法制審議会会社法制部会           第21回会議議事録 第1 日 時  平成24年6月13日(水)  自 午後2時05分                        至 午後6時00分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  会社法制の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○岩原部会長 それでは,まだお見えでない委員・幹事の方もいらっしゃいますが,予定した時刻を少し過ぎましたので,法制審議会会社法制部会第21回会議を開会いたします。本日も,お忙しい中,御出席いただき,誠にありがとうございます。  まず,事務当局から配布資料の説明をお願いいたします。 ○坂本幹事 それでは,御説明いたします。配布資料目録と部会資料24を事前にお配りしております。部会資料の内容につきましては,後ほど御説明させていただきます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,本日の御議論をお願いしたいと存じます。部会資料24の「第1 取締役会の監督機能」から始めたいと存じます。まず,「1 社外取締役の選任の義務付け」につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○塚本関係官 それでは,「第1 取締役会の監督機能」の「1 社外取締役の選任の義務付け」について,御説明いたします。まず,(1)は,仮に一定の株式会社に一人以上の社外取締役の選任を義務付けることとする場合,その対象とする株式会社に関し,A案とB案のいずれかの案とすることについて問うものです。A案は,試案でいうところのA案かつB案とするものです。ただし,金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書を提出しなければならない株式会社については,その発行する株式について有価証券報告書を提出しなければならない株式会社としており,例えば,公募社債の発行だけによって有価証券報告書を提出しなければならないような株式会社は,対象から除かれることになります。また,B案は,当部会における議論を踏まえ,上場会社を対象とするものです。そして,B案の(注)は,例えば,株式会社の規模,上場後の経過年数,上場区分等に応じて対象となる上場会社を更に限定することについて問うものです。この点に関しまして,例えば,東京証券取引所の上場区分ごとについて見てみますと,市場第一部に上場している会社,市場第二部に上場している会社及びマザーズに上場している会社の中で社外取締役を選任している会社は,それぞれ,1,676社中862社で51.4%,428社中193社で45.1%及び173社中111社で64.2%というデータがございます。  次に,(2)は,当部会において社外取締役の選任の義務付けについて意見が分かれていることを踏まえ,仮に社外取締役の選任を義務付けないこととする場合,例えば,(1)のA案又はB案のような株式会社は,原則として,一人以上の社外取締役を選任するものとしつつ,社外取締役を選任しない場合にあっては,その理由を開示するものとすることについて問うものです。「一人以上の」という点にブラケットを付していますのは,社外取締役の選任の義務付けはせず,理由を開示することによって社外取締役を選任しない余地を認めるという規律―いわゆるcomply or explainのような規律―を設ける場合には,原則として選任すべき社外取締役の人数については,必ずしも一人以上に限られるわけではなく,複数名あるいは過半数といった議論もあり得ると考えられることによるものです。また,選任しない場合に開示すべき理由としてどのようなものが考えられるかという点についても御議論いただければと存じます。  最後に,1の(注)につきましては,(1)又は(2)のような規律の対象とする株式会社について,B案によることとする場合,特に,上場後の経過年数や上場区分等によって対象とする上場会社を更に限定する場合には,(1)又は(2)のような規律を,会社法ではなく,金融商品取引所の規則に設けることについて問うものです。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,(1)及び(2)を合わせて御議論いただきたいと存じます。御意見はいかがでしょうか。 ○静委員 それでは,(1),(2),そして,(注)について,それぞれ意見を述べさせていただきます。まず,(1)についてでございます。これまで,私どもでは,どちらかというと,A案に近いような,多数の株主がいる会社という意味で,こちらの案を支持してまいりましたけれども,私ども取引所の立場といたしましては,上場会社が含まれているということが最終的に大事だと思いますので,今回御提案いただいておりますB案でも全く問題はないと考えております。更に申し上げますと,B案の(注)のところに,幾つか,更なる限定ということをお書きいただいているわけでございますけれども,更に限定するというのは,私は,大変いいアイデアではないかと思います。例えば,会社の規模で絞り込みますと,中小規模の会社には負担が重いとおっしゃっていた伊藤委員の御懸念を酌むことができると思いますし,あるいは,上場後経過年数で絞り込むということをすれば,IPOの妨げになるのではないかという御懸念をおっしゃっておられました安達委員の御懸念を酌むことができると思います。ただ,最後の上場区分というのは,一見よさそうに見えるのですけれども,意外と課題が多いのではないかという感じを受けております。例えば,皆さんは,大体,市場一部に限定するといったイメージをお持ちかと思いますけれども,新興企業向け市場と言われているJASDAQでも,マクドナルドとか楽天といった,市場一部の銘柄に決して見劣りしないような大企業を結構抱えているわけでございまして,そういう意味では,必ずしもうまく絞り込めないのではないかとも思います。あるいは,上場区分というのは,言わば取引所の都合で決めている区分でございますので,時代が変わればその取引所の都合で変化するということも避けられないという問題もあると考えます。以上が(1)についてでございます。  (2)についても申し上げたいと思います。先ほど御紹介がありましたように,ヨーロッパで使われているcomply or explainというのを念頭に置いた仕組みだと思います。そこで,開示されている社外取締役を置かない理由ということについて,少し申し上げたいのですけれども,実は,この理由につきましては,2009年から私どもで管轄しておりますコーポレート・ガバナンス報告書でも開示していただいておりますし,あるいは,法定開示としての有価証券報告書でも基本的には同じことを開示していただいております。しかしながら,残念なことなんですけれども,この開示によって社外取締役が普及したということは,事実としては全然ないわけでございます。つまり,少なくともこの問題について申し上げれば,理由の説明それ自体に現状を改善する力を期待することができないということが,私は,既に実証されているのではないかと思います。実際に,ここでちょっと御紹介させていただきますと,時価総額の大きい,日本を代表する企業がどんな理由を開示しているかということでございます。例えば,「いい人材がなかなか見付からない」といった,グローバル企業としては信じ難い理由が書いてあったり,あるいは,「既に社外監査役がいる」などと,ポイントをはぐらかすような理由を書いている会社もあります。あるいは,「現状で十分機能している」と,理由の説明すら放棄するようなことを書いたりしている会社もあります。これは,みんな,非常に代表的な企業でございます。こういうことでは,開示を通じて社外取締役が普及していくということなどは恐らく望むべくもないのではないかと思います。そのせいか,実は,3年ほど前なのですけれども,この方式につきましては,日本企業にも合っているのではないかと支持する方も,内外の投資家では結構多かったのですけれども,今では,もうこの方式は日本では効果がないと,評価を変えていると聞いております。一方で,ヨーロッパでは,この方式が現に採用されておりますし,効果も上げていると聞いております。それは,逆に申し上げますと,規範を守れない理由を開示させているということよりも,ベスト・プラクティス自体が規範として尊重されて,事実上の拘束力を持っているからだと思います。翻って日本を見ますと,部会資料24では,守るのが原則で,守らないのは例外という整理をされるということが書かれておりますけれども,このように言ってみたところで,「別に例外で私は構わない。理由はもう考えてある。」ということに恐らくなるのだろうと思いますし,むしろ,胸を張って,先ほど御紹介させていただいたような理由を開示することになるのではないかということは,想像に難くないのだろうと思います。したがって,もしこの方式を採用されるということであれば,原則と称するこの一種の規範のようなものが,守れるか守れないかということは別にしましても,日本を代表する企業からもそれなりに尊重されるような工夫を盛り込まないと,ほとんど意味がないものになってしまうのではないかと心配しております。  最後に,(注)について申し上げたいと思います。私は,委員としてというよりも,上場ルールを作る当事者としての意見を少し申し上げたいということでございます。この問題,つまり,社外取締役の選任義務付けの問題というのは,私ども取引所でお引受けするには,関係者の調整が大変難し過ぎる問題でございます。したがって,私としては,会社法による解決を是非お願いしたいと思います。もっとも,今後議論がまとまって,関係者間の調整もできたとして,具体策の内容によっては,先ほど事務当局の方から御説明がありましたように,上場ルールが必要だということになるかもしれません。その場合には,可能な限り協力はさせていただくというつもりでもちろんおります。ただ,そういう場面があるとすれば,現状を追認することだけにつながるような案でありますと,せっかくこの部会の議論に期待を寄せていただいている投資家の皆さんに,私どもとしても顔向けができませんので,現実の確実な改善につながる案の御検討を是非お願いしたいと思います。 ○前田委員 (1)について,A案は,大会社かつ公開会社という,現行法の機関設計区分のうちで最も重厚な監督の仕組みを備えなければならないグループのうちで,特に,株主の数が多いために,株主による監督が働きにくい会社にするということで,会社法で定めるとするのであれば,合理的な説明の付きやすい範囲の絞り方であると思います。そして,(2)の(注)のところに関わるのですけれども,こういう会社の経営管理機構の在り方の基本に関わる事項は,会社法にその定めを置くのがふさわしいのではないかと思います。取引所が,規則で,会社法で定めるよりも,社外取締役の人数を増やす,あるいは,社外性の要件を厳しくするといった形で,会社法の規律をより高めることはもちろん差し支えありませんし,望ましいことだと思うのですけれども,一番基本になるところは,会社法で定めるのがいいのではないかと思います。結論は,静委員と同じでございます。  (2)については,開示だけであれば,先ほど静委員の御指摘にもありましたように,今でも既に相当に充実されているのであって,開示だけで企業統治の実効性確保のために会社法が最善の手を尽くしたことになるのか,かなり疑問を感じております。 ○杉村委員 それでは,この点に関しましての経済界の意見を申し上げたいと思います。今お二人の委員から意見がございましたが,(1)につきまして,私どもの意見は,従来から述べているとおり,反対であります。理由については,これまで述べてきたことですので,詳細には繰り返しませんが,A案,B案それぞれ,新しい観点も含めて書いていただいておりますけれども,いずれにしましても,要は,こういったカテゴリーの中で,一律あるいは形式的にそのカテゴリーに属する会社に義務付けるということですから,各社の事情に適したガバナンス体制の構築の制約になるということです。そのため,(1)について反対でございます。  それから,(2)につきましては,選任を義務付けないということには一応なっておりますけれども,今し方お二人の委員からも御指摘がありましたように,原則として社外取締役を選任するという方向の規律といいますか,社外取締役の選任が望ましいという価値判断を強く打ち出すということであると思います。そうなりますと,企業にとりましては,義務付けないとは言うものの,現実の作用としては,実質的に義務付ける方向の作用が働くと感じるところでありまして,そのような意味では,(1)と変わらない内容であると考えております。社外取締役の選任が望ましいか否かというのは,個社の状況,人材の確保の可能性など,そのようなことも含めて,どのようなスタイルが最も自社に合っているのかという個別事情で判断すべきものですので,(2)につきましても,反対でございます。  それから,(注)でございますが,前回も申し上げたかもしれませんが,会社法あるいは上場規則のいずれの手段を採ったとしましても,こういった内容のルールを定めることにつきましては,(1),(2)で述べた問題があるということは,本質的には変わらないと思います。方法論につきましては違いはないと考えておりますので,例えば,会社法であればいいとか,上場規則であればいいとかということはございません。 ○安達委員 私の立場,ベンチャー業界に関係している者として,従来から,第一読会以降申し上げているとおり,一律に法律で義務付けることに関しては,引き続き反対の立場を採りたいと思います。その前提で,今回は,新しい提案がございますので,この(注)二つを中心に,私なりに意見を表明したいと思っております。  従来からも,成長段階に応じた規律と,成長を促しながら規律を充実させるというやり方を是非お願いしたいと申し上げてきましたので,(1)の(注)に書いてあります,「株式会社の規模,上場後の経過年数,上場区分等に応じて」というところに関しては,一定の評価をしたいと思っております。具体的には,これはまた皆様方の御議論になると思うのですけれども,例えば,上場後5年とか,新興市場に限るとか,何か方法はあると思います。こうなった場合には,そういうことで御検討いただきたいと思います。もう一つ,株式会社の規模ということです。これは,従来ですと,資本金とか負債とか資産などが指標になると思いますが,それはそれで非常に客観性を持った指標ではありますけれども,実は,サービス業を中心にしたベンチャーは,必ずしも負債又は総資産だけで計れないものがございます。いわゆるインタンジブル・アセットということです。したがって,その規模ということを一つの指標とするのであれば,時代が大分変わっており,製造業だけの時代ではありませんので,何らかの新しい指標があってしかるべきであると私は思っております。  (2)の(注)ですけれども,これは,静委員がおっしゃったとおりなので,よく分かるのですけれども,それぞれのレイヤーに応じた対応の仕方,リスクの採り方があると思います。何も,全ての規律を国の基本法で対応する必要はないと私は思っております。それぞれのレイヤーできちんとした対応方法を採るべきではないかということを,一つ基本的に思っております。今回の会社法制部会は,既に2年強にわたって継続しているわけです。世の中,経済環境,社会環境の変化は,今後ますます,スピードといいますか,速くなります。場合によっては,遠からずまた次の見直しの機会がないとは言えません。そのときに,確かに,静委員がおっしゃったとおり,取引所関係者のコンセンサスを取ることは,非常に大変だと私も思います。しかしながら,少なくとも次回にまた会社法制部会を開いて時間をかけて審議するよりずっと機動的であると思います。そういうことも考えると,取引所のルールというのも,一つの考え方かなと私は思っております。 ○伊藤(雅)委員 繰り返しの主張になりますが,社外取締役の設置は,コーポレート・ガバナンス強化の一手段にすぎないため,義務付けを行う必要はないと思っております。そのために,(1)には賛同できない。また,社外取締役の選任は,全ての企業のコーポレート・ガバナンス強化に役立つわけでもないと考えております。(2)につきましても,原則として社外取締役を選任するという文言があるため,現在の案には賛成することは難しいのではないかなと考えております。 ○三浦幹事 私どもは,中間試案への意見として社外取締役の義務付けの是非については,その前提として,社外役員を含む非業務執行役員の役割を具体的に明らかにした後に結論を出すというのが望ましいと,今年の1月に出させていただいたところでございます。それとの関係で,今,部会資料24に記載の案,特に,(1)についてどう評価したらいいものか少々悩んでおります。現在,私どもは,法制審議会会社法制部会での議論と並行して,コーポレート・ガバナンス研究会というのを開催しております。研究会において,いろいろな企業のコーポレート・ガバナンスの実態などを聞いておりますけれども,やはり,まだ,企業における役員の役割については,少し認識が混乱している感じがあります。混乱と申しましたのは,日本における上場企業の大半を占める監査役会設置会社においては,取締役と監査役がおりまして,その両者でも社内と社外の違いがあり,全部で4通りの役員がいるところ,この人たちの役割分担について,まだ統一した認識が十分ではないと実感したためでございます。つまり,その役割分担が個々に決まっているというのは,役員として就任しているそれぞれの方は,明確なアイデアを持っていると思います。しかし,若干各々の立場で各々に見えている世界の中で定義されているため,アイデアを定義する共通基盤をもう少し整理する必要があるというのが実感でございます。したがいまして,極端な話,今の段階で社外取締役を義務付けたとして,社外取締役として就任する人たちが,今いる社外監査役の人たち以上に実態上きちんと機能するかどうかというと,義務付け以前に,社外取締役というのは,例えば,社外監査役と違い,こういうことが期待されているからこう振る舞う,そういう役割についての共通認識があることがワークする上での前提と考えてございます。このため,部会資料24に記載の案に対する現時点での弊省の評価は,1月時点の意見をもう一度繰り返させていただくことになるかと思っております。 ○濱口委員 理由は,今まで述べてきましたので,繰り返しませんが,私も,(2)の義務付けない,設置しない場合には説明するということでいいと思います。かつ,上場規則で取り扱うのがいいと思います。今後状況もいろいろ変わるでしょうから,それに適切に対応するという意味では,より柔軟性のある上場規則がいいと思います。説明する内容は,取締役会の総人数とか,親会社の有無などいろいろな要因を勘案した上での適切な社外取締役の人数なども含める。既にそういう規則があるのに社外取締役が増えていない,ワークしていないという意見については,株主は,年金も含めて,議決権は相当きちんと行使していますので,恐らく,増えていないということは,それは,株主の選択でしょうから,逆に,取引所として,純粋な株主,不特定多数の少数株主の選択が結果に反映されていないと考えるのであれば,日本の場合,それは,持合いなど別の要因があるわけで,むしろ,そちらのほうの対策を立てられたほうがいいと思います。だから,取引所ではなくて会社法で定めるというのは,本末転倒ではと思います。 ○神作幹事 繰り返しになりますが,私は,(1)のA案かB案かには特にこだわりはございませんけれども,社外取締役を法律で強制するべきではないかと考えております。理由につきましては,これまで申し上げてきたとおりですので,繰り返しません。本日,(2)の説明の中で,comply or explainルールという新たな規律の御提案がなされ,それにつきまして,先ほど静委員から,ヨーロッパでは,このルールが会社法上導入され,うまくいっているという評価がございました。私は,ドイツ会社法を多少勉強しておりますので,ドイツではなぜそのように評価されるに至っているかについて,私の理解しているところをお話しさせていただければと思います。ドイツでは,株式法の改正により,comply or explainのルールを導入いたしまして,コーポレート・ガバナンス委員会という政府委員会が策定したコーポレート・ガバナンス原則を遵守しているか,遵守していない場合にはそれはなぜかを上場会社に開示させることといたしました。その結果,実証研究が割合たくさん出ているのですけれども,どのようになったかと申しますと,遵守率が高いルールと低いルールに分かれました。そして,それを遵守していない場合の説明は,非常に画一化してくるという状況が生じました。どうも,マーケットは,どのような理由で遵守していないかということについて,うまく評価することができず,結局のところ,explainのルールは十分に機能していないようだという研究が比較的多いのではないかと思います。その結果,ドイツはどうしたかと申しますと,遵守率の低いコーポレート・ガバナンス原則については,もう法制化してしまう,例えば,取締役の報酬の開示等については,遵守率が低く余り守られなかったので,もう会社法を改正してしまう,言わば,そのような一種の脅しがあって,コーポレート・ガバナンス原則についてのcomply or explainのルールがワークしているという見方があるということではないかと思います。逆に申しますと,explainの部分は,それほど機能せず,期待もされていないということだと理解しております。  そうだといたしますと,また,先ほどの静委員の御説明を勘案いたしますと,市場は,(2)の原則を採用しなかったときに,それを十分に評価しないどころか,開示の方法によっては逆方向に評価することもあり得るのではないかと懸念いたします。すなわち,社外取締役を入れていない会社の中に,仮に業績の良い会社が少なからずあるとすると,逆に,そのような開示は,社外取締役の意義について市場がミスリーディングに評価するおそれがあるのではないかとも考えられ,私は,社外取締役の選任の義務付けについては,説明で終わらせるということなく,(1)の法律上の義務付けまで進むのが適切であると考えています。 ○中東幹事 私も,神作幹事がおっしゃったことに賛成でございます。取り分け,静委員から,証券取引所では調整が難しいということをお伺いしますと,企業統治の在り方は,本来会社法の問題ですし,会社法でしないといけないという気持ちを強めております。  (2)についてですが,仮に法律で義務付けられないとした場合に,(2)の実効性についてはいろいろな御意見が出されていますが,これ自体は,私は,よく考えられた提案をしていただいていると思っています。実効性という点からは,どこで開示するのかということにも随分とよるのではないかと思います。静委員がお教えくださいましたように,コーポレート・ガバナンス報告書あるいは有価証券報告書で開示するということになれば,それを見ている人しか分からないですし,効果が限られるのかもしれません。このような開示方法ではなくて,例えば,参考書類で,取締役選任議案などに関係して開示することにすれば,会社側に,当社では社外取締役は誰も選ばないことになります,その理由はこうですということを説明してもらうことになり,株主が意思決定をする場面で情報として利用されることになりますので,そういう形であれば,効果も相当期待し得るのではないかと思っています。 ○岩原部会長 ほかにございますでしょうか。ございませんか。  特に御意見がない方は,前に頂いた御意見のようなお考えと理解させていただいてよろしいでしょうか。 ○荒谷委員 私は,前回出席しておりませんので,少し意見を述べさせていただきたいと思います。私は,これまでは,どちらかと申しますと,監査役会設置会社においては,重複感が否めないことから,社外取締役を導入することに否定的な意見を申し上げてきましたが,上場会社におけるコーポレート・ガバナンスの在り方に対しては,近年,機関投資家などを中心に疑問が投げ掛けられているだけではなく,昨年の著名企業の不祥事をきっかけに社会の大きな関心を呼び,新聞等でも大きく取り上げられていることを考えますと,少し考え方を変えまして,取りあえず1名でも良いから社外取締役の選任を義務付けてみても良いのではないかと思うようになってきた次第です。もとより,社外取締役にモニタリング機能を期待するのであれば,社外取締役は,取締役会の過半数を占めるべきであるというのが私の考え方でありまして,1名だけ社外取締役を置いても,名目的な社外取締役が増えるだけで,余り好ましくない,かえって,それが法律上強制されることによってガバナンス機能が低下するのではないかというのが従来からの私の考え方で,基本的には変わっておりません。ただ,現在の会社法を取り巻く状況を考えますと,過半数に持って行くための第一歩であると考えて,取りあえず一歩踏み出すべきなのかなと考えます。ですので,A案,B案のどちらに賛成であるかということについて,今のところ特に意見は持ち合わせておりませんが,(1)の案に賛成したいと思います。  それから,(2)についてですが,先ほどからお話が出ておりますように,これがうまくワークするのであればよいのですが,静委員のお話,それから,神作幹事からのドイツ等の実証研究のお話等を伺っておりますと,社外取締役を選任しない場合にその理由を開示するとすることにどの程度の効果が期待できるのか,いささか疑問に思います。  そこで,参考までに静委員にお伺いしたいのですが,社外取締役を選任していない理由として,いい人材がなかなか見付からないとか,既に社外監査役がいるとか,確かに,理由になっていない理由が堂々と開示されているようですが,それが実際マーケットにどのような影響を及ぼしているとお考えなのか,影響を全然及ぼしていないようであれば,何らかの形で社外取締役を義務化する必要があるのではないかと考えますので,その点を教えていただければと思います。 ○静委員 それこそ,この分野の実証研究は余りないので,断定的なことは申せませんけれども,こういう開示をしていることで,それは,投資判断材料として使われているかという意味で言うと,余りそういう話は聞いたことがないというのが事実で,むしろ,議決権行使の材料として使われているのだろうと思います。それは,前にも何度か濱口委員からもお話がありましたけれども,投資家とすれば,ファンド・マネジャーとすれば,基本的に,会社をパフォーマンスで選ぶ,それは,事実だろうと思います。一方で,では,機関投資家は,パフォーマンスだけを見ていてガバナンスは見ていないかというと,これは,大間違いでございまして,パブリック・コメントでも明らかなように,どこの機関投資家だって,そんなことをどうでもいいと思っている人は恐らく世界中どこにもおりません。ファンド・マネジャーに聞くと,それは,自分の仕事ではないから関係がないというだけのことでございまして,言わば,ヨーロッパでは,イギリスなどではスチュワードシップコードとか,アメリカではエリサ法とか,そういうもので,機関投資家とすれば,単に株を買うだけではなくて,買った株について適切な議決権行使をし,ガバナンスを向上させて投資のリスクを減らしていくというのは,もう世界中で機関投資家の義務になっているはずなので,義務ではないにしても,濱口委員のところもそれから逃れられるものではないのだろうと私は思っています。  けれども,だからといって,投資のパフォーマンスと直接関係があるかというと,それはないようです。ただ,私が投資家に聞いた話では,これは,5兆円ぐらいを運用していて,そのうち1兆円を日本株に注ぎ込んでいるというかなり大きなアメリカのファンドで,日本の上場会社の筆頭株主にも幾つもなっているというファンドからこの間直接聞いた話ですけれども,「日本の会社は,すごく技術力があるし,好きだ。だから買っている。筆頭株主にもなっている。だけれども,もう少し社外取締役を入れて,自分たちのことを考えてくれるという姿勢を示してくれれば,もっと買える。それがないから,リスクが高いと思うと買えないのだ。」ということを切々とおっしゃっていました。本当は,もっとこの会社を買いたい,だけれども,自分たちも,自分たちのお金で買っているわけではなくて,裏側に投資家がいて,あるいは,国民の年金などを背負って運用しているものですから,説明責任を果たすために,ガバナンスの悪い会社に一定以上のお金は注ぎ込めない,これが彼らの実態だろうと私は理解しております。 ○濱口委員 ファンド・マネジャーがガバナンスを見ていないと言ったことは1回もなくて,投資判断の際の一つの要素として当然見ているわけですけれども,それだけで持つ,持たない,買う,買わないということを判断していることはないということです。現に,いわゆる外国人の持株比率は高いですし,売買に占める比率も高いわけで,この件だけで,すごく保有比率が落ちているとか,彼らの投資姿勢が大きく変わっているということは,全体の海外投資家を見れば,それはない。うるさく言う人は,声が大きいので,どうしても静委員のところにはそういう人ばかりが行くので,誤解を招いているかもしれませんが,それが海外の投資家の全体像であるというのは間違いだと思います。 ○静委員 1個だけ言っておきますが,私のところへ声の大きな人ばかり来て,私も声が大きくなってしまったのかもしれないのですけれども,実は,私のところへ来た人は大変おとなしい方でしたね。なぜかと言いますと,「では,あなた,そのことを会社に言ったらどうか。筆頭株主ではないか。」と申し上げたのですが,「そんなことを言ったら,敵対的だと思われて,嫌われてしまう。日本の会社とはうまくやっていきたいんだ。収益力もあって好きなんだ。だから,言うに言えないんだ。だから,どうぞ取引所とか皆さんのところで言ってあげてください。お願いします。そうしたらもっと買えるようになります。」という非常に謙虚な方だということだけ申し上げておきたいと思います。 ○太田委員 今の濱口委員と静委員の議論に関してですが,前回の議論も含めて思い返しますと,濱口委員からの御意見に注目しております。議事録を再読してみますと,そもそもこの議論が何をきっかけに始まったのかなと少し振り返ってみる必要があるように思います。静委員が言われましたけれども,やはり,海外の機関投資家の大きな要請の波が押し寄せているという前提で相当程度議論がされてきたように私は理解しておりました。監査役協会の立場から見ますと,前回までの主張を変えるつもりはありません。したがって,社外取締役のガバナンスにおける有用性を否定することは無理だと考ますし,否定すべきではないと思います。論点は,義務付けかどうかというところにあり,杉村委員あるいは多くの経済界の方々が言われているところの大きな争点になっているわけです。今回,comply or explainの説明,先ほど静委員あるいは神作幹事からも御説明がありましたけれども,日本の中でそういう企業の自由な意思,それも,マーケットにおける判断に全て委ねるという前提でのベスト・プラクティスが機能し得るのであればexplainでも構わないのですが,あるいはcomply,そういう実態をむしろ作っていくことのほうが,より有益なソリューションになると思います。これが1点です。  それと,少し時計の針を戻すような議論で恐縮ですが,例えば,A案,B案の選択を,逆にぎりぎりどう考えるべきか,義務付ける場合には一定の絞り込みをすべきかなという選択肢の中で,B案で,例えば,会社の規模とありますが,大企業だから問題がないとかといったことでは必ずしもないと思うのです。むしろ,言葉が過ぎるかもしれませんけれども,オーナー系であるとか,比較的企業規模が中小であるとかというところのほうにむしろ本当のガバナンス上解決すべき問題が実は残っているのではないかとは思いますが,そんなことを言っていると,何も決まりませんから,何らかの絞り込みは必要でしょう。しかし,余りシンプルにものは整理しないほうが望ましいと思います。 ○岩原部会長 ほかにございますか。よろしいですか。  今までの御議論を踏まえてそれぞれの委員・幹事の方からの御意見を頂きましたが,根本のところでかなりの対立がなお残っている状態で,本日ここで一定の結論を出すことは難しいかと存じます。今日御用意いただきました部会資料24では,より具体的な形で,仮に義務付けをするとしたらどのような形が考えられるかということで皆様に御議論いただいたわけですが,義務付けに積極的な御意見の中では,A案かB案かに特にこだわらないという御意見が多かったかと思います。B案の中では,(注)に書いてあるように,一定の区分を更に限定することもあり得るという御意見が多かったかと思います。ただ,その場合に注意すべき点があるということを今,太田委員から御指摘いただきました。  その上で,非常に御意見が分かれたのは,(2)のところで,義務付ける仕方として,どのような方向が考えられるか,社外取締役を採用しない理由を開示するというだけで足りるのか,comply or explainという方向を採るにしても,それだけで済むのか,あるいは,何らかの工夫の余地があり,もっと工夫しないといけないのかという点について御議論いただいたと思います。ここで一定の方向を示すことは困難だと思いますので,なおより適切な方法を考える余地があるか,今後更に検討するということにさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか。  それでは,先に進ませていただきます。次に,第1の「2 監査・監督委員会設置会社制度(仮称)」に移らせていただきます。(1)から(7)までを一括して,事務当局から説明いただきたいと思います。 ○塚本関係官 それでは,「2 監査・監督委員会設置会社制度(仮称)」について御説明いたします。2は,株式会社の機関設計として,「監査・監督委員会設置会社(仮称)」を新設するものです。制度の呼称については,引き続き検討しているところでして,要綱案の取りまとめまでには呼称を決めさせていただきたいと考えております。  まず,「(1) 監査・監督委員会の設置」及び「(2) 監査・監督委員の選任・解任及び報酬等の決定の手続等」ですが,これらは,基本的には,中間試案の内容と同じでございます。(1)の④は,委員会設置会社は,監査・監督委員会を置いてはならないものとしていますが,これは,同時に,監査・監督委員会設置会社は,指名・監査・報酬の三つの委員会を置いてはならないという趣旨を含むものです。もっとも,任意の委員会として,これらの三つの委員会に類するものを置くことを禁ずる趣旨でないことは,従前から御説明しているとおりです。  次に,「(3) 監査・監督委員会の構成」についてですが,①から③までは,中間試案と同じ内容でございます。(注)は,当部会における議論を踏まえ,常勤の監査・監督委員の選定の義務付けはしないものとし,監査・監督委員会が任意に常勤の監査・監督委員を選定した場合にあっては,その理由及び当該常勤の監査・監督委員に関する事項を,また,常勤の監査・監督委員を選定していない場合にあっては,その理由を,それぞれ,事業報告の記載事項とするものです。  「(4) 監査・監督委員会の権限」は,まず,中間試案では,⑥のように,監査・監督委員会及び各監査・監督委員は,それぞれ,委員会設置会社の監査委員会及び各監査委員が有する権限と同様の権限を有するものとしていましたが,その具体例として,①から③まで及び⑤を記載しております。④は,委員会設置会社の監査委員には,このような権限はございませんが,取締役会の独立性に鑑みまして,監査役の権限に倣って,監査・監督委員は,取締役が株主総会に提出しようとする議案等について法令違反等があると認めるときは,その旨を株主総会に報告しなければならないものとしております。なお,監査役については,会社法第384条は,このような報告義務の前提として,監査役による議案等の調査義務を定めておりますが,監査・監督委員は,取締役として,株主総会の招集の決定に当たり,議案等の内容を確認すると考えられ,これに重ねて,監査・監督委員として調査する義務を課す必要まではないと考えられることから,報告義務のみを課すものとしております。⑦及び⑧は,当部会における議論を踏まえ,監査・監督委員会が選定する監査・監督委員は,株主総会において,監査・監督委員である取締役以外の取締役の選解任等及び報酬等について監査・監督委員会の意見を述べることができるものとしています。⑨は,当部会における議論を踏まえ,取締役―ただし,監査・監督委員である取締役を除きます―との利益相反取引について,監査・監督委員会が事前に承認した場合には,会社法第423条第3項の取締役の任務懈怠の推定規定を適用しないものとし,事後に承認した場合には,このような適用除外を認めないものとしております。  「(5) 監査・監督委員会の運営等」は,監査委員会又は監査役会の運営等に関する規律に倣って,監査・監督委員会の運営等について所要の規定を整備するものです。  「(6) 監査・監督委員会設置会社の取締役会の権限」についてですが,まず,①及び②は,委員会設置会社の取締役会の権限を参考として,監査・監督委員会設置会社の取締役会の権限を定め,また,③は,委員会設置会社以外の取締役会設置会社と同様に,監査・監督委員会の設置会社の取締役会は,取締役の中から代表取締役を選定しなければならないものとするものです。④から⑥までは,監査・監督委員会設置会社における業務執行の決定の取締役への委任に関するものです。まず,④において,監査・監督委員会設置会社の取締役会から取締役に対する決定の委任が認められる業務執行の範囲は,原則として,監査役会設置会社の取締役会から取締役に対する決定の委任が認められる業務執行の範囲と同様としつつ,⑤及び⑥において,取締役の過半数が社外取締役である場合や,取締役会の決議によって,重要な業務執行の決定の全部又は一部の決定を取締役に委任することができる旨を定款で定めた場合には,取締役会の決議によって重要な業務執行の決定を取締役に委任することができるものとしています。  最後に,「(7) 監査・監督委員会設置会社の登記」は,委員会設置会社の登記や特別取締役制度の登記に倣って,監査・監督委員会設置会社の登記を定めるものです。これについては,法務省内の関係部局とも別途調整しているところでございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,まず,「(1) 監査・監督委員会の設置」について,これは,基本的には,中間試案と同様の内容でございますが,いかがでございましょうか。特に御意見はございませんか。  特に御意見がないということであれば,部会資料24の第1部第1の2(1)のような方向で,事務当局において要綱案の作成に向けた作業を進めさせていただくということで,皆様の御了解を頂けるということでよろしいでしょうか。  それでは,そのように取り計らわせていただきたいと存じます。次に,「(2) 監査・監督委員の選任・解任及び報酬等の決定の手続等」について,これも,基本的には,中間試案と同様の内容でございますが,いかがでございましょうか。特に御意見はございませんか。  特にないようであれば,(1)と同じように,部会資料24の第1部第1の2(2)のような方向で,事務当局に要綱案の作成に向けた作業を進めさせていただくということについて,皆様の御了承を頂いたと扱わせていただいてよろしゅうございましょうか。  それでは,そのように扱わせていただきます。次に,「(3) 監査・監督委員会の構成」でございますが,特に,(注)の常勤の監査・監督委員の選定の義務付けにつきましては,4月の会議におきまして,いろいろな御意見を頂いたところでございます。そこでの御意見の内容も踏まえて検討したわけでございますが,事務当局の案としては,選定の義務付けはしないものとした上で,選定した場合及び選定しない場合に,それぞれの理由等を事業報告に記載するということを部会資料24では提案しています。この(3)については,いかがでございましょうか。 ○三原幹事 この(注)につきまして,これまで何度か発言させていただきましたが,最後にまとめとして発言させていただきたいと思い,手を挙げさせていただきました。この(注)につきましては,前回,非常に深い御議論を頂き,また,様々なお考えを御協議いただきまして,特に,監査役とは,「監査する役なのか,監査させる役なのか」という適切なおまとめもあって,この新しい制度を,モニタリング・システムということで捉えるということで今回の部会資料がまとめられたという理解をしております。この考え方からしますと,この(注)の形以外の形にするのはなかなか難しいのであろうということは理解しておりますが,繰り返しになって恐縮なのですが,私がこれまで申し上げことは,モニタリング・システムで監査するという法制度には,若干理念的なところが残っている部分があるという趣旨での発言でございました。つまり,委員会設置会社制度の中で実際にモニタリング・システムを行っていて,かつ常勤者がいない会社は,約3,500社ある上場会社のうちの約2%と言われる委員会設置会社の更に3割程度です。そうなると,数から言いますと,3,500のうちの2%で70社程度で,そのうち6~7割は常勤者が事実上いるという制度でございますので,恐らく20~30社ぐらいが常勤者なしできちんと回っている会社だということでございます。実例が少ないといいますか,20~30社ですと,全上場会社の約1%ぐらいでございますので,常勤者がなくてもモニタリング・システムだけで企業統治がなされるとするためには,内部統制システムがどのように動くのか。現在,会社法施行規則100条で業務の適正を確保するための体制とあるわけですけれども,前回の議論の中で,その体制の履行状況なりを,例えば,事業報告で書くとか,そういったお話も出たように思いましたので,事業報告での説明を充実していただく必要があると思うのが一つでございます。ただ,先ほど,その前の議論でございましたように,このcomply or explainというのは,実際には,物事を変える力はないのではないかという御発言があって,それもあって心配になってきたわけでございます。確かに,日本の実務を担当しておりますと,数社のモデルケースと言われるような事業報告の内容の記載が公表されますと,大体それに近いような記載が他社へもかなり広がってくるという実務がありまして,実態としては,そういうモデル標準文言のような形で運用されてしまうケースが多々ある可能性もあるものと思いますので,comply or explainが定着するためには,その履行状況についてもきちんとした具体的なお話が必要ではないかと思います。以上,この(注)の形は別の形にならないということは理解いたしましたけれども,このようなことを実務的に心配していますと前回申し上げましたところは,改めてお伝えしておきたいと思います。 ○坂本幹事 御指摘ありがとうございます。前回,そういう御指摘も頂戴しているところでございまして,そのような御懸念をお持ちであることは十分承知しております。今,内部統制システムの開示の充実といったお話を頂戴したところでございますけれども,今回の部会資料24には書いておりませんが,基本的に,会社法施行規則において,開示の充実を図るということで,中間試案あるいは第三読会の段階では,内部統制システムの更なる充実を行い,更にはその運用状況についても開示していくということを書かせていただいております。今の三原幹事の御指摘は,その上で,内容としてどのようなことを記載していくかが大事だということかと思いますけれども,まずは,その開示をすべき内容として,会社法施行規則に,運用状況も含めてきちんと開示していくということを書かせていただくということで対応させていただければと思っております。 ○田中幹事 この(注)に書かれていることについては,(3)に書いてあること自体に反対するわけではありませんが,三原幹事から御提示いただいたものと同じような懸念を私も持っております。つまり,監査・監督委員会が現在の委員会設置会社と同じように内部統制システムを駆使した監査をするから常勤は要らないという整理になるのは,確かに,現行法のルールからすると,そうなるのかもしれませんけれども,現在の委員会設置会社でも,内部統制システムを駆使した監査をすると言っている割には,必ずしもそういうことを想定したような内容の内部統制システムを持っているのかどうかは,少なくとも法令の規定上はよく分からないということがあろうかと思います。つまり,委員会設置会社でも,内部統制システムの内容自体は,取締役会が決めるわけでありますし,その内部統制システムにおいて取締役会が決定する事柄も,基本的には,監査役設置会社とそろっていると申しますか,それほど委員会設置会社に特徴的なルールになっているわけではありません。ですから,学者などが見ると,現在,開示されている内部統制システムの内容を見る限り,本当のところは,内部統制システムはどのように動いているのかよく分からないので,苦労しているというのが現状なのです。昨今の企業不祥事でも,内部統制システムは確かに作っているけれども,使用人からの報告・通報は,経営トップに上げられるような形になっていますから,経営トップ自身が関与している不祥事については,その防止に役立たなかったということがあるわけであります。したがって,そのような問題については,これは別に,委員会設置会社や監査・監督委員会設置会社に限らず,監査役設置会社でも全く同じ問題があるかと思いますけれども,内部統制システムの内容として,例えば,使用人等が違法な行為を発見した場合には,その報告は,トップ経営者にも上げられるとしても,同時に監査委員会,あるいは,これは,監査役設置会社であれば監査役にも上げられる,そして,トップ経営者の関与が疑われるような行為については,監査委員会あるいは監査役だけに上げられる,さらに,使用人がトップ経営者に報告しなかったということによって,その後,トップ経営者から報復を与えられないような仕組みも作る,最低限,そのような仕組みになっていないと,内部統制システムを作ったところで,トップ経営者の関与した不祥事の防止には役立たないということになろうかと思います。このような内部統制システムの具体的な内容は,恐らく法律で書き込むというよりも,基本的には,内部統制システムの内容として取締役会が決議すべき事項として法務省令に書き込むこととし,さらに,内部統制システムの運用状況について開示する際に,今私が言ったような事項に関して内部統制システムがどのように対応ができているかというところまで踏み込んだ開示をさせるということが必要になってくると思います。是非,省令の規定を改正されるときには,このような具体的な問題に踏み込んだ形のルール設定を工夫されることを望みたいと思います。 ○坂本幹事 御指摘ありがとうございます。今,田中幹事から御指摘いただいたものの中に,中間試案でも受け止めさせていただける項目を幾つか挙げていただいたと思っております。例えば,内部通報をした人が不利益を受けないような体制を整備するということを中間試案に記載させていただきました。そのやり方としては,田中幹事がおっしゃったように,監査役あるいは監査委員会に告げる,若しくは,外部窓口に告げるとか,いろいろなやり方があり得るだろうとは思っております。会社法施行規則で,そのような体制の整備ということを規定するに当たって,今御指摘いただいたことも踏まえて検討してまいりたいと思います。 ○太田委員 今,各幹事の方々から大変丁寧な説明がありましたので,全く同感であるということをまず申し上げたいと思います。先ほど三原幹事からもありましたように,ひな形が一つ出てしまうと,どの企業も同じ表現に終始し,木で鼻をくくったような表現に統一されてしまうという懸念が残ります。さはさりながら,個別企業の実態は様々でありますので,なかなか一律に規定することが難しい。したがいまして,今,坂本幹事がおっしゃったような形で,あるいは田中幹事からの御指摘の点も含めて,仮に常勤者がいなくても,例えば,企業統治のレベルが十分に担保できるといいましょうか,こういう抽象的な表現ではできないことはよく分かるのですが,是非その辺の意のあるところを酌んでいただいて,前に向かって少しでもレベルが上がっていく,そういう内部統制システムの整備・充実という観点に是非意を用いた開示を要請する必要があり,そうした工夫をしていだければというお願いであります。よろしくお願いいたします。 ○本渡委員 私も,太田委員と同じ意見でして,正直言って,常勤者がいないと,非常にガバナンス上問題が生じかねないなという心配をしておりますので,その点を十分酌み取っていただいて,よりよい制度設計をしていただきたいと考えております。 ○坂本幹事 太田委員,本渡委員に御指摘いただいた点でございますが,太田委員から御指摘いただいたところまで会社法施行規則で書けるのかというところはございますので,仮に今後こういう制度が出来上がっていったときに,この部会で御議論いただいたことは運用上御参考にしていただけるものと私どもも理解しておりますので,具体的に,規定ぶりとしてどこまで書けるのかというところはございますけれども,ここで議論されたことは,関係各界において尊重していただくということを私どもとしても期待しているということは申し上げたいと思います。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。  今承りました委員・幹事からの御意見では,監査・監督委員会を取り入れた場合に,常勤者の有無を内部統制システムによってカバーするということで,常勤者を特に義務付けることにはしないという考え方でこの部会資料24の案はできているわけですけれども,内部統制システムが本当にきちんと機能するような体制作りをやってほしい,そのための努力を規則の制定等の形で法務省に期待したいという御意見が支配的だったかと思います。確かに,先ほど坂本幹事から御説明がありましたように,今までとは違って,内部統制システムの構築だけでなくて,その運用等についても,事業報告の開示事項にするなど,内部統制システムをより実質化するための努力を法務省にはお願いしたいと思います。さらに,それが単に規定の上だけでなくて,正に太田委員が御指摘になったように,問題は,実務のレベルの向上にありますので,そのためにどういう工夫をするかということについて,法務省にはより努力していただきたいと思います。これが業法的な規制のあるところですと,それこそ銀行等のように,検査マニュアルなどに従って実際に検査するという形で,本当にそういう内部統制システムが充実しているかをチェックしているわけですけれども,法務省にはそこまでの権限はないわけです。しかし,そういう権限のない,体制のないところでもなお,できるだけのことをするということで,是非最大限の努力をしていただくことをお願いしたいと思います。そういうことを前提に,部会資料24の(3)についても,ほぼ皆様の御理解を頂いたのではないかと受け止めさせていただきたいと思います。よろしゅうございましょうか。  それでは,「(4) 監査・監督委員会の権限」に進ませていただきたいと思います。(4)につきましては,4月の会議では,特に,⑨の会社法423条3項の任務懈怠推定規定の適用除外について様々な御意見を頂いたところでございます。この点につき,部会資料24では,監査・監督委員会の事前の了承があった場合に限ると変更されております。この(4)の部分について,皆様の御意見を頂きたいと思いますが,いかがでございましょうか。 ○荒谷委員 任務懈怠の推定規定を外すことと,後で出てまいります社外取締役・社外監査役の要件は,密接にリンクしてくると思います。社外取締役に求められる機能として,特に,利益相反の監督機能に着目するというのであれば,社外取締役を導入することについては賛成でございますが,ただ,取締役との利益相反取引について,事前に監査・監督委員会が承認した場合には,任務懈怠の推定規定を適用しないとする場合には,例えば,取引関係者を除くなど,社外取締役の要件をある程度絞り込んで考えるべきで,社外取締役の要件が厳格でないまま,推定規定を外してしまうということについては,私は反対でございます。 ○坂本幹事 社外要件とリンクしているという総論については,おっしゃるとおりだと思っております。他方で,取引先関係者とのリンクという点については,取引先要件をどうするかということも関わるのではないかという御指摘ではございましたけれども,利益相反取引自体の相手方として監査・監督委員が関係するという場合には,特別利害関係人ということになってきて,その決議に入れないという手当てはしてございますので,そこは,除外されて取り扱われることが前提となっているということは御理解いただければと思います。 ○田中幹事 前回,私は,この提案に関して,こういうルールは,本来は,取締役会の構成メンバーの過半数が社外取締役であるときに,取締役会がこの利益相反取引を承認した場合には,任務懈怠の推定規定の適用はないという本則を設けて,その上で,監査・監督委員会については,監査・監督委員会の過半数が社外者なので,その委員会の承認をもって本体の取締役会の承認に代えることができるものとすれば,ルール設計としては筋が通るのだろうなということを申し上げたわけです。その一方で,では,本体であるルールが設けられなければ,提案されているようなルールに反対するのかと申しますと,そこまで固い立場でなくてもいいのかなという感じを持っております。それは,一つには,利益相反取引であるということだけで,その利益相反取引をする取締役だけでなくて,承認した取締役も,当然に,何か馴れ合いをして悪いことをするのだということを推定するというのは,いささか過剰に見えるという点,それから,もう一つには,提案されているルールは,任務懈怠に関して証明責任の転換をするということにすぎないところ,任務懈怠は,いろいろな事情を考慮した総合判断になってくるので,任務懈怠を推定するかどうかということと,最終的な責任が肯定されるかどうかというのが必ずしもそれほど強い関係に立たないということがあります。裁判所の目から見て,社外取締役が機能しないために不公正な取引が承認されてしまったと判断できる場合には,たとえ証明責任が原告株主の側にあったとしても,任務懈怠責任を認めることはできるようにも思います。そういったことから考えると,既存の監査役設置会社に対して,この新しい制度である監査・監督委員会設置会社にスムーズに移行する,そうして社外取締役をより多く選任して新しいガバナンス体制に移行することを促進するという政策判断から,あえて,監査・監督委員会設置会社についてだけ,このような証明責任転換の規定を設けるということはあり得ることなのではないかなと考えております。 ○前田委員 私も,この⑨については,先ほど荒谷委員が御指摘になったような問題があると感じておりました。例えば,親会社との取引が利益相反取引に当たるような場合であれば,今回,社外性の要件として,親会社からの独立性も考慮するということにしていますので,正しく,社外取締役に利益相反の監督を期待することができるという関係になるのだろうと思います。つまり,社外取締役は,親会社のほうではなくて,純粋に会社の利益を考えて行動することを期待できる。しかし,この⑨が適用になる場面は,もっと広いのですね。「取締役との利益相反取引」と言っていますのは,取締役が相手方会社を代表・代理するという場合も含んでいるのだと思います。そうしますと,監査・監督委員の全員が相手方会社の平取締役を兼任しているとか,あるいは,監査・監督委員会の全員が相手方会社の使用人になっている,つまり,特別利害関係人にまでは当たらないけれども,相手方会社の関係者であるということは,十分あり得るのであって,その場合の監査・監督委員会というのは,利益相反取引の審査には全く適してはいません。ですから,ちょっと広げ過ぎではないかという懸念が一方であるとともに,今,田中幹事からも御指摘がございましたように,推定だけのことですので,そこまで窮屈なことを言わずに,この制度の利用の促進を重視するのであれば,少し無理は承知の上で,⑨のような措置もやむを得ないところかなとも感じているところでございます。 ○岩原部会長 ほかに御意見はございますでしょうか。  よろしいですか。それでは,ただいま頂きました御意見を考慮いたしますと,(4)については,特に問題になりましたのは,⑨でございますが,監査・監督委員会という制度の利用を進めるという大きい政策的な考慮を考えると,基本的には賛成だという御意見が多かったかと思います。ただ,社外性の要件との関係で,監査・監督委員会が本当の意味で独立した判断をして,その結果,この推定を変えるということを認めていいのかということについて御懸念が出されました。ただ,恐らく,それについては,前田委員が御指摘になったように,独立性が疑われるような監査・監督委員会のメンバー構成になっているというときには,実際上,裁判所が任務懈怠の有無の判断をするときに,推定規定は確かに働かないかもしれないけれども,実際上のところ,監査・監督委員会の判断をどこまで考慮するかというところで,事実上,そういう利害関係性も判断した上で裁判所が取り扱う,そういうことが実際上期待できるのではないかということで,⑨のような方向を採ってもいいのではないかと,多分,そういうお感じが多かったかと存じます。先ほどの田中幹事の御指摘も,多分そういうことだったのではないかと思いますが,そういうことでよろしゅうございましょうか。  それでは,そのように扱わせていただきたいと存じます。次に,「(5) 監査・監督委員会の運営等」でございます。これは,中間試案には特に掲げられていなかった点でございますけれども,いかがでございましょうか。  特にございませんか。ある意味では,非常に技術的なことで,監査・監督委員会についての運営のルールを作るとすれば,取締役等あるいはいわゆる三委員会の制度等と対比して,こういうことになるのではないかということだと思いますが,よろしいでしょうか。  それでは,(5)についても御了承いただいたと扱わせていただきたいと思います。次に,「(6) 監査・監督委員会設置会社の取締役会の権限」でございます。これにつきましては,4月の会議におきましては,特に,⑥の定款の定めがある場合の業務執行の決定の委任について,いろいろな御意見を頂いたところでございます。この(6)について,いかがでございましょうか。 ○中東幹事 (6)の④から⑥の建て付け自体は,分かりやすいと思うのですか,⑥があるがために,監査・監督委員会の理念といいますか,この先は,どう進んでいくのだろうかということが分かりにくくなっていると思います。三原幹事がおっしゃいましたように,この理念が,モニタリング・モデルにつながるものである,その過渡期として考えようということであれば,執行と監督を分離していくという観点から,太田委員がおっしゃいましたように,企業統治のレベルが上がっていかなければならないと思います。監査・監督委員会には,委員会設置会社に比べると,指名委員会がないわけですので,私は,レベルは下がっていると判断しています。企業統治の実効性をどのように上げていくかというときに,パブコメでも,監査・監督委員会制度の創設に反対されていた御意見の多くは,取締役会の過半数を社外取締役にしなければならないという考え方を示されていたと思います。この点については,先ほど,荒谷委員,あるいは,推定規定との関係では田中幹事がおっしゃったと思います。私も,この制度の創設には,ずっと反対でいたのですが,なかなか反対と申し上げる機会が与えられないまま,創設は決まって,内容はどうですかと問われ,困っていないわけではありません。ただ,方向性がしっかり分かるもので,企業統治のレベルが上がっていくものだと期待できるものであれば,創設してもよいのではないかと考えています。そういう意味で,⑥は,この際なくす,あるいは先ほどの事務当局の発想で,comply or explainの形でいくのであれば,監査・監督委員会設置会社における取締役の構成に関する理由,具体的には,取締役会の過半数に至らない形で社外取締役を選任すること,あるいは過半数を社外取締役にすることについて,理由を開示させるところまでは,せめてやっていただきたいと考えております。その上で,この制度を入れるのであれば,前向きな話であろうと思っています。 ○野村幹事 やや質問のような感じなんですけれども,現行法で権限分配を考えるときに,本来,下位の機関には権限は委譲できないという前提に立った上で,例外的に定款で定めるという例としては,459条,460条というのがあるかと思うんです。これを法定した際には,459条のレベルでは,下位の機関に権限委譲しても,上位の機関の権限が併存するということを前提として,特に,定款の定め方によって,460条により株主総会の権限は排除すると,これは,定め方の問題ですけれども,そういう整理がなされていたように思います。これは,質問で,どちらがいいということではなく,賛否を議論する上での前提としての想定なんですが,この⑥で想定しているのは,定款に定めると,取締役会の権限は,もう法定権限が縮小されてしまって,その業務執行者のほうが専ら権限を持つということを想定して御提案になっているのかどうかということだけちょっと確認させていただければと思います。 ○塚本関係官 御質問についてですけれども,定款に,委任することができると定めただけでは,委任自体はまだされていないわけですので,取締役会の専決事項のままということになります。そこから,さらに,取締役会が,これこれの事項の決定を取締役に委任するという決議をした段階で,取締役,特に,代表取締役のほうで当該事項を決定することができるということになるかと思います。そのような委任の決議をしたときに,他方で,取締役会自身が,当該事項について決定をすることができなくなるのかということが御質問の趣旨かと思います。その点については,委員会設置会社についても既に同じような問題はあるかとは思いますが,基本的には,委任したことによって,当該事項についての取締役会の決定権限が完全になくなってしまうということにはならないのではないかと思っております。更に進んで,決定の委任を受けた取締役が実際に決定した後に,取締役会がそれをオーバーライドすることができるか,取締役による決定の内容と異なる内容の決定をしていいのかという問題もあり得ますが,現在も,例えば,特別取締役の制度についても,同じような議論はされていまして,いろいろ解釈論はあるのかもしれませんが,特別取締役の制度を設けた会社でも,別途取締役会で決めることができるという解釈論もあったかと思いますので,当然に,部会資料24の御提案自体が,定款を定めて,具体的に委任の決議をしたときに,取締役会自身の決定権限までを完全に奪ってしまうということまで意図して御提案しているというわけではございません。 ○野村幹事 そこをちょっと詰めていただければなとはやや思います。⑤,⑥というのは,正に,これは,委任できる,現行で言いますと,委員会設置会社の場合に,416条でその20項目を除けば委任できるということになっている,その委任の仕方のところは,今のところブランクで,委任できるようにするための条件として,取締役会に社外取締役が過半数いるという場合と,それから,定款で委任できると定めた場合,そういう可能性を開くという御提案だということは理解できてはいるわけでありまして,そのこと自体について,私は,⑥も含めて賛成したいとは思っています。ただ,その⑥の運用の仕方,⑤の運用の仕方も同じでありますが,現行の416条の解釈も含めて,一応法務省のほうで整理しておいていただければ,よりクリアになるのかなと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○三原幹事 ここのところは,前々回の4月のときにも,⑥について,多少心配しておりますということをお伝えしたとおりですが,今の御発言と御説明に関連しまして御質問させていただきます。この④の362条4項各号に掲げる事項その他重要な業務執行についての定款での委任規定というのは,例えば,重要な財産の処分・譲受けを例にとりますと,「重要な財産の処分・譲受けの決定を委任することができる」とだけ書いて,財産を特定しないで定款に書くと,それだけで,もう,取締役が業務執行の決定として個別にできるということではなくて,例えば,Aという財産なりを特定して,これについて,財産の譲渡・譲受けについて,もう1回取締役会決議をされるということになるのでしょうか。それとも,もう,定款で書けば,そこで財産は特定せずに,重要な財産の処分・譲受けの決定ができるということで,ずっと,半永久的にといいますか,将来的にできるという枠組みになるのでしょうか。先ほどの質問の御回答ではよく分からなかったので,教えていただきたいと思います。 ○塚本関係官 例えば,定款の定めとしては,重要な財産の処分の決定について,委任をすることができるという定めがあるとしますと,その場合に,さらに,実際に,ある土地あるいは何億円以上の不動産などの処分についての決定を委任するためには,別途取締役会の決議が必要ということになります。もちろん,定款において,重要な財産の処分の決定について委任することができると定めたときに,取締役会の決議の内容も,およそ全ての重要な財産の処分の決定を取締役に委任するという内容とすることも,許容されていると思っております。 ○岩原部会長 よろしいですか。  この案は,最大限の委任の範囲としては,一般的に,重要な財産の処分等については,代表取締役等に委任できるということを認めた案です。ただ,それをより限定する定款の書き方をして,委任の範囲を更に限定することは,無論可能である,そういう前提で作られている案だと思います。その上で何か御意見はありますか。よろしいですか。  ほかに何かございますでしょうか。 ○荒谷委員 私も,この⑥については,中東幹事がおっしゃったことと全く同意見でございまして,先ほど申し上げましたように,社外取締役がボードの過半数を占めているのであれば,モニタリング・システムとして十分機能すると思いますが,そうではなく,しかも,指名委員会がないという状態で,監査・監督委員会を導入するということは,ある種の妥協の産物のようなものですので,先ほどの利益相反取引の推定規定もそうですが,この⑥についても,この制度の採用を促進するために,かえって,ガバナンス機能が低下したというイメージを与えかねないのではないかという危惧の念を抱いております。実際どうなるかは分かりませんけれども,そのような誤解を招くようなことまでする必要はないのではないかというのが率直な感想でございまして,⑥については,もう少し慎重に検討していただきたいというのが私の意見でございます。 ○坂本幹事 まず,中東幹事,荒谷委員の御意見は,いずれも,指名・報酬委員会がないということに基づく御意見かと思いますけれども,監査・監督委員会につきましては,その権限として,他の取締役の選解任について意見を述べることができるようにしています。また,報酬につきましても,自分たちのみならず,他の取締役についての意見も述べることができるようにしています。さらに,監査・監督委員ではない取締役の任期は1年として,毎年毎年,総会のチェックを受けるということにしております。そのような手当てをした上でこういう制度設計にしているというところでございます。この制度を導入するとガバナンスが弱くなるのではないかという御意見でございますけれども,今のような前提があるということと,他方で,取締役が自分では業務執行については決定しないことによって取締役の監督機能を強化するという側面もございますので,その辺を加味して考えると,このような制度もあり得るのではないかと考えている次第でございます。 ○杉村委員 今,坂本幹事から御説明のあったように,私どもとしましても,指名・報酬委員会を置かないことについての代替措置は設けられていると理解しております。それから,取締役会の機能としても,かなり広範囲の決議事項まで取締役会の機能に取り込むというシステムではなく,どちらかというと,取締役会はモニターを中心にして,実際の業務執行はほかに委ねるというスタイルだと思います。先ほども重要な財産のところで少し議論がありましたけれども,重要な財産の中身を,「では今回の土地はどうか」などと取締役会で決議するとなると,結局取締役会で細かいことまで決めていくという話になります。そのようなことを考えれば,⑥に関しましては,定款の変更を通じて株主の意思も十分尊重されている提案だと思いますので,その上で,取締役会が更に判断して,下位の取締役に権限委譲するというこの提案は,我々としては支持したいと思います。 ○野村幹事 先ほど,私は,この⑥に賛成すると申し上げた背景には,今,坂本幹事のほうから御指摘がありましたように,従来の議論では,「監査・監督委員会」と表記されてまいりましたけれども,ある意味では,三委員会の中の一つの委員会に,その権限をある程度集中させて,社外監査役の数を,負担感を減らしながらも,委員会設置会社に近いガバナンス・システムを導入しようという意思が表れていたことが前提となっております。その上で,取締役の選任でありますが,代表取締役の選定及び解職ということについて意見が言えるというのは,実は,今の委員会設置会社よりもガバナンスはやや効く部分があるかと思います。と言いますのは,指名委員会は,取締役の選任についての意見を申し上げ,ノミネートについての意見を言う形になっていますが,現行の委員会設置会社は,必ずしも取締役の地位と執行役の地位及び代表執行役の地位がリンクしておりませんので,代表執行役として取締役ではない人がいた場合には,なかなかコントロールが及びません。そういう意味では,今回の新しい制度は,取締役の地位と代表者の地位がリンクしておりますので,取締役の報酬あるいは代表取締役の選定及び解職といったところに発言権を持つということは,一定程度の影響力を持ち得る機関ではないのかなと理解しているところであります。そういう意味においてのガバナンスが弱くなる部分はあるのかもしれませんが,委員会設置会社との比較の中でも,やや工夫されている余地があるのかなとは考えております。 ○藤田幹事 考え方が十分まとまっていない状態での発言で恐縮ですけれども,今までの御発言の中では,野村幹事などが言われたことに比較的近い立場で言わせていただきたいと思います。まず,基本としては,現段階では,多くの委員の共通の認識となっているのは,モニタリング・モデルの取締役会に移行したい日本の会社が移行しやすい環境を用意してやるということが,監査・監督委員会設置会社の基本的な理念だということだと思います。コーポレート・ガバナンスを巡る現在の世界的な潮流は,取締役会の役割はモニタリングにあると性格付けした上で,独立性の高い取締役会でそれをやりなさいというモデルです。もちろん,だからといって日本の会社全部がそう変わらなくてはならないということには,必ずしもなりません。日本の従来の会社は,むしろ業務執行の具体的なことまで取締役会で決めます,その代わり,業務執行の決定に関わらない監査役という機関を別途設けて監督しますというモデルです。全部の会社がそれを一律に捨てろとまで言うべきではないでしょうが,従来型のモデルからモニタリング・モデルに移りたい会社については,法制度のほうで邪魔しないようにする,移りやすい環境を作ってやろうということだと理解しています。もしそうだとすると,その理念に沿ったような取締役会の権限と在り方が,できるだけはっきり分かるような形で条文が組み立てられていることが望ましいことになります。  そういう観点から見た場合,これまで発言された方は,権限委譲に関する(6)⑥を問題にされているのですが,むしろ私が一番気に入らないのは,(6)④です。(6)④は,「監査・監督委員会設置会社の取締役会は,第362条第4項各号に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができないものとする。」としているのですが,取締役会が「委任することができない」ことを原則として,⑤⑥で例外的に権限委譲を認めるという作りは,モニタリング・モデルという性格とは正面衝突しかねない。モニタリング・モデルなら,最初から権限は委譲されているべきであり,取締役会は業務執行の監督,後は代表者の選解任とか基本的経営方針の決定等に専念すべきだとなるべきなのです。そして,独立性の高い取締役会構成を強制する。モデルを純化すれば,本来そうあるべきなのですけれども,どうも現在の監査・監督委員会設置会社は,モニタリング・モデルとは逆の原則から出発している条文の作りになっている。  そういう意味では違和感があるのですが,これは,委員会等設置会社の導入の仕方の負の遺産としか言いようがないと思います。委員会設置会社も,モニタリング・モデルだというなら,本来は,取締役会は業務執行について細々としたことを決めるのではなく,経営基本方針,代表者の選定の決定と業務執行のモニタリングをする機関ですというところから出発すべきはずなのに,委員会等設置会社を導入したときの説明として,ガバナンスを強化したから,その代わりに執行役へ権限を「委譲することを認めます」といった説明の仕方をしてしまった。本来はそうではないはずなのに,そういう説明をしてしまい,現行法では委員会設置会社がそういう作りになっているので,それと整合的にしようとするなら,現在の提案の(6)④及び⑤⑥のような作りにならざるを得ない。筋から言えばかなり違和感があるのですが,委員会設置会社を含め全部作り直せとまで言えないので,やむなく消極的に支持せざるを得ないということです。  その上での権限委譲の要件ですが,⑤には皆さん異論はないのですが,⑥については相当異論があるようです。ただ,これも,モニタリング・モデルの取締役会の在り方としては,細々としたことを決めるわけではない―細々した業務執行の決定をするのであれば,そういう決定に参加する人が監督機関となるということ自体問題があるということになりかねない―,そういうことを考えると,⑥のような選択肢も一応は認め,その上で,この独立性というのをどうやって担保するかを考えることになるのでしょう。先ほど野村幹事が言われた説明―監査・監督委員の役割というのは,委員会設置会社の一つのある委員に対応するものではないし,監査役そのものでもないのだといった説明―をしていくということになると思います。そういう意味で,多少違和感はあるのですけれども,先ほどから申し上げていますように,そもそも,この制度の下での取締役会の在り方ということを考えると,取締役会で何でも細かいことまで決めるということができるだけなくなるような方向での制度設計を可能にするという意味で,⑥の提案について支持したいと思います。  ついでに申し上げますと,新しい機関設計を持つ会社の名称はまだ決めていないし,この場で決めるのかどうか分かりませんけれども,「監査・監督委員」というのはやめて,「監査」というのは落としたほうがいいと思います。監査役とは役割を変えているということを示唆するという意味でも,「監督委員」としたほうがいいと思うんです。 ○岩原部会長 ほかにいかがでしょうか。  今までの御意見を伺いますと,基本的には,こういうモニタリング・モデルに従った取締役会の在り方への移行を促進するために,このような形の制度改正をするということに賛成する御意見が多かったかと思います。幾つかの御懸念が出たのは,恐らく,では,モニタリング・モデルに移るとすると,監査・監督委員会と委員会設置会社との区別をどう理解するか,そこをどのようにうまく両者の間の関係を理解できるようにするのか,その点で,両方とも,形は少し違うかもしれないけれども,同じようにモニタリング・モデルとしてうまく機能するものだと言えるのか,多分そこの点に関する御懸念がなおあるということから,荒谷委員を始めとする幾つかの御懸念が示されたのではないかと考えております。基本的な方向としては,この部会資料24に書かれている方向をサポートする御意見が多かったと理解させていただきたいと思いますが,委員会設置会社との関係と,正に,名前の付け方から権限の規定の仕方等,技術的なところを含めて,うまく両方の間の理念を整理し,実質的に,両方ともモニタリング・モデルとして安心して利用していただけるものになるように,ここから先は,かなり事務当局の御努力が要るのではないかと思っていまして,その点を大いに期待したいと思います。  先ほど野村幹事がおっしゃいました,委任した取締役会が自分で決めることができるかという問題は,これは,委任する者であれば,自分自身が委任を撤回するような形で幾らでも自分でも決定することができることを前提にしているのではないかと思います。  皆さん,そのようなことで取りまとめるということで御了解いただけますでしょうか。  よろしいでしょうか。荒谷委員などの御懸念も十分酌み取った上で案を取りまとめていただきたいと思います。私自身も,一方で,今ある委員会設置会社が大量に監査・監督委員会設置会社に移行するといったことが実際に起きたらどうなんだろうということも考えないわけではありません。そういうことを含めて,実際上,日本のガバナンスのレベルがより向上するような形になるように,是非,最後の詰めをお願いしたいと思います。  それでは,先に進ませていただきたいと思います。「(7) 監査・監督委員会設置会社の登記」でございますが,先ほどの事務当局からの御説明では,法務省内でも現在調整中とのことでございますが,いかがでございましょうか。よろしいですか。  それでは,省内での調整にお任せするということにさせていただきたいと思います。ここで休憩を取らせていただきたいと思います。           (休     憩) ○岩原部会長 そろそろ時間でございますので,審議を再開させていただきたいと思います。  第1の「3 社外取締役及び社外監査役に関する規律」について,まず,「(1) 社外取締役等の要件における親会社等の関係者等の取扱い」のうち「① 親会社等の関係者の取扱い」及び「② 兄弟会社の関係者の取扱い」について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○宮﨑関係官 それでは,「(1) 社外取締役等の要件における親会社等の関係者等の取扱い」のうち,「① 親会社等の関係者の取扱い」及び「② 兄弟会社の関係者の取扱い」について,一括して御説明いたします。社外取締役等の要件に,親会社の関係者でないものであることを追加することについては,当部会において御異論があるところではございますが,①の本文は,そのような見直しをすることを提案するものです。そして,そのような見直しをする場合には,親会社のほか,親会社と同様に議決権を背景として株式会社の経営を支配する者自身又はその関係者でないものであることも,社外取締役等の要件に追加することが考えられます。そこで,①の本文は,株式会社の親会社その他当該株式会社の経営を支配している者を「親会社等」とし,社外取締役等の要件に,当該親会社等又はその関係者でないものであることを追加することを提案するものです。  また,株式会社の親会社等が自然人である場合,当該親会社等の近親者は,当該親会社等と経済的利益を同一にするものであることからすれば,当該株式会社の経営者が当該株式会社の利益を犠牲にして当該親会社等又はその近親者の利益を図ることについての実効的な監督を期待することは困難であると思われます。そこで,①の本文に掲げた要件に加え,株式会社の親会社等が自然人である場合においては,社外取締役等の要件に,当該親会社等の近親者でないものであることを追加することが考えられます。  「親会社等」の詳細については,現行法における親会社の定義を参考に,会社法施行規則に所要の規定を設けることが考えられます。  ②の本文は,社外取締役等の要件に,いわゆる兄弟会社の関係者でないものであることを追加することを提案するものです。  なお,親会社と同様に議決権を背景として株式会社の経営を支配する者,すなわち,親会社等がその経営を支配している法人―これは,部会資料24の10頁の第3の1(1)①ア(イ)では,「子会社等」と定義しておりますが―,このような子会社等の関係者についても,親会社の指揮・監督を受ける立場にあり,株式会社の経営者が当該株式会社の利益を犠牲にしてその親会社等の利益を図ることについての実効的な監督を期待することはできないと考えられます。そこで,②の本文のような見直しを行う場合には,「親会社等」の「子会社等」の関係者でないものであることも,社外取締役等の要件に追加することが適切であると考えられます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,御議論いただきたいと思います。4月の会議では,親会社等及び兄弟会社の関係者を社外取締役等から除外することについて,御異論もあったところでございましたが,部会資料24では,除外するということで提案がされております。いかがでございましょうか。 ○杉村委員 ①,②は同じことですので,併せてお話しさせていただきます。①,②とも,このように除外することでどうかという投げ掛けでございますが,私どもとしましては,親会社関係者あるいは兄弟会社関係者とも,社外取締役等としまして,企業価値を向上させるために一定の役割を持っておりますので,その実効性を是非積極的に評価してほしいと今でも考えております。また,実務的な観点で申しますと,現在,親会社関係者あるいは兄弟会社関係者が社外取締役等に選任されて,それが一定の役割を果たしていると思っておりますけれども,今回,①,②のような考え方で方針が変わるということになりますと,社外取締役等を新たに探さなければいけないという実務面での影響も実際は極めて大きく生じてくるということも,この場で再度発言させていただきたいと思います。 ○伊藤(雅)委員 何度も申し上げていますが,親会社の取締役やその関係者が社外役員に就任できない規定を設ける必要はないと考えております。その中でも,部会資料のイにあるように,社外監査役の要件に,親会社の監査役でないことを付け加えることには,特に反対いたします。親会社の監査役が子会社の社外監査役を兼ねることは多いのですが,このような実態によってコーポレート・ガバナンスに支障があるとは思えません。社外監査役の要件に親会社の監査役でないことを付け加えた場合に,実務に非常に大きな影響を与えると考えられますので,慎重に検討すべきではないかと思います。 ○太田委員 今,伊藤委員から先に言っていただきましたが,私どもも,実務上の観点からということも考えますと,100%親子会社間に限りましては,社外監査役の兼務を認めるということは,現実的な選択ではないかと引き続き思ってはおります。これまでの意見の繰り返しになっておりますが。 ○坂本幹事 伊藤委員から,そもそも,社外監査役については,親子で兼務を認めるべきではないか,さらに,太田委員から,少なくとも100%親子関係にある場合については考えてもいいのではないかという御指摘だったかと思います。まず,兼務を認めていいのではないかという伊藤委員の御意見についてですが,ここでなぜ親会社から独立している人間を要求するのかということに遡って考える必要があると思っています。すなわち,親会社と子会社の両方に対して善管注意義務を負うということになってしまうと,どちらか一方を優先するというわけにもいかないという話になってまいります。では,果たしてそういう人を社外監査役として置いていいのかというと,社外監査役を要求した意味に照らせば,どちらの善管注意義務も優先できないという人を社外監査役として置くというのは,適切ではないのではないかと考えております。  また,太田委員から,100%親子関係の場合には除外すべきではないかということでございますけれども,突き詰めて言うと,そもそも,100%親子関係にある子会社側に社外監査役というものを置くのかどうかという御議論にもつながってくるのかなということかとも思いますけれども,現行法では,そういう場合であっても社外監査役を要求するという建て付けになっておりますので,逆に,そのような現行法の建て付けを前提とすると,100%親子関係にあるかどうかということで社外監査役の要件を変えるということは難しいと思っております。 ○伊藤(雅)委員 基本的に,監査役は,経営者からは独立しているという前提があるので,そのようなこともいいのではないかなというのが基本的な考えでございます。意見として申し上げさせていただきます。 ○伊藤(靖)幹事 これは,社外取締役と社外監査役とで別に考える余地もあるかと思います。坂本幹事から1回御説明があったところですけれども,社外監査役の具体的な職務と関連させて,親会社出身の者では具合が悪いという説明をしていただければ,もう少し具体的に考えることができるかと思います。 ○坂本幹事 具体的な職務との関連でという御質問でございますけれども,具体的なケースということもなかなか申し上げにくいところですが,一番分かりやすいものとしては,監査役は,取締役の善管注意義務違反まで見るということになってございます。善管注意義務違を見ていくとなると,監査役の監査権限が妥当性監査までなのか,適法性監査まで及ぶのかという議論はありますけれども,かなり妥当性監査まで近付いていく,正にそういう場面になってまいります。そういうところまで踏み込むということになってくると,取締役と監査役の違いということを踏まえましても,親子での社外の兼務を認めるのは相当でない場面が生じてくると思っております。 ○野村幹事 私が説明しても意味がないのかもしれませんけれども,親子会社関係で,子会社のほうで,例えば,取締役が経営判断上著しく不合理な行為を行っているということが散見されていて,その行為が親子会社間取引であったような場合に,子会社の社外取締役は,差止請求権を行使すべき場面,会社に著しい損害を生ずるおそれがある場合という条件がありますけれども,差止請求権を行使すべき場合があるかもしれませんが,親会社監査役としては,それは,むしろ違う判断をするということが必要な場合もあるかもしれません。つまり,立場によって見え方が違ってくるという場合もあると思いますので,どちらの立場に立ってものを見ているかによって判断が違ってくる可能性があるのではないかということが,恐らく懸念されているのではないかと思います。 ○岩原部会長 ほかに何かございますでしょうか。特にございませんでしょうか。  この点に関しましては,経済界の委員の方からは,御懸念も示されましたけれども,それ以外の大多数の委員・幹事の方は,部会資料24の案に特に異論はないということと理解させていただいてよろしゅうございましょうか。  それでは,そのように理解させていただきたいと思います。先に進ませていただきまして,次に,「③ 株式会社の関係者の近親者の取扱い」につきまして,事務当局から説明をお願いしたいと存じます。 ○宮﨑関係官 それでは,「③ 株式会社の関係者の近親者の取扱い」について御説明いたします。本文アのような見直しを行うことについては,当部会では概ね御異論がなかったところかと存じます。  本文のイは,社外取締役等の要件に,株式会社の重要な使用人の近親者でないものであることを追加することについて問うものです。使用人の近親者の取扱いに関し,当部会では,社外取締役等は,株式会社の取締役等の経営者を監督することが期待されるものであり,株式会社の使用人を直接監督することが期待されているわけではないので,社外取締役等の要件において,取締役等の近親者と使用人の近親者とを同様に取り扱わなければならないとまでは必ずしも言えないのではないかとの指摘がされています。  他方で,株式会社の使用人の近親者でないものであることを社外取締役等の要件に追加すべきであるとの意見の中には,社外取締役等に期待される監督機能という観点からは,重要な使用人に限り,その近親者でないものであることを社外取締役等の要件に追加することも考えられるとの意見もございます。そこで,社外取締役等の要件に,株式会社の重要な使用人の近親者でないものであることを追加することについて検討する必要があるものと思われます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,この③でございますけれども,4月の会議では,全ての使用人の近親者を社外取締役等から除外するということについては,御異論もございましたが,部会資料24の③のイでは,重要な使用人に限定して,その近親者を社外取締役等から除外することが取り上げられております。4月の会議でも,そのような御意見があったところであります。この③について,いかがでございましょうか。 ○杉村委員 今,岩原部会長から御指摘がありましたように,前回,使用人全般ということであれば,何万人という使用人がいる企業もある中で,その使用人の変動に伴い社外取締役等に該当するか否かが変動するという法的安定性への懸念を申し上げまして,それに対して,「重要な使用人」という形で相当程度限定していただくという配慮をいただいていることは理解しておりますし,それは評価してございます。  他方で,この「重要な使用人」ということについて,少し申し上げたいと思います。確かに,重要な使用人の選解任というのは,取締役会の決議事項になっておりまして,実際に各社で各社なりに重要性の判断を行った上で取り扱っております。しかしながら,どのレベルが重要な使用人に該当するかというのは,必ずしも一義的に明確ではないという点もございまして,企業によりましては,セーフティーな態度から,比較的広く重要だと位置付けて運用をしているところもあるということでございます。そのようなことから考えますと,社外性の要件にかからしめる事項について,どのように解釈するかというところに委ねるというのは,法的に不安定になるおそれがあるということは指摘させていただき,その上で,慎重な御検討も頂きたいと思います。 ○藤田幹事 今の点を含めて,重要な使用人というのはどんなコンセプトなのかということを確認させてください。会社法362条4項3号に「重要な使用人」という語があるのですが,それと同じような意味合いで使っているのかということです。そもそも,ここで「重要な」という絞りをかける趣旨あるいはその方向性をもうちょっと敷衍して言っていただければと思います。使用人は社外取締役になれない,それは,監督する人が部下であってはならないという発想です。では,使用人の家族はなぜ駄目なのか。一つには,部下の家族だから,部下と同じだという見方,あるいは,言わば人質を取られているといった感じになるので,うるさく監督すると,自分の身内,子供が報復されるおそれがあるという観点です。そのような理由から使用人の家族も社外の要件を満たさないと言うのであれば,使用人の地位の高さ,低さは関係ないことになりそうです。ここで「重要な」という要件を掛けるということは,恐らく,違った発想で規制を加えようとしているからでしょう。そこで考えられるのは,「重要な使用人」としているのは,業務執行取締役の場合の延長である,つまり,業務執行取締役と利害関係が同じような人がなれないが,使用人であっても,取締役に極めて近い地位にある人についてはそれと同視し,その近親者も除くという発想です。この説明からは,業務執行に極めて深く関与しているような執行役員等のように,取締役に非常に近いような内部的な地位のある人に限定され,例えば,有力な支店の支店長―362条4項3号には当たる可能性は高いですけれども―は,ここでいう「重要な使用人」には当然に当たらないということになりそうです。そういうことでよいのか,その辺りの感触を教えていただければと思います。 ○坂本幹事 基本的な発想としては,今,藤田幹事から御指摘いただいたうちの後者,すなわち,業務執行に近い人間であるから除外されるべきだという発想に基づいて整理しているところでございます。 ○野村幹事 そういう点では,362条4項3号を挙げてしまうと,何となく,現行の実務では,余り重要ではない人も取締役会で結構決めていますよね。これは,名誉だということで,結構取締役会で決めてもらうと,みんな喜んでいることもあり,実務的には,ここは,やや面倒であっても,かなり広範な人をここに挙げて,「取締役会であなたは今日任命されましたよ」といったことが現には行われている可能性があるので,そことはベクトルが逆向きになっているような感じがしますから,同じ言葉を使うと,やや広がってしまいすぎる可能性があるかなといった感じはします。もちろん,今,概念の整理として,坂本幹事から御指摘があった理念で私はよいと思いますけれども,その辺り,限定的になるような言葉遣いなり何なりというのが必要かなとちょっと感じました。 ○前田委員 社外取締役としては,経営陣から影響を受けるおそれのある者は,できるだけ排除するのが望ましいという実質については,恐らく意見は一致しているところだと思うのですけれども,そういうおそれのある者を全て問題にし出しますと,切りのない話になってしまいますので,そこは,実務的な負担あるいは法的安定性を考慮して,どこかで線は引かなければならないということなのだろうと思います。そうしますと,先ほど来出ていますように,ここの重要性という絞りは,かなり不明確と言わざるを得ないということを考慮いたしますと,会社法で定める社外取締役の要件としては,使用人の近親者までは考慮しなくていいのではないか。ここは,取引所の規則等で対応してもらうのがふさわしい事項ではないかと思います。支配人は,範囲が明確ですので,加えることに特に反対するわけではないのですけれども,少なくとも使用人一般について,その近親者まで問題にすることはないのではないかと思います。 ○岩原部会長 ほかの御意見はどうですか。  ほかに特に御意見がないのは,部会資料24のような考え方で基本的にはよろしいということと理解させていただいてよろしいでしょうか。  そうさせていただきたいと思います。野村幹事のおっしゃいましたような例は,法律上要求されるのを超えて広く実際上の運用として取締役会で使用人の決定もしているということだろうと思いますので,本来,会社法が要求している重要な使用人の決定というのはそれほど広いものではないと思います。  それでは,そういうことで,先に進ませていただきたいと思います。次に,「④ 重要な取引先の関係者の取扱い」について,事務当局から御説明をお願いしたいと思います。 ○宮﨑関係官 それでは,「④ 重要な取引先の関係者の取扱い」について御説明いたします。本文は,社外取締役等の要件における重要な取引先の関係者の取扱いについて問うものです。当部会では,株式会社の取引先の重要性の基準について,ある取引先に対する売上高が一定金額以上であること等の形式的な基準を設けた上で,社外取締役等の要件に,当該取引先の取締役等でないものであることを追加すべきであるとの指摘がされています。このような取引先の重要性に係る形式的な基準の例として,部会資料24では,ニューヨーク証券取引所の規則に定められている基準を紹介しています。社外取締役等の要件に,重要な取引先の関係者でないものであることを追加すべきであるとの意見の理由としては,①取引関係を原因とする,株式会社の経営者に対する取引先の影響力を無視することができないこと及び②株式会社の経営者が,取引先の選択を通じて,取引先に対して影響力を及ぼすことが挙げられています。そこで,これらの観点から,当該株式会社にとっての取引先の重要性及び取引先にとっての当該株式会社の重要性について,それぞれの形式的な基準を検討する必要があるものと思われます。また,規模や売上高等が異なる様々な株式会社に一律に適用される形式的な基準を設けることが適切か,検討する必要があるものと思われます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,重要な取引先の関係者について,いかがでございましょうか。 ○静委員 前回お願いしまして,とてもよく趣旨も案もまとめていただきまして,お礼を申し上げたいと思います。重要な取引先の関係者を社外役員と呼ぶと笑われるというのは,どうも世界の常識になっていると私も聞いておりますし,パブリック・コメントの結果を見ても,それはよく分かるのではないかと思います。この間,新聞で,前にこの審議会の委員をやっておられた八丁地さんの会社は,売上高の2%基準を採用するという報道もありましたし,私どもの知る限り,こういった基準を導入している上場会社の多くは,売上高の2%で独立性のルールを設けています。したがって,実務的にも,比較的採用しやすい案になっているのではないかと思います。その上で2点ほど申し上げたいと思います。  まず,1点ですけれども,今回は,パーセンテージで見るという仕組みを御提案いただいていますけれども,売上高が小さい会社が相手だと,そこの会社の人は,問題にするほどもない少額でも簡単に社外性を否定されてしまうということが起こり得ますので,部会資料24にも,ニューヨーク証券取引所の例が出ていますけれども,こちらは,100万ドル,日本円にすると1億円ぐらいの金額も併せて入れてありまして,どちらか大きいほうの額との比較で社外性を判断すればよいということになっているようでございます。必要以上の規律にしないということを考えますと,両方を併せて判断するような案にしていただけると,更に皆さんが受け入れやすい案になるのではないかと思うというのが1点でございます。  もう1点ですけれども,上場会社の皆さんの実態を私どもで見ている範囲で申し上げますと,社外役員の取引先金融機関の方をお招きしているという会社が非常に多くなっていると思います。売上高の基準ということで申し上げますと,融資とか預金というのは,売上に計上されるわけではありませんので,そうした方の多くは,今後も社外性を失わないということになると思います。理想を言えば,そういう場合には,負債に関する基準を導入すべきかもしれませんし,実際に導入してそういう方を除外すべきと考えている会社もあるようでございますけれども,今回,売上高の基準がもし入れば,取引関係が社外性に影響を与えるということは明確になりますので,後は,会社の皆さんの自主性にお任せしても,自然にだんだんそういうものが改善されていくということが期待できると思います。したがって,私は,今はそこまでも手当てしなくてもよいと思いますので,逆に,売上高の基準につきましては,是非手当てをお願いできればと思います。 ○杉村委員 この点に関しましては,従来から繰り返してきたとおり,反対したいと思います。これも,繰り返しの議論ですけれども,取引関係を原因とする影響は,その事業内容あるいはそのときの取引関係など,具体的な状況によるところが大きいものであることから,影響力の有無を単純に取引高といった数値で測るというのは適切ではないと思っております。今御紹介がありましたように,幾つかの企業でそのような事例があるというのは,私どもも承知しておりますし,もちろん,そのような企業には敬意を表したいと存じますが,では,それを一律に,どの会社にも統一基準を当てはめるということが果たしていいのだろうかというところは疑問があります。部会資料24で御紹介のありますニューヨーク証券取引所の規則のようなものもありますけれども,これを一義的に当てはめるということは,適切ではなく問題が多いと考えておりますので,この事項について反対したいと思います。 ○伊藤(雅)委員 前回も申し上げたのですけれども,社外役員の要件に重要な取引先の関係者ではないことを追加することには反対であるということ,それから,補足説明の重要な取引先という基準が不明確であるのではないかと思います。取引先というのは常に変化するものであるため,このような規定があることが無用な実務負担を増加させる可能性が大きいのではないか。部会資料24の補足説明で,ニューヨーク証券取引所の規則で導入されている基準が紹介されていますけれども,重要な取引先に当たるかどうかというのは各企業の状況によって様々であって,この規律を会社法で導入するということは,地方の中小企業に与える影響も大きいのではないかと考えております。会社法にこのような基準を設けるべきではないのではないかと考えております。 ○神作幹事 特に,モニタリング・モデルを前提とした社外取締役の意義に着目いたしますと,取締役の社外性の要件としては,経営者から独立しているということが何よりも重要であり,そこでは支配従属関係が存在しないことが求められます。親会社との間には典型的な支配従属関係がありますから,親会社は,もちろん,独立性を欠く典型的なものですし,③の近親者の場合には,血縁に基づく支配・従属関係のほかに,それと同時に経済的な意味における支配・従属関係も生ずるケースがままありますので,そういう意味では,①から③は,会社法で規律すべきケースであると思われます。しかし,④の重要な取引先については,慎重に検討する必要があると考えます。と申しますのは,もし仮に重要な取引先について法律で規定するとしても,経済的な支配従属関係にあることが明白であるとか,それが定型的に認められる場合に限るべきであると思われます。例えば,売上高が数%を占めるにすぎないという場合には,必ずしも経済的な支配・従属関係があるとまでは言えないケースが含まれ得ると思います。むしろ,そのような微妙なケースについては,取引所等のルールによってきめ細かく対応するのが適切であると思います。したがって,④については,会社法で規定を置くとしても,相当限定されたものになるべきではないかという感想を持っております。 ○中東幹事 私も,静委員がおっしゃった形で,会社法制で取り組むのがよいと考えてきております。ただ,なお判断基準が明確ではないのではないかということもございましたので,一つには,静委員が少しおっしゃいましたように,現在の実務を尊重する形でということでしたが,そういう規定ぶりがもし会社法の中でできるのであれば,それは端的な方法であると思います。   ただ,もしかすると,そう簡単ではないかもしれませんので,例えば,という意見ですが,開示の形で一定の規律をすることも趣旨としてはよいのかなと思っております。「重要な取引先」ではなく「主要な取引先」という用語ですが,具体的な基準が示されることなく会社法施行規則の中にもあり,東証の規則にもあり,これが特定関係事業者の一類型であるとされています。特定関係事業者の業務執行者であるということになると,この者を社外役員として候補者とするときに,一定の開示が現在でも求められているわけでございます。これは,きちんと実務で実践されていることですが,参考書類の記載として,取締役の選任議案については会社法施行規則74条4項ですが,同条4項2号で,社外取締役候補者とした理由について,開示してください,その上で,議決権を行使してもらってくださいという規定になっています。同6号によりますと,特定関係事業者の業務執行者であることを当該株式会社が知っている場合については,その旨を参考書類に記載せよということになっております。ただ,その一つ前の5号を見ますと,「当該候補者が過去に社外取締役又は社外監査役となること以外の方法で会社の経営に関与していない者」であっても「社外取締役としての職務を適切に遂行することができるものと当該株式会社が判断した理由」を記載しなければならないとなっています。例えばですが,6号も,同じような工夫をして,重要な取引先あるいは主要な取引先の関係者を社外役員候補者として議案に出す場合については,なぜそういう関係があってもなお社外者としてこの候補者が適当なのかを参考書類で記載していただくというやり方もあり得るのかなと思っているところです。    その場合に,主要な取引先とは誰から見てなのかということが問題になり得ると思うのですが,独立性の観点から,この8ページの補足説明の①,②は,非常に上手に整理していただいていると思っています。①ですと,これは,当該会社から見て主要な取引先であって,相手方が影響力を行使できるという意味では,親会社の関係者を社外者から外すという発想に倣った話になります。②のほうは,むしろ逆で,当該会社を主要な取引先とするものであり,相手方が当該会社の影響を受けてしまうという意味で,これですと,子会社の取締役を社外監査役・社外取締役として親会社で迎えることができないとされていることと通じた発想によるものです。これらの両方を射程に入れるような形で書いていただくのが大切であると思っています。  さらに,これだけですと,会社法施行規則に落とされたままですので,会社法本体に入れるということも考えられると思っています。会社法362条で取締役会の権限等に関する規定がございますが,5項で,大会社については,いわゆる内部統制システムについて,これは,決定しなければならないとされています。同様に,一定の会社については,社外者をどのように選ぶのか,あるいは社外者について,自分たちとしてはこのような基準で社外者として認めていきますといった基本的な姿勢を決定させる,それを事業報告で開示させ,それとともに,参考書類で,個別具体的な人についての開示をさせて議案を提出するという形にするのも,一つの考えかと思っております。 ○岩原部会長 ほかに御意見はございますでしょうか。  特にございませんか。この問題につきましては,非常に見解の対立が大きくて,経済界からはかなり強い御懸念が示されているところであります。一方で,こういうルールの必要性が高いということは,静委員などからの御指摘もあるところであり,中東幹事からは,そういう場合のルールの作り方についての工夫の仕方があるのではないかという御指摘もあったところであります。本日は,これ以上取りまとめることは難しいと思いますので,ただいまのような御意見があったことを踏まえまして,更に事務当局に調整を続けていただきたいと考えております。よろしいでしょうか。  それでは,先に進ませていただきます。次に,「(2) 社外取締役等の要件に係る対象期間の限定」について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○宮﨑関係官 それでは,「(2) 社外取締役等の要件に係る対象期間の限定」について御説明いたします。①ア及び②アは,社外取締役等の要件に係る対象期間を10年間に限定するものでございます。  ①イ及び②イは,社外取締役及び社外監査役の制度の趣旨を没却する運用,例えば,株式会社の業務執行取締役である者が,これを退任した後に当該株式会社の監査役に就任し,10年以上経過した後に当該株式会社の社外取締役又は社外監査役の要件を満たすことがないようにするための規律です。具体的には,①イは,過去に株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人となったことがある者が,①アの過去要件に挙げられていない取締役等となり,それから10年後に社外取締役となることを認めないとするものです。また,②イは,過去に株式会社又はその子会社の取締役,会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人となったことがある者が,②アの過去要件に挙げられていない監査役となり,それから10年後に社外監査役となることを認めないとするものでございます。  なお,いずれについても,(1)で,社外取締役等の要件の見直しをすることを前提とするものであることは,試案と同様です。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。4月の部会におきましては,この過去要件について,10年よりも短い期間を求める御意見も頂きましたが,部会資料24では,10年の案で提示させていただいております。いかがでございましょうか。特に御意見はございませんでしょうか。 ○伊藤(雅)委員 前回,10年という期間は長すぎると申し上げさせていただきました。経済のグローバル化や技術の進歩という流れを考えますと,企業を取り巻く変化のスピードは更に大きくなっております。このような状況下で,10年より短い期間を検討するべきではないかと思います。よろしくお願いいたします。 ○岩原部会長 ほかに何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。  それでは,今,伊藤委員の御意見もございましたが,それ以外には,特に御意見がなかったわけで,部会としてはほぼ大筋ではこの部会資料24の案で御了承いただいていると理解させていただきたいと思います。  それでは,先に進ませていただきます。次に,「(3) 取締役及び監査役の責任の一部免除」について,事務当局から説明をお願いしたいと思います。 ○宮﨑関係官 それでは,「(3) 取締役及び監査役の責任の一部免除」について御説明いたします。試案第1部第1の3(3)のような見直しをすることについては,当部会では,御異論がなかったところであり,①及び②は,基本的に試案と同様の内容でございまして,(1)で社外取締役等の要件の見直しをすることを前提としていることも,試案と同じです。③につきましては,会社法第911条第3項第25号及び第26号は,責任限定契約についての定款の定めがあり,それが社外取締役又は社外監査役に関するものであるときは,取締役のうち社外取締役であるもの又は監査役のうち社外監査役であるものについて,それぞれ,社外取締役である旨又は社外監査役である旨を登記事項としています。しかし,①により,責任限定契約を締結することができる取締役及び監査役は,社外取締役又は社外監査役に限定されなくなるため,③は,同条第3項第25号及び第26号を削除するものとしています。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。この点については,4月の会議において御異論なく了承されたものでございますが,部会資料のような方向でよろしゅうございましょうか。  特に反対はございませんね。それでは,そのように取り扱わせていただきたいと思います。  次に,「第2 会計監査人の選解任等に関する議案等及び報酬等の決定」に移りたいと思います。事務当局からの説明をお願いいたします。 ○宮﨑関係官 それでは,「第2 会計監査人の選解任等に関する議案等及び報酬等の決定」について御説明いたします。本文は,会計監査人の選解任に関する議案等についての決定権を監査役等に付与することを提案するものです。会計監査人の報酬等の決定に関しては,現行法上,監査役や監査委員会に認められている会計監査人の報酬等についての同意権は,会社法制定時に新たに規定されたものですが,会計監査人の独立性は,監査役等がその職務として当該同意権を適切に行使することにより確保することができると考えられます。また,報酬等の決定は,財務に関わる経営判断と密接に関連するものであることや,現行法において監査役等に認められている権限との均衡も考慮すれば,会計監査人の報酬等の決定権を監査役等に付与することについては,慎重に検討する必要があるものと思われます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。部会資料24では,会計監査人の選解任等に関する議案等についての決定権を監査役に付与するという形での案が提案されておりますが,いかがでございましょうか。 ○栗田幹事 今回の御提案は,会計監査人の選解任等に関する議案の決定権のみ監査役に移すという趣旨だと考えております。これまでも何回も申し上げてきまして,しつこいようですけれども,我々としては,中間試案のA案のように,会計監査人の報酬も含めて,監査役に議案の決定権を与えるべきではないかと考えております。この補足説明にも若干触れられておりますけれども,監査役には同意権があるから,それを適切に行使すればいいのではないかという御意見があることも承知しておりますけれども,実際問題として,会社の経営陣と会計監査人が協議して監査計画を作り,監査報酬を決めてしまった場合に,監査役がそれに対してノーと言うことは極めて困難ではないか,それを言うだけの材料というのはなかなかないのではないかと言わざるを得ないと思っております。それよりは,監査役が本来求められている役割に鑑みましても,監査役と会計監査人が協議して,どこをポイントとして監査するのか,どういう監査計画でやるのか,それに伴う報酬はどうするのかということをきちんと議論して決めていただくほうが,昨今の会計不祥事などを見ても,適切な対応ではないかと考えております。その上で,どうしても必要であれば,経営陣がそれをチェックするというほうが望ましいのではないかと考えております。しつこいようですけれども,再度検討いただければと考えております。 ○太田委員 私ども監査役の立場から見ますと,正にインセンティブのねじれの解消ということで,初回からこの問題の解決を主張してまいったわけであります。基本的には,その考え方は変わりませんし,今,栗田幹事からおっしゃっていただいたとおりというのが筋だと思っております。しかし,これまでのたくさんの議論を踏まえながら,実は,この議論は,この部会では,それほどホット・イシューにはなっていないというか,そう活発であったような記憶が余りございません。栗田幹事と私だけが主張しているような印象がどうもあります。今回の御提案は,スプリット型というか,そういう形になっているところ,よくよく事務当局も苦労されたのだなということをそろそろ私どもも理解すべきかなと,実は,率直に思うところもございます。当初,原案に,何も変えないというC案というのがあったかと思いますが,そんなところに落ち着くくらいであれば,このスプリット型は,現実的な解として,半歩前進と見るべきかなと考える点もございます。栗田幹事の前で恐縮なのですが,現実的に,何も変えないよりは半歩前進というところで,現実的なステップ・アップを図るということで理解できるのではないかと思います。 ○田中幹事 この問題については,余り勉強せず発言してこなかったことを少し悔いているところでございます。まず,選解任について決定権を付与するということについては,賛成でございます。確かに,私は,以前の部会で,同意権と提案権がある場合,実質的に決定権と変わりなくなるという意見を申し上げましたけれども,端的に決定権にするということは,分かりやすさの観点からも望ましいですし,監査役・監査委員に自覚を持って行動していただくという点からしても望ましいのではないかと思います。  その上で,報酬についての決定権も,この部会で結論を出すかはともかく,継続的に検討していただきたいと思っています。海外を見ても,監査委員会に会計監査人ないし監査法人との交渉を委ねるという形になってきつつあるように思います。会計監査人の報酬等についての決定は,経営判断マターではないかということにつきましては,現在の会社法でも,監査にとって必要なことであれば,監査役は,経営判断マターでも判断できることになっております。例えば,取締役を相手方として訴訟するかどうかというのは,明らかに経営判断なのですけれども,監査役がその経営判断をすることになっております。監査のために必要であれば,監査役も一定の経営判断ができるというのが,むしろ会社法の立場でもあると思っています。ですから,報酬等について決定権を委ねるかどうかというのは,是々非々で考えるべきで,特に,現在の会社法の建て付けに反するとは考える必要はないと思っております。  それと,もう一つ,同意権があれば十分ではないかというのは,私は,同意権だけという仕組みは,これは,提案権があれば全然違うのですが,同意権があるだけの仕組みは,高すぎる報酬についてノーと言うという形でしか役立たないものであると思います。監査役が会計監査人の報酬が安すぎるからもっと増やしてほしいと思っている場合に,同意権を行使しても,その場合,会計監査人は何も報酬は得られなくなってしまいますから,会計監査人の報酬が安すぎる場合の対処としては,同意権には根本的に限界があるということを考慮すべきではないかなと思います。コーポレート・ガバナンスの仕組みには様々なものがあり,社外取締役も,グッド・ガバナンスの中のone of themでしかないのでありまして,会計監査人の経営陣からの独立性というのは,グッド・ガバナンスの構成要素としては,多分,社外取締役に匹敵するぐらい大きいのではないかと考えておりまして,そういった点からも,これは,簡単に諦めないといいますか,この部会で決めるかどうかはともかく,引き続き検討していく必要があるのではないかと思っております。 ○杉村委員 新しいことを言うわけではないのですが,報酬について一言発言させていただきます。余り議論がなかったのではないかという御指摘もありましたけれども,少なくとも我々の認識としましては,報酬について,部会資料24に御紹介いただいているようなことは必ず繰り返してきたつもりでございます。今,田中幹事からいろいろな考え方を示していただきましたが,部会資料24に整理されているような考え方もあるということを今一度ここで確認しておきたいと思います。 ○岩原部会長 ほかに御意見はございますでしょうか。  よろしいですか。現在,今日頂きました御意見からしますと,少なくとも,会計監査人の選解任については,監査役に議案の決定権を与えるべきであるということでは,一部に御異論がありますが,ほぼ一致しているのではないかと思います。残る問題として,報酬の決定権の問題がございますけれども,これにつきましては,正に田中幹事がおっしゃいましたように,それを監査役に付与するということになりますと,それに関わるいろいろなことも更に考えていく必要もあると思いますので,今後の引き続きの検討課題とさせていただいて,部会の決定としては,選解任の議案の決定権を監査役に付与するというレベルで決定させていただくということでよろしゅうございましょうか。  どうもありがとうございます。それでは,そのように扱わせていただきます。  次に,第3の「1 支配株主の異動を伴う第三者割当てによる募集株式の発行等」について,(1)と(2)を一括して事務当局から説明をお願いいたします。 ○内田関係官 それでは,「第3 資金調達の場面における企業統治の在り方」のうち,「1 支配株主の異動を伴う第三者割当てによる募集株式の発行等」につきまして,(1)と(2)をまとめて御説明いたします。まず,(1)は,募集株式の割当て及び総数引受契約の締結に関する規律の特則として,募集株式の引受人が総株主の議決権の過半数を有することとなるような募集株式の割当て等を公開会社が行う場合について,情報開示の充実及び株主総会の承認に関する規律を定めるというものでございます。規律の対象を画する議決権割合につきましては,3分の1にすべきだという御意見もありましたが,他方で,このような規律を新たに設けること自体に反対する御意見も少なからずあったところです。このような御議論の状況を踏まえつつ,一律に支配権の異動があったと言えるための基準を考えて見ますと,やはり過半数ということになるのではないかということで,このような御提案をしているところでございます。  なお,支配権の異動の場面を捉えるという趣旨からすると,議決権割合の算定における分子・分母のうち分子には,引受人が自ら有することとなる議決権の数―これがアの(ア)でございますけれども―に,当該引受人が子会社等を通じて間接的に有している議決権の数も合算することが適切と考えられますので,アの(イ)においてその旨御提案しています。また,規律が適用除外となる場面としては,①のただし書で,総株主の議決権の過半数を有することとなる引受人―これを特定引受人と定義しておりますけれども―,このような特定引受人が元々親会社等であったという場合と,株主割当ての場合を掲げております。公募に際して買取引受けをする引受証券会社の取扱いについては,第19回会議で御議論いただいたところですが,公募の場合であっても,支配権の異動に利用されないことが法制度上担保されているとまでは言えず,また,少なくとも規律の対象を画する議決権割合を過半数に設定すれば,このような規律が公募の実務を不当に阻害するとも言えないように思われることから,公募を適用除外とはしないことを御提案しております。  具体的な規律の内容ですが,まず,①から③までは,特定引受人やそれに対する募集株式の割当て等に関する情報開示を充実させるというものでございます。この点については,当部会で御異論のなかったところかと存じます。また,④は,株主総会の決議を要する場合に関するものであり,第19回会議での御議論を踏まえまして,二つの案を挙げております。A案は,総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主が,①から③までの通知等の日から2週間以内に反対通知をしたときは,当該特定引受人に対する募集株式の割当て等について株主総会の承認を要するものとしつつ,その例外を限定的に認めるものとして,公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において,当該公開会社の存立を維持するため緊急の必要があるときは,そのような承認は要しないとするものでございます。株主総会の承認が必要となる場合について,総株主の議決権の10分の1以上という反対通知の要件を設けるかどうかや,その議決権割合をどのような水準に設定するかについては,当部会で必ずしも正面から御議論いただいたわけではないため,この部分にはブラケットを付けております。B案は,試案第1部第3の1(1)のB案と同様の案でございます。株主総会が開催されれば普通決議の成立を阻止する可能性があるような議決権の数,すなわち,普通決議の要件について定款に別段の定めがない場合には,総株主の議決権の4分の1を超える数の議決権を有する株主が反対通知をした場合に,株主総会の承認を要するとするものです。A案と異なり,緊急の場合の例外というものは設けないこととしております。⑤にありますとおり,A案,B案のいずれによる場合にも,株主総会の承認は,普通決議によるものとしておりますが,その定足数については,役員の選任に関する会社法第341条と同様の規律を設け,定款による定足数の緩和を制限するものとしております。  次に,(2)は,募集新株予約権の割当て等に関して,募集株式に関する(1)の規律と同様の特則を定めるものです。第19回会議において御議論いただきましたとおり,引受人がその引き受けた募集新株予約権の行使等によって株式の交付を受けた場合に有することとなる議決権の数を基礎として,募集株式の割当て等と同様の規律を設けることとしております。引受人に交付される株式を意味するものとして,②で「交付株式」という定義語を設けております。例えば,募集新株予約権に株式を対価とする取得条項が付されている場合には,新株予約権の行使によって交付される株式と,取得条項による取得の対価として交付される株式の,二通りの交付株式があるということになります。このように,一つの新株予約権について交付株式が複数存する場合には,その複数の交付株式が交付された場合をそれぞれ想定しまして,その結果引受人が有することとなる議決権数の最大値を基礎として,(2)のような規律の対象となるかどうかが決せられるということになります。交付株式の内容を定める上では,募集新株予約権に新株予約権を対価とする取得条項が付されている場合や,交付株式の数が算定方法によって定められている場合も念頭に置いて,詳細な規定を設けることが必要となりますので,これらについては,法務省令で定めるということにさせていただいております。また,新株予約権はオプション権であり,他の引受人がその引き受けた募集新株予約権の行使等によって株式の交付を受ける保障はないため,議決権割合を算定する際の分母となる①イでは,議決権割合が問題となる引受人自身に係る交付株式のみを計算に入れ,他の引受人に係る交付株式は計算に入れないこととしております。その他の点は,募集株式の割当て等に関する(1)の規律について御説明したところと同様でございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,(1)と(2)を一括して,御議論をお願いしたいと思います。特に,(1)の④において,株主総会の決議を必要とする場合について,A案とB案が掲げられておりまして,いろいろお考えのあるところかと思いますが,いかがでしょうか。 ○静委員 私は,前から申し上げているとおりなのですけれども,支配株主の異動を伴う行為というのは,基本的には,取締役会で決めるというのは本末転倒なので,株主に判断を仰ぐ仕組みを入れるというのが大原則なのだろうと思います。そういう意味で,先ほど岩原部会長から御指摘のありました④の案というのを拝見しますと,理想的に言えば,A案のブラケット部分のないものということになろうかと思いますので,私は,それを支持したいと思います。しかしながら,一々,全部総会にかけられないといった問題があるのであれば,B案と比べれば,A案の10分の1というのを加えた案辺りまでであれば,実質的には余り差がないことができると思いますので,そういう意味で,全体としてA案のほうを支持したいと思います。これが1点目でございます。  2点目ですけれども,これは,老婆心ながらということかもしれないけれどもと思って申し上げるのですが,議決権割合の3分の1ではなくて,2分の1で支配権異動と見るということでございます。その背景については,先ほどの御説明でよく分かりましたけれども,私は,もう一度,3分の1ぐらいにすることを考えたほうがいいのではないかということだけ一言申し上げたいと思いました。と申しますのは,別に,まとまりかけているものを蒸し返すということではないのですけれども,最近,現実に2件ほど,上場会社が第三者割当てを使って所属する企業グループを変えるといったケースがありまして,2件ぐらい目立ったものがあったということなのですが,市場関係者の注目をかなり集めております。片方は,50%を超える持分を取りましたので,そういう意味では,今回の案でも対象になるのですけれども,もう片方は,3分の1でやっと対象になるぐらい,40%ぐらいだったと思いますけれども,そのようなものでございましたので,2分の1という解決にしますと,今,現実に起こっていて,足元で出てきている問題に対応できていないということにならないか,多少心配が残ると思いますので,その点につきましては,一度御検討いただいたほうがよろしいかと思います。 ○田中幹事 以前から,この株主総会決議を要求するという規制の導入を支持するという意見を繰り返してまいりました。その観点からは,静委員と同じように,私も,3分の1程度の持株比率にするのがいいとは思っておりますが,御提案のような2分の1を超える場合について要求するという形で法改正がなされることに反対するものではありません。  その上で,④のA案とB案に関して言えば,私個人は,A案に賛成したいと思います。すなわち,資金調達の緊急の必要性がある場合には,端的に,株主総会決議を要求しないということであります。しかし,その要件は,非常に厳格に考えるべきであって,会社が行おうとしている事業計画のスケジュールに間に合わせるため,といった程度の理由で,株主総会決議を省略することを認めるべきではない。株主総会決議をとっていると,本当に会社の存立が危うくなる,例えば,会社が法的整理に追い込まれてしまって,そうすると,上場会社では,株式は全部消却されてしまうのが普通ですから,株主としては,元も子もなくしてしまう,そういった場合には,株主総会決議は要らないであろうと,そのくらいの厳しい要件の下で例外を認めるべきではないかと思います。その上で,私個人は,ブラケット部分のあるA案でよいのではないかと思います。私は,会社法がこのような規制を掛けた場合,多くの上場会社は,2分の1を超える第三者割当増資をする場合には,株主が具体的に反対していなくても,自主的に株主総会決議をとるのではないかなという気がするのですけれども,法律上の要求としては,多くの株主が実際には反対していないのに,あえて株主総会決議を要求する必要もないように思います。ただ,その際に,B案のように実際に決議が否決される可能性があるぐらいの反対を要求しますと,株主の中には,総会決議にかけて賛成か反対か判断してくれと言われれば反対するけれども,現経営陣が株主総会決議にかけるつもりがないのに積極的に反対するというのは,先ほどの静委員に紹介いただいた外国人機関投資家の例にあるように,なかなか難しい場合が多いと思います。そこで,決議にかければ否決される数字よりももう少し小さい数字,具体的には,ここでいう10分の1ぐらいにすることが現実的であると思います。そのような理由から,私としては,A案の要件のもとに,株主総会決議を要求することがよいのではないかと思っております。 ○三原幹事 この件については,今まで余り発言しておりませんでしたが,これは,表題が,「第三者割当増資」と書いてありますので,第三者割当増資が主であるというか,対象だと思っていて,確かに,その場合に支配株主が異動するには,株主総会決議にかけるのが適正であるという意見を持っていたわけですが,第19回会議の場合と今日の御説明とで,いわゆる普通の公募増資の場合の資金調達にも適用があるというお話がありましたので,幾つか教えていただきたいと思い,質問させていただきます。まず,③のところで,払込期日の2週間前までに有価証券届出書等を提出している場合,となっているわけですが,A案,B案いずれでも,払込期日の前日までに通知したら株主総会決議が必要となり得るということです。しかし,実際には,払込期日の前日となりますと,公募増資は既に公表されて,いわゆる条件決定もなされて,既に投資家に対する割当てもなされているのですが,払込期日の前日に,例えば,A案でもB案でも,株主が反対の通知をすると,そこで全部取引がキャンセルされる,そういう手続が公募で導入されるということを意味しているのが③だと理解しておりますが,こういう理解でよろしいかどうかがまず大前提であります。なぜかというと,今まで,第三者割当増資だと思い込んでいましたので,公募にもここでの規制の適用があるという御説明と理解すると,今申し上げたようになるのですが,その理解が間違っていたら,教えてください。それが一つ。  それから,二つ目は,ここにおける引受人というか,特定引受人の定義の考え方です。公募増資の場合,いわゆるシンジケート団という複数の引受会社の引受団が組成されます。会社法206条の募集株式の引受人という定義は,そこにおける募集を引き受けた者となっているわけでございますけれども,金商法2条6項1号及び2号では,引受人の定義がまた別にあります。一つは,金商法2条6項1号の買取引受けの場合の引受人で,もう一つが2条6項2号の残額引受けの引受人です。このいずれの場合にも,引受人というのは,会社法206条でいう引受人に当たってしまって,いわゆる残額引受けの場合でも,証券会社がこの規制でいう特別引受人に当たるのかどうかということを教えていただきたいのが,二つ目でございます。  三つ目として,シンジケート団が組成された場合に,全部の証券会社の引受株数を足して計算するのか,それとも一つ一つの証券会社ごとに,いわゆる引受株式数を換算して2分の1超となるかどうかを考えるとなるのか,ということが,三つ目の質問でございます。  それから,四つ目が,公募増資の場合,引き受けた株式の発行手取金のお金を,いわゆる事務管理会社が最終的にまとめて1社で株式発行会社に支払うわけです。この場合,主幹事会社と言われている事務管理会社が1社で払う場合でも,複数の証券会社はそれぞれ別に引受け分があるわけですから,1社で株式の発行手取金を支払ったとしても,それは単なるお金の払込みを一括しただけということなので,恐らく,支払をした証券会社1社が全部の株式を引き受けたことにはならないのだと思うのですけれども,これは,そういう理解でよろしいのでしょうか。これまで,公募の場合は想定しないままこの議論をずっと聞いていたものですから,教えていただきたいということでございます。 ○内田関係官 4つ御質問を頂きましたので,順にお答えしたいと思います。一つ目は,③とおっしゃっていただいたのですけれども,恐らく,④の株主総会の決議というところに着目した御指摘かと思います。正に,そこは,公募を適用除外にしない以上は,払込期日の前日までに一定数の株主が反対すれば,こういう規律が掛かってくるということになると思います。  次に,「引受人」の意味ですが,金商法上,確かに「引受人」という用語が定義されておりますけれども,それとは別に,ここでは,飽くまで会社法第206条の「募集株式の引受人」となるのが誰かを考えることになろうかと思います。  それから,引受証券会社が複数いる場合の法律関係ですけれども,これは,そういった場合に具体的にどういった合意をしているかによると思います。公募の場合に,複数の証券会社と発行会社の間でどういう合意がされているのか,必ずしも存じ上げているわけではないですけれども,その契約上の合意の内容も踏まえて,会社法上,誰が何株分について募集株式の引受人になっているのかが決まってくるのではないかと思いますので,なかなか一概には申し上げにくいところです。ただ,一つ申し上げられるのは,金商法の大量保有報告規制における「共同保有者」のような概念がここで入っているわけではございませんので,共同して引受けをするからといって,当然にそれらが合算されることにはならないということです。  最後は,実際の送金を1社がまとめて行った場合ですが,これも同じような話かなと思っております。結局,実際にお金を誰が払ったのかということで,先ほど申し上げた3点目の話と同じように,具体的な合意内容等を踏まえて,会社法上の引受人が誰なのかが決まってくることになるのではないかと思います。 ○三原幹事 2番目と3番目で,ちょっと私の質問の仕方が悪かったのかもしれませんが,2番目の会社法206条の引受人と関連して,金商法2条6項2号では,「当該有価証券の全部又は一部につき他にこれを取得する者がない場合にその残部を取得することを内容とする契約をすること」という残額引受けが規定されており,この場合,会社法206条での引受人は誰なのでしょうかということをお聞かせいただけませんかという質問でございきます。  3番目は,通常の公募増資の有価証券届出書の第一部「証券情報」における「引受人」の記載欄には,A証券会社は何株,B証券会社は何株と並んで入っています。その場合に,各証券会社の引受株数は決まっていますので,その場合にこの規制の適用はどう計算するのですかという御質問でございました。 ○内田関係官 おっしゃったような場合に,会社法上の「募集株式の引受人」がどう理解されるのかが,正に,実際の合意内容等によるのかなという趣旨でございました。残額引受けは,基本的には残額の部分だけを引き受けるという発想かとは思いますが,金商法上の残額引受けであれば必ず会社法上こうなる,というように一義的に決まってくるというよりは,会社法独自の観点で見て,引き受ける際の合意の内容等を踏まえて募集株式の引受人に当たるかどうかが決まるということ以上には,ここではなかなかお答えしづらいところです。この点は,取締役会で割当ての内容を決定するときに,誰を引受人として決議すべきかを考える際にも同じ議論になるはずですので,実務上,その点をどのように整理されているのかといったことも,参考になるのではないかと思います。 ○栗田幹事 今の件に関連して一言申し上げますと,引受証券会社の役割というのは,飽くまで,一時的に引き受けた株をお客さんに販売するということでありまして,その際に残ったものがあれば,それは引き受けますというのが本来の引受証券会社の役割であります。ですから,今回のこの規制の趣旨から考えますと,本来規制されるべきは,最終的に株式を買い取るお客さんであると考えます。ただ,実際にそのような実質的な配慮というのが難しいということも理解するわけでございますけれども,だからといって,形式的に一時的に引き受けた証券会社に規制をかぶせてしまうというのはやや行きすぎになっていないかという懸念を抱く次第でございます。  それから,御説明の中で,今回は,募集株式の引受人が総株主の議決権の過半数を有することとなるような場合だけが規律の対象になるので,それほど実際問題として問題にならないのではないかという御指摘があって,それはそうかもしれないとは思いますけれども,募集引受けの際に安定操作を伴うことがありまして,証券会社は,例えば,45%にとどめたつもりでも,安定操作をやっているうちに50%を超えてしまったということが起こらないわけではないので,そういうことを考えると,多分証券会社は,引受けに関して抑制的なスタンスをとったり,あるいはそういうエクストラなものも考慮したコストを逆に発行体などに要求したりする可能性もあるので,そういう意味で,杞憂にすぎないかもしれませんけれども,そういう経済的にインパクトがある可能性もあるということを御配慮いただければと考えております。 ○伊藤(雅)委員 前回も申し上げたのですけれども,④のように,総会決議の義務付けに関する規定を置くことは,中小企業やベンチャー企業の資金調達に及ぼす影響が大きいと認められますので,基本的には反対でございます。しかし,④の規定を置く場合に,B案の考え方が検討に値するのではないかと考えます。仮に,A案のように議決権の10分の1以上有する株主が反対した場合に株主総会の開催を義務付けるということは,中小企業においては,少数株主が嫌がらせのために利用する可能性が高いのではないかなと懸念しております。また,仮にB案を採用する場合であっても,企業が倒産の危機に瀕した場合に,緊急の資金調達の必要性は極めて高いことから,A案のただし書はB案にも必要ではないかなと考えております。 ○杉村委員 3点,少し長くなりますが,発言いたします。まず,1点目は,今,伊藤委員もおっしゃった④の箇所についてです。元々,株主総会決議を要することにつきまして,経済界としては,この規律自体に反対というスタンスでございますが,部会資料24では,A案がこれまでと形を変えて出されており,これは非常に問題が大きいと思いますので,そのことについて意見を述べさせていただきます。まず,ブラケット部分のところのように,一定以上の株主の反対を要するということは,当然必要だろうと思いますけれども,その基準値が10分の1ということになりますと,企業の規模によりましては,容易に達する可能性もあります。そういった割合での反対で株主総会の開催が必要となれば,資金調達の機動性など,緊急時の懸念が大きく,かえって,株主全体の残りの9割の利益に反する結果になるおそれがあると存じます。それから,ただし書で,株主総会決議を要しないことについての記載がありますが,このただし書の内容は,非常に限定的であるということもございます。存立を維持するために緊急の必要があるときといった,現実にはなかなか発動しづらい要件でありますし,仮にこういったものの緊急性について争いになった場合は,もう,その時点で,恐らく,第三者割当てが事実上ストップしてしまうということになると思います。実際の争いの勝敗の帰すうとはまた別に,そういうアクションが起これば現実にはストップしてしまって,その会社が資金調達に行き詰まって倒れてしまうといったことも考えられます。取引先や顧客など,株主以外のステークホルダーもいらっしゃるわけでありまして,そのようなことを考えても,この書きぶりだけでは実質的に機能しないという懸念があるのではないかと考えております。  2点目は,今,栗田幹事がおっしゃったことと同じで,公募に際して証券会社が引受人として株式を取得する場合について,前回の部会資料では議論になっておりましたが,今回はそれも対象にするという提案なのですけれども,関連の業界の方の意見なども聞いておりますと,こういったものは,そもそもの制度の規制の趣旨とは違うと思いますし,実際,投資規模が大きいような場面において,証券会社の行動に違いが出てくるという話になれば,事業会社の資金調達自体に支障を及ぼすということで,経済的な悪影響が大きいのではないかと考えております。  3点目は,少し前後しますが,対象となる割合を2分の1ではなくて3分の1に広げるという意見についてですけれども,これに対しては,従来からの私どもの主張と変わりはございませんで,今回のような緊急時の資金調達ということを議論する場合は,一義的に支配権が変動する2分の1という基準を原案どおり維持すべきであると考えております。 ○濱口委員 私も,実質的な支配権の異動ということで,3分の1程度まで下げることを提案していたのですが,一応,会社法で,原則2分の1で取り決めて,後は,取引所のほうで,実例なり悪い例を見ながら,規則でより低いレベルまでルールを決めていくといった対応でいいのかなと思います。その場合には,A案のブラケット部分付きで,緊急の場合の規定は,実際にはいろいろな判例等で難しい点もあろうかと思いますが,厳しく判断されるという前提で,ブラケット部分付きのA案でいいと思います。 ○三浦幹事 この問題は,経済産業省は,1月に提出しました中間試案に対する意見において,事業再生のような緊急の場合に,資金調達が遅れて駄目になってしまうということがあってはならないという点を非常に強調させていただいたわけでございます。まず,その観点で,頂いた案を拝見いたしまして,少しA案で心配になりますのは,ただし書の部分でございます。ただし,かくかくしかじかの場合においてこれこれがあるときは,と記載がございますが,なかなか定性的な書き方でございますし,どうしても,訴訟のリスクなど,実務的にはやはり心配があり,結局,企業として,大事をとって株主総会を開催せざるを得ないということになると考えております。そう考えますと,A,B並んでおりますけれども,私どもの目から見て,B案のほうがよろしいという感じがいたします。  それから,先ほど来議論になっております証券会社が一時的に引受けをする場合につきまして,確かに,そういう場合は,制度の趣旨からして対象ではないと考えるところ,なかなか法技術的にその書き下し方が難しいのかもしれません。けれども,今日もいろいろ御指摘がありましたので,引き続きそこを何かうまく書き方,技術的に切り抜けられる方法を追求していただけるのであれば,それは有り難いと考えます。 ○神田委員 先ほどの公募の買取引受けのときについてのやり取りをお聞きしていて分からなくなったので,質問させていただきますけれども,公募の買取引受けの場合でない場合についてです。公募の買取引受けの場合でない場合について,Aに3割,Bに3割と第三者割当てをした場合には,AもBも2分の1を超えていないからセーフだという理解なのでしょうか。 ○内田関係官 原則としては,そのように理解しております。 ○神田委員 ということは,ここの①でいう募集株式の引受人というのは,複数の人に対する第三者割当てがあった場合でも一人という,各自についてだけ考えるということですか。 ○内田関係官 そのとおりです。当該引受人に支配が移転することに着目した規定でございますので,各引受人ごとに,その引受人が支配権を取得するかどうかを判断するということです。もちろん,一人の引受人が形式的に二つにエンティティを分けて,潜脱的に引受けをするといった特殊な事例では,やはり実態としては一人でしょうということで,一人として取り扱うという解釈の余地もあり得るとは思っておりますけれども,少なくとも形式的な規律の仕方としては,各引受人ごとにそれぞれ個別に見ていくということになります。 ○岩原部会長 TOB規制のように,“in concert with”の場合はどうだとか,細かく実質を考えると,いろいろ問題になるところですが,部会資料24の考え方は,今,内田関係官が御説明になったような考え方で書かれているということかと思います。  ほかに御意見等ありますか。 ○坂本幹事 先ほど,この規定の趣旨からすると,証券会社が買取引受けをするような場合は規律の対象に含める必要がないのではないかという御意見を,栗田幹事を始めとして何人かの方から頂戴したところでございますけれども,通常の真っ当にやっておられる引受けについてこの規律の趣旨が当てはまらないということ自体は,私どもも了解しているつもりではございます。他方で,一律に適用対象から除外してしまいますと,証券会社を介しさえすれば,この規定の規律を逃れられてしまうことになるということを,最も危惧しているところでございます。例えば,親引けの規制に関するルールも,自主規制ルールにすぎないということで,そこに法的な意味での担保はないわけです。まして今,第19回会議でも御紹介させていただきましたとおり,証券会社が適当と認めれば親引けも許容されるといったルール改正も検討されている,そういう中で,証券会社が引き受ける場合だからといって一律に規律の対象外としていいのか,適切に行われる引受けだけをうまく捉えることは技術的に難しいということは,先ほど栗田幹事からも御指摘いただいたところでありますけれども,その辺りが,私どもが最も懸念を持っているところでございます。 ○藤田幹事 若干細かな点も含めて,少し,1,2点申し上げたいと思います。まず,公募の話ですけれども,典型的な健全な公募を想定する限り,理念的には規制の趣旨に沿わないというのは,確かに全く御指摘のとおりなのですけれども,そのような公募を正確に条文で書くのは技術的に難しいということに加えて,仮に部会資料24にあるような内容の規定のようにしたとしても―今,正に神田委員が質問されたことですが―,問題の引き受けた人だけで考えることになるので,引き受けた証券会社自身に50%以上割り当てた場合だけが規制の対象となりますので,引っ掛かるのはそのような場合だけなのです。したがって,実際には,それほど悪影響はないのではないかと思います。もし岩原部会長の言及された“in concert with”といったところまで規制を広げますと,有力株主がいる会社が,公募するつもりで,引受証券会社に割り当てたところが,それと比較的近いある大株主と合算したらこれを超えてしまうなどということも出てきかねず,そうなると問題があるかもしれませんが,先ほど内田関係官の言われたように,基本的には,その引受人だけを見て,よほど潜脱的なときだけを例外と考える考え方でいくのであれば,基本的な理念としての問題はあるものの,提案されているルールで何とかワークすると思います。もっとも,根本的に,それほど狭く問題の引受人だけを見るというルールが良いルールかという点に疑問がないわけではないですが。  細かな点で,A案を採る場合について1点確認させてください。私は,むしろB案を採用するのだったら,むしろ最初から総会決議を経るのを原則とすると言ったほうがいいので,いずれかの案を採るというのだったらA案だろうとは思っているのですが,A案を採った場合は,10%の反対が出てくるか,出てこないか分からないという不安定な状態に置かれることになる。そのぐらいだったら,会社として自発的に最初から総会決議をとりますというやり方をすることは,実質としては排除されないと思うのですが,そういう理解でよいでしょうか。提案されたA案の文言を見ますと,できるか,できないか,よく分からないような気がいたします。実は,同じ問題が略式再編でも現在ございまして,略式再編について,いつ差し止められるか分からないぐらいだったら,もう絶対多数を持っているので最初から総会決議にかけますということをしたいところ,条文上できそうにないように読めたりすることが指摘されています。そこで,実質として,この規制の対象となるような場合であれば,A案の下でも,10%の反対が出てくるか否かを問わず,先んじて総会決議をとることは妨げられないと理解してよろしいでしょうか。 ○内田関係官 最後の点ですけれども,この規制の趣旨からすれば,10分の1の反対通知が集まるのを待たずに,それがあった場合に備えて事前に株主総会決議をとっておくことは,妨げられないと思っております。その後,結果として10分の1の反対通知がなかった場合には,必ずしも株主総会決議は必要でなかったということにはなるわけですが,いずれにせよ,反対通知があった場合に備えて任意に株主総会決議をとっておくことは,全く妨げられるものではないと思います。 ○荒谷委員 ちょっとお伺いしたいのですけれども,A案を採用した場合ですが,先ほど嫌がらせの手段として利用される可能性が否定できないとおっしゃっておりましたように,その可能性もゼロではないと思いますので,仮に濫用的に利用された場合,つまり,議決権の10%以上を持っている株主から嫌がらせの手段として当該第三者割当てに反対する旨主張された場合にも総会決議を要するものとすべきかどうかについて,お考えをお聞かせいただけますでしょうか。例えば,最初から嫌がらせのように思われる形で反対したという場合について,何か対応措置のようなものを盛り込む余地があるのか,こうした場合を文面から解釈によって除外することができるのか,お伺いしたいのですが。 ○内田関係官 この場面は,会計帳簿の閲覧等の場面とは違いまして,支配権が異動する場合に,理由はどうあれ,それに反対する意思を一定割合の株主が通知した場合には,株主総会の決議というプロセスをとりましょうという発想ですので,そういった趣旨の反対通知について,何をもって濫用というのかという点に関連する御質問かなと理解いたしました。そういう観点で申し上げると,ただし書の趣旨は,第三者割当てをせざるを得ない状況になっているにもかかわらず,10分の1の株主から反対通知が来たら,それは,客観的に見て非常に不合理な,ある意味濫用的なものなのではないかということで,例外的に株主総会決議を不要とするものだという見方も可能かもしれません。そのような限度では,ある意味で濫用的な反対通知への対応をしているわけですけれども,それ以外に,この場面での反対通知が濫用と言える場合は,余りないのではないかと思われます。その意味で,会計帳簿の閲覧等の場面とは,少し文脈が違うのかなという理解をしております。 ○荒谷委員 このただし書ですが,私の理解が誤っているのかもしれませんけれども,会社の存立が危うい,あるいは会社が立ち行かないような場合は,例外的に10分の1以上の議決権を持っている株主が反対をしても総会決議は不要であると書いてありますので,総会決議を経なくてもよい場合というのは,緊急事態の場合だけのように読めます。そういう緊急事態の場合には,もちろん,悠長に株主総会を開いている場合ではありませんので,総会決議は不要であるというのはよく分かるのですが,それ以外の場合には,このただし書は適用できないという理解でよいのでしょうか,それとも,もう少し何かプラス・アルファの余地があるのでしょうか。 ○坂本幹事 今の,何かプラス・アルファの余地があるのかという御質問についてですけれども,先ほどの内田関係官からのお答えにもありましたとおり,この規定の趣旨をどう捉えるのかというところに関わってくるのだと思います。これも繰り返しですけれども,支配株主の異動について,ある一定割合の株主から反対の通知を受けたら,株主総会の意思を問いなさいということで,反対の理由が何であろうと,本来的には株主総会の意思を問わなければいけないということになりますので,その10%の株主による反対通知が濫用的である場合というのは,一体どういう場合なのだろうということ自体が,そもそも問題になってくるのだろうと思っております。 ○岩原部会長 忖度させていただきますと,株主の意見の構成がはっきりしていて,10%持っている株主だけが反対していて,それ以外の株主は全員賛成している,これが明白なときに,なおこういう請求が来た場合には,これを受けて株主総会を開かなければいけないか,多分そういうことなのでしょうね,荒谷委員が御懸念になっているのは。 ○荒谷委員 言葉が足りなくて,すみませんでした。今,岩原部会長がおしゃってくださったとおりです。 ○岩原部会長 正に,B案的な問題で,最初から,たとえ株主総会を開いても承認されるのに決まっているような場合に,こういう請求があったときに,どう考えるかという問題提起なのだろうと思います。ほかにも何か御意見はございますか。  この問題は,今日ここで結論を出すことは困難だと思います。いろいろな考慮すべき要素等も新しく提起いただいたところもございますし,その辺を事務当局に整理していただきまして,最後は,何らかの形での妥協を図る必要があるのかなと思いますが,それまでにもう少し時間を掛けさせていただきたいと思います。そういうことでよろしゅうございましょうか。  それでは,先に進ませていただきたいと思います。次に,第3の「2 仮装払込みによる募集株式の発行等」に移らせていただきたいと思います。まず,事務当局から説明していただきます。 ○内田関係官 それでは,「第3 資金調達の場面における企業統治の在り方」のうち,「2 仮装払込みによる募集株式の発行等」について御説明いたします。この点については,試案第1部第3の3のとおりの方向で,当部会での御議論も踏まえて詳細を検討させていただいているところでございまして,現時点での案をここに規律しております。  まず,①及び②は,基本的に試案と同様の内容ですが,①イにおいて,現物出資財産の給付が仮装された場合についても手当てすることとしております。この場合には,現物出資財産を改めて給付させることを原則としつつ,株式会社は,その価額に相当する金銭の支払を請求することもできるものとしております。なお,③では,引受人と業務執行者のなれ合いによって①の引受人の義務が免除されることのないよう,①の義務は,総株主の同意がなければ免除することができないものとしております。  また,④は,①又は②の支払等がされた場合には,募集株式の引受人は失権しなかったものとみなすというものです。これは,引受人自身又は取締役が責任を履行した以上,引受人を失権させる必要はないと考えられることによるものですが,このような規定を設けることの実質的な意義は,②の取締役の責任が履行された場合でも,これを履行した取締役が株式を取得するわけではないということを示す点にあるということになろうかと存じます。  ⑤は,出資の履行を仮装した募集株式の引受人は,①又は②の責任が履行された後でなければ,株主権を行使することができないものとするものです。出資の履行が仮装された場合の募集株式の発行の有効性については,解釈に委ねることが相当と考えられますが,当部会での御議論を踏まえますと,仮にこれが有効で,引受人が株式を取得すると解される場合でも,①又は②の責任が履行されるまでの間は,株主権の行使を認めるべきではないと考えられることから,この点について明文の規定を置くものでございます。他方,出資の履行が仮装された募集株式の譲受人についてまで株主権の行使が認められないものとすると,株式の取引の安全を害するおそれがあります。そこで,⑥は,譲受人は,悪意又は重大な過失がある場合でない限り,株主権を行使することができるものとするものです。  なお,発起設立及び募集設立並びに新株予約権の払込金額の払込み及びその行使に関しても,払込み等を仮装した者の責任等について,同様の趣旨の規律を設ける必要がありますので,(注)としてこの点を記載しております。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,第3の2でございますが,この点については,当部会におきまして,特段の御異論はなかったところかと理解しておりますが,部会資料24のような方向でよろしゅうございましょうか。何か特に御意見はございますでしょうか。 ○野村幹事 思い付きの質問で恐縮ですけれども,現物出資財産の仮装というのがちょっとイメージしにくくて,現物出資財産についての価格が不足している場合の価格填補責任は別途存在しているという前提の下で,この現物出資財産の仮装というのはどうイメージしているのかということだけ,1点,ちょっと教えていただきたいのですけれども。 ○内田関係官 いわゆる仮装払込みという場合,普通は金銭の払込みを仮装する場合がほとんどだということは,御指摘のとおりだと思うのですが,現物出資の場合に給付が仮装されるということが論理的に全くあり得ないかというと,必ずしもそうではないと考えております。例えば,現物として振替株式が出資される場合,口座管理機関への振替申請によることになるかと思いますが,振り替えられた株式を更にどこかに振り替えることで引受人に還流させるという形でその給付が仮装されるという場合も,理屈としてはあり得るのではないかと思っているところでございます。価格填補責任は,給付自体はされていることを前提に,給付された現物の価格が不足していた分を支払わせるというものですが,①イは,給付が仮装された場合の規律ですので,価格填補責任とは,カバーする部分が異なるということになります。 ○野村幹事 1点だけ,ちょっと細かなことで恐縮なのですが,これは,かつてあったいわゆる払込担保責任のようなものとは違って,取締役については,それに関与した取締役についての責任を別途要求するという形で,本来払込みをしていない人が一義的な責任を負って,それに関与した取締役について責任を負わせるというスキームだと思うのですけれども,そうはいっても,最終的に取締役が責任を負うべき場合,過失があった場合なのですが,責任を負った場合に,株式自体は,仮装払込者が引受人のまま株主になっているという状態だと思うのです。この際は,求償みたいなものというのは想定されるのでしょうか。 ○内田関係官 民法の一般原則に基づいて求償することは,妨げられないと考えております。 ○野村幹事 昔の株式の払込担保責任の場合については,その求償権を確保すべく,場合によっては株式を取得するような,要するに責任を負った取締役自身が求償しても,元々仮装払込みをしているので,お金がないから取れない,取れないのにその人がずっと株主であり続けるのはどうかという問題もあり,そういう意味では株式自体を奪ってしまうといったことを考える余地もあったかとは思うのですが,そのようなことは,今回は手当てとしては考えていないということでしょうか。 ○内田関係官 そのとおりです。旧商法の引受担保責任は,取締役が責任を履行した場合に,本来は株式の割当てを受けていないはずの取締役が株式を取得することになってしまうということに対する懸念があったために,会社法制定時に廃止されたという経緯がございます。御指摘のような手当てをすると,責任を履行した結果として取締役が株式を取得することができる仕組みを設けることになり,今御紹介したような会社法制定時の議論との関係で,少し逆戻りしてしまう面が出てきますので,今回は,そのような手当てをすることは考えていないということでございます。 ○本渡委員 この制度は,結局,仮装払込みをして,それで仮装払込みをしたために株式が事実上発行されて,その株式が第三者に売り払われてしまって,それでお金が返ってこないというときに,お金を取得した人がどこかへ逃げてしまった場合は,それに関与した取締役にも責任を負わせようということだと思うんです。そうすると,仮装払込みをして,株式が事実上発行されてしまったけれども,仮装払込みをした人にまだ株式がある場合に,その株式を無効とすることは実際にできませんかね,法律でそういう規定を設けるというのは。第三者にもう売り渡されてしまったものは,それはしょうがないというか,有効にせざるを得ないと思いますけれども,仮装払込みをした本人にある場合は無効だという,株主の権利を行使することはできないものとするというのは,これはもちろん分かるのですけれども,そうではなくて,もう無効にしてしまう,失権させてしまうような規定というのはできないものかなという感想をちょっと持ちました。 ○内田関係官 株式の発行の有効性を定めるに当たって,発行後の株式の保有状況によって有効性が決まるという規律は,法律の規定としては書けないのだと思います。新株発行無効の訴えに関する最高裁の判例でも,元の引受人が株式を保有し続けているかどうかは結論を左右しないとされていると思いますけれども,それはさておきましても,有効に発行されたかどうかが,発行後の株式の保有状況によって決まるというのは,論理的に順番が逆になってしまうので,そういう規律は法律には書けないのではないかと思います。 ○本渡委員 最初に発行されたときは有効だったとしても,仮装払込みをした人,要するに,振替株式だったらその人の名義になっている場合に,それで仮装払込みだということが分かれば,その名義の株式,仮装払込みをした人の名義のままの株式は,会社に帰属するとか,1回有効になったけれども,また会社に戻って,それで消却してしまうといった規律はできないものかなと。要するに,お金で回収するよりも,株がまだそこに残っている場合は,もう株自体をなくしてしまったほうがいいのかなといった感覚を持っております。 ○岩原部会長 この問題は,先ほどの内田関係官からの御説明にもありましたように,最高裁の新株発行の有効性に関する判例があり,それを巡っていろいろな議論があって,解釈論的には,払込みが一切ないような場合は新株発行不存在と解すべきだといった解釈論も一部にはあるようですし,確かに,本渡委員のような利益衡量に基づく解釈論等も前から主張されているところです。しかし,そこは,正に,大議論になるところで,今おっしゃいましたように,振替株式の場合,株券が発行されている場合,それから振替株式でなくて株券が発行されていない場合,それぞれに分けて利益状況を更に細かく検討する必要もあります。ここでは,そのようないろいろな問題があることは承知していますけれども,払込みが仮装された場合に,引受人が失権して,もう払込義務もなくなってしまうということで,最終的に責任をとる者もいなくなってしまうといった最悪の場合を捕まえて,それについての規定を置こうというのが,部会資料24の案だと思っています。確かに,こういう規定を入れると,逆に,ここから新株発行の有効性を前提にしているのではないかとか,そういう解釈論的な問題が出てくる可能性はあり得るのですけれども,取りあえず,そういう最悪のケースは押さえておきたいということで提案されているのが部会資料24だと思います。本渡委員がおっしゃったようなことは,これから先,解釈論あるいは今後の立法論で検討していくということになるのではないかと理解しております。 ○本渡委員 ありがとうございました。 ○田中幹事 本渡委員の御発言に関連する点ですが,私は,この提案されている規制は,正に,会社にお金を払い込ませるということに意味があると考えておりまして,その点からすると,たとえ,当初の引受人のところに株式がとどまっていても,その株式の発行を無効にすべきではないと思うのです。株式の発行を無効にしてしまったら,会社に対して払込みをさせることはもはやできなくなります。これは,仮装払込みについて何らかの規制を課す根拠が何なのかという点にも関係してくる問題です。この点,最近の学説には,仮装払込みに対する規制は,基本的には,他の株主の利益の保護なのだと,つまり,払込みがされていないのに株式が増えれば,他の株主の利益が害されるので,それで仮装払込みを規制しているのだという考え方があります。そのような考え方ですと,株式の発行さえ無効にしてしまえば,もう会社にお金を払い込ませなくてよい,したがって,払込みの義務を負わせる必要もない,ということになります。そういった考え方からは,当初の引受人のところに株式がとどまっている場合には,株式の発行を無効にしてしまって何ら問題ないということになるでしょう。しかし,私は,この問題については,より伝統的な学説を支持しております。すなわち,会社が新株発行をして,1億円資本金が増えたというときには,現在及び将来の会社の利害関係者は,1億円の財産が会社に払い込まれたと信頼するのだから,その信頼を保護する必要がある,だから,仮装払込みは規制されなければならないと考えております。そのような考え方の下では,やはり,1億円の仮装払込みが行われたと判明した場合には,どうにかして1億円払い込ませなければならないと思うのです。資本金が,利害関係者にどの程度重視されているかという点は,確かに問題になり得るのですけれども,例えば,上場会社が倒産間際で相当に経営が危ぶまれているときに,新たな出資が1億円なされたと言われれば,会社と取引しようとする者は,その時点においては1億円払い込まれたということを信頼するのではないかと思っておりまして,その場合には,正に,払込義務を負わせるということが仮装払込規制の趣旨だと思っております。もちろん,当初の引受人や取締役らに対して払込義務を負わせても,現実的にそれがどこまで履行されるかは疑わしい場合もあるでしょうが,法的には,払込義務を負わせるというところに重点を置いて考えるべきではないかなと思っております。 ○岩原部会長 ただいまの田中幹事からの御指摘のような問題点もあり,この問題を考えるには,かなり幅広くいろいろなことを考える必要がありまして,ここで簡単に結論が出せるような問題ではございませんので,先ほど言ったような趣旨で,この範囲で,最悪の場合を捕まえるということで,部会資料24の提案はされていると御理解いただきたいと思います。 ○藤田幹事 ④の考え方の射程について1点確認させてください。単なる仮装払込みの場合は,この規律でいいと思うのですが,いわゆる新株発行不存在の場合に,しかも,払込みが仮装であるというケースであれば,ここのルールに従って後で払い込みがなされたとしても,有効な新株発行になったりするわけではない,募集株式の不存在の話は全く別で,このルールによって何か新たなものが作り出される話ではないと理解してよろしいですね。 ○坂本幹事 正に,藤田幹事の御指摘のとおりでございまして,不存在の場合は,それはまた別ということになるという理解でおります。 ○岩原部会長 正に,そういう新しい問題を生まない範囲で規定しているということであります。よろしいでしょうか。  それでは,そういうことで,部会資料24のとおりに決定させていただきたいと思います。  最後に,第3の「3 新株予約権無償割当てに関する割当通知」について,事務当局からの説明をお願いいたします。 ○髙木関係官 それでは,「3 新株予約権無償割当てに関する割当通知」について御説明します。この点は,中間試案第1部第3の4のとおりの方向で,法制的な観点から詳細を検討しているところでありますが,ここでは中間試案どおりの案を記載しております。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。この点につきましても,部会におきましては,特段の御異論はなかったと理解しております。部会資料24のような方向でよろしゅうございましょうか。  それでは,そのようにさせていただきたいと思います。どうもありがとうございます。  それでは,本日の部会の終了の前に,次回の部会の予定について,事務当局から説明をお願いしたいと思います。 ○坂本幹事 次回は,7月4日水曜日午後1時半から,予定では午後5時半まででございます。次回の開始時間は,通常に戻って午後1時半でございますので,御注意願います。また,場所につきましても,いつもの法務省20階第1会議室でございまして,今回とは異なりますので,御注意願います。  次回は,親子会社に関する規律及びその他の事項―中間試案では「第3部 その他」に挙げた事項―について,本日と同様,要綱案の作成に向けた御検討をお願いする予定でございますので,どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,法制審議会会社法制部会第21回会議を閉会いたします。本日も,長時間にわたり御熱心に御討議いただきまして,誠にありがとうございました。 -了-