法制審議会民法(債権関係)部会           第50回会議 議事録 第1 日 時  平成24年6月26日(火)自 午後1時00分                      至 午後6時19分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第50回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日は,事前送付資料として部会資料42をお届けしております。この資料の内容は後ほど関係官の川嶋と笹井から御説明いたします。また,本日は机上に参考資料8-2を配布しております。この参考資料8-2の内容は,後ほど約款に関する審議の際に,関係官の笹井から御説明いたします。   このほか,ヤフー株式会社から事務当局宛に「約款および不当条項規制に関する意見」と題する書面が提出されておりますので,これを机上に配布いたしました。 ○鎌田部会長 本日は部会資料42について御審議いただく予定です。具体的な進め方としましては,休憩前までに「第2 約款」の「3 約款の組入要件の内容」までについて御審議いただき,午後3時30分頃をめどに適宜,休憩を入れることを予定しています。休憩後は部会資料42の残りの部分を全部審議を済ませたいと考えております。よろしく御協力のほどをお願いいたします。   それでは,部会資料42の「第1 第三者のためにする契約」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○川嶋関係官 御説明いたします。「第1 第三者のためにする契約」の「1 受益の意思の表示を不要とする類型の創設等」では,まず(1)で受益者の権利の発生のために常に受益の意思表示を必要としている現行法の規定の当否を問う論点を取り上げました。甲案は,現行法の下では民法の規定と整合させるために技巧的な認定をせざるを得ない場合があるとの指摘などを踏まえて,受益者が負担なしに権利を取得する場合には,受益者の権利の発生のために受益の意思の表示を必要としない旨の規定を設けることを提案するものです。これに対し,乙案は,受益者が負担なしに権利を取得する場合であっても受益の意思表示を必要とする民法第537条第2項の規律を維持することを提案するものです。   次に,(2)では,(1)で甲案を採用した場合に必要となる手当に関する論点を取り上げました。このうち,アは,受益者が権利の取得を強いられることになるのは適当ではないことから,受益の意思表示なしに受益者の権利が発生する場合には,受益者は権利の取得を放棄できるものとすることを提案するものです。これは,甲案を採用する場合には必須の手当であろうと考えております。それから,甲案を採用した上で,受益者の権利が発生した後は要約者と諾約者がこれを変更又は消滅させることはできないとする民法第538条の規律を維持した場合には,受益者が負担なしに権利を取得する場合には,第三者のためにする契約の締結と同時に受益者の権利を変更又は消滅させることができなくなってしまいます。この帰結に実務上の不都合がないのであれば,甲案を採用したとしても民法第538条の規律を維持するということも考えられますが,要約者と諾約者に対し,現状よりも硬直的な取扱いを強いることにもなりますので,イでは,受益者が権利の取得を承認する意思を表示するまでは受益者の権利を変更又は消滅させることができるものとするということを提案しています。   「2 将来出現する第三者のためにする契約」は,第三者のためにする契約の締結時に受益者が特定されている必要がないのはもちろんのこと,現に存在している必要もなく,胎児や設立中の法人のように将来出現することが予期された者を受益者として第三者のためにする契約を締結することができるという異論のないルールを明文化することを提案するものです。ただし,これについては,このような細目的なルールについてまで明文化する必要はないという意見もあり得るところです。   「3 要約者の地位」のうち,「(1)諾約者に対する履行請求」では,受益者のみならず,要約者も諾約者に対して受益者への履行を請求することができるという通説を明文化することを提案するものです。パブリックコメントの手続に寄せられた意見などには,要約者による履行請求を肯定する場合には,その執行手続等についても整理する必要があるというものもありましたが,少なくとも執行手続に関しては,債務名義に第三者への給付を求める権利が表示されている場合の現行の執行実務をそのまま維持すればよいのではないかと考えております。「(2)解除権の行使」は,諾約者がその債務を履行しない場合には,要約者は,受益者の承諾を得て,当該第三者のためにする契約を解除することができる旨の規定を設けることを提案するものです。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明がありました部分のうち,まず,「1 受益の意思の表示を不要とする類型の創設等」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○能見委員 何点かあるんですが,一つは甲案で「受益者が負担なしに権利を取得する場合」という表現で意図されているのは,権利を取得するために対価を払うとか,あるいは何か契約的な意味での負担が,負担付贈与における負担と同様の意味での負担が想定されていて,権利取得にこのような意味での負担がついていない場合には受益の意思の表示を必要としないという意味だと思いますが,そういう意味での負担はないけれども,権利を取得することによって,その権利自体がいろいろ不利益を生じさせることがありますが,そういう場合に受益の意思表示なしに権利取得をすることでよいのだろうかという疑問があります。例えば,第三者のためにする契約で受益者が物の所有権を取得することになる場合なんですが,不動産の所有権なんかになりますと,それが工作物責任を発生させるということもある。そういう負担ないし不利益がくっついてくることがあり得ると思うのです。   厳密にいうと,第三者のためにする契約というのは受益者に債権を取得させるのであって,物の所有権を取得させるわけではないのですが,日本法では,受益者が物の所有権の引渡請求権を取得することによって,別段の合意がなければその物の所有権もくっついてくることになりますので,結局,第三者は物の所有権を取得することがある。そうすると,その不動産所有権に工作物責任などがくっついてくるということがあり得ます。   そこで,受益の意思表示なしに受益者に不動産の所有権などが帰属した場合に,その後,その不動産から土地工作物責任や汚染の責任を発生させるような損害が生じたときにどうするのかというような問題があり得ると思います。そうすると,単に負担なし権利を取得する場合には受益の意思表示が要らないということでいいのかどうか,今述べたような事実上の負担みたいなものもどう考えるかという問題があるように思います。   それから,もう一つは放棄との関係ですけれども,私は原則は甲案でいいと思うのですけれども,受益者からは権利を放棄をすることができるというときに,いつまで放棄できるかという問題があります。例えば,受益者が当然に権利を取得して,その権利に伴う利益などを享受するということがあったりすると,ある意味で放棄をする権利を放棄するというのでしょうか,利益を現実に享受した時点で受益することが確定するというようなことがあると思うのですが,この点もどう考えるかはっきりしておかないといけない。先ほどの受益者の負担ないし責任の問題とも関連するのですけれども,権利放棄ができると受益者は負担や責任を負わないことになるかと思いますが,この点を明確にしておく必要があります。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○深山幹事 今の能見先生の御発言の趣旨と基本的には共通する感覚を持っていまして,「負担なしに」ということについては,対価的なもの以外にもいろいろあるという気がいたします。これまで指摘されたものと重ならない範囲で例を挙げれば,土地について,その固定資産税が発生するということもあるでしょうし,汚染された土地であれば汚染に対する責任を負うことになるというようなことなど,いろいろ例を挙げれば切りがないと思います。問題は,甲案の場合に,どのような規律で,負担なしなのか,ありなのかを切り分けるかというところかと思います。   そうなりますと,何をもって負担ありか,なしかということを判断するのか,規定上,区分し難いのではないかという気が一方でいたします。  他方,(2)との関係で甲案を採用した場合でも,受益者の意思をある程度,尊重する規律が入れられることが提案されておりまして,それを採用するかどうかというのが一つの論点でしょうが,仮に採用するという立場を採るとなると,当然,受益者の意思によっては,受益を受けないということになる場合もあろうかと思います。   そうなりますと,一旦は権利を取得するんだけれども,反対の意思によって結局,取得しないことになるというような場面をあえて作り出すといいますか,暫定的に権利を発生させるような規律にどれほどの意味があるのかと思われ,あえて,そういうルールを作る必要性は乏しいのではないかなという気がいたします。補足説明に記載のある,技巧的に解釈していて不都合だという立法の必要性については,かなり限られた例外的な場面で技巧的な工夫をしているという指摘であって,それがそれほど重視するべき現象なのかというと,それほどのことでもないという気がいたします。結論としては乙案でよろしいのではないかと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○三上委員 銀行としては甲案でも乙案でも構わないといえば構わないんですが,債務引受のところでも申しましたように,諾約者にどういう者が介入してくるかという不安は残っておりまして,端的に言えば,反社会的勢力が関与してくる場面ということになるわけですが,そういう場面ないしは諾約者が現れた後で放棄の意思表示をしようとしたときには行方が分からないとか,そういった場面のことも考えて,放棄の意思表示をする相手方には要約者も入れていただきたいと考えており,これは債務引受のときと同じです。   それから,乙案と変わらなくなってしまうのかもしれませんが,利害関係人が発生しても,一義的に利益を受けるかどうかの判断は,受益者に残っているべき場合もあると思っておりまして,一概に利害関係が発生したから,受益の意思表示とかは関係なく,放棄もできなくなるというような対応は硬直的すぎると思います。したがいまして,相続放棄ではありませんが,最終的には受益者の意思判断を待って法律関係は確定するということでいいのではないかと思います。 ○高須幹事 弁護士会の状況でございますが,今,深山先生からも御指摘があったとおり,基本的には甲案を採ることのメリットと,それから,デメリットと思われるようなものと比較したときに,あえて甲案にまで踏み切る必要はないのではないか,従来どおりでいいのではないかという乙案が多数というか,ほとんどでございました。私が所属している東京弁護士会だけが唯一,甲案という形ですので,一つの単位会だけは甲案支持があるんですが,あとは基本的には乙案ということでございます。今,御指摘があった,専ら利益を得る場合のみという,権利を得る場合のみという切り分けが本当に可能になるのかどうか,そこでもめたときに受益の意思表示が要るケースか,要らないケースかのところで,もう一つ,トラブルが起きるのでないかということを考えたときに,慎重論が強いという状況でございます。   それから,私の個人的な意見ですが,資料のところで指摘いただいている4ページの出産に関する医療契約,生まれてくる子供に対する傷害の問題の件が,言わば甲案の一つの必要性という説明がなされているわけですが,第一読会でも発言させていただいたんですが,この問題自体は,必ずしも第三者のためにする契約というもので処理しなければならないというわけではなくて,私ども実務家が言うのはいけないのかもしれませんが,例えばドイツなんかで言われている第三者のための保護効を伴う契約理論のような別な理論が,元々はドイツでも第三者のためにする契約理論しかなかったところから発展していって,別な法理によって解決するというようなことも出てきているやに伺っておりますので,仮にこの問題だけを考慮に入れて,ここで甲案ということを考えるのだとすれば,むしろ,それは別な法理を考えたほうが本来的ではないのかなというような気もいたしております。そのようなことで,基本的には私個人も乙案かなという意識を持っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○佐成委員 経済界の議論状況ですけれども,まず,(1)については甲案,乙案のいずれかというような強い意見というのは聞いておりません。ですから,全体を整合的に構築できるのであれば,別にどちらであっても,経済界としては,それほど支障はないというような認識を抱いていると思います。ただ,今,三上委員もおっしゃったとおりですけれども,反社会的勢力が介入してくる場面については懸念を抱く意見があります。ですから,(2)については,もし仮に(1)で甲案を採るのであれば,アを支持したいという意見が強かったということでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○中田委員 私は別に強い意見はないんですけれども,4ページの説明の部分ですが,上から4行目に「受益者の権利の発生のために受益の意思表示が必要とされたのは,受益者が権利の取得を望まない場合であっても当然にその権利が発生するとするのは行き過ぎであると考えられた」からという説明は,分かりにくいのではないかと思います。これだけですと,第三者が当然に権利を取得することが原則であって,その例外を認めたかのようにも読めるんですが,そうではないのではないかと思います。元々は契約によって当事者以外の者に利益も不利益も与えることはできないという古くからの考え方があって,それに対して第三者に直ちに権利を取得させても構わない,第三者が拒絶すれば遡及的に権利を失うとすればよいという新しい立法例があって,その両者を折衷したというのが現在の民法の趣旨だったと思います。そのことをもう少しニュートラルに説明したほうがいいのではないかと思います。   その上で,第三者が当然に権利を取得するということについて,今,幾つか実務的な疑念が出されましたが,第三者の私的自治との関係ということも考慮する必要があるかと思っております。甲案は第三者が知らなくても一旦は権利を取得するという構成ですけれども,そういった法制を採る国における問題状況も検討した上で,考える必要があるのではないかと思います。取り分け,先ほど能見委員がおっしゃいました工作物責任との関係で申しますと,第三者が権利を取得して知らない間に事故が起きていたというときに,利害関係人が発生したということになってしまうのかどうかが伺っていてよく分からないと感じました。そこで,別案も含めて更に検討するのがいいのではないかと思いました。 ○中井委員 私は基本的に自分の知らないところで権利が発生すること自体に対する疑念がありますので,乙案,従来どおりでいいのではないか。従来の考え方では,技巧的な説明になるという御指摘の例が挙がっていますが,当然発生型の甲案を採ったときの仕組みの複雑さといいますか,技巧的な仕組みこそが問題ではないか。一つは放棄という考え方を取り入れる,放棄との関係では差押え等があったときに,どのように考えるかという規律を設ける,さらには(2)のイですか,変更との関係で承認という,これは受益の意思表示とはまた別の承認という概念を持ち込む,そのような技巧的といいますか,複雑な構造を採ること自体に対する違和感,必要性に乏しいのではないかという意見を持っています。   加えて,今までも出ておりますけれども,負担なしというのが果たしてどれほど明確な基準になり得るのか。権利が発生すること自体による債権債務関係,権利が発生するといっても,そこに何らかの負担というのはあり得るわけですので,果たして負担なしという切り分け基準が成り立つのかということにも疑問を持っております。いずれにしろ,乙案でよろしいのではないかと思います。 ○山下委員 商法の分野でいろいろ考えるときに,受益の意思表示が必要だという現行法の規定があって,それがないと楽でいいということは間々あるのですけれども,これを一般化していいのかどうかということについては,ただいま,多々消極的な御意見があったとおりです。   我々の分野ですと,生命保険などの保険においては,受益の意思表示は要らないというルールでずっときているわけですが,これは保険契約者が保険金受取人をいつでも変更できるという第三者である受取人にとって極めて不安定な状態があるので,そういう中では,万一,保険事故が発生したら当然に権利取得ということを認めて,それで,通常は問題ないですねということになっているのですが,仮に甲案のようなルールでまいりますと,保険事故が発生して受取人が確定的に保険金請求権を取得した後,どうしても,そんな保険金は要らないといって放棄したときに,現在の解釈だと,放棄をすれば最初から何もなかったことになるのだろうということなのですが,1の(2)のアのルールになりますと,放棄をしても受取人の債権者が差押えのようなことを急きょ,やってしまいますと,放棄は差押債権者に対抗できなくなり,これが生命保険のような状況で適切なものかどうか,若干,疑問ではないかと思っております。   仮に甲案を採るにしても,少なくともアとイの平仄を合わせて,イのほうの「受益者が権利の取得を承認する意思を表示した後」ぐらいにするほうがいいのかなということですが,それにしてもややこしいということはあるので,全体として考えれば,保証とか債務引受とか,様々なところで特例が明確に規定されるのであれば,乙案でもいいというのが今の感触でございます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○内田委員 第三者のためにする契約をめぐっては,最近も新しい判決が続々と出ていまして,貸金業者の事業の承継の事件ですけれども,下級審は判断が微妙に分かれているようですが,受益の意思表示をややフィクションで認定をして,救済するというものが多いようです。しかし,中には受益の意思表示はないと言っているものもある。これも一つの例ですけれども,過去の日本の公表裁判例を見る限りは,受益の意思表示を要求しないという原則を採ったほうがスムーズに解決できる事案が多く,かつ,受益の意思表示を不要とすることによって,支障が生ずるような事案というのは,過去の公表裁判例には見られないのですね。国際的には受益の意思表示は不要で,ただし放棄が可能というルールが一般的ですので,日本の実態もそれと合っているというのが甲案の説明なのだろうと思います。   大体,第三者のためにする契約というは,必ず要約者と受益者との間の対価関係があって,それとの関係で第三者のためにする契約がなされますので,全く無関係な人間に突然,権利を帰属させるというようなことは通常はないわけです。そういう対価関係を前提とすると,実務をスムーズに処理するためには,甲案のほうがうまくいくのではないかというのが甲案の理由だろうと思います。日本の事例からすると,そういうことも十分,あり得る考え方ではないかと思います。   あと,諾約者が反社の場合に困るというのは,第1ステージのときから出ていた議論ですけれども,それは確かに非常によく分かる実務的な問題点だと思いますが,そのことを理由に原則を選択するというのは,国際的に見るとかなり異様な立法過程で,反社に対する対応というのはそれなりに必要だと思いますけれども,それは,それに特化したルールでやったほうが適切ではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。   甲案を支持する御意見と甲案に対する問題点を指摘する御意見の両方を頂戴したところなので,それらを踏まえて事務当局において引き続き検討をさせていただくことといたします。 ○三上委員 甲案を採った場合の放棄の意思表示ですが,放棄できる期間の制限については,例えば放棄に反するような行為を受益者がするまでとか,そういう制限があるだけで,基本的にはいつまででも放棄ができる,つまり,何年間もたつと,事実上承認したものとみなされるとか,そういったことは考えなくてもよいのかという点を確認させていただきたいと思います。 ○川嶋関係官 期間制限については,特に提案はございませんけれども,それが必要であるという御意見があるようでしたら,それを踏まえて検討することになると思います。現時点ではそこまでは考えておりませんけれども。 ○鎌田部会長 (2)は甲案を採った場合にはということでございますけれども,ほかに(2)のア,イについての御意見がございましたら,お出しいただければと思います。 ○岡委員 放棄した場合でも,それまでに差押債権者がいれば対抗できないという部分について反論というか,そうする必要は何かという質問がございました。先ほどの山下先生の御意見もその方向だったと思うんですが,内田先生のおっしゃるグローバルな流れとして差押債権者が出てくれば,それは救うというのが立法例の多数なんでしょうか。 ○川嶋関係官 そこの点の比較法については十分な調査はできていないんですが,提案の趣旨としては,受益者を債務者とする差押えがあったときに,自分に対する差押えをした債権者を害してまで放棄することを受益者に認めるというのは,少なくとも負担なく権利を取得する場合には適当ではないだろうと,そういった価値判断に基づくものだと思います。 ○岡委員 そうなると,今回の改正は受益者にとっては希望すれば取得できるし,放棄すれば放棄できると,基本的に変わらない。そうすると,差押債権者が保護されるようになるのが実務的に見て,唯一の改正点になるんでしょうか。そうだとすると,そこまでの必要性はないのではないかというのが実務家からの感想でございました。 ○内田委員 裁判外のことはよく分かりませんが,公表裁判例を見る限りでは,受益の意思表示が明確になされていないのを無理をして認定して,処理をしている事案が結構あるのですね。胎児の事案についてはいろいろ議論がありますけれども,それ以外にも最初に御紹介した最近の事例などがありますので,実務では受益の意思表示を不要としたほうがいい。その上で放棄が可能という構成のほうが適合的だろうということです。ですから,別に差押債権者を保護するために甲案を採るということではないと思います。 ○鎌田部会長 甲案を採った場合には,(2)のアの例外はともかくとして,利益を享受しない自由は残す必要があるという点については,多分,異論はないだろうと思いますので,その場合に利害関係人が生じた場合にどうするかという点については疑問もあるという御意見だと伺いました。 ○能見委員 私が先ほど申し上げたのは,提案されている甲案の内容はちょっと問題点があるので,このままでは問題がありますという趣旨で,そのときも申し上げましたけれども,甲案のような考え方自体に反対なわけではありません。甲案を採用するとしても,先ほど述べた「負担なしに」の意味についてもう少し検討する必要があるということです。また,(2)のアのところですが,利害関係人が生じたときは受益者は放棄できないという考え方についても,今のような差押債権者が利害関係人になるのだとすると,このような者を保護するという結論がそもそも適当かどうか。受益者が受益の意思を表示しないでいる,形の上では受益者に権利が帰属しているけれども,そういう段階で受益者の債権者が受益者の取得した権利を差し押さえると,それで利害関係人が現れたとして受益権放棄ができなくなるという結論自体にも問題があるような気がしますので,いろいろ,甲案を採るとしてもいろいろ手直しをする必要があるというのが私の真意でございますので,先ほどの発言を補足します。 ○鎌田部会長 イについてはいかがでしょうか。権利の変更・消滅がいつまでできるかという点については,表から考えるか,裏から考えるかの違いで,現在と実質的な差はないと考えることもできますけれども,何か御意見はありますでしょうか。現在は使われないと言っていいのでしょうか。 ○中井委員 (2)のイは,積極的にどの程度の承認の意思表示か分かりませんけれども,それまでは権利の内容について,場合によっては撤回・修正・変更自由である,でも,権利は発生している。だから,確定しない浮動的権利が,承認するという意思表示をするまでは存在する。差押えがあれば,恐らくその時点におけるその状態で確定し,その後は変更とかはできない。積極的に承認する意思表示なるものが従来考えている受益の意思表示と同じなのか,それよりレベルの高い意思表示なのか,その辺もよく分からないし,それ自体がまた紛争を発生させるのではないか。   現行法は受益の意思表示をして権利が発生すれば,その後の変更はできないという単純な規律で,内田委員のおっしゃられた裁判例は承知しておりませんけれども,負担なしに権利が与えられている場合に,受益者が受益の意思表示をしないがために,当該裁判例では受益の意思表示の認定に裁判所が御苦労されているような事案がある。そのような事案において受益の意思表示なくして権利は発生したほうがスムーズな解決ができるという,どういう事案なのか,具体的によく理解をしていないのですが,実務的には受益者にそれだけ利益のあるものであれば,胎児の問題ではありませんけれども,黙示的に受益の意思表示があったものと認定することは,それほど困難ではないのではないか。それによって解決が図られるのではないかと思うのですが,それが難しいという事案がそう容易に想像できない。   本当にこの規律というのは今の解決より分かりやすいのか。私としては分かりにくい,複雑な仕組みになるのではないか。アの規律にしても,イの規律にしても,権利が発生するとしたがために生じた複雑な規律ではないか。そのようなのを持ち込むことについていかがなものかと考えます。 ○川嶋関係官 イについてなんですけれども,冒頭の説明でも申し上げましたが,例えば(1)で甲案を採った上で,なお民法第538条の規律を維持した場合に,つまり,第三者のためにする契約の締結と同時に受益者の権利を変更又は消滅させることができないとした場合に,実務において不都合が生じるかどうか,そういった観点からの御意見があればお聞きしたいんですけれども。 ○鎌田部会長 いかがでしょうか。承認の意思表示を待たずに変更・消滅はできなくなるという規律,徹底してこの甲案の考え方を貫くとしたときに,実務上の不都合は予想されるかという問題提起でございますけれども。 ○岡委員 弁護士会関係では30人ぐらいがこの部会資料を読み込んでバックアップ会議に出てきてくれて,議論をしたと思うんですが,第三者のためにする契約の実例を挙げる人は一人もおりませんでした。余り使っていない,聞いたこともないというのが実感のところでございます。ですから,今の法律でも困っていないし,変えても困らないけれども,変える意味がよく分からないというのが正直なところでございます。イについては現行法に近い立場ですので,これでいいのではないのと。先ほどの差押債権者のところも,もし保護しないとなると現行法とほとんど一緒なので,ほとんど一緒だとすると変える必要はないのではないかと。それも頭の中で考えているだけで,こういう具体例があるのでというのがあれば,また変わるかもしれませんが,弁護士会もある意味,空中戦で変える必要はないというのが大勢を占めているというのが状況だと思います。 ○中井委員 繰り返しになりますが,負担なしで権利を取得するというのは,論理的にもあり得るのかという疑問です。先ほどの例の一つは不動産の贈与なのかもしれませんけれども,それによって直ちに不動産の権利を取得した場合に様々な負担が付く。債権であれ,金銭の贈与であれ,それを取得することによって課税関係も直ちに生じるだろうと思いますし,債権関係,何らかの請求権を与えられたとしても,その請求権行使に伴って付随的な義務,協力義務などが生じるかもしれない。だから,相手方との関係で何らかの権利を取得すると,常にそこには何らかの負担があるのではないか。   そうだとすると,私的自治という言葉が適切か分かりませんが,全く自分の知らないところで何らかの権利を取得するということを,それほど簡単に正当化していいのかというのが疑問として残るのです。海外ではそうではなくて当然に権利取得なんだと,こう御説明されますと,世界の潮流から取り残された一人になるかもしれませんが,そういう感想を持ちます。 ○神作幹事 会社法または商法の分野では,第三者のためにする契約の典型的な例と言われておりますのは,発行者と社債管理者との間に締結される社債管理の委託契約でございます。社債管理者については会社法で自己完結的な規律がなされておりますため,余り問題は生じないのですけれども,私が伺っている限り,受益の意思表示はなくても第三者のためにする契約が認められるという例も挙げられます。社債管理者を設置する義務のない社債等で社債管理者を設置することなく社債を発行したけれども,途中で社債の信用力が低下し危なくなってきたという場合です。そこで事後的に例えば社債を管理する者を任意に設けたいという場合に,社債権者が複数いるような場合には受益の意思表示がないと,そういった社債を管理する者を設置することはできないというのは,若干不便であり,また,社債が有価証券として転々流通することに鑑みても,受益の意思表示が不要であることに対する実務的なニーズが現にあるものと理解しています。   そして,単にそのようにニーズがあるばかりではなくて,日本においても第三者のためにする契約の中でもっともよく利用されている例の1つは,信託だと思いますが,信託のルールにおいては,受益の意思表示は必要ないこととされていることは十分に考慮すべきであって,どちらが原則的なルールだろうと言われたときには,私はまずは甲案から出発して考えるということも,十分にあり得るのではないかと考えておる次第でございます。 ○内田委員 世界のすう勢と中井先生が言われたので,正確に申しますと,比較法的にはオランダは受益の意思表示を要するとしていると思います。ですから,日本民法と同じですが,ただ,不要とするものが多いということだと思います。   それから,そもそも受益の意思表示をしないで当然に権利を帰属させなければいけないような事案があるのかという御質問でしたけれども,最近の事例として先ほど私が挙げましたのは,貸金業者が経営ができなくなって,別の大手の事業者がその事業を引き継ぐというときに,過払金の返還債務について併存的債務引受をしているのですね。   その併存的債務引受は,第三者のためにする契約としてなされていて,受益の意思表示があったかどうかが争われたわけです。なぜ,争われたかというと,受益の意思表示が行われる前に併存的債務引受の合意を変更した,債務引受はしていないと事業を引き受けた側が主張したものですから,受益の意思表示があったのかどうか,受益の意思表示が行われる前に変更されたのかどうかが争われた事件だと思います。   この事案で,そもそも受益の意思表示というのは明示的にはないのですが,切り替えの契約をしたときに,黙示的に受益の意思表示はなされていると認定した判決もあれば,受益の意思表示はないとした判決もある。それから,受益の意思表示がなされているとしても,その前に併存的債務引受の変更が可能かどうか,これは,イで出てきます撤回・変更の問題ですけれども,それが可能かどうかということも同時に争われた事件だと思います。   こういう併存的債務引受の利益,つまり過払金の返還請求が事業の承継者に対してもできるということ自体は負担のない権利であり,当然に権利が発生してしかるべきであって,受益の意思表示をあえて要求するまでもないと思われるわけですが,しかし,明文上,要求されているので,その認定に苦労しておられるということかと思います。 ○鎌田部会長 今の事例だと,イのような原則を立てると,承認の意思表示の前か後かの争いが生ずる可能性がある,事案によっては。 ○内田委員 それはあります。ただ,社債の場合も承認の意思表示があろうとなかろうと,一旦与えた権利の変更・消滅はしませんということを当事者が合意をしていないと意味がないので,その合意をして第三者のためにする契約をするわけですが,今の事業承継の場合には,甲案のような立場を採った場合は,今度はそのような変更・消滅をしないという黙示の合意があるとまで認定できるかどうかが問題になってきて,したがって,いずれにせよ,難しい事案ではあろうと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいままでに出されました御意見を踏まえて,更に検討を継続させていただくこととします。   「2 将来出現する第三者のためにする契約」及び「3 要約者の地位」につきましても御意見をお伺いいたします。2については先ほどの説明にもありましたように,内容自体には恐らく異論はないんだろうと思いますが,こういうことについてまで規定を設ける必要があるかどうか,この点が中心的な議論の対象になろうかと思いますけれども,御意見がありましたら,お出しいただければと思います。3についての御意見も併せてお出しいただければと思います。 ○松本委員 必要があるかないかという点ですが,債権譲渡のところでこういう規定を置いていましたかね。置いていなかったのではないかと思うんです。つまり,将来債権の譲渡について,どれぐらいまでが有効と認められるかということについてはいろいろ議論がある。恐らくここのいまだ確定していない第三者のためにする契約というものも,では,10年後の誰かでいいのかとかいう議論は,恐らくどこかで出てくると思うのです。こういう規定がなくても,当然,ある限度において認められているのであれば,特段の規定を置く必要はないのではないかなと思います。 ○能見委員 どういう規定を設けたらいいか,規定ぶりについては,今,松本委員が言われたように非常に難しい問題があると思うのですが,ただ,この問題は資料の説明にありますように,決して細目的なルールの問題ではなくて,むしろ,本来はこうしたことが可能か否かについてを明らかにしておく必要がある,そういう意味で基本的なルールの問題ではないかと思います。ただ,どのような内容のルールにしたらよいのかはなかなか難しく,今,松本委員が言われたように,本当にいつまで未確定でいいのか,要約者,諾約者の一方が死亡した時点でもまだ未確定だなんていうのが本当にいいのかとか,いろいろ問題があるので,そのルールの中身をどうするかということを詰めながら,しかし,私としては,この点に関する規律を置けるものなら置いたほうがいいと思います。   今の点と関連しますが,信託ではもちろん受益者を特定しなくて構わないのですけれども,日本の信託法ではどのくらいの期間受益者未存在の状態が続いてよいかについて規定は設けなかったと思いますが,英米の信託法理ではいつまでも未確定でいいというわけではなくて,一定のルールがあります。確か当事者の生存期間プラス21年が経過するまでに受益者が登場しなければならないというようなルールですけれども,とにかく一定の限界がある。これをそのまま日本に持ってくることはできませんが,こうした限界を定める規律がうまく書けるのなら,こういうルールを設けて,未存在の受益者でも構わないということをはっきりさせるのがいいのではないかという趣旨です。 ○筒井幹事 3(2)について,本日,御欠席の佐藤関係官から事前に発言メモが提出されていますので,これを読み上げて紹介いたします。   前出の「1 受益の意思の表示を不要とする類型の創設等」の(2)イにおいては,同(1)において甲案を採った場合に,受益者が権利の取得を承認する意思を表示した後は,要約者と諾約者の合意によって受益者の権利を変更し,又は消滅させることはできないものとする提案があります。当該提案は,受益者の権利取得を承認する意思表示を不要とする類型においては,受益者が権利の取得を承認する意思表示をするまでは,要約者と諾約者の合意で第三者のためにする契約を撤回することを認める提案と理解されます(補足説明6ページ7行目から15行目)。   他方,本論点は諾約者の債務不履行がある場合に,要約者が受益者の承諾を得て,第三者のためにする契約を解除することができる旨の規定を設ける提案になっております。当該提案の文言だけを卒然と読むと,受益の意思の表示を不要とする類型の契約の場合にも,諾約者の債務不履行時には受益者の承諾がない限り,要約者は契約解除ができないようにも見えます。しかし,上記(1)(2)イとの平仄を考えれば,受益の意思の表示を不要とする類型の契約の場合は,受益者が権利の取得を承認する意思表示をするまでは,受益者の承諾がなくとも要約者は諾約者の債務不履行を理由に,契約解除を可能としてもよいようにも思われます。 ○鎌田部会長 この点に関連して事務当局から特に意見はないですか。ほかに。 ○深山幹事 この規定を置くことにそれほど反対をする気はないんですが,しかし,無制限というわけにもいかないというのは,既に御指摘のあるとおりです。一定の期間に限るというのが一番単純なのでしょうし,それとは別の定め方があれば,それでもよいと思いますが,補足説明にある胎児とか設立中の法人というのは,決してそう遠い将来を想定している話ではないわけです。そこまで短くしなくてもいいとは思いますが,先ほど能見先生から御指摘のあった目的信託については,20年という期間限定の規定があるので,それも参照し,せいぜい,その程度の期間内という制限は必要なのではないかという気がいたします。 ○高須幹事 報告と質問と1点ずつです。報告というのは弁護士会の議論の状況ということですが,2のところの「将来出現する第三者のためにする契約」については,基本的には提案に賛成というのが弁護士会の意見です。それから,3のところは(1)につきましては若干の慎重論がありますが,基本的には賛成で,(2)の「解除権の行使」についても,これはほぼ全単位弁護士会が賛成ということでございます。そういう意味では,基本的には,今,深山先生もおっしゃったように,あえてここでは余り強い意見は弁護士会としてはないというところです。   それから,質問ですが,部会資料の11ページのところで今日の本来の議論には直接は関係しないとは思いますが,部会資料に載っているという意味で伺いたいのですが,諾約者に対する履行請求を認めた場合の執行方法のところで,「間接強制」と書いてあるわけなんですが,作為請求の場合には代替執行という可能性もあると思うのですが,代替執行ではなくてあえて間接強制とお考えになっているとすれば,要するに代替性の余地がないという意味なのかどうか,その辺のお考えをお聞かせいただければと,私としては何か代替性があるような気もしたものですから,お聞かせいただければと思います。 ○川嶋関係官 今の11ページの点ですけれども,確かに部会資料の記載には舌足らずなところがあったと思っておりまして,代替執行でもよいと思います。ここのところは,冒頭の説明でも申し上げましたとおり,第三者に給付せよという債務名義があった場合の現行の執行実務を維持すればよいという趣旨ですので,例えば金銭の場合に金銭執行をしているというのが現在の実務であるというのであれば,それをあえて否定しようとか,そういったことを意図しているものではございません。 ○高須幹事 分かりました,ありがとうございました。 ○中田委員 3の(2)の「解除権の行使」についてです。先ほど佐藤関係官の御意見をお聞きしまして,私も共通の感覚を持ったんですが,さらに受益者が権利の取得を承認する意思表示をした後,解除をする際に受益者の承諾を必要とするかどうかについては,反対というわけではないんですけれども,なお,検討しておく必要があるのではないかと思います。と申しますのは,現行法の下では受益者の承諾なしに解除できるという見解がむしろ最近では多いのではないかと思うのですけれども,その理由として要約者が諾約者に債務を負っている場合に,解除できないと困るのではないかというようなことがあると思います。それを今回,かつてはそれが通説だったと思いますけれども,(2)のような規律に変えるとすると,先ほどの1の(2)イの規律との関係で,受益者の承認の意思表示の前後で非常に落差が大きくなってしまうのではないか,それで支障がないかどうかをなお確認しておいたほうがよかろうと思います。 ○松本委員 先ほどの発言のところの論点に戻るんですが,将来,出現するであろう未確定の第三者のための契約が有効である,そして期間について一律の期間を定めたほうがいいという意見が多いようなんですが,果たしてそんなことができるのか。   信託を想定されている人は信託法にはこうなっているからということですが,信託は信託契約という特有のタイプの契約として,そういう期間を決めているのだろうと思います。それから,将来の社債権者のための第三者のためにする契約が必要だとすれば,それはまた,社債という性質に応じて何年ぐらいが適切かということが恐らく決まってくるのだろうと。ここの第三者のためにする契約はそういう特殊なタイプの契約にのみ適合的なルールではなくて,正に民法の一般理論として置かれるわけだから,全ての第三者のためにする契約に共通のルールでないと駄目なわけです。それが果たして一律20年とかいうことでいいのかという大きな疑問があります。民法に置くとして,相当な期間という以外に置けるのかということです。   それが1点で,もう1点は先ほどの論点の受益の意思表示は要らないんだというルールとセットになると,将来,10年後,20年後に第三者が出現したけれども,受益の意思表示をしないまま,また,10年経過する。債権の消滅時効期間は最初の契約の時から10年なのか,第三者の出現の時から10年なのかよく分からないですが,もし前者だとすると20年後の出現なんて駄目ですね。この点よく分かりませんが,それは置いておいて,サイレントで受益者になり得るんだということだと,第三者の出現までの期間が20年なら20年プラス更に消滅時効期間10年とかということになって,その間,諾約者には分からない状況でかなり長期間,経過するということになるのが果たしてよろしいんでしょうかという気がいたします。将来の未確定の第三者のためにする契約であれば,受益の意思表示をしていただいたほうが,安定していいのではないかと思います。 ○山本(和)幹事 先ほど議論した11ページのところですけれども,ここにあるような整理というのは私も不可能ではないと思うんですけれども,ただ,なお,別の考え方というのは十分あり得るような気がします。ここに出ているのは,訴訟との関係では訴訟物が違うと,要約者の請求権と受益者の請求権は訴訟物が違う,だから,既判力も及ばないという前提ですけれども,しかし,争点は基本的には全く重なり合っているので,諾約者の立場からすれば,結局,二重の応訴を強いられることになって,実質的に矛盾した判断が出るおそれがあるのではないかと。   要約者に対する訴訟では最初に勝っても,そんな契約は締結をしていないというようなことで勝ったとしても,受益者から訴えられたら,今度の裁判所は契約は締結されたということで請求が認められるという可能性があるとして,本当にそれでいいのかどうかというのは問題になり得るのではないかと。考え方としてはやはり訴訟担当として考えると相互の調整みたいな,債権者代位みたいな話になってくる可能性があってややこしくなるわけですけれども,そういうような議論というのもなお排除はされないような感じは持っています。   それから,執行については先ほど高須幹事の御質問で,私も当然,これは代替執行はある,諾約者の義務が代替的作為義務であれば,代替執行になるんだろうと思うんですが,川嶋さんの先ほどの説明だと,第三者に対する給付を命じる債務名義一般の問題であるとおっしゃいましたけれども,ただ,例えば株主代表訴訟のような場合に会社に支払えというようなのは,訴訟担当を前提とした,多分,執行担当で説明をされているんだと思うんですね。   執行担当であれば,金銭執行というのはあり得るんだろうと思うんですが,ここにあるような説明をすると,これは要するに受益者の請求権とは全く別の要約者の作為請求権の強制執行の話になるので,論理的には私は金銭執行というのはないのではないかなという感じがするので,必ずしも,だから,第三者に対して給付を銘じる債務名義一般の問題という形で整理できるのかということも,なお,やや疑問の点はあるような感じがしまして,こういう整理は不可能ではないと思いますけれども,これで整理し切れているかというと,なお,疑問はあるのではないかというのが私の印象です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。 ○畑幹事 今の手続法的なところですが,私自身は訴訟物の辺りは,ここに書いてあるような整理になるのかなと思っておりましたが,確かにいろいろ議論の余地はあり得るだろうとは思います。強制執行のほうは,現在の有力説として,第三者のためにする契約の場合に要約者が金銭執行を申し立てることができるという考え方は現に存在しますし,その点も含めて恐らく現行法でもある問題が残るのだろうとは思います。ただ,ここの直接の話である履行請求の規定を置くかどうかということについては,特に妨げにはならないのではないかと思っております。履行請求の規定を置いたほうがいいということかどうかは分からないのですが。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。それでは,今までに頂戴した御意見を踏まえて,更に事務当局において検討をさせていただきます。   次に,「第2 約款」のうち,「1 約款の組入要件に関する規定の要否」と「2 約款の定義」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 部会資料の説明に先立ち,参考資料8-2について御説明いたします。参考資料8-2は,定型的な契約条項の使用状況や,それに伴って生じている問題の実態を調査するため,一般社団法人日本経済団体連合会事務局及び日本商工会議所事務局の御協力により,参考資料8-1を各会員企業に送付していただき,得られた回答を取りまとめたものです。質問事項に対し,合計62の企業から回答を頂きました。一般社団法人日本経済団体連合会,日本商工会議所及び回答くださった企業の方々に,この場を借りてお礼を申し上げます。内容の詳細については資料を御覧いただきたいと思いますが,定型的な契約条項を,回答くださった企業が使用する場合及び相手方が使用する場合の双方について,使用されている条項の種類,作成者,条項の拘束力に関する問題の有無等についての回答が記載されています。この資料については,本日の審議を含む今後の審議において,有益な参考情報として利用したいと考えております。   それでは,部会資料42の「第2 約款(定義及び組入要件)」について御説明いたします。   「1 約款の組入要件に関する規定の要否」では,約款の組入要件に関する規定を民法に設けるかどうかという問題を取り上げています。約款については,約款がどのような要件の下で契約内容になるかという問題と,約款の内容の合理性をどのように確保するかという問題とが議論されていますが,ここでは約款を契約内容にするための要件について御審議いただきたいと思います。内容の合理性の問題は,後に御審議いただく「第3 不当条項規制」で御審議いただきます。   約款使用者の相手方は,約款に含まれる個々の条項の内容について,認識していないことが間々ありますが,個々の条項の内容を相手方が認識していない場合であっても,約款が契約内容になり得ることついては,判例も学説も異論がないものと考えられます。しかし,約款がどのような要件の下で契約内容になるかについては,一般的な規定が設けられていないため,明確ではありません。そこで,本文では組入要件に関する規定を設けることを提案しています。   組入要件の規定は,一方当事者が契約条項の内容を具体的に知らない場合であっても,他方当事者が準備した契約条項に拘束されるのはどのような場合かという問題を扱うものであり,必ずしも消費者保護の問題ではなく,事業者同士の契約においても問題になることから,本文では,約款の組入要件に関する規定を設ける場合に,これを民法に設けることを提案しています。組入要件の具体的な内容については,後に御審議いただく「3 約款の組入要件」で取り上げておりますので,ここでは規定の要否及び設けるとしても民法に設けるかどうかを中心に御意見を頂ければと思います。   「2 約款の定義」では,約款の組入要件に関する規定を設ける場合に,それが適用される約款をどのように定義するかという問題を取り上げるものです。約款の組入要件は,条項の使用者の相手方が,そこに含まれる個々の条項を知らなくてもそれに拘束されるのはどのような場合かという問題を取り上げるものですので,このような問題が生ずる場面を広く対象とする観点から,本文では,「多数の契約に使用するために,あらかじめ定式化された契約条項の総体」という趣旨の定義を設けることを提案しています。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明のありました部分のうち,まず,「1 約款の組入要件に関する規定の要否」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○大島委員 約款は大量かつ定型の取引を効率的に処理するため,社会において広く利用されておりますので,民法に規定を設ける意義は理解できます。しかし,約款の定義や組入要件の規定の仕方によっては,民法の規定と現状の実務の取扱いに乖離が生じ,かえって取引の安定性を害するおそれがあると考えております。そのため,約款の内容を適切に規定できないのであれば,約款の組入要件に関する規定を設けること自体に反対を致します。 ○安永委員 約款の対象に労働契約の内容を定めるものは,全て入らないことを明確にしていただきたいという趣旨で,発言いたします。なお今回,バックアップの検討会で多くの意見が出されましたために,意見補助資料も併せて,配布していただいております。   部会資料では,約款の組入要件に関する規定の適用対象となる約款の定義として,「あらかじめ定式化された契約条項の総体」という趣旨の規定を設けることが提起されています。この定義では広範囲のものが約款に含まれることとなり,就業規則,労働協約など,労働契約上の権利義務を定める全てのものが除外されずに,約款法理の対象となると考えられます。この点,補足説明の29ページの6には,就業規則等に関しては,特別法である労働関係法規の規定が適用されるということが記載されています。しかし,このことをもって直ちに民法の一般的規定が適用されないということにはならないのではないか,と危惧しております。現行法制では,使用者の配転命令権など就業規則の労働者にとって有利でない規定は,労働契約法第7条又は第10条の定める内容の合理性,周知等の厳格な要件等を充足していなければ,労働契約の内容とはなりません。   しかし,後述3で提起をされている約款の組入要件では,労働契約法等よりも緩和された要件となっており,労働者との合意がなく,かつ,労働者にとって有利ではない就業規則及び使用者の作成する規則類が,労働契約の内容となることを肯定するものとなっています。また,「4 約款の変更」についても現行法制よりも緩和された要件で,労働者にとって不利益な変更が可能となっています。また,次の項の第3で提案される約款の不当条項規制の要件も,就業規則に関する労働契約法の要件よりも厳格であるとは解されません。このため,従前,就業規則としての効力が認められなかった条項に関して約款としての効力が認められ,不当条項にも当たらないとして労働契約内容が規律される場合が生じることになります。   現実に起こる問題としては,就業規則の効力が争点となる民事訴訟において,使用者が就業規則の効力に関して,主位的主張として特別規定である労働契約法所定の効力発生要件を充足していることを主張し,予備的主張として一般法である民法所定の約款としての効力発生要件を充足していることを主張することが可能となります。この場合,裁判所は民法の約款についても判断せざるを得なくなるのではないかと考えます。また,約款に関する民法の組入要件と労働関係法規における契約内容を規律する要件について,その双方を充足する必要があるとの解釈がなされた場合には,労働協約の適用範囲と効力に関して問題が生じることとなります。   具体的には,労働協約の適用範囲と効力に関して,労働組合法第16条,17条による労働協約の適用を不服とする労働者が提訴した場合,労働組合法の労働協約の効力発生要件は充足していても,民法上の約款法理及び不当条項規制に適合しないと主張することが可能となります。集団的労使関係法理は,労使関係の歴史と現実を反映させながら定着させてきたものであり,法的な原理及び具体的な要件と効果等の構造が約款法理とは全く異なります。民法の約款法理が労働協約に適用された場合には,様々な混乱を引き起こすことが懸念をされます。   以上,申し上げたように,労働契約の契約内容を定めるもの全てが約款に含まれないことが明確にならないまま,提起されている約款制度が導入された場合に,現在の労働契約に関する法制に大きな影響を及ぼし,かつ,私たち労働者にとって現行法制よりも不利益な制度変更となることが懸念されます。そこで,そのようなことが起こらないように,労働契約上の権利義務内容を定めるもの全てに関して,民法上の約款に含まれない旨を明確にしていただく等,御検討を頂きたいと考えます。 ○三上委員 本論に入る前の提案ですけれども,第一読会での議事録を読んでおりますと,山本敬三幹事を中心に組入要件の対象としての約款と,不当条項規制の対象としての約款は範囲が違うのではないか,後者については約款だけが対象でいいのかという議論も含めて,そういう意見がかなり有力に主張されていたように感じました。ところが,今回の提案では依然として,補足説明には書いてあると説明されるのかもしれませんけれども,第3の冒頭のところで,そういうことを議論するようには読めずに,何か第2で広く網を掛けた約款全部に不当条項をかぶせようとする趣旨に見えないことはない。   そうすると,第一読会で松本委員が指摘されておりましたように,第2の部分で不当条項が被りそうな約款を外そうとするとか,第2の部分は不当条項規制の外堀であるかのような疑念をめぐって入口で紛糾するだけではないかという危惧を持っております。そういう意味で,ここでの約款というのは,不当条項規制の対象をどうするかとは全く違う,組入要件としての約款だけを対象に議論するということを事務局のほうに宣言していただいて,正にその要件だけを検討する場ということにしてはどうかということを,実体論に入る前に提案したいと思います。 ○野村委員 後ろのほうにも関わってくるので,どこで発言するのがいいのか,多少,問題はあるかと思いますけれども,一言,申し上げたいと思います。約款の組入れによって契約が成立するという考え方を採ると,約款が組み入れられる部分と,それから,個別の合意の部分とで一個の契約が出来上がるということになると思います。その場合に約款に関する規制,先ほどの不当条項の規制がどこまで及ぶのかという問題が出てくると思います。しかし,一般の人から見て,そういう契約の構造に基づくような考え方が必ずしも今のままでは十分理解しにくいのではないかという危惧を感じます。具体的な契約条項について,ここは個別の合意で,ここは組み入れられる約款の部分だという区別がある程度,分かるようなことが必要ではないかと思うのです。それと,契約の構造自身もある程度,分かるようにしないといけないのではないと思っています。 ○潮見幹事 先ほどの三上委員の提案ですけれども,私は賛成です。是非,そうしていただきたいと思います。ここでは,約款の拘束力の根拠を中心に,まず,議論をしてみたほうがいいのではないか。その上で組入れに進んでいき,さらにその次の段階で内容規制とかをやればいいのではないかと思います。その上で,三上委員がおっしゃられた点について意見を一つと,それから,事務局に対する質問を兼ねての意見を一つ,申し上げたいと思います。   まず,意見のほうですけれども,約款による契約の拘束力が何にあるのかということについては,約款による契約取引が日本でこれだけ多くなっているわけでありますから,一般の契約の拘束力の根拠が合意にあるということと並べて,基本法典としての民法の中に規定を設けるべきであると考えます。その場合には私的自治の原則,自己決定原則を基礎に据えるという民法の考え方を基礎にするのであれば,組入れの合意に契約の拘束力の根拠を認めるのを本則とすべきではないかと思います。抽象的な規定であったとしても,そのくらいの規定は根拠規定として設けるべきではないかという意見です。   次に,ここからが質問を兼ねてのことなんですが,よく分からないところが補足説明の中にあります。それは業法の支配を受ける約款についての補足説明が何を考えておられるのかということです。16ページのところを見ますと,5の「約款に関する規定が設けられているとしても」という段落のところですが,ここでは,業法の規定が,約款が契約内容になるための要件を定めたものであると解釈される場合にはこれとの関係が問題になるが,この場合には業法上の規定が民法上の規定に対する特別規定として位置付けられ,優先的に適用されると書かれています。これ自体の背後にある考え方は,約款が契約内容となるということを業法が定めているからその約款に拘束力があるというものではないかと私は理解したのです。   ところが,23ページの下から2段落目の「約款に法規範性が認められるとされる場合のうち」という段落に書かれているところを見れば,法規範性が認められるという場合のうち,その根拠が各種業法に基づくコントロールに求められる場合については,その約款が契約内容になることは,当該業法の規定の解釈から導かれるというような書き方をされておりまして,捉え方次第では当該約款が業法に基づいてコントロールされているから拘束力があるとも読めます。もし,仮にそうであれば,16ページに書かれていることと,23ページに書かれているということは,かなり意味が違うといいますか,拘束力を何に基礎付けるのかという点で違ってくるのではないかという印象を持ったのです。   それゆえ,まず,16ページに書いておられる約款が契約内容となることを定めているというのは,どのような状況を想定しているのかということを具体的に説明していただけませんでしょうか。どのような内容のことが書かれておればこうなるのか,あるいはどのように定めておればこうなるのかということが分かれば,少しクリアになるのではないかと思います。   その上で,仮に23ページに書かれているようなことをストレートに受け止めて,業法の支配を受ける約款の拘束力というものを考えた場合には,もはや,そこで書かれている内容というものは,組入れの合意という観点から正当化することは難しいのではないでしょうか。例えば参考資料にあるドイツ民法305a条のように,組入れの合意を基本原則としながら,何らかの形で例外規定を置くとかいうようにするか,あるいは,個別の業法の中で,言い方が変ですけれども,認可約款というものが契約内容となるということを一つ一つ書いていくかで対処するほかないようにも思えたものですから,最後はある仮定の前提での意見ですけれども,仮定の部分をまず説明していただければ,有り難いところです。 ○笹井関係官 今の潮見先生の御質問に対する的確なお答えになるかどうか分からないのですが,第1ステージの審議において,業法と組入要件との関係をどのように考えるのかという問題提起に対して,業法そのものの解釈から約款の拘束力が基礎づけられる場合,つまり,業法が認可の手続などのいわゆる公法上の規制だけを定めたものではなくて,私法上の効力を定めていると解釈できる場合があるのではないかという御意見が確かあったと思うんですね。そういう場合があるのか,また,業法がどのような規定を持っていれば私法上の効力まで定めたことになるのかということは,事務当局からお答えすることではないと思いますが,仮にそういうものがあった場合には,それは業法の中で完結した世界ができているはずなので,民法に約款の組入要件に関する規定を設けたとしても,業法の世界には影響を与えないのではないか。この資料に記載されているのは,そういう趣旨でございます。 ○潮見幹事 そうであれば,結局,この前の読会のときに,この趣旨の観点から発言をされた委員の先生に説明をしていただければよいということでしょうか。私は運送約款はどうか,保険約款はどうか,旅行業約款はどうかといった辺りを聞こうとしたのですが,そのような御趣旨であれば,事務局からは特にお答えいただかなくてもいいですけれども,逆にこのような趣旨で発言された委員の先生から,そのときに何を考えておられたのかということを御発言いただければ有り難いと思います。 ○笹井関係官 業法が約款の私法上の効力まで認めている場合があるかどうかについて,例えば今,先生がおっしゃったような運送約款はそうであるとか,保険約款はこうであるとかという特定の立場を事務当局が採っているわけではありません。ただ,業法における約款についての規定と民法に組入要件の規定を設けた場合に,その関係はどうなるのかということがよく問題提起されますので,もし,業法において私法上の約款の効力まで含めて,完結した規定を設けている場合が仮にあるとすれば,民法の組入要件が何か抵触するとか,その領域について何か影響を及ぼすとか,そういうことを意図しているものではないと,そういうものとして民法に規定を設けることも可能だろうという,そういう趣旨で記載をしたということでございます。 ○佐成委員 幾つか発言しようと思っていたのですけれども,まず,今の点について,私が前の一読のときに発言したわけではないですけれども,感想だけ述べさせていただきます。業法で約款を規制していくという場合については,もちろん,業法固有の政策目的があって,それに基づいて規制をしているのだと思います。ですから,約款の私法上の効果それ自体を明示的に業法の中で書いてあるかというと,必ずしもそうではないとは思います。   ただ,およそ約款の内容の合理性を全く考慮しないというような業法は,現実にはもちろん存在しないわけでございまして,恐らく業法の規定というのは,監督官庁による同法に基づく承認後の約款が,当然に契約内容になることを是認しつつ,必要な規制を加えるという立て付けになっているのだろうと思います。現に,多くの業法では「約款」という言葉も使っていますし,正に当該事業分野で約款として社会的に通用させる目的で規制を加えているように見えるわけです。ですから,そういうものとしての約款が契約内容になって社会的に通用するための要件を事業分野ごとに定めてあるというようなことを言えなくもないとも思うわけです。つまり,業法上のルールはいろいろあるわけでして,例えば,公聴会を実施して,契約の相手方である利用者一般から意見を聴取するとかの手続を始めとして,中身の合理性や正統性を担保するためにいろいろなことが業法上定めてあるので,そのような厳格な審査や種々の手続負担を経ているにもかかわらず,そもそもの約款としての最低限の私法上の効力さえもが完全に否定されるような「約款」を多大の社会的コストを掛けて公権力が認可するとか,認容するというような発想は,実務的にはおかしいように思いますし,法律論としても業法の社会的な役割への配慮に欠けるのではないかなという気がいたしました。   だから,私も今は一般的な説明はできないですけれども,少なくとも業法がカバーする領域というのは,同法によって約款の私法上の効果が認められていると思いますので,約款に関する民法の一般的で抽象的な組入規制というものを仮に設けるとしたとしても,そこには立ち入らないということを,今,笹井さんはおっしゃっていたのではないかと思いました。  けれども,仮にそうだとしますと,理屈上は民法上の一般的・抽象的な規定をこれから時間を掛けて種々議論して無理やり入れるとしても,ほとんど業法がカバーしている部分については,実際上は余り実益がないような議論になってしまうのではないかということです。要するに,国民生活に重要な影響を及ぼすような取引領域に関しては,業法はかなりいろいろ広まっておりますから,そこに任せるというように実質的にはなるのではないかと思うからです。   だからと言って,民法の一般規定の可能性を否定する結論にはもちろんなりませんし,だからと言って,不要だということを申し上げているのではなくて,仮に立法化しても業法に関する領域については余り働く余地は少ないのではないかなということを申し上げているだけでございます。ですから,もし,仮に今,潮見幹事が問題提起された部分についてですけれども,私法上の約款としての効力を前提にして業法規制がなされていると解釈できるような場合が非常に多いということであれば,そのように広範な領域に亘って,約款に関しては民法の一般規定が働く余地は余りなく,そうとすると,民法の一般規定の実益は少ないのではないかなという印象を持ったということを一つ申し上げたいと思います。   それから,先ほど手を挙げたのは,三上委員のお話に関してなのですが,議論の仕方それ自体は私もそういうやり方でよろしいとは思うのです。けれども,幾つか,それに関して申し上げたいことがあるので,まず,その点についても申し上げます。つまり,基本的には,まず確かに抽象的な一般的な規定を入れるかどうかという議論と,それから,不当条項規制の対象になる約款がどういうものかという議論については,もちろん,私は議論すること自体は全く否定するつもりはないですし,そういう形で議論を整理していただくのはいいと思うのです。けれども,ただ,そういった議論の結果としての最終的な立法の仕上がりを見たときに,本当にそれらを全く区別した形での立法,要するに,約款の組入要件だけを規定して,不当条項規制,即ち内容の適正性というものを全く民法に取り込まない形で立法化するというような最終仕上がりが,果たして本当に実務的に成り立ち得るのかということに非常に疑問があるわけです。   ですから,議論を整理する意味で,まず,組入れについて抽象的,一般的な議論をすることについては,私も全く異論はございません。ですから,そういう形で議論を進めていただくことについては,私も全く否定するものではございませんけれども,ただ,論理的にはそういうふうな切り分けが正しいのかもしれないのですけれども,実際問題として,約款をめぐって現実に発生している紛争においては,恐らく両者は不可分なものとして問題になっているのだろうと思います。要するに,もし,ここで議論するのであれば社会的事実を踏まえる必要がありますが,その点,実際に起こっている現実の社会的紛争が本当にそんな切り離した形で議論されているわけではなくて,やはり,セットで不可分のものとして問題にされているのではないかと思います。およそ約款をめぐる現実の紛争事例で,それぞれ全く独立のものとして,組入れの部分だけを問題にする,あるいは不当な部分だけを問題にするというのは,私自身は余り存じ上げておりません。   しかも,従来の約款法学の中で,約款の拘束力に関して,これまでいろいろな議論がなされてきているのを私も読みましたけれども,いずれも飽くまで内容の適正化とセットであることを当然の前提に,とても慎重に議論されていたのではないかということがあります。ですから,むしろ,内容の適正化と軽々に切り離した形で,言わば裸の約款の拘束力を一般的に肯定してしまうということの立法上の問題点については強い懸念をもっておりまして,とりわけ,事業者に対しても,消費者に対しても,つまり,広く国民一般に対して誤ったメッセージを発信しかねないのではないかという点を非常に懸念をしております。ですから,議論の仕方としてはそれでいいとは思うのですけれども,最終仕上がりまで,本当に切り離せるのか,非常に疑問を感じているというところを一つ申し上げたいということです。   ですから,そこを最初にまず申し上げたいということと,もう一つ,それに付随してですけれども,補足説明でいきますと2の(1)というところなのですけれども,2の(1)のところに判例の説明が書かれておりまして,2の(1)のところを見ますと,まず,大審院の判例,これは稚内でしたか,森林火災が家屋に延焼した事件でございますが,その下にずっといろいろ判例の紹介がされていて最後のところで,(2)の一番手前のところに「以上のように」と,こう書いてあって,そこは要約されているところですけれども,「約款の拘束力に関する判例のルールは必ずしも明確ではなく,また,約款の組入れの問題と内容規制の問題が明確に区別されないで処理されている」と書かれておりまして,どちらというと,これまでの判例の判断の仕方に対する否定的な評価として書かれているようにお見受けいたしました。   ただ,私自身は,実務感覚として先ほど申し上げましたとおり,具体的な紛争実態を踏まえて,具体的妥当性の実現のために,とても自然な契約解釈をしているというふうな受け止めをしております。むしろ,判例ルールが広い意味での契約解釈の中から,狭い意味での契約解釈の前段階としての「組入れ」という局面だけをあえて切り出すような,ある意味では形式的で硬直的な判断をしていないということを,必ずしもそういう判断枠組みをこれまで採っていないということをもっと評価してもいいのではないかと感じております。約款が問題となるという形式的な一事をもって,そこだけを突出させた契約解釈をするというのは,本当に妥当なことなのかというのはちょっと疑問に感じます。   約款を含む契約解釈といっても,契約を取り巻く様々な個別具体的な事実を要素として,もちろん,約款という側面も一つの重要な要素として取り上げた上で,それらを総合考慮して具体的妥当性を図るというのが紛争当事者にとっても,社会的に見ても望ましい紛争処理のあり方ではないかということです。ですから,約款を含む契約解釈を通常の契約解釈と全く異なるものとして位置付けるということについては,実務家としては違和感があると申し上げておきたいと思います。そこを前置きした上で,長々として恐縮でございますけれども,そういったような違和感を感じながら議論に参画させていただきたいという趣旨を一つ述べさせていただきたいと思います。   それから,中身に入る前に,経済界の議論の状況についてだけ,御報告をさせていただいたほうがいいかなと思います。経済界の議論の状況については,まずはこの組入要件だけについてですけれども,1のところですけれども,この要否に関しては絶対に反対という強硬な意見も含めて,経済界の99%は反対ないし消極論ではないかという印象を持っております。組入要件それ自体について,約款使用者である経済界自身,その9割以上は反対の声を上げていると,あるいは消極的であるというのが,私がこれまでいろいろな業界の方と直接,お話ししたりして,そういったような印象を受けているということでして,中には絶対に反対だという御意見も聞いております。   つまり,経済界としては約款に関しては現行の実務でも全く困っていないという実態があるということだと思います。これはもちろん,消費者サイドから見れば異論はあると思いますし,少なくとも事業者サイドから見ればという話です。もちろん,全くというのはやや語弊があるかもしれませんけれども,困っていないというのは事実ではないかと思います。他の見方はあり得るとしても,少なくとも事業者サイドとしては約款の組入要件の立法化に関しては影響する範囲や程度が極めて広範で,場合によってはかなり深刻な問題が生じるということで,現時点で全てを一つ一つ予測していくことはほとんど不可能なため,そういったものを拙速に入れていかないでほしいというような雰囲気が非常に強いと感じております。更に言えば,なぜ,今,あえて現状を変えるのかということについても疑問があるということでございます。実務は判例である意思推定説をベースとして,これまで安定的に運用されてきていると思いますし,要するに約款の拘束力については,実務的にはせいぜい判例である意思推定説を前提とすれば十分ではないのかという意見もございます。   それから,今回,「組入れ」というような形で取り上げられておりますけれども,これは正にドイツ流の切口でありまして,日本法もこうした切口でいこうとしておりますけれども,そのような切口が比較法的に本当にスタンダードなのかということ,あるいは果たして日本にとってそれが本当に適切なことなのか,安定的な実務が混乱してしまうのではないかということがかなり言われております。しかも先ほど議論を切り分けるという話と仕上がりの問題を申し上げましたけれども,比較法資料を拝見しましても,このような取扱いをしているところは,ドイツにしろ,オランダにしろ,約款というものについて,そういうアプローチ,約款アプローチを採るところについては相当詳細な規定を用意しているというのが現実かと思います。つまり,「裸の約款だけでは危うい」という問題意識の表れではないかと私は見ております。したがって,このアプローチは,かなり本格的な約款規制法を民法に取り入れる方向にもつながるということで,経済界としては大変危惧しているということです。   それから,もう一つだけ,長くなって恐縮なんですけれども,付け加えたいのは不合理なコストアップ要因になるということの抵抗感もあるということです。約款規制の導入は,今以上に取引コストの上昇を招くことは不可避であって,経済取引の効率性を阻害するということでございます。事業者は優良であればあるほど安全サイドに傾いて,過剰な自己抑制や過剰なコストを掛けてしまうので,効率性を害することが容易に予測できます。さらに,景気低迷下では,ひいては新しいビジネスを成長させたり,既存ビジネスを改良したりしようという,そういう創意工夫の活力そのものが必要以上に萎縮させられてしまうのではないかといった懸念も表明されています。   そういうわけで,とりわけ今回,最終的な仕上がりが内容の適正化とセットで立法化されるということになりますと,コストアップ要因となることは明白で,現下の経済情勢に照らせば,これについては恐らく経済界は100%反対ということになるのではないかと見ております。議論の立て方については承知しましたけれども,そこだけ前置きをさせていただきたい,要するに仕上がり部分でセットでやるということについては経済界は100%反対しているというところですが,議論自体を否定するとか,そういった趣旨は全くございません。ですから,一般的な規定,一般的抽象的な組入要件の規定を設けるという議論については参画しますが,結論的には現時点では組入要件そのものに対しても反対意見が強いということだけを冒頭に申し上げたいと思います。   長くなってすみませんでした,以上でございます。 ○高須幹事 今,佐成委員から出ました議論を切り分けることへの危惧,あるいは実務感覚でそのことに違和感を覚えますという部分について賛成でございます。元々,佐成委員の意見を聞く前から発言しようと思っていたものですから,今,むしろ聞いていて,そこと同じような考えを持っておりますというか,実は,これは私が所属する東京弁護士会の考えなわけですが,先ほど指摘もありました労働契約法の7条などは,合理的な労働条件が定められた就業規則が周知された場合に労働契約の内容になると。そういうことで,組入要件の中に一定のそういうものが入っているという,そういうことが現にあるわけでございますので,東京弁護士会としては組入要件の中にそのこともある程度,考慮するということがなされていいのではないか,したがって,それを全く切り離すということについては強い危惧を覚えているという状況でございます。   ただ,ここでは私は幹事の一人ですから,議論をいたずらに紛糾させることが目的ではありませんので,飽くまで議論の前提として,ここは佐成委員としたがって同じところで協議ができると思っているんですが,議論の前提として組入要件の問題を議論し,その上で内容の適正性の問題を議論すると,ここについては私もそれで依存はありませんが,飽くまで将来的にはそれを一体化する含みを残していただきたいというか,そのこと自体は東京弁護士会としては強く希望しているものだと,ここが佐成委員とはむしろ逆になってしまうので,今,伺っていてどうしたものかとは思っておりますが,ただ,そういう意見が弁護士会の中には有力にありますので,そのことだけは留保いただいて,提案資料のような線で議論を始めていただければと思います。 ○筒井幹事 議論の進め方と申しますか,「第2 約款」と「第3 不当条項規制」との関係について,ただいま佐成委員から,その前に高須幹事から御発言がありまして,それに先立って三上委員からは,区別して議論を進めることを確認すべきではないかという発言がありました。それぞれの方の御発言で,既に結論は出ているように思いますけれども,佐成委員,高須幹事から御指摘がありましたように,最終的に約款に関する規定をどうするかの結論は,不当条項規制の規定との関連を意識せざるを得ず,それと無関係に決めることはできないという面があることは,全く御指摘のとおりであると思います。しかし,御両名から御指摘がありましたように,審議の進め方としては「第2 約款」について,約款の定義も含めて約款の組入要件に関する議論を先行させて,その上で「第3 不当条項規制」の議論に進んでいくのが適当であると思います。そういう意味では,最初に三上委員から御指摘があったように,これらの議論を分離して進めていくほうがよいのではないかと考えております。 ○三浦関係官 経済産業省の省内の検討の状況を御紹介しておきたいと思います。昨年,産業組織課意見を,出させていただいたときから,余り大きく状況は変わっていないわけでございますけれども,改めて省内で議論いたしました感じですと,約款の組入要件については慎重意見が多数という印象を受けました。まず濃淡を付けると,恐らくB to Bについては拒否反応が強いと申しますか,約款規制を持ち込むことは不要という指摘がございます。B to Bを除外しますと,恐らく残りはB to Cということかと思いますけれども,そういった分野については消費者契約法がございますし,あと,先ほど連合の委員の方からの労務契約は外れるというお話もあり,それぞれ個別分野の手当が既にある中で,更に何が必要かということについて,まだ,議論・理解が必要という印象を受けました。   ただ,我々の中でも意見は分かれていて,今日の配布資料の中に入っていると思いますけれども,ヤフーが意見を出されていますけれども,組入要件そのものについては賛成の声もございます。私もこの紙以上の中身は承知しないですけれども,昨年に出た新聞記事などを見ますと,ネットオークションなどでいろいろお悩みもあったというような報道もございまして,やはり,インターネット取引のような新しくて,ある程度,イノベーティブな取引をされている現場だと,必要性も感じられることがあるのかなと考えている次第です。   ただ,ヤフーの御意見を見ても,一番最後に不当条項のリスト化には反対というようなお声がございまして,ここで先ほど来,数人の委員の方から御指摘があったように,組入要件はいいけれども,不当条項は別の考慮を要するという文書でございまして,ヤフーの場合はある程度切り離して考えられているのかもしれませんけれども,そもそも分けられるのかという御指摘も今日ございましたけれども,ここについて少し明確化なり,議論なりがもう少し必要かなという印象を現時点では受けてございます。 ○鹿野幹事 幾つかの点につき申し上げたいと思います。   まず,約款の組入要件につきましては,民法に入れるべきだと考えております。先ほど,なぜ,今ルールを変更するのかという疑問も示されたところですけれども,ルールを変更するというより,ルールが余りにも不明確な状況が現在まで続いてきたのではないかと思います。古い判例で意思推定説を採ったものがあるという御指摘もありました。しかし,判例においても,例えば約款の認識可能性すらないような場合に,それが果たして無条件で契約の内容に入るのかについてまで,明確な判断が一般的な形で示されているとは言えないと思います。そういう不明確な状態であるということが問題であります。約款も,合意を契機にして契約の内容になるのですから,そのために最低限いかなる要件が必要かにつき,基本的なルールを定めることが必要だと思います。   そして,その際,まずは私的自治という考え方が基礎に置かれるべきだと思うのですが,一方,現在,社会でこれだけ多数の当事者を相手とした大量取引が約款を用いて行われているところ,そのような大量取引の要請からすると,理念型としての通常の契約における個別の合意の要件まで課すことは難しいところがあります。そこで,約款の契約への組入れについては,通常の契約の条項の場合より緩和した要件で,しかしそれでも,私的自治の観点から最低限必要だという要件を設けようということが,ここで提案されているのだと思います。そのような意味を持つものとして,ルールをここに明確化することに賛成でございます。しかも,消費者契約に関するルールを民法に入れるかどうかという点については別に議論がありますが,ここでの問題は,消費者契約のみに関わるものではありません。事業者間契約でも,約款は多く用いられているところです。約款に関するルールは,契約一般の問題であり,その点でも,これを民法に設けることについて賛成でございます。   次に,対象としての約款の定義と議論の進め方について一言申し上げたいと思います。組入れと内容規制の議論を切り分けるかどうかにつき,先ほどから意見が分かれておりました。私も,最終的にどうするかはともかくとして,議論においては一応,不当条項,つまり内容規制の問題と,組入要件の問題とを切り離して検討したほうがよいと思っております。契約への組入れの要件については,先ほども申し上げましたように,多数の当事者を相手に約款を用いて取引をする場合については,そうではない通常の契約における条項の組入れの場合と同様の要件を課すことは難しいという考慮の下に,通常の場合よりある程度緩和した要件を設けるのだとすると,そのルールの対象としての約款の定義には,多数の契約に用いるためのものということが入ってくるのは,自然だと思われます。   しかし一方,不当条項規制の対象に関していうと,先のような意味における約款がその対象に入るのはもちろんですけれども,いわゆる約款以外の場合に内容規制が妥当しないのかというと,そうでもないような気がします。と申しますのは,不当条項規制をここで設ける際の一つの考え方としては,一方の当事者があらかじめ用意した契約条項群があって,他方の当事者はそれをまとめて受け入れるかどうかという選択しかなく,個別交渉が経られていないという場合においては,一応その予め定められた条項群によるということについての合意があったとしてもなお,自分の意思で承諾したから拘束力があるとする考え方の前提が欠けているというか,前提が不完全な状態が存するのではないかと思います。そのような場合につき,特に不当条項規制のルールを設ける必要性が出てくるのではないかと思います。   このように考えると,先の約款の概念に当てはまらない場合,つまり,多数の契約に用いるためではない場合でも,いわゆる符合契約ないし定型契約については,不当条項規制の対象としてよいのではないかとも思われます。このように,組入れと内容規制とで問題が若干ずれるところもあり,その意味でも両者を区別して議論すべきだと考えているところです。   最後に1点だけ更に付け加えますと,先ほど安永委員がおっしゃった労働契約の点については,少々分からないところがあります。労働契約関係について,従来から特に労働者の保護の観点から特別の規律があるのだとすると,それは,たとえ民法で約款に関する一般的な規定が置かれても民法の特則としての労働契約に関する規律と捉えれば問題はないのではないかと思います。労働契約のほかにも,契約領域における特別な配慮が必要だという場合に特則が置かれるということはあり得ると思います。ですから,労働契約についてだけ,一般的な除外規定をここに置く必要はないのではないかと思います。 ○佐成委員 三浦関係官がおっしゃった事例は,先ほど私が99%と言った,正にその残り1%でございまして,しかも,実際に,IT業界のいろいろな方に念のために「本当に組入要件を立法化して欲しいのですか」という質問を私もいろいろしているのですが,IT業界であってもむしろ反対意見のほうが圧倒的に強いと承知しております。ですから,私も一部に声高な意見があることはよく承知しておりますが,そこは御留意いただきたいなということで申しているのでございます。   それで,ちょっと補足なのですけれども,確かに経済界には組入要件だけの立法化なら容認できるのではないかいう意見もあるわけです。けれども,あるのは事実ですが,ただ,本当にそういう立法をしていいのかという点については,私自身は懸念を感じております。つまり,そのような立法をすれば,いずれにしても国民一般に対して誤ったメッセージを与えると思うからです。つまり,要するに今,鹿野幹事がおっしゃったように,ルールを変更する,変更しないという議論はあるのかもしれないのですけれども,いずれにしても組入要件は現状追認のための緩々のものになるのだとすれば,事業者側は現状と全く変わる必要性がありませんから,事業者側としてはこの面で特に何か努力するつもりはないということになります。   他方,消費者側といいますか,顧客側に対しては,「約款取引の安定化」の名の下に,クレーム封じをしてもいいというふうな,そういう誤ったメッセージになっているような気もします。つまり,組入要件だけの立法化を強く望むような事業者は,現に「組入要件を入れることによって,非常に取引が安定する」というふうなことを,立法化の実益としておっしゃるわけです。けれども,恐らく結構ITの業界はクレームが多いと思うんですね,いろいろ商品が届かないとか,買ったけれども,届かないとか,品物や品質が違うではないかとか,ほかにもいろいろなクレームがあるようでして,そういう場合の,約款を盾にしたクレーム封じに使われるのかなと強く感じます。ですから,いろいろな業者がいると思いますけれども,悪徳業者は一杯いますから,そういったような方が悪用して,クレーム封じを助長することにつながるのではないかということです。翻って,消費者側ももし,こういう民法の明文規定の存在を悪徳業者から言われたときには,特に力の弱い高齢者だとか,そういった方がこの民法の一般規定の存在を根拠に容易にだまくらかされてしまうと思うわけです。その意味で,そういうことも十分あり得るかなと思っておりますものですから,余り議論を切り分けて,最終仕上がりも軽率に切り分けて立法化してしまうというような提案の仕方は,消費者保護上の懸念も大きく,私としては個人的には賛同できないものですから,そこもあえて申し上げたいと思います。経済界の中でもそういう点は懸念があるということを御理解いただきたいと思います。 ○岡田委員 お隣で,現状でいいということですが,消費者契約に関していいますと,当初にお聞きしたように記憶しておりますが,一体全体,約款というものが何なのかすらはっきりしないのですね。先ほど業法における約款というものが出ましたけれども,そういうものもあれば,かなり行政がチェックをした,そういう約款もあれば,いわゆる標準約款といわれる業界が作って,役所も関係しているように思えるので役所に確認する私どもはタッチしていませんと言われるような約款もあれば,他社の約款をそっくり使っているものもあります。最近は公序良俗に反するというような,そういう約款もあるというような状況も有ります。   消費者側からすれば,定形のものは全部約款で拘束力があると解釈をしておりまして,相談員は専らその解釈に追われているといっても過言ではないように思います。ですから,是非,民法の中に約款とはどういうものかという定義は入れてもらいたいし,組入れに関しましても,もし,私の解釈が間違っていましたら松本先生に訂正していただきたいんですが,今よりは事業者から示された約款の中で,この部分は契約の内容だがこっちは合意しない限り拘束力がないものだと仕分けができるようになるのではないかと思えますので組入れにつきましては賛成です   それから,不当条項に関しては消費者契約法で約款に関して規定されましたが,これらの条項は判決等で活用されていると思います。ですが消費者契約法の不当条項ではまだ不十分でし,しかも規定されたものに関しても相談の現場では使えません。民法で約款に関して基本的な条項が分かりやすく規定されると,消費者契約法も更に充実するのではないかと思います。先ほど鹿野幹事がおっしゃいましたけれども,組入れと不当条項,それは別だということで,私自身も組入れに入らないような部分にも不当条項に該当するのは一杯あるのではないかと思いますので,これは消費者契約に限るかもしれませんけれども,是非,検討していただきたいと思います。 ○山本(敬)幹事 議論を少し整理したほうがいいのではないかという気がしきました。といいますのは,差し当たり,組入れが直接の問題点だとしましても,ここでは,組入要件に関わる問題,ないしは約款が契約の内容になるかどうかに関わる問題を民法に規定すべきかどうかという問題と,規定すべきだとして,その内容をどう定めるかという問題があると思います。組入要件を民法に明示することに反対される御意見ないしは消極的な御意見が幾つか出てはいますけれども,私の見たところ,問題にしておられるのは後者の問題ではないかと思います。つまり,どのような要件を定めるか,それによっては大きな問題が生じるということを指摘しておられるのだと思いますが,それが問題だから規定しないというのは,私は違うのではないかと思います。   あらかじめ一方当事者が用意した契約条項群があって,それが契約の内容になるかどうかは,必ずしも消費者契約に限らない民法全般に関わる基本的な事柄だと思います。実際に日々の契約でもそれが使われているのに,このような契約に関する最も重要なルールの一つが今後も民法に規定されないままになってよいのかというと,私はそれはやはり適当ではないと思います。21世紀に民法典を改正しようとするときには,このような基本的な事柄は必ず民法に中に規定すべきだと思います。このことをまず確認した上で,ではそれをどう定めるか,これはまだ議事に入っていない次の問題ですけれども,そのような問題として議論すべきではないかと思います。 ○鹿野幹事 言わんとしたことの一つは,今,山本敬三幹事がおっしゃったのですけれども,要するに,先ほど出された御懸念の多くの部分は,どういう形でこのルールを設けるかというところに係ってくるのではないかと思いました。それが第1点です。   それから,第2点ですが,先ほどの佐成委員の御発言の中で,組入要件が設けられるとすると,それが相手方からの苦情の口封じに使われるおそれすら出てくるのではないかという趣旨の御発言があったのですけれども,これには少々驚きました。今後,組入要件と不当条項規制についての議論の結果がどうなるかは未だ分かりませんが,いずれにしても,組入要件が設けられるということは,最低限その要件を充たさない限りおよそ契約の中に入らないということに過ぎず,その組入要件を充たしたことが条項の有効性の肯定に直接つながるわけではないことは,当然とされてきたのだと思います。もしかして,その点についての誤解が生じ得る危険があるとすれば,それを明確にする必要があると改めて感じた次第です。 ○鎌田部会長 大分長い議論になりましたので,簡潔にそれぞれ御意見をお出しください。 ○佐成委員 私は「口封じ」ではなくて「クレーム封じ」と言ったのですが,要するに,組入要件だけを立法化しても,事業者側としては,約款運用の改善のために余り努力しようとしないだろうし,現状を単に肯定してくれるだけの立法という触れ込みなわけだから,それで何の痛痒もないんだけれども,むしろこれを機に使われるとすれば,クレームを封じる方便として都合がよいということで,恐らく,悪徳業者がそういう利用の仕方を積極的にするのではないだろうかとか,そういうところを懸念していると申し上げただけで,別にそれ以上の深い意味はございません。 ○安永委員 鹿野幹事のほうから御指摘を頂きましたが,当方が申し上げた,約款の対象から労働契約を除外すべきであるという意見については,バックアップ会議においても,これとは異なる意見も寄せられておりますので,両論がありましたことも付言をさせていただいて,御検討をお願いしたいと思います。 ○三上委員 金融界も産業界の一部ですので,基本的に現状維持でもよいという点では佐成委員と同調するのですが,若干異なったトーンで組入要件に絞った議論をさせていただきますと,組入要件が存在することによって,典型的には鉄道の利用約款ですとか,第一読会で経産省から例示があった転々流通型のプリペイドカードの移転取得の場面のように,約款はあるけれども,必ずしも事前に見ない,見るとは限らない約款条項の拘束力を定める要件を民法で決める,それに加えて約款の変更,取り分け不利益変更が認められる範囲を法律で明らかにする,その代替措置として不意打ち条項のような規制が入る,これもしつこいようですが,第一読会で山本敬三幹事がおっしゃったように,不当条項とは別の観点の規制という意味での不意打ち条項等が入ってくる,これはある意味,現状よりも合理的なアイディアで,決して我々としても反対するものではなく,むしろ,普通預金約款等々,利用できそうな場面もあるから賛成できる場面があるのではないかと考えております。そういう意味で,飽くまで不当条項とは切り離して組入れ要件の議論をする限りにおいては,そういう意見もあるということを付け加えさせていただきます。 ○松本委員 佐成委員のクレーム封じに悪用されるから,組入要件は民法に規定しないほうがいいという御趣旨は,どうも理解できないというのが一つです。というのは,今でも約款はすごく悪用されているわけです。組入要件のない現状において,こういう約款だったんだからということが押し付けられているわけなので,組入要件を明らかにすることによって,契約に組み入れられずに落ちるものがはっきりと出てくるというメリットがまずあるわけです。その上で組み入れられたと評価されたものについては,内容規制が次のステップとして出てくるわけですから,議論が非常にクリアになって今より悪くなるということはないのではないかと思います。それが第1点。   それから,組入要件のときに議論すべき約款と,内容規制で議論すべき約款が別々のものだとは私には思えません。というのは,組入要件を議論しているのは,本来の契約条項の合意とは異なったプロセスで契約内容として取り入れられるというのが約款の特徴であるということだからです。交渉力の差とか知識の差とか,あるいは全然見せてくれないとか,約款には様々な特徴があると思うのですが,そういう事情があるからこそ,一定の組入要件を満たして,本来の契約の合意とは異なったプロセスで契約内容として取り込まれたものについては,もう一つ,別の形のスクリーニングが必要になるという方向につながっていくんだと思います。   ただし,世の中の約款には多種多様なものがあります。それについて全て一律の組入要件を課す,すなわち,こうすればどの約款についても全て組み入れられますというのは,私はできないと思います。約款のタイプに応じて組入要件は変わってくるのだろうと。ただし,最低限,これだけは満たしていないと組入れとは言えないということは定められると思います。少なくとも約款が入手可能であるということは,最低限,必要だろうと思います。次に,約款による取引だということを認識していることというのは,認識しないでやっている場合も一杯ありますから,個々人が認識していることというのは無理かと思います。この点はもう少し緩和する必要があるにしろ,意識のある人が約款を見ようと思えば,見られる状況になっているというのは最低限,必要だろうと思います。   それに加えて,鉄道の運送約款であれば,あと,どういう要件があればいいんかということで,主務官庁の認可も必要でしょうとか,さらに幾つか重なってくると思います。そういう主務官庁の認可を必要としないような約款であれば,約款の入手可能性プラス何が必要かということを別途,取引のタイプごとに考えていくことになるので,民法に規定するとしても最低の共通ミニマムしか規定できないだろうと思います。   それから,17ページの中間論点整理のところで,第一読会でもひな形と約款の関係の議論がありましたけれども,私はこれは生産的でない議論だと思います。ひな形と約款の区別が必要だとすれば,それは組入れとか内容規制の話ではありません。つまり,組み入れられたものには内容規制が必要になるわけだから,ひな形であっても組み入れられれば約款なんです。そうではなくて,事前差止めの対象としてひな形が差止めの対象になるのかならないのか。ひな形が約款だということであれば差止めの対象になるわけですけれども,約款ではなく,業界が提示しているモデルにすぎない,あるいは誰かが提示しているモデルだというだけならば,差止めの対象にはならないという点で,差止請求の規定を消費者契約法から民法の中に引っ越すということであれば,正に差止めの対象となる約款の定義として何が入るのかというのはすごく議論をしないと駄目でしょう。けれども,契約の中に取り入れられる予定のまとまった条項ということであれば,ある業者が事前に作っているものであれ,業界団体が作っているものであれ,ある本に書いてあるものであれ,あるいは文房具屋さんに行けば売っている賃貸借の書式であれ,それを使って契約をしようという限りは同じルールで処理をする,組入要件を満たしているか,内容的に不当でないかということで議論をすればいいのであって,ここでの定義というのは非常に広い定義,ここに提案されているような「(多数の契約に用いるために)あらかじめ定式化された契約条項の総体」から括弧を外したものでよろしいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 まず,沖野幹事,次に佐成委員。その上で2の定義に議論を移りたいと思いますので,よろしくお願いします。 ○沖野幹事 民法に約款の規定を置くかという点と,それから,組入れなり,採用の要件あるいは採用の問題と内容の問題というのを一旦,切り分けて検討するかという点に関して申し上げたいと思います。   一つ目に関しましては,1において提起されている問題の中には,ここでの問題をそもそも約款として捉えるということについて,どう考えるかという問いが含まれています。具体的には15ページの補足説明の3の半ば,3段落目の「このような観点からは」という箇所で,果たして約款ということを定義して,組入要件についての規定を設けるという方法が適切なのか,それとも,個別交渉を経ていない条項が契約内容を形成するかというような形で問題とする方が適切なのか,そもそも約款として問題を捉えるということが適切かという問題提起がされておりますので,それについても一定の意見を述べることが必要ではないかと思います。   私自身は個別の条項ごとに考えていくという考え方は十分成り立つと思いますし,取り分け,採用要件を全く満たさなかったときの問題ですとか,あるいは問題自体が採用と内容とが実際にはセットになって出てくる,実際に恐らく出てくるのは個別の条項が問題になって,これが内容になっているかという形でだと考えられ,そうだとすると,そういう捉え方というのは十分あり得るし,現実の紛争に対してもそれなりに有用な考え方だろうとは思います。   しかし,取り分け採用と言われるところですけれども,既に明らかになっておりますように,現実の取引が約款という形でかなりの取引が行われている点があります。個別条項というよりは,言ってみれば契約条件の総体としてそれを契約内容とするかという形で取り扱われている,あるいは内容とすることを前提とした取引ということがかなりの重みを持っているということからしますと,約款という形で問題を捉え,規律を設けるということが有用ではないかと思います。   それが一つであって,そういう形で問題を捉え,民法に規定すべきかに関しましては,既に鹿野幹事や山本敬三幹事がおっしゃったとおりだと思っております。  採用要件と内容の問題について切り分けるかどうか,あるいはそれとの関係で対象となる約款の概念というのを変わり得るものとして捉えるのか,統一的に捉えるのかという点でありますけれども,確かに佐成委員やあるいは高須幹事がおっしゃったように,最終的には合理的な内容のみの条項が契約内容を構成するということだといえば,それはそのとおりなんだろうと思います。   採用を経て内容規制を経ると,結局,内容のところで不合理であって効力はないとされれば,最終的には契約内容を構成しないということではないかと言えますので,そういう意味では,最終的にそういう形で出ていくという話が一つありますけれども,それとは別に採用のところで問われているのは,まず,基本的には視点の違いというものがあり,内容の不合理さ以前の問題として,合意と言えるかという点からもスクリーニングというのが一つ立つということだと思います。また他方で,今度は内容自体について着目したスクリーニングについては採用のところとは,対象ですとか,出てくる問題の設定の仕方が違ってくるということはあり得ますので,それぞれの問題領域で一応は別に考えていくということは考えられますし,かつ,今度,そこが混ざっていくと非常に議論が錯綜しますので,議論の在り方としてはそれを分けて考えていくということが有用な進め方であろうと思います。   ただし,そのことは最終的な仕上がりと言われた点で,合体したような形になるのかならないのかという規律の在り方についての,仕上がりと言われるものがどうかという点は一方でありますし,さらにもう一つ,それぞれ一応分けたとしましても,全く切り離して考えるということになるのかという点についても留意が必要だろうと思います。より典型的なのは内容規制のほうの問題でありまして,不当条項規制の規律をどのような形にするかというのは,これから考えていくところですけれども,消費者契約法の10条的なものを考えたときに,そこで言われる信義則,1条2項の原則に照らすという中で,どのくらい認識していたかとか,締結過程における諸事情というものが全く排除されて内容だけで検討されるのかというと,そうでない余地がありますので,内容面において採用ですとか締結ですとか,そういったところが入ってくる余地がおよそ排除されて純粋に内容だけということにはならないのだろうと思います。   一方,採用については必ずしもそうではなく,合意と言えるためには何が必要かということですけれども,しかしながら,仮にですが,例えば条項のタイプによっては取り分け影響が大きいとか,不利益が大きいというようなものについては例えば個別の説明がないとそもそも内容には入ってこないんだというような規律の在り方も考えられるわけですので,そのような考え方を採るとしますと,内容面での必ずしも不当性ではないかもしれませんが,影響が大きくて不利益が大きいというようなものであれば,重要な事項として個別の説明がないと,そもそも内容に取り入れられないというような話も考えられるとすると,採用の規律の中でおよそ純粋に内容面は全く気にせず,規律が成り立つというのは,自明のことではないのだろうと思います。   今のは可能性として申し上げたもので,そういう規律を採るべきだと言っているわけではないんですけれども,しかし,そのことを念頭に置いて,なお,両者を一応は分けて論じていくというのが不必要な議論の混乱というのを招かないという意味で,必要なことではないか,有益なことではないかと思います。 ○佐成委員 直前の沖野幹事の御指摘された点についてまず発言したいと思います。というのは,先ほど手を挙げましたのは別の松本委員の御指摘に対するものでございましたが,幾つか,今,ちょうど出たところなのでまずはその点について申し上げたいと思います。要するに15ページの補足説明3というところで,「契約書の条項について相手方が十分認識していない場合に,その条項が相手方を拘束するかどうかという問題は,約款が用いられた場合にのみ生ずるものではない」という問題提起をされているのは,正にその問題の一般性の指摘ですよね。ですから,非常に一般的な問題として民法に規定を置くという意義はあるのかもしれないという点でございます。   ただ,今,沖野幹事もおっしゃっていたとおり,必ずしもアプローチは一つではないということです。確かに沖野幹事は最終的には約款アプローチというのを肯定されておられますけれども,正にそういうような抽象的,一般的な問題が問われているということであれば,端的に,正に約款アプローチという,約款という枠組みを介さずに,個々の契約条項そのものについてアプローチしていく,即ち契約条項アプローチと言ったほうがいいのかもしれませんけれども,それもかなり有力なアプローチなのではないかなという気がいたしました。むしろ,そうしたほうがかなり民法の規定に相応しい一般性が出てまいりまして,共通理解が得られやすいと思います。実際,約款というと,私も含めて,皆さんそれぞれが認識しているイメージも相当違うのではないかと感じております。   企業法務担当者といいますか,ひろく企業実務家にしろ,あるいは学者の皆さん,それぞれイメージされている取引領域なりが,それぞれ違っておられるので,そういったような約款ということに伴ういろいろなイメージというものが議論を混乱させる要因にもなりかねませんので,むしろ,契約条項アプローチというような形で,抽象的・一般的にアプローチしたほうがよいのではないかとも思うわけです。実際にここに例としてはヨーロッパ契約法原則が引用されていて,これがどうかは,まだ十分に検討したことがないので,現時点では日本法への導入の適切性については,はっきりとは分かりませんけれども,これも一つのかなり一般性のある規律でありますし,ドイツ流の約款をベースとした規律というのではなくて,むしろこれの方がもしかすると世界的にもスタンダードな潮流と言えるのかも知れません。いずれにしても,そこまで言えるかどうかは分かりませんけれども,どっちの潮流がいいのか分からないんですけれども,まずは世界の潮流をもし見るのであれば,契約条項アプローチが多いのか,あるいは約款アプローチが多いのかというところも見極めて,その上で,全く異なる二つのアプローチが世界の中で潮流として存在している以上,そうした点をも踏まえて十分慎重に議論を進めたほうがいいのではないかと考えます。   別に私が冒頭に申し上げております反対というのは,経済界の立場ではありますけれども,ここで抽象的・一般的に問題提起されている問題それ自体が存在しないとか,そういうことを申し上げているつもりは全くございません。ただ,アプローチの仕方が約款アプローチというのを頭から既定の路線として考える必要性はないのではないか,この問題の一般性・抽象性から考えるとどうなのか,むしろ,これだけ一般的,抽象的な問題について議論をされているわけですから,それに相応しいアプローチは何も約款アプローチだけに限られないと思います。要するに「読みもしないし,理解もできないような契約条項が当事者を拘束する」ということについて,「そういうことは,一体,なぜ認められるのだろうか,どうして認められるのだろうか,どんな場合に認められるのだろうか」ということが一般的・抽象的に問題となっているわけです。それは確かに非常に重要な問題だと思います。だから,その部分をアプローチするのであれば,多彩なイメージにまみれ過ぎた約款という何かワンステップ,ワンクッションを置かないほうがいいのではないかという気も,今の時点ではしたものですから発言させていただきました。   さて,先ほど手を挙げさせていただいたのは,松本委員からの御指摘についてでございまして,松本委員のおっしゃっていることと,私の言っていることとは基本的には同じ発想ではないかと見ていたんです。要するに現状が変わらないという事務局の御説明があったものですから,要するに現状がそういうような使われ方をしているわけですから,わざわざそれに民法の明文規定というお墨付きを与えて,更に悪弊を助長してしまうようなことにならないだろうかという,そういう懸念を申し上げたということでございます。ですから,現状は正に松本委員のおっしゃるとおりだからこそ,私もそういう意味での懸念を申し上げた次第でございます, ○筒井幹事 本日,御欠席の佐藤関係官から,「約款の組入要件に関する規定の要否」の部分について発言メモが提出されていますので読み上げます。   約款が契約当事者を拘束する法的根拠を明確にすることは,金融取引を含め,取引社会一般で広く行われている約款を用いた取引の法的安定性を高めることにつながるものであり,現時点でその方向性には反対するものではありませんが,既に現在行われている約款を用いた取引実務への影響にも配慮した適切な規律が設けられるように,具体的な要件等を検討いただければと存じます。 ○中井委員 「約款」の1の「約款の組入要件に関する規定の要否」について弁護士会の多数は,山本敬三幹事がおっしゃっていただいた考え方に,ほぼ一致して賛成です。 ○鎌田部会長 引き続き,「2 約款の定義」についての御意見をお伺いして,その後で休憩にします。 ○山川幹事 先ほどの1の点とも関係があるのですけれども,定義を考えるに当たっては約款の必要性といった観点を考える必要がないかということを考えました。つまり,これまでの議論は約款を使用することが現代社会では不可欠であるという前提で,それをどう説明するかをお話になられているかと思いますけれども,労働法の学界では,これまで出てきましたように労働契約法の7条や10条など,就業規則が契約内容になる旨を定めている規定が特別法として存在するということに対してかなり批判的な見解もあります。つまり,合意原則と言われていますが,契約内容についての認識と同意がそもそも必要であるから,そのような方向で立法政策を展開すべきであるという意見がございます。   それは労働法学の問題なんですけれども,ここでも例えば,本来,個別交渉とか個別合意を得ることが可能であるのに,約款を使う場合,組入要件を満たすことによって,拘束力を発生させるというような方向に行為規範として動くという可能性が,労働関係だけかもしれませんが,ないではない。現状よりも本来の合意原則を使わない方向にいく可能性もなくはないかなと。そうすると,定義面でも条文にそのまま書くわけにはいかないかもしれませんが,約款の不可欠性とか,必要性というものが反映されたような定義が必要なのではないかと思います。   恐らく安永委員が先ほどおっしゃられた,労働契約の内容を定めるものは除外するということを明記するという御意見も同じような観点を含んでいるのではないかと思います。私は,メモとして御提出していただいた御意見の中では,例えば労働契約法上は就業規則はかなり広く解されるので,労基法上の作成義務がない場合でも,特別法としての労働契約法上は就業規則であるという解釈が可能であると思っていますけれども,それ以外に,例えば個別的な契約書のそれこそひな形のようなものに就業規則の定めがない労働条件を書きまして,それを周知させて,こういうものを使って契約を結びますけれどもいいですねと言って,労働者側は読まないけれどもよいと言ったというような場合については,それが拘束力をもつのかという問題がありそうです。   その場合,労働法学会の議論ですと,そういう場合は,先ほど沖野幹事から若干似たような発想が可能性としては示されたかもしれませんが,個別的にもっときちんと説明した上で契約の締結に至るべきであるというような議論が労働法学の中ではありまして,本来,個別交渉で契約を締結すべきシチュエーションについて組入要件でよいとすべきかという問題があるように思います。そのような観点は定義の問題を考えるに当たっても,反映させられるのではないかと考えております。   1点,安永委員への御質問なんですけれども,メモの1枚目の一番下に書いてあります「「就業規則」に該当しないが使用者が労働契約の内容を定めて作成した規則類や文書は,労働者との合意なく労働契約の内容となることはありません」と,これは,規則ということではなくても,例えばパートタイマーの労働契約書のひな形を作成して,これはどこかに行けば見られるよというような周知をした上で,組入要件を満たしたならば契約の内容になる,そういうことに対する懸念も含まれているのでしょうか。就業規則のお話が中心になっているみたいなんですけれども,その辺り,もし御見解があればお伺いしたいと思います。あと1点だけ,私は労働協約に関しては,団体交渉の結果,労働者の代表が交渉して決めるものですから,解釈上,約款には当たらないと解してよいのではないかと思っております。 ○山下委員 1と2のところで,民法でなぜこういう約款のような現象を規律するかということの理論的な説明を工夫されているかと思うのですが,そうしますと,契約内容があらかじめ一方的に定められると,その定義を通じて消費者契約にも事業者間契約にも広く及んでくるというような仕組みになってくると思うのですけれども,ただ,そうは言っても約款の取引といっても,正に消費者契約から巨大な事業者間の契約まで千差万別あるわけで,そこの多様性を反映できないような民法の規律になってはいけないと思うので,そこで,問題は先ほどから議論になっている組入要件にしろ,不当条項の規制にしろ,そこでいかに柔軟な適用ができるルールを作るか。もし,それが余りできない,例えばドイツの約款規制というのはかなりそれに近いと思いますが,ああいうハードな規律になってくると,約款に該当するかどうかでえらくがらりと変わってくるのですけれども,そういう硬直的なものになってくるのは望ましくないと思いますが,そこら辺は組入要件と不当条項規制のところを具体的に検討する過程で考えることになると思いますが,その際に約款の定義もまた併せて考えるということになるのではないかと思います。したがって,この時点で余り定義の細かいことにこだわっても,いかがなものかなという気がしております。 ○鎌田部会長 安永委員への御質問がありましたが,今はよろしいですか。 ○安永委員 山川幹事から御指摘いただいた点については,そのような懸念も,持っております。 ○筒井幹事 金融庁の佐藤関係官から発言メモが提出されておりますので,読み上げて紹介します。約款の定義に関する御意見です。   組入要件の適用対象となる約款は,それを構成する個別の条項・付随的な契約内容について,相手方当事者の意思が希薄な状況下で契約内容に組み入れられることが許容されるものとも理解されます。とすれば,このような組入れが許容される根拠を明確にし,当該根拠に照らして相当な範囲となるよう,約款の定義を定めるべきではないかと思料します。その上で,その根拠には多数の者との間における集団的な法律関係を統一的に,かつ円滑・迅速・低コストで形成することができるという約款の有用性とその必要性が含まれると考えられます。とすれば,約款の定義を定めるに当たっては,「多数の契約に用いるために」という要件は必要となるという考え方もあると思料します。 ○三上委員 定義に関しましては,佐藤関係官の御意見の繰り返しになりますけれども,私が先ほど積極的な意味で捉えた約款の組入要件,つまり,余り見てもいない,読んでもいないけれども,それに従うという背景には,同じような条件で多数の相手方当事者方がそれに従って,清々と取引をしているというところに正当性の一つがあると思いますので,多数とか反復という要件は必要,逆にいきますと,たまたま近くにあった類似の契約書をサンプルに使って個別の契約について一方の当事者が条件を契約書式として示して,それでイエスかノーかを迫ったからといって,それは約款とは言われないのではないかと思います。   それから,例えば銀行取引約定書は皆さん,約款の典型のように思われているかもしれませんが,あれは双方がサインする書面の下に全条項が示されておりますので,今回の組入要件には関係ない契約と言えます。その内容についての説明もありますし,それについての判例とか解釈もそれなりに示されている,そういうものですから,しかも,変更があるときには一方的に変更するのではなくて,個別に変更同意書を取るものですから,別に約款として組み入れてもらうことによって得るメリットもないものです。しかし,多くの方々が銀行取引約定書は約款の典型だと思っているとすれば,それは一方的当事者が定型のフォームを示して,イエスかノーかを迫ることがいいか悪いか,言い換えれば交渉力や情報力の格差を是正すべきかどうかという論点で,これは約款組入れ要件の論点とは違う論点だということを冒頭から繰り返し指摘しているわけです。   それでも,別に組入要件のために広く約款というものを捉える,つまり,それに入ったとしても別に銀行取引約定書は説明もあるし,個別の説明もしていれば認識の不一致もないということで,組入れ要件上は「約款」に含まれても害はない,という認識が正しければ,入口の段階ではそういう広目の定義を設けるということもありかと考えております。しつこく強調しますが,これは飽くまで組入対象としての約款と不当条項規制の対象としての約款は別のものであるという前提の議論です。 ○大島委員 約款の定義について,部会資料に記載されている「(多数の契約に用いるために)あらかじめ定式化された契約条項の総体」という提案には,問題があると感じています。例えば契約書のひな形のように,交渉によって内容の変更が予定されているものは,約款とすべきではないと考えております。仮に定義を置くのであれば補足説明にあるとおり,交渉を通じて修正することが予定されていないものという記述を追加し,ひな形は約款から除外すべきと考えております。仮に契約書のひな形を約款に含めることになった場合,書式集のようなものまでが約款に含まれることになり,企業の契約実務が繁雑になるおそれがございます。また,約款を使った取引においては,現在,必ずしもその内容について相手方の理解は必要とされておりません。そのため,もしも約款の定義が拡大された場合,従来,ひな形を基に交渉を行い,契約締結を進めてきた過程が形骸化するなど,結果として中小企業の交渉機会を奪うことになるのではないかと懸念しております。 ○佐成委員 18ページですけれども,補足説明の2のところにも書かれてありますが,「多数の契約に用いるために」と「多数」ということを要素とする形で説明がなされておりますが,まず,申し上げたいのは先ほども言ったとおり,ここで本当に問われている問題は抽象的,一般的な「読みもせず,理解もしない契約条項の拘束力の正当化」という一般問題であるということです。つまり,それを前提に仮に約款アプローチを採るということだとしますと,その多数性という要素がメルクマールとなるのは,約款という問題設定の性格上,必然的にそうなるのではないかと思います。ただ,要するにそういう一人対多数といいますか,一対多の関係性といいますか,そういったものは当然,単純にここで問われている一般問題と直接に関係するのか,直結するのかなというのは若干,疑問はあります。この一般問題が生ずる典型的な場合は恐らく約款の場合だとは思いますが,実際にはここで正に問われている一般的・抽象的な問題は,約款の場合に限られるわけではないということは既にいろいろ出ていると思います。   私が申し上げたいのは,本来ここで問われている,民法の規定として相応しい一般的・抽象的な問題と,ここに現れた「一対多の関係性」というのは恐らくそれぞれ別々に考慮すべき異なる要素ではないかということです。というのは,この問題は,この後の定義の問題ではなくて,むしろ中身の問題そのものに関わると思うからです。つまり,もし,一対多という関係性を考えるのであれば,そこには考慮すべき,さらに別の要素があるのではないかということです。読みもせず,理解もしないような多数を相手にするということですから,一人の人に分かればいいというものではなくて,多数者にも等しく分かるという意味では,相当強い明確性だとか,分かりやすさだとかが必要なことはもちろんですし,そのほかにも適用の公平さだとか,個々の条項の簡潔さとか,およそ多数者の存在をとりわけ意識した考慮というのが,組入要件の中に必要になる可能性が出てまいるのではないかなという気がしております。   そうでないと,多数者に拘束力を及ぼす本当の意味での正当化根拠と言えるのかというのが疑問に感じられるところがあります。つまり,平等に適用しなくていいのかとか,当然,そういう問題も関わってきて,そうした点も考慮して初めて,そういう約款の多数者に対する適用可能性があるとかの正当化ができるのではないか,要するに今,申し上げたような幾つかの相手方が多数者であること,一対多という関係があることによって生じる,様々な考慮要素が,組入要件に反映されなければいけないのではないかということになると思います。   ただ,そうすると翻って考えると,ここで問われているのはもっと一般的,抽象的な問題であったはずなのに,その問題を端的に問うだけでは足らず,約款ということをワンクッション入れることによって,むしろそうした一対多の関係性の問題も議論し解決しなくてはいけないのではないかと思います。もちろん,議論すること自体はやぶさかではございませんし,それらの一対多の関係性をめぐる考慮要素を約款の組入要件の中に一つ一つ織り込んで要件化していくと考えるのは結構かと思うのです。けれども,そこら辺を全く考慮しないでかなり抽象的な,ここで書かれているような形で,この後の中身になりますけれども,中身が議論されてしまうのはどうかなという感想を持ったということです。ですから,改めて申しますと,契約条項アプローチのほうがこの問題を解決するにはよろしいのではないかという印象を持った次第です。 ○山野目幹事 休憩後に予定されております組入要件の問題を議論して,それとのにらみで考えなければいけない部分が大きいということは,山下委員から御注意があったとおりであると考えますから,この段階で約款の定義に関して有意義な議論ができる範囲には限度があるかもしれませんけれども,約款の定義の問題は分科会論点候補になっておりませんから,今後の事務当局の御検討に参考にしていただくことがあればという趣旨で,気付いたことのみ申し上げさせていただきます。   部会資料16ページの一番下のところに,ひとまずの御提案としての約款の定義のプランをお示しいただいているところです。順次に申し上げますと,最初の「(多数の契約に用いるために)」と括弧書きを付して御提示いただいている要件に関しては,組入要件との関係で定義をするという課題を直視する限りは,論理的には要らないものであろうと感じます。ただし,そうは申しましても社会的に約款と言われているもののイメージを伝えるという観点から,こういうふうな要素を何らか書き記したほうがよいという考慮があるかもしれないということは,三上委員や佐藤関係官のお話を伺っていて,そのことも感ずる次第です。   この多数性という問題について,それを表現する文言を仮に置くとしても,余り積極的な重い要件としての意味が与えられないような御工夫を引き続きしていっていただくことが相当であると考えられ,他の事案に用いられることが必ずしも排除されていないといったような,少し軽目の意味で受け取られるような要件として,今後,御提案を考えていっていただければとよろしいと感じます。   次に,「定式化された」という表現は当面,論議をこれで進めることでよいと考えますが,法制的にはもう少し突き詰めた表現にする必要があるであろうと,恐らく事務当局も考えておられると思いますが,それは引き続き検討が要ることであろうと考えます。   それから,「契約条項の総体」の「総体」という言葉は,何か,ものすごくたくさんの条項が含まれていることが必要であるようなイメージを与えかねない部分がございます。これも当面の議論は「契約条項の総体」という言葉を使って進めていくのでよろしいと考えますが,別に膨大な条項を含んでいないと約款ではないということにはならないであろうということは,趣旨として確認を申し上げたいと思います。   最後でございますけれども,この定義に加えて,個別交渉の可能性が排除されているといったような要件を追加して付記することは,疑義のない要件の形で追加できるかどうかということについて疑問があることに加え,組入要件との関係では必ずしも必要がない要件であろうと考えますから,そのようなここに書かれているものへの更なるそのような要素の追加ということについては,慎重にお考えいただきたいと感じます。 ○道垣内幹事 佐成委員から,個別条項の具体的内容の適否というかたちで考えるべきであるという意見が出されまして,もっともな点もあると思うんですが,それは,今回,議論している規律の適用の範囲を拡大する方向の御意見だろうと思います。つまり,ヨーロッパ契約法原則の第2の104条というのを挙げられましたが,それは一対一の契約であっても,交渉対象とならず,相手方が気が付いていないような条項については,きちんと教えてあげなさいということですので,かなり事業者には負担になる内容であり,厳しすぎるのではないか,という気もします。   そうなりますと,休憩の後に論じることになっている,いわゆる組入要件が満たされていれば,個別的な同意がなくても契約内容とすることが正当化されるようなものは,何なのかという観点が重要になってくる。それは,正に山川幹事や佐藤関係官が御指摘になったところです。その結論として私が何かを言うということではありませんが,前回も申したとおり,約款の組入要件は,通常の契約における合意の成立よりも緩和されているというのが私の理解であり,そうなると,緩和にふさわしいものは何なのかという観点から検討していく必要があるのではないかと思います。   2番目ですが,「組入要件」という言葉が若干,誤解を招きやすい言葉ではないかと三上委員の御発言を伺っていて感じました。三上委員は銀行取引約定書は双方が署名しているから組入れの話ではないと言ったわけですが,そんなはずはないので,双方が署名することになっていても,ここには当たります。そうすると,当該書面にサインすれば約款にはならないと,約款とは別紙のことを言っているんだという誤解を招かないような定義が必要ではないかと思います。 ○深山幹事 組入要件のところで意見を言うべきか,定義のところで言うべきか,迷っていたんですが,というのは,補足説明の18ページに指摘されているように,「交渉による修正が予定されていないもの」というところを定義の中で盛り込むべきなのか,組入要件の一つの要件という形で捉えるべきなのか,ずっと悩んでいたんです。いずれにしても,ここがかなりこの議論の本質的な部分ではないかという認識があって,いずれかでは盛り込むべきだという認識を持っております。   といいますのも,今,道垣内先生も御指摘されたように一般的な契約の成立のルールと比べると,緩和されている要件で契約内容が構成される場面をここで議論しようとしているし,社会のニーズもそういうものがあって現に使われていることを前提に,それについての民法のルールを定めようという議論であると私は理解しております。通常,約款と言われているものの必要性自体は,ある程度共通の認識が,典型的なものについてはあると思うんですが,そういうものが,必ずしも明確に交渉したり認識しなくても,契約内容になるということとの兼ね合いで考えると,交渉による修正が予定されているものについては,力関係でそれが押し付けられるかどうかはさておき,それは一般ルールの中で処理をすればいいし,あるいは別の法理で,押し付けられたことについての手当をすればいいわけです。およそお互いに一々個別の中身を議論したり,確認しなくてもルールになるというものにその根拠を与える議論だとすれば,お互いに交渉による修正を予定していないまま,契約のルールにしてよいとされるものを取りあえず約款の定義の中に入れた上で,しかし,それを全て組み込むわけではなくて,組み入れるための要件というのは更に必要になると思います。定義の中に組み込んでしまうのは議論としては分かりやすいし,結果としていわゆるひな形だとか,書式集との区別というのも明確になります。   そういう意味ではいろいろ考えた末,定義の中に「交渉による修正が予定されていないもの」という趣旨を盛り込むほうが分かりやすいルールになるのではないかなと思います。ついでに一言だけ言えば,そういう定義をすれば,当然,銀行取引約定書も約款に入ってくると私は考えております。 ○岡委員 弁護士会の意見は分かれております。ひな形の取扱いで考えが分かれていると思います。大きく言うと四つあると思います。   一つ目は一対多数,交渉の余地がない,イエスかノーか,このタイプを規律すべきなのは明らかなので,それに絞ればいいではないか,今の深山さんがそれに近いのかもしれませんが,そういう意見が半数程度ございました。ひな形については約款の語感にも入らないし,組入要件もほとんど意味はないし,不意打ち条項も規定される理由はないだろうし,不当条項についても個別に検討すればいいので,約款の中に入れる必要はない,誤解を招くので最初から最後まで外すべきだ,こういう意見だろうと思います。   それから,二つ目の意見は部会資料ぐらいで大丈夫ではないかというものです。先ほど,三上さんがおっしゃった短いひな形が約款に入っても組入要件は楽々とクリアできる,不意打ち条項もクリアできる,不当条項も恐らく問題ないであろうから,無害なので入れてもいいのではないか,こういう意見もございました。   三番目に,やはり,違うのではないのと。ドイツ民法を見ると個別に交渉されれば約款から外れるという条文がありまして,その中身を弁護士会は検討しているわけではないんですが,ひな形的なものは一般的な約款の定義には入るけれども,交渉の過程でそれなりに交渉しておれば約款から外れて,組入要件も不意打ち条項も不当条項もなくなると。第一の意見とかなり近いかもしれませんが,そのようなことだったらいいのではないかという意見もございました。   それから,最後に山野目先生とか山本敬三先生とか,希薄な合意を守り,適正化するためのものが約款理論だ,世の中の流れだとおっしゃるのであれば,それは佐成さんが言うようなヨーロッパ契約法原則のようなきちんとした合意がない場合にはこういうルールで対処しますと,それが論理的なのではないでしょうか。希薄な合意を規律するために,あらかじめ定式化された契約と言われても,随分,乖離があると,そのような意見が弁護士会には多うございました。最終的に契約条項アプローチがいいかどうかは,先ほどの道垣内先生の意見を聞くと何が何でもということはないんですが,ただ,純理論的に学者の先生がおっしゃる希薄化された合意の規律と,あらかじめ定式化された契約総体という定義,この2つが実務家から見るとどうも結び付かないというのが,そこはかなり共通した意見でございました。   以上,四つの意見があるということです。 ○佐成委員 休憩前に発言ばかりしてたいへん申し訳ないんですが,先ほど道垣内幹事のおっしゃっていた契約条項アプローチは事業者にとって不都合ではないかという御指摘について申し上げます。もちろん,もしかするとそういう面はあるのかも知れないとは思うのですけれども,そもそも約款規制そのもの自体に反対している立場から議論しているものですから,どちらであったとしても所詮は大同小異とも感じられるわけで,中立的に今は,意見を述べているということでございます。元々,契約条項アプローチについて,予め内部的な了解を頂いて発言しているわけではもちろんございません。ただ,せっかく一般的,抽象的な議論で,せっかく,いいものを作ろうということだとすれば,そういう姿勢それ自体は私も一致しているところなので,この際もし,契約条項アプローチで本当にいいものができるのであれば,狭い了見で判断せずに,その方向性を採るのはむしろ当然のことだと思っています。そういう事業者にとっての不都合は,だから,もし仮に,そういうことが本当に言えるのであれば,どれくらい影響を及ぼすかというのはまたあとで内部で改めて議論しなければいけないとは思いますけれども,契約条項アプローチの可能性自体は経済界としても十分考慮に値するのではないかということを申し上げたということで,御理解いただきたいと思います。   それと,もう一つ,先ほど今回の約款の現状追認的な規律というのは,意思の合致という契約原則,そういう一般的な原則を緩和したかどうかという議論については,私も緩和しているという要素が非常に強いように印象を受けています。ですから,組入要件もかなりそこを補うような手当てをするべきであって,実務家というか,事業者サイドの人間がこういうことを言うのは非常に矛盾した感じもありますけれども,恐らく相当きちっと手当てしたものを作らないと,自己決定の重要性をないがしろにするような,野放図なことになってしまって駄目なのではないかという感じは抱いております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに。 ○三上委員 先ほど深山幹事から約款の組入れの対象となる要件として,交渉による修正が予定されている場合と,それが予定されていない,個別の条項内容を見ないで契約する場合が並んで出てきましたけれども,この二つはレベルが違うのではないかと思います。個別の内容を見てない場合であっても,約款には従ってもらわなければならないという場面に,約款の組入れとしての効果があるということを私は申し上げているわけで,個別の修正交渉を予定しないといっても,当該内容で契約をのむかのまないかという交渉はするわけですね。銀行取引約定書も別に100%全部,同じ内容でやっているわけではありません。相手方の立場が強いときには修正に応じることもあります。一方で,普通預金約款のように大量に同種取引があると,個々に特約を設けていてはとても事務管理ができないという意味で,個別の修正を認めない,約款通りで不満なら契約しないという取引もあります。そういったものを同列に並べて組入れ要件の議論をすると,何を目的に組入要件とか約款の定義を決めるのかという最初に危惧した問題に戻るような気がします。   少なくとも一方的に相手方が用意した契約条項で,その内容に不満があっても,それが脅迫になるとか,優越的地位の濫用になるとか,民法とは別の問題になるというような場合を除けば,当該要件で内容を理解して同意すれば,組み入れる,組み入れない云々以前に約款ではない,普通の契約の成立の問題だろうと私は思います。だから,私が最初に約款の組入れのところの有効性として挙げた場面には,銀行取引約定書のような例は余り当てはまらないのだろうと。ただ,組入れの要件として定義された約款がそのまま不当条項規制に当てはまることはないという前提であれば,特段銀行取引約定書がそこに含まれていても不利益はないと申し上げた次第でして,この部分は明確に意識して議論していただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 それでは,山本敬三幹事の御発言を受けて,そこで休憩とさせていただきます。 ○山本(敬)幹事 休憩後に発言しようかと思っていたのですけれども,このような流れですので,ここで発言させていただければと思います。ひな形の問題についてですけれども,最初のほうで既に松本委員が的確に御指摘されておられましたように,ひな形そのものが約款に当たるかということを議論しても,それ自体は余り意味がないのではないかと思います。   約款に関する,そして,約款の組入れに関する規制を特に定める必要があるというのはなぜかというと,基本的には,個々の内容について合意をしたと言えれば,契約はその内容で成立することになるけれども,個々の内容について合意したと言えない場合がある。約款による場合がその典型例でして,契約条項群があらかじめ作成されていて,当事者がその内容について個々的に合意したとは言えない。その契約条項群を契約の内容にするということを包括的に合意しただけである場合に,約款の組入規制が認められれば,その組入れに関する要件を満たしたときに,そのような条項群も契約内容になるということになるだけだと思います。   ひな形について,個別の交渉が予定されている場合で,実際に交渉され,個々の条項について合意がされたのであれば,それは個別の合意がされたのであって,契約はそれで成立したというだけである。しかし,実際にそのようなことが行われたとは言えない。結局,ひな形をそのまま契約の内容に取り込むことが合意されたとしか言えないときには,組入規制の力を借りなければ,そして,その要件を満たさなければ,契約の内容に取り込まれたとは言えないということになるだけではないかと思います。   そのような契約がどのようにして行われたかということを抜きに,ひな形そのものが約款に当てはまるかどうかを議論するのは,この関係では大きな意味はないのではないかと思います。松本委員が言われましたように,差止規制を定めるかどうか,あるいはひょっとすると内容規制の対象になるかならないかということが多少関係するかもしれませんが,そのような問題として整理をして議論すべきではないかと思います。 ○鎌田部会長 中途半端な時間ではありますけれども,ここで休憩にさせていただきます。終了時間は6時を過ぎることになるかと思いますけれども,よろしくお願いします。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開させていただきます。   「3 約款の組入要件の内容」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「3 約款の組入要件の内容」では,約款の組入要件の具体的な内容を取り上げています。   本文(1)と(2)では,約款の組入要件の原則的な内容について二つの観点から定めることを提案しています。まず,本文(1)では,近年の支配的な見解に従い,個々の条項についての合意はともかく,全体としての約款を契約内容にする旨の合意が必要であるとすることを提案しています。次に,本文(2)では約款使用者の相手方が約款に含まれる個々の条項の内容を知ろうとした場合には,知ることができる機会を保障しなければならないとすることを提案しています。どのような方法でこの機会を保障するかについては,相手方が特段の行動を取らなくても知ることができるという方法から,内容を知るために相手方が積極的な行動を取る必要がある方法まで様々な程度が考えられますが,本文では,その取引の性質などに照らして相手方に合理的に期待できる行動を相手方が取れば,約款の条項を知ることができる状態にすることが必要であるという考えを試みに示しています。   本文(3)では,本文(1)及び(2)で必要とされた原則的な要件を満たすとしても,相手方が通常は予期できないような規定が設けられていた場合には,その条項は契約内容にならないとする考え方を採用するかどうかという問題を取り上げています。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いしたいと思いますが,(1)及び(2)の第1パラグラフまではある意味で前提的な内容で,(2)の第2パラグラフ及び(3)については,なお様々な考え方があり得るということを前提とした提案となっておりますので,まず(1)及び(2)の第1パラグラフについて御意見があればお伺いをしておきたいと思います。 ○松岡委員 基本的には,ここに書かれている考え方に賛成ですけれども,1点,申し上げたいことがあります。23ページ辺りのところに「法令に別段の定めがある場合を除き」という文言を付け加えるかどうか,それから,慣習については書かなくてもいいとの御提案ですが,これは両方とも書いたほうがいいのではないかと感じております。   業法に問題の取引は約款によると定めてあれば,特にそれほど厳しい組入要件を問題にしなくてもいいのではないでしょう。公共交通機関その他の例も,約款によるしかないと思われる契約については同様です。今,問題になっているのは約款による契約かどうかすら分からないまま拘束されることが一番問題なので,そのことをはっきり示したほうがいいと思います。   約款といってもいろいろ多種多様なものがあって,組入要件についても一律ではないという松本委員の御発言も,潮見幹事が業法との関係で問題にされていたことも,恐らく同趣旨ではないかと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。ほかに。 ○佐成委員 3の(1)と(2)の前半について意見を述べたいと思います。   まず,(1)については,相手方が実際に契約に直面したときに抱く個別具体的な主観の部分から,かなり概括的というか,白地の意思を抽出していっておりますが,それ自体非常に希薄化した意思であるということです。したがって,先ほど契約の原則を緩和するものか云々という議論がありましたけれども,この点においても非常に緩和された意思だと感じました。それで,仮にそういうかなり希薄化された意思を考えたとしても,実務上,意思の存在というのを観念したときに,それ自体がかなり人にもよるでしょうけれども,人というか,個別具体的な相手方にもよるでしょうけれども,かなり曖昧で不明瞭,意思の存在そのものが非常に曖昧で不明確であるように思います。そういう意味では明示ならともかく,黙示でこのような危険な承諾を主観的にしているのだというのはなかなか信じ難い感じもしまして,一種の擬制のようなものではないかという受け止めをしております。   それと,(2)については,認識する機会というのは,要するに「開示をしておく」ということだろうと思うんですけれども,ただ,開示というものは,必要最低限,開示が必要とは思うんですが,ただ,紛争が生じた場合に,開示というものがどれだけ実質的に,そういう意味や効果があるのかなというのは,若干,疑問があって,要するに約款使用者側,事業者側になりますが,そちら側が消費者側に対して「開示してあったのだから,知らないとは言わせないぞ」という抗弁をするための法的な根拠をわざわざ提供してあげる役割しか期待できないのではないかと,そういったような声もあるようでございます。   これは事業者がそんなことを言っているわけではなくて,昔,ある学者の先生が鋭くそういうことをおっしゃっていたということでございます。けれども,正にそういうことなので,果たしてこういう形で本当にいいのかという疑問を感じるとともに,かなり,現状追認的な形になっているなという印象を受けます。つまり,元々,問題提起自体が今,約款の拘束力を正当化するという,そういう問題提起をされているものですから,現状追認的な規律の仕方を提案しているんだなという印象をいまさらながら受けたと,そういうことでございます。 ○筒井幹事 佐藤関係官から約款の組入要件の内容に関する発言メモが提出されておりますが,そのうちの総論的な部分のみをまず読み上げます。   まず,総論として約款の組入要件を検討するに当たっては,契約の一般原則を起点にした学理的な観点からの検討も必要であることは否定できないものの,現在の約款を用いた取引実務が経済社会にもたらしているメリット(多数の者との間で統一的な契約関係を迅速かつ低コストで形成することが可能)も十分に考慮して,これを阻害しない形での要件を検討いただければと思料します。理論を重視する余りに実務が重くなりすぎること,取引コストを高めることにならないことが望ましいと考えております。   なお,部会参考資料8-2の4ないし5ページの第11項に記載されている苦情等も含めた現在の約款の利用形態の下で発生している問題点については,現行実務を改める内容に約款の組入要件を規定すれば対処できる問題なのか,あるいは現行実務を改めずとも「説明義務・情報提供義務」「不当条項」といった別の規律や消費者契約法などで対処できる性格の組入要件とは,無関係な問題なのかも整理が必要と思料します。 ○鎌田部会長 それでは,引き続き(2)の第2パラグラフ及び(3)を含めた御意見をお伺いします。なお,併せて事務当局からは分科会で補充的な検討をすることとしたいという提案もございますので,この点についての御意見もお伺いいたします。 ○松本委員 3の(2)に関しては,ここでいう認識する機会,知ろうとすれば知ることのできる状態ということで,最低限はそれで押さえるしかないだろうと思いますが,(1)に関して合意(黙示の合意を含む)ということでは,余りにも限定すぎていて,黙示の合意すらない場合が大変多いと思います。   後ろのほうを読みますと,23ページの一番下のところでは公共交通機関で約款が用いられているということは,事故が起こって賠償請求するときぐらいでないと認識しないというのが普通ですから,これについてはむしろ慣習として理解するんだと,慣習として契約内容になるということだから,これで漏れがないんだという説明を事務当局はされているわけなんですが,民法の条文として(1)の部分だけが入ってくると,普通の人は漏れていると認識すると思うのです。国民に分かりやすい約款の組入要件という意味からは,黙示の合意がなくてもなおこういう場合には組入れになるんだと,約款を使って契約をしているということが,慣習上,そうなっている場合でも組入要件を満たすんだと。それに加えて(2)で,そういう場合であっても,事前に見ようと思えば見ることのできる状態になっているということが必要だと,はっきり書いたほうがいいと思います。 ○鹿野幹事 先ほど松岡委員がおっしゃった23ページの「法令に別段の定めがある場合を除き」ということにつき,一言,意見を申し上げたいと思います。「法令に別段の定めがある場合を除き」と書くこと自体に特に異論があるわけではないのですが,例えば業法により監督官庁の内容的なコントロールが及ぶ場合に,それが直ちにここで言うところの「別段の定め」に当たり,したがって20ページの3の(2)の認識可能性の要件まで外れるということにはならないと私は思います。恐らく松岡委員がおっしゃったことも,そうではないかと思うのですが,確認のために意見という形で述べさせていただきました。 ○松岡委員 今,御注意いただきましたように,私の発言の本意が十分伝わっていなかった可能性がありますので釈明をさせていただきます。約款による契約であるとの認識可能性もないのに業法コントロールがあるとは考えていないのですけれども,こういう取引は約款によると,業法などで根拠を明確にしたほうがいいという趣旨です。また,松本委員が先ほど御発言になりましたように,法令若しくは慣習による場合も含めて,約款による取引だということを,民法でも明確に規定するほうがいいというのが先ほど申し上げたかったことです。 ○筒井幹事 佐藤関係官の発言メモのうち,ただいまの議論に該当する部分を読み上げます。   各論として,(2)の相手方が約款の内容を認識する機会の論点に関しては,現在の約款を用いた取引実務の側面からは,契約締結時までに約款を現実に交付することや能働的な掲示を必須とする要件ではなく,部会資料の提案のように「相手方が約款の内容を知りたいと考えた場合に,(当該相手方が)合理的な行動を取れば約款の内容をすることができる機会が保障されている」ことが必要という方向での要件のほうが受け入れられる余地があるとの声もございます。   例えば,損害保険会社の中には現在,自社のホームページにWeb約款を掲載した上で,保険契約申込書にて申込者の同意を得て,書面による約款を交付せずにWeb約款の参照に代えている実務もあるようです。また,実際にWeb約款を選択する顧客の割合が過半になる例もあるとのことです。部会資料本文の提案は,このような実務にも変更を求めない内容と理解しており,受け入れられ得る方向ではないかと思料されます。 ○潮見幹事 二つ申し上げます。   一つは(1)について,先ほどから松本委員,松岡委員がおっしゃっている方向に基本的に賛成です。その上でのことですが,「法令に別段の定めがある場合を除き」という形で,きれいに表現できているかは,分科会でなお検討していただければと思います。つまり,そこでは要するに約款の拘束力の根拠が法令にあるということが示される必要があるわけですから,法令に別段の定めがあるということだけで,それが十分に表現し切れているかどうか,一抹の不安を覚えます。それと同時に,先ほど松岡委員がおっしゃったように個別の法令についても,それに対応する形でリンクを張るみたいな形になるのかもしれませんが,何らかの形で約款に拘束力を与えるということの基礎となるような,そういう規定を置いていく方向で個別に法整備をしていったほうがよいのではないかと思うところがあります。   それから,もう一つ,(2)のほうですが,先ほど佐成委員の発言がありましたことに関連して,(2)は,基本的にこのような方向でよいと思います。むしろ,御発言の中にあった開示という言葉を使わずに,このような形で表現しようとしたところを多としたいと思います。開示というと,どうしても客観的に示したか,示さなかったかというところに注目がいき,また,それが規範的な評価は入るのか,入らないかということで,いろいろ議論があるところ,どういう観点から問題を捉えて評価をしていくべきなのかという評価の要素というものを,このような形で書き下していく提案に対して評価をしたいと思います。 ○山下委員 2点ほど感想めいたことですが,1点は(2)の今潮見幹事の御指摘になったような具体的にどういう要件があれば組入れを認めるかと,そこで開示というふうなことを硬直的に要件としないということの評価の意見があって,先ほどの佐藤関係官の御意見でも,この程度であれば損保が一番強く開示要件に反対していたと思うのですが,そちらのほうでも何とかなると言っているようだということなのですが,逆に言えば,(2)というのは相当ゆるゆるの最低限の要件という位置付けになるので,その関係では,ドイツの約款規制法を見ておりますと開示要件がかなり厳しいということとの相関関係で約款によることの合意があるということもドイツでも要件なのだけれども,同意の要件は非常に軽く解釈されていると思うのですけれども,(2)のような要件を我が国で立てるとすれば,(1)の合意ということがエスタブリッシュされた業種の約款であれば別に問題はないと思うのですけれども,新規の先ほどから出てくる,是非,拘束力の根拠を規定してくれというようなことを強く言っているような業種などは,(1)の合意の要件の適用において相当操作をするとか,あるいは先取りしますけれども,(3)のような不意打ち条項として拘束力の絞りも必要になるのではないかなという感じを持っています。   2点目に,今日,業法の関係が先ほどから問題となっておりますが,私は業法の認可制などがあるような分野の研究を比較的やっておりますが,前のラウンドでも私はそういう約款は別だとは何も言っていません。確か,大村先生の御意見で彼の本には昔からそう書いてあって,その前には谷川久先生の一定の認可約款のようなものについては,法規的な拘束力の根拠があるのではないかという,そういう流れが一部の解釈としてはあるのですが,実際の業法を見る限り,これは私法上も拘束力は当然にあるという意味で,法規範的なものだということを規定しているものはほとんどないのではない,少なくともそう読めるものは余りないと思います。郵政の関係とかNHKの受信契約とか,あの辺は多少,それらしいところになってくるのかもしれないのですが,通常の認可約款のようなものは,当然,そういうことではない。   あと,残るのは電気,ガス,通信のような,例えば通信などは,かつては電電公社で独占事業である,だから電電公社が約款を決めたら,当然に,みんな,それに従うという趣旨は解釈論としてあり得なくはなかったかと思うのですが,こういう業種もみんな最近は民営化して競争的な市場ということで,事業者もたくさん出てくるし,約款もそれぞれいろいろなものが出てくるというと,業法があるから拘束するという説明は,今後,難しいのではないかなと思います。だから,法令の根拠がある場合は別というのを書くのは別に妨げないと思いますが,実際にそれが何なのかというと,ほとんど思い浮かばないという,そんな感じであります。 ○佐成委員 開示というか,認識可能性という点に関してでございます。開示というと,どちらかというと一般的に開示しておくというイメージで,認識可能性というと個別的といいますか,個別の相手方との関係で認識できるかどうかというイメージで考えられると思います。恐らくこの立法提案を見ても「契約締結まで」と書かれているので,個別の相手方を意識しながら書かれているんだと思うんですが,それとの関係で申しますと,要するに契約締結過程にはいろいろな要素があるんですけれども,認識可能性ということはその中から一つの要素だけを切り出したということでもあるわけです。   それ以外に,24ページの3ですか,補足説明の3にも「理解させる」と,そういうふうな話も書いてありまして,それについてはこの補足説明では否定的な形で書かれていて,説明義務との関係で,そこは別途検討すべきだというような,別途考えればいいのではないかとなっているんですけれども,果たしてそれで本当によいのか疑問です。つまり,本当に説明義務とセットでなしに,理解可能性がないものに同意を与えるということが本当にできるのかなという点が私にはよく分からなくて,そこがすっきりしません。もちろん認識可能性がないものについては,そもそも同意を与えることができないという説明はよく分かります。それは最低限だろうと思うわけです。ただ,個別具体的な相手方との関係で,理解可能性のないものの法的拘束力について,果たして何で無限定に「約款」だけが正当化ができるのかというのがよく分からなかったということです。   それはともかく,いずれにしても認識可能性にしろ,理解可能性にしろ,個別具体的な相手ごとに判断していくということにならざるを得ないのではないかと思います。そうとすると,冒頭にも申し上げたんですが,一般的な契約解釈において契約の拘束力がどこまでどの範囲で及ぶかとか,そういった議論については,組入れの部分だけをそういうふうに特別に切り出して,無限定に法的拘束力を取り出すのではなくて,総合的な,いろいろな背景事情・沿革とか,約款が使われている取引領域が具体的にどんな状況なのか,市場の状態が具体的にどうなのかとか,そういった市場特性なんかも踏まえた上で,法的拘束力というのはきちっと考えていくべきではないのかなという気がしております。どうも,約款の解釈だけが,何かそこだけ突出しているような感じがしまして,普通の一般の契約解釈と同じようにしないで,組入れという契約に入る前段階だけを敢えて取り出して特別な意味を与えてやるというのは,どうもいまいち実務的にはしっくりこないところがあります。   それと,「認識しようとする行為」がここでは予定されているわけですけれども,その容易さや負担の程度というのも,基準になるのは個別具体的な相手方になるわけですから,その人たちの事情を全く考慮しないで,本当に当該その人に対する法的拘束力を正当化するというのは,実務家といいますか,事業者側が言うのは変かもしれないんですけれども,何か,本当にそうなのかなというのがいまいちよく分からないというところでございます。 ○中田委員 (1)なんですけれども,先ほど山下委員がおっしゃいましたとおり,(2)との関係で(1)が非常に重要な意味を持つようになるのではないかと思います。それは先ほどのお話にも出ましたけれども,約款の内容とか業種によっても違ってくるでしょうし,もう一つ,先ほど出ましたひな形をどう取り扱うかとも関係してくるのではないかと思います。ひな形などについては,正にそのひな形を用いて取引をするということになると,具体的な合意というのがクローズアップされるかもしれない。   そうしますと,3の(1)の要件としていろいろなものが入ってくるのだと思うんです。合意か,黙示の合意か,あるいは一般的,抽象的な了解あるいは更に慣習というのが入ってくると思うのですが,そうしますと,約款の拘束力の根拠との関係でもいろいろな考え方が混じってくると思います。仮に幾つかのレベルを列挙するのであるとすると,どのように振り分けるのかも併せて考える必要があると思います。それとは違って抽象的な一つの言葉を置くのだとすると,合意という言葉が適当なのか,それとも,もう少し広い概念があり得るのかということになるかと思います。いずれにしても(1)は重要な問題として,今後,浮上してくるのではないかと思います。 ○青山関係官 労働契約との関係で関連しますけれども,2点,申し上げます。   1点目は,先ほどから「法令に別段の定め」を入れるべきではないかという議論がありますけれども,主に業法を想定された御指摘だと思うのですけれども,先ほどから何人かがおっしゃっている労働契約法でも,この法律は業法ではないのですけれども,合理的な労働条件が定められた就業規則は,労働者に周知されれば労働契約の内容となるとして,正に契約の内容となると明確に書いていますので,それに当たり得るかなと思うのですが,もし,分科会で議論されるのなら,そこも念頭に置いていただけたらと思って聞いておりました。   それとの関係で先ほどから,労働契約法で規律されれば特別法ではないかという御指摘もありますが,おっしゃるとおりだと思うのですけれども,ただ労働契約法は就業規則だけしか規定していないので,それに当てはまらない定式化された契約条項で労働契約のものもあり得なくはないので,そうしたものについての民法の新たな規定との関係が気になっています。先ほどから(1)の組み入れ合意のほかに慣習も入れるとか,いろいろな御議論がされているので気にはなりました。   バランスの問題なのですけれども,先ほどから言及している労働契約法7条は個別の内容の合意のみならず,組み入れること自体の合意も明文では求めていなくて,ただ,合理的な内容であることを求めて,それが周知されれば内容となるとしており,要件の置き方が今議論されているものとは違うのですけれども,それは合理的な内容であれば,契約となることが慣習となっているという判例の考え方から発展して法律になったものです。一方で民法のほうは不当条項とは一応,切り離して議論されていますけれども,内容に関する担保がないまま慣習などによって契約に組み入れられるとなると,そこは気になるというか,結果的には不当条項と一体になるのでセットの議論が欠かせないかなと,バランスからするとそう感じました。 ○中井委員 3の(1)(2)についての弁護士会の意見としては,(2)の第1パラグラフまでは基本的に異論はないわけですが,(2)の第2パラグラフのところで具体化するに当たっては,意見が分かれていまして,(2)の第1パラグラフで約款の内容を認識する機会があることが必要というのは,最低限の保障である。先ほどから開示という言葉がありましたけれども,従来の実務より一部後退する側面がないわけではない。そこに対する危惧の表面がありました。そういう意味ではゆるゆるですねと。その関係で(1)の合意について,もう少し厳格に解する方向という理解もあるのかもしれませんけれども,(2)の,これは分科会での検討課題になろうかと思いますけれども,最低限は認識する機会があることで,具体的に知りたいと考えたときに合理的な行動を取るという以上に,約款使用者側からもう少し積極的な情報の開示ということを定めていくことを考えなければならないのではないか,こういう意見が弁護士会の中にありました。 ○三上委員 まず,(1)に関しては,事業者間契約まで含めると,ここを余り厳しく解釈すると実体に合わなくなる部分もありますので,確かに指摘される問題点は分からないではないんのですが,それはまた,別の法律等で考えるべき問題ではないかと考えております。それから,(2)のほうも「合理的な行動」の範囲はかなり広目に認めていただかないと困ると思われます。例えば,今は,郵便による申込みで普通預金の口座開設もできますが,例えば申し込んだ人の近くに支店もないし,その人はインターネットもやらないというときでも,先立って営業店に約款を送ってくれと言われれば送る,という体制があればこの要件を満たすという程度には広めに考えていただかないと,成り立たないのではないかということを危惧しております。   それから,(3)に関しましては相手方が予想できない条項というときの相手方なんですが,個別の相手方ごとに判断されると実務が回らない部分があるという問題点もありまして,契約の対象と想定されている顧客層として合理的に想像できないようなものであるべきと考えます。特に大量に反復継続して取引されている商品,例えば普通預金などで,個人,個人で判断されると管理し切れないので,むしろ,当該条項に関して問題が起こると,全ての契約に関して一律にその条項を外さなければならないという,そういう判断になってくるものもあります。なので,こういう規制を掛ける場合は,通常の一般人から見て予期想像ができないものということにしていただく必要があると思います。   極端な例になるかもしれませんが,後で身体障害者であった場合のドイツの例が挙がっておりますが,例えばオンラインとか郵送で契約したけれども,目が不自由で読めなかったとか,実は私は外国人で漢字や日本語は読めませんとか,そういうことを後から言ってこられて約款は適用されませんと言われてもそれは困るということです。 ○松本委員 まず,(1)について約款の範囲をいわゆる約款に限定する必要はなくて,ひな形とか書式でも組み入れられれば契約内容になると言いましたが,その場合の組入要件としては,先ほどの慣習として当然意識しなくても入ってくるんだという類いのものと,それから,書式集のこの書式でやりましょうなどという場合は,その点をきちんと合意して,しかも(2)でいけば,それが提示されない限り,契約の内容にはならないんだと思いますから,どういうものかによって組入要件は当然,相対的に変わってくるのだろうと思います。   (2)に関しては,先ほど業法上の特段の規定の話が出ていましたが,例えば説明義務を課している業法がたくさんあります。説明義務が課されているような場合については,例えば契約条件の説明義務が課されているのであれば,きちんとそれが履行されていない場合には,(2)の組入要件は満たしていないんだという形で,業法上の規定が意味を持ってくる可能性があると思います。何回も言いますが,知ろうと思えば知ることのできる状態にあるというのは最低限のことですから,それに加えて当該約款のタイプに応じて,加重要件が変わってくるんだと思います。業法上,規制を受けている約款に関しては,業法が加重要件のある部分を担っていると考えることができると思います。 ○山本(敬)幹事 今の松本委員が御指摘された点は,私も確認したかったポイントの一つです。先ほど別段の法令の規定がある場合には,その限りでないというようなタイプの規定を設けるという御提案がありました。労働契約法はそのようなことを書かなくても私は明白だと思いますけれども,確かにそのような法令がないわけではないだろうと思いますが,今の松本委員の御指摘された問題は,(1)ではなく(2)の部分について法令で別段の定めがあるということを示す例ではないかと思います。   (2)の後段のほうで,「相手方が約款の内容を知りたいと考えた場合に,合理的な行動を取れば約款の内容を知ることができる機会が保障されていなければならない」というのは,先ほど,ゆるゆるだという表現をされておられましたけれども,私はそのようには理解していません。ここで要求されている事柄は抽象的に規定されていて,その内容に幅があり得るということだと思います。そして,松本委員が御指摘されていますように,それぞれの契約ないしは約款を使った契約の種類に応じて,この「合理的な行動」がどの程度のものかということが解釈されなければならない。その意味で,このような規定を置くことは,裁判実務に対して,この内容を具体化していくことを求めるという意味合いを持つと思います。現時点でコンセンサスが得られるのはこの程度なので,そこから先については今後の判例・学説に委ねる。そういう性格が強いのではないかと思います。   としますと,これだけを見ると一義的には定まっていなくて,今後の解釈の余地がある。ただ,その際に松本委員が御指摘された先ほどの問題は,業法等で既に一定の行為規制が行われている場合,例えば開示規制が行われている場合は,それがしんしゃくされる。ないしは,それに従って最低限,開示がされなければならないという意味で,(2)のこの部分が法令の別段の規定を考慮して定まっていくという面もあることが述べられたのであって,法令の別段の規定が何か全部を置き換えるという意味合いを持つだけではないことを確認をしておいたほうがいいのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 ただいままでに頂戴しました御意見を踏まえて,分科会で補充的に検討させていただくということでよろしいでしょうか。 ○岡委員 不意打ち条項について一言だけ意見を申し上げます。理論的に言うと,こういう主観だけで外すというのが出てくるんでしょうけれども,なぜ,ここで内容的な規制がないのかということに問題意識を持つ者がおりました。ヨーロッパ契約法原則の契約条項アプローチにあるような希薄な合意を規律するものとして,内容的な規制を不当条項リストというおどろおどろしい形にすると,立法ができない可能性も大だと思います。不当条項リストまでは作らないけれど,不意打ち条項のところに内容的な規制を入れるという方向はどうなのかという意見です。先ほどの三上さんのように主観だけだと,目の見えない方とかコンピュータを使えない方について,規律がうまく回らないこともありそうに思われますので,組入要件を満たしても一定の内容的なものを逸脱する合意は,不意打ち条項という言葉が適用されないかもしれませんけれども,抽象的な内容的な規制をここでもかませるべきではないかと,かませてほしいという意見がございました。 ○佐成委員 (3)のところの経済界の意見ということで申し上げますと,元々,約款規制,組入要件の明文化全てに反対であるということが経済界の意見でございますけれども,いずれにしても,ここは一応乙案というのが優勢であったということです。理由は約款規制の一環として提案されているので反対であるということでございます。   それともう一つ,補足的に申し上げておきたいことは,この立法提案それ自体は,正に約款の組入要件ということで,約款アプローチに基づいて組入要件を考えた場合の要件立てとして提案されているのですけれども,他の選択肢として契約条項アプローチというものを仮に考えたときにも,これを全くそのまま当てはめた規律というものも一応は選択肢として考えられると思ったので,その点も検討してみてはどうかということです。これが本当に経済界にとって不都合がないのかどうか,先ほどの道垣内幹事の御指摘もありましたので,現時点では私には何とも申し上げにくいんですけれども,一応,理論的には考え得るかなと思いますので,御検討をお願いしたいと思います。   要するに,ここで要件として使われているものと全く同じように当てはめて,「現実に読んだり,理解したりしない契約条件であっても,明示的又は黙示的にその契約条件で契約するという概括的で白地の意思が存在して,かつ契約時点までにその契約条件の内容を認識する機会があれば拘束力を生じると」いう一般的なルールを定立するということはあり得るのではないかということです。即ち,全く同じ形の要件立てですけれども,約款という言葉を使わずに,民法の一般性を踏まえて,「契約条件」という形で一般化してみたわけです。ですから,ヨーロッパ契約法原則のものとは契約条項アプローチといっても,要件立てがやや違うのかもしれませんけれども,そういったような条文化というのも一応は考えられるのかなと思いました。   要するに,約款というものが非常に幅広く使われていて,しかもいろいろな局面での使われ方があって,それぞれがかなり個性的であるということを踏まえると,にもかかわらず,それらを何の限定もなしに一括りに「約款」として規律できるのであれば,更に一段と抽象化・一般化した「契約条項」というものを対象として置き換えることもできるはずではないかということです。確かに経済界にとってそのようなアプローチは不利益になる可能性というのはあるのかもしれないんですけれども,そういったアプローチによるルール化の余地ももしあるのであれば,分科会で御議論いただいたほうがいいかなと思います。それで,もし契約条項アプローチでは問題が大きすぎるということであれば,その上でまた,部会のほうに御報告いただき,議論していくということもあり得るのではないかと思います。単純に約款アプローチに飛び付いて,それを前提に約款の組入要件だけにフォーカスして議論するのではなくて,元々問われていたのが,補足説明を読みますと,現実には読んでもいないし,理解もできるとは限らない契約条項について,一般的,抽象的な法的拘束力の正当化を行うということでございましたので,もしそうであれば,むしろ,そういった端的な答えを書くことができないかということについて御検討いただきたいということです。 ○山本(敬)幹事 今の点に対するお答えになるかどうか分かりませんが,不意打ち条項については最初のときから何度か発言させていただいていましたので,その確認にすぎないかもしれませんけれども,もう一度お話しさせていただければと思います。  契約の内容になるかどうかがここでの問題でして,先ほども申し上げましたように,契約の内容について合意があると言えれば,民法の一般原則に従って,それは契約の内容になる。それが原則であるけれども,約款が利用される場合には,契約の内容について,つまり,約款の個々の内容について合意があったと言えない。約款が材料として使われていても,実際に個々の合意が行われたときには,通常の契約が行われたことになるだけですが,そうではなく,約款の内容について合意があったとは言えない場合には,民法の本来の原則からすると,それは契約内容にならないことになる。ここで,それが契約の内容になるための要件として,従来考えられてきたものを整理して示したのが,先ほどの組入要件だと思います。組入要件を満たす場合には飽くまでも(1)が重要だというのはそのとおりなのですが,当該契約に関する細目については約款によるという包括合意がされているだけであって,個々の内容については合意がない。ただ,このような包括合意がされているときには,このようなものがまさか包括合意の対象の中に入っているとは,合理的に予測もできないものまで入ってくる可能性がある。それを排除するのが,不意打ち条項規制だと思います。   ですので,ここでは,内容の当否の問題ではなくて,まさかこのようなものまで包括合意で契約内容に入るとは思いもよらないものを排除することが問題になると思います。その意味では,私は,考え方としては甲案によるべきだと思いますし,そして,まさかこんなものが入っているとは思いもよらないような事柄は,別に事業者間契約であったとしても問題になるだろうという意味で,ブラケットに入っているものは要らないのではないかということを改めて強調したいと思います。 ○佐成委員 念のためですが,私は,不意打ち条項規制について何か意見を述べたわけではなくて,一応,経済界の議論の状況だけをまず申し上げたということです。なお,それについて私の個人的な意見はまた別にあるんですけれども,今は表明する必要性を感じておりませんので,取りあえず,議論状況だけを申し上げたということです。それで,後半の部分で言ったのは,そういう契約条項アプローチによる要件立ても一応,並行的に考え得るので,それも分科会で御議論いただきたいという趣旨でございます。よろしくお願いします。 ○中井委員 一言だけです。弁護士会は今の山本敬三幹事の意見に賛成です。その関係で先ほど岡さんのおっしゃった意見は,岡さんの御意見だったと思いますので,念のために。 ○岡委員 はい。日弁連の全体の意見ではございません。部会資料の28ページに書いてある不意打ち条項は,同時に不当条項に該当することも多く,結果的には多分,同じになる場合も多いのではないか。不意打ち条項をそれこそ当該個人で考えたら全くの主観になるのでしょうが,通常人基準で考えればほとんど任意条項をオーバーすると不意打ちになるのではないでしょうか。実務家としては何か主観だけではなく客観もベースにして不意打ち条項は機能するのではないか。そうすると基準は何だというと,任意条項だとか,契約がない場合との比較だとか,そういうことをはっきりさせないと,単なる不意打ちだけでは実務で機能しないのではないかというような問題意識を申し上げたかったつもりでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。事務当局から何か確かめておくべきことがありましたら。いいですか。   それでは,次に「4 約款の変更」について御審議いただきます。事務当局から説明していただきます。 ○笹井関係官 「4 約款の変更」では,契約関係が一定期間存続する場合に,約款使用者が相手方の個別の同意を得ることなく約款を変更することができるか,変更するための要件はどのようなものかという問題を取り上げるものです。この問題を検討するための切り口として,当初の約款に約款使用者が相手方の同意を得ることなく,一方的に約款を変更することができる旨の条項があることを前提に,その条項の効力としてこの問題を検討するという方法と,そのような条項の有無を問わず,約款使用者が約款を変更することができるか,その要件は何かを検討するという方法が考えられると思います。そこで,本文(1)の甲案では前者の考え方を,乙案では後者の考え方を取り上げています。本文(2)では,約款を変更するための具体的な要件として,どのような内容の約款の変更が可能か,約款の変更に異議がある相手方に救済手段を与える必要があるか,どのような救済手段を与える必要があるかなどの問題を取り上げています。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分についての御意見をお伺いします。 ○筒井幹事 佐藤関係官の発言メモを読み上げます。   甲案についてですが,現に取引で利用されている約款には,約款の一方的変更に関する条項のないものが既に多数存在していることを踏まえて,一方的変更を可能とする条項が約款に存在する場合について,約款の変更を認める規定のみが民法に設けられることには消極的な意見もございます。   また,乙案についてはひな形を用いて合意される契約の場合,その変更は両者の合意の下でなされるのが自然であり,金融取引で使用されるISDA Master AgreementやJSLAのシンジケートローン契約など,ひな形作成者が一方的に変更する必要性まではないと思われるものも現に存在しております。このような契約書のひな形なども含むものとして約款を広く定義する場合には,ひな形を用いた契約についても,約款使用者(ひな形の作成者)が一方的にその内容を変更できる乙案のような規律が適用されることには違和感があるとの意見がございます。   これらの意見なども踏まえると,約款の変更の規律との関係では,契約書のひな形など個別の交渉の可能性があるものについては,当該規律の適用対象外としてもよいという考え方もあるように思料されます。あるいは,そもそも約款の定義からひな形など個別の交渉を経たものを排除することも考えられるかもしれません。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○三上委員 この部分は第一読会で我々からお願いした部分であり,是非,このような規定を設けていただきたいということを繰り返し述べたいと思います。佐藤関係官の示されている疑問点は,私どもは納得できるところがありますが,それは最初に言いましたように入口で銀行取引約定書のようなもので組入の対象にするところから出てくるという副作用みたいなものでして,我々が主に想定していますのは,銀行取引であれば普通預金約款に暴対条項が入るとか,本人確認条項が入るようなケースです。また,例えばデビッドカードとしての機能が追加されたというのは,単に利益変更だと考える人もいるかもしれませんが,不正に利用される場面が増えたという意味で,不利益と考える人がいるかもしれない。そういったどれが不利益で,どれが不利益でないという判断も非常に難しいものですから,事後的に何らかの形で変更できるということが必要になります。今の弊行の実務ですとインターネットとか店頭で掲示して,掲示から1か月以上の間を置いてから実施するという条項になっています。これ自体の有効性について現行民法上の評価は分かれ得ると思いますが,是非,明確にしていただければと思います。ただ,そのためには契約の変更の内容の必要性,合理性,そういったものについて一定の枠がはまるというのは,やむを得ないと理解しております。 ○中田委員 私も今,三上委員がおっしゃったように,変更についての規定は,是非,入れていただくのがよろしいと思います。ただ,その内容なんですけれども,幾つかのレベルの話がありそうです。まず,4の(1)の甲案と乙案は,選択的なものなのかどうかよく分かりません。変更条項のない場合の変更の可否というレベルの問題と,変更条項の効力というレベルの問題とがあると思います。両者が重なって出てくるかもしませんし,後者の問題は,不当条項の問題とも関連するかもしれません。さらに約款の変更と給付内容の変更というレベルの問題もあります。多分,三層になっていて,それをどのように整理するのかということかと思います。 ○岡委員 「約款の変更」のところで継続的契約の変更,あるいは事情変更原則の適用による変更とは違って,約款に基づく特別な変更を認めるのがここの趣旨だろうと思います。そうすると,希薄な合意で組入要件でやっと合意された,その条項について変更を認める特別な規定であるべきだろうと思うんですが,何か,そう書かれていないように思います。弁護士会で,ひな形が約款だということになると,ひな形できちんと交渉し,組入要件の手助けを得ず,合意になったとしても,そのひな形にはこの変更規定が適用されるのか。それは変ですという声が非常に強いです。   その辺からいきますと,約款でも組入要件を利用しなかったものには適用されないとか,組入要件でかろうじて合意内容になったものについては,こういう要件で変更を認めるとか,そう絞り込まないといけないと思います。三上さんの先ほどの意見は継続的契約に関する変更をここに織り込みたいという,私もそういう思いはありますが,そういうほかの法理に基づく変更がここに紛れ込んではいけないと思っております。 ○山川幹事 資料の33ページに変更の要件のお話が出てきております。4ですけれども,必要性とか,内容の合理性等が書いてありまして,これは労働契約法の10条が就業規則の変更に合理性があれば,反対の当事者も拘束すると定めていることと似ている感じがございます。ただ,労働契約については就業規則についてのみ,このような合意原則の例外が定められておりまして,その背景は,就業規則については労働基準監督官のチェックが働くというのが第一点で,それから,長期雇用システムの中で,労働条件の変更を認めないことが解雇に結び付くよりは,変更を認めたほうがよいという必要性がもう一つの点です。   労働契約に関して言いますと,30ページの御提案の中の乙案のようなことが労働契約に適用されますと,正に就業規則の規定以外についても変更が認められるということになって,労働契約法とはやや整合性を欠くように思いますので,もし,乙案,あるいは甲案でも若干似たような要素があるかもしれませんが,変更を認めるということになった場合には,労働契約は適用除外にしたほうがよろしいかなというような感じがしております。 ○鎌田部会長 この点につきましても分科会での……。 ○中井委員 この「約款の変更」というのは,第一読会で出てきた新たな論点かと思います。弁護士会の意見は,この論点が出たことによって,議論が混乱しているところがあると,言わざるを得ないと思っています。   すなわち,約款については元々,一方当事者,約款使用者側が契約条項を定めて,相手方がその内容をよく見ない,若しくはよく吟味しない,又はよく交渉しないまま合意をする,そういう希薄な合意だから,それをどのような形で契約の内容にするか,それを正当化する考え方として組入要件の議論がなされてきた。場合によってはその組入要件を充足することによって契約内容になるけれども,その内容についての合理性を担保するための制度的保障として不当条項規制とセットになってくる。セットになってくるかは,次の議論であることは承知しているわけですけれども,そういう議論をしているときに,従来の典型的ないわゆる業法で規制されているような約款のみならず,もう少し広く定型的に一方当事者が準備したものについても,約款規制を及ぼすべきではないかという考え方に基本的に賛成をしていた。   しかしながら,約款の変更ということを,今申し上げた約款全部について同じ目線で,同じ基準で適用するのかということについては,先ほど岡委員からもありましたけれども,疑義がある。他方で,この問題を提起された三上委員の趣旨については十分理解できるところがあって,大量同一内容で契約を締結する,しかも交渉は予定されていない,そういう典型的約款については,その後,契約内容の変更をしなければならない場面というのが想定される。そのときに個別に同意を取って変更してくださいというのは,到底,実務に耐え難い。そこで,一定の要件の下で変更を認めていく,その規律を明確化していく。この考え方には賛成だと。   そうしたときに,それが約款の範囲を決めたときと同じ約款全てに適用されていいのか,慎重に考えなければいけない。そこから弁護士会の意見として,約款の定義の範囲を狭い方向に考える意見が出てきているのは事実です。しかし,果たしてそれでよいのかと思っております。佐藤関係官がおっしゃられた趣旨も,それに一部合っているのかと思いますけれども,約款の定義をある範囲に決めたとき,約款の変更が許容されるといいますか,対象となる約款というのは一定限られる。仮にひな形のような定型的文言を使って,二当事者間で契約を締結するような場面について,同じ約款の変更という規律が,普通の典型的な約款と同じように規律されるというのは相当ではないだろう。ここをどのように整理するのか。さらに弁護士会としては考えなければならない課題だと思っています。 ○松本委員 先ほどの組入れのところはなかなか難しい議論もありましたが,私は最低限の線は引けると理解をしております。それに加えて約款のタイプに応じて加重要件が加わるんだろうということを言いました。しかし,この変更のほうはもっとハードルが高いです。中井委員が今おっしゃったとおりで,どういう約款なのかによって変更の要件はものすごく変わってくるだろうと思いますから,一律にこういう要件でというのは,およそ不可能ではないかと思います。そうすると,組入れの場合と同じように最低限の要件を置くことで,何か意味があるのだろうかと考えると,変更については民法で規定するのは無理ではないかなと言う気がします。変更できないケースもあるだろうけれども,全て変更できないわけではない。変更できる場合もあるだろうということは書けるかもしれないけれども,この要件を満たせば,全ての約款について変更できますというのは,書けないのではないかなと思います。   例えば,組入れであればユーザーの側がアクションを起こせば,約款内容が認識可能であるということが最低限の要件としてありましたけれども,変更のところで同じ要件を持ってこられるかというと,知らない間に変更されているとアクションの起こしようがないわけだから,そうすると,変更についての通知というのは基本的には必要だろうと思います。その上で,変更内容についての同意を個別に取るのか,取らないのか,タイプに応じて同意なしに当然適用されるんだという場合もあるだろうし,内容に応じて変わってくる場合もあるだろうということで,なかなか難しいのではないかと。必ず通知しなさいという要件は私はあったほうがいいと思うんですけれども,業界によっては反対している業界もあるようですから,という意味で,大変,ここは難しいと思います。 ○鎌田部会長 最低限といっても最大公約数的にどれにでも通用するものというのではなくて,こういうタイプだと,逆に少なくともこれだけの厳格の要件を充足したものについては,変更できますという形のものが最低限になるのではないですかね。 ○岡田委員 要件に関わると思うのですけれども,消費者契約でいくとゴルフ会員権とかリゾート会員権とか継続的な役務契約なんかが結構,一方的に変更されて,通知一本で変更されるというのがありますが約款の変更に関しては消極的な意見を持っております。ただ,今,お話を聞いていると絶対にできないということではなくて,要件を厳しくするとかでかなり絞ることができれば変更もあり得るかなと思います。約款にほとんど関わることができない消費者が被害を受ける場合が多いと考えますと,民法の中に変更権的な書き方は反対したいと思います。 ○深山幹事 約款の変更については,先ほど松本先生も御指摘していたとおり,当初の約款の組入れ以上にハードルは高いと考えるべきだろうと私も思います。そういう意味で,安易な変更を認めると例えば組入れ要件を精緻に作っても,実質的にそれを潜脱することになる懸念も考えられます。変更といってもいろいろな変更があるとは思うんですけれども,言わば交換的な変更もあれば,追加的な変更もあろうと思うんです。追加的変更で,するっと違う条項が入ってしまうのであれば,実質的に組入れ要件の尻抜けになるということも懸念されます。   もう一つ,最初に契約するかどうかのところとの違いは,一応,抽象的な観念的な話かもしれませんけれども,最初の段階では契約するかしないかの自由があります。これは契約していない段階の入口の問題ですけれども,変更の問題というのは既に契約関係が成立している段階で,その契約内容が変わるということなので,そう簡単に変更を認めるべきではないといえます。そういう意味では,きちっとどういう場合に変更ができるのかということを明らかにする必要があるんですが,御指摘のとおり,約款にもいろいろあるし,変更にもいろいろある中で,どういう要件を設けるかということについては難しいところであり,むしろ,こういう場合には変更できないという規定をするということも,一つのアイデアとしてあっていいのかなという気が致しております。消極要件といいますか,変更できない要件を規定をして,そこから先は解釈ないし個々の事案の当てはめで,事案に応じて対処するというようなことはいかがかなと思います。 ○鹿野幹事 既に御指摘のとおり,変更につき組入要件と全く同じに考えるというわけにはいかない,だから,一層難しいところがあるというのはそのとおりだと思います。けれども,組入れについてだけ規律を定めて,変更については全く規律を置かないとすると,その結果がどうなるのかにつき心配が残ります。実際には,約款条項の変更の必要性があり,かつ合理性もあるという場合も存在すると思いますし,他方,この変更条項は一方的で不当だというような場合も考え得るわけで,そのような場合まで効力が妨げられないとすると,せっかく組入要件を定めたとしても,それを実質的に潜脱する定めを許すことにもなり得ると思います。そこで,困難が伴うとは思うのですけれども,なお,幾つかの類型的な整理も含めて,分科会で更に検討していただければよいのではないかと思います。   これにつき,資料には甲案と乙案とが書かれているのですが,先ほど中田委員の御指摘にもありましたように,この二つのいずれかというのではなくて,どちらも考える必要があると思います。変更についての条項の定めがあるというときには,それがどういう場合に効力を持つのか,持たないのかということが問題となるでしょう。しかし,だからといって,約款自体が変更について何も語っていないときに,一切,変更が認められないのかというと,そうではなくて,一定の場合については一定の手続きの下で変更を認めるということもあり得ると思いますし,その場合の要件についても別に考える必要があると思います。   それから,第3点ですが,その要件を考えるときに,約款にもいろいろなタイプがあるので,それを一律に語ることはできないということが既に指摘されましたし,それはそのとおりだと思います。さらに,変更する内容によっても,変更のために要する手続が違ってくるのではないかと思います。つまり,相手方の利害に重大な影響を及ぼすような内容変更の場合には,より丁寧な手当が必要だと思います。そのような場合とそうではない場合につき,変更の手続要件には違いがあり得るのではないかとも思いますし,その点も含めて分科会で検討していただければと思います。 ○潮見幹事 先ほど部会長が途中でおっしゃりかけたように,対象を絞り込んだり,あるいは類型を絞り込んで,(2)で書かれているようなことも踏まえて,規定ができるかどうかというのを分科会で考えていただければと思います。その上で,これはそこから先の意見なのですが,仮にそこで検討された結果によってほかの部分,つまり,約款の定義だとか,あるいは組入れのルールだとか,あるいは内容規制のところがまとまりかけているのに,ここの1点でもって議論が紛糾して,ほかのものが潰れてしまうようなことだけは,個人的には絶対に避けていただきたい。その意味では,約款の変更については鹿野幹事がおっしゃったのは分かりますけれども,無理をしないほうがいいのではないかと思います。 ○佐成委員 経済界のこの論点に関する議論状況の報告をさせていただきたいと思います。簡潔にします。基本的には何度も申し上げているとおり,経済界は約款に関する規定については反対という立場でございますから,積極的な議論はなされていないのですけれども,万一約款の規定を,経済界の強い反対にもかかわらず,無理にでも入れるんだということになれば,もちろん,三上委員がおっしゃっているとおり,約款の変更というものも約款に関してはかなり一般的に行われている実務でございますので,是非とも約款の変更を現状追認的に正当化する立法もセットでお願いしたいと思います。特に約款のうちの継続的なものについては,その実務上の要請はございますので,是非,御検討いただきたいということでございます。   ですから,(2)のところで幾つか書かれておりますけれども,これを条文化できるようにもうちょっと具体化していただいて,約款の変更の現状追認も是非ともセットで図っていただきたいと思います。それは分科会のほうでやっていただいて,それでその結論を示していただくというのは,お願いしたい思います。民法による約款規制については,経済界は基本的に反対しているので,結局のところ最終的に民法による約款規制がどうなるか分からないですけれども,どうしても約款規制が民法に入ってしまうというような最悪の状況になったら,むしろここは今,無理をされずにと潮見幹事はおっしゃっておりましたけれども,経済界としては,踏んだり蹴ったりですので,是非とも,無理をしてでも入れていただきたいというような感じでございます。 ○沖野幹事 どの程度を無理と考えるかという評価もあるかとは思いますけれども,変更の問題は非常に重要だと思いますので,もう少しどのような規律を置けるかということを検討し,既に出たところですけれども,変更の場合には個別の同意を得ることが困難であるというようなことがあると思われますので,採用あるいは組入れとは対象となる約款の範囲が違うとか,場面を限定するとか,そういうことも含めて規律を考えていくべきだろうと思います。   詳細は更に分科会でということですので,そこで詰めていただきたいと思いますけれども,1点だけ,この問題がどういう問題として捉えられるべきなのかということで,私が読み違えているのかもしれませんけれども,例えば33ページの補足説明の5のところでは,約款の変更権が一種の形成権であるという書き方がされておりまして,あたかも,ここでは約款の変更権を認めるかという問題であるというような定式がされているように思われます。   この点は,中田委員やあるいは鹿野幹事が指摘された甲案と乙案というものをどう考えるかという問題だと思うのですけれども,一方で,変更権なるものが当該約款なり,契約条項によって与えられていたときに,それをどう考えるかという問題があると思われますけれども,それがないときに果たして変更権を認めるという問題として規律するべきなのかというと,本来,変更権というものはなくて個々の当事者の同意によって変えていく,新たな合意をしていくということだと思いますので,そういう当事者が内容を変更するような合意というのを個別の合意ということでなくて,言わば,それを緩和していけるのはどういう場合かという問題設定になるのではないかと思われまして,その意味で,甲案と乙案とは少し局面や性格が違い,それぞれ考えていくべきことだという説明になるのではないかと思います。 ○三上委員 度々参考に,私が弊行の約款を変更している場面で,これならよかろうと思っているメルクマールを挙げますと,一つは多数の契約があって個別の同意を取るのが困難であること,二つ目は変更の目的・必要性が合理的であること,三つ目は変更の内容が目的に照らして必要最低限といいますか,合理的範囲に限られること,四つ目は変更の内容がネットなり,店頭なりで開示されて知る機会が与えられ,かつ変更の実施までに周知期間が置かれることで,形成権ではなくて相手方が同意するという擬制,その間に例えば新しい取引に入れば,基本的にそれを認識して同意したんだからという,同意を擬制するという考え方を原則としております。   これは言わずもがなかもしれませんが,最終,どうしても同意していただけなければ,例えば大体,その手の商品は当事者の都合でいつでも解約できることになっているので,解約すると,こんなことは普通は言わないんですけれども,それが最後の担保で,そこまで至らずに同意していただける範囲で契約を続けましょうという形の当事者間の契約を擬制するという意味では,約款の組入れとパラレルになる議論ではないかと考えております。 ○松本委員 次の「不当条項規制」のところの大きな焦点として,不当条項規制の対象として契約の中心条項を入れるのか入れないのかという点があります。私のイメージとしては中心条項は規制対象に入らないと,それは個別の合意で納得できるかできないかのレベルであって,意識していない周辺条項が規制対象になるんだと思うんですが,組入れのときには,どうなのか。組入れのときに中心条項は別扱いされるのか,されないのかという論点も当然あるはずですし,約款という言葉で中心条項も入る,価格はこれだけですよというのが同意しなくても組み入れられるのかというのは,私はそれでいいのかという気はありますが,変更のところでは今の点がもっとクリティカルに出ます。   同意しないのに価格が変わってしまうということでいいんだろうかと。しかし,公共料金などでは同意なしに変更することが必要な場合もあるではないかということになってきて,中心条項についても変更できるんだという議論,むしろ,そっちのほうが主たる変更内容ではないかと思うぐらいなんです。となると,不当条項規制と変更する場合で対象がずれてくるという感じでいいのかなという気がいたしまして,ある要件を満たせば中心条項も一方的に変更できるんだというルール作りにするのであれば,不当条項規制としても中心条項を,特に変更の場合に関しては価格の変更が不当かどうかをもう一度チェックできるというようにする必要が出てくるのではないかという印象を持っております。 ○鎌田部会長 分かりました。その点も含めて検討させていただきます。 ○内田委員 変更権については分科会で更に検討ということですけれども,何を分科会に送るかについて変更権のイメージに随分幅があるような印象を受けます。本来は契約ですから合意がなければ変更などできないわけで,約款の場合に,どうして合意がなくても変更ができるのかというと,正に三上委員がおっしゃったように全ての当事者の合意を取り付けるということが実際上,困難であるということと,そして,実質的に不利益を与えないということが決め手になるのだと思うのです。そういう意味では,就業規則の不利益変更とか,借家の賃料の増額などとは,随分,性質の違う問題で,本来ならばきちんと交渉すれば合意は得られるはずだけれども,逐一合意を得るコストが余りにも高い,だから,合意の代わりに一定の要件を具備した場合には,変更を認めようということなのではないかと私は理解しておりました。   そうすると,かなり限定的なものであって,価格とか中心的な部分について勝手に変更するなどということは一般理論としてはあり得ない話で,もし,そういうことが必要な契約があるのであれば,それはそのための特別のルールを作るべきで,民法の一般ルールの問題ではないと思います。そういう意味で,かなり限定的な要件をきちんと定めて書き切れるかどうか,それを分科会で検討するということではないかと私は理解しておりました。 ○鎌田部会長 大変,難しい課題をたくさん与えられましたけれども,分科会で引き続き検討させていただいて,その結果を踏まえて,また,この部会で御審議いただければと思います。   「第3 不当条項規制」の「1 不当条項規制の規定の要否,適用対象等」について御審議をお願いいたします。 ○佐成委員 次の論点に入られるのであれば,1点だけ全く違う観点の全体的な補足をさせていただきます。要するに比較法といいますか,そちらの話でございます。ドイツとオランダの話だけがほとんどだったんですけれども,日本の最大の貿易相手国であるアメリカの条文はどうなっているかという話は,恐らく皆さんは御存じだとは思うんですけれども,一応,念のため,御紹介させていただこうと思います。   アメリカでも今世紀の初めぐらいにUCC,つまり,統一商法典ですけれども,これの改定ということで組入要件の採否というのが問題になりまして,一応,そういう立法提案がなされたということです。御存じのとおり,UCCというのは各州,50州ありますけれども,50州の議会が採択するかどうかということで法典化されるものでございますけれども,これについてはアメリカの経済界がこぞって大反対をしたということでございまして,どの州も,結局のところ,最終的には採択していないし,今後とも採択されることはないだろうという見込みになりまして,それで昨年ですか,2011年に,この立法提案そのものがウイズドローしたと聞いております。ですから,日本の経済界が単に反対しているというよりも,アメリカの経済界と同じように懸念を持って反対しているという,そういったような局面も御認識いただきたいなというのが私の本意でございます。何も,日本の経済界だけが突出して,何か,そういうことを言っているというわけでは必ずしもなくて,アメリカでもそういうような状況だったということだけは,念のため,補足させていただこうと思います。 ○鎌田部会長 それでは,説明を。 ○笹井関係官 「第3 不当条項規制」の「1 不当条項規制の規定の要否,適用対象等」では,契約内容が一方当事者にとって不当に不利益な契約条項について,条項の効力を否定するための制度を設ける必要があるかという問題を取り上げるものです。不当な内容の契約条項に対する司法的コントロールは,これまでも民法第90条などを通じて行われてきたことを踏まえて,司法的コントロールの内容を明らかにして予測可能性を高めるため,類型的に合理的な合意形成が期待できない場面等を対象として,契約内容の合理性を担保するための具体的規律を置くべきであるという考え方があり,そのような考え方の当否について御審議いただきたいと思います。   その際には,これまで行われてきたとされる内容規制を拡大する必要があるかどうか,拡大する必要があるとすれば,どのような問題に対処する必要があるか,逆に拡大しないのであれば,不当条項規制と公序良俗との関係をどのように考えるかなどについて御意見を頂ければと思います。また,仮に不当条項規制を設ける場合,どのような類型の契約をその対象とするかという問題も併せて取り上げています。この点については約款が使用された契約を対象とするという考え方がありますので,その当否について御審議いただければと思います。特にこのような考え方を採用した場合には,事業者間の契約であっても約款が使用されていれば不当条項規制の対象となりますので,その当否について御意見を頂ければと思います。 ○鎌田部会長 時間的に1だけをまず議論し,1の御議論が早く終われば2に入ります。   1についての御意見は。 ○道垣内幹事 入口の問題としまして,約款かどうかという問題はあるのですが,約款における合意が希薄であるということが一つの規制の根拠,一般的な90条による規制以外の規制を加える根拠になっているとしますと,先ほどから出ておりますような一方当事者が契約書面を準備をして持ってきたのだけれども,現実にはそれに基づいて個別具体的な合意がなされたとのであり,一般的な契約の合意の要件に基づいて合意がなされたということになりますと,形の上でそういう一方当事者が用意をしましても,少し不当条項規制の根拠が変わってくるのではないかという気がいたします。実際問題,先ほどから個別条項アプローチとして出ておりますヨーロッパ契約法原則の4:110というところにおきましては,個別に交渉されていない条項がという形で不当条項規制をしているのであり,同じく約款を対象とするといっても,もう一つ,何か要件が必要なのではないかなという気がいたします。 ○三上委員 最初に組入れの対象と不当条項の対象の約款は別物という理解で議論しましょうと提案したので,責任上,口火を切らせていただきますが,不当条項を入れるよしあしは議論があるとしましても,契約自由の原則に反するものを規制する目的で公序良俗の具体化を導入するということであれば,約款だけを対象にする必要はありません。単に約款の条項にはそういう懸念が強いものが含まれていることが多い,みたいな統計的な根拠があるだけではないかと思います。それは第一読会でも指摘されたように,個別に議論され交渉の結果できた条項であっても不当な条項は不当だし,特に議論がなく組入れられたからといっても後からどうこう言われる必要がないような条項も多々あるわけです。   実際に,約款を使って契約する側にも,例えば後からその条項についてノーと言うのだったら,我々もそもそも契約しなかったという契約の自由はあってしかるべきだろうと思います。議論が拡散すると困るんですが,少なくとも,事前に説明を受けたり,検討するのに十分な時間が与えられたにもかかわらず,後になってその条項はおかしいというのは後出しじゃんけんです。   「そういう条件なら契約しなかった」が,許されないというのは例えば電気,ガス,水道の供給契約とか,個別に決められた狭い範囲の世界であって,それ以外の通常の取引場面では,事前に言うチャンスがあったにもかかわらず,後から特定の条項だけ,これを外せというのはそもそも契約上の信義にもとるのだろうと思います。信義にもとらない範囲というのは契約内容自体が公序良俗に反する場合であって,それを約款に限ることなく規制すれば必要十分であると思うわけです。先に言いましたとおり,約款を使う場合には個別の修正もあり得る場合もあれば,管理上,本当に個別の修正をやっていられないケースもあるわけですから,そういったものを十把一からげにして約款だけを相手にするということは,そもそもおかしいのではないかと思います。   それから,約款を使うことで,結局,交渉力・情報力の格差で不利益な条項を押し付けられるというような懸念が入ってくるというのはあるかもしれませんが,それもまた,優越的地位とか独占禁止法とか,別の業法の規制の範囲であって,交渉力等の格差の是正を民法に取り込むのか,ここで議論しようとしている不当条項というのは,交渉力の格差を埋めようとするところまでも入れるのかと問いたいわけです。交渉力の格差というのは別に銀行よりも交渉力の強い大企業もあるわけですから,ある程度,類型化しないことには収拾がつかない。その類型化の最たるものが消費者契約法であろうと考えているわけです。   そういう意味で,そういった経済法,業法,特別法でやっていくべきものを排除していくと,私の個人的な意見ですが,およそ,暴利行為以外に,公序良俗の類型として民法に残るのは行為能力の問題に至らない,金商法で言う適用性の原則,いかに説明してもこの人には分からないカテゴリーの契約はしてはいけないという法理ぐらいしか私は思い付かなかったんですが,いずれにしましても,ここで約款だけを相手にすると,本来,対象にすべき不当条項から漏れてしまう部分も出てきますし,約款だからというだけで対象にしなくてもいいものが入ってきてしまう部分も出てくる。それは不当条項を規制するという目的に対して,約款を対象にしようという,規制の目的と対象がずれているから,帯に短く襷に長い議論が発生することであろうと懸念しているわけでございまして,せっかく100年に一度の改正をするのであれば,その範囲を合わせた上でまず議論を始めてはどうかと考える次第でございます。 ○道垣内幹事 三上委員はたくさんのことをおっしゃったんですが,約款であっても個別交渉がされた場合については,部会資料の2に書いてある事柄なのに,あえて先ほど私が発言いたしましたのは,その点がはっきりしないと,1のところで議論が混乱するのではないかと思ったからです。2のところは真摯に考えなければならない問題だろうと思います。   これに対して,三上委員のおっしゃった別の点,つまり,交渉力の格差の問題を民法でやるのですかというのは,やるのですというのが私の回答でありまして,独禁法や消費者契約法でやるべき問題であって,民法の中で扱うべき問題ではないということには私はならないと思います。ただ,三上委員はそのような結論だけをおっしゃったのではなくて,ある程度の類型化を図らなければ,かえって混乱するのではないかということであり,その点はそうかもしれないと思いますので,三上委員に全面的に反対するというわけではないんですが,他の法分野の話であると決め付ける必要はないだろうと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○山本(敬)幹事 2の話をどうしてもせざるを得なくなるのですけれども,よろしいでしょうか。今の道垣内幹事のおっしゃったことと重なりますが,少し結論は違うかもしれません。先ほど申し上げましたように,契約の内容について合意があるという判断ができれば,民法の一般原則によりますと,内容規制に当たるものは,現在のところ,公序良俗に関する規定でして,先ほど三上委員は不当なものは不当だとおっしゃいましたけれども,それは公序良俗違反に当たるという意味での不当であって,それが理由になって無効になると思います。   約款が使われる場合は,先ほども申し上げましたように,約款の内容について合意があると言えない場合です。しかし,先ほどの組入要件を満たすものは,契約の内容になる。ただ,そこでは,飽くまでも包括的に,当該契約に関する細目についてはこの約款によるということが合意されているだけであって,内容についての合意があるとは言えない。したがって,公序良俗による規制とは異なる約款特有の内容規制を認める必要があるというのが,従来の約款規制についての物の考え方だと思います。そして,ここでもそれが前提とされていますので,それとは別の交渉力の不均衡だとか,あるいはその他の実質的な政策的理由に基づく規制がストレートにここに出てくるわけではないということをまず押さえる必要があると思います。   そして,これは次の2の取り分け(1)に関わるのですけれども,仮に約款によるという契約が行われたとしても,個々の条項について個別に合意がされる場合は幾らでもあるだろうと思います。このように個別に合意されたものに関しては,先ほどの公序良俗による規制によれば足りるわけであって,それ以上の約款特有の規制を行うべき理由はなくなると私は思います。その意味で,2の(1)に関しては,前から私自身が提案していますように,交渉の問題というよりは,個別の合意がなされたという認定がされれば,約款特有の規制が外れると整理すれば,かなりすっきりするのではないかと思います。ですので,34ページの1の要件として,積極的に個別の交渉はされていないというようなものを挙げる必要はなくて,規制が外れる要件は,約款特有の規制を行う理由がなくなると意味で,合意が行われたと認定できる場合だとすれば足りると思います。 ○佐成委員 今,直前の山本敬三幹事の意見についてですが,若干,前のところにも書いてあったんですけれども,18ページのところに書いてあったんですけれども,要するに約款の場合の契約条項の定型性から,交渉力の構造的な不均衡が帰結されるという,そのようなことが書かれておりましたが,ちょっと飛躍があるような気もいたします。   というのは,約款,要するに契約条項の定型性があるとしても,要するに定型的なものが使われるとしても,使われる場面はかなり広いし,そうした外形だけで一括りにできるものではないからです。今,このような外形的な要件で適用対象が定められるということなんですけれども,約款が使われることとなる取引領域とか取引分野というのがまず社会的現実として既にあって,その取引領域とか取引分野の構造的な性格・性質によって,場合によっては交渉力の不均衡が生じるとか,そういうことになるのであって,単に形式的に約款が使われるとか,広い意味での約款で今,申し上げておりますけれども,そういう外形的な約款の利用ということから直ちに交渉力の不均衡が論理必然的に生じるというわけでは必ずしもないのではないかということでございます。   特に作成者サイドの事情というよりも,むしろ要するにそういう現実の市場とか,そういう背景にある取引の実体なり現実なしには,作成者サイドの事情だけで定型的な契約条項というものが通用するとか,要するにそういうのが押し付けられるとか,そういうことはまずないわけです。そして,ですから,約款の通用の背景にはそういうものがあるということは,別に特段,交渉力の格差の存在それ自体については否定するとかいうことでは,もちろんないんですけれども,そうした格差が生じるのは,正に背景となる市場環境等にこそあるということ,そこは是非御承知いただいたほうがいいのかなという気が今いたしましたというのが一つです。   それから,私が申し上げようと思ったのは経済界の議論状況でございますけれども,議論状況に関しては御承知のとおり,乙案で規定を設けないということでございます。三上委員もおっしゃっていたのですけれども,消費者との関係では既に消費者契約法による規律があると思いますし,それから,業法等が存在する場合には二重規制になるといったような趣旨の意見がございまして,経済界としては現時点では反対であるということです。   ただ,冒頭にも申し上げたとおり,約款についての規律というのは内容の適正化と不可分の関係にあるのではないかというのは,非常に私は問題意識としては強く持っておりまして,だからこそ,経済界としても反対の意見が強いんだと思うんです。その意味で,時間がない中,大変恐縮ですけれども,最後に,斯界の泰斗である星野英一先生の教科書,「民法概論」の印象的一節を御紹介させていただきたいと思います。つまり,私が読んでみた範囲でも,星野先生は,約款についての多彩な学説,具体的には,いろいろな契約説,制度説,包括合意説,慣習法説,部分社会の法規範説とかを紹介して,「しかし,結局のところ,十全な説明は困難である。」と総括した後に,自説の要点を簡潔に展開して,その後に,「実際は,合理的な条項であれば問題がなく」とお書きになって,あえて「説明はどうにでもできる」というコメントまで付した上で,さらに「不合理な条項に問題があり,これに対する種々の規制が重要である」と,そうお書きになっております。「説明はどうにでもできる」と,要するに組入要件のところについては一蹴されております。そして,むしろ,内容の適正化というところにかなり論述の力点が置かれているように見えますものですから,本当に切り離して議論できるのかなというのは,その意味でも相当疑問があります。   経済界の立場としては,切り離してほしいというのが本音ではございますけれども,本当にそうできるのかなと,どうしても素朴に疑問を感じてしまうというところをもう一回,申し上げたいということです。 ○鹿野幹事 不当条項規制のところで,約款でも個別交渉を経たものについては,ここから外してよいのではないかという御意見がありました。これについては私も基本的には賛成したいと思います。ただ,個別交渉がなされたということが余り形式的に判断されないように配慮する必要があると思います。それが第1点です。   それから,もう一つは,約款でなくても類型的に個別交渉がされない条項が用いられる場合があるのではないかということです。そして,それについて不当条項規制がかからないということでよいのかにつき検討する必要があると思います。もちろん,約款の定義にもよるのですが,組入要件における約款の定義の仕方によっては,不当条項規制のほうは約款を対象とするというより,むしろヨーロッパ契約法原則の4:110条に見られるような形で,個別交渉のされていない契約条項の内容規制という形でくくったほうがよいのかもしれないという気もします。あるいは,不当条項規制についても約款という概念を持ち出すとしても,それは,約款については原則として不当条項規制の規律の適用はあるとした上で,一方で,その例外として個別交渉があった場合をその規制対象から外し,他方で,約款以外の場合についても,個別交渉がない場合には同様の規律の適用があるというような形で不当条項規制の対象を広げるということも考えられると思います。 ○山野目幹事 佐成委員の御意見で,今日,繰り返し個別契約アプローチというか,契約条項アプローチというものに当たるお考えをお示しいただいており,一貫した形で,第3の1に関しても乙案を支持するというお話は,そのようなお考えが背景にあると理解します。それと同時に私の理解が正しいかどうか,確かめさせていただきたいのですが,第3の1でそういう発想に立って乙案をお述べになるということは,結局,契約条項に対する内容コントロールは消費者契約法8条,9条,10条のほか,民法90条のみがあるという状態で,今後もそれでよろしいというお考えであると受け止めますけれども,そういうことでございますか。 ○佐成委員 少なくとも現時点では基本的にはそのような認識でおります。 ○山野目幹事 恐らくそうなのであろうと受け止めておりました。そのようなお考えも一つの明快なお立場であるとは受け止めます。その上で,しかし,私として消費者契約法8条,9条,10条以外の領域で,なお,検討すべき課題が残っている領域が幾つかあるように感じます。具体的に二つ挙げますけれども,一つは同種の物を販売しており,又は同種の役務を提供している事業者が顧客の利益を一方的に害するような契約条項について,民法90条のコントロールのみで大丈夫かという問題は検討される必要があると考えます。それから,もう一つは継続的な契約をしている当事者のうちの一方が優越的地位にあり,その相手方の利益を一方的に害する条項について民法90条に任せ切って大丈夫かということ,これら二つの領域についてなお約款の議論とどう交錯させるかを併せて検討しなければいけませんけれども,不当条項規制の問題を引き続き独立の論点として検討していくべき必要があるであろうと感じているということのみ,今日は申し上げさせていただきたいと考えます。 ○能見委員 この分野は非常に精緻な議論がされていて,私の理解自体が間違っているところがあるかもしれませんけれども,私も伺っていてまず約款が用いられることで合意が必ずしも十分になされていない形で契約に取り込まれたものについて,特別の規制が必要であるという考え方を基礎にするのがよいと思います。その際,約款であっても中心的な部分であって個別的な合意に基づくものについては約款規制の対象から外し,個別的な合意がない部分について特別な規制を考え,そして,特別の規制をする場合に,これを民法90条の公序良俗違反との関係で言えば,それとは一応別のというか,あるいはそれの特則みたいな形で,約款に対する特別の規制を位置付けるということは,それはそれで一つのあり得る姿だろうと思います。   ただ,ここで山野目幹事の意見に近いのか,あるいは違うのか,よく分からないんですが,約款による契約以外の一般の契約において不当条項が問題となることはあり得る話で,あるいは更に言えば,約款規制の対象外とされるような  個別の交渉もしたけれども,結果的に不当な条項となったというものもあるとも思いますし,いろいろな場合があると思いますが,要するに先ほど述べた特別な約款規制だけでは必要な規制が掛からないで落ちてしまう部分がたくさんあると思います。このような約款規制の対象から落ちてしまう部分について,90条だけでいくのはやはり無理ではないか。不当条項ではあるが公序良俗に反するとまでは言えない,だけれども,不当に一方的な内容で,一方的に不利益を一方の契約当事者に押し付けているというようなものについては,信義則に基づく不当条項の規制というのがあり得ると思います。参考資料にもありますように,諸外国では不当条項の規制自体を信義則に求めているのがあると思いますが,それは,恐らく条項の内容がなかなか公序良俗違反とまでは言いにくい。けれども,不当な条項ということで信義則などで規制することができる。こういう考え方による規制と規制の対象領域をうまく規定できるのであれば,不当条項規制をここで併せて規定するということは考えられるのではないかという感想を持ちました。 ○高須幹事 最初の議論にやや戻るところもあるのかもしれませんが,今回,民法の改正の中で約款に関する一定の規定を設けることを選択した場合に内容の適正性ということも併せ考慮するということは,避けては通れないのではないかと思います。その根拠に関して,なぜ,そうなのかのところについて,なるほど,学問的研究があり,その考え方には諸説があるということも理解はするわけなのですが,その中で,現に立法するという段階になれば,それに対してはいろいろな考え方があることを踏まえた上で,一つの方向性というものは出さねばならないと思っております。組入要件だけを決めて不当条項については,またいろいろな議論があるからみたいな形にしてしまうということは,今回,約款を法の中に取り込むということに関する意義を失わせるものではないかと思います。ですから,まず,約款について不当条項規制を設けるということは必要なことなのであろうと。   ただ,その中で,今,議論が出ているように本来のなぜ適正性が求められるかという制度根拠との関係から,個別交渉したものはどうするかとか,一定のいろいろなことを決めていかねばならない。そのこと自体は確かにそうだと思いますし,これだけの英知が集まっているわけですから,一定の内容を決めていくことが求められているのだろうと思います。ただ,いずれにしても,ここで組入要件を定めた上で,不当条項を少なくとも約款については設けるということ自体は必要なことだと思いますし,仮にそうでないというのなら,組入要件そのものからまず考えねばならないと。   そうすると最初に議論に戻ってしまいますけれども,そういうことで何か議論の過程で置き去りにしてしまったものがあっては,これは将来にわたって大きな後悔を残すことになると思いますので,是非とも少なくとも約款に関して不当条項規制を考える。その余について更にどうするかを考えるのも十分大事なことだと思いますから,私はそれも考えたらいいと思いますけれども,約款に関してともかくそのこと自体の必要性はあると思っております。 ○潮見幹事 基本的に高須幹事と同意見です。まずは約款から検討してみろというところには大賛成です。その上で,そこで出てきた不当条項規制の内容次第ですが,先ほど能見委員がおっしゃったところに絡むのですが,個別合意がされた場合については,民法90条の公序良俗の規定で処理をすることができるということであるのならば,わざわざ,ここで個別合意について不当条項規制なるものを別途設ける必要はない。   私はこれを公序良俗でできると思っているのですが,公序良俗とは何なのかについて,能見委員と私の理解はちょっと違うようなところがあるのかもしれません。能見委員が信義則とおっしゃった部分は,私は公序良俗で十分対応できるのではないかと思っています。しかし,能見委員のようにそうではないと考えている方のほうが多かったならば,個別合意は90条で処理可能と思っていた部分が,結果的に抜け落ちてしまう可能性があります。そうであれば,約款による契約の不当条項規制の検討結果が,個別の契約における不当条項の規制の在り方にどう反映してくるのかというところは,慎重に検討していただければと思いますし,その検討の余地は残しておいていただきたいと思います。 ○三上委員 やはり,こうなるんだなというのが,詠嘆調の感想なんですが,しつこいですけれども,私は約款が,当事者間に明確な合意があると言えない状況で組み込まれることに関する弊害は,不意打ち条項等でカバーすべきだという点で,約款故の弊害是正措置の必要性を否定するものではありません。しかし,契約が成立した後になってこの条項がおかしいかどうかというのは,別に約款だけの問題ではなくて,例えばオーダーメードで自分がリテインした弁護士が作った契約だけれども,よく内容も読まずに印を押したという契約だって,同じような問題が発生するかもしれないわけです。   ここで議論されているのは,基本的には「十分な合意がなされていない条項」という観点からの議論だという前提で,この資料もその前提で作られておりますけれども,先ほどから何人かの委員や幹事の皆さんから,それ以外にも交渉力の格差がある場面なども議論すべきだという話も出てきております。不当条項規制というのは約款だけを取り上げて対象にする必要はない,約款にそういう条項が多く含まれている可能性があることは分かりますけれども,まず,約款から議論するという方向には明確に反対したい。それだったら,そもそも組入れのところからひっくり返しますかという話になってしまうからです。   なぜかといいますと,先ほどから何度も言っていますけれども,銀行取引約定書は,組入れの是非が問題になるような意味での約款ではないんです。だから,じゃあ何が約款ですかというまた意味のない議論に戻ってしまう。銀行取引約定書の問題は交渉力の格差とか,優越的地位の濫用とか,発動の個別の場面では信義則違反とか,その手の問題であって,相手方に契約内容も全部示されて,説明も,場合によっては修正交渉もある。それならば,そもそも第3の入口の出だしで「約款が使用された」と言うのではなくて,「個別に合意されていない約款が使用された」と,その段階で削ってもらわないことには議論に乗れない,そういう話になってきます。   さらに,2の「個別に交渉されたものは対象としない」というのは,どういう場面を皆さんは想定していらっしゃるのか,私には分からないんですが,交渉過程なんて我々は一々記録に残していないわけです。そんな記録を全部残して保管するコストは掛けられない。そういったものを,これは個別に交渉された部分だ,これは別に交渉されていない部分だというのを後からどうやって裁判で立証しろというのか。そんな民法になってもらっては,実務をやっている人間としては非常に困るわけです。   基本的に我々も佐成委員と同じようにここは原則は乙案ですが,実際に本当にそれだけでいいのかと思うところは,個人的にはあると思います。また,それを民法とは別の法律でやるべきだという議論はあり得ると思います。不当条項について有益な議論をするということであれば,まず,約款から対象にしようというところからは,離れるべきであるというのが私の考えです。 ○三浦関係官 組入要件については,先ほど二つの意見があったわけですけれども,経済産業省でまた検討しましたところ,不当条項についてはワンボイスで乙案,規定を設けないに賛成という状況でございます。まず,B to Bについては基本的には事業者間で契約条項をしっかり作り込んでやっていて,多少,何かトラブルがあっても,それは企業の自己責任だろうというお話であります。例えばIT業界などでも一般的に受け入れられている慣行のようなものがあって,そういうところで別の規範が不当条項規制という形できた場合には,なかなか,取引が円滑にいかなくなるという懸念がございます。あと,特にリスト化については非常に実務上,負担が増加する懸念が強くて,取引を萎縮させる可能性があるということで反対ということでございます。   B to Bになってくると何が不当かというところで,個別の取引の全体像とかコンテクストとか,そういう中で判断しないといけないので,そういう中で意味のある一般則を置けるのかどうか,今,ある種の公序良俗とか信義則とか,独禁法で決まっていること,消費者契約法で決まっていること,いろいろなものを超えていて,かつ一般的にアプライできるような意味のある一般則ができるのかどうかということなのかもしれません。今現状,ややその点について検討を深める必要が更にまだ必要かなというのが当省の感じでございます。 ○山下委員 事業者間契約についてどう考えるのかというのも,1の論点の中に示されているかと思いますが,今日のこのペーパーは民法でこの立法を考えているから,約款という切り口でいけば何とかなるだろうということなのですが,不当条項規制の適用を考えていけば,消費者契約と事業者間契約で同じなのかという論点はどうしても出てきて,そこで,今,御意見のあったような適用除外とかいうことになると,また,消費者契約法とどこが違うということになりますし,そこまではやらないとすれば適用の程度を変えるというようなことはあるかと思うのですが,とにかく,そうやって約款を切り口にして民法で一般規定を置くという場合に,消費者契約法があって,現にそこに不当条項規制がある以上,余り民法にそれより厳しい規制は置けないと思うのです。でも,消費者契約法が非常に強力な不当条項規制を持っていて,それが特別法で消費者をしっかり守っているという状況であれば民法のほうはやや一般的な規定というバランスが取れるのではないかと思うのですが,消費者契約法は御存じのようにやや政治的な妥協で弱い規制であって,そういう現状を置いておいて民法の規定を考えることはなかなか難しいなと思います。かといって,消費者契約法をどうするのということになると,また,大騒ぎになるかと思うので,そこは民法の枠で考えるということに私も反対はしませんけれども,全体的なバランス感覚としては,消費者契約法の在り方と切り離して,この問題は考えられないのではないかなという気がしています。 ○岡委員 弁護士会は甲案が多数でございます。ここから先は個人の意見ですが,約款に伴う内容規制は必要だろうと思うんです。それを不当条項規制とか不当条項リストというから大げさになって,三上さんのような反応が出てくるのだろうと思います。希薄化された合意を認める以上,内容の合理性のチェックは必要なわけで,それは不当条項リストだとか大げさなものではなく,オランダ民法の233条とか,そういう星野先生がおっしゃったような内容規制は一定程度,それは三上さんも納得されるはずでございまして,希薄化された合意に伴う内容規制としていけば,それほど反対はないのではないかと思います。   弁護士会はそれだけでなく,能見先生もおっしゃった,山野目先生もおっしゃったような第一読会では不当条項アプローチでしたか,優越的地位の濫用だとか,零細事業者だとか,継続的契約に伴う,そういう本来的な交渉力の格差のある場面における,それは本当に不当条項リストのような大掛かりなもので規律を作っていくべきものだろうという意見が強いです。その方向について弁護士会としては立法提案まではしておりませんけれども,約款に伴う内容規制は微々たるものだろうけれども,それはそれで作っておいて,それとは別の交渉力格差のための不当条項ができるのであれば,是非,作っていただきたいというのが弁護士会の多数の意見だろうと思います。 ○中井委員 弁護士会の多数の意見ということで岡委員から紹介がありました。少なくとも約款自体を対象に不当条項規制をしていくという考え方については賛成です。その説明は,岡委員からもありましたように,希薄な合意という形で法的拘束力を認める以上は,内容の合理性の担保が必要不可欠で,その制度的保障として具体的に何があるかという観点から,それは不当条項規制であろう。その点を三上さんが強く批判されるのがよく理解ができないと思っております。部会資料で,そこは適切に説明されているように,合理性の担保という手段の中身の濃淡はあるかもしれませんけれども,それを今後,検討していくべきだろうと思っております。   さらに不当条項一般規制について,消費者契約アプローチといわれる情報量,交渉力格差を理由とするアプローチのほかに,約款という希薄な合意からのアプローチ,それを超えて一般論としての不当条項というのも,将来的に,同じ範ちゅう,一つの類型として考えていく,多くの弁護士会は,それを今後の検討課題としていくべきだという考えを持っておりますが,差し当たって部会資料の第3,1での甲案,約款が使用された契約を対象にまずは提案するという考え方に反対するものではありません。むしろ,これを第一歩として,次の課題についてどのような取組ができるか,考えていくのが現実的ではないかと思っております。   それから,不当条項リストについて,今日は参考のために大阪弁護士会が考えているものの案を配布しておりますので,次回,これについては,是非,議論させていただければと思います。 ○沖野幹事 第3の1の点です。甲案と乙案という2案が出されているのですけれども,鹿野幹事や潮見幹事や能見委員がおっしゃったように,甲案と乙案という選択のほかというのも気になっております。三上委員が約款だけの問題ではないだろうと言われるときに,それが当然に乙案となるのかというと,むしろ,その場合には内容規制に関して条項についての内容規制の一般規定を,現在の90条とは別に置くということが考えられてしかるべきではないかとも思われます。   そういう規定の要否と約款に着目した不当条項規制というのか,内容規制というのか,それとの関係ですが,むしろ例えば約款であることも考慮してというような形で一般的な内容規制の条項の内容規制の規律の中に入れ込んでいくという方法もありますので,そのような形とするのか,それとも,約款に特別なルールを設けるのか,設けられるのかを考えていくべきではないかと思います。その意味では,第3の1については,むしろ,不当な内容の契約条項の効力を規制するための規定を設けるものとするとした上で,その対象は約款が使用された契約を対象にした特則を設けるのか,あるいはそれ以外にも広げていくのか,別のものを設けるのかといったような甲’案とでもいう考え方が甲案と乙案との間にあるのではないかと思われます。そういうことが必ずしも排除されていないということは,今までの御指摘から明らかだと思いますけれども,そう考えていったときに三上委員のように考えたとしても,甲’案ということがその下でも考えられるべきではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 詳しくは今後,議論すべきことだと思いますが,課題だけ申し上げますと,今,何人もの方から,約款が使用された場合を対象にするのか,あるいはもっと一般的に不当条項規制を考えるべきかという問題提起をされて,後者のような道があり得るという御指摘がありました。それはもちろんあり得る考え方だと思いますが,その際には,そのような規制を行う根拠がどこにあるのかということを必ず説明せざるを得なくなると思います。民法一般については90条による規制がある。それとは異なる何らかの不当条項規制を行うと言われる場合は,恐らく,何らかのタイプの紛争なり,何らかのタイプの契約なり,何らかのタイプの条項を念頭に置いて,そのような御提案ないしは御意見を述べられているのではないかと思いますが,それをどうすくい取るか,そして,その根拠は一体どこにあるのかということを説明せざるを得なくなると思います。この案を採るならばそのような検討課題が出てくるということだけは,ここで指摘させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 次回に具体的な内容の議論をすることになりますけれども,そのときに契約条項アプローチでいった場合には,現在の消費者契約法との関係あるいは90条との関係にどう整理をつけるかが重要なポイントになると思いますので,その点についての御意見があるようでしたら,また,その際に具体的にお出しいただければと思います。   ということで,本日はこの辺で一区切りということでよろしいでしょうか。第3の1についてまだ意見も残っているかと思いますけれども,積み残した部分については来週の予備日を使って審議をさせていただきます。   分科会についてでございますけれども,本日の審議におきまして幾つかの論点について分科会で補充的に審議するものとされましたけれども,これらの論点につきましてはいずれも第2分科会で審議をしていただくことといたします。松岡分科会長を始め,関係の委員・幹事の皆様にはよろしくお願いいたします。   最後に,次回の議事日程等につきまして事務当局から説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 次回会議は7月3日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は中央合同庁舎6号館の東京地方検察庁公判部会議室になります。よろしくお願いいたします。   次回は予備日として予定していただいていた会議ですので,新たな部会資料の送付の予定はありません。本日の積み残し分のみを御議論いただくことを予定しております。よろしくお願いいたします。   それから,分科会関係の報告ですが,第2分科会の第4回会議が先週6月19日に開催されました。その開催結果について机上にペーパーを配布しておりますので,このとおり報告いたします。なお,この会議の際に事務当局から分科会資料5「免責的債務引受の要件・効果の検討用補充資料」を配布いたしましたので,これを部会の場でも改めて配布いたしました。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。それでは,本日の審議はこれで終了とさせていただきます。本日も長時間にわたり,熱心な御議論を賜りまして誠にありがとうございました。 -了-