法制審議会民法(債権関係)部会           第42回会議議事録 第1 日 時  平成24年3月6日(火)自 午後1時00分                     至 午後6時26分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第42回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   (幹事の紹介につき省略)   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日は,机上に部会資料37を配布させていただいております。この部会資料37のうち譲渡禁止特約の部分については,前回の第41回会議の際に配布しておりましたが,それに続く部分の準備ができましたので,全体を差し替える形で改めて配布させていただいたものです。本日の会議用資料として準備したものではありますが,会議当日の配布となってしまいましたので,本日は審議対象とはしないことにさせていただこうと思います。本日の会議では,積み残し分を審議していただく関係で,配布済みの部会資料35と36を使わせていただこうと思います。これらの資料の内容については,後ほど関係官の金から御説明いたします。   その他,まず,中井委員の御紹介で,大阪弁護士会民法改正問題特別委員会有志の「詐害行為取消権の条文提案」と題する書面を御提出いただいております。それから,「債権者代位権に関するメモ」と題する沖野幹事,高須幹事の連名による文書を机上に配布しております。これは前回の第41回会議で債権者代位権について御審議いただいた際に,いわゆる事実上の優先弁済に関して部会資料で取り上げられていた考え方とは別の考え方を御提案いただきましたが,その御提案の趣旨などをメモという形で補充していただいたものだと思います。何か補充していただくことがありましたら,後ほど御発言いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 本日は部会資料35の「第2 詐害行為取消権」のうち,「2 詐害行為取消権の基本的要件」以降及び部会資料36の「第1 多数当事者の債権及び債務(保証債務を除く。)」について御審議いただく予定です。具体的な進め方といたしましては,休憩前までに「第2 詐害行為取消権」,「3 詐害行為取消権の基本的効果」の「(3)詐害行為取消しの範囲」までについて御審議いただき,適宜,休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料35の残りの部分及び部会資料36について御審議いただきたいと考えておりますので,よろしく御協力のほどをお願いいたします。   詐害行為取消権に入ります前に,高須幹事,沖野幹事から提出されましたメモについて,何か補足の御発言がございましたら,お願いいたします。 ○沖野幹事 提出いたしましたメモですけれども,前回の部会におきまして,いわゆる事実上の優先弁済への対応として常に民事執行によるのではなく,一定の場合に一定の待機期間を設けて相殺を可能とするという考え方もあるのではないかということを高須幹事と沖野から申し上げました。それに対しまして,その内容についてつまびらかにするようにという宿題を頂戴したと考えておりまして,その宿題に答えるのがこの文書でございます。   中身は見ていただければと思いますが,一点だけ御留意いただきたい点がございます。それは2ページの下から5行目の上に空白の1行がございまして,その上に※印がついております。ここに,債務名義等を有しない債権者による一定期間経過後の相殺を認めるという考え方については,提案者の間で見解は一致していないということを注記しております。高須幹事と沖野との連名で出させていただいておりまして,かなりの部分は一致しておるのですが,一致していないところもあるということです。具体的には,債務名義等がある場合にかなり短期での期間後に相殺を認めるという考え方と,債務名義等がない場合も一定の長期の待機期間を経て認めると二つの考え方を出しており,この長期の部分については両者で考え方が一致しておりません。そのようにやや意見の異なる点もあるということを御留意いただいて,今後の審議の参考にしていただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。関連して特に御発言はございますでしょうか。よろしいですか。   それでは,部会資料35の「第2 詐害行為取消権」のうち,「2 詐害行為取消権の基本的要件」の「(1)無資力要件」及び「(2)被保全債権に関する要件」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「2 詐害行為取消権の基本的要件」の「(1)無資力要件」では,詐害行為取消権の要件として詐害行為時における債務者の無資力が必要であることを条文上明記するとともに,その無資力の内容については債務超過と同様のものとすることを提案しています。また,詐害行為後口頭弁論終結時までの間に債務者が資力を回復した場合には詐害行為取消権を行使することができないとすることを併せて提案しています。   「(2)被保全債権に関する要件」では,詐害行為取消権の被保全債権に関する要件として,詐害行為より前に発生した債権であること,執行力・強制力を有する債権であることを要するとの提案をしています。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○安永委員 (1)の無資力要件について申し上げます。詐害行為取消権に関しては,第1ステージで労働債権保護を後退させる制度変更を認めることはできないという立場での意見を労働の立場から申し上げてきました。また,第5回の会議では,詐害行為取消権は労働債権の確保,取り分け悪質な経営者が偽装倒産を行い,財産の隠匿や偏頗弁済を行いながら,労働債権を踏み倒そうという場合に重要な役割を担う点について,具体的事例を紹介させていただきました。   偽装倒産の場合は客観的には無資力とは言えず,無資力を装って債務不払を行うものですが,労働の現場ではこの偽装倒産のケースで詐害行為取消権を行使する場合が少なくありません。提案のように無資力要件を新たに規定した場合,取消債権者である労働者が債務者である使用者の偽装倒産,すなわち資力があるのに資産を隠したことを証明した場合に,詐害行為取消権の要件を充足せず,これを行使できなくなるのではないかという危惧があります。無資力要件を規定するとしても,偽装倒産の場合に影響がないようにしていただきたいと考えます。   次に,(2)の被保全債権に関する要件ですが,①については被保全債権の要件について,詐害行為よりも前に発生していることを必要とするとしても,賃金債権のように詐害行為の前から後に連続して,継続的に発生する債権については,保護対象から排除されないようにする必要があると考えます。 ○鎌田部会長 他に御意見はいかがでしょうか。 ○岡委員 三点,申し上げます。   まず,最初に無資力と債務超過との間に概念としての相違はないというくだりについて,弁護士会では反対といいますか,そうではないのではないかという見解が多かったです。やはり,倒産法上の債務超過の定義だと,係数上の比較がメーンになっております。しかし詐害行為の無資力というのは信用だとか,将来収益も入る概念だろうと思いますので,債務超過の中にそれを組み込む見解もあるとは思いますけれども,破産法16条1項の債務超過と同様であるという書き方については,非常に懸念を示す意見が多うございました。   それから,第二点は個人にも詐害行為取消権が適用されると思いますけれども,個人について債務超過概念を導入して,果たしてうまくいくのかという疑問を呈する声が強うございました。   三番目の結論としては,債務超過概念を導入するのではなく,倒産法と同様に害するという要件でやるしかないのではないかと,そういう意見が強うございました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。他にはいかがでしょうか。 ○松岡委員 私も一点目と二点目の両方について簡単に意見を申し上げます。   一点目は,債権者代位権のときにも申し上げたことでありますし,今,岡委員からも御発言がありましたように,無資力と債務超過が本当に全く同じかについては,私も疑念を持っております。   二点目は(2)で,詐害行為より前に発生した債権であることという要件についてです。一般的にはそう説かれておりますが,先ほど安永委員から御発言がございましたように,連続して発生する債権については疑いがあります。また,判例では,例えば,婚姻費用の分担について調停成立直前で将来分の債権が未発生の段階で財産隠しの詐害行為がされ,その後に調停が成立した事例で,詐害行為時に債権発生の基礎があれば,詐害行為後に発生した債権をも被保全債権とすることができるという判決(最判昭46年9月21日民集25巻6号823頁)などがあったように思います。そういう場合も含めて,余り厳格な書き方をすると,従来解釈で少し広げていた部分が認められなくなってしまうおそれがないか,若干心配です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。他にはよろしいでしょうか。   それでは,ただいま頂いたような御意見を踏まえて,事務当局において引き続き検討・整理をしていただくということでよろしいでしょうか。 ○中井委員 (1)の後半部分の詐害行為の後に債務者が資力を回復した場合について,弁護士会は,このような考え方に賛成の意見が多かったわけです。大阪弁護士会有志は,条文案を出しておりますけれども,この点を明確にする考え方を示しています。つまり,詐害行為時において無資力が必要ということと,詐害行為取消権を行使するときに無資力であることを必要とするところについて,個人をどう取り扱うか,債務超過をどう考えるかというところの関係があるんですけれども,大阪弁護士会有志提案としては,破産手続開始の要件があることを行使要件としています。行為時における無資力の問題と,行使時における無資力の問題をもう少し丁寧に検討すべきではないかという問題提起も含んでいると,御理解いただければと思っております。   それから,前半部分については当然,それを前提としているんだろうと思いますが,詐害行為時において債務者が無資力であったことだけでなく,詐害行為によって無資力になる場合を判例等は認めておりますので,それも含む趣旨だろうと思います。そこは条文作成のときの問題なのかもしれませんが,それが明らかになるような書き方にすべきだろうと思いますし,仮に書かずに,害するということで処理するとすれば,それも含んだことになることを意識しておく必要があると思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○深山幹事 私も無資力要件についての意見でございます。先ほどの岡先生や松岡先生の意見とかなりの部分,重複するかもしれませんが,破産法上の概念と同じ用語を用いることについては,ふさわしくないだろうと思います。債務超過あるいは支払不能と無資力とがどういう関係になるのかということも議論になりますが,債務超過や支払不能の概念をそのまま持ってくるのは問題があろうかと思います。先ほど岡先生は「害する」という要件の中に,そこの判断を盛り込むというようなことを示唆されましたけれども,ちょっとそれでは不十分なような気がします。結論としては,「無資力」という判例上も講学上も広く使われてきたこの言葉自体には蓄積された意味合いというものがあるので,「無資力」の意義については解釈に委ねるとして,「無資力」あるいは「資力」という言葉を用いた条文を考えるという道もあるのではないかと考える次第です。 ○高須幹事 (1)の後段の部分の資力を回復した場合のことでございますが,結論的には今出ておる御意見,あるいはまとめていただいている部会資料と全く同じで賛成でございます。書きぶりに関しましては部会資料で指摘されておられるように,現在の考え方ではまず詐害行為時に無資力といいますか,そういう要件を満たせば,今度は被告のほうで回復した事実を主張立証しなければならないと,こう考えられているわけでございますから,この扱いがある程度,定着しているという前提であれば,規定を置くときもそのことが分かるような,つまり,立証責任を意識したような規定の書きぶりにしていただいたほうが,分かりやすいのだろうと思っております。 ○鎌田部会長 他にはよろしいですか。 ○佐成委員 結論としては(1)(2)とも,提案内容に基本的には賛成でございます。ただ,今,各委員の先生方から御意見が出された面について,特に無資力要件に関しては十分検討していただきたいということでございます。中身について,ここに提案されているものは,実務的にもそういった形で理解しておりますので,明確なルールとしていただくのが望ましいのではないかということでございます。それから,今,高須幹事が御発言されたように立証責任の面についても明確にできるのであれば,していただければということでございます。 ○鎌田部会長 他にはよろしいでしょうか。   それでは,頂戴しました御意見を踏まえて,事務当局で更に整理をさせていただきます。   次に,「(3)詐害行為取消権の対象(詐害行為)に関する要件」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「(3)詐害行為取消権の対象(詐害行為)に関する要件」の「ア 詐害行為の類型化と一般規定の要否」の(ア)では,詐害行為を類型化して個別の規定を設けるとする甲案と,現行の民法第424条のような一般的な規定のほかには個別の規定を設けないとする乙案を提案しています。   (イ)の第1パラグラフでは,詐害行為について個別の規定を設けるとする(ア)の甲案を前提とした上で,個別の規定のほかに民法第424条のような一般的な規定を設けることを提案しています。また,第2パラグラフでは,民法第424条のような一般的な規定について,例えば「法律行為」という文言を「行為」に改めるなどの所要の見直しをすることを提案しています。   「イ 相当の対価を得てする行為」の「(ア)相当価格処分行為」では,無資力の債務者がした相当価格処分行為に対する詐害行為取消権の要件について,破産法第161条第1項と同様の規定を設けることを提案しています。   「(イ)同時交換的行為」では,いわゆる同時交換的行為に対する詐害行為取消権の要件について,(ア)の相当価格処分行為に対する詐害行為取消権の要件と同様の規定を設けることを提案しています。   「(ウ)受益者の悪意を推定する規定」では,相当価格処分行為及び同時交換的行為に対する詐害行為取消権の要件である受益者の悪意について,受益者が債務者の内部者である場合には受益者の悪意を推定する旨の規定を設けることを提案しています。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分のうち,まず,「ア 詐害行為の類型化と一般規定の要否」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○安永委員 アの(ア)「詐害行為の類型化と一般規定の要否」に関して申し上げます。補足説明では,甲案について「破産法の規定を参考としながら詐害行為を類型化」するとし,否認権の対象が明確化・限定化されたにもかかわらず,現行の詐害行為取消権の対象がなお不明確かつ広範である点を指摘し,その要件を明確化・限定化する必要性などについて記載がされております。   しかし,労働の,法律のユーザーの立場からは,これとは異なる見解を持っております。   まず,平成16年の破産法改正のときの否認権の行使要件の厳格化ということについては,労働の立場からも賛成をいたしました。破産に至った場合に,管財人が否認権を行使することによって配当原資をより多く確保するという労働者の利益と,破産を回避するという労働者の側の利益とを比較衡量して後者を重視したためです。経営危機に陥った企業への救済のための資金提供が円滑に行われるようにするためには,否認権行使の要件を厳格化する必要性があると考えました。   しかし,詐害行為取消権は,今生きている債務者,つまり,会社との関係で行使されるものであり,経済的破綻を前提とし,回顧的に判断をする,破産法に基づく管財人の否認権行使の適用場面とは,場面も主体も大きく異なります。また,例えば債務者が必ずしも経営破綻していない状態であるにもかかわらず,偽装倒産を行って財産隠しなどの行為に及んだ場合等においても,詐害行為取消権が行使をされます。   さらに,部会資料では,詐害行為取消権の対象が不明確であることも指摘されております。確かに,詐害行為取消権の条文は,要件と効果を詳細に定めておらず抽象性が高く,内容や対象が不明確です。しかしその反面,事案を総合的に判断をし,妥当な結論を導く柔軟な解釈が可能であるという大きなメリットを持っています。   以上のような理由から,詐害行為取消権の行使要件については,破産法に基づく管財人の否認権とそろえることを前提とした個別の規定は設けずに,一般的な規定を維持していただきたいと考えます。   詐害行為取消しの行使要件などを破産法の否認権の場合とそろえることを前提に,甲案のような規定を設けることには,詐害行為の発生要件の厳格化につながり,その行使を困難にすると考えるために賛成できません。   もしも,これが実現されると,破産法や会社更正法が適用される場合を除く,それ以外の倒産時における労働債権の回収は極めて困難になります。日本の倒産制度において,取り分け中小・零細企業などでは破産法や会社更正法が適用され管財人が管理するというケースは少数で,圧倒的に任意整理が多いというのが,労働の現場の実感です。任意整理などのケースでは,労働組合や労働者は倒産企業に対して優越的地位に立つ債権者との,平時とは言い難い深刻な対立状況の中,労働債権の回収を自力で行うことになります。現行の詐害行為取消権の制度が,自力で労働債権回収を行うための重要な手段として機能していることは,債権者代位権の箇所でも述べたとおりです。   倒産時の労働債権保護が,必ずしも十分と言えない現状において,現行の債権者代位権や詐害行為取消権が果たしている役割を損なうような改正には賛成できません。この点,例えば,甲案を仮の前提としたイ以降を見ると,イの(ア)(イ)は詐害行為取消権の要件について「③受益者が当該行為の当時債務者が隠匿等の処分をする意思を有していることを知っていた場合に限り」としている点,エは,代物弁済の給付の額が「過大」である場合とし,併せて受益者が「他の債権者を害すべき事実を知らなかったとき」は詐害行為取消権を行使できないとしている点,オの(ア)の甲案は,債務消滅行為は「債務者が特定の債権者と通謀した」場合,乙案は「受益者が債務者の無資力を知っていたとき」等でなければ詐害行為取消の対象とならないとしている点で,いずれも詐害行為取消権の行使の困難化を招きます。   仮に詐害行為取消権を否認権行使要件とそろえるのであれば,それに先立って,まず,倒産法制を抜本的に整備し,倒産に伴う賃金不払問題については倒産法制による保護がなされ,倒産の場面で労働者が詐害行為取消請求権を使う必要がないようにしていただきたいと考えます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。他に。 ○岡本委員 (ア)についてですけれども,破産法との間で言われております,いわゆる逆転現象,これを解消すべきであるということについては,私どものほうではほぼ異論がない状況でございまして,そのために類型化をするということにも理解できると考えております。 ○鎌田部会長 甲案を支持されるということでよろしいですね。 ○岡本委員 はい。 ○鎌田部会長 他にはいかがでしょうか。 ○高須幹事 この部会資料の御提案の趣旨ですと,まず,(ア)で甲案か,乙案かと書いて,(イ)で甲案を採る場合にも一般的規定を残すかと,こういう選択肢になっておるので,やや考えにくいところがあると思います。今の両委員のお話を伺っていると,結局,詐害行為取消権というものがいろいろな場面に機能する場合があって,全ての場合の類型化を現時点で行うことは必ずしも不可能とは申しませんけれども難しい。今後の社会情勢の変更によってまた新しい要請が生まれるということを考えると,一般的規定を残しておくという必要もあるのではないかと思います。他方では類型化して,その中の幾つかの行為については明確な要件と効果を定めるというのも,今,岡本委員がおっしゃられたように破産法も,今,そういう立て付けになっているわけですから,それとの兼ね合いでも合理性があるのではないか。そうなると,むしろ,(ア)と(イ)と区別せずに,要は一般的規定を残した上で,個別の類型規定を設けるということでいかがですかという御提案でもいいのかなと。そうであれば,そうしましょうと言いやすいような気がするのですが,私としてはそのような考えが一番よろしいかと思っております。 ○佐成委員 経済界の中で議論していますと,確かに類型化にはルールが分かりやすくなるという面があることにおそらく異論はないだろうと思うのですけれども,現在の債権者取消権と,破産法における否認権が,制度的に余り近付き過ぎることに対する懸念があると感じています。それらが機能する場面はかなり利益状況も違ってくると思いますから,類型化して分かりやすくなる面は良いのですけれども,そのことによって結果的に破産法の立て付けに近付き過ぎることについては,経済界には一般的な懸念があるということでございます。ですから,現時点では,アの論点でどちらが良いと言うことは必ずしもできないのですけれども,破産法に近付き過ぎること自体に対する懸念が経済界には若干あるということだけは,申しておきたいと思います。 ○鎌田部会長 懸念の内容をもうちょっと具体的に。 ○佐成委員 ここまでの類型化をしていきますと,利益状況の違いによるデメリットもいろいろ現れてくるのではないかということです。例えば相当対価での財産の処分は基本的に対象にしないという規律が提案されておりますけれども,現実問題として破産手続が進行して,手続的にがっちりしたものであるときでさえも,何が相当対価かということは必ずしも明快とは言い難く,そのことが実務上も大きな争点となります。ですから,確かに債権者取消権についても訴訟になりますけれども,同じくここはかなり実務的にも大きな争点になりますから,そもそもルールとしてどれだけ明快になるかは疑問に感じています。むしろ,債権の確定手続がないわけですから,その分,そういった局面で余り破産法の規律と同じような扱いをすると,狡猾な者に悪用される余地を残す結果となって,使いにくくなってしまうのではないかと懸念しております。   特に債権者取消権が使われるのは任意整理の段階であって,言わば任意整理の伝家の宝刀みたいなイメージで考えている面があると思います。ですから,実際に破産になったらこうなるのだよということよりも,むしろ,今の任意整理を円滑に進めるというところに力点があるように感じております。私自身が個人的に懸念を述べているということよりも,そういった雰囲気が経済界にかなりあるということでございます。懸念の一例は,相当対価での財産の処分について,今,申し上げたとおりで,実際に破産手続で管財人もついて厳格に債権調査手続をやってもなお,相当対価を巡る困難な問題が残るところに,そういうような厳格な手続もない任意整理の中で使われる債権者取消権は,飽くまで抜け駆けしたやつを捕まえるための最終手段というような位置付けで利用されていることが多いものですから,実務上,本当にそれでうまく機能するのかという懸念は依然として払拭できないでおります。逆に,任意整理に誠実に協力している関係者の犠牲において,狡猾な人がうまく自己の負担を免れてしまうのではないかとか,そういったところを懸念しているということだと思います。 ○鎌田部会長 今の債権調査手続がないということを考慮に入れるという点では,先ほど御指摘のあった無資力要件については,更に検討すべきであるということにもつながると理解してよろしいですか。 ○佐成委員 その辺りは無資力要件においても当然考慮すべきだと考えます。前々から申し上げているとおり,債権者代位権にしろ,債権者取消権にしろ,そもそも債務者の財産処分に関して債権者が干渉していくということの最大の根拠は,無資力要件だろうと考えますものですから,最終的には訴訟における事実認定の問題に帰着するとしても,そこは債権者取消権の行使の前提としてきちっと明確にしておかないと,実務上も問題があるのではないかということです。 ○岡委員 高須さんは先ほど個人の意見を話されたようですが,(ア)の甲案を採り,(イ)でも一般的な規定を設けると,こういう意見が弁護士会の多数意見でございます。 ○松本委員 高須幹事の御意見に賛成で,論点の立て方を変えていただいたほうがいいのではないかと。つまり,三つに立て直して,個別類型に該当するもののみを詐害行為とするという個別類型のみのタイプと,それから,従来どおりの一般類型のみのタイプと,それから,三つ目に一般類型プラス個別類型についての特則を入れるというタイプの三つの考え方があるが,どれが一番適切かという投げ掛けをしていただければと思います。今の議論を聴いた限りではどちらかのみにしろという御意見はほとんどなかったと思うので,一般的な規定プラス個別類型ということで,大体,コンセンサスがとれていて,あとは個別類型のところで例えば労働側の危惧等をどのぐらい,きちんと解消できた規定ぶりにできるかといった話でやっていけばいいのではないでしょうか。 ○山本(和)幹事 今の点は松本委員のおっしゃるとおりだと思います。否認についても言うまでもないことですが,破産法でいえば160条1項1号という規定はあるわけで,これは基本的には今の民法424条と同じ規律なので,こういったような規定をなくすという選択肢は,私はおよそ考えられないのではないかという感じがいたしますので,(イ)はある意味では当然のことではないかと思っています。   それから,甲案か,乙案かということについては,やはり,私は甲案で考えていただきたいと思っておりまして,補足説明でるる書かれていますので繰り返しませんけれども,破産法を改正した趣旨というのは,危機時期における債務者の取引の効果について,取引相手方に対して十分な予測可能性を担保して,それによって危機時期でも債務者が一定の取引行為を行うことを可能にして,事業の再生を図るというのが一つの重要な目的だったわけで,それからすれば,取引の時点では将来,債務者が法的な倒産手続きに入るのか,あるいは,そうではない形で処理されるのかというのは分からないわけですから,否認権のほうを幾ら明確化しても,詐害行為取消権のほうが必ずしも明確でないとすると,取引相手方の予見可能性というのは,十分には高まらないということにならざるを得ないわけで,そういう意味では,破産法の規定というのはある意味では達成しようとした目的からすれば道半ばであったと,詐害行為取消権のほうでもこういう甲案的な規律をして,初めて本来の立法目的が完全に達成できるようなものであったと言えるのではないかと思っておりますので,私は甲案でいっていただきたいと思っております。 ○沖野幹事 提案の立て方につきましては,高須幹事や松本委員がおっしゃったような形のほうがより分かりやすいのではないかと考えております。一般的な規定は基本的には残した上で,更に幾つかの個別の規定を設けるのか,それとも,そういうものは設けないのかという考え方ではないかと思います。したがって,(イ)のない甲案というのは考えられないということかと思いますし,提示の仕方もそのほうがよろしいのではないかと思います。   その上で甲案ですけれども,既に出ておりますように甲案の考え方には二つの点があります。一つは現在の一般規定のみでいっているということが要件の点でも,効果の点でも非常に不明瞭であるということで,これが消極的な評価を受けるという点が一つあります。そういう意味である部分明確性を要求する必要があるのではないかというのが一点です。もう一点は破産法における政策判断や,あるいは規定の在り方における不整合,不整合と評価するかどうか自体が問題ですけれども,その観点から,より明確化すべきではないかという点があると思われます。   その点から見ますと,例えば資料の66ページでは,その半分くらいのところに(2)という部分がございまして,その上に,本文(ア)の甲案は,以上の理解に基づき,破産法等の規定を参考としながら類型化し,破産法等との不整合を是正するために個別の規定を設けるという記述がありますが,これは否認権に合わせる,あるいは,その間の不整合を何とか解消したいということがやや出過ぎているようにも思われまして,それも非常に重要な問題ではありますけれども,一方で明確化を図るということが,個別の幾つかの類型を明示するという点からは必要ではないかと思います。   そして,そのことは全て否認権に合わせるかどうか,あるいは類型化にしても,どこまでの類型を置くかということ自体も,詐害行為取消しの在り方としてどうかという観点から考えていくことですし,後のほうでも例えば対抗要件の具備行為についてどうするかというような問題提起もありますので,したがって,否認権と合わせるということが当然,甲案の唯一の解ではないという含みを持たせた上での記述のほうがよろしいのではないか,そして,具体的にどういう解になるかは,個別の規定がどういうような在り方とされるべきかの検討で明らかにされるべきだろうと思います。 ○中田委員 私も今の沖野幹事の御意見に賛成です。先ほど山本和彦幹事がおっしゃいましたように,破産法の否認権の目的とした相手方の予測可能性というのは,非常に重要な目的だと思いますが,しかし,否認権に合わせようとした結果,詐害行為取消権が非常に使いにくいものになってしまうというのも行き過ぎではなかろうか。破産の否認権が行使される場面と詐害行為取消権が行使される場面は違っておりますし,行使をする主体も違っている。そうしますと,破産法の政策目的は重視しながら,詐害行為取消権の適切な規律を考える必要がある。その意味でも,今,沖野幹事がおっしゃいましたとおり,甲案を採ることに私も賛成ですけれども,それを破産法との整合性だけから導くというのは適当ではないと思います。 ○中井委員 私も,一般規定を置いた上で類型化した規定を置くという考え方に賛成です。その上で,今,沖野幹事,中田委員のおっしゃられた意見に賛成です。 ○金関係官 一般規定プラス個別規定という整理の仕方についてですけれども,部会資料35の12ページにある転用型の債権者代位権の議論をしたときも,転用型の一般規定プラス転用型の個別規定という整理をしたと思いますが,そのときは個別規定が一般規定を限定する機能を持たないことを前提としていました。しかし,ここでの個別規定は一般規定を限定する機能を持っていますので,同じ一般規定プラス個別規定といっても,整理の仕方としては若干異なるように思います。例えば,相当価格処分行為については,個別規定の適用がない限り詐害行為取消しの対象にはなり得ません。先ほど松本委員が示された三分類では,個別規定が一般規定を限定しないことを前提に一般規定プラス個別規定という三番目の選択肢が示されたかもしれないと感じましたので,念のため確認をさせていただければと思います。 ○松本委員 それは多分,誤解で,代位権の場合は転用型だから,そもそも本来の趣旨から外れているんだけれども,政策的に認めましょうということでしょうから,正にプラスの類型でしょうけれども,詐害行為のほうはむしろ従来,判例や学説ではいろいろ類型化してきたことを破産法等を参考に,もう少し定着させましょうという趣旨だから,詐害行為取消権内部における要件をもう少しクリアにできる部分はしましょうという趣旨であって,転用型の詐害行為取消権を認めるべきかどうかという議論は,やるとすれば別のところでやるべきだろうと思っています。 ○沖野幹事 今の金関係官がおっしゃった点ですが,私自身は一般規定があり,個別類型についての一種の特則が設けられるということだと理解しております。それから,無償行為については必ずしも限定的ではない,逆の方向の特則も考えられておりますので,常に一般規定を限定するということではないのだろうと思っております。なお,破産法における類型化と現在の詐害行為取消権が同じかというのもやや分からない点があり,山本幹事が御指摘になった点ではありますけれども,破産法のほうですと財産減少行為と偏頗行為という類型化を基軸に立てています。詐害行為と類似の文言は使っておりますけれども,偏頗行為は抜くという形になっておりますので,現在の詐害行為取消権の424条と同じ類型が,そこに一般規定があるのかというのは,もう少し理解として留保したいと思います。 ○山本(和)幹事 今の沖野幹事が言われたとおりだと思います。ただ,結果として偏頗行為について特則も設けて,424条とは違う規律を設けることによって,424条の本則からは偏頗行為は抜ける形になるということであるとすれば,実質は私は160条と162条の関係と同じであろうとは思いますが,そこは偏頗行為のほうの定め方の問題だろうと思っています。 ○鎌田部会長 ただいままでの御意見で,一般的な規定を設けること自体に反対する意見はないと思います。安永委員はどちらかというと,乙案で,一般的な規定のみで柔軟性を尊重すべきであるということでございましたけれども,その他の方々の御意見は一般規定を置く一方で,類型化して明確にできるところは明確にすることが望ましいという,そういった御意見のほうが多数であったと理解いたします。   続いて,個別の類型化の各論的なところに移っていきたいと思いますけれども,よろしいでしょうか。 ○潮見幹事 (イ)の後段ですが,道垣内幹事が第1ラウンドでおっしゃった意見に賛成です。法律行為という言葉を行為に改めると,事実行為や対抗要件具備行為がどうなるのかという話が出てきて,かえって混乱するのではないかと思います。あえて,これを破産法の規定の文言に合わせる必要は全くなく,法律行為としておいた上で,これのアナロジーでその他のものを捉えれば,それで十分であると考えます。 ○鎌田部会長 その点につきまして関連した御意見はございますでしょうか。   それでは,ここは法律行為ということにして,そこから外れるものについては,言わばその類推で解決すべきであるというふうな御意見であったと。 ○沖野幹事 その際に御議論になりましたのは,抵当権の場合の詐害行為に該当するような形で,事実上,付加したような場合に別の規定が設けられており,現在の体系としても区別がされているということであり,その点はそのとおりだと思います。ただ,これを行為に改めたときに,事実行為について取り消すということが妥当するのかというのは,よく分からないところがあります。いずれの考え方も恐らく念頭に置いているのは,大体,同じような範囲で,それを法律行為と規定した上で,法律行為に準ずるようなものも含んでいくという解釈で展開するのか,行為とした上で,それは取消しの対象となるようなものであるので,事実行為というのは単純には該当しないという形で考えていくのかということではないかと思います。その上で,更に否認権のほうは行為となっていることをどう考えるかという形で検討されるべきものであろうかと思います。 ○中田委員 行為という言葉をどうするかということと,その中身をどうするかというのと,両方があると思います。法律行為という言葉自体,元々民法総則の法律行為よりももうちょっと緩やかな概念として理解されていた法的行為のようなものではないかと思うんですが,そういうニュアンスを残しながら,もし,緩める言葉があれば,それはそれでよいと思います。中身のほうなんですけれども,取り分け対抗要件具備行為との関係をどう考えるのかと密接に関係してくると思いますので,それに対する影響も検討する必要があるだろうと思います。 ○岡委員 弁護士会は行為と改めることについて賛成の意見が圧倒的に多うございました。 ○鎌田部会長 それでは,この点はまた御意見を踏まえて,更に検討を続けさせていただきます。   続きまして,「イ 相当の対価を得てする行為」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○山本(和)幹事 形式的なあれですけれども,(イ)の同時交換的行為のところで規定を設けるという考え方があり得るが,どのように考えるかというところであります。内容については,全く異論はないところでありますけれども,御承知のように倒産法はこれは明文規定では規定しておらず,相当価格処分行為の一種として整理をしておるところであります。要するに担保提供というのは,相当価格処分行為における処分行為に常に当たると,そして,担保というのは清算義務を前提とすれば,必ずや相当価格処分行為に当たるということで,当然に相当価格処分行為に当たるということで整理をしたところであります。民法で確認規定という趣旨で,こういう形で明確化するということには特には反対をするわけではありませんけれども,もし,そう書くのであれば倒産法においても確認規定として,やはり同様の規定を置くのが相当ではなかろうかと思いますので,その点だけ申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 今のは内容に異論があるということではなくて,むしろ,類型の整理の問題ですけれども,他に御意見はないでしょうか。内容的には御異論はないと理解させていただきましたが,そういうことでよろしいでしょうか。 ○岡委員 確認的ですが,弁護士会も圧倒的多数はこの考え方に賛成,(ア)(イ)(ウ)に圧倒的な弁護士会が賛成でございます。ただ,山本和彦先生がおっしゃったように,同時交換的行為については,破産法と同じように書かなくてもいいという意見が一部にございました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。(イ)については独立の類型として取り上げるかどうか,仮にこちらで取り上げるとしたら,逆に倒産法との間に取扱いの差異が出てきますので,その点についての処理の問題が生じてくると,その点を意識して検討させていただきます。   続きまして,「ウ 無償行為」及び「エ 過大な代物弁済」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「ウ 無償行為」の「(ア)債務者及び受益者の悪意を不要とする規定」では,無資力の債務者がした無償行為に対する詐害行為取消権の要件について,債務者に支払の停止があった後又はその前6か月以内にされた無償行為である場合には債務者及び受益者の主観を問わないとする甲案と,そのような時期的要件を設けずに債務者及び受益者の主観を問わないとする乙案を提案しています。   「(イ)受益者が善意である場合の償還範囲」では,(ア)の規定によって受益者の主観を問わずに無償行為が取り消された場合において,受益者がその無償行為の当時善意であったときは,現に受けている利益のみを償還すれば足りるとすることを提案しています。   「エ 過大な代物弁済」では,無資力の債務者がした過大な代物弁済に対する詐害行為取消権の要件及び効果について,債務者が債権者を害することを知っていた場合には,受益者が債権者を害すべき事実を知らなかったときを除き,その過大な部分を取り消すことができるとすることを提案しています。   以上の各論点のうち,「ウ 無償行為」の「(ア)債務者及び受益者の悪意を不要とする規定」については,甲・乙両案の具体的な差異等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明がありました部分のうち,まず,「ウ 無償行為」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○岡本委員 ウの(ア)についてです。このうちの乙案を採りました場合には,債務者の支払の停止の6か月前以前の無償行為で,債務者又は受益者が詐害の事実を知らなかった場合であっても,取り消すことができるということになりまして,その部分で破産手続による否認よりも範囲が広くなっているということになっております。破産手続との間の逆転現象はなるべく解消されるのが望ましいと考えておりまして,ここ部分につきましては甲案のほうの考え方のほうがよいのではないかと考えております。   ただし,甲案につきましても破産手続における否認と全く同じである必要はなくて,否認よりもむしろ取消しをすることができる範囲を狭めてもよいのではないかと考えております。例えば6か月の遡求をなくしてよいという意見がございました。これにつきましては,債務超過でも通常の営業を続けている企業というのはたくさんありまして,例えば通常の営業を続けている企業との間で保証契約を締結したのに,その後,6か月以内に支払停止になって保証契約が取り消されるということがあったのでは,受益者たる債権者の保護に欠けるといったことがその理由になっております。更に無償行為の詐害行為取消しにつきましては否認と異なりまして,受益者の悪意を要件としてもよいのではないかという意見もございました。 ○鎌田部会長 分かりました。他に御意見はいかがでしょうか。 ○山本(和)幹事 この無償行為のところで,補足説明としていろいろなことが書かれているんですけれども,今,岡本委員が指摘された補償の問題,経営者等の補償を取って,その企業に融資をするということが現在の判例上は,経営者の倒産手続においては無償行為として,一般的に原則として無償行為として考えられているということをどのように考えるかという問題があるように思います。それは無償行為一般に取引の安全に対する考慮が要らないとは,なかなか,それを前提にすると言い難くなっているという部分があって,そういう観点からすると,乙案で,無資力をどう取るかということによりますけれども,債務超過,それに近いことだとすると,そこから全て取消しの対象になってしまうと,受益者の主観も全く問わないと,受益者も債務超過だとはまさか思わなかったということであっても取り消されてしまうということは,それで,結局,そのことが補償がない融資になってしまうということは,やや広過ぎるかなという印象を私は持っています。そういう意味では,乙案までいけるのかなと思っているということです。ただ,民法のほうの価値判断として乙案までいけるということであれば,当然,倒産法においても乙案と同じような形で,無償否認は認めるべきであるということになるのだろうと思っております. ○鎌田部会長 関連して御意見はいかがでしょうか。かなり重要な問題であると思いますけれども。 ○中田委員 無償行為としてどのようなものを考えるのかが,イメージが人によって違うかもしれません。今,保証のケースが出ておりますけれども,それだけではなくて,親族間の贈与ですとか,災害に遭った被害者への義捐金ですとか,公益法人に対する寄附ですとか,いろいろな無償行為があるわけでして,詐害行為取消しの対象にすべきものはどれかということを,余り保証だけにこだわらないで考えたほうがいいのではないかと思います。   甲案と乙案なんですけれども,甲案は無資力プラス支払停止という要件になっておりまして,これは後でも出てきますけれども,二重の要件になっていて少し重いような気がいたします。他方で,乙案だと広過ぎるということは,私も山本和彦幹事のおっしゃることに共感するのですけれども,資力回復をすると取消権が消滅するという規律とセットにすることによって,ある程度,抑えることができるのかなと思っております。 ○岡委員 弁護士会の中の意見は,現時点では分かれておりますが,昨日,議論したところでは丙案といいますか,一般論に委ねる,債権者を害する行為で害することを受益者が知っていた場合には,取り消せるという一般条項が残るはずですので,その一般条項に委ねるのでいいのではないかという意見が,昨日の会議ではそれなりに多数を占めました。倒産法の無償行為については,沖野先生がおっしゃったように一般論を飛び出している部分でもありますので,飛び出している部分を民法に持ってこなくていいのではないかという考え方と,山本和彦先生がおっしゃったように保証料の授受がない保証は無償行為になってしまうという判例法理があり,それに対してそれでいいのかという問題が大いに議論されています。そういう大問題を民法が取り込むことはないのではないかという考え方からも,一般論に委ねるというのがいいのではないかという意見を私自身も持ちました。 ○鎌田部会長 無償行為に関する特則を設けないということですね。かなり意見の分かれているところでございますので,できるだけ,御意見をたくさん出しておいていただいたほうが今後の取りまとめには有益かと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○高須幹事 弁護士会の意見は,今,岡先生から御指摘があったとおりですので,同じことを言うだけという部分はあるんですが,中田先生の先ほどのお話を伺っておっても,甲案だとやや重過ぎるかもしれない,でも,乙案だと広過ぎるかもしれないとなると,なかなか,明文の規定を設けるのはかなり難しいのかなという意識を持っておりまして,その意味では,無償行為について一般規定に委ねて特別な規定を設けないというのも,民法の一つの在り方ではないかと思いました。私も昨日の弁護士の会議で,それまでは必ずしもそういう意見ではなかったんですが,一つの案だなと思った次第でございます。本日もそのように思っております。 ○鎌田部会長 特則を設けないということになると,今,提示されています甲案,乙案のように「債務者及び受益者の主観を問わず」という部分は,採用しないということに同時になるわけですね。 ○松本委員 頭がきちんと整理されていなくて,しかも,破産法はよく分からないので,やや,とんちんかんな発言かもしれないですけれども,先ほどの金関係官が私の考えはこうではないですかとおっしゃって,その後,沖野幹事が発言されたこととの絡みで,一般規定からはみ出す,一般規定の解釈としておよそ採り得ない類型を入れるということになれば,正に一般規定の類型化ではないということになるので,それは慎重にやるべきではないかと思います。   一種の転用型のような位置付けになってくるので,一般規定の解釈として十分なし得る範囲内で,従来の判例と違う整理をするというのは,正に類型化だと思います。そうでないやり方,個別規定がばらばらにいろいろあって,その他一般規定として後ろにくくるというやり方は別にあるかもしれないんですが,先に一般規定を出すとすれば,その範囲に入らないとちょっとまずいのではないかという印象なので,一般規定をどこに置くのかにもよると思います。   でこぼこのあるものの中から,個別に拾えないものをでこぼこを前提にして,どこかの範囲で一般規定でくくるというやり方であれば,恐らく後から来る一般規定だろうと思うので,その辺り,一般規定の位置がどこに来るのかによって書きぶりが変わってくるのではないかと。これは整理の仕方です。そうではなくて,別に個別規定として,個々の場合の取消しを認めるべきか,認めるべきでないかというのは,個別の政策論として行われればいいのではないかと思います。私のイメージは一般的な詐害行為取消権をもう少し具体化しましょうというものです。 ○鎌田部会長 424条の解釈を通じて蓄積されてきたものが一方にあり,他方に破産法との逆転現象その他の解消,むしろ,整合性を確保するにはどういう類型を民法に置いたほうがいいのかというこの両方できますので,それが一つの原則とその具体的適用例という関係にないとすれば,それに応じた規定の整理の仕方ということをしなければいけないという点では御指摘のとおりだと思いますが,個別の取り上げられている意見について,どういう結論が妥当かというのをお決めいただいて,その規定の仕方として何がいいかということをその後で整理させていただければと思います。 ○金関係官 一般規定からはみ出すということの意味ですけれども,例えば無償行為については個別規定が一般規定を拡張する機能を持っていますが,その個別規定だけでは無償行為の詐害行為取消しを全て網羅し得ない甲案が示されているように,この無償行為の個別規定は飽くまで一般規定の主観的要件を緩和するというものですので,正に一般規定があるからこその個別規定であるようにも思われます。一般規定からはみ出すということの意味が,一般規定を全く前提としない個別規定ということだと仮にしますと,若干の疑問もあり得るように思いました。 ○鎌田部会長 ここに掲げられている例示の類型が一般原則の典型例として例示されているものなのか。一般原則だけからは出てこない,向こうは主観的要件が排除されているわけですから,一般原則の適用は出てこないで,付加的な要件といいますか,別の要件を立てて初めて出てくる類型だということなのか。松本委員はこの類型を一般原則の言わば適用例的なもののティピカルなものを並べたというふうなイメージでいくと,これは外れますと,そういう御指摘ですよね。 ○松本委員 解釈論の話になってしまうかもしれないんですけれども,一般的な規定の解釈をするに当たって,個別類型ごとに解釈の仕方を変えるというのは,従来からやってきたわけだから,その枠に収まるのであれば,一般規定とそれの個別具体化だという説明はあり得ると思うんです。そこは説明の仕方であって,一般規定をここは広げて,ここは縮めているという説明もあるかもしれないですが,従来は解釈論の範囲内で相当操作をしていたと思います。 ○中井委員 理解の確認のためですが,まず,一般規定が原則としてある。それに対して,先ほど議論した相当価格処分行為であるならば,一般的規定を適用するに当たって,かねて不動産を相当価格で処分したときに,それが詐害行為になるかどうかで議論があって,それが取引の安全を害する,資金調達を困らせる,そういう事情があったから,これについては詐害行為の対象になりません,否認の対象になりません,ということをある意味で確認するための規定を設けたのだと思うんです。   それに対して,無償行為の規定はそうではなくて原則的な規定がある。それは債務者が悪意であり,受益者も悪意が本来的な規定だけれども,悪意の部分,主観の部分を除外して,そこは拡張する。正に拡張する規定と理解をしているわけで,甲案も,乙案もその前提として一般的規定がある。どこまで拡張するかで甲案と乙案が違う。こう理解しているわけです。   その上で,弁護士会では,倒産手続に至らない場合に,債務者若しくは受益者が善意の場合にまで拡張する必要が果たしてあるのだろうか,ということについて問題提起があって,それについて理解を示す意見もあった。それは倒産手続に至ったのであれば,そこでは債権者平等,資産を回復して債権者にできるだけ弁済するという要請が強く働くので,その近いところで無償行為があるならば,それを積極的に取り戻そうと考えた。それで,主観的要件を緩めたと,こう理解をするならば,平時と倒産時とで異なった取扱いになっていいのではないかという意見もありました。 ○山野目幹事 少し前に中田委員がおっしゃった御意見の方向で,検討していただくことでよいのではないかという意見を述べさせていただきます。やや敷衍いたしますと,乙案は無償行為が取り消される範囲がやはり広きに過ぎるものでありまして,これは採らないでいただきたいと感じます。それと同時に,甲案そのものかどうかは分かりませんけれども,これについて指摘があった問題点等を踏まえ,甲案を育てるという方向で分科会において,これは分科会論点候補になっていると考えますけれども,そこで御検討いただきたいという要望を述べたいと考えます。  と申し上げる趣旨は,従来の民法学説上も松本委員から二度ほど強調して,解釈に委ねて,というお話がありましたが,解釈で学者の論議の中に,無償行為の場合には関係者の主観を問わずに取消しの対象になるという考え方もあるよね,という議論がされたり,されなかったりして,ここのところは少し,そのような意味で不安定な議論の状況にあった彩りがあると感じます。規範の透明性を高めるという見地からは,この時点で規定を置かないと決めてしまうよりは,少し甲案について努力をしてみてもよいのではないかと感ずる次第です。 ○中井委員 この論点が分科会で仮に議論されるのであるとすれば,先ほど山本和彦幹事からもお話がありました,保証行為について検討してはどうか。従来から当然のごとく,無償行為の一つの類型とされているんですけれども,贈与等のように積極財産がその時点で喪失するのと,保証したからといって直ちに財産減少が起こるわけでもないけれども,これを当然のように無償行為として良いのかと思うんです。これは無償行為の定義の問題,範囲の問題なのかもしれません。最高裁判例で保証であっても適切な保証料,対価を取れば,それは無償行為ではない,対価を取らない限りにおいて無償性が認められていますが,分科会で検討するのが適当かどうか分かりませんけれども,実務には非常に大きな影響があるところですので,可能であれば検討していただきたいと思っております。 ○鎌田部会長 山野目幹事の御意見は6か月の遡求も含めて,これを基本の考え方に,ということですね。先ほど遡求はやり過ぎではないかというふうな御意見もあったかのように記憶しているんですけれども。 ○山野目幹事 その点の当否についても御検討いただきたいというお願いです。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○内田委員 山野目幹事が中田委員の意見に賛成であると言われたのですが,お二人の意見はちょっと違うように思います。中田委員のほうは基本的には乙案で,ただ,無償行為であるけれども,取り消せないという場合を認める。その際,資力を回復した場合と言われたように伺ったのですが,一般的に資力を回復すれば取消権は行使できないので,多分,何らかの要件を立てて取り消しできない場合を認めるという,そういう趣旨なのかなと思ったのですが,その点,クラリファイをお願いできればと思います。 ○中田委員 資力回復については一般的な規律が適用されるので,したがって,乙案が広いことに伴う懸念というのは,そこで大分抑えることができるだろう,実際上は。更に,その上で乙案にプラスアルファの限定を掛けることができるかどうか,これは更に検討ということだと思います。 ○鎌田部会長 乙案は,原則に比べると適用範囲を拡張していることになりますけれども,無償行為の場合には債務者及び受益者も悪意とみなすと言っているのと余り変わらないですね,実際上は。 ○松本委員 そうすると一般論のほうに入ってしまうのではないですか。 ○鎌田部会長 悪意とみなすというと,一般要件の枠内の話になるんですけれども,この主観要件は,このケースは外しますというと,別の原理になる。論理上の整理はそういう違いになりますけれども,実質的には物の見方は両面からの見方があるということでございます。いずれにしろ,ただいま御指摘もありましたけれども,事務当局の御提案は甲案または乙案を採ることで,具体的にどういうところに違いがあって,実務にどのような影響を与えてくるのかということについては,分科会で補充的に検討していただくということですが,今,御指摘がありましたように,ここで言っている無償行為の範囲というものについて,いかに考えるべきであるかというふうな点についても,可能な範囲内で分科会で御検討いただくということにさせていただきたいと思いますけれども,それでよろしいでしょうか。   (イ)の点については御意見はいかがでしょうか。特には御異論はないと考えていいですか。この規定がある以上は,やはり,本当に善意だったかどうかというのは,重要な争点になるということになろうかと思います。 ○中井委員 一般論に委ねるという立場を採りますと,悪意の場合だけですので,この規定は要らなくなる。善意,悪意を問わないとすれば,この規定に賛成であるという意見が多かったです。 ○鎌田部会長 分かりました。それでは,続きまして……。 ○佐成委員 イの相当の対価を得てする行為のところで発言し忘れたので,一点だけ,追加させていただきます。(ア)の要件それ自体については特に異論はございません。ただ,立証責任の分配については,そもそもこの提案が,破産法に倣って,今の判例法理を逆転させている点に疑問を感じております。この点は,先ほど冒頭に申し上げた懸念とも関係するわけですけれども,ここまで取消債権者に主張立証させるということになると,管財人ならいざ知らず,一般の取消債権者にとってみれば,実際上,この類型で濫用の疑いが濃い事例があったとしても,債権者取消権を行使するのはかなりハードルが高く,恐らくは使えなくなるだろうという感じがします。本当にここまできちっと主張立証できるのかという点で,若干,実務的な懸念が感じられるので,立証責任の分配については直ちに賛成はできませんので,賛否の結論は留保させていただきたいということでございます。要件自体はこれでもちろん結構です。 ○鎌田部会長 それでは,「エ 過大な代物弁済」について御意見をお伺いします。 ○松岡委員 この御提案について,確認の質問も兼ねて意見を申し上げます。過大な代物弁済として「過大な」が重要な要件になるのでしょうか。私の理解が違っているかもしれませんが,判例法理では本来の義務行為でない代物弁済は,原則として詐害行為と評価されていたように思います。「過大」であることは,必ずしも要件として必要ではないと思います。   それから,もう一点,この御提案では,効果として当該代物弁済によって消滅した債務の額に相当する部分以外の部分,つまり,過大な部分だけが取り消せるとなっております。それが公平だという理解も十分に成り立つのですが,詐害行為取消権が実際に行使される場面は,先ほど来,安永委員その他何人かから御発言がございましたように,倒産手続以前の任意整理等の段階で,例えば深夜に債務者の倉庫のところに押し掛けていって,債務が直ちに払えないのならこの在庫品を持っていくけれどもいいかと,形の上では代物弁済の合意を取ったり,同道した第三者に売却させて代金を受け取るような抜け駆け的な行為が問題になることがかなり多いように思われます。   任意整理の秩序からみても問題のあるこういう行為がされても,取消しの効果が結局,過大な部分だけを返せばいいということになれば,本来の債権額の回収はできてしまいます。それでは,そうした好ましからぬ抜け駆け的自力救済型の債権回収行為を抑制することができなくなるのではないかという懸念があります。このことも合わせて考慮していただければどうかと思います。 ○金関係官 一点目につきましては,確かに代物弁済については義務でない方法による弁済であること自体をもって詐害性が強いという議論もあるところですが,部会資料ではその点についての詐害性はそれほど重視しないという立場を採っております。代物弁済は過大なものでなければ偏頗弁済と基本的には同じであることを前提に,受益者の悪意の主張立証責任を転換する規定,後ほど御説明しますけれども,そのような規定を置くにとどめております。   二点目につきましては,過大でない部分も偏頗弁済に対する詐害行為取消しの要件を満たせば取り消せるということで,過大でない部分の取消しの余地を残しておりますので,その程度ではありますが一応の答えとさせていただきます。 ○鎌田部会長 よろしいですか。ここはいろいろな考え方のあり得るところではあるけれども,破産法との整合性等も考慮して,今,説明のあったような前提で部会資料を作成したということだと理解いたします。よろしいでしょうか。 ○岡委員 弁護士会も多数意見は倒産法と同じように,過大な部分は財産減少行為として無資力なり,債務超過要件で取り消せると,過大でない適正な部分については偏頗弁済に当たり通謀要件があったら取り消せると,この整理でいいんだろうという意見が多かったです。ただ,一部に今の松岡先生と同じような発想で,通謀要件があれば一本全部取り消せるという考え方はないのかという質問が出ました。そういう場合には一本の偏頗弁済の通謀要件があれば,過大な部分も含めて一本の代物弁済を取り消せるようになっているのでしょうか。 ○金関係官 部会資料では,偏頗弁済に対する詐害行為取消権をもって一本の過大な代物弁済を全て取り消すことができるということを前提としております。部会資料35の76ページですけれども,過大な代物弁済が偏頗弁済に該当する場合には,過大な部分についても偏頗弁済に対する詐害行為取消権の対象になるという理解をしております。 ○山本(和)幹事 破産法でもそういう理解ですよね。それは,そういうことになるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですね。   それでは,続きまして,「オ 偏頗行為」及び「カ 対抗要件具備行為」について御審議いただきます。事務当局から説明をしてください, ○金関係官 御説明します。   「オ 偏頗行為」の「(ア)債務消滅行為」では,無資力の債務者がした債務消滅行為に対する詐害行為取消権の要件について,判例法理を明文化すべきとする甲案と,破産法第162条第1項と同様の規定を設けるべきとする乙案を提案しています。なお,甲案のブラケット内の記載は,甲案で示した判例法理が実際には非常に厳格な運用をされているということを示す趣旨のものです。   「(イ)既存債務についての担保供与行為」では,既存債務についての担保供与行為に対する詐害行為取消権の要件について,判例法理を明文化すべきとする甲案,債務消滅行為に関する判例法理をここでも用いるべきとする乙案,破産法第162条第1項と同様の規定を設けるべきとする丙案を提案しています。   「(ウ)受益者の悪意を推定する規定」では,債務消滅行為及び既存債務についての担保供与行為に対する詐害行為取消権の要件である受益者の悪意について,受益者が債務者の内部者である場合や,当該行為が債務者の義務に属せず又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものである場合,先ほどの代物弁済もこれに含まれますが,それらの場合には受益者の悪意を推定する旨の規定を設けることを提案しています。   「カ 対抗要件具備行為」では,対抗要件具備行為に対する詐害行為取消権の要件について,破産法第164条第1項と同様の規定を設けるべきとする甲案と,特段の規定を設けずに引き続き解釈に委ねるべきとする乙案を提案しています。   以上の各論点のうち,「カ 対抗要件具備行為」については,甲・乙両案の具体的な差異等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明がありました部分のうち,まず,「オ 偏頗行為」について御意見をお伺いいたします。 ○中井委員 偏頗行為について弁護士会の意見は,ほぼ真っ二つに分かれている状態です。(ア)の債務消滅行為は,甲案,乙案が拮抗していると申し上げていいかと思います。そういう意味では,今回の詐害行為取消権をどこまで倒産法の規律に合わせるかという問題が一番典型的に出てきています。   第一読会で,債務消滅行為を対象にしないという案があったことに対して,それがここでは撤回されていることについて,弁護士会の相当数の意見としては,偏頗行為を何らかの形で詐害行為の対象にしておくべきだという意見で一致しておりましたので,甲案,乙案が残っていることについては評価をしたい。   その上で,先ほど山本和彦幹事もおっしゃいましたけれども,倒産法で偏頗行為について支払不能基準で律したというのが,旧破産法との関係で言うならば大変革で,それが取引の安全といいますか,取引債権者が債権の回収行為をする,若しくは担保設定行為をすることに対する安全安心を与えないと,事業継続をするにしても困難だという観点から,明確な基準として支払不能基準を設けた,この点をここでも確認していくとすれば,乙案も十分に考えられるのかとは思います。  しかし,私自身,個人的には果たしてそれでいいのかと疑問を持っています。   それは二つの面がありまして,一つは支払不能以前でも単純にここでは悪質と言っておきますけれども,通謀若しくは優先的な回収させる意図と言っていい表現かどうかは分かりませんが,社会的に見て許されない回収行為若しくは担保設定行為が存在しているという事実についてどう考えるか,そこを割り切っていいのかということに対する疑問です。とするならば,支払不能以前であっても,そのような一定の悪質な行為については,詐害行為取消権を及ぼすべきではないかという政策判断はあるのかと思っております。   他方で,倒産法の規律と合わせるとなると,支払不能後の偏頗行為は基本的には取消しの対象となるわけですけれども,そこについては,今度は広過ぎないのかという懸念がございます。この点は弁護士会の中でも,倒産手続が開始するかどうか分からないのだから,影響度としては同じではないか,だから余り懸念する必要はないという意見もあります。しかし,私的整理等を考えた場合に,支払不能後であっても何とか事業を頑張って継続して,経営の回復を図ろうという債務者はいるわけで,そのときに支払不能後,一律に,偏頗行為を取消しの対象としたとき,そういう事業再生の意欲のある債務者にとって何らかの弊害といいますか,支障が生じないかという懸念を持つわけです。   その二点から,果たして倒産法の規律と全く同じでいいのかということについては,もう少し慎重に考えていただいて,甲案も更に検討する必要があるのではないか。そのときの要件についてはなかなか悩ましいと思っております。通謀ということを仮に挙げるとしても,弁済にしろ,担保提供行為にしろ,債務者と受益者は合意の上,行っているわけですから,合意があるのに,これは何をもって通謀というのか,通謀要件だけでは必ずしも明確ではないことは御指摘のとおりだと思います。   そうすると,そこにどういう要件,ここで意図的に特定の債権者に対して,他の債権者に害を与えることを知りながら,優先的に,独占的に便益,利益を与える行為を想定しているのだろうと思いますが,そこの定義付けについて,是非,知恵を出していただいて,対象の絞り込みができないか。分科会にここが入るのだとすれば,更に検討していただきたいと思っております。 ○岡本委員 (ア)と(イ)をまとめて申し上げます。(ア)については乙案で,(イ)については丙案ですけれども,これらはいずれも破産法の規定と平仄を合わせて,いわゆる逆転現象を解消するという点で,方向性に賛同できると考えております。しかしながら,これにつきましても破産手続の否認と全く同じである必要はないのではないか,否認よりも範囲を狭めて例えば非義務偏頗行為の30日の遡求をなくしていいという意見がございました。   これにつきましては,債務超過でもやはり通常の営業を続けている企業というのはたくさんあって,例えば貸付金の弁済期が来たときに,その期限を延長するに当たって義務に基づかない担保供与を受けた後で,30日以内に急に業況が悪化して支払不能になったといった場合に,担保供与が取り消されたのでは受益者の保護に欠けるといった,そういった場面を想定して理由としております。それから,そもそも非義務偏頗行為のみを取消しの対象とするのがよいという意見でありますとか,更に進んで義務的か否かを問わず,偏頗行為については,詐害行為の取消しの対象から外してもいいのではないかという意見も一方ではありました。   それとはまた別に,どう整合するのかというのは難しいところではあるんですけれども,詐害的な会社分割,これについてはかなり懸念を持っておりまして,これを類型化したときに,どの類型に整理するのかという問題もありますし,会社法改正のほうで議論されているということもありますけれども,会社法改正の帰すうにかかわらず,詐害行為として取り消すことができるようにすべきであるというふうな意見もございました。 ○岡委員 中井さんがおっしゃったように,弁護士会の中は真っ二つに割れております。ただ,乙案,破産法に準じた規律の支持というのは,以前は何か2割とか3割程度の支持しかないような印象を弁護士会の講演等で感じ取っておりました。ただ,昨日段階ではこれが5割ぐらいまで持ち戻してきたなという印象を持っております。私自身としては乙案を軸に民法を作るのが,予測可能性の観点からいいと思っております。ただ,やはり甲案の支持が多いです。なぜ多いのかというのは,中井さんがおっしゃったように支払不能前でも悪質な行為はあると,それを取り消せなくなるのは実務家感情として納得できない,これが相当根強くあるのは事実です。   それでは,どんな表現がいいんだという議論をしていくと,先ほど中井さんも困っておりましたけれども,他の総債権者を害する行為では広過ぎるなと,内部者に対する無償行為では狭過ぎるなというようなところで議論しているのですが,なかなか,いい案がないので,倒産法と同じでいいかという案の支持になってきているような状況も感じております。   ただ,それを考えますと,現在の倒産法の規律が支払不能前については,30日間に限るとか,非義務行為に限るとか,そこが少し狭過ぎるのではないか。その部分を倒産法と同時に民法も,何か支払不能前の取り消せる行為を倒産法及び民法で,もう少しうまく規律できるものがあるのであれば,それは,是非,検討したいという甲案と乙案の妥協案といいますか,レベルアップ案というか,そういうことは検討していいのではないかというのが乙案支持者の中にも多数おると思います。したがって,破産法と全く同じにするのがいいというのが現状の多数というよりは,倒産法と同じ規律にしながら,支払不能前の規律についてはもう少し何とか倒産法及び民法の両方で工夫できないか,そういう意見を現在,私自身は持っております。 ○佐成委員 (ア)の部分ですけれども,経済界の中ではまだ明確な合意はないのですけれども,基本的には私個人としては甲案を考えております。というのは,両弁護士の先生方がおっしゃっていたとおりですけれども,実務上,非常に悪質なケースというのはどうしてもありますので,それを絶対に取り消せないとしてしまうことには躊躇を覚えるからです。確かに規準を明確にして予測可能性を高める,取引の安全を高めるというのは非常に重要なことだと経済界としても考えているのですけれども,そうは言いつつ,やはり,通謀害意の場合に取り消しを認めるというのは現在の判例でもありますし,しかも,判例はそれを非常に謙抑的・限定的に認めていて,本当に悪質なものだけを取り消すという形になっているものですから,何とか,そこを明文化できないかなと考えております。もし,非常に謙抑的・限定的な形で条文化ができなければ,場合によっては乙案ということも考えられるかもしれませんが,現時点で,そこを完全に捨て去るというのは,実務家としては躊躇を覚えるというところでございます。   それから,「通謀」との関連で言えば,実際確かに,債務者の経済状態の変動に伴って,債権者と債務者がいろいろと個別に話合いをするということはよくあることだと思いますし,取り分け債務者の経済状態が悪化している局面では,債権者が,経営建て直しのための協力要請を受けたり,反対に偏頗弁済を迫ったりするという機会はもちろんあると思います。けれども,実際にそのような機会に恵まれる,債務者との関係において,そういう地位にある債権者というのは,内部事情にも精通し,ある程度大きなステイクホルダーである特殊な債権者でもあるわけでして,当然それ以外にも中小の一般債権者は多数存在するわけです。つまり,偏頗弁済の規律については,単に債権者間の一般的な公平という以上に,むしろ,その観点で言えば,どちらかというと大きな債権者よりも中小の債権者といいますか,そちらの利益も十分考えてみる必要があると思います。もちろん,内部者的存在,取り分け親族に対する偏頗弁済というのは典型的な例だと思うのですけれども,力関係上,影響力が非常に大きな,しかも,有利な交渉ができる者がいて,かつ中小の者がいて,そのときの利益状況というのは,一体,どう在るべきかという問題も,甲案は提起していると思いますので,是非,そこら辺は考えていただきたいと思います。   それから,ブラケットの付いている部分についても,これは認識説,即ち,詐害の事実を知っているというだけを要件とするのではなくて,謙抑的・限定的な運用を意図して,プラスアルファの積極的な害意というところを何とか表現しようと苦心された結果であろうと思っております。もちろん,これが最終的な条文として適切かというと,必ずしもそうではないのかもしれないのですけれども,その意図はよく分かりますので,是非,そういったところも踏まえて,御検討いただきたいなと思います。つまり,単純に乙案としないほうがよろしいのではないかというのが私の意見でございます。 ○山本(和)幹事 破産法の立法の目的と,今,中井委員が正に述べられたとおりで,支払不能の前についてはホワイトゾーンにして,ここは否認の対象には一切しないという政策判断をして,取引の安定性を高めようという政策判断をその時点ではしたのだろうと思います。それを考えたときに,詐害行為取消しだけを支払不能の前に遡らせるというのは,そういう意味での逆転現象がこの場面で発生するというのは,私はやはり相当ではないと思っています。取り分け,偏頗行為の否認であれ,詐害行為取消しであれ,その目的は債権者平等を確保するということが大きいのだとすれば,破産手続は債権者平等を確保するために非常に厳格な手続を持っているわけですが,詐害行為取消しの場合は取消しをした後,結局,民事執行等で配当等がなされるとすれば,そこでの債権者平等の確保の度合いというのは,破産に劣ることは間違いないので,その場合に破産よりも広く債務消滅行為の取消しを認めるということは,私は考えにくいのではないかと思います。   そうだとすれば,選択肢は破産にそろえるという乙案が一つの選択肢。ただ,債権者平等が十分に機能しない場合があるということを考慮すると,乙案ではやや広過ぎるという理解は十分あり得て,その場合には例えば甲案を更に限定して,支払不能後に限ると,甲案で支払不能後のこういう通謀行為等に限るという甲’案みたいなものは,考えられる余地はあるのだろうと思っています。もう一つの選択肢は,先ほど弁護士会のほうの御意見として出ましたけれども,結局,甲案のような規律を維持して,破産のほうもこれに合わせると,破産のほうもこういった形で広げると,支払不能の前は完全にホワイトにはしないという選択肢だろうと思います。   しかし,これは先ほど申し上げたように,つい,数年前の立法のときにした政策判断を正面から覆すものだということに,やはり注意する必要があると思います。そのときも,そういう悪質な行為があるということを法制審議会倒産法部会は知らずに,そういう議論をしていたわけではないわけです。というか,むしろ,改正前の状況というのは,そういう悪質な行為は故意否認でたたくと,偏頗行為についても故意否認が適用されて,故意否認の対象として悪質なものはたたけるという前提だったわけですね。   ですから,逆に言えば,倒産法部会の決断というのは,従来,たたけていたものをたたけなくしたわけなので,今回,それをまた,たたけるようにするということになると,正に前回の政策判断とは逆のことがそこで行われるということだろうと思います。ただ,本部会の総意として,そういうことであるとすれば,私自身はそれについては反対はしませんけれども,その場合には破産法もそれに合わせて変えるということが大前提であるとなると,私は考えているということは申し上げたいと思います。 ○中田委員 破産法改正の際に,当然,詐害行為取消権への影響ということは意識されたわけです。しかし,その際には否認権についての規律を整序することが眼目でありまして,詐害行為取消権に対する影響というのは,その時点ではオープンであるという理解であったと私は思っております。しかしながら,破産法改正との整合性を保つことが,そこでの政策目的を達成するために必要であるというのは,私も同感でありまして,できるだけ,そろえたほうがいいとは思います。   しかし,先ほど沖野幹事からも御指摘がありましたけれども,その整合性とともに,更に他の考慮も必要ではないかと思います。それは詐害行為取消権というものが使われる場面やその主体を考慮しながら,やはり,独自の機能というのがあるのではないかということを,ここで検討するということだと思います。それによって破産法改正の際の政策判断を否定するということにはならない,むしろ,それは予定されていたことではないかと私は理解しております。   その上で,(ア)の甲案,乙案ですが,私は両案とも問題があると思います。甲案は現在の判例法理に基づくものですけれども,破産法の否認権の規定に比べて不明確でありまして,そこで考えられていたことを損なうおそれが高いのではないかと思います。他方で乙案ですが,これは先ほど来,破産法とそろえるものだという御意見ばかりだったのですが,私はこれは破産法とそろっていないと思います。なぜならば,ここでは無資力と支払不能と両方を要求しているからでありまして,しかも両者についての受益者の認識を要求しているということです。これは従来の詐害行為取消権の要件より重いだけではなくて,否認権の要件よりも重いということになるのではないか。   つまり,無資力について破産法上の債務超過と同じ定義が用いられるという提案でありますし,支払不能が破産法の定義と同じだとすると,取消債権者は総資産と総負債の比較における債務超過と,それから,弁済期にある債務について換価困難な財産を除いて考えるという支払不能と,両方を証明しないといけなくなる。これは破産管財人よりも取消債権者により重い立証の負担を課するということでありまして,そこをどう説明するのかということが私にはよく分かりません。   解説の中では,支払不能は破産手続開始の原因として用いられているということを指摘しておられるんですけれども,破産手続開始の多くは自己破産でありまして,債権者申立ては少ないのではないかと思います。結局,こう絞っていきますと,偏頗行為についての詐害行為取消権の行使というのは,事実上,確定的に破綻しているという場面に限られることになります。これについては,先ほど来,出ております私的整理への影響といったことを検討する必要があると思います。   あと,これは理論的と言えるかどうか分からないんですけれども,詐害行為取消権を責任財産保全制度だと理解するときに,支払不能の概念が果たしてそれに適合的なのかどうかということが,私にはよく理解できておりません。換価困難財産を除くという支払不能概念だとすると,なぜ,それが責任財産保全ということと直結するのかということです。そうすると,甲案を採りつつももうちょっと絞り込むと,例えば非義務行為に絞り込んで,それに(ウ)の推定規定を組み合わせるとか,何らかの中間的な方向がとれないだろうかということを今,考えております。 ○鎌田部会長 他には。 ○岡本委員 先ほど(ア)の乙案,それから,(イ)の丙案はいずれも破産法の規定と平仄を合わせて,いわゆる逆転現象を解消する点で,方向性に賛同できるというふうな意見を申し上げたんですけれども,これはそれぞれの案が破産法の規定と全く同じだということを申し上げているわけではなくて,平仄が合っていて逆転現象が解消できればいいと,こういうふうな意見でございまして,そういう意味からすると,破産法に基づく否認はできないんだけれども,取消しであればできる,こういったものがなければ,それはそれでよろしいというふうな趣旨で申し上げました。 ○畑幹事 既に何人かの方から意見が出ておりますように,私も,倒産法上の否認よりも広くなるというのはおかしいと思っておりまして,もし,そこを変えるというのであれば,倒産法も変える必要があるのではないかと考えておりますが,詳細は繰り返しません。そして,そもそも,債務消滅行為のようなことを取消しの対象とするかどうかということについて,ここでは,一応,するという方向になってきており,それに強く反対するわけではないのですが,後の効果との関係で,もし,債務消滅行為の類を取消しの対象にするという現在の方向でいくのであれば,取消債権者が事実上の優先弁済を得るというのは,取り分け,おかしくなってくるということを付け加えたいと思います。 ○鎌田部会長 意見は分かれておりますけれども,それぞれのお考えと対立点は明確になったかと思います。(イ)のほうについては余り意見が多くはなかったんですが,何か,「(イ)既存債務についての担保供与行為」について補足の意見がございましたら。 ○中井委員 先ほど私の意見は債務消滅行為について申し上げましたけれども,私はより問題が発生する場面は(イ)の担保供与行為ではないかと思っております。中身については,同じ意見になりますので省略します。ただ,先般の破産法改正のときに先ほど山本和彦幹事がおっしゃられたように,政策的決断をしたわけですけれども,最近のある大きな倒産事件において,私は痛切に果たしてこの乙案でいいのかと感じた次第です。   その案件は,対抗要件否認との関わりがありますから,事案を異にしますけれども,内部事情を知ることのできた唯一の者のみが特定の事情を知って,支払不能や支払停止より前に,当該会社の主たる財産全てについて担保を取得する行為に出た。ところが,丙案の規律ではそれは否認の対象にならない。詐害行為の対象にもならなくて果たしていいのかと,こういう実際の経験をしたものですから,これでよろしいのかという気持ちがございます。 ○沖野幹事 (ウ)の点についてよろしいでしょうか。(ウ)の提案が上記(ア)の乙案,同(イ)の丙案を採用する場合の提案として出されておるのですけれども,これまでの御議論の中でも対象とする行為をどう類型化していくかという中で,例えば内部者に対する偏頗的な行為であるというような場合に,特別の規律ができないかという案も出されたと思います。そのことを考えますと,ここに挙げられているような内部者,その概念自体も検討の必要はあると思うのですが,その規律が(ア)の乙案,(イ)の丙案を採用とする場合のみの考え方であるのか。それとも,例えば(ア)の甲案の考え方に即しつつも,内部者であるような場合には通謀詐害意思のある弁済であったと推定するというようなことも考えられるように思います。内部であるような場合に,何らかの特別な規律というのが考えられるのではないかというのはそのとおりで,これをそのまま,更に検討を深めていくべきだと思うのですが,組合せはもう少し広いのではないかと思います。 ○金関係官 受益者が内部者である場合の規律を(ア)の甲案,(イ)の乙案においても設けるというのは,債務者と受益者との通謀,他の債権者を害する意思,特定の債権者に優先的に満足を得させる意図,といった要件を全て推定するという御趣旨でしょうか。受益者が内部者であるというだけで取り消し得るものとする御趣旨かどうか,念のため確認をさせていただければと思います。 ○沖野幹事 それを含めてもちろん検討ということだと思いますけれども,現在の案ですと無資力というのが係っているわけで,無資力の状態で内部者に弁済をしているというような場合に,これは正当な弁済であるということを,通謀詐害はないという点を内部者のほうから証明すれば,それはクリアされるということになるのではないでしょうか,今現在の提案の甲案と組み合わせた場合は。それがよろしいのかどうかも含めて,検討の余地を残すべきではないかという趣旨で申し上げました。 ○金関係官 ありがとうございます。そのように思います。 ○鎌田部会長 その点は,今の沖野幹事の御指摘のような方向でよろしいのではないか。例えば(ア)で甲案,(イ)で乙案のような考え方を採ったときに,内部者についてはどのような特則を設けるのが妥当かということも,(ウ)に示された考え方と矛盾する方向性ではないと思いますので,そのような方向で検討をさせていただければと思います。 ○中井委員 先ほど中田委員が甲案,乙案,いずれもなお不十分で,仮に甲案についてなら,更に絞り込みという御発言の中に,一つは今,沖野幹事がおっしゃられた内部者等についての配慮,これについては賛成ですが,もう一点,おっしゃられたのが非義務行為に限るという方向での御発言があったかと思います。しかし,実務においては弁済行為においては非義務行為に限ってしまうと,それは極めて限定されますので,非義務行為に限定するのが適当かどうかは,慎重に御検討いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,次の「カ 対抗要件具備行為」について御意見をお伺いします。 ○山本(和)幹事 質問なんですけれども,この規律の趣旨なんですけれども,補足説明で記載されていますように,倒産法では破産法164条の規定はいわゆる制限説と理解されていて,一般的な否認の対象に対抗要件具備行為もなるということを前提として,164条はその範囲を限定していると理解されていると思いますけれども,ここでの御提案の趣旨というのは,先ほど潮見幹事などが聞かれた法律行為か,行為かという問題とも関係するのかもしれませんけれども,制限説と理解しているのか,他では否認できないんだけれども,特別に対抗要件を単独で否認する規律を設けるべきだという趣旨でこの規律を提案されているのか,御趣旨を御説明いただければと思います。 ○金関係官 それは甲案についてということでしょうか。 ○山本(和)幹事 甲案です。規定を置く場合はということです。 ○金関係官 少なくとも現在,対抗要件具備行為に対する詐害行為取消権については判例が創造説的な発想をしておりますので,それとの関係で甲案が制限説を前提とする提案であると言い切ってよいのかどうか,悩ましいところであると考えております。ただ,甲案は基本的には破産法の条文を取り入れるというもので,破産法では御指摘のとおり制限説が採られていると思いますので,そのような観点からは,甲案を採ればそれは制限説の立場を前提としたものであると説明することになるかもしれませんが,そこはまだはっきりしておりません。 ○山本(和)幹事 仮に制限説だとすると,この対抗要件具備行為が債務消滅行為なのか,それ以外の行為なのかということをまず決める必要が多分あって,債務消滅行為であると,あるいは少なくとも債務消滅行為になる場合があると理解するのだとすると,先ほどのところの偏頗行為の甲案,乙案の対立が多分,出てきて,そこで否認できるということが一応の前提になって,それを制限するんだとすれば,例えば先ほどのところで甲案をとれば対抗要件具備行為も否認できるのは,共謀等がある場合に限られるということになるので,それを多分,要件として書く必要があるということになるのではないかと思いますし,創造説で,これで全く新たに作るんだということであれば,そういう制約は多分ないので,現在,提案されている甲案でもいいのだろうと思いますし,また,乙案を採る場合でも何も置かない場合に,そもそも,それで取り消すことができることになるのか,ならないのかということが決まらないと,乙案に賛成するといっても,正反対の理解になってしまうような気がしますので,まず,だから,平場でというか,何も置かない場合にどうなるのかということ,それを解釈に委ねたまま,立法の議論ができるのかというのは,かなり疑問があるところでもあるんですけれども。 ○金関係官 そこを解釈に委ねることもあり得るのではないかと少し考えておりましたが,御指摘の趣旨はよく理解いたしました。 ○畑幹事 今,山本和彦幹事がおっしゃったことは全くそのとおりだと思うのですが,ただ,今の点は倒産法の改正の際にも解決されずに,そのままになってきている問題だと思います。私は倒産法改正の方には直接関わっていないのですが,少し勉強したところによると,ここはやはり余りにも難しいので,基本的に手付かずで,従来の規定を維持したということのように思われます。私は一定の立場から論文を書いたことがありますが,それが通説というわけではおよそありませんし,倒産法上,議論が固まっているということでは到底ないと思われますので,ここでそれが解決できるかというと,かなり難しいのではないかという見通しであります。   その上で,私の印象では倒産法の現在の条文がそもそも合理的かどうかということ自体についても,かなり問題があるところかと思いますので,できるだけ分かりやすく条文を書こうという基本的な方向性の中で,多くのことを解釈に委ねてしまうのはよくないような気はするのですが,かなり疑問の多い倒産法の規定をまねして甲案のような規定を置くよりは,いろいろなことを解釈に委ねたまま,規定を置かないという乙案のほうが無難ではないかなという印象を持っております。 ○山本(和)幹事 今,畑幹事が言われたことは全くそのとおりだと思いますので,倒産法の混乱も含めて,抜本的にこの際,解決しようという強い意思を持つのであれば,甲案ないし甲案を変型させるような新たな規定を設けるということは考えられると思いますが,そこまでの決断がないのであれば,乙案が無難であるというのは,私もそのとおりだと思います。 ○岡委員 倒産法も改正するという決断をすべきだろうと思います。畑論文等はかなり浸透してきておりますし,ここだけ支払停止で区切るというのは,相当,おかしいと思いますので,これを機会に,ここで議論をして倒産法も改正すると,それほど難しいことでもないのではないかとも思いますので,是非,前向きに倒産法のほうも改正する方向で検討したいと私自身は思っております。 ○鎌田部会長 改正の方向性について何か御提案はございますか。 ○岡委員 私の理解が間違っていなければ,畑先生の論文は,不平等弁済の否認の規律に準拠して,対抗要件否認も支払不能規準で規律するというものと思います。とても分かりやすく,実務的にも賛同できる部分が多いと思っております。 ○内田委員 この乙案が何を意味するかなのですが,乙案をサポートする御意見からは,難しいので解釈に委ねて,どういう立場を採るかについてはニュートラルなスタンスを取るというようなニュアンスをちょっと感じたのですけれども,現在,民法では対抗要件具備行為は取消しの対象にならないというのが判例ですので,今,乙案で立法するということは,その立法の解釈としては判例の立場をそのまま容認したと受け取られるのが一番自然ではないかと思います。もし,その判例に対して多少なりとも修正が必要であると考えるのであれば,何か,書かないとまずいのではないかと思います。 ○岡本委員 対抗要件具備行為につきましては,現在の実務からいたしますと,登録免許税の節約のためですとか,あるいは登記すること自体によって信用力について風評の悪化が発生するといったことを避けるために,対抗要件を具備することを留保して担保取得を行うという場合がしばしばございます。甲案のような規定が設けられた場合には,法的整理手続に入るとまでは見込まれない担保設定者につきましても,対抗要件の具備が促進されるという影響が出るのではないかというふうなことを考えておりまして,現在の登記留保の扱いにはそれなりに意味があって行われている実務でございまして,これに仮にそういった影響が出るといたしますと,担保提供者にとっても不利益となるおそれがありますので,乙案のほうに賛成したいと考えております。 ○中井委員 岡本委員からお話がありましたけれども,この問題を考えるに当たっては,金融実務において行われている登記留保について,どのように考えるのかということが大変重要だろうと思います。岡本委員がおっしゃられたように,例えば抵当権設定契約はするけれども,登記を留保したまま与信を継続する,これによって金融機関からはそれなりの与信を得て事業を継続できる。そのこと自体は確かに有益であることは間違いがないわけです。しかし,他の一般取引債権者にとっては担保に入っていないと思いながら与信を継続しておきながら,ある日,突然,留保された登記が表に出てきて資産を独占的に確保する,このことによって一般債権者の信頼が損なわれる。果たして,それがいいのか,それは非常に疑問に思います。   倒産手続になったときには,一定,それが制限されるとしても,平場といいますか,倒産手続に入らない場面で制限されなくていいのか。取り分け,これも私的整理の場面で,深刻な問題が生じているのは事実です。様々な私的整理の手続が整備されている中で,例えば事業再生ADR等で留保登記をどう扱うのか,それを認めるか,認めないかでかなりの差があります。仮に甲案を採れば,その手続についても相当な影響を与えることは事実だろうと思いますので,甲案を採るとなれば法的倒産手続のみならず,そういう私的整理を念頭にも置いて金融機関が行動すれば,当然,登記留保に対してはかなりリスクが高くなる分,与信がどれだけ得られるかという現実の問題が生じる。この辺を本当にどう評価するのかを考えないといけない,結論があるわけではございませんけれども,実務では非常に悩ましい問題だということだけ申し上げておきたいと思います。 ○松岡委員 物権法の担保秩序からしますと,登記留保で特に不利益を受けない扱いそのものが大問題だと思います。中井委員自身がどちらか迷っておられることはよく分かりますが,私は,方向性としてやはり登記留保を詐害行為の対象から除外するのはおかしいのではないかと考えております。 ○中井委員 松岡委員のような決断をするならば,何らかの形で甲案的規律を設けることになるのだろうと思いますし,仮に甲案的規律を設けるのだとすれば,そして,偏頗行為として倒産法的規律に合わせるなら,支払停止基準ではなくて,支払不能基準の方向で考えるべきではないか,と思います。 ○鎌田部会長 この点は,事務当局の御提案は分科会で補充的に検討するということでございます。なかなか,難しい課題を与えられておりますけれども,今日,頂戴したような御意見を踏まえて,どういうふうな制度設計がありえて,それぞれについて実務に対して,あるいは破産法あるいは現行の民法判例に対して,どういう影響が出てくるかということを分科会で整理していただいて,それを踏まえて部会でまた御審議を頂くようなこととさせていただきます。   続きまして,「(4)転得者に対する詐害行為取消権の要件等」について御審議を頂きます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「(4)転得者に対する詐害行為取消権の要件等」の「ア 転得者に対する詐害行為取消権の要件」では,破産法第170条第1項第1号の規定を参考にしつつも,いわゆる二重の悪意が要求されることの問題を解消するために,詐害行為取消訴訟の被告である転得者及びその前に現れた全ての者が債権者を害すべき事実について悪意であることを要し,かつ,それで足りるとすることを提案しています。   「イ 転得者の悪意を推定する規定」では,転得者に対する詐害行為取消権の要件である転得者の悪意について,破産法第170条第1項第2号の証明責任の転換の規定を参考にして,転得者が債務者の内部者である場合には当該転得者の悪意を推定する旨の規定を設けることを提案しています。   「ウ 無償行為による転得の場合」の「(ア)転得者の悪意を不要とする規定」では,転得者に対する詐害行為取消権の要件である転得者の悪意について,破産法第170条第1項第3号の規定と同様に,転得者が無償行為によって転得した者である場合には当該転得者の主観を問わないとすることを提案しています。   また,「(イ)転得者が善意である場合の償還範囲」では,(ア)の規定によって転得者に対する詐害行為取消権が行使された場合において,転得者が転得の当時善意であったときは,破産法第170条第2項,第167条第2項の規定と同様に,転得者は現に受けている利益のみを償還すれば足りるとすることを提案しています。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いします。御自由に御発言をください。 ○山本(敬)幹事 転得者に対する詐害行為取消権の要件等の前提を少し確認させていただければと思います。初歩的なことになってしまいますので恐縮ですが,お願いいたします。まず,転得者かどうか分からない,しかし,詐害行為取消権の対象である目的物を受益者でない者が占有している場合に,その者に対する返還請求をどう行うかということをお聞かせいただきたいのですが,詐害行為取消権の要件は満たしている。その上で取り消すという意思表示をする。これで,現在占有している者に対する返還請求が認められるのでしょうか。 ○金関係官 占有をしているだけでは転得者には当たらないと思いますけれども……。 ○山本(敬)幹事 質問の意図を申しますと,債権者の側が,占有している者が転得者であることを主張・立証しなければならないのでしょうかということです。 ○金関係官 転得者を被告とする詐害行為取消訴訟を提起して取消判決を得るためにはその必要があると理解しておりました。 ○山本(敬)幹事 そうすると,取消しが認められれば,物権的請求権が基礎付けられますので,債権者代位権を用いて請求することになるのでしょうか。 ○金関係官 まず受益者を被告とする詐害行為取消訴訟を提起して取消判決を得て,債務者に所有権が戻ってきたことを前提に……。 ○山本(敬)幹事 どの範囲でどのような効力が認められるかという問題はありますけれども。 ○金関係官 仮に債務者に所有権が戻ってくることを前提にしますと,転得者かどうか分からない者に対する債務者の所有権に基づく返還請求権を,取消債権者が代位行使することになるのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 請求の在り方としては多分,今,金さんがおっしゃったように不法占拠者として扱って明渡請求して,現在の占有者が私は転得者ですというと,今度は転得行為を詐害行為として取り消すという運びになるのではないでしょうか。 ○山本(敬)幹事 そうすると,債権者としては,構成はともかくとして,詐害行為取消権の要件を満たし,取消しの意思表示をし,そして,現在占有している者がいるということで返還請求が認められる。それに対して,現在占有している者が自分は転得者であることを主張・立証すると,86ページの御提案では,取り消すことができなくなるのか,取り消したことを転得者に対しては主張できなくなるのか,構成は別として,転得者であることが明らかになれば,それだけでは直ちに返還請求はできない。改めて,その転得者が悪意であるとことまで主張・立証して,初めて返還請求が認められるという理解でよろしいのでしょうか。 ○金関係官 まず受益者を被告とする詐害行為取消訴訟を提起して,転得者が存在しないことを前提に,受益者から債務者に所有権を戻して,その上で,転得者かどうか分からない者に対する債務者の所有権に基づく返還請求権を,取消債権者が代位行使する。その代位行使の結果,転得者かどうか分からなかった者が実は転得者であることが判明すれば,今度は転得者を被告とする詐害行為取消訴訟を提起して,取消債権者の側で被告が転得者に当たることを主張立証するのではないかと思いました。 ○山本(敬)幹事 幾つか問題はあるのですけれども,当面の問題のみに絞ってお聞きしますと,債権者が相手方に対して返還請求するときには,相手方が転得者であるということを建前上は主張・立証しないといけない。それが,詐害行為取消訴訟の前提であるという理解でよろしいわけでしょうか。 ○金関係官 私の個人的な理解はそのような理解でした。 ○山本(敬)幹事 そうしますと,非常に複雑な経路をたどっているときでも,全部についてこのような形で転得が行われていったということを主張・立証しないと,詐害行為取消訴訟で返還請求は認められない。つまり,経路についての証明できないというリスクを債権者が負うことになるのでしょうか。 ○金関係官 飽くまで私の個人的な理解ですけれども,例えば売買による転得であれば当該売買の特定ができればよくて,全ての経路を主張立証するというよりは,取消債権者が被告として選んだ当該転得者の転得行為を主張立証すればよいようにも思いましたが……。 ○山本(敬)幹事 それが受益者にまで遡ってつながっていることを主張・立証できないと,転得者であることは基礎付けられませんね。 ○金関係官 御趣旨は十分に理解しておりますけれども……。 ○山本(敬)幹事 少なくとも86ページ以下で書かれている事柄は,今の説明で正しいとするならば,債権者側にそこまでの主張・立証責任を課すことになりそうですが,それで問題はないのかということがやや気になります。現在の判例は,悪意の主張・立証をせよと言っているわけではなくて,転得者側が自分が善意であることを主張・立証する責任を負うという構造になっています。これは,信頼保護の観点から基礎付けをしていて,それはそれでよく理解できるのですが,今おっしゃっているように悪意を債権者側から主張・立証させるのは,この考え方を転換することになります。なぜ,そうなのかというと,取引の安全なのかもしれませんが,そのような問題のほか,私が先ほどから聞こうとしていた転得の経路まで主張・立証する責任を課すのかという問題が生じてくるように思いましたので,少し確認したかったということです。すみません。少し細かくなりました。 ○松本委員 今のやり取りが余り理解できなかったんですけれども,詐害行為取消権は取消権か,請求権か,それらを合わせたものかという古典的な議論がありました。折衷説というのが今の判例だとされていて,取り消した上で返還請求ができるんだということだったのではないですか。そうすると,それは詐害行為取消権の行使の効果としての請求権であって,所有権が戻ってきて,別途,物権的請求権でという議論だったですか。そうだとすると,今のような経路がつながっていなければ,取りあえず,取り消して,それで所有権がどこかに戻ってきて,所有権を行使してという説明になるのでしょうが,詐害行為取消権というのは両方の権利が固有に含まれているんだという話であれば,今の説明は変わってこないですか。 ○鎌田部会長 不動産の例でいうと,不動産を自分のところに持ってこいという,ここまでは認めていないので,不動産については明渡しを取消債権者がやろうと思ったら,債権者代位権を使わざるを得ないんだと思います。 ○潮見幹事 話を蒸し返すのかもしれませんが,被告となる者が転得者であると性質決定される場合には,松本委員がおっしゃったような形で別途,返還請求などということを代位構成を採らなくてもできるというのが従来の考え方であるということは,部会長がおっしゃったとおりだと思います。今,山本敬三幹事がおっしゃった問題は二つあって,一つは,転得者を証明するためには途中にいる人の経路を全部証明しなければいけないのかという問題です。この問題は,今まで表立って議論はされていませんけれども,現行法の下でもあるはずです。このこと自体は今回の事務局提案のような規定を置くかどうかとは関係なく,ここで議論しなければいけないことではなかろうかと思います。   その上で,もう一つは,仮にある者を転得者として相手とする場合に,転得の経路を全て立証しなければいけないという前提に立ったとき,悪意・善意の主張立証責任を,事務局提案のような形で転換するというのが好ましいかどうかという問題があるはずです。前者の問題を踏まえて,悪意・善意の立証責任を議論しなければいけないという趣旨も,山本敬三幹事の発言の中には入っていたのではないかと感じました。 ○鎌田部会長 問題点の整理は,今の潮見幹事の御指摘のとおりだと思います。 ○松本委員 私が質問した趣旨は,受益者と転得者の間に何の関係もない,不法占拠だという場合に,転得者を相手に詐害行為取消訴訟が起こせるのかという話なんです。 ○鎌田部会長 起こせないですね。 ○松本委員 起こせないですよね。そうすると,今の山本敬三幹事の議論は何のことか,分からなくなってくるんです。つまり,受益者を相手に詐害行為取消訴訟を起こして,それで確定した後で,もう一度,転得者のような顔をした不法占拠者を相手に代位訴訟を起こすと。それなら十分よく分かるわけですが,いきなり,現在占有している人を相手に詐害行為取消訴訟なるものを起こせるとすれば,それは転得者であるということが前提要件になっているから,やはり原告の側で転得の事実を言わないと駄目だという話にならないですか。 ○金関係官 後半の部分は先ほどその趣旨で申しました。 ○鎌田部会長 転得者に対する詐害行為取消権の要件の部分については,特に悪意の証明責任の部分をどう取り扱うかということが実質的に一番重要なポイントになろうかと思います。部会資料の案では取消債権者側で悪意を立証して,一定の場合に悪意の推定によって証明責任が転換されていくという,こういう構造になっているけれども,山本敬三幹事の御主張はむしろ転得者の側で善意を証明するとしたほうがいいという,そういう……。 ○山本(敬)幹事 もう一度,よろしいでしょうか。先ほどのやり取りで明らかにしたかったことですけれども,相手方がどのような者か分からない場合には,先ほども言いましたように,債権者取消権で取り消しを行い,かつ,債務者が取得する物権的請求権を別途,代位行使して返還請求をしていくことになる。そこで,相手方が自分は転得者である。転得の経路を含めませんと,自分は転得者であると言えませんので,そこまで含めて自分が転得者であることが明らかになれば,理由付けはともかくとして,この物権的請求権の代位行使は認められないことになるのでしょう。   この理由付けをどうするかは問題として置いておきますが,ともかく,これで転得の経路が明らかになるので,別途,詐害行為取消訴訟という形で,転得者に対して,取消しプラス返還請求をしていくことが分かりました。この場合は,転得の経路については,そのような形で相手方のほうが明らかにした結果をそのまま使うことができるので,実際には問題はないのかもしれない。ただ,いずれにしても,86ページ以下の提案によると,その経路が明らかになれば,全ての者の悪意を債権者側が主張・立証しないと,返還請求は認められない。そこまでする理由は何かというと,取引の安全という理由が挙げられているけれども,本当にそれでよいのかということが問題であるということが明らかになったと思います。 ○松本委員 今の説明の最初の部分が私は分からないと,先ほどから言っていることです。つまり,誰か,占有している人を相手に詐害行為取消訴訟を起こせるのかという話です。転得していないのに起こせるんですかという話。山本敬三幹事は起こせるということを……。 ○山本(敬)幹事 そのようなことは言っていません。 ○松本委員 言っていないですか。 ○鎌田部会長 だから,先ほど申し上げた不動産を例にとれば,現在占有している人の占有権原が明らかでなければ,債務者・受益者間の詐害行為を取り消すことによって,債務者に所有権が戻ってきますので,戻ってきたとして,その所有権に基づいて不法占拠者に明渡請求,これは代位請求をすればいい。そうすると,それに対して現在の占有者が,私は単なる不法占有者ではなくて転得した正権原に基づく占有なんですという主張をする。そうすると,それによって転得者,現在の占有者に至る権限の連続がむしろ事実上,そっちのほうの主張で出てきてしまうわけですよね。   そのときに,元の受益者との詐害行為が取り消されると,言わば絶対的に取り消されているとなると,現在の占有者も無権原になるのではないですか。それが相対的に取り消されたような関係になって,転得者自身を被告にした詐害行為取消訴訟をしない限りは,彼の正権原は消滅したことにならないということなのかどうかという問題がある。それは詐害行為取消権の効果は何なのかという問題であって,ここは要件しかやっていないわけですから,効果の部分でそれをどう考えるのかという問題が出てきて,その考え方次第では,今の転得者との訴訟の,取消し自体よりも,明渡請求の請求原因が変わるんですかね。明渡請求をする場合に,どういう手続を踏んでいくべきかが変わってきますという,そういう御指摘だと思う。 ○松本委員 詐害行為取消訴訟の構造の話だと思うので,多分,私がきちんと理解できていないのだろうと思うんですが,424条の構造でいけば,訴訟外での取消権の行使というのは,想定していないですね。そうすると,それは何か,現在占有している人を相手に,所有権に基づく返還請求権の前提として,誰かと誰かの間の詐害行為を取り消すという訴訟でもいいんですかという疑問なんです。つまり,詐害行為取消権としての取消しプラス返還請求を取り消される契約行為の当事者ではない転得者を相手にもやれると。そこはよく分かるんですが。 ○鎌田部会長 できません……。 ○松本委員 だって,転得者相手に詐害行為取消訴訟を起こせるわけでしょう。 ○鎌田部会長 転得者ならです。 ○松本委員 だから,転得者なら。転得者でない人を相手に所有権に基づく返還請求訴訟を起こすか,あるいは債権者代位で起こすということの前提として,債務者と受益者の間の契約行為を訴訟で取り消すと。 ○松岡委員 転得者がいるかどうか訴訟をおこす際には必ずしも分からない。 ○松本委員 分からないのに,そうするとできるのかという,そこの構造論なんです。 ○鎌田部会長 分からない,質問の趣旨が。 ○高須幹事 ますます議論を混迷させてしまうかもしれなくて申しわけないんですが,今の例で不動産を例に取って,受益者に対する詐害行為取消訴訟を提起するという問題があって,そこに不法占拠者がいたら,明渡請求を代位行使でするんだという御趣旨のところなんですが,一般債権者が詐害行為取消訴訟を提起したときに,そこに不法占拠者がいたとして,なぜ,別途,代位権行使をしなければならないのか,明渡請求をしなければならないのか,あるいはできるのか,それがそもそも分からないんですが。強制執行するという前提であれば,要するに登記があったその人の登記を戻せばいいだけのことではないかと思うんですが。 ○松本委員 受益者を相手に訴訟もやって,かつ,現在の占有者を相手に訴訟もやるというのなら,大変,私はよく分かるんです。だけれども,受益者は訴訟の相手にはしないで,現在の占有者を相手に債務者・受益者間の詐害行為を取り消して,そして,所有権の代位行使か何かで請求するという。 ○鎌田部会長 そんなことは誰も言っていない。 ○松本委員 山本敬三幹事がそうおっしゃったように理解したんですが,違うんですか。 ○鎌田部会長 どんな場合にそれをするのか。例えば不動産を強制執行しようと思ったけれども,その上に第三者所有の建物が建っていて,その建物を撤去しないと高く売れませんというような場合があり得るとすれば,建物収去土地明渡しを請求しないと高く売れないというような状況を想定したときに,AからBに不動産が贈与されていて,建物所有者はCですが,Cの権限は全く分かりませんというときに,その建物の除却を請求しようと思ったら,まず,Bを被告にして,A・B間の贈与契約を取り消して,Aのところに所有権を戻してくる,登記も戻してきて,これは強制執行の準備であるわけですけれども,同時にAの持っている所有権に基づいて不法に建築された建物の除却をCに請求して,きれいな土地にして売りましょうと,こういうことだという話だと思います。   そのときに,Cが私は不法占拠者ではなくて転得者なんですという主張をしてくると,その転得者との関係でも彼の所有権を消さなければいけない。この消す方法はどうなのかというのは,詐害行為取消権を行使してA・B間の詐害行為を取り消した効果がCに及ぶのか,あるいはCに及ぼすためにはCを被告とした詐害行為取消訴訟をもう一回,提起しなければいけないのかという,そういう問題になるんだと。 ○松本委員 それなら十分によく分かるんですが,どうも最初の債務者・受益者間の詐害行為取消訴訟が,確定しているという情報がはっきりしなかったものですからうまく理解できなかったわけです。それなら結構です。 ○道垣内幹事 小さい話,二点だけなんですが,アでは転得者が複数存在する場合には全ての転得者ですね。そのとき,イで推定されるのは全員の悪意ですか,というのが第一点です。第二点は,87ページのウで無償行為による転得のときに,(ア)として不要とする案と書いてあるのですが,それと72ページの無償行為で甲案と乙案があることとの関係というのがよく分からなかったのです。いずれもそれほど難しい話ではないと思うので,お教えいただければと思います。 ○金関係官 一点目につきましては,転々譲渡がされているとして,その転得者のうちの一人が内部者であれば,その内部者である転得者についてのみ悪意を推定するという趣旨です。 ○道垣内幹事 それぞれについて考えるわけですね。少し分かりにくいかもしれませんね。 ○金関係官 二点目につきましては,転得の問題であるため72ページの甲案のような規律になじまないということかもしれません。ここでも,先ほどの内部者の場合と同じで,転々譲渡がされているとして,その転得行為のうちの一つが無償行為であれば,その無償行為による転得者の悪意についてのみ主張立証が不要となるという趣旨です。 ○道垣内幹事 先ほどと同じ感想ですが,少し書き方がわかりにくいかもしれません。 ○金関係官 すみません。改善いたします。 ○鎌田部会長 氷解しましたか。 ○鹿野幹事 私も86ページの一番下の文章についてお伺いしたいと思います。転得者が当該転得の当時,債権者を害すべき事実を知っていたことを要するとされ,しかも,括弧の中には,その前に現れた全ての転得者と記載されているのですが,これは恐らく効果と関係する問題のように思います。効果として,いわゆる絶対的取消しのような効果を持つ詐害行為取消権を新たに設けるということであれば,それは取引の安全に影響を及ぼし得ることになるので,それを害しないために,これらの前者全てについて主観的要件が必要だとされているものと理解してよいでしょうか。ですから,仮にその効果が違うものであるとすると,この要件についても,もちろん違った考え方があり得ると捉えてよろしいでしょうか。 ○金関係官 転得者の前者に対する一種の担保責任の追及という議論が後ほど出てきますので,その意味では御指摘の点を前提としてよいように思います。 ○鎌田部会長 要件の提案ではあるけれども,効果に係る提案も実は含んでいるということになると思います。 ○沖野幹事 道垣内幹事が御指摘になった点に関して,確認したいと思います。無償行為による転得の場合の規律について,先ほど無償行為一般について丙案ということで特別な規律は設けない考え方が出されました。一般則によるとなりますと,債務者と受益者のいずれについても主観的要件を要求され,したがって,無償行為の場合にも受益者の悪意は当然,必要であるけれども,ただ,解釈として悪意の内容がどのくらいかというのは余地があり,いずれにせよ,解釈によって展開されてくることだろうという立場ということになると思いますが,それを採った場合に,転得者について無償行為による転得の場合に要件を緩和するということは,それと独立に出てくるのかといえば,独立には出ないのではないかと考えました。もし,この理解でよろしいようならば,無償行為についての取扱いの帰すうを踏まえつつ,ウについては考えていく必要があるのではないだろうかと思います。そして,道垣内幹事の二点目の御指摘は,むしろ,そちらだったのかという気もいたしましたけれども,その点を申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 そこは,そういうことでよろしいですね。 ○金関係官 はい。 ○山本(敬)幹事 先ほどお聞きしたことの理由をもう一度,確認だけさせていただきたいのですが,転得者の善意が要件であるという考え方を採用する場合には,転得の経路があって,複数の介在者がいるときに,前主の一人でも善意であれば,それによって法律関係は確定させる。そのような考え方につながっていくのはよく分かるのですが,転得者が悪意であって初めて取り消すことができる,ないしは取消しの効果を主張することができるという考え方を採る場合には,その転得者が悪意であれば,知っているわけですので,取消しの効果を主張できるとしてもおかしくないように思えるわけです。しかし,転得の経路を全て明らかにし,しかも,転得者全員についての悪意を主張・立証しなければならないというのは,一体,どのような理由に基づくのかというのがまだ分かりかねるところがありまして,改めてお聞かせいただければと思います。 ○金関係官 理由としましては,取引安全の観点から善意者が一人もいない場合に限り詐害行為取消権の行使を認めるという考え方でありまして,あとは主張立証責任の分配の問題にすぎないと理解しております。 ○中井委員 山本敬三幹事の疑問についてですけれども,ここの転得者に対する詐害行為取消権の要件についての考え方の摘示も,倒産法の規律に合わせたらどうなるかという考えが先にあって,理由は後付けで御提案されているのではないかと推測するんです。むしろ,詐害行為取消権については転得者が転々と出てきた場合,その間に善意の者があっても,最終転得者が悪意であれば,詐害行為取消しが行使できると,この資料の中にある判例があるにもかかわらず,先般の倒産法の改正では,転得者に対して否認権行使するときに複数の前主がいる場合,その全てについて否認の要件が充足していること,かつ被告とされる転得者がそのことを知っていること,悪意の二重の問題も含めて,それを要件とした,こういう法改正が行われた,恐らくそれを前提に発想されているので,山本敬三幹事の質問は前の法制審の倒産法部会に対して,まずは質問していただくのが適当ではないのかという印象を受けました。   その上で,倒産法がそうなったことについて,弁護士会としては今回の提案にそれほど違和感がなくて,前主も悪意であることを要するという,この御提案については,反対する弁護士会もありましたけれども,ほぼ異論がありませんでした。他方で,この資料の中で御指摘を受けている二重の悪意については,倒産法の規律は重た過ぎるのではないか。したがって,前主の悪意までは知らなくてもよいということで,この提案に賛成していいのではないか。とすれば,倒産法における規律も改正すべきではないかという意見の弁護士会が多くなっておりました。   それから,ウの無償行為による転得について先ほど沖野幹事から御意見があって,金関係官からそのとおりと答えられた点については果たしてそうなのか。確認ですけれども,沖野幹事は先ほどの無償行為,72ページのほうに甲案,乙案ではなくて弁護士会の提案した丙案,つまり,特段の規定を置かないとした場合,ここのウについてもそれに関連して修正になるのではないか,転得者の主観を問わずではなくなるのではないかという御趣旨と承ったのですが,果たしてそうなのか。それは別に考えることができるのではないと私は思っています。   つまり,ここでは先ほどのA,B,Cということでいうならば,A・B間で贈与があって,そのことについて詐害行為取消権の要件が充足された,その後,Bから無償で受けたC,Dの話だろうと思います。そのときは既に詐害行為としては成立しているわけですから,その後,C,Dが善意で受けたとしても,その転得者については現存利益の範囲内で返せという理屈は,先ほどの72ページのところで原則丙案をとってもあり得る結論ではないかと思うのです。だから,論理的には結び付かないのではないか。   逆に言えば,無償行為の72ページのところで甲案,6か月前うんぬんの規定を入れたとしても,この転得者の場面では6か月前であろうが,8か月前であろうが,詐害行為が成立していれば,当然,この転得者に対しても詐害行為取消権の主張ができるはずだと理解しておりますので,直ちに72ページの議論とは連関しないのではないかと思います。 ○松岡委員 その点については,私も実は同じことを感じております。無償行為の場合には有償行為とは違って,相対的に取引の安全に配慮するべき度合いは低いので,どちらにしても主観的要件は余り重視しないでよいという形で,連動させることはあり得ますが,中井委員が指摘されたようにかなり違うところもあります。特に先ほどの72ページの無償行為の場合をどうするか議論になっていたのは,保証人が無償で保証人になった場合,それを善意・悪意に関係なく常に詐害行為とできるのかです。そこでは保証が無償行為に入るかが重要な論点で,分科会でもそれも検討課題として提示されました。しかし,今問題にしている転得者の場合には,保証は登場しないと思いますので,異質な面があることを認識しておいたほうがいいと思います。 ○鎌田部会長 Bが物上保証人になって,Cのために抵当権を設定するというのは無償行為ですか。Aが債務者,Bが受益者,これは詐害行為です。BはCのために物上保証人として無償で抵当権を設定してあげました。この場合のC銀行は善意であっても権利を喪失する。 ○松岡委員 そうすると同じことになりますかね。 ○鎌田部会長 そういう場面もありそうな感じがするので,そこは無償行為の取扱いをどうするかということと連動して,こちらにどのような影響が論理的にあるとか,あるいは実務的にどう取り扱うのが一番適切なのかということは,少し検討をさせていただければと思います。無償行為の取扱いについて格段の規定を設けないというのは,また,今日,新しく出てきた提案ですから,それの影響がこういうところにどう出てくるかは,事務当局でも詰めて検討しておりませんので,補足的に検討させていただければと思いますが,よろしいでしょうか。   それで,転得者の取扱いについては御指摘がありましたように,現行破産法との整合性というのが一つ,部会資料の前提として存在しているので,そこの部分から根本的にもうちょっと違う規律を考え直したほうがいいというふうな御提案があれば,それについてまた検討はせざるを得ないと思いますが。 ○山本(和)幹事 破産法の立法過程について確認ですけれども,私の理解では中間試案の段階だったと思いますけれども,では,この原案と同じような提案がなされていて,それに対するパブリックコメントも好意的なパブリックコメントが多かったんだと思うんですが,最後の最後,効果のところで,ここで原案で提案されているような効果の規律がなかなか,その時点では詐害行為取消権との関係もあって,うまく仕組めなかったということで最終的に断念して,二重の悪意もそのままに残したと,そういう経緯だったと思いますので,ですから,倒産法部会でも善意者が間に挟まった場合にどうかという問題は検討して,一応,原案のような形になっていって,ただ,今のような状況で問題は先送りされたというのが私の立法経緯での理解です。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。また,お気づきの点,あるいはもっと抜本的に,これは破産法にも連動しますけれども,こうしたほうがよりよいというふうな御提案があれば,また,ペーパーで出していただければと思います。   少し遅くなりましたけれども,ここで,一旦,休憩とさせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開いたします。   続きまして,「3 詐害行為取消権の基本的効果」のうち,「(1)直接の引渡しの可否及び効果」から「(3)詐害行為取消しの範囲」までについて御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「3 詐害行為取消権の基本的効果」の「(1)直接の引渡しの可否及び効果」の「ア 直接の引渡しの可否」では,受益者又は転得者が詐害行為の目的物である金銭その他の動産を返還すべき場合において,取消債権者はその目的物を自己へ直接引き渡すよう請求することができるとすることを提案しています。   「イ 直接の引渡しの効果」では,受益者又は転得者が詐害行為の目的物を取消債権者へ直接引き渡したことの効果として,受益者又は転得者の返還又は償還義務が全ての取消債権者及び債務者との関係で消滅するものとすることを提案しています。   「(2)事実上の優先弁済の可否(相殺の可否)」では,取消債権者が詐害行為の目的物である金銭を受益者又は転得者から直接受領したことを前提として,取消債権者がその金銭の債務者への返還債務と債務者に対する被保全債権との相殺をすることを禁止することを提案しています。   「(3)詐害行為取消しの範囲」では,被保全債権の額が詐害行為の目的物の価額に満たず,かつ,その目的物が可分である場合には,取消債権者は被保全債権の額の範囲でのみ詐害行為を取り消すことができるとする考え方を取り上げています。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いいたします。 ○安永委員 (1)の直接の引渡しを求めることができるという点には賛成いたしますが,(2)の相殺の禁止という提案には強く反対いたします。これまで相殺により労働者が労働債権を直接回収し,優先弁済を受けられたことが労働債権の保護という点で非常に重要な役割を果たしていることは,債権者代位権のところで申し上げたとおりです。これが仮に認められないと,詐害行為取消権を行使しなかった別の債権者がこの財産から配当を受けて横取りすることが可能となり,労働債権の保護水準は大きく後退します。したがって,相殺の禁止には反対いたします。 ○鎌田部会長 分かりました。他に御意見はいかがでしょうか。 ○岡委員 まず,優先弁済の可否のほうから入りたいと思いますが,弁護士会は現在,真四つに完全に意見が分かれております。直接給付自体を認めない,そこまで徹底した意見も有力に中井さんの出身母体から提案をされております。それから,直接給付は認めるけれども,相殺は禁止すると,現在の部会資料の案に賛成するところもじわじわ多くなってきております。第三番目に,昔の検討委員会の案である待機期間後,相殺を認める。この意見もまだまだ有力でございます。最後に,相殺自体を広く認める,認めてほしい,従来どおりでよいという意見も東京弁護士会等,大単位会でございます。したがって,四つの意見が相拮抗して,それぞれに理由があるというのが現状でございます。 ○鹿野幹事 まず,事実上の優先弁済についてですけれども,これにつき前のラウンドにおいて私は,いわゆる平等主義と優先主義の考え方があり,法制度としても両方ともあり得るので,日本の民法を考える場合にも平等主義に決まっているというわけではなくて,優先主義という考え方を採ることもあり得るのではないかという趣旨のことを申し上げました。個人的にはなおそう思っているのですが,余り議論を拡散させるということは好みませんので,ここでは,仮に平等主義を徹底する方向でこれを考えてみるとすれば,という話をしたいと思います。その場合には,全ての債権者の利益のために詐害行為取消権を行使して責任財産を保全するという考え方が前提となるわけですから,97ページの詐害行為の取消しの範囲につき,被保全債権の額の範囲でのみ取り消すことができるというような限定を設けることは,この基本的な考え方と矛盾し適切ではないように思います。 ○岡本委員 詐害行為取消権については,行使が現実になされ得るということによって,債務者の詐害行為に対しての一定の牽制効果が発揮されているということがあるのではないかと思いますけれども,相殺を禁止することによりまして,取消権者のインセンティブが薄まるということになってしまいますと,詐害行為取消権は現実には行使されにくいということになりまして,そうした牽制効果が薄れてしまうというふうな問題があるのではないかと思います。債務者の取消債権者に対する金銭の返還債権,これに差押えがされるケースがどれだけあるかということですけれども,それがそれほど多くはならないということだといたしますと,相殺を禁止することは取消債権者にコストを負担させるだけの結果になるということも考えられまして,そういう意味では従来どおり,相殺を認めるということでよいのではないかと考えます。   ただ,一方では,取消権の対象範囲と効果の強さ,これはある程度,相関的に捉える必要があるのかなと思っておりまして,詐害行為取消権の対象の範囲が相当程度,広くなる場合にはインセンティブが働き過ぎるといったことも,逆に問題になってくることがあるのではないかと思います。逆に申し上げますと,取消権の対象範囲につきましては,先ほど申し上げたように無償行為の取消しの6か月の遡求であるとか,あるいは非義務偏頗行為の取消しの30日の遡求,これを行わないこととしまして,場合によっては偏頗行為については取消しの対象は非義務偏頗行為に限るですとか,あるいは,そもそも偏頗行為は取消しの対象としないという考え方もありますけれども,そういった入口のところでの限定をした上で,事実上の優先弁済の制度は残すということがよいのではないかという意見がございました。 ○能見委員 実務を知らない分野について,単に理論的な観点だけからお話ししますので,その内容が適切かどうか分かりませんけれども,取消債権者に対する直接引渡しについて,判例は金銭と動産について認めると言われているかと思いますが,仮に直接引渡しを認めるとしても,取消債権者に事実上の優先弁済まで認めることについては疑問を持っています。   もっとも,事実上の優先弁済は取消債権者の債務者に対する債権と取消債権者が直接引渡を受けた金銭の債務者への返還債務を相殺することで認められると考えられていますが,動産の場合には相殺というわけにもいかないので,そこで本当はこの議論は動産の場合には行き詰まってしまうと思いますけれども,私としては,金銭についても動産についても,取消債権者が直接引渡を受けたものは,総債権者のための責任財産保全という目的を持った信託財産と考えて,取消債権者が直接引渡しを受けるけれども,優先弁済を制限するのがよいのではないかと考えています。信託的な発想をここに持ち込むことができるといいのではないかということをかねがね思っているんですが,これが実務的に機能するのかどうかというところはよく分かりません。単に理論的な観点からの意見です。 ○沖野幹事 事実上の優先弁済と相殺の点につきまして,前回,債権者代位権について申し上げ,今回,ペーパーを出させていただいた点をここでも考えてはどうかと思っております。なお,高須幹事と両名になっておりますけれども,高須幹事はもちろん詐害行為取消権については全く別のお考えをお持ちですので,沖野としてはということで申し上げました。   二点目は,詐害行為取消しの範囲ですけれども,可分である場合に,被保全債権の額の範囲でのみ取り消すという規律は,現在の事実上の優先弁済と言われる規律と,かなりリンクしているのではないかと思われます。ですので,これを否定し,全て強制執行によるということになりますと,この限定は狭過ぎるのではないかと思われます。一つは,執行のための費用さえ出ないということになりかねませんし,もう一つには,仮に偏頗行為を取り消したということになりますと,相手方である受益者の債権分は当然,その後,権利行使が想定されるということになりますので,自己の取消しの被保全債権の範囲のみで取り消すということで,十分なのかという問題が出てくると思います。   もう一つは,例えば廉価売却であったような場合に,複数の不動産がまとめて廉価売却されたというような場合を考えてみますと,その際の受益者の反対給付の取扱いという問題が資料の106ページ以下で扱われております。そのときには反対給付について当然返還請求ができるといいますか,反対給付の分について特別の手当てとして,更に先取特権が付与されるという規律も想定されています。そうしますと,場合によっては先取特権付きで財産が戻ってくるということになるわけですので,そうすると,被保全債権の範囲のみで取り消すということになると,一部の不動産だけがしかし先取特権付きで戻るという場合そこでも足りないということが出てき得ると思われます。そういうことを考えますと,効果との関係で考える必要があるということなんですけれども,現在の組合せには問題があるのではないかと思います。 ○中井委員 弁護士会の意見につきましては,先ほど岡委員から四つに分かれているという報告がありましたので,ここでは大阪弁護士会の意見と私の意見を述べさせていただきたいと思います。最近,自分の人格がどこにあるのかと,悩まなければいけないんですけれども,できるだけ区別してお話しさせていただければと思っています。   先ほど岡委員の説明のあった四つの考え方があるとすれば,私としては直接給付を認めながら相殺を禁止する,若しくは一定期間,禁止して,その後の相殺を認めるという,この二つの考え方には賛成できません。したがって,大阪弁護士会の考えている,全て受益者若しくは相手方から債務者へ返還をするという考え方,若しくはそれを原則としながらも,直接給付を認めて,かつ相殺も認める,この二つの考え方のいずれかで整理するのがいいのではないかと思っています。   まず,直接給付を認めながら相殺を禁止するという考え方については,理論的には御指摘の点について反論するつもりはございませんが,ここの検討資料にも書いておりますように,一旦,直接受領を認めながら相殺を禁止しても,結局は債務者に対する債務名義をもって直ちに強制執行ができるわけで,そこの時間というのはある意味でごく僅かです。確かに理論的には債務名義をもってするのが筋であり,かつ,他の債権者が配当加入できるという建前については理解できますけれども,現実が伴わないのではないか,むしろ,コストだけが掛かる,それが先ほどから安永委員若しくは岡本委員がおっしゃられたことではないか,そうだとすれば,直接給付を認めるのであれば,相殺を認めて構わないのではないか。詐害行為取消権の場合は,債権者代位権と違って,全て訴訟で行われますし,基本的には債務者に対して債務名義も取得できる状況にあるわけですから,なお,更なる手続を求める実益という点で疑問に思っております。   ただ,その考え方に御批判があることは十分承知しておりますので,仮にそれが否定されたときに採るとすれば,大阪弁護士会の提案のほうがよほどすっきりするのではないか。つまり,資料でいうなら本文アの別案になるわけですが,これは実質,大阪案と同じと理解をしております。つまり,直接の引渡しを否定する考え方です。資料の中では,直接引渡しを否定する考え方,つまり別案と,直接引渡しを肯定した上で相殺を禁止するという考え方の優劣について検討が加えられていて,微妙であるという表現がなされているわけですけれども,ここでのくだりのところが果たしてそうなのか。   直接引渡請求を認める場合,任意の引渡しを,受益者,つまり,相手方が債権者にした場合については,その後,強制執行で解消する。任意に引渡しをしない場合は,債務者から受益者に対する返還請求権なりを差し押さえて強制執行していく。そういう二つの選択肢を持つことに何らかのメリットがあるのではないか,プラスアルファの選択肢があっていいのではないかという御指摘ですけれども,そうなのか。   大阪案のように,つまり別案のように,債務者の受益者に対する返還請求権に対して,取消債権者は直ちに差押えをして強制執行していくことによって,受益者から回収できるわけです。そのとき,受益者が任意に払うのであれば差押えをした後に受け取ればよい。それで終わる。任意に払わないときは差押えから強制執行に移る。同じような選択は,任意であれ,強制であれ,できるわけですから,なぜ,わざわざ取消債権者の下に金銭を戻さなければならないのかということについて,それほど合理性があるとは思えないと思っております。   加えて,資料の92ページで述べられているようなことを考えるとすると,この取消判決をどうイメージをされているのかですけれども,受益者から取消債権者に対して取消債権者の被保全債権額の給付を命じる判決とともに,受益者から債務者に対して同額の給付を命ずる判決,この二つを一つの判決の中で得て,その選択ができるという趣旨まで含んでいるのか,この辺りは質問でもあるわけですけれども,よく分かりません。そういう判決まで認めるなら,別案の債務者から受益者に対する請求権を差し押さえていくだけでいいのではないかと考えるわけです。   私自身は,直接給付を認めて相殺を認める案になお魅力を感じております。多くの事件は,不動産と金銭,この二つがほとんどで,動産とか債権とか,理念的にはあり得ますけれども,実例としては少ないだろうと思います。不動産については,基本的には債務者に戻って,債務者のもとで強制執行が行われるわけですから,そこで事は足りる。金銭は,全て債務者の受益者に対する強制執行でいくという別案,大阪案がいいのか,直接,取消債権者が強制執行で回収して,相殺して終わりとするのがいいのか。その差だけではないかと思うわけです。   更に,直接請求を認める場合に考えておかなければならないのは,一番の弱点かもしれませんけれども,私の立場は偏頗弁済についても詐害行為取消権を認めますので,そうだとすると,第一の債権回収をした者と,後から取消債権者が行った債権回収についての調整をどのような形で行うのか。ここは現在の判例の修正が必要ではないかと思っています。修正の仕方の一つとしては,この偏頗行為について先ほど議論した甲案を採るか,乙案を採るかで変わってくるわけですけれども,甲案を採ったときには一定の悪質なものに対する偏頗行為についての取消し,典型例は内部者に対する取消し,秘密裏に情報を得た者だけが取得した偏頗行為に対する取消しを想定しているとすれば,そのような受益者は保護するに足りないとすれば,従来の判例の考え方で第一の者が負けて,第二の者が勝ってもいいではないかという結論もあり得ると思います。   しかし,それが行き過ぎであるとすれば,第一の回収した者と第二の回収した者が何らかの形で債権按分的な回収ができる。この工夫はそれほど困難ではないと思いますので,そういう解決もあり得るのではないか。その辺が解決すれば,事実上の優先弁済を認めた現制度を残しておく意義はなお残ると思います。今日は,複数のユーザー委員から直接給付を認めた上で相殺という点に賛成だという御発言があったので,意を強くした次第です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。他の御意見は。 ○山野目幹事 3(1)の論点につきまして,岡委員が四つに分かれているとおっしゃったうちの,大阪弁護士会から文書でお出しいただいている提案の全体的基調に魅力を感ずるという意見を申し上げておきます。言い換えますと,中井委員が今,意を強くしたほうの意見ではなくて,中井委員がその前におっしゃった大阪弁護士会の御意見のほうが魅力があると感じます。繰り返しになりますからくどくど申し上げませんけれども,事実上の優先弁済を否定する見地から,債務者に返還するという規律を基調にすべきであるというおっしゃったとおりの特徴がこの提案にあると感じます。  併せて,中井委員のほうから若干言及があって,必ずしも強調しておっしゃっていなかったのですが,大阪弁護士会の案のもう一つの見逃してはいけない特徴として,詐害行為取消請求訴訟に言わば接合する仕方で,取立てを内容とする訴訟を提起したときには,それを民事執行手続が受け止める架橋のための工夫をしようという提案を伴っておられるところも,魅力として忘れていけないことではないかと感じます。そのことを申し上げますのは,高須幹事から御提案いただいている提案の内容は,入口が大分,発想が違うように見えますけれども,今のように取立てを内容とする訴訟を接合しようということを考えていくのであれば,実質的に狙っているところは,かなり接近してくるのではないかと認識するところもあるものですから,その点も申し添えさせていただきたいと考えます。 ○中井委員 今の関係で,後半におっしゃられたことは後ほどの議論で,大阪弁護士会有志の意見を御紹介したいと思いますけれども,そこは大変工夫をしたところで,自信を持っているところでもあります。これは大阪弁護士会としての意見です。 ○高須幹事 議論を伺っておりまして,まず,今の議論のフィールドが直接の給付を認めるかどうか,それから,事実上の優先弁済を認めるか,つまり,相殺を認めるかどうか,更にその上で取消しの範囲をどこまでのものにするのか。この三つが実は関連しているんだということを思っておりまして,そういう意味で,全て関連してここで議論をすることが許されておるというのは大事なことだろうとまず思っております。   その上で,今,皆様方から議論が出ているのを伺っていると,やはりいろいろな意味で一長一短があって,なかなか,ここの議論は難しいんだな,事実上の優先弁済を認めるという考え方にもそれなりの合理性はあるとは思っておりますが,本来は詐害行為取消権は,責任財産の保全をして強制執行の準備段階であるという最も本来の部分に関して個別の債権回収を認めてしまう,強制執行とは全く別のレールの下で完結してしまうということについての是非ということに対しての抵抗感も,あるのではないかということを思いました。   一方で,取消しの範囲について全体に認めるとか,認めないとかいうのも両方あって,全体まで認めてしまうとインセンティブが強くなり過ぎるという議論もございましたし,他方では,事実上の優先弁済との絡みではあるんですけれども,それをすると逆のこともあり得るのではないかというような御指摘もあって,結局,いろいろな要素を考慮しなければならず,なかなかこの三つの論点を組み合わせる一番いい答えが見付かりにくいというふうな思いを,今日の議論を伺っても思っております。   その中では,今,山野目先生の御指摘にもつながるわけでございますけれども,大阪弁護士会が提案している,そもそも直接の給付を認めるということを考え直してはどうかと。むしろ,債務者のところへ戻すという前提に立った上で,この論点に関しては常に戻すといっても,受け取らない場合はどうするんですかという議論が付きまとっていたわけですが,そこは強制執行秩序に委ねたらどうなんですかという,その考え方というのは一つの解決策として,私も魅力があるのではないかと,そのように思っております。そういう意味で,そのような考え方は一つ傾聴に値すべき議論ではないかな,強制執行との接合というのは,とても大事なことではないかと改めて思った次第でございます。   ここから先は御了解が得られるとは思いませんけれども,そこまで言うなら取消債権者に対しての引渡しを認めないということでいうなら,直接債務者に対する引渡しだって認めないで,受益者の下での強制執行ということを委ねてもいいのではないかということで,責任説というのも一つの考え方ではないか。もちろん,まずもって,そうではないところからの検討をしておりますから,ここで何も声高にそのことを御主張するつもりはないんですけれども,そういうことも決して不合理な考え方ではないのだろうと,このように思っておる次第でございます。 ○山本(和)幹事 94ページの(2)ですが,優先弁済の可否,私自身は定見はないんですが,資料に書かれてあることでよく分からなかったのは,被保全債権との相殺を禁止するということなんですけれども,被保全債権に限定する必要があるのかどうかということです。つまり,債権者が詐害行為後に取得したような債権を持っているという場合に,現在の提案では被保全債権にはならないと考えられるんですが,そうすると,これだと相殺できるということになりそうですけれども,それは余り認める必要は,ここに書かれてある政策判断からすればないのではないかと思います。そうだとすれば,債務者に対する債権を受領債権とする相殺については,全面的に禁止するということでいいのではないかという印象を持ちました。 ○金関係官 先ほど中井委員から御紹介いただきました大阪弁護士会の御提案についてですけれども,債権者代位権のところでは大阪弁護士会は代位債権者の第三債務者に対する直接の引渡請求を認めていて,その理由の一つとして,代位債権者が第三債務者の手元にある財産を自分の手元に持ってくることは責任財産保全の観点から有用性が高いという点を挙げていたように思いますが,詐害行為取消権の場合にその責任財産保全の観点に着目しないのはなぜなのか,少し疑問を持ちました。詐害行為取消判決の確定直後に受益者の下へ赴いて,現金などの詐害行為の目的物を取消債権者の手元に持ってくることは責任財産保全の観点から有用性が高いとは言えないのか,債権者代位権の場合と詐害行為取消権の場合とで異なる理由はどこにあるのか,という疑問です。   もう一点,先ほどの沖野幹事の御指摘についてですけれども,偏頗弁済に対する詐害行為取消しについては,弁済を取り消された受益者がその後の強制執行手続に入ってくるはずなので,取消しの範囲を被保全債権の額の範囲に限るのは相当でないという御趣旨だったと思いますが,それはつまり,債権者代位権の場合と詐害行為取消権の場合とを比較すれば詐害行為取消権の場合のほうが取消しの範囲を被保全債権の額の範囲に限るべきでない要請が強いという御趣旨でもあったように思います。確かにその限りではそのとおりなのですが,他方で,債権者代位権の場合には,例えば100万円の被保全債権しかない者が3,000万円の被代位権利を代位行使したとしても,それは債務者の権利が実現されているだけのことなので許容し得るという議論があるのに対して,偏頗弁済に対する詐害行為取消しの場合には,問題は深刻で,100万円の被保全債権しかない者が3,000万円の偏頗弁済を全て取り消してしまうことになりますので,その意味では,詐害行為取消権の場合のほうが取消しの範囲を被保全債権の額の範囲に限るべき要請が強いとも言い得るように思いました。 ○中井委員 大阪弁護士会に対する質問の前に,私の立場は債権者代位権においても詐害行為取消権においても直接給付を認めて,かつ相殺を認めるという考え方ですので,その点では一致しています。  大阪弁護士会は詐害行為と債権者代位権の取扱いを変えています。詐害行為取消権については,全て訴えにおいて行使するわけで,同時に債務者に対しても債務名義取得をすることを前提としておりますので,直接引渡を認めるまでもなく,正に強制執行の架橋のところについて,しかるべき手続を置けば問題なく解決できるという理解に立っています。それに対して債権者代位権については,必ずしも裁判上の行使だけではなくて裁判外の行使もあるわけで,そのときは代位債権者に直接引き渡す意味があるからではないかと思います。 ○鎌田部会長 他にいかがでしょうか。 ○中田委員 細かい落穂拾いみたいなことなんですけれども,事実上の優先弁済を否定するかどうかと,425条をどうするかということが関連すると思うんです。御提案の中で425条についてよく分からなかったんですけれども,もしも事実上の優先弁済を否定するとすれば,425条は残すという方向になるのかなと思ったんですが,それでいいのかどうかです。これは確認だけの趣旨です。   もう一つは取消しの範囲なんですけれども,事実上の優先弁済を否定していながら,被保全債権の額に限定する場合の問題点が幾つか出ておりますけれども,債務超過が非常に大きくて被保全債権に限定すると,例えば80%の配当しかないんだけれども,全部取り消せると100%になるという場合もあると思うんですが,そのときに事実上の優先弁済を否定するということと,その債権額に限定するということがうまくつながらないのではないかと思います。以上,二点,確認的なこと,あるいは問題点の提起というだけです。 ○金関係官 一点目について答えよという御趣旨であると理解しましたが,部会資料では,債権者代位権も詐害行為取消権も,自己のために責任財産を保全する制度であることを前提として,しかし,責任財産を保全するためには,詐害行為取消権であれば詐害行為取消権の手続を踏む必要があり,更に言えばこれは民事保全,民事執行,破産手続開始の債権者申立てについても言えることだと思いますが,それらの制度の中に他の債権者の利益に配慮する規定がありますので,自己のために行うといっても,それらの規定によって結果的に他の債権者のためにもなるという理解をしております。民法第425条の文言も,詐害行為取消しが全ての債権者の利益のためになるということで,今の説明と整合性があると理解しております。ただ,民法第425条を残すかどうかという議論になると,これはまた別の問題であると考えておりまして,その点については,現時点でどちらかの考え方を前提としているわけではないと思います。 ○鹿野幹事 今,金関係官から,まずは自己のために責任財産を保全するのだけれども,ただ,その結果として他の債権者の利益にもなるという御説明がありました。しかし,詐害行為取消権を行使した場合に,その結果は,言わば平等主義的に取消債権者は他の債権者と同じ地位において執行等をすることができるに過ぎず,按分的にしか債権の回収ができないとすることが,本当に今の御説明と整合性があるのかということが疑問です。それから,先ほど中田委員が指摘されたところでもあるのですが,その結果として結局は,取消債権者は自分のために行使したのに,他の債権者が多数加わったために,自分が取れたのはたかだか30%に過ぎなかったというようなことになってよろしいのかという疑問があります。既に先ほど発言させていただきましたように,97ページの(3)の点については,平等主義的な発想を前提とするなら,このような限定を設けることは適切でないと思います。  ここでもう一言だけ付け加えておきますと,その前に話をしましたように,私自身はむしろ優先主義的な仕組み,事実上の優先弁済と従来言われてきたものを積極的に認める方向での仕組みというのも考えられるのではないかということを前から申し上げてきました。ただ,恐らくそれは少数説にすぎないのだろうと思い,そうであるなら,今の段階で今更これを強調するのは適切ではないのだろうと思い,先ほど,議論を拡散させたくないのでこれ以上は申し上げないと言ったのですが,この点については,先ほど来,少なくとも実務に携わっていらっしゃる方々からは,事実上の優先弁済を認める方向での御意見もかなり多く出されたように伺いました。先ほど,私は,他国の法制度にもそういう例があるということを申し上げましたが,むしろ,それだけではなくて,実際にそのような需要があるからこそ,そのような御発言があったのではないかと思われます。そこで,この点も含めて検討を続けてはと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○佐成委員 今,鹿野幹事から実務の話も出てきたので,経済界の中での議論の状況を御紹介させていただきたいと思います。まず,(1)については,これは判例法理の明文化ということで基本的に賛成という感触を持っております。   (2)の事実上の優先弁済については,この提案自体に賛成する意見というのは余り聞いておりません。逆に言うと,事実上の優先弁済はあってもそれほど悪くないのではないかというニュアンスがあるように感じております。絶対にこれが必要かとまで言われると,少なくとも経済界に関しては,そもそも詐害行為取消訴訟を提起するということ自体がそれほど多くはないようでございまして,そこまでの意見はないように思われます。ただ,やろうという決断をしたところについては,それなりに相当,手間暇をかけてやるので,事実上の優先弁済を認めても,それほど何か公平を欠くとか,そういった感覚はないように感じております。ですから,これを禁止してしまうのが本当にいいことなのかという点については,実務界では少し抵抗があるように感じております。これについて反対だとか,賛成だとかいうところまでは,まだ,議論が詰め切れていないのですけれども,感触としてはやはり優先弁済はそれなりに意味があるのではないかというニュアンスの発言をされる方が多数いらっしゃるということでございます。 ○岡委員 事実上の優先弁済が便利であるという認識は,実務家はみんな持っていますが,議論すればするほど,債務名義もないのに優先弁済はちょっと行き過ぎだねと,しかも,支払不能後に取得するような債務なので,議論すればするほど,理屈っぽい人から反対方向に流れるような状況にあると思います。 ○沖野幹事 中田委員が御指摘になった一点目の425条に関してです。425条の問題と他の債権者の地位なり,権利行使の問題という項目が一つやはりあるように思われます。その点自体は現在の資料では,恐らく一番最初の1の詐害行為取消権制度の在り方の部分と,それから,91ページの3の基本的効果のところで提案されている枠組みがおのずと語っているということではないかと思います。具体的には財産を取り戻す,それを特別の規律なく,それは取り戻された債務者の財産として,強制執行ないし民事執行によって実現させていくということですから,これは取戻しまでされれば,当然,他の債権者はそれに掛かっていけるということで,その限りで効力も当然に及ぶということが想定されているのだと思います。   しかし,そのことは425条をどう取り扱うかとを含めて,それ自体,一つの論点ではないかと思います。他の債権者についてはどの範囲の債権者に権利行使を認めるべきかという点が,そもそも取消訴訟を起こした者に限るというものもあれば,詐害行為前に債権を取得していた者に限るという考え方もありますし,現行法あるいはここで提案されているように全てに及ぶと,それが仮にやや反射的な利益であったとしても,それは及ぶという考え方といったように考え方のバリエーションがあると思われますので,その点は明示をしたほうがよくはないでしょうか。それは中間試案においても,このような考え方を採るのだということを明示した上で,問うたほうがよい項目ではないかと思います。 ○高須幹事 先ほど岡先生から御指摘があったように,詐害行為取消権を行使して事実上の優先弁済が認められれば便利だというのは,私自身も自分が裁判を行うとすればそう思いますから,そういう意識がいわゆる実際に法律を使っている者にあるということは,私も否定しないわけであります。ただ,問題は制度設計としてそれでいいのかということです。今,法律そのものを作り直そうとしている段階なわけですから,もう少し,初心に戻って検討しなければならないのではないかと。   そうなると,詐害行為取消権の場合には債務者が行った法律行為を取り消す。取り消した結果,たまたま,直接の引渡請求権を認めると返還債務が取消債権者に生じて,結果的に自分が持っている債権と相殺可能な状況になる。それは元々何らかの相殺的期待があったわけでも何でもなくて,そこに相殺的期待を生み出すような状況を作り出して相殺をするわけですから,これはやはり本来の詐害行為取消権の在り方とは少し違う,個別債権回収をするんだといっても,そのことの是非をもう少し考えてもいいのではないか。そういう意味で,私としては事実上の優先弁済ということに対しては,慎重に行うべきだと考えたいということでございます。   そうなると,先ほど中田先生から御指摘があった,仮に事実上の優先弁済を認めない,それでいて,従来のように取消しの範囲については本来の債権額に限定してくると,結果的に按分比例というような形になってきたときに,自らの債権回収分が減ってしまうという部分が確かに生じると。これはこれで確かにいけない問題なんですが,仮にそこで上限の要件を撤廃して,全ての範囲について取戻しを認めるということになると,それはそれでまた,次の問題として今度は詐害行為取消権が強くなり過ぎはしないのか。100万円の債権者が10億円の詐害行為を全部取り消せるというようなことが,本当にいいのかどうかというようなことがやはりあって,そういう意味では,事実上の優先弁済を否定した上で,今の中田先生の御指摘なども踏まえた,より賢明な制度を設計していかねばならない。   そこから先は私の持論になってしまいますから,ここでは省きますが,要は今の制度をもう少し変えていきましょうと,そう考えておる次第でございます。 ○鎌田部会長 そこは余り遠慮されなくてもいいと思う。 ○沖野幹事 過大な取消しの懸念についてですけれども,これもここだけではなく,制度の全体で考えるべきことだろうと思います。過大な取消しによってどこに一番問題が出てくるかというと,やはり受益者の地位だと思われますので,受益者の地位に万全の配慮をするということが一つは考えられますし,もう一つは過大なという場合に,もはや,それでは債務超過でないといいますか,総債権を超えてまで取り消すというようなことは,責任財産の保全からいってもおよそ考えられないことですので,最大限は少なくともそこにとどまるだろうという点もあると思います。 ○中井委員 二つ申し上げますが,一つは直接請求を認めながら相殺を禁止して強制執行でという考え方を採る意見についてですが,詐害行為取消権の訴訟において和解というのをどのように考えるのか。多くの事例で無資力になって自宅を身近な者,奥さんに贈与したとすれば,奥さんに対して取消訴訟を提起する,こういう事例が一番多いわけですけれども,かなりの例で和解解決になっているのではないか。   この和解が認められるとしたときの和解の中身は,被告をどうするのかという議論があり,私としては債務者に対しては訴訟告知を考えているわけですけれども,和解では受益者から債権者に対して何がしかの和解金が支払われる。それは当然,取消判決に基づくものではない和解金ですから,それは取消債権者といいますか,訴訟の原告のポケットに入って,その事件は終わる。これが通常の事件の終わり方だとしたときに,理論的整合性から直接請求を認めて相殺を禁止するという形は,確かに論理的なんですけれども,そのような和解の実務があまたある中で,なお,維持するだけの価値があるのでしょうか。この点,どのように考えられているのか,教えていただきたいと思います。   もう一つ,詐害行為取消しの範囲についてですけれども,被保全債権に限るという考え方も先ほどから御指摘にあるように,それで事が足りるのかということについて疑問を持ちます。かといって,100万の債権に対して1億の取消もいいのですかと聞かれたら,それに対しても疑義があることは常識的にそうだと言わざるを得ない。これは債権者代位権についてもそうだと思いますし,詐害行為取消権についてもそうだと思いますけれども,これは基本的には責任財産の保全の制度であることについては全員の了解のあるところから,債権保全の必要な範囲というのがおのずとあるのだろうと思うわけです。   具体的に,土地と建物の贈与がある場合に土地だけで十分間に合うから,土地・建物のうち土地についての贈与だけ取り消して,建物の贈与の取消しは要らないし,できないと,そんな理解をすることはなくて,当該被保全債権を保全するためには,土地・建物の贈与全体を取り消すのが相当だとすれば,その全部を取り消すだろうと。では,二つの家を贈与されたら二つとも取り消すのかと言われたら,それは被保全債権との関係で保全の必要性を超えるから,そこまではできないのではないか。ある意味で隠れた要件として,保全の必要性というのが債権者代位権にしろ,詐害行為取消権についてもあるのではないか。それは明文化されていないけれども,おのずとそこで制約されていると理解すべきではないか。こういう意見を持っております。 ○岡委員 そんな大きな話ではないんですが,一弁で議論しているときに直接給付は認めるけれども,相殺は認めない。それが多数意見になったわけですが,そのときに預かった金銭について,法定利率が付くわけではないでしょうなという議論になりました。信託というか,相殺権者のために預かっているもので,注意して預からないといけないとは思いますが,変動制になったとしても法定利息の支払義務が生じるのはかわいそうではないかと,そういう意見がありました。 ○道垣内幹事 皆さんの御意見を伺いながら,どれも非常に説得力があると思いますので,私は自分の意見を述べるというのではなく,分からないところをお伺いしたいと思います。まず,中井委員に対しまして,和解の話なのですが,詐害行為取消訴訟を提起した債権者と受益者との間で和解があった後でも,他の債権者は詐害行為取消訴訟を起こせるのですか。 ○中井委員 起こせると理解しています。 ○道垣内幹事 そうですよね。そうしますと,和解がなされることが多いとしても,別にそのことについて考える必要はないような気がします。取り下げてもらうためにお金を払ったという事実の問題ではないかという気がします。   もう一つ,中井委員の御意見で,偏頗弁済が取り消される場合に,そのときには取消債権者が弁済を受けた者から,弁済金の全額を取って,その上で相殺できることになると,おかしい場合があるのではないか,そうすると,偏頗弁済の特定の事例かもしれませんが,一定の事例においては弁済を受けた側,つまり,取り消される側のほうも自らの債権額に応じて,按分的に返還を留保できる部分を作るべきではないかという話だったのですが,そのとき,仮に1,000万円の債務について偏頗弁済を受けて,500万円を留保できたときに,まだ500万円の偏頗弁済を受けているという状態にあるわけですね。そうすると,他の債権者は更にその500万円について,詐害行為取消訴訟を提起できるということになるのでしょうか。 ○中井委員 できると考えています。 ○道垣内幹事 そうですよね。そうすると,留保できるというのがそれほど問題解決になるのかなというのがよく分からなかったんです。次に,沖野幹事と鹿野幹事がおっしゃったことで,相殺を認めないで,みんなが入ってこられるようにするのだったならば,取消しの範囲を取消債権者の債権額に限定する話にはならないのではないか,ということです。それはそれでよく分かるのですが,そのときの問題は,受益者の問題ではなく,取消債権者の無資力リスクを誰が負担するのかというのが一番大きな問題ではないかという気がしまして,その点はどうなんだろうかというのが若干気になりました。 ○鎌田部会長 行き着くところがますます見えにくくなりましたけれども,しかし,対立点と,これまで十分に議論されなかった問題点が出されましたので,それを踏まえて事務当局で整理させていただいて,先に進ませていただきたいと思いますけれども,よろしいでしょうか。この問題についてなお……。 ○松岡委員 中井委員から,先ほど取消範囲を被保全債権に限定するのは疑問ではあるが,逆に無限定なことにも疑問があって,保全の必要な範囲に限定する。それが適切に表現できるかどうかはともかく,そういう発想を採るべきだ,という御意見が出ました。基本的にはその御意見に賛成です。教室設例的になるかもしれませんが,土地と建物のどちらかだけ取り消せば,価格的には何とか詐害行為取消しの意味があるという場合,土地と建物を別個に考えて片一方の譲渡だけを取り消すと,両者の所有者を分けることでそれぞれの資産価値が減ってしまって,かえってみんなが不幸になります。そういうような場合に,やはり,合理的な取消しの方法を考えるべきで,他の債権者が加入してくる可能性とか,詐害行為が偏頗弁済であるのかどうかなど状況に応じて,取消しが合理的に必要となる範囲は変わってくるのではないかと考えています。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   他にはよろしいでしょうか。また,宿題もたくさん頂いてしまったんですけれども,何通りかの考え方が提示されたところですので,事務当局でまた,それをできるだけ分かりやすく整理させていただくようにいたします。   次に,「3 詐害行為取消権の基本的効果」のうち,「(4)逸失財産の回復方法」について御審議いただきます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「(4)逸出財産の回復方法」の「ア 現物返還と価額償還[価額賠償]」では,逸出財産の原則的な回復方法を現物返還としつつ,例外的な回復方法として,現物返還が不可能又は著しく困難である場合には価額償還,価額賠償を請求することができるとすることを提案しています。   「イ 逸出財産ごとの回復方法」の「(ア)登記・登録をすることのできる財産」では,登記・登録をすることのできる財産の回復方法として,抹消登記・登録手続を求める方法と,債務者名義への移転登記・登録手続を求める方法を認めることを提案しています。   「(イ)金銭その他の動産」では,金銭その他の動産の回復方法として,債務者への引渡しを求める方法のみならず,自己への直接の引渡しを求める方法を認めることを提案しています。   「(ウ)債権」では,逸出財産である債権の回復方法として,当該債権の帰属が詐害行為取消しによって受益者又は転得者から債務者に移転した旨の通知を求める方法を認めることを提案しています。   以上の各論点のうち,「イ 逸出財産ごとの回復方法」の「(ウ)債権」については,仮に規定を設けるとした場合における具体的な規定の在り方等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   イの(ウ)についてのみ分科会で補充的に検討するというのが事務当局の御提案ですけれども,その含むところは,他のところには余り異論もないだろうということだと思うんですが,何か御意見はございますでしょうか。よろしいですか。 ○中田委員 別に異論ではないんですけれども,イの(ア)で登記・登録をすることのできる財産についても,分科会で細かい検討をしていただく点があるかと思います。と申しますのは,抹消にするか,移転にするかという点でございます。譲渡担保の場合に被担保債権を弁済したときに,抹消にするか,移転にするかという問題とも関係してまいりまして,恐らく不動産登記法との関係も問題となると思いますので,この辺りも分科会で御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,そこも併せて分科会で御検討いただくということにします。 ○岡委員 アのところですが,著しく現物返還が不可能又は著しく困難である場合には,当該目的物の限度で履行請求できる,強制執行できるという濫用的会社分割の履行請求と同じような規律を設けることはどうなんでしょうか。全体的に折衷説で進んでいるのに,ここだけ責任説的な発想が入るのはおかしいということであれば,強く主張するものではないんですが,会社法で濫用的会社分割あるいは事業譲渡で履行請求でき,ただし,多分,請求できる財産は目的物に限るという規定になるんでしょうから,そういうのが入るとすると,著しく困難である場合には,目的物の限度で履行請求ないし強制執行できるという規定が民法にあってもいいのではないかと少し考えております。 ○山野目幹事 イの(ア)の論点でございますけれども,部会長からテクニカルには余り異論がないのではないかという御示唆があって,その意味ではそのとおりだと感じますが,むしろ,根本的な点では,登記・登録の抹消が行われた後,債務者を執行債務者とする強制執行がなされたときに生じ得るべき剰余金が債務者に交付されるという帰結は,高須幹事のお立場や,あるいはそれと発想を共通にするお立場からいえば,根本的に受け容れ難い帰結でございますから,多分,そのことを議論し始めると,かなり根深い話になりますけれども,根深いのだということは申し上げておきたいと考えます。 ○能見委員 先ほどのイの(ウ)のところは,分科会で御議論いただくということで,それで結構なんですけれども,債権の譲渡行為が詐害行為になって取り消される場合の問題点についても検討していただけるとよいのではないかと思います。この説明にも書いてありますけれども,譲渡されたのが債権の場合にはその債務者がいるわけで,これが弁済をしてしまった後に詐害行為を理由に債権譲渡が取り消されるというようなことが生じうると思いますが,その場合にどう解決したらよいのか。譲渡された債権は戻るとするが,弁済をした債務者が善意の場合には二重弁済の必要がないとするか,それとも債務者からの弁済という形でお金が受益者である債権の譲受人に入っていますので,詐害行為の目的物であった債権が金銭に変わったと考えて,金銭の返還となり,直接引渡しの問題になってしまうのか,このような問題などがあり,債権譲渡の詐害行為取消しについてはいろいろまだ未解明な点があると思いますので,併せて御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。その点も分科会で御検討いただくといたします。 ○高須幹事 極めて簡単にではございますが,今の山野目先生からの御指摘もあるとおりで,そもそもが,このような方法を採ることがいいかどうかという根本論が一つあると。これは繰り返しませんが,もう一点はいわゆる折衷説を前提として,取戻しを認めるという構成をとると,効果のところでそういう構成を採ると,そのためのテクニカルな規定をいっぱい設けなければならない。その上で,最後は強制執行に委ねるということになるという,やはり,規定としても大変多くの条文を置いて,また,整合性のある規定を置かねばならないという点でも,立法技術的にもかなり大変なんだろうと。ストレートに強制執行ということになれば,強制執行法に委ねてしまえばいいわけですから,あとは強制執行法のより精緻化を図っていけばいいということで,その意味でも作り方の問題としても,取戻しを挟むというのはより制度を難しくするのかなと,このような意見も併せ持っております。 ○鎌田部会長 現行制度の下でもある問題ですよね。 ○高須幹事 すみません,現行制度でも責任説は採られておりませんので,確かに先生がおっしゃるとおりの問題は生じます。今,責任説は採っていませんよねという御指摘であれば,そのとおりだと思います。 ○松岡委員 検討する必要があるかどうかも問題ではあるのですが,詐害行為としての債権の免除のような場合,取消し後にどうやって執行するのかは,特に何も考えなくていいのでしょうか。絶対的効果を認めるのであれば,債権が単純に復活するので,それを差し押さればいいということでしょうか。 ○金関係官 そうだと思います。一般に詐害行為取消訴訟の訴訟物は詐害行為取消権と大ざっぱには言われますけれども,正確には形成訴訟に対応する部分と給付訴訟に対応する部分とが合わさったもので,免除の場合にはそのうちの形成訴訟に対応する部分だけが訴訟物になると思いますので,給付訴訟に対応する部分も訴訟物になる場合に必要となる規定,すなわち逸出財産の回復方法に関する規定は不要であるという理解をしております。 ○畑幹事 101ページのイの(イ)でありますが,先ほどの直接の引渡請求を認めるかどうかということと関連して,直接請求を認める場合には,受益者としては債務者に対して引き渡せばそれで免責されるのかという問題もある。債権者代位のところでも似たような問題があったと思いますが,ここでもあるのではないかということだけを申し上げておきます。 ○中井委員 一点,同じイの(イ)金銭その他の動産の部分ですけれども,直接請求を認める立場に立ったとき,先ほども質問の形でも出しましたけれども,一つの訴訟の中で受益者が債務者に対して引き渡せという請求とともに,受益者は取消債権者に引き渡せという請求,二つの主文を得ることができるのかということについて,確認しておく必要があるのではないかと思います。 ○潮見幹事 松岡委員が言われた債務免除ですが,債務免除行為が取り消された場合に,その後の債権を債務者が行使していいのかどうかということも,問題としてはあると思いますので,その辺りを明確にするような形でルールを作る必要があると考えるならば,しておいたほうがいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 中井委員の提起された問題については検討するということでよろしいですね。それに似たような問題で取消債権者に金銭を引き渡せと言われても,取り消されていると債務者に対する返還義務というのが抽象的にあるとして,他の債権者がそちらを差し押さえたときにどうなるのかというのも必ずしも明確ではないですよね。その辺のところも,すみません,分科会のほうで余裕があれば周辺の問題もやっておいていただければと思います。   それでは,恐縮ですけれども,続きまして,「4 取消債権者と債務者との関係(費用償還請求権)」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「4 取消債権者と債務者との関係(費用償還請求権)」の「(1)費用償還請求の可否」では,取消債権者が詐害行為取消権の行使のために必要な費用を支出した場合には,債務者に対する費用償還請求権を取得することを明文化することを提案しています。   また,「(2)先取特権の付与の要否」では,その費用償還請求権について共益費用に関する一般の先取特権が付与されることを明文化することを提案しています。   以上の各論点については,いずれも仮に規定を設けるとした場合における具体的な規定の在り方等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,これらの点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 これらの点につきまして,これも分科会の御検討をお願いしたいということでございますけれども。 ○岡委員 二点,申し上げます。   一点は,相殺を認める立場からは,この二つの条文は不要であるというのが意見として出ておりました。もう一つは,必要な費用に弁護士費用が入るのかという議論がありまして,入るという説と入らないという説がございましたので,もし,これを前に進めるときには弁護士費用が入るか,入らないか,明らかにした上で前に進むべきだろうと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御指摘のあった点も含めて,分科会で補充的に検討していただくということにしたいと思います。それから,先ほど確認したかどうか忘れてしまいましたけれども,先ほどの逸失財産ごとの回復方法の部分についても,分科会でここで出された御意見も踏まえて御検討いただくということにいたします。   次に,「5 債務者と受益者との関係」及び「6 債務者と転得者との関係」について御審議いただきます。事務当局から説明していただきます。 ○金関係官 御説明します。   「5 債務者と受益者との関係」の「(1)受益者の債権の復活」では,債務消滅行為が取り消された場合において,受益者がその受けた給付を債務者に返還するなどしたときは,受益者の債務者に対する債権が復活するものとすることを提案しています。   「(2)受益者の反対給付の取扱い」の「ア 反対給付の返還又は価額償還請求の可否」では,財産の処分行為が取り消された場合において,受益者がその財産を債務者に返還するなどしたときは,受益者は債務者に対してその財産の対価である反対給付の返還等を請求することができるとすることを提案しています。   「イ 先取特権の付与の要否」では,その反対給付の返還等請求権について,回復済みの財産に対する特別の先取特権が付与されるとする一方で,受益者が債務者の隠匿等の処分をする意思を知っていたときはこの限りでないとすることを提案しています。   「ウ 取消債権者の費用償還請求権との優劣」では,先ほどの4(2)の取消債権者の債務者に対する費用償還請求権についての一般先取特権が,イの受益者の債務者に対する反対給付の返還等請求権についての特別先取特権に優先するものとすることを提案しています。   「6 債務者と転得者との関係」の「(1)転得者の前者に対する債権の取扱い」では,債務者と受益者との間の詐害行為が転得者との関係で取り消された場合において,転得者が前者からの代物弁済等によって取得した財産を債務者に返還するなどしたときは,詐害行為取消権の行使が受益者に対してされていたとすれば受益者が取得し得た権利を,転得者が前者に対する債権の額の限度で代位行使することができるとすることを提案しています。   「(2)転得者の前者に対する反対給付の取扱い」では,債務者と受益者との間の詐害行為が転得者との関係で取り消されたことにより,転得者が前者から取得した財産を債務者に返還するなどした場合において,転得者が前者に対してその財産の対価である反対給付をしていたときは,詐害行為取消権の行使が受益者に対してされていたとすれば受益者が取得し得た権利を,転得者が前者に対する反対給付の額の限度で代位行使することができるとすることを提案しています。   以上の各論点のうち,「5 債務者と受益者との関係」の「(2)受益者の反対給付の取扱い」の「ア 反対給付の返還又は価額償還請求の可否」,「イ 先取特権の付与の要否」,「ウ 取消債権者の費用償還請求権との優劣」,それから,「6 債務者と転得者との関係」の「(1)転得者の前者に対する債権の取扱い」,「(2)転得者の前者に対する反対給付の取扱い」については,いずれも仮に規定を設けるとした場合における具体的な規定の在り方等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,これらの点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 では,ただいま説明がありました部分のうち,まず,「5 債務者と受益者との関係」について御意見をお伺いいたします。 ○道垣内幹事 小さなことなのですが,受益者が反対給付の返還請求権を有し,かつ,当該請求権を被担保債権として回復済みの財産に対して特別な先取特権が付与されるということになると,取消しの範囲というのは,反対給付の額を考えて決定するということになりますよねというのが第一点です。 ○金関係官 反対給付の額は特に考慮しないと考えておりましたが,御指摘を踏まえて検討する必要があるかもしれません。 ○道垣内幹事 数字を考えてみないとよく分かりませんが,そうかなあという気がします。それと,もう一点,説明のところに関する小さな話なのですが,109ページのところに特別の先取特権と共益費用の先取特権の関係が書いてあって,民法329条2項は,特別の先取特権を原則として,一般の先取特権に優先するとしつつ,共益費用の先取特権はその利益を受けた全ての債権者に対して優先するとしており,このような理解に基づいているというわけなのですが,受益者は別に取消しによって利益を得るわけではないような気がするのですが,私は何か大きな勘違いをしていますか。 ○金関係官 大きな勘違いをしているとは思わないですが……。 ○道垣内幹事 いや,慰めてくれなくてもいいけれど。 ○金関係官 自己の行為を取り消された受益者は取消しによって利益を得るわけではないという道垣内幹事の御指摘は,そのとおりであるような,今,気がしておりますが,ここでの議論はそれだけが理由ではありませんので,いずれにせよ改めて検討させていただければと思います。 ○松本委員 (1)と(2)の関係なんですけれども,(2)の場合は,受益者は支払った対価については,債務者の復活した財産との関係で優先弁済権があるという,かなり有利な地位に立つわけです。ところが(1)は弁済行為が取り消された場合だと思うんですが,その場合については債務者に対する債権が復活するとしか書いていないんです。パラレルに考えれば,復活した債権の分は優先的に弁済してもらえるとなってもおかしくないんだけれども,そうなっていないのはどうしてですか。それと,先ほどから偏頗弁済の場合には按分だとかいうような議論も出ているんだけれども,その点について何も書いていなくて,反対給付の部分だけが優遇されるというのはどうしてですか。 ○金関係官 反対給付の返還請求が問題となる場面については,まず詐害行為によって例えば不動産が債務者から受益者の下へ逸出し,その対価として受益者から債務者へ反対給付がされることになりますが,その状態で不動産だけが債務者の下へ戻ると,反対給付も不動産も債務者の下にあるという言わば二重取りの状態が生ずることになりますので,そのような観点から,反対給付の返還請求権に優先権を与えるという考え方を採用しております。これに対して,債権が復活する場面については,そのような二重取りの問題は生じませんので,両者をパラレルには考えられないという整理をしております。 ○松本委員 お聞きしたいのは,こういう書きぶりだと,詐害行為を取り消した人は,取り消されたところの受益者よりも劣後するのではないかという点です。何のために取り消すのかというと,強制執行するためでしょう。そうだとすると,取り消して流出した財産を債務者の財産に戻して,強制執行をするんだけれども,詐害行為を行ったところの受益者のほうが取り消した債務者よりも,優先的にお金が戻ってくるというか,損をしないということにならないですか。 ○金関係官 御指摘の趣旨はもちろん十分に理解し得るのですが,取消債権者としては逸出した財産が逸出しなかった状態に戻ればよくて,その財産の対価である反対給付についてまで強制執行の対象とする権利はないと思いますので,そのような観点から,反対給付を返還してもらうべき受益者に優先権を与えるという理解をしております。 ○松岡委員 関連して質問です。金関係官の今の御説明自体は,それなりによく分かるつもりですが,一方で,67ページのところで相当価格による処分行為についてもおよそ詐害行為を否定するのではなくて,受益者が悪意であれば取り消せるのですね。取り消しても先ほど松本委員の御指摘のとおり,対価関係が全部清算されて戻ってしまうとすれば,結局,取消しには意味がないことになってしまわないでしょうか。先ほどの松本委員の御疑問もそういう趣旨だと思います。 ○松本委員 もう一点,言いますと,イのところの回復済みの財産に対する特別の先取特権というのは,例えば売買契約が取り消されて回復した不動産という意味ですね。決して支払済みの対価という意味ではないですよね。恐らくそういう支払済みの対価はどこかに消えてしまっているわけです,こういう状況であれば多くの場合は。したがって,回復されて債務者に登記名義が戻ったところの不動産を差し押さえて回収するしかないわけですが,そこで詐害行為の一方の相手方,受益者である買主の一種の不当利得の返還請求権のようなものを取消債権者の債権より優先するというのは,何か腑に落ちないところがあって,せいぜい,ぎりぎりで按分の話になってくる程度で,詐害行為である,悪意があるということであれば,劣後するということでもおかしくないのではないかと思います。対価性がそれほど崩れていなければ,偏頗弁済と同じ扱いで按分というのもあるのかもしれないですけれども,優先的にというのはちょっとおかしいのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 破産法の規定を受け継いでいると思うのですが,なぜ,破産法でこういう考え方にしているかということは,山本和彦幹事に御説明いただいたほうがいいのかもしれないですけれども,これも全然素人の推測でしかないんですが,典型的な例は相当価格処分行為みたいなものではなくて,例えば1,000万円の物を100万円で売ったというときには,900万円分が詐害行為なんですから,100万円分は優先的に返して全然おかしくないんですね。900万円分がそこに残るような状態を作れば,それで詐害行為取消しの目的は達せられたというのがここの考え方なんだと思う。 ○松岡委員 その点は分かっているつもりで,そうだとすれば相当価格の弁済行為自体を取消対象から外すほうが論理的ではないのかと思った次第です。 ○山本(和)幹事 今の相当価格については,結局,イのただし書で取消しの対象になる場合には,このただし書が適用になるということになると思いますので,基本的には相手方の受益者の請求権には,先取特権は付与されないという結論になるのではないでしょうか。破産法は基本的にそういう形で整理をしていると思います。 ○佐成委員 今の(1)について,念のため,一点質問です。取り消された受益者の債権が復活するとなっていることについては,それはそれでいいと思うのですけれども,受益者は復活した債権について債務名義を取得して,例えば代物弁済なんかのときですけれども,不動産が戻ったときに,債務名義に基づいて配当加入ができるという前提でよろしいのでしょうか。 ○筒井幹事 はい。 ○佐成委員 ありがとうございます。 ○高須幹事 先取特権の問題ですが,今,金関係官から御説明があったり,あるいは部会長からも御整理があったような発想で,恐らくこういうものは作られているんだろうとは思うんですが,それでもやはり,私はここに関しては松本先生がおっしゃったように,本来,残っていたはずの代金分なんていうのは,こういう場合はどこかへ行ってしまっているというのがよくある話だと思います。そういう意味では,破産的処理の中であれば,集団的な債務整理という中で,財産に関しても,あるいは債権に関しても一括的な処理ができるという場面がありますから,破産法にこの種の規定があるというのは,それなりの合理性があるとは思うんですが,民法の詐害行為の場面で他の債権者との調整とか,あるいは逸失財産以外のものに対する考慮というものは,どうしても限界があるという中では,全体的な考慮をした上で本来のよその部分で優先権を持っている部分を逸失財産の中で,先取特権という形で保護しようというような発想は少し限界があるのかなと。そういう意味では,先取特権を与えることには慎重であるべきかなと私も思っております。 ○松岡委員 再三,申し訳ありません。私は先取特権の付与が一切不適切とは考えていません。先ほど鎌田部会長が出された例えば1,000万円の物を100万円で売った行為が詐害行為だという場合,結局,実質的に逸出した900万円分を取り戻せばよろしいとすれば,1,000万円分を取り戻された上で受益者の100万円の返還請求は取消債権者等に劣後する結果は,確かに金関係官がおっしゃったように,他の債権者が責任財産を二重取りすることになるので問題があり,受益者の100万円の返還請求権にも一定程度の優遇は認める必要があります。しかし,受益者の返還請求権が取消債権者に常に優遇するということになるとどうるのでしょう。先ほど山本和彦幹事からは,受益者が悪意であれば先取特権は付与されないという解決の方法が示されたわけですが,その場合に取消しによる1000万円分の財産の返還を認めた上で,受益者に戻されるべき100万円分が実質的には否定されてしまうと,受益者の犠牲で取消債権者が責任財産を詐害行為前以上に広げることにならないのでしょうか。 ○沖野幹事 今の点ですけれども,まず,相当価格の場合には隠匿等の事実があって,それを知っていたというときに限って取消しの対象となる。その場合には,確かに相当価格分,仮に100の不動産を100で買っていると。しかし,その100は勝手に使ってしまうのだから,間接的に責任財産を毀滅しているということだという場合で,この場合には100の債権はなお反対給付として立つけれども,先取特権がないということは,戻ってきた100の不動産について,取消債権者や他の債権者と同等の地位で強制執行に入るということですからゼロにはならないと思います。   ただ,取消債権者はこの立て付けですと,取消訴訟に掛かった共益性のあるようなものについては,受益者との関係で共益性があるかという問題点は指摘がありましたけれども,そこは目をつぶってといいますか,受益者との関係でも,その分は優先的に取れるというのがここでの考え方だと思います。それに対して,廉価の場合には最初から取り消せるということで,隠匿等についての主観ではなく,単純に一般的な受益者の主観の話になってきます。   それから,しかし,そうはいっても債務者は使ってしまっていてないんだからということですが,仮定的にですけれども,例外的にまだ日が浅くてとか,あるいはなかなか処分しにくいことがあったりして,反対給付が残っていたというような場合ですと,これはやはり二重取りになるわけですよね。   そうだとしますと,問題は債務者が反対給付に当たる財産を費消してしまうリスクを誰が取るべきなのかということで,その点については一定の悪意である受益者が,その部分は負担すべきだということになりますと,財産が残っているかどうかによって,更に場合分けをしていくということになるのですが,そこまでは言わなくて,それは一般債権者のほうでとることにしようというのがここでの考え方だと思います。もう一つ,破産法との関係では,これは否認権の処理について恐らく最後まで議論のあった問題だと理解しておりますけれども,先ほどの山本和彦幹事が御指摘になった点のほか,もう一つ,議論があり,観点として言われたのは,相当価格であると考えて取引をしたところ廉価売却であったという相当性についての判断ミスについて,それがもしも相当だということになれば,全く否認の対象ならずに安定的に取引が行われるところ,相当性の判断を言ってみればやや甘く見たために,例えば100の不動産について85を出したけれども,それでもなお廉価であるという判断がされた。例えば実は120ぐらいの評価であったとか,というような場合に,いきなり,それは破産債権扱いになってしまうということだとすると,思い切ってばくちを打って思い切り廉価でいくか,それとも相当価格のような取引はやめてしまうかということになりかねず,その萎縮効果を懸念したということがあります。そのときに非常な廉価の場合でも及ぼしていいのかという問題が指摘され別の考え方がある中で,萎縮効果のほうを重視したという観点もあったと思います。そうだとしますと,そのことは恐らく否認の場合だけではなくて,一般的なそのような状況に置かれたときの取引の安定性という点では,政策判断の共通する事項であろうと思います。 ○岡委員 二つ,申し上げます。   一つ目は,今,佐成さんがおっしゃった点ですが,償還したときは,あるいは財産を返還したときはその請求権が立つと。それを受益者としては詐害行為訴訟の中で反訴か何かを提起して,一体的に債務名義が欲しいだろうと思うんです。そういう訴訟類型は可能なんですか。もし,詐害行為で負けて償還あるいは現物を返したときは,金幾らを請求できるという債務名義があって,なおかつ,物を返したら,直ちにそれに執行できるような準備をしてあげないと,受益者にとって酷なような気がしますので,今の訴訟法あるいは執行法でそのような対応ができないとしたら,何か特別な手当てが要るのでないかと思います。それが一点目です。   もう一点は,価額償還をする場合,価額償還をした金銭に先取特権があるというのは,何か不思議な感じがしますので,価額償還をするときは相殺を認めてもいいのではないか,というか,相殺で処理するしかないのではないかと思います。その場合には取消債権者の費用償還請求権の先取特権が優先するということであれば,そこだけ穴を開けるような規定を置いて,相殺を認める規定を置くべきではないかと思います。 ○中井委員 この(2)のアとイに関連しますけれども,価額償還の記載がよく理解できませんでした。   岡さんが相殺とおっしゃられたのは,直接請求を認めない場合,受益者が債務者に対して金銭で返還しなければならない,元の物の返還ができない場合,例えば廉価売買した不動産を善意の第三者に1,000万で転売したとき,1,000万を返さなければいけないわけですけれども,それを債務者に返すときには反対給付の100万円と相殺するという法形式がいいのかどうかはともかく,差額の900万を受益者は債務者に交付すれば足りると,こういう考え方になると思ったものですから。 ○松本委員 今の中井委員の御発言とも絡むんですが,先ほどの廉価売買なんだから,廉価で払った分と当該物の二重取りになるのはけしからんということで,二重取りというのは債務者がということですね。そうであれば,回復される物の価値のほうが,詐害の額より大きい,つまり,売買である以上は幾らか払っているわけだから,必ず対価があるわけです。そうすると,そういうものについては,差額についての回復,つまり,価額賠償しか認めないんだというロジックをとっているのと同じことになるんです。それならそれではっきりと,そういう場合は価額賠償なんだと書いていただければすっきりするんだけれども,これだとやはり何か変な感じなんです。   払った分を返してくれと言いたいのであれば,払った金額についての一般の先取特権というのであればまだ分かるんです。一番分かりやすいのは物々交換で,非常に価値の違うものを交換したというようなことであれば,それは価値の小さなものを対価として渡しているので,それは取り戻してもいいでしょうというだけの話で終わるはずなのに,価値の高いものの中のほうから,優先的に弁済を受けたいというのは,ちょっとおかしいのではないかなと思うわけです。回復済みの財産に対する特別の先取特権という部分に,私はやはり引っ掛かりを感じます。 ○沖野幹事 恐らく(2)については,幾つかの場面分けが考えられるのではないかと思っております。厳密に考えていくならばということですが。それで,今の松本委員の御指摘は,反対給付が金銭であった,売買のような場合で物を廉価で購入して金銭を払ったというような場合を念頭に置いたときに,物自体を返すのではなく,差額のみを返すということがよほど明確ではないかという御指摘ではないかと思います。   それは明快ではあるのですが,ウの取消債権者の費用償還請求との優劣について,取消債権者の費用償還分はやはり取消債権者にまず取らせるということをぎりぎり実現するとすると,このような考え方が一つあるということだろうと思います。この部分が十分に手当てされるのであれば,差額だけ返すということのほうがやりやすいのかもしれません。ただ,そのときに,そもそも相殺についてどう考えるかも影響しうるかもしれません。ですので,ウの取消債権者の費用償還請求との優劣の話をどこまで突き詰めていくかという問題が残るのではないかと思います。   それから,交換の例を挙げられまして,物々交換のような場合で,かつ,先ほど金銭で金銭が残っていたらということを申し上げたつもりだったんですが,物が実際に残っていたらどうするのかという話はあるのだろうと思います。  もう一つ,これは自分の中でも全く結着がついてなくて申し訳ないのですけれども,例えばそういう物と物との交換であった場合に返還することになったときに,同時履行の抗弁が認められるのか,認められないのかということでして,それは実は売買が取り消されたというような場合にも同じ問題があり,私自身は(2)の考え方は,反対給付については特別の先取特権で手当てし,また,隠匿等の場合にはその優先権もないんだから,もはや,同時履行は言えないという前提で,その代わり,反対給付について十分な手当てをするという考え方ではないかと思っていたのですが,そういう理解でよいかも含めて,更には物が残っていたような場合にどうなるのかということも考えておく必要があるのかと思います。 ○鎌田部会長 その点も含めて分科会で検討してもらいます。物が残っていた場合は,取り消されて,現物のレイヴィンディカチオができるので,むしろ,逆にそれがあるからこそ,価値についても価値のレイヴィンディカチオ的に優先権を認めてやらなければいけないという,そういう形になるのではないかと思いますけれども。 ○安永委員 イについて,このような特別の先取特権が付与されてしまうと,詐害行為取消権の発生要件を充足し,これが肯定される場合であっても,その法的効果が限縮されることとなります。そのため,労働債権保護の観点からは後退を招くと考えられるため,賛成できません。 ○松本委員 論理的な観点からいくと,廉価売買の場合に全部取り消して所有権を戻して,強制執行の際に受益者に,対価として払った分の先取特権を与えるということよりは,取消しの範囲で調整したほうがいいのではないかなというのが私の感覚なんです。それで,先ほどは価額賠償と言いましたけれども,それよりはむしろ持ち分的な取消しのほうが分かりやすいのではないかと。つまり,1対9であれば9割の限度で取り消して,その分,所有権が債務者に戻って,つまり,受益者と債務者の間で共有状態にあるんだということであれば,あえて先取特権なんて言わなくたって,当然,それは持ち分の問題なんだというだけの話で処理ができるのではないですか。 ○鎌田部会長 強制執行の前提として取り戻して,10分の9の持ち分の競売をするという,それは極めて非現実的であって,だから,過大な代物弁済の場合には言わば価額賠償的な超過部分での取消しにしているけれども,廉価売買などの場合にはこれまでの判例等でも売買を解消して,現物を取り戻させているという,それを踏まえて,こういった考え方を採用しているわけで,その点も含めて分科会のほうで少し……。 ○潮見幹事 分科会で検討するときに,詐害行為取消権の効果については,誰が誰に対して,どういう請求をすることができるのかとか,詐害行為取消権というのは強制執行準備のための債務者の権利の行使だとか言いながら,実はそこで事実上の優先弁済みたいな形で債権内容を実現するところまで認める必要があるのではないかとか,そういう意見がいろいろあって,それを基に例えば(2)を検討しろと言われたときに,いろいろなパターンのいろいろなバリエーションの下で,これがどうなるのかということを検討せよということと理解すべきなのでしょうか。少なくとも事実上の優先弁済,直接取立ての可否,あるいは按分弁済の辺りは幾つかの可能性を考慮に入れて考えてほしいということでしょうか。 ○鎌田部会長 (2)の提案は一定の前提をとって,一定の場面での話ですよね。だから,その場合に具体的に,こういう前提でこの枠内で考えると,どういう問題があり,どういう規定の仕方があり得るかというのが分科会の主たる任務だとお考えいただければいいと思います。これをやっても駄目だと,かえって,この前提を組み直さなければ駄目だというふうなことに仮になれば,更に根本的な部分についての御審議,御提案を頂くという,そういう手順になるのではないかと思いますけれども,よろしいでしょうか。すみません,せかして申し訳ないんですが,詐害行為取消権だけは何とか終わりたいなと思っておりますので,御協力を頂ければと思います。   今の点については,分科会での補充の御検討を頂くということでございますが,次に「6債務者と転得者との関係について」の御意見をお伺いいたします。 ○鹿野幹事 基本的な効果をどう考えるかということに関わってくるのだと思うのですけれども,ここでは債務者と転得者との関係で,代位行使によって回復することが予定されていますが,そもそも,この場合に転得者は受益者に対して担保責任の追及などはできないのだろうかという点が疑問となります。資料111ページの下のほうにも若干,幾つかの考え方があるとは書いてあるのですけれども,明確ではありません。取消しの効果として,絶対的に取引が効力を失うということであれば,そしてそれにも関連して先ほどの要件のところでも前主は全員悪意要件が必要というようなことも書いてあったのですが,このような絶対的取消しを前提とすると,代位行使ということだけではなくて,前主に対する何らかの契約責任の追及とか,不当利得の返還請求とか,そういうものができてよいようにも思われるのですが,ここの記載にはそういうものを否定する方向での意図があるのでしょうか。そして,もしそうだとすると,その場合の取消しの効果をどういうものとして考えているのかということが,少々分かりにくいので,御説明をお願いできればと思います。   それから,もう一点は,仮に代位行使をするということになった場合の範囲につき,債務消滅行為によって消滅した債権の額の限度で,受益者が債務者に対して行使し得た権利を代位行使することができるとされているのですが,例えば単純に受益者,転得者だけが存在するのではなくて,転得者,転々得者など何人かいる場合に,ここで書かれている代位行使できる範囲というのは,どういう限定が掛かると考えられているのでしょうか,それについてお聞きしたいと思います。 ○鎌田部会長 では,事務当局からお願いします。 ○金関係官 一点目につきましては,部会資料35の111ページの補足説明3に記載しておりますとおり,本文は一種の担保責任の追及という構成を否定する趣旨のものではありません。本文では,最低限のものとして代位構成のみを記載しておりますが,それに加えて,補足説明に記載したような一種の担保責任の追及というものがあり得るかどうかについて,更に議論をしていただきたいと考えております。   二点目につきましては,転々譲渡がされている場合には,詐害行為取消訴訟の被告となった転得者が前者に対して有する債権の額の限度又は被告となった転得者が前者に対してした反対給付の額の限度という趣旨です。 ○鹿野幹事 更に確認なのですけれども,そうすると,資料109ページの下のほうの(1)の趣旨というのは,直前の者に対する担保責任等の追及はできるのだけれども,それに加えて,代位行使をすることもできるのということなのでしょうか。つまり,どちらかを選択してよいと。もちろん,二重取りは駄目でしょうけれども,選択的にそれを行使することができるということなのでしょうか。そして,代位行使をするという場合については,もしかしたら106ページの先ほど議論があった何らかの優先権等がついてくるかもしれないし,事例によってはそちらのほうが確実に回収できるということがあるかもしれない。だから,その二つの選択肢をここに記載していると理解してよろしいのでしょうか。 ○金関係官 御質問の意図を私が十分に理解していない可能性がありますけれども,選択的というよりはむしろ両方という趣旨でありまして,代位行使に加えて一種の担保責任の追及も可能かどうかという問題であると理解しております。例えば債務者と受益者との間の贈与契約が転得者との関係で取り消された場合など代位行使だけでは転得者にとって不十分である場合に,前者に対する一種の担保責任の追及が行われるという理解をしております。 ○鹿野幹事 そうすると,111ページにも書いてあるのですが,要するに代位行使をまずせよということであって,代位行使で不足する部分について,補完的に前主に対して権利行使をする余地を認めようではないかということになるのでしょうか。それは,基本的に,前主に対する担保責任の追及という権利が正面からあるという発想とは違うようにも聞こえるのですが,その点はいかがですか。 ○金関係官 順序をつけてまず代位行使をしてその結果を見て一種の担保責任の追及をしなければならないという趣旨ではなく,例えば代位行使をすることのできる金額が事前に確定しているような場合には,代位行使をしないまま一種の担保責任の追及をすることも可能であると理解しております。 ○山野目幹事 担保責任追及の制度との分担関係も含めて,少し御提案の趣旨が明らかでない部分がありますから,分科会で補充的に御議論いただいたほうがよいと感じますとともに,多少,雑駁な議論になりますけれども,ここまで細密なことについて民法に規定を置かなければいけないのかということもやや疑問に感じますから,先ほどの点と一緒に御検討いただきたいと望みます。 ○佐成委員 今,鹿野幹事がおっしゃった点に関連してなのですけれども,この効果に関して結論的に私はこれでいいと思うのですけれども,それは要件との関係で一貫していると思うからです。先ほどの要件の議論において,転得経路の中で一人でも善意者があれば,一切取消しは認められないという整理をしましたから,基本的に取消しが認められるのは全員が悪意という場合になります。ですから,前者に対する担保責任の追及を一般的に認めたとしても,取消しが認められるのは,飽くまで前者が悪意の場合に限られますので,担保責任追及の妥当性について余り問題を感じません。確かに,要件論において,前者に善意があっても取消しを認める余地を残すということになると,その意味で話がややこしくなってしまうのですけれども,全員が悪意という整理をしてしまうと,要件論と効果論が一貫していて,非常に分かりやすいな,すっきりした感じがするなという印象を受けたということでございます。 ○鹿野幹事 山野目幹事が先ほどおっしゃったことに一言付け加えたいと思います。この点は,分かりにくいので是非分科会で検討していただければと思いますが,その際,詐害行為取消権の行使によって当事者間の権利関係がどうなるのかという点はそれほど瑣末なことではなく,やはり,考えておかなければいけないことだろうと思います。民法に明文でどこまで規定を置くのかというのは,また,次の問題として精査する必要があるかもしれませんけれども,問題自体は効果の一環として考えておく必要はあると思います。 ○鎌田部会長 基本的な法律関係がどうなるのかということがむしろ重要ですね。それを前提にして立法的にどういう場面については手当てが必要なのかということは,その次の問題なんだろうと思うので,それら両者を含めて分科会での検討の課題になるということだと思います。 ○内田委員 今の担保責任の点なのですけれども,現在は相対的な取消しですので,前主が悪意であろうが何であろうが,担保責任追及はできないわけですね。この案は,できるようにするのか,あるいは判決の効力の範囲を重視して,できないという前提をそのまま維持するのかについて問い掛けているわけで,担保責任の追及ができるという前提で組まれているわけではありません。ですから,そもそも,担保責任の追及をできるようにするかどうか自体を議論していただく必要はあるだろうと思います。それを分科会でということであれば,分科会で整理をした上で,再度,部会で議論するということで結構だと思います。 ○鹿野幹事 分かりました。正に相対的取消しとは違う制度を設けようということが,この資料の記載の趣旨に含まれているのではないかと思いまして,それが最も端的に表れているのは,要件もそうですが,効果の点がそうなのではないかと思います。しかし,そうなってくると,この重要な点を分科会に委ねてしまうのがよいのかについて,若干,疑問が残るところです。ただ,細かなところまで含め分科会で改めて整理していただき,その上でそれに基づいて部会で議論するということには賛成でございます。 ○鎌田部会長 もう少し分科会で整理していただいてからでないと,議論してもかみ合わないものになると思いますので,御苦労ですけれども,分科会で議論を整理していただいて,そして,こういった規定の内容にするのが望ましいとかいう形での提案を部会へ戻していただければとお願いいたします。   次に,「7 破産管財人等による詐害行為取消訴訟の受継」及び「8 詐害行為取消権の行使期間」について御審議いただきます。事務当局から説明していただきます。 ○金関係官 御説明します。   「7 破産管財人等による詐害行為取消訴訟の受継」では,詐害行為取消訴訟が債務者の破産手続等の開始時に係属している場合において,その詐害行為取消しの対象が否認の対象にはなり得ないものであるときは,詐害行為取消訴訟の手続を受継した破産管財人等は,詐害行為取消訴訟の手続をそのまま続行することができるとすることを提案しています。   「8 詐害行為取消権の行使期間」では,取消しの原因を知った時から2年間行使しないときは時効によって消滅し,行為の時から20年を経過したときも同様とする甲案,取消しの原因を知った時から2年間行使しないときは時効によって消滅し,行為の時から10年を経過したときも同様とする乙案,取消しの原因を知った時から2年を経過したときは除斥期間に掛かり,行為の時から20年又は10年を経過したときも除斥期間に掛かるとする丙案を提案しています。   以上の各論点のうち,「7 破産管財人等による詐害行為取消訴訟の受継」については,仮に規定を設けるとした場合における具体的な規定の在り方等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明がありました部分のうち,まず,「7 破産管財人等による詐害行為取消訴訟の受継」について御意見をお伺いしたいと思いますが,事務当局からも分科会に御検討を委ねたいという御提案でございますけれども,そういうことでよろしいでしょうか。 ○岡委員 こういう規定が必要のないように,逆転現象を作るなという意見も弁護士会にございました。もし,飛び出すのだったら,これでしようがないねという意見も含んでおります。 ○山本(和)幹事 私は,7の問題が受継の問題にとどまるのかどうかということにやや疑問を持っています。つまり,詐害行為取消権の行使がたまたま先行していた場合に,それを受継できるということですけれども,誰も起こしていない場合に,詐害行為取消権が飛び出ている部分があるのだったら,破産管財人が独自に詐害行為取消権を行使するということは十分あり得て,たまたま,誰かが行使していた場合にだけ,管財人の権限が拡張するというのは,破産管財人の権限の範囲の確定の仕方として,私はかなり違和感を持ちます。ですから,そうだとすれば,この規定を作るのだったらば,詐害行為取消しの要件が認められるような場合には,破産管財人は詐害行為取消権を行使できるという規定になるのではないかと。しかし,そういう詐害行為取消権を我々は否認権と呼んでいるのではないかというのが私の認識でありまして,結論的には岡委員が最初に言われたような意見と同じことになるということです。 ○鎌田部会長 そういう意味では,規定を設けるとした場合の具体的な規定の在り方というのを少し超えた課題として,分科会へお願いをすることになる。分科会にそこまでお願いするというよりも,否認の対象と詐害行為取消しの対象との間に差を設けることの適否ということについては,主として部会での審議の問題になろうかと思います。 ○山野目幹事 提案ですが,分科会に委ねるというよりは補足説明でも示唆されてありますように,これを民法の規定として置くことがよいのでしょうか。元々,手続的な規定であると感じていましたが,今の山本和彦幹事のお話を伺って,なお一層,その感を強くしました。民法の詐害行為取消権に関する議論が帰すうを見た段階で,倒産手続上の破産管財人等の権限をどのようにするか,ということをまた別途,検討していただくべきであって,その成果を民法に書くことが適切であるとは私は余り感じられません。 ○鎌田部会長 御指摘の点はそのとおりだと思いますけれども,民法の改正議論で破産法の側にいろいろな問題を投げ掛けている部分がありますので,両者の調整について,どう,こちらの部会として責任をとるかという課題は与えられているんだろうと思います。破産法上の否認権と,ここで議論としたものとの間にどのくらいのずれがあるかということの点検は,事務当局できちんとやるとして,その問題に対する対処の仕方はいかに在るべきかということについては,少し事務当局が第一義的に検討をさせていただければと思います,ということでよろしいですか。   次に,「8 詐害行為取消権の行使期間」についての御意見をお伺いいたします。 ○道垣内幹事 下級審を含めて判決を勉強しているわけでもなく,立法過程を検討したわけではなく,今,資料を見て言っているだけなんですが,行為のときから20年も経過してずっと無資力なんですよね。卒然と考えますと,行為のときから2年でもいいぐらいではないかという気がしますが,しかしながら,いや実務的には,これは実は重要なんだよと言われると,私は実態を知りませんので返す言葉もありません。ただ,少なくとも現行法の20年というのは,仮に原因を知った時からと行為の時からというのを分けるとしても,いかにも長いだろうという感じがいたします。 ○鎌田部会長 破産法改正のときにも,民法に20年とあるから尊重しなければいけないけれども,こんなものは民法の側で変えてくれと随分強く言われた部分で,実務的な観点から御意見があればお伺いしておきたいと思います。 ○岡委員 実務的観点からは決め手に欠けておりまして,ここも真四つに分かれております。丙の10年説,丙の20年説,甲・乙,全てについて支持がございました。時効によって消滅する構成とするのか,出訴期間等とするのかについても余り決め手がなく,20年というのも,今,現行法が20年なので縮める必要もないではないかという程度の意見でした。 ○鎌田部会長 他の御意見は。 ○沖野幹事 今の御意見について確認だけをさせていただきたいのですが,行為のときから20年の規律について,必要な事例があるというわけではなくて,縮めることもないですかねというような意味合いだと理解してよろしいのでしょうか。 ○中井委員 おっしゃるとおりで,現実に20年前というか,極めて長期間経過したものについて行使をした事例を経験したことはございません。 ○沖野幹事 さらに一点だけ。逆に詐害行為取消しを掛けられる可能性もあるときに,20年後に覆る可能性もあるというようなことは,非常に不安定ではないでしょうか。その指摘はないのでしょうか。 ○鎌田部会長 と同時に,管財人としても20年前までのものをきちんと調べてやっていないと,善管注意義務違反だと言われるリスクを負っているわけですよね。 ○中井委員 行使したことがないから,相手のほうも行使されることはないと思っており,それで平和に終わっているのかもしれません。 ○鎌田部会長 何か実務界の要請というようなものがあれば,意見を収れんさせやすいんですけれども,実務界にどれでもいいと言われると,また,立法事実がないとかいうことになるんですかね。分かりました。特に他には御意見は。 ○山本(和)幹事 倒産法部会のときの議論では,正に部会長が言われたようなことだったと思うんですが,この20年というのは不法行為のところからきているのではなかろうかと。ただ,少なくとも否認については,そういう制裁的な見方というか,悪質な行為を罰するというか,制裁を課すというような観点は少しどうかという話で,そういう意味からしても,この20年というのは正当化できるのだろうかというような議論もあったかと思います。 ○鎌田部会長 それでは,否認権の行使期間に関する議論等ももう一度振り返ってみて,今後の在り方を考えたいと思います。   以上で詐害行為取消しの個別論点は終わっているんですけれども,高須幹事から,全体についての意見書を提出していただいているところで,各論的な議論が終わったところで少しまとめてお話を頂ければというふうに,御発言を留保していただいていたという経緯もございますので,大分,遅くなってしまって申し訳ありませんけれども,高須幹事から御発言を頂きます。 ○高須幹事 進行についてむしろお願いなのですが,そういうことでお話をさせていただこうということで,先ほど来,メモも取ったりもして準備しているんですが,もし差し支えがなければ,次回の部会の一番最初にペーパーも用意して,短い時間で終わりにしますので,そこで発言をさせていただきたいと思います。というのは,今,ここで私がその話をすると,私の大切な責任説が皆さんの憎悪の対象になりかねないと,こう思っておりますので,できれば,次回,本当に短く切り上げますので,それでやらせていただければと思いますが,いかがでございましょうか。 ○鎌田部会長 それでは,予定の時間も大幅に超過しておりますので,そのような取扱いにさせていただきたいと思います。詐害行為取消権の制度の在り方全体について,他にもどうしても御意見を開陳したいという方もいらっしゃるかもしれませんが,それらも併せて次回の冒頭にできるだけコンパクトに要領よく議論をさせていただければと思います。本日もまた,大量に積み残しを作ってしまいましたけれども,次回の冒頭で,詐害行為取消権の最後の議論等に引き続いて審議させていただくことといたします。   他に何か,御発言はございますか。   ないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   分科会について御報告をさせていただきます。本日の審議において,幾つかの論点については分科会で補充的に審議することとされましたが,詐害行為取消権に関する論点については,第2分科会で御審議していただくことといたします。第2分科会の松岡分科会長を初め,関係の委員,幹事の皆様にはよろしくお願いいたします。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回の部会は,3月27日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は法務省大会議室になります。次回の議題は,本日の積み残し分である部会資料36と,本日の会議で机上配布した部会資料37が対象になると予定しております。よろしくお願いいたします。   それから,連絡事項でございますが,4月上旬に予備日の日程を確保していただいておりますが,審議の積み残しが出ております関係で,4月3日,火曜日には部会を開催することにさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。   それから,分科会関係の連絡事項がございます。一つは,第3分科会の第2回会議が2月21日に開催されており,その結果につきまして,机上配布のペーパーのとおり,報告をさせていただきます。この関係で,一点だけ口頭で補充いたしますと,このペーパーの議題の「1 選択債権」のところに,※印で沖野幹事提出の「選択債権について」という資料参照という記述がございます。この資料は,第3分科会第2回会議において,沖野幹事から提出されたもので,本日も改めて参考配布しております。その中で,従来の部会資料では選択債権のうち411条に関する論点のみを取り上げておりましたが,沖野幹事から410条に関しても一定の見直しを検討してはどうかという問題提起がありました。この点については,分科会での議論で必ずしも多数の賛成があったわけではありませんが,しかし,引き続き議論すべきであろうということでしたので,その点について部会への報告をさせていただこうと思います。その具体的な取扱いについては,部会において次に選択債権を議論する機会に,事務当局で整理をした上で問題提起をさせていただこうと考えております。   それから,もう一点,第2分科会第2回会議の開催のお知らせがあります。第2分科会の第2回会議は,来週3月13日,火曜日,午後1時から午後6時まで,法務省3階地検会議室において開催されます。その議題は,第2分科会において積み残しとなっております時効の効果など,時効関連の論点の外に,414条(履行の強制)の取扱いに関する論点,債権者代位権と詐害行為取消権に関する論点が予定されています。第2分科会の固定メンバー以外に出席を希望される委員,幹事の方がいらっしゃいましたら,事前に事務当局まで御一報をお願いいたします。 ○鎌田部会長 積み残しが少しずつ累積していきますと,また,予備日で必ず開催するという日が更に増えていくということになりますので,よろしくお願いいたします。   以上をもちまして,本日の審議を終了させていただきます。本日も長時間にわたり,熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-