法制審議会会社法制部会           第24回会議 議事録 第1 日 時  平成24年8月1日(水)  自 午後1時30分                       至 午後2時16分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  会社法制の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○岩原部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会会社法制部会の第24回会議を開会いたします。本日も暑く,お忙しい中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   それでは,事務当局から配布資料の説明をお願いいたします。 ○坂本幹事 それでは,御説明いたします。配布資料目録,部会資料27及び附帯決議案を事前にお配りしております。部会資料及び附帯決議案の内容につきましては,後ほど御説明させていただきます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,本日の御議論をお願いしたいと存じます。本日は,部会資料27及び附帯決議案について御審議を頂いた後,できましたら,要綱案及び附帯決議の御採択をお願いしたいと考えております。それでは,部会資料27及び附帯決議案を併せて,事務当局から説明をお願いいたします。 ○坂本幹事 まず,「会社法制の見直しに関する要綱案(案)」という表題を付しております部会資料27でございますけれども,これは,前回の御議論を踏まえまして,部会資料26の「要綱案(第1次案)」を修正して作成したものでございます。この部会資料27につきましては,本日は,前回と同様,部会資料26の主な変更点を中心に御審議をお願いできればと存じます。したがって,字句の修正などの形式的な修正につきましては,御説明を省略させていただきます。   変更点に関する総論的な点,どういう視点で今回変更させていただいたのかということをまず御説明させていただきます。前回の会議では,法務省令で定める事項は,基本的には,要綱案に掲げないという御説明を申し上げました。この点につきましては,前回の会議で頂いた御意見なども踏まえまして,法務省令で定めることに部会で御異論がなかった事項のうち,要綱案の中に全く取っ掛かりがないもの,すなわち,それに関する項目自体が全く記載されていないものにつきましては,要綱案に載せるのが適切であると考えを改めまして,部会資料27では,部会資料26に記載していた社外取締役の選任に関する開示に加えまして,法務省令で定めるべき事項を2点,新たに,(後注)として記載するようにいたしております。これについては,これから御説明させていただきます。   個別の主な変更点についてでございますが,まず,部会資料27の5ページでございます。「第1部 企業統治の在り方」の「第1 取締役会の監督機能」のうち,「2 社外取締役及び社外監査役に関する規律」の(前注)に記載しているものでございます。これは,部会資料26では,「第1 取締役会の監督機能」の(前注)として記載していたものでございますが,その内容を踏まえまして,記載する場所を移動しただけでございまして,内容的には,部会資料26からの変更は全くございません。   次に,部会資料27の7ページでございまして,第2の直前の(第1の後注)として記載させていただいているところでございます。これにつきましては,中間試案において,第1部の「第2 監査役の監督機能」の「2 監査の実効性を確保するための仕組み」という表題の下に記載していたものでございまして,その実質的な内容につきましては,中間試案から変更はございません。これにつきましては,今年4月18日に開催されました第19回会議で御説明させていただいたとおり,パブリック・コメントにおいてこれに賛成する意見が多数寄せられていたところでございまして,事務当局において,規則の整備を行うという方向で検討させていただくということで,御了承いただいていたものでございます。これにつきましては,先ほど申し上げましたとおり,省令事項ではございますけれども,このテーマに関連する記載が要綱案の中からなくなってしまっているということから,今回,記載させていただいたというものでございます。   3点目は,部会資料27の14ページでございます。「第2部 親子会社に関する規律」の「第1 親会社株主の保護等」の(第1の後注)でございます。これは,部会資料26におきましては,「第2 子会社少数株主の保護」という表題の補足説明に記載させていただいたものでございまして,これについては,前回の部会で御異論がなかったと理解しております。これも,省令事項ではございますけれども,このテーマに関連する記載が要綱案の中に全くなくなっているということから,今回記載させていただくことにしたものでございます。体裁の都合から,部会資料26の補足説明で書かせていただいたものよりも,記述を簡略化しておりますけれども,実質的内容には全く変更はございません。   最後に,部会資料27の25ページでございまして,「第3部 その他」の「第1 金融商品取引法上の規制に違反した者による議決権行使の差止請求」でございます。前回の部会でも,①のアの部分につきましては,規定の引用方法を更に変更させていただく可能性がある旨御説明を申し上げていたところでございますけれども,金融商品取引法第27条の2第1項第1号について,いわゆる3分の1ルールを定める部分のみが規律の適用対象となるということを条文上どのように表現していくかという,技術的に検討を要する点が残っておりますことから,要綱案では,具体的な書きぶりというよりも,規律の実質を記載させていただくという形で,記載を改めさせていただいたということでございます。したがいまして,実質について変更があるというものではございません。   続きまして,附帯決議案についても御説明させていただきます。この附帯決議案は,社外取締役の選任に関する規律についてのものでございまして,これまでの御議論を踏まえまして,事務当局において作成させていただきました。念のため,附帯決議案を読み上げさせていただきますと,「1 社外取締役に関する規律については,これまでの議論及び社外取締役の選任に係る現状等に照らし,現時点における対応として,本要綱案に定めるもののほか,金融商品取引所の規則において,上場会社は取締役である独立役員を一人以上確保するよう努める旨の規律を設ける必要がある。」,「2 1の規律の円滑かつ迅速な制定のための金融商品取引所での手続において,関係各界の真摯な協力がされることを要望する。」というものでございます。   1の内容は,部会資料26の第1部の第1の(前注)の補足説明で触れさせていただいたものでございます。当部会では,これまで,社外取締役の選任の義務付けについて御議論いただいてきたところでございますけれども,御意見が非常に分かれていたというものでございました。他方で,上場会社では,不特定多数の株主が存在し,社外取締役による監督の必要性が他の株式会社に比べれば,高くなり得ると考えられます。そこで,上場規則において,社外取締役の確保に関する規律を設けることが考えられますが,上場規則では,既に,独立役員制度があることを踏まえまして,1では,取締役である独立役員を一人以上確保することの努力義務を上場規則に設ける必要があるとしてございます。また,2でございますけれども,部会として,そのような規律の制定のための手続において,関係各界において真摯な協力がされることを要望するというものでございます。   これを要綱案の中ではなく,附帯決議という形にさせていただいておりますのは,前回も申し上げましたとおり,上場規則に関する事項であって,要綱案に載せるということは,相当ではないという理由によります。部会の皆様の御了承を頂きまして,部会として附帯決議をしていただけるということでございましたら,法制審議会の総会におきましても,要綱案とともに附帯決議を御審議いただき,御承認いただきましたら,法務大臣への答申につきましても,要綱と附帯決議を併せて行わせていただきたいと考えてございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,御議論をお願いしたいと存じますが,部会資料27については,前回の会議と同様に,部会資料26の変更点を中心に御審議をお願いしたいと存じます。まず,部会資料27につきまして,ただいま御説明いただきました主な変更点のうち,5ページの「第1部 企業統治の在り方」の第1の「2 社外取締役及び社外監査役に関する規律」の(前注)から始めたいと存じます。内容自体は前回から変更はございませんが,いかがでございましょうか。 ○静委員 この部分につきましては,内容の変更がないということでございますので,1点だけ確認をさせていただきたいと思います。(前注)の一番下のほうに,社外取締役を置くことが相当でない理由というのを事業報告に書くということになっているかと思いますけれども,最近,一部の報道で,この部分は,企業統治の現状を説明すれば足りるということで納得したという経済界のコメントというのが報じられておりました。理由の説明と現状の説明が本質的に違うものであることは火を見るよりも明らかでございますので,事情を知らないマスコミの勘違いだとは思いますけれども,この文言は,正に読んで字のごとくで,社外取締役を置くことが相当でない理由,つまり,社外取締役が自分の会社にはふさわしくないという意味だと思いますけれども,そういう理由のことを言っているとしか読めないのではないかと思います。そういう理解で部会資料27は作成されているということでよろしいでしょうか。 ○坂本幹事 (前注)の部分でございますけれども,正に,部会資料27に書かせていただいている,読んで字のごとくということでございまして,社外取締役を置くことが相当でない理由というのが何であるのかということを,各社の事情に応じて御説明いただくという趣旨でございます。 ○静委員 ありがとうございます。 ○岩原部会長 それでは,ほかに何か御質問はございますか。 ○杉村委員 質問ではなくて意見ですが,申し上げます。附帯決議の分も併せて申し上げたほうがよろしいでしょうか,それとも,取りあえず,部会資料27についてだけ申し上げればよろしいでしょうか。 ○岩原部会長 それでは,附帯決議も併せてどうぞ。 ○杉村委員 分かりました。それでは,申し上げます。まず,「2 社外取締役及び社外監査役に関する規律」につきまして,経済界の意見を申し上げます。この要綱案の内容は,社外取締役の選任につきまして,企業の自主的な判断を尊重していただいた上での部会の取りまとめということでありまして,その意味では,致し方ないものだと考えております。ただし,前回も申し上げましたが,社外取締役を置くことが相当でない理由の記載は,簡単ではないと感じております。事業報告の内容とします趣旨を踏まえつつ,具体的な記載の在り方につきましては,今後,法務省とも相談をさせていただければと考えております。   また,社外取締役等の要件の厳格化は,新たに要件を満たす適切な候補者を探し,そして,選任をするという手続が必要になるなど,実務に大きな影響を与えることになります。施行まで十分な期間を置くとともに,移行に当たりまして,十分な経過措置を設けるなどの御配慮をお願いしたいと思います。  なお,今後,取引所における規則制定に当たりましては,経済界としましても,そのプロセスに参加をさせていただきまして,株式を上場する企業の立場から,必要な協力をしてまいりたいということを申し添えたいと思います。 ○神田委員 細かいことで恐縮ですが,今の(前注)の2行目で,「金融商品取引法第24条第1項の規定により」の次ですけれども,「その発行する株式について」という言葉は必要なのでしょうか。現在の法律でいいますと,例えば,会社法444条3項ですと,金商法24条1項の規定により有価証券報告書を提出しなければならない,とあるので,狭める趣旨ならもちろん結構なのですけれども,何か,会社法444条3項と同じ表現でいいようにも思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○坂本幹事 これにつきましては,正に,株式についてということが必要であると考えてこの文言を入れておりまして,公募社債の発行により有価証券報告書を出さなければいけないような会社もございますので,そういう会社については対象にしないという趣旨で,「その発行する株式について」という言葉を入れさせていただいております。 ○静委員 附帯決議のほうもよろしいということでございますので,恐縮でございますが,2点ほど確認をさせていただきたいと思います。私どものほうでルール改正を実現するという責任を負うということになると思いますので,余計な心配かもしれませんけれども,2点,お願いをいたします。   1点目は附帯決議の第1項関係でございます。これまで,私どもでは,上場会社に少なくとも一人以上の独立性の高い社外取締役が必要だということを主張してまいりましたし,今後も,あらゆる機会を捉えて,そうした状態に早く近付けるように努めるのが私どもの仕事だと思っておりますので,今回の附帯決議を頂くことによって,そうした活動が逆に制約を受けるようなことになるのは,本末転倒になってしまうと思います。そこで,伺いたいのは,第1項のところで,「現時点における対応として」という限定が付いている意味でございますけれども,部会の中で,先ほど,事務当局の御説明の中にもございましたように,いろいろと意見があって分かれたという中で,現時点で「少なくとも」この内容は実現させようという意味だと思っておりますし,したがいまして,当面,これ以外のことはしないというような意味は,当然ながら含まれていないと思います。そういう理解でよろしいでしょうかというのが1点目でございます。   2点目は第2項関係でございます。今後,上場ルールの改正がうまくスムーズに進むかどうかというのは,もちろん,2項にも書かれておりますように,関係各界の御協力が得られるか否かということに懸かっております。そこで,2項の「真摯な協力がされることを要望する」という部分についてお伺いします。これは,手続の進展について少なくとも部会の関係者の皆様には御協力をお約束いただくというのが直接の意味だと思います。これには,逆に手続の遅延につながるような,例えば,内容の再検討を求めるといったような行為をしないということも,当然ながら含まれていると思いますけれども,そういう理解でよろしいでしょうか。これが2点目でございます。 ○坂本幹事 2点,御質問を頂きました。まず,最初の第1項に関することでございますけれども,これにつきましては,正に,こちらも,附帯決議の文言にあるとおりということでございまして,この部会の議論の状況あるいは社外取締役の選任の現状などに照らしまして,正に,この部会でこの時点でお取りまとめいただく,この時点における部会としての結論として,こういうことを決定するということでございます。   2点目,第2項についてでございますけれども,取引所の規則にこの努力義務の規定を設けるということをお願いするということの前提といたしまして,今後,そのような規定を制定するための手続において御協力がされるということをこの部会としてお願いするという趣旨でございます。 ○静委員 ありがとうございました。 ○岩原部会長 ほかに御質問,御意見はございますでしょうか。よろしいですか。   それでは,(前注)については,部会資料27の内容で要綱案とするという御決定をお願いしたいと思います。社外取締役の選任に関する規律につきましては,先ほどの事務当局からの御説明のとおり,当部会におきまして附帯決議もお願いしたいと考えております。附帯決議の内容についても,了解するということでよろしゅうございましょうか。   それでは,そのように理解させていただきたいと存じます。ただ,附帯決議の正式な採択は,後ほど,要綱案全体の取りまとめの後ということにさせていただきます。   次は,部会資料27の7ページの(第1の後注)でございます。これも,これまで,特段の御異論のなかったところかと存じますが,このようなことでよろしゅうございましょうか。 ○野村幹事 1点,質問させていただきたいんですが,下から2行目のところの「その運用状況」の「その」が何を指しているかということなんです。一番最初に,「株式会社の業務の適正を確保するために必要な体制について」とありますが,その後に,監査役に関する体制を強化する部分が書かれていまして,その後に「その」となっているんですが,運用状況についての報告の対象は,体制全体について報告を求めるという理解でよろしいのでしょうか。私はそう理解しておるんですけれども,それでよろしいかどうかだけ確認させてください。 ○坂本幹事 確かに,「その」はどちらの体制に係るんだという御疑念を招くかなという感じもございますが,今,野村幹事におっしゃっていただいたとおり,株式会社の業務の適正を確保するために必要な体制,内部統制システム全体の運用状況と考えてございます。 ○岩原部会長 ほかに何かございますでしょうか。よろしいですか。   それでは,この点につきましては,このような内容で確定するということにさせていただきたいと存じます。   次は,部会資料27の14ページの「第2部 親子会社に関する規律」の「第1 親会社株主の保護等」の(第1の後注)でございます。これも,前回の会議におきまして,特段の御異論はなかったところと理解しておりますが,よろしゅうございましょうか。よろしいですか。   それでは,このような内容で確定するということにさせていただきたいと存じます。   最後に,部会資料27の25ページの「第3部 その他」の「第1 金融商品取引法上の規制に違反した者による議決権行使の差止請求」でございます。これも,実質的な内容を変更するものではございませんが,よろしゅうございましょうか。   それでは,このような内容で確定させていただきたいと存じます。   部会資料26からの主な変更点及び附帯決議案は,以上でございます。 ○伊藤委員 親子会社に関する規律について,意見を申し上げてもよろしいでしょうか。 ○岩原部会長 御意見なり,御質問なり,どうぞ。 ○伊藤委員 議論を後退させるつもりはないんですけれども,一言だけ申し上げさせていただきます。多重代表訴訟の導入により,該当する中小・中堅企業において,親族間の争いが多重代表訴訟という形で企業に持ち込まれる可能性があります。本来無用な訴訟が提起されることを私どもは今までどおり懸念しております。こうした懸念を少しでも払拭できるように努めていただきたい。例えば,部会資料の11ページ①のアとイ,それから,13ページ(注)の担保提供の制度について,立法上,しっかりとした濫訴防止措置としていただきたいと同時に,国民や企業にとって十分かつ丁寧な説明が必要であると考えますので,よろしくお願いいたします。 ○坂本幹事 御意見をありがとうございます。多重代表訴訟という新しい制度が設けられたからといって,当然のことながら,濫訴が許されるわけではないということは,御指摘のとおりかと思っております。こういう形で新しい制度を作らせていただくことになりましたら,その制度趣旨につきましては,私どもとしても,できる限り周知には努めてまいりたいと思っておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○岩原部会長 以上のとおり,濫訴が許されないのは当然のことで,その趣旨に従った実務の運用がなされていくと理解しております。ほかに何かございますでしょうか。 ○杉村委員 それでは,私のほうからも,多重代表訴訟について,一言コメントさせていただきます。多重代表訴訟の導入は,結果的には大変残念であります。決して賛成はできませんが,他方,これ以上,部会の全体の意見といいますか,部会の総意から外れた意見を申し上げるということは,差し控えたいと思います。ただし,新しく導入される制度でありますから,施行前の事案に遡って訴訟が提起されるようなことはない制度としていただきたいということがございます。さらに,今,伊藤委員から指摘がありましたように,実務の懸念ということにつきましては,私どものほうからも十分に御配慮をお願いしたいと思います。   それから,第1部の企業統治の在り方の見直しにしましても,あるいは第2部の親子会社関係の規律の見直しにいたしましても,新しい制度の導入ということでありますので,今,坂本幹事のほうからも少しお話しいただきましたけれども,施行時期あるいは移行措置,こういったものには十分な配慮が肝要ではないかと思っております。この点につきましては,要綱案の全ての論点にわたりまして,十二分に検討いただければとお願いを申し上げたいと思います。 ○坂本幹事 施行時期あるいは経過措置につきましては,御指摘のような御意見があることも踏まえまして,検討させていただければと思っておる次第でございます。 ○三原幹事 特に意見というほどではありませんが,詐害分割に関しまして,立法提案をお願いした関係で,まず,このような制度を構築していただいたことについて感謝を申し上げたいと思います。その(注1)のような形の調整規定を設けることについて,日本弁護士連合会で倒産実務を担う弁護士の多くは賛成していると承知しております。ただ,今後,これら履行請求権を新制度として発足させるにつきましては,倒産法自体に履行請求権に対応する規定を設けるべきとの意見もあるようですので,新制度発足後の運用状況を勘案しつつ,倒産法を担当する裁判所及び倒産法所管の法務省の方々にも御協力をいただきながら,この新制度が使いやすく,かつ有効なあるいは有益な制度になるよう利用し,活用されるよう尽力いただきたいという希望を表明したいと思います。 ○藤田幹事 先ほどの杉村委員の御意見との関係で,確認をかねてコメントさせていただきます。役員の責任などにつきまして,責任を定める実体法規定を,法の施行前に遡って適用しない,つまり旧法下でなされた行為については,新法の下での責任の規定は遡及的には適用しないという種類の経過措置は,これまでもいろいろあったと思います。しかし,株主代表訴訟のようなエンフォースメントに係る手続的な規定,つまり,実体法上の責任それ自体は既に発生しているときに,そのエンフォースメントの仕方に関するルールが変わるという場合に,旧法下で既に発生している実体法上の責任については,訴訟提起が新法施行後であっても適用しないというような経過措置というのは,これまであったのでしょうか。例えば,原告適格が単独株主権から少数株主権に変わったというようなときに,旧法下でなされた行為についての責任追及についての訴訟提起については少数株主でないとできませんというような規律にしたことは,会社法の改正の中で,これまであったのでしょうか。また,株主代表訴訟制度に限定しても,何度か改正がなされていますが,そこではどのような扱いをしていたのでしょうか。私も今までの例を網羅的に調べたことはないですけれども,実体法上の規定が遡って適用されるか否かという話とは違った側面もありますので,経過措置の置き方については,慎重に検討いただければと思います。 ○坂本幹事 正に,藤田幹事に御指摘いただいた,過去の例がどうなっているかということも,当然,参考にさせていただきながら考えていくということになるとは思っております。 ○岩原部会長 ほかに何か御質問,御意見はございますでしょうか。よろしいですか。   部会資料26からの主な変更点及び附帯決議案は,先ほど御議論いただいたとおりでございます。部会資料27全般につきましても,前回の会議では,一部の論点について,改めて検討させてほしいという御意見をおっしゃった方もいらっしゃいましたが,ただいま御発言を頂いたところかと存じます。   部会資料27全般については,本日遅れていらっしゃるという御連絡をあらかじめ頂いておりました川島委員から,万が一,間に合わなかった場合には,川島委員の御意見を事務当局に代読してほしいとの御依頼を頂いておりました。まだお見えになっていらっしゃいませんので,事務当局から川島委員の御意見を代読していただきたいと存じます。 ○坂本幹事 それでは,川島委員の御意見を事務当局のほうに書面で頂戴しておりますので,代読させていただきます。   「本日提示された『要綱案』を,当部会における様々な議論の着地点であると受けとめ,これに賛同します。要綱案に基づく法案作成と併せて,当部会の議論を踏まえた施行規則の制定が適切に進められることを要請します。   私どもは,会社における重要なステークホルダーの一つであり,また,現場の実情を熟知している『従業員』の役割に着目するとともに,我が国において大株主と経営者が同一体である『非上場のオーナー企業』が多数存在することを念頭に置きながら,意見・提言を行ってきました。幅広い賛同を得るまでには至りませんでしたが,引き続き,研究・検討を重ねていく所存です。   最後に,働く者の立場から当部会の議論に参加させていただいたことに感謝を申し上げ,要綱案取りまとめに当たっての意見とします。」 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,部会資料27全般につきまして,もし,更に御意見がございましたらお願いいたしたいと存じます。よろしゅうございますか。   それでは,特に御意見がないようでございましたら,会社法制の見直しに関する要綱案につきましては,部会資料27の内容で取りまとめることといたしたいと存じますが,よろしゅうございましょうか。   御異論がございませんので,部会として,部会資料27の内容で要綱案を決定したということとさせていただきます。大変ありがとうございました。   要綱案につきましては,今後,法制審議会の総会での要綱の取りまとめまでの間に,法律案作成の観点その他から実質的な内容の変更にわたらない細かな表現や字句等の修正があり得るものと思われます。このような形式的な修正につきましては,恐縮でございますが,部会長であります私と事務当局に御一任を頂きたいと考えておりますが,よろしゅうございましょうか。   特に御異論がございませんので,そのようにさせていただきます。ありがとうございます。   続きまして,附帯決議につきまして,先ほど御議論いただきました附帯決議の案の内容で御決議いただくということで,よろしゅうございましょうか。   御異論がございませんので,部会として,その内容で附帯決議を行ったということとさせていただきたいと存じます。大変ありがとうございました。   以上をもちまして,本日,無事,要綱案及び附帯決議を採択することができました。これは,委員・幹事の皆様の御尽力のお陰でございます。本当にありがとうございます。部会での御審議は,本日をもちまして終了でございますが,これまでの御審議の総括といたしまして,お時間を頂戴して大変恐縮ではありますが,部会長の私から,一言申し上げさせていただきたいと存じます。   この会社法制部会は,平成22年4月に立ち上げられまして,企業統治の在り方や親子会社に関する規律等について,2年以上にわたり,御議論を頂いてまいりました。部会の立上げの背景には,会社法の施行後,相当期間が経過し,その実務への定着が進む一方で,国内外におきます社会・経済状況の大きな変化等に伴い,一部の規律を見直すべき必要性が生じてきたということがあったかと存じます。また,会社法の下での判例や事例の蓄積に伴い,会社法制定時に将来の課題として残されたテーマや,会社法制定時には想定されていなかった問題点など,様々な問題が表面化してまいりました。こういった状況に適切に対応するために,会社法の規律を再検証し,見直すべきところは見直すということで,この部会での御議論を開始させていただいたわけでございます。そして,このような目標は,相当程度実現されたのではないかと自負しております。いろいろと御議論はございましたが,多くの課題につき,委員・幹事の皆様の意見の一致を見て,現行会社法を改善する制度改正に関する要綱案を取りまとめることができました。これは,ひとえに,委員・幹事の皆様と法務省の担当官の皆様のお陰と,厚く御礼を申し上げます。   もっとも,部会での御議論におきましては,幾つかの論点について,皆様の間で御意見が大きく分かれました。   まず,企業統治の在り方に関しましては,社外取締役の選任の義務付けについて,御意見が非常に激しく対立いたしました。結論といたしましては,現時点における会社法としての対応としては,義務付けということではなく,事業報告における開示を充実させ,また,上場規則において取締役である独立役員を確保することの努力義務を設けることを部会として求めるということになりました。今回,併せて,社外要件が強化されることも踏まえますと,皆様の御議論の結果,よりよいコーポレート・ガバナンスに向けて,一歩なり半歩なりでも前進することができたのではないかと存じます。しかし,コーポレート・ガバナンスには,完全ということはあり得ないように思います。何よりも,新しい制度の下で,その精神に従った制度の運用の実を上げることによる,実務におけるガバナンスの質の向上への努力がまず必要と存じます。そして,我が国企業のコーポレート・ガバナンスの更なる前進を図るべく,今後も引き続き,在るべきガバナンスの姿に向けた御議論がされることを期待しております。コーポレート・ガバナンスについては,改善への不断の努力が必要と信ずるからでございます。   次に,今回の諮問のもう一つの柱である親子会社に関する規律に関しましては,まず,親会社株主の保護について,大きく御意見が分かれました。最終的には,多重代表訴訟の制度が導入されることで部会の御意見がまとまりましたが,少数株主権とするなど,現行の株主代表訴訟の制度に比べて限定的なものとなっております。他方で,当部会では,親会社取締役会による子会社の監督の職務についても,活発に御議論を頂きました。監督の職務の範囲の不明確性への御懸念などから,新たな明文の規定を設けることにこそ至りませんでしたが,当部会における御議論を通じて,そのような監督の職務があることについての解釈上の疑義は,相当程度払拭されたのではないかと思われます。   また,子会社少数株主の保護は,従来から,企業結合法制の中心的課題と位置付けられてきたテーマであり,この部会でも,時間を掛けて御議論を頂いてまいりました。しかしながら,親会社の責任に関する明文規定の創設等につきましては,グループ経営にネガティブな影響を与えるおそれがあるのではないか,また,濫訴のおそれがあるといった御懸念が示され,現段階では,最終的な意見の一致には至りませんでした。ただ,今回法改正が見送られることは,決して子会社少数株主の法的な保護が必要ではないということを意味するわけではございません。むしろ,この部会での御議論を通じて,現行法の下でも,親会社の不法行為責任や子会社取締役の任務懈怠責任などの追及によって,少数株主の保護を図る余地があることが改めて確認されたものと思います。また,社外取締役及び社外監査役の要件の厳格化や親会社等との利益相反取引に関する開示の充実等は,こうした既存の方策の実効性を高めるものとして,その意義が十分に評価されるべきだろうと思います。   この部会では,様々な論点について御議論を頂きましたが,その中には,今回の要綱案に盛り込むこととなったものもあれば,そうでないものもございます。しかし,要綱案に盛り込まれなかったものも含めて,この部会での御議論は,我が国の企業が適正なガバナンスやグループ経営の在り方を考えていく上で,大変示唆に富むものであったと思います。関係各界の皆様におかれましては,この部会での御議論を十分に意識した,更なる検討や実務の改善を進められることによって,企業経営の適正が確保され,我が国企業の競争力が強化されていくことを強く期待いたします。また,法務省におかれましては,要綱案に盛り込まれた事項についての法改正はもちろん,それが実現した暁には,会社法施行規則等における必要な規定の整備も,着実に進めていただきたいと願っております。   皆様,本当にありがとうございました。   それでは,次に,今後の予定について,事務当局から説明をお願いしたいと思います。 ○坂本幹事 2年以上にわたりまして,また,毎回長時間にわたりまして,御審議いただきまして大変ありがとうございました。この場をお借りして,改めてお礼を申し上げます。   今後の予定でございますけれども,法制審議会の総会につきましては,本年9月7日に開催が予定されていると聞いてございます。総会では,岩原部会長に当部会を代表していただきまして,この要綱案及び附帯決議の内容について御報告していただき,御審議いただく予定でございます。総会において,御審議の結果,附帯決議とともに要綱をお取りまとめいただけるということになりますと,それをもって法務大臣に答申していただくということになります。   その後,私ども事務当局のほうで,答申の結果を踏まえまして,所要の法案を作成させていただきます。できる限り早期に国会に法案を提出して,その成立に向けて努力したいと考えてございますので,何とぞ,引き続きよろしくお願い申し上げます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,最後に,民事局長でもある原委員から,御挨拶を頂きたいと存じます。よろしくお願いします。 ○原委員 委員・幹事の皆様には,平成22年4月28日に開催されました第1回会合から,本日の第24回会合までの約2年3か月の間,毎回長時間にわたり,熱心に御議論いただき,また,本日は,要綱案と附帯決議をお取りまとめいただき,誠にありがとうございました。   昨年3月11日に東日本大震災が発生して,未曾有の被害が発生しましたため,その対応等のために,当部会の審議を一時中断せざるを得ない事態になりましたけれども,こうして会社法制部会の終了の日を迎えることができましたのは,委員・幹事の皆様の御協力のお陰でございます。事務当局を代表いたしまして,委員・幹事の皆様に対し,厚く御礼を申し上げます。   当部会で御審議を頂きました諮問事項のうち,企業統治の在り方につきましては,昨年後半に大きな企業不祥事が発覚したことなどを受けまして,当部会での審議が大変注目を集めるようになりました。また,親子会社に関する規律につきましては,国会において,その検討を求める附帯決議が何度かされるなど,より体系的な整備の必要性が継続的に指摘されてまいりました。これらはいずれも,非常に重要で,かつ難しいテーマであり,最後まで意見が分かれる論点もございましたが,本日,こうして要綱案と附帯決議をコンセンサスで取りまとめることができましたのは,委員・幹事の皆様の多大な御尽力のお陰であり,重ねて感謝を申し上げる次第であります。   ただいま担当参事官から御説明いたしましたが,来月7日に法制審議会の総会が開催される予定であります。総会において要綱が取りまとめられ,法務大臣へ答申がされましたならば,この秋に召集予定の臨時国会に所要の法案を提出することを目指して,準備を進めてまいりたいと考えております。しかし,皆様御承知のとおりの国会情勢・政治情勢であり,現在開会中の通常国会におきましては,いわゆる社会保障と税の一体改革関連法案以外の法案は,ほとんど審議が進んでいない状況であり,法務委員会においても,法案の審議が大幅に滞っている状況でございます。また,解散・総選挙もうわさされているところであり,果たして臨時国会に所要の法案を提出することができるのかどうかも,定かでない状況ではございますが,事務当局といたしましては,法案の早期提出と成立に向けて,最大限の努力をしてまいる所存でございますので,委員・幹事の皆様の御支援・御協力を引き続き,どうぞよろしくお願いいたします。   最後になりましたが,岩原先生には,当部会の部会長として,審議の円滑な進行と要綱案及び附帯決議の取りまとめのために,多大なお力添えをしていただきました。岩原先生に対して格別の感謝の意を表させていただきますとともに,委員・幹事の皆様に対して重ねて御礼を申し上げまして,私からの御挨拶とさせていただきます。   本当にありがとうございました。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。部会長の私からも,改めまして,最後にもう一言御挨拶を申し上げます。委員・幹事の皆様には,約2年3か月にわたって,全24回,熱心に御議論いただきまして,本日,要綱案及び附帯決議をまとめることができました。誠にありがとうございます。9月の法制審議会の総会におきましては,先ほども御紹介がありましたように,私のほうから当部会を代表いたしまして,要綱案と附帯決議について御報告をさせていただきます。法務大臣への答申後,速やかに法案化され,法律の成立に至りますよう期待いたしまして,私の御挨拶とさせていただきます。   それでは,法制審議会会社法制部会での御審議は,本日で終了させていただきます。長い間,熱心な御審議を賜り,本当にありがとうございました。 -了-