法制審議会第143回会議 議事録 第1 日 時 平成16年9月8日(水) 自 午後1時30分  至 午後5時00分 第2 場 所 法務省大会議室 第3 議 題 諮問第64号,諮問第66号,諮問第68号,諮問第69号について答申案の決定          信託法の見直しに関する諮問第70号について          人身の自由を侵害する行為の処罰に関する罰則の整備に関する諮問第71号について          少年の保護事件に係る調査手続等の整備に関する諮問第72号について 第4 議 事 (次のとおり) 議    事 (開会宣言の後,法務大臣あいさつを法務副大臣が代読した。)  法制審議会第143回会議の開催に当たりまして,一言ごあいさつを申し上げます。  委員及び幹事の皆様方におかれましては,公私ともに御多用中のところ御出席をいただき, 誠にありがとうございます。  当審議会におきましては,皆様方の御尽力により,既に多くの重要な案件につきまして御答申をいただき,また現在も多数の諮問事項につきまして調査審議をいただいているところでございます。この機会に,皆様方の御労苦に対しまして厚く御礼を申し上げます。  さて,本日御審議をお願いする議題のうち,第1から第4は既に諮問がなされている事項についてでございます。  まず第1は,保証制度の見直し関する諮問第66号でございます。  この諮問事項につきましては,保証制度部会におきまして調査審議が続けられてまいりました。その結果,保証人が個人であり,かつ主たる債務に貸金債務等が含まれている根保証契約について,極度額を定めなければその効力を生じないものとすること,主たる債務の元本の確定すべき期日を定める場合には契約の日から5年以内としなければならないこと,その期日の定めない場合には契約の日から3年を経過した日にその元本が確定したものとすること等を内容とする「保証制度の見直しに関する要綱案」が決定され,本日報告されるものと承知いたしております。  第2は,動産譲渡・債権譲渡の公示制度に関する諮問第64号でございます。  この諮問事項につきましては,動産・債権担保法制部会におきまして調査審議が続けられてまいりました。その結果,企業の資金調達の円滑化・多様化を促進する観点から,法人による動産及び債権の譲渡を円滑にするために,法人がする動産の譲渡につき登記制度を創設するとともに,法人がする債務者の特定していない将来の金銭債権の譲渡も登記の対象とすること等を内容とする「動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に関する要綱案」が決定され,本日報告されるものと承知いたしております。  現在の我が国を取り巻く社会・経済情勢にかんがみますと,以上の二つの事項については早急に措置を講ずる必要があると思われますので,速やかに御答申をいただきたいと存じます。  第3は,人名用漢字の範囲の見直し(拡大)に関する諮問第68号でございます。  この諮問事項につきましては,人名用漢字部会におきまして調査審議が続けられてまいりましたが,本日,その結果が報告されるものと承知いたしております。人名用漢字につきましては,その拡大についての要望が多数寄せられていること等にかんがみますと,追加される漢字を早急に国民に示す必要があると思われますので,速やかに御答申をいただきたいと存じます。  第4は,凶悪・重大犯罪に対処するための刑事法の整備に関する諮問第69号でございます。  この諮問事項につきましては,刑事法(凶悪・重大犯罪関係)部会におきまして議論がなされ,本日その結果が報告されるものと承知いたしております。近年におけます凶悪・重大犯罪の実情等にかんがみまして,この種の犯罪に対処するため,早急に刑事の実体法及び手続法を整備する必要があると思われますので,速やかに御答申をいただきたいと存じます。  次に,新たに三つの事項について御検討をお願いしたいと存じます。  まず,第5の信託法の見直しに関する諮問第70号についてでございます。  信託法は,大正11年に制定されて以来,これまで実質的な改正がなされないまま現在に至っておりますが,この間の社会・経済活動の多様化に伴い,我が国の取引社会の実情に必ずしも適合していない部分が生じてきております。そこで,社会・経済情勢の変化に的確に対応する観点から,受託者の負う忠実義務等の内容を適切な要件のもとで緩和し,受益者が多数に上る信託に対応した意思決定のルール等を定め,受益権の有価証券化を認めるなど,その現代化を図る必要がありますので,信託法の見直しについて御検討をお願いするものでございます。  第6は,人身の自由を侵害する行為の処罰に関する罰則の整備についての諮問第71号でございます。  人身の自由を侵害する行為の典型であります人身取引につきましては,国連において採択された「国際組織犯罪防止条約人身取引補足議定書」に我が国も署名し,政府を挙げてこの問題に取り組んでおります。また近年,長期間にわたる監禁事案や悪質な幼児略取・誘拐事案等,現行の罰則では適正な処罰が困難な事案の発生も見られるところでございます。そこで,同議定書の早期締結及びこれらの犯罪の適切な対応のために早急に刑法等の整備が必要と思われますので,そのための御検討をお願いするものでございます。  最後になりますが,第7は,少年の保護事件に関する調査手続等の整備についての諮問第72号でございます。  深刻な少年非行の現状を踏まえまして,昨年12月に策定されました「青少年育成施策大綱」におきましては,触法少年に関する調査権限の明確化や保護処分の見直し,保護観察の実効性確保が検討課題として盛り込まれました。触法少年による凶悪・重大な事件も発生するなど,少年非行をめぐります現状に適切に対処するため,少年法等の整備について御検討をお願いするものでございます。  これらの議題につきまして,どうぞよろしく御審議をお願いいたします。 (法務副大臣の退席後,幹事の異動につき紹介し,引き続き,本日の議題について次のように 審議が進められた。) ● 先ほどの法務大臣あいさつにもございましたように,本日は,1 動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に関する諮問第64号について,2 保証制度の見直しに関する諮問第66号について,3 人名用漢字の見直しに関する諮問第68号について,4 凶悪・重大犯罪に対処するための刑事法の整備に関する諮問第69号について,5 信託法の見直しに関する諮問第70号について,6人身の自由を侵害する行為の処罰に関する罰則の整備に関する諮問第71号について,7 少年の保護事件に係る調査手続等の整備に関する諮問第72号についてでございます。   以上の審議事項につきまして御審議いただきたいと存じますが,都合により,まず議題2の御審議をいただき,その後,議題の1及び3について御審議をいただき,休憩を挟みまして議題の4から7を御審議いただくよう,そのような順序で議事を進めてまいりたいと存じます。   本日は何分にも内容が盛りだくさんでございますので,十分に御審議いただくことは当然ではございますけれども,委員・幹事の皆様には議事の進行にも御協力をいただき,各要綱の決定を行いたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。   それでは,審議に入らせていただきます。   本日の第1の議題であります保証制度の見直しに関する諮問第66号につきまして御審議をお願いいたしたいと思います。   まず,保証制度部会における審議の経過及び結果につきまして,○○部会長から御報告をお願いいたしたいと思います。 ● 保証制度部会長の○○でございます。   それでは,早速,諮問第66号につきまして,本年8月3日開催の保証制度部会の第6回会議におきまして,「保証制度の見直しに関する要綱案」を決定いたしましたので,その審議の経過及び要綱案の概要につきまして御報告申し上げます。   まず審議の経過でございますが,諮問第66号は,「保証人が過大な責任を負いがちな保証契約について,その内容を適正化するという観点から,根保証契約を締結する場合に限度額や期間を定めるものとすることなど,保証制度について見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい」というものでございます。   中小企業が融資を受ける際には,その信用補完の手段として,経営者等により,継続的に発生する不特定の債権を保証の対象とする根保証がしばしば行われておりますが,現行法のもとでは,この根保証契約に関する特段の法的規制は行われておりません。このため,根保証契約の中でも,保証の限度額や保証期間の定めのない,いわゆる包括根保証契約が多用されておりまして,保証人が予期せぬ過大な責任を負う結果となりがちであるという問題が指摘されておりました。特に昨今では,中小企業を取り巻く厳しい経済状況から,保証人が現実に責任追及を受けるという事例が多発しておりまして,包括根保証に対する法的規制を講ずることが喫緊の課題とされておりました。そこで,本年2月にこの諮問がされ,その調査審議を行うため保証制度部会が設置されたものでございます。   保証制度部会におきましては,3月から具体的な検討作業を開始し,5月にはそれまでの審議の中間的な成果として,「保証制度の見直しに関する要綱中間試案」を取りまとめました。この中間試案については,関係各界に対する意見照会とパブリックコメントの募集手続が実施されました。その後,中間試案に対して寄せられました意見を踏まえまして更に検討が進められ,8月3日に開催されました第6回会議におきまして,「保証制度の見直しに関する要綱案」の決定を見るに至ったものでございます。   続きまして,要綱案の概要について御説明いたします。   まず,要綱案の全体構成を御理解いただくために,保証制度部会における検討の手順について御説明いたします。   保証は様々な経済取引において利用されておりますので,一概に保証人保護の方策と申しましても,取引類型ごとに様々なものが考えられます。そこで,保証制度部会では,限られた審議時間の中で成案を得るための工夫といたしまして,現在の社会・経済情勢のもとで保証人保護の措置を講ずべき必要性が特に指摘されているのは,保証人が,まず第1に貸金債務について,第2番目に根保証をした,そして第3番目に個人である場合という,この三つの点が重要であるという認識に立ちまして,まず貸金債務の根保証をした個人保証人の保護の方策について検討し,その後に,そこで検討された保護の方策を貸金債務の根保証以外の他の保証類型に対してどのような範囲にまで及ぼすことが適当であるかを検討するという,こういう手法をとって審議を行ってまいりました。このため,要綱案におきましても,このような検討の手順を反映して,第一として「貸金債務の根保証についての個人保証人の保護の方策」について記述し,第二としてその「適用範囲等」について記述するということにしております。   最初にそのような全体構成であるということをお断りいたしまして,第一から順次説明してまいりたいと存じます。   まず第一の一の「要式行為」について御説明いたします。   保証契約は,現行法のもとでは意思の合致のみが契約成立の要件であり,特別の方式は要求されておりません。しかし,無償で個人的な情誼に基づき行われることが多いという保証契約の特性にかんがみますと,保証意思が外部的にも明確となった場合に限り契約としての拘束力を認めるのが相当であると考えられます。そこで,まず,根保証契約につきましては書面によらない契約の効力を認めないことといたしました。   なお,この点は保証契約一般に及ぼすのが適当であると考えられますことから,要綱案2ページの第二の一に記載しておりますように,すべての保証契約について適用するものとしております。   「要式行為」の項目のうち,2の点につきましては後ほど御説明いたします。   2番目は,第一の二の「極度額」の点について御説明いたします。この「極度額」のほか,三の「元本確定期日」,四の「元本確定事由」は,根保証に特有の問題を取り上げたものでございます。   まず極度額の点につきまして,要綱案では,極度額の定めのない根保証契約は無効とするということにしております。これによりまして保証人が責任を負うこととなる金額的な上限を明らかにし,保証人の予測可能性を確保しようという趣旨でございます。また,この予測可能性の確保という観点から,極度額は主たる債務の元本だけでなく利息損害金を含むものとして定めなければならないものとしております。   次は,第一の三,「元本確定期日」の点でございますが,まず,根保証契約において元本確定期日を定める場合には,その期日は,契約の締結日から5年以内でなければならないものとしております。また,根保証契約において元本確定期日の定めがない場合には,その期日は,契約の締結日から3年を経過した日とすることにしております。これらの規律によりまして,根保証契約においては必ず最長でも5年以内の元本確定期日が定まることとなり,保証人はこの元本確定期日までの間に行われた融資に限って保証債務を負うということになるわけでございます。この元本確定期日は事後的に変更することができることとしておりますが,その場合でも,変更後の元本確定期日は原則として変更の日から5年以内でなければならないものとしております。   なお,先ほど説明を後回しにいたしました第一の一の「要式行為」における2の点でありますが,極度額の定めと,契約の締結日から3年よりも後の日を元本確定期日とする定めにつきましては,その重要性にかんがみまして,書面に記載しなければ効力を生じないものとしております。   次に,第一の四,「元本確定事由」の点でございますが,これは,元本確定期日の到来前であっても,一定の特別な事由が発生した場合には,保証人保護の観点から,それ以後に行われる融資について責任を負わせるのは相当ではないという考慮に基づきまして,主たる債務の元本を確定させることとするものでございます。   その特別な事由としては,(一)として,債権者が主たる債務者又は保証人の財産に対する強制執行又は担保権実行の申立てをしたこと,(二)として,主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたこと,(三)として,主たる債務者又は保証人が死亡したこと,という三つの事由を挙げております。   続きまして,第二の「適用範囲等」について御説明いたします。   まず,第一の一の1の要式行為の点は,先ほど申し上げましたように,保証契約一般について適用することとしております。   次に,「極度額の定め,元本確定期日及び元本確定事由」に関する規律につきましては,まず保証人が個人である場合に限ることとしておりますが,これは個人の生活の破たんを防止することがその目的であることからでございます。また,主たる債務の種類につきましては,根保証契約で定められる主たる債務の範囲に貸金債務又は手形割引に係る債務が含まれているものに限ることとしております。冒頭でも申し上げましたように,保証は様々な経済取引において利用されておりますが,今回の保証人保護の方策は,その必要性が特に高い,融資に関する保証について検討してまいりましたので,その適用範囲もこれに限定することとしたものでございます。   最後に,第二の三の「根保証契約の保証人の求償権についての保証」の点について御説明いたします。   根保証契約の保証人が法人である場合にも,その求償権について個人が保証人となるときは保証人が予期せぬ過大な責任を負うことになりかねませんので,個人が直接根保証契約を締結した場合と同様の保護を受けられるようにする必要があると考えられます。そこで,保証人が法人である根保証契約におきまして,極度額や元本確定期日が定められていないような場合には,その求償権について個人の保証を求めることができないということにいたしました。これによりまして,求償権についての個人の保証人は,極度額と元本確定期日の定めによって限定された範囲内での求償権について保証人としての責任を負うということになるわけでございます。   以上,簡単ではございますが,要綱案の概要につきまして説明させていただきました。どうぞよろしく御審議のほどお願い申し上げます。 ● それでは,ただいまの○○部会長の御報告及び要綱案の全般的な点につきまして,まず御質問がございましたら御発言をお願いいたします。 ● 基礎知識が不足しておりまして,それでお教えを受けたいのでございますけれども,従来,外部的な保証意思の明確な証拠みたいなものがなかった,だからそれを書面をもっていたすことにしたという御説明があったのですけれども,それでよろしゅうございますか。 ● 従来も,現実にはほとんど書面化されているということでございます。   ただ,民法の規定では特に保証契約の様式については規定がありませんので,合意だけでも,単なる口約束だけでも保証の効果が生ずるということにはなっております。 ● お話を伺っていて,外部的に客観的に証明するものがないのになぜ法的な効力を持ったのかなという,すごくプリミティブな疑問を持ってしまったものですから。申し訳ありません。   それから,包括的な根保証債務の契約をした場合に,借入額というか保証額がふえていく,そのたびごとに保証人に通知する義務は必要ないのでございますか。 ● これは,現在のこの案ではもちろんそれについては規定しておりませんので,特に通知する義務はないということでございます。 ● 従来非常にあいまいだったことと比べますと,限度額を定めておけとか,元本確定期日を定めて5年以内とか,それがないときには3年以内とか,そういう意味では非常に保護が行き届いたかなと思いまして,有り難いお話と思うのでございますけれども,でも,なぜ根保証なんていうものをまだ許すのかと。根保証というのは,金融機関,貸し手の側にとっては非常に便利なものなのですけれども,場合によっては借り手にとっても便利な要素があるかもしれませんが,保証人にとっては何のメリットもないような気がするのですね。しかも,金融機関と借り手との力関係で言いますと,限度額であれ何であれ,そうじゃなかったら貸さないよと言われたらそれまででございますから,どうしても泣き落としということになってしまうわけです。そういうものに関しての防御策というのはどうなるのかなとちょっと思いまして,お尋ねしたいと思うのですが。 ● 先ほどの点ですけれども,極度額というのは決まっていますので,一番最初のスタートのところで最大限保証人として責任を負うアッパーリミットは理解されているということで契約がなされるということですね。ですから,あえて個々の一回一回の取引について通知がなくても,その限度額を超えることはないという意味で保証人は十分覚悟しているはずだということです。そして,一回ごとに個別の保証という,これはもちろんそういうことも現実に行われているわけですけれども,そういう単発的な取引ではなくて,一個の長期的な,継続的な取引の中で,いったん債権が発生しては消滅していくという場合に根保証とか根抵当というのはずっと利用されてきたわけでありまして,特に民法にそういうことを規定した規定はないのですけれども,実務はそういうことをやってきて,それが裁判所でも承認されてきたわけですけれども,それにはやはり合理的な理由がありまして,やはり一回一回保証人をとってくるということの煩雑さというものもありますので,根保証には根保証の合理性があると。   ただ,これまで行われているような,包括根保証で無期限,極度額も全く青天井ということではやはり保証人の保護には不十分だということで,今回のこういう要綱案のような形で,期間も一応限定され,しかも極度額という形で限度額がはっきりされているということで保証人を保護しようという,そういう趣旨でございます。 ● 大きな改善ということは大変よく理解できるのでございますが,こんな契約が戦後何十年もの間放っておかれた。商工ローンで包括的根保証の存在が社会問題となりましたのももう5年ぐらい前ですよね。それから,一般的に金融機関は物的担保もとっているのが通例でありまして,そのほかにも保証人を置くというケースも多々あるわけです。つまり,追加的にとっているわけですね。しかも,契約時にこの担保でいいよと言いながら,担保価値が下がった場合には一方的に追加担保を要求するというようなことになっておりまして,それは欧米の融資契約の慣行とはちょっと異なる側面が非常に強いわけです。つまり,そういう形式で来たということは,それだけ貸し手の側が非常に強い力を持っている,相対的に強い力を持っているということの反映ではないかなと思いまして,もう一段の御配慮を,今回はともかく,次回に是非お願いしたいと思います。   どうも長時間失礼いたしました。 ● ほかに御質問ございませんでしょうか。   では,御質問がございませんようでございますので,次に御意見を伺いたいと存じますが,何か御意見ございますでしょうか。   特に御意見がございませんようですので,原案につきまして採決に移りたいと存じますが,よろしゅうございますでしょうか。--特に御異議もないようでございますので,そのように取り計らわせていただきます。   それでは,保証制度部会から報告されました「保証制度の見直しに関する要綱案」のとおり答申することに賛成の方,挙手をお願いいたします。             (賛 成 者 挙 手) ● では,反対の方,挙手をお願いいたします。             (反 対 者 挙 手) ● 採決の結果を御報告申し上げます。   原案に賛成の委員は13名でございます。   議長を除くただいまの出席委員は14名でございます。 ● 採決の結果,賛成者多数でございますので,保証制度部会から報告されました「保証制度の見直しに関する要綱案」は原案のとおり採択されたものと認めます。   したがいまして,本日御審議いただき,採択されました要綱につきましては,直ちに法務大臣に対して答申することといたします。どうもありがとうございました。   なお,要綱を今後条文にするに当たり,あわせて民法の現代語化を実施予定とのことでございますので,事務当局からその内容について御報告をお願いしたいと思います。 ● 民事局長の○○でございます。   ただいま○○委員からお話がありました民法の現代語化について,御説明をさせていただきます。お手元に法務省民事局名の「民法の現代語化について」という3枚の紙があると思いますが,これに基づいて御説明いたします。   法務省民事局では,かねてから懸案とされておりました民法の財産法に関する部分の現代語化を内容とする民法の一部改正について,法案提出の準備を進めております。   今回の現代語化は,現行の規定を規範の実質に変更を加えることなく現代語に置きかえるということを意図したものでありますので,法制審議会において御検討をお願いしたものではございませんけれども,「民事法,刑事法その他法務に関する基本的な事項の調査審議」という法制審議会の所掌事務と密接に関連しており,先生方の御関心も高いと思われることから,本日の会議の時間をお借りして,担当部局である民事局からその経緯等について一言御説明させていただきたいと思います。   まず,この民法の現代語化の必要性でございますが,御承知のように,民法の財産法編は,明治29年,1896年に制定されましてから既に108年を経過しておりまして,片仮名・文語体を用いた表記形式が現在でも維持されているために,非常に分かりにくい。特に,用語についても極めて難しい漢字等も使用されているということから,難解で分かりにくいという御指摘を受け,早急な是正を求められているということでございます。   法務省の民事局では,民法学者を中心とする「民法典現代語化研究会」を設置いたしまして,民法の各条文ごとに,平仮名・口語体の表記に改めること,あるいは現代では一般的でない用語を他の適当なものに置きかえること,更に,確立された判例・通説の解釈で条文の文言に明示されていないものを規定に盛り込むこと,こういう点につきまして具体的な検討を加えてまいりました。   今回は,その成果を踏まえつつ事務局で検討した結果を「民法現代語化案」という条文案にまとめまして,パブリックコメント手続に付しまして,8月4日から9月3日までの1か月間,広く一般から御意見をいただきました。今後,このお寄せいただいた意見も参考にいたしまして必要な修正を施すなどした上で最終的な条文案を策定いたしまして,これにただいまお決めいただきました保証制度の見直しに関する要綱の内容を織り込みまして,一本の民法改正案といたしまして,今秋にも招集が見込まれております臨時国会への提出を目指して準備を進めてまいりたいと,こう考えております。   今回の民法現代語化の基本方針でございますが,まず現在の民法の規定の意味内容に変更を加えないということを第一といたしまして,片仮名・文語体の表記を平仮名・口語体の表記に改め,現代では一般に用いられていない用語を他の適当なものに置きかえるものとしております。   これに加えまして,確立された判例・通説の解釈で条文の文言に明示されていないものを規定に盛り込む。また,現在では存在意義が失われ,あるいは実効性を喪失している規定・文言の削除・整理を行うこととしております。これは単純な現代語への言いかえ・翻訳の範ちゅうを超えるのではないかという見方もあり得るところですが,規範の実質的な内容に変更を加えるものではなく,条文を分かりやすく明確なものにするという意味では単純現代語化と目的を共通にすることから,あわせて措置を講ずるのが適当であると思われるものです。   その具体的内容としましては,お手元の資料の2ページの(1)に具体的な条文等を記載しておりますが,判例・通説の具体化として12項目,存在意義を失った規定の削除として3項目を掲げております。既に御紹介しました先ほどの研究会で意見の一致を見たものに基本的に絞っておりますし,今回のパブリックコメントに対する意見等を通じて内容面で異論のあったものを除外するなどして,民法現代語化の趣旨に反しないよう,必要最小限の範囲にとどめております。   このほか,現在の法制執務に合わせた表現・形式等について見直しを行っており,一個の法律としての体裁を整えるという意味から,既に平仮名・口語体となっております親族・相続編についても必要な限度で手直しを行うこととしております。具体的なその手直しとしては,条文ごとに見出しをつけることとか,条文中の段落について1項,2項という項の番号をつけるというような形式的な整備が主なものでございます。   最後に条番号についてですが,新たな番号をつけることにより混乱を生ずることを避けるため,可能な限り変更を加えないことにしており,第1編から第3編までについて,章・節・款の中途の欠番や枝番号,孫枝番号等の解消等を目的として,必要最小限の条番号の整序を行うこととしております。   以上が,今回,民事局で検討しております民法現代語化の内容でございます。 ● なお,要綱を今後条文にいたします場合には,立法技術上の問題もございますので,その表現ぶり等につきましては事務当局に御一任いただければと存じます。よろしくお願いいたします。 ● 済みません,私,ちょっと発言したいのですが。議題がふくそうしている中に発言するのはどうかと思いますが,ちょっと今の御報告の中には看過し難い重大な問題点が含まれていると思いますので,特に発言させていただきたいと思います。   この現代語化案が成案を得ましたのは--これは私の個人的な知識でございますけれども,その研究会そのものが発足しましたのは恐らく10年ぐらい前の話であって,この現代語化案ができたのは,少なくとも初期の段階では七,八年前になると思うわけです。ところが,その内容は長い間伏せられておりまして,外部に全く発表されておりませんでした。私がこれをパブリックコメントに付すということを知りましたのは8月の初めでありまして,この現代語化案そのものにつきましても,そのころ担当者の方からいただいて初めて知ったわけでございます。そして驚いたことには,それをもう今秋の臨時国会に提出するということでございます。それだけの時間があるのであれば,これを早くに外部に発表して,法律家,特に民法を専門とする研究者その他の利害関係者の意見を広く聞くべきではなかったかと思うわけですが,それが,発表した途端に,1か月の間に成案をするというのは一体どういうことなのか,どういう意図があるのか,極めて疑問があるわけですね。   しかも,その現代語化案の内容が,今,局長が御説明なさったように,全く内容に触れない,字句だけの変更であれば,これはあるいはそれでいいということもあり得るかもしれません。しかし,この説明の中に,現行法の内容に実質的な変更を加えることなく条文の現代語化を図るということは,これは私は間違っていると思いますね。つまり,実質的な変更を含んでおります。そして,少なくとも,ここでは説明で全く触れておりませんけれども,定義を新たに加えることによって実質的な内容が変化しているわけですね。そして,その定義をどうするかというのは,法律学というのは,法律用語の使い方,用い方に関する研究といいますか,提案というものを非常に重要な内容としておりますので,定義いかんはこれは直ちに実質に反映してくるわけです。   ですから,実質に反映するようなものを,しかも事前に成案を得ていたのに,この段階になって突如パブリックコメントに付して1か月の間に行うということは,結局はそれは,法制審議会の審議を経ないで,法制審議会をすっ飛ばして,それを無視してやるということにほかならないと思うわけですね。これは手続上非常に重要な問題を含んでいる。   例を,私は専門家ではありませんから間違っているかもしれませんが,刑法の現代語化のときには部会がつくられまして,そこでは現代語化が行われました。そして,判例・通説といいますか,判例と確立した考え方で異論がない部分もそこで改めて議論されたわけです。というのは,何も,判例が確立している,だから異論がないから改正しようというふうに直結しないわけですね。例えば尊属殺が違憲であるというのは,出された当時に,私の知る限り,ほとんどの刑法学者が一致したと思いますし,最高裁もそう言っておりました。しかし,その趣旨は何だ,違憲だという趣旨はどこにあるのかというのは,これは判例の解釈なのですね。ですから,その判例をどうするかというその解釈をとって,その解釈を確定した上で,それを条文にどうするかというのが正に実質的な仕事なわけです。   ところが,これは,確立された判例・通説とそごしないように直すというわけですが,どの判例をどのように解釈してどうするかということについて全く触れていないわけです。ですから,それは甚だ従来の手続に比べてもおかしいと思います。なぜそういうことをしたのか,実質にかかわることを法制審議会の審議なしに,しかも十分に時間がありながら何もしないで現在まで放っておいたか,それが私が問いたいことなのですね。   確かに,この説明を読みますと,緊急の課題であるとしていろいろ政治的な問題になっているようですが,そしてまた民事局は非常に忙しい,これは私もよく知っています。大変お忙しくて,同情しますが,しかし,忙しいから放っておいたというのは対外的には理由になりません。ですから,どうしてそうなのかということを私たちに納得のいくように,そして従来の手続と審議の手続とどこでどう違うのか,それは従来の審議の手続を逸脱していないのかということを明確にしてもらいたいと思います。   そして,今申しましたように実質的な変更を含んでいるということであるならば--私はそう思いますし,多くの民法学者,それから法律を専門にしている裁判官等はそういうふうにお考えだと思いますけれども,そうだとしますと,その手続,重大な問題点を回避する方法としては,一つしかないと思いますね。それは,要するに従来の民法の条文をそのまま口語化すると。もちろん,枝番号の整理とか,それは当然許容されていいと思いますが,それしか方法がないのではなかろうかというふうに思うわけですね。ですから,そういう形で今後作業を進めていただくということを強く要望したいと思います。そうでなければ,これはちょっと法制審議会としてこの報告をそのまま,はい,そうですかと受け取れるものではないのではないかというふうに思います。   それから,もしそうでなければ,あるいは実質的な改正を含むか含まないかにかかわらずなすべきことは,説明を詳しくすべきだということです。ここでは確かに現代語化についてという説明があり,また補足説明というのがパブリックコメントの場合には置かれているようですが,それは何のことかさっぱり分からないわけですね。こういうふうに変えました,これが判例・通説ですからこうしましたと。従来も参事官室の説明はありました。しかし,その説明の背景が何かということは,部会が設立されておりますと議事録がありますから,それを見ると分かることになっています。ところが,この場合にはそういうものが全くないわけですね。しかも簡単な説明しかない。そこでどうして改正されたのか,あるいはどうして実質的な内容に変わったのか,それから判例をどのように解釈してそれをここに取り入れたのか,ほかのいろいろな問題にかかわる影響というのはどのように解釈したのか,それは当然説明の中に織り込むべき問題だと思います。   ですから,私が第1に申し上げたいのは,極力,現代語化といいますか,現行の条文をそのまま直すということ,そしてその直したものを解釈の問題として多くの法律家の目にさらすということ,これが大事なことではないかと思います。   そして,実質的な内容を含まなくても,今申しましたように詳しい説明を付してもらいたいというのが,私が要望した第2の点であります。この要望は是非とも私は一委員として申し上げたいと思います。   それから,強いて申しますと,第3に,こういうような事態が起こったのは,要するに,基本的な法律について何か具体的な問題が起こったことに対症療法的に対応するという立法の在り方にかかわっているという問題があるのではなかろうかと思います。したがって,これは民法に限りませんけれども,特に民法は今回のような,急いでやったものですからはっきり目立ちましたけれども,基本的な法律,しかも社会の激しい変化とともに変化せざるを得ないような法律につきましては,法務省内に常に民法なら民法全般の問題点を審議し,議論し,いろいろな改正案をつくっていくという,そういうスタンディングな,これは部会ではありません,一種の研究体制みたいなものだと思いますけれども,そういうものをつくって今後に備えていただきたい。それがせめてもの私の言う重大なる手続逸脱ということに対する治療法ではなかろうか,対処の方法ではなかろうかと,こういうふうに考えるわけでございます。   以上のように,私の疑問と提案について,是非とも局長の御返事をいただきたいと思います。   なお,追加いたしますが,私が申し上げました,現行条文をそのまま口語化するのを基本とすべきだという考え方につきましては,これは私の漏れ聞いたところでは,いろいろと御努力をされていて,その方向に近いような努力がなされているというふうに聞いております。是非ともそういう御努力を一層進めていただきたいというふうに,それに加えて要望しておきたいと思います。 ● 非常に厳しい御指摘で,私どもとしても,法改正に当たってはできるだけ慎重に,可能な限り法制審議会での御議論をお願いしたいとは思っているわけでございます。   ただ,委員のお話の中にもありましたように,現在,社会は非常に大きく変動しております。そのことは民事・商事等の基本法制に大きく影響を与えておりまして,法務省民事局としては,ここのところ,ほとんど毎国会,複数本の法律を提出しているわけでございます。人数もある程度ふやしていただいておりますけれども,現実問題として,限られた人数で多くの立法課題を処理するということになれば,やはりその順序をどうするかということを絶えず考えざるを得ない。   御指摘のように,民法の現代語化に関する研究会は相当前に既に発足して,検討を加えていただいたわけでありますが,その後,それを法案化する作業を事務当局として当然しなければならなかったわけですが,今申し上げたような事情で,緊急性を要する法制度,特に倒産法制あるいは商事法制,そういったものが,手続法制もありますが,次々と来たものですから,それらの課題を一つ一つ法制審において審議をしていただき,法案化をし,国会での審議をお願いし,更にそれを実施すると,こういう作業に追われていたわけです。昨年,今回の通常国会ということで,ある程度大きなものは片づきまして,残る大きな山としては,来年の通常国家に予定しております商法の現代化,これが非常に大きな山として残っておりますが,倒産法制はさきの通常国会での破産法で一応ほぼ全面的な見直しが終わりました。   そういうことから,商法と民法の現代化を同一の国会でお願いするのは,私どもの負担としても非常に大変ですし,また国会の審議を考えても非常に難しい,しかし民法についてやはりできるだけ早急な現代化を求められているということから,私どもとしては,何とかこの臨時国会に審議をお願いするしかないのではないかと。また,パブリックコメントにかけるということになりますと,ある程度法案化した上でなければかけられないものですから,そのための作業というのに相当時間を要する。そういうことから,今回ぎりぎりになってしまったわけです。   内容的には,先ほどから申し上げておりますように,基本的には現在の民法の条文を口語化するということがほとんどでございます。   幾つかの点について実質的改正ではないかという御指摘でございますけれども,確かに,条文的には「善意」だけで足りているところを「善意無過失」とするというような変更を加えているところもございますが,これはもう類似の判例あるいは学説で善意無過失を要件とするということで確立しているわけでございますので,今回現代化するに当たって,善意だけということではかえって国民の誤解を招くおそれがあるということから,確立した判例・通説の部分については,表現のそごを修正して,その確立した判例・解釈に合わせた条文にしようと,それもできるだけ限定的なものにするということで,先ほど申し上げた12点に絞っているわけでございます。   定義規定の点については,今回パブリックコメントでお示しした案では相当多くの定義規定が入っておりますが,これについても,ただいまの委員からの御指摘のような御意見が様々寄せられておりますので,私どもとしては,でき得る限りそういった疑義を除くような,定義規定が実質的な変更に当たらないように,そういったものをできるだけ削除する方向で今修正をしているところでございます。   そういう意味で,私どもとしては,内容的に実質変更を加えるものではないと,そういうことであれば,あえて法制審議会の部会で時間をかけて御検討いただかなくてもよろしいのではないかと。民法の改正についてもなお,今回のように例えば保証の部分についての審議をお願いして改正をするわけですが,民法全体の現代語化をいたしませんと,そういう個別論点ごとの修正をしても,相変わらずスタイルとしては片仮名・文語体で改正をしていかざるを得なくなってしまう。やはりそのためには,受け皿としての民法本体をとりあえず平仮名・口語体にしておく。そういうことであれば,その後は必要性に応じてそれぞれの各論点ごとに部会での御審議をお願いして,迅速に改正ができる。まずはそのための口語化を優先して行わなければならないだろうと。   もちろん,時間の余裕があれば,そのような点についても法制審議会で御審議を願えればベストだと思いますけれども,現実に私どもの民事局の人的体制といったものを考えますと,この民法の現代化につきましても同じような形で法制審の部会を立て,そこで御審議をお願いしておりますと,到底立法スケジュール的に間に合わない。やはり余り先になってしまうのは好ましくないだろうということから,今回,事務当局ででき得る限り異論のないところに絞った形でお願いをしている。また,この異論のないということについて異論があるようでは困るので,それをパブリックコメントで確認している。それでパブリックコメントで異論が出た部分については基本的に落とす方向で修正をいたしまして,まず異論のないという解釈につきましても,この解釈について通説・判例の解釈としてこうだという理解でいたところについて,いや,それは必ずしもそうではないという御指摘を受けた部分もありますので,そういった部分については基本的に落とす。それで,ほとんどの学者の方々の御意見として通説・判例の解釈としてまあこれでいいという部分に絞って,実質改正にならないような形で口語化をしたい。やはり何といっても分かりやすい条文に早くする。その上で,実質について変える部分については法制審で集中して,できるだけ密度の濃い議論をしていただいて,順次改正をしていくということが,今のように変化の激しい社会の中で限られた体制で立法課題に取り組む者としてはそうせざるを得ないという事情がございますので,そこをひとつ御理解いただきたいと,こう思っております。   問題点について,なお今後も検討していく必要があるのは誠に御指摘のとおりでございまして,私どもとしても今後も各検討課題について,法制審はもちろんのこと,それ以前の,研究会等の形でも問題点についての検討は進めていきたいと,こう思っています。 ● 私は,今お答えになったようなことを問題にしているのではないのです。   私が問題にしているのは,実質的な改正があるかどうかというときに,これはないという前提で出発しているというその前提がどこから来たのか,この説明が十分に出てきていないと。そして,私自身は実質的な改正が--恐らく多くの法律学者は,実質的な改正を含む点があると。もちろん大部分はそうじゃありませんよ。大部分はほとんど条文どおりの字句の変換で,それはそれで結構だと思いますが,あるというふうに考えわけですね。それを,何も実質的な議論なしに,オーソライズされた機関もなしにいきなり発表するというのは手続上の問題があるのではないかと。その結果として,実質的な点について法制審の審議がすっ飛ばされてしまうという,まあ法制審じゃなくてもいいですが,とにかくオーソライズされた機関の審議がないという,そういう手続上のことを問題にしているわけです。   ですから,今,口語化が必要だとか,いろいろ忙しいとおっしゃったけれども,それはよく分かります。よく分かりますが,私は,刑法部会とのバランスで,これはおかしいのではないだろうかと。だから,今の○○幹事のような御意見を貫くならば,できるだけ現行の民法の条文をそのまま口語化するということ以外にはないのではなかろうかと,そういうふうに思うわけですね。そしてまた,実際にそういう方向に進んでいるというふうに私申し上げましたが,進んでいると聞いておりますので,それはそれで望ましい方向なのですが,しかし,そういうことがあっても,手続上問題があるという点は依然として残るわけですね。私はそれを問題にしているわけで,それをどう考えているのかということを聞いているわけです。 ● ですから,法制審議会での御審議というのは,基本的に法律の実質をどうするかということを決めていただく,そのための審議だろうと思っております。基本的に,今回の民法の口語化については実質的な部分には変更を加えないという考え方で臨んでいるわけです。実質的部分に変更が加わっているか加わっていないかという点について,もちろんその点も法制審で審議をしていただくということも考え方としてはあり得ますけれども,やはり実質的な変更かどうかという判断と,実質をどうするかという判断は判断の性質が相当異なるだろうと思います。実質的な変更内容をどうするかという点を決めるのに法制審議会の審議を抜きに行うというのは,民法の性格上,それは考えられないだろうと思っています。ただ,この変更が実質的な変更かどうかということは,必ずしも法制審議会で御審議をいただかなければ判断できない事柄ではないだろうと。ただ,事務当局限りでそのような判断をするのはやはり問題が多いので,研究会でもいろいろな民法の学者の先生方の意見に基づいて,その一致したところに従っているわけでございますし,今回も改めてパブリックコメントをかけて,多くの民法学者の方々からも,あるいはその他の方々からも御意見をいただいておりますが,その中で,いや,これは実質的変更だという御指摘を受けた部分については,基本的にそれを尊重して,落とすという方向で考えていると。   そのような手順を通って,これは実質的でないと考えたものについて,法制審議会での御審議をあえてお願いしなくてもいいのではないか,手続的にもそのような手続を踏んでいれば,必ずしも法制審の部会での御検討を踏まなくても,それなりに広く御意見をちょうだいし,事務当局の独断で進めるということにはならないだろうと,こう考えているわけでございます。 ● よろしゅうございますでしょうか。 ● もう時間がないので,私の意見はこれで申し上げるのはやめますけれども,結果的には収斂しているところは一緒のように思います。つまり,実質的な変更があると私が疑問を提起した部分については,いろいろなコメントを参考にして,そうではない方向に持っていくという努力をされているということですから,その努力を一層推進していただくように私としては要望しまして,私の意見はこれで終わることにいたします。 ● ただいまの点を踏まえて今後も努力していきたいと,こう考えております。 ● 私も非常に興味深く御意見を伺いまして,両方とも誠にごもっともなところがあると思うのですが,具体的に考えてみると,定義の規定というのが実質的な変更を導かないというのを決めるというのですが,私が知っている最もすごい,人畜無害みたいな定義変更をすることによって実質的に法律の趣旨をひっくり返した例が1930年代のハンガリーにあるのですね。   それはどういうことかというと,ドイツが非常に強くて,近隣ヨーロッパ全体について,ドイツと似たようなというか,それと同じような国内立法化を近隣諸国に求めたのですね。そして,ハンガリーでは,頭がいい人が多いのだと思うのですが,要するに全部,○○委員がおっしゃったような,正にただドイツ語をハンガリー語に逐次翻訳するというようなことをやるのですが,わけのわからないというか,見えないようなところに,それはごみについての法律だったのですが,ごみの定義を以下以下と物すごく詳しくやる。そうすると,ドイツ人が考えるごみは一切ハンガリーではごみではないということになるのです。そういう完全にひっくり返しているのがあるのです。   ですから,法務省の方としては,定義を変更するというのは現代に合わせる,同じ国のことだし,百何十年たっても……という気もしますけれども,意外とこのグローバリゼーションは激しいものですし,いろいろな規範というものが変わっておりますので,そこら辺は非常に--○○委員は手続ということに対する関心の方から出ているのですが,私は実質的に,手続とか,定義とか,句読点とかというだけでひっくり返すことは幾らでもできますから,これはやはり物すごくしっかりおやりになることをお願いいたします。それだけでございます。失礼しました。 ● ただいまの点は,最近の立法では比較的定義規定をきちっと書くということが普通でございますので,そういう形で今回の法案も定義規定を相当多く入れた条文にしたわけでございますが,御指摘のような定義規定で実質が変わるおそれがあるという御指摘も大分受けまして,今回更にパブリックコメントにかけた案を見直しまして,定義規定についてはできる限り減らしていく,そのような実質が定義によって変わるおそれのある部分は定義をやめるという形で対応することとしておりますので,ただいまの御意見のような事態が起きないように気をつけて作業に当たりたいと,こう思っております。 ● それでは,ただいまの○○委員,○○委員の御指摘,御要望を踏まえて今後の作業をしていただくということをお願いしたいと思います。よろしゅうございますか。   それでは,要綱案のもともとの保証制度部会から報告されました「保証制度の見直しに関する要綱案」につきましては,今後,その表現ぶり等について事務当局に御一任いただきたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。   では,続きまして,本日の第2の議題であります,動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に関する諮問第64号につきまして御審議をお願いいたしたいと思います。   まず,動産・債権担保法制部会における審議の経過及び結果につきまして,○○部会長から御報告をお願いいたします。よろしくお願いいたします。 ● 動産・債権担保法制部会長の○○でございます。   諮問第64号につき,本年8月24日に開催されました動産・債権担保法制部会第10回会議におきまして,「動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に関する要綱案」を決定いたしましたので,その審議の経過及び要綱案の概要につきまして御報告申し上げます。   まず,要綱案の決定に至る審議の経過につきまして御報告いたします。   諮問第64号は,「動産担保及び債権担保の実効性をより一層高めるという観点から,動産譲渡及び債権譲渡を公示する制度の整備を早急に行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい」というものでございます。   この諮問を受けまして,動産・債権担保法制部会が設けられ,平成15年10月から諮問についての調査審議を継続して行い,本年2月18日には要綱の中間試案を取りまとめ,これを公表するとともに,約1か月間にわたり一般及び関係各界に対する意見照会を行いました。その後,中間試案に対して寄せられた意見をも踏まえまして,部会において更に審議を進めた結果,本年8月24日開催の第10回会議におきまして,「動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に款する要綱案」を決定するに至ったものでございます。   次に,要綱案の概要につきまして御説明いたします。   要綱案は,「第一 動産譲渡に係る登記制度の創設」と,「第二 債権譲渡に係る登記制度の見直し」とに分かれております。順次,主要な項目につきまして御説明いたします。   まず,「第一 動産譲渡に係る登記制度の創設」でございますが,ここでは,動産譲渡に係る登記制度を創設するということを前提といたしまして,その内容について記載しております。   その一は,「登記の対象」として,法人が譲渡人である動産譲渡を登記の対象とするものとし,登記の対象となる動産譲渡に係る動産は個別動産であるか集合動産であるかを問わないものとしております。   動産譲渡登記制度の創設に関しまして,ごく簡単に申し上げます。   近時,企業における金融実務におきましては,不動産担保や個人保証に過度に依存した資金調達の見直しが進められており,その中で,これまでに十分活用されていなかった動産あるいは債権を活用した資金調達の手法が注目を集めております。   動産を活用した資金調達の具体的な手法といたしましては,動産を譲渡担保に供して融資を受ける方法と,動産を目的とする証券化等の方法によって資金を調達する方法とがあります。いずれの方法におきましても,企業はその所有する動産の所有権を名目上は譲渡いたしますが,動産自体はそのまま企業の占有下に置いておくということが通常です。その場合は,現行法のもとでは占有改定という方法でしか対抗要件を具備することができません。しかし,占有改定は当事者の意思表示のみによって観念的に占有を移転するというものですので,公示性が極めて低く,このことが動産を活用して行う資金調達の円滑化を阻害している原因の一つであると指摘されています。   そこで,法人がする動産の譲渡について,登記により対抗要件を備えることを可能とする制度を創設することとしたものであります。   その登記の対象につきましては,実務界の要望等を踏まえまして,法人が譲渡人となる動産譲渡に限定することといたしております。また,金融実務におきましては,在庫商品等の集合動産を担保に供するだけでなく,機械・設備等の個別の動産につきましても譲渡担保取引の対象にされておりますし,今後ともこれらのものにつきまして公示制度を整備していくという強いニーズがあるものと認められますので,動産が個別動産であるか集合動産であるかを問わないものとしております。   次に,「二 登記の効力」でございますが,動産譲渡は登記をもって第三者に対抗することができるものとしております。これは,動産譲渡について登記がされたときは民法178条の引渡しがあったのと同じ法律効果を与えるという趣旨でございます。   部会の審議におきましては,担保目的又は流動化目的の動産譲渡につきましては,登記をすれば先行する占有改定に優先するという効力を付与すべきであるとの意見も有力に主張されました。しかし,対抗要件相互間に優劣関係を設けることについては,現行の対抗要件理論との整合性が図れないのではないかという理論上の問題点,あるいは,そのような強い効力を認めることによって制度が濫用されるおそれがあるのではないかという御懸念等を理由として,これに強く反対する意見も多数ございましたので,採用されるには至りませんでした。   三は「動産譲渡登記の存続期間」でございますが,動産譲渡登記の存続期間は原則として10年を超えることはできないものとしております。これは,動産譲渡登記が不必要に長期間存続することの不都合を避けること,10年程度の存続期間が認められれば実務界の要望を満たすことができることなどを考慮したものでございます。   「四 登記事項の開示」では,登記されている内容につきまして,登記事項の概要は何人に対しても開示いたしますが,すべての登記事項については,譲渡の当事者,利害関係人又は譲渡人の使用人に対してのみ開示するものといたしております。このように概要とすべての登記事項という2種類の開示方法を設けましたのは,譲渡人がどのような動産を所有し譲渡しているかという情報は譲渡人の営業秘密や営業戦略にかかわることから,これを無限定に開示すべきはないということが理由でございます。また,労働者保護の観点から,すべての登記事項を譲渡人の使用人に対しても開示することといたしております。   さらに,譲渡人の本店等の所在地の登記所に「動産譲渡登記事項概要ファイル」--これは仮称でございますが--を備え,何人も当該ファイルに記載されている事項を証明した書面の交付を請求することができる制度を設けるものといたしております。現行の債権譲渡登記制度では,登記事項の概要を法人登記簿に記録する制度となっておりますが,法人登記簿の謄本をとった者にすべからく動産譲渡に係る登記情報が開示されますと,譲渡人の信用不安や動産登記制度を利用する者の心理的抵抗を招くおそれがあるとの指摘もございましたので,この点に配慮いたしまして,法人登記簿とは切り離した概要ファイルというものを設けることといたしました。これを譲渡人の本店等の所在地の登記所に備えることによりまして,法人の名称等に変更があった場合の検索の利便性等も図ることができるものといたしております。   なお,債権譲渡登記制度におきましても,同様の趣旨から現行制度の見直しをすることといたしております。   3ページの「五 代理人の占有下にある動産の譲渡」では,倉庫に寄託中の動産のように代理人によって占有されている動産につきまして,動産譲渡登記上の譲受人が代理人に対して当該動産の引渡しを請求した場合に,代理人は一定の場合にはその譲受人に当該動産を引き渡しても本人に対する損害賠償の責めを負わないものといたしております。   これは,動産譲渡登記制度の創設によりまして,登記上の譲受人が動産の真の所有者であるかのような外観を呈することがありますため,代理人がその動産を自分に占有させた本人に返還すべきなのか,あるいは登記上譲受人と記載されている者に返還すべきなのか,こういうことで判断に窮する事態の生じることを考慮した規定でございます。   続きまして,第二の「債権譲渡に係る登記制度の見直し」につきまして御説明申し上げます。   まず,「一 債務者不特定の将来債権譲渡の公示」では,現行の債権譲渡登記制度を見直し,債務者が特定していない将来債権の譲渡についても登記によって第三者に対する対抗要件を具備することができるようにするものといたしております。債務者が特定していない将来債権の譲渡につきましては,現行の債権譲渡登記制度ではこれを登記することができませんが,このような債権も企業の資金調達に活用できるようにするべきであるとの強い要望があることから,制度の見直しを行うものでございます。   次に,4ページの「二 譲渡に係る債権の総額」では,将来債権を譲渡する場合には,譲渡に係る債権の総額を登記事項としないものといたしております。将来債権が譲渡の対象となる場合には,譲渡される債権の総額は見積額とならざるを得ませんが,これを正確に見積もることは困難であり,登記された債権の総額と実際に発生した債権の総額との食い違いなどにより誤解を招くおそれがございますので,これを登記事項としないこととしたものでございます。   「三 債務者不特定の将来債権の譲渡に係る債権譲渡登記の存続期間」では,債務者不特定の将来債権を譲渡する場合には,債権譲渡登記の存続期間は原則として10年を超えることができないものとしております。これは,債務者不特定の将来債権の譲渡として実務上想定されている取引は,取引期間が10年以内のものが通常であり,10年程度の存続期間を認めれば実務界の要望を満たすことができることなどを考慮したものであります。   「四 登記事項証明書の交付請求権者」では,すべての登記事項を証明する登記事項証明書の交付請求権者に譲渡人の使用人を加えるものといたしております。この理由は,動産譲渡に係る登記制度のところで御説明申し上げたところと同様でございます。   「五 債権譲渡登記事項概要ファイルの創設」では,債権譲渡登記の登記事項の概要を譲渡人の法人登記簿に記録するという制度が現に存在しておりますが,これを改めて,譲渡人の本店等の所在地の登記所に「債権譲渡登記事項概要ファイル」--仮称でございます--を備え,何人も当該ファイルに記録されている事項を証明した書面の交付を請求することができる制度を設けるものといたしております。この趣旨につきましても,動産譲渡に係る登記制度のところで御説明したところと同様でございます。   以上,簡単ではございますが,要綱案の概要を御説明申し上げました。   なお,部会におきましては,要綱案とともに附帯要望事項案が併せて決議されました。その内容はお手元に配布されていると思いますが,「企業の倒産時における労働債権の法律上の保護の在り方については,本要綱案に基づいて立案される法律の施行後における動産・債権の譲渡の公示制度の利用状況等を踏まえ,なお検討することを要望する」というものでございます。本要綱案に従った公示制度が整備され,動産等を活用した資金調達が活発に行われるようになりますと,企業が倒産時に保有している動産債権のうち,労働債権に対する配当の財源とはならないものが大部分を占める可能性もございますので,労働債権の保護の在り方につきましては今後の法律の施行状況等を見ながら,なお多角的な検討を加える必要があると考えられたことから,部会におきまして,要綱案に附帯する要望事項とされたものでございます。よろしく御審議お願いいたします。 ● それでは,ただいまの○○部会長の御報告,要綱案及び附帯要望事項案の全般的な点につきまして,御質問がございましたら御発言をお願いしたいと思います。 ● 2点お伺いします。   一つは,この登記がなされた動産と善意取得の関係はどうなるのかという点でございます。つまり善意取得はあり得るのかどうかということです。   もう一つは,登記の対象となる動産の範囲ですけれども,例えば,極端な場合,小売業者の店舗に並んでいるような動産というのはだめなんでしょうね。 ● 第2点の方は,そういった在庫商品も対象になり得るということです。 ● なり得るのですか。 ● はい。 ● そうしたら,我々が店で買っても,それはもう第三者の譲渡担保に入っていたということがあり得るわけですね。 ● その点につきましては,御質問の第1点目の,登記された動産について善意取得があり得るかということと一つは関連いたしますけれども,登記された集合動産が譲渡担保に入れられているという場合でも,例えば在庫商品とか,あるいは原材料というようなものを譲渡担保に入れた場合には,その譲渡担保に入れたものを使いながら営業するということを前提にして担保に入っておりますから,通常の営業過程の中で取引されているものについては転売授権がついているというふうに考えますので,善意取得を論ずるまでもなく,通常の営業過程の中では適法に転売していくというふうに考えます。   それ以外の場合につきましても,登記されていれば善意取得を完全に封ずることができるかというと,これは登記の定着度とか取引態様というふうなものとの関係で,登記簿まで調査するのが通常の取引態様であるというふうにみられる場合に,登記を見ないで取引すれば,善意取得はできない。しかし,登記簿まで調べる必要がないような取引態様の場合には,善意取得による保護というものを登記が妨げるわけではないと,このように考えております。 ● よろしゅうございますでしょうか。   ほかに御質問ございませんでしょうか。   御質問がございませんようでしたら,次に御意見を伺いたいと思いますが,御意見ございますでしょうか。 ● 最後にありました附帯要望事項案について,意見を述べさせていただきます。   本要綱案に対するパブリックコメント後の部会の議事録を一読してみたのですけれども,動産譲渡登記制度の創設によって,企業の倒産時における労働債権とか,あるいは一般債権者の保護のバランスが崩れるという強い懸念の意見表明がなされております。本制度は,動産担保の実効性を高めることで企業の円滑な資金調達を促進することの政策的効果があることは評価できるわけですけれども,一方で,企業倒産時における労働債権等の確保が十分できないことが明らかであるとの制度導入に対する反対意見が強く述べられていることから,この附帯要望事項を是非採用していただいて,本制度導入後一定期間経過した後に制度を見直す機会を設けることを明らかにしておく必要があろうかと存じております。 ● ほかに御意見ございますでしょうか。   御意見がないようでございましたら,原案につきまして採決に移りたいと存じますが,よろしゅうございますでしょうか。--御異議がないようでございますので,そのようにさせていただきます。   それでは,動産・債権担保法制部会から報告されました「動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に関する要綱案」及び「附帯要望事項案」のとおり答申することに賛成の方は挙手をお願いいたします。             (賛 成 者 挙 手) ● 採決の結果を御報告申し上げます。   原案に賛成の委員は14名でございます。   議長を除くただいまの出席委員も14名でございます。 ● 採決の結果,全員賛成でございますので,動産・債権担保法制部会から報告されました「動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に関する要綱案」及び「附帯要望事項案」は原案のとおり採択されたものと認めます。   したがいまして,本日御審議いただき,採択されました要綱案につきましては,直ちに法務大臣に対して答申することといたします。どうもありがとうございました。   なお,今後,要綱を条文にいたします場合には,立法技術上の問題もございますので,その表現ぶり等につきましては事務当局に御一任いただければと存じます。よろしくお願いいたします。   続きまして,本日の第3の議題であります,人名用漢字の範囲の見直しに関する諮問第68号につきまして御審議をお願いいたしたいと存じます。   まず,人名用漢字部会における審議の経過及び結果につきまして,○○部会長から御報告をお願いいたします。 ● 人名用漢字部会長の○○でございます。   諮問第68号につき,本年8月25日に開催されました人名用漢字部会第7回会議におきまして,諮問で示されました,子の名に用いることのできる漢字(人名用漢字)の範囲の見直し(拡大)に関しまして,488字を人名用漢字に追加することなどを部会の意見とする旨,全会一致で決定いたしましたので,その審議の経過及び意見につきまして御報告申し上げます。   まず,意見に至る審議の経過について御報告いたします。   諮問第68号は,「子の名に用いることのできる漢字(人名用漢字)の範囲の見直し(拡大)について,御意見を承りたい」というものでございます。   この諮問を受けて,本年3月から人名用漢字部会において調査審議を重ね,本年8月25日の第7回会議において,488字を人名用漢字に追加することなどを部会の意見とする旨決定いたしました。   次に,意見について御説明申し上げます。   意見は四つの部分に分かれており,第一は制限方式の維持に関するもの,第二は字種の選定に関するもの,第三は字体の選定に関するもの,第四は結論であります。以下,それぞれの項目について御説明申し上げます。   第一は,子の名には常用平易な漢字を用いなければならないと規定している戸籍法第50条第1項の制限方式を維持することを明らかにしております。子に複雑かつ難解な名がつけられますと,社会生活において本人や関係者に不便や支障を生じさせることになること,人名用漢字の制限方式も十分定着していると考えられることなどから,制限方式は維持すべきものとされました。   第二は,字種の選定に関するものであります。字種の選定に当たりましては,まずJIS漢字を検討の対象といたしました。JIS漢字は,コンピュータ等における情報交換に用いる文字の符号化を規定したものであり,昭和53年に当時の通商産業大臣が制定した規格であります。近年,第3水準及び第4水準と拡張がされておりますが,制定当時からございますJIS第1水準及び第2水準の漢字は社会一般において尊重され,幅広く用いられているものであります。また,我が国において,e-Japan重点計画のもと,世界最高水準の高度情報通信ネットワーク社会が形成されるものとされていますので,今後,JIS漢字は情報通信手段においてより一層その重要性・汎用性を増すものと考えられます。そこで,検討の対象漢字を原則としてJIS第1水準及び第2水準の漢字とすることといたしました。   その上で,戸籍法第50条第1項が規定する常用平易な漢字を選定する作業を行いました。   その選定に当たりましては,これも当時でございますが,文部大臣の諮問機関であります国語審議会から,平成12年12月に,一般の社会生活において常用漢字以外の漢字を使用する場合の字体選択のよりどころとなることを目的として答申されました「表外漢字字体表」,これには印刷標準字体1,022字と簡易・慣用字体22字が含まれていますが,その「表外漢字字体表」の作成に際して主として使用されました「漢字出現頻度数調査(2)」というものがございますが,その結果を活用いたしました。この調査は,当時385の書籍に用いられました約3,330万の漢字を対象として行われました,我が国における最新で最大規模の調査であります。   部会におきましては,まず,JIS第1水準の漢字のうち,現在人名用漢字に含まれていないもの合計770字から,「漢字出現頻度数調査(2)」にあらわれました出版物上の出現頻度に基づいて,出現順位3012位以上の漢字503字を常用平易と認めて選定いたしました。この出現順位が3012位と申しますのは,調査の対象書籍385誌における出現の回数が200回以上であるものということでございまして,これは,各書籍1回ずつあらわれているという計算をすれば,過半数のものに出現する漢字と言うことができます。それ以外の第1水準の漢字及び第2水準以下の漢字につきましては,出現頻度のほかに要望の有無・程度などを総合的に考慮して,計75文字を選定いたしました。   なお,これらの漢字の選定に当たりまして,部会においては,ひとまず専ら当該漢字が常用平易と認められるか否かの観点から選定を行いまして,漢字の意味が人名にふさわしいものであるかどうかについては考慮しないことといたしました。この点につきましては,一部の委員からは,人名にふさわしいかどうかも考慮して漢字を選定すべきであるとの意見も出されましたが,戸籍法第50条第1項は,「子の名には,常用平易な文字を用いなければならない」としか規定していないこと,それから,人名にふさわしいか否かの判断は主観的であり,それを選別することは容易でないことなどから,パブリックコメント手続による国民の意見も参考にした上で改めて検討すべきであるということで,意味を考えない段階でパブリックコメントに付したということでございます。   以上の方針に基づいて選定いたしました漢字合計578文字につきまして,本年6月11日から7月9日までの間,法務省のホームページ上においてパブリックコメント手続を実施いたしました。寄せられた意見数は全部で1,308件であります。その内訳は,全体の約81%に当たります1,058件が人名用漢字の範囲の見直し(拡大)に賛成でしたが,全体の約56%に当たります729件が,人名にふさわしくない漢字は削除すべきとの意見でありました。   このような意見を受けまして,部会において再度,人名にふさわしくないとされる漢字の取扱いを審議いたしました。部会におきましては,人名に使用することができる漢字の制限はできるだけ少なくすべきである,何が人名にふさわしいか否かは国民の判断に委ねるべきであり,一字ごとに人名にふさわしいか否かを判断して削除すべきではないという意見も有力でございましたが,多数の委員は,人名は個人のものであると同時に社会性を有するものであるから,人名に使用することが社会通念上明らかに不適当と認められる漢字を人名用漢字とすべきではないとの意見でございました。もっとも,どの漢字が社会通念上明らかに不適当であるかにつきましては主観的な価値判断を含み,客観的な基準を示すことが困難でありますが,部会におきましては,パブリックコメントの結果も勘案しつつ慎重に検討を行い,委員の多数が社会通念上明らかに不適当であると判断した88字を,パブリックコメントに付した文字から削除することにいたしました。   また,パブリックコメントに寄せられた意見のうち,人名用漢字として採用すべきとの意見が特に多かった「掬」,てへんに植物の菊の下の部分を合わせた「すくう」という文字でございますが,これにつきましては,出現頻度の順位も3160位と比較的高順位でありましたことから,追加すべき字種に選定することといたしました。   なお,パブリックコメントに掲げました文字のうち,凌駕の「駕」,毘沙門の「毘」,それからさんずいに難しい方の「龍」を書く「瀧」でございますが,この3文字につきましては,大阪家庭裁判所等から社会通念上明らかに常用平易である旨の判断が示されましたので,本年7月12日付で既に人名用漢字別表に追加されております。   以上の審議を経まして,人名用漢字として新たに追加すべき字種として,お手元にございます488字を選定いたしました。   第三は,字体の選定に関するものであります。   第三の一は,基本的に「表外漢字字体表」の印刷標準字体を選定するとするものであります。先ほど申し上げましたとおり,「表外漢字字体表」に掲げられている字体は,我が国における最大規模の調査結果を踏まえて採用された字体選択のよりどころであり,この字体を人名用漢字の字体においても尊重することが国語政策的に妥当でありますし,十分合理性を有するとの考えによるものであります。   第三の二は,一字種一字体の原則は維持しますが,例外的に一字種について二字体を認めることを排斥するものではないとするものであります。一字種一字体の原則と申しますのは,子の名に用いる漢字の字体は同一の字種につき原則として一字体とすることを言います。これは,一字種に何字体もの漢字が用いられますと社会生活上の混乱を生じさせることがあることから採用されてきた原則であります。この考え方は現在においても妥当するものと考えられますから,基本的にはこれを維持することとされました。もっとも,同一字種につきまして二字体がともに常用平易であると判断される場合には,これを用いても社会生活上の混乱を生じさせるおそれはないであろうと考えられますことから,例外的に一字種について二字体を認めることも排斥するわけではないといたしました。   第四は,最終の結論でございまして,別表記載の488字を人名用漢字に追加するのが相当であるということで部会の意見が一致いたしました。   以上,簡単ではございますが,部会の意見について御説明申し上げました。よろしく御審議のほど,お願いいたします。 ● それでは,ただいまの○○部会長の御報告及び意見案につきまして,まず御質問がございましたら,お願いいたします。 ● 質問です。   「常用平易」の意味なのですけれども,漢字を日本語みたいな全然中国語というか漢文と違うみたいなところに使うのに問題がたくさんあるのですが,一つ恐らくまだアドレスされていないかもしれない問題は,要するに中国語と違って日本語には声調がないものですから,音から言うと,ばーっと出て,パソコンみんな使っているのにもたもたして,しかも,ちょっとうっかりすると全然関係ない漢字が正式なドキュメントとして非常に出やすいということで,いらいらする。しかも速度が遅いので,非常に困っておるのです。韓国人みたいにばんともうあれだけでやる,ハングルだけでやるというのもいいかなとも思うし,それからもう一つは,やはり英語がドミナントな言葉としてリンガフランカなんかみたいに出てきているというと,中国なんかでも同じなのですが,日本でもそうなのですが,簡単なのは英語の方が早くいくというのが私たちの職業グループでもすごく増えているのです。もう何か知らないけれども,こういうことにかんがみて,音が余り,「コウ」といったらばーっと出るとか,「ブン」といったらばーっと出るというのも何かちょっと考えていただけたらなと思いました。 ● この部会の当初の案が新聞等を通じて公表されましたときに,少なからぬ国民の間に衝撃が走ったと思います。実は私もその一人でありました。しかし,その後,関係の戸籍法の条文を読んだり,あるいは昨年12月の最高裁の決定を読み直したりいたしまして,決定に至られた御事情がだんだん分かってきたような気がいたしました。本日の部会長の御説明を伺って,その理解を深めたつもりでございます。   ただ,この際,一つだけお尋ねしておきたいのは,「常用平易」というのが法律の規定でありますけれども,それを人名について具体化する仕事は法務省令にゆだねられております。単純にといいますか,いわば国語学的に常用平易なりやというのを判断するのは,むしろそれは国語審議会の仕事であり,したがって文部科学省の責任であろうと思います。それがあえて法務省令にゆだねられているのは何ゆえであるか。   一つの形式的な理由としては,戸籍事務を管掌する法務省の責務であると。これは当然でありましょうが,更にそれを超えて実質的な理由がもう一つ含まれていないだろうか。何が「常用平易」であるかということを判断する際に,いわば人名に使うという観点からの「常用平易」ということがあり得るのではなかろうか。最高裁の決定でも,専門的観点からの評価が必要だと書いてあったように思いますけれども,その専門的観点とは何かということなのですが,常用漢字表から外れているということは,いわば緩やかな意味で常用でないという推定が働いている。その推定を破る仕事が省令に任されているわけでありますけれども,そのとき,本日の御説明にもありましたが,人名としてふさわしいかということを一切考えないということが果たして法の趣旨に合うのかどうか,その点だけが私の疑問でございます。 ● この点につきましては部会の中でも大変いろいろ意見もございましたが,それぞれの文字につきましても,これは人名にふさわしくないという御判断をされる方もいらっしゃれば,それは規制するほどのことはないというふうなことで,どこに線を引くかというのは非常に困難でございまして,最大限,社会的な常識に反しない範囲内では国民の自由な選択に任せる,そして専ら客観的に見て常用平易であるかというのを主にして判断せざるを得ないだろうということで,最終的にこの488文字というところに落ち着いたということで,御指摘のような論点が内在していることは十分に承知いたしております。 ● ほかに御質問ございますでしょうか。 ● 「第三 字体の選定」の二で,「例外的に一字種について二字体を認めることを排斥するものではない」と,こうなっておりまして,488字選ばれたのを含めて全体として,一字種二字体というのはかなりあるのではないかという気がするのですが,どれぐらいあるのかということですね。   なぜそういう質問をするかといいますと,手続上,二字体ではなく,三字体以上あるような字もたくさんありますが,その三字体目の字を登録しようとして役所に来た人に対して,役所の人が,それはだめですからこの字を採用すべきじゃないですかというふうに言ったときに,二字体あるということを役所の人が知らずに,二字体のうちの一字体しか指定しないというようなことが起こり得るのではないかと。ですから,どの字とどの字を二字体として認めるかという別表みたいなものを追加的につけて,第三字体のものを持ってきた人に対しては,役所の方で,この字とこの字が二字体のものとしてありますからどれかを選んでくださいというふうに親切な形でやらないと,全国でいろいろやるわけですから,二字体のうち目についた一字体のこれしかありませんよと言われてしまうとまずいことが起こるんじゃないかというふうに思います。 ● 御意見として承りました。 ● この点につきましては,また必要に応じて事務当局からも補足をいただければと思いますけれども,現在も,どの文字が人名に使えるかという漢字の一覧表をつくっておりますので,今後も,使える文字の一覧表というのがどの役所にも備えられて,それを見て使える文字を選んでいくことになるだろうと思います。   関連でございますけれども,一字種二字体につきましては,常用漢字の異体字が13文字,それから現在人名用漢字として採用されている漢字の異体字,例えば「遙」などが随分マスコミでも取り上げられましたが,それが7文字,それから印刷標準字体の異体字が2文字で,一字種二字体は合計22文字ということでございます。 ● これを具体的には省令で決めるということになりますが,今回お出ししておりますこの表は,追加するものだけを並べてありますけれども,省令で規定するときには,御指摘のように,一字種二字体認められたものについては,同一字種で字体が異なる文字であることが分かるような表記の仕方を工夫して規定したいと考えております。 ● ほかに,御質問でも御意見でも。 ● 関連なのですけれども,今日の審議とは無関係なのでございますけれども,人名の読み仮名なのですが,読み仮名をきちんと戸籍に登録しなくてはいけない市町村というのでしょうか特別区と,そうじゃないところがあるのです。私は○○区に住まっているのですけれども,○○区の場合は振り仮名がきちんと戸籍に登録されているのですね。区によって違うというふうに聞いたのですけれども,そういうことというのはあり得るのでしょうか。 ● 基本的には戸籍本体は振り仮名は振らないという形で処理しているのです。ですから,どう読むかは,極端なことを言うと御本人の判断次第ということになってしまうのですが,ただ,特にコンピュータ処理等をしているところでは,名前をどう読むかということをあわせて参考資料として入力しておいて,例えば検索等のときに使うというようなことは考えられますので,あるいはそういうことで利用しているのかもしれません。 ● 住民票や何かをもらうと,入ってるんですよね。パスポートやなんかを受けるときに,私の名前は「典子」と書いて「ふみこ」と読むのですけれども,しょっちゅうトラブっておりまして,それで読み仮名は一体どっちなんだという疑問があったものですから。   つまり,本当は必要ないのですね。だから,住民票や何かにつけてしまっても,それは無視してよろしい,便宜上ついているだけで……。 ● 住民票での読み方というのは,戸籍上は特にそういう振り仮名はありませんので,多分それは自治体で独自にやっておられるのだと思います。   先ほど申し上げましたように,戸籍本体としては特に振り仮名は規定しない。昔は振り仮名をルビとしてつけるというのもあったのですけれども,それをやるとまた,振り仮名つきじゃないと戸籍と一致しないというような妙な厳格な扱いをするところもあったものですから,基本的に今はもう廃止しています。 ● 今はそうじゃないということを,是非○○区役所に言っておいてください。 ● 確かに読み方を一つに確定しておかないと事務処理上いろいろ不便だということはあるものですから,そういった扱いをしている可能性がないとは言えませんが,本来の戸籍の記載事項としては振り仮名はありませんので。ただ,これも,あった方がいいという御意見も別にあるものですから,これもまた将来の検討課題だとは思っておりますが,現行ではそういうことです。いろいろと御不便をお掛けしておりますけれども。 ● ほかに御意見ございませんでしょうか。--よろしゅうございますか。   それでは,御意見もございませんようですので,原案につきまして採決に移りたいと存じますが,よろしゅうございますでしょうか。--御異議がございませんようですので,そのようにさせていただきます。   それでは,人名用漢字部会から報告されました「人名用漢字の範囲の見直し(拡大)に関する意見案」のとおり答申することに賛成の方は,挙手をお願いいたします。             (賛 成 者 挙 手)   念のため,反対の方,いらっしゃいますでしょうか。 ● 採決の結果を御報告申し上げます。   原案に賛成の委員は14名でございます。   議長を除くただいまの出席委員も14名でございます。 ● 採決の結果,全員賛成でございますので,人名用漢字部会から報告されました「人名用漢字の範囲の見直し(拡大)に関する意見案」は,原案のとおり採択されたものと認めます。   したがいまして,本日御審議いただき,採択されました意見につきましては,直ちに法務大臣に対して答申することにいたします。どうもありがとうございました。   それでは,ここで休憩をいたしたいと思います。            (休     憩) ● 審議を再開いたしたいと思います。   では,引き続きまして,本日の第4の議題であります,凶悪・重大犯罪に対処するための刑事法の整備に関する諮問第69号につきまして御審議をお願いいたしたいと存じます。   まず,刑事法(凶悪・重大犯罪関係)部会における審議の経過及び結果につきまして,総会委員でもあります○○部会長から報告をお願いいたします。 ● 刑事法(凶悪・重大犯罪関係)部会長の○○でございます。よろしくお願いいたします。   私から,同部会における審議の経過及び結果を御報告申し上げます。   諮問第69号は,近年における凶悪・重大犯罪の実情等にかんがみまして,この種の犯罪に対処するために,早急に刑事の実体法及び手続法を整備する必要があると思われますことから,要綱(骨子)につきましての御意見を求めるというものでございましたが,本審議会は,本年2月10日開催の第142回会議におきまして,まず部会に検討させる旨の決定をされました。これを受けまして,刑事法(凶悪・重大犯罪関係)部会が設けられまして,部会では,4月19日,5月17日,6月4日,7月2日と7月30日の5回にわたりまして審議をいたしました。この審議におきましては,諮問に付されました要綱(骨子)のほか,強盗関係についても議論を行うこととされまして,それぞれの論点につきまして審議が進められました。その結果,諮問第69号については,諮問に付された要綱(骨子)のとおりに刑法等を改正することが相当である旨決定いたしますとともに,附帯決議で示されましたように,強盗致傷罪の法定刑を改正することが相当である旨などを決定いたしました。要項(骨子)第二,及び第四のうち罰金刑等に関する部分,並びに附帯決議につきましては,いずれも挙手された委員全員の賛成で,要綱(骨子)第一,第三,第四のうち懲役刑に関する部分,及び第五につきましては,いずれも賛成多数により,ただいま申し上げました結論に達したものでありまして,その要綱(骨子)及び附帯決議は,配布資料刑1としてお手元に配布してあるものでございます。   それでは,刑事法部会におきます議論の概要につきまして,要綱に即して御説明を申し上げたいと思います。   まず,要綱(骨子)第一でございますが,これは,現行刑法制定後約100年の間における国民の平均寿命の大幅な延び等を踏まえれば,有期刑の限界はどの程度であるべきかという国民の刑罰観に係る規範意識や,現行法の下での有期刑は無期刑に処する場合との差が大き過ぎるのではないかとの指摘にかんがみまして,凶悪犯罪その他の重大犯罪について問題になることが多い有期刑の法定刑や処断刑の上限等を見直そうとするものでありまして,有期刑に係る法定刑の上限を現在の15年から20年に,処断刑の上限を20年から30年に引き上げるとともに,死刑又は無期刑から有期刑に減軽した場合における処断刑の上限を,現在の15年から30年に引き上げることを内容とするものであります。   部会における議論では,まず,現行法所定の15年又は20年という有期刑の法定刑や処断刑の上限の定めによって実際に何か問題が生じているのか,また,現在,その法定刑が「何年以上の有期懲役」とされているすべての犯罪について一律にその法定刑の上限を15年から20年に引き上げる必要があるのか,さらに,有期刑の受刑者にもたらす影響という観点から見た場合に,時代の流れが以前よりも速くなっている現代において,あえて有期刑の上限を引き上げる必要があるのだろうか,あるいは逆に受刑者の社会復帰が困難になるのではないか,また,有期刑の上限を引き上げると無期刑受刑者の仮出獄までの期間も延びるのではないか等の論点について検討が行われました。   このうち,現行法の規定が実際上問題を生じさせているのかという点につきましては,無期刑や長期の有期刑の宣告件数が増える中で,無期刑と長期の有期刑との選択が実務上も大きな問題になっておりまして,有期刑の法定刑や処断刑の上限を引き上げるという形で裁判所の量刑における裁量の幅が広がるのであれば,より適正な量刑ができるといった意見などが出されました。次に,法定刑の上限を一律に引き上げるべきかという点につきましては,今回の法定刑の上限の引上げは,特定の犯罪について15年という上限の定めが低過ぎるという理由からではなくて,国民の規範意識等に沿った法定刑の在り方いかんという観点に立脚するものでありまして,また,実際上も,「何年以上の有期懲役」という法定刑の罪は,無期刑まで規定するには及ばないものの,いずれも非常に重大な犯罪でありまして,その間で法定刑の上限を区分する合理性は乏しいとの意見などが出されました。また,有期刑の受刑者への影響という点につきましては,自由刑は行動の自由を制約することを本質的な内容とする刑罰でありまして,その制約の時間の長さで刑罰の重さが判断されるのでありますから,一定の刑期の刑の重さを考える上では,むしろ平均寿命との関係が重要な意味を持つのであり,刑の在り方としての有期刑の上限をどういうふうに定めるかという問題と,社会復帰のために有期刑受刑者の処遇をどのようにすべきかという問題とは理念としては別に考えるべきであって,長期受刑者の処遇について,その社会復帰が著しく困難であるという状況にないとの意見などが提示されました。さらに,無期受刑者の仮出獄への影響という点につきましても,無期刑であれ有期刑であれ,仮出獄資格を得た後,受刑者が社会復帰が可能な状況であると認められるのであれば,直ちに仮出獄を認めるべきであって,要綱(骨子)第一の内容は,そのような仮出獄の理念を変えるものではないとの意見が示され,結局,諮問内容どおりの法改正を行うべきであるとの意見が採択されました。   次に,要綱(骨子)第二は,人の性的自由を暴力的に侵害する行為の可罰性評価に係る現在の国民の規範意識等を踏まえまして,この種の行為に係る刑法上の典型的犯罪類型であります強制わいせつ,強姦及び強姦致死傷の各罪につきまして,その法定刑を引き上げるとともに,強姦及び強姦致死傷について,その加重処罰類型を新設しようとするものであります。すなわち,強制わいせつ罪につきましては,その法定刑の上限を現在の懲役7年から懲役10年に,強姦罪及び強姦致死傷罪につきましては,それぞれの法定刑の下限を懲役2年及び3年から3年及び5年に引き上げるほか,強姦の中でも二人以上の者が現場において共同して犯したものにつきましては4年以上の有期懲役に,その致死傷の結果が生じた場合は無期又は6年以上の懲役に処するという規定を新設することを内容とするものであります。   部会の議論では,要綱(骨子)第三や第四とも共通する論点として,法定刑の下限を引き上げると,具体的事案の特性に応じた適正な量刑が困難になるのではないか,強姦罪については犯罪の成否が微妙な事案もあるので,法定刑の下限を引き上げる必要はないのではないか,強姦罪の法定刑については,強盗罪の法定刑との不均衡という観点から論じられることが少なくないけれども,強盗罪の法定刑を引き下げることでそのような格差の縮小あるいは解消は図れるのであり,しかも,それによって相対的に強姦罪の重大性に対する法的評価も上がるのではないかなどの論点について検討が行われました。   このうち,法定刑の下限の引上げという点につきましては,法定刑の下限の定めが置かれている趣旨は,その犯罪がどれだけ重大なものであるかという国あるいは社会の評価を国民に示すという意味もあって,今回の要綱(骨子)に含まれる法定刑の下限の引上げの趣旨も,そのような法定刑の下限の存在意義に即したものであって,酌量減軽規定の趣旨とも併せ考えた場合に,実際の各罪の量刑状況に照らしても,適正な量刑を困難にするものではないとの意見が示されました。また,強姦罪については犯罪の成否が微妙な事案もあるとの考え方に対しましては,そのような考え方自体が現在ではいわば神話に近く,一般論としても,犯罪の成否が微妙な事案であるということと,犯罪が成立することを前提としてその法定刑はいかにあるべきかということとは,理論的には別の問題であるとの意見などが示されました。さらに,強姦罪と強盗罪の法定刑の均衡という点につきましても,強姦罪の法定刑に対しては,強盗罪との比較という相対的な観点ばかりではなく,女性の性的自由に対する暴力的侵害という事案の性質に即したものと言えるかという絶対的な側面からも強い批判があり,しかも強盗罪の法定刑の引下げによって強姦罪の重大さに係る法的評価が相対的に上昇するという見方も疑問であるとの意見が示されまして,結局,要綱(骨子)第二につきましては,一部の委員が棄権されましたほかは全員賛成で,諮問内容どおりの法改正を行うべきであるとの議決に至りました。   次に,要綱(骨子)第三は,凶悪犯罪の典型とも言うべき殺人に係る罪について,人の生命の重要性に関する現在の国民の規範意識等を踏まえて,その法定刑の下限を引き上げようとするものでありまして,刑法所定の殺人罪及びいわゆる組織的犯罪処罰法所定の組織的な殺人罪の法定刑の下限を,それぞれ現在の懲役3年及び5年から懲役5年及び6年に引き上げることを内容とするものでございます。   部会における議論では,特に刑法所定の殺人罪の場合は極めて多様な類型のものが含まれるのであって,嬰児殺や介護疲れによる殺人のような事案等には宥恕すべきものがあって,法定刑の下限の水準を考える上では,そのような事案の存在も考慮すれば,酌量減軽しなくても執行猶予に付すことができる現行法の法定刑の下限を引き上げる必要が果たしてあるのかなどの論点について検討が行われました。   この点につきましては,嬰児殺や介護疲れによる殺人のような事案などでは確かに宥恕すべきものがありますが,法定刑の下限の定めがある罪について,その下限のあるべき水準を考える場合には,国民一般の意識として,特定の罪に当たる行為として通常考えられるものの中で最も軽い犯罪類型に相当する刑罰を設定すべきであって,現在の我が国の国民一般が持っていると思われる殺人という犯罪のイメージと,これに対する規範意識の下では,殺人罪については,特別な判断を経ずに執行猶予に付し得るものとするよりも,酌量減軽規定の発動という形の判断をワンクッション置くこととした方が,時代に適合しているのではないかと思われるし,それで宥恕すべき個々の事案について執行猶予を付けるという適正な量刑作用が阻害されることはないという意見が示され,先ほど申し上げましたとおり,諮問内容どおりの法改正を行うべきであるとの意見が多数を占めたのであります。   次に,要綱(骨子)第四でございますが,傷害罪等につきましては,近年,重篤な障害の結果が発生している事案が見受けられるという理由から,また,傷害致死罪につきましては,殺人罪の場合と同様に,人の生命の重要性に関する現在の国民の規範意識等を踏まえて,それぞれの法定刑を引き上げようとするものであります。すなわち,刑法の傷害罪につきましては,現在の法定刑中,懲役刑及び罰金刑の上限を,それぞれ10年及び30万円から15年及び50万円に引き上げるとともに,科料の定めを削除いたしまして,傷害致死罪につきましては,法定刑の下限を懲役2年から懲役3年に引き上げ,さらに,危険運転致死傷罪や暴力行為等処罰に関する所定のいわゆる加重傷害罪等につきましても,傷害罪との均衡から,それぞれの法定刑の上限を懲役10年から懲役15年に引き上げることを内容とするものでございます。   部会における議論では,これまでの傷害罪の量刑状況を見ると,法定刑の上限に近い量刑事案はほとんどないのであるから,その上限を引き上げる必要はないのではないか,また,傷害致死罪は結果的加重犯であって,死の結果の発生につき過失すら不要とされているが,そのような罪の法定刑の下限を引き上げる必要があるのか,さらに,傷害罪と傷害致死罪の法定刑の引上げの効果は,「傷害の罪と比較して,重い刑により処断する。」とされております監禁致死傷罪その他の罪にも及ぶことから,それらの罪についてまで法定刑を引き上げる必要はないのではないか等といった論点について検討が行われました。   このうち,傷害罪のこれまでの量刑状況という点につきましては,そもそも自由刑の場合は法定刑の上限に近い量刑事案が多発するということは考えにくい,また,実際の量刑は,およそ想定される最悪の事案が法定刑の上限に当たるものとのスケールで行われることからいたしますと,近年少なからず発生しております重篤な結果を生じさせた傷害事案に対して適正な量刑を可能にするために,そのスケールの上限を高く設定しておく方が相当であるとの意見などが示されました。また,傷害致死罪が結果的加重犯であるとの点につきましては,実際問題としても,現実の量刑事情から見ても,人が死に至るには,それに相当する程度の暴行が加えられるのが通例と考えることに加えて,故意の犯罪行為により人を死亡させる罪については人の生命に対する刑法的保護の要請が高まっていることからしましても,傷害致死罪の法定刑を引き上げる理由はあるとの意見等が出されました。さらに,傷害罪等の法定刑の引上げが,「傷害の罪と比較して,重い刑により処断する。」とされている他の罪の法定刑にも連動するとの点につきましても,そのような法定刑の定めを持つ罪は,いずれも悪質な故意犯に係る致死傷の規定であり,人の生命や身体の重要性に係る国民の規範意識に沿った法定刑の見直しという観点からは,これらの罪についても法定刑を引き上げるべき必然性はあるとの意見などが出されまして,結局,傷害罪の法定刑中,罰金刑の多額を引き上げるとともに,科料の定めを削除するとする部分につきましては全員賛成で,要綱(骨子)第四のその他の部分につきましては賛成多数で,諮問内容どおりの法改正を行うべきであるとの意見がまとめられた次第でございます。   最後に,要綱(骨子)第五は,国民の平均寿命が大幅に延びるなどの状況の下で,凶悪犯罪その他の重大犯罪に対する処罰感情などが時の経過によって希薄化する度合いが低下していると考えられることや,新たな捜査技術の開発などにより,犯罪発生後相当期間を経過しても有力な証拠を得ることが可能になっていることなどを踏まえまして,法定刑の重い重大犯罪について,公訴時効期間を延ばそうとするものでありまして,法定刑の上限が死刑である罪につきましては,公訴時効期間を現在の15年から25年に,法定刑の上限が無期刑である罪については,公訴時効期間を10年から15年に延長するとともに,法定刑の上限が15年以上の有期刑である罪については,その公訴時効期間を10年とすることを内容とするものでございます。   部会における議論では,公訴時効期間の延長は,処罰されるべき犯人を逃がすなというような考え方によるものであって,無罪推定の原則に反する考え方を前提にしているのではないか,また,最長の公訴時効期間が25年になると,民事法における除斥期間が20年であるため,被害者の損害賠償請求も許されなくなった後に公訴を提起することができるようになるが,それは相当なのか,さらに,公訴時効期間を延長して,相当期間経過後における訴追を認めた場合には,被疑者側による無罪証拠の収集や無罪立証が困難になるのではないか等の論点について検討が行われました。   このうち,無罪推定原則との関係につきましては,そもそも公訴時効制度は,何人が犯人であるとしても,一定の期間の経過により特定の犯罪事実に係る国の公訴権を消滅させるというものであるから,特定の人物に対する有罪認識を前提とするものではないとの意見などが示されました。また,民事の除斥期間との関係につきましては,現行法の下でも公訴時効の方が除斥期間経過後に完成するということがあり得るところでありまして,しかもそれは,それぞれの制度趣旨の相違からすれば当然であるとの意見などが示されました。さらに,被疑者側の防御活動という点につきましても,相当期間経過後に公訴が提起されるというのは,身柄の確保や証拠の収集に困難があった事案であり,長い時間の経過というのは,すべての事実関係についての重い挙証責任を負う検察官の側にはるかに負担になるべき事柄であって,この公訴期間の延長が検察官と被告人の負担のバランスを被告人の不利益に動かすものではないとの御意見等が提示されまして,諮問内容どおりの法改正を行うべきであるという意見が多数を占めた次第でございます。   引き続き,附帯決議に至る議論及び附帯決議の内容につきまして,その概略を御説明申し上げます。   諮問第69号は,凶悪・重大犯罪についての刑事法の整備に関するものでありますが,凶悪・重大犯罪の一つであります強盗関係等についての改正項目は含まれていませんでした。しかし,強盗関係につきましては,かねてから,特に強盗致傷罪の法定刑を引き下げるべきではないかとの指摘がありまして,その一方,近年の強盗をめぐる犯罪情勢には極めて厳しいものがありますことから,第1回部会において,強盗関係につきましても議論をすべきではないかとの意見が委員の中から出まして,その意見が部会のコンセンサスを得ましたことから,当部会において,そのような議論を行うことといたしまして,最終的には部会としての意見がまとめられた次第でございます。この意見は,実質的には諮問の趣旨と関連しますものの,諮問に対する答申の範囲を超えていますことから,答申としての要綱(骨子)とは別に,附帯決議という形式で取りまとめられたものでございます。   まず附帯決議第1は,強盗致傷罪の法定刑の下限を,現在の懲役7年から懲役6年に引き下げることを内容とするものでございます。これは,要綱(骨子)とともに,そうした内容の立法に向けての措置をとるべきであるとの提言になってございます。部会における強盗関係の議論は,具体的には,法定刑の下限を懲役5年とする強盗罪と,これを懲役7年とする強盗致傷罪について,その下限を引き下げるべきかという点に集中いたしました。この議論は,特に強盗致傷罪につきましては,事後強盗致傷の事案等には比較的軽微なものも含まれていますところから,強盗致傷罪が成立する場合には酌量減軽のみでは懲役3年6月の実刑より軽く処せられることはなく,およそ執行猶予に付し得ないというのは苛酷ではないかという指摘がかねてからございました。これに加え,強盗致傷罪の法定刑の下限を引き下げるのであれば,強盗罪の中にも軽微なものがあるのだから,その法定刑の下限も強盗致傷罪と連動させて引き下げるべきであって,それによって,強姦罪や強姦致死傷罪の法定刑との間に不均衡があるとする指摘にも対応できるのではないかなどの点を論拠とするものでございました。   しかし,これらの点のうち,強盗致傷罪の法定刑の下限の引下げにつきましては,およそ執行猶予に付し得ないということが実務上も大きな問題を生じさせているとの認識や,酌量減軽すれば執行猶予を付し得るような法定刑の下限の在り方という考え方は,集団的な強姦等による致死傷の罪に係る要綱(骨子)第二の四や,組織的な殺人の罪に係る要綱(骨子)第三の二の考えとも共通するとの考え方などから,これに賛同する意見が多数出たのでございますけれども,一般に法定刑の下限を引き下げるということが国民にどのようなメッセージをもたらすか,これを慎重に検討すべきであるとの御意見もあり,特に近年の強盗をめぐる犯罪情勢の中で,酌量減軽のみで執行猶予に付し得ないという問題がない強盗罪についてまで法定刑を引き下げるべきかという点については,議論の方向性を見定めるまでには至らなかったのでございます。   そこで,この附帯決議第1の議決に際しまして,これとは別に,強盗罪の法定刑も懲役3年に引き下げるべきではないかとの意見もありましたが,それは附帯決議第2における今後の検討の対象に含めるべきであるということで,採決の対象とはしないで,全員賛成により,附帯決議第1の議決に至ったものでございます。   次に附帯決議第2でございますが,この強盗致傷罪の法定刑の下限の引下げ以外にも,強盗あるいは窃盗を含めた盗犯に係る罰則の在り方については,近年の犯罪情勢等を踏まえ,他の財産犯に係る罰則の在り方も視野に入れて更に検討すべきであるという内容のものでございまして,第1のように具体的な内容の立法に向けての措置をとるべきであるという性質のものではございませんが,必要に応じて再度法制審議会への諮問を行うことも含めて,今後,立法に向けての措置の要否及びその内容について検討を法務当局に求めるというものになってございます。   強盗関係についての議論の内容等はただいま申し上げたとおりでございますが,強盗罪の法定刑の引下げに対する慎重論の御意見でも,近年の犯罪情勢を踏まえつつ,軽かるべきものは軽く,重かるべきものは重くという基本的な考え方に従って,今後,強盗関係の法定刑や構成要件の在り方を更に検討すべきであるという考え方まで否定されていたわけではありませんでした。もっとも,そのような検討をするものといたしました場合,強盗は窃盗と境を接する犯罪でありますことから,これら盗犯を一体として考える必要があるものと思われますし,そのような検討については,以前に法制審議会刑事法部会財産刑検討小委員会でも検討されました罰金刑の活用の余地など,更に盗犯の枠を超えて財産犯一般をも視野に入れた法定刑の在り方についての考慮が必要になるのではないかとも考えられるわけでございますが,そこまでの検討は,今回の凶悪・重大犯罪に関する刑事法の在り方という部会に与えられた課題を超えるものと思われるところでございます。   そこで,附帯決議第2は,今後の問題といたしまして,ただいま申し上げましたようなより広い観点からの検討を行うべきであるとの内容を盛り込んだものでありまして,この議決に際しましても,これとは別途に,窃盗罪その他の財産犯について,選択刑としての罰金刑を新設すべきではないかとの意見もございましたが,これも附帯決議第2における今後の検討対象に含めるということで別途採決の対象とはせず,全員賛成により,附帯決議第2の議決に至った次第でございます。   概略以上のような審議に基づきまして,諮問第69号については要綱(骨子)のように刑法等を改正することが相当であるとともに,附帯決議のように強盗致傷罪の法定刑をも改正することが相当である旨等が決定されました。   以上で当部会における審議の経過及び結果の御報告を終わらせていただきますが,御審議のほど,よろしくお願いいたします。 ● それでは,ただいまの○○部会長の御報告並びに要綱案及び附帯決議につきまして,まず御質問がございましたら,御発言をお願いいたします。 ● 質問を一つ。   この御趣旨とかすべて大賛成なのですが,一つだけ。   いつも思うのですが,よりよい正義を実現するためにこういうふうに法律を変えたいといったときに,どういうふうに物が進むかという思いをちょっと,こういうところではなくて,答えていただけたらといつも思うのですが。   一つは,アメリカでは,1980年代初めは刑務所にいる人は60万だったのです。今,日本は6万。それで,プライバタイゼーションというか民営管理に移って,しかも,悪いことをやる人は厳しくやるというレーガン政権のあれで,現在は120万,刑務所に入っているのです。そういうような激しいことは起こりそうもないとか,そういうことは抑制するものがあるとか,あるいはもっとぼんぼん入れた方がいいとか。要するに,アメリカの場合は,悪いことをやったらばんと入れようと。それから,プライバタイゼーションをやったので,ビジネスがないと困るということで,どんどんふえたのですね,80年代半ば過ぎぐらいから。だから,20年ぐらいでばんと60万増えると。それで刑務所人口みたいなのがばーっとふえたのですね。何というか,それがいいことのようにも思うし,ちょっと困るかなということもあるのでですね,こういう刑をどんどんあれすると,そういうことが一つのコンセクエンスとして起こるというのが一つ。まあ先の話だし,そんなことは日本ではあり得ないというような気も私は強くするのですね。それが一つです。   もう一つは,要するに外の人というか外国というか,どうしてアジアには死刑を温存している国が多いのか。まあアメリカも野蛮な国だとヨーロッパ人は言うので,温存しているのですが,アジアはとりわけ,カンボジアと東チモールだけ死刑がないと憲法で定めている。そういうようなことでいろいろ言われるのだけれども,日本の社会としては死刑が絶対に必要だと,シンガポール政府みたいに物すごく自信を持って言うほどのこともないような気もするけれども,あった方がいいような気もするというようなところ,何かそこら辺,しっかりした議論をつくっていただけたらなと思います。 ● それは,今後の課題として十分検討していきたいと思っています。   第1点について言いますと,この改正によって刑務所人口が減るということはないと思いますね。増加することは明らかでありましょうし,そういうことを考慮されて,法務省当局も今年度の予算については刑務所の増設に関する要求をされているとお聞きいたしました。   それから,死刑につきましては,余談になりますが,1週間ほど前に中国で講演してきたのですけれども,人民大学では,今,死刑の適用について非常に真剣に議論しているようでございます。中国では,死刑の適用が多過ぎるのですね,そこで死刑を廃止することは不可能であるから,いかに抑制するかという観点から研究が進められており,特に日本の最高裁の死刑に関する判例の検討を進めているということでございました。参考までに。 ● ほかに御質問ございませんでしょうか。   御質問がございませんようでしたら,次に御意見を伺いたいと思いますが,御意見ございますでしょうか。 ● 私,一委員としてはこの要綱案につきましては賛成の立場をとりたいと思います。   ただ,日弁連推薦を受けた委員ということで,日弁連サイドからは,本日,日弁連の意見を皆さんにお配りしてほしいというような要望がありましたけれども,従来そういう例もありませんので,私は部会の結論を尊重したいと思います。   ただ,この引上げ対象になる犯罪の数というのが,有期懲役,禁錮刑等,刑法典の中では44,特別刑法では60という数多くが対象になるわけですね,日弁連サイドとしては,個々の犯罪について引上げの可否を検討すべきであるという意見が部会でかなり強く述べられたそうですけれども,またそれをやっていると5年10年たってもでき上がらないのがこの刑法の問題なのですが,この法案が成立しても,やはり見直すべき懲役刑等について立法当局では柔軟に対応していただきたいというように要望いたしまして,私としては賛成をしたいと思っています。 ● ほかに御意見ございませんでしょうか。   御意見がございませんようでしたら,採決に移りたいと存じますが,よろしゅうございますか。   採決の方法でございますが,附帯決議につきましては,諮問に対する答申ということを超えるものでございますので,答申になります要綱案と附帯決議案は別個に採決を行いたいと存じますが,いかがでしょうか。よろしゅうございますか。--御異議がないようでございますので,そのように取り計らわせていただきます。   それでは,刑事法(凶悪・重大犯罪関係)部会から報告されました要綱(骨子)のとおり答申することに賛成の方は挙手をお願いいたします。             (賛 成 者 挙 手)   反対の方,いらっしゃいますでしょうか。             (反 対 者 挙 手) ● 採決の結果を御報告申し上げます。   原案に賛成の委員は14名でございます。   議長を除くただいまの出席委員も14名でございます。 ● 採決の結果,全員賛成でございますので,刑事法(凶悪・重大犯罪関係)部会から報告されました要綱(骨子)は,原案のとおり採択されたものと認めます。   したがいまして,本日御審議いただき,採決されました要綱につきましては,直ちに法務大臣に対して答申することといたします。   次に,附帯決議案につきまして採決を行います。   刑事法(凶悪・重大犯罪関係)部会から報告されました案のとおりに附帯決議をすることに賛成の方は,挙手をお願いいたします。             (賛 成 者 挙 手)   念のため,反対の方の挙手をお願いします。             (反 対 者 挙 手) ● 採決の結果を御報告申し上げます。   原案に賛成の委員が14名でございます。   議長を除くただいまの出席委員も14名でございます。 ● 全員賛成でございますので,この文案のとおり附帯決議することに決しました。これも要綱(骨子)と合わせて大臣に報告します。   なお,要綱等を今後条文にいたす場合には,技術的なこともございますので,その表現ぶり等は事務当局に御一任願えればと存じます。   では,本日の第5の議題であります,信託法の見直しに関する諮問第70号につきまして御審議をお願いいたしたいと存じます。   まず初めに,事務当局に諮問事項の朗読をお願いいたします。 ● 諮問を朗読させていただきます。    諮問第七十号     現代社会に広く定着しつつある信託について,社会・経済情勢の変化に的確に対応する観点から,受託者の負う忠実義務等の内容を適切な要件の下で緩和し,受益者が多数に上る信託に対応した意思決定のルール等を定め,受益権の有価証券化を認めるなど,信託法の現代化を図る必要があると思われるので,その要綱を示されたい。   以上でございます。 ● 続きまして,これらの諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由等につきまして,事務当局から説明をしていただきます。 ● それでは,私の方から説明いたします。   信託法は,信託,すなわち委託者が受託者に対し財産の移転等をした上で,受益者のために管理又は処分をさせる行為をめぐる法律関係について定めた法律であり,大正11年に制定されて以来,実質的な改正がされないまま現在に至っております。   しかし,この間の社会・経済活動の多様化に伴い,信託を利用した金融商品が幅広く定着するようになっているほか,信託法が制定された当時には想定されていなかった形態での信託の活用も図られるようになっています。   そこで,現行の信託法に対しましては,受益者が同意した場合に受託者による信託財産の取得を許容するなど,受託者の負う忠実義務等の内容を適切な要件のもとで緩和すること,受益者の意思決定方法を合理化するなど,受益者が多数に上る信託にも適切に対処するルールを創設すること,また,信託を利用した金融商品の市場の活性化を図る観点から,受益権の有価証券化を認めることなどを始めとして,社会・経済情勢の変化に合わせた現代化を図るべきであるとの指摘がされております。また,平成16年3月に閣議決定された,規制改革・民間開放推進3か年計画においても,更なる信託スキームの活用に資する商事信託関連法制の見直しなどについて検討を行うこととされています。   このような情勢にかんがみますと,信託法を現代化するための措置を早急に講ずる必要があると考えられますので,諮問記載の事項につきまして本審議会の御意見を伺う必要があると考えます。 ● それでは,ただいま説明のありました諮問第70号につきまして,まず御質問がございましたら,御発言をお願いいたします。 ● 質問です。   現行法ではどういう困難があるということなのか,一例で結構ですので,お教えをいただければと思います。 ● 現行法では,信託の受託者が信託財産を譲り受けることができないと,こういう規定になっております。これは,できるだけ信託を適正にしておこうということから,財産と受託者とを切り離しておこうという考え方でございます。ただ,現在のいろいろな信託の新しいものを考えますと,それでやっているとなかなか不便が生ずる。委託者の方が,あるいは受益者がそういうことに異議がなければ,別に不都合は生じないわけですから,そういう場合に譲受けを可能にするということの方が信託の活用のためには有効ではないかと。ただ,それはいろいろな要件がございますので,そこら辺を法制審議会で専門的な立場から御検討いただければと,こう思っているわけです。 ● ほかに御質問ございませんでしょうか。   ないようでございますので,続きまして,第6の議題であります,人身の自由を侵害する行為の処罰に関する罰則の整備に関する諮問第71号,及び,本日最後の議題であります,少年の保護事件に係る調査手続等の整備に関する諮問第72号につきまして御審議をお願いしたいと思います。   まず,事務当局に諮問事項の朗読をお願いいたします。 ● 諮問第71号を朗読させていただきます。    諮問第七十一号     「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人,特に女性及び児童の取引を防止し,抑止し及び処罰するための議定書(仮称)」を締結するとともに,近年における人身取引その他の人身の自由を侵害する犯罪等の実情にかんがみ,この種の犯罪に対処するため,早急に,罰則を整備する必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を承りたい。   別紙     要綱(骨子)   第一 逮捕及び監禁の罪等の法定刑の改正    一 逮捕及び監禁の罪(刑法第二百二十条)の法定刑を三月以上七年以下とすること。    二 組織的な逮捕及び監禁の罪(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第三条第一項第四号及び同条第二項中第一項第四号の罪に関係する部分)の法定刑を三月以上十年以下とすること。   第二 人身買受けの罪の新設      人を買い受けた者は,三月以上五年以下の懲役に処するものとすること。   第三 未成年者略取及び誘拐の罪(刑法第二百二十四条)の改正      未成年者を略取し,誘拐し,又は買い受けた者は,三月以上七年以下の懲役に処するものとすること。   第四 営利目的等略取及び誘拐の罪(刑法第二百二十五条)の改正      営利,わいせつ,結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で,人を略取し,誘拐し,又は買い受けた者は,一年以上十年以下の懲役に処するものとすること。人を売り渡した者も,同様とすること。   第五 国外移送目的略取等の罪(刑法第二百二十六条)の改正    一 所在国外に移送する目的で,人を略取し,誘拐し,又は売買した者は,二年以上の有期懲役に処するものとすること。    二 略取され,誘拐され,又は売買された者を,その所在国外に移送した者も,一と同様とすること。   第六 被略取者収受等の罪(刑法第二百二十七条)の改正    一 第二から第五までの罪を犯した者を幇助する目的で,略取され,誘拐され,又は売買された者を引き渡し,収受し,輸送し,蔵匿し,又は隠避させた者は,三月以上五年以下の懲役に処するものとすること。    二 身の代金目的略取等の罪(刑法第二百二十五条の二第一項)を犯した者を幇助する目的で,略取され,又は誘拐された者を引き渡し,収受し,輸送し,蔵匿し,又は隠避させた者は,一年以上十年以下の懲役に処するものとすること。    三 営利,わいせつ又は生命若しくは身体に対する加害の目的で,略取され,誘拐され,又は売買された者を引き渡し,収受し,輸送し,又は蔵匿した者は,六月以上七年以下の懲役に処するものとすること。   以上であります。 ● 続いて,諮問第72号を朗読させていただきます。    諮問第七十二号     少年非行が深刻な状況にあり,触法少年による凶悪事件が相次いで発生するなどしている現状に適切に対処するためには,少年法等を早期に整備する必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を承りたい。   別紙     要綱(骨子)   第一 触法少年及びぐ犯少年に係る事件の調査    一 警察官は,少年法第三条第一項第二号又は第三号に掲げる少年を発見した場合において, 必要があるときは,事件について調査することができるものとすること。    二 警察官は,少年法第三条第一項第三号に掲げる少年に係る事件については,一定の警察職員に調査をさせることができるものとすること。    三 警察官は,調査について,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができるものとすること。    四 警察官は,調査について必要があるときは,少年又は少年以外の者を呼び出し,質問することができるものとすること。    五1 警察官は,少年法第三条第一項第二号に掲げる少年に係る事件の調査について必要があるときは,押収,捜索,検証又は鑑定の嘱託をすることができるものとすること。     2 刑事訴訟法中,司法警察職員の行う押収,捜索,検証及び鑑定の嘱託に関する規定は,1の場合に,これを準用するものとすること。    六1 警察官は,調査の結果,次のいずれかに該当するときは,調査に係る書類とともに事件を児童相談所長に送致しなければならないものとすること。      イ 五1の事件について,少年の行為が少年法第二十二条の二第一項に掲げる罪に係る刑罰法令に触れるものである疑いがあると思料するとき。      ロ 少年法第三条第一項第二号に掲げる少年及び同項第三号に掲げる少年で十四歳に満たない者に係る事件について,都道府県知事又は児童相談所長が児童福祉法第二十七条第一項第四号の措置を採るべきものと思料するとき。     2 警察官は,1の送致に係る少年について児童福祉法第二十七条第一項第四号の措置が採られた場合において,証拠物があるときは,直接これを家庭裁判所に送付しなければならないものとすること。    七 都道府県知事又は児童相談所長は,六1イの送致に係る少年については,児童福祉法第二十七条第一項第四号の措置を採らなければならないものとすること。ただし,調査の結果,その必要がないと認められるときは,この限りでないものとすること。   第二 十四歳未満の少年の保護処分の見直し    一 家庭裁判所は,十四歳に満たない少年については,特に必要と認める場合に限り,少年院送致の保護処分をすることができるものとすること。    二 初等少年院及び医療少年院の被収容者年齢の下限を削除するものとすること。   第三 保護観察における指導を一層効果的にするための措置等    一 保護観察中の者に対する措置     1 保護観察所の長は,保護観察の保護処分を受けた者が,遵守すべき事項を遵守しなかったと認めるときは,その者に対し,これを遵守するよう警告を発することができるものとすること。     2 家庭裁判所は,保護観察の保護処分を受けた者が,遵守すべき事項を遵守せず,その程度が重い場合であって,その保護処分によっては本人の改善及び更生を図ることができないと認めるときは,保護観察所の長の申請により,児童自立支援施設等送致又は少年院送致の決定をするものとすること。     3 保護観察所の長は,前記1による警告を受けた者が,なお遵守すべき事項を遵守しなかったと認めるときに限り,前記2の申請をすることができるものとすること。     4 家庭裁判所は,前記2により二十歳以上の者に対して少年院送致の保護処分をするときは,その決定と同時に,本人が二十三歳を超えない期間内において,少年院に収容する期間を定めなければならないものとすること。     5 前記3及び4に定めるもののほか,前記2の規定による事件の手続は,その性質に反しない限り,保護事件の例によるものとすること。    二 保護者に対する措置     1 少年院の長は,二十歳未満の在院者に関し,必要があると認めるときは,その保護者に対し,少年の監護に関する責任を自覚させ,少年の矯正教育の実効を図るため,指導,助言その他の適当な措置をとることができるものとすること。     2 保護観察所の長は,犯罪者予防更生法第三十三条第一項第一号又は第二号に該当する二十歳未満の者に関し,必要があると認めるときは,その保護者に対し,少年の監護に関する責任を自覚させ,少年の更生に資するため,指導,助言その他の適当な措置をとることができるものとすること。   以上でございます。 ● 続きまして,これらの諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由等につきまして,事務当局から説明していただきます。 ● それでは,まず諮問第71号につきまして,提案に至りました理由等を御説明申し上げます。   人身の自由を侵害する行為の典型である「人身取引」につきましては,その犯罪化を義務付けた「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人,特に女性及び児童の取引を防止し,抑止し及び処罰するための議定書」が平成15年12月25日に発効しておりまして,我が国も平成14年12月9日に署名しております。   近時,我が国においても,人身取引やこれに関連する反社会的行為の発生がうかがわれるところであり,政府も,人身取引が基本的人権を侵害する深刻な問題であるとの認識の下,平成15年12月に犯罪対策閣僚会議が取りまとめた「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」に,人身取引等に係る行為を処罰するための法整備に関する検討を盛り込んだ上,本年4月には「人身取引対策に関する関係省庁連絡会議」を設置し,総合的な対策を検討しているところでございます。加えて,長期間にわたる監禁事案や,悪質な幼児略取・誘拐事案,国境を越えた略取・誘拐事案など,人身の自由を侵害する事案の中には,現行の罰則では適正に対処することが困難なものも見られるところでございます。   そこで,議定書の早期締結を目指すとともに,近年における人身の自由を侵害する犯罪に適切に対処するため,刑法等について,早急に法整備を行う必要があると考え,今回の諮問に及んだものでございます。   次に,諮問の内容について御説明申し上げます。   はじめに,要綱(骨子)の第一についてですが,これは,刑法第220条の逮捕及び監禁の罪並びに組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第3条第1項第4号等の組織的な逮捕及び監禁の罪の法定刑の上限を引き上げようとするものでございます。   近年,逮捕・監禁事案の認知件数が増加を続けており,その中には極めて長期の監禁事案など,現行の罰則では適正に対処することが困難なものも見られます。もとより,暴力団員等により組織的に行われる悪質な事犯に対しては,より厳しい態度で臨む必要があります。そこで,悪質な逮捕・監禁行為にも適切に対処できるよう,逮捕及び監禁の罪の法定刑の上限を懲役5年から懲役7年に引き上げ,組織的な逮捕及び監禁の罪の法定刑の上限についても,懲役7年から懲役10年に引き上げることとしております。   次に,要綱(骨子)第二についてですが,これは,人身買受けの罪を新設しようとするものでございます。   人身買受け行為については,人を不法に支配する手段として買受代金を負担しているため,被害者の自由をより強く拘束しようとする動機が働くことから,被害者に対する更なる法益侵害の危険性も大きいと思われます。また,この買受行為は,要綱(骨子)第四において処罰の対象としています人身売渡行為と必要的共犯,いわゆる対向犯の関係に立つところ,人身売買の一方の当事者である買受人のみをあえて不可罰とすべき理由はないと考えられます。そこで,人身買受行為については,それ自体を処罰の対象とすることとするものでございます。法定刑は,要綱(骨子)第三及び第四に係る,より重い類型の人身買受けの罪との均衡を考慮し,3月以上5年以下の懲役とすることとしています。   次に,要綱(骨子)第三についてですが,これは,現行刑法第224条の未成年者略取及び誘拐の罪に加えて,未成年者買受けの罪を新設し,これらの罪の法定刑の上限を,現行の罪の懲役5年より重い懲役7年としようとするものです。   近年,認知件数が増加している略取・誘拐事案の相当数において,未成年者が対象とされていますが,これによる被害者や親族の苦痛や社会不安には極めて重いものがあります。しかも,この種事案では,営利やわいせつ等の目的が認められなくとも,身体的弱者である未成年者にとっては,心身に重大な危害が及ぶ危険性が大であります。そこで,未成年者略取・誘拐に対しては,より重い処罰をもって臨む必要があると思われますので,その法定刑の上限を懲役5年から懲役7年に引き上げることとするものです。一般的な人身買受けの罪を新設する趣旨は,先ほど御説明したとおりですが,未成年者買受行為については,同様に未成年者保護の観点から,対象が成人である場合より重く処罰することとしております。   次に,要綱(骨子)第四についてですが,これは,現行刑法第225条の営利目的等略取及び誘拐の罪につき,目的要件として「生命若しくは身体に対する加害の目的」を加え,また,これらの目的で人身を買い受ける罪や,人身を売り渡す罪を新設し,その法定刑を,現行の罪と同じ1年以上10年以下の懲役としようとするものであります。   議定書第3条は,「人身取引」を,性的搾取,強制労働,臓器摘出等の「搾取の目的」で,暴力・脅迫,欺もう,金銭の授受等の「手段」を用いて,人を「採用し,運搬し,移送し,蔵匿し又は収受すること」などと定義した上で,そのような人身取引行為を犯罪として処罰することを締約国に義務付けています。この搾取の目的の大部分は,現行刑法の営利又はわいせつの目的に含まれ,また,暴力・脅迫,欺もう等の手段は,現行刑法の略取・誘拐の手段に含まれますが,臓器摘出目的による行為や金銭の授受等の手段による行為については,現行刑法では処罰できない面があることなどから,臓器摘出目的を含む生命や身体に対する加害の目的を構成要件に追加するほか,これらの目的で行われる人身買受行為や,売買代金の取得を伴うことから常に営利目的があるものと理解される人身売渡行為一般を,同等に重く処罰することにより,議定書の要請を満たすこととしているものでございます。   次に,要綱(骨子)第五でございますが,これは,現行刑法第226条の国外移送目的略取等の罪が,日本国外に移送する目的での略取等を処罰対象としているところ,その構成要件を,「日本国外移送」から「所在国外移送」に拡大し,法定刑を,現行の罪と同じ2年以上の有期懲役としようとするものです。   人をその所在する国から国外に移送する行為は,もとの所在地に戻るのを困難にし,生活・行動様式が異なる地での行動を余儀なくさせることなどから,国内での移送にとどまる場合より重く処罰すべきものと思われ,このことは,日本国内からの国外移送には限りません。また,我が国をめぐる人身取引として指摘があるのは海外から我が国への移送がほとんどであるほか,日本人が海外旅行先で他人の支配下に置かれ,第三国に移送されるといった事案も想定されますので,これら事案にも適切に対処できるよう,法整備を行うこととしているものです。   最後に,要綱(骨子)第六についてですが,このうち三は,現行刑法第227条第3項が,営利・わいせつの目的で被拐取者・被売買者を収受する行為を処罰対象としているところ,目的要件として,臓器摘出目的を含む「生命若しくは身体に対する加害の目的」を加えるとともに,処罰の対象行為として,被拐取者や被売買者の「引渡し」,「輸送」及び「蔵匿」を加えようとするものであります。これは,先ほど御説明しましたように,臓器摘出目的を含む「搾取の目的」で行われる被支配者の「運搬」,「移送」,「蔵匿」及び「収受」をも人身取引として,その処罰を義務付ける議定書の要請に対応したものであり,実質的にも,これらの行為は,被拐取者等の自由の侵害状態を継続させるとともに,その発見を妨げ支配状態からの離脱を困難にすることから,処罰の必要性が認められるところです。   また,要綱(骨子)第六の一及び二では,いわゆる本犯者を幇助する目的でこれらの行為に及んだ者も処罰できるよう,所要の法整備を行うこととしております。   引き続き,諮問第72号につきまして,提案に至りました理由等を御説明申し上げます。   近年,少年人口に占める刑法犯の検挙人員が増加し,強盗等の凶悪犯の検挙人員が高水準で推移している上,いわゆる触法少年による凶悪重大な事件も発生するなど,少年非行は深刻な状況にあります。このような現状を踏まえ,平成15年12月,青少年育成推進本部が策定した「青少年育成施策大綱」において,①いわゆる触法少年の事案について,警察の調査権限を明確化すること,②触法少年についても,少年院送致の保護処分を選択可能とすること,③保護観察中の少年について,遵守事項の遵守を確保し,指導を一層効果的にするための制度的措置を講ずることが,検討事項として示されたほか,同じく平成15年12月に,犯罪対策閣僚会議が取りまとめた「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」におきましても,非行少年の保護観察の在り方の見直し及び触法少年事案に関する調査権限等の明確化について検討することが取り上げられました。そこで,このような政府の施策に掲げられた内容を踏まえ,少年非行の現状に適切に対処するため,少年法等を早急に整備する必要があると考え,今回の諮問に及んだものでございます。   その内容について御説明申し上げます。   はじめに,要綱(骨子)第一でございますが,これは,いわゆる触法少年及びぐ犯少年の事件について,警察官等による調査手続を整備しようとするものです。   少年保護事件において,事案の真相を解明することは,非行のない少年を誤って処分しないためにも,また非行のある少年について適切な保護を施し,その健全な育成を図るためにも不可欠であり,かつ,被害者を含む国民の少年保護手続に対する信頼を維持するという観点からも極めて重要であります。しかしながら,触法少年の行為については,犯罪の捜査手続を定めた刑事訴訟法の規定は適用されないとの理解から,捜査における捜索等に相当する強制処分が行えないばかりか,触法少年及びぐ犯少年の行為に関して任意で行う調査についても,法律上の根拠が明確でないため,円滑な調査に困難が伴い,事案の解明が十分にできない場合があるという指摘がなされております。   そこで,これらの問題に対処するため,要綱(骨子)第一の一ないし五において,触法少年及びぐ犯少年に係る事件に関する警察官の一般的調査権限,公務所等への照会,少年等の呼出・質問及び触法少年の事件における捜索等の強制処分等について整備するとともに,ぐ犯少年の事件の調査については,警察官ではない,心理学等の専門的知識・技能を有する警察職員が重要な役割を担っている実務を考慮し,これら一定の警察職員にも調査権限を認めることとしております。   また,現在は,触法少年又はぐ犯少年で14歳に満たない者を発見した者は,児童福祉法の通告の要件を満たす限り,第一次的な措置の権限を有する児童福祉機関に通告することとなっていますが,これらの少年の事件について警察官等の調査権限を明確化することに伴い,調査をした場合の事件の取扱いについても整備するのが適当と考えられますので,要綱(骨子)第一の六において,警察官が,調査の結果,児童福祉機関において家庭裁判所送致の措置を採るべきものと思料する場合に,事件を児童相談所長に送致する制度を設けることとしております。さらに,児童福祉機関が警察官から事件の送致を受けた場合は,その調査結果を踏まえて処遇を決定することとなりますが,少年法第22条の2第1項に規定する罪に係る重大な触法行為をした疑いのある少年については,家庭裁判所において非行事実を認定した上で適切な保護を施す必要性が特に高いと考えられるため,要綱(骨子)第一の七において,一定の重大事件に係る触法少年について送致を受けた児童福祉機関は,原則として家庭裁判所送致の措置を採らなければならないとする制度を設けることとしております。   次に,要綱(骨子)第二についてですが,これは,14歳未満の少年についても,少年院送致の保護処分を選択できるようにするものです。   現行少年院法は,少年院の被収容者を14歳以上と定めているため,保護処分時に14歳に満たない者について少年院送致の保護処分を選択することはできません。しかしながら,14歳未満であっても,凶悪な事件を起こしたり悪質な非行を繰り返すなど,深刻な問題を抱える者については,早期に矯正教育を授けることがその健全な育成を図る上で必要かつ相当と認められる場合があると考えられます。   そこで,年齢によるのではなく,個々の少年が抱える問題に即して最も適切な処遇を選択できる仕組みとするため,初等少年院及び医療少年院の被収容者年齢の下限を削除することとし,ただ,14歳に満たない年少者について少年院送致の保護処分を選択できるのは,家庭裁判所が特に必要と認める場合に限ることとしております。   最後に,要綱(骨子)第三についてですが,これは,保護観察中の少年について,その遵守事項の遵守を確保し,指導を一層効果的にするための措置等を整備しようとするものです。   保護観察は,遵守事項を遵守するように指導監督することを主たる内容としていますが,実際には,保護観察官や保護司による再三の指導等に反して遵守事項の不遵守を繰り返し,あるいは,保護観察官等が接触することすらできない状態を惹起するなど,社会内処遇としての保護観察が実質的に機能し得なくなっている事例も少なくないところでございます。   そこで,要綱(骨子)第三の一において,少年に自発的に行状を改める機会を与えるため,遵守事項を遵守しない少年に対し,保護観察所の長が警告を発することができることとした上,それにもかかわらず,なお遵守事項を遵守しなかった場合には,保護観察所の長の申請により,家庭裁判所において,保護観察における指導監督によって本人の改善更生を図ることができるか否かを判断し,それができないと認める場合には,児童自立支援施設等送致又は少年院送致の決定をすることができることとすることとしております。   また,少年の非行の背景には,保護者の側にも問題がある場合が多いことが指摘されており,少年の健全な育成を図るためには,少年の保護者にその責任を自覚させ,少年の改善更生に向けた努力をさせることも重要であると考えられます。   このような観点から,平成12年の少年法の改正において,家庭裁判所や家庭裁判所調査官による保護者に対する措置についての規定が置かれましたが,保護処分の執行段階においても引き続き適切な指導等を行うことにより一層の効果が期待できます。   そこで,要綱(骨子)第三の二において,保護観察所及び少年院の長が保護者に対し指導,助言等をできることとしております。   諮問第71号及び諮問第72号の要綱(骨子)の概要は,以上のとおりでございます。十分御議論の上,できるだけ速やかに御意見を賜りますようお願いいたします。 ● 引き続きまして,お手元にございます諮問第71号に関する配布資料について御説明させていただきます。   本日,諮問第71号及び諮問第72号に関する御審議の参考にしていただくために,席上に刑2から刑10までの資料9点を御用意させていただいております。そのうち諮問第71号に関するものは刑2から刑6まででございますので,その内容等につきまして私の方から御説明申し上げます。   まず刑2は,先ほど朗読いたしました諮問第71号です。   刑3は,諮問第71号に関連いたします刑法等の条文の抜粋でございます。   刑4は,「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人,特に女性及び児童の取引を防止し,抑止し及び処罰するための議定書」(仮称)でございますが,この英語の正文とその仮訳文でございます。訳文につきましては,今後,議定書の締結のための手続が進められる中で作成されることになりますところ,正式の訳文となる過程で,文言が変更される可能性があることを,あらかじめ御了承いただきたいと思います。   刑5は,昨年12月に犯罪対策閣僚会議が策定いたしました「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」の抜粋であります。この行動計画で重点課題の一つとして挙げられている「国境を越える脅威への対応」の項目中で,「議定書の締結に向け,人身取引(トラフィッキング)等の処罰を確保できるよう,必要な検討を進める」旨が盛り込まれております。   最後の刑6は,諮問第71号に関する基礎的な統計資料でございます。   1ページは,諮問第71号に関係する逮捕・監禁及び略取・誘拐につきまして,道路上の交通事故に係る業務上過失致死傷等を除いたいわゆる一般刑法犯や,窃盗の罪と併せまして,最近10年間の認知件数の推移を表にしたものでございます。それぞれの罪種につきまして,平成6年の認知件数を100とする指数の推移も示しております。いずれの罪種につきましても,認知件数の増加傾向が認められ,平成15年は,一般刑法犯及びその大半を占めます窃盗の認知件数が8年ぶりに減少しましたが,逮捕・監禁及び略取・誘拐は,昨年においても増加しているところでございます。   次に,2ページは,逮捕・監禁,逮捕・監禁致死傷,未成年者略取・誘拐,営利誘拐等,身の代金拐取,拐取者身の代金取得等,国外移送拐取及び営利被拐取者収受等の各罪名別に,最近5年間の第一審における懲役刑の科刑状況の推移を表にしたものであります。逮捕・監禁について,法定刑の上限であります懲役5年に近い刑が言い渡されたものが見られるようになっております。また,未成年者略取・誘拐につきましては,統計上,被害者が殺傷されるなどした場合は,殺人や傷害等の重い罪名に計上されますため,この資料に計上されておりますのは,犯人が早期に検挙されるなどした結果,そうした重い別罪を伴わなかった事案であると考えられますが,そのような事案につきまして,最近5年間で懲役3年を言い渡された者が3名となっております。   諮問第71号に関しましては,以上でございます。 ● 引き続き,諮問第72号の配布資料について御説明させていただきます。   まず刑7は,先ほど朗読いたしました諮問第72号です。   刑8は,「青少年育成施策大綱」の抜粋でございます。「大綱」は,青少年の育成に係る政府の基本理念と中長期的な施策の方向性を明確に示し,幅広い分野にわたる青少年育成施策を総合的かつ効果的に推進するために策定されたもので,このうち,「少年非行対策」の項目で,今回の法整備に関する検討事項が掲げられております。   刑9は,「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」の抜粋でございます。このうち,「少年犯罪への厳正・的確な対応」の項目で,今回の法整備に関する検討事項が掲げられております。   刑10は,諮問第72号に関する基礎的な統計資料でございます。   まず,1ページは,昭和21年から平成15年までの少年刑法犯の検挙人員と人口比の推移に関する統計でございます。少年刑法犯の検挙人員は,昭和58年をピークとして,以後おおむね減少傾向が続いておりましたが,平成8年以降,やや増加傾向となり,最近はおおむね20万人前後で推移しております。一方,少年人口1,000人当たりの検挙人員である人口比で見ますと,平成8年以降,上昇傾向にあり,平成15年は15.5となっております。   2ページは,昭和41年から平成15年までの触法少年一般刑法犯の補導人員と人口比の推移に関する統計でございます。近年,触法少年の補導人員は,おおむね2万人余りで推移しており,10歳から13歳の少年人口1,000人当たりの補導人員である人口比については,平成2年以降,おおむね4前後で推移しております。   3ページは,最近10年間の触法少年一般刑法犯の行為態様別の補導人員に関する統計でございます。触法少年の凶悪犯の補導人員は,年間150人から200人程度で推移しており,その多くが放火でありますが,殺人事件も年間数件程度発生しております。また,傷害,恐喝といった粗暴犯は,年間1,200人から1,800人程度で推移しております。   4ページは,昭和24年から平成15年までの保護観察新規受理人員の推移に関する統計資料でございます。保護観察全体の新規受理人員のうち,保護処分により保護観察となった少年は,平成15年で約4万4,000人となっております。   最後に,5ページは,平成6年から15年までの少年保護事件の家庭裁判所終局処理人員のうち,保護処分となった人員及びその内訳を取りまとめたものでございます。保護処分となる人員は,年間5,6万人で推移していますが,このうち,90%前後が保護観察となっており,少年院送致は10%前後,児童養護施設・児童自立支援施設送致は1%未満となっております。   以上,簡単でございますが,配布資料の説明をさせていただきました。 ● それでは,ただいま説明のありました諮問第71号及び第72号につきまして御質問がございましたら,御発言をお願いしたいと思います。 ● 「ぐ犯」というのが分からないのですけれども,危ぐの「惧」ですか。 ● 「おそれ」という「虞」でございますけれども,少年法3条1項3号に掲げられている字でございます。   内容的に申しますと,保護者の正当な監督に服しない性癖のあることでございますとか,正当な理由なく家庭に寄りつかない,犯罪性のある人などと交際するとかいったような事柄が挙げられておりまして,更に,こういった事由がございまして,その性格・環境に照らしまして,将来,罪を犯し又は刑罰法令に触れる行為をするおそれのある少年ということでございます。   ぐ犯の「ぐ」は「虞」,「はん」は犯罪の「犯」でございます。 ● ほかに御質問ございませんか。 ● 私も質問なのですけれども,71号の方の人身取引なのですけれども,これを見てみると,国連の方で議定書をつくっているので別に問題ないし,今お諮りになっているのに全く賛成なのですが,やはり総合科学技術会議のようにもうちょっと……,人間になる前の話がどんどん科学的に,医学的というか,発達しているので,ステムセルを売買するとか,あるいは作るとか何とかするというのはもうやっているのですが,そこら辺の取組みはいかがでしょうか。 ● おっしゃられる意味は,総合的なという意味でですか。 ● いえ。総合科学技術会議というのが日本政府の中にあるのですが,そこで,人間になる前にはいろいろなことが必要なのですが,ステムセルみたいなことを研究してもいいとかやってもいいとかというのを何か答申みたいのを出したのですが,それは日本であって,アメリカなんかはもうかなりばーっと行っているので,恐らく取引もやっている可能性は非常に多いと思うのです。それに影響されるのはもう見えているのですから,そういうことに対する法制的な準備というか,お考えの方はいかがでしょうか。 ● ○○委員のおっしゃるところまでは,まだ刑法的には……,御承知のとおり犯罪の問題なものですから,なかなかそこの以前まではまだ対応できていないのではないかというふうに思いますけれども。 ● 倫理の問題というのもあるし,何というか面倒くさいのですが,早晩必ず俎上に上ってくると思いますので,よろしくお願いしますというリクエストでございます。 ● 追加いたしますと,法務省の所管しております法律といたしましては,今,局長の申し上げたとおりなのでございますが,事柄が科学技術の在り方ということでございまして,人の胚の取扱い,これはキメラ胚等も含めまして,一定のものは罰則規制等もかけられたりしてはおります。 ● よろしゅうございますでしょうか,それで。 ● はい。 ● ほかに御質問ございませんでしょうか。 ● 71号と72号の要綱を拝見いたしますと,「できるものとする」というのと,「ねばならない」というのと,「すること」というのと,いろいろあって,この区別がどうついているのかということを教えていただきたいのですが。 ● 「できる」といいますのは,正に権限,必要な場合に権限行使ができるということを明確にしているものです。   「するものとする」というふうな表現ぶりにつきましては,裁判所が判断される事項につきまして,そういった一定の要件に当たると裁判所が認めたときには,そういう判断をすることになる。逆に言いますと,そういう要件が認められるときに限ってしていただくと。そういう意味での裁判規範ということを,例えば,「するものとすること」というふうな形で使わせていただいている部分がございます。 ● 何かよく分からないけれども,考えます。 ● これまでの要綱(骨子)の書きぶりに合わせたものです。それと,要綱(骨子)の刑法の人身売買とか,この辺につきましては,法案の変えるべき内容につきまして,そのような「ものとする」ということを体言形態にするために,「ものとすること」と,こういうふうに言っております。 ● 私からこういうことを申し上げるのも変なのですけれども,「ものとする」というのは,要綱にする場合の表現の方法で,中身は「ものとすること」というのは取って読んでいただければいいということなんだと私は思っています。ですから,「できる」,「しなければならない」,「準用する」と,それだけで中身は考えていただければいい。「ものとすること」というのは,こういう要綱という形で御提示するときの約束事だと思っていただければ,普通はよろしいのではないかと思います。 ● 表現にこだわらなくてもよろしいということですか。   でも,それでも,「できる」ということと,「ねばならない」というのの区別をなさっているわけですよね。それをちょっと教えていただきたいなと思ったのですけれども。だって,「ねばならない」じゃなければ,やらなくてもいいわけですよね。そうすると,不作為の何とかみたいな,これはよくうちのショチョウなんかで言われているあれは心配しなくていいのでしょうか。 ● 「できる」という表現と,「ねばならない」という表現,これは書き分けてございます。通常,手続法,今回の場合ですと少年法の関係のところで,「できる」というのと,「ねばならない」というのが書き分けてありますが,この場合は,「できる」というのは,正にそういう権限を持たせるという意味で書いております。一方,「ねばならない」という形で書いてある部分は,正に法律でそれを義務付けるという趣旨で書いているということで御理解いただければと思います。 ● 国語上のことはこの場合は分かったのですけれども,何で,ただ「できる」でとどめておいて,「ねばならない」としないのですかという意味なのです。つまり,例えば保護者や何かに適当な措置をとれとかと書いてあるのですけれども,それは「できる」ということであって,「ねばならない」になっていないのですね。だから,例えば児童相談所の所長さんやなんかがやりたくなかったら放っておいてもいいのかということなのですけれども。 ● 例えば例で申しますと,諮問第72号の一番最初,第一の一に,警察官はこれこれのときは調査することができるものとすると,「できる」というふうに書いておりますが,この場合は,その上にありますように,「必要があるときは」ということであります。要するに,警察官がその事件なり少年の状況を見て,必要があるときは調査することができるということだと思います。 ● だから,「できる」と書いてあることに関しては不作為の罪を問われないということですよね。 ● また私が申し上げて大変変なことなのですけれども,基本的に,法律を作るときには,特に国民と国家権力との間を定める場合に,公権力側から国民の方に対して義務を課したり,あるいは権利を制限する。これは「できる」と書く。そういうことができますよという権限を与えるという意味で書いているわけですね。 ● 義務は与えていない。 ● ええ。   それで,ではその権限の行使をどういうふうにするかと。それはもちろん勝手に恣意的にやっていいというものではないわけで,それは行政責任の問題とか,例えば端的に言えば国会での国政調査権によるコントロールでありますとか,そこまで行かなければ,それぞれの行政官庁の中での服務規律によってそういう権限が適正に行使されるように担保されるということです。ただ,法律で書くときは,あくまで公権力とその対象になる人との関係という形で書いておりますので,公権力側としてそういう権力的介入がこれは可能であるということを示すように書いてあるわけです。ですから,その権限の行使の仕方の問題はまた別の話ということで御理解いただければいいのではないかと思います。 ● どうしてかというと,余りにも不作為が多いなと,行政に関して。それが権限だけで義務化されていなくていいのですかということだったのです。 ● 逆に申しますと,「ねばならない」というと,何から何まで公権力が国民の間に介入しなければならないということを意味してしまうわけで,それは大変問題があるということではないでしょうか。 ● そうなんですか。義務化することはできないということなのですか。 ● ですから,義務にすれば,いやでも応でもそういう介入をしなければならなくなるわけですね。それが本当によろしいかという問題です。 ● 何かちょっと難しい問題なので,後でよく……。 ● 権限という形で,その権限の行使が適正に行われるのは,官公庁の中の服務規律でありますとか,いろいろな国政調査権なり議会の監督とか,そういうことを通じてやるという考えです。 ● ということは,つまり,「できるものとする」と書いてあることに関して,しなかった場合には責任を追及される可能性がちゃんとあるのですか。 ● それは当然ございます。懲戒処分になったりですね。それはそうです。 ● そうなんですか。余り例がないですよ。 ● それが非常に不合理であれば,懲戒処分の対象になったり,あるいは人事上のマイナス評価を受けるとか,いろいろな形でもちろんコントロールは受けているわけです。 ● 法律上は「できるもの」というのでも,必要な場合にその権限を行使しなかったらば,やはり不作為とか未必の故意とか…… ● 場合によっては国家賠償の対象になることもあります。 ● そうですか。じゃあ安心しました。 ● よろしゅうございますか。 ● 申し訳ありません,時間をとりまして。 ● ほかに御質問ございませんでしょうか。 ● 今の委員の御質問は,本当は非常に難しい内容を含んでいるのではないかと思いますけれども,しかし,一通りの理解としては,先ほどからお話がありますように,権限と義務の違いであると思います。   例えば,私は関係官として出席させていただいているわけですが,これが,「関係官は会議で発言することができる」となっておりましたら,この場へ来て適当に皆様のお話を聞きながら発言すればいいのだろうと思いますけれども,「発言しなければならない」となっていましたら,前の晩に徹夜してでも勉強して出てくるということになろうかと思いますけれども,まあ若干そういうようなニュアンスの違いはあるという気がいたします。 ● ほかにございませんでしょうか。   ほかにございませんようでしたら,次に,諮問第70号,第71号及び第72号の審議の進め方について御意見を伺いたいと思います。 ● 諮問70号,71号及び72号につきましては,71号,72号には具体的な要綱が付されてはおりますのですが,70号,71号,72号いずれもその内容は非常に専門的なものでありますので,それぞれの観点から慎重な審議調査が必要と思われます。そこで,70号,71号,72号それぞれに部会を設けて,その部会において審議調査をしていただき,総会でその結果に基づいて更に審議するという方法がよろしいのではないかと存じます。 ● ただいま○○委員から部会設置等の御提案がございましたが,これらについて御意見ございますでしょうか。   御意見がないようでございますので,諮問第70号,第71号及び第72号につきましては,新たに部会を設けて調査審議することに決定いたします。   次に,新たに設置する部会に属すべき総会委員,臨時委員及び幹事に関しましては会長に御一任願いたいと存じますが,御異議ございませんでしょうか。             (「異議なし」と呼ぶ者あり) ● それでは,会長に御一任願うということにいたしたいと思います。   次に,部会の名称でございますが,諮問事項との関連から,諮問第70号につきましては,「信託法部会」と,諮問第71号につきましては,「刑事法(人身の自由を侵害する犯罪関係)部会」と,諮問第72号につきましては,「少年法(触法少年事件・保護処分関係)部会」と,それぞれ呼ぶことといたしたいと存じますが,いかがでございましょうか。御意見ございますでしょうか。--特に御異議がないようでございますので,そのように取り計らわせていただきます。   総会委員として,諮問事項の中身についてほかに御意見がございましたら,御発言をお願いいたします。   それでは,諮問第70号,第71号及び第72号につきましては,部会で御審議いただき,それに基づいて総会において更に御審議を願うということにいたしたいと存じます。   これで本日の審議は終了いたしました。   ほかに,この機会に御発言いただけることがございましたら,お願いいたします。本日の議題以外のことでも結構でございます。   それでは,本日はここまでということでよろしいでしょうか。   本日は長時間にわたり熱心な御審議をいただきまして,本当にありがとうございました。