法制審議会           民法(債権関係)部会 第1分科会           第5回会議 議事録 第1 日 時  平成24年7月24日(火)自 午後1時00分                      至 午後6時11分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○中田分科会長 予定された時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第1分科会の第5回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,第1分科会の固定メンバーのほか,三上徹委員,沖野眞巳幹事,道垣内弘人幹事,畑瑞穂幹事,山野目章夫幹事,山本和彦幹事が出席され,あるいは出席される予定です。どうぞよろしくお願いいたします。   本日は,本年5月に開催されました第1分科会第4回会議の積み残し分とその後,新たに第1分科会に割り当てられた論点の検討をしたいと思います。具体的には,部会資料39の「第1 弁済」と「第2 相殺」,部会資料43の「第2 売買-売買の効力(売主の責任)」の各一部について御審議を頂く予定です。   まず,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○筒井幹事 本日は,机上には,いつものように審議対象となっている項目の部会資料の抜粋を配布しておりますが,このほかに特に配付資料はございません。 ○中田分科会長 それでは,審議に入ります。審議の進め方ですが,今回もこれまでと同様の方法で進めてはどうかと思います。すなわち議題を区切って,まず事務当局から部会での審議状況と部会から分科会に付託されている事項を確認するための御説明を頂く,次に私のほうで本日御審議いただくべき主要なポイントを整理する,その上で御審議を頂くという方法ですが,よろしいでしょうか。それでは,そのように進めさせていただきます。   本日の進行予定ですが,まず部会資料39の「第2 相殺」の「1 相殺の要件」までについて御審議を頂き,その後,午後3時30分頃をめどに休憩を入れ,休憩後,部会資料39の残り及び部会資料43についての御審議を頂きたいと思います。   なお,審議の順序は,部会資料の配列の順にしたいと思いますが,進行状況によっては繰り上げなどする場合もあるということで,御了解いただきたいと思います。   それでは,部会資料39ですが,最初に「第1 弁済」の「7 弁済の充当(民法第488条から第491条まで)」の「(1) 弁済の充当に関する規律の明確化」について御審議をお願いします。これは前回の継続ということになります。前回は,「7 弁済の充当」の(1),(2)の審議に入りましたが,(2)について詳細な審議がされた反面,(1)については時間を十分に取ることができませんでした。そこで,本日は(1)に絞って御審議をお願いしたいと思います。   事務当局からの説明は,前回に済んでおりますので,今回はごく簡単なリマインドにとどめていただきます。お願いします。 ○松尾関係官 部会資料39の28ページを御覧ください。この論点につきましては,部会の第47回会議で審議がされ,規定を設ける場合の問題点や具体的な規定の在り方などについて分科会で審議することとされました。   (1)につきましては,ア,ウに賛成する御意見があったほか,イの甲案について,特に後半部分の規律によって規定が複雑になることを懸念する御意見や充当の指定権者によって充当順序を異にする合理性を疑問視する意見がございました。 ○中田分科会長 それでは,(1)について御自由に御発言を頂きたいと思います。 ○中井委員 イの甲案か乙案かに関して,弁護士会の意見は分かれています。甲案について,「また」以下の後段,債権者が指定した場合と債務者が指定した場合と取扱いを異にする部分については,甲案を採る意見からも批判がありました。ここは債権ごとに処理をするという考え方を優先して甲案を採るとしても,債権者若しくは債務者のいずれが指定した場合であっても,原則どおり費用,利息,元本の順でいいのではないか。そうすることによって,ルールとして複雑になるわけではない。その上で,債権者が選択した場合に,債権者がその原則ルールを変えて,元本,利息,費用の順で充当することを否定するまでもない。他方,債務者が選択したときに債務者が自ら有利な方向に変更することはできないだろうと,こういう甲案の修正案が出ていますので,御紹介しておきます。 ○中田分科会長 債権者が変更するというのは,どのタイミングで変更するということでしょうか。 ○中井委員 まず,特定の債権を選択することができる,債務者が第一にでき,債務者が選択したときの原則は,費用,利息,元本である。次に,債権者が選択できるとき,原則,費用,利息,元本である。でも,債権者に限っては,指定するときに充当の順序を変えて,元本,利息,費用でも構わないという考え方です。 ○中田分科会長 分かりました。ありがとうございます。 ○中井委員 恐らく実務的には,そのような処理を多くしているのではないかと思うものですから,そういう考え方を明文化,明らかにしておきたいという趣旨です。 ○三上委員 実務的には,銀行取引約定書等によって充当の順序は最終的に債権者が指定できるような形にしておりますので,そういう意味でこういうデフォルトルールに関しては,強行法規でなければ,こだわらないというのが正直なところです。 ○中田分科会長 ほかにいかがでしょうか。それでは,この項目については,この程度にいたします。   続きまして,少し戻りますが,「第1 弁済」の「5 代物弁済に関する法律関係の明確化(民法第482条)」について御審議いただきます。事務当局から説明していただきます。 ○松尾関係官 部会資料39の19ページを御覧ください。この論点につきましては,部会の第46回会議で審議がされ,規定を設ける場合の問題点や具体的な規定の在り方などについて分科会で審議することとされました。   部会では,アについて,賛成する御意見がございました。イにつきましては,まず原債権と代物給付債権との関係について,当事者間の合意が明らかではないときのデフォルトルールの要否とその在り方を検討すべきであるとの御意見,諾成的な代物弁済契約には多様な類型があることを考慮すると,デフォルトルールを決めることは困難ではないかとの御意見,代物弁済の合意により所有権が移転するという判例との関係に留意する必要があるとの御意見がございました。 ○中田分科会長 今,御紹介いただきましたように,部会では,5のア,すなわち代物弁済契約の成立とそれに基づく給付がされたことによる債権の消滅の2段階で考えるということについては賛成する意見が多く出ましたが,その間の法律関係について,更に検討する必要が指摘されました。すなわち,その間,原債権と代物給付債権が併存することになりますが,債権者と債務者とのどちらが選択できるのか,その選択に対し,相手方がなお他の一方を選ぶことができるのかが問題となります。これは契約解釈の問題であるという御指摘もありましたが,その上でなおデフォルトルールを置くことの当否が検討課題となります。そのようなルールを規定する場合としない場合のメリット,デメリットは何か,規定する場合にはどのような内容とするのがよいのかです。   本日は,特に二つの債権の関係や,これに関する規律を置くかどうかを中心に御審議いただければと思います。このほか,第三者が債権者と代物弁済契約をした場合の問題や所有権移転時期との関係などについての御意見もありましたので,それらについても御意見があれば,お出しいただければと思います。いかがでしょうか。   アについては,特に御異論ないと伺ってよろしいでしょうか。それでは,この分科会においては,アを前提といたしまして,その上で更にイについて詰めた御議論を頂ければと思います。 ○中井委員 弁護士会は,意見が分かれています。今,分科会長が整理されましたけれども,解釈の問題だから,書くまでもないというのと,解釈の問題であっても,いずれか決めておくほうがいいだろうと,まずそこで分かれて,いずれか決めておくほうがいいだろうという考え方に立つ人は,この提案①,②ともに賛成であると共通しています。したがって,デフォルトルールをここに置くのがより好ましいのかどうかという判断かと感じております。   ①,②を置くという立場も,③まで要るのかということについては疑義を持っている,③は要らないのではないかという意見が多かったところです。 ○中田分科会長 デフォルトルールを置く必要はない,解釈に委ねてよいというお考えの方も相当いらっしゃるのでしょうか。その方々の理由はどのようなものでしょうか。 ○中井委員 数からすれば,2・1ぐらいの割合で,3分の2が①,②案のデフォルトルールを置いていいという考え方で,3分の1が①,②をデフォルトルールとすることについて慎重な考えです。それは,個別の契約でそれぞれ当事者の意思で異なるのではないか。仮に二つの債務があるという建前をとれば,消える方は他方を履行したときに消えるのかもしれません。合意するときに当然に他方が消えるという構成を採らないことに賛成し,二つの債務が存在することは認めますが,それであっても,当事者の合意として,一方を優先している場合があるでしょう。例えば家を代物弁済するという合意ができたときに,そのための準備をしているかもしれないので,準備をしているときに,例えば本来的な現金の請求があっては困る場面もあるでしょう。そのとき,①のルールでは,それが優先する,②のルールでは,債務者は金銭による本来の弁済ができる,それは当事者にとって予想外の場面もあるのではないかと。それは個々の契約の中で決まっていくという解釈の問題でいいのではないかというのが,ルールまで設けなくてもいいという方々の意見です。 ○三上委員 一つ疑問に思ったんですけど,もしイの規定を置いた場合に,例えば10万円の返済に代えて自転車を返しますと契約したというときに,今後は10万円では駄目で,必ずこの自転車が欲しいんだということを明確にしたいときには,更改の意思を明確にした契約を結ばなければ駄目であると,つまり今回の改正の方向で,更改の意思が明確になっていないと更改にならないという方針が示されておりますが,ということは,契約内で更改契約だと明示しない限りは,お互いにどちらで履行するかオプションを持つような形になってしまうということなのでしょうか。 ○松尾関係官 今の御質問については,10万円の返済をする必要がないという当事者の意思が明確なのであれば,それは更改と考えてよいのではないかと思います。 ○内田委員 私の個人的な見解ですが,別に更改と書く必要はなくて,代わりのものを給付する債務をもって元の債務に代えようという意思が契約上明らかであれば,当然更改になるのではないかと思います。ですから,そういう意思がある場合も,代物弁済に取り込んで,どちらであるかは場合によって違いがあるのだから,デフォルトルールは書かないことにしようというのは,法律関係を不明確にしてしまうと思います。当初の債務を,別の物を給付する債務にすることで処理しましょうという合意があるのであれば,更改と扱うというほうが合理的なように思います。 ○中田分科会長 今の御趣旨は,別のもので旧債権を消滅させるという意思があればということでしょうか。 ○内田委員 旧債権を消滅させるということですけれど,旧債権を消滅させますとわざわざ契約書に書かなくても,それが合意から表れていれば,更改と解釈されることは可能なので,更改と代物弁済とですみ分けをしていけば,中井先生が言われた弁護士会の3分の1の方々の意見に対しても対応は可能なのではないかという印象を持ちました。 ○三上委員 ちょっとしつこいようですけど,今,内田委員がおっしゃった契約というのは,「その負担した給付に代えて,他の給付をすることにより,債務を消滅させる旨の契約」とどういうところが違うという認識なのでしょう。つまりここに書いてある契約を結んだときには,これだけではどちらでも選択できるという提案をされておりますが,一本に限るという意思を明確にするためには,その負担した給付に代えて,他の給付をすることにより,債務を消滅する契約以外に,何が要素として必要になるというお考えなのでしょう。 ○内田委員 更改ですから,更改契約をした時点で,元の債務は消えているということですが,それが合意の中に表れていればいいということです。先ほど中井委員から不動産の給付をもって代えようと合意をして,一方当事者はその準備をしている,それなのに他方当事者が元の債務を請求すると,当事者の期待に反する場合があると言われたのですが,それは元の債務を消して,不動産を給付する債務に代えようという合意があった場合なのではないかと思います。そういう趣旨が契約解釈で導けるのであれば,合意の時点で元の債務は消えますと明確に書かなくても,更改の認定は可能なのではないかということです。 ○中田分科会長 今,更改と代物弁済との区別についての御検討を頂いていますが,更に代物弁済である場合に,イの①,②についてデフォルトルールを置くかどうかということで,2段階の問題があるわけです。それが今の内田委員の御発言ですと,実際には関連する問題として出てくる,こういうことでしょうか。 ○沖野幹事 アについては,給付をしたとき消滅するというのが,更改の規定が何条かに置かれますと,それに当たるときを除きというような形で,あるいは更改との関連をより明確に付けるということは考えられるのかと思います。ただ,そうしたときに,アの下では,結局債権は消滅しないので,そのときに合意の効力はどうなのかというと,もう一つの給付が立つということだと思うのですけれども,その状況を明確にするために,イの少なくとも①,②を置くということかと思うのですが,①,②で何が明らかになっているのだろうかということなのです。  イは,債権者は,いずれも求めることができて,債務者のほうが当初のほうを選択して,給付をしたときは,債権者は給付を求めることができないということですので,2本立つものが一種の選択債権になっていて,債務者の選択に係るということなのか。しかし,そうすると①で債権者がいずれも請求できるというのは,どういうことなのか。②において,負担した給付をしたときはというところについて,債権者の行為を要するようなものについて,他の給付を求めることができないということは,もちろん拒絶はできないということなんでしょう。ということは,①があるけれども,基本的に一種の選択債権のようになって,債務者が選択し,債務者のほうがこちらでと言わないときは,債権者が選択できるという,そういう規律になっているということなのか,それともやはり任意債権のようになっているのか。一方が履行不能になったときどうなるかということなんですけれども。何か明らかにしているようで,明らかになっていないことが多いような規律のようにも思われるんです。このように複数の理解可能性があるとしますとどちらで考えるかについての意見も言わないといけないのですが,代物弁済と改めて考えると何なのだろうかというのが分からなくて,混乱に拍車を掛ける話で申し訳ないのですけれども,そういう問題を感じたということを取りあえず指摘したいと思います。 ○中田分科会長 ありがとうございます。②で給付をしたときとある,そこで現に給付をすれば,それでよろしいんでしょうけれども,むしろ給付を拒絶できないだろうとおっしゃった,そこの点が一つの解明すべきことかもしれません。これについて,何かございますでしょうか。 ○松尾関係官 部会のときに多分潮見幹事から御指摘いただいたことと関連するのかと思います。その際に私からは,沖野幹事が御発言の中で言及されたように,選択債権のように考えてはどうかということを申し上げたのですけれども,それについて潮見幹事や松岡委員からは,合意の内容によって決まるのではないかというような趣旨の御発言があったところですので,正に本日御議論いただきたいと考えていたところです。 ○中井委員 私は,①と②の規律というのは,基本的に代物弁済のときは,旧債務,前の債務優先主義を採用したものと理解したわけです。債権者側はどちらを選んでもいい,債務者がそれに基づいて債権者の請求に応じれば,それはそれで解決してしまう。でも,債権者が旧を請求したときには,債務者は新の提供はできない。逆に債権者が新を請求したときに,債務者が旧の弁済をしようとしたときには,旧の弁済を債権者は受けなければならない,そういう規律だと理解したので,いずれにしろ,旧債務優先主義を明らかにしていると,そういう理解ではないのでしょうか。   続けて,弁護士会の多くが①,②の規律で基本的に違和感がないと思ったのは,1,000万払います,でも払えないから泣く泣く持っている自宅を代物弁済しますというのが一般的にあり得る代物弁済の姿ではないか。そのとき,できることなら1,000万という本来的な旧の債務の履行ができるに越したことはない。しかし,債権者側としては,1,000万の回収が困難なので,代物弁済契約を締結して,代物を請求したとき,債務者側がそれでよければ,それで弁済するけれども,それまでの間に1,000万整えば,やはり1,000万で返させてくださいよと言えば,それが優先する。債権者側も,代物弁済の合意をしたけども,旧の1,000万で払えと言えて,債務者もそれで払える。あとは債務者が応じられるかだけというか,負担能力があるかの話なので,①,②の規律は,そういう家を代物弁済しなければならない事態に陥ったときの債権者と債務者側の利害の調整のルールとしては,それなりに合理的ということで,賛成意見が多かったと理解しています。 ○中田分科会長 弁護士会は,必ずしも選択債権と考えているわけではなくて,この提案の実質,内容がいいだろうと,それを説明する考え方として,旧債務優先主義で理解できるんだと,こういうことでしょうか。 ○中井委員 これが選択債権かどうかという形で議論はしませんでした。結果としての規律が,旧債務優先主義ですねという理解をした次第です。 ○中田分科会長 それに対して,先ほど沖野幹事から選択債権と見る可能性もあるという御意見を頂いたわけですが,その場合には選択権についての決定,あるいは移転のルールも必要だということになってくるでしょうか。あるいは①,②がそれを示したものだと理解することになりましょうか。 ○沖野幹事 読み方ですが,もし選択債権だと考えるならば,特に②の規定が何を決めているのかということでして,私自身は②から債務者が最終的には選ぶと,それが選択債権の規律と整合的であるということかなと理解したのです。ただ,中井委員のお考えですが,確認しますと,基本的には旧債務でいける限りは,現実の給付がされるまでは旧債務優先だということになりますと,債権者が代物弁済の合意をしたにもかかわらず,旧の債務での履行を請求したという場合,①により可能なわけなんですけれども,そうすると,そこで債務者としてはそれに応じなければいけないのか,それとも債務者は,代物弁済の合意をしたのだからということで,家のほうで履行するというのは,それはできる。つまり旧が優先だという規律と,基本的には債務者がその二つの選択肢を与えられたものとして,最終的にというか,最初はというか,現実に履行するのは何をするかについては,債務者が選択するという立場では,今のところが違ってくると思われまして,債務者としては,恐らくお金が払えないから家でと言っているのだから,債権者からやはりお金でと言われたからといって,家でと実際にその提供までするならば,それでよさそうだとすると,そうすると結局債務者が選択するという規律なのかなと理解したんですけれども。 ○中井委員 その理解の限りでいうと,①の理解が今の沖野幹事と私は違ったということになります。①で債権者のほうは旧の債務も請求できる,新の債務も請求できる,そのときに旧の債務を選択した以上は,債務者は抗弁として,新の債務の提供をしても有効な提供ではないと考えたんですけれども,①の規律は。 ○鹿野幹事 私も,最終的には個々の場合における当事者の意思解釈で決まると思うのですが,このような合意がなされた場合におけるその一般的意義を考えた場合,デフォルトのルールとしては,選択権はむしろ債務者に与えられるべきではないかと考えております。イの①の記載は,債務者の選択権を否定する趣旨であるようにも見えますが,そうではない理解も可能であるようにも思われます。ですから,イの①につき,どういう形で意見ないし疑問を申し上げてよいものか,迷っていたところでした。先ほどからの議論で言いますと,恐らく私は沖野幹事と同じ疑問を感じているということになると思います。いずれにしても,結論的には,デフォルトとして債務者に選択権があるものとするべきだと思います。 ○中田分科会長 中井委員は,もしそういう理解だとすると,弁護士会は,①,②に賛成の方々がそれに賛同するかどうかはまだ分からないということになりましょうか。 ○中井委員 私がほかの弁護士会のメンバーと違う認識で話しているのかもしれません,今のお話を聞いていると。ただ,①を素直に読んだときには,旧の債務を債権者が選択できると言いながら,債務者のほうが新の債務の提供をしてよろしいと読めなかったものですから,私は素直にそう理解したんです。ただそうすると,代物弁済契約を何のために債務者は結んだのかという根本的な疑問を持たなければいけなかったのかもしれません,今の鹿野幹事,沖野幹事のお話を聞きますと。 ○内田委員 議論がだんだん難しくなってきたのですが,私は感覚的には,元々の中井委員の御意見が非常に自然であるという感じを持っていました。代物弁済で,元の債務に代えて,これを受け取ってくださいという合意が成立して,そちらで決済したいというのであれば,その場で渡してしまえばいいわけで,つまり元々の要物性のある代物弁済をすればいいわけです。そうではなくて,あえて事前の合意,諾成的に合意をするというのは,どういう場合かというと,元の債務がどうしても弁済できないというときには,別のものを取りますよと債権者が言っているのだろうと思うのです。担保になる場合は,最も典型的ですけど,そうでない場合も恐らく実務的にはそういう形で使われるのではないか。   そうすると,飽くまで弁済すべきなのは元の債務なのだけれども,どうしてもそれを払わないというときには,別の物を取ることができる。言わば旧債務優先主義ですけれども,別の債務でも債権回収できるということなのではないかと思います。債務者に選択権を与えて,債務者はどっちでもできますというのは,これはかなり特異な合意なのではないか。元の債務が弁済できないというときに,債務者にそういう選択権を与えるような合意をするのだろうかというところがよく分かりませんでした。 ○中田分科会長 そうすると,今の内田委員,あるいは中井委員も同じかもしれませんが,②で債務者が当初負担した給付をしたときとありますが,当初負担した給付をしようとしたときに,債権者はそれを拒絶できるということでしょうか。 ○内田委員 いえ,旧債務が優先ですので。 ○中田分科会長 失礼しました。新債務のほうを提供したときは,それは拒絶できる。 ○内田委員 債権者としては,飽くまで元の債務を弁済せよということができるということになるでしょうね。 ○沖野幹事 そうすると債務者のほうが新債務のほうの提供をしたときに,債権者は旧債務のほうでと言えるということでしょうか。帰結だけを確認したいのですが。 ○内田委員 多分,中井委員が最初におっしゃったのはそういうことだと理解しました。 ○中田分科会長 そこが沖野幹事,鹿野幹事のお考えとは違っているということでしょうか。 ○山本(敬)幹事 質問ですけれども,もしそうだとしますと,②のルールは,定める必要があるのかという気もするのですが,いかがなのでしょうか。確認のために明らかにするのであると言えば,全て必要なのかもしれませんが,当初負担した給付をしたというのは,弁済をしたということではないのかという気がするのですが,いかがでしょうか。 ○中田分科会長 最初の頃に沖野幹事から出された給付をしたというのが,給付を拒絶することができるというのも含むかどうか,そこの点だろうと思います。現に給付をしてしまえば,債務が消滅するということは,恐らく異論は余りないのではないかと思いますけれども。 ○中井委員 期日に,債務者から新債務の提供をしたが,債権者が飽くまで旧債務の請求をしたいと思えば,その受領の拒絶を正当にできる。逆に,旧債務を提供したときであっても,債権者は,①の規律があるわけですから,債権者は新の債務の請求をしても構わない,つまり旧の債務の受領を拒絶しても構わない。①に戻って代物の請求ができるということになる。そのためには,②の規律は要るのではないでしょうか。基本的には,旧債務優先主義ですけれども,債権者が新債務を選択したときには,債権者の意向が尊重されることになる。 ○沖野幹事 私は内田委員と中井委員とでも意見が違うのではないかという印象を持ったのですが。というのは,実質論として,既に①,②をめぐって3説ここで分かれており,そして,それがどれが適切かということともに,①,②で明瞭に書けているのかということが根本的には問題なのではないでしょうか。そして,実質はいずれでもいいのかなとも思いまして,かつ前提としては,当事者が決めれば,それによるということが明確になっていて,しかし万が一分からないときには,基本はこれで,そのことが先ほど来,任意債権なのかとか,選択債権なのかということを申し上げていますけれども,いずれとも違う法律関係になるんだと,代物弁済の合意をするということはそういうことだというのが明らかになるのであれば,それはそれでよろしいと思いますが,今の①,②のままでは,多分明らかにならないのではないかと思われまして,その点の懸念があります。そして今の中井委員の結論を聞いて,ちょっと途中まで考えていたことと違ってくるんですけれども,中井委員が御発言になる一つ前のときには,むしろ②においては,上記アの契約がされた場合において,債務者が当初負担した給付をした,ないしは給付の提供をしたときは,債権者は債務者に対して他の給付を求めることができない,拒絶もできないという趣旨であり,そして①のいずれも請求できるというのは,債務者から当初負担した給付の提供があるまでは,債権者が選択できるという,これは多分内田委員のお考えなのかなと思い,かつ中井委員もそういうお考えだと理解していたのですけれども。しかし,繰り返しですが,最後の中井委員の御発言からすると,資料の今の記載の規律ではない実質を持っておられるし,あるいは鹿野幹事や私などは,ちょっと違う規律を考えていたので,このままでは規律内容が不透明なように思います。 ○中井委員 先ほどの発言は間違っていますね。先ほどの発言は撤回させていただかないとおかしいですね。失礼しました。 ○沖野幹事 どのような書き方にすれば,より明確さは追求でき,いずれにせよ,中身を確立し,それを明確に表せるルールかということを整理する必要があるのではないでしょうか。 ○内田委員 正に沖野さんがおっしゃるとおり,中身の問題で,政策的にどういうルールかということをまず決める必要があると思うのです。そのためには,代物弁済の合意というのは,どういう場面で行われるかということの認識が前提になるのだと思います。元々ある債務を負っていた人が,別の物を渡してもいいですよと提案し,債権者がそちらにも魅力を感じて,どっちにしようか迷っているというような場面ではないのではないか。つまり代物弁済というのは,元の債務が弁済できないというときに,どうしても弁済できないから,これで代えてくれませんかと債務者から言って,債権者がしようがないということで,実際受け取ってしまえば,それで債権は消滅しますが,受け取らなければ,本来は旧債務が原則ですけれども,代物を受け取って,債務を消滅させるという余地を債権者は持っている,そういう状態が代物弁済の合意がなされる場面ではないかと考えて,それで最初の中井先生のような御意見に違和感がないということを申し上げました。   ですから,どういう場面で使われるかが正に一番重要な点で,債務者にフリーハンドを与えるということでは多分ないだろうと思いますし,債権者がどちらでもいいですと言いつつ迷っているというような場面でもないだろう。やはり本来の債務があって,そちらが弁済されれば,何の問題もない,それが原則だという場面が代物弁済の機能する場面ではないかというのが私の理解です。それが現実の実務と違っていれば,もちろんそれを修正する必要はありますけれども,①,②に書かれていることが何であるかというよりも,どういうルールを作るのが実務に合っているかというのをまず検討したほうがいいように思います。 ○高須幹事 今の御指摘なども踏まえてなんですが,代物弁済契約の合意ができて,その後,引き渡しとのずれがある場合で主に問題になるのは不動産だと思うんです。判例法理では,不動産の場合には,引き渡しという部分はいわゆる登記を要求していると。登記によって,初めて所有権移転が完結するわけですから。ただ,登記を移転するに当たっては,一定の時間がかかる。にもかかわらず,今,判例法理は,合意だけで所有権の移転を認める,これは物権変動の原則からすれば,それは多分論理的だと思うのですが,そうすると新債務というのでしょうか,代物弁済として新たに合意した内容によって,合意の段階で所有権移転が生じ,その後,登記ですねという話になったときに,債権者のほうがもし旧債務の履行を優先的に求めるということになると,払えれば,もちろんそれで所有権は移転しなかったことになるという理屈でいいと思うんですけれども,現実問題,今,内田先生がおっしゃったように,払えないからこういう話になっているとなると,なかなか旧債務の履行を求めても,現実にはならないと。   所有権の移転だけ生じていて,移転登記のほうに関しては,債権者のほうのイニシアチブによって,必ずしも実現する場合としない場合が出てくるとなると,所有権の移転の問題と登記の問題がばらばらになってしまう懸念があるのではないかという気がしまして,仮に旧債務優先的なものを考えたときに,合意だけで所有権が移転すると考えてしまう今の判例法理と整合的なのかどうか,ちょっとその辺も検討しないといけないのか。それはむしろ判例法理を変えるということなのかもしれませんけれども,その必要があるのではないかなと思いました。 ○中井委員 代物弁済契約したから,所有権の移転の合意があるとはとても思えない。契約をしたら,そのときに移転だという原則論があるとしても,代物弁済については,その合意だけで所有権の移転があるとは思えない。通常の認識としてはそうではない。代物の対象が不動産であれば,登記をしたときには所有権移転の意思があって,別段の合意があると,黙示の別段の合意かもしれませんけど,そういう理解ではないでしょうか。 ○高須幹事 今,先生がおっしゃったことは確かにあり得ると思っておりまして,ただこれまでの最高裁判例の中には,正に給付の段階とそれ以前の合意の段階に分けているというところの説明で,合意の段階で所有権移転が生じるという最高裁判例があって,よく研修所で教わったり,今,ロースクールで教えたりしている点なわけですから,むしろ私もそこは疑問に思うわけで,判例法理を変えるということであれば,十分成り立ち得ると私も思うのですが,その辺の整合性はきちんと取っておかなければいけないのかなと思っている次第でございます。 ○中井委員 教えてもらいたいんですけど,代物弁済について,そのような判例があるのですか。 ○高須幹事 代物弁済特有の法理なんです。それが諾成的代物弁済の法理を認めるという議論になるのか,それとも代物弁済契約自体が要物契約説ではなくて,諾成契約なのかというところの議論になっていて,司法研修所の見解などは,むしろ諾成契約説だと傾いている。今の若い人はそんなふうに教わっているのではないかと思うものですから,そういう意味で,そこは元々所有権の移転時期という問題に絡む,先生がおっしゃるように所有権の移転時期を一種類だけに求めるのは余り合理的ではないと従来から176条で一般的に言われている,そこの点に関係する議論だと思うのですが,代物弁済にも同じようなことが及ぶのではないかという部分は,私もそう思っておるのですが,その辺の注意が全くないと,やや今回の改正の中で疑問が残るのではないかと,こういうような指摘でございます。 ○山野目幹事 今,高須幹事がおっしゃった問題に注意を払うということが必要であるということは御指摘のとおりでありまして,貴重な御注意を頂いたと感じますとともに,イのルールの①,②,③で伝えようとする中身を議論しようと一つ目の段階でなっていました。やはりそこを御議論いただくことが一番重要であろうと感じます。不動産を代物給付の内容として定める代物弁済契約があったときの所有権移転時期の問題というのは,なおざりにしてはいけない論点ですが,それについては,またいろいろ柔軟に考えていく余地があるのではないかとも思っております。   高須幹事がおっしゃるように,司法研修所でも教える有名な論点ですが,しかし,あの代物弁済契約の場合の所有権移転時期について説示した判例は,民法176条の通常の物権変動のときに,契約成立と同時に所有権が移転することが原則であるという態度を示したこととの整合性をとって,代物弁済の扱いを示そうとしたところに恐らくかなり重い意味があるものであろうと思いますが,改めて考えてみますと,176条の解釈のところについての判示をした最高裁判所判例は,あの中で原則的に契約成立時に移転するけれども,別段の約旨があったら,それはそれに従うということを言っているものであります。そうすると,ここの代物弁済のところについても,今回の規律の見直しを受けて,新たな議論の展開を期待することができるでしょうし,元々物権変動の一般の議論をこちらにスライドさせたときにも,別段の合意が明示又は黙示に存在したと見て取れるときには,必ずしも代物弁済契約が成立したときに直ちに,ということではなくて,給付があった時に所有権が移転するという解釈を成り立たせるということは十分に可能であろうと考えます。   判例に正面から挑んで,変更せよ,という議論をしてもいいのですが,そこまで言わなくても,従来の法思考の中でも,そこはまた別に柔軟に考えていくことができるだろうと思いますから,御注意のあった点には留意するとしても,やはりその前に御議論いただいていた①,②,③などを手掛かりに,代物弁済の法律関係そのものを考えていただくという方向をまずなさっていただくことがよろしいのではないかと感じます。 ○中井委員 そういう観点でいうなら,代物弁済がどのように実務で使われるか,その実態はどうかということに関して言うならば,先ほど内田委員がおっしゃられたようなことが実態というか,実務感覚に合うように思います。 ○沖野幹事 すみません,繰り返しですけれども,内田委員の御説明で,使われるのは本当に選択債権,選択債権という言い方がよくないと思いますけれども,自由な選択でということではなくて,当初の債務をそのままでは弁済できないから,債務者から別のものに変えてほしいということで,債権者としても,それならそれでよいと言う場面で,しかし当初の給付でいくならば,それはそれでよいという一種の浮動状態があるということかと思うんですけれども,その浮動状態なりがどこまで及ぶかというときに,債権者から承諾を得て,別の給付でいいと言ってもらった債務者が,別の給付を提供してきたのに,債権者が「いや,駄目だ,元の給付で来い」と言えるということですよね,お二人の帰結は。   つまりそれが言えるということは,一応承諾は与えるけど,債権者としては最後,給付を本当にもらうまでは撤回できると,元の給付で来ると駄目だけれども,新しい給付で来ても,そのときにもう一回考え直せるということになるような気がするのですが,それが諾成契約として代物弁済を認めることと整合するのだろうかという疑問を持つのですけれども。 ○鹿野幹事 私も基本的に同じ疑問を感じます。本来の債務があるところで,諾成的な代物弁済の合意というものを認めるとする場合,それは,本来の弁済ではない形での弁済を認めましょうという合意なのですから,債務者としては,新債務といいましょうか,新しく認めてもらった債務について,それを準備し,実際に提供するということは当然あるでしょう。そのときに,代物弁済の合意をしたにもかかわらず,債権者のほうで元の形での弁済をしろということまで言えるのがデフォルトであるということには,少々違和感を覚えます。それが一つです。   それから,もう一つ,先に中井委員がなさったご発言にも関わるのですが,準備を実際にしていたにもかかわらず,それが拒絶されるということになると不都合ではないかという意見が弁護士会でも出たということでした。それに対して,内田委員からは,そのようなものには更改契約と解釈することができるので,不都合はないという御説明があったわけです。けれども,これは概念整理の問題かもしれませんが,更改か諾成的な代物弁済契約かというのは,大きくは,旧債務を残す趣旨の合意かどうかということで区別されるのではないでしょうか。諾成的代物弁済の合意があった場合は,旧債務は消滅せず,債務者のほうとしても,旧債務の弁済の余地はまだ考えつつも,代物弁済の合意によって認めてもらった代物での弁済をすることも考えて準備をするということがあるだろうと思います。後の事情まで含めて考慮して,翻って当該合意はやはり更改だったのだというような操作が,どこまで契約の解釈の名で行いうるのかについても,少々疑問を感じます。 ○中田分科会長 沖野幹事,鹿野幹事は,①のルール自体はよろしいのでしょうか。つまり代物弁済契約があった際に,原債権について債権者が裁判所に請求した場合に,それは認められるということはよろしいのでしょうか,そこも無理だということになりますか。 ○鹿野幹事 沖野幹事がこれにつきどう考えていらっしゃるのかは分かりませんが,私は①の意味についてなお疑問があります。旧債務は残っているので,債権者は一応それを請求する余地はあるのだろうと思いますが,債務者のほうで,その代物弁済合意によって新しく認められた形での代物の弁済を提供すれば,その場合には債権者はそれを受領しなければならなくなるのではないかと思いますし,そういう意味では,代物弁済の合意をした場合には,旧債務の弁済を第一順位での弁済だとする債権者の主張ないし請求は,債務者の行動との関係で制限されることがあるのではないかと考えておりました。それが,表現として適切ではないかもしれませんけれども,債務者に選択権が認められるべきではないかと先ほど申し上げたところです。 ○中田分科会長 原債権について,給付訴訟を提起したときに,代物についての給付の提供をしていない債務者との関係で,債権者は勝訴判決を得られるかどうかということなんですけれども。 ○沖野幹事 その問いに対しては得られるということだと思います。先ほど浮動状態と言いましたけれども,最終的に履行が済めば,そこで終わりだということは明らかで,合意をしたという段階の一種中間的な状態で何が起こるのかと,どこかではどちらかの給付に確定するんだと思うんですけれども,恐らく鹿野幹事や私が考えておりますのは,債務者が全ての債務の履行として,やるべきことをやっていれば,それはそれでいいのではないか,そういう意味で債務者が選択できるということですけれども,一方で,何も債務者がそれでもしないときに,債権者としては,正に強制履行や強制執行を掛けていく前段階としての判決を採るということもありますので,そうしたときに元の給付のほうで勝訴判決を採って,そして元の給付のほうで強制執行を掛けていくということができてしかるべきなんだろうと思いますし,その意味では,更に別の給付のほうで請求して,判決を採って,強制執行を掛けていくということができてしかるべきなんだと思うんですけれども,さらにそのときの判決を採った後に,その判決を採ったにもかかわらず,債務者が「いや,家のほうで」として,履行に必要な全ての書類などを提示して,「これでお願いします」というようなことができるのかという問題があり,一体どこまでできるのかという問題が更にはあるということを今の分科会長の御指摘で考えました。 ○中田分科会長 ありがとうございました。そうしますと,大体問題ははっきりしてきたようです。①のルール自体については,これ自体を否定するということにはならなくて,ただそれを前提とした上で,債務者は何をすれば,債権者の選択とは異なる選択を主張できるのか,そこが何人かの方の御意見の違いなのかなと理解いたしました。その上で実質的にどのようなルールが望ましいのか,代物弁済がなされる場面を考えながら判断していくべきであると,そういう辺りが今の御議論の全体かなと思いましたが,大体そのようなことでよろしいでしょうか。 ○山本(敬)幹事 確認ですけれども,沖野幹事のお考えですと,規定を置くとすれば,②に書かれている場合ですと,債務者が当初負担した給付を提供したときは,債権者は給付を求めることはできないことになりますし,債務者が他の給付を提供したときは,債権者は元の給付を求めることはできないという規定を置くということなのでしょうか。そして,そのときの要件は,提供が要件になるということでしょうか。提供で履行請求がそもそも棄却されるというのは,他の通常の類型では一切ないわけですけれども,代物弁済については,特別なルールとして定めるという御趣旨でしょうか。 ○沖野幹事 他のルールとの関係ですが,他のルールの場合,提供をして,履行請求が棄却されるというときの両者の内容は同じですよね。つまり金銭を提供して,向こうから請求するのも金銭なわけですよね。こちらは債権者の①で書かれている選択権がいつなくなるのか,どういうことをすればなくなるのかということかと思うのです。①については異論がないというのは,②において,当初給付だけが債務者のほうで選択を絞り込めるというか,あるいは代物弁済についての承諾を撤回できる,その撤回を封じるというか,それに対して,あとは債権者が受け取ればそれで済むという状態になるのであれば,当初債務でなくても,約束された他の提供でも債権者の選択権が終わるということを定められないかというつもりなのですが。ですので,おっしゃるような提供と履行請求の関係というよりは,むしろ選択権がどちらがどこまであるかという,広い意味では選択債権の問題とは違うのかもしれないんですけれども,二つの請求が立つときに,誰がイニシアチブを取って,どちらで決まるのかという問題ではないのかと思うんですけれども。 ○中井委員 鹿野幹事のお話もそうですし,沖野幹事もそうだと思います。基本的には,債務者に選択権があるということに尽きますね,一番の違いは。弁護士会の3分の1は,少なくともそこも含めて解釈に委ねましょうという立場です。3分の2は,現実に使われているのは,1,000万の請求権があるけれども,債務者が弁済できない,そこで代わりのものを給付するから,これで勘弁してくれ,こうなるわけですが,そのときにまだ1,000万の請求権を残すということの意味ですよね。債権者は飽くまで1,000万を払ってください。しかし,とことん債務者が払わなかったら,債権者の意思で代わりに自宅でもらいましょう,若しくは他のものでもらいましょうとなる。   だから,債権者の意向としては,主たる旧の債務を請求できるのが原則であって,切り替える権利はやはり債権者にあるのではないですか。それが一旦代物弁済契約を締結すると,途端に本来の債務を提供するか,新しい債務を提供するかは,債務者に選択権が移転してしまうように感じるんですけれども,それは本来の代物弁済契約を締結する債権者の通常の意思なのかしらと,それでよいのかという気がするんですけれども。 ○沖野幹事 繰り返しでしかないのですけれども,2点ありまして,一つは,中井委員は債務者が何もしないときにということを途中でおっしゃったと思うんですけれども,債務者のほうが,例えばこれでお願いできますかと申し出て,債権者はいいですと了承した。債務者はありがとうございますと言って,翌日にそれを持って行ったら,債権者がそれは駄目だと,本来の金で払えと言えるということですよね。そういう局面の処理がよいのかが疑問を拭えないのです。しかし,そうは言いながら,規律の在り方としては,いずれもあるのではないかと思っていまして,代物弁済というのは所詮そういうものといいますか,債権者の温情によって別のものに変えてあげてもいいと,しかし気が変わったら駄目だというぐらいのものだ,いつでも撤回できるようなものだとして構築するんだということであれば,それはそれで,本来の債務は当初の債務なのだから,当初の債務で来たときには,それはもちろん拒めないんだけれども,別のものに変えていいかというのは一応約束したとしても,それはやはり当初でと言える撤回権留保付きというか,そういう合意として構成するのであって,それが実務的にも合っているというのであれば,それが代物弁済なんだろうと納得するということかと思います。 ○中田分科会長 大体論点ははっきりしてきたと思います。特に①,②についての理解が何通りかあるようですので,その実質を更に詰めて,選択可能なような形で提示していただくということでよろしいかと思います。   代物弁済について,ほかによろしいでしょうか。   それでは,先に進めさせていただきます。   次は,「10 弁済による代位」のうち,(2)から(5)までについて御審議を頂きます。それぞれ順に御審議をお願いいたします。   まず,(2)について,事務当局から御説明をお願いします。 ○松尾関係官 部会資料39の44ページを御覧ください。この論点につきましては,部会の第47回会議で審議がされ,規定を設ける場合の問題点や具体的な規定の在り方などについて分科会で審議することとされました。   (2)につきましては,代位によって債権が移転する構成を取る判例・学説の考え方で実務が安定しており,あえて債権が消滅する構成を採用する必要性を感じないという意見がありましたが,これに対しては,疑問を呈する意見がありました。また,現在の判例の結論を維持しつつ,債権が消滅する構成を採用するためには,部会資料39の47ページ記載の問題点について,解決の必要があるという御指摘がありました。 ○中田分科会長 (2)については,現在の移転構成ではなく,消滅構成を採るという案に対して幾つかの疑問が提起されました。平成23年11月の最高裁の二つの判決との関係,破産法104条4号との関係,訴訟手続中に代位が生じた場合の訴訟承継との関係などが指摘されました。そこで,消滅構成には未解明の問題があるから,移転構成を維持しようというのは簡単なことですけれども,その前に移転構成,消滅構成,それぞれの問題点について洗い出しておくという作業がこの分科会に付託されていると思います。   消滅構成の検討課題は,部会資料47ページの最後のパラグラフに記載されていますが,このほかに問題はないか,それらの問題は解決できないか,移転構成と比較するとどうかなどについて御審議を頂ければと思います。 ○山本(和)幹事 素人ですので,基本的なところを教えていただきたいのですが,消滅構成という考え方を採った場合に,例えば担保として,債権者が有していた一切の権利を行使することができるという場合の被担保債権は,これは求償権であると理解してよろしいのでしょうか。 ○松尾関係官 一つの考え方としては,今,山本先生がおっしゃったように被担保債権を求償権と考えつつ,原債権の枠によって,制限が掛かるという説明があり得るのではないかと考えておりました。 ○山本(和)幹事 ほかの説明もあり得ますか。 ○松尾関係官 具体的にどういう説明があり得るかについては,分からないですけれども,ほかの説明があり得ないということを申し上げるつもりもないということであります。しかし,部会資料作成時には,先ほど申し上げたとおりのことを考えておりました。 ○山本(和)幹事 そうすると,一般的にそういう考え方を押し及ぼすと,例えば最高裁の判例との関係でも,財団債権とか,共益債権になるのは,求償権が原債権の範囲で財団債権とかになると,代位が生じることによって,元々の求償権が,その求償権は,その前までは再生債権とかであったもののはずですから,あるいは届け出をされているかもしれないけれども,代位弁済がされたところで,言わば一部性質が変わると,残った部分は依然して再生債権のままであると,そういうような感じで捉えることになるということなのでしょうか。 ○中田分科会長 いろいろな考え方があると思うんですけれども,もし求償権だけだとすると,求償関係がなくて,代位関係だけが発生し得るという場合なんかの問題もあるのだろうと思います。そこで,部会資料39の47ページの2の第3パラグラフですけれども,「弁済者が代位する場合であっても,」「担保権を代位行使する際の被担保債権額を画するという効果との関係においてのみ,原債権を観念する」とありますが,この「効果との関係においてのみ,原債権を観念する」というのが,被担保債権が求償権であって,その枠を規定するという意味なのかというのと,あたかも原債権がそこでは被担保債権であるかのように観念するという意味なのかというのと,両方の読み方があり得るのかなと思ったのですが,先ほどの説明は前者だったということだと思います。 ○山本(和)幹事 私が最初に担保のことをお伺いしたのは,担保については,必ず被担保債権というのがなければならないのではないかという気がするので,被担保債権のごとく何かみなされるというような説明は,なかなか担保の場合は通用しないような感じがして,担保権を実行して配当するときに,何かよく分からない債権を配当するわけにはいかないので,被担保債権というのが,きちんとしたものがなければならないような感じがしたので,それでもし求償権でなければ,何かそういうのがあるのかなというのがやや不思議な感じがしたので,お伺いしたということです。 ○山野目幹事 山本和彦幹事がお尋ねになった問題,すなわち被担保債権は何ですか,という問題について,分科会長が整理されたとおり,二つの考え方が少なくとも想定可能であると私も理解しておりました。松尾関係官が示唆されたのは,そのうちの一方でありますから,もとより成立可能だと感じますけれども,乱暴な言い方をしますと,それでは接木説に戻ってしまうし,山本和彦幹事が強く疑問視されたことも,その疑問が大きくなるばかりなのではないかと感じます。   私は,どちらかというと,分科会長がおっしゃったもう一つのほうのイメージで,今回の提案を育てていったほうがいいのではないかと考えておりました。すなわち被担保債権は何ですかと,ぎりぎり詰めて問いかけを頂くと,恐らくそれは消滅した原債権の効力として認められた権利が被担保債権であろうということになるものでありましょう。そんなものを被担保債権として観念する法律思考は,ほかのところではしないのではないですかというお叱りがあることでしょうし,かなり独特の問題の捉え方,思考法だという批判というか,問題点の指摘はあるのだろうと思いますが,かなり独特だからこそ,規律を設けるものであって,ここは,そのような思考をしてくださいということを立法者からの要請として,規律を置くことによって明示していくということが,ここで述べられている消滅構成のエスプリとしているところではないかと考えておりました。 ○松尾関係官 山野目幹事がおっしゃったような考え方も含めて,是非御議論を頂きたいと思うのですが,先ほど私が被担保債権は何かという御質問に対して求償権と答えたのは,先ほど中田分科会長が御指摘された補足説明の一つ上のパラグラフとの関係で答えたということを補足させていただきます。つまり,求償権についてのみ消滅時効を観念し,原債権については消滅時効を観念しないという考え方を部会資料では前提としていますので,その関係で,求償権を被担保債権と考えたほうが整合的なのではないかと思っていたのですが,山野目幹事がおっしゃったような考え方を採るのであれば,部会資料のこの記載に関する問題についても,少し考え直さなければいけないのかと考えております。 ○山野目幹事 松尾関係官が御心配になっておられるところも十分に理解いたします。おっしゃったことも含めて,言い換えますと,補足説明の47ページの2の段落で複数のパラグラフにわたって議論されていることを網羅的に詰めていかなければならないと感じますし,私自身ももちろん詰め切っていませんけれども,余り乱暴な言い方をするとよくないのですが,私がイメージしていたのでは,消滅構成を採用するという仕方で道を歩み始めたときの原債権なるものは,観念はあるけれども,存在はしていないというものではないか,少し比喩的な表現になりますし,雑駁な表現かもしれませんけれども,そのようなものなのではないかと考えておりました。   観念は存在するのであるから,先取特権や抵当権が担保していたものは何ですかと言われれば,原債権として認められていた権利という観念をもって説明しますということになりますし,しかし実体というか,存在はありませんから,それについて消滅時効が進行するというようなことはあり得ないと考えていくことになるでしょうし,今のような思弁的な表現で法制的な規律表現が最後までいけるとは思いませんけれども,基本的なイメージというか,考え方のコアは,このような方向で考えていくというものが消滅構成であり,それを育てていきたいと感じております。 ○中井委員 山野目幹事がおっしゃった,存在しないけども,観念するということを基本にして,それぞれを考えていくという考え方,これは弁護士会皆さん反対だと思います。存在しないけども,観念するということがどういう意味なのか,どう理解していいのかということが,そもそもよく分かりません。山本和彦幹事の先ほどの担保の被担保債権は何なんですかというのも,存在しないけども,観念された原債権という説明なんでしょうし,債務名義の利用についても肯定されるとすれば,存在しない債権を観念して,存在しない債権の債務名義に対して承継執行文を取る,何らかの手当てをして執行していく。   そういう説明というのがあるのかもしれませんけども,現在の移転説がどこかで技巧的だと書かれているように思いましたけども,技巧的争いをしてもしようがないんですけれども,存在しない債権を観念するという説明のほうが,私としてはよっぽど技巧的だと思います。ある債権を担保するために,他の債権が存在する,これは,実体法上たくさんあるのではないですか。債権に対して質権を設定する。だから,ある債権が担保になるということは,何ら不自然なことでもない。現に存在する求償権を担保するために原債権が存在する,その二つの債権の関係を規律,整理していく,これが従来,昭和59年判決以降,採られていた方向ではないか。今おっしゃられた比較において,どちらが説明しやすいのかという観点からすれば,移転説のほうが,私は説明しやすいのではないか。少なくとも今取り上げられた担保に対する被担保債権の話や債務名義の利用についてそうだと思います。   では,移転説の問題として指摘されているものは何か,二つの債権を別個に管理すること,二つの債権について別個に時効が進行することなどなどですけれども,これは二つの債権が存在して,一方を担保する関係にあるものに共通して生じている問題で,特有の問題ではないのではないか。あえてそれを一本化するのだとすれば,時効等については,求償権で時効となれば,原債権は止まる,原債権で止まれば,求償権は止まるというか,一体的な関係として整理する。   その整理の仕方は,多数の債権債務のある場面での整理の仕方を借用すればできるのではないか。弁護士会は,ここは一致して,現構成を支持しております。 ○山野目幹事 中井委員に対して釈迦に説法でございますけれども,分科会の役割は何かということを思い起こしていただきたいと感じます。私は,別に消滅構成で絶対いこうということを申し上げているのではありません。中井委員のお言葉の中に技巧性比べをしてどうする,というお話がありましたが,技巧性比べをぎりぎりまでするのが分科会の仕事ではないでしょうか。私が消滅構成を育てていきたいと申し上げたのは,消滅構成に自分個人がいいと与していて,弁護士会の先生方とやり合おうということで申し上げているのではなくて,消滅構成を育て切るところまで育て切った上で,従来の移転構成との間で,それぞれが持つ技巧性の魅力と難解さとを,貸借対照表のようなものを作って比べてみて,その審議結果を部会に上程するということが私たちの務めであろうと思います。   そういう観点から申し上げますと,確かに消滅構成は,観念はするけれども,存在は否定するという発想で一定のところまで説明することができますし,そのことゆえの魅力もあると思いますけれども,中井委員が今,御批判になったような分かりにくさというものが伴うということも確かであろうと考えます。   反面において,移転構成は,いろいろ批判されてはきましたけれども,分科会長が御指摘になった平成23年11月の二つの判決は,恐らく一つの展開点をなしていて,最高裁判所自身が従来の移転構成がもたらしていたいろいろな意味でのもやもやした部分をかなり整理し始めていて,あれらの判決が,求償権を担保するものとして機能させるという趣旨であると述べたところは,見逃されてはならないと考えます。キーワードを三つ取り上げますが,担保・機能・趣旨という言葉を言って,かなりプラグマチックに弁済による代位を考えようという方向が,明確に言い切ったものではないとしても,その雰囲気をかなり出してきているものであろうと感じます。   そうすると,移転構成も今後,彫琢していく余地があって,そちらのほうは,これも簡単に比喩的に言うと,存在することは認めるが,その存在は機能的にかなり限定したものとして考えていくということなるのではないでしょうか。そうすると,そこにも,そのように工夫することによる魅力がありますが,存在はしているけど,機能は限定されたものとは何だ,とか,機能がどう限定されるかは,どこで規律表現されて,明確にコミュニケーションとして伝わるか,とか,そういう問題を抱え込むものでありまして,私に言わせると五十歩,百歩であり,中井先生の消滅構成への批判も分かりますが,おっしゃるほど移転構成が魅力にあふれているとも思えません。 ○沖野幹事 二つの構成の間でいずれの構成も考え得るものだと思いますし,担保として機能する限りにおいて存続するという形での整理といいますか,更なる展開というものも,担保目的でのみ譲渡があるとか,いろいろなところでそういう構成はあり得るかと思いますので,そちらで規律を詰めていくということも両方あって,正に山野目幹事がおっしゃるように,二つ成り立つ考え方なのだろうと思います。その上でどちらがいいのかということですが,その優劣に関して,具体的な帰結の点なんですけれども,今,出てきたものですと,原債権について独自の消滅時効というものを考えるか,もはや弁済による代位が起こった限りでは,求償権だけはその限りでは問題とするということであるならば,いずれの構成を採っても,その点を明確化したほうがよろしいのではないかと思います,取り分け移転構成を採る場合にそうなんですけれども。   ですので,そういう説明が難しいものはそれぞれあると思うんですけれども,具体的な規律において,それが適切かという検証も並行してやる必要があり,取り分け現在は移転構成で組み立てられているのですが,その下で具体的な帰結を変える必要のあるものがあるのかないのか,今のところ消滅時効のところだけかなと思うんですけれども,そちらを詰めていくというのも必要で,あるいは最終的な規定の在り方を考えたときには,場合によっては,そちらのほうが重要かとも思います。 ○中田分科会長 幾つかの項目について,説明をどうするかということと,具体的な帰結に差異があるかどうかということと,両方検討することになると思います。項目につきましては,大体ここに出ているような辺りでしょうか。消滅時効,被担保債権,倒産との関係,強制執行との関係などですが。もしそうだとすると,これらについて,仮に消滅構成を採る場合に,実質は何なのか,先ほど被担保債権について,求償権なのか,それとも原債権がその限りであるように考えるというのか,二つが出ておりますが,ほかにもあるかもしれませんけれども,それぞれの項目について,説明を詰めていく。その上で具体的な帰結の違いまであるかないかも検討するというのが作業手順かと思います。 ○中井委員 担保の被担保債権の話と,原債権に保証がある場合なども,その一類型だろうと思います。それから,倒産手続が開始されたときの,先ほど山本和彦幹事からお話がありましたけれども,求償権は倒産債権であることは明らかなので,そのときに原債権との関係をどう考えるのか,性質が変わるのか,求償権の範囲内で存在しない財団債権なり,共益債権が行使できると構成するのか,この辺も課題だろうと思います。   それに対して,移転説の課題は何なのかですけれども,部会資料46頁から47頁にかけていろいろ書いていただいていますけれども,求償権が消滅すると,原債権が消滅するのはなぜかというのが根本的な課題なのかもしれません。それ以外で見ていくと,沖野幹事がおっしゃられた時効の部分について,これで言うなら③,④辺りの整理をすれば,そこで足りるのかなと。それ以外の部分については,今回の最高裁の判決の担保的構成を採って,特段説明に困るところはないのではないかという印象を持っておりますので,少なくとも移転説の課題としては,ここに書いている③,④,⑧あたりではないか。それに対して,消滅説の課題が先ほどからの御指摘の部分。その二つを並列に挙げて,山野目幹事から厳しく御指摘を受けましたけれども,比較衡量するならば,消滅説の課題は非常に大きいなという印象を受けるのですが。 ○山本(和)幹事 部会でも発言したかどうか記憶がないのですが,訴訟手続中に弁済がなされた場合に,消滅説を採った場合に,訴訟承継,そもそも承継が生じるのかどうか,承継が生じた場合の訴訟物が一体何になるのか,求償権であれば明確だと思いますけれども,先ほど山野目先生が言われたような,実在しないけれども,観念できるような権利を,さすがにそれを訴訟物にするのは無理かなという感じもするので,それをどう理解するのかというようなことも考えていただく必要があるかなと思います。 ○中井委員 今の問題は,債務名義を利用することができるのかという問題と密接に関係していると理解します。 ○山本(和)幹事 債務名義形成前の承継のお話。 ○中田分科会長 大体検討すべき項目は以上のような辺りでよろしいでしょうか。では,それらの項目について,移転構成,消滅構成,更に消滅構成においては,例えば被担保債権を何だと観念するのか,その際に先ほどもちょっと申しましたけれども,求償関係はなくて,代位関係だけがあるという場面も含めて,検討する必要があるということかと思います。   それでは,次に進んでよろしいでしょうか。   それでは,次に(3)について,事務当局から説明していただきます。 ○松尾関係官 部会資料39の48ページを御覧ください。この論点につきましては,部会の第47回会議で審議がされ,規定を設ける場合の問題点や具体的な規定の在り方などについて審議することとされました。   まず,①についてですが,代位に当たって要求される付記登記は,競売申立ての資格要件と解すべきではないかという御意見がありました。また,債権が譲渡された場合における抵当権の移転についての登記の要否とのバランスにも留意すべきであるとの御意見がありました。   また,④につきましては,そもそも判例法理を維持すべきかどうかを検討する必要があるという御意見のほか,物上保証人のみである者が複数いる場合に頭数で按分するのか,財産の価値に応じて割り付けるのかという問題があるとして,物上保証人と保証人とを兼ねる資格兼併者の取扱いについて分科会で検討すべきであるという御意見がございました。 ○中田分科会長 (3)について今,御紹介がありましたように,部会では特に①と④について意見がありました。①については,現在の判例・学説が「保証人の弁済後,第三取得者の移転登記前」の付記登記を要求しているのをそのまま維持してよいのかどうかという問題提起がありました。すなわち担保権の登記がある以上,取得しようとする人は弁済されていないと考えるのが一般的ではないかということ,この規定の立法趣旨は,弁済前の付記登記として考えられていたこと,ここで求められている付記登記は,対抗要件ではなく,競売申立資格要件と解すべきであることなどの意見が出されました。このほか,債権譲渡の場合と弁済による代位の場合との比較や,保証人ではなく,物上保証人が代位する場合の取扱いについて意見がありました。   そこで,①については,付記登記の意味も含めて,更に検討することがこの分科会での課題となります。④については,資格兼併者の取扱いについて,更に検討することが課題です。①,④については,ほかにも問題があれば,御指摘いただきたいと思います。   また,①,④以外については,部会ではほとんど意見が出ておりませんので,是非ここで御意見をお出しいただければと思います。   どこからでも結構ですので,御意見をお願いいたします。 ○中井委員 ①に関して,部会で申し上げたかもしれませんが,ここは保証人となっているわけです。この部会資料では,③で物上保証人について,①の規律と同様の規定を設けるとなっております。501条自体は,任意代位の499条と500条の法定代位の2条を受けたものとなっていますが,今回,誰が代位して弁済できるのか,その範囲が変わるのかもしれませんけれども,保証人,物上保証人に限らず,一般に債務者のために弁済したもの共通のルールになるのではないか。だとすれば,ここの主語としては,保証人で足りないし,物上保証人の規定を設けるだけでも足りずに,債務者のために弁済した者,一般の規律として検討しておく必要があるのではないかと思いました。   また,部会のときに申し上げた付記登記については,このような規律を廃して,権利保護要件的にここは改める。そういう意味では,昭和41年の最高裁判決を見直すべきではないか。 ○山野目幹事 ①について,今,中井委員がおっしゃった御意見は,大変よく理解することができまして,すなわち付記登記をしなければならない人,それから付記登記をすることの意味についての御意見は,おっしゃられたことは,なるほどと感じました。   その上で関連して,執行実務の関係を教えていただきたいのですが,こういう場面に限定しないで,もっと一般的に抵当権の登記があるときに,抵当権登記名義人でない人に抵当権が実体的に移転していると見られるようなときに,抵当権の登記の登記名義人を変える登記上の手続をしないと,担保不動産競売の申し立てをすることができないというのが執行実務の取扱いなのでしょうか。①を一般化していく方向性を中井委員が強く打ち出されて,私はそれにはすごく共感するところがありますが,そうであるとすると,一般がどう扱われているのかということの認識は,少し立法そのものではないとしても確認しておく必要があるとも感じます。 ○中田分科会長 どなたか執行について,お教えくださいますでしょうか。抵当権の登記がなくても,抵当権の実行はできるわけですよね。抵当権の登記があるけれども,移転の付記登記をしていないという場合に,実体的な抵当権に基づいてできるかどうか,こういうことだと思いますが。 ○中井委員 条文は見付かりませんけれども,付記登記がなくても,付記登記に代わる例えば公正証書とか,公の文書があればできるのではないでしょうか。 ○山本(和)幹事 中井先生の言われた根拠を見いだしたのであれですが,民事執行法181条3項は,担保権について承継があった後,不動産担保権の実行の申し立てをする場合には,相続その他一般承継にあっては,その承継を証する文書,その他の承継にあっては,その承継を証する裁判の謄本その他の公文書を提出しなければならないという記述ではないかと思います。 ○山野目幹事 お教えいただきまして,ありがとうございました。もしそういう一般的な制度基盤が執行実務のほうに備わっているものであるとすれば,もし中井委員のおっしゃる御発想でいくとして,民法はこの付記登記の問題に言及しないということがきれいな帰結であろうと思います。担保不動産競売を申し立てる資格みたいなことを民法に書き込むというのは,民法が汚れるという表現は,私は余り使いたくありませんが,何か汚れるような感覚は抱きます。 ○中井委員 私もそのことが確認できるのであれば,民法に書きなさいと言っているわけではありません。 ○中田分科会長 今,付記登記の性質を改めるという方向での御意見が出ているわけですけれども,現在の判例や学説の考え方を維持するという方向からの御意見もあれば,それはまたお出しいただければと思いますけれども。 ○中井委員 今の問題に関して,先ほどの消滅説的構成と移転的構成との違いを意識しておくべき一つの問題だと思っています。昭和41年判決当時は,消滅的構成というか,消滅的理解,少なくとも移転構成的理解をした昭和59年判決前ですので,判旨を見ましても,保証人が弁済したことによって消滅したことを信じた第三者の保護の問題として捉えられているのかと思います。しかし,基本的には,保証人,物上保証人が弁済したときに,原債権の移転と考えるのであれば,そのような保護の問題は生じないというところからも,積極的にこの登記は不要であるという結論に結び付きやすい。それは債権譲渡構成と類似するからという説明に至るわけです。 ○山野目幹事 何か江戸の敵を長崎で取られたような気分もありますけれども,恐らく消滅構成を採ったときにも,抵当権登記名義人を改める登記は,移転の登記として行われるものであろうと想像します。それはテクニカルな問題処理としてあり得ることですから,それほど決定的なことではありません。中井委員のおっしゃることを理解しますし,しかし,そうだからといって,移転構成が決定的に有利になる関係にあるものでないということも念のため申し上げさせていただきます。 ○中田分科会長 ①についてほかにいかがでしょうか。また①に戻っていただいて結構ですけれども,ほかの点,②以下についてもお出しいただければと思います。   弁護士会では,①と④についての御意見が主だったのでしょうか,ほかは特に。 ○中井委員 それ以外はほとんどこの原案に賛成という意見になっております。ただ,④については,賛成になっていますけれども,よく分からないから現状のままというのが正直なところで,これを変えることについて積極的提案が出てこないといいますか,どういう提案があるのか,幾つか学説上あるようですけれども,それをここで変えるだけの理由を申し上げることができないところから,現状のままでもいいのではないかという意見になっています。 ○中田分科会長 ④については,資格兼併者の取扱いを二人と扱うのか,一人なのか,一人として保証人なのか,保証人兼物上保証人なのか,物上保証人なのか,他に物上保証人のみがいる場合はどうかなど,様々な問題があるわけですけれども,今,たまたま④が出たものですから,もし④について何かございましたら。 ○沖野幹事 分科会長から御説明いただきましたとおり,大元の兼資格者自身をどう考えるかについて,二重の重い負担を負っているのだから,重い負担であるべきなのか,判例のように簡明さ重視ということで割り切り,頭数で割り切ってしまうということなのか。判例が今その限りでは明らかになっているけれども,学説では負担を考慮した規律のほうがいいのではないかという意見が有力だと思いますし,また一方の資格だけだったものが兼ねることによって,かえって軽い負担になったりということも出てきますので,それもどうかということですが,ただやはり複雑になるということは否めないのだろうと思います。ですから,大元の兼資格者がいる場合の原則的な規律をどうするかということについては,判例と異なる,あるいはより精緻かもしれません,そのような考え方もあるので,それに切り替えるべきかという立論は立つとは思うんですけれども,個人的には判例で割り切っていいのではないかと思っています。   考え方はいろいろあり得るのですが,私自身が更に気になっておりますのは,部会でも申し上げましたけれども,④の射程の問題でして,恐らく④の書き方そのものは,補足説明に明確には書かれておりませんけれども,全員の頭数に応じた平等の割合でということだとしますと,これは単純な物上保証人が複数いる場合も,かつ物上保証人の割合も頭数でということを含意しているようにも思われるのですが,それは必ずしも適切ではないのではないかと思っております。   補足説明に書かれております昭和61年判決がどこまでのことを言っているのかということについて,判旨自身は非常に広い射程の口ぶり,書きぶりではありますけれども,単純な物上保証人が複数いた事案ではないですし,調査官解説でも,そういう場面も念頭において,全て頭数であるということまで言っているとは思われません。   それから,学説のほうの整理は分かれておりまして,判旨の理解の問題として,単純な物上保証人が複数いる場合にあっても頭数であるというところまで言い切ったものであって,そうでない理解というのは,むしろ判旨の読み方として間違っているという指摘もございますけれども,そうではない読み方もあるし,そちらのほうがどちらかというと教科書の説明では多数ではないかと思っておりますが,いずれにせよ,ここを明文化するのであれば,その点を曖昧にしたままですと,61年判決の理解が分かれたままで,かつ規律があっても分からないということになりますので,態度決定をするべきだろうと思います。   そうしたときの態度決定としては,単純物上保証人の間では,なお価格によるということが公平だというのが501条の考え方ではないかと思われますので,もちろんそうしたときに,では保証人を兼ねることによって,負担を更に少なくするというような行動も可能になってしまうのですが,それは兼資格者をそのように扱うというところの割り切りとして,単純物上保証人がいるときには,なお価格でということのほうが適切ではないかと考えているところで,そうした場合には,④の書き方は,代位する旨の規定を設けるものとするでは終わらず,その場合に501条の5号のただし書の,ただし,物上保証人が数人あるときは,残額について,各財産の価格に応じて債権者に代位するという,この規律が兼資格者で頭数による場合にも,なお妥当するということをゴシックで書くか,あるいは補足説明で説明していただくかということになるのではないかと思います。 ○高須幹事 意見が半分ぐらいで,半分ぐらい質問になるのですが,いわゆる金融実務等において,保証人と物上保証人の地位を兼ねるという場合についてなんですが,私の漠然とした理解ですと,物上保証人になってもらう場合に,その他もろもろの法律関係を明確にするために,保証人を兼ねてもらうというようなことがある。つまり物上保証人と保証人の両方の地位を兼ねることに格別な意味があるわけではなくて,むしろいろいろな意味での問題が起きないために,補充的にというのでしょうか,保証人の地位も兼ねてもらうような実務がある。そのようなことを伺ったような気もしているんです。   この場合,必ずしも兼ねている地位というものが,何か格別の意味を持っているわけでもないのかなと。そうすると,判例の考えである一人として扱うというのも一つあり得る結論なのかなという気もちょっとしたのですが。ここまでは意見で,今日は三上さんがいらっしゃるので,あるいは金融実務において,保証人と物上保証人を兼ねるような場合というのはどういう場合なのか,教えていただければ有り難いなというのが質問の部分になります。 ○三上委員 特に決まったルールがあるわけではありませんが,根抵当権と根保証を同時に結んだときに,根保証の範囲が根抵当の極度で画されるという判例があって,あれは金融実務からは違和感を持って捉えられているということはあります。基本的に不動産等の物上保証をしてもらっている人に保証人にもなってもらうときというのは,不動産以外の財産も目当てにしていることが多いです。経営者保証などはそういう例です。   高須先生がおっしゃったようなケースの典型だったのは,昔の預金担保で,貸金等根保証の規制がされるまでは,預金担保に関して対抗要件をとらずに,いざというときに相殺で処理ができるように,そのほうが対租税債権への対抗という意味でも,わざわざ預金担保設定者には,預金額の範囲内で同時に保証人にもなってもらうという契約になっていましたが,今では対抗要件を具備しています。こういう,相殺等の簡便な回収も狙って,基本的には物上保証で十分だけれども,念のために保証も取っておくという実務は減ってきています。そういう意味では,別々に意味があって取っていることが多いのではないかと思います。 ○中田分科会長 ④について,ほかには。それでは,部会で意見が出ていません①,④以外について,どの点でも結構ですので,御指摘いただければと思います。余りないでしょうか。大体原案でよいということでしょうか。   私自身は,個人的な感想なんですけれども,⑦については,規定を置くことが今回の改正で適当かどうかということは,なお検討の余地があるかなと思っています。⑦は,物上保証人が債務者に代位できることを前提にして,物上保証人の後順位抵当権者が物上保証人に優先するという問題ですけれども,これは代位自体の問題というよりも,共同抵当の後順位抵当権者が異時配当の場合に権利を確保できるという担保物権の問題でありまして,そうすると共同抵当の他の問題と併せて検討すべきことになって,ここでこの規律だけを置くとすると,少し浮き上がるのではないだろうかという感じがしないではありません。 ですから,もし規律を置くとすると,他の類似の問題,債務者所有不動産の後順位抵当権者との関係なども同時に出てくる問題ですので,それも踏まえて検討するということになると思いますが,そうすると,むしろ担保物権法の問題かなという感じもいたしますということで,これは個人的な意見ということで申し上げます。   ほかに何でもお気付きの点がありましたら,おっしゃっていただければと思いますけれども。 ○高須幹事 今の分科会長の御指摘になった⑦のところなのですが,弁護士会の意見は基本的には①から⑦まで賛成なのですが,⑦に関しては,今,御指摘のような趣旨かと思いますが,明文化不要論というのが,個別の単位会ではありますが,あることはありましたので,その旨,申し添えさせていただきます。 ○中井委員 ④に戻るんですけれども,弁護士会は知恵がありませんから,従来の考え方でいいのではないかと申し上げたわけですけれども,先ほどの三上委員の御意見を聞きますと,金融実務では,物上保証人からはしかるべき物的担保として採って,それ以外に一般財産から必要のある場合に保証人として取っているという,こういう御発言だとすると,高須幹事のおっしゃった認識とは少し異なるところがある。仮に三上委員のおっしゃるとおりだとすると,今の現在の規律とは恐らくそごするのではないかと印象を受けるわけです。物的担保は物的担保,保証は保証だとすれば,そういう三上委員の実務をお聞きになって,研究者の皆さんはなお頭数でいいのかというのが,逆に私からの質問になるわけですけれども,異なる観点から担保を取っているとすれば,その責任に応じて考えるというのもあり得るのかなと思うのですが,いかがでしょうか。 ○沖野幹事 全く御指摘のとおりであり,そういう考え方も非常に有力だと思います。しかし,他方で,言われることですけれども,例えば,物上保証人として,物的負担を負い,一方で,保証人として全財産を提供しているというときに,物上保証に出しているものも自分の財産であって,そこで負っている負担というのは,プラスアルファになっているのかと言えば,他の債権者に先んじて優先できる地位が,特定の財産には付与されているだけであって,保証人より,より重い負担を負っているのかというと,また単純な保証人と比べて,割合において,二人と計算する,別途に財産があって,その財産を特定の担保に出しているという立場と全く同じに見ていいのかというと,それも両論あり得るということなのではないかと思います。ですから中井委員の御指摘は,正にそういう感覚もあるけれども,そうでない感覚もあるということではないかと。 ○山野目幹事 中井委員のお尋ねに対しては,今,沖野幹事がコメントしていただいたところに同調いたします。高須幹事から御紹介があった弁護士会の御意見を受け止めまして,それを理解しますとともに,私は,⑦について,規律の手当てが要らないとまでは感じておりませんでした。ただし,分科会長がおっしゃることはごもっともであって,これは392条に付随する問題の処理を明確化するという課題に実質的に応えようとしている部分があるのでありまして,裏返して言いますと,ここで後順位担保権者がする代位は,弁済による代位ではないのだろうと思いますから,法定代位者間の関係であるとか,弁済による代位の規律を明らかにしようという,ここの見出しといいますか,諮問事項を受けての現行501条の現代化の作業の中に⑦がなじむのか,という御指摘はごもっともなことであると受け止めます。そして,それと同時に,しかしこのことについて,このような後順位担保権者の代位が可能であることと,理論上ないし規律上の根拠が明確になっていないという現状があるということが確認され,どこかで,それは今般ではないと考えるのがふさわしいと思いますけれども,いずれ手当てがされるべきであるという問題意識は述べさせていただきたいと感じます。 ○中田分科会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,次は(4)です。事務局から説明をお願いいたします。 ○松尾関係官 部会資料39の54ページを御覧ください。この論点につきましても,部会の47回会議で審議がされ,規定を設ける場合の問題点や具体的な規定の在り方などについて審議することとされました。   部会では,部会資料39の補足説明の中に書かれている考え方によると,開始時現存額主義の考え方を変えることになるのではないかという御指摘がありました。 ○中田分科会長 (4)の一部弁済については,原債権に抵当権がついている場合の抵当権の実行や配当という基本的な問題のほかに,原債権について保証人がいる場合の保証人に対する履行請求や保証人からの弁済に関する問題,連帯債務者や保証人の求償権の問題について意見がありました。また,破産法104条との関係についての議論もありました。これらの点も含めて御意見を頂きたいと思います。特に57ページの下から6行目以下にありますように,抵当権以外の権利の行使を適用対象とした場合の問題点についても御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○中井委員 倒産の場面が気になっています。松尾関係官からもおっしゃっていただきましたが,保証債権の部分の58ページの下のほうに,保証人が倒産した場合の規律として,原債権者と求償権者,代位者の債権額を合算して,その合算した配当の中から原債権者が優先して満足を受けるという提案が書かれているわけです。抵当権等について考えてみると,そのときの原債権者と代位者との関係について,抵当目的物の換価代金から,原債権者が優先して回収すること,これについては何ら問題ないと思います。   その抵当権という一つの特定目的物の範囲であれば,換価代金について,原債権者と代位者との間で優先劣後を決めて配当する,このルールは容易に理解できるのですけれども,それを保証債権の保証人が倒産した場面まで一般的に広げるのが適当かということについては,なお検討の余地があるのではないかと思います。   この部分を民法としてどこまで条文化するかですけれども,基本的規律,(4)の①,②は規律として書いたとしても,57ページ以下のその他様々な権利行使についてまでは,詳細化はしないのではないか,またできないのではないか。そのときの(3)の保証債権の理解として,当然に倒産の場面でも合算主義になって,合算額に対して原債権者が優先するという規律が適当なのかは,これは倒産の場面ですから,別な要素を考えるべきではないか。つまり保証人の一般財産が換価されて,その時点でたくさんいる債権者にどういう手続で配当するかというときに,開始時点である原債権者と代位者,この二人だけをペアで特別に取り出して,その二人についてのみ優先劣後を決めるような,こういう配当手続を要求することになると思うんですけれども,これは現在の実務を基本的には変えることになる。現実には民法を変えても,倒産法の104条等を変えない限りは変わらない可能性もあるのかとは思いますけれども,なお倒産の場面で合算して,原債権者優先主義を貫く必要はないのではないか。   ○中田分科会長 今の点,倒産法に明るい方々もいらっしゃると思いますので,もしございましたら。 ○山本(和)幹事 明るくありませんが,今の中井先生の御趣旨が,ちょっとよく分からなかったのですが,手続開始後に一部弁済があった場合でも,元の債権者が基本的には元の手続開始時の額で破産手続上,権利行使ができると。民法に規定ができれば,手続開始前に同じような一部弁済がされても,あたかも今,手続開始後にその一部弁済がされたのと同じような形で権利行使がされるようになるというようなことでは必ずしもないということなんですか。 ○中井委員 抵当権と同じように一般財産に対する分配も考えれば,58ページの(3)の最後4行に書かれているように,倒産手続開始前に一部弁済が行われていた場合,倒産手続において,どのような配当を受けることができるか,債権額を合算して,合算に対する弁済率を掛けたものが,全部,原債権者に優先して弁済できるという規律になるはずだと。この論理は,抵当権等と同じ論理を貫けば,このようになるでしょう。   しかし,山本和彦幹事がおっしゃったように現倒産法の規律は,そうではなくて,倒産手続開始前に一部弁済が行われているときは,原債権者も代位者も一般財産に対して平等に配当を受けることができる。だから,民法を変えたら,当然に倒産法の規律も変えて,倒産法を改正すれば,そのようになるのでしょう。しかし,民法を変えれば,倒産法を改正しなくてもそうなるのか,倒産法は当然に影響を受けるのか,それとも,倒産法は影響を受けず,倒産法の改正をしない限り変わらないのか,そこは理解できていませんということを申し上げた。   ただ,方向性としては,倒産手続においては,現行のままでいいのではないでしょうか。開始前に一部弁済した場合は,原債権者と代位者がそれぞれ債権額に応じて配当加入ができる,開始後に一部代位弁済したときは,開始時点における額で固定するという現行法の考え方でよろしいのではないでしょうかと申し上げた次第です。 ○山本(和)幹事 倒産法を改正しなければいけないかどうかというのは,民法の具体的な条文がどうできるかを見てみないと,何とも言えないかなという感じがするのですが,実質として,どういう規律がいいかということを考えたときに,現在のように倒産手続開始時点をクリティカルな時点として,一部弁済されたのがその前後で取扱いを180度変えるということが,アプリオリに何か倒産法上正しいかどうかというのは,私は余り自信がなくて,こういうような価値判断,つまり実質的には弁済者は一部しか弁済していないわけですから,それは元の債権者の権利を,代位者に比べれば,より強く保護するという考え方は,倒産手続開始後は,今のところ,そう言われて,そういう説明で104条とか,説明されているわけですけれども,倒産手続開始前にも同じ説明が妥当するんだと実体法で言われるのであれば,それは別に私はそれほど大きな違和感は感じないのですが,それは印象の違いかもしれません。 ○中井委員 私も十分こういう考え方はあり得ると。保証を採った趣旨を考えれば,原債権者優先主義のほうが合理的かなとは思っています。ただ,倒産手続にこれを持ち込むと,事務的には大変だなという印象を持ったという,そういう意味からです。 ○山本(和)幹事 事務的な問題は,その次の債務名義のところもそうですけれども,当該債権者が代位によって生まれた債権者なのかどうかということが,常に手続上アプリオリに分かるわけではないのではないかという気がするので,そこが何かそういう手続を作るのか,それを明らかにするような仕組みが作られる必要があるという感じはして,確かに管財人がいちいち手作業でそれを調べるというのは大変なことだろうと思います。   それから,他方でこういう考え方を貫けば,これは中井先生が部会で言われたのか,どなたが言われたか忘れましたけれども,求償権の取扱いが求償権は全く別でいいのかどうかというのが,こういう政策的な判断をするのであれば,あるいは求償権の行使に対しても,原債権が優先するというようなことにしないと,実質は貫かれないような感じはちょっとする。求償権のほうを行使すれば,それは全く別々で債権額の割合になりますという話になるんだと,ちょっとどうかなという感じもするということを申し上げさせていただきます。 ○三上委員 今,山本(和)幹事がおっしゃったことは,59ページの4のところに書いてある部分ではないかと思うのですが,本会議でも言いましたように,一部しか履行していない全部義務者は,代位によって得た配当も,いずれはまた債権者に対して保証履行等で,自分の債務として弁済しなければならないので,その循環を防ぐという意味で主債権者優先でいいのではないかと考えます。金融機関の場合には,代位によって取得した権利を行使しないとか,無償で譲渡するという約款が入っておりますが,必ずしも代位に関して正当な権利を有する者全員が金融機関と契約関係にあるわけではありません。そういうことも考えて,この際,こういう優先劣後関係を明確化,求償権も含めて,一貫したルールとして明確化していただきたいと思います。 ○中井委員 このような規律を設けるとき,抵当権実行の場面になれば,倒産の場面になれば,それは手続主宰者がいますから,このような配慮はできますけれども,それ以前の平時の場面では,抵当権実行前の平場の場面では,それぞれ原債権者も代位者も権利行使をして,債務者から回収することができる。それは当然の前提になっていると思うんです。だから,その当然の前提とこういう場面における優先を民法上どのように表現するのか気になります。回収できるところについては何ら表現しない,単にそれは回収できる。実行の場面,倒産の場面で,初めてこれは法的に優先して回収できる。優先回収できる場面だけ書いておけば,それで足りるのかなと思っていますし,現にそうなるんだろうと思います。それであれ,平場で回収できることは,逆に明らかにする必要があるのか,何も書かなくていいのか,その辺が気になった次第です。 ○中田分科会長 銀行の約款では,今のような場合,どうなるのでしょうか。 ○三上委員 保証約定書などの適用がある範囲だと,代位によって取得した権利は,原債権が残っている間は行使しない,ないしは無償で譲るという契約になっています。そういう契約関係のない,例えば抵当物件の第三取得者のような者が出てきて,一部代位権を取得したというようなケースが一番問題になるのですが,そういうときのために(4)②のような一般条項が置いてあると明確になるということです。 ○中田分科会長 ありがとうございました。中井委員がおっしゃっている平場の場面では,各自が請求するということは適当ではないというのか,そこで各自が請求できるということと,抵当権実行や倒産の場合の規律との関係がはっきりしないので,抵当権実行や倒産の場合における規律の正当化の根拠がより必要ではないかと,そういう御趣旨でしょうか。 ○中井委員 抵当権実行や倒産の場面でのこの提案は,そのこと自体,正当化の根拠を持っているだろうと思っています。でも,平場では,お互い権利行使しますねと。そこの部分をある意味でどう理解するか,どう表現するか,何も表現が要らないのか,これが問題と捉えるか捉えないかというところから申し上げただけで,私としては平場で代位者が回収すること自体を否定するわけではありません。こういう法的手続に入ったときに,原債権者が優先できる制度ですねと,それを確認しただけですが。 ○三上委員 中井先生の疑問点と重なるのか分からないのですが,平場において,債権者が代位者に優先するという意味ですが,確かに,例えば一部弁済した人間が直接債務者のところへ行って,自分の代位権に基づいて請求して,それに応じて債務者が代位権者に弁済したときに,当該受け取った弁済金について,原債権者は不当利得ないし代位優先権に基づいてこっちに引き渡せと。もちろんまだ保証債務が残っていれば,それで請求できるわけですが,第三取得者のように,直接請求できない相手が受け取ったときに,それは本来私が優先すべきものだったのだから,こちらに引き渡すという請求ができるということまで書いている趣旨なのか,そういう疑問点ではないのですか。 ○松尾関係官 すみません,今の議論を勘違いしているのかもしれませんけれども,今,三上委員がおっしゃったのは,債務者が代位者に対して普通に弁済してしまった場合にどうなるのかという問題ということでよいですよね。それは求償権についての弁済であったと考えれば,少なくともこの提案は,求償権については劣後しないということが前提なので,受け取った金額を引き渡す義務は負わないということになるのではないでしょうか。もっとも,三上委員は,このルールも含めて見直すべきだということを御指摘されてきたと理解していました。 ○中井委員 原債権に基づいて行使した,求償権に基づいて行使した,どっちが行使しているか実態として分かりませんけれども,平場で原債権として受領したものについては不当利得だというところまで,この②は含意しているのですか。 ○松尾関係官 求償権ではなく,原債権そのものとして請求した場合に受け取ればということでしょうか。そもそも,原債権が存続するかについて議論の対象になっていますが,仮に存続するとするのであれば,現実には考えにくいように思うのですけれども,中井委員がおっしゃるようになるかもしれません。 ○山本(和)幹事 58ページの下から4行目辺りにそう書いてありますが,この話ではないのですか。 ○松尾関係官 この話とは別の話をされているのだと思ったということです。今御指摘いただいた部会資料の58ページの記載は,代位によって取得した保証債権の行使が競合した場面であって,今,三上委員と中井先生がおっしゃったのは,債務者に対して,債権者と一部弁済した代位者が,求償権と原債権に基づき,それぞれ債務者に請求した場合にどうなるのかという問題であると理解していました。そうであれば,基本的には求償権についての弁済ということになるので,ここで提案しているルールとは別の問題ではないかと申し上げた次第です。 ○中井委員 原債権と申しましたけど,同意が要ることが①でかかっていますから,同意なくして行使したというのはあり得ないので,先ほどの意見は撤回しておきます。 ○内田委員 同意を得る得ないにかかわらず,原債権そのものは,消滅構成だと弁済によって消えているわけですよね。債務者から一部弁済を受けるというのは,求償債権に対する通常の弁済の場合ですよね。担保権の実行とかではなくて。どういう場面を想定しておられるのでしょうか。 ○中井委員 最初私が申し上げたのは,単純に一部弁済したことによって,代位者が求償権を取得する,だから求償権に基づく弁済を受けることができます,原債権者も債権者として債務者から弁済を受けることができます,平場では両方できますねと,その話をして,三上さんの応答があった。その後,私は原債権という形で行使したらどうなるんでしょうかという問題を出しましたけれども,それはこの規律①からすればないわけですから,それは質問としては不適切,だから撤回しますと,こう申し上げたのです。 ○内田委員 担保権とかを行使するのは,もちろん同意なしにはできないわけですが,通常の債権として弁済を受けるのは,原債権を行使しているのではなくて,求償債権の弁済を受けていることになるのではないですか。 ○中井委員 観念論になるのかもしれませんけども,求償権を行使するときに,移転説を採るか,消滅説を採るのかで違うのかもしれませんけれども,債務者から弁済を受けたとき,代位者は何の弁済を受けたのかということで,求償権の弁済を受けたか,原債権の弁済を受けたか,ではないでしょうか。 ○内田委員 移転説を採った場合の原債権ですか。 ○中井委員 私はその発想で申し上げています。ただ,移転説を採っても,①の規律があれば,債権者の同意がないと行使できないという規律をかぶせますので,原債権の行使はできないと後で重ねて申し上げた次第です。 ○内田委員 ついでに一つ質問なのですが,今のような平場での求償権の行使について,原債権者が残っている債権の弁済を受けるのに劣後するというルールがないと,一貫しないのではないかという趣旨のことを山本和彦さんが言われたように思うのですが,それは民法にどうやって書くのかなと考えていて,よく分からなかったのです。民法の規律として書けるような問題なのでしょうか。 ○山本(和)幹事 そう言われると,民法の規律としてどこまで書けるのかというのはよく分かりませんが,しかし別にそういうルールを置かなくても,ここで書かれているような政策的な目的みたいなものは達成できるということなのでしょうか,逆に。 ○内田委員 ここで書かれているのは,中井先生が言われたように,平場では何ら劣後しない,ということではないでしょうか。 ○山本(和)幹事 求償権について。しかし,原債権を行使する場合には劣後するので,その理由は,先ほど三上さんが言われたように,循環というような話もあると思いますし,実質的にはまだ一部しか弁済を受けていないのだから,その代位よりは,原債権者を優先させるべきだという,そういう政策的な判断があるのではないですか。 ○内田委員 原債権者が債権の効力として持っているもの,典型的には担保権とかですが,それは原債権が被担保債権として残っている限りは,原債権者が優先するという発想だと思うのですが,そのことと求償権を自分で行使することとは別の問題だと考えているのではないでしょうか。 ○山本(和)幹事 そこは理念的に区分けできるということですか。破産法の発想なんかは,そこは一体として考えているように思えたので,そこまでいかないと趣旨が達成できないのかなという印象を持ったということですが。 ○内田委員 求償権の行使において原債権に劣後するというのを民法に書くと,なかなかすごい規定になる。 ○山本(和)幹事 それはおっしゃるとおりだと思いますけども。 ○中田分科会長 債権者の同意を要件にするというのは無理ですか,求償権については。 ○内田委員 特約があれば別ですけど,自分の権利を行使するのに同意というのはちょっと違和感があります。 ○中田分科会長 ほかに(4)についてございますでしょうか。 ○山本(和)幹事 58ページの「(1) 不動産以外を目的とする質権・先取特権等」というので,その問題に対処するための方策として,(ア)とか,(イ)ということが書かれてあるんですけれども,根本的にはこういう場合にここに条文に書かれているように,確かに債権質等について,民事執行法は配当要求の余地を認めていないので,こういう問題が発生するのかなと思うんですけれども,ただ民事執行法が認めていないのは,私の理解では,そういう局面が想定できないからなのではないかという感じがして,基本的には自分で実行できる,私的実行もできるということを前提として,民事執行法は規律しているわけですので,民法がそこに例外を設けるのであれば,むしろ民事執行法のほうでもそういう場合には配当要求ができるというような規定にするほうが整合的なような感じがして,この場では,なかなか民事執行法をどうこうするということは言いにくいというか,あれなのかもしれませんけれども,筋としては,それによって対応するのが筋のような気もしたということ,感想です。 ○中田分科会長 ありがとうございます。4については大体この程度でよろしいでしょうか。 ○三上委員 私,ちょっと混乱しているのかもしれないですけど,弁済による代位の場合の原債権消滅説が今回提案されていますが,原債権が消滅するときに,弁済によって代位者が取得する権利というのは求償権とは言わないのですか。44ページの(2)には,求償権のような書き方がしてあるような気がしたんですけれども。 ○中田分科会長 それは先ほど抵当権の被担保債権に関する議論のところで,それが求償権なのか,それとも原債権がその限りで効力を持っていると考えるのかというような二つの構成が出てきたわけですけれども。 ○三上委員 そこで言っている求償権の議論と,今,問題にした求償権は自分の権利なんだから,劣後するというのはおかしいでしょうという話と,どうつながるのかというのが分からなくなってしまって,お伺いしたんですけど。原債権を行使するのは,他人の権利を行使するんだから劣後するのは分かりますよという話と,原債権は消滅するけれども,残っている部分がもし求償権というのであれば,その求償権は代位者独自の権利という意味では,保証人の求償権と変わらないという位置付けになるのか。そうすると,原債権消滅説でいくと,一部しか消滅させていないときに代位弁済者が取得する権利は,原債権を行使するのではなくて,自分が一部弁済した分について取得する求償権で,それを行使する分には劣後しないという,そういう理解とはどういうつながりになるのでしょうか。ものすごく初歩的な勘違いをしているのかもしれないという恐怖心を持ちながら聞いているのですが。 ○松尾関係管 今,保証人の例が挙がりましたけれども,例えば保証人が弁済した場合には,求償権を取得するのは,弁済による代位によって取得するのではなくて,民法459条などに基づいて,まず求償権を取得し,それとともに民法500条で原債権の効力及び担保としてその債権が有していた一切の権利を取得するという説明になり,根拠が別になります。要するに,求償権は代位によって取得する権利とは違うということだと理解しています。 ○三上委員 そうしますと,保証の場合も,保証履行したことによって,求償権はあるけれども,原債権はその部分で消えるが代位はしないということになるのですか。一部代位のところで出てくる,同意を得て原債権の権利等を行使するというところの原債権というのは,「求償権らしきもの」について残っていた権利のことを指すのか,求償権そのものを指すのかというのは,どちらの意味でここは出てきているのですか。 ○松尾関係官 (4)の①で書かれている原債権は求償権とは別のものという趣旨です。 ○三上委員 ここでは消滅するという提案をされているのではないですか。 ○松尾関係官 御指摘のとおり,代位が生ずる場合でも原債権が消滅するという考え方がありますので,その場合には,原債権は消滅します。しかし,原債権の権利等は,上の(4)の1行目からに定義していますけれども,原債権の効力として認められた権利及び担保として有していた一切の権利ということですので,原債権そのものではなく,消滅の対象とはならないということです。 ○三上委員 もしそうであれば,どうして普通の第三者弁済の場合と保証人がした弁済の場合とで区別するのですか。 ○松尾関係官 それは同じだと思います。要するに,普通の第三者弁済をした場合も保証人が弁済した場合と同じルールになることを意図しており,区別するものではありません。 ○山野目幹事 本日の前のほうの議論で,(2)の議論を始めた際に,消滅構成でいったときの例えば抵当権のようなものの被担保債権はどのように考えるのですか,という山本和彦幹事の問題提起を受けて,分科会長が,求償権とみる考え方とそうではない考え方とがあるという整理をされ,そうではない考え方のほうを私のほうからは,観念のみが引き続き認識される原債権の効力と表現しましたが,いずれにせよ二つの考え方があり得るというお話が出て,私のほうから,求償権と見る考え方のほうは,いろいろ議論の混乱を招くことから,どちらかというとやめてほしい,別なほうの考え方でいってほしいということを申し上げました。   三上委員の今の御疑念というか,御質問は,とんでもない勘違いかもしれないとおっしゃったのですが,勘違いをしておられるのではなくて,むしろその議論のときに求償権と考えたりすると,今のような誤解を招いたり,混乱を招いたりするということを明らかにしていただいたという功績があるものと考えます。 ○畑幹事 発言しようか,しまいか迷っていたのですが,先ほどの破産法の開始時現存額主義との関係で,元の債権者が優先するというルールを採った場合にどうなるかということですが,これはやはりここに書かれているような考え方を採るのであれば,開始時現存額主義は変更されることにならざるを得ないのではないかという感じがします。   かつ,ここは立法政策的にはいろいろあると倒産法の本には書いてありまして,ここに書かれてあるような方向で徹底する,つまり倒産手続開始前の一部弁済であっても,元の債権者が優先するという考え方もあるし,比較法的にも存在するらしいということですので,山本和彦幹事がおっしゃったように,そうなって,それほどおかしいということはないと思います。   ただ,今回の債権法の改正に伴って,急に開始時現存額主義は変わりましたと言われると,多分世の中の多くの倒産法関係者はかなり驚くのではないかという感じがしますので,もしそう踏み切るのであれば,この次の段階,それは中間試案になるのではないかと思いますが,そこではやはり開始時現存額主義を変えるんだということをよりはっきり書いて,それについてパブリックコメントに付すということにしていただくほうがよいのではないかと思います。 ○中田分科会長 よろしいですか。   それでは,休憩の時刻が来ておりますけれども,(5)を済ませて,休憩に入りたいと思います。事務当局から説明をお願いいたします。 ○松尾関係官 部会資料39の59ページを御覧ください。この論点につきましては,部会の47回会議で審議がされ,規定を設ける場合の問題点や具体的な規定の在り方などについて分科会で審議することとされました。   この論点につきましては,代位の付記登記手続に協力する義務について,登記の共同申請に協力する義務をここだけに書く必要性に疑問を呈する意見がありました。また,担保保存義務については,要件が不明確だという意見,また,部会資料の提案を前提とすると,主張立証責任が変わり得ることに留意して検討すべきであるという意見がありました。 ○中田分科会長 部会での議論は,ただいま松尾関係官が御説明いただいたとおりでございます。この二つの問題について御意見を頂きたいと思います。   まず,アの債権者の義務の明確化についてですが,いかがでしょうか。 ○山野目幹事 アの前段については,部会でも同種の意見を私自身から申し上げましたけれども,ここのみ登記手続の共同申請の協力義務を民法の規定で書くというのは,いささか不自然な印象を抱くものですから,慎重に考えたいという意見を抱いております。   後段については,担保を保存する義務というものを記す規定を置いていけないという強い理由はありませんから,置いてもよいのかもしれないという感触を抱きますが,少し気になることとして,現行法は,担保を喪失・減少させると,責任が喪失・減少すると効果のみ書いておりますところ,そこから一歩進め,保存する義務というものを書くと,この義務に違反したときに,場合によっては不法行為による損害賠償請求権みたいなものが一般的に成立するのであろうかというような新しい問題が生ずるかもしれないということも感じます。この規定,規律を置いたときの波及的効果の有無やその帰結について皆さん方のイメージが大体共通になるのであれば,置いていけないという理由はないだろうという意見を抱きます。 ○三上委員 金融機関は一応担保保存義務の免除特約は結んでいるわけですが,今回の,特にイの規定内容から,保存義務免除特約の有効性に疑問が出てくるような場合も想定して申し上げるんですけれども,例えばもし担保保存義務を負うということを強行法規的に明確にするのであれば,付随して,例えば動産,あるいは腐りやすいようなものを担保に取ったときに,代位権者に引き取る義務を併せて規定してもらうことなどもあわせて検討していただかないと困ってしまうということも考えられます。それは信義則に基づいて,一定の限度があるということは分かるのですが,ただこういう疑念まで考えると,わざわざここに担保保存義務が免除される部分だけ新たに付け加える必要はないのではないかという意見を持っております。 ○中田分科会長 動産や腐りやすいものを担保に取るときに,今のような事態というのは容易に想定されると思うんですけれども,担保契約の中でそれに対する手当てはしていないのでしょうか。 ○三上委員 意図的な手当てはしてありませんが,一応担保保存義務免除特約の有効な範囲として,そういうものは一定の部分で処分して,保存できるものに変えるとか,保存できないものは,そのまま腐らせてしまったとか生物なら死んでしまったとしても責任を負わないという前提で理解していると思います。 ○中田分科会長 担保保存義務については,イも関係いたしますので,併せて御意見を頂ければと思います。 ○山野目幹事 正に今,イと分科会長もおっしゃっていただいたことですが,三上委員がおっしゃっているのは,イの規律を設けるのみでは駄目であるということでしょうか,これとは関係がないのですか。私がよく理解していないのかもしれませんけれども。 ○三上委員 イの部分で別途申し上げたいと思っていたのは,現行規定の担保の毀損に関して「故意又は過失によって」という部分なんですが,これが「合理的な理由に基づくものであり」,「正当な代位の期待に反するものでない場合には」とイコールかというところに疑念を持っております。判例に表れた例というのは,不動産の担保を山林に差し替えたときに価値が大きく違っていたという事例で,山林というのは評価が難しいから,その評価について過失があったとまでは言えないというものだったと思うので,そういったものが「合理的な理由に基づく」という言葉で包含され得るのかという点の懸念です。   そういう意味で,現行の504条で一応大体の有効性の限度みたいなものの関係も,安定的に運営しているつもりでおりますので,こういう新たな規定を設けるよりは,現行法の故意・過失構成でいいのではないかという見解です。 ○山野目幹事 二つのことを申し上げますが,三上委員の今の御意見の中身自体はごもっともですが,規律の表現のワーディングはまた後で考えるわけでしょう。合理的な理由というのではよく分からんというお話はごもっともであると同時に,ここで仮に合理的な理由と書かれているから,イ,(ア)の発想の規律は要らないということになってしまうものではないと感じます。したがって,もしこういう方向の規律があってよいというお考えに皆さんがなるのであれば,それを育てていくというお話になるのでしょうし,少し前に三上委員が問題提起なさった腐りやすいものとかというのも,腐りやすいもののお話と,担保の評価が難しい山林に差し替えた話は,事例としては異質であるかもしれませんが,やはり広く観察すれば,担保保存義務の合理的な限界を画するというお話になってくるのでしょうから,その限界を画すのに裁判実務上の運用に親しむような明瞭な規律表現を探していくというお話があり得るということが,今の議論でも確認されたのではないかと感じます。   それから,もう1点は,銀行はいろいろ特約等で規律しているので大丈夫だとおっしゃるのですが,第三取得者が登場してきたときは,特約によるコントロールは及ばないのでありますから,要りませんとおっしゃらないで,やはりこういうのは入れると助かるよというお話もおっしゃってほしいと感じます。 ○三上委員 第三取得者の場合は,おっしゃるとおりだと思います。あとは,合理的な理由というのも,加えて入るという分には構わないと思いますが,もう一つ,気掛かりになっておりますのは,規定を変えることによって,立証責任がどっち側に行くのだろうかという問題です。 ○畑幹事 自分の専門分野に関係ないところで発言するのはどうかと思うのですが,代位の付記登記の手続に協力する義務というのは,こういう質問自体がおかしいのかもしれないのですが,債権的な義務なのか,物権的な義務なのかという点は,どうなのでしょうか。 ○中田分科会長 債権的か,物権的かについて,どういう点に問題関心をお持ちなのか,もう少し御説明いただけますでしょうか。 ○畑幹事 あるいはこれは山野目幹事の御関心と共通するのかもしれませんが,物権的な例えば担保権を一部取得したのだから,それを登記に反映するという登記請求権があると考えるのであれば,それは物権法の問題であって,確かにここにそれだけ書くのはおかしいかなという気がちょっとしたということであります。 ○中田分科会長 この点についてどなたか御意見はございますか。それでは,ただいまの御発言は,問題点の御指摘ということで伺っておきます。 ○山本(敬)幹事 イの担保保存義務に関する法律関係の明確化で,先ほど三上委員が御指摘された証明責任について確認させていただければと思います。現行法では,どのようになると理解し,そしてこの御提案ではどのようになるとお考えになって,この提案が書かれたのかというのをお教えいただければ有り難いのですが,いかがでしょうか。 ○松尾関係官 現在の部会資料の本文自体が,必ずしも条文そのものを意識しているわけではないので,この書き方によって,立証責任の在り方を何か表そうということを意図したわけではなく,逆にいうと,積極的に変えようということをここで申し上げているわけではありません。ですので,基本的には,どうあるべきかということは,ここで御議論いただければと思っております。 ○山本(敬)幹事 だからこそ,現行法ではどうなるという前提でお考えなのかというのを御説明いただけるでしょうかという質問をした次第です。 ○中田分科会長 現行法についての認識はおありかもしれませんけれども,それが改正提案との関係で直接影響するということでしょうか。 ○山本(敬)幹事 61ページから62ページにかけて書かれていることで,特に62ページの上から4行目以下の判例をベースにしておられるのではないかと思いました。この判例は,現行法を前提にして,担保保存義務の免除特約がある場合に,その免除特約の主張が信義則違反,又は権利濫用に当たらないとされるのはどのような場合かというものではないかと思います。ただ,御提案のところでは,特約の問題としては出ていなくて,元の504条の改正提案として出ていますので,どうもそごがあるのではないかという気がしまして,あるいはそごはないのかもしれませんが,その両者の関係がどうなっているのかということを確認したかったということです。 ○松尾関係官 元々の山本幹事の御質問に明快にお答えできず恐縮ですが,ここで提案していることは,現在の判例の下では,まず,担保保存義務があって,それを免れるために免除特約が付され,さらに免除特約の効力に限界が認められているというものですので,やや多重的な構造になっているのですが,この判例は結局,合意によって免除することができない担保保存義務の範囲を明らかにしたように読めますので,その理解に基づいて規定を改めるという趣旨です。つまり,現在の判例の実質を義務の中に織り込もうとするものなので,そごはないのではないかと考えていましたし,そごがないようにしなければならないとも思っております。 ○山本(敬)幹事 もし誤解であれば,御専門の方に御指摘いただきたいのですけれども,債権者が権利行使をするのが前提で,それに対して現行法の504条では,債権者が故意又は過失によって担保を損失又は減少させた場合には,それで償還を受けることができなかった限度において責任を免れるということが抗弁で出てくるのではないかと思います。それに対して,債権者側が担保保存義務に関する特約を再抗弁で主張するのではないかと思います。そのときに,この判例をどう理解するか,信義則に反しないということまで併せてそこで主張するのかどうかということがよく分からなかったので,確認したかったということです。   ただ,現在の判例によると,現行法が前提なので当たり前ですけども,故意又は過失によって担保を減少させたことが必ず要件として係ってきた上での話になっているのではないかと思います。その部分がどこへ行くのかということが,御提案ではよく分からなかったので,確認したいという趣旨でして,遠回しな質問になって申し訳ありませんでしたが,分からない点を端的にいうと,今申し上げたようなところです。 ○中田分科会長 実質的には三上委員の御意見と重なるということですか。 ○山本(敬)幹事 重なるというよりも,御質問で,聞きたかったことを遠回しにお聞きしたというだけのことです。 ○中田分科会長 よく分かりました。結局は故意・過失という要件を,合理的な理由,あるいはそれに代わるような表現にすることの良し悪しということになるのでしょうか。山本幹事御自身は,故意・過失の要件を残したほうがよいという御判断ですか。 ○山本(敬)幹事 そのような特別な意見を持っているわけではありません。ただ,本来ならば,抗弁として,債権者が故意又は過失によって担保等を減少させたということが言われた上で,信義則ないしは合理性判断が次に来るという構造だったのが,両者を統合するような形になってきますと,どうも抗弁しか置けなくなってきてしまって,証明責任が現在の判例とは違ってくるのではないかというのが,恐らく三上委員が御指摘されたかったことではないかと思います。もしそうするのであれば,なぜそうしないといけないのかという理由が示される必要があると思います。それが必ずしも明らかになっていないような気がしますので,その点は検討事項ではないかと思います。 ○山野目幹事 2点申し上げますが,1点目は,部会資料のイ,(ア)の御提案は,松尾関係官もおっしゃったように,法文の具体的なイメージを書いているのでないこともあって,省略されたのかと思いますが,私の理解としては,故意又は過失という現行法の要件は,やはり規定上きちんと明示するものと想定していました。そのほうが望ましいと思います。それを記した上で,更に合理的な理由によって調整するというイメージで考えておりました。これが1点です。   もう1点は,そうは言いながら,それをぶち壊すようなことを申し上げるかもしれませんが,しかし現在の実務で問題になる例を背景にしていると,大抵は抵当権の放棄・解除や担保物の差し替えでありまして,ほとんど故意で行われていることは明白なものでありまして,その上で,そこでした担保の差し替えなどが金融取引観念に照らして,合理的で,うなずけるものだよねと言えるか,そうでないかということが個々の事例ごとに争われていて,その部分については,いずれにしても規範的要件というか,評価的な要件として書き表されることになると思いますから,主張立証責任は一応意識して議論することが必要であるとしても,恐らくどちら側から立証することになっても,評価根拠事実と評価障害事実を総合判断することになるものでありましょう。現実の裁判実務は,担保の差し替えの個々の事例を一個一個見ながら,「この担保の差し替え,これはないよね」とか,「ここまでならオーケーだよね」というような判断をなさっておられますから,一所懸命議論する必要はありますが,実質的にどこまで差異があるだろうかということについては,少し私は疑念を抱いております。 ○沖野幹事 イの(ア)について,条文そのものではないということではありますけれども,ただイの(ア)自体は,担保保存義務に違反しない旨の例外規定を加えるという説明になっておりますから,基本的には担保を喪失・減少させるということで,そしてそこに故意・過失の問題があるんですけれども,恐らく故意・過失もなく,およそ担保を喪失・減少させれば,直ちに義務違反だということではないのではないかと読んだのですけれども,そうすると現行の504条を想定しつつ,しかし例外的に例外規定を加えるという構造が(ア)の提案なのかと思いました。ただ,文言は,504条について,故意・過失が飛んだ形になっておりますので,このゴシックが分かりにくいという点はあるのかと思います。   それから,内容に関してですけれども,現行法の504条は,山野目幹事の御指摘になった故意という点が,しかも故意の解釈として,判例・裁判例において一般的には担保の喪失・減少自体についての認識によると解されていると思いますが,本来はそれがちょっと広過ぎるのではないかという問題があります。非常に合理的な取り決めで担保の解放をするというような場合も,意図して解放している以上故意に該当することになります。それが問題だとしますと,それを一旦は義務違反になるが,しかし合理的な理由があるという形で文節したほうがいいのか,それとも現在の故意・過失とされる,過失の内容もよく分からないんですけれども,故意・過失の内容とされるところを,不合理な担保の解放や滅失のときには,責任を負うといいますか,保証人等が免責される形で不利益を債権者が負うという形のほうがよろしいのではないかと考えるならば,故意・過失による担保の喪失・滅失で基本的には責任を負うけれども,合理的な理由等々がある場合という2段階の形にするのか,むしろ一本化するような定め方ができるのかどうかは,文言もうまく思い付かないんですけれども,趣旨ないしはむしろ狙いはといいますか,現在の故意の喪失・減少というのがいささか要件として問題であるというところに根差しているのではないかと理解しています。 ○高須幹事 基本的には今の御趣旨のような問題だろうと。そのときに結局現在の故意・過失を広く比較的捉えながら,したがって比較的故意・過失による担保権の喪失ということは,その段階では立証しやすいような形になっていて,その上で今度は立証責任が相手方に振られて,それが正当な理由によるものではないかという現行実務というのは,沖野先生がおっしゃるように考え方を変える余地はあると思うのですが,ただ正当な理由というようなものの内容というのは,どちらかというと,本来担保放棄をしたりした本来の債権者が非常に情報を持っているところではないかと思いますので,そういう意味では保証人等のほうのものは,要するに減少したではないかというところの立証に重きがあって,むしろ故意・過失が山野目先生がおっしゃるように必要だと思うのですが,それが比較的緩やかでも,その上で債権者側が持っているいろいろな情報は債権者側が明らかにすることによって,それは正当な理由によるものだという理解をすると。そうすると,現在の判例実務に比較的近いものになるのかと思うのですが,そういう考え方はあり得るのではないかと思いました。 ○三上委員 高須幹事の御意見などをそんたくしますと,結局ここで想定されているのは,担保の滅失とか,毀損とかがあったと。その事実を代位権者が立証する。これは比較的数字で簡単に出せるかもしれません。すると,今度,債権者の側がそれが合理的理由に基づくもので法定代位をすることができる者の正当な代位の期待に反するものでないということを立証しなければならないということになるんでしょうか。そうすると,やはり立証責任が転換されているようなイメージになりませんか。   結局,最後の裁判官の心証の形成過程でどれほど違うのかは,要件事実を勉強していないので,よく分からないところはあるのですが,現行実務では,かなり限定的な場面でないと,金融機関側に不利益な判決になることはないだろうという前提で担保の差し替えとかを行っておりますので,とにかく担保解放イコール滅失の事実が明らかになって,先ほどおっしゃったように,基本的にはほとんど故意の解放ですから,それについていちいちこういう合理的な理由があってやったんだという立証をしなければならなくなるというのは,負担になるのではないかという危惧を持っております。   さらに,その後の「代位をすることができる者の正当な代位の期待に反するものではない」ということが,「かつ」なんですかね。「かつ」とすれば,これはどうしてこのような文言が入っているのだろうかと。例えば全くミスといいますか,代位権者の存在を全く失念して,担保を解放してしまったと,言い訳のしようのない解放だったとします。しかし,その代位権者は,そういう別の担保があることを全く知らなかったというときには,「代位の期待に反する」ものでないから,そういう場合は担保保存義務に反しないのだという,救済の場面を広げる意味で書いてあるのであれば,安心はするわけですが,どう見ても,この書き方はそのようには読めないので,そうすると代位権者というのは,自分の負担が減れば減るほどいいはずですから,そういう人の正当な代位の期待に反しないというのは,担保保存義務が免除される場面を更に限定する要素として働くのではないかという危惧を持っております。どういう結果になるかはともかくして,「合理的な理由」という文言も再検討しなければならない気もしますが,少なくともそこで止めておくべきではないかという気もしております。 ○高須幹事 今,三上委員の1点目のことで,私も現行の立証の負担というものの関係を変えようというつもりは毛頭なくて,故意・過失という形で従来要件化されているものの立証が本来必要だというのは同じ意見でございます。ただ,故意というのが比較的広いのではないかということであれば,現在それを運用しているわけですから,殊更に今回それを変えるために,立証責任をどちらかに負担を大きくするために変えようという意味では全くないということでございます。   それと,もう1点,その場合の合理的なとか,正当なという場合の要件が,我々も仕事をしている上で,弁済する代わりに担保を抹消してもらう,そのようなことはままやっていることでございますし,経済取引行為としての合理性も持っていると思いますので,裁判所がそれに対して非常に厳しい認定をするということも恐らくないのだろうと。したがって,殊更にそういう意味で立証責任を今後厳しい方向に変えましょうということではないと一応理解しておりますので,そのように御理解いただければ幸いです。 ○山野目幹事 理論的なフレームとしては,今の高須幹事の御意見もさることながら,その前に高須幹事が整理なさったところと同じことを私は考えておりました。沖野幹事の整理をお借りしますと,文節化して要件を立てたほうがよろしいと私は考えておりました。ただし,難しいことは,理論的にはそうだと思いますが,そう申し上げると,三上委員が御心配になられて,金融機関のほうが合理的な理由を立証しなければいけないのですねという御懸念を抱かれるだろうということが気になってまいります。そうなるから,少し前の私の発言で,いずれにしても,これは規範的要件なので,両方の事情を総合判断して見ていただくことになるから,多分,弁論準備手続をイメージして言うと,裁判所はどちらかに立証責任があるから,例えば金融機関に対して「あなた,言いなさい」とか一方にのみ求めるというよりも,きっと両方の顔を見ながら「どういう事情なんですか」とお尋ねになるような形で問題処理がされていくものであろうと想像して,結局,現状よりも金融機関から見て特段よくなることもないし,悪くなることもないという規律運用が追給されていくべきものであろうと考えます。   三上委員が最後のほうに気になされた「かつ」でつながっているのかどうか辺りは,これは何度も言いますように部会資料は法文ではありませんから,ここのところをどうするかは,最終的には三上委員が今,御心配になったようなことを事務当局で十分に御勘案いただくということだろうと思います。   もう一つ付け加えますと,松尾関係官が少し前におっしゃったように,現在の実務が,特約を入れていると何かミラクルに関係が変わってくるのか,というところがよく分からなくて,むしろ追求されるべき方向は,特約を入れていても入れていなくても,裁判所が諸事情を勘案して,先ほど述べたように問題を処理していただくということが安定した柔軟な解決であろうと感じますから,そのようなことを志向していろいろお考えになった部会資料の御提案それ自体はむべなるかなというふうな感じで読ませていただきました。 ○中井委員 今までお聞きしていて,分からなくなってきましたのは,担保保存義務に関する基準というのは,イの(ア)で一本を作るということなのでしょうか。私はそうでなくて,基準は二つあると思っていたのですが,つまり504条は基本的に維持する。したがって,故意で担保を消滅させたら,責任を免れる場面が生じる。その基準を当事者間の合意で変更することができるけれども,変更できない厳しい基準がある。それが(ア)に書いている結局合理的な理由のない故意による担保消滅は駄目です,こういう規律だと理解しているんですけれども,その理解なのでしょうか。 ○沖野幹事 中井委員の御説明ですと,特約を介して,特約があることが前提で,なお特約をもっても配慮できない部分を書くのが(ア)であるという御理解でしょうか。私はそのように理解をしておりませんで,特約の効力に関して判例が明らかにしている,こちらは特約のほうの免責のほうで,免責というと両方に働くから余りよろしくないんですけれども,特約についての判旨ですけれども,そもそも504条自体の担保保存義務違反として債権者が不利益を負う場合自体がそのような場面に限定されるべきであって,その点は特約の有無に関わらず,そうあるべきではないかと理解しているのですが。ですので,私自身は中井委員がおっしゃったのとは違う理解で,(ア)というのを捉えておりました。 ○三上委員 そうすると,この規定が入ると,銀行実務で行われている特約は要らなくなるということですね。私は中井委員がおっしゃった,二段階基準でよいと考えていますから,第一段階の責任を免除するために特約は機能するわけですけれども,今の沖野幹事の御意見であれば,特約があろうが,なかろうが,担保保存義務が課せられるのは,合理的な理由がないとかの要件が充足された場合のみであるという理解をしたらよろしいのでしょうか。 ○沖野幹事 元々の入り口自体を狭めるというつもりではあります。ただ,特約を置くことに全く意味がないかというのは,直ちには判断がつきません。そこまでは言い切れないのです。 ○中井委員 日弁連で議論したときは,私は二つの基準の流れで,これは例外規定として位置付けていたんですけれども,東京弁護士会の意見は,今の沖野幹事の意見と同じでした。 ○中田分科会長 イの(ア)については,現在の504条との関係も含めて,少し要件を整理していただいて,御提示いただくということでよろしいでしょうか。   イの(イ)についてはございませんですか。特にないでしょうか。   それでは,(5)について,ほかにないようでしたら,一旦ここで休憩に入りたいと思います。           (休     憩) ○中田分科会長 それでは,そろそろ時間ですので,再開したいと思います。   予定では,次は相殺ですけれども,本日,民事訴訟法の先生方にお越しいただいている関係もございまして,進行の順序を若干変えたいと思います。すなわち部会資料43に入りまして,その中で「第2 売買-売買の効力(売主の責任)」の「3 競売における担保責任(民法568条,570条ただし書)」を繰り上げて先に御審議いただきたいと思います。   事務当局から説明していただきます。 ○新井関係官 それでは,説明いたします。部会資料43の40ページを御覧ください。   この論点につきましては,先だっての部会第52回会議で審議がなされたところです。   部会におきましては,本文アにつきましては,甲案と乙案双方につき,支持する意見がございました。   甲案支持をされる主な根拠としては,手続の過程で考慮されなかったリスクが顕在化したような場合には,買受人を保護する必要性があるといった点,あるいはより高い価格で売却されるということについては債務者に正当な利害があるといった点を御指摘いただきました。   他方,乙案を支持する論拠として,民事執行手続が遅滞するおそれといった指摘のほか,配当受領者の地位の安定に配慮する必要があるといった点を御指摘いただきました。もっとも前者の執行手続が遅滞するという指摘については,その合理性に疑問を呈する指摘もいただいているところです。   本文イについては,消極意見が複数ございました。   部会におきまして,甲案,乙案の対立を止揚する可能性も含め,具体的な規定の在り方を分科会において補充的に検討することとなりました。 ○中田分科会長 ただいま,御説明いただいたとおり,部会ではアの甲案と乙案について,それぞれの論拠を提示する活発な審議がされました。他方,イについては,支持が少なかったように思います。また,高須幹事から双方からの主張を繰り返すだけではなく,部会として合意が得られるような案を見いだす努力をすべきであるという御意見もありました。   そこで,分科会では,アの甲案と乙案の論拠については,部会での議論を繰り返すのではなく,もし補足的な論拠があれば,お示しいただくこと,イについては,もし積極的に支持する御意見がある場合には,その論拠をお示しいただくことという程度にいたしまして,むしろアについて,何らかの中間的な解決案を見いだすことができるかどうかに重点を置いて検討してはどうかと思います。   部会での高須幹事などの御指摘を受けまして,分科会での議論の参考といたしまして,新井関係官のほうから問題点を整理していただいております。まず,これについて御説明いただけますでしょうか。 ○新井関係官 先ほど分科会長から御示唆いただきましたように,甲案,乙案の対立を何とか折り合わせるといった可能性を含め,規定の具体的な在り方を検討するということが検討課題となっています。その際の問題点の整理と申しますか,検討の視角,問題提起のようなものをまとめてみました。これについては,本日の会議に先立ってメンバーの方々にその概要をお伝えしておりますが,改めて説明させていただきます。   まず1点目として,仮に甲案のような考え方を採るに当たって,競売手続における瑕疵の意義を条文に明記するということが考えられると思います。これは部会資料43の42ページの補足説明で,通常の売買の場合における「瑕疵」の意義を踏まえて,それを競売手続に当てはめたときにはこうなるのではないかという考え方を示しておりますが,そのような考え方を踏まえると,競売における物の瑕疵に関する担保責任が問題となるという場面というのは,売却手続の過程で考慮されなかった損傷などが事後に判明した場合など,限定的なものであると考えられます。そのことを規定上も明らかにすることが考えられます。そこで,例えば競売における担保責任の対象となる物の瑕疵が,「売却手続において考慮されなかった損傷などであって,目的物の評価に影響を及ぼすべき重要なもの」などと具体的に条文に明記するということが考えられないかと思いました。   2点目ですが,配当受領者の地位の安定に配慮するといった点も御指摘を頂いている点を取り上げたいと思います。そのような観点から,例えば物の瑕疵に関しては,配当受領者に対する返還請求権は認めないとすることが考えられます。これは,民法568条2項,あるいは甲案でいえば②に対応する規律を置かないということになりますが,そういったことが考えられるということです。あるいは物の瑕疵による配当受領者に対する返還請求権については,短期の期間制限を設けるといったことが考えられます。そのような観点につき,御意見を頂ければと思います。   3点目ですが,仮に競売における担保責任について,物の瑕疵と権利の瑕疵とで扱いを異にする場合には,現行法では競売における担保責任の対象とされております数量不足又は一部滅失について,どのように扱うかということが問題になります。これは通常の売買の瑕疵に関する売主の責任に関して,数量不足又は一部滅失を物の瑕疵に含めるという提案をしていることと関連するものです。  さらに,物の瑕疵か権利の瑕疵かが争われている目的物の法律上の制限,この取扱いについてどうするかが問題となります。山野目幹事からは,部会において都市計画法による用途制限といった例を御紹介いただいています。   なお,この点に関連しまして,裁判例がございます。本来は部会資料に書き込めばよかったのですが,それを御紹介させていただきます。   東京高裁平成15年1月29日判決は,目的物の土地に都市計画法上の用途制限がされていて建物の再築ができないにもかかわらず評価書でそれが看過されていたという事案でして,民法568条及び566条の類推適用によって,代金の減額を認めたものです。   それと,比較的近時の判決としまして,名古屋高裁平成23年2月17日判決でございまして,建築基準法等による建築規制によって建物が建てられないという公法上の規制があったにもかかわらず,評価書においてそれが看過されていたという事案でして,これについても民法568条,566条の類推適用によって,代金の減額の上し,債権者に対する配当金の一部返還を認めたものです。 ○中田分科会長 ありがとうございました。ただいまの新井関係官の整理も参考にされながら,御審議いただきたいと思います。 ○三上委員 今の最後に紹介された二つの高裁判例は,いずれも確定ですか。 ○新井関係官 平成15年判決は確定していると聞いております。平成23年判決は,公刊物を見る限りですと上告されていて,確定したという報には接しておりません。 ○山本(敬)幹事 純粋に質問ですので,先にお聞きさせていただきます。新井関係官の問題提起の第1点目です。ここで,物の瑕疵についての定義の一つの案として挙げていただいているもののうち,最初の「売却手続において考慮されなかった損傷等であって」というのが何を意味するかということです。これは評価書で示されていないということのみを指しているのか,もう少し実質的なものまで含んでいるのかという点だけを確認させてください。 ○新井関係官 私の意図としては,山本敬三幹事がおっしゃるように,評価書の記載よりは若干膨らみを持たせています。例えば内覧とかで知ったこととか,独自の調査で知ったことなども基本的に含むということを念頭に置いて説明したものです。 ○山本(敬)幹事 更に確認ですが,実際の売却価格から見ると,恐らくこれは考慮していたのではないかということが推測されるような損傷であるという場合までカバーするのかどうかという点はいかがでしょうか。 ○新井関係官 そこは基本的に瑕疵からは外れてくるのではないかと思っております。 ○中井委員 三つの問題が提起されましたので,まず一つ目の物の瑕疵について考え方を整理する,ある意味で通常の契約における瑕疵の場合とは異なった観点から整理する。整理の方向としては,それなりに限定的な方向で整理する。限定の仕方がどうなのか,今,山本敬三幹事から幾つか質問があった,ここでの定義の仕方の問題だろうと思います。したがって,一つ目の方向性について,是非更に検討を進めて,意見交換して,詰めていただければと思います。   しかし,その前提として,物の瑕疵についても担保責任問題を考えましょうと積極説に立つわけです。前回の部会審議において,裁判所の村上委員を始め,物の瑕疵を取り入れた場合の問題点を網羅的にお話しになりました。その問題点についても,改めてここで確認的に議論する必要はあるのだろうと思っています。   権利の瑕疵については,競売手続で考慮されているとすると,その結果として,幾つかの問題点として,解除になったらどうなるのか,代金減額になったらどうなるのか,その後の処理が大変であるというような事実上の執行手続における問題点の指摘がありましたが,権利の瑕疵についても,理論的には同じ問題が発生しているはずだろうと思うんです。   ただ,顕在化するのが,権利の瑕疵については調査が容易で,相当程度調査が可能なので,解除に至ったり,代金減額の請求に至ったりする例は少ない。少ないというところで,実務が耐えているのか,そうでなくて,もっと本質的な何かがあって,物の瑕疵については取り入れられないのか,つまり質的な問題なのか,単なる量的な問題なのか,その辺に素朴な疑問があるわけです。そこをもう一度,問題点を確認した上で,それが解決できるのであれば,解決の方法として,例えば物の瑕疵を限定的な方向で検討するというのが生産的な議論の仕方ではないかと思います。 ○岡崎幹事 今の中井委員の御質問といいますか,御発言についてですけれども,権利の瑕疵と物の瑕疵の間には,質的な違いと量的な違いの双方があると思います。質的な違いとしては,そもそも権利の瑕疵に該当し得る事情は,物件明細書とか,現況調査報告書とか,あるいは評価書の中にある程度盛り込まれてきますし,あるいは登記簿を見ることによって分かりますので,権利の瑕疵は,構造的に問題になりにくいといえると思います。これに対して物の瑕疵に関していえば,例えば現況調査報告書にどれだけ物の性状を記載しなければいけないかというと,基本的に記載する必要がないわけです。評価書の中に時々それに類する物の瑕疵を判断するのに有益なことが書き込まれることがあり,そういう意味で全く手掛かりがないわけではありませんけれども,やはりそこに構造的な違いがあります。  そして,権利の瑕疵は,構造的に起きにくいものですから,実際に裁判例に表れているものは,ほとんどないと思います。これに対して,物の瑕疵に関しては,もしこれを認めるとすると,かなり多くのものがこれに該当することになる可能性もあります。そこで問題になるのが,今日,新井関係官がお作りいただいた一つ目の論点になると思います。そもそも,契約における物の瑕疵と競売における物の瑕疵とは,定義的にも違うのではないかというのはそのとおりだと思います。契約においては,契約上予定されているものが何なのかを探求する必要があろうかと思いますけれども,競売に関しては,探求の対象がはっきりしません。例えば,評価書が取り上げていたか否かに着目すれば十分かというと,評価書に載っているものは,かなり限定的ですから,それだけでは具合が悪いという,先ほどの新井関係官のバランス感覚も理解できるところだと思います。   それでは,どの限度で広げていくかというと,ここが非常に難しいところで,先ほど内覧という話がありましたけれども,内覧が実施される件数は,全国で年間1桁でして,ほとんどありません。仮に内覧がもっと使われるようになることを前提にしたとしましても,内覧をした人が買受人になったときと,内覧していない人が買受人になったときとで瑕疵の基準が違うというのは変な話ですので,恐らくそうはならないだろうと思います。   新井関係官が示唆された競売における「瑕疵」の定義は,「売却手続において考慮されなかった損傷等であって,目的物の評価に影響を及ぼすべき重要なもの」というものですけれども,売却手続において考慮されなかった損傷という表現が,瑕疵の範囲を限定する意味を持ち得るのかも問題だと思います。先ほど申し上げましたように,物の性状は,物件明細書,現況調査報告書及び評価書の必要的記載事項ではありませんから,売却手続において何が考慮されたかをどのようにして探求するかというのは非常に難しい問題になってきます。つまり,仮に瑕疵の範囲を限定する方向性で考えようとしても,それはなかなか容易ではなく,その辺りに非常に難しい問題があると思います。 ○三上委員 我々は基本的には配当を受領する立場ですので,新井関係官の2点目の問題提起で,前半の回答をされると,それ以上のことを言う余地がなくなってしまうのかもしれないのですが,一応配当の返還が求められるという前提で言わせていただきますが,一つは,私は30年近くこの世界にいますが,今まで権利の瑕疵で配当が取り消されたのは1回だけでした。1回であれば,何か起こっても,交通事故のようなイメージで,それはそれで仕方なかったで終わるのですが,それが頻繁に起こるようになると,例えば回収済みと考えてほかの担保からの回収ができなかったときどうするとか,債権書類を保存しなくなったときにどうなるとか,保証人等に請求をそのときにしていれば回収できたのを,回収できなかったときにどうなるのかといった問題点がクローズアップされてしまう。そういう意味では,現行法ならば問題なからんというところで金融実務は成り立っていると思います。   しかも,権利の瑕疵というのは,比較的有無の調べもつきやすいので,見逃すことも少ない。用途制限は入札者が調査すれば分かるはずのもので,どうしてそれが瑕疵なのか,判例を批判してもしようがないのですが,いつの段階で権利の瑕疵が発生したかも含めてもかなり立証しやすい。   しかし,物の瑕疵になると,契約の前からあった瑕疵なのか,後からあった瑕疵なのか分からない場合もあるだろうし,また,落札した人が何に使うということまでを考えているわけではありませんから,例えば普通の住宅地のように,せいぜい1メートルしか掘り起こさなかったら何の問題もなかったものが,鉄筋の何かを建てるので,5メートル掘り返したら,とんでもないものが出てきた場合のように,用途によって,損害が発生したり,しなかったりするというところも,配当を受ける者としては一切関与しないわけです。   我々はこういう手段でしか回収の方法が残されていないということで競売に掛けているので,確かに申し立てをしているのは債権者ですが,それは売る債務者が当事者能力を喪失しているからそういう問題が発生するのであって,本来的には,もし当該物に隠れた瑕疵があったのであれば,それを売った債務者に係ってくるべきものだと私は考えておりまして,それが配当を受けた者に来るというのは,本会議でも言いましたけど,普通に売買された代金で返済を受けた場合と同じように一種の不当利得の調整のような場面でしかありえないと思います。そうであれば,かなり強度の公正さが要求される場面でないと出てこないケースなのではないかと考えておりまして,配当受領者が関与する限りにおいては,この点に関してネガティブな見解は変わらないということでございます。 ○中田分科会長 三上委員が,新井関係官の2点目の問題提起,配当受領者に対する返還請求権を認めないものとすれば,それでよいかという御発言がありましたけれども,もしそうなると,ほかについては特に異論がないということになりましょうか,それともやはり手続全体の安定性を考えて,仮に配当受領者に対する返還請求権を認めないとしても,やはり適当ではないということになるのでしょうか。 ○三上委員 基本的に配当を受ける立場でしか関与しないので,我々が関与しないところで何が行われるかに関しては,どちらにすべきだというような意見を言う立場ではないとは思いますが,ただ基本的にこれはある程度割り切った制度で,時々テレビとか雑誌で,競売市場に行くと,自宅が安くて手に入るみたいなことを言っているのがあるのですが,私はあれは非常に危険なプロパガンダだと思っていまして,やはりここは仕入れのマーケットで,プロないしセミプロがリスクを勘案した上で買っていく市場だろうと,そういう前提で回収する側も考えておりますし,最低売却価格制度もその前提で価格設定されているはずですから,そこで変に安全性をアピールすることによって,競落の市場を広げるということは決して正しい考え方とは思っておりません。 ○中井委員 岡崎幹事と三上委員からのお話を聞いて,最初に質的な問題か,量的な問題かという観点からお聞きしたかったわけですが,岡崎幹事のお話を聞いても,権利の瑕疵と比べて,物の瑕疵は発見しにくい,現況調査でも,今のところそれらは調査していないから,物件明細書にも記載がない。三上委員のお話でも,今まで頻度としては1回だったからよかったけれども,これが頻繁するようになったら困る,物の瑕疵についてと権利の瑕疵とを比較して,権利の瑕疵は分かりやすいけど,物の瑕疵については分からないことが多い。そういう御説明は,基本的にはいずれも量的な問題にしかすぎないのではないかと思うんです。   そうだとすると,物の瑕疵の範囲について絞るというのが一つの提案で,1点目の問題提起で出ている,物の瑕疵についての調査の方法,ここは執行手続にある程度の影響を与えるのかもしれませんし,物件明細書の書き方にも影響を与えるのかもしれませんけれども,物の瑕疵に関する調査なりの執行実務を少し改善する,そういう何らかの対応策を採ることによって解決可能な問題ではないかと聞こえたんです。   そこで,もう一度重ねてですけど,それを超えて,何か質的な意味でこれを入れると,こういう問題が発生するから取り得ないという理由がありましたら,教えていただければと思いまして。 ○岡崎幹事 最終的には見解の相違ということになるかもしれませんけれども,例えば今おっしゃった物の性状に関して,執行における調査の在り方を改めるということになると,間違いなく調査に要する期間が長くなると思います。   質の問題か,量の問題かということですけれども,裁判所が行う競売が年間数万件単位であることを前提にしたときに,量の問題が,果たして本当に量の問題にとどまるのかも考えなければならないと思います。大量に問題が起きると,全体の質にも影響します。例えば,裁判所の競売が後に大量に覆るということになると,調査のレベルを上げないともたなくなりますので,そうすると全体の質が変わってきます。 ○三上委員 先ほど権利の瑕疵が競売で見落としになったのは1回だけだと言いましたが,任意売却の際に土壌汚染だとか,過去の建物の構造物の遺棄部分が地下に眠っていたというようなことが,担保物件の場合とか,当行が保有していた支店の敷地の任意売却の際に問題になったというのは,ぱっと思い出すだけでも20件以上ありますから,経験だけの勘で単純に考えると,20倍以上のそういう問題が競売の配当で起こる可能性がある。そうなってきますと,結局そういう場面に備えた体制を整備しなければならない。書類の保存だとか,ほかの担保からの回収の可能性とか,そこで回収できたと思って,ほかの担保を解除したときに,元に戻しようがないではないかという意味では,数量的な問題かもしれません。  しかし,体制を作るにも,それなりのコストと労力,あるいはこれまでの様式を変えなければならないし,また,ここで想定されているのは,担保の競落人が,旧所有者は無資力だったり,法人なら既に存在しないかもしないということで,配当受領者を訴えてくる場面が主になると思うのですが,そういう場面で物の瑕疵がどうだった,こうだったという訴訟に巻き込まれるというのは,これまで余り金融機関は経験していない種類の訴訟ですから,やはりそういうところでも新規の対応とか,体制の構築を迫られる。そういう意味では,質的な問題でもあり得るということになろうかと思います。 ○畑幹事 個人的には,まだ定見を持っていないのですが,こういうことを認めることがおよそできないのかというのが中井委員の御質問だとすれば,原理的にできないというわけではないだろうと思います。ただ,おっしゃったことの中に,執行実務において例えばもっときちんと調べるようにするということがあるとすると,それは岡崎幹事がおっしゃるように確かに難しいかなという気がしております。   もし認めるとすればということですが,それはやはり現在の執行手続を前提とした上で何を瑕疵と評価するかということに,そういう問題になるのかなと思います。執行手続において,もっとよく調べるようにしましょうというのであれば,それは例えば民事執行法上,物件明細書というものに,何を書くということは法定されているので,そこから例えば変えていくというふうな,そういう話ではないかと思います。ですから,もし認めるとしても,執行実務のほうを変えましょうという話ではないと個人的には思っております。 ○高須幹事 すみません,ちょっと昔話から入ってしまいますが,昭和55年に民事執行法が制定された当時のことです。施行直前に私は大学生で民事執行法の授業の一環として,東京地裁の地下1階にあった競売場に行ったことがあるんです。つまり旧民事訴訟法当時の執行なんですが,正直いって,あのときの執行というのはセンセーショナル,若い人間にとっては,法とはこういうものかということを思わせるに十分足り得るほどセンセーショナルな出来事でした。周りにはいわゆる執行屋さんというのがいて,のこのこ入っていったら,お前なんだみたいなことでさんざん怒られて,それでしようがないな,勉強のために来ているなら許してやるみたいな,何で許されなければならないんだろうみたいに思いながら,隅っこのほうで小さくなっていた覚えがあるのですが,それが55年に民事執行法ができて,いわゆるいろいろな問題点というものを,当時の立法と裁判所の努力で改善してきたと。現在は期間入札等によって,昔からあったと言われる問題が随分克服されてきたということだと思います。   そうなると,現在問題になっている物の瑕疵については,競売ではどうしようもないんだみたいな部分というのも,もし同じ発想で,例えば現状でやむを得ないんだみたいな発想を採ってしまうと,今回克服できないのだろうと。55年に民事執行法を作ったときに,大いにそこを頑張って乗り越えたという経緯からすれば,今回の民法の改正においても,物の瑕疵について競売は手を出せませんというようなギブアップ的な発想ではなくて,今,畑先生もおっしゃったように,やれる余地はあるのではないか,やらなければならないのではないかと思います。   それを出発点にした上で,ただ現在の競売実務みたいなものに無用な混乱を招いたり,あるいは結果的にかえって悪くなる事例があってはなりませんから,そういう意味ではもちろん慎重に行わねばならない。今の実務に悪い影響を与えないように考えるということは大事で,第1番目の瑕疵の定義のところで,今,岡崎幹事から御指摘もあったように,今回新井関係官に御指摘いただいた内容だと,本当に絞り切れているのかどうか。売却手続において考慮されなかった損傷であって,目的物の評価に影響を及ぼすものというのは,捉えようによっては結構広いのかもしれなくて,その意味では物の瑕疵の定義を競売の場合に備えて,独立の定義として設けるという趣旨は,誠に大事なことだと思っているのですが,やはり運用する立場の裁判所の御意見,あるいはユーザーとしての中枢にある金融機関,それぞれから危惧が示されているということを考えると,もう少しそこを絞り込むという形で,この問題を乗り越えることができないのだろうかと,このように思います。   ここから先は私の単なる私見ですが,これまでの判例等の,判例といっても権利の瑕疵しかないわけですが,その権利の瑕疵についての判例等の中にあるような文章をちょっと引用して,以下のようなものではどうかと思いましたので,ちょっと御指摘だけさせていただきます。   すなわち,「損傷等が存在しないものとして,物件の評価が決定され,売却が実施されたことが明らかであるにもかかわらず,実際には物件の買受人が代金を納付した時点において損傷等が存在していた場合」というような要件立てはできないものかという気がしております。これは最高裁の平成8年1月26日の敷地権の利用権が不存在だった場合の担保責任という問題についての判例の言い回しをここに当てはめさせていただいたものでございまして,明らかであるというところを要求することによって,何でもかんでもと言われてしまうのを防いだらどうかとか,それから代金を納付した時点において損傷が存在していた場合という要件を課すことによって,事後的に発生した瑕疵も,その区別がつかないがゆえに負担させられては困るというような観点からすれば,この申し立てをするほうに代金を納付した時点における損傷であることの立証を要求する,そのような要件を課すというようなことをすることによって回避できるのではないかと思いまして,私の単なる私見ですから,これがいいとも何とも思ってはいないのですが,要するに何らかの工夫をすることで,裁判所なり,金融機関なりの御懸念というものを払拭する努力ができるのではないかと,このように思っております。 ○山本(和)幹事 私も基本的には今,高須幹事の言われたような方向で何か検討できないかと考えておりまして,基本的に現在の執行実務を重くするような方向になるのであれば,それは望ましくないというのが,岡崎幹事が言われることに私も全く賛成です。執行官が現場に行って,全ての建物に本当にシロアリがいないかという,建物の床下まで潜って調べなければいけないというようなことになるということは,やはり現在執行手続にとっては耐えられないことだろうと思うので,ただ私は現在の執行官とか,相当程度調べられている,きちんと調査されているということも,他方で事実としてはあるだろうと。   それで,何らかの事情が判明すれば,恐らく現況調査報告書等にも記載をきちんとされていると,報告されているということもまた事実としてあるんだろうと思っておりまして,そういうことを前提にして,なお売却手続において考慮されなかったもの,今の高須幹事のあれからすれば,売却手続において明らかに考慮されなかったということかもしれませんけれども,そういうようなものがあって,それが重要なものというので,どの程度絞れているのかというのが,やや気掛かりというか,あれなわけですけれども,そもそも現在の評価とかにおいては,競売市場性減価という形で,通常の市場からすれば,30%とか最初から差し引いて,そもそも減価をしているところでありますので,そこである程度のことは吸収されているという前提になっているのではないかと思っていますので,そういうものを超えたような事由が後から判明したと。それが売却手続の中で分かっていたならば,それは当然評価に反映されているであろうし,評価人も評価書に記載されているべきはずのことが記載されていないということであれば,それは売却手続において考慮されていなかったと見ざるを得ないと。逆にいえば,それほどの瑕疵というか,目的物の評価に影響を及ぼすべき事由というようなものがあったと,そういう場面かなと思います。   ただ,それは非常に評価的なものなので,そこまで考慮されるのか,売却手続でよく買った物件の中で以前自殺者が出たとか,殺人事件があったとかというようなことが後から分かるということがあって,代金納付前に分かれば,基本的には売却は取り消していると思うんですけれども,それが納付後に分かったというような場合に,この規定で果たしてどうなのかというのは,非常に微妙なところがどうしても残って,そこが手続を曖昧にする部分があり,それが量的にかなりのものに上るとすれば,裁判所,金融機関の御懸念というのは分からないではないと思っておりますけれども,依然として,もう少し今のような「明らかに」というのを付けられるとか,あるいは「重要なもの」というのをもう少し絞るような工夫ということで,今の中井委員のあれで言えば,量的な部分の懸念のようなものを押さえられないかということを思っています。   それから,新井関係官の2点目の問題提起の関係では,これは三上委員が言われる部分はそのとおりだと,要するに配当受領者というか,債権者まで返還を認めるというのは,元々かなり異例なことなので,それ自体ある程度限定的に考えるべきだという御指摘はそのとおりのような感じはするんですけれども,ただ差押えの場合は割合,一般債権者の場合はあれなんですけれども,担保権者の場合は,担保に取っているので,元々担保の目的物にそういう瑕疵があったわけです。つまり本来的な価値を超えて,もし本当に重大な瑕疵があったけれども,それが看過されて,買受人が買ってしまったという場合には,元々担保権者が把握した価値を超えて売却がされている部分があることは確かなような感じがするんです。単に売却代金を受けて,そこから弁済したというよりは,もう少し直接的な関係がありそうな感じはするということが一つあります。   それから,短期の期間制限という案ですけれども,今の金融機関のあれからすると,短期というのは,競売から多分何箇月ということになるのかもしません。要するに買受人は,買い受ける時点では,自分は占用を持っていませんから,中を基本的には調べられないわけです。岡崎幹事が言われたように内覧もほとんど行われていないわけですから,中を見る機会はない。基本的に現況調査報告書とか,そこに載っている写真とかで判断するしかない状況なわけです。   ですから,買ったすぐ後に中をある程度徹底的に調べる。シロアリとか,調べて,どの程度分かるのか分かりませんけど,取りあえず直ちにそこを徹底的に調べるということにして,そこで何か重大なことが見付かった場合に限って,何箇月か分かりませんが,例外的にもう一回巻き戻してねということで,金融機関はその間,少し留保された状態になるのかもしれませんけれども,そういうようなことが不可能なのか,もちろんそれは金融機関にとって不便を掛けることは間違いないと思うんですけれども,それは耐え難いことなのかどうかという辺り,ちょっと教えていただければと思うんですけど。 ○三上委員 担保に取っていた場合の御指摘については,実際物件を落とした競落人もかわいそうですけど,価値があると思って貸した金融機関もかわいそうですよね。ですから,結局ババヌキで,誰が最後にジョーカーを引いたかという世界です。金融機関が瑕疵について悪意で貸したわけでないわけですから,結局価値がないものを高く買ってしまったその対価での返済を受けた者がどこまで悪かの問題です。これは正に不当利得をどこまで認めるかという論点に等しい議論だと私は思っていまして,担保物件は,普通は競売に掛けずに,当事者間で任意売却してもらうわけですが,そのときには,当たり前ですけど,銀行は当事者間の交渉で決まった弁済金の受領と引き換えに,担保を外すだけです。その後から物の価値に問題があったからと当事者間でもめても,基本的には銀行は関知しない。これと基本的には同じ立場だという発想です。もし短期間でうんぬんということであれば,例えば差押えの確定期間のように,1週間とか,2週間とか,競落されてから一定期間たって,競落人が点検してから,初めて配当が行われますみたいなものであれば考えられる かもしれないですが,一旦受領したもので,ほかの手続も済んでしまった後に,また一からやり直しですと言われるのではかなり影響が出てしまいます。 ○山本(和)幹事 確かに前回でも議論として出ていたように,代金納付されて,まだ配当期日に至っていない段階で瑕疵が判明した場合にはどうするかということがあって,だから現状では基本的には代金納付でも所有権移転するという形になっていて,売却許可決定の取消しというのはそこまでということだと思うんですけれども,そうなると民事執行法の問題になってくるのかもしれませんけれども,買受人が代金納付によって直ちに占用を取得できない場合もあるので,引渡命令とか,それをどう考えるのかということは一つ課題としてはあるのかもしれませんけれども,他方では,それによって配当がある程度遅延するという執行手続のほうの問題が生じ得るのかもしれないなと感じますけれども,何かそこで微妙なところなのかもしれませんけれども,あれが見いだせればなと思うんですけど。 ○中井委員 今までの御議論聞いても,一つは瑕疵の範囲の問題で限定を加えていくことによって,現実的な対応ができないか。私もここは契約の趣旨が働かない場面ですから,それに代わるものは,競売の趣旨だろうと思いますので,競売の趣旨に照らして瑕疵を判断するというのは十分合理的だろうと。そのときに執行手続も改良できるなら改良したらという考えを持っておりますけれども,今の皆さんの御意見を聞いていますと,直ちに執行手続を変えなければならないとまでは私も考えているわけではなくて,現状の手続より負担を重くしない,現状の手続の範囲内で処理するのが適当だというお考えであれば,その考え方を採用して,それを前提として,瑕疵の判断を考えていけばいい。手続が変えられるなら,手続の変える中で瑕疵の判断も変わることはあり得るのかもしれませんけれども,少なくともそこを無理に追うわけではなくて,現在の執行手続を変えないとするならば,それを前提に瑕疵の評価の考え方を議論すればいいと思います。   そういう意味で先ほど高須幹事から一つの御提案がありましたけれども,私の想定しているのは相当限定的で,そういう競売の趣旨に照らしても,買受人にとっては余りにも予想外,想定外のような瑕疵というのが存在したときに,それを放置していていいのかというと,そうではないと思うものですから,現状の競売手続を前提としても,買い手側にとって想定外というか,競売の趣旨に照らしても想定外のような瑕疵があるときには,やはり巻き戻し,若しくは代金減額請求を認めていいのではないかと考えています。   その上で,定義の問題は更に議論いただくとして,②の配当受領者との関係でいいますと,弁護士会は,事前にお伝えいただいた新井関係官の問題提起について議論した限りにおいては,配当受領者に対する返還請求を認めないという考え方には反対です。担保権者による抵当権実行に関して言うならば,山本和彦幹事がおっしゃったように,担保権者の把握している価値以上のものをもらうのは基本的にはおかしいのだろうから,返還請求があってしかるべきではないか。その横並びで一般の強制執行手続についても同じように考えている次第です。   ただ,長期間不安定な地位に置くのはよろしくないので,短期の期間制限を設けることについては賛成というのがほぼ意見としては一致しました。このときの期間制限については,執行手続の中で完了させるのは無理ではないか。それができれば,その中に取り込むことはもちろんあっていいんですけれども,最終的には引き渡しが直ちになされるとは限りませんので,引き渡しを基準にして,そこから例えば6か月とかが考えられ,その間に配当は終わっているかもしれない,そのときは配当受領者に対する返還請求もあり得る,そのような構造を想定していいのではないか。 ○坂庭関係官 3点申し上げます。   まず第1に,話が少し戻りますが,瑕疵担保を認めることは質的な変化なのか,それとも量的な変化なのかという点については,質と量の定義の問題かもしれませんが,質的な変化であろうと思います。繰り返しになりますので,簡略に述べますが,瑕疵の定型性の有無がポイントになると思います。権利の瑕疵については,ある程度類型的に,こういった点が問題になるという項目を挙げることができますけれども,物の瑕疵については,例えば建物であれば,基礎の厚さが十分であるかとか,建物が頑丈に造られているかとか,仮にチェックリストのようなものを作ったとしても,それによっては捉えきれないものが出てくるだろうと考えています。そして,それは瑕疵が主張される件数の量的な増加にもつながりますので,制度を運営する側としては困るという意見が出てくることになります。   2点目は,瑕疵の定義の問題です。これは,卵が先か,鶏が先かというような議論になってしまいますが,現在の民事執行実務は,瑕疵担保責任が認められないことを前提に組み立てられているところがございますので,通常の売買と比べれば,売却手続において物件の損傷がそれほどは考慮されていないという面があるだろうと思います。民事執行規則に定めのある現況調査報告書の記載事項を見ましても,物の性状は,必要的記載事項になっておりません。そこで,もし仮に,現況調査報告書に記載されていなければ,売却手続において考慮されていなかった損傷に当たるということになりますと,非常に多くのものが瑕疵の概念に入ってくることになるのではないかという危惧を感じます。このような事態を避けようとしますと,現況調査の在り方を根本から変えることになり,手続が長くなることになりますし,そうではなく,瑕疵の主張が頻発してもやむを得ないと考えるとしますと,手続の安定を欠くことになってしまいます。また,先ほど御紹介がありました競売減価は,性状に難がある可能性だけを考慮して行われているのではなく,引渡しについて協力が得られないといったことも考慮して行われているものでありますが,議論を単純にするために,性状に難がある可能性だけを考慮して減価が行われていると仮定しますと,通常は3割程度減価しておりますが,これは飽くまで期待値ですので,場合によっては,3割の減価では足りないようなひどいものをつかまされることもあれば,反対に,減価する必要がないような性状の良いものであったという場合もあり得るわけです。仮に競売減価をするという現在の運用を是認するとした場合ですけれども,期待値からどれくらい外れたものを瑕疵と呼ぶべきかという議論が必要になるのではないかと思います。   その関係で,高須先生が言及された平成8年の判決ですが,対象物件が建物の場合,敷地が他人のものであるときには,敷地権の有無が現況調査報告書の記載事項になっていますが,平成8年の判決の事案は,その記載内容に誤りがあった,本当は敷地権がないのに現況調査報告書には敷地権があると書いてあったというものです。現況調査報告書が物件の不具合等をどの程度開示しているか,あるいはしていないかについては,平成8年の判決の事案のように,第1に,事実とは異なる積極的な記載がある類型,第2に,反対に不具合が存在することを明示する類型,第3に,不具合が存在する可能性を指摘する類型,第4に,その点について全く言及がない類型の四つに大ざっぱに分けることができると思いますが,このうちどの類型が瑕疵に当たるかを議論する必要があると思います。第1の類型が瑕疵に該当すると判断されるのはやむを得ないかもしれませんが,第4の類型が全て瑕疵になるのだとしますと広過ぎるのではないかと感じます。   最後,3点目,これはコメントというのか,質問といいますか,中途半端なものになりますが,代金納付後,配当実施前に瑕疵担保が主張された場合にどういう枠組みで処理していくかについてどのようにお考えになるのか,この点についての認識が一致しないまま議論が進むのは危ないなという印象を持っておりますので,その辺りについても御議論いただければと考えています。 ○山野目幹事 今,坂庭関係官が3点おっしゃったことについてコメントさせていただきます。   最初の1点目と2点目は,相互に関連し合っていたと聞きましたし,おっしゃったことは理解することができました。御指摘いただいたことを踏まえて,私なりに感じていることを参考までに御案内申し上げておきたいことがありますから,申し述べるといたしますと,3点セットの一つである評価書を作成することになるのは通常は不動産鑑定士であると思われますが,不動産鑑定士の仕事のアングルからこの問題を眺めてみますと,普通不動産鑑定士は,いわゆる不動産調査と言われている職能上獲得された定着している方法で不動産の評価判定をする前提としての調査を行うものでありまして,それは競売不動産であると一般の不動産であるとを問わず,本質的に同じ方法が用いられていると思います。その際に登記簿を調べる,都市計画図書を調べる,構造を調べる,現地に行ってみるというような不動産調査で,通常要請されている手法を採って調査をしますし,その調査の限度で分かる事柄を評価書に記載して,評価に反映させているものであると理解しています。   ところが,不動産鑑定評価基準によれば証券化対象不動産の場合に,より厳密な評価をしないと,証券化の実施に影響するものですから,問題となる不動産の土木的,建築的,その他技術的な細目事項をきちんと調査して明らかにしなければならないことが要請されていまして,これはなかなか不動産鑑定士の通常の不動産調査の手法を使っただけでは明らかになりません。これについては,不動産鑑定評価の実務上,エンジニアリング・レポートというものの助けを得ることとして,土木的,建築的,技術的な評価を担う機関に特別の調査検討を依頼して,そこで得られたレポートを評価に反映させるという手法を採っています。   物の瑕疵という言葉から通常受けるイメージですと,おおむねここの土木的,建築的,技術的な事項に重なってくるという印象を与えるものでありまして,概念をよくコントロールしないと,裁判所に対して証券化対象不動産について課しているのと同じようなエンジニアリング・レポートを全件について作れというようなことを要求するのですかというふうな印象を与えかねないものであろうと思います。もちろんそのようなことを言っている人は,このテーブルにいないわけですし,それは競売実務上,耐え難いことであると思うのですが,そういうことまで要求するのではなく,しかし何らかの物の瑕疵を考慮するということが可能ですか,というところが,概念の絞り方の問題として工夫が要請されているのではないかと感じます。   坂庭関係官は,権利の瑕疵は定型性があって,こちらはないとおっしゃったのですし,そういう言い方でも構わないのですが,別な言い方で言うと,物の瑕疵のかなりのものは専門性があって,また表現されていないという意味において非表現性があるという点において深刻であると感じます。裏返していうと,専門性や非表現性がそれほど深刻でないようなものに限定するのであれば,概念を上手にコントロールして,競売においても考慮するということに道が開かれるのかもしれませんし,その辺りは裁判所の実情をおっしゃっていただきながら,また規律としてどういうふうな概念の限定ができるかということについて,事務当局のほうでも引き続き悩んでいただく必要があるのかもしれません。   坂庭関係官のおっしゃった3点目のことですが,これは部会でも村上委員が御指摘になったことと関連すると思いますけれども,競売の場面についての現行でいうと568条ですし,これから570条ただし書の改正に当たって考慮されている,ここで扱っている問題は,民法の規律ですと,売買契約の解除であるとか,代金減額請求であるとか,私人間の売買取引を前提にした用語概念で物事が表現されていて,他方,民事執行法制上は売却許可決定の取消しであるとか,配当であるとか,向こうのタームで組織付けられていて,一応別々の原理で動いていくべきものですし,動いていくことは可能であると思いますが,やはり最終的に制度の安定的な運用を図る上では,民法のほうの規律の見直しに対応して,民事執行法や民事執行規則など,民事執行に関する法令の中でも,この実体法の規律変更や見直しを受けた安定的な細目的な規律が整備されていかなければいけない。村上委員もそうおっしゃったし,坂庭関係官がそれに関連することを御示唆になったのではないかと聞きました。 ○筒井幹事 ただいまの山野目幹事の御発言がどこまでを含意しているのか確認したいという趣旨で発言しますが,物の瑕疵があった場合にも解除が認められるとする場合に,その解除というのは,専ら執行手続外の事象を扱っているのだろうと思います。ですから,基本的には,先ほどの坂庭関係官が御発言になった第3のことについては,今回の改正での直接の検討事項ではないと私は思っておりました。   もし執行手続が関係し得るとすれば,それは,先ほど坂庭関係官は量が増えてくると質的にも変わるという表現をされたので,その表現を借りますと,量が絞り込めるのであれば,物の瑕疵をも対象に含めることに伴う問題がクリアされていくのかどうか,実務的に運用可能なものになるのかどうかという観点であろうと思います。ですから,量が少なくなる方向をできる限り指向しようということが,暗黙の前提とされてきたのではないかと思います。量を減らしていくために,何か執行手続上の工夫も併せてする必要があるかどうか,そういう議論であれば,これは今回の部会の直接のテーマではないにしても,視野に入れていく必要がある事項なのかなと思います。 ○山野目幹事 今,筒井幹事がおっしゃられたことはごもっともでありまして,三つのことを申し上げますが,一つ目は,今,筒井幹事がおっしゃったような仕方での民事執行制度の機能の面での円滑を図ることと,こちらの民法の規律の見直しがハーモニーを作ることで,論理的には直結する関係にならないけれども,ここで議論していることについてのより良い見通しが得られるのではないかということがあると思います。   二つ目ですけれども,民事執行に係る売却手続が完全に終わった後が,筒井幹事がおっしゃったとおり解除の問題であり,代金減額請求の問題であり,終わる前は民事執行手続の問題ですけれども,先ほど坂庭関係官も少し話題にされたかと思うのですが,配当がされる前に瑕疵が明らかになった場合どうしますかということを考えると,この二つは論理的には切り分けられて,別の世界であって,ここで審議すべき事項とそうでない事項がはっきり分かれていますけれど,隣接し合った事象であることは確かであると感じますから,関連させて観察しておくことが必要なのではないか,これが2点目です。   3点目ですが,少し議論が外れますけども,3のイのところも少し私は気になっておりまして,3のイの提案というのは,部会では評判が悪かったですけれども,取り分けここで言っている債権者が瑕疵の存在を知りながら競売を申し立てたとき,申し立てざるを得ないではないか,というところは,私はそのとおりと思いましたが,ここに出てくる前のほうの債務者が瑕疵の存在を知りながら申し出なかったときという,この事象は何か考え込まなければいけない要素があるであろうと私は感じますとともに,しかしこのことを考えるとすると,債務者はどの時点で誰に対してこの申出をすべきかといったようなことについて,それを受け止める規律の整備もされていなければいけないはずでありまして,そういったことも併せて検討する必要があるであろうかというようなことが気になっておりました。 ○沖野幹事 思い付きでしかないのですが,これが最後の機会かと思うので,念のためこういうことはどうだろうかというのを教えていただきたいと思います。それは,あるいは山野目幹事がおっしゃった最後の点にも関連してくるのかという気もするんですけれども,現行法の568条にしろ,甲案にしろ,基本的には,救済といいますか,内容は代金減額と契約解除ということになっており,それに加えて損害賠償というのをもう一つ手法として取れないかというのがイのところで提案されていることだと思います。   そして,山野目幹事の御指摘は,対債権者と債務者とを分けて,債務者に対してはもう一段の救済方法ということも考えられるのではないか。また,イの点を除きましても,今回の新井関係官の問題提起の2点目で,かつ配当受領者に対する返還請求権は認めないという立場を採るならば,対債務者と債権者とでは区別していくという考え方だと思うんですけれども,そのときに減額請求と解除による完全巻き戻しとで分けることが更に考えられるのかということです。つまり債権者としては,どちらがばば抜きでばばを持つかという話だと言われましたけれども,それでも本来それだけの価値はなかったものから配当を受けているのだとすると,本来の価格でしか取れないはずだとすると,減額に対応する部分だけは持ってもらって,しかし全面的な巻き戻しということまで負担するのはどうかという考え方に立つならば,配当受領者に対しては,飽くまで価格に対応していない部分だけに限ると。   しかし,債務者との関係では,全面的な巻き戻しというようなこともできるということがあり得るのか。実体的には,しかし債務者との関係では解除しながら,取り戻しの範囲は両者で違ってくるというのが嫌らしいと言えば嫌らしいんですけれども,そのようなことが考えられるのかどうか。それは実体的にもおよそ無理だということであれば,それで終わりなんですけれども,どうでしょうかという趣旨です。 ○中田分科会長 ただいまの御発言は,御質問であると同時に御意見としても承ります。 ○三上委員 前の議論の蒸し返しになるかもしれませんが,競売の場面なので,競売の目的,趣旨に沿った解釈がなされるべき,それを前提に瑕疵の有無も判断すべきというような意見がありましたけど,具体例を出せば切りがないんですけど,先ほど一つの例で,そこで自殺者がでたとかという話も,別にその土地を極端な場合,お墓にするというのであれば,関係ないかもしれないわけです。しかし,結婚式場にしようと思って買った人に関しては大問題であると。例えばガレージとして使う分には問題ないけども,掘り返して地下まである建物を作るには問題があったみたいに,関知し得ない落札者の目的や都合に合わせた情報までは評価書等には載ってこないし,そういったものをどう判断するのかを文字で書けるのか。土地の売買であれば,およそ土地として利用できる限りは,目的を達しているのだから,どんな目的で買ったかというのまでは関知しないということが,うまく文字で表現できるのだろうかという疑念が消えないわけです。   それから,先ほど,代金納付後に瑕疵が発覚したとしても,手続内では無理で,配当してから例えば6か月という話が出ましたけど,例え6か月であっても,その間にほかの競売で後順位に配当されてしまったとか,あるいは手形貸付の手形を返却して処分されてしまったとか,残債権を残った保証・担保もろともバルクセールで売ってしまって,手元に残っていないとか,そういう場合に誰に対して請求するかという問題は変わらない。そういうものは競売に掛けた者が負担すべきなのか。また,たとえそういう損害があるのだったら,それを差し引いた残りを返済すればいいという法制にしましょうということになったとしても,手形が残っていたらどう取れた,6か月前に保証人に請求していれば取れたかもしれない,それがどうなったみたいなものは,立証は非常に難しいですし,本来,何の過失もない配当受領者の側で立証責任を負うべき問題なのだろうかとも思います。  当然これに関しては,現行法下でも権利の瑕疵の問題で同じ問題があるのではないかという指摘はあると思います。しかし,何十年に一度しか遭遇しない問題と違って,年に1回は遭遇しそうな問題だと,決して見逃せない損害になって出きます。よって,配当受領者から取り返すには,不当利得的に取り返すことが正義にかなうような相当の強度の公平な配分の実現の要請みたいなものがないと受け入れられないのではないかと考える次第でございます。 ○山本(敬)幹事 今の御意見と少し重なるのですが,これ以外の通常の売買契約で瑕疵担保を論じるときには,部会でも何度も議論しましたように,考え方としては,契約を基準にして考えるべきであるということが強調されてきました。これによりますと,瑕疵があるかどうかは,当該の契約を基準として判断されることになりますので,一律には決まりませんけども,それぞれの契約ごとに判断するということで,基準としては立てられるということだと思います。  これに対して,競売に関しては,三上委員がおっしゃるとおりでして,何のためにどのような趣旨で契約するかという趣旨に当たるもの,つまり契約内容になる趣旨が,競売の場合では出てこないということに恐らくなるのだろうと思います。   その意味では,ここで瑕疵を語るとするならば,かなり定型的なものにならざるを得なくなるだろうと思いますし,そして一番最初に新井関係官にお聞きしたのも,実はこういうことなのですが,支払った対価から逆算するしかない。それも定型的であり,かつ細かい差ではなく,かなり重大な価格差を生んでいるような場合しか捉えられないのではないかと思います。その意味で,通常言われている新しい契約責任説をベースにした瑕疵担保責任の制度とは,かなり異質な制度にならざるを得ないのではないかと思います。   そうしますと,高須幹事が御提案された瑕疵の定義では「明らかに」ということで,一定のかなり明白で著しいものに限定しようとされていますが,規定を設けるとすれば,そうならざるを得ないのではないかと思います。更に言いますと,明らかであり,かつ,限定になっているかどうか分かりませんけども,重大なというのに当たるものを要件とせざるを得ないのではないかと思います。その意味では,効果として,減額というよりは,解除に当たるものになってくるのかもしれませんが,少なくとも,減額で通常イメージしているような1割減,2割減に当たるものが本当にカバーできるかどうかは,実際に詰めてみると,難しいかもしれないと思います。   ただ,逆に,この制度の導入に反対される方々に対しては,瑕疵が重大であって,契約をした目的はおよそ達成できない場合にまで,なお代金全額を納付した以上,返ってこない,それで仕方がないという扱いで,本当に公正な取引と言えるのかという疑問がやはり残ります。限定された形であれ,何らかの救済手段を整備することは,方向としては必要ではないかと思います。ただ,何度も言いますように,本来の契約法でいう瑕疵担保制度とは,趣旨が共通する部分もあるけれども,異なる部分がどうしても入ってくるということを踏まえて考える必要があると思います。 ○中田分科会長 ありがとうございます。確認ですけれども,二つ目の論点,配当受領者に対する返還請求権について,もし御見解がありましたら併せてお願いします。 ○山本(敬)幹事 これについては,既に何度も,返還請求をおよそ排除するのはおかしいのではないかという御意見が出ていましたが,私もそれに賛成です。 ○中田分科会長 期間制限については。 ○山本(敬)幹事 期間制限については,先ほどのように趣旨が異なるという観点から,どの程度の期間制限が望ましいかということを,更に実務的に機能するかどうかということも踏まえて考える必要があると思います。ただ,いずれにしても,通常の売買契約で言われている短期の期間制限とは異なる趣旨のものとして導入する必要がありますし,そうならざるを得ないのではないかと思います。 ○沖野幹事 度々すみません。配当受領者の地位の安定に配慮するという点ですけれども,三上委員が騙取金の場合と同じような悪意と何回か言われました。そのような御指摘を勘案しますと,そういうことがなくても,最低限のような部分と,イのほうの競売を申し立てたということが適切かはともかく,しかし瑕疵は知っていたというのであれば,問題が顕在化したときに返還を確保すべきだと言えないでしょうか。そうしますと,主観的要件を掛けるとか,あるいは逆に知らずに,しかも不利益変更をしている,例えば既にそれで担保を解放しているというようなときには係っていけない,というような組合せということも考えられないだろうかと思います,どんどん規律が複雑になっていきますけれども。 ○三上委員 知っていたとか,知らなかったという場合も,例えばここで自殺者があったということを知っていたとしても,競落する人間が何を目的にその土地を買うか知らないわけです。競落者から後になってここでマンションを作る予定だったのに,死亡者がいることを知って言ってくれていれば買わなかったと言われても,そこまで言う義務があったのかという話で,さらにうわさにすぎないものだったら,こういううわさがありますとまで言う義務があるのかと言い出したら,切りがないです。また,例えば支店の担当者がたまたま誰かから聞いただけの話が銀行として知っていたことになるのかとか,立証問題もあると思います。   もちろん,例えば土地に,全面的に強度な汚染が発見されて,およそ人の立ち入りも禁止されるような場所だったとか,例えば地下に放射能の強いウランが埋まっていて,身体に影響を及ぼすような土地だったということになったら,それはさすがに何らかの配慮があってしかるべきだと思いますが,正にそういう強度な価値の毀損の場合以外,およそ土地として使えるものであれば,そこに実は死んだといううわさがあるよとか,昔ここで何とか工場があったから,どんな化学製品があるか分からないよとか,そんなことまでいちいち知らせる義務があるという趣旨が,もし言わなかったら後で返還請求の対象になるかもしれないという程度であっても,非常に申立人の地位を不安定にするといいますか,競売終了後にトラブルを呼び込む契機になるのではないかと危惧します。 ○沖野幹事 そうなんですけれども,今の御指摘の点は,そもそも瑕疵をどのようなものとして捉えるかという問題と,それから悪意というのは,どういうところを捉えていくのかという問題にかなり還元されるのではないかと思います。 ○坂庭関係官 沖野幹事と三上委員がおっしゃった点に関して発言します。例えば,競売の対象物件である土地について土壌汚染があり,それが,地元の人であれば誰もが知っているような話であって,仮に債権者も地元の人間であって,あるいは地元に支店があって知っていたというときに,これは有名な話だから,評価書,現況調査報告書にも当然記載されるだろうと思って,債権者が何もせずにいたら,執行官や評価人が土壌汚染を見落として,評価書にも現況調査報告書にも書かず,債権者は評価書の内容も現況調査報告書の内容も確認しなかったという場合を例に取りますと,債権者は瑕疵を知っていたことになるのでしょうか,それとも知らなかったことになるのでしょうか。債権者に3点セットの内容の確認を求めて,この辺が足りないですよという指摘をさせるべきかどうかということと関係するのではないかと思いますが,私自身の考えはまだまとまっておりません。 ○新井関係官 今の点ですが,瑕疵というのを,結局競売の手続の経過を踏まえて言わば回顧的に判断するということをこの部会資料などで示唆していることとの関係で,競売手続が進まないと問題となる損傷等が瑕疵に当たるかどうか分からないからという問題が出てくるのかなと思います。坂庭関係官の御指摘はそういう御趣旨を含んでいるものと理解しました。   そうすると,債権者が瑕疵を知っていた場合というのを要件とした規定を仮に作る場合には,「当該損傷等が瑕疵に当たり得ることを認識しながら」とか,そんな要件になってくるのかもしれませんが,確かにそこはどう条文化,要件化していくかを検討する際にクリアしなければいけない問題なのであろうと思います。 ○高須幹事 今の坂庭関係官の御質問の場合,あるいは解釈次第だと思いますけど,その場合には,先ほどのように瑕疵の定義を何らかの形で絞るという考えを採った場合には,評価書や物件明細書等に何ら記載がなかったという以上は,それは問題とすべき瑕疵があったとは言わないというところで切ってしまう場合もあり得る。例えば先ほど私が出したような言い方だと明らかにはなっていないということで,切ることも可能なのではないかと思いました。 ○岡崎幹事 今,高須幹事がおっしゃったことですけれども,例えば評価書に損傷があるともないとも書いていなければ,損傷等が存在しないものとして売却が実施されたことが明らかであるとはいえないと考えるということでよいのでしょうか。 ○高須幹事 そこはもう少し検討はもちろんしなければならないと思うのですが,ただ私はそれほど明らかになるという要件を緩めるべきではないと思っていますから,物件の評価決定に当たって,損傷等が存在しないものとして明らかになっている場合というのは,やはり裁判所の資料の中に出ている場合が原則ではないか。まだちょっと詰め切れていない面はありますけれども,それ以外の場合でも明らかになっている場合があると言うと,大分執行実務も確かに厳しくすると思いますが,限定的に解釈すべきだと思っています。 ○岡崎幹事 物の瑕疵が問題になる事例の多くは,評価人や執行官が見ても,よく分からなかったけれども,蓋を開けてみたら,非常に重大な問題があったという場合だと思います。それでも,現況調査報告書や評価書に書かれていなければ不問に付すということでコンセンサスが得られるのかどうかについては,関心を持っています。 ○高須幹事 御指摘のとおりだと思いますし,この趣旨をいかそうとすれば,そう簡単なものではありませんよと。ただ,先日の部会,今日の分科会で伺っているように,余りそこを広く解釈すると,現在の執行実務に非常に大きな影響を与えますよと,繰り返しの指摘を受けていると思っております。本当にそこは十分に注意しなければならないと思っているものですから,私はそこは慎重であるべきだろうと。おっしゃるとおり,それはそう簡単にはいかないのではないですかということはあるのかもしれないけれども,私個人としては,明らかという要件はかなり厳格に解すべきだと思っております。 ○岡崎幹事 仮に評価書に書いてあれば,誰も買わないのではないかと思います。先ほどから議論されている定型的で重大な瑕疵が評価書に書いてあるときに,後に瑕疵担保責任が問題になる場面があるのでしょうか。書いてあるのだったら,そもそも瑕疵に当たらないということになると思います。 ○高須幹事 問題は,瑕疵があると書かれている場合というのではなくて,瑕疵が存在しないものと書かれている場合,それはそれほど多くの場合でもちろんないと思いますが,それからあとは文書を読めるかどうかという解釈の問題もありますけれども,この評価書だけ見れば,そういうものは存在してないと思いますよと,こういうときで存在していた場合について認められる余地があるのではないかということです。岡崎幹事がおっしゃるように,もし瑕疵があると書いてあれば,それはむしろオープンになっているわけだから,そのこと自体は当然の前提になるわけですから,むしろ損傷等が存在しないものと文書からうかがわせる場合,それが問題ではないかと思っている次第でございます。 ○山本(敬)幹事 今のやり取りを聞いていて思ったのですけれども,二つの場合があるように思います。そして,その二つの場合を区別すべきかどうかということ自体が問題だと思います。  一つは,明細書等にこれこれの性質が備わっているということが明示的に書かれているけれども,実際に調べてみると,そのような性質は備わっていないという場合,つまり積極的な不実表示型の瑕疵の場合です。もう一つは,明細書等には何も述べられていないけれども,実際にはこのような不都合な事実があったというタイプの不告知型の瑕疵の場合です。  この二つの場合は,通常の契約の瑕疵担保では,恐らく区別する必要はないと思います。ただ,このような特別の制度を作る場合に,全く同じでよいかどうかは,少し検討する必要があるのかもしれないということを今のやり取りを聞いていて思いました。特に積極的にこれだけの性質を備えていることが書いてあったのに,実は全くそうではなかったという場合が,本当にそのままでいいのかという点は,かなり深刻な問題かもしれません。   そして,数量の問題,新井関係官の3点目の問題提起ですか,数量不足等の場合も,瑕疵に含めて通常の場合は契約では統一的に規定するとした場合に,より一層出てくる問題かもしれまれせん。 ○三上委員 大変に嫌らしい言い方になりますが,もし不実表示型が問題となる場合には,それは国家賠償の問題になるんですかという問題が一つ出てきます。   それから,ボイラープレートみたいに,執行官の調査では,これは見ていません,この部分はやっていません,これもやっていませんと,ディスクレーマーをずらっと並べてあったら,それの評価はどうなるんだろうかという論点もあり得ると思います。 ○山野目幹事 競売の際の瑕疵の概念を懸命に限定していかなければいけないという問題意識は,今日の議論でかなり共有されたのではないかと感じますとともに,少し私が,今の岡崎幹事の御発言を聞きながら心配になってきたのは,「明らかに」とか,「重大な」という単語を使いながら限定していこうとするのですが,明らかに何なのかと文章にしてみないと分からないところがあって,「明らかに」という言葉がどちらに働くか,私が分からないだけなのかもしれませんが,だんだん分からなくなってきていまして,山本敬三幹事がおっしゃった類型の整理が一つのヒントであると思いますけども,今日の議論で方向性で共有されたところは,恐らく間違っていないと思いますから,次の段階は,何かそれを文章化しながら,それをまた詰めて議論していかなければいけない,ということでしょうか。次の機会にやってくるかどうか分かりませんが,そのようなイメージで勉強を続けなければいけないだろうということを感じました。 ○中井委員 先ほどからの高須幹事の御提案の中身について,記録を取っていなかったから,よく分からないんですけれども,違う観点といいますか,ざくっとした意見なんですけれども,競売手続においては,物件明細書に書いている,書いていないにかかわらず,一定対象物には隠れた瑕疵であろうが,表記されていない瑕疵がある,それはもうのみ込んで買っているのが実務だと思うんです。だから,そこをひっくり返すのはよくないと思っています。   一定のおかしなところが,それなりに幅のある,これは相当大きな幅のあるところで,のみ込んで買っているけれども,それであっても,買い手にとっては,よもやこの手続の中でそんな瑕疵があるとは思わなかった,そういう想定外の,競売手続においての通常の流れからいっても想定できないような瑕疵があったときに,その瑕疵を残すことは公平ではないだろう,その部分について,解除に相当するようなものでなければ,想定外ではないのかもしれませんけれども,そういうときに巻き戻しなり,代金減額が認められる。概念としては,そのぐらいの絞り込みのイメージを持っているものですから,念のため。 ○山本(和)幹事 私も今の中井委員の御発言に基本的には賛成。先ほども申し上げましたけど,瑕疵が評価に影響を及ぼすべき度合いというのは非常に重大なもので,それが定型的なものなのかもしれませんけれども,そういうようなものであれば,それが分かっていれば,評価の過程に反映されないはずがないというような類いのものが,評価書を見ても,物件明細書を見ても,現況調査報告書を見ても,どこにも記載されていないし,それが反映されていることが見えないということであれば,それは売却手続において,明らかに考慮されなかったという判断になっていくのだろうと思いますので,私はやはりポイントはそこにあるのかなと思っています。そのような場合には,その結果は修正されてしかるべきなのではないかということです。 ○岡崎幹事 今の山本和彦幹事の御意見を前提にしますと,瑕疵の範囲がかなり広くなることが懸念されます。先ほども少し話に出ていましたけれども,競売市場に参入してこられる買受希望者は,元々,売却基準価格が少し低め,例えば市価の7掛けぐらいに定められていて,それを前提に買い受けをします。ですから,市価と比べてかなり安い値段で買うことができます。それが例えば3割減で入札できたとして,瑕疵担保責任を適用することになりますと,たまたま3割を超える減価を生ずるような瑕疵が後で見付かったら,競売を全部ひっくり返せる,又は減価分の代金を返してもらえるということになりそうです。他方,全然瑕疵がなければ,3割安いまま購入できることになります。しかし,基本的には何の問題もない物件が多いとは思いますけれども,一旦そういう市場に参入した以上,ある程度の危険も負うということは,決して公平感に反するものではないと思います。   冒頭,分科会長から両説の根拠にわたるような議論は今日は差し控えたほうがよいという御発言がありましたのに,そこにわたってしまったかもしれませんが,そもそも,というところがあることを今の御議論を伺っていて感じました。 ○中田分科会長 それほど強く制限するつもりはございませんので,どうぞおっしゃっていただければと思います。  大体議論が出てきたような感じがいたします。新井関係官の問題提起の第1点にある瑕疵の定義については,これは幾ら詰めたとしても,言葉で表現するのはやはり難しいのではないかという御意見も有力にありますけれども,他方で,できるだけ詰められるところまで詰めてみよういう意見がむしろ多かったのではないかと思います。ただ,それにしても,現在の競売手続に,より重い負担を掛けないようにするということを前提とすべきであるという意見もまた強かったかと思います。第1点については,今日の議論を踏まえて,具体的な文章にしてみないと分からないという御意見もありましたので,具体的な定義を更に詰めていって,それを無理だというお立場の方にも更に御検討いただけるようなものを作ってみるという方向になるかと思います。   2点目の問題提起につきましては,配当受領者に対する返還請求権を認めないかどうかについては,両説あったと思います。期間制限については,仮にこのような規定を設けるとすれば,それはそれでいいだろうということですけれども,しかし期間制限の内容について,民事執行法の中で設けるのか,民法のほうで設けるのか,それから具体的なイメージとして,一,二週間程度なのか,6か月程度なのかについて,相当認識の違いがあるかと思いますので,これも更に具体的に詰めていくということかと思います。   3点目の問題提起については,本日はそれほど御意見は出なかったわけですけれども,数量不足,一部滅失については,物の瑕疵として整理するということを前提として,なお現在の規律でいいのか,それとも変えるべきなのかということは,依然として残っていると思います。また,法律上の制限については,仮に現在の規律のままにするとすれば,このままでいいのか,あるいは規律を改めるとすると,問題はなくなるわけですけれども,どうするかということが残されているかと思います。   さらに,部会資料の3のイのうち,債務者の認識をどのように考慮するのかということについての御意見があったかと思います。   以上の御審議の結果を踏まえて,更に事務当局のほうで御検討していただければと思います。   ほかにこの点について,更にございますでしょうか。ございませんようでしたら,時間も来ておりますので,本日はこの程度にいたしまして,積み残した議事は,次回に引き続き御審議いただくということで,本日はこの程度にさせていただきます。   事務当局から連絡事項がありましたらお願いいたします。 ○筒井幹事 この分科会の次回会議は,10月9日火曜日,午後1時から午後6時までです。場所は未定ですので,また改めて開催通知等で御確認いただきたいと思います。 ○中田分科会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   本日も熱心な御議論を賜りましてありがとうございました。 -了-