法制審議会第134回会議 議事録 第1 日 時  平成13年6月18日(月)  自 午後1時25分                        至 午後3時35分 第2 場 所  法曹会館「高砂の間」 第3 議 題  民事訴訟法及び人事訴訟手続法の改正に関する諮問第52号について         民事執行制度の見直しに関する諮問第53号について         自動車運転による死傷事故の罰則の整備に関する諮問第54号について         「民事及び商事に関する裁判管轄及び外国判決に関する条約準備草案に対する意見」の報告 第4 議 事 (次のとおり)               議         事  (開会宣言の後,法務大臣から次のようにあいさつがあった。) ● 法制審議会第134回会議の開催に当たりまして,一言ごあいさつを申し上げます。  本日は,委員・幹事の皆様方におかれましては,公私ともに御多用のところ御出席をいただきまして,誠にありがとうございます。  当法制審議会におきましては,皆様の御尽力によりまして,既に多くの重要な案件について答申をいただき,また現在も多数の諮問事項についてそれぞれ調査審議をいただいているところでございます。皆様方の御労苦に対しまして,厚く御礼を申し上げます。  ところで,内閣に設置された司法制度改革審議会におきまして,国民により身近な,利用しやすい司法制度を実現するための改革と基盤の整備について調査審議が行われ,その結果が今月12日に「司法制度改革審議会意見書」として取りまとめられました。この意見書には,司法制度の全般にわたり,さまざまな改革の提言が示されるとともに,現在,法務省において作業を進めております基本法制の整備につきましても,その早期実現を期待するとされております。引き続き,皆様方の御尽力をお願い申し上げる次第でございます。  さて,本日,御審議をお願いいたします議題の第1は,民事訴訟法及び人事訴訟手続法の改正に関する諮問第52号でございます。  21世紀の我が国社会における司法の果たすべき役割の重要性にかんがみ,国民が民事司法制度をより利用しやすくするという観点から,民事裁判を充実・迅速化し,専門的知見を要する事件への対応を強化するとともに,家庭裁判所,簡易裁判所の機能の充実を図ることが必要と考えられます。この点につきましては,司法制度改革審議会の「意見書」においても,同様の問題意識に立った種々の提言が示されているところでございます。  このような情勢にかんがみ,民事司法制度をより国民に利用しやすくするという観点から,民事訴訟法及び人事訴訟手続法を見直す必要があると考えます。  第2は,民事執行制度の見直しに関する諮問第53号でございます。  民事執行制度の見直しにつきましては,既に担保法制の見直しの観点から諮問をしているところでございますが,適正・迅速,かつ,実効的な司法救済を可能にするために,権利実現の実効性をより一層高めるという観点からの見直しも必要と考えられます。司法制度改革審議会の「意見書」においても,この見地からの提言がなされております。そのため,民事執行法その他の法律の整備を行う必要があるわけでございます。  第3は,自動車運転による死傷事故に対する罰則の整備に関する諮問第54号でございます。  近年,自動車運転に係る悪質・重大な業務上過失致死傷事件が後を絶たず,被害者やその御遺族の方々のみならず,多くの国民から,その量刑や法定刑が軽すぎるとの声が上がるなど,さまざまな指摘がなされております。すなわち,自動車運転による死傷事故には種々の態様がありますが,その中には,例えば,酒に酔い,又は著しい高速度で運転するなど,無謀・危険な運転行為であることを認識しながら,重大な結果発生の可能性を真しに考慮することなくこのような運転行為を行う者があり,その結果,人を死傷させた場合など,業務上過失致死傷罪という過失犯としての枠組みの中でとらえて処罰することが相当でないと認められる事犯も含まれております。  他方,自動車が広く普及して,国民の日常生活に不可欠なものとなっている実情等に照らしますと,一定の軽い業務上過失傷害事件につきましては,情状により,刑の言渡しをしないことが適当と考えられる場合もあります。  このような状況に照らし,自動車運転による死傷事故に対し,事案の実態に即した処分と科刑が可能となるよう,早急に法整備を行う必要があると考えて,ここに諮問したものです。特にこの問題につきましては,早急な法整備を求める国民の声等を踏まえ,今秋に臨時国会が開かれるようであれば,同国会に関係の法案を提出いたしたいと考えておりますので,よろしく御審議の上,できる限り速やかな御答申をいただきたいと存じます。  それでは,これらの議題につきまして,どうぞよろしく御審議をお願い申し上げます。  はなはだ簡単ではございますが,私のあいさつといたします。 (法務大臣退席) ● それでは,議事を始めたいと思います。会長をしております○○でございます。  ただいまの法務大臣のごあいさつにもございましたように,大臣から当審議会に諮問がなされました。したがいまして,本日の審議事項は,第1に民事訴訟法及び人事訴訟手続法の改正に関する諮問第52号。第2に,民事執行手続の見直しに関する諮問第53号。第3に,自動車運転による死傷事故に対する罰則の整備に関する諮問第54号についてであります。  以上,三つの事項につきまして十分御審議いただきたいと存じますが,審議に入ります前に,本日は司法制度改革審議会の事務局長にお越しいただいております。  司法制度改革審議会におきましては,司法制度の改革と基盤の整備について,国民的見地から調査審議が行われ,その結果が今月12日に最終意見として取りまとめられましたことは,既に皆様御承知のとおりでございます。そこで,司法制度改革審議会における審議経過及び結果につきまして,事務局長に御報告をお願いしたいと考えております。  その後,民事関係の二つの諮問事項につきまして御審議をお願いし,休憩を挟みまして刑事関係の諮問事項の御審議をお願いするという順に議事を進めさせていただきたいと存じます。  また,最後に国際裁判管轄制度部会の部会長から,「民事及び商事に関する裁判管轄及び外国判決に関する条約準備草案に対する意見」の取りまとめについての御報告がございますので,よろしくお願いいたします。  それでは,まず事務局長から御報告をお願いしたいと思います。 ● 司法制度改革審議会は,平成11年7月27日の第1回会議から,ほぼ2年間,審議時間で約250時間にわたります調査審議の結果に基づきまして,去る6月12日の第63回会議におきまして,「司法制度改革に関する意見書」を取りまとめ,佐藤会長から小泉内閣総理大臣にお渡しして内閣に提出いたしました。審議状況等につきましては,「意見書」の末尾に記載しておりますので,御参考にしていただければと思います。  お手元に,この「意見書」と,事務局において作成いたしました意見書の要約版をお配りしておりますが,この「意見書」は,審議会委員13人全員が一致したものとして決定されたものでありまして,21世紀の我が国の司法制度のグランドデザインを描いているものだというふうに思っております。  御依頼でございますので,私の方からこの要約版に基づいて「意見書」の内容の概略を説明させていただくことといたします。  まず,総論に該当いたします「今般の司法制度改革の基本理念と方向」におきましては,今般の改革は我が国社会の複雑多様化,国際化,事前規制型社会から事後監視救済型社会への移行など,社会経済情勢が大きく変容する中で,司法の機能を充実強化することが不可欠であると位置付けました上で,改革の三つの柱といたしまして,一つが司法制度をより利用しやすく,分かりやすく,頼りがいのあるものとするということ,二つ目が,この司法制度を支えるために,質,量ともに豊かなプロフェッションとしての法曹を確保するということ,三つ目が,国民の司法に対する信頼を高めるために,国民的基盤を確立することということを掲げてございます。  各論について御説明いたしますと,まず国民の期待に応える司法制度につきましては,民事司法制度の改革,刑事司法制度の改革,国際化の対応に分けて記載してございます。  民事司法制度の改革につきましては,まず民事裁判の一層の充実・迅速化の実現のために,計画審理の推進,証拠収集手続の拡充等により,審理期間を半減することを目指すべきであるとしております。その上で,専門的知見を要する事件につきましては,専門委員制度の導入や,鑑定制度の改善を図り,特に知的財産権関係事件につきましては,東京,大阪両地方裁判所の専門部を実質的に特許裁判所化することなどによりまして,その対応を強化すべきであるとしております。労働関係事件につきましても,地裁段階に労働調停の導入を提言し,さらに,労働委員会の救済命令に関する司法審査や,労働参審制などについて早急に検討を開始すべきだとしております。  また,人事訴訟等の家庭裁判所への移管,簡易裁判所の事物管轄や少額訴訟の上限額の引上げ等により,家庭裁判所,簡易裁判所の機能を充実すべきとしており,裁判結果の実現に関しましても,債務者の履行促進などの民事執行制度の強化を打ち出しております。  利用者が,より容易に裁判所を利用できるよう,提訴手数料の低額化,民事法律扶助の拡充,司法の利用相談窓口の充実等を提言しております。また,この文脈では弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入も打ち出しておりますが,一律にすべての裁判について敗訴者負担制度を導入するのではなく,導入しない訴訟の範囲等も検討すべきだとしております。  また,裁判外紛争解決手段,ADRの拡充・活性化を図るべきであるとし,ADR関係諸機関の間の連携を強化するだけでなく,ADR基本法の制定も視野に入れた共通的な制度基盤の整備を図ることを提言してございます。  最後に,司法の行政に対するチェック機能の強化につきましては,さまざまな問題点が指摘されておりますものの,単に司法という側面からだけの改革では難しいということから,司法・行政の役割を見据えて,総合的,多角的な検討を早急に開始すべきだとしております。  次に,刑事司法制度の改革につきましては,まず刑事裁判の充実・迅速化を図るべきだということで,連日的開廷の確保,争点整理の充実と証拠開示の拡充を含みました新たな準備手続の創設を提言しております。また,被疑者,被告人を通じての公的弁護体制を確立すべきであり,公的資金を導入するとともに,それにふさわしい機関による運営をすべきだとしております。さらに,検察審査会の一定の議決に法的拘束力を付与する方向で,検察審査会制度を改革すべきであるとし,また取調べの適正を確保するため,取調べ状況等を書面により記録することを義務付ける制度の導入を提言しております。犯罪者の改善更生や,被害者等に保護につきましても,その充実・強化を提言してございます。  国際化への対応につきましては,民事司法,刑事司法とも国際化に対応すべきとしているだけでなく,アジア諸国等に対する従来からの法整備支援をより一層推進すべきであるとし,さらに,我が国の国際化に対応して,弁護士も国際化に対応するとともに,外国法事務弁護士との提携・協働につきましても,これを推進すべきであるとしております。  次が,「司法制度を支える司法の在り方」についてでございますが,制度を動かすものは人であるということから,質・量とも豊かな法曹を確保するとの観点から,まず,法曹人口の拡大について提言し,現在,年間1,000人の司法試験合格者数を,平成16年には1,500人,更に新たな法曹養成制度の整備状況等を見定めながら,平成22年ころには3,000人達成を目指すべきであるとしております。仮にこのような形で増加を続ければ,平成30年ころには,実働法曹人口は5万人程度になる見込みでございます。  また,裁判官及び検察官につきましても,具体的な数値目標は掲げてはございませんが,質,能力の大幅な向上と,大幅増員の実現を提言しており,さらに,裁判所職員,検察庁職員,関係法務省職員につきましても,その質,能力の向上及び適正な増加を求めてございます。そして,このような司法の人的基盤につきましては,行政改革を円滑に実施する観点からも,その飛躍的増大を図ることが必要不可欠であり,そのために法的措置を含め,大胆かつ積極的な措置を取るべきであるとしております。  そして,法曹の質の向上のためには,法曹養成制度を改革する必要があるといたしまして,法学教育,司法試験,司法修習を有機的に連携させたプロセスとしての法曹養成制度を新たに整備すべきであり,その中核として,法科大学院を設置すべきであるとしております。この法科大学院につきましては,平成16年4月の開校を目指すべきとしておりますが,公平性,開放性,多様性を確保するために,法学部出身者でない者や,社会人等を一定割合以上入学させるとともに,夜間制や通信制も認めるべきであるとし,教育内容につきましては,理論と実務の架橋を目指し,その課程の修了者の七,八割程度の者が新司法試験に合格できるような充実した教育を行うとともに,厳格な成績評価を行うべきとしております。設立につきましては,基準を満たしたものを認可することとし,広く参入を認める仕組みとした上で,教育内容の維持,向上を図るために,適切な機構による第三者評価を行うこととしております。  司法試験につきましては,このような法科大学院の導入に伴い,法科大学院の教育内容を踏まえた新たなものに切り替え,第三者評価機関による適格認定を受けた法科大学院修了者には,新司法試験の受験資格を認めることとすべきであるとしております。ただし,経済的事情や,既に実社会において十分な経験を積んでいるなどの理由により,法科大学院を経由しない者にも法曹資格取得のための適切な途を確保するとしております。  司法修習につきましては,実務修習を中核として,内容を適切に工夫しつつ実施することとしております。  弁護士制度の改革につきましては,弁護士業務の公益性を重視するとともに,その活動領域を拡大するために,弁護士法30条の兼職,営業の制限を自由化すべきだとしております。また,弁護士へのアクセスの拡充のために,弁護士報酬の透明化,弁護士情報の一層の開示,執務態勢の共同化などを強化すべきであるとしております。  弁護士会の在り方につきましては,その運営の透明化を図るとともに,弁護士倫理を一層確立するために,綱紀・懲戒委員会の委員構成の見直しや,外部委員への評決権の付与などの綱紀・懲戒手続の透明化などを図るべきであるとしております。  また,隣接法律専門職種の活用につきましては,いずれも信頼性の高い能力担保措置を講じた上,司法書士には簡裁における訴訟代理権を,弁理士には特許権等の侵害訴訟について弁護士との共同代理権を付与し,税理士には弁護士である訴訟代理人とともに裁判所に出頭し,陳述する権限を認めるべきであるとしていますほか,ADRを含む訴訟手続外におきましても,隣接法律専門職種の積極的な活用を図るべきだとしております。  検察官制度の改革につきましては,検察官の意識改革のために,検事に一定期間,一般の国民の意識,感覚を学ぶことができる場所での執務を義務付けるなどとともに,検察審査会の建議,勧告制度の充実・実質化を求めております。  裁判官制度の改革につきましては,21世紀の我が国社会における司法を担う質の高い裁判官を安定的に確保するために意見を述べてございます。給源の多様化,多元化につきましては,これまで判事の給源のほとんどを占めてきました判事補に,原則として裁判官の職務以外の多様な法律専門家としての経験を積ませることを制度的に担保するとともに,特例判事補制度は段階的に解消し,他方,弁護士任官を積極的に推進することとしてございます。  裁判官の任命手続につきましては,国民の意思を反映させるために,最高裁判所にその諮問を受け,指名されるべき適任者を選考し,その結果を意見として述べる機関を設置するべきであるとしております。裁判官の人事制度につきましては,評価基準の明確化などを打ち出しております。  最後に,法曹等の間におきます人材交流につきましては,判検交流に偏っているとの批判もありますことなどから,その是正をも含め,国民の期待と信頼に応える法曹を作り育てるためにも,人材交流を促進すべきだとしております。  三つ目の柱の「国民的基盤の確立」につきましては,一般の国民の裁判の過程への参加に関し,差し当たり刑事訴訟手続について,広く一般の国民が裁判官とともに責任を分担しつつ協働し,裁判内容の決定に主体的,実質的に関与することができる制度の導入を提言しております。刑事訴訟手続以外の裁判手続の導入につきましては,この新たな制度の運用状況等を見ながら,将来的な課題として検討すべきであるとしております。  この刑事司法制度への参加制度の概要につきましては,括弧書きにしてございますが,一定の重大な刑事事件につきまして,一般の国民から無作為抽出された者を母体として,公正な裁判を確保するという見地から,欠格,除斥事由や忌避制度等の適当な方法により選任された裁判員が,基本的に裁判官と対等の権限を有し,裁判官とともに審理に参加し,有罪・無罪の決定,及び刑の量定を行うというものでございまして,当事者からの事実誤認や量刑不当を事由とする控訴を認めることとしております。裁判官と裁判員の数,及び評決の方法につきましては,裁判員の主体的,実質的関与の確保,評議の実効性の確保,更に対象となる事件の重大性,国民の義務,負担等を考慮の上,適切な在り方を定めるべきとしております。また,先ほど述べました専門委員制度の導入や,既存の参加制度の拡充も提言しております。  これらの国民の司法参加を容易にするための条件整備といたしまして,法律そのものを国民に分かりやすいものとする基本法制の改正など,分かりやすい司法を早期に実現するとともに,司法教育の充実や司法に関する情報公開の推進も提言しております。  最後に,これらの改革を実現するために,「今般の司法制度改革の推進」といたしまして,内閣に対しまして,強力な推進体制を整備し,一体的かつ集中的に取り組んでいただくことを要望しております。そして,これらの施策を実施するために必要な財政上の措置につきまして,特段の配慮を求めている次第でございます。  最後に,「おわりに」という項におきましては,従来の司法制度改革が法曹三者を中心に進められてきましたが,必ずしも社会経済の変化等に柔軟に対応できなかったことを真しに反省し,今後は,法曹三者は,外部の評価を真しに受け止め,適切に対応していく必要があることを指摘しますとともに,何よりも,司法制度の利用者の意見,意識を制度の改革・改善に適切に反映していくべきであるということを付言して,指摘してございます。  ところで,内閣は,当審議会の意見に関しまして,去る6月15日に「対象方針」及び「政府声明」を閣議決定しております。お手元に,この「対処方針」と「政府声明」をお配りしておりますので,詳細はこれを御覧いただきたいと思いますが,対処方針といたしましては,政府は,当審議会の意見を最大限に尊重し,司法制度改革の実現に取り組むこととし,改革の基本理念や推進体制について定める司法制度改革推進のための法律案をできる限り速やかに国会に提出して,その成立を期すとともに,3年以内を目途に,関連法案の成立を目指すなど,所要の措置を講ずるというふうにしてございます。  以上が審議会の概要の説明でございます。ありがとうございました。 ● どうもありがとうございました。  それでは,せっかく御報告いただきましたので,ただいまの御報告につきまして御質問がございましたら承りたいと思いますが,いかがでしょうか。 ● 2点,質問があります。  この審議会は,私の高校の先輩であられる○○先生が取りまとめられたので,これ以上強く賛成はできないのですが,二つ,余り「意見書」では報告を受けていないのですが,若干基本的なところをどういうふうにお考えかというのをお聞きできたらなと思います。  一つは,国際的な通用性というのは明治維新からのあれですが,日本の,とりわけ国立大学で応用的な学部というか,学問というのは,法律とか工学とか医学とかというところでは,学位を与えるのですけれども,国際的に通用すると,どこかほかの国に行って,それで医者を開業するとか,それからエンジニア・デグリーで何か企業とか研究所で上がるというのはなかなかできない。同じようなことが法学部出身者にもずっと言えて,これをどうするかというのは結構重要だと思うのですね。留学生は何も自分の国に帰っても,アメリカに行っても何も通用しないし,日本では商売しにくいというか,開業しにくいしということがあって,何か応用的な学部の通用性といいますか,国際的通用性というのが全くない。そういうふうに法律とか制度とか慣習ができていないことなんですが,そこら,ちょっと何とかしてくれないかなと思いますね。  それは,一つは結局競争力と関係があって,弁護士をたくさんつくるとか,いろいろ法曹人口を強化するという,そういうのは分かるのですが,結局弁護士なんかでもアメリカの一流の法曹学校といいますか,ロー・スクールみたいなものを出たのが,あくどいということはないけれども,とにかく口は八丁,手は八丁,すべて八丁みたいな人がやるとき,こんな生ぬるい--と言っては悪いですけれども,こんなので大丈夫かなという気がしますね。特に,ただ質的には変わらないのじゃないかというのが一つあって,とにかく何かならないかなと私は思いますね。  それから2番目は,法曹養成制度の改革で,法科大学院以外のところでも,経由しない人にも法曹資格取得の道を確保するとあって,これでいいのだと思うのですが,何かもうちょっとあれしないと,やはり何か藩閥みたいな,学閥みたいなことで,指定校みたいのが多分法科大学院になるわけでしょう。何かできるのでしょう。そうすると,何か藩閥みたいな感じになって,ちょっと機会の平等とかということで余りアイデアが十分に生かされないことに,そういうことからの批判が出てくるので,何となく弱々しい感じになっていくのじゃないかと思うのですね。だから私は,競争力とか国際的な通用性というのはものすごく頑張らなければだめだし,機会の平等もものすごく頑張らなければだめなんで,ちょっとこのでかい「意見書」をちゃんと読んではいないので余り大きなことは言えないのですけれども,何かやはり基本的に,19世紀の終わりごろの若干延長の色が強すぎるのじゃないかなという感じがして,もうちょっと革命的というか,考える方向に進めてほしいなと思うのです。  たまたま文官任用令なんていうのは1897年に山県有朋が,公務員試験というか,あれを受けた者しか官庁のトップというか,最高のポストに就けないというふうに97年にやったわけですね,帝国議会の方からやったばっかりですからものすごい何か面倒くさいことがあって,面倒くさいから政治家といいますか,市民社会というか,そういうことからの変な介入を断ち切るために,官僚主導を完全にするために1897年の改正があるわけですけれども,それがとにかく,戦争敗北,占領をこえて,まだそのまま生きているわけですから,やはりもうちょっと何か質的に,もっと前向きな感じあってもいいのかなと思っていたのですが,この司法制度の改革についても,もう一歩,半歩,あるいは4分の1歩,何か方向性だけでも残していくというのがあれば,私はうれしい。  ただ,高校の先輩の○○先生ですから,余り根本的な反対じゃなくて大賛成なんですが,とにかく今までに比べたら5歩も10歩も前進しているわけでありまして,もうちょっと何かそういうところ,これから3年間の立法で,法制化する段階で,法制化まではいかないかもしれないけれども,更に3年を超えたときにこういう方向でいこうというものを入れていただけたら非常に幸いでございます。どうも勝手なことを申しました。 ● ただいまの御質問の第1は,学位の国際通用性といいますか,そういう問題にかかわるかと思います。  第2は,法学大学院というものをつくったのだけれども,それが十分今回の司法制度改革を推進するのに有用であるかどうか,そういう御趣旨でございましょうか。 ● はい。 ● それでは,事務局長,お願いできますか。 ● 会長からお答えいただいた方が……。  最初の学位につきましては,「意見書」の69ページに,「カ 学位」という項目を掲げまして,「国際的通用性をも勘案しつつ,法科大学院独自の学位を新設することを検討すべきである。」というふうに提言してございますので,今後の問題として,いい学位をつくっていただければというふうに思います。  それから,2番目の御質問に関しましては,まず,法科大学院が指定校だけだというようないろいろな御批判があるようなことを承っておりますけれども,63ページ以下に,「教育理念」,「制度設計の基本的な考え方」というふうに書いてございまして,先ほども口頭で説明しましたように,基準を満たしたものを認可するという,広く参入を認める仕組みだということにしておりますので,決してそういう一部の大学だけがつくるような法科大学院にはならないというふうに確信しております。  司法試験につきましては,この法科大学院卒業者以外の法科大学院を経由しない方々にどのような道を講じていくかということは,これはしなければならないという提言をしてございますので,必ず制度設計に入ってくるはずでございますが,具体的方向性は今後の検討にゆだねているということでございます。お答えになりましたかどうか分かりませんが,そういうことでございます。 ● 私も,たまたまこの審議会に関与しておりましたので申し上げますけれども,私どもといたしましては,かなり思い切った提言をしたつもりでございます。あるいはこれでは不十分であるというふうな評価もおありになるかとも思いますけれども,審議会の方としては十分できるだけのことは提言したという,そういう考え方でございます。  なお,本日は○○委員がこの審議会の委員として御出席くださっておられるわけで,司法制度改革審議会の会長としておいでいただいているわけではございませんけれども,何か今の御発言について,もし一言コメントでもおありになれば,いかがでしょうか。 ● 今の会長と,事務局長のあれで尽きているのですが,一言で言いますと,相当夢を描きながら着地したのがこれということでありまして,皆さん相当夢を持ちながら考えられたことだと思います。  いわゆる法科大学院の方ですけれども,公平性,開放性,多様性ということを強調しておりますし,とりあえず3,000人ということを目指しておりますけれども,それは市場によって決まってくることであって,決してそれがキャップになるとか,そういうことではありませんので,それは最終的な日本の社会が決めることだというように考えております。非常に夢を抱きながら,しかし現実も考慮しながら着地したのがこういう姿であるということを御理解いただきたいと思います。 ● どうもありがとうございました。  ほかに御質問ございますでしょうか。--特にございませんか。  それでは,申し訳ございませんが全体の時間の配分もございますので,事務局長に対する御質問は以上で終了させていただき,本日予定しております事項の審議の方に入らせていただきたいと思います。  事務局長には,御多忙のところを御出席いただきましてありがとうございました。 (事務局長退席) ● それでは,先ほど申し上げました最初の議題であります民事関係の諮問事項につきまして御審議をお願いしたいと存じます。  初めに,諮問第52号及び諮問第53号につきまして,事務当局に諮問事項を朗読していただきます。 ● 私の方で朗読させていただきます。 諮問第52号  民事裁判を充実・迅速化し,専門的知見を要する事件への対応を強化するとともに,家庭裁判所・簡易裁判所の機能の充実を図ることにより,民事司法制度をより国民に利用しやすくするという観点から,民事訴訟法及び人事訴訟手続法を改正する必要があると思われるので,それぞれについて要綱を示されたい。 諮問第53号  権利実現の実効性をより一層高めるという観点から,民事執行制度の見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。  以上でございます。 ● それでは,続きましてこれらの諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由等につきまして,事務当局から説明をしていただきます。 ● それでは,私の方から,諮問第52号と第53号について御説明申し上げます。  我が国社会の複雑・多様化及び国際化に伴いまして,専門的知見を要する事件を含め,民事紛争がますます増加するものと予想されるところでございますが,我が国の民事司法が果たすべき役割もますます増大していくものと考えられるわけでございます。そのような状況下で,民事裁判を更に充実・迅速化し,専門的知見を要する事件への対応を強化し,家庭裁判所・簡易裁判所の機能の充実を図るとともに,権利実現の実効性をより一層高めることにより,国民が利用者として容易に司法へアクセスすることができ,国民に分かりやすいプロセスにより,多様なニーズに応じた適正・迅速,かつ実効的な司法救済を可能にすることが急務であるというふうに考えられるわけでございます。  やや抽象的に申し上げましたが,具体的に申し上げますと,民事訴訟における計画審理の推進の問題,それから訴えの提起前における証拠収集手続の拡充など,民事訴訟の見直しがまず第1点でございます。  それから,人事訴訟の事件の家庭裁判所への移管などを含みます人事訴訟手続法の見直し。それから,勝訴判決を得た債権者等の権利実現の実効性を確保するための民事執行制度の見直しなどでございます。  このうち,人事訴訟手続法の見直しにつきましては,現行の人事訴訟手続法は明治31年に成立して以来,数回,部分的な改正は行われたわけでございますが,それにとどまっておりまして,条文の体裁が難解な片仮名・文語体のままになっているために,現代語化を含めた全面的な見直しが不可欠でございます。また,民事執行制度につきましては,既に本年2月に担保権の実行としての執行手続に関する法制の見直しについて諮問がされているところでございますが,判決等の債務名義に基づく強制執行に関しましても,権利実現の実効性をより一層高めるという観点から,債務者の履行推進のための方策,債務者の財産を把握するための方策,それから占有屋等による不動産執行妨害への対策等の新たな方策の導入を含めた民事執行制度の見直しが必要でございます。これらの点につきましては,先ほど司法制度改革審議会の「意見書」の内容が紹介されましたけれども,その「意見書」におきましても,同様の問題意識から,同様の提言がされているところでございます。そこで,各諮問案記載の事項につき,法制審議会の御意見をちょうだいし,それぞれについて要綱を示す必要があるというふうに考えているところでございます。  内容的には,以上のとおりでございます。 ● それでは,ただいま説明のございました諮問事項を始め,全般的な点につきまして,まず御質問がございましたら伺いたいと存じます。どなたからでも結構でございますが,いかがでしょうか。--特に御質問はございませんでしょうか。  御質問がございませんようでしたら,次にこれらの諮問事項の審議の進め方について,御意見がございましたら御発言をお願いしたいと思いますが,いかがでしょうか。 ● 先ほど御説明がありましたように,司法制度改革審議会の最終意見で,民事司法の改革について具体的に提言がありました。民事裁判を国民に分かりやすく,そして利用しやすいものにするために,機能の充実・迅速化ということは,これは言うまでもないことでありまして,これをどういうふうに実現するかということが民事裁判に対する国民の期待に応えるものだと考えております。こうした観点から,現行の訴訟手続の見直しについて,早急に,多角的に検討し,調査審議することが大事であり,必要だと考えております。  そこで,諮問第52号ですが,これは内容において専門的,技術的な事項が相当含まれておりますので,新たな部会を設けて調査審議し,その結果の報告を受けて,更にこの総会で審議するのがよいのではないかと考えております。  それから,諮問第53号については,既に御説明がありましたように,担保権に関する法制を見直すための担保・執行法制部会が設置されておりますので,この部会であわせて調査審議していただくのがよろしいのではないかと,こういうふうに考えております。 ● ただいま,○○委員から,諮問第52号については新たな部会を設置して,そちらの方でまず調査審議をしていただき,その結果を報告していただいて,この総会で御審議願うという御提案。それから,諮問第53号につきましては,既に設置されております担保・執行法制部会の方でまず調査審議をいただいて,その結果に基づいて総会で更に審議をするという御提案がございました。これらの御提案につきまして,ほかの委員の皆様方,いかがでしょうか。 ● 今,○○委員のお話の中に出てまいりました担保・執行法制部会の,私は部会長をしておりまして,その関係で一言申し上げますと,御承知のように債務名義に基づく強制執行と,担保権の実行とは現在は一つの法律の中で規定されておりまして,両者は密接に関連しておるところであります。民事執行制度の見直しを考える際には,やはり担保権の実行とのバランス,あるいはそれとの関係を考慮する必要があるというふうに考えますので,諮問53号につきましては,私自身も,私が現在部会長をしております部会において審議をするのが,特に新たな部会を立ち上げる必要もないという意味で効率的でもありますし,法律的にも適切ではないかと考えております。  それから,諮問第52号につきましても,これも○○委員の御意見と同じく,極めて専門的,技術的な事項を扱うことになりますので,既存の部会がない以上は新たな部会を立ち上げて,そこに審議をゆだねるのが適当ではないかと考えております。 ● ただいま,既に存在しております担保・執行法制部会の部会長をしておられる○○委員から,○○委員の御提案をサポートするという御意見がございましたが,ほかに御意見ございますでしょうか。 ● 結論だけ申し上げます。お二人の委員の御提案に賛成でございます。 ● ほかに,御意見は特にございますか。--よろしゅうございますか。  ほかに御意見もございませんようですので,ただいま御提案がありましたとおり,諮問第52号につきましては新たに調査審議する部会を設け,諮問第53号につきましては,担保・執行法制部会において調査審議をするということに決定いたします。  次に,新たな部会に属すべき総会委員,それから臨時委員及び幹事の指名に関してでございますが,大変恐縮でございますが,この点につきましては従来どおり会長に御一任願えますでしょうか。 (「異議なし」と発言する者あり) ● よろしゅうございますか。  それでは,事務当局,関係の委員・幹事の皆様方とも十分御相談させていただいた上,決定することにしたいと存じます。  ついで,諮問第52号について,新たに設置する部会の名称でございますが,これは諮問事項との関係から,「民事・人事訴訟法部会」と呼ぶことにしてはいかがかと考えておりますが,どうでしょうか。よろしゅうございますか。  特に御異議もないようでございますので,そのような名称とさせていただきます。  そこで,これらの諮問事項につきましては,それぞれまず部会で御審議を願うわけでございますけれども,この際,総会委員として,諮問事項の内容について御意見がございましたら承りたいと思いますので,どうぞ御発言ください。--特にございませんでしょうか。  特に御意見がございませんようですので,それではこれらの諮問につきましては,部会で御審議をいただき,それに基づいて総会において更に御審議を願うということにいたしたいと存じます。  まだ少し時間が早いようでございますので,刑事関係の諮問事項についても御審議をお願いしてよろしゅうございますか。  それでは,まず初めに,諮問第54号につきまして,事務当局に諮問事項を朗読していただきます。 ● それでは,諮問を朗読いたします。 諮問第54号  自動車運転による死傷事故の実情等にかんがみ,早急に罰則を整備する必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を承りたい。 別紙  要綱(骨子)   一1 アルコール若しくは薬物の影響により,又は運転に必要な技能を有しないため,正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ,よって,人を負傷させた者は十年以下の懲役に処し,人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処するものとすること。自動車の進行を制御することが困難な著しい高速度で自動車を走行させ,よって人を死傷させた者も,同様とすること。    2 赤色信号に従わず,又は走行中の自動車等の直前への進入その他の人若しくは自動車等に著しく接近してその通行を妨害する方法で,かつ,これらの方法によるときは重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し,よって人を死傷させた者も,1と同様とすること。   二 自動車を運転して刑法第二百十一条前段の罪(人を傷害した場合に限る。)を犯した者については,傷害が軽いときは,情状により,その刑を免除することができるものとすること。 以上でございます。 ● それでは,続きましてこれらの諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由等につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ● 諮問第54号につきまして,提案に至りました理由等を御説明申し上げます。  近時,飲酒運転や著しい高速運転など,最も基本的な交通ルールを無視した無謀な運転による悪質・重大な死傷事犯が後を絶たない状況にあり,被害者やその御遺族の方々をはじめ,広く国民の間から,その刑が軽すぎるとの声が上がるなど,その罰則や科刑の在り方に関する国民の関心も急速に高まっております。  これまでは,このような悪質・重大な死傷事犯についても,不注意な運転行為として犯罪をとらえる業務上過失致死傷罪により処罰されてまいりました。しかしながら,危険な運転行為であることを認識しながら,衝突の危険や,これらによる死傷の結果発生の可能性を真しに考慮することなく,このような運転行為を行い,その結果,人を死傷させた場合は,一般的な過失の死傷事犯とは別に,暴行による傷害や,あるいは傷害致死に準じた犯罪として処罰し得るものとすることが,事案の実態に即した刑罰の実現のために適当であります。  一方,今日では,自動車の運転は国民の日常生活に不可欠のものとなり,自動車運転に係る業務上過失致死傷事犯は,大多数の国民がその日常生活の過程で犯しかねない状況となっております。そのため,事案にかかわらず,その多くを刑罰の対象とするときには,国民の大多数に前科の烙印を押すことにもなりかねないなどの問題があり,軽い致傷事件であって悪質でないものについては,処罰をしないことができるものとし,その旨を実体法上明らかにすることが適当であります。  そこで,このような実情を踏まえまして,自動車運転による死傷事故に対し,事案の実態に即した処分と科刑が可能となるよう,早急に所要の法整備を行う必要があると考え,今回の諮問に及んだものであります。  次に,諮問の内容について御説明申し上げます。  今回の諮問に際しましては,事務当局において検討した案を改正案の要綱(骨子)としてお示しして諮問することといたしましたので,この案を基に,具体的な御議論をお願いしたいのであります。  初めに,要綱(骨子)の一について御説明申し上げます。  これは,アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させるなど,故意に危険な運転行為をした結果,人を死傷させた者を,暴行により人を死傷させた者に準じて処罰しようとするものであります。もっとも,このような行為は,人の死傷の結果を生じさせる実質的な危険性の点において,暴行に準ずると評価されるものでありますが,致死の場合の法定刑の下限については,事案の実態に即した適正な処分を行い得るよう,傷害致死罪の2年以上の有期懲役よりも引き下げて,1年以上の有期懲役としております。他方,このような運転行為の反社会性とともに,自動車運転という事柄の性質に照らし,いったん事故になると極めて重大な結果になりやすく,また1回の事故で多数の死傷者が出ることも少なくないこと等を考慮し,法定刑の長期は,傷害又は傷害致死と同程度とし,致傷の場合における選択刑としての罰金等は設けてございません。  より具体的に御説明申し上げますと,1の前段は,「アルコール若しくは薬物の影響」により,又は「運転技量が極めて未熟」であるため,「正常な運転が困難な状態」で自動車を走行させる行為によって人を死傷させる罪であります。  その後段は,その速度が速すぎるために,道路状況,運転車両の状況等に応じた運転操作によって自車の進行を制御した走行をすることができず,又はこれが困難となるような「著しい高速度」で自動車を走行させる行為によって人を死傷させる罪であります。  次に,2は,「赤色信号を無視し」,又は「走行中の自動車等の直前への進入」など,「人又は自動車等に接近して,相手方に自車との衝突を避けるための急制動等の回避行為を余儀なくさせる方法」で,かつ,「これらの方法によるときは重大な交通の危険を生じさせる速度」で自動車を運転する行為によって人を死傷させる罪であります。  次に,要綱(骨子)の二について御説明申し上げます。  これは,自動車を運転して業務上過失傷害罪を犯した者については,「傷害が軽いとき」はその情状によって刑を免除することができることとするものであります。すなわち,傷害が軽い事案について,過失の程度や被害者の処罰感情等,諸々の状況を考慮して刑を免除し得るものとするものであります。  諮問に係る改正案の要綱(骨子)の概要は,以上のとおりでございます。十分御議論の上,できる限り速やかに御意見を賜りますよう,お願いする次第であります。 ● ほかに,配布資料の説明等がございますのでしょうか。--では,お願いいたします。 ● それでは,配布資料等の内容について,若干御説明をいたします。  席上にお配りしております資料は,配布資料4点と,参考資料1点の合計5点でございます。  配布資料の第1は,「刑1」という表示をしてございますが,先ほど朗読いたしました諮問第54号でございます。  配布資料の第2は,「刑2」としてございますが,統計資料でありまして,全部で内訳として10点,御用意いたしました。  まず第1表と第1図でありますが,これは交通事故の発生件数と死傷者数の推移でございます。  第2表と第2図は,自動車保有台数と運転免許保有者数の推移でございます。  第3表は,重度後遺障害者数の推移を示したものでございます。  これらの図表から分かりますように,特にまず第1表,第1図の関係でありますが,我が国の交通事故発生件数と,それによる死傷者数の推移を見ますと,昭和30年から45年にかけまして著しく増加しております。その当時,こうした交通安全の確保が社会的な問題となりまして,昭和43年には刑法の改正が行われまして,業務上過失致死傷罪の法定刑の長期が禁錮3年から懲役5年に引き上げられるなどしたほか,昭和45年には,交通安全対策基本法が制定され,5か年ごとに交通安全基本計画が作成されるなど,国を挙げての交通安全対策が進められました結果,昭和52年ころまでには交通事故発生件数,あるいは死傷者数とも大幅に減少をしております。  しかしながら,その後,交通事故発生件数,死傷者数とも増加に転じまして,平成12年には交通事故発生数が93万1,934件,それから死傷者数が116万4,763人ということで,それぞれ史上最悪となっているものでございます。  その理由につきましては,第2表,第2図からも分かりますとおり,昭和52年から平成12年までの間に自動車保有台数,更には運転免許保有者数が2倍以上に激増しているといったことなどが指摘されているところでございます。  なお,このような状況の中にありまして,第1表,第1図にも見られますように,事故による死亡者の数につきましては,平成4年をピークに減少傾向になっております。この点につきましては,シートベルトの着用率の向上ですとか,車両の安全性の向上などが指摘されているところでございます。  他方,このように死亡者数が減少傾向にあります反面,負傷者の数は大きく増加しておりまして,第3表にありますように,重度後遺障害者数は年々増加しているという点が注目されるところでございます。  次に,第3図,それから第4表の関係でございますが,これは検察庁における自動車等による業務上(重)過失致死傷被疑事件に関する通常受理人員の推移でございます。交通事故の発生数,それから死傷者数の増加を反映いたしまして,平成3年から12年までの間,この自動車等による業務上,あるいは重過失致死傷被疑事件数は,59万9,604人から,85万3,881人に増加しておりますが,その間,刑法犯総数も増加しております関係で,自動車等による業務上,あるいは重過失致死傷被疑事件数が刑法犯総数に占める割合は,各年ともおおむね7割程度ということでございます。  なお,次の第4図で平成12年における主要な各種犯罪の刑法犯総数に占める割合を円グラフで示しております。  続きまして,第5表でございますが,これは自動車等による業務上(重)過失致死傷被疑事件に関する検察庁の受理・起訴・不起訴の人員の累年の比較でございます。  なお,この起訴・不起訴人員の合計と受理人員との間に差がございますが,これは他の検察庁に移送した分や家庭裁判所に送致した分などでございます。  それから,第6表でありますが,これは業務上過失致死傷罪,それから重過失致死傷罪の通常第1審事件の有罪人員でございます。業務上過失致死傷罪の法定刑の上限は懲役5年でありますが,この表の「懲役・禁錮」の欄のうちの7年以下,5年以下,それから3年という欄を御覧いただきますと,こうした3年以上の懲役又は禁錮を言い渡された者の数は,総数の中で占める比率は決して大きくありませんが,その増加の傾向が顕著となっております。また,酒酔い,著しい高速度等の悪質な運転者には,通常懲役刑が選択されて言い渡されておりますが,この表の「懲役」の欄を御覧いただきますと,このような懲役刑を言い渡された者についても,近年増加傾向が見られるというところでございます。  続きまして,配布資料の第3でありますが,これは「刑3」としておりますが,自動車等による悪質・重大業過事犯事例集でございます。これは,全国の検察庁に照会いたしまして,把握できました自動車等による業務上,あるいは重過失致死事件のうち,平成10年から12年の3年間に3年以上の懲役又は禁錮の実刑判決が言い渡されました事案19件につきまして,その事案の概要や判決結果等をまとめたものでございます。  さらに,これらの事例とは別に,裁判所がその判決書におきまして,特に被告人の悪質・危険な運転行為について,「故意犯に近いもの」といったような言及をしている事例のうち,本諮問の審議の参考になると思われるもの2件を,参考事例として付け加えて掲げてございます。御覧のとおり,このような重大事故の多くが,運転者において酒酔い,あるいは著しい高速度,赤信号無視といった危険な運転行為を故意に行ったことにより発生していることが分かるわけでございます。  それから,配布資料の第4でございますが,これは「刑4」というふうに表示してございます。自動車運転による死傷事故に関する主要国の法制を比較したものでございます。当局が調査いたしましたアメリカの2州,イギリス,ドイツ,フランス,韓国における関係の罰則を一覧表にまとめてございます。  なお,アメリカにつきましては,交通事故に対して一般的に厳しいと言われておりますミシガン州と,逆に寛容であるという批判もございますメリーランド州を選んでいるところでございます。  最後に,その他参考資料といたしまして,本諮問に関係のあります新聞記事をお配りしてございます。  以上で配布資料等の御説明を終わらせていただきます。 ● それでは,ただいま説明のありました諮問事項,それから資料等,全般的な点について,まず御質問があれば伺いたいと思います。いかがでしょうか。 ● 自動車による事故という場合に,未成年というのはどんな位置付けになっているのでしょうか。未成年が犯した事件。  私の知っている例でも,アメリカの某政治指導者の非常に近い方が,未成年のときに過失致死みたいな自動車事故でだれかを死に至らしめた例があるのだけれども,何も罰されなくて済んだみたいな例がちょっと記憶にあるのですが,例えばアメリカとかイギリスとか,日本の場合はどうなっていますか。 ● ただいまのデータ,数値,細かいものは持ち合わせておりませんけれども,まず少年の場合は,家庭裁判所にすべて送致されるわけです。家庭裁判所で,刑事処分が相当か,あるいは保護処分が相当か判断いたしまして,刑事処分が相当と認められた事件については検察官の方に再び送致され,そこで起訴をするということになっております。  一般的に申し上げまして,交通事故といいますか,これはほかの事件に比べて検察官に送致されることが多いように記憶しております。したがいまして,その部分は刑事処罰の対象になっているということでございます。 ● アメリカの場合はどうなんでしょうか。ミシガンとかメリーランドとかは。 ● アメリカにつきましては,各州によってまたいろいろ違うものですからはっきりしたことは申し上げられないのですけれども,アメリカの場合にも基本的にいわゆる少年裁判所の管轄に属するものと,普通の刑事裁判所に属するものとに分けられておりまして,それがどういう場面で交通事故の場合に少年裁判所に行き,あるいは刑事裁判所に行くのかと,それはちょっとただいま正確なことを申し上げる資料がございません。また,別途の機会にでも御説明させていただければと思いますが。 ● ほかに御質問ございますか。 ● 細かいことかもしれませんけれども,一の1で「アルコール若しくは薬物の影響により」,それが「正常な運転が困難な状態で」と,これはよく分かります。ある特定の人が,お酒を飲まなければ問題ありません,お酒を飲むとこういう問題になりますというのはよく分かるのですが,その後に「運転に必要な技能を有しないため」というのがありまして,これは私が該当するのではないかという心配がありますので質問しているのですが,私が「正常な運転が困難な状態で」というのがよく分からないので,私が技能を有しないならもうそれだけで運転してはいけないというのは分かるのですけれども,私の技能で運転していい状態と運転して悪い状態というのがあるのかどうか,そういう趣旨なのかどうか,その点,この表現からどう理解したらいいのか,ちょっと説明してください。 ● 関連質問でございますが,今,○○委員がおっしゃったのと同じような疑問を私も持ちましたのでございますが,そのほかに「運転に必要な技能を有しないため」というのは,運転に必要な技能を有するからこそ免許を取っているのじゃないかと思うので,そのあたりを御説明いただければと思います。 ● 「運転に必要な技能を有しない」というのは,当然これは免許が取れていないという大前提でございます。運転免許を取っておられる方は,必要な最小限度の技能は当然有しておられるので,ここにはもちろん該当しない。いわゆる,無免許運転を対象にしたものです。  ただ,その無免許運転の中にもいろいろな形態がございまして,仮免と申しますか,寸前ぐらいまでかなりコントロールはできる状態になっている人もいらっしゃいますし,あるいは同じ無免許運転でも,免許の更新忘れみたいなことで無免許になってしまっている人もいる。要するに,無免許運転の中でもしばしばいろいろな形態を見ますと,先ほど未成年者のお話もありましたけれども,本当に車をどうやって走らせ,どうやってとめるかと,そこら辺の技量が本当にないままで暴走するとか,そういうケースもあるわけでございまして,そういうような非常に危険なケースに限るということでこういうことにしたわけでございます。 ● それでは,ほかに質問はございますでしょうか。--特にございませんか。  質問がほかにございませんようでしたら,次にこの諮問事項の審議の進め方について御意見を伺いたいと思いますが,どうぞどなたからでも御発言をお願いします。 ● 基本的に,この要綱(骨子)の考え方に賛成でございます。先ほど紹介されましたような,相当重度な飲酒運転で子供を2人死亡に至らしめたというような事例を見ますと,とても懲役4年というのは軽すぎるということは,国民感情からいっても当然だと思いますので,この方向には賛成でございますが,国民の大多数に影響のある事項でもありますので,念には念を入れるということで,この要綱の骨子につきまして,かつてカード犯罪については刑事法部会でお願いしたのでしたね,それと同じような形で,部会で慎重な御審議をお願いして,その上でここで更に審議をするということはいかがかと存じます。 ● この諮問第54号につきましては,かなり具体的な要綱(骨子)というものがつけられておりますけれども,なお国民に広く影響を及ぼす問題であるために,慎重を期して新しい部会で審議調査をしていただいて,総会でその結果に基づいて更に審議をする,そういう方法がよろしいのではないかという御提案でございますが,いかがでしょうか。ほかに御意見ございますか。 ● この54号については,やはり審議期間を早くするような形でおやりになった方がいいのではないかと思うのです。緊急を要する場合ですし,むしろ諮問されたのが時期的にちょっと遅いのではないかという個人的な意見を持っておりますので,やはり審議期間を短くして,早急に立法化を図るということが望ましいのではないかと思います。 ● それは,今の○○委員の御発言と違う趣旨ではございませんね。むしろ部会の方で迅速に審議をしていただく,そういう御趣旨でございますね。 ● はい。 ● ほかに,特に御意見ないでしょうか。  それでは,特に御異論もないようでございますので,ただいま○○委員,それから○○委員から御提案がありましたように,部会を設置して,まずそちらであらかじめ調査審議をしていただき,それに基づいて当総会で御審議をいただく,そういうことに決定させていただきます。  次に,この部会に属すべき総会委員・臨時委員及び幹事の指名でございますが,先ほどと同様に,大変恐縮でございますけれども会長に御一任ということでお願いできますでしょうか。 (「異議なし」と発言する者あり) ● どうもありがとうございます。それでは,先ほども申しましたように,事務当局並びに関係の委員・幹事の皆様方とよく相談の上,決めさせていただきます。  次いで,諮問第54号について新たに設置をいたします部会の名称でございますが,この諮問のように,要綱案の骨子も付して諮問内容が厳密に限定されている場合には,なかなか先ほどの二つの民事関係の部会のように,端的な名称をつけることが困難でございます。そこで名称を,恐縮でございますが事務当局と相談をさせていただきました原案のようなものを私の方から申し上げて御意見を承りたいと思いますが,その原案と申しますのは,「刑事法(自動車運転による死傷事犯関係)部会」とする。つまり,「刑事法部会」という「刑事法」と「部会」の間に括弧をいたしまして,「自動車運転による死傷事犯関係」という言葉を挿入させていただくという,そういう名称はいかがかと考えております。刑事法に関する部会であることをまず明らかにしながら,かつ,括弧書きで諮問内容に係る事項を示す,そういう趣旨でございます。いかがでしょうか。そういう名称でよろしゅうございますか。  それでは,特に御異論もないようでございますので,そのような名称にさせていただきます。  そこで,まずその部会で御審議をいただくわけでございますけれども,総会委員として諮問事項の内容について御意見がございましたら,この際承っておきたいと思いますが,いかがでしょうか。どうぞ,御自由に御発言ください。 ● 質問ですけれども。この1号と2号とで,高速運転に関する構成要件に差異があるわけですが,これは何か具体的な事情をお考えの上で別異な表現にしておられるのでしょうか。 ● 1の方は,これはある程度継続的な状態を前提としているものになるわけです。要するに,お酒に酔って非常に危ない運転しかできない,あるいは運転の仕方が分からないから危ない運転しかできない。例えば時速200キロというふうな高速で走る,こういうのもそういう意味で一つの状態でございますが,それ自体でもう危険だという場合です。  2の方は,そういう状態というよりは,ある場面での走り方が問題になる場合,例えば走っている車の進路の直前にいきなり割り込むとか,あるいは赤信号を無視して交差点を突っ切っていくという,そこでそういうことをやれば当然大きな事故になるだろうというような速度でやったと,そういうふうな場合は2が想定している場合です。  ですから,端的に申し上げますと1の方は運転している状態にむしろ中心があり,2の方はある場面での運転方法で危険が生ずる場合,そういうことでございます。 ● よろしゅうございますか。 ● はい。 ● ほかに,御意見ございますでしょうか。御質問でも結構でございます。--よろしゅうございますか。  それでは,特に御意見,御発言もないようでございますので,この諮問につきましては部会で御審議をいただき,それに基づいて総会において更に御審議を願うということにいたしたいと思います。ただ,先ほど○○委員からも御指摘がございましたように,部会の審議は事柄の性質上,なるべく迅速にお願いをするということを付け加えさせていただきたいと思います。  ここで休憩をとらせていただきたいと思います。           (休     憩) ● それでは,議事を再開することにいたします。  最後の議題に移らせていただきたいと思います。  最初に議事の進行の予定を申し上げましたときに御説明いたしましたように,国際裁判管轄制度部会の部会長においでいただいておりますので,「民事及び商事に関する裁判管轄及び外国判決に関する条約準備草案に対する意見」の取りまとめをしていただきました,その結果の御報告をお願いすることにしたいと思います。 ● 本日は,後ほど申し上げますように,通例ならばそれぞれの部会で最終的な答申案ができましてから先生方に見ていただくところ,諸般の事情を考えまして,途中でございますがあえて報告の機会を設けていただきました。そのことをまず感謝申し上げます。  それでは,時間の関係もございますので直ちに中身に入りたいと思いますが,着座のまま失礼させていただきます。  この条約は,「民事及び商事に関する裁判管轄及び外国判決に関する条約準備草案」と申しまして,99年の10月30日,特別委員会で採択されたものでございます。  これは,ここに掲げました民事及び商事に関する裁判管轄と外国判決の承認・執行に関する問題につきまして,分かりやすく申し上げますと,いわば判決の国際的ネットワークをつくるという壮大な企画から始まったものでございまして,平成4年のヘーグ国際私法会議における米国の提案に端を発し,2回の予備的検討を経た後,平成8年の第18通常会期においてテーマとして正式決定がされたものでございます。この草案は,以後,平成11年10月まで,5回の特別委員会におきまして検討を重ねた結果,同年の特別委員会において採択されたものであり,実は本月,6月でございますが,6日以降,現にヘーグの現地で並行して討議が行われている,そういう審議の対象となるものでございます。  それでは,この草案の概要でございますが,「国際裁判管轄」といいますのは,いわば国際的な要素を含む事案において,いずれの国の裁判所が裁判権を行使するのに適切であるのかということを定めた部分,それから「外国判決の承認・執行」といいますのは,各国の司法権が相互に独立しておりますために,外国の裁判は必ずしも日本では直ちに裁判としての法的効力を持つものではございません。したがいまして,両方の管轄の点からいいましても,この外国判決が出たという点からいいましても,国境を越えて,いわば同一事案について各国の裁判がそれぞれ違ったものが出る,判決の抵触というようなことが生ずる可能性があり,そのようなことを避けるということを考えなければならないわけでございますが,より直接的に考えますと,同一の事案で,当事者及び裁判所が,国境を越えて二度も三度も同じ裁判をしなければいけないということが起こってくる可能性がございます。そういうことを避けるために,当事者の便宜からいっても,裁判所の便宜からいいましても,通常は一応の手続を経て出されました外国の裁判は,そのままの形では我が国で何ら効力を持たないにもかかわらず,一定の要件に係らしめて,それを内国の裁判と同じように取り扱う,こういう制度を持っているのが通例でございまして,これが外国判決の承認という制度として,いずれの国も備えているものでございます。我が国の場合には,民事訴訟法118条にこれにかかわる条件が規定されてございます。  ところが,先ほど申し上げましたように,各国の裁判権はもちろん,立法権もそれぞれの主権国家として独自に保有しておりますために,それぞれの基準が必ずしも世界的に統一されるわけではございません。しかも,そもそも裁判管轄に関する考え方は,各国において必ずしも同じではございませんで,統一することは容易ではございません。ヨーロッパでは,1968年にブラッセル条約というものがあり,これは昨年,単なる条約から,EUができました関係上,より実質的なレギュレーションになってしまっておる。そのものをつくって,いわば判決の国際的な流通とでもいいますか,相互承認が確保される仕組みになっており,そのほか1988年のルガノ条約も,同様の機能を果たしているところでございます。  ところが,我が国はそういう仕組みには入っておりませんので,問題もあるところでありますし,またアメリカといたしましても,御承知のとおりアメリカで我が国の企業等々が裁判にかけられ,その判決の執行が我が国において求められるというケースが時々新聞等々に報道されておりますけれども,そのようなことについても,やはり何らかのルールづくりが必要ではないかと考えているところでございます。  もちろん,我が国には,先ほど申し上げました民訴118条のほかにも,判例で一応の法理ができておりまして,当面の問題の処理には必ずしも不都合を感じているわけではございませんが,やはり同じようなルールで世界各国が協調できれば,これ以上幸いなことはない,結果として国際的な企業活動,あるいは個人の活動も保障されるのではないか,こういう理念からこの条約が取りまとめられようとしているのでございます。  それで,本草案の概略でございますが,私どもはこれを「ミックスド・コンベンション」と言っております。ミックス条約。なぜかと申しますと,まずホワイト・リストというのがある。これは,ちょっとお手間でございましょうが条文を御覧いただけるとよろしいのでございますが,第3条から16条までで,締約国は,これらの管轄原因が存在する場合は国際管轄権があることを,外国にあったことも認めなければならない。他の締約国は,これらの管轄原因に従って判決を承認・執行しなければならないというたぐいのリストでございます。  当事者から見ますと,これらの管轄原因が存在する締約国において,訴えを提起することができますし,その判決によって他の締約国においても執行を求めることが可能になるというたぐいのリストでございます。例えば,被告の所在地であるとか,管轄の合意であるとか,応訴管轄等々がそこにリストアップされているわけでございます。  これに対極しますのが,18条のブラック・リスト。締約国は,これらの管轄原因だけが存在する場合に,国際裁判管轄をいわば行使することが禁止されるのでありまして,締約国は,これらの管轄原因に基づいて判決をしましても,他の締約国における承認・執行はこれもまた禁止されると。  当事者から見てみますと,これらの管轄原因だけが存在する締約国に訴えを提起することはできませんし,仮にこれらの管轄原因に基づいて判決がされましても,他の締約国において執行することは望めない,こういうたぐいのリストアップされたものが18条でございます。  グレー・エリア,17条でございますが,それはそれぞれの国内法によりまして,国際裁判管轄は認めることが許されております。しかし,他の締約国は,こうした原因に基づく判決を仮に外国が出しましても,承認・執行する義務はない。  当事者から見ますと,本条約に定められました原因のある国で提訴をすることのほかに,各締約国の国内法とか判例などによって訴えを提起することが可能であればできるのでありますが,そこでそのようにして出されました判決が他の締約国において執行を求めることができるかどうかは,当該他の締約国の国内法とか判例によって決められる,こういう仕組みになっております。これは,ある意味ではホワイト・リストということは,一度それに載りますと我が国にとりましても,例えばのことでございますが,我が国ではそういう原因があれば当然判決ができるし,外国でも認められるわけでございます。しかし,何をホワイト・リストに載せるかにつきましては,やはりそれぞれの国の思惑がございまして,なかなか一致することは難しい。また,その禁止原因,これだけはやめてほしいというような原因をリストアップしましても,やはり自分の国としてはそういうものを是非残しておいてほしいと,こういう要請もございまして,そこでも一致することが難しい。そうなりますと,いわばこのグレー・エリアに持ってくるわけでございまして,外国における承認・執行が保障はされないが,各国が自由に決めてもいいと,こういう緩衝地帯を設ける,こういう考え方でこの条約の仕組みが成り立っておるわけでございます。  そのほか,国際訴訟競合。これは先ほどもちょっと申し上げましたように,管轄の原因の決め方は各国独自にできるということを前提にいたしますと,複数の国が同一の事件について管轄を持つということがございます。ということは,訴訟が国境を越えて複数の国で起こるということがある,その関係をどう取り扱ったらいいか,こういうところに関する規定が21条,22条にございますし,これも新聞等々で御承知かと思いますが,アメリカなどでは懲罰的損害賠償というようなたぐいの裁判の仕方がございまして,単なる損害賠償によって失った利益を補充するというだけではなく,多少刑罰的な意味を込めて,例えば3倍の金額を被告に支払いを命ずるというような裁判も存在するようでございます。しかし,そのような裁判を日本で認める義務があるのかどうかにつきましては,問題もございますし,世界的にそのような裁判のやり方が通用するかどうかは,やはり各国の合意によってなるべきものでございまして,そのようなものに関する取扱いが33条に規定されているわけでございます。  このような内容を持ちました条約草案でございますが,部会で取りまとめた経緯は,私どもの部会に係る諮問がそこにありますように,  ヘーグ国際私法会議において,民事及び商事に関する管轄,外国判決の承認及び執行に関し,条約の作成のための審議が行われているところ,同条約の内容は我が国の国際民事訴訟法制に大きな影響を与えるものであると思われるので,同条約の内容,その批准の要否,批准を必要とする場合の国内法整備の要否,国内法整備が必要とすれば整備すべき事項の骨子に関して,御意見を承りたい。 という諮問第48号でございました。  この最終的な条約の内容は,今,正にヘーグで行われております第19回通常会期における議論によって決まるわけでございまして,今回,お見せいたしましたこの草案の内容そのものとして確定するというふうには必ずしも断言できないわけでございますが,この19通常会期における我が国の対処方針を作成する作業の進行に供するため,現時点,といいますのは5月の15日の時点でございますが,その時点で部会が取りまとめました見解でございます。  本部会は,引き続き諮問事項について同会期の成果を踏まえ,更に検討を進めていく予定をいたしております。  なお,この意見をまとめるに当たりましては,部会が設置されて以来,大体毎月1回のペースで,2月,3月,4月,5月と4回にわたって開催された部会におきまして,そこに提示された各界の御意見を参考にいたしております。弁理士会,金融法委員会,社団法人電子情報技術産業協会,経営法友会,日本知的財産協会,社団法人経済団体連合会,東京商工会議所,日本弁護士連合会,全国消費者団体連絡会,日本労働組合総連合会からたまたま意見をお寄せいただきましたので,それを参考にしてこのように取りまとめました。  そこで,余り時間がございませんので,大体どの辺が問題になったかということだけを指摘させていただくことで,本日の責任とさせていただきたいと思いますが,「意見」をちょっと御参照願えますでしょうか。  「第1 総論的意見」におきましては,先ほど御説明申し上げましたミックスド・コンベンションというつくり方,つまりグレー・エリアを設けるというやり方は評価できるものだということで,評価していることがそこに掲げられておりますし,その他,各国が問題点にしておりますのは,今や電子商取引に関係する事柄が国際的にも問題となっておりますので,このあたりをどうするか,つまりこのコンベンションが電子商取引が通常になってまいりました今日的な国際取引状況にマッチしているのかというようなことでございますとか,あるいは知的所有権に関する訴訟についての問題,これは御承知のように通常侵害訴訟ということが起こるわけですけれども,侵害訴訟が起こった場合には,必ず反論といたしまして,その権利自体が有効に成立しているかという問題が出てまいります。ところが,通常その権利が成立しているかどうかというのは,権利は登録・登記された場所の専属管轄ではないかという考え方がございます。にもかかわらず,それを損害発生地を基準としてやるとすれば,それは一般の不法行為と同じでありますから,例えば条約の10条に書いてありますように,損害の発生地で,それが世界じゅうのどこであっても問題になる可能性がある,結果として権利の成立自体が登録地以外のところでも問題になる可能性がございます。こういうところを,特に弁理士会などは大変気にしておられまして,これはやはり登録地の専属管轄にすべきではないかというようなことが言われてきたことでございます。  さらにもう一つ,大事なのは,恐らくこれはそもそも訴訟の在り方に対する基本的な考え方の違いではないかと思いますが,総論のところでは,activity-based jurisdiction ということが書いてございます。これとの関係を御理解いただくのに一番便利かなと思いますのは,第9条というのがございます。そこに,「支店[及び継続的商業活動]」というのがございます。そこを読みますと,「原告は,被告の支店,代理店その他営業所で所在する国--括弧は除いて言いますと--の裁判所に訴えを提起することができる。」。つまり,このようなビジネス活動に対しましては,被告の支店とか代理店,その他の営業所が所在する国,そこに管轄があるのだという考え方をする国が一方でございますが,他方では,括弧にありますように,「又は被告がその他の方法で継続的な商業活動(regular commercial activity )を行っている国」,そういう基準で管轄を認めた方がいいのではないかという考えがございます。これは主として英米法系の考え方だと思います。この二つがなかなかそりが合いませんで,何度も調整をいたしますが,大変難しい状態になっていると思います。このactivity-based jurisdiction というのは,継続的商業活動,これを基準にする物の考え方のことを指しております。  そして,これとの関係で18条第2項のe)というもの,そこに「当該国における被告の商業その他の活動」,これだけを原因として,これは管轄権行使禁止原因でございますから,いわゆるブラック・リストですが,ブラック・リストに一方の国は商業活動があるということだけでは管轄を認めるのを禁じようと,こう考えておるわけでございます。このあたりが今後どうなりますか,ヘーグ会議の推移を見なければ分かりませんが,このあたりも一つ大きな問題であろうかと思います。  それから,第7条に「消費者による契約」というのがございます。ここでは,いわば消費者の常居所というものが管轄の基準になっていることはお分かりだと思うわけでありますが,最近のように,ワールド・ワイド・ウェブで商売をするようになってまいりますと,どこの国に常居所を持っているか分からない消費者が,クリックするだけで何か契約を締結するようなことが起こり得る。ということは,事業者からとりましては予測のつかないところの国に常居所を持っている消費者から,その国で訴えられる可能性が出てこないわけではない。そこで,このようなものにつきましては,「ディスクレーマー」と言っておりますけれども,こういったいわば仕向地特定,仕向地を限定することによりまして,責任のいわば地域的範囲を限定しようと,こういうことが考えられてくるわけでございまして,そのあたりのことは,これは「意見」の4のあたりに書いてあると思いますし,その前の2にも書いてございます。このあたりは,今後どうなっていくのかということは,条約の締結でございますので,我が国の考え方が百パーセント通るわけではございません。特に,多数国間条約でございます。しかも,実務的にはわずか連続3週間という会期が設定されておりまして,その間に何らかの結論を見いだすということはなかなか難しく,いずれの国にとりましても完全には満足のいかない形で条約案ができて,最終確定するのではないかということが予測されるわけでございます。  以上のように,細かいところを御説明申し上げ始めますと時間が足りませんので,このあたりが問題だと。もっとほかに大事なことがあるとおっしゃる方は必ずおられると思いますが,国際的な局面での対立が比較的強く見られているところなど,特に取り上げて説明させていただきました。時間の関係もございますので,はなはだ不十分でございますが,このような形で今のようなディスクレーマーの問題につきましては,ディスクレーマーをつけることによって責任を限定するような方向が正しいであろうと,あるいはactivity-basedの管轄原因は避けた方がよろしいのではないか,こういう形で対処しようとしておるのだということを申し上げることで,本日の報告にかえさせていただきたいと思います。  最初に申し上げましたように,これは条約草案自体,つまり条約案自体がまだ確定しておりません。場合によれば非常に対立が厳しいものは,あるいはその条文が削除される可能性もないわけではございませんし,その節にはそのような確定いたしました条約案を更に部会で検討した上で,こちらの審議会に上程させていただき,先生方のなお一層の御指導を仰ぎたい思っておりますので,その節にはよろしくお願い申し上げたいと存じております。 ● どうもありがとうございました。  お聞きいただきましたように,国際裁判管轄の問題は,実際に日本の企業が国際的な紛争に巻き込まれましたときに,一体どこの国で訴えを起こされるか,あるいはまた逆に,どこの国で訴えを起こせるかという,企業活動にとりましては大変重要な問題でございますが,専門的な分野でございますので,専門外の委員の方にはなかなか御理解が難しいかと思います。しかし,今,部会長から懇切に御説明をいただきましたので,かなり御理解いただけたのではないかと思います。  せっかく御報告をいただきましたので,ただいまの御報告に対しまして御質問があれば承りたいと思います。いかがでしょうか。--特にございませんか。  特にございませんようでしたら,部会長から御報告をいただいたということで御了承願いたいと思います。どうもありがとうございました。  何か,この機会に特に御発言はございますでしょうか。  特に御発言もないようでございますので,本日の審議はこれで終了することにいたしたいと思います。長時間にわたり,熱心に御討議いただきましてありがとうございました。  それでは,閉会といたします。