法制審議会 民法(債権関係)部会           第56回会議 議事録 第1 日 時  平成24年9月11日(火) 自 午後1時00分                       至 午後6時13分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第56回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日は,予備日として予定していただいた会議ですので,新たな部会資料の配布はございません。配布済みの部会資料45と46に基づいて議論をお願いいたします。これらの資料の内容は,後ほど関係官の金と笹井から順次,御説明いたします。   そして,部会の会議日程に関するメモを机上に配布させていただきました。これまでに既に,部会に関しては10月16日の予備日まで,分科会に関しては10月9日の第1分科会まで,会議日程を御案内していたところですけれども,本日,それ以降の会議日程について御案内を差し上げますので,日程の確保をお願いいたします。正式には,会議事務を担当する司法法制部からの開催通知にて御確認をお願いいたします。   今後の会議日程に関して,若干の補足説明をいたします。まず,分科会関係ですが,10月30日に第2分科会第6回会議,11月20日に第3分科会第6回会議を開催し,第2ステージにおける分科会の開催はここまでにしたいと考えております。その後は中間試案の取りまとめまで,部会で審議を進めることにしたいと思います。   部会における中間試案の取りまとめは,12月から来年2月にかけての6回の正規の会議のほか,この期間に含まれている3回の予備日を使って進めていきたいと考えております。具体的な審議の進め方については,おいおい御説明し,御相談させていただきたいと考えておりますけれども,現在の腹案としては,12月4日開催の会議から来年1月22日開催の会議にかけて,事務当局による中間試案のたたき台を4分割で順次,御提示することを考えております。そして,中間試案のたたき台の改訂版を来年2月開催の会議で更に御提示しながら,取りまとめを目指すという審議の進め方をしたいと考えております。   第2ステージにおける各論点の1巡目の審議を終えた後,中間試案のたたき台の審議に入るまでの若干の会議では,一部の重要な論点,補充的な議論が必要であると考えられる論点をピックアップして,それについて更に議論していただくことを考えております。ここで取り上げる具体的なテーマについては,また追って御案内を差し上げようと思います。   本日お示しした日程案は,来年2月までの日程に限ったものでございます。3月以降については,また改めて御相談することにしたいと思いますので,来年3月以降,4月以降の次年度も含めまして,引き続き定例の火曜日の日程確保に御協力をお願いいたします。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料45,46について御審議いただく予定です。具体的には休憩前までに部会資料46のうち,「第1 請負」「4 瑕疵担保責任」の「(4)報酬減額請求権の要否」までについて御審議いただき,午後3時35分頃を目途に適宜,休憩を入れることを予定いたしております。休憩後に部会資料46の残りの部分について御審議いただく予定です。   それでは,まず,部会資料45の「第2 使用貸借」のうち,「1 要物性の見直し」から「3 使用貸借の貸主の担保責任」までについて御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明いたします。   「第2 使用貸借」の「1 要物性の見直し」の第1パラグラフでは,使用貸借を諾成契約として規定することを提案しています。また,第2パラグラフでは,使用貸借を諾成契約として規定することを前提として,使用貸借は,書面によるものを除き,貸主が目的物を引き渡すまでは各当事者が解除することができる旨の規定を設けることを提案しています。また,補足説明では,本文の第2パラグラフの別案として,書面による使用貸借は,目的物の引渡しを要しないで成立するものとし,他方,書面によらない使用貸借は,目的物の引渡しがされたときに成立するものとするという考え方を取り上げています。   「2 使用貸借の借主と第三者との関係」では,使用貸借の対抗要件に関する規定を設けないことを提案しています。   「3 使用貸借の貸主の担保責任」の第1パラグラフでは,使用貸借の貸主の担保責任について,部会資料44の第1の4で取り上げました贈与者の担保責任に関する規定の見直しの結果に従うことを提案しています。また,第2パラグラフでは,負担付使用貸借の貸主の担保責任についても,部会資料44の第1の5で取り上げました負担付贈与の贈与者の担保責任に関する規定の見直しの結果に従うことを提案しています。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分のうち,まず,「1 要物性の見直し」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○佐成委員 経済界の中で使用貸借に関して,それほど十分な議論がなされているわけではございませんけれども,使われる頻度から言えば,ビジネスの中でも使用貸借というのは大変多く使われております。もちろんビジネスでは,口頭でというよりも,書面でやるものが圧倒的に多いということが言えますが,いろいろな場面で非常に重要な機能を果たしているということでございます。それで,要物性を見直して諾成契約化したからといって,実務が直ちに大きく変動するといった認識はございませんけれども,分かりやすさの点とか,あるいは書面によるものが拘束力を持つという点については,非常に取引の安定性を高めるだろうといった受け止めでございますので,この方向性を支持したいと思います。   ただ,書面に関しましては贈与のところでも出てまいりましたけれども,書面の意義についてかなり厳格化して,契約書に準じた形にする方向性も示唆されていたように記憶しておりますが,使用貸借についてそういった厳格化をされますと,実務に対する影響が出てくる可能性がありますので,そこは十分御配慮いただきたいということでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 私も要物性の見直しについては賛成です。第1パラグラフに賛成です。第2パラグラフも方向としてはこれでよろしいかと思うんですが,ただ,中間論点整理の段階では,45ページの上の囲みの中にありますように,使用貸借を諾成契約とした上で,両当事者は書面による合意をもって排除しない限り,引渡しまでは解除できる,とすることが検討課題になっておりました。実質的に考えてもこちらのほうがよいのではないかと思います。   今回の案は贈与にそろえるということで,前の案よりも解除できない場合が広がっているわけですけれども,贈与と使用貸借とでは違いがあると思います。贈与は既に諾成契約だけれども,使用貸借は現在,要物契約であることですとか,贈与に比べて使用貸借は非常に多様であることなどの違いがありますので,使用貸借では引渡し前に解除できる余地がもう少し広いほうがよいのではないかなと思っております。  ただ,もちろん,今回の御提案のような考え方もあると思いますので,例えば中間試案では二つの案があるということを示して,実際,社会においてどちらが便利なのかというようなことの御意見を伺うのがよいのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 この点に関して。 ○中井委員 弁護士会の意見は分かれておりまして,なお,要物性を維持するべきであるという意見も少なからずありますし,他方,先ほど佐成委員からご指摘がありましたけれども,ビジネスで使われる場面も多くて,諾成化の必要性を積極的に認める意見もあります。そういう分かれた状況ですが,消費貸借をめぐっても要物性を見直す,また,使用貸借でも要物性を見直す,こういう具体的提案を拝見して,改めてこの契約の成立要件について一定の整理を考えてはどうかと思います。これは大阪弁護士会で案として検討しているものですが,中間試案を間もなく作るという段階に,このような選択肢を増やすお話をすることが適切なのかとは思いますが,なお,検討していただければと思っております。   使用貸借については別案として,書面によるものと書面によらないものを分けて,書面によるものは諾成,書面によらないものは要物という研究会試案の提案があります。要物契約を諾成契約という形で契約の成立要件を緩和するとしても,どこまで,どのような形で緩和するかは,幾つかの選択肢があり得るのだろうと思います。   大阪弁護士会の意見としては,書面による契約という形で要式行為とする案,ただし,書面によらない場合でも目的物を引き渡せば,その時点で使用貸借は成立する,こういう考え方はどうか。したがって,書面によらない場合は,物を引き渡すまでは貸すか,貸さないかは自由だけれども,必ず貸してほしいという場合には,書面による要式性を持った契約で,履行確保を図ればよいのではないかという考え方です。   消費貸借においても同じような考え方ができないのか。弁護士会,それは一部ではありますけれども,要物性に相当程度のこだわりを持っております。これは,消費貸借という特有な性質からくる意見ではあったのですが,契約自体を慎重にさせる,かといって,要物では行き過ぎだというところから,諾成契約を認めるとしても書面によらなければならないことを原則とした上で,ただし,書面によらない場合でも,消費貸借の目的物を交付すれば,その時点で契約の成立を認める,そういう形を基本とすることはできないのか。その上で,なお,書面による諾成契約を認めたとしても,消費貸借では,金銭交付前の借主からの解除を認める,使用貸借は,書面による場合であっても目的物引渡し前の借主からの解除は認める,このような形での整理があり得ないのか。   こう考えていきますと,この頃に言えば時期に後れた主張だとお叱りを受けるかもしれませんけれども,贈与契約について諾成契約を維持するかどうかという論点がかねて出されて,特段,弁護士会の中でも異論はなく,諾成のままでよいではないかという意見をそのまま述べたかと思いますが,今回,このような形で消費貸借,使用貸借を見直す中で,贈与が今までどおりの諾成契約で果たしてよいのだろうかと。贈与の撤回の場面について,議論が出ておりましたけれども,贈与についても,諾成契約としても書面を要求する,書面によらない場合は目的物交付前は解除できる,若しくはそこも要物とするという考え方もあり得るのかもしれません。そのような整理は,この機に改めて検討するに値するのではないかと考えている次第です。 ○鎌田部会長 関連した御意見はございますか。中田委員,中井委員からそれぞれ,両方に関わるのでしょうけれども,主として第2パラグラフ関連で,引渡し前の契約離脱をもう少し容易にするという内容を持った御提案があったわけですが,これらは。 ○内田委員 中田委員に御質問ですが,先ほど,単に書面だけでは駄目で,解除権を排除するという書面を要求するという御意見だったかと思います。しかし,これは佐成委員がおっしゃった実務の要請からすると,逆の方向の御提案だと思います。書面性を要求して,契約について契約書を要求すると,契約書であるのかどうか自体が争いになるということで,書面性を余り厳格に要求しないようにすべきだという御意見が佐成委員からありましたけれども,解除の排除が書面でなされることまで要求すると,必ず貸しますという紙があったときに,解除権を排除しているのかどうかをめぐって,争いが生じてしまわないか。そこまで厳格にする必要があるのか。先ほどの佐成委員の言われた実務の要請から考えると,果たして実務的にどうなのかという感想を持ちました。 ○中田委員 おっしゃることはよく理解できます。ただ,問題となる局面がビジネスの場面で書面を作る際にどう書くのかということと,それから,ビジネスではない親戚同士とか友人同士のような場面で事実上の無償使用との境目も考えながらどうするのかということと,両方を考える必要があると思うんです。ビジネスのほうについては恐らく,今,佐成委員もおっしゃいましたけれども,きちっとした契約書が作られて,民法なりで規範を明確に定めておきますと,それに沿った取扱いをされると思います。そうしますと,むしろ,問題となっているもう一方の局面,つまり,ビジネスでない場面について事実上の無償使用との境界も考えつつ,実質的には引渡し前の解除の余地を広げておくとしたほうが,全体としてはよいのではないかということです。 ○佐成委員 恐らくこの問題が実際上,顕在化するのはごく限られた場面で,引き渡した後はほとんど同じになるとは思いますが,いずれにしましても,引渡し前の書面をめぐって紛争になるのは困るという感じを抱いております。現実には,ビジネスでも使用貸借の場合は念書形式の簡易な書面ならともかく,きちっとした正規の契約書を作らない局面というのも,かなりあると理解しておりまして,その場面での無用の紛争を気にしているということです。もちろん,正規の契約書ができていれば,それによるのは当然のことでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。それでは,ただいまのような御提案を受けて事務当局で少し検討をさせていただきます。場合によりましては御提案の中身について詳細をお伺いすることがあるかもしれませんけれども,その際にはよろしくお願いいたします。   次に,「2 使用貸借の貸主と第三者との関係」及び「3 使用貸借の貸主の担保責任」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。2については特に御異論はないと思ってよろしいでしょうか。3の担保責任についても格別の……。 ○中田委員 3について中間論点整理との関係で,念のために申し上げたいと思います。中間論点整理では,47ページの囲みの中にありますように,贈与にそろえるという考え方と,贈与と使用貸借とでは違っているんだという考え方と二つあると整理されておりまして,今回の御提案はそのうちの一方を出されたものだと思います。ただ,結果としては今回の御提案は実質的に内容を検討するというよりも,贈与にそろえるという結論だけが出ております。しかし,内容を検討した上で,その上で最終的に贈与にそろえるのだったらそろえると,それが順番ではないかと思います。   実質的にも贈与と使用貸借とでは違いがあり得るわけです。特に目的物が贈与の場合には種類物である場合も少なくないわけですけれども,使用貸借のほうはほとんどが自分の持っているものをただで貸すということが多いわけですから,使用貸主の担保責任はより限定されたものであるということもあり得る考え方だと思います。そこで,こういう二つの考え方があるものですから,これについても少なくとも中間試案では,二つ考え方があるんだということを示していただくのがよいのではないかと思っております。 ○中井委員 弁護士会の意見ですが,2については異論なく賛成でした。   3の担保責任につきましては,多くは賛成意見で贈与に合わせてよいのではないかということでしたけれども,大阪弁護士会ほか若干から異論が出ています。基本的には,中田委員がおっしゃった考え方に近いといいますか,同じ発想でして,贈与と使用貸借との担保責任が全くパラレルでよいのか,パラレルを前提としてここで決めてしまってよいのかという疑問です。物を贈与するときに現在,贈与では甲案,乙案があり,甲案では瑕疵のない目的物を引き渡す義務を前提としている提案があります。贈与について仮に甲案となったときに,本当に使用貸借において瑕疵のない目的物を交付するということが,当事者の一般的意思なのかということについて,大阪弁護士会は疑問を持っております。したがって,贈与とパラレルというのではなくて,使用貸借は使用貸借の特質に応じて議論をして,それぞれの提案をすべきではないかと思います。   大阪の考え方は,贈与と使用貸借は違って,担保責任の範囲は使用貸借のほうがより緩やかというんですか,狭いのではないか,あるものをそのまま,どうぞ,御自由に使ってくださいというのが基本であって,贈与について瑕疵のない目的物を引き渡す義務があるとしても,使用貸借の場合はそれとは違うという考え方を持っております。では,贈与について乙案,つまり,551条1項を維持した場合,使用貸借はそのままでいいのかというと,瑕疵のあることを知って告げなかった場合だけ責任を負うのか,使用貸借は基本的にそれでもよいのかもしれませんけれども,使用貸借の契約の趣旨等に照らせば違う場面もあるのではないか。こういう意見もありますので,準用型ではなくて独自に検討して提案すべきではないかという意見です。 ○金関係官 使用貸借と贈与を比較しての御議論がされていると思いますけれども,もう一つ,比較の対象となるべきものとして,無利息の消費貸借があります。この無利息の消費貸借については,前々回の会議で,贈与の規律に合わせること,すなわち書面による無利息消費貸借は撤回や解除をすることができないし,無利息消費貸借の貸主の担保責任は贈与者の担保責任と同様のものとすることについて,それほど異論がなかったと記憶しております。仮に使用貸借と贈与とで異なる規律を設けるのであれば,無利息消費貸借が使用貸借と贈与のどちらに近いのかという問題を改めて検討する必要があるように思います。また,そもそもどちらに近いのか,遠いのかという議論を厳密にするのはもちろん大事なことですけれども,それほど大きな差はないと言い得るのであれば,統一的な規律を設けたほうがむしろ分かりやすいのではないかと少し思っております。 ○中田委員 幾つかの要素があると思いますけれども,一つは目的物が違っていることが,当事者の合理的な意思というところに影響する可能性があるかと思います。それから,今の金関係官の御説明はそれはそれとして理解できるんですが,もし,そういう御議論があるんでしたら,資料に書いていただいたほうがよろしかったのではないかなというふうな気がいたします。 ○内田委員 最初に中田委員のほうから,贈与に合わせるのではなくて,使用貸借について内容をきちんと検討した上で決めるべきであるという,もっともな御意見がありましたが,中田委員がどのようにお考えになるのかは,必ずしもはっきりとはおっしゃらなかったように思います。何もかも中間試案の選択肢に送るというのではなくて,できれば,議論の方向性が出せればそのほうがよいと思いますので,使用貸借はこうあるべきだというのをおっしゃっていただいたほうがよいのではないかと思います。また,2番目の御発言で,目的物の違いもあるのではないかと言われたのですが,使用貸借というのは実際に裁判例に出てくるのは不動産が多いと思います。そうであれば,贈与より必ず担保責任が軽くなければならないということにもならないのではないかという気がするものですから,その実質の中身について御意見をお伺いできればと思います。 ○中田委員 私の結論は,先ほど申し上げたつもりだったんですが,言葉が足りなかったかもしれません。贈与に比べると使用貸借の貸主の担保責任は,より限定されたものであることが望ましいということを申し上げたつもりです。その理由としては,特に贈与の場合には種類物であることも少なくないですし,消費貸借の場合にはなおさらそうだと思いますけれども,使用貸借の場合には多くは自分の持っているものをただで貸すというわけですから,担保責任はその分,軽くなっていいのではないかということです。おっしゃるとおり,使用貸借においても取り分けビジネスの場面では,今のようなことが言えない場合もあるかと思うんですけれども,ただ,全体として使用貸借の規律ということを考えた場合には,贈与とは違っているのではないかということです。 ○鎌田部会長 分かりました。これももう少し提案内容を具体的に書き表すとしたら,どういうことになるかという点について少し御意見を伺いながら,事務当局で,中田委員,中井委員の意見の取扱いを検討させていただきます。   それでは,続きまして「4 使用貸借の終了事由」と「5 損害賠償請求権及び費用償還請求権の期間制限」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「4 使用貸借の終了事由」の「(1)民法第597条所定の終了事由」では,使用貸借の目的物の返還時期について定める民法第597条について,同条のように目的物の返還という点に着目するのではなく,使用貸借の終了という点に着目して,本文の①や②のように使用貸借の存続期間について定める規定と,③や④のように貸主の解除権について定める規定に改めることを提案しています。   「(2)新たな終了事由」では,本文の①のように,貸主にとって目的物を必要とする予期せぬ事由が生じ,それが使用貸借の終了を正当化するに足りるものである場合や,②のように,借主の行為によって貸主と借主との間の信頼関係が失われた場合には,貸主が使用貸借契約を解除することができる旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。   「5 損害賠償請求権及び費用償還請求権の期間制限」では,借主の用法違反を理由とする貸主の損害賠償請求権及び借主の貸主に対する費用償還請求権の期間制限について,この部会資料45の第1の11で取り上げました賃貸借における見直しの結果に従うことを提案しています。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明がありました部分について一括して御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○安永委員 4の「(2)新たな終了事由」について申し上げたいと思います。部会資料では(2)の②において借主の行為によって貸主と借主との間の信頼関係が失われ,使用貸借を継続することが著しく困難となった場合を使用貸借の新たな終了事由とする提案がなされておりますが,これには反対いたします。   補足説明の50ページ,2の2パラ目に労働組合事務所のケースを書いていただいておりますが,正にこのケースです。2011年の厚生労働省の労働協約等実態調査によりますと,日本の労働組合においては81%が組合事務所として企業施設の供与を受けており,そのうち,74%が無料で組合事務所の供与を受けております。また,掲示板や社内LANなどに関しても,事務所に付随するものとして,無償の使用貸借であるケースが多くなっております。仮に②のような規定が新設された場合に,労働組合と使用者との間で春闘などで緊張関係が高まって争議状態に陥った場合などに,使用者が,組合事務所等の返還を求める可能性があります。   労働組合と使用者との関係は,一時的に険悪な状態になったとしても,いずれは関係を修復して良好な関係を形成することが望ましい性質のものであり,信頼関係が失われることにより,貸主と借主の関係が将来に向けて,永続的に絶縁状態になることが想定されているものではありません。一時的な信頼関係の喪失を理由に,それだけで直ちに使用貸借の終了を肯定することは,労働組合と使用者の関係が将来に向けて継続性のあるものであることに照らしても,妥当性に欠くものだと考えます。最近も問題にされるケースが多くございますので,是非,配慮のほどをよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 関連した御意見はございますでしょうか。 ○佐成委員 必ずしも関連というわけではございませんが,同じ(2)のところで,今,安永委員は②について発言されましたが,①について述べたいと思います。①につきましては,確かにこの提案の趣旨は理解できるのですが,ただ,貸主にとって必要ということだけが書かれておりまして,それだけで本当に妥当な解決が図れるのか,借主側の事情というのも併せて配慮をしていただかないとバランス上,問題が生じるのではないかということにたいへん疑問を感じております。多分,規定ぶりにもよるのでしょうけれども,仮に貸主側の事情だけで一方的に解除ができてしまうとなりますと,ビジネス上も多くの使われ方がされておりますので,いろいろ問題を生じかねないというところもあります。借主側の事情も十分配慮をした上であれば最終的に解除することも可能かもしれないのですが,そうでない限りは①についても問題があるのではないかという感触を持っております。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○高須幹事 今の「新たな終了事由」のところでございますが,今,両委員から御指摘いただいたような危惧というのでしょうか,本来,許されるべきでない解除が安易に認められるようなことがあってはいけないと。このこと自体は十分に注意しなければならないだろうと私も思います。ただ,この問題については実際問題として従来の597条だけで処理できてきたかというと,そうではないケースというのが今までの判例の中ではあったように思います。   具体的には,3項で目的を定めないときは,いつもでも返還を請求できるとあるわけなんですが,実際問題として,そうなると即時に解除できてしまうことになるので,この規定が発動されるというのは我々が実務で経験していても,まず,余りなくて,基本的には目的達成あるいは達成すべき時期の終了というところでの判断となるという傾向があると。その場合には,これまでの判例のケースでも利用が著しく長期間にわたっている場合において,返還ができるのか,できないのかということが問題になるというようなケースがあり,最高裁判例の中には,34年間の建物使用というようなケースで,さすがに34年,無償で使用したのだから,目的を達する時期が来たのではないかというような判例もあるわけでございますので,その意味では,濫用の危険のようなものはもちろん考慮するとしても,通常の親族間の貸し借りなどを典型とするようなケースにおける解除の法理というものの構築というのをしっかりと考えるべきだと思います。   今,佐成委員から御指摘があった両方の事情を考慮するというのは,実際には現在の判例法理の中でも元々の部会資料でいえば,(1)の③のところの使用・収益をするのに足りる期間が経過すればという部分の,足りる期間の考慮の中で,本来の期間的なもののほかに使用の必要性と,そういったものを総合して考慮して決めるというのが従来の最高裁判例であり,恐らくこれは,この条文を作っても踏襲されるのだと思いますので,その解釈の中で運用されていくのではないかと。   ところが,そういうのに当てはまらない例として一例ではあるのですが,最高裁の昭和42年11月24日などという判例がありまして,著しく信頼関係が破綻して,当事者間の信頼的生活共同という言葉を使っているんですが,これが破綻したようなケースにおいては,597条2項ただし書の類推適用を認めると,こういう判例が現在あるということでございますので,類推適用しているということは,本来の適用にはなかなかならないけれども,必要性があるので,明渡しを求めるとした判例だと思いますから,そういったものを今回,明文化するという意味では,(2)の新たな終了事由というものを設けるということは必要なのではないか。いつまでも類推適用に頼るというのはよろしくないのではないかと思います。   その意味では,(1)の①,②については規定ぶりを十分注意いただくとして,つまり,自己使用の必要性のみで判断するというわけではないというのは,恐らくここにも部会資料の従前の利用状況等に照らして使用貸借の終了を正当化するに足りるものであるかどうかという,別な要因を入れるというようなところが多分あるんだと思いますから,それをもう少し規定ぶりを考えるというようなことも考慮されてよいでありましょうし,②につきましても,今,おっしゃられたような一時的な信頼関係の破壊とかの場合には慎重に考えなければならないでしょうし,そもそも私は先ほどの労働組合のケースは信頼関係は破壊しないのだろうとも思っています。   元々,労働組合制度というのは緊張関係,対立関係を生むのは本質的な制度,仕組みなわけですから,それをもって裁判所が信頼関係が破壊したと言ってはいけないのだろうと私は思うんですが,いずれにしても一時的なものであったら,そういうことでは明渡しにはなりませんよと,解除にはなりませんよと,そのことがよく分かるような規定を考えるということも必要だと思いますが,そういう隅々にまで目配せをした規定ぶりを考えることによって,(2)の新たな終了事由自体は作ることが現在の実務では求められていると思いますので,この提案に賛成したいと思います。 ○鎌田部会長 (2)の「新たな終了事由」について幾つか御意見,賛成の意見と反対ではないけれども,もう少し内容の精密化を図るべきであるといった御意見を頂戴したところですが,ほかに(2)に関連する御意見はございますでしょうか。よろしいですか。中井委員,何かございますか。 ○中井委員 (2)ではなくて(1)のほうでよろしいですか。 ○鎌田部会長 それでは,(1)のほうで。 ○中井委員 (1)の考え方については,弁護士会はほぼ賛成していますが,これも大阪の意見を御紹介しておきます。まず,分かりやすさの観点から形式的なことかもしれませんけれども,終了する理由として,期間の満了,使用・収益の目的が終わったとき,それから借主の死亡,今の規定がありますからそのまま残ると思いますけれども,加えて解除があると思います。それが終了の原因になる。そして,解除ができるのは次にどういう場合かですが,ここは貸主の解除だけを書いているものですから,借主はどうなのか。期間の定めがなかったらいつでも解除できるのが大原則だろうと思いますけれども,具体的な定めはないですから,言うまでもないことでしょうけれども,書いておけばいいのではないか。   もう一つ,期間の定めがあるときであっても,借主は期限前解除ができるのではないか。そこが明確ではない。無条件で解除できるのか,解除により貸主に特別な損害が生じたときには,損害を賠償しなければならないのかという留保は付くにしても,借主からの解除についても規定を置くべきではないか。そういう意見もありましたので御紹介します。 ○鎌田部会長 私も個人的にはそこが気になっていて,現行587条は借主の返還義務なんですね。ある意味で借主から見ると,いつでも返還する権利があるのかどうかというところが抜けてしまう。それを終了とくくってしまうと,その部分を排除するように見えなくもないので,その辺がどうなっているのかなというのは,多分,素朴な疑問としてあって,解除なのか,期限の利益の放棄なのかというふうなことも問題になるかもしれないので,借主側から契約を終了させることができる場合というのがどういう場合であって,それをここに並べる必要があるのかどうかというふうなことについて,事務当局で更に検討してもらうということでよろしいでしょうか。 ○中井委員 是非,お願いいたします。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○松本委員 今,部会長が御指摘されたことですが,返還時期の定めなのか,終了時期の定めなのかというところはかなり重要で,返還時期の定めというのは入口で議論した要物契約に引きずられた表現かなという感じがするんです。終了すれば返還義務が発生するのに,終了かどうかと無関係に返還義務が発生するというのは,要物契約で引き渡すことによって契約が成立する,返還することによって契約が終了するというような非常に物中心の議論に引きずられているのではないか。したがって,入口のところで要物契約性を残すのなら,出口のところはこれでもつじつまは合うのでしょうが,入口を変えるのであれば出口の表現も恐らく変えて,正に小見出しは「終了事由」になっているわけですから,こういうときには契約は終了すると,終了すれば条文に書かなくたって,貸借型契約だから返還義務は発生するということで,書いても書かなくてもよろしいのではないかと思うんですが。 ○金関係官 返還時期が到来すれば,貸借期間が満了すれば,これによって使用貸借が終了するという発想ですけれども,これが使用貸借の要物性から来るものであるという御指摘であれば,若干の疑問もあり得るように思いました。と言いますのも,諾成契約である賃貸借も要物契約である使用貸借も,契約に定めた返還の時期に目的物を返還するという条文自体は共通であるからです。返還時期の到来や貸借期間の満了という概念と契約の終了という概念はある意味では別次元のもので,契約の終了という概念は,返還時期の到来や貸借期間の満了,解除,解約申入れなどの事由によって生ずる事態を指すものと理解しておりますけれども,この理解は,賃貸借でも使用貸借でも同じではないかと考えております。 ○鎌田部会長 今の松本委員の提起された点については,少し理論的な概念の整理にも関わることですので,検討させていただくということでよろしいでしょうか。 ○松本委員 金関係官がおっしゃったことですが,賃貸借のところは期間の定めという言い方をしているので,返還時期の定めという書き方ではないですよね。 ○金関係官 先ほど私が申し上げたのは民法597条1項のことで,借用物の返還の時期という見出しの下,契約に定めた時期に借用物を返還すると書かれておりますけれども。 ○松本委員 これは使用貸借ですよね。 ○金関係官 賃貸借にも準用されていますので……。 ○松本委員 それはそうですけれども,賃貸借の場合は,元々,賃貸借の期間ということで617条以下は構成されていますよね。 ○金関係官 はい。期間の定めというのと返還時期の定めというのは,語弊を恐れずに言えば基本的には同じもので,期間が満了した時に返還時期が到来するということではないかと理解しております。 ○松本委員 私も全くそうだと思うんです。おっしゃったとおり,本体は期間の定めであって,期間が終了したことによって返還義務が発生するというのが論理的には分かりやすいわけなのに,使用貸借のところは期間という発想なしに,いつ返還しますかということだけで条文上,書かれているのは,要物契約的なものに影響されているのではないかという仮説です。 ○金関係官 ありがとうございます。 ○鎌田部会長 少しそこは検討させていただいて,返還をすることを約して物を受け取るですから,返還ということが不可欠の要素になっているのが一つと,それから,多分,使用貸借の場合には返還義務以外に明確な法律上の義務はないのに対して,賃貸借の場合には使用収益させる義務というのが貸主側に生ずるという,その違いが反映している可能性もありますので,少しその辺のところは検討をさせてください。   ほかにはよろしいでしょうか。よろしければ,5のほうについて御意見をまだ頂いていないので,5のほうについて御意見があればお出しいただければと思います。特に御異論はないと伺ってよろしいでしょうか。それでは,次に進ませていただきます。   部会資料46の「第1 請負」のうち,「1 注文者の義務」について御審議いただきます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○笹井関係官 「第1 請負」の「1 注文者の義務」では,二つの考え方を取り上げました。アでは,請負人が仕事を完成するためには,注文者が請負人に適切な指示をするなどの協力をすることが必要であることが多いことから,協力義務に関する規定を設けるという考え方を取り上げています。イでは,注文者の受領義務を取り上げていますが,受領義務については売買契約においても検討されており,これとの整合性を図る必要があると考えられますので,この点に留意して御審議いただけばと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御意見を伺います。 ○三浦関係官 第16回の部会での発言と同趣旨でございますけれども,システム開発に関連する所管団体から,こうした注文者の義務の明文化について賛成の意見が寄せられました。システム開発では,注文者から改良に必要な現行システムについての詳細な情報が得られないという問題,あるいは担当者が業務多忙で協力が得られないなど,注文者側の協力が得られない事例もあるということでございまして,こうした明文化に賛成という声が届いておりますので紹介させていただきました。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○佐成委員 協力義務でございますけれども,経済界の中では,一方では確かに,今,三浦関係官がおっしゃったような御意見もあるのですけれども,他方,これに対しては反対意見も根強くあります。反対意見が,特に懸念をしているところというのは,請負と労働者派遣法との厚労省ガイドライン上の区分に関して,もし注文者に一般的に協力義務を課してしまうと,偽装請負をしているのではないかという,あらぬ疑いをかけられるリスクが高まるのではないかということです。つまり,協力義務の履行として,注文者側が従来よりも意識的にいろいろな場面で指図といったようなことを細かく積極的にするようになりますと,うっかり勇み足で請負人の被用者へ直接指示するということにもなり得ます。直接指示は,厚労省ガイドラインで要求される請負と派遣法との明確な区分をする上では御法度ですから,適正な請負とみなされず,いろいろお叱りを受けることになるというのがかなり実務的には問題になっておりまして,その点を指摘する反対意見があります。   それと,今,システム開発に関してお話がありましたけれども,確かに注文者側が新たなシステム開発をするに当たって,どういった機能や仕様が必要であるかを具体的に明示しないと,請負人としても仕事を進められないというのは事実です。けれども,他方,システム開発を請け負う請負人というのは,ある意味ではその道の専門家であって,注文者は言わば素人ですから,一口に協力と言っても,その必要性の内容とか程度を,専門的な見地から注文者に十分,分かりやすく説明・アドバイスしてもらわないと,注文者のほうも十分な協力ができないし,むしろ有害無益な協力をしかねないという面があります。実際,現実のシステム開発では,素人である注文者が思うに任せてどんどん要望を出して,専門家である請負人が唯々諾々と作り込んでしまうだけですと,とんでもないシステムが出来上がって,実用に耐えない重たいシステムが出来上がってしまうとか,更には動かなくなるとかいうことも多く見受けられますし,いずれにしても非常にコストが膨大になってしまうという問題が現実に散見されるわけです。しかしながら,その結果膨れ上がった負担を注文者が全て被るというのは,バランス上必ずしも妥当な結果ではないのではないかと思われますが,そういうことはよくシステム開発には起こります。その意味で,一口に「協力義務」と言っても,中身がなかなか難しく,注文者側と請負人側の事情の両面を考慮する必要があるように思います。  従って,注文者の協力義務に関しては,現時点では,経済界としても,賛成,反対の両方があるという認識でございます。 ○岡委員 弁護士会の意見ですが,反対意見のほうが多うございました。反対意見の理由としては,部会資料の2ページに書いてあるような理由を挙げるところもありましたけれども,副作用を心配する声が強うございました。必要な協力をしなければならない契約類型も確かにあると。しかし,そういうものがない契約もかなりあると,そういう協力をする義務がない場合にまでこういう文言が出てくると,一つの中核的な義務として要求されるおそれがある,無用な紛争を広げるのではないか,そういう心配の声であります。もう一つは消費者系の弁護士からは,これを根拠に不当な要求をされる。そういう意味では,副作用の一つだろうと思いますが,そういう声が強うございました。それを踏まえて妥協案といいますか,こういう類型があるのは事実ですので,信義則の一般論の一般条項を置いて解決するのがよいのではないか。そういう意見もございました。個別類型できつく書き過ぎると,広くなり過ぎて副作用がある。そういう心配の声でございます。 ○岡田委員 今,岡委員から消費者側の弁護士の意見が出ましたが,正に消費者からすると協力義務とか受取義務と書かれますと,かなり事業者に都合がよい形で引き渡されてしまうというケースが多分に想像できますので,義務という形で書かれるのはどうかということと,一般的に消費者は自分が注文したものを理由なく拒否するとか,協力しないということは余りないと思いますので,それに対応しないというのは,それなりの理由があるだろうと考えますと,受け取ってからいろいろ救済方法を考えるよりは,受け取る前に解決したいというのが消費者の意思だろうと思います。 ○鎌田部会長 先ほどの岡委員が御紹介くださいました意見は,協力義務と受取義務と両方にまたがる御意見だったのでしょうか。 ○岡委員 基本的には両方ですが,イのほうが少し反対の会が少のうございました。 ○中田委員 ただいまの御意見で出ております義務についての懸念ですけれども,多分,義務という言葉の意味の理解が多様なのではないかと思います。義務に対応する相手方の権利を観念して,それを果たさないと債務不履行になるというようなものなのか,それとも,義務に反すると何らかの不利益を受けるといういわゆる間接義務のようなものなのかということがあると思いますが,その辺り,少し整理して実際上の問題が懸念が生じないようにすることで対応できないかなと思います。   それから,2番目のイのほうの受領か,受取かということなんですけれども,ここも概念整理の問題だとは思うんですが,従来の学説で議論されてきた受領義務は,意思的な要素はないんだというようなおまとめになっているんですけれども,必ずしもそうでもなくて,意思的な要素を含む受領と解する見解も古くからかなり有力だと思います。結局は個別の問題において意思的要素を含むのか,どうかということを検討していく必要があると思うんですが,最初からおよそ受領なり,受取なりが問題となる場面で,意思的要素は一切入らないんだと決めてかかるというのは,かえって硬直的になるのではないかと思います。   ですから,概念整理をすることはよいと思うんですけれども,受領ないし受取りで意思的要素が入るのか,入らないのかというのは,個別に検討するというのがよいと思いますし,もし,その結果,複数の見解があるのであれば,少なくとも中間試案の段階では場合によっては両案併記にする,あるいは受領という言葉を残しておいて解釈に委ねるということも,選択肢の一つとして入れられるのではないかと思います。 ○潮見幹事 1点だけ,中田委員に質問ですが,今,おっしゃられたのは請負に限っての話でしょうか,それとも,受領遅滞における受領概念も含めてお考えになった上での御発言なのでしょうか。 ○中田委員 受領に意思的要素を含むかどうかというのは,売買の場面でも古くから議論があるところだと思います。両論があると思います。売買のところではこの点が検討課題になっていたわけですけども,そこで必ずしも画一的な結論にまだ達していないのではなかったかと思います。ですから,もし今後,広く受領ないし受取という言葉を整理していくとすれば,全体を見回した上で適切な規律を設けるのがよいのではないかと思います。 ○潮見幹事 売買もそうかもしれないのですが,債権総論で問題になっている受領概念も気になるところです。先ほど岡委員の御発言の中でもありましたが,定型的な形で受領義務や協力義務をここで認めるということについては懸念はあるけれども,信義則を媒介として,この種の義務が個別具体的に認められる可能性は,決して否定しないというような観点から御発言をされたと思うのです。   個人的には,私は受領に先ほどから問題となっている意味での意思的要素が入る点について疑問を持っているのですが,このことは別としても,もし,債権総論に当たる部分で受領義務や協力義務を定めるとしたときに,特に受領という言葉をそこで使ったときに,債権総論の箇所での受領概念と,請負のところの受領概念,さらには売買のところの受領概念を整合的に説明できるような形にしないといけないと思います。以前に松本委員が御発言になったと思うのですが,いろいろなところで受領という言葉が使われて,それぞれの場合に違った意味で使われるということになると,少しまずいかなと思います。もし,仮に意思的要素というものが請負のところでは必ず必要だということであるのならば,この部分について特別の書き方や,ルールの立て方をするというほうが滑らかになるという感じがします。 ○中田委員 請負についてはまた個別の論点が後で出てきますので,そこで議論されることになると思いますけれども,一般的に言うと,レディメードとオーダーメードとの違いというのはあるのかなという気はしています。ただ,ここでの問題は概念整理のことですので,多分,概念整理の必要性という点では潮見幹事とそれほど違いがないと思うんですが,従来,漫然と使われていたものについて,個別の場面で概念整理をしていくということを申し上げているわけです。 ○内田委員 きちんと中田委員の御趣旨を理解できていないのかもしれませんけども,ここで提案しているのは物理的に物を受け取るという義務のルールを置くかどうかです。それを受領と表現するかどうかが問題になるわけですけれども,受領という言葉について商法学者は一般に意思的要素を含んだものとして使うことが多いと思いますが,民法学者は受領遅滞のところで,そういうものを含まない意味で使うことが多かった。そこで,混乱を避けるために一応,二つ選択肢を書いてはいるけれども,しかし,意味としては物理的に受け取ることを意味している,そういう趣旨だと思いますが,その理解はよろしいでしょうか。 ○中田委員 売買についても民法のほうですけれども,受取には意思的要素が入っているんだという理解がこれも古くからあると思います。 ○内田委員 受取ですか。 ○中田委員 失礼しました。受領に意思的要素を含んでいるだと解する見解があると思います。 ○内田委員 だから,言葉の意味については,少なくとも民法学者と商法学者とで違いがありましたし,民法学者の中にも受領という言葉に意思的要素を含めて使う人もいれば,そうでない人もいる。そこで,その混乱を避けるために両方の言葉を書いていますけれども,ここで提案しているのは,用語は別として,物理的に物を受け取る義務のことを言っているということです。 ○中田委員 少し議論が錯綜していると思うんですけれども,意思的要素を含む概念と含まない概念とを整理するということには賛成なんです。ただ,もし意思的要素を含まないものを受取と呼ぶのだとすると,ほかのところで受領という言葉を使っているのは,どうなるのかということを検討する必要があると思うんです。その意味で,ここだけを切り離して議論できるものではなくて,結局は意思的要素を含むのか,含まないのかということを受領,受取の言葉をもし区別するのだったら区別した上で,個別に考えていく必要があると。ただ,その際におよそ受領ないし受取が問題となる場面で,意思的要素は入らないんだと最初から決めるのは,適当ではないのではないかということを申し上げているつもりですが。 ○深山幹事 大分待たされている間に言おうとしていたことが多少変わりつつもあるんですが,というのは,申し上げたかったことは今の議論と多少関連するかなと思ってお聞きしていました。まず,1のアとイのうちアに関してのほうが分かりやすいので,アを中心に申し上げますと,およそ請負であれば請負人の仕事の完成のために必要な協力をなすべき場面というのが,幾つか例としてシステム開発等について挙がっていますが,そういうものもあれば,そうでないものもあるというのは既に御指摘のあるとおりです。また,請負契約でなくても様々な契約類型の中で相手方の債務の履行のために債権者側が協力しなければならない場面なり,そういう類型というのは少なからずあるんだと思います。そういう意味でいうと,請負契約だけに注文者の義務という形で協力義務をうたうのが適当なのかということについて疑問があります。   請負契約に関しても,今,言いましたように必ずしもシステム開発のようなものばかりでもございませんし,ここだけ規定すると,そのこと自体が独り歩きをすることを懸念するところであります。先ほど弁護士会の中の議論として,信義則の規定で足りるという考え方が岡先生から紹介されましたけれども,現行法の信義則でもカバーは可能なんでしょうが,あえて言えば,契約における信義則のような契約総則的な規定で,互いに相手方の債務の履行に協力する義務というようなものを明文で規定するということもあっていいのかなと思いますし,また,それで足りるのではないかと思われ,請負だけを特別扱いするのは適当ではないのではないかなという気がいたします。   同じような議論は,直前に議論されていた物の受取り,意思的要素を含まない受領というものについても言えるのかなという気がして聞いておりました。つまり,売買などが一番典型かもしれませんが,売買であれ,請負であれ,目的物を受け取ることによって売主や請負人の債務の履行が完結をするという意味では,受け取るべき債権者の協力義務というものはあるのだろうと思います。そういう意味で,イのところも協力義務の一場面として捉えることができるし,そうなってくると,請負契約だけに特別規定を設けるというよりは,契約一般のルールとして総則的な規定を設ければ足りるし,そうすべきではないかという気がいたしております。 ○松本委員 先ほど何人かの委員・幹事の間で受領の定義をめぐって激烈な議論がありました。私はそういうふうに中身が決まっていない概念を使うということに反対いたします。分かりやすい民法にしようというのが旗印なんですから,人によって定義の異なる受領という概念を使って受領義務を負わせるというのは,先々に混乱のための種をまいているようなものです。定義ができるのなら,その定義で使うことには反対しませんが,定義しないでそれぞれが都合のよい解釈をして使うというのは反対です。   しかも,3ページのところで,注文者が受領義務を負うのは仕事の目的物に瑕疵がなく,引渡義務の履行の提供をした場合であると限定してあるんですが,条文に受領義務という言葉だけがぽこっと入ると,こんな限定はすっ飛んでしまいます。請負側としては一応できたのだから受け取れということを強要してきます。とりわけ消費者取引の場合に訪問販売で勧誘する業者とっては,強引なことをやるための手掛かりを与えることになりかねないので,裸の受領義務には反対します。   中田委員が間接義務,ドイツ語で言うところのオプリーゲンハイト的なものはあってもおかしくはないのではないかとおっしゃいました。恐らくその通りだと思うんですが,それについて一般の人が分かるような日本語が今あるのかということです。間接義務について,相手方の権利ではないんだ,結果としてひょっとすると本人が不利益を被るかもしれない,そういった何かなんだということを適切な日本語で一般に人に分かりやすく表現できる言葉があれば,それを使う。ただし,受領という用語は使わないで,受取とか引取りのほうがいいと思うんですが,そちらのほうと間接義務を的確に表す日本語がうまくあれば,こららをつないで考えるということはあり得ると思いますが,現在のところ,恐らくないと思うのです。そうだとすると,義務というぎらつく言葉は入れないほうがいいだろうと思います。これは売買の場合も同じですが,請負の場合のほうがこういう問題は大きくなると思います。   それから,アの協力義務のほうなんですが,システム開発の場合が一番典型に挙がっていて,私もよく話を聞きます。注文側が事務の流れに基づいてどういうシステムにしてほしいのかということを具体的に言わないで開発させ,後で文句を言ってくるという,言わば設計仕様を明らかにしないで請負人側に作業をさせているという問題が多いと聞きます。そういう意味で,協力義務という言葉なんでしょうが,既に何人かの方がおっしゃっていますし,2ページのところにも書いてありますけれども,協力義務が必要なタイプの契約というのは,システム開発に限らないで様々なものがあるんだとすると,ここでだけ入れるというのは少しアンバランスかと思います。   システム開発的なものを主として念頭に置くのであれば,私は注文内容を明らかにする義務というような感じで,仕様を明らかにする義務というような限定した内容で,請負の規定の中に入れるというのは一定の意味があると思います。すなわち,注文がなければ請負人は作業ができないわけだから,注文が前提にあるはずなんですね。注文する義務というか,オプリーゲンハイトなんでしょうが,があるわけで,その注文の中身としてスペックを明らかにする義務を負わせるという感じでやれば請負の中に何とか収まって,一般的な協力義務とのコンフリクトは防げるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 直感的な質問をして申し訳ないんだけれども,注文内容を明らかにするというのは,請負契約上の本体的債務の内容ですよね,注文内容っていうのは。 ○松本委員 そうです。ですから,その中身が……。 ○鎌田部会長 成立後の付随義務になるのか,債務内容の確定あるいは債務の成立の問題になるのかというと,債務の成立の問題みたいな気がしてしまうんですけれども,そういうわけではないですか。 ○松本委員 実際の契約としては,スペックを明らかにしないままで成立して作業が行われて,最後の段階で動かしてみて,うまくいかないというようなケースがシステム開発では大変多いと言われています。 ○鎌田部会長 あと,受領義務を義務として一般的に措定しないとなると,受領遅滞については債務不履行構成を採らないということになるんですかね。 ○松本委員 受領というのは何かということを定義しないで義務ですと言っても,議論にならないというのが先ほどのところから明らかだと思うのです。ある種の契約においては取りあえず受け取る,つまり,保管をするということが義務として認められているものがある。最高裁の硫黄鉱石売買事件判決のようなのがあるだろうけれども,履行として認容して受領する義務が全ての債務についてあるということにはならないはずです。瑕疵のない完全な履行であれば受領しないと駄目なんでしょうが,そうでない場合は断れて当たり前ですから受領しなくていいはずです。 ○内田委員 この受領と受取の問題は,元々は松本委員がかなり早い段階で問題提起されて,それはもっともな問題提起だと思いました。ですから,概念の整理をきちんとして混乱のない言葉を使うべきだというのはそのとおりで,その点は中田委員も潮見幹事も全く同じ御意見ではないかと思います。ここで問題にしているのは物理的な受取のことで,今まで売買を典型事例として受領遅滞として議論されていた受領というのもここでいう受取のことであろうと理解しています。一般的にはその義務がある,もちろん,契約に適合したと見えるものが提供された場合に受け取るということだと思いますが,受け取る義務があるという前提での議論が債権総論の部分ではなされていた。そうであれば,ここで書かないということで本当によいのかというのが鎌田部会長からの問題提起かと思います。私も書かないと不整合が生じかねないように思います。 ○鎌田部会長 ここは買主の受領義務あるいは受取義務,それから,一般的な受領遅滞との関係で,まず,概念としてどう整理するかというのが一つと,この場面に限っての物の引取義務という規定が本当に必要なのかどうかという問題の提起と,両方,問題が提起されていたんだと思うので,それらについて検討させていただきます。   次に,「2 報酬に関する規律」について御審議いただきます。事務当局からまず説明をしていただきます。 ○笹井関係官 「2 報酬に関する規律」の「(1)報酬の支払時期(民法第633条)」では,民法第633条を維持することを提案しています。   「(2)仕事の完成が不可能になった場合の報酬請求権・費用償還請求権」においては,仕事の完成が中途で不可能になった場合に,請負人が報酬を請求することができるか,どのような範囲の報酬を請求することができるかという問題を取り上げています。請負においては仕事を完成することができなかった場合には,報酬を請求することができないのが原則になりますが,仕事の完成が不可能になったことについての注文者の関与によっては,報酬を請求できないのは不合理であると考えられる場合もあります。ここでは,注文者の関与の程度に応じて報酬を全額請求することができる場合と,既履行部分についての報酬を請求することができる場合とがあるものとすることを提案しています。それぞれの要件については分科会で補充的に検討することも考えられますので,その可否も含めて御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明がありました部分について一括して御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○安永委員 (1)で提案されている提案には積極的に賛成をいたします。労働基準法第12条第1号は,賃金形態の一つとして「出来高払制その他の請負制によって定められた場合」と規定しており,民法の請負に関する報酬の発生要件に関する規定は,労働契約が請負制の形式を採る場合の賃金請求権に大きな影響を及ぼします。今日,請負制あるいは業務委託型の就労形態が大変広がっており,連合が組織化しているケースでも,雑誌記事の取材,執筆,自転車メッセンジャー便,バイク宅送便,ピアノの教師,電気機器の衛星機器等の故障修理,清掃,広告版下作成,プログラミングなどの多数の業種があります。しかも,これらの分野では仕事の出来具合や完成度合いなどを口実とした報酬不払問題が頻発しており,報酬請求権の発生要件をどのように構成するかは重要な問題となっています。   この点,中間取りまとめに至る過程では,請負の報酬の発生要件として従来の引渡しで足りず,受領,つまり,発注者が仕事の完成を確認して受け取ることを必要とすることが提起されていましたが,これについては労働のユーザーの立場からは経済的,社会的に劣位にある請負あるいは業務委託型の就労者の報酬請求権に関して,仕事の出来具合や完成度などを口実にした不払問題が深刻化することを指摘させていただいたところです。今回の提案では,報酬請求権の発生要件に関して受領を必要とせず,引渡しで足りるとされており,提案に積極的に賛成いたします。   次に,(2)について536条第2項の要件と効果をそのまま維持していただきたいという趣旨で発言をさせていただきます。現行法制の下では最高裁判例によって注文者の帰責事由により,仕事の完成が不可能になった場合には,民法第536条第2項により請負人は報酬を請求できることとされています。しかし,536条第2項に関しては民法の先生方の中では廃止を求める意見が多いと理解しておりますが,これを廃止した場合には解雇無効の場合の賃金請求権の根拠条文等がなくなるため,雇用に関しては同趣旨の条文を設けることが既に提起されております。また,請負契約あるいは委任契約,準委任契約に基づく報酬請求権に関しても536条2項を廃止した場合,どのような処理を行うかが問題となります。   536条第2項の規定によれば,「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったとき」は,「債務を免れたことによって得た利益」を除き,反対給付請求権の全てを有することになります。そして,「債権者の責めに帰すべき事由」については部会資料8ページの最後の段落にも記載がありますように,「故意,過失及び信義則上,これと同視することができる事由」と解する見解がある一方,これよりも広く解し,「債権者の支配領域で生じた事由」とする見解もあり,判例の見解は必ずしも明らかになっていない状況にありますが,労働法学会では支配領域説がやや有力と認識しております。   この点,提案のアでは報酬の請求権の発生要件を「注文者が協力義務その他の義務に反したこと」としており,少なくとも文言上は「故意,過失及び信義則,これと同視することができる事由」を報酬請求権の発生要件とする説を採用していると思われます。したがって,従来の条文にあります「債権者(=注文者)の責めに帰すべき事由」を要件とする場合と比較して,今回,提案されている「注文者が協力義務その他の義務に違反したこと」を要件とする場合は,債務者(=請負人)の請求範囲について解釈の幅を狭くするものであると考えます。   次に,イの提案では注文者側に生じた事由,すなわち,「債権者(=注文者)の支配領域で発生した事由」により債務を履行できなかったときは,「既に履行した債務の割合」で報酬請求権を認めることを検討することも提案されています。しかし,注文者が事業者で,請負人が自ら労務を提供する個人であった場合,労基法,労契法,労組法の労働者であると解すべきような事案において,請負人が既に一定の債務を履行していることはほとんどないと言えると思います。   例えば演劇,音楽の演奏会等でプロモーター等の主催者が劇団,オーケストラ,ミュージシャン等と請負契約を締結して演劇や音楽等の提供を受け,主催者がチケット販売をする形式で実施されることになっていたところ,大震災後に全く地震の被害を受けなかった地域で自粛モードが広がって,主催者が演劇や音楽会等の開催を中止したケースの場合に,俳優やミュージシャンが履行した債務はゼロということになります。そのため,これが債務者の義務違反でないが,債権者の支配領域で発生した事由であるとされても,俳優とかミュージシャンの請求し得る報酬請求権はゼロであるということになります。本来,リスクは強い立場の当事者が負うべきとも考えられるところ,この場合は支配領域という点を考慮しても,請負人の報酬請求権に関する要件は従来と比較して,より厳格になると言わざるを得ません。   また,補足説明の9ページの4には,「注文者に義務違反がある場合には,報酬としてではなく債務不履行に基づく損害賠償請求権によって処理すれば足りる」という見解も示されています。しかし,損害賠償請求権は先取特権による保護の対象とならず,また,当該就労者が労働基準法上の労働者に該当する場合に,注文者(使用者)に対して労働基準法に基づく賃金不払の請求を追及することもできないなどの点で,この見解は妥当ではないと考えます。   よって,今回,提案されている「注文者が協力義務その他の義務に違反したこと」を要件とすることは,現行法制と比較して請負契約における報酬請求権の発生要件を狭め,請負あるいは業務委託等の形式で終了するものの報酬請求権の発生が肯定される範囲を狭めると考えられるため,賛成できません。請負契約における報酬請求権に関して現行民法が定める「債権者の責めに帰すべき事由によって,債務を履行することができなかったときは,債務者は反対給付を受ける権利を失わない」という要件と効果はそのまま維持していただきたいと考えます。 ○潮見幹事 幾つか申し上げたいと思います。直前に安永委員がおっしゃられた部分について,1点だけ,誤解ではないかと思うところがございますので申し上げさせていただきます。それ以下は笹井関係官に御質問という形で伺いたいことがあります。   民法の学者の中では536条2項廃止論が強いとおっしゃられましたが,かなり気を付けて考えておく必要があるのではないかと思います。536条2項廃止論といいますのも,飽くまでも解除と危険負担において解除に一元化するという考え方がまず前提で,そのときに解除に一元化した場合でも,しかし,536条2項が内容としている基本的考え方自体はむしろ維持すべきであるという観点から,解除権を制約し,その結果として報酬請求権等も維持されるという仕組みで論じているのだと思います。そういう意味では,536条2項廃止論を採るからといって,安永委員がおっしゃられたような危惧がここで出てくることはないと思います。   まして,ここで書かれている事務局案の内容は請負のところで,例外的という言葉には語弊があるかもしれませんが,危険負担的な処理を残そうという趣旨が入っているようですから,余計にそうかなという感じがします。それが1点,申し上げたかったところです。ついでながら,リスクは強い立場が負うべきだとおっしゃられましたが,私はこれには反対です。労働契約の場合に雇用の話が出てくるので,そこで改めて議論をするのも一つかなと思います。   ここから先は笹井関係官に対する質問ですが,先ほどの安永委員の御発言にもありましたように,特に雇用契約等においては536条2項の規定が適用される場合に,注文者の責めに帰すべき事由というものについて,従来,民法の債権総論で言われている帰責事由よりは広い捉え方をする見解があると思います。それをアとイという形で書き分けて,そして,イのほうでは義務違反にまで至らないところ,安永委員の言葉をそのまま借りれば,判例法理に対するある立場によれば,報酬請求権がイのような場合も全額認められるような場合があったかもしれない。でも,それをここは義務違反がないから少し弱めたといいましょうか,中間的な解決を図ったという御趣旨で,ア,イというものをお示しになられているのでしょうか。もとより,注文者に生じた事由という言葉自体が適切かは,分科会でやったらいいと思います。   それから,もう一つですが,アの場合とイの場合で注文者の義務違反あるいは注文者の病気で生じた場合に,注文者のほうは履行不能を理由に契約解除することができると考えておられるのでしょうか。まさか,アの場合にそのようにはお考えになっていないでしょうねというのが,聞きたいところです。それとも,アの場合も注文者は解除をすることができるとお考えになって,アをここで別途書いておられるのか。イの場合も同じことでして,これは注文者側に生じた事由で不能になっている場合ですけれども,ここで注文者のほうが契約を解除することができるとお考えになっておられるのかどうか。もし,解除が認められると考えておられるのであれば,その結果として出てくる効果や法律関係がアとイの場合と違ってくることになるのでしょうか。 ○笹井関係官 適切に答えられるかどうか分かりませんが,潮見先生の御質問に対する回答を試みたいと思います。   まず,今の民法第536条第2項の帰責事由と部会資料46の5頁に記載されている第1,2(2)のア及びイとの関係がどうなるのかという御質問ですけれども,補足説明にも少し書かせていただきましたが,そもそも今の同項の帰責事由がどういう内容を持っているのかが,必ずしも明確ではないのだと思います。したがって,それと比べてアの場合はどうだろうか,イの場合はどうだろうかという比較をしても,そもそもの出発点が分からないため,議論が混乱してしまうだろうと思います。そこで,民法第536条第2項を一旦離れて,実質的にどういう場合に,どういう範囲の報酬請求権が発生するのかを考えてはどうだろうかという御提案をしております。   部会資料の趣旨はそういうことですが,民法第536条第2項の帰責事由を,故意,過失及び信義則上これと同視すべき事由と考えた場合には,比較的,部会資料46の5頁に記載されている第1,2(2)のアに記載された考え方が近いと考えられ,支配領域を考慮するという考え方に立てば,イに近づいてくるのかなと思っております。仮に,後者の見解というか,民法第536条第2項の帰責事由は故意,過失に限られず,もう少し広いという考え方を採った場合には,536条2項に基づいて行われているとされている今の実務から比べると,報酬請求権の範囲が少し狭まってくるのかもしれないと思いますけれども,本当に,今,そういう見解が採られているのかどうか,また,義務違反がない段階で全額の報酬請求権を発生させることが実質的にいいのかどうかということを正にここで審議していただきたいということでございます。   それから,2点目,アの場合とイの場合に解除ができるのかどうかというところです。これは解除の一般的な要件がどうなるかをまず決めないとお答えできませんが現在の民法第536条第1項に相当する規定として,債権者の義務違反があったために債務者が債務を履行することができなかった場合には,債権者は解除することができないというような規定を設けることが,解除のところで提案されておりますので,解除に関する一般的な規定としてこのような提案に基づく規定が設けられた場合には,請負にもそれが適用されることになって,アの場合には解除ができないということになるだろうと考えております。   問題はイの場合ですけれども,これは今申し上げた解除に関する規定がどのような要件で債権者による解除を制約することになるのかに関わってくるのだろうと思いますけれども,今の段階では,債権者の義務違反はないけれどもその支配領域で起こった事由に基づいて履行不能が生じた場合には債権者は解除ができないという提案はされていないと思いますので,解除の一般的な規定によれば,イの場合については解除が制約されないということになるだろうと考えております。   そのときに,報酬請求権と損害賠償請求権との関係がどうなるのか,それから,その範囲がどうなるのかについては,最終的に請求することができる額は一致しなければならないと考えておりますが,その法律構成としては,解除ができないということにした上で報酬請求権を与えるという構成と,債務不履行ということにして損害賠償で処理するという両方があり得るのではないかなと思っておりまして,そこの法律構成についても,この場で御議論いただきたいと考えております。   以上が潮見先生の御質問に対する回答でして,その前に安永委員がおっしゃったことについて議論の参考として申し上げたいと思います。部会資料46の提案が,民法第536条第2項に比べて報酬請求権の範囲を狭めるかどうかは,正に義務違反をどのように理解するかということに関わってくるだろうと思います。ここは,もし分科会で補充的に検討することになるのであれば,分科会で御審議いただければと思っておりますけれども,ここで義務違反と記載した趣旨は,ほかのところでも多く出てくると思いますが,どういった義務を当事者が負っているのかを契約に即して,契約解釈によって判断していくということだと思いますので,故意,過失というものがどう理解されているのかというところとも関係するかもしれませんけれども,必ずしも今の536条2項を狭めるということではないのでないかと考えております。   それから,音楽などについて自粛ムードが広がって主催者が解除した場合を例に挙げた御発言もありましたけれども,これは債務不履行というよりは,むしろ,民法第641条の解除の問題だと思いますので,同条の損害賠償請求権という形で処理されるのではないかと思いました。 ○佐成委員 個別の論点ではなく,今の点と若干関連するので発言させていただきます。部会資料の役務提供型をずっと最後まで眺めてみますと,基本的な思想としては非常によく分かるところがあります。要は,同種のもの,今,報酬請求権と損害賠償請求権の効果面での共通性を踏まえて,大体の規定ぶりをそろえるという思想が流れていて,非常に分かりやすくなっていると思うのです。けれども,ただ,用語の面では分かりやすさに欠ける部分があるのではないかと感じています。もちろん,現行法がそうだということなのですけれども,例えば「報酬」という言葉を使って説明しているかと思うと,同義の用語として,補足説明は「代金」という言葉も使っているという部分が見受けられます。しかもこれが一つの説明の中に混在をしておりまして,更に加えて,「利益」だとか「費用」だとかという言葉が同趣旨の規律であるにもかかわらず,いろいろ混在しております。恐らく請負というのは,もともと費用込みで請け負うということなのでしょうから,「報酬」という用語が,純然たる「利益」のみを指さず,「費用」に相当するものを含む形で「請負」の「報酬」というものが観念されてきたのだと思います。   この先の論点にわたりますけれども,これが「委任」になりますと,恐らく「報酬」は「利益」に相当するものだけを中心的に観念しており,「費用」に相当する部分は外出しする形で,別途費用償還請求権というものが出てくるということだろうと思います。このように委任では,「費用」は,報酬とは別に外出しする形になっているのだろうと思うのですけれども,いずれにしても同じ用語が,請負と委任とで,同じく役務提供型に分類されるような類型であるにもかかわらず,概念として,ある場合には含まれたり,ある場合には含まれなかったりというのはいかにも分かりにくい感じがいたします。  それと,もう一つは「利益」という用語についても,やはり分かりにくいと感じます。例えば,途中で履行が不可能になった場合について「免れたことによって得た利益」という表現が用いられております。もちろん,これも現行法がそうだということなのでしょうけれども,むしろ「費用」なり「損失」なりという言葉に置き換えて,「支出を免れた費用」なり「支出を免れた損失」といった表現に変えたほうが分かりやすいのではないかという気もしているわけです。   というのは,アメリカ法の損害賠償ルールに関して,エクスペクテーション・インタレストの一般原則に関する契約法リステートメントを紹介しながら,以前の部会で議論したことがありましたけれども,そのときにも申し上げましたとおり,そこでは「コスト」と「ロス」という言葉を用いて,「ロス・アボイデッド」,あるいは「コスト・アボイデッド」とした上で,エクスペクテーション・インタレストから控除するという形で定式化されております。「ロス」あるいは「コスト」という,要するに,日本語では「費用」あるいは「損失」に相当する用語を用いて,「免れた部分」を表現しているのがアメリカ法ですが,実務家としてはそれはそれで分かりやすいと感じます。   そういう立法例を見ますと,日本法は同じことを「免れたことによって得た利益」と表現して,非常に利益に固執する,回りくどい表現をしているように感じるわけです。むしろ,「免れたことによって得た利益」と表現するよりも,「支出しなかった費用」,あるいは「支出を免れた費用」と改めた方が端的で分かりやすいのではないかと感じるものです。そういうことですから,「利益」とか「報酬」とか,似たような概念を字義を統一することなしに混在させたままですと,我々などの企業実務家だと,どうしても「費用プラス粗利」とか,そんなイメージで「報酬」を考えたりしますものですから,それが条文上もケースバイケースというのでは非常に分かりにくくなっているのではないかと思います。従って,中身自体の問題とは別に,その辺の用語・概念の整理を,もしできるようであれば,事務局のほうでお願いしたいなと感じております。個々の論点で「費用が含まれる場合」と,「費用が含まれない場合」とを場合分けしておりますけれども,そもそも概念自体をもうちょっとうまく整理できないのかなというのが感じたところでございます。   例えば一つの考え方としては,「代金」という用語に統一して,その中には「費用」に相当する部分と,それから,「利益」に相当する部分があるという建付けにするというのも一案ではないかと思います。そもそも,現行法の「報酬」という言葉自体が本当に良いのかどうか分かりません。むしろ,私は,余り「報酬」という言葉を包括的に使わないほうがいいのではないか,もうちょっと使い方を工夫した方がいいのではないかと思います。もちろん,現行法がそうなっているのだからやむを得ないとは思うのですけれども,この際,もしできるのなら,改正に合わせてそういうような用語の整理をお考えいただいたほうが分かりやすいだろうと思います。つまり,結局のところ,役務提供型の報酬ルールについては,御提案ではほとんど同じような処理をされていると思うのです。もちろん,どういう場合にどう処理するかという中身の議論は,なお若干はあり得ますけれども,せっかくルールをそこまで統一的に分かりやすくしていこうとしているのに,用語法自体が依然として分かりにくいなということを非常に強く感じたものですから,申し上げた次第です。 ○中井委員 笹井関係官に確認をさせていただきたいんですけれども,先ほど潮見幹事の質問に対する答えに関するものです。注文者側に生じた事由として,具体的には注文者の支配領域で生じた事由の場合,履行した部分について報酬として請求できるという考え方が提案されているわけですけれども,仮に解除が認められたとした場合,それは損害賠償という形で構成して,結論としては同じ金額を取れなければおかしいですという趣旨の発言と聞こえたんです。   そこで確認ですが,注文者の支配領域で生じた事由が損害賠償の根拠になるということは,注文者側に生じた事由というのは注文者側に,従来の言葉で言えば,損害賠償の根拠となる帰責事由がある場面を想定しているのでしょうか。私がこれを読んだときにはそうではなくて注文者側に生じた事由の場面というのは,注文者側の支配領域で生じている帰責事由のない場面を想定していたんです。工場で物を作る,その工場が放火によって焼けてしまった,だから,もはや,請負工事の機械を作る作業ができなくなった。このような場面,少なくとも注文者側の事情で生じたときにはできた部分についての報酬は,せめて払ってあげないとかわいそうだと,こういう利益考慮かと思ったのですが,念のために確認をさせていただきます。 ○笹井関係官 潮見先生に対するお答えのところで,口が滑ったかもしれません。補足説明のどこかにも書いたと思うのですけれども部会資料46の5頁に記載された第1,2(2)のイの場合は,最終的に契約で合意された仕事が完成していないので,解除が問題になってくるわけですが,解除の範囲が制約されて既履行部分については解除できないという形で処理をするという方向もあるのではないかと思います。つまり,履行不能になったときにその原因によっては当然に一定の範囲の報酬請求権が発生するのではなく,解除が一部分に制約されて未履行部分だけは解除できる,しかし,既履行部分については解除ができなくて,その部分について具体的な報酬請求権が発生するという形での処理があり得るのではないかということです。潮見先生には先ほど損害賠償と申し上げましたが,以上のように訂正されていただきます。その可否,法律構成の是非についても,こちらで御審議いただければと思います。 ○高須幹事 一つ前の佐成委員の御指摘とも関連することですが,アの部分で約定の報酬額から債務を免れることによって得た利益の額を控除した報酬という,その概念をきちんと整理して,それはどういうことを指しているのか,よく分かるようにしようということだと思います。それは要するに恐らく代金額から掛かるコスト,経費を引いた,いわゆる利益が請求できるという意味だと私は理解しておるんですが,ただ,その場合に,今,佐成委員の指摘が重要だと思いましたのは,従来の考え方がここの部分に関して言えば,注文者の帰責事由がある場合には仕事を完成しなくても代金請求ができると,裁判の場合の普通の要件としては,契約をして完成が不能になったんだけれども,それが注文者の責めに帰すべき事由に基づく場合だ。これを一応,主張立証すれば代金請求権が維持されるというか,発生して,それに対して被告側,注文主側が債務を免れることによって利益を得ているではないかと,これは不当利得だというようなことを抗弁として出すというような手法だと理解しているのですが,結局,ここでも発想としてそれが入っているのではないかと思うんです。   ただ,そういうふうにもし切り分けていくと,いわゆる立証責任の問題が出てしまって,仕事をしなかったことによってどれくらいの利益を得たのかということを被告側に立証させるとなると,結構,それは大変なことだと思いますので,それは本来の仕事をしなかったけれども,これだけの利益が出たはずだということのトータルを請負人側に主張立証させるということも一つだと思います。そういう意味で,先ほどの佐成委員の発想だと,そういうことになじみやすいのではないかと思ったものですから,分科会の候補でもありますので,主張立証責任まで含めて,どのような表現ぶりにしたらよいのかということを検討すべかと思います。 ○中田委員 一つ前に戻って笹井さんの御説明の補足なんですけれども,委任については47ページ以下でかなり詳細に書いていただいていると思います。第1,2(2)アの義務違反の場合については,報酬なのか,損害賠償なのかという問題があって,それは現在の536条2項について危険負担の問題だとする立法例を採用したという経緯と,実質は債権者の協力義務違反による損害賠償の問題という理解とが,立法当初から今に至るまでずっと併存しているということに由来しているのだと思います。これについては,ここで法律構成についても議論せよということですけれども,それはもちろんしてもいいんですが,まず,中身についてどういう合意が得られるかということがより重要ではないかなと思います。もし,理論的な構成を検討するとなれば,今,申し上げた立法時のその前の段階での議論にまで遡って検討する必要があると思います。   これに対しまして,イの注文者側に生じた事由の場合については,危険負担なのか,解除なのかの問題がまずあって,それで,解除だとして一部解除なのか,また,そのときに報酬請求だけではなくて,わざわざ解除の意思表示をもう1本,挟まなければいけないのかという,そういう議論の問題だと思います。そう整理すれば先ほどの御意見については対応できるのではないか。結論的には笹井さんのおっしゃったことと同じだと思いますけれども。 ○岡委員 弁護士会の意見を踏まえて御紹介したいと思いますが,錯綜しているのでうまく言えるかどうか自信がないんですが,アとイとウについて反対意見のほうが多うございました,結論としては。ただ,反対の中にいろいろな意見があります。   まず,アについて申し上げますと,賛成の意見も一部有力に大阪弁護士会を中心にしてございますが,反対意見の私が理解したのは二つありまして,一つ目の反対は安永さんの意見に近いような従来どおりの責めに帰すべき事由一本で,ア,イのような区別はなくてよいと,現行法でよいという立場からの反対も有力にございました。   もう一つの反対意見としては,今,中田先生がおっしゃったような危険負担でなく,損害賠償でやるべきだという観点からの反対意見もございました。義務に違反して完成できなくなった場合なんだから,損害賠償の構成のほうがなじむのではないかと。義務に違反した場合に約定の報酬請求権が立ってしまうと,契約だけして,まだ,何もしていないときに,このような事態が生じた場合でも約定の報酬請求権が全部成立をし,出さなくて済んだコストを引いた逸失利益が全部請求できるようになるのには違和感があると。特に消費者系の先生のほうから,約定の報酬額が全部成立をし,あとはカットできたコストだとか,時間ができたからほかで仕事ができただろうというようなものを立証していくのはとても大変であると,また,実態にも合わないと。やはり,どんな損害が生じたかということで処理するほうが実態的に正しいんだと,そういう損害論,請求できる額のところについて,約定の報酬額を全部請求出きるという考え方に強い反対がございました。   それから,イについて,これも有力な単位会からは賛成であると。今まで0か100だったのが0,50,100という三分割の解決ができるのでよいのではないかという意見も強力にございましたが,これも反対説が二つ私の理解するところありました。この後に出てくる給付が可分であって,その可分なものを注文者にとって有益であればその部分は解除できないと,これは基本的には賛成が多うございますので,それを前提とするとイが生きてくるのは,給付が可分で残っていて注文者にいく場合ではない,注文者にいかない滅失している場合でも,履行割合に応じた報酬請求権を発生させる,そういう解決の枠組みになると思います。   それについて実態上,必要ないと,請負は完成させるのが原則で,完成させなかったら中途半端な請求はできない,ただし,可分で有益で注文者に渡す場合には認められる。その理屈だけでよくて,注文者側に生じた事由というのがあった場合は,注文者に可分な利益がいかなくても,一定の部分報酬請求権を認めるべき場合なんてないのではないかということで,反対する意見が有力にございました。   もう一つは,理屈としては利益が注文者にいかない場合でも,部分請求を認める場合があるのは分かるけれども,注文者側に生じた事由という言葉ではとても表現できない,分科会でよい表現が出てくれば別かもしれませんが,全く新たな概念で,なおかつ,先ほどのように部分利益が注文者にいかない場合という特殊な場合ですので,表現が難しいことから反対であると,そういう意見もございました。   まとめると,賛成意見も有力にあるし,536条2項の今までの法律構成でよいという意見もあるし,損害論の観点からの反対,あるいは実体上,部分給付が注文者にいかない場合は認めるべきではないという実体的な損害の観点から反対,三つに分かれておるというのが状況だろうと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○三浦関係官 1点,意見の紹介でございます。3ページの(1)の論点に関連してでございます。情報サービス関係の業界からの声で,目的物の「引渡し」と同時に報酬の支払義務が発生することに賛成したいということでございます。その心は,ソフトウエアシステムに関する取引では,目的物が無体物であるため,納品してから長期間経過した後で使用頻度の低い機能に関して不具合が判明する事例があるということでございまして,そのため,「全ての機能の確認が完了するまで,報酬支払義務が生じない。」という誤解が生じないようにしたいということでございまして,成果が契約に適合することをきちっと確認するということの意味合い,決め方ということに関連して,そのような心配の声が聞かれたという御紹介でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○佐成委員 先ほどは用語法の話だけをしたものですから,(2)のア,イ,ウについて若干中身の話を申し上げたいと思います。特にイですが,イについては「履行した割合に応じた報酬の額」となっていますが,この中に先ほど申し上げたとおり,通常,請負の場合には費用が含まれているということだとしますと,その部分に,もし支出する必要性のないものが含まれていた場合には,アと同様に控除するという考え方もあり得るのではないかということを一つ感じたところでございます。   それと,経済界の中で議論をしていた中で出てきた意見としては,「請負人側に生じた事由」という言葉は分かりにくいので,条文化に当たっては十分慎重にやっていただきたいということです。基本的に中身自体はよろしいかなというところであります。   それから,ウについては先ほども言ったとおり,概念整理をしていく中で,もしかしたら自然と解消されてしまうのではないかなという気がしております。 ○松本委員 この議論の最初のほうの段階で,一部解除の問題との関係が議論されたと思いますが,よく分からないので教えていただきたいのです。つまり,(2)というのが536条2項の展開,すなわち,危険負担の法理の展開ということであれば,雇用契約を中心にして発展しているところの危険領域説を雇用以外の役務提供型にも及ぼしてくるということで,一定,理解はできるわけですが,他方で,解除と危険負担はパラレルであって,義務違反があろうがなかろうが,相手方の債務の履行が不可能,つまり,完成が不可能になれば解除できるんだというロジックのほうを主として持ってくると,解除した後,報酬請求というのはどういう理屈でするんですか。   債務不履行解除で損害賠償なら分かるんですが,解除して,解除した側の債務は消えますが,相手方の債務は消えませんという,そういう解除を考えられているのかどうか。一部解除であれば,残部は解除されないで残っているのだから,解除されない分については報酬請求ができるということなんでしょうが,先ほど中井委員が笹井関係官に質問されたようなケースを考えると,請負人が途中まで仕事をした,しかし,請負人の責めに帰すべきではない事由であるが,請負人の危険領域内に起こった火事によって,当該工作の目的物が途中までできていたんだけれども,完全に滅失してしまったというような場合に,途中までした分の報酬支払請求には合理性があるのではないかということは,中井委員もおっしゃったわけです。これは,危険負担的な理屈でいけば説明可能だけれども,解除のほうでいくと説明できるんですか。   笹井関係官は,一部解除だというようなことを確かおっしゃったと思うのですが,途中までは完成していたんだけれども,今は物がないわけですよね。途中段階でも意味のあるものが残っていれば一部解除という理屈でいける。つまり,全部解除はできないんだということで説明できるんですが,現物が全く残っていない状況下で一部解除というのは何ですか。また全部解除して報酬が請求できるんですかという辺りはいかがですか。 ○笹井関係官 滅失して何も残っていないとしても,仕事が終わった部分までは解除できないという一部解除が考えられるのではないかと思っておりました。ただ,既履行部分は解除できないとしても,ここから直ちに具体的な報酬請求権が発生しないとも考えられますので,解除を制限する規定と合わせて,具体的な報酬請求権が発生するという根拠規定を設ける必要があるのではないかと思います。 ○松本委員 つまり,残存既履行部分に一定の意味がある場合というような限定はしないで,残存していなくても請負人が何かしたことの報酬は,一部解除という形で確保させましょうという御説明ですか。 ○笹井関係官 イの場合は,先ほど中田先生がおまとめ下さったように,報酬請求権という形で当然に発生することにするのか,一部解除という法律構成にするのかという問題はあると思いますけれども,実質としてはそういうことだと思います。 ○内田委員 ここは中井委員から非常に鋭い御指摘があって,松本委員が何か気持ちの悪さを感じておられるのだと思うのですが,それは私も共有しています。ですから,やや特殊な一部解除という構成もあり得るかもしれませんけれども,この場合も解除できないという規律を置く余地もあるのかなと思います。そして危険負担的な処理をする。ただ,解除の一般原則のところでは,そこまで部会では議論をしていなかったと思いますので,こういう問題が出てきたことを踏まえて,もう一度,検討してもいいのかなと思います。これは分科会で細かく議論するということになっていますので,どういう選択肢が最も適切かということについては,更に分科会で議論するという余地はあるのではないかと思います。 ○潮見幹事 方向的には内田委員がおっしゃったものでいいと思いますが,イについてもできればどういう結論になるにしても,解除権がどうなるのかということについて,明文の規定を置く方向で考えていただければと思います。   それから,アについてですが,私はアも問題ではないかと思いましたのは,先ほど岡委員の御発言にもありましたが,弁護士会の中で,損害賠償という形で対処すればよいのではないかという意見があるようです。アの場合に解除することができるのかと言われたら,弁護士会も,解除を認めるなどとは言いませんよね。この場合は解除できないということになると,契約関係が維持されて,報酬請求権というものが残るのかという問題が出てきますよね。ですので,このとき,仮に損害賠償という枠組みで考えたいということであれば,その両者の関係が一体,どうなるのか,536条2項について二通りの見方があるというのは,先ほど中田委員がおっしゃられたとおりだと思いますので,そんなことも含めて考えていただければと思います。 ○中井委員 イから申し上げますと,注文者側に生じた事由という提案の表現が悪いのかもしれませんけれども,従来で言う帰責事由のない場面,この提案でいうならば注意義務違反のない場面,つまり,注文者が基本的には損害賠償義務を負わない場面,更に言えば,危険負担の領域も含む場面を想定して,出来高部分については,完成が不可能になったから,本来的報酬請求権は発生しないけれども,出来高に応じて請負人に報酬相当額を認めようという基本的な考え方,これは新しい提案だと私は理解していますが,この点について共通の理解が得られているのかどうか,確認したいと思います。   その前提として,安永委員のお話を聞きまして,また,消費者関連委員会の話をいろいろと聞かされて,ある意味で正反対の局面からアプローチをしているという印象を強く持ちました。安永委員の御発言は,請負者側が個人,注文者側がいわゆる事業者,その場面を想定している。消費者関連委員会の方々からは,注文者側が個人で請負人側が事業者,典型的には住宅を作ってもらう,この場面での意見を聞いていますと,相反した考え方が出てきている。   そのときに,少なくともこれまで雇用契約の関係で形成されてきた法理,536条2項の債権者の責めに帰すべき事由が相当拡張的に理解されている。ある意味で危険領域的なものを含めて理解しているという考え方を,請負一般に適用してしまうことについては危惧を覚えます。ただ,安永委員のおっしゃっていることについては共感を覚えるとすれば,請負契約だけれども,雇用契約類似のものについては雇用契約で形成されてきた法理を適用していくべきではないか。その限りで安永委員の考え方には共感するのですが,それを請負一般の規定に持ち込むと,請負の中には様々な注文者と事業者の力関係がありますから,その基本的なルールとしてよいのか,お聞きしている限りでは疑問があると。消費者関連委員会からはそこに疑問を持って主張されるのではないか,こういう印象を持ちました。   アについて確認したいことは,協力義務その他の義務違反という義務違反構成を採っていますけれども,従来の帰責事由の曖昧さを明確にしたものだと理解すれば,労働契約法分野ではない通常の分野で形成されてきた帰責事由を分かりやすく言い換えたものと理解するならば,その定義の仕方,要件立ての問題に尽きるのかと。何となれば,イは帰責事由のない危険負担の領域の問題ですから,その領域以外の注文者側に何らかの責任のある場面ということが想定されますので,何らかの責任があるというのを帰責事由というか,義務違反というか,こういう問題と理解しました。そういうことで,アは要件立てが今のような理解で進んでいいのかどうかというコンセンサスが取れるのかどうか,というところかと思います。   その上で,その要件が認められたときの効果が問題で,ここに書かれている,当初,合意された約定の報酬額が当然に損害になるということについては,相当な危惧を持ちます。これは請負の問題が,委任の問題に,委任の問題がサービス提供契約に同じように適用されていくとすれば,サービス提供契約で,2年と契約を定めて1か月で契約を打ち切ったときに,任意解除権を認めた場合でも同じだと思いますけれども,将来の約定報酬がそのまま損害だという考え方につながるとすれば,かなり危険ではないかと思います。   少なくとも出来高部分については報酬があるかもしれませんけれども,それを超える部分については損害賠償で説明するのもあり得るのではないか。約定報酬をそのまま損害として,そこから控除するとなり控除するものの主張立証責任を考えると請負人ではない相手方,注文者がそれを立証することは極めて困難を強いられます。結局は約定報酬全額を払わなければならないような事態になるとすれば,それはかなり問題ではないかと思いますので,この効果論についてもなお慎重に検討していただきたいと思います。 ○鎌田部会長 御指摘いただいたような点は大変重要だと思いますので,それらも含めて大変重たい課題になりますけれども,分科会で検討していただくということにしたいと思います。 ○中田委員 (1)のほうですけれども,2点ございます。   1点は(2)とも関係するのですが,見出しが「報酬の支払時期」となっていることについてです。これは現行法もそうなんですけれども,支払時期と書くと報酬請求権が発生していて,その履行期であるという印象を与えるのではないかと思います。それに対して,そもそも具体的な報酬請求権がいつ発生するのかという問題があって,これは先ほど潮見幹事がおっしゃった,解除しない場合に報酬請求権は残るんですねとおっしゃったこととも関係するんですが,まだ仕事を完成していない段階で,果たして報酬請求権がどのようなものとして観念できるのか,あるいは現行の536条1項について,そもそも適用があるのかどうかという問題もあると思います。ですので,支払時期という表現について,なお,検討の余地があるがあるのかなと感じております。これは後に委任のところでも同じ問題が出てくると思います。   もう1点は,先ほど三浦関係官から御指摘のありました,意思的要素を含む受領か,受取かという議論についてでございます。中間論点整理のところでは,両方の考え方があるということで,今回は意思的要素を含まない受取を基準にするということだろうと理解しておりますが,5ページに書いてくださっていますけれども,売買の場合でも受領に意思的要素を含ませるべきだという議論がありますが,請負の場合には更にその要素が強いのではないかとも思います。実務でも工事などでは検収などによって,契約適合性を確認した後で代金を支払うという例が多いのではないかと思います。   それに対して先ほど三浦関係官から御指摘のありました,ソフトウエアなんかの場合だと,後で分かるから余り厳格なことをされると困るというのも分かるんですが,それは最初に求められる確認のレベルの問題として解決できるのではないかと思います。これは理論的な対立のあるところですが,それだけではなくて,実務や社会一般の感覚ということも非常に大きな意味を持っているかと思いますので,売買と請負とを同じデフォルトルールにするのか,両者を違えるのかということも含めて,できれば,何らかの形で中間試案の段階で意見を出していただけるような工夫ができればなと思います。 ○内田委員 個人的な見解ですが,請負の場合,特に建設請負は検査をした後で引き渡しますので,報酬支払時期を引渡時とすることで実務的には恐らく問題はないであろうと考えています。中田委員は,そうでないルールをここで置くべきである,つまり,意思的要素のある受領,履行として認容するということを報酬支払の要件にすべきであるということを,積極的に主張されるということでしょうか。私は,それは実務的にもつのかなという気がします。こういうことをあえて申し上げますのは,余りに多くのことを中間試案の選択肢に送るのではなくて,できれば,そろそろ部会の中である程度,方向性を出していかないと,まとまらないと思うからなのですが,そういう趣旨で,強く推されるのかどうか,もう少し実質的な議論ができればと思います。 ○中田委員 5ページの上のほうにありますけれども,意思的な要素を含む意味での受領を求めるという考え方もあるわけでして,ただ,それが実務でもたないというのであれば,そこは重視すべきだろうと思います。もっとも,今の建設請負の場合についても,一体,何を受領と見るのかということとも関係してくるのではないかと思います。先ほども申し上げたことですが,売買の場合と,それから,実際に注文して作ってもらったもの,あるいは注文して仕事をしてもらった成果が注文に合っているかどうかを確認するのと,レベルの違いがあるのではないかと思いますので,私は請負の場合には意思的要素を含むところの受領というのは,あり得る選択ではないかなと思っております。ただ,もし,何でもかんでも中間試案で出すというのが煩瑣にすぎるというのであれば,更にここで議論していただいてということでも結構です。 ○内田委員 煩瑣だというのではなく,中間試案にまで対立が残ると,多分,改正内容としては落ちる可能性が高くなると思いますので,重要な点についてはある程度,方向性を出さないと,論点として残っていかないだろうという懸念です。それから,請負の場合に物理的な引渡しをした後で検査をして,意思的な受領をするということが本当にどれだけあるのか。通常は,物理的な引渡しの前に検査をして,それで,これでいいですということで引渡しが行われる,少なくとも標準約款はそうなっていますので,そうであれば引渡しの時ということで問題はないのではないかと考えたということです。 ○中田委員 今の例ですと引渡しの前に意思的な要素といいますか,適合性の判断があるのだから,引渡し自体には意思的要素はないんだと,そういう整理だと思うんですけれども,それを一体として見るときに,引渡しをするまでの間に何らかの形で検収があるんだというようにもとれるわけでして,そうすると,そこを分離してしまって足りるのだろうかということが気にはなります。 ○鎌田部会長 逆に,物理的な引渡しを受けた後に検収をするタイプのものは検収が終了するまで代金の支払いは留保してよろしいという原則になるということですか。 ○中田委員 デフォルトルールとしては,そのほうが適切である可能性があるということです。ただ,実際に社会においてどうかということは,私は十分認識できませんので,そこは聞いてみたいなと思ったということです。 ○佐成委員 御参考というほどではないのですけれども,「検収」という言葉も,業界の種類や規模によって使われ方がちょっとずつ違うということを申し上げたいと思います。つまり,一口に「検収」と言いましても,意味しているところが業界の種類や規模によって違いまして,今,ここの部会での議論でも,「検収」の中に「検査」を含んでいるとの前提で判断されている方もいらっしゃいますし,大手の建設業界などではそういう認識の方が多いのですけれども,建設業界全体がそうであるかと言えば,必ずしもそうではないのです。つまり,中小の建設業界などでは,「検収」というのは単に支払手続のみを指すということになりまして,引渡し前に検査をして,その上で引渡しを受けて検収するという場合の「検収」は,実際には「支払手続に移る」という程度の用語として使っているようです。このように,実務上の用語として「検収」という言葉は非常に多義的に使われておりますことに御注意いただきたいと思います。ただ,業界の種類や規模によっても「検収」の意味するところは違うのですが,引渡し前に検査があるかないかということだけで言えば,恐らく引渡しの前に検査があるというのが通常のことだろうとは思います。   もちろん引渡し後に検査する場合もあります。例えば,実際に現実に引渡しを受けてからでないと,あるいは,事実上,物を受け取らないと検査できないという場合はありますけれども,普通は引渡しという行為,観念的な引渡しになるんでしょうか,その前に検査をしてというのが通常の実務ではないかと思います。しかし,立法論上の用語として「検収」という言葉を使うと非常に混乱が生じるおそれがありますので,気を付けたほうがよいのではないかという気がします。 ○鎌田部会長 私も内田委員がおっしゃられたように,なるべく,こういう基本的なところは一本の案にまとめたいと思っていますが,これと別案を提示するというときの別案の中身が今一つ明確になってこないと,事務当局としても対応が難しいところがあるので,何か具体的な案を出していただいて,ほかの方のサポートがあれば,それを踏まえて提案内容にしていかざるを得ないと思うんですけれども,中田委員,何か具体的にこうしたらという御提案がありますか。あるいは,受領の中身の解釈の問題ですと,そういうことなのか,その点は。 ○中田委員 633条を改訂して,「報酬は,仕事の目的物を受領するのと同時に,支払わなければならない。」とするという立法提案があります。その立法提案にもそれ相応の合理的な理由があるのではないかと思っております。ただ,それについて実務でおよそもたないという意見ばかりであって,サポートがなければしようがないと思いますけれども,私としては実社会の状況をお聞きしてみたいということでございます。 ○山本(敬)幹事 その件については第一読会のときにも議論をして,私自身,報酬の支払請求に対して目的物の引渡しと引換えでないと支払わないという紛争において,引換給付判決が出たときに,受領だと手続的にどのようにそれを実現するのかがよく分からないという問題提起をした記憶があります。その点については,今の中田委員のお考えですと,具体的にどうなるのか,お聞かせいただきたいのですが,いかがでしょうか。 ○中田委員 それは執行開始の要件として何を求めるかという制度の組み方の問題でありまして,実際に一体どこまで,何をするかというのは,今,具体的な内容を申し上げることはできませんけれども,執行開始の要件として何を求めるかというところから,詰めていけばよいのではないかなと方向としては思っております。 ○山本(敬)幹事 少なくとも現在の取扱いとは少し違ってくるだろうという御趣旨ですか,それとも,実際には変わらないということなのでしょうか。 ○中田委員 受領の内容として何を求めるかということと関係してくるとは思いますけれども,ですから,今は断定はできませんけれども,それほど実務に支障のあるようなことにならないという工夫はできるのではないかと思っておりますが。 ○鎌田部会長 分かりました。では,その点をどのように組み込めるか,少し事務当局で検討させていただきます。 ○高須幹事 終わりかけに申し訳ありません。すごく,重要でかつ難しい議論をしている中で,こんな初歩的な議論で申し訳ないんですが,仮に受領ということを報酬支払時期にすることの困難さがあって,引渡しという分かりやすいところで結論を出さざるを得ないのではないかというような方向になる場合にも,今日の御指摘の中に出ていたように,検収というか,検査というか,用語はきちんとしなければなりませんが,要するに瑕疵がないかどうかを確認させろと,この機会を保障するということ自体は,代金支払との兼ね合いでは重要なポイントになるのではないかと思います。   今,引渡しを受けた上で,それを行うから,そこで受領が後にくるんだみたいな発想で議論しているわけですけれども,場合によっては,建築請負のケースでは事前にそういう確認は立ち会って行っていますね,引渡しの前にむしろ確認していますねというようなことを考えたときに,仮に引渡しを基準とする場合でも,注文者が希望すれば事前に内容を検査できるみたいな,つまり,引渡しをまだ受けない段階で一定の内容を検査できるみたいな規定を設けることによって,引渡しの時期を報酬支払時期とすることについての一種の弊害をある程度は回避できるのではないか。   その点を全く抜きにして,ただ,同時履行ですと言ってしまうと,何か検査もさせないで,ともかく引き渡して金をよこせと,後のことは後のことだみたいに開き直る,普通の常識を持っている人はそんなことはしませんけれども,極端なケースに対して何ら条文を手当てしていないというのもどうかと思いますので,そのような救済規定というか,検査をし得る余地を残すみたいなことをセットにすることはあり得るのではないか。そうした上での引渡しということでもあり得るのではないかと思いました。初歩的な議論ではございますが。 ○松本委員 中田委員の3ページの2の(1)の「報酬の支払時期」について,目的物の引渡しではなくて受領という主観的な債務の履行として認容して受領する的なものを入れて,それと代金支払をバーターにするというのは,それはそれでよく分かるわけですが,そうすると,1ページのほうの1のイの注文者は仕事の目的物を受領する義務を負うという,こちらも受領にされるのか,それともこちらは意思的要素のないところの受け取るということなのかと。つまり,3ページの引渡しというのは,1ページのイの受け取るをどちらから見ているかというだけの物理的な動作を指していると私は理解をしているわけですが,3ページのほうを意思的要素のある受領に変えると,1ページのイはどうなるんでしょうかという質問なんです。 ○中田委員 先ほど概念の整理と,個々の場面での検討と,両方が必要だということを申し上げたことと関係いたします。1ページの1のイの受領ないし受取義務については,どのような効果と結び付けるのかということと関係してくるのではないかと思います。先ほどこれについては間接義務のようなものだということを申し上げて,松本委員もそれは理解できるとおっしゃってくださったんですけれども,果たして何らかの義務を認めたとして,それを何と結び付けるのかによって変わってくるのではないかと思います。そこを詰めていかないで,あらかじめ意思的要素は含まないんだと決めてしまって,全部,それでいくと,かえって不適当になるのではないかということです。 ○松本委員 私が聞きたいのは,意思的要素も入れて最終的には受領することに普通はなると思うんですが,そこまでいかなくても,取りあえずは受け取る義務を負わせるべきシチュエーションがあるという前提の下に,1のイという提案が出ているのではないかと私は背景を推測しているわけなので,そこで,更に意思的要素も入れて解釈するということは,意思的要素抜きの引取義務的なものは認める必要はないという御提案になるのかということです。それはそれで,また,分かりやすい説明なんですが。 ○中田委員 意思的要素を含まない受取義務というのを認めたとして,その効果は何かということだと思うんです。松本委員は,それについては分かりやすいとおっしゃいましたけれども,何と結び付けるというお考えでしょうか。 ○松本委員 例えば損害賠償ではないでしょうか。物理的に受け取らない,保管を引き受けないということによる損害賠償義務を認めるべきシチュエーションがあるから,こういう規定を置きましょうという提案が出てきているんだと理解をしているんですが,もしそういう必要がないのであれば,置く必要はないということになります。先ほどの一旦,受け取った上で検査をするという必要のある場合は,検査する前提として受け取らなければならないはずです。あるいはシステム開発の例が前から出ていますけれども,システム開発の場合は恐らく実際に注文先の企業でそれを動かしながら,また少しずつ補修を入れながら完成させていくというようなプロセスが入ると聞いていますから,それはある意味では物理的に受け入れた上で,検収プロセスを経ているということになるかと思います。 ○中田委員 受け取る義務というものを想定した規定を置くことに,別に反対しているわけではないんですけれども,ただ,今,損害賠償のことをおっしゃったり,あるいはシステム開発の場合についてもおっしゃったわけですし,また,今,出てきました代金の問題ですとか,あるいは瑕疵があったときにどうなるかとか,いろいろな問題が出てくると思うんですね。それを今の段階で一律に意思的要素を排除してしまうというのは,適当ではないのではないかということなんですけれども,逆に言うと,個別について詰めていった上で,かつ効果も詰めていった上で,最終的に決めれば足りるのではないかということですが。 ○松本委員 私と中田委員とで意見が対立しているようにも思えないんですが,よく分からないのは1のイのところで,ここの文言の中に意思的要素も入った受領義務を負うという旨だけの規定を設けることを提案されているのかということです。つまり,意思的要素が入るほうがより高次なわけです。ここの提案は私がしているわけではないのですが,意思的要素を抜いた受取という義務を明文化して,それに違反した場合の一定のサンクションを法律上,考えようという提案を誰かがしているわけなんですよね。   そういう提案をされている人の考え方の背景には,意思的要素は取りあえず置いておいて物理的な意味で受け取らないことが,信義則上,許されないシチュエーションがあるのではないかという想定に下にこの規定が置かれているわけなので,それを認めるということと,意思的要素も含んだ受領義務を規定すべきだということは別に矛盾はしないと思います。私がこういう義務を規定することに積極的に賛成して,そういうことを言っているわけではなくて,単なる論理的な整理として言っているだけですが。 ○鎌田部会長 1も2も更に検討しなければいけないポイントは,いろいろと御指摘いただいたところですけれども,今の御指摘は1のイで言う受領義務あるいは受取義務と,2の(1)での報酬の支払時期とされる引渡しの時期とが,同じものでないとおかしいという趣旨を含む御意見ですね。 ○松本委員 もし,受領という言葉を使うのであれば,条文ごとに意味が違うというのは大変まずいということです。1ページの1のイで受け取るという表現を使っている場合と,2ページの(1)で引渡しという表現を使っている場合は,どちらも物理的な形態に着目しているから,ここは一貫していると思いますが。 ○鎌田部会長 その辺も含めて事務当局で検討させていただきます。  ここで,休憩を取らせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開いたします。   「3 完成した建物の所有権の帰属」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「3 完成した建物の所有権の帰属」では,建物建築請負において請負人が完成した建物の所有権が注文者又は請負人のいずれに帰属するかという問題について,二つの考え方を取り上げています。甲案は,判例に従って,完成した建物の所有権は原則として材料の提供者に原始的に帰属するという明文の規定を設ける考え方であり,乙案は,物権に関する規定との関係をどのように整理するか,仕事完成前の建物の所有権の帰属や仕事の目的物が動産である場合の所有権の帰属についてどのように扱うかなど,困難な問題があることから規定を設けないという考え方です。 ○鎌田部会長 ただいま説明いただきました部分について御自由に御発言をください。 ○松岡委員 完成した建物の所有権の帰属について,規定を設けたほうがよいのではないかというのは,第1ラウンドで私が発言した記憶があります。極めて重要な問題であって,今回の民法の改正の趣旨からすると,何らかのルールを明確に示したほうがよいと考えたからです。ただ,判例のいわゆる材料主義をそのまま規定にする甲案には重大な疑念がありますので,賛成しかねます。   幾つか理由があります。途中の補足説明にもありますように,確かに判例は一貫していわゆる材料主義により所有権の帰属を決めていますが,近時,通説とまでは言えないかもしれませんが,多数の学説は,仮に請負人に完成した建物の所有権が帰属しても,他人の土地の上にありますから利用権もなく,競売しても売れず,担保としての実質的な意味もほとんどないと指摘しています。そして,建物建築請負契約の趣旨からすると,当事者は注文者に完成建物の所有権を帰属させる意思であると考えるほうが自然でしょう。また,代金の支払いによって所有権が移転するというのも当事者の意思によって解決できます。どちらを原則的な規律と考えるかというと,注文者に原始的に帰属するとしたほうがよいと思います。   補足説明の途中には,判例を支持する根拠として,現在,判例が確固たるものとしてあり,規律を変えると判例を前提にしている実務が混乱するという御指摘があります。この点は私も気になっておりまして,ヒアリングの際に不動産業界の方がおいでになった際に,どなたにもしつこいぐらい同じ質問をさせていただきました。請負人帰属説には問題があるという批判があるところ,それに対して,現在,実務上,請負人に所有権が帰属するとすることで請負代金債権が確固として担保されるとお考えになっているとすれば,その理由は何ですかとお尋ねをしたわけです。   しかしながら,業界の代表者としてお越しになっていた方々のいずれからも明確な御回答はなく,むしろ,積極的にはそういう理由を申し上げることはできないという趣旨の御発言もあったと記憶しております。そうすると,実は実務でも判例の請負人帰属説を頼りにはしていないと言わざるを得ません。補足説明に書かれている請負代金債権の担保の問題は,確かに,別途検討する必要があるとは思いますが,だからといって,特に建物建設請負工事に関して実際に紛争も多いのに,規定をまったく設けないというのはどうかと思います。提案にはありませんが,むしろ,割り切って,当事者の意思次第であるが,何も決めていなければ注文者に原始的に帰属するという規律にしたほうが,すっきり明確になってよいのではないか考える次第です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○山野目幹事 中間的な論点整理のこの論点を議論する際にも,発言したのは,松岡委員と私でございまして,同じ図柄になって恐縮ですけれども,私からも意見を述べさせていただきます。私の結論といたしましては乙案を推したいと考えます。   2点ほど申し上げさせていただきますけれども,新築建物の所有権の帰属という,この論点が持っているやや特殊な意味について指摘させていただきたいと考えます。所有権の帰属という極めてプリンシプルに関わる問題であるような印象を与えますけれども,実は,実務が基盤にしていると一般に言われている請負人帰属説なるものについても,別に請負人の名前で所有権の保存の登記をさせようというふうなことを積極的に考えるような解決が念頭に置かれているのではなくて,引渡しと引換えに代金支払があるまでは,注文者を名義人とする所有権の保存の登記はさせないぞ,という帰結を導く過程で,この所有権の帰属ということが問題になっているという,かなり特殊な様相を伴った所有権の帰属問題でありまして,こういうものについてふさわしい立法上の規律の在り方というものを議論するのに,論議が熟していないと考えます。加えて,これをどうしても債権関係の規定の見直しの中で処さなければいけないのかということについても,私は直ちにその必要があるという実感を抱くことができません。   それから,もう1点は,これも中間的な論点整理の際に申し上げさせていただきましたけれども,先取特権法との関係がございまして,不動産工事の先取特権に関する現行の規律は,はっきりは言っていないものの,注文者に原始的に帰属するという法的構成が暗黙に前提とされているという理解を強く示唆するものになっていると感じます。そちらのほうとの関係を整理しないまま,ここで何らかの中途半端なものになりかねない立法上の規律を入れるということについて疑問を感じます。実務上は不動産工事の先取特権はほとんど使われていませんから,そんなものは無視してもよいという御意見もあるかもしれませんが,立法を考えるときには,そのような既存立法の規律との整合性というものは,考え込まなければいけない問題であろうと感じますから,それら二つのことを考えますと,乙案で処することが適当であると感じます。 ○松岡委員 補足としてだけ発言させていただきます。先ほどは甲案には反対であり,もし規定を作るとすれば逆に注文者原始的帰属説で書くべきだと申し上げましたが,私の申し上げているのは二段構えでありまして,注文者原始的帰属説に賛成が得られないようであれば,むしろ,規定は設けないのが次善の策として仕方ないと思い,二次的には乙案に賛成と申し上げておきたいと思います。 ○鎌田部会長 できることなら,注文者原始取得説の提案をということになろうかと思います。注文者原始取得説の規定なら,先取特権でも矛盾はしないということになると思いますが,甲案を積極的に支持するという御意見はありますか。考え方としてというよりも,むしろ,そういう規定を設けるべきだという点を含めてですが,これまでの議論の中で甲案的な規定を設けるべきであるという御意見は,余り積極的には出てきていないと思いますので。 ○岡委員 弁護士会ですが,甲案支持も少数ではありますが,相応にございました。ただ,多数は乙案でございます。議論している中で,注文者帰属説の話も出ましたけれども,何か感覚的に合わないという声が出ておりました。多数説は乙案でございました。 ○鎌田部会長 なお議論は続くということになるのかもしれませんけれども,ここは乙案でいくというのが多数,ただし,注文者原始取得説の提案も可能性としてはなお検討しろと,こういう有力な御意見もあったというふうなことで処理させていただいてよろしいでしょうか。   先ほどの2については分科会で補充的に検討するということについて,改めて確認をし忘れたかもしれませんけれども,その点はよろしいですね。2の論点については,たくさん頂戴した御意見を踏まえて分科会で議論する。3については乙案が大勢であるということで4に移らせていただきます。「4 瑕疵担保責任」のうち……。 ○中田委員 先ほど2について分科会にとおっしゃいましたけれども,2の(2)でございますでしょうか。 ○鎌田部会長 失礼しました。2の(2)について分科会で補充的な検討をするということでございました。 ○松岡委員 今の整理について確認させていただきたいところがあります。先ほど,数人の委員の間で激しくやり取りがあり,2の(1)の問題も(2)の問題と,言わば不即不離の関係にあるという御意見もあったところであります。(2)の問題だけ切り離して分科会で議論し,(1)はおよそ分科会では扱わないということでよろしいのでしょうか。 ○鎌田部会長 2の(1)それ自体について余り意見の対立はなくて,むしろ,2の(1)を論ずるときに1のイとの関連で受領遅滞,引取遅滞の関係は,あるいは用語の整理というふうなことは意識して議論しなければいけないという,そういうつながりだったと思うんですが,そこの部分は事務当局のほうで関連する部分も含めて整理をさせていただくということで,引き取らせていただければと思っております。   それでは,「4 瑕疵担保責任」のうちのまず「(1)瑕疵修補請求権の限界」から「(4)報酬減額請求権の要否」までについて御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「4 瑕疵担保責任」の「(1)瑕疵修補請求権の限界」は,仕事の目的物に瑕疵があった場合の注文者の瑕疵修補請求権について,履行請求権一般の限界事由や売買目的物について瑕疵があった場合の売主の修補請求権と同様の限界事由を定めることを提案するものです。   「(2)瑕疵を理由とする催告解除」では,仕事の目的物に瑕疵があった場合の注文者の解除権と解除の一般原則との関係を扱うものです。両者の関係については,解除の一般原則に加えて重畳的に適用される特則を設けるという考え方,解除の一般原則を排除して注文者の解除に関する規定を請負の箇所に全て規定するという考え方,注文者の解除権について特別の規定を設けず,解除の一般原則に委ねるという考え方があり得ます。この点については,解除の一般原則を踏まえて特則を設けるかどうかの必要性を判断することになると考えられますので,この点に留意して御審議いただければと思います。   「(3)土地の工作物を目的とする請負の解除(民法第635条ただし書)」では,仕事の目的物が土地の工作物である場合の解除の制限を扱っています。民法第635条ただし書によれば,仕事の目的物が土地の工作物である場合には,注文者が契約目的を達することができない場合であっても契約を解除することはできませんが,これは注文者にとって酷な結果になる場合があるとも考えられることから,本文では解除の制限を削除することを提案しています。   「(4)報酬減額請求権の要否」では,仕事の目的物に瑕疵があった場合に,注文者の救済手段として報酬減額請求権を認めるという考え方の当否を問うものです。売買契約についても同様の考え方がありますが,仮に売買の目的物に瑕疵があった場合に,買主に代金減額請求権を認めるとしても,請負契約においては報酬が必ずしも物の交換価値に一致するとは限られないことなどから,注文者の報酬減額請求権を認める必要はないとの指摘もありますので,このような指摘も踏まえて御議論いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いいたします。 ○潮見幹事 意見というより,私がこれから申し上げる補足説明の読み方が正しいかどうかの確認です。「(2)瑕疵を理由とする催告解除」の部分ですけれども,ここでおっしゃっておられる解除の一般原則ということですが,細部は別とすると,ここには二つのことが前提としてあって,一つは催告解除と無催告解除の二本立てにするということと,もう一つは無催告解除の場合には表現はともかく,契約目的達成不能のようなものを想定しているということであるという理解でよいのですよね。   その上で,丙案ですが,解除の一般原則がどうなるかによって,ここも自動的に決まり,ここには特別の規定は要しないというものでしょうか。例えば,解除の一般原則のところで,不完全履行の場合に例えば契約目的達成不能の場合には催告解除を認めないということなら,これでいく。これが丙案でしょうか。   次に,乙案ですが,この案では一般法理による解除は適用を排除して,ここで固有の規定を設けるという案ですよね。その固有の規定の意味なんですが,二つ,お尋ねしたいことがあります。一つは,催告解除というものを乙案の場合に認めるという趣旨が入っているのかどうかです。もう一つは,無催告解除について解除の一般原則を適用した場合には,無催告解除の要件は満たすところ,請負の場合には解除を広く認めて原状回復をさせることは社会経済的に損失だから,無催告解除の要件を厳格にするという趣旨が入っているのかどうかです。催告解除というのは想定されていないのではないかとは思うのですが,無催告解除について,乙案では何をイメージしているのでしょうか。   それから,甲案も,よく分からないのです。「一般的な要件による解除に加え」ですから,一般的な解除要件,解除ルールというものに該当すれば,それによる解除は認めるわけですよね。それに加え,固有の,より厳格な要件による解除権を認めると言うが,ここで一体,何を想定されているのかというのが分からないのです。しかも,解除の一般的な要件が妥当することであれば,緩やかな一般的な要件によって解除することができるということでしたら,より厳格な固有の解除要件を認めたからといって,一体,そこにどんな意味があるのだろうと思います。横出しで何かを考えておられるのか。でも,横出しの場合に果たしてそれが契約目的達成不能を理由とする解除とどこが違ってくるのかというのが,幾つか考えてもよく分かりません。個人的な意見としては,私は丙案でよいと思っています。 ○笹井関係官 ここの甲案,乙案として何かこういうものを作ろうという具体的な考え方があるわけではありません。まだ解除の一般的な原則がどうなるのかについてが必ずしも議論が収束していないと思いますので,一般原則の内容によっては何か請負のところで規定を設ける必要があるのではないかと考え,幾つかの選択肢を示したということです。仕事の目的物に瑕疵があった場合の解除には,私が理解しているところでは,催告解除と無催告解除があり,修補の余地がないなど催告をしても意味がない場合には無催告解除が認められるということにそれほど異論はないのかなと思っております。   ただ,解除の一般原則がどうなるのかというところですが,今の民法には無催告解除について一般的な規定がありませんので,仮に今後もそういう形が維持され,解除の一般的な原則のところで無催告解除の規定が設けられないということになると,請負のところには無催告解除に関する規定を設けておく必要があると思います。甲案でイメージしているのはそういうようなことです。つまり,一般原則の方に無催告解除がないので,請負のところで瑕疵の程度が大きい場合などについての無催告解除の規定を設けておくというような場合を甲案として想定しているということです。 ○潮見幹事 そうであれば,むしろ,整理の仕方としたら一般的な解除要件と考えているのはこういうものであってと,甲案の場合にはこうなるという整理の仕方のほうがよいのではないでしょうか。もっと言うと,そうであるならば,今日の段階で甲案がよいか,乙案がよいか,丙案がよいかということについて,意見を表明することにどれほどの意味があるのかということについて,私は疑問を感じます。 ○鎌田部会長 甲案・乙案の具体的な内容が未定であるということだと,結論は出せないということになると思います。ただ,中間的論点整理の説明を見ていくと,逆に現行635条みたいなのがある意味では甲案とか乙案に近いんですか。つまり,現行635条は解除の一般的な要件よりもより厳格な要件であって,こういう場合にしか解除させないという,こういう規定である。それに対して中間的論点整理の囲みのところでは,催告解除の規定を設けるべきである,契約目的を達することができない場合でも解除できるようにしてやろうということで,もう少し現行法を緩めるというのがあって,最終的には解除の一般要件に従属させるという,そういう意味で徐々に現行法を出発点にするとだんだん緩めていくという提案が,こういう順番で並んでいるのかなと僕は見たんですけれども。 ○潮見幹事 私も鎌田部会長がおっしゃるのだったら,意味は分かります。ただ,補足説明の2の「解除の一般的な要件についての改正の方向に留意する必要がある」というところで書かれている内容は,先ほど私が解除の一般原則はこういうものですと申し上げたような内容が書かれていて,二本立て構成が前提になっていたものですから,甲,乙,丙という整理をした上で,更にそれぞれの案で何を考えているのかというのが少し見えにくかったということです。 ○鎌田部会長 分かりました。おっしゃることはもっともですけれども,ただ,中間試案に至る段階では,解除の一般原則とこことの関係をもうちょっと客観的に明確になるようにしていかなければいけないので,そこは事務当局のほうで引き取らせていただいて,工夫をさせていただければと思います。 ○中井委員 弁護士会の意見は,甲案の中身がよく理解できなかったこともありますが,ばらばらに分かれています。私は,補修が可能であるときに,補修をしろと催告しているにもかかわらず,補修をしない,その場合に解除を認めるかどうかについては積極に解すべきではないかと思っております。635条の契約をした目的を達することができないとき,これが無催告解除類型を認めたときの要件に当たるとすれば,これは残るという考え方でいいのではないか。現行よりも解除できる場合が広がる。その結論は,催告解除ができ,催告をしても意味がない場合,それは契約目的を達することができない場合も,その要件を充足すると思いますが,無催告解除ができる,その二つの制度があるとすれば,その一般原則が適用される,結論としては丙案でいいのではないか。こういう考え方を支持しております。 ○鎌田部会長 結論的には,今,お二人とも個人的には丙案が妥当という,こういう御意見でしたけれども,ほかの御意見があればお伺いしておきます。よろしいですか。   それでは,丙案支持の有力な御意見があったということを踏まえて……。 ○沖野幹事 問題の整理だけのことなのですけれども,(2)の「瑕疵を理由とする催告解除」というテーマ自体が現行法の635条は基本的に維持した上で,その上で甲案というのは,それとは別に契約目的が達成できないというようなときに,催告解除という形で一般則に従った解除を認めるという考え方で,乙案というのは635条のみに限定し,認めないという考え方であり,そうとしますと丙案は635条を削除するという考え方だと理解しております。そして,丙案がここで賛同を得たと。その賛同を得るならば,例えば(3)の問題などは飛んでしまうという,そういう問題だと理解したんですけれどもそのように理解してよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 大変適切に整理をしていただいたと思います。そういうことでよろしいですね。   今,(3)についても言及がありましたけれども,635条ただし書は削除するものとしてはどうかという,あるいは丙案を採れば635条自体の削除ということになると思うんですけれども,少なくとも甲,乙,丙のどこにいこうと,(3)の635条ただし書の特別な取扱いは不要という提案について御意見がありましたらお出しください。 ○岡委員 (2)について弁護士会は丙案のほうが相対多数ではありましたが,635条を削除するというところまで含めた賛成かどうかは,よく分からないところがあると思います。解除の一般原則に委ねるという解除の一般原則のイメージが多分,弁護士会の多数が持っているイメージとこの部会が目指しているところと,ひょっとしたら違うかも分かりませんので,(2)について丙案が多いんですが,解除の一般原則の理解の違いがあるかもしれないということだけは,少しコメントさせていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○岡委員 それとは別個に(3)については,土地建物の解除できないというのは削除が賛成が圧倒的に多うございました。(1)についても反対が多少ありましたけれども,「瑕疵が重要でない場合」を削除し,一般原則に従って柔軟に再構成するという方向性については賛成が多数です。ただ,過分な費用という言葉が良いのか悪いのか,これについては両論がございました。(4)も今やっているんですよね。 ○鎌田部会長 (4)まで入っています。 ○岡委員 (4)の報酬減額請求権についても賛成が圧倒的に多くはございました。ただ,売買のときにも議論したように,損害賠償の免責要件がある場合の代金減額請求権という特化したものとすれば賛成だけれども,損害賠償請求権もできるし,減額請求権もできると,そういう場合に広げて考えると少し混乱するのではないかという,個人的な意見を持っております。   その上で損害賠償ができないときでも減額請求権が行使できる。理論的にはすばらしいと思うんですけれども,実際,そんなことをやれる例があるのか,部会資料に書いてある,設けなくていいという反対説,個人的にはそちらのほうを支持しておりまして,損害賠償ができないときでも等価給付の原理によって一方的に減額請求できるのが請負にまで出てき,サービス役務提供契約にも広がっていくとなると,何かかなり司法介入主義というか,おせっかいな立法になるのではないかと個人的には思っております。 ○鎌田部会長 ほかに(1)から(4)までについて。 ○深山幹事 私も(4)の報酬減額請求権のところについて,消極的に考えております。弁護士会の意向とは違う個人的な感覚なんですが,その理由とするところは,今,岡先生が言われたことにも共鳴するところがあるとともに,補足資料にもありますように対価性というのが売買と同じように言えるのかということに疑問があります。別な観点から申し上げますと,どういう減額をするのかというところです。   本来,予定していたものの価値に達していないという意味で減額すべき状況だとして,幾らマイナスをするかというときに,今,現にある瑕疵ある物の価値と,本来あるべき完全なものとの価値を比較するということがよいのか,仮にそうだとしても,それがそう簡単にできるのかという気がします。まずはそういう比較なのか,あるいは瑕疵をきちんと修補するのにどのくらい費用が掛かるのかを考えるのか。その瑕疵が甘んじてそのまま使える程度のものだから使うという場合もあるでしょうが,我慢できないのできちんと修補して,完全なものにして使うということになると修補費用が掛かるので,その分,価値がマイナスしているんだと考えるのか。物の価値で比較した場合の減価分と修補に掛かる費用とが一致する場合もあると思うんですが,必ずしも一致しないような気がするんです。   そうなると,売買のほうですと,価値の対価性というところで,算定の困難さはさておき,観念的にはそういう計算をすればいいんだということが理解しやすいんですが,請負の場合に同じようなことが言えるかというと,どうも幾らマイナスしたらよいのかについてかなり議論になるような気がします。そういう観点から,減額請求権というのをそう簡単に抽象的に認めると,かえって紛争を呼ぶのではないかと考えております。 ○佐成委員 (1)のところに意見があったので報告させていただきます。意見の要点は,瑕疵が重要な場合について過分な費用を要するとして修補を拒絶されるという懸念があるのではないかという指摘です。つまり,現在の実務では,瑕疵が重要な場合には常に修補請求で対応しているので,そうした実務への影響が及ばないように慎重に考えてほしいという意見が一つあったということでございます。 ○鎌田部会長 特に635条ただし書との関係で,極めて重要な瑕疵があるときには建替え費用相当の費用が掛かっても修補させるんだみたいな議論が,背景にないわけではなかったような気もするので,そういうものを否定するような趣旨で読まれると,まずいかもしれないという気が個人的にはしなくもないです。   あと,(4)に関しては古典的な請負概念……。 ○山本(敬)幹事 補足的なことがですが,先ほどの深山幹事の御意見に対してなのですけれども,損害賠償が認められるということについては争いがないだろうと思います。そして,その場合の損害賠償の中身は,修補費用に相当するものを原則として請求できるのは問題がないと思いますが,それ以外に,原価分と言われるもの,つまり,仕事がきちんと完成していれば,これぐらいの価値のものができたはずなのに,現実にはその価値に満たないので,そのあるべき価値と現在の価値の差を請求するというものも,厳密に言うと,履行請求に価値的に代わるものであるという点で,広い意味での履行利益賠償に近いものですが,これも認められることについては,恐らく争いはないのではないかと思います。   そうしますと,これは,きちんと完成していれば,これぐらいの価値のものであったということが立証できて,そして,現在の物の価値がこの程度であるということも立証できる場合に認められるものだと思いますが,これがもし立証できるのであれば,減額の方も,計算の方法が違うだけですので,少なくとも確定できないというものではないように思います。その意味では,この損害賠償が理論的にも実践的にも認められるというのであれば,先ほどおっしゃられたような理由で減額請求権を否定することは,直ちには出てこないのではないかと思いました。  もちろん,減額請求に対する消極的な意見はあり得ると思いますけれども,それは別の理由を挙げないと難しいのではないかと思った次第です。 ○鎌田部会長 先ほど私が言い掛けたことは,それに関連していて,今のような側面ともう一つは請負契約で仕事がきちんと完成していなかったら,性質上,債務不履行になって,それが免責されてしまう場合というのは,どういう場合が想定されるのかということも,この問題と関連するのではないかという,そういう趣旨の御指摘も含まれていたように伺ったんですけれども,どういうようなケースが想定されるんですか。 ○山本(敬)幹事 いわゆる不可抗力免責に相当するものではないのでしょうか。もちろん,何が不可抗力かというのは次の問題ではありますけれども。 ○深山幹事 今の山本敬三先生の御意見について,私の疑問は正に損害賠償で解決する場合に,修補費用相当額を損害と観念して請求する場合も実務上ありますし,それが多いような気がするんですが,そうではなくて,価値の差額のほうが計算がしやすかったり,あるいは金額が大きかったりすれば,そっちを請求するということも実務的にはあると思うんですが,その金額は必ずしも一致しないような気がするのです。減額請求権というものはどっちの計算になるのか,よく分からないので,よろしくないのではないかというのが私の述べた趣旨なんです。それについてもし御意見があればと思いますけれども。 ○山本(敬)幹事 私の説明が舌足らずだったのだろうと思いますけれども,先ほど申し上げた,本来あるべき仕事の価値と現在行われた瑕疵のある仕事との差の価値補償は,ここで言う減額とは違うものです。価値補償の方は,飽くまでも,契約が実際に履行されたならば,得られたはずの利益を賠償するという性格のものに当たります。それに対して,減額というのは,現在ある仕事の価値とあるべき価値との比率に従って,対価である報酬のほうを減額するというものです。これは,現在ある瑕疵のあるものを前提にして,元の合意された対価からすると,この瑕疵のある仕事に対する対価はこれぐらいのものに減額されるというもので,言わば巻き戻しに近い処理をするものに当たります。その意味で,両者は方向性が違います。ただ,価値補償のほうが計算できるとするならば,代金減額も当然,計算できるだろうということを申し上げたかっただけです。余計に分かりにくくなったかもしれませんが,その点は御容赦ください。 ○中井委員 (1)と(4)について一言ずつ。(1)は部会資料を読めば誤解がないと思うんですが,634条第1項ただし書から「瑕疵が重要でない場合」の部分を削除するのみでは誤解が生じるので,そこを懸念する意見がありました。つまり,「過分の費用を要するときは,この限りではない」とだけ残ることについては慎重でなければならない。部会資料はそういうことではなくて,履行請求権の一般的限界事由がここで妥当することを,何らかの形で明文化するということを前提としている理解で賛成でして,仮に過分の費用のみが残るとすれば,それは注意を要するという意見があったので補足しておきます。   (4)については,弁護士会委員と幹事が消極意見を述べられましたが,ほとんどの単位会は賛成意見なので,賛成意見を補充しておきます。請負契約のときに,床柱にヒノキを契約で定めていたけれども,ヒノキより劣る杉を付けていた場合に,考え方としては修補請求をもちろんすることもできるのかもしれませんし,修補請求に代わる損害賠償もできるのかもしれませんが,そのときに代金減額請求を否定する必要があるのか,ヒノキの代金と杉の代金の差額について減額していいのではないかと素直に思うんです。   請負人側に帰責事由がある場合も,今の例では,ヒノキと杉を見間違えたということで帰責事由がないということないのでしょうけれども,帰責事由のある場合でも減額という形で処理する,これは実務的にもあるだろうし,そういう利益調整手段があってよいのではないかと思います。それで特に弊害が生じるのかと思うのです。 ○深山幹事 請負の中身が,例えば,今,中井先生が言われたような,新築の家を建てるときに柱の仕様のグレードが違ったというような例というのは,価値の差が分かりやすいし,減額請求になじむ請負類型だと思うんですが,いろいろな類型が当然あります。例えば壊れた物を直す場合のように,グレードが上か下かみたいなことではない,いろいろな類型があるときに,売買などと違って,減額請求というのがすっと当てはまる事例ばかりではないのではないかと思います。それ以上うまく説明が付きませんが,そういういろいろな類型があることを念頭に,この規定がよいのかということを考える必要があると思います。 ○潮見幹事 深山幹事に質問なのですが,いろいろなタイプがあるということは,逆に先ほどから問題になっているような成果物の価値が減価している分がどれだけかが算定可能な場合にも報酬減額請求権は認めるべきではないという御趣旨なのでしょうか。そうだというであれば,どうしてそうなのかが分かりません。それから,免責の問題については,例えば売買目的物である土地の土壌にフッ素が混じっていたという最高裁の事件と同じようなことは請負でも起こり得るものがあって,免責事由があるというケースは決してないわけではないと思います。そうであれば,減価分というものが確定可能であれば,報酬減額請求というものをその場面では認めてもよいように思うのですが,いかがでしょうか。 ○深山幹事 今の潮見先生の御指摘は全く異存がありません。つまり,適用がしやすい場面にまで否定する必要はないと思うんですが,しかし,そうなると,どういう基準で適用のある場面とそうでない場面とを区別して規律できるのか,考え方としては報酬減額になじむ場合に肯定することを否定する気はないんですが,果たしてその規定がうまく作れるのかというところが残るのかもしれません。 ○岡委員 売買のところでも議論したんですが,免責事由があって損害賠償請求ができないときの特別なものとして,代金減額請求権を整理したらすっきりするのではないかと思います。そういう特別なものは先ほどの鎌田先生の疑問と同じように,報酬ではないほうがいいのではないかという個人的な意見を申し上げました。それと別個,中井さんがおっしゃった損害賠償請求ができるときでも代金減額請求権は認めて,それは立証の違いで簡単にできる場合もあるから,損害賠償請求の代替策として代金減額請求権を認めると。それは考え方としてはあると思うんですが,少なくとも部会資料ではそんなふうに書いていないように読んだのです。部会資料では損害賠償請求ができるときでも代金減額請求権を認め,それは請求できる金額の評価の違い,あるいは立証の容易の違いがあるから有益であると,そこまで書かれているのでしょうか。 ○笹井関係官 どういう点で有益かということは,今,岡先生がおっしゃったことを十分理解できているか分かりませんが,部会資料では,仮に設けるのであれば売買と基本的に同じ制度にしようと考えておりまして,損害賠償請求権がない場合に限って代金減額請求権があるというような,そういう限定的な要件を付するつもりではありませんつもりでした。 ○鎌田部会長 先ほど中井委員が挙げられたようなケースだと,従来では価値低減分というのは損害賠償として請求できていたわけですね。それを損害賠償と言って請求していってもよいし,代金減額請求と言って請求していってもいい。そういう意味で,債務不履行になる場合に関していえば,使い勝手のよいほうを使えばよいという,こういう形にしようということで理解してよい。それに加えて免責事由のあるときには,こっちだけは常に成立するという,それがもう一つのメリットである。 ○岡田委員 消費者からすれば減額請求権が選択肢としてあるほうがよいと思います。改めて損害賠償請求というのは手続面では負担も掛かると思いますし,せっかく提案されているので,これが通るのであれば大変助かると思います。あと,詳しいことは分からないんですが,損害賠償請求ということになると金利の部分が5%,でも,請求権というと6%になるのではないかという意見もあって裁判になったときに元金が大きければかなり違ってくるという不安もありました。 ○鎌田部会長 商事利率が適用になると。 ○岡田委員 そういうことだろうと思います。 ○山野目幹事 中井委員のおっしゃった御意見に対して,単なる質問であり,お教えいただきたいのですけれども,売買のときと類似の側面を持っていることから,ここでも報酬減額請求権が認められるということについて,それほど不自然ではないのではないかとヒノキの例などを挙げておっしゃられた,そのお話自体を私は自然であると感じて受け止めました。請負契約のうちで,仕事の結果が有形的な成果物として出てくるようなタイプのものについては,おっしゃるとおり,売買と共通の側面があって,ここでも減額請求を認めるという考え方は自然な流れとして出てくるかもしれません。   反面,請負契約の中に,これは後の論点9で請負の概念をどう定立するかにも関わってきますけれども,無形的な,どちらかというと事務の依頼の結果として,一定の仕事の成果を引き出すというような形態のものもあると思いますが,それについても報酬減額請求権という発想を肯定して,それに即応する規律を設けるというお考えなのか。そうなっていくとすると,多分,有償の委任や準委任についても同じような考え方を採るということになってくると思いますが,どのくらいの射程の広さで先ほどの御意見をおっしゃったのかということを確認のためにお教えいただきたいと感じます。 ○中井委員 厳密にそこまでの射程をよく検討して申し上げたわけではありません。しかし,代金減額請求という方法で解決できる場面というのは,請負の中でもそれなりにありますねと思ってお答えした次第です。ただ,原理的には対価的な不均衡があったときに,それを是正する手段というのは,あってよろしいのではないでしょうか,というのが基本にあります。おっしゃるとおり,瑕疵があることによる減額分の計算が困難になる場面,そういう請負契約類型もまたあるではないかという先ほどからの岡委員,深山幹事の御批判については,なるほど,そういう批判もあるとは思っております。それに対する解はありませんけれども。 ○鎌田部会長 おおむね論点,対立点は明確になってきたと思いますので,恐縮ですけれども,次に進ませていただければと思います。よろしいですか。 ○沖野幹事 申し訳ありません,念のためというだけなのですけれども,報酬減額請求権の要否のところで,どういう場合に発動するのか,どのような場合があるのかという点があり,免責されるというのはどういう場合なのかということも一つ問題になっていたと思います。それで,これも的外れなのかもしれないのですけれども,一方で報酬請求権のところで,注文者の側に生じた事情が存在し,履行つまりそれ以上の完成が不可能になったときには,注文者としては全く物は来なくても,あるいは給付が全く来なくても,労力を提供したところについてはリスクを負うという考え方が示されていたと思います。   そのこととの関係で,免責事由というのが一致するならば余り問題はないかと思うのですけれども,ずれるようですと,そこでのどちらが何を負担するかという考え方と,ここでの対応がきれいに対応するのかというのも少し気になっております。規定化できるというものではなく,条文に書けるような話ではないように思うのですけれども,発動場面について,それとの関連でも詰めておく必要があるのではないかと思いますので,言わば注記的に指摘したいと思います。 ○鎌田部会長 少しそれを意識して検討させていただければと思います。   次に,4の(5)以下につきまして御審議を頂きます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「(5)請負人の担保責任の存続期間(民法第637条,第638条第2項)」は,仕事の目的物に瑕疵があった場合の請負人の責任の存続期間について,どのような規律を設けるべきかを問うものであり,売買の目的物に瑕疵があった場合の売主の責任の存続期間と同様の問題を扱うものです。ここでは消滅時効の一般原則に委ねるという甲案と,消滅時効の一般原則に加え,請負人の責任について特別の期間制限を維持するという乙案を取り上げています。乙案を採る場合には,さらに,瑕疵を知った日を起算点とする短期の期間制限を設ける乙-1案,瑕疵を知ったときから相当期間内に瑕疵を通知しなければ失権するという乙-2案,注文者が事業者である場合の特則を設けるという乙-3案を取り上げています。売買の箇所における議論との整合性を図る必要性があると思いますので,その点にも留意しながら御審議いただければと思います。   「(6)土地工作物に瑕疵があった場合の担保期間の見直し(民法第638条)」では,仕事の目的物が土地工作物である場合の担保責任の存続期間を取り上げています。民法第638条の期間については,これを性質保証期間であると理解する立場から,性質保証期間に関する規定を設けるという考え方もありましたが,性質保証期間に関する規定は設けないことを提案しています。土地工作物に瑕疵があった場合の請負人の責任の存続期間に関する特則を設けるかどうかは,消滅時効の一般原則を踏まえて判断する必要がありますが,仮に特則を設けるのであれば,瑕疵が重要な箇所にあるか,そうでないかによって存続期間の長さを区別するという考え方がありますので,その当否を取り上げています。   「(7)瑕疵担保責任の免責特約(民法第640条)」では,担保責任の免責特約があっても,引渡し時又は完成時に請負人が知っていた瑕疵については,免責を認めないとすることを提案しています。民法第640条は,知りながら告げなかった場合には免責を否定していますが,告げたかどうかにかかわらず,瑕疵を知っていた場合には請負人は免責されないという規律を提案するものです。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分のうち,まず,「(5)請負人の担保責任の存続期間」と「(6)土地工作物に瑕疵があった場合の担保期間の見直し」について御意見をお伺いいたします。 ○大島委員 (5)の「請負人の担保責任の存続期間」でございますけれども,現在,請負人の瑕疵担保責任については引渡し又は仕事の終了時から1年間の短期期間制限が定められており,実務上もこれを前提とした運用がされております。このような実務を尊重し,履行を終えたと考えている請負人の保護を図るべきと考えます。そこで,乙-1案で示されているとおり,1年間の期間制限を設ける方向で検討すべきと考えます。しかし,乙-1案も起算点を注文者が瑕疵を知った日からとする点は妥当ではないと考えます。引渡し後は注文者に管理支配が移転するため,このような規定は注文者の主観によるところが大きく,請負人に長期間にわたって負担を課すことになります。そこで,乙-1案の起算点は引渡し時にすることを提案いたします。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○三浦関係官 意見の紹介のみさせていただきます。複数の関係課から複数の業界のインプットを背景に,次のようなことが申し述べられております。一つは部会資料の24ページの2の(2)②に書いてあることですけれども,瑕疵が引渡し前の瑕疵なのか,経年変化によるものなのか,実際の取引においては判別が難しいという問題,それから,コンピュータソフトが例に挙げられておりますけれども,非常に特殊かつ複雑な特注品の場合には,瑕疵の修補をするためには開発に携わった技術者の知見が不可欠であり,そのようなときに担保責任の期間が長期間となると,その技術者を長い期間,維持できるのかという問題などがあるということでございまして,要しますと存続期間が長くなることについて,慎重意見が聞かれましたので御紹介させていただきました。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○岡委員 (6)は他の委員が言うと思いますので,(5)について申し上げます。まず,アについて甲案の指示もありましたけれども,乙案の支持のほうが多うございました。大島さんが先ほど引渡しから1年を支持するとおっしゃいましたけれども,引渡し後,1年を超えてから瑕疵が分かるという物も結構多うございまして,引渡しから1年ではなく甲案のような一般原則あるいは乙案の修正案,知ったときからを起算点にするという意見が圧倒的に多うございました。   イについてですが,乙-1と乙-2の中間辺りの支持が一番多うございました。一般原則に加え,注文者は瑕疵を知った日から1年の説もありましたけれども,2年以内に瑕疵の存在を通知すべしと,この案が一番多うございました。乙-1案の瑕疵を知った日から権利行使というのでは厳しすぎるだろうと,乙-2のような相当な期間内という柔軟な条文では不安定であると,その総合結果から「知った日から2年以内に通知をすべし」と,この案が最も支持を集めました。   ウについては基本的には賛成の意見,引渡しから10年という期間制限が最高裁にもありますので,支持するという案が多うございました。 ○鎌田部会長 では,(6)のほうについての弁護士会の御意見をどなたかから。 ○中井委員 (6)についての弁護士会の多くは,アについては設けないという考え方に賛成です。   私はそれでいいのか,性質保証期間という言葉がいいのかどうかはともかくとして,その期間内に瑕疵が発見されたときに,引渡し時に瑕疵があったものと推定する考え方はなお十分あり得るのではないか。建築建物を考えた場合に,2年目,3年目に何らかの瑕疵が発見されたとき,それをもって少なくとも瑕疵の存在を推定する必要がある,何となれば,引渡し時に雨漏りの原因となった問題状況が建物にあったことを立証することは,困難ではないか。原則どおり,引渡し時の瑕疵の存在を立証しなければならないという考え方で一貫させるのがいいのか,ちゅうちょするところがあります。一単位会だけですけれども,なお検討すべきではないかという意見がございました。   イについては,アの賛成を前提とすると,基本的な考え方,要件立てについては幾つか留保する意見もありますけれども,賛成意見です。 ○鎌田部会長 (5)につきましては,売買と共通する論点でもありますので,売買についての規定の在り方を分科会で検討する,それに合わせて請負についての規定の在り方も分科会で検討する,そして,(6)も担保責任の期間制限の問題でありますので,その一般原則と合わせて分科会で補充的に検討するということでどうかというのが事務当局の提案でありますけれども,今,御指摘いただいたような意見を踏まえて,分科会で更に補充的に検討していただくという取扱いでよろしいでしょうか。 ○山本(敬)幹事 (6)について確認なのですが,(6)のイの特に後段で,長期の期間制限を設ける場合には,例えば構造耐力上主要な部分等については時効期間を10年とするという考え方があり得るとありますが,これは住宅の品質確保促進法をこの限りでは民法に取り込む,つまり,品確法をその限りでは廃止ないし削除するという御提案なのかどうかを確認させていただければと思います。といいますのは,品確法では請負だけではなくて売買も含まれていますので,仮にこの部分を持ってくるのであれば,売買のほうはどうするのかという問題が生じる可能性もありそうだからです。というわけで,この点を確認させていただきたいのですが,いかがでしょうか。 ○笹井関係官 品確法との関係について,まだ,考え方が固まっているわけでもありません。品確法の場合は,この存続期間が片面的だったか,強行規定になっていますので,その点で少なくとも品確法に意義があるのだろうと思っております。民法の場合は,この期間を合意によって延ばしたり短くしたりすることが原則として可能だということになると思いますので,それを強行規定化するという意味では,少なくとも品確法に意義があると思いますが,最終的にどういう形になるのかは,また,改めて検討したいと思っております。 ○鎌田部会長 その論法でいくと,売買のほうはどうするんだという議論が出てくるかもしれないという気はしますけれども,品確法との関係をいろいろな意味で検討していただくことも,この部会での検討項目の一つに入るのだろうと思いますので,よろしくお願いいたします。   次に,「(7)瑕疵担保責任の免責特約」について御意見をお伺いします。御自由に御発言をください。 ○岡委員 弁護士会は全員一致で賛成でございました。 ○鎌田部会長 特に御異論はないということでよろしいでしょうか。   よろしければ,次に「5 注文者の任意解除権」から「7 既履行部分が可分で,その給付を受けることに利益がある場合の解除」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「5 注文者の任意解除権」の「(1)注文者の任意解除権に対する制約」においては,請負人が弱い立場にあるなどの一定の類型の契約について,注文者の民法第641条に基づく解除権を制約するという考え方に基づく規定は,設けないことを提案しています。注文者が解除する場合には,請負人の損害を賠償しなければならないとされており,請負人に生じた損害は填補されると考えられるからです。   「(2)注文者が任意解除権を行使した場合の損害賠償の範囲(民法第641条)」においては,現在の通説的な見解に従って注文者が民法第641条の定める解除権を行使した場合の損害の範囲を具体的に規定することを試みるものです。約定の報酬及びこれに含まれていない費用の合計額から,債務を免れることによって請負人が得た利益の額を控除した額をこの場合の損害とすることを提案しています。   「6 注文者についての破産手続の開始による解除(民法第642条)」では,注文者が破産手続開始決定を受けた場合の請負契約の解除の趣旨が妥当するのは,仕事の完成までであることから,解除権が生ずるのは注文者についての破産手続開始決定が仕事完成までにされた場合に限定されるという考え方の当否を取り上げております。   「7 既履行部分が可分で,その給付を受けることに利益がある場合の解除」においては,仕事が完成していない段階で請負契約を解除することができる範囲及びその場合の報酬請求権の範囲を取り上げるものです。ここでは判例法理に従い,既履行部分が可分で,注文者が既履行部分の給付を受けることに利益を有するときは,既履行部分については解除することができず,解除できない部分については具体的な報酬請求権が発生する旨の規定を設けることを提案しています。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分のうち,まず,「5 注文者の任意解除権」について御意見をお伺いします。 ○三浦関係官 5の(2)の「任意解除権を行使した場合の損害賠償の範囲」ということについて意見の紹介でございますけれども,費用を損害にどこまで入れるべきか,何が入るかといったときに,事業によっては業務をキャンセルするために必要な費用があり得るという話がありまして,例えば建設プロジェクトで途中まで作ったのだけれども,そのプロジェクトが流れてしまったというときには,途中まで作った建設物をそのままにしておけないので,それを撤去するために要する費用,あと,たくさんの下請企業を使うようなときには,下請企業に違約金を払わなければいけないといった実例もあるようでございまして,そういった費用についてはどういう取扱いになるか,これも考慮されるべきではないかという意見がございましたので紹介させていただきました。 ○岡委員 先ほどの履行不能があった場合で,注文者の義務違反のところとも関係してくると思うんですが,任意解除権の行使というのは注文者の義務違反の最たるものだと考えれば,パラレルに考えるのも分かるんですが,弁護士会としては賛成意見がかなり多かったんですが,消費者系の先生方を中心に一部,強力な反対説があったので,その紹介でございます。   二つありまして,一つは任意解除権の行使は注文者の義務違反の最たるものであるというふうな理論的説明は分かるんだけれども,実際には相手の債務不履行を理由とする解除まではできないけれども,相手がけしからんというか,よくない場合に任意解除権で牽制というか,一つの武器として使っている実務があると。その場合には義務違反の最たるものとして約定報酬が全部出てくるというのは,実務感覚として強い違和感があるという意見です。実務家の一部に任意解除権というのは債務不履行解除はできないけれども,一つのけん制として,武器として使っている場合があるので,それの支障になるようなことには留意を頂きたいというのが一つです。   もう一つは,今,関係官がおっしゃったような,今は損害の賠償ですので,こういう損害があったので,お前,払えと言われたら分かると。しかし,この条文ができますと,約定の報酬から自己の債務を免れることによって得た利益の額ですので,逸失利益,その契約によって得べかりし利益がどんと請求が来ると。まだ,契約しただけで着手もしていない場合だとか,着手しているけれども,非常に少ない場合であるとか,そういう場合にまで,約定の報酬,約定の逸失利益がとにかく請求できるんだという原則が条文化されるのは,極めて違和感があると,そういう強い意見がございました。この期限の定めのある消費貸借を途中で返済した場合に,残る期間に対応する利息を全部請求できるだとか,何か一貫していると思うんですけれども,約定の報酬が請求できるというところの強い違和感でございます。 ○佐成委員 今,三浦関係官とそれから岡委員がおっしゃった点ですけれども,補足説明の34ページで6に入る前の「なお」のところで,「注文者の義務違反によって仕事の完成が不可能になった場合に請負人が請求することができる金額と一致することになる」と書いてあります。請負に関して用語の整理等の必要があるのではないかという話を先ほど申し上げましたけれども,ここに記載されている考え方それ自体は,私は割と納得がいくような感じがしております。というのは,先ほど米国の契約法リステートメントの347条の一般原則について触れましたけれども,三浦関係官がおっしゃったのは,先ほど申し上げた,損害賠償のマイナス要素としてのロス・アボイデッドとかコスト・アボイデッドではなくて,この一般原則では「アザー・ロス」という形で,損害賠償のプラス要素になるとされていることと対応しておりますし,そのこと自体は極めて合理的な考え方ですので,当然,請求できてしかるべきかなと私は感じております。 ○中井委員 任意解除権を行使した場合の損害賠償の範囲について,先ほど岡委員から紹介がありましたけれども,若干,補足をさせていただきたいと思います。この問題は,委任のところでいうならば,資料の76ページ以降の「委任契約の任意解除権」の中で,受任者の利益を目的としている場合,委任解除したときの損害賠償の範囲としても問題となり得て,78ページのところでほぼ同じ考え方が紹介されております。   そうしますと,サービス契約,役務提供契約等についても同じような考え方を採っていくことになるとすれば,基本的には任意解除ができるとはいうものの,約束した約定報酬が原則全て損害だと,こういう形で統一的理解をされているわけですけれども,その考え方に対する危惧があります。とりわけ役務提供契約を想定していただければ,清掃契約を2年間結んだ,2か月目に清掃内容に不満があったから任意解除権を行使して解除した,残り1年と10か月分の約定報酬が基本的に損害になって,あと,一生懸命,免れた利益について立証して差額を払わなければいけない。それが果たして妥当なのか。   任意解除権と言いながら,基本的にはその契約全てに拘束されて,その契約によって得られる請負人側,役務提供者側等の利益,委任であれば受任者側の利益を補償することに等しいわけですけれども,それが果たして妥当な結論なのかというところについて,改めて考える必要があるのではないか。   それは,先ほどの請負契約の中途で履行不能になった場合についての報酬請求権との関係にも及ぶのかと思いますが,一つの考え方として,請負であっても成果に対してのみの報酬が発生するとすれば,基本的に出来高部分についての報酬が確保されなければならないけれども,それ以上,先の部分について,将来のサービス契約なら期限までの,請負契約であれば完成したときの未施工部分の報酬も,当然に請求できるという考え方自体がその原則論に照らして妥当するのかという見方も可能ではないかと思います。そういうことで,横一列に見てみて,(2)の規律,特にこの損害の考え方を適用することについて,更に慎重に検討してもらいたいと思います。 ○岡田委員 中井委員と岡委員のおっしゃったことで十分ですが,消費者から見まして,(2)の「自己の債務を免れることによって」うんぬんというところですが,ここに関して注文者からは,相手が示した金額は妥当なのかどうなのかということを立証することが難しいかと思います。とかく請負側としてみれば,この部分を過小評価する可能性が多分にあるので,こういう書き方は消費者からすると納得できません。先ほど中井委員がおっしゃいましたけれども,任意解除権と言いながら権というの付いてしまうと消費者は結局は言いなりにならなければいけないのではないかと感じます。 ○笹井関係官 今,中井先生から御指摘いただいたところですけれども,損害の捉え方を考え直すべきではないかということで,そこは,是非,御議論いただければと思っておりますが,ただ,継続的に契約がされる場合は,例えば,今おっしゃった2年間の清掃の契約があった場合に,恐らく法律上のということではなくて,合意によって解除権が付されることが多いだろうと思います。例えば,いつでも1か月前に通知することによって解約することができるというようなものです。逆に,当事者がそういった合意による解除権を設けずに,2年間解除しませんと,2年間,あなたにこのビルの掃除をお願いしますということを約束した,そういう契約になっていた場合に,なぜ,相手方の利益を一方が奪うことができるのかが私はよく分かりませんでした。損害について考え直すに当たって,どういう根拠によってその契約の拘束力を免れることができることになるのか,教えていただければと思います。 ○中井委員 それなら,こういう契約関係に任意解除権という規定を置いている趣旨は何なのだろうかということをもう一度,考え直さなければいけないのかと思います。結局,債務不履行して契約解除されて損害賠償するのと同じですね。それが任意解除権の実態でしょうかという疑問から出発しているわけです,問いに対する答えになっていないのかもしれませんが。 ○笹井関係官 その点につきましては,いろいろな考え方があるのだろうと思いますし,その点については民法の先生方からまた教えていただければと思いますけれども,基本的に,契約をした以上は契約に拘束されるというのがまずは出発点になるのではないかと思っております。しかし,継続的に気に入らない相手から役務を提供されてしまうという場合に,それにずっと拘束させ続けるよりも,約束した利益を相手方に取得させることによって契約の拘束を免れるというのもあり得ると考えられ,それがこの提案になっているわけです。   なぜ,そんな規定があるのかということですけれども,注文者相手方の利益部分だけを賠償することによって契約から離脱することができますので,その立証の難易という問題はありますし,立証責任の所在については更に検討する必要があると思いますけれども,しかし,報酬全額をとにかく払わないといけないということではなくて,請負人が債務を免れたことによって得た利益分については支払義務を免れると,その結果として契約が遂行されたのと同じだけの利益を請負人としては得ることができるし,注文者としては気乗りのしない役務を押し付けられることを免れることができるという点で意義があるのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○内田委員 こういう言い方をすると何か攻守が逆みたいで妙なのですが,この案は現行法ですよね。現行法の「損害を賠償して」と書いてあるその中身が不明確であるので,一般的に解釈されていることを書いた。それで今まで100年間,立法論としておかしいとは言われていないわけで,なぜ,それを変える必要があるのかということだと思います。拘束力の問題という笹井関係官が言った問題は当然あるわけですが,それに加えて,汎用性のある役務であれば,建設請負などが典型ですけれども,仕事をしなくてよくなれば,ほかの仕事ができるわけですから,損害軽減義務で当然減額されるわけですね。   これも現在の判例上はそうなるわけです。ですから,約定報酬を丸々払わなければいけない場合というのは,通常は余りないだろうと思いますが,しかし,幾らを減額するかというのは,損害軽減義務の適用による。この損害軽減義務のルールは多分,どこかで原則ルールとして置かれる可能性があると思いますが,置かれようと置かれまいと,現に,判例ルールとして存在していますので,それが適用されて事案に応じて減額される。それが現在の実務ではないかと思います。なぜ,この実務に不都合があるのかということを御説明いただければと思います。 ○中井委員 請負については,内田委員や笹井関係官がおっしゃるとおりのところについては理解しているつもりです。多くの弁護士会も,従来の判例の具体化ということで理解をする意見を出しているのですが,一部,これも消費者系ではありますけれども,強い危惧が出ています。その背景を御説明申し上げますと,少なくとも請負,委任,役務提供契約と横並びに同じ規律ができる可能性が高いというときに,とりわけサービス提供契約の場面での危惧が強く表明されているわけです。   一定の期間,役務提供の約束をさせる。それは様々あります。エステも,学習塾もあるかもしれません。先ほど清掃と言いましたけれども,それ以外のいわゆる消費者と事業者間との契約,そういう一定期間の約束をしている類型において,必ずしも債務不履行とは言えないけれども,サービス提供内容に不満がある,何かサービス提供者との間で争いが生じた,明確に債務不履行解除はできない,だから,そういう人たちとの間では信頼関係が悪くなったので任意解除権を行使して,その契約関係から離脱をしたい。その場面で基本的に将来の期間,約束した報酬が全て原則請求できる,損害とみなされる。これはかなり過大な負担になって,現実的には任意解除権がありながら,ここは,契約の拘束力からいえば矛盾していることかもしれませんけれども,任意解除権を認めた趣旨からすれば,事実上,契約終了まで拘束されるのと変わらない,これに対する危惧が強く表明されたことから将来を見据えて,この請負のところで前出しをしたわけです。   そこで,損害を賠償しなければならないというところまでは受け入れることができるとしても,常に合意した約定報酬がまず全額損害となります,そこから請負であれば,将来,完成しなかった,それ以降の工事をしなかったことによって免れた負担,つまり,工事の費用が掛からなかったというのが一番大きいと思いますし,他方,ほかのところで利益を得たら,その利益分を更に引けるのかもしれません。しかし,引く話は必ず注文者側の立証課題になる構造になっています。そうすると,請負人側のコストを注文者側が立証することになりますが,それはできない。他で工事ができて損害軽減義務的なことができた。工事人は残りの期間でほかの工事を取ってきて稼げたじゃないですか。そんな立証をすることは事実上,不可能を強いることではないか。   そうだとすれば,先ほど笹井関係官からは立証責任の問題かもしれませんとさらりとおっしゃいましたけれども,そこは純粋請負者側からの損害賠償請求と構成して,その損害論についてはこのような規定は置かない,具体的に失った逸失利益を立証してくださいと,約束の残りの請負金額はこれで,本来,コストとしてはこれだけ掛かるはずでした,結果としてこの利益分が損失として発生する,だから,それを損害賠償する。請負人側にその主張立証責任を負担する構造に変える。そういう意見です。 ○内田委員 今,例として挙げられた中には請負でないものもありましたよね。 ○中井委員 というか,請負でないものを例に挙げてお話をさせてもらいました。 ○内田委員 役務提供一般についてこういう解除権を認めて,その場合の損害賠償をどうするかは,またそこで議論したほうがよいように思います。ここは請負で,つまり,仕事を完成しなければ報酬はゼロである,何も取れないという契約をしていて,それを相手から一方的に仕事をしなくてよいと言われたときの処理のルール,現行法としてあるルールの問題として議論すべきではないかと思います。それに限っていうと,一方的に解除されていながら,どうして請負人のほうで損害を立証して,賠償請求していかなければいけないのか。自由な解除権を特別に注文者に与えているわけですが,なぜ,請負人がそんな負担を負わなければいけないのか,よく分かりません。 ○鎌田部会長 ほかに関連した御意見はよろしいですか。対立点は非常にクリアになってきて,請負とそれ以外の役務提供契約との間に差があるかどうかということも含めて,今後,更に検討していかなければいけないということになろうかと思います。 ○佐成委員 1点だけ,私もよく分からなかったのですが,今,中井委員の発言の中で,請負人が仕事を完成しないまま,その間にどこかで稼いだ部分を,損害賠償額から単純に控除するような発言がございました。けれども,それは本当に単純に控除するべきものなのかどうかという点を若干疑問に思ったので,発言させていただきます。それは単純に控除するようなものではなくて,むしろ,基本的には免れた損失なり,コストなりの問題ではないのではないかなというのが若干気になったところです。そこは,損害軽減義務との関係で,分科会なりで御議論いただければと思います。 ○鎌田部会長 では,次に「6 注文者についての破産手続の開始による解除」と「7 既履行部分が可分で」うんぬんの部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○三浦関係官 「7 既履行部分が可分で,その給付を受けることに利益がある場合の解除」につきまして,既履行部分が注文者に一定の価値を有する場合に,未履行部分しか解除できないとする考え方に賛成との意見がございましたので紹介をさせていただきます。具体的な例としては,システム開発の例ですけれども,設計書類をまず作成しなければならず,その際は,相当,ノウハウや技術をつぎ込んで,かつ,時間を掛けて注文者と請負者が様々なやり取りを行って作るということでございまして,しばしば,その部分は注文者にとって,そこで終わったとしても,また使えるとか,そこからいろいろ学べるということだと思いますけれども,一定の価値を有する場合があるということでございまして,先ほど申し上げたような考えに賛成というような声が寄せられております。 ○沖野幹事 6についてです。若干,気になりますことが幾つかあります。一つはここで想定されているのは引渡しを要するようなケースにおいて,例えば建築は終了したけれども,引渡しがまだであるという段階で破産手続を開始したというようなときは売買と同じ状況であって,請負人の解除権を認める必要はないのではないかという問題意識に出ているということだったと思います。しかし,本文は請負人又は破産管財人が契約を解除することができるのはとされており,破産管財人の解除も,そういう場合にはできないことになるように読まれる本文になっているように思うのです。   それで補足説明を見ますと最後に,仕事の完成後に手続が開始された場合の契約関係の処理の在り方にも留意しながら判断すると書かれていますので,そのときにどうするかということ自体が問題だという意識だと思うんですけれども,私自身が理解しているところでは,元々の提案は642条に特有なのは請負人に解除権が与えられているところが一番の特徴で,破産管財人の相手方に与えられているという,その部分の必要性について限定的に解すべきではないかということだとすると,およそ破産管財人についてもその後は解除ができなくなる,引渡しはまだ未了であって,代金も未払いであるという双方未履行の状態がありながら解除ができなくなるというのは,当初の趣旨と合わないと思われます。そうだとしますと,二つ,可能性が考えられるのですが,一つは本文を請負人が解除できるのはということにしてしまう,もう一つは多少大ごとになりますけれども,仕事の完成後も引渡し前であるときには,破産管財人のほうは破産法53条によることができるとするなどです。いずれにせよ,何か,そういう形でないと趣旨と合わないのではないだろうかということが一つです。   もう一つは,もっと大上段になるのですけれども,仕事の完成という概念と引渡しというのをどう見るかという問題が元々請負契約にはあり,現行法では定義の中で仕事の完成を約するということになっており,それは引渡しを要するものであれば引渡しまでやって,全て履行が完成したということになるのではないかと解されまして,この概念整理があるかと思います。現行法の下ではその点は余り浮き彫りにならないんですけれども,ここで仕事の完成まではというのは,引渡しを要するものについては引渡しはまだだけれども,仕事は完成したということで,請負の定義との関係が出てくるように思われ,そのことは既に部会資料の3ページの2の(1)の「報酬の支払時期」として規律されたところにも多少,出てくるかと思います。その定義との関係で,仕事の完成というのを広狭二つの意味で理解しているといえば,説明はつきそうにも思うんですけれども,それも考える必要が出てくると思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○笹井関係官 部会資料の趣旨は沖野先生がおっしゃるとおりで,仕事が完成したら,その後,仕事完成後に注文者が破産した場合に,破産管財人が解除できないと考えているわけではございません。民法第642条の適用範囲を限定すると,その適用がなくなった部分には破産法第53条が適用されるのかなと思っておりました。ただ,そこも含めて民法第642条で書き分けるというやり方はあり得ることだとは思いますので,両方の選択肢があるのかなと思っておりましたけれども,少なくとも注文者についての破産手続の開始が仕事完成後であれば管財人も解除できないという趣旨ではございません。   それからもう一つ,引渡しまで含めて仕事の完成なのかどうかという点につきましては,御指摘の問題があるということはよく分かりましたので,少し概念の整理が必要かなと思いました。 ○中田委員 今の642条のところなんですけれども,元々は旧商法時代に規定が置かれ,その後,推移があるんですけれども,最終的には先般の破産法改正の際に改正されたのだと記憶しています。その上で,今回,更に改正するとなると,具体的にどうなるのかということをもう少し示していただいたほうがよいのではないかと思います。特に破産法53条との関係で,642条の帰結と,それから,破産法53条の帰結とで変わってくるわけでして,そこを対比した上で,なお改正すべきかどうかということを示したほうがよいのではないかと思います。 ○山本(和)幹事 私の理解は,先ほど沖野幹事の御質問,それから,笹井関係官のお答えと基本的に同じで,要するに民法の限りにおいては,要するに642条は適用しないということであって,そうであるとすれば,結局,双方未履行の双務契約であることは明らかなので,破産法の規律になると。しかし,破産法53条が請負契約について,果たしてそのまま適用になるのかどうか,売買と同じような形で適用になるのかどうか,管財人の解除権を認めてよいのかどうか,あるいは解除した場合の目的物の帰属はどうなるのか,相手方の債権は破産債権になるのか,財団債権になるのか等々については,恐らく破産法においてもかなりの議論があるところだと思いまして,そこで何らかの決着を付けるということ,もし,中田委員の先ほどの御趣旨がそういうことであるとすれば,それはなかなか私は難しいのだろうと思っておりますし,このフォーラムで決着が付けられるのかということも,やや疑問には思っております。   ここでの趣旨は,642条というのは請負人が先履行義務を負っていることに根拠があると,私の理解では前回の破産法改正で賃貸借についての622条を削除しながら642条を残したのは,そこに一つの大きな趣旨があったということだと思いますので,完成後については,ただ,その趣旨は妥当しないのではないかと,代金支払義務と引渡義務というのは同時履行の関係にありますので,請負人が不当に自分の義務だけを履行しなければならないという事態は発生しないのではないか。   そういう意味では,642条の正当化根拠というのは引渡義務だけが残っている。それを沖野幹事が言われたようにどう表現するかということはあると思いますけれども,引渡義務だけが残っている場面においては,少なくとも正当化理由は妥当しないのではないか。そうだとすれば,642条はその場合には適用するのは相当ではないのではないか。ただ,その後,どうなるかということは,破産法の解釈に残された問題で,そこまで決着を付けるというのは一つの考え方だと思いますけれども,先ほど申し上げたように,そこは私自身は何か難しいのではないかと思っているということです。 ○中田委員 元々は今,おっしゃった賃貸借とそれから請負と,もう一つあったと思うんですけれども,旧商法時代に三つについて民法に特別の規定が置かれ,その後,双方未履行双務契約についての現在のルールが旧破産法で設けられたというのが歴史的な流れだと思います。その上で,破産法でも随分,議論のあるところですので,ここでそこまで突っ込んだ議論というのはできないかもしれませんけれども,ただ,山本和彦幹事のおっしゃった部分を検討するにしても,具体的な帰結がどうなるのかということを視野に入れた上でないと,なかなか決められないのではないかと思います。ですから,私はここで破産法の論点について全部決めてしまえということではないのですけれども,しかし,検討するに当たっては具体的にどうなのかということも理解した上で,山本幹事のおっしゃったような考え方を入れるかどうかということを判断するということになるのではないかと思います。 ○畑幹事 私自身の意見というよりは,いろいろな考え方があるのではないかということを申し上げることになるのですが,請負人から解除できるということについては,先ほど山本和彦幹事がおっしゃったように,先履行だからというところに着目する説明もあると思うのですが,何となくもう少し漠然と,報酬が取れないかもしれないのだからというような説明のされ方がされることもあるように思います。そういうことだとすると,642条を限定する必要もないという考え方もありそうです。   他方で,先般の倒産法の改正のときにも多分,議論されたと思うのですが,立法論的にはそもそも他の双方未履行双務契約と違って,請負人の側に解除権を与える必要はないという議論も有力にあるところであります。  それから,もし,何らかの特則を維持するのであればということなのですが,先に諾成的消費貸借のところで議論になりましたように,ほかの倒産手続はどうなのだという議論もあり得るところであります。  ということを申し上げた上で,少しレベルの違う議論になるのですが,先ほど山本和彦幹事がおっしゃったことに関係するのですが,どうも倒産法学的にもいろいろな考え方があり得るところで,倒産実体法についてある意味,踏み込んだ実質改正をするということについて,この場がいいのかどうかということも気になるところではあります。 ○山本(和)幹事 今,畑幹事が言われたように漠然と報酬が取れないというのは中田委員が言われたとおり,旧商法以来の規定で,旧商法時代には財団債権という制度がなかったということが一つの由来ではないかということが言われているところで,財団債権制度を作った以上は,果たしてこのような請負人側からの解除というのは,そもそも立法論的に過誤だったのではないかというような指摘も,かつてはなされていたところだろうと思います。   ただ,財団債権として保証されても,依然として財団不足という事態は発生し得るので,そこで請負人は報酬を取れないおそれがあるのではないかという指摘は,依然として残っているということだろうと思いますが,ただ,引渡しだけが残っている局面では,究極的には引渡しは同時履行になるのではないかと思いますので,物だけを渡して財団債権としての報酬が取れないという事態は,普通に考えれば起こらないような気もするのですが,そういう意味でも,私自身は642条というのが果たして必要かということは依然として思っていますけれども,ここが決めるのにふさわしいフォーラムかどうかということの御指摘が今,畑幹事からあったとすれば,その問題は確かにあるんだろうと思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○沖野幹事 考え方を示すだけですけれども,そういうことを考えていった場合に,642条というのは民法の中にあるのが本当に適切な条文なのかということが元々ございます。中田委員から御指摘がありましたように,元々は三つ子の規定で雇用と賃貸借と請負に規定があり,その後,破産法のほうで一般的な規定が整備されていった中で,なお,民法に残り続けたという経緯があったわけですが,そもそも,この規定の位置付けや内容についても民法としての議論ではなく,倒産法としての議論をしないとできないようなものがあり,しかも,642条については取り分け複雑な規定となっておりまして,各種の効果面は破産法の解釈に譲ってあって,破産法と民法との間を行ったり来たりするというような構造にもなっておるものですから,適切な位置は破産法ではないのかと思われます。民法から倒産法へと移すといったそういう改正をどこでできるのかということがよく分からないものですから,可能な議論なのかどうかも判断がつきかねます。しかし,そういうことももし手当が可能であるならば,一案として考えるべき事項ではないかと思います。 ○筒井幹事 ただいま御議論いただいた論点に限らないと思いますけれども,改正作業を進める上で,民法以外の他の領域で十分な議論がされる必要があるというものは,今回の検討課題の中に幾つかあるように思います。これもその一つであろうと思います。しかし,現在は民法に置かれている規定ですので,これが最初から改正の対象外だとか議論すべきでないということにはもちろんならないわけでして,この論点について,この部会として一定の改正の方向についてコンセンサスが得られるのであれば,それについて別途,部会の外で何らかの意見聴取の機会を持つなど,進め方の工夫は考えていけばよいと思います。   沖野幹事からは,民法642条などは倒産法で規定することも一案として考えられるという御発言がありました。これは,新たな御提案と受け止めるべきかも知れませんけれども,もし仮にそれがこの部会での有力な案となっていくのであれば,それは,この部会としては民法のこの規定は削除するという提案をすることになるでしょうから,それを実現するための進め方を別途考える必要があるのだろうと受け止めました。 ○山本(和)幹事 これまで出てきた諾成的消費貸借,それから,これから出てくるであろう委任,それから,現在もある雇用等々について,本来は破産法の中に規定を置くべきだという沖野幹事の御提案に私は賛成です。 ○中田委員 今,おっしゃったような幾つかのところで,民法の中で破産手続開始決定の影響に関する規定があるわけですけれども,それを全部,破産法のほうに送ってしまうのではなくて,民法とのインターフェースという意味では残しておいたほうがよいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 そもそも民法に残しておくべきかどうかということは,ほかの類似の規定と合わせて議論の対象になると思いますけれども,中身については頂戴した御意見を踏まえて整理をしていくことにします。ただ,表現上は,最初に指摘があったように,仕事完成前に注文者が破産手続開始決定を受けたとき以外の解除はすべて否定するように読めなくもないので,そこの表現は少し工夫をしていただいて,倒産法の議論に残すべきものは残っていると読めるようなほうがよいような気がいたします。   7のほうについてはいかがでしょうか。 ○佐成委員 この報酬の額ですけれども,既履行部分に対応する報酬を請求できるというのは,履行割合に見合った報酬という趣旨なのでしょうか,それとも,そうではなくて,実際に既履行部分の価値を評価して,その部分の額の報酬という趣旨なのでしょうか。そこだけ確認したかったのでお願いします。 ○鎌田部会長 事務当局からお願いします。 ○笹井関係官 そこは今の民法第642条第1項にもある問題だと思うのですけれども,つまり,今の民法第642条第1項には,既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用について,配当に加入することができると書いてありますので,この額の算定方法と基本的に一致するのかなと考えておりました。既履行部分が不可分である場合にこれに対応する報酬を請求することができるというのは,大審院以降確立した判例法理であり,最高裁でも維持されており,その考え方を変えるものではないのですけれども,既履行部分の具体的な算定方法については,既履行部分の客観的な価値ということになるのか,当初予定されていた労力に対して既に履行された労力の割合ということになるのか,そこは幾つかの算定方法があるのかなとは思っております。 ○岡委員 7についての弁護士会の意見は,基本的には賛成でございます。ただ,可分であるという要件はあってもいいけれども,なくてもいいのではないかと。特に既履行部分を受けることによって有益な場合に,その部分は解除できないというのが主眼ですので,可分というのは不可欠ではないのではないかという意見が一部にございました。それから,払う対価ですけれども,有益な場合にのみ生きてくる規定ですので,有益な既履行部分に対応する報酬というか,価値というか,そう解釈できるように表現は工夫すべきだろうと思います。現実にも,請負契約が途中で流れてしまったときに引き受けるしかないですので,出来高部分を査定しますけれども,出来高報酬を単純に割合で割っているだけではないように思います。中途段階で引き取って別の所に発注するために費用が別途掛かるときには,引いていると思いますし,工夫していると思いますので,このままの表現よりは少し工夫すべきだと思います。ただ,考え方については賛成意見が圧倒的に多うございます。 ○鎌田部会長 実務的にも建築請負以外でもこういう考え方は使っていますか。 ○岡委員 経験しているのは建築請負が多いですよね。何かありますかね。 ○鎌田部会長 私は個人的には,これは建築請負だからこそ確立した判例理論ではないのかなという感じを持っていますが,ここでは,請負一般の原則であり,かつ客観的に見て価値があれば,注文者にとっての価値よりもそっちが優先するし,解除原因は一切不問の原則になっています。本当にそのときに全部,解除が既履行部分以外に制約されてしまってよいのかという疑問がないわけではない。かといって,代案があるわけではございませんので,そういう疑問もないわけではないということだけ申し上げておきたいと思います。 ○村上委員 細かなことで恐縮ですけれども,原則としては,仕事が完成して初めて報酬を請求できるわけですが,この場合は仕事が完成していませんから,既履行部分に対応する報酬及び費用をいつ請求できることになるのかという問題もあると思います。その点も,立法するのであれば明確にする必要があるかなと思います。 ○鎌田部会長 それでは,残り時間が非常に少なくなってはきたんですけれども,あと少しで「請負」が終わりますので,恐縮ですけれども,続きまして「8 下請負」と「9 請負の意義」について続けて御説明をお願いいたします。 ○笹井関係官 「8 下請負」の「(1)下請負に関する原則」では,請負人が原則として下請負人を使用することができるという原則を明文化するかどうかという問題を取り上げるものですが,履行補助者を使用することができるのは,債務の履行一般について言えることであり,請負に限って,特に条文上明らかにする必要はないことから,規定を設けないことを提案しています。   「(2)下請負人の直接請求権」では,下請負人が注文者に対して報酬を直接請求することができるとする考え方の当否を取り上げるものです。下請負人の報酬請求権を担保権の付与以上に保護することの妥当性について疑問が提起されていること,法律関係の複雑化を招くおそれがあること,注文者に誤払いの危険が生ずるおそれがあることなどの批判を踏まえ,直接請求権の規定を設けないことを提案しています。   「(3)下請負人の請負の目的物に対する権利」のアは,判例法理を踏まえ,下請負人は元請負人が注文者に対して持っている権利以上の権利を主張することはできないとすることを提案しています。これによれば,例えば注文者と元請負人との間で,仕事の目的物の所有権が注文者に帰属することが合意されていた場合には,下請負人が材料の主要部分を供給したとしても,目的物の所有権を主張することができないことになります。イはこれとは逆に,注文者も元請負人に対して主張することができる権利以上の権利を,下請負人に主張することができないという考え方の当否を取り上げています。   「9 請負の意義(民法第632条)」では,請負契約に関する規定の適用範囲をどのように考えるかについて,二つの考え方を取り上げています。甲案は,当事者の一方がある仕事を完成する義務を負うという現在の規律を維持する考え方です。これに対し,仕事の完成義務を負う契約類型の中には,必ずしも請負に関する規定を適用するのが妥当でない類型も含まれるという考え方もあり,その一つの考え方として,乙案では履行過程において成果が契約に適合しているかどうかを注文者が確認した上で受領するというプロセスが予定されていない契約類型は,請負の規定の適用範囲から除外するという考え方を取り上げています。このような契約類型については,瑕疵担保に関する規定等を適用することが考えにくいことなどを理由とするものです。 ○鎌田部会長 それでは,まず「8 下請負」についての御意見をお伺いします。 ○佐成委員 (2)の直接請求権についての規律は設けないという方針に,経済界としては賛成ということです。 ○岡委員 では,「下請負」の(1)は全会が賛成です。(2)については安堵したというのが弁護士会の感想で,全会賛成でございます。(3)については意見が分かれておるんですが,直接請求権がないときに(3)のアとかイとかいう規定が本当に必要なんですかという疑問があります。そうは言いながら,アのほうについては賛成と反対がほぼ拮抗しておる状態です。賛成,反対が拮抗はしておりますけれども,アのような規定がある場合に下請負人は報酬請求を注文者に直接できるようになるのか,そんなことを定めた規定ではないと思うんですが,直接請求がないにもかかわらず,注文者に一定の場合に主張できて制約をかぶせると,何を意図しているのか,よく分からないという感想が多うございました。イについても,同じようにどういう場合に適用されるのかがよく分からないという観点から,こちらのほうはアよりも反対が多い状況でございました。 ○山野目幹事 41ページの(3)の論点でございますけれども,今,岡委員は直接請求権が認められないのならば,とおっしゃいましたが,直接請求権の話と直接関連のあるお話ではなくて,恐らく(3)の議論は,元請負契約における完成建物又は出来形部分の所有権帰属に関する特約が下請負契約との関係で,どのような法的な意味ないし射程を持つかという議論を強く意識した問題ではないかと私は理解いたしました。   その上で申し上げますと,新築建物の所有権帰属の際にも申し上げたのですけれども,この種の完成建物の所有権帰属や出来形部分の所有権帰属の論点が持っているかなり特殊な意味,それから,それに関連して出された,ここでいいますと平成5年の判決の射程についてのいろいろ評価が微妙なところがあるといったような問題の背景を考えますと,そのような特殊な問題を意識して,かつ,ここに出ているようなかなり抽象的な規範・規律を設けるということが本当に適切なのかということについて,内容それ自体について疑問を抱きます。  それと同時に,もし(1)(2)が御提案のとおりになるとすると,下請負という概念が登場してくるのが,もし規定を設けるとするとここのみになりますが,これも何かいささか不格好なお話でありまして,その辺りは部会資料をお作りになる事務当局も十分認識しながら,問題提起としてはお出しになったということであろうとは思いますが,(3)ア,イとも,このような規定があるといいな,という気持ちは,必ずしも抱かないということを申し上げさせていただきます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見は。 ○高須幹事 今,山野目先生から御意見がありました(3)のところですが,弁護士会は意見が分かれておるということなんですが,私が所属している東弁なども,抽象的な規定を置くことにどれだけの意味があるのだろうかということで,反対という立場を採っております。私個人としても,今,山野目先生から出たようにアのところの論点は,最判の平成5年10月19日のことなんだろうと。   ただ,その判例法理については,下級審判例は実はいろいろな言い方をしていて,必ずしも最高裁判例と同じような理由ではない判例などもあったりして,いろいろな意見があったところだろうと思いますし,それはそれで,最高裁判例が出たのだから,それで統一されたんだということかもしれませんが,だとしても,今,現行法でそれで解決できたわけなので,必ずしもこの種の抽象的規定を新たに設けなければならないという必要性はないのではないかと,なまじ抽象的な規定を設けると,かえってそのことが何か要するに持っている権利以上のものは言えないんだよという規範だけが独り歩きして,下請人の主張に対しての全然見当違いのところでの何か制限になりはしないかというような気もしておりまして,東弁も私個人もなんですが,ここは反対ということの考えを持っております。   イに関しても,更に判例の問題でもないのかもしれなくて,今,何を更に問題にしているのかもよく分からないなというところが東弁の中では出た議論でございます。 ○村上委員 同じところですけれども,平成5年の最高裁判例は,建物の建築請負における所有権の帰属に関するものであって,これを請負一般に広げてよいかどうか,また,所有権以外の権利についても同様に扱ってよいかについて,これまで十分な議論が蓄積されてきたかどうかは,疑問があると思います。 ○鎌田部会長 消極意見ばかりですけれども,全体として,そういう御意見が支配的であると承りました。   「9 請負の意義」についての御意見をお伺いします。 ○安永委員 請負の意義について申し上げます。最後に意義が出てくるというのは素人的には分かりづらいのですが,そのことは抜きにしまして,今日,労務供給者を「名ばかり事業者」として労働法による規制を潜脱しようという目的もあって,完成の基準が客観的に明らかにされず,請負による規律になじまない業務が請負の対象として取り扱われることが多くなっております。   「君もそろそろ独立しないか」といったような甘い言葉にだまされて,私どもに相談に来るというケースも多くなっておりますし,有期契約労働や派遣法の規制などによって,よりそういったケースが増加することも懸念をしております。具体的には業務,雑誌記者の取材執筆,清掃,広告版下作成,先ほどから話題になっておりますプログラミングなどが挙げられます。これらの分野では仕事の完成がなされたかどうか,したがって報酬請求権が発生するかどうかなどが不明確であるがゆえに,仕事の出来具合や完成度などを口実とした報酬不払問題が頻発していることも,先ほど来,申し上げたとおりです。   請負の意義に関しては,完成の基準が客観的に明らかにできず,請負による規律になじまないもの,例えば,清掃,広告版下作成,雑誌記事の取材執筆,プログラミング等が請負に該当しないことを明確にしていただきたいと考えます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○松本委員 今の安永委員の御意見についてですが,請負の規律になじまないものを請負だとするのは正に偽装請負であって,それはここでの議論の恐らく外側になると思うんです。完成かどうかが判断できないような,つまり,完成のないような契約を請負だと称するのは偽装請負だと思います。しかし,完成がきちんとイメージできるものについて,物の引渡しを伴うもののみを請負にして,それ以外をその他にするというのは,私は第1ラウンドでも発言しましたけれども,反対です。   例えば修理をするという請負契約の場合に,現物を引き取って修理会社でやれば請負になって,お宅に行って修理をしている場合は請負にならないというのは,修理がきちんと終わったかどうかというのは,客観的に評価ができるタイプのものであって,安永委員のおっしゃったような偽装請負とはまた別の問題だと思います。 ○中井委員 弁護士会の意見は基本的に甲案です。ただ,乙案について念のために確認をしておきたいのですが,今の松本委員の発言との関係ですけれども,かつて議論されたのは引渡しの有無を問題にしていたと思うんですが,今回,この乙案は受領するという言葉は入っているけれども,引渡しを必要としない契約類型についても対象にしているのではないか。つまり,44ページで①から⑦まで挙げていますけれども,この中には引渡しを要件としないものがあるわけですけれども,結局,ここで乙案の意図するところは,瑕疵担保責任の適用がないもの,46ページを見る限りにおいては,⑦のみを排除することを想定して定義付けをしたように読めるのですが,理解はそれで正しいのか。   仮にそうだとすると,⑦のみを排除することを意図して,これほど難解な定義をすることの意味,47ページの部会資料で書いていることだと思うんですけれども,どこに意味があるのか,よく理解できなかったので,乙案の理解がそれでよろしいのかということを確認したいのです。 ○内田委員 松本委員の発言を聞いてびっくりしたのですけれども,松本さんの意見に対応するために作った案なのですよ,これは。 ○松本委員 失礼しました。乙案の「受領する」という多義的な言葉に引きずられて,最後まできちんと全部読んでいなかったもので。 ○内田委員 引渡し,つまり占有の移転の有無で区別するのはおかしいと松本さんはおっしゃいました。なるほどと思いましたが,しかし,実際に仕事をしたあと,仕事は完成しましたねということを確認して初めて仕事の完成が認定できるというタイプのものについては,請負特有の瑕疵担保のルールが適合的だろうと思われます。他方で,それ以外のものについて,中井委員は⑦を挙げられましたけれども,この種のものはたくさんあるわけでして,それは役務提供一般のルールの中で契約の趣旨に応じて処理したほうがいい,物の瑕疵担保を典型例とするような請負のルールをそのまま当てはめるのは適当ではないだろうということで,区別をした上で,引渡しということではなく,松本先生の御指摘の趣旨を反映できる基準で案を作ろうということで提案したものです。 ○松本委員 早とちりをいたしまして失礼いたしました。 ○鎌田部会長 一番最後に「意義」が出てくるということですが,議論の整理上,こういう形になっているわけで,ここが固まると,今度はこの定義に沿った形で請負法の体系がこれに合わせて組み替えられるということになっていくんだと思います。そういう意味では,実際に甲案・乙案でどれぐらいの差が生ずるのかという点については御議論があろうかと思いますけれども,最も根本的なテーマであるといえば根本的なテーマであるわけで,御意見があればお出しいただいておいたほうがいいと。 ○松本委員 中井委員がおっしゃったように,①から⑥までだけを請負にして⑦を外すというのは,占有の移転に限定されない,広義の引渡しというか,完成の確認を伴うもののみを請負にするということですね。 ○内田委員 次のページまで読んでいただければお分かりいただけると思います。松本委員が前からおっしゃっているように,自分のところに持ってきて仕事をして完成して引き渡すのと,相手のところに行って仕事をするのとで,何で区別するのだという御指摘はもっともだと思いましたので,相手のところで仕事をした場合でも,これで終わりましたよと言って確認をして,物理的な引渡しではないけれども,履行として認容をするというプロセスがある,そういうものを取り上げて請負のカテゴリーに入れようという,そういう提案だと思います。 ○山野目幹事 2点ございまして,一つ目は松本委員が先ほど最初に御発言になったことに幾つか含まれたうちのある部分は,内田委員との今の意見交換で意味が明確になったと考えますが,もう一つ,安永委員との関係でおっしゃったことについて,松本委員の御発言に私はうなずくことができる部分もあるとしても,若干,留意しておきたいと感ずる部分もございまして,完成が予定されていないものは偽装請負で,安永委員がおっしゃったものはそれであるから,らち外に置かれるとおっしゃったところは,そのようなものもあると思いますが,完成が約されている契約であっても,なお,労働者ないし労働契約の概念との関係で整理を要する事例ないし領域というものは残ると私は認識しておりまして,それは雇用ないし役務提供契約にいくときも含めて,引き続き議論していただきたいと感ずるものでございます。   それから,もう1点は論点の9それ自体についてですが,部会長から意見を述べよというお話がありましたし,甲案,乙案と並んでいるから意見を言うべきところであると感じますが,正直,議論しにくいと感ずるのは,⑦に代表されるものを除外することをお考えになる趣旨は理解することができるとしても,そう考えることがよいかどうかは,基本的には除外されたものを何で受け止めるかというところの役務提供契約の概念のところの議論がかなり深められて,そこで論議を行った後に,また,ここに戻ってくるということになり,多少,議論が循環する部分があるものですから,意見を言いにくいという感想を抱いたという所感を述べさせていただきます。 ○佐成委員 この部分については,特に経済界の中で議論しているわけではなく,個人的な感想ですけれども,乙案というのは私が読んだ限りでは非常に分かりやすいとは思いましたし,最終的にどうなるかは別にして,残しておいてもそれほど悪くないとは思いました。ただ私も,最終的には,今,山野目幹事がおっしゃった,漏れる部分をどう処理するかということの決着が付いた段階で判断するということになるのかなという気はしております。 ○鎌田部会長 分かりました。ほかには御意見はよろしいでしょうか。   それでは,「委任」については丸々残ってしまいましたけれども,時間も時間でございますので,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   分科会についての報告事項でございますけれども,本日の審議におきまして幾つかの論点について分科会で補充的に審議することとされました。これらの論点につきましては,部会資料45掲載の論点は第3分科会に,部会資料46掲載の論点は第1分科会にそれぞれ検討していただくことといたします。松本分科会長,中田分科会長を始め,関係の委員・幹事の皆様にはよろしくお願いいたします。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回会議は9月18日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は法務省20階の第1会議室でございます。次回の議題は,本日の積み残し分のほかに,新たな部会資料47をお届けする予定をしております。その内容としては,「準委任に代わる受け皿規定」から「雇用」「寄託」「組合」まででございます。典型契約の残りの「終身定期金」「和解」については,その後の部会資料に回すことにいたします。   それから,開催済みの分科会についての結果の報告がございます。机上に「第2分科会第5回会議の開催について(報告)」を配布させていただきました。このとおり報告いたします。また,この第2分科会第5回会議におきまして,委員等提供資料として山野目幹事から書面が提出されましたので,これを改めて部会でも机上に配布させていただいております。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,本日の審議はこれにて終了といたします。   本日も長時間にわたり,熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-