法制審議会民法(債権関係)部会 第45回会議 議事録 第1 日 時  平成24年4月17日(火)自 午後1時00分                      至 午後6時13分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正にについて 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第45回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。      (関係官の自己紹介等につき省略)     では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○筒井幹事 本日の会議用の新たな部会資料の配布はございません。積み残し分を審議していただく関係で,部会資料37と38を使わせていただきます。これらの資料の内容は後ほど関係官の松尾から説明いたします。   このほか,委員等提供資料がございます。まず,日本司法書士会連合会から「実務の視点からの債権譲渡における第三者対抗要件に関する留意点の提示」と題する書面が提出されております。また,法務省民事局商事課長の河合関係官から,債権譲渡登記制度を紹介する資料を提供していただいておりますので,それぞれ配布させていただきました。 ○鎌田部会長 よろしくお願いします。   本日は,部会資料37及び部会資料38について御審議いただく予定にいたしております。具体的な進め方といたしましては,休憩前までに部会資料37の「第1 債権譲渡」,「2 対抗要件制度」の「(3)債務者の行為準則の整備」までについて御審議いただき,午後3時半ころをめどに適宜休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料37の残りの部分及び部会資料38について御審議いただきたいと考えておりますので,よろしく御協力のほどをお願いいたします。   それでは,まず,部会資料37の「第1 債権譲渡」,「1 譲渡禁止特約」のうち,「(1)譲渡禁止特約の第三者への対抗の可否」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 「1 譲渡禁止特約」の「(1)譲渡禁止特約の第三者への対抗の可否」では,譲渡禁止特約を悪意又は重過失の第三者に対抗することができるとする民法466条第2項を見直すという考え方を取り上げております。これはヒアリングやパブリック・コメントの結果を踏まえて,論点として新たに取り上げることとしたものです。   ここでは,譲渡禁止特約は専ら譲渡人と債務者との間で効力を有するにとどまり,第三者に対抗することができないとする甲案,譲渡禁止特約は原則として悪意又は重過失の第三者に対抗することができるものとするが,一定の類型の債権については,譲渡禁止特約を譲受人に対抗することができない旨の規定を設けるという乙案,譲渡禁止特約は悪意又は重過失の第三者に対して対抗することができる旨の規定を設けるという丙案を提案しております。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○大島委員 経済の更なる発展を目指すために,債権の流動化について検討を継続することは必要だと考えています。しかし,有事の場合,例えば譲渡人が倒産の危機に瀕しているような場合は,債権が二重どころか,三重,四重に譲渡され,複数の債権譲渡通知が一斉に債務者の下に届くという事例も多くあると伺っております。債務者は平時の場合は債権譲渡禁止特約があっても,債権譲渡を承諾することが多いのですが,有事の場合には債権譲渡禁止特約があるため,債権者は不確知として供託をするというのが中小企業の実務の実情であるということでございます。したがいまして,このような場合にスムーズに供託ができるよう,債務者保護に配慮しながら譲渡禁止特約の効力の枠組みを検討すべきものと考えております。今回の部会資料では,乙案のような新たな提案もなされてはいますが,譲渡禁止特約の枠組みについては債務者保護に配慮しながら,引き続き検討をしていくことが必要であると考えております。 ○佐藤関係官 御提案の趣旨は,資料にも書いておりますように,趣旨の一つなんでしょうけれども,中小企業などの資金調達の円滑化に資するということがあろうかと思います。私ども, 意見を各方面に聞いてみたんですが,甲案のような立場を採る場合,譲渡禁止特約を対抗できないということにしますと,金融実務上,いろいろな問題があると思われます。具体的には, 預金債務ですとか,あるいは劣後受益権やデリバティブ取引における保証金のようなものなどがあり,金融スキームを組成する上で必要なデリバティブの保証金がほかに譲渡されてしまいますと,いざというときに相殺ができないという, いろいろな支障が生ずることが指摘されております。したがって,甲案のように一律に対抗できないということは問題があるのかなと考えており, 基本的に乙案か,丙案が適当かと考えております。   乙案につきまして,例えばこういうことを規定しますと,債権を担保取得した場合に回収可能性が高まるという上で,融資実務上は一定程度,有用であるという意見がございます。また,資産流動化の局面におきまして,譲渡禁止特約の解除の交渉がなかなかうまくいかず難航して,流動化の妨げとなるという場合もあって,この規律が有用であるという意見もございます。特にこのような有用性は,譲渡対象たる債権の債権者と債務者,この間で契約書自体を作成していない,したがって,譲渡禁止特約の有無が明確でない場合や,作成していたとしても契約書がないと申告されたような場合,特に認められると考えております。   他方で,これらの場合を除きますと,金融機関にとって譲渡対象となる債権の発生原因となる債権者と債務者との間の契約違反を生ぜしめるような債権譲渡を受けることは,現実的にはなかなか考え難いという意見もございます。また,金銭債権の譲受人としては二重譲渡のリスクを回避したり,あるいは抗弁の切断のため債務者の異議なき承諾を得るためには,結局は債務者に接触する必要があるのではないかと。そうしますと,実務的負担は異ならないのではないかという意見もございます。したがいまして,繰り返しになりますが,乙案のような規律によって融資実務や資産流動化実務が拡大されるとは,必ずしも言い切れないように考えられますが,先ほど申しました特約の存在が不明確なような場合には,一定の有用性が認められると,総論的にはそのような考え方を持っております。   他方で,乙案で一定類型の債権ということを考えるときに,金銭債権にはいろいろなものがありますので,線引きが難しいのかなという意見が多数出ております。同じような種類の債権でも,見方によってはいろいろな性格を持ち得ますので明確にこの規律ができるのか,その辺りは実務に大きな影響が生じないように慎重な検討が必要ではないかと,このように考えております。 ○佐成委員 譲渡禁止特約の第三者に対する対抗の可否ということにつきましては,経済界の中では現状の実務を尊重していただきたいという意見が大勢かと思います。甲案あるいは乙案を採りますと今の安定的な実務の運用がかなり混乱するのではないかという趣旨の意見でございます。ここで一番保護されなくてはいけないと考えられるのは,債務者の債権者を固定したいという利益でございます。確かに債権を流動化させたいというニーズが一応想定はされるのですけれども,それよりも実務では債務者が債権者を固定したいという利益のほうを相当重要であると受け止めておりまして,しかも非常に影響を及ぼす範囲も広いので,是非,ここは維持していただきたいと考えております。具体的に提案されております甲,乙,丙で言いますと,基本的には丙案が一番実務的には受け入れやすいということでございます。ここにブラケットで[又は重過失]となっているところも,現在の判例を踏まえてブラケットを外した形でやっていただければ,一番有り難いということでございます。 ○中井委員 弁護士会の意見を申し上げておきます。部会資料に対して意見を寄せた弁護会はほぼ丙案でした。その実質的理由は,佐成委員がおっしゃられた意見と同じだと思います。また,余り理屈になるのかどうかはともかくですが,債権というのは,債権者と債務者との間の合意によって成立したものですから,当事者間で譲渡しないという合意そのものは有効ではないか。そのような合意をした債権者が譲渡人となって,それを知った悪意の譲受人との間での合意を優先的に認めるという甲案の考え方は,結果的には債権者と債務者との債権的合意を積極的に侵害することを認めることになる,そのこと自体,ある意味で私的自治を超えるのはなぜかという点で,不当ではないかという意見があるように思われます。   また,譲渡禁止特約を付してから発生する債権というのは,譲渡禁止のある債権として発生していると理解するのが素直ではないか。それを法律があえて当事者間の合意を超えて譲渡を可能にするというのは,その合意が公序良俗に反する場合であればともかく,これまで言われているように,それなりに譲渡禁止にすることに理由があるわけですから,それを超えて公序良俗に反して無効というのに近い考え方を採ることについて,やはり適当ではないという考えが背景にあるのかと思います。   ただ,有力な弁護士会から,丙案を原則としながらも,現在,中小企業等の資金調達のニーズがあるという事実を直視することによって,例外を設けることについて検討することが提案されています。それは資料の外国の例なども参考にしたものですが,乙案のような規定の仕方というよりは,更に限定した形で,対象を金銭債権に限る,譲受人の属性を限定する,例えば金融機関等で,次に目的も資金調達に限る,このように譲受人,資金調達の目的等を限定をして,そのような債権譲渡については,第三者に譲渡禁止特約は対抗することができないという考え方をとることができないかという提案がありました。 ○岡委員 弁護士会の意見は,中井さんの言ったとおりでございまして,広く第三者効を制限することには反対であるが,一定の狭い局面でそれを無効にする,そういう場合はあってもいいのではないかというのが先ほどの一つの弁護士会の意見でございます。無効にする局面の一番目として,電子記録債権があります。電子記録債権については譲渡禁止特約はそもそも無効と,結んでも効力はないとしていけば,電子記録債権での流通は保護されるのではないかと考えました。   もう一つは,力の強い第三者債務者の優越的地位の濫用の局面があります。債権者が合意を押し付けられて,やむなく応じて,資金調達できずに困っている局面が確かにあります。これを救いたいということであれば,約款理論で押し付けられた弱い人が,正当な理由もないのに押し付けられた禁止特約なので約款理論で無効にすると,そういう考え方で救うほうが筋ではないかと思います。民法理論で広く金銭債権については無効という大風呂敷を広げると,やはり,相当不安があると思います。   三番目に,最後ですが,禁止特約は有効だけれども,譲受人には対抗できないというだけであれば,債務者は譲渡人に対して債務不履行責任を追及できることになるはずでございますので,そこで違約罰とか,それなりの金額を決められると思います。そのペナルティがあれば,禁止特約の効力を民法で弱めても,結局は譲渡人は譲渡できないのではないか。そういう考え方もできますので,電子記録債権とか,狭い局面に絞って,禁止特約そのものが無効だと決めたほうが資金調達にも資するのではないか,そう思いました。 ○三上委員 先ほど佐藤関係官がおっしゃられたとおりなのですが,金融機関の立場からしますと,預金債権が一括して対象から外れるか否かという論点と債権譲渡場面における,なかんずく,将来債権譲渡場面における相殺が対抗できる範囲いかんによって,かなりこの部分の結論は変わってきますが,その部分が確定していないという前提で考えると,基本的には丙案というのが今のところの意見です。   それから,今のこの提案ですと最後に岡委員がおっしゃったように,前提として債権譲渡特約を付すこと自体を禁止するという提案ではございませんので,資金調達の場面では,たとえ第三者に対する対抗力がなくても,当事者間の契約に反して資金調達に債権禁止譲渡を使うということは,実務としては行わないのではないかという意見が多いことを考えますと,譲渡禁止特約の効力を弱めたところで,保全固めの場面はともかく,資金調達の場面では,余り改善が見られないのではないかという意見もあったことをお伝えしておきたいと思います。 ○中原関係官 産業政策的な観点というと少し大げさかもしれませんが,中小企業をはじめとした企業の資金調達を充実させるという観点からは,これまでのような物的担保といった方法のみに頼るのはかなり限界があるというのは,皆様,御高承のとおりであり,そうした中,企業のゴーイングコンサーンを捉えて,資金調達を確保していくんだというような流れがある中で,それに近いものとして,将来債権とか,あるいは動産といったものが着目され,法務省の御尽力でこれまで動産債権譲渡に係る登記制度の整備がなされてきたところだと思います。   したがって,今回の議論に当たりましても,そうしたこれまでの制度整備の背景にある流れを踏まえていただくと非常に有益なのではないかと思います。先ほどから,現在の実務の観点からの指摘,例えば債務者にとっての弁済の相手方を固定するという利益を確保する必要があるといった趣旨の指摘もありましたけれども,今回の事務局の提案の中では,そうした点にも配慮した制度の整備が考えられていますので,そうした点と,それから,一定の類型の債権というものをどのようにうまく作り込めるかといった点とを含めてトータルで判断すべきではないかと思います。したがいまして,私は,乙案を基調としつつ全体をどう作り込めるかという観点から,検討を継続していただくのがよろしいのではないかと考えております。   特に,乙案というのは一定の類型の債権についてということで,債権の発生原因に着目して,その例外を作るというお話だったのですけれども,それとは別に,債権の譲渡の態様に着目してその例外を作るという考え方もあってよいのではないかと考えております。すなわち,例えば担保目的の譲渡といったようなものについては,そもそも,こうしたいわゆる準物権的効果-物権的効果というと後のほうでいけないのかもしれませんが-そうした第三者に対抗することができるんだという効果のある規定の射程外とすると,事務局に配布していただいた諸外国の資料でUCCの資料などを見ると,それに近い制度が整備されているようにも拝読したのですけれども,そうした考え方も含めて検討を継続していただくのがよろしいのではないかと思います。   仮に,そうした担保目的の譲渡は,準物権的な効果を及ぼす規定の射程外とするというルール整備をしますと,債権者・債務者間の最初の契約の段階で,禁止特約を作るというインセンティブが失われ,トータルで資金調達に資するという効果が生まれてくるのではないかと思います。当事者のインセンティブに着目すれば,どっちにしろ,禁止特約を結ぶだろうというようなことには,必ずしもならないのではないかなとも考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○佐成委員 先ほど岡委員が御指摘された電子記録債権についてですけれども,元々,電子記録債権法が成立したときも,やはり中小企業等を含めて広く債権の流動性を高めたいというニーズに応えるという趣旨で立法化されております。そういう意味では,そもそもここで現在の譲渡禁止特約に関わる問題として提起されているのは,正に,そちらの立法で,ある程度集中的に,解決することが期待されていたということでございます。そちらの進捗が今,どうなっているのか,私は存じ上げておりませんが,ここでこの面を議論するなという趣旨ではございませんけれども,そういった債権の流動化ニーズに正に応えようとして,わざわざ制定された特別法が現にあるものですから,そちらのほうの可能性のほうを追求したほうが,むしろよろしいのではないかなという意見でございます。 ○深山幹事 これまでの議論とやや重複しますが,甲案的な提案の背景に,債権の流動化ないし資金調達のために用いるというニーズがあるということは共通の認識だと思いますが,果たして,そのようなニーズが民法の原則的な規定の在り方にどこまで修正を加えるべきものなのかということを,ずっと考えております。現行法では原則として債権譲渡は自由という規定があって,特約がある場合にはそれに一定の効果を認めているという規律ですが,実務の中では譲渡禁止特約が付けられているがために流動化に使えない場面が多いとの指摘があります。しかし,現行法の下でも特約を付けないのも自由ですし,付けても,それを外すのも自由という規律の中で金融実務は運用されているということを考えると,果たして甲案のような提案を採用することによって,それがどこまでどう変わるのかなという気がいたします。   所詮,デフォルトルールであるということを考えますと,先ほども御意見があったように,当事者間の合意の中で,譲渡禁止特約に違反した場合には一定の違約金を支払わせるような規定を設けることによって,当事者間での拘束力を強めることも可能ですし,そういうことを考えると,果たして法改正をすることによって,ニーズに応える場面というのがどれほど増えるのかなという気がいたします。徹底をするんだったら,当事者間でも禁止をしてはいかんというような規定を設ければ,これはこれで意味があるのかもしれませんけれども,当事者間の効力を認めることを前提に,第三者効だけを制限しても,そこにはおのずと限界があるのではないかと思います。   先ほど一つの弁護士会の意見として,譲受人を限定することを前提に,乙案的なルールを入れてはどうかという考え方が紹介されましたけれども,それは一定の実務ニーズに応えることを模索しようという議論なんですが,それは民法の中でやるべきなのかなということを私自身は疑問に思っています。例えば金融機関やそれに準ずるような主体が譲受人になる場合に限定としようというのであれば,それは民法の外でやるべき話なのではないかなと思います。債権のほうを絞るということも同じですけれども,そういう一定の種類の債権,しかも,それが一定の属性のある譲受人に譲られるときだけのルールだとすれば,それはやはり特別法でやるべきなのではないかという気がいたしております。ということで,結論としては現行法を維持するのが相当ではないかと考える次第です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○松尾関係官 先ほど中原関係官から大変有益な御提案を頂きましたので,その内容を確認させていただけますでしょうか。中原関係官の御意見は,乙案のような考え方を基調として,例えば担保目的の債権譲渡については,第三者に対抗することを認めないという考え方を採ってはどうかという御提案であると理解いたしました。その具体的な内容は,担保権実行の時点までは弁済の相手方は債権者に固定されるが,担保権の実行時に譲渡禁止特約を第三者に対抗することができなくなり,担保権者である譲受人が直接債務者に請求することができるという御提案であると理解してよろしいでしょうか。 ○中原関係官 おっしゃるとおりです。 ○松尾関係官 ありがとうございます。先ほど来,譲渡禁止特約の効力を制限することについて御懸念を頂いていましたが,中原関係官の御提案は,相当程度対応できているような考え方であるようにも感じました。しかし,譲渡禁止特約の効力を制限することについて懸念されている方々から,この考え方についても何か支障がありそうだということがあれば,今,御指摘を頂けると今後の作業にとって,大変有り難いと考えておりますので,よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 中原関係官,何かありますか。 ○中原関係官 私に対する御質問でしょうか。私は,申し上げた形で制度の作り込みをすれば,必ずしも支障はないのではないかなと思ったということでございますので,その方向で検討を継続していただくのがよいのではないかなと考え,提案をさせていただいたところでございます。 ○内田委員 比較法的なことも中原関係官から出ましたので,少し補足しておきます。UCCの例を挙げられたのですけれども,UCCの第9編は一般的には担保に関する規律なのですが,債権譲渡に関しては担保目的であるか,純粋の譲渡であるかの区別は極めて困難であるということで,純粋の譲渡も含めた規律を置いています。ですから,アメリカの場合は,債権に関しては担保目的という形では限定していないというのが私の理解です。   それから,ついでに発言をさせていただきますが,中井委員から債権譲渡禁止特約の効力を否定するというのは,私的自治の侵害ではないかという非常に理論的な御発言もありました。比較法的には後のほうの資料にも出ておりますけれども,ドイツもフランスも,商法典においてですけれども,相当な範囲で禁止特約の効力を否定しています。アメリカはもっと広く否定している。ということで,私的自治という大上段な原理原則を持ち出さずに,諸外国では実務的な需要に応じて制度を設計しているのではないかと思います。あえて理論的なことを言えば,債権というのはそれ自体として財産権ですので,合意によって財産権の譲渡性を奪い,第三者に対してまで対抗できるということ自体が異例だという議論も可能だと思います。ただ,この点について余り水掛け論をしても意味がありませんので,外国では実務的な需要に応じて制度設計がなされていることを指摘させていただき,私はそれでよいのではないかという考えを持っていることを申し上げておきたいと思います。   そのような観点から,佐藤関係官の御発言に対して御質問させていただきたいのですが,甲案のような考え方を採ると,実務上,いろいろ問題があるという御指摘があり,その中で預金債権などの例にも触れられました。甲案と乙案はやや相対的な面があって,甲案を採っても,そこから一定のものを除外するということはあり得るかとは思うのですが,そうなると乙案と変わらないかもしれません。もう一つは相殺のことを言われました。これは中原関係官からも少し御紹介がありましたが,後のほうで相殺をかなり広く認めるという選択肢も検討の対象になっておりまして,仮にそうやってかなり広く相殺の可能性が認められたとしても,なお,実務上,問題があるのかどうか,乙案については基本的にはサポートされたかと思いますが,甲案について,そういう実務上の問題があるのかどうかということをお尋ねしたいと思います。   それから,もう一つ,譲渡禁止特約という合意をしておきながら,その合意に違反して契約違反を犯してまで譲渡し,資金調達するということ自体がやはり難しいのではないかという御指摘が佐藤関係官からもありましたし,ほかの委員,幹事の方々からも御発言があったかと思います。ただ,もし,譲渡を禁止するという特約を当事者が置いた場合には,その効力はこうであると法律で定めてしまえば,譲渡自体はもはや契約違反ということにはならないのではないかと思います。これは特にコンプライアンスとの関係で,譲渡禁止特約に違反する譲渡というのが問題を生ずるので,実際上,行われないのではないかという御指摘も実務家から頂いているのですけれども,特約の効力を法律が法定するという形になりますので,そこはクリアできるのではないかという感じを持っております。その点についても御意見を頂ければと思います。 ○佐藤関係官 まず相殺について申し上げます。確かに相殺について手当てをすればいいのかというところはありますが,悉皆的にどういう債権が世の中に存在しており,どういう場面で問題が生ずるのか,全て把握できているわけではないんですが,幾つか典型的な例を申し上げますと,先ほど申しましたデリバティブ取引における保証金というもの,これは非常に多数のものが, 特に取引所の取引などで発生しており,機械的に決済機関に保証金を出させ,もしデフォルトが起こったならば,その保証金と取引による債務を相殺するという手当てがなされております。そのため,譲渡禁止特約を付して,機械的な処理ができるようにしておるわけですが,相殺のところで手当てを行った上でも,世の中の実務が回るのかなという素朴な疑問,懸念を持っているということでございます。   もう一つ,金融実務におきまして, シンジケートローンのようなものを仕組むとき,信託スキームを仕組むようなときに,例えば劣後受益権というものを作ることがございます。その劣後受益権はそのスキームを作ったオリジネーターが最後まで保有し,最後までオリジネーターが回収努力を行うというところに意味があるのですが,オリジネーターがもし劣後受益権を誰か別の人に譲渡しますと,スキームに参加した人たちは,オリジネーターが最後まで回収するであろうことを期待して参加したにもかかわらず,回収がうまくいかない結果になってしまうということもあるということでございます。それ以外にもいろいろな問題が生ずるかもしれないのですが,全く把握できていないところで,慎重な検討が必要であろうと考えているところでございます。   もう一つ,内田委員の御質問の二点目のコンプライアンスという問題でございます。私が先ほど申し上げたのは,コンプライアンスの問題というよりは債権譲渡の手法を用いて資金調達がうまくいくかを考えたときに,債権者・債務者間で譲渡禁止特約が付いていたにもかかわらず,債権者がそれを譲渡してしまったとすると,債権者と債務者の間では,何がしか,責任関係が生じますので,そういった責任関係が生ずるにもかかわらず,債権譲渡をさせることによって,融資がうまく進むかというと,そこは期待し難い面が多々あるのではないかなということであります。したがって,コンプライアンスの問題というよりは,債権者・債務者間でいろいろな責任関係が生ずるようなところで果たして債権の流動化,それによる資金調達というのが円滑にいくのかなという,そういった懸念でございます。 ○三上委員 もう何点か申し上げますと,将来債権に関する相殺が広範囲に認められるということは,それを担保に取って資金を提供する側からすると,現状であれば譲渡禁止特約の撤廃ないし承諾をもらっておいた場合に比べて相殺で対抗される場面が増える,つまり,担保としての価値が低くなるという問題点も出てくるかと思います。   それから,金融債権に関しましては先ほど佐藤関係官がおっしゃったほかに,例えば通貨のスワップのような交換取引で相互に発生するものは,これは恐らく密接に関係するので相殺の抗弁の拡張対象になるとは思うんですが,通貨の選択いかんによっては,時差の関係で銀行の通貨のほうが先履行の場合が起こり得ます。その場合に,今の判例理論である相殺の意思表示説を採ると,先履行の債務だけ譲受人から逆相殺をされて,片側の,銀行の債権だけ残るとか,細かな論点も出てくるのではないかと考えております。こういう点も含めて,にわかに結論を出すのは難しいのではないかという気はしております。 ○高須幹事 この問題は,要するに債権の流動化という観点等が重要な問題であるというようなところから考えると,譲渡禁止特約を軽々に従前どおりというわけにはいかないと。これは一つの大きな要請だろうとは思ってはおるんです。ただ,さりながらといいますか,今日,議論が出ましたように,やはり,第三者に対する効力だけを,ここで何らかの制限規定を設けても,当事者間の債務不履行の問題は残ってしまう,この点は大きな問題だと思います。   内田先生から先ほど,それはコンプライアンス違反というようなことで,そういうことをやらなくなるのではないかという御指摘も頂いてはおるんですが,ただ,今回のような立て付けの場合には当事者間の債権譲渡禁止特約自体を無効にするわけでもなければ,問題性があるというわけでもなくて,第三者に対する効力という問題で処理しようということですので,その限りでは,必ずしもコンプライアンス違反にはならないような,まだ,何とも分かりませんけれども,そのような印象を持っているものですから,このような改正がきっかけとなって,譲渡禁止特約というものがこの取引社会からどんどん少なくなっていくとも思いにくいという面がございます。   そういう意味では,債権の流動化という観点に資するというメリットはあるのかなとは思いますけれども,それに伴ういろいろな具合の悪さみたいなものはまだ改善できないのではないか。先ほど深山先生がそこまで言うなら,一層,譲渡禁止特約自体を強行的に無効にするという極論になるんだろうと思いますが,それは幾ら何でも今,そこまで激烈な制度の変更というのは難しいだろうと思います。そういうことを考えますと,やはり,今回の検討の中で甲案なり乙案を採るというのは慎重に考えるべきではないかと。弁護士会は丙案で多いんですというお話と同じことで恐縮でございますけれども,そのように考える次第でございます。 ○中原関係官 私もいろいろ見解を慎重に述べなければいけないと思うのですけれども,先ほどからたとえどんなことをしても,債権者と債務者の間で禁止特約を結んでしまって,債務不履行になってしまうだろうという御指摘がございましたが,先ほど来,議論がありますように弁済者を固定する利益については,一定の法的担保をすることが提案されている訳ですが,その上で,禁止特約に違反して譲渡がされたときに,果たして債務不履行があったとして,損害というのは何なのだろうかという議論が恐らくあり得るように思います。そして,損害というものがそれほど確度あるものとして,立証できるようなものではないよねというような認識ができてくれば,そういう特約を結んでも仕方がないというインセンティブが働くという効果もあるのかなとも思います。 ○高須幹事 今の点の御指摘にはもっともなところがあると実は思っておりまして,損害の中身というものはよく考えねばならないと。ただ,いわゆる違約金という形で損害賠償額の予定のようなものをした場合には,賠償額が比較的高額になるような可能性も出てきてしまうというようなこともありまして,そういう心配をやや感じております。 ○深山幹事 高須先生の御指摘のことと重なるんですが,損害賠償の予定なり,違約金という定め方もあるでしょうし,あるいは,約定解除事由に入れるというようなこともあり得るかなと思います。つまり,譲渡禁止特約に違反して債権譲渡したら,この契約を解除できるというような規定を入れられたら,多分,譲渡できなくなるのではないかと思います。これは今の法律でもそうなんでしょうけれども,いずれにしても先ほど申し上げましたように,流動化のニーズがどれほどあるのかという問題もありますけれども,それにストレートに応えることには,この提案ではならないのではないかと思いますし,本当にそういうことまで考えるのだったら,先ほど言いましたように民法ではなく,しかるべき特別法で検討すべきテーマではないかという気がいたします。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,頂戴しました御意見を踏まえて,更に検討を続けさせていただきます。   続きまして,「(2)譲渡禁止特約の第三者への対抗を認める場合の具体的な制度設計の在り方」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 「(2)譲渡禁止特約の第三者への対抗を認める場合の具体的な制度設計の在り方」で取り上げるアからオまでの各論点は,「(1)譲渡禁止特約の第三者への対抗の可否」において乙案又は丙案を採用し,少なくとも一定の範囲で,譲渡禁止特約を第三者に対抗することができるとする場合に問題となるものです。   「ア 譲受人の主観に関する要件」の第1パラグラフでは,譲渡禁止特約を対抗される第三者の主観に関する要件を問題として取り上げています。悪意又は重過失の第三者とする考え方が甲案,悪意の第三者に限るとする考え方を提案するのが乙案です。第2パラグラフでは,この主観に関する要件の主張・立証責任を債務者に課すことを提案しております。   「イ 譲渡禁止特約付債権の差押え・転付命令による債権の移転」では,譲渡禁止特約付債権については差押債権者が譲渡禁止特約の存在について悪意[又は重過失]である場合でも差し押さえることができ,かつ,転付命令によって移転することができるとする判例法理を明文化することを提案しております。   「ウ 譲渡禁止特約の主張権者」では,譲渡禁止特約の主張権者を債務者に限るという考え方を甲案,債務者のほか,譲渡人以外の第三者も主張することができるという考え方を乙案,規定を設けず,解釈に委ねるという考え方を丙案として提案しております。   「エ 債務者の承諾」は,譲受人が譲渡禁止特約の存在について悪意[又は重過失]であっても,債務者が譲渡を承諾した場合に,譲渡禁止特約を対抗することができない旨の規定を設けることの当否を取り上げるものです。   「オ 将来債権の譲渡後に付された譲渡禁止特約の対抗の可否」は,将来債権の譲渡後に当該債権の発生原因となる契約が締結され,譲渡禁止特約が付された場合における譲渡禁止特約の対抗の可否に関する問題を取り上げるものです。債務者は,将来債権の譲受人に対して譲渡禁止特約を対抗することができないとすることを提案するのが甲案,譲渡禁止特約を付されることが取引慣行上,一般的である場合には譲受人は悪意[又は重過失]とみなされるとすることを提案するのが乙案,債務者は,将来債権の譲受人に対して譲渡禁止特約を対抗することができるとすることを提案するのが丙案,規定を設けず,解釈に委ねることを提案するのが丁案です。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いします。御自由に御発言をお願いいたします。 ○岡委員 まず,譲渡が有効か,無効かで結論が出てくる説もございますので,それとそうではないのを分けて申し上げたいと思います。   アとイは,効力有効説を採ろうが,無効説を採ろうが,余り関係ないところでございまして,アについては甲案,判例どおり,悪意,無重過失でよいと,イの差押え・転付命令についてはそれが有効と,これについても弁護士会の多数は賛成でございます。   ウとエですが,譲渡禁止特約に違反する悪意者に対する債権の譲渡も譲渡当事者間では有効であるという立場,に立つ弁護士会が今回,それなりに出てきております。その立場に立つと,ウについては当然,甲案,譲渡当事者間では有効なので,自分に請求するなと言えるのは債務者だけという甲案がその立場からは出てきております。譲渡当事者間でも効力がないという立場からは乙案,譲渡人以外の差押債権者とか破産管財人も主張できるという意味で乙案あるいは丙案が多くなっております。エの債務者の承諾のところについても,譲渡当事者間で有効だとすれば甲案で問題はないと,譲渡当事者間で無効だという立場を採った場合には判例法理のように,ただし,第三者の権利・利益を害することはできないと,こういう条文が必要になってくると,そういう意見を述べております。   オはちょっとまた別なので,頭を切り替えて後で発言したいと思います。 ○中井委員 弁護士会の意見は,今,岡委員から説明のあったとおりですけれども,(2)のアに関して補充いたしますと,悪意又は重過失の譲受人という甲案に賛成という意見ですが,その重過失について若干意見がありました。資料にもありますが,最近,調査義務を課すことによって重過失というよりは,少し過失が緩やかに認められる傾向にあるのではないか,その点については本当にそれでいいのだろうか,元来,言われている悪意に近い過失を求めるのが筋ではないか,重過失を緩やかに解することについてはいかがなものかという意見でした。立証責任については,現在の理解のとおり,債務者側から主張・立証することでいいのではないかという意見です。 ○道垣内幹事 ちょっと頭の中の整理がついていないのですが,ウの譲渡禁止特約の主張権者のことです。それが相対的な無効なのかどうかというものと関係していると補足説明にも書いてあるのですが,補足説明の3段落目を見ますと,相対的な無効であるということになると,差押債権者が必ずしも無効主張ができるとは限らないと書いてあるように思います。しかるに,エの債務者の承諾のところを見ますと,これは補足説明のところにだけ書かれているわけであって,ゴシックの本文には書かれていないのですけれども,承諾前に差押えがあった場合にどうするのかということも,論点になり得ると書いてあるわけです。そして,その事案において,仮に平成9年判決を是とする立場を採るときは,どうなるのかが分からなくて,ちょっと私の頭が整理されていないだけなのかもしれないのですが。 ○中田委員 ただいまのウの点につきまして,道垣内幹事と問題関心が同じではないかと思いながら伺っていたんですが,ここでの補足説明の書き方は,平成21年の最高裁判決を重視しておられるんですけれども,それによって平成9年の判決が変更されたとまでは,言えないのではなかろうかと思っています。資料の10ページの書き方ですと,結局は平成9年の帰結は妥当ではないという判断が入っているのではないかと思います。ただ,そこは議論があるところでして,平成9年判決のいう,116条の法意に照らして,第三者の権利を害することはできないということについては,それなりの支持があるのではないかと思います。   表現の問題かもしれませんけれども,債務者の誤弁済と書かれているんですが,差押えを知っている債務者が先行する債権譲渡を承諾して弁済したというのを誤弁済と言えるのかどうかもよく分かりません。甲案ですと,債務者は悪意の譲受人に対しては譲渡禁止特約を主張して支払いを拒絶し,差押債権者には第一譲渡を主張して支払いを拒絶し,譲渡人にも譲渡を主張して支払いを拒絶できるということが,理屈の上では可能になってしまいそうにも見えるので,それも余り適当ではないのではないかという気がいたします。 ○畑幹事 実体法の問題ですので,よく分かっていないのですが,差押債権者がどうかということを考える前提として,譲渡人というのはどういう地位に立っているのかということを教えていただけないかという気がしております。つまり,債務者は誰かには払わなければいけないはずではないかと卒然と考えると思うのですが,そうすると,債務者が譲渡を承諾しない以上は,譲渡人が債務者に請求できるということになるのではないかと素人的には考えるわけです。そうすると,それはある意味では譲渡人はやはり譲渡禁止特約のことを主張できると言わざるを得ないような気もするのです。勘違いしているかもしれませんが。 ○鎌田部会長 事務当局から何かありますか。 ○松尾関係官 畑先生の問題意識をもう少し詳しく教えていただけますでしょうか。 ○畑幹事 恐らく勘違いしているのだろうと思うのですが,譲渡禁止特約に違反した譲渡がなされたと。譲り受けた人は悪意か何かで特約を対抗される立場に立つと。その場合に債務者は誰にも払わなくていいということになるのかどうかということなのですが。 ○中井委員 私も教えていただきたいと思うのですが,後に議論される譲渡禁止特約に違反する譲渡人と譲受人との間の債権譲渡契約が有効と解するのか,無効と解するのかという点に関連して,先ほどの岡委員の説明にもありましたように,弁護士会の整理としては,後に議論されるところの有効説と,ここの甲案と親和性があると理解し,譲渡人以外の第三者も譲渡禁止特約を主張することができるという乙案は,無効説に親和性があるという理解を前提にして,最判平成9年6月5日の事例を改めて考えようとしたわけです。   その結果,当事者間では有効と,相対的に考えた場合は最初の譲渡に対する対抗要件の具備と差押えの対抗要件の具備の先後で決まるのではないか。そうすると,その後,承諾をすれば,債務者はその承諾に基づいて第1の譲受人,悪意であっても,その人に払えばいい。承諾をしなければ,畑幹事がおっしゃられた問題で,どうしたらいいのか。結果的には誰かに払うわけですけれども,それは譲渡人に払うことになるのではないか。畑幹事のおっしゃるのは,結果として譲渡人が譲渡禁止特約の効力を積極的に主張しているわけではないけれども,結果としてその効果を享受していることになるが,それでいいのかという問題提起ではなかったかと思います。   当事者間でも無効と解すれば,本来,差押債権者がこの判例に従って優先するはずで,その後に承諾したからといって,その承諾によって差押債権者の利益を害することができないから,無効という立場に立てば,絶対説というんですか,差押債権者が優先することになる。こういう理解をしているのですが,事務局の理解と一致しているのか確認したかったんのですが。 ○松尾関係官 まず,先ほどの畑幹事からの御指摘についてですが,債務者が譲渡人に弁済するのは,譲渡人が譲渡禁止特約を主張しているのではなくて,債務者が譲渡禁止特約の効力を主張しているということではないかと考えておりました。このように考えると,譲渡人が譲渡禁止特約の効力を主張することができないという考え方と矛盾はしないのではないかと考えた次第です。   それを前提として,中井委員から御質問いただいた点についてですが,ウの甲案は,特約違反の債権譲渡の効力を有効とする考え方と親和性があると考えています。そして,特約違反の債権譲渡の効力を有効という考え方を前提とすると,先ほど中井委員が挙げられた事例については,債務者が譲渡を承諾すれば,譲受人に弁済すればよいが,債務者が譲渡を承諾しない場合には,差押債権者に弁済する必要があると整理しておりました。これに対して,乙案は,特約違反の譲渡の効力を無効とする考え方と親和性があるのではないかと考えております。そして,特約違反の譲渡の効力を無効とする考え方を前提とすると,債務者が譲渡を承諾して,譲受人に弁済することはできず,差押債権者に対して弁済しなければならないということになろうかと思います。もっとも,第一読会でも議論がありましたが,特約違反の譲渡の効力をどのように考えるかという点から論理必然に結論を導くのではなく,まずは個別の問題についてどのような結論を採るべきかということを御議論いただいて,その結論について,どのように理論的な整理をするのかという議論をしていただくほうがよいのではないかというのが,今回の部会資料の作り方でございます。 ○道垣内幹事 自分が何を言いたかったのかがだんだん分かってきたのですけれども,譲渡禁止特約があるとき,まず,それに反する譲渡が行われ,その後に譲渡人の下でその債権が差し押さえられたという場合,差押債権者は譲渡禁止特約の効力を主張せざるを得ないのではないかということです。平成21年の判決が平成9年の判決をひっくり返したと考え,かつ,それで妥当であるということであれば,別なのかもしれませんけれども,平成9年の判決というものはそれなりに妥当な判決であろうと思いまして,そうなったときには,ウに関しては乙案にならざるを得ないのではないかなという気がする。それが第一点です。   第二点は,畑幹事のおっしゃっていることを私が誤解しているのかもしれませんが,譲受人が債務者に対して支払請求訴訟を起こしたときに,債務者が譲渡禁止特約の効力を主張して支払いを拒むと,原告敗訴の判決が出る。その後に,譲渡人,つまり元々の債権者が債務者に支払請求したときに,債務者は,元々の債権者に対して,「お前は譲渡したではないか」という主張ができないことになりそうである。これを避けるためには,譲渡人自身が,その譲渡は譲渡禁止だから効力は発生していませんと言うことができなければ困るのではないか。こういうことなのではないかと理解したのですが,そういうことでしょうか。 ○畑幹事 今の後半のほうですが,恐らく前訴が絡む必要はないのですね,問題としては。単純に譲渡人が債務者に請求してきたときに,債務者が,あなたは譲り渡したではないですかと,権利を失ったという抗弁になるのだろうと思うのですが,それに対して譲渡人が,しかし譲渡禁止特約があるので私が請求させていただきますという話にならないのかなという気がしたのでお尋ねした次第です。 ○松尾関係官 念のために御説明いたしますと,今回の資料の整理としては,現状認識として,平成21年判決によって平成9年判決が否定されたと考えているわけではなくて,平成21年判決の考え方を一方の方向に突き進めていくと,平成9年判決を否定し得るとも考えられるのではないかということを言いたかったもので,それを前提にしていただきたいということではありません。   また,畑幹事から御指摘を頂いていた点についての先ほどの私の回答は,適切な回答ではなかったことがよく分かりました。大変失礼いたしました。御指摘に対して,今,直ちにお答えはできないので,検討させていただきたいと思います。 ○道垣内幹事 私は平成9年と平成21年の判決の論理的関係について議論したいと言っているわけではなくて,差押債権者が自らの差押えの有効性を主張するためには,譲渡禁止特約があるということを言わざるを得ない場合というのがあるのではないですかという,それだけの話です。 ○鎌田部会長 その点はまた少し検討させていただくということでいいですか,あるいは。 ○中田委員 その点は御検討いただきたいと思いますが,これまで出ているのは債務者が弁済の相手方を固定する利益について検討しておられるのですが,そのほかに債権者の責任財産に帰属しているということを主張する利益を認めるかどうか,認める場合に誰に認めるかという問題もあるかと思います。この二つの利益の関係をどう考えるかということが課題かと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですね。検討すべき点ははっきりしたと思いますので,そこを少し検討させていただきます。   ほかの点について御意見はいかがでしょうか。 ○佐成委員 経済界の中での議論の状況ですが,(2)のアのところについては,先ほど(1)でも申し上げましたけれども,悪意又は重過失の第三者に特約を対抗できるとする甲案を支持する意見が多かったということと,それから,オについてですけれども,オについては丙案の支持が多かったということです。それから,アについての甲案・乙案の選択という論点以外に,主張立証責任の問題に関してですが,これについては判例法理を明文化するという方向性には多数の支持があったと思います。ただ,特に多種大量の売掛債権者を抱えている業界の方などには,弁済の相手方を固定したいという非常に切実な要請があり,主張立証責任はこの際,逆にしてもらえないかといった意見があったということは御報告させていただきます。しかし,現時点ではまだ少数意見でございましたので,基本的にはまずは現在の判例法理を明確にしていくというところで,実務界のほうはお願いしたいということでございます。 ○三上委員 金融機関に関しましては,先ほども申しました前提が全て付いて回るので,それを除外して現行の理論を前提に考える限りはアに関しては甲案で,佐成委員がおっしゃったことを更に進めて,オの乙案に書いてあるような取引慣行上,譲渡禁止特約が付されることが一般的な場合の推定規定まで入れていただきたい意見もございましたので,付け加えさせていただきます。   それから,オの議論の前提は,将来債権の債務者は自分が負う債務に関して譲渡禁止特約が付されているということを知っている場合も,知らない場合も共通のルールという前提でよろしいのでしょうか。債務者が,取引に入る段階で既に過去にその債権は売られているということを知っている場合も知らない場合も,甲案であれば対抗することができないし,丙案であれば対抗することができるという理解でしょうか。 ○松尾関係官 三上委員の御理解と同じ考えです。 ○三上委員 その前提でいきますと,基本的には丙案ないしは丁案を支持するということになります。 ○道垣内幹事 オの審議に入っているのですね。 ○鎌田部会長 オも御意見をどうぞ。アについては前段は甲案を支持する意見が多いようでございます。後段については若干の異論があるという御紹介はありましたけれども,基本的には判例と同じ内容であるということで,余り御異論はなかったと思います。イについても異論はないと理解させていただきました。ウについては先ほどの議論があり,少し事務当局で検討を続けさせていただくということであります。エについては一部,御意見を頂きましたけれども,オについてはまだ十分に意見が出されていないところでございますので,その辺りについて御意見を頂ければ。 ○岡委員 オについてですが,余り例が浮かばないということで具体的な議論ができなかったんですが,この工場のこの原材料を1年間出荷する売掛代金債権を譲渡すると,そういう将来債権譲渡がなされた場合で,その将来債権譲渡がなされたので,それ以降,1年間の商売に譲渡禁止特約を一切付けられなくなる,付けたとしても無効になるというのはやはり行き過ぎであろうと思います。通常どおり商売をしていて,普通の小売店には譲渡禁止特約なく売れると。ただ,大手商社に売るときは譲渡禁止特約が付いて売るようになる。それが一般的なルールだとすると,それに従って途中から商社に売るようになって,その商社との間では譲渡禁止特約が譲渡後に付いた場合には譲渡禁止特約の効力を認めてしかるべきであると考えます。ただそれをどう論理付けるのかはよく分かりません。通常の商取引であれば特約が付されることが,ある意味公知だったので,譲渡禁止特約が将来,付くであろうことを譲渡の時点で知るべきであった,譲渡の時点で重過失であったから対抗できるんだという論理構成になるのかなと思ってはいますが,よく分かりません。ただ,通常どおり,商売をして,通常どおり,禁止特約が結ばれたのであれば,その禁止特約は認めるべきである,そう思います。 ○高須幹事 今の岡先生の発言を受けてでございますが,弁護士会の中でもここは議論が分かれておるところで,なかなか説明が難しい,この法理が固まっていないというようなところを強調すると,丁案のように規定を設けないというような形にはなるということが幾つかの弁護士会の中でございます。   ただ,そのままにしておいていいのかというと,それはやや危惧があるところで,将来債権の場合には後になって譲渡禁止特約が付いてくるということに対して,何の手当てもできないとなると,非常にそこは大きな制度上の問題点というのが出てくるのではないか。それを今回の改正の中で何も手を打たないということは,いかがなものかという気もしておりまして,先ほど来,説明の仕方がなかなか難しいし,あるいは殊更に付ける場合とそうでない場合の区別をどうやってやるかというようなところも,なかなかいい基準が見付からないわけですけれども,乙案のような一定の類型に関しては悪意,重過失とみなすというような配慮をするという考え方が現実的ではあるのかもしれないとの意見も出ております。それは非常に難しい規定だなということで,多数にはならないわけなんですけれども,乙案というものを支持する考え方も弁護士会の中にはあったという状況でございます。 ○道垣内幹事 私は,殊更に付けた場合には駄目だけれども,という理由がよく分かりません。債務者になる人が殊更に交渉して付けたときのほうが,当該債務者の利益はより保護に値するのではないかという気がいたします。他方で,実務的な要請ないしは感覚として,当該債務者についてずっと譲渡禁止特約が付いているという状況にあったのに,将来債権譲渡があったからといって,突然,外れるのはおかしいのではないかというのはよく分かります。それを合わせると丙案だろうと思いますが。 ○鎌田部会長 丙案というのは,常に対抗できると同時に,譲渡のときには禁止特約がまだないから譲受人は常に善意であるということまでセットになると。 ○深山幹事 私も基本的には道垣内先生と同じような考え方を採っております。将来債権については,この後,本格的な議論の対象になるんでしょうけれども,いろいろな将来債権があり得て,譲渡の時点において,債権の発生原因たる法律関係が全く存在しないようなものから,法律関係が生じていて債権発生の言わば直前の段階であり,内容までかなり固まっているようなものもあって,そう考えていくと,例えば基本契約のようなもので譲渡禁止特約が入っているようなものも,将来債権譲渡の対象になり得るんだと思います。ここのオの提案というのは,譲渡前には特約がない場合を想定しているわけですけれども,結局,個々の事案で譲渡禁止特約がどこで付されたかということが問題になったときに,譲渡前にはなかったんだとすれば,特約のないものとして譲渡された後に付けられなくなるというのはやはりおかしくて,譲渡後に付ければ後は一般の規律に従うことになると思います。   すなわち,先ほど議論したところですけれども,現行法でいえば悪意か重過失かどうかで判断されるという規律に従えばよろしくて,そうなると,当然,時間的に譲渡がなされたときにはまだ特約自体が存在しないので,悪意,重過失ということはあり得ないだろうということで,ここの問題設定になっているんだと思いますが,確かにあり得ないのだとすれば,あり得ないものとして丙案のような規律でよくて,極めて例外的に特約が付くことが当然に想定されるような場面がもしあるのだとしたら,そこで初めて極めて例外的に効力が認められる,なおかつ,そのことを認識し得たというような場合が全くないかといえば,あるのかなという気がしなくもないんですが,通常はない。そうなら,単純に対抗できるという丙案でよろしいのではないかと考えております。 ○三上委員 先ほどの「それならば丙案です」と言った趣旨の付け加えになりますが,債務者が契約関係に入るときに,既にあなたが負う債務は譲渡されていますということが開示されていて,なお,入るのであれば仕方がないという意見はあるかもしれませんが,たとえ開示があったからといって,継続的取引関係にあると決してそう単純な割り切りでは済まされない場面も出てくるということも考えて,丙案か丁案と申し上げた次第です。 ○鎌田部会長 分かりました。それでは,頂戴した意見を踏まえて,更に事務当局で検討を続けさせていただきます。   次に,「(3)譲渡禁止特約の第三者への対抗を認める場合の譲渡禁止特約の効力」について御審議を頂きます。事務当局から説明をお願いします。 ○松尾関係官 「(3)譲渡禁止特約の第三者への対抗を認める場合の譲渡禁止特約の効力」の「ア 譲渡禁止特約に違反する譲渡の効力」では,譲渡禁止特約の効力を悪意[又は重過失]の譲渡人に対抗することができる場合にも,譲渡禁止特約に違反する債権譲渡は有効であるとする考え方を甲案として,譲渡禁止特約を悪意[又は重過失]の譲渡人に対して対抗することができる場合には,譲渡禁止特約に違反する債権譲渡は無効であるとする考え方を乙案として,規定を設けず,解釈に委ねる考え方を丙案として,それぞれ提案しております。ここでは特に「(2)譲渡禁止特約の第三者への対抗を認める場合の具体的な制度設計の在り方」との整合性に御留意いただきながら,御審議をお願いしたいと考えております。   「イ 相対的効力案を採用する場合の譲渡禁止特約の効力の制限」は,アの甲案を採用する場合に譲渡人やその管財人等の債権回収のインセンティブが働かないおそれがあるという問題点への対応として,本文①から③までのうち,全部又は一部の規定を設けることを提案するものです。①は債務者が債務不履行に陥った場合,②は譲渡人について倒産手続開始決定があった場合,③は譲渡人の差押債権者による譲渡禁止特約付債権の差押えに対する強制執行の不許が認められた場合を,債権回収のインセンティブが働かないおそれがある具体的な場合として取り上げております。   以上の各論点のうち,アについては甲案,乙案と「(2)譲渡禁止特約の第三者への対抗を認める場合の具体的な制度設計の在り方」の各論点に関する部会における検討結果との関係等について,イについては具体的な規定の在り方等について,分科会で補充的に検討することが考えられますので,これらの点につき,分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。 ○中井委員 最初に弁護士会の意見を御紹介しますと,かつては乙案的な意見が多かったんですが,第一読会,そして第二読会と進み,この資料に対し回答のあった弁護士会は,甲案を支持する意見が若干ですが,多い状況です。つまり,相対的に考えて当事者間では債権譲渡の効力は有効としていいのではないか。これはやはり中小企業等の資金調達の便宜に対して少しでも役に立つというのでしょうか,その方向性で機能する形にする意見が増えてきたと理解していいのかもしれません。   その上で,次のイの相対的効力案を採用した場合の取扱いについてですけれども,①について賛成するところが二つの単位会で,②,③については基本的に必要ないという考え方です。相対的効力案を採った上で,特段,こういう規定を設けなくてもいいという意見が多かったというのが実情です。  ただ,私の所属する大阪弁護士会は相対的効力案を採ったときに,①の規律を導入するのが適当であると考えています。相対的効力案の問題点として部会資料でも指摘されていますし,前からも指摘しておりましたけれども,やはり,デッドロック問題というのは多少なりとも生じるであろうと思いますので,それを解消する必要性があるのではないかという観点から,何らかの手立てを置いたほうがいいというのが大阪弁護士会有志の意見です。   そのときの置き方は,譲渡禁止特約というのが債務者の利益を専ら保護することにあるとすれば,その限度で効力を認めればいいというのが基本的な考え方で,その債務者が期限が到来して譲渡人若しくは譲受人から催告があったにもかかわらず,弁済しないときにまで債務者の利益を保護しなければならないのかと,不履行に陥っている以上,もはや,そのような利益を保護しなくてもよいという実質的な判断から,①のような事態になったときには譲受人が請求できるという形でいいのではないか。結果的にそうすることによって,一定,譲渡禁止特約の付いた債権の流動化に資するのではないかと考える次第です。   その上で大阪弁護士会の意見ですけれども,①についてまずかぎ括弧の譲受人にも催告を認めるかという点については,譲渡人のみに認めたのでは場合によっては譲渡人から特段の催告がなければデッドロック状態は解消しませんので,譲受人にも認めるのが適当であると考えています。また,その前提として催告を要しなくて,単に不履行になったら直ちに譲受人が履行請求できるという考え方も紹介されていますが,それは行き過ぎであろう。何らかの形で債務者に対して履行の催告をして,それでも怠った場合に,もはや債務者の利益を奪ってもいいということが正当化できるのではないかと考えている次第です。   なお,この部会資料のイのところで,①,②,③とあって,②と③については最後になお書きが付けられています。これが②と③にのみ付けられていて,①について付けられていないのですが,この点,特段,理由があるのでしょうかというのが質問です。大阪弁護士会の意見としては,①についても,②,③の規定を設けた場合のなお書きと同様に,債務者対抗要件が具備した後,①の場合,履行を催告したけれども,履行しないという時点までに生じた抗弁については,譲受人に対抗できるという規定を設けるのが適当であると考えております。大阪弁護士会としては,②,③については規定を設けないという考え方ですけれども,①についてはなお書きに当たる規定を設けるべきであると考えています。   なお,他の弁護士会も含めて相対的効力案に賛成した弁護士会も,②,③について消極的な理由について若干補足しておきますと,破産手続が開始した,倒産手続が開始したという,その事情のみで譲受人が突然に権利行使できるという,その正当化の根拠がよく分からないということです。それからまた,これは実務上,考えられることですけれども,譲渡人について倒産手続が開始する前後というのが債権譲渡通知というのが複数やってきて一番錯綜する場面なわけです。その場面が一番,譲渡禁止特約が活躍するところですので,債務者としては元の譲渡人に,ここでは破産管財人若しくは倒産債務者に支払う,そのことを固定化することに意義があるのではないかと考えています。②を不要とするところから③も不要とする考え方です。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○佐成委員 経済界の中での議論状況ですけれども,アの甲案,乙案については,正直に申し上げて余り突っ込んだ議論はなされておりません。何回も申し上げておりますけれども,基本的には,現状の実務が大きく変わらないのであれば,理論的な問題はそれなりに整合的にやっていただければそれでよいのではないかという雰囲気ではないかと推測しております。ただ,ちょっと見ますと,相対的効力の甲案を採ると,相当程度,規定上の手当てをしなくてはいけないのではないかという点や,仮にある程度,規定を設けるという手当てをしたとしても,果たして利用者から見て本当に分かりやすいものになるのかどうかという点など,その辺りが気になります。とはいえ,経済界の中で甲案,乙案のどちらがいいというようなこだわった意見を述べられる方は,余り聞いておりません。 ○三上委員 銀行界のほうは相対説,絶対説,どちらにもそれほどこだわる意見はなかったんですけれども,少なくともイ②に関しては,破産手続開始決定等の後は譲渡禁止特約を対抗できないという趣旨が,譲渡が有効になって,破産管財人等に対して支払ったら二重払いになり得るという趣旨なのであれば,債権譲渡が過去にあったということを常に記録しておく負担が発生して,多数の預金者を抱えている銀行などにとってはほぼ不可能に近いことを強いられるということで,反対するという意見になります。 ○道垣内幹事 相対的効力ということの意味なのですけれども,先ほどから出ております平成21年の最高裁判決があって,債務者の保護のためであるということが強調されているために,譲渡禁止特約付債権が譲渡された状態を,第三者対抗要件は備えられているけれども,債務者対抗要件が備えられていないというふうな状態のようなイメージで捉えられているような気が全体としてはします。しかし,相対的効力というのを例えば不動産の所有権と登記というふうなものと全く同じに考えて,当事者間では所有権の移転は生じているけれども,対抗要件を具備していない限りにおいては,第三者,これには債務者も含まれますが,そういった第三者に対抗できないというふうなことであると考えますと,相対的効力からの帰結というふうに相対的効力と絶対的効力の帰結の差異と15ページ,16ページにお書きのことが本当にこうなるのだろうかというのが若干,疑問です。   更に言えば,先ほどの三上委員が問題にされたところの破産手続開始決定の場合におきましても,譲渡がされた以上,当事者間では譲渡の効力が発生しているのだから,責任財産から逸失していると考えるというのは一つあり得る考え方でしょうけれども,しかしながら,第三者対抗要件が具備された状態にないと考えますと,イの②の帰結というのも必ずしも必然ではなくなります。相対的効力であるということの帰結は本当にこうなんだろうかというのが若干,気になるところです。   先ほどから経済界とかは理論的にすっきりすれば,どちらでもいいよというようなのが出ているというわけですが,ただ,効力をはっきりしようというのは,様々に出てき得る問題,それは正に15ページ,16ページに記載されている問題がそうなわけですけれども,その解決基準を与えようということですので,それはそれで大変貴重であると思いますが,本当にこうなるのかなというのが気になるところなんですが。 ○内田委員 道垣内幹事に御質問なのですが,相対的効力案というものを対抗要件が具備されていない所有権移転に類するような場面であるとは,この部会資料は考えていないと思います。債権の帰属の移転は完全に生じていて,ただ,債務者にとっての弁済の相手方については,特約の趣旨を考慮して固定するという限りで効力を認める考え方だと思います。道垣内幹事もそういう理解を持っておられるのではないかと思っていたのですが,そうではないですか。 ○道垣内幹事 可能性としては両方があり得るのではないかという気がするのです。私の発言を遡って検討されますと,あるいは違ったことを申しているかもしれませんが,それだけが相対的効力という場合の唯一の理解かというと,それはそうではないのではないかなという気がしますが。 ○内田委員 相対的効力という言葉の意味については,確かにいろいろな理解はあり得るかと思いますが,この案については理解を明確にしておく必要があります。譲渡は完全に有効である,ただ,債務者は弁済の相手方を固定できる,譲渡禁止特約の効力としてそういうルールを作ろうということだと思います。 ○畑幹事 16ページの設例3なのですが,自分ではよく分からないのですが,仮に相対的効力だと考えたとしても,やはり,この図で言うAがBに請求できるという場合があるのではないですかということを先ほどお尋ねしたつもりであります。前提が間違っているのかもしれませんが,AがBに請求できる場合があるのだとすると,Aの一般債権者がそれを差し押さえて取り立てることができないというのは,先ほどの中田委員の言葉で言えば,Aの責任財産から債権を回収するという一般債権者の利益の観点からすると,何か,気持ちが悪いのではないかという気がいたします。 ○鎌田部会長 誤解しているかもしれませんけれども,道垣内幹事のいう相対的効力は,言わば譲渡当事者間では移転しているけれども,それ以外では移転していないような考え方であるのに対して,ここの提案されているのは,債務者以外の全ての者に対する関係で確定的に移転しているから,譲渡人の債権者はもはや差押えができないという,そういう考え方ですね。そういう意味で,特約が専ら債務者保護にしか働かないという意味での相対的なのであって,移転が相対的であるかどうかとは違う考え方を採っている。極端に言えば,銀行預金債権を悪意の人に譲渡してしまっても,譲渡人の債権者はその預金債権は差し押さえられないと,そういうことになる。 ○内田委員 仮に預金を含めればですね。 ○山野目幹事 基本的な考え方の方向といたしまして,(3)のアの論点については,甲案を基調として分科会で補充的に細部を検討していただくことがよいと考えます。理由については,先ほど中井委員がおっしゃったことと重なりますけれども,この論点の局面に関する限りは,債権の譲渡性を比較的高めるという政策的要請を考慮に置いて,論点の検討をすることが許されると考えるからであります。   その上で,仮に甲案を基調とした検討がされるときに,債権譲渡が有効であるとされることの意味は,その本質は先ほど部会長がおっしゃったとおりであると感じますけれども,なお,有効であるとされると,譲受人はどのような手順で,どのような経過を経て債務者に対して履行請求をすることができるのかということについては,なお,細かな検討を要する部分があると感ずる部分もございます。部会資料の15ページ,16ページを拝見しますと,債務者が承諾した上で,という文言が出てきますし,そのようなプロセスがイメージされて論議が進んでいくということもあり得ましょうが,それとは異なるいろいろな在り方も考えられるでありましょうから,そういうことを分科会で検討していただきたいと望むものでございます。   それから,イの論点につきまして今のような方向性を前提としたときに,これも前の中井委員の御発言と結論を等しくいたしますけれども,①の考え方を基調として,やはり,分科会で細かな部分を検討していただくのがよろしいのではないかと考えます。細かな部分と申しますときに,これも中井委員から御指摘がありましたとおり,②と③について置かれているなお書きのような発想は,①についても,なお細部を検討していくときには,この局面における譲受人,譲渡人,債務者のコミュニケーションの在り方を考える際に,ヒントとしてあってよいと考えるものでありますから,そのような観点も含めて検討していただくことを望みたいと考えます。 ○岡委員 現在の判例の立場でいいと考える立場からの意見でございます。まず,最初に譲渡禁止特約は債務者の利益の保護のためであることが多いというのはそう思いますが,全てがそれであり,その利益だけを保護すればいいんだと法律で割り切るところまでいくべきなのか,そうではないのではないかというこだわりというか,割り切れないものがございます。一旦は債権者が譲渡しませんよと,あなたとの信頼関係,あるいはお互いにそうして安心して取引しましょうねと,そういう思いで債権者も特約に判子を押し,スタートした後,心変わりをし,そのことを知っている悪意の人と契約を結ぶわけですが,その悪意の人との契約について債権譲渡の自由の原則だとか,資金調達の自由だとか,そういうことで債権の移転は必ず生じるんだと,そこまで割り切るというのは,やり過ぎではないかという思いでございます。   それから,二番目に,そう当事者間で有効だとしてどんないいことがあるんだと。悪意の人が譲り受けて対抗要件を備えた後に,破産管財人とか差押債権者が来ても,それを跳ね飛ばせると。具体的にはそれがメリットだと思うんですが,そんなことで資金調達がうまくいくのか。今の判例法理を変えるほどまでの大きな利益なのかという実益の点で,疑問を感じるところもございます。そういうところから,本当に資金調達の自由を,資金調達の枠を広げたいのであれば,最初に言った電子記録債権であるとか,約款理論で保護するとか,何か,そっちのほうで進めていくべきであって,民法の理論そのもので譲渡禁止特約の悪意者に対する譲渡も,債権が当然に完全に移転するんだと割り切るほどのことには,非常に抵抗及び何か想定外の普通の取引を阻害することがあるのではないか,そう思います。現行法の立場でそれを変えるほどの理論的な理由も,実際的な理由も今のところはないのではないかと,そういう意見でございます。 ○鎌田部会長 (3)のアについては,甲案には踏み切れないということになると思うんですけれども,乙案又は丙案のどちらかとか,何か,そういう点などの御意見はございますか。 ○岡委員 お前が作れと言われたら,とても作る能力はないので,そうなると丙案になるのかもしれませんが,最近,弁護士会で乙案的丙案という言葉が流行っておるんですが,今でいえば乙案的丙案の立場でございます。 ○潮見幹事 最終的には分科会に来るのでしょうから,分科会でやるべきだと思いますし,山野目幹事がおっしゃったとおりだと思うんですが,今回の部会資料の整理の仕方について,ちょっとだけ違和感も覚えたところがありますので,それを少しだけお話しさせていただきたいと思います。従来,この問題というのは先ほどから絶対的効力だ,相対的効力だという話が出ていましたが,どっちかといったら物権的効力,物権的効果説と,それから,債権的効果説という形で議論がされてきたところだと思います。資料の中にも書かれていますように,物権的効果説・効力説という立場を採ったとしても,実際にはそれは貫徹していないというか,ある意味では柔軟化しているという部分がありますし,債権的効力説あるいは債権的効果説という考え方を採る人たちも,必ずしもそれを常に貫徹しているというわけではないと,そういう意味では,いろいろな利益を比較しながら,あるいはいろいろな場面を考えながら,そこもまた柔軟化しているというところがあったと思います。   今回,甲案,乙案という形で整理をするというのは,それ自体は私はいいと思うのですが,ただ,説明の中をずっと読んでいきますと,特に典型的なのは17ページの部会資料の整理の仕方なんですけれども,下の4分の1の辺りのところですけれども,第1案を採ったら譲渡禁止特約は専ら債務者の利益を保護するものであり,第三者の利益を保護するものではないという,こういう理解を前提としていると。それから,第2案を採ったら,譲渡禁止特約は債務者の利益のみならず,債務者以外の者の利益をも保護するものであり,その結果として,債務者の利益保護が交代することがあってもやむを得ないという理解を前提としているということでまとめられていて,これを余り強調しますと,例えば債権的効力というような観点を採った場合にも,しかし,第三者の利益というものを保護していく必要があるのではないかという場面が完全にそげ落ちてしまうと,逆にもう一つの案を採った場合に,そうしたら,これまた,貫徹していいのかといったら,貫徹することがいかに難しいかということは,この間の判例法理が正に示しているところがあろうと思います。   そういう意味では,先ほど冒頭に申し上げましたように,分科会のマターなのでしょうけれども,その中で,どのような局面でどうかというところを見極めた上で,甲案をベースとして,それに何らかの形で他者の利益保護という観点を組み込んでいくか,だから,乙案をベースにした場合には,いかに物権的効力みたいなものを制約するかと,そうすることによって,また,保護されない他者の利益を保護するかというところを考えていくような形で議論をしていくべきではなかろうかと思います。そういうことを考えていくと,今の段階では丙案ということにはいかずに,どちらかの方向で考えて,どっちがうまくいくのかということで処理をしたらいいのかなと思った次第です。 ○中井委員 分科会で検討していただくに当たって,私も確認したいと思います。15ページから16ページに設例1から設例3,次のページに設例4があります。仮にここで甲案を採った場合の帰結が書かれているわけですけれども,可能性としての質問ですが,設例1で言うならば,Cに対して第1譲渡があり,Dに対して第2譲渡がある。それぞれ第三者対抗要件を備えているようですので,仮に譲渡禁止特約がないとすれば,つまり,有効説に近似した形ですけれども,当然のことながら,先に対抗要件を具備したCが優先する,Dにいくことはない。そうだとすると,債務者は自ら承諾をしてCに払うか,そうでなければ,A,譲渡人に払うというのが筋ではないのか。なぜ,Dに対して払うことがあるのか。つまり,対抗要件に後れたDに対して払うのがよく理解できないところです。今までの議論でもそうだったように記憶はしているのですが,Aに払うという考え方がないのか。   同じように設例2についても悪意のC,悪意のDに対して二重譲渡がされたとすれば,対抗要件を先に取得したものに本来払うべきで,しかし,その者が悪意だという場合に,承諾した上で払うか,それともAに払うか。先ほど畑幹事からも御質問がありました設例3で言うならば,Cに対する譲渡とDによる差押えの対抗要件の具備の先後で決まる,悪意のCに対して承諾した上で払うか,Aに払うか。こういう選択肢がそれぞれあるのではないかと思うものですから,併せて御検討いただければと思います。 ○松尾関係官 今,中井委員から御指摘を頂いた点については,15ページの補足説明の2の5行目以降を御覧いただきたいのですが,各設例の①では共通してBがCに対する債権譲渡を承諾し,Cに対して弁済した場合にBが免責されるかという点について検討しているので,Aに対する弁済については特に触れていないということでございます。 ○中井委員 問題設定に誤解があるなら大変失礼いたしました。 ○山本(和)幹事 時間がないところで細かいことで恐縮なんですが,24ページの補足説明の6で書かれているところです。破産手続開始決定等がされた後に譲渡禁止特約付債権が譲渡されたというシチュエーションで,譲渡禁止特約を対抗できないと考えるべきではないかと。これは私が発言した記憶があるんですが,ただ,ここではそれは破産手続開始後の資金調達に資するという意見があったけれども,それは政策的な課題で倒産法上の問題として考えるべきだと。このことはそのとおりだと思うんですけれども,ただ,私はもう少し理論的な問題がここにあるような気がしています。それは先のところで認められた,譲渡禁止特約はあっても差押え・転付命令が可能だという規律との整合性という問題です。   倒産手続開始決定というのは,言うまでもなく包括的差押えと言われるものですので,基本的には個別差押えとパラレルに考えるべきものではないかと思います。かつ転付命令も可能だということなので,それとパラレルに考えれば手続開始決定があった後,破産手続の中で債権が譲渡されるというのは,一種の転付命令あるいは譲渡命令とパラレルなものであるように思いますので,そうであるとすれば差押え・転付ができるのであれば,破産手続開始決定後に譲渡禁止特約があっても譲渡することができるということに,何となく論理的にもなりそうな感じがするものでありますから,必ずしも政策的な課題というだけのことではないような気がしております。ただ,もちろん,民法にそこまで書くのかというのはまた別の問題だと思いますので,明文で書くかどうかということはあれですけれども,基本的にはそういうことになるのではないかという感想を持っているということだけ申し上げておきます。 ○鎌田部会長 その点は,補足説明の記述を更に検討させていただくということにしたいと思います。 ○岡委員 二つ,発言というか,質問がございます。   まず,転付命令で債権の譲渡を受けた人が更に譲渡するときに,やはり譲渡禁止特約は生きているのかどうか,それについてどう考えるべきか,転付命令で特約は吹っ飛んでしまって,きれいな債権になっていくのか,特約は残っているので,転付命令は特約を無視して効力は生ずるけれども,転付命令で取得した人が譲渡するときはまた禁止特約が生きている,そう考えるのかどうかというのがよく分からないねという議論を弁護士会で一つしていました。   もう一つは,それとの関係で破産管財人が譲渡する行為というのは転付命令と見るのか,転付命令で取得した人の任意譲渡と見るのか,どっちなんだろうねという議論をしておりました。私としては包括差押えの執行機関による譲渡なので転付命令と同じように見て,管財人の譲渡には禁止特約が及ばないというのでいいのかなとは思っておるんですが,両説がございました。 ○鎌田部会長 この点について,山本和彦幹事又は畑幹事,何か。 ○畑幹事 前者の点はちょっと分かりませんが,後者の点については先ほどの山本和彦幹事の御意見と全く同じです。 ○鎌田部会長 前者の点はむしろ民法側の課題として検討させていただければと思います。 ○畑幹事 もう一点だけ,これも実体法にわたる話で恐縮なのですが,19ページの①のようなことは私もあっていいような気がしております。的外れかもしれませんが,私なりには一応,一貫した問題意識があるのですが,どこかの段階でどちらに払うかということを債務者にはっきりさせろという仕組みはどこかにあっていいと思うのです。ただ,その際に,債務不履行のようなことに着目する必要もないのではないかという気もしておりますので,分科会で御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ただいままでに御指摘いただきましたような様々な論点を踏まえて,(3)のア及びイにつきましては分科会で補充的に検討していただいて,その検討を踏まえて最終的に部会で方針を決めるというふうな手順にさせていただきたい。 ○中井委員 先ほどの私の質問に対して松尾関係官から,設例1から4に関しては譲渡人に対する弁済については,なるほど,2の本文を見ると触れていないのですが,念のためですが,それはできるということを前提にしているという趣旨だったのでしょうか。例えば,設例3であっても差押え後であれ,譲渡人に対して弁済できることを前提とした議論なのか……。 ○松尾関係官 設例3であれば,譲渡人に対して弁済することはできないという前提です。 ○中井委員 私の先ほどの意見をそういう意味で敷衍しますと,設例3においてもAに対する弁済があり得るのではないかという問題提起と整理していただければと思います。それから,先ほど岡委員からありましたのは,第1の問題について,転付命令後の譲渡についての問題提起でしたけれども,同じ問題は譲受人が善意,その後,その譲受人が悪意の第三者に転売というのでしょうか,転譲渡した場合にも同じ問題が起こりますので,併せて御検討いただきたいと思います。 ○潮見幹事 聞き間違えたのかもしれないのですが,設例1で甲案を採ったら,BはAに弁済することはできるのですか。 ○松尾関係官 設例1はDに対して債権が移転していますので,Aには弁済することができないということだと思います。訂正させていただければと思います。 ○中井委員 私の問題提起は,設例1についても設例3についてもあるということです。重ねて申し上げます。設例1についても,譲渡禁止特約があっても当事者間では有効というのが甲案だと理解しているわけです。そうだとすれば,普通の有効な二つの譲渡があったときに,原則,従来の対抗要件を先に具備したほうが優先するのではないかというのがまず大前提にあって,そこに,今,譲渡禁止特約がある場面でどう考えるのか,債務者としては,それを承認して悪意の譲受人に払うもよし,承認しない場合に果たしてDに払う義務があるのか。ここなんです。それは検討の余地があるのではないかと考えます。 ○潮見幹事 分科会でやって構わないと思います。 ○松尾関係官 中井委員の御指摘はよく分かりました。 ○鎌田部会長 中井委員のお考えでいくとすれば,アで甲案を前提にしたとしても,設例3の場合に譲渡人に弁済できるということは,譲渡人の債権者の差押えを第三者が排除することはできないという結論になりますか。 ○中井委員 いいえ,設例3で言うならば,債権譲渡と差押登記のまず先後を考えればよろしいという考え方に立つのです。Cに対する譲渡も有効を前提とするわけですから,当事者間では。そういう考え方があり得ないのかという問題提起で,それが正しいとまで考えているわけではありません。大阪弁護士会の議論の中で,そういう意見が出ています。 ○内田委員 設例3で中井委員の御理解は,BはなおAに払うことができる,そして,AはそれをCに渡すということですね。 ○中井委員 はい。 ○内田委員 分かりました。 ○鎌田部会長 しかし,Aの債権者は差し押さえることはできない。 ○中井委員 差し押さえたけれども,既に対抗要件としては後れていると。 ○鎌田部会長 後れているから駄目だと。分かりました。課題がたくさん増えましたけれども,その点も含めて,分科会で御検討をお願いいたします。   それでは,次に進ませていただきます。「2 対抗要件制度」について御審議を頂きます。事務当局から一括して説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 「(1)第三者対抗要件」は,確定日付のある証書による通知又は承諾という民法上の対抗要件制度と,債権譲渡(登記)という特例法上の対抗要件制度が併存している現状を見直すことの要否を検討対象とするものです。   まず,「ア 対抗要件制度の基本的な在り方」では,二つの対抗要件制度が併存することを前提としつつ,登記に対して民法上の第三者対抗要件に優先する効力を付与するかどうかを問題として取り上げています。登記によって第三者対抗要件を具備した債権譲渡が民法上の第三者対抗要件を具備した債権譲渡に優先する考え方を甲案,登記と民法上の第三者対抗要件を対等の効力とする現状を維持する考え方を乙案として提案しておりますが,ここでは甲案のような考え方を登記優先ルールと呼ぶこととさせていただきます。   「イ 登記優先ルールを採用する場合における登記制度の在り方」は,登記優先ルールを採用する場合にどのような登記制度を構築することが望ましいのかという問題を取り上げるものです。イの第1パラグラフは,登記によって第三者対抗要件を具備することができる債権譲渡の範囲に関する問題を取り上げております。イの第2パラグラフは,登記優先ルールを採用する場合における登記制度の枠組みを取り上げております。ここでは,債権譲渡の事実を公示するという特例法に基づく債権譲渡登記制度の枠組みを基本的に踏襲することの当否について御意見を頂くとともに,登記優先ルールの下での登記制度として特に必要な条件があれば御指摘いただきたいと考えております。   「ウ 民法上の対抗要件制度の見直し」では,民法上の対抗要件制度について,債務者インフォメーション・センターとする現行の対抗要件制度の是非や,これを維持するとしても通知又は承諾が確定日付のある証書によってされることを必要とするかという点について,御意見を頂きたいと考えております。   「(2)債務者対抗要件(権利行使要件)」は,債務者の通知又は承諾を債務者対抗要件とする現在の民法467条第1項の規定の内容を維持することを提案するものです。   「(3)債務者の行為準則の整備」は,アは債権譲渡が競合した場合における債務者の行為準則に関する判例法理の明文化の要否を取り上げるものです。そして,これと関連する問題として,イでは債権譲渡が競合した場合における供託事由の拡張の当否,ウでは競合する債権譲渡の譲受人間における分配請求の可否について,それぞれ御検討をお願いしております。   以上の各論点のうち,(3)については規定を設ける場合の問題点や具体的な規定の在り方につき,分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点について分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明のありました部分のうち,まず,「(1)第三者対抗要件」の「ア 対抗要件制度の基本的な在り方」と,「イ 登記優先ルールを採用する場合における登記制度の在り方」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○大島委員 まず,アの対抗要件制度の基本的な在り方についての意見なんですが,現在の債権譲渡の問題点や取引安全の要請に配慮し,債権譲渡登記を優先させようとする甲案の趣旨は理解はできます。しかし,現在の債権譲渡登記制度を前提とすると,債権譲渡を受ける中小企業にとっては負担が大きいために,登記が通知に優先する甲案に賛成することは難しいと考えています。仮に甲案のような制度を目指すのであれば,現在の確定日付のある証書と同レベルの費用と手間で済むような登記制度を実現することが不可欠ではないかと考えます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか, ○佐藤関係官 アについて申し上げさせていただきます。登記優先ルールが採用された場合,金融の実務におきまして, 債権譲渡担保等を確実なものとするためには,現在,民法上の通知と承諾で対抗要件を具備しているような取引におきましても, 現実には登記を経ることによって対抗要件を確実なものとするということになろうと。したがって,登記優先ルールを採る場合には,結果的に, 金融の世界では登記一元化ということにつながらざるを得ないのではないかという意見が多方面から聞かれました。   一つの例ではございますが,信用保証協会で現在,流動資産担保融資保証制度という, 流動資産に融資をし,それに保証を付するというスキームがございますが,この中でも対抗要件としては,おおむね8割以上の申込人が民法上の対抗要件を選択していると。したがいまして,2割くらいは特例法による登記を利用しているようですが,実務的には, やはり現行の民法上の対抗要件制度を選択している例が多いようでございます。現実的な問題として,登記制度はコストが掛かるということもございますので,特に中小企業の融資などにおきましては,結果的な登記の一元化につながることになりますと,負担感も大きいと思われるところで,慎重な検討が必要ではないか,このように考えております。 ○佐成委員 今,金融業界がそういった御意見だということですが,経済界の複数の業界でも同様な意見がございました。つまり,登記優先ルールを入れますと,実際上,確実な対抗要件を具備するために登記を取らざるを得ないということで,優先ルールも結果的には一元化ルールと変わらないだろうと,そういうことで反対の意見を述べられる方が複数おられたということでございます。 ○鎌田部会長 結果的には反対になるということですね。それは負担の大きさということでしょうか。 ○佐成委員 反対になるということです。ですから,乙案ということになります。 ○三上委員 金融界も基本的に今のままの制度のほうが安心できるという意味で反対の意見,つまり乙案支持が多いんですが,それはかなりの部分,登記制度ができた後の姿が想像できないという不安から来るものと思います。なので,もう少し,積極的に前向きに意見を申し上げますと,資料の別紙に付いております「特例法上の債権譲渡登記に関する指摘事項」というところに挙げてあります今の登記制度のいろいろな問題点,こういう問題があるので民法上の対抗要件制度も併用されているという原因になっている各諸点が訂正されて,かつ登記の費用の面でも,今の内容証明プラス配達証明と大きく変わらないようなコストで,かつオンラインで,例えば法人であれば,どこかで包括的に契約すればいちいち本人確認しなくてもできるとか,あるいはオンラインが難しければ法務局まで行かなくても郵便局等,身近なところでそういう手続が簡単にできるとか,そういうところまで実現され得るのであれば,登記一元という考え方にも,非常に大きなメリットがございますので,もし,そういうことが想定できるのであれば賛成できないことはないであろうと思います。   ただ,例えば指摘事項の中でも例えば①から④だとか,⑦,⑧とか,マストの部分が一個でも二個でも欠けておれば,例えば半分以上,問題点を解決したのでやってくださいとか言われても,やはり,それは賛成しかねるということになります。そういう意味で,非常にハードルは高いかもしれませんが,やみくもに反対というわけではなくて,こういう制度として考えられますという具体的な像がある程度,示されるのであれば,それは十分に検討に値するという意見もございましたので,述べさせていただきます。 ○佐成委員 今の三上委員の御発言の後半部分について,要するに経済界としても,現行の登記制度がどれぐらい改善されるかということを見た上で,もちろん,甲案もあり得るということにはなっておりますので,今の段階では乙案とは言っておりますけれども,絶対に乙案で反対だということではございません。ですから,分科会なり何なりでここら辺が議論されて,現在の登記制度の問題点とされている部分について劇的な改善が見られるようであれば,経済界も絶対反対だということでは全くございませんということだけ補足させていただきます。 ○中原関係官 私は現在の登記実務を是非とも事業者の方々の利便性に合うように改善していただきたいと思いますが,していただくことを前提に,登記優先ルールというのはあり得る一つの考え方ではないかなと思っております。そうした制度設計をした方が,資金調達を受ける債務者としても自らの立場をコミットできるわけでありますし,金融機関としても,概要証明をとって,あなたは何か譲渡をしているねということであれば,取っ掛かりがあって分かるということでありますから,現在の-事務局の資料,説明書に書いてありますけれど-債務者をインフォメーション・センターとする制度よりは,トランザクションコストの点でも軽減させる面というのはあるのではないかとも思いますが,実務の方の御要請もおありになると思いますので,利便性の向上ということについては,また,御検討していただければと思います。 ○山野目幹事 ただいまの一連の御発言,すなわち,三上委員の御発言と佐成委員の二番目の御発言と,それから,中原関係官の御発言に強い共感を抱きます。   それで,更に申し添えれば,債権譲渡登記制度のほうについてもう少し手続を簡便にしたり,費用を低廉なものにしたりするという改善策を引き続き模索しなければならないことは当然でありますけれども,半面におきまして,その視点が要請されると同時に,これから後でウのところで議論されることでありますけれども,仮に登記優先ルールのようなものを導入しないということになった場合に,現在の民法上の対抗要件制度が持っているいろいろな意味での問題点,到達時の先後で考えるときの先後の不明であるとか,同時到達であるとか,あるいはそれらのルールをやめるときの確定日付の先後で考えるということにしたときにも,確定日付よりもより公示性において勝っている債権譲渡登記のメリットをどう考えるかとか,そちらのほうについて現在の,あるいは今後,予想される問題点も比較しながら,両面から見ていっていただきたいと感ずるものでございまして,そのような観点からいうと,今回,事務当局が御努力をなさって甲案を提案なさったことには相当の理由があり,これを基調として御検討いただくことがよろしいと考えます。議論の当初の段階で示されていた登記に一律に一元化するという案に比べて,はるかに,そういうものに対する抵抗感を持った向きの皆さんとの間の議論が,穏当な形で進行していく素地が調えられたと感ずる部分がございます。 ○中田委員 仮に甲案を採った場合に,イをどう考えるかについて非常に細かいことなんですけれども,イの乙案,つまり,事業者を譲渡人とする場合という規定の仕方は難しいのではないかと思っています。というのは,事業者でない人が登記をした場合に,その効力がどうなるのかということを検討する必要があるからです。そうだとするとかえって問題が出ますので,登記があれば,その主体に関する問題はないという制度設計のほうがいいのではないかと考えます。ですから,例えば法人に限るか,あるいは個人についても登録制度を設けて一定の登録をすれば,債権譲渡登記を利用できるというように単純化したほうがいいのかなと思いました。 ○鎌田部会長 イについて甲又は丙であって乙は妥当でないと,そういうことになりますか。 ○中田委員 そうです。ただ,甲だとすると個人を全部対象にするというのは,実際上はなかなか難しいのではないかなと思っております。 ○山本(和)幹事 差押えとの関係で31ページから32ページに書かれてあることで,私はこの資料に書かれているとおりで,つまり,こういう登記優先ルールというのをもし作るとすれば,恐らく民法上の対抗要件というのは差押えに常に負けるということにならざるを得ないのかなと,論理的にも恐らくそうなるのかなと思っています。そうだとすると先ほどの破産等が包括差押えだということからすると,民法上の第三者対抗要件は破産,民事再生等にも常に負けると。つまり,民法上の対抗要件は,倒産時には効力を持たなくなると考えざるを得ないと思っています。もし,そうだとすれば,イの部分で仮に丙案のような考え方,現行のような考え方を維持するとすると,法人以外の者は民法上の対抗要件によらざるを得なくなって,それは倒産のときには全て吹っ飛ぶということを意味します。   これは,取り分け譲渡担保については恐らく致命的なことだろうと思いますので,法人以外の者は金銭債権の譲渡担保は事実上,利用できなくなるということになりかねないような気がいたしておりまして,現在は資料にもありますように,医師が診療報酬債権を譲渡担保に出すということは,判例等を見ても極めて頻繁に行われているように思いますので,登記優先ルールで丙案を採ると,それができなくなるような感じがいたしておりまして,それはかなり問題ではないかと。そういう意味からすると,中田委員が乙案は駄目だということになると,そうすると何か甲案ないしそれに近いものしかないのかなというような印象を持っているということです。 ○中田委員 私は単なる丙案というわけではなく,個人についても何らかの登録制度を設けて登録すれば,債権譲渡登記を利用できるようにするというのとセットで考えておりますので,ただいまの山本和彦幹事の御懸念には一応,応え得る制度もあり得るのではないかと思っております。 ○中井委員 この第三者対抗要件の問題について弁護士会は,回答のあった会のほとんどが現行法維持といいますか,ここで言う乙案支持でした。一つの会のみ甲案を検討してもいいという意見でした。これは山野目幹事のおっしゃるところの,長期的視野を持って考えたときに,登記一元化の方向で進んでいくという基本的な考え方自体に反対するわけでは決してないのですが,弁護士会がやはり実務に近いところにいることもあるからと思いますけれども,登記に対する先ほど三上委員がおっしゃられたコストの問題,アクセスの仕方等を考えたときに,かなりハードルが高い話になるのではないか。近い将来の話として,なかなか想定し難いという意見が非常に強くありました。また,実務上も債権譲渡に関して登記という形にすると,何からの形で公示をしなければならないというか,公示されるわけですけれども,それに対して譲渡人の信用に与える影響というのでしょうか,信用毀損の可能性について,相当程度,危惧する意見もありまして,登記一元化の方向について賛成する意見は少なかったということです。   その上で,今回の御提案は一元化ではなくて登記優先ルールということで,折衷的提案があります。しかし,これでは現在の民法上の第三者対抗要件を備えても,その後,登記があればいつでも覆されてしまう,それを前提とする仕組み自体に,違和感があるという意見が強くありました。それは結果的に一元化になって解決する,後でひっくり返されても構わないという人だけが民法上の従来の対抗要件を使うことになるのかもしれませんけれども,それであっても,後で登記すればひっくり返るという点についての違和感が指摘されました。   また,登記が確かにいいなという一般論としての理念は分かっても,実務的に今の制度を見る限り,登記での公示性がそれほど確実なのかということについての心配も強く言われております。それは御承知のようにSFGC事件で,同じ債権が登記制度を使って何度も譲渡されていて,譲受人側から既に譲渡されていることをきちっと把握できなかった。これは登記制度自体の改善によって解決できる問題かもしれませんけれども,現在,実務に携わる者からして登記一元化すれば,若しくは登記優先ルールを採れば,それが解決できる問題なのかということについても,慎重な意見が強く出たということです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○深山幹事 今の中井先生の御意見に関連して,少し補足的なことを申し上げたいと思います。弁護士会あるいは弁護士が,実務に携わっていながら,登記について否定的なのは,やはり登記制度の公示機能の不十分さといいますか,不完全さにあるのではないかと思います。登記で明確にして,その公示をするということ自体を否定的に考える人はいないと思うんですが,不動産の登記などと違って今の債権の登記には,公示制度として非常に使いにくさがあり,今,例が出たように二重,三重の譲渡についても,ちょっと調べればすぐ分かるということになっていないというところにやはり問題があるのだろうと思います。   つまり,単に費用が高いとか,取り扱っている登記所が限られているというようなことが問題なのではなく,そういう意味でのインフラは幾らでも改善のしようがあると思うんですけれども,制度そのものをもう少し公示機能を高めたものにしないと,やはり理念どおりの使われ方にはならないことが問題であると言えます。もちろん,公示機能の高い制度ができれば賛成ですという意見は多いんですけれども,まだ出来上がっていないときに仮定の議論をしても,余り意味はないだろうというのが多くの弁護士の感覚であり,いいものができた暁には,その時点で初めて一元化するかどうかということを議論できるのではないかなと考えているところであります。 ○鎌田部会長 債権譲渡登記について本当に完璧な公示機能を追及するのか,それとも最終的な優劣決定基準として確定的に働き得るということで,一応,最低限の要請を満たしていると考えるかによって,制度設計は大分変わってくるだろうと思いますけれども,今の時点では完全な公示機能というのをむしろ求めるというのが有力な御見解であると承っておいてよろしいでしょうか。 ○内田委員 それはこの部会で御議論されるべきことだと思いますが,弁護士会が,本当にいい登記制度ができたら賛成するかどうかを考えてあげるというのは,これから制度をどう改善しようかという議論をする場の意見としては,余りに消極的な感じがします。優先ルールに賛成するためには,こういう改善をすべきである。そうでなければ乗れない,ということであれば非常によく分かるのですが,乗れるかどうか,いいものを作ってみろ,その上で我々は検討するというのは,余りに消極的だと思います。もう少し積極的に御意見を頂きたい気がいたします。   それから,深山幹事から不動産登記のような完全な公示機能が果たせるかという御意見もありましたけれども,それは鎌田部会長がおっしゃったとおりで,一例としてアメリカのファイリングの場合は公示機能はそれほど高くはないですけれども,債権とかあるいは在庫などの動産もそうですけれども,不動産のように二番抵当,三番抵当のような形で,同じ財産に後順位に担保を付けるということは事実上ない。かつまた,たくさん持っている自分の財産のうちのこの部分はAという債権者,この部分はBという債権者と切り分けて担保化するということも事実上ほとんどない。大体,資産価値のあるものをまとめてある債権者に譲渡するなり,担保化することによって資金調達をする。そういう実務を踏まえると,先行する譲渡があるかどうかが分かれば十分であって,全財産の中のどの債権が譲渡されているかということを細かく特定する必要は必ずしもない,そういう割り切りでアメリカのファイリングはできているのだと思います。   そういう発想にもし立つならば,別にアメリカのまねをする必要はないですけれども,公示性について不動産のような厳格さは要求しなくても,実務的には耐えられるのではないか。そうであれば,かなりハードルは低くなるのではないかと思います。もちろん,弁護士会がこぞって賛成とおっしゃっていただけるような改善ができるかどうか,それは全く分かりませんけれども,議論の仕方としては必ずしも不動産登記をモデルとする必要はないのではないかと思います。 ○高須幹事 今,まとめのお話があった後で恐縮なんですが,議論はいろいろ出たことですし,弁護士会の意見も既にほかの先生方から言っていただいているんですが,一点,ちょっと気になりましたので発言させていただきます。今回,登記一元化ではなくて優先ルールに変えましたという部分なんですが,やはり,仮に優先ルールという形で現行法とのある程度の整合性を図っていただいたという御趣旨だとしても,結果的には既に出ていますように優先ということを認めると,民法上の従来の対抗要件については後から覆されるということになってしまいます。先ほど内田先生も御指摘になったように,既に以前に対抗要件を備えた譲渡があるかどうかが問題ということが,対抗要件の一番大きな課題だと思いますので,後から覆されるような対抗要件制度というのは,どうも制度的にはかなり信頼性のないものになるのではないかと思います。   すると,ここの議論は結局のところ,最後は一元化にいくような議論でしか本当はなくて,そのこと自体を避けて通った議論をしてはいけないのかなと思ったものですから,すみません,そんなことを今言ったらますます話がややこしくなるという話かもしれないんですが,そこをきちんと見極めて,甲案の是非を議論すべきではないかと思いました。 ○中原関係官 委員の皆様も,登記制度をどう考えるかということを内田先生のお話にありましたように,積極的に議論することで解決していくことだと思うんですけれども,今,御議論のあった中で,後々,登記がされるとひっくり返されるところに違和感を感じるというのは,感覚的には分かるのですけれども,勘違いかもしれませんが,現在の民法においても,単なる通知と確定日付がある通知という2つがありますことを考えますと,理論的におかしいかと言われると,必ずしもそういうことでもないのかなという気もしておりますのと,それから,公示の登記制度の不十分さというお話もありましたけれども,先ほど山野目先生がおっしゃられたように,現在の民法の対抗要件制度の公示の機能というのは,どれだけ十分なのかということとのバランスを含めて検討すべきではないかなと思います。 ○高須幹事 今の御指摘はごもっともだと思っております。今の民法の通知承諾制度が優れているとまで申し上げる気は毛頭なくて,やはり,改善すべき点は一杯あるし,登記制度という形でもしいい制度が作られるのであれば,そのほうが多分,いいのだろうとは思うんですが,ただ,御指摘いただいた対抗要件を備えている通知とそうでない通知が現にあるという部分に関しては,正にそうだから普通は対抗要件を備えた通知をするわけでございまして,したがって,今回も,もしこういう制度になるのであれば,むしろ登記をしなければならないだろうという形で,どんどん,登記化が進んでいくのではないかと,そういう意味で,一元化につながっていくのではないかということを申し上げたという次第でございます。 ○佐成委員 まず,内田委員のほうから御指摘された,要するに具体的な着地点を示さないと,議論のこの段階ではふさわしくないというのはもっともな御指摘だと思います。その点で,まずはっきりと言えることは,経済界のほうでは,中途半端に改善されても恐らく甲案支持にはならないだろうということです。ある程度,劇的に改善された場合に初めて甲案もあり得るということです。それでもまだ抽象的なので,更に具体的に言えば,先ほど三上委員がおっしゃっていましたけれども,現行の登記制度の1万5,000円を,今の内容証明郵便費用プラス配達証明費用程度までコストを下げればかなり劇的だと言えると思います。それが1万5,000円が1万4,000円になったぐらいでは,到底劇的とは言えませんし,賛成できないというのが感覚としてございます。それがコスト面の感じです。   それから,もう一つは先ほどもあったかと思うのですけれども,別紙に記載されている指摘事項というのが,一つの判断材料になろうかと思います。ここにはあるいは誤解とか,不適切なものとか,いろいろあるのかもしれないのですけれども,これらに個別に何らかの回答をしていただくだけでも,かなり議論を前進させることができるのではないかと思います。少なくともここで指摘されているのは,正に実務的な懸念かと思われますので,できましたら,的外れなものとかはともかくとして,少なくとも今回,検討する余地があるものとか,そういうことが今回の立法作業の中で十分できるかどうかは分かりませんけれども,一応,そういうような検討の余地のあるものの仕分けをしていただけると,更に積極的な議論ができるかなと感じております。それが一つです。   それから,もう一つは,アの論点で現行制度が劇的に改善されることを前提に,仮に甲案を採用することとなった場合の,イの部分の論点についてですが,甲案,乙案,丙案とあって,現状,経済界の中では丙案,つまり法人に限るという案がよいのではないかという議論がなされています。やはり現行制度に自然人をも取り込む,要するにそういう制度を新たに作るとすると,そのための時間と費用とかが,どうしても掛かるので,その辺りに懸念を示す声がありまして,現時点では丙案がいいのではないかと,仮にアの論点で甲案を採ったとしても,そういうようなことが議論されているということだけ報告させていただきます。 ○岡委員 内田先生が弁護士会は非協力的だという趣旨の御発言だったと思いますが,そうでもございませんので,御理解いただきたくお願いします。登記制度は,現に今,法人限定ですが動いているわけですから,動いている制度を実務的に工夫するような組織を別に作っていただくことがよいのでは。この法制審部会でやる作業ではないのではないかと思います。今,佐成さんもおっしゃいましたけれども,登記制度が使いにくいと言われている理由は,コストが一番です。まずは,コストと使いやすさにつき改良努力をしていただいて,現在の利用率2割を3割,4割,5割ぐらいに高めていただいて,その段階で考えるということでよろしいのではないでしょうか。 ○岡田委員 消費者ないしは個人が第三者になった場合を考えましたときに,登記が優先するというのに懸念を持ちます。ということは,民法上の対抗要件も機能するわけですから,そうすると先ほどから出ています民法上の対抗要件を信頼して支払った。ところが,後から登記をした人間が出てきたといった場合に,二重払いになる可能性があるのではないかと思いまして,もし,登記優先ルールにするのであれば,そういうことがないような形を採ってもらいたいと思います。 ○山本(敬)幹事 先ほど山本和彦幹事が指摘された問題なのですけれども,つまり仮に登記優先ルールを採用して,登記をすることができる者を限定した場合に,なお登記をした者が優先するというルールを貫けるかという問題についてですけれども,対抗要件制度の趣旨は「自ら権利を守ることができるのに,それを怠った以上,権利を失ってもやむを得ない」という考え方にあるとしますと,民法上の対抗要件しか具備することが制度上許されていない者が,それを具備しておきながら,他方で登記がなされていて,それが優先するというのは正当化できないのではないかと思います。   そうしますと,解決の方法としては,みんなが登記ができるようにするというのが一つ考えられますが,仮にみんなが登記できないとするならば,登記できないけれども,民法上の対抗要件を具備することだけが許される者がそれを具備した以上,時間的にそれが先であれば,そちらが優先するというようなルールを設けないと,制度の趣旨からして一貫しないのではないかと思います。もちろん,コストの問題等もありますけれども,そういった点まで視野に入れて検討する必要があるのではないかと思います。 ○道垣内幹事 必ずしも登記一元化に賛成だとか,登記優先ルールに賛成だという観点からの発言ではございません。ただ,今日の資料の91ページから93ページに出ております債権譲渡登記に関する指摘事項というのを読みますと,民法上の対抗要件の具備方法によっても達成できていないことが多々含まれています。つまり,それは債権譲渡登記制度が民法上の対抗要件制度よりも劣っているということを意味していないわけですので,民法上の対抗要件制度によって具備可能であることは登記でも可能にして欲しいという話と,今はできないけれど,これもできると便利だよねという話は分けて考えないといけない。その意味では,民法上の対抗要件と同等の便宜さを持たせるというためには,提示されている問題の全てに応える必要はないのだろうと思います。ただ,ポイントはお金の問題であるという話が何回も出ましたので,それは正に民法上のほうが安くて優れているということなのだろうと思いますけれども。 ○三上委員 今のお話ないしは内田委員のお話とは矛盾しないとは思うのですが,例えば今の民法上,後順位の債権譲渡担保が設定できるかというのは争いがあることは事実ですが,少なくとも実務の場面では,民事執行段階でそのとおりに実行できるとか,分配されるとかは関係なく,形で例えばシニア・メザニン・劣後とあれば,第1順位,第2順位,第3順位とか,銀行が横に並べば全員同順位とか,プライドを懸けてそういう契約にしないことには話が前に進まないですし,一応,今のところは関係者,債務者を含めて契約で同意すれば,私法上は有効であるという前提で動いております。登記に変わった際に,形式の上でそういう合意が入り口で排除されてしまうならば,現行制度のほうがまだましであるという意見になると思います。 ○鎌田部会長 順位の問題は非常に重要なポイントになるだろうとは思います。   ほかにはよろしいですか。 ○河合関係官 これまでの議論の中で,何点か,債権譲渡登記に関して御指摘を頂いておりますので,若干コメントさせていただきたいと思います。   多くの委員の方から,また,幹事の方から,まずコストの面の負担について御指摘を頂いております。登記申請に必要な費用に関しては,登録免許税という税金が課されることになっておりまして,手数料とは性質が違うものだということをまず御理解を頂ければと思います。具体的な登録免許税額については,本日,席上配布させていただきました資料の末尾に記載させていただいているとおり,現在,特例措置で登録免許税額が半額に軽減されており,資料記載の金額となっております。   次に,登記申請に関するアクセス方法ということについても御指摘を頂いております。登記申請に関しては資料3ページ目に記載させていただいているとおり,窓口で申請すること以外にも,郵送等の送付による申請,それから,オンラインによる申請という方法も用意されているところでございます。   そのほか,オンラインで一定の情報を確認することができれば便利であるとの御指摘もあったところですが,例えば,概要記録事項証明書に記載される事項については,登記情報提供サービスを利用することにより,インターネットを通じて確認することが可能であり,オンラインで一定の情報を確認するということも,実施されております。   さらに,譲渡債権の特定について,公示性をより確実にしていくべきだという御意見もある一方,指摘事項の中にあるようにより簡素化していくべきだといったことなど,指摘事項の中には制度設計そのものに関わる様々なものもございます。これらについては,どちらの方向がよいかということについて,議論を進められていくことが,議論の仕方としては必要でないかと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほぼ御意見が出尽くしているようでしたら,頂戴した意見を踏まえて,引き続き事務当局で検討をさせていただきます。ここで15分間の休憩を取らせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開をさせていただきます。   「ウ 民法上の対抗要件制度の見直し」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○高須幹事 弁護士会の状況でございますが,一応,ウのところにつきましては,基本的には甲案を採る単位弁護士会は見当たりませんで,丙案が比較的多かったというところでございますが,私が所属している東京弁護士会とか,あと,若干のところが乙案というような形のところも見られました。乙案というのはやはり既に御指摘いただいているところなのだろうとは思いますが,確定日付というものが持っている意味合いが現在の実務の中でどれだけの重きがあるのかというようなことで,乙案ということも一つ可能性はあるなという意見ではございました。ただ,それも少数でございまして,そこまでいきなり言ってしまっていいのかというようなところで,弁護士会の中では丙案のほうが多数説的な理解でございました。 ○鎌田部会長 ほかには特に御意見はございませんでしょうか。 ○山野目幹事 どなたからも支持がないので申し上げたいと考えますが,甲案を推したいと考えます。甲案の意義等について部会資料でお書きいただいていることについて,特に付け加えることはございませんけれども,なお,留意しておきたいことは日本の民法467条の立案起草に大きな影響を与えたと見られるフランス法などにおきましても,もはや,現在時点においては債務者をインフォメーション・センターとするというような規律は,有力なものとしては維持されていないというふうなすう勢もあることでございまして,今後の方向として甲案で考えていくことが適当ではないかと考えます。なお,甲案で問題を新しく律していこうとする際に,岡田委員から御指摘がありましたとおり,到達の先後と確定日付の先後との間に齟齬が生じた場合に,債務者に迷惑,不利益が及ばないような措置,規律を講ずるということはなお当然のこととして要請されるものと考えます。 ○鎌田部会長 ほかには御意見はございませんか。 ○佐成委員 ウのところですけれども,甲案,乙案,丙案では,現時点では丙案ということになります。甲案ももちろん非常に分かりやすいといいますか,客観的という面はあるのですけれども,まず,債権譲渡契約書そのものを開示することに対する抵抗と,それから,もちろん,確定日付があることが前提ですけれども,今は到達の先後ということで管理をしており,それなりに実務が回っていますが,確定日付そのものを管理するということになりますと,現行の実務にある意味では変更をもたらしますので,それが本当にうまくできるかという,そういった懸念があります。必ずしも甲案を完全に否定するということまでは言いませんけれども,現時点では丙案がよろしいのではないかという意見が多く寄せられております。 ○佐藤関係官 ちょっと特殊な例かもしれないのですが,甲案を採るときに難しい場合もあろうかという観点から発言させていただきます。具体的には, 預金保健機構において,金融機関が破綻した場合の概算払いという制度がございます。概算払いで迅速に預金者に対して預金相当額を支払い, 預金債権は預金保健機構が預金者から取得を受けるという制度でございます。当然,大量の預金者がいるわけで,個別に譲渡契約書ができるのかどうか,実務上,非常に問題が生じる場面もあろうかと思います。現行の取扱いとしましては,破綻した金融機関を窓口として預金者から申込書を出してもらうことによって対応している訳ですが,預金者との間で全て確定日付のある契約書を具備できるかどうか。その点,場合によって問題が生ずることがあり得るということを指摘させていただきます。 ○中井委員 弁護士会としては丙案を基本と考えていたものですから,甲案を強く支持する意見が出まして,それに対して余り意見がないまま終わるのは適切ではないと思い発言します。基本的に甲案が債務者の承諾という制度をなくすことが前提だとすれば,それは実務的には大変障害が多いのではないか。今,直ちに登記一元化というのと,ここは別の議論だと理解しております。債務者の承諾をもって行われている実務に対して,大きな障害が生じるのではないかという点が最大の懸念です。また,仮に甲案だとすれば,当事者間で譲渡したという事実を確認しようと思った場面ですけれども,新たな譲受人にとっては先行するものを確認する手だてが恐らく現行法より劣るのではないか。それが果たしていいのかという点で疑問があります。したがって,甲案は弁護士会としては採り得ないと考えています。   丙案としたときに,現在の問題点を解決する方法として部会資料にもありますけれども,到達した時点を何らかの形で公証する制度を作れないか。これについては検討に値するのではないか。この公証の方法ですけれども,現在,郵便物等の配達は,バーコードで管理されていて,何時何分にどの車に乗って,何時何分に集配所に着いて,何時何分にそれが配達員によって配達の途上にあるということが,自宅にいながらにしてコンピュータで検索できるぐらいのところまできております。そうすると,当該配達する人が相手方に届ける際に,その時刻も含めて確認をする,これを公証する制度と言えるかどうかはともかく,技術的には不可能ではないところまできているわけですから,従来から批判のある確定日付の先後だけでは決まらないという点に対する問題点はある程度解消できる,丙案を採ってもその辺りの工夫で解消できるのではないかと思います。したがって,やはり丙案を支持したいと思います。 ○山野目幹事 細部にわたる論議は今日の議論を参考にして,また,事務当局で続けていただくことでよろしいと考えますが,少し御議論を伺っていて,甲案として提示されているものについてのイメージが,必ずしも可及的に共有されていないような印象を受けました。債権譲渡契約書を第三者対抗要件とし,それに確定日付を付するとここには簡潔に書いておりますが,ここで言われている債権譲渡契約書というのは,債権譲渡に関わる法律的な様々なやり取り,契約条項を網羅的に書いたようなものに確定日付を付さなければならないというようなことを言っているものであるとは,私は受け取りませんでした。   準物権行為と呼ばれているような債権の譲渡があったことを簡潔に確認するような書面又は電子的記録について,少なくとも譲渡人と譲受人,場合によっては債務者の関与があってもよろしいですし,そういうものについて確定日付を付することとすれば,それをもって対抗要件にするというふうなイメージも甲案の中に含まれていると,それしかないかどうか,ないと決め付けはしませんが,含まれていると考えますから,そのような甲案の少し幅広いイメージを持った上で,今後,議論を続けていっていただきたいと考えます。   補足しますと,中井委員がおっしゃった丙案の到達を信書便事業者などによって証明させるということは,私もそれでいこうかなということを意見として思った一瞬がありますし,恐らくフランス法の最初の出発点はそうであったんだと思いますけれども,ナポレオン法典を作った時代はいざいらず,メールが往来したり,電子的に文書を作ったりする時代に,届けたこと自体を公証するという制度でなおいきましょうという方向になるものであろうかということについては,それもあり得るとは思いますけれども,今後の新しいアやイの論点との組み合わせをにらみながら進めていくとすれば,やはり甲案であろうと今のところは感じております。中井委員のおっしゃった方向も,しかし,あり得ないものではないとも併せて感じます。 ○中井委員 甲案を採ったときに,譲渡契約書そのものに確定日付を取るという考え方に必ずしも固定化する必要はなくて,そこは単に債権を譲渡いたしましたという簡潔なものに確定日付を取るという,そのような方法もあるのだから幅広に検討しましょうという御指摘かと思います。そういう方法は確かに否定されることはないと思うのですけれども,しかし,それであっても当事者間で作って,当事者間で確定日付を取っただけで,そこでは債務者も含めて第三者は全く関与しないまま手続は終わる。そのことのいわゆる公示性が現在より劣るという問題はなお解消されないのではないか。現在の制度,債務者に何らかの通知,承諾を求めることによる公示性がそれほど優れているというわけではないんですけれども,それであっても,第三者が関与することによる公示性は少なからずあるわけで,それが当事者間の書面と確定日付だけだとすれば,やはり,劣ると言わざるを得ないのではないか。その点に対する懸念が幾つかの弁護士会から指摘されております。 ○山野目幹事 二点,申し上げますけれども,やはり,債務者対抗要件が担っている機能と,第三者対抗要件が担っている機能とは,区別して考えていきましょうという考え方を採るのか,この二つが実際上,兼ね備わって運用されている今の姿を基本的に維持するのかということについての見方の違いがあって,違いがあるということを確認しながら,今後,議論していく必要があるであろうと考えます。   それから,債務者に通知をするという今の制度を維持したほうが公示性が高まるのではないか,少なくともそちらのほうが優れているのではないかというお話ですが,中井委員のおっしゃる丙案のブラッシュアップ,つまり到達そのものをきちんと公的に確認する仕組みを入れない限り,現在の到達時説で運用されている法律運用を維持するのであれば,判例が言うとおり,そこ自体は一般の証拠方法によって証明されることになるのですから,その姿も一概に否定しはしませんが,そちらのほうが優れていて公示性が高いと評価するかどうかは,なお,その議論が続けられるべきであるとも感じます。 ○能見委員 私もまだ甲案のイメージが少し分からないところがあるのですけれども,甲案において確定日付がある債権譲渡契約書というものが第三者対抗要件になるということですが,それが第三者対抗要件となるためには,同時に公示的な機能を果たす必要があると思うのですが,しかし,確定日付のある契約書をそれぞれの当事者が持っているというだけでは公示機能としては足りないのではないかと思います。この点,外国では譲渡契約書をファイリングさせるところもあるのではないかと思いますが,こういう形になっていれば公示の機能を果たすと思うんですが,それがない状態での確定日付ある債権譲渡契約書だけがあるというのでは不十分だと思います。ですから,甲案を基にするならば,一種のファイリングをさせるというところまでいくというのが在るべき姿なのではないだろうかと考えます。   もし,そこまでしないで甲案でいくと,例えばある債権者が債権を二重に譲渡した場合には,先の確定日付のある債権譲渡契約書を持っている者が勝つことになりますが,そこで債権を譲り受けようとする者は,自分よりも先に確定日付ある債権譲渡契約書を有する者がいるかどうかを調べる必要があります。しかし,債務者をインフォメーション・センターにしないで先に確定日付があるかどうかを調べるのは,難しいのではないか。ちょっと誤解もあるかもしれませんが,以上のように思いました。そういう意味で,繰り返しになりますけれども,甲案の行き着く先はやはりファイリングのようなものにするということなんだろうと思います。ただ,これはまた,そうしますと,先ほどどなたか御意見がありましたが,債権譲渡契約書を言わば見せることになりますので,それに対するアレルギーはあるということで,そこに問題といいますか,そこまでいけないという日本における制約があるのかもしれません。 ○内田委員 甲案が公示性において劣るというのは全くそのとおりですが,公示機能を果たすことは期待しないという前提で,この案は作られているのだと思います。立法例としてはドイツがそうですし,フランスの改正草案の中のカタラ草案もそうですし,現在のフランスの債権質もそうなっています,早い者勝ちということです。結局,優劣の争いになったときにもめれば裁判でどちらが早いかということを証明して,優劣を決するというやり方です。   そういう方法にもそれなりに理由があると思います。結局,先ほど議論したような登記制度あるいはファイリングの制度以外で公示機能を果たすというのは実は非常に難しくて,現在の日本の民法は,必ず債務者を巻き込んで優劣を決するという制度になっているわけで,債務者の犠牲の上に成り立っている公示制度なわけです。それはやはりおかしいということになると,公示機能というのは諦めて,譲渡契約の確定日付のように,債務者を巻き込まずに必ず決着がつくような基準で優劣を決めるルールを作ってはどうかという方向になるのだろうと思います。実際上も,今,債務者がインフォメーション・センターであるからといって,必ず債務者に聞いて債権譲渡が行われているかというと,実態調査をすると必ずしもそうではなくて,譲渡人が表明保証して,一切,譲り渡しなどしておりませんということを保証させた上で,譲渡を受けるということもあると伺っておりますけれども,そういう実務を踏まえれば,こういうやり方もあるのではないかということだと思います。   先ほど到達時を証明することが技術的には容易になってきているという中井委員の御指摘もありましたけれども,たとえそうであっても,到達時をフランスのように執達吏が証明するのでない限り,到達時を基準にすれば,必ず債務者を巻き込まなければいけないということになりますので,何とか,それを回避して制度設計できないかということです。公示性が高い手段が欲しい場合には登記を使う,それほど公示性がなくても大丈夫な場合にはこちらを使うという,そういう使い分けができないだろうかということで提案されているのが甲案であろうと思います。 ○鹿野幹事 私は,先ほど中井委員及び能見委員がおっしゃったことに基本的に賛成でございます。現行民法がこの対抗要件を通知,承諾としていることの意味ないし機能としては,まず,今から債権を譲り受けようとする者の保護という意味,それが一番大きいと思うのですけれども,それに加えて,もう一つは,債務者の保護という機能も事実上は果たしているのではないかと思います。第1の,債権を譲り受けようとする者の保護については,正に債務者を通して債権の帰属についての公示機能を果たさせて,それによって当該債権を譲り受けてよいのかどうかという判断をさせるということになっているのだと思います。現行の制度がその点で完全とは言えないことは確かですが,甲案は,その観点から見ると,極めて不十分だという,先ほどから出された意見に賛成でございます。   今,内田委員は,甲案のような制度が海外でも見られるとおっしゃいましたし,また,表明保証などで賄える部分があること,さらに,最終的には裁判で決着をすることになるともおっしゃいました。しかし,表明保証というのは基本的に譲渡人に対する信頼に依拠するのだろうと思いますけれども,実際に二重譲渡などが行われるというときには,結果的には譲渡人が信頼できない者であったという場合であります。そうして,そのような二重譲渡が行われる場面においては,債権の譲渡人に対する責任を何らかの形で追求しようと思っても,そこから回収することは事実上困難だということも少なくないのだと思います。ですから,譲り受ける前に,何らかの形で公示機能を持ったものを確認できるということがないと,難しいのではないかと思います。また,裁判をやるということは,それ自体,コストも含めてかなりの負担になるわけですから,最終的に裁判でということを念頭に置いて考えるというだけでは,やはり,不足なのではないかと思います。   次に,二番目の債務者の保護という観点について申しますと,債務者をインフォメーション・センターとする現在の制度においては,まず債務者自身が,誰が債権の優先する譲受人であり,現在の債権者なのかということを確認できるという意味合いもあるのではないかと思います。もちろん,これについては他の手だて,つまり,債務者に対する権利行使要件というか,従来は債務者対抗要件と言われてきたものをどう立てるのかということ,それから,これが必要となるかどうかは分かりませんが,場合によっては,弁済をした債務者が債権の準占有者への弁済として免責されるということなど,別の形で債務者の保護を図るということもあるのかもしれません。しかし,やはり本来は,債務者としては優先する債権者にこそ弁済をするべきであって,誰が優先する債権者であるかを債務者自身が確認できるということには,意味があるのではないかと思います。   それから,もう一つだけ付け加えますと,債務者を巻き込んだ形でしか対抗要件が備えられないということが,債務者に犠牲を強いるもので債務者にとって負担だという趣旨のことを確か内田委員がおっしゃったのですが,実際,債務者にとってそれほど多くの場合に負担になっているのかということは,私にはよく分かりません。その点,もし,実務に携わっていらっしゃる方に教えていただければ有り難く存じます。 ○鎌田部会長 実務に携わっている方。 ○佐成委員 現行制度を維持して欲しいというのが実務界一般の声でございます。逆に言えば,当然,負担感が強ければ,それなりにリアクションがあると思うのですけれども,そういった声はまず聞きません。そこから推測しますと,余り負担感はないように見えますし,債務者をインフォメーション・センターにするのはおかしいのではないのかというような声も,印象的には余り聞かないということでございます。 ○潮見幹事 定見というわけではありませんけれども,先ほども内田委員のお話があったように,そこまで覚悟を決めるのだったら,私は甲案でもいいとは思います。   むしろ,今から申し上げたいのは,仮に丙案を採るのであれば,債務者をインフォメーション・センターとするという考え方を基礎にして,第三者対抗要件を組み立てていくという制度設計になろうと思います。   そうであれば,先ほど対抗要件制度の基本的な在り方のところで,登記の公示としての確実性が不十分ではないかとか,その他もろもろの問題があって,登記制度そのものをより改善しないと乗っていけないという議論があったのと同じように,ここでの丙案では,現行制度の維持ではなく,債務者のインフォメーション・センターとしての機能を強化する方向で制度を立てていくことを考えるべきではないでしょうか。それをやらずに丙案に乗るというのは,実務の追認以外の何物でもないと感じました。   丙案に乗るということの中には,確定日付という枠組み自体を現在とは違った形で再編すべきだという趣旨が入っているのか,それとも,丙案といいつつ,実は乙案みたいなことをお考えになっておられるのでしょうか。   乙案は,確定日付ある証書によってされることを要しないとしていますが,これは要するにどんな形であろうが通知,承諾すればいいという無限定な案として出されていて,それに東弁などがなぜ賛成されているのかが分からない。最近はメールによる通知なんかもありますものですから,ちょっと気になったので,発言させていただきました。 ○中井委員 実務で現在の対抗要件制度で著しく負担が大きくて困っていますかという先ほどの鹿野幹事の質問については,佐成委員が答えられたように,実務ではそれほど困っていないという認識です。判例で問題になっている事案が幾つか指摘されている,確定日付のある証書であっても確定日付の先後ではなくて,到達時で判断しなければならないという考え方が承認されている以上,確定日付だけでは不十分ですから,結局到達の先後関係で問題になる事案がもちろん生じている,生じているからこそ判例がある。   では,その事例がこの世の中にある債権譲渡のうち,どれだけの頻度で起きているか。極めてレアケースだと私は認識しております。そのレアケースを問題視して,それを解決するために統一的基準が必要だというがために,大きく制度を変えなければならないほどの困り方かというと,基本的にそれほど実務では困っていない。分からなかったら供託なりできる,書き方は法務局に行ったら丁寧に教えてくれますので,このように書けば,これは供託できますよと。その程度のことでおおむね解決できているのではないか。したがって,元に戻った話で申し訳ありませんけれども,現在の確定日付に基づく通知なりが,到達の関係で意味をなしていないではないかという御批判が根本的にあるわけですけれども,本当にそれをそれほど重大視しなければならない問題なのでしょうかという点で,まず,疑問を持っています。   その次に,私が先ほど言いました到達時点を公証する制度を持ち込めばいいではないかという考え方は,現行法の丙案を維持した上で,現在の判例の立場を採ったとき,到達時が問題になりますから,確定日付のある証書で通知した上で,到達する時点については記録を残せばいいではないか,記録を残す部分は現在は立証問題ですけれども,立証問題について重大なというか,貴重な証拠が簡単に手に入るので,今,第三債務者の負担とされている問題は,配達時間を簡単に記録することによって,多くは立証問題として容易に解決できる。丙案に,プラス,そういう制度を持ってくることによって,今,指摘されている問題を解決すれば,それで足りるではないかと,こういう考え方です。   なお,乙案との関係でいうと,乙案に弁護士会は反対ですし,私も反対です。それは丙案であれば確定日付ですけれども,確定日付はやはり重要な意味があると思っています。厳密な意味での到達時点を左右することができない場面がありますけれども,確定日付があれば,それ以前にあったことは絶対にないわけですから,それだけでも十分意味がある。乙案はそれが確保できないと思っています。そこで,丙案プラス問題点を解消するための到達時点についての何らかの公証する制度を組み合わせてはどうかというのが先ほどの意見でした。 ○高須幹事 潮見先生からのお尋ねの東弁の考え方のところですが,東弁の意見は確定日付を要求しないという改正を行うと同時に,到達日時を公証する制度を導入すべきであるというものです。実現可能かどうかということはあるのかもしれませんが,ただ,なくせというのではなくて,むしろ,到達のところに重きを置いた何らかのそういう制度を設けるべきだというのが一応,東弁の意見ということでございます。   それから,もう一点だけ,インフォメーション・センターとするかどうかで債務者がどの程度の煩わしさを受けるかというところでございますが,これもただの経験的なことだけですが,確かに危機的状況の中で複数の債権譲渡がなされれば,債権譲渡通知が山ほど届くということはございます。ただ,そのこと自体が負担というよりは,その後を追い掛けるように取立てが来る,支払えという請求が来るということですから,煩わしさの大部分は要するに債務者に対する支払請求という部分だと思いますので,いわゆる第三者対抗要件そのものも問題かというと少し違うのではないか。そういう意味では,通知そのもので煩わしいと思っているわけでは余りないのかなという印象を持っております。 ○佐成委員 先ほどの煩わしさに関してですけれども,ちょっと舌足らずだったので,補足させていただきます。確かにインフォメーション・センターとなりますと,それなりにいつ到達したかとか,どこの支店に到達したかとか,いろいろ管理の煩わしさもありますし,優先劣後の判断をしなければいけないというのは事実です。それはあるのですけれども,現状では弁済供託などで処理して実務が回っているということで,一口に管理の煩わしさと言っても,それこそ程度問題ですし,全く根拠なしにインフォメーション・センターであることに問題がないという趣旨ではございません。ただ,今のところ,現状ではそういう手当てがしてあるので,実務的には回っているわけです。けれども,よりいいものがあれば,もちろん,そっちのほうに乗りたいとは思います。   ですから,現時点で丙案と言っているのは,煩わしさもそれなりにあるのだけれども,今は取りあえず実務は回っているということでございます。しかし,その対応が本当に効率的で適切なのかどうかは分かりませんので,もしも抜本的に解決ができればもちろん甲案ということもあり得るとは思います。そういった感じでございますので,今,インフォメーション・センターにされることの不利益が全くないとまで申し上げる趣旨ではございません。そこだけ補足させていただきます。 ○中井委員 先ほどの潮見幹事から言われた,丙案を採るなら債務者インフォメーション・センターについての覚悟があるのかと,この点について発言漏れがありました。   合理性のみを考えたときに,内田委員ほか,山野目幹事もおっしゃるように登記一元化の方向,ここでいうならば債務者をインフォメーション・センターとせずに,何らかの他の代替案を考える甲案,こういう考え方について理解できないわけではありません。しかし,私は現行のインフォメーション・センターという形を残していいのではないかと思っています。結局,債権というのが人と人の関係から生ずるものですから,債務者関与なくして譲渡ができるといったところで,譲り受けた人はどこかで債務者に対して請求するわけですから,それが第三者対抗要件なのか,債務者対抗要件で切り分ければいいという割り切りももちろんあるとは思いますけれども,債務者との関係で常に考えていくという発想はそう捨てたものではない,むしろ,そう簡単に捨てていいのかということに疑問があります。   SFCGの例を先ほど挙げました。大量の債権を複数のいわゆる金融のプロに対して譲渡したわけですけれども,譲り受けた金融のプロでさえも,その事実を見付けることはできなかった。譲渡人は二重,三重に譲渡することは平気だった。その背景は何か。私は人である債務者が関係しないシステムだったからだと思います。今の公示制度のシステムの問題という面もありますけれども,人が関与しないところで行われることに対する譲渡人にとっての,人情的な意味でといったらおかしいですけれども,制約感のなさ,これを債務者に対して通知するという行為が必要であって,それによって対抗要件が取得されるとなれば,人というのはそこに行動の在り方に違いが生じるのではないかと感じるところがあります。   そういう意味で,合理的な考え方のみで果たしていいのか。余り論理になっていないのかもしれませんけれども,インフォメーション・センターという形で債務者に通知する行為によって,ある意味で二重譲渡的なことも事実上,制約される要因になるのではないか。そういうプラス面も捨てたものではないということを付加しておきたいと思います。 ○道垣内幹事 つまらないことなんですが,先ほど中井委員が最後におっしゃったことに関連して言いますと,その論理からいくとやはり登記制度廃止が筋ではないかという気がしてならなりません。   しかし,申し上げたいことはそのことではなくて,今まで467条2項の現行法を維持するというときに,通知の問題しか語られていないのですけれども,承諾についてはどのようにお考えなのかということについてなのです。と申しますのは,債務者がわざわざ自分で確定日付を取って承諾をするというというのは,さほど考えられないわけであって,実務では,承諾書というものが届いたときに,それを持って譲受人が公証役場に行って確定日付を取るといった手続がされていると理解をしております。   そうなったときに,どの時点で対抗要件が備えられたのか。潮見幹事の学説では承諾が発信されたときであるとされています。債務者が承諾を発信したら,その人に払うようになるから,そういうふうなチャンスというか,権利を与えてあげなければいけないというんですが,私はそれは文言に反した解釈であろうと思います。つまり,その時点で確定日付がないとするならば,承諾書を受けた者の側が確定日付を取得しなければ,467条2項の文言に合致した形にはならないのではないかという気がしております。   どちらの解釈論が妥当かという問題は現行法の解釈ですのでどうでもいい問題なのですが,しかし,承諾に関連して,どう処理をするのかということを467条2項を原則として維持をするとしても,何らかの形で明確化する必要があるのではないかと思います。ただ,私が承諾の実務等々について十分に存じ上げないものですから,是非,御教授を頂ければと思う次第です。 ○中井委員 承諾の実務は,三上委員のほうがいいと思いますが,一般的には承諾の書類を作って,債務者にそこに署名,押印を頂く。頂くと同時に最も近い公証人役場に持って行って確定日付を押してもらう。これが実務です。 ○道垣内幹事 では,それはどの時点から対抗要件を備えていると,理解をされているのでしょうか。 ○中井委員 私に聞かれているのでしょうか。それは先ほどおっしゃられた潮見先生の考え方と,確定日付を押した時点かという問題ではないのでしょうか。 ○内田委員 承諾の件ですが,これも非常に重要な問題だと思います。中井委員のほうから承諾がよく機能しているので,それを含めて現行制度を維持すべきであるという御意見があったかと思います。しかし,承諾が本当にインフォメーション・センターという趣旨からして,対抗要件たり得ているのかということについては古くから議論があって,道垣内さんが指摘された問題というのは以前から議論のあるところだと思います。学説というか,実務家の説ですけれども,承諾をした人はいつ確定日付が付いたか,その瞬間を知らないのだから,承諾は対抗要件になり得ないという意見もあるわけです。ですから,法的には非常に不安定な状態に今あるのだと思います。   日本の通知・承諾というのは日本古来の伝統に基づいて作られた制度ではなくて,ヨーロッパから輸入された制度ですので,母法国の情報を御紹介しますと,フランスでは以前に作られたカタラ草案では,承諾もやめてしまって通知もやめてしまって,第三者対抗要件は譲渡の先後のみで決するというドイツ式の提案をしたわけですけれども,昨年に出された司法省の草案では,これはフランスの伝統に反するということで揺り戻しがあって,元の民法の通知・承諾に一応戻すけれども,公正証書などは要求せず,無方式でよいという形が提案されています。   ただ,その中で承諾については,元の民法では日本が承諾と翻訳したアクセプタシオンという言葉が使われていたわけですけれども,去年の司法省草案では承諾という言葉をやめて,英語でいうとインターベンション,フランス語のアンテルバンシオンという言葉に置き換える提案をしています。なぜ,そういう修正提案がなされたのかは理由書がないのでよく分かりませんが,ただ,従来の民法の承諾についても,慶應の池田先生の御研究などを見ますと,フランスでは承諾が公正証書で行われることが要求されていて,その公正証書はどういう形で作られるかというと,債権譲渡契約そのものが公正証書で行われ,その譲渡契約の公正証書作成に債務者が立ち会って,承諾文言をそこに入れるという形で作られるというのが一つの典型的なやり方で,したがって,公正証書で承諾をするということが簡単にできると言われているわけです。   これは日本の実務の承諾と随分違うわけで,池田先生も本の中でフランスの承諾というのは債権譲渡を承認する意思表示そのものであって,観念の通知などではないと書かれていますけれども,母法国ではそういうものです。その実務を条文に言葉どおり反映しようとすると,インターベンション,つまり「関与」という表現になるのだろうと思います。これに対して日本で行われている承諾というのは,いつ確定日付を取ったかも分からない承諾や,事前の包括承諾というのもあって,非常に便利に使われていると言われているわけですが,事前の包括承諾などというのは債権譲渡がいつあったかすら分からない。そんなことでインフォメーション・センターの役割が果たせるのかは甚だ疑問で,厳密に言うと,対抗要件たり得るのかどうか,議論の余地があるだろうと思います。   それにもかかわらず,債務者がインフォメーション・センターとして負担を負っていることが,やっかいだという声はないと言われるわけですが,それは不満の声がきちんと拾われていないだけではないか,少なくとも私自身はそれが負担であるという声が実務にあるということも聞いております。しかし,もし,負担についての不満が強くないというのが事実であるとすれば,それはインフォメーション・センターとしての役割を果たしていないからではないかと思います。   つまり,インフォメーション・センターというのは誰かが譲渡しようとするときに,いちいち,債務者に聞きに来て,通知はあるのか,承諾はしたのかということの照会を掛けてくる。それに対して毎回,嫌がらずに正確な応答をするというのがインフォメーション・センターであって,それは本業のある債務者にとっては極めてやっかいなことです。しかも,その費用の請求もできないということですから,どうしてそんな義務を負わなければいけないのかと思うでしょうし,当然,負担になるはずですが,それが実務的に問題になっていないとすれば,そういう照会が余りないのだろうと思います。これが本当にインフォメーション・センターなんだろうかというところには疑問も感じるところです。 ○三上委員 第三債務者の負担等に関して私の認識を語らせていただきますと,負担になっているか,なっていないかというと,インフォメーション・センターとしての負担は余り聞きません。聞かれても銀行は守秘義務で回答しないし,我々が承諾をもらっている他の一般の事業会社でも,ノーマークで回答している例は聞いたことがないので,そもそもインフォメーション・センターとして機能していないのかもしれません。次に,「誰に払えばいいのか」という点での負担ですが,供託は決して簡単な手続ではない。法務局は,必ずしも営業店の近くにはないし,供託所の書き方なども独特で,しかもすぐに持っていかないと法定利率を付けろと言われます。それでも,こういう負担を度外視して,第三債務者の立場として一番望ましいのは,差押えがあったときの権利供託みたいに,譲渡通知があったら,それだけで権利供託できるという制度ではないかと私は感じております。つまり,いろいろと制度を精緻にして,誰が優先して弁済を受けられるべきかを第三債務者に判断させないで欲しい,供託すれば取りあえず係争から逃れられて,債権者を主張する者は供託所に掛かっていく制度にすれば,十分であるという理解ですね。   もし,その理解を前提にすると,別に丙案でなくても構わないということになるわけですが,では甲案でいいかといいますと,譲受人としての金融機関の側からすると,少なくとも今の段階では完全にインフォメーション・センターではないにしても,ある程度,協力を得られる第三債務者はたくさんいるわけです。まず登記簿を見て,次に第三債務者に通知なり,承諾をしていないという確認さえ取れれば,この債権を譲り受けてもまず大丈夫なからんという判断はできるんですが,甲案を採ってしまうと,譲渡人と譲受人の間で確定日付のある譲渡証書を隠している可能性が出てくるわけですから,その点では今よりも後退します。そういう意味では,やはり,現行案ないしは最低でも乙案のようなものが制度としては便利であって,第三債務者の負担は,先ほどの簡単に供託ができる制度等による解決を考えればいいのではないかというのが私の認識です。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。それでは,この点につきましても頂戴しました御意見を踏まえて,更に検討を続けさせていただきます。   恐縮ですけれども,次に進ませていただきます。「(2)債務者対抗要件(権利行使要件)」及び「(3)債務者の行為準則の整備」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。  (2)につきましては特に御異論はございませんでしょうか。先ほどのウと連動してくる論点でございます。イについても特に御異論はございませんか。 ○内田委員 部会資料で,アもイも何々する「ものとしてはどうか」,あるいは「こととしてはどうか」と書かれていまして,部会資料がこういう表現をとっているときは,事務当局としての提案という趣旨です。したがって,こういう方針で行きたいということなのですが,そうでありながら,事務当局の一員としてやや違ったことを申し上げますけれども,アの現行の規定の内容を維持するということに関しては,承諾についても維持するということになるわけですけれども,先ほど申しましたように対第三者対抗要件として承諾に疑問があるということと,それとも連動し,そして債務者対抗要件(権利行使要件)についても,サイレントの譲渡などで債務者のほうから一方的に承諾できるというのは,ちょっとおかしいのではないかという疑問もあることから,やはり承諾を債務者の権利行使要件として維持するかどうかについては,検討の余地はあるのではないかという気もいたします。 ○三上委員 ちょっと勘違いしたのですが,今の内田委員のお話は債務者対抗要件の問題なのか,第三債務者の行為準則の問題なのかという点ではないのでしょうか。つまり,承諾を債務者対抗要件にするとしても,承諾をしたから,その人に払わないといけないとか,間違った人に払うと二重払いの危機を迫られるかという問題ではないのでしょうか。債務者は請求されたら払わなければならないとしても,例えば先ほど私が申し上げましたように,誰に払っていいか分からないなら供託できますということであれば,払うことは払うわけですから,別にそれが債務者対抗要件であっても構わないと思います。ですから,今,おっしゃった問題点というのは,どちらかというと次の行為準則の話ではないのでしょうか。 ○内田委員 行為準則の話ではなくて,現行法上は譲渡した当事者である譲渡人と譲受人が債務者に対する通知を留保している場合,つまり対第三者対抗要件は登記で備えていて,債務者に対する通知を留保している場合でも,たまたま,譲渡の存在を知った債務者が承諾をして,譲受人に払うことが可能になるわけですね。そこまで認める必要はないのではないかということです。 ○鎌田部会長 これは特に債権譲渡登記制度ができて第三者対抗要件と債務者対抗要件が完全に峻別されたことを前提にして,第三者対抗要件だけ備えて債務者対抗要件は備えていないというときに,債務者の側で譲受人を積極的に現在の債権者と認めて弁済していくことがいいのか悪いのか,あるいはできるのかできないのかという,こういう議論なんですけれども,イの表現を改めるのも若干,それと関連する部分があることはあるんですね。 ○道垣内幹事 単なる確認なのですが,今,内田委員がおっしゃったこともよく分かるのですが,仮に(2)のアのところをそのまま認めて,債務者は通知がされていない債権譲渡について,自ら承諾をして弁済することは自由であるとしたとしても,そのことは必ずしも第三者対抗要件のところで,承諾を現在と同じ状況で残すということには直結しないと考えてよろしいわけでしょうか。つまり,二つに分けて書いてあるわけですが,1,2というふうに2のところで債務者対抗要件に債務者による承諾を含めたとしても,第三者対抗要件として現行法どおりの形で含まれるというのは,独立の問題であるという理解でよろしいわけですね。 ○内田委員 一応,独立の問題だと思いますが,実務的に承諾が非常に便利だというのは,第三者対抗要件と債務者に対する対抗要件が,同時に具備できるというところに大きなメリットがあるのだと思います。従って,債務者に対する権利行使要件として承諾はあるけれども,第三者に対する対抗要件として承諾をなくすというのが制度設計として,どれだけ意味があるのかというのは疑問に思います。 ○鎌田部会長 ただ,前のウの甲案というのは承諾は入らないわけですね。第三者対抗要件としては承諾は排除するということで提示して,むしろ,それを前提にすれば(2)のアから承諾を外したほうが一貫性があるという,こういう考え方もあり得るということになるんだと思います。実務的には異議をとどめない承諾とも絡むので,実際には承諾を取る,あるいは三者間の合意の形をとるのが少なくはないだろうと思いますけれども,三者間の合意だと,あえて承諾というのを抜き出さなくてもいいというふうなことになるかもしれないです。 ○道垣内幹事 この問題は以前の部会から議論された問題で,対抗要件であるということを純粋に考えると,自らの側で認めていくというのは構わないんじゃないかという考え方と,あえてサイレントにしているときに,債務者が譲渡の事実を勝手に見付け出してきて,譲受人に弁済するということを認めてよいのかという問題との対立であると理解をしています。そして,その問題について,私は何か強い見解を持っているというわけではなく,したがって,債務者から債務者対抗要件の問題として自ら承諾していって弁済をするというのは構わないと思うのですけれども,第三者対抗要件について「承諾」をそのまま残すということには,私は必ずしも賛成できませんし,また,債務者対抗要件として「承諾」を残すというときにも,内田委員が御指摘になった「事前の承諾」というものを認めるかというと,私は認められるわけがないと思っています。   昭和28年5月29日判決というのがいつも引用されるんですが,あれは承諾と譲渡との間に1日ぐらいしか差がない事例で,譲受人もはっきりしていた事例でして,手続上,若干,先後関係があったという事例です。しかるに,この判例を根拠に,あたかも包括的な事前承諾が常に認められるのが判例であると解説しているものがありますが,それは妥当でないと思います。債務者対抗要件は,債務者のための制度なのだから,債務者がその具備必要性を放棄するのは当然にできるのだとも言われますが,誰に譲渡されるのか,いつ,譲渡されるのか分からない承諾が有効であるというのは,とてもは賛成できません。だから,アについて仮にどうかというのに賛成をするとしても,そこにいう「承諾」は,現在の制度における「承諾」について解釈論として言われているところとは異なるべきだろうと思います。 ○鹿野幹事 債務者対抗要件の問題に関して,前のラウンドでも申し上げたのですが,やはりサイレント型というのをどこまで保護するのかということが関わってくると思います。債権譲渡が行われたときに,それをあえて債務者に知らせないでおくということが実際に行われ場合があることは,認識しているのですけれども,それを認めるために,一般的に債務者対抗要件から承諾を外すということが果たして必要なのか,そこまで重大な問題があって,それを一般化しなければいけないのかということについて,私は疑問を持っています。   ですから,基本的には,(2)についてはこのような提案でよいと思っています。もっとも,承諾については,道垣内幹事のおっしゃったように留意する必要があると思います。そこで指摘された解釈が一般的とまで言えるのかは分かりませんけれども,少なくとも,現在,承諾というものが余りにも融通無碍に緩やかに捉えられているように思われます。ですから,承諾としてどういうことが必要なのかについては,更に検討する必要があると思います。   更に言いますと,先ほど第三者対抗要件について,債務者をインフォメーション・センターとする考え方をなお採るべきかどうかが議論されましたが,道垣内幹事は第三者対抗要件として承諾は除くべきだという意見を今おっしゃいました。しかしながら,その問題に関しても,現在言われている承諾には確かに不都合があるとしても,別の形でより限定を加えた承諾ということを前提とした上で制度設計をすることが考えられるのではないかと思います。このように,第三者対抗要件や債務者対抗要件から承諾を外すか否かを決めるに当たっては,承諾の実質を見直す可能性まで含めて,考える必要があるのではないかと思います。 ○中井委員 弁護士会はこの論点に関してはいずれも賛成と,現行法の債務者に対する通知と債務者による承諾という形を残す。イについてはこのような表現に変えることに特に反対はしないという意見です。   先ほど事前の包括的承諾という言葉が出ました。ただ,実務で私は余りその辺の情報が不足しているのかもしれませんけれども,そういう包括的に,しかも事前に承諾を得るという実務がそれほど一般的なんでしょうか。私は,包括的であるとか,事前であるとかいうお話を余り認識はしていないのですが。 ○三上委員 先ほどの登記のところの別紙にも書いてありますけれども,実務では債務者は大企業一人で,債権者は多数の下請企業で,手形代替のシステムとして,そこで包括的な承諾を多用していますから,今更,それがおかしいと言われても,実務はそれでは困るというところがございます。実際のその場面として承諾すると危なければ,基本的には承諾しなければいいではないか,と言ってしまうと非常に乱暴に聞こえますが,包括承諾をすることによって債務者対抗要件を備えている場面というのは,それをしても大丈夫な場面で実務は動いているわけです。したがって,わざわざ承諾を債務者対抗要件から外すとか,そこまでする必要はないのではないかと思います。むしろ,登記で安く包括的に,先ほど言いましたように債務者は一人,しかし,それに対する債権者が多数といったような場合に,何がしか,手続ができるのであれば,それはそれで全く考えないわけではないんですが,そういう担保がないところではやはり承諾の有効性,多様性というものは残りますので,少なくともそれを債務者対抗要件からも外してしまうということは,今の段階では余り考えられないと思います。 ○中井委員 三上委員に確認ですけれども,債務者が一人で債権者が多数のときに承諾による実務が行われている。それを包括的承諾と呼んでいるのですか。譲渡自体は特定されている,それについて個別承諾が同時に重なって行われているだけではないのでしょうか。 ○三上委員 商品としては,今後,発生する売掛債権を,仕入れの大手企業に包括して承諾してもらってSPCに譲渡して,それを担保にして例えば下請企業に,その金額に満つるまで融資するとか,そういう形式ですね。 ○鎌田部会長 それは将来債権ではありますけれども,譲渡対象債権も譲受人も特定しているというケースだと理解していいですか。 ○三上委員 そういう意味では包括的ですけれども,特定しています。 ○道垣内幹事 譲渡の時期が明らかだとか,譲受人が明らかであり,特定しているとか,債権が特定しているという事情があって,事前の承諾があるという場合,そして,まともな所が行っている債権譲渡についてはそうだろうと思いますけれども,そのような場合は構わないのだと思います。しかし,流動化の実務を考えますと,いつ,流動化するか分からないし,どのようなSPCを作るか分からないけれども,流動化をするかもしれないので,事前に全部,承諾をしておくというふうなものもニーズはあるようですし,かつ,今,やっているのに,はしごを外されてもと三上委員はおっしゃったんですが,私に言わせるとはしごはなかったと思うわけでありまして,実務を維持するという必要は全然ないと思います。 ○内田委員 そのはしごの件なんですが,一括決済システムの場合とか,クレジットカードの場面とかで事前の包括承諾があるという実務は承知しておりますが,そういう場面は私の理解では三者契約なのではないかと思います。単に承諾をするとか,通知をするということではなくて,段階的ではありますが,三者が全部契約で結ばれる。それぞれの契約の中で債権譲渡についての合意がなされていて,確かに一つの契約は個別具体的に債権譲渡の条項が入っているわけではないにしても,一応,債権譲渡についての三者契約があるという解釈が可能だと思いますので,これは当然有効であるというのが私の理解です。ですから,はしごは債権譲渡についての承諾がなくてもきちんと置かれているというのが私の理解です。 ○鎌田部会長 では,もうそろそろ次に行きたい気もしていますので,中井委員,深山幹事,それぞれ簡潔にお願いいたします。 ○中井委員 今の関連で私が全く誤解しているのかもしれませんけれども,将来債権譲渡が認められて,対抗要件がある方法で認められる。仮にそうだとすれば,それに匹敵する債務者の承諾があれば,当然,それは承諾として有効でしょう,それだけのことと理解しているのですが。 ○深山幹事 実務で行われている承諾は,もちろんいろいろな場合があるでしょうが,譲受人や譲受時期までよく分からないような承諾を現行法で定める対抗要件としての承諾と認めるかどうかというのは,法的な評価の問題だと思うんです。ですから,承諾を残したとしても,どんな承諾でもいいということにはもちろんならなくて,先ほど鹿野先生も御指摘になりましたように,対抗要件としての承諾がどういう承諾でなければならないかということについては,一定の規律が必要なのだろうと思います。少なくとも私の理解としては,実務的に行われている主要なものは,譲受人が特定されていて,正に内田先生が御指摘のように三者契約的な形で承諾をする場面です。   そのような形でなされる承諾は,債務者対抗要件でもあるし,更に確定日付を取れば第三者対抗要件も備えるということを踏まえて,三者が安心できる状態をそこで作り出しているのだろうと思います。つまり,債務者にとっても,誰に払えば自分は今後免責されるのかということがそこではっきりするわけですし,譲受人も,債務者があなたに払いますよと意思表示することによって安心して譲り受けられるということになります。それぞれが安定した法律関係を確認できるという意味で,実務上重宝に使われているという認識でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,どういう承諾がここでの承諾として有効となるかというのは解釈問題であって,立法的対処は必要ないと一応,思いますので,むしろ,承諾を維持するかどうか,あるいは第三者対抗要件と債務者対抗要件とで承諾の取扱いを変えていいかどうかということが,実質的には一番中心的な問題だろうと理解いたしました。その点については引き続き検討させていただきます。 ○道垣内幹事 私は必ずしもまとめに同意はできません。と申しますのは,債権譲渡特例法ができて,例えばそれについて登記の可能性というのをどんどん広げてきて,債務者は不特定であっても登記ができるようになった。債務者が不特定というのは,本来,民法上は対抗要件が備えられなかった場合になるわけでして,その意味では第三者対抗要件は既に拡大されてきているわけです。だとすると,それとの関係において,承諾はどういう場合に可能なのかということは,必ずしも解釈問題として放置しておけばいい問題ではなくて,登記の可能性のところよりも狭いのだということを明らかにすることは,あり得るのではないかという気がしております。 ○鎌田部会長 承諾が債務者対抗要件として有効に機能するための要件を立法的に明確にすると。 ○道垣内幹事 最終的にするべきかどうか分かりません。けれども,そういうことはあり得るわけであって,必ず,それは解釈問題であって,承諾という文言を入れるかどうかが問題ですよねということにはならないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。必ず立法的対処をせよというわけでもないということでよろしいですね。 ○道垣内幹事 最終的に解釈問題となるとしても,ここで一生懸命,言っておきたい。 ○鎌田部会長 イのほうについては,特に御異論はなかったんですけれども,内容的には二点あって,「その他の第三者に」というところを削るということと,「対抗することができない」という表現はやめるということですが,特に御異論はないと考えてよろしいですね。私は個人的には対抗のままでいいではないかと思っているんです。少なくとも理由として,いわゆる対抗問題ではないから,対抗という言葉を使ってはいけないなんていうと,民法の中でたくさん修正しなければいけないところが出てくると思うんですけれども,こだわりません。より分かりやすくなるということで。ここは異論がなかったという処理にさせていただきます。   それでは,次に(3)についての御意見がまだ出ていないんですけれども,ここは分科会で補充的に議論するという御提案があって,そちらに任せてしまうのでいいというのがこの場の御意見だと伺ってもよろしいでしょうか。ウについては,甲案,乙案もありますので,その点について御意見を頂いたほうが分科会で議論するときにも有用だと思いますので,(3)についての御意見があればお出しいただければと思います。 ○中井委員 弁護士会の意見を御紹介しておきますと,アについてもイについても賛成で,ウについては甲案でよいという意見です。ただ,甲案の場合,最初,2人かと思って2人で按分したところが,後でもう1人いることが分かるという場面があるけれども,どうなるのか,という問題提起がありました。その場合,3人目が出たときに,改めて債権額に応じた按分という結論になるように調整するしかないでしょうという意見です。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中田委員 今のウの甲案については,中井委員から後で調整すればよいという御意見ですけれども,債務者にとって,その負担はかなり大きいのではないかと思いますので,私は甲案にするには相当検討が必要で,最終的に乙案でもしようがないかなと思っております。 ○鎌田部会長 債務者の負担になりますか。 ○中田委員 失礼しました。訂正します。債務者から弁済を受けた者の負担が大きいということです。 ○深山幹事 先ほど三上さんからも供託をして債務者が免れる道を創るという話がありましたが,この御提案の中では(3)のイのところで,同時に第三者対抗要件を具備した場合について供託できるという提案がなされておりまして,これは「アの②のうち」ということですから,対抗要件の先後を決することができない場合のうちの同時到達の場合というところだけをくくり出して,供託を認めるという提案になっています。もちろん,安易に供託を認めることの弊害もあるというのは,補足説明に記載のあるとおりではあるのですが,同時到達の場合だけにまで絞り込んでしまうのがいいのかというのはちょっと疑問で,もう少し幅を持たせて,少なくとも先後を容易に決することができない場合について,もう少し広目に供託を認めてもいいのではないかという気がしております。   今の供託実務の法務局の扱いは,供託をしようとする人が債権者不確知の説明をするときに,例えば,ある日,譲渡通知を受けたら,翌日,また通知が来ましたというようなことを供託書に書いても,これは受け付けてもらえないわけですね。先に着いたほうが優先するのだから,そちらに払いなさいということで受け付けてもらえない。しかし,実務的には,いろいろ混乱している中で複数の譲渡通知がなされ,形式的には到着した順番が付けられても,先に到着した通知の有効性に疑問がある場合もあり,もう少し幅を持って見てあげないと,債務者にとって酷な場合というのが経験的にもあります。そこは実務の運用の問題なのかもしれませんが,もし,同時到達の場合に供託原因として認めるという規律を入れるのであれば,同時到達というところをもう少し幅を持った規律にしても,よろしいのではないかと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○佐成委員 今のところの関連です。(3)のイですが,これについては,是非,設けてもらいたいということです。いずれの譲受人に対しても全額弁済できるのだとはいっても,債務者側としてどちらかを選択しろというのは,実務的には非常に苦痛のある場合があります。例えば両方が顧客である場合などがありますので,ここは,是非,お願いしたいという意見が相当数あったということです。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。それでは,(3)全体につきまして,具体的な規定の在り方等について分科会で補充的に検討をすることとさせていただきます。   次に,「3 抗弁の切断」について御審議を頂きます。事務当局から説明をお願いいたします。 ○松尾関係官 「(1)異議をとどめない承諾による抗弁の切断」のアでは,異議をとどめない承諾によって抗弁の切断を認める制度を廃止することを提案しております。そして,この制度を廃止した場合に,抗弁の切断は基本的に抗弁を放棄するという意思表示の一般的な規律に委ねられるものとし,その旨を明示する等の特段の規定は設けないものとするのがイの第1パラグラフです。また,イの第2パラグラフでは,抗弁の放棄の意思表示が書面によってされなければならないとする提案を取り上げています。   「(2)債権譲渡と相殺の抗弁」は,債権譲渡の譲受人に対して債務者が相殺の抗弁を主張するための要件に関する規定の要否を問題として取り上げるものです。甲案は,抗弁の切断の基準時後に発生又は取得する債権であっても,一定の場合に債務者の相殺の抗弁の主張を認めるものですが,これは特に譲渡禁止特約を第三者に対抗することができないとする方向で見直すべきであるとする立場から主張されているものです。これに対して乙案と丙案は,抗弁切断の基準時までに反対債権が発生していた場合に限り,相殺の抗弁の主張を認めるものですが,乙案は抗弁切断の基準時に相殺適状が生じている必要はないとした上で,自働債権と受働債権の弁済期の先後を問わないとする考え方,丙案は抗弁切断の基準時に相殺適状が生じている場合に限り,相殺の抗弁を主張できるという考え方をそれぞれ取り上げています。   以上の各論点のうち,(2)については,結論については最終的に部会で決定することを前提に,特に甲案の具体的な規定の在り方につき,分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点について分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。まず,468条第1項の廃止という点につきましては,御異論はないとお伺いしてよろしいでしょうか。 ○中井委員 抗弁の切断についての(1)のア,この廃止について弁護士会は基本的にほぼ賛成でした。その結果として,イの抗弁の放棄という意思表示の一般的な規律に委ねるということになろうかと思うのですが,その場合については若干,意見が分かれました。つまり,一切の抗弁を放棄するとの意思表示をそのまま認めてよいのか,ということに対する若干のちゅうちょといいますか,疑問です。   現在の異議をとどめない承諾の場合に,譲受人がその抗弁の存在を知っている場合,なお,その抗弁が主張できるという考え方があろうかと思います。抗弁の放棄という意思表示で全ての放棄を認めてしまうと,譲受人が知っている場合であって,かつ,場合によっては債務者側が知らないこともあろうかと思いますけれども,そういう抗弁も全て放棄という結果になることについて,それでよいのかという疑問です。そこから,消費者関係の委員会ほか複数から,放棄をする抗弁を具体的に特定しなければならない,逆に言えば,特定がなされていない抗弁の放棄というのは,その限りで効力を認めるべきではないのではないか,こういう意見があります。   それは行き過ぎだとすれば,特定までは要しないとしても債務者としては知らない,しかし,譲受人が知っている抗弁については,全ての抗弁を放棄するといっても,当該抗弁については,なお債務者は譲受人に対して主張できるという考え方もあるのではないか。その辺り,もう少し慎重に検討する必要があるのではないかという意見です。 ○鎌田部会長 その点は立法的に明確な対処をしろという御主張でしょうか。 ○中井委員 立法的に明確に対処すべきだという意見も含めて,そういう意見が出ております。 ○岡委員 (1)は中井さんのとおりでございますので,(2)に行くのだったら(2)の意見を申し上げますが。 ○鎌田部会長 では,(2)についても御意見を頂きます。 ○岡委員 では,(2)の相殺の抗弁のところでございますが,まず,弁護士会の状況としては乙案がかなり多うございました。ただ,丁案もございますし,甲案をもう少しブラッシュアップしたら,甲案でもいいのではないかというような意見もありました。   それを踏まえて私個人の意見でございますが,まず,甲案を採るとすれば,同じようなことを差押えの511条及び倒産手続開始の場合にも導入しないと,平仄が合わないのではないか。甲案提案者としては511条も倒産手続開始の場合も同じように考えているのかどうか,それをお伺いしたいというのが一点でございます。   全部で三点申し上げますが,二点目としては,甲案のような譲渡通知後に取得した債権でも,客観的な牽連関係があれば相殺を認めるべきであるという考え方は,十分,理解できますけれども,今の511条の無制限説の考え方で譲渡通知時に取得していた債権,その取得していた債権の解釈で停止条件付債権なり,その時点で取得していた債権の解釈でかなりの部分は賄えるのではないか。そうではなく,やはり甲案のような表現が必要だというのが具体的にどういう場合であるのか,もし,甲案でいくのであれば具体的な例を明らかにすべきではないかという意見を持っております。   それから,最後に511条及び倒産手続開始決定の場合と債権譲渡の場合を比べますと,単独差押え及び倒産手続開始の場合には,債権者の資力が危機状態であるというのが明らかになりますので,債務者としては期限の利益喪失特約等でかなり早く相殺に着手できて問題が先延ばしにならない。しかし,債権譲渡の場合には元気なうちに譲渡しますので,相殺できる権利というか,期待がずるずる長引いてしまうことになるのだろうと思います。銀行が譲渡通知が来たら,期限の利益喪失だという特約を作ってしまうと同じかもしれませんが,511条及び倒産の場合と債権譲渡の場合では,債権者が元気なうちの譲渡が入ってくるので,直ちに511条及び倒産手続開始と同じでよいのかという問題を感じております。譲渡禁止特約が一杯ある中で,判例が余りなく,そういう事案の積み重ねがない現状では,まだ,丁案でいいのではないかということを個人的には考えております。 ○鎌田部会長 ほかには。 ○中田委員 今の岡委員の御発言を聞きながら,分からなくなってきたんですが,(2)で出ている抗弁切断の基準時というのが何かです。(1)でアを採って,抗弁の切断は基本的には抗弁放棄の意思表示によってのみなされるということになりますと,相殺できるかどうかというのも,抗弁の切断の意思表示の解釈になるのではないかなと思ったんです。ところがただいまの岡委員の御発言ですと,債権譲渡の通知によって抗弁が切断するということだとすると,そこは現行法のような考え方を採るのかどうか,事務局の御趣旨を教えていただければと思うのですが。 ○松尾関係官 先に岡委員から頂いた御質問にお答えします。(2)で甲案を採った場合に,民法第511条や倒産手続開始決定後に同じような規律を導入することが必要になるのかどうかという点についてですが,部会資料は,論理必然に導入する必要があるわけではないと考えております。しかし,違う規律を設けるのであれば,なぜその違いが生ずるのかということは,よく考えなければいけないという問題ではないかと理解をしております。   また,中田委員から御質問いただいた点ですけれども,(2)で書いてある抗弁切断の基準時として意図していたのは,債務者対抗要件具備時,あるいは抗弁放棄の意思表示をしたときのいずれかであるということです。 ○中田委員 債務者対抗要件具備時が抗弁切断の基準時だというのは,(1)で二つの可能性があるからということですか。それとも,(1)で抗弁放棄の意思表示があったときに抗弁の切断が生じるという。 ○鎌田部会長 むしろ,468条2項はそのまま残るということで。 ○中田委員 2項のほうの基準時ということですか。 ○松尾関係官 468条2項については,特にこれまで改正の必要性が示されていないので,これは現状を維持するということで部会資料には挙げていないということで,これに加えて468条1項に替わる規定として,(1)の規定を入れてはどうかということがここでの提案でございます。 ○中田委員 分かりました。 ○三上委員 甲案の読み方の確認ですが,「抗弁切断の基準時に債務者が譲渡人に対して有していた既発生の債権だけでなく」というのは,次の行の「相殺の期待を保護すべき場合については」というのに共通に係るのでしょうか。つまり,既に発生した債権についてはある意味,無制限説的な考え方で,それ以降に関しては一定の牽連性があるものにして相殺を認めると考えるのか,譲渡時の前も後も通して特定の牽連性ないしは相殺の期待があったものだけを保護するというのが甲案で,単純な無制限説は乙案という違いがあるのかというのはどちらなんでしょうか。 ○松尾関係官 部会資料は,既発生の債権については無制限であって,抗弁切断基準時後の発生するものについては一定の制約が掛かるという考え方が前提です。 ○鎌田部会長 具体的にどんな場合があるかという御質問もありましたね。すみません,途中で切ってしまいました。 ○三上委員 ここの部分も,しつこいようですけれども,債権譲渡禁止特約の効力がどれくらい弱まるかによって意見が異なり得るという前提で言わせていただきます。もし,現行のままですと少なくとも我々が関与している業務範囲におきましては,ほぼ,こういう問題は預金債権等の譲渡禁止特約によって排除されておりますので,こういった問題にはまず行き当たらないわけですが,ただ,近時,問題になっています詐害的会社分割で貸金と預金が債務者に都合いいように分かれる例とか,債務者が遺言によって預金だけ片寄せしてしまうとか,そういった譲渡に類似する債権移転の場面にも類推適用できるような前提の基本ルールとしては,少なくとも乙案は全面的に支持したいと思います。甲案と乙案とを比べてどちらがいいかというのは,債権譲渡禁止特約の効力の問題次第です。特に将来債権譲渡が包括的に認められて,かつ,譲渡禁止特約の効力がある程度弱まるのであれば,甲案が必ず必要になってくるだろうと考えております。 ○松尾関係官 岡委員からもう一点,御質問を頂いた抗弁切断基準時後に発生する債権として,どのようなものを考えているのかということですが,例えば,売買の基本契約だけが締結されていて,個別の発注がされていないような売掛債権は,停止条件付債権とは言えないのではないかと考えていました。 ○岡委員 継続的な売買契約があって売買代金債権の譲渡通知が来たと。その譲渡通知が来るときまでに納入を受けていた物品の瑕疵担保請求権と相殺したいというのは分かるんですが,それだと物品がもう来ておれば,何か,停止条件なり,潜在化していないだけで債権はあったと言えると思うんですが,譲渡通知が来た後,基本契約に基づいて,その後,納入を受けた物品についての瑕疵担保請求権,それとも相殺できる,そういう理解なんでしょうか。 ○松尾関係官 売掛債権と瑕疵担保請求権の相殺というよりも,相互に売掛債権を持ち合っていた場合で,両者に牽連性があると認められる場合を考えていました。 ○岡委員 相互に売り買いする取引は当然ありますので,ある債権について譲渡通知が来て,その後に売り渡した代金債権と相殺できる。なるほど。それはちょっときついかなという印象は持ちますが,そういう具体例を出して議論したほうがいいと思います。 ○内田委員 今のような例のほかに,こういう規律は海外には立法例がありますが,そこで挙げられている例というのは,納品した機械などに対する売掛債権,あるいは請負の報酬債権の場合もありますが,それと,その機械のメンテナンス上の損害賠償債権が一つの同じ取引上の債権債務として,相殺の期待があるというような説明がされることもあります。 ○鎌田部会長 請負代金債権が譲渡されていて,その後に工事をして債務不履行があったり,欠陥があったりしたときの損害賠償請求,これはこんな規定はなくても大丈夫。 ○内田委員 多分,岡委員はそれは解釈で可能ではないかという御議論だと思うのですが,メンテナンスの場合は別契約になるわけですけれども,一体なので相殺の対象になるということが,こういう規定があると無理なく導けると思います。 ○中井委員 今の問題ですけれども,岡委員からありましたように弁護士会の多くの意見は乙案という考え方で,基本的には511条の現在の差押えと相殺との関係の規律における無制限説的発想でいいのではないかという意見です。ただ,先ほど三上委員からありましたように,仮に譲渡禁止特約に反する譲渡を相当広く認めていくとなれば,本当に乙案で足りるのかという意見が弁護士会の一部から出ております。それであっても,甲案の規定ぶりで債務者側の利益について,相殺期待的な処理を考えていたわけですけれども,その利益を守れるような形で要件立てができるのかについては,かなり問題というか,はっきりしないのではないか。   松尾関係官がおっしゃられた相互に取引をしている場合まで広げていくと,債権は譲渡された後に継続的取引で次々と納入してしまえば,結果的に債権を譲り受けた方の債権が実質なくなるといいますか,相殺によって消滅するような事態になり得ることを容認することになるのではないか。そうなると,債権譲渡自体の取引の安全性について,かなり大きな影響も与えるように思いますので,譲渡禁止特約の効力を制限している以上,それを譲受人側はやむを得ないと考えるのかという利益考慮の問題かもしれませんが,そこまで広げていくとなるとどうか。先ほどの請負契約と瑕疵担保というのはかなり牽連性がはっきりしていますので理解できますけれども,要件化について更に検討しなければならないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 甲案につきましては,具体的な内容が明確にならないと,にわかに賛成できないということでもあろうと思います。事務当局からの提案でも,分科会で具体的な規定の在り方について,検討をしていただくという提案でございましたので,そこでの検討を踏まえて,最終的に部会でもう一度,審議をさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。 ○佐成委員 特段,それに不服ではないのですが,今の(2)については,甲案というのは譲渡禁止特約の効力の制限との関連性が非常に強いものですから,少なくとも無制限説を立法化して,その規定を明確にするという意味では,乙案は最低限あったほうがいいのではないかというのが経済界の基本的な考え方であるということです,それから,(1)のところは基本的に異論はないのですけれども,書面を要求することに関しては,他の制度との整合性を十分にとっていただきたいと思います。なぜ,ここだけ書面が必要なのか,本来,もっと必要性が高いところに手当てしていないのはおかしいのではないかというような疑問もあろうかと思いますので,その辺りの整合性を十分図っていただきたいというニーズがございますので御報告しておきます。 ○鎌田部会長 ほかによろしければ,すみません,次に進ませていただきたいんですが。 ○神作幹事 (1)のイに戻らせていただいてよろしいでしょうか。抗弁の切断につきまして,抗弁を放棄するという意思表示の一般的な規律に委ねた場合についてでございます。後の有価証券に関する規律とも関係するのでございますけれども,流通性を高めている有価証券の場合であってすら,抗弁の切断というのは悪意のある取得者を保護するものではございません。それに比して,債権譲渡の場合に抗弁を放棄してしまうと,取得者の善意・悪意を問題にせずに抗弁が切断されることになりますが,このことは,有価証券に関する規律と平仄が合うのか,有価証券に関する規定はこれから御議論いただくので,そこでの御議論によって影響を受けるかと思いますけれども,有価証券法理における抗弁の切断は悪意の者には及ばないことを前提といたしますと,債権譲渡の場合の異議をとどめない承諾が抗弁の放棄という構成を採った場合であっても,有価証券に関する規律との平仄を合わせるために抗弁の切断の意思表示について何らかの規律を設けることなども考える必要があるように思われます。そもそも,法律論の前提として,債権譲渡の市場あるいはマーケットを観念するとしても,悪意の者を保護してまで流通性を保護する必要性は一体どこにあるのか,実質的な利益衡量を行うことが重要であると考えます。 ○鎌田部会長 今の点については,宿題にさせていただきます。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,恐縮でございます。次に,「4 将来債権譲渡」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明をしてください。 ○松尾関係官 「(1)将来債権譲渡とその対抗要件」では,将来発生すべき債権を譲渡することができ,指名債権の譲渡の対抗要件の方法で対抗要件を具備することができるという判例法理を明文化することを提案しております。   「(2)公序良俗の観点からの将来債権譲渡の効力の限界」は,現段階で規定を設けることが困難であると考えられるため,この問題についての規定を設けることを見送ることを提案しております。   「(3)譲渡人の地位の変動に伴う将来債権譲渡の効力の限界」は,将来債権譲渡の後に譲渡人の地位に変動があった場合における将来債権譲渡の効力に関する規定を設けることの要否を取り上げるものです。アは,この問題についての一般的な規定を設けることの要否を問題とするものです。甲案は,譲渡の対象となった将来債権が譲渡人以外の第三者の下で発生した場合であっても,当該第三者に対抗することができるとする考え方を,乙案は,将来債権譲渡の効力は譲渡の対象となった将来債権が譲渡人以外の第三者の下で発生した場合には,当該第三者に対抗することができないが,譲渡の対象となった将来債権が譲渡人から当該将来債権を発生させる契約上の地位を承継した第三者の下で発生した場合には,当該第三者に対抗することができるという考え方を,丙案は解釈に委ねるという考え方を提案しています。イは,不動産の賃貸人が将来発生する賃料債権を譲渡した後に当該不動産を譲渡した場合における将来債権譲渡の効力について,特別の規定の要否を取り上げるものです。   以上の各論点のうち,(3)のアについては,結論については最終的に部会で決定することを前提に,アの甲案,乙案及びそれ以外の選択肢がもしあれば,それらの間で具体的にどのような違いが生ずるのかという点などにつき,分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点について分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,(3)については複数案が提示されていますので,まず,(1)(2)について御意見を伺っておきたいと思います。 ○佐成委員 (1)(2)いずれも提案内容に賛成ということでございます。 ○高須幹事 第一読会のときに(2)についてある程度,このような規定を設けるべきではないかという発言をさせていただきましたので,第二読会においても,そういう意見があったということを記録に残していただくためだけになってしまうかもしれませんが,一応,私としては(1)でもちろん規定を設けるということはすべきだと思いますが,それに合わせて,本来であれば(2)の観点というのもやはり見落とすべきではないと考えています。   ただ,立法提案として妥当なものができないのではないかという点は,確かにそのようなこともあるとは思っておりますが,たとえ抽象的でも例えば将来債権を譲り受けた譲受人は,その権利行使が他の債権者等との間の公平を害すると認められるような場合においては,債権の譲受けをもって対抗できないなどという,そんな抽象的な規定でも,やはり,それでもあったほうがいいのではないかと私個人としては思っております。   というのは,将来債権の譲渡,とりわけ,将来債権譲渡担保という問題については,非常に大きな今後検討すべき問題があるのだろうという思いを持っておりますし,担保法一般に還元できないような部分,つまり,将来債権という今,存在していないものを担保に入れるという点で,非常に特殊な要素を持っておるということで,担保法一般に関する議論とはまた違う部分があると思いますので,本来であればここで議論をして,より新しい法整備をしたいと思っております。ここは記録に残していただければと思います。 ○三上委員 簡単に。金融機関も佐成委員と同じように,(1)(2)に関しては両方とも賛成でございます。 ○鎌田部会長 それでは,(3)についての御意見もお伺いいたします。 ○山野目幹事 将来債権とされるものには,実際上,様々な形態のものがあり,その譲渡の在り方について,そのような多様性に耐えることができるような論議の集積がいまだ十分でないと見られることに鑑み,4(3)アの論点につきましては,丙案が相当であるという意見を申し述べさせていただきます。申し添えますと,甲案はその結果が妥当でないと思われますし,また,乙案は契約上の地位を承継するという要件の法的操作が安定して行われるかどうかについて疑問があると感じます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中井委員 弁護士会のこの点の意見ですけれども,第一読会から議論を重ねていくに従って変化が出ておりまして,乙案がそれなりに増えてきましたが,なお,丙案に相当数の支持がある。しかし,丙案を採りながら乙案を精神的には支持する,という意見もございます。他方,ここでは丁案というべきかもしれませんけれども,将来債権の譲渡の効力は,譲渡人以外の第三者の下で発生した債権には及ばないという考え方をなお主張する意見もありました。まだ,意見が分かれておりますが,乙案の支持が増えたというのが第一読会から後の弁護士会での意見の変化です。   若干補足いたしますと,基本的には将来債権といえども自由に処分できる,しかし,処分権限がない限り処分できない,というのが基本的な考え方としてあるわけです。したがって,甲案は基本的に採らない。乙案の提案されている譲渡人が恐らく何らかの法律行為,通常は契約したことによって発生した,若しくは将来発生する債権については,譲渡人に将来分も含めて処分権を認めてもいい場面で,その後,その地位が第三者に譲渡された後であっても,当該譲渡人のした法律行為ないし契約に基づいて,その後第三者の下で発生したというか,第三者の下で譲渡人のした契約に基づいて発生した債権と限定して理解をしておりますけれども,それについては債権の譲受人側が主張できるという考え方に賛成する意見が増えたということです。   具体的には,賃貸借契約における賃料債権について,譲渡人側で契約を締結した賃料について所有者が替わった後であっても,当該賃貸借契約に基づく賃料債権に限っては対抗できるのではないか。逆に言えば,その後,新所有者というのでしょうか,不動産の取得者が新たに契約した賃貸借契約に基づいて発生した賃料債権については及ばない,若しくは元々譲渡人が締結した契約,賃貸借契約であっても不動産譲受人が,合意解除した後,新たに賃貸借契約を締結したものについては及ばない。そういう意味で,元々の譲渡人の締結した賃貸借契約に基づく賃料債権については,将来債権の譲受人が不動産の取得者に対して対抗できるという考え方です。ただ,不動産賃料については,イの規定が問題となります。   同じように事業譲渡について考えた場合はどうか。この点は乙案の補足説明と理解が若干異なるのかもしれません。それは範囲に関する理解です。弁護士会の多くは,例えば基本的な取引基本契約が譲渡人の下で締結されていた,それが例えば事業譲渡によって,その地位が承継された事業の譲受人の下で当該基本契約に基づいて別途,個別契約が締結されて発生した売掛金債権等,これについては及ばない。   何が及ぶかと言えば,譲渡人の下で締結された個別契約に基づいて発生した売掛金債権等が,その契約上の地位とともに第三者に譲渡された場合,例えば物の給付が終わっていない売買契約の場合,その売主たる地位が事業譲渡契約によって事業譲受人に承継された場合,その事業譲受人の下で納品されたことによって発生した売掛金,これは既に譲渡されておりますから,債権譲受人が事業の譲受人に対して主張できる。ここでも厳密な意味で,譲渡人の締結した契約に基づいて第三者の下で発生した,つまり,譲渡人のした契約に基づいて発生したものについて対抗できる。この限度で乙案でいいのではないか。そういう意味では,契約上の地位の承継という範囲について,先ほど山野目幹事から御指摘がありましたけれども,相当,厳格に解した上で賛成するというのが今の意見です。 ○深山幹事 私も,今,中井先生が発言された考え方に基本的には賛同しているんですが,その上で,乙案の理解の仕方なり,実際の規定ぶりに関わると思うんですが,ここの提案では第三者の下で発生したという言い方になっております。中井先生は第三者が締結した契約というような表現をされまして,そちらのほうがしっくりくるんですが,要は譲渡人がどこまで将来の債権の処分権限を持つかということを基準に規律すべきだろうと考えたときに,処分権の及ぶ範囲をどう表現して画したらいいかということに最終的には行き着くのかなと思っております。イメージしているところは,中井先生と私は,多分,同じようなことだと思うんですが,それがうまく条文に落とせるかということについて,やや疑問に感じ,作れないとなると,結局,規定を設けない丙案ということもあり得るのかなと思いながら,うまくそこが作れるのであれば,乙案的な考え方を明文化したらどうかと思っています。   イのところでは,不動産の賃料債権について独立した規律を設けるかどうかということが提案されています。賃貸不動産が譲渡された場合に,対抗力のある賃借権であれば,原則として賃貸借関係が承継されるという判例法理を前提に議論されているわけですが,そういう意味でいうと,不動産の譲渡というよりは,不動産の譲渡に伴う賃貸人たる地位の移転があったときにどうかということが,そこでの本質だと思います。私は賃料債権だけ,その他の債権と別のルールを設けるということについては,やはり,余り合理的な説明ができないのではないかという気がします。賃料債権というのが不動産の法定果実の収受権たる性質を持つということ自体は,理屈しては分かるのですが,だからといって,他の債権と別の規律を設けることについては,合理性を見いだし難いのではないかなと考えている次第です。 ○村上委員 将来の賃料債権の譲渡については,抵当権との関係を考えておく必要があるのではないかと思います。例えば,ある不動産について,まず対抗力のある賃借権が設定され,次いで抵当権が設定され,それから将来の賃料債権の譲渡が行われ,最後に抵当権の実行としての競売が行われると,こういう順番で行われたケースを想定いたしますと,競売の買受人は賃借権の負担付きの所有権を取得することになりますが,その場合に賃料を取得できるのかどうか。仮に,将来の賃料債権の譲渡を買受人に対抗できるということになりますと,この場合,買受人は賃借権の負担付きの所有権を取得し,かつ,賃料は取得できないということになるわけですので,そういう場面も想定した上で議論しておかないといけないのではないかということです。 ○山野目幹事 専守防衛に徹しようと思って,申し上げるのをやめようかと思っておりましたが,記録に残す意味で,やはり,申し上げさせていただいたほうがよろしいのではないかと考えて,発言の機会を頂きます。アのほうの論点について,先ほど申し上げましたように丙案を推すというのが私の意見でございますが,もし,アについて乙案に基づく規律が設けられるのでありますれば,イのほうについて甲案による規律を設けていただきたいと考えます。アが決まらないうちに,何か,こちらが先に発砲するみたいに,イのほうについて甲案と言ってしまうのは,いけないなと思って黙っていましたけれども,アが乙ならばイのほうを甲にしていただきたいという意見があったということを記録にとどめる趣旨で,申し上げさせていただきます。   村上委員がおっしゃったことがやはり危惧されるとともに,更に細かいことを付け加えますれば,不動産の賃貸借をめぐっては,賃料の前払をしたことが登記することのできる事項になっております。不動産の譲渡人,その譲受人,賃料債権の譲受人の三者の間で錯綜した関係が生ずる可能性があること,加えて村上委員が御指摘になった抵当権と,それに基づく担保不動産競売によって出現した買受人との関係等の錯綜した法律関係について明快な見通しが得られなければ,規律を設けることによって,かえって混乱が生ずると考えるものでございます。 ○沖野幹事 アの点でございますけれども,定式化が非常に困難であるならば諦めざるを得ないとは思いますけれども,現在,将来債権の効力がこのような局面において,どこまで認められるかというのは非常に不安定であり,丁案も出されるというように,見解が固まらないのは従来からですけれども,真っ向から甲案か,丁案かという対立もある中で全く規律を置かないというのは,この不確定状態を更にそのまま放置することになります。しかも,将来債権譲渡に期待されるところもそれなりに大きい中で,そのような不安定状況でいいのかは懸念を持ちます。そうだとしますと,せめて手掛かりとしてもう少し細分化できないかということを考えていくべきではないかと思います。このような立脚点からするならば,乙案の下でこの定式を更にブラッシュアップできないかを,分科会も含めて検討するということを諦めるべきではないだろうと思います。   それから,イの点でございますけれども,不動産の賃料債権の場合の特殊性があるかという点につきましては,村上委員や山野目幹事がおっしゃった点はそのとおりだと思われますし,また,登記による公示ということも併せて考えるべきだろうと思います。そうしますと,アにおいて乙案を採るという場合にあっても,何らかの特別な規定というのを設ける必要があるのではないかと思うのですが,その際の規定の在り方が甲案の下で,一切,対抗できないということでよろしいのか,不動産登記における公示を要求しつつ,一定の幅,これは従来,旧破産法で認められていたような一定の幅というのがございますが,それが撤廃されたということをどう見るかということはありますけれども,破産法の改正自体のときには,倒産のときだけの特殊な規律ということが問題とされたということと,区切り方が非常に曖昧であるという問題があったということですから,改めて民法の問題として見たときに,なお,調整の余地というものを考えるべきではないかと思っております。ですので,甲案の下でももう少しバリエーションがあるのではないかというつもりです。 ○中田委員 今のイについてですけれども,資料の解説では平成10年3月24日の最高裁判決との整合性を強調しているように拝見しました。しかし,これは賃料債権が差し押さえられた後で不動産が譲渡されたというケースで,債権譲渡との関係については,調査官解説でも,今後,更に検討されるべき課題として残されております。   ですから,ここはもうちょっと実質的に考える必要があると思います。実質的に考える際には,ただいま,村上委員,沖野幹事あるいは山野目幹事からも出たことなんですけれども,不動産の収益権能を長期間にわたって公示なく分与することに伴う問題をどう解決していくのかが,課題になっていると思います。不動産流通に及ぼす影響がどうなのかということです。もちろん,譲渡人に聞いて調査するということになると思いますが,それで支障はないかどうかです。それから,もしも,これを許容するんだとしますと,何らかの公示制度があったほうがいいと思うんですが,それが今,沖野幹事のおっしゃった不動産登記による公示で足りるのか,それとも,それとは別に賃料債権の譲渡についての公示とリンクさせるべきではないかという辺りが課題かと思っています。 ○佐成委員 各先生方がおっしゃった意見と基本的には同趣旨でございまして,経済界においては,アについては慎重論が強いということ,それから,イについては甲案ということです。ただ,今,いろいろ御指摘があったとおり,公示制度との関係とか,あるいはアの論点との関係といったところで,いずれにしても不動産取引の安全を是非,図っていただきたいということは経済界の中にも意見としてございましたので,報告させていただきます。 ○岡委員 ほぼ同じでございますが,イだけについて申し上げますが,弁護士会も現状では甲案が相当多い状況でございます。甲案を支持する理由として,やはり,賃料債権取引の重要性よりも,不動産の取引の重要性のほうが高いと考えていることがあると思います。深山さんは将来債権譲渡について甲案を採ったときに,不動産だけ別にする理由がないとおっしゃいましたけれども,やはり,不動産については重要性と登記制度が完備されているということがあると思いますし,法定果実の賃料については負担も伴うというところから,賃料債権と不動産を比べれば不動産の取引を重視すべきであると思います。最後に沖野さんがおっしゃいましたとおり,賃料債権について一定程度,公示制度を作るのであれば,その限りで折り合いはつくだろうと思いますけれども,そういう折り合いがつかないのであれば,不動産取引そのものを重視すべきであると思います。そういう意味で,賃料についての公示制度の提案がない状況では甲案にすべきだと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   事務当局からも御提案がありましたように,アにつきましては,甲案,乙案,丙案,それに,本日,丁案も出されましたので,これらの間で具体的にどんな違いがあるのかということと,それから,きちんと書き切れるのかということについて分科会で補充的に検討をしてもらいたいと思いますけれども,そういうことでよろしいでしょうか。   その上で,イの不動産賃貸借に関しましては,現行法上は不動産登記に新しく,こういう制度を設けたとしても,多分,建物完成前に将来の賃料債権譲渡をやられますから,債権譲渡登記のほうがむしろなじむので,不動産を買うときに債権譲渡登記まで見なければいけないという慣行が定着するかどうかというのが,ポイントになる。公示の観点からいくとそうなんですけれども,もう一つは,本質的に収益価値がゼロという不動産を作り出してもいいのだろうかという問題があって,ドイツでは抵当法や何かの関係で一定の期間に効力を制限する,処分の効力を制限するというふうな対応もされているようでありますので,公示だけでなくて,今,御指摘がありましたように不動産の収益能力を奪い取るような処分というのが,本当に可能なのかどうかということについての検討も必要なのかもしれませんので,少し,御意見を踏まえた上で,更に検討させていただきたいと思います。 ○三上委員 鎌田部会長に言っていただいたので,一つだけなんですけれども,山野目先生の先ほどの御発言で,アで乙案を採るとイの場合は甲案でいっていただきたいという話があったんですけれども,不動産の所有権の譲渡が賃借人の地位をそのまま承継するという判例ルールによると,アの乙とイの甲というのはそのまま整合せずに,イの甲というのはアの乙を更に一歩先を進めたものであるという認識でありまして,イの甲と同じ考え方をあえて適用すると,一番最初に中井先生がおっしゃった丁案になるのでしょうか,契約上の地位を承継した場合よりも更に狭めるという考え方になると思います。実際に事業再生の場面で事業譲渡するとか,会社分割で生きている事業をくくり出すときに,当該事業に関する将来債権が譲渡されていたときに,それを新会社が承継するという考え方は,恐らく金融機関はどこもしていないのではないかと思います。そういう意味からいきますと,「契約上の地位を承継した第三者」というくくり自体も広過ぎるのではないかと思うわけです。恐らくその考え方は,59ページで取り上げられなかった理由になってしまっているのではないかと思うんですが,金融機関でも定見といえるほどのものがあるわけではないですが,口を開く者は大方,私が今,申しましたような丙を更に厳しくした,間違ったら申し訳ないんですが,中井先生が最初におっしゃった丁案のような案と不動産についての甲案のセットの意見を支持しているということを,最後に付け加えさせていただきます。 ○鎌田部会長 丁案を採れば甲案は書くまでもないということになりますね。 ○三上委員 共通ルールになります。 ○鎌田部会長 むしろ,逆に一般的に乙案を採ると,不動産賃貸借について特則として甲案が必要になってくるという,そういう御趣旨が山野目幹事の御発言だと思います。   有価証券を審議すれば部会資料37が終わるんですけれども,もう6時10分になりましたので,本日の審議はここまでということにさせていただきます。   本日,積み残した議事は次回の冒頭に審議することでよろしいですね。次回は有価証券のところから始めさせていただくことといたします。何か,特に御発言はございますか。   ないようでしたら,本日の審議はこの程度とさせていただいて,分科会についての御報告だけさせていただきます。本日の審議において分科会で補充的に審議することとされました論点につきましては,恐縮ですけれども,第3分科会で審議していただくことといたします。松本分科会長をはじめ,関係の委員,幹事の皆様にはよろしくお願いいたします。   最後に,次回議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回会議は5月8日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じく法務省大会議室です。次回の議題は,本日の積み残し部分のほか,新たに送付する部会資料39におきまして弁済,相殺,その他の債権の消滅原因を取り上げる予定です。送付が若干遅れておりますけれども,次回会議に間に合うように事前送付をさせていただこうと考えております。   それから,分科会に関する報告がございます。第1分科会の第3回会議が開催されました。これについての開催結果の報告は,机上にペーパーを配布させていただきましたので,このように報告をさせていただきます。また,第3分科会の第3回会議が開催されます。来週ですが4月24日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は法務省小会議室です。先ほど部会長から報告がありましたように,本日の審議において分科会で審議するとされた論点は,第3分科会で審議することになりましたので,次回の第3分科会には,本日の部会資料37も併せてお持ちくださいますようお願いいたします。また,第3分科会の固定メンバー以外で参加を予定されている方がいらっしゃいましたら,事前に事務当局まで御一報くださいますようお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれにて終了といたします。本日も熱心な御議論を賜りましてありがとうございました。 -了-