法制審議会民法(債権関係)部会           第54回会議 議事録 第1 日 時  平成24年8月7日(火) 自 午後1時00分                      至 午後4時27分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 定刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第54回会議を開会いたします。  本日は,御多忙の中,また猛暑の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。  本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日は,予備日として予定していただいた会議ですので,新たな部会資料の配布はございません。配布済みの部会資料44に基づいて御議論をお願いいたします。この資料の内容は,後ほど関係官の金から御説明いたします。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料44のうち前回の積み残し部分について御審議いただきます。通常ですと休憩を取らせていただく時間までに,部会資料44の最後まで御審議いただきたいと考えておりますので,よろしく御協力のほどお願いいたします。  まず,「第2 消費貸借」,「1 要物性の見直し」の「(3)目的物引渡し前の法律関係」について御審議いただきたいと思います。前回と重複する部分がありますが,改めて(3)全体について事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「(3)目的物引渡し前の法律関係」の「ア 目的物引渡債権を受働債権とする相殺の禁止」では,消費貸借を諾成契約として規定する場合における目的物引渡し前の法律関係に関して,貸主は,借主に対して有する他の債権を自働債権として,借主の目的物引渡債権を受働債権とする相殺をすることができない旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。  「イ 目的物引渡債権の譲渡,質権設定,差押えの禁止」では,消費貸借を諾成契約として規定する場合における目的物引渡し前の法律関係に関して,借主は目的物引渡債権の譲渡又は質権設定をすることができず,また,借主の債権者は借主の目的物引渡債権に対する差押えをすることができない旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。  「ウ 目的物引渡し前の解除」の「(ア)無利息消費貸借の場合の各当事者の解除権」では,利息の有無を問わず消費貸借を諾成契約として規定することを前提として,その場合の無利息消費貸借については,書面によるものを除き,貸主が目的物を引き渡すまでは,各当事者が解除することができる旨の規定を設けることを提案しています。 「(イ)事業者の消費者に対する融資の場合の借主の解除権」では,消費貸借を諾成契約として規定することを前提として,貸主が事業者で借主が消費者である利息付きの金銭消費貸借については,書面の有無を問わず,貸主が金銭を引き渡すまでは,借主が解除することができる旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。 「エ 目的物引渡し前の破産手続開始による消費貸借の失効」では,消費貸借を諾成契約として規定することを前提として,貸主が目的物を引き渡す前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは,消費貸借はその効力を失う旨の規定を設けることを提案しています。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分のうち,まず「ア 目的物引渡債権を受働債権とする相殺の禁止」と「イ 目的物引渡債権の譲渡,質権設定,差押えの禁止」について御意見をお伺いいたします。  なお,「(1)消費貸借の成立要件(諾成契約化)」及び「(2)貸主及び借主の権利義務」については,前回既に御意見をお伺いいたしましたが,時間も限られておりましたので,特段の御意見がありましたら,併せてお伺いしたいと思います。よろしくお願いいたします。  どうぞ御自由に御発言ください。日弁連はいかがでしょうか。 ○岡委員 ちょっとお待ちください。 ○三上委員 先に金融機関としての意見を述べさせていただきますが,前回の諾成契約化の議論の際に,慎重意見が半ばすると申しましたけれども,慎重派の立場からは,どの段階で金銭消費貸借が成立したのか,現状は,前回も言いましたけれども,実務的には明確ではないので,どこからか貸す義務が発生してという限界が明らかにならないままにこういう目的物の譲渡とか質権設定とか差押えなどがされると,それは困るという意見が続けて出てきます。そういう意味で消費貸借が諾成契約化するのであれば,これらは絶対に不可欠だという意見が一方であります。  もう一方で,特にプロジェクト・ファイナンスなどの新種業務をやっている立場からは,例えば,キャピタルコール,即ち出資とか株式の払込みの請求権が譲渡できるかどうかで,確か払込請求権は譲渡できるとした判例があったように記憶しますが,実際のプロジェクト融資の場合に,プロジェクトの信用補完の一環として,実質的な経営母体から,特定目的会社に資本で出資するとか,一定の範囲まで融資なり資本出資の形で資金を供給すると約束しておく形式の契約がありまして,その際には,そのプロジェクトに融資する側は,キャピタルコールなりコミットされた融資の請求権にまで担保設定するという実務が実際に行われております。そういう意味からいきますと,債権譲渡禁止特約のときと同じように,こういうものを使う場面によって金融機関にも賛否2通りの意見があるというのが前提になります。  特に,差押禁止財産をこういうところで作ることが法的にそれほどハードルが低いことなのかというところは疑問もありまして,むしろ差押え等が入った場合には,不安の抗弁とか,そういうものの具現化によって防ぐのが筋ではないかという気がしております。  そういう意味で,諾成契約化することになれば,諾成した段階から実際に貸すまでの間の前提条件,Condition Precedentとか,期限利益喪失条項の拡大適用といいますか,貸す前にこういうことが起これば貸す義務はなくなるとか,そういった条項の整備が進むことによって実務的にはかなりカバーされるのだと思いますが,それでも譲渡禁止特約の効力の行方いかんによっては,譲渡禁止という部分は必要になるかもしれないというところが,今の金融界の意見でございます。 ○中井委員 (3)の相殺禁止以下について発言させていただく前に,もう一度(1),(2)の問題についても触れさせていただきたいと思っております。  今回,要物契約から諾成契約に変えるという提案がなされているわけですけれども,弁護士会の意見が一致しているわけではありません。このような考え方について積極的に検討していくべきだという単位会もございますが,多くの単位会においては慎重意見が非常に強い。前回と重複はいたしますが,その背景をもう一度整理して申し上げる機会を頂きたいと思います。  まず一つは,現状の認識として,法は要物契約と書いている。しかし,他方で諾成的消費貸借契約という類型を認めている。部会資料では,それは論理的に矛盾していることを前提に,理論的に説明するならば,諾成契約に一本化すべきであるという御趣旨かと思います。しかし,現状,その二つが併存しているという事実については,改めてそれを確認するとともに,なぜそうなのかということを考える必要があるのではないかと思っております。  それを考えるポイントですけれども,諾成契約になることに対する具体的懸念が弁護士会の中では複数の指摘を受けている。一つは,貸す側にとって,今の三上委員の御発言の中にも趣旨としてはあったのかと思いますけれども,諾成によって成立するとすれば,基本的には貸主は借主に金銭を貸さなければならないという義務が生じるのだろうと思います。それはどの時点で義務が生じるのか曖昧であるということで紛争が起こるということもあり得るでしょうし,その合意が軽率になされると,それを強いられる場面が貸主にもある。個人が誰かから頼まれて,「よし,貸してやろう」と言ったけれども,その後手元不如意になってしまっても貸さなければならない事態というのもあれば,通常の金融機関においても,貸主・借主間の事前交渉の中で何らかの合意があったと認められて,金融機関側としてもその後状況が変化しているにもかかわらず貸さざるを得ない不本意な事態に陥ることもあるかもしれない。それを不安の抗弁等で処理することもあり得るのかもしれませんけれども,貸主側にも不都合な場面が生じないわけではない。弁護士会としてはこの点を余り強調する向きはありませんが,そういう問題は少なくとも存在する。  他方で,借主側の問題を指摘する意見が多くあります。それは,契約を締結したことによって,借主側が,押貸しという言葉が適切かどうかは分かりませんけれども,その後資金需要がなくなったにもかかわらず,不用なお金を借りてコスト負担をしなければならない。そのような状況を是とするのか。そのような状況は,限りなくないほうが好ましいという価値判断が背景にあるのかもしれません。確かに,金銭消費貸借というのは,金融面等を考えれば,経済にとって不可欠な重要な契約であることはそのとおりですけれども,一般市民においては,その貸し借りというものがそれほど積極的に評価されるべきものなのか。市民間,私人間での貸借について,それほど積極的評価は与えないという立場からすれば,その契約成立についてはより慎重であるべきだという考え方がある。数年にわたって借りるなどという契約をすることはないと思いますけれども,単発的であれ,資金需要がなくなった場合にも借りなければならない事態に至る。これは適当でないという考え方です。  諾成契約にするメーンの理由は何かと考えると,部会資料にもありますけれども,結局,借主に確定的な資金需要があるときに,事前にお金を貸してもらうという合意,その合意に基づいて,期日にはきちんと借り入れることができる。前回の部会でも住宅ローンなどがその典型とされましたけれども,一定の決済目的で,必ずその日に資金が必要な場面で,借主が貸主に対して資金の提供を求める。このような契約類型の必要性はあるだろう。あるけれども,必要性はその限りにおいてではないか。その限りにおいてその合意を尊重する。つまり,双方が合意したときに,これは決済期日においては貸さなければならない義務が発生するのだという拘束力のある合意を一つの類型として認めれば足りて,原則は,先ほどのような弊害を考慮すれば,要物的に金銭交付をもって契約が成立する。こういう考え方でいいのではないか,そういう併存的な考え方が強く主張されています。現在もそうではないかと考えるわけです。  そのとき,今問題提起されています,目的物交付前の相殺の禁止とか譲渡・質権設定の禁止等を考えたときに,これは諾成とするから発生する問題で,まさか今までも貸した金と,今貸そうと約束した金とが相殺されるなどと誰も思っていない。貸主も,貸すと約束した後,借主が変わる,つまり借りる権利の譲渡が行われるなどということは誰も予定していません。質権設定されることも予定していない。差押えを受けると,差押債権者に払わなければならなくて,返還義務だけが借主に残る。このような場面は全く想定していません。これらを想定していないということは,いずれも要物契約を前提とするからこそ想定していなかった,要物契約であれば想定されない事態で,諾成とすることによって起こり得る問題をこういう特則をもって解決しようとする。解決しようとする制度を作るということは,逆に言えば,消費貸借契約というのはそもそも要物であることを前提に当事者間は行動していたのではないか。その証左のようにも思えるわけです。  これは部会資料でも,また前回金関係官からも御指摘がありましたけれども,現在,両説,要物契約と諾成契約が併存しているとすれば,諾成契約においては起こり得る問題だという御指摘は,そのとおりだと思います。そのとおりであるけれども,現在これらのことが意識的に語られることなく解決されてきている背景は,やはり金銭が交付されて初めて契約が成立する。金銭交付前に合意があったとしても,それは貸主が借主に渡す,ここだけの権利確保のための制度としての諾成的消費貸借契約だからこそ,このような類型についての問題を意識しないで済んだのではないかと思います。  だとすれば,この議論をすること自体が,果たして原則を諾成契約とすることの必要性について疑義を生じさせる。結局,これら特則を全て取り入れることは何を意味するかというと,諾成契約だけれども,限りなく要物契約にする手立てを与えているだけではないかと思います。このあと,目的物引渡し前の解除について議論されると思いますけれども,それも結局は諾成契約と言いながら,これら解除の制度を作ることによって要物契約に近づけていく作業ではないか。こう考えれば,どちらを原則にするのか。要物か,諾成かという中で,諾成としても要物契約に近づけるための様々な手立てを置くのであれば,現在の原則を要物契約とする,これをした上で,なお必要な場面に限って諾成とすることによって,解決が図られないのか。このような方法についてなお検討してはどうかというのが,弁護士会の中では相対的に強い意見でした。  ちょっと長くなりましたけれども,御紹介しておきます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。  ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○深山幹事 弁護士会の中の意見が様々だというのは御紹介のあったとおりで,私自身もずっと考え方が定まらないまま今日に至ってはおりますが,判例あるいは通説において諾成的な消費貸借が認められていると一般的に言われておりますし,どの基本書にもそう書いてあります。そのこと自体に異論はないのですが,実務において要物契約たる消費貸借と諾成契約たる消費貸借の両方の契約が存在しているのかというと,必ずしもそうとも思えないんです。つまり,実務は要物契約であるということを当然の前提に動いているのではないかと思われます。かなり例外的な場面で,「これだけ約束したのだから,もう諾成的な消費貸借契約として成立していると解すべきだ」という事例があって,それが判例にもなっているということは確かにあるんですけれども,普通の金融実務において,どちらもありますねといった捉えられ方ではないのだと思います。そのこと自体が良いか悪いかはまた別の問題だと思いますが,実態としてはそういうことで,それは現行法がローマ法以来の規定ぶりを踏襲しているからそういうことになっているわけですが,立法の問題として,今後もそれを維持すべきかどうかということを改めて考えますと,契約一般の原則からすれば,諾成的に契約が成立するということが原則であろうかと思います。  もちろん,契約の類型によっては,それを適宜修正し,例えば要式契約もそうでしょうし,あるいは書面によらざる贈与を撤回可能にするといったこともそうでしょうが,そのような契約類型に応じた修正は施されてしかるべきで,消費貸借についてもそういうことが検討されてしかるべきだとは思うのですが,出発点としては,諾成的な契約が成立するのが原則であるとしつつ,それを適宜修正するというアプローチのほうがオーソドックスのような気もいたします。消費貸借に関して提案されている目的物交付前の相殺とか譲渡について制約をするというのもそういうアプローチの一つであって,その結果,今,中井先生がおっしゃったように,限りなく要物契約に近づいていくわけですが,それはそれで必要な規律なのかもしれないと思います。  要は,原則をどちらにして,どちらに寄せていくかということだろうと思いますので,そのように考えますと,諾成的な消費貸借契約を原則として,それを軌道修正するというルールが立法されれば,実務はそれを前提に,先ほど三上さんが言われたように,どの段階で諾成的契約が成立するのかということについて神経を使うようになるでしょうし,実務的には多分それは書面化して,その契約書に判こを押したときに初めて契約がする成立という実務が定着するのではないかという気がします。それを先取りして,書面化という要式契約にするというのも一つの立法判断だろうと思いますが,そのように考えますと,やはりここはもう少し原則に立ち戻って,フラットに考えて,消費貸借についてなぜ要物契約にこだわる必要があるかという観点から,そのことを,要物契約とすることによって実現するのがいいのか,諾成契約からの軌道修正で処理するのがいいのかということを考えてみてはどうかと個人的には考えております。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。中井委員の御意見は,諾成契約化を前提にするから(3)のような問題が起きるのであって,要物契約とするべきである,したがって(3)に書かれているような問題については,明文の規定を特に設ける必要がないという趣旨の御意見と承ってよろしいでしょうか。 ○中井委員 仮に要物契約と諾成契約と併存するという考え方を採った場合,その諾成契約において,ここに記載のような規律が妥当するというか,あるべきだということについて,特に反対するわけではありません。内容について異論があるわけではありません。それを書くかどうかという問題はあるのかもしれませんけれども,規定内容自体に反対することはありません。 ○鎌田部会長 現行法の消費貸借の予約というのはどういうものだとお考えでいらっしゃいますか。 ○中井委員 それも私ですか。 ○鎌田部会長 ついでに。 ○中井委員 むしろ消費貸借の予約とは何なのでしょうか,予約を契約した後,部会資料には義務型というのと完結権型というのが書いてあるかと思いますけれども,実際,完結権型なのでしょうか。消費貸借契約とは別に予約契約をした。予約に基づいて,片方が金銭を交付して契約を成立させる義務がある,いわゆる義務型なのではないか。そうすると,別にこの消費貸借の予約というのは,論理的には直ちに諾成消費貸借を認めたことにはならないと私は理解できるのではないかと思っているのですが。 ○松本委員 前回欠席いたしましたので,議論済みかもしれないのですが,諾成契約が原則になると,現在ある特定融資枠契約,コミットメントライン契約が不必要になるのか,全てがコミットメントライン契約型になるのかというところがちょっと引っ掛かっています。コミットライン契約を言わば権利付与型の予約だと考えれば,併存できるということになるわけですね。コミットメントライン契約は,借りる義務はないけれども,借りるという決断をしたときに借りる権利が発生して,引渡請求権が発生するというタイプであって,諾成型の金銭消費貸借契約は,そういう選択なしに,契約と同時に借りる権利というか,引き渡せという権利が発生しているというわけでしょうから,コミットメントライン契約が一方の予約であるとすれば,そうでないところの本契約としての諾成契約はあり得るということになるのでしょうが,その辺はもう前回議論されて,どこかで決着済みなのでしょうか。 ○鎌田部会長 コミットメントラインについては,部会資料の中でも触れていたと思いますので,事務当局から説明してもらえますか。 ○金関係官 前回の会議で議論済みというわけではありませんが,部会資料では,諾成契約としての消費貸借とコミットメントライン契約は併存することを前提としております。その理由は,今,松本委員が御指摘されたとおりです。 ○鎌田部会長 私は,個人的には,通説的見解とひょっとしたら違うのかもしれないのですけれども,消費貸借の予約と言われているものと諾成的消費貸借契約というのはそれほど違わないと思っています。要物契約,要式契約があると,その形式が整う前,目的物が交付される前の法律関係をどうするかという問題が常に出てきて,その部分を予約と呼んでいますが,これは一方の予約とは全く別の概念だと考えています。その予約に一定の法的拘束力があるとすると,それはどういうことかと言えば,やはり貸す義務が発生するということでしかないので,実質は余り違わない。そうだとすると,現行法でも,消費貸借の予約と言われている段階の法律関係が規律の対象となっているのですが,今のところ589条以外には条文が置かれていないので,そこの法律関係を明確にしたほうが親切であることは間違いない。そうすると,そこまで物の引渡し前の法律関係を前面に持ち出してくることがいいかどうかとか,どういう事実上の要素が整えば消費貸借の予約ないしは諾成的消費貸借契約の成立を認定していいのかという問題は残るのかもしれませんけれども,実際に規定されるべき内容というのはそう変わらないのではないでしょうか。そういう観点から,ある意味で機能主義的に考えていくと,契約の進行のそれぞれの段階で必要になることをどう規定するかというところの提案内容等は,どちらをデフォルトにしても,基本的には同じような内容の規定をそろえていくということになるのではないかと思うのですけれども,その点はどうでしょうか。 ○中井委員 現行法の正確な理解はないのですが,仮に部会長がおっしゃるようなのであれば,事前に借りる権利を求めたいときには,消費貸借契約とは別の予約契約を締結すればいい。二つの契約を締結すればよい。予約契約を締結すれば,金融機関は貸す義務が発生する。借主においては,その予約契約を解除しようと思えば,場合によってはペナルティーを受けるかもしれない。そういう規律を明確化すればいいのではないか。また,予約契約に基づく請求権をもって相殺できないし,予約契約に基づく目的物引渡請求権は差押え等の対象にはならない。そう明確化することによって,一般市民にとっては,別の契約であるのだと,それを締結することによって,借りる前から何らかの契約上の義務を負うのだということが明示され,認識される。そのこと自体は,我々も併存を認めるわけですから,構わない。今の体系を維持するなら,要物と予約契約という二つの契約をプラスしたときに初めて諾成契約になっているのだという理解もできるのではないでしょうか。  逆に,金融実務を非常に多くされている弁護士にお聞きしたんですけれども,現在,例えば20ページ,30ページに及ぶような契約書が金融機関と企業との間で締結されることはよくある。そこではその合意が最優先になる。その合意に基づいて,金融機関は当然貸す義務が発生すると理解している。その反面貸す義務が消滅することについて極めて詳細な定めをする。つまり,不安の抗弁のような一般論で解決するのではなくて,差押え等はもちろんですけれども,あらゆる信用不安に係るような状況が発現すれば,貸す義務が消滅する。つまり,最後まで金融機関は貸すか貸さないかのある意味での自由を持っている。一定の事由に当たらない限りにおいて貸す義務があると言ったほうがいいのかもしれません。それは諾成と言いながら,現実には結論としては限りなく要物に近い形になっているのではないかという見方もできると思っています。  今後,諾成となったとしても,金融実務における金融機関の取扱いとしては,融資実行まで何らかの金融機関が想定する事由が発生すれば,融資実行しなくてもよい,つまり貸金を交付しなくてもよいという契約類型になるのではないかと推測しています。 ○鎌田部会長 言ってみれば,私は,ある意味ではネーミングの問題で,諾成的消費貸借契約が成立して,引渡しによって効力が生ずる,あるいは貸金返還債務が成立するとかいう言い方をするのと,予約があって引渡しによって本契約が成立したというのとは,実質はほとんど変わらないと思っているのですけれども。 ○中井委員 そうかも知れませんが,その後の賠償義務については,一般的に借主が実行前の解除をしたときの賠償義務がどこまで及ぶのかということについては,やはり異なってくると思うんです。それから,先ほど金融機関ならそうすると申し上げましたけれども,一般市民は,そこまでの法的能力がなければ,特段契約書の中に特約を定めたりすることはないだろうとなると,諾成を前提とした一般的義務を市民たる借主は負うかもしれない。そこに対して力の強い,若しくは金融業に長けた人たちがそこに付け込む余地を生じさせるリスクがやはり避けられない。そういう指摘も受けております。 ○鎌田部会長 なるほど。それは借りる義務の発生時期の問題ですね。  ほかにはいかがでしょうか。 ○松本委員 既に議論済みであれば教えていただきたいのですが,借りる義務あるいは利息を支払う義務がいつ発生するのかという論点があります。この部会資料の整理だと,現実に借りない限りは利息債権は発生しない。しかし,貸手側の利息を得られるべき利益が一方的に害されるわけだから,損害賠償で処理するという説明があって,金融機関の場合はこの損害はほとんどないでしょうという説明があります。金融機関はこれで納得されているのかどうかというのが一つ。  もう一つは,賃貸借の場合も同じロジックで説明されるのでしょうかということです。実際に賃借物の引渡しを受けない限りは賃料を支払う義務はないけれども,賃料を収受できる利益の侵害だということで損害賠償になるのだと賃貸借でも説明されるつもりなんでしょうかという2点です。 ○金関係官 2点目が事務局に対する質問だと理解しましたが,賃貸借については,目的物を使用収益可能な状態に置くことの対価として賃料が発生するという説明がされています。この説明を前提にしますと,賃貸借については,目的物が使用収益可能な状態に置かれれば,実際に賃借人が使用収益をしなかったとしても,賃料が発生するということになると思います。これに対して,利息は,借主が実際に元本を受領しない限り発生しないと説明されることが多いと思います。この説明を前提にしますと,借主が受領拒絶をしたとしても,利息そのものは発生しないことになると思います。ですので,賃料と利息とではそこに少し違いがあると理解しておりますが,この違いが本当に良いのかどうかという点は,引き続き議論していただければと思っております。 ○松本委員 今おっしゃった消費貸借の場合に,現実の元本受領があるまで利息は発生しないというのは,要物契約の考え方に立てば,当然そうだからというだけの話ではないですか。諾成契約説を採る学者がそういうことを賃貸借とは全く別のロジックで説明しているわけなのでしょうか。つまり,賃貸借と消費貸借で,ともに諾成契約だと言いながら,全く違うロジックで説明している方がいらっしゃるのでしょうか。 ○金関係官 今申し上げた説明は,要物契約ではなく諾成契約としての消費貸借を前提とするものです。確かに賃貸借と消費貸借とを並べて両者の違いという観点から明確に説明がされているわけではないと思いますが,少なくとも第一読会では,利息は実際に元本を受領しない限りは発生しないという理解を堅持すべきだという御意見が多数だったと理解しております。 ○三上委員 松本委員の前半は,金融機関に関する質問だったと思います。金融機関の場合には,借りなかったとか,あるいは中途返済の場合も同じですが,その際に損害はないでしょうということでいいのですかという質問だったのですが,簡単に一言で言いますと,別にいいわけではないという回答になります。ここで考えられている損害賠償というのは,イコール利息の代替物だけではないということです。この問題には,利息とは何なのか,また,利息制限法でいうみなし利息との関係はどうなるのかという,また別の観点が入ってまいりますので,それはこの後の当該箇所で議論させていただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○岡委員 要物契約の併存については,中井さんが言ったような意見が主流でございます。ただ,諾成的消費貸借契約,予約も含むのかもしれませんが,それを否定する立場はございません。それを認めた上で,(3)のア,イについて単位会の意見は相当ばらついております。解釈に任せることなく,こういう規律をアもイも置いて明文化すべきであるという両方賛成の意見のところも,それなりにございます。アについても,賛成のほうが多いように見えますが,反対の意見もございます。相殺だけ禁止しても,同じようなことをやる場合はあり得るだろうから,置いても無駄だと,あるいは,借主のほうが履行遅滞に陥った場合には,相殺を認めてしかるべきだといった意見もあります。それから,差押禁止を導入すれば510条で対応できるのだから,このような条文は要らないという意見もございます。それから,個人的な意見としては,諸外国でこのような規定が全くないところに日本だけこういう細かい規定をいろいろ置くのは,何かガラパゴス的だと言われるのではないかといった心配もあり,賛成と反対が乱れ飛んでいるところでございます。  イについても同様でございまして,半分ぐらいは賛成であるというところがございますが,本来,要物契約でやれば,要物契約を選択すればいいところを,諾成を選択したのだから,リスクは負えと,むしろリスクのある諾成契約にして置いたほうが要物契約を選択する人が多くなるので,そのほうがいいという観点から,こういう保護規定のようなものを置くべきではないと,そういう政策的な理由から反対するところもございます。こんな規定を置いて保護するほど特別なものではないのではないか。普通の諾成で約定に基づいて生じる権利ですから,譲渡とか質権設定とか差押は自由でよろしいはずだと。貸す側がそれを嫌がるのであれば,三上さんがおっしゃったような条件を付けて貸す債務を消滅すれば足りるのであるから,置くべきではないと,そういう反対の中にもいろいろな理由があって,相当意見が錯綜している状況だと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○三上委員 いろいろと意見が出ましたが,私の聞いた限りでは,弁護士会は慎重意見が強い,我々金融機関も全体を眺めると慎重意見が強い。ただ,実際の実務として,貸金はどこかから融資する義務に変わっているのだという認識は持っておりましたので,どちらともつかない意見を申しましたが,もし仮に要物契約のままでいくとすれば,融資の約束を実行前に反故にしても,基本的には責任は負わないけれども,例えば,直前になってやっぱり金は貸さないでは困るという場合は,契約の一般原則である信義則の一場面として解消してしまってよいのかという問題になると思います。これは実は恐らく多くの金融機関にとってはコンフォータブルな意見で,できるだけぎりぎりまでやめたいと言いたいわけです。コミットメント契約と,先ほど中井委員が言われたプロジェクト融資のようなものとどこが違うかというと,コミットメント契約は,いろいろな条件が満たされることは前提ですが,その条件が数字上満たされると,審査判断のような,やはり諸般の事情を考えた末にやめますということはもう言えない,貸す義務を負っているということが契約上明確になっている点です。つまり,融資実行の条件として守るべき水準が数字で明確になっているという違いがあります。  実際に貸す直前になると,変な風評情報が回ったとか,どうも反社会的勢力が関係しているかもしれないという未確定の情報が出ているときなどが一番対応に困るわけでございまして,相手にはうまく説明できないけれども,やはりやめたいというのは,実際には結構ある状況ですから,そういったものを白日の下にさらすというか,明確にしなくてもよいという今の状況に関しては,恐らく金融機関側も,結論としては非常にコンフォータブルであり,かつ実際に本当にコミットが必要な場合には,手数料をもらってそういう契約を結んでいるから,それはそれだけで十分であるというくくりもできると思います。  また,松本委員が一部おっしゃったように,実際に諾成的消費貸借が明確にできるのであれば,貸金のかなりの部分が正に,融資枠ではないのですけれども,特定融資枠に近いコミットメント契約になって,ではコミットメント料が取れるかというと,今の法律では利息制限法でどういう扱いになるかが不明確であるという状況になるわけでございまして,そちらのほうへの影響も避けられないということになります。  いろいろ述べましたが,一番言いたいのは,もし今のままでいくということであれば,どこかで貸出の確約が出ないと,借りるほうの企業も,あるいは住宅ローンを借りたい債務者も,直前になってやはり駄目では困るという,そこの部分の規律はもう信義則だけでいいのかという点だけは確認しておきたいと思っております。 ○鎌田部会長 それに関連して御意見はございますか。 ○内田委員 実務的にはいろいろな御議論があるかと思うのですが,現行法が要物契約になった経緯を調べてみますと,現行法の起草者自身は,理論的には消費貸借は諾成であるのが正しいと思うと述べています。しかし,ローマ法以来,伝統的に要物契約とされていて,当時の外国の立法例も多くはそうであったために,この部分を担当したのは富井政章ですけれども,この原則を「変えるだけの勇気はなかったのであります」という言い方をしています。勇気がないので「要物」と書くけれども,実際には諾成で行われるし,諾成合意に拘束力はあるので,それを「予約」と表現しているというわけで,現行法の「予約」の意味は鎌田部会長がおっしゃったとおりだと思います。この「予約」に関する現行589条の法典調査会での元々の原案は「予約」という言葉を使っていなくて,「消費貸借を為すべきことを約した」,つまり約束があったときという表現だったのですが,要物契約とした以上,予約だということで,「予約」と表現されているということです。したがって,元々現行法ができる時点,116年前に,既に諾成が合理的であると考えられていましたので,100年以上の実務を重ねた現段階で要物契約の原則を宣言するということになると,これはかなり大胆な政策判断であるように思います。  ちなみに,その後の学説は,諾成的消費貸借が可能であるということは当然の前提として議論していて,その諾成的な消費貸借の,つまり目的物引渡し前の段階の法律関係についても議論し,その段階での借りる債権の譲渡は可能であるというのが,一般的な体系書などの記述だと思います。先ほど,中井委員が借手が勝手に変わるという言い方をされたかと思うのですが,部会資料にも書いてありますように,借手が変わるのではなくて,お金の引渡し先が変わるだけで,借手自体は,つまり契約上の当事者は動きません。しかし,お金の引渡し先が移転する。その譲渡は自由であると書かれていて,そのようにお考えの方も多いかと思うのですが,私は個人的には非常に違和感がありまして,代理受領などで渡す先を変えるときですら債務者の承諾を取るわけで,これを自由に譲渡できるというのが消費貸借契約をした貸手の合理的な意思にかなっているのかどうか,つまり債務者の合理的な意思にかなっているのかどうかについて,疑問を持っております。  その点で,先ほど三上委員から,金融機関の中では取引によっては,貸す債務について担保化したり,あるいは譲渡したりという需要もあるというお話があったのですが,そういう場合というのは,債務者の同意を取ることなく,債務者の意思を問わずに,自由に譲渡したり担保化したりしているのでしょうか。実際には債務者の同意を取ってそういうことをしているのではないかという気もするものですから,その点を教えていただければと思います。 ○三上委員 今の質問にだけ回答しますと,債権者と債務者が場合によっては入れ違って恐縮なんですけれども,実際に融資する義務を負う人間を契約の当事者として,その融資金でこちらの債権を回収する担保契約が典型で,融資する地位ごと移転するということもあるので,そういう意味では譲渡もないことはないのですが,譲渡にしても担保設定にしても全て資金を出す側も債権者も債務者も合意した上での契約になります。一方的に債権者と債務者の間だけでやることはないと思います。 ○内田委員 私もそうではないかという気がいたしまして,ですから目的物引渡し前の段階での譲渡あるいは担保権設定というのはあり得ると思うのですが,恐らくほとんどは3者契約でなされて,それで実務的には対応可能なのではないか。債務者の意思を問わずに担保化あるいは譲渡が可能であるというのには違和感があります。そういう意味ではこの提案に合理性があるのかなという気がいたします。 ○中井委員 内田委員に教えていただきたいのですけれども,学説でも諾成的消費貸借契約を認めているとおっしゃられているわけですが,それはそのとおりだろうと思います。しかし,その学説というのは,要物契約があることを前提に諾成的消費貸借契約の存在を認めるというのか,要物契約自体を否定しているのか。つまり,要物契約から諾成契約に変えるべきということを前提に諾成的消費貸借契約を認めるのか。ここはかなり意味が違うのだろうと思うのですが,学説として一致しているのか,是非お教えいただきたいと思います。  それから,先ほど私が,借手が変わると表現した,それは金銭の交付先が変わるということは少なくとも貸主は想定していないという意味で,それは内田委員のおっしゃったのと認識は同じだと理解しております。  また,他の契約類型も基本的には合意によって契約は成立するというのは御指摘のとおりだろうと思いますから,消費貸借も合意によって契約は成立するという一般類型に当てはめるという考え方自体は理解できないわけではないのですけれども,それであっても,それに基づいて発生したとされる目的物引渡請求権,これは他の対立関係にある契約に基づいて発生した請求権とは性格を異にしているのは明らかだろうと思うのです。それは,相殺禁止,譲渡禁止等を設けること,さらに,以下議論される,交付前には解除を認めるという考え方などが提示されるのは,他の契約類型とは異なって,物の交付ということを極めて重視して,その後に返還債務が発生するという消費貸借ならではの契約の特質に基づいた性質決定をしているのではないか。ですから,諾成一本でなければならないと言われてしまうと,なぜそうなのかということが分からなくなるわけです。論理として,要物契約と,要物契約にプラス金銭交付義務という明示的に相互に法的拘束力が発生すると認識した契約がくっついたもの,その二つがあっても別におかしくないのではないかと改めて思うわけです。質問と意見になりましたけれども。 ○内田委員 御質問の,学説がどう考えているかということなのですが,日本の学説は,これまでずっと解釈論をやってまいりまして,民法が変わるなどとは思っていなかったのですね。ですから,要物契約と民法に書いてある。これはもう変えようがない。その上で,しかし諾成の合意も有効だということを解釈論としてやってきたということだと思います。純粋に理論的に考えれば,これは前回も申し上げましたが,要物契約というのは,単なる合意だけでは消費貸借契約の拘束力を発生させないという政策判断のことですから,要物契約であると同時に諾成も認めるというのは,政策として矛盾していると思います。したがって両立はしないのだと思うのですが,条文に要物と書いてありますので,それとは別に解釈論として,諾成的な合意の拘束力も認めていたということではないかと思います。  あと,目的物引渡し前の権利関係について,このような規定の必要性が生ずるということは,消費貸借の特殊性を表しているのではないかという御指摘は,全くそのとおりだと思います。諾成双務契約であるとはいっても,通常の売買のように,財産権と金銭とが交換されることで履行完了というのではなくて,目的物を引き渡したところから長期にわたって返済債務がずっと継続するということもある。そういう特別な契約です。だからこそ引渡しの前の段階についてやや特殊な考慮が必要になる。それは全くそのとおりだと思います。 ○松本委員 要物契約であることと諾成契約であることは,矛盾するから両立しない,したがって諾成契約なら諾成契約のみでないと駄目だという御指摘だったわけですが,要物契約が原則で,当事者の合意で諾成契約にするということは,強行法規的に認められないという理屈はあり得るかもしれないけれども,逆の場合,すなわち,諾成契約が原則だけれども,当事者の合意で要物契約ないし要式契約にするということは,十分あり得ますよね。契約の成立の議論のところで,合意だけでは契約が成立しない,もうちょっと何かセレモニー的なものが必要な契約というのもあり得るのだということでしたから。そのように考えれば,両者は両立しないわけではなくて,当事者の合意で成立要件を加重することは十分あり得る。残るのは,では要件を軽減することはできるのかというところですね。要物契約が原則だけれども,合意でもって成立要件を緩和するという形で,諾成契約もありというのは,一切論理的に不可能なのかどうか。 ○鎌田部会長 前回は贈与の例を挙げて内田委員が説明されたのですが,せっかくという言い方は変ですけれども,要式契約にしたものを合意によって形式的要件を飛ばしてしまうことができるというのは,基本的にはおかしいと言えばおかしいんだと思うんです。しかし,学説上諾成的消費貸借契約というのは有効だと,判例の中でもそういうことを言うものが出てくるというのは,やはり形式要件,引渡しの要件というのはそれほど強いものとして意識しなくていい。あとは典型契約論として,それを消費貸借契約の範ちゅうで捉えるのか,むしろ無名契約的に捉えるのかというのは,説明の方法としてはあるだろうと思うんですけれども,要式性に対する要請がやや弱いので,それを外すような契約の効力を実際上は認めてきたということではないかと思いますが,なお様々な御意見のあるところですので,事務当局で引き取らせていただいて検討させていただきます。  (3)のアとイも,貸す債務……。 ○村上委員 (3)のイについて,細かなことかもしれませんが,こういう規定を設けるのであれば,包括承継についてはどうなるのだろうかということが気になります。例えば,借りる合意をした段階で借主が死亡したとします。借主の資力は十分だったのだけれども,相続人がかなり多額の債務を負っているような場合に,それでも貸さなければいけないのかどうかといったことが問題になり得るように思います。相続に限らず,法人の合併等も含めて,包括承継の場合について,イと同じような規定を設ける必要があるのかどうかが気になるということです。  もう一つ,債権者代位権において,代位債権者が自己への直接の引渡しを求めることを認めるかどうかにも関わりますけれども,仮にそれを認めるということになるのであれば,この目的物引渡請求権を代位行使することができるどうかも気になります。確たる意見があるわけではありませんが。 ○中井委員 ア,イに関わらないことになりますが,大阪弁護士会の意見を紹介させていただきたいと思います。先ほど私の申し上げた考え方は大阪弁護士会と基本的には同じですが,そこに付加して申し上げたいことは,先ほど申し上げましたように,貸主側について何らかの問題がある。借主側についても問題の発生する可能性がある。だとすると,仮に諾成契約とするとしても,それは契約書面を要件とするという提案をしております。この点は是非,今まで論点としては出ていなかったかもしれませんけれども,御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 (3)のアとイも,利益状況とか,こういう規定を通じて保護しようとする利益が少し性質が違うので,必ずしもワンセットではないという趣旨の御意見が岡委員からも紹介されたと記憶しますけれども,そういう考え方もあり得るのだろうと思いますので,それらも含めて,更に検討してもらいたいと思います。   次に,ウ,エに進みたいと思います。まずウについての御意見をお伺いします。 ○三上委員 (ア)は特段の意見はないのですけれども,(イ)のほうで意見が一つと提案が一つありまして,先に提案のほうを申しますと,資料では,金銭が実際に貸し出される,物が出る後のものが利息,出る前のものは全て損害といった理論で区別しておられると思うのですが,実際に払う側からすると,本来利息として払うべきものが,お金が出ていないから損害賠償という名前になるだけで,扱いはほとんど変わらないと思いますから,後段の中途返済の際の損害賠償のところで一緒に議論してはどうかという提案です。  もう一つの意見のほうは,消費者云々という問題は別にして,融資予約を解除したときに発生する,「お金が出る前の損害は利息ではない」という考え方についてです。実務では契約でBreak Funding Costという言い方をしているわけでございますけれども,実際にお金が出る前に取るものは利息なのか,利息でないのか。これは利息制限法上も議論がありまして,条文の書き方から見ると,何でもかんでも全部みなし利息のように思えるのですが,裁判官の方々と話をすると,お金は出ていないのだから,それは利息とは全く別でしょうという考え方をされる人も多くて,ここでの提案というのは,もうそういうところで,実際にお金が出ていない部分に関しては,およそ利息とは別ものであるという整理をされるのかということをお伺いしたいと思います。  そこの趣旨は,実際に損害金とされるものの中には,当該資金を期日まで貸していたら債権者が得られた利息収入に相当するようなものと,実際に融資の準備に掛かったコストととがあります。後者の代表例は,例えば固定でお金を借りるときに,市場で固定レートを押さえるときには大体2営業日前に押さえる必要がありまして,融資実行の当日までに相場が動きますと,解約すると解約コストが発生します。今はもう日本の金利が長期低落状態ですからはやりませんが,10年,15年前はインパクトローンといって,外貨でお金を借りて,円転時と返済時のドル転時の為替相場を予約で押さえてしまうと,日本国内で円で借りるよりも安い金利で借りられたというのがございまして,そういうときの予約の為替レートも,2営業前に押さえる必要があります。これは,消費者宛金融では余りないのですが,市場金利連動貸出といって,短プラ連動ではなく,LIBORとかTIBORなどのマーケットの金利に直接連動する形の貸金もあります。こういう市場資金も契約の2営業日前に押さえますので,そうすると当日までに相場が動くと,はやり清算コストが発生します。難しいのは,それをどうやって算定するのかというときに,銀行はポートフォリオで調達しておりますので,損害額というのは飽くまで算定値になってしまうというところがいつも裁判でもめるのですが,いずれにしてもそのようにコストとして,収益機会の喪失とは全く別に,本当に実損が掛かってしまうものがあります。他にも,もし本当に今後諾成的な契約が中心になって,分厚い契約書を作るとなると,契約をドラフティングするコスト等も掛かるかもしれない。このように本当に掛かるコストと,収益が失われるというものとは,金融機関としてはかなり違うという認識で,特に利息制限法等でも議論していたんですが,ここでは,およそお金が貸し出される前に関してはそれは利息とは別ものであるという整理をされているのかという点を,聞いておきたいと考えております。 ○金関係官 利息の支払合意に基づいて発生する利息という観点から申し上げますけれども,部会資料では,借主に金銭が渡されて借主が金銭を返すまでの間にしか利息そのものは発生しないという理解をしております。ただ,繰り返しになりますが,ここで申し上げている利息というのは,利息の支払合意に基づいて発生する利息そのもののことです。みなし利息の問題は部会資料では特に言及しておりません。 ○鎌田部会長 みなし利息の問題はこことは違うと思うんですけれども,ただ,ここの中で損害として後に出てくる部分は利息相当損害金の話であって,組戻しその他に係る実際のコストの部分は当面念頭には置いていない考え方だと理解していいですか。そういうものも全部含めて損害というものをここでは捉えていると理解していいですか。 ○金関係官 申し訳ありません,もう一度お願いします。 ○鎌田部会長 今よりもむしろこの後の4の(2)のイのところに消費者に対する免責の関係が出てきて,そことワンセットにして議論したほうがいいというのが三上委員のお話であって,そこで言う損害というものの中に様々なコストの部分が入るのかどうかという趣旨の御質問でもあったと思うのですけれども,この4の(2)の提案の中で言っている損害は,得べかりし利息の部分についてだけ当面検討の対象にしていて,それ以外の言ってみれば積極損害型の損害についてどうするかの提案までは含んでいないと理解して読んでいたのですけれども,そういう理解でいいかどうかという趣旨です。 ○金関係官 得べかりし利益を損害として捉える以上は,その得べかりし利益を得るために支出した調達コストまでは損害として取ることができないという理解をしております。ただ,例えば金銭の消費貸借ではない事例において,期限前に返還がされたために貸主側に余分な保管コストが掛かってしまったという場合については,その保管コストも損害に含まれ得るのではないかと考えております。いずれにせよ,少なくとも調達コストについては,部会長がおっしゃったとおりの理解をしております。 ○鎌田部会長 入っているのですね。読み込まれているということですね。 ○内田委員 部会資料の理解は今の金関係官の説明どおりですけれども,純粋に政策判断として考えると,目的物引渡し前に契約を解除するというときの処理としては,一切何の費用も払わずに解除できるという場合と,いわゆる履行利益,フルに履行があったときの得べかりし利益,これはもちろん損害軽減義務が働いて減額はされると思いますが,履行利益の賠償責任を負うという考え方と,今この二つがあるわけですが,もう一つ,いわゆる信頼利益というか,契約締結の前の状態に戻す損害賠償というのもあり得ると思います。それは,三上委員がおっしゃった調達コストとか,実際の出費の部分だけを賠償する。履行利益の部分は含まない。それはあり得るのではないかと思います。ですから,政策的にはそういう3段階あって,損害賠償という場合にも,履行利益,いわゆる信頼利益,出費の部分の賠償という選択肢はある。枠組みはそうであって,ここでは履行利益の部分についての記述がなされているということだろうと思います。 ○三上委員 そうしますと,その信頼利益の部分に関しては,ニュートラル。何も言っていない,契約の解除の一般原則に任される,ということでしょうか。ここだけを読むと,消費者からは一切何も取れないという提案のように読めたのですが,履行利益に限っては,これを取れないようにするという提案だという理解でよろしいわけでしょうか。 ○内田委員 それはよく分かりませんが,消費者に関しては,多分何も取れないというほうの選択肢,つまり一切何も払わずに契約解除できるという選択肢が書かれているのかと思います。 ○中井委員 ウの(ア)については,この後の議論とも関連するのかもしれませんけれども,書面によらない場合,貸主も借主も解除できる。この提案はいいと思うのですが,無利息の場合について,書面があっても借主は解除できるという規律がこれに加えてあっていいのではないか。それを積極的に否定する趣旨なのかですけれども,書面があっても借主は解除できることを明らかにしていいのではないかと思います。  (イ)については,私は,後ろの4(2)のイとパラレルな提案と理解しておりますので,金銭交付前に消費者の場合は解除でき,そのときは損害賠償義務を一切負わないという提案と読ませていただき,その方向で賛成したいと思います。つまり,弁護士会としては,全てではありませんが,基本的には要物とすべきであり,諾成としたときの借主たる消費者に発生すると懸念される問題はこの点ですので,この点は明確にしていただきたい。  加えて,果たして消費者だけで足りるのかというのが次の問題でして,要物契約から諾成契約にする懸念の表れは,不必要なお金を借りるという点ですから,不必要になった以上は,もう借りなくてもよい,つまり借りる義務は負わないということを明確にするなら,消費者に限らないのではないか。ただ,それを事業者全部と言っていいのかというと,またちゅうちょがあるわけですけれども,そこで念頭に置いているのは,消費者に近い中小企業者について,解除すると損害賠償義務を負わなければならないという反対解釈になるとすれば,果たしてそれは適当なのかという問題意識から出たものです。 ○深山幹事 問題意識は今の中井先生と同じようなところかもしれないのですが,この目的物引渡し前の解除について,(ア)と(イ)のとおり提案されておりますが,ここで論点ないしポイントになるのは,一つは無利息の場合と利息付きの場合とが2通りありますねという点であり,それから2番目のメルクマールとして,書面による場合とそうでない場合とで区別するかどうかという点があり,3番目のメルクマールとして,消費者に対する融資とそれ以外ということがあり,これら三つのマトリックスというかポイントがあって,単純に考えれば8通りぐらいの順列組合せがあろうかと思います。これについて,ある部分も規定すれば,その反対解釈ということで規律が認められるので,全ての場合を書き分けなくていいのかなとは思いますが,明文で書かないところについては解釈が分かれる余地が生まれますので,この提案は別に条文を意識していないのでしょうけれども,その8パターンについて,ある程度明確なルールになるようにしないと,直接語っていないところが何を意味しているかについて決着がつかなければ,そこは正に解釈に委ねるということももちろんあるのでしょうけれども,議論をしているときに同床異夢になってはいけませんので,そこは少し整理した議論が必要だろうということを1点申し上げたいと思います。  そのこととも関連するのですけれども,この解除の問題を考えるときには,既に議論が出ているように,解除した場合に損害賠償義務が発生するのかどうかということがすぐに問題になろうかと思います。先ほど内田先生に整理していただいたように,3段階あるのだと思います。全く賠償義務が生じない場合,信頼利益の限度で生じる場合,履行利益の賠償が生ずる場合,この3段階のうちのどれになるかということについては,やはり解除を認めた後の規律としてセットで考えておくべきですし,規律として明確にすべきで,これも読み方によっては,当然賠償義務がなく,無条件解除ができるという考え方と,解除ができるかどうかという問題と賠償義務を負うかどうかは別の問題ですという捉え方とが理屈の上ではあり得るわけで,これまた同床異夢になってはいけないので,やはりはっきりさせた上で議論すべきだろうと思います。  その関係で,損害賠償については,期限前弁済のところでも同じような議論があって,これは全くパラレルでいいのかどうかについては,ちょっと疑問を持っております。確かに共通するような議論であることは間違いないのですけれども,一旦金銭が交付された後に,つまり利息の請求権が発生した後に,期限前に前倒しで弁済したときに,履行利益の賠償としての利息相当損害金が発生するかどうかという問題と,全く金銭が交付される前に解除された場合に,そこでも得べかりし利益という意味での利息相当損害金といいますか,それに対する期待のようなものは観念できるのではないかという問題について,その二つの場面を全く同じに考えていいのかという点にはやや疑問があって,目的物引渡し前のほうが損害賠償義務を発生させるべきでないという価値判断がより妥当するような気がするのですが,両者は完全に同じ議論ではないと考えているということを指摘したいと思います。 ○佐成委員 先ほど三上委員,それから中井委員が指摘された(イ)についてですけれども,これは,今御指摘されたとおり,後ほどの4(2)イという部分と一貫した御提案だと認識して,その上で,後ほど議論しようと三上さんは御提案されていたのですけれども,せっかく出てきましたので,一応一言だけ申し上げておきます。要するに,経済界としては,そもそも消費者あるいは事業者という概念を民法に持ち込むこと自体に強い反対をしておりますので,当然この辺りについては反対意見が強いということです。  それから,経済界としても,確かに中井委員がおっしゃったような問題意識,すなわち,ここで言われている消費者保護あるいは中小事業者の保護といった政策目的自体の重要性を否定する趣旨は毛頭ございません。ただ,民法にそういった社会政策的な要素を過度に持ち込むということに対しては経済界としては反対しているということでございますので,その点だけ一言申し上げておきたいと思います。 ○三上委員 議論が金銭消費貸借に限ったものになっていますが,飽くまで消費貸借の話をしていますので,例えば,お米を借りてくるとか,しょうゆを貸したといった例を考えると,大量に米やしょうゆを仕入れたのに,借りないと言われた,今更どうやって処分するのだ,腐るではないかという例を考えたときにも,本当にこれでいいのかという観点が必要と思います。今は金銭に関しては利息制限法と出資法があるので,お金が出ていないときに利息が取れるのか,取れないのかという別の議論で,弁護士の先生方が心配されておられるような問題点は事実上回避されています。ただ,消費者に対する金融を見ればそのとおりですが,利息制限法の存在が事業金融に対しては逆に大きな支障になっているという点もこれも一つ事実です。それは民法の問題ではないのかもしれませんが,ゆえに民法にこんな問題を持ち込んでいいのかというのが私の疑問点なわけです。ここは飽くまで消費貸借の問題点であって,消費者金融の問題でも事業資金の金銭消費貸借の問題でもないんです。したがいまして,このような一般的な規定をここに置くこと自体が,後の4-(2)もそうですが,いいのか悪いのかという点から議論すべきであると考えます。 ○松本委員 やはり(イ)なのですが,消費者と事業者という立て方がここでされていて,その次の4(2)イのところも同じです。提案者は恐らく消費者契約法の定義をそのまま持ってくるというつもりでしょうから,そうなると,ここでいう事業者というのは非常に広いんです。別に金融機関とか貸金を業とする事業者に限らなくて,散髪屋さんも事業者だという話になるわけで,そういう貸金や金融を業とする者でない事業者であっても,事業者というだけでこのように消費者貸借契約の拘束力を弱くしていいのだろうかと。つまり,諾成契約が大原則だと言っておきながら,貸主が事業者だというだけで,全ての事業者はこのような拘束力の弱い状況に甘んじなければならないということが適切なのかどうかというところがあります。  他方で,事業者対消費者ではない場合は,諾成契約の厳しい拘束を受けなければならない。つまり,消費者対消費者の場合も,これは解除できないという話になってきて,そういうことが果たしていいのかどうかというところもあります。誰と誰の間の何についての消費貸借なのか,お米なのか,しょうゆなのか,お金なのか,株なのか,そういったことをいろいろ考えて拘束力のも問題を考えないと,適切な規範にならないのではないかという気がいたします。 ○潮見幹事 適切な規範にならないのではないかという点では,私も同意見です。併せて,先ほどから発言するかどうか迷っていたのですけれども,何人かの委員の方がおっしゃっていましたように,ここでは(ア)と(イ)しか挙がっていないのですが,この場合に,例えば(イ)で解除を認められた場合の損害賠償をどのように考えるのかということは,別の論点として立てるべきではないかと思います。先ほどの4のイとは別の特徴もありますので,是非そうしていただければと思います。そして,そのときには,鎌田部会長がおっしゃったように,利息損害という意味での損害を想定しているのか,それとも,中井委員がおっしゃったように,全部の損害を含めて考えているのかというところも明確にした形で示していただいたほうがよいし,そうしないと議論が進まないのではないかと思います。  それから,これは中井委員ほか弁護士会の委員の方々の意見だと思うのですが,仮に,解除した場合に損害賠償を取れないということであるならば,弁護士会の先生方が多数意見のようにおっしゃっておられる要物契約と考えた場合に,引渡し前の状況で,消費者たる借主が事業者たる貸主に対して損害賠償を請求されないという結論も是とするのでしょうか。従来,これは,広い意味での融資予約ないしは信義則上の義務違反,契約締結上の過失という枠組みを使って,コスト増については賠償することが認められてしかるべきであると考えられていたと思います。その意味では,損害賠償の余地は,これは消費者の場面も含めて認められていたと思うのです。逆に,要物契約というところを貫くならば,そしてまたここで(イ)で書かれている内容の実質に賛成されるのであれば,要物契約としての消費貸借契約が成立する前の段階での損害賠償に関する規律についても何らかの特別のルールを設けておくべきであるという提案に進むのが一貫するのではないかと思います。ただ,私がこれを支持するわけではありません。反対なのですが,弁護士会が提案する方向の下で一貫させるのであれば,そのように言うべきなのではないかと思いました。 ○中田委員 合意の後,金銭の引渡しまでの法律関係が不明確であるという現状に対して,少しでも明確にしようというのが今回の御提案だと思います。基本的にその方向で行くべきであって,現在不明確なまま実務が回っているから,それでよいというのは,どうも私には理解できません。ただ,この提案で完全に明確になっているかどうかについては,今,潮見幹事からも御指摘がありましたけれども,31ページのウの(ア)と(イ)で足りているかというと,そうではないのだろうと思います。ただいま,解除した場合の損害賠償がどうなるかという御意見がございましたけれども,それだけではなくて,そもそも解除が認められない場合に,その先がどうなるかが問題かと思います。(ア)と(イ)は解除権を特に規定しているわけですけれども,それがない場合には解除が認められない。そうすると借主の借りる義務がどうなるのかという問題だと思います。それは恐らく,借りる義務の内容なんですけれども,借りろという履行請求権があるというよりも,借りる義務を守らないと,一種の受領を断ったという関係になるのではないかと思います。それによる損害賠償の問題として考えるべきことではないかと思います。その際には,返済期までの約定利息ということには恐らくならないわけでありまして,資金の調達費用をベースにしながら考えていくことになると思います。  先ほど深山幹事がおっしゃいましたけれども,実際に金銭が交付された後の問題と交付される前の問題とはやはり違っておりまして,特に交付される前は,貸主のほうは返済についてのリスクはまだ負担しておりませんので,その意味でも違ってくるのではないかと思います。ということで,このような議論を進めていくこと自体,引渡し前の法律関係の明確化ということで非常に意味のあることでして,それを詰めた上で明文の諾成的消費貸借を基本とする規定を置くということがよろしいと思います。 ○中井委員 先ほどの潮見幹事の御指摘の関係で,私が誤解をしているのかもしれませんけれども,弁護士会の基本的な考え方は要物契約を維持するという考え方で,諾成契約に消費貸借をすることによって発生する懸念がここで述べられている,引渡し前に解除できるのか,できないのか,解除できるとして,損害賠償義務を負うのか,負わないのか,負うとして,その範囲は非常に広くなるのか。このような懸念。そういう懸念があるからこそ,諾成契約については消極的評価をしているわけです。  それであっても,一定認められる場面があるとすれば,借主と貸主との間で,ある一定の期日にどうしてもこれだけの資金需要が必要なので,その資金交付の約束をする。それは,貸す義務が発生し,場合によっては借りるほうは借りる義務が発生する。かなり限定された場面で生じる。こういう類型として併存させることはあり得るのかもしれない。しかし,ここでは,そういう枠組みが決して承認されているわけではありませんから,一般的に諾成契約になったときに,どういう解除ができて,どういう損害賠償義務があるのかと問われたときに,弁護士会の先ほど申し上げた基本的スタンスからすれば,借主は,できるだけ広い範囲で交付前解除は認められるべきだ,かつそのときの損害賠償義務は基本的には限りなくゼロの方向で考えるべきだ。それは,要物契約を前提とすることから出てくる方向性だと思っております。ただ,なお要物契約であっても,貸主と借主の間の契約締結に至る交渉過程において,相当な信頼感を与えて,要物性としての引渡しがあるものと誤信させるような言動があって,にもかかわらず交付しなかった場合においては,契約は成立していないけれども,信義則上の賠償義務を負う場面というのが想定されるかもしれません。仮に弁護士会の認める諾成契約になったとしても,そういう場面における損害賠償義務の発生すること,一定の要件の下で発生することはあり得る。それを否定するものではありません。そういう考え方を採っているわけです。  弁護士会の立場として申し上げたことが,余り理論一貫しないのではないかとおっしゃられたことに対して,その趣旨をちょっと理解できなかったものですから,基本的な考え方を再度,繰り返しになりますけれども,申し上げました。 ○潮見幹事 理解できないというのは1点だけです。中井委員の発言の中で,金銭交付前に解除するとき,損害賠償義務は一切負わないという趣旨の発言をされたと理解したものですから,もしその趣旨であるのならば,今直前の発言でおっしゃられたような信義則上の義務違反を理由とする損害賠償,契約締結上の過失を理由とする損害賠償も認めないという御趣旨なのかと思って,矛盾しないのですかということを申し上げたかっただけです。 ○中井委員 分かりました。 ○鎌田部会長 いろいろと宿題をたくさん与えられましたけれども,事務当局におかれましては,申し訳ありませんが,それらについての対応をお願いしたいと思います。 ○松本委員 今の中井委員の御発言との関係なんですが,弁護士会としては,要物契約の原則を維持した上で,必要な場合は諾成契約を認めればいいと。そこでちょっと考え方を変えて,諾成契約が原則である。しかし,全ての場合に解除ができる。ただし,解除権を放棄する形で契約関係をフィックスして,何月何日には必要なのだから,解除しませんという特約をすれば,それで,現在でいうところの諾成契約的になるという,結果として同じになるような形でもよろしいということですか。そうすると,全ての場合に解除できる諾成契約というのは無意味だという主張が出てくるかもしれないんですが,いかがですか。 ○中井委員 原則要物,例外諾成というのか,原則諾成として,例外要物とする構成いかんによっては,例えば今,松本委員生がおっしゃったのもその例なのかもしれませんけれども,完全に否定するわけではないと思います。ただ,弁護士会と言っていますけれども,まだ意見が一致しているわけではございませんので,一部弁護士会という形で御理解いただければと思います。 ○鎌田部会長 引き続き,エについての御意見をお伺いします。 ○山本(和)幹事 エの破産の場合の中身自体には特に異論はないのですが,民事再生や会社更生の場合についてどうかということです。前回,この諾成的消費貸借契約の性質について,金関係官は双務契約ではないという御発言をされたわけですが,先ほど内田委員は,これは諾成双務契約と確か私の聞き間違いでなければおっしゃったように記憶するのですが,ちょっとどちらか分からないのです。仮にこの資料の趣旨が双務契約でないとすると,いろいろ難しい問題が生じてくるのではないかと。例えば借主が民事再生になったような場合には,目的物の引渡しを再生債務者は求めることはできるけれども,相手方の返還請求権は再生債権になってしまうのではないかとか,貸主が民事再生に陥った場合に,借主の目的物の引渡請求権が計画によって権利変更されてしまうのではないかとか,いろいろな問題が生じそうで,あるいはそもそも,だからこういう諾成的消費貸借契約を契約当事者の一方が再生や更生に陥った場合,そのまま維持するというのが相当かどうかという問題もあるような気がします。  そう考えると,何かやはり明確な規律が必要ではないかという気がするということで,3通りぐらいあるのではないかと思うんですけれども,そもそも効力を失わせてしまうというのが一つの考え方で,つまり破産並びで,このエの規律のところに再生手続開始とか更生手続開始も書くということで,失わせるというのが一つの立場だろうと思います。ただ,再生や更生は再建型手続ですので,そういう資金需要とかの可能性が残る場合もあり得るだろうと。常に,失効させていいのかという問題はありそうな感じがして,現行の解釈論でも,再生や更生は別に扱うべきだということを示唆する見解もあると承知しています。そう考えると,双務契約と同じ取扱いをする。つまり,倒産した側,再生債務者等の側が解除履行の選択権を持つという,履行の余地を認めるというのも一つの考え方かなと思います。あるいは,契約相手方のほうで解除の選択肢も持つという,両方から解除を選択できるという請負型の規律にするということも考えられるのかなと思います。その中身について議論するのがこの場が適当かという問題はあるような感じがいたしますけれども,諾成契約について典型契約として規定するのであれば,やはり何らかの規定は設けるべきではないかと考えますので,発言をさせていただきました。 ○金関係官 前回,双務契約ではないと申し上げたのは,そのような説明が一つされているという紹介をする趣旨でしたけれども,それはさておき,諾成契約としての消費貸借が双務契約かどうかについては,はっきりしないところもありますが,少なくとも,貸す債務と返す債務とが対価的な関係に立たないということについては,おおむね異論がないところではないかと理解しております。この理解を前提にしますと,無利息の諾成的消費貸借は双務契約ではないと言えると思います。問題は,利息付きの諾成的な消費貸借についてですけれども,これは双務契約の定義にもよると思いますが,例えば民法では533条の同時履行の抗弁のところに双務契約という文言がありまして,一般的にも,双務契約には民法533条やその隣の534条以下の危険負担の適用があると理解されていると思います。そこで,双務契約とは,危険負担や同時履行の抗弁の適用がある契約であるという定義を仮に採るとするならば,諾成的な利息付消費貸借は,先ほど少し申しましたとおり,借主が貸主から金銭の引渡しの提供を受けたにもかかわらずその受領を拒絶したという場合であっても利息そのものは発生しないという理解が,第一読会でも多数を占めていたように思いますので,これはつまり,諾成的な利息付消費貸借については危険負担の民法536条2項による処理はしないということであるようにも思います。もしそうであるならば,諾成的な利息付消費貸借には危険負担の規定の適用がないから双務契約ではないということにもなり得るのではないか。以上のような説明をすることが一つ考えられるようにも思いますが,ただ,この双務契約かどうかという点については,必ずしも事務局で何か確定的な理解をしているわけではありません。  もう1点,借主が民事再生や会社更生の手続に入った場合についてですけれども,民事再生や会社更生の場合には再生債務者や更生会社の側に資金需要があるので,当然失効以外の選択肢があり得るという御指摘を頂きました。ただ,これについては,むしろ第一読会の際に中井委員から,民事再生や会社更生の場合に破産の場合と異なり貸主が貸す義務をなお負担するというのは相当でないという御指摘を頂いたところで,民事再生や会社更生と破産とで異なる取扱いを本当にしてよいのかどうか,私自身,若干の問題意識を持っております。 ○鎌田部会長 このエの部分と次の2と両方とも現行民法589条に関連する提案なんですけれども,この両者は倒産手続との関係でどう扱うのが妥当なのかというのを,倒産法の専門家の御出席を頂いて,分科会で検討していただくということにしてはどうかと思いますけれども,いかがでしょうか。 ○中井委員 消費貸借契約を諾成契約にした場合,それが双方未履行の双務契約なのかという学理的なことは私にはよく理解できませんけれども,少なくとも現在,消費貸借について諾成的契約をしている金融機関実務において貸付人に貸す義務を定めた契約書においても,貸付義務を免れる場面として,借主側の信用不安が挙げられているわけで,その典型が法的倒産手続の申立や開始であろうと思います。つまり,借主側に破産のみならず他の倒産手続があれば,貸付義務を免れるという規律になっていると思います。私は心情的には,双方未履行双務契約として債務者は履行を選択できて,再生手続が開始しても資金調達ができるなら,こんなにうれしいことはないと思っておりますが,恐らく金融機関の受け入れるところではないだろうと思います。しかし,こう私が申し上げるのも,その実質は,やはり要物契約と考えたときの結論と同じになるという点を重ねて指摘しておきたいと思います。 ○内田委員 先ほど私の発言についても言及されましたので,一言。民法の起草者は消費貸借の予約は双務契約だと言っています。そして,履行について順番が付いているという言い方をしています。しかし,起草が終わり,出来上がった民法の解釈として,双務契約の規定が適用されるべき契約なのかという点から考えると,金関係官が言われたような問題があるのは,そのとおりだと思います。 ○三上委員 この部分は,破産も含めて137条の場合は当然と書いてある本もありますし,山本(和)幹事から出たように,法的倒産手続一般に当てはめるべきであるという意見もありますが,金融機関の意見は,それよりも広く,不安の抗弁を,文言は提案できる状況ではないのですが,一般化したようなより広い概念で契約が効力を失うようにしていただきたいという意見が出ております。 ○鎌田部会長 それでは引き続き,「2 消費貸借の予約」について及び「3 利息に関する規律の明確化」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明をしてください。 ○金関係官 御説明します。   「2 消費貸借の予約」では,消費貸借を諾成契約として規定する場合であっても,消費貸借の予約と破産手続の開始について定めた民法第589条の規定は維持するという考え方を取り上げています。  「3 利息に関する規律の明確化」の「(1)利息の支払合意」の第1パラグラフでは,利息を支払う旨の合意がある場合に限り,借主は利息を支払う義務を負う旨の規定を設けることを提案しています。また,第2パラグラフでは,事業者間において貸主の事業の範囲内で金銭の消費貸借がされた場合には,利息を支払わない旨の合意がない限り,借主は利息を支払う義務を負う旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。  「(2)利息の発生期間」では,利息は,目的物の引渡しがされた日からその返還がされた日までの間,引渡しを受けた元本について発生する旨の規定を設けることを提案しています。 ○鎌田部会長 それでは,まず「2 消費貸借の予約」について御意見をお伺いいたします。 ○岡委員 多くの単位会は,維持するということに賛成の意見でございますが,二つぐらいの単位会から,諾成が併存なり一本化なり,条文化されるのであれば,部会資料にも書いてあるとおり,もう必要性はなくなって,削除していいのではないかという意見が少数ながらございました。  それから,一つだけ,エに,事業者の消費者に対する融資の借主の解除権について,基本的には賛成であると中井さんが御報告したとおりなんですが,やはりまだ一部に,こういう消費者保護の規定は民法ではなく消費者契約法に置くべきだといった意見も少数有力にございましたので,追加で報告させていただきます。 ○鎌田部会長 ウの(イ)に関する意見ですね。分かりました。  ほかにはよろしいですか。  私は個人的には,1の(3)のエに包摂されるので,重ねて二つも規定を置かなくていいという感じはしておりますけれども,内容には特に御異議はないですね。ただ,山本(和)幹事の提起された論点はここも共通しておりますので,反対の御意見もあったところですが,少し御検討いただくということにさせてもらいたいと思います。  では次に,「3 利息に関する規律の明確化」について御意見をお伺いします。 ○松本委員 大分前に質問したことと絡むのですが,私はどうも,諾成契約とした場合の利息の扱いというのが何となく引っ掛かっておりまして,ここで37ページの(2),利息は引渡しがされた日からその返還がされた日までの間に発生するものとすると。そうすると,利息の前払いというのは,法律的には意味がないという話なのかと。先ほど,賃貸借の場合は,実際に借りなくても賃料支払義務はあるのだという御説明でした。消費貸借の場合は,借りなければ利息は払わなくていいのだと。賃貸借の場合は,民法では期間が経過した後で賃料の支払時期が到来すると書いてあるのだけれども,実際は前払いが普通に行われていて,特段何も議論されていません。利息制限法を見ると,利息の天引きに関する規定があって,これは要物性を重視して,こういう仕組みになっているのだという説明がされるわけですが。とすると,利息の前払いというのが万一行われた場合,それは諾成契約であるが,利息は実際にその消費貸借の目的物を受領しない限りは発生しないのだということだとすると,前払利息というのは非債弁済だという説明ですか。そして,利息制限法の利息の天引きの規定はそもそも要らなくなるという話なのか。その辺りはどうなんですか。 ○金関係官 賃料については,一般に目的物を賃借人の使用収益可能な状態に置くことによって日々継続的に発生するものと理解されていると思いますので,賃料の前払いは,将来発生する予定の賃料,すなわちいまだ発生していない賃料を,当事者の合意によって前払いするというものだろうと思います。その意味では,利息の前払いも同様で,将来発生する予定の利息を当事者の合意によって前払いするものという理解なのだろうと思います。ただ,利息の場合には,その後に借主が実際には金銭を受け取らなかったという局面があるかもしれませんので,その場合には,法的な評価としては,発生しなかった利息を支払ってしまったということになるのだろうと思います。 ○鎌田部会長 債権の発生・存否と弁済の方法とは常に表裏一体でなければいけないわけではないですから,前払いしておいて,実際に期限前に元本を弁済したときには,精算をすればいいだけだということではないかと思います。 ○松本委員 つまり,元本を渡していなくても,前払特約があれば,前払請求権が発生するということですか。賃貸借の場合は,目的物を現実に渡さなくても,恐らく賃料前払いの特約で賃料を払えという権利は発生するはずですね。 ○金関係官 前払特約があっても賃料債権そのものが発生するというわけではなくて,例えば前払いをした後で実際には目的物が使用収益可能な状態に置かれなかったという場面では,賃料が前払いされた後に実際には賃料は発生しなかったものとして処理されるでしょうし,それは利息も同様で,利息を前払いした後に実際には利息が発生しなかったという場面があるのではないでしょうか。 ○松本委員 後で実際に借りなかった場合に不当利得的にどう処理するかという話ではなくて,諾成契約としての性質上,諾成契約に前払特約を付けている場合には,賃料であれば,当然目的物の引渡し前に賃料を払うことを請求できると私は理解していますが,消費貸借の場合も同じ話になるのか,それとも消費貸借はやはり特別なのであって,目的物を引き渡さない限り,たとえ利息の前払い特約がであっても支払う義務はないのだと考えるのか。いかがですか。 ○金関係官 賃料の場合も利息の場合も,前払特約があれば前払いの義務は発生すると思いますが,前払特約があるかどうかにかかわらず,目的物が使用収益可能な状態に置かれる前から賃料債務そのものが発生することはないと思いますし,目的物が引き渡される前から利息債務そのものが発生することもないという理解をしております。 ○松本委員 前払特約があれば,請求できないですか。前払特約があれば,要件事実論的に言えば,特約された支払時期の到来でもって請求できるはずですよね。したがって,賃料であれば,期間が経過していなくても,特約に基づく賃料請求はできるはずでしょう。 ○鎌田部会長 将来成立する債権について事前に弁済するということは,別に全く妨げられていない。それは売買代金だってそうだろうと思います。 ○松本委員 お聞きしたいのは,消費貸借の場合はいかがなんですかということです。 ○鎌田部会長 全く変わらないのではないですか。 ○松本委員 変わらない。 ○鎌田部会長 はい。山野目幹事が先ほどから手を挙げていらっしゃいます。すみません。 ○山野目幹事 この話題に入るときの最初の松本委員の御発言で,賃料については使用していなくても賃料債務が発生するという説明を受けましたが,という御発言がありましたが,金関係官はそのようには説明しておりません。松本委員御自身のお考えがそのような御理解でいらっしゃるということは,一読からずっとそのように御発言なさっておられることから,私は事実としては認識いたしますけれども,その内容については強い異論を抱きますし,利息の問題と賃料の問題は本質的に全く同じであって,私なりに理解したところでは,金関係官が一貫して説明しておられるとおりであると考えます。 ○松岡委員 多分,山野目幹事の御意見と同じ趣旨になると思いますが,金銭消費貸借の場合において利息の前払特約があっても,元本が交付されていない場合には,借主は,利息債権は発生していないという抗弁ができると思います。賃料債権についても同様に,賃借物が利用可能な状態にない場合には,賃料の前払特約があっても,賃借人は,賃料債権は発生していないという抗弁が主張できると思います。 ○松本委員 今の点については全く異論はありません。私が言葉をちょっとはしょって,貸主が使用収益可能な状態にしているという前提を省略して言っていたので,誤解を与えたようですが,そういう意味で,金銭の場合も,貸主がそれを使用収益可能な状態にしている場合には,利息請求権が発生してもおかしくないではないかという疑問を私は一貫して持っているということです。山野目幹事も,利息と賃料は本質的に同じだとおっしゃっているわけなのに,賃貸借の場合とは異なって,消費貸借の場合に,そこが損害賠償になるのかはなぜなのかというところがよく分からないということです。 ○鎌田部会長 分かりました。検討させていただきます。 ○三上委員 松本委員が利息の前払いとは一体何なのかという話をしておられましたが,例えば融資の実行日に期間分の利息を取る利息先取の場合,手形の割引とか手貸は基本的に先取ですが,利息は日々発生するものと考えると,確かにお金は出ていますけれども,そのお金が実際利用できる状態というのは日々重なっていくわけで,将来のことは分からないわけです。実際に発生する利息はその日1日分だとすると,残りの期間の利息に相当する先取りされた部分は一体どういう法的評価なのかという質問をされたのかなと思いました。違っているかもしれませんが,その部分には私も非常に興味があります。というのは,利息制限法でいうところの利息であれば,もし先取していた利息が期限前弁済で取り過ぎになれば,最悪返せば済むものですが,出資法上の利息であれば,返すだけでは済まずに刑事責任の問題になります。我々は常に手が後ろに回るかもしれないというリスクと背中合わせで利息の扱いをやっているわけです。  ですから,ここでもし民法が,利息は日々発生するもので,発生した部分だけが利息だとするのであれば,恐らく利息先取それを否定する趣旨ではないということはよく分かったのですが,初日一日だけに限れば,先取した利息金額では15%を越えるというときに,そのうちの民法でいうところの利息の部分と,利息制限法・出資法との関係を明らかにしてもらわないと困ってしまわないか,そういう問題点も含んでいるかもしれないという問題意識で捉えております。ここに書いてあるのは,単に,利息というものは,元本を借り受けた後上に発生するのだということだけかもしれませんが,利息の計算期間という観点からは,(当初予定した期間分)×(金利%)は,それは利息なんだという理解というか認識でよいということは,条文に書くのは難しいのかもしれませんが,どこかで明らかにしていただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 分かりました。その点も含めて検討させていただきます。 ○岡委員 3の(1),(2)ですね。(1)については,前段部分についてはほとんど賛成でございました。利息を支払う旨の合意がある場合に限り,その義務を認めるというのには賛成でございます。  次の事業者間においての特則については,反対意見のほうが多うございました。反対の理由にもいろいろありまして,事業者間契約の特則を民法に置くのはやめてほしいという位置の理由から反対する意見もございます。また,事業者間においてこういう特則を実際上設ける必要はないと,前段部分の解釈で何とかなるのではないかという観点から,条文化に反対であるという意見もございました。後段については,一部賛成の意見もあります。  次に(2)についてですが,目的物の引渡しを受けてから初めて利息になるのだと,この考え方については一致して賛成の意見でございます。ただ,両端落としというのですか,引渡しがされた日と弁済をされた日の両方を入れるという考え方については,今の実務とは大分違うのではないかと。大体が片落とし,初日不算入にして弁済日を入れる,あるいは初日を算入して弁済日の前日までを計算するという考え方というか,実務が多いようですので,その関係から,民法でこういう規定を置いていいのかという意見がありました。その場合,借換えする場合に,借換えたときに,この両端の規定を置いておくと,ある日1日は2日分,踊り利息というのが出るのではないか。金融機関は通達等でそういうのはやっていないようですけれども,そういう関係もありますので,両端入れを民法に置くのにはちゅうちょするという意見が強うございました。 ○鎌田部会長 (2)については,そこまで意図した提案ではなくて,それは表現の問題だと理解していいですか。 ○筒井幹事 部会長から御指摘があったとおりで,もちろん最終的に条文化するときには慎重に文言を選ぶ必要があると思いますけれども,ここは最初の日と最後の日の両方を算入するという趣旨ではありません。この日からこの日までという書き方をすれば,初日不算入のルールが適用されるというのが一般的な理解であろうと思って書いてはおりますけれども,最終的な表現ぶりはよく詰めて考えたいと思います。 ○鎌田部会長 それから,(1)の第2パラグラフについて,この不要論というのは,商法513条も不要であるという趣旨なのか,それを事業者に広げるからいけないということなのか,どちらでしょうか。 ○岡委員 いろいろあって,商法のまま置いておいたらいいのではないかという意見もありますし,事業者間で民法に置くのは反対であるという意見もありますし,商法の考え方そのものに対して契約の解釈で何とかなるのではないか,そういういろいろな意見があると思います。 ○佐成委員 一応念のためということで申し上げますと,今,岡委員から御発言があった点は経済界の一般的な意見と同じということでございます。 ○鎌田部会長 (1)の第1パラグラフについては,特に異論はない。(2)については,先ほどの期間の初日算入をあえてするという意図ではないということを明確にするような表現を工夫するという留保は付きますが,内容については特に異論がないと承ってよろしいでしょうか。 ○村上委員 初日を算入するかどうかについては,判例との関係も御検討いただく必要があると思います。 ○鎌田部会長 それでは次に,「4 期限前弁済に関する規律の明確化」について御審議いただきます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「4 期限前弁済に関する規律の明確化」の「(1)返還時期の定めのある利息付消費貸借における期限前弁済の可否」では,利息付消費貸借において返還時期を定めている場合であっても,借主は,いつでも期限前弁済をすることができる旨の規定を設けることを提案しています。  「(2)期限前弁済(期限の利益の放棄)によって生じた損害の賠償義務」の「ア 原則」の第1パラグラフでは,返還時期の定めのある利息付消費貸借において,借主の期限前弁済によって貸主に生じた損害がある場合には,貸主は,その損害の賠償を請求することができる旨の規定を設けることを提案しています。また,第2パラグラフでは,期限前弁済によって貸主に生じた損害の額は,返還時期までに発生すべきであった利息相当額から,期限前弁済によって貸主が当該目的物を再運用等することができたことによる利益相当額を控除した額であることを条文上明らかにするという考え方を取り上げています。  「イ 事業者の消費者に対する融資の場合の免責」では,貸主が事業者で借主が消費者である返還時期の定めのある利息付きの金銭消費貸借においては,貸主は,期限前弁済によって生じた損害の賠償を請求することができない旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。  これらの論点のうち,「(2)期限前弁済によって生じた損害の賠償義務」の「ア 原則」及び「イ 事業者の消費者に対する融資の場合の免責」については,規定を設ける場合の問題点や具体的な規定の在り方等につき分科会で補充的に検討することが考えられますので,これらの論点を分科会で検討することの可否についても御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について,一括して御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○松本委員 2点申し上げます。1点は,先ほどの36ページの3の(1)の第2パラグラフがわざわざ「事業者間において貸主の事業の範囲内で金銭の消費貸借がされた場合」と,単なる事業者が貸主である場合というよりは限定している表現についてです。これは商法がそう書いているからなんでしょうが,そうであれば,40ページのイなども,もしこの規定を残すのであれば,「事業者が事業の範囲内で消費者に金銭を貸し付けている場合」といったように限定したほうがいいのではないかというのが1点です。  もう1点は,39ページの(2)の「ア 原則」の第2パラグラフです。これは前に損益相殺の調整の議論を分科会でかなり長時間やったわけですが,現在,損益相殺の規定が民法にありませんから,こういうシチュエーションにおいてこうだということを明文化するニーズが高いのかもしれないけれども,損益相殺の一般的な規定が入れば,ここに書かれているようなことは当たり前だということになるのではないかという気がいたします。その辺り,ほかの規定が置かれることによって不要になる可能性もあるのではないかという意見です。 ○中田委員 ただいまの松本委員の御指摘の(2)のアの第2文ですけれども,仮にこれを損益相殺だと理解できるのだとしますと,損害の額が利息相当額とするのは,大きくなりすぎるのではないかと思います。貸主の得べかりし利益から貸主の免れた費用を差し引いたものが損害となって,その上で更に損益相殺のような考え方を入れるかどうかということになるのではないかと思います。恐らく貸主側は,貸出の際の調達コストをベースに考えるので,もう既に計算されているということになるかもしれませんけれども,途中で返すと,その後の分についてはコストが掛からなくなるのではないかと思います。具体的には,高い金利で借りた借主が,市場金利が低下した後で期限前返済する場合の問題というのが出てきますけれども,少なくとも何らかの免れた費用というのは,損害において考慮すべきではないかと思うのです。 ○三浦関係官 省内で検討いたしましたところ,「4 期限前弁済に関する規律の明確化」,「(2)期限前弁済によって生じた損害の賠償義務」,「ア 原則」について,金銭ではなく物を目的とする消費貸借契約というのが実際にはあるとの指摘がございました。例えば,製造業において原材料を調達すると,原材料が金属等,同種の物を調達しやすいようなケースが実際にはございまして,その場合は実務上消費貸借契約が使われているということでございます。この場合には,先ほどの議論でも言及があったようにも思いますけれども,期限前に物が返還された場合には,それに伴い貸主側に物の保管コストなどが生じるということでございます。こういうコストなども損害だと理解するのですけれども,今の部会の資料の書きぶりは利息に少し集中しているので,このようなタイプの損害が後で検討から漏れてしまわないよう,その点は考慮を要するということを述べさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○松岡委員 今の御指摘と関係がある意見です。先ほど三上委員からも御指摘があったところですが,ほとんどの場合は金銭の貸借を前提にしています。ところが,三浦関係官がおっしゃった金銭以外の場合には,保管コストの問題などが出てきて,実損害が別に生じることがあり,利息を前提とした規律ではそう単純に処理できません。また,部会資料の42・43ページに出てくる例のように,目的物に瑕疵がある場合というのも,金銭では普通は考えられません。歴史的には確かに金銭も金銭以外の物も同じく消費貸借の客体ということで一括して規律されてきているのですが,本当にそれでいいのかという疑問を前から持っております。少なくとも金銭とその他の物とを分けて,利息の議論は,金銭だけに限るほうがすっきりするような気がするのですが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 民法の中には金銭消費貸借だけあればいいと。 ○松岡委員 どちらの場合も規律するべきだと思います。まずは金銭消費貸借を基本的には念頭に置いた規律に絞った上で規律し,原材料の貸し借りのような金銭以外の消費物の貸借については,それを準用して特則を置く形にするという案はいかがでしょうか。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○佐藤関係官 2点申し上げさせていただきます。第1点目は,(2)のアの後段のところでございます。後段の部分につきまして,御提案では,「返還時期までに発生すべきであった利息相当額から,当該目的物を再運用等することができたことによる利益相当額を控除した額」と記載されてございます。問題は,この「再運用等することができたことによる利益相当額」をどのように捉えて,なおかつ主張・立証していくのかということでございます。仮にこれは現実に再運用した結果を意味するとした場合には,貸主側の言わば裁量によって控除される額が決定されることになるとも考えられるところでございます。一方で,貸主側の事情について,借主側として適切に主張立証できるのかどうかというところがございますので,この辺りにつきまして,適切な主張立証責任となるような要件設定が必要ではないかと考えるところでございます。これが第1点目でございます。  第2点目は,(2)の「イ 事業者の消費者に対する融資の場合の免責」でございますが,実務界の実務家の意見を聞きますと,この免責を認めることについては,反対,抵抗感があるという意見が多いようでございます。補足説明におきまして,検討委員会試案においてこの免責を認めるべきとの考え方が示されているとの記載がございます。この検討委員会試案におきましては,免責規定を設けることの理由として,一つには,「現在,金融機関からの借入れに際しては,大きな負担を伴うことなく借主からの早期返済が認められていること等にも照らせば」と述べられているようでございます。他方で,金融関係業界からの反対意見が多いことに照らしますと,金融実務としまして,現状はともかく,この免責を民法の規律として明文で規定するということについてまでは,難しいという感じも受け止められまして,実務界の意見も十分に考慮して慎重な検討がなされることを希望いたしております。  仮に消費者金融等でこのような免責を認めなければいけないという実情があるとするならば,このような事案への対処を民法で行うのか,あるいは特別法で規定するというのか,こういったことも併せて検討する余地があるように思われます。 ○三上委員 質問させていただきたいのですけれども,ここの提案は,当事者間の合意で期限前弁済禁止の特約を設けても,その特約の効力を失わせるという趣旨の御提案でしょうか。つまり,強行法規的に,期限前弁済禁止特約は認めない。こと消費貸借においては,契約一般の原則から離れて,一方的に契約を解除する権利を与える,契約を破る自由を与える。アメリカ法では契約から離脱する自由が認められるとよく言われますが,日本の民法では契約は守られるべきものと習いましたので,その原則をこの部分だけ廃して,一方的に解除する権利を認めるという御提案なのでしょうか。まずその点を一つ明らかにしておきたいと思います。 ○鎌田部会長 これは4の(1)に関連してですね。 ○三上委員 はい。 ○金関係官 4の(1)については,当事者が期限前弁済をしないという合意をした場合にまで自由に期限前弁済をすることができるという提案ではないと理解しております。 ○三上委員 (2)のイのほうはどうですか。 ○金関係官 (2)のイについては,強行法規という言葉が適切かどうかはともかく,(1)とは異なり,当事者の自由な合意を制限する提案であると理解しております。 ○三上委員 イの消費者に関する契約を,消費者に関する金銭消費貸借を除いて,期限前弁済禁止の特約が有効ということであれば,対応はできると思うんですけれども,基本的に,こと融資に関しては,期限前弁済があって以降,当初の期限までの金利のようなものを収受するという慣習というか発想は,100%全部ではないのですが,国内の金融実務ではほぼなかったと思います。ただ,そういうものが原則は認められているはずだというのは昔から議論がありまして,その際は,佐藤関係官がおっしゃいましたように,少なくとも再運用義務を課すかのような条文は非常に困りますし,またその立証を金融機関側がしろと,立証ができなければ,イーブンで再運用できたと考えて,損害は認められないというのはおかしいのではないか。かつ,その運用相手によって信用は違ってきますし,ひも付きで再運用できるわけでもないので,どれがどれの再運用の結果なのかとか判断しようがありません。何か指標を立てるとすれば,国債の金利とか,国債が安全かどうかはよく分からないのですが,何がしかそういう客観的なものを設けて,それと違うのであれば,違うと主張するほうが立証しろといった,正に金銭の損害賠償と同じような発想に持って行かないと,収拾がつかなくなるのではないかという懸念を持っております。  それは飽くまで利息相当分を取るという前提ですが,我々が常にこういうときにコストとして問題にしていますのは,利息等ではなくて,先ほども申しましたように,固定金利とか,市場から調達した背後に備わっているデリバティブの仕組みを清算するために,ないしは再構築するために必要なコストでございまして,その計算はここで書いてあるくくりとはまた別ものでございますし,それはこの条文の対象ではないとするのか,ここはそれも含んでの損害相当額というのであれば,それは少なくともここに書いてある再調達金利を引いた云々とは違う計算になるので,別の観点の規定が必要ではないかと考えております。  それから,消費者の場合の特則にも同じことがありまして,これは,住宅ローンという特別なものを普遍,スタンダードのように考えるからこういう意見が出てくるのだと思いますが,住宅ローンで,今,期限前弁済が自由で,コストもかなりフリーなものが増えてきているというのは,これは市場の健全な金融機関の競争の結果というか,実態としては過当競争の結果ともいえる状況でして,はっきり言えば異常値です。本来は取っていったものが,ある金融機関が一律1万円ポッキリという商品を打ち出したら,それにみんなが追随して,そのうち無料とするところも出てきて,という,その結果の現象面にすぎません。個人当てのローンの中でも,別に住宅ローンではない一般の個人宛ローンであれば,例えば固定金利の期間にそれを中途返済してしまったら,解約のための精算金を取るという例は当然ございます。もしこういうものが強行法規で入ってくるということであれば,個人向けには,例えば固定金利とか市場金利に連動とか外貨貸しのような市場的なものが入ってくる商品はもう提供できないということとニアリーイコールの結論になるという懸念もあります。よって,このような規定を民法に設けることには強く反対したいと思っております。 ○山本(敬)幹事 損害についてですが,先ほどの諾成的消費貸借のところでも同じような問題が出ていましたけれども,この39ページに書かれている損害の考え方は,「履行利益」賠償に当たるものは,契約をした以上,一方的に期限前弁済をするとしても認められてしかるべきであるという考え方です。これ自体は,中田委員が御指摘されたような点は留保しないといけないかもしれませんが,適当ではないかと思います。ただ,何度も三上委員やほかの方が御指摘されていますように,契約の拘束力を前提にした上でもなお認められる損害賠償は,履行利益の賠償に限られないのだろうと思います。つまり,先ほど御指摘がありましたように,従来のいわゆる信頼利益,例えば調達費用のようなものと履行利益賠償の両方を取るのはおかしいということは言えるかもしれませんが,相手方の一定の行動の結果,余計なコストが追加的に掛かってきた場合,例えば契約の相手方に違約金や損害賠償を支払ったというような場合は,ここに書かれている履行利益型の賠償と併せて賠償を認めませんと,不当な結果になると思います。その意味では書き方に工夫をする必要はあるのですが,しかし,そこまで考えて書くとなるとなかなか難しいかもしれないと思われるところです。  そして,付言しますと,今の問題は,ここだけの問題ではなくて,損害賠償に関する一般ルールのところで規定をする際にも十分に考えておかないといけないポイントです。そこで問題が解決されるのであれば,それに合わせるというのも一つの考え方ではないかと思います。 ○村上委員 再運用による利益の額の算定は,実際にはかなり困難なことが少なくないと思います。金銭消費貸借に限って言いますと,期限前弁済された金銭は,他の金銭と混和してしまって,区別できなくなるのが通常だろうと思いますので,期限前弁済された当該金銭が具体的にどのように再運用されたかは,決めようがないのではないでしょうか。そして,再運用による利益の額の算定が容易にはできないということになりますと,期限前弁済がされるたびに,再運用による利益の額の算定をめぐる紛争が発生し,その度に訴訟をしなければならないということにもなりかねないのではないかという危惧を感じます。  現在も,期限前弁済がされること自体は,それほど珍しいことではないだろうと思うのですけれども,期限前弁済によって生じた損害の賠償が実際に問題にされたケースを私は余り見聞きしません。その理由はよく分かりませんけれども,実際には,期限前弁済によって生じた損害を問題にすることはしないというのが通常なのかもしれないとも思います。そういったことも踏まえて検討する必要があるだろうと思います。 ○松本委員 期限前弁済の場合の貸主側の損害の算定方法の話ですが,約定金利というのは大変分かりやすいです。当然,返済する借主側も利息が幾らだということは分かっているわけだから,予見可能性は100%あるわけです。しかし,原資の調達コストが幾らなのか,つまりどういう複雑なことをこの金融機関はやっているのか,外国の金融機関とどんな契約をして,どういう場合にどれだけの損害が発生するかというのは,借主側からは普通は分からないわけです。そうなると,これは特別事情による特別損害ということになるでしょうから,予見可能でなければ,そのような請求はできないということになるのではないかと思います。金融機関側としては,こちらの計算で賠償してほしいということがあったとしても,借主にその予見可能性がなければ請求できないというのが415条で,今回の家政案でも確かそこは変わっていなかったと思うのです。はっきり分かっている利息でということであれば,特段問題がなく請求でき,さらに予見可能性について立証できれば,より高額の請求も可能である。あなたのために我が社はこういう複雑なデリバティブ取引をして資金を調達していますということをあらかじめ契約書に書いておくといった慣行は将来出てくるのかもしれないですが,そうなると,損害賠償額の予定条項と大変近くなってくるかなという気がいたします。 ○岡委員 (1)は賛成が多く,(2)について,アの前段はちょっと微妙なんですが,後段については,やはり異論が多うございました。いろいろな意見があるのですが,一つ,利息というのは,貸倒れリスクも付加して算定されている。特に個人の場合には,貸倒れリスクがあるから高い金利が設定されているところ,期限前弁済をすると,その貸倒れリスクは消滅するわけですので,貸倒れリスクを折り込んだ利息,利率で最後までというのは,理屈からいってもおかしいのではないかという意見が印象に残りました。そのとおりではないかと思います。  このパラグラフに書かれているように,何か制限したいというのは皆共通の思いなのですが,従来からここでも出ているように,そんな計算ができるのかという問題もありますし,運用しない個人の貸主もいるのではないか。それからもう一つは,三上さんがおっしゃったように,競争の結果かもしれませんが,かなり手数料だけで期限前弁済が容認されている実例も最近広うございます。こういうのが,先ほど金さんが言われたように,強行規定的になると,むしろ多額になってしまうのではないかという心配をする声もあります。こういう制限的な規定を置かないまま損害の賠償を請求することができるという規定だけを置くと,また逆に危険ではないかという意見もあります。そうだとすると,利息相当損害の賠償はできない。そういう「できない」という規定だけを設けるのはどうかという意見もありましたが,それも帯に短しという形で,非常に悩み多きところで議論をしておりました。  それから,事業者の消費者に対する融資の場合の免責のところについても,基本的には賛成が多いところでございました。ただ,事務手数料ぐらいは認めていいのではないかという意見もありました。精算金とか実費は認めていいのではないかという意見です。あともう一つは,消費者保護の規定なので,民法ではなく,消費者契約とか特別法に置くほうがいいのではないか,そういう位置に関する意味での反対意見も少数ございました。 ○金関係官 先ほど私が強行規定と申し上げたのは,部会資料44の40ページのイのことでありまして,39ページのアのことを申し上げたわけではありません。39ページのアについては,例えば賠償額の予定などを排除する趣旨のものではないと理解しております。 ○三上委員 参考になるかどうか分からないのですが,変動金利で貸すときには,例えば短プラプラス何%とか,今はちょっとLIBORがもめていますが,LIBORプラス何%という形で金利を決めますが,その場合にLIBORとか短プラというのは一応調達コストという前提で貸しています。実際にはLIBORとか短プラで全部を調達しているわけではない。銀行のポートフォリオで調達の仕方は多種多様ですし,どの金をどれに貸すという関係がいちいちあるわけではありませんから,その辺はある程度割り切らないと,調達コストというのは出てこない。つまり,先ほども村上委員が懸念されたとおりだと思うんですが,もしそれが争いになれば,ある程度決まった調達の指標を前提に考えざるを得ないのだろうなと考えております。  その場合に,プラスアルファで乗っているスプレッド分が得べかりし利益でそれを算入してはどうかという争いになるかと思うんですが,そこでまた岡委員から,それは信用コストが入っていて,実際にそれが返ってくれば信用コストがなくなるのだから,取るのはおかしいのではないかという意見があったということでしたけれども,貸金の金利というのは別に信用コストだけではなくて,実際に融資するのに掛かった人件費とか,準備に掛かった費用とか,その他もろもろのものが入ってきていますし,信用コスト自体も貸出当初のリスクと期限直前のそれとは同じではありません。例えば,今はもうやっていないかもしれませんが,昔,長期金融機関というのがあって,長期の設備資金等を貸すときに,長期の資金ですから,リスクが高い分だけ金利は高くなる。しかし,順番に約定返済部分が返済されていって,最後の1年になると,市中の一般の金融機関から借り換えたほうが,短期ですから安く借りられる。しかし,そこで借換えをされると,一番リスクの高かった,遠い過去に貸していた分のコストが回収できない。したがって,こういうときには,例えば期限前弁済の残高の何%を手数料として払えという規定が入っていました。こういうことがおかしいかというと,10年ものの国債が残存期間1年とかになれば,クーポンを割って取引されるというのはごく普通に行われているわけで,当たり前の裁定取引です。そういう意味で,スプレッドがイコール信用コストではない。そこにはあらゆる複雑なものが入ってきて,特に利息制限法等の関係で,あらゆるコストが全て金利として反映されて,しかもそれがその借入の期間内で均等に分割されて請求されるようになっている。したがって,早期に期限前弁済がされると,コスト割れの可能性すらあるということになるわけですから,一概にどの部分が収益で,再運用できたらどうのこうのでは賄い切れない部分もある。そういう意味で,この問題に首を突っ込むと,非常に複雑な話になってきて,そんな条文を作れるのかという点はよく御検討いただきたいと考えております。 ○潮見幹事 分科会で検討するのですから,そこでやっていただいたらと思いますけれども,39ページのアの原則の部分ですが,ここの損害賠償は債務不履行を理由とする損害賠償という形で事務局のほうでお考えになっておられるのでしょうか。そうであれば,先ほどから松本委員とか山本敬三幹事がおっしゃったことがそのまま連動してくると思うのですが,それとも債務不履行というものではない,何らかの形の法定の損害賠償のようなものをお考えになっておられるのでしょうか。そうであれば,何らかの形の対処が必要かというところが出てこようかと思います。さらに,後者のように考えますと,136条があるわけですから,このほかに何を付け加える必要があるのかという疑問が頭をよぎります。  イについては,慎重論が先ほどありましたが,私も慎重論に賛成したいと思います。 ○鎌田部会長 4の(1)に関しましては,三上委員の御意見もありましたけれども,これは民法が請負について認めている注文者の任意解除権に準じるようなものという理解でよろしいですね。特約の話もありましたけれども,その特約が可能であれば,三上委員もこれには反対しないという御意見だったと受け止めました。となると,基本的な考え方としては御異論はないと思います。  (2)のアの第1パラグラフについては,それ自体には余り強い異論はないけれども,第2パラグラフについては相当な御異論がありましたので,それを踏まえて分科会で補充的に検討していただくことといたします。  個人的には,金銭の場合には,前にも申し上げましたけれども,民法はどこかで,金銭というのは常に一定の利益を生むという擬制の上に成り立っているという部分と,ここでの実損追求の姿勢とをどう調整するかというのが一つの課題ではないかなと思っています。  それから,イについても,いろいろなレベルでの御異論のあったところでございますけれども,それらを踏まえて,ここも分科会で補充的に検討していただくこととしたいと思います。 ○中井委員 まとめに入ったところで申し訳ありませんけれども,(2)のアの原則の前段については,それほど異論がないというおまとめになったように思います。ただ,先ほど潮見幹事も最後におっしゃいましたけれども,136条2項ただし書がある中で,これに加えて損害賠償を請求することができる旨を明示する規定を積極的に置く意味があるのかという問いかけに対しては,是非慎重に検討していただく必要があるのではないかと思います。  併せて,後段については,既に批判が出ていますので,繰り返しても意味がないのかもしれませんけれども,そもそも期限までに発生する利息が損害だという前提自体に疑問があるということは重ねて強調しておきたいと思います。  イについては,弁護士会の意見は岡委員から説明がありましたけれども,この場では相当批判的といいますか,消極的意見を多く聞かせていただきました。重ねて弁護士会としての意見を申し上げておきますと,たとえ期限のある借入れであっても,期限前弁済を抑制する方向で機能させる仕組みそのものに疑問を持っているのだという点を強調しておきたいと思います。契約は守らなければならない。当然のことかもしれません。ただ,こと消費貸借に関する弁済の期限というのは,基本的には借主の利益のために設けられたものであるという原則を確認したい。そして,利息というのは,元本が借主の下で使われている限りにおいて発生するということを先ほど確認したわけですから,元本が返済されれば,もはや利息は発生しない。とすると,これは先ほどのアの後段と重なるのですが,その利息分を損害と連想するようなこと自体が否定されてよい。ここでも期限前弁済を積極的に奨励することはあっても,それを抑制するような機能は排除したいという気持ちがあるのだということを御理解いただきたいと思いますし,そういう姿勢についてはそう無下に否定する方向で考えていただきたくない,ということを最後にもう一度申し上げておきたいと思います。 ○鎌田部会長 はい,理解いたしました。 ○高須幹事 今,中井先生から御指摘があったところで,表現ぶりを改めるということですから,表現ぶりを改めていただくということには私どもも基本的には同意見だということを,まず申し上げます。それを前提とさせていただいた上で,4の(1)の期限前弁済の可否のところですが,特約による排除が認められるという前提を採ったときに,この(2)のイの場合に限っては,そもそも期限前弁済は特約によって排除されてしまうと,その後の問題はそもそも生じないということになってしまうわけですから,先ほど金関係官からも,ここは多少強行法規性の余地もあるということの御指摘があり,そのことを考えたときには,期限前弁済そのものが排除されてしまっていいのかどうかも含めて,分科会で検討させていただければ有り難い。このように思う次第でございます。 ○中田委員 先ほどの中井委員の御発言との関係なんですけれども,私は前の発言で,損害を考える際に,貸主の得べかりし利益から貸主の免れた費用を控除したものをベースにすべきだということを申し上げました。それは,請負の注文者からの解除の際,641条の場合に,そのような発想が取られるという意味で御指摘申し上げたのです。ただ,請負と違っていて,仕事あるいは得べかりし請負報酬というのが請負の場合にははっきりしているわけですけれども,金銭消費貸借の場合に期限までの分が当然に取れるかどうかということについては,もう一つ別の問題としてあるという点は,中井委員の御指摘のとおりだと思います。恐らく,賃貸借の場合に,期限前の賃貸借の解除の場合にどうなるかということも含めて,ここでの期限が果たして履行利益を当然に保証するものになっているかどうかについては,更に検討する必要があると思います。 ○鎌田部会長 それぞれ有益な御意見をありがとうございました。それらを踏まえて分科会で検討させていただきます。  ここで10分程度の休憩を取らせていただいて,3時55分再開ということにさせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは再開させていただきます。  「5 消費貸借の目的物に瑕疵がある場合の規律」と「6 準消費貸借の旧債務」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「5 消費貸借の目的物に瑕疵がある場合の規律」の「(1)貸主の担保責任」では,消費貸借の目的物に瑕疵がある場合の規律について,利息付消費貸借の貸主の担保責任は売主の担保責任に,無利息消費貸借の貸主の担保責任は贈与者の担保責任にそれぞれ対応するものに改めることを提案しています。  「(2)瑕疵がある目的物の価額の返還」では,無利息の消費貸借の目的物に瑕疵がある場合に借主が当該目的物の価額を返還することができる旨を定めた民法第590条第2項前段の規定について,これを利息の有無を問わないものに改めることを提案しています。  「6 準消費貸借の旧債務」では,準消費貸借に関する民法第588条の規定について,「消費貸借によらないで」という文言を削除して,消費貸借に基づく債務を旧債務とする準消費貸借の成立を認めることを提案しています。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について一括して御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。  特に異論はないと思ってよろしいでしょうか。 ○中田委員 準消費貸借についてですけれども,588条の「消費貸借によらないで」という文言を削除することは,判例・学説に沿うもので,それ自体には異論がありません。ただ,そもそも588条を置く必要があるかどうかについては,検討する必要があると思います。588条は,法典調査会では当初は提案されておりませんで,整理会の段階で突然入った規定です。なぜ入ったかというと,一つは,消費貸借が要物契約であるということ,それからもう一つは,更改について,原因の変更を更改とはしないという方針を採ったということとの関係があると思います。さらに,その後の議論も含めてですけれども,消費貸借とされると,返還時期に関する規定の適用を受けるとか,先取特権がなくなるとか,利息制限法の適用を受けるとか,こんな意味があるのだと思います。ただ,以上についてここでの議論がどう影響するかを考える必要があると思います。まず消費貸借を諾成契約とした場合にどうなるか。それから,更改について,原因の変更を更改とするという提案がありますけれども,そうするか,しないかによっても影響してくると思います。その上で,消費貸借の規律を及ぼすべきかどうかについて,もとが消費貸借であるときにわざわざそれをというのはどういう意味があるのかということを考える必要があります。恐らく最後に残ってくるのは,返還債務の発生原因との関係だと思いますけれども,それも含めて,そもそも規定を置く必要があるか,ないかを検討する必要があると思います。 ○鎌田部会長 ほかのところとの関連につきましては,事務局のほうでしっかり調整させていただきますが,ほかに関連した御意見はございますか。 ○山野目幹事 順に意見を申し上げます。  5の(1)につきましては,ここで提案されている内容に賛成であるということを申し上げた上で,有償契約について,現559条のように,有償契約である売買の規定が他の有償契約に準用されるという規律の検討の帰すうとの関係にも引き続き御留意いただきたいということ,それから無償契約に関して,贈与の規定を他の無償契約に準用するかという論点の検討の帰すうにも留意してこの問題を引き続き御検討いただければ有り難いということを申し上げさせていただきます。  5の(2)について,大きな異論を感じませんでした,という意見を述べさせていただきます。  6につきまして,御提案いただいていることに賛成であるとともに,取り分け,今,中田委員がおっしゃったことに関して,同じ理由で,588条そのものの存廃・要否ということを御検討に加えていただきたいと望むものでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○岡委員 記録に残すだけですが,弁護士会は,5の(1),(2)ともに賛成あるいは反対しないという意見が大多数で,反対という明示の声はございませんでした。  6についても,賛成という意見が多うございますが,先ほどの中田先生のように,全部取っ払えということまで考えて一部削除に賛成したわけではないと思いますので,全文削除という話が新たに出てくれば,それに賛成が寄せられる可能性もあるように思います。 ○鎌田部会長 よろしいですね。  それでは,次に「7 抗弁の接続」について御審議いただきます。事務当局から説明していただきます。 ○金関係官 御説明します。   「7 抗弁の接続」では,甲-1案として,消費者が,供給契約の相手方である事業者とは異なる事業者との間で,金銭消費貸借契約を締結した場合において,その供給契約と金銭消費貸借契約との間に一体性や密接な関連性が認められ,かつ,供給者と貸主との間に両契約を一体のものとして締結する旨の合意があったときは,抗弁の接続を認めることを提案しています。また,甲-2案として,与信の態様が消費貸借かどうか,与信を受けた者が消費者かどうかにかかわらず,供給契約と与信に係る契約との間に一体性や密接な関連性が認められ,かつ,供給者と与信をした者との間に一体性や密接な関係が認められるときは,抗弁の接続を認めることを提案しています。一方,乙案として,抗弁の接続に関する規定は設けないことを提案しています。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いいたします。 ○佐成委員 それでは,まず私の方から経済界で議論したところを簡潔に申し上げますと,結論的には乙案ということでございます。もとより,ここで問題提起されているマンスリークリア方式といったところまで拡張するかどうかという点について別段異論を持っているわけでは全くないのです。ただ,経済界では,民法というものに,この種の社会政策的な規定を置くことについての深い抵抗感があって,そのような問題については,むしろ割賦販売法などの,消費者法分野で,個別具体的な立法事実を踏まえて,選択可能な対処方法について適切に議論していただいたほうが,より生産的であろうといったことが指摘されています。加えて,こういった一般的な規定によって,他の全く違う別法人に,一体性といった不明確な概念で規制を拡張していくことに伴う実務上の諸々のコストに対する懸念もあります。その意味で,慎重論が強く,経済界としては乙案ということでございます。 ○三上委員 私からも,佐成委員の意見と全く同じ理由で,乙案に賛成したいと思います。割賦販売法は,最近改正になりまして,かなり規制が厳しくなりましたが,非常に慎重な規定といいますか,規制の仕方を行っているところに,いきなり私法の原則である民法でこのような大縄を打つということが果たして妥当なのかどうか。特に「密接な関連性」というのは非常に曖昧な概念ですし,割賦販売法の段階でも,例えば学資ローンとか,一部の商品の取扱いがもうできなくなってしまうという,多少副作用のような面も見えているわけでございますから,そういったものが民法で広がるということは,取引を萎縮させる効果もあるのではないかと危惧する次第でございます。 ○三浦関係官 ここの論点に関する当省の検討状況でございますけれども,やはり反対意見,難しかろうという意見が多いという感触でございます。反対意見の趣旨等は,これまで申し上げたことと重複いたしますので,繰り返しません。 ○中井委員 経済界それぞれお三方から,このような規定については反対だという御意見を頂きましたが,弁護士会の意見は,確かに消費者保護法関係,割賦販売法等で個別に規定していくのが好ましい,したがって乙案とする意見もありましたが,多くは甲案を採用すべきであるという意見です。  まず,信義則の具体化の一つとして重要ではないか。部会資料でも,下級審判例として説明していただいておりますけれども,こういう供給契約と与信契約との間の一体性や,供給者と信用を供与した者との間の一体性を考慮して,信義則に基づく抗弁の接続を認めたものであるとする分析がされている,という指摘になっており,このような事案が現にある,そしてそれが一定程度認められているということは,確かなことだろうと思います。それを民法において,信義則を具体化する形として要件立てをして明文化していくことの意義は少なからずあると考えています。現在,確かに割賦販売法等の法律があるのかもしれませんけれども,現実の問題として聞き及んでいますのは,例えばリース契約などにおいて,供給者とリース業者,与信する側とが実質一体的で,販売業者がリース業者の代理人としてほとんど全ての行為を行っている事案において,抗弁の接続が認められないということであっては困る。現実に被害事例もあると聞いております。そうすると,単に特別法で個別に規定していくだけではなくて,一般民法規定の中にそのような一般的類型に妥当し得る準則を明らかにして規律を及ばせる,正に信義則を具体化する一つの場面として,重要ではないかと考えております。  そういう観点から甲-1案か甲-2案かと考えますと,甲-1案は,消費者,そして消費貸借に限って,一定の要件の下で認めているわけですけれども,民法に入れることを考えた場合に,消費者かつ金銭消費貸借に限るのがいいのかというと,そうではなくて,先ほど申し上げたリースについては,いずれにおいても当たらない。つまり,消費者だけではなくて,中小企業者においてもリース契約を締結していますし,それが常に消費貸借の形で現れるわけでもない。そうだとすると,一般的に発生している事例を,ここは大縄を打つとどなたかが先ほどおっしゃられたのでしたか,むしろ大網を掛ける必要があるのではないか。立替払いにしてもそうですし,リースにしてもそうですし,消費貸借に限らない,消費者に限らないという意味で,一般化するのが好ましいという点から,弁護士会の中で甲案に賛成する者は,その全てが甲-2案です。是非積極的にここは検討を更に進めていただきたいと思います。  そのときの要件立てについては,今お三方から御指摘のあったことは,その懸念としては十分理解できるところです。その懸念を払拭するためには,両者間の契約関係の一体性なり両者間の主体の一体性なりをどのような形で表現していくかということだろうと思いますので,その試みを是非行っていただきたいと思います。 ○岡田委員 割賦販売法の話が出ていますが,消費者契約におきましては,取引に関しても,当事者に関しても,確実に関係が密接としか思えません。そういう意味では,一般の立場からすると,それをどうしてつなげて考えてもらえないのかというのが納得できないというのが一つ。次に割賦販売法で支払停止の抗弁が認められているのですが,これ自体は法律の中に入る前,昭和59年だったと記憶していますが,当時の通産省が標準約款の中でこれを認めさせているのです。そういう経緯があって割賦販売法に支払停止の抗弁が入ったわけですが相談現場では大変機能しています。ただ,下級審はともかく,上のほうの裁判所に行くと,当事者の関係,契約の違い,この辺で受け入れてもらっていないという事実があるものですから,民法の中に契約関係の密接さ,当事者の密接さという部分を是非入れていただかないと,業法ないしは消費者関連法においても効果が制限されてしまうのではないかと思います。 ○内田委員 今,対極的な立場からの御意見を頂きましたけれども,私が個人的にどう考えるかということではなく,甲-1案の基本的な思想を記録に残しておいたほうがいいと思いますので,発言させていただきます。  割賦販売法に抗弁の接続の規定があるわけですけれども,あれは判例によって創設的な規定とされている。しかし,異なった契約の間で抗弁が接続するというのは,契約法の原則からすると極めて異例なことで,そういうことが特別法で認められているわけです。これ自体も異例といわざるを得ません。これに対して,実はこれは,ある種の密接関連性が認められる場面において私法の一般原則として認められるものが割賦販売法において具体化されたと見るべきではないかという考え方がずっと根強くあるわけです。ところが,民法にはそれについての手掛かりが全くありません。むしろ民法からすると,そういうものは認められないと読めるような構造になっている。そこで,私法の一般基本法の中に,そういう原則があるのだということをきちんと書いて,その具体化が割賦販売法であるという位置付けをしてはどうかという発想があるのだと思います。そのために,甲-1案は非常に限定的な書き方になっていますけれども,これは間違いなく認められる場合のコアの部分を原則として書いているということであって,現行法の割賦販売法でカバーしていないところを更に埋めて,抗弁の接続が認められる場面を広げようという政策的な観点から提言されているわけではないと思います。  ですから,その意味では,弁護士会の先生方からは学理的な提案であると批判されてしまうかもしれませんし,正に学理的かもしれませんが,割賦販売法で認められている重要な原則が実は私法上の一般原則なのだ,それが民法の中に書かれているということには十分意味があるというスタンスから,限定的な形で書かれているということではないかと思います。 ○松本委員 私は,7に関しては,甲-1案だけはよくないという今の内田委員と全く逆の考え方でありまして,もし置くのなら甲-2案だし,置かないということもあり得ると思いますが,甲-1案はむしろ逆効果のほうが大きいのではないかと思います。つまり,現在,割賦販売法がその対象をかなり広げている中で,この規定が入ると,割賦販売法の規定は創設的な規定なのだという最高裁の判例をより強固にして,民法自身の発展を狭めてしまうのではないか。割販法を改正しない限り動かないということになりかねない。そういう意味では,仮に割販法が余り発展していなければ,甲-1案というのは意味があったかもしれないけれども,今の段階で甲-1案というのは,むしろマイナスの面のほうが大きいのだろうと思います。  甲-2案は,何人かの方がおっしゃっているように,適切な裁判規範として使える文言が置けるか,置けないかということが鍵になると思います。理念としてはこういうことなんでしょうけれども,どのように限定するかということです。提携契約がある場合といった限定をすればかなりはっきりするのでしょうけれども,逆に,それだと狭過ぎるのではないか。割販法の観点からは,提携契約のある場合に限定していなかったという気がしますから,その辺,特別法が発展している中で,民法としてどのような規定を置くべきかという点についてはなかなか難しいところがあると思います。 ○中田委員 私は,ただいまの松本委員と違って,その前の内田委員のおっしゃった甲-1案にひかれております。ただ,内田委員が,甲-1案は学理的なものだとおっしゃったわけですが,それは確かにそうなんですが,しかし,単に理論から導いたというよりも,昭和59年の法改正以前のものを含めた裁判例から抽出した,信義則の具体化を示しているものだと思います。ですから,学理的であるとともに,実際的でもある,実務的でもあるというものではないかと思います。  他方,松本委員から甲-1案に対しては,割販法が発展しているのをむしろ制約するようなものになるのではないかという御懸念が示されました。ただ,松本委員も,最高裁が創設的な規定であるということを言っていることは前提としておられるわけですけれども,むしろ甲-1案を置くことによって,そこをもう少し緩和できるのではないかと思います。割販法の規律の発展はもちろんそれはそれであっていいわけですけれども,その割販法を支える,あるいは場合によっては補充する,根底にあるような考え方を民法に置くという意味で,甲-1というのは十分意味があるのではないかと思います。 ○中井委員 弁護士会は甲-2案を推すわけですけれども,甲-1案との関係で言うならば,甲-1案は消費者と金銭消費貸借に限っている。これが今までの実務の判例等から形成された結果を学理的に整理されたものだと仮にしたとき,少なくとも消費貸借を典型として,その中に規定する,だから消費貸借を想定した抗弁の接続を認めるという考え方であれば,まだ理解できるのですけれども,この根拠を消費者のみに置くとなると,なぜなのか。仮に甲-1案の修正案として,消費者ではなくて,消費貸借の中で一定の要件の下で抗弁の接続を認める。その一般的規定を置けば,民法の発展としては,消費貸借契約に限らず,立替払いであれ,リースであれ,クレジットであれ,そのように発展可能性の余地を認める規定,これはあり得る。また,類推適用,準用という考え方もできる。でも,ここを消費者に限ってしまうと,これはかなり限定的になるのではないか。そういうことからすると,仮に甲案を採って,信義則の一般化とすれば,抽象化されたものとして,当事者も問わない,契約類型も問わない形で置くことが好ましい。これは抗弁の接続以外にも議論されている,複数の契約行為の無効についても妥当していくと考えているものですから,そういう広い一般的考え方として規定することをまず第一義に置く。それが仮に,今御批判があったように,広過ぎる,問題があるとしたときに,松本委員御指摘の,発展を阻害するといった観点も考えれば,甲-1案を採るとしても消費者は外すという修正案,これは十分考えられるのではないかと思いますので,要件の問題と,対象行為と,更に相関関係的に検討を続けていただければと思います。 ○鎌田部会長 当事者の一体性あるいは密接関連性,あるいは契約相互の一体性・密接関連性という,この要件立てが広過ぎるという御指摘に関しては,何か御提案あるいは積極的反論のようなものがございましたらお出しいただけると,検討を進める上で有益かと思うんですけれども。 ○高須幹事 その趣旨にはならないのかもしれませんが,弁護士会の中の議論で甲-2案について検討したときも,密接な関連性あるいは密接な関係というのが抽象的であるということ自体はもちろん否定はできないわけですけれども,裁判規範としてこのような評価規範というのがいわゆる要件に挙がってくるというケースはままあるわけでございまして,それをできるだけ具体的なものにしていくという努力はもちろん重要だとは思いますけれども,ここでもこのような規範を要件とした上で,それを具体的に支える事実,その評価規範を支える事実を今後の実務の中で積み上げていくということがあり得るのだろうと。法律は作ったら作りっ放しという意味ではなくて,それを今度は実際の訴訟の場において運用していくわけですから,そういう意味での具体化というのは期待できるのではないか。そのように思っておりますので,評価規範としての意義はあると思っており,弁護士会の中でもそのような議論が出たということでございます。 ○岡委員 この具体的な要件について,条文化を念頭に置いて議論を弁護士会でもしているところでございますが,一つの意見として,「両契約の目的」及び「締結過程の牽連性」,こういうキーワードが具体的に出てきました。多分,「両契約の目的」というのは,金銭消費貸借のお金が供給契約の代金にストレートに回ったと,そういう契約の一体性・密接関連性をもっと,両契約の目的が同一であったとしたほうが具体化するのではないかという問題意識だろうと思います。  それから,「締結過程の牽連性」,これは先ほど中井さんが言ったように,金銭消費貸借契約の事務作業を全て供給者に委ねて,供給者がその締結を一切請け負っている,こういう締結過程の具体的な事実に絞り込めるのではないか。今の案だと,両当事者の一体性。両当事者の一体性というのは少し抽象的すぎるので,締結過程で委任関係があるとか,片一方が代理したとか,そのように絞り込んだほうが具体化するのではないか。こういう問題意識から,「両契約の目的」及び「締結過程の牽連性」というキーワードが出てきております。更に具体化して,日弁連の意見になるようでしたら,具体的に提案させていただきたいと思っております。 ○神作幹事 ありがとうございます。若干戻る発言となり恐縮でございますけれども,私は,抗弁の接続に関する規律を設けるのであれば,消費貸借契約に限らないという趣旨が明らかになるような規律を置くことが大切だと考えます。確かに,一方当事者が消費者かどうかという点は,もちろん消費者に限るという考え方は十分あり得ますし,それ事態重要な問題であると思いますけれども,民法の規範として一般原則として入れるかどうかを検討するに値する極めて重要な問題は,契約の類型にかかわらず,信用供与の機能を営む契約については,抗弁の接続が認められることを明らかにすることだと思います。甲-2案のような考え方が,一般民事ルールとして存在するのだということをうたうことが極めて大事であると考えます。その範囲が広過ぎるので絞る必要があるという場合には,「消費者」概念を入れて,例えば消費者と事業者との間のそのような契約類型を超えた信用供与に関わる一体的な契約,その要件についてはまた様々な議論があるところですが,甲-1案と甲-2案の折衷のような考え方も出てき得ると思います。いずれにいたしましても,民法の基本原則として,契約類型を超えて,実質的に信用供与という機能を果たしているものであり,要件は更に詰める余地があるにせよ一体性ないしは密接関連性が認められる契約について抗弁の接続に関する一般的な規律を設けることは,単なる学理的な意義にとどまらず,実践的にも大きな意義も有することであると考えております。 ○松本委員 私が先ほど甲-1案は反対だと言った趣旨は,今,神作幹事がおっしゃったことと全く同じでありまして,金銭消費貸借に限定するということでは,現在の割賦販売法のスパンをかなり狭めることになるわけです。割販法はそもそも立替払いや債権譲渡からスタートして,その後ある時期に金銭消費貸借で,買主が一旦お金を受け取って,買主を通って販売店のほうに支払われる場合にも適用されるということでスパンを広げたわけです。甲-1案だと,割販法がスパンを広げた端っこのところだけをカバーしているということになるので,逆効果ではないかということです。  消費者に限定した上でリースにも広げるということはあり得ると思うのですが,私はそもそも消費者リースなるものはいんちきだと思っておりまして,事業者リースに広げるのならまだ意味があるけれども,消費者リースを民法上明文化しても,何の意味もないと思っています。 ○中井委員 先ほどの私の発言が誤解を生んだのかもしれません。基本的には,最初に申し上げたとおり,甲-2案を支持しているわけです。消費者という限定と消費貸借という限定を考えたときに,まず消費者と限定することについて,理解し難いところがある。つまり,抗弁の接続というのは,情報量格差若しくは交渉力格差を根本的な理由とするのかという点です。それは,契約関係が一体ですから,ユーザーが消費者であれ,中小企業者であれ,はたまた通常の企業であれ,供給契約に問題があって一体性があるならば,そういう与信に対して抗弁が接続できていいのではないか。原則が,なぜ消費者に限られるのか,その理由との関係で理解できないところがあるので,少なくともそこは広げるべきたと。その上で,全ての契約類型に適用される原則を表明するに越したことはないのですが,少なくとも仮に,ここでは余り承認を得られなかった,一部の方の承認は得られたのかもしれませんけれども,消費貸借については間違いなく核心的部分として言えるというのであれば,まずそこに設けておくことの意義はあるだろう。その拡張というのはそれほど問題が少ないのではないかと思ったものですから,蛇足かもしれませんけれども,補足しておきます。 ○鎌田部会長 おおむね意見は出尽くしたのではないかと思いますので,本日の審議はこの程度にさせていただければと思います。よろしいでしょうか。  ありがとうございます。  分科会についてですけれども,本日の審議において,分科会で補充的に審議することとされた論点がありましたが,これらにつきましては第2分科会で審議していただくことといたします。松岡分科会長を始め,関係の委員・幹事の皆様にはよろしくお願いいたします。  最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 この部会の次回会議は,8月28日火曜日午後1時から午後6時まで,場所は法務省17階の高検第2会議室になります。次回会議では,新たな部会資料を事前に送付させていただきます。対象範囲は,使用貸借,賃貸借,請負,委任などを予定しております。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 以上でよろしいですか。  それでは,本日の審議はこれで終了といたします。  本日も長時間にわたり熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-