法制審議会民法(債権関係)部会           第44回会議議事録 第1 日 時  平成24年4月3日(火)自 午後1時00分                     至 午後5時28分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第44回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   (委員の紹介につき省略)   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日は予備日として予定していただいた会議ですので,新たな部会資料の配布はございません。積み残し分を審議していただく関係で,部会資料36と37を使わせていただきます。これらの資料の内容は後ほど関係官の金と松尾から順次御説明いたします。   それから,机上に山野目幹事から御提出いただきました,「フランス保証法における過大な個人保証の規制の法理」と題する書面を配布させていただいております。 ○鎌田部会長 本日は部会資料36の「第2 保証債務」以降及び部会資料37について御審議いただく予定です。具体的な進め方といたしましては,休憩前までに部会資料36の「第2 保証債務」の「7 根保証」までについて御審議いただき,午後3時15分頃をめどに適宜休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料36の残りの部分及び部会資料37について御審議いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。   まず,「第2 保証債務」のうち,「1 保証債務の成立-主債務者と保証人との間の契約による保証債務の成立」と,「2 保証債務の付従性」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「第2 保証債務」の「1 保証債務の成立-主債務者と保証人との間の契約による保証債務の成立」では,主債務者と保証人との間の保証引受契約によって保証債務が成立する旨の規定を設けることを提案しています。また,併せて,保証引受契約も書面でしなければならない旨の規定や,債権者は保証人に対する意思表示によって保証債権の取得を放棄することができる旨の規定を設けることを提案しています。   「2 保証債務の付従性」では,保証債務の付従性について定めた民法第448条の規定を維持しつつ,保証契約の締結後に主債務の内容が減縮された場合には保証債務の内容も減縮され,他方,主債務の内容が加重された場合であっても保証債務の内容は加重されない旨の規定を設けることを提案しています。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について,一括して御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○山野目幹事 第2の1の論点でございますけれども,いわゆる個人保証を全面的に規制するという提案がされており,その論議の帰すうを見守る必要があることに留意しつつ,もし何らかの仕方で個人保証というものがされる局面が残るのであるといたしますならば,いわゆる保証引受契約が自然人が保証人となる場合にも可能であるということになりますと,何人が債権者となるか判然としない状況で,保証の法律関係に入っていくという不安定な法律状態を保証人に課することになり,適当でないと考えますから,保証引受契約により,保証人となることがあり得るものは,法人に限ることがよろしいと考えます。 ○岡田委員 消費者側としても,山野目幹事の意見に賛成で,実際にこういうトラブルはセンターで把握していないです。ということは,消費者自身が余り認識していないのかなという感じがしますし,必要性があるのかどうかというのも疑問です。後ろのほうで保証人保護というのもありますが,事業者と個人との関係になりますと,個人が債務者の場合にはほとんど期待できないのではないかと思えますので,もし,この保証引受契約というのを通すのであれば,法人に限るというふうにして欲しいと思います。 ○三上委員 法人間取引,金融取引においては,この種の取引もあり得べしということで,第一読会のおきましても,少なくとも禁圧する法案だけは勘弁してほしいとお願いしました。今回の提案におきましても,金融界の方向性は同じですが,特に反社会的勢力が保証人に入ってくるようなケースを危惧する声が多くありました。また,保証人が関与しないところで発生したことによって,不良債権の無税償却に支障を来す場合もあり得るという意見もありました。そこで,制度としては合理的だと思いますので,今の御提案では,保証人に対する意思表示によって,遡って放棄といいますか,なくなるという法制ですが,プラスして,債務者本人に対する放棄の意思表示によっても,放棄の効力が発生するようにすべきではないかということを申し上げたいと思います。   あと,もう一つ,これを放棄するということが,税務上寄附だとか,交際費認定されないということも,場面は違うのかもしれませんが,確認をお願いしたいと思います。 ○鹿野幹事 私も,先ほど山野目幹事及び岡田委員がおっしゃったことに基本的に賛成でございます。そもそも保証,特に個人保証の場合には,保証人が,大きな現実的負担を負う可能性を伴うにもかかわらず,そのリスク及びその負担の具体的な内容を十分に認識しないまま保証人となり,後に債権者から多額の支払いを求められて,経済的な破綻に陥り,あるいは更に自殺に至るというようなケースが少なくないと認識しております。このような事態を改善するためにも,保証契約においては,書面によることを要求するだけではなく,さらに例えば,債権者が保証人になろうとするものに対して一定の重要な事項についてきちんとした説明をすることを要求すること,あるいは債務者に対する慎重な意思確認を義務付けることも考えられますし,その他,過大な保証の禁止等の一定のルールを設けるということも考えられます。それ自体については,後ほど議論することになると思いますが,私はそのように考えております。ところが,もし主債務者と保証人との間の契約で保証債務を負うことになるとすれば,保証に関するそのような規律がそこに及ばないということになりかねないのではないかと思いますし,そうだとすると,結局,先ほど申しましたような現在の好ましくない事態は,改善されないままになってしまうのではないかという危惧を覚えます。したがって,これについては,もし42ページに書かれているようなニーズがあるとしても,それを個人保証に及ぼすのは適切ではないと考えております。 ○高須幹事 弁護士会の議論としましても,ここの部分に関しましては,一定の必要性というものがあるという前提に立ってもやはり慎重論というのが多うございました。基本的には,既に出ておるわけですけれども,個人保証に関して債権者の説明義務のようなものを課した場合に,それをこの場合には,どうやって使うのかとか,幾つかの慎重論が出てきておって,やはり法人に限るということでいいのではないかと,あるいは,42ページに出てくる必要性ということでもしあるのであれば,規定の置き場所に関しても,特別法にその旨を定めるということもあってもいいのではないか,幾つかの意見が弁護士会の中で出てくるんですが,総じて慎重論が強くて,基本的には法人に限るというような,今,出ておりますような議論というのは弁護士会の中で,多数の意見と言ってもいいと思うんですが,そのようなところございます。 ○道垣内幹事 ここまで,1の保証引受契約については反対の意見が強かったわけでして,その理由とするところは非常に理解できるところであります。しかるに,では保証引受契約という類型を置くべきではない,ないしは個人についてはこれを認めるべきではないという御主張をされる方は,債務引受については,どのようにお考えなのでしょうか。債務引受契約というのは,一般的には債務者と引受人が第三者のためにする契約という形をとって,債権者を第三者にしてできるというふうにされているわけですが,それもできないということにし,一貫させるというのは一つの方法であろうと思います。しかし,仮に債務引受はできるとしますと,個人の保護をしようという目的は必ずしも達成できないような気がいたします。やはり,保証引受契約という概念を入れることによって,一定の債務引受契約をここに言う保証引受契約であると性質決定することを通じて,個人なり消費者なりを保護するという方法がとられるべきなのではないかという気がしております。 ○鎌田部会長 今の点について関連しての御発言はありますか。 ○中井委員 この保証引受契約を導入するかについては,先ほど高須幹事からありましたように,弁護士会としては慎重意見が強いわけですけれども,そうであっても,今,道垣内先生がおっしゃられた問題については十分考えなければいけないという意見が他方であります。主債務者と保証人のみの合意によって,保証契約が成立することに対する危惧はこれまでの御指摘のとおりですけれども,現実には,ではこれを否定したときに,債務引受契約によって,実質保証類似の法的効果が生じる場合がある。また,連帯債務という形式を取って,負担割合を0.100とするような形で,実質保証類似の効果を生むこともできる。今後の審議で,保証についてそれなりの保護に関する規定が充実された場合に,それら保証に関する保護規定が,今,申し上げたような保証類似の効果を目的として,他の法類型を使う場面に全く適応されないとすると,それはおかしいだろうと思います。保証の保護規定は,それら他の法形式を取った場合にも適用されてしかるべきだと考えます。そうだとしたときの取扱いをどうしたらいいのかという点で,弁護士会に悩みがある。正面から認めることによるリスクと,これらを認めた上で,その類型については,保証と同様の保護を与える。書面によること,説明義務の在り方,若しくは説明義務,情報提供義務を怠ったら,取消しも認めるというようなことを,この類型にも具体的に適用することが可能なような形で作り上げることができるのであれば,このような類型を設けることに積極的であってもいいという考えも十分にあり得ると思っています。整理できているわけではありませんが,道垣内先生のおっしゃったことについては慎重に検討すべきだという意見です。 ○高須幹事 続けての発言で恐縮でございますが,今,道垣内先生がおっしゃった点は,中井先生もおっしゃったように,弁護士会でも悩ましいところではあります。そこで,一つの考え方は,今,中井先生からも出たように,あるいは正面から認めることの弊害なども考えながら,その是非を問うというのがあると思っておりますが,もう一つは,先ほど発言させていただいたように,仮に法人に限って保証引受契約を認めるというような立て付けにした場合には,実質,保証の主旨で個人が債務引受をするというのは,いわゆる隠れた,禁止されている個人の保証引受契約になるということで,解釈的に制限を掛けていく,こういう形で一貫させるということもあってもいいのではないかなと思っております。幾つかの可能性があるだろうということになりますが,いずれにしても,保証人の保護ということを考えながら,きちんとした体系的な立て付けをしていくべきだろうと思っております。 ○松本委員 私も個人保証人の責任をもっと限定するべきだという観点から発言させていただきたいと思います。併存的債務引受についての話題が上がっておりますが,一つは,債務者と保証人との間での,保証人になってほしいという依頼が大変軽いレベルで行われているという実状があるんだと思うんです。保証人の重い責任を意識しないで,あるいは断れないで保証人を引き受けているというケースが大変多いわけだから,そういう意味で個人保証の場合の保証引受による保証債権成立というのは認めるべきではないだろう。他方で,債務引受の場合,現実には余り,個人レベルで行われているという感じはしないので,紛争が顕在化していないのでしょうけれども,債務を引き受けるという言葉のニュアンスは保証人になるというニュアンスよりは,かなり重いという印象を一応は持ちます。   したがって,全く無関係の第三者が入ってくる場合,保証人として入ってくるか,債務引受で入ってくるかで少し違うのではないかなという仮説がありますが,これは蓋を開けてみないと分かりません。保証が規制された場合に,債務引受のほうに流れる可能性があるということであれば,やはり同じ法律効果を持つものであれば,同じレベルの規制に服せしめるのが当然であると思いますから,個人による併存的債務引受も同じように,債権者との間の契約でないと,成立しないというふうに限定を掛けるべきだろうと思います。   ついでに,43ページの真ん中辺,(2)の併存的債務引受が実質的に保証と同じではないかという論旨のところの後ろのほうで,むしろ,書面要件などの保証人保護のルールが従来の保証契約よりも広く適用されることになる点で,保証人保護に資するという趣旨はちょっと理解しかねるところがあって,これは何を言いたいのかということです。保証債権の成立する場合を従来より広げる。その場合に,保証人と債権者との間での保証契約の成立要件と同じような書面要件を課すということだから,これで従来より保証人保護に資するということにはならなくて,保証債権の成立を広げるから,その分,同じ書面要件を課しましょうというだけにすぎない。逆に,保証人に従来より安易になる人が一層増えるという点からは,保証人保護に資さないというほうがむしろ正しいのではないかと思います。 ○三上委員 どうも個人による保証の引受とか債務引受が全て悪というか,危険なもののような論調に感じまして,また,松本先生もそういう取引類型が余りないかのような御意見と受け取りましたので,参考までに申し上げますが,個人の債務引受というのは,ごく日常的に行われている取引の一つです。どんな場面に一番よく利用されるかというと,住宅ローンなどの個人向けローンに相続が発生した際に,相続人の一部に相続手続に協力しない者がいる場合。例えば長男に債務を単独で相続させたいのだけれども,相続人の中でそういうものに一切協力しないとか,ないしは行方不明で,遺族のほうで不在者の財産管理等の手続を嫌がるといったような場合に,円滑に相続手続を進める上で,そういう人の分について,重畳的に債務引受をしてもらって利害関係者になり,そのままローンを弁済する。これはよく行われている取引です。したがって,決して全ての取引が悪いとか危険な類型ではないことを,参考までに申し上げておきます。 ○松本委員 今のケースは相続財産の分割に伴って,債務も財産を得た人に集中しようという合理的な場合を前提としているんだとすれば,通常の保証を無償で長期的な形でやるというのとは大分異なった,その点では確かに合理性のある取引だと思います。 ○中田委員 2点あります。第1点は,保証引受契約を個人については認めないことにしても,債務引受等に流れるのではないかという論点ですけれども,これは保証契約に書面を要求することにした改正の際にも同じような議論があったと思います。保証契約を要式化しても,他の形態に流れるのではないかという議論です。その後,何年かたっているわけですけれども,実際にそういうふうに流れたのかどうか,検証が必要ではないかと思います。   それから,もう一点は,保証引受契約を認めた場合に,無資力状態にある債権者の債権者が債務者との間で保証引受契約をして,保証債務を負担し,自己の債権と相殺して債務者に求償するという形をとったときに,詐害行為取消権の対象とならないとすると,債権者の債権者が優先的に回収できることになるわけですが,それをどこかでチェックする制度が必要ではないかということです。それは相殺のところでチェックすればいいのかもしれませんけれども,そういう使われ方があり得るかと思いました。 ○内田委員 最初に口火を切られた山野目幹事に御質問なのですが,道垣内幹事の御指摘のように,第三者のためにする契約を使って,保証引受契約と同じことを現在でもできるわけで,個人について,そういう保証債務の成立を否定しようとすると,そちらも規制しないといけないということになると思います。およそ実質的に保証の機能を果たすものであれば,駄目だというふうに規制するのも一つの方法かとは思うのですが,他方で三上委員が言われるように,実際に有益に使われる場合もあるということであるとすると,弊害というのが何なのかということをきちんと捉えて,弊害がないようにコントロールするという方法もあるのだろうと思います。保証引受契約による保証債務の性質を認めた上で,個人については弊害を是正するための規制をする。そこでその弊害なのですが,主債務が特定していないような場合にもあらかじめ事前の保証引受の合意をさせてしまうというような弊害があり得ることは,今までの議論で感じたのですけれども,他にもう少し具体的に,こういう場合というアイデアをもしお持ちであれば,教えていただければと思います。 ○山野目幹事 内田委員が御指摘のように,第三者のためにする契約一般,あるいは債務引受のような場合にも類似の危惧があるということは,今までも指摘がありましたとおり,もとよりそのとおりであると考えますから,それは今後,部会において議論される際に,ここで保証引受契約について考えられる規律と即応するような仕方でまた新たな検討がされるべきであろうというふうに感じます。それで,今,内田委員からお尋ねの保証引受契約,それそのものに関して申しますれば,この需要として指摘されている社債であるとか,電子記録債権のような場面というのは,自然人が保証人となって,取引をすることについての強い需要があるというふうには,私は感じなかったということが1点あることに加えて,松本委員が御指摘になったように,保証一般が自然人が軽率に契約を締結してしまう危険があるであろうというふうに考えます。さらに,この保証引受契約の場合に,それと同等,若しくはそれ以上の軽率な債務負担を自然人がする恐れというものがあるのではないかと感ずるものですから,そうであるとしますと,立法需要が必ずしも強く認知されないところについて,そのような危惧が少なからず予想されるにもかかわらず,新しく自然人が保証引受契約の当事者となる規律を導入することには慎重で在るべきではないかというふうに感じたところから意見を述べさせていただきました。しかしながら,内田委員が御指摘になるように,今日この後,保証について,個人保証も含めて様々な保証人保護のための規律についての議論がされるものでありますから,その帰すうを見据えた上で,かなり充実した自然人たる保証人の保護が実現するというような見通しが得られた段階で,またこの第2の1の論点について見直してみるということは,もとより御指摘のとおりあり得るのではないかと考えます。 ○佐成委員 今議論されている保証引受契約から個人を除外して法人に限るかという論点には直結しないかも知れないのですけれども,これに関連して経済界での議論状況について若干御報告させていただこうと思います。確かに,今の論点につきましては,経済界の中ではこれを正面から取り上げる議論はございませんでした。ただ,ここの補足説明の中にも書かれてあるとおり,これが使われる場面として想定されるのは,不特定多数の債権者に対して行われる場面であって,こういった場面では非常に有益であるということは,確かにおっしゃるとおりであろうし,だからこそ,社債の場合というのが典型例として挙がっているのだと思います。けれども,それ以外に使われるケースが果たしてどれだけ想定できるのだろうか,という疑問を述べる見解がありました。だから提案に反対であるということを申しているわけではなくて,もし本当にそれだけしか想定できないのであれば,むしろ別の立法の仕方もあるのではないかという,そういったサジェスチョンかと思います。   それから,御説明では,これはちょっと特殊な,債権放棄でもなければ,債務免除でもない,取得を放棄するという,全く新しい法律構成として提案されておりますが,そもそもこれは一体どういうものなのか,他の法律にこのような例があるのかということが疑問としてあります。つまり,既存の法律概念に単純には還元できないわけです。そうなると,こうした新しい法律構成の効果として,一番実務家として懸念されるところは,まずもってそれが税法上,どんな扱いになるのかというようなことです。ただ,強いて反対するとか,そういった意見は特にございませんでした。 ○中井委員 保証引受契約について,社会的ニーズとしてあるのはここで資料にも指摘されているようなことであるとすれば,それは基本的に法人が引受契約の当事者になる場面であろう。そういう意味で,法人を対象としてこのような類型を設けることについて,場合によっては特別法というのがあるのかもしれませんけれども,民法の中にあることにそれほど違和感がありません。しかし,他方で,保証と同じ効果を持つような債務引受契約があるからという理由だけから,では個人について保証引受契約なる新たな類型を認めることについては,やはり慎重で在るべきだと考えています。その理由は,主債務者と保証人との間での合意のみに依拠することに対するリスク感覚といいますか,怖さを感じるからです。逆に言えば,保証と同視できるような債務引受契約,若しくは先ほど連帯債務と申しましたけれども,そういう実質は保証と変わらないものを他の契約類型で行おうとするものに対して,保証の保護と同等のものを与える。そういうことを明文化するというのが実践的には意味があるのではないか。部会資料の趣旨も,債務引受で保証類似のことができるではないか,だからといって,個人に関して保証引受契約なるものを作るのではなくて,そういうものがあるとすれば,保証と同じ効果を生む法類型に対して,保証と同様の保護を与える方向での明文化のほうが素直だと考える次第です。 ○深山幹事 私も個人についての保証引受契約については否定的に考えております。理由は既に皆さん方から出ていることと重なりますが,保証と保証引受契約の違いは,契約の成立に債権者が関与するかどうかというところであり,保証人にならんとする者の前に債権者が現れて,債権者との間で合意をするのと,債権者が現れずに,主債務者との間で合意するのとでは,やはり保証人の保護の観点からすれば,後者の方が,危ういリスクを保証人が負うことを十分に認識せずに,軽率に応じてしまうリスクが高いというというふうに,これは理屈というよりは,社会的実態として,経験則上,想定されるのではないかというのが,理由の一つです。   他方で,併存的債務引受と類似の効果をもたらす法律構成との関係はどうかという議論については,同じような法律効果と同じような問題点があるなら,同じ規制を及ぼすべきだという考え方はおおむね異論がないのでしょうが,ではその手段としてどうするかということについて,保証引受契約という概念を明文化をして設けることが,同じ規律を及ぼす方向に働くのかという点に疑問を感じます。むしろそれを明文化すると,個々の事例でこれは保証引受契約なのか併存的債務引受なのかという形で議論がなされて,そこは契約の趣旨全体から判断されるのでしょうが,そこで保証引受契約ではなく,債務引受契約だと判断されると,保証人保護の規制が及ばないと解釈されてしまって,むしろ保証人保護の規制が及ぶ範囲が狭まるのではないかということを危惧します。現時点では,保証引受契約という概念が明文上ありませんし,解釈論上も否定的に解されているので,余りそういう問題というのは議論されていないのでしょうが,この概念が明文で登場してくると,多分,どちらの法律関係なのかという形で議論が展開されて,個々の事案の事実認定の問題ではありますけれども,うまく保証引受契約ではないような形で契約書なり,契約関係を仕組めば,保証人保護の規制を回避して,規制が及ばない契約を作り出すという現象も出てくるのではないかということを危惧いたします。 ○松本委員 保証引受と債務引受が似たようなものだからというのがこの積極論の論拠なんですが,債務引受については,43ページの中ごろに,第三者のためにする契約によって成立するんだということがはっきり書いてある。ということは,債権者の受益の意思表示が必要だと。そうでないと,債権者は権利行使できないということになるわけです。しかし,保証引受のほうは41ページの1の下のほう,当該保証債権の取得を放棄することができるという,先ほどどなたかがおっしゃいましたけれども,従来と違った概念が登場している。なぜこういう独自の概念が出てくるのかということは,42ページの下のほうに書いてあるわけです。保証引受も債務引受と似ており,第三者のためにする契約だと考えれば,債権者の受益の意思表示でもって,保証債権が成立するということになりそうなんですが,そうだとすると,受益の意思表示をする前までであれば,保証引受契約の当事者間でいつでも合意解除できることになり,そうすると,社債の格付けに影響が出るから不都合であるということが書いてあるわけです。その不都合を回避するために,受益の意思表示なしで保証債権が一気に成立するというふうにした上で,特に不都合な場合には,事後的に保証債権の取得を放棄して,遡及的に保証債権が成立しなかったことにできるという大変独自の制度を作ろうとされています。   ここはやはり社債の格付け維持というかなり特殊な要因,ニーズを説明するために,従来なかった法的構成を取らざるを得ないということになっているわけで,ここからもこの制度のニーズというのが非常に特殊な局面におけるものだということがうかがえると思います。そういう意味で,一般ルールとして民法に入れるのではなくて,本当にニーズのある局面に絞って特殊ルールとして特別法に入れるなり,民法にそんな特殊ルールを入れるのがいいかどうか分かりませんが,どうしても民法に入れたければ,適用対象を限定したルールとして規定するというのが適切かと思います。 ○内田委員 一言だけ。先ほど佐成委員から,この放棄の性質が一体どういうものかという御指摘がありました。松本委員からは非常に特殊な制度であるという御指摘があったのですが,元々第三者のためにする契約という制度を持っている立法例は,比較法的に見ると,債権が第三者に発生するという場合には,受益の意思表示なく当然発生して,放棄によって遡及的に消滅し,始めから取得しなかったことになるというのが通常の立法例でして,全然特殊なことはありません。その第三者のためにする契約を使えば,こういう保証債務を発生させることは可能なわけで,そうであっても,全て保証的性質を持つものは全部無効であると規定するか,あるいはそのような保証債務の成立も可能だけれど,そういう迂回路が使えないように,きちんと個人保証を保護するための規制を及ぼすか,そういう選択肢は残ると思います。いずれにせよ,この放棄構成というのは比較法的には一般的なものでして,何ら特殊なものではありません。 ○佐成委員 私が申し上げたかったのは,飽くまで現行の日本の法律体系においては特殊ではないかという趣旨でございまして,そもそも現行の日本の法律体系の中にそういった法律構成の例があるのかなということを疑問に思って,発言させていただきました。ですから,実務家の立場からしますと,かなり限られた領域であっても,もしこうした全く新しい法律構成を持ち込む立法をするのであれば,立法後も繰り返しきちっとそれなりに説明していただかないと,よく分からないのではないかという,そういう御指摘でございます。 ○潮見幹事 先ほどの山野目幹事のおっしゃられたところに戻って,私もほぼ同意見だということを申し上げたいと思います。  保証委託契約をなぜ規定するのかというところをまず考えなければいけないのでしょうが,一つは,先ほどこれは中井委員の発言にもあったかと思いますけれども,保証引受契約というものが実務上で必要であるから定めを置くということが考えられます。そうであれば,必要な場面に限って規定を置くという方向から議論を詰めていけばいいのでしょう。   他方で,保証引受契約を設けるべきであるという考え方の中に,債務引受が一般的な制度として通用している中で,債務者と引受人との間の合意で引受契約ができ,そこでは当事者の属性は限らないという枠組みが現に存在しているところ,そうした状況の下で,同じように保証委託契約というものの成立を認めてもいいのではないかという観点から,保証引受契約の規律を設けていくというものもあり得ようと思います。  仮に後者のような枠組みを取った場合には,中井委員の発言にあったと思いますが,債務引受契約,特に債務者と引受人との間での引受契約が,どのような場面で,どういう形で成立するのか,そこに何らかの規制が入らないのかというところを見ないと,ここの部分をどうするかという議論は,私はできないと思います。また,今日の後半にやるようですけれども,一般の保証債務についての保証人保護の規律というものをどうするかというところを見ながらやらないと,この部分はこれまた説明がつかないと思います。そうであれば,幾つかの考え方があるということを前提にしておいて,先に進んだほうが私はいいのではないかと思います。   その上で,1点だけ。43ページの記述なのですが,これは私一人の考えなので言いっぱなしで終わらせますが,併存的債務引受が債務者と引受人との間の契約でされた場合には,受益の意思表示など要らないと思います。むしろ,免責的債務引受の場合に債務者と引受人との間の契約でされた場合に,あとは債権者の承諾というものが必要か否か,必要であるとして,承諾がなかった場合には併存的債務引受になるという議論になるように思います。ここで537条などと書くと,受益の意思表示ということが違った形で捉えられるのではないかという懸念がありますので,最終的にまとめる際に,何らかの形でここは注意をしていただければと思います。 ○鎌田部会長 今の点は少し検討させていただいた上で,記述を改める必要が仮にあれば改めるということで引き取らせていただきますけれども,御意見の中に,個人の保証引受契約については制限的にというのが多数ですけれども,保証引受契約自体の規定は要らないという意見はないというふうに理解してよろしいですか。 ○松本委員 部会長の取りまとめられ方について,結論がデフォルトオンなのか,デフォルトオフなのかというところで若干違和感があります。そのニーズがあるんでしょうねと言われると,確かに限られた領域ではあるんでしょうというのは誰も否定しないだろうと思いますが,では民法の一般ルールとして規定するほどの普遍的ニーズがあるんでしょうかと言われると,余りそうではないのではないかという意見のほうが多かったと思うので,そういう意味で,「必要だという意見はもちろんありますね,はい」ということだと思うんです。 ○鎌田部会長 設けるのなら特別法でというふうなことも含めてということですね。   ただ,議論が二通りあって,債務引受との共通性というと,これはもうかなり幅広く考える。保証引受の場面というのがかなり幅広く存在しているという前提の議論のような気がするんですけれども,部会資料の42ページというのは,かなり限られた部分で顕著なニーズが認められるという,こっちを念頭に置くと,債務引受で代替するなんていう議論とは多分違う議論になるんだろうと思うので,保証引受をどういうものとして皆さん想定して議論しているのかが十分に理解できません。その辺はともかく個人の保証引受だけは抑制すれば,あとはそういう制度があること自体はそれぞれ皆さん否定的ではないというのが全体の御意見だったのかと承ったわけで,民法の中にこれを設けるかどうかということについてまで申し上げるつもりではありませんでした。今の御指摘も受けて,更に引き取らせていただいて,検討したいと思っています。 ○金関係官 1点だけよろしいでしょうか。個人を保証人とする保証引受契約を設けることの必要性についてですけれども,恐らく目標とするところは,先ほど道垣内幹事が一定の併存的債務引受契約を保証引受契約と性質決定するとおっしゃったように,債権者と引受人との間の契約ではなく債務者と引受人との間の契約によって保証類似の機能を果たす債務を発生させるタイプの契約,つまり従来第三者のためにする契約である併存的債務引受契約として行われてきたもののうちの一部,これを保証引受契約と性質決定することによって,債権者と引受人との間の併存的債務引受契約ではなく,債務者と引受人との間の併存的債務引受契約についても,保証人保護の規定を及ぼすということだと理解しております。 ○中井委員 今の整理がよく理解できなかったので,一言だけ私の理解を申し上げておくと,併存的債務引受契約が保証類似のことになる場面がある。だから,保証に関する保護を適用すべきだ,その方向性について異存があるわけではない。でも,だからといって,個人を当事者とする保証引受契約なるものを新たに設けることに対しては弁護士会として危惧がある。私自身も危惧がある。こう申し上げているわけです。 ○鎌田部会長 分かりました。保証債務の付従性についても,説明のあったところですけれども,保証債務の付従性に関しては特に提案に異論はないという受け止め方をさせていただいてよろしいでしょうか。何か御意見ありましたら,お出しいただければと思いますけれども,よろしいですか。   よろしいようでしたら,続きまして,「3 保証人の抗弁」について御審議いただきます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「3 保証人の抗弁」,「(1)保証人固有の抗弁」の「ア 催告の抗弁」では,民法第452条の催告の抗弁の制度を廃止するとする甲案と,維持するとする乙案を提案しています。   「イ 債権者が主債務者に対する債権の回収を著しく怠った場合の保証人の免責」の「(ア)規定の内容」では,第1パラグラフにおいて,催告の抗弁又は検索の抗弁が行使された場合における保証人の免責について定めた民法第455条の規定を維持することを提案した上で,第2パラグラフにおいて,それとは別の規定として,債権者が主債務者に対する債権の回収を著しく怠った場合における保証人の免責についての規定を設けることを提案しています。また,「(イ)連帯保証への適用の可否」では,(ア)の第2パラグラフの規定を仮に設けるとした場合に,その規定は連帯保証には適用されないとする甲案と,連帯保証にも適用されるとする乙案を提案しています。   「(2)主債務者の有する抗弁の利用」の「ア 主債務者が行使することのできる相殺権,取消権又は解除権」では,主債務者が債権者に対して相殺権,取消権又は解除権を有する場合には,保証人はその限度で保証債務の履行を拒絶することができるとすることを提案しています。   また,「イ 主債務者が主張することのできる抗弁」では,主債務者が債権者に対して有する抗弁を保証人が債権者に対して主張することができるとすることを提案しています。なお,アの相殺権,取消権,解除権については,それらの形成権の行使の意思表示がされない間は,イの抗弁には当たらないことを前提としております。以上です。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について,御意見をお伺いいたします。御自由に発言ください。 ○大島委員 まず,(イ)連帯債務への適用の可否についてでございますが,商工会議所には,乙案が採用され,連帯保証にも適用されることになった場合,債務者にとって深刻な事態が生じるのではないかという不安の声が寄せられております。部会資料には,債権者の立場から,債務者を当面の危機から救済するため,弁済期の延期などの対応をしたところ,結果的にかえって主債務者の資力が悪化してしまったような場合にまで,適時に執行しなかったとして,適時執行義務違反を問われることになりかねないのは受け入れ難いという意見が紹介されています。   しかし,資金繰りに困った中小企業が金融機関に対して返済の猶予を求める場合は少なくございません。債務者の側からも規定化されれば,金融機関にリスケジュールの交渉をしにくくなるのではないか,待ってもらえるものも,待ってもらえなくなるのではないかという不安を感じているところです。保証人が保護される反面,逆に債務者にとって深刻な事態を生じさせることのないよう配慮しながら検討すべきではないかと思います。 ○高須幹事 今の大島委員からの御意見を受けてでございますが,確かに保証人の保護ということを重視する余り,主たる債務者の立場が著しく不利益になるようなことがあってはならないし,実際,金融取引が,その結果,阻害されてはならないと,そこはそのとおりだと思っております。ただ,その場合の解決方法としては,従来,適時執行義務と言われていた,その言葉で表現されていた内容をもう少し読み込んで,今回の部会資料にありますように,「著しく怠った」というような表現を使って,その「著しく怠った」という意味は通常のリスケのようなものについては含まないんだというような考え方を取ることによって,ある程度カバーできるのではないかと思っております。つまり,どちらかの利益だけを一方的に保護するという意味ではなくて,バランスのいいところを探していくという努力はあってもいいのではないか。その意味では,今回の部会資料での御提案というのは評価することができるのではないかと思っておりまして,私としては,いいところをいく案ではないかと思っておりますので,そのような観点からも考えていただければと思います。 ○松岡委員 私は,今の高須幹事の御意見には反対でございまして,著しく怠ったという定式を取りますと,一体何が著しいのかという新たな解釈問題が生じますし,そもそも著しいかどうかを問題にする以前に,実務上,弁済期の猶予その他に合理性があるかどうかが重要だと思います。合理性というのは選択肢が1つしかないのではなく,取引の通常の過程において,状況次第で一定の幅があります。そうすると,「著しい」場合だけが駄目だという言い方は,逆に合理的な措置を非常に狭く理解しているように感じられます。それゆえ,少なくとも定式としてこういう形の条文とすることは必ずしも合理的でないと思います。 ○三上委員 「信義則上の義務に反して」ということは,正に信義則違反そのものでありまして,信義則に違反するものは信義則違反だといっても,ほとんど意味がない。むしろ金融取引において,この手の抗弁を誘発するだけなのではないかと思います。別にこの条文がなくても,今の状況でも著しく,ないしは信義則に反するような状況にあれば,正に信義則違反として,保証を免責されるというような過去の判例が上がっているわけですから,これを改めて,BtoBや銀行による保証,支払承諾取引も含まれる保証の一般則として,ここにだけ置く必要はないと考えております。反対論ということで簡潔に述べさせていただきました。 ○佐成委員 今,三上委員がおっしゃった点については,経済界の議論の中でも,やはり信義則を具体化していく,個別にそれを取り込むという方向性に対しては余り賛成する意見はなかったということでございます。それと,今の(ア)のところの下に,(イ)ということで,連帯保証への適用の可否となっていますけれども,もし,信義則が,(ア)の提案の本体・本質だとしますと,これを連帯保証に適用しないという選択肢は,あたかも信義則が連帯保証には適用されないといった誤った解釈にも繋がりかねないということもありまして,それらも踏まえますと,結論的に言えば,今,三上委員のおっしゃったように,ここの条項化には余り賛同できないということでございます。   それと,アのところの催告の抗弁権に関しては,経済界の一部に保証人保護を後退させるということで,懸念の声を述べていた方がいらっしゃったということを御報告させていただきます。 ○道垣内幹事 賛否の観点というのではなくて,イの(ア)のところで,信義則という言葉に皆さんが反応されているということについて一言したいと思います。つまり,ここに書かれているルールを現実に条文化した場合に,そこに信義則と書くかどうかというのは,このルールを導入するか否かとは,また別問題であろうと思うわけです。例えば現在の民法504条に担保保存義務の規定がございますけれども,担保保存義務について免除特約を結ぶということは一応有効であるが,金融取引上,非常に合理性を欠くような形で担保の放棄をしたという場合には,その特約の効力を主張するということが制約されるという判例法理があるわけです。そして,そこで機能している基準は,金融取引上の合理性という話でして,先ほどの合理性のあるリスケ,逆に言えば,「いいや,保証人がいるから」という考えでリスケをしたのではなくて,十分な営業の回復の見込みがあるということで,リスケをしたという場合には合理性があると見られるということだろうと思います。   適時執行義務も同じ話でして,問題はこのような規定を高須幹事がおっしゃったように,合理性という言葉を用いるか,著しくという言葉を用いるかはともかくとして,一定のバランスを取ったものとして評価をするのか否かを正面から論ずるべきであって,ここに信義則という言葉が書かれているということを取り上げて論ずるというのは,論じ方としては余り適切ではないと思います。 ○中井委員 先ほど高須幹事から意見が出ましたけれども,弁護士会の意見を聞いていますと,前回までの説明の仕方,適時執行義務という表現でなされていたころの説明についてですが,弁護士会としては基本的には反対意見が多かった。その理由は,先ほど大島委員がおっしゃられたことを基本とするものでした。そのときに出た議論が相当程度取り込まれて,実質化されたのが今回の部会資料の提案だろうと思います。ここで書かれている保証人との関係で,その負担を不当に重くするという制限,それから,債権の回収を著しく怠ったという,「著しく」という評価概念を入れての制約,こういう下で考えた場合,弁護士会の意見は相当程度変わりました。道垣内先生がおっしゃるとおり,この内実に関しては,それは合理的ではないかという意見が相対的に多くなった。それが先ほどの高須幹事の意見でした。   他方で本当にこれが条文化という意味で要件化できるかについては,なお,危惧といいますか,実質論として果たしてできるだろうかという懸念の表明があったことを併せて御紹介しておきます。 ○潮見幹事 3点申し上げます。  1点は,以前は適時執行義務という言葉になっていたのが,今回,こういう言葉になったのは,合理的なリスケというものを考えた場合に,適時執行義務というものでは広過ぎるという観点から修正するという方向が示されたのではないかと思いますが,私個人の印象ですけれども,保証人との関係で,保証人の負担を不当に重くすることがないようにということを目指して,不当に重くするという書き方をしたことによって,かえって義務の成立する範囲が広くなる可能性があるのではないでしょうか。不当というものが何を意味しているのかが分からないから,不当性がどのような基準でどういう観点から説明されるのかによって,かえって義務の成立範囲が広くなる可能性もあるという感じがします。それが果たして著しくという他方の要素というか,要件でバランスが取れるのかというところも若干疑問を感じないところではありません。これが1点です。   それから,2点目ですが,適時執行義務と言おうが,何と言おうが,「著しく」という要件を入れた場合に,先ほども少し話題になっておりましたし,48ページにも少し関連で書いておられますけれども,現民法504条の担保保存義務には「著しく」という要件は入っていないんですよね。こっちのほうをどうするのか,こちらにも入れないのかというところを,条文を作る際には注意をされたほうがいいのではないかと思います。   それから,もう1点,揚げ足取りで申し訳ないのですが,49ページの真ん中の「著しく怠った」という,この「著しく」を要件とした趣旨をお書きなられているところが私には解せません。主債務者を当面の危機から救済するための弁済期の延期などの対応をするといった債権者の合理的な行動については,この要件の対象とはならないことを明確にすると言っておられますけれども,信義則上の義務という観点からまず一方で縛りをするわけですよね。その上で「著しく」という要件を加重するということは,この説明をそのまま形式的に受け取った場合には,信義則上の義務に違反していない場合の中にも合理的な行動があるというような感じのニュアンスが,説明の文言上からは読み取れるというところがあります。少し工夫していただいたほうがいいのではないかと思います。 ○松岡委員 単に先ほど申し上げたことの繰り返しですが,今,道垣内幹事と潮見幹事がおっしゃったとおり,私の申し上げたかったことは,こういう義務を置くべきではないというのではなく,置くとしたときに「著しい」とか「不当にも」という表現による要件化は適切でないということです。義務を規定するかどうかについては,むしろ積極的に規定を置くべきだという意見であることを念のために申し上げたいと思います。 ○佐成委員 先ほどちょっと言い忘れたのですが,仮にこれを立法化するという場合についてなんですけれども,保証人が非常に資産のしっかりした,資力の十分ある保証人だったので,そのことに安心して,債権者が,本来,主たる債務者の簡単に担保に取れるような資産に担保権を設定しなかった場合に,その後,主たる債務者が破綻してしまったときは,この「著しく怠った」という要件に恐らく当たらないとは思うのですけれども,そこら辺を明確にしてほしい,もし仮に当たるという解釈があり得るのであれば,そういう場合は含まれないということを明確にしてほしいということが意見としてございましたので,御報告させていただきます。 ○中井委員 先ほどの発言で言い忘れていましたが,イの(イ),連帯保証への適用の可否について,弁護士会は乙案が多かったという御紹介です。連帯保証についての評価,弁護士会として問題意識は承知しているわけですけれども,連帯保証についても主債務者に対して,まず請求,しかるべき行動を起こすべきだということを明らかにする意味で評価するという意見です。 ○三上委員 そもそもこの案は,次の事前求償権の廃止とトレードオフのような関係で提案されていると考えられますが,事前求償権をなくして,こちらのほうで保証人を保護するというのは,ある意味,保証人の能動的努力を期待せずに外からの保護を強化するという方向になると思います。私はむしろ別に事前求償権をなくす必要はなくて,保証人が自ら自分の求償権を保全する方法は認められてしかるべきであり,わざわざそちらを外してまで,このような確認のような規定を置く必要がない。「確認のような規定」というのは,先ほども言いましたように,今の現行法の解釈でも恐らく判例上,信義則に違反するような場合に,保証債務の減額なり,否定というのは認められてきましたし,また,その条件を明文化できるのかという懸念はさきほどからもでています。そういう意味で,わざわざこのようなトラブルの元になるような限定を置かなくても,現在でもそういう訴訟は珍しくないし,どんな言葉を使っても範囲が曖昧になるといいますか,債権者のほうからすれば広くなる,保証人保護の側からすると狭くなる,どちらからも疑心暗鬼で見られるような条文は設けるべきではないと考えている次第です。 ○中田委員 細かいことなんですけれども,仮にイの(ア)のような規定を置くとすると,主債務者に対する債権の回収を著しく怠ったという場合の他に,債権の発生の防止を著しく怠ったというのも入らないだろうかということを考えています。例えば,賃借人の債務の保証があるとき,賃貸人が延滞賃料や遅延損害金を発生させるのを放置して,保証人から回収するというのをどうするかですけれども,ここでも検討対象になるのではないかということです。 ○岡崎幹事 ここでの御提案は,大審院時代の判例が示した法理を一般化して条文にするものだと思いますが,今までの御議論を拝聴していて,この条文がどういうケースをターゲットにするかに関して,コンセンサスが得られているのかどうかがよく分からないという印象を受けました。   例えば,著しいですとか,あるいは不当に重くするという文言に関して,これらの文言によってどういう事例を捉えようとするのかに関するコンセンサスが得られていないとすると,規定の内容はいいけれどもそれをどのような文言で表現するかが問題だという議論の整理ができるのかどうかが懸念されます。 ○鹿野幹事 今までイについて議論があったのですが,アについて一言申し上げたいと思います。アについては,乙案,つまり催告の抗弁の制度を維持するという考え方に賛成でございます。その理由を挙げますと,まず第1に,保証債務には補充性が存するのであって,催告検索の抗弁は,この補充性から導かれるということを確認する必要があると思います。そして,この規定はその点についてのいわばシンボル的な意味を持つのではないかと思います。確かに実際の取引においては,催告の抗弁が認められないところの連帯保証が,保証の大半を占めているかもしれませんが,連帯保証ではない場合も存在しないわけではありません。ですから,ほとんどの場合が連帯保証だからこのような規定は要らない,ということにはならないのではないかと思います。   他方で,この規定を維持すると,債権者に過大の負担を負わせることになるのかというと,そうではないと思います。実際,多くの場合には,債権者は主債務者にまず請求しているのでありましょうし,主債務者が無資力のように見える場合であっても,ここにいう請求には,裁判外で履行を催告するということで足りると解されてきたわけですから,債権者にとって,過度の時間や費用を要するということにはならないのではないかと思います。   また,最初に申しました補充性のシンボル的な意味ということとも関連するかもしれませんが,この規定を削除すれば,債権者が資力のある保証人に対して安易に請求するというような事態になるのではないかという点についても,危惧を覚えるところです。   比較法的には,確かに催告の抗弁はなく,検索の抗弁だけというところも多いようですし,そうであれば日本でも検索の抗弁を認めれば十分ではないかという御意見もあるのかもしれません。しかし,やはり検索の抗弁と催告の抗弁とではかなり意味合いが違います。保証人が検索の抗弁を行使するには,少なくとも現行法の上では,453条の要件,つまり,主債務者に弁済の資力があり,かつ,執行が容易であるということを証明しなければならないということになりますので,それを行使できる場面は限られており,検索の抗弁で十分と言うことはできません。以上の点から,乙案に賛成でございます。   加えて,更に一つだけ申し上げますと,連帯保証の場合には,いずれにしてもこの催告の抗弁は認められないことになるのですが,一方で,連帯保証というものが極めて安易に用いられ,容易にその効力が認められているような気がします。別のところで議論するのだと思いますが,連帯の特約について,つまり,どういう場合に連帯という特約の効力が認められるのかについては,検討する余地があるのではないかと考えているところです。 ○中井委員 催告の抗弁について,弁護士会の意見も乙案です。理由については,今の鹿野幹事の意見をそのまま援用させていただきます。 ○鎌田部会長 他にはよろしいですか。   それでは,催告の抗弁につきましては,今,乙案支持の意見を頂戴したところで,イに関しましては,多様な御意見を頂戴しましたので,それらを踏まえて事務当局で整理をさせていただきます。   ただ,規定の内容の第1パラグラフのほうは,455条維持ということですけれども,これには異論はなかったというふうに理解いたしました。連帯保証への適用の関係につきましては,むしろ(ア)の内容次第というところもあるのかもしれませんけれども,連帯保証であるかどうかということとは少し違う観点からの提案になります。今,乙案を支持するという,こういうふうな御意見いただいたところであります。   それから,(2)については御意見は特にありませんけれども。 ○村上委員 (2)のアの1の相殺について2点申し上げます。一つは,連帯債務のときに申し上げたのとほぼ同様の問題ですけれども,相殺の遡及効を見直すかどうかとの関連で,仮に見直すということになりますと,遅延損害金の利率が自働債権と受働債権とで異なっているようなケースでは,保証人が履行拒絶できる額が日々変わってくるということになるだろうと思います。そういうことでいいのかどうかというのが一つ目の問題です。   もう一つ,履行拒絶できるけれども,自働債権も受働債権も消滅せずに存続するということになりますと,一旦保証人が履行拒絶した後,主債務者の債権者に対する債権について弁済や免除,あるいは債権譲渡といったことが発生いたしますと,その後,再度,履行の請求を受けた保証人は,今度は履行拒絶することができなくなるということになります。どちらの立場を採るかによって,そういった違いが出てくるということは明確にした上で議論しておく必要があるんだろうと思います。 ○鎌田部会長 他に(2)に関連して御発言ございますでしょうか。 ○佐成委員 今,部会長は,イの(イ)のところは乙案というふうにおっしゃったのでしたか。これは乙案という感じですか。 ○鎌田部会長 はい。 ○佐成委員 経済界の中では,甲案にしないと意味がないというような御意見も寄せられております。つまり,異論は依然としてあり得るということでして,現時点では経済界ではまだどちらというような意見の一致をみていないということで,よろしくお願いしたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,御指摘を踏まえて更に継続して検討させていただきます。   次に,「4 保証人の求償権」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「4 保証人の求償権」の「(1)委託を受けた保証人が期限前に弁済等をした場合の事後求償権」の第1パラグラフでは,委託を受けた保証人が期限前に弁済等をした場合には,委託を受けない保証人と同内容の求償権,すなわち,保証人が弁済等をした当時に主債務者が利益を受けた限度の求償権しか行使することができないとすることを提案しています。また,第2パラグラフでは,同じく委託を受けた保証人が期限前に弁済等をした場合には,主債務の期限が到来した後でなければ求償権を行使することができないとすることを提案しています。   「(2)委託を受けた保証人の事前求償権」では,民法第460条の事前求償権の制度を廃止するとする甲案と,維持するとする乙案を提案しています。また,甲案の別案として,補足説明の3では,事前求償権に代えて担保供与又は供託の請求権を保証人に付与するとすることを提案しています。   「(3)保証人による事前・事後の通知」の「ア 委託を受けた保証人」の第1パラグラフでは,委託を受けた保証人による事前通知の制度を廃止するという考え方を取り上げています。また,第2パラグラフでは,事前通知の制度を廃止する場合における事後通知の制度について,先に弁済等をした者による事後通知がされる前に,後に弁済等をした者による事後通知がされた場合には,後に弁済等をした者は民法第443条第2項により自己の弁済等を有効とみなすことができるとすることを提案しています。   「イ 委託を受けないが主債務者の意思に反しない保証人」の第1パラグラフでは,委託を受けないが主債務者の意思に反しない保証人による事前通知の制度を廃止することを提案しています。また,第2パラグラフでは,事前通知の制度を廃止する場合における事後通知の制度について,先に弁済等をした保証人が事後通知をする前に,主債務者が弁済等をした場合には,主債務者は民法第443条第2項により自己の弁済等を有効とみなすことができる旨の規定を設けることを提案しています。   「ウ 委託を受けず主債務者の意思にも反する保証人」では,委託を受けず主債務者の意思にも反する保証人による事前通知の制度及び事後通知の制度をいずれも廃止することを提案しています。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いします。   (1)については恐らく余り異論がないだろうと思います。(2)については,甲案の別案も提示されているところですので,それも含めて御意見を頂ければと思います。 ○岡委員 (1)のところですが,弁護士会の一部に異論がございました。保証人が期限前の弁済をした場合で主債務者が相殺等できるような場合が念頭に置かれていると思いますが,そういうときに保証人の求償権に一定程度の制限を加えるのは理解できるけれども,この表現,要するに当時,「利益を受けた限度で」という,この表現で本当にそれが実現できるのか,少し垢のついた言葉ですので,その言葉に対する抵抗が一部ございました。   それから,もう一つの意見としては,条文を設けるほどでもないのではないかと。事例としても少ないし,余り条文で縛らずに検討するので足りるのではないか。その二つの理由から,考え方には共感できるけれども,この表現のこの条文化には反対であるという意見が一部ございました。 ○鎌田部会長 他に,(1)のほか,(2)についても特に御意見はありませんか。 ○松岡委員 第1ラウンドでも大分議論がありましたが,保証人に事前の求償権を認めるということは,保証人に一定の能動的な行動の根拠を与えることにもなるという御意見があり,それはなかなかもっともだと思います。そういう意味で,事前求償制度そのものを廃止してしまうことにはかなり疑念があり,反対です。   ただ,補足説明の最後の段落で指摘されていますように,主債務の弁済期が不確定で,かつ,その最長期をも確定することができない場合において保証契約の後10年が経過したときの保証人保護につき,果たして事前求償権によることが最適なのかを考えますと,やはり疑念があります。ここは直前の3のところに別案として出ておりますが,事前求償権ではない形,例えば免責請求権あるいは担保請求権などによる保護もあり得ると思います。したがって,結論から言いますと,甲案と乙案のどちらを採るかと言えば乙案を支持しますが,乙案を採った上で,一部の場合に事前求償権を廃止をしたり,担保請求権などで置換え若しくは補充するということが考えられるのではないかと思います。 ○佐成委員 (1)ですけれども,期限前弁済における事後求償権の制限に関しては,一部懸念の声がありましたので,御紹介させていただきたいと思います。   ある製造メーカーでは,系列販社がお客様に分割払いで製品を販売する場合には,関連のファイナンス会社に委託保証させているのですが,それでその後,仮に主たる債務がデフォルトになったとすると,関連会社からの全額の期限前弁済は完了させてしまう一方で,お客様との関係では,依然として分割で回収し続け,お客様との関係は従前通り維持しておくということがしばしば行われていて,既にそれがビジネススキームになっているということです。仮にこの規定を設けたとしても,そういった特約を保証委託契約の中でしておけば,その効力が否定されないということであればよいのですけれども,もし否定されるということになると,そういったビジネススキームが維持できなくなるのではないかという懸念があるということです。それが(1)に対するものです。   それから,(2)についても,やはり事前求償権の制度を保証委託契約の中で,実際に使っている場合があって,基本的には保証人自身がその本来業務として債権回収もやってしまうということに,ビジネス上,多くのメリットを見出しているということがあります。つまり,保証人となる関連会社のファイナンス会社など,債権者側のファイナンス会社が,主たる債務者からの債権回収業務まで代行してしまうというビジネススキームはよくあると思います。こうした場合に,もし事前求償権を制限されると,このビジネススキームも維持できなくなる危険性があるのではないかという懸念でございます。ですから,そういったことが起こらない,そういった特約を保証委託契約の中でした場合に,特約の効力が否定されないということであればよいのですけれども,もしそうでないということであれば,乙案を支持したいということでございます。。 ○中井委員 (2)についての弁護士会の意見を申し上げておきますと,基本的には乙案を支持します。459条の「裁判の言渡しを受け」も含めると,4つあるわけですけれども,460条の3号を維持する必要があるのかについては,先ほど松岡委員からもありましたが,これについては削除していいのではないかという意見がありました。   また,1号の破産手続開始の場合についても,これは破産法の世界ですから,そちらに取り込むことによって,ここから削除してよいのではないかという指摘もありました。  実務では,事前求償権が委託契約の中で確認され,変容を受けて,その後の461条の適用を全て排除していると思います。そうすると,現実には委託保証契約の中で事前求償権の内容,行使の時期も含めて決まっている,仮にそうだとすると,委託がある場合にしか事前求償権はないわけですから,委託保証契約の中で全て解決できる問題とも理解できると思っております。 ○高須幹事 おおむね乙案の御意見が強いというようなことは,今,承ったような気もします。私どもの弁護士会も基本的にはそうだというように,今,中井先生からも出たところでございます。ただ,現実問題として,今の事前求償権制度というものが,お話が幾つか出ていましたように,関連会社の保証会社を経由して,債権の回収という形での機能を持っているという事実がある。このこと自体を否定するつもりはもちろんございませんけれども,それと,本来の事前求償権の制度趣旨が何だったのかというところとは,もしかすると,若干そこに違いがあるような気もします。事前求償権制度の意義というものにもう一度立ち返って考えたときに,現在のビジネススキームを全て維持するという方向性のみでいくのかどうかということは少し考えてもいいのではないかと思います。明確な結論もなくて申し訳ありませんが,1点,指摘だけでございます。 ○内田委員 前回の部会で保証に関する比較法的な委託調査の成果が配布されました。これは大変興味深い内容を含んでいるのですが,それによりますと,事前求償権について,元々この部分の日本の規定はフランスに由来しているわけですが,フランスでは破産の場面でのみ問題となっていて,その他については事前求償は問題にならないとされています。また,ドイツでは事前求償権という制度はなくて,免責請求権があるだけだけれども,実際に実務で問題になることはない。英米には事前求償権の制度はない,という調査結果が出ています。比較法的なすう勢がどうであるからといって,それに従う必要は全くなくて,日本の実務にとっての合理性の有無に基づいて判断すればよいのですが,ただ,比較法的なすう勢というのは,それなりに利害調整の結果を示していますので,日本の事前求償権の実務が本当に全ての当事者の利害を合理的に調整した結果なのかどうかということは,いま一度考える意味があるだろうと思います。 ○中井委員 三上委員がおっしゃると思って待っていたんですけれども,実務でよく使われているのは,住宅ローン等の保証会社が典型例で,当該不動産に対して保証会社が担保設定する。現実には事前求償権で競売等を行うこともあれば,任意売却をする場合でも,その売却代金については担保権者に対して支払いがなされている。破産手続に至った場合でも同じような処理をしているということから考えれば,事前求償権がそういう保証会社において一般的に使われているという実務をどう考えるのか,海外ではそういうことがないからなのか,その辺りも教えていただければ,実務ではそういう必要性は少なくともあるのではないかという認識です。 ○三上委員 実務ではおっしゃるとおり,事前求償権は有効に使われており,保証委託契約で明確に規定されていますので,今回の提案も強行法規で禁止するという趣旨ではなくて,当事者間で創設することは構わないという前提で理解する限りは影響はないといえると思います。   また,もし事前求償権がなければ,保証会社が求償権を被担保債権として担保を設定するという今の実務自体が最初からなかったかもしれない。直担にして,つまり金融機関が自ら担保権者になって,保証会社はそれに代位するという実務になっていたのではないかと思います。私はむしろ,事前求償権を廃止する代わりに,先ほど言いましたように,適時執行義務といいますか,信義則上,保証人の負担を重くしない義務の,解釈が分かれるような条文ができるよりは,今のままのほうがより明確であるという意見です。 ○道垣内幹事 保証委託契約があって,その保証委託契約上に事前の求償権を置くという話を伺いましたけれども,先ほどから話が出ておりますところ,すなわち,銀行が保証会社を用いて,そこが事前求償権を被担保債権とする抵当権を実行することによって債権を回収して,その回収額を銀行なら銀行に移転するといった場合を考えますと,事前求償権を認めたとしても別に問題はなかろうと思うのですね。しかし,事前求償権という制度そのものは,保証人が事前求償権を行使して,主たる債務者がそれに応じたからといって,主たる債務者が債権者との関係では免責されるという効果を持っていないわけですよね。これは何を意味しているかというと,保証人が事前求償権を行使した後の,保証人の無資力リスクを,主債務者が負うという形になっているわけなんですが,本当にそれが合理的なのかというのがよく分からない。現実の取引において用いられている事例では,保証人が事前求償権を行使したならば,もはや債権者は主たる債務者に対して履行請求をしていったりはしない,そんな面倒くさいことはしないというものであるということは重々分かります。しかし,それは正に保証委託契約の中で規定できるような合理的な取引なのであり,より一般的に事前求償権というものを条文として置くべき理由には必ずしもならないのではないかと思います。実務を阻害するというつもりはさらさらありませんけれども,この制度が一般的な意味で合理的なのかというと,私は必ずしも合理的な制度ではないと思います。   更に1点だけ付け加えますと,その委任のときにも,受任者に事前の費用請求権はあるではないかという考え方もあるのですが,しかしながら,委任契約の場合には,一般的には相手方との契約当事者は受任者であって,債務者は受任者のみなのです。そうなると,費用をもらった後に,相手方が委任者に対して請求していくという関係は残るのかというと,残ることを少なくとも一般的には前提としていない制度設計になっているのだろうと思います。繰り返しになりますが,受任者のみが相手方に対する債務者であって,その債務者が債務を履行するのに当たって必要な額を委任者から取るという,こういう形になっているわけでありまして,保証の場合と大分作り付けが違うのではないかと思います。私自身としてはデフォルトの制度としては,事前求償権という制度というのは廃止すべきでないかと思います。 ○鎌田部会長 他にはよろしいですか。   それでは,(3)について御意見を頂ければと思います。 ○松岡委員 前回,連帯保証人の事前事後の通知についても意見を申し上げました。そのときの表現が少し拙劣で誤解を生じる可能性があったので,再度申し上げます。事前の通知という制度の趣旨は,通知を受けた者,保証では主たる債務者に,その相殺権その他の抗弁権の行使の機会を保障するもので,そのこと確かです。   しかし,現実の機能としてはそれだけではなく,通知に対する返事によって,既に弁済が行われてしまったことや,主たる債務者が有している反対債権を発見し,保証人がそれを行使する機会をも提供する結果となっています。そうだとすると,一律に事前の通知を廃止するという案は,保証人保護の強化という方向とは反対です。保証人保護の観点では,事前通知の制度は残しておいたほうがいいのではないかと感じております。 ○鎌田部会長 他の御意見いかがでしょうか。 ○松本委員 連帯債務のところでも申し上げたことの繰り返しになると思うんですが,連帯債務以上に保証の場合のほうが,経済的な意味で本来負担していない債務を履行させられるというところがあるわけで,そういう意味から,通知について,より連帯債務以上に必要が高いのではないかと思います。それで,連帯債務のところと同じように,保証人というのも,保証債務の履行請求をされれば,すぐに履行しなければならないという地位にある。だから,通知している暇がない,通知しているとその分,遅延損害金がかさむんだという指摘がされているわけですが,連帯債務のところでも主張しましたように,遅延にならないというルールを確立すれば問題ないのではないかと思うんです。保証人をわざわざ債権者が取っている以上は,その保証人の一定の保護といいましょうか,保証人を前提としたルールにのっとって債権回収を行うということを許容しているわけなので,通知に必要な期間内については,履行遅滞にはならないという解釈,あるいは立法的手当を連帯債務のところと同じようにするということで,今の直ちに履行しなければならない不利益があるからという点は,回避できると思います。 ○道垣内幹事 お二人のおっしゃったことが,私にはよく理解できません。と申しますのは,保証人の保護のために事前通知の制度を設けるというわけですが,事前通知を自分の利益のために保証人がしたければ,自発的に事前通知すればよいだけですよね。問題は事前通知の義務を保証人に課して,その事前通知をしなかったときには,一定のサンクションを与えるかどうかにあるわけでして,保証人の保護のためには事前通知の制度があったほうがよいという論理が私には理解できないところであります。そして,(3)のアの②に関して申しますと,主債務者が先に弁済をしているというときにはきちんと保証人に通知しなければならず,通知がなかったため,保証人が払ってしまったような場合には,保証人のほうの弁済が有効になるということになるわけですので,何ら問題がないと思います。強いて言うならば,松岡委員がおっしゃったところの前半部分,つまり,主たる債務者に抗弁権があるという場合に,抗弁権をすることができるではないかということが多少問題になります。保証人の保護のためだと考えますと,これは保証人が主債務者に聞けばよいというだけの話ですから,義務として事前通知をしなさいという理由にはならないと思いますが,主たる債務者がせっかく抗弁権を持っているのに,保証人がその抗弁権を援用しないで弁済をしてしまって,それによって主たる債務者がそういう抗弁を失ったというふうなときに,主債務者が不利益を被るという,そのことを避けるために保証人に事前通知をさせるべきだということが残ります。お分かりのように,保証人保護のためではなく,主債務者保護のためにです。ただ,そうなりますと,50ページの(2)において,主債務者が行使することのできる抗弁権があれば,保証人は保証債務の履行を拒絶することができるという話ではなくて,拒絶しなければならないという話になるわけです。ともかくも,保証人保護のための事前通知義務という松岡委員と松本委員がおっしゃった理屈というのがよく理解できないのですが,お教えいただければと思います。 ○鎌田部会長 御発言がすぐにないようでしたら,中井委員に。 ○中井委員 よろしいでしょうか。弁護士会の意見をと思ったのですけれども,今の道垣内先生の問題意識を聞いて,なるほど,保証人の義務とするか,通知をすればいいのかという,その点について十分問題意識がないまま弁護士会でも議論していたかもしれません。それはさておき,この(3)ア,イ,ウのうち,イとウについては,弁護士会としては違和感がなく賛成という意見が多かったです。ただ,アについては,事前の通知制度を残していいのではないかという意見が多かった。今の道垣内先生の指摘の問題意識を理解しないままかもしれませんけれども,実務では保証人が保証履行の請求を受けたとき,必ず主債務者にどうなっているのと,そちらで払うのか,払わないのか,現状を教えてくれという事実上の連絡をしていることは間違いがない。従来それが義務としてあったわけですけれども,その実務の運用にそれほどの問題が生じていないという理解が背景にあって,アについては事前通知制度を廃止するまでもないという意見が相対的に多かった。こういう現状です。 ○松本委員 確かに保証人保護の流れで発言してしまったので,道垣内幹事の御指摘はごもっともなところがあると思います。連帯債務者の場合と若干違う面があるということだろうと思います。中井委員がおっしゃったように,通知をするのが実務であって,しかし,保証人がそういうことを十分わきまえた上で,あえて通知をしない場合に,なおそこで保証人保護の理屈を持ってくるのかというと,それは要らないかもしれないですね。ただ,問題は,弁済しなければならないという部分です。直ちに弁済しないと,履行遅滞になるという部分については,なお,保証人として通知をして,確認するまでの間の履行猶予期間を与えるという意味はあるんだろうと思います。義務として,履行通知をしないと不利益にするまでの必要はないというのはおっしゃるとおりです。 ○鎌田部会長 それでは,事前通知については,複数の御意見を頂戴したところですので,それらを踏まえて整理をさせていただくことでよろしいですね。   次に,「5 共同保証-分別の利益」及び「6 連帯保証-連帯保証人に対する履行の請求の効力」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「5 共同保証-分別の利益」では,債権者と保証人との間に別段の合意がない限り,保証人の分別の利益を認めないとすることを提案しています。   「6 連帯保証-連帯保証人に対する履行の請求の効力」では,連帯保証人に対する履行の請求を絶対的効力事由とする甲案,相対的効力事由とする乙案,原則として絶対的効力事由としつつ主債務者と連帯保証人との間に協働関係がない場合に限り相対的効力事由とする丙-1案,原則として相対的効力事由としつつ主債務者と連帯保証人との間に協働関係がある場合に限り絶対的効力事由とする丙-2案を提案しています。   以上の各論点のうち,「6 連帯保証-連帯保証人に対する履行の請求の効力」については,各案の具体的な差異等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のあった部分についての御意見をお伺いします。 ○中井委員 弁護士会の意見を御紹介しておきますと,まず,「5 分別の利益」については,この提案には反対であるというのがほとんどでした。ただ,一部,1単位会,大阪ですが,この提案どおりでいいという意見でした。   「6 連帯保証」につきましても,甲案と乙案で分かれましたけれども,乙案が多数を占めました。理由については,省かせていただきます。   これは私個人の意見ですけれども,本当に乙案,相対的効力事由のみでいいのかということについては,どうかという感覚も持っていまして,つまり丙案のように,両者の関係によって異なる場面があるのではないか。ただ,丙案のような考え方を取ったときに,どうしても批判が出てくるのはこの協働関係なる関係について,極めて不明確であるので,それによって結論を分かれることについて,不安があり,曖昧さが残って問題が大きいと考えています。現実的には,委託のある保証と委託のない保証というのが基本的なメルクマールとしてはあり得るのではないかと,思っています。 ○三上委員 5番の分別の利益をなくすということには,賛成の意見を述べさせていただきます。これまで,大学時代に習って以来見たどの教科書にも,この制度には合理性がないと書いてあって,今更廃止に反対する意見があること自体,私にとっては非常に不思議といいますか,保証人の保護になるなら何をやってもいいという思想というか発想にしか思えないんですけれども,この問題はこの程度にさせていただききまして,6の連帯保証に関しては,基本的に実務的には甲案のほうが有り難いというのが事実です。ただ,実務的には,請求以外はみな相対的事由のほうが有り難いので,ここだけ絶対的効力というのは,理論的には虫がよすぎるのであろうかという観点で,丙-2でも可と考えられるのですが,その際に,協働関係とは何かという定義は,かなり立法的には高いハードルではないかという気がしております。   この議論では,よく主債務者が行方不明の場合の時効中断の手間が例として挙げられますが,最近の高齢化時代の問題として指摘されているのは,行方不明であれば,公示催告等によって対処はできるのですが,主債務者が行為無能力状態といいますか,成年後見状態だけれども,親族が手続をとらないというときに,意思を伝達する手段がないという問題場面です。そういうときにも使える時効の中断方法を残しておいてほしいと考えております。 ○松本委員 ここの記述は連帯債務の記述と基本的に同じ案が並んでいると理解しているわけですが,連帯債務の場合に,不真正連帯との関係をどう切り分けるか,不真正連帯という言葉は使わずに,協働関係のあるなしというような概念に置き換える,あるいは従来型の真正連帯と不真正連帯をひっくり返すという前提で,協働関係という言葉に置き換えるという提案だったたわけです。基本的に契約等に基づく場合は,当然協働関係がある。協働関係がない場合というのが,法律を原因として,従来であれば不真正連帯と言われていた連帯責任が発生する場合を指しているというような説明があったと思いますが,この連帯保証のところは今の議論を繰り返すと,ちょっと分からなくなるんです。基本的には合意によって保証人になってもらう。その中でも,連帯保証人になってもらうというのが普通なので,それは基本的に協働関係があるということではないかと思うんです。保証人になったときは仲が良かったけれども,その後,仲が悪くなったというのを協働関係が「ない場合」というふうに考えるのかというと,何か変な感じがするんですね。そうすると,そういう合意あるいは契約によらないで連帯保証関係が成立する場合というのは,一体どんな場合なのか,商法や会社法にひょっとしたら何かあるのかもしれないんですけれども,どういうニーズがあって,協働関係がないにもかかわらず,連帯保証人になる場合があるのかについて,少しお教えいただきたいと思います。 ○松岡委員 松本委員の基本的な御疑問が理解できていないだけかもしれませんが,保証契約には委託を受けた保証のみならず,委託を受けない場合や,更に保証人の意思に反して隠れて保証をするという場合もあります。そのような場合には,主たる債務者と保証人との協働関係はありませんから,そういう場合に,居るか居ないかも主たる債務者からは分からない保証人に請求がされれば,主たる債務者に請求の絶対的効力が生じるのはおかしいです。それがここでの議論の出発点ではなかったのでしょうか。 ○松本委員 そんなに単純な話であれば,私の先ほどの発言は撤回いたしますが,そういうことなんでしょうか,そもそも。 ○鎌田部会長 はい。 ○松本委員 そうですか。 ○山野目幹事 6の論点について,連帯債務のときにも同趣旨の意見を申し上げましたが,ここを異なる考えで処する必要はないと考えますから,乙案を推すという意見を述べさせていただきます。関連して,一つ申し添えさせていただきますけれども,仮に6の論点について,乙案でいくような方向になったときに,その行き先にもう一つ考えなければいけない問題として,連帯保証というものの在り方という論点があるというふうに私個人は考えておりまして,ここでの議論からは少しそれますし,また適切な時に意見を述べさせていただきたいと考えますけれども,連帯債務というものの概念について改めて幾つかの論点を検討した後,整理すべき必要があると感じておりますし,あと規律の在り方としましても,自然人を保証人とする保証の場合に,随意に連帯保証というものをすることを認めてよいのかということも引き続き議論される必要があると考えます。鹿野幹事の御発言の中に,催告の抗弁権の議論の中でもその方向を示唆する御意見があったと感じます。更にもう一つ申し添えますと,連帯保証という,この言葉自体を今後も使っていくことがよいのかということもあるのかもしれません。様々な保証の被害が起こる現場を少し拝見しておりますと,あなたは連帯保証人なのですからね,と言うと,何となく,歯を食いしばって,極限まで追い詰められても債務を負担しなければいけないような雰囲気が醸し出されることがなきにしもあらず,でありまして,この言葉を今後使っていくことの適否みたいなことについても,また必要な時に問題提起をさせていただきたいと感じております。 ○鹿野幹事 連帯保証が認められるための要件,つまり,連帯の特約がどういう場合に認められるのかということについては慎重に検討すべきだということは,先ほど少し触れましたし,私自身は,山野目幹事が今指摘されたことと,基本的に同じ方向で考えております。  なお,6の問題については,連帯債務のときに同じような趣旨のことを申しましたが,もしここでの絶対的効力を直ちに認めるということの不都合が専ら,主債務者の関知しない連帯保証人に対しての履行請求によって,例えば時効の中断があったり,あるいは遅滞の効果が発生したりということにあるとすれば,例えば主たる債務者に対する通知ということを条件にして,絶対的な効力を生じさせるという仕組みも,もしかしたら考えられるかもしれないと思います。これについては,更に連帯債務の場合も含めて,より具体的に考えてみる必要があるとは思いますが,ここでも一言添えておきます。 ○潮見幹事 これは事務局でこれから文言を作っていくときに,御検討いただければという程度のことで一言申し上げます。現在の民法の465条第1項の,効果が書かれている部分なんですが,その全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用するという形で,連帯債務の規定を準用しています。しかし,その書きぶりは全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときという形で,一種の不真正連帯というパターンで書かれているので,真正連帯と不真正連帯を分けるか分けないかという議論がまだ決着していないところで言うのは変なのですが,最終的に規定を整理するときに,ここの求償関係をどのように捉えていくのかについて,時間があれば留意していただければと思います。 ○松本委員 先ほどとんちんかんなことを言ったようですが,協働関係という言葉が,委託を受けていないということであれば,そっちのほうの言葉を使えばいいのに,なぜ協働関係という別の概念を持ってくるのかというのがちょっと理解できなかったので,恐らく先ほどのような発言になったんだろうと思うんです。委託を受けていない,主たる債務者本人も知らない保証人が勝手に債権者との間で保証契約を締結して絶対的効力が債務者に及んでくる,不利な部分の効力が及んでくるというのは,それは極めて不当なことだから,一般論としての甲案というのはあり得ないということになると思います。そうなると,乙案かあるいは丙案ということになると思いますが,丙案で協働関係という言葉を使わないで,委託の有無で分けるほうがよっぽど分かりやすい。つまり,当事者間の契約による連帯関係の成立であれば,絶対的効力が及ぶということで,分かりやすいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 事務当局からありますか。あえて委託の有無ではなくて,協働関係の有無にしたことについて何か説明があれば。 ○金関係官 連帯債務のところの議論と合わせた形で提案をしているからというのが一つの理由ですけれども,もう一つには,連帯保証人が主債務者からの委託を受けていない場合というのは,必ずしも主債務者が連帯保証人の存在を知らない場合だけではないと思いますので,主債務者からの委託は受けていないけれども主債務者の意思には反しておらず,かつ,主債務者と連帯保証人との間に協働関係が認められる場合,ここに言う協働関係は連帯保証人に対して請求がされると当該連帯保証人がそれを主債務者に伝えることが期待される関係という意味で使っておりますけれども,そのような協働関係が認められる場合も十分にあり得ると思います。この一点だけを見ても,委託の有無と協働関係の有無はパラレルに捉えられる概念ではないと思いますので,そのような観点から,ここでは委託の有無ではなく協働関係の有無で分けることにしております。 ○中田委員 委託の有無で分けるというのは,中井委員と松本委員から出てきたアイデアですが,債権者からすると,委託の有無が分からないことがあると思うのですが,その場合に,債権者の債権管理の上で,委託の有無によって効果が異なるとすると支障が生じないだろうかということを考えたんですけれども,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 これは実務界にお伺いすることになりますか,それとも,理論的にでしょうか。 ○道垣内幹事 私は実務家ではないですが,支障はあるのだと思います。しかし,支障があるときに,ではどのような行為をデフォルトとして要求するかという問題であろうと思います。支障があるから甲案にするということには必ずしもならないわけであって,支障があるので,個別的に請求をしなさいというふうにすることも考えられます。そして,そのような考え方を徹底すると,乙案になるわけですけれども,しかしながら,外部的に分からなくても,保証人と主債務者が実は内部ではしっかりつながっていることもあるわけでして,そのときに,いやいや,それは飽くまで外部には分からないことなのだから,債権者は両方に請求をしなければならないのだという必要はないだろう。そこで,救うべき場合は救うということで,丙案が出てくるわけであって,それでよいのではないかと思います。  1点付け加えて申しますと,私は委託の有無で分けるというのには必ずしも賛成できませんで,金関係官がおっしゃったように,もう少し実質的な問題だろうと思います。この「協働関係」という言葉が前回の連帯債務のときから評判が悪いわけですが,これは「共同関係」という言葉がある種手垢にまみれているから,何か別の言葉を用いたというだけであって,この言葉が絶対に使われなければならないという性質のものではないと思います。したがって,「協働関係」という言葉が悪いから丙案が悪いということにはなりません。 ○松本委員 中田委員の御指摘との関係では,丙-2案にすれば,今の疑問の点はクリアできるのではないかと思います。つまり,保証委託があったという場合の立証責任の問題として処理をする。相対的な場合を原則としておいて,債権者の側として,委託関係に基づく連帯保証人だということが分かっている場合,証明できる場合,あるいはこの事務局案では協働関係があるという場合なんでしょうけれども,そういう場合に絶対的効力だというふうにすれば,債権者の側からの予見可能性はクリアできるだろうと思います。私は保証実務はよく分からないのですが,金融機関として,債務者と無関係な保証人と称する人が現れたから,では保証人になってもらいますという実務を実際にやっているんでしょうか。基本的には委託に基づく保証人しか取らないのではないですか。破綻しかかっているような場合に,債権者がどこかから誰か保証人を連れてきてというのがひょっとしたらあるかもしれないですが,当初の融資契約の段階で,全く無関係な第三者を保証人に取る,委託も受けていない債務者との関係も全く不明の人を保証人として取るということはおよそ考えられないと思うんですが,いかがでしょうか。 ○三上委員 実務的な観点からは,松本委員がおっしゃるとおりで,「請求」の絶対効を使いたいと思っている保証の場面というのは,金銭消費貸借契約証書面なり銀取面なりに,債務者も一緒に判子をついている場面での保証人で,そこに特に「委託します」という明文はないこともあるんですけれども,それが協働関係と認められるのであれば,少なくとも実務上は支障なく回ると思います。 ○中井委員 委託の有無について,債権者が知らないという事態は私も実務的には想定できないと思っています。委託の有無については,債権者は分かっている。私も,ここで御提案は基本的には乙案だろうと思っているのですが,丙案でるる説明されているように,一定の協働関係なりが認められる場合で乙案を貫徹することは適当でないなと思うものですから,他方で協働関係については,私は前回欠席していますから分かりませんけれども,この概念自体については疑問があって,法的安定性を害するように思います。そうしたときに,一番分かりやすいのはやはり委託の有無ではないかと考えた次第で,委託があるなら保証人に何らかのアクションを起こしたときには主債務者にも基本的には伝わるべきものであって,その利益を害することは少ない,基本的にはないであろうと考えていいのではないか。したがって,何らかの形で乙案を修正するとすれば,委託の有無を基準とするのが実務的には分かりやすいという意味で発言いたしました。 ○道垣内幹事 私自身の問題意識としては,主債務者と保証人との間の委託契約が実質的になされているのかということを,ある一定の類型の保証については懸念しているところであります。つまり,先ほども例が出ましたけれども,一般のローン,住宅ローンとかにつきまして,銀行からお金を借りるに当たって,銀行系の保証会社が付くというときを考えますと,それは形の上では,委託契約というのが結ばれていても,それはいわゆる当該保証会社と債務者との間が非常に密接な関係があるという意味における委託なのかというと,私はそうではないと思います。   そうしますと,どうも委託契約の存在だけで切ることはできないのではないかという気がどうしてもするのですが,私の実務的な認識自体が誤っているのかもしれませんが。 ○鎌田部会長 他に御意見いかがでしょうか。この点につきましては,分科会でそれぞれの立場を取ると,どういうことになって,どこに違いが出てくるのかということの御検討を頂きたいというのが事務当局の提案ですけれども,そのような取扱いをさせていただいてよろしいでしょうか。   それでは,そのようにさせていただきます。   では,次に「7 根保証」について御審議を頂きます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「7 根保証」の「(1)規定の適用範囲の拡大」では,民法第465条の2以下の根保証に関する規定の適用範囲について,貸金等債務が主債務の範囲に含まれるかどうかにかかわらず保証人が個人である根保証契約一般に拡大するとする甲案と,適用範囲の拡大はしないとする乙案を提案しています。   「(2)根保証に関する規律の明確化」の「ア 元本確定前における保証債務の履行請求」では,主債務の元本が確定する前における保証債務の履行請求を否定する甲案,肯定しつつ保証債務の履行がされた額の限度で極度額が減少するとする乙案,明文の規定を設けないで解釈に委ねるとする丙案を提案しています。   「イ 元本確定前における保証債務の随伴性」では,主債務の元本が確定する前における保証債務の随伴性を否定する甲案,肯定する乙案,明文の規定を設けないで解釈に委ねるとする丙案を提案しています。   「ウ 特別の元本確定請求権(特別解約権)」では,一定の特別な事情が発生した場合に主債務の元本の確定を請求することができるという特別の元本確定請求権,いわゆる特別解約権を認めるという考え方を取り上げています。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分のうち,まず「(1)規定の適用範囲の拡大」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○岡委員 (1)の根保証については,家賃保証も念頭に置いて議論した上で,甲案,個人一般に拡大すると,この意見に賛成意見が多数でございました。 ○野村委員 私も甲案に賛成したいと思います。平成16年の改正当時にも貸金等債務に限定するということについて,非常に疑問を感じていました。補足説明にもありますけれども,利用実態を踏まえて,可能であれば広げてもよいのではないかと思っております。   今,家賃保証の話が出ましたけれども,平成16年当時から考えていたのは,継続的売買契約における売買代金債務の保証についても拡大してもいいのではないかと考えておりました。 ○中田委員 私は甲案のように,一般的に広げるよりも,特定の類型を増やすというほうが現実的ではないかと考えております。具体的には今,野村委員のおっしゃった継続的な取引から生じる債務の信用保証と,それから,不動産賃借人の債務の保証が検討対象になると思います。前者は難しい問題はそれほどないのですけれども,後者,賃借人の債務の保証については非常に難しい問題があって,別途検討する必要があると思います。といいますのは,賃借人の保証人の保護の問題としては,賃料債務以外の責任,特に賃借不動産の滅失や損傷に関する責任の問題が一つあります。それから,もう一つ,賃貸借期間と保証期間の関係をどう調整すべきかという問題があります。これが他の根保証と違った点でありまして,やはり別に考える必要があると思います。ただ,賃借人の保証人の保護が必要でないかというと,それはそうでもないわけでして,特に借地借家法制が発達して,賃借人保護が進んだ結果,それに伴う賃貸人の負担を保証人にしわ寄せしているという現象があるかもしれなくて,何らかのバランスを取る必要があると思います。ただ,そこで例えば現在の貸金等根保証のような規律でうまくいくかというと,そうでもなさそうですので,賃貸人の情報提供義務とか,損害軽減義務とか,あるいはごく例外的な場合に保証人が保証契約を解除する権限とか,ちょっと個別に考える必要があると思います。   それから,以上の二つのタイプのほか,身元保証を民法に統合するということも検討対象になると思います。ただ,何しろもう時間が限られておりますので,全部は無理かもしれませんけれども,今のように個別的な類型の中で取り込めるものを考えてはどうかと思っています。 ○山野目幹事 7(1)の論点につきましては,第1読の際にも,甲案が望ましいという意見を述べさせていただきました。今もそれは変わっておりませんで,第一義的には甲案を推すという意見を述べさせていただきます。その上で,甲案をめぐってこの間,各方面から意見も寄せられて論議があったことを踏まえて,第二義的にこういうことも考えられるのではないかという意見を述べさせていただきます。ただいま中田委員からは,甲案の別案,その1に当たるものを言わば御提案いただいたと受け止めましたが,それと異なるタイプの別案を私のほうから申し上げさせていただきたいと考えます。それは現行の貸金等根保証に係る規律のうち,極度額に関する部分については一般化をするという行き方があり得るのではないかというふうに感じます。各方面から寄せられた意見を拝見しますと,元本確定期日についての貸金等根保証を想定した規律をそのまま一般化してもらうことについては,実務上の不便が大きいという指摘があって,それには一定程度理解が可能なものが含まれていないこともありませんが,極度額については必ずしも説得的な批判がなされていないように感じます。また,常識論から言っても,どこがアッパーになるのかということが根保証で決まっているということは,規律として理解可能なものなのではないかと感ずるものですから,ニックネームを付けますと,甲案の別案その2というのもあり得るのではないかというように感ずる次第でございます。 ○鎌田部会長 他に御意見いかがでしょうか。   甲案,乙案の他にも別案といいますけれども,今の調子でいくと,丙案,丁案というふうにどんどん増えてきているのも…… ○深山幹事 私も基本的には甲案,すなわち,現行法の規律を貸金等根保証債務以外のものにも広げるという考え方を基本にすべきではないかと考えておりますが,既に議論があるように,全てそれで問題がないかというと,やはり個別に問題が出てくる点が幾つか考えられますし,最も実務的に問題になりそうなのが,既に議論のなされている,賃貸借契約,とりわけ借地借家法の適用のある賃貸借契約のところであると思います。より問題が大きいのは,今御指摘があった,極度額の問題よりも,期間の問題だろうと思います。すなわち,借地借家法において民法の特則となっている期限に関する強行法規がございますので,賃貸借期間について借地人や借家人が保護されているわけですが,その結果,保証期間だけが終了する場面をどう調整するのか,あるいは,調整する必要がないのかというところが問題となるだろうと思います。特別法によって生じる例外的な場面ではありますが,いろいろな契約類型の中で,そういう場面というのが他にもあるのかもしれませんが,ぱっと思い付くところでは,やはり借地借家法のところです。規律としては,原則として現行法の規律を一般化した上で,例えば賃貸借については別の特則を設け,その特則の範囲も,極度額のことまで入れる必要があるかどうか,入れるとしたら,例えば賃料1年分とか,何かそういう別の極度額の定め方というのがあるのかもしれませんが,そんな特則を入れる。あるいは期間については,賃貸借期間に連動させる規律など,個別の契約類型なり,他の法律による規律がある類型に限った特則を設けることも加味した上で一般化をするという甲案,甲の修正案の何番目になるのか分かりませんが,そのような考え方もあってよろしいのではないかと思います。 ○岡田委員 私も甲案に賛成ですが,先ほど来出ている,家賃の問題ですが,これに関してはいろいろな問題があるし,根保証になじむのかどうか,貸金等の部分になじむのかどうか分からないのですが,保証人の期間,契約期間に関して何もないような感じで,賃貸借が続いている間は保証契約も続いているというのは,余りにも保証人に酷なような気がするので,甲案に入れば,その問題も解決するような気がします。 ○中井委員 (1)ですけれども,私も基本的に甲案を支持します。その上で,先ほど中田委員がおっしゃられたように,身元保証契約について取り込むことが難しいとしても,それについても極度額を導入することは是非検討していただきたい。   それから,賃貸借契約の賃借人の債務の保証について,皆さんから,これは一定,例外規定を置かなければならないという御指摘があるのですが,果たしてそうだろうか,まず,極度額については山野目幹事がおっしゃられたように,これを設けることについてはそれほど違和感がないのではないかと思われます。   期間については,なるほど,賃貸借契約は更新で継続するわけですけれども,例えば5年なら5年という関係が,賃貸人と賃借人の中で平穏無事にいったからこそ,つまり,賃料の支払いも滞りなくいったからこそ,契約が継続しているわけで,そこで当初予定されたリスクについては,一応回避がなされているのではないかという評価も可能ではないか。 ○中田委員 今の中井委員の期間についての御発言についてですが,通常の信用保証ですと,保証人が解約すると,債権者はそれ以上与信をしないという選択が可能だと思うんですけれども,賃借人の保証の場合は保証人が解約したり,あるいは保証期間が切れたとしても,賃貸人はもう貸さないということは普通はできないわけですので,そこは通常の信用保証と随分違うのではないかと思うんですが,いかがでしょうか。 ○中井委員 そこは身元保証契約についても5年なら5年という期間があって,その後,直ちに解雇できるわけではない。それと類似して考えていると言ってもいいのかもしれません。現実に,賃貸借契約において保証人を設けるのは,やはり初めて会ったどこの人か分からない賃借人に建物を貸すという重要な行為をするから,そこで賃料の不払いが発生したときに,何らかの担保として保証人が必要だ,その必要性,合理性は理解できます。しかし,5年間債務不履行なく継続したからこそ,賃貸借契約は継続しているわけですので,その後,賃貸人としては賃借人に対する与信は継続しますが,果たして,なお,商取引と同じような保証を考えなければならないのか,そういう必然性まではない。身元保証契約に引き寄せて考えているという理解でも結構かと思います。 ○佐成委員 甲案,乙案のどちらが良いということではないのですけれども,補足説明にも書かれておりますけれども,もし甲案が採用された場合には,中小企業向けの法人カードのサービスをやめるということを表明されている方もいらっしゃるというふうに聞いております。それだから乙案がいいとか,そういうことでは必ずしもないのですけれども,そういったサービスが一部縮小される可能性が出てくるということだけは申し上げておきたいと思います。 ○深山幹事 今の中井先生の御指摘の,賃貸借契約のところの,一定期間が過ぎたらもういいのではないかということについてなんですが,アパートなんかの賃貸で,契約締結時には賃借人がどういう人か分からないというような場面であれば,5年間,賃料を滞りなく払えば,その後は賃借人自身に対する与信の問題として処理するという議論が妥当するのかと思うのですが,例えば事業者に貸して,順調に事務所として使って経営していたけれども,経営が悪化して,7年目に倒産をするというような場面とか,必ずしも人間関係なり,素性自体には問題がなくても,いろいろな経済情勢の変化で,数年後,保証期間経過後に倒産をする,あるいは勤めていた会社が倒産をするなど,いろいろな事情で資力を失うような場面というのもあります。それから,これは極度額との兼ね合いもあると思うんですが,原状回復義務が問題になるのは,賃貸借契約が終了する場面ですので,そういう場面は,すぐには来ないわけで,保証期間契約後に原状回復の問題が生じて,もちろん敷金保証金である程度担保していることが実務上は多いと思いますが,まとまった金額の債務を賃借人が負う場面で,そのときに保証人がいないという状態でいいのかどうかというのが,やはり問題になり得るんだろうと思います。   そういう意味で,保証期間を単純に一定期間で切って,身元保証のような規律に引き付けて考えていいのかということについては,やや疑問があるということを申し上げておきます。 ○高須幹事 今の議論を通じて,この論点に関しては,いわゆる賃借保証をどうするかというところが非常に大きな問題だということが事実認識として浮かび上がったのではないかと思います。確かに両方の面があって,借主の保護という観点から,賃貸借契約関係は簡単には終了しないという中で,保証人だけが離脱するということが期間制限という形でなされていいのかという問題があることはある。   ただ,ここの問題は実際上,いろいろな大きな問題が起きているところでございまして,一度保証してしまった場合に,いつ終わるとも限らない中で,保証契約の継続を常に迫られるということなのかという問題もあると思います。   したがいまして,今日の議論を通じまして,当然にここでこの甲案の一般的な規律を全て及ぼしてしまうということに対しては,確かにいろいろな問題点があるということは踏まえなければならない。そう思いますが,もう一方で,家賃保証した保証人が,保証関係から離脱できるという何らかの法理というものもやはり構築すべきではないか。それがワンセットで構築される中で,初めて例えばここでは家賃保証を切り離すということも合理性が出てくるのではないか。そういう意味で,もう少し総合的な観点から捉えたらいいのではないかと思います。 ○岡委員 その家賃保証を根保証のここに入れた場合に起きる問題点を,弁護士会でも今出たように議論をしてきております。   原則として,個人の保証自体を禁止しようというのが,弁護士会の基本スタンスで,ただ,家賃保証については今すぐは無理であろうということで残しておりまして,前回配られた9の2,10の2の資料を見たときに,5年ごとに判子を取るのはたまらない。5年後に判子を取れなかった場合には解除させてほしいと,そういう御意見がありましたけれども,そこは保証人を立てるという債務を,5年後にもし履行できなかった場合に解除できるかできないかは,信頼関係理論で規律できるのではないか,5年間,何の債務不履行もなく経過したときに,保証人が更新に判子を押さなかった場合,その場合には信頼関係破壊とはいえず,解除は認められないであろうと。しかし,都度都度,家賃を滞納し,保証人が何回か弁済して,辛うじて解除に至らなかったような場合,そのような場合に,5年後に保証が切れてしまった,そのときには,信頼関係破壊の法理によって解除に至る場合もあり得るのではないかと。それは信頼関係破壊法理で調整できるんだから,やはり家賃保証の5年,判子を押さない限り5年で終わると,そういう規律を導入してよいのではないかというのが弁護士会の意見でございます。弁護士会というか,私の今の考えでございます。 ○中田委員 保証人を保護するために,賃借人の保護を薄くするというのも,またそれはそれで問題かなという気がします。そこのバランスの取り方が難しくて,大審院以来の判例で,特別解約権と呼ばれるものが,例外的に認められる場合があるわけですけれども,それを何らかの形で組み込むことができるかどうか,組み込むとして,それは不動産賃借人の保証に限るのか,もう少し一般化するのか,そういうことが課題になっていると思います。 ○鎌田部会長 保証人死亡の場合はどう考えるんですか。 ○中田委員 これも大審院判例は,保証人が亡くなった場合と,賃借人が亡くなった場合,いずれも相続されると言っているわけですね。その結果,例えば西村博士なんかは,保証人の子孫は賃借人の子孫を永久に保証することになる,それはおかしいではないかという,ちょっとセンセーショナルな言い方をされているんですが,もう少し具体的な場面を考えつつ,規律を試みるべきではないかと思っています。 ○鎌田部会長 実際上,減りつつありますけれども,借地の場合,存続期間が随分長いので,現実に,見も知らぬ相続人同士が賃借人,保証人になっていて,そこで紛争が起きるというケースもあるようなので,そういうものにどう対処するかということがここでは関係してきますので。 ○中井委員 ここで甲案を支持するという意味は,契約当事者が死亡した場合はそこで終了するという理解を当然の前提としています。これは念のため,申し上げます。 ○松本委員 中田委員が立てられた,賃借人保護と保証人保護のバランスを取るべきだという御意見について,若干違和感があるのは,なぜその二者のバランスになるのかという点です。賃貸人と賃借人の保護のバランスというなら分かるんですが,保証人は言わば無償で出捐をするという立場です。賃借人と保証人のバランスではなくて,賃借人と賃貸人とのバランスに保証人の有無がどういう影響を及ぼすのかというのはよく分かるので,その点は岡委員が先ほど発言されたような,信頼関係の問題に最終的に還元して処理ができるのではないかと思います。途中で保証人が離脱した場合の問題に関しては,恐らく最初の段階,賃貸借契約成立段階で,保証人を立てない限り貸してくれないという契約の場合は,これは保証人になってくれる人が誰もいなければ,借りられないというだけの話になってしまうわけです。そうすると,保証人がいない限り賃貸住宅に住めないというのは国の政策としていかがなものかという別の議論が出てきて,処理がされるわけです。最初は賃借人と保証人の関係がうまくいっていたが,その後そうでなくなったという話と,最初から保証人が見付からないという話は分けて考えてもいいのではないか。普通であれば,最初の数年間問題がなければ,引き続き保証人になってくれるケースが多いだろうし,仲違いした場合であれば,更新の際に新たな保証人をその時点で探してくればいいということで,保証人が見付からないから,不動産を借りられないという局面と結果は同じになってしまうのではないかと思います。 ○鎌田部会長 むしろ原案よりももう少しきめ細かな提案が出てきましたし,個別の想定するケースごとに考慮すべき要素がかなり複雑にもなっているようですので,事務当局からの提案にはありませんけれども,分科会で少し御検討いただくということにしてはいかがかと思うのですが,どうでしょうか。   そのようにさせていただいてよろしいでしょうか。ということで,3時半になりましたので,ここで15分間の休憩を取らせていただきたいと思います。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開いたします。   根保証の「(2)根保証に関する規律の明確化」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○大島委員 70ページの最後のウの「特別の元本確定請求権(特別解約権)」についてでございますけれども,商工会議所には当該企業の株式を100%保有し,会社の連帯保証人をしていた代表者が突然脳梗塞で倒れてしまった際の対応や,自らが創業した会社の根保証人になっていたところ,株式を譲渡して,別の会社の子会社になったものの,保証契約を切断してもらえないといった相談が寄せられております。また,中小企業の経営者は,取引先の企業から根保証を求められるケースが多いのですが,社長を退き,株も譲渡して,その会社と縁がなくなっているにもかかわらず,十数年ぶりに連帯保証人としての支払いを求められた事案があるとも聞いています。これは社長を退く際,新代表者を連帯保証人とするよう,契約書の名前は書き換えてもらったものの,書き換えを忘れていた取引先が1社だけ残っていたそうで,当社が破産したために請求を受けたというケースです。破産に至るまで巨額に膨れ上がった債務に対し,経営に関与していないにもかかわらず,社長を退いて,十数年ぶりに責任を取らされるというのは少し酷な話ではないかと思います。   中小企業特有の問題かもしれませんが,検討の際にはこのような実態もあることを踏まえて御議論いただけると幸いに存じます。 ○岡委員 弁護士会の多数の意見を御紹介申し上げます。まず,アの保証債務の元本確定前の履行請求ですが,大半は甲案賛成でございます。根抵当権と同様のシステムにしておくことでよいのではないかというのが理由でございます。ただ,家賃保証については少し別に考えてもいいのではないかという意見はございました。加えて,債権者からの元本確定請求制度を,それを設ければ,あるところで打ち切って,債権者が請求できるのではないかという意見もございました。   それから,イの随伴性についても,基本的には甲案が分かりやすいだろうと。ただし,債権者のほうから確定請求できる制度を組み合わせればよりよいのではないかということでございます。   ウについては,今,大島さんがおっしゃったのと同じように,一定の特別な事情というのをどこまで書き込むのかによって,結論は変わってくると思いますが,基本的にはこの制度を設けるべきであるという意見が圧倒的多数でございました。 ○三上委員 まず,アとイに関しましては,これは任意規定である,契約で変え得るという前提でのお話になりますが,乙案を支持します。これだけ議論になっているのに,丙案のように明文化の機会を逃すことももったいないと考えています。今の実務は乙案を前提にできておりまして,もし仮にデフォルトルールとしてでも甲案になるのであれば,経過措置を置いて,施行前のものはこれまでどおりの解釈というような形にしていただかないと,大混乱が生じると思います。 それから,ウに関しましては,先ほど大島委員からの意見もありましたが,そういうことをなくすために5年間ないし3年間という期間ができたのであって,それ以外に信義則上問題になるケースはあり得るかもしれないですが,3年,5年という短い期間を考えればレアなものに限られるはずで,別に法律に書き込まなくても解釈で十分であり,特に解約告知権というものを別途設ける必要はないと考えます。   16年改正のときには,全銀協の意見として,現行法の5年ごとというルールではなくて,根抵当権と同じように3年経てばいつでも確定請求ができる制度のほうが簡便でいいのではないかと,その3年というのは仮置きとしましても,一定期間たてば自由に確定請求できるのであれば,例えば社長から退いたときに,確定請求できるわけで,そういう制度のほうが,たとえ3年,5年であっても,保証人に更新の毎に将来発生するリスクを予見させるよりもいいのではないかと理由もつけて,対案として提案したんですが,結局現行ルールを選択したわけです。今,銀行界でどちらの制度がいいかアンケートを取ると,現制度のほうがいいという意見のほうが多少多いくらいなんですけれども,現行法支持理由のほとんどは,もう既にルールとして回っているのをまた別のルールを作り直すのが面倒であるというものです。  また,根保証規制の対象範囲の拡大については,もし拡大するのであれば,5年ごとに保証意思を確認して手続を取り直すというのは,我々金融機関ですら,結構,日程管理等々大変な作業です。継続の手続も決められた期間内でしか取れませんし,こんな厳格な手続を拡大した範囲にそのまま適用していいのかということも考えておく必要はあると思います。保証から離脱する手段をもっと柔軟にするという点では,16年改正時の全銀協提案のような選択肢も十分に検討に値するとは思いますが,それを否定してこういう制度ができて,もうその前提で実務が出来上がってしまった以上は,この制度のままでいい,別途解約告知規定を導入することには反対だ,という意見になるということです。 ○野村委員 ウについてですけれども,平成16年当時,従来の学説や判例の特別解約権に関する考え方がそのまま維持されているのではないかという理解がかなり強かったのではないかと思います。ただ,現実には今,三上委員が言われましたけれども,元本確定期日と元本確定事由を定めたということで,全く従来の理論に影響がないかと言えば,それは影響しているのだと思います。そういう意味で,もちろん,特別解約権が全くなくなったということでは必ずしもないのではないかと一方では,思いますが,明確でないことはそのとおりで,特別解約権が必要な場合はかなりあるのではないかと思います。ただ,問題はうまく文言で要件を表現できるかというところにあるのではないかと考えております。 ○山野目幹事 (2)のウの論点について,意見というよりは,所感のようなことを発言させていただこうと考えますが,既に幾つか御指摘があったように,いわゆる特別解約権なるものを認めたほうがよいのではないかという立法需要があることは私も同感ではあります。しかし,この部会における調査審議の現在の段階は,この「一定の特別な事情」というものについての具体的な提案なしに,設けたほうがよいということを言いっぱなしにして済まされる段階を過ぎているものであろうというふうに感じます。部会資料の中でも特段の立法提案がなされていないという,お叱りのような記述があるわけでございます。   そこで,それについての工夫が具体的にあり得るということが本日,ないし分科会等で議論する際ぐらいの時期までに出てくれば別でありますけれども,それが困難であると仮定いたしますならば,特別解約権というよりも,むしろニックネームを付けますと,一般解約権とでもいうのでしょうか,現行の元本確定期日に関する5年ないし3年という期間の規律をもう少し短めに見直すか,あるいはまた,根保証人のほうから比較的短い期間,それが経過した後に行使可能な一般的な元本確定請求権を与えるような規律といったものを考えることによって,御指摘があったような問題に対して応えていくということしかないのではなかろうかというようなことを感じております。まとまりのない意見ですけれども,感じているところを率直に申し上げさせていただきました。 ○鎌田部会長 他にはよろしいでしょうか。   それでは,これらの点についても,今,頂戴した意見を踏まえて,更に検討を続けさせていただくことにします。   それでは,次に「8 保証人保護の方策の拡充」及び「9保証類似の制度」について御審議いただきます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「8 保証人保護の方策の拡充」の「(1)保証契約の締結の制限」では,保証人保護の方策として,主債務者が消費者の場合における個人を保証人とする保証契約や,主債務者が事業者の場合における当該事業の経営者以外の個人を保証人とする保証契約について,一定の例外を除き無効とするという考え方を取り上げています。   「(2)保証契約の締結の制限以外の保証人保護の方策」では,保証契約締結の際における保証人保護の方策,保証契約締結後における保証人保護の方策,契約条項の効力の制限の三つに分類した上で,中間論点整理に挙げられた保証人保護の方策をそのまま取り上げています。   「9 保証類似の制度」では,保証契約に類似するが主債務への付従性がないとされている契約類型について,新たな明文の規定を設けないことを提案しています。   以上の各論点のうち,「8 保証人保護の方策の拡充」の「(1)保証契約の締結の制限」と「(2)保証契約の締結の制限以外の保証人保護の方策」については,最終的な規定の要否についてはもちろん部会で決定することになりますが,仮に規定を設けるとした場合における具体的な規定の在り方等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,これらの点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ただいま説明のありました部分のうち,まず,「8 保証人保護の方策の拡充」について御意見をお伺いしたいと思いますが,この論点につきましては,日本弁護士連合会及び山野目幹事から資料が提出されていますので,最初にこれらについての説明をお伺いしたいと思います。まず,日弁連からお願いいたします。 ○中井委員 それでは,中井から日弁連の意見の紹介をさせていただきたいと思います。既に2012年1月20日付の日本弁護士連合会の保証制度の抜本的改正を求める意見書を配布させていただいているかと思いますが,その概要を説明させていただきたいと思います。日弁連は今回の民法改正について,これまでパブコメ等に対するコメントをする,ないしはバックアップ委員会を作って各単位会の意見を集約して,我々,法制審に出席している委員ないし幹事に意見を反映させるという手続を行ってきました。しかし,個別具体的な問題に対して,具体的提案をしてきたところはございませんでした。それに対して,この保証制度の抜本的改正を求めるという点においては,日弁連として初めて正式な機関決定を受けて,公表したものです。そういう意味で,我々としてもこの意見を尊重して,ここで意見の表明をしたいと考えております。  内容につきましては,既にお手元にお配りしておりますので,見ていただいているかとは思いますけれども,簡潔に概要を申し上げたいと思います。目指すところは,個人を保証人とする制度について,抜本的に見直すという点です。個人を保証人とすることによる問題というのが,現に我々弁護士としては身近に見聞きし,経験していること,その事実に基づくのだということをまず御理解を頂きたいと思います。その理由については,保証がいわゆる情義性,未必性,無償性,軽率性という下で締結されることから由来しています。実際の数字で申し上げると,日弁連の消費者問題対策委員会の調査によりますと,保証債務を理由とする倒産申し立てが,破産債務者の約25%,個人再生債務者の約16%を占めているという統計数値があります。また,保証を理由とする自殺,自死が相当数に上っているという事実です。具体的にこの数字を統計的に拾うことはできませんけれども,経営者が倒産するに当たって最も心配していることは何かという質問に対して,「従業員の失業」と答えたのが23.8%に対して,「保証人への影響」と答えたものが21.3%で,「家族への影響」の19.5%に対して,それを上回っているという事実です。また,近年の内閣府の平成23年版自殺対策白書等を見ましても,経済,生活問題を原因とされる自殺者は相当程度占めておりますし,その中にやはり経営の行き詰まりを理由に命を絶っている例が少なからずあるという指摘がございます。 また,保証自体が事業再生の阻害要因になっているということは近時の金融庁の調査結果等にも記されているところです。  こういう事実から,保証につきましては法人保証,機関保証と,やはり個人保証とは別に考えるべきである,いわゆる経済合理的な計算に基づいて行われている法人保証と,必ずしもそうではない個人保証は区別して法律上の組み立てをすべきではないか,それも一般法の中で明らかにすべきではないかというのが弁護士会の考えです。   とはいえ,個人保証が果たしてきた役割を無視できないことは理解をしております。そこで,原則禁止としながらも例外を設けることが必要であると考えています。問題はいかなる例外を設けるかです。一つは,信用保証,金融機関の借り入れに関しましては,第三者保証を禁止する。逆に言えば,経営者保証は認めるという提案をしております。これは現実の金融実務に即しても,近時,既に金融庁の監督指針等に表れておりますので,実務的弊害も少ないのではないかと思われるところからです。経営者保証を認めた上で,その保証に対して,どのような制限を課するかは,保証人保護の施策を取るかは次の課題ということになります。   具体的には,契約締結時における保護の問題,契約締結後の保護の問題,契約履行時の保護の問題があるということは,部会資料にも提示されていたところです。契約締結時については,基本的には説明義務を,内容については種々まだ十分に議論すべき事柄ではありますけれども,説明義務,情報提供義務を課すことを原則として,それを怠った場合に保証契約を取り消すことができるという立て付けにすべきです。説明等の内容については,保証契約の内容,これが連帯保証であれば,先ほどから鹿野幹事からも重ねて御指摘がありましたけれども,連帯であることの説明,その意味内容についての確認,契約条件についての確認等が必要であると思われますし,債務者の信用状況についての確認等が含まれるものと理解をしております。   加えて重要と思っておりますのは,過大保証の禁止,これはフランス等では比例原則とも言われているようですけれども,これの導入を是非とも願っているところです。具体的には,個人には限られた資産,限られた収入しかないわけですが,それに対して,極めて過大な保証を課した場合に,現実に保証履行請求するときに,その保証履行をするに足りる資産,収入がないときに,その効力を認めてよいのかという問題です。ここでは,比例原則違反の保証の効力を否定するという考え方,場合によってはその責任の範囲を減免するという考え方を提案するものです。  また,保証契約締結後につきましては,部会資料でも提案されておりますけれども,履行遅滞という事実が発生した場合には,それを保証人に伝えるであるとか,保証人から履行請求の状況の問い合わせを受けたときには,債権者はそれに対して情報を開示するであるとか,直ちに期限の利益を喪失しないようなしかるべき手立てを保証人にも与えるなどの提案をしております。   また,履行時につきましては,先ほどの比例原則,過大保証の禁止の反映として,その時点で十分な資産,収入がない場合に保証履行請求できないという考え方と,現在の身元保証契約第5条に準じて,過大であるということ以外に契約締結後の事情等を加味して,その責任額を減免ないし制限する,そのような制度の導入が必要不可欠ではないかと考えております。   また,根保証契約については先ほど議論が出ておりますけれども,この例外的なものとして,身元保証契約,賃貸者契約の保証については,例外になるものと考えております。ただ,それについても先ほどからの議論がありますように,無条件に認めるわけではなくて,そこに合理的な制約を課すことを前提としております。   基本的には以上ですが,例えば今回の資料にあります手書き要件を取り入れるであるとか,場合によっては公正証書等による記録を義務付けるであるとか,これらについて,この日弁連の意見書には記載されておりませんけれども,日弁連としては,意見書の記載にとどまるわけではなくて,検討事項等で提案されていることについても,前向きに考えていっていただきたいと考えております。   以上,日弁連の意見を簡単に御紹介申し上げました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。次に山野目幹事,お願いいたします。 ○山野目幹事 部会資料8の(2)の審議において,参考としていただくための趣旨において,一つの比較法資料として,本日机上配布のものを提出させていただきました。8(2)についての御審議を頂く中で,適宜参考にしていただければ幸いでございます。必要なときに,また私自身も意見を述べる発言の機会をお願いさせていただくかもしれませんが,ひとまず以上でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,御自由に御意見をお述べください。 ○佐藤関係官 それでは,今の8のところにつきまして,簡単に意見と申しましょうか,コメントさせていただきます。まず,先ほど中井委員から御紹介がございましたとおり,金融監督上も,経営者以外の第三者の個人連帯保証に依存しない融資慣行を確立するということを,監督上の一つの原則として掲げております。   あと実態を見ますと,経営者という点については,企業の代表者だけではなしに,現実の問題として,事実上のオーナー,例えば, 代表者としては引退をし,息子さんが現在の代表者であるものの場合, 引き続き事実上のオーナーである場合ですとか,あるいは逆に事業を承継する予定者や, 経営者の奥さんなども,経営者側の人として保証人になっているというケースも存在するようです。また,ある地方においては,地方によりけりのようですけれども,事業者がお互い保証をし合うことによって,融資枠を確保しようという慣行といいましょうか,そういう例が多数見られるところもあると聞いております。   したがいまして,一定の例外についての規定ぶりの問題かとは思いますけれども,保証人保護の要請ということについては同感をいたしますが,例外の規定ぶりの中で,本当に必要な融資が受けられないようなケースが生じたりするようなことがないように慎重な検討が必要であるかなと,このように考えております。   8の(2)の個別の点につきましては,細かいところは,またこれも規定ぶりの問題になろうかと思いますが,例えば過大な保証を禁止するとか, 説明義務の辺り,あるいは公正証書に残すとか,保証人による手書きを求めるといったところ,これも実務的に非常にコストが掛かることになったり,あるいは本当に融資を必要とする方に融資が行かないといったような弊害が生じないようにという点を踏まえ,慎重な検討が必要であろうかなと感じております。   以上,コメントだけ述べさせていただきます。 ○三上委員 私が言わんとすることは,もう想像されると思いますけれども,まず,1に関しましては,一応経営者を外すという提案をされているんですけれども,経営者だけうまく外れるような定義はできるのかという疑問があります。16年改正のときにも,経営者を除くという提案をしましたけれども,当時はそんなもの裁判規範にならないと,切って捨てられたんですね。その定義案は,当時の開示省令に実際に存在した,関連当事者の定義を引っ張って提案したんですけれども,まじめにこんな内容でいけると考えているのか,に類したようなことまで言われた記憶がありますので,立法的には非常に難しいのではないか危惧しております。また,経営者以外にも,例えば親子ローンとか夫婦ローンのように,消費者というか,お客様の便利になる個人保証の使われ方は今後,いろいろな場面で考えられ得ると思うのですが,こういったふうに一律に禁止を掛けてしまうと,そういった金融のイノベーションを阻害する危険性も出てくると思います。   それから,2のほうですけれども,まずこれは法人保証・機関保証を想定していないということで,まずほとんど当てはまらない部分が半分あります。以下,これを個人保証に限るとしましても,例えば①の部分は,もうやむを得ず保証する人には意味がないとよく言われています。消費者金融のほうがこの辺は,しっかりやっていて,手書きさせる,説明して了解したところを写真に撮る,ビデオに撮る,とかきっちりするわけです。言わばそうしてでもなお保証しなければならない人が出てくるのであれば,むしろ1のように全面的に禁止するとか,貸金業法のように,年収の3倍を超える保証を禁止するとか,そういう社会立法的な禁圧条項を持ってこないことには問題点はなくならないのではないかと思います。そうなると,それは少なくとも民法の問題ではなかろうというのが私の考えです。実際に手書きするとか,公正証書とかになると,コストだとか,手が不自由な人はどうするといった,いろいろな問題もありえまして,少なくともペーパーレス化等々が進んで,電子取引も個人分野にも及んできた段階で,こういう時代に逆行するような提案が果たして,今のこの時代の民法に取り込まれることが正しいのか非常に疑問に思います。   それから,②の保証契約後の保護策については,主債務者の返済状況の照会に回答するというのであれば,むしろこれを明確にしてもらったほうが,守秘義務の問題もなくなり,我々としてもメリットがあるので,決してノーではないんですが,定期的に通知する義務等々を負うとすれば,その分のコストはやはり取引に反映されてしまいます。   それから,③の(a)については,ここで担保保存義務免除特約の効力を制限するとか,特約でもって排除できなくするというようなことであれば,それは少なくとも消費者法の問題でもありましょうし,担保保存義務に反するようなことをするときというのは,例えば担保を開放して,それによって資金調達させて,会社を生かすとか,いろいろな場面が考えられますので,不当だとか,著しいという言葉が入ればともかく,その言葉自体も,過不足のない適切な表現は難しいと思いますが,そういう条件も何もなしに,一律に担保保存義務免除特約自体が全面的に個人の関係では無効であるということになりますと,かなり大きな実務への影響が出ます。   それから,③の(b)のほうは,今回の改正で,明文で一部保証履行しかしていない保証人の主債権者に対する劣後ということが明文化されれば,かなり解決される問題ではないかと思いますけれども,やはりこの点もそれと抱き合わせて議論していかないと,これだけが一人歩きすることは反対せざるを得ないということになります。 ○岡田委員 消費生活センターに入ってくる相談を見ますと,保証人が自分の立場とか,責任とかを認識しているようにはほとんど思えません。結局,知り合いから,絶対に迷惑掛けないからというその言葉で応じてしまった,ないしはサインしたという感じで,その結果が,結局一家離散であったり,自殺だったりということを考えますと,個人の保証というのは大変問題があるし,この8の1の(1)の提案が通ればそのような保証人は大変救われるのではないかと思います。   それで,(2)なですが,このように規定されれば,確かに現在よりは随分といい方向に行くとは思うのですが,先ほども申し上げましたように,消費者には最初の知り合いの言葉が頭に入っていますので,その後,債権者等から説明を受けてもどの程度それが正確に理解されるかというふうに考えますと,効果がないとは言えませんけれども,これをもって,保証問題のトラブルといいますか,被害がなくなるというふうには思えないので(1)で個人保証は原則無効という形に期待します。 ○中井委員 三上委員からたくさんの御意見を頂きましたが,4点ほどに絞って申し上げたいと思います。一つは,経営者保証は認めて,第三者保証は禁止する。この考え方自体については御理解を頂けているように思いましたけれども,問題は,その経営者保証の対象の絞り込み,定義の問題ではないかと思います。日弁連の案は,漠とした書き方をしておりますが,本日配布させていただいた大阪弁護士会有志の立法提案については,ある程度具体化した書き方を考えております。それは1ページの下のほうです。ただ,ここに記載した書き方が,それで十分なのかという御批判もあるでしょうし,また,このような記載ぶりが民法という規定の中になじむのかという御批判もあるかもしれません。ここの心は,当該借主である中小企業に対して,実質的に経営を支配している人を対象とすることです。形式的に代表取締役というだけではなくて,いわゆる隠れたオーナーも経営者保証ができるものと考えています。そのような実質的な基準であるということを理解して,立法化することによって,確かに一時的にはその範囲について議論が生じることがあるかもしれませんが,保証を取る金融機関として,その実質的経営者の把握は可能で,その有効無効は判断できるのではないかと思います。大阪弁護士会のような考え方もありますが,それにこだわることなく,民法の規定ぶりとしては実質的に経営を担っている人が抽象的に表現できる形でも,法律的な安定性をそれほど害するわけではないように,私自身は思っております。   2点目は,三上委員から,例えば部会資料74ページにあるような,保証契約締結時における手書き要件,公正証書等の要件を定めたとしても,それは実質的に余り意味がないのではないかという御指摘がございました。しかし,少なくとも保証人として,何を保証したかという事実について,十分認識をしてもらうということは極めて重要なことだと思います。それは先ほど岡田委員から御発言がありましたように,希薄な合意の下に保証がなされているという実状があることは間違いがないとすれば,少なくともきちっと認識した上で合意すること自体は望まれることではないかと思います。ただ,御指摘のように,このような手続的な要件,手続的な保護のみで十分かというと,私も決してそのようには考えておりません。それはこの部会資料で言うならば,(2)の①の(e),過大な保証を禁止するという,これは正に内容に関わる問題だと思っておりまして,手続的保護の諸原則を定めるだけではなくて,その内容に切り込んだ,保護策が検討されるべきだろうと考えています。後ほど御説明いただけるのかもしれませんけれども,山野目幹事のほうから資料提出がありました,フランス法等の規定を見ますと,そのことが十分に理解できるのではないか,また,日弁連の提案である第4条というのは,このフランス法の規定を参考にしたように聞いておりますので,手続プラス,内容規制を入れることによって,実質化を図るという方向を是非検討していただきたい。   3点目は,契約締結後の問題です。この部会資料では②の(a)と(b)ですが,少なくとも遅滞が起こったときに,遅滞の事実を保証人に伝える,これは必要ではないか。定期的に返済状況を伝えることについては,過大なコストが掛かるという三上委員の御指摘はそれなりに理由があるのかなと思いますので,ここについては,少なくとも保証人から請求があった場合に,債権者として情報提供を義務付けるという形で明確化を図るなどの検討が必要ではないかと思っております。   取りあえずは以上です。4点と言ったかもしれませんけれども,3点でした。 ○高須幹事 今の点に更に関係するわけですが,いわゆる実質的な経営者とか,あるいは日弁連の今回の意見書で言えば業務を執行するものという概念の曖昧性という問題については,確かにそのこと自体は避けて通れないとは思いますが,さりとて,ここに至るまでの経緯の中で,それを明らかなものにしていこうという努力はなされてきているのではないかと思います。例えば平成18年の3月31日付で中小企業庁の金融課というところが,信用保証協会における第三者保証人徴求の原則禁止についてというものを出しているわけですが,その中でも,経営者本人と俗に言われるものとの区別が曖昧になる部分については,いわゆる第三者保証人としての禁止には入れませんというようなことで,幾つかの類型を作っている。実質的に経営権を有しているものとか,経営者本人の健康上の理由のため,事業承継予定者が連帯保証人になる場合とか,あるいは当該事業の協力者や支援者から積極的に連帯保証の申出があった場合とか,この概念自体がいいかどうかはもちろんあるんですけれども,少なくともこの何年間かの間にそういう努力の積み重ねというものがあると思いますので,今回の改正の議論の中においても,できるだけ個人保証が禁止される第三者に入るのか,そうでない経営者のほうに入るのかの類型分けの努力というものをしていくべきだろうと思っておりまして,今回の改正の中で,そこは安易に諦めてはならないのだろうと,このように思っております。 ○山本(敬)幹事 (2)について,3点意見を述べたいと思います。  まず,(2)の①保証契約締結の際における保証人保護の方策についてですが,これは,平成16年改正がどのような趣旨で行われたかということの確認から始める必要があると思います。平成16年改正には,幾つかの目的があると思いますが,基本的には,保証契約を行う際のプロセスを多少なりとも整備しようという考え方によるのではないかと思います。例えば,包括根保証を禁止して,極度額の定めを必ず置かなければならないとしておけば,慎重に契約をするはずである。あるいは,いつまでも元本が確定しないとすることは許されない。必ず5年ないし3年の期間で確定されるということにしておけば,更新の際に改めて慎重に考えることができるはずである。そのように言われて,要するに,この16年改正は,保証契約を禁圧するというよりは,保証人の意思形成を支えようという考え方でできていたのではないかと思います。ただ,そう理解するとしても,保証人が実際に契約するときに合理的な判断を行うためには,裏付けになるような情報等が必要になるはずなのですが,その点については,この平成16年改正では,全く考慮されないまま改正が行われました。そこに問題と限界があるのではないかと,①に関しては思います。   したがって,方向としては,保証契約締結する際に,債権者側に一定の説明義務を課した上で,その義務違反の結果,保証人の債務負担意思,あるいは責任負担意思に瑕疵が生じたときには,そのような広い意味での誤認による保証契約の取消しを正面から認めるべきではないかと思います。現行法でいいますと,錯誤ないしは沈黙による詐欺として構成せざるを得ないところですけれども,どちらにしても不確かなところが残ってくるとすれば,ここでむしろ債権者の説明義務を明確に定めた上で,少なくとも保証人が事業者に当たらない場合については,端的に誤認による取消しを明文で認めることにしてはどうかと思います。  問題は,そこで説明義務に当たるものをどう定めるべきかですが,これは,部会資料にもありますように,大きく分けて二つの説明義務に分かれるのではないかと思います。一つが,保証の一般的な効果を説明する義務で,もう一つが,主たる債務者の資力というよりは,保証人が負担することになるリスクの内容と程度を説明する義務というべきものです。具体的には,主たる債務の内容と範囲を説明する義務のほか,少なくとも契約時に債権者が知っている,若しくは容易に知ることができた主たる債務者の財産状態,さらに,主たる債務者が債務を履行できなくなる恐れに関する事実を説明する義務を課した上で,先ほどの誤認による取消しに結び付けることとしてはどうかと思います。   次に,②の保証契約締結後における保証人保護の方策ですが,私は,先ほど黙っていましたけれども,以前の部会で,特別解約権については,何とか明文化する道を探ることができないかということを申し上げましたし,今もその意見は持ち続けていますが,仮に要件設定が難しいということであるとすれば,その点は一般法理に委ねるとしても,少なくともそれではカバーできないものとして,保証契約の締結後に一定の通知義務を課して,その通知義務の違反があった場合について,保証人を救済する方策を明文化する必要があるのではないかと思います。具体的な通知義務の内容については,中井委員から既に御提案のとおりですけれども,最低限,主たる債務者が債務を履行しないという事態に陥ったときには,当然,通知する義務があるでしょうし,比較法的に見ますと,その他に,定期的に返済状況を通知する義務を課すものもありますが,そこまで広げていいかどうかは疑問の余地があるかもしれませんけれども,例えば履行期を債権者が猶予したようなときなど,つまり,債務不履行に至る恐れのある一定の事実が生じたときには,それを通知しなければならないというように考える可能性もあります。   その他に,参考になるかもしれないと思うものとして,ヨーロッパ共通参照枠草案などを見ますと,包括根保証の場合に関しては,被担保債権の総額が保証の設定時よりも一定割合増加したときには,その旨を通知するという義務を課し,それを通知しない場合は,保証人が必要な情報を知っていれば被ることはなかった損害は控除されるとすることも提案されています。明確な基準が必要だという点に答えるときには,このような形での規定の仕方というのもあり得ると思います。その点は,補充分科会で慎重に検討するということも考えられると思います。   3つ目は,①に戻るわけですけれども,(e)に,保証人の資力に照らして過大な保証を禁止する旨の規定が挙げられています。問題は,過大な保証を禁止するということでよいのかということですが,考え方としては,保証契約自体は有効に行い得るはずのものであって,それがもし無効になるとするならば,保証人の意思決定に不当な制約が加えられて,不利な契約をさせられたというような根拠がどうしても必要になってくるのではないかと思います。その意味では,以前にこの部会で検討した暴利行為に関するルールがここでも妥当すべきではないかと思います。つまり,主観的要素として,どう定めるか自体は問題ですけれども,窮迫,軽率,無経験等と言われていたものに加えて,客観的要素として,保証人にとって過大な不利益が生ずるような内容であることが必要であって,その両者の相関によって,契約の効力を否定することが考えられるべきだと思います。仮にここで改めて規定するとしましても,少なくともそうした考え方と不整合を来さないような形で考えるべきではないかと思います。 ○三上委員 保証契約締結の制限の部分で,これまでの議論で経営者の範囲が明確ではないか,明確になり得るのではないかということですが,それでも,もし定義に当てはまらなかった場合には,入口で保証契約が無効になるわけで,保証に依拠して貸金すれば,貸金が裸になるということですから,それなりの萎縮効果はありうるという点があります。   それから,個人ローン等で保証が有効な場合,これは連帯債務に関する絶対効がなくなると,連帯債務で大体は代替できるのであろうかという気もしてはおりますが,その点はよく考えておく必要があります。つまり,経営者保証だけを外せば,他の個人保証は全部禁止してよいというものではないだろう,例外が増えてくれば増えるほど,それの規定は難しくなるのではないかという点を付け加えさせていただきたいと思います。   それから,2のところで引き続き個人の保証に限ってという前提で申しますけれども,説明義務違反等々で誤認したとか,そういう場合の取消し等はある意味あるかと思うんですけれども,例えばその程度いかん,ないしは,先ほど話しませんでしたけれども,過大な保証を禁止するという場合の過大とはどのレベルをいうのか,例えば経営者というのは個人の感覚からすると,常に過大な保証を負うわけですけれども,こういうものが違反と判断されたら保証責任が全部なくなるというのも行き過ぎだろうと思います。その責任の有り様も,一定の範囲まで縮減するといいますか,ゼロではなくて,適切な範囲まで減らすという方策もありうべしで検討すべきだと思います。   ちなみに,過大な保証を禁止する旨のという話の続きで,経営者保証があった場合の事業者の再生について,先ほどの中小企業庁の議論でも出てきた部分でございますけれども,我々の金融機関としても,少なくとも目に見える資産以上のものを取りたいというか,その人が生きている限り,働けば収入があるはずなんですけれども,それを長々と取っていくほど,グリーディでもないし,そもそもそんなコストは掛けてられません。では,どうしてそこを合理的に縮減できないのかというと,そのときに出てきた,識者が集まった最後の結論は国税庁が無税償却を認めてくれない,これは極めて税務の問題であると,そういう問題に行き着いたという点も考慮に入れていただきたいと思います。   それから,先ほど1点言いそびれた部分ですが,②の(b)で保証人に期限利益を維持する機会を与えるという部分ですが,これは恐らく,提案された人は住宅ローンの延滞の場合を想定しておられるのでないかと思うんですが,普通の事業会社を経営者が保証しているようなケースですと,少なくとも,保証人が払うからといって,例えば金をかき集めれば,1回,2回分の約弁ぐらいはできるかもしれませんが,今後,継続的にそれなりの額の約弁が続けられるとは考えられないわけです。そういうときに,目の前に相殺できる預金がある,実行できる担保がある,あるいは差し押さえて換金できる資産があるときに,保証人が払うからといって,期限の利益をそのまま与え続ける選択肢は難しいと思います。ここで言いたいのは,そういうことを含めて,保証の議論には,それもこれも場合によってそういうことができる場合もあるし,できない場合もあるということで,具体的にどんな場面を想定しているのかを抜きに,一律に法律の網をかぶせることの是非を議論することには疑問があるという点も付け加えさせていただきます。 ○松本委員 先ほど冒頭の部分で議論になりました,保証引受契約を有効だということにした場合に,今の74ページの(2)の部分の記述と整合するのかというところでありまして,個々の行為規範としては,債権者に対して一定の義務付けを課している部分が大変多いわけです。①は正に保証契約締結の際における行為規範です。②は契約締結後だから,保証引受契約で債権者が全く関与しなくても,先ほどの内田委員のお話だと,債権者の意思と無関係に債権者が保証債権を取得しているんだから,保証債権者なので,②はひょっとしたら行為規範として入ってくるのかもしれないけれども,①に関しては,契約締結の際における債権者の行為規範だから,債権者を抜きにして,債権者の意思と全く無関係に保証債権を成立させるという考え方と①の特に(a),(b),(c)なんかは矛盾すると思います。そういう点からも保証引受契約について,保証人保護を入れるなら,成立を極めて限定するということが合理的だろうと思います。 ○金関係官 部会資料36の74ページの記載は保証契約を前提としておりまして,仮に保証引受契約が導入されるのであれば,保証引受契約の当事者である主債務者が説明義務や情報提供義務を負うことになると考えております。 ○高須幹事 今の三上委員から御指摘のあった萎縮効果という問題でございますが,確かにこの問題は個人保証を禁止するというような形での考え方を採る場合,金融取引そのものに与える効果ということも考えなければならない。保証ということが果たしている役割ということを無視してはならないということは確かにそのとおりだと思っておりまして,慎重な判断が必要になると思っております。そう思いまして,幾つか私なりに調べてまいったんですが,先ほど18年の3月に信用保証協会に関しては,いわゆる第三者保証を禁止するという方向性を打ち出して,実践しているというようなところを御指摘させていただきました。金融庁のホームページですと,信用保証協会が実際に行っている保証債務残高というのが統計で出ておりまして,平成19年度には,それが29兆3,681億6,400万であったと。現在の平成24年度直近の数字ですと,24年の2月でございますが,34兆4,489億6,400万円となっています。もちろん不況があったり,いろいろしておりますし,そもそも借金が増えるということ自体は決して喜ばしい自体ではないわけですけれども,ただ,少なくとも保証債務残高の比だけで見る限り,信用保証協会が第三者保証の禁止を打ち出した後に,保証債務残高が例えば激減したのかという点を考えた場合,そういうことではないということは,この数字が示していると思いますので,萎縮効果の問題についてはもちろんもっと慎重に検討しなければならないとは思いますが,抽象的にそのことだけを恐れていてもいけないのかなと思っております。 ○中井委員 (2)の点ですけれども,ここには各種義務付け等の提案を記載していただいていますが,その効果について,必ずしも明確に書かれていません。先ほど山本敬三幹事が御指摘のあった,説明義務ないし情報提供義務を怠った場合の効果ですけれども,かつて努力義務というところからスタートしたという御指摘もありました。これからは,そうではなくて,これは法的義務に是非高めていただいて,その上でそれを怠った場合,保証人の意思表示に瑕疵があるひとつの類型であるとして,特別の取消しを認める方向で検討を進めていただきたいと思っております。海外の資料についても御提供いただいたようですけれども,アメリカ等でも不実表示による規制を適用させて,取消しを認めているようにも読めますので,是非そのような方向で効果を考えていただきたいと思います。  過大な保証の禁止につきましても,これは禁止というところから,無効とする考え方はあり得ると思いますが,もう少し現実的に考えていくと,必ずしも無効ではなくて,有効とした上で,保証履行請求権を行使する段階での制約,一つは行使できないというフランス型もあるのかもしれませんし,先ほど,三上委員から御指摘のありました,そこにある財産,収入の限度で,これは現実的にもそうであるわけですから,その限度でしか効果が生じない,履行請求できないような形,具体的には責任範囲の減免の制度という形に発展させることが可能でないかと考えております。   また,②についても,ここも義務付ける規定と記載していますが,これも具体的な効果として,何が考えられるのか,延滞金,遅延損害金等について請求できないというのにとどまるのか,更に保証履行請求できないというところまでいくのか,この辺りについても是非詰めていただきたいと思います。   ただ,この点は余り大きな効果をもたらすと,かえって具体的な規定が設けられないというのであれば,その効果との釣り合いでバランスを取るというのが現実的ではないかと考えております。そこはそういうバランス論で是非考えていただきたいと思っております。 ○佐成委員 産業界での議論の状況だけ簡単に御紹介させていただきたいと思います。個人保証人の保護という大きな方向性それ自体については,もちろん産業界も全く異論はないところなのですけれども,ただ,(1)のところで述べられておりますように,個人保証を一定の例外を除いて全面的に禁止するという方策が本当に妥当なのかというところについては,かなり疑問を呈する意見が多かったと思います。   つまり,保証人保護ということもさることながら,現実にはやはり主たる債務者の日常生活上のニーズというものが厳然として存在しておりますので,個人保証の全面禁止という方策が,果たしてそれと本当に整合的なのか,むしろそうした生活者の日常的なニーズに応えられなくなってしまうのではないかという疑問でございます。例えば,生活上何か高額商品が欲しいという場合に,即金で決済できないために,長期の分割払いをしようとしても,適当な担保がないためにそれではお断りというふうになってしまわないかということです。そのほか,住宅ローンや家賃その他居住場所を確保するというニーズに応えるために必要となる担保とか,いろいろありますけれども,こうした現実に存在する主債務者たる個人の様々なニーズに本当に応えられなくなってしまうということです。つまり,個人保証の全面禁止は,こういう個人保証が持っていた有用性,利便性までをも犠牲にしてしまうとなると,果たしてこの全面的禁止という方策が本当に政策判断として妥当なのかということが非常に疑問であるということです。ですから,副作用が強すぎるから反対だということも一般的に産業界ではよく言われております。もちろん,補充分科会の中で議論されるということなので,規定ぶりも見た上で更に議論はしたいと思いますが,今の段階では,経営者保証を除いてというのだけではちょっと心配であるというのが意見でございます。   それから,(2)については,こういった充実の仕方はあるとは思うのですが,先ほど三上委員もおっしゃっていたとおり,本当に実効性があるのかということについてやや疑問があります。他方,何らかの規定を置くとすると,①の(a)ぐらいはいいのではないかという,そういう意見があったということでございます。 ○岡委員 うまく言えるかどうか自信はないんですが,個人保証を原則禁止すると。家賃保証だとか,奨学金保証だとか,一定のものについて,例外的に許容すると,そういう日弁連の立場に賛成する意見からでございます。   まず,過大保証,個人の資力だとか,収入を超える額面の保証が現実的に多いので,それをどうするかということでございます。確かに主債務者が破綻しリスクが現実化するのは1%か2%だろうと思いますので,そういう過大保証を認めたところで,実際に事故が起きるのは1%か2%だと。98%はうまくいっているんだから,その98%の社会的効用を重視すべきだと。そのような議論が,今の佐成さんの利便性という,あるいは三上さんの萎縮するのではないかというところにつながるんだろうと思います。しかし,過大保証を認めていると,1%か2%は確実に悲惨な事態が起きてしまいます。しかしそのような悲惨な事例は社会全体から見ると1%か2%だから,98%に比べたら認めるべきだと,そういう議論でいいのかという問題意識でございます。過大な保証でなければ,それはそういう悲惨な事態も起きないわけですから,いいのかもしれませんが,資産・収入に対して過大な保証の場合は,過大の定義は後でいろいろあると思うんですが,確実に1%,2%の確率で起きる悲惨な事態と,すんなり何事もなく終わる98%を比べて,社会的有用性があるから過大保証を禁止すべきでないという考え方はおかしいのではないかというのが一つ目の議論でございます。   それから,二つ目の議論として,先ほど三上さんがいみじくもおっしゃった,過大な金額の保証を取っていたとしても,当該保証人の資産,あるいは収入を超えるようなものを取るつもりはないと,また,法律上も取れないと。なのに,なぜ大きな過大額面の保証を取るのか,それはやはり日本人的な感性で,とても払えないけれども,万が一のときは俺が面倒を見るよと,責任取るよと,そういう身を投げ出すような人がいるからあなたと取引すると。何かそっちの保証人から金銭的回収をするために保証人を取っているというのではなく,もっと情義的な,感覚的なもので過大な保証人を取っているのではないか,それが日本人的感性に合うのは分かりますが,しかし,そういうのはもうやめていいのではないか。1%,2%だけれども,悲惨な例がこれだけ起きているとしたら,もう感性に訴えるような保証人を取る運用はやめて,本当に,もし万が一のときでもその人の人生が破壊されないような額面の保証に限るような国にすべきではないか,そっちのほうがいいのではないかというような思いを持っております。それだったら過大保証の禁止だけでいいのではないかと,論理的にはそっちに行くのですが,ただ,過大保証の禁止の表現がなかなか難しいとすると,日弁連としては家賃保証だとか,穴を空けた上で,個人を保証人とするものを禁止する,そういう方向が現在の多数意見ですので,私もそれに同調したいと思っております。   それから,3番目に,過大保証の禁止のところですが,確かにまだ慣れていませんので,本当にどんな運用ができるか疑問ではありますが,山野目先生のフランスのレポートでありますとか,日弁連も専門家がフランスに行っていろいろ調査をしてきておりまして,これは山野目先生に言ってもらったほうがいいと思うのですが,山野目レポートの5ページのところにある消費法典L341-4,これにほぼ準拠した案を日弁連としては比例原則として提案をしております。グローバルは日弁連,嫌いではないかと言われそうな気もしますが,いいものはいいということから,現実に動いておるフランスの条文及び実務からいいところを抜き出して,日本としてもこういう,最低限この比例原則については導入するという方向で是非前向きに検討していっていただきたいというのが私の意見でもあるし,日弁連の現在の意見でございます。 ○鹿野幹事 74ページの2の保証契約締結の制限以外の保証人保護の方策について,私も幾つか意見を申し上げたいと思います。特に①,②に大きく関わると思いますけれども,全体としては,既に意見が出されましたように,保証人の保護として,手続的な保護と内容的な保護と,それから,契約締結後の事後的な保護の方策を積極的に検討する必要があると考えております。まず,第一番目の手続的な保護としましては,保証契約の当事者である債権者に,保証人になろうとする者に対する説明義務を課すことが必要だと考えます。説明義務の具体的な内容については,先ほど山本敬三幹事がおっしゃったところに基本的に賛成なのですが,保証人になることの意味,効果について,具体的に説明する必要があると思いますし,より具体的には,まず,いかなる原因に基づくいかなる大きさのどのような債務を負うのかということ,次に,債務者が弁済しなくなるときのリスク,そして,リスクを具体的に把握ないし予測できるための説明として,債務者の財産状態について,情報を与えるということが必要だと思います。さらに,連帯保証の場合には,連帯というのは飽くまでも特約なわけですから,連帯ということが何を意味するのかということについての具体的な説明をした上で,契約を締結することが必要だと思います。   それから,2番目の内容的な保護としましては,先ほどから日弁連の考えとして特に強調されているところですけれども,私も,当該保証人の資力に照らして,過大な保証を禁止するという規定が必要だと思います。これにつき,先ほど山本敬三幹事が暴利行為の延長線上で考える必要があるという発言をされたのですが,その点に関しては,私は異論を唱えたいと思います。すなわち,この場合には,まず要件として,暴利行為におけるところの主幹的要件と客観的な要件のうち,主幹的要件については問題にする必要がないのではないかと私は思います。むしろ,債権者に,保証人になる者の収入,財産などについての調査をする義務を課し,それに見合わないような保証債務を負担させることをやめさせるというイメージで捉えればよいのではないかと思います。また,効果としましては,先ほどの手続的な保護に関わる説明義務については,その義務違反を一定の要件の下で取消しに結びつけるということでよいと思いますが,内容的な保護に関する過大な保証の禁止については,過大な部分については権利行使ができないということで,権利行使を制限するような形での効果があり得るのではないかと思います。暴利行為との関係について更に申し上げますと,正に暴利行為の主観的要件と客観的要件が備わっているという場合については,その契約全体が無効になるということでよいと思いますけれども,むしろそこまで行かない場合のために,暴利行為規定とは別に,過大保証の禁止による保証人保護の規律を設けるということが必要であり,独自の意味があるのだと思います。   それから,3番目の事後的な保護措置については,この資料の74ページの②に書いてあるところに基本的に賛成したいと思います。また,その内の(b)では,主債務の期限の利益を喪失させる場合には保証人に期限の利益を維持する機会を与えることを義務付けるということが書いてあるのですけれども,これにつき,その機会を与えなかったらどうなるのかという効果につきましては,当該保証人に対して,期限の利益の喪失の効果を主張することはできないという効果が考えられると思います。   以上,3点申し上げましたが,最後にもう一言だけ,先ほどの保証引受契約との関係について付け加えたいと思います。今,保証人保護の措置として私が申し上げたのは,従来から認められてきた債権者と保証人との間における典型的な保証契約の場合を念頭に置いたものです。ところが,このような保護措置が,保証引受契約を認めた場合にどうなるのか,特に説明義務はどうなるのかということが問題です。この点につき,松本委員からも先ほど御指摘があり,それに対して金関係官から説明がありました。それによると,保証引受契約の場合には,主債務者が説明義務を負うとすることが考えられるのではないかということでした。しかし,その場合,主債務者が説明義務を尽くしたかどうかは,必ずしも債権者には分からないと思われますが,それでも,その説明義務が尽くされていなかったときには債権者がそれを知っていたかどうかにかかわらず取消しができるということをお考えなのでしょうか。その点につき,もしお考えがあるのであればお聞きしたいと思います。最後の点は事務局に対する質問です。 ○鎌田部会長 最後の点は,この8について,(1),(2)とも分科会での補充的な検討をお願いしていて,そのときに保証引受契約についても,併せて御検討いただいたほうがいいかと思います。主債務者の説明というのも,これは利益相反的なので,それで本当にいいのかどうかというふうなことも含めて御検討いただく必要があるような気がします。 ○松本委員 今の最後の御指摘で,分科会でやっていただくのは結構なんですが,金関係官の御説明について,やはり鹿野幹事と同じようにちょっと納得できないところがあります。すなわち,この(2)の行為規範に違反をした場合の民事効果をどう考えるのかと,正に連動してくるわけで,主債務者に説明義務を負わせて,それで保証人保護が成り立つのかということです。単なる行為規範にすぎないのであって,民事効果がゼロであれば,主債務者は融資を受けたいわけだから,保証人になってもらうために都合のいいことを言います。それだけで有効な保証債権が成立してしまうというのは大変危険なことだろうと思います。   他方で,この説明義務違反に対して保証人からの取消権等があるんだということになれば,今度は逆に債権者として,自分が説明しないで保証債権が成立すると言ったって,ちょっと怖くてそんなのに融資できないということに恐らくなると思うんです。現在のように,保証人になる人を主債務者が探してきて,保証人になってもらうという場合でも,債権者がきちんと保証人に説明をするということによって,保証人に注意を喚起するということが,最後には担保されることになるわけなので,債権者による説明と主債務者による説明を単純に等値するというのは大変危険なことだろうと考えます。 ○深山幹事 大分議論が出ているので,なるべく簡潔に申し上げたいと思いますが,全般的に感じますのは,この保証人保護の議論というのは,他の議論と違った特殊な側面があって,それはやはり保証契約,取り分け個人が保証人になる場合の保証契約の特質なんだと思います。それは一般的に言われている,無償性とか情義性というふうに言われますが,そのような特質をどこまで民法で考慮するかということが問われていて,そういう意味では契約自由の原則に単純に委ねていいのかということであり,民法の大原則ではあっても,一定程度,やや政策的な考慮を反映させるべき場面なのではないかという気がいたしております。そういう観点から日弁連からも提案がなされているわけですが,原則として個人保証禁止という規律にして,一定の例外を設けるという,言わば契約成立段階のところの入口の問題,それから,説明義務や契約締結後の一定の説明義務的な規律で,契約が成立した場合,成立し得る場合の更に細かい規定,それから実際に保証履行請求するところで機能する比例原則に関する規律というふうに幾つかの切り口が組み合わさっています。これはやはり組み合わせる必要があるんだろうと思います。というのは,一口に個人保証と言っても,いろいろな場面があって,それをなかなかバランスよく規律するには,入口で規制すべき問題もあれば,入口ではそれほど要件を絞ることなく認めてもいいけれども,一定の説明義務等の規律を及ぼすことによってコントロールするべき場面,それから,過大な負担を強いられて破綻する保証人を保護するということであれば,ここは共通の問題として,過大な保証について規律するのが一番中心的な規律になるんだと思うんですね。このようにやや総論的なことを申し上げた上で,一つの典型であり,ここでも先ほど来議論になっている,金融機関が経営者保証を取るときの問題等を考えてみます。中小企業が金融機関から借り入れる場合,今の金融実務ではほとんど漏れなく代表者なり,それに準ずる人の保証を取ります。借りる金額に照らして,保証人となる経営者の財産,収入が見合わないことは承知の上で,金融機関も保証人を取るし,保証人のほうもそれを承知で判子を押すという実態があります。この点に関する金融機関側からのよくある説明として,一つは,中小零細企業においては,経営者個人と法人の財産区分が不明瞭な場合があるということに着目しているという指摘があります。また,経営者としての覚悟を示させるということもあるんだという説明がよく聞かれるわけですが,実態として,そういう事実上の機能があること自体はそのとおりなんでしょうけれども,しかし,個人の財産と法人の財産の区分の問題にしろ,経営者の覚悟の問題にしろ,保証人として過大な負債を負わせることによって縛り付けることで解決するのがそもそもいいのかというと,それはやはり違うのではないかと思います。別の方策で解決すべき問題であって,保証人制度でそこをカバーするというのは,やはり本来の保証人制度の問題としては違うのではないかなという気がいたします。   もう一点申し上げたいのは,正にこれは保証の問題の本質になるんですけれども,実際には保証履行請求を求めることは少ないんだと思うんです。いろいろな統計があるので,どの統計が正しいか分からないんですけれども,1,2%というほど少ないのかどうかはともかく,多くの場合は保証履行請求を求めないまま取引が終わっているのだと思います。保証を依頼されたときに,一般的に多くの場合は「迷惑を掛けません」という説明どおりになっているので,恐らく迷惑を掛けられることはないだろうと思って軽率に応じると,中には保証履行を求められて悲惨なことになる場合がある。こういうことなので,悲惨なことが起きる比率が小さいから,それはさほど重視しなくていいということにはならなくて,保証履行請求をした場合の全てが悲惨な事態になるかというと,そうでもないのかもしれませんけれども,保証制度が機能している場面を言わば分母に考えて,保証履行請求が求められた場合のうち,どの程度,社会的に問題化しているケースがあるのかという目で分析をすると,かなりの比率で悲惨な状況になっているケースがあるのではないかというような想像をしております。   保証を求める全体から見ると問題が起きる比率が小さくても,やはり保証制度が正に機能したときの問題発生率というのはそれとは違った比率になるのではないかという意味で,やはりこの問題は大きいと思います。形式的な要件もあって良いと思いますが,やはり本質は実質的な要件としての比例原則のところだと思いますので,日弁連の意見でもありますが,この部会で是非その方向性を出していただければと思います。 ○佐成委員 鹿野幹事と,それから松本委員の主債務者の説明義務違反についての御意見に関連して,念のためなのですけれども,一点申し上げます。補充分科会でこの問題を議論するということは,主債務者と保証人間の保証引受契約の瑕疵等,一定の事由が債権者に及ぼす影響いかんという,一般的な問題にもつながると思います。ですから,主債務者の説明義務違反のみならず,主債務者と保証人間の保証引受契約に一般的に何らかの瑕疵等が存在する場合に,それが債権者にどういう影響を及ぼすのかという観点からも十分補充分科会で議論していただきたいという,当然のことなのですけれども,一応念のためということで申し上げました。 ○道垣内幹事 正に佐成委員がおっしゃったことと一緒なんですが,保証引受契約という概念を入れるべきだというときに,保証引受契約が非常に安定した保証をもたらすものとして広く使われるという制度として構想すべきだということには,直接には結び付かないわけでして,保証引受契約という類型が採られたとき,(2)は努力規定ではなくて,一定の効果に結び付く規定であるとした場合の話ですが,主債務者が十分な説明をしなかったときには,債権者は保証が得られた状態にはならないということになっても,それは全然構わないのだと思います。それが不安定で嫌であるというのならば,債権者が自分と保証人との間で契約を締結すればよいというだけです。また,主債務者と保証人という両当事者の間の関係が,債権者という第三者の有する権利に影響を与えることが理論的にあり得るのかということですが,第三者のためにする契約一般において,詐欺,錯誤,強迫があった場合にはそうなるわけであって,別におかしいことではないだろうと思います。繰り返しになりますが,概念を作るということと,それを積極的に広く利用してもらうという問題は別問題ではないかと思います。  プラスして,せっかく発言の機会を与えていただいたので,一,二,申しますが,1点は74頁の(2)でございますけれども,(2)の②の(b)というのは,私はおかしいのではないかと思います。例えば私が分割弁済の債務を負っていて,誰かが保証人になっているという状態というのは,分割弁済の義務を負っている人がいて,主債務者がいて,それで保証人がいるという状態なわけですよね。しかるに,私が完全に破綻して,保証人だけがいるという状態になりますと,今度は実質的には単独債務者状態になっているわけです。そうなりますと,債権者の状況としては大きく変わるわけであって,前と同じ状況だから分割払いは分割払いのままということにはならないのではないかと思います。私はこう申し上げることによって,保証人の保護を進めることに反対をしているということでは全くありません。ただ,個別具体的に②(b)というのは必ずしも適切ではないのではないかと思うというだけです。 ○筒井幹事 様々な御意見を頂き,ありがとうございます。保証人保護の方策の拡充の部分の部会資料の記述は,本日の御議論の中でも話題になりましたけれども,次の機会に中間試案のたたき台をお示しするレベルと比べると,まだまだ曖昧なところが多いものと自覚しております。それで,これを次の中間試案のたたき台につないでいくために,本日,様々頂いた意見を基に分科会で更に議論をしていただき,その中間試案のたたき台作りを一緒に考えていただきたいと考えております。そういった意味で,本日様々な意見を頂いたこと,大変有益でしたし,また,日弁連や大阪弁護士会有志の方々から具体的な条文提案などを頂きましたので,それも大いに参考にさせていただこうと思います。今日の議論の中で重要な論点が浮き彫りになったと思いますが,もう1点,補充的に私が重要だと感じたところを指摘しておきたいと思います。日弁連から頂きました保証に関する具体的な改正提案の中で,第1条第1項において,原則として個人の保証を禁止するということにしながら,各号で例外を規定しております。その例外については,第2項で裁判所による責任の減免の規定を設けるという提案を頂いております。この規定がどういった働きをするのかが,日弁連の提案の中では非常に重要ではないかという気がいたします。ラフな言い方で恐縮ですが,日弁連の提案では,経営者保証について,個人の保証を禁止するのではなく裁判所による責任減免の規定を置くことが選択されているわけです。このような規定がどういった保証人保護の役割を果たすのか,また,裁判実務がこのような規定をどのように運用していくことになるのか,それは現実的に可能なのかといった辺りについて,是非分科会の場で更に補充的な議論をしていきたいと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。9の保証類似の制度というところにつきましては,余り御意見が出なかったので,余り異論がないというふうな受け止め方をさせていただいてよろしいでしょうか。 ○三上委員 このままでいくと,明文規定を設けないで終わってしまいそうなんですが,損失補償契約というカテゴリーは,非常に一般的で頻繁に利用されている契約です。かつ,保証との違いについて,裁判でも非常に問題になった制度であることも御存じのとおりと思います。そういう制度ですので,我々としては,何を書くかというのは難しいというのは,最初の提案のときから分かっておりますけれども,例えばデフォルトルールとして,付従性がない,ないしは当然には求償権のない制度であるというようなものを作っていただいて,要はそういうものが存在するということを民法上で明確にしてもらうという意義はあると考えております。従いまして,明文化のお願いを明確にしておきたいと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。意見が出ないというよりも,9についてはまだ意見を聞いていなかったんです。申し訳ありません,9についての御意見,他にはよろしいですか。 ○岡委員 9についてではないんですが,8についての今後の議論の仕方で,分科会でやるというイメージが湧かないんです。明らかに価値観の対立で,しかもかなり大きなところでございまして,日弁連としても,それほど簡単に引き下がれる論点ではなく,最後まで恐らく意見は分かれたままと思います。この法制審の部会なり,法務省なりがいろんな意見はあるけれども,こういう案でいきたいという意思決定をどこかでしなければいけないんだろうと思います。その意思決定をする場が分科会だと言われると,それは違うのではないかと思います。 ○鎌田部会長 そこはちょっと説明不足で申し訳ございませんでした。これは常に,分科会に付託するときには,規定の要否,内容についての最終的な決定権限は常に部会にある。ただ,今,筒井幹事から説明がありましたように,特に(2)のほうは,この内容で部会で詰めるのでは,まだまだ不十分でありまして,どの立場を取るにしろ,検討の素材として,具体的な規定の在り方について,もっと詰めていく可能性があるし,別の可能性もあるかもしれない。その辺のところを分科会で少し検討していただく,こういう立場からいくと,このような内容が考えられる,こういう立場から行けば,こうなるというふうな形で,ここは整理をせざるを得ないと思うんですけれども,そこで具体的な規定の在り方について,もう少し具体的なイメージが出てきたところで,分科会において,それを素材にして,これが採用できる,これは採用できない,あるいはどちらの方向に行くべきだという議論をもう一度部会で審議をしよう。現在の規定のまま,今日の議論で頂いた御意見を少し付け足して,次回にここへ提出しても,部会でもう一度,その規定の内容を改めるような意見がたくさん出ていくと,最終的な方向性にたどり着くのに時間が掛かり過ぎるのではないかというふうなことでございます。ですから,お尋ねの点で言えば,最終的には部会で決定する。これは全く動かない。そこの部会で検討する際の素材としての方策の中身について,もう少し具体的で明解なものにすることを試みていただきたいというのが分科会への付託の内容ということになります。 ○岡委員 その意思決定のところで,大きな話としては,保証契約の締結段階での制限を日弁連のように広く置くのか,そこまではいかないけれども,中間的なところで行くのか,いや,もう一般的な禁止規定は一切設けない。その三段階ぐらいがあると思います。そういう大きな意思決定,それから,過大な保証の比例原則を入れるか入れないか,その辺りはやはり多数決というか,誰かがどっかで,もうこれでいくと決めるしかないように思うんです。それは部会で原則,全会一致でいくと,最初のほうに言っていましたけれども,今のような大きな論点になると,全会一致というのはなかなか厳しいと思われますので,こういう大きなところの意思決定のやり方みたいなものはどうするのか是非教えていただきたいと思います。 ○筒井幹事 ただいまの岡委員のお尋ねに対して,一義的な答えがあるわけではもちろんございませんけれども,保証に関して言えば,先ほど私が申し上げたとおり,まずは中間試案のたたき台としてどういうものを提示して議論を深めていくのか,それに向けて,再度の論点整理をする必要があるということが,分科会での補充的な議論をお願いする趣旨であります。そして,保証に関して,これほど意見が対立しているのだから,多数決で決めざるを得ないのではないかという御指摘に対しては,今後どうなるか,今の段階で軽々に申し上げることはできませんが,私は再三約束してまいりましたように,基本的に多数決で決めない,納得のいくまで議論して,現時点における最善のものを見付けていく努力をしていきたいと考えております。また,これまで積み重ねられてきた法制審議会の議論の歴史の中で,このように意見の対立のある論点は少なからずありましたが,それでも,常に答えを見付けだして全会一致で・・・。常には言い過ぎですね。若干の例外はありましたが,基本において,常に全員の合意形成を目指して,最後まで努力をし,それを実現してきた歴史があるわけですので,今回もそのような審議の進め方をしたいと私は思っております。 ○鎌田部会長 中間試案の段階では,甲案,乙案,両案併記というところはあり得るので,それにパブコメ等を経て,最終的に結論を出していくということになってくる。民法関係では多数決をしたのは1回しかないと聞いています。 ○道垣内幹事 すみません,元に話を戻して,9の話なのですが,9は内容を積極的に書くということはなかなか難しく,契約どおりの効力があるというだけの話になってしまうのですけれども,本日の部会の最初のほうに,保証引受契約の話が出て,保証引受契約などという概念を置かなくても,例えば保証,実質的に見て保証であるようなものについては,保証の規律を全部及ぼすというふうな一般規定を置くという選択肢も示されたわけです。そして,仮にそのような方策を取るというときにも,いわゆる請求払いといいますか,損害担保契約といいますか,そういった独立的保証については,当該ルールに言う保証類似とはされないということになるんだろうと思います。そうならないと,国際取引を含めた実務的にも比較法的にも大きな問題を引き起こすと思います。さて,そうしますと,一定のものを規制対象から除くわけですが,その際,損害担保契約といったものについて一切の規定がないとしますと,除外のための概念がないということになり,その結果,保証の規定の類推のための一般規定が置けるのかという問題が出てくるような気がします。   したがって,9に関しては,仮に置かないという方向であったとしても,保証類似の取引について,保証の規律を及ぼすという手法,そのときに取られる手法次第によっては,それとは違うということを示すために,なお置く必要が出てくる場合もあるかもしれないと考えておいたほうがよいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 これは,その点を念頭に置いて,正面から規定できないことと,どこに力点を置くかで,例えば2の保証債務の付従性というところに,これが適用にならない類型がありますというのをただし書的に付けるだけで存在を裏から示すということもあり得るのかもしれません。そこは御指摘の点を受けて,検討をさせていただきます。   それでは,本日の審議はこの程度にさせていただきまして,分科会について報告をさせていただきます。本日の審議におきましても,幾つかの論点については分科会で補充的に審議することとされましたが,本日,分科会で検討することとなりました部会資料36関連の論点につきましては,恐縮ですけれども,第1分科会で審議していただくことといたします。中田分科会長はじめ関係の委員,幹事の皆様にはよろしくお願いいたします。   最後に次回の議事日程等について,事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回会議は,2週間後の4月17日火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省地下1階大会議室です。次回の議題は本日の積み残し部分である部会資料37と,前回の会議で机上配布いたしました部会資料38,それから,次回の会議用に新たに用意する部会資料39ということになります。よろしくお願いいたします。   それから,分科会の開催についてのお知らせがあります。机上に第1分科会第3回会議のお知らせを配らせていただきました。詳細はその紙に書いたとおりですので,読み上げることは省略いたします。本日,第1分科会に配転されました保証債務に関する論点まで審議の対象となります。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日も熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-