法制審議会民法(債権関係)部会           第46回会議議事録 第1 日 時  平成24年5月8日(火)自 午後1時00分                     至 午後6時13分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第46回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料39をお届けしております。このほか,積み残し分を審議する関係で,本日は部会資料37と38を使わせていただきます。以上の資料の内容は後ほど関係官の松尾から御説明いたします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   本日は部会資料37,部会資料38及び部会資料39について御審議いただく予定です。具体的な進め方といたしましては,休憩前までに部会資料38の「第1 債務引受」,「4 その他の債務引受に関連する論点」の「(3)債務引受と両立しない関係にある第三者との法律関係の明確化」までについて御審議を頂き,午後3時10分ごろをめどに適宜休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料38の残りの部分及び部会資料39について御審議いただきたいと考えておりますので,よろしく御協力のほどお願いいたします。   それでは,まず部会資料37の「第2 証券的債権及び有価証券に関する規定の整備」のうち,「1 証券的債権に関する規定」の整備について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 民法第469条から第473条までの規定は講学上,証券的債権に関する規定であると言われていますが,この証券的債権の意義については見解が分かれ,これらの規定の適用対象が必ずしも明らかではないという問題があります。その一方で,証券的債権の意義についての見解のいかんにかかわらず,有価証券と区別される意味での証券的債権に関して独自の規定を積極的に設けるべきであるという考え方は特に主張されていません。   このことを踏まえ,本文の第1パラグラフでは,有価証券と区別される意味での証券的債権に関する規定は民法に設けないものとすることを提案しています。   第2パラグラフは,証券的債権に関する規定を民法に設けないものとすることを前提に,証券的債権と対置されてきた指名債権という概念は端的に債権と呼ぶことを提案しております。 ○鎌田部会長 ただいま御説明のありました部分につきまして御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○岡委員 質問でありますが,この項目全般について弁護士会で議論したときに,市民から見ると商品券,図書券,コンサートチケット,こういう物は身近な物として考えられると。特に商品券について,今回提案されている中の有価証券の持参人払証券に入るのか,入らないでそれを類推適用する物として考えられているのか。ここにいう証券的債権の代表例が商品券なのか,その辺り是非御解説いただきたいと思います。 ○松尾関係官 いろいろな考え方があり得るところなので,お答えするのがなかなか難しいのですが,今回の部会資料では,有価証券と区別される意味での証券的債権というものは現実にはほとんど存在しないという考え方を前提としており,先ほど岡委員から御指摘があったコンサートチケットや商品券は,有価証券と区別される意味での証券的債権ではないという考え方での整理を前提としておりました。   その結果として,規定を見直して有価証券に関する規定を設けたときに,コンサートチケットや商品券について,直接適用の対象とするのか,あるいは類推適用の対象とするのかということについては,必要があれば,部会で議論していただきたいと考えております。 ○岡委員 今の提案は,持参人払証券の類推適用があるかもしれない物として商品券あるいはコンサートチケットを考えればよいと,そういう前提でこれからの議論をすればよいということでしょうか。 ○松尾関係官 そのように考えております。 ○神作幹事 ただいまの論点についてでございますけれども,有価証券になるのかあるいは有価証券の規律が類推適用されるのか必ずしも明確に分からない様々な証券が登場してくるわけですが,しかしながらそれについて今の段階で画一的なルールを決めたり,ある型にはめるということは,有価証券の発展の沿革に照らして見れば,適切な結果をもたらさない可能性があるものと危惧します。そのような観点からは,有価証券については定義規定を置かず,開かれた概念にしておいて,様々な有価証券ないし有価証券類似の証券が実際に有価証券かどうか問題となる場合において,個々別々に,当該証券が世の中で一体どのような機能を営んでいるのか,どの程度流通しているのか等の具体的な機能や実態に鑑みながら,適切に解釈していくことが肝要と思われます。この種のタイプの証券はこのような法的性質を持つ有価証券ですということをあらかじめ決めるというアプローチに基づいて有価証券に関する規律を定めることは,こと,有価証券については,適切ではないのではないかと考えます。 ○鎌田部会長 ほかによろしいでしょうか。   それでは,続きまして,「2 有価証券に関する規定」と,「3 有価証券に関する通則的な規定の内容」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 「2 有価証券に関する規定」は,民法第469条から第473条までの規定が有価証券に適用されているという見解があることを踏まえ,証券的債権に関する規定を削除するとしても,これらの規定を参照して有価証券に関する通則的な規定を設けることを提案しています。   その上で,有価証券は必ずしも商事取引に限定して用いられるものではないとの指摘があることを踏まえ,この通則的な規定の置き場所を民法とすることを提案しています。   「3 有価証券に関する通則的な規定の内容」は,有価証券に関する通則的な規定を民法に置くことを前提として,その具体的な内容を提案するものです。この3の詳細については,例えば部会メンバー以外の専門家からも意見を聴取する機会を持つ可能性も含めて,別途検討の機会を設けることを検討しております。   検討の機会の具体的な在り方については後日改めてお諮りさせていただきますが,以上を前提としてこの論点については本日の段階で特段の御意見があればお伺いすることにさせていただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分のうち,まず「2 有価証券に関する規定」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○岡委員 先ほどの問題意識とつながるのですが,典型的に何を律するために民法に規定を置くのかが分からないという声が弁護士会の議論で強うございました。手形を念頭に置いて裏書のこのルールを考えるとそんなに問題ない。持参人払いのこのルールもそれだけ考えると問題がないように思われる。でも民法において何を規律するために規定するのですかということが分からない。学校債,病院債が例として挙がっていますが,それはどうも特別法があるらしいので,民法に置く意味はないのではないでしょうか。商品券を規律するためのルールを民法に置くというのであれば実益もあって分かりやすいという議論はあるのですが,部会資料を読む限り,持参人払証券の典型例が商品券とは書いてない。そうだとすると,典型例も分からない,類推適用として商品券が適用される程度のルールとして民法に労力を掛けて一杯条文を置くのは何かよく分からない。それだったら商品券を念頭に置いたルールをドンと置くのであれば分かりやすいのではないか,そういう議論が多く出ました。ここでの規律の典型例が何か分からないという消極説です。   それともう一つ,紙に化体された権利というのはもうどんどんなくなっていく運命にあるのではないか。手形もどんどん少なくなっていますし,商品券も若い弁護士に言わせると,今はもう商品券の時代ではなくて電子データでピッと送るのですよというようなこともおっしゃっていまして,データ化される世の中で過去の遺物になりつつある紙に化体された物を一生懸命ここで作る必要が本当にあるのかと,そういう議論も出ました。   規律の内容についての反対というよりは,民法で置く意味についての疑問あるいは質問だろうと思います。典型例が分からない,データ化していくのではないか。商品券だったら分かるけれども,商品券はこのルールとの関係でどう位置付けられるのかと,そういう議論を昨日してまいりました。   以上です。 ○深山幹事 この議論の仕方,あるいは議論すること自体の意味にも関わるのですけれども,第1のところで,現行民法で規定されていると一般的に言われている証券的債権についての規定を置かないということについては余り異論がなかったのかと思うのですが,この提案の意味するところは,それを現行法よりもう少し絞って,証券的債権と言われるもののうちの有価証券の部分だけの規定を置くという提案だろうと部会資料を理解しました。その上で申し上げたいのですけれども,そのような絞りを掛けて規定をもし置くとしたときに,それでいながら有価証券の定義を置かないということについて,どう置くかはともかくとして,はたして妥当なのかということに素朴な疑問を感じています。   先ほど神作先生が言われたように,例えば商品券が有価証券に当たるかどうかみたいなことについてはいろいろ議論があるのかもしれませんし,場合によっては個々の商品券によっても違うかもしれませんので,民法上の有価証券に当たるかどうかの解釈は法律の適用の問題として残るにしても,法規範を作る以上,その有価証券が何かということを,抽象的にであれ決めないで,どういう規定を置くかということを議論することが果たしていいのかというと,有価証券の定義は難しいということは重々理解はしているつもりなのですけれども,難しいにせよ,何も置かないでそこから先を議論するということに素朴な疑問を感じております。   そういう意味では,もし規定を置くのであれば,やはり何らかの定義規定を置いた上で,そこに当たるものについては以下のルールが適用されるというような形で展開されるべきではないでしょうか。 ○鎌田部会長 事務当局から何かありますか。 ○松尾関係官 先ほどから岡委員と深山幹事から御指摘を頂いたことのうち,典型的に何を対象とするのかが分かりにくいという御指摘については,適切にお答えできるのか自信はないのですが,岡委員が例に挙げられた商品券などは,先ほど直接適用なのか類推適用なのか議論があり得ると申し上げたとおり,典型的な適用対象ではないと考えておりました。   その上で,何が適用対象なのかというと,これまで有価証券と典型的に言われていた物について,特別法の規律がない限り,民法の規定が一般則として適用されることになると考えていたわけであります。 ○神作幹事 例えば商品券が持参人払証券に当たるかどうかということを検討する場合に,部会資料37の88ページにございますが,例えば有価証券を喪失した場合の規律として持参人払証券に該当する場合には公示催告手続によって無効とすることができるという法的効果を付与することが提案されております。けれども,例えば商品券のような証券についてこのような公示催告手続に乗せることが適切なのか,あるいは可能なのかという問題が生じます。商品券には,そもそも公示催告手続によって当該商品券を無効にすることができるまでの特定性があるのかどうかといったことを考えると,直ちに商品券は持参人払証券に当たりますとはいうことは困難です。では,反対に,いかなる商品券も持参人払証券に当たらないと一般的に言い切って良いかというと,それもなかなか難しいところがございます。問題となっている当該商品券が,実際にどのような機能を営んでいるかとか,流通の実態や特定性の有無等によっても変わってくるところがございますので,有価証券について例えば商品券がそれに当たるかどうかを明確に定義するという形で規律を設けることは,非常に難しいし,適切でもないと思われます。   比較法的にも,私法上の有価証券概念について定義規定を置いている国はほとんどないものと理解しています。我が国もこれまで有価証券の定義規定なく,特段大きな問題を生ずることなくこれまでやってきておりますので,債権法改正に合わせて民法の中に有価証券についての一般的な規定を入れるからといって,その定義規定をどうしても置かなければならないというわけではないのではないかと考えております。   ただ,他方で,有価証券の譲渡の方式によって持参人払証券,指図証券,それからこの資料では記名式の有価証券という概念が使われておりますけれども,これは後ほどもまた申し上げようかと思ったのですが,むしろ講学上記名証券と言われている証券であると思われますが,そのような記名証券の三つに分類し,それぞれについて,当該有価証券に特徴的な法的効果を定めることは有用であると考えます。本提案では,無記名債権という概念は使わずに持参人払証券という言葉に統一しております。つまり,紙の上に記名がなされているか無記名かという形式による区別と,有価証券の譲渡の方式による類型化は異なる観点からの分類ですので,記名式の有価証券という言葉については誤解を招くところがあり,用語の問題については別途検討する必要があろうかとは思います。いずれにしても,有価証券の譲渡の方式という観点からは,持参人払証券,指図証券及び記名証券という三つのタイプがあるということを明らかにして,後はオープンエンドと申しますか,そこにどのような証券が含まれるかについては開かれたものにしておいて,将来の実務・判例及び学説の発展に委ねていくという姿勢が重要であると考えます。   規定の位置についてですけれども,例えば信託につきましては新信託法の制定によって受益証券発行信託という制度が認められまして,受益権を証券化することが信託行為の定めによって一般的に可能となりました。そのような意味では,受益証券については信託法という特別法が規律しているのですが,受益証券に係る抗弁の切断についての規定は信託法には置かれておりません。そうすると,受益証券に係る抗弁の切断については,たとい当該受益証券が商業証券であり商法における有価証券に係る規定が適用ないし類推適用されるとしても,商法の中にも抗弁の切断に関する規定がございませんので,結局民法の規定に依拠せざるを得ないと考えられていると思います。   信託の受益権の中には様々なものが含まれますので,商業証券に当たる受益証券であれば,商法に抗弁の切断に関する一般規定を置けば解決できることになりますけれども,もし将来商事証券とは言えない受益証券が出てきたような場合には,やはり民法に受皿がないと抗弁の切断等についてのルールがないという事態が発生することになります。信託受益証券以外では,学校債や医療法人債は,商事証券とは言い難いと思いますし,今後は商事債権と分類できない証券が増加するものと予想しています。   したがって,有価証券に関する一般的な規律を置くのであれば,もちろん有価証券に係る単行法というのは別途考えられると思いますけれども,民法の中に置くということが有力な選択肢として検討されるべきであると考えます。 ○岡委員 今の話であれば,信託法に抗弁の切断の規定を設けるべきと感じました。その定義がないことについて弁護士の一部は,だからこそ当事者が有価証券とは考えてなかったものがこういう立派な規定が民法にドンと入ると有価証券と解釈されて思いがけない効果が出てしまうのではないか。商品券について公示催告手続が適用あるいは類推適用されるのではないかという議論を弁護士会でもしました。そのときには,賛成である,商品券の現物がなくなったときに権利が復活する手続があるのはいいことであるという考え方と,いや,それは諦めているのが現実なのだから,そのまま諦めさせるほうがよいという意見に双方分かれました。だから,そういう神作先生がおっしゃるように,解釈,運用に任せるというのも分からなくもないのですが,やはり実務家としては実例もなく典型例もなく,そういう中でこういうのが出てくると,むしろ将来の利益よりも現実の混乱のほうが大きいと感じると思います。   そういう意味で,いまだこのルールを民法に定める意味,通則的なルールとして民法に定めることについて納得できていないというのが弁護士会の今の現状だと思います。 ○鎌田部会長 現在民法の中にある規定もなくしたほうがいいということにつながりますか。 ○岡委員 使ったことのない条文ばかりで余り意見がなかったというのが実情です。 ○筒井幹事 岡委員の御発言は,有価証券という一定の体系を持った規定を整備して民法に置くという提案に対する根源的な疑問を述べられたものだと思います。そのような御疑問に対しては,今後クリアな説明を用意したいと思いますけれども,先ほど部会長が示唆されましたように,現在民法の中にある証券的債権に関する規定を単純に廃止するわけにはいかない,現実に機能している場面があるのだから,これらの規定を残さざるを得ないという現状認識があるわけです。その場合に,現在のようによく分からない規定のまま手を付けずに放置するという結論でよいのかどうか。債権編の全般的な見直しをする中で,現実に機能している場面があるために単純に削除するわけにはいかない規定については,もう少し整理をして分かりやすい形で体系化しておく必要があるのではないかということが,ここでの議論の出発点であると思います。このような問題意識をいかに分かりやすく説明できるようにするかは,今後の検討課題であるとは思いますけれども,しかし,議論の出発点として,現状に問題がある以上は,そう簡単には避けて通れないということを指摘させていただきたいと思います。 ○深山幹事 筒井さんに質問なのですけれども,現在機能している場面というのをもう少し具体的にお示しいただくと,そこから先の議論がしやすいのかなと,少なくとも私自身は感じました。漠然と機能している場面があるような気もするので,私もなくしてしまうことには慎重であるべきだと思うのですが,ではどういう場面を具体的に想定して議論すべきなのかが判るように,もちろんその周辺的なものを視野に入れるにしても,今機能している場面というのをもう少しお教えいただけると有り難いと思うのですが。 ○筒井幹事 先ほど神作幹事から御説明があったことが一つの代表例であると理解しておりました。 ○鎌田部会長 ほかにありますか。 ○松尾関係官 繰り返しにはなってしまうかもしれませんが,有価証券に関しては様々な特別法の規定があり,譲渡の要件などについて規定が設けられておりますが,必ずしも特別法で網羅的に規定が設けられているわけではなくて,欠けているものについては手形法や小切手法の規定が類推されるという解釈や,民法第469条以降の規定が類推されるという解釈もあり,そのような議論の状況の中では,先ほど筒井からの説明にもあったように,現在の民法の規定を単純に削除はできないということになろうと思います。では,どのような証券について適用されるのかということだと思いますけれども,今直ちに網羅的に御説明する準備ができないので,必要に応じて補充的な御説明をさせていただくようにしたいと思います。 ○中田委員 私も具体的にどういうふうに使われているのかというのはよく分からないのですが,元々旧民法では裏書をもってする商証券の譲渡については商法で規定すると規定されていたのだけれども,これは商業上の債権には限らないということで,旧商法ではなくて現在の民法に証券的債権の規定が入ったのだと思います。そういう規定と,それから指名債権に関する規定とを併せて置いていて,債権の譲渡についての規律とした。それはやはり意味があるのではないかと思います。先ほど神作幹事あるいは松尾関係官からは,規定が足りないところを補充するというご発言もございました。それは岡委員がおっしゃるとおり,確かに立法すれば足りることかもしれないけれども,しかしやはり規定の欠缺ということは将来も新しい債権が発生した場合にはあり得る。あるいは立法する際に,これは電子記録債権法のときにそうだったわけなのですけれども,基になるものは何かということを考えて,それの応用を考えていくという際に出発点があったほうがやはり分かりやすいだろう。そうすると,現在様々な特別法が発達しているわけですが,一番そのベースになるものは何かということを民法の中で決めておくということは,これは十分意味があるのではないかと思います。   その意味で,定義をして限定してしまうよりも,正に将来いろいろな債権が考えられるわけですから,それを見越した上でその一番基礎になるところを民法で決めておくということに意味があるのではないかと私は理解しております。 ○神作幹事 今の中田委員の御発言とほぼ同趣旨でございまして,繰り返しになることをお許しください。有価証券となるものには法律上の根拠に基づいて有価証券になるものと,慣習法に基づいてなるものと,大きく二種類がございます。慣習法によって有価証券として認められる証券については,立法によって対処することは,その性質上難しいということがございます。   それから,第2点は,ペーパーレス化との関係でございますけれども,現在はもはや有価証券を飛び越してペーパーレス化の時代ではないかという岡先生のご指摘に賛成いたします。しかし,有価証券についての基本的な規律なしにいきなりペーパーレス化の世界にいくというのは非常に難しいと思っております。正に中田先生が指摘されたように,ペーパーレス化された有価証券というのも有価証券の法理,更に言えば有価証券法理の機能を維持し発展させることを目的とすることになるでしょうから,ベースになっているのは飽くくまで有価証券の機能であり,有価証券の法理の機能であると考えます。したがって,ペーパーレス化の世界をにらむとしても,有価証券についての一般的な規律を民法典の中に置くことが,あるいは有価証券法という単行法の中で定めるということも考えられますけれども必要で,ペーパーレス化の場合の規律の整備はそれを前提に行われることになると考えています。 ○松本委員 お話を聞いていての感想なのですが,ここで有価証券についての一般的な規定,特別法でカバーできないもの,例えば学校債とか病院債とかが出てきました。そういうものに適用可能な一般ルールを置くべきだということで。しかし,例えば商品券だとか,今後新しく出てくる,あるいは現にあって,典型的な有価証券かどうか分からないけれども,一部は適用できるかもしれない類いのものの解決の手掛かりにもなるではないかという御趣旨なのですが。その場合の,神作幹事がおっしゃった三つのタイプの指図証券,持参人払証券,それから記名証券ですか,これらについての一般的な規定を置こうと。そこでいう一般的規定というのは恐らく任意規定なのでしょうね。そうしますと,例えば指図証券,その任意規定のセットは一体どういうタイプの証券を想定して考えるのが一番適切なのかというその任意規定のセットを生み出すところの典型モデルというのは,一応想定しないと駄目だと思うのです。   つまり,ここでいう指図証券であればこうだという条文提案が出ているわけですから,そこでいう指図証券というのはこういう物であって,これは入る,これは入らないということが一応想定された上でこういうルールを入れるのがいいのではないかという議論になるのだろうとすると,取りあえずは想定しているタイプのものはこれだということぐらいは一応合意をしたほうがいいのではないかと思うのです。そこが曖昧で,ある債権にはこの規定は適用されるかもしれないが,これは適用されないという類いのセットを一杯並べるということだと,無数の組合せというか無数のルールがあり得るということになると思いますので。その辺,三つのタイプに則して典型例としての任意規定のセットを置くということであれば,その想定される典型例ぐらいは,条文には書かないにしても,起草段階では一応合意を得ておいたほうがいい。そうすれば,商品券はここの点は近いけれども,ここはずれるではないかということで,今後の法発展に資するのではないかと思います。 ○鎌田部会長 3の「有価証券に関する通則的な規定の内容」にも関わるところに話が及んできているので,3についての御意見も併せてお伺いしたいと思います。先ほど事務当局からの説明にありましたように,この3の詳細につきましては別途検討の機会を設けるということを検討しているところでございますので,特に今日の段階で御意見があればお出しいただいて,個別課題の細かい点についてはまた別の検討の機会に譲らせていただければと思っております。 ○神作幹事 有価証券に関する規律が基本的に任意法規だということを松本委員が言われたかと思いますけれども,形式的な資格に関する問題にせよ,善意取得にせよ,抗弁の切断にせよ,むしろ有価証券法理の多くの部分は,基本的には当事者の合意によって変えることのできる性質のものではない,強行法規であると理解しております。 ○松本委員 大変重要な御指摘だと思います。私も別に確信があって言っているわけではないのですが。債権法改正の議論,従来の議論は大部分任意法規だという前提の下に行われてきているという印象の下にそういう発言をしました。   本当の意味での強行法規だとすると,それこそその定義をかなりきちんとしないとまずいのではないかと思います。手形や小切手などの特別法上の有価証券は恐らく正に強行法規として組み立てられているから,定義もきちんとした上でルールも明確にしているのだと思うのですが,先ほどからの議論から,様々な有価証券あるいは有価証券の周辺のものを含めて適用しようという御趣旨でルールのセットを民法に置くということに意味があるというふうに理解をしたわけです。そうだとすると,強行法規的というよりは,多くの人が有価証券的なものとして考えるものには,こういうルールが適用されれば適切なのではないかという感じの,言わばお勧めルールセットとでもいうのでしょうか,そういうようなニュアンスの条文が民法に置かれるというイメージを私は持っていました。厳密な意味で強行法規だということであれば,弁護士会がおっしゃっているような定義をやはりきちんとしておかないと混乱が起こるのではないかなと思います。 ○神作幹事 別の次元の話になりますけれども,そもそも私人間の合意で有価証券を作れるのか,民法に有価証券に関する一般的規定を置いたときに,そこに定められている持参人払証券や指図証券を私人間の合意のみにより作れるのかどうかという論点が生じ得ます。しかし,この論点については,今回の債権法改正によって何らかの結論を出すということではなく,引き続き解釈に委ねられるということであろうと理解しております。そして,従来は,先ほど申しましたように,法律上の根拠規定か慣習法上の根拠がない限りは,有価証券を私人間の合意により作ることはできないと解してきており,そのような前提の下で本日の議論もなされているものと理解しています。 ○松尾関係官 先ほど来,定義が必要ではないかということを再三御指摘いただいているわけですが,基本的に今回の提案は,民法469条からの証券的債権に関する規定と,商法に現在置かれている有価証券の規定を整理・統合して民法に置いてはどうかというものです。申し上げるまでもないことですが,商法の中には既に,金銭その他の物又は有価証券の給付を目的とする有価証券についてのルールが置かれています。有価証券についての定義はないわけなのですけれども,それによって現在,混乱があるといった問題が指摘されているとは認識していませんでしたので,有価証券の定義を置かないことで,現行法との連続性からいって問題ないのではないかと感じていた次第です。 ○鎌田部会長 第2の「1 証券的債権に関する規定」に関しましては,何が有価証券なのか,なぜこういう規定を設ける必要性があるのかという御疑問は出されておりますけれども,その点について御理解を頂けるようであれば,それ以外の中身についての御異論は特にないというふうに承りました。   「2 有価証券に関する規定」は,どの問題を解決するためにという以上に,現在商法と民法に散在している有価証券の通則的な規定を一つにまとめる以上は商法よりも民法のほうがいいのではないかという,こういう提案だと理解しているのですけれども,この点についても基本的には何が適用対象になるのか,有価証券の定義というのはやはり明確化すべきではないのかと,こういった御疑問がありました。   ただし,それではどういう定義ができるのかということ,あるいは定義をすることが将来の発展に一定の足かせになる危険性はないのかということについて,更に検討を続けさせていただければと思います。   「3 有価証券に関する通則的な規定の内容」につきましては,事務当局から御提案がありましたように,別途検討の機会を設けるということにさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか。 ○佐成委員 今のおまとめで結構だと思うのですが,少しだけ発言させていただきます。経済界の中で議論しておりまして,民法と商法に散在する規定をひとまとめにするということについてはそれほど異論もなかったかと思います。それと,定義を置くかどうかという議論は余りなかったようでございます。   ただ,民法に置くのか商法に置くのか,あるいは単行法として有価証券法を起こすのかということについては必ずしも一致した意見があったわけではございません。学理上の問題,あるいは条文の整合性といった問題はあるとは思いますけれども,やはり利用者から見てどっちに置いたほうがいいかという,利用者である国民一般の利便性という観点も重要ではないかと思います。民法に置くということも一つの選択肢ではありますけれども,商法に置く,あるいは単行法にするという選択肢があり得ることも十分考慮に入れて今後も議論を続けていっていただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに有価証券関連で御発言ございますでしょうか。   それでは,恐縮ですけれども,次に進ませていただきます。続きまして,部会資料38の「第1 債務引受」のうち「1 債務引受に関する規定」について御審議を頂きます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 「1 債務引受に関する規定」では,第1パラグラフで併存的債務引受と免責的債務引受のそれぞれについて要件・効果に関する規定を設けることを提案しております。   第2パラグラフでは,規定を設ける場合の基本的な方針として,併存的債務引受を原則的な形態として,これに免除の意思表示が付加されたものを免責的債務引受と捉えることを提案しております。   この問題は個別の論点との関係でも問題になりますので,個別の論点に関する問題についてはそこで御議論いただくこととし,ここではまず総論的に指摘すべき事項があれば御指摘いただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○大島委員 債務引受に関する規定でございますが,中小企業においてあらかじめ債務引受である旨を明示して取引を行うことはそれほど多くないと認識しております。しかしながら,下請取引の場合,現場などでは納期を遵守するために支払の口約束がなされるケースがございます。例えば,元請,下請,孫請の三者の下請取引において,何らかの事情で下請業者が業務を遂行することが困難になった場合,元請業者は納期を守るため,孫請業者に支払いを口約束し,仕事の履行を依頼することがございます。孫請業者は元請業者が債務引受をしたものとして元請業者に代金を請求することが考えられますが,このようなことが債務引受に当たるとすると,この効果について明文を設けることは意味があると考えます。 ○山野目幹事 ただいま御紹介のありました第1の1の論点につきまして,債務引受について規定を設けるという提案そのものに反対するものではありませんけれども,その論議を始める前提について少し申し上げておきたいことがございます。それは,一般に債務引受をして新しく債務者になるという契機について,今日まで余りその原因というものを強調する議論がされてこなかったのではないかということでございます。債務引受という制度は,もとよりあってもよいものでありますし,それについての規定が設けられることも妨げる理由はないと考えますが,その際は債務引受というものもまた原因があって初めて成り立つものであるという当然の前提に注意を向けて論議がされるべきものであると考えます。   債権譲渡について無因の債権譲渡というものを考えるべきではなく,債権を売った,あるいは債権を贈与したという原因が求められるのと同じように,またそれ以上に原因が示されて初めて債務引受を行うことができるという契機を忘れてはならないと考えます。そうでなければ債務引受は,第三者がする弁済に実質的に求められる一種の要物性や,保証の要式行為性をネグレクトするための道具に成り下がるということになりかねないという危惧もあるものでございますから,この点,債務引受の論議を始める前提として申し述べさせていただきたいと考えます。 ○岡委員 個別論のほうでの議論になるかと思いますが,この第2パラグラフの免責的債務引受を並存的債務引受プラス免除と構成する点について,先ほどの山野目先生の話にもつながると思うのですが,弁護士の実感として免責的債務引受と併存的債務引受の実態はかなり違うのではないか。どちらかよく分からないときに,併存的債務引受と認定できるからこの構成にメリットがあるのだと書かれておりますが,どうもそういう事実関係がダブるような感覚はないという弁護士が多うございましたし,私もそのように思っております。   債権譲渡について連帯債権化し,元の債権者が免除するとそういう構成は採らない。どちらかよく分からないときに連帯債権と認定するというようなこともあり得ないでしょうし,どうも併存的債務引受プラス免除の構成について疑問が残りました。個別のところでまた更に申し上げたいと思いますが,総論としてそれだけ申し上げます。 ○高須幹事 今のお二方の発言につながるものでありますけれども,やはり債務引受に関しても原因が何かあるはず,原因行為というのがあるはずでございますから,それを全く抜きにした法律構成を考えるのは妥当ではないと思います。今回の議論は決してそういうことではないと思っておるのですが,そういうふうに思われてしまうような改正案の作り方というのは余りよろしくないのではないかと考えます。やはり債権譲渡についても原因行為を意識して議論しているわけでございますから,債務引受についてもそのことをしっかり認識した上での債務引受制度の在り方というものを考えたほうがいいのではないか,既に御発言がありましたことと重なっていて恐縮でございますが,そのように思った次第でございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   岡委員から御指摘のあった点はまた個別の論点として議論を深める必要がある部分だと思いますが,併存的債務引受と免責的債務引受では,一般的には併存的債務引受を原則形として考えていくということ自体には大きな異論はないですか。全く別の意見だからそういう整理をすること自体おかしいという御発言でしょうか。 ○岡委員 免責的債務引受のほうが効果が大きいので厳密に調べましょうねと,そういう意味では分かるのですが,どちらかよく分からないときに併存的債務引受とすると,そこにかなり引っ掛かりを覚えているということです。 ○鎌田部会長 それでは,具体的な内容の部分と重なってくると思いますので,「2 併存的債務引受」について御審議を頂いて,必要に応じてまた1のところに戻っていただければと思います。事務当局から説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 「(1)併存的債務引受の要件」のアでは,併存的債務引受の要件として,債権者,債務者及び引受人の三者間の合意は必ずしも必要ではなく,債権者と引受人の合意や債務者と引受人の合意があればすることができる旨の規定を設けることを提案しております。   イでは,まず債務者と引受人との合意によって併存的債務引受が成立する場合に,債権者の承諾が必要か否かという問題を取り上げておりますが,ここでは第三者のためにする契約の規律に従うことでよいかということについて御意見を頂戴したいと考えており,債権者の承諾を要件とするか否かについては第三者のためにする契約の問題として別途御議論いただくことを予定しております。   「(2)併存的債務引受の効果」のアでは,併存的債務引受によって引受人は併存的債務引受の合意がされた時点で債務者が負担していた債務と同一内容の債務を債務者と連帯して負うものとする旨の規定を設けるという考え方と取り上げておりますが,これは連帯債務について現在よりも絶対的効力事由を限定することが前提となっていることに御留意いただければと思います。   イは,引受人が債務引受の効果が発生した時点でその引き受けた債権について債務者が有していた抗弁を債権者に対抗することができること。そして,当該債権の発生原因となった契約の当事者であることに基づく解除権,取消権,その他の権利を行使することはできないことについて規定を設けることを提案するものです。   また,第2パラグラフでは,債務者が債権者に対して有する反対債権をもって引受人が相殺を主張することの可否について,民法第436条第2項の見直しの検討結果を踏まえて検討することを提案しております。   ウは,連帯債務の求償権に関する規定が適用されることを前提に,併存的債務引受の効果としての求償権に関する規定は設けないことを提案しております。   「(3)併存的債務引受と保証との関係」は,保証人保護の規定の適用を免れるために併存的債務引受が利用されることを防止する観点から,併存的債務引受の主たる目的が債務者の債務を保証する目的のものについて保証の規定を準用するという考え方を取り上げるものです。   以上の(1)から(3)までについては具体的な規定の在り方などにつき,分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点について分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分についての御意見をお伺いいたします。 ○安永委員 (1)の併存的債務引受の要件について申し上げたいと思います。この要件のアについて,引受人の単独行為も加えていただきたいという趣旨から発言をいたします。   企業倒産が発生した場合,労働債権確保の方法として,経営者個人やその親族に併存的債務引受をさせる方法がとられることが少なからずあります。その方法を具体的に申し上げますと,まず労働組合が経営者個人やその親族と交渉して債務引受をする旨を宣言する内容の書面に署名,押印を得る方法があります。そして,この場合債務引受がなされる対象が労働組合所属の労働者の労働債権だけではなくて,組合未加入者や管理職を含む全従業員の労働債権が対象とされることがございます。その場合,親会社又はオーナー個人が起こった債務引受のうち,組合員である労働者の労働債権を引き受けた部分は,債権者である労働者の代理人である労組と引受人との間の二者の合意ということができますが,労組に所属しない労働者の労働債権を引き受けた部分は,親会社やオーナー個人が単独で債務引受を宣言し,労働組合を通じて各債権者らが知ることができる状態に置いたものといえます。   また,労働契約以外の分野となりますが,解散した子会社が販売した欠陥商品の回収について,親会社が新聞広告を出して債務引受を宣言するケースも例として考えられます。   次に,倒産企業が民事再生手続開始申立等を行い,経営者個人が裁判所に対して労働債権について債務引受する旨の書面を提出するという方法があります。これについては裁判所が併存的債務引受の効力を肯定する決定を発した先例があり,名古屋地裁平成12年(再)第11号の再生計画認可決定がこれに当たります。   部会資料の提案では,債務者と引受人の合意又は債権者と引受人の合意が要件として挙げられていますが,これらに成立要件を限定した場合には,今申し上げたケースについて併存的債務引受の効力が生じないのではないかという懸念があります。   また,併存的債務引受と逆の法的効果を持つ債務免除について,単独行為でなし得るのであるから,これとのバランスを考えれば併存的債務引受について単独行為でなし得ることを肯定すべき,とも考えられます。   併存的債務引受の発生要件については,御紹介した例などについて御留意を頂き,引受人の単独行為により併存的債務引受が成立し得ること,条文上も明らかにしていただきたいと考えます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。これに関連して何か御発言ございますでしょうか。   それでは,この点については少し検討させていただくということにします。   併存的債務引受に関しては,ほかには特に御発言ございませんでしょうか。   大筋では特に御異論はない。しかし,具体的な規定の在り方については事務当局の提案のように……。どうぞ。 ○中井委員 「(2)併存的債務引受の効果」のイについてです。本文の考え方については異論がないという意見が多かったのですが,解除権,取消権,その他の権利の行使に関して,履行拒絶を認めることができるのではないかという意見が幾つかの単位会からありました。つまり,債務者が解除権,取消権を行使するかどうか分からない間に引受人が履行しなければならないのか,履行拒絶を認めてもいいのではないか,その点について検討してはどうか,こういう意見です。   (3)の併存的債務引受と保証との関係については,御指摘のような規律を設けることに基本的に賛成です。ただ,問題は併存的債務引受の主たる目的が債務者の債務を保証する目的である場合という要件立てについて,これは部会資料でもその曖昧さについて御指摘のあるとおりです。これでやむを得ないという考え方もあるのかもしれませんが,一つの対案ですけれども,引受人が個人である場合には,基本的に保証の規定が適用されるという方が簡明ではないか。弁護士会の保証に関する意見については,個人保証については原則禁止をして,例外的に認める場合を設けております。その上で保証が認められる場合についても説明義務等,その他保護の規定の適用があることを想定しているわけですけれども,併存的債務引受についても,個人が引き受ける場合については基本的に保証と同類型になるのではないか。その場合に限定を加えるとすれば,保証の場合と同様に,債務者が法人の場合,若しくは法人ないし事業者の場合で引受人が個人については基本的に一律適用という考え方が簡明ではないか。こういう意見がありましたので,御検討いただけたらと思います。(3)については,分科会でなお検討するという御提案ですので,それにも賛成いたします。 ○三上委員 金融機関が債務引受を使う場合には,債務者と引受人との合意あるいは債権者と引受人との合意,それぞれの立場で利用していますが,これまで余り問題はなかったと思うのですが,一般的に,個人が引受人になる場合も全て含めて,あるいは最初に提案がありましたように,引受人の単独行為でという場合が出てくるとしますと,いわゆる引き受ける債務の内容に関する説明義務とか,そこから発生する意思表示の瑕疵の問題,そういったものの判断は,例えば債務者と引受人であれば債務者が説明するのか,引受人の単独行為であれば,引受人に動機の錯誤があってもそれは保護されないと割り切るのか。そういった点について,少なくとも第三者が受益の意思表示を示した後になって債権者の側に何らかのしわ寄せが来るようなことにはならないような制度設計をお願いしたいというところが第一点です。   それから,(3)のところですけれども,「保証する目的のもの」というのは先ほど中井委員がおっしゃったように非常に曖昧な概念でして,実務では債務引受は決算の目的とかパラレルレッドの創出等々いろいろな金融手法のイノベーションとして活用されておりますので,曖昧な概念が入ってきて,場合によっては契約自体が無効になるかもしれないリスクを負うと非常に問題が出てくることが懸念されます。特に債務引受を行う場合というのは,多かれ少なかれ信用補完目的が何がしか入ってきますので,それが主たる目的なのかどうかの判断は難しい場面があるのではないかと思います。特に債務者の交代を企画するような場合というのは保証よりもむしろ責任が重いということもできそうなので,限界が曖昧になるということに関しては非常に危機感を覚えています。   中井委員は先ほど個人の場合を別にするとおっしゃったのですが,金融取引では営業性個人も入ってきますので,もし仮に分けるとするならば,事業者か消費者かという区分がより適切な方向ではないかと思います。今の最後の論点は中井委員の提案への思い付きで言っていますので,もう少し議論が必要かもしれません。   結局,ここで保証を目的とするものを規制しても,結局,より保証の脱法的に使われる懸念が高い損失補填契約だとか債務者を追加するような更改契約みたいなものを使えば,何度か繰り返しておりますように,いくらでも潜脱の手段は考えられるわけで,そういったのは脱法行為等々の一般法理で対応すればよい話であって,たまたま似たような規定がここに入ってくるからそこに類推規定みたいなのを置くという中途半端なくくり方に関しては反対であるということです。 ○大島委員 ただいまの(3)の併存的債務引受と保証との関係についてでございますけれども,部会資料にあるように,併存的債務引受が保証における保証人保護の規定の適用を免れるという意図で利用されるという懸念については理解できます。しかし,保証債務と併存的債務引受は極めて類似した性質を持っていますので,仮に併存的債務引受に保証の規定が準用されることになると,実態は保証そのものになってしまうのではないかという懸念がございます。   そこで,明文化に当たっては保証の規定が準用される一定の類型をできる限り具体的に記述するとともに,類似の性格を持った連帯保証,連帯債務などの差異についても明確に記述すべきと考えます。よろしくお願いします。 ○中井委員 私の先ほどの発言について三上委員から御意見がありましたので若干補充しておきます。この部会資料の提案では保証する目的かどうかということですから引受人の属性を問うていないわけです。実務では三上委員からありましたように,引受人が法人ないし事業者の場合はそれなりに合理的な場合があるだろう,保証目的であっても。そのときに直ちに保証規定を適用するとまでしなくても,法人ないし事業者であればそこで適切な対応ができるかもしれない。ということで,引受人について法人あるいは事業者を外して個人のみにするほうが明確ではないか。   次に,個人とした場合について,これを消費者にするのかという点は次の検討課題で,三上委員のおっしゃったような場面があるとすれば,事業者でない個人に限るという考え方もあろうかと思います。さらに,ここで個人と申し上げたのは,保証をする目的ということは引受人の負担割合はゼロで,元の債務者が100なわけですけれども,逆に引受人の負担割合を10でも20でも定めることによれば,保証目的かというとそうではない可能性もある。負担が重くなって,保証の規定の適用もないというのは,個人の保護に欠けるのではないかという配慮から,併存的債務引受一般について引受人が個人の場合について定めたほうが規律も明確であるし,実質的保護の機能も果たせるのではないか,こういう考慮ですので,分科会で検討していただければと思います。 ○山野目幹事 (3)の論点でございますけれども,事務当局から御提案がありますように,分科会で補充的に更に御検討をお願いするということでよろしいと考えますが,私が今抱いております考えといたしましては,(3)として部会資料で御示唆をいただいている基本的な方向で考えるのがよろしいと感じますとともに,これに加えて中井委員の御提案に少し似ておりますけれども,個人が引受人となる債務引受は保証が原因となって,あるいは保証を目的としてされたものと推定する旨の規律を入れるということは考えられるのではないかというふうに感じますから,分科会における検討の際に参考になさっていたただきたいと考えます。   個人が引受人になる場合について,このような推定が覆らなかった場合には,基本的に方式については保証の規律に従ってしていただくこととし,その余の様々な実質的な規律をどういうふうに適用するかという問題につきましては,個人保証の規制に関して三上委員が御指摘になったように,様々なタイプの保証人がいるものでありまして,それらを視野に置いてどのような規律が整備されるかということを改めて見た上で,その帰すうとの整合を考慮しながら最終的な御検討をお願いしていくことがよろしいのではないかと考えます。 ○中井委員 今,山野目幹事からありました「推定する」という考え方についても二次的な案として十分検討していただければと思います。 ○松本委員 私も(3)ですが,主たる目的がという切り分けは非常に不安定で,最後の段階で保証だと認定されて全て無効になるという状況は避けたほうがいいと思いますから,保証の規定を準用するということであればきちっとそれ分かる規定に,どういう場合に準用されるのかを分かるようにすべきだろうと思います。   その関係で,脱法行為として使われるリスクがもっと大きくなるのは,根保証の代替として使われる場合でしょう。この後で議論がされますが,14ページで出てくる将来債務の引受の部分で,将来の未発生で,しかも不特定の債務について引き受けますという併存的債務引受が一般に行われるようになると,これはもう根保証代替性が大変強くなる。根保証は保証の中でも大変規制が厳しく,根保証人保護が徹底しているわけですから,そことの関係で脱法が行われないような手当てをする必要が大変大きいのではないかと思います。 ○佐成委員 (3)のところで,今保証の規定を準用するという立法提案がなされておりまして,この補足説明を読みますと,保証の規定を全部準用するというわけではなくて,保証人保護の規定を準用するという趣旨で立法提案されております。ですから完全にこれらの規定が準用されたとしても,併存的債務引受と保証とには違いが出てくるだろうと思いますが,その辺りも含めて分科会ではきちっと議論をしていただきたいと思います。完全に保証になってしまうというような想定だとどうなのかなというところもありますので,そこを注意していただきたいというのが一つでございます。   それと,(1)についてでございますけれども,基本的には債務者と引受人との合意によるという最初の類型を,第三者のためにする契約の議論の帰すうに委ねるというふうになっております。けれども,この補足説明を読みますと,債権取得型については受益者の同意は不要であるという書き方になっております。経済界で議論した中では,勝手に債権者の関与なしに引受人が増えてしまうと,引受人を管理するコストが増えるといった事態も発生するので,ここで今議論する必要性は必ずしもありませんが,第三者のためにする契約の中でもその辺りを踏まえて議論をしてほしいと,慎重に議論してほしいという意見がございましたので,御紹介させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。それでは,たくさんの御意見を頂戴しましたので,それらの御意見を踏まえて分科会で補充的な検討をさせていただければと思います。   続きまして,「3 免責的債務引受」について御審議を頂きます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 「(1)免責的債務引受の要件」のアは,併存的債務引受に免除の意思表示が付加されたものを免責的債務引受と捉える見解を採用することを前提に,併存的債務引受の要件に加えて免除の意思表示があり,これについて引受人が併存的債務引受の合意の相手方に対して承諾したことを要する旨の規定を設けることを提案するものです。   イでは,併存的債務引受の合意に先立って,併存的債務引受の成立を条件とする債権者の免除の意思表示がされることによっても免責的債務引受が成立することを認め,そのための要件として免除についての引受人の承諾の事実を債務者が債権者に通知することを必要とするという考え方を取り上げています。   「(2)免責的債務引受の効果」のアでは,債務者の債務の消滅という免責的債務引受の効果が生じる時期については規定を設けないことを提案しています。   イでは,免責的債務引受を併存的債務引受の合意に免除の意思表示が付加されたものと捉える考え方を採用することを前提として,この免除の意思表示によっても民法第437条が適用されず,引受人には免除の効力が及ばないこととなり,かつ引受人は債務者に対して求償することができなくなる旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。   ウは,免責的債務引受の当事者は,従前の債務者の債務に設定されていた担保を,引受人が負担する債務を担保する物に移転させることができるが,その担保が引受人以外の一定の者が設定したものである場合には,設定者の承諾を得なければならない旨の規定を設けるという考え方を取り上げるものです。   なお,債務者が担保を設定していた担保の移転のために債務者の承諾を必要とすべきか否かについては見解が対立しているところですので,この問題を第2パラグラフで取り上げております。   エは,債務負担の効果が発生した時点で,引き受けた債権について債務者が有していた抗弁を債権者に対抗することができる旨の規定を設けることを提案するものです。   以上の(1)及び(2)については具体的な規定の在り方などにつき分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点について分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いします。 ○中井委員 最初に岡委員から弁護士会の意見の紹介がありました。このような構成もあり得るという意見もありましたが,他方で併存的債務引受プラス免除の意思表示という構成については強い疑義を出す意見もございました。つまり,この構成の複雑さに対するものです。   仮にこの債務者と引受人との合意でできるパターンを考えますと,両者の合意に加えて債権者が受益の意思表示をする,これは不要という考え方もあるのかもしれませんけれども,加えて債権者から債務者に対する免除の意思表示がある。しかも,そのときにはこの効果のところで記載されていますが,民法437条が適用されないという特別ルールをそこに設ける。加えて,引受人がその免除について承諾をする。その効果として求償権がない。こういう複雑な構造になるわけですけれども,これに対して素直に,これは債務の移転であると理解をすればどうなるのか。債務者と引受人との間で債務を移転するという合意,これが基本的にあれば,債権者がそれについて承諾をすることによって免責的債務引受が成立する。単純ではないか。   そのときに,債務者と引受人との関係,つまり求償権なしということを前提に部会資料はできていますけれども,果たして本当にそうなのか。債務者と引受人との求償権がありやなしやの関係は,最初に山野目幹事がおっしゃったことと関係するのかと思いますけれども,係る免責的債務引受をする原因が何にあるのかによって決まるのではないか。場合によっては対価を払って免責的債務引受をしているのかもしれない。先に免責的債務引受をして,履行した後求償権の行使を予定しているのかもしれない。それとも無償で引き受けているのかもしれない。それは債務者と引受人との関係で決まるのではないか,原因行為で決まるのではないか,そういう疑問です。   次に,債権者と引受人との合意でできるというパターンを考えてみた場合,部会資料に基づけば,債権者と引受人で債務引受の合意をした上で,同じように債務者に対する免除の意思表示をする,民法437条の適用排除をする,引受人は加えて免除の承認をする,そして求償権なし,という構造を考えるわけですけれども,これも単純に債務の移転と構成するならば,債権者と引受人との間で債務者の債務を免責的に,つまり債務を移転する合意ができればそれで足りるのではないか。債務者の意思に反する引受についてどのように考えるかを整理するという課題は残るかもしれません。仮に債務者の意思に反するものでもできるとしたときには,引受人と債務者との間の求償関係をどのように整理するのか,それをなしと決め付ける必要もないわけで,それも原因行為いかんによる。この部会資料にもありますように,一般的な規定,事務管理ないし不等利得で処理をする,債務者の意思に反するものであれば現存利益で処理する,そのような整理も十分あり得るのではないか。   要するに,部会資料の併存的債務引受とした上で免除の意思表示という段階的構成を採ることについて,複雑な構成になるけれども,それよりは従来の理解のような債務の移転という構成で当事者の意思を確認していくほうが簡明ではないか,そういう意見です。 ○道垣内幹事 中井委員に伺いたいのですが,債務者と引受人が債務を移転するという合意をしたけれども,債権者がそれを承諾しなかったという場合にはどういう効果が生じるという前提でお話をされているのかということなのです。その際に,移転を承諾しなかったのだから何らの効果も発生しないと考えるのならば,中井委員がおっしゃったような構成は採れるのだろうと思います。これに対して,移転を承諾しないというときにも,しかしながら引受はなされているのだから,併存的債務引受は生じるということになると,それは併存的債務引受がまずその債務者と引受人との間の合意でなされて,その後にその「同意」を「免除」と呼ぶかどうかはともかくとして,別のプラスアルファのものとして捉えるということなのだと思うのです。以前は債務の移転と考えられてきたということは私は極めて疑問ですが,そう考える方が単純であるというときの前提をちょっとお伺いできればと思うのですが。 ○中井委員 債務者と引受人が合意した場面について二つの考え方があり得るとの議論が出ました。債権者と引受人との間での債務が成立しない,それで終わりという考え方。それに対して併存的債務引受は少なくとも成立するという考え方,両方あり得るのだろうと思います。そこについてはまだ最終的意見を出しているわけではありませんけれども,別に併存的債務引受の成立を否定する必要はないのではないかというのが大阪弁護士会の考え方です。   では,そのときはどういう帰結になるのか。併存的債務引受の後,債権者が債務者に対する債務を免除したいときには通常の,併存的債務引受であれば連帯債務という規定が類推される,若しくはそれは不真正連帯債務かもしれません,絶対効をどう考えるかによりますけれども,その中における債権者の一方債務者に対する免除,その免除の意思表示の内容をどのように理解するかで一般的に解決する。あえてこの特別類型という形にはしない,こういう考え方もあるのではないかという議論をしております。 ○道垣内幹事 私は成立しないという考え方も,何の効果も発生しないという考え方も十分あり得ると思うのですが,そうではなくて,併存的な債務引受にはなるのだという構成は,同意をもって元の債務者に対して訴求しないという意味であると捉えるわけですから,ここの原案で出てきているものと違いはないのではないでしょうか。つまり,債務者と引受人との間の合意があったときの原型の効果として併存的債務引受が発生するということでは違いがないのではないかという気がしてならないのですが。   それともう1点だけ付け加えますと,求償の問題に関して,求償権がなくなるという問題は一義的には定められないというのは,そのとおりだと思うのですが。両当事者間で何らかの合意があるときに,求償がなされ得るというのは,当然な話であって。問題は債務引受プラス引受債務の履行というメカニズムによって当然に求償権が発生するという効果を認めるかどうかであろうと思います。場合によるだろうというのはそのとおりなのですが,場合によることは全くこの原案自体は妨げていないのではないかと思うのですが。 ○松岡委員 今の意見に全部関連します。ただ,中井委員の示された構成のことは,今まで考えておりませんでしたが,特に求償権がないとすることには,やはりかなり違和感を感じております。部会資料12ページの辺りで,437条を適用しない。それは新たな引受人が単独で債務を負うはずなのに,そこで免除の効果が及んでしまうのはおかしいとあります。ここまではよく理解できます。ところが,この免除によって引受人は債務者に対して求償することができなくなると書いてあるのですが,それがなぜなのかがよく分かりません。そこに指摘してある検討委員会試案の226ページも拝見してみましたが,求償権がないことは引受人が全額について単独債務者になることを承諾していることによって基礎付けられるとしか書いてありません。それは引受人だけが単独の債務者になるという債権者との関係の問題であって,その後に元の債務者と引受人の間でどういう調整がなされるかは別の話ではないかと思います。   この案はひょっとする求償権が生じない場合だけを免責的債務引受と呼ぼうとしているのかとも考えてみました。しかし,先ほどの道垣内幹事の御発言では,求償権が生じないことは必然ではないとおっしゃるので,そうするとますます,ではなぜ求償権が生じないことが原則型となると決めるのかがよく分からないです。   そこでの説明にはありませんが,利害関係がない者からの第三者弁済を認める代わりに求償権が生じないという提案が第三者弁済の個所で示されていることと,ここでの扱いは一体であるか,少なくとも論理的に関連があるのかと思います。その点については,第三者弁済の個所で発言をしたいと思います。先ほど山野目幹事や中井委員が御発言がありましたように,求償権の発生の有無は当事者の内部関係によって決まります。特に債権者と引受人が合意をして,後でそこに債務者が加わる場合には,引受人と元の債務者との間で事前に合意があるとは限りませんし,引受人が元の債務者の債務の肩代わりをしてやったという実態はあるわけですから,なぜ求償権がおよそ発生しないとするのかが分からないのです。そこは当事者間の法律関係次第で,契約による場合もあれば事務管理による場合もあり,さらに不当利得による場合もあります。基本的にはその法律関係によって求償関係の有無と範囲が基礎付けられます。場合によっては求償権が発生しないことまでは理解できますが,最初からおよそ一律に発生しないとするのはどうしても私には理解できません。 ○道垣内幹事 一般的な例えば保証人の場合ですと,他人の債務を支払っているという関係にあって,それとの関係での求償権が基礎付けられるという問題と,元の債務者が債務者たる地位を失っているという場合の求償権の話というのは恐らくは違う話なのだろうと思うわけでして,元の債務者に債務がないというときに,引受人が自らの債務を支払って,なお求償権が発生するというのは,例えば委任なら委任の効果として存在しているにほかならず,他人の債務を弁済することによる求償メカニズムとは別の問題であるということではないかと理解しているのですが。 ○松岡委員 余りしつこくこだわるつもりはありませんが,道垣内幹事がおっしゃるように別の問題であるとすれば,必ず求償権が発生しないという結論になるのでしょうか。 ○道垣内幹事 だから,そこは求償権というものの定義の問題です。委任が行われて,これを払ってくれという場合に,一定の費用の支払請求権があるのは当然の話ですよね。別に私が作ったものではないのですから解説するのも変ですが,この資料で「求償」と呼んでいるのは,それとは異なるものであると思っているのです。 ○松岡委員 なるほど。 ○松尾関係官 部会資料の趣旨も説明しておきますと,求償することができないというのは,今道垣内先生がおっしゃった趣旨であり,かつ委任契約など原因関係にも続いて対価が発生するということを妨げる趣旨では全くないということでございます。   あと,もう1点お話させていただきます。中井委員からの御指摘の中で,今回の部会資料の構成が複雑ではないかというお話がありましたが,その御意見の前提として,免責的債務引受という合意というのは,併存的債務引受の合意があって,その後に免除の意思表示があるという,段階的に別々の合意や意思表示がないと成立しないということを前提としておられるのではないかなということが気になりました。ここで言いたかったのは,そのような形でも免責的債務引受は成立し得るのだけれども,これまでのように免責的債務引受という形で合意をするということは妨げられないと考えておりますので,今回の部会資料の考え方が採用されることによって,免責的債務引受の合意の成立が,複雑になるのかというと,必ずしもそうではないのではないかと考えている次第です。 ○三上委員 法制度の法律的な解釈はいろいろあるのかもしれないですが,金融機関が免責的債務引受を使う場合のコンセプトは,「更改にならない債務者の変更」です。関係者の承諾があれば担保も保証も旧債務者の状態と同じようにそのまま続くけれども,単に主債務者だけが入れ替わる取引,こういうものを実現するためにこの制度を使っておりますので,それと異なることになると問題が出てきます。   今後免除の部分の法制がどう変わるのかによりけりですし,かつ連帯債務における,特に時効の相対効が実現すればかなりの部分は解決してしまうのですが,原則的にこういう手段が使われる場面というのは,例えば主債務者が行方不明とか,あるいは行為能力を喪失している状況,つまり意思表示が到達しない状況で使っておりますので,後でひょっこり現れた,あるいは突然意識を取り戻してそのときに時効が成立していて,時効と言われても引受人は引き続き同じ条件で払い続ける法的義務を負う,そういう構成が維持されるように御検討賜りたいということは強調しておきたいと思います。   その関係で,(2)の部分ですけれども,この説明の前提は,担保権は承諾があればそのまま継続する,つまり順位を保存するためにこういう構成を採るけれども,保証は一旦消えて,継続したければそのときの合意で新たに付け直すという発想に見えます。これが正しい理解ならば,例えば保証人が支払不能に近いようなときには否認の対象になってしまう懸念がありますので,ここはやはり同意があれば一番最初に保証したときの状態がそのまま継続されるという前提で設計をお願いしたいと思います。   それから,ウの甲案,乙案は両方ともありうる考え方だと思いますが,少なくとも引受人と債権者の間だけで免責的債務引受が行われうるのであれば,乙案は酷かもしれないという点も付け加えていきたいと思います。 ○佐成委員 先ほど(2)のイのところで出ていた議論に付加して述べようと思った点を申し上げたいと思います。基本的にはデフォルトルールであるということは理解しておりまして,申し上げたいことは,求償できなくなるという方をデフォルトにするのか,求償できるという方をデフォルトにするのかという点についてです。経済界の中ではどちらかというと,求償できるという方をデフォルトにしたほうが,実務の今までの運用等にそれほど違和感なく受け入れられるのではないかという意見が多くありました。実際に免責的債務引受を使っていろいろ処理している中で,債務引受の対価として何か債務者から金銭を受け取っているのか,あるいは事後求償権の行使として何か債務者から金銭を受け取っているのかというのは必ずしも明確にはなっていないところがあって,デフォルトが求償できないとなると,そこら辺の手当てをしなくてはいけないとか,そういった実務的な不都合が生じるのではないかといった懸念を述べる方もいらっしゃいますし,どちらかというと原因関係,つまり引受人と債務者との内部関係に依存する部分が非常に大きいわけなので,そこはデフォルトとしては求償できると一応しておいたほうがよろしいのではないかなという気はしております。 ○深山幹事 少し前になされた中井先生と道垣内先生とのやり取りに関連したことを申し上げたいと思います。債権者抜きで元の債務者と引受人との合意で免責的債務引受をしようという合意をして,当然債権者の同意を得ることを前提にそういう合意をして,債権者が同意をしなかった場合どうなるのか,法的効果が残るかどうかということに関して,私はそれは残らないと考えるべきではないかと思います。正に債務者と引受人の意思というのは,免責的な債務引受をしましょうという意思であって,しかしそれは当然債権者が同意することを前提にそういう合意をしたはずで,債権者が合意しなければ債務者と引受人との間の免責的債務引受の合意というのは効力を生じないとすべきです。しかし,もうだから何もしないということではなくて,併存的債務引受の合意を改めてしましょうということはもちろんできるわけです。その必要があればそうすればいいし,もう御破算にして何もしないということも当然あると思います。   免責的債務引受が最終的にそのとおりの効力を生じるためには当然のことながら債権者の同意,つまり免除の意思が必要だということについては異論がないわけで,免責的債務引受については,債権者の積極的な関与が不可欠で,やはり合意の当事者として債権者は不可欠な登場人物なのだと思うのです。そう考えますと,当然引受人も不可欠ですから,その2名がやはり必要な登場人物で,さらに3人目の元の債務者も必要かどうかということは,議論,検討の余地があると思います。もちろん三者合意でできることについては多分これも異論がないでしょうから,そういう意味でいうと元の債務者を抜く債権者と引受人との間の免責的債務引受ができるかどうかということが実質的には議論の対象になって,それは類似の問題としては保証引受の問題であるとか,あるいは第三者弁済の問題とも関連をするので,それらとの整合性というのも考えなければならないと思うのですが,必ずしも三者合意だけに絞らなくてもいいのかなというふうには思うのです。少なくとも債権者の同意を抜きに免責的債務引受がなされるということはないと考えるべきで,その場合に,基礎になっている併存的債務引受が当然にそこだけは残るという構成をあえてしなければならない必要性はないのではないかと思います。免責的債務引受を説明する説明の仕方として,併存的債務引受と免除が合体したものだという説明をすること自体は別に否定する気はないのですが,現実に合意の効力として債権者が同意しなかったときにも併存的債務引受としての効力は残るという法律効果を与えることについては,その必要性はないと思います。当事者の現実の意思から考えても,通常はそういうことではなくて,当然免責されることを前提に免責的債務引受の合意をしようとしたところ,結果として債権者の同意が得られなかったということになれば,話はまた白紙に戻って,改めて併存的債務引受をするかどうかを当事者間で協議をするというのが通常の実態ではないかという気がします。そういう意味で,免責的債務引受について併存的債務引受プラス免除というふうに法律構成するということ自体に対する疑問ということになろうかと思います。 ○岡委員 弁護士会で実例としてどんなのがあるのだという議論をしていたときに,金銭債務の相続の場合がありますねと言われました。金銭債務を分割相続をして,最後に片寄せすることがあります。そういうときに銀行さんがなかなか承諾してくれない事例があるようですが,免責的債務引受である債務を完璧に片寄せができれば別の積極財産を確定的に動かして調整・合意します。そのときに債権者が承諾をしてくれなくて,併存的債務引受なり履行引受なり,元の人に債務が残る場合は別の積極財産を確定的にポンと移してきれいさっぱり別れることはできません。やはり感覚として免責的債務引受が通れば財産をこんなふうに分ける,それが通らないときはやむを得ず違う処理を明確に合意をする,そういう頭があるものですから,免責的債務引受の要件の一部が欠けた場合に併存的債務引受の効果が残ると言われると,かなり違和感を覚えるというのが多くの意見でございました。   あと,ストラクチャーの変更とか三者相殺するときに免責的債務引受を使うという声はありました。ただ,それは明確に三者で合意をしてスパスパやっていくので,余りこういう任意規定は関係ないのではないか。   それから,敷金返還債務の不動産所有権の移転に伴う移転が,免責的債務引受が当然に生じてしまう代表例としてあるのでしょうけれども,あれはもう,それは直そうという提案がなされておりますが,免責的というのがはっきりしているので,それに伴って不動産譲渡代金は減額されて求償権の問題は起きないということで進んでおります。   先ほどの元に戻りますと,相続の債務の片寄せのときのイメージを基に今回の原則的な併存的債務引受プラス免除の構成について違和感があるというのが実務家の感想でございます。 ○中井委員 繰り返しで申し訳ありません。先ほど松尾関係官からお話がありましたことに関してですけれども,私の整理を明確にしておくと,併存的債務引受と免責的債務引受は明確に二つに区分する。免責的債務引受については債務の移転と単純に構成したほうが分かりやすいのではないか。同じ結果が併存的債務引受を成立した一箇月後でも一年後でも,債権者が元の債務者に対して免除等するなりして,その免除の意思表示の内容は問題がありますけれども,免除等するなりして元の債務者に対する債務を免責にする。引受人について全ての債務を引き受けてもらう,そういう形を免責的債務引受成立後になすこと,このこと自体全く否定するものではありません。そのことを,併存的債務引受したときに同時にすることも否定することはありません。ただ,類型としては併存的債務引受の成立と免責的債務引受とは区別して,免責的については免責することを内容とする当事者の意思表示の合致があるからこそ起こるという整理が分かりやすいのではないか。そうすれば,先ほどの三上委員の御発言にもあったのかもしれませんが,従来の債務と同じ性質で移転するとしたら,それにふさわしい効果を考えていいのではないか,どのように考えるかは三上委員とは意見が違うのかもしれませんが,そのように考えております。 ○潮見幹事 幾つか発言させていただきたいと思います。この間の議論で法律構成をどのように免責的債務引受について考えるのかという話と,それ以外の話もいろいろあったと思います。直前に問題になっていた免責的債務引受の法律構成をどのように構成するのかということによって変わってくる部分というのは,恐らく先ほど深山幹事のお話にもありましたし,道垣内幹事から中井委員に対する質問にもあったかと思いますけれども,債務者と引受人との間で債務引受契約がされたが,債権者はそれについて同意を与えないという場合に,その後の法律関係が併存的債務引受という形で考えられるのか,それとも,弁護士会の委員・幹事の先生方がおっしゃっているように,免責的債務引受と併存的債務引受は類型が全く違うのであって,一部を切り取ったような処理はできないと考えるのかによって決まってくると思います。   この部分について,従来は併存的債務引受になるのだという形で民法の議論は進んでいたと思います。もしその考え方がよいということであれば,それにふさわしい法律構成は何かというのを考えた場合には,いわゆる債務引受プラス何らかの形の免責の意思表示とみたほうが説明としてはしやすいと思います。法律構成が複雑になるとかいう形でおっしゃられておりましたけれども,かえってそのほうが簡明になるのかもしれないなという感じがします。   ただ,そこの部分は債権者の同意がなかった場合の法律関係をどのように考えていくのかによって変わってくるという,かなり根本的な問題につながってくるので,そこをまず考えてからその後の法律構成を考えるべきではなかろうかと思います。私自身は,債務負担意思というものがあるのは間違いないのだから併存的債務引受が残るという,事務局がお書きになられているような方向でいいのではないかと思っております。   次に,さきほど出ていた求償権の問題,担保の帰すうの問題は,今申し上げたどちらの法律構成をするかに直結しないのでして,どのように処理するのが好ましいかというところで決着が付くのではないかという感じがいたします。   そのうちの求償権については,補足説明に書いているような構成を採るからといって,求償権が消えてしまうとかいうことにはならないのではないでしょうか。補足説明に書かれているところを忖度すれば,どうも免責的債務引受が特に債務者と引受人の間でされた場合に,その債務者の免責というものが債権者に対する関係のみならず,引受人との関係でも生じると考えて,それで求償権は発生しないという形で考えているのではなかろうかと思います。免責的債務引受の合意というのは普通はそうなのだという趣旨から出発して,求償権は発生しないということをデフォルトルールにしようとしているのではないかと,読んでいたときには感じました。   そうなると,それは先ほどからの議論にありましたように,求償権がどうなるのかというのは基本的に債務者と引受人間の関係をどう捉えるのかによって変わってくるわけで,法律構成から直ちに求償権がないということをデフォルトルールにするというのはちょっと行き過ぎかなという感じがしました。   それからもう1点,これは今まで出てこなかったところなのですが,(2)の10ページのアの部分で,免責的債務引受の効果が生じる時期については規定を設けないということなのですが,設けたほうがよいという感じがします。特に,免責的債務引受の合意が債務者と引受人の間でされた場合で,その後に債権者が同意をした場合,従来は一種の遡及効のような処理をすると考えられていたと思いますが,どうもこの事務局の説明は,免責の意思表示がされた時点でその効力が発生すると捉えるのが適切であるかのような記述になっています。そうであれば,仮にそのような方向で変わるにしても,あるいは変わらないにしても,どの時期に免責的債務引受の効力が発生したのかということは明確にしておいたほうがよろしいのではないでしょうか。   それは単に(1)のアだけではなくて,債権者と引受人との間の合意で免責的債務引受がされた場合についても等しく妥当するのではないでしょうか。(1)のイもそうかもしれません。   この後で議論がされると思いますが,契約引受のところでは,いつその効力が生じるのかということに関する規定を設けるべきであるという観点から,部会資料が作られています。そうであれば,余計に,それなら債務引受の場合も一般的にどの時点で効力が生じたのかということを明確にしておくことに意味があるのではないかとも思ったわけです。 ○山本(敬)幹事 今の潮見幹事のご意見を補足するようなところがあるのですが,構成の問題と実際の結論の問題とがどれだけつながっているかというのは,私も聞いていて分からなかったところがあります。  構成の問題とは,実際に行われた合意を法的にどのように説明するかという問題であって,事務局からの御提案はそのようなものとして私は理解していました。それに対して,実際に免責的債務引受が行われるときに,それが当事者間でどのような趣旨で行われるかというのは,次の問題です。例えば,併存的債務引受プラス免除の意思表示という構成を採ったとしても,当事者は,免除の効果が認められなければ併存的債務引受もなかったことにするという趣旨で合意をしているときには,弁護士会の委員の方々がおっしゃっているような結論になるでしょうし,そのような趣旨はなくて,免除の効果のいかんに関わりなく併存的債務引受を行うという趣旨で契約が行われているときには,そのようになるということであって,構成がこのようになったからといって,結論まで直ちに決まるという性格のものではないのではないかと思いました。 ○沖野幹事 2点ございまして,1点目は山本幹事がおっしゃった点そのものです。併存的債務引受をベースとすれば常に残るのかと言えばそれも趣旨次第ですし,債権者から免除が得られるということが条件になっているということであればその条件が成就しないときにはおよそ併存的債務引受としての効果はないということは十分あり得るだろうと思います。   ただ,逆の場合,全く両者別類型であるとしながら,なおも併存的債務引受としての効果が残る場合があるということを説明するハードルのほうが相対的に高いのではないかと思ってはおります。   2点目が,求償権の点ですけれども,これも先ほど来指摘されておりますように,デフォルトルールはどうするかという問題であり,そのような問題として中身を考えますと,非常に素朴な感覚かもしれませんけれども,対外的にもはや債務者ではなく離脱していると。求償権が生じる場合というのは事後の求償権を想定していると思われますので,引受人が自らの債務を履行したときに改めて求償するということが起こってくるということが一般的だと考えられるのかというとそうではないのではないかと感じます。また,引受自体を例えば依頼してやってもらうときに,それに対してあらかじめその金額を払うとか,あるいはその引受料等々を払うとか,更にその後どうするかについて約束をするというような,これはまた別の問題です。その意味でデフォルトルールは何かということだというわけですが。   そういう点から考えますと,これは少し感覚が違うのかもしれませんけれども,求償権というのは基本的にはないと考えることも十分素直に考えられる帰結ではないかという感覚を私は持っております。 ○松本委員 何人かの委員の方が(2)の免責的債務引受の効果をデフォルトルールだという前提の下に議論をされておられます。今の沖野幹事,潮見幹事,それから佐成委員も先ほどそうだったと思うのですが,これはデフォルトルールなのでしょうかということです。すなわち,免責的債務引受の成立は債務者と引受人の間の合意でもいいし,債権者と引受人の間の合意でも構わないという大前提で議論が始まっているはずなのです。併存的債務引受プラスアルファなのだから。ということは,債務者と引受人の合意でもって免責的債務引受ということであれば,正にその両者の間でどういういきさつでそうなったのかということですから,デフォルトルールなのだから,きちんと合意をしておけば合意が優先するし,不明確であればこちらが適用されるというルールだからということで一応説明は付くと思うのです。   そして,先ほどの事務当局の御説明では,ここで求償権はないと書いてあるけれども,委任等の求償権は当然あるのだということだから,第三者弁済的な意味での求償権はないというだけのことなのだろうと。道垣内幹事が正にそういう説明,債務がなくなってしまうのだから第三者弁済ですらないのだという説明をされたわけで,そういう趣旨だろうと思います。   だから,そういう意味では債務者と引受人との間での免責的債務引受の合意の効果として(2)のことを考えるのであれば,これはデフォルトルールだからデフォルトとしてどちらを置くのがいいでしょうかという議論でいいのだろうと思います。それはイの問題。それから,ウもそうだと思うのです。しかし,債権者と引受人との間の合意で免責的債務引受が成立するのだということだと,そこでのデフォルトルールというのは何ぞやとをいうことになり,求償権に関して,それはあり得ないと思うのです。すなわち,合意に関与しないところの債務者との関係での求償権のあるなしを決めることはできないはずですから。デフォルトルールという言い方でこれ決めるのはちょっと問題があるので,強行規定としてというのもおかしいですが,どちらなのだということをまず決めた上で,債務者と引受人の間ではそれを引っくり返す合意は有効だという感じのルール構成にしなければならないのだろうと思います。   では,特に債務者と引受人との間の合意のみで成立した場合にどちらのルールにすべきかということですが,先ほど沖野幹事がおっしゃったように,その場合は求償権がないということでスタートするほうが分かりやすいのではないかと思います。求償権を確保したければ,債務者との間で引受人として一定の合意をすれば確保は可能なわけですから,求償権を確保しておきたい引受人には債務者との間での一定の話し合いをするということを求めるというのは十分あり得るだろうと思います。   逆の場合,必ず求償権があるというのも割り切りとしては考えられると思いますが。 ○松岡委員 すみません,関連なので続けて発言させていただきます。松本委員の御発言の途中までは私が先ほど申し上げたことを支持していただいていると思っていたのですが,結論を聞くと逆になっていたので違和感がありました。引受人と元の債権者との間で合意をする場合には,両者の間でどういう法律関係があるかは一義的には決まりません。引受人が元債務者から委任もされず,場合によっては元債務者の意思に反した形でも債務引受ができるということになりますと,両者の間には事前に法律関係がなくても良いということですから,求償権を確保したければ債務者との間で合意すればよい,という結論にはならないと思います。 ○深山幹事 免責的債務引受を併存的債務引受とは独立の一つの類型と考えるのか,併存的債務引受プラス免除と構成するのかというのはこれまで議論されてきたとおりで,私は独立類型という考え方ですけれども。その議論でどちらの立場を採るにしろ,求償権の問題については既に御発言もありますが,御提案のようにデフォルトルールとして求償権が発生しないという結論を採ることに違和感を感じております。   免責的債務引受における免責的という意味合いは,通常は債権者が従来の債務者を免責するという限りで用いられていて,更に引受人と債務者との間で,引受人も従来の債務者に求償しない,そういう意味で引受人もその債務者を免責するという二重の免責の意味を持たせる場合ももちろんあると思うのです。その場合にはもちろん求償権は発生しない,全く従来の債務者は負担のない状態になって全て引受人が引き受けると,こういう合意をすることもあるのでしょうが,それがデフォルトかというと私はそうは思わない。これは事実認識としてどちらが多いかというだけの問題ではなくて,少なくとも免責的債務引受という概念が意味するところは,債権者が従来の債務者に対して免責するという限りでの意味を持っていて,更にそれ以上の意味を持つ場合もあれば持たない場合もあると,こういう概念なのだろうと思うのです。   先ほど沖野先生が引受人も債務者を免責するのが自然だという感覚を述べられましたけれども,免責的債務引受という言葉の意味するところは,そこまでは含まれていなくて,最低限含まれているのは債権者との関係だけなのではないかと思います。そういう意味で,デフォルトルールとしては,やはり求償権が残るということを原則にすべきであり,個別の合意で,そこも免除しますという合意は妨げるものではないですが,やはり御提案とは違って求償権が残るのが原則ということではないでしょうか。 ○道垣内幹事 法律構成と絡み,それぞれが採られる立場が微妙に異なりますので,全員に対する意見ということにはならないのですが,松本委員と松岡委員のお話にだけ特化して申しますと,私は松本委員がおっしゃるとおりだろうと思います。と申しますのは,松本委員がおっしゃったのは,債権者と引受人との間で引受の合意をし,その後,債権者が債務者に対して免除の意思表示をする。こういう場合を考えますと,債務者にとってみれば免除の意思表示を受けているという事実しか存在しないわけですよね。それなのに,その後に求償が生じるというのはおかしいですよね。免除を受けているのですから。免除を受けたのだけれども,その免除の原因が単なる免除なのか,ほかの人が引き受けてくれたから行われた免除なのかというは,法的には債務者に当然にはわかることにはなっていないのに,後者かもしれないから,求償されることを覚悟しておけというのは妙なのではないか。   だから,仮に,債権者と引受人との間で併存的債務引受ができるというのと,それを免責的にするのは免除によって行うのだという前提を採ったときには,引受人の履行によって元の債務者に何らかの支払請求ができるとしても,それはやはり求償権はないのではないでしょうか。 ○内田委員 求償権についてなのですが,元々は実際の実務で行われていることに関して,佐成委員のおっしゃったことにレスポンスしようと思っていたのですが,直前の道垣内さんの発言とも絡みます。現実に行われていることと,その法的構成の問題は区別する必要があって,山本敬三幹事が法的構成というのは法的な説明の問題であるとおっしゃったのは全くそのとおりだと思います。現実に行われている実務の中で,求償が生ずる場合が普通ではないか,それが違和感がないと佐成委員はおっしゃったのですが,併存的な債務引受をすると,連帯債務の関係になりますので,それで一方を免除すれば,免除の相対効を一応採ると仮定しますと,後は求償が生じるのですね。これは直前の道垣内さんの発言と食い違ってくるのですが,併存的債務引受で連帯債務を発生させて,元の債務者を免除したうえで引受人が弁済すれば,通常の求償が生じる。求償を生じさせたい場合は,このような法的構成で説明すればよいのです。   これに対して,求償が生じないタイプも一つの道具として作っておいたほうがいいだろうということで免責的債務引受という制度が今提案されているのだと思います。ですから,現実に行われた合意をどう解釈するか,これは合意の解釈の問題としてその趣旨に応じて処理をすればいいのですが,求償を発生させたければ併存的債務引受に普通の免除をすれば済むわけで,そうではなく,多分実務的には求償ではなくて,債務引受に対して対価の債権を発生させるという場面が多いのではないかと思うのですが,その場合はそういう趣旨の契約が別途あって,それと免責的債務引受がパッケージになっていると説明できるのではないかと思います。   そういう具合に実務で使える道具を提供するということですので,求償権がデフォルトとして発生しない法的手段を提供しておくということには意味があるのではないかと思います。 ○佐成委員 先ほども同じことを申し上げたのですけれども,要するに債務引受の対価として金銭の授受がされる場合と,それから事後求償権の行使として金銭の授受がされる場合があって,実務では必ずしも免責的債務引受といわれている場合にそこを明確に認識していないものですから,内田委員がおっしゃるような規定を設けると,実務的な対応を迫られる場合があり得るのではないか,それをちょっと懸念しているということです。   ですから,従来の実務では求償権ありというような構成で考えられていたものを,その逆をデフォルトとすると,現在の実務を維持するための手当て,例えば関係書類の文言を修正したりするという必要が出てくるので,それを懸念しているということでございます。ですから,むしろここはデフォルトルールなのだから求償できるという方でいいのではないかと思います。別に新たに余り使われそうもないような求償なしのパターンを用意してくれというのが実務のニーズでは必ずしもございませんで,むしろ現在ある実務を肯定的に評価していただいて,その上で使えるものを作るということなのであれば,実務感覚としては,あくまでここはデフォルトルールですから,学理的にはともかく,求償なしを原則とするような制度をあえて導入しなければいけないという実務上のニーズは,少なくともあまりないのではないかというふうに感じております。それが一つです。   それから,実際やはり免責的債務引受が行われるというのは債務の肩代わりをするという場合が圧倒的に多いのですけれども,肩代わりしても,それは飽くまで債務者の資力の状態が変動している場合に一時的に免責的債務引受をして,将来また財産状態が変動してきて資力が回復した場合には一部でも返してもらおうとか,そういった使い方も当然あり得るわけです。それがいつになるか分からないのに,最初から返すと,明確に合意しておかなければ求償権がないというふうにしてしまうと,本当にそのような使い方に対応できるのかなという疑問も生じると思います。いずれにしても,そこはデフォルトルールですから,実態がどちらかということで設定していただければいいと思うので,事実認識の問題かなというふうに感じております。 ○鹿野幹事 私も,内田委員がおっしゃったことについて少々違和感を覚えました。結論から申しますと,私も,原則的には求償権は発生すると思います。ただ,当事者間の意思によっては,求償権が発生しないような形での免責的債務引受というものも当然あるのだろうとは思います。内田委員は先ほど,実務で使える道具を用意する必要があるという趣旨のことをおっしゃったように聞こえたのですが,そこから,併存的であれば求償権が発生し,免責的であれば求償権は発生しないということを原則にする必要がどうして生ずるのかが,私にはよく分かりません。いずれにしても,当事者としては,デフォルトとは異なる合意をするということは可能です。ただ,既に委員,幹事からもご指摘がありましたように,通常の当事者の意思はどうなのかというところを踏まえて,それに基づいて基本的なデフォルトとしてのルールを置き,ただ場合により当事者がそれと異なることを意図するのであれば,それについての特約を設ければいい,そういうことだろうと思います。   そして,免責的債務引受ということの趣旨は通常,元の債務者の債務を債権者との関係で消滅させるということでしかなく,そのことが直ちに,求償権を全く消滅させるということにはつながらないのではないか思います。ですから,松岡委員がおっしゃったことに賛成です。 ○道垣内幹事 内田委員がおっしゃったことが私には全く理解できないのです。そこで,どういう前提をとって発言されているのかを伺いたいのです。債権者と引受人との間の二者間契約で併存的債務引受は生じるのだという前提を仮にとりまして,その時点で連帯債務になる。その後に債務者が免除を受けた。自分の関与しない,場合によっては自分が存在を知らない引受人がいるときには,免除を受けたのだが,連帯債務者の一人に対する免除は相対効だから求償権が発生するのだと言ってしまいますと,免除を受けてみたけれども,まだ払わなければいけない相手が変わっただけなのか,それとも完全に免除されたのかが債務者には分からないということになるわけですよね。それはおかしいのではないでしょうか。第三者弁済から連帯債務の仕組みのところまで全部絡んでいるわけなのですけれども,引受人と債務者との間に一定の何かの意思的な連携関係みたいなものがあり,債務者が関わった形で引受人が登場してきているというのならばおっしゃる御趣旨はよく分かるのですけれども,純粋に考えますと,関係ないところで発生して,単純なる免除が生じるというときに,それは連帯債務だから求償はされるという話にはならないのではないかと思うのですが。 ○内田委員 債務者が本当に関与せずに生じた併存的債務引受は,むしろ委託を受けない保証と捉えて免除によって主債務が消えると考えるべきなのかもしれませんが,併存的債務引受によって通常の連帯債務の関係が生ずると性質決定する限りは,一方を免除したとき,免除の相対効を前提とすると,引受人の弁済によって求償関係が生じるのではないでしょうか。そのように理解していました。 ○松本委員 先ほどからやはりデフォルトルールだからという意見が大変多いので,そこがちょっと私は引っ掛かるのです。免責的債務引受は併存的債務引受プラス別の意思表示が幾つか引っ付いたものだと考えればデフォルトルールは併存的債務引受だと。ということであれば,求償権があるのは当たり前だということになるわけですが,先ほどからの議論だと,免責的債務引受というのは併存的債務引受の後で免除が引っ付いたものではないのだというのが内田委員の力説されるところなのですよね。もう少し何か発生原因の部分にかなり入り込んだ免責,免除というものだと。そこは効果としてのデフォルトではなくて,言わば成立要件のレベルなのだという理解だと思うのです。   併存的債務引受が母体なのだから求償権があるのが当たり前で,そっちがデフォルトだということだと,そうでない合意を引受人と債権者との間でやりたければ,引受人としては求償権放棄の意思表示をあらかじめしておきなさいということになります。そういう説明をすればデフォルトとして求償権があるのだということでいいと思うのですけれども,そうではなくて,成立要件レベルから併存的債務引受とは異なったタイプのものを想定するのであれば,求償権の部分はデフォルトではなくて,特に債権者と引受人との間の合意に基づく免責的債務引受の場合の求償権は,やはりこれはきちっとしたルールとして決まっていないと駄目なのだと思います。 ○岡委員 最初の山野目先生の話にもつながると思うのですが,債務引受は一つのパーツであると。債権譲渡と債務引受と同じように一つの財産権あるいは債務の移転という部分があると。内田先生がおっしゃったように,無償で引き受ける場合もあるし,遺産分割のときのように対価を払って債務を移転させる場合もあります。無償で引き受ける贈与的な場合には求償権とかそんな問題は一切ないですし,対価を払って売買的に移転させる場合にはもうそこで終わっています。単に払ってねという場合にはその払った分に応じて求償権的なものが生じるかもしれません。パーツの移転の実体部分は売買とか贈与とか委任ということで処理されるもので,債券譲渡の原因と同じように考えるのがすっきりするように思いました。そうだとすると,道垣内先生のように,やはり求償権という問題は生じないと。債務移転の対価,原因が何であるのかを別途考えればよいので,債務引受の効果としてデフォルトルールであれ何か設けるというのはそぐわないのではないかというふうに感じました。 ○鎌田部会長 例えば三上委員がおっしゃられたように,債務者が行方不明になった,あるいは心神喪失であるときに免責的債務引受をしたという,こういうときには委任も何もないので,そういう場合は確か松岡委員は事務管理か不当利得か何かで利害調整をすればいいのだとおっしゃったように記憶します。要するに求償権という概念で何をイメージするかによるのですけれども,そういうものをひっくるめて,ともかく利害調整をするということを法定するためというぐらいの意味で求償というと,その求償権は,道垣内さんがおっしゃるように,他人の債務を代わって履行したから求償というとそういう枠から外れるわけですね。債務者でなくなっている人に対する求償だから。ということで,求償権という言葉で皆さん同じことを考えているのかどうかがちょっとよく理解できなかった。岡委員の先ほどのような例は,それは事務管理で処理できるのだから求償権みたいものをわざわざ作らなくてもいいと,そういう話になるのですか。 ○岡委員 意に反する免責的債務引受であれば,意に反する第三者弁済と同じで求償権は発生しないという構成もあり得ると思います。 ○鎌田部会長 分かりました。ほかに特にないようでしたら,事務当局から当初から御提案がありますように,いずれの論点につきましてもこの場合にどのような問題点があり,具体的に規定を設けるとしたらどう在るべきかというような点については分科会での補充的な検討を待ちたい。それを踏まえて再度部会で最終的な提案の在り方を考えていくことにさせていただければと思います。 ○岡委員 弁護士会の意見の紹介だけですが。(2)のウについて,先ほど三上さんがおっしゃいましたけれども,今一つ問題の質問のされ方が分からないという意見もあったのですが,取りあえず甲案,乙案,それぞれに賛成があって,決し難いというのが今の弁護士会の状況です。 ○鎌田部会長 休憩前に「4 その他の債務引受に関連する論点」まで審議をしておきたいと思います。事務当局から説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 「(1)将来債務引受」では,将来債務の債務引受が可能であることについての規定は設けないことを提案しています。   「(2)履行引受」は,債務者と第三者との間で履行引受の合意をすることができるという規定を設けるという考え方の当否を取り上げるものです。   「(3)債務引受と両立しない関係にある第三者との法律関係の明確化」では,債務引受と両立しない関係にある第三者との法律関係を定める規定は設けず,解釈に委ねることを提案しています。 ○鎌田部会長 ただいまの説明ありました部分につきまして御自由に御意見をお伺いいたします。 ○三上委員 最初に(1)の部分ですが,ここの提案は将来債務引受については特段の規定を設けないという提案をされておりますが,将来債権譲渡についてできるという条文を設けるのであれば,将来債務引受もできるというぐらいの条文を設けてもいいのではないかと思います。   それから,(3)の部分について,債務引受と両立しない第三者の関係についてまだ議論は熟していない等々でいろいろ複雑ですから,規定は設けないということに関してはそうなのかなということで理解はするのですが,そうしますと,こういう表現が正しいのかどうか分からないのですが,この場のために「債務引受の対抗」という言葉を仮に使わせていただきますが,要は債務引受したことの対外的公示手段というのがないままでこの後も実務は走るということになると思いますので,例えば差押命令の対象となった債権について命令が到達される前に債務引受が行われていれば,もう当然当該債権はなかったと,私は債務者ではありませんと陳述すれば,引受けられたの何のと言わなくてもそれで終わり,つまり債務引受は公示なく対抗できるのであって,当該差押命令は空振りに終わるということでよいのか。また,債務引受が行われた後で当該債権が譲渡された場合も,債務引受が譲渡に対抗できるということでよいのか。あるいは債権譲渡がサイレントで行われていて,当該債権譲渡は第三者対抗要件が必要ですから,それをしないままで債務引受が行われれば,当該債権譲渡のほうが負けると,こういう理解でよいのか。最後の部分は債権譲渡と債務引受は対抗の関係にないという説もありますが,少なくとも現状としては支障を感じていないのですが,こういう理解でよいのかという点だけ,この場で問題提起をしておきたいと思います。 ○山野目委員 4(1)の問題につきましては,事務局御提案のとおり規定を設けないという方向でよいのではないかと考えます。理由は,部会資料にあるとおりではないかというふうに受け止めました。   (2)についてどのように考えるかという問題提起をいただいておりまして,それほど自信のある意見ではないのですが,設けなければならないという考え方に消極の考え方を抱きます。できることができると書くのみの規定を設けることになるかもしれないというふうに感じるところからです。   (3)の論点は,確かにこのような問題がありますけれども,そのようなことが現実的に問題になる局面は一括決済システムの規律整備をする中で対処が更に細密に検討されるべきであろうと考えますから,これも事務局御提案のとおりでよいのではないかと感じます。   三上委員の先ほどの(1)についての御発言は,ひとまずなるほどというふうに私は受け止めて伺いましたが,(1)は規定を設けるというのであれば設ける内容をおっしゃっていただかないと今後の検討が進みにくいものであろうと思います。将来債権譲渡のほうについては,あれは将来債権譲渡ができると書こうとしているのではなくて,それができることを前提に限界をどのように規律しますか,ということが議論の対象になっていると理解しております。同じように具体的な提案を意識して論議がされていくのであれば,4の(1)について更にその議論が深められるものであろうと感じます。 ○岡委員 (1),(3)の設けないということについては弁護士会,賛成でございました。(2)については,設けると設けない意見両方ございました。 ○内田委員 (2)の履行引受について,山野目幹事のほうからできることをできると書くだけだから余り意味はないのではないかという指摘があり,部会資料も何となくそういうトーンになっているのですが,ただ,現実に行われた合意の解釈の基準として,債務引受というのが独自に債務を引き受けるわけでかなり重い合意ですので,そこまでの合意があるとはいえない場合には履行を引き受けたものと推定するとか,何かそういう解釈規定としてはあり得るのではないかなという気もするのですが,その点御意見をお伺いできればと思います。 ○山野目幹事 内田委員が御示唆になったような規定であれば,それは御議論によると思いますが,かなり意義の認められる規定であると考えますから,それはまた考えてみますけれども,そうであるのならそうお書きいただいて御議論いただいたほうがよろしいと思います。今ここに出ているものであるとすると,他人の債務の弁済を事務委託内容にすることもできるという規定が御示唆であると感じますから,それはできるのは当たり前であろうと思いました。ですから,今御提案のようなものであれば,それとしてまた御審議いただくのがよろしいと感じます。 ○鎌田部会長 履行引受について独立の条文を作るよりも,例えば債務引受のところにこういう場合は別ですというふうな形でくっ付けるというような,そういう可能性もあると思います。多分,成立要件の部分と効果とそれぞれ違いが出るわけですから,こんな場合は別途の取扱いになることを明示するのも可能性としてはあるのかもしれない。 ○山野目幹事 内田委員が御示唆のような規定はあってもよいのかもしれません。それと同時に,それは先ほど来問題になっている併存的債務引受や免責的債務引受についての規律が細密に明らかになってきた段階で,部会長が御示唆になったように,そこで付属的に更に延長的に考えられるべき規律の一つの候補として内田委員が御示唆になったようなものがあるかもしれません。それから,保証に関する規制の在り方の帰すうもその検討に当たって参考にされてよい部分があるかもしれません。そのような動きの中で更に検討していくべきことではないかと感じます。 ○沖野幹事 履行引受の規定ですけれども,どこまでの規定を置くのかというのが非常に難しいように思います。そもそも履行引受というのは一体何なのかというのは改めて考えるとよく分からない。第三者はここでは第三者弁済の契約だというふうに整理されているのですけれども,債務者に代わって払うということを委託されて引き受けているというのは第三者弁済なのだろうかという疑問も湧きますし。先ほど出ました求償権の問題ですとか,そういった話をどこまで規律を置くのかということは,置くとなると考えることがかなり多いように思います。このテーマの重みの割には考えることが非常に多くなるのではないかという印象を持っております。それは考えること自体をおよそ否定すべきだということではないとは思うのですが。   あと細かいことなのですけれども,補足説明で,最後のところに,もっとも,本文で提案する規定は,弁済をしようとする第三者と債務者との間で単に第三者弁済の契約をすることができるというだけで,債務者の意思に反して第三者弁済する地位を取得するわけではないことにも留意する必要があるというふうに書かれているのですが,債務者との間で第三者弁済をする合意をしていて,債務者の意思に反して第三者弁済をするということがあり得るのかというと,理解しにくいような気がしますので,この説明は本来の趣旨があればそれに応じて書き換えたほうがよいのではないかと思います。これも要望だけです。 ○松本委員 内田委員の御提案のような趣旨の,言わば法律行為の解釈規定的なものを置くとして,どういう局面でそれが意味があるのでしょうかという疑問が若干あるのです。すなわち,債権者が引受人に対して履行請求をしてくる場合であれば,それは債務引受かどうかだけが問題になるわけで,債務引受ではないけれども,履行引受ですという認定をしても債権者側としては何の得にもならないと思うのです。そうすると,これはどういうところで出てくるのだろうかと。すなわち,債務者と引受人との間の何らかの紛争において債務引受ではないけれども,履行引受だという認定をすることによって,どちらかが決定的にプラスになるような局面が出てくるのであれば置く意義はあるかもしれないのですが,どんな場合でしょうか。求償の場合は余り変わらないような感じがするのです。あと,ここに書いてあるような第三者弁済をする地位があるかないかというのは,ひょっとしたらかなり違いが出てくるかもしれないですが。 ○鎌田部会長 そこは単純な解釈問題かどうか分からないですけれども,引受人が債務を履行しないから債権者が引受人に対して強制執行をしてきたときに,これは履行を引き受けただけで債務の引受はしていないのですから強制執行はできませんということになる。こういう形で,引受契約には債務の引受のほかに履行の引受というタイプのものがあることを明示しておくことには意味がある。そういうことではないのでしょうか。 ○松本委員 それは債務引受の成立要件を満たしていませんというだけの話ですから,講学上は意味があるでしょうけれども,訴訟になっても積極的な意味がないのではないかと思うのですが。 ○潮見幹事 この規定を置くかどうかを考えるときには,前に少し議論がありましたけれども,履行補助者に関する規定をどのように置くのかとも関連するので,そちらのほうで規定の整備ができれば,果たしてこのような規定をここに重ねて,その一部を置くことにどれだけの意味があるのか,さらにそこから解釈論が展開されるようなことがあるということになれば,この規定をここで設けるべきか,私は疑問を感じます。 ○鎌田部会長 4の(1),(2),(3)につきましては,特に(1),(2)については設けることに一定の意味がありそうだという意見もありましたけれども,設けなくていいという御意見が多かったように受け取りました。それを前提にして事務当局で更に検討を続けさせていただきます。   ということで,休憩とさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,休憩とさせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 再開をさせていただきます。   「第2 契約上の地位の移転」のうち,「1 契約上の地位の移転に関する規定」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 「1 契約上の地位の移転に関する規定」は,民法に契約上の地位の移転に関する規定を設けることを提案するものです。なお,規定を設ける場合の基本的な方針としては,契約上の地位又はそれを含む財産の特定承継による契約上の地位の移転だけを規定の対象とし,会社分割や合併のような包括承継に伴う契約上の地位の移転を対象としないことを前提としています。また,民法に設ける一般規定の適用範囲について,特定の財産の譲渡に伴い契約上の地位が移転する場合と,契約上の地位の移転の合意のみに基づいて契約上の地位が移転する場合とを区別した上で,後者のみを一般規定の適用対象とする考え方も示されているところですが,ここではこの考え方は採らないことも前提としております。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分についての御意見をお伺いいたします。   特に御異論はないと受け止めてよろしいでしょうか。   よろしければ,「2 契約上の地位の移転の要件」について御審議を頂きます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 「2 契約上の地位の移転の要件」のアでは,契約上の地位の移転の要件として,譲渡人が譲受人との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をし,その合意を契約の相手方が承諾することを要するのが原則であることと,その例外として譲渡の対象とされる契約の性質によって契約の相手方の承諾を要しない場合があることについて規定を設けることを提案するものです。   イは,この契約の相手方の承諾は,契約上の地位の譲渡の合意に先立ってすることができ,その場合の要件として契約上の地位の移転の合意があったことについての譲渡人による契約の相手方に対する通知又は契約の相手方による了知の表示を要するとする考え方を取り上げています。   この「2 契約上の地位の移転の要件」については,具体的な規定の在り方などにつき分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点について分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明がありました部分についての御意見をお伺いいたします。 ○安永委員 契約上の地位の移転について,部会資料の提案ではその要件として,相手方の事前の承諾も認めるという趣旨と考えられます。この点,労働契約に関しては将来の転籍などについて採用されるときに包括的同意を求められる事案などが想定されます。従来の裁判例や学説の多くは転籍,移籍については出向とは異なり,包括的な権利の譲渡であることから,労働者の転籍時点の個別の承諾なしに使用者が一方的に命じることはできないとしてきました。   契約上の地位の移転に関する規定が設けられ,これが労働契約に関しても肯定され,かつ契約の相手方である労働者の事前承諾の効力が肯定された場合に,使用者は労働者の採用時の労働契約に,「使用者が第三者に対して労働契約上の地位の移転をすることに労働者は承諾する」という文言を入れておけば,いつでも労働者を他企業に転籍,移籍させることが可能となってしまい,労働者は非常に不安定な立場に置かれることになります。   使用者との関係で労働者が弱い立場にあることについては,従来からも申し上げてきているところですが,労働契約の締結時点において特にこれが顕著であり,労働者が使用者の提示する契約内容を拒否することは困難です。   契約上の地位の移転に関する規定を設ける場合,それにより労働者保護が後退することのないように検討していただきたいと考えます。 ○佐藤関係官 アとイと両方に関わる点で, 実務的な観点から御意見を申し述べたいと思います。具体的には, 契約上の地位の移転がある場合として,商品券あるいはプリペイドカードなどの発行者の契約上の地位が事業譲渡などによって移転するというケースが想定されるところでございます。商品券にしましてもプリペイドカードにしましても,多数の相手方に対して発行しておりますし,特に商品券などは贈答用に発行されますので,転々流通することも想定されるところです。そういたしますと,相手方の承諾を得るということが事実上無理であり,なおかつ通知や了知ということ自体もなかなか難しいところが想定されるところでございます。   多くのケースにおきましては,片仮名アに書いてある例外として, 契約の性質によって承諾を要しない場合に該当するのかなという気もいたしますが,他方もしそこでの例外に該当しないのであれば,イに記載してあるような相手方に対する個別の通知や相手方に対する了知だけに限定するのではなく,また何か別の方法が容認されるようにする必要もあろうかなと考えます。この必要性につきましてはあえて申し上げる必要もないかと思いますけれども,プリペイドカードや商品券は,現代社会において広く流通されて使用されているところでございますので,こういった前払式手段の発行者の事業譲渡が安全的,円滑に実行可能になるような具体的な要件の設定について, 規定ぶりの問題なのかもしれないと存じますけれども,そういった問題点もあることを御理解いただいた上で,詳細について御検討いただければと考えております。 ○山川幹事 先ほど安永委員のおっしゃられたことに同感の部分があるので多少補足したいと思います。19ページのイの部分ですけれども,先ほど委員からお話のありましたように,転籍,つまり従前の所属企業を完全に離れて新たな所属企業に移籍する場合については,事前の包括的な同意,つまり入社時などにおいてどこでも移籍を認めますというような合意はなかなか裁判例上も認められていない状況かと思います。その場合の理論的な構成がなかなか難しいところもありまして,民法625条の規定もありますので,その承諾ないし同意の意味につき解釈をするのか,あるいはより一般的に承諾の有効な成立を認めないというような構成にするのか,なかなか難しいところがあります。これは言わば交渉力に格差のある状況下での承諾の意思表示をどういうふうに認定していくかという,法律行為の解釈とかそういうところにも関わる部分かと思っております。   取りあえず,この論点に関しては必ずしも事前の承諾が常に有効と認められるわけではないということを留意するというようなことをどこかで御配慮いただければと思います。 ○中井委員 アについて,基本的に相手方の承諾を要するのを原則とする,ただ例外があるという基本的な考え方についてはこれでいいのかと思います。その例外の定め方についてどのようにするのか,ここでは契約の性質とのみになっておりますけれども,果たしてそれでいいのか更に検討していただきたい。少なくとも相手方の地位に影響を与える,その利益を損ないかねないような場合について,それは契約の性質の中に読み込めるのかもしれませんけれども,余り例外規定が広くならないような歯止めが必要なのではないかと思われます。   中でも,安永委員ほか山川幹事もそうかと思いますけれども,まずは労働契約については原則として労働者の承諾がいるのだということは確認されなければならないだろうと思います。   その上でイについてですけれども,ここの提案の内容については少し分からないところがありまして,この事前の承諾の中身について,契約上の地位の移転の譲受人が全く分からないまま,それが誰かも分からないまま事前の承諾というのを認めるとすれば,疑義を感じます。将来ある時期にAという立場の人に契約上の地位を譲り渡す,それについてこの段階で承諾してくださいと,そういう意味での事前の承諾はまだ理解できますけれども,果たして今の転籍の例,ある相手方の契約が誰に移るかも分からないまま包括的に承諾するという制度が必要なのか,そもそも疑問に思います。   ただ,弁護士会でそのような発言をしたとき,例えば不動産開発をするときに,ある開発事業者で行っているけれども,近くSPC等を作ってそこに売主たる地位が変わる場合があって,それが活用されていると聞きました。それは合理性があるのかもしれませんけれども,それであっても譲受人となるべき者が相手方にとって相当程度理解できる,把握可能な場面ではなかろうかと思います。広く事前の承諾を認めることについては疑問があります。   それから,安永委員,山川幹事がおっしゃられた転籍ですけれども,これは果たして契約上の地位の移転にそもそも当たるのか,契約の地位の移転には当たらないのではないか。従来の会社を退職し,新しい会社に就職するわけですから,労働契約が従前と全く同じ労働条件で転籍をされるという場面があるのでしょうか。転籍というのは普通は元の会社を辞めて新しい会社の労働条件の下で働くのではないかと思っていますので,それは契約上の地位の移転ではないから,承諾なくしてできることはあり得ないと理解しております。仮に転籍が契約上の地位の移転に当たるのだとすれば,もちろん承諾がいるし,事前の承諾はあり得ないのではないかと理解します。   また,商品券について発行者の地位が変わった場合についても,これを契約上の地位の移転と捉えるということも理解できなくて,そういうふうに捉えるべきなのかということについてお教えいただきたいと思います。これは商品券という権利の債務者たる地位を承継する,債務者と引受人とで債務引受の合意等によって処理をする事柄なのかと理解したのです。そうでなく,契約上の地位の移転の範ちゅうに入るのかと,お教えいただければと思います。 ○山川幹事 今の中井委員の御発言に概ね賛成ですけれども,先ほどの転籍の法的性質については二つあり得ると思います。一つは契約上の地位の譲渡の場合で,一つは従前の会社を退職して企業間の一定のアレンジメントに基づいて新たな会社と新契約を締結する場合です。おっしゃるとおり,労働条件等が大幅に変わる場合はもう契約上の地位の譲渡というよりは新契約の締結と解釈したほうがよろしいかと思います。ただ,企業グループ等では労働条件を余り変えずに転籍をしているという例もありますので,そういう場合は契約上の地位の譲渡ということもあり得るということで,契約内容の変更の度合いによって解釈が違うということかなと私としては思っております。 ○三上委員 この「事前の承諾」について,事後に相手方の了知なり承諾なりが必要だという点についてですが,取引の種類によっては事前に承諾をもらっておけば,その後は何の手続もなくても,契約上の地位が組織行為的な手続に伴って移っていくことに関して特段問題なく進んでいくという例もございますので,その辺りが契約の種類によって柔軟に解釈されるとか,任意法規的なものであれば構わないのですが,労働契約の例のように非常に問題があるということであれば,特定のルールを置くとかえってイノベーションの妨げになるかもしれないという意味で,慎重であるべきという意見がございました。   これは直接関係のない話になってしまうかもしれませんが,例えば銀行の店舗等,要は事業が一部譲渡されるような場合も,対抗要件や債権者異議に関しては銀行法に特別の規定があっったりするのですが,飽くまで例えば預金は全て債務の移転だという前提なのですね。しかし,例えば普通預金なんかは本当にあれは単なる債権なのか,普通預金契約という契約上の地位の移転なのかとか考え出すと,非常に複雑な問題を生じせしめる懸念があります。この場の議論でもプリペイドカードについて,これが契約上の地位の移転なのか,単純に金券が移っているだけなのかという議論がありましたが,限界は不明確と感じています。そういう意味で余り複雑な規定とか,一部が強行法規となるようなら,現状今の段階で契約上の地位の移転に関して特段の規定を置くこと自体には慎重でいいのではないかということも,意見として述べておきたいと思います。 ○佐藤関係官 先ほど中井委員から御質問ありました商品券についてどう考えるかということについてですが,これを契約上の地位の移転と考えるのか,有価証券的に捉えてその債務を引受けると考えるのか,私自身考え方がまとまっている訳ではありませんが, プリペイドカードのような物は最初にカードを渡し,後でお金を追加していくとポイントがたまっていくという何か継続的な契約と見てとれるところもございまして,そういう観点も踏まえ, 先ほど発言させていただいたところであります。それ以上のところは, 私も考えがまとまっていないところですが,一応そのように契約上の地位の移転と見るべきところもあるのかなと思うところでございます。 ○鎌田部会長 事前の包括的な契約上の地位の移転に対する承諾という例は余りないのかもしれないのですけれども,不動産賃借権の譲渡転貸自由の特約とか,あるいは借地権担保のときに将来競売されても結構ですという承諾書を出すというのは,あれは単なる賃借権の譲渡ではなくて,賃借人の地位の移転に対する事前の,譲受人が決まらない段階での包括的な承諾だろうと思います。ただ,明文の規定を設ける必要性がどれぐらいあるかという点についてはなお検討の余地はあろうかと思います。   ほかによろしいでしょうか。   この「2 契約上の地位の移転の要件」のイに関しましては,分科会で補充的に規定の在り方等について検討するという事務当局からの提案でございますけれども,その点も併せて御承認いただければと思います。   それでは,次に,「3 契約上の地位の移転の効果」について御審議いただきます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 「(1)契約上の地位の移転の効力発生時期」は,契約上の地位の移転の効力発生時期に関する規定を設けることの当否を取り上げるものです。具体的には,契約上の地位の移転の合意後に契約の相手方の承諾がされた場合には,承諾の時とし,契約上の地位の移転の合意前に契約の相手方の承諾がされた場合には,契約の地位の移転の合意をしたことを譲渡人が契約の相手方に通知した時又は契約の相手方が移転の合意を了知した旨の表示をした時とする考え方を取り上げています。   「(2)契約上の地位の移転に伴う既発生の債権債務の移転」は,契約上の地位の移転に伴う既発生の債権債務の移転の有無に関する規定の要否を取り上げるものです。甲案は,当事者間の合意がない限り,既発生の債権債務は移転しないという考え方を,乙案は,規定を設けないものとするという考え方を取り上げています。   「(3)契約上の地位の移転に伴う担保の移転」では,譲渡人が契約の相手方に対して負う債務に設定された担保の移転の有無について,免責的債務引受における債務者が従前から負担している債務に設定された担保の移転に関する規定と同内容の規定を設けることを提案しています。   「(4)契約上の地位の移転による譲渡人の免責」は,契約上の地位の移転による譲渡人の免責の可否に関する規定の要否の問題を取り上げるものです。甲案は,契約上の地位の移転の合意がされた場合に,契約の相手方が譲渡人を免責しなければ,譲渡人と譲受人は契約の相手方に対して連帯して債務を弁済する責任を負う旨の規定を設けるという考え方であり,乙案は,契約上の地位の移転の合意がされ,契約の相手方が移転について承諾した場合には,譲渡人は免責される旨の規定を設けるものとするという考え方ですが,乙案の考え方に対しては,契約上の地位の移転という概念に当然に譲渡人の免責が含意されているという理解を前提にして,わざわざこの点について規定を設けて明らかにする必要はないという考え方もあり得るところですので,規定の要否も含めて御意見を頂きたいと考えております。   以上の(1)から(4)までについては,具体的な規定の在り方などにつき分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点について分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いします。 ○中井委員 弁護士会の意見を紹介させていただきますと,移転の効力の発生時期についてはここに提案されているようなルールが合理的ではないかというのが多くの単位会の意見でした。既発生の債権債務の移転に関しては,甲案と乙案がほぼ半分ぐらいずつで分かれました。実際,契約の類型によって異なるのではないかという点を考えれば,乙案になるのではないかと考えております。   (3)の担保の移転については,ここで提案をしている意見について賛成というのが大方の意見でした。   譲渡人の免責についても,ほぼ乙案で,当然に譲渡人の免責がくっ付くものだという理解をしております。   なお,最後の譲渡人の免責のことを考えると,契約上の地位の移転が行われると債権債務の移転があるわけですけれども,その債務についてこの契約上の地位の移転と免責がセットで考えられているわけですけれども,そうだと,先ほどの債務引受についても免責的という場合には,一つのセットとしての理屈をとらないといけない。免責的債務引受の場合に,併存的債務引受プラス免除構成を採ると,契約上の地位の移転のときにも譲渡人に免除の意思表示がいるのかという疑義が生じるのではないかという意見が出ていました。 ○中田委員 (1)の効力発生時期ですけれども,これは任意規定であるという理解でおりますが,それでよろしいでしょうか。多分当事者が効力を遡及させるということも場合によってはあり得ると思います。   それから,(2)ですけれども,私は乙案がいいのではないかと思います。先ほど中井委員が契約にもいろいろあるのだとおっしゃいましたが,そのとおりで,例えば継続的な契約の場合に既発生の部分は移転しないということはあるのかもしれませんけれども,賃貸借の場合には抽象的な意味での賃料債権は移転する,しかし具体的な賃料債権は移転しないということになりそうです。それから,売買契約ですとか単発の消費貸借契約などの場合ですと,むしろ移転するのが普通ではないかと思います。そう考えると,やはり契約類型によって相当違うのではないかと思います。 ○松尾関係官 中田委員から(1)について任意規定という前提でよいのかという御確認を頂いたと思いますが,資料は任意規定であるという前提です。 ○佐成委員 経済界の中で議論していたときの意見を申し上げます。(2)についてですが,甲案だと,ある業界のデフォルトとは逆になってしまうというような意見がありまして,業界ごとに多分デフォルトが違うのではないだろうかという気がしておりますので,甲案というのはちょっと採りにくいというのが現時点での印象でございます。   それから,(4)については,甲案でもいいというような御意見もあったのですが,ちょっとまだ十分意見が詰め切れていない状態でございまして,まだここについての意見は保留させていただきたいということでございます。 ○三上委員 例えば事業譲渡を行うと,事業譲渡というのは債権債務,契約上の地位の譲渡とか引受の束なわけですが,当事者間の承諾がいつ取れるかと債務者対抗要件を備えたかとかに関係なく,3月末に事業譲渡すれば4月1日にはその契約内容どおりの債権債務でバランスシートが移っているという前提で実務は動いています。事後的にうまく移転できなければ清算条項で損得を消すことになるわけですが,少なくとも当事者間では第三者の承諾うんぬんとは関係なく移っているという前提で行動しているということです。逆に言いますと,こういう表現が正しいのかどうかは別として,資産・負債は移転していて,残っているのが契約の当事者ではない第三者に対する対抗要件だ,のような扱いをしているわけです。これを否定する趣旨ではないということであれば(1)の規定でも構わないのですが。中田委員の任意規定かどうかの問題提起と同じことになるのでしょうか,そういう扱いが認められるということであれば問題ないと思います。 ○鎌田部会長 事務当局として見解はありますか。   債権譲渡と債務引受が併せて行われているという見方をすると,債権譲渡のほうは債務者対抗要件の問題になるのですけれども,この免責的債務引受の効力発生時期と契約上の地位の移転の効力発生時期がずれるということが認められるのかどうかという問題になるのではないかという気もするのですけれども。それはまた分科会での補充的検討の対象ということにさせていただいて,詰めて検討していただければと思います。 ○松本委員 ささいなことですが。相手方が同意をしない,承諾しないという場合は,併存的債務引受と債権譲渡があったという感じに法律効果としてはなるということなのでしょうか。それとも,なお免責的債務引受があったのでしょうか。 ○鎌田部会長 あえて言えば債権譲渡,債務引受の組合せとも言えるのですけれども,契約上の地位の移転というのは本来それとはまた別のものなのではないでしょうか。 ○松本委員 全く別なものだと考えれば,相手方の承諾がなければ債権譲渡も併存的債務引受も起こらないということになりそうなのですが。そうすると,(4)の甲案は,契約の相手方が譲渡人を免責しなければという,そこだけ地位の譲渡を承諾しなければということではなくて,免責しなければという書き方だからこれでいいということですか。地位の譲渡は認めるが,免責は認めない,したがって,併存的債務引受と債権譲渡が合わさったものになると。 ○松尾関係官 今松本委員がおっしゃったように,契約上の地位の移転を承諾したにもかかわらず,譲渡人の免責を承諾しないということが実際にあるのか分からないですが,補足説明でも書きましたように,この規定の適用があり得る例として実際にイメージできるのは,契約上の地位の移転についての相手方の承諾が要らない場合に,甲案を採ったときには,独立で免責の要否というのが問題になり得るのではないかと考えていました。 ○松本委員 そういう相手方の承諾が要らないタイプの契約上の地位の移転というのはかなり特殊といいましょうか,不動産賃貸だとかでしょうから,そうするとそれにまつわる様々なルールというのが何かセットで出てくるような感じがしまして,民法の一般ルールがこうだからということにはならないのではないかなという気がします。敷金返還義務がどうなるのかなんていうのは一番センシティブな問題でしょう。 ○鎌田部会長 松本委員がおっしゃられたのは,(4)の問題だけではなくて,要件論にも絡んでということですか。 ○松本委員 主として(4)の話なのですが,敷金返還債務については判例も必ずしもはっきりしていないようですし,契約上の地位は移転すると,これは同意なくして移転する典型例として多分認められている。しかし,今の松尾関係官の説明だと,そういう場合になお免責かどうかについては相手方の同意によらしめるというのが甲案の立場だということですよね。 ○中井委員 ここの契約上の地位の移転というのは一つのパッケージで考えるべきで,それを債権と債務との承継があるからといって分析的に考えるのがいいのか,これは疑問に思います。要件論にあるように,契約関係の地位の移転については,譲渡人と譲受人との合意かつ相手方の承諾,相手方の承諾がない以上,債権も移らなければ債務も移らない。相手方の承諾がないけれども,債権譲渡通知をたまたましていたから債権部分だけ移って債務は残る。このような一つの法律行為が分裂して生じるというような理解をすべきではない。実務もまさかそんな形で動いているとは思えない。   その結果として,効果のところについて譲渡人の債務については乙案,当然に免責されるというのを私としてはセットで,契約上の地位の移転は考えるべきだと思います。効果の発生時期については,ここに書いているように,基本的には承諾のときである。   先ほど免責的債務引受についての承諾の時期について潮見幹事から御発言がありましたけれども,そこで規定を置かないというよりは,私の理解からすれば同じで,債権者が承諾したときということになる。債権者と引受人が合意したときにはそのときということになりますので,基本的に債権者の承諾のとき,契約上の地位の移転でいうなら,相手方が承諾したとき,一律的な考え方,統一的な考え方で整理するべきではないか。   そういう意味で,ここでも余り分析的な議論をすることについて疑問を感じます。説明の便宜というのは先ほどから何回か出てきていますけれども,実務としては契約上の地位の移転として一つの類型として整理する。免責的債務引受も一つの法律行為として整理する。それが分かりやすくていいのではないかと考えております。 ○鎌田部会長 私自身も先ほど分析的な話をしましたけれども,それは,契約上の地位の移転は免責的債務引受を包含する内容を持っているのに,契約上の地位の移転にすると免責的債務引受よりも容易に,かつ早く効果が生ずる。これは認めにくいだろう。そういう意味で,免責的債務引受と同じ時期に効果が生ずるのが自然だという,そういうことを説明する趣旨であえて申し上げました。 ○中井委員 先ほどの三上委員の御発言に対する私の理解ですけれども,事業譲渡を行ったときに,多くの債権の譲渡,債務の引受プラス契約上の地位の移転,これらが混合して行われているのだろうと思いますが,当事者間の合意として4月1日をもって全て移ったものとして資産と負債を計上する,この実務について何ら問題はないと思っています。その中で契約上の地位の移転ができなかったものがあるとすれば,それは譲渡人と譲受人との間で何らかの清算をするべき事柄であって,それで済む話だけではないかと理解しております。   ○高須幹事 (4)のところでございますが,先ほど松本先生が御指摘になられたように,甲案というのは具体的には賃貸借契約における賃貸人の地位が移転した場合の敷金返還義務の承継というところに大きな影響を与えるものと思います。そこで,敷金の承継の問題を特則で別に置くというのなら別かもしれませんけれども,そうでなければその問題が正にここの議論に当てはまってきます。そのときに敷金返還債務がそのまま引き継がれてしまうのか,それとも連帯して責任を負うのかというところに甲案を採るとその場合には相手方の言わば選択に委ねられるみたいな形になると思います。そのこと自体を賃貸借のところで議論しているところですからここでその是非を言うつもりはないのですけれども,そういうことに及ぶということを考えて,甲案を考えなければならない。従来の実務的取扱いですともう完全に引き継いでしまうのではないかと考えていたようなところからすると,考え方を大きく変えることになる可能性もあるかと思いますので,それを含めて甲案がいいのかどうかということを検討しなければならないと思います。 ○鎌田部会長 余計な話になってしまうかもしれないのですけれども,先ほどの(1)との関係あるいは要件論になるのでしょうか,賃借権の譲渡と言われているものは賃借人の地位の移転だというふうに私は理解しているのですけれども,それはそれで一応正当だとすると,そのときの賃貸人の承諾というのはここでいう承諾,契約の相手方の承諾と同じになりますね。ところが,その承諾の性質について判例通説は対抗要件と解していますね。賃借人の地位の移転は合意によって生じていて,賃貸人の承諾は賃貸人に対する対抗要件にすぎないと。そういう意味では三上委員的な発想に従って612条については解釈をされてきた。612条はそういう解釈で今後もいくのか,あるいはここにあるような考え方に改めていくべきだということになるのかというのが一つ問題点として残るのかなという気がしております。 ○中井委員 先ほど弁護士会の意見を紹介しました。(4)についてですけれども,基本的には乙案である。ただ,消費者保護委員会から甲案という意見が出ております。これは,相手方が消費者の場合を念頭に置いて,契約上の地位が移転された場合であっても譲渡人に対してもその責任を残しておくべきではないかと,消費者保護の観点からの意見があったことを御紹介しておきます。ユニドロワ国際商事契約原則においてはそのようになっているという指摘がありますので,併せて申し上げます。   なお,その消費者保護委員会の意見を拝見して改めて思ったことは,仮に先ほど契約上の地位の移転を事前に承諾をする場合で,しかも将来の譲受人が特定もされていない,多くの消費者ないしユーザーを巻き込んだ契約関係があるときに,その一方当事者が移転する,仮にそのような場面を想定したときに,私は先ほどから契約上の地位の移転というのは一つのパッケージで免責が含まれるのだと申し上げておきながらですけれども,消費者保護委員会の意見を考えてみると,そういう場面を想定したときには譲渡人に対して責任を残しておかないと,このような事前の承諾とのセットではまずい場面が起こるという気がいたしました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。いろいろと頂戴した御意見を踏まえまして,規定を設けるとした場合の問題点,あるいは具体的な規定の在り方について分科会で補充的に検討をさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   では次に,「4 対抗要件制度」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 「4 対抗要件制度」では,契約上の地位の移転一般に関する対抗要件制度を創設することは困難であるという考えに基づき,これを設けないものとすることを提案しています。   なお,この考え方は個別の契約類型について契約上の地位の移転の対抗要件を観念することを妨げるのではなく,契約上の地位の移転が競合することが想定され,対抗関係で処理することが適切な契約類型があれば,別途対抗要件の在り方を検討すべきであるという考え方を前提とするものです。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いします。   特に御異論はないと承ってよろしいでしょうか。   それでは,そのように理解させていただきます。   これで部会資料38も終了いたしましたので,部会資料39に移ります。部会資料39の「第1 弁済」のうち,「1 弁済の意義」から「3 弁済として引き渡した物の取戻し」までについて御審議いただきます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 「1 弁済の意義」は,弁済によって債権が消滅するという基本的なルールについての条文を設けることとともに,民事執行手続による満足と弁済との関係に関する一般的な規定は設けないことを提案するものです。   「2 第三者による弁済」の(1)では,債務者の意思に反して弁済することができない第三者の範囲の要件を,民法第500条の規定を参照し,正当な利益を有する者以外の第三者と改めることを提案するものです。   また,利害関係を有しない第三者が債務者の意思に反して弁済をすることができないとされている民法第474条第2項の規律内容については,利害関係を有しない第三者からの弁済の提供があった場合に,債権者がこれを受領してよいかどうかについての判断に苦慮することがあるという問題が指摘されています。(2)は,この問題への対応の要否を問うものです。アは債務者ではなく債権者の意思に反するか否かによって弁済の可否を決するという考え方,イの甲案は債務者の意思に反しても弁済をすることができるとしつつ,債務者の意思に反する場合には弁済者は求償権を取得しないという考え方をそれぞれ取り上げております。   「3 弁済として引き渡した物の取戻し」では民法第476条の規定を削除することを提案しています。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いします。  「1 弁済の意義」についてはいかがでしょうか。   特に異論はないということでよろしいでしょうか。 ○潮見幹事 異論はございませんが,アの債務が履行された場合には弁済によって債権が消滅するというのは,不細工だと思います。債権が弁済によって消滅するということだけ書けばいいのではないでしょうか。もちろん,履行と弁済についてはいろいろ議論があるのは承知しておりますし,私も研究したことがあります。そうした中で,このような書き方をするということがどういう意味を持つのかを考えてみますと,こうした表現はよろしくないのではないかと思います。さらに,これ外国語に訳すときにいったいどういう言葉を使って訳すのだろうというところまで考えると,どうしても債権が消えるということを書きたいのであれば,債権は弁済によって消滅するとだけ書けばいいのではないかと思います。 ○松本委員 潮見幹事の意見に同感でありまして,履行と弁済が違った概念であって,弁済の中に履行以外にもいろいろあるということであればこういう文章が正しいのかもしれないけれども,補足説明を読む限りではどっちから見ているかだけの違いだという説明なので,これ非常に冗長で,むしろ逆に履行以外の弁済というのがあるかのような印象を与えるわけであって,冗長だけではなくて誤解を与えるという意味で,潮見幹事のおっしゃったようにシンプルなほうがいいと思います。 ○内田委員 このアの表現が不細工であるというのは異存はないのですが,ただ現行民法は弁済という言葉を使っていて,これはフランス民法に由来するのかと思いますが,他方で履行という言葉も使っている。その両方を生かすために苦慮しているわけですけれども,弁済という言葉はなおこういう文脈で使い続けたほうがよろしいでしょうか。日常用語の弁済というと大体金銭債務が想定されていると思うのですが,民法の弁済という言葉は金銭債務に限られていません。そこで,用語としてやや不自然であるために,英訳の中ではパフォーマンス,つまり履行と訳されているのですね。それでもなお,弁済という言葉のほうがいいのかどうか,感触をお伺いできればと思います。 ○潮見幹事 弁済という言葉は使ってもいいと思います。履行という言葉も使い続けていいと思います。その意味するところはそれぞれの文脈で捉えれば足りるのであって,あえて履行に統一するとか,弁済に統一するなどという必要はないと思います。 ○松岡委員 私も今の潮見幹事と同意見です。以前にヨーロッパ契約法原則を訳す時に大分苦労したことがあるのですが,特に「弁済の充当」を「履行の充当」としては,どうしても語感が合いません。弁済という言葉も履行という言葉も既に100年余りにわたって使われていて,場面によって両者の使い分けがそれなりにされています。たしかに,実質的には両者は同じことを意味するのですけれども,焦点の当て方が違うことにはそれなりに意味があると感じています。 ○鎌田部会長 1のイのほうはいかがでしょうか。ここは畑幹事,山本和彦幹事から御意見があればお出しいただきましょうか。 ○山本(和)委員 特段この原案で異論はありません。 ○畑幹事 私も特に。 ○鎌田部会長 それでは,2の「(1)「利害関係」と「正当な利益」の関係」についていかがでしょうか。   特に御異論はないと思っていいですか。 ○中田委員 2の(1)に異論はないのですけれども,そうしますと同じ言葉で保証人や連帯債務者を含むかどうかという意味では広狭二つあるということになるのでしょうか。 ○内田委員 これから議論して決めることではあると思いますが,保証人や連帯債務者が一応含まれていますので,必要な場面では,債務を負う者以外の正当な利益を有する者,といった表現で限定することになるのだと思います。 ○鎌田部会長 それでは,「(2)利害関係を有しない第三者による弁済」について御意見をお伺いします。 ○三上委員 (2)のほうでは,ア,イ,甲,乙,ウと選択のように並べてありますが,アとイの甲案の組合せとか,ないしはアとウの組合せがいいのではないかと考えております。併せて,何度も恐縮ですが,最近高齢者取引が増えてきたこともあって,意思能力に疑問があったりして,意思に反するかどうかの確認がとれない場面が増えてきています。なので,単に「意思に反する」かどうかという今の民法の在り方自体が本当に合理的なのかどうか,そもそもの立法趣旨が,武士の気質がどうのこうのということもあわせますと,「債務者の合理的な利益に反する」とか,客観的に判断できる指標に変えた上で,アとイの甲の組合せないしはアとウの組合せがよろしいのではないかと考えます。 ○中井委員 この(2)についての弁護士会の意見は結構分かれています。特にイについては甲案も乙案も半々の状態です。弁護士会の意見は他の委員,幹事から言っていただくとして,大阪弁護士会が意見を変えた結果を申し上げます。今の三上委員と同じでして,アについて賛成で,ウの規律のみを取り上げることでいいのではないか,弁護士会の中では少数説です。   理由は,アについては三上委員のおっしゃった理由とほぼ同じでして,債務者の意思に反するか否かの判断というのは債権者にとってはかなり酷なことになるのではないか,むしろ債権者が受領するか受領しないかということを基準としたほうが明確になるのではないか。取り分け意思に反するか反しないか分からないが,結果的に意思に反しない提供があったときに,債権者はそれを受け取らなかったら受領遅滞に陥ってしまう,そのようなことは債権者に酷ではないか。そういうところから,大阪は従来の公表意見を変えて債権者の意思を尊重してはどうかという意見になりました。   その結果として,イについて甲案かというと必ずしも直結しないのではないか。その場合に,第三者が弁済をした原因がいろいろあるのでしょうから,その原因が委任なのか事務管理なのか不当利得かによって具体的なその場面によって処理をするという一般的規律を置くことで足りるのではないか,そういう意見です。 ○松岡委員 結論的には今中井委員から御紹介いただいた大阪弁護士会の意見によって御支持いただいた内容で良いと思います。アは,先ほど三上委員及び中井委員から御指摘がありましたように,債権者が受領を迫られるときに果たしてその債務者の意思がどうであるかを債権者が明確に認識できるかどうかが問題であります。今回参考資料として後ろに付けていただいております諸外国の立法例では,確かに債務者の意思を一部考慮しているものもありますが,基本的には債権者の意思を重視して第三者による弁済を督励する方向が採られていると思います。先ほど三上委員からも御紹介がありましたように,与り知らない者から恩を受けるのは潔しとしないという明治民法の立法時に持ち出された理由はもはや妥当しないと思いますので,アは利害関係を有しない第三者による弁済について,債権者の意思に反して弁済することはできないという形で改めればよろしいと思います。   そして,イの問題についてですが,先ほど別の論点でも申し上げましたとおり,求償権の有無や範囲は内部関係次第であす。債務者の意思に反した弁済であるからといっておよそ全く求償できないとするのは行き過ぎで,不当利得法の規律とも整合しないと感じております。そのような規律では,せっかく第三者による弁済を督励したことに無用なブレーキが掛かってしまいます。その問題は最後の利害調整として,委任,事務管理又は不当利得を理由とする求償権による調整という一般的な形でもって処理するウで十分であり,イについて甲案か乙案かを議論する必要はないと思います。 ○高須幹事 弁護士会の状況の続きでございますが,私が所属している東京弁護士会もアについては一応その債権者の意思に反して弁済をすることができないという形での規律でいいのではないかと,したがって大阪弁護士会と東京弁護士会がそこは一応同じような意見ではございます。ただそれは単位弁護士会の意見のうち数としては少ないほうで,こういう会議に参加しているほかの弁護士会は比較的従前どおりで,やはり従来の債務者の意思に反することはできないのではないという規律を維持すべきとしています。したがって,弁護士会の中でも意見が分かれているところです。やはり従来のような,既にもう議論が出ておりますけれども,潔しとしないみたいな問題をどこまで考慮するかの問題なのだろうと,このように思います。   それから,すみません,私が部会資料の読み方が浅いのかもしれませんが,このアのところを提案を採用するのであれば,本文イ及びウは問題とならないと6ページに書いてあるのですが,それはアを採るとイとウは規定をしないという意味なのかどうか,ちょっと教えていただけたら有り難いのですが。 ○松尾関係官 部会資料は,今高須先生がおっしゃったように,アの規定を設ければイやウは特に置かなくてもよいのではないかという前提でした。それは,民法第474条をめぐって指摘されている問題が,債権者が債務者の意思に反するかどうかを確認することができないにもかかわらず,受領を迫られる場合があるという事態への対処ということであり,アの規定を設ければ,その問題には対処できるので,それ以上の見直しは不要ではないかと考えていた次第です。しかし,先ほど三上委員がおっしゃったアとイの甲案を組み合わせる考え方が論理的にあり得ないのかというと,そうではないとも思います。 ○高須幹事 そのような御趣旨であれば,一応東京弁護士会などの検討もそういう可能性はあるということで,イとウについてもやはり検討すべきではないかとの意見です。このようなことはやはり議論になりました。 ○中田委員 アについて債権者の意思を基準にするという御発言が多いのですけれども,それはそれであり得ると思うのですが,その場合の利害関係を有しない第三者の範囲なのですが,これは恐らく従来どおり事実上の利害関係ではなくて法律上の利害関係に限るということなのだろうと思います。そうすると,例えば親が子供の債務の弁済をするとか,友人が賃料を代わって弁済するということも債権者が嫌だと言えばできなくなるわけですが,それを何らかの方法で制限するのか,それとも全部債権者の意思に委ねてよいのかどうかというのは更に検討する必要があるのかなと思います。 ○内田委員 このアについて中田委員と同じようことなのですが,債権者の意思によって全て決まるというよりは,債権者は受領を拒否できる,しかし債務者が第三者弁済に対して別に異存がないというのであれば拒否はできないという,ただし書的な形になるかと思いますが,そういうやり方もあるのかなと思います。 ○鎌田部会長 それでは,この点については,御意見を踏まえて事務当局で更に検討続けさせていただきます。   「3 弁済として引き渡した物の取戻し」に関する御意見がありましたらお出しください。   よろしいでしょうか。特に異論はないということで引き取らせていただきます。   次に,「4 債権者以外の第三者に対する弁済」について御審議いただきます。事務当局からの御説明お願いします。 ○松尾関係官 「(1)受領権限を有する第三者に対する弁済の有効性」は,債権者以外の第三者に対する弁済であっても当該第三者が受領権限を有する場合には,その弁済が効力を有する旨の規定を設けることを提案しています。   「(2)債権の準占有者に対する弁済」のアからエまででは,民法第478条の見直しに関する問題を取り上げています。「ア 債権の準占有者」要件では,債権の準占有者という文言を民法第478条の現在の適用範囲を適切に表現するものに改めることを提案しています。   「イ 善意無過失要件の見直し」では,善意無過失要件に関する判例の考え方を適切に反映させる文言とするために,正当な理由に基づいて債権者であると信じ,又は債権者以外の者で受領権限を有する者であると信じて債務を履行することという要件に改めることを提案しています。   「ウ 債権者の帰責事由」では,民法478条の独立の要件として債権者の帰責事由があることを必要としないことを提案しています。   「エ 民法第478条の適用範囲の拡張」では,民法第478条が弁済以外の行為にも拡張して適用されることに関する規律は設けないことを提案しています。   「(3)受取証書の持参人に対する弁済」は,民法第480条の規定を削除し,受取証書の持参人に対する弁済についても同法第478条が適用されるものとすることを提案しています。   「(4)免責証券の持参人に対する弁済」は,免責証券の持参人に対する弁済が効力を有する場合に関する規律の要否を取り上げるものですが,ここでは免責証券について適切な定義を設けることができるかという点も問題になり得ることに留意しつつ御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いします。 ○高須幹事 弁護士会の状況でございますが,(1),(2)の(2)のところが特に幾つか分かれているわけですが,(2)のところにつきましても基本的には御提案いただいた内容でほぼよろしいのだろうというようなことでございます。   それから,(3)の受取証書の持参人に対する弁済についても御提案のことでよろしいのではないかと。   (4)の免責証券の持参人のところだけがやや分かれておるといいますか,やはり免責証券という言葉をうまく使えるのかどうか,この種の規定をうまく置けるのかどうかということで,478条の解釈で検討すればいいのではないのではないかという議論もありまして,ここは少し弁護士会の中でも慎重論が出ているところということでございます。   一応以上がそういう状況でございますが,私としても基本的にはそのようなところでございまして,今回の一つの御提案になっております善意無過失を正当な理由に改めるというのはいろいろな意味での調整を図るという意味では基本的には妥当な方向なのかなとは思います。ただ1点,更に考えねばならないのかなと思ったのは,表見代理のところも109条と112条は善意無過失という規定を一応残していて,110条が正当理由になっていると。ここでまたここの部分を正当理由に変えるということになったときに,分野が違うと言えばそうなのですけれども,何か統一した考え方があるのかないのかということについてもう少し考える必要があるのかもしれないというのは若干気にはなるところですが,この論点に限って言えばこの方向がよろしいのではないかと思っております。 ○三上委員 「準占有者」という言葉が分かりにくいので見直す,ないし今の機械的な支払等も含めたそれに対応できる表現に改めるというコンセプト自体に反対するものではありませんが,ウの,表書きには帰責事由があることは独立の要件とはしないとは書いてあるわけですが,補足説明の内容を全般的に判断すると,要は相互判断の中で債権者側の帰責事由も考慮に入れられるかのような記載になっています。やはり究極的には債務者,我々でいえば銀行側も完全に善意無過失,預金者イコール債権者の側も完全に善意無過失というときに,どちらが責任を負担するのかという点の判断は変わらないということを確認しておきたいと思います。   もし外観法理のように総合的に判断するというときに,では例えば銀行に過失があっても預金者側に重大な過失があれば銀行は免責されることがあり得るのか,そんなことも認めてくれるのかどうか。また,今の判例理論はもう銀行の過失に関しては行き着くところまでいっていますので,少しでも何かミスがあると帰責があると判断されるところまでいった上での預金者保護法の制定,その後の約款の改正という事実の積み重ねがあった後に外観理論に戻すといっても,恐らくはなかなか世間の常識,裁判所の過失の判断基準みたいなものは,一からガラガラポンで旧に復さないのではないかと思うわけです。そう考えますと,はやり究極的な,両者全く無過失の状況では,今の言葉でいうところの準占有に対する弁済は有効になるという前提が変わらないということは不可欠だと考えております。 ○岡崎幹事 高須幹事がおっしゃったことに関連して,無過失を正当な理由に基づいてという文言に変更する提案についてですが,平成15年の最高裁判例を見ましても,過失の有無という判断の枠組みではとらえられない要素が考慮されたようには感じません。現在の無過失という文言で何か無理が生じているのであれば,正当な理由という文言に変えた方がよいという考え方も理解できますけれども,部会資料を拝見しましたところ,必ずしも無理が生じているわけではないという印象を受けました。   それに対して,三上委員の御発言にも若干出てきましたけれども,文言が変わっている以上は何か意味が変わったのではないかと理解する人も現れるでしょうし,あるいは,表見代理の規定で用いられている文言との関連性等の新たな解釈上の問題も生じますので,文言を変えるメリットがデメリットに勝っているといえるのかどうかについて,検討を要すると考えています。 ○岡委員 先ほどの三上さんと反対の意見でございますが,その正当な理由という言葉に変えることによって債権者の帰責事由を独立の要件にまではしないけれども,読み込めるようになると,そういう実体的な変更があるということを前提に賛成するというのが弁護士会の相応の意見です。 ○中田委員 今正に岡委員がおっしゃいましたけれども,多分理解が人によって違ってくると思うのです。ただ,恐らく現在よりも帰責事由が考慮される可能性は高くなるのではないかと思います。現在は無過失の判断に投影されるものは考慮され得るとしても,その方法自体に伴う歯止めがあるわけですが,正当理由というように一般条項化するとかなり広くなってくる。若干不安定さもありまして,例えば真正の受領証書が盗取されたときも対象にするとなると,そこで保管に過失があったかなかったで変わってくるのかどうか,真正の受領証書であればもう一律に適用になるのかという辺りもどうもはっきりしません。そうしますと,仮に正当な理由という表現を使うとしても,もう少し中身を分析したほうがいいのではないかと思います。取り分けATM等の場合をカバーするということと帰責事由を反映させるということとは別の問題ではないかと,そこを区別して検討したほうがいいのかなと思いました。 ○深山幹事 (4)の免責証券についてです。提案されている規律について異論はないのですけれども,部会資料の最後のところで,その免責証券をどのように定義するかが問題となるという指摘があって,結論としては今後の検討課題であるというところで終わっております。検討課題であるという意味は必ずしも定義を設けないという意味でもなかろうかと思います。先ほどの有価証券の定義でも少し定義の是非当否が問題になりましたが,免責証券という言葉がいいのかどうかということも含めてなのですけれども,仮に免責証券というワードを残すとしても,その定義のような条項が可能であれば,やはり明文を設けるべきではないかと思います。教科書的には免責をされるようなものが免責証券なのだというようなトートロジーの説明しか見たことがなくて,具体例は下足札等が挙がっているので何となくイメージは湧くのですが,しかし,規律を設ける以上はもう少し定義についてワーディングも含めて検討いただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 ほかに御意見いかがでしょうか。   (4)については,免責証券の定義をうまく作るように努力するのか,あるいは免責特約の効力として対処する方向でいくのか,多分どちらでも同じ目的を達成できそうな気がするので,その辺を含めて検討してみることも有益かもしれないと思います。 ○三上委員 何度も同じ内容で恐縮ですが,478条は改正後も任意規定なのか,改正後はここまでやる以上は強行法規になるのかという点は前者という理解でよろしいでしょうか。普通預金規定の,通帳と印鑑の合致で払う,というのは,別に478条を体現した規定ではなくて,支払いの免責範囲の拡大を得るために当事者間での契約として作ったものに関して,判例が銀行側に過失があった場合はこの契約は当事者間の取り決めは効果ないといっただけで,決して478条の解釈問題で決定しているとは理解しておりません。したがって,ここでも例えば法律上は本人の帰責の有無が判断材料になるという規定になったとしても,消費者契約法とかの問題を除いて,当事者間の契約で本人の帰責事由とは関係なく免責条件を定めれば,それはなお当事者間としては有効であるという点も一応確認しておきたいと思います。 ○佐成委員 (4)の免責証券の持参人に対する弁済に関しての経済界での議論の中身でございますけれども,免責証券に関しては実務では相当数使われているということがあって,それにふさわしいルールを設けていただくのは非常に有り難いということでございます。今,部会長がおっしゃった免責証券の問題なのかあるいは免責特約の問題なのかということはひとまず別にしまして,いずれにしてもそういった何らかのルールを明確にしてほしいという意向はあります。ただ,免責証券は現に使われているので,そういった実務を是非何らかの形ですくい上げた上で,ちょっとここで今詳細を紹介するというわけにはいかないのですが,ともかく,免責証券の実態がどうなっているか,どういうふうに動いているかというのを是非踏まえた上でルールを作っていただきたいという意見がございましたので御紹介させていただきます。 ○鎌田部会長 従来からこういう規定があると有益ではあるけれども,免責証券を果たしてうまく定義できるのかというふうにも言われてきたところなので,そういった実務をうまく反映する規定としてはこんな形のものがあり得るという御提案を頂けると大変助かると思いますので,よろしくお願いします。 ○佐成委員 いろいろ私のほうにも寄せられるものがあればそれは御提供させていただこうと思います。この場ではなくて別途事務当局に提供させていただくようにしたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 本質的なことではなくて,言葉だけの問題なのですが,11ページに債権の準占有者についての要件を改めるに当たって,478条が外観法理に基づく規定であることが明らかになるような文言とするという基本的な方針が示されているのですが,外観法理という理論自体について幾つかの考え方があるのではないかと思います。相手方の事情に着目するのがスタートなのですけれども,本人側の帰責性を要するかどうか,ここは分かれるところなので,余りその議論にコミットするというのもどうかと思いますから,もう少し例えば相手方の信頼保護とか一般的な言葉のほうがいいように思いました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   それでは,今までお出しいただいたような意見を踏まえて事務当局におきまして更に検討を進めさせていただきたいと思います。   次に,「5 代物弁済に関する法律関係の明確化(民法482条)」から,残り時間との関係も考慮して,「7 弁済の充当(民法第488条から491条まで)」について御審議いただきたいと思いますので,事務当局から説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 「5 代物弁済に関する法律関係の明確化」のアでは,諾成的な代物弁済の合意が有効であることを明らかにするように民法第482条を改めることを提案しています。   イは,代物弁済に関する法律関係を明確にするために任意規定を整備することの要否を問うものです。   「6 弁済の内容に関する規定」は弁済の内容に関して定める民法第483条から第487条までのそれぞれの規定について見直しの要否を問うものです。   「7 弁済の充当」の「(1)弁済の充当に関する規律の明確化」では,弁済の充当に関する規律内容が不明確であるという問題を解消する観点から,アからウまでの問題を取り上げていますが,このうちイの甲案は現在の法定充当の方法を積極的に変更する提案の当否を問うものです。   「(2)民事執行手続における配当と弁済の充当」は,民事執行手続における配当が同一の債権が有する数個の債権の全てを消滅させるのに足りない場合に,合意充当や指定充当を認めず一律に法定充当によって充当するという判例法理を変更し,この場合にも合意充当や指定充当を認めるという考え方の当否を問うものです。   このうち,「5 代物弁済に関する法律関係の明確化」と「7 弁済の充当」については,規定を設ける場合の問題点や具体的な規定の在り方などにつき分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点について分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分についての御意見をお伺いいたします。 ○潮見幹事 意見というか,分科会で検討する前の段階での事務局に対する質問なのですけれども,よろしいでしょうか。代物弁済のところです。アについては基本的にこれでいいと思いますし,こうしていただきたいと思っているのですが。イのところで補足説明に書かれていない場合はどうなるのかという点についての質問なのです。つまり,代物弁済の合意はした。その後に,債権者が元の給付を請求した。それに対して債務者が代物を給付してきた。代物弁済で合意をした代物を提供してきたとしましょう。そのときに,債権者はその代物給付を受領しなければいけないのか。受領しなければ受領遅滞になるという趣旨なのか。それとも,本来の給付を請求したのであれば債務者はそれに拘束され,代物を給付したとしても債権者はそれを拒否することができるという趣旨なのでしょうか。 ○松尾関係官 分科会で御議論いただきたいのですが,この場合には元の給付義務と代物給付義務が選択債権のような形になるのではないかと考えていましたので,今のような事案であれば,債務者が代物給付をした場合には,債権者は受領を拒めないことになるのではないかと考えていました。潮見先生にお考えがあればお聞かせいただければありがたいのですが。 ○潮見幹事 様々な考え方があり得ると思います。さきほど質問をした理由は,そもそもこういうルールを作る場合には,特に諾成契約型で考えた場合には,代物弁済の合意が成立したときに,その後に当初の合意というものを重視するのか,それとも債務者の選択を重視するのか,それとも債権者の選択を重視するのか,このあたりの基本的なスタンスをどこに置くのかというところを考えなければいけないと思ったからです。仮に債権者の選択というものを重視するという形をとった場合に,債務者が代物を給付したときには,一種の代用権の行使みたいな形で考え,代物を受領しなければいけないという補助ルールを作るというのも有りかとは思います。しかし,いずれにしても,どこに基本的なスタンスをおいて制度設計をしていくのかを固めてからでないと,難しいのかなと思います。 ○鎌田部会長 代物弁済契約にもいろいろなものが含まれていて,仮登記担保契約も諾成的代物弁済契約になりますね。その仮登記担保契約を結んで,譲渡担保もそれに近いのですけれども,お金を返せないから仮登記担保権を実行して清算金を支払えということを債務者が債権者に強制できるかというのと同じ話ですね。それも少し事務当局も検討させていただいて,分科会での検討に先立って事務当局の検討結果についての御報告をできるように努力させていただきます。 ○松岡委員 今の点につき,潮見幹事が何をおっしゃりたかったのかが私には必ずしもよく分かりませんので確認させていただきたいと思います。担保としての代物弁済予約等は,しばらく脇に置いておくといたしまして,代物弁済の合意を諾成的に構成できるとしたときに,その趣旨は鎌田部会長が言及されましたようにきわめて多様だと思います。債務者が代わりの物の給付で元の債務の弁済を免れさせてもらうところに重点があるのか,債権者が代わりの物をよこせということに重点があるのか,債務者と債権者のどちらの視点に立つのかは,正に契約内容次第ではないかと思います。何か基準を作るのであれば,契約内容がはっきりしない場合の標準をどちらにするかという問題だと思います。潮見幹事は,そういう趣旨で質問されたのではないですか。 ○潮見幹事 そうです。 ○鎌田部会長 債務内容が完全に入れ替わるケースもあるわけですが,完全に入れ替わるケースはこの提案の対象には入っていないという前提なのだと思うのです。事務局案は。 ○潮見幹事 ついでに,一言申し上げます。デフォルトルールすら規定として置くことが果たして必要なのかというところも,私の気持ちの中にはあります。 ○中井委員 弁護士会のイに関する部分の意見ですけれども,分かれています,何らか基本ルールを決めるという意見と,仮に諾成的な代物弁済契約という類型を認めるなら,それは個々の契約の意思解釈の問題で様々なパターンがあり得るのではないか,だからこのようなルールは決めなくてよいと,この二つに分かれています。仮にルールを決めるとすれば複数の選択肢があり得る。債権者側に優先順位を与えて債権者側はどちらでもいけるとするのか,債務者側もどちらでも弁済できるとするか,債務者側に優先順位を与えるか,どれをデフォルトルールとするのが適当なのかわかりません。そうだとすると,この段階では特段のルールを決めないという選択肢が十分あるのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 この点については分科会での補充的な検討を提案しているところでありますけれども,ルールを決めることのメリット・デメリットも,併せて,申し訳ありませんけれども,検討をしていただければと思います。 ○高須幹事 分科会で検討するということで全く異存ありませんし,今の点も分科会で議論することだと思いますが,それと併せてこういうこともちょっと考えてほしいなという部分なのですが。私はまずアのところはこういう方向で,現在の判例法理などを踏まえると改めるということに賛成でございますし,弁護士会も,全てとは言いませんがおおむねアのところについては賛成。イのところが今中井先生がお話があったように少し議論が分かれるというところでございます。その上で,細かな,ある程度今,松尾さんからの御説明でも内容を明確化するために幾つかの個別具体的ルールを定めたらどうかというのがイの問題だということなのですが。   そこでの問題なのですが,部会資料20ページにも指摘されていますように,今の判例によりますと,諾成的な契約,代物弁済の合意によって所有権の移転効が生じるという前提に立っておるわけで,そのときにイのところで今議論になりつつありますように,本来の履行をしたという場合に,一旦移転した所有権はどうなってしまうのか,自動的に戻りますということでいいのかもしれませんが,債権者が既にその所有権を誰かに譲渡していたときはどうするのかというようなこともあると思いますので,もしかしたらそれは合意のときに所有権を移転するということも問題なのかもしれなくて,物権法の問題かもしれませんがいろいろと話がややこしくなるのですが,せっかく分科会の対象ということなので,その所有権が移転するというところとの兼ね合いでのイの論点をどうするのか,これも議論に含めていただければ有り難いと思います。 ○鎌田部会長 所有権は合意のみによって移転する。これも多分要物契約を意識してそういうふうな構成になっているのかもしれないのですけれども。ただし,給付が完了するまで,不動産の場合には登記が移るまでは債務は消滅しない。給付完了前は,ある意味で受戻可能状態と同じで,本来の債務を弁済すれば代物弁済契約自体が効力を失うというようなことを考えるのではないでしょうか。 ○高須幹事 私も基本的にはそういう発想が一番合理的かなと思っているのですが。今申しましたように,第三者との調整の必要があるのかないか辺りをちょっとだけ考えたりしたのですが,今部会長がおっしゃったような内容のことはそうかなという意識は持っておりますが,もうちょっと私も考えたいと思います。 ○鎌田部会長 第三者関係は専ら対抗要件で決めるということになるのではないでしょうか。 ○高須幹事 転々譲渡ということはなくて,そこは対抗要件なのでしょうかね。 ○道垣内幹事 対抗要件でしょうね。 ○高須幹事 対抗要件でいいのですかね。だとすればそれほど問題はないと思います。すみません。 ○鎌田部会長 「6 弁済の内容に関する規定」の「(1)特定物の現状による引渡し(民法第483条)」はいかがでしょうか。民法483条はいわゆる特定物ドグマと密接に結び付く条文ですけれども。 ○中井委員 ここは余り発言をしたくないのですけれども,弁護士会の意見を申し上げます。この提案には反対でして,多くの弁護士会は残すべきだという意見です。ただ,この残し方については現在のような条文の書き方,現状でその物を引き渡さなければならないということについては,なるほど御指摘のような誤解を受ける可能性があるので,ここの表現を改めるというのは考えてはどうか。では,どう改めるのかということについてまだ適切な案はないのですけれども,例えば引き渡せば足りるのだというような提案がありました。   これは,基本的には400条のように善管注意義務をもって保管をする。その在り姿でもって引渡時に存在する現状の物を渡す。これは特段当事者間で品質等について合意がないときの一般的な債務者側,特定物の引渡義務を持っているほうの行為準則としては理解できるのではないか。そういう形で残すことが果たして部会資料記載のような誤解を生んで削除せよというところまでいくのか,そこには飛躍があるのではないかというのが多くの弁護士会意見です。   ただ,400条とともに483条を削除してよいのではないかという一部の意見もあります。 ○佐成委員 これについてですが,私も,今,中井先生がおっしゃった弁護士会の多数意見に近い意見を述べたいと思います。確かにこれは特定物ドグマそのものを導き出すような条文の記載になっていますし,また保存義務との関係も明確ではないという問題点はあります。しかし,直ちにこれを削除してしまうのはどうかということについて,今,一定程度の修正を施せば足りるのではないかという意見がありましたけれども,例えば,更にただし書のようなものを設けて,保存義務との関係を入れることも考えられます。例えば,「ただし,契約又は法令で定める保存義務に違反した場合にはこの限りではない。」とか,そういった文言を入れることによって誤解を生じさせないような手当をした上で存続させるのがよろしいのではないかということでございます。誤解を生じさせるから直ちに削除するというのは何か拙速な感もあるということです。   それと,実際には今,行為準則という言い方をされておりましたけれども,デフォルトルールとしてあってもいいのではないかということです。中古マンションの売買などが個人間でも行われたりしますけれども,そういったときに経年劣化で設備が傷んでいるといったことがあります。例えばエアコンの効きが悪いとか,ガスコンロやお湯周りの不具合があるとか,そろそろ修理や買替えの時期にあるといったような場合は,契約時とその本来の履行時,引渡時で目的物の状態というのは変化しますけれども,売主が引渡時まで保存義務を一定程度尽くしているのであればという前提で,あとは当事者が基本的にはそういった傷みの程度については特別の合意をしておくのでしょうけれども,個人間の場合などでは必ずしも全部をここが傷んでいるとかいちいち確認して合意するとは限らないと思います。そういった意味でデフォルトルールとして残しておくというのも必ずしも悪くないのではないかという趣旨でございます。 ○松本委員 この条文の廃止論は特定物ドグマの根拠にされると,つまりこれで免責されるというふうに解釈されるから廃止だということですが,条文は必ずしも現状でその物を引き渡せば足るとかいう書き方はしてない,免責的な書き方ではないわけですよね。それを免責的意味に解釈されることによって特定物ドグマの法定責任説につながっているということでしょうから,そこを是正すれば足りるのではないかと思うのです。   一つのやり方としては,前の履行請求のところで履行請求の限界の議論がありましたが,特定物なのだから現状の引渡し以上の引渡しは請求できないのだということを言っているにすぎないのだと。引渡請求に対しては現状のまま引渡すということを言っているにすぎないのだと考えれば,履行請求権の限界を言っているにすぎないのであって,それによって,ではそれ以外の責任が一切なくなるかなくならないかというのはここからは何も出てこない。それは別の条文の解釈から出てくるにすぎないのだという,本来そういう趣旨だと思うのですが,免責的でないようにすればよろしいのではないでしょうか。 ○潮見幹事 松本委員の発言のつ前のお二人の委員の発言に対してですけれども,おっしゃられていることは,要するに,特定物の場合の保存に関する行為準則をルールとして残してほしいという御趣旨というように受け取りました。そうであれば,前に議論しました400条で保存義務についての規定を改良することによって残せば,お二人の発言された趣旨というものは,あるいは弁護士会の考え方というものは,貫徹できるのではないでしょうか。それに合わせて,483条なるものをあえて重ねて置いておくことにどこまで意味があるのかということを,私は理解することができません。ここで学者ぶりした話をするのは好きではありませんが,この規定は,売主あるいは債務者の義務というのが権利供与義務,引渡義務,保存義務という三つのセットで組み立てられていた時代の名残りといいましょうか,これを基礎にして作り出されたというものです。   このうちの引渡しに関して,現状引渡しという規定を残すのは好ましくないし,足りるという表現は正に直前の松本委員の発言にあったように,かえって逆の誤解を生じるのではないかと思います。そう考えますと,この規定はこの際なくしてしまったほうがよいと思います。 ○中井委員 潮見幹事に確認ですけれども,それであっても保存義務を尽くした結果としての物を渡すという事実,若しくは債務者側の準則としてはそれで足りるという考え方は,足りるという言葉を使うとよくないのですが,そのこと自体について異議をとどめるわけではなくて,同じことが二重になるから後のほうは要らないのではないか,こういう御趣旨と承ったらよろしいのでしょうか。 ○潮見幹事 補足説明では400条と483条とが連動して捉えられていますが,果たして両者は連動するものなのかという点を,まず考えていただきたいと思います。両者は連動するものではありません。   それからもう一つ思い出していただきたいのは,400条が議論されたときに,保存義務を尽くしたかどうかという問題と,それから例えば不完全履行の場合に,不完全な,性質に欠点のあるような物を引き渡したときに,それでもって債務不履行責任がなくなるのかという話は別のものとして考えるべきではないかというのが,ここの意見の大勢ではなかったかと思います。それを前提にして,私は話をしたつもりです。   その理屈からいきますと,400条で保存義務というものを残せば,特定物の場合の保存に関する行為準則という,先ほどおっしゃられた弁護士会の意図は達成することができますし,他方,その保存義務が尽くされたとしても,引渡義務のレベルで不完全履行の判断の余地が残されることについては,先ほど意見を述べられた方々も肯定されている。私もそれなら妥協できる。これで十分ではありませんか。そうした中で,わざわざ483条の現状引渡しを残せば,引渡義務のレベルで不完全履行の判断の余地が残されないという,ここでの意見の大勢とは違う解釈が罷り通ってしまうのではありませんでしょうか。 ○佐成委員 特段はございませんけれども,一応そういった意見があったということでございますので,単純に削除せずにいろいろ議論をしていただければということでございます。もちろん,その結果,最終的にどうなるかは別だと思います。 ○山本(敬)幹事 中井委員に質問をさせていただきたいのですが,まだ少し分からなかったところがあります。この規定の定め方を少し改めるけれども,やはり残す理由として,これは行為準則として意味があるのではないかということを強調されていました。佐成委員はデフォルトルールとおっしゃいましたので,少しニュアンスが違うのかなと思います。いずれにしましても,この「行為準則として残す」ということの意味が,まだ少しよく分かりません。潮見幹事が先ほど解釈されたような意味であればまだ分かるのですけれども,これを残してなお行為準則として意味があるという場合に,それはどのような意味を持つのか。それは,裁判規範としては意味を持たないという趣旨なのか。例えば,債権者が債務者に対して履行請求をしてくる場合に,この規定は全く意味を持たないのか,なお意味を持つのか。その点もう少し説明をしていただくと,おっしゃっていることの意味が分かるのですが。いかがでしょうか。 ○中井委員 先ほど行為準則という言葉を使ったのですけれども,この規定があることによって債務者が何をどうしなければならないということが一般的に分かりますねということを申し上げたかったのです。   通常特定物について売買をした,特段品質等についての合意がなかった。合意があればそれに基づいて履行しなければならないというのは前回確認したとおりで,そのときはたとえ善管注意義務を尽くして保管しても,合意した品質等に達していないのなら債務不履行は生じる。   それらの特段の合意がない場面というのは一般的に多いのではないか。そのときにどういう流れになるかと言えば,引き渡すときまでにはきちんと保管しましょうね,その結果としての物を交付する,こういう義務があって,それを尽くせば足りますと,こういう理解をしているのです。それを今ちょっと行為準則と呼ぶのがいいのか,それがデフォルトルールと呼ぶのか,人の行動として規定があることによって指針になりますね,ということで行為準則と申し上げたわけですけれども。それで通常特段の合意がないときの義務の履行にもなるのではないでしょうか。   別途品質合意があるときには,争うものではありません。 ○山本(敬)幹事 そうしますと,この新しい483条の書き方は,一般的に「特定物を引き渡す債務」についてはという書き方でよろしいわけなのでしょうか。デフォルトルールというのは特定物の引渡債務一般についてであって,性質について何か合意があるということは,そのデフォルトルールに何か付け加わった特別な合意であると理解をしておられるということなのでしょうか。 ○中井委員 なるほど。別の合意があればその合意の状態の特定物を渡さなければならないという理解をしております。これをそのまま残したらそれが表現できていませんねという御指摘だとすれば,確かに表現できていませんね,と言わざるを得ないと思います。 ○山本(敬)幹事 その考え方は,立場は分かれるかもしれませんが,特定物ドグマをある種採用した,もちろん,デフォルトルールとしてであって,修正可能なのであるから,本来の特定物ドグマではないけれども,しかしデフォルトルールとしては意味があるというような主張だと理解してよろしいのでしょうか。 ○中井委員 積極的に理解してよろしいのでしょうかと聞かれると。 ○潮見幹事 助け舟か何かよく分かりませんけれども,行為準則といった場合に,ここで先ほど義務が三つあると申し上げましたけれども,保存することという保存行為のレベルでの行為準則と,それから引き渡すという部分の行為準則というものが,観念的に考えることができると思うのです。400条が従来規定していたのは保存行為のレベルでの行為準則であり,他方483条が想定していたのは正に引渡行為のレベルでの行為準則であったと思います。   先ほど私は中井委員の発言に,保存行為についての行為準則を考えておられるのではありませんかと言ったのは,ある意味では助け舟みたいなところがございまして,もしこれを引渡し,あるいは引渡行為についての行為準則と考えた場合には,そこで483条を維持するということは,とりもなおさずそれは現状で物を引き渡せば足りるというのがこの引渡しレベルでの行為準則として捉えられることになり,先ほど山本敬三幹事がおっしゃられたような特定物ドグマがそこで基礎に据えられているという枠組みを採用する結果になってくるのですよね。だから,これと異なる形で問題を処理しようと思えば,性質に関する特段の合意というものが新たに付け加わる必要があるということになってこようと思います。   しかし,中井委員ほかが483条が必要であるという話をされるときに,しかもその特定物ドグマがおかしいということは認めながら,そのような話をするのは,そこで行為準則として捉えられている行為というのは引渡しレベルでの行為準則ではなく,引渡しまでの保存行為における行為準則,したがって保存自体の適切さというものがではありませんか。このために483条を残しておいて欲しいとにおっしゃられているように聞こえます。しかし,そうであれば,もう一度言いますが,保存行為レベルでの行為準則を定める400条のところで工夫をすれば,意図しているところは達し得るのではないでしょうか。その結果として483条はいらないし,それによって中井委員ほかが前提にされているであろう特定物ドグマはおかしいという立場も維持されることになるのではないかと思った次第です。 ○中田委員 ちょっと潮見幹事に確認なのですけれども,483条の読み方は引渡時の現状ではなくて,引渡をすべきときの現状,履行期における現状だという理解で私はおりますが,そこはよろしいわけですね。 ○潮見幹事 中田委員も御存じだと思いますけれども,議論がありますよね。 ○中田委員 もちろんあると承知しておりますが,潮見幹事の前提がどちらなのかというのが。 ○潮見幹事 引渡時です。 ○中田委員 ですよね。しかし,条文というか,本来はこれは履行期における現状で,引渡時というのは読替えではないかと思うのです。仮に履行期における現状というように理解すると,履行期に引き渡すときにはどのような状態で引き渡すのかについて,またもう一つ,履行期後に引き渡すときにも履行期の現状を基準とするのだという,二つの意味があると思うのですが,それらの意味も不要となるのかどうか。もし潮見幹事がおっしゃるように,これが引渡時だというふうに読んでしまうと,正に特定物ドグマとの問題が出てくるのですが,履行期における現状ということになると,それとは別の問題で要否が決せられるべきではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○潮見幹事 その辺りは,保存措置として,どの時点まで何をすべきかという部分で把握すれば十分ではないでしょうか。 ○中田委員 その十分かどうかということは,履行期における現状というのを特定物ドグマと切り離した形で規律しておくということが有害なのか無益なのか,それともデフォルトルールという意味で有益なのかという,そこの選択ではないかと思うのですけれども。 ○潮見幹事 私はずっと有害だというつもりで発言をしてきたところであり,中田委員がおっしゃるところも私分かるのですけれども,そうであるならば,どういう規定を,しかも400条とは別にここに置けばよいのかという像が見えないのです。 ○中田委員 私がそれを支持するというわけではないのですけれども,仮に最小限の改正をすると,その引渡しをすべきときの現状というのを分かりやすく履行期における現状というように正面から規定して,その上でその規定がいいのか悪いのかというのを検討したほうが多分議論がすっきりするのではないかと思います。 ○潮見幹事 時間がないので簡単に申し上げますと,そういう規定を置くことこそが特定物ドグマを採用したということにはなりはしないかというのが,私の懸念です。 ○道垣内幹事 私は難しいことはよく分からないのですけれども,先ほど中古マンションの例が出たのですが,中古マンションで温水器が最初から壊れていたというときを考えますと,それが壊れていたのだけれども,引き渡すべき時期の現状がそうであるならば,そのままでよいというのがデフォルトなのでしょうか。私は,それはデフォルトではないのではないかと思います。つまり,それはやはり温水器付きのマンションであるならば,ちゃんと温水の出るマンションが引き渡されなければならないというのがデフォルトであり,現状有姿はデフォルトにはなり得ないのではないかと思うのですが。 ○佐成委員 確かにおっしゃることも分かりますが,実際に現実に行われる個人同士の中古マンションの売買では,私も何回か関与していますけれども,結構そういうことは多くあって,大なり小なり壊れていることは当事者同士もう分かっているのだと思います。もちろん,大切な部分はいちいちチェックしていくことになりますし,大体個人同士でもそれなりにチェックはしますけれども,小さな傷は隠れているものも結構あるのです。けれども,それを全部いちいちリストアップするということは現実にはしていないのです。ですから,買主が実際に使ってみて補修したければ自分で補修するということを前提に現状で引渡しというのは結構ありますし,その代わり代金は減額するとか,そういう処理は結構なされているようですので,それを前提にちょっと申し上げたということです。   ですから,高級マンションだからと言って常に客観的に定まる一定の水準は維持されるべきであるということではなくて,大体,私が実際に関与したり,見たりしているのはそういう中古物件が多いものですから,どちらをデフォルトにするかというのはあるかもしれませんけれども,明示的な合意がなければ絶対的に定まるような仕様としてしまうと,買主にとっても過剰であったり,売主にとっても代金をそういうふうに減額しているのに均衡しないのではないかとか,そういう問題を生じるので,「現状で」という理解で考えたわけでございます。 ○鎌田部会長 契約締結時の現状ですか。 ○佐成委員 契約締結時の現状ではなくて,履行期の現状です。 ○鎌田部会長 契約締結時から履行期までの……。 ○佐成委員 そこは多分壊れたままの状態だと思うので,もしそこで乱暴な使い方をすれば,それは保存義務の問題になると,そういう理解です。 ○山野目幹事 483条の問題はほかの幾つかの規律との関連でも引き続き検討されていくべき事項であると考えますから,今後も弁護士会の先生方におかれまして御議論いただくチャンスはあると想像しております。それらの機会において弁護士会の先生方に御検討いただく際に視野に入れていただきたいことは,この483条についてはアカデミックな次元で特定物ドグマと結びついて誤解されてきた,という,そういうアカデミックなレベルでの誤解があるほかに,取引の現場においては一種,不動産売買における消費者問題の観点からの誤解というようなものも無視することができないのではないかというふうに感じます。取引の現場で買主は不動産の売買を仲介した事業者などから現状有姿なのですよ,あるいは現状なのですよ,というふうに言われて,よく分からない言葉で,法律用語であると同時に,若干現場用語である感覚もありますが,現状という漢字自体がどういう漢字であるかすら確かめるチャンスが与えられないまま,何となく現状ないし現状有姿ですよ,と言われて,契約締結から履行期までの保存が適切に果たされたかどうか聞きたいという気持ちを抱いても何か聞けないような雰囲気にされるまま話が進んでいってしまうようなことがまま見受けられます。   それは,483条があることが,専らそれがあるからそうなっているとまでは申し上げませんけれども,今後の検討において,483条について裁判規範的な意味が見い出せなくて,行為規範なのです,というふうにおっしゃられるのであると,なおさらそのことが気になってきて,部会資料に書いてあるとおり,それは正に債務者の誤った行為規範として機能するだけの483条になってしまうおそれがあります。是非こうした問題の側面もあるということを視野に含めた上で御検討いただければ大変有り難いというふうに感ずるものでございます。 ○道垣内幹事 山野目幹事のおっしゃることはそのとおりだと思うのですが,佐成委員に一言だけ申しますと,出された例は正に合意がある場合ですよね。そのリスクを買主に移転することによって代金を減額しているという事例であって,余り適切な反論にはなっていないのかなという気がします。   そういうふうなことも一切なく,こういうふうな設備があるマンションであるというふうな形で売ったときに,果たしてそれは現状で引き渡すということがデフォルトなのかというと,私には全くそうは思えないということです。 ○松本委員 483条の解釈をめぐっていろいろな議論があるようで,特定物ドグマとして批判されている解釈というのは,私はこれは契約締結時点において既に存在しているような瑕疵,いわゆる原始的瑕疵についてそのまま引渡して一切免責されるのだという法定責任説につながった考えになるから批判されているのだというふうに理解していたわけです。それだとすると,引き渡さなければならないという言葉と矛盾するのですよね。つまり,引渡時の現状で引き渡せば一切免責されると書いてあればそうなるのだけれども,そうならないような文言を勝手に変える解釈がされている。ところが,ここで引き渡さなければならないという言葉を生かすとすれば,引渡しをすべきときの現状でではなくて,引渡しをすべきときに予定された状態でとか,約束された状態で引き渡さなければならないと,これなら引き渡さなければならないということでぴったりいくわけです。恐らくこういう趣旨で主張されている方がかなり多いのではないかと思います。   もう一つは,佐成委員がおっしゃった,引渡しをすべきときに現状を確認しましたと,こういう状態ですねと,しかし実際の引渡しはそれよりしばらく後になり,その間に一部壊れた物が生じたというような場合に,その確認をしたときの現状,引渡しをすべきときに確認した現状でその物を引き渡さなければならない,そうでないと債務の弁済をしたことにならないという趣旨にも読めるのです。この引き渡さなければならないという文言を生かそうとすれば,そのどちらかだと思います。 ○沖野幹事 全く思い付きレベルではあるのですけれども,例えばこれを残したらどうかという御趣旨が次のような案であれば受けられるのか,それともそうではないのかということをお聞きしたいと思います。   具体的には,特定物一般ということではなくて,やはり現状有姿と言われるような状態で渡すというそういうリスク分担がされているという場面の問題だとすると,特定物につきその現状において引き渡すこと,あるいは引き渡す旨を約した場合においてはというような限定を付けまして,そのときの現状はいつの現状を問題にするのか,それが中田委員のおっしゃった履行期であるとした上で。もちろんその際には履行期の現状ということに対してそれまでの保管をきちんとしなければならないということであるとすると,先ほどのような現状で引き渡すということを約した場合においては,債務者は履行期における現状で引き渡さなければならないという旨と,それまでの間,契約等で要求される注意をもって保管し,というような形で両方を含ませてはどうかということなのですけれども。やはりそれでは実務的には全く意味がないということになるのかどうか,教えていただければと思います。 ○中井委員 違和感なく聞きました。私はそういうことを言っていたのかもしれません。現状で特段合意をしないわけですね,品質等について。マンションならマンションを何月何日に引き渡しますというときに,その引渡時における現状でお渡ししますよという合意をする。その間,契約時から引渡しすべきときまできちっと善管注意義務をもって管理している限りは現状のままでいいですよという合意をしているとき,沖野幹事も松本委員もおっしゃられた,そのときの在るべき,つまりきちっと保管した状態で在るべきその物を渡せば義務としては十分なのだと,それを言っているにすぎない。特段の品質合意をしているときには当然その品質合意をしている物を渡さなければならないわけですけれども。 ○鎌田部会長 現状有姿も特約ですよね。現状有姿契約というのは現状有姿の特約がある場合で,そういう特約が一切ない不代替的特定物についてどうなのかというのが元々のこの規定の由来なのではないかと思うのですけれども。 ○沖野幹事 ですので,考え方としてはそういうおよそ特定物一般についてのデフォルトとしては適切ではないのではないかという考え方を持っております。そうだとすると,品質の特約がないということではなくて,むしろ黙示,明示両方含めてそういう特約があったかが問題であり,そのような特約があったという場合において現状というのがいつの時点の現状をいうのかについて,これもまたデフォルトルールであることを明らかにするような規定と,そしてそのときには当然それまでの間にきちんとした保管をするという保管義務は課されることと,さらにその保管義務の注意の程度はどのぐらいかということをそれぞれ明らかにする。そのような趣旨であるならば,今のような規定が考えられるのではないかという趣旨です。しかし,その場合も,そういうものを置く必要があるのかという問題は次にくるということではないかと思います。 ○鹿野幹事 私も,先ほど沖野幹事がおっしゃった内容については異論がないのですけれども,その前に中井委員が品質について特段の合意がなかったときはとおっしゃったことの意味がよく分かりませんで,その点について一言申し上げたいと思います。少なくとも私の認識では,特定物の引渡しを目的とする契約であっても,そして具体的に特定の性質を有すべきことが特に明示されていなくても,完全に現状有姿ということはむしろ例外なのではないかと思います。つまり,全く現状有姿でよいのだという特約があったときには,その特約によってそれでよいことになるだけであって,逆に,そのような特約がない限りは,当事者が特に明示しないとしても,何らかの性質をもつものとしての取引がされているのが通常ではないかと思います。そして,どのようなものが予定されたのかは,契約の解釈によって明らかにされ,その予定された性質の物を債務者は引き渡さなければならず,そうでなければ契約に従った給付ではないことになるのだと思います。もちろん,明示的に特に合意があればそれに従うことは当然ですし,その明示された特約の解釈の結果が,全くの現状有姿ということであれば,その場合はその特約に従うことになるにすぎないのではないかと思います。   ですから,最初に申し上げましたが,中井委員が繰り返しおっしゃる品質についての特段の合意がなかったときということの意味合いが,私の認識とは違うように感じました。 ○内田委員 沖野幹事の御提案された表現ぶりについてなのですが,これは先ほど山野目幹事が指摘されたように,不動産取引の行為準則として実務に与える影響を私も深刻に懸念いたします。現状有姿という言葉が当事者間でかなりギャップのある受け止め方をされていて,一方当事者は現状有姿の意味がよく分かっていない。明らかにその合理的な期待に反するような意味内容で他方当事者が使っているという実務がありますので,何かその実務に対してお墨付きを与えるような影響が生じないかということを懸念します。   品質とか債務の中身について当事者が特段の合意をすれば,鹿野幹事おっしゃったとおり,合意どおりの履行をすればそれで十分であるというのは当たり前のことで,それは別に規定を置くまでもないことではないかと思います。 ○佐成委員 別に今までの議論を否定するとか反論するという趣旨では全くございませんで,山野目幹事が御指摘され,今内田委員がおっしゃった点についてですけれども,これは私も同感な点ももちろんございます。つまり,通常個人間で取引が行われる場合というのは比較的うっかりすることが多くて,私なんかもそういうのをよく見受けるのですけれども,こうした個人間取引に,せっかく事業者が専門家として関与する場合であっても,特に仲介業者が関与している場合にもかなり問題が発生しているという事実です。つまり,本来仲介業者がきちっと目的物について「ここは権利関係がこうなっていますよ。」とか,「これは特定物と言われますが,そういった物はこういう点に特に注意してください。」とか,「ここは壊れていますよ。」とか,「このままにしておくと,将来こういうことがありますよ。」とか,きちんと適切に仲介に入った方々がやるべきなのですが,実際はそれが十分やられていなくて,結果的に契約当事者となったいずれか一方の個人が偶々,最終的な契約責任や負担を押し付けられるという形で,被害を受けるという事態はよく見受けます。そこの部分は別途検討しなければいけないなという問題意識は私自身ももちろん持っております。ただ,単純にここを削除してしまうということについては若干拙速ではないかなという懸念を申し上げているということです。   ですから,一応議論をしていただいて,その上で不要であればもちろん削除して差し支えないと思うのです。つまり,固執するつもりはないのですが,一応個人間ではそういうことがあり得るのではないかということで問題提起をさせていただいたという趣旨でございます。 ○鎌田部会長 履行期の現状で引き渡せば引渡債務自体は履行されたことになるということと,品質の劣化等があったのに責任を負わなくていいかどうかというのは全く別の問題です。そういう意味で400条,483条は特定物ドグマの下では完全なワンセットとして,それと危険負担,債務不履行,瑕疵担保ですか,必須のものだったと思うのですが,それを契約責任説の下でどういう位置付けを与えるのか,あるいは483条が存在すること自体に意味があるのかないのかという,これもやはり同じように問題になります。約定どおりの品質の物を提供しないと債務不履行だといっても,自分で直した上で提供しなければいけないのか,ともかく物を渡して,その後は担保責任の問題にするのかというのは,なお議論の余地があり得るとは思うので,その辺のところの議論を整理しながらまた継続して検討させていただきたいと思います。   6の(2),(3),(4)についての意見も含めて全体について,御意見をお伺いします。 ○中井委員 もう十分かもしれませんけれども,鹿野幹事のおっしゃられたことに対して一言だけ。特段の合意がなくてということを私は常に留保を付けているのです。それは特段の合意があればその合意に従わなければならないからなのですけれども。通常の特定物の取引において特段品質合意しないというのは結構あると思っているのですけれども。そこの基本認識が異なっているということでしょうか。 ○鹿野幹事 明確にこれこれの性質のものでなければならないと細かく決めているのが特段の合意だとしますと,そこまで決めていない場合は確かに多いのかもしれません。しかし,その場合でも,特定物であればその目的物の性質がどういうものであってもよいということではなく,当事者としては,ある程度,どういう品質性能の物であるということを予定しながら取引をしているという場合のほうが多いのではないかということを申し上げました。 ○松本委員 先ほど部会長がまとめられた考え方,すなわち引渡義務の話あるいは引渡請求の話とそれ以外の責任の話を切り離すこともできるのではないかというのは,私が最初のほうで発言させていただいた,この483条を履行請求の限界的なふうに衣替えをするという考えに少し近いのではないかなと思います。483条の現状はやはり日本語として大変おかしな文章になっていて,このまま残すというのはあり得ないのだろうと思います。どういう趣旨をここから取り出して残すかについては何通りかパターンはあるのでしょうけれども,意味のある文章として残すのであれば,改造しなければならないというのだけははっきりしていると思います。 ○鎌田部会長 人によって違うことを考えているような条文だとちょっと具合が悪いということになると思います。 ○山本(敬)幹事 言わずもがなの確認なのですけれども,先ほど沖野幹事がまとめられたのはそのとおりだと思います。この規定が意味を持つとすると,それは現状有姿で引き渡すという合意が行われた場合であって,そのようなタイプの契約については確かに合理性のある規定かもしれませんが,そうでない契約については合理性を持たないと思います。  そして,中井委員は,性質について特段の合意をしない特定物売買はむしろ多いのではないかとおっしゃるのですが,そのような場合でも,鹿野幹事が言おうとされたのはこういうことだと思いますけれども,やはりその物がどのような性質を持っているかということについては,特段の合意をしてなくても,一定の性質を持つことを想定して契約していると思います。そうでないと,代金も決まりません。  それに対して,現状有姿でというのは,それとは違うタイプの契約です。性質にかかわりなく,この物を引き渡すというタイプの合意であって,これはやはり特別な契約なのだと思います。そのような特別なタイプの契約についてであれば,この483条は,松本委員おっしゃるような修正すればそれなりの意味を持つのかもしれませんが,そのような特別な合意がある場合についてのルールをここに定めるのか。定めると,むしろ弊害のほうが大きいのではないかというのがほかの方々がおっしゃっていることではないかと思います。 ○松本委員 現状有姿という場合,私のイメージだと契約をしたときの現状有姿というイメージなのですが,ここで沖野幹事がおっしゃっている現状有姿というのは引渡時の現状有姿というタイプの契約だということになるのだとすると,非常に特殊な,極めて特殊な。つまり,今の状態はどうでもいいというか,今の状態と無関係に引渡時にどうなっていようがそれでいいのだなんていう契約はあり得ないという感じがするのですけれども。 ○鎌田部会長 そういう場合にしか合理性がないというと,逆にそれは約束したとおりの効果が生じているだけですからわざわざ規定を設ける必要もないということになるのだと思うのですけれども,もう少しいろいろな立場からの検討を進めさせていただきます。   (2),(3),(4)については御意見が分かれるかもしれませんので,それぞれ御意見をお出しいただいて,それを踏まえて更に事務当局で検討を続けたいと思いますので,御意見があればお出しください。 ○沖野幹事 (3)の弁済の費用についてなのですけれども,債権譲渡に伴って費用が増加したという場合について増加費用を請求できる。しかも,請求先として譲渡人,譲受人という両者があり得るということを明示する,この規律はあっていいのではないかと考えました。   その先なのですけれども,一つは規定の位置としてどこがよろしいのか。債権譲渡関係ということでそちらがよろしいのか,それとも弁済の費用ということで現在であれば485条と書かれている部分がよろしいのかという問題はありそうに思います。   もう一つは,これは規定そのものということではないのですけれども,債権譲渡ということになりますと,常に法定の移転の場合にどうなるのかということが問題となってき,かつ形は変えても債務を負担して弁済をすることで,弁済による代位を経て同様の類型を作り出すということも可能なものですから,そういう法定の移転の場合についてこれが係ってくるという考え方でよろしいのかどうかというのが気になっております。弁済による代位だけではなくて,賃貸借における目的物の移転に伴う賃料債権の権利者の移転ですとかそういうような場合も出てくるのかなと思うものですから。これらの場合にも同じような考え方でいいようにも思うのですが,私自身もう少し考えたいと思いますけれども,そのような問題も出てくるのではないかと思いましたので,注意喚起的に申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 485条ただし書以外に例外的な費用分担を更にいろいろなタイプごとにずらずらと並べていくということになりますか。 ○沖野幹事 規定を設けるかはまた更に別で,債権譲渡について規定を置いておけば,後はでは法定の移転はどうかというのは解釈の問題としておいておけばいいだろうと思います。では法定の移転というようなものを考えたときに,さらには今度は規定の位置もそれも勘案して考えるということになるのかもしれません。具体的にずらずらと規定を置くということにはならないのだろうと思います。こういう規定を置いたとき,あるいはこの考え方の先にどういうことがあり得るかという問題があるのではないかという程度です。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。(2)のア,イはどうでしょうか。商法と民法との融合を図るような提案になっておりますけれども。 ○高須幹事 (2)のアのところでございますが,弁護士会の多くの意見は結論の問題ではなくて,今部会長御指摘があったように,いわゆる事業者という形で民法の中にこの種の規定を盛り込むことについての消極的な意見が強うございました。   イに関しましては何らかの形で具体的な制限といいますか,常識に従った線での時間等の規定を設けるということについての総論的には賛成ということなのですが,明文の規定を設けるか,信義則で対応すればいいのではないかというところで若干意見が分かれているというところでございます。 ○鎌田部会長 (2)のアも,現在の民法の484条と比べると,それほど大きな特則でもないですね。事業者の場合には住所の前に事務所を考えるというだけのことなので,それほど大きい話でもなさそうにも思うのですけれども,御意見をいただきました。   (4)についてはもうよろしいでしょうか,基本的にこういうふうな方向性で。特に御意見はないでしょうか。   本日の審議はここまでにしたいと思いますけれども,6時過ぎてからの短い時間の審議でございますので,言いそびれたことがありましたら次回冒頭にでも御意見を付け加えていただければと思います。弁済の充当以下が積み残しになりましたけれども,これは次回冒頭で引き続き審議することとさせていただきます。   次に,私のほうから分科会についての報告を申し上げます。本日の審議において幾つかの論点について分科会で補充的に審議することとされましたけれども,これらの論点のうち部会資料38に記載された論点につきましては第2分科会で審議していただくことといたします。松岡分科会長始め関係の委員,幹事の皆様にはよろしくお願いいたします。それ以降のものについてはまたおって分担を決めさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回会議は5月22日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は中央合同庁舎第6号館B棟4階,地検公判部会議室です。   次回の会議は,予備日として予定していただいたものですので,本日の積み残し部分を御議論いただくのみで,新たな議題が追加されることはない見通しです。よろしくお願いいたします。   それから,分科会関係の報告等がございます。まず第一に,第3分科会の第3回会議が4月24日に開催されました。この開催の日時,場所,議題等はお手元に配布のペーパーに記載のとおりです。この会議の際には,事務当局から分科会資料2を新たに配布いたしました。債権の譲渡禁止特約に関する部会の審議経過を整理する趣旨でこの資料を作成し,これに基づく事務当局の説明を差し上げました。この内容については後に議事録で御確認いただきたいと思いますし,早急にお知りになりたいという方は事務当局まで別途お問い合わせいただきたいと思います。   それから,第2分科会の第3回会議が開催されます。開催の日時は5月15日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は法務省20階の第1会議室でございます。本日の審議で分科会で議論することとされました論点のうちで,先ほど部会長から第2分科会に割り振られたものについても,来週の分科会での審議対象となりますので,そのように御予定ください。第2分科会の固定メンバー以外で参加を予定されております方いらっしゃいましたら,別途事務当局まで御連絡をくださいますようお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議は以上をもちまして終了とさせていただきます。本日も長時間にわたりまして熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-