法制審議会民法(債権関係)部会           第47回会議議事録 第1 日 時  平成24年5月22日(火)自 午後1時00分                      至 午後6時28分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 定刻となりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第47回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   それでは,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日は,予備日として予定していただいた会議ですので,新たな部会資料の配布はございません。積み残し分を審議していただく関係で,部会資料39を使わせていただきます。この資料の内容につきましては,後ほど関係官の松尾から御説明いたします。   配布資料は以上でございます。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料39について御審議いただく予定でございます。具体的な進め方といたしましては,休憩前までに部会資料39の「第2 相殺」,「1 相殺の要件」までについて御審議いただき,午後3時25分ころをめどに適宜休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料39の残りの部分について御審議いただきたいと思います。   まず,「第1 弁済」の「7 弁済の充当(民法第488条から第491条まで)」から「9 弁済の目的物の供託(弁済供託)」までについて御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 「7 弁済の充当」の「(1)弁済の充当に関する規律の明確化」では,弁済の充当に関する規律内容が不明確であるという問題を解消する観点から,アからウまでの問題を取り上げていますが,このうちイの甲案は,現在の法定充当の方法を積極的に変更する提案の当否を問うものです。「(2)民事執行手続における配当と弁済の充当」は,民事執行手続における配当が,同一の債権者が有する数個の債権の全てを消滅させるに足りない場合に,合意充当や指定充当を認めず,一律に法定充当によって充当する判例法理を変更し,この場合にも合意充当や指定充当を認めるという考え方の当否を問うものです。   「8 弁済の提供」の「(1)弁済の提供の効果の明確化」では,債務者の債務不履行責任が発生しないことが弁済の提供の具体的な効果であると条文上明らかにする考え方を取り上げています。この論点については,受領遅滞との関係に留意しつつ御議論を頂きたいと考えております。また,「(2)口頭の提供すら不要とされる場合の明文化」では,債務者が口頭の提供すらしなくても債務不履行責任を負わない場合があることについての規定は設けないことを提案しております。   「9 弁済の目的物の供託(弁済供託)」の「(1)弁済供託の要件・効果の明確化」のアは,弁済供託の基本的な要件・効果を条文上明らかにするために,規定を改めることを提案しています。またイは,債権者不確知を供託原因とする弁済供託の要件としての弁済者の無過失の主張・立証責任について弁済供託の有効性を争う者が負うこととして,民法第494条後段を改めるという考え方の当否を問うものです。これは,これまで検討対象とはされていませんでしたが,パブリック・コメントの手続に寄せていただいた提案を取り上げているものです。「(2)自助売却の要件の拡張」は,自助売却の要件を拡張することを提案しています。この問題については,物品供託が現実には機能していないという指摘があることを踏まえた御検討をお願いできればと考えております。   このうち,「7 弁済の充当」については,規定を設ける場合の問題点や具体的な規定の在り方などにつき分科会で補充的に検討することが考えられますので,この点について分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明がありました部分のうち,まず,「7 弁済の充当(民法第488条から第491条まで)」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○岡委員 弁済の充当の(1)のアについては,ほとんどの弁護士会が賛成でございました。それから,イについては三つに分かれました。判例法どおりの乙案でいいという意見もかなりございましたし,提示されている甲案がいいという意見もございましたし,別途甲案の修正バージョン,すなわち債権者が指定したときにも,費用,利息,元本でいいではないかとか,債権者の意思に任せていいではないか,そういう意見がございまして,甲案の,債権者が指定したときにこの元本,利息,費用の順番で特定するというのにはついていけないというか反対であると,こういう意見がございまして,甲案,甲案修正案,乙案,この三つに,ほぼ同数ぐらいに分かれたというのが今の現状でございます。ウについては賛成の意見がほとんどでございました。 ○村上委員 (1)のイの甲案は,後半部分で,債務者が指定した場合と債権者が指定した場合とで異なる規律にするという提案になっていますが,これだと,かなり複雑なことになるのではないかという印象を持ちます。弁済の充当に関する規律は,現在,そうでなくてもそれほど単純明快とは言えないわけで,これを更に複雑なものにするというのは果たしていかがなものかと思いました。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。アとウについては,特に御異論はないと伺ってよろしいでしょうか。 ○中田委員 ウについて異論はないのですけれども,起草者は488条の適用との関係について十分考えた上でこういう条文を置いておりますので,規定に当たっては490条との関係にも注意しながら,漏れや重複のないように考えていく必要があると思います。 ○鎌田部会長 イについては御意見が分かれているようでございますけれども,この点も含めて具体的な規定の在り方等について,分科会で補充的に検討するというのが事務当局の御提案でございますけれども,そういう取扱いでよろしいでしょうか。それでは,そのようにさせていただきます。   (2)についてはいかがでしょうか。 ○岡崎幹事 (2)は,民事執行手続における配当について,合意による充当及び指定による充当を認める提案ですが,弁済と執行には異質な点があると感じます。弁済は,債権者と債務者の行為によるものですから,意思的な要素が介在しているのに対して,執行は,意思的要素が介在しない,意思を踏まえることを予定しない手続になっていると考えられます。したがって,実務上も当然ながら債権者,債務者の充当に関する意思を確認する手続は予定されておりません。   他方,合意による充当及び指定による充当を認めない判例法理を前提に行われている現在の民事執行手続に関して,何か実務上不都合が起きているかも考える必要があると思います。例えば金融界においては,執行の手続後に当事者間で充当の合意をすることによって,法定充当と異なる結論を導くことがあると聞いていますけれども,それは,執行の手続は手続として進めた上で,その後に別の法律上の原因に基づいて,一種の和解的な合意によって調整をしていると理解することになると考えられます。このように多数の債権者と債務者が関与する執行の枠組みの外で,特定の債権者と債務者との関係で調整を図るということは,私的自治の範囲内であって自由だと思いますけれども,執行手続の中に合意の要素を入れる規律を持ち込むと,執行実務が混乱する要因になると考えておりまして,裁判所のパブコメを見てみましても,この点に関してかなり強い反対意見が出ています。 ○村上委員 一口に配当と言いましても,不動産競売のような場合には,配当は1回限りで終わりますが,給料債権や賃料債権のように,継続的給付を目的とする債権の差押えがあり,複数回にわたって配当が行われるケースも相当多数あります。少しデータを御紹介しますと,東京地裁の執行部では,平成23年10月1日から24年3月末日までの6か月間に立件された債権配当事件が全部で2,446件あり,このうち,給料の差押えが1,416件で57.9%,賃料の差押えが556件で22.7%,合計8割程度がそういう類型であったということになります。   ちなみに,平成23年度の全国での債権配当事件は,新受が7万4,073件,既済が7万7,086件でした。不動産執行の配当は,担保権実行と強制競売を合わせましても3万4,220件でしたので,債権配当の半分以下ということになります。このように,複数回の配当が行われるケースの方がずっと多いわけです。そして,複数回の配当が行われるケースですと,2回目以降の配当は前回までの配当を前提にして行うことになりますので,合意による充当あるいは指定充当を認めることとした場合,債権者,債務者間の紛争や債権者相互間の紛争がかなり頻繁に起こるおそれがあるのではないでしょうか。また,そういった紛争が起きた場合に,それを解決する手段が配当手続の中には十分用意されていませんので,大きな困難が生じてくるのではないかということを強く懸念しております。 ○道垣内幹事 執行実務のことはよく分かったのですが,岡崎幹事がおっしゃったことと村上委員がおっしゃったことの関係が私には少し分からないので,お教えいただければと存じます。すなわち,執行裁判所が法定充当の比率に従って充当するのだが,その後,債権者,債務者間で充当についての合意をして,それを変えるのは仮に自由であると仮定しますと,村上委員がおっしゃったことが成り立たなくなるように思うのです。つまり,その後の執行においては,その自由になされた合意が基礎となって配当がなされるとしますと,村上委員のおっしゃったような2回目以降の配当は1回目の配当を基礎として行うわけではないことになりますし,執行裁判所はその種の合意は常に無視するのであり,裁判所における配当を基礎とするとしますと,逆に債権者間の紛争は増えるように思います。そして,別訴では合意の効力が認められ,新しい債務名義に基づいて執行するとき,初めてその合意が配当上意味を有することになるのでしょうか。手続的な問題と合意によって後から充当の内容を変えるという話との関係がよく分からなかったものですから,お教えいただければと思います。 ○岡崎幹事 基本的には,執行手続には,充当の結論を言わば既判力をもって確定するという要素は全くありません。したがって,最終的には,道垣内幹事がおっしゃったように別訴で確定するというのが基本的な枠組みでありまして,村上委員がおっしゃったように,賃料や給与などのように継続的に配当を行う場合には,基本的に法定充当の枠組みに従ってやっていく,したがって,その間に一定の合意がされたかどうかは詮索しないことになると思います。 ○道垣内幹事 細かい話になりますが,詮索しないのだが,しかしながら充当の合意は,合意がされた時点で有効に成立していて,充当内容がその内容に基づいて変更されていると考えるのでしょうか。仮にそうであり,実体的には合意の段階で充当が変更されていることになりますと,その後,同一債務名義で継続的な執行がなされても,それは実体権には基づかないものになってしまい,後から文句が言えることになりそうです。執行裁判所が当該合意を無視しているのだが,債権者や債務者は後から配当等の適正性を争えるということになりますか。 ○岡崎幹事 実務上は,ただいま御指摘されたような事例が表に現れることは余りありません。したがって,執行を担当している人たちと話をしていても,今のような事例を念頭に置いた議論が出てきませんでしたので,その辺りは分科会等で検討を進めていきたいと思います。 ○深山幹事 実務においては,執行手続の際の配当の計算の際に,費用,利息,元本をどういうふうに計算して,最終的にトータル幾らの金額が特定の債権者に配当されたかということとは別に,当事者間で別の充当合意をするということは,そう珍しくないのではないかと私自身は事実として認識をしております。ただ,そのことが余り次の執行手続で問題にならない要因というのは幾つかあって,例えば,配当の計算は計算として裁判所にしていただくとして,配当された金銭をどう充当するかは当事者の問題というふうに切り分けて処理することに余り不都合がないということなのかもしれません。もちろん1回の配当だったらそういう問題は元々起きないわけですが,先ほど例に出ている,例えば賃料債権のようなものの債権執行を考えると,この場合でも一本の差押命令で配当が行われる場合というのは,通常,6か月程度ごとに取りまとめて配当がなされております。このときに,次の6か月が来るとまたそういう意味で2度目の配当ということになるわけですが,実際の配当がなされるに際しては,半年ごとに債権計算書を出させられて,前回の配当を踏まえて今の残高はこうですというのを債権者は出させられていますから,裁判所が現在残高を認識する機会というのはそこで確保されているような気がいたします。実際に,裁判所の認識と出された計算書が違った場合どうなるかということまではよく分からないんですが,少なくともそういう機会はあるので,そう混乱を来すものではないのではないかと思っております。   そう考えますと,混乱を来すということが本当にそうなのかなという気が一方します。また,そういう当事者間の合意は外でやってくださいということについても,配当によって債権債務の消滅という効果が生じると考えるのかどうかということも理屈の問題としてはあって,仮に消滅するんだとすると,一旦消滅したものをまた復活させるような合意をも認めるのかというのも何か奇異な感じがいたします。配当は債権債務の消滅までの効果はないんだと理解すれば,そこから先,配当の後どう債権債務を消滅させるかは当事者間に委ねられているということであっても,理屈の上では筋が通るし,当事者間の意思を尊重するという意味でも,仮にそういう理論的な整理が可能であれば,当事者間の意思に委ねてもいい筋合いのものではないかという気が致しております。結論としては,御提案にあるように合意充当であるとか指定充当というものを認める余地を検討する価値は十分あるし,実務的ニーズもあるのではないかと思います。ただ,先ほど債権執行のときに計算書を出すということを申し上げましたけれども,それで足りるのかとか,手続的に当事者間の充当に関する合意や指定をどう執行手続に組み込むかというところはいろいろ工夫が必要です。技術的な観点から難しいという判断もあるのかもしれませんが,少なくともそれは十分検討に値すべきだろうと思います。   ついでに言うと,そこまで考えると,それは民事執行法の問題ではないかという気がしなくもないですが,規定をどこに置くかは別の問題として,御提案のようなことは検討してしかるべきではないかというのが私の考え方です。 ○岡崎幹事 深山幹事から御発言のあった技術的な問題があるという点に関係しますけれども,今の例で,2回目の配当時に債権計算書が出てきて,裁判所は合意を確認する機会があるというのは御指摘のとおりですけれども,そこで充当の合意の内容が食い違っていることが発覚した場合はどうするのでしょうか。 ○深山幹事 食い違っているというのは,債権者,債務者間での認識の食い違いですか。これは恐らく,まずは債権者の主張に基づいて裁判所は手続を進めて,それに対して債務者側でおかしいということであれば,何らかの異議を述べて,それにストップをかけたり覆す機会を与えるというような仕組みになるのだろうという気がいたします。 ○岡崎幹事 そうすると,その間は配当がストップすることになるのでしょうか。 ○深山幹事 そうですね。どのくらい時間なり手間を掛けるかという問題はありますけれども,何がしかの停滞にはなるかと思います。 ○岡崎幹事 配当異議訴訟が提起され,それが最高裁で確定するまで待つという局面もあり得るということでしょうか。 ○深山幹事 訴訟手続に委ねるより決定なり抗告なりの,もう少し軽い手続がふさわしいだろうという気が直観的には致しますが。 ○岡崎幹事 私が実務に影響を来すと申し上げているのは,その辺りを踏まえたものでありまして,合意の内容,あるいは指定の内容について当事者間で争いになる場合があり,そのときに,その争いを執行手続の中で解決をするのは,執行を簡易迅速に進めるという利益との関係でいかがなものかという感覚を持つ裁判官・書記官が多いと思います。   もう一つ,理論的な御指摘も頂いたかと思います。配当によって債務が消滅するという前提を採ったときに,その後に巻き直しのようなことを認める根拠は何なのかということだと思いますが,それについては,先ほど和解契約的と申し上げましたように,別の法律上の原因であって,合意によって配当による債務の消滅の効力に一定の修正を加えることができるのではないかと考えた次第です。 ○深山幹事 関連で,ちょっと補足的に申し上げたいのは,今の岡崎さんの発言にも関連するのですけれども,やはり執行手続といえども,当事者間の意思とか合意というものを全く排除すべきものではないのではないかと考えます。これは基本的な執行制度に対する考え方の問題なのかもしれないのですが,それを執行手続の中でやるか外でやるかという問題はあるにしろ,何よりも実務上の現実の問題として,確かに強制執行で債務者の意思とは全く無関係に,文字どおり強制的に取立てをするという場面も少なからずあるわけですが,常にそうかというとそうでもないと思います。一番最初の岡崎さんの発言には,執行手続というのはそういう当事者の意思を想定していないという御発言もあったんですが,本来,立法論として常にそれが前提になるかというとちょっと私は疑問です。当事者間で執行手続で回収することについては異存がないとか,あるいは更にそれを超えて,その場合に執行によって得た金銭をどういうふうに充当するかについて当事者間で合意が十分に成立するということもそれほど珍しいことでもないです。では全部合意で回収すればいいではないかと言われるかもしれませんけれども,例えば後順位の抵当権者がいたり,ほかの利害関係人がいると,執行手続で回収するのが当該債務者にとっても当該債権者にとっても合理性があって,任意でやると,ほかの人を巻き込まないと合意ができないというような場面があることなどを考えると,執行手続によりながら,当事者間ではそれなりの話し合いができる場面というのが,それほど珍しくなく実務ではあると認識しております。   そういうことも踏まえて考えると,執行手続といえどもある程度,もちろん執行手続の円滑な進行を著しく妨げてはいけないわけですが,著しくは妨げない範囲内で当事者の意思を取り込む制度設計というのもあってよいのではないかと考える次第です。 ○三上委員 実務でどれほど使われているのかは存じ上げないんですけれども,例えば民事執行法の85条1項には,配当表の作成に関して「債権者間に合意が成立した場合は,この限りでない」ということで当事者間の自治を認める条文もございますし,実際に法定充当で非常に困った結果になった例というのは,第一読会のときに中井委員のほうから御紹介があったと思うんですが,あの場合には債権者と債務者間で元々充当に関して合意があったので何とかなったわけですけれども,もし仮に債務者が配当表どおりの法定充当を主張して,債権者が元の契約どおりの契約充当を主張して争ったら,本当に債権者は勝てるのだろうかと思うわけです。元々そういう合意をしていて,そういう結果になるのが正義なのに,単に執行の都合で契約に反して債務者が主張する方向になるというのは,やはり法の正義としてはおかしいのではないかと考えます。是非この(2)は実現していただきたいと考えています。 ○岡崎幹事 深山幹事の御発言との関係で,御発言自体の中にも出てきましたとおり,後順位の担保権者がいたり,当該配当手続に参加するほかの債権者がいたりする中で,特定の債権者と債務者との合意に効力を持たせてよいのかというのが私の問題意識です。ほかの債権者が全くいない局面であれば御指摘のところは理解できますけれども,執行手続には,多数の関係者が関与するという特徴がありますから,話はそう単純ではないという感想を持っています。   あと,第一読会のときの議論を詳細に理解しているわけではありませんが,法定充当の枠組みで本当に困る事案があるのかどうか疑問に感じています。第一読会のときには,問題となる事案として,会社更生の事案が紹介されたと理解していますけれども,会社更生手続における議決権をどう決めるかという問題と民事執行の配当をどう決めるかという問題は,必ずしも連動しないと考えています。これは,実際に中井委員が御経験された例ということでしたので,私自身が的確に反論できるわけではありませんけれども,会社更生手続における議決権の決め方の問題であると思っています。 ○高須幹事 今の御発言をお伺いしていて,問題点みたいなものは大分明らかになってきたと思います。基本的には執行による配当を受けるという部分に関しても,結局債権を回収するという側面がある。したがって,そこは当事者,債権者,債務者の一定の意思みたいなものが認められる余地があっていいのではないか,これはやはりそういう面を持っていてもいいと思うのですが,反面,岡崎幹事から繰り返し御発言がありますように,それを執行手続でやるという現実があって,その執行手続がうまくいかないということになると,これはまた非常に大きな制度としての欠陥を抱えることになりますから,この問題は,結局,執行制度がきちんと回るのかどうかということをしっかり考えた上で一番いい答えというか,合意をどこまで織り込めるのかということを検討しなければならない。ゆめゆめ執行法の問題を先送りするようなことは恐らくしてはならないのだろうと。幸い分科会でも詰めるということのようでございますから,そこはしっかり詰めねばならないと思っております。   実は弁護士会でも今のような意見が出ておりまして,意見は完全に真っ二つに分かれておる状況です。執行手続の安定性を考えると現実的には難しいのではないかというような意見を主張する単位弁護士会は,基本的には現行の判例どおりで,法定の充当関係でやれと。それに対し,何とかお互いの意思を盛り込むべきだということを強調する弁護士会は,今,深山幹事からの御指摘もあったように,提案資料のような内容を考えましょうというところです。正に実務家としても必要性と危惧とが相半ばしているところだと思いますので,執行との関係できちんとした改正案を考えるべきだと思います。 ○中井委員 不動産の通常の競売では,裁判所において法定充当を前提に計算したものを各債権者が受領する。しかし,受領した後どういう処理をしているかというと,必ずしも裁判所の計算したとおりに法定充当をしていなくて,銀行債権者にとっては,もはや債権回収不可能な,困難な債権については元本から充当して,わざわざ利息として利益を上げて税金を払うようなことはしない,こういう実務があることは間違いがない。それから,第一読会で申し上げた会社更生法における更生担保権,これを評価した後どのような形で充当するか,本来的にはここも法定充当の場面であろうと思いますので,それに従うと,会社更生法の規定によると,例えば議決権がないというような事態が生じる。   裁判所にとって執行手続を行う上で当事者の合意若しくは指定充当を認めると大変混乱をするというお話を伺いました。そこで,改めて振り返って考えてみると,民法には,弁済額を弁済する,その後,その弁済額の充当の問題が生じる。債務者としては,ある金をあるだけ払う,全部に足りないわけですから,足りない部分をどう充当するかというのは後の問題として出てくる。それと何もパラレルというわけではありませんけれども,執行法においての配当額,各債権者にどういう金額を配当するかという額を決める問題と,それをどのように充当するかという問題を分けて考えられないのか。執行裁判所において配当額を決める問題については,現行法どおり債権者から計算書を出させて,それに従って粛々と法定充当を前提に計算をする。で,額は決まる。これは任意弁済において弁済額が決まるのと同じで,それをどのように充当するかは,債権者,債務者間の合意に委ねてもよい,こういう規律は不可能ではないと思うのです。   同じように更生担保権についても,更生担保権の評価額から更生担保権の額を決めるについては,これは後順位担保権者も含めて全て利害関係がありますので,法定充当によって計算して決める。しかし,そのあとは議決権に表れるときには当事者の合意に委ねてもよい。そのような考え方を取り入れることによって,裁判所における事務の混乱を防ぐとともに,当事者間の合意を尊重できるような仕組みにならないか,更に検討していただきたいと思います。 ○潮見幹事 中井委員がおっしゃられたようなことでいったら,裁判所が額を決めるということは,実体法的にはどういう意味を持つことになるのでしょうか。もう一つあるのですが,これはほかの方にも当てはまるのかもしれませんが,議論を聞いていると,合意による充当については,その必要性を発言する方がたくさんいらっしゃったのですが,これに加えて指定充当までわざわざ盛り込んで規定を置く必要があるのでしょうか。 ○中井委員 更生担保権が簡単ですから,更生担保権の総額を決める,それを更生担保権者の持っている債権のどこの部分に充当するかは当事者間の合意で決める,こういうことを更生担保権について念頭に置いたわけです。一般民事執行手続において言うならば,原則法定充当の計算で,後順位担保権者等もいる場合を想定してですけれども,法定充当の計算で配当する表ができ,配当額が決まる。それに基づいて配当するわけですが,受け取ったものを何に充当するかは当事者間で調整可能にする,こういうことを申し上げたわけです。 ○潮見幹事 一点確認させてください。ということは,先ほど道垣内幹事の話にあったかもしれませんが,額が決まって配当がされたということだけでは当該対応部分についての債権は消滅しないという理解でしょうか。 ○中井委員 弁済した後,弁済額をどれに充当するかと同じように,配当した後,配当額をどれに充当するかというパラレルに理解をして説明したつもりですが。 ○潮見幹事 配当後の充当によって,初めて当該債権,当該部分が消滅するという理解ですね。 ○中井委員 はい。 ○畑幹事 今の中井委員のお話がちょっとよく分からなかったのですが,1回目の配当をする際に充当を決める必要があるのでしょうか。配当額を決めるに当たって,それをどこに充当するかということを決める必要は,卒然と考えるとないような気もするのですが。 ○中井委員 私の理解は,額を決めるに当たっては,法定充当を前提に計算するというだけのことを意味しているという趣旨で申し上げたのですが。 ○畑幹事 私が申し上げたのと同じ趣旨をおっしゃっている。 ○中井委員 はい。 ○畑幹事 分かりました。   ちなみに,これは道垣内幹事がおっしゃったことの繰り返しですが,岡崎幹事がおっしゃるように,後から充当関係を合意で変更できるということを前提にすると,それは実体関係が変わるわけですから,2回目の配当の際にはそれは考慮せざるを得ないことになるように思われます。そうすると,先ほどから議論になっているように,もちろんそれは配当額に影響する限りでということですが,場合によっては配当異議訴訟ということにならざるを得ないのではないかという印象があります。   それから更に,私自身,どちらかという強い意見はないのですが,2回目の配当のときに充当の関係で争いが生じると複雑になるというのはおっしゃるとおりだろうと思いますが,それは手続外で一部弁済が行われた場合にも,質的には常に起こり得る問題ではあると認識しております。 ○高須幹事 先ほどの潮見先生からの御質問の合意充当以外の指定充当についても考えているのかという点でございますが,基本的には私の先ほどの発言は,実際には執行手続との関係で当事者の意思を反映することはそう簡単なことではないなという印象を持っております。そこで,せめて当事者が合意した場合については認めてもいいという工夫は何らかの形でできないのかというイメージを持っておるものですから,合意充当に関しては何らかの形で反映したいと。指定充当までという話になると,その制度をどうやって組み込むのだろうというのは全く見当もつかないという状況でありますので,ここでは私は合意充当だけを念頭に置いて,従来の判例法理を少しそこは変更できないかと考えた次第でございます。 ○鎌田部会長 充当に関する合意を配当手続に先立ってどれだけ読み込むかという問題と,配当したものをどこに割り当てるかについて事後的に自由度を認めていいかということを分けて考えることができるという前提の下で,第1回の配当が行われた後,第2回の配当に当たって,債権者が一方的に第1回目の配当は全部元本に充当したということを前提にして計算書を出してきた。その計算書は間違いだとして,裁判所は計算をし直した上で第2回の配当額の決定手続に入る。そういうふうにしなければいけないということですね。債権者が合意によらないで一方的に充当を指定してしまったときは,その一方的な充当までは考慮しなくていいということになりますか。高須幹事の今の御意見でいくと,合意はない,だけれども債権者が一方的に費用でも利息でもなくて全部元本に充当したということを前提にして第2回の配当用の計算書を提出してきたときに,その債権者の計算は前提にはできない。なぜなら,法定充当でも合意による充当でもない計算をしているからだと,そういう話になりますかという質問なんですが。 ○高須幹事 今の御質問だと,具体的に2回目というのは,2回目に初めて競売の申立てをしたという意味なんでしょうか,それとも1回目の競売があった。 ○鎌田部会長 1回目の配当を受けている。 ○高須幹事 それは本来,裁判所が法定充当で割り付けたものを全部元本に充当したとして,それで残りの債権額を2回目の配当で申し立ててきたという趣旨ですか。 ○鎌田部会長 はい。 ○高須幹事 そうすると,確かに合意はないのかもしれませんけれども,その限度で,債権額はこれしかないというふうな申立てをしているということですよね。 ○鎌田部会長 その計算どおりに元本は減っているということを仮に認めようと思ったら,どういう理屈で認めるのかというときに,岡崎幹事の言うような和解的な処理でもなければ合意による充当でもないとすると,配当額の決定と充当とは別で,充当については事後的な部分も含めて処理することができるというふうに考えたときには,あえて言えば債権者の指定による充当があったという説明ができるかと思ったんですけれども,指定充当までは考慮してやる必要はないというとこれはもう説明のしようがないから,その計算書自体の法的性格も明確ではありませんけれども,現にある債権は,第1回目の配当手続の中で法定充当がされた残額とそれに対する利息・損害金しかないという前提で第2回配当手続に裁判所は入らなければいけないことになるように思いますが。 ○高須幹事 もしかしたら執行手続を私はどこかで勘違いしているかもしれませんが,少なくとも債権者が自ら元本に充当したとして届け出てきたときに,その限度で届け出てきたものを裁判所が間違っていると言ってこれを増やすことはしないのではないかと思っておりますが。 ○松井関係官 今の議論にも関連するんですが,実務上よくありますのは,金融機関において充当を元本のほうに入れてあげると,利息のほうに入れるのではなくて元本に入れるというケースが多うございます。そうしますと,第2回目の債権届出のときに自ら元本額を多く減らした額というものを出してくると。ですので執行裁判所としては,本来もう少し債権者が取れるはずなのに,わざわざ減らしてきたという目で見ております。そのときに,現在の実務では最高裁の法定充当というルールですので,本来はそこまで,高い額まで取れるはずなのですが,冒頭に岡崎課長のほうからありましたように和解的なことをされたのであろうと思って,低い額の債権届出,これをそのとおりであろうと見て手続を進めております。それは,債務名義の額から確実に法定充当分だけを引いた額よりも少ない額を請求しているので,そこについては間違いなく配当ができると執行裁判所として自信が持てるというところでございます。   これがもし今回の提案のような合意の充当までも認めると,それを正しいものとして認めていくということになりますと,一旦,法定充当よりもっと少ない額というのが真実になるかもしれないという疑念が執行裁判所としては生ずることになります。それが,その合意があったかどうかというのが争われると,その低い額なのか,もう少し高い額まで配当しなければいけないのかという点が執行裁判所として自信が持てなくなるというので,そこで多分,岡崎課長のおっしゃったように,そこの疑義を晴らさないと配当ができないという点になるのではなかろうかと。そういう意味で,法定充当によるというふうに今一元化しているのは,そこをマックスとしてそれより低い額であれば幾らでも自信を持って配当ができる。そういう意味で効率的な執行ができるのではないかと考えているところでございます。 ○深山幹事 今の直前の御意見に対してやや疑問なのは,残債権額が法定充当の場合よりも低いことはいろいろ起き得ると思うのですが,法定充当の場合よりも高いことになるというのが,費用,利息,元本の順番でやれば余り生じないような気がします。そこはさておき,2回目の配当のことが今前提に議論されておりますが,1回目の配当と2回目の配当の間にいろいろなことが起きると思うんです。今は配当しか考えていませんけれども,その間に任意の弁済があったりすることだってあるわけですし,その任意の弁済のときに合意充当があったり指定充当があったりいろいろなことがあり得て,1回目の配当をした裁判所が認識している残高と2度目の配当までの間に,その後の実体上の変化ということは当然あってもおかしくないことです。あるいは不動産執行があり,その後に債権執行があり,また別の物件の不動産執行が同じ債務名義であるというようなことになると,不動産の執行裁判所は不動産のことしか分からないけれども,その間に債権執行で更に一部弁済を受けているというようなことなどいろいろな変化があるので,そういう意味で言うと裁判所が認識し得ない事情というのはいろいろあり得る。だからこそ,債権の計算書を出させているんだと思うのですね。   もちろん増えるということはないですけれども,より減っているということがある中で,どう減っているのかということについて,確かに当事者間で争いが生じることもあると思います。そうなると配当異議という問題になって,それを最高裁まで争ったら大変ではないかということにはなるのでしょうけれども,それは致し方ないんだと思うんですね。執行のことだけではなくて,間に任意弁済が介在した場面なども想定すると,これは避けて通れない事象であると言えます。その上で裁判所として的確な情報を配当の計算に当たって確保する手段を執行手続の中にうまく組み込むことができるかという問題であり,それはそれほど難しいことではないような気が致します。   というのは,今でも,自己申告的に債権者の提出する計算書に基づいて,裁判所は,それが一見しておかしくない限りは計算をしておりまして,それで支障が生じているという気が致しません。   もう一つ,先ほどの潮見先生の御質問で,合意充当はともかく指定はどうかということについては,実は私も決めかねています。債務者の指定充当というのは配当手続ではなじまないので,考えられるのは債権者の指定を認めるかどうかです。合意はないけれども債権者が指定した場合について,債権者の一方的な,私はこういうふうに指定しますというような事前の配当に先立った申出みたいなものをさせて,それに裁判所を拘束させるかどうかというのは,これは一つの政策判断といいますか制度設計の問題であり,そこまでは認めないで,債務者も了解している合意書のようなものが提出された場合に限って裁判所はそれに従うという仕組みでもいいのかなと思います。ここは制度の作り方として慎重に検討すべきであり,どこまで当事者の意思を取り込むかという程度の問題として検討すべきことだろうと思います。 ○村上委員 債権の額が減るというのは,別におかしなことではないのでして,実際,前回の配当後の残額であるはずの額よりも更に少ない額の債権計算書が出てくるというのは,普通にあることですし,そういうものが出てくれば,普通にそれを前提として処理しています。   問題は,債権が増えるということでありまして,配当されたはずの部分がまだ存在しているというような計算書が出てきましたら,これはおかしいということになります。 ○鎌田部会長 合意充当,指定充当を認める必要性があるかどうか,それを認めた場合にどのような問題点が生ずるのか。こういう点について,取り分け執行手続に対して重大な障害になるかどうかということ含めて,分科会で補充的に検討してもらうということでよろしいでしょうか。では,そのように取り扱わせていただきます。 ○松本委員 高度な議論の後で初歩的質問で恐縮なんですが,28ページ,「弁済の充当」(1)のイの甲案の後段部分で,債務者が指定をするときと債権者が指定をするときで充当の順を変えるという提案の理由は何なのかということを御説明いただきたいということです。私が勝手に推測するのでは,指定する側に不利な順で充当するというルールをこの提案者は考えているのかなと理解していたんですが,先ほどの議論の中で,銀行は利息なんかに充当しないで,いきなり元本に充当するほうが利益になる場合が多いからよくやっているんだということになりましたから,そうすると,この順序を変える根拠というのは何なんですか。 ○松尾関係官 イの甲案は,第一読会の審議の際に中井委員から御提案があったものであったと思いますので,推測でのお答えになってしまいますが,私の理解も,松本委員と同じで,債務者が指定した場合には債務者に不利になるように,債権者が指定した場合には債権者に不利になるように,充当順序が決まるルールにしてはどうかという御提案であるというものでした。 ○松本委員 ただ,先ほどの議論だと,必ずしも債権者にとってはこの順のほうが有利な場合があるんだということだから,余り一貫した理由付けにならないので,それならこういうややこしいことをしないで,従来どおりの外から順番に埋めていくというほうが分かりやすいのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 有利,不利を当該債権の枠内で考えるのか,ほかの様々な付随的な事情も含めて総合的に見て有利,不利を考えるのかによって,有利,不利の判断基準は変わってきますね。当該債権の枠内で考えれば最初の説明で一応足りるけれども,しかし実際にはほかのことを考えて債権者が元本に充当を選択するケース,自らに有利だからそれを選択するケースというのは少なくないというのが中井委員の御指摘だったと思うんですけれども,中井委員,何か御発言ございますか。 ○中井委員 第一読会のときに申し上げたかったことは,複数債権があるときに,特定債権を狙い撃ちにして消したいという希望が第一にある,これについては是非理解していただきたかった。その後の費用,利息,元本については,そのとき悩みながら,例えばということでこういう提案をしたわけです。ただ,先ほど申し上げた銀行実務の中で元本を先に充当するということがあるのは,もう不良債権化して全額回収が不可能であるような場合に利息から充当するかというと,そうはしない。利息であれば収益になって税金が掛かってしまうから,それより元本から先に充当してできるだけ回収額を増やして,最後に償却する損失額を減らしたい,こういう動機があるからです。法律論と実務における利益とは違うという理解をしております。 ○鎌田部会長 その点も含めて分科会での検討対象ということとさせていただきます。   次に,「8 弁済の提供」と「9 弁済の目的物の供託」について併せて御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○中井委員 審議を促進する意味で,弁護士会の意見ですけれども,8の(1)及び8の(2)ともに,ほぼ異論なく賛成です。 ○河合関係官 9の「(1) 弁済供託の要件・効果の明確化」のアの①に関してですが,補足説明にある判例の例外的なものといたしまして,債権者が受領しないことが明確な場合には,口頭の提供すら要しないで直ちに供託をして債務を免れることができるという大正11年10月25日の大審院の判例がございます。この判例等に基づきまして,供託実務も受領しないことが明らかな場合には弁済の提供を要しないものとして扱っているところでございます。この供託実務を変更しないという前提であるとするなれば,受領拒絶を原因とする供託の要件として,弁済の供託があったことが必要であることのみを明確化したとしても,その例外としての債権者が弁済の受領をしないことが明らかである場合の扱いは明確となっておらず,弁済供託の要件の明確化の趣旨が十分にいかされていないのではないかと思われるところです。   そこで,弁済の提供をしたとしても,債権者が弁済の受領をしないことが明らかな場合は弁済の提供を要しないことを条文上明確にするか,そうでなく今回のアの①のような形で条文に改めた場合でも,先ほど述べたような供託実務の取扱いを変更することがないという点をどのように説明することによって可能となるかについても,8の「(2)口頭の提供すら不要とされる場合の明文化」をしないという議論との関係があるかもしれませんが,併せて御検討いただきたいと存じます。 ○松尾関係官 ただいま,河合関係官から御発言いただいた点についてですが,正に御指摘のとおり8の(2)と関連する問題ではないかと考えております。つまり,9の(1)の①で御指摘の判例をなぜ明記しないのかというと,それは8の(2)で判例を一般化できないので明文化しないという考え方が前提となっています。弁済の提供と受領遅滞との関係をどう考えるかという問題はあり得ますが,受領拒絶を原因とする弁済供託の要件として,受領遅滞でなければならないという理解を前提とするのであれば,8の(2)を明文化せず,9の(1)のアの①のみ弁済の提供が不要である場合を明文化するというのは困難ではないかと考えた次第です。 ○筒井幹事 松尾関係官から説明したとおりですけれども,つまり供託に関する実務を変更しようという意図は全くないわけですが,それをどのように条文化するかという点では,弁済の提供に関する一般的な要件との関係で考えざるを得ないということだと思います。その点について,河合関係官の御指摘については引き続き留意していきたいと考えております。 ○筒井幹事 続けてですが,本日御欠席の安永委員から,「弁済の提供」のうちの「(2)口頭の提供すら不要とされる場合の明文化」について,あらかじめ発言メモが提出されていますので,読み上げて紹介いたします。   「口頭の提供すら不要とされる場合の明文化」については,第1ステージの議論において,労働の立場からは「債務者が口頭の提供すらしなくても債務不履行責任を負わない場合があることについて,規定を設けるべきである」との意見を申し上げたところです。この点,今回の部会資料では,「債務者が口頭の提供すらしなくても債務不履行責任を負わない場合があることについては,規定を設けない」という提案がなされており,補足説明に,解雇をめぐる問題については,労働契約上の「賃金請求権の成否の問題として検討されるべき」という指摘があった旨の記載があります。労働契約においては,労務提供と賃金支払が同時履行の関係にはなく,「労働者は,その約した労働を終わった後でなければ,報酬を請求することができない。」という民法624条の規定があるため,「解雇の通知を受けたとしても,これを不服として賃金請求するためには,取りあえず,解雇直後に出社し「働かせてください」と述べることにより口頭で労務提供をするのでなければ,賃金請求権が発生しない」との解釈がなされる可能性が少なくありません。   この問題に関して,下級審裁判例の中には,使用者が労務の受領拒否の意思表示を明確に行っている場合には,解雇後に,労働者が出社して口頭で労務提供をしなくても賃金請求権が発生することを肯定するものがあるものの,このような裁判例については,法律上の根拠がなく,法的に不安定となっています。仮に「弁済」の中に規定を設けないとしても,労務供給契約の総則部分についての検討の際に,この条項を追加することの可否について検討していただきたいと考えます。 ○山川幹事 私としましては,現在の考えを申しますと,本日の部会資料の37ページの2段落目に書かれていますような労働関係における実務の取扱い,それから今,安永委員の書面にありましたような下級審裁判例の扱いを維持する必要があるという点は変わっておりませんけれども,口頭の提供をしなくてもよい場合があるという点を明文化するということについてはそれほど,条件付きみたいなことではありますが,こだわらないという考えを持つに至っております。37ページの2段落目に第8回会議の意見が要約され,これには私のほうの意見も少なくとも一部は盛り込まれていると理解しておりますが,この3行目にあります「労働者が民法第536条第2項の『責めに帰すべき事由』を立証しなくても」とまとめられておりますが,この点,若干補足を要すると思っております。   4月10日の分科会でも申し上げたところですけれども,使用者側が労働者の労務の提供をあらかじめ明確に拒絶する意思表示を行った場合は,そのことが現行法では民法536条2項の帰責事由を原則として根拠付ける,つまり「536条2項の責めに帰すべき事由を立証しなくても」というよりは,そのような明確な受領拒絶があれば,原則として帰責事由があることについての立証がなされるという条文操作になるのではないかと思っております。賃金請求権の根拠は,飽くまで民法536条2項ですので,口頭の提供がなくても明確な受領拒絶の意思表示がなされた場合というのは,言わばそこでの帰責事由の評価根拠事実レベルの問題ではないかと思っております。   以上のことからしますと,要は民法536条2項の解釈適用でこの点は対応できるのではないかと考えるに至っております。逆に言うと,先ほど条件付きといったことを申し上げましたのは,もし民法536条2項を改正するとすれば,以上のような解釈が維持できるような工夫が必要であるということではあるんですけれども,それが可能であるとすれば,口頭の提供が不要な場合を明文化するということにはそれほどこだわらなくてもよいのではないかと現在では思うに至っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに御意見いかがでしょうか。   それでは,ただいま頂戴しましたような意見を踏まえて更に検討を続けさせていただくということでよろしいでしょうか。 ○山本(敬)幹事 「弁済の提供」の「(1)弁済の提供の効果の明確化」についてですが,内容については,異論は全くありません。私も,第8回会議のときに同じような趣旨を申し上げたと記憶しています。   ただ,その上で,ここでは,損害賠償責任を免れることと,債権者が履行ないことを理由として契約の解除をすることができないことを492条に明記するという方針が示されていますけれども,具体的にはどこに何をどう規定することになるのかという点について,何となくイメージは分かるのですが,もう少し明確にお示しいただくことは可能でしょうか。 ○松尾関係官 中間試案までの宿題にさせていただきたいと思います。 ○中田委員 今の部分なんですけれども,解除と損害賠償の不発生だけということでは恐らくないのではないかと思いますので,一切の責任を免れるという部分は削除はしないというように理解しておりますが,それはよろしいでしょうか。 ○松尾関係官 中田委員の今の御指摘は,損害賠償責任が発生しないことと契約の解除をすることができないということは例示にとどめるべきであるという御趣旨でしょうか。 ○中田委員 ええ。例えば担保権の実行ですとか約定利息の発生がどうなるかとか議論のあるところですけれども,そこに決着をつけるという趣旨では多分ないのだろうなと理解しておりましたが。 ○松尾関係官 中田委員の御指摘のとおり,代表的なものとして損害賠償責任の不発生などを規定するという趣旨ですので,今御指摘いただいたような考え方も含めて今後検討させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか。   それでは,続きまして「10 弁済による代位」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 「(1)任意代位の見直し」は,第三者による弁済の制度との整合性などを考慮し,任意代位の制度を廃止することを提案するものです。   「(2)弁済者が代位する場合の原債権の帰すう」は,弁済者が債権者に代位する場合には,原債権は弁済によって消滅せず,弁済者に移転するという現在の判例法理を改め,この場合にも原債権は消滅するとしつつ,消滅した原債権の効力として認められた権利及び担保として,債権者が有していた一切の権利を行使することができる旨の規定を設けるという考え方の当否を取り上げるものです。   「(3)法定代位者相互間の関係に関する規定の明確化」は,民法第501条の条文の外に形成された法定代位者相互間の関係についての判例法理や解釈を条文上明確にすることの要否を問うものです。   「(4)一部弁済による代位の要件・効果」は,一部弁済による代位の要件・効果を定める民法第502条については,現在の判例法理を条文の文言から読み取ることができないという問題点が指摘されています。また,特に要件に関する判例法理については,現在ではその妥当性が疑問視されているところです。以上のような状況を踏まえて,民法第502条の規定の内容を改めるという考え方の当否を取り上げるものです。   「(5)債権者の義務」では,弁済による代位に関して債権者には担保保存義務などの義務があると考えられていますが,必ずしも条文上明らかではないため,これを明確にするとともに,その義務の内容について,現在の判例法理を条文上明確にするという考え方の当否を取り上げています。   このうち,(2)から(5)までについては,規定を設ける場合の問題点や具体的な規定の在り方などにつき分科会で補充的に検討することが考えられますので,これらの点について分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま御説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。 ○松岡委員 意見はいろいろありますが,一度に申し上げると混乱しますので,「(1)任意代位の見直し」についてのみ簡単に意見を述べたいと思います。   前回,第三者弁済の扱いにつきまして,ここに提示されている原案とは異なって,債権者の意思に反しない可能であり,債務者の意思は考慮する必要はないという案が,全面的ではないにせよ,かなり支持があって有力だったと記憶しています。そうすると,今,松尾関係官が指摘されました部分の前提が変わってきますので,そこをどう考えるかが問題となります。そうすると,債権者の意思に反すれば利害関係がない第三者は他人の債務を弁済できないといたしますと,債権者としては弁済を意に反して押し付けられることはありません。利害関係のない者からの第三者弁済でも,代位の手続に債権者が協力してくれるなら第三者弁済をするがどうかという持ち掛けられ方を多分すると思います。それでも弁済を受けないというのであれば,そもそも弁済自体ができないので代位もできないことになります。しかし,債権者がそれで良いというのであれば,弁済者が代位できてもおかしくないでしょう。そうすると,任意代位を現在のような理由で廃止するのは,つじつまが合わなくなると思います。 ○鎌田部会長 任意代位についてほかに御意見あれば,お出しいただければと思います。 ○岡委員 弁護士会では,意見がここも三つに分かれました。削除するというのでいいのではないかという説と,債権者が第三者弁済を拒絶する事由がある中で弁済を受け取るのであれば,自分の持っている担保とか保証を意地悪的に代位させないと,そういうのを認めなくていいではないかと,ぽんと渡すのが公平であるのではないかという観点から,全て代位を認める説が2番目です。それから,やはり選択を認めて,お前には代位させないけれども,持ってくるんだったら受けてやるよと,そういう選択を認めていいのではないかという観点から現行法でいいのではないかと。三つに分かれて,どれが優勢ということはないように思いました。 ○鎌田部会長 それでは,任意代位につきましては,今頂戴したような御意見を踏まえて更に検討を続けさせていただきます。 ○内田委員 一点確認なのですが,松岡委員の言われた考え方で,債務者の意思に反している場合はどういう扱いになるのでしょうか。 ○松岡委員 そこは考え方はいろいろあると思います。私は,前回も確か申し上げた記憶がありますが,債務者の意思に反していることは特に問題にする必要はないという考えを持っております。ただ,債務者の意思に反している場合には,債権者は弁済を拒絶できるというような形で債務者の意思を間接的に債権者の諾否に絡ませるというものも成り立ち得ます。 ○松尾関係官 松岡委員にお尋ねしたいのですけれども,松岡委員のように,第三者弁済の規律について債権者の意思にかからしめるという考え方を採った場合には,任意代位の規定を残すとしても,現行法のままでよいのか,それとも何らかの改正が必要かという点について,もしお考えがあればお聞かせいただけますでしょうか。 ○松岡委員 今の御質問の点は,私自身の考え方ではありませんので,余り詰めて考えていませんでした。   法定代位と異なって任意代位の場合だけ対抗要件の具備を要するとする必要があるのか自体を考え直す,つまり任意代位も法定代位と同じ扱いにしてしまうこともあり得ないわけではないと思います。ただ,積極的にそういうふうに申し上げるだけの自信も根拠も今のところ私にはありません。先ほど申し上げたのは,現在の任意代位を廃止するのはおかしいから,存置するべきだというところまで申し上げたのみでございます。第三者弁済の扱い次第で更に修正を要することになるのかどうかについては,今一度考えさせていただきたいと思います。 ○松尾関係官 元々この任意代位の要件として,債権者の承諾を得ることが必要とされることについては,債権者は,弁済を受領せざるを得ないのに任意代位のみ拒絶できるのはおかしいのではないかという批判があったと思うのですが,仮に第三者弁済について債権者の承諾が必要であるという考え方を採った場合には,これまでの議論の前提が変わるのではないかということが気になってお尋ねした次第です。 ○松岡委員 それは今おっしゃったとおりです。先ほど岡委員から御紹介のあった弁護士会の意見の三つ目の案は,あり得ないのではないかと思っていました。弁済は受けるけれども,お前には代位させないなどという選択がなぜ許されるのか疑問です。債権者は弁済を受けて担保等ももはや必要でなくなっています。にもかかわらず,弁済してくる者には代位をさせない。債権者にそういうように代位を拒絶する利益はそもそもないのではないでしょうか。債権者の意思によって,利害関係のない第三者の弁済の可否が決まってくるとしますと,第三者としては,今の規定を前提にしますと,先ほど申し上げたように,代位について対抗要件具備に協力してくれるなら第三者弁済をするがどうかという形で,債権者に意思決定を迫ることになろうかと思います。債務者の意思は問題になりませんので,債権者が良いと言っているなら,法定代位と同じように当然に代位すると扱っても良いのではないかと,今のところそう考えています。 ○中井委員 弁護士会の意見は先ほど岡委員からありましたので,大阪で検討していることを申し上げておきます。恐らく松岡委員の考え方にかなり近いのではないかと思います。前回の利害関係を有しない第三者による弁済の論点について,債権者の意思に反するか否かを基準に考えてはどうかと意見が変わったと申し上げました。その立場から言えば,正当な利益,利害関係を有しない第三者による弁済を債権者が受けた以上は,当該債権者が持っていた権利について弁済した者に対して移転していいのではないかという考え方を採っています。その場合,債務者の意思に反する場合については,先ほど内田委員から御質問がありましたけれども,それは求償権の存否若しくは求償権の範囲の問題で解決すべきである。そこが上限としてキャップが掛かるわけですから,その求償権を確保する範囲内で原債権が移転しても何ら問題はない。求償権がないときは原債権が移転しても意味がないわけですし,求償権が現に利益を受けた範囲というのであれば,そこで枠は掛かるわけですから,債務者の意思に反する場合についても規律としては同じ規律でよいと理解しています。 ○鎌田部会長 その場合の代位は債権者の承諾を…… ○中井委員 その点については,債権者の承諾は要らないと考えています。 ○沖野幹事 今の点について,一部弁済,一部代位ということを任意代位についても考えるかということがあり,その点を考慮する必要があるのではないでしょうか。それは一部代位の場合の規律の評価にも関わってくると思います。今の点についてはその点も考慮する必要があるのではないかということだけ指摘させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 任意代位関連でほかにはよろしいでしょうか。   それでは,(2)以下について御意見をお伺いいたします。 ○青山関係官 「(2)弁済者が代位する場合の原債権の帰すう」について,補足でコメントさせていただきます。   仮にこの提案のとおり考えるとしても,留意するべきことであるという趣旨の発言ですけれども,この部会資料の補足説明でも,47ページの2に幾つか記載がありますけれども,47ページの最後のパラグラフにこの考え方,要は原債権が消滅するけれども,原債権が有していた権利を行使できるという規定を残す場合の検討すべき問題ということで,最後のパラグラフに「更に検討すべき問題」という表現がありますけれども,ここで保証人が代位して保証を履行した場合の事案について,判例を引きながらその表現でよいかという検証をされていますけれども,似たような話なのかなという事例を一つお話ししたいと思います。   それは給料債権の代位弁済の事案で,これもちょうど平成23年11月22日の最高裁でしょうか,これは破産手続開始の決定を受けた会社の従業員の給料債権を代位弁済した別の第三者が,破産手続によらないで給料債権の支払いというのを破産管財人に求めたという事案でございまして,このときの最高裁も,この文章に載っているものと似たような趣旨だと思うのですけれども,弁済による代位により財団債権を取得した者は,求償権が破産債権にすぎない場合であっても,破産手続によらないでその財団債権を取得できるという判示をしたということで,同じような問題意識ではないか。それを見ると,やはり原債権が消滅するけれども,原債権の効力として認められた権利を行使するという表現だけで大丈夫なのかなと。現在の判例実務は,恐らく原債権が移転するという前提でそういう判断をされていると思うので,その前提を変えるということだと思いますが,それでもこのような破産手続外の権限行使を認めているということを維持しようと思うと,こういう表現でなお大丈夫かなという懸念をしておりますので,併せてそういう事例も含めて検証して議論すべきかと思っております。 ○中井委員 弁護士会の意見は,ほぼ一致してこの考え方に反対です。資料にもありますように,かつてはいろいろ議論があったのだろうと思いますし,なお学説上はなおあるのかもしれませんが,最高裁昭和59年5月29日判決以降,基本的には移転するという考え方で実務は進み,その理論構成も整理されつつあったのではないでしょうか。先ほど青山関係官から指摘のありました最近の平成23年11月の二つの最高裁判決は倒産に関わるものですけれども,求償権と移転した原債権との関係について一定の整理がなされました。とりわけ田原裁判官の補足意見の中で,その譲渡担保構成がいいかどうかはともかくとして整理がなされているところです。それをこの段階で,移転構成ではなくて消滅構成にすることの実務上の要請があるのかよく考えていただきたい。確かに二つの権利とすることによって,時効等をめぐって幾つか問題が生じていることを否定するものではありません。ただ,それについてもそれなりの整理がこれまでにできているのではないかと思います。かえって消滅説を採ったときに,債務名義の承継等について更にどのような説明をするのかという困難な問題があることは,部会資料にも書かれているとおりだろうと思います。   また,従来の説明は技巧的であるとの御指摘がありますけれども,今回の御提案である,消滅した後,その消滅した権利が一定の範囲で効力を有するという考え方,これこそが技巧的ではないかと私には思えます。消滅した権利をなぜ行使できるのかということについてどのようなロジックがあるのか,よく理解できません。この問題を従来の考え方と異なり,消滅を前提として再構成しなければならない積極的理由が基本的に分からないと思います。そういうことで弁護士会は,ほぼ一致して反対です。 ○潮見幹事 私も,基本的に青山関係官,中井委員と同じような印象を持っております。民法の弁済者代位制度というもの自体に,特に平成23年11月24日判決というものは,かなり重いものを更に付け加えたのではないかという印象があります。その上で,ここからが事務局に対する質問なのですが,こういう考え方を提案していると補足説明で書いておられるので事務局に質問するのですが,仮にこの考え方を採った場合には,23年11月24日のケースについては判断が異なってくるのでしょうか。変わらないということであれば,どのように説明されるおつもりなのか。現行の実務を変えずに,しかも理論的にも何かしら説明のつく構成がとられている場面で,それを是とするのであれば,あえて提案されているようなところまで踏み込んだ形の改正をする必要はないのではないかとも思ったものですから,発言をさせていただいたものです。   もちろん,平成23年11月24日の最高裁判決自体の結論が,あるいはその構成がけしからんということであれば,話は違います。個人的には,私は弁済者代位についてのこの判決の民法上の理論構成には反対なのですが,そこはちょっと置いておくとして,けしからんから変えたいという趣旨も入っているのであれば,そこも御説明いただければ有り難いなと思います。 ○松尾関係官 ただいま,潮見幹事からお尋ねいただいた点ですけれども,部会資料の前提としては,平成23年11月24日の判例の結論を変えるべきであるという趣旨ではなく,この判例の結論を維持することを前提に,そのためには,原債権が消滅するという構成を採るのであれば,何らかの説明が必要であり,その説明がなかなか困難であると考えているため,検討課題であるという記載にとどめているものですので,現段階で何かお答えを準備できているということではありません。この判例の結論を維持しつつ,そのための説明について答えが出ないということであれば,この構成を採用するのはなかなか難しいのかなということも感じてはいます。 ○畑幹事 ここでも強い意見があるわけではなく,今検討すべき問題があるという話が出ているのと似たようなことがほかにもあるのではないでしょうかということなのですが,破産法104条4項という規定がありまして,これは破産手続を開始した後に,例えば保証人が債権者に全額支払った場合に関する規定なのですが,この条文なども破産債権を保証人が代位取得するということを前提にしており,従来の債権者の破産手続上の地位をそのまま引き継ぐという理解になっていると思いますので,あるいは文言はこのままでもいけるのかもしれないのですが,ここも一つ検討する必要があるだろうと思われます。 ○山本(和)幹事 私も似たような問題ですけれども,承継執行文の付与の問題と似ていると思うんですけれども,訴訟手続をやっている間に債権者,債務者が,その債権について弁済がされた場合に,その代位者が承継人になるのか,参加承継あるいは引受承継ということでその手続に関わってくることになるのかどうかという問題があるような気が致します。相手方の利益を考えれば,やはり承継人と考えるべきなのではないかという気がするわけですが,そうするとこの文言では,「権利を行使することができる」と代理者側から書いているわけですけれども,相手方から見ても元の債権者と同じような地位に置かれると,そういう意味では承継人の地位に置かれるということも,やはり明らかにしておく必要があるのかなと思っています。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。この項目以下につきましては,(5)まで,こういった考え方を採った場合の問題点等については分科会で補充的に検討するというのが事務局提案でございますので,御指摘いただいた点を踏まえて,なお詳細を詰めて検討させていただこうと思います。 ○松岡委員 ほかの点でもよろしゅうございますか。 ○鎌田部会長 はい,どうぞ。 ○松岡委員 (3)の現行の501条の改正につきましては,いろいろ申し上げたいことがあります。細かいことは,あるいは分科会で検討していただき,自分がその分科会のメンバーでないのであれば,本当はその場に意見書でも出したほうがいいのだろうと思うのですが,取りあえず提案されていることについて,少し問題があると思っている点を一,二だけ発言させていただきます。   一番最初は,501条の1号のことです。ここの御提案は,現在の判例・通説をそのまま条文化をしようという内容で,一見穏当なようにも感じられるのですが,そもそも判例・通説のような理屈が本当に成り立つのか自体に,私はかなり強い疑問を持っております。   と申しますのは,本来この1号の立法趣旨は今の解釈とは逆で,弁済前の代位登記を求めていたはずで,実際そのように判示した大審院判例もあったのですが,最高裁判決で変わってしまいました。現在の解釈は,立法趣旨とは違うけれども,条文があるので無視できないために,弁済後第三者が登場する場合だけでも付記登記しておけと縮小解釈をしているのです。そして,第三取得者としては弁済によって担保権が消滅していることを信じて買い受けたのに,そうでないと不測の損害を受けるから,代位について付記登記を第三者の登場前にしておかなければならないという説明が普通されています。   しかしながらよく考えてみますと,問題になる場面は,債務者以外の者によって弁済がされ,ただ,まだ代位の手続が具体的にとられていない段階ですが,担保権の登記は残ったままなのです。そうすると,第三取得者は,まだ弁済のない担保権付のものとして担保不動産を買い受けるか,担保権が既に消滅しているのであれば,担保権設定登記を抹消させて買い受けるというのが通常の売買契約だろうと思います。そうしますと,担保権の登記が残っているのに,第三取得者は,付記登記がないというだけで担保権はもはや存在しないと期待ないし信頼して行動しているのかが根本的に疑問です。むしろ,第三取得者はそもそも債務者が弁済していない限りは代位を覚悟すべきです。つまり,法定代位という制度があり,債務者が弁済しない限り,代位がされることは,第三取得者が当然に覚悟すべきものであり,仮に担保権の消滅を信じたといたしましても,それは必ずしも保護に値する信頼ではありません。また,不動産について代位の付記登記による公示が必要だとして,動産や債権などが担保目的である場合の第三取得者には,そのような信頼は問題にならないのか。不動産とは違うと言い切れるのか。その辺りもよく分かりません。そもそも代位に対抗要件具備が不要だとしながら,付記登記がなぜ必要なのか自体も問題ではないかと感じております。根本的な話ですから分科会で検討していただくのに適当な問題なのかどうかはよく分かりませんが,取りあえずこの点はこう考えていると申し上げます。   それから,あと一,二点だけ申し上げます。提案内容には基本的には賛成したいところが多く,現在の501条は非常に分かりにくい規定ですので,分かりやすい規律になるよう,御提案のように書いていただくのが望ましいと思います。ただ,説明でちょっと気になるところがございます。54ページの本文⑦についての最後のほうです。物上保証人が代位をする場合に,物上保証人自身が後順位の抵当権を付けていると,言わば物上代位的にその権利をその上に行使できるという個所です。内容は御提案のとおりで良いのですけれども,54ページの(3)の最後の段落のところで,「上記の判例は,本来,民法第500条に従い債権者に代位することができるはずの物上保証人が,事実上代位できない結果となることを明らかにするという意味で重要なものである」とされています。私は,この説明は到底納得できません。むしろ物上保証人が代位できるからこそ,その上に更に物上代位的に後順位担保権者が乗っかって権利を行使できるのです。規定を置くことには賛成なんですが,この説明はちぐはぐで適切でないと感じています。   この条に関しましては,まとまった形で意見を言う準備がありませんが,物上保証人と保証人を兼ねる者の地位を,判例は,いわゆる頭数一人説という形で整理しております。そのときの理由が,ほかに決め手がなく一番これが簡明だからというものだったと思います。一部の見解では,物上保証と保証をあえて重ねて負担している者は,むしろそれは二人と勘定して,重い負担を被っても,ほかの保証人や物上保証人との関係では,むしろ均衡がとれるとも主張されており,それは十分考慮に値すると思います。確かに現行法の解釈としては二人説がなかなか難しいのは分かりますが,判例が致し方なしに選んだ準則を,果たして立法のときにそのまま維持する形で条文化していいものか,なお検討を要すると感じております。 ○鎌田部会長 補足説明の修正については事務当局で引き受けさせていただいて,(3)の①及び④に関わる御意見については,①は少し問題が大きいという御指摘もありましたけれども,実際上どのような影響が出てくるかというような点も含めて分科会での御検討をお願いして,それを踏まえて更に部会での審議をさせていただければと思います。 ○沖野幹事 (3)のうちの松岡委員からも御指摘のありました④,保証人と物上保証人との地位を兼ねる者がいるときの扱いという点でございますが,松岡委員の御指摘は,そもそも昭和61年の判例自体を立法論として採用することの適否から考え直すべきだという御指摘で,それは検討すべきことだろうと思うのですが,仮に昭和61年判決の下で,その法理を取り入れて立法化する場合,それがこの太字のところだと思いますけれども,その際の判例法理が何かということでありまして,補足説明の52ページには簡単に,兼資格者を一人として扱った上で全員の頭数に応じた平等の割合で代位の割合を決すべきであるということが書かれているのですけれども,その際に物上保証人のみである者が更に複数いる場合の割り付けが,やはり頭数であるのか,それとも不動産価額によるのかという点については,この61年判決をどう読むかをめぐって議論があるところであり,かつ,下級審で必ずしも一貫したルールとして定着していないようにも見受けられます。下級審自体も幾つかの考え方を出したものがあるように見受けられますので,その点を含めて考えておく必要があるのだと思います。分科会での検討の際にというつもりです。 ○道垣内幹事 考えていることをうまく言えるかどうか分からないのですが,(3)の①について松岡委員がおっしゃったことに関連して一言申し上げたいと思います。   松岡委員がおっしゃった話は,その限りではそのとおりであろうと思います。と申しますのは,債権譲渡が行われたときについて,指名債権譲渡の対抗要件が具備されていれば,抵当権の登記は変更がなされず,債権譲渡人を抵当権者として表示したままの状態であっても,抵当不動産の第三取得者に対して債権譲受人は自らが抵当権者であることを対抗していけると一般的には考えられているのだろうと思います。  そうなりますと,弁済による代位というものの制度が原債権の当然移転制度であると考えたとき,どうして債権譲渡の場合と違って,代位の付記登記が必要なのかという話が出てまいります。   更に言えば,任意代位に関しまして債権者が同意していればいいだろうという話があったのですが,そのときに仮に現行法の499条2項の規律を維持するとしますと,この場合は債権譲渡の対抗要件が具備されているにもかかわらず,501条が「前2条の規定により債権者に代位した者は」となっていることから,第三取得者との関係で付記登記がなければ勝てないという制度になっているわけです。  このことを合理的に説明しようとしますと,債権譲渡の場合と異なり,代位が問題となる局面では原債権が消滅していると説明せざるを得ないのではないかと思います。原債権が任意代位の場合には合意により移転している,法定代位の場合には当然に移転していると考えるならば,501条1号は説明が困難になります。強いて言えば,移転なのだけれども,消滅しているけれども移転しているという特殊な状況だというような,かなりそれこそ技巧的な説明をすることになるのかもしれません。   このように考えてきますと,中井委員には申し訳ない言い方になるんですが,原債権が移転するということを前提にして現在までに精緻な議論が積み重ねられてきたとは,私には到底思えません。どこか根本的に考え直す必要がある箇所が存在するのであり,松岡委員がおっしゃった問題は,正面から考えてみる必要があると思います。 ○鎌田部会長 それでは,(4)の一部弁済の場合について何か御意見があればお出しいただければと思います。 ○三上委員 59ページの4の部分について一言申し上げますけれども,連帯債務者や保証人のように自らの債務を弁済する場合であっても,今回提案されているように原債権が弁済によって消えるのであれば,それによって原債権が消えて,原債権が持っていた権利は何らかの形で移転してくるという意味では,基本的に求償権の構造としては同じですし,そもそもこういう劣後化の工夫というのは,一部しか弁済していない全部義務者は,一部の弁済に基づいて自らの権利を行使したところで,その行使して得られたものはまた債権者のほうに保証なり連帯債務の履行として提供しなければならないという無駄な循環を防ぐという意味も兼ねているので,ここは区別する必要はないのではないかと考えております。実際の実務では,大抵の場面には当事者間で契約上の手当てはなされておりますので余り支障はないかとは思うんですが,約款の効力を制限する規制の可能性などを考えると,基本的に考え方は同じなので,劣後化は明文でお願いしたいと考えております。 ○中井委員 資料の中で58ページの「(3)保証債権」について,一番下4行で保証人が倒産した場合の規律が書かれているのですが,この場合でも原債権者の有する債権,それと代位弁済した人の保証人に対する債権との関係について,これは破産手続開始前に代位弁済が行われている事例を当然想定していると思うんですが,配当の受け取り方について,両債権を合算したものについて原債権者が優先して取得できると読めるのです。それは現在の倒産法の規律を変えるという趣旨でしょうか。それとも読み方を間違えているのでしょうか。 ○松尾関係官 中井委員の御質問は,破産法104条の規律を変えることになるのかどうかという御質問と理解してよろしいですか。 ○中井委員 開始時現存額主義を変えるのかという質問です。59ページにおいては維持することを明示されているわけですけれども,58ページでも問題の現れ方は同じような形ではないかと思ったものですから。 ○松尾関係官 59ページのほうは保証人が取得する自己の権利である求償権そのもののことを書いているわけですけれども,58ページで書いてあることは原債権者が元々有していた保証債権についての話であり,状況が違うと考えておりました。58ページの記載によって,現在の破産法の104条を変えるかどうかについては十分に考えてはいなかったのですが,理解が不十分であれば,御教示いただけると幸いです。 ○中井委員 原債権者が持っている債権と代位者が持っている原債権があるわけで,それを開始時点ではそれぞれ本来行使できるはずのものを,結論として原債権者が代位者に優先して満足を得る,その合算額全部が原債権者に配当されると記載しているものですから,やはり現在の規律を変えるということになるのではないでしょうか。その点,疑問として指摘させていただきます。 ○山本(和)幹事 今の点は私もそういうふうに理解して,(4)の②の規律というのは,結局保証人が相手ではなくても,債務者それ自体が破産した場合でも結局同じこと。つまり,合算額で計算をして債権者が代位者に優先するということになるので,今の規律とは違いますよね。開始前に弁済していてもそうなるということになるというふうに変えるのだなと私は理解していました。 ○中井委員 それを変えるという趣旨であれば,そういう趣旨と理解します。 ○鎌田部会長 そこは今のような御指摘の趣旨でよろしいですか。 ○松尾関係官 はい。 ○岡委員 単位会で質問があって答えられなかった点をここで質問させていただきますが,抵当権の場合ですが,100万円の債権があって,50万円の一部弁済を受けて弁済による代位は認めない場合に,元の債権者が抵当権の実行申立てをして,同順位の抵当権があったので,被担保債権が幾らかというのが問題になった場合は,一部弁済を受けた後の50万円で抵当権の配当の計算になるのか,代位者がいるので100万円の被担保債権を抵当権上主張できるのか,それはどちらなんでしょうか。 ○松尾関係官 代位を認めない場合であれば,受け取れるのは50万円ではないかと。 ○岡委員 やはり50万円。そうすると一部弁済の人は,代位の承諾を得られないと抵当権から回収するチャンスはかなり少なくなる。それはしようがないと割り切っていいんですか。 ○鎌田部会長 代位ができなかったらチャンスはゼロではないでしょうか。 ○岡委員 そうなりますよね。 ○鎌田部会長 はい。 ○岡委員 そう答えたところ,それはおかしいと,一部弁済を受けた人の分も抵当権から取って返せる場合には返してやるのが筋ではないかと随分言われました。 ○松尾関係官 その御意見は,代位を認めるべきであるという御趣旨ではないかと理解いたしました。 ○鎌田部会長 (5)も含めて御意見を頂戴いたします。 ○岡委員 (5)のイの(ア)の明文化のところですが,意見は分かれました。内容的にこれでいいではないかという意見も半分程度ございました。他方,こんな「合理的な」という言葉だとか「正当な」という言葉が民法に入っていいのかという,条文的にこれは問題ではないかという意見もかなりございました。それに対しては,最近の金商法なんかを見ると「合理的」という言葉は随分出てきているんだからいいではないかと,正当理由という言葉で,民法にも「正当」という言葉はあるからもう認めようよという意見もありましたけれども,ちょっと抽象的文言すぎるのではないかという反対意見もございました。その反対意見の一つに,こういう言葉よりも「信義則上の義務」という言葉のほうがいいのではないかという意見もあったんですが,それを言い出すと,最初のほうに出た,民法は信義則だけでいいではないかという意見にもつながってきますので,それは問題であるという反論もあり,弁護士会の意見は今のように分かれております。趣旨はいいんだけれども,どういう表現が最も民法として分かりやすく適切なのかというところで,なお議論があるという状況でございます。 ○鎌田部会長 (5)のアの前半に関しては,先ほどの付記登記を対抗要件として求めるかどうかとも関連してくるのと,登記協力義務が生ずる場合を全部本当に拾い上げるのかどうかというようなこととも絡むのかもしれませんけれども,いずれにしましても(2)から(5)までにつきましては,規定を設ける場合の問題点等につきまして,また岡委員から御指摘のありましたような表現としての適切さというようなことにつきまして,分科会で補充的に検討するというのが事務当局の提案でございますけれども,そのような形でよろしいでしょうか。 ○潮見幹事 それで結構ですけれども,一点だけ申し上げたいことがあります。   60ページのイの(ア)ですけれども,分科会でやっていただくということを前提ですが,主張・立証責任は一体どうなるのでしょう。イの(ア)だけを見ると,債権者が担保を喪失し,又は減少させることが合理的な理由に基づくものであり,正当な期待に反するものでない場合には担保保存義務に反しないということになっていて,従来の504条の下での立証責任と少し変わることになりませんか。担保の喪失と減少ということさえ主張し,証明すれば,法定代位権者からの立証は足りると読まれる可能性があるような気がしましたので,その辺りも少し分科会で検討していただければと思います。 ○中井委員 「(1)任意代位の見直し」のところで先ほど意見を申し上げて,債権者の承諾なくして移転をするというときの対抗要件の問題についてですけれども,これは分科会で是非検討していただきたいと思いますけれども,これは法定代位と区別する理由はなくなってきて,対抗要件は要らないのではないか。   それから,(3)の①について松岡委員,道垣内幹事から御指摘のあった点,私も移転説を採っているものですから,これを消滅したことの信頼を前提として,なぜこのような形で付記登記を必要とするのかについて疑問を持っておりました。併せて,これが保証人だけになっているという点についても理解できません。501条の条文は明らかに物上保証人と保証人とを区別した条文構成になっておりますので,この1号は保証人のみを指すのか。そうすると,物上保証人の場合はどう考えるのか,それがよく分からない。付記登記なくして対抗できるというところまで意味しているのかどうか。   それと,私も結論としては,付記登記の位置付けですけれども,それは(5)のアとも関係しますが,付記登記は義務として行わなければならない。しかし,その付記登記の意味するところは,競売を申し立てるための資格として必要にすぎない,対抗要件的に考えるのはおかしいのではないか。つまり,代位弁済してから付記登記しない間に第三取得者が現れたからといって,抵当権を主張できて当然である。松岡委員からも道垣内幹事からも出なかった場面として,第三者からの差押えを受けた場面,更に当該債務者が破産をした場面を考えたときに,付記登記をしていなかったらいずれも対抗できないという帰結になるのではないか。それは明らかにおかしいであろうと思います。したがって,なぜ付記登記を必要とするのか疑問を持っているということ,重ねて申し上げておきます。 ○松岡委員 今,中井委員から御指摘がありましたけれども,先ほど私が申し上げた趣旨を突き詰めていけば全くおっしゃるとおりです。付記登記は,およそ対抗要件の意味ではなくて,執行開始のための資格要件であると,私はそう考えております。 ○佐成委員 私もちょっと言い忘れていたところがありまして,(2)のところでございます。特に経済界において現行判例法上の移転説を変更したいとか,そういったニーズはもちろんございません。もとより,消滅説でもいいとか,そういった議論も余りございません。申し上げたいのは,比較法の問題です。つまり,部会資料では,移転構成のドイツ民法第268条だけが書かれておりますが,恐らくフランス民法も移転構成を前提として立法されているはずなので,日本民法の母法である,それらの国における議論との整合性も十分考慮したほうがよろしいのではないかということだけ指摘したいと思います。 ○岡委員 先ほどの続きなんですが,ちょっと整理をして,100万円の債権で抵当権を持っていたと,連帯保証人なりが50万円の一部弁済をしたと。その後,抵当権の実行申立てをしたところ70万円で売れそうだと。そういうときに,20万円は代位した保証人にいかしてやるのが筋ではないかと,こういう発想があったわけです。そういう場合には,単独で債権者は原債権の権利等を行使することができる,しかし20万円余剰があることが明らかであれば,一部弁済者の代位に同意する信義則上の義務が出て,それを同意しないのはけしからぬとか,担保保存義務に違反するとか,そういうふうに考えていけばいいんでしょうか。 ○鎌田部会長 競売が実行されれば20万円の優先弁済を受けられるのは間違いないですけれども,抵当権実行のイニシアチブは飽くまで抵当権者にしかない。それは抵当権実行時期選択の自由は,代位弁済者がいるからといってそれに拘束されないと考えるのがこの提案の内容だと思います。ですから,嫌だと言っても別に信義則に反しない。 ○岡委員 競売手続の中では50万円しか債権はない前提で進む。 ○鎌田部会長 そうではなく,法定代位のケースですから70万円の配当になる。 ○岡委員 法定代位なので連帯保証人等が…… ○鎌田部会長 20万円の配当を受けられる。 ○岡委員 債権届出をするわけですか。 ○鎌田部会長 抵当権者として行動するのではないですか。元々の抵当権者と代位によって抵当権を取得した者とがそれぞれ自己の権利で配当要求をする。その場合に,この提案に従えば,(4)の②に従ってその二人の間には優劣がつけられている。 ○岡委員 単独で行使することができる,同意を得て行使することができるというのは抵当権の実行申立てのところだけで,その後の配当は同意なんか要らなくて届け出られると,そういう整理ですか。 ○鎌田部会長 はい。 ○岡委員 ちょっとそこをうまくどこかで書いていただければ,有り難いです。 ○山野目幹事 小さなことですが気になりますから,分科会の検討の際に視野に含めていただきたいと考えますが,代位の付記登記は,先ほどからの御議論ですと,一つのすう勢として,対抗要件ではなくて担保不動産競売を申し立てるための要件として求められる登記であると理解した上で考えようという御議論があったと思いますが,そのようなものを規律として民法に記す必要があるかどうかということについて,少し不自然さを感じます。   それから,同じく付記登記を共同申請するときの協力義務があるというのも,「付記」という言葉とか「登記」という概念が出てくる場所は民法の中にいろいろあるのに,なぜここだけ共同申請の協力義務を書き込むことになるのかということについても不自然さを感じますから,民法の他の規律との整合も考慮しながら分科会で御検討いただくということを望みます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,次に「第2 相殺」に入らせていただきます。まず,「第2 相殺」のうち,「1 相殺の要件」について御審議いただきます。事務当局から御説明をお願いします。 ○松尾関係官 「(1)相殺の要件の明確化」のアは,相殺の要件として受働債権の弁済期が到来している必要がないことを明らかにするという考え方の当否を問うものです。甲案では,自働債権が弁済期にあることのみを要するとして,相殺の要件を改める考え方。乙案では,自働債権が弁済期にあるときは受働債権の期限の利益を放棄して相殺することができる旨の注意的な規定を設ける考え方を取り上げています。   イは,相殺の要件について規定する民法第505条第1項について,自働債権に抗弁権が付着していないことが相殺適状の要件として必要であることを条文上明記することを提案するものです。   「(2)第三者による相殺」は,部会資料39の65ページの図のBが,甲債権を自働債権とし,乙債権を受働債権として三者間で相殺することができるとする考え方の当否を問うものです。今回の部会資料では,これまでの部会における審議やパブリックコメントで頂いた意見を踏まえて,Aが無資力である場合にはBが第三者による相殺をすることができないとするとともに,AがBに対して有する丙債権を自働債権とし,甲債権を受働債権とする相殺の期待を保護することを併せて提案しています。   「(3)相殺禁止の意思表示」では,当事者の相殺禁止の意思表示は,善意の第三者に対抗することができないとする民法第505条第2項について,その善意という要件を善意無重過失に改める考え方を取り上げています。   以上の各論点のうち,「(2)第三者による相殺」については,具体的な規定の在り方等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,これらの点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いします。 ○山本(和)幹事 既に時機に遅れているのかもしれないのですが,(1)のところでここでは期限の話が書かれているんですけれども,条件ですね,受働債権が停止条件付きの権利であるような場合に,停止条件不成就の利益を放棄して相殺をするということができるかどうかという問題ですが,これは倒産手続の中でかなり問題になっておりまして,破産法は条文は明確で,またそれを補充する判例も出て明らかになっているんですけれども,民事再生や会社更生では必ずしも明文の規定がなく,民法でそれがどうなるのかということをめぐって今議論がされているところだと思います。必ずしも民法の教科書なんかは明確には書かれていないように思うんですけれども,後で自働債権が停止条件付きのところをどうするかというのはこの資料の中でも出てきていると思うんですけれども,もし書けるようであれば,受働債権のほうも書いていただければ,倒産法の議論がもう少し明確になるかなと思っていますので,希望ですけれども,もし可能であればということです。 ○岡委員 順番に(1)と区切って。まず,(1)については乙案の支持がかなり多うございました。甲案と乙案,それほど大きな違いがないですので,丁寧に書くかどうかという違いだと思いますが,大多数が乙案支持でございました。 ○鎌田部会長 これは相殺の遡及効とも絡んできますけれども,そこのところは余り議論の対象になってはいなかったですか。 ○岡委員 いいえ,後で申し上げますが,遡及効でないことにするのには大反対が多かったです。 ○深山幹事 今の(1)の関係で岡先生の御説明の補足として申し上げますが,乙案支持の一つの根拠として,期限の利益喪失については,現行法の136条2項ただし書で相手方の利益を害することができないという一定の要件が課せられていて,それが甲案だと埋もれてしまうという点があります。単純に文言だけ見ると,その点を考慮することなく自働債権の弁済期の到来だけで相殺ができるということになってしまうので,期限の利益の喪失一般の要件をここでもいじらないということが前提だとすれば,乙案のような形で表現をすることが適当だろうと考えます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○道垣内幹事 漠然とした不安なのですが,期限の利益を放棄して相殺することができると相殺のところに書いてしまったときに,期限の利益の放棄が他の法条ないしは法理によって制約されているときにもできるということにはならないかなあという心配があります。136条の話が出ましたけれども,結局のところ,期限の利益を放棄することができるときには放棄することができるという条文にならざるを得ないような気がしまして,乙案を本当に書けるのかなと疑問を感じます。 ○山野目幹事 (1)アにつきましては,私個人は甲案を推すものでありまして,その理由は,部会資料64ページに詳しく述べられているところでありますから繰り返しません。乙案について,道垣内幹事がおっしゃったのと同様の危惧を私も抱きます。   その上で議論の進め方について,あるいは今後,中間試案を作成していくに当たっての考え方について希望するところを申し上げますが,本日これから御議論される相殺についての論点の中には,相殺の遡及効についての態度決定がどうなされるかということを前提として,それと関連している幾つかの論点がございます。刹那的に一個一個決めていくということだけになりますと,そこでの態度決定と整合しないような事態も起こり得るのではないかと考える部分がございますから,遡及効の問題について後で議論される際に,もし二つの立場が並立するようなことがあり得るのだとすれば,それと整合的に他の論点についても社会的な議論を喚起していく余地が残るような御工夫を頂きたいと考えるものでございます。 ○鎌田部会長 そういう意味では,乙案のほうは期限の利益を放棄することができるということと,それ以上に双方の債務が弁済期にあるという要件を維持するということが乙案の最も重要な点ですね。仮に相殺の遡及効を認めたときには,どこへ遡及するかが甲案と乙案とでは変わってきますので,そこのところのほうがむしろ重要だろうと思います。 ○中井委員 部会資料の本文には,甲案,乙案の二つしかないのですが,補足説明の中に別案,現状維持という考え方があるという指摘があります。私はこれを丙案と名付けて,丙案に賛成をしたい。相殺は,相殺適状を要件とするということのみが明らかであればいい。現行法どおりという理解です。   その背景には,基本的には乙案的考え方があるわけですけれども,乙案にすることによる問題があるように思われるからです。それは,期限の利益を放棄して相殺することができるとするならば,期限の利益を放棄する意思表示が別途,相殺の意思表示とは別に明示的に要るということになろうかと思います。そうだとすると,実務の中に現実にその二つの意思表示を分けて行われているかというと,必ずしもそうではないだろう。むしろ,仮に受働債権について期限がいまだ到来していないときに相殺の意思表示をしたときの理解の仕方として,甲案のように考えるのか,それともその意思表示の中で期限の利益の放棄の意思表示が黙示的になされていたと考えて説明するか,そういうこともあり得るし,現にそうではないか。乙案を採ったときは,そういう考え方に整合的と思っております。そのとき,乙案では,期限の利益の放棄があったのかなかったかという問題が生じるのではないか。現行法どおり丙案のほうがいいのではないかと思います。 ○松本委員 今の中井委員の御発言との関係で事務当局に対する質問なんですが,甲案は期限の利益の放棄の意思表示は要らない,弁済期の議論はしなくてもいいんだという大前提なんでしょうか。乙案は,現行法に少し注意書きしたような程度だからよく分かるんですけれども,甲案の趣旨は相手方の債務,自働債権の弁済期到来は必須だけれども,受働債権については弁済期の有無は問わないし,期限の利益の放棄によって弁済期を到来させる必要すらないということですか。 ○松尾関係官 松本委員からの御質問についてですけれども,甲案の考え方を採った場合には,相殺の意思表示の中に期限の利益を放棄するという意思表示が含まれていると解釈することができると考えればよいのではないかと考えています。甲案の趣旨は,相殺適状の要件を改めるということだけであって,期限を到来させる必要がないとか,期限の利益の放棄を観念する必要がないということまで言っているわけではないと理解しています。 ○松本委員 そうすると,実質的には甲案も乙案もそれほど変わらないわけですね。どこで期限の利益の放棄の意思を読み込むかということであって,先ほど中井委員のおっしゃったように実務的には二つに分けてやらないんだ,一緒にやるんだということを単に追認しているだけであって,論理的に考えればそこには期限の利益の放棄が入っているんだとすれば,甲案,乙案は変わらないということですか。 ○松尾関係官 繰り返しになりますけれども,相殺適状の発生時期が違うことになるので,遡及効を維持した場合には遅延損害金の算定の仕方が変わってくると思います。 ○中井委員 甲案の提案は,現在505条は双方の債務が弁済期にあるときは相殺できるとあるのを,自働債権の弁済期が到来したときは相殺できる。括弧書きであえて言うならば,自動債権の弁済期が到来したときは,受働債権の弁済期が到来していなくても相殺できる,こういうことを提案していると理解しましたので,今の松尾関係官の御発言の趣旨とは違う提案だと思っていたのです。再度確認したいんですけれども。 ○山野目幹事 松尾関係官の御説明を少し私なりに補足させていただきたいと感ずる部分がございまして,甲案で考えられているのは,恐らく相殺の意思表示の中に実質的には期限の利益を放棄するというような意味合いというか意図というか,そういうものが含まれているということをおっしゃったものであろうと理解します。法律上の形式論理として,といいますか,証明されるべき主要事実として期限の利益の放棄がなければいけないということまでおっしゃっている趣旨ではなくて,甲案はそのようなものはむしろ考えないという前提の御提案であると理解しておりました。 ○内田委員 甲案の趣旨は,今,山野目幹事がおっしゃったとおりだと思いますが,中井委員から先ほど丙案の御提案があったのですけれども,丙案と乙案はどこが違うのでしょうか。丙案というのも弁済期到来というのは言わなければいけないわけですよね。違いはあるのでしょうか。 ○中井委員 乙案が注意的な規定であるとすれば同じです。 ○鎌田部会長 むしろ注意的な規定をわざわざ書くことに伴って,余計な問題が発生するかもしれないということをおっしゃったわけですね。 ○中井委員 はい,それのみです。 ○内田委員 余計な問題といっても,弁済期到来のために期限の利益放棄を言わなければならない。その意思表示があったことは言う必要があるのではないでしょうか。 ○中井委員 乙案で明示的に書けば,その中に期限の利益の放棄の意思表示があったのかということが争点になるのではないか。現行の理解としては,相殺の意思表示をしたときに通常期限の利益の放棄もして意思表示していますということで終わっていると思います。それを注意喚起的にすることによって,あなたの意思表示の中には期限の利益の意思表示は書いていませんねという紛争が生じかねないのではないか。   ○松本委員 特に山野目幹事の御説明の感じからいくと,期限の利益の放棄というのはそれほど考えないほうがいいんだと,むしろ自働債権の弁済期到来だけで相殺適状が生じているんだから,それで相殺したければ相殺の意思表示をすればいいんだという議論だと思うんです。それは非常にすっきりした説明ですが,現状と相当変わるわけです。それでいいのかどうかという議論をしたほうがいいので,そこに期限の利益の放棄の意思表示が事実上含まれているなどという議論をすると,ほとんど乙案あるいは丙案と変わらなくなってくるのだろうと思います。   ただ,乙案,丙案は,期限の利益の放棄の意思表示をすることによって相殺適状を発生させて,それから相殺の意思表示という順序でしょうが,甲案は全く相殺の意思表示オンリーでいいということでしょうか。 ○鎌田部会長 判例をどう理解するかで,期限の利益の放棄があって弁済期が到来して相殺適状になって,それから相殺というのを,これを瞬時にやっているというふうに見るのか,どうせ期限の利益は放棄できるんだから,わざわざそれを独立の要件としては求めずに,相殺の意思表示だけで相殺を認めていると見るのか,二通りあり得る。どちらかと言うと後者のような判例理解を前提にしているということですね,この補足説明に書いてあることは。 ○松本委員 今の部会長の御説明は,判例はもう既に条文を変えているという御説明ですよね。だから,その判例を追認すれば甲案になりますと。 ○鎌田部会長 というのがこの補足説明の1に書いてあることだと理解しております。 ○内田委員 そういうことだと思うのですが,判例そのものではなくて,ある立法例のお話をしますと,甲案は受働債権の弁済期到来は相殺の要件でないということは言っているわけですが,では受働債権についてどうなるか何も書いていないので,やや不親切な感じがするのですね。立法例の中には,自働債権についての弁済期の到来と,受働債権について弁済の権限があるということがあれば相殺できると定めているものもあります。この場合は,弁済期到来は要件ではないけれども,期限前であろうがとにかく弁済できるという状態であれば相殺できるということで,趣旨は同じだと思いますけれども,そのほうが親切かもしれないという気がします。 ○中井委員 お尋ねになるんですが,期限前弁済ができない場合に,甲案の場合は相殺ができるんでしょうか。 ○内田委員 できないのだと思います。 ○中井委員 そうすると期限前弁済ができないというのは,それは相殺禁止の合意があると考えるのでしょうか。そこまで考えるわけではなくて,期限前弁済ができない場合に相殺できないことが,甲案からは分かりませんね。 ○内田委員 私の個人的な意見としては,その点ではやや不親切な要件設定にはなっていると思います。 ○中井委員 それを申し上げたのは,金融機関が一定の利率で一定の期間,金銭を貸し付けた場合に,途中で次々相殺されることは全く予定していないと思うんです。甲案であれば,債務者はお金ができて預金債権ができたときに相殺できることになります。先ほど深山幹事でしたか,期限の利益を放棄できない場合,期限前弁済ができない場合,同じことを申し上げたわけですけれども,甲案はその点不明確だと思います。 ○松尾関係官 少なくとも甲案で現在認められない相殺をできるようにするということまで意図していたわけではないので,中井委員がおっしゃったような例が,現在相殺できないという例であれば,それは何かしらの説明によって相殺できないという結論にならなければならないと思います。 ○鎌田部会長 甲案は,この書き方で相殺の要件を書き尽くしたかというと,今のような疑問を排除できないので,書き尽くされていないということになるんだろうと思います。 ○山野目幹事 結局アの論点は,本日冒頭に岡委員から弁護士会の先生方の御意見として,甲案でも乙案でもほぼ変わらないではないかとおっしゃったところ,私も同感でありまして,ほぼ変わらないと感ずるのです。途中で更に,甲案のようにすっきりさせるのですねというふうに松本委員がおっしゃった,そのすっきりという言葉も拾わせていただければ,ほぼ変わらないというのと,すっきりさせるというのとを組み合わせると,甲案の方向に行くものであろうと考えます。それに対して乙案ないし丙案は,弁済期の状態に加えて期限の利益を放棄する意思表示というものを法律上の要件として加えることによって,相殺の要件が非常に重くなっており,また判例がどう理解されるかは問題ですが,判例が示唆している方向とも必ず一致しないという問題があります。それをどう考えなければいけないかということであろうと思います。議論の進め方として,中井委員のおっしゃる丙案のようなものにも魅力がありますが,反対に甲案の考え方を基調としながら,甲案が表現し尽くしていない,舌足らずであるような部分を,内田委員の御示唆のようなものを参考にしながら補充していくという行き方もあり得るものでありまして,ここに出ている甲案,乙案の文字面そのものよりも,そのエスプリを基にどういうふうな発展可能性があるのかということも引き続き考えていただきたいと希望するものでございます。 ○深山幹事 山野目先生にまとめていただいたような形になりましたけれども,そういう意味では,甲案,乙案,丙案と三つ書かれていますが,考え方は変わらないと思うんです。つまり判例の結論的な考え方を変えないということは多分共通していて,それをどう条文として表現するかというレベルの問題だと思います。そういう意味では,先ほど私が発言したのは,甲案は表現としてそれは不適切ではないか,乙案のほうが,この表現の問題はともかくとして,期限の利益を喪失するということを意識した書き方である点でよろしいと思ったんです。ただ議論の中で,甲案は舌足らずでもう少し補足する必要があるという話になり,あるいは立法例としても,期限ということではなくても弁済の権限があるということが規定されているものがあるということが御紹介され,仮に甲案がそのような形で補足をされるということになるならば,それはもう私も別に甲案で全然構わないです。更に言えば,古い判例の表現も,債務者において即時に弁済をなす権利ある以上というような表現があって,これは正に御紹介された立法例と同じように,期限ではないけれども弁済する権利がある,あるいは権限があるということを前提にした判例であるということを忠実に明文化するのであれば,単に自働債権の弁済期だけではなくて,弁済する権利があるとか権限があるとかということを明文化すれば,正に明文化になるということなのではないでしょうか。 ○鹿野幹事 実は先ほど手を挙げて指名された後に数人の委員,幹事の方が順次発言されたところにほぼ尽きているのですけれども,申し上げたかったこと,あるいは確認したかったことは,相殺の要件に関する甲案において,期限の利益が放棄できないような場合にはどうなるのかということでした。乙案については,このような書き方ではありますけれども,期限の利益を放棄して相殺することができる場合であることを当然の前提としており,つまり,例えば法令とか意思表示によって制限されている場合は別として,期限の利益の放棄ができる場合であることを前提に,当事者が期限の利益を放棄した上で相殺することができるということが書かれているのだと思っておりましたし,それは恐らく現行法の取扱いと一致しているのだと理解しておりました。   ただ,甲案については,先ほど,特に最初のほうで,受働債権の弁済期というのは相殺において要件とされないということが強調されておりましたので,そうなってくると期限の利益が放棄できないような場合,例えば先ほど出てきた期限前の弁済ができない場合などについてはどうなるのだろうかと,疑問を持ったわけです。もっとも,それについては既にお答えがあり,ここには明確には書いていないけれども,甲案でも期限前の弁済ができることを条件とするということでした。そうであると,その点では両者は変わらないことになりそうです。そうすると結局,この二つの案の相違点として考えられるのは,一つは,期限の利益の放棄の意思表示を訴訟において立証の対象とするかどうかということ,これが一つの大きな相違点で,もう一つは,遡及効との関連で先ほど山野目幹事がおっしゃったように,もし相殺適状時までの遡及効を現行法と同じように認めるとした場合に,いつ両債権が消えたものとして取り扱われるかということ,ここに大きな違いが出てくるのだと思います。もっとも第二の点については,遡及効についての議論をした上でないと検討ができないと思いますので,そちらの議論に回したいと思います。 ○山本(敬)幹事 かえって混乱するかもしれないのですが,私なりに理解していたことを申し上げたいと思います。   甲案の考え方は,相手方から債務の履行を求められたときに,履行期がまだ来ていないので履行したくないということで,履行期の合意があるという形で履行請求を拒む可能性が一方であるわけですけれども,そのようなものを持ち出さずに,端的に相殺によって相手方からの履行請求を拒絶するという可能性もあります。そのときの要件が,甲案では,相手方の債務が弁済期にあることであると書かれているだけなのですが,それでは,先ほど中井委員が御指摘されましたように,問題が生じる。それはどういうことかといいますと,単に履行期の合意があるだけではなく,履行期前の弁済を禁ずるという趣旨で履行期が約定されている場合があって,この場合に相殺を認めてしまうと,実際には期限前に弁済したのと同じことになるので,問題がある。むしろ,履行請求してきている相手方が,このような趣旨で弁済期の合意があるのであって,相殺できないと言えれば,相殺はできなくなる。その点が,甲案では書かれていないので,その点を補う必要があるというような御指摘だったのではないかと私なりに理解していました。そのような手当てをするのであれば,私は別に甲案でもよいのではないかと思います。 ○潮見幹事 いずれにしても,これは分科会でこれから詰めていくことになろうと思います。先ほどから議論になり,直前の山本敬三幹事の話に出ていたようなことに関連しますけれども,参考資料では挙がっていないのですが,例えばヨーロッパ契約法原則の13の101,これは基本規定なのですが,そこのところに自働債権と受働債権について,先ほど議論があったようなことも含めて書かれています。そして,それは,甲案でも乙案でも丙案でもない。甲案の修正案みたいな形なのですけれども,そのようなものもありますから,基本的な考え方について,なるべく一致がとれるような形での整理を分科会でやっていただければいいのではないかと思います。 ○松本委員 舌足らずの甲案をきちんと補って,先ほどどなたかおっしゃったような期限前の弁済ができる,あるいは期限の利益の放棄ができるような場合についてはこうこうであるということであれば,甲案でよろしいと思います。このままだと,やはりかなり問題が出てくると思います。 ○鎌田部会長 それを補充すればするほど乙案に近づいていくんですけれども,乙案ではなくて甲案だということの一番重要なポイントは……。 ○松本委員 それは先ほどどなたかおっしゃった,中井委員でしたかね,乙案だと逆の紛争がわざわざ起こるではないかと。期限の利益放棄の意思表示をした,していないという部分の紛争が別途起こる可能性があるから,中井委員は丙案だとおっしゃったわけだけれども,甲案に修正を加えれば,事実上丙案と変わらなくなるということですから,それであればシンプルな甲案でいいのではないかと。これは部会長自身がおっしゃった,判例は実際に,こういう立場に立っているのだということにも対応するのだろうと思います。このままの案だと,恐らく判例をはみ出していることになるのだろうと思います。 ○内田委員 今,甲案支持の意見がありましたけれども,鹿野幹事の発言の最後のところにありましたように,これは相殺適状の発生時期に関わってきて,先ほど松本委員の御発言に対して松尾関係官から答えましたように,甲案,乙案,違いが出てくるのですね。山野目幹事から,やはりその点を考えると遡及効の有無についての議論をしてから検討したほうがいいという御意見ありましたけれども,私もそう思いますので,この点だけをここでこれ以上詰めないほうがいいのではないか。遡及効の問題についてきちんと議論した上で,こちらをもう一回振り返ったほうがいいのではないかと思います。 ○道垣内幹事 内田委員のおっしゃることと基本的に同じなのですが,弁済の権利があるときという文言を仮に使ったときには,権利があるのはいつからなのか,つまり期限の利益を放棄したから権利があるのか,それとも今の段階でも権利があるのかが問題になり,仮に相殺の遡及効を認めたとしますと,放棄の意思表示をしない前に,放棄できる状態なのだからその時点で相殺適状があるとか,そうではなくて,放棄があって初めて権利が発生するのであり,その時点で相殺適状になるのだとかの意見の対立が生じそうです。やはり遡及効をどう考えるかというのと権利があるということをどう評価するかというのが関係してきますので,権利があるというふうに甲案を直せば,乙案に近づいてくるとは,簡単にも言えないと思います。しかし,議論の仕方としては内田委員のおっしゃったとおりだと思います。 ○鎌田部会長 この点については,先ほど潮見幹事からは分科会でというお話でした。事務当局の御提案としては,分科会に回すまでのことはないというのが原案のようでありましたけれども,ここでいろいろと御意見が出てきたところでもあり,また山本和彦幹事からの御要望もあるわけで,そういったものに最も適切に応えるためには,どういった要件構成にして,どういった規定ぶりにするのがいいのかということは少し詰めて議論したほうがいいと思いますので,分科会に付託するということでよろしいでしょうか。   では,休憩を取らせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開をさせていただきます。   1の(1)につきましては,分科会での補充的な御検討を頂くということになりました。ちょっと部会長の職権濫用かもしれませんけれども,(1)のイについてもこんなに一般化していいのかなという疑問を持っておりまして,自働債権に同時履行の抗弁権が付着していても,自働債権と受働債権とが同時履行の関係にあるときには相殺してもいいというのが判例であるわけで,これが消えてしまって本当にいいのかということも疑問に思っています。分科会の御検討の際に,もし有効な対処方法があれば併せて御検討を頂けたらという希望を持っておりますので,よろしくお願いいたします。   「(2)第三者による相殺」について御意見がありましたらお伺いいたします。 ○筒井幹事 「(2)第三者による相殺」の部分につきまして,本日御欠席の大島委員と安永委員からそれぞれ書面による意見が提出されておりますので,読み上げて紹介いたします。   まず,大島委員の御意見です。   第三者による相殺については,規定を設ける実務上のニーズはないと思います。一方,規定を設けると,債務者が債権者に対して有する債権及び債権者が第三者に対して有する債権について,相殺の担保的効力を弱めるおそれがあると考えております。また,第三者の介入を積極的に認めるような規定を置いた場合,法的交渉力に乏しい中小企業がトラブルに巻き込まれる可能性も想定されるため,慎重な検討が必要ではないかと考えます。   次に,安永委員の御意見です。   第三者による相殺の制度については,労働債権,取り分け退職金に伴う先取特権の対象である資産の流出を招き,企業倒産時における労働債権保護を危うくするという観点から,第1ステージでは制度を設けるべきではないという意見を申し上げました。部会資料で言えば,65ページの図表のAが経営破綻した企業であるとした場合,乙債権は,Aと労働契約を締結している労働者の労働債権確保のための配当原資となり得る性質のものであり,この乙債権について,第三者であるBによる甲債権との相殺が許されれば,労働債権のための配当原資とはならず,実質的にBによる回収が図られることとなります。部会資料では,「Aが無資力でないときに限り」とした上で第三者Bによる相殺を認めるという提案がなされていますが,仮に,Bによる相殺を認めるとしても,これが許される場面を限定し「Aが無資力となるおそれのないときに限り」という厳格な制約を加えていただきたいと考えます。 ○鎌田部会長 ほかに御意見いかがでしょうか。 ○三上委員 原則的なことで一つ質問があるのですけれども,例えば65ページの図の場合に,甲債権と乙債権はそもそもいつの時点から相殺適状であると考えるのでしょうか。少なくとも,AやCから相殺する場面は想定されていないと思うんですけれども,そういう意味で,これまでの「両当事者間で債権が対立している」という前提が飛んでいるように見えて,そもそもこれは相殺というカテゴリーで語れるような関係なのだろうかと思うわけです。単純に三者間の資金決済を簡易化するための新しい手段,その中で必ずしもAの同意なくそれができる場面を新しく創設しようという場面なのか,その辺の整理をまずお伺いしたいと思います。 ○松尾関係官 今御質問いただいた点に深く考えが及んでいたわけではないのですけれども,Bが甲債権を自働債権とし,Aが有する乙債権を受働債権として相殺する場合には,甲債権も乙債権も期限は到来していなければならないのではないかと考えます。その意味では,(1)のアの甲案とは違うルールになると思います。 ○三上委員 ただ,例えば甲と乙が両方とも弁済期にあったとしても,Aから相殺するわけにはいかないですね。Aが甲と乙を相殺しますと言っても,それは無効ですね。 ○松尾関係官 相殺することはできないと思います。 ○三上委員 そういう意味で,これはそもそも相殺適状にあると言えるのでしょうか。 ○松尾関係官 このようなものについても,新たに相殺適状と呼ぶということを提案しているのだと思いますが。 ○三上委員 相殺適状にあるのであれば,どうしてAから相殺できないのでしょう。 ○山野目幹事 三上委員が御示唆になったような,あるいはいみじくもお気付きになったように,ここで問題になっているものを,相殺という言葉が必ず二人の当事者の間で債権債務が向かい合っている状態のみで問題になるものを指し,相殺適状というものは必ずいずれの当事者からも言い出すことができるというものをそのような意味で呼ぶというふうなリジットな定義を採れば,それらに当たらないものを提案していることになるであろうと考えます。そのような意味では,従来の相殺や相殺適状の概念よりも拡張した,創設的な制度設計の提案がなされているという論点の性質は認識しておく必要があると感じますし,三上委員はそのように認識した上で議論してくださいということをおっしゃっているのであって,別に反対しているのではないと聞こえました。   その上で,この(2)の論点について私なりに認識しているところを2点に分けて申し上げさせていただきますと,1点目は,従来の民法の学説上,しかしそうは言っても厳密な意味での相殺ではないけれども,物上保証人や抵当不動産の第三取得者などが一種の言わば反対債権に当たるものを持っているときに,相殺と同じようなことができてしかるべきではないかという議論はあったものであります。そのようなものに,今般民法改正の中で規律の透明化という観点から応えていこうという意欲が背景の一つにあって,この論点が提示されているということ自体は怪しむべきことではないのではないかと思っております。これが1点目です。   それからもう1点は,それとともに,しかしこの論点が提示されるサイズというか大きさはもう少し大きいものがあって,つまり弁済の際に第三者であっても弁済ができるということとの類比ということがあります。弁済者の概念と債務者の概念は違うものですから,債務者でなくても弁済ができるということがあるとすれば,相殺についてもそれと同様のことが考えられてしかるべきではないのかという問題意識があるであろうと感じますし,それはそれとして顧みるべき考え方,視点であろうと考えます。ただし注意すべきは,恐らくこの部会資料作成の前後にわたっての時期的に重なる時期に,ここの部会での審議が第三者の弁済の考え方について,議論のすう勢が微妙に変化してきている部分がございますから,第三者の弁済と符合させるように考えるという枠組み自体は間違っていないとしても,第三者の弁済について現在進んでいる議論の状況も参考にしながら,ここの議論を考えていく必要があるであろうということは注意しなければならない点として感じているところでございます。 ○鹿野幹事 私も,これは従来に言うところの相殺とは違うものである,つまり,現在の民法505条の定義するところの相殺ではないとは思います。ですが,ここでの提案は,債権と債務をこういう形で簡易に消滅させる手段を,相殺という名前の下で広げようということだと受け止めておりました。   この資料の提案については,詳細においては幾つか留保したいのですけれども,基本的な考え方としては検討に値するのではないかと思っております。いわゆる第三者による相殺の問題については,第三者弁済との類似点と相違点があるというところを押さえておく必要があると思います。相違点の第一としては,この資料にも書かれているところですけれども,第三者Bによる相殺が,ここの記号で言いますとBのAに対する甲債権の回収という機能を果たし得るということ。それ故,他の債権者の利益,取り分け債権者間の公平を不当に害しないようにという点に配慮する必要があると思います。先ほど安永委員からの書面による御意見にもこのような視点からのものが含まれていました。この資料で言うと,Aが無資力でないときに限りという要件が,この点について触れているものと思われます。ただ,他の債権者の利益という観点からの制限として,無資力という基準でよいのかどうかということについては,更に検討する必要があると思います。また,この資料のイの③のところでは,乙債権の差押債権者との関係で,その差押後には相殺をもって差押債権者に対抗できないとするべき旨が記載されていますが,これも,Aの他の債権者の利益との関係で第三者による相殺がどのような制限を設けるかという問題だと認識しております。   それからもう一つ,AがBに対して有する丙債権を自働債権としてなすAの相殺の利益に対する配慮が,純粋の第三者弁済と異なる点として問題になるのだろうと思いますし,この点については,部会資料の提案で言うと,イの②のところで触れてあるのだと思います。   しかし一方で,先ほど最初にも申し上げましたように,あるいは山野目幹事も先ほど言われましたように,第三者弁済との言わば類似性というものもあって,そのことを指摘した学説も従来から主張されてきたところです。そこで,先ほどのような相違点による特別の配慮の必要性を踏まえ,それに基づく適切な制限が加えられ得るとすれば,その限度で第三者弁済との整合性を考えながら,このような制度を考えていくということに意味があるのではないかと思います。それから,さらに,仮にこれが認められた場合に,Bの地位,BとCの関係がどうなるのかということも,併せて考えておく必要があるのではないかと思います。   最後の点について一言だけ申し上げますと,仮に第三者弁済に準ずるようなものとしてBによる相殺が認められるとしますと,要するにBとしては,自らの出捐によってCをAに対する債務から免れさせたということなのですから,ここでも求償の問題が出てき得ることになると思いますし,一定の要件の下で代位ということも問題となり得るかもしれません。その点も,第三者弁済の場合とまったく同じでよいのかどうかということまで含めて検討する必要があると思います。詳しくは分科会での整理ということになるのでしょうが,いくつかの基本的な点について触れさせていただきました。 ○岡委員 弁護士会の大多数の意見は反対であります。反対の中身もいろいろありますが,まず実益がよく分からない。何のためにこの規定を置くのだ,どういう実需のためにこの規定を設けようとしているかが分からないというのが大多数でございます。部会資料の67ページに書いてあり,今,鹿野先生もおっしゃった第三者による弁済とのバランスをとるという理論的な美しさは分かるような気がするんですが,それで何をしようとしているのか,どういう場面を救おうとしているのかが全然分からないというのが多数意見でございました。ただ,66ページの下に書いてある物上保証人や抵当不動産の第三取得者の場合,この場合には無資力であったって第三者による相殺を認めていいのではないかという意見が多くございます。そういう具体的な場面で必要性のあるものまで今の規定だと潰してしまう,無資力の場合にできなくなってしまうというマイナス効果もあるように思われまして,その観点からも大風呂敷を広げるようなこの提案に対して,違和感を持つ弁護士が多いのだと思います。   それから,66ページの一番下に書いてあるBとCがグループ企業である場合に便利ではないかと,この記載については疑問です。グループ企業であっても,無資力であるということを否定すればいいのかもしれませんけれども,余りこういう議論は支持を得られておりませんでした。   理屈から行くと,ここに書かれてあるように,もし認めれば①,②,③のようなチェックは当然必要になるんだろうけれども,これで全部なのか,ここまで苦労してどんないいことがあるんだという議論に最後は戻って,これを立法することには反対であるというのが大多数の意見でございました。 ○中井委員 今,岡委員からほぼ弁護士会の意見を言っていただきました。若干補足しますと,この考え方が出てきた出発点というのは,65ページの表で言うと,乙債権とBとの関係が強固にある場合,つまりBが物上保証人である,若しくは第三取得者である,そのような場面で,Bが甲債権を持っているときに簡易な決済をしていいではないか,元はそこから出発しているのではないか。そのこと自体は理解ができるわけですけれども,それがこの資料で言うなら67ページのところで,そこからその範囲をどうするかという議論に広げているわけです。この広げたところで乙債権についての弁済ができる,そういう場面まで広げてしまった。広げてしまったことによって何が起こるかというと,Aが無資力だったときにBのみが優先回収することになるではないかという批判が出てくる。この批判が出てくると,Aが無資力である場合は制限しましょうということになるわけですが,そのことによって,Aが無資力か無資力でないかによって相殺が有効か無効かが分かれる,これは極めて不安定なことが生じる。   また,Aが無資力でないことを要件とすることによって,本来目的としたBが責任を負う場合,つまり乙債権について責任を負う場合に相殺を認めようとした本来の趣旨,これはAが無資力であれ,できて当然のことではなかったのか。それを広げたがためにAの無資力を要件とし,その要件の判断を難しくした上に,本来できてよかったはずの責任のある場合に相殺ができないという帰結を生む。このような,何か論理を進めるうちに自ら袋小路に入った立法提案になっているのではないかと感じます。   加えて,従来こういう場合であればBがCに債権譲渡するか,Cの債務をBが引き受けて,その上で相殺適状を作って相殺すればできることを,あえてこのような構成をしなければならないのかという理由が分からない。他に方法があるではないか。他に方法があるというのは,この制度ができても残るわけですが,この制度を作ったときに,Aが無資力であれば相殺できないと一方で言いながら,今現在できるBがCに債権譲渡若しくはCの債務をBが引き受けて相殺することは,Aが無資力であってもできるという制度を残すことになる。そうすると,その不均衡を解消するために次に何が出てくるかと言えば,債権譲渡をした場合であってもAが無資力であれば相殺できない,若しくはBがCの乙債務を引き受けた場合でもAが無資力であれば相殺できない。つまりそれは何か。倒産手続が開始した場合の相殺禁止規定と同じものを民法に持ち込むことになる。そういう形にしないと論理一貫しないことにならないか。そこまで言わないのであれば,なぜこの第三者相殺のみAが無資力の場合はできないと言うのか,説明がつかないと思います。いずれにしろ,ここの枠組み自体様々な問題を抱えていると思います。部会資料でもこれをしたときの手当て①,②,③がありますけれども,そのような手当てを作ること自体が必要になることが,その問題点を示しているのではないか。   さらに,この手当てについて申し上げておくと,例えば③は差押えがあったとき相殺できない場面を示すわけですけれども,511条の規律とは基本的には違う。BがAに対して反対債権を持っていたら相殺できるというのが511条の規律ですけれども,これは反対債権を持っていても相殺できないという例外規定を設けるわけですから,そこでも一貫しないことになりはしないか。この制度については多くの疑問があると申し上げておきたいと思います。 ○村上委員 Aが無資力でないことを要件とするという点については,私も少し気になることがあります。Aが無資力なのだけれども,そのことをBが知らなかったということはあり得るだろうと思います。そのときにどうなるのでしょうか。Bとしては,Aが無資力であることを知らなかったわけですから,有効に相殺したつもりでいるわけですけれども,後から実はAが無資力だったということが分かると,そのことによって相殺が無効だったということになるのかどうか。仮になるのだとすると,無用の混乱を招くのではないかという心配があります。 ○道垣内幹事 私も,この制度を置くのに反対です。皆さんおっしゃっていることに尽きているのかもしれませんが,私がよく分からないのは,債権者代位権の議論の際に,介入できるためには無資力のようなものを要件として,しかしながら優先弁済は受けない方向で考えてはどうかという話が出ていたわけですけれども,この三者相殺の制度は,イメージ的には,Aが無資力でないときには債権者代位権を行使して,かつ優先的に債権回収ができるという制度なのではないかという気がします。そうすると全体としては整合的には仕組めないのではないかと思います。 ○松尾関係官 岡委員と中井委員にお尋ねですけれども,御批判を頂いた中で,Bの範囲が広すぎるということが一つあったと思います。他方で,物上保証人や抵当不動産の第三取得者が相殺できるのは理解できるし,かつ,それはAが無資力であってもできると考えるべきであるという御指摘がありました。しかし,現在のままであれば,そのような場合であっても相殺できないということになるように思いますので,御意見の趣旨は,現在の提案には反対だが,代わりにBの範囲を限定した上で相殺できるという規定を設けるべきだとの御提案だと理解してよろしいのでしょうか。 ○岡委員 個人的にはそういう意見を持っていますが,弁護士会がそこまで議論しているわけではございません。 ○山野目幹事 岡委員,中井委員,村上委員,道垣内幹事がそれぞれ,この(2)で提案されている制度の射程が,一言で言うと広きに過ぎることによっていろいろ危惧を抱く部分があるとおっしゃった部分は,それぞれごもっともであると聞きましたし,何らかの手当てが必要であると私も感じます。最終的には分科会で御検討いただくところにお委ねせざるを得ないと感じますけれども,私も今,松尾関係官がお尋ねになったことと同じ疑問を反面において抱いておりまして,岡委員と中井委員お二人からは,取り分け大風呂敷を広げるなというお叱りを頂いましたが,では小さな風呂敷はどのような形のものになるのでしょうか,ということについて不思議な気持ちを抱きます。物上保証人や第三取得者がする相殺というものはあってよいという,お二人の御判断ともそういうふうに聞こえました。あるいは弁護士会の先生方にもそういう御意見が多いとおっしゃったのですが,松尾関係官がおっしゃったように,それは放っておけば,少なくとも解釈上の疑義がフィールドとして残されるわけでありまして,(2)の制度を全部やめましょうということで済む話ではないということは申し上げさせていただきたいと感じます。 ○道垣内幹事 一言だけ申しますと,私は,物上保証人や抵当不動産,第三取得者であっても反対です。 ○深山幹事 私も,仮に新たなルールを設けるとしたら,その検討の対象になるのは第三取得者や物上保証人というような,債務は負っていないけれども責任を負っているというような立場の人の利益のために相殺に準じるような決済手段というか,債務消滅原因を作るかどうかということだろうという限度ではそうかなと思いますが,それ以上に積極的にそういう規律を是非設けるべきだと私も考えているわけではないです。そういう意味では,一番冒頭,岡先生が言われたように,この立法提案はどういう場面のどういうルールを作ろうとしているのかということに結局は行き着いて,山本先生から分科会でというお話もあったんですが,そこはこの部会でどういう場面にどういうルールを作るかというコンセプトだけはコンセンサスを作って,もし作るんだということになったときの具体的な作り方は分科会でもよろしいんでしょうが,そもそも道垣内先生も反対されていましたが,新たなルールは必要ないんだということであればもうそれきりという話ですから,分科会にこの状態で投げずに,新たなルールが必要かどうかはこの部会で是非議論されてはいかがかと思います。 ○鹿野幹事 私も,先ほど紹介された弁護士会の御意見においても,物上保証人などの場合については必要性があると感じておられる方が多いと受け止めました。そこで,道垣内幹事がおっしゃったように,一切必要性がないのだということであれば,それはそれなりにすっきりすると思うのですけれども,一定の場合についてはこれを認めてもよい,それが合理的だと思われるときには,どういう理屈でそれを認めることになるのかを一方で考えなければなりません。また,もう一方で,それによって生じ得るところの不都合を考慮して,要件等に一定の限定を加えていくということも同時に検討すべきことになります。先ほどの発言もそのような趣旨で申し上げたつもりです。そして,この資料に書かれた基準が果たしてこれでよいのかについては,更に検討する必要があるということを申し上げたものです。最低限この部会で決める必要があるのは,およそ物上保証人などの場合も含めて一切こういう仕組みは必要なく,設けるべきでないということなのか,あるいは一定の場合については,やはり設ける必要性と合理性があると考えるのかという点だと思います。そこは,分科会に回す前に部会で決めておいたほうがよいのではないかと思います。 ○中井委員 先ほど私の意見について,Bが責任を負う場合については,Aが無資力の場合であっても相殺を認めるというその限定した範囲について積極的規律を設けるのかという御質問がありましたが,積極的に設ける必要がある,とまでは考えておりませんでした。ただ,少なくともBに責任がある場面においてはこういう相殺という仕組みも考えられないわけではない,正当化できる根拠があるとは思っております。その理由は単純でして,Bが保証人であれば保証債務と,この表で言う丙債権が存在するわけですから,丙債権と甲債権を相殺することによって終わってしまう。Bは物上保証人ですから残念ながら丙債権はありませんけれども,ここに点線で書いておりますけれども,この点線がごとく,見えざる債務が実質上あるわけですから,この見えざる債務と甲債権とを相殺するというのに準じて,こういう形での決済処理が認められていいという可能性がある。そういう意味で正当根拠はまだあるだろうと思います。 ○岡委員 道垣内先生は反対だとおっしゃいましたが,反対であるという理由を教えていただきたいと思います。実質的に相殺を認めていいというのは,今,中井さんがおっしゃったとおりですので,そういう相殺を実体的に認める必要はないという御意見なのか,解釈で何とかなるということなのか,それはどちらなんでしょうか。 ○道垣内幹事 ふだんからの行いが大切だということがよく分かりましたが,当然の報いは受けなければなりません。基本的には物上保証人についても保証人と同じような権利を与えるべきではないか。というのは,抵当権の仕組みの根本論に関わってくる話であって,担保物権法について手を付けていないときに考え得るのかという点に根本的な疑問があります。結局は抵当権なら抵当権の捉え方をどうするのかという問題であって,三者間相殺を認めるということで結論付けられる話ではないのではないかと思います。 ○三上委員 関係あるようでないような,混乱させてしまったら恐縮なんですが,私は銀行ですので,Aが銀行で,Bが無資力の場合のような立場を主に想定するわけですが,その際の救済手段として,イ①,②という提案があります。①の提案理由として民法474条が挙がってますが,474条1項ただし書後段というのは,正に今議論があった,第三取得者,物上保証人等の利害関係のある者からの弁済ですら,当事者間の合意で排除できるということで,我妻学説を始め,立法的にも例外的で非常に問題があると批判されていた部分ではないかと認識しております。474条1項ただし書後段は,なぜか第一読会では議論の対象になってないようですが,それをそのまま存置し,更にここで拡大させるような考え方自体,矛盾を含むものではないかと思います。そもそも474条1項ただし書後段を残すべきかどうかも含めて意見を言わせていただきました。 ○山野目幹事 道垣内幹事が抵当権の本質論との関係でおっしゃったこと,それから三上委員が474条との関係でおっしゃったことは,それぞれ鋭い御指摘であると感じましたし,引き続き傾聴させていただきたいと感じます。   それらとは別に,中井委員が何度か,責任を負う者のときには相殺を認めるという利益考量はあってもよいし,場合によってはそのような規定というのもなくはないというふうなお立場でおっしゃっているところは非常に共感を抱きますし,解決の在り方としてのバランスがとれているのだろうと思いますが,しかし責任というドイツの香りのする概念を使って,果たして上手にいろいろな場面が切り取れるかということについては,まだ少し私は,心配な部分が残っていまして,例えば詐害行為取消権の行使を受けるおそれのある受益者はいわゆる第三者相殺に当たるものができるのかとか,それから複数の抵当権がある不動産の後順位抵当権者が先順位抵当権の被担保債権について第三者相殺に当たることができるのかとか,そのようなことまで拡げて考えていったときに,さすがに中井委員のお立場でも,責任というものを法文に書き込まないと思いますが,物上保証人又は第三取得者はできると書いただけで済まない部分が残るかもしれません。道垣内幹事がおっしゃるように,そういうものを含めてもう一切手を触れないというのは一つのきれいなお立場ですし,逆に,物上保証人と第三取得者だけ書くということになると,そこから除外された者についての検討というものも一応必要であって,分科会に丸投げしようと申し上げているものではありませんが,それらのことも含めて,検討していただくときは細密に検討していただくべき部分があるであろうと感じているものでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   分科会に丸投げされても困るという御指摘もありましたけれども,具体的な規定の在り方以前に,どういう場合にこの制度の必要性があって,その必要性を十分に充足するにはどのような制度を作る必要があるかという点も含めて御検討いただければと思います。   ただ,伺っていて,素朴に,物上保証人でもAに十分に資力があれば債権回収して第三者弁済すればいいので,相殺によって免れなければいけないのは,むしろAが無資力のときではないかと思うのですけれども,その場合には相殺できないということなので,どういう形になるのかというのは少し検討の必要があるように思います。それともう一つは,三者間で相殺が起きるのはこのケースだけではなくて,現行法436条だとCからの相殺だし,債権譲渡があった場合にはAからの相殺ということになって,同一当事者間で債権が対立していない場合の相殺に,イの②とか③というのは全部適用する必要があるのだとしたら,そういう場面も含めた規定にする必要がありそうな気もするので,少し検討の範囲は広がるかもしれないですけれども,同一当事者間で債権が対立していない場合の相殺一般に伴う規律なのか,このケースに特有の規律なのかということも少し検討しておいたほうがいいような気もします。課題は多くなりますけれども,分科会でそれらも含めて御検討いただいた上で,最終的にまた部会で審議をするということでいかがでしょうか。よろしいですか。すみません,恐縮ですけれども,そのような形でお願いいたします。   続きまして,相殺禁止の意思表示については御意見ございますでしょうか。 ○中井委員 弁護士会の意見は,一致して賛成です。 ○鎌田部会長 では,特に御異論はないと伺っておいてよろしいですね。   それでは,続きまして「2 相殺の効力」から「4 不法行為債権を受働債権とする相殺の禁止」までについて御審議いただきます。事務当局から一括して説明してもらいます。 ○松尾関係官 「2 相殺の効力」の「(1)相殺の遡及効」は,当事者の一方が相殺の意思表示をしたときに相殺の効力が生ずるとして,民法506条第2項を改める考え方の当否を問うものです。「(2)充当に関する規律の見直し」では,二つの考え方を取り上げていますが,いずれを採るかは(1)の検討結果と関連します。甲案は,(1)で相殺の遡及効を維持するという考え方を前提とするものであり,乙案は,(1)で相殺の効力発生時期を相殺の意思表示時として改める考え方を前提とするものです。   「3 時効消滅した債権を自働債権とする相殺」は,民法第508条を見直すことの要否を問うものです。部会資料の補足説明では,見直しの観点として三つの問題を挙げておりますので,それぞれの問題についての対応の要否を御審議いただきたいと考えております。   「4 不法行為債権を受働債権とする相殺の禁止」では,不法行為債権を受働債権とする相殺を禁止する民法第509条は,その趣旨に照らして相殺を禁止する範囲が広過ぎるなどの批判があることを踏まえて,規定を見直すことの要否を問うものです。甲案は,不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権とする相殺の禁止について定める民法第509条を維持した上で,その例外として,同条の趣旨が妥当しないと考えられる一定の場合に相殺をすることができる旨を規定するという考え方。乙案は,民法第509条のように広く相殺を禁止するという規定をひとまず廃止した上で,個別具体的に相殺を禁止すべき債権を列挙するという考え方をそれぞれ取り上げています。   以上の各論点のうち,「3 時効消滅した債権を受働債権とする相殺」については,具体的な規定の在り方等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,これらの点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。「相殺の効力」の「(1)相殺の遡及効」に関しましては,先ほど若干留保した相殺の要件との関連もございます。非常に重要なポイントだと思いますので,御意見をお出しいただければと思います。 ○中井委員 弁護士会が言って,研究者の皆さんにたたかれるという構図が議論しやすいと思いますので,たたかれ案を最初に申し上げさせていただきます。   弁護士会,意見を聞けるのは限られてはいますが,出てきた意見は,一つの意見を除いてこの考え方には反対で,現行法維持でした。理由については,第一読会のときにも申し上げましたし,パブリックコメントの中にも相当程度出ていますが,重ねて申し上げておきます。一つは,相殺適状になったことから来る相殺期待があること。一般当事者の中には,相殺の意思表示をしないでも,あの債権と債務はチャラですね。チャラという感覚がある。とりわけ一般市民に法的にきちんとした処理をする人とずぼらな人がいるとすれば,ずぼらな人ほどチャラで終わっているのが実情ではないか。それが第一にあります。   仮に相殺の意思表示を明示的に求めて,そのときに効力が生じるとなったときの問題として,これは確か裁判所の意見書にもあったと思いますけれども,そのような黙示の意思表示の時期についての認定の問題で紛争が生じるのではないか。いつ効力が生じたかということを認定しなければならないわけですけれども,結構黙示の意思表示があったと認められる場面は多いのではないか。その時期を画すことが果たしてできるのか。遡及効を認めれば,その点は黙示の意思表示があれば足りるという実質上のメリットもあるのではないか。   三つ目としては,部会資料にもありますけれども,これも多くの弁護士会から寄せられている意見です。遅延損害金の率が異なることが非常に多いわけですが,それを意思表示の時点で効力が生じるとなると,それまでの間,遅延損害金の率の大きいほうの負担が大きくなる。これは一般的には,弱い立場の者が多く負担をすることが多いというのが経験則ですので,それは避けたい。また,消費者保護委員会等から出ていた意見は,過払金事件に関連することですけれども,仮に相殺の遡及効を認めないとなると非常に問題が大きい。過去,適状時点で相殺の効力が発生したということによって救済されている事例が非常に多いという事実の指摘がありました。   加えて,基本的には銀行取引においては,これは三上さんにも確認をさせていただきたいと思いますけれども,ほとんどの場合は特約が銀行取引約定書で入っていると思います。その特約を排除するわけではありませんので,特段それで銀行実務に与える影響はないと理解をしています。逆に銀行以外で,過払金で言えばサラ金ですし,信販会社とかその他では,多くの場合,銀行取引約定書のような特約は設けていないのではないかと思われます。その場面で,先ほど言いました消費者被害的なものについて現状維持のほうが救済につながるという意見です。   それから,110年間これでやってきたわけですから,今これを積極的に変えなければいけないほどの事情があるのかという点で疑義がある。このような理由から反対という考えです。 ○村上委員    相殺の意思表示がされたのかどうか,されたとしてその時期がいつであるのか,はっきりしているケースもたくさんありますが,はっきりは分からないというケースが時々はあるだろうと思います。例えば,AがBに対して支払を求めたところ,Bが,私はAのために大変な損害を被っており,むしろAが直ちに損害賠償をするのが筋だ,それなのに,どうして私が支払わなければならないのかというようなことを,表現を変えて何度も言ったというようなことがありますと,さてそれは損害賠償請求権による相殺の意思表示があったと見てよいのかどうか,仮に見てよいとして,いつあったと見るのかということがよく分からないということがあります。現行法ですと,念のためにもう一度相殺の意思表示を明確にしておけばそれで済むことですので,それほど大きな問題にはならないのが普通かと思いますけれども,遡及効について御提案のようにしますと,そう簡単にはいかないことになると思います。   もう一つ気になりますのは,訴訟中に,相殺の意思表示を準備書面に記載して提出するということがしばしばあります。この場合,その意思表示がいつされたことになるのかという問題があります。準備書面が相手方に事前に到達したときなのか,それとも,口頭弁論期日なり弁論準備手続期日なりにおいてそれが陳述されたときなのかという問題です。現在は,通常,期日において陳述したときに意思表示があったという処理をしていると思いますが,相殺の遡及効がありますので,どちらの処理をするかによって効果に差が生じません。ですから,この点は現在は深刻な問題にはなっていませんが,遡及効が否定されますと,そうはいかないということになります。意思表示が早くあった方が有利だという場合には,準備書面が陳述されたときではなくて,それより前に相手方に到達したときに意思表示があったという処理を希望されることになるだろうと思いますけれども,問題は,準備書面は,原則として,送達せずに直送し,相手方から受領書が提出されるということになっています。これは民事訴訟規則の83条ですけれども,その受領書には,通常,受領した日は記載されていませんので,準備書面が事前に相手方にいつ到達したのか,はっきりは分からないということになります。ですので,遡及効を否定するのであれば,こういう問題をどうするのかということも検討しておく必要が生じます。   それから,これは以前にも申し上げた問題ですけれども,連帯債務者の一人が債権者に対して反対債権を有しているとき,その負担部分の限度で他の連帯債務者が相殺できるのか,それとも履行拒絶できるのか,また,保証人がいる場合において,主たる債務者が債権者に対して反対債権を有しているとき,保証人は相殺できるのか,それとも履行拒絶できるのかという問題について,履行を拒絶することができるにとどめるのであれば,相殺の遡及効を否定しますと,履行拒絶できる額が日々変動するということになります。この点も再度申し上げておきます。 ○岡委員   部会資料の71ページに書いてある利率の違う場合に遡及効を維持したとしても,それだけでは助からないではないかということがるる書かれております。まず,弁護士会の多数意見は,遡及効を強行規定にしようという意見ではございません。銀行等の特約で定めている場合のその特約は原則有効であろうと。ただ,高い金利を取ろうと意図的に遅らせた場合には相殺権の濫用とかそういう規律は必要だと思いますけれども,強行規定にすべきだという意見は現在の弁護士会の意見ではございません。   それから,この部会資料の最初に,下から17行目ぐらいにある,すなわち遅延損害金の率が高い債権者のほうが自らの債務を弁済した上で履行請求した場合には解決できないではないかと書いてありますが,こんな例はまずないと思います。弁護士会が念頭に置いておりますのは,過払金返還請求権でありますとか不法行為に基づく損害賠償請求権でありますとか,そういう法定債権の例を念頭に置いていまして,請求できるまでに時間が掛かる例を念頭に置いています。過払返還債務を業者がまず払ってくるということはないですし,きちんとした弁護士がついておれば,払ってきても直ちに金利の高いほうに払うはずですので,このことを理由に遅延損害金の率に差異があることを是正する必要があり,相殺の遡及効を維持することによって対応すべき問題ではないと書かれておりますけれども,これはかなり違和感があります。特約のない場合のスタンダードとしては,従来の遡及効がいいのではないか。遡及効には過払返還請求権だとか不法行為に基づく損害賠償請求権など権利行使が遅れる人を現実に救えている機能が現にあります。それを封じる必要はないのではないか。そういう観点から,スタンダードとしては任意規定として遡及効維持が妥当であろうという意見でございます。   要するに強行規定を主張しているわけではない。遡及効によって救われている実例がある中で,それをむしろ強行法規的に遡及効を禁ずるということには反対であるということでございます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○山野目幹事 今,岡委員から弁護士会のお立場を更に解説いただいてよく分かってきた部分もありますけれども,その前,中井委員からも御指摘があって,併せて伺うと,弁護士会の先生方のお考えをそれとして理解してきた部分があります。   ちょっとよく私が分からないのは,506条2項を維持した上でそれを強行規定にするということまで求めないというお話と,弁護士会の,取り分け消費者のほうの利益に関心を持って仕事をしておられる先生方の間から,この遡及効があることによって消費者の保護といいますか,力の弱い者が保護されている側面があるというお話があって,どちらもごもっともであるとは思うのですけれども,そうであるとすると506条2項の遡及効と異なる特約がされたときには,それは消費者契約法10条か何か,そういった類のものによるコントロールの下に置かないと,うまくおっしゃっていることが貫徹されないようにも伺っていて感じましたが,そのような疑問は的外れな疑問なのでしょうか。 ○中井委員 御指摘の消費者契約法の規律が及ぶ可能性は否定しません。 ○畑幹事 先ほど村上委員がおっしゃった点のうち,訴訟上の相殺の場合どうなるのかという問題が私もちょっと気になっております。取り分け予備的相殺の抗弁というものがありまして,その場合は審理に入るか入らないか分からない,そこでそういう場合は相殺権の行使に条件が付いているというような話にもなるわけですが,その場合,いつの時点で行使したと考えるのかという問題が出てきそうな気がしております。実体法の考え方として遡及効を認めないと皆様が割り切られるのであれば何かしら考えざるを得ないのですが,多少難しい問題かなという気はしております。 ○鎌田部会長 遡及効制限説に対する反対の意見しか出ていないんですけれども,積極意見も是非御開陳いただければと思います。 ○松本委員 積極意見ではないんですが,先ほどの要件のところの議論と絡めると,例えば甲案の修正案を採って,かつ遡及効もあるんだとした場合に,現状よりかなり遡及することになりますよね。そういう立場は,弁護士会の取り分け消費者関係の委員の方からすると,より一層歓迎すべきことだと。つまり弱い立場の高利を押し付けられている側としては,もっと遡及したほうが利息負担が減るからという流れになるのか,その辺りはいかがなんでしょうか。要件の話と効果の話は別の議論なのか,関連して議論されているのか。 ○中井委員 消費者関係の委員会が甲案を支持しているわけではありません。相殺適状,双方が弁済期到来しているという要件,ここを変えるということを積極的に申し上げているわけではありません。御指摘のとおり,甲案になって自働債権の弁済期が到来すれば,それだけ相殺時期が早まるではないか,ということですが,だから甲案支持という意見は聞いておりません。 ○山野目幹事 2点申し上げさせていただきますが,1点目は今の中井委員のお話でありまして,そうであるとしますと,遡及効を維持するという考え方を否定して,意思表示の時に効力を生ずるという考え方のときにどのような計算をしたらいいのかが明確でなくなるという御苦労がいろいろ民事実務上,裁判実務上あるということの御紹介も承っていて,よく分かった部分もありますけれども,遡及効の考え方を維持したときにどこまで遡るかも,よく考えてみると,それはそれほど自明なのですかというと分からない部分があって,取り分け先ほど相殺の要件について議論したところの帰すうも見据えて考えなければいけないという問題が,今,松本委員と中井委員のやり取りで一層明らかになったものであろうと感じます。ただし,そうであるからといって直ちにどうなるという問題ではないと思いますから,引き続き御検討いただく必要があるであろうと考えます。   それからもう1点,これも直ちにどうだという話ではありませんけれども,110年使ってきた遡及効だとおっしゃるのですが,そういう御議論が出るとすれば,一方では,やはり相殺の効果についての国際的すう勢ということも考慮に入れなければいけなくて,必ずしも国際間の商事の企業間取引の扱いではない場面において,通知の時点から効力を生じるものとしましょうという立法提案が真面目に議論の俎上に載せられているものでありますから,そういうふうな動向も留意しながら議論がされていくとよろしいのではないかと感じます。 ○鎌田部会長 では,併せて「(2)充当に関する規律の見直し」に関する御意見もお伺いします。 ○中井委員 弁護士会の意見ですけれども,(2)については,今の遡及効の問題があるんですけれども,一つの意見のみが乙案,残り全てが甲案でした。それは,遡及しますので相殺適状となった時期がまず問題になって,相殺適状となった時期の順序に従って相殺するというのが合理的であるという考えです。 ○内田委員 参考までに教えていただきたいのですが,先ほどから効力についても,一つの意見を除き遡及効支持ということで,今もそれをおっしゃったわけですが,一つの意見というのはどういう根拠で遡及効を否定する立場に立っているのでしょうか。 ○中井委員 確認して答えさせてください。続けていただいたらと思います。 ○松本委員 意見というより質問に近いんですけれども,(2)で法定充当という場合に元本・利息・費用という異なったものが相互にあった場合に,費用は費用同士でまず充当し合って消すとか,そういうような話も出てくるのか,それとももっと丸めた上でという話になるのか,その辺りはいかがなんでしょうか,条文に書き下ろすとして。 ○松尾関係官 条文にどう書くのかという御質問であれば,弁済の充当の規定を準用するという現在の民法第512条の規定を大きく変えることはないのではないかと思っています。 ○鎌田部会長 「3 時効消滅した債権を自働債権とする相殺」について御意見をお出しください。 ○中井委員 その一つの意見を確認しましたけれども,残念ながら理由は極めて簡潔でして,相殺という意思表示のときに債権債務を消滅させる効果が生じさせるのが素直である,こういう理由で,それ以上ではありません。その意見が,充当関係についても乙案に賛成しています。   参考に申し上げておきますと,大阪弁護士会は遡及効,現行法維持ですけれども,別意見もありました。それは相殺全体に関わることかもしれませんけれども,弁済の一つで,弁済の対価が金銭に対して,債権で払うと考えれば,「1 相殺の要件」のところについてもそれを基本に考えて,弁済のときに効果が生じると律していけばいい。効果が生じるのは弁済のときですから,相殺の意思表示をしたときという考え方でどうかという意見がありました。 ○岡委員 今の弁護士会の一部の意見でございますが,るる申し上げた消費者の過払返還請求権とか法定債権については,消費者契約等特別法で保護すればいいのではないかという意見がくっついております。合理的な当事者同士で,金利の差も余りないようなときに,遡及しない取扱いで処理するのが合理的ではないかというのは,弁護士,それほど反発はないんだろうと思います。ただ,やはり一定の場合に,今非常にそれで消費者が救われている現実がある中でそれが封じられると,そういう民法改正となると,かなり一致団結して弁護士会は反対に回るだろうと思います。だから領域を分けて,商人同士は別だとか事業者同士は別だとか,そういうふうに区別をしていただければ,遡及効を何が何でも死守という感じではないことは御理解いただきたいと思います。 ○道垣内幹事 現行法でも存在する問題ですので私が不勉強だけなのかもしれないのですが,相殺の遡及効を認めるべきだというご意見において,あれとあれがあるからチャラだよねという感覚があるという話が出たのですが,そのような感覚を重んじて遡及効を是認するのであれば,そのことと指定充当を認めることとの間には矛盾はないのでしょうか。法定充当だけでないといけないということになるような気がするのです。現行法ですと488条が準用されていますので,相殺の意思表示をするほうがまずは指定できるということなのでしょうけれども,多数の債権債務関係があるときに相殺の意思表示をする人が選択できるということは,遡及効を認める際に援用された論理とは整合的なのか。以上のように申し上げることは,遡及効に反対している意味ではありません。しかし,充当に関する規律において現行法をそのまま維持していいのかということが若干気になるということです。 ○山野目幹事 今の道垣内幹事の,指定充当のこととの間に緊張関係があるのではないかというお話はそれとしてよく理解できましたし,それとともに,恐らくそれはフランス法的な当然相殺主義で,意思表示も要らないという考え方によった場合にはかなり深刻な問題になってきて,正に御疑問が的中するものであろうと考えますが,日本法のように遡及効と意思表示相殺主義を組み合わせた仕組みの下では,いかがでしょうか。先ほどから弁護士会の先生方から,チャラの意識と繰り返しおっしゃられるところには乗れないと感じますが,法的構成として意思表示相殺主義を組み合わせている限りは,論理的,理論的にはそれほど緊張した問題にはならないのではないかと感ずる部分もあります。   そのような認識を踏まえて,今日の御議論を伺っていて私なりに感じたことを申し上げると,国際的すう勢は意思表示を求め,意思表示から将来に向かって相殺の効果を生じさせるという考え方ですし,それからフランス法は当然に相殺の効果が生じ,意思表示を求めないという考え方ですが,日本法が従来採ってきた考え方というのが,例え話ですとあんパンみたいなものでありまして,パンとあんこがくっついているようなですね,上手に異質なもの二つを接合してやってきた部分があって,それが裁判実務に定着してきていて,意思表示を認定すれば計算は簡単にすることができるという,村上委員がおっしゃった,正に裁判実務上は一定の安定感を持って運用されてきた中間的というか折衷的な位置を占めてきたものであるということはよく分かりました。そういう意味で,現行法の考え方がてんでなっていないとまで申し上げるつもりはありませんが,それと同時に弁護士会の内部で御議論なさったときにも,チャラになるのが素直だと言う人と,通知の時から後が消滅するのが素直だとおっしゃった人と両方あったように,何を素直と見るかの感覚の問題はもう少し検討してみる必要があって,過払金のような非常に極端なミゼラブルな場面を考えると,ある方向を死守しなければいけないというお考えになるかもしれませんけれども,その辺の法感覚みたいなものも更に勉強してみたいということも感じました。感想みたいなお話になって恐れ入りますが,申し上げます。 ○鎌田部会長 「3 時効消滅した債権を自働債権とする相殺」についても御意見をお出しいただければと思います。 ○中井委員 3と今の山野目幹事がおっしゃられた弁護士会が言うチャラの感覚が,ここにも出ていると思うのです。弁護士会も現行法維持に賛成するために,ここでの提案については反対というのがほとんどです。その理由は,一つには相殺適状に至っていることによって双方の清算が基本的には終わっているという期待があるので,その後,たとえ時効の援用があったとしても,なお相殺適状が時効期間満了前に生じていれば相殺できると考えていいではないか。つまり,相殺ができて債権債務の清算が終わっているということに対する保護が,時効による債権消滅による保護よりも勝っている,優位と考えているわけです。それに対してこの提案は,正反対だと理解しております。時効の利益を守るべきで,たとえチャラと思っていても,それは保護されません,相殺の意思表示をしたとしても,①と②はセットと理解しておりますので,その後なお時効の援用ができると考えるのも,その表れではないかと思っています。   部会資料では,三つ批判されていますけれども,第1の点は,援用後であっても相殺適状で清算処理が終わっていると思っていたから,その利益は保護してあげましょう,なお相殺ができると考えるべきだという正面からの反論になりますし,2番目につきましても,これは相殺したのだから,その後時効の援用ができないのは当然だ,時効の利益よりも相殺期待を優先するという反論になる。第3については,満了までに相殺適状になるということが,相殺を認める根拠になるわけですから,時効期間満了後に相殺適状になっても,それは保護されないという規律でいいのではないか,こういう意見がほとんどでした。 ○松尾関係官 今の中井委員の御意見について質問なんですけれども,補足説明で問題提起した第1,第2,第3のそれぞれについて御反論いただきました。しかし,仮に相殺の期待を強く保護すべきだという価値判断を採るのであれば,第3の問題については見直しをすべきだというお考えのほうが素直なように思うのですが,なぜここは時効期間の満了前に相殺適状になければならないというお考えになったのかということについて,補足して教えていただければと思います。   また,部会資料について,相殺の期待と時効の援用でどちらを保護すべきかということについて,時効のほうを一方的に保護すべきという価値判断に立っているのではないかという趣旨の御指摘を頂いたと思いますので,補足しておきますが,相殺にしても時効の援用にしても,防御的に使われる場面が多いのであろうとは理解しておりますが,両者をあえて比較するとすれば,消滅時効を積極的に主張するということは余り考えにくく,他方で相殺については様々な主張のされ方があり,積極的に相殺の主張をするということもあり得るので,そういうことからするともう少し時効の援用を保護することを考えるべきではないかということを申し上げたかったということです。 ○中井委員 御指摘のように,第3については,期間満了後であっても相殺適状になったら相殺を認めてもいいのではないかという意見があることは事実です。しかし,そこまで,期間満了後に生じたところまで保護するのは行きすぎだろうということで現行法維持に,第3の期間満了まで,という要件は残そうという意見が多かったと申し上げておきます。   ただ,先ほど来の議論では一つの反対意見があったわけですが,ここは二つの異説がありました。その考え方は,現行法が相殺期待の保護に強い,提案が時効利益の保護に強いということに対して,その折衷的な考え方,時効の援用か相殺の意思表示か,その先後で単純に決めればいいのではないか。つまり②の提案は要らない,時効の援用があるまでに相殺すればそれでいい,援用があれば相殺できない,こういう規律のほうが単純ではないかという第三の提案があったことを御紹介しておきます。 ○岡委員 遡及効をスタンダードとして残すべきだという理由の一つに,相殺適状時にチャラになったという期待という言葉が使われておりますが,弁護士会で議論したときの過払金返還請求権等で相殺が役に立ったという事例においては,チャラになったという期待をその相殺適状時に持ったというよりは,そういう反対債権があることの認識に至るまでに時間が掛かり,相殺の意思表示をするまでに時間が掛かることがあると。その時間が掛かったことによる損失というか,負担をその人に帰するのはかわいそうではないかと。そういう場合には相殺適状時に遡ってチャラにしたほうが保護に資すると,またそれが公平であると。そういう議論だと思います。   この時効消滅したところについても,現行法は相殺最優先と,時効の援用の意思表示があったとしても,後からした相殺のほうが勝つということになっています。私などは時効が不道徳な制度だからこの現行法でいいではないか,権利行使していないということの理由だけで権利を消すのはけしからぬという考え方があって,現行法でいいではないかと思っています。ただ,今度時効制度についての議論が深まりつつあって,弁済の証拠を保存する負担から解放してあげましょうと。本来時効を援用する人は,弁済した人の武器の一つなんだというような考え方が出てきて,それを念頭に置くと時効をもう少し力強めていいではないかという観点でこの部会資料の案が出てきたり,先ほどの弁護士会の一部の早い者勝ちでいいではないかという議論が出てくるのだろうと受け止めております。そうなると,やはり時効制度とは何なんだという考え方が決め手になると思います。実務家から見れば,かわいそうな権利者を保護すべき事案と,本当は弁済しているが証拠だけ持っていない債務者を保護すべき事案と両方あるのだと思います。本当は事案によって分ければいいと思うんですが,そんな事案の証明ができないからこそこの時効制度があるわけで,なかなか時効を相殺と組み合わせてどっちにするかというのは悩ましい問題だと理解しております。 ○三上委員 金融界の立場からも3の提案には結論的には反対ということになります。こういうことを主張する場面は例外的なのですが,相殺で債権を回収したときに,預金証書等は回収できないことが殆どです。ないしは債務者が行方不明で相殺通知が届かないことも多い。そういう場合に,貸金の時効期間が過ぎてから,たまたま手元にある証書等で預金の払戻し請求する債務者が現れるとか,行方不明だった債務者が突然戻ってきても,そこで面と向かって相殺と言えばおしまいになるという前提の実務が今のところ行われております。自動継続定期のような,最高裁が作り出した永久に時効に掛からない債権というのは例外的かもしれないんですが,今回の債権法見直しの提案の中は,一般の債権の時効期間は短くしようとする一方で,預金債権を同じ短い期間で時効に掛けることには非常に消極的な姿勢が見えます。現状のように預金も貸金も時効期間が同じような期間,つまりどちらも,消滅時効の援用のし合いで終わるような前提話も,ひょっとしたら今後崩れるかもしれないわけです。そうしますと,相殺を改めて主張できる機会というのは,重要性が今後増してくるかもしれません。自動継続定期は時効に掛からないという最高裁判例を,この際の立法でそのような債権の存在は認めないという方向で行くのであれば多少変わってくるのかもしれませんが,やはりこういう場面での相殺というのは,正に今回の立法提案に挙げられております「過去の事実の立証の困難からの保護」ということが,相殺を主張する側に必要な場面の一つでもあるということで,反対したいと考えております。 ○佐成委員 内部で議論をしている中では十分煮詰まってはいないのですけれども,出てきた意見をひとまず紹介させていただきます。一つは保険業界ですけれども,保険料支払いの時効期間が1年,保険給付の請求権が3年と,給付と反対給付の時効期間が異なる場合があって,現行実務では仮に保険料未払いの場合に,保険料の支払請求権が時効に掛かったとしても,保険金との相殺処理を現に行っているということでございます。そういった意味で現行の508条を見直すことに対しては慎重にお願いしたいという意見はあります。ただ,他方で,ここで提案されている立法提案を,合理性があるということで積極的に評価をする意見もあるようでございまして,まだ経済界としても必ずしも全面的に反対だとかそういうところまでには至っていないように感じております。 ○中田委員 意見というか質問,御確認だけなんですけれども,76ページに三つの問題があるというその第3の問題との関係なんですけれども,これは時効期間が満了した債権を他から譲り受けて相殺するということも許容するという趣旨でしょうか,それとも当事者間に債権債務があることが前提になっているのか。後の検討との関係で確認しておきたいんですが。 ○松尾関係官 必ずしも今中田委員が御指摘になった事例を排除することは考えてはいませんでした。 ○鎌田部会長 ほかによろしいですか。   この3については,具体的な規定の在り方等について分科会で補充的に検討をするということが事務当局の原案でございますけれども,そのような形で更に検討を深めさせていただくということでよろしいでしょうか。ありがとうございました。   「4 不法行為債権を受働債権とする相殺の禁止」につきまして御意見をお伺いしたいと思います。 ○山下委員 第一読会のとき私,出席できませんでしたので意見を申し上げる機会がなかったのですが,議事録を拝見すると,乙案のような方向にあまり議論がなかったように拝見しましたけれども,その際に,今の相殺禁止のルールを緩めるに当たって,80ページから81ページにかけて双方が責任保険に加入している場合,保険給付はきちんと出るんだからそれでいいではないかという理由付けなんですが,合理的な保険者であればそうやってくれるかと思うのですが,絶対こうなるという保証はあるのかどうか若干引っ掛かっていまして,もし509条の禁止を緩めるということであれば,責任保険が実務上どうなっていくかという辺りを慎重に確認した上で進めるべきかという感じを持ちました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。弁護士会の御意見は。 ○中井委員 弁護士会の意見を申し上げておきますが,ここは分かれています。相対的に丙案が多いんですが,甲案支持,乙案支持もあります。甲案については,同一事故の物損に限定しているので,ここまで限定するとどうかなとは思いますが,この限られたところで,物損については対等額の相殺を認めていいではないかという賛成意見もありました。丙案については,現行法の不法行為の被害者保護を大きく変えなければいけない立法事実があるのか,また現行法でそれほど不都合が生じているのか,その辺りに疑問が多いところから,現行法維持でいいではないかという意見が結果的に多かった。   乙案は,次のようなところから支持がありました。御紹介しますと,79ページに書いていますように,この不法行為を受働債権とする相殺禁止の趣旨が,被害者の保護と不法行為の誘発の防止にあるという,この御指摘はそのとおりだと理解をしております。そうだとすると,まず不法行為の誘発の防止という限りにおいては,故意による不法行為についての被害者を保護すればいいのではないか,というところから現行法のままでは広過ぎる。そこで,乙案に合理性があるのではないか。被害者の保護についても,いかなる保護を考えるのか,生命・身体に対する損害賠償について保護を考えていくとすれば,乙案的な整理も十分あるのではないかという意見で,それぞれ分かれた次第です。 ○潮見幹事 中井委員に,一点だけ確認の質問をしてよろしいでしょうか。   丙案支持というお立場もあったということですが,補足説明にも出ているんですが,債務不履行のうち,安全配慮義務や保護義務の違反を理由とする損害賠償請求権については,現在は,請求権単純競合という考え方が採られていますから,現在の支配的な考え方を前提にすれば,509条の適用対象外であると捉えられています。弁護士会で丙案をお採りになるという方々は,維持すべきだとお考えなのかどうか,その一点だけです。 ○中井委員 不法行為の場面と安全配慮義務の場面で,結論として同じであるにもかかわらず異なる規律になるのはいいのかと。 ○潮見幹事 はい。 ○中井委員 御指摘の問題は確か議論しましたね。した結果どうでしたか,岡さんに手助けをしていただきます。 ○岡委員 人によって違うかもしれませんが,星野先生の教科書と思いますが,債務不履行のほとんどは不法行為も構成すると,そのような考え方に立って不都合はないのではないかという意見が多かったと思います。弁護士会,単位会で議論したんですが,乙案に対して,誘発禁止と現実の給付の必要性,この二つが論理でしょうというと,そのとおりですと。そうしたら乙案でいいのではないですかというと,いや,でもこういう新しい文言が出てくると,損害を生じさせることを意図したという新しい概念で本当に今の誘発防止をきちんとくくり出せるのかと,現実の給付を必要とする場合を本当に生命と身体だけに限っていいのかと。よくある文言の充足性に対する疑念がすぐ出てきます。片や,今の不法行為という文言でやっている運用で不便とか支障は誰も感じていない。今回のこういう提案にしないと不便があったことがあるという経験をした弁護士が一人もいない。それは何でかというと,現行法が広いけれども実務でうまく,また内田先生に怒られそうですけれども,それほど不便が生じていないので,こういう新たな,分からぬでもない理屈だけれども,新しい用語を持ち込んで新しい混乱を生じさせる必要がどこにあるんだと,そういう感覚から丙案になっているのだろうと思います。 ○潮見幹事 一言だけ申し上げます。私は乙案でいいと思っています。乙案をブラッシュアップしていけばいいのではないかと思いますが,仮に丙案を採るのであっても,先ほど岡委員がおっしゃられた説明の前提は,少なくとも私が理解している請求権競合に関する一般理論とは違います。そして,私自身はその理解が間違っているとは到底思いません。ですので,仮に丙案を採る場合であっても,今,岡委員がおっしゃったような形で考えていただけるのであれば,さらにそこに債務不履行,特に安全配慮とか保護義務違反を理由とする損害賠償請求権を考慮した形での統一ルールを作る方向で,ブラッシュアップしていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。ただいま頂戴したような意見を踏まえて事務当局で更に検討を継続させていただくということでよろしいですか。   それでは,「5 支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止」,「6 相殺権の濫用」について説明をしていただきます。 ○松尾関係官 「5 支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止」の「(1)法定相殺と差押え」では,受働債権となるべき債権が差し押さえられた場合に第三債務者が相殺することの可否について,受働債権の差押え前に取得した債権を受働債権とするのであれば,自働債権と受働債権との弁済期の先後を問わず相殺をすることができるとする判例法理を明文化することを提案しています。   「(2)相殺予約の効力」では,相殺予約によって相殺適状を作出し,差押債権者に先立って第三債務者が債権を回収することを許容するのは相殺の担保的機能を確保する手段として有用であるが,その反面,私人間の合意のみによって差押えの効力を排除し得ることになるという指摘があることを踏まえ,相殺予約の効力を差押債権者に対抗することができる場合に関する規定の要否を取り上げています。   「6 相殺権の濫用」は,法定相殺と差押えとの関係について無制限説を明文化することなどに鑑み,債権の差押えがあった場合において,第三債務者,差押債権者との公平を害すると認められるときは,相殺をもって差押債権者に対抗することができない旨の規定を設けるという考え方を取り上げるものです。   以上の各論点のうち,5の「(2)相殺予約の効力」については,結論については最終的に部会で決定することを前提に,特に乙案の具体的な規定の在り方につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,これらの点につき分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,まず5の「(1)法定相殺と差押え」について御意見をお伺いします。この点は,これまでの議論でほぼ異論のないところで落ち着いてきたかと思いますけれども,そういう理解でよろしいですか。 ○岡委員 弁護士会は,無制限説で大多数が賛成でございました。ただ,一つの会は判例,学説の一致を見ていないと。これは制限説があるという理解なのかよく分かりませんが,一部には反対意見がございましたが,大多数は無制限説でした。   発言したかったことは,前回債権譲渡と相殺のときに,譲渡の通知後に取得した反対債権であっても一定の場合には相殺を認めるというのが出てきておりまして,それを採用するとなれば,差押えのところでもそれを採用するかしないか議論すべきであると。譲渡について採用するけれども,差押えについて採用しないという態度をとるのであれば,その理由の説明が要るであろうと松尾さんがおっしゃったと思うんですが,今回の部会資料の案は,譲渡については譲渡通知後の相殺を認めるけれども,差押えの場合はそれは認めないと,区別する提案なんでしょうか。もしそうだとすると,その差を設けた理由について御説明いただければと思うんですが。 ○松尾関係官 補足説明の85ページの4の部分にその点について言及しているのですけれども,今,岡委員が御指摘になったことは,正にこれからの検討課題として考えています。要するに,今の本文の考え方をブラッシュアップしていって,そのような考え方を採ることはなお排除されていないのですが,債権譲渡と相殺の論点についても結論が出ていないこともあるので,まずは既存の立法提案やこれまでの御議論を踏まえて,無制限説を明文化することをまずは提案させていただいた次第です。   最終的に両者を一致させるべきなのかどうなのかということは,ここで御議論いただくべきことなのですが,繰り返しになりますけれども,それぞれで考慮すべき事情が異なるわけですから,結論が違うこともあり得るのではないかと引き続き考えています。 ○内田委員 補足ですが,債権譲渡の場合には,特にこれから多くなるであろう債権譲渡というのは,平時に資金調達目的で使われることが多くなると思うのですが,その場合には債権譲渡がなされても,それまでと同様に取引関係が良好に継続することが想定されますので,債権譲渡通知があろうとなかろうと,とにかく相殺の期待のある債権債務が頻繁に発生するという事実があって,その相殺期待は保護に値するだろうと思います。これに対して差押えの場合は,差押えがなされても,なお平時と同じように取引が続くということは余り考えられないので,その場合はここで一旦切るということは考えられます。このように一応区別した制度にすることは説明はつくのではないかと思います。 ○三上委員 差押えと相殺に関する無制限説には,改めていうのもおこがましいですが,全面的に賛成であります。その前提でお話をさせていただきますけれども,無制限説を前提にした場合の(2)の相殺予約の効力についてですが,相殺予約いわゆる期限の利益喪失約款は,全銀協の銀取ができた昭和37年ころは,実は制限説よりもその前の相殺適状説の時代でして,52年改正で多少ちょっと修正はありましたけれども,それでも無制限説を前提にした内容にはなっておりません。したがって,現行の期限利益喪失条項の意味は,差押命令の送達前に自働債権の期限を到来させて相殺適状状態を作り出すという技巧にあったわけで,そこに対する批判,つまりそれを認めてしまうと制限説が尻抜けになってしまうという批判から出てきた議論が(2)の論点の前提となっています。だから,もし本論で無制限説を採るのであれば,「(2)相殺予約の効力」に関しては,基本的にはもう議論する必要がないのではないかというのが私の考えです。第一読会でも述べましたが,極端なことを言いますと,差押えとか仮差押え,特に仮差押えは批判が多いので,それを当然喪失理由から外すということも,期限の利益当然喪失条項自体も全部請求喪失条項にして,「その他債権保全を必要とする相当の事由」の具体例であると言ってもよいかもしれないわけです。  むしろ,相殺予約の効力のような議論が残るとすると,85ページの4のところの問題,つまり依然として停止条件付債権については,停止条件が成就する前に差押えが来ると相殺できないというのが民法の原則ではないかと思いますので,今の銀取の割引手形の部分ですとか保証約定書で,差押えが来る前に買戻請求権や事前求償権を発生させるという部分だけではないかと思います。こういった技巧を,もし(2)の案のどれかが否定するというような意味で残るということであれば,当然それには反対ですし,むしろここの4番の議論として,債権譲渡の場面との整合性も考えて停止条件付自働債権,少なくとも支払承諾の場合の求償権の取得だとか,手形の買戻しという部分に関しては,恐らく弊害もないし異論もない部分でありましょうから,そういった部分に関しては停止条件付きであっても事後的な相殺を認めるということにしていただければ,そっちの問題として解決します。先走って恐縮ですが,倒産法の分野では,平場の民法で認められていないことを倒産手続で認めるのはおかしいという議論もあるようですから,むしろ逆にここは実体法のほうが倒産法にあわせて認めていただけると有り難いということを付け加えさせていただきたいと思います。   それから,85ページの6に関しては,これは支払不能になった後に債務を負う場合と債権を取得する場合,両方考えられると思うんですけれども,それに関して,詐害行為取消のところで,偏頗的行為に関する詐害行為取消しの議論で,倒産法の否認類似の支払不能をメルクマールとする基準が入ってくると,両輪の片方として相殺禁止条項が入ってくることになるのではないか,そうなったら反対しなければならないと危惧していたわけです。しかし,今の平場の議論でも,任意弁済を受けると詐害行為取消し対象となる可能性はあるけれども,相殺で回収する分には少なくとも「詐害行為」はないので取り消される懸念はないという理解で実務は回っていますので,それはそのまま今改正提案でも踏襲されるということであれば,ここに書いてあることは非常にごもっともで,特段の異論はございません。以上です。 ○道垣内幹事 三上委員の話にも少し関係するんですが,相殺予約のところです。一言で言えば,「相殺予約」という言葉が極めて多義的に用いられているので,「相殺予約」という言葉を余り議論の中で用いるべきではないということです。この資料には,期限の利益を喪失させる旨の合意や意思表示を要しないで相殺の効力が生ずるものとする旨の合意と書いてあるんですが,これは全然性質が違うものです。期限の利益を喪失させる旨の合意というのは,民法上の相殺適状というのをもたらすための合意であり,それがあることによって,次に意思表示があって相殺がなされるというわけですから,本来的には第三者効が問題となるような話ではないのだろうと思います。弁済期の定めが第三者に対抗できないというのはあり得ない話ですから。ただし,これは抜け駆け的な債権回収を図るものだから制約するという形で規定をするということはもちろんできるのですが,少なくとも本来第三者効が認められないものに第三者効を付与するという性格のものではないだろうと思います。   他方,意思表示を要しないで相殺の効力が生じるというのは,これはここでなされているのは民法上の相殺ではないと言っているわけであって,そのような特殊な弁済効をもたらす合意というのが認められるかという問題であり,これは大問題だろうと思います。私は,後半に書いてある合意は認められるべきではないと思っています。にもかかわらず,いかにも認められるというふうに実務的な本のどこにも書いてあるのはどうしてなのかというと,こういう期限の利益喪失約款なども含めて,全て「相殺予約」という曖昧な言葉に置き換えた後,相殺予約に関しては無制限的に認められているのだ,それが判例だというふうに言って,それからもう一回相殺予約を定義し直すというトリックが用いられているからであると,以前から考えております。   したがって,個々的に論じるということは(2)について必要だろうと思いますけれども,余り相殺予約という言葉を用いるべきではないと考えています。 ○山本(和)幹事 先ほど三上さんが言われたこと2点ですが,第1点は賛成で,第2点はやや疑義があるということを申し上げておきます。   第1点は,85ページの4に書かれていることですけれども,倒産手続とのパラレル性という観点からすると,倒産手続においては,倒産手続開始時に停止条件付債権があれば,開始後に停止条件が成就した場合には相殺できるというのが一般的な理解であって,破産においては,さらに管財人から受働債権たるべき債権を請求された場合には,管財人に対して寄託請求まですることができて,それで相殺を保護しようという極めて手厚く相殺権が保護されていると思われます。その条件が付いていたり期限が付いていたりする場合の債権債務の相殺関係においては,取り分け停止条件付債権の場合の取扱いが,平時と倒産時とでかなり大きく違っているのではないかと思われます。そういう意味では,包括差押えの場合にそのような規律がされているとすれば,個別差押えの場合にそれと余りに違った規律がされるというのは,かなり私には違和感があるということです。そういう意味では,規定を置くのかどうか分かりませんが,考え方としては停止条件付債権が差押え前にあれば,差押え後に条件が成就した場合には相殺はできてもいいと基本的には考えるべきではないかと思っているということです。   第2点で言われた偏頗行為の取消しとの関係なんですけれども,例えば代物弁済について一定の要件の下に取り消すことができるということが前提になるときに,代物弁済の対象となる物を売却して,その売却代金債務と相殺をするというのは経済的には全く等価なことだと思うわけですが,物の売却というのは適正価額で行われる限りにおいては取消しの対象にならないという規律がここで民法で置かれるとすれば,後は規制するところは相殺のところしかないということになるように思われまして,やはり代物弁済を取り消すことができる要件がある場合には,今のような経済取引が行われた場合には,その効力を否定するほかないのではないかというのが私の認識です。そうであれば,一つの考え方は,そういう相殺は相殺権の濫用に当たると考えて,相殺の効力を否定するということになるのかなと思っているんですが,ただ偏頗行為の取消しが悪質なものに限られるという甲案でしたか,そういう提案によるのならば,その相殺も一般条項で濫用ということでいいのかなという感じもするんですけれども,そこがかなり広くなって,乙案ですか,支払不能後については本旨弁済等についても仮に取り消せるというような規律になったときに,相殺のほうが相殺権の濫用というような一般的な規律で足りるのかどうか。その場合には,やはりもう少し明確に相殺の制限,禁止というのを考えていかなければいけないのではないかという気もするので,そこは取消しでどういう要件に基づくのかということによるのかなという印象を持っているということです。 ○中田委員 私も今の山本幹事のおっしゃった後半について,似たような印象を持ちました。山本幹事と私とは,偏頗行為の取扱いについて必ずしも意見が同じではないかもしれませんけれども,一般的に破産の規律が平時には全然及ばないという前提で書いてしまうのは,大きく言い過ぎているような気がします。これは理論的な問題としては,今,山本幹事の御指摘の点があるんですが,さらに実際上の影響というのがあるのかないのかが私にはよく分かりません。例えばこのような相殺も認めるということになると,恐らく一般債権者にとっては不利に働いて,あるグループの債権者には有利に働くということになると思います。それから私的整理にも影響がありそうな気もするんですが,それは実際にはそれほどないのか,あるいは破産の申立てを促進するという方向に働くのではないか等々考えたんですが,実際にどういう影響があるのかちょっと分からないものですから,もし御存じの方がいらっしゃればお教えいただきたいと思います。特に86ページの6の点は,確か第一読会のときに岡委員から御指摘があったことだと思いますけれども,その辺り,少し補足してお教えいただければと思います。 ○岡委員 はい。86ページの6について,民法にも条文を設けるべきだという個人的意見は持っておりまして,発言をさせていただきました。今も個人的にはそういう意見でございます。ただ,弁護士会の中でも,強烈すぎるのではないかとか,平場では支払不能になったり解消したりするので不安定であるし,相殺を禁止した後の平等処理が確保されていないので,そこまで踏み切るのはいかがなものかというような意見が強うございまして,最終的には相殺権の濫用の一事例としてあり得るというような整理が落としどころではないかと個人的には最近考えるようになっております。   その前提として,中田先生がおっしゃるような事例があればいいのにということについては,倒産になった場合の事例はかなりあるんですが,最後倒産に至らない場合でこういう事例があったというのがなかなか見付けにくいといいますか,単に文献を読んだだけでは見付かりませんので,現在まで調べることはできておりません。でも,少し事例を探してみます。ただ,もうここまで来ていますので,相殺権濫用の一事例として86ページの6の書き方は,「しかし」の段落はちょっと強烈すぎて,三上さんサイドにはいい表現ですけれども,これが中間試案に残るということについては反対意見を持っております。ただ,少し息を吹き返した気もしますので,ちょっと勉強してみます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。相殺予約の効力に関して,私も道垣内さんの御指摘のように,相殺予約というふうな概念を余り簡単に用いないほうがいいとは思いますけれども,この提案の内容について御意見があれば出していただきたいと思いますが,よろしいですか。この点については,最終的には部会で結論を決定するというのは当然の前提でありますけれども,具体的な規定の在り方等について分科会で補充的に検討するという提案があるところでございます。 ○道垣内幹事 先ほど申し上げたことの繰り返しになりますが,意思表示を要しないで相殺の効力が生じるというのは,民法上の相殺ではありませんから,相殺は一定の意思表示によって生じると,ただし,特約がある場合はこの限りでないというふうに,相殺の定義のところに書くというのならばまだ分かるのですが,予約の話としてここに書くというのは,どうかなと思います。   ただ,それに関連いたしまして,停止条件付きの意思表示が可能かなどの問題は多々ありますので,最終的に部会で議論をするということに対しては全く異論はありません。 ○筒井幹事 本日御欠席の大島委員から事前に書面が提出されておりました。タイミングがやや遅くなりましたけれども,読み上げて紹介いたします。   まず,5の「(1)法定相殺と差押え」の部分についての御意見です。   中小企業は債権回収の手段を多く持っているわけではないため,取引先が無資力になるなど有事の場合には相殺の担保的効力に期待しています。このような合理的な相殺に対する期待が奪われることは慎重に考えるべきであり,実務上も無制限説を前提とした運用が定着しているものと思われます。そこで,部会資料の提案に賛成いたします。   次に,「(2)相殺予約の効力」の部分についての御意見です。   相殺予約の効力を明文化することは,契約の第三者効を明確にし,予見可能性を高めることから望ましいものと考えます。そして,相殺予約の効力については,その効力を一律に認めるという考え方を軸に検討が行われるべきであり,甲案に賛成いたします。中小企業においても,継続的な商取引の中で相殺予約が多く使われておりますので,このような中小企業の相殺を通じた債権回収への期待を保護するべきと考えるからです。   なお,乙案については,「自働債権と受働債権とが一体的な決済の予定された取引から発生したものであり,相殺予約が付されることが取引慣行上一般的であると認められる場合」という前提で中小企業の多様な取引場面を捉えきれるか疑問であり,採用すべきではないと考えます。 ○深山幹事 先ほど大島委員の御意見が紹介されましたけれども,実務では中小企業の取引において相殺予約が多く用いられておりますという記述があるんですけれども,これは期限の利益を喪失させる旨の合意のことを指してそう言っているのではないかと思われます。そうであれば,私の事実認識とも一致しているんですが,そうではなくて,正に相殺合意の予約という部分を指しているのだとしたら,これは事実認識の問題として,そういう取引や契約書が間々見られるとは私は全然思っていなくて,めったに見られないと認識しています。よく見られるのは,正に期限の利益喪失事由として入れているということだろうと思います。正しく道垣内先生が御指摘になったように,この二つの合意は全く性質も違うので,一緒に議論すること自体がよろしくないし,更に言えば,相殺合意の予約のほうは,銀行取引に限らず商取引一般でそのようなニーズはないのではないかと思います。これは元々検討委員会の立法提案がこの二つをまとめて相殺予約と呼んだところに端を発しているように思いますけれども,そこはきちんと分けて議論をすべきだし,後段については私も反対したいと考えております。 ○内田委員 1点,三上委員に確認なのですが,無制限説を採れば,この相殺予約といいますか,期限の利益喪失の特約についての議論は無用になるとおっしゃったように思うのですが,無制限説というのは,差押え前に反対債権があれば,相殺適状が生ずれば相殺できますということですので,相殺適状が来る前に差押債権者が取り立ててしまえば,もう相殺の余地はないわけですね。ですから,やはり意味はあるのではないでしょうか。 ○三上委員 言葉足らずで失礼しました。私が申しておりますのは,当然喪失事由のように,差押えの到達の前に期限を来させる技巧についての意見でした。相殺するときは当然,期限の利益を来させなければなりませんが,ここに提案されている,差押えを契機とする期限利益喪失約款だけが無効になっても,例えばこれ以外に取引停止処分とか破産申立ての自動的期限到来とかの期限利益喪失事由が発生していれば,当然それを根拠とする相殺はできるはずです。そういう意味で差押命令の発送だけを取り出して,その部分で期限利益喪失約款を否定したところで,実務的にはほとんど意味がないということを申し上げました。簡単に言えば,今の期限利益の請求喪失条項だけあれば十分だし,かつそれは依然として必要です。(2)は,これらまでを否定する趣旨ではないと理解しております。 ○鎌田部会長 それを制限する趣旨ではないでしょうか。 ○三上委員 (2)はそういう趣旨なんですか。 ○中井委員 「(2)相殺予約の効力」ですけれども,私も,事実認識として,先ほど深山幹事のおっしゃられたのが実務ではないかと思います。期限の利益の喪失約款というのは基本的にどこの契約書でも入っていますけれども,そういう基本契約の中に相殺合意を事前に組み入れたものというのは,経験的にほとんど見たことがありません。   それを前提に,ここでの議論は期限の利益の喪失約款合意について考えさせていただくと,弁護士会の意見として乙案支持はありませんでした。甲案と丙案のいずれかで,いずれも基本的に無制限説に立つ。その上で,期限の利益の喪失合意については当然に有効であろう。当然に有効で,契約の効力として第三者との関係で主張できる,できないという議論が果たして必要なのか。当事者間でその事由に該当すれば,当然期限の利益が喪失し,先ほどの無制限説と合わさって直ちに相殺ができる。その規律で足りるのではないかと。そうだとすれば,丙案で十分だということになる。   ただ,あえて考えれば,差押えを原因として期限の利益を喪失とするということが,ある意味で差押えできない執行不能財産を作る,間接的にですけれども,そこで差押制度を潜脱することになるので,何らかの形でその有効性を宣言しなければならない。そういう観点が仮にあるとすれば,甲案になると思っております。   したがって,88ページの一番上2行に書いている契約は相対効だから対外的に条文上明確にすることが必要だという論点ですけれども,期限の利益喪失条項だけと絞れば,果たしてここまで言えるのか。仮に相殺合意という形になって,それが差押債権者に対抗できるのかというと,更に別の問題ではないかという気は致しますが,それをここで改めて議論する必要はないと思っています。議論するとしても別だろうと思っております。 ○沖野幹事 相殺予約の意義に関してなのですけれども,期限の利益喪失条項と停止条件のようなものさえ想定しておけば足りるのかどうかということに関して,次のようなものが射程に入ってくるかどうかを確認させていただきたいのです。不動産の賃料について,保証金の返還ですとか建築協力金などの返還について,これを賃料から差し引く形にするということを約定した場合です。そうしますと,月々の賃料が発生するまでは,既に全部相殺されているのか,それとも月々の賃料のときに相殺するということをあらかじめ合意しているのか。それとも,それは相殺ではなくて賃料額決定の合意であると考えるのかといった問題があるかと思うのですけれども,それ自体が相殺ではないと考えてしまえば問題から外れてくるんですが,そこでされているのは相殺であって,相殺の合意であるということになりますと,そういったものの差押債権者に対する効力という問題が出てくるように思うものですから,先ほど来出ている期限の利益喪失条項を中心として,後は停止条件のようなものだけでいいのかという点については,今のようなものをどう考えたらいいかということについて確認させていただければと思います。こういうものも考えなくていいということであるのか,それともあり得るけれども相殺の問題ではそうそうないということなのか,御意見をお伺いできればと思うのですけれども。 ○鎌田部会長 まず,事務当局はどう考えているか。 ○松尾関係官 今の点に考えが及んでいたわけではないので,更に検討させていただければと思っております。   なお,先ほど中井委員から,失期条項について検討の必要があるとしても,いわゆる条件付きの相殺合意については検討の必要はないという御指摘があったと思うのですけれども,結局当事者間の合意によって相殺をし,差押えを免れることができるという結果においては同じなので,仮に期限の利益喪失条項だけについて規定を設けても,そうすると今度は,では代わりに,相殺の条件付きの合意みたいなものをしてはどうかということが結局問題になるような気がするので,これを併せて相殺予約と呼んでよいのかどうかはともかく,議論の対象にはせざるを得ないのではないかなとは考えております。 ○中井委員 先ほどの言葉は言い過ぎだったかもしれません。別に議論すべきだと言うべきだったのかもしれません。その前に必要ないと言ったのは,実務的に余り使わないと思ったからですが,直ちに沖野幹事から具体例が出ましたので,別途検討するということでよろしいかと思います。 ○鎌田部会長 私は,沖野幹事の挙げられたようなのは相殺契約だと思っているんですけれども,期限付き又は条件付きの相殺契約ということではないでしょうか。 ○中井委員 ちょっと戻りますが,自働債権について,停止条件付債権については先ほど御指摘があったわけですけれども,将来の請求権も含めて検討する場面があるのではないか。自働債権が賃料債権のように将来継続して発生する場合に,この第三債務者が相殺できる自働債権の範囲が,問題になるのではないか。最初に差押通知が届いたときに有する債権だけなのか,基本契約があって,そこから継続して発生する債権について同じように相殺できないのか,差押えされた受働債権に対して継続的に発生するわけですから,それがこの①と②の規律だけで足りるのか,更に検討しておく必要があるのではないかと思います。それは,先ほどの停止条件付債権の検討と同じ範囲に入るのではないかという趣旨です。 ○鎌田部会長 それは分科会での補充的な検討の中で御検討をお願いすることにしたいと思います。   6につきましても御意見ありましたらお出しいただければと思います。 ○高須幹事 6につきましては,弁護士会の中でも全て同じ意見というわけではございませんけれども,基本的にはこの種の規定を設けるということに賛成,あるいはきちんとした条文を置ければ賛成というような形での積極意見が結構ございます。反対意見もあることはありますが,私としても,この相殺権の濫用のところは,やはり今回の議論を通じても,非常に相殺というものに期待しているものが大きい,いろいろなところを相殺で処理すると,広範囲に相殺で処理するということを考えていると。やはりそれとの兼ね合いで,濫用に関しても,基本的にはある程度の目配りをすべきではないか。そういう意味では,ここに相殺権の濫用の規定を設けるというのは重要だろうと思います。その意味で,6については規定を設けるという考え方に賛成ということで考えております。 ○村上委員 相殺権の濫用は,差押債権者との公平を害するかどうかが問題になるケースが多いだろうとは思いますが,それに限られるかというと,そうとは断定できないわけでありまして,例えば,自働債権の取得の経緯や,受働債権の発生の経緯などに照らすと,差押債権者との関係ではなくて,債権者と債務者との関係で権利濫用になるのではないかということが問題になるケースがあり得ると思いますので,そういったものを排除するように読めるような規定になりますと,そこは問題かなと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中井委員 相殺権の濫用については,先ほど高須幹事からありましたように,こういう濫用の場面があるので,それを明文化する方向で検討することについて,基本的には賛成意見が強かったのは事実です。しかし,要件として,差押えという場面であることが一つ,それから公平を害する,こういう概念を入れなければいけない。これでどのような縛りができるのかという不安感,一方で狭くなり,一方で広くなるのではないか。それなら,いっそのこと一般法理で足りるのではないか,こういうところから,反対意見がありました。   他方で,積極説は,考え方に基本的に賛成だということに加えて,権利の濫用法理にしても,幾つかの場面で具体的な規定を置く方向に賛成で,その一つの場面としてここを逃がさないほうがいいだろうという観点からの積極説があります。私もうまく要件化ができて,適切な表現ができるなら,入れる方向で考えていただきたいと思っております。 ○岡委員 私も,相殺権濫用の規定を置くのに賛成でございます。村上さんがおっしゃったような一般的な権利濫用とは別に,差押債権者との公平を中心にした権利濫用という特別なジャンルですので,また差押債権者に対抗することができないという効果の点で普通の権利濫用とは違う面がありますので,その意味からも一般論で足りるという論理ではなく,規定を置いたほうがいいという考え方によるものであります。   それから,倒産法との関連で申し上げますと,部会資料の85ページ,86ページにありますとおり,包括執行の場合に倒産法が相殺禁止の規律をるる置いてあります。支払不能を知って取得した債権債務との相殺を禁止する規律が中心でございますが,その考え方は個別執行の場合にも基本的には当てはまるはずであります。ただ,条文化するとなると,85ページにあるように期間が短い上,知る場合も余りないだろうとか,86ページにあるような支払不能の概念がなかなか平時では難しいとか,そういうことで個別の倒産法と同じような規律を民法の平時の場合にばしっと書くのはなかなか難しい問題があることは理解します。よってこの部分の条文化まではしないけれども,倒産法の規律があることによって,それを準用した実務の運用がきっとできると思いますので,そういう意味からも倒産法とパラレルな場合を実質的に規律できるようにするために,相殺権の濫用の規定を是非置くべきであると,そんなふうに考えております。 ○三上委員 相殺権の濫用条項に賛成の意見が多数出ましたので,立場上,反対の意見を述べておきたいと思います。   一つは,債権譲渡の場面でどこまで相殺の抗弁を認めるかという範囲にもよりけりですが,差押えの来る場面というのは,多くは倒産で債務者財産の奪い合い,どちらが回収に,より勤勉だったかという勝負の場面でもあるんですが,債権譲渡の場面は平時ですから,別に売って悪くないものについて,相殺を理由に払わないということが許されるのかとかいろいろ考えると,債権譲渡の譲受人と差押債権者とどちらが保護に値するかは,それは議論が分かれると思います。差押債権者との関係では,過去にこれだけ相殺との優劣が問題になったということは,もうそこでかなり公平が崩れている,相殺権者に有利な状況が今の判例実務になっているという前提があるはずでして,今回の提案理由の中で挙げられている事例の場合も,結局濫用とされたのは,狙い撃ち相殺の特殊な例だけで,それ以外は濫用とはされていないものばかりです。つまり債権譲渡の場合と違って,公平がかなり崩れた,その先に濫用があるのだという認識でいます。そうすると「公平を害する」というような表現は,実務の感覚からするときつすぎると思います。   そういう意味で,濫用の理論というのは,飽くまで権利濫用という一般法理の一場面ですから,濫用することを濫用というというようなトートロジーを置いてもしようがありませんし,特に相殺の場面で濫用が多発する懸念があるということがあるなら別ですが,そうでないのであれば別に権利濫用の一般論で画される場面に任せればよいのであり,改めてここにだけ,別途濫用についての特別規定を置く必要はないのでないかと考えます。 ○佐成委員 基本的には三上委員がおっしゃったところと同旨でございますけれども,内部では,村上委員もおっしゃっていたとおり,個別具体的なケースによって結論が変わり得る部分もあるので,こういった明文の規定を置くことについては強い慎重論があります。やはり一般条項である権利濫用等を活用して対応すべきではないかと,そういった意見があったということでございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに特に御発言よろしいでしょうか。 ○中田委員 この問題については,周知のとおり学説では非常に対立があって,むしろ制限説のほうが多数であったかもしれないけれども,しかし三上委員がおっしゃるように,無制限説になっていると。多分,無制限説が実務に定着しているからそれを認めるということが多いと思うんですけれども,やはりその前提として,相殺権濫用による縛りというのはどこかで欲しいなというのがあるのではないかと思います。それを余り一般的な文言にしますと,かえって弊害があるかもしれませんけれども,ここで無制限説にして,かつ相殺権濫用について何も規定しないとすると,ちょっと不安が残るのではないかと思います。感覚的なことかもしれませんが。 ○畑幹事 私は,こういう規定を置くかどうかということ自体に,ここでも定見はないのですが,倒産法的な規律との関係については,先ほど岡委員がおっしゃったこととは逆のことを申し上げようと思っておりまして,すなわち債務者の資力なり支払不能状態に着目して相殺を類型的に制限しようというのであれば,それはやはり切り出して書くべきではないかという発言をしようと思っておりました。そういう規定がいいかどうかというのはまた別問題で,内容的には,しばらく前に山本和彦幹事がおっしゃったように,基本的にはやはり本旨弁済を詐害行為として取り消せるかという問題とできるだけパラレルであるべきではないか。皆様御承知のとおり,倒産でも実は完全にパラレルではないのですが,できればパラレルに近いほうがいいのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,頂戴しましたような御意見を踏まえて,なお事務当局において検討を続けさせていただきたいと思いますが,ここはどれだけ具体的な規定を作ることができるかというのがかなり大きなポイントになろうかと思いますので,いろいろと委員,幹事,関係官の御意見をまた改めてお伺いすることがあろうかと思います。よろしくお願いいたします。   次に,私のほうから分科会について報告をさせていただきます。   本日の審議において,幾つかの論点について分科会で補充的に議論,審議することとされましたが,それらの論点と前回第46回会議において分科会で検討することとされた論点のうち,部会資料39記載のものについては,いずれも第1分科会で検討していただくことといたします。中田分科会長を始め関係の委員,幹事の皆様には御負担をお掛けいたしますけれども,何とぞよろしくお願いいたします。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回会議は,6月5日火曜日午後1時から午後6時まで,場所は法務省第1会議室です。   次回の議題ですけれども,お陰様で,昨年7月に第2ステージの審議を始めて以来,初めて積み残しがなくなりましたので,次回会議では冒頭から新しい資料に基づいて御議論いただくことになります。新しい資料は,現在準備中ですが,まず債権の消滅に関する残りの部分,すなわち更改・免除・混同と,契約の基本原則,契約交渉段階,申込みと承諾に関する論点などを取り上げることを予定しております。よろしくお願いいたします。   次に,分科会関係ですが,第2分科会第3回会議が先週5月15日に開催されました。この会議における議事について,机上配布のペーパーに記載のとおり報告いたします。   それから,第1分科会の第4回会議が開催されます。来週5月29日火曜日午後1時から午後6時まで,場所が法務省内の地検会議室になります。この会議における議題には,本日,第1分科会に配点することとされました事項が含まれることになりますので,本日の部会資料39もお持ちくださいますよう御案内申し上げます。いつものように,固定メンバー以外で参加を予定されている方は,事前に事務当局まで御一報くださいますようお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議をこれで終了とさせていただきます。予定時間を大幅に超過いたしましたけれども,長時間にわたり熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-