法制審議会           新時代の刑事司法制度特別部会           第16回会議 議事録 第1 日 時  平成24年12月5日(水)   自 午後 1時35分                         至 午後 5時26分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり)           議        事 ○吉川幹事 それでは,ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会の第16回会議を開催いたします。 ○本田部会長 本日も皆さん大変お忙しい中,御出席をいただきましてありがとうございます。本日は,全委員・全幹事の方が御出席ということになっておりますが,山口委員と藤本幹事におかれましては,所用のため,遅れるということでございます。   本日の議事は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,「被告人から真実の供述を得るための方策」,「いわゆる2号書面制度」,「証人及び被害者の保護等のための施策」,「司法の機能を妨害する行為に対する制裁の在り方等」,「その他」であり,これらについての議論を順次行っていきたいと思います。   それでは,本日の配布資料につきまして,まず事務局から説明していただきたいと思います。 ○吉川幹事 御説明いたします。本日は,審議を予定している論点について,資料54ないし57として資料をお配りさせていただきました。これらは,これまでの御議論等を踏まえて,現段階で考えられる制度の概要,あるいは,これまでの議論で提示された御意見,そして,検討課題等を整理したものでございます。これらの内容につきましては,後ほど,それぞれの議論に際して説明があります。 ○本田部会長 それでは,早速,本日の一つ目の論点でございます「被告人から真実の供述を得るための方策」についての議論を行いたいと思います。   この論点に関しましては,一巡目の議論におきまして,被告人の虚偽供述に対する制裁を導入すべきであるとの意見,また,被告人の証人適格を認めて偽証罪を適用しようとする方法もあり得るとの御意見もございました。その一方で,被告人の防御権の妨げになるということ等を理由に,これを認めることに消極的な御意見もありました。そこで,本日は,こうした議論を踏まえまして,更に御議論をいただきたいと思います。まずは事務当局から配布資料の内容を説明してもらいたいと思います。 ○保坂幹事 御説明いたします。資料54を御覧いただければと思います。被告人が公判で虚偽の供述をしたといたしましても,現行法上,これを処罰する規定はございません。また,被告人が自己の公判において証人として証言することはできない,すなわち被告人には証人適格がないとされておりますため,偽証罪が適用されるということもございません。このような現行法の在り方につきまして,一巡目の御議論では,被告人から公判で真実の供述を得るための方策として,被告人に証人適格を認めること,すなわち,被告人が希望する場合には証人として宣誓させた上で,これを尋問することができるものとすることの可否を検討すべきであるとの御意見ですとか,被告人の公判における虚偽供述を処罰の対象とすべきであるという御意見がございました。   被告人の証人適格を認めるものとすれば,被告人が証人として虚偽の供述をした場合には偽証罪により処罰されることとなるものと考えられますが,他方で,被告人に証人適格を認めないといたしましても,被告人質問等の公判における虚偽供述を処罰の対象とするという在り方も考えられるところでございます。そこで,前者を①,後者を②として四角の中にお示しをさせていただいております。   次に,考えられる検討課題を資料の「2」の(1)から(4)までとしてお示しをいたしております。   1点目は,このような仕組みの必要性でございます。これまでの御議論では,公判供述の真実性を担保するために,被告人の虚偽供述に対する制裁が必要であるとの御意見があった一方で,これに慎重な観点からの御意見といたしまして,そのような仕組みを導入しても,必ずしも真実の供述が確保されるとは限らないという御意見ですとか,現状においても,被告人の供述が虚偽と認定された場合には量刑上不利に考慮されており,このような量刑の実情も考慮した上で,新たな仕組みを設けることの当否を検討すべきであるとの御意見もございました。これらの点も含めまして,被告人に証人適格を認めることや,被告人の虚偽供述を処罰の対象とすることの要否が,まず検討課題となろうかと思います。   2点目は,被告人の防御との関係でございます。この点につきましては,一巡目の御議論では,被告人の弁解が虚偽とされて処罰され得るということになると,被告人が処罰を恐れて十分な防御ができなくなるおそれがあるので,そのような処罰の仕組みを設けるべきではないという御意見がございました一方で,被告人の虚偽供述を処罰することとしても,被告人が検察官の主張や立証を争ったり,真実の反証を提出することは何ら妨げられないので,防御権が不当に制約されることにはならないという御意見もあったところでございます。更にこの点についても,御議論いただければと思います。   検討課題の3点目は,新たな仕組みを設けることとする場合の具体的な制度の在り方でございます。この点に関しましては,特に①の考え方によって,被告人の証人適格を認めることとする場合,資料に記載したとおりでございますが,証人としての供述義務と被告人の黙秘権との関係をどのように考えるか,被告人が証人となる場合には黙秘権を放棄したものと取り扱うのか,現行の被告人質問,すなわち,供述義務や虚偽供述に対する処罰を伴わない供述手続について,これを廃止するのか,あるいは,存置をした上で被告人が証人尋問と被告人質問を選択できるようにするのかなどといった点の検討を要することになるのではないかと考えられるところでございます。   資料には,現行法の参考条文をお示ししておりますので,御参照いただければと思います。 ○本田部会長 それでは,被告人から真実の供述を得るための方策につきまして,ただいま説明いたしました資料54に沿いまして,ここに記載されました検討課題を中心に議論を行いたいと思います。委員・幹事の方で御意見のある方はお願いします。 ○青木委員 第12回で小野委員が発言されていますけれども,被告人の供述が虚偽であるのか否かという判断は,被告人自身の裁判においての事実認定そのものに直結するということになるわけですね。そもそも虚偽であるか否かという判断自体がそれほど容易なものであるとは思われませんし,偽証罪の適用を含めて,虚偽供述を処罰できるということにしても,どれだけの実効性があるのかということは疑問だと思います。   被告人の供述以外の証拠ですとか,あるいは,被告人の供述そのものの合理性や変遷の有無などから,被告人の供述が明らかに虚偽であると判断される場合というのはもちろんあると思いますけれども,そのような場合は,実際は被告人は反省していないとして,通常は量刑が重くなるということになるわけですね。それに加えて,何らかの処罰があるということによって,どれだけ真実を語らせることにつながるのだろうかという疑問を持ちます。   一方で,犯人性がシビアに争われるような場合に,被告人の供述の真偽の判断というのは正に有罪・無罪の判断と直結することになるわけで,もし証人として被告人が証言できるということになりますと,被告人としては無実であるのに,供述が虚偽であるとされてしまって偽証罪に問われると,現に行われている裁判で誤って有罪とされる上に,偽証罪でも処罰されるということになる危険が,要するに,二重の不利益を被る危険があるということになると思います。   しかも,偽証罪ということになりますと,相手方当事者である検察官が捜査・訴追権限を有するということになるのではないかと思いますけれども,そうした場合に,非常に被告人の防御権にとって問題になることがあるのではないかと思います。   被告人が,自分の選択で証人になるかどうかを判断するのだから,いいのではないかということも考えられると思いますけれども,被告人自身の選択を迫ることになれば,実際には被告人としては証人にならずに宣誓しないで供述するという選択は採りにくいと思うのですね。それは,真実を述べるつもりがあるなら当然に証人になるであろうと考えられるからです。無実の被告人である場合はなおのこと,宣誓して証言することになると思いますけれども,それで正しく判断されればいいわけですが,必ずしも有罪・無罪の判断,虚偽かどうかという判断が正確でない場合に,やはり二重の不利益を被ることがあり得ると思います。   罰則の新設ということであれば,不利益の程度は緩和されるとは思いますけれども,やはり同じ問題があると考えますので,多少乱暴な言い方をさせていただければ,今,出されている①,②を採ることによって,虚偽を述べて言い逃れをするような被告人に真実を語らせることについては,必ずしも効果があるとは思われない一方で,万が一にもあってはならない二重のえん罪を生む危険があると思いますので,①,②いずれについても消極意見です。 ○酒巻委員 私は,青木委員とは少し違った考え方を持っておりますので,申し上げます。   この法制審議会は,取調べと調書に過度に依存しない新たな刑事司法の在り方を検討するものであったと思いますが,そのためには取調室ではなくて,正に公開の法廷において,虚偽ではなく真実が語られること,言い換えますと,法廷というのは真実が語られる場であるということが文明諸国の常識でありますので,それを我が国でも確立することが何よりも重要であろうと考えるところです。   被告人に黙秘権があり,そして憲法上,自己に不利益な供述を強要されないということは,これもまた文明諸国の共通の常識でありますけれども,そのことと法廷で被告人が自分に都合の良い虚偽供述をするのを放任するというのは,全く別の事柄です。法廷で供述する以上は,虚偽を述べる被告人に何らかの法的制裁を科して,これによって虚偽供述を抑止する,そういう方策を検討すること自体は基本的に適切な方向であろうと考えます。   その上で,①と②が出ているわけですが,虚偽供述を別途処罰するという②の方は,法廷でうそを言うことは犯罪であるということを実体法によって示す点においては,意味がある,一定の抑止力があると思われますが,実際に,これが円滑・適切に機能するかはやや疑問もないわけではありません。要するに,今度は虚偽を述べたかどうか捜査をして,起訴して,別の刑事裁判で有罪判決を得なければいけない。実体法というのは,作るだけでは足りず現実に動かさなければしようがないわけですから,果たしてうまく動くであろうかという問題があります。   むしろ,現に行われている公判において,できる限り,供述するのであれば真実を語っていただくということを考えますと,公判において真実を供述していただく法的な装置としては,確立している証人尋問のシステムがあるわけです。つまり,まず事実認定を行う裁判体の面前で,虚偽を述べれば偽証罪になるという警告を受けて,相手方当事者の反対尋問を受け,その信用性を徹底的に吟味されるというシステム,これを被告人についても適用することができるだろうと思います。   現行刑事訴訟法の条文の解釈としては,このように被告人を証人にすることは無理であろうと解されていますが,法311条及びそれに関連する若干の規定を修正・変更することによって,被告人の証人適格を認めることは可能です。技術的にどういう法制度にするかというのは,いろいろな在り方があると思いますけれども,例えば,被告人は公判でもちろん全面的に黙秘することはできます。これは基本的な人権です。しかし,法廷で供述をして,それを自己の事件についての証拠としてもらうためには,正に主体的な当事者として自ら証人となり,主尋問に応答する形で供述をする。供述をした以上は,その信用性を吟味・点検するための検察官による反対尋問を受けなければいけないとするのが一番すっきりした形であろうと思います。   現在の日本の法制は,公判において供述したいときには,任意にしゃべることができる。反対尋問には答える義務がない。そして,被告人の公判供述は全て証拠となる建前ですけれども,こういう法制は,比較法的には余り例がない。この結果として,被告人の公判供述は反対尋問を受けないわけですので,結局,その信用性のチェックが行われないために,総じて本当のことを言ったとしても,余り信用されないという状況になってしまっている。   他方,ヨーロッパ大陸諸国では,法廷において裁判長による被告人尋問という形で徹底的に厳しい尋問に被告人がさらされる。そこで不合理なことを言えば,それは裁判体の面前で不合理なことを言っているということが明らかになる。本当のことを言えば,それは,例えば客観証拠等々と突き合わせて,真実であると信用されるとなっているわけです。   ところが,日本の制度は,英米法のような証人適格はないし,大陸法のような裁判長による尋問もない。これでは,被告人から真実の供述を得るために取調べに頼るなと言う方が無理であろうという議論さえあるわけです。我が国が採用している当事者主義を採っているアメリカ,イギリスと同じように,黙秘権はもちろんあるが,法廷は真実を語るところであるから,語るとすれば,それは真実を語らせる基本的なシステムである証人尋問の制度を使う,というのが最も適切で,すっきりしているというのが私の意見です。 ○後藤委員 酒巻委員がおっしゃるやり方は,アメリカ法的な制度のイメージだと思います。それはそれで理解できるのですけれども,日本にそれを導入したときに期待されるような結果になるのかどうか,それが良い効果をもたらすかどうかは,慎重に考える必要があるように思います。   私の理解では,アメリカの被告人は法廷で全く語らないか,あるいは,宣誓をして証人になって反対尋問にもさらされるという,そのどちらかの選択ができるけれども,多くの場合,弁護人は被告人をなるべく証人にさせないようにする。反対尋問にうまく答えることが余り期待できないので,むしろなるべく証人台に立たせないように助言する場合が多いと思います。もちろん本人が希望すれば,証言させますが,現実に多くの被告人は,法廷で全く語らないという結果になっていると思います。   日本に,そういう制度を取り入れた場合,どんな運用になるか,予測が難しいところがあります。しかし,アメリカと同じような運用になるとすると,法廷で被告人が全く何の発言もしない裁判が多くなる。そのように被告人が何も語らなくなったら,日本では逆に非常に不満を引き起こすのではないしょうか。   それから,そのような制度を取り入れた場合に,それによって被告人の供述の信頼性が増すのかという問題もあります。酒巻委員もおっしゃったように,例えば,被告人が証人となって「私は無実です。」という証言をした。でも,その人が有罪の判決を受けた。そのときに,それは偽証だとして,検察官は,もう一度,その人を偽証罪で起訴することをいちいちできるのか,それが効率的かという問題があると思います。つまり,その場合の偽証罪は,法律として作っても適用することが現実的かどうかという問題があります。と同時に,被告人の立場から見たときに,宣誓をしたからといって,「私は無実です。」という証言が信用してもらえるのかといえば,実は余り違いはないのではないでしょうか,事実認定者,裁判員とか裁判官にとっては。そうすると,被告人にとっても余り良い結果にならないのではないかと思います。   日本の現在の制度は,確かにある意味で中途半端なものですけれども,それなりに機能しているのではないでしょうか。それを変えようとすると,かえって良い効果をもたらさないのではないかというのが私の懸念です。 ○井上委員 今,後藤委員が言われた,アメリカの場合は被告人はほとんど公判廷で証言台に立たない,という点ですが,「ほとんど」と言ってよいかどうかは疑問です。実際,被告人を証言台に立たせるか立たせないかの判断は,弁護人の腕の最大の見せ場だと言われています。検察官も裁判所も,公判廷で被告人が証言台に立たない場合に,陪審員に対して,立たないことから被告人に不利な推認をしてよいとコメントすることは許されませんが,陪審が自らそういうふうに推認してもやむを得ないとされていますので,事実上,被告人に対して不利に働くことが多いため,弁護人としては,被告人と話し合って,どちらをとるかを決断しなければなりません。そして,被告人が供述をするとすれば,反対尋問を受けることを覚悟の上,証言台に立つという道しかないのです。   我が国の場合は,ヨーロッパ大陸法的な制度でも英米法的な制度でもなく,非常に中途半端な制度になっていて,先ほど挙げられたように,防御上の主張と証言・供述とが截然と分かれていないところから来る問題点がある。これも以前にお話ししたので繰り返しませんが,そこのところが渾然としているからこそ,そのような問題が生じるわけです。   私は,それが良いとまで思っているわけでは必ずしもないのですけれども,刑事訴訟法311条を廃止して,アメリカやイギリスのように,被告人の公判廷での供述を証拠としてもらうためには,証言台に立って証言する必要があることとし,これとは別に,当事者としての主張・弁論は,冒頭手続での主張や最終陳述での主張として陳述させるというふうに分けてしまうというのも一つの在り方であると思います。   内容について申しますと,虚偽の供述をしたことに対する処罰規定を設けても実効性がないとか,検察官がわざわざまた捜査して起訴するのだろうかという御意見は,十分説得力のある反論とはなっていないように思います。現在でも,証人が虚偽証言をした場合に検察官は訴追しているかというと,それほど多くは訴追していないけれども,だからといって,偽証罪の処罰規定を置いていることが無意味だとか,廃止してしまうべきだということになるのかというと,ならないはずで,少なくとも,それと同程度の意味はあるといってよいはずです。今は,311条がありますから,言いたいことだけ言って質問に答えない,言いたい放題ということもあり得るのですが,それが問題だとすれば,先ほど申したように,被告人は,反対尋問と偽証罪の対象となることを覚悟の上,証人として証言するのでなければ,その供述を証拠としてもらえないことにするという在り方もあると思います。   もう一つ,青木委員が言われた,認定がいい加減になるのではないかということは,やや暴論で,有罪か無罪かの判定は,きちんとやってもらわないといけないのは当然のことであり,有罪になった場合に,被告人が公判で無罪の主張をしたことが直ちに虚偽供述罪に当たるということにはならず,虚偽供述罪それ自体として,更に十分な証明がなされなければ,処罰はできないはずです。ですから,その有罪認定が連動していい加減になるからというのは,理屈としておかしいと思うのです。また,二重の処罰になるという点も,本案の有罪認定が誤っていればそうなるという御趣旨のようですけれども,本案の有罪認定が正しいとすれば,虚偽供述の方も新たに別個の罪を犯していることになりますから,二重の処罰でも何でもないのです。ですから,本案の有罪認定がいい加減かもしれないという前提に立って立論するのは,余り筋の良い議論ではないと思います。   要するに,被告人側として防御上の主張は尽くしてもらう必要があるのですが,それが当然に証拠にもなるという在り方は非常に中途半端なので,考え直した方が良いかもしれない。311条を全面廃止してしまうべきだとまで言うほどの度胸はありませんが,問題点の指摘だけさせておいていただきます。 ○小坂井幹事 実は私自身,酒巻委員がおっしゃったような発想を従来持っていた時期があることは事実です。これは,日本の被告人質問というのは,確かに極めて中途半端,主張か供述かよく分からないと,それで,弁護実践上の観点であえて言えば,被告人質問していても裁判官がきちんと聞いてくれているのかどうかよう分からんままに裁判が進んでいくと,こういう感じが実はした時期があります。それで,酒巻委員がおっしゃったように考えた時期があることは事実なのです。   ただ,現在の段階で①,②のような必要性・必然性まであるかというと,私はむしろなくなってきているのかなというのが率直な感想です。これはどういうことかといいますと,裁判員裁判で被告人質問をやっていて,これはもう裁判官裁判の時代とは違うというのが私の実感であります。言いたい放題,被告人が言って,それで裁判員の事実認定で通用するなんていうことはあり得ないわけです。正に,そこで,それが法制上きっちりしたものかどうかの議論はあり得るかもしれませんけれども,反対質問のチェックをきちんと受けて,その上で裁判員はきっちり事実認定しているという状況が日本の裁判でも現れているわけです。必要性・必然性という観点からは,私はこの改変の必要性は乏しくなっているのではないのかなという感想を持っています。   それと,これは私,整理できていないので,井上委員のお話など聞いていると,むしろ御異論が当然おありだということになるんだと思うのですけれども,何か偽証罪の制裁を科すことによって真実が担保できるんだという発想自体が,どこかで転倒しているのではないのかなと私は感じます。そこはまだ整理できていませんので,もう少し考えてみたいと思っています。 ○大野委員 被告人の虚偽供述を処罰する制度を設けることは,私は積極的に検討されるべきではないかと思います。立場によって評価の違いというのはあると思うのですけれども,これまで供述調書が重視されてきた背景には,公判廷で被告人が必ずしも本当のことを供述するとは限らないことを前提にして,そのような場合にも,捜査段階でなされた本当の供述を証拠として裁判に顕出することが期待されてきた,こういう評価もあり得るのではないかと思います。   しかし,今後,新たな刑事司法制度において,供述調書への過度の依存を改め,公判審理をより重視していくこととなるならば,公判廷における被告人の虚偽供述を放置しておいてよいということには決してならないと思います。公判段階でどのような供述をするかは被告人の自由に委ねられていますけれども,一たび虚偽の供述がなされた場合には,裁判所による事実認定が,虚偽の供述に基づいてなされるおそれがあることとなります。   被告人の公判廷での供述も証拠となるわけですから,被害者その他事件関係者が証人として証言した場合には偽証罪の制裁に服することとなることとの対比からしても,被告人が公判廷で黙秘するのではなく,あえて虚偽の供述をした場合には,処罰の対象とされるべきであると思います。このような制度を設けることは,刑事司法のスタンスとして被告人がうそをつくことを許さないと明確に示すものとして,効果があるのではないかと思います。   現在,偽証罪の活用が低調な実情にあるということも踏まえて,被告人の虚偽供述を処罰する制度を設けても,それが実際に活用されるとは考えにくいのではないのかとか,あるいは,実効性があるのかという御意見もございましたけれども,新たな刑事司法制度においては,検察としては,偽証罪をより積極的に活用することが必要となっていくと思いますし,正に公訴事実を立証するための証拠収集が行われているのでありますから,それに関して被告人がうそをつけば,それが虚偽供述だと立証することも相対的に容易なのではないかと思います。 ○但木委員 いろいろな御意見ございましたが,私は効果があるかないかとか,そういうことの前に,やはり新しい時代の刑事手続というのは,これまでの刑事手続と変えるんだということをはっきりさせるべきだと思うのですね。   それは何を言っているかというと,公判廷で何を言ってもいいよというのが今までの文化だった。主張なのか,証拠としての供述なのか,その区別がないわけですから,したがって,法廷での供述はもしかしたら弁解,主張の類いなのではないと思われてしまうわけです。したがって,捜査段階で彼が不利益供述をしていたり,あるいは,自白をしていたりすれば,それの方がずっと真実性があるではないかと,今まではそう取り扱ってきたわけです。今は,公判中心主義とか,あるいは直接主義,口頭主義という方向に大きく展開しようとしているわけで,したがって,公判廷で被告人が何を言っても,これまでどおりでいいではないかということを前提にしたら,322条で被疑者の段階で供述したことが公判廷に出て,それが採用されて信用されて,それで事実認定されるという文化は全然変わらないではないですか,というふうに思うわけです。   したがって,公判廷で被告人が真実を述べるべきだというのは当たり前の話で,それにどういう制裁を科すかどうかというのは二の次ですけれども,少なくとも現在のように主張なのか立証なのかもよく分からなくて,曖昧もことした弁解なのか,一生懸命真実を語ろうとしているのかも別に区別はされないという状態がこのまま続いて,果たして今の訴訟文化が変わるのか,公判中心主義になり得るのかと思います。   先ほど裁判員裁判になって,裁判員はそれほど甘くないよと言いました。それはそのとおりです。それは国民のレベルの高さを示している。しかし,もう一つ考えてもらいたいのは,今までは職業裁判官です。しかし今度は,自分の職をある意味では投げ打って,自分の都合にかかわらず,自分の生活を遮断して公正な裁判に参加しようとする人たちが裁判員になっているわけで,その人たちの前で,これまでのように1年も2年も,任意性があるかないかで争われるということが行われてはいけない。これが片方では録音・録画の問題となっているわけですけれども,片方では,それは被告人に真実を述べる義務というのがあるのは当たり前だと思うわけです。   その意味では,黙秘権はあるけれども,うそを言っていい権利があるはずがない。それは公判中心主義を採る限り当たり前のことではないか。それに対して,どういう枠組みで処罰するのかどうかというのは,僕はもっと検討をきちんと子細にして,日本の風土の中でどうしたらいいのかというのは,かなり詳細な検討が必要だけれども,まず絶対に変えなければいけないのは,今までのように真実を言っても言わなくても,公判で全然誰もお構いないですよという裁判をこれからも続けるということは,僕はそれはやめた方がいいなと思います。 ○大久保委員 被告人の虚偽供述に対しては,制裁措置を導入すべきだと思います。一般人の感覚からしましても,被害者からしましても,被告人の虚偽供述を許しているということは,事件の解明を妨げて,被害者に2次被害を与えるだけではなくて,もしそれによって被告人の刑が軽くなったとしたら,被告人自身もうそをついたもん勝ちだということを体験してしまうと思うのですね。それは被告人の更生の妨げにもつながると思います。   日本の社会ではどうでしょうか。皆さん,小さいときから親御さん,学校教育の中でうそをついてはいけないというしつけを受けてきたのではないでしょうか。うそをつかないということが常識なのではないでしょうか。それなのに,なぜ刑事司法の社会では,今現在は,うそを言っても言った者勝ちなのでしょうか。   先ほど小坂井幹事がおっしゃいましたように,裁判員裁判も始まりましたので,今後,ますます国民の一般常識や感覚が刑事裁判に反映されます。一般常識とかい離した制度を変えなければ,刑事司法への信頼感が失われると思いますので,新時代の刑事司法制度特別部会ですので,やはりこういうような新たな制度は導入すべきではないかと思います。 ○村木委員 私自身も法廷で何を言ってもいいとか,それから自分を守るためにはうそをついてもいいんだと,こういう考え方にくみするわけではありません。先ほど,大野委員も言われたように,あえて虚偽の供述をする人がいると,そこは防げたらいいなと思いますが,但木委員が言われたように,一生懸命真実を語ろうとしていても,実際,法廷で供述をする立場になると,人間の記憶というのは非常に曖昧であったり,思い違いをしていたり,そういうことがたくさんあるんですね。意図的ではないうそ,結果的なうそとか,そんなものまで処罰をされることにならないのだろうか,あるいは,そういうことを恐れて不確かなことはしゃべれなくなることにならないかという点が非常に心配です。その意味で,もしそういう仕組みを考えるんであれば,非常に慎重にやっていただきたいと思います。   今,制度的には確かに意見を述べているにすぎないのかもしれませんが,実際に法廷に立って被告人としてしゃべるときというのは,やはり自分の意見を言い,検察官からも質問をされ,裁判官からも質問をされ,それを法廷全体が聞いている,その中で判断が下されるということで,実感として,そこに,ものすごく大きな不都合が本当にあるのだろうかということは疑問に感じます。それでも制度の改善がどうしても必要な状況に今あるということであれば,くれぐれも慎重にお願いをしたいと思います。 ○神幹事 私も今,村木委員が述べられたことは非常によく分かるので,慎重にやってほしいと思います。決して弁護人は,被告人にうそを言えなどということは言いませんし,法廷で言うからにはやはり真実を述べてほしいと弁護人も思っています。ただ,時には国選弁護事件など日頃付き合いのない人の弁護を引き受けた場合,どう考えても,科学的に考えて不合理と考えられるのに私はやっていないと言われるような場合があります。そういうケースを考えた場合,やはり先ほど,青木委員が冒頭述べたような問題というのは,どうしても払拭できないんですね。   例のPCの遠隔操作による脅迫メール事件の場合,村木委員が前回述べられていましたけれども,その中に,2人の方が結局自白をして,あと2人の方は自白をしなかったという経過があるのですが,これらの人たちは,たまたまこれが遠隔操作であるということが分かったから救われたと思います。ところが,これがもし分からなかったら,自白をしなかった人については,恐らく,あなたのパソコンから発信しているという客観的な証拠もあるんだよという形で迫られて,否認のまま有罪にされた可能性だってあったと思います。そのときに,彼が,例えば,この制度によって証言台に立って,私は神に誓って絶対こんなことはやっていないと言ったとき,誰が信用しますか。恐らくそれだけの科学的知識のある人だったら判定できると思いますけれども,今回は正にそれが分かったからよかったけれども,この事件というのはひょっとすると,ここで青木委員が述べられたように,二重の危険はあったかもしれないのです。当該の脅迫罪と,それともう一つの偽証罪ということがあったかもしれない。そういう誤判が起こらないようにするという意味合いでも,私はなかなかこの制度の新設には賛成できません。 ○青木委員 先ほど井上委員の方から,私の発言について,いい加減な認定だという趣旨で言われたので,ちょっとそこは訂正しておきたいと思います。言葉が足りなかったのかもしれないのですが,今,神幹事が言われたように,問題があると言ったのは正に究極的な,結果として誤判になった場合のことであって,一般的に判断がいい加減だということを言うつもりはないんです。被告人が法廷で虚偽のことを述べてもいいということでは決してないわけで,もちろん真実を述べさせることが必要なのだと思いますけれども,それについての制裁が,別の処罰というのがいいのかどうか。今の法制度が100%良いかどうかというのは,確かに中途半端なところもあるので,考え直す必要があるかもしれませんけれども,虚偽を述べた被告人に対する制裁というのは刑が重くなるとか,そういう形でやることもあり得るわけで,偽証罪となった場合に,究極のえん罪のことを,無実の人がそういう場面に立たされたときのことを考えて,本当にそれでいいのだろうかという問題点を述べたつもりです。 ○本田部会長 まだ御意見もあろうと思いますが,時間の都合もありますので,「被告人から真実の供述を得るための方策」につきましての議論は,ひとまずここまでとさせていただきたいと思います。   それでは,本日二つ目の論点でございます「2号書面制度」につきましての議論を行いたいと思います。この論点に関しましては,一巡目の議論におきまして,2号書面制度を廃止,あるいは根本的に見直すべきであるという御意見があった一方で,これに慎重な御意見もあったところでございます。そこで,本日は,こうした議論を踏まえつつ,更に御議論をいただきたいと思います。まずは事務当局から配布資料の内容を御説明いただきます。 ○保坂幹事 それでは御説明いたします。資料55を御覧いただければと思います。   いわゆる2号書面制度につきましては,「これまでの議論で提示された御意見」として枠の中に記載しておりますが,「被告人以外の者の検察官面前調書の証拠能力に関する刑事訴訟法第321条第1項第2号の規定は,根本的に見直すべきではないか。」というものでございました。これまでの御議論では,いわゆる2号書面制度には合理性が認められないとの立場から,あるいは,検察官調書に対する信頼が低下していることをも一つの根拠として,供述調書に過度に依存しない刑事司法制度を構築するために,2号書面制度を廃止すべきとの御意見ですとか,321条第1項第2号の規定は,当事者的役割を担う検察官の取調べへの信頼を前提としている点で問題があり,必然的に原則と例外が逆転した運用を招く要因となっているとして,根本的に見直す必要があるという御意見もございました。   他方で,このような御意見に対しては,参考人が証言前に死亡した場合や公判でどうしても真実の証言が得られない場合などには,参考人の捜査段階における供述を証拠として用いる必要性が大きいこと,あるいは,第321条第1項第2号の要件,あるいは運用が緩やか過ぎるとの見方については,そのように断定できるか疑問があることなどを理由として,2号書面制度の根本的な見直しに慎重な御意見もございました。   また,この論点を検討するに当たりましては,要件の在り方を含めた制度自体の問題であるのか,それとも制度の運用レベルの問題であるのかをきちんと整理して議論をする必要があるという御指摘もあったところでございます。本日の御議論におきましても,これまでの御議論を踏まえつつ,更に御議論をいただくこととなると思われますが,資料には2号書面制度に関する検討課題といたしまして,(1)から(3)までとして,「被告人以外の者の公判外における供述に証拠能力を認める必要性」,「現行制度あるいはその運用上の問題点」,「対処方策の要否及び内容」というものを挙げさせていただいております。 ○本田部会長 それでは,「2号書面制度」につきまして,資料55に沿いまして,それぞれ検討課題を中心に議論に入りたいと思います。御意見のある方は,挙手をお願いいたします。 ○小坂井幹事 これは前にも申し上げたことなんですけれども,村木委員の事件があって,そういう経緯の中でこの部会ができたという,この部会のミッションといいますか,そういうものをやはり繰り返し,我々は銘記する必要があると思っております。   そういった中で,この2号書面,特に後段書面ということになりますが,これがそのまま残されていくということは,ちょっとこの部会の改革の方針,正に今,大きく改革を展開するという場面で,そのまま存置するということにはなり得ないのではないかと思っています。   確かに,最近の運用面を見ておりますと,私自身の乏しい経験ですから,正確かどうか分かりませんが,2号書面を採用申請される場面は以前よりも減っておりますし,裁判所の方も,私は以前,特信性で却下されるなんていう例は,それこそ針の穴を通す可能性しかないんだということを申し上げたことがあるんですが,かつてはそういう時期があったと思うのですけれども,近時の裁判所の運用を見ていると必ずしもそうではない。特信性で切っていただいているということも,以前に比べれば増えているとは思います。しかし,そうはいいながら,やはり2号書面というのは非常に大きな力を,今なお持っていることは間違いないわけです。   私はやはりこの2号後段は取りあえず削除することが自明の前提だろうと思います。あるいは2号前段についても何らかの枠をはめる。更に言いますと,私は,実は1号書面もこの前申し上げたように枠をはめる必要があるのではないかという感じがしておるのですけれども,いずれにしましても,この部会のミッションとしては,調書に依存しないという刑事司法を目指す道筋を立てるべきである。そのためにはやはり2号書面廃止ということになるだろうと思っております。   最低限,仮にもし残していくのであれば,これも従来,議論になっておりますけれども,特信情況というものを,やはり全過程の録画・録音ときっちりリンクさせる制度にする。検察官調べについては,きちんと義務的に全過程を録音・録画してもらって,その上で,初めて特信性を判断すると,そういう法制にするのが最低限の要請だと思っております。 ○後藤委員 これは私だけが言ったわけではないですけれども,私などが提起した問題を取り上げていただいて,有り難く存じます。先ほど御紹介していただきましたが,私の考えていることを,もう一度簡単に申し上げます。   いわゆる伝聞証拠禁止原則があって,法廷外の供述は,原則的には使えない。しかし,幾つかの例外があって,その中でも,検察官の面前での供述を記録した調書,つまり検察官調書と呼ばれるものは,かなり緩やかな条件で例外として認められている。これが2号書面と呼ばれます。これを,現行法のような緩やかな条件で認めた元々の立法者の考え方を想像すると,検察官は公益の代表者なので,自分の仮説に合うような供述をそのまま記録するのではなくて,言わば反対尋問的なこともして,信頼性を確かめた上で供述を記録するだろうという期待があったのだと思います。ところが,他方で検察官は,立証責任を負っている当事者です。したがって,捜査が後の方になればなるほど,やはり自分が持っている見立て,つまり事件について仮説に合うような供述を調書にまとめようとする傾向が出てきます。それは,善い悪いの問題ではなくて,必然的にそうなるのだと思います。   そのために,特に捜査の最後の段階で作られる検察官調書は,言わば法廷での主尋問に代わるものとして作られるという性格が強くなります。もしも検察官の見立てが間違っていれば,それは間違った供述になります。村木委員が経験された事件でも正にそういうことが起きています。   従来の学説でもいろいろな議論があります。例えば,2号前段の供述不能の場合に,当然に検察官面前調書が採用できるというのは,憲法が反対尋問権を保障していることとそぐわないので,特に信用すべき情況で供述したという要件を読み込むべきだという主張が,かなり広く行われています。しかし,判例は,今のところ,それを原則論としては採用していません。   小坂井幹事がおっしゃったように,後段の方が多用されてきた傾向があります。これは前にも申していましたように,前段の方で,検察官面前調書には信用すべき情況があることが,言わば推定されてしまっているので,後段の方の原則と例外が逆転してしまうことに必然性があるのではないかと思います。ここまでは前にも申したことです。これから少し新しいことを申します。   私は,現在のような法制度の在り方が,ある意味では,検察官にとっても証拠収集の機会を狭めている部分があるように思います。例えば,在留資格のない外国人が証人になるような事件で,公判の前に退去強制をしてしまうことがあります。そのときに,検察官が,宣誓の上での裁判官面前供述を残したいと思っても,その手段が現在ありません。検察官面前調書が無条件で使えるから,その手当ては必要ないというのが立法者の考え方なのでしょう。これはかえって検察官にとって供述保全の妨げになっていないでしょうか。   それから,取調べの録音・録画をすることになったときに,参考人も対象に入れるかどうかという問題があります。いずれにしても,共犯被疑者的な人は当然,録音・録画の対象に入ります。そうしますと,検察官の取調べを録音・録画した記録の証拠利用をどうするかが,大きな問題になります。これはまだここでは明確に議論されていないと思いますけれども,もし今までの考え方をそのまま適用するなら,録音・録画された記録は供述者の署名押印のある供述調書と同じ扱いができると一般的には現在は理解されていると思います。そうだとすると,検察官面前供述の録音・録画記録は全て2号の要件で使えることになります。特に,前段の供述不能の場合,全て使えることになります。今までだと,検察官が聞いて,信用できないからと思って調書にしなかった供述でも,2号前段によって使えることになる可能性があります。そうなると,全ての供述が使えるので,弁護人にとっても客観性が増して良さそうに思える部分があるかもしれません。しかし,伝聞証拠禁止原則の在り方として,それでよいのか。特に3号の警察官の面前供述などと比べて,そこまで大きな区別をする理由があるのかという,新しい問題が生じてくると思います。   そこで,この2号の特別な扱いをやめて3号に統一することが望ましいのではないか。そうすれば,供述不能の場合であっても特に信用すべき情況が積極的な要件として要求されることになります。これは,かなり大きな変更になるので,抵抗感も強いかもしれません。そこで,もし2号を廃止しないとしても,何らかの要件の厳格化が必要ではないでしょうか。例えば,前段にも特に信用すべき情況という,積極的な要件を加えるとか,あるいは供述不能になることが予想される場合には,期日前の証人尋問請求を可能にする。その代わり,それを怠った場合には,2号前段の適用を認めないという制度を作るといったことです。   それから,例えば,後段で採用する場合には,いわゆる相対的な特信情況を特例として認めた理由を必ず判決で説明しなければいけないとするといった方法で,この例外の運用を厳格にしていく工夫が少なくとも必要ではないかと思います。 ○髙橋幹事 先ほど,小坂井幹事の方から,321条の運用についてのお話がありましたので,裁判所の方からも,現在の裁判実務について御紹介したいと思います。   特に裁判員制度を導入されたのを契機としまして,先ほど来,お話が出ています公判中心の直接主義,口頭主義を徹底しようということで,裁判所といたしましても,できる限り重要な証拠については人証を中心とした立証に努めていこうと考えております。   それで,証人が公判廷に出て来られて証言をした際に,仮に捜査段階の供述と相反するような供述をした場合でも,運用としては,検察官の方から,まずは記憶喚起のために誘導尋問したり,あるいは的確に弾劾尋問をするなどして,できる限り公判廷で証人の口からきちんと真実を供述してもらう,そういう働き掛けをしてもらっております。   それでもなお,なかなか供述が出ないという場合もあります。その場合には,検察官の方から,特信性について検討するための材料を提供することになりますが,その際には,その証人に対して,どうして捜査段階でそのような供述をしたのか,その後どうして公判で述べているような供述に変わったのかということを具体的にきちんと証人の方から話してもらうようにして,その上で,裁判所は,その他関係する別の証拠もきちんと吟味した上で,特信性の有無について,かなり慎重に判断しております。現在,裁判官の中では,以上述べたような形で運用していくというのは共通の認識になっているところです。 ○井上委員 髙橋幹事に対して,補充的に質問させていただきたいのですけれども,いわゆる2号書面に証拠能力を認める規定は廃止すべきだとか,要件を厳しくすべきだという意見の方の御発言を聞くと,従来は特信性の判断が非常にゆるゆるで,原則的に証拠能力を認め,ごく例外的にのみ否定するというような運用だったということを前提とされているように思われるのですが,今の髙橋幹事の御説明は,最近は改まってきたというような趣旨にも聞こえました。私の認識は必ずしもそうではないのですけれども,かつてはどうだったのかというところもやはりきちんと御説明にならないといけないのではないかと思います。この前の勾留要件についての議論でも,明確な基準がないのではないか,判断がゆるゆるなのではないかという指摘があったのに,裁判所の方は黙っておられたでしょう。黙っていると,事情が分からない人はそうなのかと思ってしまうかもしれないのですよ。なぜ実情について,違うなら違うと説明をされないのか,私には不可思議だったのです。2号書面の特信性の判断は,従来はゆるゆるだったのですか。 ○髙橋幹事 私の認識としては,従来からもゆるゆるに判断していたということは全くございません。きちんと要件を吟味した上で,本当に特信性があるのか,その理由もきちんと説明できるような形で判断していきたいと,私はそう認識しております。 ○井上委員 私の認識するところでも,個々具体的なケースごとにきちんと判断されていたのではないかと思います。結果として,特信性が否定されるということは余りなかったかもしれませんが,そもそも公判廷での供述が怪しいという前提があって初めて,2号書面が請求されることになるため,多くの場合,結果として,前の供述の方が特に信用すべき情況の下で作成されたと判定されるということではないかと思うのです。そのことを踏まえた上で,意見を言わせていただきますと,小坂井幹事は,現在の審議会の出発点,あるいは本特別部会の使命を前提にすると,2号書面の制度を廃止するのは自明だと言われたのですが,それは飛躍だと思います。この審議会・特別部会の使命は,供述証拠,特に調書への過度の依存を改めるということであって,調書を一切使わないようにするということではないはずです。2号書面についても,それを証拠とする必要性と,特信性の担保が適切なものとなっているかどうかということに懸かっており,そこを検討せずに,いきなり廃止するのが自明だというのは余りにも乱暴な議論だと思います。私などにはついていけません。   また,後藤委員の御意見は,後藤委員の年来の御主張であり,後藤委員なりの伝聞証拠と伝聞例外の理解はそうであるということは分かるのですけれども,果たしてそのとおりなのかどうか。立法者が検察官を過信して,甘い要件の設定にしたというような御趣旨だったのですけれども,見方を変えて,1号と2号を比べると,明らかに2号後段は1号の場合より要件を加重しており,更に2号と3号とを比べると,3号書面については,自己矛盾供述を理由としては幾ら絶対的特信性があっても証拠能力を認めないという形で,格差が付けられているわけです。だから,2号が甘い要件だと単純に言うことはできず,必要性があるということを前提にしつつ,段階分けをし,信用性を担保していこうという考え方でできている。その運用が甘かったかどうかについては,事実の認識にくい違いがあるのですけれども。   もう一つ,2号は前段の供述不能の場合については,何の要件も課していないが,これは検察官の調書は絶対的に信用できると推認しているのにほかならず,2号後段の適用においても,そういう前提に立つからこそ,原則と例外が逆転する結果となっていると言われましたが,そんな理屈に本当になるのでしょうか。後段の要件があるか否かを判定するときに,そのような考え方をするものでしょうか。甚だ疑問です。   さらに,退去強制との関係についても言及されたのですけれども,これは2号前段があるからなかなか適切な対処がなされないということではなく,主として入管法制との関係からくる問題で,入管法の考え方としては,不法滞在の人についても強制的に収容しておくのは最小限にしなければならない。入管法固有の目的以外の目的でとどめておくことはできないことから生じる問題なので,そこが改められなければどうしようもないところがあるのです。   確かに,刑訴法226条や227条で対処しようとしても,そうすることができないような規定ぶりになっていますが,そこを改めても,それによっている余裕すらない場合が多い。その上,入管法制は,それとして対象者の人権が絡んできますので,それを改めて,強制収容を延長することができるようにするといったこともそう簡単ではないのです。そういう事情を抜きにして,2号前段を悪玉として,そのせいで問題が放置されているというのは,これも余りにも飛躍した議論と思います。   もう一つ,3号と一緒の要件にしろという御意見でしたけれども,2号について3号と同様の絶対的特信性まで要求するのなら,3号にも自己矛盾供述の場合に証拠能力を認める規定を付け加えることも考えてよく,そうすれば平仄が合うように思います。そうではなく,供述不能の場合の要件だけ同じにしろというのは,良いとこ取りのバランスを欠く議論のように私には思われました。 ○安岡委員 専門家の方の議論の中に,ど素人が割って入るのは非常に勇気がいることですけれども,蛮勇を奮って意見を述べさせてもらいます。   この部会の初めの頃に,私の見方として,今,一般の国民は刑事司法を理解し,支持するのとはほど遠くて,むしろカフカが「審判」で描いたような,訳の分からないことが行われているという目で見ていると申し上げました。訳が分からない不可解なものになっている原因として,関係条文,法律が難解であることと,通常人が条文を読んで,かつかつ理解できるところと,実際の運用が甚だしくかい離していることを挙げました。専門家の方が「原則と例外が逆転しているような運用が行われている」と平然と語られている,あるいは,論文などに書かれているのは驚くべき事態だとの現状認識を申し上げました。   いわゆる2号書面の問題は,条文自体の難解,それから運用と条文の内容のかい離の両方が当てはまると思います。この問題を解決しない限り,小坂井幹事がおっしゃられたように,取調べ,供述調書に過度に依存した刑事手続は,正せないだろうと思います。専門家の皆様は,難解とも何とも思わず,今ここで特信性という言葉が飛び交っていましたけれども,一般人の目から見ると,この条文の「前の供述を信用すべき特別の情況の存するとき」というのは,何が何だか分からないものです。   私も新聞記者の仕事を長くやってきて,いろいろな種類の日本語を読んできましたけれども,こういう言葉の並べ方,「情況の存するとき」というのは,めったにお目にかかったことがない,文章の珍品だと思います。   ちなみに,広辞苑で「情況」を引きますと「その場の,またはその時のありさま」と出てきます。ところが,この情況の意味を解釈した最高裁の判例には,こうあるそうです。「必ずしも外部的な特別の事情がなくても,その供述の内容自体によっても信用性ある情況の存在を推知できる」と。そうしますと,この条文で言っている「情況」は,広辞苑など辞書に載っている「情況」とは違う言葉なのだろうと思うわけであります。   事態を更に悪化させるのが,この条文の中で「特別の情況」としているところです。「情況」の意味自体が今申し上げたように不明,どうも辞書に載っている意味とは違うような,それなのに,それが並みの情況なのか,特別の情況なのかをどうやって判断できるのだろうか。   そば屋に行きますと,並カツ丼と特上カツ丼というのがよくありますけれども,これはカツ丼ってどういうものか分かっているから,初めてどういう違いがあるのかが分かるわけで,「情況」というのが何だか分からないのに,それが特別な情況なのか普通の情況なのか判断できるわけがないと私は思います。   「特別な情況」という条文に則して判断すれば,例えば,「前の供述を信用すべき情況は存するが,特別の情況とまではいえない。」という判断を裁判所が下す場合があると思います。しかし,私はそんな判断が人間にできるのかと疑います。できるとしても,我々一般人に裁判所が説明して,その説明を聞いて,ああなるほど,筋の通った判断だと,納得できるような説明が可能とは私には思えません。   詰まるところ,この条文の意味は何だろうかと考えますと,現刑訴法ができて間もなくに出た最高裁判例があるそうで,これが分かりやすい判断というか解釈です。いわく「特別の情況の存するか否かは,結局,事実審裁判所の裁量に任されている。」と。要するに,情況の存在とか難しいことを言っているけれども,裁判所の胸三寸で決めてくださいということだと。   以上のようなことでいきますと,特信性というものは,伝聞例外の条件にはとてもなり得ないだろうと思います。原則と例外が逆転した運用になった理由には,頂いた資料の「検討課題(1)」に書いてある必要性もあったでしょう。法廷で言いたい放題でうそが飛び交っているということで,この必要性が強く認識されたのも一つの理由かもしれません。しかし,2号の条文で曖昧な,条件とも言えないようなものを条件としたために,原則と例外の逆転が可能になった面もあるのではないかと思います。   こういう非常に難解至極な文章で,さっと見ると深淵な何物かがあるように見えて,実体はスカスカで曖昧至極な条文によって,日本の刑事司法に調書裁判と言われる運用が固着してしまった現状は,何とか解消しなければならないと思います。   結論を申し上げれば,「検討課題(1)」の必要性はある程度認めるとして,(2)の「運用上の問題点」は大有りだと。(3)の「対処方策の要否」は,問題点が大有りだから当然必要だと考えます。対処方策の内容は,先ほど,小坂井幹事がおっしゃったのと重なるのですが,伝聞例外の条件を客観的な基準に変えなければいけない。録音・録画で供述の状況が確かめられることを条件にすると変えて,それが無理ならば2号の規定は廃止すべきだと私は思います。 ○椎橋委員 2号書面の後段がかなり問題になっておりますけれども,後段については自己矛盾供述があって,そして,前の供述を特別に信用すべき情況があるという場合に,証拠能力が認められるという要件になっております。前の供述と現在公判でしている供述がありますので,それを比べながら反対尋問をすることができます。そのことによって,真偽をかなりしっかりと確かめることができる。そういう条文の仕組みになっていると思います。   個々の事案において,特信情況の要件の解釈が甘かった事例があったかもしれません。それについて批判するというのは当然のことだと思います。また,裁判員裁判になって,この要件の解釈がより厳格になってきつつあるというのも事実としてあるのではないかと思いますので,私は,それは良い傾向だと思っております。   ところが,ではこれをなくすのがいいかということになると,これがないと非常に困る場合があります。寝返り証人対策として私はこれは必要だと思います。つまり,事件を目撃して,そのことを検察官の前で正直に供述したが,後から何らかの作為が加わって,脅迫されたり,あるいは,利益誘導されたり,いろいろな動機によって目撃者が供述を変えることが現実としてあります。そういう場合にこの規定がなければ困るし,これがあれば両方の供述を比べて反対尋問ができるわけですから,私は,これによって,より正しい真実が浮かび上がってくると思います。   小坂井幹事が先ほど,それから安岡委員も,もし仮に残すとした場合には,録音・録画にリンクさせて,それが絶対条件だということを言われましたけれども,参考人は後に誰が証人になって出てくるか分かりませんし,様々な種類の参考人,証人がいるわけで,誰が前の供述と矛盾する証言をするかというのは,その時点では分かりません。結局は全ての参考人を録音・録画することになるのかと思われます。そうするとしかし,これは余りにも必要のない人についてまで録音・録画をすることになって,私は現実的ではないと思います。 ○大野委員 2号書面制度を廃止すべきである,あるいは,2号書面の要件を厳格化すべきである,要件厳格化に当たっては録音・録画を必要とするべきである,こういった御意見がございましたけれども,検察官の立場から,これにはいずれも反対でありますので,その理由を申し上げたいと思います。   まず,2号書面制度を廃止するべきだという御意見に対しては,裁判における適正な事実認定に資するものとするためには,参考人の捜査段階の供述を証拠とする必要がある場合がどうしても生じる。これが現実であり,2号書面制度が必要であると考えております。もちろん,証人が公判廷において記憶に基づいて的確な証言をしていただくことが重要であって,検察としても,より一層それに努めるべきであると考えますけれども,他方で,例えば,事件から間もない捜査段階では,新鮮な記憶に基づいて事件について的確な供述をしていた参考人が,時の経過によって記憶の減退や,あるいは,事件後に得た情報との混乱によって,公判廷で十分な供述ができない場合や,被告人や関係者に対する気兼ねや,あるいは,報復の恐怖などから,被告人が在廷し,関係者が傍聴している公判では,被告人らに不利益な供述をすることを回避して,不十分な供述しか得られない場合などがどうしても生じてしまうものだと考えます。   現に,捜査段階では検察官にありのままに知っていることを話したことや,検察官調書の内容が正しいことを法廷でも認めつつ,被告人の面前では一切供述できないとして証言を拒絶する証人が存在するところです。   また,参考人が検察官調書作成後,被告人や関係者と通謀して口裏合わせをするなどして,被告人の罪を免れさせるために公判廷で捜査段階の供述を翻してあえて虚偽の供述をする場合もありますけれども,このような場合,裁判官・裁判員によって,その公判供述が信用できないと判断されたとしても,捜査段階の供述を証拠とすることができなければ,結局,適正な事実認定のための資料がないことになってしまいます。したがって,適切な事実認定のためには,一定の範囲で捜査段階での供述を公判で活用しなければならない場面がどうしても生じ得るのだということを御理解いただきたいと思います。   それから,2号書面の要件を厳格化すべきだという御意見がございました。2号書面については,検察官が安易に請求し,裁判官も安易に採用しているかのような,一部にそういう御意見もございましたが,実務上,実際に検察官が2号書面の取調べ請求するのは,ごく例外的な場面に限られています。裁判員裁判が実施された事件でいえば,2号書面の取調べが請求された事件は全体のせいぜい数%にとどまっています。   最高検は裁判員裁判の導入を契機として,平成21年2月に公表した「裁判員裁判における検察の基本方針」において,「証人が相反供述等を始めた場合にも,安易に2号書面に頼るのではなく,記憶喚起のための誘導尋問を行ったり,的確な弾劾尋問を行うなどして,できる限り公判廷において真実の証言を得る努力をすべき」であるという方針を,そのことは当然のことでありますけれども,念のために改めて示したところであります。   公判廷で相反供述がなされた場合であっても,相対的な特信情況が認められる場合に初めて証拠能力が付与されるという現行法の要件は,決して緩やかなものではありませんし,裁判所の運用についても,先ほど御説明がありましたけれども,まずは公判証言を充実させることを当事者に求めていて,検察官としても2号書面請求をした場合でも,その要件が厳格に審査され,その採否が決せられているものと承知しているところです。   また,要件厳格化に当たって録音・録画を必要とすべきだという御意見に対しては,椎橋委員が的確に御意見をおっしゃったとおりだと思います。実際には,取調べの時点では,将来,当該参考人の供述調書を2号書面として利用するか否かというのは,検察官として適確に見通すことが極めて困難であります。特に,検察官の視点からすると,その供述者が将来の公判で供述を翻すかどうかというのは,取調べ後の働き掛けなどの影響によることも多いと理解しているところであり,これを取調べの段階で見通すことは困難であると思います。   実際に,公判での証人尋問の直前まで証人テストを行って,捜査段階と同様の供述をしていた証人が尋問当日になって供述内容を翻す事態も少なくないのが実情です。それにもかかわらず,予期に反して公判で供述を翻した場合にも録音・録画がされてないと証拠能力を認めない制度とすると,先ほどおっしゃいましたように全面的に参考人の取調べを録音・録画制度の一律に対象とすべきだとなることになりますけれども,それは基本的に認められないと考えております。 ○川出幹事 適正な事実認定のために2号書面が必要な場合があるということは,今,大野委員が御指摘になったとおりだと思います。   その上で,録音・録画を2号書面を採用するための条件とすべきかどうかという点ですが,これは,特信情況がどのように判断されるのかということを踏まえて考えてみる必要があると思います。2号後段の場合は,公判での証言よりも検察官の取調べにおける供述を信用すべき特別な情況があることが要件になっているわけですが,どのような場合にこの意味での特信情況が認められるかということについて,検察官の取調べの際の供述に,一般よりも高い信用性を認めることができるような事情が存在する場合と,公判における証言の際に,一般よりも信用性を著しく低下させるような事情が存在する場合があるとされています。そして,実務で特信情況で認められる場合のほとんどは,後者の,公判での証言の信用性を低下させるような事情があった場合,例えば,先ほど挙がっていました,時間の経過により証人の記憶が減退してしまっているとか,あるいは,公判に証人の関係者がいて証言できないというような場合であると言われています。   そうだとしますと,ほとんどの場合は,検察官による取調べ状況を録音・録画したとしても,それは特信情況の判断には役に立たないことになります。それにもかかわらず,録音・録画をしていないと,特信情況が認められず,2号書面として利用できないというのは,前提となる特信情況の判断とそぐわないと思いますので,その点からも,録音・録画を2号書面を証拠とする条件とすることは妥当ではないのではないかと思います。 ○村木委員 専門家の方々の御議論はいろいろあると思うのですが,素朴に私の経験と意見を申し上げたいと思います。   先ほど,ゆるゆるという言葉が出てきましたけれども,どういうものがゆるゆるかというのはなかなか難しいと思うのですが,自分の事件では,7人の検事さんの取った数十通の調書を2号書面として採用するかが議論になりました。   ポイントが二つあって,先ほど,川出幹事がおっしゃったように,検事さんの取調べがきちんと行われていたかどうか,これが非常に大きな議論にまずなりました。実際の裁判所の判断はどうだったかというと,結局,何もなければ検事さんの取調べは適正に行われているというのが前提で,弁護側が適正でない取調べがあったとか,あるいは,誘導があったとか,そういうことをきちんと立証できたときに初めて適切でなかったということで採用はされなかった。要するに,挙証責任が弁護側に課せられていて,何人も検事さんが法廷に立たれましたけれども,検事さんがきちんとやりましたと言うと認められてしまうというのが現状でした。   それからもう一つのポイントは,公判において,証人がきちんとした供述を取調べの段階よりしにくい状況にあるかどうかということですが,私の裁判のときは,職場の仲間である,あるいは,かつての上司である私が被告人だから,その面前で面と向かっては本当のことを言いにくいと。こういうことだけで,もはや検事さんの取調べの方が特信性があるのだという判断を基本的にされてしまいました。正にやはり原則と例外がひっくり返っている,そういう状況だったと思います。   先ほどから,やはり公判廷が中心なのだと,公判で正しいことをきちんと言ってもらって裁判をしようと言っているときに,2号書面の採用というのは,実際には全く正反対の,公判では正しいことを言わないのだというのを前提に2号書面が採用されていく。2号の後段の方ですけれども,この状況というのは非常に問題が多いと思います。   先ほど,随分裁判所も変わってきたのだというお話がありましたけれども,客観データがなかなかないので,それをどういうふうに信用したらいいのかというのがよく分かりませんでした。大野委員から,裁判員裁判では余り採用されてないというか,むしろ請求をしていないというお話がありましたけれども,裁判員裁判以外ではどうなのだろうとか,それから検察側が請求したらどのぐらい採用されているんだろう,あるいは,裁判所は特信性の判断を何をもってしているのだろうとか,本当は,そういう事実に基づいてここの議論が行われるのがいいのだろうと思います。   いずれにしても,最後は裁判官が判断をするのですということになるとすると,今はきつくなっていますよ,正しく運用されていますよということであっても,では将来どうなるのか,また緩むのではないか,あるいは裁判官によってばらばらで,どの裁判官に当たったかによって運不運が決まるのかというのも非常に心配になると思います。そういう意味で,私は2号書面によらない方向で制度改正をしていただきたい。法令でなくても運用だということであれば,運用のルールを明確にしていただきたいと思います。   それから,少なくとも検察での取調べが全く密室になっていて,結局,検事さんは正しく取調べましたということを言い,おかしいですと弁護側が言う中での判断ですから,ここがずっと水掛け論になるのは本当に困ります。これは必ず録音・録画をしていただきたい。将来証言を翻すかどうかを予知して録音・録画するのが無理だというのはよく分かります。録音・録画そのものは,特別な場合を除いて別に害があるわけではないですから,全部録音・録画しておけばいいと思います。 ○本田部会長 まだ御意見があろうかと思いますが,時間の関係もございますので,「2号書面制度」についての議論は,ひとまずここまでさせていただきたいと思います。   それでは,本日の三つ目の論点でございます「証人及び被害者の保護等のための施策」についての議論に入りたいと思います。   この論点に関しましては,一巡目の議論におきまして,委員・幹事の皆様から証人や被害者の保護に関する具体的制度についての御提案を複数頂きました。そこで,本日は,こうした御提案の内容を中心に,更に議論をいただきたいと思います。まずは,事務当局の方から配布資料の説明をしていただきたいと思います。 ○保坂幹事 御説明いたします。資料56を御覧ください。   まず,第1の「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」についてでございます。この点に関しましては,現行法では,ビデオリンク方式による証人尋問は,裁判官や当事者が在席する場所と同一構内の場所に証人が在席して実施することにされておりますが,これを改めて,例えば,遠隔地に居住して出頭困難な証人や傍聴に来た犯罪組織関係者に尾行されるなどして加害行為を受けるおそれがある証人につきまして,公判が行われる裁判所とは別の場所に在席してビデオリンク方式による証人尋問を受けることができるようにするという制度の御提案がございました。   このような制度を設けることにつきましては,資料にも記載しておりますけれども,「必要性」,「対象とする証人の範囲や在席する場所の範囲」,「要件及び手続」などの点が検討課題になろうかと思われます。   資料には,参考条文として,現行のビデオリンク方式による証人尋問の条文を記載してございます。   次に,第2の「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」についてでございます。   この点に関しましては,一定の要件の下,被害者等の捜査段階での録音・録画媒体を,公判での主尋問に対する証人に代えて証拠とすることを認めるという制度の御提案がございました。現状におきましては,例えば,性犯罪の被害者が,事案によって,警察,検察庁及び裁判所で繰り返し被害状況の供述又は証言を求められることがございますが,この制度は被害者の捜査段階の供述を録音・録画した記録媒体を公判で活用することによって,被害者が被害の状況を一から説明しなければならないという負担軽減を図るというものでございます。   このような制度を設けることにつきまして,検討課題としては資料に書いておりますように,「必要性」,「対象とする犯罪及び対象とする証人の範囲」,「供述を得る手続・方法と証拠とするための要件の在り方」,「被告人の防御との関係」を挙げさせていただいております。   なお,現行法上の321条の2を参考条文に挙げさせていただいておりますが,ビデオリンク方式による証人尋問の状況を記録した媒体が付けられた証人尋問調書につきましては,証拠とすることができるという規定になっております。証拠調べに関する規定とともに,参考条文として挙げさせていただいております。   次に,第3の「証人に関する情報の保護」についてでございます。この点につきましては,第一巡目の議論におきまして,「1」で「考えられる制度の概要」として書いておりますように,二つの制度の御提案がございました。一つ目は,証拠開示に際して,一定の場合には,証人の氏名及び住居の開示について,適切な代替措置を採ることができることとするというものでございます。二つ目は,平成19年の刑事訴訟法改正で導入された被害者の氏名や住居などの被害者特定事項の秘匿制度を念頭に,被害者以外の証人につきましても,一定の要件の下で,公開の法廷でその氏名等を明らかにしないことができることとするものでございます。   これらの制度を設けることにつきましては,資料に検討課題として書いておりますように,「必要性」,「被告人の防御への支障の有無」,「対象とする証人の範囲」,「要件及び手続」などの点が課題になろうかと思われます。   なお,参考条文で,①及び②として,現行の関連規定の条文を記載しております。   次に,「第4 証人の安全の保護」についてでございます。この点につきましては,例えば,組織犯罪の事案における証人など,報復等による生命や身体への危険がある証人につきまして,氏名など,その者を特定する事項の変更を含め,証人の所在などを探知されにくくするための措置を講ずることができるという制度の御提案がございました。諸外国の中には,いわゆる証人保護プログラムとしてこのような仕組みを制度化している国もあると承知をしております。   このような制度を設けることにつきまして,「検討課題」として,「必要性」,「具体的な保護の内容と有効性」などの観点から検討する必要があると思われますが,そのほかにも他制度,すなわち民事や行政などの制度との調整ですとか,その他対応態勢なども検討する必要があろうかと思われます。   このほか「第5 その他」に関連するところですが,一巡目の議論におきましては,被害者等に対する支援のための施策としまして,犯罪被害者等早期支援団体に対して,検察や裁判所も支援を提供できるように,支援活動を保障する仕組みを整備するべきであるとの御意見がございました。法務省におきましては,被害者参加制度等を導入した改正刑事訴訟法など,被害者関係の制度の見直しにつきまして,現在検討を進めているところでございまして,今,申し上げた御意見につきましては,その中で併せて検討していきたいと考えているところでございます。 ○本田部会長 それでは,「証人及び被害者の保護等のための施策」の制度につきまして,資料56に沿いまして,そこに記載された検討課題を中心に議論を行いたいと思います。   まずは,資料の第1に記載いたしました「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」から始めることといたしたいと思います。御意見のある方,お願いいたします。 ○舟本委員 被害者の保護又は証人の保護は極めて重要であるわけでして,そういう点で重ねて申し上げたいと思います。   以前,強姦などの性犯罪の捜査に当たっている女性の捜査官がこんなことを言いました。性犯罪は心の殺人ですというようなことを言いまして,その言葉の重みに,私は大変強いショックといいますか,印象を改めて受けたところであります。また,先日ですけれども,御案内のとおり,愛知県下で発生しました信用金庫での人質立てこもり事件がありましたけれども,最終的に捜査員が突入して人質を救出しました。人質となった方々にとりましては,実際に体験した人だけにしか分からないような恐怖の十数時間を過ごされたと思っております。大久保委員を始めとする被害者の団体の方々,また支援団体の方々の御尽力によりまして,刑事司法の分野におきましても,この十数年,多くの法整備がなされたことは承知しておりますけれども,是非,更なる充実はすべきであると強く思っております。   そうした中でのビデオリンク方式の尋問の関係でありますけれども,これは平成12年の法改正で設けられて,その後,年々活用数も増加しているとは伺っておりますけれども,今,申し上げましたような性犯罪の被害者ですとか,また,人質立てこもり事件の被害者,また,近時大変大きな社会問題となっておりますストーカーでありますとか,あるいはドメスティックバイオレンス,又は,児童虐待事件の被害者の深刻な心身の状況を考えますと,やはりより一層の整備が必要です。具体的には現行法を更に改善して,先ほどもお話がありましたけれども,公判の行われている裁判所以外の場所においても,ビデオリンク方式でできるように改善すべきだと思います。   言うまでもありませんけれども,被害者の方々にとりましては,証言することが,また事件を思い出させる苦しみを伴うことになるわけですが,それに加えまして,被告人やその関係者と同じ建物にいるということ自体で,更なる苦しみ,また,不安を与えることになることは容易に想定できるわけだからです。また,このことは被害者以外の証人にも当てはまる場合が幾つもあると思います。その典型的類型が,暴力団犯罪を始めとする組織犯罪の証人であります。こうした証人の中には,先ほどもありましたけれども,出廷によって関係者から尾行や報復されることを恐れたり,あるいは,同じ建物に出頭すること自体に大変強い恐怖感,また,不安感を持つ人がいると思います。私が捜査に携わった事件ですけれども,多くの通行人がいる路上で,暴力団員が男性を射殺した事件がありました。目の前で目撃していた人が多くおられたのですが,目撃者の何人かは証言することを拒まれました。こうした証人の方々の恐怖・不安をできる限り軽減することが,それは証人の方々自体への配慮でもありますし,真相の解明ということでも極めて重要であると思います。そうしたことが一層必要な時代になってきているということは,北九州での相次ぐ凶悪・卑劣な事件でも明らかであろうと思います。   なお,この際,証人の所在地が分からないようにするという方策も検討されるべきであると思いますが,後の論点でもありますけれども,例えば,証人に仮装の名前,あるいは,新たな住所を付与するような,そうした仮装の身分を与えることも方策の一つではないかと思います。   さらには,このビデオリンク方式による証人尋問の対象となる被害者の罪種の関係でありますけれども,現行では資料にも出ておりますけれども,157条の4の1項3号で,いわゆるバスケットクローズの規定はありますけれども,1号あるいは2号では性犯罪,又は,わいせつ目的等の誘拐,あるいは,児童に対する淫行などの被害者に限定した形で特記されております。しかし,こうした罪種の問題につきましても,今ほど言いましたストーカー事件でありますとか,ドメスティックバイオレンスの事件,又は,児童虐待といった,特に女性の方や児童が類型的に被害となるものにつきましては,十分な配慮がなされるべきであると考えますので,こうしたところの規定ぶりも改めて検討してもよいのではないかと考えております。 ○神幹事 ビデオリンク方式による証人尋問に関しては,先ほど説明がありましたように,平成12年から施行されているということなのですが,日弁連では当時,ビデオリンク方式による証人尋問ということについては,飽くまでも例外であるべきだという意見を述べております。特に憲法37条で被告人に保障された権利との関係で慎重に検討する必要があります。まず憲法37条2項によって証人審問権が保障されているわけですから,この証人審問権をどのように解釈するかについて,三つの観点から意見を述べています。   一つ目は,証人に対して質問をすることができることであります。二つ目は,被告人が証人の証言態度を直接観察できるということです。三つ目として,証人に被告人の面前で証言を求めることができることであり,この三つの観点が一つの構成要素だと考えています。ビデオリンク方式の証人尋問の場合には,この2番目の証言態度を直接観察できないという問題があります。さらに,第3番目の被告人の面前で証言することではない形になることも,全く違う裁判所で行われることになるとますます遠くなるという意味合いがあるので,なかなか慎重に考えていかなければならないのではないかと思っています。   対象犯罪については,既に12年の段階でできておりますけれども,その中に今,舟本委員が述べられたストーカー事件のようなものが新しい類型として起こっているのであれば,それは一般的な例が挙げられている3号でということもあるのでしょうけれども,場合によってはそれを加えることはあり得るのかなとは思います。   特に,遠隔地に居住しているというだけでやるというのは,やはり問題があるのではないかと思います。ここに例示されているように,どうしても出頭が難しいとか,加害行為を受けて精神的なダメージを受けるとか,あるいは,先ほど,舟本委員が述べられたように,そこに当該犯人がいるということだけで,もうそこへ行くこと自体が恐怖だというのであれば,それは別の場所というのがあると思いますけれども,飽くまでもビデオリンク方式というのは刑事訴訟法の公開の法廷で対面して尋問することが原則だということからいえば,例外であるという観点から考えるべきだと思います。   最近,かなりビデオリンク方式の利用がされているということですが,私たち弁護士の考え方としては,それがある意味で安易に多用されていないかという問題がないだろうか。それからもう一つは,実際に本来の要件を満たしていない場合にも,安易に認められる傾向にあるのではないかということを懸念しています。   現実に,同一の裁判所で行った場合について,尋問の途中で,ビデオリンク方式の必要性がないというと判断され,途中から同一構内にいるということで,本来の証人尋問に戻したという例があります。しかし,これが遠隔地になりますと不可能になります。   それからもう1点。証拠物等を示して反対尋問を行う場合に,証人が同一構内にいれば,その証拠物を示すことは可能なのですが,実際問題として,その物とか原本を示すことができないとすると,恐らく遠隔地の人たちに対しては,画像を示すだけだということになると思います。そういう意味でも間接的になるというのは何か問題ないだろうかということも考える必要があると思っています。   証人尋問の際は,質問に答える証人の表情やしぐさを直接観察できるということは,実はこれは弁護人だけではなく,現に事実認定を行う裁判官,場合によっては裁判員裁判の裁判員に見てもらうという一面もあります。ビデオリンク方式と同一の法廷内で行われる尋問とは差異がありますので,したがってビデオリンク方式は,例外的にのみ認められる制度であるべきだと考えます。 ○大久保委員 被害者といたしましては,先ほど舟本委員の方から提案がありましたような体制で,今後是非やっていっていただきたいということを心から思いました。今の神幹事の発言内容といいますのは,全くもって被害者の心理状況等を理解をしていないということで,大変残念で悲しく思いました。   犯罪被害者,あるいは殺人事件,ストーカー事件等が,事件後,遠くに行くというのは,そこにいること自体,そこで暮らすこと自体が苦しくて暮らせなくなってしまうので遠くへ行くわけなんですね。それなのに,被害に遭った場所に出てきて裁判所に行かなければいけないということ自体がとても苦痛なことですし,やはり被告人や関係者に見られているという,また再被害を受けるのではないか,後をつけられるのではないか。そういうような不安や恐怖というものはとても拭い去ることはできないものなんですね。これは被害者の精神症状の特徴的なものといたしまして,簡単に言いますと,再体験とか,回避症状とか,過覚醒という症状があります。   再体験というのは,そこにいなくても,また今事件に遭っているような感じで,どんどん走馬灯のように頭の中に事件のときの心理状況ですとか,目の前に幻覚のように事件現場が浮かんでくるんですね。回避症状というのは,事件のことに関すること,その季節が来るだけで身体が震えてしまってどうにもならなくなったりするんですね。過覚醒というのは,いつもいつも真面目に今まで生活をしてきたのに,こういう被害に遭ってしまった。これから先も,いつそういう被害に遭うかどうか分からないということが脳に深く刻まれてしまうので,普通の生活ができなくて,一言で分かりやすく言えばぼけてしまった。そういうような状況になってしまって,精神症状がすごく悪くなってしまうわけなんですね。ですから,被害者の人たちは精神症状として,被告人がいるその裁判所で同じ空気を吸うということさえできない。体が震えてしまう。吐き気がする。実際に吐いてしまう人もいるくらいなんですね。   そういう状況にありますので,別の裁判所でも是非,ビデオリンクによる証言ができるようにしていただきたいということを強く願っているわけです。 ○髙橋幹事 裁判所としても,犯罪被害者の保護に関しては,運用面も含めていろいろと配慮しなければいけないと思っております。   証人尋問に関してお話ししますと,まず原則としては,我々判断する立場からすると,証人には公判に来ていただいて,直接お話を伺う必要があります。そうすることにより,的確な心証がとれ,きちんとした判断ができると考えております。   一方で,証人となる被害者の方の保護の制度が刑訴法上いくつかございますが,公判廷における証言という原則の例外として,性犯罪の被害者とか,あるいは,法廷で証言すること自体が圧迫を受けて,精神の平穏を著しく害してしまうという方については,そういう方々の保護を図るために,ビデオリンク方式による証人尋問というものが定められています。   したがいまして,今後,新たな制度として,審理を行う裁判所と別の裁判所でビデオリンク方式を使って証人尋問をすることができることを検討する場合も,こういった被害者,あるいは,その他の証人を保護するという観点から,すなわち,これまでのビデオリンク方式の理念に沿った形で,検討していくというスタンスで臨んでいくのがいいのではないかと思っております。 ○周防委員 すみません。現行,どういうふうに処理されていっているのか分からないのですが,大久保委員や舟本委員がおっしゃったように,現在の定められているビデオリンク方式による証人尋問では,同じ裁判所でなければ絶対にいけないという形になっているのですか。そこら辺の,今行われているビデオリンク方式で,具体的にこういうところが非常に不都合だということを,何か書面でも何でもいいのですけれども,こういう不都合があるというのがあると何か考えやすいのですけれども。僕がきちんとその条文を読んでいなかったから,今のような誤解があるのだとは思うのですが,僕は取材している中で,裁判所が被害者の方への負担をなくす方向で,今,髙橋幹事が御説明になったように,いろいろな形で被害者保護を考えていらっしゃるなとすごく感じていたので,更にその要件を広げるのだとしたら,こういうところなのだというのが具体的に実感できるような資料があると話がしやすいのですけれども。 ○但木委員 被害者の人というのは,相当な負担を負って法廷に出てくる。それは,犯罪を処罰しなければならないという国の制度に協力するために出てくるわけですね。それが非常につらい場合にどの程度保護してあげるかというのは,できるだけ保護してあげた方がいい。それは裁判中心主義,公判中心主義というのは,やはり国民の協力を得るということが最低限の条件なわけで,その協力を得やすい方法はできるだけ多様であった方がいいと思います。   例えば,福岡小倉というのは非常に例外的だと言ってもいいのですけれども,ただ,実際には,例えば,暴力団による恐喝事件の被害者が,裁判所に出ていくときにどうかという問題だってあるのです。それから,例えば,暴力団の子分が,この拳銃は親分の拳銃でしたと供述したような事件もある。僕は,かつて,広島にいたときにそういう事件を担当したのですけれども,その法廷が開かれるときは,黒塗りの車が一杯構内に入ってくるわけです。それで,いわゆる子分たちが法廷の前の広場に一杯集まるわけですね。そんなところに,子分の証言をここでやれというのは非常にきつい。正直言ってそんなことは無理です。だから,実際にその事件ではどうやったかというと,出張尋問をしたんです。もう方式としてそれ以外しようがないというので,弁護人にも同意をもらって,全然関係ない場所で出張尋問をしているのです。その出張尋問がいいかどうかという問題ではなくて,そんな場所に証人を呼んできて,しかもその子分たちがいる法廷で証言しろというのかというのは,本当は非常にきつい問題です。   それは性犯罪の被害者が被告人を前にして証言しろというのと同じような問題ですが,これから公判,裁判というのを非常に大事にしていこうという限りは,裁判所に協力してくれる人が協力しやすいような手法をできるだけ多様に用意してあげることが必要だと思います。そういう裁判に協力してくれる人たちに対しては,やはり多様な配慮というのが必要ではないかと思います。しかし,弁護人の反対尋問権を侵してはならない。それはそのとおりだと思いますが,それを侵さない限りにおいて,配慮をしていく必要がある。そうしないと裁判そのものがもたなくなるのではないかという気がするのです。是非,そういう御配慮をお願いしたいと思います。 ○川出幹事 公判が行われている裁判所とは別の場所,例えば,別の裁判所の構内での証人尋問を認める必要性があることは,但木委員がおっしゃったとおりだろうと思います。その上で,先ほど神幹事が御指摘になった点についてですが,現在でも,民事訴訟においては,裁判所外にいる証人についてビデオリンク方式による証人尋問が認められていますので,問題となるのは,刑事訴訟と民事訴訟で何か違いがあるのかということだと思います。両者で違うところがあるとすれば,御指摘があったとおり,刑事手続の場合は,憲法で被告人に証人審問権が保障されているという点だと思うのですが,そうだとして,証人審問権の保障の内容として先ほど三つのことをおっしゃいましたけれども,それぞれの内容に照らした場合に,証人が同一の裁判所の構内にいる場合と,それ以外の場所にいる場合とで,ビデオリンク方式による証人尋問であることによる証人審問権に対する影響が異なるかといえば,恐らく違いはないと思います。したがいまして,証人審問権を根拠に例外的なものにすべきだというのは,ビデオリンク方式の証人尋問自体を認めるかどうかという,その要件の認定の場面での問題であって,その要件は認められるという場合に,その場所が同一の裁判所の構内なのか,そうでないのかという場面には及んでこないということになると思います。   その他に,裁判所外でのビデオリンク方式による証人尋問を行う場合,法廷警察権の行使をどうするのかといった技術的な問題はありますけれども,それは民事訴訟の場合と共通する話なので,民事訴訟において解決済みであるということであれば,同様の制度を刑事手続において認めることに特段問題はないだろうと思います。 ○大久保委員 先ほどの周防委員の質問に対して一言だけ。心の傷というのは外からは全然見えないんですね。全く普通に見えるのです。でもその心の傷を体・全身の傷で,その被害者が全身包帯だらけで遠くに逃れて,そこにいると思ってください。そういう被害者に対して,いや,東京なのだから北海道から東京まで出てきなさい。そうでないとビデオリンクはできないんですよと,今は言われているのと同じなわけです。ですから,北海道の地元の,せめて裁判所にはって行くので,そこでやらせてくださいということを言っているわけなのです。 ○本田部会長 まだいろいろと御意見があろうと思いますけれども,時間の関係もございますので,ひとまず今のビデオリンク問題については終わらせていただきます。ここで一回休憩をとらせていただきたいと思います。           (休    憩) ○本田部会長 それでは,再開させていただきます。   次に,資料の第2に記載いたしました,「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」につきまして,御意見のある方,よろしくお願いいたします。 ○舟本委員 以前述べた話でありますけれども,改めて述べさせていただきたいと思います。警察は,どうしても事件発生直後から被害者の方々と接しながら捜査をやっていく立場であり,被害者の方々の立場を抜きに我々の仕事は考えられませんので,述べさせていただきたいと思います。   これにつきましては,もちろん被害者の方々から要望があることを大前提としつつ,捜査段階で行った被害者の方の供述の録音・録画媒体を公判での証言に代えて用いることができるようになれば,先ほど申しましたビデオリンク方式による被害者の証人尋問の拡充と同様に,被害者の方々の心身の負担の軽減に資すると考えます。   対象の罪種につきましては,先ほどのビデオリンク方式で述べたのと同じようなことになるわけですけれども,性犯罪の被害者の方はもちろんですけれども,その他に,ストーカー事件の被害者,DVの被害者,また,児童虐待の被害者といったように,特に女性や児童が心身に深刻なダメージを受けている事件を対象としてはどうかと考えています。   もちろん,被告人の防御権,また,反対尋問権との関係が議論となるわけでありましょうが,主尋問につきましては,こうした捜査段階での録音・録画媒体を活用しつつ,反対尋問は先ほどのビデオリンク方式をセットにするといいますか,これを組み合わせるというようなやり方で行えば,被害者の心身の負担の軽減を図るとともに,被告人の防御権や,あるいは反対尋問権を実質的に担保することは可能ではないかと考えております。   なお,諸外国の例では,性犯罪の被害者などが刑事手続におきまして被害状況を重ねて供述することの負担を軽減するために,捜査段階ないし公判前の手続における供述の録音・録画という記録を公判証言に代えて証拠とすることができる制度があると仄聞をしております。こうした諸外国の制度も参考になるのではないかと思っております。   最後に,先ほどビデオリンクのときでも御議論がありましたけれども,この問題につきましても,私は,被害者の保護のためのこうしたビデオリンク制度の導入ですとか,あるいは,捜査段階での記録媒体の導入,また,証人のそうした保護の選択肢の拡充ということは,先ほど但木委員が正に言われましたように,むしろこれは目指すべき公判中心主義,また,直接被害者の方々が参加する,また,証人を得て,そうした証拠に基づいて公判が行われる方向に行くのではないかという意味で,こうした制度の導入は公判中心主義,あるいは,直接主義と,こちらを立てればあちらが立たずという関係では決してないのではないかと思っているところでもあります。 ○小坂井幹事 被害者等の捜査段階での供述の録音・録画をすると,これは全過程をするという前提であれば,私は,それはそれで非常に意義がそれ自体はあるだろうと思います。ただし,公判での主尋問に代えて,証言に代えて証拠とすることができるということについては反対でございます。   先ほどから議論が出ておりますように,例えば,被害者の保護,証人保護も含めてですけれども,それを軽んじていいわけではもちろんないので,それは慎重にいろいろ検討しなければいけない。けれども,同時に憲法37条2項はきっちりと守っていかなければならないし,実質的に維持していかなければならない。   先ほど,神幹事が言われたこととかぶるのですけれども,川出幹事は,例えば,ビデオリンクでもそれは全然変わらんのではないかという趣旨のことをおっしゃいましたが,これは率直に言えば,やる立場からすれば全然違うわけです。   大久保委員の言われたことと,あるいは,これと全く裏腹になるわけですけれども,証人は弁護人と同じ空気を吸う場面で,反対尋問をして初めてそれは反対尋問になるわけです。それは面前でやることに意義がある。正に,主尋問の直後にやることに意義がある。リアルタイムでやることに意義があるのです。遠隔地でやる,遠いところでやる,そういう形で反対尋問はできないと理解すべきものだろうと思っています。特に今は,集中審理の時代ですから,昔であればいざ知らず,調書裁判の時代,それこそ五月雨式でやっているときには,随分前の供述を前提にして,いわゆる反対尋問と称する,実質反対尋問ではないと思いますけれども,そういうものをやっている時代もありますから,そういうタイムラグが生じても構わないということになるかもしれません。けれども,今はそういう時代ではありませんので,それはそこでリアルタイムで一挙にやるというのは極めて大事なことだし,恐縮ながら証人というものはその場に出てきて,そこで証言することによって事実認定に資すると,こういうのがやはり37条2項の法意ではないかと理解しています。   舟本委員が諸外国の例ということをおっしゃって,例えば,イギリスの司法面接みたいなことが頭におありなのだろうと思いますけれども,例えば,そこで意図されているのは,正に被害者保護としては私は大事なことだと思いますよ。捜査段階でなるべく被害者への負担軽減を図る,なるべく壊れ物のような供述を適正に取り出すシステムを作る。それは供述心理学者も交え,あるいは福祉の専門家も交え,そういった中で捜査機関も関与する形で司法面接を,例えば1回限りやるのだと,場合によっては2回になったりすることもあるかもしれませんけれども,そういう制度の枠組みを作るというのは被害者の保護にとって極めて重要なことだと思います。ですから,それをやっていただいたらいいし,正に全過程録音・録画していただいたらいいと思うのですが,だからといって主尋問に代えてぽんと飛ばして,いきなり反対尋問から始めてくださいということにはならないと思います。   現実問題としまして,反対尋問をやる側から考えても,主尋問事項についてはこれ,問いただすといいますか,聞いていかざるを得ないので,私は負担軽減になるという発想自体にやや疑問を感じております。 ○井上委員 まず,川出幹事の発言についての小坂井幹事のコメントは誤解だと思います。川出幹事が言われたのは,例外を認める場合に,それが公判が開かれている裁判所の構内であろうとどこであろうと違いはないのではないかということなので,例外を認める場合とそうでない場合とが同じだと言われたのではないと思います。   次に,この提案ですと,主尋問の部分だけ録音・録画を使い,被告人側が被害者証人に反対尋問する機会は十分与えるということですので,憲法37条の要請は,十分満たされているのではないかと思います。つまり,主尋問で証言するであろうことを録音・録画で代用するだけであり,それを基に疑義があれば反対尋問を十分すれば良いし,その機会はあるわけですから,それでどうして不十分なのか,よく分かりません。ましてや,全過程の録音・録画が前提であれば良いと言われましたが,なぜそうであれば良いのかもよく分かりません。その録音・録画のみが直ちに証拠とされ,反対尋問の機会がないということならば,まだ小坂井幹事の言われることは一貫するのですけれども,主尋問で証言してもこのとおり証言するということが録音・録画を再生する形で提示されるだけのことで,しかも,その供述をしている人がそこにいるので,その内容について被告人側が反対尋問することもできるのに,何で全過程の録音・録画を前提としなければだめなのか,少なくとも今までの御説明では理解できません。 ○小坂井幹事 最初の川出幹事の発言に対する誤解というのはおっしゃるとおりかもしれないのですけれども,井上委員がおっしゃっていることで私自身の方が逆に分からない点が何点かあるわけです。反対尋問というのは,やはり主尋問の直後にやるものですよね。というのが私どもの前提です。井上委員がおっしゃっているのは恐らく,主尋問は,あるいは相当昔にやったのだと,それがそのままビデオで流されたら,それに対して反対尋問すればいいではないかと,理屈としてはそうなるのだと思いますけれども,それは改めて現実の場面を考えていただきたいわけです。あなたはいついつの捜査段階で,これこれこういうことを言いましたか,から始まるわけですよ。反対尋問自体が恐らく。その場で彼が,あるいは彼女がそれをきっちり認識しているかどうか,それは分からないです。そういう反対尋問というのは,正直申し上げてものすごくやりにくいですし,私は事実認定者はものすごく心証がとりにくいと思う。それは,昔の五月雨式の時代は,正にそれに近いことをやっていたのが日本の刑事裁判ですけれども,今は,正にその場でリアルタイムで主尋問をやり,反対尋問をやり,そこで即座に,正に心証をとるという形式になっておるので,そこのところは,私はちょっと誤解があるのではないのかなという感じがしました。 ○井上委員 私はそういうことを念頭に置いているのではなくて,公判廷でこのとおり証言するということを録音・録画によって代替するだけというイメージなのです。そういうことなら,証言するのと変わらないのではないか。そして,いずれにしろ,被告人側の反対尋問には答えるわけなので,録音・録画を再生して,本当にそのとおりなのかどうかも確かめることができ,そのとおりだと証人が答えれば,その場でそのとおり発言したのと同じではないかということなのです。 ○岩井委員 性犯罪の被害者は,今は,本当に公判での第2次被害を恐れて,被害を申告できないという状況にかなりの人があるわけです。ですから,そういう第2次被害を取り除くための刑事訴訟の過程での被害者保護措置はきちんと準備しておかなければいけないと思っております。   先ほどのビデオリンクのところでも,そこに在廷しなければならないということは,ストーカー被害とかDV被害の被害者などは,所在を明らかにしないためにもシェルターに隠れなければならないぐらいの状況にあるわけで,そういう人を在廷させなければならないなどとなっていれば,結局そういう被害というものは犯罪として訴えられないことになるわけです。ですから,そういう被害者でも犯罪者を告発することができるようなシステムを,可能性を準備しておかなければいけないと思います。   それから,先ほど小坂井幹事がちょっとおっしゃられたのですけれども,児童の性的虐待などを裁くために,児童の証言を得るための司法面接,そういう制度がきちんと確立できれば可能とおっしゃいました。正に性的虐待の事案というものもひどい犯罪なわけですから,きちんと刑事事件として取り上げなければいけないわけです。専門家によって,子供から証言を引き出す司法面接がきちんとなされて,それが録画されて公判の証拠として取り上げられる。そういう手続が導入されないと,子供の性的虐待の事案などをきちんと犯罪として取り上げることができないわけで,ここではやはりそういうものも導入するようなシステムの導入についても道を開いておかなければいけないと考えます。 ○髙橋幹事 事務局の方で用意された参考条文として321条の2というものがここに記載されているのですが,321条の2によってビデオリンク方式で行った記録媒体がその一部とされた調書が証拠となる場合というのは,飽くまでも裁判官の面前で証人が宣誓をした上で証言をしたものの記録媒体を再生して証拠調べをすることができるという規定になっております。   今,問題提起されていますのは,捜査機関における取調べの録音・録画媒体ということですので,それは言ってみれば,捜査機関という一方当事者が参考人からお話を聞いている場面でございますので,これまで裁判で記録媒体が使われる場面とは性質が大分違うと思われますので,その辺りも意識しながらこのテーマについては検討していただかないと,きちんとした議論ができないのかなと思っております。 ○保坂幹事 資料を作成した事務当局の立場から若干御説明させていただきたいと思いますが,今,髙橋幹事がおっしゃられた,この資料でいう「捜査段階での供述の録音・録画媒体」といいますのは,必ずしも捜査機関が行う取調べだけを念頭に置いたものではございませんで,御案内のとおり,321条の2というビデオリンク方式がございまして,これが第1回公判期日前の証人尋問でビデオリンクが行われた場合には,それはある意味,捜査段階の供述の録音・録画媒体になるわけですが,公判になったときには主尋問に代わる証拠能力を有することになっています。「捜査段階での供述の」というのは,取調べの録音・録画に限ることでは必ずしもないということです。 ○川出幹事 今,御説明があったように,捜査段階での供述の録音・録画という中には,捜査機関による取調べの録音・録画と,それとも,第1回公判期日前の証人尋問の録音・録画の両方が考えられるわけで,そのどちらを想定するかで,検討すべき点も変わってくるのだろうと思います。被告人の証人審問権の保障という点からは,主尋問を記録媒体の再生で代替した上で反対尋問の機会を付与すればよいということになりますので,どちらの形態であっても同じことになるのですが,制度設計を考えるに当たっては,伝聞法則との関係も考える必要があるだろうと思います。先ほど,321条の2の話が出ましたが,この場合は,最初の証人尋問の段階で宣誓がなされている上に,記録媒体を再生することにより,事実認定をする裁判所が証人の証言態度を観察することができますので,被告人に反対尋問の機会を与えれば,伝聞証拠が原則として排除される根拠が解消されているという理由から,記録媒体に証拠能力が認められるとされています。第1回公判期日前の証人尋問の録音・録画であれば,これと同じ状況になりますから,現行法の延長線上で同じ制度が作り得るだろうと思います。   もっとも,その場合は,必ずしもビデオリンク方式による証人尋問である必要はないわけですので,法廷で行われた第1回公判期日前の証人尋問をそのまま録音・録画するという場合もあり得ることになります。その点では,321条の2の場合よりも,適用範囲は広くなりますが,ただ,第1回公判期日前の証人尋問の要件が現在の227条のままでは,こうした目的での証人尋問は実施できませんので,証言の繰り返しを避けるという観点からの要件を作る必要があります。その部分の手当てをすれば,第1回公判期日前の証人尋問を録音・録画した上で,その記録媒体の再生により,後の公判で主尋問に代えるという方法は,現在の制度の延長線上のものとして十分考えられると思います。 ○大久保委員 やはり被害者にとりましては,安心して話せる場所で録音・録画する方法というのは,被害者自身に2次被害を与えないで済みますので,心身の負担軽減ということでは大変役に立つ方法だと思いますので,提案されているような捜査段階での供述の録音・録画したものを裁判で使えるようにすることは,是非実現をしていただきたいと思います。本来は,反対尋問も含めて,裁判所での証言自体もしないで済むようにしていただきたいんですけれども,主尋問に代えていただくだけでも事件に関することを細かく説明する回数が減りますので,被害者にとっては大きな負担軽減になります。   また,今まで警察,検察,裁判所は様々な形で被害者の心身への負担,あるいは,プライバシー保護ということで,運用面でいろいろ改正を重ねてきてくださっていますし,そのことにつきましては大変感謝をしております。   そういう中で,一番残念なのは,先ほど,小坂井幹事がおっしゃいましたように,証人はそこに出てくるべきとか,被害者が置かれている現状を理解せずに,被疑者・被告人には憲法でも法律でもたくさん保障されているものがあって,守られてそこに出てきているのに,その被疑者・被告人によって心身に大きな多大な損害を与えられた被害者は何もない,丸裸でそこにいるわけなんですね。そのことも御理解しながら,やはり被害者保護ということを新しい刑事司法の中では考えていただきたいと思います。 ○宮﨑委員 制度としてまだよく分からないところがあるのですが,捜査当局が作るビデオをそのまま主尋問に代えると,こういう制度設計ということは,我々,今まで多くのえん罪事件で一部録音テープが警察官との事前のやり取りで,ああ言ったらこう答えなさいねという形で作出されてきて,えん罪の元になってきたという事例も聞くだけに,本当に作られた証言に,供述になりかねないビデオテープになるのではないかと危惧するわけです。小坂井幹事が,全過程の録音・録画というのは,そういう趣旨で作為が入り込まないような形での記録という形を意識されていたのだと思うのです。   そういう意味で,主尋問に代わるというのは,今,検事調書のいろいろな問題点,特信性のハードルをどうしようかと言っているときに,そのままスルーで出てしまうような制度設計になってしまうとすると,何のために321条の規定ぶりを検討しようとしているのか,おかしいのではないかという危惧を持ちましたので,一言意見を言います。 ○本田部会長 まだ御意見あろうかと思いますけれども,次に入らせていただきます。   資料の第3に記載しました「証人に関する情報の保護」,それと第4に記載いたしました「証人の安全の保護」,この両方について御議論をいただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○大野委員 証人に関する情報保護の必要性という点について,配布資料に記載されたような制度を設けることに賛成の立場から意見を申し上げたいと思います。   現在の刑事訴訟法では,証人やその親族への加害行為などがなされるおそれがある場合には,証人の住居等が特定される事項について,尋問を制限することや,これが他者に知られないよう,証拠開示に際して相手方に配慮を要請できる制度が設けられています。しかし,このような加害行為などのおそれがある場合を含めて,証拠開示に際し,相手方に証人の氏名や住居を知る機会を与えなければならないとのルールは維持されたままであります。しかし,このようなルールの下では,例えば,組織犯罪などの事案で,犯罪組織を脱退して,家族と共にひそかに別の場所で暮らしている者とか,あるいは,組織関係者による重大な犯罪をたまたま目撃した一般市民が重要な証人となるような場合,証拠開示を通じて証人の氏名及び住居が組織関係者の知るところとなり,それがきっかけとなって,証人に対する威迫,あるいは,報復等の行為がなされる可能性が否定できません。   こうした事案では,そもそも証人が報復を恐れるなどして出廷すること自体に大きな精神的負担を感じることも少なくないのが実情と思われますけれども,更に住所などが開示され,あるいは,被告人やその背後にある組織関係者に知られる可能性があるとなると,証人としては自分や家族の身体の安全や生活の平穏が害されるのではないかと心配するのも無理からぬところがあり,それが証人から捜査・公判への協力や真実の供述を確保する上で大きな支障となりかねないと思います。   また,ストーカー事件のように,証人である被害者の氏名や住所が明らかにされ,被告人が知るところとなると,その後の再犯により証人である被害者の生命,あるいは,身体の安全が脅かされるおそれがある場合もあります。   もちろん,証人の氏名や住居について,相手方当事者に知る機会を与えなければならないとされた現行法の趣旨は十分に踏まえる必要はあると思いますけれども,そもそも証人の住所等を基に弁護側はどのような防御の準備を行うことが想定され,実際にどのような準備がなされているのかということも踏まえつつ,代替的な方法による開示,例えば,勤務先などの適宜の連絡先の開示といったことが,積極的に検討されるべきではないかと思います。   また,平成19年の刑事訴訟法改正によりまして,被害者の氏名等の特定事項について,公開の法廷でこれを明らかにしない制度が設けられました。しかし,被害者以外の証人については,このような制度がありません。被害者以外の証人についても,例えば,犯罪組織が関与する重大な犯罪の目撃者が証人として証言する際,公判廷で氏名などが明らかにされることによって,傍聴している組織関係者に氏名や所在を知られ,報復や加害行為を受けるおそれがある場合とか,たまたま証人が犯行現場に居合わせたことや犯罪について事情を知っていることを傍聴人などの第三者に知られることによって,その証人の名誉やプライバシーが侵害されるおそれがある場合など,公判廷で氏名などが明らかにされ,被告人はもとより,公判を傍聴している組織関係者に知られることとなって,重大な被害や不利益を受けるおそれがある場合が少なからずあると考えられるところです。   証人が裁判に協力したいと考えていたとしても,こうしたおそれがある中で,個人的な犠牲を払ってまで協力するかという状況に置かれるとすると,これを躊躇してしまうのも無理からぬところがあるのではないかと思います。そこで,こうした一定の証人についても被害者についてと同様に,公開の法廷でその氏名等を明らかにしない制度が設けられるべきだと考えます。 ○小野委員 この仕組みは被害者以外の証人ということのようなのですが,弁護側が証拠開示に当たって,氏名とか住所を知らされないということになりますと,もちろんケース・バイ・ケースということがあるわけですが,証人が,例えば,どこに住んでいる人物なのかというようなことについては,その証人の立場,あるいは属性,そういう関係者などとのこちら側からの事情聴取なり調査ということが当然行われるわけですね。その上で,一般的には反対尋問の準備をするということになりますので,証拠開示でも,そういうところが伏せられてしまうことになると,我々の弁護側の準備ということが非常に不十分になってしまう。   こういう仕組みが証人にまで及ぶということになりますと,防御権の行使は大変困難な状況になる。ただでさえ被告人側である弁護人の刑事事件におけるもろもろの調査というのは,非常に大きな困難が伴っていますし,弁護人には,言ってみれば何の権限もない。関係者に事情を聞きたい,それが証人でなくても,証人の関係者と思われる人にいろいろ話を聞いてみたい,そういったようなことについても,こちらには何の権限もないので,断られたらそれっきりと。そういった調査すら,その手掛かりすらなくなってしまうということでは,防御権の行使が著しく制限されるのではないかと思います。   それから,法廷での氏名等を明らかにしないということですけれども,これについても,公開の法廷で,責任ある証言をしてもらうことが必要なのではないでしょうか。ここでは被害者以外の証人とされているわけですから,そういう人たちが,言ってみれば匿名性の中で非常に無責任な証言をするということが懸念される。やはりその人がどういう人間であるのかということが明確にされた上で,きちんとした証言がされるべきなのだろうと思います。   匿名性というのは非常に怖いことですから,そういう中で,もちろん法廷に出てくるということなのでしょうけれども,しかし,そこでの一体どこの誰の人物が分からない状態で自分がしゃべるのと,それからきちっと誰々と分かった状態でしゃべるのと,そのしゃべる側の心理といいますか,その辺は大きく違ってくるだろうと。そういうことになりますと,ある意味では十分でない,あるいは,あやふやな,あるいは,やや漠然とした,あるいは,いい加減な,こういう証言が誘発されることは懸念されないのか。そこらが非常に危惧されるところです。 ○上冨幹事 ただいまの小野委員の発言に関連して,資料を作った立場から若干補足させていただきます。   まず,証拠開示に当たって,氏名や住所を開示することに代えて,何らかの代替措置を採れないかという部分については,被害者である証人も,当然含んだ趣旨でこの資料は記載しておりまして,その上で,どのような証人について,こういった代替措置がどのような場合に必要となるのかも含めて御議論いただきたいという趣旨でございます。   例えば,事案によっては,現在の住所は隠さなければいけないけれども,当然氏名は分かっていて,どのような人間かということも被告人から見れば明らかという場合もあるわけで,そのような場合も,なお現在の住居を開示しなければならない,代替措置を採る余地がない制度の仕組みのまま,検討をしなくていいのかという趣旨も含めて作成したものでございます。   それから,公開の法廷で証人の氏名を明らかにしないというルールについては,被害者については,一定の範囲で,現在既に制度があるわけですので,それ以外の証人を主として念頭に置いているわけですけれども,匿名と言いましても,公開の法廷でその名前を呼んではいけないというだけであって,被告人や弁護人も含めて,当事者間では全て本名が分かっている状態で,法廷で呼ぶ名前を,例えばAさんと呼ぶとかいう形で取決めをして,仮名でやりましょうという仕組みが現在の被害者について採られている仕組みで,その点については同様で,どこの誰か分からない中で訴訟が行われているという制度を念頭に置いたつもりはございません。 ○露木幹事 ただいまの事務局の御説明とほぼ同じような趣旨になるかと思いますけれども,私の担当している暴力団犯罪について申し上げますと,例えば,僅かではありますが,組織にかつて所属していて,その組織の内部事情をよく知る者が捜査に協力をすることがあり得るわけですけれども,その者は,当然組織の追跡を免れるために住居を転々とし,その所在が組織につかまれないように本人もそのような行動をしているという場合があるわけです。   その場合に,その者が今どこにいるかを,被告人の防御の準備のために開示をしなければならないという必要性はないのではないかと私は思うのです。その者がかつて組織の誰であって,どういう立場にいたかと,だからそういう事情を知ることはできたということについては,確かに本人の証言の証明力を判断する上で必要な情報かもしれませんけれども,その者が今,追跡を逃れるためにわざわざ身を隠して,どこそこにいるということを防御の準備のために開示しなければならないという必要性は,私は理解できないところです。   また,そういう組織の内部協力者だけではなくて,被害者についても,同じようなことがございます。組織を離脱して逃げた者に対してリンチを加えるという事件がままあるわけですけれども,こういうものも同じように組織の追跡を免れるために所在を隠しているということがございます。それについてもやはり同じように,その者が今どこにいるのかを開示しなければ,その被告人の防御の準備に支障があるとはいえないと思います。   また,組織犯罪だけではございませんで,つい先頃もストーカー事件,逮捕状に添付されている犯罪事実の要旨に被害者の方の現住所が記載されていたと,あるいは結婚後の新しい姓が記載されていたということが被疑者・被告人の知るところとなって,それが世論の批判を浴びたところでありますけれども,このように,今,その人はどこにいるかということを開示しなければ,被疑者・被告人の防御の準備に支障があると考えられない場合には,それを開示しない,あるいは,公開しないということを許容する制度というのは,組織犯罪に限らず,あっていいのではないかと思います。 ○小野委員 こういう事例があります。これは一つの事例にすぎないかもしれませんけれども,ある組織にいた人物がその組織を離れて,全く自由な立場で証言をするんだということで出てきた証人がいます。しかし,実際には,その証人は現在住んでいる,違う場所に住んでいたわけですが,その住んでいる場所というのは,実は別の類似の組織の管理の下に置かれているところに住んでいて,そういったある意味,意図的な証言をしたという実例があります。つまり,現在の住所は分からなくてもいいということは一概には言えないということもありますので,その点については十分に検討をする必要があるだろうと考えております。 ○川端委員 今の問題ですが,最初の証拠開示の問題と2番目の公開の法廷における問題とは,質が違うと思います。   最初の問題は,証拠開示において,被告人側の防御権に関わる問題であります。証人が誰かを特定して,その人に対して証言を求める可能性があるかどうか,事情聴取することができるかどうかという点で,これは防御権そのものの重大性に関わる問題ですから,被告人ないし弁護人側にとって,その証人が特定できればいいわけで,明らかにするかどうかは,別の角度から考えればよいと思います。それは,代替措置の問題だと思います。   これに対して,公判廷で証人の住所・氏名等を明らかにするかどうかは,直接重要な意味を持たないと思います。と申しますのは,裁判の公開が要求されるのは,法廷で裁判が行われているときに証言内容がきちんと吟味されているかどうか,「直接主義」の要請を満たしているかどうかという点に関わるからです。証人の名前や現住所等は証言内容と関わりを持ちませんので,あえてそれを明らかにする必要はないと考えます。私は,証人にできるだけ協力していただくという,先ほど但木委員がおっしゃったような観点,つまり,市民の協力を得て裁判を充実させていくという観点からするならば,この二つの制度を新たに設けてもいいのではないかと考えております。 ○但木委員 最初に言いましたように,刑事裁判というのは国民の協力なしには存在し得ないので,その参考人ができるだけ出頭しやすいように,証言しやすいように,多様な配慮をしなければならない。しかし,その一方,弁護人の反対尋問,あるいは反証活動というものは十分認めなければならない。それはそのとおりでありまして,例外は,私は多様に認めるべきだけれども,やはり要件は厳格に定めた方がいいと,やはりこういう要件の下に,こういう例外措置を採りましょうと,そこは明確にした方がいいと思います。だから多様な制度と,それから例外を作るときにきちんと配慮すべき事項は峻別して考えるべきだと思います。 ○後藤委員 現行法では,証人尋問請求するときに証人の住所・氏名をお互いに相手方に知らせなければいけないことになっています。その理由は,先ほどからも出ておりますように,どこのどういう人だか知った上で,信頼性を確かめるような訴訟活動の準備をするということがもちろんあるのだと思います。それと同時に,その人自体に接触をすることによって,どんな供述をするかを確かめる,あるいは見通しを立てる,証人テストと言われている方法があります。相手方の証人に対しても,もし必要があれば証人テストができるということが,ここで想定されているのだと思います。   これはもちろん微妙な問題を含んでいるので,弁護人としても,必ずしも日常的にそういうことはしていないとは思うのですけれども,しかし,もし必要があれば,相手方証人に対しても事前に接触することもできるというのが現在の一般的な理解です。現行法は,その機会を通じて立証ないし反証の活動を準備することを保障しているのだと思います。ですから,もしも新しい制度によって弁護人が,検察側証人予定者に対して全く接触ができなくなるようにするとすれば,今までの考え方を大きく変えることになると思います。 ○本田部会長 「証人の安全の保護」の関係でも御発言ありましたら,お願いいたしたいと思います。 ○島根幹事 証人の安全の保護の関係で申し上げたいと思います。今回,証人の保護の関係を検討するということで,私どもも諸外国,幾つか調べてみましたけれども,諸外国におきましては,証人の方の転職・転居等の支援でありますとか,あるいは新たな身分の付与といったような,様々な制度が導入されているということが分かりました。例えば,スズキイチロウさんという証人の身分を守るために,仮に,ヤマダタロウさんという名前を与える。もちろん,これだけではヤマダタロウだということを証明するものが何もありませんので,これはいろいろございますが,例えば,身分に対応するようなパスポートであるとか運転免許証,あるいは銀行のカード等も付与している場合があると承知しております。   もちろん,こういった問題といいますのは,社会における公証力ということと非常に絡んでくるわけですので,相当限られた場合でなければなかなか難しいとは思っておりますけれども,先ほどのような,本当に犯罪組織に関する核心的な証言をする,元暴力団員であるというような方について,例えばこういった仮装の身分を与えて,その後の生活を送らせるようなことも,証人保護対策という観点からあり得る制度ではないかと考えております。   それに関連いたしまして,警察につきましても,以前,仮装身分捜査が有効なのではないかと申し上げましたけれども,これにつきましては,捜査員が秘匿捜査であるとか潜入捜査を行う際に,警察官であるという身分を隠して犯罪者に接触するというものであり,これは捜査員の安全保護という観点からも,必要な制度ではないかと考えております。 ○露木幹事 ただいまの島根幹事の仮装身分捜査についての発言に対する若干の補足でございますけれども,捜査員の安全の確保という観点もありますけれども,そもそも捜査,あるいは,情報収集を的確に行うために必要ではないかと私どもは考えているものであります。   仮装身分捜査の活用場面の一つ,分かりやすい典型例がおとり捜査でございます。例えば,薬物事件の捜査ですと,薬物の密売人と警察官が接触をします。警察官であることを明かしてしまえば捜査になりませんので,一般の市民を装って接触をして,後日の取引の約束をした上で,その日が来たときにその取引現場で警察官が密売人を薬物の所持の現行犯で逮捕すると,こういった捜査手法でございます。   最近は密売人の方もそういう捜査が行われることを薄々知っているということもありまして,非常に警戒が厳しいという状況がございます。したがって,警察官の身分を秘匿するために,例えば,仮装の社員証などを作成・提示するということができれば,この種の捜査をより有効に行うことができるのではないかと考えております。   この他,情報収集一般についても有効な場面がございます。最近は暴対法ですとか,あるいは暴排条例により規制を逃れるために,暴力団員が直接犯罪実行の場面に手を出さず,暴力団の意向を受けて活動するような素行不良者を利用して,例えば,その者に会社経営を行わせて,その会社を通じて詐欺取引ですとか,あるいは,恐喝などを敢行すると,こういうものが最近多くなってきております。警察官が同業者を装って,そういう会社経営者に近づいて,その取引などを通じて様々な情報を収集することができれば,これもその会社,あるいは,暴力団の関係の実体を把握する上で,極めて有効ではないかと考えております。   それから,先ほどの話の蒸し返しになるかもしれませんけれども,証人の特定事項,氏名,住居ですとかを秘匿しなければならない場合があるということを申し上げました。例えば,暴力団犯罪については,常に証人の氏名と住所,両方とも秘匿しなければいかんと,証拠開示に際して両方とも開示できないということを求めているわけではもちろんありませんで,必要な場合にそれは秘匿できるという制度を設けていただきたいという趣旨で申し上げたものでございます。 ○井上委員 外国でそういう思い切った制度を採っていることは,私も承知しています。しかし,これは,例えば,戸籍ですとか,身分法制の一番骨格に関わるところまで変えるとなると,この特別部会での議論だけでは片付かず,民事法等で問題がないかどうか十分検討した上でなければ,踏み切ることはできないと思います。ただ,そのことと,捜査上必要な場合に身分を仮装するために,例えば,偽りの身分証を使うとか,さらにパスポートや免許証までできるかは検討を要するところですけれども,そういう事実上の仮装方法を取るということとは,一応切り離して考えられる問題なのではないかと思います。   そういう仮装方法を使うことは,一定の場合には処罰され得ますので,そこのところを処罰されないような手当てを施せば済む話だと思うのです。そういう形の対処が,身分法制の根本を揺るがせることなく,現実性があるのではないかと思います。   更に付言しますと,この点は,今申したような措置を採っただけで片付く問題ではなく,証人等の保護の体制を整備すること,つまり,そのための人的体制や資金などを手当てしていかないと十分うまくいかないように思います。欧州視察の際,イタリア人などの証人保護体制を見て,つくづくそう思いました。 ○本田部会長 まだ御意見もあろうかと存じますが,時間の都合もございますので,ひとまず「証人及び被害者の保護等のための施策」についての議論を終えさせていただきたいと思います。   それでは,本日の四つ目の論点でございます。「司法の機能を妨害する行為に対する制裁の在り方等」についての議論を行いたいと思います。この論点に関しましては,一巡目の議論におきましては,証拠隠滅罪や証人不出頭罪の法定刑を引き上げるべきとの御意見,また,証人等買収罪を新設すべきとの御意見,さらには,証人の勾引要件を改めるべきであるなどの意見がございました。その一方で,他国との比較だけで結論を導くべきではないとの御意見や,証人等買収罪を設けるにしても,どのような範囲の行為を処罰することとなるのかをきちんと議論しなければならないという意見等も出されました。   これらの御意見を大きく分けますと,証拠隠滅などに関係するものと,公判に関係するものに二分できるのではないかと思われますので,本日の議論も,そのように分けて行わせていただきたいと思います。まずは事務当局から配布資料の御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 御説明いたします。資料57を御覧ください。大きく二つに分けたうちの「第1 証拠隠滅等関係」でございますが,箱の中にこれまでの議論で提出された御意見として,「証拠隠滅等の罪の法定刑を引き上げるべきではないか。」,「証拠隠滅等の罪の対象に,自己の刑事事件に関する証拠の隠滅や偽造等をも含めるべきではないか。」,「既に法制審議会が創設を相当と答申している証人等買収罪を,この機会に新設すべきではないか。」という三つの意見を挙げております。   まず,一つ目の証拠隠滅等の罪の法定刑につきましては,法定刑を引き上げる必要性,引き上げるとした場合はその引上げの程度を検討する必要があろうかと思われます。こうした検討に当たりましては,刑法上の他の罪の法定刑とのバランスですとか,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律に設けられております,証拠隠滅等が組織的な犯罪について犯された場合の加重処罰規定の法定刑をも併せて引き上げるべきかの検討が必要であろうかと思われます。   また,一巡目の議論における御意見は,直接は証拠隠滅等の罪の法定刑の引上げについてでございましたが,犯人蔵匿等の罪,証人等威迫罪につきましても,刑法の同じ章に規定されており,同じく司法の機能を妨害する行為ですから,これらの法定刑をも併せて引き上げるべきかについても御議論いただく必要があろうかと思われます。そこで,「検討課題」としましては,今申し上げたような「法定刑の引上げの必要性」,「他の犯罪の法定刑との関係」,「引上げの程度」,「関連する犯人蔵匿等の法定刑の引上げの要否」を挙げております。   この関係の参考条文として,それぞれ該当の条文ですとか加重処罰の条文を挙げております。   次に,二つ目の○の「自己の刑事事件に関する証拠の隠滅・偽造等の処罰」に関するものでございますけれども,これらにつきまして,処罰対象とする必要性のほか,期待可能性などの観点からそれが許容されるのかという点を御議論いただく必要があろうかと思われます。処罰対象とする場合には,どのような行為を対象とするか,例えば証拠の隠滅や偽造・変造といった行為それ自体のほか,偽変造した証拠を公判における証拠として使用するといった行為態様なども考えられるところでございますが,こうした行為のうち,どの部分を処罰対象とするかについて,更に御検討いただく必要があろうかと思われます。そこで,「検討課題」といたしまして,「必要性」,「許容性(期待可能性など)」,「処罰の対象とすべき行為の範囲」を挙げております。   三つ目の○の「証人等買収罪の導入」につきましては,その必要性を検討する必要があろうかと思われますが,その際には,従前の立法化の経緯,すなわち資料の3ページ目になりますが,「証人等買収罪をめぐる従前の経緯」というところにその経緯の概略を記載しているとおり,既に過去の法制審議会において議論がなされて,証人等買収罪を創設することが相当であるとの結論が出されているという経緯を踏まえた検討をいただく必要があろうかと思われます。そこで,「検討課題」として,「必要性(従前の立法化の経緯)」を挙げております。   続きまして,「第2 公判関係」につきましては,四角の中に入れております,これまでの議論で提示された御意見として,「証人不出頭罪,宣誓・証言拒絶罪の法定刑を引き上げるべきではないか。」,「現行法では,証人に召喚状が送達され,証人がこれに応じない場合に限って勾引できるものとされているのが,例えば,証人が召喚に応じないおそれがあることが事前に判明しているときには,召喚の手続を経ることなく証人を勾引できるようにすべきではないか。」,「その他司法の機能を妨害する行為への対処の在り方を見直すべきではないか。」という,三つの意見を挙げさせていただいております。   まず一つ目の○でございますが,法定刑を引き上げる必要性,そして引き上げるとした場合,その引上げの程度について御検討をいただく必要があろうかと思われます。この点につきましては,他の法律において定められている各種の不出頭等に対する同種の罰則の法定刑とのバランスをも考慮する必要があろうかと思われますので,その点も検討課題といたしまして,「法定刑の引上げの必要性」,「他の犯罪の法定刑との均衡」,「引上げの程度」というものを「検討課題」として挙げております。   なお,「参考条文①」というところには,刑事訴訟法の関係の条文,そして,他の法律における不出頭等に対する罰則の法定刑を表にしたものを挙げさせていただいております。   次に,二つ目の○の「証人の勾引要件」につきましては,召喚の手続を経ることなく,召喚に応じないおそれがある場合にも勾引できるように要件を緩和することについて,その必要性があるのか,緩和するとした場合,その具体的な要件や手続をどのようなものにするかという点を御検討いただく必要があろうかと思われますので,検討課題に挙げさせていただいております。   この勾引の関係の条文としまして,「参考条文②」に,現行の勾引やその関連の手続について定めた条文を挙げさせていただいております。   三つ目の○の「その他」の部分でございますが,検討課題のところでございますけれども,「偽証罪の在り方」ですとか,あるいは刑罰ではなく,「裁判所の命令により制裁を科す仕組み」に関する御意見もございましたので,「偽証罪の在り方」,「裁判所の命令により制裁を科す仕組み」というものを挙げさせていただいているところでございます。 ○本田部会長 それでは,「司法の機能を妨害する行為に対する制裁の在り方等」について議論をいただきますが,まずは資料の「第1」に記載いたしました「証拠隠滅等関係」から始めることとしたいと思います。これは,三つの御意見に関し,それぞれ検討課題を書いていますが,併せて御議論をいただきたいと思います。 ○神幹事 最初の「証拠隠滅等の法定刑の引上げ」について質問をしたいと思います。この法定刑の引上げですが,現状の例えば,証拠隠滅等の罪についての運用の状況がどういう状況にあるのか,ここで法定刑の引上げをしなければ,このような犯罪類型のものについて,これを無視して犯罪を犯すというような実態があるのかないのか,その効果いかんということが分からないと必要性が議論できないのではないかと思いますが,その点の御教示をお願いします。 ○本田部会長 事務当局の方で,分かりますか。 ○上冨幹事 平成22年の状況について御説明させていただきます。   まず,全国の検察庁における処理人員について申し上げますと,刑法103条の犯人蔵匿等の罪について,公判請求が111名,略式請求が210名となっております。それから,104条の証拠隠滅等の罪については,公判請求が13名,略式請求が12名と承知しております。それから,105条の2の証人等威迫の罪でございますが,公判請求が3名,略式請求が2名という統計になっております。   また,平成22年に全国の地裁の通常第一審におきまして,これらの罪を処断罪名として懲役又は禁固の言渡しを受けた者が49名おります。そのうち,犯人蔵匿等の罪,これは法定刑が2年以下の懲役又は20万円以下の罰金でございますが,この罪で自由刑の言渡しを受けた人が46名おりまして,そのうち法定刑を超える2年以上3年未満の刑を受けた人が一人おります。これは併合罪等の理由によるものと思われます。それから,1年以上2年未満が34名,6月以上1年未満の人は11名という量刑の分布となっております。   証拠隠滅等の罪については,自由刑の言渡しを受けた者は22年についてはございません。また,証人等威迫の罪については,1年以下の懲役又は20万円以下の罰金というのが法定刑でございますが,自由刑の言渡しを受けた総数が3名で,そのうち,先ほどと同様に法定刑を超える1年以上2年未満の言渡しを受けた人が2名,それから6月以上1年未満の言渡しを受けた人が1名という状況でございます。 ○山口委員 法定刑の引上げに関しては,今,御質問があった点は非常に重要なポイントだと思うのですけれども,もう一つ問題となり得る点を示すという観点からしますと,それぞれの法律上における犯罪の評価はどうなのかということが,そもそも法定刑としては基本的に問題になり得るところです。この関係で言いますと,例えば,業務妨害罪の刑の上限は懲役3年であります。その業務といっても様々なものがございますけれども,例えば,一定の判断作用を営む業務が妨害されると刑の上限が懲役3年であると,しかしながら証拠隠滅等は懲役2年だと,そういうことでよいのかということは,犯罪の評価としては問題になり得るところであって,これをどのように考えていくのかというのは検討を要する問題ではないかと思います。 ○酒巻委員 刑法のことなので,ちょっと思い切って言うのですけれども,証拠隠滅罪の法定刑が軽いのか重いのかというのは大変難しいところではあるとは思うのですが,もし理論的に可能であれば,特別公務員が証拠を隠滅等した場合には,法定刑を加重する類型があってしかるべきだと思っております。そして,それは当然,付審判請求の対象にもする。そういう犯罪類型があったらいいのではないかなと思っているところです。特別公務員というのは,刑事司法に携わり証拠を収集したり保管したりすることを職務とする警察官とか検察官のことです。 ○大野委員 新たな刑事司法制度の下で,より充実した公判審理を目指していくに当たっては,裁判に提出される証拠が本当のものであることが担保されていることが何より重要である。これまで皆さんがおっしゃったとおりだと思います。しかし,現実には,近年でも,暴力団組織が被害者等の証人を威迫したり,別人を犯人に仕立て上げようとするなどの悪質な事例が発生しておりまして,先ほど事務当局から御説明があったように,検察庁における処理人員を見ても,かなり多数に上っていると思います。にもかかわらず,その法定刑は,先ほど山口委員がおっしゃいましたように,強制執行妨害とか業務妨害など,他の犯罪に比しても低いものにとどまっているのが実情であり,新たな刑事司法制度の司法妨害に対する厳正な姿勢を示す観点からも,証拠隠滅等,あるいは,犯人隠避等及び証人等威迫の罪の法定刑を引き上げるべきであると考えています。   ところで,現行法では,証拠隠滅等について,他人の刑事事件の証拠を隠滅するなどした場合のみを処罰の対象としています。犯人自身が他人に証拠を隠滅させた場合には教唆罪に問うことができるものの,犯人が単独で自分の刑事事件の証拠を隠滅したり,偽造・変造したりする行為は,処罰の対象とされていません。しかし,犯人が自分で行う場合であったとしても,証拠の隠滅や偽造等の行為によって誤った裁判がなされるなど,刑事司法の適正な作用が害されることとなるのでありますから,少なくとも実際に誤った裁判がなされる危険に結び付くおそれが大きい行為として,自己の刑事事件について,偽造又は変造の証拠を公判廷で使用する行為を処罰することを検討するべきでないかと思います。 ○川出幹事 今,大野委員が最後におっしゃった点なのですが,一巡目の議論のときに,自己の刑事事件に関する証拠隠滅や偽造等が処罰されていないのは,期待可能性がないからだと言われているけれども,仮に,公判での被告人の虚偽供述を処罰するということであれば,それとの関係で,自己の刑事事件に関する証拠の隠滅や偽造等の処罰についても検討することが必要なのではないのかということを申し上げました。   それに対しまして,自己の刑事事件に関する証拠の隠滅や偽造というのは,公判での虚偽供述とは違って,捜査段階,あるいは,その前の段階まで含んだものであるので,同じように考えられないのではないかという御指摘がありました。確かにそれはそのとおりで,例えば,犯人が,犯行直後に証拠を捨てるとか壊すといったことまで含めて考えると,期待可能性がないという場合も確かにあるだろうと思います。反面で,そうだとしても,自己の刑事事件に関する証拠の隠滅や偽造だから一律に期待可能性がないとまではやはり言えないように思います。先ほど大野委員がおっしゃったように,例えば,公判で,偽造した証拠の取調べを請求するといったことまですれば,恐らく,それは期待可能性がないということにはならないと考えられますので,例えば,手続の段階を分けて,一定の部分を処罰の対象とするということは考えられるのではないかと思います。 ○北川幹事 今,議論になっている自己の刑事事件に関する証拠の隠滅・偽造の処罰の可能性についてなんですけれども,この形態についての処罰まで広げると,これまで以上に処罰が拡大する懸念というものが考えられて,慎重に検討すべきではないかと思います。   確かに先に大野委員が言われましたように,証拠偽造につきましても,犯人自身が教唆したという場合については,その教唆は処罰されるのが判例であるとは言われていますけれども,これに対する批判的な見解も多いところでありますし,仮に自己の刑事事件に関する証拠の偽造を公判廷で使用するという形に限るというような限定を付したとしても,それがどこまで有効なものなのかについては,疑問の余地がないわけではないように思います。   例えば,起訴前に,自分の犯罪について犯人自身が証拠を偽造したと,被告人が公判前にそういうことをやっておいて,その後に公判で使用されることを故意に妨げなかったような場合についても,公判廷における使用ということで処罰される可能性は理論上可能なこともありますので,この点は行為態様も含めて慎重に検討すべきであるように思います。 ○山口委員 今おっしゃった最後の点にちょっと違う角度から申し上げますと,最後の御疑念は恐らく作為義務があるかという問題,不作為犯の問題になるので,ないとは断言できないのですけれども,普通はそういう作為義務はないのではないかと思います。   私は今日,途中から参りまして,被告人の公判廷における虚偽供述の御議論には加わらせていただけませんでしたので,そこで,どういう御議論があったのかは存じませんけれども,私自身は大野委員が御指摘されたように,限られた範囲内では検討に値するのではないか,このことは被告人の公判廷における虚偽供述との関連性を考慮した上で検討する必要があるだろうと思います。 ○神幹事 自己の刑事事件に関する証拠の隠滅・偽造の処罰に関して意見を述べたいと思います。   被疑者の証拠隠滅等の可罰化や被疑者の虚偽供述に対する制裁は,捜査機関の濫用により正当な防御活動までもが捜査・訴追の対象とされ,防御権の行使が妨げられるおそれが大きいと考えられています。被告人が偽造した証拠を公判に提出した場合に処罰する制度は,弁護活動への重大な脅威になります。すなわち,捜査機関は,偽造証拠の公判提出の共犯の疑いを弁護人に向けて,弁護人を捜査の対象とすることができるという可能性があります。そして,弁護人が,自身の無実を,すなわち偽造の事実を知らなかったことを証明するために,被告人との接見内容を明らかにしなければならないという状況に追い込まれてしまうこともあり得ます。このような事態は容認できないし,このような弊害を考えると処罰の必要性は到底認められないと考えます。 ○本田部会長 それでは,まだ御意見があろうかと思いますが,次に資料の「第2」に記載いたしました「公判関係」について,御意見がある方は御発言をお願いいたしたいと思います。 ○小川委員 2番目の,現行法では,証人に召喚状が送達されて,証人がこれに応じない場合に限って勾引できるということになっていまして,実際には,期日が空転することもそれほど希有な事例ではないわけですが,明らかに証人が出廷しないということが分かっている場合もままあるわけで,そういう場合は,最初から勾引をできるようにする必要があるのではないかと思います。私も,もう来ないことは明白に分かっているのですが,期日が空転することを何度もやって,そして勾引状を出してということも経験しています。特に,裁判員裁判で期日を空転いたしますと,これはなかなか手痛いかなとも思いますので,そこはお願いしたいと思います。 ○但木委員 小川委員の意見に全く賛成でありまして,公判中心主義にするためには,きちんと公判を大事にするという制度を幾つか作らなければいけないわけですね。その中の一つとして,証人の召喚の問題もありますし,それから,証人不出頭は法定刑が罰金10万円しかないわけですね。罰金10万円で不出頭になってしまうというのは,やはり幾ら何でも,法治国家として,それでいいのかという問題だろうと思うのです。特に裁判員裁判になって,みんな自分の仕事をやりくりして出てきているのに,証人は不出頭ですと,10万円払いますというので,それでいいのかという問題だろうと思うのです。やはりそこは,先ほどは証人の保護のための多様な制度が必要だと申しましたけれども,それの裏腹の問題として,証人としてきちっと法廷へ出て証言する義務というのは,国民の大事な義務の一つでありますから,それに対する法定刑は現行では軽いのではないかと思います。   先ほどの被告人自身の罪証隠滅の問題も,私は法廷に出すことを意図的にやった以上は,それが弁護人であろうと被告人であろうと,やってはいけないことは間違いないと思います。また,例えば,脅されてどうしても法廷に出られなかったという事情が分かったとき,それでも処罰するとかいうそんな馬鹿な話はないわけです。事案事案に応じて,どういう処理をするかは別だけれども,しかし,全く意味もなく出頭しない,ふて腐れて出頭しないというものについて,罰金10万円ですよというような,裁判を余り大事にしない思想で作られているものは,全部作り替えていかなければいけない。それは,これから公判中心主義になって,裁判員裁判を行われている中で,相当いろいろなところを変えて,裁判というものをみんなで大事にしていくことが必要なのではないかと思います。 ○後藤委員 現状の実務では,確かに証人の出頭確保にいろいろ御苦労があるのだと思います。ただ,そこで出てこない証人予定者は,確信犯的に絶対出ないと覚悟を決めているのかといえば,必ずしもそうではなくて,何となく行きたくないとか面倒臭いとか,そういう人も多いのではないかと思います。   その背景として,日本人全体に,法廷に行って証言するという習慣がないのだと思います。それは,国民として当然にするべきことだという意識が余り共有されていないところに問題があるのではないでしょうか。そうだとすると,出てこない人に対する制裁を強化するというのも一つの方法かもしれませんけれども,呼び出される人の気持ちになって考えて,協力してもらえるような気持ちを作っていく,その方向も考える必要があると思います。   例えば,今の召喚状の形式では,出てこなかったらこんな制裁があるとか,勾引されると書いています。これがいきなり来て普通の人が受け取ったら,非常に違和感を持つといいますか,ぎょっとするではないかと思います。そういう経験から裁判所自体に対する不信感を抱くことになるかもしれません。もう少しびっくりさせないような召喚の仕方を工夫していく必要があるのではないでしょうか。   もう一つは,先ほど,酒巻委員が証拠偽造のところで,特別公務員の証拠偽造の類型を作るべきではないかと発言されました。私は,偽証のところでも同じような問題があると思います。前にもその意見を申し上げましたけれども,例えば,平成15年の有名な最高裁の判例で,違法収集証拠として証拠を排除した事例があります。そこでは被告人の逮捕の過程について,警察官たちが法廷でうその証言をしたことがかなり明確に認定されています。捜査官が捜査の過程について証言した内容が,裁判所から見て信用できないとされている事例はこれだけではありません。でも,そういう人たちが偽証罪で処罰されたという話は余り聞きません。   私は最近,ある検察官を辞めた方の本を読みました。その方は検事として取調べのときにどうしても自白が欲しくて,暴言を吐いてしまった。裁判で自白の任意性が争いになって証人尋問された。そのときに自分としては覚えている限りのことを正直に証言したと書いています。けれども,それに対して検察庁の中で非常に抵抗があったということを書かれています。   このような例を見ると,やはり捜査に当たる組織の中には,場合によっては,裁判所で偽証してでも捜査の結果を守ることが正しいと考えるような意識が暗黙のうちにありはしないかと,私は危惧します。そういう意識を払拭するためにも,特別公務員の偽証罪を作って,それに実効性を持たせるという意味で,付審判請求を認めることには意味があるのではないかと考えます。 ○山口委員 先ほどの酒巻委員の特別類型の話と,それから今の後藤委員のお話ですけれども,酒巻委員の方は元々の基礎となる犯罪類型の法定刑が軽いので,そういう議論もあり得るのかなと思いますが,後藤委員のお話について申しますと,偽証罪については最高刑が懲役10年なんですね。それを更に上回るような法定刑を設定するのか,それがいいのかという問題がまずあろうかと思います。   もう一つの問題としては,気持ちとしては分かるんですけれども,重くする根拠は何だということがやはり問題になり得るかと思います。酒巻委員がおっしゃったような犯罪類型の関係,例えば,特別公務員職権濫用とか暴行陵虐とか,あれは公務員の特別な職権の行使として行われたようなものについて重くする,そして,それについては付審判請求の対象にする,こういう形式になっていると思うのですけれども,証拠隠滅,あるいは偽証というのが,公務員にしてなし得るようなものというわけでは必ずしもないということがまずあるだろうと思います。   公務員がやる場合にはけしからんのだから重くしようということになると,とにかく公務員の一般的加重類型を設けようという話にもなりかねないので,下手をすると歯止めのない議論になりかねない。気持ちとしては分からないでもないのですが,量刑事情の一つとして考慮するという辺りではないだろうか。だから,特別類型を作るというのは,やはり他にも影響を及ぼすような部分もあり得るので,これについては慎重に考えた方がよいだろうと私は思います。そして,特別類型を作らなければおよそ付審判請求の対象にならないと思うので,その問題もそれと関連すると思います。 ○小坂井幹事 偽証罪の在り方ということに関して,ちょっとだけお話しさせてください。   偽証罪は余り使われていないというお話も先ほどありましたけれども,基本的に,これは捜査機関・訴追機関の意向に反する証言をした方がやられると,こういうことになるわけです。要するにそういうことなので,それで付審判とか準起訴という話が出て,私はなるほどなと思っていたわけです。けれども,今,山口委員のお話を聞いておりまして思いますのは,この種の対立当事者が差配すべきでない犯罪類型というのがあると思うのですね。それはやはり,何らかの枠組み自体を変える審査会方式なりなんなり,きっちりすべきではないかと思います。   そうでないと,例えば,偽証罪で甲山事件という例があるわけです。これは第1次逮捕が違法だということで国家賠償されたときアリバイ証言をした上司の方や同僚の方が,結局,山田悦子さん,被告人御本人と一緒に,25年間,事件に関わることになり,偽証罪の被告人の座に置かれ続けたということがある。これは当時の関西検察の,正に意に沿わない証言をしたためにそういう形になったのです。   何が言いたいかというと,要するに,そういう暴走というのが非常に起こりがちな類型というのがあるわけです。これは審査方式として別個の形を考えるべきであると思います。法定刑の議論はまた別個だと思うのですけれども,それは是非必要なことなのではないかと思います。 ○後藤委員 先ほどの山口委員の御指摘についてです。確かに10年は軽くはないですね。ただ下限は3月なので,下限が軽過ぎるように私は思います。   それから,この場合に刑を重くする,特別扱いの理由があるかという問題については,捜査の職務に当たる公務員は真実を大事にするべき職責を負っているので,それだけに,もし,その職務について偽証すれば,違法性が高いということだと思います。 ○周防委員 山口委員のお話はよく分かったんですけれども,気持ちを分かっていただけるなら,その気持ちを何とか形にする方法を考えていただけると。気持ちは分かっていただけるんですよね。そこを形にする方法を考えていただけるとうれしいです。 ○本田部会長 まだ御意見もあろうかと思いますが,時間の都合もありますので,「司法の機能を妨害する行為に対する制裁の在り方等」についての議論はひとまずここまでとさせていただきたいと思います。   最後に「その他」についての議論も行いたいと思います。「その他」につきましては,第13回会議以降に御議論いただいた論点以外の論点について,審議予定にさせていただいた「事実認定と量刑に関する手続の在り方」を含め,御意見があったら頂きたいと思います。   なお,次回にまた「その他」を設けたいということを考えておりますので,今日は,取りあえず「その他」で「事実認定と量刑に関する手続の在り方」を含めて,そこら辺について何か御意見があったら頂きたいと思います。 ○青木委員 今の「事実認定と量刑に関する手続の在り方」について,やはり公訴事実について争いのある事件とそうでない事件とは,別の形でやることが必要ではないかと思います。   公訴事実について争いのある事件においては,公訴事実の存否を判断する手続と刑の量定の手続とに分けて,まず公訴事実の存否と関連性のある証拠のみに基づいて有罪か無罪かを判断して,有罪だという判断をした場合に限って量刑審理を行うものとすべきであると考えます。   公訴事実の存否と関連性のない証拠や尋問が許容されて,情状資料や犯罪被害者等の意見が提出された場合に,それらが有罪・無罪の判断に影響を及ぼさないとは言えないと思います。刑事手続において,無実の人が誤って有罪とされてしまうことのないようにすることが一番大事なことだと思います。それは同時に,真犯人が取り逃されてしまうことがないようにするということでもあるわけです。   裁判員であれ,裁判官であれ,裁判は人間が行うことですから,誤りがあり得るわけですね。その誤る可能性があるということを前提として,できるだけ誤りの入り込まないような制度にすることが必要だと思います。   事実認定に関する証拠と情状に関する証拠とを完全に区別することは容易ではないという御意見も出されました。もちろん事実認定に関する証拠が,同時に情状に関する証拠でもあるということは否定しません。けれども,それは飽くまで公訴事実の存否と関連性がある証拠というものであって,そういうものまで排除しろというわけではありませんので,公訴事実の有無を判断する手続に用いるべき証拠が否かということは,その公訴事実と関連性がある証拠かどうかということで区別することができるはずだと思います。   また,その手続,二分の趣旨を徹底するのであれば,また裁判員の負担の軽減ということも考えると,公訴事実の存否を判断する裁判体と量刑をする裁判体とを分けると。別の裁判員が担当するということも考えられてよいのではないかと思います。   一方で,争いのない事件に関しては,早期に有罪の宣告をした上で,被告人や犯罪の特性に応じた適正な量刑を実現し,被告人の人格特性や,あるいは,社会環境などまでをも考慮に入れて,改善,更生,再犯防止につながる個別的な処遇が行われるようにすること,そちらに力点を置くということも考えられると思いますので,そういう意味で判決前調査制度の導入も検討されるべきだと思います。 ○酒巻委員 青木委員の意見に対しては,全部反対です。事実認定と量刑に関する手続の制度的な分離は必要ないということは前にも述べました。そして,まず最初の部分,つまり公訴事実に争いのある事件の審理方式については,今,青木委員が述べられたようなことは,ほとんど全て,現実に今までの刑事裁判でも行われていると思います。これは裁判所の方にも,もし必要であれば御紹介いただければと思いますけれども,裁判員裁判を始める前に,それをよりはっきりさせるために刑事訴訟規則も改正しましたし,現実にも公訴事実に争いがある事件については,実質上の手続二分的運用はほぼ確立して行われているので,それをわざわざ制度化する必要がない。   それから,日本の刑事裁判の量刑についてどうなっているかという点については,以前に御説明したとおりであり,罪責認定過程と量刑審理を完全に分離することは,特に犯情と言われている量刑要素の勘案に支障があり,不適当と思います。   それから,裁判員裁判について,裁判員が裁判官と共に,事実認定とともに量刑も行うというのが日本国の裁判員裁判の非常に重要な特色であり,それはまた日本の量刑がどういう形で決まっているかにも深く関係するわけです。簡単に結論を言えば,手続二分をして別の裁判体が量刑をするとか,あるいは,その前に判決前調査をするなどということは,裁判員制度の基本的な構造や制度趣旨並びに量刑判断についての基本的理解が欠如した,およそ現実的な制度設計だとは思われない。   前回も言いましたとおり,現在の日本の量刑は,まず客観的にはいわゆる行為に対する責任刑という形で,その当人がどのような人格特性,境遇,生育歴の人物であろうが,当該事件において行った犯罪行為と結果の重大性が基本枠組みになって刑の量の大枠はまず決まる,その上でこれを若干調整する要素として一般情状が考慮されておりますので,そういう状況の下で判決前調査をやって一体どうするのだという疑問がございます。   以上の次第で,刑事裁判手続を制度的に二分するのは不要であり,かえって不都合であろうというのが私の意見です。 ○安岡委員 手続二分論は,実務を知らないとなかなか意見というか,良い悪いが言えないことだと思うのですけれども,第6回と第11回でこの問題が議論された中で感じたことを述べます。二分論は,当部会への諮問の「取調べに過度に依存した捜査,調書に過度に依存した公判を正す」という目的に対しては,手続の中で捜査に置かれる比重が相対的に軽くなるだろうということぐらいしか効果が見いだせないのですけれども,そうでなくて,もうちょっと大構えな諮問の内容である新時代の刑事司法のあるべき姿についてでいいますと,結構,効果が期待できるのではないか。現状で再犯の防止が日本の治安にとって,とても重要な課題になっています。それから,刑務所がある種,福祉施設化している状況も,法務省のレクチャーなどで何度か聞かされました。そこのところを克服する意味で,第6回,第11回で拝聴した議論では,判決前の調査制度を取り入れて,福祉関係,心理学,それから特に再犯が多い薬物依存症についての専門的な知見を持った人たちを交えた判決前調査によって,個々の被告人に再犯防止の観点から適切な刑を考える判決前調査制度というのは魅力的に聞こえました。   現状でも二分的な運用をしている裁判体もあるということでありましたけれども,判決前調査制度を入れるとなると,制度を少しいじって手続二分の制度を作っておかないと,あるいは,それを選択できるような制度改正をしないと,判決前調査制度は導入できないのではないかなという印象を持ちました。以上,感想のような意見です。 ○井上委員 私は,結論としては酒巻委員と同意見です。青木委員が言われたのは手続二分の古典的な議論ですけれども,今の運用において,その主張を裏付けるだけの立法事実はあるのか疑問に思います。現状では,酒巻委員が言われたように運用されていますし,一律に罪責問題と量刑問題とで二分するのは不適切な場合が結構多いのです。例えば,犯罪行為自体と犯情の双方について,同じ証人に証言してもらう必要がある場合,手続を二分してしまいますと,その証人には裁判所に二度来てもらわなければなりません。それを一度で双方について証言してもらっても,量刑事情として提示されたことが有罪・無罪の判定に不当な影響を与えるようなことが現在本当にあるのかは疑問で,抽象論ではないかと思うのです。   実は,私が出ている裁判員制度検討会の方でも,そういう議論をする人がいて,これを取り上げるかどうかを含めて,もう少し先で議論することになっていて,そこでも申そうと思っているのですけれども,実際に手続二分的な取扱いをした実例が大阪地裁で2件あり,一つは非裁判員裁判,1件は裁判員裁判でしたが,他の裁判所では,有罪・無罪の認定と量刑という分け方ではなく,犯人性(犯人かどうかということ)と責任能力の問題,あるいは有罪・無罪と正当防衛の問題とで段階分けをして審理を行ったという実例もあります。そのように,事案事案によって必要に応じ論点を区分して審理するという柔軟な取組の方がむしろ適切であり,截然かつ一律に有罪・無罪と量刑とで手続を二分するのは,かえって不適切であるように思います。また,裁判員制度を前提にして裁判体を分けるというのは,酒巻委員が言われたとおり,より以上に不適切だと思います。現在でも,区分審理制度の下で,三つぐらい区分して審理した場合に,一番最後の裁判体が苦労するのは,先行の審理の対象とされた事件について直接踏み込んで審理していないので,実感を持って全体として量刑に反映させにくいということだと言われています。手続を更新し,先行する審理で到達した心証を引き継ぐ形はとっているのですけれども,それではなかなか実感が持ちにくく苦労することが少なくないのです。   また,判決前調査の件も,それ自体としては,魅力的に聞こえるところがあるし,これも以前から議論されてきたところですけれども,そのような制度をもし入れた場合,裁判員裁判は恐らく成り立たないのではないかと思います。なぜなら,有罪の判決が出た後,判決前調査を行うとすると,それが終わるまで手続が止まってしまう。そのような間隔を置いた後,同じ裁判員たちが,手続が止まる前の審理で得ていた心証と判決前調査の結果を総合して量刑の判断をするというのは,恐らく無理だろうと思います。そういう意味で,裁判員裁判はうまく動かなくなってしまうことが懸念されるのです。   もちろん,裁判員裁判の導入により,国民が実際に量刑をも担当することになったことから,今までのような量刑の在り方で良いのか,合理的なものと言えるのかということが問われてるようになってきており,学界でも,量刑の在り方やそれを支える量刑理論といったものを正面から考えていこうということで,議論が始まっています。   ですから,量刑の在り方それ自体を正面に据えて本格的な議論を今後していくことが重要で,手続の点も,その中で検討するべき事柄であって,現段階において,手続二分の問題だけを切り出して議論するというのは適切ではないと思います。   その意味で,本部会でこの問題について何らかの方向を出すことには反対です。 ○神津委員 一般の人間の立場で申し上げますと,裁判員制度については,非常に私は意義の高いものだと思っているということは以前も申し上げたのですけれども,一方で,これも随分言われていることですけれども,また経験した人からも言われていることですが,精神的な負担の高いことも事実なので,今いろいろな立場,いろいろな御意見がありましたけれども,申し上げたいことは,いろいろな論点が複雑に絡まり合っていると思うのです。ですから,そのことをできるだけクリアに整理をしていただくことがものすごく大事なことだと思っています。   したがって,今もお聞きしましたけれども,別途そういう検討委員会があるのであれば,手続二分の問題も含めて,そこでしっかりと是非検討していただきたいなと,そのことを申し上げておきたいと思います。 ○岩井委員 今,議論すべきこととしては大き過ぎるというお話は分かるのですけれども,それはもう終わってしまった,古典的な議論だというのはおかしいのではないではないかと思うのです。きちんと議論したことが本当にあったのでしょうか。   量刑の問題については,今,再犯というのがかなり多くて,再入がほとんど半分以上を占めるという事態には目をつぶって,量刑の制度がうまく適切に働いているのだということを前提に,今の制度を是認するというやり方はおかしいと思うのですよね。 ○井上委員 そういう趣旨ではなく,それをやるなら,量刑の在り方それ自体を正面から取り上げて,本格的な議論をするべきであり,手続二分の問題だけを切り出して,ここで議論するというのは,かえって不適切だということを申し上げたのです。 ○椎橋委員 手続二分論については,酒巻委員,井上委員と基本的に同じ考えなのですけれども,一方では,手続二分を今の現行の体制,特に裁判員裁判の中で実現するというのは全く不可能だと思いますし,他方では手続二分は,実質的には本当の大事な部分については,私は実現されていると,矛盾するようですけれども,最低限必要な部分は実現されているのではないかと思います。   重複は避けますけれども,もし仮に手続を二分するということになると,そしてアメリカのように,判決前調査手続を入れるということになると,これは量刑について刑の個別化という考え方に非常に親和性があると思います。そうすると,判決前調査手続において,たくさんの量刑に関する資料が集められてくる傾向があります。   したがって,我が国においても有罪認定後に量刑についての証拠が多くあるいは相当程度提出され,そして,それらを慎重に検討することになる事態になるおそれがあると思いますので,そういう意味でも現在の裁判員制度の中においては実現は困難だということを申し上げておきます。 ○髙橋幹事 実務の運用についてですが罪体の判断に必要な証拠と,それ以外の一般情状についての証拠がある場合,これらが明確に区別できるときは,裁判員裁判が始まる前からの運用としましても,先に罪体の判断に必要な証拠調べを行い,その後に,一般情状についての証拠調べを行ってきておりまして,当然,裁判員裁判に入りましてもそれは徹底しております。   それから,裁判員の方に対しても,証拠調べの前後で,その証拠の位置付け,つまり,犯罪事実の立証のための証拠であるとか,あるいは,一般情状のための証拠であるとか,当事者からも,あるいは,必要に応じて裁判官からもしております。評議の中でも,罪体の判断に使える証拠,そうではない証拠というのは,きちんと裁判員の方にも裁判官から説明していると,そういう運用がなされているのではないかと思われます。   青木委員の御懸念として,例えば一般情状,例えば前科ですとか,あるいは被害者の処罰感情が有罪・無罪の判断に影響を及ぼしているのではないかという懸念をお持ちなのかと思われますが,今,言ったような証拠調べのやり方,あるいは,裁判員への説明を通じて,現在の現行法の下でも,罪体についての判断はきちんとなされているものと我々は理解しております。 ○小坂井幹事 髙橋幹事の言われたことに別に異を唱えるというわけではないのですけれども,井上委員がおっしゃった2件の大阪の例というのは,恐らく私が弁護人だったと思うのです。他にもまだ件数はあると思うのですが,実務上,今,手続二分をやっていらっしゃる裁判官は,髙橋幹事の御意見が違うのは分かるのですけれども,決して制度的な二分を否定していらっしゃるわけではないです。やはり罪責の認定手続そのものの純粋性をきっちり保つというのがまず第一にあるわけですよね。今の審理の仕方だと,犯罪事実の認定に関して関連性のない証拠が紛れ込むんです。   ですから,髙橋幹事がおっしゃるみたいに,仮にあらゆる裁判官がきっちりと手続二分をして,中間評議まで裁判員できっちりやりますと。そこで一旦,結論を出した上で被害者の意見を聞きますと,こういうふうになるのであれば,それはまた別ですけれども,必ずしもそうはなっていない。ですので,私は裁判官の中でも議論は分かれていると思います。   そこで,二分論をこの場から議論として,今落としてしまう必要は何もないのであって,やはり類型的になじむ事案はあるわけです。ですから,それはきっちりやっていただきたい。   それと量刑の個別性といいますか,量刑問題については,岩井委員のおっしゃったことに,私,全面的に賛同します。例えば,アメリカでは2か月間調査して,3か月目には判決が出ていますけれども,こういうペースで調査自体やっているわけです。ですから,それを日本に導入することがそれほど何かとてもではないが無理ですと言われるようなものではないと思います。 ○本田部会長 まだ御意見があろうかと思いますけれども,「事実認定と量刑に関する手続の在り方」につきましての議論はひとまずここで終わらせていただきたいと思います。 次回12月25日は,第13回会議からこれまでに議論いただいた論点の中で,「基本構想」の策定に向けて更に議論が必要と考えられる論点について,議論を行いたいと思います。   次回議論いただく具体的な論点といたしましては,これまでの議論の状況を勘案しますと,「取調べの録音・録画制度」のほか,「有罪答弁制度」,「被疑者・被告人の身柄拘束,出頭確保の在り方」などが考えられるのではないかと思いますが,本日の議論も踏まえて,これから詰めて検討させていただきます。今,申し上げました点も含めて,具体的な議事次第につきましては,事務当局を通じまして追って御連絡させていただきたいと思います。   本日予定しておりました議事は,一応全て終了いたしましたので,これにて本日の議事を終了させていただきたいと思います。   なお,本日の会議につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思います。   次回の日程は,12月25日,午後1時30分から,場所は,東京高検第2会議室,検察ゾーンの17階で行うことにいたします。   それでは,今日は長時間にわたりまして本当にありがとうございました。これをもって終わりとします。 -了-