法制審議会民法(債権関係)部会           第55回会議 議事録 第1 日 時  平成24年8月28日(火) 自 午後1時00分                       至 午後6時02分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 定刻となりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第55回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として部会資料45と46をお届けしております。これらの資料の内容は,後ほど関係官の金と笹井から順次,御説明いたします。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料45及び46について御審議いただく予定です。具体的な進め方といたしましては,休憩前までに部会資料45の「第1 賃貸借」の「9 賃借権の譲渡及び転貸」までについて御審議いただき,午後3時25分頃を目途に適宜,休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料45の残りの部分と部会資料46について御審議いただきたいと考えています。大変内容が大部でございますので,円滑な審議に御協力を頂ければと希望する次第です。   まず,部会資料45の「第1 賃貸借」のうち,「1 短期賃貸借に関する規定の見直し」と「2 賃貸借の存続期間」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「第1 賃貸借」の「1 短期賃貸借に関する規定の見直し」の第1パラグラフでは,民法第602条の「処分につき行為能力の制限を受けた者」という文言を削除することを提案しています。また,第2パラグラフでは,民法第602条所定の期間を超えて締結された賃貸借は,当該期間を超える部分のみが無効となる旨の規定を設けることを提案しています。   「2 賃貸借の存続期間」では,賃貸借の存続期間の上限を20年とする民法第604条の規定を削除するとする甲案と,維持するとする乙案を提案しています。 ○鎌田部会長 ただいま御説明がありました部分につきまして,一括して御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○三浦関係官 私からは4ページの「賃貸借の存続期間」について申し上げたいと思います。賃貸借の存続期間につきましては,甲案の方向で検討するのが望ましいかと考えております。例えば電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法に基づく固定価格買取制度,これはエネルギーの分野で今年7月から始まった制度でございますけれども,そういった制度でも電力会社へ20年間,電力を提供することが前提となっております。賃貸借の上限が20年となる場合,設備の敷設,撤去等の時間を考慮すると実際にはそれよりも短期となること,契約の継続も保証されないこと,などを考えると,事業に支障を来す可能性があると思われます。したがいまして,甲案の方向で検討したほうが良いと考えます。 ○岡委員 では,まず,今の「存続期間」のところについては,弁護士会の意見は分かれております。どちらかといえば甲案が多いですが,部会資料にも書いてあるような理由で乙案でもよいのではないかという意見もかなりございました。その議論の中で不確定期限を定めれば,20年を超える契約も有効になるのかならないのか,当該目的物の使用完了まで,目的達成までと書けば20年を超えてもいいんだという説と,それは無理だろうという説が分かれて,その解釈によっても結論は変わってくるのかもしれませんが,そういう議論が出たことを御紹介したいと思います。   それから,1番の「短期賃貸借」の②のほうですが,①についてはいずれも賛成でございます。②については基本的には賛成なんですが,福岡弁護士会から相続財産管理人の本人のことを考えれば一部無効でよいと思うけれども,相手方のことを考えた場合に,相手方は10年と言ったから契約をしたんだと,この一部無効説で3年なら3年にとどめられたら,相手方としてはそんなのは嫌だという場合もあるので,そういう場合に支障にならないような規定の仕方にするべきだと,そのためにどうしたらいいかというのは少し分かりにくいのですが,相手方のことを考えれば,一律,一部無効も少しまずいのではないかという意見が出たことを御紹介申し上げます。 ○山野目幹事 第1の1の論点の前段,は賛成でございます。後段についてでございますが,現行602条2号との関係で少し心配な部分があります。建物所有目的の土地の賃借権の設定がされたときに,原則として30年であると定めている借地借家法の3条及び関連して9条との関係がなお解釈に委ねられていると考える余地が,仮に後段の規定が置かれた場合でもあるということは,一つの留保として申し上げさせていただきたいと感じます。不動産の法制の観点からいえば,建物所有目的の賃借権が,当事者がもっと長い期間を想定して設定したにもかかわらず,5年を限度とする範囲でのみ有効とされるという帰結が本当に自然で,適切なものであると評価することができるかということについては,なお,心配が残るということを申し上げておきたいと考えます。   それから,4ページの2の論点でございますけれども,部会資料のほうで検討いただいたところは理解しますけれども,なお,永小作権や地上権との役割分担を見通しのある整ったものとする配慮も踏まえつつ,この種の問題を考えていくという見地からいえば,直ちに甲案を採用するということについて,なお,少し危惧が残るということも申し上げておきたいと考えます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。今の山野目幹事の2点の御心配の部分については,必ずしも具体的にこうしたほうがよいというふうな積極提案は出されないということでしょうか。 ○山野目幹事 1ページのほうにつきましては,後段の規定を置いたとしても借地借家法3条及び9条との関係では,なお,解釈上,いろいろな考え方が成り立つという議論を続けさせていただくという見通しがあるならば,この文言の規定を置くということについて反対であると申し上げるつもりはございません。   2の論点のほうは,少し回りくどい申し上げ方をしましたが,部会長から念を押されましたから申し上げますと,私は乙案がよろしいと考えます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○佐成委員 2のところの経済界の議論状況について報告いたします。基本的には甲案を支持したいということでございます。乙案でも実質上,それほど不都合は生じない可能性はあるのですが,そうはいっても,上限を削除していただいたほうが実務上はやりやすいだろうという意見が強いということでございます。 ○中井委員 弁護士会の意見は岡委員から申し上げたとおり,甲案が優勢ですけれども,乙案がなお残る。その理由は補足説明にも指摘されていることからですが,山野目幹事からなお乙案を支持する意見が出ました。ここでは二者択一的な提案になっているんですが,借地権の存続期間であれば30年,農地又は採草牧草地の賃貸借の存続期間については,特例として50年という期間の定めがある。先ほど三浦関係官からは,20年は電力設備などの耐用年数から考えて短か過ぎる。   こういう御指摘を考えていくと二者択一なのか,仮にこれを50年とすれば,農地,牧草地に関する特例は要らなくなるわけですけれども,50年とすることも考え得るのではないか。つまり,無制限というのが所有権との関係であったり,その必要性であったり,なお,疑義があって,一定期間に制限するという考え方も支持されるとすれば,そのような選択肢も全くないのか。それを当初から排除する理由は特段,補足説明に記載がないので,今の御議論を聞いて,そのように感じた次第です。つまり,他の選択として,期間を長くするという案はないのかと,指摘だけさせていただきます。 ○鎌田部会長 ほかに関連した御発言はございますでしょうか。それでは,ただいま頂戴した意見を踏まえて,更に検討を続けさせていただきます。   続きまして,「3 不動産の賃借人と第三者との関係」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「3 不動産の賃借人と第三者との関係」の「(1)目的不動産について物権を取得した者その他の第三者との関係」の「ア 賃借権の対抗の可否」では,不動産の賃借人は,賃貸借の登記をしたときは,当該不動産について物権を取得した者その他の第三者に対し,自己の賃借権を対抗することができる旨の規定を設けることを提案しています。また,ブラケットで,借地借家法その他の法律が定める賃貸借の対抗要件を具備したときも同様とする旨を示しています。   「イ 目的不動産について所有権を譲り受けた者が賃借権の対抗を受ける場合の規律」の「(ア)賃貸借契約の当然承継」では,目的不動産の譲受人が賃借権の対抗を受ける場合の規律について,①として,旧所有者と賃借人との間の賃貸借契約が新所有者に当然に承継されること,②として,新所有者が賃貸人たる地位の承継を賃借人に主張するためには,所有権移転登記を備える必要があること,③として,賃借人が目的不動産の譲渡の事実を知らずに旧所有者に賃料を支払ったときは,その支払を新所有者に対抗することができること,④として,賃借人が必要費を支出した後に目的不動産が譲渡されて賃貸人たる地位が新所有者に当然に承継された場合には,必要費の償還義務も新所有者に当然に承継されることをそれぞれ定める規定を設けることを提案しています。   「(イ)賃貸借契約を承継させない旨の合意」では,目的不動産の譲受人が賃借権の対抗を受ける場合において,旧所有者と新所有者との間に賃貸借契約を新所有者に承継させない旨の合意があるときの規律について,甲案として,新所有者と旧所有者との間の利用契約が事後的に解消された場合でも新所有者は賃借人に当該利用契約の解消を主張しないという合意が併せてされているときは,賃貸借契約は新所有者に承継されないとする案,乙案として,規定を設けないとする案をそれぞれ示しています。   「(ウ)敷金返還債務の当然承継」のaでは,目的不動産の譲受人が賃貸借契約を当然に承継した場合には,旧所有者の敷金返還債務も新所有者に当然に承継される旨の規定を設けることを提案しています。また,bでは,敷金返還債務が新所有者に当然に承継された場合における旧所有者の責任について,甲案として,旧所有者は敷金返還債務の履行を担保する義務を負うとする案,乙案として,規定を設けないとする案をそれぞれ示しています。   「ウ 合意による賃貸借契約等の承継」では,目的不動産の譲受人が賃借権の対抗を受けない場合であっても,旧所有者と新所有者は,賃借人の承諾を要しないで,賃貸人たる地位を新所有者に承継させることができる旨の規定を設けることを提案しています。また,その場合には,賃貸借契約の当然承継に関するイ(ア)や,敷金返還債務の当然承継に関するイ(ウ)と同様の規律が及ぶ旨の規定を併せて設けることを提案しています。   「(2)不動産賃借権に基づく妨害排除等請求権」では,不動産の賃借人は,賃貸借の対抗要件を具備した場合には,賃借権に基づく妨害排除請求権や返還請求権を行使することができる旨の規定を設けることを提案しています。   以上の論点のうち,(1)イの「(イ)賃貸借契約を承継させない旨の合意」については,仮に甲案を採るとした場合の具体的な規定の在り方等につき,また,「(ウ)敷金返還債務の当然承継」については,特にbの甲・乙両案の具体的な問題点等につき,それぞれ分科会で補充的に検討することが考えられますので,これらの論点を分科会で検討することの可否についても御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分のうち,まず,「(1)目的不動産について物権を所得した者その他の第三者との関係」の「イ 目的不動産について所有権を譲り受けた者が賃借権の対抗を受ける場合の規律」「(イ)賃貸借契約を承継させない旨の合意」までについて御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。   (1)「ア 賃借権の対抗の可否」については,賃借権を対抗することができるという,こういう規定にするということですけれども,特に御異論はないということでよいでしょうか。 ○山本(敬)幹事 この点については以前から,現行の605条の定め方,つまり,「その後その不動産について物権を取得した者に対しても,その効力を生ずる」と定めることには,理論的にも意味があるということを申し上げてきました。これに対して,部会資料の補足説明の中で,特に所有権以外の物権,例えば地上権や抵当権等が出てくる場合については,「対抗」という意味になるとされているのは,そのとおりかもしれないと思いますし,次の(1)のイのところで,不動産所有者との関係では「当然に賃貸借関係が生ずる」という独立の規定を設けるのであれば,それが元々の民法605条の意味を受け継いだ規定になりますので,それであれば支持できそうにも思います。   ただ,その上で,なお分からないところが残る点を少しお聞きできればと思います。といいますのは,アの規定で「対抗することができる」という規定を置き,次のイで所有者に対しては「当然に賃貸借関係が生ずる」という規定を置いたときに,両者の関係はどうなるのか。つまり,所有者に対して「対抗することができる」ということの意味は,正しく所有者に対しては賃貸借の効力が生ずるということではないのか。そうすると,両者は重なることになりはしないかということです。   これが地上権等ですと,所有者に対して地上権を「対抗することができる」としてよいわけですけれども,賃貸借の場合は,物権ではなく飽くまでも債権だという前提を採りますと,所有者に対して「対抗することができる」というのは,所有者との間で賃貸借関係があることを意味しますので,両者の間に恐らく区別はないのではないかと思います。そうしますと,仮に二つ規定を置くとするならば,「対抗する」というほうでは所有権を取得した者を外す必要はないか,この点についてはどう考えればよいかという点をお聞かせいただければと思います。 ○金関係官 今の山本敬三幹事の問題意識は私も共有しておりますが,ただ,一応の説明をいたしますと,旧所有者が新所有者に賃貸物件を譲渡した場合に,賃借人が自己の賃借権を新所有者に対抗することができるというのは,飽くまで,旧所有者と賃借人との間の賃貸借契約が賃貸物件の譲渡によっては破られないといいますか,旧所有者と賃借人との間の賃貸借契約がなお存続するという主張を新所有者に対してすることができるということではないかと考えております。そのように旧所有者と賃借人との間の賃貸借契約を新所有者に対抗することができることを前提とした上で,次の問題として,旧所有者と賃借人との間の賃貸借契約はそのまま残るのか,それとも新所有者に移るのかという問題が出てくるという理解をしています。以上を前提に,今回の提案では,新所有者に当然に移る,当然に承継されるという選択をしたと説明することになると考えております。 ○山本(敬)幹事 少なくとも「対抗する」の要件と,賃貸借の「効力を生ずる」ないしは「賃貸借関係が当然に生じる」ということの要件が全く同じである場合は,賃貸借の「効力を生じる」ないしは「賃貸借関係が当然に生じる」という規定さえあれば,それで問題は解決できると思います。おっしゃっていることが意味を持つとすると,旧所有者との間の賃貸借関係は残ったままで当然に承継されないけれども,返還請求に対してはその旧所有者との関係で有している賃借権が占有権原になるという場合だろうと思います。そのような場合を残すのであれば,両者の規定を定める意味があると思うのですが,残さないのに,あえて二つ規定を置くとすると,混乱を生ずるのではないかという思いを禁じ得ないとだけ申し上げておきます。 ○道垣内幹事 それは残しているのではないかという気がします。と申しますのは,11ページの(イ)なのですが,結局,賃貸借契約を承継させないで,旧所有者との間の賃借権を主張とするということを場合によっては認めるということなのだろうと思います。ただ,そのような理解の下,金関係官がおっしゃったような形で整理をすると,なぜ(イ)において,甲案で,「事後的に解消された場合であっても新所有者は賃借人に当該利用契約の解消を主張しない旨の合意があるとき」というのが要件になるのかが分からないのです。と申しますのは,この場合には,借主は旧所有者との間の賃貸借契約に基づく賃借権を占有権原として,新所有者に対して主張していける地位にあるわけですから,新所有者と旧所有者との間の利用契約が解消されても影響を受けないのではないか。それが金関係官の先ほどおっしゃったところ,つまり二つに分けて考えるということの理論的な帰結になるのではないかという気が私にはどうもいたしまして,ここら辺に若干立場が揺れているような気が私にはするのですが,私の誤解かもしれません。 ○金関係官 ありがとうございます。今の御指摘に関してですけれども,賃借人が自己の賃借権を新所有者に対抗することができるというのは飽くまで旧所有者と賃借人との間の賃貸借契約が賃貸物件の譲渡によっては破られないことを主張することなので当然承継の問題とは区別されるという説明を先ほどいたしましたが,ただ,そのように二つの問題を分けるとしても,山本敬三幹事がおっしゃったように,結局は,対抗の可否に関する規定と当然承継に関する規定とは同時に適用されて,賃貸借契約は当然に承継されるという理解をしております。賃借人が旧所有者との間の賃貸借契約を新所有者に対抗することができるだけだとした場合には,新所有者が例えば賃貸借で言いますと原賃貸人の地位,旧所有者が転貸人の地位,元の賃借人が転借人の地位になるのだろうと思いますが,そうすると,親亀である原賃貸借がこければ小亀である転貸借もこけるということになって,元の賃借人としては,自己の賃借権を新所有者に対抗することができたとしても,親亀がこければ小亀がこけるという不利益を受けてしまうことになるのだと理解しています。つまり,賃借人が自己の賃借権を新所有者に対抗することができるということの意味は,親亀がこけても小亀はこけないとの主張ができるというところまでは含まないという理解をしております。ですので,結局は,賃借人にとっては,賃貸人たる地位が新所有者に当然に承継されるほうが有利で,当然承継されないことを新所有者と旧所有者が望むのであれば,部会資料45の11ページの(イ)の甲案のような要件を満たした場合にのみ,当然承継されずに賃貸人たる地位を留保することができるという理解をしております。 ○沖野幹事 賃借権の対抗と賃貸人たる地位の承継という関係についてなんですけれども,山本幹事の御指摘にもかかわらずといいますか,私は次のようなことではないかと理解しておりまして,賃借権というのが一体何であるのかという問題があるかと思うんですけれども,基本的には使用収益あるいは占有であるということになりますと,使用収益できるなり,少なくとも占有,その権限については新しい所有者に主張することができると。   しかし,賃貸借契約における賃貸人たる地位,例えば賃料の取得ですとか,そういうものも含めた契約上の地位は一体どうなるのかという問題について,賃貸人たる地位が承継されるというのが,イのほうで明らかにされているということではないかと思われまして,確かに賃借権を対抗することができるというときに,両者を分断するというのが基本的に考えられないというのはそのとおりであって,結局のところ,アからイが導かれてくるのではないかというのはそのとおりだと思うんですけれども,両者があることが不当な重複であるのかというのは,必ずしもそうではないように思われまして,対抗ができるけれども,承継はしないという場合があり得るというのが(イ)の話ですけれども,それ以外にもイにつきまして,賃貸借契約を新所有者に承継させない旨を旧所有者と新所有者の間で行うということですが,三者間で行うということも考えられ,それは転貸借という形にしましょうというような形も恐らくは考えられるでしょうし,あるいは二者間の合意でそれにプラス同意というような形でも考えられるとしますと,対抗できるという場合と承継がどうなるかというのがずれてくる場面というのは,(イ)についていずれの案を採るかにかかわらず,生じてくることではないかと思われるのです。ですので,あえてアのところから所有者を抜くという必要はないように思われるのですけれども,いかがでしょうか。 ○山本(敬)幹事 これは物権と債権に関わる問題でして,余り厳密な議論をここですべきかどうか,分からないところがありますが,賃借権を物権のアナロジーで捉えると,今,おっしゃったようなことになるのだろうと思います。そのような方向に変えるのであれば,それは一つの案だろうと思います。  しかし,現在の民法が前提としているのは,賃借権は債権である,つまり,賃借人が占有権原を持つことが何に由来するかというと,契約をした以上,賃貸人は賃借人に対して目的物を使用収益させる債務を負うというところにあると思います。逆に言うと,賃借人は賃貸人に対して目的物を使用収益させろと求める権利がある。そのような権利がある以上,賃貸人が使用収益をさせないような行為をしたときには,賃借人は,そのようなことをするな,つまり目的物を使用収益するのを邪魔するな,忍容せよと言える権利がある。これが恐らく占有権原なのだろうと思います。このような,契約に基づいて賃借人が賃貸人に対して目的物の占有を妨げるなと求める権利が,ここで言う占有権原ではないかと思います。   これが物権ですと,賃貸人に対してではなく,万人に対して使用収益ないしは占有するのを妨げるなと求めることができます。ですので,賃借権の場合には,所有者に対して占有を妨げるなと求める権利があるというためには,賃貸借契約ないしは賃貸借関係が所有者との間であることが必要になると思います。その意味で,イの「賃貸借関係が生じる」という規定を抜きに,純粋に所有者との間で「対抗」が問題になることはないのではないかと思います。そのようなことを認めるならば,それは賃借権を物権のアナロジーで捉えていることを意味すると思います。それで,先ほどのような発言をした次第です。 ○沖野幹事 ここで詳細を論じるべきかどうか,余り望ましくないのかもしれませんが,念のためですが,今,使用収益のほうについてだけおっしゃったんですが,賃料についても当然,アからその関係は出てくると,そういう御理解なんでしょうか。 ○山本(敬)幹事 私の場合はイが中心になっていますので,イを抜きにしてアは少なくとも所有者との関係では成り立たないということではないかと思います。少なくとも現在の605条はそうなっているのであり,そして,それを変えるべきではないのではないかと御理解いただければと思います。 ○沖野幹事 私はむしろ,そうは理解しておらず,むしろ,対抗ができるというような関係にあるということから,契約関係がどうなるかという問題が出てくるものだと理解しておりまして,対抗できないということであれば,承継ももちろんないと,そういう論理構造ではないかと理解しておりました。ただ,あるいはその概念も含めてむしろ分科会で詰めていただくべきものなのかもしれません。それから,いずれかで結論には余り影響がないのかなとも思います。 ○松岡委員 今のお二人の意見の中では,私の理解はどちらかというと沖野幹事の御意見に近いです。山本敬三幹事のおっしゃることも理解はできますが,賃貸借契約が所有者との間で成り立たないと対抗の問題にならないかというと,そうではないと思います。先ほど金関係官がおっしゃったように,賃貸借契約の貸主の所有権が移転されたけれども,原賃貸借契約が転貸借関係として残るというような場合もあり得るところですから,二つが必ず一緒になって承継の問題に解消されることにはならず,アとイの両方があったほうがいいと思います。 ○筒井幹事 ただいまの議論は大変重要なものであったと思いますけれども,しかし,その議論に決着をつけなければ規定を設けることができないのかというと,必ずしもそうではないように思います。と申しますのは,最初に山本敬三幹事から御指摘がありましたように,賃借権については,抵当権との優劣という問題が現実にしばしば問題となっており,それにもかかわらず,現在はそれに関する明確な規定が存在しないわけですから,少なくともこの点において,対抗に関する規定を設ける必要性があるのではないかと思います。   その規定を設ける際に,対抗することができるという文言から契約関係の承継まで読み込めると理解するのか,契約関係の承継については別の規定で明確にしておく必要があると考えるのかは,別の問題としてあり得て,その両者の関係について理論的に一定の立場を採らなければその二つの規定を置くのは問題があるということには,必ずしもならないのではないかという印象を私は持っております。 ○松岡委員 今の筒井幹事のおっしゃることは正にそのとおりではあるのですが,先ほどの山本敬三幹事の御提案は,徹底すれば所有者であるかどうかを対抗の規律から外すというところまで含むとも考えられますので,そうなっては困るというのが先ほどの私の意見の趣旨です。 ○筒井幹事 その御意見があることはよく理解いたします。ただ,所有権を除外するとなると,地上権はどうなるのかという問題もあります。正確に規定しようとすると,地上権者が賃貸をするケースなど,具体的に詰めなければいけない問題が更に出てくるような気がいたします。そういった細目を飲み込んで規定を設けるという選択肢は,なおあり得るのではないかと思います。 ○松本委員 私も,対抗の問題と契約関係の承継の問題は別だという何人かの委員,幹事の方の考え方に賛成といいますか,そう従来,考えてきたということを申し上げます。   (イ)の議論にも入っていいんですか。11ページの議論に入っているんですか。今のアの議論とイの(ア)の議論は,結局,(イ)の議論で一番はっきりと出てくるわけだと思います。(イ)の何か新たな利用関係の設定を擬制するというところに私は引っ掛かりがありまして,なぜこんな擬制をしなければならないのかということです。例えば他人物の賃貸借を考える場合に,そういう所有者と賃借人との間の利用関係なんていうことを従来,議論していたのかということです。代理人が代理人として賃貸借契約を締結するというのは普通にあります。他人のものを自己のものと偽って契約をするというのもあります。そうではなくて,他人のものを他人のものだけれども,自己の名前で契約するということもあるんだと思うんです。   そうしますと,契約関係が誰に帰属しているかという話と当該目的物の所有者が誰であるかという話は一致する必要はないわけです。契約の効果の帰属は契約上の請求を誰に対してできるかという話に限定されるわけですから,他人物を貸す場合に利用関係があらかじめ設定されているから,賃借人は本来の所有者に対してどうこうだということをあえて言う必要があるのかと。授権の議論が結局,曖昧なまま終わっていますが,これを授権の問題と考えれば,そのような利用関係がどうのこうのと言わなくても契約は有効であって,当該目的物を使用収益することは正当な権限に基づくものだということが言えると思うんです。   そうすると,ここで所有権が移転したんだけれども,契約上の地位を留保するというのは,他人物賃貸借を事後的に作り出すようなものであるから,あえて利用関係を考えて,そこで転貸借類似という,元々の所有者を何らかの形で,契約上の地位につけなければならないというほどのことはないのではないかと思うんです。 ○金関係官 今の御指摘についてですけれども,部会資料45の11ページの(イ)の甲案の利用契約というのは,擬制するというより,むしろ,旧所有者から新所有者に賃貸物件を譲渡するにもかかわらず賃貸人たる地位を旧所有者に留保する旨の合意をするという場合には,旧所有者と新所有者との間に,黙示的にせよ,何らかの利用契約があるはずであるという理解に基づくものです。その場合に,利用契約と言ってしまうと,賃貸借契約などがすぐに浮かんできますが,必ずしも常に賃貸借だという趣旨ではなくて,要するには,旧所有者が新所有者の不動産を引き続き元の賃借人に賃貸することのできる権限のことを指す趣旨です。松本委員が先ほどおっしゃった授権で言えば,新所有者が旧所有者に対して授権をするということは,そこに,賃貸人たる地位の留保合意以外の何らかの合意があるはずであるという理解を前提としております。 ○松本委員 利用契約という言葉を使わないのであれば了解できます。当然,何らかの合意があるから,そういう地位を留保するのだと思いますし,恐らく現実の賃貸借契約でも不動産の管理業者が賃貸借契約上の地位を占めているようなこと,明確な転貸借ではない形で,管理業者が賃貸人として名前を出しているということも多分あると思うので,そういう賃貸借契約上の地位を管理する契約のようなものを考えればいいのだろうし,こういう合意をする以上は,それは当然あるのだと思います。 ○道垣内幹事 私の立場というのは実はありませんが,11ページについて,仮に賃借権を新所有者に対抗するのならば,(イ)においての甲案で特段の限定は不要なのではないかと言っただけです。仮にそういう限定が必要である,つまり,飽くまで新所有者からの利用権限の付与であり,新所有者と旧所有者の関係,旧所有者と賃借人との関係が親亀小亀になっているというのであれば,私は,山本敬三幹事がおっしゃっているところのほうが論理的には正確なのではないかと思います。   ただ,どちらの立場に立つにせよ,ここの(イ)のところを「利用契約」と言葉で曖昧にするということの意味が私はよく分からなくて,これは賃貸借契約ではないのだと考えますと,新所有者が更に第三者に目的物の所有権を譲渡した場合には,旧所有者の賃借権はもはや当該第三者に対抗できないということになりませんか。それが対抗できるというためには,新所有者と旧所有者との間の契約は賃貸借契約であると言わなければならないという気がいたします。「利用契約」と少し曖昧に書けば,何とかなるのではないかという論理は結構怪しいのではないかという気がいたします。 ○鎌田部会長 議論は錯綜してきているような気もしますけれども,(1)のアにつきましては最初に御説明がありましたように,賃貸目的物の権原が譲渡されたときの譲受人に対する賃借権の対抗の可否の問題と,賃貸借契約締結後に地上権,抵当権その他の権利の設定が行われた場合の優劣の問題と両方をカバーする規定となっているんですけれども,前者と後者は若干論理構造が違う。前者について私は個人的には山本敬三幹事のような考え方を採っているので,そうなると,イの(ア)の①は同じことを言っているという関係に立ちます。同じことを詳しく言うことに弊害はないわけですけれども,アの中に二つの態様があるということについては,ある程度,意識をしておいたほうがいいという気がします。   それから,当然承継と対抗との関係については,実は沖野幹事の説明と金関係官の説明が違っていて,金関係官は契約の対抗という表現をして,沖野幹事は賃借権の対抗と言っていて,賃借権対抗型で考えればまだ話がつくけれども,契約の対抗というのはかなり無理のある部分があって,それは今の(イ)にも連動して,これは債権的関係が連続していないと,新所有者からの明渡請求に対する抗弁が立たないというふうな考え方があるから,(イ)で二段の契約関係を求めているのではないかと感じています。その点は道垣内幹事が言うように賃借権が対抗できるのなら違う形になるのではないかという御議論とも関連するのかなという気はいたします。   その辺は,整理して議論していくようにしましょう。中身的には結論はそれほど変わらないのかもしれないですが,(イ)のほうで甲案の法律関係をどうするかという御指摘が道垣内幹事からありましたし,賃借人の関与なしに権利関係が変わるということが,本当にそれでいいのかなというのも私は個人的には気になっているところなので,その辺,分科会マターとする提案もありますので,少し分科会で詰めていただければと思いますが,そういうことでよろしいでしょうか。 ○中井委員 (イ)の議論に進んでいるようなので,その点,弁護士会として積極的に甲案を支持する意見は少ない。乙案ないし甲案の修正案という意見が多く出ています。といいますのは,甲案は賃貸借契約を新所有者に承継させない旨の合意,プラス,次の合意が分かりにくいんですが,利用契約が解消した場合であっても解消を主張しない旨の合意,この二段階合意になっていますが,後段の合意について疑問を呈する意見がありました。これに代えて,一旦,新所有者に承継されない合意があって,そのとおりになったとしても,その後,旧所有者と新所有者との間の何らかの利用関係若しくは授権,それが賃貸借契約かもしれませんけれども,それが解消した場合には,直接,新所有者と賃借人との間での契約関係の成立に当然に戻る。こういう考え方が採れないのか。   つまり,旧と新との間の利用契約が解消された後,賃借人は旧所有者に対する賃貸借契約たる賃借人の地位を新所有者に主張できるという構成になるのだろうと思いますけれども,端的に法律関係を新所有者との間で認めたほうがすっきりしないのかという甲案の修正案が出ておりました。甲案については,この合意が仮に不履行になって主張したとき,主張しても恐らく主張できないという結論を採るのが甲案の趣旨かとは思いますけれども,そういう債権的合意に違反した行動がとられたときの帰結についても,見えないところがありますねという意見もありました。 ○松本委員 今の中井委員の御発言との関係なんですが,代理人が賃貸借契約を締結した場合に,後で元々有効に授与した代理権を遡って剥奪するから,賃貸借契約は無効になるなんていう議論は,普通はしないですよね。一旦,有効な代理権の下に設定された賃貸借契約は有効だと。では,授権だったらどうなのかと。   他人物を賃貸するという権限を有効に与えた。そして,賃貸借契約が締結された。その後,本人が被授権者に対して,あのときの授権を任意に撤回すると宣言した場合に,遡って賃貸借契約の効力がなくなってしまうのかというと,恐らく代理とのアナロジーからいったら,そんなことはないわけでしょうから,11ページの甲案というものを授権的構成で採る限りは,こんな規定は多分必要がないということになるわけです。利用関係というものを賃貸借契約であって転貸借なんだ,親亀小亀なんだと考えない限り,こういう規定が必要だという議論には多分ならないのだろうと思います。ここは結局,所有権は移転したけれども,契約上の地位を従来の所有者,元の賃貸人のところに残すということは,一体,どういう意味を持っているのかというところをきちんと議論した上で,このような規定をおく必要であるのかどうかを議論する。取りあえずは,このような規定は置かなくたって理論的に十分対応できるのではないかなと思います。   それと,以前,債権譲渡のところで何か似たような議論をしたような気がします。債権は譲渡されたけれども,債権者の地位は譲渡人に留保するという特約付き債権譲渡のニーズが大変高いのだから,譲渡人による債務者への通知という対抗要件を取得しない限り,債務者は新債権者,譲受人に対して弁済できないという規定を置くべきだという議論が債権譲渡のところでありまして,そこの議論と今の議論は非常にパラレルな気がいたしますから,議論するなら併せて議論すればよいのではないかと思います。 ○深山幹事 イの(イ)の「賃貸借契約を承継させない旨の合意」に関する規律については,まず,その前の(ア)のところで賃借不動産が譲渡された場合に,原則,当然承継という考え方を採るということを前提に,しかし,そういう意味では例外的に譲渡当事者間で賃貸借契約を承継させないという旨の合意が特になされた場合には,その効力を一定限度で認めるという立場を採るということが議論の前提になっているんだと思います。一切,こういう合意は認めないんだという立場を採れば,議論はそれで終わってしまうわけですから,一定限度で合意の効力を認めるという前提に立って,(イ)の甲案は平成11年の判例を意識して,特段の事情の中身を明らかにしようという観点から,単に承継させない旨の合意だけではなくて,プラスアルファの合意を具体的に明らかにしようという思考過程をたどっていると思います。   しかし,承継させない合意があるときというのは,承継させないという合意の中に,旧所有者が賃貸人としての地位を持ち続けるといいますか,少なくとも賃借人との間で賃料を収受するなど,賃貸人たる地位を行使して使用収益させる地位を容認するという意味合いが含まれているはずだと言えます。それをあえて何らかの利用契約と擬制して,プラスアルファの合意と見る必要はないのではないかと思うんです。承継させない旨の合意という合意の中に,当然に旧所有者と賃借人との間の契約関係をそのまま容認しますよという合意は裏表一体のものとして含まれているのであって,同じことを両側から言っているだけであろうと思います。そういう意味でプラスアルファの合意の部分は不要ではないかと思います。   ただ,当然承継の例外が当事者間の合意によって有効に成り立つんだということを規律として明らかにする意味は,大いにあるだろうという気がいたします。将来,甲案のいう利用契約がなくなった場合を想定すると,それは,すなわち,譲渡時には賃貸借関係を承継させないということを合意したものの,その後,承継させることにしようという新たな合意といいますか,承継させない旨の合意の解消をしようということになった場合ということで,その場合に遡及させる必要は全くないと思いますが,将来に向かって承継させる旨の合意を解消した時点以降は承継すると,当然承継の原則に戻ると考えればよろしいという気がします。ここでは当然承継の例外が合意によって成り立つということを明らかにすれば,それで足りるし,それ以上のことを書くと,かえって法律関係が分かりにくくなるのではないかという気がいたします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   松本委員のお話との関係では,授権や代理と違うのは,これは元々対抗できるものを違う法律関係にしていいかどうかで,結果的には譲渡当事者の合意によって,本来,対抗できる権利を奪う,あるいは縮小してはいけないという原則を作りたいということなんだと思います。そういう意味では,先ほど賃借人の関与がなくていいのかという疑問があると言いましたけれども,賃借人の関与がないから,こういう原則が必要だという話なんだろうと思うので訂正をさせていただきますが,授権とのアナロジーは,ここでは役に立たないような気がします。元々あったものを後から変えられるかの話ですから。 ○松本委員 私が言いたいのは,どういうニーズのためにこういう特約がされるのだろうかということです。それで,先ほど債権譲渡との対比も出したわけですが,債権を譲渡したんだけれども,従来の債権者に債権の収受等の管理はさせておくというのが債権の流動化,担保として取る場合には便利だから,そうしているわけです。賃貸借契約で物件の所有権は移転するんだけれども,従来の賃貸人に契約上の地位を残して,賃借人の管理をさせる,賃料収受等をさせる,修理等の事務を担わせることの背景には,多分,債権譲渡の場合と似たような,流動化のニーズだとかがあるからだろうと思います。   私の記憶だと,確か最高裁判決は信託絡みのケースだったと思いまして,その辺のニーズがあるケースだったと思います。つまり,債権管理・契約管理を従来の債権者,契約当事者にさせることに意味があるようなタイプの取引が行われているから,こういう規定の必要が出てくるわけです。もし,必要がなくなったのであればどうすればいいかというと,契約管理委託契約を解消すれば元に戻るわけですから,所有者であるところの,そしてデフォルトルールからいけば契約上の地位が移転するとされているところの新所有者が,特約によって管理の部分だけを委託していたのを,管理委託契約を解約して,本来の自分が管理するというところに戻るだけの話になるのではないですかということです。 ○鎌田部会長 その場合は,賃貸借関係は新所有者との間に移転していて,管理契約だけが残っているという,そういう法律関係。これは賃貸借関係がそのまま残るとした法律構成ですから,法律構成も何通りかあり得るということを前提にして,少し分科会で検討してもらえればということをお願いしておきます。 ○岡委員 今の点,ニーズにどんなものがあるかという議論をしていたときに,良い例と悪い例が弁護士会の議論で出まして,良い例としては信託譲渡をして,信託銀行の受託者は所有権だけを受け取ると,委託者,旧所有者は賃貸借契約をそのままにして賃料管理を受けて,一定の水揚げを信託銀行に移すと,移転すると。それは良い例だろうと。それから,悪い例としては,抵当権者の物上代位を逃れるために所有権と抵当権は移転して,賃貸借は元のまま残しておいて,水揚げ部分はほとんどゼロにしておくと,そういう悪い例の使い方もあるであろうと。   その上で,先ほど中井さんが言ったように一定認めるべき場合はあるけれども,その後の関係も甲案の考え方もあるでしょうし,新所有者の元にいくという考え方もあるでしょうしと言っているとややこしい。真の需要が多いかどうかも分からないのでやはり乙案でいいのではないか。乙案にすれば,多分,三者合意でやるということになるので,大きな良いニーズもないのであれば,乙案でいいのではないかという声もかなり多かったと思います。 ○中井委員 繰り返しになりますが,松本委員のおっしゃるように解決できるなら問題はないんですけれども,仮に甲案の前段を承認して,新所有者に承継されない旨の合意とその実務を認めるとすれば,この背景については,相当数の実務の要請はあると聞いております。不動産管理にたけた不動産開発業者が一方でいる,相当数の賃貸借契約をして一つのビルを収益物件に仕上げている,それを,資金を持っている人に,資金が不足したときに移転するような場合に多く行われているようです。現行の実務では,その場合,三者合意,賃借人の承諾を取っているが,それが大変煩瑣であって,耐えられない,何とか方策を考えてほしいという。   そこで,その方策を考えたときが甲案なのだろうと思いますけれども,旧所有者に残したとしても,その後,旧と新との間の関係が何らかの理由で消滅する,権限がなくなるとなったときの賃借人の保護をどう図るかという問題になる。その保護の図り方として第2弾のプラス合意というのは,分かりにくいというのが弁護士会の意見で,結論として旧と新との新たな何らかの利用関係,授権関係なりが消滅したときには,賃借人と新所有者との間の契約関係が原則に戻って維持できるのであれば問題ないでしょうと。松本委員が当然にそうなるとおっしゃられる。必ずしも当然にそうならない,そうならない可能性があるとすれば,そこは明文化しておく必要がある。それは甲案の修正案になるのではないか,こういう意見でした。 ○沖野幹事 今の点ですけれども,賃借人の地位に対して不利益な変更が他の二当事者の合意によって及ぼされることがないように確保するということですので,その部分を二者間の合意だけに委ねてよいかという問題があるのだろうと思います。それは道垣内幹事が御指摘になった,更に物件が譲渡されたときにどうなるのかといった問題とも絡んでまいりますから,そうだとすると,そのような合意をしていることというよりは,合意いかんにかかわらず,なお,対抗力は失われないというような法律関係を明らかにすることが必要で,それができるかどうかということを探っていくべきではないかと思います。   それから,乙案に立った場合ですけれども,乙案に立った場合に,このような留保合意がいかなる場合にも否定されるのかというと,むしろ,判例の特段の事情の解釈によるんだという考え方が乙案の背景にあります。端的には三者で合意すれば,それでいいということだと思うのです。そうだとしますと,(イ)ではなく(ア)の当然承継についてですが,解説では,判例のところで引かれています。そのような,特段の事情がない限りは当然承継だというような,その含みを持たせておく必要はないのかと。説明のところで書けばいいのかもしれませんけれども。それも乙案による場合に気になるところです。   あと,(ア)についても申し上げたいことが別途あるのですけれども,よろしいでしょうか。8ページのイの(ア)に関して2点です。一つ目は②の賃貸人たる地位の承継を主張するために,目的不動産の所有権移転登記を備える必要があるという点と,③で知らずに払った場合には,準占有者に対する弁済に一般論に依拠せずに,ここでより明確に法律関係を書くという点です。必ずしもはっきりしない点に,所有権移転はされたが登記はまだ移転していないという場合の賃料がどのような扱いになるのか,賃借人のほうからそれを認めて払うということはできるんですけれども,誰が請求できるかという点が,債権譲渡についてあったのと同じ問題ですが,それが生ずるように思われます。   その問題があるのですけれども,さらに,それも含めて②,③を考えたときに,目的不動産が譲渡されたことを知らずに払ったというのが,所有権が移転していて,登記も移転した後に,したがって,賃貸人としての請求もされる,言ってみれば確定的に新所有者が賃貸人になっているというときに知らずに払うという場合と,登記はまだ行われていないのだけれども,所有権譲渡があったことを知っているというような場合に間隙が生じるように思われます。引かれております検討委員会試案での説明によれば,所有権が移転しており,その所有権移転についての登記も経由しているという場合であっても知らずに払ったときは,という一番問題のない場面が書かれていますので,その場面をどう考えるかということを説明のところでは書く必要があるのではないかなと思います。   もう1つには,ここに書かれていないことですけれども,以前に将来債権譲渡のところで,不動産賃貸借の賃貸物件の所有権の移転と将来債権譲渡との関係がどうなるかという問題があり,規定を置くか置かないか,将来債権譲渡につきそもそもその効力範囲についての規定を置くかによって変わってくる話であり,規定を置かないという選択もあるわけですけれども,その問題があります。もし,規定を置くとしたら将来債権譲渡のところなのか,あるいは個別具体の箇所だとすると,この目的物件の所有権移転に伴う法律関係の一環として,既に賃料債権が譲渡されているという場合にどうなるのかという問題がありますので,これはここに直接書くべきだということではなくて,テークノートしておく必要があるという趣旨です。   ただ,そうしますと,将来債権譲渡ないしは賃料債権の譲渡とともに前払いなどの問題も出てまいります。転貸借のところでは前払いの対抗の問題が出てきますけれども,実はこういうところでも,前払いというのはどこまで効力を認められるかという問題もあります。賃料債権の譲渡と前払いの法律関係の問題というのがあって,それを少なくともテークノートしておく必要があるのではないかということを確認的に申し上げたつもりです。 ○鎌田部会長 今の点について事務当局から何かありますか,特に前者について。 ○金関係官 それでは,(ア)に関する一つ目の御指摘で場面を設定するという点についてですけれども,不動産が譲渡されて所有権移転登記もされた場面に限定せよという御趣旨なのでしょうか。 ○沖野幹事 するのかどうかということ自体も問題だと思いますけれども,その場合に一番問題のない規律というか,一番典型的な場面について規律を置いていると思うのですが,そこから広がっていく趣旨であるのかどうか。知らなくてもというのが,厄介な問題がそこに残っているように思われますので,その問題があるのではないかということを申し上げたつもりです。 ○鎌田部会長 あと,②について,これまでに対抗問題ではないから対抗という言葉をやめた場所もありましたね。アのほうは対抗で,ここは権利主張要件ですね。この権利主張要件というのは相手方が認容して賃料を支払うことは許容するということですか。先ほどの債権譲渡のときと同じなんですけれども,承諾して払うということは。 ○金関係官 所有権移転登記がされる前であっても,賃借人は新所有者を賃貸人と扱って賃料を支払うことができるという前提です。 ○鎌田部会長 対抗することができないというのと,ここでは意味は同じと考えていいですね。 ○金関係官 はい。 ○松本委員 先ほどの自分の意見をもう一遍,整理するような発言になるんですが,(ア)と(イ)を対等のものとして併置する考えがそもそもおかしいのではないかということです。すなわち,(ア)の所有権の移転に伴って契約上の地位も当然移転するというのが大原則であって,(イ)で特約によって,それが排除できて,その後,どうなるのかという議論は適切ではないと考えます。所有権留保の法的構成についていろいろな学説があって,その中に二段階物権変動説というのがありましたが,それに似たようなことで,所有権が移転すれば賃貸人の地位も当然に移転するんだけれども,移転した上で,しかし,契約管理の観点から元の所有者であるところの賃貸人に賃貸人としての地位を残すというか,二段階物権変動説的には戻すということなんですが,契約管理委託契約がなされることによって,契約上の関係は従来どおり残るというものであって,その管理委託契約が解消されれば,(ア)の状態に戻るんだと考えればいいのではないかと思います。   そこで,更に新所有者が第三の所有者に所有権を移転した場合には,第三の所有者と当初の所有者であるところの現在の賃貸借契約上の賃貸人との間には,管理委託契約が結ばれていないのであれば(ア)の大原則が適用されて,第三の所有者に対して賃借人は賃借人としての地位を主張できるという話になると考えればいいのであって,(イ)をもう少し書きぶりを変えればよいのではないかと思います。あるいは書きぶりを変えるのが嫌だったら何も書かないで,今のような説明を学説に任せるということでよいのではないかと思います。 ○潮見幹事 先ほどからずっと議論がありましたけれども,部会長がまとめられたような形で私はよいのではないかと思います。分科会で検討する方向としても。恐らく問題になるのは(イ)の見出しで,「賃貸借契約を承継させない旨の合意」という形で整理をしておるから,先ほどから松本委員がずっとおっしゃっておられるような問題も出てくるのでしょう。そうであれば,仮に甲案を採るのであるのならば,賃借人の関与がない形で,新・旧所有者間でどのような合意があればよいのか,そして,その合意の性質をどのように決定すればよいのか,賃貸借なのか,それとも管理委託契約のようなものなのか,また,その契約が結ばれた場合に,地位が譲渡されたときの対抗可能性をどのように考えるのかという点について,幾つかの可能性があると思いますから,それを分科会で検討していけば十分であると思います。   また,乙案を採る場合でも,先ほど沖野幹事がおっしゃったような問題もありますし,乙案を採った場合には三者合意のみが残るというわけでも必ずしもないでしょうから,乙案を採った場合には,どのような場合が例外的な特段の事情に当たるかが作業を通じて明らかになるでしょうから,その上で,乙案でいくか,それとも甲案の修正版,弁護士会の言葉を使えば甲案修整型で条文化をするかを,最終的に態度決定したらよいと思います。 ○鎌田部会長 ということでよろしいですね,基本的な方向として。 ○金関係官 1点だけよろしいでしょうか。先ほど沖野幹事にお尋ねしました部会資料45の8ページの③についてですけれども,賃貸物件が譲渡されて所有権移転登記がされた場面に限定せよという御趣旨でしょうかという質問の意図がひょっとすると逆に伝わったかもしれませんので,補足をさせていただきます。私はむしろここで提案している規定の適用は,賃貸物件が譲渡されて所有権移転登記がされた場面に限定されているのではないかと理解しております。と申しますのは,所有権移転登記がされていない状態で賃借人が旧所有者に賃料を支払った場合には,賃借人が賃借物件の譲渡の事実を知っていたとしても,旧所有者に対する賃料の支払を新所有者に対抗することができると思いますので,ここでの提案は,所有権移転登記がされて旧所有者に支払ってはいけない状態になったときに,善意の賃借人の救済手段が必要だという趣旨の提案であると理解しております。 ○沖野幹事 趣旨を説明していただいたので,それでよろしいようなものなのですけれども,目的不動産が譲渡されたことを知らずに払ったときにはというのは,知って払ったらどうなるのかという問題があるように思われましたので。ただ,おっしゃる趣旨は規律の内容としては,今,言ったような形で間断なく行われていると。あと,恐らく残るのは請求を誰ができるかという問題が残ってはいるんだろうと思いますけれども,そういう説明を頂いたと理解しました。 ○鎌田部会長 今の③につきましては,債権の準占有者に対する弁済よりも緩やかな要件で免責を認めるという提案ですし,④も新しい提案なので,この辺についての御意見があればお出しください。 ○岡委員 ③と④について弁護士会の意見ですが,③については大多数が賛成という意見ですが,仙台弁護士会は準占有者弁済と同じでよいのではないかと。過失がある場合にまで救うべきなのかという問題提起をしておりました。ただ,準占有者とはこういう点で違うんだということを明確に書いていただければ,そう大きな反論ではないと思うんですが,10ページの478条ではない理由の書き方が分かりにくかったという印象を持っております。   ④ですが,基本的には賛成の会が多いんですが,敷金について旧所有者に担保責任を負わせるという案について,賛成の会が少し出てきました。敷金の返還債務について旧所有者に履行担保責任を負わせるというのに賛成の会は,④には反対を表明しております。必要費は直ちに旧所有者に請求できるわけで,旧所有者に請求していたところ,ぽんと所有権が移転すると新所有者にしか請求できなくなるというのは,敷金と同じ理由でまずいのではないかという意見です。履行担保責任を敷金のところで採用するのであれば,必要費についても同じように負わせるべきではないかという意見が予想外に2単位会から出されました。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,イにつきましては分科会で補充的に検討することとし,その他の点につきましては,頂戴した御意見を踏まえて事務当局において更に検討を進めさせていただきます。   次に,「(ウ)敷金返還債務の当然継承」以降について御意見をお伺いいたします。 ○大島委員 (ウ)の「敷金返還債務の当然継承」については,13ページのaのように現在の実務上の取扱いが明文化されることに異論はありません。次のbについては第一読会でも申し上げたとおり,規定を設けないとする乙案を支持いたします。賃貸不動産の旧所有者が敷金返還債務を担保する義務を負い続け,不動産を手放してから十数年後にまで敷金の返還を請求されるのは,不動産の価格決定に影響を及ぼすなど,実務に混乱を来すおそれがございます。また,このような義務を課せられると,自社の不動産を手放した企業などが簿外債務を負うことになる点についても,問題があると考えております。 ○三浦関係官 これも13ページ,(ウ)のbにつきまして乙案を支持というお話を申し上げたいと思います。商業施設などでは不動産の所有権が転々と流通するケースがございます。その過程の人全てに順次遡及するということでございますと,旧所有者が不動産譲渡後も新所有者の信用状態を追跡する必要が生じるのではないか。そうだとすると,旧所有者の負担が大きいのではないかと考えます。 ○佐成委員 私のほうのバックアップ委員会の意見も同旨でございますが,念のため,申し上げておきます。まず,甲案というのは,旧所有者が敷金返還債務を負うという提案ですが,そもそも現実の取引実務にはそういう感覚は余りなく,実務慣行とは異なるから改正による影響が大きく,反対であるという意見が非常に多かったということです。もちろん,企業は賃借する側もあれば,賃貸する側もあって,両方の立場でやっておりますけれども,一方,賃借する側の立場からしても,そのような規定を設けるニーズは余りないのではないかというような意見がありました。他方,貸す側の立場からしても,新所有者の信用力を調査する必要が出てくるというのは,取引の効率性を阻害しかねないといったようなコメントがございました。それから,不動産業界のほうからは,甲案には反対だということに加えて,もし改正するのであれば,敷金の定義を明確に整理した上で,むしろ敷金返還債務の履行を担保する義務を負わないという実務に沿った規定を設けてほしいという要望がございました。ただ,私自身は,敷金の定義規定を置くのは現時点では難しいのではないかとは思っております。 ○高須幹事 (ウ)のところのa,bそれぞれでございますが,aにつきましては,このような新所有者に当然に承継されるということ自体については,弁護士会も従来の取扱いだろうということと,したがって,それを明文化するという意味ではよいのではないかということなんですが,ただ,ここに書いてあります旧所有者の下で生じた延滞賃料債務等に充当された後の残額だけであるというところに関して,従来の取引が本当にそのようになっているのかということに関して疑問が出ました。日弁連で法制審の前日にバックアップ会議というものをやるわけですが,その中で,この問題について本当にそうしているのかということに関し,若干というよりはかなりの留保が付いたというか,つまり,通常の不動産取引において敷金はそのまま承継をする,その上で,旧所有者のところに仮に延滞賃料が発生していた場合の処理は別途,また,考えるということではないか,という意見が相当数出ました。   つまり,元々の契約内容でそのまま移転させるというようなことをむしろ,取引慣行としては重視しているのではないかということがございまして,提案資料は確かに判例の表現ではあると思うのですが,トラブルになったケースで判例が出るというのはあるにしても,通常の取引慣行として本当にこのままなのかどうかは,もう少し慎重に考えたほうがいいのではないかというような意見が強うございまして,判例の表現を従来の取引慣行だということで終わらせてしまうのは危険ではないか,もう少し慎重に考えたほうがよいのではないかと私自身も思っております。   それから,bの点でございますが,先ほど必要費のところで既に予告編的に岡先生から出ておるわけなんですが,基本的には乙案で,従来もそのような取扱いがなされてきたということでありましょうし,今日もそのような意見が一杯出ておりますが,所有権の譲渡ということを考えたときの譲渡当事者の要請的なものを考えれば,確かに乙案なんだろうと思うのですが,実は私が所属しております東京弁護士会と,それから,もう一つ,別のところでございますが,今のような形になったときに,常に新所有者に資力があるという前提であれば,賃借人の保護ということを考える必要はないのかもしれないのですが,常にそうとも限らないのではないか。建物を譲り受ける人間が必ずしも資力があるとは限らないときに,賃借人が全くそういうことに関与する機会なしに,当然に返還請求権の相手方が変わってしまうということ自体に,本当にそれでよいのかというようなことが一応,二つではありますけれども,危惧を示されて甲案ということがあるのではないかとの意見が出ております。   これに対しては,部会資料では建物の所有権があるのだからというようなことで,資力があるのではないかということも指摘されておりますが,それに抵当権が設定されてしまっているという取引実務は結構あるわけでございますから,より優先的な債権者がいれば,新所有者には常に建物がありますよというだけでは理由にはならないのではないか。そうなると,結果的には乙案を採った場合に,賃借人が対抗する手段としては賃料を不払いにして,事実上,敷金を消していくということしか回収のすべがないということになるわけですが,そういうことを認めるような方向でよいのか,要するに実力行使に出るしかないんだみたいな方向での提案というか,立法内容というのが果たしてよいのかどうかというところは,若干,疑問がありまして,飽くまで少数ではありますが,甲案のほうの支持というのもあったという状況でございます。 ○岡田委員 敷金のことですが,aのところで,当然,こういう形でお願いしたいと思うのですが,今,高須さんが言った旧所有者の下から3行目の部分に関して,もし,高須さんの意見が通るのであれば,借主にとってはそちらのほうがいいと思います。   それから,bですが,弁護士会で幾つもの組織が甲案ということですが消費者からすれば勿論甲案を希望したいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   それでは,この(ウ)につきましては事務当局から御提案がありましたように,分科会で様々な問題点についての補充的な検討をしていただければと思います。 ○沖野幹事 (ウ)そのものではないのですが,ここで申し上げるのがよいのかと思いまして,先ほど佐成委員から若干の言及もあったところですが,中間的な論点整理の13ページの囲みのところを見ていただきますと,敷金に関して定義ですとか法律関係を明らかにする規定を設けることを考えてはどうかという項目があります。それで,目的物の所有者が代わったり,あるいは賃貸人が代わったというときに,aの旧所有者の下で生じた延滞賃料債務等に充当された後の残額という,この限りでは若干の法律関係が明らかになっているのですけれども,敷金に関しての定義ですとか,その他の法律関係を明確にする規定は,資料を読み飛ばしているのかもしれませんけれども,ないように思われたのですが,そのような規定は置かないという御提案をされているのでしょうか。 ○金関係官 積極的に置かないという提案をしているわけではありませんが,中間論点整理の補足説明,議事の概況のところでも説明をしておりますとおり,具体的な立法提案等は現在特にないところで,敷金の定義を条文で正確に定めるというのもなかなか困難を伴うのではないかということで,積極的に置く方向の提案をするには至っていないという状況です。ただ,それは置かないことを明示しているものでもなく,もし具体的な御意見があれば伺いたいと考えております。 ○沖野幹事 敷金は重要であり,敷金という言葉だけは既に実定法の中に幾つか置かれているものの,それが何かは何も書かれていない。そのような中で,断片的に例えば承継の規定だけが置かれるというのは,今回の立法全体の一般的な立場とも合わないのではないかという気がいたしますものですから,基本的な法律関係が何であるかというのは置いたほうがいいのではないか。それはほとんど定義で尽きるのかもしれず,あるいは期中に,賃借人,賃貸人それぞれから充当を主張できるかとか,あるいは終了時の関係ですとか,いくつかの規律がありそうなので,規定を設ける試みをこの段階で断念すべきではないのだと思います。恐らく今,御説明の中では,しかし,そうは言っても具体的な規定の提案も全くされていない中で,全て事務局にお任せでゼロから作り上げろということでは難しいですということも,言われたのかと思うのですけれども。 ○鎌田部会長 ということですね。 ○道垣内幹事 今の沖野幹事のお話は二つのことが含まれていた気がするのです。つまり,金銭が交付されたときにどのような場合に敷金というかという,敷金の定義の問題と,敷金は例えば明渡しと同時履行の関係に立たないとか,あるいは期中に充当を主張できない----こちらは,私は,明文を置かなくても当たり前なのかなと思いますが----といった敷金の効果について判例上または学説上,問題となった基本的なところについての規定の話です。これは,二つ,別問題ですよね。 ○沖野幹事 そうですね。 ○道垣内幹事 そうしますと,定義が置けないということと,ほかの法律関係を規定しなくてよいのかということは,二つを分けて考えたほうがよいかなという気がいたします。では,具体的にどうしろということでもないんですけれども。 ○鎌田部会長 むしろ,置くべきだという御提案を頂ければ,その方向で検討を進めますけれども。 ○能見委員 今の沖野幹事の御発言は,どの程度,敷金に関する規定の中身として主張されているのか分かりませんけれども,中身はどうであれ,どこかで検討したほうがいいのという御趣旨だと思います。私も敷金に関していろいろな問題があり,大きな課題として敷金の現代化とでもいうべき問題があると考えています。敷金の在り方,どういう規律に服させるのがいいのか,敷金を現代化する観点から検討の必要があるのではないかと思います。敷金は今まで慣習で中身が決まっていたところであり,立法化するのは非常に難しい問題ではありますけれども,いろいろな問題が議論されるようになってきており,例えば,先ほど御指摘がありましたが,返還時において新所有者に資力がないような場合にどうするかというような問題も出てきました。けれども,敷金問題の根本は,今までは賃貸人が受け取った敷金は賃貸人が自由に自分のものとして使ってよいとされてきましたが,本当にそれでよいのだろうか。むしろ,賃貸人としては後で賃借人に返さなくてはいけない担保なんだという観点からすると,現在とは違った規律の仕方があり得るのではないか。諸外国には御承知のように担保としての性格をはっきりさせているところもありますけれども,そういう点を少しせっかく民法典の改正をするのであれば,敷金を現代化して合理的な内容にするように考えたほうがよいのではないか。最終的にそのような新しい考え方が通るかどうかは別ですけれども,少なくとも検討したほうがよいのではないかという気がいたします。 ○松本委員 私もできたら定義を入れたほうがよいと思います。敷引きだとか更新料に関する最高裁判決が相次いで出ていますが,いずれの判決も消費者契約法10条の前段要件を満たしていることは認めているんです。その上で,金額がそれほど多額ではないとか,合意をしているとか,慣習があるとかいうような事情でもって後段要件は満たしていないということを言っています。既に民法には316条と619条に敷金という言葉が出てきますが,ここで敷金の承継といった言葉が加わってくると,一体,消費者契約法10条の適用関係はどうなるんだろうかなというような疑問が出てまいりました。この点は本質的な問題ではないとしても,敷金に関わる問題自体はかなり重要な法律問題だと思いますから,そういう点では,規定を置ければ置いたほうがよいと,提案がなければ事務局が作るべきだと,それぐらい重要なものだと思います。 ○中田委員 敷金の重要性というのは,皆さん,おっしゃるとおりだと思うんですが,単に賃貸借における重要問題というだけではなく,より一般に言うと,金銭を担保とする場合の一つとしても重要だと思います。ですので,規定なり,定義なりがあるに越したことはないんですけれども,非常に大きな問題に関わっているのだろうと思います。それを事務当局に丸投げするというのもいかがかなという感じがしまして,では,誰がやるのかが次の問題になりますが,例えば分科会でまず詰めていただくということもあり得るかと思います。 ○鎌田部会長 それでは,分科会に(ウ)をお願いしている関係で,その周辺にある敷金に関する問題については,分科会に投げるのではなくて,事務当局が,委員・幹事の御意見をお伺いしながら,必要性があり,かつ対応可能なものについては追加的に提案内容を考えるということとさせていただきます。   次に,「ウ 合意による賃貸借契約等の継承」についての御意見をお伺いしますが,特に御異論はないと思ってよろしいでしょうか。 ○中井委員 多くの弁護士会は,こういう規定があってもいいのではないかという賛成意見ですが,一部,果たしてこのような規定が要るのかという反対意見が出ています。旧所有者,新所有者にとって賃借契約の対抗を受けたくないという場合は,結局,合意しなかったら,それで終わるわけですね。逆に,賃貸借関係を対抗できないんだけれども,新所有者のほうで承継したいと思ったときにのみ,この合意をする。賃借人にとって,特段にメリットのある話ではないわけです。追い出されるときは追い出される。所有者のほうが居てほしいと思うときは,新旧当事者間で合意をして,居てもらうことができるだけではないか。   それは,一体,何のためなのか。この規定がないと,新所有者のほうが居てほしいと思えば,賃借人としてはその際,一定の契約条件の変更交渉もできるかもしれない,場合によっては従前の賃料が高ければ,安い方向への交渉もできるかもしれない。そういうチャンスを奪う結果になるだけではないか。この規定を入れることによって,誰がどんなメリットを受けるのかということがもう少し見えません。単に契約関係がはっきりする,確定的に承継するということははっきりするのかもしれませんけれども,積極的に設ける必要まではないのではないかという趣旨の反対意見です。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   (2)の「妨害排除等請求権」に関連しての御意見はいかがでしょうか。特にこの点については御異論はない。 ○岡委員 基本的には賛成で,妨害予防請求権まで認めるべきだという意見がちらほら出て,予防請求権は不要であるという意見が出ておりました。   ついでにですが,先ほどの対抗を受けない賃借権の具体例として,駐車場用地でありますとか,自販機の土地の賃貸借でありますとか,携帯の基地局でありますとか,細々したもので事例はままあると。その場合でも所有者は私になりましたから,次回から私に振り込んでくださいという通知を出して振り込まれて,新たな合意ができて運用されておると,そういう例は事例としては細々したもので結構あるという報告がございました。 ○鎌田部会長 その場合には,今のウですけれども,こういう規定があったほうが役に立つということでしょうか。 ○岡委員 それは先ほど中井さんが言ったように,大阪弁護士会から交渉の余地を奪うだけではないかというので,わざわざ置くべきではないという意見が,結構,支持を集めました。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,続きまして「4 動産の賃借人と第三者との関係」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「4 動産の賃借人と第三者との関係」の「(1)賃借権の対抗の可否」では,動産の賃貸借の対抗要件に関する規律として,動産の賃借人は,賃貸借契約に基づく引渡しを受けたときは,当該動産について物権を取得した者その他の第三者に対し,自己の賃借権を対抗することができる旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。   「(2)目的動産について所有権を譲り受けた者が賃借権の対抗を受ける場合の規律」では,目的動産の譲受人が賃借権の対抗を受ける場合の規律として,賃貸借契約の当然承継に関する3(1)イ(ア)や,賃貸借契約を承継させない旨の合意に関する(イ)と同様の規律が及ぶ旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。   「(3)合意による賃貸借契約等の承継」では,目的動産の譲受人が賃借権の対抗を受けない場合であっても,旧所有者と新所有者は,賃借人の承諾を要しないで,賃貸人たる地位を新所有者に承継させることができるという考え方を取り上げています。また,その場合には,賃貸借契約の当然承継に関する3(1)イ(ア)と同様の規律が及ぶ旨の規定を併せて設けるという考え方を取り上げています。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について一括して御意見をお伺いします。 ○岡委員 質問なんですが,これは売買は賃貸借を破るという古い人間にとってはこびり付いたドグマなんですが,それを動産についても放棄すると,そういう大げさな提案なんですか。 ○金関係官 提案としてはそういうことだと思います。不動産の賃貸借の場合と同様に対抗要件の具備の先後で決めるという提案だと思います。 ○岡委員 45歳以上の法律家にとっては劇的な話です。ただ若い人たちはそれほど抵抗なさそうです。建設機械のリースだとか,こういう物の現実の引渡しに限っては認めてもいいようにも思うんですが,ドグマをここで放棄しなければいけないほどの理由は何なのかという説明をもう少し頂ければと昨日,議論してまいりました。 ○山野目幹事 どうして45歳というところで線が引かれたのか,いささか理解し難い部分もありますけれども,岡委員のおっしゃったその余の点については強い共感を抱きます。(2),(3)は(1)を前提とする提案でございますから,帰着するところ,(1)の提案の採否ということをきちんと議論しなければいけないものであると感じますけれども,従来,動産の賃貸借は目的動産の引渡しがあると,その後に動産を取得した者に対抗することができることが当然であるという理解が,強い立法事実上の,又は強い理論上の要請によって,築かれてきたものであるかどうかということについて私は強い疑問を抱きます。4(1)のような規律が少なくとも動産の賃貸借一般について設けられることについては,おやめいただきたいという意見を抱くものでございますから,その旨を申し上げさせていただきます。 ○能見委員 私は動産について,こういう規定を設けるということの,どこまで積極的に賛成していいか,まだ,決めかねていますけれども,少し,こういう方向で現在の社会のニーズに応えることができるのであれば,あり得る考え方だろうと思います。ただ,ちょっと気になったのは,僕は遅れてきて最初のところ,不動産のほうを聞いていなかったのですが,不動産に関しては登記の請求権はないという前提で考えているんですよね。賃借権の登記を今までは少なくとも登記請求権はないと考えていましたから,そういう意味では,賃借人の一方的というか,賃借人のほうのイニシアチブで賃借権について対抗要件を備えるということはできないと。   今度,動産のほうですと,これは動産の賃借権ですから,当然,そのものを利用しますから引渡しは受けるわけで,また,引渡請求権もあるわけですから,そういう意味では賃借人のイニシアチブでもって対抗要件を備えることはできると,ということで,動産と不動産のところの何か扱いが,平仄が合っていないような気がしますので,こういう立場を採るのであれば,もしかしたら思い切って不動産についても,登記請求権を認めるというような方向もあるのかもしれないと思いました。 ○三浦関係官 まず,(1)についての意見でございます。当省として,今の時点でどちらでなければというのを最終的に決めているわけではないのですけれども,経済実態を見ている官庁といたしましては,今の御議論にもありましたように,具体的なニーズがあるのかないのか,どんなものなのかというのが鍵のように思いましたので,当省としては少しそのニーズの存在も含めて,引き続き検討していきたいと思っております。 ○山本(敬)幹事 この問題については,(1)だけではなく(2)も付け加えられているという点をよく考える必要があると思います。といいますのは,動産の譲受人が,確かに動産の譲渡人が動産を占有しているわけではないけれども,預けてあるだけである,ないしは無償で貸しているというような説明を受けて譲り受けた。この場合は,賃借人は,引渡しは受けていますので,動産賃貸借を対抗できる。しかも(2)が当然承継という形で付け加わってきますと,譲受人は使用収益させる債務を引き受けることになります。ということは,修繕義務を負う可能性もありますし,必要費や有益費がどうなるかということが更に問題になるかもしれませんが,そのようなもろもろの賃貸人としての義務を負うことになる。そこまでの必要ももちろんですし,先ほど岡委員が指摘されたような,従来とは全く異なる考え方をここで採用する理論的な意味があるのかといいますと,私はかなり大きい疑問を感じざるを得ないところです。その点についてはいかがお考えなのでしょうかということをお尋ねしたいと思います。 ○松本委員 先ほど敷金についての議論のところで,具体的な立法提案がないから,ここでは議論しないんだというような答えが出てきて,事務局も起草しないということでしたけれども,ここの動産賃貸借の対抗要件の規定についての具体的な立法提案があるとすれば,一番ダイナミックな検討委員会が言っているのだと思って調べましたら,そうではないんです。動産賃借権の対抗要件については,特に規定を置かないというのが提案ですから,一体,この提案はどこから出てきたんですか。事務局の起草した案なんでしょうかというのが一つの疑問。   もう一つは,この規定と先ほどどなたかがおっしゃったと思いますが,不動産の賃貸借の場合に登記はしていない,借地借家法上の対抗要件も取得していないけれども,引渡しは受けているというようなタイプの不動産賃貸借があったとして,それは全く保護されなくて,他方,動産賃貸借については全て一律に対抗できるということになって,ニーズの点からいくとむしろ逆ではないかと思います。こんな規定を置くぐらいであれば不動産については引渡しを受けていれば,それだけで対抗できるんだという規定を置かないと,非常にアンバランスな結果になるのではないかと思います。 ○金関係官 一つ目の御指摘について経緯だけ説明いたしますと,中間論点整理の補足説明にも記載がありますとおり,第一読会のときに動産についても対抗要件の制度を設ける必要があるという御指摘が幾つかあったことを踏まえての提案です。 ○鎌田部会長 基本的には消極意見ばかりと承りましたけれども,そういうことでよろしいですね。三浦関係官からは今後,実態を調査すると……。 ○潮見幹事 単なる質問なのですが,19ページのところで補足説明の2段落目で,「動産の賃貸借は目的動産の引渡しがされればその後に物権を取得した者にも対抗することができるとする見解が多数説である」と書かれているのですが,本当に多数説ですか。私はここが解せないところがあって,むしろ,売買は賃貸借を破らないというのが動産の世界では成り立っているのではないかと感じるところです。私はこのような規定など置く必要は全くないと思っているのですが,仮に置くのであれば,16ページ,(2)の妨害排除請求だけをどうして外したのかというのもよく分からないので,もし規定をする方向で考えるのであれば,妨害排除の可能性についても併せて検討の範囲には入れておいていただけばと思います。 ○金関係官 妨害排除については,動産の賃貸借についてそこまで認めるのはさすがに難しいのではないかといった理由ですので,確かに程度問題の話ではありまして,検討の範囲に入れるべきだという御指摘はそのとおりかもしれません。部会資料45の19ページの記述については,第一読会の部会資料16-2でも全く同じ記述をしておりまして,教科書の類いでも,その記述の下のほうに続く説明とセットで記述があるところかと思います。安易に多数説という言葉を用いるべきではなかったと思います。 ○松岡委員 消極反対意見が圧倒的のようなので,このまま黙っていると今後は検討されないまま取り下げられて終わってしまう可能性があります。しかし,私はこういう規定の在り方はあり得ると思っていますが,ただ,今,出された数々の疑問に全て答えられるほどの準備はありません。もう少し検討する余地を残していただくと有り難いと思います。類 ○中井委員 弁護士会の意見が出ていませんでしたので,岡委員の意見はもちろんあるわけですけれども,数だけで申し上げますと,八つの単位会から意見が出ましてちょうど半々です。反対4,賛成4で,賛成4のほうはそれなりに現実的な需要があるのではないか,必要性があるのではないかと考えているものと推測されるのです。具体的にそのときに出たのは,岡委員が話しましたように建機などの場合に賃貸して使っている状態で,所有者が転々移転する場合があるけれども,そのときは当然,対抗できていいのではないか,そういう必要性のある場面があるのではないかという意見が出ていました。この部会資料でいうならば,社会資源の有効活用を促進する観点から,意味があるのかというそもそも論をもう少し検討しなければならないのかもしれませんけれども,そういう趣旨からの賛成意見ではなかったかと思います。 ○山野目幹事 一つ前に申し上げた4(1)の消極意見について,今,御議論いただいたところですが,自分の先ほどの発言が少し不足だったかもしれませんから,同じ趣旨の観点から,3点ないし4点ほど申し上げますけれども,1点目は,動産の賃貸借というものは幾つか御指摘があったような産業経済上,重要な局面で行われるものがあると同時に,日常生活上において非常に経常的ないし軽微に,軽いタッチで行われるものもあります。一時使用目的で行われるものだってあると思います。そういうものも含めてこういう広い射程のルールを置いて,山本敬三幹事が御心配になったようなその後の法律関係まで律するということになるのは,どのように考えても立法的な合理性があるとは私には感じられません。   2点目は,松本委員が御指摘になったような不動産賃貸借の扱いとの間で権衡を失する,又はもう少し権衡を考えなければならないという問題が残されており,それらを残したまま,このような規律を入れることについても疑問を感じます。   3点目は,動産に関わる登記の公示方法の制度は,現在,動産の譲渡に関して規律が設けられているところですが,4(1)のような規律を入れるのであれば,賃貸借のことをどう考えるのかということも議論になってくるであろうと感ずる部分がございます。   4点目ですが,潮見幹事のおっしゃったことについて私は全く同感でありまして,19ページの多数説であるという紹介は,実は私がこれを読んだときにはすごく衝撃を受けて,自分の民法の勉強はこれほど不出来だったのかと強く感じました。金関係官がいろいろ文献を当たられて,精査なさった御努力は御説明で承って感じましたが,本の読み方の問題として,こういうことを言うと叱られるかもしれませんが,たとえそう書いたものが何冊かあったとしても,何となく前の人がそう書いたから,私も書こうという姿勢でされる記述というものが学界にはあるものでありますから,こういう言い方はいろいろ先輩の先生方に叱られるかもしれませんが,それは事実でございますから,余りそういうものを真に受けて多数説とおっしゃっていただくこともいかがなものかということも指摘いたしたく考えます。 ○松本委員 この部会の議論の一つの特徴として,ニーズがあれば立法しましょうということがあります。それはそれでいいんですが,ある非常に狭い特定の局面における特定のタイプのもの,例えばある種の不動産についての特定の局面でのニーズを一般化して,民法の一般ルールとして入れようという提案がいろいろなところで出てきています。ここも恐らくそれの一つだろうと思います。建設機械についてそういうニーズがある。それが正当なニーズであれば,手当てをしたほうがいいだろうと思います。しかし,それを民法に入れて全ての動産賃貸借についてはそうだとするのが果たして適切なのかというと,それは適切ではないだろう。教科書レベルで書かれている場合について私は別に確認してはいませんが,動産についても対抗を認めるべき場合があると書かれているのであれば,それはそのとおりだろうと思いますし,いかなる動産賃貸借についても全て認めるべきでないとまで言い切るような学者は余りいないと思います。そういうニーズがある部分について,適切な範囲内で法的手当をしていくということは別途,考えればいいと思いますが,一般ルール化は恐らくよくないだろうと思います。 ○鎌田部会長 確かにここは指図による占有移転があっても,文字どおりの占有の移転と賃貸借関係の承継は別問題だということが,むしろ,こっちには典型的に当てはまるのかなという気がします。更に検討を継続すべきであるという御意見も踏まえまして,少し検討を続けさせていただくことにします。その間に三浦関係官等から実態上のニーズとしてどういうものがあるかというふうな情報も提供していただければと思いますので,よろしくお願いいたします。   では,いいですね,(3)については特に御意見は伺わないでも。大前提のところでもうちょっと慎重な検討をするということで,次に進ませていただきます。   続きまして,「5 事情変更による賃料の増減額請求権」と「6 目的物の修繕に関する規律」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「5 事情変更による賃料の増減額請求権」の「(1)一般的規定」では,契約締結後の事情変更による賃料の増減額請求権について,賃貸借契約一般の規定を設けないことを提案しています。   「(2)民法第609条及び第610条の削除」では,減収による賃料の減額請求について定めた民法第609条,それから,減収による解除について定めた民法第610条の規定をいずれも削除するという考え方を取り上げています。   「6 目的物の修繕に関する規律」の「(1)賃借人の通知義務違反の効果」では,目的物の修繕を要する場合における賃借人の通知義務の違反の効果については規定を設けないことを提案しています。   「(2)賃借人の修繕権限」では,賃借人の修繕権限に関する規律について,①として,賃貸借の目的物が修繕を要する場合において,賃借人がその旨を賃貸人に通知し,又は賃貸人が既にその旨を知っているにもかかわらず,賃貸人が相当の期間内に修繕をしないときは,賃借人は自ら必要な修繕をすることができること,②として,急迫の事情がある場合には,先ほどの①の要件を具備しないときであっても,賃借人は自ら必要な修繕をすることができることを定める規定を設けることを提案しています。 ○鎌田部会長 それでは,まず,「5 事情変更による賃料の増減額請求権」について御意見を伺いします。 ○安永委員 「(1)一般的規定」について,部会資料では「契約締結後の事情の変更による賃料の増減額請求権についての賃貸借契約一般の規定は,設けないものとしてはどうか。」と提起をされ,その理由として補足説明では,「事情変更の原則によって適切に対処することが可能」との指摘がされております。私どもは第一ステージの議論では,事情変更の原則を各契約に共通して適用される一般条項として条文化することについては,労働契約の終了と変更について,既に確立している法理とは別にこれらと並列して新たな抜け道を作られるなど,重大な影響を及ぼすために,労働のユーザーの立場として,反対の意見を申し上げたところです。   事情変更の原則の適用が問題となり得る契約類型は,主として賃貸借契約や金銭消費貸借や労働契約などの契約期間が長期に及ぶ継続的契約であり,契約関係を維持しながら契約内容を変更する必要のある場合だと思います。そして,これらの各契約のうち,労働契約については労務供給契約における対価構造の一方にある労務ということは生身の人間が担うものであるため,それを構成する具体的内容は極めて複雑であり,契約期間途中での事情変更に対応して,労働条件変更を行うために様々な法理を形成しております。しかし,不動産の売買契約と賃貸借契約をめぐって形成されてきた事情変更の原則の要件と効果は,従前の労働法の法理よりも曖昧で緩和されたものとなっています。以上の理由から事情変更の原則が一般条項として設けられ,労働法分野においてもこれが適用されることは妥当ではないと考えます。事情変更の原則については労働契約以外の賃貸借契約等に関して,それぞれの契約類型ごとに事情変更の原則を具体化して,賃料増減額請求権の規定を設けるか否かなどの検討を行うべきだと考えます。   部会資料の提案が事情変更の原則に関する一般条項としての条文を設けることを前提として,賃貸借契約に関する増減額請求権の規定を設けないとする趣旨であるとすれば提案には賛成できません。 ○鎌田部会長 この点についてほかの御意見はいかがでしょうか。 ○中田委員 事情変更の原則を賃貸借にそのまま適用できるかといいますと,予見可能性ですとか,あるいは賃貸借が長期にわたる場合に賃料が変わることは,むしろ,恒常的なことであるということになりますと,当然には一般原則では解決できないところが残るのではないかと思います。その意味で,事情変更の原則に委ねれば足りるというのは説明としては十分でないと思います。 ○鎌田部会長 その場合に,609条,610条の扱いはどうお考えか,御意見がありましたらお出しいただければと思います。賃貸借契約一般についての増減額請求権の規定を設ける,設けないと関わりなしに,(2)の問題は少なくとも610条なんかについては増減とは別の効果になるので,相対的に独立して議論もできる論点だと思うんですけれども,少なくともこちらには余り異論はないと思ってよろしいでしょうか。 ○岡委員 弁護士会の意見ですが,今の609条,610条については意見がほぼ拮抗しておりました。削除するほどでもないのではないかと。収益を目的とする土地の賃貸借で宅地は除くとなると,駐車場用地は入るんですかね。昔の牧草地だとか農業用地は入るんでしょうけれども,元々,重要な契約ではなくなっている,規模も多くないのではないかという観点から,古めかしいし,重要ではないので,取ってしまっていいという説と,そうは言ったって取るほどではないという意見が予想外に半数程度を占めておりました。   (1)のほうについては,借地借家法という重要なものについて特則がありますので,それとは別途,民法に置くほどではないのではないかということで,設けないということに賛成が圧倒的に多うございました。 ○鎌田部会長 609条,610条は,今日的に余り機能していないという以上に,ちょっと酷なのではないかという批判もあったと思いますけれども,よろしいですか。 ○佐成委員 (2)のところについては,余り議論がなかったのですけれども,(1)については,今,岡委員がおっしゃったとおりの意見,すなわち,特別法に規定があるので,一般規定は不要であるという意見が経済界でも大勢だったということです。 ○道垣内幹事 609条,610条は,私は削除すべきであろうと思います。先ほどの岡委員のおっしゃった「拮抗している意見」なのですが,収益を目的とする土地の賃貸借という言葉の解釈はよく分からないけれども,あっても別に余り適用もされそうもないので,いいのではないのという感じで,説得力に乏しいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   6のほうについてはいかがでしょうか。6の(1)は現行法と同じということですが,特に御異論はないと思ってよろしいでしょうか。 ○岡委員 弁護士会の意見では,6の(1)は,書面を出してきたところは,全会賛成でございました。(2)も基本的に一会だけ異なる意見がありましたが,その他の会は(2)も賛成でございました。 ○鎌田部会長 ほかには特に御異論はございませんか。 ○沖野幹事 (1)(2)の内容そのものについては異論はないのですが,両者の関係ということがよく分からない面がありますので,確認をさせていただきたいのです。(1)で通知義務の違反の効果については規定を設けないということで,一般的に615条の修繕を要する部分についての通知義務はそのまま存続させて,そういう規定がある下で違反の効果は書かないと。そして,(2)の修繕権限においては自分でできるのですけれども,要する場合において通知し,また,知っているにもかかわらず,修繕しないときは修繕できると書かれているのですが,そうすると,仮に通知しないでやってしまったという場合は,修繕権限は通知を欠いたことによって影響を受け,その限りでは通知義務違反の効果は書かれるということになるのでしょうか。 ○金関係官 急迫の事情もなく,賃貸人が知っているわけでもないのに,賃貸人に通知をせずに修繕をしたというときは,賃借人に修繕権限がないので,権限がないのに修繕をしたことが賃借人の債務不履行に当たって,損害賠償の請求をされたりすることがあり得ると思いますが,通知義務の違反については,それとは別に,その通知をしなかったことによって賃貸人に何らかの損害が生じたのであれば,賃借人の通知義務違反の債務不履行を理由として損害賠償の請求がされることになるのではないかと思います。ただ,一般的には,通知義務違反の債務不履行を理由とする損害賠償の請求というのは,賃借人が賃貸人に対する通知をしなかったために目的物の修繕がされずに目的物が劣化するなどしたという場面が典型例だと思いますので,そういう意味では,賃借人が賃貸人に対する通知をせずに修繕権限なく修繕をしたときは,通知義務違反を理由とする損害というのを観念することはできず,むしろ,権限がないのに賃借人が修繕をしたことを理由とする損害賠償の請求がクローズアップされるという整理ではないかと思います。もちろん,それについても,どのような損害があるのかという問題はあると思いますけれども。 ○沖野幹事 通知義務のほうは(2)にも係っていて,権限はないものになるという限りでは通知義務違反の効果はあるのだけれども,それが更に何を呼ぶのかを含めたその先の効果は解釈によるというのが(1)と(2)の関係であると理解しました。 ○中井委員 今の沖野幹事と金関係官のやり取りから,そうすると,通知せずに,かつ賃貸人もその事実を知らなかったにもかかわらず,修繕したときは修繕権限がなかったことから,その費用について償還請求できず,場合によっては損害賠償義務を負うという理解だということですか。誤解であれば教えていただければと思います。 ○金関係官 民法608条に基づく費用償還請求権を否定する効果はこの提案には含まれていないと理解しています。必要費の償還請求権に関する民法608条1項は,賃借人が必要な修繕をすればそれだけで必要費償還請求権が発生するという規定ですので,必要費償還請求権自体はいずれにしても発生して,それとは別に,賃貸人の賃借人に対する損害賠償請求の問題があるという整理をしております。ただ,通知をせずに必要な修繕をしたときの具体的な損害とは何なのかという問題は,先ほど申しましたとおり別途あると思います。また,更にそれとは別の問題として,不必要に過大な費用を用いて修繕をしたというような場合については,民法608条の必要費償還請求権の発生要件の問題として,真に必要な費用しか償還請求の対象とはならない,過大な費用については償還請求できないという整理になると思います。そうしますと,結局のところ,必要費償還請求権の問題と修繕権限の問題とは直接つながっているわけではないという整理になるのではないかと思います。 ○道垣内幹事 ということは,突き詰めていくと,通知をしないままに修繕をしてしまうと,賃貸借契約の解除が行われる可能性があるということになるのでしょうか。 ○金関係官 債務不履行になるという意味では,常に解除まで認められるかどうかは別として,御指摘のとおりだと思います。 ○道垣内幹事 修繕が必要であった場合には,その範囲では必要費として取れますし,通知した後に行っても急迫の要件が一応満たされていたとしても,とんでもない修繕をしたら損害賠償義務が発生しますよね。そうすると,それは通知義務に結び付かないわけであって,用法遵守義務違反か何か知りませんが,賃貸借契約の解除事由になり得るということぐらいしか出てこないのかなという気がしますが。 ○金関係官 ありがとうございます。いずれにせよここでの提案は,従来賃借人の修繕権限に関する条文がなくて,必要費償還請求権の条文から導かれると言われてきた点について,きっちりと条文を設けるということを目指して,しかし,条文を設ける以上は,第一読会でも御意見があったように,単に修繕を要する場合に修繕ができるというのではなくて,飽くまで他人の所有物を修繕するわけですので,一定のプロセスが必要だという理解を明文化しようとしたものです。そのような観点から,賃貸人に対して通知をしたかどうかとか,賃貸人が修繕を要することを知っていたかどうかとか,急迫の事情があったかどうかといった点を,要件として整理して提案をしたつもりです。 ○沖野幹事 ここでの提案の考え方は明らかになったと思うのですけれども,今の御説明の中でも修繕権限というのが必要費償還請求と結び付けて語られてきたということだとすると,この規定だけが置かれると,かえって通知なくして,修繕をしてしまったような場合には,必要費償還を賃貸借契約関係としてはできなくて,別途,一般的な不当利得などの話になるという,そういう理解を生むことになりかねないような懸念もあるように思いますので,かなり明確に規律自体を書くか,説明を書くか,しないといけないのかなと,今,伺っていて思いました。 ○道垣内幹事 沖野幹事と同じ疑問から発生して逆方向にいくかもしれませんが,条文を書くとするならば,25ページの(2)は,賃借人は修繕をしてはならないというのが1項に来ないとおかしいような気がするのです。そして,次に,ただし,こういった場合には修繕できるという規定が来る。そうすると,(2)は,修繕は一般的にはできませんということを書く条文だということになり,私はそれはそれで論理的にはおかしくはないと思いますけれども,大胆な感じを与える条文になりますよね。 ○松本委員 通知をした上で修理をした場合と,通知をしないで修理をした場合で,いろいろ効果が違うんだという御説明だったわけですが,それは,通知をすると賃貸人としては,自分が修理をするから,賃借人は手を出すなということが言えるのに,その機会を奪うことがけしからんのだ。賃貸人の意に反した修理をされるような場合は,先ほども,場合によっては用法義務違反として契約解除の事由になるのではないかということがありました。つまり,修理の内容を賃貸人の判断に委ねるために通知義務を課しているのだと。そういう意味では,今,道垣内幹事がおっしゃったように,勝手に修理してはいけないというのが書かれざるルールとして,その前にあるということは,今のような論理を展開していけば非常によく分かるわけです。それでいいんでしょうかという気も若干はありますが,賃貸人としては自分の所有物なんだから,必要費であったとしても所有者の意向に反するような内容の修繕は,緊急の場合を除いては,駄目なんだと。それはそれで一応のルールとしてはいいかなと思います。 ○中田委員 共同住宅の場合の共用部分で,例えば排水溝のようなものについて,本来は賃借人は勝手に修繕できないと思うんですけれども,この修繕権限が与えられるときには,それも修繕することができて,他の賃借人はそれに対して拒むことはできない,というルールも含意されているのかどうかを知りたいんですが,いかがでしょうか。もし,そうだとすると,その場面では意味があり得るかなと思ったんですが。 ○金関係官 ありがとうございます。ただ,それは含意されていないという答えになるかと思います。飽くまで,従来少なくとも修繕できないとは言われていなかったものといいますか,修繕権限はあると言われているけれども条文上は不明確であったものについて,明文の規定を設けるべきだという論点であると理解しております。それを前提に,先ほどの繰り返しになりますが,賃借人の修繕権限の規定を設ける以上は,松本委員が先ほどおっしゃったように,所有者である賃貸人にとっては勝手に修繕をされたら困る場合があるので,通知をしても賃貸人が修繕をしない場合に初めて賃借人が修繕をすることができるといったプロセスを条文上も明らかにするというのが,この提案であると理解しています。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。権利を主張する者があるときについては,特に議論する必要はないですね。そこには手を触れないということになりますか,615条の。現行法の通知義務は修繕を要する場合と権利を主張する者がある場合とが並んでいるんだけれども,権利を主張する者がある場合はそのまま残していく。 ○金関係官 はい。その点の変更はありません。 ○鎌田部会長 では,すみません,ここで休憩を取らせていただいて,その後に7から入りたいと思います。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開をさせていただきます。   続きまして,「7 目的物を利用することができない場合の規律」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「7 目的物を利用することができない場合の規律」の「(1)目的物の全部を確定的に利用することができない場合の賃貸借の終了」では,賃借人が目的物の全部を確定的に利用することができなくなった場合には,その理由を問わず,当然に賃貸借契約は終了する旨の規定を設けることを提案しています。   「(2)目的物の一部を確定的に利用することができない場合の規律」の「ア 賃料の当然減額」では,賃借人が目的物の一部を確定的に利用することができなくなった場合には,その理由を問わず,その割合に応じて賃料が当然に減額される旨の規定を設けることを提案しています。   「イ 賃貸借の目的を達成することができない場合の解除」では,賃借人が目的物の一部を確定的に利用することができなくなった場合において,これにより賃貸借の目的を達成することができないときは,利用することができなくなった理由を問わず,賃借人は賃貸借契約を解除することができる旨の規定を設けることを提案しています。   「(3)目的物の全部又は一部を一時的に利用することができない場合の規律」の「ア 賃料の当然減額」では,賃借人が目的物の全部又は一部を一時的に利用することができなくなった場合には,その理由を問わず,利用することができない部分及び期間の割合に応じて,賃料が当然に減額される旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。   「イ 賃貸借の目的を達成することができない場合の解除」の第1パラグラフでは,賃借人が目的物の全部又は一部を一時的に利用することができなくなった場合において,これにより賃貸借の目的を達成することができないときは,利用することができなくなった理由を問わず,賃借人は賃貸借契約を解除することができる旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。また,第2パラグラフでは,仮に第1パラグラフのような規定を設ける場合には,民法第607条の規定を削除することを提案しています。   これらの論点のうち,「(2)目的物の一部を確定的に利用することができない場合の規律」の「ア 賃料の当然減額」及び「イ 賃貸借の目的を達成することができない場合の解除」については,規定を設ける場合の具体的な問題点や規定の在り方等につき,分科会で補充的に検討することが考えられますので,これらの論点を分科会で検討することの可否についても御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について一括して御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○岡委員 2点,申し上げます。まず,(1)は全単位会が賛成でございました。   賃料の当然減額のところの第1点目ですが,当然減額について危惧を実務的に示す意見が根強くございました。賃料不払いを理由とする解除訴訟を起こしたときに,1年前にそう言えばこういうのがあったので,あのときから当然減額になっているはずだと,そう文句をつける連中が世の中には山のようにいると。したがって,当然減額というのは理論的にはよく分かる面もあるんだけれども,これがどんと立法化されると,賃貸人の予測可能性を侵す心配があると。したがって,1か月以内に請求せよとか,2か月以内に請求せよとか,何らかの予測可能性を担保する措置を是非設けてほしいという意見でございます。ただ,他方,大震災のときのように賃借人が死亡したとか,遠方に引っ越したとか,請求できない場合もありますので,兼ね合いが難しいとは思うんですが,当然減額がぽんと出てくると,大家の予測可能性を著しく害する場合,あるいは濫用されるおそれがあるので,何らかの注意をしてほしいという意見が結構根強くございました。   2番目に,もう少し大きな問題で,この義務違反の場合を含めることについて,反対という意見が半数程度ございました。残りの半数程度は理論的でよいではないかという意見もあるんですが,義務違反の場合を含めることについて義務違反がある場合に,エストッペルに反するのではないかという情緒的な理由が中心かと思いましたら,今回の議論ではそうではありませんでした。義務違反の場合に損害賠償でできるではないかという説に対して,損害賠償を立証しないといけないではないか。故意・過失まで立証しなくてもよいにしても,お前が壊したというのを当然減額の主張があった場合に,いやいや,お前が壊したんだから,債務不履行の損害賠償請求で賃料の差額分を請求すると,そういう立証の負担が増えるので,その観点から義務違反の場合を含めるのは相当ではないのではないかという意見です。   現行法のように,過失なく滅失した場合には,請求により減額できるという構造でよいのではないか,損害賠償の立証の負担の観点から,賃借人の義務違反の場合には当然減額のところは反対であるという意見が全部で見ると半数程度ございました。ただ,解除のほうについては終わる場合ですので,賃借人の義務違反の場合でも,解除は認めていいのではないかというのがかなり多くなってきています。終始一貫して義務違反の場合には解除も認めないというのは,東京弁護士会だけが一貫してそこまで言っておりますけれども,それ以外の会は,当然減額のところは義務違反は含めない,解除については含めてもよいという意見になっておりました。 ○佐成委員 7の(2)と(3)について,経済界の議論の状況について御報告させていただきます。   まず,(2)につきましては,理由を問わず,当然減額されるということについては反対とまでは言っていないのですけれども,実務界では,非常に抵抗感があるという印象でございます。今,岡委員もおっしゃっていましたけれども,賃貸人にとっては賃借人がどのような状況で使っているのかの実情を把握するのが非常に難しいということと,現行民法でも賃借人に過失がない場合に初めて賃料の減額を請求できるとなっているのに,当然に減額されるというのは現状との乖離が大きく,実務上,非常に違和感があるというようなことで,反対とまでは申し上げていないのですけれども,非常に抵抗感が強いような印象を受けております。   それから,(3)につきましても,理由のいかんを問わず,当然減額とか解除を認めるというのは非常に抵抗感が強いという印象を受けております。とりわけ賃借人に義務違反があるにもかかわらず,自ら解除できるという割り切りの仕方は,どうもすっきりしないといったような意見でございます。それから,さらに「一時的に」という文言が曖昧で,無用の紛争を招くおそれがあるのではないかといったような意見もございました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○三上委員 「目的物を確定的に利用することができない場合」の「確定的」という言葉の定義について,滅失とか溢水で水浸しになっただとか,放射能汚染の地域に指定されたという,そういう物理的に使えなかった場合に限るのであって,例えばアレルギー体質の人が建材に合わないとか,たまたま,森に面した部屋に飛んでくる花粉で,その部屋が使えなくなったとか,そういう主観的・属人的なものは含まないということを明確に定義できるのかどうかを確認したいという点が一つ。それから,使用できなかったときに,賃料の減額ないし支払をしなくていいが,損害賠償責任は負うというときに,賃料債権を担保に取っている場合に,それが損害賠償請求権に代わると,例えば担保権を設定しても物上代位の差押えをしないと及ばないのではないかと思われます。そういう意味で,少なくとも賃借人側に責任があるときには,賃料の支払義務はそのまま残るという形にしておくべきだという意見を述べさせていただきます。   あと,先ほど損害額の立証責任の問題の指摘もありましたが,消費貸借の利息に関する損害のところで,それを再運用して得られる金額を控除するといった議論がありましたが,例えば賃料の場合も実際に貸せなかったときの損害は,賃料とイコールだとは限らないと考えると,賃料相当額が損害になるという推定規定でも置かないことには,賃借人有責の場合まで賃料の減額を認めるのは,かなり賃貸人に酷ではないかという意見もございました。 ○潮見幹事 どちらに賛成,反対というわけではないのですが,補足説明で書かれている趣旨の説明をお願いしたいところがあります。先ほどから問題になっている,当然減額の場合で,特に賃借人の過失,義務違反があった場合に,賃料が当然減額されるということを言っています。結論はともかく,その理由付けとして29ページに書かれていることが,果たしてこれでいいのかという部分が若干不安になります。   といいますのは,ここで書かれている考え方,特に賃借人の義務違反の場合に29ページの「他方」からの段落ですけれども,「536条2項によって賃料債権は消滅しないと理解すべきであるとの説明がされている。」と。この先をずっと読んでいくと,536条2項の問題ではないことを説明するために,この場合には「前者の債務が履行されて初めて後者の債務が発生するという関係に立つものであるから,相対立して存在する二つの債務の一方が消滅した場合に他方の債務も消滅するかどうかを問題とする危険負担の法理の適用の前提を欠いている」とされています。しかし,この理由を使った場合に雇用契約はどうなるのでしょう。使用者の義務違反があったときも賃金債務は消滅するということになりませんか。 ○金関係官 その点については,これから出てきます雇用も請負も委任も,全て統一的に整理して提案するという仕方もあるとは思いますけれども,ここでは,賃貸借固有の問題として提案をしています。例えば賃借人の義務違反による目的物の全部滅失の場合の当然終了の議論は賃貸借に固有のものだと説明されているところですので,一応,賃貸借だけを切り出して議論をすることも可能であるという前提で,今回の提案をしております。ただ,これは必ずしもそのような切り出し方に固執するというわけではなく,潮見幹事の御指摘のとおり,雇用とか委任とか請負の議論も踏まえて,再度,統一的な提案をする必要があり得るとは思っております。 ○潮見幹事 この理論を使うのであれば,雇用契約のところで特別の労働者保護の法理というものをそこで説明をしていくか,それとも,別の理論から同じ結論を導き出すか,どっちかではないかと思います。いずれにしても弁護士会がおっしゃっているのと結果的には同じかもしれないけれども,理由付けにおいてもう少し工夫が必要であると感じます。対価減額的な構成などというのもありますし,担保責任類似という発想もありますから,その辺りも参考にされて,もし,この結論を導くのであれば,違った理由付けを考えられたほうがよいのではないかと思います。 ○高須幹事 分科会でということでもございますし,いろいろまだ考える余地があると思うんですが,先ほど来,賃借人の義務違反の場合にも当然減額になるということについて,やや疑問があるというようなことが示されております。弁護士会でも意見が分かれている部分があるということでございますが,その理由の一つの中に,今までは賃借人の過失によらないで滅失したときは賃料減額ですよと,過失によったときは逆に言えば減額はしない,その上で,損害賠償の問題だということで割り切りがはっきりしていたと思うんですが,もし,今回の御提案のような趣旨に変えると,賃借人の義務違反の場合にも減額があり,かつ債務不履行で損害賠償の問題があると。   一見,部会資料の29ページの出だしのところでは,損害賠償請求権があるからバランスがとれているという御指摘なんだと思うんですが,実際の裁判の形態になったときには,理論的に常に話が運ぶわけではなくて,賃料の減額がされないままで損害賠償請求が起きる場合もあれば,減額請求があって,その上で損害賠償請求が起きる場合などがあって,そのときに損害の評価をどう考えるのか。遡及しないというなら,そのとき,そのときの損害額を限定すればいいんだけれども,例えば賃料額を減額しないままで進行してきている中で損害賠償の決着がついた後で,よく考えてみたら減額できたんですよねということで,今度新たに,減額の請求が起きるなんていうことが起きたときに,一旦,確定してしまった損害賠償額というのは,訴訟法上はそれほど簡単に変えられないと思いますので,結局,両方が交互に交錯するんですよという話になると,裁判の中で結構面倒なことが起きるのではないか。   面倒だから立法しないということではないんですが,その辺りのことをよく考えないと,別途,損害賠償訴訟ができるから大丈夫だというのは,それはよく考えて,その場合の手当がきちんとできるのかどうかを検討した上で,今のような御提案の趣旨にいくべきかどうかを考えるべきだと思います。弁護士会の中に,一部,これに対する反論があるという中には,やや技術的かもしれませんが,そういうことも心配してということもあるということを付け加えたいと思います。 ○松本委員 今までの議論の続きのようなものなんですが,賃借人の義務違反による一部滅失の場合に,当然減額プラス損害賠償だから,従来と変わらないんだという説明かもしれないんですが,そこで言う損害賠償というのは,賃料が一部減額されたことによって,本来,全額賃料として取れたはずが取れなくなった逸失利益という損害の賠償なのか,それとも,物自体が一部滅失したわけだから,その分,客観的な経済的価値が毀損しているんだと,善管注意義務違反で物が一部滅失したのだから,それに対する損害賠償だと。物を原状に復帰させるための費用を損害賠償として,あるいは客観的になくなった価値の分を損害賠償として払うんだということと,二つのタイプの損害賠償が考えられるわけです。ここで言っているのは両方を意味しているのか,それとも,賃料減額分が逸失利益の損害だということだけを言っていて,物自体の滅失毀損部分に対する損害賠償は,契約終了の際に善管注意義務違反として,最後にもう一度,考えましょうという話なのか。それとも,収益物件である物の価値はそれをいかに運用するかによって生まれてくるんだとすれば,賃料が下がるということ自体が物の価値に跳ね返ってくる,賃貸目的物の価値というのは賃料から還元して計算されるという収益還元法的な考え方でいけば,両者はひょっとしたら区別がないという話になるのかもしれないんですが,その辺はいかがなんでしょうか。ここでいう損害賠償というのはどれを指しているのでしょうか。 ○金関係官 観念的には両者を含むけれども,具体的な損害の算定においては両者はかぶるという最後の松本委員の御説明のとおりだと思います。賃貸不動産に限らず,一般的に物の時価といいますか,物の価額を算定する際には,収益物件であればその物の耐用期間が終わるまでの将来の収益を現在価値に引き直すといった計算方法が用いられることも多いと思いますので,結局,観念的には両者あり得るけれども,具体的な算定においてはかぶるということだろうと思います。 ○松本委員 そうしますと,従来の考え方だと,賃借人に帰責事由がある場合については減額はされず,終了まで従来どおりの賃料を払わなければならない。そして,最後にきちんと返還しなければならないという点についての善管注意義務違反の部分を別途,損害賠償として計算するということになりますが,最後のところは少し取り過ぎだということになるわけでしょうか。 ○金関係官 将来の賃料収益を現在価値に引き直したものだけでは足りない部分がある場合には,その部分は,賃料が下がった部分とは別に,損害賠償の対象とすることが可能だと思います。そこは個別具体的な損害額の算定の問題だと理解しております。また,賃借人が賃借物の一部を壊してしまったような場合には,将来賃借物の返還をすべき時期が来て初めてその部分の損害賠償請求ができるというわけではなく,壊した時点でそれによる全ての損害を計算して賠償請求をすることができると理解しております。 ○高須幹事 余り個別ケースをここで議論してもしようがないのかもしれませんが,素朴な疑問が残ったままで分科会にいくのが嫌なものですから教えていただければと思うんですが,今のようなことで先ほどのような話と同じ趣旨になるんですが,賃料自体は減額をしないで払っていたという場合に,そうすると,損害賠償請求訴訟を提起した場合に,損害はあるということになるのか,ないということになるのかは,どのようになるのかなというイメージをお持ちかどうかということと,それに,仮に損害がないということで棄却なりがされた場合に,後に減額請求を今度は賃借人側が起こすということはありなのか,ないのかということのイメージももしお持ちであれば,教えていただければと思うんですが。 ○金関係官 通常は約定の賃貸期間とその賃貸物件の耐用期間はイコールではないと思いますので,賃料の減額がされなかったとしても,賃貸期間の満了後に更に使用価値が残っているような場合であれば,その部分については賃貸物件の一部が壊されたことによる損害がなお存在するということになると思います。後半の御指摘については最初の損害額の算定の問題とせざるを得ないという気もしますが,改めて検討させていただければと思います。 ○高須幹事 疑問が残るのは損害の算定ということに関しては,実際に裁判では結構問題になるということ,すごく算定しにくいような法理を作ると,実際の使い勝手が悪くなるということが少し私どもは気になるところでございまして,あとは手続法の問題だとは言い切れない部分もあるのではないかと思うので,その点はしっかり考えさせていただきたいと思います。個別のことを伺って申し訳なかったですが,大変参考になりました。ありがとうございました。 ○中井委員 既に相当意見が出ているので,重複してしまうのかもしれません。最初に,岡委員からもありましたけれども,本当に当然減額がよいのかという点と,賃借人の義務違反の場合にも当然減額がよいのか,この2点について,更に検討していただきたい。一部が利用できないとなったときの減額は,理論的には後で決めることができるのかもしれませんけれども,当然減額であれば意思表示なくして,その時点から何らかの金額に下がっているという理屈になるわけですから,仮に賃借人が従前どおり払っていても,後からもちろん返せと言うことができるはずだし,先ほど岡委員が指摘されたように債務不履行を解除した後,いやいや,減額されていたはずだというような主張も許すことになる。果たして,そのような不安定なことがよいのか。   今回のこの提案は,賃料なるものは現実に使用収益させたことの結果として現れる請求権であって,使用収益させていない以上,賃料は発生しないという論理を貫徹させようとしているのかなと。そうすると,契約を結んでも現実に引渡しするまでの賃料も,発生しないという論理になっているのかもしれませんけれども,その論理を貫徹していること自体,何か無理が生じているのではないか。その一番の無理が,賃借人に義務違反があって,一部,使えなくなったその時点でも,その時点から当然減額になる。常識に反するといいますか,非常識な結論のような気がするんです。差額は損害賠償すればいいではないかということですが,その損害とは,何かという細かな議論になるような気がいたします。重ねて,当然減額の当否と賃借人の義務違反の場合も含めるのか,慎重に検討していただきたいと思います。 ○金関係官 非常識という点についてですけれども,賃借物件の全部滅失の場合には,賃借人の義務違反による場合であっても,賃貸借が当然に終了して賃料債務も当然に無くなるとされていることとの関係が少し気になっております。全部滅失の場合とパラレルな処理であるという説明をすれば,それほど非常識ではないとも言い得るように感じております。 ○道垣内幹事 損害賠償の問題が出て,高須幹事御自身は細かな具体的な話とおっしゃったのですが,ただ,そこら辺を詰めないと何か話がよく見えてこないのです。賃借人の過失による一部滅失の場合において,賃料の当然減額が生じないという立場を採ったときに,どういうふうな法律関係になるのか。例えば賃借人が用法遵守義務違反によって半分は利用できない状態にしてしまったとします。そのときには,賃貸人側は,賃借人が壊したことについて損害賠償請求はできるはずでして,かつ,それは決して返還時にできるのではなく,その時点でできるわけですよね。そうなると,その時点で半分滅失したことによる損害賠償請求ができ,しかし,その損害賠償額を支払ってもなお賃料の減額の効果は発生しないということになりそうで,それはいかにもおかしいだろうという気がするのです。ただ,その場合でも,賃貸人の修繕義務が,修繕の原因が賃借人の義務違反によって生じた場合を含めて,発生するのだとしますと,修繕義務違反の問題が起こり,そこで処理するということは考えられないではないのですけれども,しかし,過失によらないで滅失したときに限って減額の請求をするということになれば明快ですっきりいって,当然減額だとすっきりいかないというふうに,それほど割り切った評価ができるのかというと,そうではない。金銭の支払義務の関係は錯綜するのではないかと思います。だから,最終的に中途の状態をどうするのがよいのかということについては,議論をして決めていただければと思うのです。そう単純ではないと私は思います。 ○能見委員 既に出ている議論の繰り返しになるのかもしれませんけれども,従来の考え方の下でも,松本委員が言われたようなことが生じたと思います。従来の考え方では,賃借人のほうに過失があって一部使用ができないという状態では賃料減額請求できないわけですが,従って,賃貸人は賃料全額を請求できるとしたときに,しかし,他方で失火などでもって一部滅失など一部利用ができないという状態は,賃借人の過失によって作られたので,賃借人にその損害の賠償請求できるとして,損害賠償として何が取れるのかということが同じように問題となると思います。賃料減額がない分だけ取り過ぎになるから,結局,それは先ほど指摘があったように損害から控除されるのか,あるいはされないのかというのが結局,問題なんだろうと思います。   この問題は中井委員が言われたように,一部滅失といいますか,一部利用できない状態が確定したというときに,それでも賃料というのは発生するのか,それとも,全部滅失と同じように割合的に賃料が減るのか。この点の決め方の問題なんだと思います。考え方としては割り切って,一部が使えなくても賃貸借契約というのは一定の期間,1か月だったら1か月間利用するという契約であって,その期間に対する賃料があると考えて,その間,一部が使えないという状態が生じても,賃料は元々全部取れると考えることもできます。このように割り切れば,損害賠償と賃料減額の話は違うことになり,取った賃料を損害の填補とは考えないので,両者が交錯することはないわけです。しかし,先ほどから損害賠償の算定のところでも両者は交錯するからこそ,損害算定が難しいという話が出てきましたが,賃貸人が取れる全額の賃料を損害の填補と考えると,両者が交錯することになる。この問題は,従来の考え方であれ,この新しい考え方であれ,賃料の考え方如何ではどのみち生じると思います。私はどちらの解決の仕方でもよいと思いますが,要は一部滅失のときに賃料というのはその分,割合的に取れなくなるのか,それとも,それでも取ってよいのか,賃料についての考え方をどうするか,そこだと思います。 ○松本委員 今,能見委員もおっしゃいましたけれども,従来の考え方とこの新しい考え方で,義務違反のあった賃借人の経済負担が変わらないのか,変わるのかというところをクリアにしていただかないと,議論がしにくい感じがいたします。単なる理論的な説明として,こちらのほうが何かきれいですねというのなら,それでもいいかなとは思うんですが,実際の経済負担が相当変わるということであれば,それだけの合理的な理由を挙げないと,理屈はこっちのほうがきれいですねというだけでは駄目だと思います。   そういう点で,損害賠償のところは確かに大変難しいと思います。従来の考え方で損害賠償をどう計算するんだと,先ほど道垣内幹事が賃借人の義務違反があった場合に,賃料支払義務は残り,かつ,その時点で損害賠償の権利が発生するんだと,それは,その物が滅失・毀損した部分の損害だとおっしゃいましたけれども,そうだとすると何か二重取りになる可能性があるわけです。賃料も取った上で,更にその物の価値減損額というのは,収益物件であれば,賃料を取れるものとして評価された価値ですから,二重取りになる可能性があるわけです。その辺り,人によっていろいろな考え方があるのだろうと思います。したがって,新しい考え方であるこの提案を入れたとしても,損害賠償のところはいろいろな考え方があるのだから,簡単には比べられないという話になってしまうのかもしれないんですけれども,それだと,何となく議論が進まない感じがします。   先ほど私は賃料を払った上で,最後の返還時点における損害,善管注意義務を尽くしたものを返還すべきであった分の損害賠償だということを言ったところ,これを批判する方が何人かいらっしゃいました。これは二重取りにならないようにしようと思えば,こちらのほうが論理的だということであって,確かに賃料を全額払っていて,そしてそのものの使用価値が完全になくなったものであれば,それ以上の損害はないということで終わるわけです。しかし,まだ,20年,30年使えるものについて,毀損の時点で減損価値を計算して損害額の計算をした上で更に残存賃料も払わせるというのは,二重取りになるのではないかと思います。 ○中田委員 既に議論は整理されていると思うんですが,中井委員のおっしゃったことと能見委員のおっしゃったこととで,多分,三段階の問題があるんだと思いました。一つは賃借人の義務違反の場合も含むかどうかということ,2番目が請求減額か当然減額かという問題,それから,3番目にそもそも賃料債務というのは何に対して発生するのかという三段階の問題です。第一段階,第二段階の問題は,最終的に松本委員のおっしゃるような経済的な効果も考えながら,微調整できるかもしれませんけれども,根底にあるのは能見委員のおっしゃった賃料債務というのは何に対して発生するのかという,そこは押さえておく必要があると思います。   この第三段階の問題については,使用収益が可能な状態に置いたことに対して賃料債務が発生するというのは,かなり広く今までも受け入れられてきたのではないかなと思っております。そこを動かしてしまうと,いろいろなところが非常に不明確になってしまいまして,まず,そこは押さえておいたほうがよいのではないかと思います。能見委員はどちらでも構わないというお立場でして,両論があり得るとは思いますけれども,私はそこは今,申し上げたような形で押さえた上で,あとは具体的なところで考えていくというのが適当ではないかと思います。 ○鎌田部会長 それでは,様々な御指摘を頂いて問題点がクリアになってまいりましたので,その御議論を踏まえて分科会で補充的に検討させていただきます。   一時的な利用不可に関する(3)については,御意見はいかがでしょうか。 ○山野目幹事 (3)の一時的利用不可の規律を置いていただきたいと考えます。その場合において当然減額になるか,また,賃借人の義務違反の場合も含めるかといった先ほどと同様の論議の構図が引き続き当てはまり,ここでまた検討されるべきであるということは当然であると考えます。 ○鎌田部会長 (2)に関する議論を踏まえて,一時的な利用不可の状態に対する対応も,それと調整を図りながら規定を設ける方向で検討すると,そういうことにさせていただきます。   次に,「8 賃貸人の担保責任」と「9 賃借権の譲渡及び転貸」について御審議いただきます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「8 賃貸人の担保責任」では,売主の担保責任に関する規定が原則として賃貸借に準用されることを前提としつつ,短期期間制限の規定については賃貸借に準用されないことを条文上明らかにすることを提案しています。   「9 賃借権の譲渡及び転貸」の「(1)無断譲渡及び無断転貸を理由とする解除の制限」の第1パラグラフでは,賃借人が賃借権の無断譲渡や賃借物の無断転貸をした場合であっても,背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは,賃貸人は賃貸借契約の解除をすることができない旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。また,第2パラグラフでは,第1パラグラフの規定の適用がある場合には,賃借人が適法に賃借権を譲渡し,又は賃借物を転貸したものと同様に扱う旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。   「(2)適法な転貸借がされた場合の規律」の「ア 賃貸人と転借人との関係」では,適法な転貸借がされた場合の賃貸人と転借人との間の法律関係について,①として,賃貸人は転借人が目的物の使用収益をすることを妨げることができないこと,②として,転借人は転貸借契約に基づく債務を賃貸人に対して直接履行する義務を負い,直接履行すべき転貸借契約に基づく債務の範囲は原賃貸借契約に基づく債務の範囲に限られること,③として,転貸借契約に定められた賃料の支払時期の前に転借人が転貸人に対して賃料を支払ったとしても,転借人は賃貸人に対する賃料の直接の支払義務を免れないこと,④として,賃貸人が転借人に対して賃料の直接の支払を求めた場合であっても,転借人は転貸人に対して賃料の支払をすることを妨げられないことを定める規定を設けることを提案しています。   「イ 原賃貸借が解除された場合の規律」の第1パラグラフでは,適法な転貸借がされた後に原賃貸借が合意解除によって終了したときは,原賃貸人は転借人に対して原賃貸借の消滅を主張することができない旨の規定を設けることを提案しています。また,第2パラグラフでは,原賃貸借が転貸人の債務不履行を理由とする解除によって終了した場合については規定を設けないことを提案しています。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明がありました部分のうち,まず,「8 賃貸人の担保責任」について御意見をお伺いします。ここには特に御異論はないと思ってよろしいでしょうか。 ○潮見幹事 私のは簡単で確認だけですが,担保責任のところで準用される規定というのはどれになるんですか。それだけをお教えいただければと思います。 ○金関係官 売主の担保責任に関する規定のうち短期期間制限の規定を除いたもの……。 ○潮見幹事 今回,考えられている規定の中で,ここでは短期期間制限の規定は準用されないということですよね。ということは,それ以外のものは準用されるということが前提ですよね。 ○金関係官 はい。少なくとも現行法では,売主の担保責任に関する規定は,賃貸借についてもその性質に反しない限り準用されるとされていますので,今回の提案は,そのことを前提とした上で,短期期間制限に関する規定だけは準用しないというものです。ですので,御質問に対しては,短期期間制限の規定を除いたもの全てという回答になるかと思います。 ○潮見幹事 先ほどのお話でも,利用することができない場合とか,修繕を要する場合とか,いろいろありましたよね。ここでこのような準用規定ができたときに,担保責任の一般規定というか,売買の規定との適用関係とは,一体,どうなるのでしょうか。場合によれば,先ほどから議論があるような規定がそのまま妥当するのであれば,それに対応する規定,担保責任の規定というものは適用が排除されるということになるのでしょうか。 ○金関係官 目的物の一部を利用することができなくなった場合に関する今の御質問は,目的物の引渡し時に既に利用することができなくなっていた場合を前提とする御趣旨だと思いますけれども,今回の部会資料の提案は,引渡しを受けた後に利用することができなくなった場合を念頭に置いていましたので,引渡し時に既に利用することができなくなっていた場合における担保責任との適用関係などについては,改めて検討させていただければと思います。 ○潮見幹事 長くは申し上げませんけれども,確かに準用することができないものを排除するというのは簡単なのですが,そのときには,準用するということが当然に前提になるわけですから,そうなると,規定が競合するような場合の処理を将来の解釈問題として残すのか,それとも,そうではないのと考えるのかについて,一応,見通しを持った上でやったほうがいいでしょう。少なくとも,債務の不完全な履行がされた場合に,今,正に金関係官がおっしゃったように,どの時点で,どのような不適合が生じたのかという点についての競合する規定の適用関係は,ある程度,見通しを立ててから考えたほうがよいのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 似たようなことなのですが,どのような規定が準用されるのかということが必ずしも明らかではないところで,しかも,これまでそう一生懸命議論してこなかったところですので,それを確認したかったということがあります。例えば,修繕義務は現に明文で定められていますし,今後も定めるとしますと,その部分については準用されないというのかどうかはともかくとして,賃貸借に定められた規定がそのまま適用されるのだろうと思いますが,それ以外の追完請求,例えば代替物の場合に物が滅失・損傷したときにどうなるのかという辺りについては,一体どうなるのか,そして,どうなることを前提としてこれが提案されているのかということを少し確認したかったということが一つです。   もう一つは,仮に売主の担保責任に関する短期期間制限の規定が置かれたとしますと,それがここに準用されないという結論はそのとおりだと思いますが,そうしますと,それをどう定めるのか,この規定は準用されないと書くのか,要するにどのような書き方を想定しておられるのかというのがお聞きしたかったところです。このようなことを明文で書くことにしていきますと,ほかのところでも全部書かないといけないのかというような問題が生じてきます。そういった点についてはどのような見通しを持った上で提案されているのかというのが,確認したかったもう一つの点です。 ○金関係官 準用するものを挙げて準用すると書く方法と,包括的に準用しつつ準用されないものを挙げて準用されないと書く方法があるように思いますが,今のところは具体的な条文の書き方について固まった考えを持っているわけではありません。一つ目の御指摘や先ほど潮見幹事から頂いた御指摘も踏まえて検討したいと思います。 ○鎌田部会長 御指摘の点は十分に配慮させていただくことが必要だと思いますので,よろしくお願いします。   「9 賃借権の譲渡及び転貸」についての御意見をお伺いします。 ○岡委員 意見がかなり分かれております。まず,不動産についての判例法理を動産の場合にも全面的に書くのですかという疑問を投げ掛ける意見がまずございました。背信的行為の中身が動産と不動産で裁判所がうまく解釈してくれるからいいのではないかという意見もございましたが,不動産についての判例法理を動産についてまで広げるのはいかがなものかという意見は一部に根強くございました。   2番目に,無断譲渡,無断転貸が認められる場合というのは極めて例外的な場合なので,判例法理があることはあるけれども,例外的な場合を条文にするほどのものかと,否定的な場合を正当化するようなメッセージを与えてしまうのではないかという観点から,反対する意見もございました。賛成の意見ももちろんあるわけで,そういう意味で,非常に意見が分かれておるということでございます。それから,解除の一般法理である信頼関係破壊の法理のほうは,解除の一般原則に吸収させて,賃貸借のところでは書かないと。無断譲渡,無断転貸のところだけを書くというのもバランスに欠けるという意見もございました。   それから,最後に②について同様に扱うという意味が明確ではないという意見,追い出しはできないというだけであって,適法な譲渡あるいは転貸と同じに扱うとまでランクアップしなくてよいのではないかと,そういう意見もございました。   いずれも多数を占めるというわけではなく,そういう反対意見あるいは消極意見がばらばら出されて,それなりの数を占めたと,そういう状況でございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○高須幹事 今の点と関係するわけですが,信頼関係破壊の法理のところの位置付けについて,部会資料ですと34ページのところで,無断譲渡,無断転貸以外に関しては必ずしも一般的に妥当する法理として確立しているとは言えないという指摘もあるというような理由で,ともかく,ここでは無断譲渡・転貸だけ書いたらどうかみたいに読めるような資料になっているわけですが,今,岡先生からも御指摘があったとおりで,基本的には賃料不払解除,無断増改築禁止特約違反解除,用法違反,義務違反解除について,それぞれ判例法理としては信頼関係の問題とすると,つまり,背信性の存在,不存在を問題とするという判例法理は確立していると言ってよいと思いますので,恐らく,その辺は曖昧だというのではなくて,指摘としては要するに解除一般の法理をどう作るかとの問題の中で,どう考えるかの問題なのだろうと思うわけでございます。ですから,そのことを正面から議論する機会がこの後,更にあると思いますので,その中でよい解決方法を導くということが必要だろうと思っております。 ○能見委員 実は,ここら辺の判例法理自体の理解の仕方が私もよく分からないところがあって,現行法だと612条第1項がどういう意味を持つのかということと関係するんですが,もうちょっとはっきり言えば,無断転貸について言えば,賃貸人としては612条第1項を根拠にして,転借人に対して,お前は転貸人との関係では有効な賃借権はあるかもしれないけれども,自分に対しては,すなわち賃貸人に対しては転借人の地位を対抗できないんだということで,賃貸人との賃貸借契約を解除しないでも,転借人を追い出すというか,転借人に明渡しを請求することができる。そういうことが612条第1項では考えられるのではないかと思うのです。そういう判例も確かあったように思うのです。   そういうことが言えるのだとすると,転借人はその賃借権を賃貸人には主張できないことと,賃貸人と賃借人の間の賃貸借契約の解除が認められるかどうかという問題とが,理論的にどう関係するかという部分がいまだ私はよく分からないところがあります。今,ここで出ている提案というのは,転借人あるいは賃借権の譲受人が賃貸人との関係で賃貸借目的物を使えるかどうかの問題は,全て元の賃借権の解除が許されるかされないかの問題に全部解消されると考えているように見えます。賃貸人A,賃借人B,転貸人Cとすれば,全てA・B間の解除が認められるかどうかに関わって,それの帰すうによってCがなお居続けることができるかどうかが決まると,そういう仕組みのようですが,果たして本当にそれでよいのか。これは岡委員が指摘されたワンランク上げてしまってよいのかという問題とも関係すると思うんですけれども,どうもそこら辺の理論的な整理がまだついていないのではないか,幾つかの考え方があり得るのではないか。   この案というのが,以上述べた私の疑問に対してどういう立場をとるのか,その点が分かりませんでしたので,一言発言しました。 ○三浦関係官 私も簡潔に申し上げます。今回の省内の検討の中で,産業界からの御意見として,確立した判例法理の明文化という考え方自体には特に異論はないけれども,その判例法理というのが,借地借家法が適用されるような特殊な事案を念頭に置いて形成されてきた法理なのではないか,もし,そうであれば,それを広く賃借権の無断譲渡,無断転貸一般に広げてよいのかというような問題意識が出てきたということを紹介させていただきます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。無断譲渡・転貸に関する信頼関係破壊の法理の明文化をめぐる御意見を頂戴したところですけれども,(2)についてはいかがでしょうか。 ○中井委員 (2)につきましても異論があります。①から④の考え方に賛成する意見も多いのですけれども,異論もあることを御紹介したいと思います。現行法でもあるはずの問題ということになるのかもしれません。まず,②のところで転借人は賃貸人に対して直接履行する義務を負う。現行法がそうなっていますから,更に後段部分を明らかにするところに意義があるのかなとは思いますが,考えておかなければいけないのは,間の賃借人に例えば破産手続を開始したときに,賃貸人は破産者たる賃借人を飛ばして転借人に請求できるという規律,現行法もそういうことになってしまうわけですけれども,果たしてそれがよいのかという点についての疑問が出されております。具体的提案というところまでいかないんですけれども,その点についての検討はしておくべきではないか。   それから,③についても支払時期の前に払うものは,全て賃貸人に対抗できないような形になるわけですけれども,確かに古い判例で前払いとはという定義がそのようになっているようです。仮にそうだとすると,常に転借人は支払時期その日若しくは支払時期を経過してから払わなければ,賃貸人に適正な賃料支払をしたと主張できないことになりますが,実務はそうなのか。転借人は少なくとも弁済期より前に,2期も3期も遡ることはありませんけれども,前の弁済期から次の弁済期の間のどこかで余裕を見て払っている。払った後に賃貸人が転借人に対して直接払えと言ったときに,全て前払いとして対抗できないという帰結になりますが,古い判例の前払いという定義をそのままにして明文化するのがよいのか,次期に支払うべきものを前の期に払った場合について,転借人は賃貸人に対して支払義務を免れないというならまだしも,当期分まで含めることについての当否は更に慎重に検討すべきではないか。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○沖野幹事 ③と④の関係ですけれども,③では前払いをしても転借人は賃貸人に対して直接の支払義務は免れず,④では賃貸人が直接の支払を求めた場合であっても,転貸人に対して賃料の支払をすることは妨げられない。そして,④については全く時期・事由の限定がないので,およそ一般的に直接請求といっても転借人を拘束する力は全くなくて,転借人としては転貸人に賃料を支払えばそれでよいという規定のように読めます。転貸借契約において弁済期が決まっているときに,その弁済期より前に賃貸人が請求をしたとしても,それはまだ弁済期が来ていないということで拒めると思いますので,そうすると,賃借人に対して前払いを期限前にした場合において,賃貸人から直接請求が来たときに,期限がまだ来ていなければ本来そもそも請求できないと言え,期限が来てしまって,もう前払いしていたということだと,④によって賃借人に対して払うことは問題がないことになるので,③と④が矛盾していないかという気がするのですが。大いなる誤解をしている気もするのですけれども,趣旨を御説明いただければと思うのですが。 ○金関係官 前払いが禁止されていることの趣旨は幾つかあるとは思いますけれども,一つには,弁済期の到来前に転借人が転貸人に賃料を支払ってしまって,原賃貸人が転借人に直接の賃料請求をしようとすると,既に転貸人に支払ったと言われたので,原賃貸人が転貸人に賃料の支払を請求しようとすると,そのときには既に転借人から転貸人に支払われた賃料は費消されてしまっていたというような状況を想定した上で,せめて,弁済期の到来後に転借人が転貸人に賃料を支払っていたのであれば,原賃貸人が転貸人に賃料の支払を請求しようとするときには,転借人から転貸人に支払われた賃料がまだ転貸人の手元に残っていることが多い,こういうことを実現しようとしているのではないかと思います。その観点から申しますと,確かに④の規律があるので,転借人は原賃貸人から直接の賃料請求を受けたとしても転貸人に支払えばよいわけですが,しかし,転借人が前払いをした後に転借料の弁済期が到来して原賃貸人から直接の賃料請求をされたときには,その前払いは原賃貸人に対抗できないので,極端に言えば,転借人としては転貸人にもう一度転借料を支払って初めて原賃貸人に対抗できるということになると思います。そうすると,原賃貸人としては,転借人から転貸人に支払われたばかりの賃料がまだ転貸人の手元に残っている状態で転貸人に賃料の支払を請求することができることが多いということで,前払いを制限する趣旨が実現されるという仕組みなのではないかと考えています。③と④の規律については,今申し上げた観点から,必ずしも矛盾しないと理解しています。 ○鎌田部会長 その際,二度目に転貸人に払った瞬間に取戻請求権があるから返してもらってしまうということはできるわけですね,二重払いだから。 ○金関係官 はい。転貸人との関係では飽くまで二重払いとして処理されるという前提で申しました。他方で,原賃貸人との関係では,二重払いのようなことをしない限り対抗することができないという趣旨です。恐らく現在でも,原賃貸人の転借人に対する直接の賃料請求権と転貸人の転借人に対する賃料請求権とが連帯債権とされていることと,転借人の前払いが禁止されていることとを併せて考えれば,正に今申し上げたような規律がされているのではないかと理解しております。その意味では,③と④は特に現在の規律を変更しようとするものではないと理解しております。 ○沖野幹事 分かりました。 ○深山幹事 今の議論に関連して,本来,転貸借と賃貸借というのは違うんだと,転借人の地位というのは単純な賃貸借における賃借人の地位と違うんだという理解が,現行法においては前提になっているのかもしれないんですけれども,そのこと自体に疑問があります。つまり,本来,期限の利益を放棄して早目に払うということは,一般的な債務でいえば,できるのが原則なんだろうと思うんですね。単純な賃貸借であれば,それはもちろんできるわけですが,転貸借になると,転借人の地位になると,それが転貸人との関係では有効で問題ないとしても,原賃貸人との関係で,それが適法な支払と認められないという現在の規律そのものが合理的なのかということが,検討されていいのではないかなという気がいたします。   そういう意味では,そこも当然の前提と考えないのであれば,③,④の関係という点も疑問を感じるところですし,更にそれを推し進めていくと,現行法の直接請求というものの合理性なり,それをどういう権利関係と見るのかということ自体が立法論としては見直しをされてよいし,これを全く否定するかどうかはさておき,ある程度,限定的な場面での権利関係として直接請求を捉えるべきではないかと思います。   今の金関係官の言うように単純な連帯債権という位置付けをするのが,そういう性質決定をするのがよいのかについては疑問を感じております。先ほど転貸人が倒産したときの規律について中井先生から言及がありましたけれども,倒産時の規律として修正をするということも含めて,そもそも平時の場合の転貸借関係における直接請求の法律関係という点をもう少し分析するべきであり,単純な連帯債権関係と捉えるのは,必ずしもよろしくないのではないかというのが私の意見です。 ○岡委員 今の深山さんの意見に関連して,直接請求あるいは直接義務履行は転貸人が賃貸人に対して義務違反をしているときに限ると,そういう学説は全然ないんですか。転貸人が賃貸人にきちんと義務履行しているときに,フリーに,直の請求もできるし,直に払ってもよいと,何か,そこまで認める必要性はないように思います。今の条文が何の制限もしていないから,そのままになっていると思うんですけれども,昨日,議論している中で,深山さんと同じように直接請求,直接履行が何かいつでもできるというのは,もう少し制限してもよいのではないかと,そういう考えを持ちました。 ○金関係官 賃料債権のことを考えると確かにそういう面もあるように思いますが,この直接の履行義務は,第一読会で山本敬三幹事が御指摘されたように,用法遵守義務なども対象としていますので,そのような用法遵守義務などについては,日々直接に請求できるし日々直接に義務を負うという関係に立つといわざるを得ないようにも思います。ですので,今の岡委員の観点を取り入れるのであれば,例えば金銭債権だけ別の規律にするとか,そういったことが必要なのかもしれません。ただ,そうした場合でも,例えば用法遵守義務違反に基づく損害賠償請求権として,原賃貸人の転貸人に対する損害賠償請求権と,原賃貸人の転借人に対する損害賠償請求権とが発生したときに,原賃貸人の転貸人に対する損害賠償請求権についての債務不履行がない限り,原賃貸人は転借人に請求できないことになってしまうといった問題が出てくるなど,なかなか難しい面もあるのではないかという気がしております。その意味では,金銭債権よりも更に狭く賃料債権という限定をして,転貸人に賃料債務の不履行があった場合にのみ原賃貸人は転借人に賃料の直接請求ができるという規律ということであれば,一つあり得るかもしれないとは思いました。 ○沖野幹事 誠に申し訳ありません,岡委員の御提案の中で,転借人が債務不履行をしている場合に限るという考え方が一つのアイデアとして示されたと思うのですが,そうであれば,用法違反なども用法に違反していて遵守しないという場合にはできる,そうでないときに予防といった話が出るのかもしれませんけれども,であれば,同じように考えられそうな気もするのですけれども,どうでしょうか。 ○金関係官 用法遵守義務についてはその性質上,日々転借人が原賃貸人に対しても負っていて,その根拠は直接義務だという説明だと理解しておりましたけれども,転貸人に義務違反があった場合にのみ転借人の用法遵守義務が発生するというのは,具体的にはどのようなイメージなのでしょうか。 ○鎌田部会長 転貸人も同じ義務を負っているのではないかということ,転借人に用法遵守義務違反があると転貸人にもあるんだから,転貸人に債務不履行があるときという条件の中で,それはカバーできるという,そういう趣旨ですか。 ○金関係官 そういう御趣旨であれば。 ○鎌田部会長 岡委員からの御意見,御提案も含めて検討を続けさせていただきたいと思いますが,ほかにこの点をもっと詰めて検討すべきであるとか,ここは変更したほうがよいというふうな御意見はございますか。 ○中井委員 岡委員は,賃借人に不履行があるときに限り賃貸人は直接転借人に対する権利行使ができるとおっしゃったんですね。その場合,賃借人が倒産手続を開始した場合の解決にはならないという点でなお限界はあると思います。ただ,別の話になってしまいますけれども,賃貸借契約と転貸借契約があって,それぞれの契約に基づいてそれぞれ権利義務を負う,どうして転貸借関係のときだけ直接に全ての権利義務が,賃貸人と転借人との間にあるのか。ここについてもう少し理論的根拠を詰める必要があるのではないか。現行法がそうだからそうだということを出発点にすれば,この議論は飛んでしまうんですけれども,そこを疑問に思います。   賃借人が倒産手続のときにその問題は顕在化してきて,ある弁護士会からは,賃借人に倒産手続が開始したときの転貸借契約に敷金が入っていたとき,敷金の範囲で支払う転貸賃料については寄託請求の制度が倒産法で用意されていますけれども,その権利行使の関係で錯綜した問題が生じることは間違いがありません。それは現行法を前提とする以上は既に生じている問題ですから,ここで解決するかどうかというのは次の問題かもしれませんけれども,そういう問題もあるということを申し上げておきたいと思います。 ○鎌田部会長 直接請求権の制度を作ったのは,正に今のような転貸人が倒産の場合でも賃貸人は債権確保ができるようにするためということなんだと思うので,そもそも,その必要性があるのか,あるいはそれがこの場面で本当に必要なのかということが根本的な問題点なのだろうと思いますので,その点も踏まえて少し検討を続けさせていただければと思います。 ○三上委員 自分の立場と離れた議論になりますけれども,転借人が例えば用法の違反をしていたときに,それを理由に転貸借の解除請求ができると同時に原賃貸借の違反にもなり,原賃貸借の解除理由にもなるという理解は,それはそれでよろしいんですか。であれば,普通の何か履行補助者を使ったときのように,あるいは委任の復委任等の場合も含めて,賃借人は転借人の行動に関して,一定の責任を負うというルールを設ければよいわけです。   だから,昔から613条のような規定が何故賃貸借にあるのか,実際にサブリースのような事業上の転貸借関係のときに,所有者が転借人に直接請求するというのは余り考えていないはずなので,非常に不思議でした。かつ,今,転貸借の関係について議論されていますけれども,賃借権が譲渡・移転されてしまう場合,原賃借人は関係から一切外れるのかどうかで,先ほどの賃貸人の地位を譲渡したときに敷金関係がどうなるというのと同じように,原賃借人との関係で発生した債務が新賃借人にそのまま承継されるということでよいのかという議論は,昔からあったはずですが,それに関しては,ここでは触れられていないような気がするんですけれども,そういう点も考えると613条自体に関して,代理人の復代理人の選任と同じように原賃借人がある程度,転借人に対する責任を負うような形で連動させて,場合によっては債権者代位を使うなどすれば,613条は設けなくても対応できるような気がします。飽くまで,私の個人的な考えで恐縮です。 ○山本(敬)幹事 これは御専門の方がたくさんおられるので,誤っていれば補足していただければと思いますけれども,613条がなぜあるかということの説明については,基本的には,原賃貸人は原賃借人イコール転貸人に対して債権を有していて,そして,その原賃借人イコール転貸人は転借人に対して債権を有している。このときに,原賃貸人が,原賃借人イコール転貸人が転借人に対して有している債権を行使するためには,今,少し話題に出ましたように,本来は債権者代位権によるしかないはずであって,そのためには保全の必要性,つまりは原賃借人イコール転貸人の無資力が基本的に要件になってくるはずです。   613条がそのような要件に関わりなく直接請求を認めているのは,その意味では,特則といえば特則なのですが,それは,原賃借人イコール転貸人が転借人に対して債権を有することができるのはなぜかというと,転貸借の場合は,原賃貸人が原賃借人イコール転貸人に賃貸借契約に基づいて目的物を使用収益させているからである。その意味で,一般原則のような「保全の必要性」を要することなく,直接請求を認めたのだというのが一般的な説明の仕方ではないかと思います。  ですので,これは飽くまでも転貸借関係がある場合について言えることであって,その他の場合について同じように一般的に言えるわけではない。その意味で,613条が定められているのは理由のあることであるという説明ではないかと思いますが,どなたかから補足,あるいは訂正していただければと思いますけれども,いかがでしょうか。 ○能見委員 私の話も613条に関連するので,山本幹事の質問に対する答えというわけではありませんけれども,関連して,私の質問も上乗せする形で発言させてもらえればと思います。三上委員から,転借人の用法義務違反がある場合に,613条を基にして何ができるのかという御発言がありました。恐らく一般的に考えられているのは,転借人の用法義務違反だけれども,それが同時に,賃貸人と転借人の中間にいる転貸人すなわち賃借人の用法義務違反になって,初めて賃貸人は賃貸借契約の不履行の責任を追及できる。賃貸人ができるのは飽くまで自分と賃借人との間の賃貸借契約の解除だけであると,そういう理解でよろしいんですよね。そこがよく分からなくて,転借人の用法義務違反があっても,それだけを理由として,賃貸人と賃借人の間の賃貸借契約を解除するということはできなくて,賃貸人ができるのは,転貸借の基になっている賃借人との契約だけである。613条に関してはそこら辺がはっきりしなく,613条で賃貸人が直接請求できるのを転貸賃料の請求だとか損害賠償だけにとどめれば余り問題ないんですけれども,613条を介して転借人の義務違反を理由とする解除なんていう話が出てくると,一体,何を解除するのかというのがはっきりしない。   これは私が少し前に発言した問題とも関係するんですが,無断転貸の場合も全く同じような問題があって,先ほど言い足りなかった部分を関連して補足しておきたいのですが,最初の賃貸人からすると,自分と契約した賃借人については別に不満はないと,だけれども,全然知らない別の人から転貸したとして賃貸借の目的物を使用されるのは困るので,それだけはやめさせたい,転借人の利用だけを拒みたいというときに,先ほど述べたように,ここに出てくる原案というのは,それはできなくて,転借人が嫌であれば元の賃貸借契約も解除しなくてはいけないと,どうもそういう構造になっていると思うんですけれども,そういうことでいいのかというのが,今の613条の理解の仕方から問題になりそうに思いました。   話を613条の問題に戻すと,賃借人としては転借人の用法義務違反などいろいろな問題が出てきて,613条を使って賃貸借契約を解除するときに,まさか,転借人だけを相手にして原賃貸借契約を解除できるわけではないんですよね,私の理解が間違っているかもしれませんので,私の理解でよいのかどうか確認させてもらえればと思います。 ○鎌田部会長 今,おっしゃったのは原賃借人はいいけれども,転借人が気に入らないというケースでは承諾をしないから,無断転貸になる。無断転貸になったときの法律関係については,現行法と同じで無断転借人は原賃貸人との関係では不法占拠者だという取扱いは変えていないんですね。 ○能見委員 ただ,そこで信頼関係破壊はないと抗弁というか,そういう形で争うと,そうすると原賃借人は。 ○鎌田部会長 適法な転貸借になる。 ○能見委員 原賃借人が関与しないところでそうなるのでしょうか,そこら辺もよく分からないところなんですけれども。 ○中井委員 先ほど山本敬三幹事から,直接請求できる根拠についての御説明がありましたけれども,賃貸人は,賃借人の転借人に対する請求権を債権者代位で行使することは理論的にあり得て,無資力要件を課すことが過大だから直接請求を認めたとおっしゃられました。でも,賃借人が債務不履行している場合,仮に無資力要件なくして行使を認めることになれば結果は同じになる。ところが,直接請求を認めると,賃借人の財産が直接,賃貸人に行くことによって,賃貸人側からいえば,賃借人が倒産手続に入ったとき,一人,優先的な権利を取得できる,かつ賃借人の他の一般債権者からすれば,転借人に対する賃料請求権が失われるという結果になって負担を被る。その不平等を先ほどから繰り返し申し上げていましたので,山本敬三幹事のおっしゃったことが理由だとすれば,先ほどの間の賃借人が倒産手続に入ったときの問題は解決していないのではないかと思いました。 ○山本(敬)幹事 これも誤っていれば,どなたかに訂正していただきたいのですが,先ほどの繰り返しにすぎないのですけれども,原賃借人イコール転貸人が転借人に対して有する権利は,原賃貸人が原賃借人イコール転貸人に対して目的物を使用収益させたからこそ取得できたものであって,それは比喩的に言えば,原賃貸人の権利と等しい。だから,ほかの者に優先して原賃貸人が取得できてよいという考え方ではないのでしょうか。それ自体がおかしいという批判はあるのかもしれませんが,613条は元々そのような考え方でできているという説明をしたかったつもりです。 ○潮見幹事 今,直前に山本敬三幹事がおっしゃった部分が正に問われているところであって,613条という規定ができたのは,今,山本幹事が言われたことや,あるいは梅謙次郎の言葉によれば,原賃借人が原賃貸人に対する義務を履行しないけれども,転借人は原賃借人に対する義務を履行しているという状況があるということを認めるのであれば,原賃借人だけが利益を得て,原賃貸人が大きな損害を被ることがあり,これは不公平であるからという理由もあります。   この場合に,原賃貸借契約を解除するという選択肢はあるのでしょうが,原賃貸借関係は従前のまま維持した上で履行の責任を認める,しかも,直接の請求を認めるというのが613条の恐らく元々作られた趣旨でしょう。もっとも,これを現代の様々な状況を前提にしたときに,果たして,このまま貫いてよいのか。債権者代位権という制度もありますし,倒産状態を考えた場合に,このような直接請求を認めた場合にはかえって不自然な結果がそこで生じるかもしれません。利益が転々と移転したという観点から問題を処理するということが果たして妥当なのかということが,ここで問われているのではないかとは思います。   そういう意味では,判例法理と言われているものを前提にして問題を考えるというのも,一つの考え方だとは思いますが,今,幾つか出てきたような意見もありますから,別の考え方から問題を捉え,場合によったら債権者代位権の枠組みで一連的に処理をするという方法も含めて検討してみる余地はあるのではないかと思います。 ○筒井幹事 様々有益な御意見を頂いて,議論が深まっているようにも,いや議論が深まっていると思います。それを踏まえて,中間試案にどう反映させるかという点ですが,今日の議論の中で民法613条を削除するという提案が見え隠れしていたように感じますけれども,これは一つの案として取り上げるべきだとお考えでしょうか。その案を支える理由付けを明確に書く自信が直ちにはないのですけれども,そういう提案を積極的にすべきかどうかについて,どなたかから補充の御発言をお願いしたいと思います。   それから,部会資料の(2)アのところでは,現在の民法613条の理解として①から④までを御提示しましたけれども,これについて現在の理解として適当かどうかという意見があり,仮に現在はこのように理解されているとしても,そのまま明文化することにはなお難点があるという御意見もありました。それを踏まえて,事務当局として更に検討を深めたいとは思いますけれども,そのような難点があるとすると,このまま民法613条を維持しておいて,引き続き今後の解釈に委ねるという選択肢も,今日の議論からすると見え隠れしていたのかもしれないと思います。民法613条については,削除するか,現状維持か,それとも可能な範囲での解釈の明文化といった選択肢が,今日の議論からは出てきているように見えますけれども,そういった整理について御意見がございましたら伺いたいと思います。 ○山野目幹事 中井委員から繰り返し原賃貸借の賃借人,すなわち,転貸人に対して破産手続が開始した場合について,不平等な結果が生ずるのではないかという御疑念を頂いたのに対して,山本敬三幹事から二度にわたる御説明がありました。   私が聞いているところ,感想のみ申し上げますが,山本敬三幹事から御説明のあったことは,極めて自然なものとして聞くことができました。一部の外国法では,今日,日本で言う債権者代位権を間接訴権と表現して,613条が定めているものを直接訴権と表現していて,直接訴権の制度は613条が日本法におけるその表現でありますが,それを設ける趣旨は中井委員が不平等だとおっしゃった,正にその場面について優先権を認めるために設けられた制度でありまして,不平等というよりも,むしろ,直接訴権というものは優先権を実現するものなのであるという理解の上で,山本敬三幹事が説明なさったように,債権者代位権によっては達成することができない帰結をむしろ意図して設けているということが現行法の主旨であろうと思います。   そう考えたときに,中井委員の幾つかおっしゃったことも理解はできますけれども,613条に根拠がなくて,これを削れという議論は,少なくとも私がこの部会の審議を聞いている限り,本日,突如として出てきたように感じますし,ずっとしてきたものを,ここでこれを削るというのは,現行法の規律に対して,これを覆すだけのそれほど強い立法事実が語られてきたわけでもないことを考えますと,きちんと理論立った意見でなくて申し訳ありませんが,相当の勇気が要ると私個人は感じます。筒井幹事が議論が深まっているとは指摘なさりつつ,三つの選択肢をあえて整理なさったうちの613条を削ってしまえという議論を,にわかにここから中間試案に向けてしていくということについては,非常に危惧を感ずるという感想を申し上げておきたいと考えます。 ○中井委員 弁護士会の意見は,何らかの形で現在の規律を明確化していく方向で,ただ,③,④の記載が適当かどうかについては留保した上で賛成しております。先ほどから私が申し上げている,賃借人が倒産手続を開始した場合について不平等な結果が生じるという指摘をしているのは一単位会でして,その意見を披露し,皆さんの御意見を伺うつもりで発言を重ねてきておりました。こうあるべきだと考えてまでのことを決断しての発言ではありません。 ○深山幹事 先ほどの発言の補足をさせていただくと,確かに613条削除というのは,非常に大胆なことを提案することになるのですけれども,実務的な感覚として,立法の沿革的な理由は,それはそれで,今の御説明で理解はしましたけれども,果たして実務的なニーズはどうか,もっと端的に言えば,613条が実務でどれほど使われているのかというと,私は,それほど重宝に使われているという感覚を持っていないんです。恐らく,それは弁護士の少なからぬ実感なのではないかなと思います。逆の言い方をすれば,この条文がなくなったら非常に困るという感覚はないのではないかと思います。   しかし,全くなくして問題がないかということについて,なお決断しかねているところがあるので,多少,歯切れが悪いんですが,これは価値観といいますか,政策判断かもしれません。原賃貸人を保護する,とりわけ賃借人の倒産時において優先的権利を与えるべきだという価値判断の是非ということに,最後は行き着くところかもしれませんけれども,現行法がそういう価値判断を採っているのだとしても,それを見直し,再検討する意義があるような気はします。現在の実務において,613条が平時も含めて,それほど有効に機能しているかというと,先ほど申し上げたように,それほど使われているという気はいたしません。   そういう意味で,今回の立法に当たって,現行法の立法の沿革はともかくとして,現時点において必要なのか,必要だとしてもどの限度で,どのような効力のあるものとして必要なのかということは検討されてよいと思います。現行法の直接義務を負うというのはいかにもよく分からないですし,よく分からないから,もっとはっきりさせろという考え方も当然あるんですけれども,単にはっきりさせるというだけではなくて,どうあるべきかと,どのような効力としてあるべきかということは,言わば白紙から考えて,つまり,規定を削除するという可能性も必ずしも排除しないで,もし必要だとしたらどの限度で必要なのかということを検討するということは,この機会を逃すとないのではないかという気がいたします。 ○畑幹事 この規定を削除すべきか,残すべきかということについて定見があるわけではないので,筒井幹事からのお求めには沿っていない発言ということになります。確かに何人かの方がおっしゃっているように,賃借人イコール転貸人が倒産した際に,優先的な地位を元の賃貸人が得ることになる。直接請求というのはそのための法技術だということも理解できるのですが,ただ,その場合も35ページの④がありますので,誤解があるかもしれませんが,転借人は財団に対して支払うということもできるということになりそうですね。そうすると,優先的な地位といっても,転借人がどっちに払うかを決めることができるということだとすると,何か中途半端な地位でしかないという感じもするところであります。全く感想だけですが。 ○沖野幹事 考え方として3通りといいますか,筒井幹事が御指摘になった三種ということなんですけれども,仮に倒産の場合に賃借人をめぐる各種の債権者の間での優劣というものが先鋭的に問題となる局面においての優先権までは認めるべきではないという考え方によるとしてそれが,およそ613条の規律を削除すべきだということに当然つながるのかというと,その点ももう少しバリエーションがあるのではないかと思われます。   債権者代位を使えば同じことだという指摘がされていますけれども,債権者代位自体がどのような法制となるのかという問題もありますし,そうだとしますと,全く仮にですけれども,賃貸人にそこまでの優先権を認めるべきではないけれども,そのような債権者間の優劣が問題とならない局面において,しかし,賃借人は不履行しているというときに,ダイレクトに転借人に行くという限りでは,それはできると,そういう制度として構想する,賃借人の債務の不履行に対しての保護で,他の債権者との優劣ということがクリティカルに問題となるような局面でない限りにおいては,直接請求ができるというような制度を考えることもできるように思われます。   倒産の場合の規律との関係で,その在り方自体を根底から見直す必要があるという御指摘は,その限りではなくて平時の場合も含めて,およそ否定すべきだという趣旨を含んでおられるのかどうか,もし,そうだとするとおよそ削除ということになるかもしれないのですけれども,それはまた別途,意義があるのであれば削除案ではなく,政策判断を含めて613条修正案というものが残るように思いますので,選択肢のまとめ方として考慮いただければと思います。 ○鎌田部会長 少し検討をさせていただきます。多分,非常に素朴な感覚で,私の財産を使っておきながら,又貸しした人のところに収益が全部帰属して,自分のほうには何も来ないというようなことは許されないはずなので,そういう意味での法定先取特権的に原賃料だけは賃貸人に弁済して,その上に乗っかった上積み分は転貸人の資産として転貸人の債権者で配分していただいてもいいですけれども,本来なら原賃貸人が受け取る分を,なぜ転貸人の債権者がみんな持っていくんだという,何か,そういう感覚が多分ベースにあるので,倒産時に働かない直接請求権といっても余り意味がないというふうなことだろうと思います。ただし,どこの国にでもある制度ではなくて,ある法系に独特の制度ですから,本当にそんなものは必要なのかという議論の余地があること自体は否定できないと思いますので,その辺は検討の中で余裕があれば考えていただくということにさせていただければと思います。 ○松本委員 賃料については今までかなり議論がなされてきて,いろいろな政策的な判断があり,それぞれ合理的な根拠がある主張だと思うんですが,もう一つの典型例と言われている,毀損したような場合の損害賠償についてはいかがなんでしょうか。倒産の場合に,そこは特に問題になるんでしょうか。どちらかというと,原賃貸人は基本的に所有者だから,所有権レベルで保護されて当たり前だという考えでいけば,それが契約上の直接請求という形であっても,中身は所有権的なものだとすれば,それほど違和感はないかと思うんですが,そうであればわざわざ置かなくても,所有権に基づく請求として構成すればよいではないかということになってしまうのかもしれないですけれども。 ○鎌田部会長 転借人による滅失・毀損の場合には,613条は余り意味ないと思いますので,④ははみ出した原則ですね。これは,論理的にはこうなるということだけれども,あえて④を書く必要まであるかどうかというのも,一つの検討の対象かもしれないと思います。   「イ 原賃貸借が解除された場合の規律」については,特に御異論はないと思ってよろしいですね。 ○岡委員 イのところですね。まず,①の合意解除のところについて,考え方には反対はないんですが,ただ,法定解除の要件があるときでも合意解除したら,これになるのかというような問題,あるいはうまく書けるのかというコメントがございました。うまく書けるのであれば考え方について問題はないと,そういう意見でございます。それから,②については設けない,解釈に委ねるという意見のほうが多いですが,規定を設けてチャンスを与えろという意見と,チャンスを与えるべきではないという規定を設けろという意見と,両方がございました。多数説は②としては設けない方向が多数説でございます。 ○鎌田部会長 第1パラグラフに関しては,おっしゃるように法定解除事由があるときに合意によって和解的な合意解除をしたら,こっちになってしまうのかという,そこが一番大きい問題だろうと思いますけれども,基本的な考え方はこれでよろしいということですか。 ○山本(敬)幹事 ここに書いてあることではないのですが,転貸借関係の場合でほかに規定すべき事柄がないかという点に関わることを一つ指摘させていただければと思います。判例にもあるところですけれども,原賃貸借関係が終了した場合に,一体,いつ転貸借関係が終了するかという問題があると思います。原賃貸借契約が終了すれば当然に終了するのではなく,原賃貸人が転借人に対して明渡請求等をしてきた場合に終了する,つまりは賃料債務はそれ以上発生しないというような考え方が判例によって示されているけれども,それについては何も規定をしないという趣旨で,このような御提案がされているのかと推察しましたが,本当にそうなのでしょうかという質問です。 ○金関係官 現状ではそういうことです。 ○山本(敬)幹事 理由はどうでしょうか。これについて,特にここまで規定を具体化する提案がされているけれども,解釈ないしは判例法に委ねるという理由を説明していただければということです。といいますのは,本当にそう考えるべきかどうかについては異論の余地があるところで,判例の事案ではそれでもよかったのかもしれませんが,これはもう少し考える余地があるのではないかという議論もあるところですので,もう一歩説明をお願いできればと思います。 ○金関係官 正に後半の御指摘のとおりで,その場合の転貸借契約の終了時期が原賃貸人からの明渡請求時だというのは現在の判例だと言われていますけれども,明文化するほど一般的な法理かというと,なかなか難しいところもあるというのが一つの理由です。また,仮にその場合の転貸借契約の終了時期を明文で定めるとした場合には,原賃貸人が転借人に具体的に何をした時に終了するのかということ自体も,具体的な規定の在り方の問題としては悩みの多いところだというのがもう一つの理由です。もちろん,絶対に設けないという意図を示しているわけではありません。 ○鎌田部会長 必ずしも判例・学説として条文化するほど熟しているとまではまだ言えないと判断をしたところですので,もし,何か具体的な御提案を頂ければ,それを素材にして検討していきたいと思っております。 ○沖野幹事 イの点について,これも確認です。法定の解除の実質を持つという場合ではなく,正面から合意解除というときに原賃貸人が転借人に対して原賃貸借の消滅を主張することができないとなったその後の法律関係がどうなるのかという問題が,合意解除は当事者間では有効だと賃借人は抜けてしまうのか,消滅を主張できないので転借人との関係では抜けないということで,例えば修繕義務の履行の請求ですとか,あるいは敷金の話ですとか,そういったものがどうなるのかという問題が残されており,考え方としては元の賃貸人が賃借人の地位に入るとか,あるいは逆であるとか,賃借人は残って,あとは不都合は合意ベースで対応するとか,現行法の下での解釈としていろいろな考え方があり,その場合の法律関係を明らかにすべきではないかという問題提起もあったかと思うのですけれども,ここではそれはゴシックになっていないということは,その部分は全く規定化はせずに,合意ベースで,それができないときは現行法の下での解釈が残り,なお,解釈に委ねるということで提案されていると理解してよろしいでしょうか。 ○金関係官 現状ではそういうことです。転貸人が抜けるのかどうかといった問題は,いろいろと議論があるところですので,そういう判断をしております。 ○沖野幹事 私は個人的には,賃貸人が賃借人の立場にも入るというか,基本的にはそれを妨げるような事情がない限りは当然承継のような形にしてもいいのではないかと考えているのですが,しかし,その点について全く規律を置かないというのは,それぞれの考え方に問題があるという,そのような趣旨であるという理解でいいでしょうか。 ○金関係官 そういうことだろうと思います。沖野幹事がおっしゃった考え方も含め,それぞれの考え方にそれぞれの批判があるところで,なかなか一つの考え方を明文化するところまでには至らないのではないかと考えております。 ○沖野幹事 あと,もう1点,これも念のためということで,これを機に確認しておきたいのですけれども,一つ戻りまして34ページの(2)の「ア 賃貸人と転借人との関係」に関してです。転借人の用法違反があるときに,それが賃借人自身も責任を負うものとなるかが途中で話題になり,それは基本的になるという理解であるという説明がされ,その帰結はそうではないかと思うのですけれども,確認しておきたいといいますのは,それを明文化しておくことが望ましいかどうかという点です。なぜ,それを考えるかといいますと,賃貸人と転借人の直接の関係ではないんですけれども,今のような場面で問題なく認められるのであれば,その法律関係を明確化するということと,あと,履行補助者をめぐる問題の中で転貸借の話というのは判例ではかなりの比重を占めているんだけれども,それはやや特殊なことであるという指摘もあったように思われまして,そうだとすると,その分はその分で書いておくということも考えられるのではないかと。それから,部会資料の比較法の資料の中の1ページ,それから,3ページにフランス民法,ドイツ民法が上げられており,フランス民法の1735条,ドイツ民法の540条2項に対応する規定と思われるものがあるように見受けられます。そういうことも考え合わせますと,規定を設けることを考えなくいいだろうか。これは非常に時宜に失し,この時期に拡散する方向の話をするのは問題があるかとは思うんですが,逆に最後のチャンスかなと思いますので,そのような規律を設けること自体について少し御意見をお伺いできればと。それは必要ないということであれば,必要ないという判断でよろしいと思うんですけれども,念のため,その点を確認させていただければという趣旨です。 ○金関係官 ありがとうございます。もちろん引き続き検討したいと思いますが,転貸借に特化した形で履行補助者に関する規律を設けるのが本当に適切なのかどうかという問題意識を持っております。また,転借人の義務違反が全てどのような場合でも転貸人の義務違反になると言ってよいのかどうかという点についても,問題があるように感じておりまして,そういった観点から今回の部会資料では取り上げないという判断をしております。 ○鎌田部会長 履行補助者に関連して,適法な利用補助者とそうでない者では違うのではないかとかいう議論があるので,履行補助者の部分の御議論で適切にカバーできなくて,利用補助者型のところは賃貸借できちんと対応しないと,うまく処理できないということであれば,また,ここへ何らかの規定を入れるということを考えさせていただければと思うんですけれども。 ○潮見幹事 鎌田部会長がおっしゃったようなところもあるのですが,慎重にやったほうがいいという理由が,三つあります。二つは金関係官がおっしゃったことです。   第一に,賃借人の用法違反の場合,債務不履行一般でもいいんですけれども,その場合に転貸人が責任を全部負わなければいけないのかということについて,一般的なルールを設けることに対する疑問があります。賃借人の違反にもいろいろなパターンがありますから。   第二に,この問題の処理についての学説自体が必ずしも一致はしていない。転借人と転貸人との間には独立の法律関係が形成されているのであるから,履行補助者の問題として捉えるべきではないとする意見もあります。このことも含めて考えると,どちらの方向からルール化をするにしても,かなり検討してからのほうがいいのではないかと思います。   第三に,債務不履行で履行補助者の問題をどう処理するのかについて,従来提案されているような内容の規定が設けられ,その枠組みで処理できるのであれば,そのルールの適用によって,適切な解決ができるのではないかと思います。   要するに,いろいろな意味で慎重にやったほうがいいと思います。 ○鎌田部会長 残り時間が心配になってまいりましたけれども,次に,「10 賃貸借契約の終了時の原状回復等」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「10 賃貸借契約の終了時の原状回復等」の「(1)返還義務」では,賃借人は賃貸借契約が終了したときは,目的物を返還しなければならない旨の規定を設けることを提案しています。   「(2)収去義務」の第1パラグラフでは,賃借人の収去義務に関する規律として,賃借人は,賃貸借契約が終了した場合において,当該契約に基づき目的物の引渡しを受けた後に目的物に附属された物があるときは,その附属物を収去しなければならない旨の規定を設けることを提案しています。また,第2パラグラフでは,賃借人が収去しなければならない附属物には,賃借物から分離することができないものや,賃借物からの分離に過分の費用を要するなど賃借物からの分離が困難であるものを含まない旨の規定を設けることを提案しています。   「(3)原状回復義務」の「ア 一般則」の第1パラグラフでは,賃借人の原状回復義務に関する規律として,賃借人は,賃貸借契約が終了した場合において,当該契約に基づき目的物の引渡しを受けた後に生じた目的物の損傷があるときは,これを原状に復さなければならない旨の規定を設けることを提案しています。また,第2パラグラフでは,賃借人が原状に復さなければならない損傷には,社会生活上の通常の使用をしたことによって生ずる目的物の劣化や価値の減少,すなわち通常損耗を含まない旨の規定を設けることを提案しています。   「イ 賃貸人が事業者,賃借人が消費者である場合の特則」では,賃貸人が事業者であり,賃借人が消費者であるときは,通常損耗の回復を原状回復義務に含むとする特約を無効とする旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について一括して御意見をお伺いします。まず,「返還義務」についてはわざわざ書く必要があるかどうかという意見はあると思うんですけれども,返還義務自体は問題ないと思われるので,「収去義務」「原状回復義務」,現行法の598条の中身を二つに分けて,それぞれ具体的に書くという提案ですが,いかがでしょうか。 ○高須幹事 「収去義務」と「原状回復義務」でございますが,収去義務に関しては,弁護士会は全て賛成ということで意見は一致しております。原状回復義務も40ページのアのところの「一般則」については,賛成ということで意見は一致しておりますが,1点,表現の問題ということで第一読会でも言いましたので,あるいはもうお分かりいただいているということかもしれないのですが,41ページのところに,国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」というものがありますという御指摘が提案資料で頂いておりまして,そこで,通常損耗の回復は原則として賃貸人の責任であると明記されているということは特約との文脈で書かれておりますが,その指摘がともかくあると。   そのときに,一応,「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」には,本来,賃借人の原状回復義務にはならないというものとしては,通常損耗のほかに経年変化,時の経過によって価値が下がった分も当然,賃貸人が織り込み済みの話ですから,賃貸人側が持つべきだということで,経年変化と通常損耗という2本立ての概念を持っていると,恐らく提案の趣旨はそれを両方含んだものとして,通常損耗という表現を用いる。現に通常損耗という形での判例もありますので,このような表現をしておるということだと思うのですが,そのことだけは立法の経緯の中で分かるようにしていただきたいと。そうでないと,何か経年変化は今回はむしろ賃借人の負担とするんだみたいな誤った何か誤解を生んではいけないのだろうということで,そのことだけは念を押してこいという指摘がございましたので,そういう前提での賛成ということでございます。   イのところのいわゆる消費者契約の特則を設けるということについては,消費者の保護という観点から,これに賛成する意見がもちろん一方であり,更に言えば,必ずしも消費者のみならず,中小・零細事業者等も含めた意味での強行法規化も必要ではないかということで,むしろ,全てを強行法規化すべきだという意見も,決してそれが支配的ということではありませんが,弁護士会の中にはあるということでございます。   それから,今度は正反対なんですが,結局,一般論に重なってしまうんですが,民法の中に消費者契約の特則みたいなものを設けるということそのものについての一種の方針の問題として,慎重であるべきだという意見もありまして,ややイのところについてはいろいろな意味でのバリエーションがあるというようなところでございます。 ○岡田委員 消費者側としては,アは一般則がこのとおりで,イに関して,今,実態として特則が一般的で国土交通省のガイドラインにしろ,東京都のルールにしてもほとんど機能していません。これを民法の中に一般則として入れられたとしてもイが対応されないと,全然,現状は変わらないように思います。もし,イに消費者,事業者を入れるのがまずいということであれば属性に関係なく一般的に,そこまで入れることを要求したいというのが意見です。 ○道垣内幹事 話が変わってしまいますので,発言してよいのかどうか分からないのですが,収去義務,原状回復義務というのと,用法違反を理由とする損害賠償請求権の問題との関係なのですけれども,つまり,用法に反してペンキを塗りまくったというときには,収去義務は壁に塗ったペンキというのが分離不可能ないしは過分な費用を要するものの代表例として,39ページに挙げられており,ペンキを剥がさなくても収去義務違反にはならないけれども,用法違反を理由とする損害賠償という形になるのでしょうね。私はそうだと思うのですが,収去義務のところの書き方次第によっては,ペンキを塗っても収去義務はないのだ,だから構わないということなのだ,と読まれかねない感じがいたしますので,若干,整理のときに注意が必要なのではないかと思います。 ○山野目幹事 御説明を頂いた(1)から(3)まで,基本的には御提案に賛成であるということを申し上げた上で,2点のみ申し上げます。   10の(1)のところで,法文起草の際に御注意を頂きたいというお願いですが,部会資料は,賃貸借契約が終了したときは返還しなければいけないと書いているのに対し,現行法は,契約に定めた時期に返還しなければならないとなっておりまして,現行法の文言のほうにどちらかというと依拠して書いていただきたいと感じます。3月31日まで建物を借りていたときに,建物を明け渡さなければならないのが3月31日なのか,4月1日なのかというような議論について,今の議論の状況を維持して無用の攪乱を催さないようにお願いしたいということが1点であります。   もう1点は,(3)のイの消費者,事業者の特則は設けていただきたいとお願いいたします。それが基本ですが,細かいことで気になることして,例えば強制管理や担保不動産収益執行で管理人になった人が賃貸借をするときに,事業者対消費者の契約なのかどうなのかということは,管理人の属性に着目して判断するか,不動産の所有者に着目して判断するか,というようなことがあります。ありますけれども,それはその局面の解釈論として処理をすればよいことであると考えますから,基本はイのルールを置いていただきたいと考えます。 ○佐成委員 (3)のところですけれども,アの「一般則」については特段,経済界のほうでも異論はございませんが,イにつきましては民法でこのような消費者保護そのものの規律を新設することに関しては,慎重論が強いということだけコメントさせていただきます。 ○金関係官 今の山野目幹事の最初の御指摘についてですけれども,ここで「終了」という表現を用いているのは,賃貸借契約の終了事由として,期間満了,解除,解約申入れといったものがある中で,民法597条1項は期間満了だけを定めているように読めてしまうので,そこを修正しようという意図があります。3月31日か4月1日かといった問題については十分に注意したいと思いますが,「終了」という表現を用いたのはそのような趣旨ですので,補足させていただきます。 ○松本委員 2点あるんですが,一つは「収去義務」の部分です。現行法だと収去することができるという権利のほうから書かれているんですね。ところが,この提案では義務だけを書くということで,現行法の解釈でも,権利であるとともに義務であると解されているんだから同じかもしれないんだけれども,あえて権利の部分を落とすということの趣旨はどういうことなのかと。収去権はなくて,収去義務だけがある。附属させたものを置いていけと言われれば,置いていかなければならないのかというと,そんなことはないと思うので,なぜ権利の部分を落としたのかということです。   それは所有権に基づいて主張すればいいんだということで,契約上の権利としては要らないという御説明なのか。収去義務については,所有権の所在を問題としていないから,他人物賃貸借であって賃貸人の所有権に基づいて収去せよということが言えない場合でも,契約上の権利として言えるということを明記するという意味がある。他方,収去権のほうは所有権に基づいてやればいいから不要だということなのか。しかし,第三者のものを附属させたような場合に,自分の所有物でない物を収去して持っていこうと思うと,所有権に基づいてということは言えないですよね。とすると,収去義務であるとともに収去権であるということを残したほうがいいのではないかというのが一つです。   二つ目は,「(3)原状回復義務」についてのイなんですが,ここで消費者契約の特則を入れるというのが,何か変な感じがするんです。つまり,民法におけるデフォルトルールが消費者に不利なものである場合に消費者契約については,そうではないという規定を置くのは積極的意味があると思うんですが,ここでイでひっくり返るのはそうではないです。消費者にとって不利なデフォルトルールをひっくり返すのではなくて,消費者にとって有利なデフォルトルールを合意というか,約款等によってひっくり返すということは駄目だということを書いているわけです。   つまり,これは,消費者契約においては片面的強行規定なんだということを宣言するタイプのものになります。そもそも,消費者契約に関する特則を民法に入れるか入れないかの議論がありますが,民法に入れるとしても,どういう場合に入れるのかという方針についての統一的な見解がないと,極めて場当たり的になります。この種の民法のデフォルトルールを消費者に不利な内容に合意によって変えていく場合の効力については,もう少し一般規定のほうで手当てしたほうがよいかなという気がします。 ○鎌田部会長 分かりました。イについては御指摘のような点があるということで,ほかにはいかがでしょうか。 ○高須幹事 私の発言の仕方が不十分だったですが,帰ってから報告をする都合がありますので,一応,金さんに御説明だけ頂きたいのですが,提案資料は先ほどの経年変化についてはあえて除外する趣旨ではないと理解しておりますという点に,格別の御意見があるかどうかだけ,教えていただければ。 ○金関係官 はい。ありません。 ○高須幹事 分かりました。 ○鎌田部会長 それでは,恐縮ですけれども,先を急がせていただいて,「11 損害賠償請求権及び費用償還請求権の期間制限」と「12 賃貸借に関する規定の配列」について御審議いただきます。事務当局から説明をお願いします。 ○金関係官 御説明します。   「11 損害賠償請求権及び費用償還請求権の期間制限」の「(1)用法違反を理由とする賃貸人の損害賠償請求権の期間制限」では,賃借人の用法違反を理由とする賃貸人の損害賠償請求権の期間制限について,甲案として,民法第621条の規定を削除して,債権一般の消滅時効の規律のみが適用されるとした上で,その消滅時効については賃貸人が目的物の返還を受けたときから1年又は2年を経過するまでは完成しないとする案,乙案として,現行法の規律を維持するとする案をそれぞれ示しています。また,補足説明では,甲案の別案として,民法第621条の規定を維持しつつ,債権一般の消滅時効については,賃貸人が目的物の返還を受けたときから1年が経過するまでは完成しないとする考え方を取り上げています。   「(2)賃借人の費用償還請求権の期間制限」では,賃借人の費用償還請求権の期間制限について,民法第621条の規定を削除して,債権一般の消滅時効の規律のみを適用することを提案しています。   「12 賃貸借に関する規定の配列」では,賃貸借に関する規定の配列について,不動産及び動産の賃貸借に共通する規定,不動産に固有の規定,動産に固有の規定という順に区分して配置するという考え方を取り上げていますが,この論点については,見直し後の賃貸借の規定の内容がおおむね固まった後で改めて議論する必要があると考えています。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま御説明いただきました部分について一括して御意見をお伺いしたいと思います。11の(1)については,甲案,乙案が併記されておりますけれども,この点についての御意見がありましたら,是非,お出しください。弁護士会はいかがでしょうか。 ○中井委員 (1)については,一つの会を除いて甲案支持でした。1年,2年にするかは特段に明確な意見はありません。(2)については全てのところで賛成です。   12については,賛成が多いですが,しかし,この段階で議論するのは早いので,具体化してからで十分ではないかという意見です。 ○山野目幹事 11の(1)は甲案に賛成でありまして,弁護士会の先生方と感じ方は同じです。(2)は御提案に賛成です。   12について意見を述べますが,12で御示唆いただいている提案に反対です。二つのことを申し上げますが,一つは動産の固有の規定というものは,私の認識ではこういうものはないことが望まれると感じておりまして,それから,もう1点は,ここに限局された問題ではないであろうということです。典型契約に関するそれぞれの規定のところの配列についての一般的なフィロソフィーが用意されるべきであって,かつ,それについて申し上げますと,特別の事情がない限りは,現行法がまず定義を置いて,成立に関するルールを置いて効力を述べ,継続的契約については終了のルールを述べているというのは,それなりに分かりやすい配列になっているものでありまして,特段,それを覆す理由がない限り,それを踏襲したらいかがかと思います。現行法の中で質権のところの規定が,このように目的物別に分けていますけれども,あれはそれなりに,そこ固有の理由があることでありまして,あれを賃貸借でにわかに入れる必要はないであろうと感じます。 ○中田委員 11の(1)について甲案の賛成意見が多いんですが,甲案の内容を一応確認しておきたいんですけれども。これは賃貸人が返還を受けたときから1年又は2年は時効は完成しない,時効の完成は賃借人の用法遵守義務違反のときから10年又は賃貸人が知ったときから3年ないし5年になる,こういう帰結になるという理解でよろしいでしょうか。 ○金関係官 はい。 ○中田委員 そうだとしますと,現在に比べて非常に長くなってしまいまして,それは問題ではないかと思います。中間論点整理の段階では,資料の42ページの囲みの中にある3行目以下ですけれども,甲案を前提としつつ,しかし,賃貸人が返還後に目的物の損傷を知った場合に,賃借人に対する通知義務を課するという考え方について,更に検討するということになっていたと思います。ところが,今回の提案ではこの部分については触れられておりませんで,それに代えまして甲案の別案というのが43ページの2の第2パラグラフで出ております。いずれにしましても,単なる甲案ですと現在の規定に比べて非常に長くなってしまいますので,それは適当ではないのではないかと考えます。私は甲案プラス通知義務という,中間論点整理で,今後,更に検討するということになっている考え方がよろしいのではないかと思いますけれども,いずれにしても何らかの甲案プラスアルファというのが必要ではないかと思います。 ○岡田委員 消費者からすると甲案の別案,つまり甲案では先ほども出ましたけれども10年後に請求されるということがあっては酷だと思いますので,まだ,別案のほうがよいのかなと思います。 ○道垣内幹事 まだよい具体例を作れていないのですが,先ほど私はペンキを塗った例を出しまして,それがずっと気になっているのです。つまり,ある種のものを原状回復義務違反と捉えると,原状回復義務が発生したときから10年ということになり,ある種の原状を破壊した行為を用法遵守義務違反と捉えると,返還時から1年または2年で時効が完成することになりそうで,その区別の仕方がよく分からないのです。 ○鎌田部会長 ペンキの例は,収去義務でも,原状回復義務でも,用法遵守義務でも全部該当すると言えそうですね。 ○道垣内幹事 それはよい,それは終わったときから1年間だけれども,しかし,壁紙を破ると……。 ○鎌田部会長 10年。 ○道垣内幹事 10年ですかね。また,実は,ペンキの例は,原状回復について,収去できないことを理由に収去義務が課されない可能性があるような気がするのですが,そういうのを区別することに何か合理性があるのかというのが私にはよく分からないのですが。 ○中井委員 11について,先ほど弁護士会の意見について,一つの単位会を除いてと申し上げました。その一つというのは消費者関連の委員会でして,そこの意見を申し上げておきますと,結論は乙案で,現行法を維持した上で,甲案の別案でどうか。つまり,中田委員がおっしゃられたように余りに長期になる可能性があることは避けなければいけないのではないか。だから,現行法の1年は維持する,その上で失権するのはまた気の毒だから,終了から一定期間は完成しないものとする,こういう意見でした。 ○中田委員 理論的な検討という意味で,第一読会のときも議論がありまして,確か山本敬三幹事からもいろいろ御意見が出たと思いますが,実務に与える影響として,賃貸借終了時の検査といいますか,あるいはお互いに確認するということに対して,甲案を採る場合には影響が出てくるのではないかという気もしまして,その辺りも検討する必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 その点は,今,甲案支持と,それから,甲案の別案の支持という2通りの意見を頂いているということを前提にして……。 ○中田委員 私は通知義務ですが。 ○鎌田部会長 別案ではなくて通知義務ですね。そういうことで,3通りの御意見を頂いているということを踏まえて更に検討させていただきます。 ○岡崎幹事 既に出ている意見の一つと同じような意見になりますけれども,現行の621条が持つ法律関係を早期に確定させるというメリットは,尊重してよいのではないかと思っております。先ほどから指摘されていますように,甲案をそのまま採用しますと,法律関係がなかなか安定しないという問題が顕在化しますので,何がしかの工夫をしなければいけないと思います。その一つの試みが別案なのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいですか。 ○山本(敬)幹事 確認ですけれども,早期確定の要請が,賃貸借契約の終了の場合だけとは言いませんけれども,少なくともここでなぜ要求されるかという理由を確認したいのですけれども,よろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 それは岡崎幹事に対する御質問ですか。 ○岡崎幹事 この局面に限った問題ではありませんけれども,用法遵守義務違反によって損害が生じたときに,ずっと後になってからその賠償を請求されるということは,証拠の保全等の関係からいっても必ずしもよいことではないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。部会資料45を少しだけ残すのは大変心残りではありますけれども,本日の審議はこの程度にして,分科会について御報告をさせていただきます。本日の審議において,分科会で補充的に審議することとされました論点につきましては,第3分科会で御審議していただくことといたします。松本分科会長を始め,関係の委員・幹事の皆様には御苦労をお掛けいたしますけれども,何とぞよろしくお願いいたします。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回会議は9月11日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は法務省地下1階の大会議室です。予備日ですので,次回会議までに新たな部会資料の送付予定はございません。次回会議の翌週9月18日に正規の部会が予定されております関係で,正規の部会用の資料が次回会議の前にお手元に届くことになろうかと思います。しかし次回会議で審議の対象となりますのは,既に配布されておる部会資料45と46に限ることにさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。   それから,分科会の開催のお知らせがございます。第2分科会の第5回会議が来週9月4日,火曜日,午後1時から午後6時まで開催されます。場所は法務省3階の東京地方検察庁会議室でございます。第2分科会の固定メンバー以外で参加を予定されている方がいらっしゃいましたら,事務当局まで御一報ください。その際,次回の第2分科会の会議では関係する部会資料が3冊ありまして,部会資料40,42,44をお持ちくださいますように御案内申し上げます。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了とさせていただきます。   本日も長時間にわたり,熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-