法制審議会第137回会議 議事録 第1 日 時   平成14年9月3日(火)  自 午後1時30分                       至 午後5時00分 第2 場 所   法曹会館「高砂の間」 第3 議 題  1 倒産法制の見直しに関する諮問第41号について  2 建物の区分所有等に関する法律の見直しに関する諮問第50号について  3 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約の締結に伴う罰則等に整備に関する諮問第58号について  4 強制執行を妨害する犯罪等に対する罰則の整備に関する諮問第59号について 第4 議 事   (次のとおり)               議         事  (開会宣言の後,法務大臣から次のようにあいさつがあった。)  法制審議会第137回会議の開催に当たり,一言ごあいさつ申し上げます。  委員及び幹事の皆様方におかれましては,公私ともに御多用のところ御出席をいただき,誠にありがとうございます。  当審議会におきましては,皆様の御尽力により,既に多くの重要な案件について御答申をいただき,また,現在も多数の諮問事項について調査審議をいただいているところでございます。この機会に,皆様方の御労苦に対し厚く御礼を申し上げます。  さて,本日御審議をお願いする議題の第1は,倒産法制の見直しに関する諮問第41号です。  本諮問については,これまでに,「民事再生手続に関する要綱」,「個人債務者の民事再生手続に関する要綱」及び「国際倒産法制に関する要綱」を御答申いただいておりますが,その後も,倒産法部会において調査審議が継続されてきました。その結果,会社更生手続について,迅速化及び合理化を図るとともに,再建手法を強化して,現代の経済社会に適合した機能的なものとするとの観点から,会社更生手続の全般にわたり,多数の改正事項を取り上げた「会社更生法改正要綱案」が決定され,本日,報告されるものと承知しております。  現在の我が国における経済・社会情勢にかんがみますと,会社更生手続の大幅な改善を早急に行う必要がありますので,できる限り速やかに御答申をいただきたいと存じます。  第2は,建物の区分所有等に関する法律の見直しに関する諮問第50号です。  本諮問については,建物区分所有法部会において調査審議が続けられてきましたが,その結果,分譲マンションを主体とするいわゆる区分所有建物について,管理の適正化と建替えの実施の円滑化等の観点から,大規模修繕等を実施する要件を緩和すること,建替え決議の要件を合理化するとともに,その手続を整備することを始めとして,多数の改正事項を取り上げた「建物の区分所有等に関する法律の一部を改正する法律案要綱案」が決定され,本日,報告されるものと承知しております。  区分所有建物の管理を行う上で多くの支障が生じているという指摘もございますし,建築後相当年数を経たマンションが多数に上り,建替えが現実問題として検討されているとも伺っており,建物の区分所有等に関する法律の早急な見直しが求められておりますので,できる限り速やかに御答申をいただきたいと存じます。  第3は,国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約の締結に伴う罰則等の整備に関する諮問第58号です。  グローバリゼーションの進展に伴い,近年急速に複雑化,深刻化している国際的な組織犯罪に効果的に対処するためには,各国が協調して自国の刑事司法制度を整備し,強化するとともに,国際社会全体の司法・法執行における協力により,法の抜け穴をなくす努力が必要です。  国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(仮称)は,このような国際的な組織犯罪に対し,一層効果的にこれを防止し,かつ,戦うための協力を促進することを目的とし,組織的な犯罪集団が関与する国際的な犯罪の防止,捜査及び訴追に関する国際的な法的枠組みを創設する条約であり,平成12年11月に国連総会で採択され,同年12月,我が国は本条約に署名しました。  我が国は,本条約の採択に積極的に貢献してきたものであり,主要先進国の一員として国際的な組織犯罪に対処するための責務を果たすためにも,本条約を早急に締結する必要があり,そのための法案を平成15年の通常国会に提出したいと考えておりますので,できる限り速やかに御答申をいただきたいと存じます。  第4は,強制執行を妨害する犯罪等に対する罰則の整備に関する諮問第59号です。  近年,長引く不況の中で,不良債権の迅速かつ適正な処理が課題となっている状況におきまして,悪質な資産隠し等の手口や,占有屋と呼ばれる手口等による強制執行を妨害する事案が跡を絶たないことから,このような事案に対し,実効的に対応できるよう,罰則及びその法定刑の見直しをする必要があります。  強制執行に対する妨害行為への対処につきましては,司法制度改革審議会の意見書等を踏まえ,既に民事法の在り方を見直すという面から諮問を行っているところですが,権利実現の実効性をより一層高めるという観点から,これと共に強制執行を妨害する犯罪等に対する罰則を整備する必要があると考えて,ここに諮問したものです。  平成15年の通常国会に民事法の改正法案の提出が予定されていますが,これと機を同じくして,罰則に関しても所要の法案を提出したいと考えておりますので,できる限り速やかに御答申をいただきたいと存じます。  それでは,これらの議題につきまして,どうぞよろしく御審議をお願いいたします。  (法務大臣の退席後,委員及び幹事の異動につき紹介し,引き続き,本日の議題について次のように審議が進められた。) ● まず初めに,本日の議題及びその審議の順序について簡単に御説明申し上げて,あらかじめ御理解を得ておきたいと思います。  ただいまの法務大臣のごあいさつにもございましたように,本日の議題は四つございまして,第1が倒産法制の見直しに関する諮問第41号,第2が建物の区分所有等に関する法律の見直しに関する諮問第50号,第3が国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約の締結に伴う罰則等の整備に関する諮問第58号,そして第4に強制執行を妨害する犯罪等に対する罰則の整備に対する諮問第59号でございます。  以上,四つの事項につきまして十分御審議をいただきたいと存じますが,その審議に入ります前に,まず事務当局から司法制度改革の進ちょく状況についての説明をお願いいたしまして,その後,倒産法制の見直しに関する諮問第41号について御審議をお願いし,次いで建物の区分所有等に関する法律の見直しに関する諮問第50号,それから新たに諮問がありました諮問第58号及び諮問第59号について御審議をお願いする,そういう順序で進めさせていただきたいと考えております。  それでは,まず司法制度改革の進ちょく状況につきましての説明をお願いいたします。 ● お手元に,「司法制度改革の進ちょく状況」という表紙をつけました資料をお配りしておりますが,これに沿って簡単に御説明させていただきます。  まず,前回の136回会議でも司法制度改革の進ちょく状況について御報告させていただきましたが,その後の進ちょく状況について,本日は配布資料に基づいて御説明したいと思います。  資料1は,司法制度改革審議会の意見を受けて,本年3月19日に閣議決定された司法制度改革推進計画でございます。これは,審議会意見の趣旨にのっとって行われる司法制度改革に関し,政府の講ずべき措置について,その全体像を明らかにするとともに,司法制度改革推進本部の設置期限であります平成16年11月30日までの間に行うことを予定するものにつき,その措置内容,実施時期,法案の立案等を担当する府省等を明らかにしたものでございます。  資料1の2ページ以降に,民事司法制度の改革のメニューが記されております。また,7ページ以降に刑事司法制度の改革に関する計画が記載されております。  大ざっぱに申しまして,民事司法制度改革関連法案は,平成15年通常国会,刑事司法制度改革関連法案は平成16年通常国会に提出することとされておりまして,この計画に従って,現在,司法制度改革推進本部事務局において,所要の検討を進めているところでございます。  これらのうち,民事訴訟法,人事訴訟手続法の改正につきましては,大臣からもコメントがございましたとおり,諮問第52号により,また民事執行制度の見直しについては諮問第53号により,それぞれ法制審議会の民事・人事訴訟法部会,担保・執行法制部会において,現在,鋭意御審議いただいているところでございます。  資料2は,現在,司法制度改革推進本部事務局において開催しております10の検討会の検討状況について簡潔に取りまとめたものでございます。これについては,後ほど御高覧いただければと思います。  資料3は,7月5日に開催されました司法制度改革推進本部の顧問会議におきまして,「国民一人ひとりが輝く透明で開かれた社会を目指して」と題するアピールが取りまとめられ,司法制度改革推進本部長である小泉内閣総理大臣に提出されたものです。  このアピールは,司法制度改革推進本部令に基づき,顧問会議が司法制度改革推進本部長に意見を述べたものでありまして,また,同時に国民に向けたアピールとしての意味も持つものと位置付けられております。  アピールの内容は,司法制度改革審議会意見の趣旨に従い,21世紀の日本を支える司法の姿として,「国民にとって身近でわかりやすい司法」,「国民にとって頼もしく,公正で力強い司法」,「国民にとって利用しやすく,速い司法」という三つのテーゼを掲げた上で,推進すべき具体的な改革の内容を示したものとなっております。  資料4は,資料3のアピールを受けて,小泉内閣総理大臣は,全国どのまちに住む人にも法律サービスを活用できる社会を実現すること,裁判の結果が必ず2年以内に出るようにすることなどを具体的な目標として改革を進める必要があるとし,改革に向けた強い決意を述べられておりますので,この機会にあわせて御紹介させていただきます。  なお,ここのところ法科大学院問題が新聞紙上をにぎわせておりますけれども,先ほど資料2で御紹介した検討会の中に,法曹養成検討会がございまして,この検討会において,今年秋に臨時国会が開催される場合には,同国会に法案を提出すべく,新司法試験の在り方,法科大学院の在り方などについて検討しているところでございます。聞き及ぶところによりますと,法案の数としては,司法試験法の一部改正法,学校教育法の一部改正法,また双方の法案をつなぐ理念等を明らかにする新法などになる予定と伺っております。  外形的な御報告で恐縮でございますが,進ちょく状況の報告は以上で終わらせていただきます。 ● それでは,ただいまの報告につきまして御質問がございましたら伺いたいと思います。どなたからでも結構でございますが,何か御質問ございますでしょうか。  特に御質問もございませんようですので,それでは本来の議題の審議に入らせていただくことにしたいと思います。  まず,第1の議題であります倒産法制の見直しに関する諮問第41号について,御審議をお願いいたしたいと存じます。  倒産法部会における審議の経過及び結果につきまして,同部会の○○部会長代理から御報告をお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ● 倒産法部会に所属しております○○でございます。どうぞよろしくお願いいたします。  倒産法制の見直しに関する諮問第41号につきましては,現在も倒産法部会において審議が継続されておりますが,去る7月26日に開催されました倒産法部会第15回会議において,会社更生手続の見直しに関する「会社更生法改正要綱案」が決定されました。そこで,この要綱案についての倒産法部会における審議の経過及び要綱案の内容につきまして報告をさせていただきたいと存じます。  なお,法制審議会の総会におきましては,各部会の部会長が審議の経過及び結果を報告することになっておりますが,倒産法部会につきましては,部会長が法制審議会の会長を兼ねておられますところから,今回は部会長の御指名によりまして,私がかわって御報告を申し上げることになりました。どうぞよろしくお願い申し上げます。  まず,審議の経過等でございます。  諮問第41号は,倒産法制の見直しに関する包括的な諮問でございまして,昨年1月に新法制審議会に移行する前の旧法制審議会に対してされた諮問でございます。そこで,まず審議の経過について,旧法制審議会時代も含めまして簡単に報告をさせていただきます。  諮問第41号が発せられましたのは,平成8年10月でございますが,当時,我が国の倒産処理のための裁判上の手続といたしましては,破産,和議,会社更生,会社整理,特別清算という五つの手続が存在しておりました。これらの手続は,それぞれ制定された時期が異なり,立法思想や時代的な背景を異にしておりました上に,昭和42年に会社更生法について濫用防止等の観点から改正が行われた後は,実質的な見直しがされていない状況が続いていたわけでございます。そのため,我が国の倒産法制につきましては,かねてから手続相互の調整を図るとともに,現在の社会に適合したものに改めるべく,全面的な見直し作業,見直しを行う必要があるという指摘がされていたところでございます。  そこで,倒産法制の見直しに関する諮問第41号が発せられるに至り,その審議のために旧法制審議会のもとに設けられました旧倒産法部会におきましては,まず倒産法制の全般にわたって問題点の洗い出しの作業を行い,その成果を平成9年12月に「倒産法制に関する改正検討事項」として取りまとめ,関係各界に対する意見照会を行いました。  その後,この意見照会の結果を踏まえつつ,諮問第41号についての審議を継続し,順次その結果を旧法制審議会の総会に御報告いたしました。そして,平成11年8月には,民事再生手続(仮称)に関する要綱が,平成12年9月には個人債務者の民事再生手続に関する要綱,及び国際倒産法制に関する要綱がそれぞれ総会において採択され,法務大臣に対する答申が行われて,民事再生法等の関係法律が成立し,既に施行されていることは御案内のとおりでございます。  昨年1月には,新法制審議会への移行に伴い,旧倒産法部会は消滅いたしましたが,これにかわり,新たに発足いたしました新倒産法部会が倒産法制に関する残された課題でございます会社更生手続,破産手続,会社整理手続,特別清算手続,及び倒産実体法の見直しを継続して行うことになりました。  その第1回会議において,残された課題についての審議の進め方を協議いたしまして,会社更生手続の見直しに関しては,関係法案を平成14年中に,破産手続,倒産実体法等の見直しに関しては関係法案を平成15年度中に提出することを目指しまして審議を進めることになり,昨年3月から,会社更生手続の見直しに本格的に着手いたしました。そして,先ほど申し上げました改正検討事項に取り上げられている事項,昭和42年の改正の際に積み残したと言われている事項,民事再生法が制定されたことに伴い,整合性を図るために検討しなければならなくなった事項,更には倒産法部会に所属する委員・幹事から,検討を要するものとして新たに指摘された多数の事項について,精力的に審議を行ってまいりました。本年2月には,その中間的成果を「会社更生法改正要綱試案」として取りまとめ,3月1日から1か月間,パブリックコメント手続を行いまして,4月以降,その結果を踏まえて更に審議を続行し,その結果,7月26日に開催された第15回会議におきまして,会社更生法改正要綱案の決定を見るに至ったわけでございます。  以上が審議の経過でございます。  引き続きまして,法制審議会第137回会議資料民1「会社更生法改正要綱案」に基づきまして,要綱案の内容について御説明申し上げます。  まず初めに,この要綱案の基本的な考え方につきまして簡単に御説明いたします。  会社更生手続は,一般債権者,担保権者,株主などの利害関係人の利害を調整しながら,株式会社の事業の維持・更生を図ることを目的とする強力な再建型の倒産手続でありまして,管財人が事業の経営権及び財産の管理処分権を掌握し,必要に応じて否認権の行使や取締役の損害賠償責任の追及等をしつつ,更生債権等の調査・確定の手続,及び財産評定の手続を経て,更生計画案を作成し,会社の事業の維持・更生を図るものでございます。そのため,中小企業にとって利用しやすい再建型の倒産手続でございます民事再生手続が整備されました際も,大規模な株式会社向けの強力な再建型の倒産手続として,民事再生手続とは別に存続させることとされました。さらに,会社更生法は,我が国の倒産法制の中では唯一戦後に立法された法律でございまして,先ほど申し上げましたとおり,昭和42年に一度実質的な改正が行われていたこともございまして,改正検討事項に掲げられた事項も,会社更生手続中の個別の制度について見直しを行う比較的小規模の改正を前提したものでありました。しかし,改正検討事項を策定した平成9年末の時点における予想とは異なりまして,その後も我が国の経済情勢は好転せず,経済の停滞状況は長期化し,上場企業の倒産等のいわゆる大型倒産事件も増加の一途をたどっており,倒産による社会・経済的損失を最小限にとどめ,倒産企業の事業価値を維持することを求められているように思われます。  また,ここ数年の間に営業譲渡の手法の活用等,倒産処理の実務が急激に変化してきており,更に平成12年4月に施行された民事再生手続の運用において,迅速性が特に重視されていることもございまして,本来,複雑で重厚な手続である会社更生手続についても迅速処理を求める声が高まってきております。そこで,この要綱案の内容は,大規模な株式会社向けの強力な再建型の倒産手続としての性格を維持しつつ,利害関係人の権利や利益を十分に保護しながら,その迅速かつ円滑な再建を可能とするため,会社更生手続の全般にわたって迅速化及び合理化を図るとともに,再建手法を一層強化して,現在の経済・社会に適合した機能的なものに改めるべく,全面的に見直しを行うものとなっております。  また,要綱案の名称を「会社更生法の一部を改正する法律案要綱案」ではなく,「会社更生法改正要綱案」といたしましたのも,今回の見直しが会社更生法の一部改正にとどまらず,全面改正につながるものであることを明らかにする趣旨でございます。  では,続きまして会社更生法改正要綱案の具体的な内容について御説明申し上げます。何分にも55項目からなる大部な要綱案でございますので,ここではその主要な項目につきまして,かいつまんで御説明をさせていただきます。  まず,1ページから8ページまでの「総則関係」でございますが,9項目から構成されております。  このうち,1ページの「第一 更生事件の管轄及び移送」におきましては,親子会社や連結会社の管轄の特則を設け,大規模裁判所の競合管轄を認めるものとしております。大規模裁判所の競合管轄と申しますのは,全国どこにある会社でも,倒産事件の専門的な処理体制が整っている東京地方裁判所又は大阪地方裁判所に,会社更生手続開始の申立てをすることができるとしたものでございまして,倒産事件の中でも特に専門性が顕著である会社更生事件の特殊性を考慮したものでございます。  次に,5ページの「第六 更生手続開始前の牽連破産の場合における共益債権の財団債権化」及び6ページの「第七 更生手続終了後職権破産宣告までの間の財産保全」におきましては,会社更生手続がその目的を達することなく不成功に終わった場合の後始末に関して,関係人の利益の保護等の観点から,所要の制度を整備することとしておりますが,特に第六の共益債権の財団債権化は,保全段階において再建支援融資,いわゆるDIPファイナンスを行った者の利益を保護するための制度的手当てを講ずるものでございまして,DIPファイナンスの活性化のためには欠かせないものとなっております。  なお,31ページの「第四十 保全段階における請求権の共益債権化」も,保全管理人が選任されている場合についてDIPファイナンスを活性化させる機能を有するものでございます。  また,6ページの「第八 事件に関する文書等の閲覧等」におきましては,利害関係人に対する情報開示を拡充し,会社更生手続の透明性を確保するために,裁判所が保管する事件関係書類の閲覧・謄写に関する規定を整備するものとしております。現行の会社更生法は,一定の種類の書類についてのみ裁判所に備え置いて,利害関係人の閲覧に供することを予定しておりますが,事件関係種類の開示に関する一般的な規定がなく,実務上の取扱いに困難な問題を来しているとの指摘がございました。そこで,今回,利害関係人は原則として裁判所が保管する事件関係書類の閲覧・謄写をすることができるものとし,例外的に閲覧・謄写が制限される場合について,会社の事業の維持・更生に著しい支障を生ずるおそれなど,明確な基準や制限のための手続を整備することといたしました。  次に,8ページから16ページまでの「更生手続の開始関係」でございますが,11項目から構成されております。  まず,8ページの「第十 包括的禁止命令」は,会社更生手続開始の申立てがあった後のいわゆる保全段階におきまして,債権者による強制執行等を一括して禁止する保全処分を創設するものでございます。現在でも,債権者が保全段階において強制執行等に及んだ場合に,個別にその強制執行等を中止される制度は設けられておりますが,この制度だけでは同時期に多数の債権者が多数の会社財産に強制執行が行われるという事態に対処することは困難でございます。そこで,債権者による強制執行等を一律に禁止するとともに,既にされているすべての強制執行等を一律に中止することができる強力な保全処分の制度を設けることにより,このような事態に対処することを可能といたしました。  なお,債権者による強制執行等が一律に禁止されることに伴い,債権者に不当な損害を及ぼす可能性もございますところから,例えば労働債権のように一定の範囲に属する債権についてあらかじめ包括的禁止命令の対象から除外することができるものといたしております。  また,10ページの「第十三 更生手続開始の条件」におきましては,裁判所が,会社更生手続を開始するかどうかの判断をする際に検討すべき要件を改めることにより,迅速に会社更生手続を開始することができるようにしております。現行法のもとでは,裁判所は,更生の見込みがあるかどうかという経営的判断をしなければなりませんが,これにかえて,更生計画案の作成や可決の見込みがあるかどうか,更生計画の認可の見込みがあるかどうかという手続的視点からの判断をすることにいたしました。  なお,11ページの「第十五 労働組合又は使用人代表の手続関与」におきましては,裁判所が会社更生手続を開始するかどうかを判断する場合には,原則として,更生会社の使用人の過半数で構成する労働組合等の意見を聞くものとして,更生会社の使用人の立場にも配慮をしているところでございます。  また,会社更生手続が開始された後に関しては,13ページの「第十八 営業の全部又は重要な一部の譲渡についての規律」におきまして,最近,倒産処理の手法として活用されている営業譲渡についての規律を明確にしております。現在でも,更生計画の中に営業譲渡を盛り込み,更生計画の定めに基づいて営業譲渡を行うことは可能ですが,更生計画の定めによらない営業譲渡の許容性やその手続については考え方が様々に分かれ,実務上の取扱いも一様ではないと言われております。また,更生計画が認可されるまでには一定の時間を要し,その間に営業の価値が損なわれるおそれもございます。そこで今回,更生計画が成立する前に行う営業譲渡について,その要件や手続を明確に定めることによりまして,会社更生手続が開始された後,更生会社の営業の価値が減損する前の早期の段階における営業譲渡を可能にするとともに,裁判所の許可や関係人の意見聴取等の手続的要件を整備いたしまして,その適正を担保することとしております。  さらに,16ページの「第二十 取締役等の報酬」におきましては,会社更生手続が開始されて事業の経営権等が管財人に専属するに至った場合における取締役等の報酬請求権について,その取扱いを明らかにしております。  なお,この点は昭和42年の改正の際にも見直しの対象となりましたが,検討が間に合わず,積み残しとなっていた課題でございます。  続いて,16ページから18ページまでの「更生手続の機関関係」でございますが,5項目から構成されております。  このうち,最も重要と考えられますものは,16ページの「第二十一 管財人,管財人代理,保全管理人及び保全管理人代理の選任」でございます。  大型倒産事件に関して,新聞紙上等にもしばしば登場しておりますアメリカ連邦破産法の「チャプターイレブン」と呼ばれる倒産手続におきましては,管財人を選任せず,取締役などの会社の機関が事業の経営権や財産の管理処分権を保持し続けることが原則とされております。そして,そのことがアメリカにおいて再建型の倒産手続が活発に利用される大きな原因になっているという認識に基づきまして,我が国の会社更生手続についても管財人を選任しないで手続を進める余地を認めるべきであるという指摘がございます。  しかし,他方において,特に大規模な株式会社を主たる手続対象としている会社更生手続においては,社会に与える影響が大きいところから,経営者の居座りを許すべきではないという指摘もございます。  そこで,この要綱案では,取締役を管財人等に選任するという形で従来の経営者が経営権などを保持する可能性を認めつつ,更生会社に対して損害賠償責任を負うおそれがある経営責任のある経営者は管財人等に選任することができないものといたしまして,両者の意見の調整を図って制度を整備しております。  引き続きまして,18ページから32ページまでの「更生債権,更生担保権等の各種の権利の取扱い関係」でございますが,17項目から構成されており,この要綱案の中心的な部分になっております。  この部分に盛り込まれた内容は多種多様でございますが,まず18ページの「第二十六 更生計画によらない弁済の制度」は,更生手続開始後,更生債権等に対する弁済が一律に禁止されることによって生ずる弊害,これを回避するため,関係人間の実質的公平を害さない範囲内において,更生計画認可前の弁済を許容しようとするものでございます。  続いて,20ページの「第三十一 更生債権及び更生担保権の調査及び確定の手続」及び21ページの「第三十二 更生担保権に係る担保権の目的の価額の争いに関する手続」は,関係人から届出がございました更生債権,更生担保権の内容を確定するための手続を合理化するものでございまして,これにより手続遅延の大きな要因と言われておりました更生担保権の確定の作業が大幅に迅速化されるものと考えております。  次は,23ページの「第三十四 社債権者の手続参加」でございますが,最近では社債を発行している会社が会社更生手続に入る事例も少なくないことから,主として公募社債を念頭におきまして,社債権者が更生手続に参加する際の手続規定を整備するものでございます。  さらに,関係人の手続参加という点では,25ページの「第三十五 代理委員」及び29ページの「第三十九 関係人委員会(仮称)」も重要と考えられる事項でございます。  代理委員につきましては,共同の利益を有する多数の関係人が,個別に会社更生手続に参加いたしますと手続の進行に支障が生ずるという場合には,裁判所が職権で多数の関係人にかわって更生手続中の行為を行う代理委員を選任することができるものといたしております。手続の円滑な進行を確保するとともに,関係人の手続参加の手段を実質的に充実する趣旨でございます。  また,関係人委員会につきましては,関係人全体の利益を適正に代表する委員会があるような場合,その委員会に対して一定の手続上の権限を付与することによって関係人の手続関与の強化を図っております。  続きまして,32ページから36ページまでの「更生会社の財産の調査及び確保関係」は,2項目しかございませんが,いずれも理論的にも実務的にも重要な事項でございます。  まず,32ページの「第四十三 財産評定及び更生担保権に係る担保権の目的の評価」におきましては,実務上,最も問題とされている更生会社の財産の評定及び担保権の目的であります財産の評価について,更生手続開始のときにおける時価により評定,評価をすべきものとしております。現行法は,評定,評価は,会社の事業を継続するものとしてするものとしておりますが,すべての会社財産について継続企業価値による評価を要求することがやや硬直的であり,手続を遅延させる原因にもなっているという指摘がございました。そこで,基準を時価とすることにより,財産の性質などに応じた柔軟で弾力的な評価を可能にしようとするものでございます。  次に,33ページの「第四十四 担保権の目的である財産の特別な換価制度」は,更生計画の成立前における営業譲渡を容易にすること等を目的といたしまして,担保権者の利益を損なわないよう配慮しつつ,会社財産に設定されている担保権の消滅を可能とする制度を創設するものでございます。  なお,民事再生手続にも担保権消滅の制度が設けられておりますが,会社更生手続と民事再生手続とでは担保権の取扱いが異なりますところから,担保権を消滅させるための要件や,担保権消滅の対価として裁判所に納付された金銭の取扱いの点等において,違いがございます。  次に,36ページから40ページまでの「更生計画関係」でございますが,8項目から構成されております。  まず,36ページの「第四十五 更生計画による更生債権等の弁済期間」におきましては,更生計画による更生債権及び更生担保権に対する弁済の期限につきまして,原則として更生計画認可の決定のときから15年の範囲とするものとしております。  また,37ページの「第四十八 更生計画案の提出時期」におきましては,会社更生計画案の提出期間を,更生手続開始の決定の日から1年以内とするものとしております。これらは,いずれも会社更生手続における各手続段階の期間を短縮することにより,その迅速化を図ろうとするものでございます。  次に,37ページの「第四十九 書面投票制度」及び38ページの「第五十 書面による決議」は,更生計画案の決議の方法を多様化させるものでございます。  現在は,更生計画案について決議を行うためには,裁判所は,必ず関係人集会を招集し,関係人は,決議に出席して議決権を行使しなければなりませんが,関係人集会を招集せず,すべての関係人が書面等により議決権を行使する方法や,関係人集会を招集しつつ,集会に出席しない関係人が書面等で議決権を行使する方法を許容しようとするものでございます。  なお,IT化の流れにも配慮いたしまして,将来,条件が整いましたならば,電磁的方法による議決権の行使も可能となるよう,議決権行使の具体的な方法につきましては最高裁判所規則で定めるものとしております。  続いて,39ページの「第五十一 更生計画案の可決要件」は,更生計画案の可決要件を緩和するものでございます。  会社更生手続におきましては,関係人は,更生債権者の組,更生担保権者の組及び株主の組に分かれて決議を行いますが,現行法の可決要件については厳格に過ぎ,かえって利害関係人の利益を損なうおそれがあるとの批判があったことから,更生債権者の組については「3分の2以上に当たる議決権を有する者の同意」から,「2分の1を超える議決権を有する者の同意」に緩和しております。そして,更生担保権者の組については,期限の猶予の定めをする場合には,「4分の3以上に当たる議決権を有する者の同意」から,「3分の2以上に当たる議決権を有する者の同意」に,減免等の定めをする場合には,「5分の4以上に当たる議決権を有する者の同意」から,「4分の3以上に当たる議決権を有する者の同意」に,清算を内容とする場合には,「全員の同意」から「10分の9以上に当たる議決権を有する者の同意」に,それぞれ緩和するものとしております。  この要綱案に盛り込まれた具体的な見直し事項の最後は,40ページ,41ページの「更生計画認可後の手続,更生手続の廃止関係」でございまして,2項目を取り上げております。  このうち,40ページの「第五十三 更生手続の終結時期(終結要件)」におきましては,更生計画の定めによって認められた債権の総額の3分の2の弁済が滞りなく進んだときは,原則として更生計画の遂行が確実であるとして,手続を終結するものとしております。会社更生手続の終結の決定をするための目安を定めることにより,手続がいたずらに長期化することのないように図ったものでございます。  最後に,41ページの「その他」におきましては,会社更生法に所要の規定を整備するとともに,この改正に伴い,民事再生法その他の法令に所要に改正を加えるものとしております。  以上,簡単ではございますが要綱案の主要な項目につきまして御説明をさせていただきました。よろしく御審議いただきたいと存じます。 ● 大変要綱案が大部なものでございますから,説明をしていただくのも大変だったと思います。どうもありがとうございました。  それでは,ただいまの○○部会長代理の御報告及び要綱案の全般的な点につきまして,まず御質問がございましたら御発言をお願いしたいと思います。--特にございませんか。  御質問がございませんようですので,次に御意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。 ● 会社更生法を勉強したことがありますけれども,確かに現在の会社の実態から見ますと,今までの会社更生法は余りにも厳格過ぎた,あるいは長期化する可能性を含んでいたというようなことにかんがみますと,このような要綱案は大変適切なものではないかと。いろいろな工夫もなされておりまして,その内容については非常に感心した次第でもございますし,大規模会社が今言ったような厳格な手続,あるいは長期化するということから,民事再生法等に流れていくというような問題も指摘されているところでありますので,このような要綱案,大変適切なものではないかというふうに考えます。 ● ほかに御意見ございますでしょうか。  ほかに御意見もないようでございますので,それでは原案につきまして採決に移りたいと存じますが,よろしゅうございますか。  それでは,採決に移りたいと思います。  倒産法部会から報告されました会社更生法改正要綱案のとおり答申することに賛成の方は,挙手をお願いいたします。       (賛 成 者 挙 手) ● 念のために,御反対の方,おいでになりますでしょうか。--どうもありがとうございました。 ● 採決の結果を御報告申し上げます。  原案に賛成の委員は11名でございます。議長を除くただいまの出席委員も11名でございます。 ● お聞きのように,採決の結果,全員賛成でございますので,倒産法部会から報告されました会社更生法改正要綱案は,原案のとおり採択されたものと認めます。  したがいまして,本日御審議いただき,採択されました要綱につきましては,この審議会閉会後,直ちに法務大臣に対して答申することといたしたいと思います。どうもありがとうございました。  なお,要綱を今後条文にいたします場合には,立法技術上の問題もございますので,その表現ぶり等につきましては事務当局に御一任願いたいと思います。よろしゅうございますか。--どうもありがとうございました。  それでは,次に第2の議題であります建物の区分所有等に関する法律の見直しに関する諮問第50号について,御審議をお願いいたしたいと存じます。  まず,建物区分所有法部会における審議の経過及び結果につきまして,同部会の○○部会長から御報告をお願いしたいと思います。 ● 建物区分所有法部会長の○○でございます。よろしくお願いいたします。  諮問第50号につき,本年8月22日,建物区分所有法部会の第16回会議において,「建物の区分所有等に関する法律の一部を改正する法律案要綱案」を決定いたしましたので,その審議の経過及び要綱案の内容について御報告申し上げます。  まず,要綱案の決定に至る審議の経過について御報告いたします。  本日,御審議いただきます「建物の区分所有等に関する法律の一部を改正する法律案要綱案」は,諮問第50号に対する答申のための要綱案でございます。  この諮問は,昨年2月16日にされたもので,「区分所有建物の管理の適正化,その建替えの実施の円滑化等の観点から,建物の区分所有等に関する法律を見直す必要があると思われるので,その要綱を示されたい」というものです。  そこで,諮問がされた背景について簡単に御説明いたしますと,建物区分所有等に関する法律は,昭和37年に制定され,その後,昭和58年の抜本的な改正を経て現在に至っております。  ところが,この間,都市部を中心にして,いわゆる分譲マンションが急増し,その管理等をめぐる紛争が増加するとともに,初期のころに建設されたマンションの老朽化が進み,その建替えをめぐる紛争の発生が現実問題となってきており,区分所有建物の管理の適正化,その建替えの実施の円滑化を図る観点から,建物の区分所有等に関する法律の見直しが必要であるとの指摘がされていたところでございます。  このような指摘を受けて,建物の区分所有等に関する法律の見直しに関する諮問第50号が発せられ,その調査審議を行うため,法制審議会に建物区分所有法部会が設けられました。同部会では,要綱案策定のための検討を直ちに開始し,本年3月5日には「建物区分所有法改正要綱中間試案」を決定し,事務局である民事局参事官室においてこれを公表し,関係各界及び一般国民に広く意見照会をいたしました。  その後,建物区分所有法部会は,本年6月から中間試案に対して寄せられた意見を踏まえて更に検討を続け,本要綱案を決定するに至ったものであります。  次に,要綱案の概要を御説明いたします。  要綱案は,第一から第六までの区分所有建物の管理の適正化に関する事項,第七及び第八の区分所有建物の建替えの実施の円滑化に関する事項に大別されるものでありますが,要綱案の配列に従いまして,順次御説明いたします。  まず,「第一 共用部分の変更」は,共用部分の変更のうち,形状又は効用の著しい変更を伴うものに限って,区分所有者及び議決権の各4分の3以上の特別多数による集会の決議を要するものとしております。その結果,形状又は効用の著しい変更を伴わないものについては,区分所有者及び議決権の各過半数による集会の普通決議で決することができるようになります。  区分所有建物につきましては,その維持,保全の観点から,外壁,屋上防水,給排水管等について行う修繕,いわゆる大規模修繕を定期的に実施する必要があります。しかし,大規模修繕には多額の費用を要することも多く,現行法のもとでは,このような多額の費用を要する大規模修繕を実施するには4分の3以上の特別多数決議を得なければならないものとされているため,大規模修繕の実施が困難となって,建物の管理に支障を来しているとの指摘がありました。今回の改正により,現状維持や原状回復を目的とする大規模修繕につきましては,その費用の多寡にかかわらず,過半数の普通決議でできることになりますので,必要に応じて機動的に実施することが可能となり,管理の適正化に資するものと考えられます。  次に,「第二 管理者及び管理組合法人の代理権及び当事者適格」について御説明いたします。  これは,現行の管理者及び管理組合法人の権限を拡大しようとするものであります。  なお,ここで言う「管理者」は,一般的にはマンションの管理組合において選任された理事長がこれに当たります。  管理者及び管理組合法人は,区分所有建物の共用部分及び敷地等を保存し,規約又は集会の決議に基づいてこれらを管理する権限を有しております。そして現行法のもとでも,その職務を行う上で区分所有者を代理することができ,規約又は集会の決議に基づいて区分所有者のために自ら原告又は被告となって訴訟を追行できるものとされております。しかし,不法行為に基づき,共用部分に損害が生じたため,区分所有者が賠償請求を行おうとする場合,あるいは建物の建築工事に不備があって,共用部分に瑕疵が生じ,区分所有者が工事業者や販売業者に対して賠償請求を行おうとする場合には,これらの損害賠償請求権は金銭債権として各区分所有者に分割的に帰属しており,これを行使することが管理者等の権限に含まれるとする明文の規定もないことから,管理者等が各区分所有者を代理して賠償請求を行うことが当然にはできず,管理者等が原告となって訴訟を追行することも認められておりません。このような場合,各区分所有者に帰属する損害賠償請求権の金額は,少額にとどまることも多く,しかもその弁済を受けた金員は,共用部分の原状回復に振り向けられることも多いため,管理者等に代理権を認め,その訴訟追行を可能にして,一元的な権利行使を認めた方が区分所有建物の管理の適正化に資するものと考えられます。このような観点から,共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領に関する代理権,及び当事者適格を管理者等に付与することにしたものであります。  「第三 規約の適正化」。これは,規約の内容の衡平さを確保するための措置を講じようとするものであります。  規約とは,区分所有建物やその敷地の管理又は使用に関して,区分所有者間で必要な事項を定めたものですが,規約の内容が衡平を著しく欠いているとして,区分所有者間でその効力をめぐり紛争が生じている事例が少なくないと言われております。そこで,これまでの裁判例で規約の衡平さが問題とされ,その効力が争われた事案において,民法第90条の適用を検討する際に,実際に考慮要素とされた事項を具体的に列挙した上で,規約は,それらの事情を総合的に考慮して,「各区分所有者の利害の衡平が図られるように定めなければならない」との規定を設けることにしました。  「第四 管理組合の法人化の要件」。これは,区分所有建物の管理組合が法人となる場合に要求されている30人以上という人数要件を撤廃し,区分所有者が2名以上の管理組合に法人格の取得を認めようとするものであります。  この点は,区分所有者数が30人未満の管理組合についても,法人化を認めるべきであるとの指摘を踏まえた改正事項であり,これによって比較的小規模な分譲マンションにおいても法人化のメリットを享受することができるようになるものと考えられます。  「第五 規約・議事録等及び集会決議の電子化等」の「一 規約・議事録等の関係書類の電子化」。これは,現行法で管理者等に作成保管が義務づけられている規約・議事録等について,電磁的記録をもって作成し,又は保管することができることを規定上明確化するとともに,関係規定の整備を行うものであります。  その二の「集会における電磁的方法による議決権の行使」。これは,現行法で集会に出席しない区分所有者に認められている書面による議決権の行使にかえて,電磁的方法によって議決権を行使することができるようにするものであります。  その三の「書面又は電磁的方法による決議」。これは,区分所有者の全員の承諾があるときは,実際に集会を開催することなく,書面又は電磁的方法による決議をすることができる制度を新たに設けるとともに,区分所有者全員の書面による合意がある場合に,集会の決議と同一の効力を有するものとする現行法の書面決議の制度に倣って,電磁的方法による合意があったときも同様の効力を認めるものとするものであります。  さて,「第六 復旧」についてですが,その一の「買取人の指定」につきまして御説明いたします。  現行法では,建物の価額の2分の1を超える部分が滅失した一般に「大規模滅失」と呼ばれている場合において,滅失した共用部分を復旧する決議がされたときは,その決議に賛成しなかった区分所有者は,多額の費用負担から逃れる方法として,決議に賛成した区分所有者に対して,建物及びその敷地に関する権利を時価で買い取るべきことを請求することができるものとされています。しかし,現行法では,決議に賛成した区分所有者のいずれに対しても買取請求ができることとされているため,特定の者に買取請求が集中したり,予期していなかった者が買取請求を受けるなどの事態が生じ,一部の区分所有者に多大な負担を強いることがあるとの指摘がございます。そこで,復旧決議があった場合において,決議に賛成した区分所有者が全員の合意により買取請求を受ける者をあらかじめ指定したときは,決議に賛成しなかった者は,この指定を受けた者に対してのみ買取請求をすることができることとし,あわせて指定された買取人が代金を支払わなかった場合の区分所有者の責任等について規定を整備するものとしております。  その二,「買取請求権の行使期間」についてですが,現行法では,復旧決議に賛成しなかた区分所有者の買取請求については,権利行使の期間制限の定めがないため,復旧工事が相当程度進ちょくした後に,場合によっては工事終了後に買取請求がされることもあり,権利関係や手続の安定を欠くという問題が指摘されておりますことから,集会を招集した者等が復旧決議に賛成しなかった者に対して権利行使の催告をする制度を設け,催告期間が経過した後は,買取請求をすることができないこととしております。  「第七 建替え決議」について御説明いたします。  「一 建替え決議の要件」。これは,区分所有建物の建替えの円滑化を図る観点から,建替え決議の要件を見直そうとするものでございます。  現行法では,いわゆる費用の過分性の要件を満たしている場合に,区分所有者及び議決権の各5分の4の特別多数決を経て初めて建替えをすることができるものとされております。費用の過分性の要件とは,法文では「老朽,損傷,一部の滅失その他の事由により,建物の価額その他の事情に照らし,建物がその効用を維持し,又は回復するのに過分の費用を要するに至ったとき」と定められているものであり,極めて抽象的な内容であるため,区分所有者が建替えを計画し,実施するに当たっての基準として機能しないとの指摘や,決議後においてその効力が争われる余地が大きく,仮に紛争が長期化すれば建替えの実施が遅れることになるなど,建替えの阻害要因になっているとの指摘がございます。そこで,建替えの実施の円滑化の観点から,要件の明確化を図ることが検討されたわけですが,この点が建物区分所有法部会において審議に最も時間を要したところであり,結論としても意見が分かれたところでございます。  この点に関しては,区分所有権の性質をどのように考えるのかということが問題となってまいります。  区分所有法は,1棟の建物の各部分を独立の所有権の目的とすることができることを定めるものですが,他方,その所有権の目的とされた建物の各部分は,物理的に互いに隣接しており,区分所有関係とは実質的には1棟の建物を共同して所有し,使用している関係にあると言えることから,区分所有権について多数決原理に基づく一定の団体的拘束を加えております。そこで,区分所有権に関してその独立の所有権としての性質と,団体的な拘束を受けざるを得ないという性質のどちらを重視するのかが一つの大きな問題となるわけでございます。  建替え決議の要件については,まず,区分所有権の団体的な拘束を受けざるを得ないという性質を重視する立場に立ち,区分所有者及び議決権の各5分の4の多数決のみで建替えをすることができるものとすべきであるという意見がございました。この立場は,また区分所有者の自治を尊重すべきであるとするものであり,建替えの要否は区分所有者の判断に委ねるべきであり,後で御説明いたします建替え決議の手続の整備によってその判断の合理性を担保すればよいとするものであります。  他方,区分所有権の独立の所有権としての性質を重視する立場から,少数者であれ,その意思に反して建替えを行うためには,法律上何らかの客観的理由が必要であるとして,5分の4の多数決に加えて,建物が新築された日から30年を経過したこと,又は損傷,一部の滅失その他の事由により建物の効用の維持又は回復をするのに,当該建物の価額を超える費用を要するに至ったことのいずれかを満たすことを要件として付加すべきであるという意見もございました。  この両者の意見に対しては,審議の過程においてそれぞれ問題点の指摘もされております。すなわち,5分の4の多数決のみとする案に対しては,客観的かつ合理的な理由のない場合にも,多数決だけで所有権を奪えるものとするのは問題ではないかという指摘に加えて,改正法を既存の区分所有建物に適用した場合に,費用の過分性の要件を満たさない限り多数決によって建て替えられることはないと考えていた区分所有者の期待に反するのではないかという問題点の指摘がございました。  他方,5分の4の多数決に加えて客観的要件を設ける案のうち,30年という年数要件に対しては,すべての建物について一律に30年を基準とすることの合理性を説明することは困難ではないかという指摘や,法律で区分所有建物の耐用期間は30年であると定めたものと誤解されるおそれがあり,区分所有者の管理に対する意識に悪影響を及ぼすのではないか,あるいは30年で建て替えられることが前提となり,品質の劣る建物の建築を助長しかねないのではないかという問題点の指摘がございました。また,建物の維持,回復に要する費用と建物の価額を比較する要件に対しては,要件の中に評価要素が残っており,この点をめぐる紛争は避け難いので,要件の明確化という要請に十分こたえていないのではないかという問題点の指摘がございました。  このように,部会では両者の意見それぞれについて説得的な根拠が述べられるとともに,重要な問題点も指摘されるなど,熱心な審議がされてきたのですが,区分所有権の性質に対する考え方の違いなどから,結局部会において意見の一致を見ることはできなかったわけでございます。  そこで,要綱案をどのように取りまとめるかという点についても議論がされたのですが,一方の意見を支持する委員も,他方の意見が全く不合理であると考えているのではなく,その意見に一定の合理性があることは理解しており,それぞれの意見について相当数の委員の支持がある状況の中で,決をとって一つの意見にまとめることは適当ではないということで,部会としては審議の結果をそのまま反映させるという趣旨で,両案併記の形で要綱案を取りまとめることにしたものでございます。  このほか,現行法では,新たに建てる建物の敷地は,既存の建物の敷地と同一でなければならず,かつ,主たる使用目的も既存の建物と同一でなければならないものとされておりますが,これらの点について,新たに建てる建物の敷地は,既存の建物の敷地と一部でも重なっていればよいものとして,敷地の買増し等を認めることとし,また新たに建てる建物の使用目的が,既存の建物と異なっていてもよいことにしております。  続きまして,その二の「招集通知の発出時期」から,四の「説明会の開催」までは,建替え決議の手続に関する規定を整備するものでございます。  区分所有建物の建替えに際しては,建替えの必要性等について,各区分所有者が十分な情報と十分な検討を加えるための時間的余裕を与えられていることにより,初めて合理的な意思決定ができるものと考えられます。そこで要綱案では,そのための手続を整備することにしたものでございます。  まず,「招集通知の発出時期」として,現行法では集会の招集通知は,集会の会日の1週間前に発すればよいものとされているのを,区分所有者の建替えの要否等について十分に検討する時間を保障するために,その発出時期を集会の会日の2か月前に繰り上げるものとしております。  次に,「三 通知事項」として,現行法では集会の招集通知をする際に,建替えに関する計画を区分所有者に通知するものとされておりますが,これに加えて区分所有者が建替えの要否を検討するために必要と考えられる事項をも区分所有者に通知しなければならないものとしております。  なお,一の「建替え決議の要件」においてどちらの意見を採用するかによって,区分所有者に提供すべき情報が異なってくるものと考えられますので,通知事項についても場合分けをしてお示ししております。  四の「説明会の開催」,これは建替え決議の内容の重大性にかんがみて,区分所有者が集会の招集者から建替えの要否を検討するために必要な事項に関する説明を受けるとともに,招集者に対して質問をすることができる機会を保障するために,集会が招集されてから集会の会日の1か月前までの間に説明会を開催することを集会の招集者に義務づけるものでございます。  最後に「第八 団地内の建物の建替え承認決議」について御説明いたします。  現行法は,複数の建物が敷地を共有する場合等について定めた団地に関する規定が設けられております。しかし,敷地を共通にする複数棟のうちの1棟の建物が建替えを行おうとする場合の敷地共有者の承諾については特段の規定がないため,敷地全体が全団地建物所有者の共有に属するときは,民法の共有の原則に従い,敷地共有者全員の合意を要するものと解されております。しかし,この原則に従いますと,団地内の建物の建替えが事実上不可能となりますし,団地内の建物の団地建物所有者の意識や管理の実態にも合致しないのではないかという指摘がございます。そこで,敷地利用権の持分割合の4分の3以上を有する者の承認決議が得られれば,団地内の1棟の建物の建替えができるものといたしました。  さらに,建替え決議のあった建物の団地建物所有者は,この建替えの承認決議においては反対者も含めて建替えに同意したものとみなすものといたしました。ただし,団地内の1棟の建物の建替えがその他の建物の将来行われる建替えに特別の影響を及ぼすべきときは,特別の影響を受ける建物の4分の3以上の議決権を有する区分所有者である団地建物所有者が同意していることを要求しております。  このほか,団地内において建替えをする建物が二つ以上あるときは,当該二つ以上の建物の建替えについて,一括して団地管理組合の建替えの承認の決議に付することができるようにすることによって,団地内の建物の建替えの一層の円滑化を図ることにしております。  以上,簡単ではございますが要綱案の概要の御説明をいたしました。よろしく御審議のほど,お願い申し上げます。 ● それでは,ただいまの御報告及び要綱案の全般的な点につきまして,まず御質問がございましたら御発言を願いたいと思います。 ● 建替え決議の要件の見直しの点ですが,今,部会長の御説明,それから部会での議事録を読みまして,大体の理解はあるのですが,質問として,まずこの両論併記になっているということは,要綱案を決めるに当たってのやり方としては非常に異例なやり方だというふうに考えます。そこで,この部会の中で両論併記にすることの是非論といいますか,疑問点が全く示されなかったのか,やむを得ないという判断で両論併記にすることを認められたのかどうか。  第2点は,これまでのこの要綱案を作るほかのケースで,両論併記された前例があるのかどうか。その2点についてお聞きしたいと思います。 ● ただいま○○委員から,2点について御質問がありました。第1点は,建替え要件についてこの要綱案では両論併記になっているが,区分所有法部会の審議の過程で,その両論併記とすることについての意見あるいは疑問等がなかったのかという御質問です。  第2点は,従来,この法制審議会の部会において,両論併記の要綱案が提出されたことがあるかという点かと思います。  第1点につきましては,○○部会長,あるいは担当参事官の方から御説明を願い,第2点については○○幹事にお願いいたします。 ● この審議の過程では,できるだけ一つの案にまとめようとして審議をしてまいりました。しかし,はっきり申し上げますと最初は5分の4の多数決の決議プラス若干の客観的な要件を設けるということで審議をしてまいりましたが,各方面から5分の4の多数決だけで建替え決議ができるようにするということももうちょっと検討した方がいいという強い御意見がございまして,それももちろんあり得る考え方でございますので,途中の段階でもって両方審議するようにいたしました。  しかしながら,先ほど申し上げましたようにこの二つの案というのは両方ともそれなりに根拠があるものですから,委員の中でも相当意見が割れまして,またどちらかがかなりの多数で片方がわずかであれば,これは一つの案にできるだけまとめるように努力し,恐らくまとめることもできたと思いますけれども,かなり均衡する対立だったものですから,私としましては,これは多数決で無理やり一本にまとめるよりは,両方の意見に分布しているということをお示しする方が,むしろ法制審議会としても望ましいのではないかと判断いたしまして,そこで両案併記ということに至ったわけでございます。 ● それでは,第2点について。 ● 先例の関係でございますが,これは平成3年2月に法制審議会総会で,借地借家法制定の際の要綱を取りまとめたわけでありますが,その中で両案併記に近い形の取りまとめをしております。  具体的に申し上げますと,借地借家法を改正いたしました経過措置につきまして,契約の更新及びその更新後の法律関係に関して,旧法を適用するのかどうかという点について意見が分かれまして,要綱としては旧法を適用するものとするとの考えが望ましいけれども,仮にそのような考え方をとらない場合でも,新法を適用するのは2回目以後の更新のときからとすると,こういう形で両案を併記する形で最終的な要綱案を取りまとめております。私の見た限りでは,そういう先例がございます。 ● よろしゅうございますか。 ● はい,結構です。 ● それでは,ほかに御質問ございますでしょうか。  特に御質問がないようでございますので,それでは御意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。 ● 私の意見は純粋に手続的な問題ですので,恐らく最初に申し上げて話題にしていただいた方がよろしいかと思いますので,私の意見を申し上げたいと思います。  従来,法制審議会の議論の仕方は,部会で議論した内容を御報告いただき,それに基づいてでき上がった要綱案について採否の意見を聞いて決定をするというやり方をとってまいりましたが,それは私は極めて適切だろうと思っております。つまり,多くの専門家を集めた部会で長時間かけて議論した内容というのは,非常に練り上げられたものでございますので,それについて我々が意見を述べた上で決定をするというのは,それなりに極めて合理性があるものだと思います。  ところが,今回,そういう方向で行くことができない点は,先ほど○○委員が御指摘になりましたように,原案が両論併記という形になっているということでございます。したがって,これをそのまま承認するということは,答申内容も両論あったということを認めるということに結果的にはなるわけでございます。それは,部会の意見としてはそれはそれでいいのかもしれませんが,あくまで答申案を決定するのはこの総会の意思決定でありまして,法制審議会の委員がどういうふうな扱いをするかということを決めなければならないと考えます。ですから,ここでどう扱うかというのは,我々自身が決めるべき問題だと思います。  ちょっと誤解がないように申し上げますと,今日出ました案の具体的内容について言っているわけではなくて,結論的に両論併記という形で諮問に対してこたえることがこの総会の対応として適切であるかどうか,望ましいものであるか,それは総会のとり得べき意思決定の方法としていいものであるかどうかという一般的なことを申し上げているわけでございまして,内容については私なりの意見がありますが,それはもちろん今の段階で申し上げることではありません。  先ほど,前例がないわけではないというふうにおっしゃいましたけれども,恐らくそれは,私は借地借家法の民法部会に関連しておりましたので,さっきの○○部会長代理の表現を使いますと,旧法制審議会の時代だったというふうに思います。しかもそれは,どちらかといいますと基本的な問題に関することではなくて,遡及するかどうかという,いわば当該答申案に付随して起こった問題について両論併記であったという前例として理解すべきものではないかというふうに思います。そうしますと,いわゆる新法制審議会で,しかも極めて重要な問題について両論併記というのをそのままこれを承認して答申をする,これについて賛否の意見を述べて答申をするというのは,初めての例ではないかと思います。しかも,これが重要だと申しますのは,先ほど申しました法務大臣の諮問の中に,建替えの円滑化等について云々という諮問でしたので,正に問題となっているこの両論併記の事項というのは,それに当たるわけですね。私が重要と申し上げたのはその点です。  したがって,一般的におよそ重要な事項,つまり諮問の内容に明示的に含まれている内容について両論併記をするということが,この法制審議会として望ましい態度であるかどうかという問題になるわけでございます。  ここから先は私の意見でございますけれども,私はやはりそれは望ましくないのではないか,具体的な事項についてこういうふうに意見を問うている,それについて我々としては決めることができないということに結論的になるわけですね,両方の意見があると。それを決めることができないからそのまま了解しますというのは,私はやはり責任ある意思決定機関としての態度ではないのではないかというふうに考える次第です。  どうすればいいかと申しますと,やはり我々としてはこれを一本にまとめるように審議の過程で努力をすべきなのではないだろうか,そのためには十分に部会の意見も聞き,そしてこれをどうすべきかという点についてそれぞれの議論を闘わせて,そして一本化する努力をすべきではないか,そして努力をして,それができなければもちろん両論併記になるわけですが,それは我々が対立をして統一することができなかったということの結果として両論併記になるというだけのことでありまして,たまたまここに出された原案が両論併記だから,それをそのまま法務大臣に出すというのとは意味が違うというふうに考えます。  ですから,あくまで私自身はこれを一本化するというのが責任ある態度ではないか,そしていろいろな事情があるのではないかと私は想像いたします。異例の事態ですから想像いたしますけれども,この審議会として一つの答申案を出して,それはそのとおり通るとは必ずしも限らないことは幾らでもあると思うのですね。それは,法務省の--法務省はできるだけ実現するように努力されることとは思いますけれども,政府機関の一員としての法務省が,政府機関の意向に添ってこの答申どおりできない場合もあるでしょうし,あるいは様々な経済的,政治的情勢を踏まえて国会が退けるかもしれません。いろいろな場合があるでしょう。これはもう,負うべき責任というのは法務大臣の答申に対して一つの考え方を述べるということであって,それが実際の社会にいってどう変わるか,実際の立法過程でどう変わるかということは,我々の負うべき責任の範囲外ではないか。したがって,我々のやるべきことは,この両論併記ではなくて,我々としての一つの意見をまとめるように少なくとも努力をする,その努力を尽くした上でまとまらなければしようがありませんが,努力を尽くす必要があるのではないか,それがこの意思決定をする際の私の意見ですけれども,正しい対応ではないだろうかというふうに思うわけです。  いずれにいたしましても,これは非常に異例な,原案を承認する,あるいは両論併記で答申をするということは非常に異例な事態だと思います。しかし,異例であるということを十分理解した上で,我々はこの問題をどう対処するかということを決めなければならない。そしてその対処の仕方としては,私自身は先ほどのように考えるというのが私の申し上げたいことでございます。 ● ただいまの○○委員の御発言は,手続的な問題,あるいは法制審議会として答申に当たりどういう態度をとるべきかという,一般的な問題を含むように思われます。  先ほど○○委員も手を挙げておられましたが,今のことに直接御関係があるのでしたらお伺いいたしますが,そうでなければ,まず○○委員の御意見について,他の委員の御意見を伺いたいと思いますが。 ● ○○委員の御意見に沿って意見を述べたいと思っております。 ● そうでございますか。それでは,○○委員に先にお願いいたします。 ● 私は,ただいまの○○委員の御意見,全面的に賛成でございます。私は,民事法の専門家ではございませんけれども,基本的には両論,あるいは両案でしょうか,両案併記というのは適当でないという立場から考えております。その際,内容的な議論をした方が早いと思うのですね,そういう点から申しますと,私は先ほどの部会長の御説明をお聞きした上で,やはり5分の4の多数決があれば十分ではないか,こういうふうに思っておりまして,それ以上に要件を厳格にする必要はないのではないかと思っております。  古い分譲マンションは,部屋が狭いものや,あるいは4階や5階というのもありまして,そういうものでエレベーターのないというようなもの,そういうものを踏まえますと,現在の居住形態に合っていないものが非常に多いというふうに聞いておりまして,住民の要望にこたえるためにはできるだけ建替えが容易になるように,建替え決議の要件を更に明確にするということが現在の緊急の課題であるというふうに考えております。その方法として,いろいろな意見があろうかと思いますけれども,私は5分の4の多数決案が最も簡明であり,また区分所有者の自主性を尊重することになって,妥当な解決方法になるのではないかというふうに考えているものでございます。  また,法律的な観点から申しましても,先ほども説明がありましたけれども,そもそも区分所有権は物理的には1個の建物でございまして,その各部分を所有権の対象とするものでありますから,改築など,すべて自分で決めるということができる一戸建ての場合とは全く同じ権利が保障されるというのは無理でありまして,区分所有者団体の多数の意思による決定,これは8割でございましょうか,これに従うというのが妥当である,あるいはやむを得ないのではないかというふうに思っておるわけでございます。 ● 私は,○○委員の御意見には実は反対でございます。法制審議会の長い歴史の中で,併記をするというのが大変希有な事例であったという歴史は,ある意味で法制審議会として非常に独自の発展を遂げてこられたという経緯があるからであろうと思います。  現実の様々な政府の審議会の場合には,審議会の場で理論的な詰めというものと並行いたしまして,現実の社会の様々な利害の調整ということを各界の代表者の方が入られて御審議をされる,そういう審議会が非常に多いかと思いますが,その場合に,ある一定の定められた期間の中で意見の一致を見るというのは現実にはなかなか難しいと思います。そういった意見の一致がないという場合に,それではそれぞれの意見のうちどういうような判断をするかというのは,すぐれて立法の責任を持つ立場の方の判断であると思いますし,具体的にはこの答申を受けられた法務大臣がどう判断をされるかということに私はなってくるのだろうと思います。  十分に審議を尽くして,一つの結論を得るために委員全員が努力をするという方向は賛成でございますが,併記ができないということは私はあり得ないのではないかという気がいたしますし,国会の中で審議が行われるという具体的な日常的な過程の中で法律はできるわけでございますので,時間的な制約を考えますと,今のこの建替え決議の問題以外のケースにつきましても,今後併論ということは私はやむを得ないケースもあるのではないか,できる限り避けろという御意見には賛成でありますが,絶対にそれがあり得ないということではないのではないかと私は思っております。  今申し上げましたことは,実はこの建替え決議の要件の併論そのものについてはまた後でそれぞれ先生方から御意見の開陳があると思いますが,私は,今,○○委員がおっしゃったうような意味で,この点はいわば併論をする必要はないのではないかという意見でございますが,その点は後でまた申し上げたいと思います。 ● 今の○○委員の御意見は,私が申し上げたことをちょっと誤解しておられるように思います。私が申し上げましたのは,ここに出された原案が両論併記であり,それを承認する結果として両論併記になるということは避けるべきだということを申し上げたわけでして,両論併記,結末はそうなるかもしれないのですね。しかし,それはここでの議論を経て,様々な議論を経て,両者がともに対立をしてどうにもならなくなって両論併記をするということでありまして,それはあり得ることですね。それは私は全く否定していないわけですから,それを行った上で両論併記になるということ,それも否定すべきだというふうに私は申しているわけではございません。ただこの原案について,こうなっているからそのまま承認しようとか,あるいはそれを何の意見も述べずに両者の意見を闘わすことなしに,あるいは両者が歩み寄りをすることなしに,このまま原案について賛否を問うということだけは,意思決定機関としてなすべきことじゃないのじゃないかということを申し上げているわけです。 ● 今の○○委員の御意見に全く同感です。先ほど私が質問したのは,やはり両論併記というのは異例だという認識で質問したわけですけれども,この手続において,原案がそうであるから総会でそうでなければならないというような安易なことは,もちろん今までもやってきたわけではないでしょうが,そういうことではなくて,この総会でどう考えるかということの努力と作業が必要だと思います。  結論として,今,○○委員も発言されましたように,どうしてもやむを得ない,両論併記しかないのだというような結論になるならば,それはそれなりに総会としての意思としてそうすればいいという問題であります。 ● 私も○○委員のおっしゃったのと同じように,ここで議論をして,できる限り意見の一致を求めるべきだ,そのように思います。  そして私自身は,内容的には建替え決議の要件としては,5分の4の決議条件で適当ではないか,そうでないと,仮に30年ということをいたしますと,30年未満でよほど建替えを必要とするような事案が非常に難しくなるし,20年,30年,40年の中でなぜ30年かということに説得力は余りないのじゃないかと。  それから,一定の費用を要するという条件を見ますと,建替え等を考えますと当然どういう仕様をするかによって,その費用は幾らでも変わり得る。そうしますと,そこで意見の不一致を最後には裁判所に持ち込まざるを得ない。そうしますと,こういう建替え等を機動的に迅速簡便にできるようにしようという趣旨からすれば不徹底ではないかと思いますので,私の意見としては,この両論の中でいえば5分の4だけでいいのではないか,このように考えております。 ● ちょっと議事進行がやや混乱といいますか,はっきりしないようでございますので,整理をさせていただきたいと思いますが。 ● 今の御議論を聞いておりまして,内容は余り違いはないようには思うのですけれども,ただ議論の仕方が初めに手続的な問題だという議論のされ方をして,内容とは無関係なような議論のされ方をして,それで両論併記が可か不可かというような議論をされたので,何か私も混乱が生じたような気も,お聞きしてそう感じたのですけれども,結局は要綱案が両論併記だった,それについて総会としてどういうふうに考えるかというだけのことであって,それで結果的にここで意見がまとまらなけれは,あるいは両論併記,あるいはその中でどの意見が多かったか少なかったかという問題になるかもしれませんし,場合によっては一つにまとめるということもあるかもしれない。とりあえずは,両論併記可か不可かというような議論は避けて,内容について議論するということではないかというふうに考えましたので……。 ● 私も,正しく今,○○委員から御指摘のあったような議論の整理をいたしたいと思っておりました。  ○○委員の御意見は,結局総会として部会の原案が両論併記の場合に,それを原案が両論併記であるからそのまま総会としても両論併記を認めると,そういうことはすべきではない,総会としての立場で十分議論をして,その結果として両論併記ということになるのであれば,これはやむを得ない,そういう御意見でございます。そして総会として部会から出された要綱案を修正をして,要綱案が両論併記になっていたものを一本化した形で答申にするということは,これは総会として当然有する権限であり,あるいは責任でございますので,結局のところ,ただいまの議論は原案の第七の「建替えの要件」の当否についての実質的な御議論をすれば解決できることではないかというふうに考えます。そういうことでよろしゅうございますか。 ● せっかくおまとめいただいたのに,時間ばかりとって恐縮ですが,私が申し上げているのはそういうわけではないのですね。結論的には,当該問題に即してはそうなりますが,この意思決定の方法としていかなる場合でもまず一本化する,しかも諮問事項に対してこの審議会がどういうふうに考えているかということに一本化するという,そういう努力を払うという基本原則,つまり両論併記というのは原則ではない,異例である,基本原則は我々は一本化するように努力をする,そういう基本原則があって,そして具体的な問題について両方の意見が分かれるということはそれはあり得るかもしれないという,その原則と具体的問題の当てはめとを明確に区別して議論していただきたい,こういうことなのです。両者を一緒にして議論しますと困るというのが私の立場です。 ● しかし,その一般論については御異論がないのではございませんでしょうか。 ● それは確認していただければ結構です。 ● 皆さん,できるだけ総会としては一本化された答申をすべきである,そのように努力をすべきであるということについては御異論がないと思うのですね。その結果として,努力をしたのだけれども,二つの意見に割れて,総会として結局両論併記にならざるを得ないということになった場合は,そういう答申になるのも,これは仕方がないというのは○○委員もお認めになるわけですから,その前提問題についてはどうも御意見の対立はないように思うのです。 ● ですから,要するに内容の問題についてどういう御意見を皆さんがお持ちかということをまずやらないと。まずそれをやって,そして一本にまとまるものだったらまとめていただきたい。 ● 分かりました。さっきの私の整理では,そう申し上げたつもりなのですが。もしそういうことでよろしいということであれば,今もう既に第七の「建替え要件」についての個別の具体的な御意見が出ておりますので,要綱案の順序とは違いますけれども,まずこの第七の「建替え決議の要件」について御意見を承って,その後でその他の部分についてまた御意見を伺う,そういう順序にいたしたいと思います。  それでは,第七の「建替え決議の要件」の部分についての御意見を伺いたいと思います。 ● 既に各委員からもお話があったことと重複する部分があると思いますけれども,私は今回の諮問が建替えの円滑化ということにありまして,その要件をできるだけ明確化する,そういうことは皆さん既に御認識のところだと思います。その観点からいたしますと,両論どっちにも一応相応の理由があるように私には思われるのでありますけれども,私といたしましては,5分の4というのは大変重い多数決要件でありますので,先ほど部会長のお話にもありましたように,建替えについてきちんとした手続が整備されるのであれば,区分所有者の自治を十分に尊重した多数決要件,それだけでいいという案の方がどちらかといえばいいのではないか,そのように考えます。  その客観的要件,1,2のどちらかを加えるべきであるという案について私が考えているところを申し述べさせていただきますと,これも既にお話が出ているところでございますが,すべての建物に30年経過という要件を課すということは,必ずしも妥当ではないと思われます。確かに30年という数字は明確ではありますけれども,区分所有されている建物は建物の品質,形状,それからロケーション,建てられている場所など様々に異なっているからであります。  次に,この案は不適切な形で行われる決議を排除して,少数者保護を図るというところにその眼目があるように思われますが,この眼目には必ずしも沿わない場合があり得るということも一つ申し上げたいと思います。  建替えというものには,個人的にも経済的な問題のほか,気力,体力というものが必要でございます。この要件のもとでは,30年の経過が必要なために,それを待っている間に高齢になり,気力,体力,それから経済的な条件も悪化する,そういう場合があるかと思うわけですね。その場合には,この30年以上という要件がマイナスに働く可能性もあるという点も申し上げたいと思うわけであります。  それから,2の要件でございますが,これはもう既にお話が出たところでございますが,当該建物の価額を超える費用というのはどうも私にはもう少し明確ではないように思われますので,やはりこの要件ですと紛争が起こる可能性があるのではないかと思うわけでございます。簡単に申し上げるとそのようなことでございます。 ● 今までの議論にあえて異論を申す格好になると思うのですが,この建替え決議に反対の少数意見というのはどういう人たちかということになりますと,これは確かに区分所有を取得したときはまだ若くてはつらつとしていた人,これが高齢化してきて,こういう老朽化した建物の建替えの問題が起こってきたときに,彼らは,もうここに長年住んでいるのだから余り離れたくないのだと,死ぬまでここに置いておいてくれというふうな形が少数意見の代表的な例ではないかと,こう思われるわけですね。そうなると,この築後30年経過というのは,そういう人たちの利害調整には何の役にも立たないので,私は思い出すのは,例えば借地借家の解約申入れとか更新拒絶とかいうことになると,そこではやはりこの古い借家に住んでいるけれども,おれはここにずっと一生おりたいのだという人の利害調整は,これは裁判所がやっているわけですね。いろいろなファクターを取り出して,それのいわば比較考量において決めるわけなのです。そういうことを,この建替えの問題についてはもう一刀両断で処理をしようという立法政策のように思われるわけなので,ですから私はこの30年とかいうことについては必ずしも賛成ではありませんけれども,しかし何らかの形のそういう少数者の意見を調整をしてあげられるような,そういう基準というものがなかったのかどうかということをちょっと考えたわけでございます。 ● 今,○○委員からお話がありました件は,私としても大変気がかりな点でございます。私は,全体としてはやはり全体の方々の多数決というのを原則に据えるよりほかないのではないかという気がいたしております。今,○○委員のおっしゃいましたように,ほかの要件というのが客観的なあらゆる場合に妥当する要件としてなり得るのかどうかということを考えますと,大変に難しいのではないかと思いますので,基本的には相当多数の方が建替えに賛成されるということを基本的な要件にせざるを得ないのではないかという気がいたします。  しかし,今御指摘がありましたように,高齢者の方の場合には,ほかの人が買い取ってあげるからどこかほかに行って住みなさいということは大変に現実には酷な状況だと思います。住み慣れた地域社会に暮らしたいという強い要望を持っておられる方は多いと思うのでございますが,現実にはこれは法務省の所管ではないのかと思うのですけれども,こういった建替えに参加せざるを得ないが経済的には非常に困難な条件を持っておられる方,これは高齢者,障害者というのが典型的な例だと思うのですが,こういう方々への具体的な配慮というのがこういった法律改正のときに御検討いただけないものだろうかという気がいたしますので,この点お伺いいたしたいと思います。 ● ただいまお話がありましたように,直接的なそうした弱者保護というのは住宅政策的な観点からの施策でございますので,今回の区分所有法の中には織り込まれておりません。ただ,先般の通常国会で成立いたしました「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」,これは正にマンションの建替えについて円滑化するという観点で,車の両輪のような役割,こちらの区分所有法の改正と一体となって建替えの円滑を図るという趣旨の法律というふうに理解しておりますけれども,その中では,一定の要件を満たした場合には,区分所有者でありますとか賃借人,そういったマンションの居住者に対して公共住宅への入居の特例でありますとか,入居した場合の家賃の減額等の措置,こういったものが講じられております。これは,マンションの建替えによって外に出ていかざるを得ない立場の方に対する措置ということでございます。  そのほかに,建替え事業について,補助でありますとか融資の特例といいますか,債務保証等について支援措置をとるというふうな話をお聞きしておりますので,これは間接的に費用負担について支えるという観点からいたしまして,ある程度費用負担に多少力が足りないような居住者の方に対しても援助になって,建替えに参加できるような機会を確保していけるのではないかというふうに理解しております。 ● よろしゅうございますか。 ● はい,ありがとうございました。 ● 部会として両論併記された,先ほどその経緯をお伺いしまして,苦心作であるということで部会長は随分御苦労なさったのではないかと思って謝意を表したいと思います。けれども,私としてどちらを選ぶかと聞かれましたら,あとの5分の4にプラスして二つの要件のいずれかを満たすという案,これ非常に考えられた案だとは思いますけれども,やはり30年といいましても,30年たっても全然丈夫な建物もあるということもありますし,それから第2の要件でも,評価の問題も難しい問題もありますし,その要件を満たさなくても建て替えた方がいいのではないかという場合もあり得るのではないかというようなことを考えますと,しかも建て替えた方がいいかどうかという情報も十分提供される,あるいは説明会も開くというようなことも加味されておりますと,やはり5分の4の多数で建て替えられるという方を私としては選びたいという感じでございます。しかし,いずれにしても御苦労であったということを感謝したいと思います。 ● 私は,5分の4の多数決のみというのは,多分に円滑な建替えという名のもとに,規制緩和とか開発だとか,そういう部分が非常に色濃く出ている意見ではないかなと思います。ですから,基本的には5分の4の多数決だけではなくて,ここに書かれておりますように,客観的な要件というものを十分に配慮する考え方が正しいのではないかということです。  反対する人は,やはり先ほども出ておりましたように,もうこの地を離れたくないのだとか,あるいは自分の今の住環境を大きく変化させたくない,あるいは若い人であっても,建替えによって経費の負担ということがあれば,それはもう全く反対だ,あるいは子供の転校という問題もあるでしょう。何も高齢者だけじゃなくて,そういう若い人からも建替えについて十分な合理的な理由がない限り,建替えについては慎重であるべきだという意見は結構多いと思います。  私は,現在マンションに住んでおりまして,区分所有者でありますし,マンションの管理組合の理事長も経験したこともあります。そういう経験からして,これはもちろんマンションによってそれぞれ考え方は違うし規模によっても違うし,一般論としては言いにくいのですが,私の経験からすれば,そういうふうな意見が現実にある。私のマンションは,幸いにしてまだ30年はたっておりませんので,これからの問題かと思いますが,いずれにしても自分の身近な問題として考えたときに,5分の4の多数決のみという考え方,それは確かに意見としてはあるでしょうが,やはりマンションによっては,あるいはそこに住んでいる区分所有者によっては,そう簡単に多数決だけで決められる問題ではないという意見が当然出てくるということは予想されるわけです。したがって,法改正後制度を設計するに当たって,その部分の少数者の保護といいますか,あるいは私的財産権をどう保護していくかというような問題の観点は,これは譲れない論点だと私は思います。したがって,先ほど申しましたように基本的には客観的要件を付け加えるべきだと思います。  ただ,年数要件である30年がいいかどうかということについては,これはいろいろな意見もあるでしょう,これより長くすべきだとか,いや,もっと短くという意見もあるでしょうが,何らかの客観的要件は必要ではないかと思います。  ただし,一歩譲って,この5分の4だけの多数決のみとする場合には,この要綱でも予定されておりますけれども,区分所有者に対する十分な納得のいくような説明会だとか,情報の提供だとか,こういったものをきちんと制度的に,義務的に整備されるということは絶対条件でありまして,その部分があいまいではっきりしないような状況では,5分の4は私は認められないという気がいたします。  いずれにしても,私の経験からいってマンションの建替え問題をどうするかということは,そのマンションに住む人,区分所有者の意識がどういうふうにしていくか,自分の財産をどういうふうに守っていくかという意識が大事でありまして,やはり長期計画を立てるとか,早め早めの修繕をするとか,あるいはそのための資金の手当てを計画的にするとか,そういうふうなそこに住んでいる者の全体の意識によって,自分の財産を守るという意識が強くあれば,この建替え問題もこういったトラブルがないような形で,それこそ円滑にいくべきだろうと思っております。 ● ちょっと済みません。○○委員の御意見について伺いたいのですが,○○委員としては基本的には何らかの客観的条件が必要だと,そういうお立場ですね。  仮に5分の4という案だけとするのであれば,いろいろその決議に至るまでの手続を十分充実させなければいけないという,そういう御意見だと思うのですが,それはこの要綱案でもその点についてはいろいろな御配慮をされているようでございますけれども,これだけでは不十分だということなのでしょうか。それとも,これが満たされるのであれば,第二次的なお考えとして5分の4だけでもいいと,そういう御趣旨でしょうか。 ● この要綱のこの部分については,確かに手続保障としてきちんと整備されていると思いますが,これが実際に運用の面において成果を上げるようなものでなければ問題が起きるだろう,こういう考え方です。 ● 分かりました。 ● ○○委員,○○委員がおっしゃいました高齢者だとか障害者,あるいは経済的弱者,そういうどうしてもここに住んでおりたい人があるというお話は誠にそのとおりで,こういう制度改正を考える場合,常に念頭に置くべきことであると思います。しかし,そういう人は例えば30年以上たったマンションであっても,やはりそこにずっとおりたいとか,あるいは建替えに応ずる資力がないとか,そういう事態は必ず起こるわけでございまして,こういう客観的条件というか二つの要件を作りましても,それによって今申しますような方が必ず救われるというわけではないと思います。  これを徹底いたしますと,5分の4でなくて全会一致でなければできないというところまでいかないと,その問題は解決できないことではないかと。それの社会的な解決方法というのは,先ほどの慎重な手続が十分実効を上げるとか,あるいは住宅政策の充実とか,そちらの方にまつべきことであって,そういう個人の事情がある人をあくまで尊重するということであれば,一人でもそういう人がいれば建替えはしないという結論にならざるを得ないのではないか。そうしますと,全体的な利害の調整としては行き過ぎではないかと。この二つの付加的な条件では,今,各委員から御発言のあったようなケースが,こういう条件を付けておけばそれが救えるのかというと必ずしもそうではないということを申し上げたいと思います。 ● この問題について,大分大勢の委員の方から御意見を承りました。そろそろ取りまとめをしたいと思いますが,なおこの点について今まで御発言なかった委員の方,反論はちょっと御勘弁いただくとして,今まで御発言のなかった委員の方の御発言があれば伺いますが。 ● 私は,こういう問題の専門ではないので,皆さんの御意見を聞いて自分の考えをまとめようかなと思って今日出てきたわけですが,いろいろお聞きして,やはり一番私の考えはここに近いなと思ったのは,今の○○委員の御発言でした。 ● 具体的な問題についてまだ発言しておりませんでしたので,この問題についての私の考え方を申し上げさせていただきたいと思います。  私は,高齢者保護とか,それから様々な社会政策的,あるいは政策目的にとって合理的かどうかという観点を少し離れまして,こういう要件が現在の財産法のシステムの中で正当化できるか,あるいはディフェンドできるかどうかという角度から意見を申し上げたいと思います。  結論的に,私は5分の4という多数決で所有権を結果的には奪うと申しますか,これは買取請求をするわけですが,奪うという結論になるというのは,どうも現在の財産法体系の中では説明することが難しいのではないか。非常にとは申しません,やや難しいのではないかという意見を持っております。それはどういうことかといいますと,5分の4である人の財産権を左右するということは,純粋に一種の団体法理の適用だということになるわけですね。つまり,団体の意思決定のもとである人は自分の行動を制約されるということになるわけですが,果たして区分所有者はそういう団体性を持っているのかどうかということを考えますと,事,所有権の問題に関しては団体性ということをそれほど強く言えるのかどうか,疑問に思うわけです。  確かに,全体が一つの団体をなしているということは,管理とか利用の面で言うことはできます。共用部分については団体で一つのルールを作り,それに反した者に対して制裁を加えるとか,団体から排除するということはあって十分にいいことだと思います。ところが,これは所有権という側面で考えるならば,これはたまたまあるマンションに住みたいから,ちゃんと所有権を買った,隣にだれがいようが,全体としてどういう人がいようが,それは行ってみなければ分からない。その限りでは純然たる所有権の問題であるというふうに言うことができます。そうしますと,この所有権の側面を考えますと,目的的,あるいは目的によって拘束された団体ではない,あるいは共通の利益を追求するための団体ではない,たまたま偶然に所有者同士が結びあっている団体だというふうに考えられるわけです。そうしますと,その所有権を奪うについて純粋に,つまり団体の拘束がついた所有権だ,団体の意思によってどうなるか分からない所有権であるというふうに観念することは非常に難しいわけですね。そうしますと,例えばその所有権を奪うためには,どういう手続がほかの法律でとられているか,これはちょっと話が飛躍するかもしれません,私的な問題ですからそれとは違いますけれども,例えば財産権を奪うためには非常に慎重な手続をとるというのが基本であります。  そもそも所有権というものは,現在の日本の法体系の中では様々な制約がありますが,それは公共的な制約であって,あくまで私的な財産権の側面ではこれは厳格に保護されるべきだという基本的な考え方ができております。そういう法システム全体の中で見ますと,所有権そのものが一種の団体の意思によってどうにでもなる所有権があり得るというふうに考えることは,少なくも区分所有者の団体性という観点から見る限りは非常に難しいのではないか,あくまでそれは管理とか利用とか,団体的なルールがあって初めてそのことが言えることであって,所有権の側面ではそれは言えないのではないか,現行の所有権法体系の中ではこれは説明するのに困難を感ずる問題ではないだろうか。  したがって,私はこのいずれかという選択肢は--私は選択肢はこの二つしかあり得ないと思うのですね,ここで審議の対象としているのは部会の提出された選択肢しかあり得ないと思っておりますので,いろいろ問題はあるかと思いますが,5分の4のみという考え方については,そういう角度から疑問を呈したいと思っております。 ● 結論的に○○委員の御意見でいいますと,この客観的要件をつけた案がよろしいと,そういうことになるわけでございますね。  ほかにございませんか。  先ほどからの御議論によりますと,両方の御意見が総会でも出されているようでございますけれども,どちらかと申しますと,5分の4の多数決のみとすべきであるという御意見の方が多かったように思います。  そこで,原案をいわば修正をして,5分の4一本の案にするか,それともしかし客観的要件も付け加えるべきだという御意見も,少数ではございましたけれども有力に主張されておりますので,そのことをも反映させたような形の修正にするか,どちらかということになるように思うのでございますけれども,その点についてはいかがでしょうか。 ● 先ほどから一本化への努力ということではコンセンサスがあるように思いますので,その努力のあらわれとして,何人かの方がこういうように修正したいという修正案を休憩時間に御作成願えないものだろうかと思います。そうしますと,それがまた一つの次の審議の手掛かりにもなろうかという気がするわけですが。 ● それでは,いずれにいたしましても私がただいま申しましたような原案の修正ということになりますので,具体的な修正の程度,在り方等について若干事務当局とも協議をしたいと思います。そのため,ここで休憩ということにしてよろしゅうございますか。--それでは,そのようにいたします。           (休     憩) ● 議事を再開することにしたいと思います。  先ほど,休憩前に申し上げましたように,各委員の御意見の分布等を伺いまして,それを答申に反映させるということと,それから冒頭にございましたように,総会としては一つの意見に答申をまとめるように最大限努力するという,そういう観点から,本来,原案について議長の方から修正案を申し上げるのは異例ではございますけれども,こちらから修正された原案の提示をさせていただいて,それについて採決をさせていただくということにしたいと思います。  その修正案を読み上げていただきます。 ● 資料の6ページ,1行目以下を御覧ください。一の「建替え決議の要件」以下のところでございます。  以下,修正案について読み上げます。  建替え決議の要件に関しては,区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数決のみで,建物を取り壊し,かつ,当該建物の敷地若しくはその一部の土地又はその敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができるものとする。  なお,多数決に加えて,次の1又は2を満たすことを要件として付加すべきであるとの意見があった。  1 建物が新築された日から三十年を経過したこと。  2 損傷,一部の滅失その他の事由により,建物の効用の維持又は回復(建物が通常有すべき効用の確保を含む。以下同じ。)をするのに当該建物の価額を超える費用を要するに至ったこと。 ● 修正された原案の内容はお分かりいただけたと思います。要するに,まず第1の意見の方を答申のいわば本文にするということで,3行目の「何々することができるものとすべきである」というところで切る。しかし,少数ではございますけれども客観的要件を付加すべきであるという有力な御意見がございましたので,そのことをこの答申の中にとどめる,そういう意味で「なお」ということでこういう意見があった,そういうことにするということでございます。  これが修正された原案でございまして,これについて採決をさせていただきたいと思います。  それでは,修正された原案に賛成の方,挙手を願います。       (賛 成 者 挙 手) ● 反対の方,挙手を願います。       (反 対 者 挙 手) ● 採決の結果を御報告申し上げます。  修正案に賛成の委員は11名でございます。  また,反対の委員は1名でございます。  議長を除くただいまの出席委員は12名でございます。 ● 採決の結果,賛成者が多数でございますので,この建物区分所有法部会から報告されました要綱案のうち,第七の一につきましては,修正原案のとおり採択されたものと認めます。  なお,この「建替え決議の要件」を修正いたしますと,それに合わせて三の「通知事項」のところも変えることになると思いますが,これはそれに見合う形に修正するということで御了承願えますでしょうか。  そういたしますと,第七のその他の部分について何か御意見ございますでしょうか。--特にございませんか。  それでは,一括して後で採決をさせていただくということで,第一から第六まで及び第八につきまして,御意見がございましたら伺いたいと思います。いかがでしょうか。 ● 「団地内の建物の建替え承認決議」の問題ですが,私は法律家ではありませんが,これ,正直なところ何回読んでもよく理解できない。これは,要するにこういうふうなことが書いてあるのじゃないかと思っていても,どうも違うのじゃないかというような自問自答みたいなところがありまして,何とかこのくだりを分かりやすい記述にできないものかどうか,その点をお伺いしたいと思います。 ● これは,どうでしょう,事務当局から回答してください。 ● その点はいろいろと指摘を受けておるところでございまして,ただ建物,特に区分所有建物,特に団地ということになりますと,複数の建物と土地を共通にしているというような点で,要件の点について非常に複雑にならざるを得ないという技術的な問題がございます。委員御指摘の点を踏まえまして,条文にする際にも十分気をつけて立案に当たりたいと考えております。 ● よろしゅうございますか。  実は,私もこの点につきましては,もし御承認いただいた後で事務当局にお願いしようと思っておりました。この法律は一般の区分所有者,あるいはその他それ以外の一般の国民が読んで理解できなければいけない法律でございますので,とりわけ国民に分かりやすい法文にするという配慮が必要だろうと考えております。そのことは,事務当局の方にもよくお願いしておきたいと思います。  それでは,先ほどの第七の決議要件の修正原案が可決されましたので,それ以外の部分について採決をお願いいたしたいと思います。  それ以外の部分につきまして,原案である区分所有法部会の要綱案に賛成の方,挙手をお願いいたします。       (賛 成 者 挙 手) ● 念のため,反対の方。--どうもありがとうございました。 ● ただいまの採決の結果を御報告申し上げます。  修正部分を除く原案に賛成の委員は12名でございます。  議長を除くただいまの出席委員も12名でございます。 ● それでは,採決の結果,全員賛成でございますので,原案のうち,先ほどの修正部分を除く部分は,原案どおり採択されたものと認めます。  大変長時間を要しましたが,第2議題につきましては,一部原案修正の上で区分所有法部会の要綱案を答申案とするということについて御決定いただいたということで,この議題の審議を終了することにしたいと思います。どうもありがとうございました。  それでは,新たな諮問事項につきまして御審議をお願いしたいと存じます。  まず初めに,諮問第58号,諮問第59号につきまして,事務当局に諮問事項を朗読してもらうことにいたします。 ● 諮問を朗読いたします。  なお,諮問58号は,お手元の配布資料の刑1,諮問59号が刑6になっておりますので,あわせて御参照いただければ幸いでございます。  諮問第五十八号    「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(仮称)」の締結に伴う立法措置に関し,別紙要綱(骨子)について御意見を承りたい。  別紙       要綱(骨子)  第一 組織的な犯罪の共謀   一 1又は2に掲げる罪に当たる行為で,団体の活動として,当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は,それぞれ1又は2に定める刑に処するものとすること。ただし,実行に着手する前に自首した者は,その刑を減軽し,又は免除するものとすること。    1 死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪 五年以下の懲役又は禁錮    2 長期四年以上の有期の懲役又は禁錮の刑が定められている罪(1に掲げるものを除く。) 三年以下の懲役又は禁錮   二 一1又は2に掲げる罪に当たる行為で,団体に不正権益を得させ,又は団体の不正権益を維持し,若しくは拡大する目的で行われるものの遂行を共謀した者も,一と同様とすること。  第二 証人等買収   一 1又は2に掲げる罪に係る自己又は他人の刑事事件に関し,証言をしないこと,若しくは虚偽の証言をすること,又は証拠を隠滅すること,若しくは偽造若しくは変造すること,若しくは偽造若しくは変造の証拠を使用することの報酬として,金銭その他の利益を供与し,又はその申込み若しくは約束をした者は,一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処するものとすること。    1 「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(仮称)」(以下「条約」という。)第五条,第六条,第八条又は第二十三条に規定する犯罪化義務に対応する罰則に定める罪    2 死刑又は無期若しくは長期四年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪(1に掲げるものを除く。)   二 一1又は2に掲げる罪に当たる行為が,団体の活動として,当該行為を実行するための組織により行われた場合,又は団体に不正権益を得させ,若しくは団体の不正権益を維持し,若しくは拡大する目的で行われた場合において,その罪に係る自己又は他人の刑事事件に関し,一の罪に当たる行為をした者は,三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処するものとすること。  第三 犯罪収益規制等   一 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という。)第二条第二項第一号に規定する犯罪収益の前提犯罪に,1及び2に掲げる罪(現行組織的犯罪処罰法の別表に掲げるものを除く。)を加えるものとすること。    1 条約第五条,第八条又は第二十三条に規定する犯罪化義務に対応する罰則に定める罪    2 死刑又は無期若しくは長期四年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪(1に掲げるものを除く。)   二 組織的犯罪処罰法第二条第二項に規定する犯罪収益に,次の財産を加えるものとすること。    1 第一に規定する罪を犯した者が,その共謀に係る犯罪の実行のための資金として使用する目的で取得した財産    2 第二に規定する罪の犯罪行為により供与された財産   三 組織的犯罪処罰法第四章第一節に規定する没収保全の対象に,犯罪行為を組成した物又は犯罪行為の用に供し,若しくは供しようとした物を加えるものとすること。  第四 国外犯処罰    贈賄罪(刑法第百九十八条)につき国民の国外犯を処罰するものとするほか,所要の国外犯処罰規定を整備するものとすること。   引き続きまして,諮問第五十九号を朗読いたします。  諮問第五十九号    近年における強制執行の妨害行為等に係る犯罪の実情にかんがみ,早急に,この種の犯罪に対処するため刑法を改正する必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を承りたい。  別紙        要綱(骨子)   一 封印又は差押えの表示の損壊その他の方法により,公務員による封印の命令若しくは処分又は差押えを無効にした者は,三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し,又はこれを併科するものとすること。   二 強制執行を妨害する目的で,次に掲げる行為をした者は,三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し,又はこれを併科するものとすること。情を知って(三)の譲渡の相手方となった者も同様とすること。    (一)強制執行を受け又は受けるべき財産を隠匿し,損壊し,若しくは仮装譲渡し,又は債務の負担を仮装する行為    (二)強制執行を受け又は受けるべき財産について,その現状を改変して,価格を減損させ,又は強制執行の費用を増大させる行為    (三)金銭執行を受けるべき財産を無償又は低額で譲渡する行為   三1 偽計又は威力を用いて,占有者の特定その他の強制執行の行為を妨害した者は,三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し,又はこれを併科するものとすること。    2 強制執行の申立てをさせず,又はその申立てを取り下げさせる目的で,申立権者又はその代理人に対して暴行を用い,又は脅迫した者も,1と同様とすること。   四 偽計又は威力を用いて,強制執行において行われ又は行われるべき売却の公正を害すべき行為をした者は,三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し,又はこれを併科するものとすること。   五 報酬を得,又は得させる目的で,人の債務に関し,一ないし四の罪を犯した者は,五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し,又はこれを併科するものとすること。   六1 偽計又は威力を用いて,契約を締結するための公の競売又は入札の公正を害すべき行為をした者は,三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し,又はこれを併科するものとすること。    2 公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で,談合した者も,1と同様とすること。  以上でございます。 ● 続きまして,これらの諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由等につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ● それでは,諮問事項につきまして,私の方から説明させていただきます。  まず,諮問第58号につきまして,提案に至りました経緯及び諮問の趣旨等についてであります。  近年のグローバリゼーションの進展に伴い,犯罪活動も容易に国境を越えることが可能な状況となり,国境を越えて大規模かつ組織的に敢行される国際組織犯罪の脅威が深刻化しています。国際組織犯罪は,社会の繁栄と安寧の基盤である市民社会の安全,法の支配,市場経済を破壊するものであり,このような国際的な組織犯罪に効果的に対処するためには,各国の刑事司法制度,法執行制度を強化するとともに,国際社会全体の司法・法執行における協力により,法の抜け穴をなくす努力が必要であります。  国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約は,一層効果的に国際的な組織犯罪を防止し,及びこれと戦うための協力を促進するため,国際的な法的枠組みを創設する総合的な条約でありまして,2000年11月に国連総会において採択されました。我が国は,同年12月の署名会議において署名しておりますし,我が国が主要先進国の一員として国際的な組織犯罪に対処するための責務を果たすためにも,本条約を早急に締結する必要があると考えております。  そこで,本条約の締結に伴う所要の法整備を行うため,今回の諮問に及んだものでございます。  次に,本諮問には条約上の義務や,現行国内法制との整合性等を検討した結果に基づく要綱(骨子)を付しておりますので,以下,その内容について御説明申し上げます。  はじめに,要綱(骨子)の第一についてでございますが,組織的な犯罪の共謀の罪を設けるものであります。  条約は,組織的な犯罪集団への参加の犯罪化について規定する第5条において,未遂に至る前の段階における犯罪の処罰を広く可能とするため,重大な犯罪を共謀すること又は組織的な犯罪集団の活動に参加することの一方又は双方の犯罪化を締約国に義務付けております。なお,条約上,「重大な犯罪」とは,「長期4年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重大な刑を科することができる犯罪を構成する行為」と定義されております。  現在,我が国においてはこれらに対応する罰則はありませんが,国民の行動の自由に対する制約の程度や現行法制との親和性等を考慮し,重大な犯罪の共謀の犯罪化を選択したいと考えております。  もっとも,条約は,重大な犯罪の実行を二人以上の者が合意する行為を処罰することを原則としていますが,締約国における国内法制との整合性に配慮し,「組織的な犯罪集団が関与するもの」という要件を付加することも認めております。そこで,本要綱(骨子)では,重大な犯罪の共謀を一般的に犯罪化するのではなく,重大な犯罪に当たる行為であって,「団体の活動として,当該犯罪を実行するための組織により行われるもの」又は「団体に不正権益を得させ,又は団体の不正権益を維持し,若しくは拡大する目的で行われるもの」の共謀に限り処罰するとしております。この要件は,「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」におきまして,その危険性や反社会性の高さから,組織的な犯罪の加重処罰等の特別の規制を行うための要件として用いられているものであり,重大な犯罪の遂行の共謀のうち,組織的な犯罪集団が関与するため,特に処罰に値するものに限定するためには,この要件を用いることが適当と考えたものであります。  法定刑は,対象となる犯罪の法定刑の範囲が広いことにかんがみて,二つに区分することとし,既存の予備罪,共謀罪等の法定刑をも考慮し,死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる特に重い犯罪については5年以下の懲役又は禁錮とし,その他は3年以下の懲役又は禁錮といたしました。  次に,要綱(骨子)の第二は,証人等買収の罪を設けるものであります。  条約は,司法妨害の犯罪化を規定する第23条において,第1に重大な犯罪並びに条約が犯罪化を求める共謀罪,資金洗浄罪,贈収賄罪及び司法妨害罪に関する手続において,偽証させ,又は証言若しくは証拠の提出を妨害するため,暴行,威嚇,脅迫をし,又は不当な利益を約束,申し出,供与することを処罰すること,第2に,条約の対象となる犯罪に関する公務の遂行を妨害するために,裁判官又は法執行の職員に暴行,威嚇,脅迫をすることを処罰することを義務付けております。これらについては,不当な利益を約束,申し出,供与することを除き,刑法の強要罪や公務執行妨害罪により担保されております。  そこで,条約の定める一定の犯罪に係る自己又は他人の刑事事件に関し,要綱(骨子)第二,一に記載の買収行為を処罰することとするものであります。  法定刑は,証拠隠滅等の前段階の行為であること,証人等威迫と類似する面があること等を考慮し,1年以下の懲役又は20万円以下の罰金といたしました。  なお,要綱(骨子)第二の二は,証人等買収の対象となる刑事事件が,組織的な犯罪集団が関与するものである場合,組織的犯罪処罰法第7条が組織的な犯罪に係る犯人蔵匿等を加重処罰しているのと同様に,加重処罰するものであります。  次に,要綱(骨子)の第三についてですが,犯罪収益規制等の規定の整備でありまして,三つの事項が含まれております。  その一は,犯罪収益の前提犯罪を拡大するものであります。すなわち,条約第6条は,原則として,重大な犯罪並びに条約が犯罪化を求める共謀罪,贈収賄罪,司法妨害罪をすべて前提犯罪に含めることを義務付けておりますが,現行組織的犯罪処罰法における犯罪収益の前提犯罪は,これよりも狭いものとなっておりますので,本要綱では条約上の義務に対応する範囲まで前提犯罪を拡大することとしております。  その二は,共謀罪を犯した者が,その共謀に係る犯罪の実行のための資金として使用する目的で取得した財産,及び,証人等買収の罪で相手方に供与された財産を犯罪収益に加えるものです。これらの財産は,その性質上,犯罪収益規制に服させることが適当と認められるため,犯罪収益規制の強化を図る条約の趣旨を踏まえ,犯罪収益化するものであります。  その三は,条約上の義務を考慮し,犯行共用物件等を組織的犯罪処罰法の没収保全の対象に加えるものであります。  次に,要綱(骨子)の第四は,国外犯処罰規定の整備です。  条約は,一定の犯罪につき,自国民であることを唯一の理由として犯罪人の引渡請求を拒絶したときは,自国における訴追を可能とするための裁判権設定を締約国に義務付けております。この点については,刑法及び個別法における国外犯処罰規定によりおおむね手当てされておりますが,今回の法整備の機会に,対象となり得る犯罪を精査し,必要な国外犯処罰規定を整備したいと考えております。  なお,現行刑法の贈賄罪には,国外犯処罰規定がありませんが,交通が発達し,国際的な人の移動が日常化した今日,国外における国民による贈賄行為の処罰の必要性は高く,条約の贈収賄の犯罪化の趣旨にも沿うものでありますことから,本要綱では,贈賄罪につき国民の国外犯処罰規定を設けることとしています。  要綱(骨子)の概要は以上のとおりです。できる限り早期の条約締結を可能とするため,十分に御議論の上,できる限り速やかに御意見を賜りますようお願いいたします。  引き続き,諮問第59号につきまして,提案に至りました経緯及び諮問の趣旨等について御説明申し上げます。  司法制度改革審議会の最終意見では,権利の実効性を確保するという見地から,占有屋等による不動産執行妨害への対策等をとるべきことが提言されました。この提言は,民事執行制度の強化という観点からなされたものですが,社会の実態においては,各種の強制執行に対する妨害事犯が跡を絶たず,その中には反社会的勢力が利得目的で行う悪質執拗な事犯も少なくありません。  強制執行に対する妨害行為は,不良債権の迅速・適正な処理を妨げる要因にもなっているものと思われますが,一般に強制執行は,権利の実効性を確保するために不可欠な公務であり,刑事法の観点からも,意図的な妨害行為に対しては適切な対応が必要になるものと思われます。そこで,強制執行を妨害する犯罪等に対し,事案の実態に即した処罰が可能になるよう,早急に所要の法整備を行う必要があると考え,今回の諮問に及んだものであります。  次に,諮問の内容につきまして御説明申し上げます。  本諮問においては,現行刑法の罰則中,強制執行を妨害する犯罪等に対して適用されることが多いものについて,修正を加えるべきものと思われるところを検討した結果を要綱(骨子)の一から六としてお示ししています。  そこで,まず強制執行を妨害する犯罪に関する基本的な犯罪類型である一から四について,処罰すべき行為類型を順次御説明しました上で,これらの法定刑についてまとめて御説明し,更にその加重処罰規定としての五について御説明し,最後に強制執行を妨害する犯罪に関するものではありませんが,今回併せて御審議いただくことにしました六について御説明することといたします。  はじめに,要綱(骨子)の一についてですが,これは封印の命令等を無効にする行為を処罰しようとするものです。  現在の刑法第96条の封印等破棄罪は,「封印又は差押えの表示を無効にした」との規定でありますことから,表示が違法に除去された後において妨害行為に及んだ者を処罰することができないと解されております。しかし,実態においては,裁判所が刑法第96条にいう「差押え」に当たる執行官保管の保全処分を命令し,これが公示札により表示されたにもかかわらず,何者かがその公示札を違法に除去した後に,公然と妨害行為が行われるという例も見受けられますことから,要綱(骨子)の一は,このような悪質執拗な妨害行為を処罰することができるように,封印の命令等に対する違反行為の処罰という観点から封印等破棄罪の構成要件の見直しをしたものでございます。  次に,要綱(骨子)の二についてですが,これは強制執行の進行を阻害する行為のうち,主として物に対して向けられたものを処罰しようとするものであります。  このうち,(一)は,現在の刑法第96条の2の強制執行妨害罪に当たり得るものとされる財産の損壊,隠匿及び仮装譲渡並びに仮装債務負担の4つの行為類型に加え,占有屋が仮装の占有権原を主張しているものの,債務者との通謀等は認められないというような事案を処罰範囲に取り込もうとするものであります。また,(二)は,無用の増改築や廃棄物の搬入等により強制執行の目的財産の物的状況を変化させることにより,その価値を著しく減少させ,あるいは債権者を費用倒れに追い込むという行為を,(三)は,金銭債権の債務者等が強制執行の引当てとなるべき財産を無償又は著しく低廉な価格で譲渡して,金銭執行の目的財産に不足を生じさせる行為を,新たに処罰の対象にするものであります。  次に,要綱(骨子)の三についてでありますが,これは強制執行の進行を阻害する行為のうち,人に対して向けられたものを処罰しようとするものであります。  強制執行に対する妨害事犯の実態においては,明渡執行の目的建物の近くで猛犬を放し飼いにし,あるいは何者がその建物を占有しているのかの確認を妨げるなどして,執行官が明渡執行を実施することができなくするなど,刑法第95条の公務執行妨害罪においては処罰の対象にならない「偽計」又は「威力」を手段とする事例も見受けられますことから,要綱(骨子)三の1は,このような妨害行為を処罰しようとするものであります。  なお,保護の対象になる「強制執行の行為」の典型例としましては,民事執行法等の規定に基づく執行官の執行行為を想定しており,執行裁判所の裁判作用等については,これに含めておりません。  一方,要綱(骨子)三の2は,強制執行の申立てをさせない目的等による暴行又は脅迫については,刑法第223条の強要罪の場合と異なり,それが実際に強制執行の申立権者等の意思の自由に影響を及ぼしたか否かにかかわらず,処罰の対象にしようとするものであります。  次に,要綱(骨子)の四についてですが,これは強制執行における売却の公正を阻害する行為を処罰しようとするものであります。  公の競売又は入札の公正を害すべき行為として,現在の刑法第96条の3により処罰されますのは,競売開始決定後の行為に限るものと解されております。しかし,実態においては,後の手続の公正に不当な影響を与える妨害行為が競売開始決定前に行われている例も見られますことから,要綱(骨子)の四はそのような行為も処罰しようとするものであります。  ここで,要綱(骨子)の一から四の法定刑について御説明申し上げます。  要綱(骨子)の一から四は,現行の刑法第96条ないし第96条の3の規定を改正しようとするものですが,これら各条の罪の法定刑は,それぞれ「2年以下の懲役又は20万円以下の罰金」,「2年以下の懲役又は50万円以下の罰金」,「2年以下の懲役又は250万円以下の罰金」とされております。しかし,この2年という懲役刑の上限については,刑法第233条の業務妨害罪等の法定刑における懲役刑の上限が3年であることとの不均衡が指摘されており,一方,罰金刑の上限が相違している点につきましても,実質的には一つの強制執行手続に対してそれぞれの罪に当たる妨害行為が用いられている例が少なくなく,このような相違を設けるべき合理的理由は乏しいと考えられます。また,強制執行を妨害する事犯は利欲犯的性格が強いことから,このような犯罪は経済的に引き合わないものであることを相当額の罰金刑により感銘させる必要性が高いと考えられます。  そこで,要綱(骨子)の一から四の法定刑につきましては,懲役刑の上限は業務妨害罪等と同じ3年に,罰金刑の上限は現行の刑法第96条から第96条の3の罪の中で最も高い250万円とした上で,懲役刑と罰金刑の併科を可能にすることとして統一的に規定しております。  次に,要綱(骨子)の五は,要綱(骨子)の一から四の犯罪類型についての加重処罰規定です。  強制執行に対する妨害事犯の実態においては,職業的な妨害勢力による悪質執拗な妨害事犯が少なからず見受けられるところでありまして,このような妨害事犯に対しましては,一般的な事犯の場合より厳しい処罰の対象にする必要性が高いものと思われます。職業的な妨害勢力による妨害事犯は,その性質上,他人が強制執行を受ける場合に,これに介入して妨害行為に及ぶものであり,その実態として,この種の勢力が悪質執拗な妨害事犯に及ぶ目的は報酬を得ることにあるという事例が少なくないと思われますことから,要綱(骨子)の五は,「報酬を得又は得させる目的」,「人の債務に関し」との要件により,要綱(骨子)の一から四の罪を犯した者をより重く処罰することとするものであります。  最後に,要綱(骨子)の六について御説明申し上げます。  これは,強制執行を妨害する犯罪に関するものではありませんが,現在の刑法第96条の3により処罰されるべき行為類型のうち,強制執行に関するものについては要綱(骨子)四により処罰されることになりますことから,これに含まれない公共工事等に係る競売又は入札の公正を害すべき行為を処罰するための規定として,ここに掲げたものであります。この種の競売又は入札の場合には,強制執行における売却の場合と異なり,落札者との間で改めて契約手続が行われることから,要綱(骨子)の六におきましては,四との区別のため,現在の刑法第96条の3に,「契約を締結するための」との文言を加えてあります。  また,要綱(骨子)の六におきましても,同じく現在の刑法第96条の3の改正規定であります四の場合と同様に,その法定刑を3年以下の懲役刑と250万円以下の罰金刑との任意的併科と改めてございます。  要綱(骨子)の概要は,以上のとおりでございます。十分な御議論の上,できる限り速やかに御意見を賜りますようお願いいたします。  なお,席上に配布しております資料につきまして,説明させます。 ● それでは,引き続き配布資料について御説明申し上げます。  本日,御審議の参考にしていただくために,席上に資料7点と参考資料2点の合計9点を御用意させていただいておりますので,その内容等について御説明申し上げます。  番号刑1から刑5は,諮問第58号に関するものです。  番号刑1は,先ほど朗読いたしました諮問第58号でございます。  次の番号刑2は,国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約の英語の正文とその仮訳文です。  仮訳文につきましては,今後条約の正式の訳文となる過程で文言が変更されることがあり得ることを,あらかじめ御了承ください。  番号刑3は,本年8月31日現在のこの条約の署名国の一覧表であります。  この条約の署名国は,8月31日現在で142か国であり,締約国は20か国です。  なお,条約の発効につきましては,40か国の締約後,90日で発効する旨定められております。  番号刑4は,組織的な犯罪に関する対策をめぐる国際的な動向を取りまとめたものでございます。  1ページの下の5に記載してありますが,1994年11月にイタリアのナポリで開催されました国際組織犯罪に関する世界閣僚級会議で,国際組織犯罪に対処するための国際協力の促進を目的とした国際文書の作成を検討することが提唱されました。  その後,最終的には3ページの12に記載してありますように,1998年12月の国連総会決議により,国際組織犯罪条約起草のためのアド・ホック委員会が設けられ,この委員会における審議を経て,本条約は,16に記載してございます国連総会で採択されたものであります。  番号刑5は,本条約第5条,第6条,第8条及び第23条に規定する犯罪化義務に対応すると考えられる犯罪をまとめたものであります。  要綱(骨子)第二「証人等買収」の一の1及び第三「犯罪収益規制等」の一の1には,「条約第5条等に規定する犯罪化義務に対応する罰則に定める罪」と記載してあります。これは,法律にする段階では「組織犯罪処罰法第10条の罪」などと具体的な罰則を特定して規定することになりますが,諮問に付する要綱(骨子)としては,立法事項の趣旨や骨格が分かりやすいものとするとの観点から,あえて「条約第5条等の規定する犯罪化義務に対応する罰則に定める罪」というような書き方をし,その具体的内容をこの資料としたものですので,要綱(骨子)の該当部分を御検討される際に,御参照いただきたいと思います。  次に,番号刑6及び刑7は,諮問第59号に関するものでございます。  番号刑6は,先ほど朗読いたしました諮問第59号でございます。  次の番号刑7とございますのは,強制執行及びこれに関する刑事事件についての基礎的な統計資料でございます。  表紙をめくっていただいた1枚目は,平成13年までの最近10年間における民事執行及び民事保全の種類別の既済件数の推移に関する統計でございます。傾向といたしまして,この10年間で「不動産等に対する担保権実行競売」の件数が約3倍の増加を示していることなどが御理解いただけるかと存じます。  2枚目及び3枚目は,昭和24年から平成13年までの50年余りの期間における強制執行を妨害する犯罪による検察庁新規受理人員の推移に関する統計です。刑法第96条の封印等破棄罪,第96条の2の強制執行妨害罪及び第96条の3の競売等妨害罪のほか,参考として,類似する性格を有します破産法違反の罪についても併記してございます。これらの罪による新規受理人員につきましては,昭和30年代ないし40年代以降減少傾向にありましたものが,特に競売等妨害罪において平成6年ごろから顕著な増加傾向に転じていることがうかがわれます。  4枚目は,この封印等破棄罪,強制執行妨害罪及び競売等妨害罪の三つの罪種につきまして,平成13年までの最近10年間における検察庁での終局処理状況及び通常第一審であります地方裁判所での懲役刑の科刑状況の推移に関して,統計資料から得られますデータの範囲で取りまとめた統計でございます。科刑状況の関係では,ここに記載してある三つの罪種につきましては,加重規定の適用がない場合の刑の上限はいずれも懲役2年でございますが,競売入札妨害罪につきましては,2年以上の懲役刑の言渡しを受けた者が合計4名ございます。  続きまして,参考資料について簡単に御説明させていただきます。  参考資料の中の「競売入札妨害事案調査結果(骨子)」と題しますものは,刑法第96条の3第1項の競売入札妨害罪のうち,強制執行に関するものにより,平成6年から平成10年までの5年間に有罪判決の言渡しがありました事件について,法務総合研究所が分析いたしました結果の骨子を取りまとめたものです。そのうち1表からは,調査対象事件の被告人の半数は暴力団等との関係を有するものであることが,4表及び5表からは,調査対象事件68件中,暴力団等の関与が見られない事件は14件に過ぎない一方,妨害工作に関与した人数が5人以上のものが37件に達するなど,この種の犯罪の相当数は反社会的組織の存在を背景として多人数により行われているということがうかがえます。また,7表は,競売妨害の目的等に関する調査結果であり,ほとんどの事件において何らかの財産上の利益を得ることが犯行の目的になっていることがうかがえます。  次に,「強制執行を妨害する行為等の事例集」と題しますものは,主として民事法関係の公刊物から得られました強制執行妨害事案の中から,今回の諮問内容にも関係すると思われるものの概略を記したものでございます。  以上,簡単でございますが配布資料等の説明をさせていただきました。 ● それでは,ただいま説明のありました諮問事項のうち,まず諮問第58号につきまして御質問がございましたら御発言をお願いいたします。 ● 御説明の前に,休憩時間にちょっとお話をして,私が質問すると思っていたことが必ずしもこの諮問の案件でカバーされるのじゃないというような気もするのですが,私が思ったのは,国連のこの条約ですけれども,第5条を読んで,読む人によってはすごくここで国内的な法律を整備しようと思っているような感じとはちょっと違った読み方ができるのかなと思ったのです。  4ページですね,第5条の「組織的な犯罪集団への参加の犯罪化」という国連の条約の方ですが,これを読んでいて,1番というのはとにかく立法できると。そして(b)というのを見ると,「組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪の実行を組織し,指示し,ほう助し,教唆し若しくは援助し又はこれについて相談すること。」。2は,「認識,故意,目的又は合意は,客観的な事実の状況により推認することができる」と書いて,誠におおらかな書き方がしてあるのですが,たまたま思ったのは,小泉総理が訪朝するというので,何かそこら辺興味を持っていたのですが,それに関連して,要するにアメリカ政府の強硬派が読むと,正にこれだという感じになるわけですね。組織的な犯罪集団が北朝鮮にいるというふうに思い込んでいるわけですが,それを幇助し,援助しなんていうことになりますと,朝鮮銀行の信用組合とか信用金庫というのが送金しているらしいということはあるのだけれども,金融庁が今度みんなほとんど地方の銀行とかいろいろな銀行が破たんしているに等しい場合が多いので,信用組合,信用金庫も破たんしている場合が多いのですが,公的資金を金融庁のガイダンスでやるかどうかについて要件があって,それが結局金融庁としては預金をやっている人を保護するということが前面に出るのですが,たまたま状況的なものが,アメリカ政府で強硬派が回答しているみたいだとか,金融庁の公的信金への注入が少しそれよりももっと強硬にあった,それはトランスペアランシーをはっきりさせろと,どういう目的で,どういうふうな経営をやっているかとか,いろいろなことで3分の2ぐらいは金融庁の指示に従って動いているのですが,3分の1,東京周辺は動いていないのですね。  そういうことに関連して,アメリカ政府の強硬派みたいにすると,北朝鮮はかなり組織的な犯罪を重視している何かがあるとするときに,朝鮮銀行系の信用組合とか信用金庫が送金をしているということになったら,これに当てはまるのじゃないかなと。そして,「客観的な事実の状況により推認できる」なんておおらかに書いてある場合は,これは金融庁とかあるいは法務省でこんなことをおおらかに書いてある限り,かなりドグマチックに信じている人にとってはぴったり当てはまる状況があるときに,何もそういうことを考えていないで立法化するみたいなことになってもへんてこなのかなと思って,非常に余りにも多次元にわたってふくそうしているときに,こんなこと,多分そんなこと考えておらないと思うのですが,面倒くさいのですけれども,そんなことは金融庁との関連で何かインタラクションはあるのですか。それとも,全くそれは関係なくて,あっちは貯金をやっている人を保護してやっているだけだと。  ここが何かこんなにおおらかに一般的に書いてあると,条約に調印して,合意して立法化を行うとき,その国によってものすごく違ってくるので,何かこれはどういうふうに各国の主権に任せるということが一番初めにあるから,そういうこともあってもあり得るのかなと思うのだけれども,何かちょっと……。 ● それでは,これはどなたにお答えいただきましょうか。 ● 具体的な案件なり,特定の団体との関係につきましては,ちょっと申し上げる立場にございませんけれども,この条約で,今,委員御指摘がございました推認規定,おおらかに書いてあるという部分でございますが,これはむしろ逆の考えから,一部の国におきましては故意犯である本罪について自白していなければ絶対だめなのかという御議論がありまして,そうではないと,証拠によって合理的な認定というのはできるのだという趣旨でこういう規定が盛り込まれたというふうに記憶いたしております。いずれにしましてもこの点につきましては,最終的な解釈と申しますか,意義につきましては外務省なりしかるべきところが御説明すべきこととは思いますけれども,今申し上げたような次第であったように記憶しております。 ● インタラクションというのは,どのぐらいあるのですか。私は,日本の中央官庁というのはインタラクションの余りないところだというふうに理解しているのですが,どのぐらい正しいですか。あるいは間違っていますか。 ● 具体的な資料をお持ちですか。 ● 一般論としましては,必要な事柄につきましては,それぞれ検討に当たりましても互いに御協力させていただくということでございますけれども,では具体的にその件につきましてどうかと言われますと,私ちょっと資料もございませんので,今お答えできる立場にございません。 ● それでは,ほかに御質問がございますでしょうか。  ほかに御質問がないようでございますので,次に諮問第58号の審議の進め方について,御意見を伺いたいと思います。御意見がございましたら御発言をお願いいたします。 ● 条約締結のための立法措置をとる,これは極めて重要なことではないかと思いますが,この別紙要綱の骨子を見ましても,極めて内容が専門的になっておりますので,よく総会で前にも例があったかと思いますけれども,専門の部会を立ち上げていただいて,そこで御審議をいただいて,総会に御報告いただく,そこでまた総会として審議をする,そういう手続をとるのが適当なのではないかということを考えております。 ● ただいま,○○委員から,部会設置の御提案がございましたが,これについて御意見ございますでしょうか。  特に御意見もないようでございますので,諮問第58号につきましては,新たな部会を設けて審議調査をしていただき,その結果を総会に報告していただいて,総会で審議をする,そういうことにいたしたいと思います。  それでは,次に諮問第59号について,御質問がございましたら御発言をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。  特に御質問がないようでございますので,次に諮問59号の審議の進め方について御意見をお伺いしたいと思います。 ● 諮問59号の対象としております強制執行につきまして,私も多少別の側面から関係をしておりますので,その観点から発言させていただきたいと思います。  この法制審議会の決定に基づきまして,現在担保・執行法制部会というのが設けられておりまして,民事執行法の改正について議論をしているところでございます。私はそれに属している者でございます。  この諮問59号を見ますと,いわば刑事法的な側面から権利の迅速かつ公正な実現を実効的にするためにはどうすればいいのかという問題意識に支えられているようでございまして,その問題意識は担保・執行法制部会におけるものと同じでございます。しかし,配られております具体的な要綱(骨子)を見ますと,その内容は専ら刑事法に関するものですので,その観点から審議調査をする必要があるのではないか,担保・執行法制部会とは別の部会の方がそのためには望ましいのではないかと思いまして,別個にこのための部会を作っていただきまして,審議調査をしていただき,その結果を総会で審議をするということが望ましいのではないか,こういうふうに考える次第でございます。 ● 御承知のように,○○委員は現在担保・執行法制部会の部会長をしておられますが,そのお立場からいっても,この刑事法の問題については別の部会を設置して,そちらで専門的な観点から審議調査をしていただき,その結果を総会に報告していただいて,総会として審議をするのがよろしいのではないか,そういう御意見だと思います。  この点について,何かほかに御意見ございますか。  特に御異議もないようでございますので,諮問第59号につきましても新たに部会を設けて,調査審議をすることに決定いたしたいと思います。  次に,新たに設置する部会に属すべき総会委員,臨時委員及び幹事の指名に関しましては,会長に御一任願いたいと思いますが,それでよろしゅうございますか。       (「異議なし」と呼ぶ者あり) ● ありがとうございます。  それでは,この点は御一任願うといたしまして,次にこれらの部会の名称のことでございますけれども,諮問事項との関連から申しまして,私の方で御提案をさせていただきたいと思います。  諮問第58号につきましては,「刑事法(国連国際組織犯罪条約関係)部会」とする。要するに,刑事法部会の間に括弧を入れまして,「国連国際組織犯罪条約関係」,そういう文言を挿入する,そういう名称の部会にするということでございます。  諮問第59号につきましては,同じく「刑事法(強制執行妨害犯罪等処罰関係)部会」とする。刑事法部会の中に括弧書きを挿入することは同じでございますが,その括弧書きの内容は「強制執行妨害犯罪等処罰関係」,こういうことにするということにいたしたいと思いますが,いかがでしょうか。それでよろしゅうございますか--ありがとうございます。  特に御異議もないようでございますので,そのように取り計らわせていただきたいと思います。  総会委員として諮問事項の内容につきまして,ほかに御意見ございましたら御発言をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。--特にございませんか。  それでは,これらの諮問事項につきましては,部会で御審議をいただき,それに基づいて総会において更に御審議を願うということにいたしたいと存じます。  ほかに,この機会に御発言いただけることがございましたらお願いいたします。 ● 法曹養成検討会について,一つ。  さっきの○○委員の発言に賛成をしたいと思います。要するに,書いてある法律が分かりにくいのですね。それについて,やはり養成の仕方が悪いのだと思うのです。アメリカとかの法律を見ると,分かりやすく書いてあるのですね,行を変えたりABつけたり。それが日本の法律はちょっと何か親切ではなくて,だめなこと。  それからもう一つ,法曹教育でまずいことは,アメリカのロー・スクールなんか原文をもうぱっとやったらぱっと出てくる。どういう動詞がぱっぱっと三つぐらい,何とか何とか合意,ファシリティーとか,動詞とか何かも分からないのがばっと出たらそれがだあっと出てくる,頭に出てくるというぐらいに原文主義なのですが,日本の法曹教育は何かやたらと解説というか,司法試験の回答を上手にするために解説ばかり読み過ぎて原文覚えていない感じがあって,これを直さないとだめだと思うのです。原文をしっかり記憶し,しかも聞いただけで分かるように,弁護士とか何かもしゃべって,法廷で議論しているときに聞いただけで分かるように,しゃべれるようにしないと,あるいは読んだ法律が聞いて分かるというのじゃないとだめなんです。本当に法律がだめ,それから法曹教育がだめ,と言っては悪いのですが,何か私はやはりそこら辺,法曹養成検討会でそういうことをすごく強く,ロー・スクールなんか作るということに関連して,是非しっかりやってもらいたい。  聞いてもよく分からない,読んでも分からない,何をやっているか分からない,だめだと思いますよ。法曹人口が増えただけでは解決しない。法律を分かりやすくする。  それから,法律を学ぶときに原文をしっかり読む,覚える,そしてその精神を分かる。解説ばかりやって,司法試験のためにどうやってこれ答えたらいいのか,解説ばかり読んでいるから何かへんてこな法律文になっていると思います。 ● どうも貴重な御指摘,ありがとうございました。法文の平易化,国民に対する分かりやすさ,それからただいまの法曹養成,あるいは法学教育の在り方につきましては,司法制度改革の方でも提言のあるところでございますので,御期待に沿えるようになればいいと私も考えているところでございます。  あと,ほかに特にございませんか。  それでは,本日,大変議事進行に手間取りまして時間がかかりましたが,ちょうど5時になりました。これで本日の審議を終了することにいたしたいと思います。  長時間,御協力いただいてありがとうございました。