法制審議会第145回会議 議事録 第1 日 時  平成17年7月21日(木)  自 午後1時57分                        至 午後2時25分 第2 場 所  法曹会館「高砂の間」 第3 議 題  犯人から財産犯等の犯罪収益をはく奪し,これを被害回復に充てるための法整備に関する諮問第73号について                         第4 議 事 (次のとおり) 議        事  (開会宣言の後,法務大臣から次のようにあいさつがあった。)   法制審議会第145回会議の開催に当たり,一言ごあいさつを申し上げます。   委員及び幹事の皆様方におかれましては,公私とも御多用中のところを御出席賜り,まことにありがとうございます。   当審議会におきましては,皆様の御尽力により,既に多くの重要な案件について御答申をいただき,また,現在も多数の諮問事項について調査,審議をいただいているところでございます。この機会に,皆様方の御労苦に対し厚く御礼を申し上げます。   さて,本日は新たな事項としまして,犯人から財産犯等の犯罪収益をはく奪し,これを被害回復に充てるための法整備に関する諮問第73号について,御検討をお願いしたいと存じます。   これは,現行のいわゆる組織的犯罪処罰法では,財産犯等の犯罪行為により被害者から得た財産については,被害者が自ら民事手続において被害回復を図ることを期待して,没収・追徴ができないこととされています。   しかしながら,このような犯罪被害財産の没収・追徴を禁止しただけでは,被害者がその請求権を行使することが困難である場合には,被害者の被害回復が図られないばかりか,その結果として,犯罪収益が犯人の手元に残ってしまう可能性があり,現実にも,いわゆるヤミ金融の高利貸し事件等において,そのようなことが問題となっているところでございます。 このような状況に照らし,犯罪被害財産の没収・追徴を可能とした上で,これを被害者の被害回復に充てるための法整備を早急に行う必要があると思われますので,そのための御検討をお願いするものでございます。   それでは,どうぞよろしく御審議をお願いいたします。  (法務大臣の退席後,委員・幹事の異動につき紹介し,引き続き,本日の議題について次のように審議が進められた。) ● 先ほどの法務大臣あいさつにもございましたように,本日の議題は,犯人から財産犯等の犯罪収益をはく奪し,これを被害回復に充てるための法整備に関する諮問第73号についてでございます。委員,幹事の皆様には,十分に御審議いただくことは当然でございますが,議事の進行にも御協力いただきたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。   それでは,審議に入らせていただきます。   まず初めに,事務当局に諮問事項の朗読をお願いいたします。 ● 諮問を朗読させていただきます。    諮問第73号    犯罪収益のはく奪及び犯罪の被害者の保護を一層充実させるため,犯人から財産犯等の犯罪収益をはく奪することを可能にするとともに,これを被害者の被害回復に充てるための法整備をする必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を承りたい。 ● 続きまして,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由等につきまして,事務当局から説明してもらいます。 ● それでは,諮問第73号につきまして,提案に至りました経緯及び諮問の趣旨等について御説明申し上げます。   近年,いわゆるヤミ金融の高利貸し事件等が発生し,多額の犯罪収益が発見されることもございます。このような犯罪収益を確実にはく奪するのが,いわゆる組織的犯罪処罰法における犯罪収益規制の趣旨ですが,財産犯等の犯罪行為により被害者から得た財産等である犯罪被害財産については,これをはく奪してしまうと,被害者の犯人に対する私法上の請求権の実現を妨げるおそれがあるため,被害者保護の観点から,没収・追徴ができないこととされております。   しかしながら,単に没収・追徴を禁止するだけでは,その収益を犯人の手元に残すだけの結果となる可能性があることから,平成11年の諮問第44号に関する法制審議会において,犯罪被害財産の没収を可能とした上で,これを起訴された事件の被害者に帰属させる制度等を事務当局から提案いたしましたが,起訴されなかった事件の被害者が対象にならないとすると,かえって被害者相互間で不公平感が増すのではないかなどの御意見があり,答申をいただくには至りませんでした。   法務省としては,その後も検討を続けてまいりましたが,近時,被害者が自ら被害回復を図ることが現実的に困難であるなどの事情があるため,多額の犯罪収益を犯人の手元に残すだけの結果を招来しかねない事件が発生するなどし,その法整備を求める声はより一層強くなっております。   このような状況に照らし,犯罪被害財産の没収・追徴を可能とした上で,これを被害者の被害回復に充てるための法整備を早急に行う必要があると考え,今回の諮問に及んだものでございます。   次に,諮問の内容について御説明申し上げます。   初めに,要綱(骨子)の第一についてですが,これは,現在禁止されている犯罪被害財産の没収・追徴について,一定の場合にその禁止を解除して,被害者の被害回復に充てるようにするものです。   そのうち要綱(骨子)一の1及び2についてですが,現行法が犯罪被害財産の没収・追徴を禁止した趣旨は,そもそも私権の実現は,まず民事上の手続によって図られるべきであり,この妨げになってしまうことは控えるべきであることなどに基づいており,このような考え方自体はなお合理的であると考えられますので,一の1及び2においても,被害回復については基本的に民事手続にゆだねるという考え方を維持しております。しかし,例えば犯罪行為が組織的な態様で行われた事案や,マネー・ローンダリング犯罪で犯罪被害財産を仮装・隠匿させて,その追及を困難にさせたような事案においては,被害者は,およそ自己の責めに帰することのない事情により,民事上の請求権の行使をためらったり,適切な者にこれを行使することが困難な状況に置かれることとなり,犯罪被害財産の没収・追徴の禁止を維持したままでは,その結果として,犯人に不法な利益を保有させてしまうことにもなりかねません。   そこで,一の1及び2において「犯罪の性質又は犯罪被害財産の管理若しくは処分の状況」に照らして,被害者の請求権行使が困難であると認められるときには,犯罪被害財産の没収・追徴を可能とするものとしております。   一方で,犯罪被害財産は,元々財産犯等の被害者に由来する財産であり,これを没収・追徴した場合には,被害者の被害回復に充てることが相当であることから,要綱(骨子)第一の二において,没収した犯罪被害財産及び追徴した犯罪被害財産の価額を給付金の支給に充てるものとし,さらに,第一の三において,犯罪被害財産を没収等するときは,その言渡しと同時に,これが犯罪被害財産である旨などを示さなければならないものとしております。   次に,要綱(骨子)の第二についてですが,これは給付金の支給手続に関するものです。   まず,要綱(骨子)第二の一の「支給手続の開始及び公告等」ですが,一の1において,検察官は,犯罪被害財産等の没収・追徴を言い渡した刑事裁判が確定し,その裁判の執行等により,犯罪被害財産に相当する金銭を保管するに至ったときは,給付金の支給手続を開始するものとしております。   次に,要綱(骨子)第二の一の2ですが,検察官は,その手続を開始したときは,財産犯等の犯罪行為のうち,給付金支給の対象となる一定の犯罪行為を「対象犯罪行為」として,これを公告するものとしております。   この公告すべき対象犯罪行為には三つの累計があり,後に御説明いたします要綱(骨子)二の1にあるように,この三つの類型の対象犯罪行為の被害者を給付金支給の申請権者としております。   その三つの類型のうち,その1は,要綱(骨子)一の2の柱書きにあります「犯罪被害財産の没収又は追徴の理由とされた事実に係る対象犯罪行為」であり,これは具体的には刑事裁判で没収・追徴する根拠として示された罪となるべき事実に係る対象犯罪行為を指すものでございます。   その2は,要綱(骨子)一の2のイにありますその1の対象犯罪行為と「一連の犯行として行われた対象犯罪行為」であります。これは,例えば,検察官が起訴する段階においては,社会的に見れば一連の犯行と認められる事実の中から,刑事裁判において審理に耐え得る証拠の有無や,被告人に対する適正な刑罰の実現と捜査・訴訟経済とのバランス等を踏まえて,一定の絞り込みがなされることもあるところ,このような考慮により,刑事裁判においては認定されるに至らなかった事実の被害者についても,社会事象として見れば,刑事裁判において認定された事件の被害者と同等の立場にあった者と評価することができることから,その1の対象犯罪行為と「一連の犯行として行われた対象犯罪行為」をも対象とするものでございます。   その3は,要綱(骨子)一の2のロにあります「犯罪被害財産の没収若しくは追徴の理由とされた事実に係る犯罪行為が対象犯罪行為によりその被害を受けた者から得た財産に関して行われたものである場合における当該対象犯罪行為」または「これと一連の犯行として行われた対象犯罪行為」であります。この前段部分は,マネー・ローンダリング犯罪が没収・追徴の理由とされている場合におけるその前提犯罪となった詐欺等の財産犯等の犯罪行為などを指すものでございます。また,後段部分は,その2と同様に,その前提犯罪と一連の対象犯罪行為をも対象とするものでございます。   この三つの類型の対象犯罪行為につきましては,給付金の支給を申請しようとする被害者にとって,自らが支給の対象となる犯罪行為の被害者であるかどうかを容易に判断できない場合もあり得ることから,要綱(骨子)一の2において,個別・具体的な事件の態様に応じて,給付金の支給の対象となる「対象犯罪行為」の範囲をあらかじめ具体化して定めた上,これを公告するものとしております。   そして,要綱(骨子)一の3において,対象犯罪行為の範囲が確定したことを受けて,その範囲,支給に充てるべき金銭の額,その他一定の事項を公告し,かつ,知れている申請権者にこれらの事項を通知するものとし,支給を受けるべき被害者にできるだけこれらの事項を知らせるものとしております。   次に,要綱(骨子)二の「支給の申請等」ですが,まず,要綱(骨子)二の1において,給付金の支給を申請することができる者を,先ほど御説明いたしました一の2の公告がされた三つの類型の対象犯罪行為の被害者であって当該対象犯罪行為により財産を失ったもの又はその一般承継人としており,二の2において,給付金の支給を申請することができる額を,対象犯罪行為により失った財産の価額としております。   要綱(骨子)二の3は申請に関するものですが,給付金の支給を受けようとする者は,申請書とともに,給付金の支給を申請することができる者であることの基礎となる事実等の疎明資料を提出しなければならないものとしております。   次に,要綱(骨子)三の「審査及び支給の実施等」ですが,まず,要綱(骨子)三の1において,給付金支給の申請を受けた検察官が,申請人が先ほど御説明しました三つの類型の対象犯罪行為の被害者又はその一般承継人に該当するか否か,該当する場合には,対象犯罪行為により失った財産の価額として相当と認める額及び支給すべき給付金の額を裁定し,申請人に通知しなければならないものとしており,三の2において,検察官が裁定を行うために必要があると認めるときは,一定の調査等ができるものとしております。また,三の3において,すべての申請について支給すべき給付金の額が確定したとき,すなわち裁定に対する不服申立手続などがすべて終了し,給付額についてもはや変更することがなくなったときに,検察官は,給付金を支給するものとしております。なお,支給すべき給付金の額については,三の1の後段にもありますように,認定された犯罪被害額を基本としつつも,犯罪被害額の総額が給付すべき資金から費用を控除した額を超えるときは,各犯罪被害額の割合に応じて按分した額としております。   最後に,要綱(骨子)四の「その他」ですが,まず,要綱(骨子)四の1において,検察官は,裁定その他一定の事務を弁護士の中から選任した者に行わせることができるものとしております。給付金の支給手続は,破産手続に類似している点もあると考えられるところ,支給手続を適正・迅速に行うためには,法律の専門家であって,法令及び法律事務に精通し,破産管財人等の経験のある弁護士により行われる方がより適切である場合があります。また,検察官が支給手続を行った場合には,例えば,起訴された事件の被害者のみを優遇しているのではないかなどといった誤解を生じさせないとも言えず,支給手続が公平・適正に行われているという信頼をより一層確保するためには,当該刑事事件とはかかわりのない第三者であり,かつ一般的に高度の職業倫理を有している弁護士に行っていただいた方が適切な場合もあります。このようなことから,弁護士の中から選任した者に裁定その他一定の事務を行わせることができるものとしております。   次に,要綱(骨子)四の2についてですが,これは,給付資金で支給手続の費用を賄うのに足りないと認めるに至った場合は,その後の手続を続行する実益がないことから,支給手続を終了させなければならないものとするものであります。   また,要綱(骨子)四の3についてですが,これは,給付金の支給を受けるべき者に不利益が及ぶ可能性のある処分,すなわち対象犯罪行為の範囲を定める処分,支給の申請に対する裁定及び給付資金の不足により支給手続を終了させる処分に対する不服申立手続を設けるとするものであります。   そして,要綱(骨子)四の4は,支給手続が終了した後,給付資金の残額を一般会計の歳入に繰り入れるものとするものであります。これは,元々給付資金が国庫に帰属しているものですので,仮に残額がある場合には歳入に繰り入れることにするものです。   最後に,要綱(骨子)四の5は,技術的,細目的な事項を含めた,その他所要の規定の整備を行うものとするものであります。   要綱(骨子)の概要は以上のとおりです。十分御議論の上,できる限り速やかに御意見を賜りますようお願い申し上げます。 ● 引き続きまして,配布資料の説明をさせていただきます。   まず,番号1は,諮問第73号でございます。なお,別紙要綱(骨子)の朗読は省略させていただきました。   次の番号2は,諮問第73号に関連する組織的犯罪処罰法及び刑法の条文の抜粋でございます。   番号3は,平成11年10月26日の法制審議会第128回会議において諮問をしました,「刑事手続において犯罪被害者への適切な配慮を確保し,その一層の保護を図るための法整備に関する諮問第44号」のうち,諮問事項第9,「被害回復に資するための没収及び追徴に関する制度の利用」に関しまして,同年12月24日の法制審議会刑事法部会第79回会議において,事務局から参考試案としてお示しした要綱(骨子)でございます。   その内容は,犯罪被害財産の没収・追徴を可能とした上で,起訴状に記載された被害者の申立てに基づいて没収した犯罪被害財産を当該被害者に帰属させること,追徴保全命令に基づく仮差押えの執行がなされたときは,当該被害者の申立てに基づいて,仮差押えの執行がされた地位を承継させることとするものです。   番号4は,平成12年2月22日に開催された法制審議会第129回会議において,当時の刑事法部会長が諮問第44号について行った刑事法部会での審議の経過及び結果の報告のうち,諮問事項第9,「被害回復に資するための没収及び追徴に関する制度の利用」に関する部分の抜粋でございます。   刑事法部会におきましては,同制度の導入につきまして,当時施行間近であった組織的犯罪処罰法の運用を踏まえなければ十分な議論ができないのではないか。殺人等の生命・身体犯の被害者などが救済されなかったり,不起訴事件の被害者が対象とならないなど,かえって被害者相互間で不公平感が増すのではないか。民事上の債権回収目的で濫告訴の増加を招き,捜査実務に悪影響を与えるのではないかなどの意見が述べられまして,最終的には組織的犯罪処罰法の運用状況などを見ながら,より広い視野から検討すべきであるとされ,同報告では,そのような理由から答申には至らなかった経緯が述べられております。   以上,簡単でございますが,配布資料の説明をさせていただきました。 ● それでは,ただいま説明のありました諮問第73号につきまして,まず御質問がございましたら御発言をお願いいたします。--ございませんでしょうか。   御質問がないようでございますので,次に,諮問第73号の審議の進め方について御意見がございましたら,御発言をお願いいたします。 ● 諮問第73号は,犯罪被害者の救済の趣旨に出たものと存じますけれども,諮問に付されております要綱(骨子)を拝見しますと,刑罰としての没収・追徴を前提としたものであるなど,専門的・技術的な点が含まれておりますので,そうした観点からの慎重な審議,調査が必要かと思われます。   そこで,専門の部会におきまして審議,調査していただいて,総会でその結果に基づいてさらに審議するという方法がよろしいのではないかと存じますが,いかがでしょうか。 ● ただいま○○委員から,部会設置との御提案がございましたけれども,これにつきまして御意見がございますでしょうか。--ただいまの○○委員の御意見に対して,特に御異議もないようでございますので,諮問第73号につきましては,新たに部会を設けて調査,審議することに決定いたします。よろしゅうございますでしょうか。   次に,新たに設置する部会に属すべき総会委員,臨時委員及び幹事に関しましては,会長に御一任願いたいと存じますが,御異議ございませんでしょうか。--それでは,この点は会長に御一任願うことといたします。   次に,部会の名称でございますが,諮問事項との関連から,諮問第73号につきましては,刑事法(財産犯等の犯罪収益のはく奪・被害回復関係)部会と呼ぶことといたしたいと存じますが,いかがでございましょうか。何か御意見ございますか。--特に御異議もないようですので,そのように取り計らわせていただきます。   総会委員として,諮問事項の中身について,ほかに御意見がございましたら御発言をお願いいたしたいと存じます。いかがでしょうか。   それでは,諮問第73号につきましては部会で御審議いただき,それに基づいて,総会においてさらに御審議を願うということにいたしたいと存じます。   これで本日の審議は終了いたしました。   ほかに,この機会に御発言いただけることがございましたら,お願いいたします。本日の議題以外のことでも結構でございます。--特に御発言ございませんでしょうか。   それでは,本日はここまでということでよろしゅうございますでしょうか。   最後に,事務当局から,今後の日程等について御案内がございます。 ● それでは,今後の日程についてでございますが,次回,9月6日火曜日,午後1時30分から,法務省の地下1階の大会議室におきまして,それから次々回ですが,10月6日木曜日,午後1時30分から,東京高等検察庁の会議室において,それぞれ総会を開催する予定でございます。委員,幹事の皆様方におかれましては,御多忙のところとは存じますが,よろしく御出席賜りますようお願い申し上げます。 ● ありがとうございました。   では,本日はここまでということにしたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。   どうもありがとうございました。これで散会といたしたいと思います。 -了-