法制審議会民法(債権関係)部会第2分科会           第3回会議議事録 第1 日 時  平成24年5月15日(火)自 午後1時00分                      至 午後6時29分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○松岡分科会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第2分科会の第3回の会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   それでは,最初に本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日は,配布済みの部会資料35と38を使わせていただきますけれども,そのほかに新たな資料の配布はございません。 ○松岡分科会長 それでは,本日は,部会資料35及び部会資料38の各論点のうちで,分科会で審議されることとされたものについて御審議いただく予定でございます。具体的には,休憩前までに部会資料35の「第2 詐害行為取消権」の「2(3)ウ 無償行為」,この辺りまでを御審議いただき,15時20分頃をめどに適宜休憩を入れることを予定しております。休憩後に「(3)カ 対抗要件具備行為」以降及び部会資料38について御審議いただきたいと思います。   それでは,早速ですが,部会資料35の「第1 債権者代位権」の「6 代位権行使の場合の通知,代位訴訟提起の場合の訴訟告知」について御審議いただきたいと思います。   事務当局から説明してもらいます。よろしくお願いします。 ○金関係官 御説明します。   まず,(1)の「代位権行使の場合の通知の要否」については,部会資料35の33ページを御覧ください。この論点につきましては,部会の第41回会議で審議がされ,具体的な規定の在り方等について分科会で審議することとされました。部会では,通知を債権者代位権の行使要件とすべきでないとの意見や,訴訟提起による代位権行使の場合には通知を不要とすべきであるとの意見などがありました。   次に,(2)の「代位訴訟提起の場合の訴訟告知の要否」ですけれども,部会資料35の36ページを御覧ください。この論点につきましても,部会の第41回会議で審議がされ,具体的な規定の在り方等について分科会で審議することとされました。   最後に,(3)の「通知及び訴訟告知の効果」については,部会資料35の38ページを御覧ください。この論点につきましても,部会の第41回会議で審議がされ,具体的な規定の在り方等について分科会で審議することとされました。部会では,債権者代位訴訟の勝訴判決が確定した場合には,それ以降,処分禁止効や弁済禁止効を認めるべきであるとの意見などがありました。 ○松岡分科会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして御意見を伺いたいと思います。御自由に御発言ください。 ○中井委員 通知に関してですが,仮に通知義務を定めた場合に,通知をしなかったときにどのような効果を与えるのか,これによってかなり枠組みが変わるのではないか。一つの考え方は,通知義務を定め通知をしなかった場合,特段の効果を認めないという考え方。二つ目は,何らかの形で債務者に損害が発生したときには損害賠償義務を認めるという考え方。この損害なるものが通常の場合はそれほど想定できないとは思うのですが,そのような考え方を採用する。若しくは,通知がなかったことを理由に,第三債務者,被代位債権の相手方は,その履行を拒むことができる,このような考え方。最も厳しくすれば,通知を行使要件とし,通知がなければ,仮に第三債務者が弁済しても,その弁済の効力は認めないという考え方と,かなり幅があるのではないかと議論いたしました。   弁護士会としては,この通知にそれほど大きな効果を設けるべきではない,せいぜい,債務者に対する損害賠償義務を認める,若しくは履行拒絶権を与える,この辺りではないか。逆に言えば,通知がなくても第三債務者は弁済することができ,弁済したときにはそれは有効な弁済となる。もちろん,実体的要件,債権者代位権を行使する要件が充足されていることが前提ですけれども,そのように考える。そのように考えた上で一定の場合に通知義務を課していいのではない。   一般論としては通知義務を課すのですけれども,それであっても,通知すること自体が債権者代位権行使を阻害したり,相手方に不利益を生じる場面がありますので,例外を設ける。その例外として想定されるのは,典型的には債務者が所在不明の場合にまで通知義務を課すのは行き過ぎであろう。また,密行性等が必要になる場面がありますので,それをどういう形で規律するかを考える必要がある。それを,通知をしないことについて正当な理由がある場合というような形で規律をするのか。   また,裁判上行使する場合については事前の通知義務を課す必要はないのではないか。まだ弁護士会としての議論の収束は見ておりませんけれども,その辺りを詰めていくべきではないか,そういう整理をしました。 ○松岡分科会長 ありがとうございます。今の御意見について,1点だけ確認をさせていただきたいのですが,せいぜい通知懈怠を理由に履行を拒めるというくらいの効果とおっしゃる場合,履行を拒めるためには,通知をしたことを第三債務者に何らかの形で証明することになるのですか。 ○中井委員 どちらが立証するのか考えておりませんでしたけれども,債権者側から求めるとすれば,そういう形になるのだろうと思います。 ○松岡分科会長 部会の審議の中で,中井委員がおっしゃったのかどうか,私には正確な記憶がございませんが,通知をしたところで弁済を止める効果はないというのがこの案なので,通知をすることで,かえって代位権行使がされるならさっさと債権を回収して使うという債務者の行動を招いてしまうかもしれません。それゆえ,むしろ場合によっては密行性が必要なのではないか,という御意見があったように思うのですが,それは中井委員の御意見ではなかったですか。 ○中井委員 私は,通知義務を定めたとしても弁済禁止効は認めない,処分禁止効は認めないという,この後の議論ですけれども,そういう考え方を支持しますので,第三債務者がそれで弁済すれば,それは目的を達したということで構わない。それが困るという場面はもちろんあるわけです。そのときは民事保全の制度を使って仮差押えをするということになるだろうと思います。   ですから,弁護士会としては,行使要件とはしない。通知がなかったら第三債務者が弁済してもそれは有効な弁済とはならない,このような考え方は採らないということでほぼ意見は一致していますが,それでよろしいかということについては,御意見を頂きたいと思います。 ○松岡分科会長 弁護士会の御意見をまとめていただいたので,通知を行使要件とするお考えの方がおられれば,是非議論していただきたいのですが,そういうお考えの方はいらっしゃいませんか。部会でも明確には,そういう意見は出ていなかったように記憶しておりますけれども。   原案をまとめていただいたときに,金関係官は,後での訴訟になった場合,通知をしていないと却下になる可能性もあるとされたように思います。それはかなり大きな効果で,通知が代位権の行使要件に近い形になりますね。 ○金関係官 部会資料では,御指摘のとおり行使要件としております。行使要件としない場合の問題点としては,債務者に対する通知をしてもしなくても第三債務者に支払ってもらえるのであれば,代位債権者としては差し当たり通知をせずに第三債務者に支払を求めることにはならないか,第三債務者としても通知がされていてもされていなくても自分には何の利害もないので,通知の有無にかかわらず他の要件さえ充足していれば代位債権者に支払ってしまうことにはならないか。そうすると,結局,債務者に対する通知の制度は適切に機能しないのではないかということを考えております。 ○中井委員 金関係官がおっしゃられた,行使要件としないのであれば,通知を課すこと自体,一体いかなる意義があるのか,こういうことになるのかと思います。この通知を債務者に自らの権利を行使する機会を与えるべきだ,そういう権利保障的に捉えていくと,恐らく金関係官のお考えに近付いていくのかと思います。そういう意見が弁護士会内部でもありました。   しかし,そういう捉え方ではなくて,債権者代位権は,ここでの議論でも部会資料でもあるように,余り積極評価は得ていない。それは債務名義もないのにどうして債務者の権利行使ができるのだ,介入できるのだということにあるのだろうと思います。少なくとも債権者に濫用的な使われ方をするおそれがないわけではない。その濫用的な使われ方に対して,それを一定阻止する効果は,債務者に対して通知義務を課すことによって達成できるのではないか。つまり代位権濫用防止としてはそれなりに機能する,大阪弁護士会での議論では,そのような形で,その限りにおいてといいますか,そういう目的でもって通知義務を課すことに意義を認めております。  逆に,その程度の効果なら要らないのではないかという意見も十分あり得ると私は思っているのですが,提案として通知義務を課すという一つの立法提案があり,それが債務者の権利行使の促進,債務者自らが自らの権利を行使するのに少しでもプラスになるんだったら,別にそれを声高に否定する必要はない。逆に,それなら要らないという御批判があれば,我々はそれをまた改めて考えることにやぶさかではございません。 ○松岡分科会長 そうですね。根本的にそもそも通知は要らないということになれば,除外要件の検討も要らなくなりますので楽で良いのです。しかし,問題提起がされており,通知義務を課すこと自体に否定的な御意見や,逆に通知を行使要件とするお考えなど,多様なものがありえます。まだ中井委員に御発言をいただいているだけですが,ほかの委員・幹事の皆様方は,いかがでしょうか。 ○潮見幹事 私も要らないと思ったから発言をしていないだけです。ただ,先ほど中井委員がおっしゃられたような強い効果,取り分け何らかの形で事実上の優先弁済とかにまで結び付けたいということであれば話は変わってくるので,その辺りがどうなのかなというところだけが若干気にはなっているところです。 ○松岡分科会長 結論を先取りして議論するつもりはありませんが,効果については,事実上の優先弁済効に対して基本的に否定的な考え方が多かったように思います。それを積極的に維持すべきだという御意見は部会でもほとんど聞かれませんでしたので,今の潮見幹事のおっしゃる前提が成り立ちにくい気がいたします。潮見幹事は,積極的に通知は要らないという御意見でしょうか。 ○潮見幹事 そうであれば要らないとするのでよいと思います。 ○松岡分科会長 先ほど中井委員は,通知の位置付けとして,債務者の権利行使をある意味で保障する機会にはなるとされました。それによって債権者代位権自体に濫用的行使のおそれがあるのを阻止する意味はないわけではないということだと思います。積極的にそういう意味があるとおっしゃったのかどうかは微妙だと思いますけれども,そういう観点ではいかがですか。 ○潮見幹事 事実上そういう効果があるということで,他の委員の方々が通知を課すべきだということであれば,それは別に反対はしません。ただ,そこに結び付けられる効果が損害賠償とかということであれば,別に通知義務ということを書こうが書くまいが,従来の不法行為の枠組みで対応可能なのではないかと思いますし,それを超えた形での損害賠償というサンクションを特にここで要求する必要があるのかについては,若干否定的な印象を持っています。 ○金関係官 通知は要らないという御意見についてですけれども,ここでの通知には,債務者による権利行使を促進するという意味ももちろんありますけれども,それ以上に,債務者が知らない間に自分の権利が行使されて,例えば第三債務者が債務者に支払うべき金銭が知らない間に知らない人の手元に渡っているという事態が生じるのはいかがなものかという発想があるのだろうと思います。その点を踏まえてもなお通知は要らないということであれば,それはそれで一つの価値判断だと思いますけれども,いかがでしょうか。 ○高須幹事 今のような,せめて債権者代位権が行使されたことは分かるようにしようということであれば一つの制度としてあり得るのではないかと思うんです。その代わり,そうなると,中井先生から既に出ているように,その通知には余り強い効力は認められないのではないかと思います。知らせるということが本来目的であり,ただそれに対するペナルティが何もないと,確かに,どうせ必要ないから誰も知らせないという事態が起きるので,実効性を図るための最小限の効果を与える,せめて履行拒絶権構成とか,そういう辺りのところではないかと考えます。ただ,履行拒絶権構成も,第三債務者がそれを行使するかどうかの問題で,本来知らせてもらうはずの債務者のための制度には,必ずしもぴったりマッチはしていないので,今一つ据わりは悪いんですけれども,やはりその辺りではないでしょうか。   だから,今,金関係官がおっしゃったように,せめてという意味での通知ということであれば,それなりの合理性はあるのではないかとは思います。基本的には弁護士会の意見も,多少の差はありますけれども,せめてそれぐらいだったらあってもいいのかなというところ,逆に言えばなくてもいいのかなという意見もあるわけですけれども,その辺りではないかと思います。   その関連で,私がちょっと遅れて来たので,既におっしゃっていただいたかもしれませんけれども,通知が必ず事前に必要なのかどうかも,一つ考えようなのかもしれないと実は思っておりまして,行使されたことが分かればいいというのであれば,代位権行使をして履行拒絶権で拒絶されている間に,後から通知してもいいということもあるのかなという気はしているのですが,それはまた違う議論であれば,ここではお取り上げいただかなくて結構ですが。 ○内田委員 通知を要求する趣旨というのは,先ほど金関係官から説明があったとおりで,債務者に履行のチャンスを与えるとか履行を促進するというよりは,他人の権利を債務名義のない人間が勝手に行使をするというときに,あなたの権利を行使しますよと一言言わないのはおかしいという発想だと思います。その上で,行使要件とすると効果が大き過ぎるというイメージで議論されているのですが,どの点が大きいのかを教えていただければと思います。第三債務者としては,債務者に通知しましたかと聞いて,いやしていませんと言ったら,それでは払いませんと言えばいい。これは履行拒絶権というのと同じですね。第三債務者が請求されて,通知しているかどうか分からないので,自分の債権者である債務者に尋ねたところ,そんなことは知らないと言われた。その場合も履行拒絶すればいいわけです。せめて履行拒絶権をとおっしゃるのですが,行使要件というのとどう違うのか,そこの違いを教えていただければと思います。 ○高須幹事 浅薄な理解かもしれないんですが,仮に履行を拒絶しないで通知の有無も確かめもしないで,第三債務者が支払いをしたときに,通知がないということをもって債権者代位権行使が無効になるのかどうかということが一つあるのかなと思ったんです。それは無効になるというのはいくら何でも行き過ぎではないかという意味で,飽くまで有効要件として通知を要求するというのであれば,そこまでの強い効力を認めるのはどうかというつもりで申し上げたのですが。 ○松岡分科会長 部会の議論で言いますと,先ほども触れましたけれども,行使要件とすると訴訟を起こしても事前に通知をしていないと却下になるというのが一番厳しい効果となります。履行拒絶権だとそこまではいかないと思います。 ○岡委員 通知したと信用したところ虚偽だったという場合に,無効になるのはかわいそうだという議論をしていましたね。 ○内田委員 通知したのですかと聞いたところ通知をしたと言われて,信じて払ったら,それは弁済を有効にすべきだと思いますけれども,通知していないと言っているのに,あなたに払いますというのを認める必要はないのではないかと思います。訴訟も通知していなければ却下でいいのではないかと思うのですが,それのどこが不都合なのか,実務的な不都合をもう少し教えていただければと思います。 ○岡委員 信用したところ虚偽だった場合には,準占有者弁済か何かで保護されるんですか。そこの理屈がはっきりすれば変わってくるようにも思いますが。 ○金関係官 部会で内田委員から御指摘がありましたように,債権者代位権は,その行使要件を充足しない者によって簡単に行使されることがあるので,目の前の者が正当な代位債権者であると簡単に信用したというだけですぐに民法第478条の要件を充足すると考えるのは問題があるように思いますけれども,しかし,これも部会で内田委員から御指摘がありましたように,民法第478条の適用自体はあり得るのだろうと思います。ですので,代位債権者に問い合わせて通知をしたと言われたのでそれを信じて支払ったけれども実は虚偽だったという事案でも,その他の事情次第で,場合によっては,民法第478条で救われることがあり得ると思います。   ちなみに,第三債務者としては,代位債権者のことを少しでも怪しいと思うのであれば債務者に支払えばよいというのが,今回の部会資料の前提でありまして,この種の誤弁済の問題は債権者代位権のいろいろなところで問題となりますけれども,基本的に第三債務者としては債務者に支払えば足りるということで解決できるのではないかと考えております。それでもなお不都合があるという局面なのかどうかという観点から御議論をいただければ有り難いと思っております。 ○松岡分科会長 第三債務者は怪しいと思えば債務者に払えばよいというのは,それなりの理屈としてよく分かります。他方,債務者が行方不明の場合,銀行振込なら普通に振り込んで払えばよろしいのですが,持参債務なのに店が閉まっていて払えないとすればどうでしょうか。 ○金関係官 それは,債権者代位権が行使された場合に債務者が行方不明であるというだけで供託をすることができるかという問題と深く関係する点だと思いますけれども,一般的には,代位権行使がその行使要件を充足したものであれば,債務者が行方不明であったとしても,代位債権者に支払えば免責されるはずですので,債権者代位権の行使がその行使要件を完全に充足したものであれば,債務者が行方不明であったとしても,供託をすることはできないということになるのだろうと思います。ただ,そこは正に,債権者代位権の行使がその行使要件を充足したものと言えるかどうかの問題であると思いますので,松岡分科会長の御質問に対する一つの回答としては,債務者が行方不明であれば,債権者代位権の行使が完全なものでない限り,供託をすることができるという回答が考えられると思いますが,そこは少し供託の要件の微妙なところもあると思っております。 ○中井委員 行使要件とすることについてもう一つの問題として感じているところは,先ほど岡さんから指摘があったわけですけれども,それ以外に,通知義務を課したときは例外を定めることになると思うんです。そのときの例外の設定の仕方は,弁護士会で議論したんですが,そう明確な基準は定めにくい。一つは,債務者が行方不明の場合については,先ほどから異論がないかもしれません。できないものはできないんだから。それ以外に,部会でも申し上げたと思いますけれども,密行性を必要とする場面というのは必ずあるわけです。その密行性を必要とする場面で,通知をしなくても代位権行使ができる。典型例は,被代位債権を被保全債権にして第三債務者にある財産を保全する等の場合ですけれども,これは裁判上の手続ですから,別に裁判上の手続として除外することも考えられるのかもしれませんけれども,裁判上の手続を使わなくても,事前に通知することによって,保全するどころか逆に財産が散逸する,隠匿される契機となりかねない場面というのがある。   その通知義務の除外事由としては,結局,通知をしないことについて正当な理由があるときなどという,ある程度概括的な規定をせざるを得ないのではないか。そうなったときに,第三債務者として債権者に弁済したことが後々有効,無効という効果に直結するとなれば,第三債務者にとって酷な場面が少なからず発生するのではないか。   先ほど内田委員からは,基本的には債権の準占有者に対する弁済として救済されるという御指摘がありました。これは確か部会のときも私のほうから,この通知の問題ではなくて,被保全債権の存否ないし債務者の無資力要件に関連して,そういう実体的要件を欠いた場合,何で救済されるのか,それは債権の準占有者に対する弁済で救済されると理解してよいかお尋ねさせていただき,基本的にはそれで救済されるだろうという御意見を承った記憶があります。しかし,それで必ず救済されるとは限らないだけに,第三債務者のリスクが大きくなり過ぎるのではないか,これが危惧の主たる理由と思っています。 ○松岡分科会長 内田委員の問題提起と今の中井委員のお答えには少しずれがある感じがします。第三債務者としては,弁済禁止効もないので,普通だったら債務者のほうに相談に行って債務者に払ってしまうだろうということですね。いや,むしろ問題は,代位債権者に払った場合にどうするかですかね。 ○高須幹事 今の点とも少し関係するんですが,債権者代位権の行使の場面というのが,関係者がみんな法律のことを分かっていて,ここは債権者代位権の行使をやりましょうねで,三者がそういうイメージができている場合というのもないとは申しませんけれども,それがすべてのケースではない。全然そうではなくて,法律論なんて全く分からないままに,ただ下請業者が,元請が破綻したようなときに,注文を受けていて仕掛かりの工事があると。注文者は工事を続けてもらいたいものだから,おたくがやってくれれば代金は払いますよと,そのようなことで,下請業者がその後,直に工事をやっているというケースがあると。もちろんそのこと自体の是非はありますから,法的にそれが通る,通らないは,そのときはもめるし,もめていいと思いますけれども,結果的には,何ももめないままで支払いもして,工事も終わってしまうと。後追いで法律構成すれば,それは債権者代位権の行使だったんだろうということになったようなときに,通知を意識的にしていないということが起きる。その場合の通知の要件が余り厳しいと,後で蒸し返せるということが起きる。そういうことは少し行き過ぎではないかというようなことで,先ほどの御質問になるわけですけれども,通知をしないということに対して余り大きな効果を与えるというのは,そういうことをよく分かっている人には当然の理屈なんだけれども,必ずしもそうでない人のことまで視野に入れた代位権制度を考えたときには,そこまでのものにはしないほうがいいのではないかと思っております。それは先ほどの私の発言とも機を一にしているということです。 ○潮見幹事 金関係官に確認なのですが,通知義務を課すのは何のためでしょうか。この前の法制審からずっと出てきているのを見ていると,三つぐらい出ているんですね。   一つは,行使されるのは債務者の権利だから,債務者に対して権利行使を確保してやるべきであるという観点から通知義務を課すべきであるというものです。   二つ目は,直前に話題になっていましたけれども,第三債務者の弁済リスクを解き放ってやるために通知義務を課すのだというものです。履行拒絶権になるという,高須幹事がおっしゃっていたのはそこにつながっていくのだと思います。   三つ目は,先ほど分科会長は,法制審では支持する意見がなかったですよねとおっしゃられましたが,事実上の優先弁済の前提となるような手続要件的なものとして通知義務というものを要求するというものです。大体この三つぐらいが,交じり合っていろいろ出てきているのではないかと感じているところです。   事実上の優先弁済の前提となる手続要件的なものとして通知義務を要求するというのは,どうも支持はなさそうだと,これは分科会長がおっしゃった言葉ですけれども,残るは二つです。第三債務者の弁済リスクを回避するということであれば,第三債務者は債務者に対して弁済をすれば,それによって解放されるわけですから,弁済リスクというものをどこまで考えなければいけないのかが分からない。   逆に,先ほどの中井委員の御発言との関連ですが,通知義務を課すことによって,第三債務者のほうがどちらに弁済したらいいのか,あるいは自分が行った弁済が果たしてその後にどう評価されるのかという点に迷うという意味では,第三債務者にとって,通知義務を課すことによるリスクが増大するのではないかという懸念が若干あります。   そうしたら,残るは,債務者に対して権利行使機会を保障してやるべきだということで,これはこれとして分かるのですが,そういう通知義務を課したことによるサンクションは一体何なんだというところがどうしても見えてきません。そういう意味では,先ほど申し上げましたように,ここで通知義務を課すことに対して及び腰になるのです。今の私のような整理でよろしいかということの確認だけお願いできませんでしょうか。 ○金関係官 二つ目の第三債務者の誤弁済のリスクについては,むしろこれは,潮見幹事の御指摘のとおり,通知を要件とすることによって,第三債務者は通知がされたかどうかを調べなければならない立場に置かれますので,誤弁済のリスクは増大することになると思います。ただ,部会資料で想定している通知義務を課すことの目的は,第三債務者の誤弁済のリスクを軽減するということではなくて,債務者が知らない間に権利行使がされてしまうことを回避する,ここを目的と捉えています。潮見幹事が一つ目の目的として指摘してくださった債務者の権利行使の機会の確保と,今私が申し上げた債務者の知らない間に権利行使がされてしまうことの回避というのは,ある意味ではかなり似ているので,おそらく潮見幹事は両者を併せて一つ目の目的として整理されたのだと思いましたが,部会資料で想定している整理としては,今申し上げたとおりです。サンクションについては,債権者代位権の行使要件,無資力要件とか被保全債権の存在と同様の行使要件として位置付けることによって,通知をしなければ有効な債権者代位権の行使ができないという意味で,それをサンクションと呼ぶかどうかの問題はありますけれども,少なくとも債権者代位権を行使する債権者にとっては,通知をしなければならないというインセンティブが働くことになると思います。逆に,そのようなインセンティブが働かなければ通知はされないようにも思いますので,そうなると,通知の制度はそもそもやめてしまうか,通知を要求してこれを行使要件とするか,両極のようにも見えますけれども,この二つしかないのではないかという気も少ししております。 ○中井委員 先ほどの潮見幹事の目的の整理に関してですけれども,2番目におっしゃられた第三債務者のリスクを防ぐためにという御発言が,何らかの意味でその直前の私の意見を受けてだとすれば,それは誤解だろうと思っています。法務省の資料で考えられているのは,金関係官がおっしゃられたようなことだろうと思います。   ただ,弁護士会では一致はしておりませんけれども,大阪は,先ほど申し上げましたけれども,代位債権者が債権者代位権を濫用的に行使するのを事実上防止する効果があるのではないか,そういう位置付けで設けること自体,評価していいのではないかという意見を持っております。   金関係官のような考え方から通知を定めたとき,私は,第三債務者のリスクが,通知という要件が加わることによって,それがあるかないかということも判断しなければならなくなりますから,第三債務者として本当に代位債権者に払っていいのかどうか危惧が生じる。その限りでリスクは,防ぐのではなくて生じるのだろう,だからこそ効果については控え目にしているという論理と理解をしております。   それから,ここで言うのが適当か分かりませんけれども,先ほどの松岡分科会長のまとめ,そして潮見幹事もそれを引用されておりますけれども,事実上の優先弁済については,ないということがあたかも既に部会で合意ができたことを前提に議論が進むとすれば,それはそうではなかったのではないかと理解しております。これは決して弁護士会の意見としてまとまっているものではありませんけれども,私個人としては,なお事実上の優先弁済についてはこだわりといいますか,それを果たして廃止するまでの必要があるのかという意見を持っております。それは部会で申し上げたとおりですので,それがないことが前提で議論がまとまるということについてはちゅうちょを覚えます。 ○松岡分科会長 失礼しました。その点は撤回させていただきます。   議論は十分出ていますが,方向としてはっきり決まったわけではありませんね。そうすると,通知を権利行使要件とするか設けないかという,比較的極端な形になってしまうんでしょうか。 ○沖野幹事 その二者が可能な選択肢なのかということについてですが,今,中井委員の言及された中には,義務付けはするのだけれども行使要件とはしない,あるいは,聞きそびれてしまいましたけれども,高須幹事も,効果のほうで行使要件とするのは過大だと考えるけれども義務付けはするという考え方も出されたように伺いました。そして,考え方としては,債務者に対しては例外的な事情がない限りは,基本的には自分の権利が他人によって知らないうちに行使されるという状態は望ましくないし,元々が債務者が行使しないことに由来しているならば,債務者に行使されれば十分ではないかというふうに考えるならば,通知を義務付けるという考え方は,一応基本にはあるのではないでしょうか。   ただ,その実効的な効果というのが,行使要件ということになりますと,既に出ましたように,第三債務者がその判断のリスクを負い,そのリスクを第三債務者に課すことにもなりますし,また有効な行使だという判断に基づいて,その後動いていくというようなことになりますと,後に行使要件をみたさないことが判明するとあるいはそれ以外にも影響が出てくるかもしれません。そうだとすると,義務ではあるけれども,債権者代位権の行使についての効力自体には影響を及ぼさない,しかしそれによって債務者に損害が発生すれば,それは損害賠償の問題を生じさせる。ただ,多くの場合は,それによって債務者に損害が発生するということは余り考えられないのではないか,せいぜいのところ,既に準備をしていたのに,そちらからやられてこの準備が無駄になってしまったとか,そういう場合ぐらいしか考えられないのではないかということだと,実効性はどうかという話ですが,その程度であったとしても,基本的な考え方が何かをここで明らかにし,ごく限られた場合かもしれないけれども,今のような形でのサンクションはあるという考え方も可能ではなかろうかと思います。そういたしますと,両極にある,この二つしかないということはないと思いますし,もう少し中間的に,なお可能性はあるように思われ,かつ,この場でもそのような考え方が出されたのではないかと思います。 ○内田委員 効果については,中間的なものもあるけれども,行使要件で実務的に何か不都合があるのですかという発言を私がいたしまして,だから両極というような感じになったのかなと思うのですが,行使要件のような形にしたときに,第三債務者が弁済の相手を間違えるリスクが生じてかわいそうだ,だから行使要件から外そう,あるいはそもそも通知不要としようという議論は,私から見ると非常にゆがんだ感じに見えまして,そういうリスクを第三債務者が負うのは困るというのであれば,裁判外で債務名義のない第三者が自分に払えと言える制度そのものを無くせば済むことではないかと思うのです。実務的には訴訟を起こすことが多いのではないかと思いますが,通知を行使要件とした上で,通知して裁判を起こしてきたのであれば,それはそれであり得るかと思いますけれども,裁判外で自分に払えと言うのを認めるがためにいろいろなリスクが出てくるのなら,それを認める前提そのものを疑えばいいのではないかという気がいたします。 ○高須幹事 同じことで申し訳ないですが,結局,第三債務者が払いたくないときは,先生がおっしゃるように訴訟になりますので,そこでの場面になるんだけれども,そうではなく第三債務者が払ってしまいたいという場面は実はないわけではない。三者間で,先ほど請負契約の話を出したんですが,発注者,元請,下請みたいな,複数の人間が権利義務を互いに持ち合っていて,ただ今回話が付きそうな人と人の間には直接の債権債務がないというようなときに,結果的には代位権的な処理をしているということは,むしろ訴訟にならないケースではあり得るだろうと思っているんです。そのこと自体を否定するというならともかくですけれども,実際には,そういう紛争の解決がなされていて,それを代位権構成で正当化しているとしたときに,その代位権の要件を余り厳しくすると,後で要件不備を理由に壊せるという権利をほかの人が持つことになってしまう,余り目立ちはしないんですけれども,そういう意味では訴訟外で代位権的処理をしているということはあるのではないか。   訴訟になった場合には訴訟告知する問題が今度は起きるわけですから,ここの議論は,訴訟にならないケースを念頭に置いてどういう枠組みを作るかということだと思いますので,先ほど来の話に戻って恐縮ですけれども,通知の義務自体は私は認めていいと思っているんですけれども,その違反の効果については,最初から覆せるようなものにはしないほうがいいのだろうと,こういうふうに思っている次第でございます。 ○岡崎幹事 結論について,確たる見解を持っているわけではありませんけれども,通知を行使要件としますと,訴訟において債権者代位権を行使するときは,通知を欠く場合には訴えが却下されることになりますが,先ほど中井委員からご指摘がありましたように,通知義務については,一定の例外を設けざるを得ないと考えておりまして,そうしますと,本案に入る前に通知義務の例外に該当するか否かという争点が生じることになります。そのこととの関係で,先ほどから金関係官がおっしゃっておられる債務者の知らない間に権利行使されて権利が消滅するということがないように通知義務を課すという要請と通知が困難であるなどの事情のどちらを重視すべきかが問題になると感じます。 ○松岡分科会長 議論は大分煮詰まってきているのですけれども,基本的なところで随分対立があります。通知を不要とすべき場合をどういうふうに考えるかというのを議論できますか。そもそも通知は要らないという考え方もかなりありますので,議論の進め方としてどういたしましょうか。 ○筒井幹事 先ほど来の議論で,通知を不要とすることを積極的に主張されている方はいないという整理でよいのではないかと思います。基本的には通知を必要とするという考え方が適切であり,その通知にどのような効果を付与するかについて議論があるということだと思います。それから,もう一つの議論として,例外要件をどのように定めるかが問題とされ,それについては,実務的に耐えられるような明確なものとすべきではないかという意見があったと思います。そういった御意見を踏まえて更に検討を続けるということで,結構かと思います。 ○中井委員 それを前提に,例外要件について,意見を申し上げておきますと,一つが債務者の所在が不明であるとき。二つ目は裁判上の請求若しくは裁判手続を利用する場合。三つ目は債務名義を持っている場合は不要ではないか。四つ目が,ここが問題ですけれども,そのほか通知をしないことについて正当な理由がある場合,具体的には密行性の確保が必要な場合を想定しての言葉ですけれども,これをどのような表現で整理するかは悩ましい。今,四つ挙げましたけれども,これは大阪弁護士会の意見書,皆さんに配布したものに記載されているとおりのものです。 ○金関係官 裁判手続の場合の例外についてですけれども,通常,訴訟を提起する場合には,その前に被告となる者に対して内容証明郵便などを送って,任意に支払いなさい,支払わなければ訴訟を提起しますといった事前のアクションを起こしておいて,支払ってこなければ訴訟を提起するということがよく行われていると思いますけれども,このような形で代位行使をする場合には,近い将来に訴訟の提起を予定していることを理由に,債務者に対する事前の通知は要らないという御理解をされているのでしょうか。 ○中井委員 もう一度おっしゃっていただけますか。 ○金関係官 代位債権者が原告となって,第三債務者が被告となって,今から訴訟を提起するというときに,原告が被告に対して訴訟提起の前に任意に支払いなさいといった事前の交渉をすることが一般に行われていると思いますけれども,そのように訴訟提起の前に内容証明郵便を送ったりして事前のアクションとして債権者代位権を行使するという場合には,近い将来訴訟を提起することが予定されているので,事前の通知は要らないという整理をされているのでしょうかという趣旨で申しました。 ○中井委員 代位訴訟提起をする多くの場合,事前に,金関係官がおっしゃった通知なるものは,送らないことが多いのではないでしょうか。それは任意に支払いが得られるのであれば裁判外ですね。裁判上,権利行使をする場合,債務者と第三債務者との間で何らかの関係がある,それは密接な関係の場合もある。そのような場合には通知をしないのが普通でしょう。訴訟で権利行使をする中で,今後議論が予定されている訴訟告知等も含めて債務者に対しては機会が与えられる。加えて,訴訟提起をしても,債務者の処分も制限されないし,第三債務者の弁済禁止も制限されない。そういうことを予定している前提で,訴訟提起が,ここで言う事前の通知とも同視できるようなものと評価することもできるのではないでしょうか。   議論がかみ合っていないのかもしれません。金関係官がおっしゃる事前の内容証明郵便なるものが,債務者に送ることを想定しているのでしょうか ○金関係官 いえ,代位訴訟の被告となる第三債務者に送ることを想定して申し上げました。訴訟を提起するような場面では,被告になる者と訴訟前に何らかの交渉をした上で,訴訟外での解決の見込みがないと判断して初めて訴訟提起に至るというのが私は普通だと認識していましたので,それが普通でないということであれば,先ほど申し上げた疑問は撤回いたします。申し訳ございません。 ○中井委員 通常の事案では,もちろん交渉を経てから起こす場合もあるでしょうし,交渉を経ないで起こす必要性のある場合もあると思います。後者の場合は,そのほか通知をしないことに正当な理由がある場合に包含されるのかもしれません。そのほか正当な理由がなくても,裁判提起をする場合には,あえて事前通知までする必要はないのではないか,その実益はないのではないか。   大阪の考え方としては,債権者代位権の行使の濫用防止を通知の主たる目的とするならば,裁判上行使するのは決して濫用的な行使ではないという理解も前提にしているものですから,そういうまとめ方をしているわけです。 ○鎌田委員 訴訟を前提にしているときには,通知要件としての債務者への通知は不要だとなると,今,金関係官が言われたように,債権者代位訴訟を起こそうと思って第三債務者に催告をした。これで付遅滞の効果は生ずるんでしょうか。将来,訴訟を起こすんだから通知不要だと言ってしまうと,そこで付遅滞の効果が生ずるけれども,それは後になって訴訟が起きない限りは正当化されないですね。 ○中井委員 付遅滞の効果ですか…… ○鎌田委員 付遅滞というのは,具体的な効果に結び付けようとするとそういうことになるのですが,これは行使要件欠缺で効力がないとなれば,催告も何もない状態というふうになるんだけれどもという……。 ○中井委員 第三債務者に対する内容証明郵便による支払請求というのは裁判外の行使ですから,そうだと原則として債務者に対する通知は必要になるでしょう。でも,それは訴訟とは関係のない話ですね。訴訟自体は問題なく提起できる。 ○岡委員 先ほどの内田先生のゆがんだ感じという表現はちょっと気になります。今は通知なくできている。それでそれほど支障がない,うまくやっている。理論的に債務者に通知したほうがいいというのは分かる。しかし,債務者は無資力になっても権利行使しないという悪い人の場合が多く,第三債務者の立場に立ったら,何の罪もない立場にいる中で,今般,債務者の権利保護という理念的な要請で,迷惑が降り掛かってくるのはかわいそうだなという感覚を持つのは自然だと思います。だから,まっさらなところでどちらを選択するかとなったら,内田先生の議論も分かるような気がするんですが,実務家から見ると,今,支障なくやれているのを,そういう理屈的な理由で第三債務者に迷惑を及ぼすのはいかがなものかと,そういうふうに考えているんだろうと思うんです。   それが立法論として,立法者の立場としていかがなものかという議論はあるかもしれませんけれども,今の実務を前提に,それを変えようという立法論をしているときには,そういう見方もあるということを踏まえて,もっと柔らかい言葉で言っていただいたほうが,いい立法に向かうような気がいたしました。 ○内田委員 これは私の認識が誤っているのかもしれませんが,債権者代位権が実際に使われている現在の実務は,通常は裁判を使うことが多いのだと思います。もちろん,いろいろお話を伺い,調査をしてみると,特定の分野において裁判外で行使されることもあるということは認識しておりますけれども,一般的には裁判を使う。これは第三債務者からするとよく理解できることで,いきなり債務名義のない他人がやってきて,自分が代わりに行使するから払えと言われても,そう簡単に払うものではない。だから実際上,裁判外では使えないのですとおっしゃる企業法務の方はよくおられるのです。   そうであれば,実際上余り機能しないところについて細かな要件を立てるよりは,裁判でやるものと割り切った上で,ただ,裁判外での行使を認めるべき本当に重要な場面があるのであれば,そこを例外的に残す手立てを講じたほうがいいのではないかという趣旨です。 ○中井委員 やはり使う場面について想定しているのが各自異なるのかなという印象を受けました。内田委員も実務の方々に御意見を聞いておられるんだろうと思いますけれども,企業に聞けば,それは裁判外で行使するというのは基本的にないというのは正しいと思います。企業というのも,恐らく内田委員の聞かれた企業というのはしかるべき企業だろうと思います。それは第三債務者の立場からすれば,何で代位債権者に払うのだ,訴訟してもらってはっきりすれば払う,若しくは債務者の同意を持ってきたら払う,それが企業の実務だろうと思います。それは私としても,訴訟で解決する代位権行使パターンとして想定したジャンルに入る。   しかし,裁判外で行使されているのは決してそういう場面ではないと思っています。中小企業が,10人ほどしか債務者がいない,売掛金が10社ほどしかない,かつ買掛債務も10社程度しかない。もはや行き詰って破綻をし,本人はやる気を失っている,場合によっては所在不明になっている,そういう場面で,残された売掛金と債務が放置された状態になっている。法的倒産手続で処理しなさいというのが原則的建前だけれども,そこに存在する売掛金10社,1社平均20万円,合計200万円,どう処理するのかというときに,債権者が,それは数社かもしれませんし,団結していれば債権者委員会ができるんでしょうけれども,個別債権者が第三債務者から少額の債権を回収していく場面を正当化する手段はないのか。社会的にそういうルール,そういう場面での債権回収を正当化する必要はないと言ってしまえば,御指摘のとおり,この制度は将来的にはなくなっていい制度なのかもしれません。しかし,まだまだ世の中,そういう場面でこの制度は使われているのではないか。つまり少額で,大量と言うと語弊はあるのかもしれませんが,一定の幅があって,かつ,訴訟手続を使ってはコスト的に決して見合うことはあり得ない,そういう場面で現に使われている。そのような場面を除いてこの議論を進めていいのかという印象を持ちました。 ○松岡分科会長 そろそろ先に進ませていただければと思います。今,検討の課題になっているのは専ら(1)だけです。代位訴訟提起の場合に訴訟告知を行わせるべきだということについては,御異論は部会でもほとんどなかったのですが,その点はよろしゅうございますか。   代位訴訟の個所の最後のところで,債権者代位訴訟の勝訴判決が確定した場合についてまで弁済禁止効がないというのでは,訴訟をやった意味がなくなるのではないかという趣旨の御発言が中田委員,岡委員からあったと思いますが,その点についてはいかがでしょうか。   訴訟を起こす場合には,そもそも保全処分をしてから訴えを起こすのが普通ではないのかという感覚を持っていますので,弁済禁止効が必要な理由が私にはよく理解できなかったのです。 ○中井委員 岡さんがその後反論されると思いますが,私は,今,松岡分科会長がおっしゃられたのと同じ感覚でして,訴訟手続で行われるときは,第三債務者が債務者に払ってもらっては困る場面が基本的ではないか。だから,払ってもらっては困るのであれば必ず事前に保全措置が取られている。   そこで,代位訴訟が確定したからといって,その時点で突然にルールを変える必要が果たしてあるのかということについて,同じような意見を持っております。したがって,裁判で確定したといえども第三債務者は債務者に払える。 ○岡委員 私の意見というよりは,中田先生がおっしゃったので,なるほどと思ったわけです。今回,訴訟告知もするわけですよね。それで裁判が続いて,参加もせず,債務者が俺に払えとも言わず,弁済したという抗弁が出ないので代位訴訟の判決が確定したと。そうなれば,機会を与えた上で,債務者が権利行使しなかったわけですから,その段階では切っていいのではないかと素朴に思いました。 ○道垣内幹事 その前提が分からないのですが,代位訴訟を起こす前に保全をするというのは,どういう論理で保全ができるのですか。 ○中井委員 その疑問の意図が分からないのですが,代位債権者Aが債務者Bに対して被保全債権を持っている。当然,債務者Bの持っている被代位債権を仮差押えをする。これは通常に行われることだろうと思いますが。 ○道垣内幹事 当該代位訴訟とちょうど対応した形の保全処分をするというのではなくて,仮差押えをするということですね。 ○中井委員 はい。 ○道垣内幹事 それなら話は分かります。 ○中井委員 横にそれますが,今は,純粋な債権仮差押えを考えて申し上げました。今の御質問が,仮に債権者代位権の行使を前提として保全処分ができるのかという意味であれば,前から何度も申し上げていて申し訳ございませんけれども,債権者代位権行使したときの被代位債権を被保全債権にして,第三債務者の財産に対して保全ができるのかということについては,もちろんできるというふうに理解しております。 ○道垣内幹事 その御主張は,現行法において,代位権が行使されると,第三債務者が債務者に対しては弁済できなくなるという効果が生じることを前提にされているのでしょうか。 ○中井委員 ではありません。実務では,二つをするわけです。一般的な民事保全をして,BのCに対する債権は仮差押えをする。その上でBのCに対する被代位債権を被保全債権にして,Cの財産に対して仮差押えをする。この二つを通常採ります。 ○道垣内幹事 それは分かります。Cの財産に対する仮差押えの話ではなくて,BのCに対する債権に対する保全の話ですよね。その部分は仮差押えで行うということですよね。 ○中井委員 はい。 ○道垣内幹事 それで結構です。 ○中井委員 とすると,私が余計なことを言ってしまいましたが。問題意識が分からないんですけれども。 ○道垣内幹事 AがBに対して有している債権に基づく強制執行として,将来,Bの財産であるところのBのCに対する債権につき差押えをすることの前段階として,BのCに対する債権という財産を仮差押えするということが,保全だというのはよく分かるのですがけれども,Aが,BがCに対して有している債権について代位権を行使することを前提にして,BのCに対する債権について処分禁止ができるのかというと,代位権行使そのものにCのBに対する弁済を止める能力がないという前提になっているのに,代位訴訟の実効的な遂行のために弁済禁止の処分ができるのかというと,当然そうなのかなという気がしたものですから。 ○筒井幹事 単純な御質問だったということで,先に進んでよいのではないでしょうか。 ○松岡分科会長 次のところに移らせていただいてよろしゅうございますか。   それでは,「7 代位訴訟提起後の差押え」という項目を次に議論させていただこうと思います。それと「8 代位訴訟への訴訟参加」も含めて,それを御審議いただきたいと思います。それでは,よろしくお願いいたします。 ○金関係官 御説明します。   まず,7の「代位訴訟提起後の差押え」についてですけれども,部会資料35の42ページを御覧ください。この論点については,部会の第41回会議で審議がされ,代位訴訟の進行を制限する規定を設けない場合における執行手続との関係等について,分科会で審議することとされました。部会では,差押えの後に代位訴訟を提起することは許されないとしているのに,代位訴訟の提起後に差押えがされても代位訴訟を維持することができるとしていること,これは本文の提案そのものに関することではありませんけれども,どちらが先かによって結論が異なることについて疑問があるとの意見がありました。   次に,8の「代位訴訟への訴訟参加」ですけれども,部会資料35の44ページを御覧ください。これも部会の第41回会議で審議がされ,具体的な規定の在り方等について分科会で審議することとされました。部会では,実体法上は債務者に対する処分禁止効がないとしているのに,訴訟上は民事訴訟法第40条第1項,必要的共同訴訟の規定によって債務者の訴訟行為が制限されることについて矛盾が生じているのではないかとの疑問を示す意見,債権者代位訴訟の認容判決と訴訟参加をした債務者の給付訴訟の認容判決とが両立するとしているのに,債務者の独立当事者参加を認めることに対する疑問を示す意見,債務者による独立当事者参加を認めているのに,他の債権者による独立当事者参加を認めないことに対する疑問を示す意見がありました。また,共同訴訟の場合の主文の在り方を意識して議論すべきであるとの意見もありました。以上です。よろしくお願いいたします。 ○松岡分科会長 それでは,今御説明がありました部分について御意見を伺いたいと思います。どちらからでも構いませんので,御意見をお出しいただければと思います。 ○高須幹事 意見の前に,むしろ疑問点の確認というか,解消になるのかもしれないですが,部会資料42ページの7のところの補足説明の1の(1)の件なんですが,債権差押えが先行する場合には差押えの処分禁止効が働く,このコメントはそのとおりですが,その結果として代位権に基づく代位行使ができなくなる,したがって不適法却下になるという部分について,部会で畑先生のほうからも,必ずしも今の理解はそうではないのではないかという御指摘を頂いて,仮差押えの判例ですので,差押えそのものと同視していいかどうかという問題はあるのかもしれませんが,基本的に仮差押えと差押えも同じという理解に立つという前提であれば,最高裁の昭和48年3月13日という判例は,いくら処分禁止効が働いていても,取立ては確かにできないかもしれないけれども,訴訟をする,給付訴訟を求めること自体までは処分禁止効には抵触しないとしています。要するに害する行為ではないからと。つまり処分禁止効の範囲を限定的に捉えるということだと思うんですが,そういう考え方に立った判例が現在あって,そのほうがむしろ有力ではないかと考えています。そのように私なりに理解したものですから,そうすると,どちらの場合でも訴訟すること自体は妨げられないという意味で,バランスを欠くわけではなくて,共にそこは影響を受けないということでできるのではないかと思ったんですが,その点について,資料のほうの御説明は,私の理解がどこか違っているという話なのかどうか,教えていただければと思うんです。 ○金関係官 部会で畑幹事とやり取りをさせていただいたときは,既に給付訴訟が起こされている段階で差押えがされたとしてもその給付訴訟を維持することは許されるけれども,先に差押えがされてその後に給付訴訟を起こすことは,債権者代位訴訟の提起によって処分禁止効が生じた後に債務者が自己を当事者とする共同訴訟参加をすることが許されないのと同様に,許されないとしていることについて,そのような先後だけの差によって異なる取扱いをするのはおかしいのではないかという御指摘を頂き,改めて検討することになったと思いますけれども,今の高須幹事の御指摘は,そもそも差押えがされた後に訴訟を提起することは,債権者代位権の行使によって処分禁止効が生じている場合とは異なり,何ら問題がないということですので,そうであれば,部会資料の記述が不正確だということになると思います。 ○高須幹事 争いのあるところですから,今,関係官から御指摘があったような考え方もありうると思います。ただ,一方で私のような考えもできるのではないかということです。途中で差し押さえされたか訴え提起前から差し押さえされたかで処分禁止効が変わるとも必ずしも考えられないものですから,途中で差し押さえられた場合にもそれが不適法なら却下になるとは思います。そういう意味では,無条件に給付判決を求められるのではないという考え方はあり得ると思います,そこで,何が絶対的に正しいということではなくて。争いがあるところなので,部会資料の前提だけで議論しないで,違う可能性もあるということで議論させていただければ有り難いと思います。 ○山本幹事 ここで書いてある債権者代位権に基づく債権者代位権のことがよく分からないんですが,債務者が訴えを提起する場面は,高須先生が言われているように前後は区別されずに考えられているのではないかという印象は,個人的には持っていますけれども,債権者代位についてはこういう解釈が民法学説上一般だということなんですか。 ○金関係官 調査した限りではですけれども。 ○山本幹事 そうですか。前後を区別しているということですか。 ○金関係官 すみません。前後を区別することが明示的に説明されているというよりは,それぞれの結論がそれぞれのところで説明されているということですけれども。 ○畑幹事 部会で申し上げたことの繰り返しですが,現状認識として,債務者であれ債権者代位であれ,訴訟の先後で当事者適格が変わるとは考えないほうが,民訴学者的には多いのではないかという気がしておりますし,個人的にもそうではないかと思います。   それから,部会で申し上げたかどうか,申し上げなかったような気がしますが,無条件の認容判決,差し押さえられていても,債務者なら債務者が無条件の認容判決を得ることができるということ自体については,議論があるところでありまして,それはある意味では第三債務者に負担を掛けるということにもなるので,例えば差押えが効力を失うことを条件とする条件付き給付判決のようなものしかできないという学説もあり,個人的にはそちらのほうにシンパシーを感じているのですが,いずれにしても,少なくとも今後は,訴訟の提起と差押えの先後で変わらないようにすべきではないかという感じがしております。 ○金関係官 ありがとうございました。一連のご指摘を踏まえて適宜修正したいと思います。7の論点は,代位訴訟が提起された後に差押えがされた場合には代位訴訟を維持することができることを前提として,どういう処理をすべきかを問う論点ですので,その点についてもよろしくお願いいたします。 ○松岡分科会長 いずれの考え方に立っても,差し押さえられたからといって代位訴訟の進行を制限するという趣旨の提案は今のところ出ていません。代位訴訟の進行を制限しないということでよろしいですか。 ○金関係官 考え方としては,差し押さえられた時点で中断や中止がされるという考え方のほかに,畑幹事がおっしゃった,中断や中止はしないけれども,無条件の判決ではなく条件付きの判決がされるという考え方があり得ると思います。部会資料の補足説明のレベルでは,無条件の判決がされることを一応の前提としております。 ○山本幹事 提案は何も規定しないという御提案ですよね。 ○松岡分科会長 そうです。 ○山本幹事 それであれば私は異論はしませんけれども,先ほどの,条件付きか無条件かをここで決めるということであれば,ちょっとそれは。 ○松岡分科会長 提案は,とにかくここで何かを決めるわけではないということでございます。   もしなければ,「8 代位訴訟への訴訟参加」の件についてはいかがでしょうか。 ○山本幹事 ここが,代位訴訟提起で債務者の処分権を制限しないことにしたことによって,かなり議論が従来とは違ってきているところなのかなと思うんですけれども,一番根本的には,債務者の処分権が制限されないと,補足説明では,債務者の権利行使の巧拙などに債権者は干渉できないという考え方を採るのであれば,共同訴訟参加にしろ独立当事者参加にしろ,債務者が一旦入ってきた後,しかし必要的共同訴訟の規律が妥当するとすると,債権者は債務者の訴訟追行を制約できることになるんですが,そこのロジックが,なぜそうなるのか,なぜそうならなければいけないのか,つまり訴訟外では,債務者は勝手に免除したりとかもできるわけですよね。それはどんなこともできるという前提なんですね。債権者はそれを制約できないと。しかし,訴訟手続で請求の放棄とか自白とかも,債権者はそれを制約できることになってしまうわけですが,そこがなぜそうなるのかというのがどうしてもよく分からないところなんですけれども。 ○金関係官 免除の場面で考えますと,債務者が実体法上免除した場合に,その主張をするのは被告である第三債務者で,必ずしも免除をした債務者自身がそれを主張するわけではないと思いますけれども,第三債務者が免除の抗弁を主張したのに対して債務者は確かに自白をしてはいけないということになるとは思います。とはいえ,自白をしてはいけないということにとどまるとも言い得ることや,第三債務者が免除の抗弁を主張することは何ら問題がないといった点をどのように評価すべきか少しだけ気になっております。それはさておき,訴訟上は歩調を合わせなければならないことと,実体法上は自由に処分をすることができることとの関係についてですけれども,訴訟で歩調を合わせなければならない,訴訟で自由な行動をとることができないから,実体法上も自由な行動をとることができないという議論というよりも,実体法上,免除などの処分を自由にすることができるかどうかという議論がまず先にあって,そこで自由に処分をすることができるという立場を採ったとしても,訴訟の場面では,また別の議論があって,既に係属中の債権者代位訴訟に債務者が参加していくという場面においては,その債権者代位訴訟の既判力が債務者に拡張される関係で,共同訴訟参加の形態にならざるを得ず,そのため民事訴訟法第40条の適用があり,自白などの行動をとることができなくなるという規律になるのだろうと思います。今申し上げたような流れの議論がそれほどおかしいものなのか若干疑問も感じております。 ○山本幹事 そもそも実体法上,債権者代位権を行使されたら,免除とか和解とか債務者が自由にできないという前提を採るならば,私の話は違います。私はそれはできるという,それが問題があれば,後は詐害行為取消権とかで取り消すという話はあるけれども,債権者代位権が行使されたからといって債務者の処分権は制限されないという前提に立っています。   もしそれがそういう前提だったら,債務者は実体法上自由に処分ができる権利があるのに,訴訟上債権者が入ってきたときに突然そういう自白とかが制約されるということになるのは,やはり変な感じがして,私が言っているのは,入ってくるときに共同訴訟参加と独立当事者参加に現行法上ならざるを得ないというのは,確かにそうなのかなと思っています。ただ,その後,債務者が訴訟追行しているにもかかわらず,債権者にも訴訟追行権を認め,かつ債務者の訴訟追行を制約する権限まで認めるというところが何かおかしいような気がしておりまして,うまくそんな制度が仕組めるのかどうか分からないですが,債務者が訴訟をやっている限りは債権者も訴訟を中止するとか,つまり債権者の訴訟追行権を制約するということが整合的なのではないか,そういう感覚がどうしてもあるんです。 ○潮見幹事 中身というのではなくて,今おっしゃられたような形で考えていった場合には,今の話は民法の,しかも債権者代位権のところに限って規定すべきことではないですね。むしろ民事訴訟法に委ねて,債務者という言葉を使うかどうかは別として,訴訟遂行することについて完全な自由を持っているときに,他人が入ってきて,当事者として,あるいは補助参加みたいな形で行動したときに,果たしてそれをどういうふうに制約することができるのかという一般論ですよね。こういう理解でいかがでしょうか。それとも,債権者代位権についてこのような発想を転換するときには,何らかの形で民法の中に,ここの部分に限ってでも何らかの規定を設けたほうがいいということでしょうか。 ○山本幹事 私は民法に書いていただきたいと思っているわけでは特にありません。ただ,何か考えないといけないだろうとは思っていますけれども,今回の民法でそれを解決するのかどうか。会社法の849条という規定が,代表訴訟との関係で参加を認めた規定があるので,そういう意味で民法に書くことはおかしいことではないだろうとは思っていますが,書かなければいけないわけでもないだろうと。取りあえずはテーマになっているので発言しているだけですが。 ○畑幹事 私も,書かなければいけないとは思いませんが,書いてもいいかなという気もして,その場合,今,山本幹事がおっしゃったところは,あるいは先ほどおっしゃったことがそれを含意しているのかもしれませんが,やはり共同訴訟参加を認めた上で,その解釈の問題ということにするのではないでしょうか。つまり,民訴法上,類似必要的共同訴訟の規律とか共同訴訟的補助参加の規律というのは,実は必ずしもよく分からないところがあり,それは補助参加人なら補助参加人の実体的な権限によって変わる場合もあるというような議論もあるわけですから,そういう議論にならざるを得ないのではないかという気がしております。いずれにしても,ここでその詳細を決めるとか民法に書くということでは恐らくないだろうと思います。 ○松岡分科会長 その点では今のところ御意見の対立はないようですね。そのほか,他の債権者が独立当事者参加をすることができるかどうかが,山本幹事から部会で問題提起されておりましたし,山野目幹事から,共同訴訟参加の場合,主文をどういうふうに書くことになるのか,それも検討してほしいという御要望がありました。その辺りについても御意見があれば,よろしくお願いいたします。 ○山本幹事 独立当事者参加については,確か部会では三日月先生の説をあれして申し上げたと思いますけれども,債務者の管理処分権を奪わないという前提に立てば,債務者が入ってくる場合は独立当事者参加ではないのではないかということですが,これは私の理解では,現行民訴法で47条の理解が変わって,三面訴訟という考え方よりは,既存の当事者の訴訟行動を制約する,掣肘する権限を参加人に認めるという考え方になったとすれば,これは債務者が入ってきて独立当事者参加だと考えるのは可能なのかなと思って,つまり,あいつは自分の債権者ではない,被保全債権を持っていない人間なんだから,あいつには払わないでくれという形で債務者が入ってきて,制約するということはあり得るのかなと思って,ただそう考えると,債権者の場合も同じではないか。あいつは俺たちの仲間ではないんだから,あいつには払わないでくれということをほかの債権者が言うということは,債権者に優先権を認めるかどうかということとは無関係に,私は言えておかしくはないと思っています。それなら債権者にも独立当事者参加を認めるということになるのではないかという趣旨の意見です。 ○高須幹事 私も今の山本先生の御意見に賛成でございまして,部会資料を見ると,事実上の優先弁済を認めるかどうかみたいなことと少し関係するのかなという御指摘があり,関係するという考え方もできるとは思うんですが,より以前の段階で,今,山本先生がおっしゃったような形での考え方によって,事実上の優先弁済の有無とは別の問題として,独立当事者参加を認める余地があってもいいかなと私も思います。   あと1点だけ,これも,要するに訴訟法の解釈に委ねましょうという趣旨でございますから,意見として反映していただくのではなくて,ここで無理に決めないほうがいいと思いますという趣旨で発言させていただきます。部会資料を読ませていただくと,補助参加の場合について,代位権訴訟がなされても当事者適格性,処分権を債務者が失わないという前提に立つという理解になると,共同訴訟参加がそもそもできるという形になる。それを認めましょうということだと思うんですが,そうなると,従前の共同訴訟的補助参加の議論というのは,共同訴訟ができないという前提で,単なる補助参加では力不足だという趣旨の下に,解釈論上,共同訴訟的補助参加なるものが認められたという経緯があると思います。   ですから,判決の効力が及ぶケースだから,機械的に補助参加は共同訴訟的補助参加になりますという考え方には注意を要すると思います。そういう考え方もあるとは思うのですが,現在の判例自体は昭和63年2月25日の地方自治法に関する判例でございますけれども,共同訴訟参加ができる場合に補助参加しても,それは単に補助参加の効力しか認めないとしています。それで十分なんだからと,本人がそれを選択した以上はそれでいいんだというような趣旨だと思うのですが,現在そういう判例も最高裁である以上は,当然に共同訴訟的補助参加になるという前提で民法の改正は動いているみたいに決め付けられないように,そういうイメージを受けないようにだけしていただいたらいいのかなと思います。 ○松岡分科会長 説明で注意をしろということですね。 ○高須幹事 すみません。余計なことだったかもしれませんが。 ○松岡分科会長 いえいえ。   ほかに訴訟参加について御意見ございませんでしょうか。 ○中井委員 ここで議論をして,これができてこれができませんねということについて仮に意見の一致を見たとして,それをどこに定めるのか,民法に定めることを前提にするのかどうか,この分科会で議論するのは適当ではないのかもしれませんけれども,御意見を頂きたい。   それから,判決の効力は債務者に及ぶというのが当然の前提として議論を進めているように思われますが,そういう理解でよろしいのでしょうか。そこについて異論はないのか。つまり,債権者代位訴訟が起きても債務者は処分権を失わない。それであっても代位訴訟の判決の効果は債務者に及ぶのか,この点について確認させていただきたいんですけれども。 ○山本幹事 及ぶという前提で,つまり及ぼすために先ほどの訴訟告知というのをあれしたわけで,もちろん,及ぼしてもらいたくないという人は,何らかの形で参加をしてきて,債権者の訴訟活動を掣肘するということはあり得ることだと思うんですけれども,参加してこなければ,判決効は勝っても負けても及ぶということが大前提ではないかと思うんです。 ○畑幹事 独立当事者参加ですが,私も,債務者が独立当事者参加をするということはあると思います。ほかの債権者についてはうまく理論的な整理ができていないのですが,若干抵抗がないではない。債務者は自分の債務がないという話をするので,それはある程度強い地位で入るということがしっくりくるのに対して,ほかの債権者も同じではないかと言われれば,確かにそうで,うまい反論は今のところないのですが,若干の抵抗はあるということだけ申し上げておきます。   さらに,これは時機に後れているのですが,この話が難しくなるのは,債務者の処分権は制限されないと言いつつ,なお債権者が自分に支払えと言えるという前提を採るのでややこしくなっているということだと思います。部会ではほとんどそういう意見は出なかったのですが,そこをもしやめてしまえれば,ここの議論ももっとすっきりするという気はいたします。 ○山本幹事 確かにそれはそうだと思っていて,先ほどの山野目幹事の御疑問も,どういう主文にするかというと,結局,債権者に対しては債権者に支払えということで,債務者に対しては債務者に支払えという判決をすることにならざるを得ないのかなと思うんですが,それが本当に共同訴訟参加なのかと言われると,何となく利害は反して対立しているようにも見えるので,通常考えられている共同訴訟参加とはやや違うような感じがする。それは債権者は自分に対して支払えということが言える,しかし債務者は管理処分権を失っていないので,債務者も自分に対して支払えと言えるという構造からそうなっているということなんだと思うんですけれども,確かにやや違和感はあるということではないかと思います。 ○畑幹事 あと,先日の部会での山野目幹事の御発言に対して,私は,それはそれぞれ認容判決を書くのではないですかと席上で申し上げたと思うのですが,その後,個別に山野目さんとお話ししたところによれば,更にその後始末はどうなるのですかという御関心があったと伺いました。その点については,やはり粛々と,つまり第三債務者はどちらに払ってもいいし,債務者に払えばそれまでであり,代位債権者に払えば相殺ができるとかできないとか,そういう話になるということではないかと考えております。 ○松岡分科会長 主文及びその後始末について,今,畑幹事から御発言いただきましたが,この辺りについてほかにいかがでしょうか。結局,どちらにも払えという主文になりそうですね。そして,畑幹事がおっしゃったとおり,第三債務者としてはどちらに払ってもよろしいということに落ち着かざるを得ないようですが,それでよろしゅうございますか。   それでは,これで,債権者代位権の部分についての審議は終わりまして,次に,「第2 詐害行為取消権」の「1 詐害行為取消権制度の在り方」,「(2)詐害行為取消訴訟の在り方」という点に移ります。事務当局から説明をお願いいたします。 ○金関係官 御説明します。   部会資料35の56ページを御覧ください。まず,アですけれども,この論点につきましては,部会の第41回会議で審議がされ,甲乙両案の具体的な差異等について分科会で審議することとされました。部会では,詐害行為取消訴訟において債務者をも被告としなければならないとすると,債権者代位請求を主位的請求,詐害行為取消請求を予備的請求とする訴訟が常に主観的予備的併合となってしまうという意見,詐害行為取消しの効果を債務者に及ぼすためには,理論上,債務者を被告とせざるを得ないのではないかという意見などがありました。   次に,イについてですけれども,この論点につきましても,部会の第41回会議で審議がされ,甲乙両案の具体的な差異等について分科会で審議することとされました。   最後に,ウについては,部会資料35の58ページを御覧ください。この論点につきましても,部会の第41回会議で審議がされ,規定の内容にはおおむね異論がないことが確認されましたが,分科会では主に規定の要否について審議することとされました。部会では,規定の必要性について疑問を示す意見がありました。以上です。よろしくお願いいたします。 ○松岡分科会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして御意見を伺いたいと思います。御自由に御発言をお願いいたします。 ○高須幹事 訴訟の在り方のまずアのところなんですが,弁護士会では,実は共同被告とするという甲案,結構ございます。そういう意味では,これから私が言う話は,私個人の意見ということになるんですが,甲案を採るということになると共同被告にせねばならない。これは固有必要的共同訴訟という意味だと思いますから,そういう意味では,訴訟の在り方一般としてかなり厳しい制約を課すことになるだろうと。訴える債権者からすれば,必ず債務者も被告としなければならないという煩わしさが付いて回る。それから,訴えられた被告としては,それで決着が付けばもちろんいいのかもしれませんけれども,後でウのところに出てくるように,複数の詐害行為取消訴訟,競合してもいいのではないか。これは必ずしも,部会資料にありましたように,1回で決着を付けましょう,矛盾判断はあってはなりませんとは言わずに,それぞれ詐害行為取消訴訟,訴訟物は別だという理解の下に,債権者が誰か勝てばいいという話になるわけですから,引っ張り込まれた債務者のほうはその度に全部付き合わされて,全ての裁判に被告として対応せねばならないというのも酷ではないか。被告の利益のためにというはずなんだけれども,実際には違う面もあるのではないか。参加の機会を保障するという意味なら訴訟告知で足りるのではないかという気もしておりまして,乙案のほうが合理的ではないかと思っております。この点は責任説の話ではなくて,今日はその話はしませんので,皆さんのお考えに従った上ででも,そのほうがいいのではないかと思っております。   イのところも同じような発想なわけですけれども,訴訟の約束事を何でも厳格に決めていくというのは,非常に柔軟性を欠くことになるので,やはりイの甲案,乙案のところも義務付けまでは要らないのではないか。何らかの形で債務名義が必要になりますよねはそのとおりなんだけれども,それは債権者が別個の機会に取るということがあってもいいのではないかと思いますので,任意に一緒に起こすということはもちろん可能だと思いますけれども,義務付けるということまでは必要ないという意味では,やはり乙案でよろしいのではないかと,このように思いました。 ○中井委員 高須幹事から,アについても乙案,イについても乙案ということで,個人の意見としておっしゃられましたけれども,大阪も同じ意見です。   高須幹事もそうだと思いますけれども,和解のことを考えても,乙案のほうがよろしいのではないかという意見です。 ○山本幹事 両先生の御意見,アについてですが,判決効は債務者に対しても及ぶという前提でしょうか。訴訟告知によって既判力を及ぼすという新たな制度を作るということになるということですか。 ○中井委員 結論としては及ぼす。理由付けとしては訴訟告知ということによるわけですけれども,直ちには出てこないので,明示的にそれは明らかにしなければならないという理解をしています。 ○山本幹事 理論的に訴訟告知で絶対既判力を及ぼしてはいけないとまでは思いませんけれども,ただ,訴訟告知というのは訴え提起とは違って,基本的には参加したければ参加してくださいと,参加しなければ,不利な効力が及ぶことはあるけれども,参加的効力という範囲内で及ぶというのが普通の訴訟告知の制度なので,ここでだけそれほど強い効力を及ぼすような訴訟告知というものが認められるのかどうかというのは,ちょっと違和感みたいなものはありますが,被告にしてしまうとちょっとあれなんでしょうかね。 ○中井委員 被告にすると不便が生じるというのが専らの実質的理由で,御指摘の問題のあることは理解をした上でのことです。 ○松岡分科会長 中井委員に補足していただきたいことがあります。追加的な理由として,和解を考えても乙案のほうがよいとおっしゃったんですが,それが十分理解できません。なぜ和解を考えると乙案がよくて甲案では駄目だということになるのでしょうか。 ○中井委員 債務者も被告にする場合に,受益者と債権者のみで和解ができるのか。そのときに常に債務者の意思が関与するとすればできない場面が出てくる。もちろん,債務者は和解をしたからといって,その後,また別途,詐害行為取消で訴えられる可能性はありますが,そのリスクを採って和解をしている事例が現にありますので,その実務が事実上否定されることにならないかという問題意識です。 ○松岡分科会長 今の実務は,債務者はおよそ被告適格がないという前提で,受益者若しくは転得者のみが被告になっていて,和解もその場合に債務者について触れずに行うということですか。 ○中井委員 現在は受益者と取消債権者のみで和解をしている例はたくさんありますので,その実務はそれなりに有用で,債権者もそれによって一定の目的を達している。 ○松岡分科会長 債務者も被告とすることで和解の場合にも加わらねばならないことになると,制約が加わるということですか。ただ,絶対的な効果を債務者にも及ぼそうということになれば,被告が同意をしないことには和解できないことに,理屈の上ではなるのではないですか。現行の相対効を前提にした和解は,制度を修正した場合に,そのまま維持することはできないように思います。そうなると,そもそもそういう修正自体をするなという御意見になるんでしょうか。 ○中井委員 今想定しているのは,取消しについての最終的判断なくして,その問題を解決金的に処理して円満終了させる,こういう意図での和解ということですね。 ○金関係官 解決金的処理の和解をする場合には,債務者は被告となっていてもその和解にデメリットはないわけで,自分がした行為は全く否定されず,取消債権者と受益者との間で解決金が支払われて終わるということですので,債務者の意思が関わるとその和解が難しくなるという点については,若干の疑問も感じております。 ○道垣内幹事 債務者を被告にして詐害行為取消訴訟を起こしても,中井委員のおっしゃるような和解は,取消債権者と受益者との間で行えば,取下げが行われるというだけの話で,実務的に影響はないのではないかという気がするのです。というのは,中井委員もおっしゃっておりますし,前回,中井委員に質問させていただいたように,もはや当該行為は詐害行為ではなくなるという性質を持つような和解にはならないわけですね。正に現在生じている紛争を解決金で解決するというわけですから,取消債権者と受益者との間で話し合って,解決金を払って取下げをするというだけではないでしょうか。 ○中井委員 取下げのときに,債務者である被告の同意を容易に得られるということが前提になっているわけですね。 ○道垣内幹事 そうですね。同意の問題ですよね。ですが,和解当事者自体に当然に被告が入ってくるという形にはならないですよね。 ○中井委員 御指摘の解決は可能だと思いますけれども,果たしてそのときに,債務者を被告としたときに,取下げも含めてスムーズにいくのかという懸念はやはり残ると思います。金関係官も,それは債務者にとって不利益がないから,弊害要因は少ないのではないですかという御指摘だと理解をしております。 ○高須幹事 詳しくなくて申し訳ないですが,固有必要的共同訴訟性というのが何か制限になりはしないかという点を,ちょっと危惧はしているんですが。そこは規定を設ければいいということなんでしょうか,この場合には。例えば同意を得ればよいということでしょうか,株主代表訴訟もいろいろ考えた上で規定を作って,和解のことを決めたわけだから,同じようにということでしょうか。   固有必要的共同訴訟という性質との兼ね合いで,整合的なものを考えねばならないけれども,それがどこまで現実的な制度として作れるんでしょうかという心配がありますということで意見に変えさせていただきます。 ○畑幹事 中井委員と道垣内幹事がお話しになっているのは,訴訟外で和解をして取り下げるという話なので,被告側の同意が必要だということはありますけれども,その限りでは,必要的共同訴訟であることが妨げということではないと思います。訴訟上の和解を一部でやるという話になると,おっしゃるように問題は出てくると思いますけれども。 ○山本幹事 どうしても同意が妨げになるということなら,請求を放棄してもいいのではないかという感じがします。裁判外で和解をして,お金を受領して,請求を放棄すれば,同意は要らないです。 ○中井委員 今,前提が両方とも裁判外での和解ですね。でもどうでしょう,取消債権者と受益者で和解が成立して,直ちに払えないときには分割になって,債務名義化することを求められることがあると思いますから,そうすると,常に裁判外で完璧に処理ができるかと言ったら,そうではないように思います。実務的には,訴訟上の和解で解決することを取消債権者も望むのではないか。それに対しては,スムーズな和解ができるか問題が生じるのではないでしょうか。   そういう意味では,弁護士会は,先ほど高須幹事もおっしゃられたように,理屈を整理していけば甲案が圧倒的に多いんです。それに対して乙案は,会としては大阪弁護士会くらいで,あと,個人的に何人かの方,高須幹事も含めて乙案が好ましいのではないかと。その理由は先ほど申し上げましたように,前回も部会で申し上げましたけれども,主位的に債権者代位,予備的に詐害行為という構成は多いわけです。これを併存的に訴え提起すればいいではないかという金関係官の反論も,それは方法としては理解できますけれども,実務的に,全く相矛盾するものを同時並行的に訴訟提起して,併合して審理が進むというのは,訴える側からすると抵抗感があって,そこは主位的,予備的構成を採る,この妨げになることは間違いがない。2番目が和解の問題,ここから極めて便宜的な案として,かつ債務者の権利保障も考えると,訴訟告知という形で手続的な保障を図った上で,判決効を及ぼすという,矛盾したことを申し上げていることになるのかもしれませんけれども,そういう結論になっている。実務のいいところ取りをしている。 ○道垣内幹事 今,訴訟上の和解とおっしゃったのですが,例えば債務者が受益者に対して1億円の不動産を贈与したとこと,債権者がその贈与について詐害行為取消をするという訴訟を起こした。しかし,1億円の不動産全部を戻すのではなくて,5,000万円の金銭の支払いということで和解をしましょうということになる。私は先ほどまでは,それは全くもって裁判外の話であって,先ほどの山本幹事のお話しと同じく,その後,その請求を放棄するという話なのだろうと思っていたのです。しかるに,それが訴訟上の和解であるとして,訴訟上の和解ということの意味にもよるんですけれども,詐害行為取消の一部認容的な和解であると考えるんですか。そして,その後,他の債権者との関係では,その効果はどうなるということなのでしょうか。 ○中井委員 一部認容的和解ではないと思います。金銭支払債務を約束はするけれども,それは詐害性を認めたとか廉価売買を認めたから,その廉価部分の一部償還的に行う和解という理解はしていないと思います。解決金としての支払いで,その後,受益者のほうは再訴のリスクは100%負っているという理解をしています。間違っているかもしれませんが,そういう和解の実務ではないかと思うんです。 ○岡崎幹事 中井先生のおっしゃるとおり,和解によって5,000万円の債務名義を作って,本来の訴訟物に関する訴えは取下げをすることになると思います。受益者に対する訴えを取り下げて受益者が同意する。ですから,訴訟物については何らの処分もなかったことになり,別の債権者から再訴を受ける可能性は当然残ります。ただし,「本件に関し,この和解条項に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを確認する。」というような清算条項が通常は入りますので,和解をした取消債権者については再訴ができなくなります。 ○道垣内幹事 それならば私の理解と同じなのですけれども。 ○松岡分科会長 例えば不動産の返還という現物返還ができる詐害行為取消の場合ですと,被保全債権額が比較的小さいけれど目的物が不可分なので全体が取り消されてしまう。取り消されてしまった後どうなるのか分からないということで,一定の金銭を支払うことによって,事実上価額賠償に近い形で決着を付ける。こういう和解はありえないのですか。 ○高須幹事 あることはあると思うのですが,ただそれでも,和解をしてしまう段階では,詐害行為になる,ならないのことは決着を付けずに,結局再訴の危険は背負うんですね。背負ったままで和解をするかどうかの判断を受益者はすることになるんだろうと思うんですが。 ○岡委員 最後の形は,今,岡崎さんがおっしゃったとおりだと思うんですが,払う理由は,詐害行為取消訴訟で敗訴するリスクがあるから片付けてしまおうということで,和解に応じるんだろうと思いますので,実質は詐害行為取消訴訟の一部認容に近いのではないかと私は思います。   こういう話をすればするほど,債務者のいないところで和解をして片付けている実務があるので,それを残してほしいという話になってきます。弁護士会でも理屈を詰めれば詰めるほど,代位よりも取消しのほうが債務者に与える影響が大きいので,共同被告でいいではないか,和解するときも巻き込んだ形の和解でいいではないかという理屈に流れていくんです。立法論なんだから,理屈で片付けて,そういうのは一切無くそう,今までの取扱いがおかしかったんだから抹殺しましょうというと,なかなか実務界も通らないのです。表面的には理屈が通っているけれども,実務は辛うじて残るというような道があればベストのようにも思うんですが。 ○潮見幹事 ずっと聞いていて,いいところ取りのような感じがしてならないんですけれども,結局,乙案を採る場合のメリットと言われているのは,先ほどから問題になっている和解,それから高須幹事がおっしゃっていた,詐害行為取消訴訟が複数提起されることによって債務者が負担を強いられるということとか,あるいは共同訴訟をそれがされることによる制約とかですよね。他方,訴訟告知という枠組みを採ったら,参加的効力に加えて判決効なんていう構成は大丈夫かという気がしてなりません。債務者を被告にするということで,先ほど岡委員が直前におっしゃったような形で,債務者の地位をより強固に保護してやり,かつ,判決効というものもその限りで及ぼして,その後は強制執行の準備という形で粛々と進んでいくという方向がいいと思います。その間を採るというのはなかなか難しいような気がします。   仮に甲案を採った場合に,先ほどから出ている和解のところを,極端な場合は別として,それなりに実務でやられていることについて,納得のいくような結論が採れるのであれば,甲案を選択するというのでもいいのかなと思います。弁護士会の多数意見がそうだということなら,理由は分かりませんけれども,もし多数の弁護士会の御意見がそれでもいいということであれば,甲案という選択肢もあっていいのかなと思います。 ○松岡分科会長 今,アについてほぼ集中して議論されていますが,加えてイやウについても御意見を賜れればと思います。イについては,部会では,併合提起を義務付けるまでは必要ないという御意見が多数だったように記憶しております。いかがでしょうか。 ○中井委員 弁護士会の意見ですが,イについてはほぼ乙案で,ウについてもこの考え方に賛成というのが多数だったと思います。 ○松岡分科会長 ウについて,岡委員が部会で,規定そのものが必要ないのではないかという御意見をお出しになったと記憶しています。 ○岡委員 個別に審理判決できることはそのとおりなので,条文までは要らないのではないかという意見が,札幌,東京,大阪等々あったということを申し上げたと思います。 ○畑幹事 いろいろなことを解釈に委ねるという意見を言うことが多くて恐縮なのですが,私も,民訴的には,併合しなければいけないというときに規定を置くのであって,ばらばらにできるという規定は余り置かない。その意味では岡委員のおっしゃるほうが,従来の規定の書き方からはしっくりくるような気がします。 ○中井委員 先ほどの中井の発言ですが,弁護士会の意見は岡委員がおっしゃったことが正確ですので,修正しておきます。 ○松岡分科会長 ほかにここについて特に御意見がないようでしたら,先に進ませていただきたいと思います。   それでは,続きまして,「2 詐害行為取消権の基本的要件」の「(3)詐害行為取消権の対象(詐害行為)に関する要件」の「ウ 無償行為」,「(ア)債務者及び受益者の悪意を不要とする規定」について御審議を頂きたいと思います。   事務当局から説明をしていただきます。 ○金関係官 御説明します。部会資料35の72ページを御覧ください。この論点につきましては,部会の第42回会議で審議がされ,各提案の具体的な差異等について分科会で審議することとされました。部会では,保証契約が広く取り消されるのは妥当でないという観点から甲案を支持する意見,同じ理由から甲案をベースとしつつ支払停止後の無償行為に限るという意見がありました。また,保証契約の中には無償行為とは言えないものがあるという観点から,保証契約の無償行為該当性に関する議論をすべきであるという意見もありました。また,無償行為には親族間の純然たる贈与から保証契約まで様々なものがあるので,そのような観点から,無償行為についての個別規定は設けずに,一般規定の解釈に委ねるべきだという意見もありました。よろしくお願いいたします。 ○松岡分科会長 それでは,ただいま御説明ありました部分につきまして御意見を伺いたいと思います。多分,無償行為とは何か,あるいは保証契約が無償行為に当たるのかどうか辺りが一番中心の議論になりそうでございます。 ○畑幹事 ちょっと分からないのですが,保証に関しては,無償否認について議論があり,反対はあるけれども,判例は一定の立場を採っているというところだと思うのですが,それを今というか,今回決めてしまうというのは,ちょっと疑問なのですが。 ○金関係官 先ほど御説明を申し上げたのは,保証行為が無償行為に該当するかどうかを明文化するという趣旨ではありません。無償行為に対する詐害行為取消権の要件を検討するに当たって,保証の取扱いを特に注意しながら議論する必要があるという指摘が部会でありましたので,その指摘を確認する趣旨のものです。 ○中井委員 部会でもどなたかが発言されて,私も,保証行為については,果たして無償行為と言えるのかどうかは考えなければいけないという趣旨の発言をしました。これは否認についても同じことだとは思います。保証が債務者のみを基準に判断をしている判例に対して,債権者がある意味で対価的に金銭を支出する,保証を得ている債権者を基準にすれば有償性もあるわけですから,それをどう考えるのかという問題意識から申し上げたわけです。だからといって無償行為の定義について議論するのが適当かということを改めて考えると,畑幹事もおっしゃいましたけれども,それは容易なことではない。弁護士会でも,保証をどう考えるかということは重要だという意見はあったんですが,それをこの改正において無償行為の定義付けの中で切り分けるというのは,難しいといいますか,できるのかという意見がございました。そこで具体的提案は,用意できていないというのが実情です。 ○山本幹事 今の点は全くそのとおりだと思うんですが,それを前提にすると,やはり乙案というのはかなり難しいのではないでしょうか。無資力と債務超過と同じかどうかはあれですけれども,基本的には債務超過の後の保証,同じく物上保証がされて,その経営者が実は債務が隠れていて,後から債務超過だったと分かったら,その保証とか物上保証が全部なくなりますというのは,余りにも取引の安全を害するような感じがしますので,そうすると,甲案か,甲案より更に後退になるのかというような選択肢になってくるのかなと思います。 ○中井委員 山本幹事のおっしゃられたように,先ほどの話を前提とすれば乙案は広過ぎるという意見が,弁護士会の中でも多かったと思います。乙案もいますが。甲案ないしは部会のときに申し上げました丙案という一般の財産減少行為の規律で足りるのではないかという意見もあります。弁護士会としてまとまった意見はあるわけではございませんが,乙案は少なくとも採らない方向がいいのではないかと思います。 ○松岡分科会長 逆に,乙案のほうがこういう場合メリットがあるなどの理由で望ましいという御意見はございませんでしょうか。   甲案について,私にはやや違和感がないわけではありません。「支払の停止があった後又はその前6か月以内」というのは,倒産関係の規律を意識しています。無資力要件とか支払停止あるいは債務超過という要件にも関わるのですが,どこまで倒産法制における否認権の扱いと詐害行為取消権の扱いを一致させる必要があるのかという点については,いかがでしょうか。議論を広げ過ぎるといけないかもしれませんが。 ○畑幹事 そこは多分,民事手続法の2人は似たようなことを申し上げていると思うのですが,否認より広くなることにはやはり違和感があります。倒産まで行かない状態なので否認より狭くなるという実質論があるなら,それはそれであるかなという気はいたしますけれども。 ○松岡分科会長 議論でよくキーワードとして出ているのは,逆転現象です。今,畑幹事がおっしゃったとおり,逆転現象は,詐害行為取消しの場合と倒産の場合が連続ないし相互移行するものであるから望ましくない,という点では部会でも意見がほぼ一致していたと思います。 ○三上委員 前任の岡本委員と同じことを言いますけれども,法的整理に入ると,それ以前の行為などを評価する,不可遡的な,明確な時限というか区切りが明らかになりますけれども,その前の状態というのは,支払不能状態,支払停止状態になったり,また脱したりというのを繰り返すかもしれないわけで,そういう不安定な時期に更に6か月も遡るということは,その間のぎりぎりの債務者の再生支援において極めてマイナスの影響を及ぼすと思います。ですから,法的に倒産したのであれば,その直前の平等を図るために6か月遡る,この6か月というのも一種の「決め」でしかないのですが,それは一つのテクニカルな施策としてあるかと思うんですが,不可変のゴールが決まらない段階で更に6か月遡るというのは,非常に取引の安全を害すると懸念します。   また,支払停止と債務超過がイコールかどうかという議論ですが,当たり前ですが,債務超過でも生きている企業は一杯あります。むしろ債務超過になった後にどう支援するかというのが普段の事業再生ですから,そういう段階での行為が「害すること」について,悪意の有無を要件にしないという手はなく,例えば推定するとか,そういうレベルでいいのではないかと考えております。   もう1点だけ,ここで提起するのはそぐわないことは理解しますけれども,正に裁判で否定されましたけれども,資産を持っている子会社が窮地の親会社を保証するとか,会社の関係者が保証人になるとか,その行為自体は無償であっても,一蓮托生の関係にある者,親会社が倒れれば自分らも倒れてしまうから保証したということ自体が本当に無償なのか,それを無償と考えること自体が,余りに形式的に過ぎるのではないかというのが金融機関の考え方です。 ○潮見幹事 結局,詐害行為というのを考える場合に,一方で一般的な包括的な規定を置いて,個別的に幾つか置いていこうというパターンですよね。同時交換的行為だとか,既に当該行為というものについて定型化されていて,ほぼ多くの方々がこれに当たるということについて,それほど異論もなく受け入れられるような場面であれば,定型化に値するし,そうすることによってルール自体の明確性も,それから予測可能性も確保できると思うんです。   ところが,伺っていると,無償行為の場合については,何が無償行為かということ自体,先ほどの三上委員のお話なども典型でして,それが何なのかが,それぞれの人によって違ってくるし,また無償というものにかなり評価的な要素が入っていますから,実際にこれに当たるかどうかについてもかなり不明確なところもあろうかと思います。そうであれば,あえて,ここでこうした個別規定を置いて処理するということを,今回の民法の改正で決断するのが果たしていいのか,むしろ,今出てきたような御意見を参考にしながら,これを一般ルールの解釈の中で反映していくような形で,これから先,実務と解釈で頑張っていけばいいのではないかという感じがしています。   ですので,結論的には,弁護士会がこの前おっしゃられた丙案の方向でもいいのかなと思ったところです。 ○道垣内幹事 三上委員の御発言に賛成です。 ○岡委員 昨日のバックアップ会議で出たんですが,無償行為の中の寄附が最近よくあります。震災に対する義援金だとか,そういう意義ある寄附も最近多くなってきております。無償行為だから原則取り戻すと,それが破産財団あるいは債務者のためだという考え方ももちろんありますが,これから日本にも寄附文化が広まっていくとすると,寄附を受ける側の主観もきちんと認定した上で取り消すようにしないと問題である。そういう意味からも甲案は採るべきではないという意見です。この意見は突き進んでいけば倒産法も変えるべきだという意見になります。支払停止前6か月の無償行為が,その時点の無資力を要件とせずに否認できるという条文はいかがなものかという意見にも発展します。最後の部分は私の個人的な意見です。 ○沖野幹事 基本的な点で変わるところではないのですけれども,元々は無資力の状態で全くの対価なく財産を得ているというときには,それは受益者としても期待しなくてもいいのではないかという考え方をもう少し明確にしたらというところから発想は出ていたのではないかと思います。それは,甲案か乙案かというだけではなくて,(イ)の償還の範囲の効果のところでの規律とセットになって,現にあるものだけを返してくださいということでよろしいのではないかということです。   そうだとすると,乙案で,これが民法のほうで広がり過ぎならば,倒産法のほうも変えるという方向もあったと思うのですけれども,しかし保証のような場合を考えますと,想定していたものが本当に端的に当てはまるのか,また(イ)で十分に対応できるのか,保証の場合に現に受けている利益のみの償還というのはどういうふうに発動するのかということも分からないとすると,無償行為,それからこれと同視すべき有償行為という概念の不明確さや,幾つかの具体的な事例においてこれを貫くのは非常に困難ではないかと思われます。   一方でまた,倒産法ではそうだということではありますけれども,民法に無資力プラス支払いの停止やその前6か月という概念を入れて,なお無償行為については特別に詐害行為取消をしやすい方向にするべき必要性がそこまであるのかという感じがいたしまして,甲案にするくらいなら丙案のほうを,するくらいならというのは言い方が余りよくないですけれども,こういうことで調整を付けてまで,無償行為及びこれと同視すべき行為について要件を緩和することを,解釈を超えて立法で明確化する必要はないということなのではないだろうかと,ご議論をうかがっていて思いました。   あと,細かなところで,先ほど三上委員が推定を掛けるならば可能性としては考えられるとおっしゃった,その推定がどういうことなのか,十分に理解ができませんでした。ご教示いただければと思います。もっとも基本的には規定を置かないということであれば,それ以上,別案として何か推定を掛けていくような案というのを考える必要もないのかと思うのですけれども。 ○三上委員 推定という言葉が悪かったらすみませんが,例えば立証責任の転換のように,自分に害する意図がなかったということを受益者のほうで立証する程度のイメージです。 ○松岡分科会長 悪意の推定なのでしょうね。 ○沖野幹事 分かりました。 ○松岡分科会長 しかし,特に案として立てるという御趣旨ではなかったように思います。 ○山本幹事 皆さんの意見で規定を置かないということでよろしいのではないか。今の推定もあれなんですけれども,典型的な無償行為を念頭に置くと,事実上の推定というか,実際上は事実認定の問題でほとんど解決できることかなと思いますし,それから保証の問題は非常に大きな問題で,今回,民法でもし何も置かないとしても,ここでこういうことが議論されたということを踏まえて,破産法を将来改正することがあるとすれば,そのような機会にでも,決着は付けなければいけない問題かなと個人的には思っています。 ○内田委員 非常によくない態度だとは思うのですが,事務当局でありながら学者的な傾向が頭をもたげて,一定の方向にみんなが一斉に向くと疑問を投げ掛けたくなってしまいます。沖野さんも乙案でもいいのではないかというのが,最初のスタンスとしてあったかと思うのですが,無償行為の定義が難しいのであれば,ここは要するに受益者の主観を問わず取り戻せる,そういうカテゴリーを作ろうということですから,対価なしに財産権を移転するとか,何らかの形で限定するという余地はあり得ると思いました。元々はそれを想定してこういう案が出てきていたと思います。   ただ,岡委員から有益な寄附の話が出て,その意見が本当に通るのであれば,私の前提は覆ってしまうのですが,私は,倒産に瀕した会社が,社会的にはどんなに有益であろうと寄附をするのは,債権者との関係でけしからんという考え方があるのだろうということを前提に,それを取り戻す制度としてこういう提案がなされていると理解していました。有益な寄附ならしても結構というのであれば前提が崩れますけれども,そうでないのであれば,無償で財産権を移転した場合は,相手の主観を問わずに取り戻せるということは,ルールとしてはあり得るのではないかという気がします。 ○中井委員 私も,そういう意味では内田委員のおっしゃるとおりで,積極財産を無償で対価なくして財産から逸脱させる,この行為は基本的に主観を問わずに返させていい,しかも現存利益ですから。その考え方には基本的に賛成です。   ただ問題は,先ほどから出ました,保証行為が常に無償行為の範ちゅうに入っている中で,その場面だけを想定した規定になるならともかく……。内田委員はその場面だけを想定した規定に限定しようという御発言ですか。 ○松岡分科会長 実際可能かどうか分かりませんが,保証についてはこの限りでないとただし書を置くという案はありえないですか。 ○内田委員 対価を得ずに財産権を移転する場合に限定するというようなイメージです。 ○中井委員 その基本的なシチュエーションを想定するならもっともな規定だと思います。ただ,あえて私は保証の関係で,それが入るとすれば余り広いのは困るから,限定のほうがいい,甲案若しくは丙案といったのは,その流れにあります。   今の内田委員のような考え方に従って限定するとしても,それは恐らく,一般的な財産減少行為の中で十分捉えることができるのではないでしょうか。積極財産を無償で流出させる行為は,基本的には債務者に悪意は通常あるでしょうし,相手方についても悪意がありますから,その範ちゅうでいけるのではないか。つまり丙案でいけるのではないか。それで不十分であれば,更に三上さんがおっしゃった,無償,対価なくして財産を流出させた行為については悪意を推定させるというのが補助的にあれば,新たに民法に無償行為という類型を積極的に設けるだけの意味があるのかと思いました。 ○内田委員 岡先生がおっしゃったような事案はあるのではないでしょうか。宗教団体にぽんと寄附をしたとか,災害の被害者にぽんと寄附をする。何であんな潰れそうな会社がそんなに多額の寄附をするのだという場合は,相手方はたとえ善意であっても取り戻そうというのが基本の発想なのだと思います。 ○中井委員 なるほど。しかし極めてレアなケースですね。 ○岡委員 内田先生も今,多額の寄附をするとおっしゃったように,変な多額の寄附もありますが,今回,大震災で,10万円ぐらいの寄附を多くの人がしました。寄附を受けるほうも,金額が多ければ,無償行為なんだから,いざとなれば取り消されてもしようがないという気持ちは持っていると思うんですが,社会常識範囲内の寄附であれば,後でひっくり返されたら,その人たちは想定外のことで困ると思います。それは一般的な詐害行為の,害する,あるいは害することを知りてと,その解釈でうまく運用していけるのではないかと思います。あえて甲案,乙案のような,主観を要件から外した規定を置いてしまうと,逆に主観の認定でうまく調整するのが難しくなるのではないかという気持ちをどうしても持ってしまいます。 ○潮見幹事 中井委員にちょっとお尋ねですが,先ほど内田委員からのお話で出た,対価なき財産供与という書き方だと,納得はされるのですか。対価なき財産供与と書いたところで,保証がどうなるのかということについては,依然として解釈論上の議論の余地は残っているのではないでしょうか。そう書いたからといってうまくいくのかが,そもそも一般的なルールで処理する以前の問題として,ちょっと気になったもので,発言した次第です。逆に,そう書くことで保証の問題が弾き飛ばされるということであるのならば,そう書いても別にいいのかなとも思わないではないですが,最後の部分は本心ではありません。 ○中井委員 今の質問の限りで言うならば,先ほどの内田委員の定義が意図的に保証を外した定義だということを前提にしただけで,それが無事にその定義になっているかどうかはよく分かりません。 ○岡委員 債権譲渡等のところで,債権は財産的価値があるという前提を強調しています。そのような時代の中では保証債権を与えるというのは財産の供与に当たるという解釈は,きっと出てくるような感じがいたしました。 ○内田委員 私が先ほど言ったのは財産権の移転という表現です。 ○岡委員 それは債務の負担は財産権の移転には入ってこない。 ○内田委員 という理解で発言しました。 ○山本幹事 物上保証も大丈夫ですか。 ○内田委員 設定と移転の違いですか。もちろん適切に限定的な言葉が作れないのであれば,明文化は無理な話ですが,元々は,いわゆる贈与を受けているような場合に,詐害行為取消権の行使が相当とされるような要件が満たされている場面で,贈与の相手方が善意だから取り戻せないというのは,やはり変だろうというのが基本的な発想だと思います。それを是とするのであれば,それが妥当する類型をきちんと限定して規定を置くという余地はあるのではないか。その場合は甲案ではなくて乙案だろうという,そういう意見です。 ○山本幹事 そのこと自体は私も,うまくそれができれば,先ほど私が次の破産法の改正でと申し上げましたが,ここでうまくできるならばそうしていただいて,破産法のほうもそう変えていただければと思いますが。 ○内田委員 固執はしませんので,先に進んでください。 ○岡委員 諸外国の倒産の否認の例で,無償行為について,日本よりも厳しい,否認しやすい規定というのは結構あるんですか。 ○山本幹事 ドイツなんか緩やかに認めているという話は,聞いたことはありますけれども。 ○中井委員 そのとき保証はどういう取扱いになるんですか。 ○山本幹事 保証は入っていないではないですか。 ○畑幹事 入っていないと読んだような気が,おぼろげながらしますが,自信はありません。 ○中井委員 内田委員が,出発点としている考え方については違和感がないわけです。それが明らかになるのであればいいのですが。 ○松岡分科会長 現行の運用では,受益者若しくは転得者が自らの善意を主張立証しないといけません。贈与の場合,そう簡単に善意が認定されているのでしょうか。先ほど山本幹事がおっしゃったように,解釈の運用の実際においても簡単には善意を認めていないとすれば,結論は乙案とそれほど変わらないことになります。 ○中井委員 私は,積極的財産の無償の贈与行為についてはそうだと思います。善意の立証は難しいですから,一般的財産減少行為で十分捉えることができる,一般規定で足りるのではないでしょうか,実際は。 ○道垣内幹事 ただそれは,破産管財人が,いくら何でもこれはひどいなと思うから否認しているので,それこそ,岡委員がおっしゃるように,完全に公益的な寄附1億円を倒産前に企業がしたというとき,否認するのですか。それとも,寄附に名を借りて贈与しているというものだけを否認しているのか。寄附に名を借りて,という場合には,相手方も,大体において悪意なのだろうと思うのですが,それに対して,何とか財団という完全に公益事業を行っている財団が,それぞれの企業の経営状況を把握しているわけではなく,それなりに名の通った企業から1億円の寄附を受けた。そのときに,あなたは善意かもしれませんけれども,無償行為なので取消しですとか,否認ですとすべきなのかということですよね。内田委員は,それはしてもいいのではないかという話で,それはひとつの立場としてよく分かるのですが,善意の立証責任が受益者側にあるということでは,全部は解決はしないだろうと思います。 ○岡委員 悪意,善意の中には,贈与者が無資力であることの認識も必要ですよね。そこは事案によると思いますね。1億円の寄附だったら,それは絶対,管財人は何か言いますよね。 ○道垣内幹事 いかにも公益であっても何か言うわけですね。 ○岡委員 1億円であれば,それは東京大学に感謝して1億円寄附したといっても,それはまずは取戻請求すると思いますね。 ○沖野幹事 それが取戻請求を認めるべき事案だという整理自体はよろしいのでしょうか。つまり,先ほど,現に利益が存している部分さえ吐き出せばいいという形で効果の点で十分配慮しているということを申し上げたのですが,例えば1億円の寄附を頂いたので建物を建てて,財産は建物に変わっているのですけれども,そういう場合ですとか,それに依拠して一定の活動を既に図っているというような場合があり得ます。プロミサリー・エストッペルのような話かもしれませんけれども,そういう場合も構わないのかどうか。寄附のような場合ですと,相手方の資力は分からず喜んで受けたというような場合に,しかしそれは元々無償でもらうというものである以上,覚悟していただかないといけないという割り切りでよろしいのか。それとも,そういう無償ではあるがそのような行為に依拠して行われる活動には,社会的に有用な行為もあり,そうであれば,それは安定させていいというふうに考えるのか,あるいは,明文はなく,しかもいささかマジックワードですけれども,詐害行為取消で言われるかははっきりしませんけれども,否認権の場合に,相当性とか有害性とか,一般的要件が書かれざる要件としてあるのだと言われまして,相当性というのは取り分けよく分からない,発動の仕方もよく分からないんですが,最後はそれで調整するような概念も言われているようではあるのですけれども,そういったものを使って調整するのでよいということなのか。   あれこれ申し上げましたが,一つは,寄附のような社会的に有用な行為の場合,その場合の寄附にはいろいろなタイプがあって,余り社会的に有用な寄附とも思えないというような場合も取り込んでしまうんですけれども,そこは問わないということなのか。額が大きくなるとそれは,どんなことであれ吐き出してもらうべきだという判断をしたほうがいいのか。これは政策判断の問題ですが,その辺りがかなり決め手になるようにも思われるのですが,いかがでしょう。 ○松岡分科会長 今のご質問はどなたかに宛てたものですか。 ○沖野幹事 たとえば大学への寄附で,それぞれに依拠した活動がされているが,利益は十分現存しているというような場合も,それは倒産というようなことになれば,あるいはそれに近い状態になれば,それは戻すべきであるという前提でいいのか。そこは違うという考え方がありうるのか,という問題はいかがでしょう。 ○松岡分科会長 判断は微妙ではないでしょうか。 ○内田委員 当然戻すべきです。 ○松岡分科会長 当然戻すべきですか。内田委員のように断言する自信はありません。沖野幹事自身は,肯定否定どちらの答えを用意した上で質問されているのでしょうか。 ○沖野幹事 私自身は,当初は乙案プラス(イ)というので割り切ってはどうかと考えていました。部会でも,贈与と言いながら,取引的な性格を持ったものなど,その背景がいろいろあることが指摘されました。また,社会的に寄附をどう育てていくかという問題もあることも指摘されました。こういった指摘とともに,もう一つには,(イ)で本当に十分かというと,やや過酷になる場合があって,それを十分対応できるような規律に組み合わせないと,効果のほうで万全を図っているとは言い難いのかなというふうに,だんだんと思うようになっています。そういう問題があるならば,総則的な現行法の424条の解釈で対応するということが良策ではないかと現時点では思うようになっています。 ○中井委員 沖野幹事に確認ですが,乙案を採ったとき逆転現象があり得ますね。そのことについては飲み込むということですか。 ○沖野幹事 私個人は,乙案でいくなら破産法も変えるという前提でおります。 ○中井委員 分かりました。 ○沖野幹事 それができるのかという問題はあると思いますけれども,逆転現象を解消するならば,むしろこういうところまで要件を緩和した形で詐害行為取消を認めるべきだという判断をしていますので,それは否認もそう在るべきでしょうし,かつ,倒産法の改正の際に,この点は特に議論された上で,特にここで線を引きましょうと決せられたわけではなく,旧来の規律をそのまま変えなかったという程度のものですので,改めて民法で見直されるならば,それを受けた見直しがされるべきではないかと思います。 ○中井委員 それなら,先ほど言いました保証が外れる,内田委員がおっしゃられた財産の移転行為のような形で限定ができるのであれば,私は,沖野幹事の意見に違和感はありません。 ○松岡分科会長 予想したとおりというのはよくありませんが,かなり予定時間を過ぎておりますので,一旦ここで休憩を取らせていただきます。           (休     憩) ○松岡分科会長 それでは,議論を再開させていただきます。   部会資料35の「第2 詐害行為取消権」の「2(3)カ 対抗要件具備行為」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。部会資料35の84ページを御覧ください。この論点につきましては,部会の第42回会議で審議がされ,各提案の具体的な差異等について分科会で審議することとされました。部会では,創設説か制限説かいずれの立場を採るかを明確にした上で議論をすべきであるとの意見や,逆に,その点を明確にした上で議論をするのは困難であるとの意見がありました。また,乙案について,この案は現在の判例と同様に対抗要件具備行為に対する詐害行為取消権の行使を否定するものであるということを前提とした上で,登記留保型の担保権設定を肯定的に捉える立場から,対抗要件具備行為に対する詐害行為取消権の行使を否定する乙案を支持する意見があり,逆に,登記留保型の担保権設定を選択した者がそれに伴う不利益を被らないのは妥当でないという立場から,対抗要件具備行為に対する詐害行為取消権の行使を否定する乙案に反対する意見がありました。よろしくお願いいたします。 ○松岡分科会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして,ここは意見が,今御紹介のとおりかなり広く分かれておりますので,更にいろいろな角度から御意見をお出しいただければと思います。御自由に御発言を頂きたいと思います。 ○中井委員 弁護士会の意見を改めて確認しましたけれども,ここは意見が分かれております。倒産法の規律と同様に,対象に含めるべきという意見と,倒産法ではともかく,平場のところでは対抗要件具備行為をあえて詐害行為取消権の対象にする必要はないという意見,両方ございました。   ただ,前回の部会での議論も含めてそうですけれども,原因行為が前にあって,それに基づく登記義務の履行によって,担保権なら担保権を取得する,そういうことを,支払停止後に行っても容認していいのか,こう聞かれると,私は相当疑問に思っています。それは平場でも変わらない。とするならば,基本的には偏頗行為的な形で取消しの対象にできて,それを偏頗行為的で規律するか,若干そこを制限説的に,15日なら15日の要件を入れるかはともかくとして,対象にするほうが好ましいのではないかと思っています。   そう考えたときに,これは倒産法もそうなのかもしれませんけれども,前の部会でも,これは畑幹事の御意見かもしれませんけれども,偏頗行為的に取り上げるとすればなぜここが支払停止なのかという問題が生じて,理屈の上では支払不能基準にすることもあり得るのかと思います。この点については,論理としては支払不能基準でいいのかもしれませんが,金融機関の立場からすれば,登記留保についてそれなりに活用されている事実があって,これをそのまま持ち込めば相当程度影響もあることを考えれば,倒産法の規律と同じ支払停止,倒産が変われば変わるのかもしれませんけれども,民法にこの段階で入れるとしたら,支払停止基準で取り入れるという考え方も十分合理的ではないか,このように思っております。 ○高須幹事 私も,甲案か乙案かという話になると,甲案的な規定はやはり設けたほうがいいのではないかと思います。弁護士会の意見は,先ほど中井先生からも御指摘があったように,分かれているんですが,私もそこは,中井先生同様に何も設けないというのはいかがなものか。やはり責任財産からの離脱を決定付けているという意味では,対抗要件具備行為というのは大きいものがあると思います。そういう意味では,そのことを倒産法だけで取り上げるというのではなくて,民法の議論の中でも取り入れてもいいのではないかと思います。同じような意見だということです。 ○山本幹事 両先生に質問なんですが,それは対抗要件具備行為というのは全て偏頗行為だということで,偏頗行為の規律,例えば通謀とかがもし要件になれば,甲案にも通謀みたいなものが入ってという形になるというふうに理解していいんですか。 ○中井委員 私は,偏頗行為の規律を合わせたほうがいいと思っています。偏頗行為についての基本的な規律が幾つか分かれていますけれども,通謀を要件とする考え方を採れば,ここでもそういう考え方になると考えています。ですから,その限りでは甲案と全く同じというわけではありません。 ○山本幹事 対抗要件否認をどういうふうに捉えるかというのはかなり議論があって,前回,畑さんが確か発言されたのではないかと思いますが,対抗要件具備は全て偏頗行為であるというのは,一つの考え方ではあると思いますけれども,もう一つの有力な考え方は,原因行為が詐害的な行為であれば,対抗要件具備行為は詐害行為否認の規律に従うと。ですから,通常の売買とかの場合には詐害行為の規律に従うと。担保権設定のように原因行為が偏頗行為であれば,対抗要件具備行為も偏頗行為否認の規律に従うという考え方は,条解破産法が採っているのではないか。あるいは先般の,具体名を出すとあれですが,林原の東京地裁の8部の決定もそのようなあれによっているのではないかと思いますけれども,私のやや心配は,ここで決めを打つということになると,対抗要件否認の議論にも影響を及ぼす可能性が高くなると思うんですけれども,それをここで決めるのが相当なのかどうかということがちょっと引っ掛かっているところなんです。もちろん,思い切って決めて,破産法のほうもそれに従って変えるというのは一つの考え方であるとは思うんですが,私自身は自信がないような感じはしているということです。 ○三上委員 そもそも対抗要件否認という否認類型自体が破産法の中でも,それ自体財産的損害を与えるものではないので,否認できる行為なのか両説あった類型であるという認識を元々持っていたんですけれども,民法の詐害行為というときの債務者の「行為」がどこにあるのかという問題がまずあると思います。例えば債権譲渡通知の発送は債権者が行っているという,通常よくあるケースの場合に,取り消すべき債務者の「行為」がないではないか。こういう場面というのは,平等を求められる破産のような状態であれば,誰の行為かに関係なく,対抗要件具備そのものを否認することは考えられないことはないんですけれども,平場の議論でいきますと債務者の行為性がまず問題になりうる。  また,対抗要件具備が非難される理由は,担保があたかもないような外観を呈していて,いきなり担保付として責任財産から離脱するのはおかしいという文脈で語られることが多いんですが,平場でその論点でいきますと,譲渡担保も相殺の担保的効力も公示的機能がないと言われればそのとおりですし,今回,いろいろと破産法的な規制類型が詐害行為取消のほうだけに入ってきていますが,一方で,破産法では偏頗行為否認と両輪の関係になる相殺禁止条項は,今のところ相殺のところには入らない。なぜかというと,そこまで平場では平等を貫く必要がないという発想から来ているという説明が前回の本会議でありました。こういった点も考えれば,特殊な類型である対抗要件否認という制度まで民法に設ける必要もないし,実務を混乱させるだけではないかと思います。 ○道垣内幹事 私は基本的には甲案に賛成なのですが,対抗要件具備行為が行われるまでは,詐害行為取消などしなくても差し押さえていけばいいだけの話であって,ポイントは対抗要件具備そのものではないか,それによって責任財産からの逸失というのが生じるのではないかと思うからなのです。そういう意味で,高須幹事がおっしゃったことと基本的に同じなのです。ただ,山本幹事がおっしゃったことが,不勉強でよく分からないので教えていただきたいのですけれども,原因行為が担保権の設定の場合には偏頗行為であるというふうに見て,原因行為が例えば売買契約であって,それで,その後対抗要件が具備されたという場合には,何と見るとおっしゃったんでしたか。 ○山本幹事 詐害行為。 ○道垣内幹事 普通の詐害行為であると見るということなのですが,そのように二つに分類することの意味は,その二つの場合で要件が異なってくるということを意味しているんですか。 ○山本幹事 破産法の議論では,164条の規定自体で否認できるということは問題はないわけですけれども,問題は,制限説の考え方に立っていますので,164条で否認できない場合において,否認の余地が残るかどうかということが議論になっていて,今のような考え方を採る説は,詐害行為に相当するような対抗要件具備行為については,なお164条で否認できなかったとしても,160条1項1号,通常の詐害行為否認の規定で否認することができる余地があるのではないか,その余地を残すべきではないかと,そういう議論だと思います。 ○道垣内幹事 しかし,もしそうだとするならば,詐害行為取消のところに破産法164条とほぼ同じようなタイプの条文を置くということは,偏頗型と詐害行為型に分けるとかといった点について議論があるときに,一方に決め打ちすることになってしまうという問題は起きないのではないですか。中井委員がおっしゃるように,これは担保留保の問題が多くて,それは偏頗行為の話だよねというふうにして,それに応じた形で破産法164条をデフォルメしていくということになると問題が生じてくるという御認識でしょうか。 ○山本幹事 ええ。私が舌足らずだったと思うんですが,問題が表れる局面は違って,詐害行為の場合には,詐害行為の否認と偏頗行為の否認というのは,要件を変えて,偏頗行為の取消しについては,通謀とかのプラスアルファの要件を必要とするという考え方が有力にあると思うんですが,仮にその考え方を採った場合に,ある対抗要件を仮に詐害行為として整理して,別の対抗要件を偏頗行為として整理すると,偏頗行為として整理されるべき対抗要件具備行為の取消しについては,プラスアルファの要件が必要となるのではないか。 ○道垣内幹事 15日以内でも。 ○山本幹事 ええ。そこを緩和する理由は私はないのではないかと思うんです。そこはやはり通謀が必要になるのではないかと。そうすると,どの対抗要件具備行為を偏頗行為として整理するのか,どれを詐害行為として整理するのか,あるいは全部偏頗行為と考えるのかということを決めざるを得なくなってくるのではないか。その決めたらそれが破産法の先ほどの議論にも影響するのではないかというのが私の懸念です。説明になっているでしょうか。 ○道垣内幹事 なっています。よく分かりました。結局,二つの話は別の考え方ですね。破産法164条に該当する場合には164条による。そして,そのときは164条の要件に従う。しかし,それ以外の場合には二つに分かれてくるという考え方と,164条の適用そのものに当たって,二つに分かれているというのが影響を及ぼした要件付けになるという考え方とがあるというわけですかね。 ○山本幹事 この詐害行為取消の場合。 ○道垣内幹事 いや,破産法で。例えば15日以内。 ○山本幹事 破産法は今のところ,支払不能についても特段,そういうプラスアルファの要件を必要としていません。時期的な問題が,支払不能かどうかという問題はありますけれども,プラスアルファの要件は特に必要としていませんので,破産法では今のような問題は起きないと思います。 ○道垣内幹事 なるほど。 ○山本幹事 ですから,偏頗行為のところで乙案,支払不能で決めると。特にプラスアルファの要件を必要としないという考え方を採るのであれば,私の懸念は,特に甲案的な規定を置くだけで,詐害行為だとか偏頗行為だとか,そういうのは特に決めなくても規定は置けるということになるのかなと思うんですが。 ○中井委員 抵当権設定等の偏頗行為に基づく登記については,偏頗行為否認の要件を通謀にするか支払不能にするかという,甲案か乙案かで異なってくる,この限りで山本先生の御説明は理解しました。   売買に基づく移転登記の場合,これが財産減少行為に当たる場面でどうか。これが破産法160条の原則規定の適用対象になる。このときの登記の問題を独立して取り上げたとき,先生のお考えでは,支払不能要件が160条にはありませんから,その事態より前であっても,つまり害する状態で行われれば,それは,対抗要件否認という名前を付けていいのかどうか分かりませんけれども,その対象になる。つまり,この前の東京地裁の決定の考え方,それをこの民法の取消権の中にも持ち込む余地を認める,というお考えなんでしょうか。 ○山本幹事 私は特に自分の意見は申し上げておりませんで,そこは両説あり得るのではないかと。ただ,そこで,仮に通謀のあれを採ったとして,そういう場合も通謀によるというふうに書くとすれば,それはその対抗要件具備行為は偏頗行為として整理したものだということに必然的になるだろうと思うんです。そのことの影響ということを危惧しているということです。 ○中井委員 その場面というのは,支払停止,支払不能前であってもよいという理解ですか。 ○山本幹事 甲案のように書くのであれば,支払停止後に限定するのではないでしょうか。 ○中井委員 分かりました。 ○山本幹事 その前がどうなるかというのは,それはこの規律が創造説に基づいているのか制限説に基づいているのかで決まってくると。私自身はそれは決めるべきではないかと思っているんですが,決めないで,甲案で,残りの部分は解釈に委ねるというのは,それは一つの考え方かもしれませんけれども,そのこととは別にそういう問題が生じてくるということです。 ○潮見幹事 山本幹事に対する確認ですが,創造説に立った場合には,対抗要件具備行為の取消しが問題になる場面について,規定を置かなければ,そもそも詐害行為取消の対象とはなり得ない,これはこれでいいですよね。その場合に,対抗要件具備行為を取り消すという可能性を認める場面で,偏頗行為型,それから詐害行為,財産減少型の二つのタイプがあって,それぞれについてどのような規定を設けるべきかという話が出てきて,しかもその場面では,偏頗行為の場合には偏頗行為の要件に合わせた形で捉えていくべきであると。他方,詐害行為型の場合には,その要件に合わせた形というか,個々合わせる必要はないのかもしれませんけれども,そのような枠組みで考えていかなければいけない。   他方,制限説の立場に立った場合には,どちらにしても一般的な要件を詐害行為取消しの場合に置くとしたならば,また偏頗行為についても当該類型についての規定を置いたならば,わざわざ対抗要件具備行為自体を取り上げて特別な規定を置く必要はない。ただ,そこでそれぞれについて何らかの形で制約するような事由が必要だということであれば,その部分について規定を置けば足りるという,こういう整理でいいわけですか。 ○山本幹事 制限説の立場に立った場合は,変更があった日から15日を経過する前のものについては,取消しの対象にしないという形で制限をするという必要性,そういう政策的な必要性を民法として考えられるかどうかという問題になってくるということです。 ○潮見幹事 そうですね。そこの政策的な判断要素というのは倒産法と合わせたほうがいいとまでの意見でしょうか。 ○山本幹事 私自身は意見はありません。それも一つの考え方だと思います。 ○中井委員 制限説的な考え方を採ったとき,今の潮見幹事のおっしゃったように,論理必然的には規定がなくても適用されるということになるのですが,何も規定を置かないとなったら従前どおりという理解をされかねないので,そこはやはり明確にしたほうが,どういう形で明確にするかはともかく,そういう考え方を採ったんだということを明確にする必要はあるのではないかという気はいたします。 ○松岡分科会長 判例準則の射程が広過ぎるのですが,何も規定を置かなければ,おっしゃるとおり,対抗要件具備行為は,取消対象には基本的にはならないと理解されると思います。 ○畑幹事 先ほどの無償否認もそうですが,倒産法の規定から結構大胆に離れてもいいという前提が採れるのであれば,例えば制限説的に考えるとして,原因行為から15日以内にされたものは取り消せないという規定だけを置くということも考えられるかもしれません。そうするとこの行為が偏頗であるのか財産減少であるのかということは解釈に委ねられるので,そこを今徹底的に議論する必要はなくなるということにはなりそうな気はいたしますが,そういう立法態度が適当かどうかというのはよく分からないところです。 ○山本幹事 それも一つの解決策だと思いますが,もしそうするとすれば,まず対抗要件具備行為が取消しの対象になるということを何らかの,法律行為を行為に変えるというので,それはそういう趣旨なんだということを説明するのが一つかもしれませんけれども,何らかの形でそれは明確化する必要は……。それともその反対,もちろん解釈で,この限りにおいては取り消せないということで,一般には取り消せるということを明確に表す。 ○松岡分科会長 畑幹事の先ほどの御意見だとそうですね。一般には取り消せるとはっきり示せば,例外が当てはまらなければ,対抗要件具備行為も取消しの対象になり得ることが含意されてことになりますね。   不勉強で申し訳ないのですが,15日ルールが倒産法に設けられている理由はどこにあるのですか。15日間とすることには決定的な理由はないと思うのです。 ○山本幹事 非常に批判もあるところですけれども,対抗要件を具備するには15日ぐらい掛かるだろうと,それぐらいの間は掛かってもしようがないので,それまで否認するのは酷だという説明ではないでしょうか。 ○松岡分科会長 一口に対抗要件と言ってもいろいろあります。それゆえに一律の扱いはちょっと気持ちが悪いところがあります。 ○畑幹事 沿革的には,フランスの不動産取引から来た規定だというような紹介があったような気がします。 ○三上委員 反対しているのは私だけなので,追加で幾つか補強しておきますが,一つは普通の不動産設定登記,平時に行われる場合でも,表示の修正とかしていると15日過ぎることは間々あります。したがって,15日を超えたものはアウトと言われると困る場面があるのも事実です。そのときはそもそも無資力ではないという話になるのかもしれませんが。   大体これが倒産の場面で問題になるときというのは,半年とか1年以上空いているとかというのがほとんどで,そういう意味で15日がこれまで問題になることはなかったわけですが,民法の平場でやると,15日が問題になる場面もかなりあるのではないかと思います。   かつ,机上の論理を幾らでも作れると思うんです。担保設定登記をしたら,それが15日経ってから対抗要件否認で取り消されてしまった。けども,取り消された後でリスケ契約が成立したと。もう一度設定すればいいとおっしゃるんでしょうが,実は再設定した段階では,国税の納付期限が先に来てしまっていた。これは誰が責任を取ってくれるんだという問題。あるいは取消しになった後で誰かが担保に差押えをしたと。その差押債権者を除く全員でリスケの合意ができて,差押債権者だけは,自分はいいものを押さえられたので,飽くまで競売の主張をして,その人は満足を得たか何か知りませんが,その人は自分の債権を回収して,残った人でリスケが成立したと。この場合,その債務者というのは支払停止とか支払不能状態だったのか。差押債権者に黙らせようとすればリスケをやめて破産にもってくのかというような結論が正義なのかというような問題。破産等で不可遡的に支払不能状態が固定してしまうからこういう議論はないのであって,その後にどういう展開があるか分からないような平場の議論で,ここまで平等を貫く必要はないのではないか。幾らでも事実は小説より奇なりということは一杯出てきますので,一概に机上の議論と切って捨てることはできないはずです。   相殺禁止を民法に持ってくるほどには平等を貫く必要はないという判断をしておきながら,ここに異例な詐害行為類型を持ってくると。逆にこんなものを持ってくると相殺禁止もないとおかしいという議論にもなりかねません。しかも,こういうものが問題になる場面というのは,基本的には債権譲渡の通知の留保と推測しますが,その場面では,支払不能以前の授権行為があるだけで,支払不能後に行われる行為というのは債権者が通知する行為だけですから,取り消すものは何もないはずですね。そういうことも考えると,このような規定を民法にわざわざ設けてまで平等を実現する必要性はないし,むしろ実務を混乱させるだけだと考えております。 ○道垣内幹事 三上委員のご意見に全部反対です。そういう場合に取り消すというのが正義にかなうのかというと,かなう例もかなわない例と同じくらい出すことができると思いますので,余り議論にならないのではないかと思います。ただ,それよりも,おっしゃっている債権譲渡のことなのですけれども,そのときには債権者の側で通知するだけなのだからとおっしゃるんですが,それは譲渡人の代理人として通知をしているのだから,無資力の債務者がした対抗要件具備行為になると思います。幾ら委任状を預かっていても。だからそれは取消対象だと思いますが。 ○三上委員 債権者の行為が取消の対象になるんですか。 ○道垣内幹事 なりますね。譲受人が単独では通知できないのですから。 ○三上委員 譲渡通知を預かって発送するだけですよ。 ○道垣内幹事 もちろん。でも,通知がいつなされたか,誰によってなされたかというのは,発送の時点で譲渡人によってなされたことになるわけですから。 ○三上委員 発送するのは事実行為だけなのではないですか。 ○道垣内幹事 そうすると,どの部分を通知というふうにおっしゃるのですか。通知行為とは何なのか。発送は事実行為だというけれど,それは対抗要件具備行為でしょう。 ○三上委員 そうですね。飽くまでも債権者の行為ですが。 ○畑幹事 それが否認の対象になるからこそ,債権譲渡の効力発生時期を遅らせたりするような話になり,しかしそれも駄目だと最高裁で言われたと,そういうように理解していたのですが。 ○三上委員 それは,破産法が誰の行為かに関係なく,対抗要件具備行為そのものを否認類型にしているからでしょう。民事再生とかで,よく保全処分は債務者の行為しか止められないので,債権者がする具備行為は保全命令では止められないという点が再生に支障を来たす問題として議論されていました。破産法自体では対抗要件具備行為は債権者の行為と考えられていたか,少なくとも意識的にあまり議論されていなかったのではないでしょうか。停止条件付き債権譲渡の判例も,結局対抗要件否認ではなく,偏頗行為否認の脱法的行為だということで否認されてしまったわけですね。 ○中井委員 三上さんが,債務者の行為がないという点で批判されている部分については,先ほどからありましたように,債権譲渡にしても,本来譲渡人が通知するところを,譲受人が譲渡人から書類を預かって通知しているに過ぎない。登記についても,登記の書類は全て預かってそれを法務局に出しているだけで,行為としてはいずれも債務者の行為があるというのが大前提になっているのではないでしょうか。だから,そこを非難されているのは,そうではないのではないか。平成16年の停止条件付債権譲渡の判決についても,そういう形での譲渡自体が,債務者の行為が,危機時期になってから行われているのと同視できるという理由で否認されているんだろうと思いますので,その点は反論にならないのではないか。   問題は,危機時期になってから登記がなされる,若しくは債権譲渡通知がなされることによって,結果としてはその時点で財産が外へ出てしまう,若しくは特定債権者へ弁済される,そこが問題ですから,それを対象として取消しないし否認にするのは,やはり合理性があるように思うんです。逆に言えば,銀行にしても本来,原因行為から,15日以内に対抗要件を備えて公示をするという慣行がきちっとできるほうがより好ましいのではないでしょうか。その時点で特に問題がなければ,正当な担保設定行為であり正当な処分行為であれば,何ら問題なく,取消否認の対象にならないわけですから。 ○三上委員 普通の偏頗行為と違うのは,担保設定する際にお金が出ているなり何なりしているということですね。間は空いているけれども対価はあるんです。そういう意味で,破産の場合に要求される平等と民法の平場の場合で要求される平等は,レベルにかなり差があるというのが我々の認識です。倒産した人の債権者は平等に処遇しようというところまで考えた管財制度だからこそ,こういう特殊な否認,過去に契約もして対価も得て担保も設定して本来は債務者の義務である登記等を,本来の債務者とは同じ人格で在るべき管財人が否定できるわけです。しかもそうやって回収した金は,差し押さえた人間が早い者勝ちで持っていくというような,差押えに配当に参加できるだけの条件があればいいというような,ある意味不完全な不平等な場面でまで貫く必要はない,そこに大きな差があると考えています。 ○畑幹事 今,三上委員がおっしゃったことは,偏頗的な行為を取り消すこと一般に妥当する問題のような感じはいたします。単なる弁済であっても,事実上の優先弁済というのを仮に否定するとしても,それを何らかの形で押さえて取っていく人だけが取るという意味では,似たような問題かなという気もいたしますけれども。 ○三上委員 そういう意味では,私の意見というのは,偏頗行為を広く対象にすることにそもそも反対するところからもきているんですが,それを前提にしても,単なる偏頗行為と比べても,期間は離れても,担保を設定するときには,新たな与信をしているとか,危機時期に同じことをしていれば,偏頗行為とみなさない行為だったという点は,単に配当に預かろうとする一部の債権者間の平等が図れればいいという場面ではやはり決定的に違うのではないかと思います。全債権者の完全な平等を目指す破産法的管財性格だからこそ,正当性があるような否認類型ではないかと私は考えています。 ○潮見幹事 1点だけ発言します。今の話でいったら,平時という言葉をあえて使いますけれども,平時の場面における偏頗行為取消と同じ要件で,しかしその場面に限って対抗要件具備行為を取り消すということがありということになりませんか。もちろん,この間の学説の中で,詐害行為取消権の対象として対抗要件具備行為が認められるかという観点からの議論が民法ではあったと思います。私自身は,対抗要件具備行為の取消しというものをある程度認めていいのではないかと考えてはいます。ただ,それはその段階で,実質的に財産の移転あるいは偏頗行為みたいなことが,実質的な実体的行為がされているという点に注目して,そうすべきではないかと考えているだけです。それは置いておいて,対抗要件具備行為を取り消すことができるかどうかをここで議論している際に,いろいろな方々の御意見というのは,対抗要件具備行為であれば取り消せるとか取り消せないとかというのではなくて,ある一定の制約を課した上で,こういう場面では詐害行為取消権の対象としていいのではないかという形で,議論が進んでいるのではないかという感じがしました。   そうであれば,例えば偏頗行為の場面に限って,対抗要件具備行為がこのような要件の下で取り消すことができる,あるいはできないということで,一致ができるのであれば,そのような規定を置くことは可能なのではないかと思いました。そもそも対抗要件具備に関して言えば,仮に偏頗行為取消しの一般的な要件に該当する場面でも,取消しの対象とすべきでないという御意見を三上委員はお持ちなのかというところを知りたかったんです。 ○三上委員 回答になっているかどうか分かりませんが,私が申しておりましたのは,対抗要件具備の前提となる財産減少行為がありますね。それが詐害行為なり偏頗行為として否認される行為ならば,対抗要件の否認もありでしょうと。しかし,それ自身が平時に行われて,偏頗行為の詐害行為取消にならないのであれば,それに対する対抗要件具備だけが詐害行為の要件に該当するのはおかしいのではないか。つまり,ここで目の仇にされているのは偏頗的な財産の移転ではなくて,担保権を公示しなかったという行為の差だろうと思うわけです。破産のような厳密な平等を貫く場面だからこそ対抗要件否認をして,実体的には債務者財産から離脱してしまっているものも取り戻そうという発想が出てきても,それはそういう政策ならば仕方ないのかもしれませんが,どの段階から無資力になって,それがまた回復してというのが分からないような平場で,対抗要件の具備だけを取り出して詐害行為で取り消しても,それだけで平等にそれほど大きく寄与するとは思えないといいますか,むしろ不平等の場面も出てくるかもしれない,そんな手段を単なる詐害行為と同視するには抵抗があるということです。 ○沖野幹事 確認をさせていただきたいのです。三上委員がおっしゃる話は,対抗要件具備行為というのは原因行為の完結行為のような形のものであって,一番問題になるのは,同時交換的行為の規律が及ぶかという点であり,担保が取得されるからこそ信用供与しているんだけれども,対抗要件だけ待ってあげたというときに,対抗要件のところだけ捉えられて,それ単独で偏頗行為の規律が掛かってくると,同時交換性などは全部飛んでしまうので,そういう場合が一番問題だというふうにおっしゃっているのかと思ったのですが,その理解でよろしいかということが第一点です。   もう一つは,そうは言っても,そう長く完結行為を待つということが本当に正当なのかという感じはします。そうだとすると,先ほど御紹介もあったのですが,対抗要件具備行為一般というよりは,原因行為自体が財産減少型であるのか偏頗型であるのかで分けて,少なくとも財産減少行為については詐害行為取消しの対象とするというようなことが考えられないか。それは三上委員のお考えとしてどうなのか。専ら担保供与型についておっしゃっているような気がしたものですから,それはどうかということがお伺いしたい第二点です。   最後に,これは畑幹事がおっしゃったアイデアですけれども,仮に原因行為の完結行為としてある程度許されると考えたときに,倒産法の15日というのが適切かどうかという問題は,倒産法についてもそもそもある問題だと思いますけれども,それは今,直ちに政策判断できないとすると,倒産になったらせいぜい15日の猶予,2週間の猶予だということにしても,平時においてはもう少し長い猶予が,最大このくらいというようなことが考えられて,畑幹事がおっしゃったような,15日経過前ではなくて,もう少し長い形での規律,例えば何か月というぐらいが最大であるというような規律を置くことが考えられるのかどうか。それについてお考えはどうかと思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○三上委員 財産減少行為,狭義の詐害行為の場合には取り消してもいいのではないかというのは,狭義の詐害行為自体は無資力になる前に行われたみたいなケースということでしょうが,それだけの場面を考えると,形の上では対抗要件を詐害行為で否定する形で取り戻すということがベストかどうか。よくあるのは,不動産を何十年も前に売っているけれども,登録免許税がもったいないから登記は移さないままでずっと放っておいたら,売主の会社が倒産してしまいましたと。それが相当対価を払っていれば,そういう場面でたまたま登記の欠陥を主張して取り戻す行為が正しいのか,寄附とか無償だったら取り戻すべきなのかというところまで区別できるのであれば,本当の狭義の詐害行為に限って対抗要件具備行為を取り消すのはいいと思うんですが,それであれば,無資力になる前であっても財産減少行為は全部詐害行為の対象になるというほうが,より簡潔ではないかという気はします。   それから,15日間という期間を延ばせばどうかという案ですが,今は債権譲渡特記に対する抵抗が薄れましたから,もう余り議論する意味もないのかもしれませんが,債権譲渡担保の対抗要件具備留保というのは,平時が長引けば,2年前,3年前というのは出てくるわけで,結局,おかしくなってきたときに,そろそろ対抗要件を具備しないと対抗要件否認になってしまうという点ではあまり効果は変わらないと思います。  結局,隠れた担保権みたいな取引は常に批判が多い。特に判例になる場面は,もう問題設定からして批判されるべき部分を抽出したようなものです。しかし,そういう場面は,ある意味この種取引の例外的一部分であって,なぜ実務でそういうニーズが根強くあるのかという部分はよく御理解いただきたいんですが,もう立法論としてそういうものは悪であると価値判断を示すのであれば,当たり前ですが,何もなくても対抗要件具備は早まるだろうし,それによって救われていたというか,得られていた利益は確実に減るだろうと思います。それが世の中として健全な方向だと言われるのであれば,そうせざるを得ないだけですが,これは感想です。 ○道垣内幹事 沖野幹事が出された二つの,ある種,これならば妥協できるという案については両方反対です。つまり,例えば資金が貸し付けられ,抵当権の設定合意がなされたが登記はされず,その時点では無資力性が一切ないという場合を考えてみますと,責任財産との関係では,その時点では無担保貸付なんです。つまり,ある不動産について抵当権設定が合意されていても,その不動産はほかの債権者にとっても差押対象財産ですから,対抗要件具備の段階で無担保貸付が担保貸付けにされたのだと思います。だから,貸付時に偏頗行為でなかったらという議論は,私は成り立たないと思います。   2番目に,15日が短いのだったら民法で少し長くするということはあり得るのか,これはあり得ないと思います。なぜならば,これは無資力の債務者がした対抗要件具備行為の話を問題にしているのであって,およそ原因行為から15日以降なされたら,対抗要件具備行為は全部取消しの対象になるというふうに言っているわけではありません。そうすると,現実の取引において,あるときに債権譲渡がなされた,あるいは抵当権設定がなされたとしまして,対抗要件を具備するためにはもっと長く掛かることはありますよねという話は,ここの15日という数字に跳ね返ってくるかというと,決してそういうことはないと思いますので,私は妥協できない。 ○三上委員 無登記の抵当権に基づく担保実行もできるわけですし,当事者間で抵当権の設定契約が有効であるということに,民法で異論があるとは驚きました。我々は,決して無担保貸付けをやったという評価には法律上もならないと思っておりますし,もしそれが無担保貸付けだというのであれば,今の担保実務を否定することになります。登記留保であっても,無担保と同じになるリスクはあるけれども,あくまで担保があって金を貸しているという前提で審査をやっております。 ○岡委員 原因行為が廉価売却なり偏頗担保提供であれば,登記を10日後にしようが20日後にしようが全部消せるわけですよね,否認でも取消しでも。だから,問題は原因行為が取り消せないときの登記だけを取り上げられるかという話になってくると思うんです。山本和彦先生が原因行為によって分けるとおっしゃったんですけれども,私のうろ覚えの畑先生の論文では,対抗要件具備義務というのが一種の弁済義務と同じであって,元が同時交換的取引であろうが相当対価取引であろうが,それの弁済義務,対抗要件具備義務と同じなので,全部偏頗弁済の法理で対処するというのが畑先生の論文だったように覚えているんですが,畑論文はそういう理解ということでよろしいんでしょうか。 ○畑幹事 そういう立場で書いたことは確かです。 ○岡委員 それは結構有力なのではないですか。 ○山本幹事 私からお答えします。有力な見解だと思います。ただ,ほかにも有力な見解があるということだと思います。 ○松岡分科会長 そういう整理の仕方は可能だけれども唯一ではないということですね。 ○岡委員 ほかの有力な見解では,元の行為が同時交換的取引の担保提供である場合は,15日経過しても対抗要件具備は取り消せない,否認できないという結論になるんですか。 ○山本幹事 具体的なあれがよく分からない。 ○岡委員 原因行為が否認あるいは取り消しできない同時交換的取引だった場合で,支払停止後に15日を経過して担保提供の登記だけをしたという場合は,その対抗要件だけを取り上げた否認はできない。 ○山本幹事 それはできるのではないでしょうか。 ○岡委員 それはできるんですか。それは財産減少行為としてですか。 ○山本幹事 そういうことになるのではないでしょうか。 ○潮見幹事 話がぐるぐると回っているような感じがするんですけれども,詐害行為取消の場面に引き戻して考えたときに,実体的な原因行為,債権行為と言ったらいいんでしょうか,そういうものと,それから単なる対抗要件,公示を具備させるという行為というものを分けて,詐害行為というものを考える場合に,偏頗行為もそうでしょうけれども,対抗要件具備だとか公示というところは関係のない,債権行為レベルで勝負を付けろというのが,三上委員の基本的な考え方ではなかろうかと思います。そこで決着を付けないものを,対抗要件具備だの公示というところで勝負をもう一度やるというのはよろしくないと,そういうお考えがベースにあって,かつ,補足説明の言葉を使って言えば,創造説というものを基本に据えたら,恐らく三上委員のような考え方になっていくのではなかろうかと思いますし,法制審の部会のほうで出ていた判例法理は,基本的にそのような枠組みを詐害行為取消しについてベースにしているのではなかろうかと思うんです。   ただ,その場面で,今度は対抗要件具備というものを捉えるときに,二つ問題があって,今言ったような実体的な原因行為と,それから外形的な対抗要件具備というので分けた上で,外形的な対抗要件具備自体を詐害行為取消しあるいは偏頗行為取消しみたいな形の枠組みで捉えていくのがいいのか,それとも,そうしたものも原因行為のレベルに組み込んだ形で,財産権の移転行為は実質的に対抗要件が具備された段階で終了する,それが実体的な財産の減少行為,あるいは偏頗行為であると見て,対抗要件具備という形式的な行為を詐害行為取消しあるいは偏頗行為取消しの対象にしていくのか。どっちで考えるのかが,どうもはっきりしないのではないかと思うんです。   破産法の議論というものは,基本的に,対抗要件具備行為自体,それ自体を捉えて否認の対象とすべきかどうかという形で議論していると思います。立法に当たり,どちらで考えたらいいのかというのが,定見はありません。 ○山本幹事 今,潮見幹事が言われた二つの考え方は,先ほど私が申し上げた有力な考え方のそれぞれの底流にあるのではないでしょうか。対抗要件具備行為を単独で捉えれば,安藤さんが言われるように,それは偏頗行為,それ自体が債務履行行為なのではないでしょうか。ただ,原因行為とある種一体的に捉えると,原因行為の性質によって対抗要件具備行為の性質も異なるものとして考える,言わばそこでおっしゃるように完結するというような考え方が出てくると,そういうことなのではないかと思うんです。 ○松岡分科会長 そういう外見に着目しているのではなくて,ある種一体として,全体を行為と捉えていることになるのではないですか。 ○潮見幹事 そういう考え方を採った場合でも,三上委員のお考えというのは難しいかな。 ○三上委員 先ほどの議論に戻りますね。 ○道垣内幹事 恐らくそういう考え方を採ったときに,長いときに,入口のところで判断しようというのが三上委員の話ですよね。履行行為まで長くても,入口のところでよかったんだからいいのではないかと考えるか,長く掛かった上で,その間に無資力状態になったらやっぱり駄目なんじゃないのというふうに考えるかどうかという違いですかね。 ○松岡分科会長 そこが対立点ですね。対立点ははっきりしましたが,どう議論を先に進めるのかよく分からなくなってきましたが,議論を更に詰めさせていただくことにします。 ○中井委員 時間がないところ申し訳ありません。今まで言っていることと全然違うことを言ってしまうと怒られるのかもしれません。   私も含めて対抗要件具備行為は取消しの対象にすべきだという,これは理屈から考えればそれが正当と思っているんですけれども,三上さんがおっしゃるように,金融取引の中で登記留保が行われている実務がある。その実務を支えているのは何かというと,これは研究者からすればけしからんことかもしれませんが,不動産にそういう登記が載る,若しくは債権譲渡登記がたくさん載ることによって,信用不安が大きくなり,当該債務者に対する資金調達が極めて困難になる。メイン銀行も含めて,当該債務者に対する一定の信用供与も続けることを前提に,あえて登記留保にして事業継続に資する,お手伝いをしている。その実務をどう評価するのかという点は,慎重に考えなければいけないのかなとも思っております。   それを全く無視していいのかと三上さんから言われると,ドキッとしてしまいます。ここには,金融機関の代理人といいますか,そういう専門家が出ておりませんが,弁護士会でもその意見は必ず出てくると思いますので,その点だけ付加させていただきます。 ○沖野幹事 気になる点を,二つ申し上げたいと思います。   一つは,対抗要件具備行為であるということで,およそ詐害行為取消の対象にならないというのが,今の判例から出てくる帰結だと思うのですが,その点だけを何とか覆せないだろうかと思うのです。それで,判例があることを前提に,それは広い射程を持つものではないというか,対抗要件具備行為であるという一事をもって取消しの対象とならない行為になるものではないということを書けないだろうかと思います。ただ,そうしたときに,ではどういう要件でかという具体的な問題があり,そこではこれは民法のほうが広く認めることになるのではないかという議論が出てくるので,そこが嫌らしいところではあるのですけれども,せめてそこだけ手当てができないだろうかと思います。結局どういう場合に取り消せるかは,それぞれ,その先の解釈論であるとして余地をもたせつつ,対抗要件具備行為であることをもって詐害行為取消権の対象外となるわけではないことのみを明らかにしてはどうかいうことです。   もう一つ,先ほど全く支持のなかった,期間を少し長くとれないかということなのですけれども,元々,破産法の説明は,対抗要件を直ちに具備するというのは困難であろうから,一定の期間は取引上必要であるし,その間に無資力になったというときも考慮しようというものであり,原因行為から一体どこまでの期間であれば猶予していいのかという発想での規律だと考えています。ですので,原因行為がどういうものであって,そこからどのくらいかを考えるというのは,それなりに理由があるのではないかと思うのですけれども,さらに対抗要件具備行為というのが完全に独立したものではなくて,原因行為の完結行為と言われるようなものであるとすると,それを入口で見るか出口で見るかということとともに,出口で見る,ないしはそれを切り出して見るためには,やはり原因行為からかなり期間が経っている。このくらい経つならば切り離しましょうという時点を考えられないか,そういう発想ができないかということも考えられるのではないかと思ったのです。もちろんそれに対して,一律にどのくらいというとは言えないし,さらには,先ほどのような実務があり,登記留保というのはどこまで留保されるのかというと,危なくなるまで留保するんだということだとすると,それを尊重したいのであればどうしようもないと思うんですけれども,発想としてはそのような観点もあって申し上げたということだけ補足したいと思います。 ○三上委員 1点だけ重要な,言い忘れたことがあって追加で言わせていただきますけれども,問題となる債権譲渡について,債務者の承諾を取るという対抗要件具備方法には,本詐害行為取消は当然には適用しようがないのではないかと思います。否認は承諾のケースも適用の対象ですが,民法はさすがに,明らかに債務者の行為が介在しない,承諾を取った場合には対象にならないはずですね。となれば,片側は大きな抜け穴になっているわけで,対抗要件の詐害行為取消制度の破綻は明らかではないでしょうか。 ○道垣内幹事 それも取消対象となるというのならば,取り消し得ると書けばいいだけでしょう。別に破綻が明らかになるわけではないと思います。今のままの条文だとすると,そこには債務者の行為と書いているから破綻が明らかになるというだけの話で,対抗要件取消を作るときに,債権譲渡の承諾というのを考えて,それなりの手当てを置けば,それで破綻は回避されるわけですね。 ○三上委員 しかし,詐害行為の「行為」を要件からはずしてしまうと,想定外に議論が広がりませんか。 ○道垣内幹事 詐害行為取消権という言葉もここで採否を決めればよい言葉ですから,その言葉がアプリオリに存在して,だから取消対象は債務者の行為であるというのがアプリオリに決まるわけではありません。今回,対抗要件具備に対して取消しということをすると仮に決めれば,それをできるように手当てをしていくというだけの話ではないかと思いますが。 ○内田委員 もうそろそろ進んだほうがいいとは思いますが,期間を15日よりも長くしてはどうかとかという話も沖野さんから出ていましたけれども,三上さんの理解では,対抗要件具備行為というのは実は担保権の実行行為なのだろうと思うのです。公示のない担保権があって,その公示を具備することが実行行為としての意味を持っている。その担保権の存在が実務上有益なものとして認められているのであれば,なぜ実行行為だけ叩くのだということのようにも思うのですが,それは結局,この公示のない担保権をどう評価するかにかかっているように思います。それは単なる無担保の貸付けではないかという評価をするのか,それとも,実務で受入可能なきちんとした公示制度を法が提供できていないために,それをカバーする実務が生じていると評価するか。後者なら,そこがきちんと制度的に手当てできれば済む話なのかもしれないという気はいたします。結論がどうということではないですが,期間を長くすれば三上さんが受け入れられるという話ではないのかという感じがしたということだけです。 ○松岡分科会長 一通り意見が出たと思います。整理がどう付くのかというのは難しいところでありますが,予定よりも大分長引いておりますので,引き続きまして,「(4)逸失財産の回復方法」の「イ 逸失財産ごとの回復方法」について御審議を頂きたいと思います。   ではよろしくお願いいたします。 ○金関係官 御説明します。部会資料35の101ページを御覧ください。この論点については,部会の第42回会議で審議がされ,具体的な規定の在り方等について分科会で審議することとされました。部会では,(ア)の論点について,譲渡担保権の被担保債権が弁済された場合の処理との整合性に留意すべきであるとの意見,(イ)の論点について,取消債権者への引渡しを命ずる判決と債務者への引渡しを命ずる判決の双方を求めることができるかどうかを問う意見,それから,(ウ)の論点について,詐害行為の目的物である債権に対して受益者の下で弁済がされた場合には,当該債権を取り戻すのではなく,受益者の下で弁済された弁済金を取り戻す方法を検討すべきであるとの意見などがありました。また,免除が詐害行為である場合について,その免除を取り消すことによって復活した債権を債務者が行使してよいのかどうか,そのような行使は制限すべきではないかという観点からの意見もありました。よろしくお願いいたします。 ○松岡分科会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして御意見を伺いたいと思います。御自由に御発言ください。 ○中井委員 弁護士会の意見ですけれども,ここはそれほど多くの意見が出ているわけではありません。前回の部会における問題点の指摘はさておき,(ア)については,抹消登記か移転登記かという,詰めはともかく,このような考え方についてほぼ異論はなし。金銭についても,多くの弁護士会は,自己又は債務者に対して支払いを求めるという形で問題はなし。ただ,大阪のみが,債権者に対して,金銭であれ動産であれ直接引き渡すことは認めるべきではなくて,受益者から債務者に対する支払いのみを認めるべきである。それはその後のほかの債権者の参加の手続も考えるとその1本が好ましい。   (ウ)の債権については,債権として取立てが完了していない限りにおいては,このような考え方でよろしいのではないか。逆に言えば,取立てが完了していれば,債権自体金銭に代わっているわけですから,金銭を直接受益者から支払ってもらう方法になるのではないか。   先ほど金関係官からおっしゃられた中の「(イ)金銭その他の動産」のところで,自己に対する引渡しを認める立場に立ったときは,受益者は自己に対する引渡しの請求と同時に,受益者は債務者に対して払えということもできるのではないかと私自身は考えております。ここは異論があるのかもしれません。 ○沖野幹事 イの問題のところで三つあります。一つは,大きな問題で考え方についてです。実際上余り問題にならないのかもしれませんが,そういう性格のものだと思いますのは,剰余金が生じる場合の取扱いをどうするかという点でして,それは戻した後の問題なんですけれども,戻した財産に対して強制執行がされる。それで思ったほど債権者が入ってこなくて剰余金が生じたときに,それを債務者に返すということでいいのか。その前提としては,受益者は,対価を払っていた場合,廉価の売却であるような場合ですが,その反対給付については優先的に確保できるという前提で,ですから受益者は少なくとも,詐害行為の対象となった行為自体によって自分が出捐した部分については,それは回復ができるという前提で,それを超える剰余金がどこに帰属すべきなのかという点です。可能性としては,債務者あるいは,これで供託が使えるのかどうか分かりませんけれども,いずれにしても債務者で,債務者のほかの債権者の引当財産になるという考え方と,一旦強制執行がされた以上は,それを超えては責任財産としては確保されないということで,受益者に剰余金を帰属させる,受益者に交付する,あるいは転得者かもしれませんが,そういう考え方があり得るように思われまして,どちらによるべきなのかという問題があると思います。   私自身は,債務者でいいのではないかと思っています。債務者に交付となると,使ってしまう可能性などがありますが,それは今回強制執行に入ってこなかったほかの債権者のための引当財産として確保されるという説明でよろしくて,その先,債務者の費消等の可能性にどう対処するかというのは別途の検討課題だと考えます。先ほど,免除が取り消されて債権が復活したときに,債務者に対しても効力が及び,債務者の財産として復活するとすると,本来はそれはほかの債権者のため,一般債権者のための責任財産として復活するに過ぎないのだという説明で,権利行使はできないというふうにも説明はできそうですのでそれと同様に考えられるのかもしれません。いずれにしても債務者の行使や費消をどう押さえたらいいか,その具体的な手法は直ちには考え付かないんですけれども,免除等の場合とも共通する話かとは思います。   第三は,その点に関連するものです。更にここで論じるべきなのかどうかも問題ではありますが,責任説によった場合どうなるのかという問題です。つまり,強制執行の準備段階であるということで,その準備段階さえ用意すればいいという場合に,その強制執行がなかなか起こらなかったときにどうなるのかというのが責任説に投げ掛けられた一つの問題ではありますけれども,一旦強制執行がされ剰余金が生じた場合,もともとはほかの債権者を含めた全員のための責任財産になっていたものが,剰余金となると責任財産から外れてしまうことになのか,責任説の下でもそれはなお責任財産としては残っており,したがって,それは受益者が交付を受けていても,その限りでは,今までは不動産なら不動産だったものが金銭の形になるので,今度は金銭について保証債務の履行的な扱いとなり,その限りでなおほかの債権者も権利行使ができることになるのかです。したがって,責任説による場合にも共通した問題となる話ではないかと思いますので,それはどちらかということをどこかで決めなければいけないのではないかと思います。 ○松岡分科会長 受益者,転得者に返すというのは,理論的にはどう基礎付けられるのですか。基本的に全部が取り消しされるという前提ですよね。 ○沖野幹事 はい。 ○松岡分科会長 そうすると債務者の責任財産に戻ってくるわけですから,それを再び受益者のところに戻すという論理は,なかなか見い出し難いように思うのですが,いかがでしょうか。 ○沖野幹事 強制執行がされたかどうかにかかわらず,形を変えても財産として戻ってきている以上は,責任財産としての性格はずっと保存されるのであって,それでよいと考えますと,債務者に渡すことになり,あとは債務者が自由に処分してしまうことに対して何らかの手当てをするかという問題のみが残るのだと思います。 ○松岡分科会長 おっしゃるとおり,特に詐害行為取消権で手当てをすべきかどうか自体も問題になり得ると思います。詐害行為取消しの話は終わっていて,一般財産に戻った後,ほかの債権者がどういう行動をとるか次第という気もします。 ○沖野幹事 私はそういうふうに思うのですけれども,一つは責任説との対比で,それと同じような帰結は責任説のほうでも採る必要があるのではないかという,むしろそちらの面が一つあります。もう一つは,どこまでの保護を受益者に認めるべきかという観点があります。受益者としては一旦強制執行に出してしまえば,そこまでのことであって,本来はその財産から享受できる利益は全面的に取れたはずだけれども,詐害行為取消が掛かる範囲においては甘受しなければいけないとすると,最初の強制執行のところまでで,あとは問わないというような説明もあり得るのかと思ったものですから。 ○松岡分科会長 自分の出捐した部分も全てとられてしまうということであれば,今おっしゃるような解決も選択肢としてはあると思いますが,先ほど沖野幹事自身が御説明になったように,出捐した反対給付は優先的に返還を確保できて,それは受益者若しくは転得者の固有の財産に戻ってきます。それを差し引いた残りが取消しで債務者の責任財産に戻るのですから,さらにそれが受益者や転得者に戻ってくる理由は見い出し難いように感じます。 ○高須幹事 いわゆる個別修正説というか,そういう形で考えていくと,沖野先生も基本的にはそれでよろしいのではないかという意見だと思いますから,取戻し構成を認めておいて,剰余金が出たときには受益者にというのは,法律構成としても分かりにくいのかなという気はいたします。   ここで責任説を主張するつもりはありませんけれども,御指摘がありましたので,責任説を採ったときには,当然,受益者にむしろ残してあるわけですから,取戻し構成を基本的に採らないわけですから,剰余金が出れば基本的には受益者がそのことの利益は享受できるはずだと。ただ,新しい御指摘を頂いたのは,その後,次の,もう一回強制執行があるということまで備えた何らかの意識をするのかどうかと,ここは私も勉強不足で,今,確信は持っていないんですけれども,イメージとしては,責任説というのは,受益者等の立場も考えて,取引の安全との兼ね合いでも,一番調整をしやすいのではないかということを考えたときには,ある程度受益者の下で,一度強制執行で終わったものについては,受益者のフリーハンドにしてもいいのかなという,イメージは今持っておりますが,そこは確信を持ったわけではなくて,考えたことがなかったというのが正直なところではあります。 ○中井委員 沖野幹事のおっしゃられたことに関連してですけれども,詐害行為取消権の行使の範囲をどう考えるのかというのと密接に関係しているのではないか。原則,被保全債権の範囲内で取消しができるという考え方を採るならば,本来的に余剰は生じないはずではないか。次は被保全債権を超えてできる場面として,不動産等を戻す場面ですが,原則は被保全債権の範囲で,例外的に,例えば一体のものを一体として戻した,そこで決着が付いていると私も素直に理解をして,仮に余剰が出ても,それは債務者財産に残り,ほかの債権者は遅れてでもそれをほかの方法で回収の引当財産にしていい。こう考えることになるのではないですか。 ○沖野幹事 繰り返しですが,そうであれば,私自身はそれでよろしいと思っておりまして,高須幹事が先ほどおっしゃった形については,むしろ責任説の立場からすると,そこで切られないということに本来はなるべきではないかという感じもするんですけれども。 ○高須幹事 確かに文献に載っている責任説的な理解だと,先生がおっしゃったような理解なのかなという気も一方ではしているんですけれども,今の御指摘を聞いていると,本当にそれでいいのかなというのは,私の心の中にも浮かんできたというのが先ほどの発言でございます。 ○岡委員 詐害行為取消権の行使によって,対象物が債務者名義になり,当該強制執行で競売をされて剰余金が出た場合,多すぎた取消部分を消滅させて,受益者のほうに返すのが筋かなと私は思いました。 ○金関係官 今回の提案は,詐害行為取消判決の形成力が債務者にも及ぶというもので,しかも,その効果は他の債権者にも及ぶということを前提としております。そうした場合に,財産の移転行為が取り消されますと,その所有権は債務者の下へ完全に戻ってくるということになると思いますので,剰余金は債務者に戻さざるを得ないのではないかと思っております。逆に,責任説を採れば,その所有権は債務者の下へは戻ってこないので,剰余金は受益者に戻る,戻し方はいろいろあるかもしれませんけれども,そういうことになるのではないかと思っております。結局,所有権が債務者に戻ってくる折衷説と戻ってこない責任説とで,一律にそこは決まってくるのではないかと思いました。 ○潮見幹事 そうはならないのではないでしょうか。私も責任説を採っている者ですが,私自身は,今,金関係官がおっしゃったような形では捉えてこなかったつもりです。むしろ,絶対的構成か,あるいは受益者の下に財産を残すか,言い換えれば所有権がどこにあるのかが決定的ではなくて,当該財産を取り戻した,あるいは取り消した結果として,それが債権の引当てとしての責任財産の状態を回復したと捉えるのか,それとも,その人の一般財産,広い意味ですけれども,その人の所有する財産というものを回復したのかという,その部分をどう理解するかによって変わってくると思うのです。   実際に今回,補足説明とかで考えられている枠組みを採って,先ほど岡委員がおっしゃったような考え方を採るということも,あながち矛盾はしないと思います。余剰金をどういうふうに分配するか,そこのところで責任財産の保全という目的を超えた余剰財産についての帰属主体をどう考えるかといいことでは,どちらにでも組めると思います。どちらが望ましいのかという観点から考えていけば,それでいいのではないでしょうか。 ○畑幹事 どちらに渡すのがいいかという実質論は分からないのですが,執行手続的には,今の枠組みだと,債務者に登記名義を戻して,それが抹消であるか移転であるかは別として,戻して,債権者が差し押さえて執行するという話になっているので,そうすると,執行裁判所としては,執行手続上の所有者に,今の手続の枠組みでいくと渡さざるを得ないのではないでしょうか。したがって,もし受益者のほうに渡すという考え方を採るなら,手続的にも考える必要が出てくるのではないかと思います。 ○中井委員 私が受益者に戻すのが疑問だと思うのは,不動産を取り消して債務者のところに戻した,だからといって取消債権者が戻した不動産に対して強制執行しなければならないのかといったら,必ずしもそうではないと思うのです。戻れば目的を達する場合もあるし,戻って賃料収入で回収を図ろうと考える場合もあるでしょうから,詐害行為取消権の行使の結果は戻るところまでであって,その後の換価や回収行為というのは別ではないでしょうか。そうすると,どこで余剰が生じるかという概念自体がそれほどはっきり決まらないように思うので,余剰が生じたから受益者に戻すという考え方は,理解し難いのですが。 ○内田委員 少数説を言ってくださったから支持するというわけではないですが,今,中井先生のほうから理解し難いと言われたのですが,潮見さんが言われたようなことは理論的には可能だと思うのです。ただし,手当てが要りますよね,取消しの効果について。だから,かなり条文を追加しないといけないと思うのですけれども,責任財産的取消といった感じで財産を戻して,債務者名義になったけれども,完全に自分の財産として好き勝手にしていいのではないということを手当てすれば,それは可能で,岡先生が言われたような受益者に戻すということもあり得るとは思うのです。しかし,それはそれを可能にする規定の案を作っていただかないと,簡単にはいかないという感じがします。 ○沖野幹事 全く別の話ですが,判決の主文が自己への交付を求めるというような主文であったときに,ほかの債権者はどのような権利行使ができるかという問題が提起されていたでしょうか。 ○金関係官 恐らく今の御質問は,判決の主文が「詐害行為を取り消す。その取消しによって返還すべき金銭は取消債権者に支払え。」という内容のものである場合に,債務者の受益者に対する債権は発生するのかどうかを問う御趣旨であると思いますけれども,その点については発生するという理解をしておりまして,ほかの債権者はその債務者の受益者に対する債権を差し押さえることができると理解しております。詐害行為取消訴訟の形成訴訟に対応する部分の判決といいますか,「詐害行為を取り消す。」という内容の判決さえあれば,その形成力が債務者にも及ぶので,それだけで債務者の受益者に対する債権が発生する。ただし,その債務者の受益者に対する債権には債務名義がないということになるとは思いますけれども,いずれにせよ,実体法上の権利としては確定的に発生すると思いますので,差押えの対象にもなるという理解をしております。 ○沖野幹事 分かりました。では今のは取り下げます。 ○松岡分科会長 この問題については,ほかに御意見を頂戴することはありますか。 ○金関係官 すみません,1点だけ,先ほどの(ウ)のところについて,中井委員から弁済金を取り戻すという御指摘がありましたけれども,ここはむしろ,詐害行為である債権譲渡行為によりその債権が受益者の下へ逸出して,その債権が受益者の下で弁済されて消滅してしまった後に,その債権譲渡行為が取り消されたのであれば,もはやその債権を債務者の下へ戻すことは不可能であるため,価格償還の請求をするという理解をするのではないかとも考えております。弁済金を取り戻すというのと結論は同じですけれども,価格償還の請求をするという整理をすることについて,中井委員が反対の御立場であるかどうかを念のため確認させていただければと思います。 ○中井委員 私は価格賠償の趣旨で,債権が金に変わったと。不動産なら不動産を売却したというのと全く同じという理解をしておりますので,価格賠償での返還で結構かと思います。 ○金関係官 ありがとうございました。 ○中井委員 (イ)の金銭の場合ですけれども,先ほど金関係官が述べられたこと,私は問題意識を間違えたのかもしれませんけれども,取消判決が確定することによって債務者は受益者に対して金銭の返還請求権も取得する,だからほかの債権者は債務者の取消しの効果としての返還請求権に対して差押え等ができる,こういう御趣旨の発言だったんでしょうか。 ○金関係官 はい。 ○中井委員 そうだとしたときに,取消判決で,直接,給付も認められる考え方に立てば,債権者は自分に対しても払えという判決がある。自分に対する給付を命じる部分があるにもかかわらず,他方,債務者から受益者に対する債権が差し押さえられたときの整理は,厄介な問題が生じるような気がするのですが,それほどきれいに整理できるんでしょうか。   逆に,そういう問題があるのであればですが,大阪の提案は,債権者に対する給付を認めない,全て取消判決の効果としては,受益者は債務者に返還を命ずる,これで統一する,その一本主義ですが,そうすれば,それに対して,取消債権者は直ちに強制執行していく。ほかの債権者もそこに加わることは自由にできる。それできれいに手続が進んで複雑な問題は生じない。   申し上げたかったのは,金関係官のおっしゃった問題が私の申し上げたようなことだとすれば,そういう複雑なことを考えると,大阪案というのは魅力的だなと改めて思った次第です。 ○金関係官 詐害行為を取り消すという判決が確定すると,それだけで形成力が債務者にも及ぶので,債務者に対して支払えという判決がなくても,債務者の受益者に対する実体法上の債権は発生するということを先ほど申し上げたかったのですが,その場合において,受益者はそのあとどうするのかという点については,債権者代位権の場合のように,債務者に支払っても取消債権者に支払ってもよいのかどうかという点を検討しなければならないと考えております。現在の提案では,複数の取消債権者のうちの一人に支払えば免責されるという規律だけが提案されていますけれども,それは債務者に支払っても同じことではないかと考えておりまして,債権者代位権の場合と同様に,詐害行為取消権の場合も債務者に支払ってよいという理解をしております。結局,取消債権者のうちの誰か,あるいは債務者に支払えば,受益者としてすべきことは全て尽くしたということになるのではないかと考えております。 ○山本幹事 それは差し押さえられていてもですか。 ○金関係官 差し押さえられた場合には,弁済禁止効が働くと思いますけれども…… ○山本幹事 私の誤解かもしれませんが,先ほどの中井先生は,判決主文は取消債権者に支払えという判決が出て,それから詐害行為取消しという判決が出た後に,支払う前にほかの債権者がその債権を差し押さえたと。その場合は取消債権者に払えるんですか。 ○畑幹事 卒然と考えると払えそうですけれども。 ○山本幹事 それは何で払えるのか。 ○畑幹事 別の債権だからではないですか。 ○山本幹事 では,債権者代位とかという話ではないということですね。 ○金関係官 そこが,従来は詐害行為取消しの効果が債務者には及ばないとされていた関係で,確かに債権者代位権とは異なるものとして理解されていたように思います。債権者代位権は,債務者の第三者債務者に対する権利を代位債権者が行使するという構造であるのに対して,詐害行為取消権は,そうではなくて,各取消債権者の有する詐害行為取消権の中に給付請求権も含まれているという理解がされていたと思います。その観点からは,畑幹事がおっしゃったように,取消債権者の受益者に対する債権と債務者の受益者に対する債権は別のものだから,という説明になるのかもしれません。ただ,詐害行為取消しの効果が債務者にも及ぶということになれば,詐害行為が取り消されたことを前提とする給付請求の部分については,債権者代位権と同じような構造になると整理すべきではないかと少し感じております。仮にそうだとすると,債務者の受益者に対する債権が取消債権者以外の債権者によって差し押さえられた場合には,受益者としては,差押えによって弁済禁止効が生じている債務者の受益者に対する債権を行使してきた取消債権者に対しても,やはり支払うことはできないということになるのではないかと感じております。 ○筒井幹事 先ほど中井委員が指摘されたのは,直接の引渡しの可否のところで議論されている問題そのものですね。本日の分科会のテーマにはなっていませんけれども,取消債権者に対する直接の引渡しを認めるかどうかというところで,それを認めないという大阪弁護士会から御提案いただいている考え方が,実は理論的にもすっきりする解決を導くのではないかという御指摘ですね。 ○中井委員 はい。(イ)との関係で。 ○筒井幹事 部会資料35で言えば,91ページから92ページの辺りで紹介している議論ではないかと思います。 ○岡委員 では,今の法務省の部会資料では,直接引渡しの判決が確定した後でも,債務者に受益者が払ってしまえば空振りになると,そういうのを認めるという提案になるんですか。 ○金関係官 その点は,詐害行為取消権の行使とその後の強制執行手続とを制度的につなげるかどうかという問題とも関係すると思いますが,部会資料では両者をつなげるための提案はしておらず,取り消した後は各事案ごとに例えば仮差押えをすべき場面であれば仮差押えをしなければならないという整理をしておりますので,岡委員の御質問に現時点で答えるならば,空振りになることを認めるという回答になると思います。 ○岡委員 今の実務とはかなり変わるわけですね。 ○金関係官 今の実務は,そもそも詐害行為取消しの効果が債務者には及ばないことを前提としておりますが,今回の提案ではそこが根本的に変わっていますので,確かに従来の実務と変わることにはなると思います。 ○松岡分科会長 岡委員,そういう説明でよろしゅうございますか。 ○岡委員 その結論がいいかと言われると困りますが,説明は分かりました。 ○松岡分科会長 結論の問題ではなくて,今の説明で質問に答えているかです。   それでは,続きまして,「4 取消権者と債務者との関係(費用償還請求権)」についても御議論を頂きたいと思います。これも事務当局から説明していただきます。よろしくお願いします。 ○金関係官 御説明します。部会資料35の103ページを御覧ください。この論点につきましては,部会の第42回会議で審議がされ,具体的な規定の在り方等について分科会で審議することとされました。部会では,費用の範囲を明確にすべきであるとの意見がありました。よろしくお願いいたします。 ○松岡分科会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして御意見を伺いたいと思います。御自由に御発言ください。 ○高須幹事 代位権のところでも同じような議論をした記憶があるんですが,そのときに伺っていてなるほどと思ったのは,費用償還請求権そのものの範囲の問題と,それと先取特権を認めるかどうかの範囲の問題は,必ずしも一致をしないのではないかという点です。この部分は,なるほどそうかなと思っております。   その意味では,費用償還請求権としては弁護士費用等も含めて,要するに債権者取消権を行使したのだから,それは当該財産に対する保存に関わる行為でございますというようなことで,ある程度の費用償還請求権の発生を認めると。端的に言えば,弁護士費用だって視野に入れるということは可能なのかなと。   ただ,その上で先取特権まで認めるということは,優先的な扱いを認めるということになりますから,そこにはもう一つ政策的判断があって,いわゆる弁護士強制主義が採られていないという前提の中で,弁護士の報酬債権まで先取特権で保護される範ちゅうまで入れるかどうかは,もう一つ考え方があっていいのではないか。現在のところでは,一般化はできないのかもしれませんけれども,東京高裁の平成11年2月9日判決,高裁の裁判例ではありますが,今のような弁護士強制主義ではないというようなところを踏まえて,民法307条の共益費用,つまり先取特権を付与するようなものには当たらないといった下級審裁判例などもありますので,ここは場合によっては,先取特権までは与えないという発想があってもいいのかなと。以前の代位権のところの議論を通じて,何となくそのように思っております。 ○山本幹事 株主代表訴訟との関係で会社法の852条という規定があると思うんですけれども,これとの整合性というか,まず勝った場合に限定するということと,必要な費用で訴訟費用を除いているということと,弁護士報酬については相当と認められる額の支給を請求することができるという規律をして,先取特権については特に書かないというやり方を採っているようですけれども,詐害行為取消は少し違うのかもしれませんが,債権者代位なんか似たような感じもするんですが。 ○金関係官 前回の第2分科会の債権者代位権のところで山本幹事が同様の御指摘をされたときに,債権者代位訴訟と責任追及等の訴えは,確かに訴訟の構造は同様であるけれども,責任追及等の訴えについては,役員の責任を追及するということのインセンティブと申しますか,それを奨励する必要があるという考慮もあると思われる一方で,債権者代位権については,そういったインセンティブを確保する必要はないので,会社法第852条の規定を直ちに債権者代位権に応用することには若干の問題があるのではないかと申し上げましたが,詐害行為取消権の場合には,一般にインセンティブを確保する必要があるという議論がされておりますので,それとの関係で言えば,詐害行為取消権のところでは山本幹事の今の御指摘をより参考にしなければならないとは思っております。 ○高須幹事 今の御指摘は,そういうお考えがある,従前から言われていることですし,なるほどそういうことも考えねばならないとは思っているんですが,インセンティブという話をするときには,慎重に考えないといけない。詐害行為取消権の場合には,詐害行為が行われているのだから,それをできるだけみんなが取り消せるようにしよう,そのためにインセンティブを与えようというのが,ある意味では分かりやすい話なんだけれども,実際の訴訟ということだといろいろなインセンティブが働きますので,代位権と違って取消権はインセンティブを与える必要があります,それで弁護士費用も持ちましょうというほど,話は単純ではないと考えています。   つまり,我々実務家としては,弁護士で詐害行為取消訴訟を頼まれるときには,基本的には依頼者が自分のことを考えて起こしてきているわけで,それなりにインセンティブを持っているわけですね。この裁判でうまみがあると思うからある程度やっているという部分はありますので,よく考えて,今の議論のインセンティブの中身を考える必要があるのかなと思います。 ○中井委員 費用償還請求権の考え方は,基本的にはいいと思うのですが,先ほど高須幹事が,費用償還請求権の範囲に弁護士費用は入れる,しかし先取特権の範囲には入れないというのは,それほど多く弁護士会から出た意見ではないですね。 ○高須幹事 すみません,説明が足りませんでした。それは私が,この前の代位権のところの議論を通じてそう思ったというだけですので,申し訳ありません。 ○中井委員 分かりました。   ではそれを前提に,弁護士費用を入れるか入れないかは議論の価値があると思いますけれども,入れるとしたときに,この二つで差を設ける考え方は違和感を覚えました。先取特権を付与するとしても,総財産に対して優先権を持つ,それを無条件に認めていいのか。つまり,少なくとも取り戻した財産の限度を超えてはいけないのではないかと思いますので,総財産というよりは,取り戻した財産を限度にして,場合によっては総財産の範囲内なのかもしれませんけれども,そのような限定が必要ではないかと感じました。 ○三上委員 実際,取消権を行使する側の発想でいきますと,今までは,特に債権などは,早い者勝ちだったものが,それを規制するという方向で議論が進んでおりますが,そうなった場合,取戻しが終わった後から乗ってくる債権者は,苦労の部分のただ乗りではないかという感が強くなると思います。したがって,総財産ではなくて,当該取り戻した財産の範囲内で,そこに掛かった費用は最低限でも先に取りたいという発想だと思います。そういう意味で,受益者の反対給付のときには,特別の先取特権というのが出てくるんですけれども,受益者は取り消されるようなことをしたのだということを考えると,本来は,この先取特権よりも更に優先するような先取特権を費用償還に与えてもしかるべきではないかと感じます。 ○金関係官 御指摘の点につきましては,部会資料35の106ページの5(2)のウのところで,取消債権者の費用償還請求権に関する一般の先取特権が,受益者の反対給付の返還請求権に関する特別の先取特権に優先するということを提案しております。 ○高須幹事 そのような先取特権を認める場合に,幾つかのルールは決めなければいけないのかという,回復した限度でというのはあるとしても,さらにその中でどの程度の報酬を認めるのかの判断を,先取特権の場合には基本的には,配当の中でできることだと思うんです。先取特権の執行法上は,強制執行の中で配当すべき債権ということになってくるので,その額をどうやって決めるのかとか,複数の詐害行為取消権があって勝訴して,勝訴した弁護士が何人もいるというときに,どういうふうに分けるのか,あるいは分けないのか,その辺もよく分かりませんが,そういったことをある程度決めておかないといけないのかなという気はします。ですから,私は先ほどそのような言い方をして,そこは消極論なんですが,仮に認める場合には,ルールはきちんと決めないといけないのではないかと思います。   費用償還請求だけですと,それは債権を持っているというだけのことですから,強制的にそれを取り立てたければ訴訟を起こすしかないわけで,訴訟の中で判決手続を通じて,相当な,例えば弁護士費用は幾らだという判断は出るのかもしれないですが,先取特権の場合には,訴訟構造は確か採らない,採る必要はないのだろうと思いますから,何かその辺のルールがないと,全部配当異議で処理するんだとしたら,大変になると思ったりしております。 ○松岡分科会長 現在の共益費用の先取特権も基本的には同じですね。 ○高須幹事 代位権のところでも議論が出たんですが,弁護士費用を請求したという覚えがないものですから,実際こうやっていますという説明ができないんですが。少なくとも先ほどの東京高裁のようなものは認めないという結論ですので,多くの弁護士は,どちらかというとできないのと考えているのではないかと思っているんですが。 ○岡崎幹事 分科会長から先取特権についてのお話がありましたけれども,ここでの問題に限った話ではありませんが,どういう支出項目についてどのくらいの額の先取特権が認められるかが条文上はっきりと書かれていませんと,執行の現場は非常に困ったことになるということが裁判所の中で言われています。もっとも,これまで,そのような費用について先取特権が行使された例は余り多くなく,具体的にどういう条文にすればよいかを提案することは困難なようでして,そういう意味ではあい路がある部分なのかと思っております。 ○山本幹事 今の財産の限度内でというのは,ほかの財産を差し押さえる,戻ってきた財産以外のものも差し押さえることができるということを前提にしているということなんですね。しかしそういう必要はあるんでしょうか。そうすると,ほかの財産を差し押さえて,先ほど高須幹事が言われたように,その配当手続の中で,取り戻した財産の価格は幾らだったのかということが争われるということになりますよね。評価か何かして争われるという,すごく変な構造のように思えて,それなら,その財産について特別先取特権か何か与えたほうが簡単なような気もしますけれども。 ○中井委員 先ほど言葉足らずだったのかもしれませんけれども,基本的な考え方としては,財産が戻る場合,不動産若しくは動産が戻る場合,それと金銭が戻る場合,方法は二つだろうと思うのです。特定の財産が戻ったときは,おっしゃるとおり,費用についても,当該財産の価格を限度とする以上,当該財産に対して先取特権を認めるという特別の先取特権構成で別に構わないと思います。金銭が戻ったときは一般財産に混入されますから,そのときに,費用は幾らでもいいのか,優先権を認めるのかと,それは違和感があるので,それは戻った財産の価格の限度でないとおかしいだろうと,これを申し上げたかったわけです。それをどう組み合わせるかは,実務的には難しいのかもしれませんけれども,理屈の上ではそういう切り分けをいたしましたという発言です。 ○山本幹事 金銭であれば評価の問題は生じませんので,それは確かに問題ないかもしれません。 ○中井委員 追加ですけれども,そう考えたのは,この後,反対給付についての返還請求権をどうするか,それは物で戻したときには,その物に対して特別の先取特権を認めるわけですから,そこには順位があって,費用のほうが第1順位で反対給付が第2順位になるという理解をしています。物で戻らなかったときは,反対給付についてどうするか。提案では,先取特権的構成はできませんから,費用については一般の先取特権で戻った財産の価格で,反対給付分についてはどうするのか,今のところは請求権があるという切り分けになっているという理解をしております。 ○松岡分科会長 今,ちょうど中井委員から反対給付の扱いという話も出ましたので,引き続きそちらも議論をさせていただければと思います。「5 債務者と受益者の関係」の「(2)受益者の反対給付の取扱い」についてでございます。これも事務当局から説明をしていただきます。 ○金関係官 御説明します。部会資料35の106ページを御覧ください。この論点につきましては,部会の第42回会議で審議がされ,具体的な規定の在り方等について分科会で審議することとされました。部会では,先取特権を付与することに否定的な意見,詐害行為の目的物の価額を償還した場合について先取特権の付与にはなじまないのではないかとの意見,詐害行為の目的物を返還した上での優先権ではなく,その返還をすることとの同時履行の発想を取り入れるべきかどうかを問う意見,それから,取消債権者には常に価額償還請求権のみを認めた上で,受益者には反対給付の価額との差額のみを償還させるということでよいのではないかという意見などがありました。 ○松岡分科会長 今説明がありました部分につきましても,先の問題と併せて御意見を伺いたいと思います。   仮に費用の先取特権を認めるとして,その場合の順位の話と,幾つか出ていた御意見のうちで,特に価額償還との同時履行にしたり,あるいは価額償還のみの場合に反対給付額の差額だけを償還させるという意見に与しますと,費用の先取特権と反対給付の順位が逆転することになりませんか。 ○金関係官 御指摘のとおりだと思いますけれども,それでよいという御意見だったと思います。 ○松岡分科会長 それでよいという意見は,私が申し上げたのかもしれませんが,あり得る選択肢であると思います。 ○金関係官 今後の作業との関係で申しますと,今の,順位を変えることになる差額のみの償還とか,同時履行の発想とか,この辺りについての感触を伺いたいと考えております。 ○松岡分科会長 誰が答えるのでしょうか。 ○金関係官 部会では沖野幹事が同時履行の発想に言及されたと思いますけれども……。 ○高須幹事 そういう発想自体は一つ合理的なような気が私はします。というのは,取戻しということが持っているいろいろな問題点を考えたときに,ここで差額だけの清算というような解決方法というのが一つあってもいいのかなと。ただしそれは,取消権をどう考えるかによって全然意見が違う場合があるとは思いますので,何とも言えませんけれども,私はシンパシーを感じる考え方ではあります。 ○松岡分科会長 私もそういう考え方に近親感を持っており,そもそも差額ないしは同時履行ということは,債務者の責任財産から実質的に出ていった部分は正に差額部分であるから,それを戻せば十分だという発想です。ただ,目的物が不可分で現物返還しかないときには,全部を取り戻さざるを得ないので,価値的に反対給付に当たる部分は差し引かなければ逆に不公平になります。それゆえに,その財産の価格を限度に,その上の先取特権を認めることになります。   そして,提案では費用のほうが上で反対給付の先取特権が下となっていますが,この発想からすると,実質的に取り戻す額の中から費用も賄うべきだということになりまして,先取特権の順位は,むしろ逆になるのではないでしょうか。沖野幹事の無権代理みたいになっていますが,沖野幹事は違うことをおっしゃっているのですか。 ○内田委員 同時履行を認めないとおっしゃったのではないですか。 ○沖野幹事 同時履行の抗弁権はそもそも前提として認められるのかということと,その前提が確認されたときに先履行にすべきなのかということです。考え方は,今,高須幹事や松岡分科会長がおっしゃった考え方を採るか,それとも詐害行為取消権の高位性を認めるか,確かに本来は戻ってきたもので賄うべきものだけれども,賄えないような費用であるならば,本来は起こすべきではなかったのかもしれませんけれども,その部分の判断のリスクということもありますし,受益者は基本的には悪意者であるということを考えるならば,少なくとも相当な費用として優先的に,共益になるような部分だけは手当てをしてあげようというふうに考えるならば,その範囲では取消債権者を優先させるということになって,そうだとすると,同時履行についてもそれを封じておくという考え方も採れるだろうと思います。ですので,いずれも説明や考え方としてはあり得ると思ってはいます。   その上でどちらかということと,もう一つは,そうは言ってもこの両者の優先関係が問題になる場面がどのくらいあるかということがありまして,この優先関係が問題になるというのは,全体としての財産が,受益者に払うべき反対部分と取消債権者に優先的に回収を認める費用も取りはぐれるというような場合ですよね。そんなときに詐害行為取消しを掛けるということがあり得るのだろうかという疑問がわきます。そうすると,そういう場面は実際上は無視してよいという判断ができまして,そうすると簡易な決済の仕方のほうがいいのではないか。ですから,理論的な考慮やあるいは両者の優先関係が問題になるときには,取消債権者を優先すべきであるという考え方を採るとしても,それをどこまで制度として徹底的に用意するのかという観点からは,そこまでは徹底しなくてよいという考え方もあるのではないかと思っております。さらに,先取特権とすると,金銭ですとか,そういうような場合にどうするかという問題がありますので,かなり手当てを考えなければいけないと思われるのですが,その割には,そこまでして確保しようとした限界的な場面が本当に発動する場合があるのかというと疑問だとしますとこの点でも消極的になるという面もあるのではないかと思います。 ○三上委員 現段階での詐害行為取消が利用される場面は,よほど多額の回収が見込まれる場面だけです。それなりに立証が難しいですし,訴訟を起こすのも大変ですから。ですから,飽くまで机上の議論なのかもしれませんが,費用のほうが優先しないということであれば,恐らくそういう場面では,債務者は無資力ですから,実際にはその範囲で詐害行為があったにもかかわらず訴訟費用倒れになるかもしれないということになって,取消訴訟を起こすインセンティブは低くなると思います。 ○中井委員 大阪弁護士会からは,ペーパーで提案をしておりますけれども,差額償還的な発想は,民法のレベルにも入れるのが適当ではないか。実務的にも,ほとんどが金銭的な処理がなされている例が多いのではないかという背景があります。それが一つ。   それを認めたときに,松岡分科会長から御指摘のあったように,費用と反対給付の優先関係が逆転するような御示唆がありました。確かに,原則は費用が優先して,それから反対給付ではないか。それは費用の共益性が第一の理由ですし,反対給付の返還と言っても,悪意だったわけですから,その限りで劣後してもやむを得ないのではないか。それをどういう形で差額償還を認めたときの差額の金額の定め方について反映させるのか,技術的に難しいから,その限りではそこまでは徹底しなくてもいいという考えも,あってもいいのかなと思いました。   基本的には費用優先が妥当ではないか,他法で,差額償還は認めてほしい,そこで調和がとれる解決ができないか,こういう意見でございます。 ○潮見幹事 今の差額償還なんですけれども,細かいことは別にして,一番基本的なところで,先ほど分科会長が言われた金銭以外の物の返還が問題になる場面でも,少ないとは思いますけれども,差額償還を認めるべきだということではなく,金銭の場合に限ってということですか。 ○中井委員 物で返せない場合ですね。 ○松岡分科会長 現物返還ができるなら,基本的には現物返還になるのでしょう。 ○沖野幹事 そのときには同時履行というのも否定して,特別の先取特権とかでということですね。 ○松岡分科会長 そうしないと,調和というか,一貫性がとれないですね。 ○潮見幹事 そうですか。 ○松岡分科会長 そうではないですか。 ○潮見幹事 そうとは言い切れないのではないかなと思いますが。 ○道垣内幹事 その解決は十分にあり得ると思うのですが,そうしないと一貫性が保てないとおっしゃった理由がよく分かりません。金銭で返すときには差し引いて返せばいいわけですね。それは全てのものに優先するわけですね。 ○松岡分科会長 返す範囲を決めるのが先で,反対給付分を差し引いて決めるのですから,その範囲から費用を優先的に先取特権で取ることになります。 ○道垣内幹事 先取特権で取るのか。 ○松岡分科会長 費用はどうするのですか。 ○道垣内幹事 費用を取るのですか。 ○松岡分科会長 先ほどから,行使の費用の話を問題にしていませんか。 ○潮見幹事 費用に限った話ではないのではないでしょうか。 ○道垣内幹事 誰が差し引くのですか。 ○松岡分科会長 差し引くというのは,受益者又は転得者が価額返還するときに,反対給付の額を差し引いて計算する。 ○道垣内幹事 費用ではないですよね。 ○松岡分科会長 それは違います。その後で,取消債権者が費用について先取特権が認められるとしても,その返ってきた価額返還の上に存在することになります。だから,どちらが先かというと,反対給付を差し引くほうです。 ○道垣内幹事 そうですね。 ○松岡分科会長 現物が戻ってきた場合において,反対給付部分について先取特権が付いていて,費用の先取特権もあるときも,同じ理屈で言えば,反対給付部分の先取特権のほうが先で,その行使によって言わば反対給付分を差し引いたものが,正味返ってきたものですから,費用はその次になるはずです。その先取特権の順位が費用が先として逆転するのはおかしくないですかと申し上げたのです。 ○道垣内幹事 私は逆をおっしゃったのかと思いました。分かりました。しかし中井委員は。 ○松岡分科会長 中井委員は費用優先説です。 ○道垣内幹事 ですよね。 ○松岡分科会長 それもよく分かります。特に,取消しが認められる場合は,先ほど中井委員や沖野幹事から御指摘がありましたように,受益者,転得者が悪意であって,この言葉を使うのが適切かどうか分かりませんが,要保護性は極めて低い。少なくとも取消債権者よりも低い。そういう場面であることを重視すれば費用が先というのも分かります。 ○金関係官 金銭の場合の差額償還と最も整合しているのは物の場合の同時履行だということが,潮見幹事と道垣内幹事がおっしゃっていることのような気もしましたけれども。 ○道垣内幹事 私は確認しただけです。 ○潮見幹事 同時履行かなというか,物と金の場合で違った枠組みになるというのがどうも落ち着きが悪いし。 ○松岡分科会長 だから,私も落ち着きが悪いという趣旨で申し上げています。 ○潮見幹事 他方で,中井委員がおっしゃった費用優先というのも分からないではないので。 ○道垣内幹事 少し分からないんですが,具体的にはどういう解決を予定されているのかということです。つまり,債務者は無資力ですよね。反対給付を払いなさいと言って,債務者は別に,自分が詐害行為取消のインセンティブを執っているわけではないですから,この不動産を執行していただくために私が債権者に反対給付を返しましょうと債務者が言うわけはないわけですね。そうすると,そのときには取消債権者が代わりに払ってやるということを予定して考えればよいのでしょうか,同時履行関係になったというとき。 ○中井委員 私は,先履行してもらわなければいけないと思うんです。 ○道垣内幹事 ええ。でも仮に同時履行になったとき。 ○沖野幹事 そういうことになるのではないかと思うのです。ですので,同時履行の問題はあるのだけれども,実をとるためには先履行にして,先取特権を付けて,そして優先順位のことを考えないといけないのだと思います。でないと取消債権者が現金を用意してまで,費用は出すは,現金は出すは,取りはぐれの可能性もあるはというのでは,非常に問題だと思います。 ○松岡分科会長 それは制度設計として極めて問題で,詐害行為取消権は極力使うなと言っているのに等しくなるでしょう。 ○道垣内幹事 さきほど,金関係官に,私は確認しただけですと申しましたのは,私はどちらかと言えば中井委員,沖野幹事に賛成で,先履行して特別の先取特権にしないと回らないような気がしてならないのですけれども。 ○岡委員 ちょっと確認だけ。倒産法では,破産管財人の費用は一切観念していない。受益者の反対給付は,善意であれば共益債権,財団債権とするだけで,先取特権は付与していない。そういうことですよね。ただし破産管財人は償還請求権を選択できる,差額を返せということを選択できるという条文になっていますよね。 ○山本幹事 破産管財人は,弁護士とかを雇えば,その部分は財団債権とかになるのではないですか。 ○岡委員 財団債権に……。一般先取特権だからそんなそごはないと。随分違う形になりますけれども,それは民法と倒産法が違うから,それほど違和感はないという理解ですか。 ○畑幹事 それはここでの議論がどうなるかによるのですが,多分,倒産法の枠組みだと,費用のほうが優先しているのですよね。財団債権の中でも順位が高いので。 ○岡委員 管財人報酬の一部だからと。 ○畑幹事 条文は忘れましたが,財団の管理運営費用なので,順位としては高いということになっていると思いますが。 ○金関係官 倒産法との関係について若干補足いたしますと,破産法上,現物を破産財団に戻して財団債権を取得するというのと,民法上,現物を債務者に戻して先取特権を取得するというのは,基本的にパラレルのものとして理解しておりまして,その場合に費用のほうが優先するという点も含めて,今回の提案と倒産法は整合性がとれていると理解しております。 ○中井委員 別の細かな話で申し訳ないんですが,資料のアの反対給付ですけれども,返還又は価額償還になっていますから,現物があれば反対給付でも,その物を返してもらう。反対給付の対象となるもの,交換などの場合を想定したらいいと思うのですが,それがなくなっているときは価額で返してもらう,こういう考え方だろうと思います。仮に受益者のほうが金銭で債務者に返還する,交換した価値のある物が滅失しているから価額で返還する。しかし,交換した他方の安い物は債務者の手元に残っている。それは現物で戻るのを原則とする。果たしてその規律はいいのか。つまり,金を返した上で物を返してもらう。それよりは,物で返してもらうのではなくて,それも価額償還が優先する。価額で返すことで,差し引き決済ができる,差額償還ができる,こういう考え方があるのではないか。大阪弁護士会の提案はそうなっていますので,参考のために申し上げておきます。   反対給付が物か価額かのときに,原則は物,物が駄目なときは価額というのが一般的理解ではないかと思いますが,そこは順序を入れ替えてもいいのではないか,こういう話です。たとえ物があっても価額で償還できる,そうすると差引きもできるという考え方です。1008条に書いてありますので,参考にしていただければと思います。 ○道垣内幹事 今の中井委員の話は遺留分減殺請求みたいな感じですね。物で返してもよいという話なのですが,それはともかく,私は,確か中井委員,沖野幹事はそうだと思うんですが,特別の先取特権が一般先取特権よりも常に優先でいいのだと思います。ただ,そう考えないで,仮に106ページに書いてある原案で,一般先取特権のほうが特別先取特権に優先するとしたときの処理がよく分からないのです。つまり,包括執行の場面において,財団債権の中に順位が付いているというときには,全部のお金の中から順番に出していって,なくなったら終わりという話になるわけで,順位は自然に付くわけなんですが,総財産を対象としている共益費用の先取特権と特別先取特権との競合関係において,特別の先取特権の目的物が競売されたときに,共益費用の先取特権のほうで全額の配当要求をして,それに全部配当されたら,どうなるのかなというのが分からなくて,過当なのかなというのが,処理がよく分からないなという気がします。 ○金関係官 この先取特権は共益費用に関する一般の先取特権で,総財産に掛かっていけるので,どの財産に掛かっていってもよいということなのではないでしょうか。 ○道垣内幹事 特別先取特権を否定する形でいってもよい。 ○筒井幹事 現在で言えば,租税債権が関係する場面で起きているようなことですね。 ○道垣内幹事 租税債権のような形。 ○山本幹事 破産の場合にどうするかということなんですけれども,別除権を実行して一般先取特権が優先的破産債権になると思うんですが,特別先取特権を実行したら,そこに配当要求できるんですか,別除権が実行されたときに。何か規律を作らないと難しそうな感じがしますけれども。 ○松岡分科会長 一般先取特権は,特別の担保がある場合は後になるのではなかったですか。民法の規定があります。 ○道垣内幹事 原則はそうです。 ○金関係官 松岡分科会長がおっしゃった規定は,民法第329条第2項のことだと思いますけれども,この規定は,「一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には,特別の先取特権は,一般の先取特権に優先する」という本文の後に,「ただし,共益の費用の先取特権は,その利益を受けたすべての債権者に対して優先する」と定めています。ただ,道垣内幹事が部会で指摘されたように,自分の行為を取り消された受益者がここにいう利益を受けた債権者に入るといってよいのかという問題があるとは思います。 ○畑幹事 議論に付いていっていないのですが,差額の償還というときには,倒産の話も出ましたけれども,誰が選択権を持つのかというのが重要で,取消債権者のほうが選べるということであれば,一般的に費用を優先という立場を採ることと整合し得るような気がするのですが,返す側の選択ということになると,松岡分科会長がおっしゃっているように,一般に費用優先というルールを採るなら,それと矛盾しかねないということになるような気がしております。感想だけですが。 ○沖野幹事 整理をしなければいけないところをしていないのですけれども,今までの議論から明らかなように,それぞれどういうタイプの返還方法になるのかということとの関連を付ける必要があり,さらにそれは破産法等の規定を参考にしているわけですけれども,隠匿等の場合という優先すべきではないという話をどう更に掛けていくかということがあり,かつ,価額償還的な処理と現物返還についての選択を認めるとすると,その選択権を誰が主体的に行使するのかという,畑幹事がおっしゃったような問題があり,さらにその場合に,価額償還ということになると,例の相殺をどうするかという問題があり,さらに相殺の在り方として,費用分だけは取れるというような処理をするのかという問題があり,さらには,このいずれを選択するかによって取消しの範囲が変わってくるのかという問題があり,現物で戻すという場合に価額償還にしたときには,その掛かり方が違ってくるということでいいのかということです。組み合わせてみないと分からないのですが,ここだけで話は解決しないですねという,一般論としてはそういうことなのですけれども。 ○岡崎幹事 イのただし書は,特別の先取特権が付与されない例外について定めているわけですけれども,ここでは,債務者及び受益者の主観的な事情が要件とされています。しかし,先取特権は民事執行手続を通じて行使され,民事執行手続は基本的に書面審理しか行わないわけですが,その中で主観的な事情をどのように判断したらよいのかが分からないという意見が裁判所内部では出ておりました。 ○中井委員 今のに関連して,問題意識は大阪弁護士会も全く同様でして,先取特権といっても,どのようにして価額が決まるのか,決めることができるのか,またそれで配当をもらえるのか。そこでこれも資料だけ申し上げておきますと,大阪弁護士会の提案では,1013条の4項というところで,先取特権の被担保債権の額を確認する手続を詐害行為取消訴訟の中に取り込めばいいのではないか,つまり受益者側がそれを言うメリットはあるわけですから,負けたときにはこれだけの額は先取特権がありますと,その確認の判決があれば,当然にできる,裁判所に心配してもらわなくてよくて,本案の訴訟の中で確定する,こういう手続はどうかと提案しておりますので,御覧になっていただければと思います。 ○山本幹事 私もその点が,不動産だと登記が要ると思うんです,特別の先取特権のとき。どういう形で登記をするのか。今,中井先生のお話だと,詐害行為取消訴訟の中で反訴的に登記とかを認めるとかということはあるのかもしれないですけれども。 ○中井委員 登記を認める提案になっております。 ○山本幹事 そうしないと,任意に登記をするというのは難しそうですよね。 ○松岡分科会長 それは恐らくあり得ない。   よろしゅうございますか。まだ言い足りない委員,幹事の皆さんいらっしゃるかもしれませんが,時間が来て積み残しがまた出てしまいました。詐害行為取消権だけは何とか審議を済ませたいと思っていたのですが,残念ながら最後まで行きませんでした。また,大変たくさんの御議論を頂いて,今後の参考にはなりますが,うまくまとめることができる状態にはなっておりません。本日積み残した議題につきましては,次回の冒頭で引き続き審議することにさせていただくほかないと思います。   ほかに御意見はございませんでしょうか。ないようでしたら,本日の審議はここまでとさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明していただきます。 ○筒井幹事 この分科会の次回会議は,6月19日火曜日午後1時から午後6時まで,場所は法務省大会議室です。本日の積み残し部分から審議をしていただくことになりますので,本日は第2分科会の固定メンバー以外の先生方にも多数御参加いただいておりますけれども,引き続き是非とも御参加くださいますよう御案内申し上げます。 ○松岡分科会長 それでは,既に30分近く超過しております。本日の審議はこれで終了といたします。   本日は熱心な御議論を賜りましてありがとうございました。お疲れ様でございました。 -了-