法制審議会第138回会議 議事録 第1 日 時   平成14年12月11日(水)  自 午後2時33分                         至 午後4時00分 第2 場 所   法務省大会議室 第3 議 題   日本国外において日本国民が被害者となった犯罪に対処するための刑法の一部改正に関する諮問第60号について 第4 議 事   (次のとおり)               議         事  (開会宣言の後,法務大臣から次のようにあいさつがあった。)  法制審議会第138回会議の開催に当たり,一言ごあいさつ申し上げます。  委員及び幹事の皆様方におかれましては,公私ともに御多用中のところ御出席をいただき,誠にありがとうございます。  当審議会におきましては,皆様の御尽力により,既に多くの重要な案件について御答申をいただき,また,現在も多数の諮問事項について調査審議をいただいているところでございます。この機会に,皆様方の御労苦に対し厚く御礼を申し上げます。  さて,本日御審議をお願いする議題は,日本国外において日本国民が被害者となった犯罪に対処するための刑法の一部改正に関する諮問第60号です。  刑法は,制定当時におきましては,日本国民が日本国外で一定の犯罪の被害者となったときにその適用を認める規定を有しておりましたが,昭和22年の改正により削除され,現在に至っております。  この昭和22年の刑法改正は,当時の諸外国の立法例にかんがみて行われたものであり,当時の我が国の社会情勢及び我が国を取り巻く国際的な状況を背景としたものと思われます。しかしながら,交通が発達し,国際的な人の移動が日常化した今日,日本国外において日本国民が犯罪の被害に遭う機会が増えておりますし,その中で,殺人等の重大な犯罪の被害に遭うことも少なくありません。  このような情勢の変化を踏まえ,日本国民の生命・身体に重大な侵害をもたらすような犯罪を犯した者について,およそ我が国の刑法が適用できないとすることは,国外にいる日本国民の保護の見地からも妥当ではないと考えられます。そこで,これらの犯罪に適切に対処するため,早急に刑法の改正を行う必要があると考えて,ここに諮問したものです。  皆様方も御承知のとおり,現在,司法制度改革が政府の最重要課題の一つとして推し進められております。平成15年の通常国会には,後ほど御報告があります,第一審の裁判の結果が2年以内に得られるようにするための基盤を整備する法案を提出することを始め,多数の法案を国会に提出する予定ですが,今般,諮問をいたしました課題も,日本国民の保護の見地から早急に対処すべき重要な課題であり,平成15年の通常国会に所要の法案を提出したいと考えております。よろしく御審議の上,できる限り速やかに御答申をいただけるようお願いいたします。  (法務大臣の退席後,委員の異動につき紹介し,引き続き,本日の議題について次のように審議が進められた。) ● それでは,ただいまの法務大臣のごあいさつにもございましたように,本日は,日本国外において日本国民が被害者となった犯罪に対処するための刑法の一部改正に関する諮問第60号につきまして,十分御審議をいただきたいと存じます。また本日は,関係官として,司法制度改革推進本部の○○事務局次長に御出席いただいておりますので,諮問第60号についての審議の終了後に,前回の第137回会議以後の司法制度改革の進ちょく状況についての説明をお願いしたいと考えております。  それでは,早速審議に入らせていただきます。  本日の議題でございます,日本国外において日本国民が被害者となった犯罪に対処するための刑法の一部改正に関する諮問第60号につきまして,御審議をお願いしたいと存じます。  まず初めに,諮問第60号につきまして事務当局に諮問事項を朗読していただきます。 ● 朗読させていただきます。  諮問第60号    日本国外において日本国民が重大な犯罪の被害を受けた場合において,適切な処罰がなされるようにするため,刑法を改正する必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を承りたい。  別紙       要綱(骨子)   日本国外において日本国民に対し一ないし六に掲げる罪を犯した者に刑法を適用するものとすること。   一 強制わいせつ,強姦,準強制わいせつ及び準強姦,これらの未遂並びに強制わいせつ等致死傷   二 殺人及びその未遂   三 傷害及び傷害致死   四 逮捕及び監禁並びに逮捕等致死傷   五 未成年者略取及び誘拐,営利目的等略取及び誘拐,身の代金目的略取等,国外移送目的略取等,被略取者収受等並びにこれらの未遂   六 強盗,事後強盗,昏酔強盗,強盗致死傷,強盗強姦及び同致死並びにこれらの未遂  以上でございます。 ● 続きまして,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由等につきまして事務当局から説明をお願いします。 ● それでは私の方から,本日の諮問第60号につきまして,提案に至りました経緯及び諮問の趣旨等について御説明申し上げます。  近時,交通の発達等により国際的な人の移動が日常化し,日本国民の出国者数は年間約1,700万人にまで達しております。これに伴って,日本国外において日本国民が外国人による犯罪の被害に遭う事案も増加し,特に,殺人や誘拐,強盗等の重大な犯罪の被害に遭うことが少なくないのが現状でございます。  これらの犯罪につきましては,通常,犯罪地国において捜査が行われ,その犯人に対する刑罰権が行使されているものと承知しておりますが,事案によりましては必ずしもその適切な行使がなされないような場合もあるところでございます。  刑法第3条は,国民の国外犯として,日本国外において同条に掲げる一定の罪を犯した日本国民に刑法を適用する旨規定しておりますが,現行刑法の制定当時には,同条に第2項があり,国民の国外犯を規定する同条第1項に定められた罪につき,日本国外で日本国民に対してこれらの罪を犯した外国人についても刑法の適用を認める旨定めておりました。しかし,この第3条第2項は,昭和22年の刑法改正の際に,諸外国の立法例等にかんがみて削除され,現在に至っております。  もとより,日本国民が被害者となった場合にも,日本国外において外国人によって行われた犯罪である以上,犯罪地国にその犯人の処罰を含め,その対応を委ねることが原則かと思われますが,日本国外において日本国民が外国人による犯罪の被害に遭う機会が増加している今日,とりわけ日本国民が生命・身体に重大な侵害をもたらすような犯罪の被害を受けた場合において,我が国の刑法を適用できないとすることは,国外にいる日本国民の保護の見地から妥当であるとは言い難く,国民感情にも反するものと思われます。さらに,現在では,一定の場合に自国民保護の見地から,外国人の国外犯を処罰することは,諸外国の立法例において認められるところとなっております。  そこで,日本国外において日本国民がこのような犯罪の被害を受けた場合に,我が国として適切に対処できるようにするため,刑法の一部改正を早急に行う必要があると考え,今回の諮問に及んだものでございます。  本諮問には,日本国外において日本国民が外国人による犯罪の被害を受けた場合に,我が国の刑法の適用を認める必要があると思われる罪を選択して列挙した要綱(骨子)を付しております。すなわち,要綱(骨子)に掲げましたとおり,一,強制わいせつ及び強姦の罪,二,殺人の罪,三,傷害の罪,四,逮捕及び監禁の罪,五,略取及び誘拐の罪,六,強盗の罪を対象犯罪として選択いたしました。これらの罪は,国民の国外犯を規定する刑法第3条に掲げられた罪の中から,個人的法益に対するものであって,かつ,人の生命・身体に直接的な侵害をもたらし,あるいはそれを伴うような犯罪という観点に基づいて選択し,これを刑法の条文の順序に従って一から六まで列挙したものでございます。  本諮問に係る要綱(骨子)の概要は以上のとおりでございます。日本国外における国民保護の観点にかんがみ,早急に改正法案を立案して国会に提出する必要があると考えておりますので,十分御議論の上,できる限り速やかに御意見を賜りたくお願いする次第でございます。よろしくお願い申し上げます。 ● 続いて,配布資料の説明をお願いいたします。 ● 本日の配布資料につきまして御説明申し上げます。  本日,御審議の参考にしていただくために,席上に資料4点と参考資料2点の合計6点を御用意させていただいておりますので,その内容等につきまして御説明申し上げます。  番号刑1は,先ほど朗読いたしました諮問第60号でございます。  番号刑2は,要綱(骨子)に掲げております罪の条文でございます。要綱(骨子)に掲げました一ないし六の罪につきまして,その順に,それぞれ刑法の条文を記載したものでございます。  次に,番号刑3は,刑法第3条に掲げる罪を法定刑の重い順に上から並べた一覧表でございます。刑法第3条は,日本国外において同条に掲げる罪を犯した日本国民に刑法を適用する旨定めた規定でございますが,先ほどの刑事局長説明において言及いたしましたように,要綱(骨子)に掲げました罪は,刑法第3条に掲げる罪の中から選んでおります。この一覧表で網がけで示した部分が要綱(骨子)に掲げました罪でございます。  番号刑4は,国外における日本国民の犯罪被害等に関する基礎的な統計資料でございます。この国外における日本国民の犯罪被害に関する統計は,外務省において公表しております資料に基づいて取りまとめたものでございます。その右側に記載した出国者数に関する統計は,当省の出入国管理統計年報に基づいて取りまとめたものでございます。  出国者数に関する統計につきましては,昭和61年以降の出国者数を年ごとに記載したものでございます。我が国からの出国者数は,昭和61年には約552万人でしたが,年々増加しており,平成13年には約1,622万人と,15年間で約3倍になっていることがお分かりいただけると思います。  国外における日本国民の犯罪被害に関する統計についてですが,昭和61年から平成13年までの被害件数,被害人数を,表の下の注に記載しましたように,平成6年,1994年までは年度ごとに,平成7年,1995年以降は年ごとに,それぞれの総数を「総数」の欄に記載しております。  続いて,「殺人・同未遂」,「強盗・同未遂・同致死傷」,「強姦・同未遂,強制わいせつ・同未遂」,「誘拐」,「傷害・暴行」の欄がございますが,これは,外務省の資料における罪名の区分に従い,要綱(骨子)に掲げております罪に係るものにつきまして,総数と同様に年度あるいは年ごとに,それぞれ件数,人数を記載したものでございます。  なお,強盗等と強姦等につきましては,いずれも平成6年以降の資料しかございませんので,同年以降の件数,人数を記載しておりますことを御了解いただきたいと思います。  被害総数の推移について見ますと,昭和61年には2,307件,2,413名でしたが,その後ほぼ毎年増加を続け,平成13年には7,948件,8,939名と約3.5倍に増加しております。  罪名別に推移を見ますと,殺人等につきましては,昭和61年には14件,16名でしたが,平成5年には過去最高の26件,32名となり,平成6年から平成7年にかけて若干減少いたしましたが,その後再び増加に転じ,20件,20名前後で推移しております。  強盗等につきましては,平成6年には325件,398名でしたが,平成10年には人数が1,000名を超え,平成13年には1,089件,1,250名に達しており,相当な増加傾向にあることがお分かりいただけると思います。  強姦等につきましては,平成6年以降,20件,20名前後で推移しておりましたが,平成11年には過去最高の37件,39名となりまして,平成12年には若干減少したものの,平成13年には再び増加し,30件,32名となっております。  誘拐につきましては,数件,数名前後で推移しておりましたが,平成13年には過去最高の8件,13名となっております。  傷害・暴行につきましては,昭和61年には9件,10名でしたが,平成5年には人数が過去最高の84名となり,その後若干の増減がありましたが,平成12年,平成13年とも60件,70名を超えております。  続きまして,参考資料について簡単に御説明させていただきます。  参考資料のうち,1点目は,「昭和22年改正前の刑法第3条条文」でございます。先ほどの刑事局長説明において言及いたしましたように,刑法制定当時は,第3条第2項におきまして,国民の国外犯を規定する同条第1項に定められた罪につきまして,日本国外で日本国民が当該犯罪の被害者となったときに,刑法の適用を認めておりましたところ,昭和22年の刑法改正により,この第3条第2項が削除されたわけでございます。お手元の参考資料は,そのときの改正によって削除される以前の第3条の条文でございます。  2点目は,外国法制でございまして,「主要な諸外国における国外での国民に対する犯罪に係る国外犯処罰規定の概要」でございます。国外で国民に対して犯された犯罪に自国の刑法を適用する旨の規定として,諸外国がどのような規定を有しているか,御参考にしていただくため,ドイツ,フランス,イタリア,韓国,アメリカにおける条文の概要をここに挙げております。  大陸法系のドイツ,フランス,イタリアにおきましては,国外で国民に対して犯された犯罪につきまして,自国の刑法を相当広く適用することとされており,韓国も同様でございます。  一方で,英米法系のアメリカにおきましては,属地主義を原則としてはいるものの,いかなる国も管轄を有しない場所や,自国を出発地,あるいは到着地と予定する外国船舶等にも自国の管轄を及ぼすこととされております。  以上,簡単ではございますが,配布資料等の御説明をさせていただきました。 ● それでは,ただいま説明のありました諮問第60号について,御質問がございましたらどなたからでも随時御発言をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。 ● 何か麻薬に関する犯罪を犯したと思われる人が,ばっと自分の国の方に逃げた場合,アメリカなんかはどこまでも追いかけていって,拘束して連れ戻し,裁判所に自分の国に帰ってから入れているみたいですが,そこのところ,商法とか民法とか,そういうのは今回は全く考えていないのですか。 ● 麻薬につきましては,我が国の法制で申しますと基本的な犯罪につきましては麻薬新条約を受けまして,何人を問わず犯罪者については罰則を適用するということで,日本の刑法で申しますと刑法第2条の例によることとしております。これは,あくまで罰則の適用の問題でございますので,その後具体的な捜査権の発動といった事柄につきましては,これはそれぞれの国際法の原則に従った処理がなされるということでございまして,例えば犯人が外国にいるということでございますと,それが判明しておりましたら犯罪人引渡し等の請求を行いまして,その地において身柄拘束等,所要の措置を講じていただくというのが原則でございます。 ● よろしゅうございますか。 ● はい。 ● 国外における国民の犯罪被害者に対する,特に個人法益についての問題ですが,確かにこの統計から見るように,国外での犯罪被害が多い,しかも今後も増えるであろうというような点から見ますと,立法措置をとるということは私は同感であります。が,この立法措置の背景にあるのではないかと思われる点が,私なりに考えてみますと,多分にテロ行為に対する対応というものがあるのではなかろうかと思います。  もちろん,こういう罪名にありますように包括的に考えておられますが,やはりテロ行為に対して当然そこに起きてくる殺人だとか逮捕,監禁だとか,そういう問題が起きてくるわけですが,それを主な--それだけではないと思いますが,それを主なねらいとしてこういう立法措置がとられようとしているのかどうか,もしそうであれば,国民の関心事はかなりその面について大きいものがあると思われますので,その辺は立法趣旨の背景事情として明確にされていた方がいいのではなかろうか,こういうふうに考えます。 ● それでは,諮問の背景につきまして,○○関係官から説明をお願いします。 ● この諮問の背景といたしまして,いわゆるテロ対策というものを直接の目的としておる,あるいは直接の動機であるということではございません。ただ,このような形で国外におります日本国民につきまして,刑事法的な保護を与える法制を刑法で行いますことによって,当該犯罪がいわゆるテロ行為というものに当たれば,それもカバーされることになるということでございます。  例えば,この種の犯罪で記憶に新しいと申しますか,まず念頭に置かれますのが,例えば今年の姫路沖で問題になったいわゆるTAJIMA号事件,外国船籍で日本の船員の方が殺された,これについて何も適切な対応が日本国として直ちにはとれない状況に,つまり犯人とされるものが外国人でございますので日本の刑法の適用はない,そうなりますと,それに伴うような刑事的な手続等がとり得ないということでございまして,そういった事柄でありますとか,現に先ほどの統計にございましたように,日本人観光客,ビジネスマン,いろいろな形で世界様々なところに出かけておられて現に被害に遭っておられる,これについて刑法的な手当てをこの際させていただけないかということでございます。 ● よろしゅうございますか。 ● はい。 ● 遅れてまいりまして,大変申し訳ございません。もう御説明があったのかもしれないのですけれども,3点お伺いさせていただきたいと思います。  四に,「逮捕及び監禁並びに」という文言があるのですけれども,この逮捕というのは官憲による逮捕ではないのですね。この間,オーストラリアで逮捕されてしまって,麻薬関係で,ああいうケースというのはどうなるのかなという素朴な疑問が1点です。  第2点は,こういうふうにリストアップされているのですけれども,これに含まれないものというのはあるのかないのか。なぜこういうリストアップになったのか。  第3点は,日本でこういうふうな法律をつくったとしても,外国における法律と抵触した場合にはどうなるのか。国際法とかそういうもので何かカバーされているのかどうかという,3点をお伺いさせていただきたいと思います。 ● 日本で逮捕と申しますと,まず想定いたしますのが警察官による令状による逮捕といったようなことでございますが,その点,刑法典は無色でございまして,直接的な物理力を加えて身体の自由を奪う行為が逮捕とされておりまして,ただし法令に基づく適法なものは除かれるというのが一般的な理解でございます。  ここで,逮捕,監禁というものを挙げさせていただきましたのは,一つにはいわゆる略取,誘拐の犯罪には,その後,被害者が監禁される例が多うございますし,また刑法典では成人については,一定の目的による場合に略取,誘拐罪が成立するわけでございますけれども,そういった目的の判明しないと申しますか,いずれにせよ無理やりさらっていくという類型,そういったものを逮捕,監禁という形で取り込まざるを得ないということでございます。  それから,なぜこういうものを挙げたのか,またそれ以外のものにどのようなものがあるかということにつきましては,今回考えさせていただきましたのは,まず自国民が一定の犯罪を犯したときには刑法3条によって処罰されるわけでございますけれども,そういう対象とされておる犯罪の中で,個人法益,個人の生命・身体等を保護法益としております犯罪というものをまず一つの基準で考えております。更に,それに対しまして生命・身体に対する侵害行為等を現に伴う,あるいは通常伴うといったような犯罪類型というもので,なお先ほど資料にも付けさせていただいておりますように現に被害も生じておるといった,そういった切り口でこのリストを挙げさせていただいております。これから外れるものがどういったものかということにつきましては,資料の3にございますが,例えば純然たる財産犯と見るべきものでありますとか,あるいは放火にいたしましても,この犯罪自体は建物等の財産に対して向けられておる公共危険罪ということで,実際問題としては中に人がいることが分かっておりながらこういうことをあえてやった場合には,悪質なものは殺人等の罪名に当たるとしてカバーできるということでもございまして,今回はその意味で個人の生命・身体といったものを中心に,それを守るという,刑事法的な保護を与えるという観点から罪種を選択しております。  このようなものを選択させていただきました関係で,例えば外国法制の中では行為地法において犯罪にならないような場合は除くということをうたっている例もございますが,どこの国におきましても,今回掲げさせていただいた例は,いずれも,犯罪ということで一般的に考えられますので,その意味でも問題は生じてまいらないということでございます。 ● そうしますと,ミニマムと考えてよろしいのですか。  例えば,経済犯とかそういうものについては含まれていないわけですね。ほかの国もこの程度のことなのでしょうか。 ● これにつきましては,私ども刑法ということで御審議いただくわけでございますので,その縛りがございまして,刑法の中で今緊急に手を打たなければならない犯罪類型ということで選択させていただきました。したがいまして,経済犯罪等につきましては,それぞれまた必要があれば,所管されるところで御検討になるものというふうに考えておりますが。 ● 詐欺罪なんていうのは,刑法の対象じゃなかったのですか。 ● 詐欺罪は確かに刑法の対象ではございます。ただ,これは窃盗などと同じように財産犯でございますので,ここは例えば旅行で行かれる方で考えました場合でも,財産的な被害の回復をもってある程度の保護が見込まれるような類型,例えば保険に入っておられたり,そういったものと,今回の生命・身体に対するものとはやはり異質だろうと。これに対しまして,今回掲げさせていただきました罪については,絶対に刑法としましても許し難いのではなかろうかということでございます。 ● よろしゅうございますか。 ● ありがとうございました。 ● 2点,お伺いしたいのですが。  1点は,確かに重い罪なのですが,強制わいせつ罪だとか事後強盗,昏酔強盗というものが入っているのですが,そこまで網をかけなければならないかどうか。これは,この後恐らく専門の部会で多角的に審議されると思いますけれども,この要綱の骨子を見た限りでは,そこまでそういう範囲に入れなければならないかどうかということが1点。  もう1点は,この仕組みとして刑法を適用するということには,先ほど申し上げましたよに私は同感なのですが,実際にこういう事態が起きたときに,犯罪地の国との関係において捜査その他ができるかどうか,つまり刑法の適用するという効果が実際に上がることが予想されるのかどうか,仕組みはつくったけれども効果は余りないということであれば,何のためにということだってあるわけですから,その辺のところをお伺いしたいと思います。 ● 強制わいせつということで,なぜ強姦に限らないのかという点につきましては,日本の場合はいわゆる姦淫,したがいまして女性が被害者であり,姦淫だけに限られております。ところが,姦淫以外の形態におきましても,強制的に,この場合は男女を問わずということになってまいりますが,これは性的自由,その結果被害者に与える影響等も考えますと,やはり入れざるを得ないのではなかろうかということで御提案をさせていただいているということでございます。  また,事後強盗という犯罪類型につきましても,確かに一番最初は窃盗で始まるのかもしれませんが,それで被害者の方などが捕まえようとする,あるいは取り返そうとしますと,そこで強盗と同じような暴行等が加えられるということで,これは同じ犯罪類型として刑法が規定しておりますように,保護の在り方としましても同様に考えていいのではないかと考えたということでございます。  それから,この刑法の適用を可能とすることでどのような効果があるのかということでございますが,これは現時点で申し上げますと,犯罪捜査として現に犯罪が行われた国に対しまして,調べていただくということもできないわけでございます。刑法を適用しないと言っておりますので。したがいまして,捜査共助も含めまして,外国での捜査をお願いするいわば根拠がない,あるいは例えば犯人が特定されて何の処罰も受けないような場合でございましても,こちらに引き渡してほしいということも言えないわけでございます。もっと進んでまいりますと,TAJIMA号のように,目の前におりましても日本としては刑事法的には何らの手も打てないということで,したがいまして刑事法的な対応が必要な場合,それが可能であって相当な場合に,それをとり得る根拠として刑法の適用がございますので,個々のケースで現実に何を行うか,行えるかとは別といたしまして,それは必要な場合に必要な措置をきちんと講じていくということでございますが,そのもととなる根拠を整備させていただけないかということでございます。 ● それに関連して,これをつくった場合,同じような法制をとる国であればお互いの国との相互主義といいますか,そういうことも考えられないことはない。ところが,そういう法制じゃない国との場合はどうなるのか,相互主義の問題が関係あるのかないのか,その点,お尋ねします。 ● 相互主義とは,その意味では直接の関係はないとお考えいただいた方がいいのではないかと思われます。つまり,例えば今,日本で捜査共助,あるいは犯人引渡しということで外国の要請に応じております。例えば,ここの立法例で出ておりますドイツとの要請に,現にこれまで応じてきたわけでございまして,あるいは韓国の立法例が参考資料で挙がっておりますけれども,これにつきましては犯罪人引渡条約も締結させていただいたという状況でございまして,その意味で日本にはこの手の規定はございませんでしたが,それとは別の要件,あるいは枠組みのもとに動くわけでございますので,刑法の適用と相互主義ということで直ちに問題になるというものでは必ずしもございません。 ● ほかに。 ● 稚拙な質問で恐縮ですが,これは被害者が日本国民であるということの表記だけでございますね。例えばフランス国法ですと,フランス人,あるいは外国人がという形で,加害者についても書いてある。つまり,目には目を,歯には歯をではございませんが,そういう国において加害者が日本人であった場合で,被害者が日本人である場合にはこれをアプライして,だけどそれが現地であれば,やはり現地法で裁かれるという基本的な理念のもとであるという理解でよろしいですか。 ● 日本国民が外国で行いました場合には,実は先ほどの資料3にございますが,先ほど例にございました詐欺も窃盗もそうでございますが,諮問に掲げたもの以外の犯罪も既に日本刑法によって処罰されることになっております。 ● 日本人であるということは,明文化される。 ● 明文と申しますか,刑法3条によりまして--もともとの法制を申し上げますと,昭和22年に削除されます前は,国民の国外犯ということでまず窃盗も含めまして,もちろん殺人等も入っておりますけれども,この種の犯罪を日本国民が国外で行った場合には刑法を適用するとなっておりまして,その2項に,外国人が日本国民に対して同じ犯罪を犯したときは処罰するとなっておりました。それを,昭和22年に削除されまして,そのうちの一部,これは到底日本の刑法の在り方としましても,今の時点を考えまして看過できないのではないかという類型のみを今回抜き出させていただいているということでございますので,これは当然日本国民が同じことをやりますと,被害者が誰であれ処罰されるということになっております。 ● 日本の刑法で,ですね。ありがとうございました。 ● この刑3の資料の一覧表に挙げてあるのは,これは日本人が外国でこういう犯罪を犯した場合も日本で処罰されるというリストでございます。  そのうち,網かけの部分は,今度は外国人が日本人に対してこういう犯罪を犯した場合に処罰することにしようという,今回の諮問の対象になっている部分である,そういう関係だと思います。 ● 今の昭和22年の改正前の条文と申しますのが,参考資料として配布させていただいております片仮名まじりの条文ということでございます。このときは,「帝国外」,「帝国臣民」という表現を用いておりましたが,今は「日本国民」,「日本国外」ということになっているわけでございます。 ● ほかにございませんでしょうか。どうぞ御遠慮なく。 ● 全体的に,いつも思うのは,刑務所が小さいのですよね。いろいろな理由があって,教育的な考え方から刑を科すというのがあるし,それから何か司法とか警察とか,そういう人口がすごく少ないから余りできないのだろうとか,いろいろな理由があると思うのですが,だから刑務所に行かないようにする,それから刑期も短くする,それから刑というよりは別な形で何かやろうとするというような傾向が,例えばアメリカなんかに比べると激しく強くて,日本は6万ちょっとしか刑務所に入っている人がいないのに,あっちは120万とかもっといっぱいいるみたいで,広いのですよ。それから刑期が長いのです。それから,警察とか裁判官とか検察官とか弁護士とか,やたらと多い。なんて言うと悪いのですが,そういう感じの方向に少しずつ司法改革なんか聞いていると,少なくとも人口だけから見ると増えるような気がするのですが,それでこういうふうに外国で何とかしたのがというと,まあ10年とか20年ぐらいかかるのでしょうけれども,警察とかああいうのも増えていって,段々刑務所が大きくなる方向に意識されているのですか。それがよく分からないので,何かそんな外国であれでしたのだから,そんな……ということになるけど,それはでも結構100人単位で増えるとか,5年間ぐらいで,といっていたら,入れるところがないのですよね。大変で,そういうオペレーショナルなところで,ちゃんとした措置をとる意識があるというか,覚悟があるのか,ちょっと心配だなと思っています。 ● 今,収容者5万7,000人ですか,それを少ないと見るか多いと見るか,いろいろとお考えはあるのでしょうが,今まで我が国は,治安は世界で非常に守られているところだという感覚でいていただいたと思うのでありまして,その時代に既にアメリカで80万とかそういう収容者がいるわけでありますが,だから向こうの司法制度が進んでいるとかは決して思わないのでありまして,確かに現在,5万7~8,000人の収容者で満杯の状態,過密状態になっておりまして,過剰収容ということでいろいろなひずみも出てまいっております。そこで,法務省といたしましては,その過剰収容をなくすために施設を増築する,そのための職員も増やしていただくというふうに,今行っているところであります。が,まだまだ我が国がアメリカ並みの収容者数を抱えるだろうとは決して思っておりません。  総理府,今の総務省が時に応じて国民の世論調査をやっているのでありますけれども,その中で「身近な生活環境について,今後,特によくなってほしいもの」として,10項目を挙げて何年か置きに,意識調査をしていますが,「治安のよさ」というのが今までずっと10項目中の10番目,要は10番目というよりは,みんな意識していない,そういうことを考えなくてもみんな治安は守られていると思っていたのでありますけれども,昨年実施しましたら4番目に上がっているのでありまして,それだけやはり日本の体感治安といいますか,自分たちのコミュニティーを守っていく上において治安は大事だなということを意識され始めてきたのじゃないかというふうに思っております。そのためにも,我々としても対策といいますか,方策を考えなければならないというふうに思っているわけで,いろいろなことをこれから考えさせていただこうと,今までも考えてきましたけれども,思っているわけでございます。  一つには,刑が甘過ぎるのではないかとか,いろいろな御批判はあります。しかし,これは個々具体的な裁判の場のことでございますから,とにかくこれと司法制度改革は直接結びつくわけではございませんけれども,司法という場をこれからそういう感覚で感得していただけるような方に持っていければというふうに思っているところでございます。 ● 初めてで,諮問の読み方がちょっとよく分からなくて申し訳ないのですが,諮問第60号には,別紙要綱について御意見を承りたいというふうにあるのですね。そのときに,この別紙要綱の中には,例えば先ほどの○○委員のおっしゃったような形のものはとれているわけですね。そうすると,ここで挙げた網かけの部分についての意見をということであって,それ以外のものは意見を聞かれているのではないというふうに解釈するのですか。 ● ここに挙げました要綱(骨子)の一から六というものといいますのは,我々事務当局の中で,こういうものについて外国人の日本国民に対する国外犯の処罰の規定を設ければいいのじゃないかという,一つの案でございますので,これ以外に議論をしていただくつもりはないなどとは決して申し上げているわけではございません。これも増やした方がいいのではないか,あるいはこれでも広過ぎるのではないかというような御意見を,これから伺っていけるものだというふうに思っております。 ● それでも,書き方はこのような書き方になるということなのですか。 ● 諮問の在り方につきましては,いろいろあろうかと思われますけれども,今回は,こういう要綱,骨子と申しますか,こういう考え方,ある意味で議論のたたき台として諮問段階から御提示させていただきまして,それにつきまして御議論いただき,御意見を賜りたいという方法をとっているということでございます。 ● 法制審議会に対する法務大臣の諮問にも,いろいろな形式のものがございまして,このように一応原案--と言うとちょっと差し障りがございますけれども,事務当局で検討した結果をある程度お示しして,これではどうでしょうかという諮問もございますし,そうではなくて,事項だけ挙げまして,こういう事項についてこういう趣旨あるいは目的の立法が必要だと思うけれども,その要綱を示されたいというような諮問もございます。今回はこのように書いてございますが,今,御説明がありましたように,これについてだけイエス・オア・ノーで答申するというわけではなくて,ここは必要ないとか,あるいはもっと増やすべきだとか,それはこの法制審議会の答申として意見を申し上げればいい,そういうことでございます。 ● 分かりました。 ● それでは,大分活発に御質問をいただき,かなり御意見にわたるものもあったかと思いますけれども,次にこの諮問60号の審議の進め方でございますが,この点につきまして,御意見がございましたら御発言をお願いしたいと思います。 ● この諮問第60号といいますのは,刑法における国外犯処罰の在り方に関する基本的問題にかかわるという感じがいたしますので,先ほど○○委員も示唆されましたように,新たに専門の部会を設けていただいて,そこで調査審議をしていただいて,それで更にこの総会でそれの検討に基づいて審議をするということが適当ではないかというふうに考えます。 ● ただいま○○委員から,部会設置をいたしてはどうかという御提案がございましたが,これにつきまして御意見を承りたいと思います。 ● 同じ意見です。 ● そういうことでよろしゅうございますか。  それでは,特に御異議もないようでございますので,諮問第60号につきましては,新たに部会を設けまして,専門的な見地から調査審議をしていただくということに決定したいと思います。  次に,そうなりますと新しく設置する部会に属すべき総会委員,臨時委員及び幹事を決めなければなりませんが,この部会に属すべき総会委員,臨時委員及び幹事の指名に関しましては,これまでどおり会長に御一任いただけますでしょうか。事務当局ともよく協議の上,決めたいと思いますので,よろしくお願いいたします。--それでは,御一任いただいたということで進めさせていただきます。  次は,その部会の名称でございますが,これにつきましては諮問事項との関連,それからこれまでの法制審議会での部会の名称の付し方等を考慮いたしまして,これは刑事法関係の部会でございますので,刑事法部会ということなのでございますけれども,その間に括弧を付けまして,「刑事法(国民に対する重大な犯罪に係る国外犯処罰規定整備関係)部会」ということでいかがでしょうか。  ちょっと括弧の中が長いようでございますが,諮問事項を正確に示す,そういう趣旨で御了解いただければ幸いでございます。よろしゅうございますか。--それでは,御了解いただいたということにさせていただきます。  そこで,部会の方で御審議をいただくわけでございますけれども,この総会といたしましても各委員から当然意見を伺うということになるわけでございまして,これは基本的には部会からの要綱案が上がってきたところで改めてまた御意見を伺いますが,本日のところでもし御意見があれば承りたいと思います。  先ほど申しましたように,御質問の中には御意見も含まれた御発言もございましたけれども,なお諮問について御意見があれば伺いたいと思います。 ● この昭和22年の改正前の第3条でありますと,「前項ノ罪ヲ犯シタル外国人ニ付キ亦同シ」というような表現ですからいいのですけれども,今度みたいにこれからずらずらっと別に書き上げますと,3条1項の方からどうしてこれだけをピックアップしたのか,先ほどの○○委員の御発言はそういう趣旨だろうと思いましたものですから。  というのは,少しいろいろなことを言いますと,個人法益に対する罪でも,しかも財産犯でない個人法益に対する罪でも除かれているけれども,それはどうだとか,日本人が同じようなことを国外でやったのを処罰するのに,外国人だからといって,例えば日本人の住居に放火したのはほっておいていいのかとか,そんな理屈がもし出てくるといけませんので,そこの理由づけはきちんと御提案いただければなと思いました。  恐らく,専門家がみんな集まりますから,そういう質問は出てこないと思いますけれども,ひとつよろしくお願いします。 ● 承りました。 ● それでは,今御指摘いただいた点も,十分部会の方で考慮して審議をしていただくことにしたいと思います。  ほかにございますでしょうか。 ● これと直接関係ないのですが,先ほどお尋ねさせていただいたオーストラリアのケースというのは,どういう問題なのですか。刑法じゃないですよね。外交問題なんですか。それとも,法律上日本人を保護する手立てを何か,例えば逮捕されてしまったときには日本にきちんと通知をして,状況によっては日本から通訳を派遣するとか,そういうことができるのかどうか,それは法務省の管轄事項ではないのかどうかということをちょっと教えていただけないでしょうか。 ● 要は外国におきます司法権の行使の問題でございますので,例えば同じような批判を日本の司法が受けたといたしましても,それは司法としてはきちんとした法と証拠に基づいて審理した結果だということでございます。オーストラリアも恐らくそうだろうと思うのでありますが,それはそういう裁判を受けた方にとりましては,どういう御感想,あるいはどういう事実であったかは我々がいろいろと詮索するわけにはいかないのでございます。ただ,ご質問の趣旨に沿うかどうかわかりませんが,外国におきまして日本人が捕まる,日本でも外国人は捕まりますね,そうすると領事に関する国際条約に基づきまして,領事と面会できることになっておりまして,領事の助けをかりることができます。  委員がおっしゃる通訳の問題も各国の司法の中の問題でありまして,日本では通訳人は非常に厳選して,捜査関係も裁判所もいい通訳人を付けられるようにしております。 ● あのとき,領事は全然動いていなかったのです。  そうすると,犯罪だけ取り締まっていただいても,不当逮捕のケースなんて,10年も監獄に入れられちゃったのですよ。拉致誘拐と同じじゃないかと思うのですね。それに対しての手立てというのは,一体どこの役所がお考えいただくのかなと思ったものですから。 ● ただいま説明させていただいたところでもございますけれども,各国が他国の裁判制度と申しますか,司法権の権限行使につきましては,その国の制度,やり方を尊重すると申しますか,先ほどの領事の方の面会にしましても,当該地の国内法に従ってやっていただくということになってございます。したがいまして,そこから先,じゃ外国にいらっしゃる方の具体的な邦人保護についてどこが所管しておられるのかということになりますと,法務省ではないように思います。 ● 外交問題にならざるを得ないでしょうね。 ● 日本人の犯罪という点では同じですよね。ですから,例えばあちらで逮捕されたときには,どこかの時点で日本に連絡が来るようにするとか,そういう協約というのでしょうか,条約というのでしょうか,結ぶことは可能なのですか。 ● 犯罪がございました場合に,領事官に通報ということになるわけでございます。これは,領事条約上そうなってございまして,ただ原則的な形態から申しますと,そういう犯罪で捕まられた方が領事にお会いになるかどうかは,やはり御本人としてそういうことを知られたくないとか,いろいろなこともケースによっていろいろございますので,いずれにいたしましても条約の仕組みとしましては領事条約によりまして,必要な場合には面会等を求めていただけるような仕組みになっておるということでございます。  そうなりますと,先ほどの被害ということでもございますけれども,逆に日本国民であって犯罪を犯された方ということで,外国で一体何人ぐらいいらっしゃるのかというふうな情報につきましても,外務省から数値等をいただいているところということでございます。 ● そうしますと,確かにこうやって手当てをしていただいてもやはり落ちこぼれるところができてしまうということだと,少なくとも幾ら一生懸命おやりいただいても,大きな穴があいているなという感じがしてしまうのです。 ● そういう面はあるかと思いますが……。 ● そういう被害に遭って,10年もたつのに日本政府として何の手立てもとれなかったのか。報道されていましたよね,一番最初のころに。随分悲しい出来事だなと思ってしまったものですから,無関係なことばかり言って大変申し訳ないのですけれども。 ● それでは,諮問第60号につきましては先ほどの御決定のとおり部会で御審議をいただきまして,その審議の結果をこの総会で報告していただき,またその機会に御意見を伺いたいと思います。  以上で諮問第60号についての審議を終了いたしましたので,冒頭に申し上げましたように引き続き司法制度改革の進ちょく状況につきましての説明を,司法制度改革推進本部の○○事務局次長からお願いしたいと思います。 ● 私の方から,司法制度改革推進本部における改革の進ちょく状況について,御説明申し上げます。  本日は,法制審議会における検討事項とも密接に関連いたします,裁判の迅速化に関する検討状況を中心に説明させていただきます。  御承知のとおり,司法制度改革審議会の意見において,国民の期待にこたえる司法制度の大きな柱として,民事裁判,刑事裁判の充実・迅速化が掲げられております。本年3月に閣議決定されました司法制度改革推進計画でも,この趣旨に従って具体的な計画が定められ,特に民事裁判の充実・迅速化に関しましては,法制審議会においても熱心に御議論をいただいているところと伺っております。  ところで,この裁判の迅速化については,本年7月以降,大きな動きがございました。具体的には,本年7月5日に開催されました第5回顧問会議におきまして,顧問から,司法制度改革全般についてのアピールが提出され,その中で裁判所で2年以内に判決が得られるように,裁判の充実・迅速化を図ることがうたわれました。また,これを受けて,小泉総理からも,司法を国民にとって頼りがいのあるものにするためには,迅速な判決,迅速な権利の実現を期待できる制度にしなければならない,具体的な目標として,裁判の結果が必ず2年以内に出るように改革していきたいとのあいさつがなされました。これを受けまして,私ども司法制度改革推進本部事務局におきましても,第一審の裁判の結果が2年以内に出るようにするための出発点となる法的措置を具体的に検討することとし,平成15年通常国会に所要の法案を提出することを目指して検討を開始いたしました。  11月に開催された第7回顧問会議におきまして,お手元に配布いたしました「裁判所における手続の迅速化促進方策のイメージ」という絵ですが,この絵を提出いたしました。更に,一昨日開かれました第8回顧問会議では,同じくお手元にお配りしております「「裁判所における手続の迅速化方策」に関する法案のイメージ」を提出させていただいたところでございます。  それでは,以下迅速化方策及びこれを受けた法案のイメージにつきまして,具体的に説明させていただきます。二つの資料を対比しながらお聞きいただければと思います。  迅速化方策において,まず審理期間の目標を掲げることとしております。この目標といたしましては,顧問アピールや総理あいさつにもありましたように,民事・刑事の訴訟手続について,2年以内に第一審における手続を終局させることを第1に掲げております。また,これ以外の手続も含めまして,裁判所における手続全体について期間の短縮を図ることも,あわせて目標に掲げております。法案のイメージにおきましても,このような目標をまず第1に掲げているところでございます。  次に,迅速化方策では,この目標を達成するため,迅速化の担い手となるべき関係機関等に一定の責務を課し,それに基づいて迅速化実現のための総合的方策を実施していただくことを考えております。  司法制度改革推進法におきましては,司法制度改革全般についての国の責務等を規定しておりますが,裁判の迅速化につきましても,このような責務に基づいて,訴訟手続の整備などの制度面の方策や,人的体制の充実などの体制面の方策を総合的に実施していくことが必要とされるところでございます。顧問アピールにも触れられておりますように,このような制度面,体制面の整備・充実が,迅速化実現の基盤として極めて重要であることは言うまでもないところでございます。この点は,法案のイメージでは,2の「制度の整備・体制の充実」,及び3の「国の責務等」の項目に掲げられております。  他方,裁判の迅速化を実現するためには,個別の事件における裁判所や当事者,代理人,弁護人等の努力も不可欠であります。このような観点から,迅速化促進方策におきましては,裁判所,当事者等にも民事・刑事の訴訟事件の第一審手続をできる限り2年以内に終局させることに向けて努力する旨の責務を負っていただき,運用面における取組みを行っていただきたいと考えております。この点が法案のイメージの「4 裁判所・当事者等の責務」として示されているところでございます。  なお,裁判の迅速化を進めるに当たっては,手続を公正,適正で充実したものにするとともに,当事者の正当な権利,利益が害されないように留意することが極めて重要でございます。この点についても,迅速化促進方策において明記するとともに,法案のイメージでも,1の(2)に記載しているところでございます。  さらに,迅速化促進方策の内容といたしまして,目標の達成をより確実に担保するため,最高裁において定期的に検証を行い,その結果を国民に明らかにした上で,これを適切に活用して,更に総合的方策を推進していく仕組みを設けることとしたいと考えております。このように,検証の結果を適切に活用して,更に総合的方策を推進していく過程を繰り返すことによりまして,迅速化方策がより実効性のあるものとして機能することになると考えております。この点は,法案のイメージの「5 迅速化に関する検証等」に対応しております。  なお,法案のイメージでは,「その他所要の規定を設けること」としておりますが,その他の規定といたしましては,目的に関する規定などが考えられることのほか,日本弁護士連合会の責務に関する規定の要否についても,検討が必要になると考えております。  以上が,裁判の迅速化に関する検討状況でございます。  このほか,司法制度改革推進本部におきましては,裁判の迅速化に関する法案のほかにも,平成15年通常国会への法案提出を予定している事項につきまして検討を急いでいるところでございます。  現在,検討している内容を具体的に申し上げますと,まず仲裁法の整備がございます。UNCITRALモデル法にできるだけ準拠しつつ,必要な修正等を加える方向で検討が進められております。  次に,裁判所へのアクセスの拡充に関しましては,簡易裁判所の事物管轄の拡大に関します裁判所法の改正,訴え提起の手数料の低額化,訴訟費用額確定手続の簡素化等に関します民事訴訟費用等に関する法律の改正を考えております。  また,弁護士と外国法事務弁護士との提携・協働を積極的に推進する見地から,外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法の改正を予定しております。  さらに,弁護士制度の改革に関する弁護士法の改正も予定しております。その内容といたしましては,弁護士の活動領域の拡大,弁護士報酬の透明化,合理化,弁護士会による綱紀懲戒制度の透明化,迅速化,実効化,司法試験合格後に民間等における一定の実務経験を経た者に対する法曹資格の付与,いわゆる特任検事経験者に対する法曹資格の付与等が検討されています。また,いわゆる非常勤裁判官制度に関しまして,弁護士が非常勤の形態で民事調停事件,家事調停事件につき,裁判官と同等の権限を持って調停手続を主宰できる制度を創設することとし,そのための民事調停法,家事審判法の改正を行いたいと考えております。  以上が司法制度改革推進本部において,次期通常国会に法案提出を予定している事項の概要でございます。今後とも御指導,御協力を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。 ● どうもありがとうございました。  ただいまの報告につき,御質問があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ● 一審における手続の迅速化というのは大変重要な問題で,これを取り上げていただいたのは理解できるのですが,控訴審と上告審はなぜここから外しているのですか。 ● 2年以内という目標としては掲げてはございませんが,その他の手続全体として,やはりできるだけ短くしていくということは,あわせて目標として掲げたいと考えております。 ● 一審,二審については,これは当事者ないしは代理人,あるいは検察官等の努力である程度迅速化というのは進んでいく可能性は十分あるわけです。私が多少感じますのは,関与できない上告審について,事件が非常に遅くなっている。これは民事訴訟法の改正で,上告制限ということでやっておられるわけで,かなり早くはなってはおると思いますけれども,重大な事件についてはやはり非常に審理が長い。この説明によると,最高裁判所は定期的にそういうことを検証するのだというふうに書かれておるのですが,自分のところは何も検証されないのかというふうに感ずるものですから,ちょっと質問申し上げた次第です。 ● 向学のために1点伺わせてください。  大体,この2年以内ということが出てくるというのは,今までは何年ぐらいかかっていたのですか。平均は。 ● 民事事件で,ちょっと今正確ではありませんが,2年以上かかっている事件というのは7%か8%程度しかありません。主には医療過誤に関する事件など。刑事が3.3か月,民事が8.5か月,これが平均審理期間ということでございます。刑事事件の方で2年以上ものは0.4%にとどまっております。  ただ,少なければいいというわけにはいきませんので,原因を分析しながら手立てを考えていく必要はあるのではないかと考えております。 ● ありがとうございました。  それで意見ですが,先ほどの委員がおっしゃったように,やはり長いな,まだこんなことやっているのという一般庶民の印象というところを,今お答えいただいた,2年以内というと何かすごいという感じがして,私どもはこれはいいのかもしれないと思うところには別に適用されないという……。つまり,長くかかっているところにもすべからく迅速化をしましょうという文言が入っただけでもすばらしい前進だと思いますが,この迅速化をしようというところの根本的な思想的背景というか,社会的背景として,ようやくコンプライアンスという言葉が普通名詞に使われる形になり,消費者としても生活者としても,企業人としても,法令というものがやはり我々の社会生活の基盤にあるのだという,それが裁判ではなくて,日々の営みで重要なことであるということがようやく一般化してきたとてもいいうねりがあると思うのです。ですので,やはり2割司法だというようなことをおっしゃる方がいるような状況は,だれのために変えるかといえば,国民一人一人,デリテラシーがすごく薄い,ないところが本当に法令というものの中で社会生活を送らなければいけない,そこを分かってくれるためであるということを,釈迦に何とやらではございませんけれども,どうぞ審議の中で--そこをぶれてしまいますと,何事においても抵抗勢力というのは強いと思うのです。この場合に,革新的な改革をしていかなければいけないのは何のためかというのを,常にプレーヤーがよりよい形で,今まで参加していたプレーヤーたちの意識改革ではないのだと,そうではなくて,今までベクトルとしていたクライテリアの評価体系よりも,全くそこは余り入らなかった一般庶民,一般国民のための改革であるということを常にフィードバックして考えていただくことを,素人の委員がそんなことを言っていたというのをお伝えくださればというふうに思います。 ● 貴重な御意見,ありがとうございました。 ● ほかに御質問ございますか。  特にほかに御質問もないようでございますので,本日の審議は一応ここまでということにさせていただいてよろしいでしょうか。  なおちょっと御相談したいことがございますので,本来の審議はここまでということにさせていただきます。  最後に,少々時間をいただきまして,次回の第139回会議までの法制審議会の運営につきましてお諮りをさせていただきたいと思います。  明年1月5日をもちまして,私の法制審議会委員の任期が満了いたします。後任の会長につきましては,明年2月に開催が予定されております第139回会議において,委員の皆様方の互選の結果に基づき,法務大臣から指名されるということになっております。したがいまして,その間,会長が不在となりますので,法制審議会令第4条第4項,これに基づきますと,会長に事故があるときはあらかじめ会長の指名する委員がその職務を代行するということになっておりますので,その規定に基づいて会長の代行をしていただく委員を指名させていただきたいと思いますが,よろしいですか。  それでは,会長の職務を大谷委員に代行していただきたいと思いますが,よろしいですか。 ● 大役でございますけれども,よろしくお願いいたします。 ● よろしくお願いいたします。  そうなりますと,1月5日の私の任期満了までに次の総会が予定されておりませんので,ここで,これまで2年間にわたって御協力をいただきました委員,幹事並びに関係官の皆様方に,一言御礼のごあいさつをさせていただきたいと思います。  私は,改正されました法制審議会令のもとで開催された平成13年1月12日開催の第132回会議で,委員の皆様の互選により会長に選出され,法務大臣から御指名を受けましたので,これまで会長の職務を行ってまいりました。この2年間が大変忙しい時期であったにもかかわらず,委員,幹事並びに関係官の皆様方の御協力をいただきましたことに深く感謝いたしております。  現在は,改めて申すまでもなく,明治期,それから第二次大戦後の戦後期に続く第三の立法期と言われておりますくらい,時代の変化に応じて次々と新しい立法が求められております。そのことは,法制審議会の所管でございますいわゆる基本法の分野についても変わりがございません。あるいは,より一層そうだと申し上げることができるかと思います。  その上,法制審議会令の改正によりまして,法務大臣の諮問が伝統的な包括諮問から,個別諮問に変わりまして,それに応じて部会も常設部会から個別の諮問ごとの部会ということになりました。そのため,総会も以前に比べますと頻繁に開催されるようになり,委員,幹事の皆様,また関係官の皆様には御負担をおかけしたと思います。ちなみに,振り返って数えてみましたところ,この2年間で総会が7回,新たに法務大臣からいただいた諮問が15に上ります。そのほかに,その前から続いて,既存の部会で審議をしていただいておりましたのを引き継いだものもございますので,大変な数の審議事項だったと申し上げることができるかと思います。しかし,皆様の御協力のおかげで,法制審議会の答申も随分迅速になったと申し上げることができるのではないかと思います。高村法務大臣,森山法務大臣に,私も何度も答申といたしまして法律案要綱を提出することができました。  これまで,法制審議会の審議は時間がかかるという,余り芳しくない評価といいますか,批判をいただいておりましたけれども,そのような認識も改められつつあると言えるのではないかと思います。  この2年間,新しい体制となりました法制審議会の会長としての重責を,仮に大過なく果たせたといたしますれば,それはひとえに皆様方のお力のおかげであるというふうに考えて,改めて深く御礼を申し上げます。どうもありがとうございました。  それでは,以上で本日の予定をすべて終了いたしましたので,閉会といたします。