法制審議会民法(債権関係)部会           第52回会議 議事録 第1 日 時  平成24年7月17日(火)自 午後1時01分                      至 午後6時32分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 法制審議会民法(債権関係)部会の第52回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○筒井幹事 本日の会議用の事前送付資料として,部会資料43をお届けしております。この資料の内容につきましては,後ほど関係官の新井から説明いたします。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料43について御審議いただきます。具体的な進め方といたしましては,休憩前までに「第2 売買-売買の効力(売主の責任)」の「2 権利の移転に関する売主の責任(民法第560条から第567条まで)」について御審議いただき,午後3時15分頃を目途として適宜,休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,残りの部分について審議をしていただきたいと考えておりますので,よろしくお願いいたします。   まず,「第1 売買-総則」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○新井関係官 それでは,説明いたします。   「第1 売買-総則」では,「1 冒頭規定の規定方法」で,売買を始めとした各契約類型の冒頭規定につき,現行の効力規定型から定義規定型に改めるとの考え方を取り上げています。   「2 売買の予約(民法第556条)」では,まずアにおいて,民法第556条の予約の定義を条文上明記するとともに,契約当事者の双方が予約完結権を有する予約が可能であることを条文上明記することを提案しています。続いてイでは,アで定義した予約の理解を前提に,要式契約の予約について,その予約において当該方式に従う必要がある旨を条文上明記することを提案しています。   「3 手付(民法第557条)」では,アにおいて,履行に着手した当事者自身が手付解除をすることは妨げられないとする判例法理を明文化する甲案と,手付解除の当事者の範囲につき現行の規定を維持する乙案とを取り上げています。また,イにおいて,民法第557条の「償還」という文言につき,判例・学説を踏まえ,これを「提供」と改めることを提案しています。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分のうち,まず,「1 冒頭規定の規定方法」と「2 売買の予約(民法第556条)」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○岡委員 バックアップで議論していた段階での質問でございます。最初の「冒頭規定の規定方法」のところですが,定義を置くということ自体,それほど反対があるわけではないんですが,表現を変えることによって何か変わるのか,変わらないのかという観点の質問でございます。例えば現行法を基にして当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し,相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって成立する契約をいうと,あるいは約することによって効力を生ずる契約をいうと,そういう表現と今回の案の表現とは同じなのか,違うのか,質問します。 ○鎌田部会長 では,事務当局からどうぞ。 ○新井関係官 定義の規定にするということと,各契約類型の意義を変えるということとは,基本的には別の問題であろうと思っております。ここで提案している冒頭規定の定義を効力規定から定義規定に改めるということそれ自体では,実質的な契約の意義とか,中身を変えるというところまでは含んでいません。契約の意義を変えるということであれば,各契約類型のパートで別途,そういう問題として議論する性質の話であろうと理解しております。 ○岡委員 「約する」という表現を「義務を負う」という表現に変えることに,どういう狙いがあるのか,どういう違いが生ずるのかという素朴な質問でございます。 ○新井関係官 同じ答えになってしまうと思うのですが,いずれの規定のほうが分かりやすいかということだと思っていて,「約する」というところを「義務を負う契約」としたことで,何か実質を変えるということを意図しているわけではありません ○鎌田部会長 諾成契約であるということは,特にここで言わなくてもいいということになりますね。 ○松本委員 岡委員と基本的に近い問題意識ですが,諾成契約だからどっちでもいいのではないかという話だと思うんです。従来型の要件規定は諾成契約だから,この定義規定とほんの少し文言が違うレベルでしょうけれども,要物契約の場合にどうなるのかというのが私の根本的な疑問でありまして,それは恐らく岡委員のおっしゃったことと根底は一緒だと思うんです。すなわち,定義規定と成立要件規定を二段構えで置くのか,それとも,定義規定の中に要物契約であるという趣旨も入れた定義規定にして,一本化するのかという疑問点です。 ○能見委員 今の松本委員の意見とほぼ同じような関連ですけれども,定義規定にするのか,今までのような,「約する」ことによって効力が生じるというような規定にするのかという二者択一の問題では恐らくなくて,定義は定義で設けて,別に,売買契約の成立に関する規定をもう一つ設けるということで解決するのが,適当ではないかという気がいたします。ただ,諾成契約の場合には,今,松本委員が言われたように,定義規定と契約の成立に関する規定というのが,ほとんど中身が同じようになってしまうかもしれないので,そこは工夫が必要で,どのような表現にするかを考えたほうがいいと思います。そのようにすれば,諾成契約の場合と要物契約の場合で同じ体裁になり,特に要物契約の場合には,その趣旨が明確になると思います。 ○鎌田部会長 事務当局からはよろしいですか。ほかに御意見はございますか。2のほうについてはいかがでしょうか。 ○岡委員 「予約」のイのほうですが,これもまず質問なんですが,予約契約を要式に従って行うと,予約完結権の意思表示を行使して本契約になるときに要式はもう要らなくなるのか,ダブルで要るのか,それはどっちなんでしょうか。 ○新井関係官 予約のときに方式を整えていれば,予約権受付の行使時には特に方式は要らないと,そういう理解でおります。 ○岡委員 補足説明の4ページの2のそこでの第2段落のところの2行目の予約についても,必要がある旨の規定を設けることを提案し,とここに「も」があったので,ダブルに読む人間もいましたので,今度,中間試案等に進むときは明確に書いていただいたほうがいいと思います。 ○新井関係官 御指摘ありがとうございます。 ○松本委員 予約の規定の民法典上の位置の問題なんですが,原案では「売買」のところに置いて,有償契約について準用するという形でつなぐという現行どおりです。その理由として,売買以外の予約がどれぐらい使われているのかという疑問があるからだと書かれているわけですが,一昔前に特に仮登記担保との関係で議論をしたときに,贈与予約というのが結構使われていると勉強した記憶があります。現在,どうなのか,分かりませんが,贈与予約というのが存在するのだとすると,贈与というのは有償契約ではないわけで,そうすると,有償契約に準用するということだと贈与予約は漏れるという感じがいたします。そうなると,契約総則の成立周りの規定として,予約をきちんと位置付けるのが適切ではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○佐成委員 ここの2のア,イについては特段,反対する訳ではございませんで,確認でございます。補足説明の1のところにも書いてありますけれども,予約という言葉は日常用語としても使われていて,この提案は,民法上,予約の中身を書き下すという形で,その紛らわしさを解消しようとしているわけです。けれども,そもそもこの予約という言葉それ自体の用語としての適切性ということについても,まだ,十分な改正提案はないかもしれないのですけれども,検討できるようであれば,御検討いただいたほうがいいかなということでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○三上委員 今の佐成委員の意見に重なるんですけれども,金融取引等も含めて予約というのは将来の正式契約,例えば外国為替の先物予約のように,決してここに書いてある予約ではなくて,将来の売買が正式に成立した契約で,履行期が将来にあるだけというもので,むしろ,世の中ではそちらのほうが多いのではないかと感じます。ここにいう予約というのは,どちらかというとオプションの類いでして,私は長らくこれで勉強してきましたから,民法上の予約といえば,そっちのことだといって違和感はないんですが,正式に定義が入ってくると,我々が普通,契約で使っている「予約」という用語が,非常に紛らわしくなってくるのではないかという危惧を持っております。そういう意味では,今回を機に予約とオプションをきちんと明確に使い分ける方向で,どちらが日本人の一般の感覚としての民法でいう予約に近いのかという調査が必要かもしれませんが,その点を見直していただきたいと考えております。 ○野村委員 不動産の賃貸借契約で,まだ,建物が建っていないときに賃貸借契約を結ぶときに,契約書では,賃貸借の予約という表示になっていることがかなりあるのではないかと思います。かつてのサブリース契約でも予約契約が用いられていましたが,今もサブリースではなくても建物の建築にかなりの期間が掛かるようなものについては,同じような予約契約という表現をしていると思います。今までのいろいろな方の発言と同じように,予約の定義という形で規定を置くと,そこから外れるのかなと思いまして,その辺をどう考えるのか,お考えいただければと思います。 ○中田委員 先ほど来,定義という言葉が出ているんですが,何の定義なのかがはっきりしないように思います。予約の定義か,売買の予約の定義か,売買の一方又は双方の予約の定義かということです。仮に予約一般についての定義をこのようにするのだとすると,今,何人の委員・幹事から出たような問題があるほかに,片務予約や双務予約というのが予約の概念から排斥されることになりそうです。つまり,非常に限定された概念に予約という広い言葉を与えるということの問題が,今,出ているのだろうと思います。 ○鎌田部会長 確かにおっしゃるように,アで書いてある定義の部分は,一方の予約又は双方の予約の定義です,内容的には。それ以外の予約は今後,予約とは言わないということでいいのかどうか。民法上の予約は一方の予約だけかというと,消費貸借の予約というのは一方の予約とは全然違う予約ですから,ここで言う予約そのものではない。一方の予約・双方の予約だけを予約と言って,ほかのものについては今後,予約と言わないというのが一つの行き方かもしれませんけれども,その辺が議論の対象になるのかと思います。   これは個人的な感想で申し訳ないんだけれども,イについて,私は岡委員のおっしゃられたことと似た感覚があって,要式契約の一方の予約において,予約で方式を整えていれば本契約では整えなくてもいいというのは,実益があるような気がするんですけれども,補足説明に書いてあるような,一方の予約を使ってしまうと要式主義が潜脱されるという可能性はあり得ないのではないでしょうか。予約にも本契約にも方式がないときに,一方の予約を使っていることを理由として方式なしで本契約の効力が生じてしまうおそれがあるからという理由の部分については,納得がいかないと思っていますので,表現の工夫をしていただけたらと,お願いします。   それでは,3の「手付」について御意見をお伺いいたします。アについては甲・乙の二案併記となっておりますので,是非,御意見をお出しいただければと思います。弁護士会は特に御意見はございませんか。 ○中井委員 多くの単位会は甲案に賛成です。個別意見が出たところを申し上げますと,6ページの1の(2)で指摘されている問題,損害を与えるおそれがある場合について,何らかの規定を置いたほうがいいのではないかという意見が一単位会から出ております。基本的には手付放棄若しくは倍返しという中で処理されるという理解,履行の着手をしていることによって回避できるという理解もあり得ますが,それを超える事例がないわけではないという指摘です。   幾つかの高裁判例を指摘して,転売パターンで,転売をするために買主が一定の行為を行った,例えば山林であれば木を切る,そういうことが履行の着手ではないという裁判例があるようですので,そういう場合に買手側に予期しない損害が発生する場合があり得るので,検討する余地があるのではないか。ここの(2)では検討対象には含めていませんけれども,検討対象にしていいのではないかという意見がありました。   もう一つ,基本的な規律はアの甲案でいいとは思うんですが,実務的によくあるものとして,当事者間が合意した日までであれば,解除できるという使われ方をしている。その意味するところは,その日までに両方が着手してなくても,その日以降は手付解除ができないという効果と,その日までに双方が仮に履行に着手していても,その日までは無条件で解除できるということ,これがよく不動産売買では使われているという指摘がありました。甲案のままでもそのことを排斥する趣旨ではないと思いますけれども,甲案を良としながらも,別段の合意がある場合はその限りにあらずというのではなくて,合意がある場合についての規律を入れたほうがいいのではないかという意見があったことを参考に申し上げておきます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○潮見幹事 私自身は補足説明で挙がっている最高裁の判決のうちの,反対意見のほうに賛成ですし,このことを自分の本にも書いていますが,多数意見のほうにも一理があるということは承知しております。多くの方々が甲案の大法廷判決の法廷意見の方向がよいということであれば,それに沿った規定を置くということについて特に反対はしないつもりです。なお,中井委員がおっしゃられたことは,任意規定ということで契約の解釈で十分対処できるでしょうし,補足説明のところに書かれている損害賠償については,極端な場合には信義誠実義務の違反ということで,損害賠償その他の処理をすることができるのではないかと思います。甲案を採っても,損害賠償ほかによる処理が否定されるわけではないというのであれば,甲案でまとめていただいていいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 積極的に乙案を支持しようという御意見はございますか。では,甲案支持ということで意見が一致したという扱いにさせていただきます。   イについては特には御異論はございませんでしょうか。 ○中田委員 これは前回からも出ている論点で,最高裁の平成6年判決に対する批判的な学説を配慮した御提案になっています。その当否については判例評釈などでも議論されておりますので繰り返しませんが,いずれにしましても492条の弁済の提供と,ここでの提供とは同じでないということは,異論がないのはないかと思います。取り分け493条が準用されるということになりますと,買主があらかじめ受領を拒んでいるという理由で,口頭の提供でもよいとされる可能性が広がって,適当ではないのではないかと思います。そうすると,単に「提供」に変更するということは,判例に対する批判説を重視する余り,過剰な変更になっているのではないかと思います。   そこで,考えられますことは,492条,493条は「弁済の提供」に関する規定であるのに対して,ここでは「倍額の提供」であって,弁済の提供ではないということを明確にするということが考えられます。ただ,単に提供と書いただけだと,そこははっきりしないと思います。そこで,493条に相当する規律を557条の中で規定するということはどうだろうかと考えております。例えば,「売主の倍額の提供は,現実にしなければならない。ただし,相当な理由があるときは,口頭の提供で足りる。」というような,文言は未熟ですけれども,そのような具体的な規律を書き込むということが紛れがなくていいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,ただいま御指摘のありました点を踏まえて更に検討させていただきます。   続きまして,「第2 売買-売買の効力(売主の責任)」うち「1 物の瑕疵に関する売主の責任(民法第570条関係)」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○新井関係官 それでは,説明いたします。   「第2 売買-売買の効力(売主の責任)」の「1 物の瑕疵に関する売主の責任(民法第570条関係)」は,物の瑕疵に関する売主の責任に関する規定の整備を取り上げるものです。   「(1)売主の瑕疵のない目的物給付義務の明文化」では,まず第1パラグラフにおいて,物の瑕疵に関する売主の責任を債務不履行と理解することを前提に,それを明確にする観点から,売主は瑕疵のない目的物を引き渡す義務を負う旨を条文上明記することを提案しております。第2パラグラフでは,裁判実務における瑕疵判断の在り方などを踏まえ,瑕疵の意義を具体的に条文に明記することを提案しています。この瑕疵には,現行法では権利の瑕疵と分類されている民法第565条の数量不足及び一部滅失についても含めることとしています。瑕疵の意義を明文化する場合,国民一般から見て分かりにくいと指摘されている「瑕疵」という用語を条文上維持すべきか否かも併せて問題になると考えられますので,この点につきましても御意見を頂ければと思います。第3パラグラフでは,現行民法第570条にある「隠れた」という要件は設けない旨を提案しています。   続いて,「(2)引き渡された目的物に瑕疵があった場合における買主の救済手段の整備」では,まず,アにおいて現行法では規定のない代金減額請求権を条文上明記することを提案するとともに,減額できる代金の額を条文上明記することの要否及びその具体的な在り方について問題提起しています。イにおいて,目的物に瑕疵があった場合には買主に瑕疵修補請求権又は代替物等引渡請求権といった追完請求権がある旨及びその障害事由を条文上明記することを提案しています。その障害事由のうち,aとしているのは履行請求権の限界事由あるいは不能とパラレルな限界事由です。bとしているのは買主が選択した追完方法につき,売主が提供する追完方法が一定の要件を満たす場合に,売主の選択が優先するとするものであり,買主の選択を覆す効果にふさわしい適切な要件設定が必要であると考えられます。ウでは救済手段の相互関係につき,一定の規定を設けることを提案しています。   続きまして,「(3)短期期間制限の見直しの要否等」では,まずアにおいて,短期期間制限を廃止して消滅時効の一般原則によるとする甲案と,短期期間制限を維持する乙案とを取り上げています。イでは,仮に乙案を採用する場合における具体的な規定の在り方につき,乙-1案から乙-3案までを取り上げています。なお,これらの案は相互排斥的なものではないとも考えられ,例えば乙-2案と乙-3案とを併用するとの考え方もあり得ると思われますので,そのような可能性も含めて御意見を頂ければと思います。ウでは,仮に第1パラグラフの乙案を採用する場合に,売主が瑕疵の存在を知りながら目的物を引き渡したときには短期期間制限を適用しない旨を条文上明記することを提案しています。   これらの項目のうち,(2)と(3)については本文に掲げた各案の問題点の整理等を含め,具体的な規定の在り方を分科会で補充的に検討することが考えられます。これらの論点を分科会で検討することの可否についても御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明のありました部分のうち,まず,「(1)売主の瑕疵のない目的物給付義務の明文化」について御意見をお伺いします。 ○筒井幹事 連合の安永委員から発言メモが提出されていますので,読み上げて紹介いたします。   民法第570条の「瑕疵」の条項は,民法第559条により売買契約以外の他の契約類型にも準用されますが,従来の民法第570条の「隠れた瑕疵」とは,一般的に物的な瑕疵あるいは権利上の瑕疵と理解されているため,労働契約に関して供給される労働力に欠陥がある場合(傷病等)については,民法第559条を媒介として第570条が準用されても,「瑕疵」に関する労働者の責任が追及されることは想定されていませんでした。   しかし,部会資料43,7ページでは,売主は買主に対し,瑕疵のない目的物を引き渡す義務を負う旨を条文上明記し,瑕疵の定義について例えば「目的物が[契約において予定されていた/契約の趣旨に照らして備えるべき]品質,数量などに適合していないこと」と提案されています。この提案によれば,労働契約に基づき供給される労務に関して,疾病等が原因で労働契約で予定されていた品質等又は契約の趣旨に照らして備えるべき品質等に適合しない場合,労働者は「瑕疵のない目的物を引き渡す義務」に違反しているとして,その責任を追及され,使用者から報酬減額請求権を行使されるおそれがあります。   建物賃貸借契約や労働契約のような継続性のある契約については,経年劣化や疾病等に起因して,建物や労務に関して「[契約において予定されていた/契約の趣旨に照らして備えるべき]品質,数量などに適合していない」状態が発生し得るのであり,新たな提案の下では,こうした場合に賃貸人や労働者が瑕疵のない目的物を引き渡す義務を負うこととなり,賃貸人や労働者がこれを履行できない場合に,賃借人あるいは使用者の代金(報酬)減額請求権を肯定することが可能となり得ます。これは,継続的契約に関する一方当事者からの契約内容変更権を新たに創設することに等しいと考えます。   民法第570条所定の物の瑕疵に関する条項は,売買のような一回限りの取引について,物に瑕疵がある場合に当事者間の公平な負担を実現させるための規定であり,継続的契約に関する一方当事者からの契約内容変更権を想定しているとは,考えられないのではないかと思います。よって,民法第570条所定の瑕疵に関する売主の責任に関する規定が妥当する範囲については,単発の一回性の契約に限定され,継続性のある契約には妥当しないことを明確にしていただきたいと考えます。   具体的には,「瑕疵」の意義ないし定義が労働契約のような継続性のある契約への準用を想定していないのであれば,定義を紛れのないように厳密にしていただきたいと思います。仮に,「瑕疵」の定義等が建物賃貸借契約や労働契約のような継続性のある契約に適用される場合は,「瑕疵」の条項の射程距離を明確にし,民法第559条による準用に関して,労働契約等の継続性のある契約については,売買契約における物の瑕疵に関する規定を準用しないと定めていただきたいと考えます。 ○大島委員 瑕疵という文言は広く取引一般において定着しており,変更によって実務が混乱することが想定されます。そのため,瑕疵の意義を括弧書きのように,契約において予定されていた,あるいは契約の趣旨に照らして備えるべき品質,数量などに適合していないと定めることには反対でございます。このような文言は,瑕疵とされないために,契約書,注文書,仕様書などの取引関係書類に当事者の合意事項,目的物の属性などをきめ細かく記載しなければいけないという誤解を招くおそれがあると考えます。これによって実務負担が大きくなり,専任の法務担当者がいないことの多い中小企業が不利な立場に立たされることを懸念しております。現在,瑕疵という言葉は客観的に「目的物として通常有すべき性質を欠いていること」と定義されることが多いと聞きます。瑕疵の意義は,これを基本とした表現を検討すべきであると考えます。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○岡委員 論点は結構あるようでございますが,まず,最初に基本的な意見といいますか,質問をさせていただきたいと思います。7ページの1の(1)の最初の条文でございますが,瑕疵のない目的物を引き渡す義務を負うと,ないものを引き渡す義務を負うということで,ドイツ民法に近いような表現だろうと思いますが,バックアップで議論しておりましたら,ウィーン売買条約でありますとか,その他の法令事例では契約の趣旨に適合するものを引き渡さなければならないと,こう前向きというか,積極要件で規定しているところも比較法上あるようでございます。実務家の感覚からいくと,前向きな表現のほうが前向き民法でいいのではないかと,わざわざ,ないものを引き渡すというのを選んだ理由といいますか,ドイツとウィーン売買条約は違うわけですから,何か,しっかりした議論がなされていて,それで,こちらを選んだというような説明を頂ければ納得するかと思いますが,少し後ろ向きの表現だなという意見がございました。 ○新井関係官 その点についてですけれども,「瑕疵」という言葉について,維持すべきという御意見を一読などでは伺っておりましたので,取りあえず本文では「瑕疵」という言葉をいかしつつ書くとこうなるという形で書いているものです。冒頭での私の説明でも述べましたし,部会資料の補足説明でも「瑕疵」という用語の適否について問題提起していることからもお分かりいただけるように,もともと「瑕疵」という言葉に拘泥するつもりは全然ありません。正に実質がきちんと分かりやすく伝わるということが一番大事だと思いますので,岡先生から今,御指摘いただいたような書きぶりというのも選択肢として十分あり得ると思っています。「瑕疵のない」という書き方について,特に強いスタンスを打ち出して書いているということではありません。 ○潮見幹事 岡委員に御質問というか,確認なのですが,前にこの部分の議論をしていたときに,弁護士会は瑕疵という概念を維持する,契約適合性というような言い方をしないでいただきたいというような御発言をされていたように思われるのですが,今回,それとは違うことを提案で考えておられるのかどうか。前向きに考えていこうといったときに,瑕疵という言葉を使わずにどう書くのかを,事務局は苦労されているのではないかと思うところがありますので,お教えいただければと思います。前の発言との関係です。 ○岡委員 弁護士会の意見は動いておりまして,契約の趣旨に適合するという表現に反発は大分少なくなってきております。 ○鎌田部会長 大島委員はむしろ瑕疵という用語を維持したほうがいいという御意見でしたね。 ○大島委員 はい。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○村上委員 事例は少ないとは思いますけども,一方当事者のみの意思表示によって売買が成立したとみなされる場合がないわけではありません。例えば,建物の区分所有等に関する法律の10条を見ますと,敷地利用権を有しない区分所有者に対する売渡請求権が規定されていますし,63条を見ますと,建替え決議があった場合に,その決議に賛成せず,建替えに参加しない区分所有者に対する売渡し請求が認められています。また,借地借家法の13条を見ますと,借地権の存続期間満了後の建物買取請求権が認められています。   こういう一方当事者のみの意思表示によって売買が成立してしまう場合について,ここに提案されているような瑕疵の定義をした場合に,契約の趣旨に照らしてあるべき品質というものを一体どういうふうにして決めることになるのかを,一般の方が理解できるような形で,きちんと説明できるかどうか,考えておく必要があるだろうと思います。特に,売渡し請求の場合,売主とされる者は売りたいとは思っていないわけですので,そのときに,一体,どのように説明すればいいのだろうかということです。また,解除した場合にどうなるのか,例えば,買取請求権を行使して売買が成立したとみなされる場合について,解除というのが許されることになるのかどうかということも,検討しておく必要があるように思います。 ○佐成委員 瑕疵という用語に関してですけれども,経済界内部で議論していたところでは,先ほども出ていましたけれども,必ずしも瑕疵という言葉を維持しなければ困るというような当初の強い意見は大分減ってきているという印象です。もちろんまだ,慎重論は根強くございますけれども,大分,その辺りは和らいできているという印象でございます。それと,中身についても,即ち,契約適合,不適合という考え方についても,必ずしも反対一辺倒ということではなくて,まだまだ慎重論は非常に強いものの,じっくり実務に影響を与えないように検討してくれないかという感じでございまして,要するに,瑕疵という形で従来から言われていた考え方を絶対に維持しなければ困るとまでは言っていないという状況に来ておるということでございます。以上,御報告です。 ○中井委員 この問題について,三つ,段落があるわけですけれども,真ん中の第2のところから申し上げますと,基本的には当事者間が合意した品質,性能を備えたものを引き渡すべきであるという考え方を採りながら,しかし,当事者間が合意したものかどうか分からない場面,若しくは当事者間で特段の合意をしない場面もたくさんあるので,そのときには,本来,そのものが通常有している品質,性能を備えたものを引き渡すべきことになる。それを満たさないときには,ここでいう瑕疵のある目的物を交付したことになる。   こういう理解については,基本的には弁護士会はほぼ共通していますけれども,主観的な合意を原則的に書くのか,それとも,そのものとして通常有すべきものを第一に書いて,当事者間が合意したときを別途明らかにする形で表現するか,若しくは併せてそういう主観的に合意したものと,客観的な通常有すべきものを並列的に考えていくのか,その辺りについては,意見が分かれた状態です。   いずれにしろ,当事者間の合意,主観的な合意若しくは通常有すべき客観的なもので決まるというところで,瑕疵の内容が決まったとして,第1段落の書き方として今度は瑕疵のないものを引き渡すと書いたときに,誤解が生じないかという危惧があります。つまり,当事者間が合意した中身によっては,場合によってはある意味で瑕疵のある,機械が壊れているんだけれども,壊れたまま交付することだって,当事者間で合意したらできるわけですから,単純に瑕疵のない目的物を引き渡すと書くと,当事者がそういう合意しているにもかかわらず,それを義務違反といって後で非難されるリスクもあるので,この表現の仕方については慎重に考える必要があるだろうと思います。   そういう意味では,従来の言い方と違うのかもしれませんけれども,例えば14ページの一番上2行目から書かれているのは,そういう趣旨だと私は理解いたしましたけれども,瑕疵の意味内容をそのまま書き下して表現をするというのも一つの方法ではないか,と思います。 ○山本(敬)幹事 申し上げようと思っていましたことは,中井委員が最後のほうでおっしゃったこととほぼ重なっています。「瑕疵」という言葉を維持しますと,どうしても言葉のニュアンスとして傷というイメージがあって,当該契約に関わりのない何かほかの基準から見ると傷がある場合に,ここでいう瑕疵があり,売買契約に基づく何らかの責任が認められるというイメージが生まれる可能性があります。それは,ここで意図していることとは違ってくるように思います。その意味で,契約に適合した物を引き渡さなければならない,逆に言いますと,契約に適合していなければ,ここでいう効果が生じるという形にすべきだろうと思います。書き方としては,中井委員がおっしゃいましたように,14ページの上の部分にあるとおり,売主が引き渡す目的物は「契約において予定されていると認められる品質,数量等に適合していなければならない」と定めれば足りるのではないかと思います。   そして,大島委員がおっしゃった点に関していいますと,その物が通常有すべき性質が比較的観念しやすいものと,例えば土地がそうだと思うのですが,そのような通常有すべき性質が観念しにくくて,どのような趣旨で契約が行われたか,どのような対価をもって契約が行われたかということとも不即不離の関係で,その物が有すべき性質が決まるものが非常に多いのではないかと思います。その意味で,通常有すべき性質が瑕疵の基準として書かれていますと,実はうまくいかない場合が多くて,結局,いろいろなものを補って判断することになるのではないかと思います。したがって,書き方としては,ここで提案されているような,「契約において予定されていると認められる品質等に適合していなければならない」という書き方でよいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中井委員 その上でですけれども,今,山本幹事がおっしゃられたことから,先ほどの潮見幹事の御発言である契約適合性という言葉について,かつて弁護士会は余り賛成しない意見でした。内容的には弁護士会でもほぼ異論はないというか,中身については理解が得られているとは思いますけれども,なお,契約適合性という言葉を正面から出すことについては慎重です。その理由については,瑕疵概念の中身についての認識といいますか,議論につながると思うんですけれども,契約の趣旨若しくは合意の内容を強調することに対する危惧があるわけです。最初,大島委員のおっしゃったことも,そういうことではないかと思います。   つまり,契約,合意を尊重していくことによって,不適切な合意なりがある場合もある,若しくは合意のないときにどう考えるかといったときに,弁護士会としては行き過ぎたものを制約する,若しくはないものについて適正な効果を与えるためには,社会通念なり取引通念,そういうものによる制約が常にあるのではないかと思うものですから,契約の趣旨のみ,若しくは契約の適合性のみ,つまり,裸の合意の内容にこだわるような表現よりは,もう少し客観的,規範的なもので縛りが掛かるようなものであるべきではないかと,考えております。最終的に理解しているところは共通すると思うんですけれども,そういう制約を含めた考え方を瑕疵概念にも持ち込むべきだと考えている次第です。 ○道垣内幹事 中井委員が具体的な条文の書き方としておっしゃったところを取り入れますと,私がこれから申し上げることは,実は,余り大きな意味を持たなくて問題は隠れてしまいます。つまり,通常有すべき性質のものを引き渡す義務を負うと,ただし,契約において特段の合意をした場合には,その特段の合意に従うと書けば,以下申し上げる問題は分からなくなりそうなのですが,理論的に詰めておく必要がある点が存在するように思います。   中井委員が,契約で定められていないとおっしゃったのか,分からないとおっしゃったか,私は記憶がありませんが,そのような場合には,通常有すべき品質ということになるだろうというお話ですが,論理的にそうなのだろうかということです。つまり,契約で定められたところが分からない,特段の合意がないという場合には,通常有すべき性質の物を引き渡すというのが当事者の意思であると推定されることによって,瑕疵とは,その物が通常有すべき性質を欠いていることになるのか,それとも,そのような当事者の意思の推定ということを通さないで,その物が通常有すべき性質を欠いているという瑕疵概念が出てくるのか。この両者は,理論的にはかなり違うことではないかという気がいたします。   そして,最初に申し上げましたように,条文の書き方によってはその問題は隠れてしまうのですが,論理的には当事者が例えば何かを売るというときには,それこそ社会通念上・取引通念上,通常,こういう物はこういう性質を有しているよね,そういう性質の物を引き渡すのだよね,という合意がなされていると見ることによって,契約適合性の判断がされるのではないか。合意の解釈が尽きている,合意がないというわけではないのではないかと思います。この違いがどこで問題になってくるかは分からないんですが,ただ,瑕疵というものの捉え方の最後の段階では,二つの違いが問題になってくると思います。 ○鹿野幹事 私も,今,道垣内幹事がおっしゃったところと基本的に同じ意見を持っております。先ほど中井委員がおっしゃった通常有すべき性質ということについてですけれども,確かに,契約で特に明確に定めていないときにおいては,契約の趣旨として,通常の性質を有するべきことが契約で予定されていたと解釈されることも多いでしょうし,通常の性質が契約の解釈過程において大きな意味を持ってくることがあるのだろうと思います。先ほど中井委員は,取引観念などの客観的な枠を設けるほうがよいということもおっしゃったのですが,契約締結時の取引観念も,同じく契約の解釈において,契約でどういうものが予定されていたのかということを明らかにする際の重要な考慮要素となるのだろうと思います。   ですから,結局,契約の趣旨内容を基準にした瑕疵概念を採った場合,中井委員がおっしゃったこととそれほど大きな違いは生じないのではないかと思うのです。ただ,一つ申し上げますと,そうはいっても,契約の趣旨とか,契約上予定された品質,数量等とだけ条文に書いた場合には,あたかも契約で書かれたことだけが考慮されるかのような誤解を招くことがあるのかもしれません。そして,契約に明確に書いていない場合にどうなるのかにつき疑問が持たれることがあるのかもしれません。そこで,これは具体的な条文化のときに考えればよいのかもしれませんが,場合によっては,契約の趣旨を導くための解釈指針を,条文に少し書き込むというようなことも,考えてよいのではないかと思います。   なお,先ほど大島委員は,瑕疵という概念をここで変えることについては反対だということをおっしゃいました。しかし,これは瑕疵概念を変えるということではなくて,今まで実は判例でも採られてきた考え方であり,それをここで明らかにしようということにすぎないのでないかと私は理解しているところです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○中井委員 繰り返しになって申し訳ございませんが,従前の議論の中での言い方をするならば,契約の趣旨及び社会通念若しくは取引慣行に基づいてというような表現,二つの並列型を御提案したことがあったかと思います。この問題に限らず,ですけれども,それについては多くの批判を受けまして,基本は契約の趣旨に基づいて判断すべきであろうと,最終的,究極のよりどころは契約の趣旨である,この点については相当の理解をしているつもりです。その契約の趣旨の中に,今,鹿野幹事がおっしゃられた判断過程というのでしょうか,解釈の過程で取引の実情であるとか,取引の慣行が考慮されるのだということが,どのような形にしたら表現できるのか分かりませんけれども,それに配慮したような表現ぶりというのを考えていただきたいと思っている次第です。 ○道垣内幹事 その部分だけ考えると,そのとおりだと思うのですが,一般の契約の解釈において,取引慣行その他が考慮されることは以前から言われてきた事柄であって,そのことを契約の解釈のところに書くのか,それとも,特に取り上げて,ここに書くのかというのは,若干,考える余地があるのではないかと思います。それともう1点,ついでに申し上げますと,私は書き方の根本として,中井委員がおっしゃったことに実は反対をしているわけではなくて,通常なのが通常であると書くことによって,実は村上委員のおっしゃった問題をある意味でクリアしているところがあると思いますので,そういう書き方も十分にあるのではないかと思っております。 ○鹿野幹事 一言だけ申し上げます。確かに契約の解釈一般の話で済むといえば済むのでしょうけれども,この局面における事情もあります。瑕疵の有無については,今までも実は契約の趣旨に照らした判断がなされていたと私は思うのですが,しかし,一部では,瑕疵概念につき通常有すべき性質を欠くことという説明がなされ,あるいは強調されすぎるところがありました。そこで,そうではなく契約の解釈からこれが導かれるのだということを,確認的にここで明らかにするということには意味があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 併せて第3パラグラフにあります,「隠れた」という要件は設けないこととしてはどうかという提案についての御意見もお伺いしたいと思いますが,この点については特に異論はないと承ってよろしいですか。 ○中井委員 弁護士会としてもこの点は,今までの議論を踏まえて「隠れた」という要件は設けないという考え方に賛成です。 ○岡委員 瑕疵の定義のところで,契約の趣旨が正面に出すぎることについての危惧のところでございます。弁護士会の中では,契約の趣旨が尽きたところで社会通念,あるいは,通常有すべき性状,を持ち出そうというのが大方の意見ではあったんですが,それは中井さんの言ったとおりなんですが,消費者委員会のほうからはフランス消費法典なんかを見ると,先ほど道垣内先生がおっしゃった,原則,通常有すべき性状だと,ただし,当事者間で特約があったら別だと,こういう順番を書き換えている法制もありました。また消費者の場合には余り契約の中身を詰めないことも多いので,実態がどの程度変わるのか,よく分かりませんけれども,通常有すべき性状を前に持ってくる案,それを推す意見がございました。それは研究者の間では違うのか,ほとんど同じことを順番が違うだけなのか,その辺,もし,御見解があれば開示いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 どなたか,意見はございますか。 ○山本(敬)幹事 今の御指摘に関して,先ほど道垣内幹事が指摘されたこととの関係で,どうお考えなのかというのを確認させていただければと思います。つまり,通常有すべき性質を持つ物を引き渡す義務を負うということが,当事者の合意に関わりのないデフォルトルールとして,あるいは客観法として存在していると理解した上で,当事者の合意がそれと違うときは,それによるという趣旨なのか。それとも,当事者の意思は特別な事情がなければ,想定されているその物が有すべき性質を持ったものとして売る,買うという意思を持っているものと,あるいは,そのような合意をしたものと推定するという言い方がいいかどうか分かりませんが,それが通常である。しかし,特別な事情があって,それと異なる合意が行われていると解釈できるときは,それによるという方向でお考えなのか。どちらなのかによってかなり意味合いが変わるのではないかと思いますので,確認させていただければと思います。 ○鎌田部会長 むしろ,そこを確認するより,どっちの立場を採るかによって,こう変わりますと話してもらったほうがいいと思います。 ○山本(敬)幹事 後者であれば,問題はまだ少ないかもしれません。そして,その場合は,書き方として,おっしゃるような原則・例外の書き方にはならないのではないかと思います。個人的な意見ですけれども,それも併せて指摘しておきたいと思います。 ○鎌田部会長 直感的な感想ですけれども,消費者契約の場合には個別交渉がないところでの大量取引だということを念頭に置くと,消費者はこういう契約だったら,通常,こういう性質の物を期待しているという,それが出発点にならざるを得ないということもあって,契約一般とはちょっと違う要素があるのではないかという感じもいたします。 ○潮見幹事 余計なことは言わないほうがいいと思って黙っていたのですが,規定の立て方として見た場合に,先ほども少し議論があったところですけれども,ここで問題になっているのは,正に契約の内容の確定,ルールが広くは契約の解釈のルールであって,その部分で基本的にまず合意を捉え,合意が尽きたところで,補充的な解釈などをやり,更にそれで駄目なら客観的な何らかの法規によって処理をするような考え方を基本として据えているのであれば,それとは少しスタイルが違うような形の契約適合あるいは瑕疵のルールというものをここで設けるというのは,私は賛成ができません。もちろん,結論的にはそれほど大きく違ったことにはならないけれども,商法典のような書き方は,ここでは採らないほうがいいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○佐成委員 「隠れた」という要件に関してですけれども,前任の木村委員の時代には,これは実務上,明白な欠陥を排除するという機能を有するものであるから,非常に有益であり,削除することに反対である旨の意見を述べておりました。けれども,改めて経済界の中で議論しておりまして,削除することに対しての強い抵抗感は大分減ってきているように感じております。その点だけ御報告したいと思います。 ○岡田委員 今まで発言するかしないか考えていたのですが,瑕疵という言葉自体は消費者に説明するときに,傷というしかなくて,では,傷って何なのと言われたときに大変苦労します。その意味では,14ページの上に書いてあるように解釈できれば,大変有り難いと思います。瑕疵自体は,相談員も言葉は覚えています。でも,それがどの範囲までとか,その辺になると,相談員の大方は理解できない,解釈できません。14ページの上みたいな表現になれば消費者に対しても説明できるし,消費者も受け止めるのではないかと思います。   次に「隠れた」なんですが,これも大変苦労するんです。消費者に隠れた瑕疵,普通の注意力で気が付かないような瑕疵とか,いろいろな説明をするのですけれども,そのときは気が付かなかったんだとか言われて,客観的な注意力とか,その辺のことを理解させるのに,また苦労するのがこの文言です。これがなくなれば大変明快になるかとは思います。 ○鎌田部会長 ほかに特に御発言はないですか。 ○松本委員 本文に書いていない論点ですが,補足説明の15ページの最下段のところ,あるいは17ページのやはり最下段辺りであります。ここで提案されているルールは,種類物売買について瑕疵担保責任の規定を正面から適用して,そして,それは債務不履行の一般論で処理をするということであって,その限りで大変分かりやすいもので,特段,異論はないんですが,特定物と種類物を一切区別しないというロジック,それから,その場合の瑕疵の基準時を,特定物の場合であっても契約成立時ではなくて,引渡時に置いているという点,そして,17ページのところで従来の400条を廃止して,特定物売主について売買契約成立時点においては瑕疵がなかった場合に,その状態をずっと維持すべく善管注意義務を尽くしていたとしても,何らかの事情で引渡時に瑕疵が発生していれば,種類物売買の場合と同じように重い責任を負うというところが,従来の特定物売買と大分違った結果になるのではないかという危惧がございます。   地震等によって建物が大きく傷付いたというような場合が一番極端な例だと思うんですけれども,従来の考え方であれば,当然,免責されたわけです。今回の改正案でも,されないはずはないと思うんですが,されないかのようにも読めるという点,種類物売買のルールが従来の特定物売買にも全く同じようにストレートに適用されることによって,従来の特定物売主の責任がどれだけ大きくなるのかという辺りをもうちょっと精査して,それでいいのかというところを議論する必要があるのではないかと思うわけです。   種類物売買のほうが経済界においては圧倒的に多いのだから,それを中心にルール化しようというのは,それはそれで一理あるわけです。昔の19世紀型の取引であれば,特定物的なものが多かったかもしれない,現在はそうではないんだということなのであれば,変えるというのは一理があるし,国際条約も物品売買の条約ということで作られているわけですが,その場合に,そうでないタイプについても,全く同じルールで差し支えないのかどうかというところに私は若干,危惧がございます。 ○新井関係官 その点ですけれども,当然,このルールというのは特定物と言われている売買,特に不代替物のような売買にも適用されることが前提になっております。その中で,そういう売買,具体的な売買において不当なあるいは売主に過酷な帰結を生じることがないかどうかということについては,個別の要件,例えば,後に引き続き御検討いただく追完請求権の障害事由の問題であるとか,あるいは損害賠償の免責事由というところで,一定程度,織り込めるのであろうとは思っておりますけれども,なお,その点は引き続き慎重に考えていく必要があろうとは思っております。 ○松本委員 一番根本的な疑問は,代替性のない特定物について,売買契約の時点において契約上の趣旨からいって契約に適合した状態であった,その限りでは原始的瑕疵はなかった,引渡しまで一定時間,保管をきちんとしていたにもかかわらず,責任を負わされるのはなぜなんですかということです。 ○新井関係官 原則として追完請求権が出てくるとなる一方で,いわゆる不能と言われていたような追完の限界事由で,そういった事情というのは拾えるであろうし,損害賠償の免責が得られるかどうかというところでも,そこは織り込めると考えています。先ほどの繰り返しになってしまいますけれども,飽くまで瑕疵の基準時を引渡時あるいは危険移転時という形で規定して,その時点で瑕疵があった場合には,原則として債務不履行であるということに整理しつつ,なお,売主に過酷な結論にならないように,それが障害事由であるとか免責で考慮するという形で,おおむね,これまで行われていたような妥当な帰結というのは導けるのではないかということが,基本的な考えにあるということです。 ○松本委員 つまり,現在の400条を適用することによって実現していた結果と同じことになるから,400条は廃止しましょうと,そういう御提案なんですね。 ○新井関係官 補足説明で400条の存在意義が乏しいと指摘した点は,必ずしも400条の廃止まで強く提案する趣旨ではないのですが。 ○潮見幹事 特定物に絞っていえば,松本委員が考えている前提と,新井関係官が考えている前提は違うと思います。先に申し上げますと,私は今から申し上げる新井関係官の考え方のほうに共感を覚えます。松本委員が考えておられるのは,特定物売買の場合に売主が契約時点において,そのものが品質適合していることを保証していて,正に契約締結時の適合性保証があり,あとは400条で善管注意という形の保存義務で補っているという理解を前提に考えておられるのではないかと思います。そう考えた場合には,適合性の保証というのは,契約締結時における当該物の品質であるということで,それ以外は400条に当たるようなものでなければ,それは責任を負う対象ではないという,こういう前提になっているのだと思います。   この立場自体は,私はあってもいいと思います。ただ,特定物売買というものが果たして,そういうものなのかというところが事務局,特に新井関係官のお考えの基礎にあるところではないでしょうか。つまり,特定物の売買契約の場合には,買主が当該物の品質に適合したものを受け取ること,自らその結果を保持するということに中心があるのですから,そう考えると,売買契約締結時における適合性保証というのではなくて,引渡時点における適合性保証というものが当該売主の債務内容を構成している。したがって,その部分の適合性を欠くようなものが引き渡されたならば,それは契約不適合として処理をすべきであると。   もちろん,そのときには債務不履行の一般準則,あるいはこれから審議される売買の特則などが機能しますから,松本委員がおっしゃられたような地震等の例については,履行請求権,追完請求権の限界を考える上で,あるいは債務不履行の損害賠償の免責を考える上で,そこで処理をすれば足りると思いますし,新井関係官もそうお考えになっているのだろうと思います。私はそれでいいのではないかと思います。   なお,400条を残すか,残さないかというのは,別の問題として切り離したほうがいいのかもしれません。ただ,この点については,また議論を蒸し返すことになりますから,今日は申し上げません。 ○松本委員 今の潮見幹事の御意見は十分に理解できます。つまり,そういう合意をすることもあるだろう,引渡時における品質を保証しますということで,契約を締結するということも十分あり得るだろう。しかし,問題は恐らくどちらをデフォルトルールにするのが取引の実態からして,適当なんだろうかということだろうと思います。代替性のない特定物の場合について,引渡時における品質保証がデフォルトなのか,契約締結時における品質保証というのがデフォルトなのかと。これの選択に尽きると思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   次に「(2) 引き渡された目的物に瑕疵があった場合における買主の救済手段の整備」について御意見をお伺いします。 ○筒井幹事 三浦関係官から発言メモが提出されていますので,読み上げて紹介いたします。(2)イの①の部分です。   売主が修補義務を負うか否かは個別のケースごとに様々であるから,例えば代替物の提供が相当なのにいたずらに修補を強いられるなど,売主が不合理な修補の負担を負うことがないよう,障害事由を適切に要件化することが望まれる。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○大島委員 (2)のアでございますが,瑕疵のあるものが売買された場合,実務上は損害賠償を請求することもございますが,補修の請求や代金減額請求など,当事者にとってより現実的な方法で解決を図ることが多いと認識をしております。このような実務上行われている解決策を民法に記載することは,予見可能性の向上に資するものと考えられますので,部会資料に記載されている代金減額請求権を明文化することに賛成をいたします。 ○中井委員 代金減額請求権を,損害賠償請求,契約の解除のほかに設けるという考え方に賛成です。その上で確認をしたいんですけれども,①のところで代金減額請求権はその意思表示によって減ずることができる権利と定義されていますので,一種,形成権的に考えられているのかと思うんですけれども,そういう理解でいいのか。その場合,この後,議論することになると思いますけれども,ウのところ,25ページの一番下のところ,代金減額請求権とは最終的な解決方法として主張されたものであるうんぬんというくだりがあるわけですが,意思表示を何回もして最後の意思表示が効力を生じるというような考え方は恐らくないでしょうから,どこかの段階で代金を減額してくださいねと言えば,その時点で意思表示があって,形成権的効果として発生すると理解できるのではないか。そういう理解の下に代金減額請求権というのを考えているのか,この後の議論をするために確認をさせていただきたいと思います。 ○新井関係官 中井委員の御質問のうち,最初についてはそのとおりで,形成権という理解でございます。2番目の質問について,申し訳ありません,もう一度,教えていただければと思うんですが,もう一回,御質問を……。 ○中井委員 質問はその点だけなんです。25ページの関係でそれを聞きたかったので,それを前提にまた後で25ページの議論をするということでよろしいかと思います。 ○深山幹事 これも御質問なんですけれども,代金減額請求権というものについて,置く,置かないの議論の前提をなす理解として,ここで想定されている代金減額請求権というものが,一つの見方としては,一部解除という側面があるのかなと思います。一部解除と置き換えて考えるのであれば,仮にそういう考え方を採るのであれば,解除の要件の問題と重なってくる問題があるのだろうと思います。そうではなくて,機能としては一部解除という側面があるとしても,解除とは全く別の次元の別個の形成権として代金減額請求権というものを観念するんだということになると,その場合でも,解除の要件というのは参照されるべきなのかもしれませんけれども,必ずしもそれとの整合性というのは考えなくていいのかもしれません。私の不勉強なのかもしれないんですが,そこがどちらなのかというのをお教えいただければと思います。 ○新井関係官 機能的には一部解除と代金減額請求権は,似たようなところがあるかと思いますけれども,代金減額請求権の趣旨自体は,双務契約における対価的な均衡を維持するというところに主眼があると言われておりますので,やや理論的な観点になりますけれども,若干,解除とは性格が異なるという理解が出てくるのかなとは思っております。学説には,代金減額請求権は一種の契約改訂だということを示唆されるような考え方もあるようです。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○佐成委員 (2)のアのところですけれども,代金減額請求権の明文化について,内部での議論では基本的には賛成意見が多かったと思うのですが,若干,注意していただきたいという御意見がありましたので御紹介したいと思います。製品安全の見地からなのですけれども,メーカー側としては瑕疵ある製品は極力回収して修理したり,あるいは新しいものへ交換したりとか,要するに,製品安全の見地から,瑕疵の根絶を最優先に対策を講じたいという方針でいるのに,相手方が一方的に代金減額等をしてしまって,それで満足してしまうという状態を容認しなければならないのは,大変困るということです。つまり,安全性に問題のあるようなものが,結果として巷に存在し続けてしまうということですから,メーカーとしてはそういう事態は到底看過できないという意見でございます。ですから,そういうことにはならないような制度設計を期待しているわけです。くれぐれもそのようなことはないように制度設計をしてほしいということです。ですから,場合によっては製品の売買契約の中で代金減額請求権を排除するような特約を結ぶこと,取り分け製品安全に関わるような部分については,そういった特約を結ぶことも有効にしていただけないかと,そういったような御意見があったということです。これはウの論点とも関係するところでございますが,一応,御報告させていただきます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがですか。 ○岡委員 二つ,申し上げたいと思います。損害賠償請求権との関係でございます。   第一読会では,製品の瑕疵に伴う損害賠償請求権が成り立つ場合には,代金減額請求権を認めても意味がないのではないかという議論をしておりました。それが今回もまだ生きております。債務不履行があって転売利益まで請求できるときに,代金減額請求権だけ行使する人はいないのではないかと,代金減額請求権プラス転売利益の損害賠償請求もきっと請求するでしょうから,そんな場合に代金減額請求権というのを作る意味はどこにあるんだと,これだけでいいですと絞る意味だとすると,そんなのは例がないのではないかというような意見が一つございます。   もう一つは私自身もよく理解しているかどうか自信がないんですが,法定責任たる瑕疵担保責任について無過失だけれども,客観的な瑕疵があった場合は信頼利益だけ賠償すると,そういうジャンルはこれからも残るはずだと,その残る部分が代金減額請求権でカバーされるのかどうか,そういう観点の質問でございます。この中にも書いてありますとおり,損害賠償の免責要件があって,損害賠償請求はできない事案で,対価均衡から代金減額の請求はできるという場面を想定すると,売主にほとんど責任がないけれども,瑕疵があるので,代金減額という形で調整をすると。これが昔の無過失担保責任の信頼利益賠償とほぼ同じだったら理解できるという人がいて,確かにそう機能する場面があるのかなという意見がございました。   それでいく場合には,代金減額プラス,後で申し上げますけれども,実費請求ぐらい認めてくれれば,完璧に信頼利益の賠償をカバーできるようになるねというような意見がございました。それとは全く関係ないというのか,機能的ないし結果的に一部,重なる場面があるというのか,損害賠償義務がない場合の代金減額請求権の利用のされ方のイメージをもう少し,説明していただけると助かります。 ○新井関係官 的確にお答えできるか,自信がありませんけれども,おっしゃるように代金減額請求権が生きるという局面は,かなり限定的な局面なのであろうと思います。通常は売買のような結果債務と言われているものについてはほとんどの場合,免責が認められないと言われておりますので,そういうことを前提とするならば,損害賠償というのは原則として認められるということになるでしょうし,その他の追完とかいう救済手段も認められることになります。代金減額請求権の存在意義というのは,免責事由が適用されないというところにございますので,損害賠償の免責事由に該当するあるいは追完の限界事由に該当するということで,ほかの救済手段が尽きたような局面で,最低限のバランスをとるという制度だということなので,その適用場面というか,活用場面というのは限定的ではあるけれども,なお,存在意義はあるという説明になるのだと思います。   あと,いわゆる法定責任説の理解を前提にで,信頼利益で処理されていた部分がどうなるのかというのは,信頼利益というものの内実が余り明らかでないところもありますので,実質が変わるのかどうかとか,あるいは今までと同じような解決が可能かというのは,なかなか,はっきりとは答えにくいところではあります。この点は代金減額請求権の減額の在り方をどのようにするかということとも関連していて,そのような点を検討する中で,おおむね従来の解決の在り方というのは維持できるのではないかと,差し当たりの見通しとしては持っています。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○潮見幹事 今の岡委員の発言についてですが,ほかに適切な研究者がいると思うのですが,基本的には新井関係官がおっしゃったことに共感することが多々あります。代金減額請求というのがこの場面で認められるという意味は,今,おっしゃられたように大きくは二つあるのでしょうね。債務不履行を理由とする損害賠償が免責事由に引っ掛かってできないとか,追完請求もできないという場合に,対価バランスの調整だけは認めてやろうという意味で,このようなツールを用意しておくことに意義があるというのが一つ。   もう一つは,救済手段は別にあるのだけれども,買主の側が対価バランスの調整で満足をしたいと考えた場合に,そのような武器を与えてやってもいいのではないかということです。もちろん,後のほうについては先ほどから少し議論がありましたし,佐成委員の発言にも関わってくるのかもしれませんが,対抗措置として売主の側が別のやり方で,例えば直すから勘弁してくれというようなことを言えるのかという問題が,別の問題としてあるのではないかと思います。   それから,岡委員がおっしゃった後半の部分ですけれども,その意見には,幾つか混線があると思います,第一に,信頼利益の賠償という枠組みと,代金減額とか等価性の回復という観点からの賠償という捉え方自体は,理論的には,同じ法定責任説でも考え方が基本的に違います。そこは十分,御理解いただきたい。また,新井関係官が今回,法定責任説を採っていないからということで,少し言葉を濁したところですけれども,法定責任説を採っている人たちでも,履行利益賠償とか,あるいは履行請求権,完全履行請求権というものは瑕疵担保責任からは認められないと考えつつ,なお,そのような場合に売主と買主の間のバランスをとるため代金減額型の損害賠償という形で解決をすることに意味があるとお考えになっているのであれば,結果的には代金減額請求を認めることと同じようなことにはなるのかなと思いました。   ついでに,一言だけ,全然別のことを申しあげます。先ほど中井委員が聞かれたことに関わるのですが,補足説明では,代金減額請求権と言葉をワーディングで使用しているんですよね。共通欧州売買法草案では,訳は代金減額権という訳を充てておられるんですよね。もし,形成権だということであるのであれば,違和感はあるかもしれませんけれども,代金減額権と言ったほうがいいのかなという感じもしました。 ○山本(敬)幹事 23ページのウのところで申し上げようと思ったことなのですが,今の御発言とも関わるところなので,ここであらかじめ申し上げておきたいと思います。  代金減額請求権ないし代金減額権を認めるのは,言ってみれば,「瑕疵」があることを前提として,代金をそれに合わせてしまうという性格を持ちますので,瑕疵のない,本来,契約で予定していた状態にするというよりは,むしろそうしないことを前提とした救済になると思います。   そうしますと,損害賠償として,従来でいう履行利益や逸失利益,あるいは瑕疵のない状態にするための修補費用の賠償のようなものと,この代金の減額は相容れない。その意味で,23ページのウでは,代金減額をした場合には,そういった救済手段を求めることはできないということが書かれていると理解できます。  ただ,先ほど信頼利益ということをおっしゃいましたけれども,確かにこれは多義的な概念なのですが,少なくとも契約をしなかったのと同じ状態に戻すための損害賠償という意味で,取り分け無駄になった費用を賠償するという性格のものがあります。これは代金減額と相容れないというよりは,むしろ両方を認めてもよい類いのものだろうと思います。もちろん,どこまでが無駄になった費用かということを瑕疵があることを前提に算定するのは,非常に難しい問題になるのですが,理論的には整合的なものだと思います。その意味では,ウの書き方がこれでよいのかという問題が出てきますが,そのようなタイプの無駄になった費用の賠償は,代金減額権を行使した場合でも,なお認められるということにしてもよいと思います。   そして,実は,これはここだけの問題では実はありません。契約不履行の一般原則として,損害賠償の範囲をどうするかということが以前,問題になりました。そのときに,「費用の賠償」と言っていたものを選択的に認めるかという問題がありましたが,それと実は重なる問題です。代金減額権は,そのようなタイプの損害賠償とは整合的なものであって,この点についてどう定めるかということは,少し難しい問題になるかもしれないということだけ申し上げておきます。また,ウのところで議論していただけばと思います。 ○鎌田部会長 (2)のア,イ,ウの全体を御議論の対象にしていただいて結構ですので,関連した御発言があればお出しいただければと思います。 ○岡田委員 以前,私がペットの話をしたことを御記憶かと思うのですが,瑕疵のあるペットを渡されて買主がお店に言うと,お店が引き取ると言うのですが買主が応じないという,この例は結構あります。現在もペットを飼う人口は増えていますがこれからもますますその傾向は増えていくと思われます。トラブルもどんどん増えてきています,代金減額請求権ないしは請求ができるということが法律の中で書き込まれることで買主と売主の間で解決できるトラブルも増えるように思います。 ○中井委員 代金減額請求権のアですけれども,帰責事由がない場面で対価的均衡を図るという場面で,最も代金減額請求権は活躍するだろうと。その場面で代金の減額だけで足りるのかという点については,先ほど山本敬三幹事から,それ以外に買主が瑕疵を知らないで,例えば善意で出した費用については,賠償なのか,填補なのかは分かりませんけれども,公平を図る意味で調整する余地があるのではないかという御示唆を頂きました。弁護士会の中でも,それに賛成する意見が一部ですけれども,あったことをまず申し上げておきます。   それから,②の価格について極めて詳細といいますか,理論的にお書きいただいているという点で,頭の中では分かるんですけれども,果たして,このような規定ぶりがいいのかということについては,弁護士会でも疑問に思うという意見が,それなりにあったことを申し上げます。では,代案は何かというと,なかなか,適切なものはなくて,現行の563条と同じように何らかの割合に応じて減額する程度の,抽象的な記載になるのかもしれませんが,②のように瑕疵がある場合とない場合の客観的価値を二つ出して,その上で約定代金に掛けるということが果たしてできるのかという点もありますし,このような規定ぶりにすること自体,それほど意味があるのかという点で疑問が出ていました。   それから,ウの②の関係です。先ほど山本敬三幹事から②に賛成する旨の御意見だったと思いますけれども,弁護士会では結構疑問という意見があります。それは先ほど言いましたように,代金減額請求権ないし代金減額権なるものを形成権的に考えて,一旦,意思表示をすれば,もはや権利行使ができないという趣旨だとすれば,それは実務的に使いにくいものになるのではないか。   その批判に応えて25ページのところは交渉で減額交渉しても,それは減額の意思表示ではないから,まだ,代金減額請求権の行使はないという理解をすることによって交渉の見通しなりを見据えて,損害賠償や解除という手段を取らない最終意思決定をして減額の意思表示をしたときには,もはや,他の方法は使えないと読めます。しかし,果たして,そのような使い分けができるのか,実際上の交渉として,まず,瑕疵があるから帰責事由を問わず,事由があろうがなかろうが,代金減額してくださいよという話をして交渉してみる。しかし,代金減額額について割合若しくは絶対額について満足がいかなかったら,それだったら,解除しますよ,損害賠償しますよと交渉が変わっていく可能性は十分にある。ここでの記載はそういう交渉の転換を否定する趣旨ではないと思うんですけれども,その点が必ずしも明確ではない。山本敬三幹事も今のような交渉の転換まで否定する趣旨ではないのですねということを確認しておきたい。   加えて,代金減額請求権と同じ価値を伴う行為をすることはできない,つまり,同額部分についての損害賠償請求することはできない,二重取りになるから。しかし,重なり合わない部分について別途,請求すること自体,否定する必要があるのかという,ウに対する反対論もあります。具体的に考えれば,免責事由があるかどうかよく分からない事案において,まずは等価部分だけの回復はしたいということで,代金減額請求権を行使する。他方で帰責事由が仮にあるのなら損害賠償だって取れるわけですから,そこの部分も併せて,別途,請求をする。もちろん,別途,損害賠償請求する部分についての代金減額部分については二重請求としてできませんけれども,代金減額部分を超える部分については,損害があればですけれども,請求できる。そういう考え方もできるのではないかと思いますので,ウの②については,疑問を呈する意見がありました。 ○道垣内幹事 手を挙げてしまったので発言しますが,中井委員の発言とほぼ重なっております。私は岡田委員がおっしゃったことにすごく危惧を感じます。消費者が代金減額という方法があるのだと言われて,代金減額を請求したとして,代金減額というのが,例えば10万円の客観的価値がある物が実は5万円の価値しかなかったというときに,5万円しか認められない,それ以外の損害があっても認められないということを意味しているとするならば,それを理解して消費者が代金減額を選んだのかというと,そう簡単にそうであるとは言えないと思います。中井委員がおっしゃるところに,結論として賛成すべきかどうかというはよく分からないのですけれども,25ページにお書きのように,慎重に認定するということだけでは,恐らくは済まないのではないかという気がいたします。 ○岡田委員 おっしゃるとおりで,私自身,ウの②ですか,これは困るかなと。つまり,代金減額の時点で消費者が認識していた瑕疵といいますか,何年か,通常に生き延びるだろうと思っていたので代金減額で応じたけれども,想定よりももっと早くに亡くなってしまった場合にというようなこともあり得ますので,そうなると,②というのは困るなと先ほど思っていたのですが。 ○道垣内幹事 岡田委員が今おっしゃったことと,私が申し上げたことは,必ずしも一緒ではありません。 ○山本(敬)幹事 中井委員からのお尋ねだったのですが,私は,ここで書かれているような追完請求権や履行利益を内容とした損害賠償請求権,つまり一定の性質を有する物が履行されたのと同じ状態にするための救済手段と,代金減額権の両方を重ねて認めるという結果にならないようにされていれば,結論として十分であって,実際の紛争の過程で買主が一定のアクションを起こすかどうかによって,失権効をもたらすような効果を定める必要も理由もないのではないのかと思います。その上で,どのような定め方をすればよいかというのが,次の技術的な問題になると思います。   ただ,念のために申し上げておきますと,履行利益,取り分け逸失利益に当たるものを取得しようとしますと,当初,契約で予定されていた代金を支払って初めて所定の性質を持つ物を取得できて,それを使っていれば得られたであろう利益が逸失利益ですので,この逸失利益を得るためには代金を減額してはいけない。理論的にはそういうものだと思います。ですので,規定の書き方としてはこれで足りているかどうか分かりませんけれども,代金減額権の効果が認められる場合には,それと相容れない追完請求権及び損害賠償請求権は認められないというような書き方に何とかできないものかと考えていますが,なお検討を要するところでお知恵を拝借できればと思います。 ○山野目幹事 中井委員がおっしゃった2点について,それぞれ意見を申し述べさせていただきます。18ページの(2)ア②の規律を入れることの適否につきまして,中井委員の意見の同調いたします。参考にされた国際物品売買の場合には,このような緻密な計算をするということが一般的に合理的であると考えられましょうけれども,不動産の売買などを想定しますと,現実に引き渡された目的物の引渡しにおける価額なるものが,常に不動産鑑定によって明確にできるかどうかということについて危惧がありますし,この規律を入れますと,常にそういう作業をしなければならないという問題も突きつけられるように感じます。基本的にはこのような考え方で紛争が処理されるべきであると考えますが,それは①のほうの規律を置いておくのみでも,裁判所が事案ごとに適切に処理していただけることであろうと感じます。   それから,中井委員がおっしゃった後半でございますが,23ページのウの②の問題ですけれども,先ほどの山本敬三幹事のお話の中にあった不合理な結果にならないようにというお言葉が重要であろうと感じます。23ページ,②の提案自体は代金減額請求権を行使したという当事者が時系列で行ったアクションに着目して表現されていて,これ自体は提案の趣旨を説明するために悪くはないと思いますけれども,どのようなアクションがあったら後戻りすることができなくなるのかという問題ではなくて,結果として代金減額請求権行使の結果と,それと相容れない損害賠償との間には合理的な清算が確保されなければならない,繰り返し申し上げますと,結果としてそうならないようにするというようなことが伝わるような,最終的には法文起草の段階になるかもしれませんが,工夫していただければと思います。   あと,蛇足ですが,潮見幹事のおっしゃった代金減額権にせよという御提案は大変理解することができたのと同時に,しばらく前に村上委員が別の話題でおっしゃったように,建物買取請求権とか売渡請求権とかいうときに請求という言葉を使っていますから,潮見幹事も別に目を釣り上げておっしゃったものではありませんが,それほど目を釣り上げて言うことでもないであろうと感じます。 ○深山幹事 代金減額請求権の意味合いについて,先ほど少し御質問をさせていただきましたが,解除権とは別の形成権として観念するとして,御説明の中でも,契約の改定権的な意味合いがあるという学説を御紹介いただきましたけれども,規定を置くか置かないかについてまずは議論するにしても,代金減額請求権を規定するときの要件が今一つストレートに語られないまま議論されていることに違和感があります。また,他の救済手段との関係でいえば,効果もそういう意味ではもう少し意識した議論がされてしかるべきなのでないかと思います。   別の観点からいいますと,指摘されている各種の救済手段の救済方法の方向性という観点から見ると,追完という請求権というのは,正に元々の契約をそのとおり実現する方向での救済であります。逆に解除権というのは,白紙に戻すという意味では全く逆の方向を向いております。代金減額請求権というのはその中間的な,言わば別の契約に変更すると,契約内容を変更するという第三の方向性を志向するものです。損害賠償請求権はいろいろな意味での調整をするというやや異なる機能・性質があると思うんですが,損害賠償請求権も含めて救済手段はいろいろあってしかるべきだと思いますし,実務的には代金を減額して解決をするということは極めてポピュラーにあって,ある意味では簡便な解決手段だろうと思います。   交渉段階においてはしばしばオール・オア・ナッシングではなくて,代金を調整して解決するということが行われているわけですが,ただ,ここで議論されている代金減額請求権というのは,相互の解決のための話合いの中で,合意ベースで代金を減額しましょうということではなくて,一方的に形成権として行使をすると,相手の意向にかかわらず,それによって契約関係が一定程度変容される,こういう権利という位置付けをするのであれば,それなりにそういう強い効果をもたらす権利の要件というものをもう少し明確にした上で議論すべきだし,代金減額請求権を認めることによって,その他の救済手段との関係にも影響してくるのだろうと思います。つまり,ウのところで提案されているのは,ウの①の甲案のような考え方というのは,まずは元々の契約を実現させる方向を最優先に考えるべきだという考え方が伝わってきます。   それはそれで一つの方法ですし,それができなかったときにどうするのかについて,ゼロに戻す解除の方向にいくのか,契約内容を変更するのかということについては考え方はいろいろあると思います。これまでの議論の中で代金減額請求権は言わば最後の手段といいますか,損害賠償や解除ができない場合であっても対価的均衡を図るぐらいのことは認めてやるべきだというような,言わば最後の調整手段というような位置付けのように聞こえる御説明もあったかと思うんですが,それなら,そういうものとして代金減額請求権の要件立てをするということもあるのかもしれません。定見を持っているわけではないんですが,もう少し,代金減額請求権を認める要件について明らかにした上で,各種救済手段相互の関係等を議論されたらいかがかと思います。 ○潮見幹事 定見のない深山幹事に質問するというのは信義則に反するんですけれども,それでも質問をさせてください。要するに深山幹事が目指しているのはどこなのかというのが,私はさっぱり見えてこないというか,前提として代金減額請求権が最後の手段であるとは私は考えていないし,恐らくそう考えていらっしゃる方は,いらっしゃらないのではないかという感じがいたします。   ここからが質問ですが,深山幹事は,再交渉請求権みたいなものを考えられて,そのための要件を立てて,その中で代金減額請求の枠組みを作っていこうということをお考えなのか,それとも形成権でいいけれども,要件をきちんと議論しろということなのか。仮に後者の趣旨だとしたら,要件をきちんと議論しろという中には,売買で目的物に瑕疵があった場合に,売買契約と契約不適合物の引渡しというだけでは代金減額請求を認めるのは要件として足りず,要件を加重すべきであるということを含意にされておられたのか。そうではなくて,代金減額請求の要件としては今の二つで十分なのだけれども,しかし,例外的に何らかの形で代金減額請求に対する売主からの反撃手段というか,抗弁というか,先ほど私は別の文脈で申し上げたのですが,追完権みたいなものを想定されて,御発言をされているのか。   私は,ここの代金減額請求については要件というのは,岡委員がおっしゃったのと同じように考えて,特にここで要件を加重するだの,何だのということは要らないと思っています。 ○松岡委員 私も,潮見幹事と全く同じ感想を持っています。従来,代金減額請求権の要件は,売買目的物に瑕疵があるということだけで尽きていて,形成権だからという性格付けによって,要件を更に加重すべきものだとは考えられていないと思います。私もそう考えてはいませんし,仮にこれが契約の一部解除という性質を持つと考えたとしても,要件は変わらないのではないかと思います。したがって,潮見幹事が御質問になったとおり,もし,深山幹事の御主張がほかの救済との段階性とか整合性を問題にされるのであれば,それはそれで議論すればよいです。しかし,要件を加重するという趣旨でおっしゃっているのであれば,私は賛成できません。 ○深山幹事 すみません,整理された言い方でなかったので,いろいろ混乱をさせたかもしれないんですけれども,最後に松岡先生が整理していただいたように,問題意識としては別に加重すべきだということではなくて,一部解除との関係がずっと気になっていて,少なくとも機能的には一部を解除するという側面もありますし,あるいは契約内容を変更するという効果だと考えたとしても,解除の要件とのバランスというものが一つ考えられるべきだろうし,もう一つは解除というのは言わば全部をゼロにするわけで,その解除権と代金減額請求権というものとの優劣というんですか,正に相互の関係というものは,意識をしておく必要があるのではないかと思います。そういう意味で,ここでの要件は何なのかということは,クリアにしてほしいということを申し上げたということで,必ずしも加重しろという趣旨では全くございません。 ○松岡委員 仮に一部解除という性格を持つといたしましても,契約の目的を達成することができない場合には契約全部を解除することができますが,契約の目的を達成することができないとまでは言えない,しかし,当初の約定どおりの代金を払う義務をそのまま維持することはできない,ということに要件は尽きると思います。従来から瑕疵担保解除については帰責事由は不要と考えられている点からも,特に解除の場合との対比で,要件の加重を考える必要はないのではないかと感じます。 ○深山幹事 例えば壁紙の発注をしたときに,一部屋分の壁紙を注文したところ,3分の1の部分について何か傷があって,なおかつその追完ができない,代替性がないような場合に,代金を3分の1減額をして,3分の2を支払って売買をその限度で維持するということが妥当かというと,3分の2だけの壁紙を張ってもしようがないし,別の壁紙を張ったのではデザイン的に具合が悪いとなると,それだったら解除のほうがいいんだというような場面もあるのではないかというようなことを想定しました。そういう意味で,代金減額請求権が合意ベースでまとめられればともかく,一方的に3分の2の範囲内で代金債務が残り,目的物の給付義務も残るというようなことが正当化されるには,それなりの何か要件が必要なのではないかなというようなことが問題意識でございます。 ○松本委員 今の御意見を私は理解しかねているところがあるんです。すなわち,買主として目的達成できない,かといって代替性がないから履行請求もできない,ということであれば解除する,解除すれば全額,お金が返ってくる。一部について別の壁紙を張るのもなかなかシュールでいいということであれば,減額請求をするということでも構わないというだけの話であって,それは買主として選択可能だということで問題ないのではないですか。 ○深山幹事 すみません,例がよろしくなかったなと思いましたが,買主側は確かにそうかもしれません。逆に,その場合に売主側が3分の2だけの取引を強制されることが,正当化されるかという問題なのだろうと思います。通常は3分の2が売れれば,それでいいということに売主側はなることが多いのかもしれませんが,常にそうなのかということについて疑問があって,考えすぎなのかもしれませんが,これは追完権を認めるかどうかとは,場面が違うと思っているんですけれども,代金減額請求権を行使される側の相手方の地位や利益というものに対する配慮が必要なのではないかなと,抽象的に言えば,そういうことなんです。 ○松本委員 今まで,追完不可能だという前提で議論していたはずで,追完できるのに,それを阻止されるというシチュエーションではありませんから,売主側としては債務不履行の責任を追及されて損害賠償まで取られるのか,それとも約定された品質どおりに履行した一部の代金だけは確保できるというのか,どちらかであって,売主側に選択の余地はないんだと思います。 ○深山幹事 今の御指摘は議論がかみ合っていなかったと思うんですけれども,追完権ということを言ったのは,追完できる場合を想定したのではなくて,この権利を考える上で相手方の立場を考えなければいけない場面ではないかという意味で指摘したにすぎません。かえって混乱させたのかもしれないんですが,もう少しシンプルに問題を立てれば,代金減額請求権を買主が行使したときの売主の立場,利益を考えた要件立てが必要なのではないかと,最もシンプルに言えば,そういうことです。 ○潮見幹事 この問題というのは,先ほど配っていただいた分科会論点候補案では,分科会のほうに任せられているようです。今,深山幹事が繰り返しおっしゃっておられることは,幾ら伺っても,代金減額請求権の要件というよりは,むしろ,救済手段の重畳の話かなと思います。救済手段の重畳には,買主側が武器を複数持っていて,それらの相互関係をどのように処理するかという問題とともに,買主が持っている救済手段と,それから,売主の抗弁という場面での救済手段の重畳という問題もあるわけで,そこをどう整備するかという問題に収れんするのではないかと思います。そうであれば,分科会のほうで整理していただければいいのかなと思います。深山幹事の御疑問というのもそこでの整理を通じて,解消されるのではないかという感じもしないわけではありません。   その関連で申し上げますと,23ページのこういうウのようなまとめ方で,問題を説明するというのが果たして適切なのかどうか,私にはどうしても分からないところがあります。甲案,乙案という整理の仕方もあるかと思いますけれども,むしろ,ここで問題になっているのは,追完請求権というものが仮にあった場合に,追完請求権とそれ以外の救済手段というものの関係をどう扱っていくのか,さらに,そこで相手方からの何らかの先ほど言った追完権的なものみたいなものをどのように,そこに組み込んでいくのかという話がありますし,その中には,追完請求権と追完に代わる損害賠償請求権の優劣という問題が出てくるはずです。   他方,そうした問題とは別に,解除は解除で,解除と他の救済手段との関係は,一体,どのようになるのかという問題があります。しかも,解除の場面では前からの議論を見ていくと,催告解除と無催告解除,括弧付き重大不履行解除という,こういう枠組みで問題を取り上げようとしていて,その中で催告だの,履行の請求だのということ,あるいは追完の請求というものをどう捉えていくのかという問題があり,これはこれとして,他の損害賠償なんかも含めて議論しなければいけない。でも,それは追完請求権と追完に代わる損害賠償請求権との関係をめぐる議論とは異質なところもあるわけで,その辺りも別枠で考えていかなければいけません。   さらに代金減額請求権についても,先ほど来から議論がありますように,深山幹事は解除との関係で問題にされておりましたし,中井委員の発言の中では損害賠償との関係で,これをどう捉えていくのか,費用賠償も含めてですけれども,そのような議論もございました。さらに追完請求というのが本当に駄目なのかという話も出てこようかと思います。そうした点を分科会で一つ一つ潰していただいて,どういう枠組みがすっきりするのか,複数あるのだったら複数の枠組みを示していただいたほうが,生産的な議論ができるのではないかと思います。 ○佐成委員 今の潮見幹事の御意見について,枠組み自体をいろいろ検討していただくということはおっしゃるとおりで,賛成でございまして,申し上げたいのは,ウの①の乙案についてです。枠組みについて,そのように,いろいろ優劣を議論していく中で,乙案というのは,要するに自分で直すから,あとは金だけくれといった主張のようにも見えるわけでございまして,そういったような主張をどこまで許すのかということも検討の視点としてはあるのかなと,実務家としては感じております。つまり,もし,乙案がそういった要素を含むようであれば,先ほどアのところでも申し上げましたけれども,製品安全に関する不安とか,あるいは濫用の危険というのを実務家としては非常に感じるものです。ですから,枠組みの整理の仕方,どういう枠組みで立法していくかについては別途十分に議論が必要ですけれども,この中に組み込まれている一種の要素,思想というか,考え方といいますか,要するに,瑕疵の存在を前提として,金だけもらえれば,あとは自分で適当にやるというような考え方をどこまで許していくのかという,そういったところも視点として,分科会で検討していただきたいということでございます。 ○中田委員 分科会に余りたくさんの任務を課するというのも大変だと思うんですが,2点ほど質問させてください。   まず,救済手段の相互関係の明文化の中で,債務者の変更権との関係も対象にして考えるべきかどうかということです。追完権との関係で,具体的に言うと,イの②の(ア)のbというところで,その問題があるのかどうかです。   それから,もう一つは遡るのですけれども,(2)の「ア 代金減額請求権の明文化」の②で,算定の具体的基準についてですが,中井委員,山野目幹事から,このような詳細な規定を置くことは適当ではないのではないかという御意見が出ていて,積極的にこのような規定を置くべきであるという御意見は出ておりません。そこで仮に置くとすればということですが,様々な問題がこれ以外にもありまして,特にウィーン売買条約においては,積み残しになった論点が幾つかあることに注意すべきかと思います。   例えば,基準となる価格は,どこの市場のものかということが積み残しになっておりますし,あるいは不動産の場合に,引渡しの時ではなくて登記の時になるのかどうかとか,それから,権利移転義務についてはウィーン売買条約では積み残しになっていますけれども,それも考えるのかとか,履行遅滞後の引渡しはどうかとか,そういった様々な問題点もあります。こういったことも分科会で検討すべきなのか,それとも,(2)のアの②については,このような詳しい規定は置くべきではないということで,ここで合意ができれば,それ以上,検討する必要はないということになるのか,その辺りをできれば整理していただければと思います。 ○沖野幹事 今の中田委員のおっしゃった点とは違うのですけれども,よろしいでしょうか。それ以前から問題となっている点で,代金減額請求権とそれからウの取り分け②に関してです。先ほど来,深山幹事の御指摘をめぐって様々な整理がされております。要件を加重すべきか,あるいはこれが最後の調整手段かとおっしゃった点に関して,私はその御指摘はよく分かる気がしておりました。   と申しますのは,既に潮見幹事が取りまとめられたところですし,松岡委員からも御指摘があった点ですけれども,深山幹事の御懸念は,代金減額請求権というのが強すぎるのではないかという御懸念ではないかと思います。それは一方で相手方の利益状況にかかわらず,代金減額請求されてしまうと,それでもう終わりであるということと,もう一方には逆に行使をする買主側としても,ほかの救済手段が封じられてしまうということで,極めて強大なものが合意にもよらず,作られてしまう。それに対して,そういうものについては要件を加重すべきではないのか,要件を明確にすべきではないのかという御指摘だったのではないかと思います。しかし,それに対しては代金減額請求権自体を認めるかということと,一方で相手方の利益状況とのバランス,救済の相互関係ということは,別途に考えて組み合わせるべきだというのがお答えになっているのだろうと思います。   ただ,ウの取り分け②なんですけれども,代金減額請求権を行使した場合に追完請求権や,あるいはそれに代わる損害賠償請求権,解除権を行使することができないというのは,代金減額請求権についての一つの考え方や理解に基づいたもので,法律関係を明確にするという点では望ましいのかもしれませんけれども,その内容自体も分科会で検討することが提案されておりましてそのような形で検討を行うこと自体はよろしいと思うのですが,私自身はこういう規定を置くことには非常に消極的に考えております。相容れないようなものは請求できないということを明確化するという山本幹事の御指摘ですが,何が相容れないのかということが非常に難しいということがありますし,かえって,どれとどれが相容れないのかというのを文言に即して考えていかなければいけないというのは,難しい問題を提起するのではないかと考えます。   また,代金減額請求権についてだけ,それが設けられるということは適切ではないのではないかと考えます。あるいはまた,代金減額請求権と同じ経済実質を損害賠償で代金との相殺という形でやれば,他の救済手段は封じられないのに,代金減額と言ってしまったために封じられてしまって,後で錯誤ですというような主張をするというようなことを考えますと,最終的な結論は分科会での検討を経た上でということでよろしいと思いますけれども,②のような規定についてはむしろ置かず,解釈に委ねたほうがいいのではないかと思っております。 ○松本委員 先ほど私が質問した点,すなわち,瑕疵の基準時との関係で買主の救済手段の限界と相互関係について,事務当局にお伺いしたいです。すなわち,代替性のない特定物の売買において,例えば建物の売買において,契約締結時点より前の地震が原因となって建物に瑕疵が生じていた,しかし,売主,買主ともそれに気付かないで契約をしたという場合に,債務不履行として損害賠償,追完請求あるいは目的達成できないということであれば解除,あるいは今まで議論してきた代金減額請求等が考えられると思うわけですが,それでいいでしょうね。そうではなくて瑕疵の基準時を引渡時だとすると,売買契約締結時には問題がなかった,しかし,その後の地震によって建物に瑕疵が生じたという場合について,債務不履行による損害賠償とか追完請求は,恐らく認められないのではないかと私は想像しているんですが,どうなのかという話。   しかし,そういう場合でも目的達成ができないということであれば,解除はできるのか,それから,代金減額はできるのかという点について,できるのだろうという理解でよろしいんでしょうかということです。つまり,瑕疵の基準時を後ろに倒したことによって,一体,どうなるのか。契約締結時点の瑕疵を中心に考えると,それより前に発生していた瑕疵については責任あり,債務不履行の問題として処理すればいいと。しかし,それより後の分についてはそうではないという整理が従来行われてきて,私はそれで大変分かりやすかったと思うんですが,引渡時点における瑕疵としたことによって,ひょっとすると契約締結時点より前の地震による双方が気が付いていない瑕疵についての扱いが変わってくるのでしょうかという点,一番大きな質問はそこです。 ○新井関係官 変わってくるというのがどういう意味なのか,すみません。 ○松本委員 つまり,私の疑問は先ほどから言っていたことの繰り返しですが,売買契約締結時点には存在しなかった,その後,債務者の責めに帰すべからざる事由,例えば地震によって発生した瑕疵について,引渡時点における瑕疵の有無で判断すれば,従来よりは重い責任を売主は負わされるということになるわけです。そうはならないようにいろいろ調整されるとおっしゃった。例えば追完請求権の限界の問題として処理をするとか,あるいは引き受けられていないリスクだからとかで,いろいろ調整するんでしょうが,そうだとすると,瑕疵の基準時は引渡時になるんだから,それより前に発生している瑕疵について,全て同じロジックで処理をするということになると,売買契約締結時点において既に発生していた瑕疵についても,従来の契約責任説よりは,今度は逆に軽くなってしまうことになるのではないかという質問です。 ○新井関係官 軽くなるか,重くなるかという問われ方になると,なかなかお答えは難しいんですけれども,そこはいろいろ理論的な捉え方の違いも反映するかと思います。ただ,おっしゃるように契約締結以前から発生していた物理的な欠陥,そういったものも今回提案した物の瑕疵に関する売主の責任の中では,不履行の内容を構成するという理解ではおります。 ○松本委員 それは従来の契約責任説と同じだと思うんです。ところが,今回の契約責任説は瑕疵の基準時を引渡時点に置くから,契約締結時と引渡時の間に発生した,しかも,債務者の責めに帰すべからざる事由による瑕疵についても,責任が生じてくるという可能性が大きくなるのではないかというのが,前から私が心配している点なんです。つまり,責任が重くなるのではないかという懸念です。そうはならないように調整をしますとおっしゃっていたわけなんだけれども,引渡時点までに生じた瑕疵の原因によっては,責任がなくなるという調整をされるんだとすると,遡って,契約締結時点より前に生じていた責めに帰すべからざる事由による,例えば地震によるひび割れとかで気が付いていなかったケースについても,ひょっとすると免責されるのではないかという気がしたのです。そうなのかどうかというところがよく分からないので質問しているわけです。 ○鎌田部会長 結果債務的発想でいっても,例えば契約締結後の地震によるものは不可抗力だから,いわゆる債務不履行責任は免責するというような考え方を仮に採ると,これを読んだ範囲内では代金減額請求権のみが成立して,それ以外の権利は成立しない。松本委員がおっしゃっているのは,だとしたら,契約締結前に地震で双方が気が付かない瑕疵が生じたときにも,それと同じになってしまうんですかという,そういう意味ですね。 ○松本委員 そういう趣旨です。 ○鎌田部会長 そこは多分同じになる可能性,それは正に古典的な瑕疵担保と重なる部分ですから同じになるか,場合によっては気が付かないことに帰責事由を認めれば,債務不履行責任が成立する余地はあるのかもしれないという,そんな感じではないのでしょうか。 ○松本委員 そうなんですか。言わば先ほどの議論だと契約締結時における性質保証というロジックからいけば,それより前に何らかの事由で原始的な瑕疵が発生していたとしても,契約上の責任は免れないというのがオリジナルな昔の契約責任説だと理解をしていたのですが。 ○鎌田部会長 その契約責任の中身は何なのかというところで代金減額請求的なものと,それを超えるものという二段階にして,どこまでが今のケースで認められるかという,そこに踏み込んでいるのが今回の提案なのかなと思ったんですけれども,そういうわけではないんでしょうか。 ○新井関係官 代金減額請求権については売主の免責を認めないことから,最低限の救済になり,損害賠償で減額以上の救済を求めることもできるがそれについては免責の可能性がある,そういう理解です。 ○潮見幹事 今回の部会のまとめ方としては,私は賛成だということをまず言っておいた上で,多分,松本委員がおっしゃられたことと新井関係官がおっしゃったことで食い違っているのは,松本委員がお考えになっている契約責任説というのは,そこで言われる無過失責任というのは厳格責任の意味で捉えられているものです。それに対して,今日,ここの部会のほうで出されている契約責任の方向で考えていきましょうという考え方というものは,瑕疵担保が問題になる場面については,債務不履行の一般法理でまず考えていくことになり,損害賠償については債務不履行の一般法理によれば,免責ということが問題になり得るというものです。この点で,松本委員がおっしゃられた,従来のある立場に立った場合の厳格責任としての瑕疵担保責任という枠組みとは,若干,違った構図がここで出てくるのかもしれないと思います。   ただ,現在の契約責任説を支持している者として申し上げますと,今でも一般債務不履行の枠組みで捉えた上で,除斥期間ほかの部分で特則性を見出していくという立場もあるわけですから,この先は,それを踏まえてどういう方向を将来の民法に向けて示すかを考えていったらいくという角度から議論していけばよいのではないかと思います。 ○内田委員 先ほどの沖野幹事の御発言に対して質問したいのですが,23ページのウの②のような規律は,解釈に委ねるべきではないかという趣旨のことを言われたと思います。しかし,②に書かれているのは代金の減額を請求しながら,つまり,瑕疵があるから,その分,契約価格よりも価値が低い,その差額を減額してくれという請求をしながら,追完を請求するのはおかしい,また代金の減額を請求しながら解除というのはおかしいということですね。あと,損害賠償についても,山本敬三幹事がおっしゃったように,代金の減額を請求しながら逸失利益を請求するのはおかしいだろう。そういう両立しないものについて,分かっているけれど書かないほうがいいという御趣旨でしょうか。 ○沖野幹事 私は書かないほうがいいのではないかと考えております。例えば追完請求権に代わる損害賠償請求権ということなんですけれども,この範囲ですとか,意味というのがどこまで及んでいくのかという問題が生じます。先ほど無駄になった費用の賠償というのは,これとは別であり,また,善意で支出した費用というのはまた別であるとされました。この中身の解釈として,そういうものは別だということになるんですが,しかし,転売の費用などを考えますと,転売利益などは逸失利益なので取れないという説明がありましたけれども,転売契約をして違約金を払ったような費用はどうなるのかとか,そのための費用はどうかとか,あるいは転売をしたために売主としての地位にあるので自分で修理費用を払わざるを得なかったといったときの修理費用はどうかとか,そういった項目が果たして排除されているのかどうかを,追完に代わる損害賠償請求権なのかという中間概念の下で規律するということになるのは適切ではないのではないかと思います。 ○内田委員 これは条文ではありませんので。 ○沖野幹事 ですので,もしこういうような規定を置きますと,そういう問題があるので,それらを含めてきれいに切り切れるのであれば,規定を置いて明確化するというのは,法律関係の明確化のために望ましいと思いますけれども,かえって疑義を生じるのではないかというのが申し上げたかったことです。   もう一つは,既に言われておりますように,代金減額請求権を行使した場合にはということですが,行使したというのが,減額をしてくださいと言えばそれで行使したということになるのか,しかし,それは交渉の過程で減額してくださいとは言いましたけれども,この時点ではまだ行使していなかったんですというような話になってくるのかという問題も,確かに生じてくるように思います。そうしたときにもう一つ気になりますのは,代金減額請求というのは,これが先ほど言い残した点ですけれども,深山幹事を引き合いに出すとかえって御迷惑かもしれませんが,最後の調整手段と言われた点は,損害賠償の要件を満たさないときでも,代金減額だけは最低限できるということが一種の最後の,これだけは調整するんだというタイプの調整手段として考えられているという面があるのだと思いますけれども,逆に言うと,同じことを損害賠償請求でもできるんだと思うのですね。   従来は,むしろ,それができると言われてきたし,代金減額請求でなくても損害賠償と相殺で同じことができるし,瑕疵担保については必要ないというのが元々の起草の趣旨であったと理解しているのですけれども,そうしたときに同じことを機能的にやりながら,代金減額請求だということになってしまうと,ほかのものが,これが全部,発動してくると。それに対して損害賠償と相殺の趣旨だったんだということになると,規律が違ってくるというのは,かえって問題ではなかろうか。   そのことを考えますと,また,引き合いに出して申し訳ないのですが,深山幹事がおっしゃったような代金減額というのは,損害賠償が発動しないような場合にできるということであって,逆に損害賠償請求ができるような要件の下でやるのであれば,それは損害賠償プラス相殺でもできることなのだから,ほかの救済手段は封じられませんというようなことさえも考えられるのではないかと思われまして,要件を明確化するというのは,この効果とのセットで総合的に考え直すことではないかと私自身は考えており,そして,規定を設けるならば,繰り返しますけれども,明確な規定が設けられるのならば,それは法律関係の明確化のために望ましいことではありますけれども,それは難しいのではないかという感触を持っているということです。 ○内田委員 卒然と,代金減額請求権を行使した場合には,と書いているがために,ほかの救済を求めることができなくなるような権利を行使しているということを知らずに,行使してしまった場合にどうなるかという問題を後半に指摘されましたが,ほかに何人かの方からも御指摘がありましたし,確かに検討の必要があると思います。代わる損害賠償請求権という,この書き方では不明確だというのは,おっしゃるとおりだと思いますけれども,今,御指摘があったように様々な難しい問題があるので,両立しない救済手段は行使できないという点について指針を示すことについては多分,御異論はないのではないかと思うのです。   専ら今おっしゃったのは損害賠償ですが,これについて,どういう場合が両立しないかに関する基準をどこまで示せるか分かりませんけれども,御指摘のような難しい問題があるので,ある程度の指針を示すということを提案していると私は理解しています。これを何も書かないと,結局,判例が蓄積して,大体,こういう方針で判断されるということが見えてくるまでは,全く基準が条文からは分からないということになるのではないか。その点について懸念を感じました。 ○中井委員 今の問題に関して,内田委員から代金減額請求権を行使しながら追完請求権,例えば修補せよ,代替物をよこせ,これは言えないですねと,若しくは代金減額請求権を主張しながら解除権を行使する,そんな矛盾したことはできませんねと,その場面だけとると,それに反論することはないんです。だけど,先ほど私が申し上げたことに対しては,それは検討するとおっしゃった趣旨に入っているのかもしれませんけれども,重ねて申し上げますと,100で売買をした,受け取ったものに瑕疵がある,瑕疵があるほうは30の減額が相当だと思って,30の代金減額を予定して減額請求した。しかし,相手方からは10の減額だったら応じるよと言ってきたときに,それなら修補してくださいという請求権の行使,これが否定されるのは困ります。同じように30に対して10の返事のときに,それだったら解除して物を返すから,100を返してくださいと,この権利行使も妨げられない。そういう理解に至るように構成してくださいということです。   その関係で重ねて申しますと,減額請求権の行使が形成権の行使で意思表示をすれば足りる。では,交渉の過程で30を減額してくださいと言ったのは意思表示がなかったと見ない限りは,そのような今の交渉の展開はできないわけです。仮に,そこで減額の意思表示があったとしたとして,この規律を入れて,もはや追完請求権もできません,解除もできません。後は,30が本当に10なのか,15なのかは,裁判所の判断に委ねて,それ以上のことは手足が縛られる。それはおかしいですねと申し上げました。この点の理解は共通しているのかだけを確認したいんです。内田委員は,そこは否定されないという御理解でよろしいんでしょうか。 ○内田委員 中井委員が今,おっしゃったことに私は全く異存はありません。ですから,そういう交渉ができないかのような誤解を与えるのであれば,書き方を工夫する必要があると思います。 ○鎌田部会長 今の交渉過程の問題については,多分,うまくクリアしないといけないと誰もが共通に思っていることだと思うんですけれども,それに代わる損害賠償請求権という概念の中に,どれぐらい明確な内実を盛り込めることができるかというのは,なかなか,難しいのではないかというのが沖野幹事の御意見だったと思うんです。例えば岡田委員が例に挙げられた犬の例で,健康な犬だと思って買ったら病気を持っていた。病気持ちなのだったら,50万円で買ったけれども,せいぜい10万円ではないかという場合に,その病気を治すための手術に100万円が掛かったときには,具体的にはどうなるんですか。   100万円で追完だから,50万円払いなさいということなのか。しかし,手術した犬だったら50万の価値はありませんというようなことをこの中に当てはめていって,代金減額の中でうまく処理すればいいということになるんですか。それはそうではなくて拡大損害のほうで,これも追完に代わる損害賠償なんですか。あるいはそれが感染して,ほかに何匹も病気の犬が出てきましたというときには,代金も減額されるし,ほかの損害も賠償されるというふうなことで,これは両立し得ない損害ではないということで認定するんでしょうか。 ○内田委員 どう答えるか,その点が論争になるとまずいので,深入りをしないほうがいいと思いますけれども,今のような損害賠償を請求するという場合には,代金減額請求の問題ではないと私は理解していました。 ○鎌田部会長 そのときの損害として50万円の価値のない犬だった部分についての損害を賠償してくださいというのは,いわゆる損害賠償の中でそれは考えるので,代金減額的な内実を持った損害賠償であると,そういう場合はそう捉えるということになりますか。 ○山本(敬)幹事 関係する部分ですので,20ページのイの部分について全く意見が出ていないのですけれども,併せて申し上げるということでよろしいでしょうか。今の御指摘の部分は,動物の場合に「修補」という言葉を使うと,それ自体,適当なのかという意見が出てくる可能性があるのですが,物の場合ですと修補に掛かる費用に当たります。ただ,修補請求に関しては,20ページにもありますように,ブラケットに囲まれてはいますけれども,過分の費用を要する場合には修補請求できないことになっています。   そうしますと,修補に掛かる費用が過分になるときには,修補請求が認められない以上,その修補に掛かる費用の賠償請求もその限りで否定されないと,整合性がとれないのではないかと思います。もちろん,そこから先は議論し出しますと,まだまだ話が続きますけれども,ともかく,そのような問題が残ると思います。沖野幹事の指摘に対して内田委員がおっしゃられたことは,私は一々ごもっともだと思いますので,書き方の工夫について,分科会でやるのかどうか,よく分かりませんが,そこでもう一度,練り上げて案をお出しいただければ,かなりの部分,疑問は払拭できるのではないかと思います。その意味では,規定がないとむしろ混乱すると思いますので,規定を置くべきだと思います。   その上で,20ページのイなのですが,幾つか指摘したいと思います。まず,20ページの一番下の部分で,修補に過分の費用を要するときを書くかどうかについては,私は書いたほうが明確だろうと思いますが,ただ,過分の意味をどう解釈するかが問題になってきます。現在の学説の恐らく一般的な理解は,何と何を比較するかというと,修補ないしは追完によって買主が得られる利益,つまり修補されれば得られる利益と修補ないし追完に要する費用とを比較するということで落ち着いているのではないかと思います。この基準は,書かれないと分からないという問題が生じると思いますので,可能ならば私は書き込んだほうがよいのではないかと思います。   それから,次の21ページの一番上から3行目のbですが,「代物による追完が買主に不合理な不便を課すものでないとき」と書かれています。これは,ドイツ民法や共通売買法の提案を参考にされたのではないかと思いますが,その原文では,共通売買法の提案で言いますと,「significant inconvenience」で,不合理なというよりはもう少し著しいというニュアンスが入っているのではないかと思います。それがもし「不合理」でもよいとしますと,言葉だけを見ている限り,買主の保護が強化されているのかという印象が生まれたりするかもしれませんので,この辺りはどのような基準が本当に適当なのか,そして,それを表現するにはどのような文言が適当なのかというのも,併せて検討する必要があると思います。   それから,最後に,次の(イ)の代物等の請求権に関してですが,ここには出ていないことですけれども,この種の提案に関して非常に比較法的によく問題となりますのは,代物請求をした場合に,代物が実際に給付されるまでの間に元々引き渡された物を使用収益していて,それによって得られた利益を返還する必要がないということを確認する必要があるのかどうか,あるいは,代物請求をした場合には,相手方,つまり売主は買主に対して最初に給付したものの返還を求めることができるのは当然だと思いますが,それを確認する必要があるのかないか,さらに,その場合に,代物請求と元の物の返還とが引換えの関係に立つという意味で「同時履行」になりますけれども,これは準用なのかもしれませんが,そういったものを明確に定めるかどうかなど,一連の問題があります。   この種のものをどこまで書くのかということも,検討すべき事柄ではないかと思います。分かるではないかということで書かないことはあるかもしれませんが,必ず紛争になると予想されることで,そのときのルールが今,分かっているのであれば,明確にしておくことは,あってよいことではないかと思います。 ○鎌田部会長 先ほど残された課題では,(2)のアの②の代金減額の計算の原則は,むしろ,作らないほうがいいという御意見が幾つか出されていましたし,沖野幹事の場合には,結局は代金減額請求権よりも,損害賠償の中で処理したほうがいいというところにつながっていくんですか。 ○沖野幹事 代金減額請求権そのものですか。 ○鎌田部会長 そこまでは疑問は呈さない。 ○沖野幹事 損害賠償の要件が満たされないときに,代金減額請求というのは意味があると理解しております。これを否定するというつもりは全くないのです。 ○松本委員 休憩前に失礼ですけれども,単純な質問で20ページの,今の山本幹事の御指摘を聞いていて感じたことですが,瑕疵の修補を請求する権利,瑕疵修補請求権についての障害事由としてブラケットの次のところ,契約の趣旨に照らして瑕疵の修補を求めることができないときは瑕疵修補請求権はないと。それで,先ほどから私がこだわっているところの契約締結後の地震によって瑕疵が発生したという場合に,損害賠償請求のほうは恐らく債務不履行に基づく損害賠償責任の免責事由としての引き受けられたリスクとかいう概念で考えれば,地震のリスクまで普通は引き受けていませんということで,損害賠償は免責されるんでしょうが,瑕疵修補のほうは引き受けられたリスクという言葉ではなくて,契約の趣旨に照らして瑕疵の修補を求めることができる,できないという基準なんですね。そうすると,契約締結後の地震による瑕疵の場合はどうなるんですか。契約の趣旨から修理して完全なものを引き渡してくださいという話になるのか,損害賠償と同じように,そんなリスクまで引き受けていません,だから,契約の趣旨からいっても修補請求できませんという話になるのか,どちらですか。 ○新井関係官 考えているのは,損害賠償は免責されるかどうかと,追完が不能ないし限界事由に該当するかどうかというのは,評価される要素が異なるのであろうと思います。ですから,正に契約締結後に地震があって損傷が生じたというときに,それに伴う遅延賠償のようなものは免責されるという局面はあるんだろうとは思います。それに対して追完請求,特に修補についてはまた別であろうと思います。地震という事象は多分,不可抗力というか,人間のコントロールは難しいのでしょうけれども,それによって生じる損傷が果たして修補が可能あるいは容易なのか,それとも修補は難しいのかというのは,また,別の問題としてあるわけです。容易に修補できるというのであれば,修補して引き渡すということ自体は,それほど違和感のない解決ではないかと思います。もちろん,滅失に至るような重大な損傷が発生して,もはや修繕は現実的でないということであれば,修補請求権の限界,いわゆる不能ということで修補できないと解決されるのだろうと考えて,整理しているものです。 ○松本委員 ということは,損害賠償は免責されるけれども,修補請求は過分な費用でない限りは,地震による損傷であっても売主としては自己の費用でもって,きちんと完全なものに作り直して引き渡さないと駄目だということですか。 ○新井関係官 そういう理解です。 ○松本委員 そうですか。従来よりかなり責任が重くなりませんか。 ○新井関係官 その辺りは,修補請求権の限界という要件の中で考えていくということです。繰り返しになりますが。 ○鎌田部会長 先ほどのアの②の基準は必要だという御意見が……。 ○鹿野幹事 今,おっしゃった18ページのアの②番についてです。考え方に反対という訳ではないのですが,このような形で細かく書くことがよいのかというと,かえって分かりにくいような気もします。ここでは,代金減額の基準につき,例えば市場価値との差額について減額できるという考えを採るのではないことを明らかにする。瑕疵の有無は契約に照らして判断されるのであり,瑕疵とは契約上予定された性質を欠くことを意味するものだと捉えると,当然といえば当然なのですけれども,契約で予定された性質をまず一方の基準とし,瑕疵があることによる価値の減少の割合に応じて,代金減額の請求ができるのだという考え方を書けば,それで十分なのではないかと思います。 ○鎌田部会長 引渡時が基準であるということと。 ○鹿野幹事 もちろん,瑕疵があるかどうかというのは,引渡時について判断されるべきことであり,引渡時が基準になると思います。 ○中井委員 イについて弁護士会の意見を申し上げたいと思います。①については基本的にいずれも賛成であるという意見でした。②についてですけれども,アの瑕疵修補請求権について一定の障害事由があることは否定しない。その中で,aについては瑕疵修補請求権となる履行請求権の限界の問題に関するものであろうと。だとすれば,履行不能のところで議論したのと同様に,物理的若しくは経済的に不可能であるとき,修補に可分の費用を要するときという例示の下で判断されることについても,賛成が多かった。ただ,繰り返しになりますが,そのときの議論と同じで,ここの契約の趣旨に,社会通念というか,取引通念,取引慣行,そういうものも加味されたものであるということを前提に,物理的若しくは社会的に不可能であるとか,可分の費用とかが判断されることになるのではないかと考えています。それから,bについては一部に反対説があります。その反対説は,代物の提供をするのであるから,基本的には代物の提供を受け入れるべきではないかという方向での反対説でした。  (イ)については,基本的に代物請求に対して,aのような形での履行請求の限界を設けることにおおむね賛成でした。ただし,bについては疑問とする意見が多くありました。その理由は本来的に代物請求ができる,そして,aの例外には当たらないわけですから,そのような場合にあえて売主側の修補を認める必要があるのか,aの要件をクリアした以上は代物請求が認められてよくて,bの規律は不要ではないかという意見がございました。 ○鎌田部会長 アの①については賛成の意見が多くて,特に異論はなかったと思います。②につきましては幾つか御意見を頂きましたけれども,それらを踏まえて分科会で補充的に御検討いただく。イについても,①には余り御異論はないということだと思いますけれども,②については,今,御意見を頂戴しましたが,それらを踏まえて,これも分科会で補充的に検討させていただきたいと思います。ウの①,②については大分,御意見を頂きましたけれども,②につきましては,要は完全履行ができたときに得られる得べかりし利益の損害賠償と代金減額請求とは,両立しないということが中心になるだろうと思いますので,その趣旨を的確に盛り込むことが可能であるかどうか,また,その必要性はどれぐらい強いかということを中心に,分科会で補充的に御検討いただければと思いますが,そういうことでよろしいでしょうか。 ○中井委員 ウのところの①について,意見は,出たのでしょうか。 ○鎌田部会長 あれば,今,お出しいただければと思います。若干,これに触れた御発言はあったと記憶しておりますけれども,ほかの部分の制度との整合性ということで,こういった規律が提案されているところです。それについて特に御意見があればお出しいただいて,それを踏まえて分科会で補充的な検討をしていただければと思います。 ○中井委員 弁護士会の傾向だけ申し上げますと,少し乙案が多くて,甲案の支持もあります。私自身,そして大阪がそうだからというわけではありませんけれども,代金減額請求を行使する場合に,催告を要しないという乙案が,本来的な追完請求権があることに照らして,果たしていいのかと思っているところです。ただ,弁護士会の多くは乙案で,買主の選択を認めてよいのではないかという意見が相対的に多かったということを御報告しておきます。 ○岡委員 補充をいいですか。反対も結構あったので,甲案,乙案のいずれにも反対というのが拮抗しています。反対している理由の中には,明文化しなくてもほぼ明らかだという方もいらっしゃいますし,買主が直ちにいずれでも選択できるというほうがいいんだという反対説もあり,ばらばらという感じです,現時点では。 ○鎌田部会長 分かりました。そういった議論の状況も踏まえて,分科会で補充的に検討して……。 ○中井委員 休憩に入ろうとしているところ,もっと前に申し上げるべきでしたが,(1)の17ページ以下で,400条の問題と483条の問題が指摘されております。先ほどから松本委員の御発言を聞いていると,ここの削除との関係に議論が発展するのかなと思いながらお聞きしていたんですが,483条の議論に際して弁護士会から,圧倒的に存続説が多くて,確か一つの単位会のみが削除してもいいのではないかという意見と,ここで御紹介申し上げました。   しかし,部会での議論をそれぞれのバックアップ委員会のところへ御報告し,今回,この資料を受けて,この部分を議論いたしましたけれども,皆さんの部会での御意見が功を奏したのか,弁護士会の現段階の意見としては,そこに集まっている人に関する意見ですから,サイレントマジョリティについては自信がありませんが,この部会資料の考え方に違和感がないという意見が多くなっております。ただし,それでも400条についてはなお善管注意義務として置いておく意義があるのではないか,それを尽くしたからといって,引渡時において本来予定された,若しくは当事者が合意した品質に足りなかったら,なお債務不履行責任は負うとしても,引渡しまでの売主側の義務として善管注意義務という定めを残す,その意義はなお残るという意見がありました。483条については,今回の部会資料の考え方を基本的に採用するのであれば,これについて削除する方向で考えていくべきだという意見が多かったことを御報告しておきます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかによろしいでしょうか。   それでは,休憩させていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 再開します。   「(3)短期期間制限の見直しの要否等」について御意見をお伺いいたします。 ○大島委員 (3)のところですけれども,瑕疵担保責任については現在,1年間の短期期間制限が定められており,実務上もこれを前提とした運用がされていることから,乙-1案を採用し,期間を1年とすることに賛成をいたします。 ○鎌田部会長 現行制度では,乙-1案的に1年以内の権利行使を要求していますけれども,権利行使の通知があれば権利を保全できるというのが,そこの部分が乙-1案ですと1年以内に確実な権利行使をしないと失権してしまうという点では,現行法より少し厳しくなっているようですけれども,そこも含めて乙-1案でいいということなのか,あるいは現行制度に準じた取扱いのほうが好ましいということなのか。 ○大島委員 現行制度に準じたということでお願いいたします。 ○新井関係官 一応,乙-1案は,この権利行使というのは判例がいうところの権利行使の理解を前提にしているものですので,乙-1案で1年という期間を採ると,現行の規定及び判例を踏まえた理解になります。 ○鎌田部会長 なるほど,分かりました。乙-2案のほうは瑕疵の存在の通知だけでよくて,権利行使の通知ではなくていいということですね。分かりました。 ○高須幹事 今のところに関連して,弁護士会の意見でございますが,まず,甲案か,乙案かのところは,弁護士会でも分かれておるというところでございます。消滅時効の一般原則そのものがまだ流動的な状況でございますので,それとの兼ね合いがはっきりしていない段階で,甲案とも一概にも踏み切れないというところもあって,(3)のアのところに関しては,甲案と乙案が相半ばしており,それは多分,消滅時効制度全体が見えてこないと,一定の方針は決めにくいのかなというところでございます。   したがって,乙案の余地も一定の弁護士会は持っておりまして,その中では,比較的多いのは,これも相対的ではありますけれども,乙-1案を採った上で,つまり,一応の期限を定めた上で比較的多かった意見は,1年というのはあっという間に過ぎてしまうというのが実務では経験しておって,相談を受けるのが間際であるとか,1年を過ぎているというようなことが比較的あるというようなことで,2年ぐらいがあってもいいのではないかという,1年か,2年かという点は2年のほうがいいのではないか,そのようなところでございます。   それと,もう一つは現行の判例の理解にもよるのかもしれないのですが,権利行使ということについて,それほど強いものを要求はしていないのではないかという理解が弁護士会の中では多うございまして,言わば通知に近いという形,瑕疵の存在と権利行使の通知というのでしょうか,それに近いような辺りでのことが実際には行われているのではないかということで,その疑義をはっきりさせるのであれば,今,御指摘もあったんですが,権利行使というと厳格になりますということであれば,むしろ,通知に近いものを想定しておると。2年で通知に近いものというのが比較的,乙案を採るとしたら多かったというところでございます。ただ,ここもほかの単位弁護士会の中には違う意見もございまして,常にそう決まっているというわけではなくて,相対多数であったというところでございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかには。 ○村上委員 相当な期間内の通知を要求するという考え方には,問題があると思います。相当な期間かどうかの判断をどうやって行うのか,その判断基準をどこに求めればいいのかがよく分かりません。基準が分かりませんと,裁判所としては判断のしようがありませんし,当事者も,相当な期間内であったかどうかについての判断基準が分からないまま,不毛な論争を延々と続けなければいけないということになりかねないだろうと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○新井関係官 今,村上委員から御指摘があった点について補足させていただきます。「相当な期間」を画するときの判断基準というのは,どういうものが考えられるのかということですが,部会資料の中では「目的物の性質」というのを例として挙げていて,例えば,生もののように急速に品質が劣化していくような品物であれば,早期に通知してしかるべきだいう方向に働くファクターであろうということで挙げています。そのほかにも,もちろん,考え方としてはクレームをつけるかどうかということを判断するだけに必要な時間といったところも加味されて,そういう意味で,大づかみな意味では,取引の常識内でできるだけ早くというくらいの考え方ということをここで「相当な期間」という形で表現して,具体的な適用場面については,個別の取引状況などに応じて画していくということです。柔軟性と裏腹で付きまとう不透明性について,今,村上委員から御指摘を頂いたということだと思います。 ○中井委員 イ,乙案を採った場合の確認ですけれども,ここでは乙-1案から乙-3案,それぞれに短期での失権という規定を設ける案ですけれども,現在の判例の物を引き渡したときを起算点とする10年の消滅時効にも服するのかという点については,特段,定めを置かないという考え方なんでしょうか。 ○新井関係官 乙案は,引渡しから10年の消滅時効も適用されるという前提です。それを本文の中で,「消滅時効の一般原則に加え」と表しています。そのことを条文でどう表すかはまた別途問題になるかと思いますけれども,念頭に置いている規律の実質としては,今申し上げたようなことです。 ○中井委員 それを前提に,弁護士会の意見は先ほど高須幹事から説明があったとおりです。甲案も原則論どおりでいいのではないかという意見が半分ほどありますが,それでもなお,乙案を支持する意見とに分かれたわけです。その理由については28ページのところで乙案を採る実質的根拠が二つ挙げられております。この二つの意見は強くあり,一般的な消滅時効原則以外の特則的規定を設けるのが適当ではないかと考えるわけです。   ただ,乙-1から乙-3案の中で順にいきますと,乙-2案については村上委員からお話がありましたように,相当期間という考え方は第一読会でも申し上げましたけれども,余り賛成は得られておりません。また,乙-3案については買主が事業者である場合について,特則を設けるものですけれども,事業者が自ら取り扱っている商品等について,このような短期で失権するというのはあり得るのかもしれませんけれども,事業者とはいえ一般的な売買,もちろん,不動産も,機械もありますから,そういう自分が専門的でないものの取引行為について,乙―3案のような厳格といいますか,厳しい制約を課すことは適当でないだろう。そういうことで,乙案を採るとしても弁護士会で多かったのは,乙-1案を基本とする考え方でした。   なお,乙-1案について現在の知ったときから1年で,権利行使をしなければならないという考え方については,問題があるという認識でして,取り分け,28ページにも平成4年の判例が掲げられていますけれども,損害額の根拠を示した上での意思の表明となると,厳しすぎるというのが多くの意見です。少なくとも2年に延ばす,若しくはこの権利行使という概念を,瑕疵の存在若しくは損害賠償請求権を行使するという程度の通知に,もう少し緩くする対案が提案されています。そうすれば,消滅時効の一般原則の特則にはなるわけですけれども,先ほど言いました28ページに書いている実質的根拠を考えれば,一応の合理性はあるのではないか。  ウについてはここの記載どおり,売主が瑕疵の存在を知っているときには,適用されないという考え方に賛成するという意見でした。 ○道垣内幹事 私は,個人的には甲案でよいと思うのですが,甲案の意味が恐らく問題だろうと考えます。つまり,現在の消滅時効と瑕疵担保の期間制限の関係を念頭に置きますと,10年間の消滅時効期間であるということになりますと,瑕疵担保の期間制限よりも消滅時効のほうが早く到来するというのは,10年間,瑕疵が発現しなかったという場合に限られることになります。しかるに,これを仮に大幅に短期化をすることになりますと,現在よりも瑕疵のある物の給付を受けた買主の救済が狭められるのではないか。高須幹事が先ほど消滅時効についてどうなるのかが分からなければ,甲案を当然には採れないと発言されましたけれども,多分にそのとおりだろうと思います。   さて,そう考えたときに,ここにおけるルールを示す言葉として,現在の言葉としての瑕疵担保責任という言葉を使わせていただきますと,瑕疵担保責任に消滅時効の一般原則を適用するというときには,どのような結論が生じるのか。   つまり,私が売主であるという場合を考えてみますと,目的物が来ないということになりますと,来ないのだったらば,しかるべき措置をとりなさいと言われるということも理解できます。しかし,一見,目的物っぽいものが来ており,瑕疵が発現していないというときに,引渡しの期日から3年たったからもう駄目ですよと言われたら,不満です。つまり,目的物がまったく引き渡されなかった場合に比べますと,買主の権利行使の期待可能性は,かなり低いのではないだろうかという気がいたします。そうなりますと,同じく甲案といっても,瑕疵を知ったときからというのは,十分に考えられるのかなとも思います。しかし,他方では,それは全体の構造としては難しいのかもしれないと思いまして,少しよく分からないなと考えているところです。   また,1年等々の期間制限というのは分からないではないのですけれども,28ページにおける①,②なのですが,②がどうして理由になるのか,私には以前からよく分からないところがあります。責任を追及する側の買主の側が瑕疵の存在を立証しなければならないのだとしますと,立証できているのに,これは難しいではないですかと,いや,立証できていますけれども,普通は難しいのだから駄目ですよというのは,どう考えてもおかしい。立証できたら立証できたということではないかという気がしまして,②が理由になるとは思いません。   そして,そうなりますと,①がせいぜい理由になるわけですが,そうしたときに悪意者を排除するだけでよいのかという問題が出てきます。つまり,それなりの検品をして売主が引き渡さなければならないのだと仮定しますと,そのような検査をしても分からなかったという善意無過失ということが必要になるのではないか。さらには,先ほどの「隠れた」という要件を外すという問題とも,実は密接に絡んできているような気がいたしまして,仮に一定の期間制限を置くとしましても,売主が瑕疵の存在につき善意であり,かつ瑕疵の存在を知らなかったことにつき無過失であるということが立証できた場合には,1年間というのはあり得るのかなと思いますし,立証責任は転換して考えるべきではないだろうかという気がいたします。 ○山下委員 27ページの参考で,商法526条の規定が上がっていて,ここに書いてあるようなことに関係するのですが,526条はいろいろ買主側の義務を重くしていて,やや厳しい規定ではないかということなのですが,そうしますと,26ページの乙-3案というのはこういう系譜を引いていて,かつ事業者,買主の場合一般に拡張すると,これは中井先生のお話にあったように,やや問題があるのかなということになろうかなと思うのですが,これをやめてしまいますと,買主側が検査をする義務というのがどこかほかに出てこないと,まるっきり,そういう問題というのはどこにも出てこないということになり,これも商人間の商品売買を考えたりすると問題があるところなので,失権というのはいかにも強すぎることかとは思うのですけれども,どこか,損害賠償その他の救済方法との絡みで,何か工夫する余地はないのかという辺りを検討する必要があるのかなと思います。 ○沖野幹事 今,山下委員が御指摘になった点に関係するのかと思うのですけれども,甲案の下で更に通知義務は規定するというようなことは考えられないだろうかということです。売主の信頼ということがありますので,そうだとすると,既に瑕疵の存在を知った買主が,ただ,いたずらに放置するのではなく,信義則上,通知をするという義務は課されるのではないかと考えます。ただ,それが,一体いつまでに通知しなければいけないかに関して相当な期間というような柔軟ではあるけれども,はっきりしないものでそれに対して失権効というのでは強すぎる。かといって,1年とか2年とか画一的な基準だと取引の実態を反映できない。こういう考慮からしますと,甲案を採るかどうかは消滅時効の期間にもよるわけですけれども,むしろ失権効は伴わないのだけれども,通知義務は規定するということが考えられるべきではないでしょうか。   そうしますと,義務違反に対する効果を書かなくていいのかという問題が出ますけれども,それは一方で損害賠償であったり,あるいは損害賠償額の算定における買主側の落ち度というか,その考慮であったりといった手掛かりにはなりますので,そのような組合せも更に考えていくべきではないか思います。 ○鎌田部会長 でも,知っていても知らないふりをしていると,相手には分からないですね。 ○沖野幹事 現行法でも知った時から1年以内に権利行使をしなければ権利を失うことになっていますので,知らなかったと言えば現行法でも同じことだとは思うのですけれども。それを問題視するならば知るべきであった時からということになりますが,知ったならば知らせることが要請されるという限りで, 知るべきであったときから通知義務を課すというのは,というのは,あるいは商人は別なのかもしれませんけれども,適切ではないように思います。失権効と結び付くならば,知るべきであった時からというのも考えられるかとは思いますけれども。 ○新井関係官 今の沖野幹事の御意見で教えていただきたいのですが,通知義務の懈怠の効果として,例えば賠償額の減額とか,そういったことをお考えであるように聞いたんですが,そうなのでしょうか。 ○沖野幹事 効果は規定しないというつもりで申し上げました。義務だけを書いておけば,そういう義務があることがどういう形で反映してくるかについては一般則に乗せていくという,そういうつもりです。 ○新井関係官 その一般則というのは,例えば過失相殺というか,損害軽減義務といった,そういったことをお考えということでよろしいでしょうか。 ○沖野幹事 それを含めてというつもりです。 ○鎌田部会長 先ほど,弁護士会は,乙案は厳しすぎるというお話でしたけれども,商法526条はそのまま置いておけばいいのか,あるいは商法526条もなくしてしまえという御趣旨なんでしょうか。事業者一般にするのは厳しすぎるということだとは思うんですけれども。 ○中井委員 商法526条を削除せよという意見ではありませんでした。 ○中田委員 道垣内幹事に確認なんですけれども,28ページの(2)の②というのは理由にはならないのだという御指摘がありまして,それは買主のほうが瑕疵の証明ができた以上,それを期間で制限するのはおかしいではないかと。それはもっともだと思うんですが,買主の証明すべきことは引渡時に瑕疵があったということなんだろうと思うんです。そうすると,現物に瑕疵がある以上,引渡時に瑕疵があったということは比較的容易に言えるのに対して,売主のほうで引渡時には瑕疵がなかったということは,実際には非常に難しいのではないか。それを調整するという意味も,短期期間制限にはあるのかもしれないと思うんですが,そこはいかがでしょうか。 ○道垣内幹事 そういう分析ですと,全然,構わないと思うんですが,それというのは,結局,民法の条文には必ずしも存在しない一つの訴訟における実際の取扱いというのを前提にして,理由付けをするということになりますね。それはそれでももちろん構わないと思いますが,②をそういうふうに書き直すのであれば,それでよいかなと思います。 ○鎌田部会長 ウについては特に異論はないと承りましたけれども,ア,イについては複数の御意見を頂戴しましたので,それらを踏まえて分科会で補充的に……。 ○内田委員 中井先生からイの乙-3案について,事業者であるというだけでもって,こういう義務を課すというのは重すぎるという御発言があったかと思うのですが,事業者が買主であるということだけではなくて,その事業の範囲で買主となった場合という限定を加えた場合はどうでしょうか。というのは,今,商法では買主が商人であるという限定になっていますが,そうすると,協同組合とか,みんな,外れてしまうわけですよね。協同組合にしても,あるいは非営利のNPOにしても,自分がやっている事業に関してはプロなわけですので,その事業に関して買ったものについて検査もしなくていい,消費者なども含めた一般の取引ルールのみが適用されるというのは,実務的に本当にそれでいいのだろうかという気がするのです。そこで,事業者が事業の範囲で買主となった場合についてというような限定を加えることによって,一定の検査とか通知の義務を課す余地はないのかについて,御意見をお伺いできればと思います。 ○中井委員 先ほど私が申し上げたのは,事業者が通常売買しているものが対象物だったら,一定,考える可能性はありますねと申し上げた裏には,事業者といえども,本来的な取引でない取引をたくさんしているわけで,それらについても一律規定となったときには,問題が生じるのではないかという理由を申し上げました。それを受けて,事業に関連したと限定したらどうかという御意見かと思います。そういう考え方だったら,改めて考えなければいけない,あり得る選択肢かと思います。ただ,それであっても,発見すべきであったときとなっていることについては,なお危惧を感じます。常に検査義務を課すということが前提になるわけですね。 ○内田委員 事業に関連してというと広いかもしれませんが,自分の事業に関して買主となったという場合に,つまり,事業で注文しているわけですよね。注文して届いたものが契約どおりのものであるかどうかを検査しなくていいというのが,本当に事業者として許されるのか。消費者は放っておいてもいいというのはあり得るルールだと思うのですが,事業者の場合,商人でないというだけで,本当にそれほど緩くていいのかというところに疑問がありました。 ○中井委員 その点については,違和感なくお聞きいたしました。 ○道垣内幹事 一応,ウには異論がないという整理でしたけれども,期間制限するときには悪意では足りないのではないかと,狭すぎるのではないかという意見を述べさせていただきましたので,よろしくお願いします。 ○鎌田部会長 そうですね。すみません,失礼しました。ありがとうございました。   それでは,次に「2 権利の移転に関する売主の責任」につきまして御審議を頂きます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○新井関係官 それでは,説明いたします。   「2 権利の移転に関する売主の責任(民法第560条から第567条まで)」では,現行法でいわゆる権利の瑕疵と分類されている規定の適用場面のうち,民法第565条の数量不足,一部滅失を除いたものについての売主の責任に関する規定の整備を取り上げるものです。   「(1)売主の権利移転義務の明文化等」では,まずアにおいて,民法第560条を維持するとともに,売主は別段の意思表示がない限り,他人の権利による負担のない権利を買主に移転する義務,権利移転義務を負う旨を条文上明記することを提案しています。そして,イでは,民法第561条後段等の買主の主観的要件を削除することを提案しています。   「(2)権利移転義務を履行しない場合における買主の救済手段の整備」では,まずアにおいて,売主が権利移転義務を履行しない場合に,現行法では民法563条第1項のみに規定がある買主の代金減額請求権がすべての権利移転義務の不履行の場合に行使可能であることを条文上明記することを提案するとともに,減額する代金の額を明記することの要否及びその在り方について問題提起しています。イでは,救済手段の相互関係の在り方について一定のルールを設けることを提案しています。   「(3)短期期間制限の見直しの要否等」では,現行民法第563条及び566条に設けられている短期期間制限を維持することの要否及びその在り方を問題提起しています。   「(4)他人の権利の売買における善意の売主の解除権(民法第562条)の要否」では,規定内容の合理性に疑問が指摘されている民法562条を削除することを提案しています。   「(5)抵当権等がある場合における買主の解除権等(民法第567条)」では,民法567条については規定の存在意義が乏しいと考えられることから,削除することを提案しています。   これらの項目のうち,(2)と(3)については物の瑕疵に関する規定の在り方との整合性などを含め,具体的な規定の在り方を分科会で補充的に検討することが考えられますので,これらの論点を分科会で検討することの可否についても御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明がありました部分のうち,まず,「(1)売主の権利移転義務の明文化等」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。  特に異論はないと思ってよろしいでしょうか。 ○山本(敬)幹事 (1)についてですが,実際上の問題は余り生じないかとは思うのですけれども,アの「また」以下の部分で,確かに,他人の権利を売買の目的にしたときは,その権利を買主に移転しないと,およそ契約した意味がありませんので,現行560条のような規定を定めることは必要だと思います。目的の権利の一部が他人に属する場合も基本的に同様なのですが,特に目的物が地上権等の目的である場合や対抗力のある賃借権の目的である場合には,確かに使用収益権そのものを取得しようとしますと,このような負担のないものを移転するしかありませんけれども,地代や賃料等を取得することができるのであれば,別にそのような負担のない権利を移転する必要はないとも言えるわけです。その意味で,デフォルトルールとして,このような場合にまで本当に負担のない権利を買主に移転する義務を課すというのでよいのかということが,問題になりそうです。もちろん,別段の意思表示があると言えれば結論に変わりはありませんので,その意味ではいいのかもしれませんが,並べたときに,本当に全部一緒というのでよいのかということが,少し気になったということを申し上げておきます。ただ,結論については,恐らく問題は生じないだろうと思います。 ○鎌田部会長 何か事務当局からありますか,よろしいですか。それでは,今,御指摘いただいた点について,少し注意をして検討を進めさせていただきます。   (2)について御意見をお伺いいたします。これは,物の瑕疵に関する議論を,こちらにも準用するということでよろしいでしょうか, ○中田委員 (2)のイについて確認なんですけれども,イの①で代金減額請求権については履行の催告を必要とするという御提案になっているんですが,物の瑕疵については甲案と乙案が示されていて,甲案については追完の催告を要する,乙案については代金減額請求権については催告不要となっています。この両者の関係はどうなんでしょうか。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局からお願いいます。 ○新井関係官 その点はある意味,意識的に扱いを変えている部分がございます。というのは,物の瑕疵があった場合の修補を請求するということが,売主に対して必ず催告を要するのが相当なのか否かというのは,意見が分かれ得るということを踏まえています。先ほど弁護士会の意見を紹介していただいた中にも,そういった問題意識が出ていたのかなと思いました。それに対して権利移転義務に関しては,催告を要件として売主追完の機会を提供するということ自体には,それほど違和感はないのではないかと考えまして,権利移転義務の局面については,催告を要するというのを原則パターンとして,その一案のみを示しているという扱いの違いがあるということです。 ○中田委員 これも確認なんですが,(2)のアの②について物の瑕疵と同じように引渡時を基準時としているということなんですけれども,先ほども申しましたが,ウィーン条約の際にはこれが議論になった末,意見の一致を見なかったので,権利の瑕疵についてはオープンになっているんですけれども,それをあえて同じにしたというのは何か理由があるんでしょうか。 ○新井関係官 具体的な減額の幅を条文で書いているのがウィーン売買条約以外に見当たらなかったので,これを踏まえて挙げております。同じやり方でいいかどうか,あるいはそもそも減額幅を具体的に条文に書くべきかどうかということについても意見を問いたいと思っています。ここについては「どのように考えるか」という文末表現が示唆しているとおり,正に部会で御意見を伺いたいという趣旨で,こういう記載にしております。 ○中井委員 (2)のアの②ですけれども,このような代金減額の定め方をするのは反対です。先ほどの物の瑕疵に関しては理論的な考え方としては,御提案のような方法,客観的価値,瑕疵のある場合の客観的価値,それを割合的に考えて,元の約定金額に掛けるというのは理解できるわけですけれども,ここの権利移転義務を履行しない場合の代金減額請求について,同じ考え方が理論的に成り立つのかというと,素朴に疑問に思います。典型例は抵当権が設定されていて,抵当権の負担のない不動産の売買を合意した場合,結局,抵当権が抹消できなければ,抵当権そのものの負担を負うわけですから,抵当権を抹消するために必要なコストというのは客観的に決まる。その客観的に決まった額が割合的という観念を通さずに,減額されてしかるべきだという考え方もあり得るのではないか,また,そのほうが正当ではないかと思うものですから,権利移転義務に関して,そういう権利の負担のあるものの売買で権利の負担の除去ができなかったときに,②のような考え方は採り得ないのではないかと思っています。   ○鹿野幹事 先ほどの休憩前に申し上げればよかったのですけれども,ここでまた出てきましたので,35ページのイの②に関して,一言,申し上げたいと思います。結論から言いますと,先ほど沖野幹事がおっしゃったことにかなりの部分,共感を覚えるということであり,代金減額請求権が行使された場合には,それと相容れない他の権利行使が封じられるとされていることについての危惧を申し上げます。   特に問題となるのは,先ほど議論がありましたとおり,損害賠償請求権との関係です。例えば,代金減額請求を買主のほうが言ってきた場合でも,その多くにおいて,買主の真の意図は,他の権利行使はしなくていいからこれで自分は満足するということではなく,むしろ,損害賠償も請求したいのだけれども,取りあえず,この減価分については自分は払わないという意味での括弧付きの代金減額請求をしているのであり,それをまず確保した上で,それを超える損害の賠償については,別途請求する趣旨だということも多いのではないかと思います。   もちろん,この問題は,代金減額請求権の行使があったということをどういう事実関係の下で認定するのかという,その認定の在り方によっては解消されるのかもしれません。しかし,繰り返しますと,買主が代金減額を請求するという言い方を仮にしたとしても,買主の本来の認識ないし意図は,損害賠償請求権を行使し,それと代金債務とを対当額で相殺するということにあり,そのようなつもりで代金の減額と言う場合も多いのではないかと思います。確かに,理屈の上では,代金減額請求権を行使した場合,それは契約の一部変更であり,したがって,他の損害賠償請求権,例えば得べかりし利益の賠償請求権とは相容れないという説明自体は,分からないわけではありませんが,今,申しましたような意味で,当事者の意図ないし認識と離れたところで,ほかの権利行使が封じられるということがないような工夫が必要だと感じるところです。 ○鎌田部会長 理論的には両立し得ない損害賠償請求を認める必要はないけれども,権利行使の過程で代金減額的主張をした途端に,損害賠償請求権が失われるようなことはないようにという,そういう御趣旨と理解してよろしいですね。 ○山本(敬)幹事 中井委員が御指摘された点についてよろしいでしょうか。代金減額請求権を認める場合に,その基準をどうするかという点については,定めるとすれば,34ページの②に書かれているようなことになるしかないだろうと思います。もちろん,基準時をどの時点に設定するかということはなお残った問題ですけれども,こうなると思います。先ほど中井委員がおっしゃられた,抵当権が設定されていないものとして売買契約が締結されたところ,現実には設定されていたという場合に,抵当権が設定されている状態を除去するために,一定のコストが掛かるわけであって,それが買主としては填補されないとおかしいのではないかという点は,損害賠償の問題になるのではないかと思います。   というのは,抵当権の負担のない不動産として売買契約が締結されたけれども,現実には抵当権が設定されているわけですから,追完といえば追完なのですが,抵当権の負担のない状態にするために掛かる費用は,一種の修補ないしは追完に掛かる費用と質的には同じものですので,損害賠償として請求していくことになるのではないかと思います。代金減額というのは,飽くまでも契約で予定された物の価値と現実の物の価値との対比で,代金もそれに見合った形で減額することになるものですので,基準としては34ページのような書き方になると考えられます。問題はそれを本当に書くか書かないか,書くとしてどのような形で書くかという問題になるのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 ただ,その抵当権の負担を受けている不動産の価格というのを何によって算定するかというと,その抵当権を消滅させるのに必要な額を市場価値から差し引いたものになるのではないかというのが,中井委員の御主張だったように思うのですが。 ○山本(敬)幹事 ただ,その分がそのまま取れるかというと,それは損害賠償の問題であって,代金減額としては,そもそも代金減額をどう理解するかということと関わるのかもしれませんが,対価から減価分を差し引くというようなかつての対価的制限説のような考え方ではなくて,契約上予定された物と現実の物との価値的な差を代金にも反映させて,瑕疵相当分について代金を減額するという発想ですと,ここに書かれたようになるということを申し上げたつもりです。 ○中井委員 素朴に疑問に思うのは,例として3,000万で売買をした,しかし,抵当権が付いていた,除去するのに2,000万が掛かったといった場合にどうなるのかですけれども,私は3,000万引く2,000万で1,000万になる。ところが,仮に客観的価値が4,000万だとすれば,考え方としては4,000万に対する2,000万,割合は2分の1ですから,3,000万に対して2分の1,1,500万の減額しかできない,こういう結論になるかと思うんです,今の山本敬三幹事のお考えでは。それはおかしいのではないか。合意が3,000万で,客観的に2,000万の価値の減ずる状態があったのですから,2,000万の減額が認められていいのではないか。それは損害賠償ではない。 ○山本(敬)幹事 もし,そうおっしゃるのであれば,先ほどの物の瑕疵についても同じ基準でないとおかしいとおっしゃっているのだと思います。つまり,代金減額の考え方でなく,対価的制限の考え方で規定を置くべきだとおっしゃっているのだろうと思います。それならば一貫すべきだろうと思います。考え方としてはあり得る考え方ですけれども,現在の学説が代金減額として理解しているところ,そして,比較法的に代金減額として理解しているところとは,異なるのではないかと思います。 ○松本委員 今の論点なんですが,抵当権が設定された状態における不動産の客観的価値というのは,どうやって算定するんでしょうかという話だと思います。抵当権が実行される場合,不動産の価値はこれだけになりますというのは計算可能ですが,そうではない何かだと。それは一体何なのかというと,ひょっとすると,リスクを掛け算するのかなと,つまり,デフォルトリスクをどう評価するかによって,当該抵当権の負担付不動産の客観的市場価値というのが決まってくるのかもしれない。デフォルト率がゼロであれば,抵当権が付いていたとしても,それは不動産の丸々の価値だと評価する人がいるかもしれないし,デフォルト率が100%であれば,全額が減額されて当たり前だと。しかし,それが5割ぐらいかもしれないということだと,その中間になるのではないかと。ただ,そういう算定がそもそもできるんでしょうか。デフォルト率を計算に入れて,客観的な価値というのを計算できるのかどうかというのが一つの疑問です。   もう一つは,仮に計算できるとして減額請求をして,その後,抵当権が実行されてしまった場合にどうなるのかという点です。それは,減額請求をした人の評価ミス,つまり,デフォルト率の評価ミスだから,それ以上,損害賠償とか求償請求はできませんという話になるのか,それとも,そのときはデフォルト率を5割だと考えたから減額請求したけれども,結局,実行されてしまったんだから,そこからはみ出した分は,567条2項ではなくて,別途,損害賠償あるいは費用償還として一般的な理論に基づいて請求できるんだという話になるのか,いずれなんでしょうか,原案では。 ○能見委員 今の松本委員の御発言と同じなんですけれども,抵当権が付いている不動産を購入するときに代金減額という考え方がそもそも当てはまるのか。例えば,3,000万円の土地で今,被担保債権を2,000万円とする抵当権が設定されているときに,土地の価値と被担保債権の差額分で代金減額請求して1,000万円になるとすると,従って1,000万円で買えるというときに,しかし,被担保債権は債務者が弁済すべきものですから,後で被担保債権が弁済されてしまうと,そうすると,結局,3,000万円の価値がある土地を1,000万円で買ったということになってしまうわけで,そこで,松本委員が言われたようにデフォルト率を計算して,代金減額の割合を決めるという方法があり得るのかもしれませんが,デフォルト率の計算は正確にはできないし,恐らく誰にも計算できない。そういうような不確かな世界で抵当権が付いている不動産の代金減額というのを認めるのは,そもそもおかしいのではないかという感じを持ちます。現在の567条の規定も,最終的には損害が生じたときにどうするかという規定になっていますけれども,それは事前に代金減額をするということは難しいということなのではないでしょうか。 ○潮見幹事 ほぼ,こちらの側に座っている三人の先生方と同意見です。そもそも,権利の瑕疵といった場合にいろいろなものが入っています。抵当権が付いている場合,不動産に賃借権が付いている場合,あるいは遅延金がくっついているような場合とか,ほかにももろもろあります。そういう権利の瑕疵全ての場合に妥当する一般的なルールとして,代金減額請求権の規定を置くのが適切なのかという問題が,ここにあるのではないかと思います。仮に代金減額請求の規定を置くとしたら,先ほど山本敬三幹事,それから,松本委員が前半でおっしゃったような形にならざるを得ないというか,そういうものが代金減額請求ではないでしょうか。むしろ,中井委員がおっしゃっていたことは,先ほども話に出ましたけれども,損害賠償の問題として考えるべきではないか。その結果として抵当権付きの目的物の売買のような場合には,実際には代金減額請求という形で問題を処理するのがほぼ難しいということにはなりはしないかという,そういう感じがいたしました。   その意味では,ここで代金減額請求というものを書くとしたら,一般的に書くのか,場面を絞って書くのか,それから,場面を絞って書く場合に,果たして先ほどから問題になっているような②のような具体的な書き込みをするのか,それとも,ある程度,抽象的な形でとどめておくのかを考えるべきだと思います。もう1点,申し上げますと,ここの部分が代金減額のところで難しいからということで,それに合う形で物の瑕疵のところの代金減額について,先ほどお話があったような基本的な考え方を少し崩していくとか,あるいは先ほど中井委員がおっしゃられたような代金減額の枠組みで目的物の瑕疵,そこの場面の代金減額を考えるというのは,やめておいたほうがいいのではないかという感じがいたしました。 ○鎌田部会長 分かりました。今の御指摘で場面によって違うというのですけれども,現行法を参考にして見れば,代金減額的発想に最もなじまないというか,現行法も採用していないのは抵当権,担保権の負担のあるときですね。それ以外のものについては,可能性としてはあり得ると理解していいですか。 ○潮見幹事 別の点でいいですか。先ほど中田委員が質問されたところに関わるのですが,先ほどの新井関係官の発言を聞いていて,どうしても分からないのは,代金減額請求のときに権利の瑕疵ならば催告が必要だが,物の瑕疵の場合には両論がありますというようなことだったのですが,権利の瑕疵についても両論があるのではないかと思います。さらに,この問題というのは,先ほど休憩前にやりました,履行の猶予というものを催告で認めるところに関わってきます。売主の側からの広い意味の追完権という問題と,それから,代金減額請求というものの関係をどのように捉えていくのかにも関わってくることですから,余り,ここはこうだと決め付けずに,分科会で議論していただければと思います。 ○沖野幹事 今のイの「救済手段の相互関係の明文化」の①のところですが,誤解しているのかもしれませんが,瑕疵のほうの23ページでは代金減額請求だけではなく,損害賠償請求権や解除権を含めて追完の催告を要するかということが提案されており,乙案におきましても代金減額請求権だけではなく,損害賠償請求権が入っているのですけれども,その点も,つまり,履行の催告を要するかどうかということについての違いというか,二案とともに対象が代金減額請求権だけに限定するのかどうかというのも違っておりまして,そして,さらには中身も履行請求権となっており,追完請求権とはなっていないのですが,しかし,例えば地上権が目的物に付いているとか,抵当権が付いているというようなときに,一旦,抵当権付きのまま所有権は移転し,登記はするけれども,これは消しますという約束だったんだから,その後の交渉できちんと消してくださいよというようなことはあり得るし,それができないなら解除しますということもあり得るように思うのです。代金減額請求権だけの問題はないのではなかろうかと。   更に考えますと,そもそも権利移転義務のところで他人物の全部,一部の場合のほか,地上権,用益権付きであるとか,担保権付きであるとか,そういうものを一切含んでくるということで,それがその後の規律の全部にまたがるものとして示されていいるのですが,あちらこちら,必ずしもそうではない想定で規律が考えられているところがあるのではないかという印象を持ちます。誤解であったら幸いです。 ○鎌田部会長 事務当局からありますか。 ○新井関係官 基本的には35ページのイの①の整理は,部会資料の23ページの,ウの①の甲案のような考え方をパラレルに持ってくることを意図していたのですけれども,確かに35ページのイの①で代金減額請求権しか書いていないのは,分かりにくく,適切でなかったと思います。基本的な考え方としては,今,申し上げたとおりですので,その上で御意見を伺えればと思います。 ○能見委員 確認ですけれども,30ページのところで例えば他人の地上権とか,その他の権利によって売買の目的物が負担を負っているときに,売主は,一方で負担のない権利を移転する義務を負わされていて,他方で先ほど抵当権については,代金減額は適当ではないと言いましたけれども,ほかの権利による負担の場合には代金減額があり得るとしたときに,これは履行請求と代金減額の2つの救済手段の関係になるということですね。そうすると,買主が代金減額請求権を行使すると負担はそのまま残っていていいことになり,これに対して,売主が負担を取り除いた,恐らく自ら費用を掛けて取り除くことになるでしょうが,代金減額請求権は当然のことながら生じないと,そういう関係になるんですね。 ○中井委員 確認ですけれども,(2)のアの「代金減額請求権の明文化」については,現行法では一部他人物売買と数量不足等のところで代金減額請求ができるとある。それをここでは一般化して広く妥当するとしておりますけれども,確かに私が抵当権を例に挙げて考えましたが,これについて代金減額請求というのは確かにおかしいと思います。だとすると,明示する意味では,地上権等の負担のある場合にはなお代金減額請求の考え方は及び得ると思いますので,代金減額請求できることについてその範囲を明らかにしておく。個別条文ができたら,個別条文ごとに書く,その方向のほうがよろしいのではないでしょうか,誤解を生じないためにも。 ○道垣内幹事 その前提なのですが,抵当権が存在している場合の救済手段は,何であるという前提での御発言でしょうか, ○中井委員 仮に代金減額請求ができないとすれば,それ以外に予定されているもの,解除かもしれませんし,損害賠償かもしれませんし,代わりに払わざるを得なかったら求償権かもしれません。 ○道垣内幹事 解除はできるわけですよね。 ○中井委員 解除はできると思います。 ○道垣内幹事 567条2項においては,物上保証人からの買主とか,第三取得者からの買主とかが一番問題で,債務者イコール売主ですと,損害賠償請求権と求償権は重なり得るわけですが,求償の相手方と損害賠償請求の相手方が異なる場合がポイントになるのだろうと思います。したがって,払った段階で初めて何か救済手段が起こるということになりますと,そして,それは基本的には求償であると考えますと,抵当権の被担保債権の債務者の無資力リスクが,買主に移送するということになりますので,なかなか,うまくいかないところがあるのだろうと思います。 ○松本委員 今の道垣内幹事の御指摘と,それから,38ページ,39ページの567条1項の解除権等の規定は削除しましょうという御提案との関係なんですが,抵当権を抹消して引き渡しますと言っていたのに抵当権が付いたままであったというケースについてです,567条1項は,抵当権が実行されて所有権を失った場合は解除できるということで,それで,39ページを読めば,そんなことは債務不履行の一般論でいけるのだから必要ないという話なんですが,抵当権がないはずだったのに付いたままだったという状況で,救済として契約解除ができるのかどうかという点については,567条からは何も出てこないわけです。   解除がもし認められないのだとすると,結局,実行されるまで待ちなさい,あるいは積極的に自ら第三者弁済して567条2項で費用償還請求をしなさいというどちらかです。私は抵当権が実行される前に解除ができてもおかしくないと思うんですが,契約の目的を達成できないという解除の要件からいくと,実行されるまでは目的を達成できないとは言えないということになるのかもしれません。しかし,実行されるかもしれないという不安定な状況のままで,その不動産上で事業を行うとか,住宅を建てるとかいうのは大変困ったことだと思うので,そうすると,救済として解除というのが一定の要件の下で認められてもいいのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 現行法は577条と抵当権消滅請求というのが,事前の対応手段として想定されているんだと思いますが。 ○能見委員 先ほど質問したのはそういうことにも関係しているのですが,抵当権の負担が付いている場合に,売主は抵当権の負担のない権利を移転する義務を今度は負っているので,その義務の不履行がある状況では,代金減額請求は適当ではないかもしれないけれども,解除とか,損害賠償その他の債務不履行の場合の救済手段は認められる。そういう構造になるのではないでしょうか。 ○松本委員 では,577条の問題ではないということ。 ○能見委員 この規定とは,だから,ちょっと違ってくるということですかね。 ○山本(敬)幹事 別の問題でよろしいでしょうか。35ページのイの①についてです。物の瑕疵の場合にも実は同じような問題があることはあるのですが,先ほどの新井関係官のお答えですと,必ずしも代金減額請求権に限るつもりではなかったということでした。そうしますと,例えば,建物を買い受けたところ,引渡しを受けた賃借人がいたというケースで,それは知らなかったのだけれども,買ってから買主のほうが賃借人と交渉して,何がしかの立退料を支払って出ていってもらうということで決着を見たので,その立退料相当額を損害賠償として請求するという場合に,あらかじめ相当の期間を定めた履行の催告をしないまま,買主が請求してしまったときは,この立退料相当額についての損害賠償を請求していくことができないという結論が,ここから導かれると理解してよろしいわけでしょうか。 ○新井関係官 催告を求めるということになると,そういう結論になるのだろうと思います。あとはその当否の問題,買主側のイニシアティブで善後策を講じた上で,その費用を回収するという利益を優先すべき場面があるのではないかということと,あとは売主の追完利益とをどう折り合わせるかという問題に帰着するのだと思います。 ○山本(敬)幹事 先ほど言いましたように,同じ問題が物の瑕疵についてもあって,簡単に修補できるので,しかもすぐに必要なので,すぐに修補した上で,修補費用相当額を賠償請求していくときに,あらかじめ相当の期間を定めた履行ないし追完の催告をしていないので,賠償請求が否定されるということで本当によいのかという点は,疑問の余地があるだろうと思います。契約上は,一定の性質を持った物を給付することを売主が引き受けたにもかかわらず,そして,その不履行があるにもかかわらず,手続懈怠を理由に賠償請求することができなくなるとしますと,かなり大きな混乱が生じるおそれがあるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 それでは,今の(2)のア,イに関しましては,頂戴しました御意見を踏まえて分科会で補充的に検討させていただきます。 ○高須幹事 初歩的なことを伺うような話になってしまうのかもしれないんですが,今,ちょうど議論しているところが「権利の移転に関する売主の責任(民法第560条から第567条まで)」ということでよろしいと思うんですが,その中で566条に関して2項というものが従来からあって,売買の目的であるはずの地役権が実際にはない,あるいは目的不動産に賃借権が付着している場合についても,566条1項の規定を準用しますということなわけですけれども,従来,そこに存在するはずだった地上権がなかった場合を含むかどうかの議論があり,566条2項を類推適用している判例もあると思うんですが,その話をここで全くする必要はなかったのでしょうか。もし,あるとすれば,地上権を類推適用しているということであれば,2項に地上権を入れることを考えてもいいのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○新井関係官 部会資料でははっきり出ていなかったかもしれませんが,私としては,基本的には権利移転義務の対象の問題として処理できるのではないかと思っています。どの範囲の権利を移転するということは,当該売買契約においてどこまでの権利移転が約されたかという問題で捉えることができ,あとはそれの不履行の問題として,損害賠償あるいは契約の解除といった問題として捉えることができるのではないかと,そういうことを一応,念頭に置いておりました。 ○高須幹事 今回,契約責任という形で考えれば,そういう処理は十分可能だと思うのですが,ただ,中途半端に568条2項があるということになると,今度,殊更に地上権だけが入っていないのはどう理解したらいいのだろうかみたいなこともあると思いますので,これからの問題なのだろうと思いますが,条文の要は書き方のところで,統一性あるものがあったほうがよろしいのではないかと思った次第でございます。 ○山野目幹事 2点申し上げます。今のことに関連してですが,1点目は部会資料が繰り返し至るところで権利移転義務と書いておられるものは,現行法566条2項のことも十分留意した上で,こういう表現を採用したものであろうと私は理解していました。今日の御議論で気になったのは,負担のない財産権を移転する義務ということが繰り返し言われましたが,負担のない財産権のみでなく,くっついているということを述べた地役権が付いていない場合も含む議論であるということが,部会資料が選んだ権利移転義務という表現であろうと理解しておりました。そこで,部会資料が提起する議論の進め方でよいと感じます。これが1点目です。   もう1点は,高須幹事が地上権とおっしゃったのをもう少し私なりに受け止めると,地上権というよりも建物に関して存すると称していた,従たる権利である敷地利用権が欠けるような場合というものを定式化した上で,判例上形成されてきた準則を明文化する必要はないのかという問題提起を頂いたと認識します。私はそのことが気になっておりましたけれども,法文起草の際に,形成されてきた判例の準則をどこまで現代化の過程で入れるかという問題でありましょうから,ここで強いて指摘しなくてもよいかもしれないと見ていました。問題提起を頂いたこと自体はごもっともなことであろうと感じます。 ○道垣内幹事 私は不勉強でよく分からないのですが,地役権が単独譲渡の対象になるのかということが気になります。つまり,地上権の場合には地上権者と建物所有者は分かれ得るんですね,地上権者から賃貸をするとかいうふうな形ですね。しかるに,地役権というのは,土地との所有権と分かれ得ないのではないかと思います。だから,地上権と地役権はかなり性格が異なるものなので,従たる権利であるといって,一緒に規定するということが可能なのかということが気になりました。私の頭では整理できないのですが,指摘のみさせていただきます。 ○鎌田部会長 地役権の側とか地上権の側とか,あるいは不動産賃借権の側から見るのではなくて,おっしゃったように従たる権利があるという前提で主物を買ったのに,従たる権利がなかったことによって主物たる不動産の利用価値が低減している場合に,どうするかという問題で考えるべきなんだと思うんですけれども,事務当局として566条2項に相当する条文を置くというよりも,それらは全て移転を約した権利が移転されなかっただけだから,ある意味では,単純な権利移転義務の不履行の問題で処理すればいいと考えていると理解していいですか。 ○新井関係官 そういう理解です。 ○鎌田部会長 よろしいですか。今,御指摘があった点も含めて,権利移転義務の不履行の場合の買主の救済という枠内での問題でございますので,分科会の中で特則を設ける必要があるかどうかということも意識して,議論していただければと思います。   次に,「(3)短期期間制限の見直しの要否等」について御意見をお伺いします。 ○能見委員 実は,先ほどの物の瑕疵の場合についても発言しようと思いながら,し損なったんですが,民法の規定では担保責任について1年の期間制限があるわけですけれども,物の瑕疵の場合には,瑕疵担保責任はある種の無過失責任であり,特殊な責任であるということから,短い特殊な期間制限が設けられていると思いますが,現在の方向として物の瑕疵であれ,権利の瑕疵であれ,瑕疵担保責任を契約責任といいますか,債務不履行責任と基本的に同じように考えていこうというのであれば,その責任を追及する権利が,先ほどの案にもありましたけれども,短期の1年等によって失権するという規定は,適当ではないのではないかと思います。そういう意味では,ほかの諸外国でも幾つか例があるようですけれども,消滅時効の問題として規定するのが望ましいと考えます。   ただ,そのときに消滅時効の一般原則によるというときの一般原則の中身の理解ですけれども,前からこの会議で,消滅時効について問題になっているように,10年のままでいくのか,5年でいくのかとか,いろいろな案がありましたけれども,それをそのまま当てはめるのではなくて,短期の消滅時効を新たに作るということも考えられます。短期の消滅時効を廃止しようとしている一方で,新たな短期の消滅時効を作るのは適当ではないと言われるかもしれませんが,諸外国でもこの場面においては短期の消滅時効を認めている例もあると思いますので,まずはこの期間制限を消滅時効であると捉えた上で,その期間を例えば2年とする短期の消滅時効を,認めてもよいのではないかと思います。繰り返しになりますが,1年という短い期間で失権するというのは適当ではないのではないかということが,今のような意見を申し上げた基にあります。 ○鎌田部会長 この点は,弁護士会は御意見はいかがでしょうか。 ○中井委員 この点は物の瑕疵の意見とは若干異なりまして,消滅時効一般の原則によるという考え方が多い。物のほうはほぼ見解が半々に分かれているんですけれども,こちらは乙案が多い。先ほど物の瑕疵について二つの理由を挙げました。その二つ目の理由については,取るに足りないと道垣内先生からも御指摘を受けましたけれども,権利の瑕疵については,その二つ目の問題が基本的には生じないというところが一番大きな理由で,同じ取扱いにする必要はないだろう。こちらについては消滅時効一般の原則を適用していいのではないかという意見が,そういう理由から多かったということです。 ○鎌田部会長 ほかには御意見はございませんでしょうか。この提案では,普通の権利移転義務の不履行の問題として考える,買主の善意,悪意というのは余り問題にしないというスタンスになるわけですね,今度の場合は。それはそれでいいんでしょうね,善意であっても悪意であっても。分かりました。   甲案を積極的に支持するという御意見はございませんか。 ○高須幹事 報告だけですが,今,中井先生からも御指摘があったとおり,弁護士会は乙案のほうが多いわけなんですが,甲案を支持する単位会もございまして,私の所属している東京弁護士会などは,ここでも甲案ということでございますので,今,部会長から支持はないかと言われますと,一応,そういう意見も弁護士会の中にはございますということです。 ○鎌田部会長 分かりました。それでは,ここも事務当局の御提案に従って,頂戴しました御意見を踏まえて分科会で補充的に検討させていただくということにしたいと思いますが,よろしいでしょうか。ありがとうございます。   では,次に「(4)他人の権利の売買における善意の売主の解除権の要否」及び「(5)抵当権等がある場合における買主の解除権等」について御意見をお伺いします。 ○山野目幹事 (4)も(5)も提案に賛成であるという意見を述べさせていただいた上で,(5)に関して少し問題提起をさせていただきますが,先ほど松本委員が問題提起された事項の議論が中途半端に終わっているという私は印象を受けました。抵当権の負担の付いている不動産を買った者がいるときに,抵当権の実行によって不動産を失うこととなる前の段階で,解除権を行使することができるかという問題を提起されて,それは認められてよいという問題提起を松本委員がおっしゃったのに対して,部会長からは,現行法の理解として代金支払拒絶権と抵当権消滅請求の制度で対応しているという御指摘があり,そのとおりだと感じますし,それから,今後のことに向けては能見委員のほうから,松本委員のおっしゃった利益考量はもっともなものであるという御指摘がありました。   私は,これらの整理は全てごもっともで賛成であると感じた上で,そのような理解を明瞭にするためにも567条は削除したほうがよいと考えます。ただし,567条を削除したのみで,抵当権の実行によって不動産を失う前にも,解除権を行使する可能性が開かれてよいという帰結が,当然に解釈理解として得られるかということ自体は問題であるかもしれなくて,松本委員はそこのところを明瞭にしろとおっしゃっている部分があるのかもしれませんけれども,それについては私の直感としては,別に要らなくて,削除したことでよいのではないかと感じますから,一言させていただきます。 ○鎌田部会長 それは抵当権の存在を承知の上で購入した人でも,解除をしてよろしいということになりますか。 ○山野目幹事 状況によって,そういうことは認められてよいということが,一般原則から言えてよいのではないかと感じておりました。 ○松本委員 577条は,どういういきさつで買ったかという前提はないように読めるんですが,すなわち,抵当権がないものとして買った人であろうが,抵当権を前提として買った人であろうが,577条の権利行使はできるということではないでしょうか。それとも,限定があったんでしたか。 ○新井関係官 民法577条は,抵当権の負担を織り込んで代金を決定したような場合には,適用されないと解されているようです。そのことを明文化するかどうかというのは,この部会資料の中でも別の論点として取り上げております。 ○中井委員 抵当権がある場合の解除の問題ですけれども,現行法は失ったときとなっていますけれども,そうではなくて,それ以前でも解除はできる。それは抵当権のない不動産としての売買をした,相手方が抵当権を抹消しなければ,抵当権を抹消してくださいと催告をして,催告したにもかかわらず応じなかったら解除できる,こう理解しています。そこでこれは,解除の要件をどのように考えるかということと,密接に関係しているのかもしれませんが,この権利の瑕疵のところでも,現在の条文では,契約をした目的を達することができないときという要件の下に,例えば地上権等がある場合に解除できるとなっています。   これを契約責任一般で理解するとしたとき,弁護士会の立場は,解除については,催告したけれども履行しないときに解除できるという考え方を採っている。とすれば,これらの契約の中で地上権の抹消,賃借権の抹消,抵当権の抹消を前提として売買が行われていたときに,それら履行を催促して,それに応じなければ基本的に解除権が発生して解除できる,こういう帰結を考えているわけですけれども,そうすると,現行条文である契約をした目的を達することができないときに解除できる,としていることとの整合性をどう考えるのか。   重大不履行解除をお考えの皆さんは,重大不履行の表現がここでの契約をした目的を達することができない場合に該当するとして,解除できるという御理解なのかどうか,よく分かりません。この辺りについて,どのようにお考えになっているのか,それは解除論と併せて更に検討するということなのか,事務当局のお考えをお聞かせいただければと思います。 ○新井関係官 その解除の要件の在り方はまだいろいろ御意見があって,これから集約していかなければいけないところだと思いますけれども,基本的には事務当局の整理としては,抵当権が付着していて取れないという場面についても,解除の一般則が適用されるということを前提にしております。その中で,契約が解除できるかどうかということは,正に一般原則の解釈適用によって導くことになります。抵当権が付いていて,いつ,実行されるか分からないような状態では,安心して事業が実行できないということであれば,例えば契約目的が達成できない,あるいは軽微な不履行とは言えない,あるいは重大不履行であるというような形で,恐らく解除ができるという結論を導いていくのであろうと一応,考えてはおります。 ○潮見幹事 前に同じ問題提起をさせていただいたので,あとは分科会でということでしたので,また,そこで練ってもらって,こちらに返していただいたらと思いますけれども,いつぞや,解除の話が出たときに,瑕疵担保が問題になるときに,催告解除が認められるべきなのかどうかということを申し上げたと思います。両論があり得るよということも確か併せて申し上げて,催告解除を認めるという先ほどの中井委員のおっしゃったような意見が大勢を占めるのであれば,私は別にそれでも構わないというようなことを,そのときに言ったような記憶があるのですが,同じことがこの権利の瑕疵の場合についても言えるわけです。今の新井関係官の御説明は,中井委員がお考えになっているのはちょっと違う方向ですよね。   つまり,契約目的達成不能あるいは重大不履行に該当した場合に限って,あるいは,これに該当する場合には,この場合の意味で解除を認める。他方,中井委員がおっしゃったのは,むしろ,その要件を満たすか,満たさないかに関係なく,相当期間付きの催告をして,そして,相当期間が経過しても何も答えがなかったような場合には,たとえ抵当権が付いているということが当該契約の下で重大であろうがなかろうが,目的達成との関係でどうであろうが,解除を認めてやっていいという立場からの発現ではなかったかと思います。ただ,今日,ここでこうしろということはありませんので,この先,解除の最終的な一般ルールを立てるための案を作る際に,もう一度,念頭に置いていただければ有り難いと思います。 ○松本委員 今の議論との関係で23ページのウでは,解除権の行使はあらかじめ相当期間を定めた追完の催告を要するというのが甲案,乙案共通ですね。ということは,契約目的を達成することができないという要件ではなくて,催告解除に一元化するというのが事務局提案でしょうか。 ○新井関係官 必ずしもそうではありません。無催告解除が認められる場面もあるということは,当然,前提にしております。 ○松本委員 ということは,23ページの叙述は無催告解除ができない場合については,こうだという当たり前のことを書いているだけですか。 ○新井関係官 はい。「追完を求めることができないとき」というのが無催告解除の認められる場面で,それ以外が催告解除の適用場面,との整理です。 ○中田委員 混乱してしまったので確認したいんですが,18ページの(2)のアの①に,「買主は,一般原則に従って(中略)契約の解除をすることができるほか,」とありますので,解除についてはまず一般原則に従うというのが基本だと私は理解しておりました。それを前提として先ほどの場面が出てくるのだと思います。ただ,それで気になるのは先の部分になってしまって恐縮ですけれども,40ページの競売のところでは,甲案の①で契約目的達成不能というのが案として出ておりますので,そこだけが不整合な感じがいたします。それらを説明していただければと思いますが。 ○新井関係官 取りあえずは部会資料の40ページの甲案は,現行の568条などをそのまま書いているところもあるので,要件としては必ずしも十分詰め切っていないところもございます。御指摘を踏まえて,更に考えていきたいと思います。 ○松本委員 そうしますと,今,我々が議論しているところの抵当権を抹消して引き渡してもらえる予定だったのに,抵当権が付いたままの不動産を購入した買主としては,解除権の要件の一般ルールがどうなるのかによりますが,催告解除が原則だということになれば,催告解除しかできないという話になるのか,それとも,瑕疵担保の従来の一般的なルールであるところの契約目的を達成できないという場合は,当然,無催告解除ができるんだというルールがオーバーライドして,すなわち,抵当権が実行されるかもしれないという不安な状況では,購入した不動産を十分に使うことができないのだから,契約目的は達成できないということになって,無催告解除が許されるという話なのか,どちらの整理なんでしょうか。 ○新井関係官 現時点で答えられるのは,その点は解除の一般原則によるので,催告解除と無催告解除の整理が今後,どう収れんしていくのかということに依存するということです。 ○道垣内幹事 松本委員が,現行法の瑕疵担保についての理解を示されたわけですけれども,それというのは例えば修補請求権にせよ,追完権にせよ,そういうものが規定されていないということが前提になっているわけですね。そうなりますと,仮に,修補可能な瑕疵があるという際に,現行法と同じような文言を使ったからといって,修補のチャンスを与えないで解除ができるということになるかというと,それはそうは言えないのだろうと思います。   つまり,現行法と同じ文言を使ったとしても,契約目的を達成することができないというのは,修補しても駄目だし,修補もできないしというふうなときに,目的は達成できないということになるのだとも考えられます。それに対して,抵当権の場合は,修補不可能ということはあり得ませんで,被担保債務を払えば修補可能なわけです。つまり,抵当権を抹消することは可能です。そうすると,一般論として被担保債務を払って抹消しなさいと言って,それに応じないときに初めて解除ができるとなったからといって,そこだけが突出しているということには,ならないだろうと思います。 ○松岡委員 先ほどの新井関係官の御説明で,一般原則の整理次第だとおっしゃいましたが,そこは,そう単純にならないのではないかと思います。今の道垣内幹事の御発言にもありましたが,例えば軽微な瑕疵で修補も可能なのかもしれない,しかし,修補に不相当に長い期間が掛かる場合はどうなのかという問題は,契約目的次第によっては解除事由になるのではないかと思います。抵当権が付いている場合でも実行されればもちろん解除できますが,抵当権の実行が始まりかけている場合において,自分は弁済して抵当権を消滅させる資金を用意できず,売主に催告していたら抵当権の実行が進んでしまうというときは,買主は即時解除できてもおかしくないと思います。それゆえ,必ずしも一般原則次第にはならず,状況次第になるのではないでしょうか。 ○道垣内幹事 それが一般原則なのではないでしょうか。「重大な」という言葉を使うかどうか分かりませんけれども,一般に債務不履行の場合に契約を解除できるというときに,それはもちろん,契約目的との関係で考えられるわけです。しかるに,現時点で瑕疵のない物が存在しなければならない,修補に時間が掛かるというときに,それは微々たる修補であるときでも,契約目的を達成できないほどの重大な不履行です。そのルールが,担保責任のところで特殊な現れ方をしているかかというと,特殊な現れ方はしていないだろうと思います。 ○潮見幹事 解除の一般原則として,どういう形の制度が置かれるのかというのがまだ決まっていない段階で,松岡委員と道垣内幹事が言われた一般原則とは何というのは,少しニュアンスがあるかと思うんです。先ほども申し上げましたが,こうした問題がここでもあることを認識していただいた上で,解除の一般的な制度をまず組んでいただき,もし,解除の一般的な制度というものが,ここの場面でうまく機能しないということであるのならば,ここに特別の規定を置くという形で処理をすべきではないかと思います。 ○鎌田部会長 御議論を聞いていて,全然自信がなくなってきたんですけれども,権利の瑕疵に関する担保責任は,基本的には債務不履行責任ですよね,元々。それで,567条の削除に関しては,少なくとも部会資料の補足説明では,債務不履行の一般原則からいえば当たり前なんだから削ってもいいと言っている。その当たり前だといったのは,抵当権が実行されて所有権を失うときには,正に重大な不履行だから解除していいという,こういう規定で,そんなのは当たり前だからというのだけれども,今の御議論は抵当権があるだけで解除できる,場合によっては無催告解除までできるという議論だったんですけれども,現行法の解釈はそうなんですか。私は,567条というのは,知って契約したか否かにかかわらず,抵当権があるだけでは直ちに解除できないということを示した条文でもあると理解していたんだけれども,この削除論というのはそうではなくて,567条を超えてもっと解除あるいは債務不履行責任を問えるようにするための改正提案と,理解すべきだということなんでしょうか,事務当局のお考えとしては。 ○新井関係官 部会資料の補足説明において存在意義に疑問を呈している点を,より推し進めると,そのようになります。 ○鎌田部会長 もっと,どんどん解除していいと。 ○新井関係官 それは契約目的不達成なり,重大な不履行なり,軽微でないといった要件が掛かってくるとは思うのですけれども,正に抵当権が実行されるおそれがあり,安定的に事業がその土地の上で営めないというような場面では,抵当権の実行前でも解除が認められる場合があるのではないかという前提の下に,整理していたものでした。 ○鎌田部会長 現行567条というのは,当たり前のことを規定していたというより,むしろ,誤解を与える不当な規定である。だから,削除するというのが理由だということですね。 ○新井関係官 そのように考えています。 ○深山幹事 結論としては,私も567条削除がよろしいと思うんですが,それは,今,部会長がおっしゃったように,実務的には担保権を実行されるか否かにかかわらず,重大な債務不履行になるという扱いをしていると思います。もちろん,抵当権等の負担のない所有権を移転すべきことが契約書に書いてあるので,契約上の義務違反ということが明らかなので,実務的には約定に基づいた解除ということで,十分説明がつくわけですが,不動産の取引において,所有権移転時に抵当権等を抹消することに関する条文がなかったとしても,それを許容する特約でもない限り,本来,完全な所有権を渡すという目的を達成できないという意味で,正に重大な債務不履行を構成することになります。   現行法は,価値を把握している抵当権等の担保権については,使用収益に支障がないからということに着目したのかもしれませんけれども,実際にはそういう問題ではなくて,例えば先順位の抵当権が付いていれば,その物件を担保にして代金を調達して買おうとする人は,そこから資金調達ができないわけです。そういう意味では,決済そのものができないということになって,使用収益以前の問題であり,要する担保価値として利用できないというだけで重大な支障を生じます。実務的には,従前の抵当権を抹消すると同時に,買主が改めて抵当権を付けるということが日常的に行われているわけですから,本来,所有権を失って初めてとか,失いそうになって初めて重大性が出るということではないのだろうと思います。そういう意味で,削除をするという考え方でよろしいのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 分かりました。   「(4)他人の権利の売買における善意の売主の解除権の要否」も削除するという提案についても,これも特に御意見がないということは,この点も御異論はないと理解してよろしいでしょうか。ありがとうございました。   次に,「3 競売における担保責任」について御説明を頂きます。 ○新井関係官 説明いたします。   「3 競売における担保責任(「民法第568条,第570条ただし書」は,競売において目的物に瑕疵があった場合の買受人の救済の在り方につき,見直しの要否などを問題提起するものです。まずアにおいて,物の瑕疵につき買受人は救済が得られないとする現行法の考え方を改めて,現行民法第568条第1項及び第2項が設けている救済手段を物の瑕疵についても広げることを提案する甲案と,現状を維持するという乙案を取り上げております。イでは,仮にアで甲案を採用する場合に,一定の場合には債務者及び差押債権者に対して損害賠償の請求ができるとする民法568条第3項の規律について,物の瑕疵にも広げることの要否を問題提起しております。   この論点につきましては,民事執行の実務とも密接に関連すると思われますので,実務の実情を踏まえた検討が必要であると考えられます。また,民事執行法との関係や執行実務との関係で生起が予想される問題点など,本文に記載した各案の問題点の整理及び具体的な規定の在り方などについて,分科会で補充的に検討することが考えられます。この論点を分科会で検討することの可否についても御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明ありました部分について御意見をお伺いします。 ○村上委員 甲案に反対し,乙案に賛成いたします。   競売は,申し上げるまでもなく,債務者・所有者の意思に反して強制的に売却するものであって,この点が通常の売買とは決定的に異なる点です。こういう特殊な事情がありますので,現況調査に債務者・所有者が協力するということは,期待できません。また,特に昨今,競売に要する期間をできるだけ短くすることが非常に強く求められておりまして,そのための法改正も行われてきたという経緯がありますので,このようなことを踏まえますと,現況調査に長い期間を掛けるということも許されないわけです。   このように,競売は,通常の売買とは異なり,調査に大きな制約があり,かつ,十分な調査ができないときでも,調査が十分にできないから売却しないという選択肢はありません。どのような物件であったとしても,競売の申立てがある以上,売却に付する以外にないのでありまして,この点も通常の売買とは異なる点です。このような特質がありますので,特に物の瑕疵については,品質に問題がある可能性が存在することを前提として売却するほかはありませんし,評価もそういう前提で行うほかはありません。実際問題として,そうするしかないわけです。補足説明を読みますと,物の瑕疵と権利の瑕疵を対比しまして,前者のみ,つまり,物の瑕疵の場合のみ買受人の救済を否定する合理的な理由はないという指摘があるとの記載がありますけれども,調査方法に制約が掛かっているということの持つ意味の大きさが,物の瑕疵の場合と権利の瑕疵の場合とでは全く異なることに御留意いただきたいと思います。   それから,瑕疵の定義について,本日も御議論になったような方向で定義をすることに改めるとしますと,先ほど述べましたように,競売においては,品質には問題がある可能性があるということを前提として売却するわけですので,そもそも,競売において物の瑕疵があると判断すべき場合があり得るのかという疑問が生じます。補足説明を見ますと,実際に瑕疵があると判断されるのは,評価の前提を覆すような重大な欠陥が判明した場合に限られるという御説明が載っておりますけれども,これが具体的にどのようなケースを想定しているものか,私にはよく理解できないところです。極めてまれにしか発生しないという前提で書かれているのであろうかとも思いますけれども,仮にそうだとしますと,そういう極めてまれなケースを想定して改正するということに,一体,どれほどの意味があるのかという疑問があります。なお,そういう重大な欠陥が判明した場合でも,代金減額請求で足りるということでいいのかどうかという疑問も出てくるかもしれません。逆に,それほどまれなことではないということだとしますと,債権者としましては,配当があっても,後に配当の返還を求められる可能性があるということを,現実的なものとして心配しなければならないということになりかねません。甲案の②を見ますと,まずは債務者に対して請求をする,債務者が無資力の場合に限って債権者に返還を求めるという組立てになっていますけれども,競売になっている場合というのは,通常は,債務者は無資力でありまして,無資力だからこそ競売になるわけですので,実際には,債権者が配当を受けても返還を求められるかもしれない,その可能性が相当程度あるという前提で,行動していただかなければいけないということになります。   さらに,債権者は,競売の対象となった物件の性状について,具体的な知識はないのが通常でしょうから,買受人から瑕疵の主張がありますと,債権者が反論することが非常に困難になります。買受人の主張が実は不当であるということもあり得るのであって,例えば,買受人が,買受け後に発生した欠陥を,あたかも買受け前から存在したかのごとくに偽るということがあったとしましても,債権者はそのことを明らかにするための資料がないというような事態も生じ得ます。   それから,現在,配当が行われますと,そのことを踏まえて,他の担保を解除する措置が取られることも,それほど少なくはないかと思いますけれども,配当後,後にその返還を求められる可能性が現実的に相当程度あるということになってしまいますと,こういう措置も取りにくいということになってしまうのではないだろうかと思います。そうしますと,これは,債権者,債務者のいずれにとっても好ましくない事態を招くことになりかねないわけです。   こういう事態が頻繁に生じるというのは,やはり好ましくないと思いますので,極力,避ける必要があります。そのためにどうするかというと,結局は,現況調査をこれまで以上に慎重に行いましょうということにならざるを得ないだろうと思います。一見,望ましいことのように思われるかもしれませんが,これは,競売に要する期間が長期化するということを意味します。また,調査の内容によっては,ひょっとすると,高額の費用を要する調査をしなければならないということもあるかもしれませんが,その費用は,当然のことながら,債権者に用意していただくほかありませんので,債権者の負担が増えることは避けられません。こういうことを社会が望んでいるのかどうかということを,民事執行法の改正等の経緯に照らして考えますと,明らかにそうではないだろうと考えます。 ○三上委員 村上委員と全く同じ意見ですので,付加的に述べさせていただきますけれども,競売を使うユーザー側といたしましても,基本的には競売に掛けると,任意売却するよりも回収が減るというのは,当たり前の世界でございまして,逆に言いますと,任意売却できないから競売に掛けるという流れが実務の趨勢です。かつ,競売の競落価格も最低競落価格自体がなくなってしまいましたが,そういう競売を促進する民事執行法改正のときに,我々ユーザーに対して当局法務省からあった理由説明というのは,競売市場というのは不動産の仕入れの市場であると,決して小売の市場ではないのであるということでした。したがって,そこに参加する人間はプロないしセミプロであって,こういうところに瑕疵担保請求権が付いたから安全ですといって,リスクのとれないアマチュアや消費者の方々を引っ張り込んだら全くの別問題が起こると懸念します。それくらいに,そういう市場であるという前提で既に機能しているわけです。   特に隠れたる瑕疵,「隠れたる」はなくなりますが,瑕疵というものについて当時では例えばまだ規制されていなかった薬品によるの土壌汚染がある場合とか,あるいは所有権には対抗できない利用権しかないけれども,実は,その利用権を使って占有しているのが反社会的勢力だとか,そんなものについて一々,回収した債権者に対してクレームが来るようでは,こういう制度は安心して使えないわけです。しかも,そういうことで,もし,仮に回収がひっくり返ると,その間に破産等の配当手続とかが全て終わっていたとか,あるいは回収が終わったと思って解除したその他の担保とか解除されたと思って安心していた保証人はどうなるんだと,あるいはほかの担保不動産から,この分は回収済みとして差し引いて先順位が消えた形で回収した,その分はどうやって回収させてくれるんだと,こういうことを考えると,こういう担保責任を設けてまで競落価格が上がるメリットよりも,不安定さが長引くデメリットのほうがはるかに大きいということが言えるわけです。   さらに,任意売却の場合,調査が不十分であると例えば仲介業者に対する不法行為責任等々の請求ができるわけですが,最終執行官に対して国家賠償請求訴訟ができるのかとか,そういう問題も起こってまいります。それが決して現実的でないということは,先ほど村上委員がおっしゃったとおりでございます。   また,実態を考えると利用権が消滅していた,例えば借地上の建物を担保に取って競売に振ったときに,実は賃料の不払いで借地権が解除されていたというようなケースは,そもそも,そういう危ない担保権を持っていて担保権が消滅した場合ですから,債権者としてもやむを得ないと割り切れるのですが,例えば当該不動産等には価値があると思って融資をしていた,それが引っ掛かって競売して回収したら,たまたま,その不動産に瑕疵があって,実はもともと価値がなかったものだというときには,我々も価値があると思って融資したわけですから,結局,それの最後のはずれくじを誰が引いたかという問題に行き着くわけです。これは不当利得と言えるのだろうかと。これが不当利得と言えるとしても,騙取金による弁済の判例よりも更に強度な正当性がないと,不当利得とは言えないのではないかと思います。   甲案ですとか,イのような規定が入りますと,競売を使っている実務としては大きな支障が発生するということで,決していいことは何もないと考えておりますので,我々としても乙案を強く支持したいと思います。 ○山野目幹事 今の村上委員と三上委員の御意見に,賛成とか反対ということではなくて,議論の手順として忘れないでいただきたいということのみ,進め方の関係での指摘にとどまりますが,都市計画制限が土地にあるときに,それを物の瑕疵として考えるか,権利移転義務違反の担保責任の問題として考えるかという論点が,ずっと今日の御議論の中で横たわっていたと感じます。そのことは,実は今,議論が始まった「競売における担保責任」のところで,甲案が採用される場合には物の瑕疵と考えても,権利移転義務違反と考えても,相対的に余り大した違いはないので,まあ,いいかという感じがしますが,しかし,乙案でいくということになると,その問題がシリアスな問題になってくるという関係になっておりまして,この観点も意識して御議論を続けていただきたいと強く感ずる部分がございます。この論点に入るときに,部会長から,これから競売を検討するというお話があり,おのずと重量感を感じざるを得ませんでしたが,仮に次回に引き継ぐときにも,この観点を忘れないで御議論を続けていただきたいと望みます。 ○鎌田部会長 これは民事執行制度に密接に関連するところですので,山本和彦幹事,畑幹事,御意見がありましたらお出しいただければと思います。 ○山本(和)幹事 村上委員の御指摘で分からないところがあったんですけれども,部会資料にも書かれていますけれども,現在よりも執行官の現況調査あるいは評価等の負担が増大して,手続が遅延するという御指摘があったように思ったんですけれども,現在は基本的には買受人はそういう瑕疵がある物件を買い受けた場合には保護の方法がなくて,唯一は国家賠償請求訴訟等ということになるのだろうと思います。   そう考えると,常識的にはかなり慎重に調査をして,買受人にそういう被害を被らせないように売却制度を運営している裁判所としては,配慮をしなければいけないのではないかという感じがするんですが,この制度ができることによって買受人が所有者,あるいは場合によっては配当を受けた債権者も含まれるのかもしれませんけれども,に対して新たな請求の手段が与えられるということによって,それで,私は裁判所の負担が軽減されるとまで言うつもりはありませんけれども,それで裁判所の負担が増えるというか,裁判所というか,執行官等の調査をより慎重にしなければいけなくなるというのは,やや私には理解できないところがあるんですが,ということは,現在,裁判所等が行っている調査というのは,必ずしも買受人の利益を保護するためではなくて,それ以外の利害関係人の利益を保護しているというような説明になるんでしょうか。 ○村上委員 執行官は,調査にかけることのできる時間として,限られた時間しか与えられておりません。その与えられた時間の範囲内で,可能な限りの調査を全力でやっているわけですけれども,それでも,十分には調査しきれない部分があります。ですので,調査が十分にはできていない可能性があるということをあらかじめ買受希望者の皆さんにお伝えして,そういう前提で買ってもらいたいということで売りに出しているわけです。そして,そういう前提で買うのはリスキーだから手を出したくないということであれば,買わないという選択も可能です。買受希望者は買うことを強制されているわけではありませんので,そういうリスク付きのものであるということを理解した上で,買うか,買わないか,自由に判断していただいているわけです。   ところが,先ほど申しましたように,甲案を採用しますと,債権者にとっても,債務者にとっても,相当大きな混乱が生ずる可能性があります。そして,債権者としては,債務者の財産を探して,ようやく見付けたものがこれだけだということであれば,それがどのようなものであったとしても,それを競売に掛ける以外の選択肢はないわけです。そういう立場にある債権者に極めて大きな混乱が生じる可能性があるということになりますと,今よりも長い期間を掛けて調査をせざるを得ないということになるのは必定だと思います。 ○山本(和)幹事 配当を受けた債権者は,必ずしも不当な利得を受けたものではないという三上さんのお話がありました。そういうことをいうと,あるいは現在の権利の瑕疵の制度でも同様のことになるのかなという感じもして,現行制度との関係はどうかなという,やや疑問はあるんですけれども,少なくとも債務者との関係で,本来,瑕疵があった場合に請求できるような救済の方法を買受人が行使できないという理由が依然としてどこにあるのかというのは,私には理解できないんですけれども,買受人は少なくとも債務者・所有者に対しては,そういう少なくとも代金減額請求その他の請求は,できてしかるべきではないんでしょうか。 ○松岡委員 村上委員のおっしゃったことは,それなりに理解はできるのですが,なお疑問に思うのは,先ほどたくさんお挙げになった問題点は,実は現在の権利の瑕疵に適用がある568条自体にもほとんど当てはまってしまいます。そうだとすると,そもそも,そちらも改正しなければいけないのではないかという気がしてきます。   一方,41ページのところには比較法という形で3カ国しか載っていませんが,フランス民法は確かに日本民法の基になったもので,瑕疵担保責任は競売の場合には適用しないという趣旨のことが書かれています。しかし,ドイツ民法にしろ,オランダ民法にしろ,そういうふうに一律に責任が生じないとしているわけではなく,一定の場合には責任が生じるという規定を置いています。だからといって,ドイツ民法やオランダ民法が適用されているところで大混乱が生じていて,フランス民法が適用される場合と比して困った状況にある,という話も聞きません。そうすると,どうも御指摘の点は,それほど説得力がないのではないかと思います。   それから,先ほど村上委員も三上委員も言及されませんでしたが,検討が一応済んだ数量不足の担保責任及び一部滅失に関する現行565条の責任は,古くから,瑕疵担保の性質を有するという議論もあり,今回は565条を基本的には廃して,瑕疵担保の中に繰り込もうというお話になりました。そうすると,たとえ競売目的物に数量不足があってもおよそ責任は問えないことになってしまい,それは現行の規律よりも大きな後退になりますが,それでいいのでしょうか。それとも,村上委員,三上委員は言及されませんでしたので,改めてお聞きすることになるかもしれませんが,565条の廃止案には反対で,現行どおりに両担保責任を分けておかなければいけないという御意見なのでしょうか。 ○永野委員 権利の瑕疵と物の瑕疵の違いですけれども,権利の瑕疵は,ある程度,定型化していますので,どういう権利が問題になるか事前に想定がつくわけですけれども,物の瑕疵は非定型であって多種多様であります。また,先ほど村上委員が御紹介したように,その調査について債務者や所有者の協力がなかなか得にくい,しかも,時間的制約の中で調査をしなければならないし,どれが瑕疵に当たるのかという基準もなかなか分かりにくい,そういう違いがあるのだろうと思っています。   現在,裁判所では,年間4万7,000件の競売を行っておりまして,景気の動向などにもよりますけれども,80%の売却率で実施されています。では,なぜ,買受人が所有者に対して瑕疵担保を請求することができないのかですけれども,物の性状の瑕疵についてはなかなか調査が難しく,その中で,債権の強制的な実現を図るための競売市場を設営していかないといけないので,物の性状に関するリスクは織り込んだ形で入札をしていただくという形になっているからだろうと思っています。   買受人は,あらかじめ価格にリスクを織り込んで対応することが可能ですけれども,債権者は,競売という制度を使ってしか権利の強制実現ができない状況にありますので,そのことを踏まえてリスクを誰に負わせるのがいいのかを検討する必要があります。物の性状についてのリスクを個別に債権者に負わせ,債務者に求償させるということになるのであれば,マーケットを設営している側としては,より慎重な対応をしていかないといけないことになります。大量の事件を処理している中でそのような対応をしていくと,全体としての円滑な競売の執行に阻害が生じてきます。瑕疵担保を認めることによって,売却価格が上昇するかもしれないという期待があるのかもしれませんが,全体的に手続が遅滞するということになれば,かえって価格の上昇も図れないのではないかというような感じを持っております。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○沖野幹事 伺っていて確認させていただきたいことですが,山本幹事もおっしゃった債務者との関係と債権者との関係というのは,一応,区別できるのではないかと思います。そして,債権者に対して非常に影響があるということは,御説明を聞いてよく分かりました。そうしますと,例えば債権者については,既に不利益変更しているような場合には行使ができないとか,特別な期間制限をより短期で設けるとか,いろいろ手当てはあり得るのではないかという気もします。   一番ドラスティックにはというか,甲案的に考えれば債権者については,ごくごく例外的にしかおよそいけないというような選択肢も,組み合わせることは考えられると思われまして,そのことと債務者であり,所有者に対して減額請求ですとか,解除等ができるかということは別途,考えられるように思われます。また,しばしば御指摘になっている債務者・所有者の協力が得られないからということも,それは協力するインセンティブが何もないということもあるのかもしれず,それは例えば瑕疵があってということで,逆に自分のほうに各種の責任が掛かってくるならば,その協力を多少なりとも促すという方向につながるかもしれません。これ自体は机上の空論かもしれませんけれども,そういう指摘を考えたときにお聞きしたいのは,甲’案といいますか,少なくとも債務者に対しては①の限りでは導入するけれども,②については要検討というような案であれば競売実務に対する影響,あるいは三上委員が御指摘になった債権者に対する大きな混乱といったことは,それほど生じないと考えてよろしいのかどうか,それはいかがでしょうか。 ○岡崎幹事 その点を議論する前提として,解除の効果を検討する必要があります。買受人が支払ったお金は,時期によっては債権者に配当として払われてしまっていますが,配当前の段階であれば,裁判所が保管しています。配当前に解除が行われた場合に,その効果として,買受人が納付済みの売却代金の返還を求めることができるのかが問題になります。   また,不動産競売の債務者は,基本的には無資力に近い状態になっていますので,債務者に対する原状回復請求権を認めたところで,絵に描いた餅にすぎないのではないでしょうか。そうだとしますと,仮に瑕疵担保責任を入れるのであれば,債権者に配当金の返還を求めることができるようにしておかないと,買受人にとっては何ら実効性のない制度になってしまうのではないか。その辺りがよく分からないなと思っております。 ○山本(和)幹事 確かに配当を受けた債権者まで追及ができないという制度にした場合は,実効性が減るということは間違いないところだと思います。しかしながら,請求権としては債務者に対して立つということであれば,債務者が資力を回復したような場合には,その部分,支払い過ぎた代金等については返還請求できる権利は少なくとも残るということだろうと思いますし,岡崎幹事が言われたようなまだ配当がされていない段階であれば,そこで巻き戻すという選択肢はある。   現在も民事執行法75条ですか,代金納付のところまでは売却決定を取り消して,競売手続を元に戻すということがあるわけで,今は代金を納付してしまうと一切,物の瑕疵については巻き戻せないという形になっているわけですけれども,もう少し後の段階まで巻き戻す余地を認めるというようなことは可能だと思いますし,ですから,私は基本的に沖野幹事が正に言われたようなところで,配当を受けた債権者と買受人の利害バランスをどうとるかというのは,いろいろな考え方が確かにあると思いますので,そこはいろいろ検討の余地はあるのかなと思うわけですけれども,所有者との関係で減額請求とか否定されなければいけない理由というのは,余りないような気が依然としてしております。 ○中井委員 弁護士会の意見は一致して甲案でした。乙案を主張するのは単位会を含めてありませんでした。ここでの瑕疵ですけれども,これまでの議論であれば契約の趣旨,弁護士会のでいえば取引通念が入るわけですけれども,競売では契約の趣旨が機能しない,これに代わるものは何かというと,私は競売という手続の趣旨というのでしょうか,それだろうと思います。   先ほど村上委員から幾つかありました。当事者の意思に基づかない,債務者や債権者の協力は期待できない,迅速に処理しなければならない。正にそういう状況の下で現状調査がなされて,3点セットが作られて開示されている。その中で,ここで問われるべき物の瑕疵とは何だと考えたら,通常の売買における瑕疵とはレベルがかなり違う。だから,競売の趣旨の範囲内においては一定の傷が付いている,そこに何かがあったかもしれないという許容範囲があるはずで,その限りにおいては,その許容範囲のリスクを見込んだ代金額,競落価格が設定されて,それで一定安くなっている。   それであっても,競売の趣旨に照らしてもこのバランスを欠くものはあり得る。例えば,シロアリが出てきた場合は,建物を買った買主としては全く価値がなかった。そのような場合についてまで,一切の権利行使を認めないのかというと,それはおかしいのではないか。競売でも,一定の限られた場面だけれども,代金減額請求若しくは売買契約の解除が認められてしかるべきであると考えております。   そのときの効果について,①の規定にとどめて,②の規定をもう少し考慮してはどうかというような御意見が出ましたけれども,それでは実効性をほとんど失わせることになりますので,提案どおりの甲案①,②を維持する,最終的には配当が債権者までいっているとすれば,債権者から取り戻すまでの制度として設計すべきであると思います。要は瑕疵についての考え方を限定的にする,実務に照らして考えればよい,また,今の競売の実務を変えるまでの必要はない,スピード感も変える必要はないと思っております。   イについてですけれども,弁護士会は多くは反対です。債権者が瑕疵の存在を知りながら競売の申立てをしたときに賠償義務があるとなっていますけれども,債権者としては瑕疵があってもなくても,それを知っていても知らなくても,回収手段は競売ですから,競売の申立てをしたときに瑕疵を知っていてもその責任を問われることはないと考えております。仮に,競売手続の中で債権者に,申告義務のようなものを課す仕組み作ったとすれば,その申告義務に違反するという場面を捉えることは,あり得るのかもしれませんけれども,現行制度の中では,この規律は無理ではないか。 ○村上委員 競売手続において,物の瑕疵についての代金減額請求や解除を認めるということになりますと,手続がどうなるのか,よく分からない点がたくさんあります。現行法でも,権利の瑕疵については同じ問題があるではないかと言われるかもしれませんけれども,例えば,売却許可決定をした後,代金納付までの間に,減額請求や解除があった場合,買受人は代金納付をしなくてよいのかどうか。現在は,通常は,売却許可決定の取消しによって対処していますが,それとの関係はどうなるのか。代金納付をした後,配当を実施するまでの間に,減額請求や解除があった場合,配当は実施するのか,しないのか。買受人に返すのか,それとも,解除等があっても,なお,一旦は債権者に配当するのか。   それから,代金納付がありますと,抵当権は消滅します。それが解除されると,消滅したはずの抵当権は復活するのでしょうか,しないのでしょうか。復活するとして,抵当権の登記は抹消されていますので,登記を復活させる手続はどうするのでしょうか。抹消された登記を回復するまでの間に第三者の登記がされてしまっていることがしばしばあると思いますが,この場合はどうなるのか。例えば,買受人が買受代金を支払うために金融機関から融資を得て,その金融機関に抵当権を設定するということは普通にあります。この場合,金融機関が新たに設定を受けた抵当権と,消滅したはずなのに,その後,消滅しなかったことになって回復される抵当権との関係は,一体,どうなるのでしょうか。その他,解決しなければならない問題がたくさんあるはずです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○佐成委員 経済界の中で,金融業界以外の感触でございますけれども,物の瑕疵を競売に及ぼすことについては,かなり慎重な意見が多いのではないかという印象です。つまり,物の瑕疵の中でも極めて例外的なものだろうと,救済すべきは非常に限られた部分だろうというところがあります。したがって,それを本当にうまく書き込めるのか,きちっと書き込めるのかということがあると思います。それから,本当にそんなことをして大丈夫なのか,要するに競売市場の効率性が阻害されるのではないかといったようなところを一般的に懸念しておりまして,余り甲案を積極的に支持しているという感じではございません。かといって,乙案と言っているわけでもございませんが,ここは金融業界がかなり反対意見を述べられているというところもありまして,我々としても慎重に考えたいというところでございます。 ○鎌田部会長 その場合,考えられているのは動産競売ですか,不動産競売を念頭に置いて……。 ○佐成委員 不動産競売です。 ○鎌田部会長 不動産競売ですか。分かりました。 ○岡委員 弁護士会の意見は,先ほどの中井さんの意見が多数でございまして,売買契約の公平性の観点からいけば,瑕疵があった以上,買受人を保護してやるほうが筋でないかと,担保権者は,そもそも,そういう担保しかとっていなかったんだから,後で分かった場合には吐き出すのが公平感からいったら筋ではないかと,こういう議論が多数ではございます。   ただ,破産管財人等をやっておりますと,面倒なことには巻き込まれたくない,安くてもいいから,ここで売切りで瑕疵担保は認めない,そういう制度もあってしかるべきだと考えます。だから,民法の議論から攻めていくと,先ほどの弁護士会の意見になるんですが,民事執行制度をこんなふうにやると,債権者も少し回収額が下がっても,後でもめないほうがいいという需要はきっとあるはずですので,何か,そういう政策的判断によって乙案を採るというのは十分あり得ると思います。その場合は民法の議論というよりは,執行制度の制度的な理由から決断すると,あるいは現行法のままにすると,そういう理由になるのではないかと思います。 ○山本(和)幹事 私は,強制的に売却を受ける債務者の利益というものも考える必要があると思っていまして,もちろん,その物に瑕疵があればしようがないわけですけれども,瑕疵がないような物件が売りに出されたときに,競売マーケットは所詮,傷物の市場なんだから,安くたたき売られてもしようがないんだということを,強制的に売却を受ける債務者の財産権という観点から,果たしてどこまで正当化することができるのかということは,もちろん,制度的な限界ということが一定程度,あることは仕方がないとは思いますけれども,債務者の利益というのも考慮のファクターに入れるべきはないかというのが1点です。   それから,もう1点はイの点ですけれども,イの点については私は中井委員が言われた点に全く賛成で,取り分け債権者が瑕疵の存在を知りながら競売の申し立てたときに,損害賠償請求をすることができるというのは,これはないのではないかと思います。基本的にはどういう瑕疵があれ,瑕疵に相当した価額で売却をしてもらう権利というのは,当然,債権者にあるわけで,現行の568条3項も,結局,権利の不存在を知りながら競売を請求したときで,要するにないのに売ってしまうのは,さすが駄目ですよねという話なので,例えば権利についても瑕疵があるから,それを売ってはいけないというようなことにはならないはずであって,この点は,ですから,私自身はこのままの形で規定するのはどうかなと思っております。 ○三上委員 同じことを繰り返すだけになるかもしれませんけれども,競売を利用して回収するという場合は,基本的に所有者の協力は得られないようなケースがほとんどです。あるいは諸般の事情で任意では買手が見付けられないようなケース。したがいまして,そういうときに債務者の利益を考えろと言われても,任意売却等に乗ってこないような債務者は,それほど保護に値しないようなケースが多いということが経験値として言えると思います。   それから,買受人を保護する上で,担保権者がそういう価値の物しか持っていなかったんだという意見は一方的な見方であって,同じように,買ったほうもそういう物を買ってしまったんですよね。債権者の関与ないところで任意で売却されたときに,売った金を返済に充てたからといって,一々,債権者にその金を戻せと請求できるかというと普通はできないわけです。競売の場合というのは債務者が自分で売れない,ないしは売りに協力しないから法律の手続に従って申し立てる,債権者が関与するのはそこまでで,あたかも債権者が売主になったかのような観点で批判を受けるというのは,真正に心外なわけです。   実際に,我々も競売に掛かると,今,最低競落価格もありませんから,二束三文で買いたたかれるリスクを負ってでも,それでも構わないということで競売に掛けているわけですから,そういうマーケットで買う人間は,しかるべき専門のアドバイザーからアドバイスを受けるなり,そういうマーケットであることは周知の事実なわけですから,自己防衛に注心すべきものであって,そこで外れたものを,債務者にいくかどうかというのは,例えば土壌汚染の土地は持っているだけで責任を負う可能性がありますから,そういうものの所有権を放したいというニーズは分からないではないですが,少なくとも債権者にかかっていけるというのは,正に先ほど言いましたように騙取金の不当利得の判決よりも更に強度な公平の要請がないと,非常に厳しいのではないかと考えます。 ○高須幹事 議論を伺っておりまして,甲案を採る理由も10も20もある,乙案を採る理由も10も20もある。結局,この問題は本来的な競売の在り方としてどう考えるかという問題と,現実に行われている手続でございますから,幾ら理想に走っても現実が伴わなければどうしようもないんだという議論との調整の問題であり,ただ,それぞれの根拠を述べるだけだと,結局,本当にここは収束がつかない議論になってしまうのでないか。   ここで我々が求められているのは,恐らく甲案と乙案のそれぞれの理由を言い合うことではなくて,この中からどこかで議論の一致点を見いだすことではないかと思います。そのときには乙案の内容である,一律排除,物の瑕疵については一切適用しないんだというのは,かなり極端な解決方法だということでございますので,必ずしも乙案に固執しない何らかの解決方法を考えられないか,分科会でということでございますから,私も実務に関わっている人間で,競売手続はそう簡単に思うとおりにいかないということは実感しておるつもりでございますので,決して甲案のようにというわけでもないとは思っておるんですが,一律排除をしない何らかの形での合意点を見付けることができないのかどうか,むしろ,それを探していかないと,この問題は多分,決着がつかないのではないかと思います。何か,答えがなくて申し訳ないんですけれども,今こそ,ここにいるメンバーの英知が問われているのではないかと思いますので,是非とも分科会で一致点を見いだしたいと思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   たくさん問題点の御指摘を頂きましたので,今の高須幹事の御示唆を踏まえて,問題とされた部分についてどういう対応があり得るのかということも含め,分科会で補充的な検討をさせていただき,その結果をまた部会に持ってきて,議論をしていただければと思います。そういうことでよろしいですね。   途中になりましたけれども,6時半になりましたので,本日の審議はこの程度にさせていただければと思います。   分科会について御報告をさせていただきます。本日の審議において,幾つかの論点について分科会で補充的に審議することとされましたけれども,これらの論点につきましては,いずれも第1分科会で審議していただくことといたします。中田分科会長を始め,関係の委員・幹事の皆様にはよろしくお願いいたします。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回会議は7月31日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省大会議室です。2週間後ですが,正規の会議ですので,事前に部会資料44をお届けすることを予定しております。対象となる範囲としては,交換,贈与,消費貸借を予定しております。よろしくお願いいたします。   それから,分科会関係ですが,第3分科会の第4回会議が7月10日に開催されました。この会議の開催結果については,机上配布のメモのとおり御報告いたします。そして,第1分科会の第5回会議が来週開催されます。第1分科会の固定メンバー以外で参加予定の方については,事務当局まで事前に御一報くださいますようによろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 本日も大変長時間にわたりまして,熱心な御議論を賜りましてありがとうございました。本日の審議は,以上をもちまして終了とさせていただきます。 -了-