺りも含めて分科会で御議論いただくと,なお細密な御議論になるだろうと感じますから,質問ではなくて,分科会への要望ということに切り替えて申し述べさせていただきます。 ○畑幹事 今の点は,卒然と考えますと,単にそれぞれの原告ごとに認容額を書くということではないでしょうか。 ○鎌田部会長 ただいまの点,御指摘のありました点も含めて,できるだけ具体的な形で皆さんにイメージしていただけるような御議論,御提案をお願いいたします。 ○岡委員 すみません,短く。弁護士会の意見ですが,8の(1)については,内容的には賛成の意見が多うございました。ただ,明文化までは要らないのではないかという意見も相応にございました。   (2)については,実務家からも独立当事者参加は認めるべきではないか。やはり,あいつではなく俺に渡せという訴訟が認められるべきであるという意見が結構な会から上がってきておりました。こちらについても明文化までは要らないのではないかという意見も少数ながら有力にございました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。他にはよろしいですか。   それでは,先を急いで恐縮ですけれども,部会資料35の「第1 債権者代位権」のうち,「9 裁判上の代位の存廃」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「9 裁判上の代位の存廃」では,裁判上の代位の制度を廃止するという考え方を取り上げています。ここでは,利用例の乏しい制度を廃止するかどうかという観点だけではなく,期限未到来の債権を被保全債権として保存行為以外の権利を代位行使することを一切否定してよいのかどうかという観点や,責任財産保全の局面において被保全債権の期限到来を必須の要件とすべきかどうかといった観点からも御議論いただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま御説明ありました部分について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○松本委員 前半の最後のほうの沖野幹事からの御意見兼御質問の流れと,こことの関係なのですが,債権者代位権に基づいて解除権を行使し,解除権行使の結果として発生した金銭債権について,第三債務者に請求をするという場合に,第三債務者として,代位権行使による解除権行使が有効になされたかどうか,いろいろな要件を満たしているかどうかが分からないという状態に第三債務者が置かれるので,供託等による一定の救済が必要ではないかという御意見が出されていたと思います。   その問題を考える際に,供託で第三債務者の不安定な地位を保護してあげるというのは,何か少し筋違いだろうという感じがします。むしろ,訴訟による権利行使を要件として,クリアな形で第三債務者との関係を整理したほうがいいのではないか。つまり,解除権行使による金銭債権化というのは,例えば保険にしろ投資信託にしろ,解除しなければ弁済期はまだ到来していないという金銭債務について,解除によって,言ってみれば弁済期を早く到来させるということなので,ここで廃止しようと提案されている弁済期未到来の債権を被保全債権とする場合とちょっと近いような位置付けが考えられるのではないか。第三債務者として債権者が権利行使の要件を満たしているかどうかは分からない。423条2項はそれと大分違いますけれども,この条文を手掛かりにして,裁判所が関与しなければ代位権行使できないような場合というのを新たに考える余地があるのではないかという提案です。 ○鎌田部会長 これは,現行法の裁判上の代位をはるかに超えて,かなり大きな御提案になりますよね,その御趣旨からいくと。具体的な御提案の形が……。 ○松本委員 裁判所が関与しなければ代位権の行使が認められないような行使というのがあるとすれば,それは民法の中にきちんと規定したほうがいいのではないかということで,そんなものは認める必要がないということであれば認めなければいいだけです。 ○鎌田部会長 ある意味で全く新しい御提案なので,どういう場合にそれが必要なのかということを併せて御提案いただいてからでないと,議論はできないと思います。具体的な御提案をしていただければ,それに基づいて議論したいと思います。 ○中井委員 松本委員の御発言が,形成権の行使に関しては,裁判上でなければ債権者代位権を行使できないという趣旨を含んでいるとすれば,消極意見を持っております。   例として適切ではないのかもしれませんけれども,最近の権利能力なき社団の最高裁判決で,田原裁判官だったと思いますが,その補足意見で,権利能力なき社団の代表者以外の第三者に登記をしている場合,それは権利能力なき社団と第三者との一定の契約に基づいて登記名義を預けている。それを真正に,権利能力なき社団の代表者に移転登記を求めるのに,債権者代位構成も可能であるとして,そのとき,その契約を解除した上で名義を第三者から代表者名義に戻す,こういう方法が考えられると述べておられたと思うのですけれども,債権者代位権の行使として解除権の行使,形成権の行使とセットとして財産を回復する。それが裁判外で行われる場面はあるだろうと思いますので,形成権行使を常に裁判上でなければ駄目だという方向の意見だとすれば,慎重に考えていただきたい。   また,裁判上の代位の存廃についての弁護士会の意見ですけれども,基本的には,使われていないという事実から賛成する意見が多くありますが,一部とはいえ保存行為以外でもあり得るかもしれないから,あえて削除しないでいいのではないかという単位会もございました。   ちなみに大阪弁護士会有志案は,条文提案資料の4ページから5ページの1002条というところの,期限未到来の債権に関する記述ですけれども,これは保全の必要のところで判断すれば足りるのではないか。一律,保存行為以外はできないと決め付ける必要はないのではないかという意見ですので,併せて申し上げておきます。 ○松本委員 最終的には私の意見は沖野幹事の御提案に近くなるので,第三債務者保護のために何か一定の手当てが必要だということであれば,今のような形が考えられるのではないかと思いますが,中井委員がおっしゃったケースは正に敵対型ですね。債務者と第三債務者がグルになって資産隠しをしているというタイプなので,沖野幹事が前半で御指摘されたのは,敵対型でない,第三債務者はきちんと対応しようと思っているのだけれども,契約が解除されたかどうか,その要件をきちんと満たしているのかどうかが分からないというリスク,その結果として遅延損害金5%が付くのか付かないのかというリスクをどう回避するかという話だから,債権者代位権を考える場合に,敵対型かそうでないかによって,要件効果を分けたらどうかという御趣旨かなと,中井委員の一連の発言から感じた次第です。 ○中井委員 補足しますと,敵対型だからという判断基準を持っているわけではありません。結果的に,債権者代位権を訴訟手続の中で使うときは,敵対型パターンが多いという事実を前提に意見を申し述べておりますけれども,それを基準に制度を切り分けるという考えはございません。 ○岡本委員 先ほど沖野幹事がおっしゃられたのは,被代位権利のほうについて,形成権の行使によって履行期が到来するようなケースなので,この裁判上の代位の存廃のところで問題にされているのは,被保全債権の履行期が到来しない間はということなので,必ずしもパラレルに考える必要はないのではないかと思います。 ○沖野幹事 裁判上の代位の制度についてですけれども,現在のように代位債権者の債権の履行期の到来がまだないということに対応する制度としては,必要がないのではないかと思っております。それは,利用例がないということのほか,現行の判例の下で,裁判上の代位という段階を経ずに端的に提起された訴訟の中で判断ができるとされておりますので,あえて裁判上の代位という制度を別途残し,それによって履行期の点をクリアして,そして代位権行使をするという手続を用意する必要もないのではないかと考えております。   問題は,一方で,被保全権利の履行期自体についてどう考えるかという点でありますけれども,御指摘のあった裁判例は,履行期に引っ掛けてはいますけれども,履行期そのものの問題というよりは条件成就の問題であり,かつ,転用型の事例だということになりますので,考えるとすると,履行期一般というよりは,むしろ転用型で条件付きであるというような場合についてどう考えるかというほうが,問題設定として適切ではなかろうかと。およそ一般に履行期の要件を不要とするということよりも,かつ,履行期だけへの対応とすると,条件付きであるような場合にどうなのかという問題も抱え込みますので,そのような問題として考えてはどうかと思います。   もう一つ,松本委員から御指摘のあった点なのですけれども,前半の最後辺りで考えましたところは,第三債務者からすれば,債務があって弁済期が来ているということが明らかであれば,問題は余りないのですけれども,そもそも債務が発生しているのかということ自体が一定の権利行使に係らしめられており,その権利行使をめぐって債権者と債務者との間で対立があるために,第三債務者としてはどうしたらいいのか分からないという状態に置かれることが問題ではないか。   そうしますと,一つは,そもそもそのようなタイプの権利行使を裁判外で認めること自体が問題ではないのかという問題の提起につながり,それは内田委員が御指摘になったところだと思うのですけれども,そうだとしますと,およそそういう権利については債権者代位を否定するということが一つはあり得ますが,裁判外での行使は認めないという考え方もあり得るところでして,全て裁判上の行使でいくのだという方向です。具体的には,仮に金銭債権であれば,解除権の行使とセットで金銭債権の履行を求めるというタイプのものになるかと思います。ただ,全て訴訟でいくのは大掛かり過ぎるということであるならば,別の手続を用意するということが考えられて,そのような手続として裁判上の代位の制度を生かせられないかというのが松本委員の御指摘だろうと思います。   したがって,履行期の点について一定の例外を認めるというタイプのものではなくて,そもそも形成権について,無限定の権利行使ということが適切なのかというと,行使方法を限るというようなことが考えられないかという中で,裁判上の代位の制度というのを残してはどうか。それは今ある制度ではなくて,違う形で活用する方向を模索するということですから,新たな提案を考える必要があるということになると思います。そういう方向はあり得るとは思いますけれども,それでも裁判上の代位という制度がどのくらい有用なのかという懸念は同じようにあるように思われまして,そうだとすると,もし考えるならば,訴訟一本でということも考えられるのではないかと思っております。   それに対しまして,中井委員から,それでは非常に支障のある場合があるという御指摘があり,最高裁判決の意見の御紹介もあったわけですが,ただこれも,必要な場合は確かにあると思われるのですけれども,一般的にそれが認められることによる第三債務者の立場への配慮ということをどのくらい重視するかで,先ほどの例も,委任契約を解除して登記を戻す,あるいは物を戻すというときに,第三債務者ないし相手方からすれば,委任契約の解除が適切なのか分からない。登記を戻せと言われているけれども,応じていいのかどうか分からないという地位に裁判外で置かれるというのが,果たして適切なのかということを考えたときに,むしろ第三債務者のための手当てを考えるべきではないかという立論は,それでもあり得るのではないかと思います。 ○岡委員 許可の制度をなくすという方向には賛成でございますが,履行期が到来しない間,保存行為以外は駄目という新たな規定については,不安が残るという立場でございます。   まず,履行期未到来でも,履行拒絶が絶対的,確定的に明らかな場合までできなくなるではないかという場面と,あと,判例にもあるような条件付き権利の場合までできなくなってしまうおそれがあるとするとまずいのではないか。それから,転用型の場合には全部駄目というのは,ちょっと行き過ぎではないか。その三つの理由から,新たな,できないという規定まではちゅうちょするという意見でございます。 ○鎌田部会長 松本委員の提起した問題は全く別な新たな問題ですから,これはまた別の機会にということにさせていただいて,裁判上の代位の存廃に関しましては,今,岡委員から御指摘ありましたように,裁判上の代位という制度を維持するかどうかという問題と,被保全債権の履行期未到来の間に債権者代位権を行使することを認めるべきかどうか,認めるとしたらどのような条件の下で認めるべきなのかと,この二つの問題があると思いますので,その点について御意見を頂ければと思います。 ○佐成委員 二つの問題のうちで,私は,そもそも被保全権利の履行期が未到来の間に,果たしてそういった対外的な効力を本当に認めていいのかという点で言えば,相当疑問があると感じております。ただ,制度を維持するかどうかという点で言えば,単純に,今利用されていないから削除するということにはちゅうちょを覚えるので,慎重に考えていただきたいというのが率直なところでございます。定見があるわけではございませんけれども,元々被保全権利がちゃんと行使できる状態にあるということが前提にあって,その上で債務者の財産管理に一定の干渉をしていくことを認めるというのが本来の構造と考えているものですから,少なくとも今以上にそこを緩めてしまうのは問題があると考えております。確かに制度を単純に維持すれば,今御指摘いただいた条件付きの権利についての問題,つまり,なぜ条文上,履行期だけで,他に停止条件を含めて考えないのかという問題も当然出てくると思いますし,その問題への対処が必要であることはもちろんだと思います。私自身は,保存行為を除いて,裁判上の代位を認め続けるか,一切行使を認めないとするかは別にして,停止条件も履行期と同様の扱いをすべきだろうと考えるのですけれども,そうだとしても,ただ使っていないから削除するというのには,いささか抵抗感があり,もう少し慎重に考えていただけないかというところでございます。 ○鎌田部会長 結論的には,現行法がそのまま維持されるのがいいということですか。 ○佐成委員 最終的に結論を出す段階になれば話はまた別なのですけれども,取りあえずは,まだ今の段階では,削除して良いとまで言えない状態でございます。ですから,もう少し議論を詰めさせていただけないかということです。 ○鎌田部会長 他の御意見はいかがでしょうか。 ○潮見幹事 意見というよりも確認なのですが,今日の席上配布にある大阪弁護士会の意見,あるいは中井委員のものもそうなのかもしれませんが,鎌田部会長が整理されたように,9の問題には,裁判上の代位という制度を廃止するか否かという問題と,それから債権者代位権で履行期という要件を維持すべきかどうかという,二つが含まれていて,恐らく前半のほうは,佐成委員の先ほどの発言はどちらかよく分からなかったのですけれども,大筋はどうも廃止論が強そうだ。ただ,後者のほうについては若干意見があって,岡委員の発言だと,履行期要件は要るけれども,要らない場合もあるというような趣旨があったのかと思うのですが,大阪弁護士会のここに書かれている1001条では,履行期ということは要件から意図的に外していると理解してよろしいのかということです。   つまり,それは,先ほどから何度も繰り返しておられるように,債権者代位権というものを民事保全の制度にできるだけ近付けていくという観点から捉えていった場合に,履行期ということにこだわる必要はないという観点から,履行期要件は要らないということを積極的に言っておられる趣旨なのかどうなのかです。   中井案423条というところでは,履行期ということは原則として要件として挙げておられるけれども,本文の中で書いているところを見ると,保全の必要性を考慮すれば足りるという考え方もあり得るとお書きになっているので,私が今申し上げた趣旨で理解してよいのかというところだけの確認です。 ○中井委員 大阪弁護士会有志の意見を申し上げますと,裁判上の代位の廃止自体には賛成をしております。   後者の問題について,大阪弁護士会有志案は,今,潮見幹事がおっしゃっていただいたように,1001条と1002条と両方見ていただいたら分かると思いますけれども,期限未到来の債権であっても,保全の必要性があれば代位行使を認めるという見解に立っておりますので,御指摘のとおりです。私は,まだ迷っているということで,メモの423条補足説明2では括弧書きに入れている,こういう趣旨です。 ○鎌田部会長 保全の必要性は,単に無資力とかということではなくて,文字どおりの保全の必要性を個別に認定した上でという,それが入るので,履行期はその考慮要素の一つにしかならなくなるというのが大阪弁護士会の考え方だと理解してよろしいですか。 ○中井委員 はい,御指摘のとおりです。   ちなみに,転用型の条件未成就の関係についても,転用型の債権者代位権の行使要件として,必要性と補充性の中で要件審査をすれば足りるという見解です。 ○鎌田部会長 他の御意見はいかがでしょうか。   それでは,本日頂戴しました御意見を踏まえて,事務当局で引き続き検討をさせていただきます。裁判上の代位制度の廃止には賛成は多いのですけれども,被保全債権の弁済期未到来の場合に,保存行為以外は全く債権者代位権が行使できないとしてしまうことについては,一抹の懸念があるというのが大方の御意見であったかと思いますので,それを踏まえて更に検討を続けさせていただきます。   残り時間が少なくなってまいりましたけれども,部会資料35の「第2 詐害行為取消権」に入りたいと思います。「第2 詐害行為取消権」のうち,「1 詐害行為取消権制度の在り方」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「第2 詐害行為取消権」の「1 詐害行為取消権制度の在り方」の「(1)詐害行為取消権の法的性質(検討の指針)」では,詐害行為取消権の法的性質についていわゆる折衷説を採ることを一応の前提としつつ,詐害行為取消しの効果を債務者にも及ぼすという方向でまずは検討を進めることを提案しています。   「(2)詐害行為取消訴訟の在り方」の「ア 詐害行為取消訴訟の被告」では,詐害行為取消訴訟において債務者をも被告としなければならないとする甲案と,債務者に対しては訴訟告知をすれば足りるとする乙案を提案しています。   「イ 被保全債権に係る給付訴訟の併合提起」では,詐害行為取消訴訟において債務者をも被告としなければならないとする立場を前提として,債務者に対する被保全債権の給付訴訟を併合提起しなければならないとする甲案と,そのような併合提起は義務付けられないとする乙案を提案しています。  「ウ 詐害行為取消訴訟の競合」では,複数の取消債権者が同一の詐害行為に対する詐害行為取消訴訟を提起した場合において,その判決の合一性を確保するための手だては特に設けず,裁判所は各訴訟について個別に審理及び判決をすることができることを確認的に規定することを提案しています。   以上の各論点のうち,「(2)詐害行為取消訴訟の在り方」の「ア 詐害行為取消訴訟の被告」と「イ 被保全債権に係る給付訴訟の併合提起」については,甲・乙両案の具体的な差異等につき分科会で補充的に検討することが考えられ,また,「ウ 詐害行為取消訴訟の競合」については,仮に規定を設けるとした場合における具体的な規定の在り方等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,これらの点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明がありました部分のうち,まず「(1)詐害行為取消権の法的性質(検討の指針)」につきまして御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○高須幹事 ここでは手短に済ませます。一応意見を出させていただきました。結構ボリュームの多い意見でございまして,これは第2のところ全部に関わるということです。今回の議論の中で,責任説を採るか個別修正説を採るかということはずっと関わるということで,必然的にボリュームが多くなりました。ここでは一番最初の在り方のところだけでございます。決してこれに依拠するわけではなくて,こういうことも引き続き考えていただきたいという趣旨だけ説明させていただきたいと思います。   これまでの議論を踏まえれば,個別修正説というふうに今の御提案のことを呼ばせていただいているわけですが,それで妥当な結論が得られるのであればそれでいこうというのが,この部会での基本的な理解なのだろうと思っております。したがって,まずは個別修正説を検討するということ自体に私も異論を唱えているわけではございません。   ただ,仮に今後の検討の中で,いわゆる個別修正説で妥当な結論が得られないということが出てきた場合には,飽くまで,「まずは」という御趣旨でございますので,今一度責任説についても検討の余地を残していただくということは許されてもいいのではないか。そのための資料として,今回,意見を出させていただいたという趣旨でございます。   そこで,責任説を採った場合というのは,いわゆる詐害行為取消権の効果の面でどのような効果をもたらすかというところの場面の問題と考えておりますので,今日,この後議論になります要件論の場面におきましては,必ずしも責任説を採ったからどうだとか,そういう議論にはならないと思っておりますので,効果のところでの議論のときに少し検討の中身に加えていただきたいと,こういうことでございます。   具体的には,個別修正説の場合には,逸失財産の取戻しを認めるという構成がポイントになっている関係上,取り戻した上での相殺を認めるかどうか。代位権のところでも議論が出たわけですが,事実上の優先弁済を認めるかどうかという問題が検討の対象になる。あるいは,取消しの範囲について債権者の債権額を上限とするか否か,これも取り戻すという構成を取りますので,取り戻す範囲はどこまでですかということで議論の対象となってくる。この2点が,効果論において,個別修正説を採った場合には大きな問題として出てくるのだろうと思っております。その議論の中で,適切な解決指針が見付かればそれでよろしいと思うわけですが,仮にそうでない場合には,責任説というのも一つの考慮の範囲だと。つまり,取戻しを認めるということでなかなか難しい問題が起きるのであれば,取り戻さないという前提で,受益者なり転得者なりの下においての強制執行というものを考える余地も出てくるのではないか,このようなことを考えたいというのが趣旨でございます。   その点について,効果のところで少し具体的にお話をさせていただければと思っている次第でございます。   最終的には,私は責任説がよいと考えておりますので,責任説を採ったほうが適切であり,また,よりストレートな,直截な解決ができるのではないかと思っている次第でございます。今回,立法論でございますので,詐害行為取消権の制度全体をどうするかということを検討することが許されている場面だと思いますので,責任説での制度設計というのがあってもよろしいのかなと考えている次第でございます。そのような総論的なことを申し上げさせていただいたのが,配布いただいた資料の第1のところということになります。今日は申し上げませんが,第1のところにいわゆる総論的なお話を書かせていただいた次第でございます。   それから,第2のところ,7ページからは,個別の論点について,主に効果論のところでございますが,仮に責任説を採った場合にはこのような考え方があり得るのではないかということを記載しております。これは部会資料は基本的には個別修正説で作っていただいておりますので,責任説を採用した場合の具体的な内容について御参考にしていただく必要があろうかと思って作ったものでございます。   最終的に,第3のところで立法提案という形で,39ページのところですが,責任説に基づく条項案の骨子という形で,一応このような条項になるのではなかろうかということを作ってみましたし,これ自体は,私が所属している東京弁護士会の意見などでも出ているものも参考にさせていただいて,共同作業で作らせていただいたものでございます。   39ページのところ,1点だけ訂正のお願いをして申し訳ないのですが,39ページの条項案の骨子の第a条,一番最初の1項の1号のところで,ただし書のところ,「ただし」うんぬんと書いてある2行目,「将来の財産が現実に発生するときにおいて,債権者が,完済能力を欠くために」うんぬんとあるのですが,これは明らかに「債務者が完済能力を欠くために」ということで,全くの初歩的なミスでございまして申し訳ございませんが,「債務者」に訂正をさせていただきます。   そういうことでございまして,引き続き議論のお仲間に責任説も入れておいていただければと,こういう趣旨で作らせていただいたものですから,御参考にしていただければと思います。現時点では以上でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。進行に御協力いただいて,御発言時間を短くしていただきましたけれども,お手元の資料をそれぞれに御覧いただいて,中身を御理解いただければと思います。   他の御発言ございましたら,お出しください。 ○岡委員 第一読会のときに,濫用的会社分割について詐害行為取消権がうまく機能することを考えるべきだという意見を申し上げたと思いますが,今度,会社法改正で,債権者を害する濫用的会社分割の場合には分割会社に請求できるという立法,すなわち責任説を取り入れたような立法が近々できると聞いております。そのようなことと民法との整合性をどう考えたらいいのかという問題意識が一つございます。   それを深化させると,債務とか負債とかを複合的に移転をし,なかなか取戻しが困難なような場合には,取消しではなく,ダイレクトに受益者に対して履行請求できると,そういう行使方法を予備的に認めてもいいのではないかと,取りあえず考えております。   取りあえず問題意識だけここで述べさせていただきます。 ○中原関係官 私も余り考え抜けているわけではないのですけれども,今の高須幹事や岡先生の議論に関連して,もしそういう形を認めるのであれば,コンストラクティブトラストといいますか,受益者・転得者が信託で言うところの受託者になり, 取消債権者が信託で言うところの受益者になるという形で構成し,清算受託者の規定の相当部分を準用することとすれば,訴訟法の特別な手当てをしなくても解決ができるのではないかと思いましたので,また効果のところで議論すべきだと思いますが,ちょっと述べさせていただきました。 ○鎌田部会長 他にいかがでしょうか。   幾つか責任説関連の御発言も頂いたところでございますけれども,それ以外の委員,幹事におかれましては,まずは個別修正説と高須幹事が名付けられたもので検討を進めていくということで,異論はないとお伺いしておいてよろしいでしょうか。   ありがとうございました。   それでは,具体的な中身に入っていくときに,最初に問題になりますのが,詐害行為取消訴訟の被告ということになります。「(2)詐害行為取消訴訟の在り方」について,御意見をお伺いします。まずは,「ア 詐害行為取消訴訟の被告」というところについて,御意見があればお出しいただければと思います。 ○岡委員 弁護士会で議論したところは,甲案の被告説でいいのではないかというのが多数でございました。 ○中井委員 弁護士会の多数は甲案であることはそのとおりです。大阪の意見は,次回部会までにはお出ししたいと思います。   被告について,検討資料にもありますように,論理を貫くと被告にするのが適当であろうと,大阪弁護士会も甲案と当初考えていましたが,果たしてそれでいいのだろうかという意見が出ておりますので,その紹介をさせていただきます。それは,裁判所からのパブリックコメントにも出ていたと記憶しています。詐害行為取消訴訟が実務で使われる一つのパターンとして,債務者と相手方の間で,例えば売買があって,最終的には廉価売買として取り消すべきもの,若しくは贈与として取り消すべきものかもしれませんけれども,その前段階の主張として,その売買が存在しない,若しくは売買が無効であるという主張,こちらのほうが主張としては強いわけです。だとすると,そのときに相手方にある登記名義を債務者に戻す方法としては,第一次的には債権者代位権を使って相手方から債務者へ登記を移転せよと,これを主位的に考える。仮にそれが無効でないとすれば,贈与だ,若しくは廉価売買だ,だから,予備的に取消すとして,相手方から債務者への移転登記を求める。   債権者代位権の議論では,債務者の地位については訴訟告知説でほぼ固まりつつあり,ここを被告にする考え方は今のところ出ていない。その中で,詐害行為取消訴訟について,債務者を被告としなければならないとなったときに,主位的請求と予備的請求を出そうとすると,主観的予備的併合になり,この訴訟がうまく動かないのではないか。そこで,逆の発想で,そうだとすると,甲案ではなくて乙案を採って訴訟告知で足りることとして,その上で債務者に訴訟告知による効果として,それは訴訟告知の効果としていいのかどうかは問題ですけれども,債務者に効果を及ぼす,こういう枠組みもあるのではないかと,検討を進めております。次回までにはまとめたいと思っています。 ○金関係官 今の主観的予備的併合の問題については,確かに債権者代位請求を主位的請求,詐害行為取消請求を予備的請求として訴訟提起をすることが現在行われていると思いますけれども,若干の問題意識として,本当にその取扱いがよいのかどうかという疑問を少し持っております。と言いますのも,例えば,原告一人,被告一人の事案で,ある二つの請求が本来は選択的併合の形態とすべき関係にある場合であれば,被告にとっては,二つの請求,便宜上A,Bと名付けますと,A請求とB請求のうちA請求が認容されてしまえば,B請求は認容されようが棄却されようが余り利害はないと思いますので,それを前提として原告がそれならば自分はA請求のほうを優先的に判断してほしいからA請求を主位的請求,B請求を予備的請求として予備的併合の形態で訴訟提起をしたいとすることが許されてよいように思いますが,債権者代位請求と詐害行為取消請求との併合の場面は,これとは少し問題状況が異なるのではないかと考えております。   つまり,債権者代位請求を先ほどのA請求,詐害行為取消請求を先ほどのB請求とした場合の被告にとっては,A請求である債権者代位請求が認容されたとしても,B請求である詐害行為取消請求を棄却してほしいと主張する利益があるのではないか,債権者代位請求が認容されたとしても,詐害行為取消請求まで認容されて形成力まで生じるのは困ると主張する利益があるのではないかということを考えております。仮にそうだとすれば,債権者代位請求を主位的請求,詐害行為取消請求を予備的請求として訴訟提起をすることが許されてしまうと,被告にとっては,詐害行為取消請求について一所懸命争ったにもかかわらず,債権者代位請求が認容されてしまえば詐害行為取消請求については何らの判断もされないことになってしまいますので,本当にそれでよいのかどうかという問題意識です。  仮にそのような予備的併合が許されないとするならば,先ほどの主観的予備的併合の問題は生じないのではないかと考えております。 ○岡崎幹事 今の金関係官の御説明について質問ですけれども,先ほど中井委員が出された例というのは,主位的請求が,売買は仮装譲渡であるから無効なので,不動産の登記を債権者代位で売主である債務者の下に戻してくれという請求ですね。そして,予備的請求が,その売買が詐害行為であるから,これを取り消して,不動産の登記を売主である債務者の下に戻してくれという請求ですよね。主位的請求が認められた場合,債務者のところに登記が戻ることになる訳ですが,その場合に,更に,予備的請求についても判断を受けたいと思う被告の利益というのは何なのですか。要するに,売買が無効だということが確定している場合に,その売買が有効であり詐害行為ではないということを更に主張したいという場合とはどういう場合でしょうか。 ○金関係官 確かに御指摘の問題があるように思いますけれども,債権者代位請求については,認容判決がされて確定したとしても,その売買契約が無効であることは既判力の対象とはならず,形成力も当然生じないのに対して,詐害行為取消請求については,認容判決がされて確定してしまうと,その売買契約が取り消されて無効になるという形成力が生じるとともに,他の債権者にもその効果が及ぶとされていますので,被告にとっては,債権者代位請求についての認容判決の理由中で無効と判断されるよりも,詐害行為取消請求についての認容判決がされるほうがより不利益な結果であると観念的には言えるのではないかというのが先ほどの問題意識です。 ○村上委員 金局付は,今のような事例で,債権者代位訴訟を主位的請求とし,詐害行為取消訴訟を予備的請求とするという現在行われている訴訟形態について,予備的併合訴訟ではない形態の訴訟にすべきだとおっしゃっているのだと思いますが,そうだとすると,どういう形態の訴訟で行うべきだとおっしゃっているのかを教えていただけませんか。 ○金関係官 想定しておりました併合形態は単純併合です。債権者代位請求と詐害行為取消請求に順位を付けず,かつ選択的併合でもないことを前提に,単純併合の形態で訴訟提起をして,両請求ともに判決がされるということを想定しておりました。無効の詐害行為は取り消せないという御趣旨でしょうか。 ○村上委員 金局付が,単純併合の形態を想定していたことは理解しました。無効の詐害行為は取り消せないと申し上げているわけではありません。 ○山野目幹事 主位的,予備的というところではない話にいってもいいですか。(2)の論点について意見が一つと,関連して高須幹事に若干のお尋ねがございます。   意見ですが,(2)アの論点について,乙案がよろしいと現時点で私は感じております。中井委員御自身ないし大阪弁護士会が乙案に傾くに当たり理由としておられることと,ほぼ軌を一にいたしますから,繰り返しません。   高須幹事に御確認をさせていただく上で,この後の全体の進め方についても自分が感じていることを申し上げたいのですが,一つ前の(1)の論点において,高須幹事が御提案になったものは,御覧いただいて明らかなように,かなり入念な御準備をして意見をおっしゃっていただいたことであります。(1)の論点についての部会長のおまとめで私はよろしいと感ずるものでありますけれども,そうだとしますと,一つ一つの論点について,部会資料で御提示いただいている案と責任説というか,高須幹事の御提案とがどういう関係になっているのかは,なるべく忘れないように意識しながら確認していく必要があるものであろうと思います。   そのような観点からのお尋ねですが,高須幹事の場合,乙案のほうに傾いていかれるであろうと想像しますけれども,訴訟告知の部分も含めて乙案そのものであるか,訴訟告知は要らないというお考えであるか,その点については,念のため確認をさせていただきたいと感ずるものでございます。 ○高須幹事 (2)のアのところ,甲案か乙案かと言われれば,もちろん乙案ということになります。ただ,乙案は絶対必要かと,更に言えば訴訟告知まで必要とするのかということになると,責任説の場合には,要するに受益者のところで強制執行を許すと。その場合に,債務名義が要るか要らないかという,またもう一つ別の問題が,責任説の中でも必ずしも十分に詰まっていない問題があって,私は飽くまで債務者に対する債務名義は必要だと思っているのですが,別途,それを必要とする限りは,訴訟告知は要らないのではないかという考え方も採れると思っております。 ○山野目幹事 そうおっしゃるのではないかと想像して,少し危惧していた部分があります。仮に責任説の発想でいったときにも,債務者を巻き込まないで責任的に取り消す,とおっしゃるのですが,債務者,受益者間で行われた法律行為が,たとえ責任的取消しであっても,一定の法的掣肘が加えられるならば,現在の概念で言えば担保責任が受益者から債務者のほうに追及されるような局面というものは,全く払拭し切ることはできないであろうと考えます。   そう考えると,債務者に何か言わせる場を作ってあげるということは重要なのであって,私個人は,責任説の発想全体というものは魅力的であると感ずるものですが,そこのところを,債権者と受益者の間のみで明快に決まってしまうという割り切りが非常に良すぎるところが少し心配で,ここも訴訟告知まで要らないと言われますと,やはりすごい割り切りをなさるものである,という感じがしますから,感想を申し上げておきたいと思います。 ○潮見幹事 私も責任説の考え方を基本的に是としているものですので,一言だけ発言させていただきます。   責任説の立場から,何らかの形で債務者を詐害行為取消訴訟に関わらせるべきであり,その機会を設けるべきであると考えるときには,甲案のような考え方もあろうし,乙案という考え方もあろうと思います。責任説の基本的な考え方を維持しながら,更にそれに何かプラスアルファのものを付け加えるかどうかにより,甲案にも乙案にもなるということです。特に,責任説は,通説・判例が債務者を詐害行為取消訴訟に関与させる必要すらないとしている部分について批判をしておりますから,その先に続く問題,すなわち,債務者を訴訟に関与させるとしたらどうなるかについては,高須幹事の示されたものとは違った枠組みになることもあろうと思います。 ○高須幹事 山野目幹事,潮見幹事から御示唆いただいた内容で,例えばそういうことが必要だということで伺いましたので,それは十分考慮して考えたいと思っております。 ○松本委員 民訴法の素人ですので趣旨を御説明いただきたいのですが,甲案は,債務者をも被告としなければならないから必要的共同訴訟ですね。乙案の,受益者または転得者のみを被告とすれば足りるという書き方ですが,これは現在の判例のように,債務者を被告とすることはできないという趣旨なのか,両方被告としても構わないけれども訴訟告知だけでもよいという趣旨なのか,どちらですか。 ○金関係官 被告とすることはできないという趣旨だと思います。 ○松本委員 現行の判例プラス訴訟告知だけはしなさいという立場なのですね。 ○金関係官 はい。 ○岡本委員 アにつきましては,乙案に賛成する意見がございました。債務者にも手続参加の機会を保障すべきという考え方は理解できるところですけれども,手続参加の機会を保障すれば足りるので,被告とすることを必須とするまでは必要ないということです。ただし,この意見の中に,債務者を被告としては駄目というところまでは含んでおりません。 ○山本(和)幹事 私は,前の部会でも,乙案的な考え方もあるのではないかということを申し上げたと思いますが,理論的には,乙案のようなことが成立するかどうかということは,なおかなり慎重な検討が必要だろうと思っています。   要するに,債務者に対して判決効を及ぼすという前提として,訴訟告知に基づいた判決効を及ぼすという制度は,私が知る限りはないのではないかと思いまして,そういう新たな制度を作るか,あるいは債権者代位と同じような構成をするのであれば,受益者あるいは転得者が債務者の訴訟担当をしているという形になるのかもしれませんが,そういう構成が果たしてできるのかどうかということも,なお考えていかなければいけないと思いますので,慎重な検討が必要だろうと思っているということだけ申し上げます。 ○鎌田部会長 他の御意見,いかがでしょうか。   イ,ウについてはいかがでしょうか。イにつきましては,甲案と乙案とで具体的にどんな違いが出てくるのかということについて,分科会で補充的に検討してもらいたいというのが事務当局の御提案ですけれども。 ○中井委員 イについて,弁護士会の意見は,ほぼ乙案で一致をしています。甲案,併合提起を義務付ける必要はないだろう。そもそも,既に債務名義を持っている場合もあるはずであるにもかかわらず併合提起を義務付けるというのが,どういうことを意味するのか,先行して訴訟していて,給付訴訟については控訴審に上がっているところで,次に詐害行為取消訴訟を提起するというのは幾らでもあるはずで,にもかかわらず併合提起を義務付けるという趣旨も理解できないということで,実務的には乙案ではないかと考えています。   ちなみに,大阪弁護士会有志も,債務名義を取って執行していく形で,最終的な権利の実現を図る仕組みを取っておりますので,常に債務名義が必要になります。ただ,その場合でも,どのタイミングで債務名義を取るかは債権者の自由に任せていいのではないかと考えています。 ○鎌田部会長 イについては乙案のような考え方でよい,そのほうが妥当だという御意見を頂いたところでございますけれども,それを踏まえて,分科会で,先ほどのアの甲案,乙案もそうですけれども,どんな違いが具体的に出てきて,どういう問題があり得るのかということを詰めて検討していただければと思います。 ○松岡委員 念のために確認をさせていただきたいと思いますが,資料の58ページのところの(2)の直前の部分です。この甲案というのは,(2)の一つ前の行の更に3行前から言いますと,「具体的には,訴訟経済の観点から,債権者が被保全債権の債務名義を有していない場合には」という限定が付いています。先ほど中井委員のおっしゃったように,執行認諾文言付きの公正証書がもう既に作ってある金銭債権の貸付証書でもある場合には,わざわざ訴訟など起こす必要はないと私も思います。ここの書き方はそうではなくて,そういうものがない場合にと限定してありますので,問い掛けとお答えとがずれている気がいたします。どういうふうに分科会で議論するのか迷いますので,御教示いただければ幸いです。 ○中井委員 補充しておきますと,仮に債務名義を持っていなかったとしても,義務付ける必要はないというのが大阪意見です。 ○沖野幹事 併せてと言いますか,内容を確認させていただきたいのですが,今,松岡委員から御指摘のあった部分に書かれている点ですけれども,アとイの関係なのですけれども,これは,アにおける一定の立場を前提としてイの問題提起が出るというものなのか,それとも,それぞれ独立に考えられるものなのか。   更に申しますと,先ほどの責任説の立場から,甲案,乙案でもない丙案といいますか,最初に高須幹事がおっしゃった丙案で,しかしイのほうで,それゆえにと申しますか,債務者に対する給付訴訟を義務付けるという組合せもあるように思いまして,イの甲案,乙案がアにおける甲案,乙案と対応するのか,今申し上げたような責任説に立ちつつ,そのような考え方が採れるのか,もし前提があれば教えていただきたいのですが。 ○金関係官 前半の御質問については,論理的にはアとイは独立していると思いますが,元々イの論点が問題となった背景としては,詐害行為取消訴訟において債務者をも被告としなければならないとするのであれば,債務者に対する給付訴訟の併合提起を義務付けたとしてもそれほど取消債権者の負担にはならないのではないかということだったと思いますので,そういう意味では,先ほど冒頭の説明で申しましたとおり,イの論点はアの甲案を前提としております。 ○鎌田部会長 元々の由来は,ということですね。元々の由来は甲案から出てきたけれども,論理的には独立して考えてもいいだろうと。 ○高須幹事 丙案のところの補充だけですが,現時点では先ほどの御示唆などを踏まえ,あるいは乙案でいこうかなと思っていますので,まず,そのことを言わせていただいた上ですが,仮に丙案的に考えた場合でも,これは私の実務的感覚が入っているのかもしれませんけれども,やはり債務名義を取るための訴訟を義務付ける必要はないだろうと。そこは当事者の自由に任せて,いつどのタイミングで取るかは任せてもいいのではないか。責任説でもそれは認められていいのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 ウにつきましても,御意見があればお伺いしておきます。 ○岡委員 内容的には賛成であるという意見がほとんどでございました。ただ,条文までは要らないのではないかという意見も結構ございました。   それから,他の債権者も,勝訴判決の結果,債務者のところに登記名義が戻ったら,それに強制執行していけるわけですので,他の債権者も勝訴判決の効果を援用できるという実体があるわけですから,それを条文にしてもいいのではないかという意見がございました。 ○鎌田部会長 結論には余り御異論ないのではないかと思いますので,具体的な規定の在り方について分科会で御検討いただいて,その規定ぶり等を見て,そういった規定を設ける必要があるかどうかということを最終的に部会で御判断いただくということで,いかがでしょうか。   それでは,そのようにさせていただきます。   もう6時も近くなりましたので,この辺りにしたいと思いますが,何か御発言ございますでしょうか。よろしいですか。   それでは,本日積み残した議事につきましては,次回の冒頭で引き続き審議することとさせていただきます。   本日の審議はこの程度にさせていただきますが,分科会について御報告を申し上げます。   本日の審議において,幾つかの論点について分科会で補充的に御検討をお願いすることになりましたけれども,これらの項目につきましては第2分科会で御審議いただきたいと思います。松岡分科会長始め関係の委員,幹事の皆様には御苦労をお掛けいたしますけれども,よろしくお願いいたします。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回の日程は,3月6日火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省20階第1会議室です。   次回の議題は,先ほど部会長からありましたように,本日の積み残し部分のほか,本日は議事の対象とはいたしませんでしたが,配布済みの部会資料36,37について御議論いただくことを予定しております。さらに,次の会議用の部会資料も新たに事前送付することを予定しております。本日の部会資料37では,債権譲渡のうちの譲渡禁止特約の部分を取り上げておりますが,債権譲渡のその余の部分について,次回の会議用の資料として事前送付することを予定しております。よろしくお願いいたします。   それから,分科会の開催案内ですが,第3分科会の第2回会議が,来週,2月21日火曜日の午後1時から午後6時まで,法務省20階の第1会議室で開催されます。この会議は,当初3月に予定されていたものですけれども,2月に予定されていた第2分科会と順番を入れ替えた関係で,2月21日は第3分科会の第2回会議となっております。この分科会の固定メンバー以外で出席を予定されている方がいらっしゃいましたら,事前に事務当局まで御一報くださいますようお願い申し上げます。   それから,机上に4月から8月までの日程を記載した事実上のメモ2枚をお配りいたしました。1枚が部会の開催予定であり,正規の部会開催日の他に予備日を入れさせていただいております。それから,もう1枚が分科会の開催予定です。事前に分科会長の御都合などを確認した関係で,順番が若干不規則になっておりますけれども,このような日程で開催させていただこうと思います。部会メンバーの皆様には,部会及び予備日について日程の確保をお願いいたします。それから,分科会の固定メンバーの方や,分科会への出席を希望される他のメンバーの方には,分科会の日程も確保しておいてくださいますようお願い申し上げます。両方の開催予定を合わせても会議のない火曜日が一部ございますので,その日は日程確保の必要がなくなったと御理解いただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 今後も大変稠密な日程が組まれておりますけれども,何とぞよろしく御協力のほどお願いいたします。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日も御熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-