法制審議会民法(債権関係)部会第2分科会           第4回会議 議事録 第1 日 時  平成24年6月19日(火)自 午後1時02分                      至 午後6時07分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○松岡分科会長 予定した時刻を少し回りました。ただいまから法制審議会民法(債権関係)部会第2分科会第4回の会議を開催いたします。   本日は御多忙の中,しかもどうも台風がやってくるような大変な中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。   まず,出欠の確認をさせていただきたいと思います。本日は第2分科会の固定メンバーのほかに,中井康之委員,三上徹委員,沖野眞已幹事,神作裕之幹事,畑瑞穂幹事,山野目章夫幹事,山本和彦幹事が出席されております。   それでは,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 分科会資料5を新たに配布しております。その内容は,該当箇所について御検討を頂く際に関係官の松尾から御説明しようと思います。また,中井康之委員から,「『6 債務者と転得者の関係』の論点等について」と題する書面が提出されております。 ○松岡分科会長 本日は,部会資料35,部会資料38及び部会資料40の各論点のうちで,分科会で審議することとされたものについて御審議いただく予定でございます。具体的には順番が配布したとおりではございません。第2分科会のメンバー以外の先生方で,今日の論点に関心が深い,若しくは関係していらっしゃる先生方に出席していただいて,途中で御退席いただく必要がございます。そこで,休憩前までに部会資料35の論点,「詐害行為取消権」の残り及び部会資料40のうちの「第1 更改」の「三面更改(更改による当事者の参加)」,この二つを休憩前,15時10分頃をめどに御審議いただき,その頃に適宜,休憩を入れることを予定しております。休憩後,残りの論点について,順次,御審議を頂きたいと思います。   それでは,部会資料35の「第2 詐害行為取消権」,この「6 債務者と転得者の関係」及び「7 破産管財人等による詐害行為取消訴訟の受継」について御審議いただきたいと思います。それでは,事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。部会資料35の109ページを御覧ください。この論点については部会の第42回会議で審議がされ,具体的な規定の在り方等について分科会で審議することとされました。部会では,転得者の前者に対する一種の担保責任の追及,これを認めるべきかどうかを問う意見がありました。   続きまして,7の論点ですけれども,部会資料35の112ページを御覧ください。この論点についても部会の第42回会議で審議がされ,具体的な規定の在り方等について分科会で審議することとされました。部会では,詐害行為取消権の対象のほうが否認権の対象よりも広いといういわゆる逆転現象,これ自体をなくすべきであるという基本的立場を前提として,本文のような規定をそもそも設ける必要はないという意見がありました。また,同様の基本的立場を前提とする御意見だとは思いますけれども,本文のような規定を仮に設けるのであれば,破産手続の開始時に詐害行為取消訴訟が係属していない場合であっても,破産管財人自身が否認の対象となり得ない行為についての詐害行為取消訴訟を提起することができるとする規定を設けるべきであるという意見がありました。よろしくお願いいたします。 ○松岡分科会長 それでは,ただいま説明のありました部分は,二つございますが,一緒に御議論していただこうと思います。御意見を伺いたいと思います。御自由に御発言ください。 ○中井委員 直前になりましたけれども,メモを準備させていただきました。転得者との関係については,部会資料における(1)(2)の考え方に賛成した上で,さらに被告となった転得者が前の受益者等に対して何らかの請求ができるかという規律をどう考えたらよいか,この点に絞ってメモを作成させていただきました。これは大阪弁護士会有志の案で,既に条文案については前にお送りしたとおりでございます。その中からの抜粋を後ろに付けております。   まず,部会資料の(1)(2)の基本的な考え方に賛成ですが,ここでの表現で,仮に受益者に対して詐害行為取消権が行使されたとすれば,受益者が債務者に対して行使し得た権利,これが存在することは分かりますけれども,それを代位行使するという構成についてはなお留保しています。それは,転得者が直接,債務者に対して,そういう権利があると考えたほうがよいのではないかという意味です。   その点はさておきまして,それにとどまるのか,それ以上のことができるのかということについて部会資料111ページの3以下で,二つの考え方が示されております。一つは,前者に対して一種の追奪担保責任というのでしょうか,これを行使できるという考え方と,相対効を重視して権利行使ができない,現在の考え方を維持するという二つの提案がなされています。大阪案としては,転得者一人が負担をしたまま取り残されて,受益者に対して特段の行使ができないことについて違和感を持っておりまして,そこは公平な回復を図るべきではないかと考えています。   第1には,部会資料の提案している受益者に詐害行為取消権が行使されたとすれば,受益者が債務者に対して行使できる権利を転得者が行使できる。それを踏まえた上で,さらに受益者なり,転得者1とここでは書いておりますけれども,に対して詐害行為取消訴訟が提起されたときに,転得者1なら転得者1が負担すべき範囲内で,今度は転得者2なり,その後の転得者3なりが存在すればですけれども,行使していくことができる。こういう規律を設けてはどうか。   ここでは,例としては債務者が廉価売買で受益者に対して100の価値のある不動産を30で売却した。その後,受益者がまず転得者1に70で売却した,転得者1が転得者2に90で売却したという例を挙げております。ここで,転得者2は何ができるかということについて,転得者1に対して仮に詐害行為取消権が行使されたとすれば,転得者1が負担すべき債務の限度で,転得者2は転得者1に固有の権利行使ができる。こういう考え方を示唆しております。そこで,転得者1が転得者2に履行した場合は,同じように転得者1は,受益者が債務者に対して負担すべき金銭の範囲内で受益者に対して権利行使ができる。これを実現できれば,結論として,当該不動産は債務者の手元に戻って一般財産として確保され,かつ,受益者,転得者1,転得者2の利害が調整される結果を生むことができると,考えております。   念のため,この設例1の数字を変えた場合について,設例1の検証というところで述べております。また,設例2については,最初が廉価売買で,その後は代物弁済等の債務消滅行為だとすれば,つまり,部会資料の(1)の場面だとしたらどうなるのかということを書いておりますが,結論は変わらないということです。   こういう大阪案の基本的な考え方はレジュメの言葉に記載しているとおり,受益者や転得者1などの中間者も,仮に自らが詐害行為取消訴訟の被告とされたならば,債権者との関係で債務者に回復されなければならない財産の限度で,自己のそれ以降の転得者2等から負担を求められたのであれば,それは甘受すべきであるという考え方です。ただ,理論的な難点というのは,部会資料の場合もそうだろうと思いますけれども,原則として取消しの効果が債務者に及ぶとしても,これまでの理解は,受益者や転得者1には及ばないという相対効的考え方であったと思います。しかし,ここでの結論は御覧になっていただいたら分かるように,相対的効果を超えて絶対的効果と等しいことができることになっています。そこをどう説明するのかという問題かと思います。   ただ,転得者1なり,転得者2に権利を行使するには,別途,訴訟を提起しなければならないことになって,その訴訟の中ではそもそも詐害行為が成立したのかどうか,債務者と受益者の間での詐害行為の成立の当否については,争うことができると考えることによって,相対的効果は維持されているのではないかと理解しております。このような考え方を採ることができないか,御提案したいと思います。 ○松岡分科会長 どうもありがとうございます。御発言や御質問は。今の御意見と関連してもしていなくても結構です。   私,一つだけ質問させていただいてよろしいですか。司会の特権を濫用しているみたいで恐縮ですが,今,中井委員から御提案になった案は,一回ではなかなか頭に入りませんけれども,大変合理的な面があって,中間者も回復されるべき財産の限度で同等の責任を負い,受益者,転得者1に当たる者も公平に責任を分担するべきことを強調されています。ただ,最後におっしゃったこととの関係で少し気になるのは,御提案は,相対効を維持するように聞こえたのですが,本当にそうなのかという点です。   というのは,もし,受益者や転得者が善意であったらどうなるのかがもう一つよく分かりません。御説明は,受益者も転得者も悪意でこれらの者との関係でも詐害行為の取消しができるから,それぞれが責任を負うとされており,ある意味で追奪担保的な責任も,その限りではうまく基礎付けられると思います。受益者や転得者1が善意であっても転得者2に対しては詐害行為取消請求ができるというのが今の判例だと思うのですが,その点は変えないんでしょうか。つまり,受益者や転得者1のいずれか,または両方が善意である場合にも,御説明になった案では,転得者2に対して取消しができるのでしょうか。その意味での相対効の有無が,よく分かりませんでした。 ○中井委員 その点については部会資料86ページ,(4)のアで転得者に対する詐害行為取消権の要件というのが論点提示されておりますけれども,ここの帰すうに関わるわけです。大阪案の考え方はこの部会資料にありますように,現在の判例では,松岡分科会長が御指摘になったとおり,中間者が善意でも,転得者が悪意であれば,詐害行為取消権の行使はできると解されております。しかし,現在の倒産法は,否認においてはこれが改正されて,各中間者においても詐害行為が成立する,かつ最終被告となった者はそのことを知っている必要があるとなっているかと思います。この点について改正の方向を大阪案は支持するものですから,中間者については全て悪意で詐害行為取消権が成立することを前提としておりますので,今の松岡分科会長の問題についてはそのことを前提に考えております。 ○松岡分科会長 ありがとうございました。   そのほか,御意見は,中井委員から御提示いただいた案と直接関係なくてももちろん構いません。 ○畑幹事 私も,倒産法上の否認権の考え方になじみがあるというか,引きずられているのかもしれませんが,大きな方向としては今の中井委員のお考えあるいは大阪弁護士会の考え方に共感を抱いております。つまり,受益者が悪意である場合に,転得者に対して取消しができるということを前提に,ある意味では,相対効ということの意味を限定するということを正面から認めてよいと思うのですが,受益者のところに何か利得が残ったりすることはないような形で,清算できるようにすべきではないかと。受益者は悪意ということが前提になっているせいもありますが,その場合に受益者が得をする実質的な理由というのは多分ないように思います。   ただ,そこから先,どういう法的な枠組みでそれを実現するのがいいかというのは,かなり悩ましいところがあります。倒産法上の否認権でも恐らく議論は固まっていないと言うべきであろうと思いますが,有力な考え方というのは,前者との間のある種の追奪担保責任で処理をするのだというもので,それでいくと,今度は受益者と債務者の間をどう清算するんだというような問題も付きまとうので,案としてお示しできるような状態ではなくて恐縮なのですが,何か,そういう方向で簡明に処理できないかなというようなことを考えております。 ○沖野幹事 私自身は,今,畑幹事がおっしゃったような線でできないだろうかと思っており,具体的には部会資料が提示しているような立場で,基本的には推し進めたらどうかと思っております。   それから,中井委員の御提案に関連しまして,三つ,申し上げたいと思います。   一つは,主観的な要件として中間者についても悪意を要求する,その意味では,現在の詐害行為取消権についての判例と言われるところを変更するという部会資料の立場がよろしいのではないかと考えております。それを前提に,ここでの清算的な処理も考えていくということを前提といたしておりまして,それは中井委員の御提案ないしお考えと同じです。   2点目は,相対効との関係あるいは取消しが及ぶかという関係ですけれども,これも相対効ですとか,取消しが及ぶか及ばないかというのが,まず最初に決まって,その枠の中で法律関係を考えていくというよりは,元々,相対効とか取消しが及ばないとか言われる話は,詐害行為取消しによってその目的を超えて法律関係の変動をもたらす必要はないという考えから来ているわけで,債務者に効力が及ぶかという点も,必要な範囲で及ぶという考え方でよろしいと思います。そうだとすると,ここで提案されたような受益者や転得者1に対しても及んでいく必要があるということであれば,その限りでは及ぶ制度として設計するということで,理論的な難点と言われるところは,クリアできるのではないかと思います。   その上で,第3に具体的な内容ですけれども,畑幹事がおっしゃったのは,転得者1,転得者2が出た場合には,転得者2からは,債務者の責任財産と言われるものとの関係では受益者が得たであろう地位を行使していくということで,中間者との関係ではそれぞれ前主の関係を規律するだけにとどめておくと。転々と譲渡がされたならば,それは,それぞれの前主との間の問題として扱うということなのに対して,中井委員の御提案の大阪弁護士会の御提案というのは,それとは違っているのでしょうか。それとも飽くまで,それぞれの転得者2と転得者1,受益者と転得者1の関係だけと考えるというその限りでは同じで,ただ,その範囲がどうなるかというのをより具体的に示そうという考え方なのでしょうか。内容を十分,掌握していなくて大変申し訳ないのですけれども,この点を,まずはお伺いしたいのですが,いかがでしょう。 ○中井委員 転得者1へ請求し,それを支払った転得者1は受益者に請求できる。これを基本に置いております。ただ,部会資料にあるように,受益者の債務者に対して行使できる権利について,直接,転得者が行使できるというのをまず第一原則にしておりますので,その回収を前提とした残額について,前主に請求していくという構成を採っています。   ただ,大阪案を見ると,そこは細かい議論になってしまうんですけれども,私のメモ1ページ目の提案3の真ん中,「具体的に」と書いたところですけれども,転得者2は転得者1に請求できると同時に受益者にも請求できるとしています。ここについてはこれでいいのか,これを認めると,その後の清算が非常に複雑になるものですから,これは書かないほうがいいかなと迷っていました。大阪案はそれもできるように考えています。畑幹事,沖野幹事の御意見をお聞きすると,ここは転得者は部会資料の権利をまず持っている。返した不動産から先取特権的に30は回収できる。それ以外は前主にしかできないとするほうが,規律としては簡明でよいという意見と理解しました。私自身もそれでよいのかと迷っております。 ○沖野幹事 私自身もそちらのほうがよろしいのではないかと思っております。そうでなければ,受益者,転得者1が無資力であった場合ですとか,非常にややこしい清算の話が残ってきますので,それまでの必要性はないと考えます。   そうしたときに,しかし,掛かっていける範囲というのがそれぞれ返還の義務がある部分だという前提で,しかも,その返還義務の範囲は仮に目的物が転得者1のところにあったならば,転得者1は目的物は全面的に返して,反対給付として出捐した部分を取得する,あるいは受益者にしてもそうだと。それで,かつ債務者に戻ってくる部分との調整を掛けるということだと思うのです。けれども,この御提案はそうではなくて,そもそも価額償還義務のところで不動産価値を償還する義務がある,そして30について調整するということではなくて,反対給付を引いた額しか価額償還としてはないという構成ですよね。それがほかの目的物の返還のやり方と合うのかという問題もあるのかもしれません。   つまり,価額償還の場合,反対給付は当然,引くのか,それとも,引かずに反対給付部分については優先的に手続に入っていけるというような処理にするのかということが,受益者について,可能性が二つあるということがあったように思います。その考え方との調整ということも考える必要があるのか,それとも,転得者が絡んだ場合には違ってくるのか。そこの調整がうまく対応しているのかというのが,検証はできていないのですけれども,気になるところではあります。 ○山本(和)幹事 私はまだ大阪案の転得者1がいるときに,直接,受益者にいけるという可能性も論理的にあり得なくはない。受益者に対して60の請求ができるというのはおかしいと思うんですが,受益者は30で買って70で売っているわけですから,上限は40ではないかと思うんですが,ただ,40の範囲であれば,つまり,元々の部会資料の考え方は,受益者が無資力になる可能性もあるので,それで,直接,債務者にいけるという発想ですよね,その分だけ。そうだとすれば,転得者1が無資力であるという可能性がある場合に,直接,受益者にいくということは,受益者は通常,無資力だから,幸い,行為取消権ができているので,それにどの程度,意味があるかということは一つ問題なんですが,論理的には転得者1を飛ばして受益者にいけるという,40の範囲ですが,選択肢があるということは,おかしくはないような気はしているんですけれども,でも,中井委員が既に否定的なのなら余りあれなのかもしれませんけれども。 ○中井委員 2点のみ。受益者が仮にこの不動産を第三者に売却していても,受益者を相手に詐害行為取消訴訟は提起できます。そのとき,受益者は価額償還すべきで,100引く30の70を償還すべきことになる。この70が受益者の負担なんですね。決して転売を70でできたから,70引く30の40のみには限られないという考え方を採っています。それが第1点目です。   第2点目については,大阪案は確かに受益者にもできる,転得者1にもできると考えております。ただ,受益者にできるとした後,その次,転得者1に求償する関係の説明がややこしい,どう説明したらいいのかという迷いがそのまま残っているものですから,畑幹事,沖野幹事に言われてしまうと,そのほうがよかったのかなと,安易に流されたというのが先ほどの発言でした。更に検討したいと思います。 ○山本(和)幹事 それはそのとおりで,まず,第2の問題は,だから,ここで言えば60を認めるから,そういう問題が発生するんですが,ただ,第1の点は確かに詐害行為取消権者とか,あるいは管財人との関係ではそうなのかもしれないですけれども,転得者2から請求された場合も,なお70というのが基準値になるのかどうかというのは,私は疑問だと思いますけれども,その場合は最終的に相互の不当利得的なものをゼロにしていくというプロセスの問題なので,そこは40が基準になるという考え方は,十分,論理的にあり得るのではないかと思います。 ○道垣内幹事 山本幹事がおっしゃったことに尽きているのかもしれないのですが,大阪弁護士会の案を採っても,相対効のままなのだと思うのです。というのは,実体的に見れば,あるいは神の目から見ればかもしれませんが,連帯債務者が三人いるときに,債権者が連帯債務者の一人に対して弁済を請求していき,その訴訟において,当該連帯債務者が敗訴したからといって,他の連帯債務者に対して,その効力は及ばないわけです。しかし,連帯債務者内部には,約定に従い,または,他の事由により,内部負担割合が決まっているわけでして,そうなると,当該支払請求訴訟の効力は他の連帯債務者には及んでないんだけれども,しかし,弁済した連帯債務者は,他の人に対して内部負担割合に基づいて求償していくことは可能なのだろうと思います。   さて,ここも基本的には同じ話だろうと思うわけでして,70という数字は受益者,転得者1,転得者2といるときに,とにもかくにも債務者に幾らが戻りますかという観点からの数字が70なのだと思うのです。その次に,その70というのを受益者,転得者1,転得者2はどのような割合で分担しますかという問題が立つわけであり,そのときには,前主に対して70を求償できるかというオール・オア・ナッシングの問題ではなく,70という利得というのが当該3人にどのように帰属したのかということによって,求償割合が決まってくるのではないかと思います。   そして,そう考えていきますと,実は転得者2というのは転得者1を飛ばして受益者に対しても,直接に請求をしていかねばならない部分があるのかもしれません。そこら辺りが若干まだ十分に分かっていないのですが,受益者,転得者1,転得者2が,2対1対1という割合で不当利得をしているときに,転得者2は,前主に対して恐らく4分の1しか求償できないのであり,4分の3はいけないのではないかと思います。そうすると,4分の2は受益者に対して請求せざるを得ないのであり,受益者と転得者1にそれぞれ請求しなければいけないということになるのではないかなと思います。しかし,若干,自信がないところになります。 ○高須幹事 今,山本先生,道垣内先生から御指摘があったような発想というのでしょうか,考え方というのは私も基本的には同じような意見を持っております。これは債権者がいて,債務者がいて,受益者がいると。ここでは更に転得者が出てくるという,その転得者が複数になる場合があるということですから,相互間のというか,関係する人間をいかに妥当に調整していくかということが,制度論の大きなポイントになるのだろうと思います。   そうすると,不当利得的な部分をいかに清算していくかという,先ほど,山本先生から御指摘のあった部分というのは,非常に大きな視点になると思いますので,その意味では誰かが制度の中では,何か取り分け得をするみたいなことをさせないようにするという観点からすれば,部会資料の提案のようにまず本来,代位ができると言われる部分についてはそれを認め,不足分については追奪担保責任的なものでいくと。その追奪担保のようなものもできるだけ公平な調整が図られるような形でいくと。これが必要ではないかと。そのような考えを持っています。   追奪担保的なというのは,詐害行為取消権の法的性質の関係では多少,議論があると思いますけれども,ここは多分,それほど例えば何説を採るからこうだというのは余り現実的ではなくて,基本的には実際に取得したものについて詐害行為取消権を行使されれば,それに対する清算関係が生じる。これが追奪担保と同じ趣旨ではないかと,こう理解すればよろしいのではないか。責任説を採れば,もちろん,一番追奪担保らしく言えるわけですけれども,仮にそのような見解でなくても,十分,採用できるのではないかと思います。 ○松岡分科会長 今のところ,細かいところでは直接,一人あるいは二人を飛ばして求償ができるかどうかについては,御意見が分かれているところではありますが,直接の前主に対して追奪担保的なものを認めることに必ずしも理論的な支障があるわけではない点では,今までのところ,御発言はほとんど一致しているように思います。そのほか,これに関連して御発言はありませんか。 ○岡委員 昨日の弁護士会のバックアップの議論でも,いろいろな意見が出て,結論が出なかったわけです。中井さんのメモの中にある転得者1や受益者が,債務者に回復させなければならなかった財産を限度とすると,この部分がよく分からなかったんですが,今,道垣内先生の話を聞くと,こういう概念は転得者,受益者の間には入れないほうがいいのではないかと,向きが違うという説明は非常に納得ができました。   2番目の話として,一種の追奪担保責任というところの意味がはっきりしないわけですが,売買の瑕疵担保では直接はないんだとすると,追奪担保責任を認めるとすれば,詐害行為取消権のところに条文が必要になるんでしょうか。昨日,議論して,結論は出ておりませんが,明文が要るのか,要らないのかという議論を一ついたしました。   最後に,まだ全然,思い付きではあるんですが,自分の前主にしか請求できないという構成でよいのではないか。和彦先生は先ほど転得者は受益者に直にいけてもいいのではないかと,確かにいけてもいいような気がするんですが,考え方としては転得者2は詐害行為で100を持っていかれてしまったと。そうしたら,90を払ったところの転得者1に90を返せと,何らかの根拠で言えるのではないかと思いました。   そのときに,特別法で受益者の債務者に持っている30はおまけとして行使できるとしたら,そっちから30あるいは20あるいは10を回収できれば,転得者1に対する90の請求がその部分,減るだけなんでしょうかね。受益者にいけてもいいけれども,何かちょっと無理なのかなという気がいたしております。今のような前主にしか請求できないという立場を採ると,転得者1は転得者2からむしり取られた金額については受益者に請求していけると。受益者としてはもらった70の範囲内で応じていくと。そういう順番構成でいくというのも一つ分かりやすい考え方かなと思っておりました。それは和彦先生の意見とは違う意見ということになるんですね。 ○松岡分科会長 先ほどの沖野幹事の御意見がそれに近い。順次求償だけに限ってはどうかというものでした。 ○山本(和)幹事 違うということですが,だから,結局,順番にいくということになると,間に無資力の人間が挟まったときに回収できなくて,飛んだ向こうにいる人間に不当と思われる利得が残るということをどう考えるかという問題だろうと思いますので,論理的には順番にいくという考え方と,道垣内さんはどちらかといえば分けて,それぞれの利得のところに追求していくというのと,それを選択できるという考え方も多分,論理的にはあり得て,順番にいけば順番に前に戻っていくということになりますし,選択してそれぞれからの利得を取ってくるということを請求する人間が選べるというのも,論理的にはあり得るのかなと思いますが,その辺りの選択かなと。 ○畑幹事 ここでの御賛同は多分ないと思うのですが,前者にしかいけないという考え方を徹底すると,部会資料の代位行使ということもないということになって,先ほど申し上げたように否認のほうの議論も必ずしも確立していないと思うのですが,書かれているものを読めば,そういうことを想定しているように読める文献も結構あるようには思っております。自分の前者にしかいけないとすると,無資力の問題が絡んでくるということは確かなのですが,ほかにもいろいろなところで法律行為が取り消されて,それが転得者のような人に影響するというような場合はあると思うのですが,その場合は自分と契約関係にあった前者との間での清算ということで,考えているのではないかという気がするのです。債権者取消権や否認権の場合は何か特殊なのかもしれないのですが,どこが違うのだろうという疑問を抱いているところではあります。 ○山本(和)幹事 私も確かにそうかなと思うんですけれども,ただ,この場合,やや特殊かなと思うのは転得者1が無資力だったときに,受益者に対して転得者1の破産管財人とかなりが請求できるかというと,請求できないのではないですか。転得者2だけが取消しの対象になっているわけなので1が2に払わないと,そこはどうなのかなと思うのですが。 ○沖野幹事 山本幹事の御提示になった今の問題を考えていたら分からなくなってしまったのですけれども,それより前に申し上げようと思っていたことは,これも私は基本的に相変わらず,畑幹事がおっしゃるような前者のみということでいいのではないかと思っておるのですが,ただし,受益者が有していた権利を,代位というかどうかはともかくとして,行使できるという点は維持をしたほうがいいのではないかと思っております。元々の構成として現物を回復する,しかし,反対給付の部分というのは債務者が回復するというのは,本来はむしろ,そこは棚ぼたになってしまうということがありますので,その意味では,最初から全て差額でいくならばきれいではあるのですけれども,この前の部会でも出ました取消債権者の優先権との最終調整という問題があるために,反対給付については優先権を与えるという形で,しかも,それで債務名義等の問題をクリアすべく,直ちに執行に入れるということも含めて,権利行使ができるようにという枠組みを債務者と受益者との間で作ってあるので,それに乗るということですので,転々譲渡とされて前主に前主にと順にいって最後にいきつくという話ではないのだと思います。そこがむしろ起点であって,それが転得者に対して行使されたときに,その枠組みに直ちに入ってこられるということを確保しつつ,しかし,それは飽くまでも債務者の財産との関係であるので,元々の契約関係として財産は返さなければならなくなって,反対給付としてより多くを出捐していた転得者は前主に対して掛かっていけるというのが併せて用意されるべきではないかというのが,部会資料の考え方であると理解しております。その意味で,山本幹事の部会資料の理解とも少し違っているのではないかとは思っております。  それが一つで,もう一つはこの規律が入った場合にですけれども,どこまで民法の改正がほかの法分野に影響を与えていくのかという問題はありますけれども,併せて破産法を始め倒産法も改正すべきではないかと思われます。転得者の主観的な要件についての改正は,詐害行為のほうが今でも軽いわけですので,併せて改正すべきでしょうし,破産法の改正の際に問題となったのは,正にここの最後の転得者からの反対給付の扱いが十分に扱い切れないということもあって,一旦,見送りになったところですので,同じような規律を,全く同じかどうかは分かりませんけれども,倒産のほうでも明文化していくというのが望ましい在り方ではないかと。そうしたときに,受益者の権利に対する代位行使というのは,その場面も更にパラレルに射程に入れつつ考えていく必要があるのではないかと思っています。   ただ,先ほど直前に山本和彦幹事から出された問題はまだ考え中で分からないので,そこは少し留保させていただきたいと思います。 ○岡委員 和彦先生の話で,物は転得者2まで行っているときでも,否認権でやる場合は受益者と,最低,転得者1を相手に訴えて,価額償還で時価相当額と反対給付を引くんだったら引いたものを金銭請求します。物を返してもらっても管財人はどうせ売るわけですので,それを考えると物が転得者2に行っていても,詐害行為取消権でも受益者相手に価額償還で70を返せと,転得者1に対して幾ら返せと言うかは30なのか,70なのか,よく分かりませんが,そういう受益者あるいは転得者1に訴訟を起こせるのではないかと思いました。   ついでに言うと,弁護士会で議論しているときに転得者がいる事例自体が余りない,遭遇していない,転得者がいても,そんな面倒くさい訴訟はせずに,受益者相手に訴訟を起こして金銭解決をするというのが多いので,いろいろ議論しているけれども,改正しても使わないよねという話がありました。ただ使わなくても理論的なバックボーンができておれば,それは解決の糸口になるのではないかとも思いました。   もう一つ,前主にしかいけないという場合であっても,転得者1が無資力であれば,転得者1の受益者に対する何らかの請求権の代位行使はできるはずですので,前主にしかいけない,プラス代位行使を認めていけば,結果としては直にいけるのと同じ結論にたどり着けるのかなとは思いました。 ○山本(和)幹事 今の私の疑問は正にその点で,転得者1は受益者に何らかの請求権を持っているのかということです。持っていれば代位行使ができますが,この場合,何かバーチャルな請求権,請求権というもの自体ではないのではないですか。 ○金関係官 先ほど畑幹事が,詐害行為取消しではない普通の実体法上の取消しの場面でも同じような転得者の問題が生じ得るという御指摘をされましたが,詐害行為取消しの場面では,普通の実体法上の取消しの場面とは異なり,飽くまで相対効が原則で,それを前提として必要な範囲で絶対効的な発想を採り入れるということなのではないかと思います。そのような観点から,転得者2を被告とする詐害行為取消訴訟が認容されたからといって,転得者1がその時点で受益者に対して何らかの請求権を取得するというのはなかなか難しいのではないかというのが,山本和彦幹事の御指摘ではないかと思います。詐害行為取消しではない普通の実体法上の取消しの場面で,転得者2がその取消しを甘受しなければならない状況というのは,正に絶対効の世界で,転得者1も受益者に対して何らかの請求権を当然に取得するという状況だと思いますので,特段の規定がなくても,転得者2は民法第423条の債権者代位権の規定を使って,転得者1が無資力であれば転得者1の受益者に対する請求権を代位行使することができるということになるのだろうと思います。その意味で,詐害行為取消しと普通の実体法上の取消しの場面とでは差があるのではないかと理解しています。 ○松岡分科会長 そうすると,先ほどの岡委員の御質問の中で,債権者代位権に相当する形の請求というのは,規定を置かないと認められないという理解になるのでしょうか。 ○金関係官 相対効がベースであることを前提にしますとその理解のほうが自然ではないかと,飽くまで現時点の個人的な意見ですけれども,そのように思っております。 ○松岡分科会長 大分,時間も過ぎております。7の「破産管財人等による詐害行為取消訴訟の受継」点はいかがでしょうか。 ○岡委員 その前に一つだけ。部会資料の111ページの一種の担保責任の追及という構成のところの文章の読み方なんですが,111ページの下から5行目のところで,「前者に詐害行為取消しの原因があるとき(前者が無償行為により取得したものである場合には,これに加えて前者が悪意であるとき)」は不足分の請求をしていけると書いてあります。この括弧書きの意味なんですが,無償行為取消しは受益者の善意,悪意を問わず,取り消せるというような改正が通った場合には,悪意を要求するという意味の括弧書きなんでしょうか。 ○金関係官 はい,そういう意味ですけれども,今の御発言を踏まえて少しだけよろしいでしょうか。先ほどから若干気になっていたことがありまして,そもそもの前提として,取消債権者と転得者2との間の詐害行為取消訴訟が認容された場合には,先ほど中井委員がおっしゃったとおり,受益者の悪意と転得者1の悪意も形成要件の一つとしてその訴訟の中で認定されますけれども,担保責任の追及がされる場面では,今度は転得者2が原告,転得者1が被告になるわけですが,先行する詐害行為取消訴訟の判決の既判力は,転得者2と転得者1との間には及びませんので,転得者2は転得者1の悪意を主張立証して初めて担保責任を追及することができるということになると思います。そのような観点から,無償行為の取消しの場合に限らず,担保責任の追及の場面では,担保責任を追及するほうが追及されるほうの悪意を改めて主張立証しなければならないということを前提に,無償行為の場合には岡委員の御指摘のとおり悪意を詐害行為取消しの要件としないという特則があり得ますので,そのような記載をしているという説明になろうかと思います。 ○畑幹事 ほかの取消しなり何なりの場合とこの場合が違うという御説明を頂いて,それなりに理解はできるところであります。ただ,先ほど沖野幹事がおっしゃったように,相対効というのも相対効だからというところからいくのではなくて,何が合理的かというところから考える,私は先ほどから発言しているように,相対的にということにそれほど重きを置いていないところがあるのですが,そういう問題なのかなという気がしております。 ○道垣内幹事 結論に結び付かない発言で申し訳ないのですが,意外に対立の根は深くて,沖野幹事がおっしゃった話とか,あるいは追奪担保責任の問題とか,あるいは畑幹事のように通常の詐害取消しと合わせて考えるという方向とかというのは,受益者が悪いやつなんだと,転得者はその悪い人を引き継いでいるのだという,そういう考え方なのだろうと思うのです。   沖野幹事はそのような考え方について非常に鋭い基礎付けをされまして,そう考えないと受益者だけが先取特権のような権利を持つという部会資料の106ページの話と整合的ではなくなるのではないかとおっしゃったわけです。ただ,私は,先ほど申し上げましたように,3人とも同等に悪いのであり,3人ともが債務者の責任財産を回復するという責任を分担していると考えるべきだと考えるわけでして,その間に別に売買契約があるというふうなことは,余り大きな問題ではないという感じがするわけです。そうしますと,前主に対して責任追及というのは決して追奪担保責任ではなくて,先ほど申し上げたように求償権的に考えるべきではないかと思います。   そう考えると,先取特権の話が必ずしも整合的ではないということになるのですけれども,部会資料自体は,前者の受益者が悪くて,転々と引き継いでいくという発想で一貫しているので,一貫していれば,それでもいいかなという気はします。ただ,この問題については,以前から追奪担保責任の可否という問題が説かれますが,当然に追奪担保責任に類似して考え得るわけではないと思います。すみません,感想めいた話で。 ○中井委員 お話を聞いていて,結局は清算の問題としてあっさりと考えるのかですけれども,先ほど岡さんもおっしゃっていましたが,実務では債務者から受益者,転得者1,転得者2と仮に不動産が最終的に転得者2まで行っているときに,さて,どう考えるか。受益者にも転得者1にも詐害行為取消権が成立し,かつ被告にすることができるというときに,あえて遠くまでいかない。仮に受益者を狙っていったときには,受益者が負担すべき債務は確定できる,転得者1を被告にしたときには,転得者1が負担すべき金銭債務,債務者に返すべき金額は確定する。不動産が転々譲渡されている場合,抵当権が設定されていても一緒だと思いますが,なかなかその先にはいかない。   そうすると,それぞれ受益者,転得者1が被告となった場合の限度というものがあるわけですから,その範囲内で最終的に負担をした人がそれぞれに求償していくというのは,それはそれなりに合理性があるのではないか。ここが大阪案の出発点なんですね。受益者がどれだけ利益を得たか,転得者がどれだけ利益を得たか,利益についての調整という形のみで考えるよりは,最終的に詐害行為取消権の被告となった転得者2が誰に幾らいけるかというときは,それぞれの者が被告になったときに負担すべき範囲内で行使していくというのは,それなりに合理的提案ではないかと思っているのです。 ○沖野幹事 今の中井委員の御発言で大部分は御説明がつくように伺いました。考え方の違いがあるというのは,転得者2が,誰に対してということは置いて,どの範囲で請求できるかというときの範囲確定の中で,ともに返還債務を負う者の中の求償だと考えるのか,それぞれの利得を許さないという観点からいくのか,それとも契約上の利益が取得できなかった以上は,反対給付について返してもらうという発想でいくのか,その発想の違いは確かにあるように思います。   そういう中で,それぞれの立場がどういう立場なのかということで,例えば大阪弁護士会案であり,あるいは中井委員の案と言われたところは,正に受益者,転得者1,転得者2がそれぞれ詐害行為取消しの要件を満たす以上は,一種,抽象的,潜在的には返還債務を負っていて,そういう債務を負った者の中での一人が狙い撃ちなりされたときの求償の問題として,どういう割合でやっていくのかという,そういう説明だとすると,それは自分が幾ら反対給付として取得して得たかということではなくて,それぞれが負っている返還の範囲がそれによって決まってくるという発想で書かれて提案されているのだろうと思います。   ただ,そのときに,そうすると内部の間での求償割合というか,負担割合というのがどう決まってくるのかというのと,一部無資力というときの調整をどうするのかという,そういう問題はなお理論的にはあり得ると思われます。実際にはほとんど使われないのであれば,そうクリティカルな問題ではないのかもしれないんですけれども。 ○松岡分科会長 ほかに更にこの点についてはよろしゅうございますか。7についても,是非,御意見を伺いたい。 ○岡委員 でも,これだけ単なる表現テクニックではなく考え方に対立があり,破産法にも条文がなく,事案としても例が余りないとなると,議論した議事録を発表して条文化はしないという選択肢もあるのではないでしょうか。 ○松岡分科会長 ここで方針を決められるものでもないです。そもそもここで審議を付託されているのは,どう具体的に考えることができるか,若しくは今回,何度も繰り返しておりますその背後にどういう考え方の違いがあるかを明らかにして,最終的には部会で決断するための考え方の整理をすることですので,その意味では,今,二つの大きな考え方の対立があり,ひょっとしたら三つあるいは,バリエーションがもっとあるのかもしれませんけれども,順次,求償していくという形で考えた上で,更にプラスアルファの代位なり直接請求を考えるという方向と,道垣内幹事若しくは中井委員の最後の発言もそれに近かったですけれども,言わば関係当事者間の中で,言わば負担割合みたいなものを考えて,不当利得の残らないような公平な処理をするための基準を作るという方向と両方ある。今のところ,そういうふうに意見が分かれていることは分かったと思いますが,そこから先は,岡委員の御質問に対して十分なお答えにはなりませんが,部会で扱うべき問題であると思います。 ○中井委員 1点,確認をしておきたいのは,6の(1)(2)の提案,つまり,受益者が債務者に対して行使できるであろう30の先取特権付価額償還請求権,これを転得者が行使できる。この考え方は転得者であれ,維持すべきだろうと思います。その不足部分について前者らに対してどのような形で請求できるか。今は大きくは二つの考え方かとは思いますが,それで整理していただければと思います。 ○山本(和)幹事 6の話は終わったという理解で7の話をさせていただいていいでしょうか。 ○松岡分科会長 よろしくお願いします。 ○山本(和)幹事 私が部会で申し上げましたように,基本的な考え方は破産手続開始前に詐害行為取消訴訟が係属していたかどうかで,管財人の権限が変わってくるのは,おかしいのではないかという考え方からすると,係属しているときには受継できるのだとすれば,係属していない場合にも,破産管財人は独自の権限で詐害行為取消権を行使できることになるのではないかと。ただ,それを詐害行為取消権と言った場合にやや難しい問題は,例えば時効の点で2年間の時効をどこから起算点にするのかと,債権者が知ったときというのは,しかし,管財人が行使するときには誰を基準に考えるのかというような問題が出ていて,否認であれば破産手続開始から2年ということになっているわけなので,私はだから,そういうものを否認権と呼んだのではないでしょうかと,部会で申し上げた事実的な理由の一つなんですけれども,私自身は一応,そう考えているということです。 ○松岡分科会長 すみません,私はまだ今の山本幹事の御発言が必ずしも頭に十分入らないのですが,前半はよく分かりました。破産手続開始前に訴訟が係属しているか否かで変わるのはおかしいから,破産管財人が独自権限で詐害行為取消しができるはずだという御意見ですね。しかし,それでは否認と詐害行為取消しとのずれがあり,具体的には起算点のお話をされましたが,その点でやはり破産管財人の詐害行為取消権の独自行使には無理があるということでしょうか。 ○山本(和)幹事 ですから,その場合には破産管財人が行使する詐害行為取消権については,破産手続開始のときから2年間で消滅するというような規定を作ればいいんだと思うんですが,しかし,それは否認権と呼ぶのではないんでしょうかという,そういう感じの疑問なんですが。 ○松岡分科会長 両者の要件がずれてくる場合はどうですか。ずれがおよそ埋め切れるということを前提とした御意見でしょうか。 ○山本(和)幹事 ですから,そうです,だから,それを新たな否認権として破産法に書けばいいのではないでしょうかという,そういうことです。 ○松岡分科会長 分かりました。了解いたしました。ありがとうございました。 ○中井委員 逆転現象がそもそもなければ,この問題は生じない。本当はないように規律すべきではないかと考えていますが,仮に逆転現象が生じるとすれば,一つの割り切りですけれども,開始前に詐害行為取消訴訟が提起されていれば,開始後,破産管財人がその手続を受継して詐害行為取消訴訟のまま続けることができる。しかし,破産手続開始までに詐害行為取消訴訟が提起されていなければ,もはや,開始後は破産管財人は独自に提起することができない。できるのは否認訴訟だけであって,それは否認の要件を満たす限りにおいてであると。そうすると,今,山本和彦幹事のおっしゃった問題は生じない。こういう開始の前後で,できる,できないの場面が分かれておかしいということに対して,割り切りとして,それでいいのではないかという意見があったことを御紹介しておきます。 ○沖野幹事 山本和彦幹事のようなお考えになると,結局は否認権のほうも要件をそろえると,詐害行為のほうで対応するのではなくて,否認権のほうを広げる形で否認権の制度を作るということではないかと思われまして,それができるのであれば,それでもよろしいのだとは思うんですけれども,それが難しいということから,一方で7の問題が来ているのだとすると,中井委員がおっしゃったような詐害行為取消訴訟として,債権者を背後に背負った地位にある管財人等が行使していくということで,それを更に中井委員がおっしゃったような限定を掛けるかどうかというのはもう一つ選択肢で,理論的には余り説明がつかないかもしれないけれども,ある程度の割り切りをせざるを得ないと考えるのかどうかということではないかと伺っておりました。   ただ,その場合も第二種否認権というのか,詐害行為取消権の訴訟として維持されるということで,全て要件効果は全て詐害行為の要件効果の制度で,それを使っているだけだということになるのかどうかでして,先ほど期間制限の点を出されましたけれども,もし,既に開始時において係属する場合だとすると,元々,提起した取消債権者を起点に考え,例えば取消債権者の債権について時効に掛かっているとか,そういう主張がされると,そこで終わりと考えてよいのか。それとも何か特殊な管財人がやるときには別であるというような話をするのかどうかというのは,一つ確認しておくところなのかと思います。今,お答えを頂いたのですけれども。 ○中井委員 基本的には詐害行為取消訴訟が適法に提起されて,時効もクリアしていないと駄目だという考え方を採っております。効果についてどう考えるか,一般財産に帰属することになるんだろうと思います。もちろんのことながら。 ○沖野幹事 確認ですけれども,そうしますと,現行法の下では管財人が受継する場合というのは,否認訴訟に訴えを変更して係属しているというのが現行法だと理解しておったのですけれども,中井委員のお考えによりますと,それは詐害行為取消訴訟のままでいくのか,それとも否認に変えられるものは優先的に否認に変えて,残るものだけを詐害行為取消訴訟として維持するのか,その扱いは考えておく必要があるのかと思います。 ○中井委員 今の点については,否認の要件を充足するものについては否認に変わるけれども,否認の要件を充足しない逆転部分のみは,詐害行為取消訴訟のままで維持せざるを得ないという考え方です。 ○沖野幹事 お考えですと否認と詐害行為というのがあって,否認で吸収できるものは全て否認に変わっていく。それを維持するか,新たに提起するかは倒産管財人に委ねられる。しかし,否認からはみ出す部分があって,そのときには詐害行為取消訴訟しか起こせず,そのときには何ら倒産手続における特殊なものはなく,ただ,効果だけがどこに帰属するかとか,反対給付が財団債権になるかとか,そういうところは倒産の処理になってくる。それ以外の正にはみ出す部分があるために,破産管財人等による行使を認めざるを得ないという部分は,飽くまで詐害行為取消しそのものとして維持されるに過ぎないのだとすると,そうであるならば,先ほどの起算点等の問題も含めて係属していなくても,新たに提起するはみ出し部分というのも認めてもいいのかなとも思われます。  新規の詐害行為取消訴訟としての提起も認めるとしますと,特有の問題や規律の話が生じると思われます。例えば期間制限などについては,新たに提起するということは,既に提起している取消債権者がいて,それを基準として被保全債権等を考えていくとか,期間制限を考えていくということにはならないので,むしろ,総債権者というようなことを考え,詐害行為取消しの要件を満たすような詐害行為前に債権を取得していた債権者がなお存在する限りにおいては,行使ができる,というような話をしていくのだろうと思います。また,取消しの範囲などについて,そもそも限定を掛けないのならば問題はないんですけれども,もし限定を掛けるということになると,そこでは一つの債権に基づいてということではなくて,残っている総債権ということになりますので,取消しの範囲の問題などもまた具体的な規律としては出てくるのかと思います。 ○中井委員 どうも循環論法のような気がします。細かな点は分かりませんでしたけれども,開始後も認めるとなったら,結局,否認の要件を拡大すればいいだけのことになるのではないでしょうか。 ○松岡分科会長 山本幹事はそうおっしゃっているように聞こえます。 ○山本(和)幹事 私自身は,何か非常に理論的な発言かもしれませんけれども,なぜ,破産手続で個別の債権者の個別回収とか,強制執行を止められるのかというのが,破産の中で債権者の最善の利益が達成できると,アメリカはベストインタレストルールと言いますけれども,最善の利益が達成できるからではないかと思うんですよね。ところが破産手続に入らなければある種の行為を取り消して,より多くの回収を債権者に補償することがすることができるのに,破産手続の中に入ってしまうとそれができなくなって,その分,債権者の回収が減ってしまうという,それは私は破産の根本に関わる問題なのかなという感じがどうもしていて,ですから,否認という名で別に呼ばなくてもいいですけれども,手続の外でできるのだったらば,それは手続の中でもできることにすべきであって,管財人が行使するのが何か変だったらば,債権者がそれぞれ個人で行使できるようにしてもいいと思うんですけれども,何せ,その要件で外で取り消せるのならば,中でも取り消せるというシステムにしないと,かなり何か破産の私は根本に関わる問題かなという感じを持っているんですけれども。 ○高須幹事 私も,結局,最後は破産の否認のところが広がって,あるいは逆転現象が今度は詐害行為のほうの解釈で解消されて,いずれにしても詐害行為と否認の範囲にずれが生じなければ,この議論をする必要は多分ないのだろうと思います。ただ,今の段階ではもしかすると,逆転現象的なものが残る可能性は十分にある。それを破産より広いからというだけで詐害行為から削るのは,その理由だけから削るのだとすれば合理的ではないだろうと。そうすると,その場合には否認のほうを広げるか,それとも,今,議論が出ているように詐害行為として管財人なりが行使するのを認めるかということはあってよろしいと思いますし,それが訴訟の係属受継の場合のみならず,新規に管財人が行使するということでも私は構わないと思うんです,その意味では。   ただ,問題は難しいので,今,中井先生から循環論法というような話も出たように,全部をここで倒産法まで視野に入れての改正作業ができるのであれば,否認権のほうを広げましょうという方針でいくのか,管財人が詐害行為取消権を受継できる,あるいは新規に提起できるという方針でいきましょうと決められるんだと思いますが,今やっている議論は民法の議論に最後はなっていってしまうのでしょうから,破産のほうを今度,議論するときに,そこがうまくリンクしていただけるのかどうか,その辺りのところは,私には全然分かりませんけれども,引継ぎ的なことができないと,今,ここで議論したことがうまくいかせないのだろうと思いますので,そこらが恐らく我々の力ではどうしようもないことなので,法務省の方に何とか頑張っていただくしかないんだろうと思うんですが,基本的には僕は今,山本先生がおっしゃったように否認を広げるということでもいいし,沖野先生がおっしゃったように,それが難しい場合の議論を備えに置いておくというのであれば,新規提起も含めて詐害行為でともかくやれるべきものはやれるというようなことが本来だと思います。それぐらい幅の広い詐害行為取消権であっていいんだろうと思っております。 ○道垣内幹事 前提として質問したいことがあります。不勉強ですみません。現行法下で破産手続が開始した後に,ある特定の債権者は詐害行為取消訴訟を提起できるんですか。 ○松岡分科会長 できないでしょうね。 ○山本(和)幹事 一般にはできないという,破産で判例があるかどうか記憶はありませんが,民事再生では下級審裁判例でも否定したものはあります。 ○道垣内幹事 しかし,現行法では,債務者は被告にならないわけですよね。つまり,破産手続とは無関係なところで行われている訴訟なのだけれども,しかし,それはできないということになっているということですか。 ○山本(和)幹事 現行法では中断するという規定が,詐害行為取消訴訟は中断するという規定が実定法としては存在するわけです。それからすれば,当然,原告適格がないと理解して,新規に債権者が提起したとしても,その訴えは却下されるというのが一般的な理解かと思いますが。 ○道垣内幹事 分かりました。 ○松岡分科会長 御質問ないし御意見はどういう内容でしょう。お続け下さい。 ○道垣内幹事 だからどうしたのかというとよく分からないのですけれども,債務者が被告に加えられたことが影響を及ぼしているのか,影響を及ぼしていないのかを確認したかっただけです。山本幹事がおっしゃったことにも関係しているのですが,できたはずのことができなくなるというのはおかしいのだろうと思いまして,現行法ではできていたのかなということを確認したかった。現行法ですと恐らく否認のほうが範囲が広いでしょうから,余り現実には問題にならないのですが,ただ,破産管財人が否認は困難だと判断したのだが,ある特定の債権者が,詐害行為取消しの要件は満たされていると判断して,独自に手続が執れるか,ということを確認したかったというだけです。 ○松岡分科会長 まだ,議論が必ずしも煮詰まってはおりませんが,破産手続開始後もそれを詐害行為取消しという形で残すのか,あるいは否認権を拡張するのかはともかく,できると考えたほうがよいのではないかという意見が少し多かったということになりましょうか。中井委員がおっしゃったのは,方向として少し違っていたかもしれませんが。   ほかに御意見はありませんか。 ○岡委員 現行法でも会社法の863条とか865条とか,特殊な取消しの訴えがあって,清算持分会社の財産処分の取消しの訴えとかが係属中に,破産手続が開始されたらどうなるんだという議論が一部でされております。この点につき,破産管財人がこの特殊な会社法上の取消しの訴えを開始決定後も行使できるというような解釈論を書いたことがあります。会社法とか倒産法の専門家の先生は,どうお考えになっているんでしょうか。 ○山本(和)幹事 特別清算のときのあれですよね。確か,あのときの議論では管財人が行使できるという前提だったのではなかったかと,かすかな記憶ですけれども。 ○松岡分科会長 それでは,冒頭に申し上げましたように,誠に申し訳ありませんけれども,既に予定時間を30分ぐらい過ぎているということもございまして,引き続いて「三面更改」の話に入らせていただきますが,よろしゅうございますか。   それでは,部会資料40,第1の「更改」,その後の「三面更改(更改による当事者の参加)」,これについて御審議を頂きたいと思います。事務当局から説明していただきます。 ○松尾関係官 部会資料40の10ページを御覧ください。この論点につきましては第48回会議で審議がされ,具体的な規定の在り方等について分科会で審議することとされました。   まず,規定の適用範囲については民法ではなく特別法に規定を設けるべきであるという意見のほか,部会資料掲載の考え方とは別に規定の適用範囲を限定し,CCPとの債権債務の置き換え後の清算に特有の規定を設けることを検討すべきであるとする意見がありました。また,規定の内容については,更改による当事者の交替の制度を廃止するという考え方との整合性に留意すべきであるとする意見,検討に当たっては債権の消滅原因であるという性質決定は,オープンにしておいたほうがよいという意見,本文③の規律内容については,債権譲渡や債務引受との関係に留意する必要があるとする意見,本文③の規律によって執行妨害に利用されるおそれがあるが,それについては詐害行為取消権の行使によって対応すればよいとの意見がありました。 ○松岡分科会長 それでは,ただいま説明がありました部分につきまして,御意見を伺いたいと思います。御自由に御発言をお願いいたします。 ○神作幹事 私はこれまでの議論の経緯から,部会におきましてはむしろCCPに特化した規律として構築すべきではないかと主張しました。そのように考える場合には,すなわちCCPに係る私法上の基礎と適切な利益調整という目的を達成するためには,単にCCPに対する権利義務に置き換えるための私法上のツールを提供するということだけではなく,更にその後のネッティングですとか,場合によってはクローズアウトに関する条項等についての手当を要することになるのではないかと申し上げました。けれども,そのような議論するべきであるからといって,ここで提案されている三面更改の導入について反対であるという趣旨では全くございません。むしろ,三面更改の御提案はCCPがその業務を私法上安定的に行うための第一歩になりますので,民法の中に抗弁が切断された状態で権利義務関係が置き換えられるという基本的な私法上の効果を有する仕組みを導入することは,CCPの安定性にとってもちろん万全ではありませんけれども,最初のしかも重要な一歩をクリアする,少なくとも私法上の基礎を明確にするという点で大きな意義があると思います。そのような観点から,CCPに特化しないより一般的な民事ルールとしての三面更改を導入することは,前向きに検討すべきであると考えます。 ○道垣内幹事 神作幹事の元の発言に賛成します。つまり,私が部会のときに述べたのは,例えば債務者の交替という更改というのをなくすとか,なくさないとかという話と,そもそもAがBに債権を持っているのがXがBに債権を持つという状態になるのに,どうして対抗要件が要らないのかというふうな話です。現在,存在しているCCP,例えば大都市圏の電車料金のシステムなどについては,公知性などの要件の下に,対抗要件がなくても第三者に対抗できる形での債権者変更が認められるという特別法は作れるのではないかと思いますが,その第一歩として,債権譲渡の対抗要件がなくても,債権譲渡ができるという一般規定を民法の中に置くことには反対します。 ○高須幹事 前回,弁護士会は基本的にはこれについては慎重姿勢であると,特別法での対処ということは考えるとしても,民法の中に入れることはどうだろうかというような意見が強かったということを部会では申し上げたと思いますが,その趣旨といいますか,更にそのことに付言して発言させていただきます。要はこういう面倒なものを民法に入れるのは面倒だという意味ではなくて,そんな安易なことではなくて,要するに結局,これは決済機能を重視するということによって,AB間の債権を二つに分け,AB間の債務を消滅させる。そうすると,Bから見れば抗弁の切断等が行われるというようなことを言わば正面から認めるという制度につながっているんだと思います。   それに対しては,もちろん,割賦販売法なんかの抗弁の継続の規定が現在,特別法で手当をされているわけだから,それで保護されますよというのも,一つの立法の在り方だとは思っておるわけですけれども,民法のデフォルトとしては決済機能が重視されて,それの結果,抗弁の切断などはむしろ特別法の領域に委ねられると,消費者的なものの保護は特別法の領域に委ねられるという考え方自体が,弁護士会の中では余り多くの支持を得られていないということだと思います。   そうであれば,むしろ,民法の中のデフォルトとしては,そう安易に抗弁の切断になるような制度だけを持ち込むのではなくて,それと一体として抗弁の継続についての,それだけではないわけですけれども,それ的なものも持ち込まないと,決済機能重視というような形での改正に終わってしまうのではないかというような危惧というか,不安というか,そういうものがございまして,そうであれば,三面更改の規定をむしろ特別法のほうに置いて,民法では取り分けそういうことを一般化しないというほうが受け入れ易いのではないかと,こういう趣旨から要するにむしろ特別法の領域にというようなことの意見が強かったということでございます。 ○神作幹事 CCPによる決済機能を確保するために,債権債務関係を置き換える法律構成は,前回の部会でも御指摘があったかと記憶しておりますけれども,英米法の下ではノベーションと言われていると理解しております。日本の民法あるいは民商法の基本的な仕組みでノベーションと訳せるものが,何かあったほうがいいのではないかと私は思うのですけれども,債権譲渡にまで引き寄せて考えると,ノベーションという概念とは異なるのではないかと思います。金融危機後の金融システムおよび決済の安定性の確保に関する国際的な議論の中で,まず,CCPによる決済の私法上の基礎がきちんと提供されていることが求められている中で,ノベーションが日本でも可能であるという状況が望ましいと思います。反対に,英米法の下でのノベーションは日本法の下でもこのように法律構成すれば少なくとも機能的には実現可能であって,これだったらノベーションと訳せますという法律構成がありましたら,是非,教えていただけますでしょうか。 ○道垣内幹事 英米の金融手法においてなぜノベーションが用いられているのかというのは,正に抗弁を切断するためなのだろうと思います。もちろん,英米において,アサインメント・オブ・デッドなどにつき,十分に安定した法理がないとか,そういうのもありますが,抗弁の切断の意義は大きい。そして,高須幹事がおっしゃったのは,そのような抗弁の切断を安易にもたらすべきではないということなのだろうと思います。私もこれに賛成でして,英米では認められるノベーションは日本では認めないというのが,正しい立法の選択であろうと思います。 ○神作幹事 大は小を兼ねるところがありまして,CCPの決済システムでも私が理解しているところでは,実質的にはDVPを実現しておりまして,これは前提の仕組みとしては抗弁を切断して決済はするけれども,お金だけ渡して物が渡されないことがあるかというと,そのようなことはないような仕組みになっていると思います。これは抗弁を切断するという世界を作り上げて決済の安定性は確保した上で,その後,合理的な仕組みを作るという話ですので,正に私は大は小を兼ねるということで,こういった抗弁の切断等を一般的に認める仕組みがあってもいいし,むしろあることが望ましいのではないかと思います。 ○潮見幹事 公務のため,遅参して申し訳ありません。   結論的には道垣内さんと同意見です。この前の部会のほうでも少し議論があったと思いますけれども,三面更改が問題となる局面で抗弁の切断が望ましく,そういう方向でルールを立てていくべきであるという場面と,そうではなくて抗弁が接続することこそ望ましいんだという場面もあるということでした。それなのに,果たして民法の一般法理として,三面更改という中で両者を上手に統合したような方でルールを組み立てることできるのかについて,疑問を感じます。もちろん,片一方のほうだけを特別法あるいは特則によって処理をしたらいいということになるのかもしれませんけれども,しかし,そうしたら,なぜ,両者を統合するような形での一般ルールが必要なのかについて,ますます分からなくなります。そうであれば,必要とされる分野ごとにルールを設けるのが望ましいと感じます。   ただ,そうは言いながらも,神作幹事から御教授いただければと思うのですが,例えばCCPが問題となるような場面で,民法における基礎理論といいましょうか,一般法理というものが固まっていないことには,当該特別の分野においてしっかりとした,きちんとした法整備ができないということになると,話が変わってきます。果たしてそうなのか。現在もCCPはきちんとした一般理論がない場面でも動いているというようなところもありますものですから,どうしても積極的にこういう場面では民法の一般法理として必要だというところを御教授できれば,有り難いと思いました。 ○松岡分科会長 意見ですね。よろしければ神作幹事にお答えをお願いします。 ○神作幹事 現在のCCPでも民法の基礎概念を駆使して,大過なく実務は動いていると認識しておりますけれども,より確実にCCPの私法上の基礎を提供することが可能な選択肢があるのであれば,せっかくこういう機会を与えていただいて議論しているわけですから,そのような可能性を頭から排除する必要はないのではないかと考えております。なお,様々な金融システムにおいて民事的な基礎がしっかりしているかというところは,様々なリスク評価等のところに利いてきますので,金融の世界においては民事ルールの基礎がきちんと提供されていることは,極めて重要なポイントであると認識しています。 ○中井委員 先ほどから神作先生が例で挙げられているのはCCPですが,決済システムとしておっしゃっているCCP以外で,どのような場面が想定できるのか。部会資料には,①,②,③が出てきていますが,これ以外の場面で積極的にこういう場面で必要だから,この基礎概念はあったほうがいいという点を,参考のために教えていただきたいと思います。 ○山野目幹事 今の中井委員の問題提起にも触れてみたいと考えておりますけれども,冒頭に神作幹事のほうから貴重な問題提起を頂いたと私は受け止めました。この論点に係る問題提起について基本的に,民法の具体的な技術的規律の検討に問題に入る前に,どのような社会経済的な要請を背景に持つものであるのかということを考えましたときに,部会資料が①セントラル・カウンター・パーティ,それから,②として電子マネーというものをお挙げになっていて,③のクレジットカード取引はやや異質であるかもしれませんけれども,①と②を見たのみでも,もはや,これは現代の社会経済における取引において,決して商人間であるとか,あるいは事業者のみが関係しているとかいうような局面ではない広がりを持った,社会経済的な重要性を持っているものであると考えなければいけません。   加えて,民法の体系といいますか,法典としての民法がどのような役割を持つべきであるかということを考えます際にも,債権の消滅原因であるとか,その他の債権の帰すうに関する基本的な民事法上の思考や概念というものは,民法の中に書かれていてこそ,特別法や特例法における様々な発展を許容する培地が整うのではないかと感じます。第48回会議においても何人かの方から特別法で,という御議論がありましたが,特別法における特例的規律の発展を安定的に,かつ豊かなものに促すためには,むしろ,民法の中にその根本になる概念が用意されていなければならないのではないかということを痛感します。   総括的な見方として前置きとなりますが,以上のようなことを私はこの議論を考える際に感じておりまして,そうであるといたしますと,今日,神作幹事が誤解を解くために,とおっしゃって御発言になったところの,誤解だからそう考えないでくれと言って打ち消されたほうの見解ではなくて,今日,新しくおっしゃったほうの見方,見解が相当なものであるだろうと感ずる次第でございます。   その上で,今後の具体的な検討との関係で細かなことになりますけれども,3点ほど申し上げさせていただきたいと感じます。   1点目は,第48回会議におきまして私からも発言させていただいたことですが,債権債務の個数を変更する更改というものを明示に設けようとする規律の新しい提案でありまして,これは現行法にはなく,先ほど申し上げましたような観点から要請されているものであろうと感じます。そのようなことができるということは,民事法上の基本理論として民法に書かれていることが望まれると感じます。   2番目は,神作幹事がおっしゃったノベーションのことですけれども,これに対応する概念が日本法において明示に置かれていることが必要であろうと感じます。英米ではうんぬんというお話もございましたが,加えて,準拠法の選択に関して従来の国際私法学の蓄積を継承して,それとの関係で国際取引においても適切な解決を安定的,迅速に確保していくという見地からも,そういう配慮が必要であろうと感じます。   この関係で申し上げますと,部会資料の実はそのほかの部分におきまして,債権者の交替による更改であるとか,債務者の交替による更改というものを基本的に廃止するという方向が打ち出されておりますが,私は三面更改に関する議論を承ってきて,そこのところを今,つまびらかに申し上げる用意はありませんが,もう少し見直してもよいのではないかと実は感じております。道垣内幹事から御注意いただいたように,それらのほうの更改をほとんどなからしめんものとする方向であるのに,なぜ,三面更改のところのみ新たに突出して提案するのかというところは,もっともな疑問を含んでいるところでありまして,それとノべーションの概念を重視しようという神作幹事のお話を連携させて考えるならば,ここのところは,本日,分科会の議題ではございませんけれども,もう少し考え直してみたいということを考えております。   それから,3点目ですが,三面更改と呼んでいるもののようなものを導入する際に,CCPや電子マネーに関する限りは,むしろ,抗弁は切断されるということが標準的なイメージとして考えられているのかもしれませんけれども,しかし,この概念を考えたときに直ちに抗弁が切断されるとか,されないとかいうことが決まるものではないだろうと感じます。第48回会議において内田委員のほうからは,消費者保護の要請から抗弁が切断されないようにするという配慮が求められる領域というのは,むしろ,どのような法形式を採ったかにかかわらず,法形式独立的に実質に着眼して割賦販売法その他の消費者保護法制で,しかるべく脱法的な事態が生じないような手当がなされるべきであるというお話があったものでありまして,誠にそのとおりであると感ずるものであり,ここで三面更改という概念といいますか,法形式を入れたかどうかということで,直ちに何らかの影響が生ずるものではないし,生じないように考えるべきであろうと思います。   その上で,そうは申しましても弁護士会のほうでの,とりわけ消費者保護に任じておられる先生方の危惧も理解することができる部分がございます。今後の具体的な案の検討の中で,また,検討されていくべきことでしょうし,私も気が付いた点があったら事務当局に申し上げたいと思いますが,抗弁の切断の有無という問題について,法制上,論理的にも適切な規律が得られるとともに,一般の誤解も避けられるような何らかの工夫が必要であるということについては,確かに考えなければいけない部分があるだろうと感じております。 ○岡委員 割賦販売法等の保護があるから,それで守られるんだという話をバックアップ会議でしたところ,割賦はそうかもしれないと,ただし,一括払いのクレジット契約については,今のところ,消費者保護法制がないと。なおかつ,最近,海外のサービスの提供を受けて,決済代行会社が中に入り,マスターとかビザが立替払いで請求してくる一括払いの事例で,うさん臭いものがかなり急激に増えているというような実態も,消費者関係では話されているようであります。そうだとすると,抗弁切断が原則であるという規定がびしっと民法に入ってしまうと,それは割賦販売法で対処できていない大きな領域で相当な不安,誤解ではなく実質的な被害が出る,そういう状況だと弁護士会は認識しております。誤解を解くための工夫ではなく,消費者被害が生じない手当が確実にあるというのがないと,銀行業界にとっての相殺に関する無制限説と同じように,弁護士会はかなり大反対せざるを得ないようになると思います。 ○道垣内幹事 先ほど中井委員からノベーションがCCPとか,そういうところ以外に使われているのは,どういう例があるのかというお話がありましたけれども,私が三面更改みたいなものを置くのは妥当でないと言っているのは,別にCCPなどのところでこのような手法を用いるのが妥当でないと言っているわけではないわけでして,このような形のものを置くと,それ以外の場所でも自由に使えることになるが,それはおかしいという話をしているわけです。   この法制審が始まる前に,私どもが,民法(債権法)改正検討委員会という研究会を作りまして,そのときに一人計算という概念を提案したわけです。しかし,あれはCCPに特化した形でできておりましたので,さほど問題はなかったのだろうと思います。ところが,この部分だけを切り出すと問題がある。かつ,ノベーションというのは,外国の金融との関係で考えると,別段,CCPとか,そういうところだけに使われているわけではなくて,シンジケートローンの実務というのは日進月歩でございますので,昔のお話をするのはいけないのかもしれませんけれども,例えばエージェントが単独債権者になった後に,ローンを売却するという形でシンジケーションが行われるという事例のときに,エージェントが持っていた債権に何らかの抗弁が付着をしていたら,後から参加する銀行というのは,債権の価値が把握できなくなりますので,そのときもノベーションが行われると私は理解をしております。現在,行われているかどうかは知りませんが。   そういうふうに,ノベーションという形で正に抗弁の切断をすることは,CCPとかクレジットカードの決済とかの場面以外にも広く使えるわけでありまして,したがって,それにはやはり一定の危険性があるのだろうと思います。したがって,立法するとすると,そのようなものの場合には認められるという形で書かざるを得なくて,そうなると,民法にそう書くということはもちろん構わないのですけれども,特別法でやる方が妥当ではないかというのが私の考え方です。 ○神作幹事 私は,先ほど,CCPに限定せずに,より一般的に御提案されているような法的効果をもたらす民事ルールとしての三面更改を導入することに反対する趣旨ではないと申し上げました。確かに,クレジットカードによる決済の場合において三面更改が適用された場合に,消費者保護はどうなるのかという問題は深刻な問題です。しかし,この問題については,前回の部会において,むしろ,民法の中に抗弁の接続についての一般ルールを設けることによって対応すべきであるとの御指摘がなされました。現在,割販法の抗弁接続に関する規定は,判例法理によりますと,創設的なルールであるということになっておりまして,割販法が適用されない領域については,まだ,民事ルールの欠缺があると思われますし,そういう意味でも先ほども山野目先生も御指摘されましたけれども,もし,三面更改が一般的な射程を持つ場合には,抗弁の切断・接続についても,適切な一般的なルールが債権法改正の中で併せて検討されることになるはずであり,私はそのような前提の下で発言をさせていただいていることを付言させていただきます。 ○中井委員 先ほど私が事例として,①,②以外に,つまりCCPと電子マネー以外にどういう場面を想定されるのかと質問した趣旨は,この二つはいずれもXですか,間に入る人についてはある意味で高度の信頼性のある制度として構築されているのではないかと思うのです。ほかの場面が仮にあるとしても,この間に入るXなる者については,そういう社会的信頼性が確保された制度設計ではないかということを想定して,お尋ねした次第です。   それに対し,山野目幹事が,①,②を例にして,だから,今日の現代社会においては,一般的通用性のある仕組みだとおっしゃられたところがよく分かりません。本当に一般事業者間で,このようなAに対する債権を二つの債権に分けて利用するということがそれほど一般的に考えられるのか。むしろ,特有な性格である,抗弁の切断ができる,対抗要件も要らない,この二つが濫用されて,例えばXに移転することによって,BはXに対して何ら抗弁を言えないような状態をあえて作り出す,そういうこともあり得るのではないか。むしろ,濫用の危険といいますか,そういうことを危惧したわけです。その限りで,道垣内先生のおっしゃっていることと同じ趣旨といいますか,同じような危惧を覚えている次第です。ユニットとして設けること,これを民法というレベルで設けることについての実需,必要性について理解ができない。逆に一般的ルールと作ることによって生じ得る危険性,リスクのほうがあるのではないか。その心配が大きい,こういう意見でございます。 ○山野目幹事 岡委員のほうから御指摘いただいたことと,中井委員のほうで御心配になっておられることとを承って,それぞれのお考えを受け止めて今後の作業を検討しなければならないと感じます。その上で,それぞれの御発言について申し上げますと,岡委員のほうからの,抗弁切断とはっきり書かれてしまうと,実害が起きるぞという御注意はそのとおりでありまして,はっきり標準あるいは原則がそうであると書くかどうかは今後の検討で,もう少し注意していかなければいけないことであろうと思います。   それと,バックアップ会議で消費者保護のほうの先生方から,具体的な例を挙げて心配があるというお話を頂いたことももっともであるとは感じます。けれども,現在,三面更改の概念が提案されているのは,主として集中決済の場面で,現在行われている債務引受構成が,おかしなものであるとまでとは言わないけれども,今一つ,安定性において議論すべき点が残ることを踏まえての問題提起であるわけですが,考えてみますと,債務引受構成それ自体も消費者保護との関係から言うと,使おうとすれば抗弁を切断するために,非常に作為的な事態を引き起こすために使われてしまうおそれがあります。   今は悪いことを考える業者がそれに気付いていないだけの話でありまして,この分科会の議事録が公開されれば,よく勉強している業者は,三面更改が入らなくても債務引受構成といういいものがあるぞ,ということになるのではないでしょうか。そして,ここまで議論してしまった以上,だから,何かを考えなければいけないところまで来ているものと思います。それに対する処方箋は,基本的に神作幹事もおっしゃったことですけれども,抗弁切断のための規律を正面から議論して,別途,また手当をすべきであろうと考えます。そちらとパッケージでなければ,受け容れられない議論であるという弁護士会の先生方の御議論は理解いたしました。そのとおりであると思います。   また,内田委員の御発言を先ほど私が引いて発言したときに,少し誤解のある言い方をしたかもしれません。消費者保護法制のほうで手当をすればよいと申し上げましたが,消費者保護に任ずる規律を民法の中に入れて議論するということは,もちろん,あり得るわけでございまして,割賦販売法とか,そういうのでなければ駄目だということを申し上げたつもりではないということは,神作幹事も御発言になったとおりではないかと感じます。   それから,中井委員のほうから,①や②の需要があるということのみで汎用性のある民法の概念を民法に入れるのかというお話がありました。それで,神作幹事のお話などを伺いながら私が感ずることは,神作幹事も同じ意見でしょうし,私も同じ意見ですが,①とか②のようなものを何らの監督行政的な縛りもなしに放任しておけばよいというようなことを申し上げているつもりはございません。現在だって債務引受構成で行われている集中決済について,資金の集中決済に係る様々な法制が整備され,その他,日本銀行等による広い意味でのオーバーサイトも,機能しているというような現状があると思います。現在の債務引受構成だって,そういう規律がなければ,いろいろな人に使われて不安定なものになったり,不適正な事態を生じたりするという側面を持っているのは同じことでありまして,これから設ける三面更改も民法に基本的な規律は設けますが,これに即応する取締行政的な規定は,併せて整備しなければいけないものであろうと感じます。   それを整備するタイミングは同じ時期でなければ心配で,パッケージでなければ受け容れられないという御疑問も,そのとおりであると受け止めさせていただきたいと感じます。債務引受構成自体についてそうですし,それから,そういうことというのはほかのところにもたくさんあるものでありまして,債権譲渡という概念が民法に用意されていることを踏まえて,債権譲渡がある局面である種,行われるときには,サービサーに関する監督行政に服さなければならないというような法制の整備がされるという役割分担になっているのではないでしょうか。サービサーに関する取締法の中に,いきなり債権譲渡という概念が出てくるのはおかしいのと同じように,基本的な概念は民法の中に用意されていて,それとともに連動して動くべき取締法規による規制は,併せてパッケージで用意されなければいけないという分担を認識した上で,しかし,両方が必要であるという議論を進めていかなければならないのではないかと感ずる次第でございます。 ○三上委員 金融機関の新種のデリバティブ等の決済においては,国際的な標準というのもございまして,そこでアサンプションだのトランスファーだのという言葉を言っても通じなくて,これはノベーションであると言わないと相手にされない場面があるという話は本会議でも申しましたけれども,実際に最近の店頭デリバティブの決済市場でも,それに類する取引が既に行われていまして,その構成はどう考えているかというと,日本的なノベーションの工夫として考えられたのが,AXBの三社間で,AB間の特定された取引の種類については,その取引がAB間で成立すると同時に,AとX,XとBの間でそれを分解した取引が発生して,それが発生すると同時にAB間の取引が解約されて消滅すると考える。   これは発生消滅方式と呼ばれているんですけれども,これによって結局,債権譲渡でもないし,現行法では債権者が代わる更改には対抗要件が必要と書かれていますから,それが必要とされないという意味で更改でもない取引だという説明がなされていて,こういう取引が既に開始されているわけです。私個人は三面更改自体について,どちらの考え方に与するわけでもないんですが,議論を聞いていると,ややもすると,今,店頭デリバ等で当局の認可も得て公式に行われているような取引自体がまたそぞろ,一括支払システムのように潜脱行為とか脱法行為とか言われて,取引の有用性とかいう以前に趣旨を脱するものとして無効になるとか,そういう議論にならないかが心配になります。したがって,そういうこと自体は少なくとも許すという前提のような法制を考えてほしいというのが金融界の希望でございます。 ○潮見幹事 伺っていて,私自身が感じるところを率直に申し上げますと,1個の債権が二つに割れること自体を別に誰かが否定しているというわけではなくて,むしろ,そういう1個の債権が二つに割れるということに,どういう効果や属性が結び付けられるのかというところについて若干,議論もあり,違和感を持つ人たちもいるのだと思います。   補足説明のところに挙げられているもので見ると,例えば15ページから16ページにかけて,更改契約の解除の可否と,抗弁の帰すうと担保の帰すうが挙げられていて,三面更改という枠組みを導入したら,こういう効果が必ず出てくるんだというようなニュアンスすら感じる部分があります。ところが,実際,いろいろな議論を聞いていると,例えば山野目幹事がおっしゃったようなところもそうかもしれませんけれども,抗弁が切断されるとは限らないという枠組みの三面更改というのもある。   三面更改という枠組み自体を採用することと,そこにどういうふうな属性なり法的効果が結び付けられるのかというのをいろいろなパターンで考えてみていただいて,それが先ほどから私も含めて申し上げているような懸念,つまり,三面更改のルールを一般化することによって,副作用が出てくるのではないかというような懸念に対応できるのかというのを,是非,考えていただければと思います。   そのような懸念というものに対応できないということであるのならば,あるいは,先ほどの道垣内幹事の発言にありましたように,かえってこういう一般法理ということを置くということ自体が,更にもっと大きなリスクを生じさせかねないということなのであれば,検討した結果としての理論的な枠組みをCCPのところに提供して,そちらのほうの特別法の枠組みとして提案あるいは提唱していくこともありではないかと思っています。少し時間はタイトかもしれませんけれども,御検討をお願いしたいと思います。 ○松尾関係官 三面更改という概念を入れることについては,賛否両論のいろいろな意見を頂きました。いずれも参考にして今後よく考えていかなければならないと思ったのですけれども,懸念を示される意見の中には大きく二つものがあるように感じました。   一つは,まずは抗弁が切断されるという点について,それがデフォルトとなるということについて特に消費者保護という観点から問題があるのではないかという御意見があったと思います。その点については山野目先生がおっしゃったよう,債務引受プラス抗弁の放棄という構成によって現在でも同じ結果が実現してしまうので,この概念が導入されることによって新しくリスクが生じさせるというわけではないのではないかと考え方があるとも思いました。他方で,御心配が多かったということについては,今後の検討に当たって十分に留意していかなければならないとは思いますし,仮に規定を設ける場合には,行政上の監督の整備などを含めて検討していかなければならないという問題提起も重要であると受け止めております。   もう一つの問題としては,第三者との関係であったと思います。道垣内先生から,例えばCCPのような取引については公知性というものがあるからこそ,保護されてよいのであるが,これが一般化されるべきではないという御意見であったと思います。これは本文の③の規定について御懸念を示す意見だったと思いますが,この点については,是非,もう少しこの分科会で実質的に中身を議論していただきたいと思っています。その際に,御意見を伺いたいと思っているのは,現在,債務引受という構成で例えばCCPや電子マネーなどでは,ここで提案されている債権の置き換えを行っていて,そこでは対抗要件制度がないというのが現状であると理解しています。三面更改という考え方はよくないのではないかという御意見は,そういった債務引受構成についても何らかの手当が必要ではないかというような問題提起なのかどうなのかということや,そうであれば,どういった手当が考えられるのかということも,併せて御意見を賜れれば有り難いと思っています。 ○高須幹事 日々,御努力されていることに対してのお願い事で大変恐縮なわけですけれども,今,御指摘があった最初の部分の弁護士会の懸念については,むしろ,今,それが弊害となり得るのであれば,その芽を摘むという発想からの考慮を頂ければと思います。取り分け,この問題に関して言えば,債権者の変更あるいは債務者の変更に伴う更改については,今回,改正していこうという検討をしているわけですから,それで,もし,その方向にいくのであれば,三面更改みたいなものは規定を置かなければそういうことにはならない。今回はそこを議論しているわけですから,それとの兼ね合いでも三面更改を残すということの是非について御検討いただいて,より良い民法を作っていただければと思います。 ○潮見幹事 松尾関係官が先ほどおっしゃった点についての確認です。私の考えとは違うのですが,仮に規定がなくても抗弁が切断されると解釈する立場を一般論として採る場合には,三面更改という制度を設けるに当たり,民法の基本ルールとしても抗弁が切断されるものとするのが一貫するということになるのでしょうか。 ○松尾関係官 今,潮見先生がおっしゃったことは,その前に御発言を頂いた点,つまり,更改という構成から,例えば15ページ,16ページの効果ということが論理必然に導かれるという提案なのかという御質問と関連する御発言かと思ったのですけれども,これは前回の部会のときに,松本委員からの御質問にお答えをしたことと考え方に変わりはありません。つまり,現在の提案を法概念で表すと更改になるのだとは思うのですけれども,大事なのは中身を議論していただくことで,二者間の債権を三者間の債権に置き換えるという取引というのは実際にあり得て,そこにふさわしいデフォルトルールというのは何なのかということを御議論いただき,そこでできたルールというのを改めて振り返って考えて,それが更改と呼ぶのにふさわしいのか,それとも別概念の債権消滅原因と考えるのがよいのかということを御議論いただければよいと思っています。更改という概念だから,抗弁が切断されるという結論が導かれるという議論の仕方は余り適当ではないと考えていた次第です。   また,念のために先ほどの私の発言が不十分だったかもしれませんので,併せて補足させていただきますが,一般論として,何の規定がなくても抗弁が切断されると考えていたわけではないですし,民法の基本ルールとして抗弁が切断されるべきであると考えているわけでもございません。 ○中井委員 仮に松尾関係官がおっしゃったような考え方で三面更改を考えるのなら,AB債権が二つの債権に分かれるとしても,元債務者の持っていた抗弁は,新たな債権者Xに対して主張できるという属性を持った三面更改,かつ,これは債権譲渡の要素が含まれるので,対抗要件を具備した制度としての三面更改,そういうものを規律して一つの債権が二つに分かれる,その基本ユニットを民法の中に入れる。これを御提案いただければ考えられるかもしれない。しかし,その考え方はCCPの考え方と相容れないから,二つの原則に対する例外という形で,特別法として,CCPが民法に定められている三面更改の属性のうち,二つが否定された一つの新たな制度として,CCP法ができる。これは弁護士会としては検討に値するのではないかと思います。そういう意味では,債務の消滅を前提としない考え方になるだろうと思います。 ○松尾関係官 その場合に,先ほど私が御質問させていただいたこととの関係では,債務引受で現在,対抗要件が要らないということとの整合性をどう考えるのかというところは,一つ問題になると思うのですけれども,そこのお考えをお聞かせいただければと思います。 ○中井委員 特にアイデアがあるわけではありません。債権譲渡に対抗要件が要ることとの整合性をどのようにお考えになるのか,同じ質問を私から事務局にさせていただくことになるかと思います。 ○松尾関係官 三上委員が直前に発言された内容と関連すると思うのですが,利用されることが想定されるような取引については,債務引受として,現在,対抗要件が不要であるものと考えられているのですから,同じように考えることができるのではないかということがお答えになります。 ○中井委員 債務引受でもできることなら,債務引受についても,元の債務者が抗弁として主張できたことは,主張できなければおかしいという考え方が十分あり得ると思うのです。そのための制度設計をむしろ民法改正の中で考えていくべきではないか,その論点ではないかと思います。 ○潮見幹事 中井先生がおっしゃった方向だと基本的に思うのですが,三面更改という今度,作り出そうとしている枠組みをまず基本に据えて,それで,債務引受の場合に例えば対抗要件が要るかどうかということを考え,その上で債務引受のノーマルな場合について,それをどう展開していくかという方向で議論してよいのか,むしろ,逆ではないか。逆だとすれば,今度は債務引受で立てられたものが三面更改のところで,そのままの形で妥当するのかということになると,よくそこも分からない。   どうして分からなくなるのかといったら,三面更改が使われている場面がある種,特殊の特定の場面だからではないかと思うからです。その特殊な特定の場面で行われていることをどううまく規律するかという観点から,対抗要件の問題だの,あるいは抗弁の接続の問題だの,あるいは解除の問題だのということを考えていかざるを得ないというか,そうするべきだと思います。このように考えた場合には,最初申し上げたよう,そのようなものとして民法の一般法理が必要なのかについて,なお,私は疑問を払拭できません。 ○道垣内幹事 債務引受という制度があって,そして,免責的債務引受をして,XがAに弁済しますと,XがBに対して求償権を持つという形になる。このときには対抗要件は不要である。これに対して,債権譲渡だと見て,XがAに債権の売買代金を支払いますと,このときは,XがBに対して債権を有することについては対抗要件が必要である。これも問題がないではないですが,しかし,民法の中で,この二つの概念しか存在していないというときには,実質的に割り振りをすることができるのだと思います。つまり,これは正に債権譲渡の対抗要件制度の潜脱を目的とした行為であると,したがって,対抗要件がないと駄目であるということができるし,これは債務引受そのものであり,求償権が全く別の種類の債権として発生しているのだから,対抗要件は不要である。こういうふうな性質決定が,まだ可能だと思うのです。   しかるに,その中間に,三面更改という概念を置きますと,ある種の取引は,債権譲渡でもなく,債務引受でもなく,三面更改と性質決定されることになります。つまり,概念を真ん中に置くということは,そこに性質決定される取引を作るということであって,そして,その制度に置いて,例えば,抗弁が切断するとか,対抗要件は不要であるとかということになりますと,債権譲渡の潜脱行為であったとしても,それはそれで三面更改としてかまわないということになってしまう。つまり,現在,二つしかないところに真ん中に一個を置くということは,かなりの影響を持つことなのだろうと思います。ですから,三面更改の効果は,現行法の下でも,債務引受でもできるのだから,特にその概念を導入することによって新たな弊害が生じるわけではないということには,必ずしもならないのではないかと思います。 ○潮見幹事 全然違うことですが,もし,ここで仮に三面更改の民法の理論を作ったならば,先ほどの三上委員の発言ではありませんが,強行規定になるのでしょうか。対抗要件とか,抗弁の切断とか,どうなるのでしょうね。 ○松岡分科会長 強行規定にはならないのではないでしょうか。 ○潮見幹事 任意規定と考えればいいんでしょうか。 ○鎌田委員 第三者対抗要件は……。 ○潮見幹事 おかしいですよね。対抗要件が強行規定ではないというのはしんどいですよね。 ○松岡分科会長 今までの議論は,この制度では対抗要件は不要という前提の話でしょう。 ○潮見幹事 仮に対抗要件みたいなものをここにかませた場合には,当然,その部分は強行規定ですよね。他方,抗弁の切断や接続のほうは任意規定である。その上で,消費者契約だったら消費者契約法のチェックが入るという枠組みなのですかね。それを潜脱するようなものは脱法行為というか,法適用の回避行為という形で処理されるんでしょうか。 ○松岡分科会長 事務当局はどうお考えですか。 ○松尾関係官 原案を作っていたときは,第三者との関係以外は任意規定でよいのではないかと考えていました。例えば抗弁の接続の問題などについても,消費者契約法などの他の法律に反しない限り,合意によって自由に変更できるのではないかとは考えていた次第です。 ○潮見幹事 そうなると,CCPで今,やっているようなことは,どのような規定を設けようが,結局は変わらないのですね。 ○松尾関係官 例えば,補足説明の15ページに書いたように,例えば債務引受と対価の支払という構成については,対価の支払がなかった場合には,取引全体を解除できるかどうかという点が必ずしも一義的に明確である訳ではないという御指摘があり得るので,そういった解釈上の疑義をよりクリアにしようというのが一つのメリットとして言えると考えていました。そのようなメリットについて,神作幹事からは,意義があるのではないかと評価していただいたと理解しています。   なお,補足ですが,そうであっても恐らく約定解除までできなくなるということではなくて,法定解除ができるかどうかということについては,更改のルールに従ってはどうかということがここでの提案です。 ○松岡分科会長 今の潮見幹事の御質問は,引き続いて何か御発言があるのですね。 ○潮見幹事 これも冒頭から出てきていることですけれども,CCPとか電子マネーの話もありましたが,そういうところで使われているものについての民法の基本的な考え方というものについてはっきりとさせることによって,現在の当該分野における実務的な処理,運用をより安定的なものにしようと考えているというところがあり,それが今回の制度を新しく作ることの主たる目的であったとしたならば,結局,新しい制度や規定を民法に作ったとしても,現在の実務は変わらないのではないのか。現在の実務は実務のままで,それなりの説明の仕方で説明をするという状況が続いていくのではないか。そうであれば,他方で,三面更改という一般的な制度が動き出すことによって,民法が対象とする領域一般において,想定外のリスクというものが新たに出てくるほうが怖くありませんか。 ○松尾関係官 この規定を設けることでどれだけのメリットがあるのかということが見えない中では,リスクが大きく見えるのに対して,規定を設けることの意義が分かりにくいという御指摘であると理解しました。引き続き,実務的にどういう意義があるのかということについては事務当局で調査して,御報告できるようなものがあれば,御報告するようにしたいと思います。 ○松岡分科会長 いかがですか。まだ御発言いただいていない方もいらっしゃると思いますが,おおむね二つに意見は分かれていると思われます。こういう仕組み自体が現在行われていて,かつ,それを何らかの形で法を支える意味での規定を置くこと自体には必ずしも反対はありません。ただ,民法に置くことのデメリットとの関係で懸念がかなり強く出ています。特別法にそれなりに限定しておくこと自体には,特にそれほど強い反対はないと理解しておりますが,よろしゅうございますか。   それでは,特にこれ以上御発言,御意見がありませんようでしたら,これはここまでとさせていただきます。 ○神作幹事 部会での繰り返しになりますけれども,特に③の法的効果が認められることが,CCPにとっては不可欠ではないかと思いますけれども,このような効果を認めるためには,1回切りの三面更改というのではなくて,こういった仕組みは継続的に行われるのが通常であることに鑑みて,三面更改については三面更改の期間のような概念を入れて,一定の期間の範囲内でのみ,三面更改を行い得るというような規律を検討する余地があると考えています。商法の交互計算というのは,交互計算に組み入れた債権について譲渡や差押えが禁じられるという重大な法的効果が認められますけれども,そのような交互計算期間を観念しておりまして,交互計算期間があることを前提としております。特にネッティングのことを考えますと,期間を限定して所定の法的効果を実現することにより,適切な利益調整を行うという考え方が有効であるように思われます。三面更改について継続的契約と申しますか,期間があるものだという考え方を入れることが可能かどうかということについて,更に検討していただけると有り難いと思います。 ○松岡分科会長 今,こういうところで発言するのが適切かどうか疑わしいですが,3人しか当事者がいない図に分解して,これがいわばアトムとして最小単位となるのですが,これを規定することがいいのかどうか疑問を感じないわけではありません。①,②,③のいずれの理念も,登場人物は実は3人ではなく,もっと多数の当事者がいて,クリアリングハウスのように集団的に決済を簡易にするところに非常に大きな意味があります。それを三当事者だけに分解してしまって良いのでしょうか。民法にこのような制度を入れるにしても,3人だけでできるものか,それとも,3人を最小単位とするユニットがたくさんあるものとして規律するべきではないのか。その辺りはいかがでしょうか。どなたかにお教えいただけると有り難いです。 ○内田委員 実際には多数の当事者間で使われるだろうというのは,そうだろうと思うのですが,現在使われているCCPを使った決済の場合とか,電子マネー,これは前払式支払手段という形で構成されていますけれども,あと,クレジットカードもそうですけれども,いずれも債務引受構成が使われることがあります。クレジットカードはほかの構成もありますけれども,電子マネーとかCCPは債務引受構成が使われていて,基本は三当事者なのです。ですから,民法には債務引受について規定すらありませんが,学説上は確立している三当事者の債務引受のユニットを組み合わせることによって現在の実務は動いている。   そこが正に神作幹事が言われた点に関わるのですが,実務では包括的な債務引受,しかも継続的な将来の債務引受を今やっているのですね。これが本当に有効なのかということは,詰めて考えるとなかなか難しい問題があるように思えます。今,それで実務は動いているのだから,別の制度を作っても実務は変わらないと言われますけれども,今の実務が本当に法的構成の点で問題がないのかどうかというところは,やはり,議論の余地があるのではないかと思います。   これを余り言うと,今の実務は法的に安定していないと言うことになってしまって,実務界からは非常に嫌がられることなのですが,しかし,実際はそういう面が全くないわけではありません。債務引受構成は,三当事者間において,債務引受すると同時に弁済もされていないのに同額の対価の債権が発生すると構成しているわけですけれども,これなど非常に技巧的な感じがします。しかし,このような法的処理が将来の債務を対象に包括的かつ安定的にできないと,現在の決済のシステムは動かないものですから,それができるような制度をきちんと用意するのが一般法の使命ではないかと思います。   その上で,それが抗弁の切断に使われ悪用されるリスクが指摘されていて,それについてきちんとした対応の検討が必要だというのはそのとおりですけれども,その対応の必要性が出てくるから,基本となる制度そのものを作るべきではない,そして,現在の包括的債務引受構成を余り詮索せずに放置するのでいいというのが,本当にこの改正においてとるべき態度なのかどうか,疑問を感じます。 ○沖野幹事 こういう三者間のアトムに当たる部分だけを民法に規律するという,その姿勢自体を適切と考えるのかどうかという点についてですが,私は逆にそれこそが適切ではないかと考えおりまして,三者間において1本の債権を二つに分けられるというか,そういう正に原子の部分が民法に規定されるのにふさわしいと思います。   そうしたときに,どのような効果を伴っているのかをほかの制度との関係で矛盾なく,無理なく説明できる制度だけが民法に置かれていて,ただ,それは実際の利用においては本当に一部のパーツで,それを組み合わせた多数の関係として扱っていくのですけれども,その多数になることによって例えば公示の用意ですとか,あるいは一つの債権を二つに分けるという三面更改と呼ばれる形の一般的なものだとこうだけれども,多数ということになると,あるものは強行規定になる,これは潮見幹事がおっしゃった一般論と関わるのかもしれませんが,そういうものは,そのような制度を設計するための特別法が別途置かれるという構造にむしろなるべきではないかと考えております。例えが適切かどうかは分かりませんが,信託法で受益権の譲渡と受益証券発行信託における特則との関係が近いように思います。基本的な制度が基礎にはあって,受益証券発行信託になると受益権譲渡の基本的な制度を用いつついろいろな特則が入ってきますし,あるいは受託者の義務についてもある部分は善管注意義務の強行規定化とか,そういう形で特別な規律が入ってくる。そのようなイメージを持っていまして,コアとなる中核的な概念は民法で用意しておいて,そこに無理がない範囲での規律だけは書いてあるけれども,それを実際に使っていくためには,これだけではある意味,何もできなくてほかの手当を置く,あるいは基本のところを変えていくこともあり得る。そういう形で構築されるための素地が民法に置かれる,そういうものではないかと思っています。 ○神作幹事 今日,冒頭に発言させていただいた点と,松岡先生の御質問と関わると思うのですが,私がCCPに特化したルールとして検討すべきであると部会では申し上げたのですけれども,しかし,考えていくと,正におっしゃったように実質的にはマルチラテラルなネッティングを実現することこそがCCPを創設する真の理由ですので,当然,多数の当事者が存在することが前提になります。そうすると,CCPにますますリスクが集まるということになりますので,そのリスクについて何らかの規律をしなければいけないのではないかですとか,CCPの負担するリスクについての分担について,どのようなルールを作るのか等々,CCPについての適切な私法上の規律の在り方について本格的に論じ出したら,非常に論点が拡散することになろうかと思います。そのように考えますと,むしろ,債権法改正の議論としては,債権債務関係の置き換えという基本的な民事ルールを明らかにするということに大きな意義があり,適切なのではないかと思いつつある次第でございます。 ○松岡分科会長 よろしゅうございますか。余計なことを言ったために,大分,時間をオーバーしてしまいました。よろしければ,この議論はここまでにさせていただきまして,休憩をさせていただきます。           (休     憩) ○松岡分科会長 それでは,再開させていただきます。   引き続きまして部会資料38,「第1 債務引受」,「2 併存的債務引受」で(1)(2)(3)とございます。部会資料38の「第1 債務引受」の「併存的債務引受」について御審議を頂きたいと思います。それでは,事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 部会資料38の3ページ以降を御覧ください。この論点につきましては第46回会議で審議され,具体的な規定の在り方等について分科会で審議することとされました。   まず,「(1)併存的債務引受の要件」のアについては,引受人の単独行為での債務引受の成立を認めるべきであるとの意見がありました。他方で,無因での債務引受が認められることの危険性を懸念する意見があったことにも,留意する必要があると思われます。イについては,①の第三者のためにする契約の問題として議論することには,おおむね異論はありませんでした。②については特に意見はございませんでした。   続きまして,「(2)併存的債務引受の効果」について御説明いたします。アについては特段,意見がございませんでしたが,イの第1パラグラフについて,内容に異論はないものの,引受人に履行拒絶の抗弁権を認めるべきではないかという意見がありました。   「(3)併存的債務引受と保証との関係」についてですが,規定を設けること自体に賛否が分かれました。規定を設けることに賛成する意見としては部会資料のアプローチのほか,引受人の属性に応じて準用の有無を決するという考え方が示され,具体的には,引受人が個人である場合に保証の規定を準用するという案,個人が引受人となる債務引受については保証と推定するという規定を置く案が提案されました。   部会資料の案については支持する意見があった一方で,要件の曖昧さを指摘する意見や,負担割合をゼロでないとすることによって,容易に潜脱することができるのではないかとの懸念が示されました。また,決済目的で利用される併存的債務引受が無効とされるリスクが生ずるのは,金融取引の支障となり得るとの批判がありました。引受人の属性に応じて準用の有無を決するという考え方に対しては,事業者である自然人が債務引受の主体になることもあり得ることを考慮すべきであると指摘し,仮にこのような考え方を採るのであれば,消費者という概念によって準用の有無を決すべきであるとの意見がありました。   以上のほか,規定を設けることに反対する意見としては,保証と同様の機能を果たし得る損失補償契約などについては規定を設けることなく,脱法的な利用に対処しているのだから,併存的債務引受についても同様にすればよいとする意見がありました。 ○松岡分科会長 それでは,少し幅広ではありますが,「併存的債務引受」(1)(2)(3),特にどれからという順番は付けずに御意見を伺いたいと思います。御自由に御発言をお願いいたします。 ○高須幹事 (3)の保証との関係なので,最後のほうで話そうと思っていたんですが,他に発言がないようですので発言させていただきます。併存的債務引受に関しては何らかの形で保証との関係を意識すべきなんだろうと思います。確かに保証の保護を図ったときに,その他の方法でいろいろな回避的な行為がなされるみたいなことがある,その全てについて対応できる,できないという問題は大きな問題ですから簡単にはいかないと思うんですが,少なくとも,今,当面,併存的債務引受ということが議論をされている以上,ここで保証との関係を意識しないままにしておくというのは妥当でないと思います。そういう意味で,保証の規律を何らかの形で及ぼす場合がある,全てというわけではなくて,そういう場合があるということは積極的に認めるべきであり,その際の基準として提案資料に出てきている,債務者の債務を保証する目的というのが主たる目的であると,この場合の基準というのが一つの在り方,切り口なんだろうとは思います。   ただ,それが明確でないというのは部会でも議論で出たところで,本日は既にお帰りになられたので代わりに話すわけですけれども,山野目先生が指摘された,個人が引き受けた場合は,主たる目的が保証目的であると推定するという推定規定を置くという考え方は,一つの手当になるのではないかと思います。そのような形での制度化というものを構想したらよろしいのではないかと思いました。 ○中井委員 (3)についての議論で始まりましたので,その点から申し上げます。部会でも申し上げてはいますが,基本的な方向性については賛成だけれども,債務引受の主たる目的が債務者の負う債務を保証する目的という,この定義の仕方については曖昧さが残って,このような形では余り機能しないのではないか。加えて,他人の債務を引き受けるわけですから,100:0の保証を前提とするけれども,90:10の場合に引き受ける者について特段,保証の規定を及ぼさなくてもいいのかというと,他人の債務を引き受ける場面では,もう少し慎重な配慮が要っていいのではないか。   そういうところから,要件を保証する目的という形での縛りをするのではなくて属性,つまり,債務引受する者が自然人である場合については,原則として保証に関する規定の適用を受ける,10%の仮に固有の負担部分がある場合,厳密に言えば保証ではないのですが,それであっても適用を受けても,特段,それによる弊害というのはないのではないか。これは保証に,保証人保護の規定がどのような内容になるのかということと相関関係があって,そこで余り行き過ぎたことを言うと逆にそれはちょっと過大だねということになりますが,基本的にはそういう方向がいいのではないかと思っています。   そういう意味では,個人の場合,債務者の債務を保証する目的であると推定するだけであれば,逆に割合的な負担があれば,直ちに推定は覆されますから,なお不十分ではないかと思います。したがって,属性基準でどうかと申し上げたいと思います。それから,その属性について事業者もあるんだから,それまでは行き過ぎではないかという意見がありました。そこから部会では事業者を外して,消費者とする考え方を提示しましたけれども,それはどうかなと思っております。保証を業とする個人が仮に存在するとすれば,その方には不要でしょうけれども,保証を業としない以上,事業者であれ,個人であれば対象とすべきではないかと考えています。 ○道垣内幹事 今の中井委員の発言で,少し分からないところがあるのです。と申しますのは,保証の規定があるわけですよね。その保証の諸規定の中のある規定,例えば,保証人保護の規定が,消費者に対してだけ適用されるということであるならば,そのような保護は,消費者にだけ必要であるということなのだろうと思います。また,自然人についてだけ適用があるというのだったら,自然人だけにその保護の必要があるということになるのだと思います。つまり,どのような属性の人に対して,どのような保護が必要かということは,保証の規定で決められるべき問題であって,準用するときに,あらかじめ準用する範囲を制限しなければならないということにはならないのではないかという気がするのですが,いかがでしょうか。 ○中井委員 御発言の趣旨を理解できていないかもしれません。保証についての保護が仮に自然人のみ,自然人の保証に何らかの保護を及ぼす,若しくは消費者が保証人になる場合の保護を及ぼす。そこで,その範囲が決まれば,ここでの債務引受について保証の規定が及ぼす範囲もおのずと決まるのではないか,ということでしょうか。 ○道垣内幹事 少し違います。つまり,事業者に対しては一切保証の規定のところで保護が与えられていないと仮定しますよね。そのときには,実は事業が行う併存的債務引受について保証の規定が準用されたとしても,ほぼ空振りになるだけであって,それはそれで済むのではないか。事業者は保護の必要があるかないかというのは,保証のところで判断すべき問題であって,併存的債務引受について判断の規定群が準備すべきものは,保証人としての保護が必要かどうか,保証の規定に照らして考えてくださいと,そちらに問題を投げるということだけなのではないかと思うわけであって,したがって,投げる範囲をあらかじめ制限して,更に投げられる先にも制限があるという必要はないし,投げられる先で受け止める範囲だけ投げるとする必要はないのではないかということです。技術的な問題かもしれませんが。 ○中井委員 趣旨は理解しました。私の先ほどの発言は制限ではなくて広げている面があったのかもしれません。保証であれば固有の負担部分はゼロでしょうけれども,併存的債務引受の場合に,ゼロの場合はもちろんトランスファーすればいい。しかし,併存的債務引受をする場合に,仮に固有負担部分が10や20はあっても,保証の規定の保護があっていいのではないかと言った限りでは,拡大しているのかもしれません。それは行き過ぎだと言われると,行き過ぎなのかもしれません。 ○道垣内幹事 それが行き過ぎだと言うつもりはありません。私も,それではごく一部だけでも負担部分を残しておけば,もはや保護が一切与えられなくなるということでよいのかというと,よいとは思いません。だからこそ,ある種,目的という曖昧な概念で,保証の規定を準用する対象となる併存的債務引受の範囲は広めにとっておく必要があって,そして,具体的な事例で,こういうのは企業間の取引でいろいろな経済合理性に基づいて判断したのだから,保護とか,あるいは権利義務の制約というのは起きないというのであれば,それは保証のときも起こってはならないわけであり,それは保証のところでそう決めるべきであると思います。だから,保証の規定を準用する取引の範囲は結構広くすべきなのかなという気がします。 ○沖野幹事 準用される保証の規定がどれかです。一つには,今,個人の保証人について構想されている幾つかの措置が,債務引受に切り替えることによって潜脱につながるようだったら,それは問題であるし,更に言うと,そこでの趣旨は厳密に保証でなくても及ぼしていくべきものがあるのではないかというのが,中井委員の御指摘だと思います。そういう規定については,個人が引受人になるという場合には及ぶ。ただ,そのときに完全に及ぼしていいのかどうかというのが問題としてあり,事業性を持った個人の場合をどう考えるかや,あと幾つかの場面があるのかというのが気になります。  その話と,もう一つは,例えば書面で締結しなければならないというような規律についても潜脱を許さないと考えるとすると,これは個人にとどまらず,正に保証という趣旨を持つようなものであるならば,同様に扱うと。保証という趣旨を持つという場合,性質決定の問題があって,債務引受という名称を用いているものの実は保証であるという認定をするべきものもあるけれども,そこまでには至らないというものがあるという想定ですが。それはないという想定であれば後は性質決定の問題なんですけれども,あるとしまして,そのような規律も対象にして考えるのだとすると,これは個人だけではないということになると思うのですが,一方,併存的債務引受の効果としては,(2)のアのところで連帯して負うということになっていますので,連帯債務を基本としつつ,ある部分は保証の基準をオーバーラップして掛けてくるという構造になると思いますので,どれが準用の対象かということをある程度,念頭に置かないと切り分けもできないのかと思います。   それは,保証のほうの規律に全面的に委ねるということであれば,保証と同趣旨であるものとして,ただ,判断が難しいので,一定の推定を掛けるというほうがよろしいように思いますし,しかし,そこからプラスアルファで,実は厳密には保証ではないものも同じ趣旨を及ぼしていくべきだということになると,また,規律の仕方が違ってくるのかなと思います。 ○中井委員 私の提案の問題点が,今の沖野幹事の説明で十分理解できましたけれども,趣旨は,沖野幹事が御説明いただいたことを何とか上手に振り分けてでも,実現できないかと考えていただければと思います。 ○三上委員 賛成の意見ばかりなので反対の意見を述べておきますが,先ほどから何度も出ていますように,保証と債務引受とはそれぞれ使う場面が異なります。それは同じく,今回,立法が見送られそうな,損失補償取引の場合も同じであります。そういう意味で,ひょっとしたら,沖野先生も道垣内先生も同じことをおっしゃっているのかもしれませんが,もし,ここに書いてあることが言いたいのであれば,利息制限法のように契約名義とか法形式にかかわらず,これと同じ効果をもたらすものには全部,この規定が掛かるというルールを保証の規定のところに入れるというのなら,これに賛成するわけではありませんが,考えられると思いますが,わざわざ違う法形式である債務引受のところに,何か,脱法的というのは変な言い方ですけれども,保証の規定を準用するという条文を入れてしまうと,何のために違う法形式があるんだということになるのではないかと思います。   それと,ちょっと枝葉の議論になりますけれども,保証を業とする個人とか先ほど話が出てきましたけれども,別にお金を貸すとか保証するというのは株式会社の定款に書いていなくても,当然,できる事項とされているわけですから,別に業とする,否という話とは無関係な議論ではないかと思います。これが併存的債務引受と保証の議論です。   取りあえず,今はその議論だけに集中したほうがよろしいですか。 ○松岡分科会長 別に構わないと思います。ついでに御発言いただいて複数の論点が並行しても,人数もこれだけですし,それほど広い範囲ではありませんので,大丈夫だと思います。 ○三上委員 主には「免責的債務引受」のところで言おうと思ったのですが,逆にひょっとして三面更改の議論の際に出しておくべきだったかと反省したりしているんですが,債務引受が行われた場合と,例えば債権譲渡ないし差押えとの関係,つまり,「債務引受と相容れない取引との関係」のところで,併存的債務引受の場合には連帯債務者が増えるだけですので,例えば元の債権が譲渡されても差押えを受けても別に問題はないという見方があります。しかし,差押債権者等が併存的債務引受をした連帯債務者がいるということに気付かない状態というのは,いろいろな形式を考えるとあり得るかもしれないんですが,そういった場合に差押さえて取りあえず安心と思っていたら,引受人が元の債権者に払うことによって被差押債権が消えてしまうと,理論的にはそういうことが起こり得るのではないかと思います。それでいいのかという疑問が残ったのが一つです。   もう一つは,例えば債権譲渡がされたけれども,対抗要件が備わる前に併存的債務引受をしたと,あるいは備わってからでも別に引受けをすること自体は,第三者のためにする契約等々を考えるとできるのではないかと思うんですが,例えば譲渡の場合には対抗要件具備の前後で分けて,それでいいのかもしれませんが,差押えの場合であっても,差押え後に差し押さえられた債権の債務者と引受人との間で債務引受できるというのは,同じく差押債権者が受益の意思表示をする第三者になるのか,取立権が発生すればそうなるのか,転付命令を受けなければ依然として差押債務者である元の債権者の受益の意思表示で足りるのかなど,そういう理解のままで放っておいていいのか,それで問題があるというのであれば,何か規定を置く必要があるかもしれないという疑問です。   取りあえず,併存的債務引受の場合ですが,免責的債務引受は元の債権が消えて,先ほどの更改の場面と同じ場面になって,より問題が先鋭化しますので,また,そこで述べたいと思います。 ○松岡分科会長 今,どなたからも御発言がないので,先ほどの道垣内さんの御意見についてうかがいます。保証についても事業者特有の保護がないとすると,保証の規定を全部準用しても同じではないかという趣旨のことをおっしゃいましたね。先ほど沖野幹事の御発言にもあったように,例えば書面による必要があるという規定は事業者かどうかに関係なく妥当するという御指摘があったので,道垣内さんの発言の前提は成り立たないのではないでしょうか。そんなことはないですか。 ○道垣内幹事 完全に成り立っています。つまり,併存的債務引受という形を事業者が採ったとしても,事業者に与えられる保証で事業者に与えられるべき保護は,与えられなければいけないわけですよね。そうすると,併存的債務引受という形を採ったときに保証の規定を準用するというところで,最初から事業者のする併存的債務引受については保証の準用対象から除くとしてしまったら,書面でやらなければいけないというのも適用されようがなくなるわけですよね。   そうではなくて,併存的債務引受のところからはかなり広い範囲で保証のところに持っていって,それで,事業者ならば事業者に与えられる保護だけの規定が適用されるし,消費者ならば消費者に適用される保護が適用されると。そっちで勝負しましょうという話でいっているわけです。それを受けて,三上委員は,保証の方にトランスファーして,そっちで勝負しようというのならば,むしろ保証の規定のところに,保証の目的を持つ取引については,保証の規定を適用しますと書くほうが筋がいいのではないかとおっしゃったので,それは考え得ることだろうと思います。しかし,松岡分科会長のおっしゃったことはよく分かりません。 ○内田委員 三上委員のような規定の置き方ならば分かるのですが,道垣内さんのように考えると,どっちが保証人になるのですか,併存的債務引受したとき。 ○道垣内幹事 引受人ですね。 ○内田委員 常にそうですか。事業者や個人が併存的債務引受するときを考えると,やはり,常に実質を考えざるを得ないのではないですか。 ○道垣内幹事 もう少し説明していただかないと,理解ができていないのですが。 ○内田委員 事業者が併存的債務引受をするという場合も,事業を承継して自分が主たる債務者になり,元の事業者も併存的に債務を負うという場合は,元の事業者のほうが保証人の立場に立つということがあり得ると思います。保証の規定を準用するというときに,どっちが保証人になるかは,債務引受の趣旨でどちらが主であるかを実質的に判断しているのではないでしょうか。 ○潮見幹事 内田委員がおっしゃったことと,道垣内幹事がおっしゃったことは矛盾しない。恐らく併存的債務引受の場面である場合というものは,保証のほうに正にトランスファーするのでしょう。トランスファーする場合は,引受人が保証人としての位置にある場合と,そうではなくて元の債務者が保証人というような形で捉えられるような場合と両方があると思います。その上で,そうしたら,それぞれの保証に関する規定を準用していいのかどうか,仮に準用するとしたら,先ほどの沖野幹事の発言ではありませんけれども,どの規定の準用というものを考えるのかという方向に,話は流れていくのではないでしょうか。最終的には併存的債務引受契約の解釈によって,どっちにでも転ぶのかなというような感じがしました。 ○内田委員 そうすると,中井先生の議論は成り立たなくなりませんか。 ○潮見幹事 そうかなと思います。ただ,中井委員が最初に発言されたのは単純なトランスファーというよりは,むしろ,消費者あるいは個人,消費者に類する個人と言ったほうが正確なのかもしれませんが,そのような人たちに対して,保証という形式は採っていないものだけれども,保証と同様の規律を妥当させるべきではないかという観点からの発言ではなかったかと思います。そうであれば,そのためにはどのような形での準用あるいは推定のルールを設けるのがふさわしいのかということだと,私は感じました。 ○中井委員 そのように善解していただくのは大変有り難くて,メーンの狙いは個人保証に対する保護を,併存的債務引受の場合に個人が引き受けた場合のことを想定して申し上げたわけです。しかし,一般的に事業者が引き受けた場合であっても,それが保証の目的の場合に保証契約における例えば書面主義の適用があることは言うまでもないわけですから,原則として,この規定と私の意見を両方ともいかすなら,債務者の負う債務を保証する目的の場合については保証の規定を適用する,かつ個人が併存的債務引受をする場合については保証の規定を適用する。こういう形というのはあり得るのかなと思います。その個人が併存的債務引受をする場合というのは,必ずしも純粋保証に限らない部分も,その限りで拡張されているという意味です。 ○潮見幹事 先ほどの私の直前の発言は舌足らずでした。中井先生の発言の中には,沖野幹事がまとめられたように二つあって,一つは先ほど私が申し上げたように,消費者保護,あるいはそれに近いルールを保証という形態を採らない場面でも妥当させるために,こういう準用あるいは推定のルールを置くべきであるという主張と,それから,もう一つは債務引受がされている場合に,100対0とはいかないような場面も保証という枠組みにはめ込むための準用ないし推定ルールというものを置くべきであるという主張とがあったのではないかと思います。後者についても,そうしたら,100対0ではない例えば90対10だとか,あるいは95対5とかの場面で準用ないし推定というルールを作るようなときには,そこで保証人の属性というものを更に考慮すべきではないのかという枠組みが基礎にあったのではないかと思ったところです。   そこまでいった場合に,果たして,これも言い方に気を付けながら言わなければいけないのかもしれませんけれども,保証のところに先ほどからずっと補足説明のところに出ているような形での準用ないし推定ルールを置いて,特に先ほど申し上げたうちの後ろのほう,つまり,95対5というような場面をフォローするために,この種のルールを設けるという方向で進むのか,それとも,三上委員がおっしゃられたような保証のところに類するものはこの規律が妥当するという形で置くのかいうことになると,かなり違ったことになってきます。 ○松岡分科会長 違ってきますね。 ○潮見幹事 そこがどうなのかなと感じたところがあります。もっと言えば,中井先生の御発言の中で95対5とかあるいは90対10といったような場面まで,保証になぞらえて処理をするというところに,どれほど弁護士会が強い希望をお持ちなのかが見通しにくかった,どうなんだろうという気がいたしました。   ついでにもう一つですが,三上委員の言うような方向で考えた場合には,債務引受だけではなくて連帯債務とか,ほかのものも全部ひっくるめた形での規定の適用ないし準用ルールが,保証のところで先ほどのような規定を設けることによって,出来上がるという理解でよろしゅうございますか。そうなると,債務引受以上に広がってくるかなという感じをちょっと持ったのですけれども。 ○三上委員 賛成するか否かは別として,保証人保護を主張されている皆さんが想定されているような場面での保証人の保護を貫徹する上では,正に業法的に出資法・利息制限法を例に出しましたけれども,法形式を問わず,こういう効果のあるものは全てこういう規制を掛けるとする,そうしないと,結局,民法に明文のないところで脱法行為が横行するだけだろうという意見です。但し,そういう規定を民法に置くべきかどうかというのは,私は賛成しかねておりますので,念のため。   また,ついでですけれども,保証の規定を準用するといっても,例えば,手書きするとか,公正証書にするとか言う条項が導入されたら,そんな部分まで準用されることになるのかとか議論になりそうですし,規定はともかく,連帯債務にすることと保証債務にすることの法的効果の違い,例えば付従性がないとかいう部分まで全て合わせる必要があるのかと。つまり,保証人の保護という規定の中でも,保証の条項の全部のことではないだろう,さすがに連帯債務として目指すものと,保証という付従性があるものとして目指すものとは違う部分があるだろうと思うわけです。そこまで併せて綿密な議論をしないことには,非常に粗い副作用の多い規定になるのではないかと危惧も持っております。 ○内田委員 一言だけ,先ほどと同じ繰り返しになるのですけれども,事業者だけではなくて個人の場合,個人も事業者であることはありますが,そうではない個人の場合も,引受人のほうが主債務者になるような併存的引受は,あり得るのではないかと思うのですね。そうすると,どうしても実質を考えざるを得なくなって,三上さんが言われたように「実質保証目的であれば」というような形の規律にしないと,うまくいかないのではないかなという印象を持ちました。 ○松岡分科会長 よろしゅうございますか。ほかにも何か今日はたくさんまだ課題がございますので,もし,お気付きになれば,後ではまた追加で発言していただくことも可能かと思います。   では,引き続きまして3の「免責的債務引受」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 部会資料38の8ページ以降を御覧ください。この論点については第46回会議で審議がされ,具体的な規定の在り方等について分科会で審議することとされました。本日,分科会資料5を作成し,机上に配布させていただきましたので,まず,この資料の位置付けを御説明させていただきます。これは,特に46回会議で議論が集中した論点について検討の視点を示すための補充的な資料です。つまり,免責的債務引受が併存的債務引受に免除の意思表示が付加されたものという法的構成の当否から議論するのではなく,実質的にどのような結論が望ましいのかということから議論すべきであるという御意見があったことを踏まえて,分科会資料5の1から3までのような問題について,法的構成とは切り離して,どのような結論を採るべきであるかという点についての御意見を頂きたいと考え,資料を作成した次第です。   それでは,議論の状況について説明させていただきますが,まず,3の「(1)免責的債務引受の要件」のアについては,免責的債務引受と併存的債務引受との関係に関する問題と関連して議論が行われ,免責的債務引受を併存的債務引受に免除の意思表示が付加されたものと捉える見解について賛否が分かれました。具体的には債務者と引受人との合意の後に,債権者が免責的債務引受についての承認をしなかった場合に,併存的債務引受の合意としての効果が発生すると考えるのが通説であり,これについては免除の意思表示がなかったからであると説明するのが自然であるとして,部会資料のような整理でよいのではないかとする意見があった一方で,このような場合には併存的債務引受への合意としての効力を認められないと考えるべきであって,併存的債務引受と免責的債務引受とは異なる類型であると整理すべきであるとの御意見がありました。また,免責的債務引受は債務の移転であるという理解に基づいて,債務の免除という構成に違和感があるという御意見もありました。このほか,主債務者が行方不明である場合や行為能力を喪失している場合に,免責的債務引受を利用する実務への配慮を求める意見もありました。   続きまして,「(2)免責的債務引受の効果」について御説明いたします。   アについては,規定を設けることを支持する御意見がありました。   イについては賛否が分かれました。まず,前提としてイの問題は,免責的債務引受と併存的債務引受の関係に関する法的構成から論理必然に結論が導かれる問題ではなく,デフォルトとして何が適切かという問題が検討されていることが確認されました。また,特に引受人と債権者の間の合意によって免責的債務引受が成立する場合に,債務者との間の原因関係が存在しないので,ここで検討対象とされている求償権の発生の有無に関する規定が問題となるとの指摘がありました。そして,イの問題は求償権という言葉についての問題であって,これは原因関係に基づく対価の発生について規定するものではないということも指摘されましたが,この点についての御理解が一致していなかったのではないかという指摘もございました。   イについて,求償権が発生しないという考え方を支持する御意見としては,債権者から免除の意思表示を受けた債務者としては,引受人からの求償すら受けないという期待を有するのが通常ではないかという御意見,他人の債務を弁済する場合とは異なり,自分の債務を弁済する場合であるのだから,求償権の発生の有無が第三者による弁済とは異なることになるという御意見,債権債務関係から離脱した債務者に対して求償することができないとするのが,デフォルトルールとしては適切であるという御意見,求償したい場合には併存的債務引受を利用すればよいので,免責的債務引受にはそれと異なる効果を与える制度として用意することに意味があるという御意見がありました。他方で,求償権が発生しないという考え方に反対する御意見としては,債権者が従来の債務者を免責するにすぎず,引受人が従来の債務者と免責することを意味するわけではないとする御意見,実務上,対価の問題と求償の問題とを厳密に区別しないこともあるので,求償権の発生を認めるほうが実務感覚に合致するという御意見がありました。この問題は分科会資料5の3と関連する問題です。   以上のほか,ウの第1パラグラフに関連して,保証についても保証債権の移転を認めるべきであるという御意見がありました。 ○松岡分科会長 切り分けたほうがいいか,まとめて議論するほうがいいか。ちょっと多いのですが,まとめて議論させていただいてよろしいですか。それでは,関連が相互に致しますので特に切り分けることはせずに,全体として「免責的債務引受」について御議論いただきたいと思います。御自由に御発言をお願いいたします。   具体的には分科会資料で3点にわたって,どのように考えるかという疑問を投げ掛けていただいておりますので,それに対するお答えという形でも結構ですし,部会で意見が分かれたところについて,更に補充していただくと,こういう御意見でも構わないと思います。 ○道垣内幹事 1の論点というのは,結局,当事者の通常の意思はいずれかということをどう決めるかという問題だと理解すればよろしいのでしょうか。つまり,もちろん,これは債務者が完全に変更してしまう取引として行いましょうという合意だったが,しかるに,債権者が免除をしませんでしたというときに,そのときは,当初の免責的債務引受も効力を生じませんという付款を付けておくことはできるわけですよね。問題は,そういうふうな付款がない場合ですが,そのようなとき,債権者が元の債務者に対する債務免除をしないとき,契約の意思表示の解釈としても,併存的債務引受の効果だけが残るということにはならないような気がします。私たちは併存的債務引受をしましたが,それを免責的債務引受にするために免除してくださいと言えば,免除がされないときも,もちろん,併存的債務引受は残るわけですが。そうすると,当該免責的債務引受というものの法的な仕組みというのをどう捉えるかというのが,実際の事件において大きな違いをもたらすのかというと,どうももたらさないのではないかなという気がしてならないのですが。 ○中井委員 ここは部会でも発言し,そのときは道垣内先生から御質問を受けたと思うんです。その後,弁護士会でも議論しました。意見は分かれるんですけれども,結局は債務者と引受人との合意の解釈の問題ではないか。ただ,一般的には債務者と引受人との間で免責的に,債務者を免責して,引受人が債務を引き受けるという形で合意したときに,債権者が,それは駄目と言ったら,引受人としては債務を引き受けないというのが普通の意思ではないか。   つまり,ここで書かれている債権者が承認しなかったら,併存的債務引受としての効力を認めるというのは,通常の意思に反するのではないかという意見が多数です。でも,最終的には,債務者と引受人が取りあえず免責的債務引受をするけれども,債権者がノーと言ったら併存的債務引受でいいねと,そういう意思であれば併存的債務引受でいいんでしょう。いずれにしろ,結局は合意の解釈の問題に帰するのではないかということです。 ○松岡分科会長 だから,そうすると,ただデフォルトの規律をどちらにするかという話でしたよね。 ○潮見幹事 解釈をどうしろ,こうしろというわけではないのですが,仮に中井委員がおっしゃったような方向で考えて,それがデフォルトだというのであれば,従来,債権総論の体系書で書かれていることとは逆になります。むしろ,そちらでは債務引受をした場合に,引受人と債務者の間で合意をしたとき,債権者が承諾しないと言ったからといって,併存的債務引受自体は引受人と債務者の間の合意で完全に有効にできると言っているものですから。むしろ,中井委員のおっしゃられたような解釈を採用すべきだというのであれば,条文のほうで明記したほうがいいのではないかと思います。しかし,それならば,なぜ従来,併存的債務引受としての効果は残ると言ってきたんだろうという,そこがちょっと引っ掛かります。 ○中井委員 私は部会でもパッケージ論みたいなことを言ったんですが,パッケージとしては違う意思のように思うんですね。弁護士会の中でも,大阪弁護士会は従来の考え方で免責的債務引受して債権者が承諾しなかったら,併存的債務引受でいいではないかという意見で,なお,そういう意見ももちろん残っています。改めて議論してみると,部会で深山幹事がおっしゃられたことですけれども,免責的債務引受というのは免責をすることを前提に引受けの合意ができているので,結局,債権者がノーと言ったときには,元々,全ての合意はなくなる。そのほうが素直ではないかというのが意見としては多かった。では,それをデフォルトルールとして明記するかどうかというのは,次の問題ですけれども,その前提が皆さんの感覚と違うのかです。 ○三上委員 今までの民法の教科書に書いてあったことは,債権者と引受人の間で債務引受契約を結ぶときには,非常に納得するんですが,債務者と引受人で債務引受契約を結ぶときは,一応,部会資料の提案では第三者のためにする契約の部分に従うとなっています。要は債権者が受益の意思表示をしなければ遡及的に無効になるという形で断れるという方向で議論されています。けれども,今の議論を聞いていると免責的債務引受を嫌だと言うだけではなく,改めて併存的債務引受も要らないと言わないと,自動的に併存的債務引受が成立してしまうかのような意見に聞こえたんですが,その点はどうなんでしょうか。 ○沖野幹事 そうならないのではないでしょうか。もし,併存的債務引受の合意としての効力を認めるということだとすると,債務者と引受人との間で併存的債務引受の合意としての効力があるので,債権者が直ちに権利を取得するかというのは,その規律に係ってくるということになり,第三者のためにする契約と並べてというのが併存的債務引受のところの規律として提案されていますので,それで,債権者の受益の意思表示が要るのであれば要ると。 ○松岡分科会長 債権者がノーと言ったら併存的債務引受も成立しませんよね。 ○沖野幹事 ですから,2段階で聞くことになると思います。免除してくれますかというので,それはできないと言われたときに,では,併存的でいいですかということになるのではないでしょうか。そういう受益の意思表示が不要だとすると,受益を拒絶する意思表示という話になるんだと思いますが。 ○三上委員 免責的に引き受けてもいいですかと言われて,そんなのは駄目ですというときに,受益もしませんからとは,普通はこちらからは言わないですね。そのときに断ったつもりでいたのに,重ねて断らなかったということで,併存的には債務が引き受けられていたということにはならないという理解でよろしいわけですね。引受人ないし債務者の側から併存的に引き受けるから,受益の意思表示をしてくださいと言ってくるというルールなんだという理解でよろしいでしょうか。 ○沖野幹事 私はそう理解をしました。御懸念は例えば金融機関が債権者であるような場合に,免責をしてくれませんかという中には,そうでなければ併存的債務引受ですけれども,それでもいいですかという照会も含まれていることは当然気付くべきだとか,そんな話が出てくるのではないかという御懸念でしょうか。ルールとしては2段階ということだと思うんですけれども。 ○三上委員 分かりました。 ○内田委員 2段階というのは,沖野さんが言われたとおりだと思うのですが,問題はどういう場合に免責的債務引受が行われると想定するかです。従来の学説が併存的になると言っていたのは,先ほどの併存的債務引受の議論にも関わるのですけれども,何か債務が発生する原因を引受人が引き継いで,これからは私が債務者になりますというような関係が債務者と引受人の間にある。それに対して前の債務者を免除はしないと債権者が言った場合には,両方が債務を負うことになる。そういうような場面を多分,典型的には想定していたのではないかと思うのです。つまり,免責的債務引受というのは何らかの原因が債務者と引受人間の間にあるはずで,それが今の例のように債務を発生させる事業の承継とか,あるいは不動産所有権の移転というのもあるかもしれませんけれども,何かそういったものが引受人に移るという場面を典型的に想定していたのではないか。結局,このような想定に立つかどうかということではないかと思いますが。 ○松岡分科会長 内田委員の御意見はどちらになるんでしょうか。典型的に想定していた場面ばかりではないので一律に推定を置く,ないしは併存的債務引受が残る,というのはおかしいという結論になるのでしょうか。それとも,デフォルトとしては従来までの多数説の一般的な理解に沿って,免除がなくても併存的債務引受としては効力があると考えるのか,どちらになるのでしょうか。 ○内田委員 従来の学説の想定というのは,免責的債務引受が使われる場面としてそう外れてはいないのではないかという感じがしますが,そうであれば併存的な債務引受が残るのは違和感がありません。このように考えるもう一つの理由としては,併存的債務引受になるということは,債権者にとっては有利なことであって別に何も損はしない。新たな引受人が,また例によって反社会的勢力とかという話になると別ですけれども,そういう場合でない限りは別に損はしない。そこで,デフォルトルールは併存的債務引受になるとしておいて,それも嫌だというときには2段階目の意思を表示してもらうということは,ルールとしてはあり得るのではないかと思います。 ○沖野幹事 全く異存はありません。弁護士会の御検討の中で,むしろ,免責的債務引受で持ってきたときは,そこで免責がないのならば,その引受け自体はしないというのが通常であると言われる事例は,具体的にどういうものを想定すればいいのかを教えていただけると,納得感が出るように思います。それに対して事業の承継に伴ってであるとか,あるいは親族の不法行為の損害賠償債務を自分のほうが負うのでこの子は免除してほしいなどというようなものだと,いずれにしても自分は負いますという例のようにも思われるので,むしろ,そうではない具体例は何を考えればいいかということを教えていただけるといいのではないでしょうか。 ○中井委員 例えば相続人が複数いて資産と負債があって,ある相続人が全ての資産と負債を一人で免責的に,それを対銀行との間で承継をする。こういう事例があります。そのときに一人に免責的に引き受けることを前提に,資産の移転についても他の相続人は同意した。でも,銀行が免責的であることを同意しないのであれば,併存的債務引受については元の債務者は承知しない。これは十分にあり得るのではないでしょうか。資産は完全に移転するのに,負債については併存的債務引受で銀行から請求されるリスクは負う。こういうのが一番典型例かと思います。 ○沖野幹事 引受人のほうで財産の移転が実現されないのに,債務だけを引き受けるということはもちろんしない,そういう場合と思えばよろしいですか。 ○中井委員 逆です。債権者銀行がいて,相続人二人がいる。相続人をAとBとして,そこに一定の相続財産があるときに,相続人Bに資産は集中する合意をする。同時に銀行債務についても,相続人の一人Bに集中することを合意する。当然,Aは資産を受けないわけですから,銀行債務についても免責的であることを予定している。ところが銀行がそれにノーと言ったときにどうなるのか。併存的に債務は残るのですかと。   免責的債務引受をしたにもかかわらず,銀行がノーと言った。それなら同意しない。これはあり得るのではないでしょうか。 ○三上委員 銀行が行うデットアサンプション等の取引は,元々は債務者からバランスシートをきれいにしたので,銀行がデットアサンプションで債務を引き受けてくださいという形で,出だしとしては債務者と引受人の間から話が始まるんですけれども,最終,債権者が同意するという前提で動いているので,債権者が同意しなかったとしても,銀行が引き受けた債務は残るとは,基本的に考えられていないわけです。   だから,これまでの説明がどうかという以前に,中井先生がおっしゃっていることのほうが,金融実務をやっている身には普通に思えるというのが正直な印象です。つまり,それだけ併存的債務引受と免責的債務引受というのは今まで連続として捉えられていなくて,別種として捉えられてきたというのが最初の議論から言われていましたけれども,そもそも免責の同意が成立しなければ併存的債務引受だけでもやりますなんていう意思は持っていなかったということのほうが,実務的には多いのではないかという気はいたします。   もちろん,念のために申しますけれども,債権者と引受人の間での債務引受の場合には,本来は免責的にするほうが連帯債務が残らないという意味で有り難いんですが,債務者の同意が得られないので併存的債務引受にしておくというのはあります。 ○中井委員 加えて理由ですけれども,債務者と引受人との間で免責的債務引受をする。それには原因,理由があるわけです。場合によっては債務者は先に対価を引受人に払う。それを前提に免責的債務引受を引受人にしてもらっている。では,対価を払っているにもかかわらず,払おうとするにもかかわらず,債権者がノーと言う,従来の債務者も請求されるとなれば,当然,対価を払うところから崩れるわけですね,再び請求を受けるわけですから。では,対価を払うこととセットにされた,対価を払うことを原因とした免責的債務引受なるものは元から崩れてしまう。そういう説明も可能ではないでしょうか。 ○道垣内幹事 私は,中井委員や三上委員と同意見のように見えますが,同意見ではありません。と申しますのは,三者合意が債務引受の要件になっているというタイプの合意のときには,一人の合意が,それは免除の意思表示かもしれませんが,なければ当該契約が成立しないのは当たり前の話であって,ここの話と無関係なのだろうと思うのです。そうなると,ここでの問題は,債務者と引受人との間でのみ,まずは債務引受を合意しようということが実務的にどれだけあるのか,また,あったとしたときに,その趣旨は何なのかという問題であろうという気がします。   そして,免責的債務引受に関しては,債務が移転するんだという議論がされた時期があるのだと思います。しかし,債務の移転というのはかなり難しい話で,債権が譲渡できるのだから債務も移転できるのだなどという議論をする人がいますが,それは雑だとしか言いようがない議論であって,財産権である債権が移転されるというのとは,根本的に違う話だろうと思います。さて,そうすると,免責的債務引受はどのようなメカニズムの取引なのだろうか。それは併存的債務引受というのができるということをまず前提にした上で,それに免除が加わるということによって,免責的債務引受ができるのだというのが一つの考え方です。そして,それは現在の様々な国際的な立法などにも見られる態度であろうと思うわけです。恐らく実務的には3人で合意するというのが通常であると思いますが,そのときになお債務の移転という構成を採らなければならないという理由は余りないと思うのですが。 ○中井委員 免責的債務引受について,まず併存的債務引受があって,その後,免除があるという構成自体に違和感があります,弁護士会は。免責的債務引受という一つのパッケージの,パッケージという言葉がよくないのかもしれませんけれども,債権者は従来の債務者に対しては免除する,それと引き換えに,引受人はその債務を全て免責的に引き受ける,それは決して分かれた意思ではないと思うのです。免責的債務引受の底に債務引受というのがあって,上がなくても,免責がなくても債務引受するという意思が存在するという前提にはならない,併存的債務引受にはならないと思うのです。当事者間の意識として,それは考え難いんですね。そこに根っこがあると申し上げていいのかもしれません。同じことを繰り返して言っているだけですが。   先ほどの三面更改という制度,これも一つの仕組みだろうと思うんです。そういう仕組みのことをおっしゃるのなら,免責的債務引受という一つの仕組み,これは一つのパッケージ,その中には求償権がないというパッケージだろうと思うのです。求償権がないパッケージという意味は,そういう債務引受をする,求償権を持たないというパッケージをするための原因行為については,対価を払っているかもしれない。その対価は求償権と呼ばない,そういう説明が可能ではないかと思うんですけれども。 ○道垣内幹事 しかし,中井委員も私も三面更改に反対しているわけですから,それを採用するのであれば,という前提をとることが妥当ではないのではないでしょうか。 ○中井委員 そういうユニットという考え方。 ○松岡分科会長 考え方としてあり得るという話ですね。 ○沖野幹事 部会でも同じ御指摘がありましたが,この構造をどう見るかは,いずれの説明もありえます。全く別物であるという説明もあれば,構造的には併存的債務引受プラス免除の構造になっているんだけれども,一般的に免責的債務引受と言われる合意をする場合には免除部分が非常に重要で,免除というところが実現しないのであれば,そもそも全体を成立させないというのが通常の意思だという説明もあります。   ただ,場合によってはそうでないタイプのものもあるのだとすると,そういうものの場合は例外的かもしれませんけれども,免除のところはそれほど大したことはなくて,正に引き受けるという前提の原因なりがあるので引き受けるというところがあって,そのまま免除を受けなくても維持されるという説明もできると思います。そのことと道垣内幹事のおっしゃった,債務が移転するということの難しさがあるのを二者間プラス承諾で対処するということだとすると,併存的債務引受を基準としてそれに乗っているという構成が導かれる。にもかかわらず,実際上は非常に違うパッケージのように働いてくるというのは,当事者となる者の一般的な意思はどういうことか,デフォルトはどちらに置くかという話になってくるのだろうかと思うのですけれども。 ○松岡分科会長 ただ,どちらもあり得るのですけれども,どちらをデフォルトとするかによって,大分印象も結論も変わってくる気がします。 ○沖野幹事 変わってきますし,最初から二つのパターンだとするとデフォルト・ルールという形でもなくなりますね。 ○中井委員 もっと実態で言うならば,免責的債務引受というのは,基本的に債権者の意思なくしてできないわけですから,結局,債権者,債務者,引受人の三者の合意で行われるのが普通のパターンでしょう。そこが出発だろうと思います。それであっても債権者と引受人の合意だけでできるというのは,単純に債務免除があるからできるだけの話で,債務者の意思に反してできるとなれば,二者の合意だけでできる。原則は債務者が代わる以上は債権者の同意が必要で,それは債務者と引受人とセットで合意している,そういう一つの意思表示だろうと思うんですね。 ○潮見幹事 中井委員がおっしゃったように,こういう場合に債権者の意思をどれほど決定的に見るのというところで変わってくるのかなと思います。従来言われているように,債権が移転するという構成であれば,比較的,説明がつきやすいんですよね。それに対して併存的債務引受プラス免除構成というのを採った場合でも,債権者の意思というものが重視されるべきであるということであるのならば,債務者と引受人との間の当該債務引受契約の一部分,つまり免除の部分について問題があるけれども,その場合には当該債務引受契約全体の効力を否定する方向でルールを作るというのはあり得ると思います。   従来の考え方というのは,今のような場面で債権者の意思というところで,免除は嫌だということであれば,一部無効的にその部分だけはカットして,残りの債務を引き受けるという部分については,当該契約の効力は維持しておく。旧債務者との間の債務はその結果として残る。それは併存的債務引受という枠組みになるという説明になるのではないかと思います。そういうときに,債権者の意思を,どこまで,どの内容で考慮するかによって変わってきそうで,ここだけ議論していても仕方がないというか,後の部分でほかの解釈に影響を及ぼすようであれば,及ぼさないような処理をする方向で検討したらどうかという感じがしました。 ○三上委員 先ほどは債権者の立場で,免責を断ったら,併存的を承諾したことにはならないですよねという話をしましたけれども,逆に債務者ないし引受人の立場からすると,当事者間で契約して債権者に申し込んだ段階で,債権者の側が免責を認めるか,受益の意思表示をして併存を採るかの選択権を持ってしまうということになりませんか。つまり,その段階で,免責を受けてくれないのであれば引受け自体をやめにさせていただきたいということを,別に注意書きで言わないと債権者がどちらかの選択権を有してしまうと,そういうデフォルトルールでいいのかと考えますと,しつこいですけれども,実務的には免責が大事なのであって,免責が受けられないのだったら引受契約自体をしないというほうが,当事者間の意思解釈としては普通なような気がいたします。   基本的にはこういう契約は三面でしますから,こういうことはまず起こらないんですが,まず,起こらないときのデフォルトと考えると,一番の肝は免責を受けることなので,その効果がなかったら引受け自体もしない,むしろ,併存的でもいいんだったら,別途,併存的でやりますと言うのではないかなというのが私としての実務感覚でございます。 ○中井委員 私の説明よりはるかにいい説明だと思います。 ○内田委員 三上さんが言われることは非常によく分かるのですが,道垣内さんが言われたように三者契約でやる場合を典型的に想定して,議論をしている印象を受けます。債務者と引受人の間で免責的債務引受の合意をして,債権者の承諾をとる場合というのは,引受人は自分が払うというつもりで,確定的な意思を持って合意をしている場合なので,債権者がうんと言わなければ,御破算にしましょうというような場合ではないのだと思うのですね。典型的にはそういう場合を想定して,従来の通説というのは議論していたのではないかと思います。そういう場面というのは,先ほど私が言いましたような場面とか,沖野さんが言われたような場面があるわけなので,三者間合意の場合とは区別したほうがいいのではないかと思います。   もう一つ,併存的債務引受プラス免除構成に違和感があると中井先生が言われたのですけれども,そう構成すると違和感があるかもしれませんが,これは,実質的にそのような構成で考えた場合と同じ帰結にならないとアンバランスだという趣旨ではないかと私は理解しています。今日の分科会資料の2番目の論点に,債権者と引受人との合意のみによって免責的債務引受が成立するという考え方について,元の債務者に対して一定の意思表示をすることとするか,あるいは承諾をとるかという選択肢があるわけですけれども,どちらを採るかは免除の構成をどうするかに係っているとはいえ,いずれかが必要です。これに対し,元の債務者に対して何も言わずに,債権者と引受人の合意のみによって免責的債務引受ができるんだと言ってしまうと,併存的債務引受プラス免除構成で考える場合との間に不整合が生ずるわけですね。そういう不整合的を生じない制度を設計する上で,併存的債務引受プラス免除の場合と結論的には同じ形になる必要がある,そういう趣旨ではないかと思います。 ○中井委員 今の内田委員のお話について,まず第1点目については,先ほどから私なり,三上委員の発言が三者合意を前提とした発言というか,実務的にはそれを想定するのが非常に多いわけで,それに基づく発言をしているわけですけれども,仮にそれを置いて債務者と引受人との合意の場合,内田委員は引受人は免責的債務引受であっても,債務を引き受けることについては確定的意思があったんだから,債権者が同意しなくても引受けという効果があってもいいではないかという御趣旨の発言と理解しました。   しかし,それは引受人にとってはそうかもしれませんけれども,債務者にとって果たしてそうなんでしょうか。債務者と引受人が免責的に債務引受をしたとき,債務者サイドは免責されるからこそ免責的債務引受をした。その原因行為として何らかのことがあったはずなんです。先ほどで言うなら資産の移転が別途あった,若しくは対価を払うという合意があるのかもしれません。債務者にとって債権者が同意しなかったら,むしろ,免責的債務引受契約をそもそもしなかったのではないかと考えるのが自然だというのが,先ほどから申し上げているところです。 ○内田委員 それが三者合意の場面ですよ。 ○中井委員 債務者と引受人が免責的債務引受をした場面のことをおっしゃって,それを前提としているんですけれども,結果として債権者が同意しなかったら,債務者としてはその契約の意思実現は果たせなかったわけですから。 ○内田委員 そういう場面は,三者合意でしか多分やらないんだろうという理解でお話をしました。 ○中井委員 そういう場面は三者合意でしかしない。 ○内田委員 三者契約で。 ○中井委員 それではその点は置くとして,二つ目については債権者と引受人が合意して免責的債務引受をした場合,それは最終的に債務者に対する債権をどう処理するかの問題は残るわけですが,そこについては免除の意思表示,ここの考え方では,私としては②の債務者に対する意思表示で足りるという考え方でいいと思っています。そこは構成も性質も,特に違和感なく受け入れているところです。   内田委員の発言の関係で,それなら,それは免責的債務引受ではなくて,単純な債務引受をしている契約なのではないでしょうか。債権者と引受人との間で,免責できるか否かにかかわらず,私は引き受けますよという合意にすぎないように思われるのです。債権者を合意の当事者としてないで債務者と引受人だけが合意する。そのとき,免責的債務引受と言っているけれども,債権者が承諾しようが承諾しまいが構わないという趣旨だとすれば,それは単純に債務引受を合意しただけのことではないでしょうか。後は債権者がどういう対応をとるか関係のない合意のようにも聞こえるんですけれども,そうではないのでしょうか。 ○内田委員 実質は同じかもしれませんけれども,私が想定していた場合というのは,以後は自分が債務者になる,全部,自分が弁済するから心配するなというような合意です,債務者と引受人の間の。それで,債権者の同意を求めたところ,それは駄目だ,元の債務者を免除しないというので,それならば,両方債務は残すけれども,しかし,引受人は自分で弁済するつもりでいるというような場合です。 ○潮見幹事 もう一度,先ほど言ったところの一部を繰り返しますけれども,引受人と債務者の間の契約で行われているのは,一つは債務引受,もう一つは免責でして,この二つがあることについては,内田委員も中井先生も同じでしょう。   どこが違ってくるといったら,免責,あるいは免除と言ってもいいのでしょうが,その部分について債権者がそれを拒絶するといった場合に,当事者間の契約はどのようになるのか,債務引受という部分が残ると考えると,それは従来の言葉で言う併存的債務引受と同じことになる。そうではなくて,全部消えるということであるのならば,そもそも債務引受なんていう契約自体がなかったことになるのと同じことになる。これだけの違いであって,後はどちらが実態に合うのかという判断になってしまうのではないのかと思います。この場面での枠組みについて意見が分裂しているように見えますが,実は基本的な枠組み自体は,それほど違いはないというように聞けば聞くほど思うようになってしまいます。 ○中井委員 私もそうかなと思うのは,私の構成の場合で,免責的債務引受で債権者がノーと言った,ノーと言われた結果,免責的債務引受の効果は生じなかった,しかし,内田委員の想定されているような事案であれば,その次,併存的債務引受をしましょうか,それでいきましょうで終わってしまうように思うんです。ですから,結果は恐らく同じところに行き着くのだろうなと思っているんですが,それでも免責的債務引受という意思の合致と併存的債務引受,単純な債務引受とは違う意思表示だというところが我々の思うところなんですね。 ○沖野幹事 中井委員のお考えの中でも,当事者の合意によって免責が得られなかった場合にも,なお引き受けますということは場合によってはあり得るという前提でよろしいのですよね。そうすると,仮に規律を明確化するときは,どちらをデフォルトルールにするのが実務的な感覚に合うかというところの意見の対立だと考えていいでしょうか。  その上でなんですけれども,さらに,そのときにもし免責を得られなければ,引受合意自体が効力を失うということがデフォルトだったときに,デフォルトどおりではなくて,この場合には併存的にでも負うこととしたいという場合には,改めて併存的な合意をすればいいと。そのときに確か併存的なはずだったのに引受人の気が変わったでもないですけれども,改めて合意をすることを拒絶する,といったことは余りないだろうという想定ですかね,原因があるような場合には。  逆に基本は併存的な債務引受という効果をもたらすのだけれども,ある場合にはもたらさないという規律を採るとき,もたらさないかどうかは,債務者と引受人との間の引受合意の解釈によるということになると,債権者側からすると免責は断りました,しかし,デフォルトとしては併存的な債務引受になるので,受益の意思表示をしますと言ったところ,私どもはその趣旨ではありませんということになる。そういう思惑違いが生じるがそれぞれ生じ得る。どちらのシナリオがより望ましいのかという話もありますでしょうか。どちらがいいのかというのは,実務的な見地から,どちらがスムーズかによるのではないかという印象を持ちます。 ○中井委員 3の問題設定,分科会資料5の3ですけれども,前回の議論を聞いていても求償権の意味について,それぞれ思いが違うように思います。私の理解としては,免責的債務引受に求償権なしというパッケージができていいと思っています。繰り返しになりますが,それは免責的債務引受をした原因関係は別途あって,その原因関係いかんによって何らかの対価のやり取りはあるかもしれない。それを求償権と呼ぶ必要はないという理解をしているだけで,そういう整理で理解が一致するのかどうかの確認を是非していただきたい。 ○内田委員 それに違和感を表明された方々は今はおられないので,必ずしもフェアな意見の反映にはならないかもしれませんけれども,私は先生のおっしゃるとおりだと思います。 ○松岡分科会長 迷っています。私はやや消極的だったかもしれません。債務者の意思にかかわらず,とにかく債権者と引受人の間で免責的債務引受が成立するとしますと,その場合には必ずしも対価はないですよね。それは対価という形ではなく,事務管理や不当利得になるのではないか。それを求償と呼ぶのではないか。契約の場合には,多分,委任契約等があって,委任事務処理の償還請求権に包み込まれてしまうので,それが対価的なものかもしれませんし,中井先生がおっしゃるように,それをあえて求償と呼ばなくてもいいというのは私もよく理解できます。しかし,およそ求償関係が発生しないと言い切っていいのかというと,契約がない場合もあり,ちょっと気になります。 ○道垣内幹事 部会のときの議論の繰り返しになるかもしれませんが,松岡分科会長の御発言の最初を聞き逃したんですが,債権者と引受人との間で免責的債務引受がなされる場合とおっしゃったんでしょうか。 ○松岡分科会長 はい,2番の当否の問題もあり,それがもし仮にできるとすればという仮定での議論です。それができないなら,もっと簡単なのかもしれません。 ○道垣内幹事 そのときに免責的な効果が発生するのは,債権者が債務者に対して何をしたときなのでしょうか。 ○松岡分科会長 そこが実は難しいですね。引き受けた段階だけで元の債務者の債務は消滅してしまいますから,その段階で債務者は既に利益を得ていると言えなくもないですね。 ○鎌田委員 この構成でいけば免除の通知又は承諾をする必要はない。 ○道垣内幹事 免除の通知又は承諾をしたときにどうなるのでしょうか。 ○松岡分科会長 確定するんでしょうかね。 ○道垣内幹事 免除の通知は来たのだけれども,実はこれは免責的債務引受に基づく免除だったということになると,その後引受人から求償される。これに対して,免除が本当の免除だったんだということになると求償されない。だから,同じ免除の通知が来ても,ぬか喜びしてはいけないということになるんでしょうか。 ○松岡分科会長 多分,そうなりますね。 ○道垣内幹事 それはおかしいのではないですか。 ○松岡分科会長 なぜですか。それをおかしいと言われる理由がよく分からない。 ○道垣内幹事 どうしてですか。 ○松岡分科会長 免除は,債権者がお前さんからは取らないという意思表示です。引受人との関係は知ったことではないのではないのですか。 ○道垣内幹事 もちろんそうですが,引受人との関係は債務者も知ったことではないわけですよね。 ○松岡分科会長 それはそうです。ただ……。 ○道垣内幹事 債権者から,免除します,という通知が来ても,信用してはいけないという話になりますよね。別の人が払ったらば,求償されるのだということになるので,債務額が減ったと思って喜んではいけない。 ○松岡分科会長 債権者に対する債務額が減っただけです。 ○鎌田委員 免責的に債務が引き受けられましたから,あなたには請求しませんという通知を受けたときは万全。 ○道垣内幹事 そのときに法的なルールとして求償はされますということになっていれば,もちろん,それは構わないわけですけれども,だから,その免責的債務引受が債権者と引受人の合意によってされたときの免除というのは,どういう形態のものであり,どういうふうな内容のものであるのかということなんですけれども,それが通常の免除と同一形態であるとしたときには,元の債務者にとってみると予測を害するのではないでしょうか。 ○松岡分科会長 そうですか。 ○内田委員 松岡さんの言われる場面についてなのですが,求償権を発生させたければ,そのための制度が民法上はあるのですね。併存的債務引受をして連帯債務にした上で免除する。免除が相対効であれば求償権は発生しますね。それから,委託を受けない保証の形にした上で弁済させても一定の求償権が発生する。それとは別に求償権が発生しないものとして,免責的債務引受を用意しようということなので,別に求償権が絶対に発生しないと言っているわけではなくて,発生する場合としない場合と,それぞれ制度が作られるということなのではないでしょうか。 ○三上委員 ちょっと質問させてください。今,内田先生がおっしゃった,併存的引受をした後で片方の債務を免除するという求償権が残る方法と免責的債務引受は,一遍にやるか,2段階に分けてやるかで,そういう大きな違いが出てくるという趣旨でしょうか。 ○内田委員 これは,中井先生が当初からおっしゃっていた併存的債務引受プラス免除構成には違和感があるという点で,そのことは私はよく理解できます。免責的債務引受というのはそれ自体,独立の意思だということですね。それと併存的債務引受で連帯債務を発生させた上で免除するのとは違うと思います。ただ,そうはいっても免責的債務引受を分解すると,併存的債務引受に免除が重なったのと同じなので,制度としては整合的な処理になっていないといけないと思います。けれども,そのことと免責的債務引受が一つの独立の意思であるということは,両立する話ではないかと思いますが。 ○三上委員 しつこいようですが,そうすると,免責的債務引受の契約をするときに,今は単に免責的に引き受けますという,そういうものしかないわけですが,それをすると一体型になってしまって,例えば相続人間の利害関係には銀行として関わりたくないのだけれども,後で銀行がこの免責的債務引受契約にサインさせたせいで,ほかの相続人に求償できなくなったではないかと言われたくなければ,併存的債務引受契約をした上で,別途,個別の債務者に対して免除をすると,この二つの段階を明確に分けた形で契約をすべきであるということになるんでしょうか。 ○内田委員 求償についての処理を考えるのであれば,そういうことになると思います。 ○中井委員 今の関係で,松岡分科会長の御懸念の回答になるのかどうか分かりませんけれども,免責的債務引受で求償権が生じないと考えたときに,債権者と引受人との間で免責的債務引受をするときは当然,引受人は,求償権が生じないとすれば,そういう引受けをする何らかの原因関係なり,対価関係を当然意識して,免責的債務引受をする前に,債務者との間で何らかの交渉なり,合意が行われることになるだろうと思いますね。 ○松岡分科会長 恐らくそうなりますね。 ○中井委員 だから,結論としてはそれで解決していく免責的債務引受というものができれば,それを使うことに特に問題はないと思っているんです。 ○鎌田委員 松岡分科会長がおっしゃったのは,普通に事前に備えをして,そして立替払いをしてあげるというケースは求償権の手当があるけれども,事前の相談をしないでやったときも,通常は事務管理等で事後的に求償できるはずではないか,なぜ,それをこの場ではさせないんですかという,そういう質問ですね。 ○松岡分科会長 あるいは極端な例かもしれませんが,原因関係の部分の契約について何らかの瑕疵があったが弁済はした場合だと,それは原因関係である契約では基礎付けられません。そうすると,これは事務管理になったり不当利得になると従来は考えられていたものですし,保証の場合には委託を受けず,債務者の意思に反してもできます。そのこととの均衡関係から言うと,免責的債務引受というのはおよそ求償権がセットになっていないパッケージしかあり得ないと言えるのか,というのが,単純であるかもしれませんけれども,疑問として残るわけです。 ○潮見幹事 松岡分科会長がおっしゃりたいことは非常によく分かるのですが,例えば,不真正連帯債務の場面の求償権だって,これも不当利得を理由に求償すること自体は差し支えがないが,不真正連帯債務ということのみから,直ちに求償権を導くことはできない。ここも,これと同じではないのかなと思います。つまり,当事者間の合意があれば,合意に基づいて求償権というものは出てくる,事務管理の要件を満たすということであれば,それによって求償権というか,償還請求権が出てくるというのは構わない。不当利得というのだったら,不当利得をどう捉えるのかというのはいろいろな考え方であるでしょうが,求償のような形で処理をすることはできる。けれども,ここで問題となっているは免責的債務引受です。ここから求償権が出てくるということまではおっしゃらないんでしょう。 ○松岡分科会長 そうは言っていません。 ○潮見幹事 そうであれば,先ほどの中井委員の発言の内容でいいのではないのかなという感じがします。 ○鎌田委員 逆に,求償できなくなるという書き方がされているのに,事務管理か不当利得でいけば取れるという解釈ができるのかというと,むしろ,それを否定するのがこの規定の趣旨ということになるのではないでしょうか。 ○松岡分科会長 そうです。潮見幹事がおっしゃったことを使うと,不真正連帯債務だからおよそ求償はあり得ないというのはおかしいけれども,常に求償があるとも言いにくいのですね。 ○沖野幹事 確かにあえて規定として求償はできないという規定を置くと,それは事務管理や不当利得などほかのルートでもできないという解釈を導きやすいように思います。その一方で,しかし,あえてそういう類型として設け,事務管理であれ,不当利得であれ,そのようなルートでの求償ができるというタイプのものは別の制度を使うべきだという考え方もありそうです。そうすると,今度はそのような別の制度があるかですが,なかなか思い付きません。元債務者との合意による場合は,その合意の問題として対応でき,それでよろしいのですが,債権者との合意によるときはどうするのか。原債務者の免責と求償権とを両立できる制度はあるでしょうか。保証はもちろん使えません。保証では主債務は残らざるを得ないわけなので……。 ○松岡分科会長 免責にはならない。 ○沖野幹事 原債務者が免責され引受人のみが債務を負い,かつ求償ができるようにしようとすれば,第三者弁済しかないのでしょうか。しかし,第三者弁済は債務を負うわけではなく,直ちに払ってしまわないといけないとなれば,実現する制度を用意し切れないのではないかと。そうすると,債権者と引受人との間での引受けの場合は,求償というタイプはできなくて,後は別途合意の問題ということになるでしょうか。 ○松岡分科会長 ただ,先ほど申し上げたように,極端な例かもしれないけれども,その合意に瑕疵があるようなケースは残るわけです。求償権はないと言い切ると,それを不当利得でも処理しないと言ってしまうことに近くなるので,それは違うと思うのです。 ○沖野幹事 合意に瑕疵があるため,債務引受はそのまま成立しておらず,それを知らずに弁済をしてしまうというときのことですか。 ○松岡分科会長 弁済してしまう場合ですかね。 ○沖野幹事 合意に瑕疵があれば免責は生じないわけですよね。 ○松岡分科会長 そうです。債権者は引受人から請求して取った。 ○沖野幹事 一種の非債弁済になるのでしょうかね。 ○潮見幹事 今の場合は債務引受自体が成立していない。 ○沖野幹事 成立していないですよね。だけれども,成立したと考えて引受人は払ってしまうので,一種非債弁済になって元の債務者に求償するということがあるのですかね。 ○松岡分科会長 ないんですか。 ○潮見幹事 第三者弁済。 ○鎌田委員 瑕疵があるときは求償できるんですね。 ○松岡分科会長 できるのですか。 ○鎌田委員 何の原因もないのに第三者弁済をして債務を消滅させてあげたんだから。 ○松岡分科会長 いや,むしろ,自分の債務のつもりで弁済した無効な引受契約による引受人には第三者弁済の意思が欠けていて,求償できるのはむしろ707条のような例外的な場合だけではないでしょうか。 ○内田委員 合意の瑕疵で効果が生じない場合は別ですが,効果が生ずる限りは,免責的債務引受の定義の問題だと思うのですね。元の債務者は債務者でなくなり,新債務者が100%,自分の債務を負うというのを免責的債務引受と考えれば,求償なんかあり得ないですね。他人の債務を弁済しているわけではないですから。だから,求償が生ずるというのは,併存的債務引受になって連帯債務状態になって,債権者が元の債務者に,あなたには請求しませんよという相対的な免除をしているという場面なのだろうと思います。だから,そのどちらであるかという性質決定の問題はあると思いますけれども,免責的債務引受そのものは引受人が100%,自分の債務を負うのみですので,他人の債務を弁済する関係にはない,だから,事務管理も不当利得も生じないのではないか。もちろん,原因関係があれば全く別ですけれども。 ○三上委員 債権者と引受人の合意のみによって免責的債務引受を成立させているような使い方を全ての銀行がしているわけではないんですが,ちなみに,これから申し述べるようなケースでは,弊行においては念のために併存的債務引受という形で処理しているんですが,典型的には相続人の一部に行方不明の人がいるとか,意思無能力者がいるとか,頑として手続に協力しないやつがいるという場合で,債務を相続人の一人に片寄せしたいときにこういう手法が使われるわけですが,そういう場面というのは,事前に相続人間で合意ができない場面ですよね。ということは,後から行方不明だった者が出てきたとか,意思を回復したとか,都合のいいときにだけ出てきて自分の相続分を要求してきたときに,債務を弁済してきた相続人は事務管理なり,不当利得なりで抗弁を言えるという前提で処理をしてきたはずなんですよ。   ということは,今,現にこれが使われている場面というのは,内田先生がおっしゃるところの併存的と分けた免除の場面で,もし,債権法が改正された後は,これまで免責的債務引受で同じような結果になると思っていたところが,違う契約の形式にしないと同じ効果が生まれない,ひょっとすると相続人間の争いに変な契約にサインをさせると巻き込まれる可能性があるということになってくると,今回のような考え方に関してはネガティブな意見を言う金融機関がたくさん出てくる可能性があります。これまで全銀協で議論していて,こういう理解は誰もしてなかったはずなので。 ○道垣内幹事 私の頭が整理されていなくて分からないのですが,潮見委員と鎌田部会長が,松岡分科会長が心配しているような瑕疵がある場合には,債務引受自体が成立しないと指摘され,松岡分科会長は,そうかという感じで納得されてしまったのですが,それでよいのでしょうか。私はそもそも松岡分科会長の意見に反対の立場なのですが,しかし,松岡説は,債権者と引受人との間の合意のみによって,免責的債務引受が成立するということを肯定した場合の話なので,引受人と債権者との間の合意は債務引受契約に影響を及ぼさないのではないですか。だから,負けてはいけなかったのではないかと。 ○松岡分科会長 失礼しました。 ○沖野幹事 そうではないのではないでしょうか。先ほど私が途中で,そういう,求償権の発生はおよそ認められないという場合がかなり限定されており,場面で切り分けていく,どちらが限定かということはあるんですが,そのような切り分けを誰と誰との間の合意による免責的債務引受かという場面によって考えられるのではないかということを整理しようとしかけていたんですけれども,債務者と引受人との間の合意によるという場合には,基本的にその合意内容によって決まるということだから,これは排除して,問題は債権者と引受人という場合に特化して考えていけばよいのではないかと申し上げようとしたんですけれども,債務者と引受人との間であっても,そこに合意の瑕疵があるときには,なお求償という問題が生じ得るのではないかという御指摘を分科会長はなさって,それに対して,そこはそもそも引受け自体が成立しないので,およそ非債弁済とか,そんな話になるのではないかというやり取りをしていたのではないでしょうか。 ○松岡分科会長 それで707条によって求償できる場合があるのかと思いました。 ○道垣内幹事 それはそれでよく分かるのですが,債権者と引受人との間の合意のみによって免責的債務引受が成立すると仮定して,そうしたときは,債務引受は,債権者と引受人との間の契約によって生じているわけですから,引受人と債務者との間の契約の瑕疵は直接には債務引受契約に影響は及ぼさない。それはそれでいいのですよね。分かりました。 ○松岡分科会長 でも,整理できたのかどうかがよく分からないのです。 ○沖野幹事 もう一つ,求償権という概念は何かということがずっと最初から気になっておりまして,中井委員が最初に非常にクリアに定義してくださったと思うんですが,私も当初,払ったときのいわゆる事後求償権という想定で,そうだとすると,自分の債務を払っているだけで他人の債務は最初から免責でないのだから,求償権ということは想定できないだろうということで,中井委員が最初にまとめられた形がよろしいのではないかと思っていたんですけれども,ただ,議論の中で既に免責を受けたという,そのこと自体をもってかぎ括弧付きの求償権の素地,事務管理だとか不当利得だとかの素地が出るのではないかというのが分科会長の御指摘だと思いましたので,恐らく求償権という概念を整理し,合意の主体が誰かということを整理した上で,かつ,企図するところを実現する手法ないし制度がそれぞれ用意されているのかというのを確認していくということになるのではないかと思うのですが。 ○道垣内幹事 今の沖野幹事がおっしゃった範囲では全く異論はないのですが,債権者と引受人との間の合意のみによって免責的債務引受がなされた場合に,免責を受けることの対価を支払うとしますと,債権者から免責を受けた対価を引受人に対して支払うのはおかしいのではないかという問題があるような気がします。引受人は,債権者に対して,対価が支払われるのであれば,元の債務者を免責をさせてやるという意思表示をしているのでしょうか。少し分かりにくいところがあります。また,私が最初から申し上げておりますのは,債権者と引受人との間の合意のみによって免責的債務引受がなされた場合に,債権者と債務者との間で行われる行為というのは,外形的には単純な免除であって,単純は免除を受けた後に,ほかの人から,その性質は求償でも何でもいいのですが,一定額の支払請求を受けるというのは,どうも安心できないといいますか,予測に反するのではないかという気がするわけです。   そして,それとの関連で三上委員のおっしゃったことについて一言だけ申しますと,少なくとも行方不明である場合というのは,恐らくは免除自体が行われないということになるのではないかという気がしまして,そうなりますと,結局,そこにおいては少なくとも免除を受けた債務者の信頼の保護という問題は生じてこない。したがって,若干,異なって考えることができるのではないか。  ただ,私の見解に対して,自分で批判を考えますと,債権者と引受人との間の合意によって行われているのは,免責的債務引受契約である,という問題をどう処理するのかという問題が残るのだろうと思います。免除の通知がされない間は,結局,免除を受ける債務者との関係においては,債権者は引受人との間で,自分は債務者には請求しないよと言っているということにとどまっているのではないかなという気がするのですけれども。 ○松岡分科会長 とどまるも何も,免除というのはそういうふうに債務者から,あなたは支払わなくてよろしいという債権者の意思ですね。 ○道垣内幹事 それは債務者がした場合はそうです。しない場合が問題だと申し上げているのです。 ○松岡分科会長 債権者が免除しなければ,まだ,効果は発生していませんね。 ○道垣内幹事 そこが問題で,最初のパッケージ論との関係で,免責的債務引受は,債務引受契約に免除の意思表示があって初めて成立するのか,それとも,はなから免責的債務引受というのが発生しているのかという議論の問題が出てくるかなと。 ○松岡分科会長 そうですね,その問題とつながりますね。   そのほか,道垣内さんが,債務者としては免除の意思表示をもらって安心しているのに,後から他から請求されると安心ができないとおっしゃいましたが,そんな安心はそもそも保護すべき安心なのかという根本問題が気になります。そもそも自分が債務を負っているのに,何も対価もなしに債務を免れるというのは期待していいのですか。 ○道垣内幹事 松岡さんに1万円を借りているときに,松岡さんが,あれはいいよと僕に言って,僕が,どうも松岡さん,ありがとうございます,と言ったら,その後,潮見さんが,自分が債務引受をして支払ったのだから,1万円を払えと言ったら,僕は怒りますよ。 ○三上委員 元々,連帯債務だったら相対効だから,潮見さんからの請求はおかしくないのではないですか。そういうことをおっしゃったのではないですか。 ○潮見幹事 連帯債務なら。 ○三上委員 だから,連帯債務にした上での免除と免責的債務引受という内田先生の話もそういうことですよね。 ○潮見幹事 だから,免責的の場合は連帯ではないから。 ○松岡分科会長 連帯ではないからということですね。 ○潮見幹事 外形的な現象としては似ているかもしれないけれども,よくよく考えたら実は違うというところになると,法的な安定性から見てどうなのか。三上委員が懸念されるところなのでしょうけれども。 ○沖野幹事 もし,その信頼の保護だけの問題であるならば,知っているときは違うとか,これは免責的債務引受としての免除ですということを言っていただいて,それで,ただ,債権者が言い忘れたときに引受人がという問題ですが,それは債権者と引受人との合意でやっているのですから,そこのリスクは取ってもらうということにすれば,その部分だけならば調整はできるようにも思います。アイデアだけですが,付言したいと思います。 ○松岡分科会長 よろしゅうございますか。必ずしも全部完全に意見がまとまったわけでもなくて,むしろ,何かいろいろ分かれた部分もありますが,ポイントは分かりました。   それでは,引き続きもう少し進ませていただきます。 ○三上委員 今までと全然違う部分の議論でもよろしいですか。先ほど併存的な部分で言いかけた話の,その免責的な部分ですが,非常に評判の悪い三面更改ですが,資料の15ページ以下に載っている,債務引受が行われた後の債権譲渡とか差押えにも免責的債務引受が対抗できると,つまり,免責的債務引受が行われた後,それは今のところ,対抗要件も何もない取引ですが,債務者の交替による更改と同列に考えるとすると,旧債務はある意味,ないわけですから,それを譲渡しようが差押えしたところで無効であるという議論,それから,将来債務引受が行われた場合に,それが債権の譲渡とか差押えに対してもなお対抗できるかどうかという部分も,三面更改は非常に評判が悪いわけですが,この議論と併せて,ここに規定されるのであれば債務引受の効果の御本尊として,是非,同じ規定を置いていただきたいと考えております。 ○道垣内幹事 結論だけ申し上げれば,不要な規定であろうと思います。例えば免責的債務引受が行われたことにより,ある人が債務を負わなくなるかどうか,さらには,単純な免除でもよいのですが,そのようにして元の債務者が債務を負っていないことが,債権の譲受人に対抗できるかというのは,正に債務者対抗要件の問題であって,別段,競合しているわけでも何でもないのではないかという気がします。   ただ,三上委員が最初におっしゃったときに若干気になったのは,引受人に対する債権と元々の債務者に対する債権のうち,一方が差し押さえられた後に,他方が払ってしまったらどうなるのかという問題なのですが,それは,連帯債務の一つが差し押さえられたときに別の債務者が払った場合と同じですよね。そうすると,特段,債務引受に関連して規定されるべき問題ではないのではないかという気がします。さらに,将来債務引受の問題というのが出ましたが,それについても本当は発生する債務をあらかじめ引き受けるということを免責的債務引受を将来的にしているので,当該債務者は空っぽになるということですね。それは今すぐには分かりませんが。 ○松岡分科会長 問題が出されて意見が一つは出ましたけれども,よろしいですか。 ○三上委員 非常に難しい問題だろうとは思うんですが,今,私が言いましたのは対抗できるという考え方をデフォルトに置くという考え方ですが,もちろん,もう一つは引き受けられた債務を差し押さえることになるとか,譲渡したことになるという考え方も提案されていまして,それの問題点も15ページ以下に書いてありますけれども,どちらを採るかという話で,せっかく三面更改でほぼ同じ議論をするのであれば,債務引受のところにも同じ,むしろ,債務引受のところで条項が置いてあれば,三面更改のところは要らないのかもしれないと,つまり,債権者,債務者の交替は更改ではないという理論を貫ければ,名前は三面更改ですけれども,やっていることは債権譲渡,債務引受の合体技の一つの契約ですから,そうすると,債務引受のところにルールが置いてあればこの部分は要らなくなるという関係ではないかと思っております。 ○松岡分科会長 先に進んでよろしいでしょうか。まだ,何かありますか。   全部の審議は難しくなってきた感じがしますが,続きまして「第2 契約上の地位の移転」,そこの2の「契約上の地位の移転の要件」について御審議を頂きたいと思います。事務当局から説明していただきます。 ○松尾関係官 部会資料38の18ページ以降を御覧ください。この論点につきましては第46回会議で審議がされ,具体的な規定の在り方等について分科会で審議することとされました。   アについては,契約の性質という文言だけでは足りず,例外については更に明確な文言を規定すべきであるとの御指摘がありました。イについては,事前の承諾を認めるとしても譲受人が特定しないようなものまで認めてよいのかという御意見,あるいは労働法上は転籍の事前の包括的承諾が常に有効と認められているわけではないとの御指摘,あるいは事前の承諾を認めるとしても,契約の相手方に対する通知又は了知の表示が必要とする考え方に対して懸念を示す御意見がありました。 ○松岡分科会長 それでは,今の御説明がありました点につきまして御意見を伺いたいと思います。御自由に御発言をお願いします。特にアについては部会で中井委員から御発言を頂きましたけれども,契約の性質だけでは足りないということになれば,例外としてはどういうことが考えられますでしょうか。 ○中井委員 是非,御意見をお聞かせいただきたい。契約上の地位の移転というのは基本的にはここに書いている原則どおり,相手方の承諾なくしてできないはずのものだと思っているものですから,例外が契約の性質とされたときに,一体,その対象範囲は何なのか,正直に言ってその範囲を正確に理解できません。   ここで典型的に挙げられている,賃貸不動産が譲渡された場合については異論がないと思います。そうだとすれば,異論のない賃貸不動産が移転したときの賃貸借契約の承継についてのみ書くならいいのかと思いますが,これは本当にここに書くようなものでもないし,では,それ以外に,一体,どのような類型があるのか,分からない。賃貸借については賃貸借の規定のところで,現在も605条と612条でそれぞれの場面について規定がありますから,賃借人の移転の場合と所有者の移転の場合と,そこで足りるのではないか。果たして,ここで例外規定を設ける必要性がどこまであるのか,そういう基本的な疑問ですが。 ○松岡分科会長 失礼しました。先ほどは,逆さまを申し上げました。 ○三上委員 お話を混乱させたら恐縮なんですけれども,賃貸借以外の場合も最近の取引で契約上の地位の移転を伴いながらも,大量に同じような契約があって,いちいち,同意を取って回っていられないという契約形式はかなりたくさんあります。   例えば自動引き落とし契約での収納会社が代わるとか,実際に,それで個々の消費者が困るようなことではないので,当事者間で,クレームが発生したら,どこそこがそのリスクを引き受ける,相手を免責すると,そういう念書で同意なしにやっていたりとか,あるいはネットで検索エンジンの運営会社が知らぬ間に代わっていると,それも営業譲渡等で代わっていて,どこかで知らぬ間に承諾のボタンを押しているかもしれないんですが,その手の取引がたくさんあるというのは事実でして,そういうときは,あらかじめ事前に承諾した場合ではなくても,何らかの完全に自動的に承諾というのは無理にしても,例えば同じ取引について新たな関係に入って文句を言わなかったとか,あるいは商法17条のように2年間は両者に併存して責任を負わせるとか,ないしは知ったときから何年間かは解除して損害賠償請求権を認めるとか,何かそういうパッケージが今の時代の契約の移転の類型には必要なのではないかというのは,取引の節々で感じている点でございます。   そういう意味で,契約の性質というのは非常に粗い言い方かもしれませんが,そういう必要な場面もあり得ると,何がしかの形で通知といいますか,何かの機会を与えれば約款の変更と同じように契約者が代わったと,引き受けられたということに関しても,何がしかが認められるような措置があれば,かなり有効に利用されるのではないかと考えております。 ○潮見幹事 三上委員がおっしゃったような発想でいった場合に,元へ戻って申し訳ないのですが,免責的債務引受の場合にも債権者の承諾が要らないという場合は出てくるのでしょうか。債務者と引受人間の契約で,承諾がなくても免責的な債務引受というのは認められますか。 ○三上委員 究極的にはそういう形になります。ただ,契約ですから一方的な債務だけということはないわけで,そこで違うのかもしれないんですが,微分的に言うと,確かにそういう部分もあるかもしれません。ですから,何年間か併存的に債務を負わせるとか,十分に契約者が気付いて,主体が代わったということを,発見できるような,商法上は例えば2年間だったら2年間ですけれども,そういう期間は併存はするとか,その間に気付いて嫌だということになれば,解除とかで契約を離脱して,損害があれば,損害賠償請求まで認めるとかいう方法を与えるというのも,非常にドラスチックな,これは全然問題のある私のアイデアですが,いずれにしても,その手の必要な取引が増えているということ自体は事実でございます。 ○潮見幹事 そちらと平仄を合わせるのだったらというのは可能性としてあると思いますが,果たしてここで例外となる場面を一般ルールで書いておく必要があるのかという点について,なおちょっとだけ踏み切れないところがあります。先ほどの中井委員の御発言の中で賃貸借ということを言われましたよね。賃貸人の地位の移転だとか,そういう個別の場面で処理をして,それで十分ならば,十分というのは,事前の承諾とか,包括的な承諾で普通の場合には対処できるという前提があってのことなのですが,契約上の地位の移転で当事者が代わってしまう場面で,一般論として,しかも債務が絡むような場面で,承諾なしにこのような状況が起こるということを,例外にしても一般的に認めてよいのか,個人的に踏み切れないところがあります。 ○中井委員 私の考えは基本的に今,潮見幹事がおっしゃられたのと共通しています。三上委員のおっしゃられたことは,契約上の地位の移転と言いながら,契約当事者の属性なり,個性は全く意味のない大量処理類型においてあり得るのかなと思います。それであっても銀行が収納代行会社を代えるようなときには,その旨の通知を全ての契約者にしているであろうし,それによって,事実上,黙示の承諾があるとして十分,解決できるのではないか。にもかかわらず,例外を,一定,設けることについての危惧のほうが大きくて,黙示の承諾で解決できるなら原則論だけでいいのではないか。明示的に必要なものについては個別規定を置けばよい,こういう処理のほうがいいように思うのですが。 ○三上委員 正に今,おっしゃるとおり,実務上は今はその類型で解決しておりますが,今回,民法上に明文が入るので,黙示の承諾では駄目とか,そういう議論も出てくるかもしれないという点を危惧するという点と,会社法が改まってからの会社分割が,特定の資産の移転にしか見えないものでも会社分割として認められるかのような,山下先生や神作先生がおられないところでこういう議論は避けるべきかもしれないのですが,幅広にこういう包括的な承継を個々の同意を前提とせずに,会社のルートを通せばかなりドラスティックなこともできるのに,税務上とか,別の理由で会社分割が使えない場合には非常に難しくなってしまうということも,実務的には困る場面もあるのかなと思うわけです。   今は何の規定もありませんから,先ほど中井先生がおっしゃったような事実上の推定規定で誰も文句を言わないということで終わっている場面がほとんどです。ですから,条文が置かれたからといって,そういう柔軟な解釈に釘を刺すような明文が入らないということであれば,それはそれで安心するわけで,一つの問題提起として述べさせていただきたいということです。 ○松岡分科会長 御趣旨としては,こういう形の例外を明確に規定してほしいということまでは言っておられないということですね。   ほかにいかがでしょうか。イのほうは余り御意見が出ておりませんが,先ほどの中井委員や潮見幹事の御意見からすると,これも例外的なものとして,事前の承諾なるものは余り広く認めるのは好ましくないということになるのでしょうか。 ○中井委員 部会のときにも申し上げましたが,事前の承諾を全く否定するという必要はないと思っています。ただ,例として挙げられるものが移転の相手方も不特定であるにもかかわらず,事前の承諾で,当事者間が合意すれば,通知すれば足りるというのは行き過ぎではないかと思っています。余り包括的ではなくて,どのような限定を加えるのか,その限りにおいては相手方が特定していることが最低限,必要ではないかと思っています。転籍が例に挙がりましたけれども,転籍先の相手方が特定されていないのに,事前の承諾で契約関係が承継するというのはあり得ないと思います。   もし,よろしければ部会資料で20ページのところに,「契約の相手方が事前に承諾した場合にも,契約上の地位の移転が可能であることを明確にすることが実務上望ましい旨の指摘がある」と,こういう説明になっていますが,これはパブリックコメント等で広くこういう実務上の要請があったという理解でしょうか。教えていただければと思います。 ○松尾関係官 必ずしも広く要請があったというわけではなかったのですけれども,契約上の地位の移転について,要件・効果を定める場合には,事前の承諾が有効であることを明らかにしてほしいという実務界からの御要望が確かにあったと記憶しています。 ○中井委員 弁護士会で,ある不動産開発プロジェクトがあって,今は施主が何とか工務店で建物を建てているんだけれども,将来,それがあるSPCなどに譲渡されて,現在,締結している完成したマンション住戸の個別売買契約は,全てその次に予定されている人に承継されると。建築途中の売買契約というのは結構ありますから,そういう場面で現実に事前の承諾を得て,契約上の地位が移転するのがあるという指摘は受けました。それ以外にどういう場面があるのかと思ったものですから今の質問をいたしました。一定,需要のあることは間違いないだろうと思いますけれども,それは相応に限定された場面ではないかとも思うものですから,それが表現できる必要があるのではないかということです。 ○松岡分科会長 今,意見が出ない状況で,余り時間がございません。今日,更改の残りを全て審議するのは難しいので,少なくとも「3 契約上の地位の移転の効果」のところに入らせていただきたいと思います。それでは,この点について事務局から説明をお願いいたします。 ○松尾関係官 それでは,御説明いたします。部会資料38の21ページ以降を御覧ください。これらの論点につきましては第46回会議で審議がされ,具体的な規定の在り方などについて分科会で審議することとされました。   「(1)契約上の地位の移転の効力発生時期」につきましては,規定を設けることに賛成する意見がありました。なお,この規定が任意規定としての提案であるということも確認されております。また,実務的には承諾の有無にかかわらず,地位が移転していると考えられているとの指摘があり,これに関連して賃借権の譲渡の場合には賃貸人の承諾が対抗要件として考えられているのではないかとの指摘がございました。   「(2)契約上の地位の移転に伴う既発生の債権債務の移転」については,契約にも多様な類型があるということを理由に,乙案に賛成する意見がありました。   「(3)契約上の地位の移転に伴う担保の移転」については,賛成する御意見がありました。   「(4)契約上の地位の移転による譲渡人の免責」については,乙案に賛成する意見が複数ありました。その理由として,地位の移転の承諾と免責の承諾とを分析的に考える必要はないのではないかとの御指摘がありました。また,契約上の地位の移転についての事前の承諾の有効性を正面から認めるのであれば,甲案のような考え方を検討する必要があるのではないかとの御指摘もありました。 ○松岡分科会長 それでは,以上,4点ありますが,どこからでも構いません。全体につきまして御意見を頂戴したいと思います。 ○三上委員 では,すみませんが,口火を切らせていただきますが,(4)ですが,実務で基本的に契約上の地位の承継をするというときには乙案以外に考えられていないと思います。併存的に債務が残るとは考えられていませんので,先ほど言いましたように,当事者の承諾なしにとか,承諾を取るのが事実上難しい,通知はするけれども,暗黙上の了解みたいな形で行くような場合に,一定期間,こうやって併存させるという処理の仕方は考えられると思いますが,同意が取れる限りは基本的に地位を引き継ぐわけですので,既存の債権債務はどうなるという問題は別としても,契約上の地位の移転後に発生する債権債務に関しては,旧当事者は完全に脱するというのが,恐らくあまねく実務で行われている契約上の地位の移転に期待されている効果だと考えております。 ○高須幹事 今,御指摘いただいたように合意がきちんととられた中で契約上の地位の移転がされていくというケースの場合には,おおむね,その意思というのはそういうものだとは確かに思うんですが,1点,気になるのは賃貸借の場合のように,先ほど賃借人の例えば同意が要らずに賃貸人たる地位が移転する場合があると。具体的に想定しているのは敷金の返還債務なわけですけれども,そのような場合も乙案でいってしまった場合には,明確に譲渡人が免責されるということが,今回,方針としてはっきりするという形になるんだろうと思うんですが,本当にそれでいいのかと。   つまり,そのような一種のやや例外的な場合ではあるんですが,賃借人が全く関与しない中で賃貸人たる地位が移転したときに敷金返還請求権は従来,旧賃貸人というか,元の契約当事者が持っていたものが新しい者に引き継がれてしまって,何ら前の賃貸人は責任を持たないとすると,賃借人の保護が全然配慮されないのではないか。そうだとすると,今回,乙案のように完全にそれで例外なしみたいな形にしてしまっていいのかについては,若干,ちゅうちょがあって,何か,その分に対しての手当は必要なのではないかと思います。ただ,敷金返還債務の実際の実務では,前の賃貸人は何ら責任を負わない,そういう取扱いをしているという面はありまして,そのこと自体を踏まえた上で検討しなければならないわけですが,やはり検討を必要とする問題であろうと思っております。 ○三上委員 今の高須幹事のおっしゃっている部分は,既発生の債権債務の問題ではないんでしょうか。 ○高須幹事 敷金返還請求権自体は従来の取扱いだと具体的にまだ発生していないということで,それで,今までは少なくとも所有者が返還義務を負っているということで済ませていたのではないかと思うんですよね。その分,不動産そのものの売買契約においては代金のところで売主と買主が調整している,買主が返還義務を確実に負ってしまうということで売買代金額から敷金相当分を控除する。それはそれで今までは済んでいたのかもしれないけれども,大きな資力のあるものが旧賃貸人だったときに,そうでない倒産のリスクが高いようなものが不動産を購入し新しい賃貸人として登場してきたような場合には問題が起きるのではないか。そういう意味では既発生と割り切れないのではないかと思っておりますが。 ○松岡分科会長 確かに敷金返還請求権については少し微妙なところがありまして,最高裁の昭和48年2月2日(民集27巻1号80頁)は,実際に契約が終了して明け渡すまで敷金返還請求権は具体化しないとしています。ただ,一方で,賃貸借期間中に敷金返還請求権の確認や差押えができるという判決もありますので,敷金返還請求権は抽象的には預託時から発生していると考える余地はあって,そうすると既発生債権の問題になります。 ○中井委員 結論的には三上委員の考え方に賛成です。部会でも申し上げましたけれども,契約上の地位の移転については相手方の承諾を原則として必要とし,かつ,そのときは債権債務関係全部が一体として移転する,従前の旧の当事者には残らない,そういうものとして構成されるものだとまず理解しています。御指摘は,その例外として,相手方の承諾なくして契約上の地位が移転する場合を想定したときに起こり得る問題であることは認識していますけれども,先ほどから申し上げましたように,賃貸借については賃貸借の規定のところで別途,規定が設けられることになるだろう,賃貸人が代わったときでも承諾なくして賃貸借契約は承継される,その特則が設けられる。   今,議論が敷金返還請求権になっていますけれども,この敷金返還請求権については,私は極めて特殊な債権債務関係だと思っています。倒産法でもこれだけが特別なところで規定されたりしているところからも明らかなように,この問題があることを前提に契約上の地位の移転について何らかの特則なり,何らかの例外規定を設けることは,対応としては過大であろうと思います。もし,必要があるとすれば,それは賃貸借の中で何らかの規定を設ければ足りる,そこで検討すれば足りる,一般論の中に入れるべきではないと考えます。 ○道垣内幹事 中井委員に賛成です。 ○高須幹事 私も,そういう意味では決して一般論に入れてくれとまで強い意見を持っているわけではなくて,ただ,そのことの意識もなされないままに,ここで乙案を採った場合に,賃貸借のところでも同様に考えて格別の検討をしないということになると,多分,配慮が足りなくなるのではないかという趣旨ですので,賃貸借のところでそのことについての議論がなされて,それなりの方針が見えれば,それはそれでもよろしいと思います。 ○松岡分科会長 そのほかの点につきましてはいかがでしょうか。   ここのところは御意見が出れば,議論をさせていただこうと思っていたのですが,今のところ特に御意見がありませんので,ここまでとします。例によって司会進行の不手際から積み残しが出てしまいました。「三面更改」以外の「更改」と「免除及び混同」の全て残ってしまいました。それは次回冒頭で引き続き審議するとせざるを得ません。ほかに,今,この場で御意見,御発言を頂く必要のあることはございませんでしょうか。 ○潮見幹事 1点だけ,情報をください。債権譲渡の議論の進行状況といいますか,そこで言われていることと,ここで債務引受とか契約引受でやっているような方向との間でギャップは今のところ生じていないと理解しておいていいでしょうか。向こうでの基本的な考え方,例えば例外があるのだったら入れていけとか,事前の承諾は積極的に書いていけとかいうことになると,今日,ここで議論した方向とは若干違ったことになって,債権譲渡ではこうだが,債務引受は別の枠組みだということになると,法典としての見通しが変になるかと思いましたので,質問した次第です。 ○松尾関係官 現段階で進行状況として報告できることはないのですが,今後の作業における留意点として,ただいま潮見幹事から御指摘いただいた点を十分に注意しなければならないことだということは認識しています。特に先ほど事前の承諾ということを例に挙げていただきましたけれども,この点については,契約上の地位の移転では積極的に書くことが問題提起されていて,他方で,債権譲渡のところではそもそも事前の承諾が認められる範囲が明らかではなく,かつ,それは債務者にとって危険ではないかという問題が指摘されていたと思います。もっとも,債権譲渡の対抗要件としての承諾と,契約上の地位の移転の要件としての承諾というのは,位置付けが違うと思いますので,これらの違いを意識した議論が今後,更にされると有り難いと思っているところです。 ○松岡分科会長 ほかはよろしゅうございますか。   ないようでしたら,本日の審議はここまでにさせていただきたいと思います。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明をしていただきます。 ○筒井幹事 第2分科会の次回会議の日程は未定で,9月以降の火曜日ということになります。9月以降の火曜日について,引き続き日程確保に御協力くださいますよう,お願いいたします。 ○松岡分科会長 それでは,7分過ぎましたが,本日の審議はこれで終了とさせていただきます。本日もまた熱心な御議論を賜りましてありがとうございました。 -了-