法制審議会民法(債権関係)部会 第2分科会           第2回会議 議事録 第1 日 時  平成24年3月13日(火)自 午後1時00分                      至 午後6時07分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○松岡分科会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第2分科会の第2回の会議を開会いたします。   本日は皆さん,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は第2分科会の固定メンバーの他には,岡本雅弘委員,中井康之委員,畑瑞穂幹事,山本和彦幹事,沖野眞巳幹事,江原健志関係官が出席されています。   それでは,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 部会で委員等提供資料として御提出いただきました資料のうち本日の議事と関連するものを,机上に再配布させていただいております。中井康之委員の「債権者代位権について」,大阪弁護士会有志の「債権者代位権の条文提案」,高須順一幹事の「詐害行為取消権に関する意見書」,大阪弁護士会有志の「詐害行為取消権の条文提案」,沖野眞巳幹事・高須順一幹事連名の「債権者代位権に関するメモ」を改めて配布いたしました。この他に,委員等提供資料として,日本司法書士会連合会から「登記実務の視点からの債権者代位権に関する留意点の提示」と題する書面が提出されており,これを机上に配布させていただきました。 ○松岡分科会長 それでは,本日は今も御紹介がありましたが,部会資料31の「第1 消滅時効」,前回の続きでございます。それと,部会資料32の「第1 履行請求権等」,部会資料35の「第1 債権者代位権」及び「第2 詐害行為取消権」の各論点のうちで,分科会で審議されることとされたものについて御審議を頂く予定でございます。なかなか盛りだくさんでございます。   具体的に一応のめどといたしまして,休憩までに部会資料35の第1の債権者代位権の途中までですが,5の「(1)イ 代位債権者自身に対して有する抗弁」までを御審議いただき,適宜,休憩を入れることを予定をしております。そして,休憩後,4の「代位債権者と債務者との関係」,そのうちの「(2)代位債権者の費用償還請求権」以降について御審議を頂きたいと思っております。   まず最初に部会資料31の第1の「消滅時効」,その中の「3 時効の効果」,その(2)と大分細かくなってまいりますが,「債務者以外の者に対する効果(援用権者)」について御審議いただきたいと思います。それでは,事務当局から説明をしていただきます。亀井関係官,よろしくお願いいたします。 ○亀井関係官 部会資料31の35ページでございます。この論点については第36回会議では,民法第145条の「当事者」に代わって,時効の援用権者の範囲を表す表現として適切な条文表現を分科会において検討するとされました。判例で用いられている,「時効により直接権利を受ける者」という表現は,必ずしも機能していないのではないかという批判があることから,これに代わるものとして,例えば「法律上の正当な利害関係を有する者」や「時効の利益を受ける当事者」などの表現が提案されているところでございます。 ○松岡分科会長 ただいま御説明のありました部分につきまして,御意見を伺いたいと思います。なお,部会では甲案,乙案と二案が挙がっている他に,丙案という山野目幹事が御提案になったものが出ております。甲案,乙案,丙案と,具体的に援用権者をどこまで定めるかは,切り離して議論できるのではないかというのが御意見の大勢だったようです。その点も踏まえて御自由に御発言いただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○岡委員 弁護士会での議論を御紹介申し上げますが,余り関心が高くないところでございます。弁護士会の大勢としては甲案でいいと。そこから,更に条文文言まで考えてきたところが若干ございまして,部会資料で紹介されている案とそう大きく変わりはないんですが,正当な利害関係を有する者,これは「法律上の」を取っただけですが,こういう抽象的な案でよろしいという意見と,もう少し具体的に保証人又は保証人・物上保証人のように,時効を援用することによって自己の債務又は責任を免れる関係にある者,そこまで具体的に書くほうが分かりやすいのではないかという意見がございましたけれども,なかなか,それも難しいのではないかという意見のほうが多くて,何らかの抽象的な先ほどの正当な利害関係という表現のほうが,全体的には多数意見でございました。 ○松岡分科会長 ありがとうございました。 ○潮見幹事 定見というのではなくて,今日のこのテーマの議論の仕方なのですが,今,岡委員から出されたような定義をどうするかという観点からアプローチしていくのと,それから,時効の援用権者として例えばどういうものが入り,どういうものが入らないのかというところについて,ある程度,一致を見てから,それを表現するには,どのような文言表現が好ましいかという観点から議論していくのか,どっちがいいのかなというのを少し迷っているところがあります。   と申しますのも,特に戦後の主要な体系書,教科書類を見ると,それぞれの書物での援用権者の定義はばらばらに分かれています。さらに,さきほど正当な利害関係という御発言が岡委員からありましたが,仮にこういう言葉を使うとしたら,今までの判例法理で言われているものと変わるのか,変わらないのかということも,実は余りはっきりしない部分があります。   他方,従来の時効の援用権者をめぐる議論というものは,一般論もさることながら,他方で個別具体的に,この人は入るのか,入らないのかという観点から議論して,また,それが時に判例変更なんていうものも呼び起こしたということもありますものですから,実際に使う場面を想定したときに,ある程度,この辺りまでは入り,この人たちは入らないという目星を付けてから,その上で,それにふさわしい表現を考えるというものありかなと思った次第です。 ○松岡分科会長 今の点はいかがでしょうか。   確かに保証人,物上保証人,第三取得者ぐらいまでは,ほぼ異論はないですが,部会で最初に提案された乙案ですと,物上保証人,保証人に援用権を認めないという選択肢ないしは考え方もあり得るということでしたし,後順位抵当権者の援用権を判例は否定しておりますが,認めるべきだという説もあり,意見が分かれているところがあります。   どちらから議論するのか,すなわち個別の判断を詰めていって立法提案にするのか,それとも,先ほど岡委員に弁護士会の意見を紹介していただきましたが,正当な利害関係を有する者などという抽象的な基準を決めておいて,実際の適用はなお判例法理に委ねてしまうというのがあり,これらの中間案として,これも岡委員から御紹介があったように,余り異論のないところは例示として挙げて,その他として包括的な基準を加えるというやり方もあり得ます。   先ほど定見はないとおっしゃいましたけれども,潮見幹事としてはどちらの方向で議論したほうがより望ましいとお考えでしょうか。 ○潮見幹事 ある程度,一般に言われているような人的な類型について,入るものと入らないものという目星は付けたほうがいいのではないかと思います。その上で入るものを拾い,入らないものは拾わないようにするような文言表現を考えていかないと,トップダウン型でやってしまった場合には,それが将来,どう解釈され,運用されるかについて,若干,気になるところはあります。 ○松岡分科会長 どうしたものでしょうか。 ○内田委員 定見がないとおっしゃったのですけれども,もうまとめの段階なので,潮見先生の案を具体的にお示しいただいたほうが,議論が前に進むのではないかと思いますが。 ○潮見幹事 自分の意見というのはないのですが,別に甲案を採る,乙案を採るに関係ないところですが,分かれ道は詐害行為取消権の受益者を入れるか,入れないのかということと,それから,古典的なところでは後順位抵当権者というものを入れるか,入れないのかという部分かなと思うところがあります。あとは,文言表現上は抵当権者とか,物上保証人の辺りは表現しやすいのかもしれませんが,非典型担保の譲渡担保の辺りをどう文言表現していくかを,もし仮に列挙する場合には,少し工夫をしなければいけないのではないのかと思っています。   個人的には後順位抵当権者は時効援用権者とすべきではないとも思うところですし,そういう意味では,判例でいいのではないかと思っています。詐害行為取消権の受益者については,むしろ,高須幹事のほうが詳しいと思うのですが,援用権者に入れた最高裁の判断がよかったのかどうかというのは,少し考えなければいけないし,さらに債権者代位権が行使された場合の相手方は被保全債権の時効を援用することはできるのかなどというような問題もあるのかなという感じがしています。 ○道垣内幹事 前向きな発言ができないので黙っていたのですが,例えば後順位抵当権者について,潮見幹事がおっしゃるように,援用権者として認めないと考えたとしても,その理由はどうしてなのかということが問題になってくるわけです。判例の分析を踏まえ森田宏樹教授などは「直接性プラス独立性」という基準を主張されていますし,佐久間毅教授は,これに加え,正当性といった別の要素を付け加えるという主張をされています。そして,それでは,例えば「直接性プラス独立性」という要件を定めることによって,後順位抵当権者が当然に援用権者から外れるのかと申しますと,実は抵当権に関しても優先弁済権の放棄という制度がありますから,相対的な消滅が認められ得るのだと思います。そうすると,独立性はあるのかもしれません。したがって,例えば,後順位抵当権者は援用権が否定される方向に条文の文言化を図ろうということになったとしても,それが否定される理由は何なのかという点にコンセンサスを得ることは困難であり,そして,要件の文言化は,理由をどう捉えるのかということと密接に関係していますので,なかなか難しいだろうと思います。   さらには,先ほど,潮見幹事は,詐害行為取消権の受益者については,若干,判例法理に問題があるとおっしゃいましたけれども,仮に,判例法理をそのまま是認することは前提として,それをどう文言化するのかということのみを考えることにしようとみんながまとまれば,それはそれで可能かもしれないのですが,結論をどうすべきかについても意見が分かれるということになりますと,文言について,なかなかコンセンサスは得にくいと思います。そうなると,最終的には「法律上の正当な利害関係」といったような抽象的な文言にせざるを得なくて,その後も判例による解釈に任せざるを得ないところがあるのではないかと思います。   そうなりますと,そのようなとき,なお例示を置くか,置かないかという問題が残ります。このとき,仮に援用権を認めることで一致している者ということで,例えば保証人とか物上保証人を挙げるとしたときに,保証人,物上保証人に時効援用権が認められることの理由が,他の――先ほどの言葉で申しますと――「法律上の正当な利害関係を有する者」に認められる理由と共通しているならば,例示としての意味があるのだろう思います。つまり,保証人,物上保証人と書いてあるとしまして,これらの者の利害関係を分析すると,こういうふうな感じだね,だから,その後に抽象的に書いてある「法律上の利害関係」というのは例示を含めて考えるとこういう意味だよね,となるわけです。しかし,保証人,物上保証人に時効援用権が認められる論理ないし理由が,一般条項によって時効の援用が認められる者についての論理ないし理由と同一なのかというと,私には多少怪しいところがあるような気がします。そうなると,最終的に例示も書けないのではないかという気がするのでして,余りに消極的な意見ですので発言を控えていたのですが,そのように考えております。 ○松岡分科会長 ありがとうございます。   私も実感としてはそういう感じになっています。今,おっしゃったように受皿条項が条項の方向性を規定する意味を持つのか疑わしいというのが今の道垣内さんの御指摘ですね。そこのところは確かに自信がありません。   具体的な問題についても全く同感で,後順位抵当権者については先ほども触れましたように意見が分かれています。譲渡担保権者については明確な判例はありませんので,第三取得者に引き寄せて考えるか,あるいは後順位抵当権者に準じて扱うか,両方の考え方があり得ます。後順位抵当権者を判例どおりに処遇するか,判例どおりにはしないのであれば,その理由が他の援用権者をどう定めるかという理由と一致することができるのかは,道垣内さんがおっしゃるとおり,非常に難しいという感触です。   ただ,時効の援用権者が条文を見ても分からない現在の状況を少しでも明確化して改善したいという当初の出発点から言いますと,そのままになっていていいのか,方向性がなかなか見えにくい状況であります。できるだけたくさんの御発言を頂いて,意見の分布状況も含めて明らかにしていきたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○内田委員 前に進める話ではないのですが,時効の効果について,(1)の乙案というのはこれまでほとんど支持がなく,それを前提に部会資料でも今日のテーマの(2)の補足説明の「他方,前記(1)の乙案は」という部分は,言わば念のための議論として書かれています。つまり,保証人に援用権があるのは当然だろうという雰囲気で現在の議論はされていると思うのです。ただ,主たる債務が従来どおり10年の時効に掛かり,10年間も権利行使していなかったのだから,もう権利は消えている,それを保証人が援用できるのは当たり前ではないかという感覚は分かるのですけれども,仮に時効の期間が,今後の議論次第ではありますが,短くなって,時効制度の趣旨としても,現代の取引のスピードに合わせて,権利はその行使ができるようになってから,合理的な期間内に行使すべきだというような理解が採用されたと仮定しますと,主たる債務の時効期間は10年よりも短く,そして,債務の成立後に保証が付いた,あるいは物上保証が付いた,そこからまだ,それほど時間がたっていないという段階で,主たる債務の時効期間が満了したというような場合,しかも,主たる債務者は援用する気はない,払うと言っているときに,保証人や物上保証人に援用権を認めるというのが,今までと同じように何の異論もない話なのかどうか。時効期間がどうあれ,それは認めるべきだということであれば,議論はこのまま進んでいいと思うのですが,本当にそうなのかというところは,一応,確認をしておきたいと思います。   保証人の場合は自ら債務を負っているわけですから,自分の債務について時効の利益を享受することは可能なわけで,しかもまた,保証人保護のためにいろいろな手立てを講じようという議論をしているわけですので,主たる債務の時効の援用権を認めなければ,絶対に困るというほどのことはないかもしれない。その辺のところも含めて御議論いただければと思います。 ○松岡分科会長 今の内田委員からの問題提起も含めていかがでしょうか。 ○道垣内幹事 全くおっしゃるとおりだと思います。ただ,期間だけの問題ではなくて,例えば連帯保証をしているときに,保証人に対して時効の中断などを行ったときに,主たる債務についてはどうなるのかという問題があって,現在は連帯保証につき例えば請求ですと絶対効が生じるわけですが,本当にそれでいいのかというのは問題だろうと思います。   そこで,そこにおいて,連帯保証人に一定の保護を図るために絶対効を否定するということになりますと,債権者としては保証人に対して一生懸命,履行請求して手段を講じているのに,知らないうちに主たる債務が消滅して,そうすると,今度は附従性によって消滅する。これもいかがかという問題はあろうかと思います。今,内田委員がおっしゃったように,保証人も債務を負っているということから考えてきますと,本当に単純に附従性を認めてよいのかという問題にも,あるいは最後はつながってくるのかもしれません。そうなりますと,例示も難しくなって。 ○松岡分科会長 そこに意見の一致がないとますますまとめにくいですね。 ○道垣内幹事 改正法全体の状況を勘案しながら,個々的に考えましょうということに,どうしてもなってきてしまうかもしれませんが。 ○高須幹事 議論を進めるために発言させていただきますが,今,内田先生から御指摘のあった,後から保証を付けるというようなケースなのですが,私自身の感覚としては,保証債務が後から付くということは余りないのかなという実感を持っています。今,道垣内先生が附従性そのものというようなお話もおっしゃったように,もし,そういうケースがあるとすると,それは保証ではなくて,あるいは独立に債務を負担するという事柄なのかもしれないというようなことも思っております。そこで,ケースとしては典型的な場合,つまり,契約締結と同時に保証契約を,主たる債務の発生と同時に保証契約が締結されるというようなケースにおいて,援用権を認めるかどうかということを想定した条項を置いてもいいのかなと。そういう意味では例示するかどうかは別としても,保証人,物上保証人は援用権者に入るという考え方でよろしいのではないかと思っております。強い意見ではありませんが,そのように考えております。 ○松岡分科会長 ありがとうございます。 ○内田委員 同時に保証債務が成立するなら,同じ時期に時効期間が満了する可能性が高いでしょうから,保証人は自分の時効を援用すればいいのだと思います。物上保証の場合はちょっと問題ですけれども,人的保証の場合は,他人の時効についての援用権をあえて認める必要はないとも言えるように思います。 ○高須幹事 御指摘のとおりだと思います。 ○沖野幹事 収束の方向ではないのですが,気になる点が二点あります。   一点目は,同様の定式を用いる他の箇所との関係です。「正当な利害関係を有する者」という形で定式化をし,かつ具体的な場合として保証人,物上保証人をあげることの適否を考えるに当たって,「正当な利害関係を有する者」というのは,他にも弁済による代位のところですとか,第三者弁済のところで出てきますので,そのときに,それらについては一般的な規定だけで,例えば保証人や物上保証人といった明示しないこととする場合,なぜ,時効のときだけ例示をするか,それらとの違いについての考え方について説明できる必要があると思います。時効の場合,取り分け分かりにくいからということがあるかもしれませんが,その観点も考える必要はないだろうかというのが一点目です。   二点目は,道垣内幹事の御指摘の点です。一般的な類型基準があって,それの具体化としての保証人,物上保証人ということを考えるのか,それとも,保証人,物上保証人は明らかで,そして,それ以外の類型としてという形で考えることができるのか,それは,「その他」か,「その他の」かという表現に結実することになりますが,仮に「その他」としても実はその基準においては共通していると説明することもできると思われ,その規定の書きぶりによって完全にクリアできる問題ではないとは思うのですけれども,間違いなく該当するという具体が決められるのならば,それらについては異論がないことを規定上明らかにするというのは,考えられるものと思います。   そのときに,保証人,物上保証人は本当に異論がないのかというのが内田委員の御指摘ですけれども,ここは部会ではないということもあり,最終的に援用権者の範囲をどうするかというのは恐らく部会の決定事項だと思いますので,この部分について仮に,保証人,物上保証人について異論がないとすれば,どのような定式が考えられ,しかし,その部分についてもなお議論の余地があるということであった場合にはどう考えられ,また,部会資料にも書かれていますように,判例の定式化を前提とするならば,どのような表現が望ましい,適切かという,かなり前提の留保が幾つもまたパターンがあるのでやりにくいことはやりにくいんですけれども,取りあえずの作業として,これであればこう,これであればこうというような形での検討はできるように思います。 ○松岡分科会長 方向としては具体的な示唆をしていただいたように思います。保証人,物上保証人を援用権者に含めるのかどうかは,部会での決定事項だというのは御指摘のとおりで,ここで決めることはできません。保証人,物上保証人について援用権が当然に認められるということで意見が一致すれば,例示はある意味,可能かもしれません。しかし,そこも先ほど道垣内幹事のおっしゃったとおり分かれます。今の沖野幹事の御指摘の中にも含まれていたと思うんですが,保証人,物上保証人の延長で一般的な基準を考えるのか,そうではないのかが議論すべきポイントになるのでしょう。   さらに,先ほどから出ていますが,判例の定式化を前提に考えるのか否か自体も,潮見幹事に問題提起をしていただきましたとおり,分科会としてはどちらもあり得ることを前提に試行錯誤で案を作ってみることになるのでしょうね。しかし,この場で,今,それができるかという問題があります。想定していた議論の時間は既に過ぎていて,何も決まっておらず,問題が明らかになっただけという感じがするのですけれども,これはどう収束をつければよろしいのでしょうか。  ○筒井幹事 分科会長からありましたように,直ちにこの場で答えを出すのはなかなか難しいとは思いますが,しかし,部会でこの論点について時間を掛けて議論をすることが難しかった中で,分科会の場で議論していただいたことで,様々な問題点を指摘していただくことができましたので,頂いた意見を基に,もう一度,事務当局で整理して,次の機会に案をお示しすることを試みてみたいと思います。その際に,本日,御発言いただいた方のほうで,例えばこういう案があり得るということを会議の場以外でお伝えいただくことができれば,それはもちろん歓迎いたしますけれども,事務当局のほうでも更に検討したいと思います。 ○岡本委員 物上保証人あるいは保証人が援用権者の範囲に含まれるかどうかという点についてということなんですけれども,今,思い付きみたいな話で余り考えた考え方ではないんですけれども,物上保証人あるいは保証人は,主債務について債務者の弁済によって消滅しているといったことは,言える立場にあるんだろうと思うんですけれども,そうしますと,主債務者の弁済の証拠の保存期間が経過しているといったことは,保証人,物上保証人の側で言えてしかるべきなのかなと思いますものですから,そういう意味では,やはり主債務の時効の援用というのはできてしかるべきなのかなと考えます。 ○松岡分科会長 岡本委員は時効の制度の趣旨について,弁済の証拠の保存にかなり重点を置いて考える姿勢で一貫して来られましたが,そういう考え方を採れば保証人や物上保証人に援用権を認めることを支持できるが,そういう考え方を採らなければ認められないということでしょうか。両者の関係はどうなりますか。 ○岡本委員 時効制度の存在理由としては,いろいろ言われていますけれども,その中では弁済の証拠の保存の期間といった考え方が,私としては最も妥当なのかなと思っておりまして,比較的,それに純化した考え方を採っていいのではないかと思っているものですから,そういうふうな形で申し上げました。 ○松岡分科会長 どうもありがとうございました。 ○内田委員 保証人,物上保証人に独自の援用権を認めるかどうかが一番問題になるのは,主たる債務者が援用しない場合ですよね。ですから,弁済の証拠はない,債務はまだあるから払うと主たる債務者が言っているときに,援用を認めるかどうかが,一番重要な問題だと思います。その場面では,岡本委員の発想からすると援用はできないということになるのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○松岡分科会長 内田委員がおっしゃっていることは理解できるのですが,例えば主たる債務者が明確に私はまだ弁済していないので援用しない,払うと言っているケースはよろしいのですが,往々にして主たる債務者の行方が分からなくなっているため援用するかしないか,その意思を確かめようにも分からない状況にあります。そうすると,債権者としては捕まえやすい保証人若しくは物上保証人の責任を専ら追及してくるときに,果たして保証人らが時効を援用できないとしてよいかは,やはり,素朴に疑問です。乙案では,主たる債務者が援用するかどうかを確かめるという一種の催告のような手当てをすればよいとおっしゃっていたのですが,主たる債務者の意思を確かめようがない場合をどうするのでしょうか。 ○内田委員 多分,(1)で乙案を採る場合は,主たる債務者がいなくて催告をしたいけれどもできないという場合には,援用したものと扱うという手当てを当然組み込むのだろうと思います。ただ,別にこの案を支持して是非推そうと言っているわけではなくて,支持がなければ落ちるだけのことですけれども,消滅時効制度全体の設計との兼ね合いで,本当にそれでいいのかどうかの確認をしたかったということです。 ○松岡分科会長 その点はここで確認して先に進める問題でもなさそうです。先ほど筒井幹事から今日の議論では十分詰まらなかったことを,整理をして案を提示したいと,それに際しては皆さんもお気付きの点があれば,案を出したり御協力いただきたいという御発言がございましたので,この点は取りあえずはここまでとさせていただきましょう。 ○道垣内幹事 内田委員が乙案とおっしゃったのは,いわゆる履行拒絶権構成のことをおっしゃっているのでしょうか。それとも,時効の効果の3のところにおける時効を援用することを主たる債務者に求める権利というのを付与するということをもって,乙案とおっしゃっているのですか。 ○内田委員 部会資料33ページの時効の効果のところの(1)の乙案,履行拒絶権という考え方です。 ○道垣内幹事 それについて,部会でほとんど支持がなかったので,と内田委員はおっしゃったのですが,私の理解はそうではなくて,「履行拒絶権」という名前が付いたことによって,何か極めて特殊なことを言っているように見えるけれども,債務者が請求されたときに何を言えるのかということを単に書くというだけのものだと考えるならば,それはそれとしてあり得る書き方ではないかということは,内田委員御自身もおっしゃっていたと思いますし,山野目幹事その他,そういう意見は出ていたように思います。したがって,別に乙案には全く支持がなかったので,このままだと消えますが,というまとめにはならないのではないかという気がしていたのですが。 ○潮見幹事 ちょっと関連することかもしれないのですが,事務方でおまとめになるときに,少しだけお願いというかがあります。結局,ここで議論が十分にできないというのは,どうしても時効の援用権者というものはどう在るべきかという実体法上の考え方が,部会のほうで十分に議論がされなかったというところにあるのではないかと思います。   今日,配っていただいた31の資料の1ページということで言わせていただきますと,(2)に書かれている前段と後段で,後段のほうは正に,主債務者が援用することができるという枠組みで考えておられているのに,他方,前段の前の段落のほうはむしろ判例が援用権者と認められているものに正当性を認めて,それを援用権者と捉えた上で,どう定式化していこうかという観点からの文言上の説明になっています。   ところが,援用権者はどうあるべきかを考えた場合には,判例そのものでもなく,しかし主債務者にも限らないという観点から,援用権者を捉えていこうという意見や,場合によれば,部会では支持がないと思いますけれども,そもそも援用権者を制限すべきではないという意見も学説上はあったかと思います。そういう意味では,援用権者というものをこのように捉える場合には,こういう形で正当化することができるという,何か,そうした分類というか,グルーピングがまずあって,その上で,それを具体的に展開したら,どのような形で条文化することが可能なのかという議論があるように思われます。   また,具体例を挙げて,その上で一般的規準を挙げるというような方法を採るのか,一般的規準のみを挙げるのかについても,前者の方法によるときに,一般的規準を後ろに付けると,具体的規準と同じ観点からの価値判断がそこで働くということになるかもしれないし,他方で,具体的に挙げた例と,後ろに挙げた一般的規準というものがずれるということは論理的にもあり得ます。この前の債権者代位権の転用の辺りの議論で,一般的な基準とともに具体的な例を挙げようとしていた一部の方の御意見は,具体的な規準の背後にある価値と,一般的なルールの背後にある価値というものが一致するとは考えていないような御発言ではなかったかと思います。こうしたところが(2)の出されているところでは,甲案,乙案というところとは直結はしないものの,甲案,乙案と一部くっついてしまっています。その結果,今言った援用権者がどうあるべきかという点が,説明文では見えにくくなったかなという印象を持ちました。もし,整理されるときに可能であれば,御配慮いただければと思います。 ○松岡分科会長 気になるのは,可能であればとおっしゃるのだけれども,そもそも可能なのでしょうか。今までの議論の中で,発言された方のそれぞれが持っているイメージがずれている気がします。援用権を正当化する根拠によって分類ができればよいのですが,先ほど道垣内幹事が御指摘になったように,それが必ずしも一様ではないという理解ですと,統一的な理解はできそうにない気がいたします。 ○潮見幹事 個人的には,私もそう思います。ただ,そうなって後ろ向きでいいのかというところが若干,気になるんですよね。 ○松岡分科会長 それは御指摘の通りで,最終的な提案が現行法のままでいいという話にはなりにくく,何らかの形で抽象的であれ基準を示すことになりますと,それは一体どういう根拠によるどういう基準なのかを説明せざるを得ません。   課題ばかりが山積しているようですが……。 ○亀井関係官 この場で議論すべきことについて確認をしたいのですが,援用権者とされる者の実質的な範囲について改めて整理をすることまで求められているのでしょうか。私の理解では,今まで時効の援用が認められてきた者を表す文言として現行の「当事者」という用語は適切ではないので,それに代わる用語をどうすべきか,というのが,この分科会に与えられたテーマだったと理解をしていました。しかし先ほどからの議論では,現在判例上,援用権者と認められている者がどのような根拠で認められているのか,また,それがいいのか悪いのかについても議論し,その上で用語を考えようというまとめをされているようですが,そのような理解でよろしいでしょうか。 ○松岡分科会長 いかがですか。私はそのように感じております。判例の類型をそのまま正当化するために文言をどうするかには尽きない,もう少し広い課題が与えられているものと思います。 ○亀井関係官 単なる用語の検討に尽きないということですね。分かりました。 ○中井委員 今,亀井関係官がおっしゃられたことに関連してですけれども,先ほどからお聴きしていて,誰が援用できるのか,具体的に検討して,今までの判例も場合によっては見直し,見直した結果を明らかにして何らかの条文化をしていく。このような作業が仮に想定されているとすれば,それは分科会の役割ではないだろうと思います。   今回の改正はどこまでのことをするのかということにも関わるのかもしれませんけれども,研究者の皆さんのお話を聴いていると,この援用権者の範囲についてはかなりの議論があり,しかし,研究者の間でも一致するところに至っていないように伺いました。そうだとすると,それを今回の改正の中で見極めて,個々具体的にここまでは援用権者に入る,ここは入らない。こういう議論をして結論を出して立法する作業までするんでしょうか。内田委員のお話を聞いていると,保証人についてさえ,疑義があるというように聞こえましたので,そこまで遡った議論をしていくのかということについて疑問を感じました。   現行民法は当事者と書いている。これは限定し過ぎるね。一定の範囲は判例でも認められている。その範囲については問題があるかもしれないけれども,それは今後の判例若しくは更なる実務に委ねましょう。ただ,当事者という言葉は不適切なので,これを例えば,法律上の正当な利害関係等に改めましょう。そういう検討にとどめる,また,とどめたほうがいいのではないかと感じました。 ○松岡分科会長 今の点は重要な御指摘で,先ほど筒井幹事に引き取っていただきましたけれども,事務局にお願いをする今後の作業の方向性の射程の問題に関わります。中井委員のおっしゃるのはもっともで,まとまった定式,少なくとも具体例を挙げた定式を示すのは,難しいのではないかという御発言のほうが多かったと思いますので,そうすると,最低限としましては現行民法の当事者という書き方は狭過ぎて誤解を招くので,そこをどうすればいいのかということに,検討対象を限ることになるかもしれません。   ただ,果たしてそれでいいのかが問題です。最初に潮見幹事が御指摘になったのは,もう少し根本的な問題だったと思いますが,いかがでしょうか。やはり,判例の類型をどう正当化するのかだけではないという御趣旨だったのですが,できたら御発言ください。 ○潮見幹事 基本的な方向性というのは,私は中井委員がおっしゃったところでいいとは思うんです。ただ,そのときに,そうしたら,なぜ,そういうスタンスに立ちながら正当な利害関係という新しい言葉を使って,そこで何を表現しているのかということについては,今後の解釈に委ねるという方向でいいのかとの疑問を抱きます。   それはどうしてかというと,正当な利害関係というのは,学説では一部では言われていますが,正当性ということの意味,あるいはそれを支えるものが何かということについては,必ずしも明確なものがない。これがは判例で言われていることを表現したものですと言われたとしても,果たしてそうですかと,そこはちゅうちょを覚えるところもあります。そうであれば,本当の後ろ向きになってしまうんですけれども,現行の当事者というところをそのままとどめるか,判例がよいのであれば,むしろ,直接受益者という言葉を使うなり,何なりするなりしたほうがまだましかなと思います。 ○内田委員 ちょっと違った方向の発言です。中井委員がおっしゃることはよく分かるのですが,ただ,誰が援用できるかというのは,民法が改正されると直ちに裁判で問題になってきます。まれにしか生じない問題ではなくてしょっちゅう出てくる問題で,仮に消滅時効制度が改正され,言葉も現行法と変わると,一から判例形成ということになる。やはり,誰が援用できるかというのは実務的にかなり重要な問題なので,せっかく改正するのであれば,限界事例となるような部分はもちろん解釈に委ねるにしても,ここまでは大丈夫という線を示す役割は,担う必要があるのではないかという気はします。   もちろん完全なコンセンサスを得るというのは,今の議論を聞いていてもなかなか難しいとは思います。ですから,必ず反対者はいるかもしれないけれども,取りあえず,こう線を引くというような立法をして,必要なら例示をきちんと示して,よく問題になる部分についてはどうであるかという結論が分かるようにする。その上で運用してみて,どうしてもおかしいということであれば,改正すればいいことで,今後100年間もつ民法を作ろうなどと思ったらとても改正できませんけれども,そう考える必要はないのだと思います。   ですから,必ず実務で問題になる点について議論がまとまらないからブランクにして解釈に委ねるというのは,結局,後世にコストをしわ寄せする改正ではないかという感じがします。線を引く改正をする際に,自分の意見が通ることのメリットと,ある程度,クリアな線が引かれることによるメリットをトータルで見ると,やはり,明確なルールが示されることのメリットのほうが全体としては大きいのではないかという気がいたします。 ○松岡分科会長 いつまでもここで止まっているわけにもいかないとは思うんですが,一方で,方向性が大分違っているので,事務局で案を御用意いただくとしても,このままでは何を用意すればいいのかということになりそうですね。 ○筒井幹事 もちろん,そうなのですが,どういう案の示し方をすればより合意形成がしやすいかを考えて,本日の御意見を踏まえて検討してみたいと思います。 ○岡委員 弁護士会として,学者の間で意見が分かれている,あるいは最高裁の判決がまだ出ていないようなものをこの部会で一つ一つ詰めていくという作業には,とても時間も掛かって大変だなという思いをします。ただ,正当な利害関係を有する者でも,直接利益を受ける者でも結構ですが,ある程度の規準を書いて,今までの判例で認められたもの,これは含むと,その程度であれば,今まで100年間で事例で出てきたもので最高裁が認めたもので,今回,削るべきだという意見が出ていないもの,それを例示として掲げて,直接利益を受ける者,正当な利害関係を有する者,そこの表現に弁護士会は余りこだわらない。学者さんの中である程度,共通,多数意見のものを書いていただいて,最高裁が今まで認めた例示があれば,あとは実務で何とかやっていけると思いました。 ○松岡分科会長 よろしいですか。言い残しがあるといけません。御発言いただければと思いますが,取りあえずは今の岡委員の意見も踏まえて事務局で案をお考えいただくことにいたしまして,次は「4 形成権の期間制限」という点につきまして御審議いただきたいと思います。それでは,亀井関係官から御説明をお願いいたします。 ○亀井関係官 部会資料31の38ページをご覧ください。この論点については,第36回会議では,形成権には様々なものがあるということを理由として甲案に難色を示す御意見がございました。第36回会議ではこのような御意見を踏まえて,仮に甲案又は乙案というようなものが採用される場合には,どのようなメリット,デメリットがあるのかについて分科会で御審議していただくことになりました。御審議をよろしくお願いいたします。 ○松岡分科会長 それでは,ただいま御説明がありました「形成権の期間制限」につきまして,御意見をお伺いいたしたいと思います。御自由に御発言をお願いいたします。 ○岡委員 大分前のことにもなり,それほど実務的な需要もなく,弁護士会でも議論は盛り上がりませんでした。今,甲案,乙案を採る場合のメリット,デメリットと言われても,前回とほぼ同様の意見を復習しただけのバックアップになりましたけれども,甲案を採ると形成権の中に何が含まれるか,非常に広くなり過ぎるので,その不安が残るという意見が強かったです。丙案というのは何も書かないので,それはやはりまずいなと。そうなると,形成権という大きな言葉でくくると不安なので,乙案のように取消権,解除権,予約完結権,そういう目に見えるものについて,甲案で書いている①から⑤までのものを個別に書いてくれるのであれば不安もなく,ある程度,具体化されて,実務としては望ましいのではないかと,そういう意見が最終的には多かったように思います。 ○潮見幹事 事務局に質問なのですが,分科会で作業するに先立っての質問という形でお願いしたいんですが,仮に乙案を採る場合の解除権の消滅時効のルールとして,どういうルールを書くというのをイメージされているのかという質問です。つまり,解除権を行使することができるときから何年という,その何年というのは債権の消滅時効に合わせるというようなスタイルをお考えになっているのか,それとも,何か,もうちょっと具体的なものを考えておられるのかです。解除についてもいろいろな場面があって,例えば賃貸借でも賃料不払いもあり,無断転貸もあり,それから,売買でしたら瑕疵担保解除もあり,そうではない不完全履行解除もあり,催告解除もありと,いろいろな場面が考えられます。ここで,かなり大くくりのものをお考えなのかどうかという辺りのイメージを教えていただければと思います。 ○亀井関係官 特に事務局で統一見解があるわけではないのですが,提案の元となった立法提案では,解除権の期間制限については,起算点や期間の長さに関して規定を置くことが提案されております。 ○潮見幹事 その場合に解除権の期間制限というものは,現在の判例法理が言っている債権の消滅時効の期間と同じにするというのは,部会で何か議論はあったのでしょうか。 ○亀井関係官 部会では一般的な規定を置くことについて消極的な御意見が割と多かったように思います。 ○内田委員 今の潮見さんの御発言は,解除について一律の時効期間を置くことには問題があり得るという御理解ですか。 ○潮見幹事 そこは問題ないと思っているのですが,実際に一般的なルールを置くときに,どういう形式のものを置くのかが見えにくいところがあります。また,債権の消滅時効について,一般的なルールをどうするかという点をめぐって,部会のほうで起算点をどうするかと,主観的起算点,客観的起算点の議論があり,かつ期間についても多々議論があり,収拾がついていないという部分があって,それをにらみながら,解除の消滅時効というものを立てていくというアプローチを取っていくのがよいのかどうかという問題があります。それから,取消権については取消権のところで,126条のような規定があって,それは債権の消滅時効のこの前の議論との関係で,どうなるのかというのも少し見えにくい部分もあります。仮に126条型で取消権の消滅時効というものを維持した場合に,解除は取消権の消滅時効とは違った形になるということでいくのかという点も,これまた先ほどの援用権者と同じで,実体的な考え方が部会でまだ固まっていません。そこで,どうするのかと思ったから,発言しただけのことです。   解除について一般的なルールとして規定を置くということ自体には,私は反対はしませんけれども,具体的にどのようなものを置くことができるのかというのは,かなり他の要素をにらみながら考えなければいけないかなと思っているということです。 ○内田委員 この分科会の役割はそれぞれの案のメリット,デメリットを整理するということだろうと思いますので,そうすると,取消権の期間制限を,年数はともかくとして,仮に形を維持するとすると,解除も同じような形にそろえるというのか,それとも取消権と解除とで違ったパターンにするか,また,一般の債権の消滅時効とは区別して規定を置くのか,それとも,期間を全く一致させるのか,というようなパターンがあるかと思うのですが,それぞれのメリット,デメリットを指摘して,今後の議論に資するというようなイメージではないかと思います。取消しのようなパターンにそろえるというのは,何か,問題はありますでしょうか。 ○松岡分科会長 取消しの場合の例では,行使できるときから一定期間と,更に行使可能性を問題にせずに存続期間を考えるという二重の期間制限をするということでしょうか。 ○道垣内幹事 よく分からないのですが,仮に解除権の消滅時効を,期間は10年でも5年でもよいですが,置いたとしても,例えば無断転貸における解除の場合と賃料不払による解除の場合は違うわけですよね。つまり,賃料不払によって解除権が発生したので,5年たったらもはや解除できなくなるのか,ずっと不払のままでよいのかというと,それはそうではないだろうと思います。これに対して,無断転貸のときには解除権は一定のときに消滅するということでもおかしくないと思いますが,それは承諾に基づく転貸があるからであって,取消しの場合と同じように,債務不履行が生じた,ある一定の時点というものを観念できるからですよね。   代金不払でも私は同じだと思うんですが,売買代金不払があって解除できるという状態のときに,代金債権の時効は中断しているとしまして,不払の時点で解除ができることになったので,10年たったら,解除権がなくなるのかというと,それはそうではないように思います。いや,そうかもしれないな。つまり,今,自分でも途中で分からなくなるように,いや,自分が分からないことを無理矢理に正当化して申し訳ないんですけれども,およそ「解除権の消滅時効は何年」と書くことによる,かえって分かりにくさが生じるような気がしてならないのですけれども。 ○松岡分科会長 現在は判例はあっても,明文の規定はありません。そして,個別の規定があればよろしいですが,ない場合にどうするのかがはっきりしないわけで,乙案は,債権の消滅時効期間と基本的に合わせる形で,解除権もそれぐらいの期間を一般的に置くとしています。先ほど岡委員の御発言では,弁護士会としては,甲案みたいに一括して形成権として抽象化することには不安があるので,甲案の①から⑤のようなものを具体的に乙案で考えるとする意見が多いとされました。乙案というのは当初からそういうものだったんですか。私は乙案はもう少し単純なものと思っていたのですが……。 ○亀井関係官 すみません,もう一度お願いいたします。 ○松岡分科会長 乙案は,例えば解除権については期間の制限がどうなるのかが,判例に委ねられて,規定からは分からない。そこで解除権について個別の規定がない場合には原則として10年あるいは5年とする,としていませんか。そういうことだけをはっきりさせようというのが乙案であって,甲案のように事細かに定めることまでを含意していたのではないのではないかと私は理解しているのですが,そこはいかがでしょうか。 ○亀井関係官 甲案で指摘されているような項目に関して,解除権の期間制限の規定として手当てすることは特に排除はされていないと思います。ただ,立法提案では解除権の期間制限に関する規定として,甲案に挙げられているような項目について提案しているものはないので,分科会長が御指摘になられたようなものを想定しているのだと思います。 ○松岡分科会長 そうですね。 ○沖野幹事 乙案のイメージの確認です。原則的な規定を設けるという案ですが,説明によりますと代表的な形成権であると考えられる取消権や解除権のみを対象として,期間制限に関する必要な規律を明文化するということですが,しかし,具体的に必要な規律は何かというのは説明には書かれていないので,内容を確認させていただければと思います。イメージとして例えば消滅時効のところに取消権と解除権についての規定だけを置いて,あとは類推で行こうということなのか,それとも,126条は置いて,それの解除版を解除のところに置くということなのか,両方の場合があると思うのですが,126条型のものを個別に置くということであるにしても,消滅時効のところに置くにしても,その置き方として現行の126条型ならば,追認ができる時から一定短期による時効消滅と,行為の時から一定長期とを書く,時効により消滅すると書かれることで時効に関する規律一般が適用されることが分かるという形です。   したがって,それを基にその後に規律を加えるとすると,――現行の形を維持するとすればということですが,それがおかしいのであれば,時効によりとは書かないということになってくると思うのですが,――加えるとすれば,そこから発生する原状回復や返還請求等についての期間制限を別途置くのかどうか,というのが一つ考えられる事項です。もう一つは甲案の⑤にある防御的に行使される場合はどうかで,これは重要だと思います。例えば防御的に行使されるときには期間制限は働かないというくらいの規定を例えば126条なり,あるいはもう少し原則的なところに置いて,それの解除バージョンを置く。解除バージョンの場合は行為の時というのはいつなのかとかいうのはとても難しく,道垣内幹事がおっしゃったのをお伺いしながら,損害賠償の土地の不法占拠でずっと損害を発生させているというような例ですとか,蓄積していくような例ですとか,そういうようなことが債務不履行自体についてもあり得て,取り分け取消しの場合ですと,元々の契約等のところで原因があるわけですけれども,解除の場合ですと必ずしもそうではないので,行為の時からに相応する部分の書き方が非常に難しく,かつ,それ以外の救済方法とそろえるかという問題がもう一つあるので,解除はより特有の考え方が出てくると思うのですが,そういうことを考えますと,乙案の下では可能性として,どこに配置する想定で,どのくらいのことを書くのかを考える必要があると思います。   どのくらいのことを書くかというときに,現行法の取消権についての126条型の対応型のみを置くというのと,もう少し甲案の恐らく①から⑤まで,先ほどの形だと実はほとんどカバーしたような形になると思うのですが,そういうものを置くのか。取消権と解除権だけを置いておけば,他のものは解釈なり,類推なり,あるいは類推はできないような類型であるということでいくのか,バリエーションはいろいろありそうに思います。拡散する方向で申し訳ないのですけれども。 ○松岡分科会長 確かに拡散しました。そのメリット,デメリットを検討する以前に,甲案にも乙案にも幅が大分あることが明らかになりました。これをどう議論すればよろしいのでしょうかね。 ○潮見幹事 私自身は,ここの乙案というものは期間制限に関する原則的な規定を設けるものとすると書かれていますが,松岡分科会長がおっしゃられたような期間の長さをどうするかではなくて,むしろ,甲案の全体の問題の中から,取消し,解除,あるいは場合によったら予約完結権といった個別の問題に則して,どういう規定を設けるのが望ましいのかという,非常に幅広い観点からの検討を求めている案ではないかと理解をしていたんです。   というのは,4のところの形成権の期間制限で,冒頭の柱書きで形成権の期間制限に関して以下の案があるということで,それで,甲案のほうは①から⑤まで問題が並んでいますから,そのように思ったのですが,仮にそう考えるにしても,考えないにしても,少なくとも解除権に関しては単に債権の時効に合わせる,合わせない以上の問題が含まれているように思います。沖野幹事がおっしゃられた中でも,例えば起算点をどうするか,本当に行為のときでいいのか,むしろ,債務不履行時とか,何か別のもので考えたほうがいいのではないかというようなところもないわけではありません。それゆえ,もし,乙案のような方向でいく場合には,取消しは取消し,解除は解除という形で,一つ一つどういう規定が望ましいのかを考えざるを得ない。その上で,どこにその規定を置くのかということを見ていく必要があるのではないかと思います。   沖野幹事の御発言がありましたので,もう一つ申し上げますと,仮に乙案を採ったような場合でも,先ほどの甲案の⑤は,独立に他の場面の形成権についてどうかというのも含めて考えたほうがよいという感じがいたします。 ○松岡分科会長 仮に今の潮見幹事の御発言のように,乙案が,甲案に書かれていることを形成権という統一的,抽象的な概念を用いずに,取消権,解除権と個別に詳しく規定をしていく方向だとしますと,規定の数が相当増え,個別に検討するべき項目が相当たくさんになります。しかも,先ほど沖野幹事,道垣内幹事が御指摘になったように,解除ということで一括できるのかも問題となり得ます。ただ,原則的な規定を置くということなので,少し特殊な解除については特則を置くことで足りるのではありませんか。それとも,いろいろな解除の類型を考えた上で,共通部分を原則型として検討するという手順になるのでしょうか。 ○道垣内幹事 よく分かりませんけれども,解除権が10年だという判例があるのではないと思うのです。無断転貸を理由とする解除権が10年であるという判例があるというのが正確です。つまり,それは無断転貸というものの債務不履行とどう捉えるか,例えば私が借りている不動産を第三者に無断で転貸している状態というものをもって債務不履行と考えるのではなくて,それを無断転貸行為と捉えるので10年になるわけだろうと思うのですね。そうなりますと,事は債権の消滅時効の期間に合わせた解除権の期間を置くとしても,その背後には当該解除権の発生原因たる債務不履行というのをどう考えるのかという大問題があって,さほど原則規定でもないような気がするのですが。 ○沖野幹事 起算点の点ですけれども,解除権のうち債務不履行解除の解除権について,かつ権利を行使することができる時からというのと,債務不履行の時からというような起算点を考えたときに,その解釈によって対応するということは考えられるでしょうか。 ○道垣内幹事 よろしいですか。そのような言葉を工夫するということは可能かもしれないのですが,沖野幹事がおっしゃったのは駄目だと思いますね。債務不履行があったときとか,権利行使できるときというのであったって,ずっと継続して不払であっても,ずっと債務不履行があったとき,解除ができるときというのは続いているわけで,最初にあるわけですよね。言い出すと切りがないんですが,無断転貸を理由とする解除の話についても,本当は妙な感じが私はしていて,無断転貸という行為を捉えるとそうなるんですが,例えば私が家を借りていて,友達を勝手に連れてきて住ませては駄目だよというときに,転貸行為ではなくて同居させるという行為を考えますと,ずっと友達がそこにいるということが状態的に契約違反であり,解除事由になるという捉え方も十分にあって,そうなると,それを理由とする解除権は友達がそこへ来て10年になるといったって消滅しないと思うのですね,これも考え方によると思うのですけれども……。 ○松岡分科会長 そこは微妙ではないでしょうか。 ○道垣内幹事 微妙は微妙でいいんですが,全て微妙なんだろうという気がします。先ほど私は売買について発言しながら,途中で違うかもしれないと言ったのは,解除権もなくて代金債権だけを請求していけるというふうな状態に転化するのであり,売買契約が解除できなくなるとも考えられるから,例が悪かったなと思ったのですが,それは一つ一つ全部が解釈問題ですよね。 ○潮見幹事 研究会みたいになって申し訳ないんですけれども,債権の消滅時効を考えるときの起算点の在り方をめぐる基本的な考え方と,債務不履行解除が問題になる場合の解除源の起算点を考える場合の基本的な考え方というのは。ずれてよいのでしょうか。同じような考え方から権利の消滅というものを考えるべきなのでしょうか。取消権の126条は,債権ほかの消滅時効とは少し違った捉え方をしていますよね。解除の場合にどうなのでしょう。   他方,解除の場合には先ほど沖野幹事がおっしゃられた債務不履行解除を前提にした場合には,債務不履行を理由とする損害賠償の損害賠償請求権の時効も,パラレルに並ぶところがあります。もちろん,起算点はずれてくると思いますけれども,考え方としてはそれほど違わないと思います。そうであれば,債権の消滅時効と同じような観点から起算点の問題を捉え,ルール化していくのが望ましいのかなとも思います。 ○松岡分科会長 議論の行き先が詰まってしまいまして,私にはどうほぐしていけばよいのかが分からないです。 ○高須幹事 部会のときに佐成委員から経済界の中での議論の指摘があって,非常に印象的だったのですが,保険契約における重大事由解除というのが保険法にはあるわけですよね,信頼関係を損なうような重大な事由があったときは保険契約を解除できて,それは重大事由があるときに遡って免責になると,具体的に言うと,生命保険に山ほど入ってしまって亡くなったような人がいたときに,最初からたくさんの保険金を取得しようとして入ったことが保険会社の方で分かると,一旦,保険金を給付した後でも保険契約のときに背信行為があったのだから,そこに遡って免責だから返してもらうという効力を認める規定だと。   佐成委員のお話によると,ここで甲案とか乙案を考えたときに,立て方によってはその規定との兼ね合いが非常に難しくなる,つまり,そういう,社会通念的にというのでしょうかね,保険法の本だと,道徳危険の著しい保険契約から保険者を保護するための規定だというような説明があるんですが,そういう規定がここで一般的な規定を置いたときに,起算点の立て方によっては時効で行使できないという場合が起きてしまうと。今,先生方の議論を聞いていて,やはり,解除事由によってはそういう問題も起きるケースもあるので,なるほど,いろいろなケースを想定しなければならないなと。それを民法の中で,甲案,乙案を設ける,取り分け解除のところでそれを設けるのは,かなり大変なのかもしれないなという印象は持っております。以上です。 ○亀井関係官 一点修正をさせていただきたいのですが,先ほど私は解除権について規定をおくとする乙案について,甲案の①から⑤のような項目について規定をすることは「排除されていない」と申し上げましたが,仮に解除権について何か規定を設けるとすると,どういう規定を置くべきなのかということも御審議いただきたいということだと思います。そして規定を置く場合には甲案で取り上げられているような①から⑤も含めて,どういう規定があり得るのかというものも御検討いただきたいということだと思います。一点,訂正させていただきます。 ○松岡分科会長 そういう範囲も含めて分科会で議論をせよということですか。 ○亀井関係官 仮に乙案を採る場合には,取消権とか解除権という具体的な形成権の期間制限について,規定すべき項目についても御審議いただきたいということです。 ○松岡分科会長 特有の問題は,④とか⑤ではないですか。①,②,③はもちろん債権の消滅時効とは別の規定を設けることも理論的には可能です。先ほど潮見幹事が御示唆いただいたのは起算点の話だったと思いますが,そこは債権自体の消滅時効と同じようなものであってもいいかもしれません。これに対して,取消権や解除権という形成権を行使した結果生じる原状回復請求権についても期間制限の効果が及ぶか否かは④の問題です。先ほど沖野幹事から御指摘がありました抗弁権の永久性の議論で防御的に行使されるケースは普通の債権ではあり得ない話ですから,規定を設けるとすれば,④,⑤は要るのではないでしょうか。   これらの問題がメリット,デメリットの話とどうつながるのかが分からないところです。高須幹事が先ほど佐成委員の御発言を援用されてご指摘になった保険契約の重大解除の話や,解除原因によっては扱いが異なってくる可能性があるとされた道垣内幹事の御指摘も考慮すると,そもそも原則規定を設けることができるのか,原則規定を設けるとしても,それが当てはまらない規定については,例えば保険について特別の規定を整備するところまでやらないと,規律として不備になるのではないでしょうか。そこまで検討するのは,確かに相当な作業量であり,作業ができる見通しがあるのか分かりません。ただ,そんなことばかり言って作業量が膨大なのでやらないというわけにもいきません。それは,先ほど内田委員からの御注意があったところです。 ○中井委員 今日は事前のバックアップ会議に参加していないものですから,控えていようと思ったのですが,今までの議論をお聞きしていて思うことを申し上げます。甲案の①から⑤に関することについて,一定の規律を設ける必要があるのではないか。取り分け⑤の防御的に行使される場合については,期間制限に服さないことを明文で残すべきだろう。また,④の形成権行使をした結果をどのように考えるのか。それについての規定はあったほうがいいだろう。②についても必要であることは言うまでもない,と見たときに,これらを何らかの形で明文でどこかに規定する必要があると思います。   そのとき,現行民法との連続性を考えるなら,取消権について行為能力の制限のある場合と意思表示に瑕疵のある場合について少なくとも規定が置かれている。ここに一般的に,今,申し上げた①ないし⑤の全部かどうかはともかく,この中から明文化できるものをまず置いておくということは,分かりやすいし,大事ではないか。   その上で,今,お聴きしている限り,解除権についても同じように考えていくかというと,これはかなり困難ではないか。解除理由については一回的な行為もあれば,状態的なこともあれば,何が解除事由なのかということについては,極めて様々なバリエーションもあり評価も含まれる。催告解除では,催告できる期間と,催告することによって解除権が発生してからの期間などによる分け方もできるかもしれない。お聴きしている限り,解除について具体的規定を置くことは大変難しいといいますから,断念したらどうか,そのような印象を持ちます。   そこで,取消権についてできるだけ具体的な規定を設けることによって,それ以外の形成権の場面について,その取消権の規定を準用できるところは準用,類推できるところは類推するという形で個別具体的に解決していく,このような考え方はできないものか。つまり,丙案は採らないで,形成権一般ではなくて,取消権について定め,残りの形成権については解釈に委ねる,それを参考にする。このような解決が現実的ではないかと思いました。 ○沖野幹事 中井委員がおっしゃいましたように,解除権を具体化していくのは,今までの御議論からすると非常に困難で,任意解除の問題も部会で出ておりましたので,債務不履行解除に限るのが一つだと思いますが,債務不履行解除に限ってもかなり難しいということは,この場でかなり認識が一致したところかと思います。   ただ,そうはいっても規定上何らかの手掛かりがあったほうがよろしいという場合,方向は二つあるように思われます。中井委員がおっしゃったのは取消権について具体的な規律を設けることで,それを手掛かりとして他の形成権でどうかを解釈に委ねるというものです。もう一つ,こういうことがあるかというのをアイデアとしてだけお伺いしたいのですけれども,甲案によって形成権一般という形にしつつ,しかし,例えば①,②,③は時効と考え,確かに中断などが性質上はあり得ないのかもしれませんが,それは性質上,規定の余地がないというだけだと考えれば,時効と同じように考え,④をどうするかは問題がありますけれども,これについて規定は置かずというか,私自身はそれはそれで別途のと考えるのですが,そうすると,④については何ら規定を置かないということになり,⑤は明確にする,と。   そういう形成権一般を想定した規定を置きつつ,性質が許さないときはこの限りではないといった一般的な抜き方をするというアイデアです。そもそも性質が許さないとか,趣旨から適切ではないとかいうことは非常に曖昧で,その解釈は非常に難しいとは思います。また,乙案で取消権が書ければ,それはそれでいいと思うのですけれども,取り分け解除権について規定をするのは非常に困難だとすると,むしろ,形成権一般についての基本的な考え方はこうだけれどもというところだけを出しておいて,しかし,実際のところはかなりの部分が解釈に委ねられ,そして,例えば取消権についてはその期間がどうかなるか等々は取消権のところに規定がある。そういう方向が考えられないだろうかと思います。これは余り適切ではないということになると,乙案で取消権だけ少し詳細な規定を置くというのが現実的であるという印象を持ちます。 ○松岡分科会長 今の沖野幹事の御提案はあり得ると思います。いかがでしょうか。そもそも,甲案と乙案にやや難色を示していらっしゃった弁護士会等では,そもそも,今解除権については明らかになりつつありますように,抽象的にまとめて規律することが難しく,弊害もあるのではないかと指摘されていました。「性質の許さない限りはこの限りではない」というようにある種の安全弁を付けるのかもしれませんが,その案は沖野幹事御自身がおっしゃっているとおり,必ずしも準用ないし類推される範囲がはっきりしているわけではありません。どこまで,どういう形でルールが及ぶのかが分からない規律について,果たして弁護士会は賛成していただけるのかが気になります。特に,岡委員,いかがでしょうか。 ○岡委員 もうかなり古くなって,道垣内先生のように聞くとなるほどということで,それほど深まっていないのが現状でございます。 ○高須幹事 今の松岡先生の御指摘というのは,実務家としては気になるところというか,性質が許さないときはこの限りでないという書き方をすると,立証責任は完全にそれを争うほうに結局,転嫁されてきますので,原則と例外というのは実務の扱いになってくると神経を使うところがあります。最高裁判例ができて定着して,それはもう明らかだとなれば,立証責任の問題は軽減されるかもしれませんけれども,全てがそうもいくとも思いませんので,現実には取消権を想定したようなモデルで全体像を作ってしまって,ただ,例外はありますよという書き方は多少,裁判では苦労するかなというイメージを持ちました。 ○亀井関係官 この前の部会では岡委員から弁護士会の意見として,丙案が一番多かったが,甲案を支持する意見として最小限のルールを規定することもよいのではないかという意見を御紹介頂きましたが,その状況に変化があったということでしょうか。 ○岡委員 誰かが作ってくれるといいなという思いを持っているということで,積極的にこんな細かいところまで深く考えている弁護士は残念ながらいないと思います。 ○内田委員 今の議論の中で,仮に乙案のような立場でいくとしても,解除権について一般的な規定はちょっと難しいという話でしたが,そうすると,あるいは潮見幹事がおっしゃったことと重なるのかもしれませんが,例えば売買の目的物に欠陥がある,買主の側としては修補請求もできれば,損害賠償請求もできるし,解除権も行使できる。そのときのそれぞれの権利の行使期間の制限について,解除以外は時効の一般ルールが適用されるというような方式で仮に考えるとすると,解除についてだけ手当てをする必要が生ずるということになるのでしょうか。つまり,いろいろな契約の救済手段のところで,解除の期間制限についてだけ,個別に手当てをしていかないといけないということになるのかどうかということです。 ○潮見幹事 今の内田委員のお話ですけれども,私自身は債務不履行を理由とする損害賠償その他もろもろの救済との,債務不履行を理由とする解除についての時効の枠組みとは,同じものであるべきだと思っています。債務不履行を理由とする損害賠償,あるいは代金減額もそうかもしれません。債務不履行を理由とする解除についての特別の一般規定といったら変な言い方ですけれども,果たしてそのようなものを置く必要があるのだろうかと思います。   あとは現民法167条にいう「権利を行使することができる時」とは解除の場合はいつなのかが解釈問題として出てくるだけではないでしょうか。例えば,先ほどから出ていた無断転貸解除の場合には,現実の使用収益が開始した時と判例は言っていますし,それ以外についても現在の規定文言の解釈で対応しているのではないかと思います。それが,今,うまくいっているのであれば,特に債務不履行を理由とする解除について特別の規定を設ける必要はないと思います。 ○松岡分科会長 甲案で言うところの④,⑤はどうですか。 ○潮見幹事 もちろん,それは別の話です。 ○松岡分科会長 別ですか。 ○潮見幹事 むしろ,主として想定しているのは起算点と,それから,期間ですね。もちろん,特則を置いたほうが望ましいという場面があるのであれば,各論のどこかの場面でふさわしい規定を置くということで対処すればいいのではないかとは思います。また,先ほど申し上げたのは,消滅時効については,債務不履行を理由とする損害賠償その他の手段と解除とを同じように扱うべきであり,かつ,それが債権の消滅時効の一般ルールで処理されるのが望ましいという二つの前提でのことですから,その二つの前提がおかしいということになれば,解除について何らかの一般的規定を置くなり,あるいは準用規定みたいなことになるのでしょうか,何らかの対処をしておく必要はあると思います。 ○内田委員 債権の消滅時効の規定だけだと,今のような結論は解除について導けないのではないですか。解釈でいくということですか,現状と同じように。 ○潮見幹事 はい。 ○沖野幹事 研究会のようですみません。潮見幹事の解釈でいくというお考えについて,それなら明文を置いても同じではないかとも考えられます。つまり,債権の今の二つの留保,前提を付けた上で,その立場によるならば,正に損害賠償と同じだということを示す意味で,例えば甲案の②のような期間の起算点の長さについては,債権一般の消滅効の規定によると。その解釈による,そちらの解釈によるということだというのを明らかにするということが考えられます。規定を置かずに解釈によったほうがいいというのは,そのような明文化にデメリットがあるとお考えなのではないかと思います。そのデメリットとお考えになるものがあれば,それを明らかにしていただいたら,更に検討が進むかと思うのですけれども。 ○潮見幹事 期間については,私自身はそれほどデメリットを感じていません。ただ,先ほどの道垣内発言にもありましたが,期間について10年一律という形で考えてよいのか,判例法理がそうなのかと言われたときに,そうであると言う勇気はありません。   むしろ,問題というか,難しいなと思っているのは,起算点の部分をどのように表現するのかだと思っているんです。もちろん,先ほど,冒頭の辺りで少しやり取りをさせていただいたところにあったように,解除権を行使することができるときからというような抽象的な文言であれば,それでもいいのかなとは思うんですが,そのような抽象的な規定を置くことに一体どれほどの意味があるのか,個人的には,その程度ならば置かなくてもいいと思ったというところです。 ○道垣内幹事 内田委員が出された,売買契約において欠陥のある目的物が引き渡されたというときにも,話はやはり二つあるのでして,それが解除を正当化し得るぐらいの重大な瑕疵があるものであったとしても,買主が売主に対して完全履行請求権を持ち続けると仮定しますと,完全履行請求権自体が例えば10年なら10年で消滅するわけですよね。そうすると,その時点では解除権の消滅ではなくて,不履行状態の解消というのが恐らく起こるのではないかいう気がするのです。不履行状態の解消というか,不履行ではなくなるといいますか。そして,気になりますのは,解除権は形成権だから中断は関係ないよねと言いましても,例えば完全履行請求権のほうは一生懸命,請求をしていって何回か中断なり,ストップなりしていると考えたときに・・・・・・逆のほうがいいのか,どっちがいいんだろう。 ○潮見幹事 解除権が中断する。 ○道垣内幹事 解除権のほうが中断しなければ駄目なのでしょうね。 ○松岡分科会長 中断というのは権利行使の結果でしょう。解除権では中断というのは出てこないのではないですか。 ○道垣内幹事 それはしないのか。 ○松岡分科会長 道垣内さんの今の設例のほうがいいと思う。 ○道垣内幹事 具体例はうまくいかなかったかもしれません。ただ,申し上げたいのは,解除権を行使し得るときから10年間なら10年間で消滅するということの意味が,そういうふうな単純な例ですらよく分からないところがありまして,ずっと独りで気にしていて申し訳ないのですが。 ○内田委員 潮見さんと結論において同じかどうか分からないですが,今のような事例は修補請求にしろ,損害賠償にしろ,解除にしろ,みんな,一緒に消滅するというのが一番きれいなのではないか。何かだけが残るというのは変だという感じはするのですね。だから,そのための手当てがあればいいのではないか。 ○道垣内幹事 だけれども,そのための手当ては解除事由がなくなるということではないかと思うのですが。 ○内田委員 完全履行請求権が消えたって,不履行の状態はなくならないのではないでしょうか。損害賠償請求権が時効消滅しても,損害が消えるわけではないですから。 ○道垣内幹事 ますます研究会的になりつつありますけれども,履行請求権がないときに裏返しとしての履行義務は観念するのですか。 ○内田委員 欠陥があったという事実は残っているのではないですかね。 ○道垣内幹事 でも,履行義務はないわけですよ。 ○内田委員 ないというか,もう請求できなくなった,時間の制約によって。 ○道垣内幹事 こうなると,また時効の効果論に結び付くかもしれませんけれども。 ○潮見幹事 もし,仮に債務不履行の救済で時効を統一し,かつ,それぞれについて規定を置くということであれば,実は解除だけではなくて,先ほど少し出ていた修補請求権をどうするのかとか,今度,設けようとしている代金減額請求権の時効についての規定は要らないのかと,解除だけでいいのかというような問題も起こり得るのではないかと思います。だからといって,解除についての規定は要らないということに直結はしないのですが,解除についての規定を設ける場合には,それ以外のものもやはりどうするのかというのは,視野に入れておいたほうがいいのかなと思います。   一点だけ申し上げますと,現在の売買とか請負の瑕疵担保ですと,これも規定は改正されるかもしれませんが,1年の除斥期間の中で損害賠償も代金減額の問題も,解除の問題も統一的に処理するという枠組みはあり得るんですよね。 ○松岡分科会長 潮見幹事の御意見によく分からないところがあります。   内田委員から問題提起をしていただき,潮見幹事も御意見が一致していると思う点は,仮に瑕疵がある物の給付に対して複数の救済があって,その複数の救済の一部だけが期間制限に掛からず残るのはおかしいので,一緒に消滅するという手当てをするほうがよいとされる点です。   他方,時効期間の短縮等の関係もあり,あるいは瑕疵担保責任の債務不履行責任への一般化という議論もあり,566条3項のような特別の規定は置かない方向が有力で,潮見幹事はその方向に賛成されていますね。現在の566条3項の規定が損害賠償という請求権と解除という形成権とをまとめて期間制限に掛けているところ,それを廃止するという話は,救済の統一的処理とどうつながるのでしょうか。特則によるか,それとも一般的にかは別にして,そういう事態に対する救済はまとめて期間制限に掛かるという趣旨を規定する方がよいということでしょうか。 ○潮見幹事 解釈に委ねるというのと,一つにまとめるというのと両方があると思いますけれども。 ○松岡分科会長 手掛かりになる規定がなくなってしまって,解釈に委ねる結果となるのは,すっきりしません。 ○内田委員 細かい部分には対応できないけれども,一般ルールを置くとするとということで,沖野さんが言われたのは,債務不履行を理由とする解除の期間については,債権の消滅時効の原則による,それだけを書くというような感じですね。それで対応はできないんですかね。それがうまく妥当しない事案があるだろうけれども,そこは解釈で対応するということです。 ○道垣内幹事 妥当しない事案がないのでしょう,多分。例えば状態的に債務不履行が起こるというものに関しては,解除権が継続的に発生していると考えることも不可能ではないので,そこら辺を全部飲み込んで,債務不履行による解除は債権の時効に準じるというか。 ○松岡分科会長 そういう案について潮見意見だとどうなりますか。先ほど潮見幹事は代金減額請求権も形成権で,損害賠償と解除はよいとして,それだけ規定が抜け落ちてしまうのは適切でないという御指摘だったように思います。さて,潮見幹事にお聞きすればいいのか,沖野幹事に更に代金減額請求権までの拡張は可能かと伺えばいいのかが分かりませんが。 ○潮見幹事 代金減額請求というものはこの間の議論を聴いていると,売買のところに置くというところでしたよね。一般的に対価減額請求権みたいなものを債権総論のところにも受けるというような方向ではなかったですよね。そうであれば,もし,必要なら売買で代金減額請求権をどこかに定めたら,その近くの辺りに類似の規定を置くというのもできないことはないと思います。 ○内田委員 減額請求のような他の形成権をどう扱うかというのは,まだ,難しい問題はありそうですが,取消権と解除権が同じスタイルの規定にはならないだろうということは明らかになったのではないでしょうか。それで,解除について債権の一般の消滅時効に準ずるという方向が一つあり得る,そこまで出たのであれば,かなり方向は出たように思いますが。 ○松岡分科会長 しかし,債務不履行解除であっても幾つかの解除をまとめて一般的に規定できるかどうかについては,疑念も出ておりました。 ○岡委員 分科会の進め方の点で申し上げたいんですが,この論点だけで2時間がたって,先ほどから研究会というお言葉が出ておりまして,聴いていて勉強にはなるんですが,第2分科会の今日は訴訟法の先生もお迎えをして,代位権,取消権の手続的なことをやるという触れ込みでしたので,弁護士会としてはそちらのほうにかなり議論を掛けてきました,この時効の論点は本当に3か月前に議論したことを,一生懸命,思い出してはきましたけれども,このような深い議論をするのは,しかも,時間を掛けてするのであれば,何か,もう少し工夫をしていただくなり,何なりしないと,とても予定どおり進まないといいますか,分科会の意義が見えないといいますか,よろしくお願いします。 ○松岡分科会長 しかし,どうしましょう。メリット,デメリットを検討しろという課題が分科会には与えられており,しかし,その前提の理解のところで話がかみ合わず,まずそこを整理するのに時間が大層掛かってしまっています。   明らかになったことは,一つには,甲案を積極的に支持することは難しそうだということです。特に解除権を形成権一般として取消権と同じスタイルでまとめて規律することには,かなり難しい問題があるという御指摘が多かったと思います。次に,乙案で,取消権について,甲案に挙げられているような項目について具体的に規定を書くことまではほぼ意見の一致があり,解除権についてどう整理ができるのかに,まだ意見が分かれている。現在はこういう状況です。そこまででよろしいですか。   それでは,先ほど岡委員から御指摘がありましたので,次に,履行請求権については民訴の先生方がおいでになっているので,そこまでは進みたいと思っています。   5のその他で,「その他の財産権の消滅時効」及び「取得時効への影響」についてです。これはごく短い時間ですが,御審議いただきたいと思います。それでは,亀井関係官,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○亀井関係官 部会資料の42ページになりますが,「その他の財産権の消滅時効」につきましては,債権についての原則的な時効期間の見直しにかかわらず,行使することができるときから20年という現行の規律を維持することとしてはどうかという提案をさせていただいております。この提案については,これでよいかどうか,何か見落としている点がないかどうかという観点から,御指摘いただきたいと思います。   取得時効につきましては,債権の消滅時効を対象とした検討が固まっていない中で,なかなか,御意見が出てきにくいところではありますが,今の時点で何か留意点があれば御指摘いただきたいと思います。 ○松岡分科会長 ただいま説明のありました部分につきましては,特にお気付きの点を御指摘いただくにとどめ,議論を少しはしょりたいと思います。 ○岡委員 一応,弁護士会の意見の復習でございますが,その他の財産権の消滅時効については20年,これでいいと思うという意見が多いんですが,具体的には何なんだと,地役権とか,そういう用益物権のことなんですかと,用益物権でこんな消滅時効で消えることがあるんですかねというような議論は出ました。   取得時効への影響も,検討することとしてはどうかという問い掛けですので,それは検討しましょうよというところで,中身についての議論はよく分からなかったというのが現状でございます。 ○松岡分科会長 ありがとうございます。どういう場合に所有権や形成権以外の財産権の消滅時効が問題となるかについて,何か補足いただくことはありますか。 ○内田委員 現行法のままですよね,だから,特に御指摘があればということだと思っております。 ○松岡分科会長 今の御発言いただいた点は,お答えを要するような性質のものでもなさそうですね。 ○岡委員 地役権であれば通っていないというだけで,行使しないということにはきっとならないだろうと。通行地役権の場合ですが,誰かが占拠しているのに排除しなかったら初めて行使しないことになるのかというような議論が出て,用益物権について行使しないことの要件がもし明確化ができるのであれば,何か文言で明確化するなり,立法理由のところで何か明確化したほうが分かりやすいのではないかというような話をしてきました。 ○松岡分科会長 ただ,通行地役権の場合,妨害排除請求しないだけではなく,確かに最初に通路を開設して通行地役権を設けたけれども,誰も通らずに草ぼうぼうになって20年たってしまったため,もうこんな通路は誰も使わないから消滅時効を主張して負担のない所有権を主張する,というのはあり得るのではないでしょうか。 ○岡委員 では,通らないだけで。 ○松岡分科会長 全く通らないのは,権利行使しないことになるのではないでしょうか。思い付いたことを申し上げているだけで,確信があるわけではございませんが。 ○岡委員 その程度で結構でございます。 ○松岡分科会長 他に何か御指摘,御留意いただく点はございませんか。   では,部会資料32のほうを御覧いただきたいと思います。部会資料32につきましては,「第1 履行請求権等」のところで2,二つ目の項目,「民法第414条(履行の強制)の取扱い」について御審議いただきたいと思います。事務当局から,今度は新井関係官に御説明をお願いいたします。 ○新井関係官 それでは,御説明いたします。   当該論点につきましては部会資料32の2ページに掲載がございます。これについては第37回の会議で審議がなされたところでございます。本文の(1)及び(3)につきましては,部会の中でも異論がなかったと理解しております。本文の(2)の規定,これは実体法と手続法を架橋する一般的総則的規定ということになりますが,このような規定を設けることにつきまして,検討に当たって留意すべき点の御指摘いただきました。   一つは,ある執行方法を取ることのできる債務の範囲を条文上明記する場合については,慎重な検討を要するのではないかという点です。そして,もう一つは,執行方法のメニューということを規定する場合には,将来,民事執行法において執行方法に関する改正があり得るということを念頭に置く必要があるのではないかいう点です。それを踏まえまして,(2)の規定の在り方,特に規定に盛り込むべき具体的な内容等につきまして,御意見を頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○松岡分科会長 それでは,ただいま御説明がありました部分につきまして,御意見を伺いたいと思います。御自由に御発言をお願いします。 ○山本(和)幹事 私は部会のときに,(2)のような形であればあり得るのではないかという発言をしたのですが,この趣旨なんですけれども,ア,イ,ウというのが限定列挙なのかどうかというところなんですが,これはどのように考えたらいいのでしょうか。 ○新井関係官 そこも一つ問題になり得るのであろうと思っております。現行法で執行方法としてあるのはこの三つだろうと理解しているところで,それを踏まえて三つ挙げておりますが,他に,「その他民事執行法で規定する執行方法」と言ったバスケット的な条項を設ける必要があるかどうかということも,問題になるのではないかと思っております。 ○山本(和)幹事 現行法のあれでは,意思表示の擬制というのは履行の強制には当たらないという理解を前提にしているということなんですか。 ○新井関係官 それを排除する意図はございません。それについては,部会資料32の5頁に補足説明で言及しており,意思表示についての執行方法,これは代替執行には包含されないかもしれませんが,意思表示についての執行方法についても規定はしておくということを考えてはおります。 ○山本(和)幹事 限定列挙かどうかということの関係なんですけれども,普通に考えれば,それが履行の強制のほうだとすれば,ア,イ,ウには入らないように思えるので,限定列挙だと,そこを起こさないといけないのではないかということが一つと,例示列挙にしていただければ,基本的には私自身は何の問題もないと感じないということですが,限定列挙にした場合に将来の何らかの改正,部会で例を挙げたかもしれませんけれども,間接的な履行強制の方法として,例えば不払の債務者の氏名を公表するというような強制方法を仮に民事執行法で書くときに,民法の改正が必要になるのかどうかと,私が生きているうちにはそんな改正はできないのではないかとは思っていますが,ただ,そもそも民法の問題なのかなという感じもちょっとするものですから,その辺りのことです。 ○松岡分科会長 山本幹事は問題ないと御発言になりましたが,例示列挙であるということになると,どういう規定の方法になるのでしょうか。 ○山本(和)幹事 文言は例えばですが,ア,イ,ウ,その他民事執行法の定める方法による履行の強制を求めることができるというような,例えば何か,そういうようなことになろうかなと思いますけれども。 ○道垣内幹事 すみません,お前は何年,民法学者をやっているのかと言われるような初歩的な質問なんですけれども,100万円を支払えといって裁判所に求めていくことは履行の強制なのでしょうか。それがよく分からないのは,部会資料の2のところに書いてあるところで,強制履行ないしは履行の強制を裁判所に求めることができる,というのが仮に例えば1項がありまして,2項において,債権者は民事執行法の定めるところに従い,次のような方法による履行の強制を求めることができると,仮にこのままの文言で書かれたとしたときに,その二つの関係はどうなっているのだろうと思ったのです。1項と2項の関係がよく分からなくて,2項というのが例えば債務名義というものを取得してやる手続のことを指しているのだと仮に仮定すると,1項でやっているのは債務名義の取得行為であって,履行の強制行為ではないのではないかという気がするものですから,論理的な関係が分からなくなってしまいまして,お恥ずかしい次第なんですが。 ○新井関係官 債務名義の取得行為,判決手続の部分ですが,これについては,一応,当方の整理としては部会資料32の中で「第1 履行請求権等」の「1 請求力等に関する明文規定の要否」の本文の中で①としている,いわゆる「訴求力」というところで考えております。他方,同じ本文の「2 民法第414条(履行の強制)の取扱い」の(1)の部分というのは,民事執行に基づいて権利内容の強制的な実現ができるという,強制執行に対応する部分の権能を明らかにするということを念頭に整理しております。ただいまの道垣内幹事の御指摘は,強制執行により権利の実現ができるということを明らかにしておくということと,そのための執行方法のメニューを明らかにしておくということとの関係をどう条文上整理していけばいいのかということについて,御指摘を頂いたと理解いたしました。 ○松岡分科会長 道垣内幹事,お分かりになりましたか。今の説明は1項,2項という関係よりも,1項の中でどこまで書くかの問題になるのではないでしょうか。抽象的な原則で強制履行の請求ができるというところにとどめるのか,あるいはもう少し具体的な執行方法のメニューまで示した形で履行の強制を求める権利があると書くのかという御説明だと私は理解しました。 ○新井関係官 そういうことです。 ○道垣内幹事 また,民事執行法などの条文をきちんと調べれば分かるようなものを伺って申し訳ないんですが,100万円の支払を求めるという給付訴訟を起こす際に,その強制履行の方法として何を使うのかというのを言わなければいけないんですか。言わなくていいですよね。 ○松岡分科会長 いいです。 ○道垣内幹事 だから,そうすると,(1)で言っていることと(2)で言っていることは,一緒にして方法を並べれば済むというふうな性質ものではないのではないかと思うんですが。 ○山本(和)幹事 (1)の裁判所に求めるというのは,強制執行の申立てのことなんですか。 ○松岡分科会長 そうですね。 ○山本(和)幹事 訴えの提起ではない。 ○道垣内幹事 訴えの提起ではなく,訴えの提起はどちらかというと,1でやっている請求力の明文規定のところで実現されると考えるわけですね。よく分かりました。 ○松岡分科会長 よろしいですか。 ○道垣内幹事 はい,申し訳ありません。 ○畑幹事 どこにどういう書き方をするかということについて,こだわりは特にないのですが,先ほど山本幹事のほうから意思表示の擬制の話がありましたが,414条の3項というのもありまして,ここに書かれていることというのも,単に(2)のように書いただけでカバーされるかどうかというと,多分,されないので,それをどうするかということを考える必要があるだろうと思います。総じて現在の民事執行法の書き方は,民法の規定を受けた書き方になっているので,申し上げるまでもないと思いますが,民法のほうを変えるのであれば,民事執行法の書き方のほうも考える必要があるということになると思います。 ○松岡分科会長 414条の3項について,畑幹事自身の御意見はどうですか。 ○畑幹事 私は一番シンプルに(1)の中に含めてしまって,民事執行法の定めるところに従い,履行の強制を求めることができるというのがいいかなと。 ○松岡分科会長 そこは(2)のようには書かないということですか。 ○畑幹事 そうですね。ただ,先ほどの山本幹事と同じで,例示のようなことをするということに,特に反対するということではありません。 ○沖野幹事 度々申し訳ありません。一つは(2)について,その他民事執行法の定める履行の強制の方法によるということに書き方を改め,例示であることを明確にするべく,ア,イ,ウ,エのようにした場合に,民事執行法の定めるところに従いというのは,それで全部カバーをするのかどうかというのが少し気にはなります。つまり,手法自体は民事執行法の定める手法であるというのと,したがって,様々な申立ての規律ですとか,そういう話はどうなるのかということがありますので,これで正確なのかが気に掛かります。これは書き方だけの問題で,表現ぶりについてです。   もう一つの点は,今,2項と3項が挙げられ,補足説明の5ページでは,2項のただし書と3項については現行法と類似の規定,同様の規定を設けるということが書かれているのですけれども,これは実体法に置いておくということでいいのか,それとも,これも含めて本当はというか,手続法に全部委ねていいのか。3項はとても重要な規定だと思うのですけれども,むしろ,これも含めて執行法に委ねてくださいというお考えがあるかどうかというのが二つ目でして,質問です。 ○松岡分科会長 山本幹事にお答えをお願いします。 ○山本(和)幹事 畑幹事の先ほどの発言もそうだったのではないかと思いますが,私も民事執行法に置くということでよろしいのではないかと思っているんですが。 ○沖野幹事 民事執行法にもではなくて,民事執行法に置くというお考えですか。 ○山本(和)幹事 先ほどの畑幹事が民事執行法の改正も必要だと言われたのは,そういう趣旨ではなかったのですか。 ○畑幹事 そうです。それで,先ほど申し上げたつもりだったのは,現在の414条3項というのは,ア,イ,ウと並べただけではカバーできませんし,ア,イ,ウと並べて,その他民事執行法の定める方法と書いただけでもカバーできないのではないかということです。 ○松岡分科会長 できませんか。 ○畑幹事 それは民事執行法の書き方を変えない限りはカバーできないと思いますが,いかがでしょうか。 ○沖野幹事 規定の性格をどういう性格として捉えるべきかという点で,一つの考え方として,もし,畑幹事のおっしゃるような考え方にそれをむしろ純化するならば,どうなるかを確認させていただきたいと思います。414条の提案の(1)において,――しかも先ほど明らかにされたように強制執行を裁判所に求めることができるというのは,強制執行の申立てを指し,訴え提起ではないということだとすると,――むしろ,(1)で,民事執行法の定めるところに従い,請求することができるとして,それで終わって,(2)は設けず,基本的には民事執行法のほうで全部が詳述されるということになるように思われます。民法ではアイデアを明らかにするにとどめる。意思表示についての規定と,それから,作為の場合の結果の除去と将来の適当な処分という,これらの規定は必要であるとおっしゃるときに,それは実体法の中にあるということに意味があって,それとともに民事執行法にも置くという性質が適切であるのか,それとも,それも本来は民事執行法だけに置けばよい性格のものであって,そうすると,もし,純化するならば(1)の民事執行法の規定に従いということを入れるならば,(1)とあと損害賠償は妨げないという二つがあればむしろいいのではないかと。そのほうが民事執行法で柔軟なやり方ができて,ただ,(2)を排除して,どういう方法があるかは民法からは分からないということにはなるのですけれども,手続法の考えとしては,むしろ,そういう性格だとお考えなのかということをお聞きしたかったのですが。 ○山本(和)幹事 私はそう考えています。ですから,ただ,畑幹事が言われたように例示を置くことは特に妨げないと思っていますので,例示を置いたほうが民法を見た人の便宜にかなうということであれば,少なくとも現行法上,存在するようなことは例示として書いて,ただ,その他民事執行法における法発展の可能性を残すということであれば,それは全く差し支えないと思っています。   現行法は,民事執行法の171条は民法414条2項本文又は第3項に規定する請求に係る強制執行は,執行裁判所が民法の規定に従い,決定をする方法により行うという,代替執行については民法依存的な規律をしておりますので,当然,民法のところがざっくりなくなれば,全く新たに書き下ろす必要があるわけですけれども,そのほうが私は望ましいと思っているということです。 ○畑幹事 結論同旨です。ただ,性質上,どちらに置くのが好ましいかということについては,私は定見はありません。部会でこの辺りを議論したときに,種々の議論があったかと思いますけれども,そういう性質決定をしないと立法ができないというものでもないかなと思っていて,例えば抵当権に関する法定地上権は民法にありますが,強制執行に関する強制競売による法定地上権は民事執行法にありますし,そこは私は余りこだわりはないのですが,取りあえず,民事執行法に書くのが分かりやすくていいのではないかという,個人的にはその程度です。 ○潮見幹事 結論は皆さん同じで,あとは一点を除いて,どう条文を立てるかという部分が主だと思います。そういう意味では,民法依存的という分科会長の発言もありましたが,私も414条の1項については,先ほど沖野幹事がおっしゃったような形で,民事執行法の定めるところに従いという文言を入れることで,あとは民事執行法で申し訳ないけれども,少し文言の改正をお願いすればいいのであって,2項は,その意味では要らない。   3項だけ若干気になりますのは,民法の理論の中でも例えば奥田先生なんかがそうですけれども,414条の3項というものは,手続法上のことのみを書いているのかという見解もあります。不作為を目的とする債務というものについて,結果の除去請求という実体的な内容を持っている部分は,単なる手続法上のルールを書いているのではなくて,むしろ,不作為債務あるいは不作為債権の内容を書いているものではあるまいかという意見もありますから,414条にその種のものを置くというのがいいのか,あるいは先ほどの1のところの請求力のこちらのほうにくっつけたほうがいいのか,少し判然としないところはありますけれども,何らかの形で参考のようなものは,民法の中に残しておいたほうがいいのではないかという気がいたします。 ○松岡分科会長 意思表示擬制についてはどうですか。 ○潮見幹事 微妙ですね。 ○松岡分科会長 微妙ですよね。意思表示擬制は,ア,イ,ウとある執行のパターンとは少し質が違う気がして,並列的するわけにもいかない気がします。今までの御意見を伺っていると,現在の414条2項をどうするかは微妙だと思うのですが,3項のような規定は,潮見幹事がおっしゃったようにむしろ不作為債務の請求内容の問題として,そちらに繰り込んで必要ならそこに規定を置き,純粋に実体法の規定にするのが一つの案です。例示を置くかどうかについては執行法のお二人の幹事の先生方は,特に例示を置くことを妨げないが,本来はこれは強制執行法で定めるべき規定だという性格付けをされていますので,例示を置くべきかどうかについて,更に御意見を頂けませんでしょうか。 ○畑幹事 今の414条3項の話なのですが,先ほど申し上げたように私はそもそもの性質論というのはよく分からないのですが,これは実体的な規定といえばそうなのですが,しかし,不作為債務についての債務名義に基づいて,ここに書かれているようなことができるという意味では,手続的な規定という意味もあると理解をしております。 ○山本(和)幹事 請求権というのをどこまで細かく捉えるかということだろうと思うんですけれども,民事執行法の世界では公害問題を契機として,抽象的な不作為請求権という議論が出てきて,何ホン以下の騒音にしなければいけないということで差止めをして,まずは間接強制で執行して,でも,それで止まらなければ414条3項のような結果除去とか,適当な処分で壁を作らせるとか,そういうようなことが執行手続内でできるんだという議論が有力になって,そういう意味で,やはり,これは執行法上の不作為債務をどのような形で執行させていくのかと,そこについてある一定の程度を執行裁判所の判断で,裁量でそれを組み立てていくんだという,そういう発想が有力になっているものですから,そういう観点からすれば,執行法の中に置くというほうがという議論は,執行法学者としてはかなりあるのだろうと思います。 ○筒井幹事 先ほど新井関係官が説明したとおりなのですが,部会資料では実際の条文案をお示ししているわけではないため,本文をお読みいただくだけでは,議論の対象になっている事務当局の提示した考え方が必ずしも明らかになっていない面があったのかもしれません。本文で提示しているのは,一つには,現在は規定されていない間接強制を,先ほど来の議論でいえば例示ということになると思いますけれども,例示として民法の規定として組み込むという提案です。そして,あとは,基本的に現在の414条2項,3項に則した規定を設けることを提案しています。ただ,現在の414条2項には「強制履行を許さない場合において」という表現があって,これは現在の一般的な理解からすると削ったほうがよいと考えられているのではないかと思います。そこで,補足説明で書きましたように,そういった文言の修正はあるにしても,基本的には現在の414条2項,3項のような規定は民法の中に維持した上で,間接強制の規定を組み込むということを提案しているということです。このような提案について,例示としても書かない方がよいのかどうかは,この場で御議論いただければとよいと思います。 ○山本(和)幹事 そうすると,414条3項を変えて,不作為を目的とする債務については,今は結果除去と適当な処分しか書いていませんが,ここに間接強制,一定の金銭を支払わせることを裁判所に請求することができるとか,そういうようなことも書くという趣旨ですか。そういう形になる。 ○筒井幹事 そうですね,はい。 ○沖野幹事 本当に度々申し訳ないのですけれども,分科会に示された検討事項の範囲を超えているかどうかということも含めてなのですが,資料の第1,2の(2)のように例示であることが明らかなような書き方をしますと,ア,イ,ウの他にもいろいろあるということは,民事執行法で示されるということが民法に書かれるということになります。その上で,意思表示についての擬制の規定と,それから,不作為債務で,結果がある場合の結果除去等や将来のために適当な処分の規定が置かれることの意味なのですが,(2)において取れる方法は全て網羅するということになります。   つまり,例示と一般規定によって,方法はここで網羅されているはず。それに加えて意思表示と,それから,不作為債務が民法に置かれることの意味といいますか,これが構造に影響を与えないだろうかが気になっています。しかし,それはそれぞれ不作為については債務の内容という点では,実体的な意味を持ち得るということであると,それは両方に書いて別に問題はないということになるかもしれないし,しかし,そうだとすると,不作為の場合一般について規律を書き切るということになるのかもしれません。また意思表示についても同じように,取り分け(2)との関係で,説明はうまくつけられるということでよろしいでしょうか。 ○山本(和)幹事 私は原案の趣旨を完全に誤解していたんですが,414条2項や3項をやめて,これで414条の規律内容はここに書かれているものだと理解して議論をしていたんですけれども,仮に今のような御趣旨だとすると,2項も,今,債務が作為を目的とするときと書いていますが,代替的な作為だけですよね。非代替的作為は含まれないはずなので,代替的作為を目的とするときと書かないといけないし,そうすると,非代替的作為はどうするんだという話が当然,民法のほうから出てきて,それについては間接強制なんですよということを書かないといけない。それで,しかも民事執行法上は現在,代替的作為でも間接強制できることにしていますので,それをどう書く,民法にそれを書かなくていいんですかという話になって,結局,全部,民事執行法に今,書かれている内容のことを414条に書き下ろさないといけないということになってくるような気がするんですけれども,そこまでやられるということなんですか。 ○筒井幹事 それぞれのメニューの要件まで具体的に規定するかどうかが,補足説明で問題提起していることです。ラフに言いますが,直接強制,代替執行,間接強制というメニューがあることのみを民法に示すのか,それぞれのメニューを利用することができる要件まで民法に規定するのかは,議論になり得るであろうと思います。そこまでは規定しないという選択肢もあり得るということを補足説明で書いております。 ○山本(和)幹事 私はどちらかといえば,そう書かないという選択肢のほうを前提にして,今まで議論をしていたということです。 ○潮見幹事 私も山本和彦幹事と同じように今まで考えていまして,むしろ,先ほどから出ている1で,履行の請求力と,それから,債務名義絡みのことを書いている。2の414条の取扱いという部分では,債権の持っている執行力のようなことを実体法のルールとして書き下したものであるとしている。そして,執行手続の内容については,民事執行法のほうに委ねるのであって,現行の414条に当たるところには書かない。その上で,もちろん,例示ということをやるかどうかは,民事執行法の先生方のお知恵を拝借してどうするかを考えると,そういう枠組みで捉えていたのです。そして,そのほうがむしろすっきりするのではないかとも思います。   もちろん,414条3項については,先ほど前のほうに持っていったらいいのではないかといって申し上げたのは,債務の内容といった場合に,抽象的な不作為債権というようなもので捉えるのか,それとも,もう一つ具体化したところで捉えるのかという点の理解の違いに由来するだけのことであって,その意味では,先ほど山本和彦幹事がおっしゃったように実体的には抽象的不作為債権のようなレベルで捉え,あとは民事執行法のほうに全部投げることが可能であるならば,3項は民法の中からは外してよいと思います。そうしたら,結局,沖野幹事がおっしゃった内容での1項と,それから,2項,3項は飛ばして,念のための4項という辺りで,この規定は収めておくのが適切なのではないかと思います。 ○松岡分科会長 今までのところをまとめますと,メニューとして,直接強制,代替執行,間接強制その他があるということになるのでしょう。それ自体を民法に書くかどうかについて二通りの御意見があって,例示して書いたほうがいい,ないしは書いてもいいという御意見と,すっきりさせるためには書かないほうがいいという御意見です。元の案のように,要件のところまで対応させる形で民法にメニューを書くことには,賛成の御意見は今まで出ていません。それは,むしろ執行法に正に任せるべきだという意見で,ほぼ一致しているように思います。この点はよろしいですか。   その上で,私がこだわり過ぎているのかもしれませんが,メニューとしての例示を限定列挙だとする御意見はありませんので,例示列挙の形で置くほうがいいのか,あるいは置かないほうがいいのかが最後の分かれ目になっています。弁護士会ではこの点に御議論はありませんか。 ○岡委員 弁護士会は一応賛成意見のほうが多かったんですが,多かったイメージはやはり例示で分かりやすく書いてくれるのだったら,そのほうがいいかなと。ただ,先ほどの和彦先生とか畑先生の話を聞いていると,書く以上は何か丁寧に書かないといけないとなると,ややこしくなるかなというのを聴いて感じておりました。 ○山本(和)幹事 むしろ法制的な質問なんですが,何もあれしないで裸で直接強制,代替執行,間接強制と書くことはできるんですかね。最近の何かのあれだと,間接強制(民事執行法172条に定める間接強制のことをいう)とかというようなことを書いている法律もあるんですが,そんなことを民法に書くのは非常にエレガントではないという感じがしますが,裸で書けるのかどうかというのがちょっと。 ○筒井幹事 裸でというのは,直接強制という言葉だけを規定するという趣旨ですか。 ○山本(和)幹事 ええ,それだけ。 ○筒井幹事 それをかみ砕いた抽象的な言葉ではなく。 ○山本(和)幹事 かみ砕いた抽象的な言葉で書ければいいんですが,そこの問題ですか。やはり,書く必要はある,何かかみ砕いて。 ○筒井幹事 現在の部会資料における本文の書き方は,お尋ねの点をどちらとも決めていないのだと思います。 ○松岡分科会長 私が誤解しているのかもしれませんが,民法に出てくる法律用語全てに定義を書くというような方針を特に決めているわけではありません。間接強制,代替執行,直接強制という言葉は,素人が分かるのかと言われれば問題はあるかもしれませんが,必ずしもその中身を説明することまで規定に書く必要はないのではないでしょうか。そして,指示する場合に民事執行法何条によると書くか,書かないかもどちらもあり得るのかもしれませんが,書かないほうがエレガントです。参照条文の書き方は六法の編集の問題であって,法文にそこまで書くのは適切でないという気がします。ただし,言い切れないところが気持ち悪くて,例えば,登記手続は不動産登記法によると書きますので,使い分けないしは振り分けの基準があるのでしょうか。 ○内田委員 四文字の単語だけいきなりぽんと出るのは,違和感があるということかと思いますので,民事執行法上の要件の問題に立ち入らない民法的な書き方が可能かどうかを検討する,もしそれが書けなければ書かないということになる,ということなのではないでしょうか。 ○松岡分科会長 特に例示で示すべきであるという強い御意見はございませんか。 ○内田委員 私はやはり民事執行法との架橋になる規定は,あったほうがいいのではないかと思います。ただ,どうしても書けないというのではしようがないですけれども,それが書けるかどうかは文言を実際に……。 ○松岡分科会長 内田委員の今の御意見では,単に四文字が並んでいるだけだと意味はないとされますが,何を基準に説明を書こうというのでしょうか。 ○内田委員 意味はなくはないですが,意味が分からないので,もう少し分かるように書く。しかし,厳密に何であるかを書こうとすると民事執行法の要件を書くことになるので,そうではない,民法と民事執行法を架橋するための規定としての定義が書けるかどうかを,もう少し追究してはどうかということです。 ○松岡分科会長 書けなければ,一切なしにするんですか。感覚的には私には若干の違和感が残らなくはなく,単語だけでも手掛かりが法文上にあるほうがいいとは思うのです。先ほど申し上げたように,民法に出てくる法律用語全てに分かるように説明を書く必要はないでしょう。 ○山本(和)幹事 私の先ほどの発言は,そういう反対する趣旨ではありません。民法のほうで単語だけでも分かりやすいということであれば,それで結構ですし,あるいは間接強制に何か債務の移行を確保するための一定の額の金銭を支払わせる方法とか,そういうようなざくっとしたような形で何か書くということであっても,別にそれは特に反対ではありません。 ○松岡分科会長 それでは,今のような形で案として可能かどうかを具体的に検討していただくことでよろしゅうございますか。   休憩時間をとうに過ぎているので,今から休憩をさせていただきます。           (休     憩) ○松岡分科会長 ただいま時間が参りました。それでは,再開させていただきたいと思います。   部会資料35のほうに移ります。部会資料35,「第1 債権者代位権」,「2 債権者代位権の基本的要件」,「(1)本来型の債権者代位権の無資力要件」,そのうちの「イ 強制執行の前提としての登記申請権の代位行使の場合の例外」,これにつきまして御審議を頂きたいと思います。事務当局から説明をしていただきます。 ○金関係官 御説明します。   部会資料35の4ページを御覧ください。この論点については部会の第40回会議で審議がされ,具体的な規定の在り方等について分科会で審議することとされました。部会では,登記申請権のみならず登記請求権の代位行使についても無資力要件を不要とすべきであるとの意見などがありました。よろしくお願いいたします。 ○松岡分科会長 金関係官から御説明のありました部分につきまして,御意見を伺いたいと思います。御自由に御発言をお願いします。 ○岡委員 弁護士会の意見ですが,無資力を要件とせずに,こういう代位行使を認めるべきであるというところについては,異論はございませんでした。ただ,そこから先については大阪弁護士会のように,そもそも一般的な代位権を保全の必要性でくくるという立場からは,表現の仕方が少し違うという意見でありますとか,仙台からは不動産登記法に規定するのでいいのではないかとか,位置だとか表現については若干の異論がございましたけれども,内容的に無資力を要件とせず,こういう代位行使を認めるべきであるところでは一致をしておりました。 ○松岡分科会長 ついでに岡委員に伺います。部会の中では山本和彦幹事に御発言いただいたことで,部会資料では登記申請権と比較的限定的な書き方をしてあるのですが,登記請求権の代位行使についても同じように無資力を要件とせずに認めてもいいのではないかという御意見があり,私も実感といたしましては登記申請権というより登記請求権の代位行使というイメージでおりましたから,当然,そちらまで含むものと感じていました。その点については特に何か御意見は出ませんでしたか。 ○岡委員 その点で細かい議論は昨日は出ませんでした。 ○松岡分科会長 どこか御議論されたところ,ないしはお感じなるところがあれば御発言を頂きたい。 ○畑幹事 この問題で難しいのは,「強制執行の前提としての」ということ,あるいは「差し押さえる前提として」というふうなことをどう具体化するのかということではないかと思います。ちょっと伺った実務の扱いだと,まずは債務名義を持った人が差押えの申立てをして,それからという話だったので,それによると,正に強制執行と結び付いた形になっていて,だからこそ,私は本当は民事執行法で解決すべきものではないかというふうな感想も申し上げたのですが,取り分け登記請求権のほうにまで拡大するとなると,そこはどうなるのか。これは差し押さえる前提ですとだけ言えば,無資力要件は要らないということになるのかどうかといったような問題が残されているように思います。 ○山本(和)幹事 その点は正にそのとおりで,私自身も本来的には部会で申し上げましたが,執行制度の中で登記申請権の差押えとかという制度を作って,それで,不動産執行に直接つないでいくようなシステムを作るのが最善だろうと思っているんですけれども,そこはなかなか大きな話になるので,現在の制度を生かそうとした場合に,ただ,金銭の債権者代位というのは基本的には責任財産を保全する制度で,将来的には強制執行を前提とした制度であるという形で整理されるとすれば,本当に,だから,差押えするのかというと,そうではない場合がひょっとしたらあり得るのかもしれないですけれども,制度の前提としては差押えを前提としているとすると,やはり無資力でないと責任財産を保全できないというのは,やや変な感じがするんですけれども。 ○畑幹事 ただ,そうすると,ことは登記請求権に限られないような気もして,正におっしゃったように債権者代位権というのは本来的には責任財産の保全だとすれば,なぜ,ここだけという疑問はやはり出てくるような気はいたします。 ○山本(和)幹事 それは,ここだけしか債権者代位を使わないと,他に選択肢がないからなのではないでしょうかね。動産の引渡請求権ならば動産の引渡請求権を押さえればいいわけですね。金銭債権であれば,その金銭債権を押さえればいいわけなので,だから,これはどうしようもないんですね,債権者は債権者代位を使わないと。だから,登記の移転請求権を差し押さえられればそれこそいいわけですけれども,だから,しようがないのでということなのではないでしょうか。無資力を要求できないのではないかという,そういう説明になるのかなと思うんですけれども。 ○畑幹事 実質は多分,そういうことだろうと思いますし,考えていることがそれほど違うわけではないような気もするのですが,それを民法で解決するというのも何か気持ち悪いといえば気持ち悪い。 ○山本(和)幹事 気持ち悪いのは全く同感です。 ○高須幹事 他にどうしようもないというのは,経験上では実感できるところでありまして,ある意味では債権者代位権をここで使うんだということが,仕事の上では何か当然のようになっていると思います。ただ,今回の改正議論の中で,当然のようになっていたものが,実は無資力要件が係っていたはずなんだけれども,それはどうなってしまったのかということであれば,私も本来的には執行法との連続性というのを意識した大きなシステムの変更が大事だとは思いますけれども,仮にそこまでの改正に今回及ばない場合には,この代位権のところは実際,仕事に役立っている重要な規定だと思いますから,何となく無資力要件があるようなないような今の取扱いよりは,きちんとした整備を立法でしていただいたほうが明確になると思います。 ○道垣内幹事 もし,民事執行法で本来は処理するのが妥当であるが,そこが差し当たってはうまくいかないので,民法で手当てをしてしまうということですと,民法における手当てによってもはや民事執行法の健全なる発展はなくなってしまいますよね。そうすると,民事執行法の改正に諮問が及んでいないので差し当たっては民法で,というのは,一番よくない選択のような気がするんですが。 ○中井委員 大阪弁護士会有志から既に意見書を出しておりますけれども,大阪弁護士会は,保全執行制度を原則として利用すべきである,しかし,保全執行制度ではまだ不足している部分がある。その場面で現実に債権者代位権は様々機能している,複数のところで機能している。具体例は部会のときに申し上げています。その中で,この登記申請権の場面でもそうですし,今,山本和彦幹事からお話がありましたけれども,登記請求権の場面でも執行しようとしたときに執行できない。それを補完する,そこに空白領域が生じているので,ここは債権者代位権が機能する場面と考えて,登記請求権についてもあり得るのではないかという論理になろうかと思います。   私自身は,余り御支持は得られておりませんけれども,保全の必要性という観点で要件立てをしておりますので,当然,範ちゅうに入って,登記申請権のみならず登記請求権もできていいのではないか。ただ,私の保全の必要性については誤解のないように申し上げておけば,普通の場面は当然,無資力場面ではあるけれども,果たして無資力ということを立証命題にしなければならないのか,当該代位債権者の持っている債権を保全する,目の前の債務者財産だけでは当該債権が満足できない場面,それはほとんどの場合は無資力の要件を充足しているんでしょうけれども,無資力を立証しなくても代位債権者の債権が満足できない状態であることを明らかにすれば,それで足りると考えるということからきているわけです。 ○畑幹事 ちなみに,執行制度が十分でないのを補完するという考え方でいくのであれば,現在,相続の登記について事実上,そういう扱いになっているように,登記請求権についても債務名義を持っていることを要件にするとかいうことに,筋としてはなりそうな気がいたします。 ○金関係官 この代位登記の問題を本来型の債権者代位権における無資力要件の要否の問題として捉えてしまうと,債務者が債務者名義の債務者所有の不動産を十個も二十個も持っているような場合であっても,たまたま一つだけ債務者名義でない債務者所有の不動産があれば,代位債権者は本来型の債権者代位権に基づいて登記申請権の代位行使をすることができるという結論になるのだろうと思います。無資力要件を不要とするという議論は,極論すればそういうことなのだろうと思います。ただ,それが本当に債権者代位権の制度趣旨である責任財産の保全という観点から正当化されるのかと問われると,やはり疑問があるように思われます。山本和彦幹事が部会でおっしゃったように,この代位登記の問題は,債務者所有の不動産であれば,それがたまたま債務者名義でなかったとしても,本来は強制執行の対象となるべき不動産であるという点がポイントであって,債務者の責任財産の保全の問題ではないようにも思われます。そのような観点から,この代位登記の問題を本来型の債権者代位権の問題として論ずるのは適当でないかもしれないという問題意識を少し持っております。今回の部会資料では,そのような問題意識から,債務者の財産管理に対する制約が最も少ないものに絞って,相続登記の登記申請権の代位行使についてのみ提案をしているのですが,今申し上げた趣旨からすれば,本当は,この相続登記の登記申請権の代位行使の場合ですら,本来型の債権者代位権の問題として論ずるのは適当でないかもしれないと少し感じております。そこで,この代位登記の問題については,本来型の債権者代位権の問題とは無関係の純粋な強制執行手続の問題として捉えて,民事執行法の中に,無資力要件とは無関係に代位登記を可能とするような規定を置くことができないかということを少しだけですが感じております。 ○山本(和)幹事 金さんの問題意識は,私も全くそのとおりだと思います。無資力で他に不動産がいっぱいあったときにどうかということなんですけれども,ただ,その場合でも民事執行法の考え方は,債権者が差し押さえられるものを選べるというのが基本なわけですね。登記がたまたまどこかにいっているからといって,しかし,その責任財産であれば,どの責任財産から回収するかというのは債権者が選べると。   ただ,もちろん,一定の場合には競買申立権の濫用とかという他に換価が容易な財産があるにもかかわらず,債務者が特に困るような財産を差し押さえるというのが換価権の濫用になるという議論はあり得て,あるいはそういう他のところに何か理由があって,名義がいっているのを戻してわざわざ差し押さえるというのは,何か濫用的なものであるのかもしれない。その場合には権利濫用の問題になるのだろうと思うんですが,基本はどの財産も差し押さえられるはずであると。ですから,強制執行の前提としてであれば,私は他に財産があったとしても,それを本来の名義に戻して債権者が差し押さえる権利を持つということは,何ら不自然なことではないと思っています。   ただ,執行法のほうでそういう手当てができるなら,代位というのは正に登記申請権なり請求権なりを差し押さえて,一旦,登記を戻して不動産執行につないでいくという制度だと思いますので,もし,そういうことが法務省としてやられるのであれば,私は基本的に大賛成で,民法にそういうことを入れると,先ほど道垣内さんが言われたようにかえって障害になるということであれば,民法に入れないほうが私もいいと思うんですけれども,ただ,直ちにそれがされないと,結局,空白の期間が空いて,先ほど高須幹事が言われたように,これはだから,日夜,起こっている問題なので,無資力要件が民法に書かれているんだけれども,しかし,実際はそんな無資力なんか要求せずにやっていますという話になるんだろうと思うんですね,民事執行法の制度ができるまでは。そうならざるを得ないと思うんですが,そういうことになっていいのだろうかという気も一方ではするものですから,もし,やるのだったらという話をしているわけですので,もちろん,民事執行法でやっていただけるならば,それは私としては大賛成ということですけれども。 ○松岡分科会長 先ほど中井委員がおっしゃったことは,必ずしも少数意見ではなく,部会でも私はこのような場合,保全の必要性が無資力要件と必ず同じになるとする理解には疑問を呈しました。そもそも条文には無資力要件とは書いてなくて,保全の必要性を被保全権利の性質に応じて柔軟に運用していると理解すれば,そのままでいいのではないかと思います。 ○畑幹事 新しいことを付け加えるわけではなく,金関係官がおっしゃったこととも同じだと思いますが,民訴の学者で議論しておりますと,これは本来型ではないのではないかという感触を述べる人も結構おります。やはり少し特殊な問題だということの表れだろうと思いますけれども。 ○高須幹事 今,畑先生がおっしゃられて,そうかもしれないという思いを強くしたのですが,その前から少しもやもやとしかけていたんですけれども,結局,今の金関係官のお話でも,責任財産は保全されていて,実際には責任財産があるんだけれども,執行手続ができないという手続上の障害を取り除くために,代位権をやむなく使っているだけだとすれば,転用なのかもしれないですよね。転用だから無資力要件は要らないということだったのかもしれない。   ただ,そういうことだとすればきちんと理論立てていかないと,僕ら弁護士は分かりませんから,むしろ,本来型の代位権で無資力要件が緩和されたような何か取扱いをしていると思ってきたんですけれども,ここでの議論を通じると,理論的にはもっときちんと考える必要があるのかもしれないなと。道垣内先生もおっしゃったように,そういうことを詰めていかないで中途半端に規定だけを置くのはただの気休めみたいなことかもしれないと,代位の必要性は感じているので,そこは撤回するつもりはないんですけれども,もっと勉強せねばならないなということは思った次第です。   それで,仮に執行法に手当てする場合に,必ず登記を移すというために代位権を使うという方法がいいのか,債務者に登記がなくてもストレートに執行できるという制度を作ってしまえばいいのか,そこから先は手前みそですので余り言いませんけれども,そういうような発想もあってもいいのかなと思います。 ○松岡分科会長 できるのですか。 ○高須幹事 例の去年の。 ○山本(和)幹事 権利能力なき社団の判例と同じ,あるいは一種の責任説というようなものだと思いますので。 ○松岡分科会長 そうですね。高須幹事の発想だとそうなりますね。 ○高須幹事 権利能力なき社団のほうも十分勉強しておりますので,そのほうも含めて。 ○筒井幹事 ただいまの御議論があったところは,部会資料35でいうと,11ページの補足説明の一番下に書いたことだと思います。つまり,以前の会議で山本和彦幹事から民事執行法の中の大きな制度の見直しとして検討することが考えられるのではないかという御提案があったのですけれども,それは今回の改正作業の中では荷が重いのではないかということを補足説明に書いております。このことを申し上げた上で,先ほどの金関係官の発言に対して山本和彦先生から,民事執行法のほうで手当てをすることは考えられるという話がありました。仮にその話に乗っていくとしたときに,民事執行の申立てをした際には無資力でなくても一定の代位が認められるという場合には,部会資料で書いた登記申請権についてのみ規定を設けることを念頭に御発言いただいたのか,この場合でも登記申請権も視野に入れたものをお考えになるのか,そこはいかがでしょうか。 ○山本(和)幹事 登記申請権も考えています。 ○筒井幹事 登記申請権の場合ですと,債権者が強制執行の申立てをした上で,そういう意味では畑幹事から御発言があったように債務名義があるという前提になりますが,強制執行の申立てがされたその後に,被告は登記義務者になるのでしょうか,その者に対して代位訴訟を別途提起するということをお考えなのでしょうか。 ○山本(和)幹事 一種の取立訴訟のようなものがそこで観念されるということだと思います。 ○筒井幹事 御提案の趣旨は理解いたしましたが,やはり荷が重い話だなという思いを強くいたします。 ○潮見幹事 先ほどから何人かの御意見にありましたけれども,本来はこれは手続法上のルールであるが,今の筒井幹事の言葉を待つまでもなく,執行法の改正は難しい。しかし,こういうルールを現在設けておくことが世の中の問題を処理する上で適切ではあるというときに,今回の民法の改正の際に,民法の中にその種の規定を置くという態度決定をここでするということは可能なのでしょうか。説明として休憩前に出ていた414条ではありませんけれども,よくよく見れば,これは執行法あるいは手続法上のルールを定めているものです,本来は民事執行法の中に置いておくべきものですといいながら,民法の規定として改正規定を置くということは,今回の改正の方向としてありうるのでしょうか。   ちなみに,中井委員とか大阪弁護士会の立場からすると,結局,債権者代位権自体が執行保全に関する制度であるということが基本に据えられることになるでしょうから,そうなると現在の民法の下でも債権者代位権というものがこうして厳然として規定がある以上,こうしたものをくっつけておくことについては,それほど障害はないのではないかと思うところがあります。 ○山本(和)幹事 先ほどの畑幹事の御発言になるほどと思ったんですけれども,もし,転用型ということで位置付けられるのだとすれば,正に転用ですから,将来,民事執行法が発展していく可能性を含めたものと,現在はそういう形で処理をしているというようなことになりそうな感じがするのですけれども,民法理論としてはなかなか金銭債権を被保全権利として,転用型という例はあるのかもしれませんけれども,転用型として整理するということは難しいのでしょうか。 ○松岡分科会長 やはり,被保全債権と代位行使される債権ないし権利との間にある種の特殊な関連性があるときには転用型として,正に責任財産一般の保全でなくて,当該被保全債権を確保するために不可欠ないしはやむを得ないという説明をするのは比較的易しいです。   ただ,先ほど山本幹事から再三御説明いただいているように,基本的には債権者は差押え財産を選べるはずで,つまり,その被保全債権と登記申請権ないし登記請求権の間には特に密接な関連はありません。強いて言えば,正に責任財産としての関連があるという程度であって,債権者代位権の一般的な本来的適用の問題とならざるを得ないのではないでしょうか。この問題について分科会に与えられた課題のお答えとしては,民法の中にこういう無資力要件を必要としない本来型を規定しても構わない。規定すること自体について特に反対があるわけではない。むしろ,基本的に認められるということを前提とした上で,先ほどから出ていますように,そのような規定を,本来民法におくべきか民事執行法に置くべきかを検討すべきだということになります。道垣内幹事のおっしゃるように民法に次善の策を置いてしまうと,最善の策を塞ぐことになってしまうがそれでいいのかという疑問も出てきます。   ただ,先ほど潮見幹事はあるいは疑問形でおっしゃっただけかもしれませんが,そもそも,詐害行為取消権とか債権者代位権という制度自体が実体法と手続法のちょうど境界線上にある制度であり,民法にこういう制度が現に置かれていることからすると,ある程度,本来なら執行法に置かれるべきものでも取り込んでおかしくはない。将来,場合によっては民事執行法に引き取ってもらうということになるかもしれない。以上のような問題の位置付けでどうでしょうか。更に御議論はありますでしょうか。 ○畑幹事 先ほど申し上げたことの繰り返しなのですが,債務名義を持った債権者の強制執行の申立てということと結び付かない形で,広く無資力要件を不要ということにすると,民事執行法でルールを整備するのと比べると,債務者の財産管理に対しての干渉としてやや過剰ということにはなると思います。 ○松岡分科会長 実体法上で,債務名義を有する債権者の権利行使というような要件の立て方を具体的に条文案として書くことは可能ですか。 ○畑幹事 それを私に聞かれましても。 ○松岡分科会長 誰にお尋ねしたらいいのでしょう。 ○高須幹事 それ自体は書くことは可能なのではないでしょうか。執行法的な手続を意識した上での規定を置けばいいということだと思いますので。ただ,畑先生に教えていただきたいのは,その場合にいわゆる保全は認めるという前提でもよろしいんですかね,保全制度の趣旨からして。 ○畑幹事 それは先ほどから自分でも気になっているのですが,そこは十分考えておりません。 ○高須幹事 必要性だけで申し上げて恐縮ですけれども,執行の場面と,それに当然出てくる前倒しとしての保全の部分の使い勝手は確保していただければと,それ以外の部分では畑先生がおっしゃったように,余り無限定に無資力要件を排除して広げるのはよろしくないだろうというのは,そうだなと思っておりますが。 ○中井委員 部会のときも申し上げましたけれども,登記請求権について将来,強制執行して登記を債務者名義に戻すとしても,通常実務では必ずそれに先立って保全をしなければ,第三者名義が更に他に移転される可能性がある。とすると,登記請求権に基づいて,第三債務者名義について処分禁止の仮処分を求めるときに,被代位債権たる登記請求権を被保全債権にして保全命令を取らなければならない。そのとき無資力要件を必要としないのであれば,当然,保全のときにも無資力要件を必要とせずに,保全の必要性で仮処分命令は取れるはずで,そうでなければ,その後の実現ができないという関係にあることは間違いがないと思うのです。   申し上げたかったことは,畑幹事が債務名義がないと駄目だとおっしゃることが,今私の申し上げたこととの関連で,貫徹できるのでしょうか。 ○畑幹事 それは正に高須幹事も御指摘になったように,保全のところはまた考える必要はあると思います。差し当たり,強制執行を念頭に置いた議論をしていたということです。 ○高須幹事 そういうことで考えていくべきだと思っていますが,多分,ポイントは被保全権利というところで債務名義がなければ権利として求めることはできない,移転登記等を求めることはできないという立て方をしたときに,債務名義がまだないうちは被保全権利が立たないという解釈になってしまうと,保全で障害が出てくるということで,あるいは保全法固有の解釈の問題なのかもしれませんけれども,保全のレベルでは少なくとも被保全権利が立つような解釈が可能となるような条文の書き方を考えなければならないのかなというような,イメージだけで申し訳ありませんけれども,本質はそこにあるのかなと。保全の必要性は,今,中井先生がおっしゃったように,この種の事案では常にあるわけですから,被保全権利の手当てさえできれば,このような方向での解決も不可能ではないのではないかと思っております。 ○中井委員 松岡分科会長がおまとめになられたのは,登記申請権のみについてですけれども,登記請求権について今のことを前提に置いて,なお,どうするのかということが残ると。 ○松岡分科会長 残りますね。畑幹事のおっしゃるのは,登記請求権にまで広げるとより不安は大きいということですね。 ○中井委員 しかし,実務はそれを要請しているのではないでしょうか。 ○潮見幹事 別のことでいいですか。先ほどから高須幹事ほか規定を置くのは簡単のようなことを言われたのですが,どういう規定になるのですか。民法に置く場合に,債権者は自己の債権を保全するために必要があるときは,債務者の有する登記申請権及び登記請求権を行使することができる。こうですか。それで,今の現行の423条のところは無資力というのは明記することによって現在の423条と,登記申請権,登記請求権への代位というものについてのすみ分けを図るということでしょうか。また,中井委員や大阪弁護士会の意見ですと,423条でも無資力という要件は要らない,保全の場合と同じように必要性ということで足りるから,わざわざ特別に登記申請権の代位だとか,登記請求権の代位なんていうことを規定として置く必要はない。一般規定で十分に対処可能であるということでしょうか。 ○松岡分科会長 そうなるのではないでしょうか。 ○潮見幹事 ただ,中井委員と高須幹事の話だと,保全の場面も含めて対処できるような形でのルールを設けておくのが望ましいというか,そうしてほしいというような御趣旨ではなかったのでしょうか。 ○内田委員 高須幹事のお話は,債務名義の問題を組み込むことは可能ではないかというような御趣旨ではなかったですか。 ○高須幹事 今,とっさに想定しただけなので,何ともまだ稚拙なものなんですけれども,例えば債務名義を有する債権者が債務者を代位して相続登記とか移転登記を求める場合には,無資力要件は要らないというような特則を一般的な原則規定の後に置く。その上で,それに続ける2項なり何なりで例えば前項の債権者が民事保全手続を取るときには,債務名義の存在については保全裁判所は考慮することなく被保全権利を判断することができるみたいな,みたいなで申し訳ありませんが,そんなようなイメージなのかなと思ったのですが,いかがでしょうか。 ○山本(和)幹事 手続はよく分からないんですが,そこでの保全は不動産の仮差押えですよね,念頭に置かれているのは。 ○高須幹事 いいえ,債権者Aが債務者Bに対して金銭債権を持っている場合に,例えばBの父親に登記名義があるとか,あるいは前主であるCが登記名義を持っている場合,それの移転を禁止するわけですから,仮差押えではなくて第三債務者といっていいのかどうか分かりませんけれども,父親とか。 ○山本(和)幹事 債務者が持っている移転登記請求権を被保全権利として,処分禁止の仮処分を掛けるということを念頭に。でも,移転登記請求権を行使するというのは債権者代位権に基づいて行使するんですよね。 ○高須幹事 そうですね。そこはそういうダブルのことが。 ○山本(和)幹事 そこは債務名義は必要ではないと,移転登記請求権を被保全権利として処分禁止の仮処分を掛ける場合には,債務名義は必要でないという規律を置くということですか。 ○高須幹事 ちょっと考えさせていただいていいですか。すみません。 ○中井委員 私はそうです。規律を置くかどうかはともかく,債務名義は不要であるということです。 ○畑幹事 研究会のようなことで恐縮ですが,保全の場面なのですが,実務上ないという話かもしれないのですが,動産の場合に同じようなことはありますか。つまり,民事執行法163条で動産の引渡請求権を差し押さえて,それを取り上げて売却につなぐという手続がありますが,理屈の上では動産についても保全はどうするんだという問題はありそうですよね。 ○山本(和)幹事 確かに,それは仮処分ですかね。 ○中井委員 債務名義を持っていれば,おっしゃるように,A,B,Cがいる,BのCに対する動産引渡請求権を差し押さえることによって,その後,執行官に移って換価できる。まだ債務名義を持っていなかったら,金銭債権をもって被代位債権を被保全債権にする処分禁止の仮処分,占有移転禁止の仮処分を取っておくという手続になるでしょうね。 ○畑幹事 先ほどの御議論からすると,そこでも,中井先生のお立場は元々そうですけれども,無資力とか言うべきでないということになる。 ○中井委員 大阪の立場からは執行保全のための制度として位置付けて,それを実現するために,そのような保全処分が必要だとすれば,それに資するために使えると考えるのが大阪弁護士会の考え方ですね。 ○畑幹事 ということは,問題は動産についても実はあるということではないでしょうか。 ○松岡分科会長 確認させていただきます。畑幹事の今の御意見は動産についても同じような問題があり,やはり債務名義がなければいけない,保全についてもそれがないと無理という御趣旨でしょうか。 ○畑幹事 保全の段階では債務名義というのは言うべきでないと,保全というのは元々そういうものですから,だとすれば,それは動産の引渡請求権についても同じではないかということです。 ○松岡分科会長 この場合の代位は,無資力要件がないと行き過ぎだということになるのですか。無資力要件なくして代位を認めるという結論とはどうつながるんですか。 ○畑幹事 事前に保全のところを十分に考えてきていなかったので,具体的にルールとしてどうしたらいいのかというのは,今,整理できておりませんが,今日,議論していると中井先生の説に魅力を感じてまいりました。 ○中井委員 畑幹事の動産引渡請求権もそうですねとおっしゃった趣旨から,私の意見に近付いたなと思ったんです。つまり,ここで登記申請権について明文化するのかという問いになっていますけれども,これを論理として認めると動産引渡請求権についても明文化するのかと,いずれも無資力でなくてよいという方向になるはずなんですね。そうすると,私というか,大阪弁護士会の言っているように,ここも執行保全の制度と,統一的になってしまいますので,いずれも明文規定はなくてもできるという方向もあり得ると思うのです。 ○松岡分科会長 他に執行できる財産がある場合にも保全の必要性は認められ得るのですか。先ほどの山本幹事の御説明により,本来,執行法に規定すべきであるという発想からしますと,そもそも,どれも債務者の財産なのだから債権者が自由に選んで執行ができるのが基本ですから,無資力要件は要らないという話になりそうですね。ところが,必要性が要件になるとすると,債務者に他に財産がたくさんあるときには,代位は認められないのですか。 ○中井委員 それは保全の必要性の要件が充足しているかどうかという判断になるということで終わるのではないでしょうか。 ○松岡分科会長 要件が充足していないと結論ですか。 ○中井委員 山ほどあったら充足していないという判断があるのかもしれませんね。保全の裁判所のほうで,他にも山ほど財産があるのが記録上明らかなのに,なぜ,これをするんですかと言われる可能性はあるのではないでしょうか。 ○筒井幹事 中井委員がおっしゃる保全の必要性というのは,保全手続における保全の必要性ということでしょうか。 ○中井委員 そうです。 ○松岡分科会長 代位行使のほうは保全するためという要件でまとめようという話ですね。 ○中井委員 大阪弁護士会の意見は,特別の保全の必要と狭義の保全の必要と両方を言っていますから,その一方の保全の必要性が認められないということになるのだろうと思います。 ○沖野幹事 登記請求権の代位行使というのは,具体的には今の保全の話はよく分かったのですけれども,それ以外の場合というのは,今の話とは第三債務者に当たる人が協力しないということですよね。 ○松岡分科会長 そうです,登記名義人が移転登記に協力しない場合です。 ○沖野幹事 協力しないということなので,そうすると,結局は本来的には訴訟で行使する場合と考えればよろしいですか,登記請求権の行使というのは常に。 ○松岡分科会長 もちろん,任意に登記申請に協力してくれれば,そもそも代位を考える必要はありません。 ○沖野幹事 そもそも申請権だけでいいわけですね。 ○松岡分科会長 そうです。問題になる場面は訴訟だと思います。 ○沖野幹事 任意に協力してくれれば登記申請権だけでよくて,申請権については無資力要件の判断は形式審査で非常に難しいということもあり,実際にもそれを厳密に示す添付書類は要求されていない。そうすると,基本的には登記請求権は訴訟で争われて,そのときに訴訟の中で無資力要件を証明していくことまでは要求すべきではないと,判断権者は判断できるのだけれども,ということですね。そのときにまで,元々無資力要件は債権者が介入していくための根拠なので,結局は訴訟の中で請求していくものである場合に,そう簡単に外していいのかというのが気になっているのですけれども。現行法の実務とおっしゃるときに,現行法で訴訟のときにも無資力要件を証明せず,登記請求権の代位行使を認めているということなんでしょうか。 ○松岡分科会長 転用型以外でですか。 ○沖野幹事 そうではないのではないかという感じがするんですね。 ○松岡分科会長 私も認めていないと思います。 ○沖野幹事 だから,現行実務を変えるような方向はというのは,結局のところ,保全のところだけなのではないかという感じがしたものですから。ここだけがもし現在やられているとするとそうかなと,その先,どうということではないのですけれども。ですので,登記請求権一般についてそれを認めるということは,現行よりもはるかにと言っていいかどうか分かりませんけれども,より代位権行使を認めるというほうに一歩を踏み出すということで,それは転用型の一種ですよと,強制執行権みたいなものを代位行使だというならば,そういうことだと思うのですが,その前提は確認したほうがよいかと思いました。 ○松岡分科会長 今の御指摘は大変重要だと思います。本来型と言い切るのも難しい,転用型と従来言ってきたものともちょっと違う,しかし,民訴の先生方がおっしゃるように本来なら民事執行法で手当てがなされてしかるべきところ,ある意味では穴が空いているので,そこをカバーする形で民法の代位権が少し拡張している。こういうイメージになるのではないでしょうか。   少し難しいのは,一般の本来型について債権を保全するためという保全の必要性という現在の要件を無資力要件に置き換えてしまうと,この場面では無資力要件が要らないという例外を設けなければいけなくなります。ところが,その方針自体に大阪弁護士会を中心として,そもそも保全の必要性要件一本で足りるという意見が対立している。議論状況はこういう構造になります。   整理はこれでよろしいでしょうか。すっきりしたわけではありませんで,なお検討を要するとは思いますが,方向性は少し見えてきたような気もいたします。ここで更に御発言いただいておくほうがよいことがあれば,お願いします。ないようでしたら,もう少し先へ進めさせていただきます。   「4 代位債権者と債務者との関係」,その中の(2),比較的細かい問題ではあるんですが,「代位債権者の費用償還請求権」で二つのポイントがあります。この点につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○金関係官 御説明します。   部会資料35の28ページを御覧ください。この論点につきましては部会の第41回会議で審議がされ,具体的な規定の在り方等について分科会で審議することとされました。部会では,規定を設けることに疑問を示す意見,費用の範囲を明確にすべきであるとの意見などがありました。よろしくお願いいたします。 ○松岡分科会長 いろいろ議論のあるところです。今の御説明の点につきまして御意見をお伺いします。御自由に御発言をお願いいたします。部会では確かこの問題も債権者取消権の問題もですが,実際には第三債務者の協力が得られない場合,先ほどの沖野幹事が言われたように訴訟になりますので,訴訟になったときの弁護士費用を費用の中に含めてよいかどうかが,具体的に問題として出ていたと思います。 ○高須幹事 取消権とも共通する部分ではあるんですが,代位権,取消権ともに責任財産保全のための,つまり,みんなのためにやっているんだという面はありながら,さりとて民法上の代位権,取消権というのは,そうは言いながらも一債権者が自らの判断で当該権利を行使しているという面があって,部会資料の別のところにも書いてありましたけれども,自分の債権の回収をにらみながら行うことが,結果的に責任財産全体の保全につながるというようなところを狙った制度なんだろうと思っております。そうなると,自らの債権回収という面が否定できないのであって,また,そのことを否定する必要もないのであって,そういう考え方を取ったときに,みんなのためにやっていますという面を余り強調して費用償還請求権なり,先取特権なりを認め非常に保護の厚いものにするのは,もしかするとバランスを欠くのではないかと思います。   部会資料では確認的にと,つまり,従来の理解の中でも例えば共益費用の先取特権等に挙がっていますよというのは,実は多分,弁護士費用などは余り認識せずに,もっと実費用みたいなものを念頭に置いていたんだと思いますから,確認的な限度で明文規定を設けるということはあっていいと思うんですが,弁護士費用のようなものまで入れるとなると,少し代位権とか取消権制度が要するに誰のための制度かみたいな本質に関わる議論になってしまうのではないか。そういう意味では,私どもというのは変ですよね,弁護士会の中にいろいろな意見がありますから,私としてはと改めますが,弁護士費用は少し異質ではないか,もっと言ってしまえば,ここの費用には入らないのではないかと思っております。   もう一点,付け加えさせていただきますと,直近のメリットという観点だけで言えば,もちろん,弁護士の経済的メリットにはなるのかもしれませんけれども,こういう発想を取ると,結局,受任した弁護士は債権者から受任をしているにもかかわらず,みんなのために行為するんですよという面を強く要求されることになって,結果的にはある意味では誰が本来の依頼者なのか,誰のために行動するのかということでも,非常に大きな問題をもたらす危険があると,そういう意味でも,弁護士業務の公正性とか,依頼者のために仕事をするという本来的な意義との関係でも,ここに弁護士費用を含めると微妙な関係をもたらす危険もあると思いますので,その観点からもむしろ余り思い悩むような規定にはしないほうがいいのではないかいうところも,考慮していただければと思います。 ○山本(和)幹事 定見は全くないんですけれども,民事保全や民事執行の申立てのときに,申立代理人の弁護士の報酬がどうなっているのかということなんです。執行法上の例えば共益費用にはならないと思うんですけれども,それについて共益費用の先取特権みたいな優先権が何か認められていなさそうな感じもするんですけれども,そこの何かバランスみたいなものもあるような気はするんですけれども。 ○岡委員 弁護士会で議論したときに,東京高裁の平成11年2月9日が競売手続の申立代理人の費用については,弁護士代理強制制度を採用していない我が国においては,共益費用には当たらないという判決があり,敗訴者負担になっても困るねというような考え方から,弁護士費用は費用に当たらないという意見も結構強かったです。ただ,本当に代位あるいは取消しで裁判をやらないと実現できなかったような場合,その場合には競売の代理人とは違うので,弁護士費用が入ってもいいのではないか。また,弁護士費用が入らないと,この費用あるいは先取特権の規定を設けても,ほとんど意味がなくなるのではないかと。そうこうすると,真に必要な弁護士費用は含まれるという何らかのいい条文ができればいいけれども,そんな条文はできるのかなと,そんな議論をしてまいりました。   それから,もう一方,別の議論としては事実上の優先弁済を認めるべきであるとか,転用型で自己の債権の充足のためになされた場合,転用型あるいは事実上の優先弁済が認められた場合には,それは総債権者のためではないので,費用も先取特権もなくていいのではないかと,そのような意見もございました。まとめると,総債権者の利益のためになった場合,転用型とか優先回収した場合を除く場合には,費用償還先取特権は認められていいけれども,費用の中身について何かいい規定が欲しいねと,そういう議論でございました。 ○松岡分科会長 後で詐害行為取消権のところでも同じような議論があるのですが,債権者代位権と詐害行為取消権とでは大分イメージが違う気がします。いずれにしても事実上の優先弁済を否定する方向で改正案が提案されておりますが,特に影響が大きいのは詐害行為取消権で,責任説に立てば話はまた別になるのかもしれませんが,絶対的無効で逸出した財産を元に戻す発想から,特に不動産等が戻ってくると,少なくとも債務名義で持っている他の債権者は執行に参加できて,実際,詐害行為取消しの効果によって恩恵を受けます。   そういう場面では,恩恵を受けた者だけについて共通の費用出捐があると思います。一方,債権者代位権の方は,他の債権者の利益になるということはそれほど考えられません。債権者代位権の主張されるケースによって,必ずしも一概に言えないのかもしれませんが,岡委員がおっしゃったとおり,必要不可欠な費用というような形で限定しつつ,拡張もできる規定とすることは無理でしょうか。単に感想みたいなことしか申し上げられませんが……。 ○潮見幹事 議論の確認ですが,今,議論しているのはアですか,イですか。 ○松岡分科会長 両方です。 ○潮見幹事 別ではないのですか。 ○松岡分科会長 確かに別かもしれません。 ○潮見幹事 岡委員がおっしゃった趣旨と外れるかもしれませんけれども,イの共益費用という部分については,正に先取特権を付与するに値するような費用と,当該事案について言えるかどうかというものを決め手にして考えたらよいのであって,そこで本来型だという一存で,全てを共益費用の一般先取特権を与えるというようなことで果たしていいのかというのが,松岡分科会長の意見にも含まれているのではないかと思います。   他方,アについて言えば,これは共益費用の先取特権ということとはおよそ関係ないというか,むしろ論理的には直結せずに,むしろ債務者と代位債権者との間の関係で,債務者の権利を債権者が代位行使した結果として債権者のところで費用が生じたときに,その費用について債務者に対して償還をすることを義務付けるか,義務付けないかという観点のみで債権者・債務者間の問題として捉えればよいのではないでしょうか。その際,この前の部会の議論に返っていくのかもしれませんけれども,これを不当利得的な枠組みで処理するのか,事務管理の費用償還の枠組みで処理するのか,それとも,委任に準ずるというか,法定委任という形で委任の規定の受領物あるいは費用償還請求という観点から問題を捉えていけばいいのかというどれによるのかという議論があり,どれを採るのかによって若干違った結果になり得るものですから,その辺りをどうしたらいいのかというのをアで考えればよいということにはなりませんか。場合によれば,アのレベルでは弁護士費用の償還請求権が債務者に対して出てくる……。 ○松岡分科会長 確かに償還義務があってもおかしくないです。今の潮見幹事の御発言を受けて,先ほどの私の発言を一部訂正したいと思います。他の債権者の利益になったかの問題は確かに御指摘のとおり,イの問題です。弁護士費用についても,債務者でも第三債務者に対して権利行使しようと思ったら,訴訟以外にないというのだったら,その費用を代わりに代位行使して払ったのなら,その額は,委任か事務管理か不当利得かによって違ってくるかもしれませんが,費用償還請求権自体は否定される理由はありません。二つの問題を分けなければいけないと思います。 ○岡委員 昨日の弁護士会の議論では,むしろアのほうも総債権者の利益のためになったときには費用償還を認めてもよくて,単なる自己の債権の行使のためだけのときには,費用償還というのは余り必要性がない,相当性がないのではないかというような議論が多かったです。それで,直結したような議論を先ほど申し上げたわけでございます。もう一つ,先ほどの実質規準だけでは余りにも無理だというときに,形式規準としては代位権行使を訴訟でやった場合というのが,一つの手掛かりになるのではないかという意見はございました。 ○松岡分科会長 すみません,今の点をもう少し御補足いただきたい。アの場合も総債権者の利益になったときに限ってよいのではないかという御意見があるということですが,その意見と先ほど潮見幹事の御意見とは,当然対立しますね。私は最初,岡委員に比較的好意的な発言をしたのですが,債務者が第三債務者に対して権利行使するのに,本来必要だった費用を代位行使の形で権利行使したために,代位債権者が負担した場合において,他に債権者が登場していないときは,費用償還は根拠付けられないのでしょうか。 ○岡委員 時効中断のために代位権行使で訴訟をやって時効を中断したと,代位債権者は差し押さえて回収したと,他の債権者に入ってこなかったと。それは結果としては代位債権者個人の利益にしかなっていませんけれども,全債権者が金銭債権を押さえられるような状態にしたということで,総債権者の利益のためになったというとしたら,ほとんど違いはないのかもしれませんね。代位債権者で事実上の相殺ではなく代位権行使した場合には,必ず総債権者の利益のためになる結果が出るはずですよね。そうだとすると余り違いはないのかなと,先ほどの潮見先生の話を聴いていて感じました。 ○道垣内幹事 アについて規定を置かなかったときにどうなるのかということなのですが,29ページの補足説明を見ましても,法定委任関係であるので,受任者から委任者に対する費用償還という問題が生じるだろうし,事務管理と見たって生じるだろうから,置かないということになると,これが適用されるというわけでして,それが正しければ,ある一定の場合には否定するという明示の条文を置かないと,費用償還請求権の存在は否定されないということになりかねませんよね。それがよく分からなかったのですが。 ○金関係官 部会資料では,規定のない現在でも一定の範囲で費用償還請求が可能であることを前提としておりますので,御指摘のとおりだと思います。ついでに,先ほどのアとイの区別の問題についてですけれども,部会資料では,アは転用型の場合も含むことを前提としております。この費用償還請求権は,法定委任か事務管理かはともかく,債務者が本来すべきであったことを代位債権者が代わりに行ったことを根拠に発生するものですので,ある意味では結果的に代位債権者の利益にしかならないような場合であっても,費用償還請求権は発生するという理解をしております。これに対して,イについては,本文に記載のとおり,本来型の債権者代位権の場合に限られると理解しております。その意味では,先ほど潮見幹事がおっしゃった整理を前提としております。ただ,アの費用償還請求権のところに弁護士費用が入るかどうかについては,先ほどの議論によれば,債権者代位権を行使するために訴訟を提起しなければならないような場合には弁護士費用も入るという方向の議論だったと思いますが,岡委員からも御指摘がありましたように,訴訟を提起しなければならないということと弁護士に依頼しなければならないということとは,必ずしも論理必然の関係にはないと思いますので,そこは一応区別して議論する必要があるように思いました。 ○山本(和)幹事 今の点でぱらぱらと見ていたら,会社法の852条の株主代表訴訟で株主が勝訴した場合に,その訴訟に関し必要な費用を支出したとき又は弁護士に報酬を支払うべきときは,その株式会社に対して報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払いを請求することができるという規定があるようですが,何となく,これと似たようなところがあるのかなという感じもちょっとするんですが。 ○高須幹事 今の852条をどう読むか,私も条文をただ見ているだけなのでよく分からないんですが,この書き方だと費用と弁護士の報酬は別物と考えて,ただ,代表訴訟においては株主自体に固有の利益というのはほとんど期待できないというか,専ら会社のために行うという部分が強いので弁護士費用も相当な限度で認めたと,確認的というよりは創設的に認めたと読めなくもないのかなと。そうだとすると,ここでもそういう発想を取るかどうかという余地もあるのかなという思いもしております。つまり,費用償還請求の中に明確にそうだとすれば,ただ,解釈の問題ではいかない部分があるのではないかと。 ○松岡分科会長 会社法の先生が今日はおいでではなく,この規定の趣旨が,高須幹事のおっしゃったような趣旨なのか,あるいはある種の確認規定なのかは,分かりかねます。 ○高須幹事 決して私は強く反対しているわけではなくて,弁護士費用をむしろ含めるという方向であれば,それでももちろん異論はないわけですけれども,その場合に仮にそうなったときに,例えば弁護士費用をどうやって算定するのかとか,そういったこともそれなりの規定なり,ルールを設けておかないと,当該弁護士が請求した分だけ無条件に認めますみたいなことになると,それはそれでかなりおかしなことになるのかなということです。交通事故の場合には損害の中に弁護士費用相当部分は含めるという形で判決が出れば,そこでは判決の中に弁護士費用分は幾らという形で裁判官が判断するというルールがあるので,それなりの秩序立った解決ができていると思いますけれども,この代位権のときとか,あるいは取消権でもそうですけれども,そういう場面ではどうやって判断をするのか,その辺も配慮しておかないと,ただ,その規定を置きましたというだけでは,トラブルが起きるのかもしれないと思ったりしております。 ○松岡分科会長 恐らくは,仮に弁護士費用を明示的に規定しようとすれば,この852条のように相当と認められる額とするなど,これが十分な基準かと言われると問題はありますが,しかし,請求通りではないことは明らかになります。そのような限定が必要であると思います。852条の株主代表訴訟の途中で和解してしたら,そこまでの費用とかはどうなるのですか。規定上は勝訴した場合においてと限定されているので,どうなるのかわかりません。 ○山本(和)幹事 住民訴訟にも同じ地方自治法242条の12項という規定がありますが,確かこの住民訴訟では議論があったのではないでしょうか。和解した場合にそれが勝訴したと扱われるか,結論は覚えていませんけれども,議論はあったように記憶します。 ○金関係官 会社法852条1項についても,和解が成立した場合を含む余地があるという解釈がされていると思いますけれども,ただ,この責任追及等の訴えと債権者代位訴訟とでは,確かに訴訟の構造は同様なのですが,責任追及等の訴えの場合には役員等に対する責任追及を奨励すると言うと不正確かもしれませんが,そのようなインセンティブを確保する要請があるのに対して,債権者代位訴訟の場合には必ずしもそのような要請はないと思いますので,会社法852条1項の発想をそのまま債権者代位訴訟に応用してよいのかどうか,若干問題があるようにも感じております。いずれにせよ,更に検討させていただきたいと思います。 ○松岡分科会長 よろしいでしょうか。できればもう少し進みたいと思います。先取特権の付与の要否については,まだ,それほど御意見が出ておりませんが,何かおっしゃっていただくことはございませんでしょうか。 ○道垣内幹事 今回,民法307条というのは,改正対象ではれないわけですが,これには含まれないという意味なのか,これに本来含まれるんだけれども,更に確認的にここに置くということなのか。後者の確認的に置くということになったときに,突出しないのかなというのがどうも気になるところです。 ○金関係官 部会資料は後者の理解を前提としております。 ○高須幹事 趣旨はほぼ同じことでございまして,先取特権のところはその規定と同じであれば慎重であったほうがいいということと,要するに確認規定を置くということ自体,慎重であったほうがいいということと,それと,今の議論の最初のほうに出てきましたように,先取特権の部分あるいは共益費用という理解に関しては,比較的,弁護士費用は消極的に考えている裁判例とかがあるわけですから,そのことをよく踏まえて判断したほうが,こちらに関してはいいとは思っております。 ○沖野幹事 実例があるのかどうかが分からないのですが,現在,どうなっているのかということでして,仮に債権者代位権でかつ事実上の優先弁済をしないというタイプのものを考えたときに,そうして強制執行する場合,債権者代位権の行使に掛かった費用は当該強制執行において先取特権があるということで,まず,優先的に回収されるという扱いに現在なっているのでしょうか。 ○道垣内幹事 それは論理的になり得ないのではないですか。準備段階に掛かった費用が手続費用の優先的な回収みたいな形で,当該執行手続内で処理されるということにはならない。 ○沖野幹事 考えられないということですね。 ○道垣内幹事 別個に訴訟を起こして債務名義をとって,その強制執行手続において,それを配当要求の中に含めていかないと無理なのではないかと思います。 ○沖野幹事 そうしますと,一般の先取特権が付与される旨の規定という点ですが,部会のときにもどなたからか,一般の先取特権は適切ではないのではないかという御指摘があったと思います。 ○道垣内幹事 私ですね。 ○沖野幹事 失礼しました。そうすると,繰り返していただいたらいいと思うのですけれども,債務者の全財産ということではなく,当該財産を強制執行に供するという限りにおいて共益性があるのであって,そうだとすると,当該財産からの優先回収をすべきであると。だとすると,当該財産について強制執行されるときに,優先的に取れるような手当てというのを考慮する必要があって,そうだとするともっと違うというか,新たな規定になるのかと思うのですけれども,そのときに今度は高須幹事がおっしゃった弁護士費用分を必要かつ合理的かつ相当な範囲において費用として償還を認め,かつ,その範囲において当該強制執行に関わって,そこから配当を受けられる権利者にとっての共益性というときに,その額をいつ,誰がどう決められて,当然に強制執行でそういう請求ができるということになるのかというと,多分,何もないとならないようにも思うんですけれども。 ○道垣内幹事 それは弁護士費用だけの問題ではなくて,例えば物の引渡しの取立債務であると,トラックをレンタカー屋さんで借りて行ったといったときに,当該額の領収書を出せば別に優先弁済を受けられるわけではないですから,民事執行の中で現在,手続費用等が優先的に配当されているのは,手続費用という固まった中での処理ができているので,このような一般的な費用償還請求権に基づくものに仮に共益費用の先取特権を与えて,一応,それは当該強制執行中で取れるのだよとしても,その前に実は債権額の確定のための通常訴訟がないと無理で……。 ○松岡分科会長 債務名義は要らないのではないですか。先取特権は一般に債務名義を要しないでしょう。配当要求をして,その額の優先を争うのですね。 ○山本(和)幹事 配当異議の手続。 ○道垣内幹事 そうか。そのとおりですね。誤解でした。ごめんなさい。 ○沖野幹事 仮に弁護士費用を入れるとすると,相当だと考える額を債権者が言い,そして,それについて先取特権があるはずであるということを主張すれば,あとは異議でくると考えれば,そうすると,特別な規律なくして動くという理解でよろしいですか。 ○松岡分科会長 特別な規律はなくても,私は動くのではないかと思います。 ○畑幹事 厳密には言えばいいのではなくて証明する文書を提出する必要があるという手続です。 ○沖野幹事 そういうつもりです。 ○山本(和)幹事 ですから,手続費用にするメリットは配当要求を要らなくすると,こういう手続的なことだけです,基本的には。 ○畑幹事 現状はどうかというのは多分,そういう配当要求をしようという人が現れていないということによって,問題が表面化していないということのような気もいたしますが,あるいは先ほど岡先生が御紹介になったのは,そういう事案でしょうか。ちょっと別な話だったかもしれませんが。 ○岡委員 普通は事実上の優先弁済ができる場合にしか,代位権行使はやりませんので,それを回収していると思われます。そうではなくて不動産を元に戻させた場合に,共益費用だという文書証明での配当要求はしていないですよね。それはできることを知らないだけか,やっても財産がないだけか,その辺の理由はまだちょっと不明ですね。 ○松岡分科会長 先取特権なので他に財産があろうがなかろうが,むしろ,その財産から一定優先するのではないのですか。 ○岡委員 知らないだけですかね。道垣内先生が教科書にきちんと書いてくれればみんながやると思います。 ○高須幹事 恐らく知らない,それから,知ろうともしないというか,そこまで弁護士が自分の報酬を,逆に言えば,依頼者の負担にはなっているわけですけれども,そういう形で回収していこうという,少なくとも今までは余りそういうことにはアクティブではなかったのではないかと思います。ここから先は単なる雑談ですけれども,配当異議を出されて,万が一,負けたりしたらトラブルになりはしないかを心配をします。今のは議事には関係がないので議事録に残していただく必要はないかもしれませんが。 ○松岡分科会長 そういうのを残しておいていただくほうがおもしろいのですが,それはともかく,御意見を伺うことに徹しましょう。 ○道垣内幹事 ちょっと一点だけ。沖野幹事が,一般先取特権という構成は妥当ではないのではないかという意見が部会においてなされたと指摘されましたが,それというのは,本来,一般の先取特権というのは債務者の総財産に行使できるわけなのだけれども,この場合,代位権の行使として回復した財産とか,あるいは取得した財産以外に先取特権を行使させる必要性がないのではないかと述べたのだと思います。それは必ずしもそうではないですかね。 ○金関係官 まず前提として,債権者代位権の行使によって債務者の手元に持ってきた財産については,その強制執行手続の中で,代位債権者は一般先取特権者として費用償還請求権についての配当要求をすることができるというのが先ほど議論された点だと思いますが,今御指摘いただいた点,債権者代位権の行使によって持ってきた財産以外の財産をも先取特権の対象としてよいのかどうかという点については,私個人としましては,先取特権の対象を債権者代位権の行使によって持ってきた財産に限定する必要は必ずしもないのではないか,そのような限定は論理必然のものとは言えないのではないか,といった若干の疑問を持っております。 ○松岡分科会長 いや,限定は必然ではないと思います。債務者が本来,第三債務者に対する権利行使のときに必要であった費用ですから,それは本来債務者の固有財産から出捐せざるを得なかったはずなので,その部分は責任財産から除くということで優先的に費用を支出した債権者に持っていかれます。それは回復した財産に限られる理由はありません。もっとも今は本来型の債権者代位権を問題にしていますので,無資力要件が通常は必要な場面ですから,債務者には,大概他に財産はないか,あってもごく僅かなので,費用の先取特権を与えても保護されるかどうかは怪しいです。他に御発言いただいておくことはありませんか。 ○岡崎幹事 先ほど弁護士費用に関してやり取りがありましたが,費用償還請求権としてどういうものを念頭に置くかについての議論がもう少しあるといいと思います。抽象的には,部会資料に書いてあるような文言で表すことになるのかもしれませんけれども,具体的に債権者代位訴訟を行うことになった場合に,どういうものがここでいう費用に含まれるのでしょうか。   一番に思い浮かぶのが弁護士費用ですけれども,弁護士費用については,先ほどの議論でもありましたが,およそ権利行使をするときに弁護士費用の請求が何らかの費用償還的なものとして認められるかというと,これを認めないというのが我が国の原則になっています。ここでは,権利行使が他の債権者の役に立っているというような要素が加わることによって,費用償還請求権の規定を置くことが正当化されるのだと思いますけれども,その場合でも,弁護士費用が費用に含まれるという立場もあれば,含まれないという立場もあると思われます。   そうすると,一般的に費用償還請求権の条文を置くというときに,その解釈については,相当まだ隔たりがあり得るという気がします。確か部会で鎌田部会長から分科会に与えられた課題として,費用償還請求権の内容をもう少し詰める必要があるというご指摘があったかと思いましたので,発言をさせていただきました。この点は,先取特権にも関連するところでして,先取特権を認める場合にはなおさら対象を明確にしておく必要があると思われます。最終的には,先ほどの整理では,配当異議訴訟か何かによって解決されることになるのだろうと思いますけれども,その基準をどうするのかを明確にしたほうがいいと思います。 ○松岡分科会長 議論の前提としてどういう事例を念頭に置いているのか,もう少しはっきりさせるために議論したほうがいいというのはよく分かります。ただ,先ほどからの議論で,特に金関係官の御説明を前提にしますと規定は確認的なもので,規定がなくても費用償還請求の範囲は基準を法定委任と考えるのか,事務管理と考えるのか,あるいは不当利得と考えるかによって広狭があります。その点について確かに従来は議論が十分ないと思います。その点について見交流することには意味はあるかもしれませんが,ここだけ詳しい規定を具体的に置くのは相当無理があるのではないでしょうか。幾つかの御発言はそういう御趣旨だと私は理解いたしております。 ○岡崎幹事 私も規定の文言を具体的にすることは無理だと思います。私がただいま申し上げた趣旨は,規定をどう置くかを考えるに当たって,もう少し具体的なイメージを持ったほうがいいという,そういう指摘でございます。 ○松岡分科会長 それはおっしゃるとおりです。   先ほど別の問題で出てきましたが,登記申請権の代位行使であれば,登記申請に必要となる費用は当然に入ってくるのではないでしょうか。それ以外について,もう少し議論したほうがいいという御意見が出ているので,できたら何か御発言を頂きたいと思います。 ○高須幹事 岡崎さんの御指摘はそのとおりだと思うんですが,ただ,正直言って我々が知恵を尽くしても,私自身も余り実はここで争ったことがありますという経験もないものですから,多分,議論を積み重ねるということで出てくる問題ではなくて,どなたかがしかるべく調べるみたいな,そのようなことなのかと思っています。 ○沖野幹事 債権者代位権の行使として言われている例えば登記申請権の代位行使ですとか,あと,本当にどのくらいあるのか分かりませんけれども,保存行為の例ですと破産債権の届出だとか,幾つかの例があると思いますが,それらについてどのような費用が掛かるかというのは,具体的に幾ら掛かるかは正直,私には分からないんですが,弁護士の先生方は多分,イメージされるものがあり,そういうものは費用として掛かるということではないかと。そうすると,他に問題になるものとしては,やはり訴訟の場合の弁護士費用が一番大きな問題ではないのかと思います。   そして,弁護士費用の点で,一点だけ,債権者代位権の行使で費用償還を認めるというのは,本来,債務者の事務をやっている。それが事務管理であれ,法定委任であれ,不当利得というのも本来,自分の事務をやってもらっていることによって利得が生じていると,そういう説明であり,だからこそ,一方で善管注意義務を掛ける。これを明文化するかどうかはともかくとして,そうしたときに本人訴訟でやることが善良な管理者の注意として本当に適切なのかということも,事案の性質によって,その程度のものにここまでの弁護士さんをお願いする必要はないといったことがあるかもしれませんけれども,そのことも考慮に置かれるべきだとは思います。 ○松岡分科会長 確かにそれはそのとおりだと思います。弁護士強制主義を採っていないからといって,必要な費用でないと簡単に割り切ることは難しいと思います。実務家の先生方に補足いただくことがなければ,なかなか具体例は出てこないと思いますので,申し訳ないけれども,審議を進ませていただきます。  「代位債権者と第三債務者のとの関係」,5の「(1)第三債務者による抗弁の対抗」,その「イ 代位債権者自身に対して有する抗弁」について御審議を頂きます。これも事務当局から御説明をお願いします。 ○金関係官 御説明します。   部会資料35の30ページを御覧ください。この論点につきましては部会の第41回会議で審議がされ,具体的な規定の在り方等について分科会で審議することとされました。部会では,規定の必要性について疑問を示す意見がありました。よろしくお願いいたします。 ○松岡分科会長 特に今,御指摘がありましたように規定の要否について部会でも議論がありましたので,在り方の前提として,その辺りも議論をさせていただければよいと思います。御意見をお願いいたします。ちなみに部会で疑問の御意見をお出しになったのは沖野幹事と中井委員だったと思いますので,よろしければ補足としてもう一度御発言していただければと思います。そもそも,ここではどういうものを抗弁として念頭に置いて提案されていたのでしょうか。 ○沖野幹事 私が理解しているところでは,一般論は,転用型の場合には,代位債権者に対する直接の抗弁がある場合にはそれが対抗されることを認めるべきであるというもので,これは,債権者代位を用いることでその抗弁を回避することを許さないといいますか,そういう考え方の現れであると理解しています。その一般論の下で具体的な例としてどういうものがあるのかというと,考えられる例として,代位債権者自身は賃貸借契約をしているというような,あるいは転貸借に当たるのかもしれませんけれども,今,目的物を占有している者に対して,自らに対しては利用権を主張される立場にあるんだけれども,しかし,その占有者の利用権は例えば所有者には対抗できないというようなことがあって,所有者に対して自らは例えば賃借権を持っているというような場面があり,このときに,所有者の有する妨害排除請求権なりを行使すると占有者を排除できてしまうのはおかしいというのです。しかし,このような場面の行使はむしろ濫用であって,このような場面に対してはそれで対応されると考えられます。そうしますと,他に一体どういう場合が具体例としてあるのかというと,余り適切な例が考えられません。   そうすると,一般論としてはそういう回避は許さないということでよろしいと思うのですけれども,余り具体例もないとすると,規定を置くことが適切なのかという問題意識です。他方で,規定を置かなかったときに,先ほどの例のような回避事例に対応ができるかですが,基本的には濫用であるというようなことで対処はできるのではないかとも思うのです。そうだとすると,規定を置くほどのメリットはなく,置かなくても対処は可能ではないかということですが,しかし,他にこういう事例があるというようなことがあるようであれば,また,別かとは思います。 ○松岡分科会長 ありがとうございます。 ○岡委員 弁護士会も同様の意見で,例としては賃借人が所有者の妨害排除請求権を代位行使して追い出すときに,お前の賃借人と利用関係があると,そういう場合かなと。しかし,そんな事例はないのではないのということから,理屈はそうだけれども,そんな条文まで必要ないのではないかというのが弁護士会の大体の意見でございました。そういう意見が強かったんですが,理屈だから置いてもいいのではないかという意見も,大阪,東京,横浜,福岡でありましたので,後で怒られますので。 ○松岡分科会長 いかがでしょうか。どういう具体的な規定の在り方が考えられるかというのが分科会に審議する課題とされたことですが,その前提として,今,御発言いただいたように,規定の必要性自体に疑問を示す意見のほうがやや強いことからすると,やはり規定を置くべきだという御意見が出てこないと,先に議論を積み重ねにくいです。中井委員,大阪弁護士会は,規定を置いてもいい,あるいはむしろ積極的に置いたほうがいいという御意見だと先ほど岡委員から承りましたが,いかがですか。 ○中井委員 大阪弁護士会有志の意見は,岡さんの言うとおり積極です。私の意見は,沖野幹事と同じで,具体例が余り想定できないと申し上げているんです。 ○道垣内幹事 置かないということに賛成ですが,理論的にはそうだけれども,というのが本当に全ての場合にそうなのかというのが私にはよく分かりませんで,例えばAがBに賃借させていたが,第三者対抗要件がないという状態で,Aに対する債権者Cが当該不動産を差し押さえて誰かが競落をしたのだが,競落人と交渉の結果,Aが賃借人になったとします。   Aは,そもそもはBに貸していた人なのですが,そのときは駄目なのでしょうか。Aは買受人の有する明渡請求権を代位行使して,自らが現実の占有を取得するということが,自分が賃借人に貸しているのに第三者に任意に売って,しかしリースバックで返してもらっておいて,元々の賃借人に出ていけというのは,それはひどいではないか,追い出すためにセール・アンド・リースバックしたというだけの話ではないか。こういったように,いろいろな場合がある気がしまして,そもそも当然にこういう規律に理論的になるのかというのが疑問です。私が出した例が適切かどうかは分からないんですが,そういう面も含めて別にやはり要らないのではないかと思うのです。 ○潮見幹事 私も要らないと思いますし,論理的にそうなのかというのも本当かと思うところがあります。というのは,事務方でまとめていただいたところは,債権者代位権の転用というのは補充的に使われるべきものであって,本来はいわゆる代位債権者なる者と相手方との間の直接の権利義務関係として処理されるべきであるところ,よるべきものがないから,やむを得ず代位権という形で処理をしているだという理解が前提になっているのではないでしょうか。   ところが,債権者代位権の転用と言われているケースはいろいろありますけれども,それぞれの場面で果たして直接の権利義務関係というものが当然あるべきなのだという形で立論がされているのかというと,登記請求権の転用事例などは典型ですが,必ずしもそうとは言い切れないところがあります。そうであれば,代位債権者なる者から相手方に対する直接の請求がされた場合に,カウンターで出せるような抗弁が当然に代位権の転用の場合に出せるとは論理的にも私はならないのではないかと思うところがあります。 ○沖野幹事 私は規定を置かないことに賛成なのですが,位置付けと適用場面に関して,今,おっしゃった登記請求権の代位行使は,目的物を自己へ直接引き渡すという類型ではないですよね。 ○松岡分科会長 いかがでしょうか。他に御発言や御指摘を頂くことはございませんか。この問題につきましては,少なくともこの場にいらっしゃる委員,幹事の皆様からは,そもそもそういう基本ルールがあるかどうかが疑問だとの御発言もあり,かつ,こういうルールを実際に必要とする場面がどういう場面なのかが出てまいりませんので,規定の在り方を検討することにすすめません。このことははっきりしたと思います。 ○内田委員 道垣内さんが挙げられた例が本当に抗弁が出せない例なのか,個人的にはまだ疑問があります。理論上は出せるのではないかという気もしますので,出せないことに決して,そういう事例がないことが明らかになったとまではちょっと確信が持てません。 ○松岡分科会長 分かりました。理論上は出せる可能性があるが,具体的に必要とされる場面の御指摘はなかった,という程度のまとめ方になりますね。 ○道垣内幹事 岡委員もそもそもそうおっしゃっていたわけですが,理論上は出せる場合もあるかもしれないが,余りに限定された場合なので,特に明文は設けなくてもよいのではないかという,そういうまとめですと,別段,私の例の不適切さは問題にならないのではないかと思います。 ○松岡分科会長 この場の意見の大勢がそういう趣旨だと修正したいと思います。   さて,6時を過ぎてしまいました。本来ですと休憩前に終わるべき予定とされているところにとどまっています。遅滞のないように進めてほしいという御依頼を受けていて,それは重々承知してはいたのですが,議論を始めてみると,前提問題なども議論する必要があって余り進みませんでした。その点は,議論の整理進行の不手際でございますので,おわびを申し上げたいと思います。   ただ,そうは言いましても実りがないわけではありません。今日の長い議論の中で,そもそも前提として提案されていた前提状況に問題があるというような認識がはっきりしたり,あるいは議論の対立点ないし方向性について,幾つかの点では明らかになりました。ということで,残りの積み残した議題は次回に引き続き審議をすることにならざるを得ません。   他に今,特に御発言あるいは御意見を頂く点はございませんでしょうか。 ○岡委員 部会のほうは積み残しがあっても,2週間後か3週間後なんですが,今回の分科会は3か月後でした。順番を変えたせいもあるんでしょうけれども,弁護士会としては,延びるとかなりつらいものがあります。今日の議論はおっしゃるとおり,実りもあり,勉強にはなったんですが,実は弁護士会は9番までぐらいが,40,50分で終わって,全部で3時間やるんですが,10番以降に2時間,かなり議論をしてきたところでこういうことになり,この代位の手続のところがまた2か月後になると,ちょっとつらいものがありますので,分科会の議論の仕方をもう少し,今日,最初のほうにやった民法学者の細かい議論は,分科会の分科会というのはまた弁護士会に帰ったら怒られそうなんですが,ちょっと何か工夫していただけると助かります。 ○松岡分科会長 誠に申し訳ございません。事務局とも相談してできるだけ円滑な司会進行に努めたいと思います。   それでは,それ以外にないようでしたら,本日の審議はここまでとさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等,今,既に岡委員から御発言がありましたが,事務当局から説明をしていただきます。よろしくお願いします。 ○筒井幹事 次回会議は,年度が変わりまして5月15日,火曜日,午後1時から午後6時まで。会場は未定ですので,追って御連絡を差し上げたいと思います。議題は,本日の積み残し分のほか,次回会議までに新たに第2分科会に付託された論点になろうかと思います。本日の積み残し部分から審議を再開することになりますので,固定メンバー以外で,本日,御参加いただいております手続法の先生,中井委員,岡本委員,沖野幹事にも,是非また御参加いただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。 ○松岡分科会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   熱心な御議論を賜りましてありがとうございました。 -了-