法制審議会民法(債権関係)部会           第43回会議 議事録 第1 日 時  平成24年3月27日(火)自 午後1時00分                      至 午後6時13分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第43回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   (幹事の紹介につき省略) ○鎌田部会長 では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日,机上にて部会資料38を配布させていただきました。債務引受と契約上の地位の移転に関するものです。ただ,この資料につきましては事前にお届けすることができず,当日の机上配布となってしまいましたので,本日の審議の対象とはしないことにさせていただこうと思います。   本日は,積み残し分として,配布済みの部会資料36と37について審議を行っていただこうと思います。これらの資料につきましては,後ほど関係官の金と松尾から順次御説明いたします。   また,机上には参考資料9-2と10-2を配布しております。これは実態調査に関するものであり,事前に質問事項についてこの部会で報告いたしましたものについての結果の報告です。本日の審議対象である保証と関わりますので,関係箇所の審議の際に,この調査結果についても御報告させていただこうと思います。   それから,委員等提供資料として,日本弁護士連合会の「民法(債権関係)改正に関する意見書」と題する書面,大阪弁護士会民法改正問題特別委員会有志の方々による「保証の主要論点についての条文提案」と題する書面,高須順一幹事の「詐害行為取消権の法的性質に関する責任説の有為性について」と題する書面を,それぞれ机上配布しております。それぞれ関係する委員,幹事から,本日の審議の関係箇所で御説明いただくことになろうかと思います。   さらに,「諸外国における保証法制および実務運用についての調査研究業務報告書」を配布させていただいております。これにつきましては,本日の審議対象である保証と関係いたしますので,冒頭で説明をさせていただきます。   この部会における審議の参考に供するために,法務省から外部の研究者の先生等に,諸外国における保証法制および実務運用についての調査研究をお願いしておりましたところ,先般,その報告書が提出されましたので,これを本日配布させて頂きました。この調査研究は,フランス,ドイツ,イングランド,アメリカを対象に,各国の保証制度の内容だけでなく,その実際の運用について調査,分析をしていただいたものです。多忙な本業の合間を縫って諸先生に御協力を頂きました。報告書の末尾に御協力いただいた先生方の一覧が掲載されております。野澤正充立教大学教授には,全体の調整をしていただくとともに,フランスの保証制度について執筆していただいております。立教大学の原田昌和教授にはドイツの保証制度について,学習院大学の山下純司教授にはイングランドの保証制度について,学習院大学の小出篤教授および立教大学の藤澤治奈准教授にアメリカの保証制度について,それぞれ綿密な調査,分析をしていただいております。また,株式会社オリエント総合研究所の吉元利行様,日本大学の杉浦保友教授には,実務的な観点からのコメントを頂戴しております。また,ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社の北島敬之様にも御協力いただきました。関係者の方々には,この場をお借りして御礼を申し上げます。なお,この報告書につきましては,近日中に法務省ホームページにおいても公表することを予定しております。 ○鎌田部会長 はい,ありがとうございました。本日は部会資料36及び部会資料37について御審議いただく予定です。具体的には休憩前までに部会資料36の「第2 保証債務」,「3 保証人の抗弁」の「(2)主債務者の有する抗弁の利用」までについて御審議いただき,午後3時25分ころをめどに適宜休憩を入れることを予定いたしております。休憩後部会資料36の残りの部分及び部会資料37について御審議いただきたいと考えておりますので,よろしく御協力のほどお願いいたします。   予定した議題に入る前に,高須幹事から詐害行為取消権につきまして,責任説を踏まえた立法提案に関する意見書を頂いているところです。詐害行為取消権についての議論が一通り終わった時点で,高須幹事にまとめて御意見を述べていただく機会を設けることになっていましたので,高須幹事から御意見を頂戴したいと思います。よろしくお願いします。 ○高須幹事 それでは,本来,多数当事者のところへ入るべきところ大変恐縮でございますが,一言責任説の有為性について御説明をさせていただきます。皆様の御理解の参考のためにペーパーを用意いたしました。本日お配りいただきました「詐害行為取消権の法的性質に関する責任説の有為性について」というペーパーでございます。これに基づいて簡単に説明をさせていただきます。   1ページ目の「はじめに」のところは前置きでございますので,早速本題に入りたいと思っております。   私は,今回の部会での議論を通じて改めて判例法理を個別に修正する見解,以下個別修正説と呼ばせていただきますが,この個別修正説に基づき詐害行為取消権の改正を行うことには限界があると考えております。そして,責任説に基づき詐害行為取消権制度を構築することが妥当であると考えました。このことを,責任説が役に立つという趣旨で,ペーパーのタイトルに「有為性」という言葉を使わせていただいた次第です。   私が責任説を妥当であると考える理由については,ここでは三つの観点から御説明をしたいと思っております。それがお手元のペーパーの第1ないし第3として記載したところです。第1では,責任説は詐害行為取消権の制度趣旨に最も適合するということを指摘しております。第2では,責任説は関係者間の利益調整を最も適切に行い得るということを指摘させていただいております。そして第3では,責任説は和解的解決との関係でも最も適合的であるということを指摘しております。以下それぞれについて簡単に説明させていただきます。   中間論点整理により,まずは個別修正説に基づき検討することが議論の手順として確認されておりますので,ここでもまずは個別修正説を採用した場合に,私が適切,妥当な法改正ができないと考えた理由を説明し,続いてそれとの比較において責任説が適切,妥当であるという責任説の有為性を指摘,説明したいと思います。   それではペーパーの1ページ目の第1のところでございます。ここではまず個別修正説の中でも,逸失財産の取消債権者への直接の引渡を認め,かつ取消債権者による相殺を認める,このような見解の問題性について指摘しております。私はこのような見解を,説明の便宜上,直接相殺モデルとここでは表現させていただきますが,この直接相殺モデルには理論的問題点および立法技術的問題点,そして運用上の問題点があると考えております。   まず,理論的問題でございますが,これはペーパーの1ページ目の下から9行目(1)というところになります。ゴシックで書き始めておりますが。詐害行為取消権は債権者の責任財産を保全し,強制執行の準備段階としての機能を有するものである。この詐害行為取消権の制度趣旨を再確認することが,まずもって重要であると,このように考えました。このような観点から考えた場合には,直接相殺モデルというのは,詐害行為取消権を強制執行手続とは異なる,独自の権利実現手段として,つまり相殺という形で権利を実現するという方法として制度化するものであり,強制執行の準備段階という制度趣旨と理論的に相容れないものだと,このように考えております。これまで判例により事実上容認されていたということはもちろんございますが,今回の改正に当たり明文を持って立法化し,制度として承認するということは,これまでの判例法理がそうであったということとはおのずと別だと考えております。仮に直接相殺モデルを立法的に承認するとなると,それは詐害行為取消権の制度趣旨に反する結果になるのではないか,このように考えておる次第でございます。これが理論的な問題点として考えたところでございます。   次に,立法技術的問題点という点です。ペーパー2ページ目の4行目以下でございますが,指摘させていただきました。仮に直接相殺モデルによって今回の改正を行うとなりますと,立法技術上の問題としても,直接相殺モデルでは強制執行の諸規定に依拠することが期待できないわけですから,仮にこのモデルを前提として,公平かつ適正な詐害行為取消権制度を構築しようとすれば,民法典中に様々な個別規定を設けなければならなくなる。第42回会議において議論した逸失財産ごとの回復方法に関する諸規定を設けなければならないとの点ですとか,あるいは債務者や他の債権者の保護のために,相殺を例外的に禁止すべき場合を検討しなければならなくなるという点ですとか,取戻しにより財産を失う受益者あるいは転得者がいかなる権利を有するかを検討しなければならなくなるという点ですとか,様々な問題を検討の上,立法化しなければならないと考えます。言わば詐害行為取消手続法のようなものまで立法しなければならなくなるというのは,分かりやすい民法を標榜する今回の民法改正の本旨に反するものと思料している次第でございます。   続きまして,運用上の問題点ということでございますが,このペーパー2ページ目の続きでございますが,改正後の現実の運用の場面においても,直接相殺モデルというものは100年以上の歴史と膨大な国家予算を投じて形成された強制執行制度を利用できないという制度的弱点を抱えることになると思います。手続的裏付けの伴わない権利は脆弱的なものにとどまるというように考えますし,少し飛ばしますが,他方で直接相殺モデルは,ある意味では強制執行制度によらず独自の権利行使を認めるという結果,規定の設け方いかんによっては,手続的正義の担保のない危険な制度と化す危険もあるのではないか。ペーパーではいわゆる費用償還請求権の在り方をめぐって,そのいずれにもなる危険があるということを指摘させていただいた次第でございます。   以上のとおりであり,この直接相殺モデルについては問題性が顕著であり,これを採用することは妥当ではないと考えております。むしろ詐害行為取消権を債務者の責任財産を保全し,強制執行の準備段階として位置付けるものである以上,強制執行制度との架橋を図る,このことが今回の改正において大切と考える次第です。   このような観点から考えた場合に,今回の議論の中で収穫があったと考えているところでございますが,3ページ目の2行目からのところを少し説明させていただきます。今回の会議における議論において,詐害行為取消権の効果について,何らかの形で強制執行制度との連続性を意識した議論がなされたことは大変有意義であったと理解しております。部会資料35の第2の3(2)において,相殺禁止規定を設け,以後の解決は強制執行手続によることが提案された点,また逸失財産の取戻請求権を認めた上で,これに対する強制執行手続により債権の回収を図るべきとの大阪弁護士会の意見書が提出されたことなどは画期的であり,これらの提案,意見には傾聴すべき点を多々含んでいると思っております。今回の改正においても強制執行制度との架橋は大切なポイントとして重視すべきである。その意味では,仮に個別修正説に基づく場合においても,直接相殺モデルを採ることは回避されるべきであり,何らかの形で強制執行制度との架橋を可能かつ前提とする見解が採用されるべきと考えております。   そこで,責任説の有為性ということでございますが,そのまま3ページの3のところでございますが,責任説は詐害行為取消権を逸失財産の物権的な取戻しを認めず,財産が第三者に移転したことに伴い生じる責任の消失,いわいる責任的反射効を取消しによって無効にする権利と理解し,受益者・転得者の下での強制執行を可能とするための制度と位置付けるものであります。したがって,責任説は強制執行制度との架橋という点において,直接相殺モデルよりも優れた見解というふうに考えております。   以上が,私が責任説が妥当と考えた第1の理由です。   少し急ぎます。申し訳ありません。第2の理由のところでございますが,これは関係者間の利益調整を最も適切に行い得るという理解に基づくものでございます。利益調整の必要性ということでございますが,詐害行為取消権制度というのは取消債権者,受益者・転得者,更に言えば他の債権者ら,このようなものが複雑に絡み合う部分でございますので,それぞれ対立する利益を適切に調整することが不可欠の要請として求められているものと思います。この点は看過してはならない重要な視点であると考えている次第でございます。個別修正説においても,その点はもちろん意識されてはおるとは思いますが,実際問題今回の会議の検討を通じて明らかになったことは,この個別修正モデルでは限界があるということだと思っております。   3ページ一番下のところの直接相殺モデルの問題点ですが,簡潔に言えば,これは詐害行為取消債権者の保護には厚くなりますけれども,他の債権者の手続参加の機会が保証されないという意味において,その保護に欠けるという点で他の債権者との利益調整を適切に図るという観点からは限界があるものだというふうに考えております。   4ページのところに(2),(3)として上限設定モデルと全面的回復モデルというものを書かせていただきました。上限設定モデルおよび全面的回復モデルはいずれも相殺を禁止した上で強制執行に委ねるという前提でございますが,その際に詐害行為取消権行使の範囲を取消債権者の債権額に限定するのか,あるいは限定せずに全面的な回復を求めるのかという点での違いでございます。   上限設定モデルということになりますと,そこの4ページの3行目以下に書かせていただきましたが,この上限設定モデルでは取戻後の強制執行手続において,他の債権者が執行手続に参加してきた場合に,取消債権者が受けられる配当可能額というものが減少してしまいますので,結果的に取消債権者の権利実現が不十分になると考えております。   これに反して全面的回復モデルを採れば,全部の取戻しを認めますからその意味では,取消債権者の権利保護という観点からは一定の配慮がなされますけれども,しかしそうなりますと,受益者・転得者は取得した財産を全て失うことになりますので,詐害行為取消権行使による受益者あるいは転得者との間で形成された取引行為に対する干渉の度合いというものが非常に大きなものになる。本来であれば必要最小限度にとどめられるべき他人の行為に対する干渉が必要以上に大きなものとなって受益者,転得者の利益を害することになる。この意味でここでも疑問が出てくるというふうに考えております。   すなわち,どのモデルを採りましても,個別修正説に基づく限りは,関係者間の適切な利益調節が難しいのではないか。その原因は詰まるところ,個別修正説が折衷説に依拠して,債務者から逸出した財産の物権的な取戻しを認めることに由来するのではないか。このように考えておりますのが,4ページに書かせていただいたところでございます。   5ページに入りますが,責任説はこれに対して5ページ5行目,ゴシックで書いたところでございますが,取消しの範囲は詐害行為により形成された法律行為の全部無効と解しますけれども,その後の強制手続において強制執行法のレールに乗せてまいりますので,その意味では執行段階においては債権者の債権額に限定される,他の債権者が入ってきた場合には,もちろんそれは一定の手続による限りは配当加入等が認められる。このような手続をとりますので,非常に柔軟な,執行法を前提とした柔軟な解決が図られるということで,先ほどのような取戻しを認める場合に比べれば妥当な解決が図れるのではないかと,このように考えた次第でございます。   これが,私が責任説が妥当と考える第2の理由ということになります。   最後の3番目の理由ですが,これは和解的解決に対する関係でも適合的であるという理解でございます。5ページ第3の1のところでございますが,私法上の紛争については和解的解決の可能性というのは常に存在しております。したがって,一定の法制度を新しく構築する場合には,その制度が当事者間の和解的解決にどのような影響を与えるかを慎重に考慮しなければならないと思います。このような作業は簡単なことではありませんけれども,困難を理由としてこの種の考慮を断念したまま立法作業を行うということは,100年に一度の大事業となっている今回の民法改正において大きな禍根を残すことになるだろうと考えております。仮に詐害行為取消権制度が債務者の責任財産を保全し,債権者による強制執行の準備段階として機能することを制度趣旨とするというのであれば,今回の改正においてその制度趣旨を全うさせるような規定が設けられるべきであり,この制度趣旨に反する結果となるような改正は決して行うべきではないと考えております。そして,このことは単に判決によって解決が図られる場合のみならず,和解的解決による場合までも視野に入れて検討する必要があると考えました。   そこで,個別修正説のうちで取り分け全面的回復モデルを採りますと,これまで以上に個別債権回収のための制度として機能することになる。6ページに入っておりますが,と考えております。いわゆる法と経済学において,法のパラドクスと言われるものであり,責任財産保全の制度である詐害行為取消権を使えば使うほど,実はそれは個別債権の回収のために機能していくというような一種の逆転状況が生まれてしまうということが危惧されるということでございます。この点は既に提出させていただきました意見書に比較的詳細に書かせていただいたところでございますので,そこを改めて御覧いただければ幸いでございます。   6ページの3のところへまいりますが,これに対して責任説においては逸失財産についての取戻構成というものを取りませんので,受益者・転得者から見れば財産の全てを取り戻されるという危惧を持たないということになりますので,取消債権者優位の和解的解決を促進する内容のものとはならないと思っております。個別修正説,取り分け全面的回復モデルを採用した場合と比べて,和解的解決に与える影響力というのは中立的であるというふうに考えておる次第でございます。   以上の3点のまとめでございますが,6ページ下から5行目以下でございますが,この検討を通じて明らかになりましたのは,まず個別修正説と呼ばれる立場にも大別して直接相殺モデル,全面的回復モデル,上限設定モデルの三つの方向性があるということが今回の議論を通じて見えてきたと思います。しかし,そのそれぞれについての問題点というのがやはりあって,直接相殺モデルでは詐害行為取消権の制度趣旨に反するという根本的問題と,それから関係者間の利益調整上の問題として取消債権者の保護を重視する内容になり,他の債権者の保護に欠けるのではないか,こういう問題があると思います。全面的回復モデルでは,取引行為に対する過度の干渉となり,関係者間の利益調整上受益者・転得者の保護に欠けるという点と,それと先ほど申しましたような和解的解決の可能性までを視野に入れて考えた場合に,取消債権者優位の和解的解決を促進させるインセンティブを与えてしまう。結果的に個別債権回収のための制度として機能させるという重大な問題があると考えております。   上限設定モデルに関しましては,利益調整上取消債権者の保護に欠けるという問題があるということが明らかになったと思います。ただこの上限設定モデルは,他の二つのモデルに比べれば穏当な制度設計と思料され,私は仮に個別修正説の中でいずれかを選択するというのであれば,この上限設定モデル,すなわち詐害行為取消権行使の範囲については,取消債権者の債権額を上限するものとし,また取消債権者による相殺を禁止する旨の規定を設けるとの見解が妥当と考えます。部会資料35の第2に示された方向性は十分に考慮に値するものと理解しております。しかしながら,この上限設定モデルにおいては,既に述べましたが,取消債権者の権利保護の要請が不十分でありますので,次善の策ではあっても最善の策とは言い難い面があるのではないか,というのが私の考えです。   そこで,各モデルを検討してもやはり限界というのがあると理解せざるを得ないと思っておりまして,まずは個別修正説に基づき検討するのが中間論点整理において確認された内容ではありますが,その検討の過程を通して,個別修正説の有する限界が認識された以上は,次なる段階として責任説に基づく詐害行為取消権の制度化を勇気を持って検討すべきと考える次第であります。   その場合の条項案の骨子というのは,既にお配りしました意見書の39ページ以下において指摘させていただいております。詐害行為取消権を受益者・転得者の下での強制執行を可能とするための実体法的根拠を与えるための規定と理解し,その余の手続は執行法に委ねると,責任説ではそういう理解をするわけですから,取消しの効果に関する規定は極めてシンプルであり,条文数も必要最小限度にとどめることが可能だと思います。詐害行為取消権の制度趣旨に忠実であり,立法技術的にも簡明で分かりやすい規定となるものと考えております。   以上の次第であり,私は詐害行為取消権の改正においては,その法的性質について責任説を前提とした検討を行うべきと主張させていただくものであります。   最後になりますが,今回の法改正は債権法の全面改正を目指すものでありまして,比喩的な言い方をするならば,100年に一度の大事業であると思います。とするならば,今回責任説の採用を見送り,個別修正説に基づく立法を行うこととなれば,飽くまで比喩的な言い方ではありますが,詐害行為取消権について,今後100年の停滞を招くこととなると危惧するものでございます。このような事態は平成の大改正としての今回の民法改正の意義を失わせるものであると思います。私は詐害行為取消権制度の改正論議は,数ある論点の一つにとどまるものではなくて,今後の平成民法の在り方,あるいは歴史的評価を決定付けるものになると考えております。後世の歴史の評価に耐え得る改正を行うべきと肝銘しており,そのために今後更なる充実した審理が行われることを本部会の一幹事として乞い願う次第でございます。   リハーサルをしませんでしたので,こんなに時間が掛かるとは思いませんでした。申し訳ありませんでした。拙い説明を聞いていただきまして,誠にありがとうございました。以上でございます。 ○鎌田部会長 はい,ありがとうございました。それでは,ただいまの高須幹事の御発言につきまして,委員,幹事等の方々から御意見ございましたら,お出しください。 ○山野目幹事 私はリハーサルをしていませんけれども,短く発言させていただきます。詐害行為取消権の法的構成につきましては,ただいまの高須幹事の意欲的な提言を含め,活発な論議がされましたところですから,今後の作業について望みたいことがございます。それは,是非複数の案を一般に問うような論議の進め方を工夫していただきたいということでございます。議事録を精査し,改めて事務当局において整理をなさっていただくことがかなうものと想像しますが,私の直観的な印象では,おおむね三つの立場,つまり第1に,現在と同じように相殺により事実上の優先弁済となることを容認する立場,第2に,部会資料が示唆するところの相殺禁止の考え方,そして第3に,詐害行為取消権により保全される債権の取立てを狙いとする訴訟の手続を何らかの仕方で詐害行為取消訴訟に接合するアイデアなどが提示され,それらのいずれもが根拠のある,あるいは魅力のある考え方であると感ずるものでありますから,申し添えさせていただきます。 ○潮見幹事 一言だけ発言します。今回の改正で責任説というものを詐害行為取消権制度において採用するのは雰囲気的には若干難しいという感じがします。ただ,これをもって将来民法の改正がされるときに責任説の枠組みが否定されたということには決してならないというものとして考えていただければ有り難いという発言です。   例えば,今般の会社法の改正をめぐる中間試案では,濫用的な会社分割と並べて事業譲渡が同列に扱われております。その会社法の改正の中間試案の中では今申し上げた濫用的会社分割,それから事業譲渡については責任説の基本的な考え方に近い立場が基礎に据えられていると思います。   その場合に,事業譲渡というものを考えた場合に,この概念は解釈によっては広くも狭くもなります。そこで,仮に事業譲渡につきまして中間試案で出されているような考え方が採用されるとしたならば,そうした考え方というものが,将来また民法において詐害行為たる法律行為の取消しの在り方を考える場合にも,大きな意味を持ってくるでありましょうし,また会社法と民法の世界での枠組みの相違がこのままでよいのかということも議論になってくる余地があろうと思います。詐害行為の取消権の在り方を将来考えるときに,今回責任説の枠組みが採用されなかったとしても,責任説の考え方はこれで終わりとするのではなく,将来の検討の対象には残しておいていただければと思います。 ○鎌田部会長 はい,ありがとうございました。他に御意見いかがでしょうか。 ○沖野幹事 高須幹事から御指摘いただいた種々の点につきまして,山野目幹事や潮見幹事の御指摘のように,この考え方を更に今後のためにも検討していくことが必要だと思っております。御指摘を含めた検討の中身といたしまして,一つは高須幹事から明確に指摘されました,ここで個別修正説と言われる考え方に投げ掛けられた問題点というのがあり,それを十分にクリアができるのかという観点からの検証が一方で必要なのだろうと思います。投げ掛けられた問題点を個別にそれぞれ酌み取って入れていくという可能性はあるのではないかというふうに考えましたけれども,詳細については更に今後の検討の中でと思います。   もう一つは,いわゆる責任説の考え方なのですけれども,責任説を採ることがなかなか難しいのではないか,あるいはまずはこの個別修正説と言われる考え方からスタートしていこうという姿勢の理由の一つには,責任説と言われる考え方も様々な見解が出されていて,それが一枚岩ではないということの問題があったと思われます。高須幹事は明確に御自身のお考えを示されたと思いますけれども,それが責任説として言われるところ,そして既に公表されている見解の唯一のものではないということも確かでありますので,責任説という考え方で,一つの方向として比較対照しつつ検討していくときにも,なおその中身を詰めていく必要があるのではないかと思います。   具体的な話としまして,潮見幹事から出されました会社法における現在の提言との関係でありますけれども,私の理解するところでは,詐害的会社分割あるいは事業譲渡も含めた場合の特殊な在り方として,その会社分割や事業譲渡そのものは効力を否定せずに,しかしながら,それによって不利益を受ける債権者が直接に請求できる,逆に言うとその受益者に当たる者がその債務を負うということになっており,しかもその債務の在り方が詐害行為に当たる当該行為によって,取得した財産等を上限として,かつ,次々と権利行使があり得るという想定がされているように見受けられました。理解が違っておりましたら,別の機会に訂正させていただきたいと思いますし,更に言えば中間論点試案の段階ですので,最終的にどうなるのか分かりませんのでその点でも留保が必要ではあります。   その留保付きで,もしそういう考え方だとしますと,例えば今回高須幹事が示されたものの場合どうかです。責任説の下で,一旦受益者のところで強制執行がされた場合に,その剰余は受益者に渡される,それはそうだと思うのですけれども,更にその剰余に対して,次にその当該強制執行に入らなかった元々の債務者の債権者が掛かっていくことができるのか。先ほどの会社分割等に関する会社法の制度からすると次々に権利行使ができるということだとしますと,その剰余について今度はその価格賠償的な一種の保証的な形になるのでしょうか,それとも一般財産を引当てとして端的にまた請求ができる,あるいは強制執行ができるということが整合的のようにも思われるのです。そうではなくて,そこで,すなわち最初の強制執行で切られるのだということだとしますと,会社法で言われる考え方とは違っているように思われますし,どうなのかといった問題もあるように思われます。   更に言いますと,もしそこで切られるのであれば,言われるところの個別修正説の下で一旦財産を回復して,しかし強制執行が掛かったときの剰余は受益者に対して払われるとするならば,両者はかなり実質は近いというようなことにもなるわけですので,責任説的な発想を採りつつ,どういうような制度を構築するべきかということについてもなお選択肢がかなりあるという印象です。ですので,それも併せて比較検証していく必要があるのではないか。そうしますと責任説になればそうシンプルになるという感じでもないのかなという印象も持っております。具体的にどのようなことが必要かを見極めつつ,最終的な検討をする必要があるのではないかと思っております。以上です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。他にはよろしいですか。どうぞ。 ○内田委員 今日は実質的な議論をしない方がいいと思うのですが,幾つか御意見が出ましたし,高須幹事から詳細な資料を既に出していただいておりますので,今後十分検討しなければいけないと思います。私自身は,大学教授時代は責任説に非常に共感を持っておりましたので,そのメリットは十分理解をしているつもりです。   ただ,今後検討する上で一つだけ単純なことを質問させていただきたいと思います。沖野幹事が言われたこととあるいは多少関連するのかもしれませんが。詐害行為取消権が機能する最も重要な場面の一つとされる偏頗弁済の場面で,かつ金銭による偏頗弁済が行われ,受益者の下で金銭が特定性を失ったというときに,責任説ではあとどうなるのかということです。ごく素朴に考えると,その弁済された金額の限度で責任が生ずる。つまり,受益者の総財産が対象となって,その金額の限度で責任が生ずるということなのかなという気はするのです。もしそうだとすると,受益者としてはたまらないわけで,どの財産を差し押さえられるか分からない。そこでそれを避けるために任意に弁済したいということはあると思うのですが,それが可能なのか。またどういう根拠で誰に対してなされ,その後はどうなるのかについて教えていただければと思います。 ○高須幹事 一番聞かれたくないところを聞かれてしまったようなところでございますが。正に今先生がおっしゃったように,そこは価格賠償の問題にせざるを得ないのかなとも思っておるのです。ただ,いわいる責任説を採った場合の価格賠償の在り方というのは,余りまだ十分な検討がなされておらずに,価格賠償になる結果として一般財産が引当てになってしまうという意味での問題性というのが生じるのではないかという意味では,先生が今御指摘いただいたところは単に価格賠償ですと言って済む問題ではないだろうと思います。沖野先生からも御指摘いただいたとおり,そういうようにまだ十分責任説は詰まっていないのではないかと言われてしまえば正にそこはそうだなと思いますが。私としては現時点では価格賠償にせざるを得ないと考えておりますが。   任意に払うという方法を仮に取る場合に,どのような方法がございますかという点なのですが,そこは非常に悩ましい点でございまして,いわいる和解でしてしまうとこれは詐害行為ではなかったということになるだけでございますから,後で他の債権者から同様の詐害行為としての訴訟を起こされた場合に,既に払っていますということを言うことができない。したがって,ここでは単に和解の解決として任意に払えば済むことですという言い方ができませんので,御質問に答えるとすれば,強制執行という形で本来であればなされるべきところを,強制執行によらずに任意にその義務の履行をするという方法を制度として認めなければならないと思います。   すみません,そこまでしか答えられなくて申し訳ないのですが,そういう必要があると思います。以上です。 ○神作幹事 会社法制の見直しにおきまして,事業譲渡及び会社分割が濫用的に行われた場合における新しい規律の在り方が議論されておりますので,議論の現状と,新たに提案されている規律と詐害行為取消権との関係につきまして私が理解していることを申し上げさせていただきます。   会社法制部会では,分割会社又は譲渡会社の残存債権者を害することを知って会社分割又は事業譲渡をした場合には,残存債権者は,承継会社等に対して,承継した財産の価額を限度として,当該債務の履行を請求することができるものとする規律を導入する方向で検討しています。この規律は,「債権者を害することを知って」という要件は詐害行為取消権と同様であり,法的効果についても確かに責任説的な発想で説明できる余地もあるとは思うのですけれども,新たに提案されている解決は,詐害行為取消権の特則ですとか,詐害行為取消権にとって替わるルールとして考えられているわけではございません。詐害行為取消権の主張は別途可能という前提と理解しています。そういう意味では,詐害行為取消権の制度とは独立した新たな制度として考えているものと考えられます。正に沖野先生が御指摘されたように,分割会社,あるいは事業譲渡した会社の残存債権者に対して,直接請求権を与えることにより救済しようというもので,おそらく残存債権者の間では早い者勝ちになると考えられますし,当該会社が破産手続に移行した場合にも,残存債権者だけを保護する制度ですから恐らく管財人には受け継ぎされないということになるのではないかと思います。   そういう意味では,会社法改正で議論されている新たな提案は,詐害行為取消権の制度とパラレルに考えられるわけではないと理解しております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま頂戴しました意見を踏まえて,更に検討を続けさせていただきますので,事務局での検討に加えて,御提案の委員,幹事の方の側での御検討も進めていただければというふうに希望するところでございます。   では,部会資料36の「第1 多数当事者の債権及び債務(保証債務を除く)」,「1 債務者が複数の場合」のうち「(1)分割債務」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「第1 多数当事者の債権及び債務」,「1 債務者が複数の場合」,「(1)分割債務」の「ア 成立要件」では,同一の可分給付を目的とする債務について複数の債務者がある場合には,当該債務は原則として分割債務となる旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。   「イ 負担割合」の「(ア)対外的な負担割合」の第1パラグラフでは,分割債務者の対外的な負担割合について,債権者と各債務者との間に別段の意思表示がない場合には平等の割合とすることを提案しています。また,第2パラグラフでは,同じく分割債務者の対外的な負担割合について,一定の場合には各債務者間の別段の意思表示による割合とすることを提案しています。   「(イ)内部的な負担割合」では,分割債務者の内部的な負担割合について,各債務者間に別段の意思表示がない場合には平等の割合とすることを提案しています。   「ウ 求償関係」では,対外的な負担割合が内部的な負担割合よりも大きい分割債務者が自己の内部的な負担割合を超えて債務を消滅させる行為をしたときは,その超過部分について他の分割債務者に対して求償をすることができるとすることを提案しています。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○岡委員 イの(ア)のただし書について反対意見が多うございました。まず,債務者が成立当時知っていただけで拘束されるのは行き過ぎではないか。知っていたことを理由に,乗っかるのはいいと思いますが,拘束されるというところまでは行き過ぎではないかという意見でございます。   それに,成立当時知っていて前に進んだ場合は,債権者と各債務者との間に契約が成立したと認定される場合がほとんどでしょうから,契約が成立した場合以外にこういうちょっと変わった制度を導入する必要はないのではないかという意見です。   その背景として,分割債務の典型的な例は金銭債務の相続の場合だと思いますが,相続の場合には遺産分割で遡及的に合意が成立したとしても,この成立当時知っていたときにはきっと当たらないであろうと。そうだとすると,実例も余りないのではないか,そういうことを総合して,ただし書については設けるべきではないかという意見が多うございました。 ○道垣内幹事 私は,ただし書を設けるべきではないとまでは申しません。しかし,ただし書の2行目の,「当該分割債務の成立時」というのが若干ミスリーディングな感じがします。つまり,正に岡委員が出されました相続の例のように,単独の債務者がいたが,後発的に共同相続がされたという場合を考えてみますと,分割債務になるのは相続の時点ですが,債務者が死亡する前に共同相続人間で分割割合について合意をし,そのこと及びその割合を相続開始時に債権者が知っていたとしても,債権者はその合意に拘束されるわけではないと思うのです。したがって,「分割債務」という言葉の定義にも関係しますが,「当該分割債務の成立時」ではなく「当該債務の成立時」なのではないかと思います。私の理解が全く誤っているのかもしれませんので,「分割債務の成立時」という言葉を使われた趣旨を教えていただければと思います。 ○金関係官 趣旨としましては,分割債務の発生原因である売買などの契約をした時というつもりでした。代金債務について債務者間では負担割合の定めがあるけれども,債権者との間では負担割合の定めがない,契約の内容になっていないという場面において,債権者がその債務者間の負担割合の定めを当初から知っていた場合についての規律であると理解しております。相続の場合につきましては,基本的に債権者との関係では法定相続分で当然に分割されるのではないかと思いますけれども,遺産分割の対象になる場面があるとしても,そのような場面で遺産分割協議の内容を債権者に対抗できるかが争われる場面というのが少しイメージできておりませんので,改めて検討させていただければと思います。 ○鎌田部会長 他にいかがでしょうか。 ○中田委員 別のところの求償関係ですけれども,よろしいでしょうか。(1)ウで求償関係についての御提言があるのですけれども,ちょっと中途半端なのかなという気がしています。中途半端と申しますのは,少し細かいのではないかという感じがする一方,まだ不明なところも幾つかあるということです。   一つは,(1)ウの規定によらない求償との関係です。例えば分割債務者が対外的な負担割合を超えて弁済したという場合には,第三者弁済として委任又は事務管理の規定によって求償できるのではないかと思うのですが,その求償と(1)ウの規定による求償との関係をどう考えるのかということがあります。   2点目は,(1)ウの考え方は内部的負担割合を超えない弁済をした場合には割合的な求償はできないという趣旨だと思いますけれども,これは連帯債務について後で20ページのエ(ア)で出てくる考え方とは違っていると思うのですが,もしそうであるのであればそのことをはっきりしておいたほうがいいだろうということです。ただ,もしこれを定めると,今度は,またこれも後で出てきますけれども,不真正連帯債務の規定との関係をどうするのかという問題も出てくると思います。   3点目は,分割債権についての考え方との整合性です。32ページを見ますと,分割債権については割合を超えて弁済を受けた場合に超過部分を他の債権者に交付するという規律は置かないようですけれども,少しアンバランスな感じもします。   というような細かい点がまだ詰めきれていないところもあるのではないかということです。ただ,それを詰めろと言っているのではなくて,そこまで細かく書く必要があるのかどうかがよく分からないというところです。冒頭,中途半端ということを申しましたけれども,どこまで規定するかも含めて検討する必要があるかと思います。 ○金関係官 1点目につきましては,ここでは対外的な負担割合が内部的な負担割合よりも大きいという場面を想定しておりますけれども,分割債務の場合の対外的な負担割合というのは自己の債務額そのものですので,自己の債務を弁済した場合における求償の問題として処理されるのに対して,対外的な負担割合を超えて弁済した場合については,他人の債務を弁済した場合における求償の問題として処理されると思いますので,両者はそれぞれ違うものとして規律しようとしておりますが,問いを繰り返しただけかもしれません。改めて検討いたします。   2点目につきましては,これはむしろ自己の負担部分を超えない弁済をした場合でも求償することができるという連帯債務の取扱いのほうが,例外的な取扱いであると理解しております。民法第465条も自己の負担部分を超えて弁済したときに求償することができると規定しておりますし,不真正連帯債務の場合もそうだと思います。そのような観点から,連帯債務の場合と違っていても問題はないと考えております。   3点目につきましては,御指摘のとおり,分割債権の場合については他の債権者に利益を分与するという内容の規定を提案しておらず,分割債務の場合についての求償の問題に限定して提案をしておりますが,御指摘を踏まえて更に検討させていただければと思います。 ○中田委員 1点目については,違うのだとするとどこが違うのか。多分,委託を他の分割債務者から受けたか否かにかかわらず,委託のある場合と同じレベルにするという御趣旨なのかなというふうには拝見して思っておりましたけれども,もしそうだとするとそこを明確にしていくということになろうかと思います。ただ,どんどん細かくなっていくという感じがしています。   それから,2点目については,私も違っていいとは思うのですが,それも規定するかどうかということです。 ○山本(敬)幹事 別の点でよろしいでしょうか。アの成立要件のところで,内容に関わることではなく,規定の書き方という技術的な点について確認させていただければと思います。  考え方としては,同一の可分給付を目的とする債務か,不可分給付を目的とする債務かで分けて,前者が分割債務,後者が不可分債務,前者の例外が連帯債務というような体系的な整理になっていると思います。ただ,実際に規定にするときに,ここにありますように,同一の可分給付を目的とする債務について複数の債務者がある場合には,原則として分割債務になるというような書き方をしますと,可分か不可分かが必ずしもすぐに分からないような場合はどうなるのかという問題が出てくるようにと思います。現行法は,デフォルトを分割債務とするという形で定められているわけですけれども,これはこれで合理性のある定め方ではないかと思います。可分か不可分かで分けるのは,分かりやすい面があると同時に,今申し上げたような技術的な問題もあるかもしれません。その意味で,規定の定め方についてそのような問題があることを踏まえて検討する必要があるのではないかと思います。  同じことは,後ろの債権のほうにも当てはまりますので,ここで合わせて述べたということにさせていただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,アの成立要件につきましては今御指摘の点を少し検討させていただくということにします。負担割合につきましては,弁護士会では(ア)の第2段落,ただし以下の部分について反対が多いという御意見があったということでございますが,これを踏まえて少し検討させていただく。そして,求償関係については中田委員の御指摘を踏まえて更に検討を続けさせていただくということで,その他の点については特に御異論はないということで受け止めさせていただきますが,よろしいでしょうか。   では,続きまして,「(2)連帯債務」のうち,「イ 負担割合」までについて御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「(2)連帯債務」,「ア 成立要件」の「(ア)法律の規定又は意思表示による連帯債務の成立」では,同一の可分給付を目的とする債務について複数の債務者がある場合において,当該債務は法律の規定又は当事者の意思表示によって連帯債務となるとすることを提案しています。   「(イ)商法第511条第1項の一般ルール化」では,数人の債務者が商行為によって債務を負担した場合に当該債務は連帯債務となる旨を定める商法第511条第1項を民事の一般ルールとする内容の規定は設けないとすることを提案しています。   「イ 負担割合」の「(ア)対外的な負担割合」の第1パラグラフでは,連帯債務者の対外的な負担割合について,債権者と各債務者との間に別段の意思表示がない場合には平等の割合とすることを提案しています。また,第2パラグラフでは,同じく連帯債務者の対外的な負担割合について,一定の場合には各債務者間の別段の意思表示による割合とすることを提案しています。   「(イ)内部的な負担割合」では,連帯債務者の内部的な負担割合について,各債務者間に別段の意思表示がない場合には平等の割合とすることを提案しています。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いいたします。 ○大島委員 アの(ア)の法律の規定又は意思表示による連帯債務の成立のところですけれども,中小企業の取引実務において,連帯債務の実例がほとんど見られないことは第一読会の際に申し上げたとおりです。一方,取引上の不法行為に対して複数の企業を相手取った訴訟が提起されるなど,不真正連帯という形での賠償は中小企業にあるものとの意見が商工会議所にはございました。   企業実務において,連帯債務の実例が少ないことに鑑み,分かりやすい民法を目指すという観点からは,従来の一般的な概念である不真正連帯債務についても明確な規定を置くほうがよいのではないかと思いました。以上です。 ○岡委員 二つございます。一つは,アの(ア)で今の大島さんとほぼ同じでございます。不真正連帯債務の位置付けが明確ではない。部会資料を読む限り,連帯債務を不真正連帯債務のほうに近づけて,そちらに統一しようという方向に見えますけれども,後でも申し上げますが,弁護士会としてはそちらに統一してしまうのはいかがなものかという考えを持っておりまして,不真正連帯債務の位置付けをはっきりさせなければ,このアの(ア)の法律の規定によるというのが非常に分かりにくくなるという意見が強うございました。要するに不真正連帯債務の位置付けをもっと明確にすべきであるということでございます。   それから,2番目に,イの負担割合の(ア)のところでございますが,ここも連帯債務者同士の合意で負担部分の割合が決まっていて,それを債権者が知っていたときのみその合意によるというのがよく分からない。債権者としては全部請求できるわけで,負担部分の割合がいろいろなところで出てくるかもしれませんけれども,何か知っていたときだけ負担部分について拘束されるというのが理解しにくい。具体的にはどういう場合なのだというような疑問が呈されました。さっきの分割債務のときのような明確な反対ではなく,連帯債務についてこのような規律がどういう実益を持つのだというような議論がございました。以上です。 ○金関係官 不真正連帯債務の位置付けについては,連帯債務者の一人について生じた事由の効力に関する検討の結果を待たなければ議論をしにくいのではないかと考えております。連帯債務者の一人について生じた事由の効力に関する検討の結果として,連帯債務における絶対的効力事由を絞ることになる場合には,求償関係の問題を差し当たり除けば,連帯債務と不真正連帯債務との間の効力の差がなくなる可能性があります。その場合には,連帯債務という概念と不真正連帯債務という概念が統合されて,今後は不真正連帯債務という概念を用いる必要がなくなるということも考えられます。他方で,連帯債務と不真正連帯債務との間の効力の差がなお残る場合には,連帯債務とは異なる概念として不真正連帯債務という概念,名称を不真正連帯債務とするかどうかは別途問題になると思いますけれども,連帯債務とは異なる概念を民法に規定する必要があるかという問題が生じると考えております。いずれにせよ,以上の問題につきましては,連帯債務者の一人について生じた事由の効力に関する検討の結果を踏まえて,改めて必要に応じて問題提起をしたいと考えております。   ついでに,先ほどの債務者間の内部的な負担割合の定めを債権者が知っていた場合についてですけれども,これは第一読会の分割債務のところの議論だったとは思いますが,債権者が当初から知っていればそれだけで対抗されてしまうこと自体は,それほど問題視されていなかったようにも思います。もちろん,その点に御異論があるということであれば,更に検討したいと考えております。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○岡委員 異論とまではいきませんが,その別段の負担割合の合意が債権者が知っておれば債権者はそれに拘束される。でも,全部請求はそれぞれ請求できると。だから,絶対的効力事由がある免除だとか絶対的効力事由が認められた場合に,別段の負担割合について拘束されてしまうということですよね。中身にそれほど異論があるわけではないのでそれほど細かいことまで書くのかというような疑問かもしれません。 ○神作幹事 イの負担割合の(イ)の内部的な負担割合について,別段の意思表示がない場合には平等の割合でその負担部分を有する旨の規定を設けるという御提案について,1点御質問させていただきます。   会社法430条ですとか,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律118条等に基づいて,複数の役員が連帯責任を負う場合に関する御質問です。ある取締役が現に違法行為を行い任務懈怠に基づく損害賠償責任を負ったと仮定します。他の取締役は業務執行を監視する義務,いわゆる監視義務に違反して任務懈怠に基づき,当該違法行為を行った取締役とともに連帯責任を負ったとします。このようなケースにおいて,内部的な負担割合は現に違法行為をした取締役のほうが通常は圧倒的に大きくなるのではないかと考えられます。そこで,内部的な負担割合について平等な割合で負担するという規律は,今申し上げたようなケースにも及ぶと考えるべきなのか,そもそも及ばないのか,もし及ぶとするとそのような場合には反証が認められるという方向で対処することができるのか,について教えていただければと存じます。 ○金関係官 神作幹事がおっしゃったような過失割合等によって負担割合が定まる場面を想定していたわけではありません。典型的な連帯債務を念頭に置いておりました。 ○潮見幹事 神作幹事の御質問もありましたので発言しますが,この問題もまた,不真正連帯債務というものをどのように取り扱うかによってかなり変わってくるのではないかと思います。特に先ほどのお話があったような場合とか,あるいはここにも挙げられている共同不法行為とかを考えた場合に,更にまた,そこで求償というものを認めた場合に,おいそれと特段の意思表示と平等割合原則という枠組みでは話は進まないのではないかと思います。   先ほど金関係官がおっしゃったように,不真正連帯債務というのをどうのように扱うか次第で変わる可能性がありますので,それを見て適宜整理をしていただければと思います。 ○鎌田部会長 連帯債務の検討の結果次第で,不真正連帯債務について規定を設ける必要があるかどうか,その内容をどうするかを考える。それが決まると,また両者の関係の調整その他での検討をもう一度やらなければいけないというような関係に立つと,そういうふうなことだろうと思いますので,まずは,何が典型的か自体に問題があるのかもしれませんが,典型的な連帯債務について次の課題でもあります連帯債務者の一人について生じた事由の効力等について審議をした上で,不真正連帯債務の取扱いについて議論をさせていただければと思います。   成立要件の(イ)については特に御異論は。 ○道垣内幹事 成立要件の(ア)なのですが,学説上は法律の規定による場合と当事者の意思表示による場合というのと並んで,「共同の行為によって債務を負った」という類型が挙げられていたような気がするのですが,それは意思表示の中に含めて解釈をするということでしょうか,それとも,A,B二人並んで債務を負ったからといって,それはやはり通常は分割だよね,連帯債務になるためには特別の意思表示が必要だよね,という考えなのだろうかというのが気になります。お聞かせいただければと思います。 ○金関係官 道垣内幹事がおっしゃったような類型が,仮に一般法理として存在するのであれば,それはむしろ「法律の規定」のほうに分類されるのではないかと考えておりました。消費者契約法第10条にいう「規定」は一般法理を含む趣旨だと解釈されていると思いますが,それと同様のイメージを持っておりました。具体的な条文の書き方はまた別の問題だと思いますけれども,整理としてはそのように考えておりました。 ○鎌田部会長 そういう一般的な法原則があると考えるのか,具体的な当事者意思の認定なのか。一般的な法原則があるのですかね。 ○金関係官 そういう一般的な法原則が仮にあるとした場合の分類という趣旨で申し上げました。 ○道垣内幹事 そうすると,訴訟において連帯債務か否かが争われる場合を考えますと,当事者は当該状況においては連帯であると通常考えられているか否かを争うことになり,この条文が紛争に対して何らかのガイドラインを示すということにはならないような気がするのですが。 ○金関係官 当事者の意思表示があったことを認定するための間接事実などとして様々な主張がされる中に御指摘のような主張が入ってくることは否定できないようにも思いますので,先ほど申し上げた一般法理による場合と当事者の意思表示による場合とを厳密に区別できるわけではないのかもしれません。申し訳ありません。ただ,分類としては,法律の規定,一般法理,当事者の意思表示という区分があってもよいような気もしております。 ○松本委員 当部会では,従来から契約の趣旨という言葉が大活躍しているので,当該シチュエーションにおける契約の趣旨からどうなのだということで判断すれば,それでいいのだろうと思うのです。一般法理というのは当事者の意思の推測だとか,こういうシチュエーションだったらこうだというものでしょうから,最終的には当該状況であれば一般的にはこういうふうに解釈するのが適切だろうということであって,それが妥当しない場合,原則は分割債務になるということでいいのではないかと思うのです。ここで言う当事者の意思表示というのを明示の意思表示に限定する必要は全くないと思います。 ○沖野幹事 確認なのですけれども,共同の行為によって債務を負う場合に連帯債務になる。その共同の行為というのは非常に明瞭な当事者の意思表示がある場合でもなければ,個別具体的な法律の規定があるという場合でもない。そのときに一言で言えば,そのルールが適切だと考えるならば書いたらどうかと思うわけです。そういう一般法理があるということであるならば,むしろ書き出したほうが明らかではないかと思われるところ,しかしそうではない形で御提案をされているのか。そのときにはやはり共同の行為というのを何と捉えるかというのが非常に難しく,むしろ黙示の意思表示であるとか規定のほうであるとかそれで対応することもできるし,いずれにしろその部分は解釈に委ねるという趣旨で提案されているのか。今のやり取りの中での提案の趣旨というのを確認させていただければと思います。 ○金関係官 先ほど申し上げたのは,共同の行為によって債務を負担した場合に連帯債務になるという一般法理が仮にあるとした場合の概念整理をする趣旨のものでありまして,むしろそのような類型については確立した一般法理はないと理解しております。部会資料36の5ページの商法第511条第1項の一般ルール化のところとも関連しますが,共同の行為によって債務を負担した場合であっても連帯債務にならないとしている判例もありますので,恐らく確立した一般法理ではなくて,それぞれの事案ごとに評価あるいは認定をしなければならない問題であると理解しております。 ○鎌田部会長 事務当局が全面的に提案内容作成の責任を負っているというよりも,むしろここでの審議を通じて内容を詰めていっていただくのが筋かと思いますけれども。共同の行為というのを非常に狭く考えていくか広く考えるかによっても大分違いそうな気もするので,どういうようなときに共同の行為があったといえるのかという具体的な内容がもうちょっと詰まっていたほうが,仮に明示的なルールを掲げるとしてもはっきりするのではないかなという気がします。   道垣内幹事,何か御提案ございますか。 ○道垣内幹事 多分当事者間に黙示の意思表示があると認定すべき場合は認定するということなのであり,「共同行為」と書いても部会長おっしゃいましたように,どのような場合が「共同行為」なのかという解釈問題が残りますから,それを意思表示のほうでコントロールしようということならばそれはそれでもいいのかなという気はいたします。ただ,少し違うから,「共同行為性」というコントロール概念を設けた方がよいようには思いますが,自信はありません。 ○鎌田部会長 他の箇所も含めて御意見ございますでしょうか。   それでは,不真正連帯債務あるいは法律の規定による連帯債務について御意見を頂戴したところでもありますので,その点については先ほどの議論も踏まえて検討を続けさせていただくことにいたします。   次に,「(2)連帯債務」のうちの「ウ 連帯債務者の一人について生じた事由の効力等」について御審議を頂きます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「ウ 連帯債務者の一人について生じた事由の効力等」の「(ア)履行の請求」では,連帯債務者の一人に対する履行の請求を絶対的効力事由とする甲案,相対的効力事由とする乙案,原則として絶対的効力事由としつつ各債務者間に協働関係がない場合に限り相対的効力事由とする丙-1案,原則として相対的効力事由としつつ各債務者間に協働関係がある場合に限り絶対的効力事由とする丙-2案を提案しています。   「(イ)相殺,混同」では,連帯債務者の一人による相殺を絶対的効力事由とする民法第436条第1項,それから連帯債務者の一人との間の混同を弁済とみなす民法第438条をいずれも維持することを提案しています。   「(ウ)更改」では,連帯債務者の一人との間の更改を絶対的効力事由とする甲案と,相対的効力事由とする乙案を提案しています。   「(エ)債務の免除」では,連帯債務者の一人に対する債務の免除を絶対的効力事由とする甲案と,相対的効力事由とする乙案を提案しています。   「(オ)時効の完成」では,連帯債務者の一人についての時効の完成を絶対的効力事由とする甲案と,相対的効力事由とする乙案を提案しています。   「(カ)他の連帯債務者による相殺の援用」では,連帯債務者の一人が債権者に対して反対債権を有する場合において,他の連帯債務者は当該反対債権を有する連帯債務者の負担部分の限度で当該反対債権を自働債権とする相殺の意思表示をすることができるとする甲案,他の連帯債務者は当該反対債権を有する連帯債務者の負担部分の限度で自己の債務の履行を拒絶することができるとする乙案,それから,他の連帯債務者には何らの影響も生じないとする丙案を提案しています。   「(キ)破産手続の開始」では,連帯債務者が破産手続開始の決定を受けた場合において,債権者はその債権の全額について破産財団の配当に加入することができる旨を定める民法第441条の規定を削除することを提案しています。   以上の各論点につきましては,いずれも仮に規定を設け又は規定を削除する場合における具体的な規定の在り方等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,これらの点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明がありました部分のうち,まず「(ア)履行の請求」についてのみ御意見を伺うということにしたいと思います。御自由に御発言を頂ければと思います。 ○大島委員 中小企業において不真正連帯債務の実例があり得ることは先ほど申し上げたとおりなのですが,(ア)の履行の請求の丙1案で提案されている,各債務者間に協働関係がない場合というのが不真正連帯債務のことを指しているのであれば,協働関係と不真正連帯債務との関係を明らかにしておいたほうがよいのではないかと思いました。   また,今回提案されている「協働」という,働くという字を使った文言については,これまで使われてきた「共同」,同じという字を使った文言との概念の違いが不明確で,どのような意味を持っているのか分からないという意見が商工会議所には多くございました。ワーディングを行う際は判例との整合性も留意しながら慎重に御検討いただきたいと思います。 ○岡本委員 履行の請求につきましては,甲案に賛成ということです。連帯債務の債権者は連帯債務の担保的効力に期待しているというのがその理由でございます。実務の観点からいたしましても,例えば行方不明の連帯債務者に対する時効を中断するために,他方の連帯債務者に対して履行の請求をするということは実務上よく行われているところですけれども,履行の請求が相対的効力事由ということになりますと,行方不明の連帯債務者に対する履行の請求を公示による意思表示によって行わざるを得ないということになると思われますけれども,そうだといたしますと極めて不便で困るといった意見でございます。連帯債務についての他の規律についてはともかくといたしまして,特にこの点は強く甲案に賛成という意見でございます。   履行の請求を絶対的効力とした場合には,履行の請求を受けてない連帯債務者が不測の損害を被るといった問題が指摘されておりますけれども,履行の請求を受けた連帯債務者が他方に通知すべきこととして,それを怠ったときには連帯債務者間において損害賠償などにより解決するといった考え方もあるのではないかという意見もございました。   それから,丙案についてですけれども,協働関係の有無によって分けるという案でございまして,分からないわけではないのですけれども,先ほど大島委員からもお話がありましたように,協働関係が何を意味するかであるとか,具体的な事案で協働関係の有無について紛争が予想されるということがございますので,丙案のような規律にするということには不安がございます。仮に協働関係が請求を受けたことを互いに連絡し合うことが期待できるような関係であるというふうに理解するといたしました場合に,連帯債務の成立当時は協働関係はあったのだけれども,後に離婚などによって,あるいは行方不明などによってそういった関係がなくなった場合にどうなるのかといった疑問もございます。以上です。 ○山野目幹事 ウ(ア)の論点につきまして,乙案を推したいと考えます。その上で,提示されている案それぞれについて若干のコメントをさせていただきますと。甲案につきましては,連帯債務であるとされる場面というのが,先ほどまでるる御議論がありましたように様々な局面があるものでありまして,一律に一人の債務者に対する履行の請求が他の債務者との関係でも効果が生ずるという帰結になることの弊害というものについて危惧を覚えます。   乙案との関係でございますが,この方向で考えることがよろしいというふうに感じますけれども,相対的効力事由とする旨の規定に改めると,こういうふうにおっしゃっていることの趣旨でありますけれども,現行法との関係で言いますと,440条が定めているような規律に委ねるということも含めておっしゃっているのではないかというふうに想像いたしました。ただ,その点は恐らく先ほどからバックグラウンドで議論になっております不真正連帯債務の概念との関係をどう整理するかということについて,もう少し見通しがついた上で規律のありようも検討されるのだろうというふうに想像いたします。   乙案について関連いたしますけれども,甲案と向かい合ったときに考えなければいけないこととして,当事者の合意などによって相対的効力事由が原則であるとされるものを絶対的効力事由として創設することができるかという論点は伏在しているように感じます。その点についての考察も更に詰めた上で,乙案でいくときの規律の在り方を見据えていく必要があるというふうにも考えますから,関係官が最後に言及なさったように,この点も含めて分科会で御議論いただくということについては賛成でございます。   それから,丙案についてですけれども,そこに出てくる協働関係という概念はどういうふうに工夫をしても,恐らく法的な操作が可能である概念にならないのではないかというふうに感じます。協働という言葉を使うことについても感心しない部分を感じます。それに代えるものを探してもなかなか成功しないのではないかという見通しを抱くものですから,やはり丙案を採用することが難しいのではないかというふうに感ずるものでございます。以上です。 ○岡本委員 ちょっと先ほど申し上げ忘れてしまったのですけれども,絶対的効力事由,相対的効力事由の個別の話に入る前の問題といたしまして,連帯債務者の一人について生じた事由の効力について総論的な意見ということなのですけれども。この連帯債務者の一人について生じた事由の効力等について規定を設ける場合に,それらの規定は任意規定であるということを明文化してほしいという意見でございます。一般に,各規定が強行規定か任意規定かについて極力明らかにするということが提案されておりますけれども,特に連帯債務者の一人について生じた事由の効力等については任意規定であるということを明らかにすることを要望したいということです。   この点につきましては,民法の規定とは異なる意思表示を当事者がしたとしても,それが公序に反するとまではこの点に関しては言えないのではないかというふうに考えるところがその理由でございます。以上です。 ○佐成委員 ウの(ア)ですけれども,経済界で議論している中では甲案を支持している方が多く見受けられました。特に生命保険業界からは,親族のために生命保険契約に加入している場合について,契約者が死亡して相続が開始した場合に,相続人が複数なら,約款上,保険料債務は相続人らの連帯債務とされているので,もし履行請求に絶対効がないという改正がなされると,相続調査のためのコスト・時間が非常に増大するので,是非甲案でお願いしたいという意見がございました。以上でございます。 ○松本委員 先ほどアの議論のところで出た不真正連帯をどうするのかという論点に関しては,連帯債務者の一人について生じた事由の効力等を見てから考えましょうということになったわけですけれども,今のウの(ア)のところを検討するに当たっても,連帯債務であればこうだという効果を考える際に,どういう連帯債務なのかによって効果が違ってくるではないかという感じがするのです。甲案がいい連帯債務もあるだろうし,乙案がいい連帯債務もあるだろうと。つまり,連帯債務の定義をしないで議論し始めると,その辺りがどうも引っ掛かります。   議論の立て方として,分割債務でも不可分債務でもないものは全て連帯債務というふうに落とし込んで議論をして,その二つから外れる広い意味の連帯債務については甲案でいくのか乙案でいくのかどちらかを決めなさいと言われるとかなりしんどいのではないか。そこで恐らく丙案というのが出てきているのだと思うのですが,丙案は何人かの方がおっしゃっているように,協働関係というのが大変曖昧だから,これは機能しないだろうと思います。しかし,幾つかタイプがあるのではないかという点は恐らく正しいのであって,そういうふうに考えると,分割債務と不可分債務以外の全ての広い意味の連帯債務について共通の性質を決めましょうという議論自体に少し無理があるような感じがします。恐らくこれ以降の論点でも全く同じような議論の繰り返しになるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 松本委員としては,例えばこういうタイプとこういうタイプがあって,このタイプはこう,このタイプはこうというようなお考えがありますか。 ○松本委員 一つやりやすいのは,従来の伝統的学説あるいは判例で議論されていた不真正連帯債務を取りあえず除いて,いわゆる不真正連帯債務でないところの連帯債務だというふうに一般に考えられている債務について,従来どおりの絶対効,相対効の割り振りでいいのかというのであれば比較的共通の議論ができるのではないかという気がします。 ○道垣内幹事 松本委員の御発言なのですが,従来の不真正連帯債務だとされてきたものは網羅的にリストアップできるというお考えですか。 ○松本委員 人によって微妙な差が出てくるかもしれないですが,共同不法行為なんかは取りあえず外すというのでいかがでしょうか。あるいは先ほどの会社法上の連帯責任なども外す,ここの議論からは。 ○道垣内幹事 だけれども,明らかに不真正連帯債務であるものだけを書いて,それは取りあえず外す,という考え方では,松本委員の話は成り立たないと思うのです。連帯債務であってここで規定している内容が適用されるものと,規定されないものというのがクリアに分かれると,連帯債務の定義をしたことにもなりません。クリアにはどうしても分かれないのであり,そこにはどうしても解釈問題が残ってくるということになると,その区別の議論の土俵となる概念を置いて議論をせざるを得ないのでして,「協働関係」という言葉が悪ければ別の言葉を模索することになりますが,相対的効力になる場合と絶対的効力になる場合とを区分するための概念は必要だと思います。問題はその概念をどういうふうに作るかではないかという気がいたしますが。 ○岡委員 弁護士会の議論は今まで出た議論とほぼ同じでございます。2種類のものがあるだろうと。それを前提にすると,絶対的効力事由を全て抹殺しようということには賛成できないという意味で甲案の支持者が一定程度おります。ただ,甲案の支持者も不真正連帯債務は別ですという前提の下に甲案を支持していると思います。   それから,乙案の相対的効力事由を原則にするほうが保護になっていいのではないかと,そういう立場もかなり支持があるのですが,一定の場合に絶対的効力事由を認めていいという含みを持った乙案が多いようです。   結果的にでは丙案にいくかとなると,やはり協働関係という言葉に抵抗があって,丙案にはなかなか賛同者が少ないという状況でございます。   今山野目先生のお話を聞いていて,当初の合意,当初の契約で絶対的効力事由を認める場合にのみ絶対的効果を認めると,そういう案もあっていいのではないかと個人的には思いました。   その典型例としては,弁護士会の議論の中で住宅ローンのペアローンで連帯債務を負っている場合はよく見られますので,そういう契約書の冒頭にこの場合は絶対的効力を生じますと書いておけば,その後に離婚したとしても効果が及んでもやむを得ないのではないかと。そういう意味で協働関係よりも当初の合意というのもの一つの選択肢かなと思いました。以上です。 ○中田委員 ただいまの岡委員と,それからその前の岡本委員のお二人にお伺いしたい点が2点あります。一つは,契約で絶対的効力か相対的効力かを決めることができる,つまり任意規定だという方向を採ったときに,連帯債務者ごとに絶対的効力の定めがあるものとそうでないものとが併存するという事態が生じるのではないかと思うのですが,それは許容するのかどうかです。   それからもう一つは,これは岡本委員に対する御質問になるかもしれませんけれども,絶対的効力事由としたときに,他の連帯債務者の存在を知らない連帯債務者についてもそうなるのかどうかです。   以上,2点について確認のためにお聞かせいただければと思います。 ○岡本委員 すみません,詰めて考えてきたわけではないのですけれども,先ほど任意規定というふうに申し上げたときの意味合いとしては,例えば法律の規定で相対的効力というふうに定められている場合であっても,例えば片方の連帯債務者との関係で絶対的効力というふうに定めましたというふうなことがあった場合に,絶対的効力というふうに意思表示で定めた債務者が不利益を被るようなケースにおいてはその合意が優先するというふうな考え方でいかがかと思います。 ○松本委員 やはりアの問題から出てくるのですが,当事者の意思表示によって連帯債務となるという場合の当事者の意思表示というのは何かということで,連帯しますという言葉が連帯債務成立の意思表示なのかということです。つまり,連帯しますと言えばフルセットでこの場合はこう,この場合はこうというのが自動的に決まるということであり,正に意思表示の中身は何ですかといったら連帯ですというだけで,連帯ということでどういう効果が発生するのか知らなくてもその意思表示をしたということになるという話なのか,それとも言わばアラカルト的なものも連帯の意思表示ということになるのかという点が一つ問題になるのではないかと思います。アラカルト的で構わないということであれば,正に任意規定であって,ここの部分はこうで,他の部分はこうでという連帯債務というのはあるということになると思います。ただ,それは大変煩雑だから,一般的に連帯債務というのは多くの人あるいは社会通念上はこういう感じだと,従来そういうふうに取り扱われてきたということで一定のセットでもって効果が決まってくるということであれば,それはセットの任意規定とでもいうのでしょうか,そういうものだろうということになると思うのです。   先ほどから言っていますが,法律の定めによる場合は少しタイプが違うのだろう。法律の定めによる連帯債務というか連帯責任について,事前に当事者間の合意で何かできるというのはちょっと変な感じがしますから。そういう意味で道垣内幹事が連帯債務を幾つかに分けることはできないのではないかとおっしゃったけれども,取りあえず法律の規定によるものを外して,契約によって成立するものに絞ればもう少し議論がクリアになってくる。そうなると当事者が連帯債務を負担するということでどういう効果をそこに込めようとしたのかという点は,当該契約の性質とか当事者の置かれている位置とかからある程度出てくるものがあるのではないかと考えます。 ○鎌田部会長 当事者があえて可分給付を目的とする債務について連帯債務とするという合意をしたという以上は何らかの効果を期待しているわけですよね。その効果については個別に1個1個決めなければ何の効果も生じないというふうなことでは連帯債務に関する規定を設ける意味は多分ないということになるので,一定の連帯債務特有の効果を定めた上で,それをしかし個別に外すことの可能性までは否定する必要ないかもしれないということで,必要は必要なのだろうと思うのです。そういうときに,わざわざ合意によって連帯債務にした場合に,請求の絶対効は要りませんというふうな場面というのは,現在こういう規定があるからそう思ってしまうのかもしれませんけれども,あり得るのかなという感じがしてしょうがないのですが。 ○道垣内幹事 よく分からないのですが,保証に関して言えば,保証契約というのは債権者と保証人との間の契約であり,そこで連帯保証を合意しますと,それで連帯債務の規定が適用されることになるわけでして,一方の債務者,ここでは主たる債務者ですが,その者が全く知らない間に連帯債務者が存在しているという事例はあるのではないかという気がします。補償についての現行法下の解釈がもう少し詰めが必要だったのかもしれませんが。 ○鎌田部会長 それは先ほど岡本委員が言われた,あえてそういう引き受けた人の不利益な規定になる場面については連帯債務規定を適用するということが考えられるという,そういう御趣旨の御発言でしたよね。 ○岡本委員 はい。 ○鎌田部会長 逆は働かないけれども,連帯債務者になろうとした人については不利益な形で働いていいのではないかという考え方はあり得るだろうと思います。 ○山野目幹事 ただいま部会長がおっしゃったこと,すなわちわざわざ法律行為等によって連帯債務とする合意をするような当事者が,履行の請求の絶対効は要らないというふうにわざわざ外すだろうかというふうな危惧というか法感覚については,ごもっともであるというふうに感ずる部分もあります。その問題に関して私が感ずるところを申し上げれば,先ほど岡委員のおっしゃった御意見とも関連するのですけれども,この履行の請求の絶対効を認めようという合意は黙示の意思表示によっても認定することができると思いますから,そのような合意があったと考えると認められる当事者は,それをも含めて合意があったということを説明していただく,ということを乙案をベースとしながら考えるということがあってもよろしいのではないか。   反対に,連帯保証の場合も通じて,連帯という言葉がついた瞬間にもうセットメニューで履行の請求の絶対効が付いてくるというほうが少し心配が大きいというふうに感ずる部分があります。 ○鎌田部会長 ここは,ウの各項目の中ではこの「(ア)履行の請求」が一番重要で根本的な問題ですので様々な意見が出るであろうというふうには予想をしていたところでありますけれども,それらを踏まえてなお検討を継続するということでよろしいですか。 ○内田委員 ここで対象としている連帯債務としてどのような社会的な実態を思い描くかということについて松本委員からも御意見が出ましたし,不真正連帯債務と言われるものを外してはどうかとかといった御意見もあったのですが,少なくとも私の理解では,これまで議論されてきた連帯債務の中で不真正連帯債務を外し,そして法律によって生ずる連帯債務を外してしまいますと,残る合意で生ずる連帯債務の例というのは公表裁判例の中にはほとんどないのですね,極めて僅かです。大島委員から中小企業の取引の中で合意で連帯債務が生ずる場合というのは余りないという御指摘がありましたけれども,それは公表裁判例がやはり社会的実態をもある程度反映しているということなのではないかと思います。   そういう実態を前にして,不真正連帯を外し,法律による連帯を外して,残ったものを対象にルールを作ろうといっても,これはなかなか難しいのではないかと思います。そして,不真正連帯と呼ばれているものも,別に不真正連帯という規定が法律にあるわけではなくて,連帯と呼ばれているものについて,絶対効を少なく解釈してそういうふうに扱ってきただけですから,それをある程度カバーしながら議論していくということは自然な議論ではないかと思います。   その中で,この履行の請求については鎌田部会長がおっしゃったように,我々で連帯債務を負いましょうとはっきり明示的な合意をした場合には,多分一人に履行の請求をすれば他方にも及ぶということを当事者が当然想定している場合ではないかというのはそのとおりだろうと思います。他方で,裁判例に出てきた合意による連帯債務の中には,山野目幹事がおっしゃった黙示の合意による連帯債務がありまして,これはお互い連帯するつもりなんか実はなかったかもしれない。ただしかし,結果的には連帯と扱ったほうがいいので裁判所が黙示の意思を認定したものがあります。その場合に本当に当事者間で履行の請求に絶対効を与えていると見るのがいいのかどうか,ここはちょっと微妙だろうと思います。そうすると,連帯債務と呼ばれるものの中でも履行の請求に絶対効を付与すべきものとそうでないものがやはりある。その基準は何かというと,岡本委員が債務者同士でお互いに履行の請求があったぞと教えてやるような関係があるかどうかなのだろうということをおっしゃいましたが,それは正にそのとおりで,それを仮に協働という言葉で表現をしてそれを取り出せるかどうかを議論しようというのがここでの提案だと思います。   こういう新しい言葉が出てくると,必ず曖昧であるとか違和感があるとかいって否定的な意見が出て,それだけで葬り去られるという傾向があるのですが,これは何か言葉を置かないと議論できないわけです。履行について絶対効を認めるべき場合とそうでない場合がある,これは余り異論がないわけですから,それを区別できる基準が作れるかどうかを更に検討するというのは一つあり得る選択肢ではないか。ただ,山野目幹事はそれは無理であるというふうに結論を最初におっしゃったのですが,検討した結果,無理であれば,甲案か乙案かデフォルトルールを決めておいて,当事者が合意で別の効果が欲しければその合意を許すというルールになるのかなと思います。   いずれにしても,協働という言葉が嫌だから丙案をこの段階で落とすというのは,ちょっと惜しいという感じがいたします。 ○鎌田部会長 甲案を採る人でも不真正連帯債務については別に考えようということだし,乙案を提案する人でも,いや,そうではない場合があることは留保しているということで,多分皆さん考えていることは基本的には余り変わらない。そうなると具体的にどういうタイプのときには絶対的効力を有するのが原則で,どういうときには相対的効力かということが問題になります。これは,しかし,不真正連帯債務という言葉で言えば全部が表現できているかというと実はそうではなくて,何を不真正連帯債務と解するかというのはそれほど確定しているわけでもない。例えば日常家事債務の連帯債務は真正連帯債務ですか不真正連帯債務ですかなんて余り詰めて議論されたこともないんだろうと思います。そういう意味で二つのタイプがあって,そのときに一人に請求すれば他の人に請求しなくても請求の効果が生ずるのは何らかの密接な関係が基本にある場合だろうということでこういう言葉になっているのですけれども。今内田委員がおっしゃられたように,二つのタイプがあり得る。その両方とも認めざるを得ないということは大体ほぼ共通の理解だとしたら,どういう場合であるかということの具体的な中身を定めて,それを最終的にどういう言葉ならうまく表現ができるとか,あるいはいろいろやってみたけれども難しいという,そういうプロセスで考えていけばよろしいような気がします。   事務当局からも分科会で少し詰めてもらいたいというふうな御意見ありましたので,事務当局もいろいろと御検討していただくとして,基本的な考え方に絶対的に相容れない対立があるようには思えませんので,今日の議論を踏まえながら分科会での議論,事務当局での更なる継続的審議を続けていくということでよろしいでしょうか。 ○佐成委員 今部会長がおっしゃったまとめで私も基本的にはよろしいというふうに感じておりますが,1点だけ申し上げます。二つのタイプを区別するためのメルクマールということについてでして,ワーディングよりもむしろメルクマール,即ち外部からはっきり認識できるかどうかということがかなり実務的には重要だと思われます。そういうことができるかどうか分かりませんけれども,単なるワーディングだけではなくて,外部的な認識可能性の程度も検討していただき,仮にそれが非常に高いものがあり得るということであれば,もしかすると実務的にも受け入れられるかもしれないと思いますので,その辺を御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 はい,分かりました。併せて岡本委員からは入口の外形で決められないから通知義務を課すということで実質を担保するというふうな御提案もありましたので,それらを含めて検討をさせていただくと。 ○松本委員 私が先ほど申し上げたことは今部会長まとめられたこと,あるいはその前に内田委員がおっしゃったことと基本的に同じことを言ったつもりです。協働関係というのは言葉として何となく分からないのと,今佐成委員がおっしゃったように,外からはっきり見えないではないかということで,これでは基準にならないだろうと思います。しかし,広い意味の連帯債務と言われているものに少なくとも2種類あるだろうというのはみんな一致しているわけだから,それをうまく言い表せる言葉とか基準を立てることができればそれでいいのだろうと思います。   その上で,どちらをデフォルトにするのかという点で,内田委員のおっしゃった連帯債務ということで紛争になる事案は実は合意によるものはほとんどないということだとしても,そちらのほうをデフォルトにしていいのかという感じがするのです。というのは,この部会では,従来,契約中心に議論するのだと,債権総論の部分もまず契約によるものを議論した上で,契約外のものは後からやりましょうという感じで議論してきたわけですが,ここだけ突然契約外のものがまずデフォルトで入ってくるというのは一貫性がないと思います。そういう意味で,契約による連帯の場合に通常はこうだというのがデフォルトに入ってくるほうが分かりやすいのではないか。しかし,実際はそれは大変少なくて,そうでない共同不法行為等が圧倒的に多いのだ,その場合は別の効果が発生するのだということでいいかと思います。 ○道垣内幹事 佐成委員がおっしゃったことは誠にもっともだと思うのですが,ではよい言葉が見付からなかったので規定しないということになりますと,それは結局裁判所に行ってみないと不真正連帯債務であるとされるか,不真正連帯債務という言葉は用いなくても,具体的場面において絶対的効力が生じないとされるか否かが分からない,あるいは,常に議論する,という結論を招くだけであり,よい言葉が見付からなかったから書きませんでしたということになったら,例外がなくなるのかというと,そうではないと思うのですね。   したがって,私は極端なことを言えば,あんまりよい言葉ではないなあ,と思っても,何らかの概念を置くべきではないかと思います。それが実務的な不安定さをもたらす度合いというのは,もちろん法条文の持っているイメージというのがございますので,現実とは違うかもしれませんけれども,言葉自体が存在しないところで議論しているのと,理論的には同じレベルなのではないかと思います。 ○松本委員 今の御指摘と若干関係があるのですが,内田委員が,ほとんど合意によるものはないのだ,中小企業の場合に判例が本来的な連帯債務ではないけれども,連帯債務としたような例があるのだという趣旨のことを先ほどおっしゃっいました。ここの(ア)の成立のところで言うところの当事者の意思表示によって連帯債務となるということとの関係でいくと,合意によって契約が成立しているという話と,連帯の合意がある,あるいは連帯債務の合意があるというのは多分レベルが違うのだとして,連帯債務の合意がないのだけれども,諸般の事情でこういうシチュエーションの場合は連帯債務になり,しかし,それぞれの連帯債務者相互間の関係については通常の連帯債務とはちょっと違う扱いになる場合がある。そして,これを学説的には不真正連帯なのだという整理をしているのだとすると,それは恐らく法律の規定の法律というのをもう少し広い目に解釈して,広い意味の連帯債務に入れた上で本来の連帯債務とは違った効果を与えているということになると思うのです。   そうするとやはり連帯するという合意がある,あるいはそういう合意があると当然考えてよい事情がある場合について,どういう効果を認めるのが一番適切なのかという議論はできると思うのですが,道垣内幹事はそれもできないという御趣旨なのでしょうか。 ○鎌田部会長 むしろ典型的な連帯債務がそういう形であることは前提にして,それから外れるものもといいますか,効果の面でも違う効果を与えたほうがいいような場面も何通りもあり得るわけだから,どういう場合にはどういう効果と対応させるのがいいのかということを決めておかないと,白紙になれば外形上定まらない,裁判やってみなければ分からないというものがたくさんできてしまうので,それはむしろ道垣内さんの場合にはできる限り先に明示的に定めておくようにしたほうがいいという,そういう趣旨での御意見だというふうに私は伺ったのですけれども。 ○松本委員 私が言いたいのは,契約によって連帯の合意をきちんとしている,明示あるいは黙示に,あるいは契約の趣旨からという場合以外に連帯債務の枠に入れるべきものが社会的に存在するであろうということは,そのとおりなのですが,その場合にどういう債務について本来の意味の合意による連帯債務ではないのだけれども,連帯債務の趣旨を拡張して認めるべきかという基準を立てておくべきだろうということです。   コアとなる連帯債務以外の外側の部分ですね,広義の連帯債務引く狭義の連帯債務の部分を一つの基準で全て認定可能なのかというところがちょっと疑問としてあります。法律ではっきりと書いてあれば法律どおりの話になるわけで,法律には書いていない,当事者の合意による連帯債務でもないというその間に入ってくるものについて,1本のルールで外形的にはっきりしたものを立てられるのかどうか。 ○鎌田部会長 いや,だから正にそれが合意による連帯債務なら絶対的効力事由,法律の規定による連帯債務は相対的効力事由というふうな切り方はしていないわけですよね。つまり,なぜ履行の請求が絶対的効力事由になるかの根拠に照らして絶対的効力事由と認める場合とそうでない場合があって,それはどういう根拠に基づいて連帯債務であることを認めるかということと表裏ではないという認識が多分この丙案の下にもあるし,他の提案の中にもある。そうだとすると,どういう形で,履行の請求との関係では何をメルクマールにして切り分ければいいか,他のものもこれからの議論ですけれども,それはそれぞれに最も適切なものを考えていけばいいのではないでしょうか。   それともう一つは,少なくともこの提案の限りでは法律の規定か当事者の合意以外による第三の連帯債務というのは基本的には考えてなくて,事実上第三の類型というのも基本的にはそのどちらかに根拠を求めて連帯債務性を認定するということに多分なるのだろうと思います。   法律の規定で認めている場合も,日常家事債務の場合,法人役員の場合の連帯責任,共同不法行為等が全部同じでいいかどうかというのは,これはまたそれぞれの事情に応じて最も適切なものを決めていけばいいというのが多分それぞれの案の提案者,支持者の間ではほぼ共通の理解になっているのではないでしょうか。 ○松本委員 おっしゃるとおりでよく分かるのですが,そうしますと統一したルールにするのはなかなか難しくなってきて,履行の請求の場合にはこうこう,別の場合はこうこうという効果,こうこうこういうタイプの広い意味の連帯債務であればこうこうというふうに非常にカズイスティックな規定がそれぞれの事由ごとに並んでいて,少しずつ微妙にずれがあるというようなことになっても構わないということなのか。切り分ける基準は共通のほうがいいのではないかということです。恐らく従来は共通基準で切り分けましょうという感じで議論をしていたのだろうと思います。 ○鎌田部会長 それもおっしゃるとおりで,結果的にはできるだけ共通の原則で共通に規律できるようにして,類型的に別になれば,連帯債務の中の個別の規定では対応できないから不真正連帯債務について独立して別に規定するということも考えられると思います。現時点で提案されているところでは,理論的には全部バラバラということはあり得るけれども,現在の提案ではそこまでバラバラにはしないである程度閉じた提案になっています。考え方としては先ほど申し上げたようなことを基本にしながら検討していった結果,現在の提案の甲案,乙案,場合によっては丙案というものに集約されているのではないかと思います。 ○中田委員 確認なのですけれども,今までの御意見の中で,法律の規定による連帯債務として挙げられた例で,商法511条には余り言及がないのですけれども,私はむしろそれが重要ではないかなと考えておりますが。 ○鎌田部会長 そうですね。失礼しました。 ○鹿野幹事 先ほど岡本委員がおっしゃった中に通知ということがありましたが,私も通知について一言申し上げたいと思います。   現在ある連帯債務には,不真正連帯債務の場合まで含めるとかなりいろいろなものが入ってくるので,そのうちどういう場合について絶対的効力を認め,どういう場合にそれを認めないかを具体的に考える必要があるという議論がなされてきました。それはもっともだと思うのですが,ただその際,絶対的効力なのか相対的効力なのかという二者択一ということだけで果たしてよいのかという気もいたします。まず,複数の人が申し合わせて連帯債務を負ったという典型的なケースについては,一人に履行の請求があったらお互いに連絡しあうということも期待できると思いますし,ですからこの場合はデフォルトとして請求に絶対的効力を認めてよいのではないかと思います。一方,それ以外の様々な場合について考えると,9ページの「しかし」以下に書いてありますように,絶対的効力を認めると,確かに債権者にとっては有利かもしれないけれども,他の連帯債務者にとっては,自らはその履行の請求を受けておらず,自分の知らない間に,履行の遅滞に陥っていたり,あるいは消滅時効が中断していたりするということになり,不都合なのではないかという指摘がなされてきたわけです。   もし,正にこの点に不都合があるのだということであれば,その不都合は,債権者から他の連帯債務者への通知を要求するということで,ある程度緩和することができるのではないかと思います。その場合,相対的効力とどこが違うのかということですが,相対的効力であれば,例えば時効を例に取ると,複数の債務者にそれぞれ時効の中断の手続をとらなければいけないということになり,例えばそのうちの一人だけを相手に取って訴えの提起等をせっかく行ったとしても,それにもかかわらず,他の連帯債務者との関係ではその請求の効力は及ばないということになってしまうわけです。それは債権者にとってはかなり負担が重いのではないかという気もいたします。   そういうことですので,今ある絶対的効力か相対的効力かということだけではなくて,絶対的効力が生ずる場合でも,それを及ぼさせるためには通知その他の措置が必要だというような仕組みも含めて検討をする余地があるのではないか,少なくとも時効との関係ではあるのではないかと思います。   ちょっと場面は違うのですが,民法の155条には,債務者以外の者,例えば物上保証人などに対する差押え等については,債務者に通知をしたときにはじめてその時効中断効が生じる旨の規定がありますし,それと少し似たような考え方を採ることができないだろうかと思い,申し上げた次第です。 ○鎌田部会長 岡本委員の通知は請求を受けた債務者から他の債務者への通知ですけれども,鹿野幹事のは言わば催告ですね。 ○鹿野幹事 はい。岡本委員のおっしゃった通知とは別の意味で,債権者からの通知というような措置を設けることができないだろうかと思いました。 ○鎌田部会長 時効の中断効はあるけれども,付遅滞の効果はない催告といったような制度を新たに作ろうという御提案になりますか。 ○鹿野幹事 遅滞についてどうするのかということは更に考える必要があると思いますが,少なくとも遅滞に関して,例えば遅延損害金が発生し,それが膨らんでいくということについては,他の連帯債務者としてはその通知を受ければそれを防ぐ手立てを講ずることもできるわけです。そのようなことも考えて,なお具体的な整理が必要だと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。念のため確認ですけれども,岡本委員の御意見は,通知の義務を怠ったら相対的効力になるというわけではなくて,それを課することによって絶対的効力をどの場面でも維持できる。通知の懈怠は当事者間での損害賠償義務を生じさせるだけで,絶対的効力か相対的効力には影響を及ぼさないと,そういう御意見ですね。 ○岡本委員 そういう趣旨で申し上げました。 ○鎌田部会長 はい,分かりました。   それでは,頂戴した御意見を踏まえて少し検討を続けさせていただきます。   次に,既に御説明を頂いた(イ)から最後の(カ)までの部分についての御意見をお伺いいたします。どうぞ御自由に御発言ください。   これらは一括して,具体的にどんな違いが出てくるのか,あるいはこれらを規定するとしたらどんな規定ぶりが考えられるのかということを分科会で検討してもらいたいというのが事務当局の御提案でございますけれども,その点につきましても御意見を頂ければと思います。 ○岡本委員 (ウ),(エ),(オ)の更改と債務の免除と時効の完成,まとめて申し上げます。先ほど申し上げたことなのですけれども,ここで規定されるのはいずれにしても任意規定なのではないかというふうに考えておりまして,そうしますと当事者意思のデフォルトとしては何がデフォルトと考えられるのかという問題ではないかと思います。   先ほどからタイプが2通りあるのではないかといったことが議論されておりまして,確かにいろいろなタイプがあってそれぞれに応じた効果が考えられるべきであるというのはそれはそうだと思うのですけれども,少なくとも合意によって連帯債務になる場合,この場合につきましては部会資料の乙案にありますように,当事者意思のデフォルトとしては相対的効力なのではないかというふうに考えておりまして,そういった趣旨で乙案に賛成だというふうに考えます。   それから,求償の考え方についても部会資料にある乙案の考え方でよろしいかと考えます。以上です。 ○潮見幹事 (エ)の債務の免除について発言します。乙案を仮に採るという場合についてのお願いです。連帯債務において債務者の一人に対する免除の意思表示がこの文意では請求をしないという趣旨のものであって,それが通常の意思だと先ほどの岡本委員の話にありましたが,そのように実務家の方が考えるのであれば,これはこれでいいと思います。後ろに付いている資料のヨーロッパ契約法原則だとか,ユニドロワ原則とは方向は違うのですけれども,それはそれで構わないと思います。ただ,その場合でも,Bから求償を受けたAが債権者に償還請求することができないというルールを採用するのであれば,次の二つの理由から,明文化したほうがいいのではないかと思います。一つは,免除の場合に相対的効力事由という扱いをした場合には求償の循環が生じるのだということが恐らく我が国の一般的な理解であろうと思うからです。もう一つは,我妻・民法講義とか,林=石田・高木・債権総論の中では,不当利得を理由とする返還請求をAが債権者に対してすることができるというようなことも書いてありますから,免除は相対的効力事由だということだけを書いた場合には,その後の解釈において何か混乱を生じるのではないかと思うからです。   個人的には,免除を相対的効力事由とする扱いをした場合に,求償を受けたAがGに対して償還請求をすることができないことになるのというは本当かという点については,別の考え方もあり得るのではないかと思います。相対的免除というのは基本的にその債権者が当該債務者に対して免除をするものである。その当該当事者間の相対的な関係での債権の消滅というものを導くのである。ただ,それが他の債務者に対しては影響しないのである。このように考えれば,求償を受けたAが債権者Gに対して償還請求ができるということも,説明ができないわけではありません。ここまで考えた場合には,私も免除は相対的効力でよいとは思いますけれども,債権者に対する償還請求権の有無については明文化の方向でお願いしたいと思います。以上です。 ○中田委員 私も債務の免除について今の点を明文化するということについては賛成です。さらに,相対的効力にしたときに,債権者が他の債務者に一部免除すれば同じような結果になるのだという御説明があるのですけれども,債権者にそのインセンティブがどういう場合に働くのかということを詰めて検討する必要があるかと思いました。   それからあと,更改と時効の完成について申します。更改について相対効にするということは説得的だと思うのですけれども,その後の法律関係がどうなるのかということを考えておく必要があるのではないかと思います。資料の例で言いますと,一人が自転車を引き渡す債務になって,他の二人は依然として金銭を支払う債務になるという法律関係が残りますが,その場合には同一の可分給付ではなくなるわけですけれども,それでもなお連帯債務の規定を適用すると考えるのかどうかを,細かい点なのですけれども,詰めて,場合によっては規定をする必要があるのではないかと思いました。   時効の完成については,相対効にするということになると,他の債務者からの求償があり得るから,ある債務者については,結局は債権者との関係で時効になっても証拠保全の負担はずっと残るということになってしまいます。特に他の債務者が承認をすると,結果的には求償の可能性がありますので,実質的には承認に絶対的効果を認めたのと同じようになってしまうのではないか。それをどう考えたらいいのかという課題があると思います。   それから,他の連帯債務者の存在を知らない場合についていうと,債権者との関係で時効が完成した債務者に,更に証拠保全をせよというのは難しいのではないかと思いますので,少なくとも他の連帯債務者の存在を知らないときは別だというような規律があり得るのではないかと思います。 ○村上委員 (カ)の相殺の援用についての意見を申し上げます。この点が問題になる場合には,相殺適状になっているわけですから,元本債権だけではなくて,遅延損害金のことも考慮に入れる必要があります。自働債権と受働債権とで,例えば遅延損害金の利率が異なるということはあり得るわけでして,その場合に,どの時点を基準に計算するかによって金額が違ってきます。   甲案を採る場合には,恐らく相殺適状の時点で計算をするのだと思います。相殺の遡及効を見直すかどうかという問題が提起されていますが,仮に相殺の遡及効を見直すということにするのであれば,相殺の意思表示をした時点で計算をするということになります。問題は,乙案を採った場合にどうなるかということです。相殺の遡及効を見直さないということになるのであれば,相殺適状の時点で計算をし,他方,見直すということになるのであれば,履行拒絶をした時点で計算をするということになるのかと思いますけれども,そういう理解でいいのかどうかの確認を最初にお願いしたいと思います。   それから,仮に乙案を採ることにし,かつ相殺の遡及効を見直すということにしますと,今申しましたように,履行拒絶をした時点で計算をすることになるのではないかと思いますが,その場合,自働債権も受働債権も消滅せずに存続するということになるわけですから,履行拒絶をした後も,遅延損害金が発生し続けるということになるのでしょう。そうしますと,その後しばらくして,再度,債権者から請求があった場合に,履行拒絶できる額が変わるということになるのでしょうか。仮に変わるということになりますと,これは要するに,履行拒絶できる額が日々変動するということを意味するわけですけれども,そういうことでいいのかどうかは問題だろうと思います。 ○金関係官 相殺の遡及効をどうするかという問題が前提としてありますけれども,確認をしたいとおっしゃった点に限って言えば,御指摘のとおり論理的には履行拒絶の時点を基準として計算することになると思います。 ○鎌田部会長 非常に細かいところまできちっと詰めてどうするかということはまた必要があれば分科会で御検討していただくということでお許しいただければと思います。 ○松岡委員 先ほどの議論は私には十分理解できないところがあります。相対的効力事由を原則としつつ,当事者の合意で絶対的効力を認めるというようなことが本当にできるのかという疑問です。ただ,その点ではなく別の点について申し上げます。   村上委員が発言された(カ)の相殺の援用の件についてです。甲案は,特別の相殺援用権を認めて債権債務が実際に消滅するという扱いをするという,判例に従った扱いです。それに対して,乙案は学説では多数説と思いますが,履行拒絶の抗弁権だけを認めるものです。ところが,後の保証債務の50ページでは,主債務者の有する抗弁の利用というところに,主債務者の行使できる抗弁権の保証人による援用という形でまとめられておりまして,その中に相殺権も入っています。こちらの相殺の援用は,会社法の規定を援用することによって,相殺によって債権債務を実際に消滅させてしまうのではなく,援用による履行拒絶の抗弁権となります。   両者の関係をどう考えるのかがよく分かりません。通常,連帯債務の場合には,固有の負担部分を超える部分は保証の性質を持つ,要するに相互保証的に構成されるという説明がされています。これによると,保証の規定の在り方と連帯債務の規定の在り方が違うのはまずいと思います。私もどちらがいいかはまだ決断がつきかねていますが,保証のように抗弁権構成を採るのであれば,ここも乙案の抗弁権構成を採るほうが筋は通るのではないかと思います。 ○金関係官 現行法ではこの(カ)についての条文は民法第436条第2項で,他の連帯債務者は相殺を援用することができると規定されているのに対して,今御指摘を頂きました保証についての条文は民法第457条第2項で,保証人は相殺をもって対抗することができると規定されております。一般的には,援用することができると規定されているほうが相殺の意思表示まですることができると読みやすいように思いますので,この(カ)のところでだけ甲案が示されていることの説明としては,そのような観点からの説明をすることが考えられると思います。ただ,(カ)で乙案の抗弁権構成を採った上で,50ページの保証のところでもそこでの提案のとおり抗弁権構成を採るというのが最も整合的であるという御指摘は,ごもっともであると感じております。 ○深山幹事 先ほど議論した履行の請求の効力も含めて,連帯債務者の一人に生じた事由の効力を考えるときに,どうも御議論を聞いていると,デフォルトルールとして絶対的効力なのか相対的効力なのかを議論しているように思えるのですが,履行の請求以外の部分も含めてなのですが,果たしてそうなのかどうなのかがよく分かりません。デフォルトルールということであれば,原則をどっちかにし,あとは個々の合意で当事者が決めることができるということになり,それはそれで柔軟性があってよろしいと思うのですが,果たして本当にそういう理解でよろしいのかどうか。   仮にデフォルトルールなのだということになると,では合意によってそのデフォルトルールと違う効力を定めるというのはいつ定められるのかがよく分からないのです。例えば免除するというときに,それは債務の成立時点で仮に将来この債務について免除があった場合にはこうだというふうに決めておかなければルールが変わらないということを意味しているのか,そうではなくて現に免除する段階でこういう趣旨のこういう効力を生ずる免除だよというふうに合意すれば,そこでデフォルトルールが変更されるのか,この辺りがよく分からなくて,どうも頭がすっきり整理できないので,もし教えていただける方がいたらお願いいたします。 ○鎌田部会長 どなたか。 ○松本委員 直接のお答えにはならないかと思うんですが,この後の免除のところで免除を単独行為ではなくて契約にしようという提案が出てきます。単独行為だから曖昧だけれども,契約にすると正に当事者の合意の内容は何ですかという話になるから,もっとこの点が鮮烈になってくると思います。   その上で,やはり免除は今のところ単独行為だから,債権者がどういう意図なのかというのが一番重要であって,したがって絶対的効力を生ずるという趣旨の場合もあれば相対的効力しかない,つまりあなたには請求しませんというだけの話の場合も当然ある。当事者間の内部の割合にまで債権者が介入できないというのが大原則ですから,あなたに対しては請求しないというだけの場合もあるし,あなたから請求しないだけではなくて,他の人との関係でもあなたの割合部分だけは請求しない趣旨ということもあり得るだろうと思います。そこは正に免除の趣旨は何か,免除という単独行為の趣旨を解釈して決めるということになると思います。   ただ,そこで,どのような趣旨なのかがそれ以外の事情からも推測できないという場合に,では法律上はどちらに割り振りしましょうかというのが最後に残って,そこで任意規定としての免除の効力についての規定の意味が出てくるのではないかと思います。 ○道垣内幹事 1つ戻りますが,先ほどの相殺について連帯債務者の場合と保証の場合とを平仄を合わせるべきである,という点について一言申し上げます。保証のときの相殺の話は,一種の検索の抗弁なのだろうと思うのですね。つまり,主たる債務者が相殺原資を持っているにもかかわらず,保証人が請求されているとき,保証人としては,主債務者との間で相殺してくれよという抗弁を行使することができる。しかし,そのような抗弁が連帯債務一般について成り立つのか。自分も全部履行義務を負っているにもかかわらず,他者が持っている相殺原資を援用して,弁済を拒んだり,相殺したりすることができるのかと,これは必然的ではないと思います。したがって,私は,連帯債務一般と保証とで,必ずしも同一のルールをとらなければならないというものではないと思います。   具体的にどうすべきかということにはならないのですが,松岡委員が平仄をとる必要性を指摘され,金関係官もそのとおりだとおっしゃったので,ちょっと一言しておきたいと思います。 ○岡本委員 先ほどの深山幹事御指摘の,仮に今の議論がデフォルトとして何を決めるのかという議論だとして,仮にそうだとして,合意により違うふうに定めるのはいつ定めるのかといった問題についてなのですが。私としては連帯債務者の一人について生じた事由,その事由が生じるときまでに当事者で合意によって定めるということを考えておりました。   例えば免除なら免除,その免除の意思表示がどういう意味を持つのかというのは免除の意思表示の解釈として決めるというのは話としてはあるとは思うのですけれども,それはまたちょっと別な話かというふうに考えております。 ○岡委員 (ウ),(エ),(オ),(カ)ですが,弁護士会の大多数の意見は絶対的効力を維持するという方向の意見でございます。それはやはりそういう関係を認めるべき,合意による強い協働関係のある連帯債務が存在するであろうと,そのためには今までの100年の歴史のある条項を残しておくべきではないかと。ただ,その不真正連帯債務であるとか合意で外すようなものが認められるのは当然であるという前提の上で,基本的には甲案の支持がどれもございました。   それから,あと2点申し上げますが。債務の免除については,さっきから出てますとおり,部会資料にもありますように,もうあなたにはこれ以上請求しないと,しかし他には全部請求するよと。求償が来るかもしれないけれども,そこまでは面倒見ないよと,そういう免除もあるでしょうし,あなたの負担部分については他にも請求しないから,求償が来ることはないので心配しなくていいですよと,そういう免除もあるだろうと。それは今,岡本さんも言ったように,免除の解釈の問題であって,絶対的効力と相対的効力の問題で解決すべき話ではないのではいかという議論がこの免除のところではございました。   それから,相殺のところについて,甲案,乙案が絶対的効力事由ですのでそれが大多数の意見ではございます。が,さっき村上さんもおっしゃったように,乙案では理論的には確かにこのとおりだけれども,いろいろな問題が出てきますねと。それを考えると,一部ですが,甲案のように割り切って相殺の意思表示はできると。ただ,本当の実体法上の相殺の効果が生じるのではなくて,相殺を援用した人と債権者との間でだけ生じると,そういう技巧的ではあるけれども,そういう理屈を使って現行法のままでもいいのではないかと,そういう意見も少数ありました。理屈どおり乙案でいいのではないかというのが多くて,丙案でもいいのではないかというのも一部あったと。最近の弁護士会,真っ二つとか真三つが多いのですが,ここでも全ての意見がございました。以上です。 ○鎌田部会長 不訴求特約的なものはここの免除とは別な話だというふうにまず考えるんだろうと思いますけれども,その上で,免除をする意思があったときにどうするかのデフォルトの問題がここなのだろうと思います。和解などでよく使われることがあるわけですが,その点についての検討は先ほど潮見幹事御指摘のあった部分も含めて少し詰めたほうがいいかと思います。   相殺と混同の(イ)のほうは特に御異論はなかったということでよろしいですね。(ウ)から(カ)までにつきましては種々御意見いただいたことを踏まえて分科会で補充的な御検討をお願いするということでよろしいでしょうか。 ○佐成委員 今の(エ)のところですが,それほど強いこだわりはないのですけれども,私としては乙案を支持したいと思っております。実際,実質的に免除をしようとする場合というのは,債務者が明らかに無資力状態にあって,将来的に見てもほとんど資力の回復が期待できないような場合がしばしばでございますので,債権者として,実務上,免除の意思表示をあえて明示的にする必要性はほとんどないわけです。にもかかわらず,そういうときにたまたま免除の意思表示を明示的にしてしまうと思わぬ結果を招くというのでは非常に危険なのです。ですから,債権者としては,事実上の債権放棄をしたような格好にしておいて,あとは何も意思表示はしないというようなこともしばしばあります。つまり,あとは債務者間で適当にやっておいてくれ,債権者としては債務者間の内部事情は知らんし,知りたくもないということで,何も意思表示をしないで放置しておくというようなこともしばしばあります。ですから,デフォルトルールとして法律に定めたものと,今述べた実務上しばしば行われている,事実上の債務免除といいますか事実上の債権放棄というものとの間に余り大きな差異があるというのは必ずしも適切ではないという気がするというところだけ御指摘したいと思います。以上です。 ○鎌田部会長 分かりました。先ほど(カ)までというふうに申し上げましたが,(キ)もありまして,(キ)は削除するということですけれども,ここも御異論は特にないと理解いたします。 ○岡田委員 (イ)に戻ることになるのですが,しかもここで議論することでもないのかもしれないのですが,どうも比較法と比べまして,この436条,それからその前の公開のところも全ての連帯債務者の利益のために消滅するというのが一般の人にはすごく理解しにくいように思います。比較法はすごく具体的に相殺された部分を免れるとかいう形で分かりやすいので,条文化のときに436条の利益のために消滅するというのは表現を変えていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。その点は分科会で御検討いただくようにしたいと思います。   それから,(キ)につきましても,削除については特に御異論がないというふうに了解しておりますけれども,削除してしまって思わぬ事態が生じないかといったことを念のために分科会にここの(キ)も含めて御検討をお願いしたいと思います。 ○松本委員 最初の(ア)のところでは丙案というのがございました。つまり,広い意味の連帯債務,すなわち可分債務について複数の人が全部についての責任を負う,支払い義務を負うという広い意味の連帯債務について幾つかタイプがあるではないかということで,それが丙案の趣旨だと思うのです。ところが,以下の(イ),(ウ),(エ),(オ),(カ),(キ)等を見るとその丙案に当たるものがなくて,もう割り切りになっているというのがどういうわけなのか,これは一貫性がないのではないかと感じます。それぞれの点についてやはり丙案のあり得る場合が考えられるのではないか。免除については免除の趣旨から考えればよいので,余り分ける必要はないかもしれないと思うのですけれども,この(カ)ですと,相殺の援用を許してもいい場合もあるし,その場合私は乙案の構成が一番適切だと思いますが,ここで言う丙案のように何の影響も生じない,すなわち相殺権を積極的にせよ抗弁的にせよ援用できないというタイプの連帯債務もあるだろうというのが普通の考え方ではないかと思います。そういう意味でこの資料,ちょっと一貫性を欠くのではないかなと思います。 ○鎌田部会長 何かありますか。その点も含めて分科会で検討をさせていただくとしますけれども。相対的効力事由にしてしまえば,ましてや不真正連帯債務というふうなことになってしまえば,場合分けが多分必要なくなってくるので,むしろ絶対的効力事由にしたときにどうなのかということの問題だろうと思いますので,そこは検討をさせていただきたいと思います。   ということで,3時半を過ぎましたので,休憩を取らせていただければと思います。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開をさせていただきます。   先ほど休憩前に岡本委員に対する中田委員の質問に対して,御回答いただく発言の機会を失ってしまったということで,まず,その御回答を頂いてから次に移りたいと思います。よろしくお願いします。 ○岡本委員 先ほど休憩前に中田委員のほうから,御質問として二つあったうちの片方を申し上げ忘れてしまっていたものですから,申し上げたいと思うんですけれども,どういう御質問だったかというと私の理解のする限りでは,例えば債権者がいてAとBという連帯債務者がいましたと。そのときに債権者とAとの間で仮に例えば履行の請求について,デフォルトが相対的効力事由だと規定された場合といたしまして,債権者とAとの間で絶対的効力事由という約束をしましたと。そのときにBではなくて,新たにCという連帯債務者が債権者との関係で現れましたといった場合に,Cとの関係で履行の請求があった場合に,絶対的効力事由としての不利益も,Aが受けるのかどうかという御質問だったかと思うんですけれども,それについては私としては当初のAと債権者との合意がそういった後日,Aが全く知らない間に発生したCという連帯債務者との関係においても,絶対的効力事由が及ぶということを合意していたのかどうかという合意の趣旨次第で,決めていく必要があるのかなと思っておりますということだけ申し上げておきたいと思います。 ○鎌田部会長 特に中田委員からございますか,御発言は。 ○中田委員 ありがとうございます。確認なんですが,今の場合に後で登場したCとの間での合意をしたときに,それがAやBに及ぶかどうかはいかがですか。Cの存在をA,Bは知らないという前提です。 ○岡本委員 それについてもCとの合意の内容いかんだと考えます。 ○鎌田部会長 Cとの合意がAに不利益に働くということは,基本的に認めないというのが岡本委員のお考えということですか。 ○岡本委員 それは基本的に。 ○鎌田部会長 それでは,続きまして,「エ 求償関係」について御審議いただきます。事務当局から説明していただきます。 ○金関係官 御説明します。   「エ 求償関係」の「(ア)一部弁済をした場合の求償関係」では,連帯債務者の一人が自己の負担部分を超えない額の弁済をした場合であっても,他の連帯債務者に対して各自の負担部分の割合に応じた額の求償をすることができるという考え方を取り上げています。   「(イ)代物弁済又は更改後の債務の履行をした場合の求償関係」では,連帯債務者の一人が債権者に対して代物弁済をし,又は更改後の債務の履行をした場合には,他の連帯債務者に対して求償することができるとすることを提案しています。   「(ウ)連帯債務者間の通知義務」の第1パラグラフでは,事前の通知を怠った連帯債務者による求償の制限について定める民法第443条第1項の規定を削除するという考え方を取り上げるとともに,仮に同項の規定を削除する場合には,先に弁済等をした連帯債務者が事後の通知をする前に,後に弁済等をした連帯債務者が事後の通知をしたときは,後に弁済等をした連帯債務者は自己の弁済等を有効とみなすことができるとすることを提案しています。第2パラグラフでは,同項の規定を削除するかどうかにかかわらず,民法第443条の事前・事後の通知について,当該通知をすべき連帯債務者が他の連帯債務者の存在を知らなかった場合には,その通知義務を免れるとすることを提案しています。   「(エ)負担部分を有する連帯債務者が全て無資力者である場合の求償関係」では,負担部分を有する連帯債務者が全て無資力者である場合において,負担部分を有しない連帯債務者が弁済等をしたときは,負担部分を有しない他の連帯債務者のうちの資力のある者に対して,平等の割合による求償をすることができるとすることを提案しています。   「(オ)連帯の免除をした場合の債権者の負担」では,連帯債務者の一人に対して連帯の免除をした債権者は資力のない連帯債務者がいる場合に当該連帯の免除を受けた連帯債務者が負担すべき部分を自ら負担しなければならない旨定める民法第445条の規定を削除することを提案しています。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○岡委員 二つ申し上げます。   簡単なほうから,(オ)の連帯の免除の規定については削除に反対の意見もありましたが,賛成の意見が多うございました。   それから,(ウ)の通知のところですが,いろいろ議論したんですが,最終的には事前の通知を残す,従来の規定を残すほうがいいのではないかという意見のほうが多うございました。全部支払義務を負っているんだから,請求が来たら払えばいいではないかという意見も理解はできるけれども,現実的な特に契約による共同関係のあるような連帯債務の場合には,払う人が大体は決まっており,そうではない人が払うような場合には,事前の通知を課してトラブルがないようにしたほうがスムーズではないかと。   部会資料に書かれてある案も,事後の通知をしない前に後の人が払ったら,後の弁済が有効になって,前の弁済がひっくり返るというのは,どうも落ち着きが悪いというか,混乱が生じるのではないかと。そもそも債権者が二重取りするのがよくない,振込みだったらあり得るかもしれないという考え方もあるとは思いますが,何か,事後の通知で処理するという案については,ごちゃごちゃとするなという意見が多く,事前の通知で処理するので大丈夫ではないかという意見のほうが最終的には多くなりました。 ○鎌田部会長 求償関係の(ア)については,特に異論はないでしょうか。不真正連帯債務の場合についてはどうかという点も含めて御意見があれば,お伺いしておいたほうがいいと思うんですけれども。 ○山野目幹事 (ア)の論点でございますが,今,部会長がおっしゃったように,いわゆる不真正連帯債務と従来言われてきたものについての最終的な整理を待って,この(ア)について慎重に考えていただきたいという気持ちを抱いておりまして,確かにこの趣旨を述べた大審院判例がありますけれども,不真正連帯債務が全部義務の実態の相当部分を占めているということが広く認知され,それを前提とした法律運用がなされるよりも,恐らく前の時代に形成された規範であると考えますから,この点については引き続き御検討いただきたいというふうな印象を抱きます。 ○鎌田部会長 (イ)には特に御異論はないのではないかと思っておりますけれども,よろしいですね。   (ウ)についてはただいま御意見を頂いたところでございますけれども,通知義務に関して他に。 ○道垣内幹事 (ウ)の通知義務に関連しまして,先ほど紹介いただいた弁護士会の御意見では,事前の通知をさせたほうが簡明だろう,取り分け内部的に現実には誰が履行するのか決まっている場合もあるというお話ですが,現行法は,他の連帯債務者が債権者に対抗できる事由を有しているときに,そのような抗弁を有している債務者は,通知をしないで弁済した連帯債務者に対抗できるという効果と結び付けて,事前の通知を規定しているわけです。しかるに,弁護士会の御意見が,事前の通知を要求し,そのような効果を導くべきだというものなのかというのが気になるところです。他の連帯債務者の存在が分かっているときは,事前の通知をさせたほうがいいよねというのは,何となく分かるんですけれども,それはどのような効果と結び付けられるべきものであるという御主張なのでしょうか。 ○岡委員 通知をすれば防げた不利益,通知をすれば防げたトラブルがある場合に,通知をしなかったら責任というか,不利益を負いなさいという議論をしました。必ず通知をしなさいということではなく,通知をしない場合が普通であろうと。しかし,先ほどのような例外的な場合の連帯債務者が払うときには,事前に通知をしてトラブルがないことを確認してやりなさい,その事前の通知を怠ったがために不利益が生ずる場合にはそれを甘受しなさいと,そんな議論でした。 ○道垣内幹事 現行法そのままであると仮定いたしますと,A,B,Cの三人が連帯債務者なのだけれども,現実にはAが払うよね,と内部的に合意していたところ,Bが事前の通知なく払ってしまったという事例で,当然に443条は発動されないわけです。Aに債権者に対する抗弁事由が当然にはあるわけではないですから。そうすると,通常の場合は,Bによる事前の通知なき支払は飽くまでA,B,Cの内部の約束の違反であるにとどまり,それによっていろいろな手間が掛かったり,場合によってはどこかで無資力が生じて損害が生じてしまったりしたというときに,連帯債務者内部で債務不履行の問題としては処理されますが,443条はそのとき関係するわけではありません。   そして,A,B,Cの間で事前の通知をしましょうと約束をすることはもちろん自由なわけでして,ここで議論すべき事柄は,他の債務者が債権者に対して何らかの抗弁事由を持っていたときに,求償に当たって当該抗弁事由を有していたということを評価して,求償制限という効果につなげるべきかという議論をすべきなのではないかと思います。そして,(ウ)のゴシックで出ている提案というのは,弁護士会でもそういう意見があったというお話でしたけれども,債権者に対して履行義務を負っている債務者が履行したというわけなのに,他の連帯債務者がが相殺原資たる債権を持っていたといったときに,事前に通知をしないで弁済すれば,相殺ができた債務者の相殺権を害したということになって,求償制限を掛けるべきかというと,それはそうではないだろう,そういう必要はないのではないかという考え方の下にできているわけです。そして,議論すべきところはその妥当性ではないかと思うんですが。 ○鎌田部会長 その点について,他の委員,幹事の方で御意見は。岡委員,何かございませんか。 ○岡委員 細かい違いがまだよく理解できていませんので,分科会でも結構ですし,もう少し弁護士会でも考えてみたいと思います。 ○鎌田部会長 引き続き,事務当局でも頂戴した御意見を踏まえて検討したいと思いますけれども,委員,幹事の皆さんの御意見ができるだけ反映できる形で検討の方向を進めたいと思いますので,何か,御意見がありましたらお出しいただいておくと大変助かります。 ○道垣内幹事 私は事前通知は廃止すべきだろうと思います。現行法は,他の連帯債務者が有している抗弁事由,取り分け相殺権の保護を考えてきたのですが,弁済する連帯債務者は,他の債務者の相殺権を保護してあげなければならない立場にはないと思います。また,仮に現行法の443条に大体近いものにしようとお考えになる際も,弁済する債務者が他の連帯債務者の存在を知らなければ通知のしようもないわけでして,また,他の連帯債務者が行方不明の場合もありますから,存在を知らない又は正当な理由で通知ができないといった例外事由は置かないといけないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○岡委員 少し思い出したんですが,事前の通知で弁護士会で議論したのは,相殺の抗弁というよりは弁済した場合,いつもルールどおり払っている人が弁済をした場合を念頭に置いて,ゴシック体で書かれてあるルールによれば,いつも払っている人が弁済したことについて事後の通知を少し遅れた場合に,違う人が払ってしまって遅い者が勝ってしまうと,そのルールは変ではないですかと。それを防ぐためには,いつもと違う人が払う前に事前の通知をすれば,本来のルールの人が払ったから,あなたは払っては駄目よと返事をすることによって,トラブルが回避できるのではないかと,そんな議論をしておりました。 ○金関係官 岡委員が指摘された点は,民法第443条第1項の事前通知の問題というよりも,むしろ,第2項の事後通知の制度に関する問題であるようにも思われます。判例上,遅れて弁済をした者が先に弁済をした者から事後通知を受けなかったことを理由に自己の弁済を有効とみなすためには,自らも事前通知をしておかなければならないとされていますが,岡委員が指摘されたのはその場面での事前通知のことではないかと思いました。もし,そのことを問題視される御趣旨であれば,例えば,事後通知の制度の中で,自己の弁済を有効とみなすための要件として事前通知を必要とするという制度設計をすることが考えられると思いますけれども,少なくとも,民法第443条第1項の事前通知,求償をしようとする者がその相手方から抗弁の対抗を受けるかどうかを規律する事前通知の制度を廃止することには,それほど御異論がないのかもしれないと思いました。 ○岡委員 443条1項の対抗することができる事由の中には,今のような弁済は入らないということですか。 ○金関係官 はい。諸説あるかもしれませんけれども,入らないという理解を前提に申し上げました。二重弁済の場合には専ら事後通知の制度の問題となるのではないかと考えております。 ○松岡委員 学説の多数説は,金関係官の言われるとおり,1項は抗弁の対抗であって,免責の問題が2項だと分けております。昭和57年の最高裁判決もそういう理解を前提に組み立てられております。先ほど岡委員の御発言がそういう趣旨であるかどうかは,私は十分理解できませんでしたが,事前通知によって弁済がされたことを発見するということは,現実に事前の通知が果たしている機能ですから,それを否定することはできず,事前通知が全く無意味なのかについては,疑問があります。   それから,先ほど道垣内幹事は,そもそも抗弁を対抗するという保護を与えていいのかどうかという根本問題を提起されました。余りそういう問題を考えたことがないので,もう一遍考えてみたいと思います。ただ,それは休憩前に,連帯債務者の一人が他人の持っている反対債権について,そもそも相殺を援用することができるかどうかとも関連します。現在の規定では相殺の援用ができるわけですが,これをできないという立法論的な選択肢もあり得まして,道垣内幹事は,どちらかといえばそういう構想でお考えになっているように思います。これに対して,私は,休憩前にも発言しましたように,相殺の援用権が認められる現行法を維持してよいのではないかと思っております。そうしますと,事前通知によって相殺の抗弁を発見し,その行使機会を保障するという制度はなお有用であると思います。   それから,更にもう一点,この案の気になるところは,これも先ほど岡委員が御発言になったところでございますが,現行法は443条2項において,既に第一弁済がされたことについて善意で第二弁済をした場合にのみ第二弁済のほうが有効になるという扱いをしておりますが,ゴシック体で書いてある案及びその説明を拝見しても,事後通知が先に到達してしまえば,その弁済の方が優先するという比較的割り切った処理をしようという御提案のように見受けられます。   しかし,最初の弁済によって債務が消えていれば,第二弁済は非債弁済でありますから,弁済としての効力が発生しないのが原則であります。その原則をひっくり返すにはそれなりの理由が必要であり,かつ,既に弁済されたことを知りながら払う連帯債務者をどの程度保護する必要があるのかというと,かなり疑問に思われます。仮に443条1項の事前の通知制度自体を廃止し事後通知だけにするといたしましても,なお,保護すべき第二弁済者は善意である必要があるのではないでしょうか。この点は更に御検討いただきたいと思います。 ○金関係官 御指摘の点ですけれども,部会資料36の23ページのゴシック体の3行目に「仮に同項の規定を削除する場合には」とありますが,これは民法第443条第1項を削除して第2項の事後通知の制度だけが残る場合という趣旨でありまして,その場合に,従前,民法第443条第2項には書かれていない要件として,自己の弁済を有効とみなすためには事前通知をしておかなければならないという解釈がされてきましたけれども,今回の提案では事前通知の制度自体を廃止してしまうことから,新たに事後通知の制度だけを用いて先に弁済した者と遅れて弁済した者との優劣を規律するにはどうすればよいかという問題について,ここに記載をしたつもりでした。したがいまして,民法第443条第2項のベースの部分は当然の前提としておりまして,善意の要件も前提としております。保証のところでも同様の事前・事後の通知に関する論点がありますが,そこでも事前通知を廃止して事後通知だけを残すという提案をしている箇所では,善意の要件を前提としております。申し訳ございません。 ○松岡委員 分かりました。しかし,それは非常に重要なポイントなので,説明若しくは条文案のところには必ず入れていただきたいと思います。 ○松本委員 今の松岡委員の前半の意見に基本的に賛成いたします。連帯債務者相互間における相殺の援用について,援用を認めるべきでないタイプの連帯債務はあるだろうけれども,援用が認められるタイプの連帯債務もある。その場合には私は松岡委員と全く同じで,乙案の抗弁構成がいいだろうと思います。その場合に,今の連帯債務者相互間の通知義務の問題に跳ね返ってくる。履行請求を受けた連帯債務者の一人としては,他の連帯債務者が相殺事由を持っていれば,それを援用することもできるわけです。他方で,直接請求はされていないけれども,援用事由を持っている,反対債権を持っているところの他の連帯債務者の利益も守られなければならないとすれば,通知をさせるというのは合理的だと思います。   通知義務を廃止することの理由として,25ページの補足説明のところでは,そんな通知をしていると履行遅滞になってしまうではないか,したがって,通知なしに直ちに履行することによって請求を受けた債務者の利益を守るんだというような趣旨のことが書かれていたんですけれども,そこの考え方を少し転換すれば,今の問題はクリアできるのではないかと思います。すなわち連帯債務者を相手とする債権者としては,その中の一人に履行請求をした場合に,他の連帯債務者が有している抗弁等が存在するかしないかについての通知,問い合わせの猶予を与えなければならないというか,それなしに直ちに履行遅滞に陥るという解釈をしないとすれば,言い換えれば,相当期間は履行遅滞にならないんだと考えれば,事前通知義務を廃止しなければならない必然性はなくなってくるだろう。そのように履行遅滞のスタート時点を遅らせることの理由は,正に連帯債務の債権者になったんだということから,当然に出てくると説明すればいいかと思います。 ○沖野幹事 誤解をしているのかもしれませんけれども,こういう場合はどう考えるのかということを念のために確認させていただきたいと思います。次のような場面です。代金債務について本来の契約当事者が売買代金なりを負担しているところ,後ほどその代金債務について債務引受けがされたと。その場合に連帯債務になるということになりましたときに,当該売買代金の債権債務については履行期が定められた,確定の期限が定められておりましたけれども,引渡しが先になっておりまして,引き渡された内容について争いがあり,契約に適合的なものではなかったというようなことで,売買代金の支払いを本来の債務者が拒んでいるというような場合に,後ほど債務引受をして連帯債務と考えられる債務を負ったことになる引受人が,全く通知をせずに履行期に請求を受けたということで弁済をしたところ,本来,売買契約上の適合的な物が渡されていないのだからということで問題になったというような場面を今,考えてみたのですけれども,このような場合というのは,443条1項が削除されたことによって影響を受ける場合と考えたほうがいいのかどうか。影響がないということならば私はこの規定を誤解しているということなんですけれども,影響があるとすると削除して大丈夫かという気がいたしました。 ○道垣内幹事 影響はないと思います。当然に代金が減額されているというときには,例えばそれが100万円であるというときに,現実には20万円しか存在しないと仮定しますと,100万円を払ったところで100万円の債務の消滅が起こるわけではなくて,20万円分しか消滅は起こらないわけです。これが第一です。第二は弁済はしても解除事由は残るということなのだろうと思います。代金を支払ったら瑕疵を理由にして解除できなくなるわけではないと思いますし,他方,そのように争っているということを抗弁として100万円の代金債務の弁済を拒むことができるのかというと,一般論としてはできないのだろうと思いますが。 ○沖野幹事 争っているということではなく,それに理由があるという想定で更にお考えいただければと思います。求償に直ちに応じなければならないのかということかと思いますが。 ○道垣内幹事 だから,求償に応じるかどうかというのは,まず,実体的に幾らの債権が存在しているのかという問題が第一にあるわけですよね。それが100万円は100万円のままなんだけれども,解除事由がある,あるいは修補請求ができるという場合と,その100万円が例えば20万円になっているという場合があるかもしれませんが,後者ですと20万円しか実体的に債権は存在しないわけですから,100万円をその人が勝手に払おうが,求償ができるのは20万円分であって,80万円は売主に対する不当利得返還請求になるのではないかと思います。また,実体的には100万の債務が存在するのだけれども,解除事由があったり,修補請求権があったりするという場合では,代金の弁済によって解除権・修補請求権が消滅するわけではないのであり,それは求償の話とは別問題ではないかと思います。 ○鎌田部会長 まだ少し検討する必要があると思いますけれども,いずれにせよ,沖野幹事の御発想は,どちらかといえば何らかの抗弁権を持っている連帯債務者の保護のために,事前通知が必要だという発想ですから,相殺について抗弁権なり,あるいは援用権があるかどうかとは直接関係しないですね。相殺の抗弁権を認めるというと,請求を受けた債務者の保護の発想になるので,そういうことが関係なしに……。 ○松本委員 相殺できる債権を持っている他の連帯債務者としては,相殺することができた分についてできなくなるということだから,そうすると,債権者に対する当該反対債権の現実の行使をして,自分の債権確保を図らなければならない,すなわち,債権者の無資力の危険を負担するということになるから,不利益が生ずる可能性があるということですね。 ○鎌田部会長 そうです。それを申し上げているので,Aが相殺権を持っていてBが請求されたときに,BがAの持っている相殺権を抗弁的に使える,だから事前通知が,というお話でしたけれども,それはそうではないでしょう。 ○松本委員 違います。請求を受けた債務者としては,他の連帯債務者の持っている相殺の抗弁を使わなければならないというルールではなくて,使ってもいいというルールであるにすぎないわけですから。 ○鎌田部会長 そういう意味では相殺の抗弁権があるということと連結した議論ではなくて,これはここの議論として独立の議論で展開していいということですね。 ○松本委員 そうです。問題は相殺できる権限を持っている他の連帯債務者の利益を守る必要があるだろうということですから,そういう意味では沖野幹事の意見と同じです。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○中田委員 同じようなことかもしれませんけれども,時効の完成がある債務者の保護ということでも同じにならないでしょうか。時効がまだ完成していない債務者がそのまま払ってしまった,求償もしていくということになると,やはり同じ問題が出てくるかなと思いました。 ○鎌田部会長 分かりました。御指摘のあったようなケースへの適切な対応可能性ということも含めて,引き続き検討させていただきます。   (エ)については御意見が特に出されていません。(オ)につきましては弁護士会では賛成が多数であったという御発言を頂きましたけれども,(エ)(オ)については原案に特に異論はないということでよろしいでしょうか。ありがとうございました。   それでは,次に「(3)不可分債務」について御審議いただきます。事務当局から説明していただきます。 ○金関係官 御説明します。   「(3)不可分債務」の「ア 成立要件等」の第1パラグラフでは,同一の不可分給付,性質上の不可分給付を目的とする債務について複数の債務者がある場合には,当該債務は不可分債務となる旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。また,第2パラグラフでは,この考え方を前提として,不可分債務の債権者及び各債務者は,不可分債務の目的が性質上の不可分給付から性質上の可分給付となった場合に当該債務が連帯債務となることを,事前の合意によって定めることができるとすることを提案しています。   「イ 連帯債務と同様の規定」では,不可分債務についての負担割合,不可分債務者の一人について生じた事由の効力,不可分債務者間の求償関係等について,連帯債務と同様の規定を設けるという考え方を取り上げています。   以上の各論点のうち,「イ 連帯債務と同様の規定」については,仮に規定を設けるとした場合における具体的な規定の在り方等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分についての御意見をお伺いいたします。 ○岡委員 弁護士会の意見は分かれております。まず,連帯債務と不可分債務は効果は同じものと構想すると。ただし,性質上不可分のものを不可分債務と呼び,合意による不可分のものを連帯債務と呼ぶと,読み取れましたけれども,そうまとめることに反対であるとの意見です。連帯債務の中には,絶対的効力事由の残る部分と残らない部分があるので,それがなくなるという前提での構想についていけないという意見がまず一つ強くございます。   もう一つは,性質上の不可分給付に限ると書いておりますが,金銭債務でも不可分債務と考えられているものがあるはずで,それが正しいかどうか,中田先生の教科書を読んだんですが,よく分かりませんでした。共同賃借人の賃借料債務は不可分債務になるが,売買の複数の共有買主の代金支払債務は分割債務になると。反対給付が賃貸という,不可分だから,それの対価の金銭債務も不可分になると読むのでしょうか。その辺の理解不足はかなりあるんですけれども,少なくとも金銭債務でも不可分債務はあるという今の現状と,ここがどういう関係になるのかよく分からないと,こういう意見が強くございました。 ○鎌田部会長 不可分な給付の対価の支払債務は不可分債務であるという,こういう考え方を仮に前提とすると,現行法の連帯債務の規定と不可分債務の規定では,どちらにも属さないことになってしまうように見える形になっているので,その部分についてどう対処するかというふうなことは課題として残っているという理解でいいのでしょうか。 ○金関係官 休憩前に法律の規定,一般法理,当事者の意思表示という分類に関する議論をさせていただきましたが,不可分な給付の対価の支払債務は不可分債務であるという理解が一般法理として確立しているのであれば,正にその一般法理によって連帯債務になるという理解をしております。従来,可分給付を目的とする債務であるけれども何らかの法理によって不可分債務になると説明されてきたものは,今後はその同じ法理によって連帯債務になると説明することはできないかというのがこの部会資料の整理です。 ○岡委員 一般的平均的弁護士が読んでもよく分からなかったので,もし今のような整理ですと,何か,絵でも描いて,分かりやすい工夫をしていただければと思います。 ○鎌田部会長 他にはよろしいですか。 ○松本委員 私は,本来,可分債務なのに合意による不可分債務ということには,何か嫌な感がありました。従来一般には認められているのだけれども,それをなくしてしまうというのは非常に分かりやすくなるので,その限りにおいては賛成したいです。従来,可分債務なのに,しかし,連帯債務ともしないで合意による不可分債務にしていたのは,連帯債務の持っているところの絶対的効力をなくしたいという意図だったんだろうと思います。   それを不可分債務という,本当はそうでもないにもかかわらず,合意によってそうしてしまったというところなので,そこを無理しなくてもいいように連帯債務のほうをもう少し柔軟にする,つまり,先ほどの議論で出た任意規定的なものとして扱うということで,合意による不可分債務としたいようなものについては,連帯債務者相互間の効果の及び方についての取決めを明確にしておけば,それで恐らくカバーできることになるのではないかと思います。連帯債務というのはセットでしか使えないので,任意規定的なものはないという立場をとらない限りは,それで用は足りるのではないかと思います。   先ほどの反対給付との関係で,一方の給付が不可分だから,その対価の反対給付も不可分になるというのは,従来の整理だと,恐らくそれはどっちかというと,性質上の不可分のほうに引き付けて理解していたのではないかと思うんですが,その場合については反対給付が不可分なんだから,特段の合意をきちんとしていなくても,当事者の意思としては連帯債務なんだけれども,当該契約の趣旨から性質上,絶対的な効力がない連帯債務であると判断されるということで説明はつくかと思います。それを外したければ,絶対的効力がある連帯債務なんだという特約を賃貸借契約の中ですればいいかと思います。 ○鎌田部会長 任意規定にすれば全て一気に解決するかというと,やはりデフォルトで連帯債務と同等にするかどうかということが先行するのではないかというふうな気がします。そういう意味では,イの論点とワンセットで考えないといけないと思いますが,イについては連帯債務をどうするんだということが先決問題になるので,両方を併せて分科会で検討していただきたいというのが事務局の原案だと理解しています。 ○鹿野幹事 ここでは不可分債務と連帯債務の関係が問題になっています。後ろのほうに出てくる不可分債権と連帯債権のところも含めて,要するにここでは,性質上不可分の給付の場合については,不可分債務ないし不可分債権と呼ぶ。そうではない場合,中でも従来,意思表示による不可分とされてきた場合については,今後,連帯という呼び方をしようという概念整理が,ここに提案されているものと思われますし,それはそれなりに一つのすっきりした整理であるようにも思います。ただし,そのように整理した上で,不可分債務と連帯債務について同じ規律を適用するのが常に妥当かという点については,疑問を感じるところです。   性質上の不可分というのは,性質上,不可分だから,やむを得ず,一緒に負担しなければならないという関係にあるわけですが,それに対して,意思表示による場合というのは,性質上は可分だということを前提に,性質上可分であるにもかかわらず,当事者が意思で連帯して債務を負うことにしましょうという場合です。ですから,その場合は,複数の債務者間における関係がより密にある場合と言えるのではないかと思いますし,それも含め,両者の間に違いも存すると思います。もちろん,一方で連帯債務についてどのような規律を置くのか,特に絶対的効力等につきどういう規律を置くかということがまず問題となるのですが,一番典型的な連帯債務を想定してみますと,その場合に妥当する規律を,ここに言うところの性質上不可分な給付における不可分債務にそのまま適用するということについては,不都合が生ずる場合もあるのではないかと感じます。 ○潮見幹事 鹿野幹事が聞かれたのと同じ部分を全く違った方向から確認したいのですが,先ほど少し話がありました共同賃貸借における賃料債務や,共同労務の提供に対する対価といったようなものは,今回のこの整理でいったら連帯債務と扱うという方向ですか。 ○金関係官 はい。 ○潮見幹事 その次ですが,鹿野幹事が聞かれた箇所について,私は鹿野幹事と結論は全く逆なのですが,ここで書いているイですが,不可分債務について連帯債務の規律を準用するというイメージでお考えになっておられるということでしょうか。 ○金関係官 準用という形式を採るかどうかはさておき,イメージは御指摘のとおりです。 ○潮見幹事 私は,今,金関係官がおっしゃったような整理の仕方に賛成したいところです。鹿野幹事がおっしゃったのとは違う点です。ただ,そうであれば,休憩前に議論していた連帯債務のところの請求は絶対的効力か相対的効力かとか,免除をどうするかといった点について,従来,性質上の不可分債務と言われていた共同賃貸借などの場面も含めて考慮に入れながら整理し,どういうルールが適切なのかを考えた上で条文化していかなければいけないのではないでしょうか。先ほどからの議論では,共同連帯と不真正連帯債務とを統合した形の連帯債務というものについてどうするのか,再構成をしていくのか,しないのかといった話がありましたが,この議論は,これだけでなく,性質上の不可分債務と言われているものも含めて検討していかなければならないと思います。 ○岡本委員 先ほど鹿野幹事がおっしゃられた可分給付については連帯債務,一方で不可分給付なら不可分債務というふうな考え方で,かつ不可分債務も連帯債務も効果を同じにするということが果たしていいのかどうかという点について,給付が可分か,不可分かということの違いに応じて効果も違えるべきところがないかどうか,これは慎重に検討する必要があるのかなというところは鹿野幹事と同じです。   仮に違える必要があるとした場合の話なんですけれども,部会資料の御提案では性質上の不可分給付を目的とする債務については必ず不可分債務になって,かつ,不可分債務は性質上の不可分給付を目的とする債務に限られるという整理かと思いますけれども,もし,連帯債務と不可分債務について効果の違いを設けるんだとした場合には,従来どおり,可分給付を目的とする債務について意思表示によって不可分債務とすること,これも認めていいのではないかなという気がいたします。   給付の分割可能性自体を意思表示で変えるということは仮にできないといたしましても,可分給付を目的とする債務について不可分債務の規定に従わせる旨の合意,仮にその効果が違う場合の話ですけれども,そういった合意自体も有効と認めてもいいのではないかということです。   それから,別な観点ですけれども,可分給付を目的とする債務であって,債務発生の当初は債権者・債務者ともに1名なんだけれども,債権者・債務者間で将来,その債務が複数の債務者に帰属することとなった場合には,不可分債務あるいは連帯債務となるような,そういった債務であるということをあらかじめ契約しておく,そういった性質の債務であるということをあらかじめ契約しておくということは,できないだろうかということが気になっておりまして,この論点もできれば御検討いただけないかと思います。 ○道垣内幹事 小さいことを一つだけ申し上げますが,現在,連帯債務を負っている人が死亡して共同相続が起きますと,分割される形になるわけですけれども,不可分債務の相続では,多分,各共同相続人が不可分債務を負うことになるのだと思います。そうなると,連帯保証自体をなくせという意見書も出ておりますけれども,連帯保証に代えて不可分保証としたら強くなるのかということになり,全体の方向としてそれでよいのかというと,疑問です。そうすると,現在,事務局が用意された整理で,基本的にはよいのではないかと思っております。 ○沖野幹事 今,道垣内幹事が言及された点ですけれども,効果の点で共同相続の場合にどうなるかということも,併せて考えておく必要があるのではないかということです。その際に共同の賃貸借という場合のように,不可分の給付に対する対価であるところの金銭債務ないしは可分給付というものをどう考えるかというときに,(3)のイで連帯債務と同様の規定とされていますけれども,相続の場合にどのようになるかというのは,これが及ばないように思いますので,その点も含めて整理をする必要があるだろうと思います。   あと,蛇足ではありますが,イ自体については連帯債務と同様の規定については,連帯債務の規定自体が多様化されるということを前提に,これでよろしいのではないかと思っておりますし,合意ないし意思表示によって不可分という類型については,これを設ける必要がないということに対して賛成です。 ○松本委員 (3)のイなんですが,連帯債務と同様の規定を設ける,あるいは準用するという場合に,連帯債務の規定がどうなるかがまだ分からないわけです。いろいろな説がある,場合によっては現行法維持になるかもしれない,逆に現行法からひっくり返るかもしれない。つまり,不真正連帯と言われていたものが本来の連帯債務になり,合意による連帯債務が紛争になる率が非常に少ないのだから,それを言わば特別類型に置くというふうにひっくり返るかもしれないし,二つのタイプがあるという形になるかもしれない。ところが(3)のイだと,単に連帯債務と同様の規定を置くというので,そうすると性質上の不可分給付を内容とする不可分債務についても,連帯債務の多様性がそのまま入ってくるというのは想像できないんですが,そういう趣旨なんでしょうか。   むしろ,私の推測では連帯債務のほうを連帯債務者相互間の絶対的な効果をできるだけ制限して,相対効にすることによって今まで言われていた不真正連帯的なものを連帯債務のデフォルトにすると。それを前提にして不可分債務との差がほとんどなくなったんだから,同じ規定を適用するという趣旨だと理解していたんですけれども,そうではございませんか,イの趣旨は。 ○金関係官 その趣旨です。 ○松本委員 そうであれば,そのようにきちんと書かないと,この書きぶりだと連帯債務が動けば,それに合わせてこちらも動きますと読めるので,ゴシックの本文の部分は誤解を与えると思います。 ○鎌田部会長 その点は配慮したいと思いますが,いずれにしましても現行法も連帯債務における絶対的効力,相対的効力の規定を前提にして不可分債務はどうするかと決めていますから,ここでもまず連帯債務についての詳細を決めて,それを不可分債務ではどう取り扱えばいいかということで,ワンセットでの御検討を分科会にお願いしたいと思いますが,そういうことでよろしいですか。では,そのようにさせていただきます。   続きまして,「2 債権者が複数の場合」のうち,「(1)分割債権」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「2 債権者が複数の場合」,「(1)分割債権」の「ア 成立要件」では,同一の可分給付を目的とする債権について複数の債権者がある場合には,当該債権は原則として分割債権となる旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。   「イ 権利割合」の「(ア)対外的な権利割合」の第1パラグラフでは,分割債権者の対外的な権利割合について,債務者と各債権者との間に別段の意思表示がない場合には平等の割合とすることを提案しています。また,第2パラグラフでは,同じく分割債権者の対外的な権利割合について,一定の場合には各債権者間の別段の意思表示による割合とすることを提案しています。   「(イ)内部的な権利割合」では,分割債権者の内部的な権利割合について,各債権者間に別段の意思表示がない場合には平等の割合とすることを提案しています。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いいたします。成立要件のところについては,分割債務について既に山本敬三幹事の御意見のあったところでありますが,その他の点について,成立要件については他には御異論は特にございませんね。 ○岡委員 分割債務のところで述べたと同じでございまして,(ア)のただし書については,こういうのは契約の内容になっている場合だけ処理すればいいのではないかということで,ただし書について反対意見が多数ございました。   それから,対外的な権利割合というのもよく分からないと。分割債権になっているわけですから,請求できるのは各自,平等だけ請求できると。この特殊なただし書の場合には平等ではない割合がどういうときに機能するのか,債務者に請求できる金額は平等になっていて,債務のときの免除だとか,相殺だとか,それと同じようなことがここに起きるとしたら,どんな場合なのか,そんな細かいことまで条文にしなくていいのではないかというのが結論的な多数意見でございました。 ○金関係官 分割債権の場合の対外的な権利割合と表現しておりますのは,正に分割されて債務者との関係で独立した債権額として生じているものであると理解しておりますけれども。 ○鎌田部会長 権利割合については岡委員からの御指摘を踏まえて,更に検討させていただくことにします。他に御意見がないようでしたら不可分債権のほうに進みたいんですけれども。 ○中田委員 先ほど分割債務のところで申し上げたことなんですけれども,分割債務のほうに求償に関する規律を置くんだとすると,分割債権のほうも何か対応するのがあったほうがバランスはいいような気もするんですが,あるいは両方とも置かないということも考えられると思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか。それでは,続きまして,「2 債権者が複数の場合」のうち,「(2)不可分債権」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「(2)不可分債権」の「ア 成立要件等」の第1パラグラフでは,同一の不可分給付,性質上の不可分給付を目的とする債権について複数の債権者がある場合には,当該債権は不可分債権となる旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。また,第2パラグラフでは,この考え方を前提として,不可分債権の債務者及び各債権者は,不可分債権の目的が性質上の不可分給付から性質上の可分給付となった場合に当該債権が連帯債権となることを,事前の合意によって定めることができるとすることを提案しています。   「イ 権利割合」の「(ア)対外的な権利割合」の第1パラグラフでは,不可分債権者の対外的な権利割合について,債務者と各債権者との間に別段の意思表示がない場合には平等の割合とすることを提案しています。また,第2パラグラフでは,同じく不可分債権の対外的な権利割合について,一定の場合には各債権者間の別段の意思表示による割合とすることを提案しています。   「(イ)内部的な権利割合」では,不可分債権者の内部的な権利割合について,各債権者間に別段の意思表示がない場合には平等の割合とすることを提案しています。   「ウ 不可分債権者の一人について生じた事由の効力」では,不可分債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があった場合について定める民法第429条第1項の規定を維持するとともに,不可分債権者の一人と債務者との間に混同や代物弁済の合意があった場合についても同項と同様の規定を設けることを提案しています。   以上の各論点のうち,「ウ 不可分債権者の一人について生じた事由の効力」については,仮に規定を設けるとした場合における具体的な規定の在り方等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いします。 ○潮見幹事 一点だけ教えていただきたいのですが,35ページのイの権利割合の(ア)ですが,どういう場合に対外的な権利割合というのが問題になると,事務局のほうでお考えになっておられるんでしょうか。連帯債務の場合には確かに先ほどの規定をどうするかは別として,消滅時効の場合だとか,他人の債権を使っての相殺とかの場面で対外的な関係での負担割合が問題になる局面はありました。しかし,不可分債権の場合に,対外的な関係での権利割合が問題となるのはどういう場面なのかが頭に浮かびづらかったので,教えていただきたいのです。 ○鎌田部会長 逆に分割債権のほうがもっと対外的な権利割合と内部的な割合が違うという場面を想像しにくいといえばしにくいかもしれないわけですけれども,それぞれにどんな場面があるのかという疑問は出てくるのかもしれません。 ○内田委員 これは別に事務当局が何か新たな理論を提示しているわけでもありませんし,今までの混乱に対して新しい整理を提示したというわけでもなくて,これまで言われていたことを仮に規定にすると,こうなるのではないかということを提示しただけだと思います。それを大学で教えておられる先生のほうから説明せよと言われても,なかなか苦しいところで,もちろん,実際にはどういう例があるのかということについて議論があるということは,十分共有されていることであろうと思いますけれども,何か問題提起というか,こうすべきであるという御提案があれば,お聞かせいただければと思います。 ○潮見幹事 提案というか,要らないのではないかと思います。 ○内田委員 その規定は要らないという御提案ということですね。 ○潮見幹事 はい。 ○鎌田部会長 どういう場合があるかという以上に,実益がないという御趣旨ではないのですか。 ○潮見幹事 今回の改正の方向を推し進めていった場合には,適用場面すらないのではないかというつもりなのですが。 ○松本委員 私もどういう場合がこれに当たるのか,よく分からないんですが,先ほどの不可分債務のところで,従来,反対給付との関係で不可分だとされていたところの共同賃借人の賃料支払債務は,連帯債務にしてしまうという整理の仕方だったわけです。不可分債権としては私が考えたのは,共有物を賃貸に出す場合の賃料債権は金銭的には可分なんだけれども,不可分の反対給付だから,不可分債権になると考えることもできるだろうと,それぐらいしか余り実りのある議論は考えられなくて,共同賃借人が一つの住宅を借りる権利というのは不可分債権なんでしょうけれども,何か余り議論しても実益がないような感じがするのです。先ほどの不可分債務について,性質上の不可分に限るというロジックをここの不可分債権についても取るわけだから,そうすると,本当に実益のある議論ができそうなシチュエーションというのはなくなってしまうのであれば,あえて学問的な関心からのみ,使えるか,使えないか分からないけれども,民法に規定として置くよりは,置かないほうがすっきりしているのではないかなとも思うんです。本当にあり得るシチュエーションがあれば出していただけると,もう少し議論しやすくなるんですが。 ○内田委員 それがあるかどうかを出して知恵を出し合うのがこの場で,全て事務当局がこういう場合がありますから規定が必要です,という提案をするという場ではないのではないでしょうか。 ○松本委員 ですから,そんな声が出ていないわけだから,言ってもいないのに何でこんな……。 ○内田委員 おっしゃることはそのとおりだと思うのですが,ただ,債権と債務それぞれに複数の人間が関与するときの処理というのは,今まで完全にパラレルに議論されてきて,観念的にはあり得るわけです。それについて本当に規定がなくていいのかどうかを正にここで議論していただければと思います。 ○松本委員 共有物を賃貸に出す,そして,賃貸借契約上も共有者が共に賃貸人として契約書にサインする,借手は一人だという場合に,賃料債権を不可分債権としてとらえる下級審裁判例や学説があり,あるいは逆に夫婦で住宅を借り,両方が賃貸人として契約当事者になるという場合の住宅を用益する債権が典型的な不可分債権でしょうか。 ○金関係官 賃貸人をA及びBとして,賃借人Cが賃貸人Aに対して賃料を全額支払ったときに…… ○松本委員 問題にしているのは賃借人が二人の場合です。 ○鎌田部会長 今のケースでいうと,二人の賃貸人の債権は金銭債権ですから不可分債権にならない。 ○松本委員 賃貸人が二人の場合の賃料債権についての判例はそうですが,二人で共同で賃借している場合の給付が不可分というのは貸す側の債務のほうなので,それは一人です。賃借人が二人という場合がここで言うところの性質上不可分の給付の債権者になるんです。 ○金関係官 失礼しました。今申し上げたかったことは,複数の不可分債権者のうちの一人が全ての利益を享受した場合,賃貸借だと余りイメージできないので,売買の目的物引渡債権などをイメージして,不可分債権者の一人が目的物の全部を受領した場合には,もう一人の不可分債権者にその利益の一部を分与しなければなりませんが,どれだけの額を分与しなければならないかを定める基準として機能するのが内部的な権利割合であるのに対して,例えば不可分債権者の一人が免除などをした場合には,もう一人の不可分債権者はその免除などをした不可分債権者に分与すべきであった利益を債務者に対して償還しなければなりませんが,どれだけの額を償還しなければならないかを定める基準として機能するのが対外的な権利割合であると説明できるのではないかということです。 ○鎌田部会長 それは,内部的には8割を償還しなければいけないところが,相手がそれを知らないと5割だけ返せばよくなってしまうということですか。 ○金関係官 対外的な権利割合に従って償還するという趣旨で申しましたが,対外的な権利割合の定まり方は複数ありますので,部会資料36の35ページの(ア)に記載された対外的な権利割合の定まり方,その中には例えば債務者が当初から知っていた場合に各債権者間の内部的な権利割合の定めを対抗されてしまうという定まり方もありますけれども,いずれにせよ(ア)に記載された定まり方による対外的な権利割合に従って償還するということではないかと思いました。 ○松本委員 ちょっと理解しにくいのは,一つのものを二人の人で買うという場合に,引渡債務の債務者,すなわち所有者としては二人の債権者のどちらに引き渡しても債務は弁済したことになるのではなかったですか,売買の場合は。あとは共同で購入して共有者になった者の間で,どうその共有物を使うかという話だから,一方が勝手に使えば,他方は共有者相互間の関係として何か言えるというのが当然あるとは思いますが,それで債務者が責任を問われるわけではないでしょう。 ○金関係官 一人の債権者に払えば…… ○松本委員 払えばではないですよ,不可分の引渡債務だから。 ○金関係官 失礼しました。一人の債権者に引き渡せば債務を全て弁済したことになるというのは御指摘のとおりですけれども,それに先立って債権者の一人が免除などをしていた場合には,条文上,目的物の全部を受領したもう一人の債権者はその免除などをした債権者に分与すべきであった利益を債務者に償還しなければならないとされておりますので,この償還をするときの金額を定める際には対外的な権利割合に基づいて計算をする。なぜなら,それは債権者と債務者との間の対外的な関係の問題であるから,というのが先ほど申し上げたかったことです。 ○松本委員 売買契約で買主が二人,売主は一人で契約をした。ところが買主の一人がよく分からないけれども,債務を免除した。契約を解除したわけではなくてというところが,ちょっとよく分かりません。 ○鎌田部会長 不可分債権の場合には,要するに性質上の不可分しかここの不可分債権はなくなってしまったわけです。性質上不可分な給付はどっちかに一括してやるしかないので,そのときに権利割合が何割かによって給付の仕方が変わることは全然ないので,その場面では対外的な権利割合が幾つかというのは定めてみても余り働かない。ただし,ウの更改・免除のときに分与される利益,これは正に権利割合の問題が出てくるので,しかも,分与する相手方は内部ではなくて債務者との関係だから,対外的にどれだけの権利割合があるかということの確定が問題になるというのだけれども,これは表見的な権利割合でやって本当にいい問題なのかというところは,検討の余地がなおありそうな……。 ○松本委員 私は今の場合に更改とか免除を買主の一人の意思だけでやって,一体,どういう効果が出てくるのかがそもそも何かよく分からないんです。更改を一人だけでできるのかという感じがしますし,免除というのもよく分からないので,それなら,契約関係から一人離脱するというだけの話になるのかもしれないです。 ○鎌田部会長 それはできるのではないですか。目的物は不可分の一個のものでしかなくても,債権は二個あるわけですから,それぞれの債権について更改・免除が起きても別におかしくないということになると思うので。いずれにしろ,余り頻繁に考えられてきた問題でもないので,分科会で補充的にしっかり検討してもらうということでいかがでしょうか。 ○金関係官 念のため民法第429条第1項に「不可分債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があった場合」と書かれておりますので,その点だけ指摘させていただきます。 ○松本委員 先ほどおっしゃったように,一方の給付が不可分だから,反対給付が可分の場合でも不可分になる場合があるというのが従来の一般的な考え方ですから,今,おっしゃったようないろいろなシチュエーションを考えれば必要だということなんでしょうけれども,不可分債務の範囲をぐっと限定してしまうと,今の429条の条文はちょっとおかしいということにおそらくなるんだろうと思います。 ○鎌田部会長 そうなるかどうかちょっと分からない。 ○山野目幹事 松本委員が一貫しておっしゃっていることは,対外的な権利割合を決める必要がないではないかというお話であり,部会長が複数回の御発言でおっしゃったことは,それはあるとしても表見的な権利割合で決めてよいかという問題であり,この二つは性質を異にする問題であると受け止めます。その上で私が思うところでは,松本先生が繰り返し心配しておられることではありますが,私は429条に当たる問題を今後も議論する必要はあるであろうと考えます。更改とか免除はできないことにするということは,規律としてあり得るかもしれませんが,混同は絶対に起こる可能性があるものでありますから,そうすると,そこはどうしても考えなければいけないと感じます。その上で,部会長が心配しておられるように,表見的な権利割合で処理することがよいのかどうかということは,分科会で補充的に御検討いただくのがよろしいのではないでしょうか。 ○道垣内幹事 簡単な話を二つさせてください。第1に,山野目幹事がおっしゃったことには全く賛成なんですが,表見的な割合でいいのかというと,どれだけの償還を受けられると考えたのかという問題はなおあるような気がいたしますので,あり得ない考え方ではないと思います。それに対して,第2に,イの内部的な権利割合のことに関しましては,一般的な話になってしまうんですね。例えば組合で利益がどう配分するのか,それは平等の割合と推定するのか。一般的には,そのような場面には推定規定は置かないのではないだろうかと思います。したがって,私は,アはなお考えられるのかもしれないが,イは不要なのではないかと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。では,それらの点も含めて,少なくともウについては分科会での補充的な検討の御提案があり,その必要性も感じられますので,そのようにさせていただきます。(ア)(イ)の,権利割合の問題につきましては御指摘の点を踏まえて,更に事務当局において検討を深めさせていただきます。 ○岡委員 一つだけ,よろしいですか。誤解かもしれませんが,不可分債権と連帯債権は一つの債権を複数の債権者が準共有している場合と同じというか,重なるというか,どういう関係になるのかという議論をしました。準共有だとすると更改が管理に当たるとすると,過半数で決議をしないと効果が生じないはずで,そういう準共有が適用されるとした場合の共有の論理と,ここに書いてある規律がどういう関係になるのか,分からないなという議論をしておりました。まず,一つの債権の準共有と不可分債権,連帯債権は全く違うんですか。 ○鎌田部会長 私は違うと思っていたんですけれども,御専門の方。 ○中田委員 専門ではないんですけれども,実は後で合有債権債務,総有債権債務のところで議論したいと思っていたんですけれども,伝統的な学説ですと,債権債務の帰属形態に総有と合有と共有というのがあって,債権の準共有の特則として多数当事者の債権債務関係があるというのが伝統的な位置付けで,その場合に準共有と多数当事者の債権債務というのは,債権が一個か複数かという違いがあるという整理だったと思います。ただ,その枠組み自体がいいのかどうかという問題があるのだろうと思っています。あとはまた,合有債権等のところで発言したいと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか,釈然としないというお顔ですけれども。 ○松本委員 今の御議論で触発されたわけですが,やはり免除というのはそれこそ処分行為だから,不可分債権者の一人の単独の意思で免除はできないと,準共有の法理からいけばなりそうですね,分割されていないんだということであれば。そうすると,残るのは山野目幹事のおっしゃった相続による混同というのはあり得る。つまり,売手は一人,買手は二人で不動産を取引をした。ところが買手の一人と売手の間で相続が起こった結果,その地位が混同したという場合にもう一人の買手だけが残って,当該不動産を丸々引き渡すということになるのかどうか,そして,丸々引き渡した場合に後の清算がどうなるのか。そこで二人の買手の間で対外的には1対1のように見えたけれども,内部的にはそういう取決めではなかったというような場合に,何かトラブルが起こるかもしれないというのは,確かに山野目幹事のおっしゃったとおり,あり得ると思います。 ○鎌田部会長 今,中田委員からもその前提をもう一度,考え直す必要があるとおっしゃられたんですけれども,伝統的というか,古臭い理解ということなのかもしれませんが,私が少なくとも理解しているところでは,不可分債権というのは100%の債権が二本並んでいるのに対し,共有とか合有というのは100%の債権が一個しかないのを複数の人間で持ち合っている。そこで根本的に違います。不可分債権は,それぞれ独立の債権ですから,一人一人が自分の権利を更改や免除の対象にしても全く問題ない。その辺が共有との違いということであるような気がしますけれども,間違っていたら訂正していただければと思います。その辺の前提が本当にそれでいいのかということも含めて,検討をさせていただきます。   それでは,「(3)連帯債権」と次の「3 合有債権及び合有債務と総有債権及び総有債務」につきまして説明をしていただきます。 ○金関係官 御説明します。   「(3)連帯債権」の「ア 成立要件」では,同一の可分給付を目的とする債権について複数の債権者がある場合において,当該債権は法律の規定又は当事者の意思表示によって連帯債権となる旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。   「イ 不可分債権と同様の規定」では,連帯債権という概念を導入することを前提として,連帯債権についての権利割合,連帯債権者の一人について生じた事由の効力等について,不可分債権と同様の規定を設けるという考え方を取り上げています。   最後に,「3 合有債権及び合有債務と総有債権及び総有債務」では,合有債権及び合有債務に関する規定や総有債権及び総有債務に関する規定を設けないとすることを提案しています。   以上の各論点のうち,「(3)連帯債権」の「イ 不可分債権と同様の規定」については,仮に規定を設けるとした場合における具体的な規定の在り方等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明がありました部分のうち,2の「(3)連帯債権」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○鹿野幹事 先ほど既に連帯債務,不可分債務のところで申し上げたことですけれども,ここで改めて連帯債権について申し上げたいと思います。資料38ページの連帯債権に関するイで記載された,不可分債権と同様の規定を設けるということについては疑問を持っております。この場面に即して一言だけ付け加えたいと思います。先ほどから議論があったように,そもそも,ここで不可分債権の規律の内容をどうするかが決定していないので,同様の規定を設けるということが絶対的に不都合だという言い方はしにくいのですが,例えば先ほどの36ページから37ページにかけて書いてありますように,不可分債権者の一人について生じた事由の効力について,例えば429条1項の規定を維持することとしてはどうかという提案を前提として捉えるとしますと,例えば金銭債権を意思表示によって連帯債権としたという場合に,これをそのまま適用するのが果たしてよいのかという気がします。   むしろ,そのような場合については,このような相対効を前提として償還しなければならないというような解決ではなく,いわゆる絶対的効力を認めるというような形での規定の仕方もあり得るのではないか。先ほどは債務の場合でした。債務の場合についても,私自身は,連帯債務のうち一定の類型のものについては,免除等について絶対的効力を及ぼしてよいのではないかと考えておりますが,ただ,不可分債務について,そのまま同じように絶対的効力を及ぼしてよいのかについては疑問を持っており,そこで先ほどのような発言をしたわけです。ここで問題となっている連帯債権と不可分債権につきましても,同じ規律を適用することが常に妥当かにつき検討が必要だと思いますし,例えばということで,429条1項の規定を連帯債権の場合にそのまま適用することについての疑問を申し上げました。 ○佐藤関係官 まず,連帯債権の成立要件について,概念の導入の可否というところでございますが,今,一部の実務家の間で, 担保付シンジケートローンにおいて,担保管理の手法として連帯債権という概念を活用できるのではないかという検討がなされております。したがいまして,仮に今回の民法改正でこういった概念が明文化されれば,相応の有用性というか,実益はあるのかなと考えております。   もう一点,確認的な質問をさせていただきたいのですが,(3)のアの2行目に,「当事者の意思表示によって」という記述がございますが,ここで言う当事者というのは,全連帯債権者及び債務者を指すという理解でよろしいかという質問でございます。問題意識を申しますと,仮にそうではなく,一部の債権者及び債務者の合意のみで連帯債権が生ずるとするならば,仮に金銭債権の全額の履行が連帯債権者の一人に対してなされた後, 受け取った金銭を分配する前に, その履行を受けた連帯債権人が破産してしまったような場合,他の連帯債権者は分配を受けられないというリスクが生じることとなります。また,仮に反社会的な勢力が介在することによって,そうした者との関係で求償関係が生ずるという危険性もございますので,この当事者の合意とは全連帯債権者及び債務者の合意という趣旨なのだろうと思うのですが,確認させていただければと思います。 ○金関係官 基本的には御指摘のとおり全債権者との間の合意だと思います。ただ,連帯債務にいう連帯の免除がされた場合のように,複数の債権者のうち一部の者は連帯関係に入らないという状態もあり得ると思いますが,そのような状態を合意で作ることも可能だと思いますので,そのような場合の合意については,必ずしも全債権者との間でする必要はないような気もしました。すみません,後半はお答えではありません。 ○鎌田部会長 連帯債務と逆ですから,連帯債権になってしまうと,複数の債権者中の一人が全額を持っていけてしまうという意味では,他の債権者には不利益に働くので,誰か一人が連帯の合意をしてしまうと,他の債権者集団に全部,その効果が及ぶというのは問題かもしれない。直感的には少なくとも債権者は全員でなければいけないような感じでいますけれども,深く考えた結果でもございませんので,御指摘を受けて少し検討させていただきたいと思います。中田先生,何かございますか。 ○中田委員 部会長のおっしゃるとおりだと思います。 ○松本委員 連帯債権のイが不可分債権と同様の規定を設けるということで,不可分債権のところが私はよく分からないんですが,429条1項です。先ほどから議論しているところですが,一つの不動産,単独所有の不動産を二人の買主に売却するという契約は,買主の側から見れば不可分債権であると。それで,先ほどの部会長の話では不可分債権は二つの債権なんだから,免除も更改も自由だということなので,そうすると二人の共同買主のうちの一人が免除をしたと,引渡債権を放棄したというのか,引渡債務を免除したと。しかし,それは普通は代金債務という反対給付があるから,逆に売主側としても,一人の買主の支払義務を免除するということと普通はバーターに行うわけです。それは売買契約からの事実上の離脱なんだけれども,契約解除ということになると単独ではできないから,免除ということで離脱をするということは,実務的にはあり得るかもしれないと思います。   当初の契約が不可分債権を買主側に発生させる契約であったから,買主としては不動産そのものの所有権の移転登記を請求する権利があるということで,移転登記がされた場合に429条1項を適用すると,対外的に見れば半分なので,それは取り過ぎだから,不動産の価値の半分を債務者,すなわち売主に償還しなければならないということになるのでしょうけれども,これまた,買主側の代金債務のほうがあります。従来の論理からいけば買主側の債務のほうは可分債務なんですよね。   ということだと,買主は半額しか払っていない。それで移転登記を請求できるのでしょうか。たまたま移転登記がされたと。確かにそれは取り過ぎだから半分返しなさいというのは,ロジックとしては成り立つと思うんですが,代金全額の支払いがなければ,移転登記は拒めるような感じもするので,ここの……。 ○鎌田部会長 ただ,今の松本委員の設例ではその分を免除してしまっているのですから,半額で代金は完済しているということになるのではないでしょうか。 ○松本委員 絶対的効力が及ぶんですか。つまり,免除の絶対効が及ぶということであればそうなりますけれども,及ばないんでしょう。相対効でいくというのが不可分債務であり,不可分債権なんだから,もう一人の買主には免除の効果は及ばないというのが。 ○鎌田部会長 代金債権は分割債権……。 ○松本委員 反対給付である買主の代金債務を売主がバーターで免除していれば,代金債権は従来の議論だと分割債権だったので,それでよいということだけれども,バーターで免除していなければどうなるのか。引渡しの関係では全額を払ってくれないと引渡しは拒めますということで,それでよかったわけですが,何か,よく分からなくなってきました。 ○岡本委員 先ほど佐藤関係官からシンジケートローンで利用する場合のお話がありまして,同じ意見が私どものほうでもありました。現状,シンジケートローンで担保権の設定を行う場合には,全ての貸手を担保権者として設定するというのが通常でありますけれども,手続上も煩雑でして,担保権者を一人にまとめたいというニーズが生ずる場合があります。こういった場合に連帯債権という仕組みを使うと,エージェントが連帯債権者になって,内部的な負担割合はエージェントはゼロとすることで,エージェントが担保権者になるという形でうまくいくのではないかといった意見がございます。現行法上,連帯債権明文の規定はないですけれども,解釈上,認められているところですので,同様の方式は現在でもできるということだろうとは思いますけれども,明文規定があったほうが安定性が増すと思いますので,明文化することには賛成したいと考えます。 ○岡委員 弁護士会の意見は分かれておりますが,意味がよく分からなくて分かれているような印象を非常に持っております。先ほどの債権の準共有と違うということだとすると,何が債権の準共有と複数連帯債権,不可分債権の分かれ目になるのか,それを明示していただかないと実務界では対応しにくいような印象を持ちました。先ほどの買主が複数で物権引渡請求権が一本というか,物権引渡請求権がある場合,普通の感覚では準共有していると思っていました。貸主が複数いて共有者が賃貸に出して,その賃料債権は金銭債権ですけれども,それも分割債権ではなく一本の金銭債権を準共有していると思っていました。準共有の保存行為,管理行為,処分行為の概念で今は回していると思いますので,それとは別に複数債権者の概念が出てくるとしたら,どういう場合が準共有と複数債権の違いで,複数債権のメリットが連帯債権で今のシンジケートローンにもしあるのだとすると,具体的に説明していただかないと,平均的一般的弁護士には分かりにくいように思います。 ○道垣内幹事 シンジケートローンの例ではなくて恐縮ですが,教室設例的に比較的分かりやすいのは,例えば抵当権が家屋に設定されているときに,当該家屋が第三者によって燃やされたという場合を考えますと,多くの学説は,抵当権者から当該第三者に対する抵当権侵害の損害賠償請求を認めます。そして,5,000万円の価値のある家屋に被担保債権3,000万円の抵当権が付いていて,当該家屋が全部消失したとしますと,抵当権者は抵当権侵害として3,000万円の損害賠償請求権を不法行為者に対して持つのに対し,所有者は5,000万円の損害賠償請求権を持つことになります。しかし,もちろん,不法行為者は8,000万円を支払わなければいけないわけではなくて,どっちかに支払えばその部分はなくなるわけですが,どちらも請求できるという関係にあることになります。   このような事例で免除が絶対効なのかというと,そうではない気がします。つまり,抵当権者が,まあ債務者には一般財産もあるから,そこから被担保債権は回収するよといって,不法行為者に対する損害賠償請求権を免除しても,所有者の有する5,000万円の損害賠償債権のうち3,000万円がなくなるかというと,それはそうではないだろうと思います。逆に,いずれにせよ,抵当権者に全部取られてしまうのだからといって,所有者のほうが免除をしたとなりましても,恐らくは抵当権者の損害賠償請求権は完全に残るのだろうと思います。そうすると,簡単には絶対的効力とは言えないことになると思います。 ○鎌田部会長 あと,債権譲渡の第三者対抗要件の同時到達のケースも複数の債権譲受人は,あえて説明すれば連帯債権者であるとされていると思います。それは,しかし,全員が全額請求できる,誰か一人に弁済すれば,債務が全部,一遍に消えるという,その関係だけを語るために連帯債権という道具で語っているので,それで連帯債権の本来的な形の全てを語り尽くしているかどうかについては,なお,検討の余地はあろうかと思います。 ○鹿野幹事 確認のための質問なのですけれども,資料の34ページのところで,同一の不可分給付を目的とする債権というのは性質上の不可分給付に限ると書いてあり,一方,それ以外のものは法律あるいは意思表示によって連帯債権となり得る旨が38ページに書いてあります。そこで,先ほど岡委員でしたか,挙げられた賃貸借の例についてですが,共有物を貸したという場合における賃料債権は,性質上は可分であるが,一つの共有物を貸した対価であるから,従来,いずれの共有者も単独で全額請求できるし,全額を受領することができるのが通常だと考えられてきました。これを今,ここでは連帯債権という概念で整理しようという趣旨だと捉えていたのですけれど,そのような理解でよろしいでしょうか。 ○金関係官 はい。先ほどの連帯債務の議論の際にも,そのような例につきましては,これまで不可分債務と説明されてきたものを連帯債務として整理したいと申しましたが,それとパラレルに,今鹿野幹事が指摘された例につきましても,これまで不可分債権と説明されてきたものを連帯債権として整理したいと考えております。 ○岡委員 その場合は,準共有になるんですか,ならないんですか。 ○金関係官 部会資料では,その場合は債権が二つあることを前提として連帯債権になるという整理をしておりまして,準共有のように債権が一つであることを前提にその保有者が二人いるという整理をしておりませんので,現時点で御質問にお答えするならば準共有にはならないという回答になると思います。ただ,そこは先ほど部会長から御指示がありましたように,岡委員の御指摘を踏まえて改めて検討しなければならないと考えております。 ○鎌田部会長 合有,総有の債権債務も御説明いただいたところでございますが,債権の共有,合有,総有について中田委員から御説明を頂ければ。 ○中田委員 解説することなどできませんので,私の感じていることを申し上げさせていただきます。  合有や総有について規定を置かないということについてですが,第6回会議で確か松岡委員から御発言があった点ですけれども,もうちょっと検討していいのではないかと思います。今,部会長からも御指摘がありましたように,伝統的にいうと債権債務の帰属形態として,総有,合有,共有というのがあって,共有については264条の規定があるわけだけれども,そのただし書で法令に特別の定めがあるときは違うとあり,多数当事者の債権債務関係の規定はこの特別の定めに当たるという整理だったと思います。今,話題に出ていますように,準共有のほうは権利が一つなんだけれども,多数当事者の債権債務のほうは債権債務が複数あると理解されていると思います。ただ,そうすると,いろいろ分かりにくいところが出てきます。   一番問題となるのは,多数当事者の債権債務関係のところで規定されている類型以外の債権債務関係を認めてよいかどうかというのが,はっきりしないというのが根本的な原因だと思います。例えば最近,定額郵便貯金が共同相続されたというケースで,最高裁は遺産分割の対象になると言ったんですけれども,その法律関係は必ずしもはっきりしないわけです。補足意見で債権の準共有になると言うものがあるんですけれども,法廷意見のほうははっきりしません。先ほど来,岡委員から出ておりますように,債権の準共有と多数当事者の債権債務の区別の基準をどうするのかというのは,実際上,非常に重要な問題だろうと思いますが,理論的にいうと,権利が一本なのか,複数なのかの違いをどのように考えるのか,債権の合有的帰属や総有的帰属というのを多数当事者の債権関係から外に出してしまうのかどうか,264条ただし書の場合以外には,債権債務関係の複数というのはあり得ないのかというような問題が,これまで余りはっきりしてこなかったと思います。   ただ,連帯債権だけは,多分,連帯債務の規定があるからだと思いますけれども,何となく認められてきたわけですね。そうすると,合有的な債権債務についても,多数当事者の債権債務関係の一種としてあり得るのではないかと思うんです。そのあり得る場合について,そのような類型を規定するという方法と,もう少し抽象的に民法に規定されたもの以外にも多数当事者の債権債務関係を合意で形成することが可能だ,しかし,一定の制約があるということを抽象的に書く方法と,どちらかの選択になると思います。資料でも引かれておりますけれども,ヨーロッパ契約法原則ですとか,2010年のユニドロワ原則ですとか,あるいは共通参照枠草案の中でも,そういったタイプの債権債務についての規律がありますので,それをここで規定するということはありうると思います。   その場合にやはり残るのが,準共有との関係ですけれども,ここの整理の仕方はいろいろあって,守備範囲が違うという言い方をする人もいます。共有の規定は複数の債権者相互間の法律関係に適用され,相手方との関係については,多数当事者の債権債務関係が規律するという言い方です。しかし,そうすると債権が単数か複数かということに,すぐにぶつかってしまうわけです。そこをどこまでこだわるかであり,共有の場合についても所有権が一個なのか複数なのかについて議論があるところですので,これを理論的に整理していくのか,それとも別の次元の問題として規律を置くのかということかと思います。   幾つかの問題を混ぜて申し上げたので,分かりにくくなってしまったのですが,結論的には合有や総有の債権債務についても,もう少し検討したほうがいいのではないかということです。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。連帯債権及び合有債権債務関係,総有債権債務関係について一括して御意見をお伺いしておきたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○鹿野幹事 先ほどの発言に一言だけ補足させていただきたいと思います。先ほど,連帯債権については,例えば免除について429条1項の規律ではなく,絶対的効力を認めてよい場合もあるのではないかという趣旨のことを申し上げました。これに対して,その後,委員,幹事から,こういう場合については絶対的効力を必ずしも認める必要はないという御意見も出てきたのですが,連帯債務のところで指摘があったのと同じように,ここでも,連帯債権と一言で言っても,かなりいろいろなものが含まれ得るように思われます。ですから,その類型と場面によって,絶対的効力を認めるべきものか,それとも,そうではないのかという検討をする必要があるように思います。分科会でその点も議論していただければと思います。 ○鎌田部会長 絶対的効力といっても権利割合に関しての絶対的効力ですね。 ○鹿野幹事 例えば先ほど私が申し上げましたのは,429条との関連で免除についての話だったわけなんですが,要するにここでは債権ですから,債権者の一人に生じた事由が他の債権者にどう影響を及ぼすのかという意味です。 ○鎌田部会長 例えば四人の債権者がいて4分の1ずつの権利割合でいるときに,一人が免除したら全額がなくなってしまうのですか。 ○鹿野幹事 全額なくなるということではありません。持分割合,これについては先ほど内部的,外部的というような議論も出てきましたが,要するに各債権者の持分割合ないし権利割合があるとすると,それについては,求償の循環を避けるという趣旨から,債務者と他の債権者との関係でも効力を持つという場合があってよいのではないかという趣旨です。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○山野目幹事 40ページの論点の3を中心に三点述べさせていただきます。   一点目は,共有ないし準共有という概念との関係で議論されたことでございます。私自身が理解してきたところでは,債権の個数の問題との関連で考えなければいけない部分があり,部会長がしばらく前におっしゃった個数の理解と同じ理解をしていました。しかし,中田委員の御注意もあることから,余り決め付けないで検討していくということが穏当であろうと考えます。   ただし,岡先生が何度も心配になっておっしゃっておられたことから,一言,付け加えたいと考えますけれども,しかし,そうはいっても共有ないし準共有という概念は,物権法の研究で折々注意しなければいけないことですが,何といっても,有体の財貨である物の上に成立した所有権を中心的なイメージに形成されてきた法理でありまして,それをたった1箇条で他の場面に準用すると書いてありますが,非常に,準共有という概念がそういう意味で不安定ないし危うい概念であると感じます。ですから,それに当たる場合なのですか,そうではないのですかと問い詰められるような御議論を頂きながら議論していくのは,余り生産的ではないのではないかとも感じますから,むしろ,規律の内部を,内容を機能的に積み上げていってから,準共有概念との関係を整理することがよいのではないかと考えます。   二点目でございますが,論点の3で提起いただいております事柄のうち,総有債権,総有債務についての規定を置くということについては反対意見を抱きます。これについて規律を設けなければいけないような立法事実がそれほどあるものであるとは感じられません。加えて,権利能力なき社団の債務や債権を判例が考えるように,総有で理解するということが学説上,定着して異論のない形で認知されているかということについては,私は疑問を抱きます。そうした中で規律を設けるということの弊害のほうがむしろ多いと感じます。   三点目,合有との関係で中田委員のお話は理解いたしました。そういうことを視野に置いて検討していくことはあってよいと考えますが,それが果たして多数当事者の債権の問題なのかということは,共有の概念との整理と同様の問題がありますし,財産が合有になる場合のうち,債権債務のところのみ規定を置いて,他の場面については,余り詳細なものが置かれないというような規律になることについても,民法全体の規定ぶりの在り方との関係では,少し気に掛かる部分がございます。 ○鎌田部会長 他にいかがでしょうか。 ○内田委員 確認なのですが,中田委員の総有,合有について,債権との関係でもう少し検討したほうがいいとおっしゃったのは,条文を作る前提として,理論的にきちんと詰めたほうがいいという点では全く異論はないのですが,総有,合有についての規定を設ける可能性について,更に追求したほうがいいという,そういう趣旨でしょうか。 ○中田委員 正確に申しますと,私も総有については難しいと思っております。合有については中身をきちんと書くことは無理であっても,メニューとして合有債権というんでしょうか,あるいは合同債権というか,共同債権というか,呼び方はいいと思うんですけれども,例えば債権者が共同してのみ行使できる債権というタイプのメニューを載せておくという方法が一つ考えられます。これはヨーロッパ契約法原則等々にあるスタイルです。そういうやり方と,それから,もう一つ申し上げたのは,これは条文に書けることではないのかもしれませんけれども,例えば分割と連帯と不可分という三つの類型を規定したときに,その三つ以外にも当事者が形成できなくはないということを何らかの方法で示しておくという方法もあると思います。ただ,その場合には合意でもって多数当事者の債権債務関係を全く自由に定めることができるのかどうかについては,なお疑義がありますので,もし入れるとしたら制約についても併せて考えるということになると思います。それが多分,山野目幹事からも御指摘のあった団体との関係や,あるいは個別の規定との関係をどう考えるのかということと関係しているのだと思います。 ○内田委員 ヨーロッパのモデル法には,確かに今おっしゃったような案がありますけれども,それは物権法でいう合有に対応するものと捉えていいのかどうかというところは,議論の余地があるように思います。それを合有債権として共有などと並べて考えるというのには,私自身は少し疑問を感じます。 ○中田委員 ですから,今,名前については合有以外の言葉を申し上げたつもりなんですけれども,むしろ,共同債権債務とか。 ○内田委員 それは多数当事者の債権債務の中の一形態の話であって,合有,総有の話とは別の次元の話ではないかと思うのですけれども。 ○中田委員 別の次元とするという理解が今までは余りはっきりしていなかったわけでして,合有タイプのものというのは,多数当事者の債権債務関係の外の合有の場合にのみ発生するという理解もあったわけです。そうではなくて,債権債務の帰属形態とは別に多数当事者の債権関係の一種として,例えば共同債権債務関係というのを設けることが可能であるということを,何らかの方法で表してはどうかという趣旨です。 ○内田委員 分かりました。この部会資料で合有債権,総有債権についての規定は,債務もそうですが,設けないものとしてはどうかと問い掛けていて,これに対して更に検討せよということになると,中間試案に向けて別の課題が入ってくることになりますので,それでお伺いしたのですが,必ずしもそういうことではなくて,今,おっしゃったようなバリエーションが可能であることが分かるような規定ぶりを検討せよと理解してよろしいですか。 ○中田委員 そのとおりです。41ページの補足説明の中で,多数当事者の債権及び債務に関する類型は,これらのものに限られるわけではなく,合有債権などの類型があると言われているとしつつ,それに関する一般的な規定を設けるのは相当でないと書かれているものですから,当然,合有や総有という債権債務の帰属形態とは別のレベルの議論も可能かと思って申し上げた次第です。 ○内田委員 分かりました。 ○松本委員 名称はどうあれ,取りあえず合有型債権と呼ぶとして,それと共有型であるところの連帯債権,それから,不可分債権というものの違いがどこにあるのかということです。合有型債権の場合は全員の名前で行使することしかできない,債務者としても全員に対しての履行しかできないという,そこが唯一の違いなのか,あるいはもう一つ,合有型債権者の一人が免除したり,相殺したりということも,これは私もできないと思うんですが,大体,メルクマールとしてはその二点ぐらいでいいということなのか。   というのは,先ほどから何となく引っ掛かっておりますところの429条の趣旨との関係で,むしろ,そちらで免除を認めるほうが何か不適切な感じもするので,複数債権者の一人が単独で免除できないような債権というのが,もっとあってもいいような感じがするのです。合有型債権というのはどう定義をしますか。 ○鎌田部会長 多分,債権の合有とか,総有が問題になるゆえんが二つあって,一つは組合財産は合有だから組合の債権もという,こういう形で発想するときと,今,御指摘のように複数債権者の一人が単独で処分できないという,全員で一緒にならなければいけないということを説明するために,既存の多数当事者の債権関係の中ではうまく当てはまるものがないので,これは合有的に帰属しているからというように,ある種,道具概念的に使ってくる流れがあって,それらが重なってきているのだろうと思いますが,そういう意味で全員が一致してでなければ行使できない債権というふうなタイプとして具体化される,その側面を捉えてというのが一つの考え方なんですけれども,私は個人的に,どういう場合がそうなるのかとか,それ以外の場面でどういう法律関係になっているのか,あるいは特に合有という概念なんかを使うと,物権法に合有の概念がないのに,こっちだけあるので果たして妥当なのかという様々な問題があって,検討の必要があるけれども,なお具体的立法提案に結び付けるほどには必ずしも熟し切っていない部分があるので,少し慎重になったほうがいいかなと考えています。 ○松本委員 恐らく連帯債権とか不可分債権とかいうのは,既に言葉のほうが先にあるから,連帯して何とかとかいうような言葉を使えば,効果がそこから引っ張り出されるという形の使われ方をしていた。しかし,本日の議論でもかなり自由に合意で,その辺を考えてもいいのではないかと,任意規定的に運用してもいいのではないかという議論があったわけです。そうすると,組合合有だからこうだという演繹的な議論ではなくて,全員でもって行使しないと駄目だし,その中の一人が勝手に免除したり,更改したりすることはできないという種類の債権を,少なくとも合意によって成立させるということはあり得ることだと思うので,それを何と呼ぶかというのは全く別の問題だと思います。   学問的に整理すればこうなるという話で,それが成熟してくれば,一種の典型契約的な意味で多数当事者の債権関係として一つの言葉で呼べば,こういうのだというのが分かるようなものができてくるかもしれないけれども,今のところはまだそうなっていないのだとすれば,少なくとも合意による従来型の多数当事者関係以外の関係を創設することが許されないのか,許されるのかという議論がまず出発点になるのかと思います。 ○鎌田部会長 それはどういう合意かによりますけれども,例えば複数の債権者・債務者全員が全員でそろって行使しなければできないと合意したら,全員で行使しなければいけないですという,こういう規定は設けられないですね。 ○松本委員 設けられないか,設けられるかは,契約当事者がどう考えるかだけの話で,運用がどうなるかという話だと思うんですが,例えば二人であれば二人でやることは十分可能です。ただ,1万人だったらそれはできませんから,そうすると代表者を選んでという話になってきて,投資信託なんかはそうなんでしょうか,よく分かりませんが,その運用はまた別の話だと思います。 ○鎌田部会長 運用の仕方の問題ではなくて,このように合意すればそうなりますというのは,民法の条文としてあり得るかということで,その範囲でしか規定ができないのだったら,民法の中にわざわざ規定を作ることの意味は非常に難しくて,その辺の明確的な合意がなくても,これこれの条件が整えばそういうものとするとか,あるいはこういう合意があれば,その合意の範囲を超えて,このような効果が生まれるということまでそろったときに,初めて民法の規定の対象になるのではないかなと思います。今の時点では,そういう合意すればそうなりますとしか定められないのだったら,少なくとも立法提案としては非常に難しいということで……。 ○松本委員 分かります。私もこんな立法提案をする気は全くございませんから,そうではなくて……。 ○鎌田部会長 立法提案に結び付かない議論を今やっている時間がなくて…… ○松本委員 だから,もうやめましょうということなんですけれども。私が言いたいのは多数当事者の契約関係というのは強行規定的なものなのかどうか,当事者の合意によって作ることができるのか,できないのかというレベルの話です。今日の議論を聞いている限りは,当事者間で合意をすれば,一定,できるという意見がかなり強かったわけです。そうすると,従来型の連帯債務あるいは連帯債権的なものでないようなもう少し債権者相互間の拘束力が強いようなものも,当然,作れるのではないかと思いますから,そこは契約自由あるいは合意の自由であり,公序良俗に反しない限りは可能だろうというところで,今日の議論は止めておいて十分だと思います。 ○鎌田部会長 すみません,6時を過ぎてしまったんですけれども,一点だけ,確認だけさせていただきますと,連帯債権について具体的に中身を定める規定は,この提案では不可分債権と同様という,こういう提案になっていますけれども,先ほど御議論いただいたような形で不可分債権の部分と併せて分科会で御検討いただく。本当に不可分債権と同じでいいかどうかということも含めて,分科会で検討してもらいたいと思います。それ以外の点については事務当局のほうで,御意見を踏まえて,もう一度,検討させていただきます。   それで,次が保証債務なんですけれども,保証債務に入る時間はもうないんですが,今日,配布していただきました参考資料9-2と10-2についての事務当局からの説明だけ,恐縮ですけれども,させていただければと思いますが,よろしいでしょうか。ありがとうございます。それでは,説明をさせていただきます。 ○金関係官 御説明します。   参考資料9-2及び10-2は,根保証のうち我が国で広く用いられている家賃債務保証について,建物賃貸借に関わる異なる立場の団体に御協力を頂き,その実態調査をした結果を取りまとめたものです。この実態調査におきましては,宅建業者や管理会社への質問事項として参考資料9-1を,保証会社への質問事項として参考資料10-1を,それぞれ使用いたしました。   まず,参考資料9-2につきましては,社団法人全国宅地建物取引業協会連合会の会員である社団法人埼玉県宅地建物取引業協会と社団法人福岡県宅地建物取引業協会,それから,社団法人全日本不動産協会,財団法人日本賃貸住宅管理協会に御協力を頂き,各協会に対して参考資料9-1の質問事項に基づくヒアリングを実施し,その結果を事務当局において取りまとめた部分,それから,社団法人不動産流通経営協会に御協力を頂き,同協会の会員に対して参考資料9-1の質問事項を送付し,これに対する回答を同協会が整理して,その結果を事務当局が取りまとめた部分とで構成されております。内容の詳細につきましては,資料を御覧いただきたいのですが,賃借人と保証人との関係や,賃貸人と保証人とのトラブルの内容,それから,根保証に関する民法の規定を家賃債務保証に及ぼした場合の影響等について,回答が記載されております。   次に,参考資料10-2につきましては,一般社団法人全国賃貸保証業協会,財団法人日本賃貸住宅管理協会に御協力を頂き,各協会の会員に対して参考資料10-1の質問事項を送付し,これに対する回答を各協会が集計して,その結果を事務当局が取りまとめたものです。内容の詳細につきましては,これも資料を御覧いただきたいのですが,賃借人と求償債権の保証人との関係や,保証会社と求償債権の保証人とのトラブルの内容,それから,根保証に関する民法の規定を家賃債務保証に及ぼした場合の影響等について,回答が記載されております。   各資料につきましては,今後の審議において有益な参考情報として利用したいと考えております。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。 ○松本委員 一点,念のための質問ですけれども,家賃保証というと例の追出し屋問題というのが消費者問題としてよく言われているわけですが,これはそういう追出し業界ではないところの本来型の家賃保証を業とする協会というのが存在するということですか。 ○金関係官 はい。 ○鎌田部会長 他にはよろしいでしょうか。   積み残し分が大分また増えてしまいましたけれども,本日,積み残した議事は次回の冒頭で引き続き審議することとさせていただきます。   他に全般にわたっての御意見等はございますか。よろしいですか。   それでは,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   分科会についての報告をさせていただきます。本日の審議において,幾つかの論点について分科会で補充的に審議することとされましたが,本日,分科会で検討することとなりました論点につきましては,第1分科会での御検討をお願いしたいと思います。中田分科会長を始め,関係の委員,幹事の皆様には大変御負担をお掛けしますけれども,よろしくお願いいたします。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回の会議は来週4月3日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省地下1階大会議室です。次回は予備日に会議を開催することにしたものです。次回の議題は,部会長からありましたように本日の積み残し部分です。本日,机上配布いたしました部会資料38につきましては,正規の部会開催日である次々回,4月17日に御審議いただくことを予定しておりますので,次回は本日の積み残しである部会資料36の保証債務の部分,そして,部会資料37の債権譲渡,有価証券が審議の対象ということになります。   それから,開催済みの分科会についての結果の報告でございますが,机上に第2分科会第2回会議の開催について(報告)というペーパーを配っております。第2分科会の第2回会議がこのペーパーに記載のとおりの日時,場所,出席者,議題で執り行われております。このペーパー記載のとおりに御報告をいたします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   なお,岡本雅弘委員におかれましては,今回でこの部会への出席が最後になるとお伺いしておりますので,この場で御紹介をさせていただきます。何か一言ございますか。 ○岡本委員 一昨年5月から約2年近くにわたりまして参加させていただきまして,誠にありがとうございました。率直な印象といたしましては,大変勉強させていただいたなと思っております。全銀協のほうで業務委員長行というのが交代するのに伴いまして,再び,三井住友銀行の三上部長にお願いするという予定になっておりまして,今後も引き続きよろしくお願いいたします。なかなか理解が足りなくて議論をかき乱したところがあるのではないかと恐れますけれども,今後とも,是非,より良い民法に向けて活発な議論を期待したいと思います。誠にありがとうございました。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   では,以上をもちまして,本日の審議を終了させていただきます。本日も熱心な御議論を賜りまして誠にありがとうございました。 -了-