法制審議会刑事法           (自動車運転に係る死傷事犯関係)部会           第2回会議 議事録 第1 日 時  平成24年11月30日(金) 自 午後1時57分                        至 午後4時49分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  自動車運転による死傷事犯の罰則の整備について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○保坂幹事 ただいまから法制審議会刑事法(自動車運転に係る死傷事犯関係)部会の第2回会議を開催いたします。 ○西田部会長 それでは,第2回の部会を開かせていただきます。   本日は,前回御欠席でありました高橋正也委員が御出席でございますので,自己紹介をお願いいたします。 ○高橋委員 労働安全衛生総合研究所の高橋と申します。働く人の睡眠の問題について調べてきております。よろしくお願いいたします。 ○西田部会長 どうもありがとうございました。   本日は,お手元の資料にありますように京都大学の塩見委員,それから産業医科大学の辻委員が御都合により御欠席でございます。   早速,議事に入らせていただきますが,前回の部会において委員からお求めのありました資料等につきまして,事務当局において用意することとなっていたものが何点かございますので,まずこの点,事務局からの御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 それでは,御説明いたします。   配布資料は,資料9から14まででございます。   前回の部会におきまして配布させていただいた自動車運転による交通死傷事犯をまとめたものにつきまして,更に追加すべき事案が把握できましたので追加したものでございます。それが配布資料の9になります。   9には,9の1と9の2がございますが,9の1,3ページになっているものですが,こちらは自動車運転過失致死傷の事犯で4年を超える懲役又は禁錮が科せられた事案を,刑の重かったものから順に掲載してございます。   9の2,7ページのものですが,自動車運転過失致死傷罪に道路交通法違反の罪を伴った事案で,4年を超える懲役又は禁錮が科せられたものを,同じく重い順から並べているというものでございます。   今回新しく追加しました事案は,9の2の方でございまして,資料の中に赤字で追加事例と記載をしてございますが,15番と17番の事案です。今後,追加すべきものがございましたら,適宜追加させていただきたいと思っております。   次に,配布資料の10番でございますが,こちらは危険運転致死傷罪の事案をまとめたものでございます。危険運転致死傷罪で,主として公判においてその成否が争われたものですとか,あるいは特徴的な事案を各類型ごとに記載をしております。前回にお求めがございましたが,公刊物に掲載されたものにつきましては,その公刊物も付記してございます。これらにつきましても,また追加がございましたら,適宜配布させていただこうと思っております。   次に,資料11でございます。こちらは,自動車運転過失致死傷罪の事案や,それに道交法違反の罪が伴った事案で実刑になった事案をまとめたものでございます。例えば,飲酒の影響によるものなど,危険運転致死傷罪の類型に類似していると思われる事案ですとか,病気や過労の影響によるものなど,今回問題になっているような類型の事案を,各類型ごとに掲載をいたしております。こちらも追加がございましたら,また適宜配布させていただこうと思っております。   続きまして,資料12番と13番は,期日外で行いました被害者団体からのヒアリングにおいて被害者団体から出された御意見,御要望をまとめたものでございます。   資料14は,御要望のうち刑事実体法による罰則整備に関するものにつきまして,考え得る対応方策案を記載したものでございます。これらの12から14の資料につきましては,後ほど内容等を御説明させていただこうと思っております。   追加資料につきましては,簡単ではございますが,御説明は以上でございます。   次に,第1回の部会で,報道されているような事件についても事案の御紹介をしてほしいというお求めがございましたので,3件の事件について御紹介したいと思います。   まず,1件目でございますが,名古屋市内で発生した事案でございまして,この事案は,被告人が普通乗用車を運転して,時速約50キロで進行するに当たり,前方を注視せず,安全確認不十分のまま進行し,前方で赤色信号に従い停止中の被害者Aさん運転の普通乗用車に衝突させてAさんに傷害を負わせ,その後,Aさんを救護等せず,事故について警察官に報告しなかった。更に同じ自動車を運転して,交差点に向かって進行するに当たり,遠方を見て,横断歩道が設けられた交差点の存在に気付かないまま50キロから60キロの速度で進行して,横断歩道上を進行していた被害者Bさん運転の自転車に衝突させ,Bさんを死亡させた。そのBさんの救護等をせず,事故について警察官に報告しなかった。その運転の際,無免許で酒気を帯び,無車検,無保険の自動車を運転していたという事実でございます。自動車運転過失傷害罪と過失致死罪,道路交通法違反,道路運送車両法違反,自動車損害賠償保障法違反により,一審で懲役7年の判決が宣告されて,既に確定しているところでございます。   次に,関越自動車道で発生した事案でございます。この事案は,被告人が大型乗合自動車を運転して,時速約90キロの速度で高速道路を進行中に,睡眠不足及び過労のため,眠気を覚え,そのまま運転を継続すれば前方注視が困難な状態に陥ることが容易に予測されたにもかかわらず,そのまま運転を継続し,その速度で走行中仮睡状態に陥り,自車を左前方に暴走させ,ガードレールに接触をさせた上,防音壁に衝突させて,自車の一部を割裂させて,7名を死亡させ,38名に傷害を負わせたという自動車運転過失致死傷罪で,公判請求されたという事案でございます。更に道路運送法違反,電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪でも公判請求されておりまして,現在,公判が係属中ということでございます。   3件目が京都府の亀岡市で発生した事案でございます。この事案は,被告人が普通乗用車を運転して,時速40キロから50キロで進行中に,連日の夜遊びによって寝不足等により強い眠気を催し,前方注視が困難になったにもかかわらず運転を継続し,その後,時速約60キロで進行中,仮睡状態に陥り,自車を右前方に逸走させ,路側帯の内側を歩行中の被害者10名に衝突させるなどして3名を死亡させ,7名に傷害を負わせたという自動車運転過失致死傷罪で公判請求されたという事案でございまして,それ以外にも無免許運転による道路交通法違反でも起訴されており,現在,公判係属中ということでございます。   続きまして,第1回の部会でお求めのありました外国法制の関係で,病気に関する規定を有するところがあるかどうかについてその調査をしましたので御紹介したいと思います。   前回の部会におきましては,アメリカのミシガン州,イギリス,フランスにおける罰則をまとめた資料を配布させていただきましたので,更に調査をしましたところ,いずれにおきましても,交通死傷事犯の処罰規定の中には意識喪失を伴うような病気が要件となっているというものは見当たりませんでしたが,ドイツにつきましては,道路交通に対する危害行為罪というのがございまして,その中に,精神若しくは身体の欠陥の結果,乗り物を安全に運転できる状態でないにもかかわらず,乗り物を運転し,これにより他の者の身体若しくは生命又は大きな価値のある他人のものを危険にさらした者は,5年以下の自由刑又は罰金刑に処するという規定がございまして,この規定中の「精神若しくは身体の欠陥」というものについては,例えば疾患による発作といった一時的なものもこれに該当すると解されているということでございました。   最後になりますが,配布資料の関係で言いますと,被害者団体から先だって行いましたヒアリングの後に,北海道交通事故被害者の会の方から追加の御要望書を頂きましたので,席上に置かせていただいております。また,本日,石井委員と高橋委員から御説明を頂くことになっております資料の印刷物も併せて配布させていただいております。   説明は以上でございます。 ○西田部会長 どうもありがとうございました。   第1回の会議のときに資料請求なさった委員,山下委員だったかと思いますが,よろしゅうございましょうか。 ○山下委員 はい,結構です。   あと,今日,先ほど外国の法令の御案内あったんですが,その条文自体の配布等は頂けるんでしょうか。 ○西田部会長 それは,事務局の方で対応してください。 ○保坂幹事 はい,対応させていただきます。 ○西田部会長 配布資料について,並びに前回御要望の資料についての御説明を承りました。   今日は,お手元の議事次第にありますように,まず前半におきましては,石井委員から道交法並びに免許制度について,更には高橋委員から過労運転等の問題につきましてプレゼンテーションを承り,共通の認識を得たいと存じております。   まず,最初に御苦労ですが,警察庁の石井委員から御説明をお願いいたします。 ○石井委員 警察庁の交通局長をいたしております石井でございます。   本日は,お配りしております資料と,適宜,このスクリーンの方を御覧いただきまして,皆さん方の御検討の御参考にいたしたいと思います。   今回のプレゼンテーションでございますけれども,警察庁並びに法務省の方にそれぞれ交通事故の御遺族の会から陳情がなされております。その陳情のきっかけとなった事件が三つございます。これは,先ほど御説明のあった事件と重複いたしておりますが,最初に栃木県鹿沼市におけるクレーン車による小学生多数が被害者となる交通事故でございます。   これは,昨年4月18日に発生しておりまして,このクレーン車を運転していた方はてんかんの持病がございまして,事故当時,てんかんの発作による意識障害があったとなっております。   それから,真ん中が愛知県名古屋市におけるブラジル人による飲酒,無免許死亡ひき逃げ事件でございます。この方は,そもそも飲酒の上,免許を持っておらず,無車検,無保険の車で運転をしたと。最後,自転車の被害者の方をはねるときには,実は一方通行を逆走して,その交差点において,歩道から来た人をはねたという状況でございます。   それから,京都府の亀岡における小学生多数被害者となる交通事故でございますけれども,これも先ほど御説明ございましたとおり,無免許の少年が一晩中京都府内を走り回りまして,その結果,朝帰るときに眠ってしまって,集団登校中の小学生の列に突っ込んだという事案でございます。   この3つの事件を横で見てまいりますと,無免許の問題と,もう1つはてんかん等一定の症状を有する方の問題,それから過労の問題,それから一方通行を逆走という基本的な交通規制を守られていなかったということでございます。この項目につきまして,それぞれ御説明を申し上げたいと思っております。   大きく分けまして,本日御説明申し上げますのは,そもそも運転免許制度というのはどういうものかという問題と,2番目に,てんかん等の問題等につきまして警察庁でも有識者会議を設けまして,免許制度の在り方に対する検討を進めてまいりました。その有識者会議から御提言がございましたので,その内容について御説明を申し上げます。それから3番目に,そもそも警察による交通規制というのはどのように行われているのか。この3点について順次説明をしてまいります。   第1番目は,運転免許制度の概要でございます。   運転免許制度は,道路交通法第64条と第84条によりまして,自動車運転は,それ自体危険を伴う行為でございますので,安全に運転するために一定の技能,知識を必要とすることから,一般にこれを禁止し,一定の基準により運転資格を有する者のみ自動車の運転を認める,無資格の運転を禁ずるという制度でございます。   条文につきましては,これは記載のとおりでございます。   これはもう講学上は,いわゆる許可という類型に当たっております。   運転免許の区分でございますけれども,普通の一般の運転者の運転資格である第一種免許,それから旅客を運送する目的で,旅客自動車を運転するための第二種免許,それから,普通免許を取るために,免許を取得するために路上で練習するための仮免許などがございます。   運転免許は,現在国内におきましては8,100万人余の方が持っておられます。極めて大量の行政でございます。   車を運転する運転免許は,国内の都道府県公安委員会が発給する運転免許のほかに,実は,外国の免許も認められております。1つは国際運転免許証でございます。道路交通に関する条約,いわゆるジュネーブ条約に加入しております締結国におきましては,相互に国際免許証を発行することができまして,この国際免許証を持っている方につきましては,本邦に上陸した日から起算して1年間,当該国際免許証をもって自動車を運転できるようになっております。   それから,ジュネーブ条約に加入していない国,また国際運転免許証を発給しない国でありましても,我が国と同等の水準の運転制度を有する国につきましては,外国の運転免許証そのものに翻訳をしたものを付けることによりまして,国際運転免許証と同様に運転することができます。具体的には,スイス,ドイツ,フランス,イタリー,ベルギー,台湾の5か国,1地域については,このような外国運転免許証による運転を認めております。   今度は逆に,免許を持たずに,また国際運転免許証を持たずに運転した場合でございますが,これにつきましては,1年以下の懲役又は30万円以下の罰金となっております。免許証を不正取得した場合でも同様でございます。   具体的には,それによりましてどのくらいの方が検挙されているかと申しますと,年間約3万人以上の方が検挙をされております。それから,不正免許の取得では,10件前後の方が検挙されることになります。   ここでちょっと言い忘れたことがございますが,この運転免許を持っていない無免許運転の中には,免許証を更新せず失効させましたり,免許の取消し,停止を受けている者,そういうふうな方が運転した場合にも無免許運転が成立することになります。   一般的な運転免許行政の流れでございます。まず最初,概要を御説明申し上げます。細かくはまた,次以下で説明してまいりますけれども,運転免許を取るためには,運転免許試験を実施いたします。運転免許試験に合格いたします,免許証の交付が行われ,免許取得3回目の誕生日から1か月後まで有効でございまして,その時期が来ましたら免許証の更新をしていただくことになります。2回目以降の更新につきましては,優良一般運転者が5年,違反をした者については3年という更新期間になっております。ただし,更新日の期間満了で70歳以上の方は,高齢者講習ということで,高齢ドライバー専用の講習を受けていただいた上で免許証更新を行うこととなっております。更に高齢者講習には,75歳以上の方につきましては認知機能検査を実施いたしまして,認知機能に衰えがないかどうかの確認をさせていただいています。それぞれの試験なり何かの場合,一定の事由,例えば身体的なもの,例えば行動的なもので違反や事故が多かった者につきましては,免許停止,免許の取消し等が行われることとなります。   最初の免許の取得の部分でございますけれども,免許を取得するためには,公安委員会が行います運転免許の試験を受けなければなりません。この運転免許の試験につきましては,試験の方法として三つございます。   1つ目は,適性試験ということで,視力,色彩識別能力,深視力,聴力,運動能力に関する試験でございます。2つ目が学科試験,これは,交通法規をきちっと理解しているかどうか。それから,技能試験ということで,車両を適切に運転することができるかどうかの試験でございます。多くの方は,指定自動車教習所の方で練習をされて,そちらの方の卒業検定に合格した方につきましては免除となっております。   公安委員会は,運転免許試験に合格した者には免許を与えなければならないと義務付けられておりますけれども,ただし,一定の事由に該当する者につきましては,免許を与えず,又は保留することができるとされております。   運転免許の停止,取消しでございますが,これはもう御承知のように,運転者の心身の状況とか免許取得後の行動,例えば違反がどのくらいあったとか,事故を起こしたとか,そういうふうな運転の適格性に欠けると認められる一定の事由に該当する者につきましては,免許の取消し又は停止を行うことができるようになっております。   免許証の更新でございますけれども,これも有効期間満了前に適性検査の結果を判断して,自動車運転をすることに支障がないと認めたときには,当該免許証を更新しなければならないことになっています。この場合の適性検査の科目は,視力,深視力,聴力及び運動能力となっております。   ですから,ここでちょっと付言いたしますと,免許証の更新手続と運転免許証の不正取得罪との関係について御説明申し上げたいと思います。   免許の取得手続の際には,試験に合格いたしましても,一定の症状等を呈する病気にかかっている方につきましては,免許の拒否,保留等の処分を行うことが可能でございます。したがいまして,免許の取得手続の際に公安委員会が行う病状等の質問に対し,申請者が正確に回答しなかった場合には,申請者に免許証不正取得罪が成立する可能性がございます。しかしながら,免許証の更新の手続の際には,視力等適性検査に合格しますれば,公安委員会は必ず免許証の更新処分を行わなければならず,したがいまして,更新手続について公安委員会が行う病状等の質問に対し,申請者が正確に回答してもしなくても,免許証の更新が行われることから,免許証のこの更新時の不正の申請につきましては,虚偽の申告につきましては,申請者に免許証不正取得罪は成立しないと考えております。   その具体的な運転免許証の拒否・保留,又は停止・取消しになる事由でございます。   1つは,一定の症状を呈する病気にかかっている方。具体的には幻覚症状を伴う精神病,発作による意識障害,運動障害をもたらす病気,その他自動車等の運転に支障を及ぼすおそれのある病気のうち一定のものと。これにつきましては,更に詳しく御説明を後で申し上げたいと思います。あとは認知症,アルコール,麻薬等の中毒者,ここまではある意味では運転者の心身の状態に関係するものでございます。   以下,次の3つが行動に関するものでございます。自動車等の運転に関し,道路交通法に違反する行為をした者。自動車等の運転者を唆し,重大な違反をさせる行為等をした者。道路外等で自動車等により人を死傷させる行為をした者ということでございます。   こういうふうな違反等によりまして,行政処分は取消しは毎年4万5,6千件ぐらいは実施いたしておりますし,停止は42万ぐらいを実施いたしております。拒否・保留は記載のとおりでございます。数字が大きく変わっておりますのは,道路交通法の改正によりまして,運転免許の点数制度に,例えば飲酒運転とかひき逃げとか,点数が大きく加点をされるようになったために,取消しとか,そういうものが大きくなるという要素と,もう一つは,そのために違反者が少なくなっているという二つの要素がございまして,数字が大きく動いております。   大きな2番目は,一定の症状を呈する病気等に係る運転免許制度の在り方に関する提言でございます。   これは,言葉遣いの問題でございますけれども,従来,一定の病気という言い方で御説明をしてきたんですが,何かそうしますと,その病気に偏見があるような印象を受けますので,正確には,その病気のうち一定の症状を呈するということが要件になっておりますので,一定の症状を呈する病気という言い方にしております。   平成13年改正以前までには,道路交通法におきましては,てんかん等,こういうふうな病気につきましては絶対的な欠格事由でございました。その病気にかかっていること自体によって運転免許を発給できないということになっておりましたけれども,現在,一定の病気につきましては,この一定の病気と書いている部分につきましては,相対的な欠格事由になっております。認知症とかアルコール,麻薬の中毒については,これは絶対的欠格事由のままでございます。   例えば,てんかんを例にとってみますと,てんかんという病気を持っている方であっても,発作が再発するおそれがない方,それから,発作が再発いたしましても,意識障害及び運動障害をもたらさないもの,それから,発作が睡眠中に限り再発するもの,こういうふうな方につきましては,免許の取得は可能でございます。   その一定の病気に該当する疑いがある方が把握をされた場合,どういうふうな流れになっていくかでございますけれども,この把握の仕方といたしましては,免許の申請時,更新時の申請のときに,一定の様式に従いまして申告をしてもらいます。そのときに,こういうふうな方である疑いを把握する場合,また,そもそも免許が取れるかどうか,事前に御相談くださいということで,運転適性相談窓口を警察本部や運転免許試験場等へ作っておりますので,そちらの方での御相談。それから,交通取締りや,交通事故の捜査によりまして,疑いを把握することがございます。   こういうふうな疑いのある方を把握した場合には,臨時適性検査の通知をいたします。免許の取消し事由に当たらないかどうか確認をするものでございます。専門医の方に診ていただいて判断していただくことになりますけれども,専門医の代わりに常時,その方を診ておられます主治医の診断書でも代替できるようになっております。主治医の方から,一定の病気等に該当しないと認められるような意見が出てくれば,免許継続いたしますし,該当すると認められる,そして,一定の病気だけではなくて,その症状が運転するのにどうかという点まで含めてお書きいただくことになっておりますけれども,それで可能性,運転ができない,運転は危険であるという旨の医師の意見があった場合には,本人に聴聞,弁明の機会を与え,運転免許の取消し等の措置を採るということになります。   現実にどのぐらいの方が取り消されているかでございますけれども,こちらの表記載のとおりでございまして,例年でございますと大体400,500が取消しの対象となっております。昨年は900ということで大変多くなっております。これは,実は冒頭説明いたしました鹿沼のクレーン車事故の関係で,てんかん等の病気,一定の病気にかかる方々の運転免許の関係の相談を積極的に受理をする。それから,患者団体とか医師会とか,そういうふうなことにも協力を求めまして,しっかり相談をしてくださいというキャンペーンを張ったために,相談等増えているところでございます。そのために,昨年は取消し件数が多くなっております。   先ほど,ちょっと話をいたしました栃木県の鹿沼の事故の関係で,御遺族の方からこういうふうな一定の病気の方の免許制度について見直していただきたいという陳情が出されるきっかけとなった事故の新聞でございます。   有識者会議を設置いたしまして,中央大学の藤原先生を座長に,こちら記載の委員の方にお入りいただいて御議論を進めていただきました。今回,こちらの方にも参加をされております辻先生にも入っていただいております。   主な検討課題でございますけれども,自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある,一定の症状を有する者を的確に把握するための方策についてと,病状等の虚偽申告に対する罰則の整備の可否,医師等による通報制度導入の可否,それから一定の症状の申告を行いやすい環境の整備方策について。3番目に,症状が判明するまでの間における運転免許の取扱いについてでございます。ちょっと申し落としましたが,今回の部会にも参加していただいている木村先生にも委員に入っていただいております。   6月5日から10月16日まで,6回にわたりまして実施いたしました。被害者団体とか,その患者団体,それからそれぞれの専門の医師会等からもいろいろな御意見を頂いたところでございます。   一定の症状を有する者を的確に把握する方策でございますけれども,運転に支障を及ぼす症状について,虚偽申告をした者に対しては,何らかの罰則整備が必要であるということが結論でございました。交通事故を未然に防止するためには,虚偽申告,虚偽の症状の申告を行った者に対して罰則の対象とする制度改正を行い,適正に申告している者との均衡を図るとともに,以後の正しい申告を担保することが適当という結論でございます。他方で,差別の助長の抑止やいたずらに処罰対象が広がらない工夫が必要だということが求められております。   それから,自己申告以外の把握方法でございます。自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれが認められる患者については,医師がその判断により,任意に届け出る仕組みが必要であると。これは,被害者の方からの陳情では,医師に通報を義務付けるべきだという陳情がございました。その件について議論をしたわけでございますが,仮に医師に届出を義務付けた場合には,医師と患者との信頼関係の毀損による患者の診療拒否や,そもそも病院に来ないのではないかと,そういうふうな潜在化してしまうのではないか。それから,診断が容易でないことから,対象となる病気を有する患者を医療の方から,かえって忌避してしまうのではないかと。それから,本来,免許取得が可能な者まで過剰な届出がなされるのではないかと。   そういうふうなところから,届出につきましては,任意にとどめ,医師と患者との信頼関係に配慮しつつ,当該届出を法律上位置付けることで,守秘義務や個人情報保護法に反することにならないよう,法律関係を整理し,医師が対処しやすい環境を整えることが適当という結論でございます。そのためには,やはり実効性を担保するために,医師団体等によるガイドラインの作成等をお願いすることとなっております。   一方で,こういうふうな施策を採った場合に,真面目に申告してきた者が,俗に言いますと正直者がばかを見るということにならないようにする方策についても考えたところでございます。検討していただいたところでございます。   病気等を理由に免許が取り消された者が再取得する場合には,試験の一部を免除するなど,負担の軽減を図るべきだということでございます。従来の法制度でございますと,免許を取り消してから6か月以内につきましては,6か月以内に病状等が改善し,運転免許が取れる状態になりましたら,実は試験等を免除して,免許が取り戻せるわけでございますけれども,6か月という期間では実はそんなに病状が劇的に改善する方というのはほとんどいないわけでございます。これを「やむを得ず失効」と同様,3年程度見てくれないかというのが,医師会や患者団体からの要望でございまして,この要望の線に従って検討したものでございます。   ただ,やはりこれも野放図に長くするわけにはいきませんので,「やむを得ず失効」と同じような3年程度について,その間に病状等が改善し,運転ができるような状態になった場合には,技能試験,学科試験を免除することといたしたいと思っております。   もう一つの問題というのは,実は臨時適性検査を行って,免許の取消しなり何なりの判断をする場合に,実はそれ相応,時間が掛かるというタイムラグの問題でございます。警察で交通事故等を扱った場合に,あれ,この人はもしかしたらと一定の病気を有するのではないかと考えられるような事故状況の事故がございます。こういうふうな方々につきまして,今の手続は,先ほど申し上げましたように,免許を停止するためには,1か月,2か月の時間が掛かるところから,その当面,暫定的に免許を停止するような制度,これは道交法上仮停止という制度があるんですけれども,それに類するような暫定的に停止をするような制度を導入すべきだという御提言がございました。   そのほかに,交通事故の情報の管理システムを整備いたしまして,物損事故を含む交通事故情報の中から頻回事故歴者を抽出して,その者に対してきちっとした管理,調査を行う。それから,御遺族の陳情の中に申請時に医師による診断書の提出義務付けというふうな項目もございました。これについても議論いただいたわけでございますけれども,これにつきましては,運転免許申請者にある負担の問題とか,実効性の観点から,現時点での導入は困難であるという結論でございました。   実は,警察におきましては,この医師の診断書の提出義務付けを一度,昭和40年代に導入したことがあるんですが,現実は,非常に形式的な診断によってどんどん診断書が出されてしまうということで,実効性が極めて乏しかったところから,短期間にその制度は取りやめになっております。   それから,家族からの相談を促進するための働きかけ,医師への周知,協力の要請,運用基準の合理的な見直しなどが制度上の運用の改善に事項として挙げられております。   大きな3番目でございますけれども,警察による交通規制の概要でございます。   交通規制の根拠でございますけれども,これにつきましては,道交法の第4条第1項におきまして,信号機又は道路標識等を設置し及び管理し,交通整理,歩行者の車両等の通行禁止,その他交通を規制することができるとされております。   都道府県警察で行います交通規制は,全てが要式行為でございます。全ての交通規制は,その場で誰でも分かるものでなければならないということになっております。内部的に都道府県公安委員会の意思決定がなされただけでは交通規制の効力は生じませんで,設置をされた信号機又は道路標識等が客観的に運転者に認知ができるような状態が必要でございます。逆に申しますと,認知できないような状況の場合には,交通規制の効力は生じないということになっております。   交通規制の制度的な担保でございますけれども,都道府県公安委員会におきましては,交通規制をするとき,前方に見やすいように,かつ,道路又は交通の状況において必要と認める数のものを設置して,管理をしなければならないと。具体的な,そのための標識につきましては,内閣府令・国土交通省令によって決められております。こちら書いてございますように「道路標識,区画線及び道路標示に関する命令」というふうな内閣府令,国土交通省の省令で定められております。   具体的な交通規制を実施するための流れでございます。上の方からございますように,まず,交通規制をするための端緒でございます。これにつきましては,現場の交通渋滞の状況,それから地元の方々の要望や陳情,こういうふうなものに従いまして,交通規制を行うかどうかの実地の現地の調査を行うことになります。現地の調査をいたしますと,道路の構造,それから交通流,交通事故の分析などを主に行うことになります。その現地調査に基づきまして,交通規制計画の案を検討し,作成をいたします。どういうふうな形で規制をするのか,規制の種別,場所,対象などを検討することになります。   その次に,関係機関と協議を行うわけでございますが,道路管理者とか地方公共団体,また地元の自治会などの方々と,そういうふうな交通規制についてどう思われるか,必要かどうか,そういうふうな点,また,いろいろな要望,ニーズもございますので,そういうふうな点を踏まえて関係機関と協議が行われます。その上で,案がまとまりますれば,都道府県公安委員会によって意思決定が行われます。   意思決定が行われますと,関係の団体や地域住民に協力要請や広報を行いまして,交通規制の実施の日までに地元の方々に広く周知をすることになります。そして,交通規制を実施し,道路標識を設置し,その視認性や効果等を確認することになります。その後,例えば交通信号機などでは,設置した後,設置前の1年間,設置後の1年間につきまして,交通事故状況がどういうふうになったか,その効果の確認等を行っております。   今回,ブラジル人による飲酒のひき逃げ事件で問題になりました一方通行をちょっと例にとって御説明を申し上げたいと思います。   この一方通行にする道路というのは,交通量が特定の方向に偏っている,又は道路が非常に狭くて,交互通行にするのが難しい,いろいろな条件がございますけれども,そういうふうな現地調査の結果,交互通行をするのが難しい道路につきまして一方通行を行うわけでございます。現地調査の結果,公安委員会で,やはりこれは一方通行をお願いしたいという意思決定を受けますと,現場で工事が行われるわけでございます。よく見られる標識でございますけれども,こういうふうな標識をそれぞれの交差点に付けまして,一方通行であることを明らかにしていくことになります。これらの標識が付けられますと,初めて交通規制の効果が発生するというものでございます。   今,公安委員会による交通規制について御説明を申し上げましたけれども,そのほかに警察署長による交通規制というものがございます。これにつきましては,公安委員会の規制というのは恒常的な交通規制を考えておりますけれども,適用期間の短いものにつきましては警察署長が行うことができます。   例えば,どんな場合かといいますと,祭礼等で人が集まってくるような場合などが一番典型的なものでございます。通常の場合でございますと,道路交通法施行令第3条の2第1項次の各号に掲げる標識等による交通規制で,その適用期間が1か月を超えないものにつきましては,署長によって行うことができることとなっております。   この通行禁止の交通事故の件数でございますけれども,大体年間200件,300件の交通事故が発生し,そのうち一桁の前半ぐらいのところが死亡事故になっております。   ざっと御説明を申し上げましたけれども,この後,ただいまの説明に関しまして御質問がございましたら,お答えをしてまいります。 ○西田部会長 どうもありがとうございました。   ただいまの石井委員からの御説明に対しまして,皆様,御質疑,御疑問がございましたら,どうぞお願いいたします。 ○山下委員 警察庁の有識者会議の結果について,提言の内容を御報告いただいたんですが,特に虚偽申告,症状等の虚偽申告に対する罰則の整備については,今後どのようなスケジュールでとか,また,どのぐらいの罰則を考えておられるのか,何か今分かることありましたら,教えていただければと思います。 ○石井委員 現在決まっておりますのは,この件につきましては,来年の通常国会に向けまして道路交通法の改正を検討していくということは決まっております。どの程度の罰則につきましては,今,中身を詰めているところでございますので,ちょっとまだ明確なことは申し上げることはできません。 ○山下委員 結構です。 ○西田部会長 ほかにございませんか。   では,私から1,2点お伺いいたします。   被害者団体からのヒアリングでよく出てきた用語として,無車検という用語と無保険という用語がありましたんですが,この場合の保険というのは,恐らく自賠責による責任保険のことだと思うんですが,私の個人的な車検の経験によりますと,車検を受けるときは当然,自賠責も更新するということなので,無車検運転と無保険運転というのは,保険が自賠責に限定して考える限りは,同義であると考えてよろしいでしょうか。 ○石井委員 実際上はそうなってしまいますね。同義というのがいいかどうかは別にいたしましても。 ○西田部会長 というと,要するに同じ意味,しかし,例えば廃車にするつもりで野原に誰かが放棄した自動車,当然,車検を受けていないし,責任保険も入っていない。しかし,まだ動くというのを勝手に運転するというような行為は,これは道交法上,何らかの犯罪になりますでしょうか。 ○石井委員 道交法ではなくて,それは道路運送車両法でしたか,あと自動車損害賠償保障法の,そちらの方の関係になります。 ○西田部会長 道交法では,無保険車,あるいは無車検車の運転そのものは違反行為としては禁止の対象にはなっていないわけですね。道路運送車両法,自賠責法等の関連と理解してよろしゅうございますか。 ○井上幹事 無車検というのは,車両の検査を受ける義務は道路運送車両法で規定をされてございまして,こちらに罰則の規定がございます。自賠責保険については,自賠法に基づいて車両の運行の用に供する場合にはその自賠責保険に付さねばならないと。それぞれ別個の法律に基づいて,義務付けと罰則が科せられております。それぞれの違反については,道路交通法上評価をして,行政処分の点数等が付されるというような仕組みになってございます。ですから,罰則としては,それぞれの法律に基づいて罰則が付されるということでございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   第2点は,どなたかにお伺いしたいのですが,この高速道路については,交通規制,標識等で規制されているわけではないと伺っておりますが,その高速道路の,言ってみれば,当然名古屋方面なら名古屋方面の一方通行というのは,これは道交法上の根拠があるのでございますか。 ○井上幹事 高速道路においても,必要な部分については部分的に,例えばランプの部分ですとかは,一方通行の規制なりも行うことがございますが,本線車道については,それぞれの例えば左側,右側について,それぞれを一方通行の規制というようなことは行ってございません。高速道路については,そもそも道路の構造上,往復に分離されているということでございまして,分離された片側部分への進入と逆の方向に進行した場合には,その道路の右側部分を通行することになるということでございまして,通行区分違反という,一方通行違反ではございませんで,道路交通法上の根拠で申しますと,道交法の17条の4項違反,通行区分違反という違反が,本線車道を逆行した場合には成立をするということで運用をさせていただいてございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   私からの質問は以上ですが,ほかによろしゅうございますか。 ○高橋委員 数字の確認になりますが,スライドの18に,一定の症状で取消しを受けた件数が,例えば平成23年度ですと906件でございます。一方,スライドの14で,平成23年度の取消しの件数が4万6,000件とあります。これは,この4万6,000件の中で一定の症状によって取り消されたのが906件ということでよろしいでしょうか。 ○石井委員 さようでございます。 ○武内委員 少し細かな話になりますけれども,先ほど,無車検と無保険はほぼ同義という御説明があったかと思うんですけれども,自動車の中には車検制度の適用のないものもございますよね。だから,無保険イコール無車検ということは成り立たないと,この理解でよろしいですか。 ○井上幹事 部会長が御質問されたとおり,運用上,車検を行う際に自賠責が付されているということを確認しないと車検を通さないという運用になっておりますので,ケースとしてそれぞれのケースが独立して起きる場合は,非常に極めて少ないと。重複する場合が大半であるという意味で,ほとんど同義と,多分,部会長はおっしゃったんだと思うんですが,先ほども御説明申し上げましたとおり,それぞれ義務は法律上別個に掛けられてございますので,罰条も異なるということでございます。 ○西田部会長 武内委員がおっしゃった,車検の対象ではないけれども,保険の対象にはなるという実例,何かございますか。 ○武内委員 念頭に置いていたのは,一定の排気量以下の自動二輪車なんですけれども,車検制度がないけれども,自賠責の適用はあるということですよね。この場合,車検は受けていないけれども,無保険というのは,ありますよね。 ○井上幹事 おっしゃるとおりでございます。 ○武内委員 この理解でよろしいですよね。 ○西田部会長 石井委員,ありがとうございました。   引き続き,第1回会議で御要望があり,また被害者団体から危険運転行為の対象とすべきだと御意見が強かった過労運転に関しまして,専門の高橋委員から御説明をお願いいたします。 ○高橋委員 それでは,よろしくお願いいたします。労働安全衛生総合研究所の高橋です。   過労運転について,どう捉えていくかということで事務局とも相談させていただきまして,この4点について御説明させていただきたいと思います。   まず,一つ目の過労状態ということですけれども,現時点で合意のとれたきちんとした定義というのはございません。それを社会的にはどういうふうに使っているかという例がここにあります。いわゆる過労というのは,よく過重労働,英語で言えばoverworkということがあります。   一方,この部会等で重要になると思われるのは,過度の疲労として過労なのではないかと。excessive fatigueですけれども,この過度の疲労というのをどう捉えるかというのは,またこれは難しい話になります。恐らく,ちょっと疲れたということではなくて,長期的に疲労がたまっているとか,あるいは慢性化しているとか,より長い疲労の蓄積,重積が問題になってくるのではないかなと思われます。   ここで,話を先に進めるために,操作的な定義をするならば,我々は仕事であれ,日常生活であれ,いろいろな行動をするわけですけれども,それぞれについて必要とされる技能とか,いろいろなスキルが要求されるわけです。その必要とされる行動がとれないような心身の状態を過労状態と捉えると,議論が進むのではないかと思っております。   そのような過労状態がどういうふうな原因で起こるのかというのは,先生方御承知のようにたくさんあります。主要なものを3つ挙げるとするならば,1つ目は睡眠の問題です。量的に足りない,質的にも良くないというのがあります。   2つ目には,我々の体の中にはリズムがありまして,昼間に活発に動いて,夜にはぐっすり休むという基本的なリズムがあります。これから乱れてしまうと,非常にパフォーマンスとか仕事の成績が悪くなります。   それから,もう一つは起きているときの話ですけれども,起きている時間が非常に長かったり,なすべき仕事が非常にきつかったりということが,こういう過労状態を招く主要な原因ではないかと思われます。   それぞれ一つずつ簡単に御説明いたします。いわゆる事故のかなりの原因となるであろうこの量的な不足として,徹夜ですね。全く眠らない。あるいは,最近問題になっているのは,徹夜というよりも,一晩一晩はそれほど大きな睡眠不足ではない,数時間の睡眠不足なのですが,それが慢性的に続いたときに,非常に問題になる状態にあると。それから,いわゆる睡眠の病気です。病気に伴って質的あるいは量的にも悪くなってしまうということが考えられます。   ここでお示ししたのは,慢性的な睡眠不足,短時間睡眠の影響についてです。これはある米国で行われた実験です。どういう実験かといいますと,実験に参加された方は,1週間の間,一晩一晩の睡眠時間が決められます。ある人は3時間,ある人は9時間,7時間,5時間と決められた時間しか眠れません。それでずっと1週間過ごすことになります。グラフの縦軸は「見落とし」と書いてありますが,非常に簡単な課題です。ランプがついたらボタンを押すと。誰にでもできるような非常に簡単な課題です。ランプがついてボタンを押すというのは,0.2秒ぐらいで反応できます。ただし,頭が疲れてきますと,倍以上の0.5秒たっても押せなくなります。場合によっては,その場で居眠りをしてしまうというようなことにもなります。   9時間しっかり眠りますと,ほとんど1日1回あるかないかで非常にフラットです。   3時間の,この黄色のですけれども,2日目,3日目ぐらいから,1日10回ぐらい,大幅にこのミスが増える。これはある意味当たり前かもしれません。   ところが,この5時間とか7時間とか,このぐらいのエリアというのは,いわゆる我々の多くが取っている睡眠時間の範囲に当たります。にもかかわらず,このぐらいの睡眠が続いていても,御覧のように少しずつ右肩上がりに見落としの回数が増えていることが分かります。ということは,この時間帯で本来我々の心身がリフレッシュされて,回復されたのであれば,この勾配が増えていくことはあり得ない。むしろ,これが上がっているということ,つまりミスが増えるということは,何らかの形でこれらの睡眠時間では心身が疲労回復はできていないということが言えます。   これは飽くまで実験でして,ランプがついたらボタンを押すというのは,極めて単純な課題です。ただし,これは運転でいえば,信号が黄色になって赤になったらブレーキを踏むというのと本質的に全く同じと言えます。赤になってブレーキを踏まないから突っ込んでしまう。あるいは,前に車が止まっている,これも一つのサインですね。これをキャッチしてハンドルを切るなり,ブレーキを踏むなり,適切な行動をとらないから突っ込んでしまうと。   ちなみに,これは残り3日間は,8時間,どの条件もたっぷり寝てもらったのですけれども,3日間たってもやはり我々の頭というのは,一旦こういう睡眠不足の蓄積がなされてしまうと回復されないということが示されています。   次に,睡眠の病気ですけれども,睡眠の病気は,今,国際的に80種類ぐらいあると言われています。主要なものは,不眠症ですけれども,この睡眠時無呼吸症候群というのが非常にポピュラーになってきておりまして,こちらの左の絵にありますように,我々は寝ているときには,普通であれば空気の通り道から非常に空気がスムースに通っていて,呼吸が問題なく進むわけです。ところが,右側のところになりますと,この喉の奥の辺りが空気の通り道まで下がり込んでしまって,ここで窒息を起こしてしまいます。もちろん,窒息を起こしていたら,そのままでは死んでしまうので,窒息しているということを脳が検知しまして,目覚めなさいというメッセージが出ます。そうなると,ここで目覚めるとここの気道が開きまして,呼吸することができるようになります。ただし,それを重症の患者さんですと,1時間に30回とか50回とか,非常に多くの覚醒をすることになります。それによって,寝ているときに幾度も幾度も短い覚醒が起こるために,睡眠がいわゆる壊れてしまいます。深い睡眠は取れませんし,ぐっすり眠ることもできません。結果として,昼間のいろいろな機能が低下しまして,事故に関して言えば,1.2倍から4.9倍ほど事故の危険性が高まるということが報告されています。睡眠時無呼吸症候群の専門の先生の言葉を借りると,これは寝床で素潜りをしているようなものだということです。   次に,生体リズムの乱れですけれども,24時間社会を反映して夜に働かなければいけない人ですとか,あるいは交代勤で働かなければいけない人が増えているわけですが,御承知のように,これは非常に厳しい勤務でして,なかなかこれに慣れる,適応するのは難しいことになります。   これは,国土交通省のデータです。横軸が時刻で,縦軸が各時刻に起きた自動車事故のうち,死亡事故というより重篤な事故を占める割合です。御覧のように,午前中から午後にかけてはほとんど問題ありませんが,夜になってきて,2時,4時,このぐらいが一番ピークになって,また下がるというふうなパターンを示しています。ゴールデンウイークにちょうど入るときに起きた関越道の事故も4時40分ぐらいでしたので,ちょうどここら辺で起きています。   これは生体リズムとも関わりますけれども,ここら辺の2時から4時というのは,正に頭の中では眠りなさいというメッセージがどんどん出されています。そういった時間帯で運転せざるを得ない,仕事せざるを得ないとすると,こういうような結果の生じる危険性が非常に高まることが分かります。   次に,言わば睡眠の裏返しといいましょうか,長く起きていること,あるいは仕事の内容がきついということです。今回は起きている時間が非常に長いことについて御説明いたします。   これは97年にオーストラリアの先生方が発表されたデータなのですが,30時間ぐらいずっと実験で起こさせます。その間にいろいろなコンピューターで検査をやっていただきます。縦軸には作業能力と書いてありますが,上に行けば行くほど成績がよいということで,しばらくはずっといい状態でいきますが,ある時点を過ぎるとがくっと作業能力が下がってきます。またしばらくすると,ちょっと上がるという波を打ちます。   この実験のミソは,こういう作業能力の低下というのが,お酒を飲んだときと比べて,どのくらいに相当するかという発想の下で,被験者さんにお酒を少しずつ飲ませまして,血中のアルコール濃度を高めていきます。そのときに,同じ検査をさせまして,どのぐらい間違うかを調べたものです。   この縦軸,右の軸と左の軸を掛け合わせるとこうなりまして,実際に我が国の道交法ですと,血中アルコール濃度0.03%,若しくは呼気中ですと0.15ミリグラム/リットル,ここが酒気帯び運転の基準になります。こう見ますと,起きてからしばらくは問題ないのですけれども,この酒気帯び運転のレベルを下がる時間帯が出てきます。これが大体こう下がっていきますと,起きてから16,7時間ですので,朝,7時に起きた方ですと,夜の11時とか12時ぐらい。それまで全然寝ないで,仮に仕事をしていました,運転をしていましたとなると,その方はお酒を飲んでいないのに飲んだかのように頭が悪くなる,非常に反応が鈍くなるということが分かります。   今,アルコールに対しては,交通行政,取締りが非常に厳しくなっています。しかし,このデータから見れば,飲んだら乗るなではなくて,寝ていないなら乗るなとも言えるはずです。これは15年も前に報告された成果ですが,睡眠をきちんととらない問題については,まだ社会的な認識がアルコールに対してよりは非常に低いと思います。   次に,過労によって正常な運転が困難となる過程に移ります。これは非常に難しい状況でして,いろいろ調べたんですけれども,はっきりしたことはなかなか言えないので,先生方の議論で補っていただきたいと思います。このグラフは横軸が運転時間です。縦軸が,言わば意識のレベルと考えてください。意識のレベルにも,非常にはっきりした意識から無意識までありまして,その途中の言わば半意識といっていいでしょうか,あるいは睡眠の世界ですと微小睡眠といいまして,ものの数秒だけちょっと寝てしまう状態ですね。数秒の睡眠ですので,自分で寝たという感覚はありません。   例えば,今問題となっているてんかんによる発作ですと,恐らく,その発作が出るまでは普通に運転もできますし,意識もある。ただし,一部の患者さんでは,何か匂いがするとか,気持ちが悪くなるとか,前兆がある場合もあるようですけれども,いずれにしてもある発作が起きたらずどんと,いきなりもう無意識になってしまって,そのまま事故に至るということがあります。   そうではなくて,いわゆる短時間睡眠,いわゆる寝不足の人たちというのは,恐らくこういう意識と無意識の間を行ったり来たりしながら,いつの間にかやはりこらえられなくなって,無意識になってドンとぶつかってしまうと予想されます。   睡眠の御病気を持たれている方,ただ持たれている方ではなくて,より正確には治療が始まっていない方,あるいは治療はされているのだけれども,難航しているという患者さんは,恐らく同じように意識と無意識の間を行ったり来たりしながら,最終的には事故に至るでしょうけれども,この勾配と言いますか,無意識になるまでのスピードとかその時間が,寝不足の運転手よりも恐らく短いのではないかということが推定されます。睡眠を専門とする医師の意見も伺ってみたのですが,多分,こうであろうというようなことでした。   最後に,正常な運転が困難と自分が認識できるかどうか,非常にこの事故の防止ということは重要になります。それが,自分が本当に眠くて事故を起こしそうだなと思えば,例えば車を止めて休憩所で休むとか,いろいろな事故防止策をとれるわけです。ただし,もしそれがとれない場合は運転が継続されてしまうので,事故の危険性が高くなってしまいます。   これは,同じように30時間ほどずっと起こしていたときのデータですけれども,これも同じ反応速度,ランプがついたらボタンを押すというその早さです。例えば,朝8時ぐらいから行いますと,夜の12時ぐらいまではそれなりのスピードで反応できますが,この時点を過ぎると反応の速度がすごく急激に遅くなってしまう,鈍くなってしまうという,こういう言わば行動上の変化があります。   では,これに対して,御自身では眠さをどのくらい感じているのかというのが下のスライドでして,上に行けば眠いという絵ですけれども,やはりしばらくは,昼間はほとんど問題ありませんが,この零時ぐらいを過ぎたら相当に眠いと感じる。つまり,この人は眠いと感じながら,しかも作業の能力も下がっているということは認識しています。   ただし,健常人であっても,睡眠不足が継続,慢性的に行われているときは,その認識が非常に甘くなるということがあります。例えば,これはある睡眠時間を2週間繰り返すという,厳しい実験なんですが,これが8時間睡眠,この四角が6時間,丸が4時間ですけれども,2週間ずっと過ごしたときに,縦軸は先ほどのようなランプがついてもボタンが押せない,見落としの回数です。こういうふうに蓄積的に上がっていることが分かります。   反応としてはこういう増加が認められます。一方,どのぐらい眠いですかとこの4時間群と6時間群の人に聞いても,御覧のようにほとんど重なります。ということは,自覚的にはこの人たちは,8時間よりも眠いとは感じているにはせよ,4時間と6時間の差を検出はできていないですね。ただし,4時間群なんていうのは,明らかに6時間よりも成績は悪くなっているので,自覚的な評定というのは,ある意味,間違っているということになります。   これは,最後のスライドになりますが,以上,まとめますと,事故との関連が強くなると思われる睡眠の量的,質的な問題,それから深夜,あるいは早朝の運転,それから長く運転し続けることというのは,やはり過労運転に非常につながりやすいと。   一方,事故となる直接の原因は居眠りだとは思うのですけれども,通常であれば運転者が認識できると思います。ところが,いろいろな状態,それが慢性的な睡眠不足であれ,あるいは病気なりのいろいろな状態によっては認識できないこともあると。   となると,どういうふうに社会的には公共の安全運転,道路安全を保つかということになれば,やはりその運転者自身,あるいは関係者,御家族かもしれませんし,場合によっては職場の関係者かもしれませんが,この過労運転がいかに危険であるかということを理解して,事前の対策をとるということが一番の予防策かと思います。 ○西田部会長 高橋委員,どうもありがとうございました。   過労という概念について御説明いただきましたけれども,御質問がございましたらどうぞ。ございませんでしょうか。   では,私から1点だけ,過労という文言は定義できるというか,法律用語として使うという場合に,過労とは何かと言われて,何か定義みたいなことができますでしょうか。 ○高橋委員 道交法には,過労運転という言葉がありますね。 ○西田部会長 66条において,過労運転の禁止というのがございますけれども,しかし,施行令等に定義規定はないんですね。 ○高橋委員 ないですね。多分,それが現実だと思います。 ○西田部会長 この点,井上幹事あたりから,罰則もこれは付いているわけなので,適用例があるか,それとも結局は居眠りとか前方不注視の方に持っていくのか。 ○井上幹事 正に部会長御指摘のとおり,道路交通法66条では,何人も過労により正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならないと定めてございまして,これについては,3年以下の懲役又は50万円以下の罰金という罰則が付されてございます。この過労についての定義というのは,下位法令,政令なり内閣府令で定義されていることはございませんで,では,実務でどうしておるかということでございますけれども,正常な運転ができない程度に精神,身体が疲労していることをいうと,私どもとしては解釈をしてございまして,そのような状態であることを客観的に立証するということが必要になってくると理解しておりまして,車両の運行記録,タコグラフとか,そういったものによる運行記録や,その運転者の被疑者の勤務記録などの物的な証拠,例えば1か月若しくはそれ以上の長期間にわたって収集をしまして,そのような勤務の実態からして,正に正常な運転ができない程度に疲労しているということを立証を行うというのが通例となってございます。   過労運転による取締りの件数でございますが,平成23年で過労運転による取締りは35件実施をしてございます。年によって若干上下いたしますけれども,おおむね30件から50件程度の取締りを行っておると。今,申し上げましたように,かなり膨大な物証を収集するということが必要になってまいりますので,現実的な立証,証拠の収集上の問題からも申し上げますと,職業運転手のような場合以外は,正にマイカーを運転されているような方,自動車にタコグラフがあるわけでもございませんし,勤務日誌,何時から何時まで運転したということもそもそも証拠化されておりませんので,ほぼ立証はできていない場合が多いというようなことではないかと考えてございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   もう1点だけ重ねてお伺いいたしますが,今,御報告がありました過労運転による取締り,平均年30件から50件ということですが,これは道交法違反としての取締りということでしょうか。それとも,自動車運転過失致死傷までいって,それとの併合罪関係で,警察での処理件数とお伺いしてよろしいんでしょうか。 ○井上幹事 道路交通法違反として立件した件数でございますが,業過を,自動車運転過失致死傷を立件するときに,これについても併せて送致したものがどの程度含まれているかということは,申し訳ございませんが,ちょっと手元の資料では判然といたしません。 ○西田部会長 分かりました。どうもありがとうございました。   ほかにございますでしょうか。ありがとうございました。   それでは,ちょうど区切りがよろしゅうございますので,ここでしばらく休憩を取りまして,7分ほどでございますけれども,3時25分に再開させていただきます。              (休     憩)    ○西田部会長 皆様,おそろいのようですので,議事を再開したいと思います。   10月25,26日の2日間に分けまして,被害者団体からのヒアリングを実施したところでございます。お手元に配布資料12,配布資料13というのがあるかと存じますけれども,これを基にして,当日,25,26の両日におきますヒアリングの結果について,事務当局から,まず御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 それでは御説明いたします。資料の12と13を御覧いただければと思います。   資料の12の方は,団体別となっております。資料13の方は内容別となっております。いずれも事務当局の方でまとめさせていただいたものでございます。   資料12の団体別の方は,ヒアリングさせていただいた団体の順番に従って記載したものでございます。   資料13の内容別の方でございますが,被害者団体の方からお伺いをした御意見,御要望を内容別に整理したものでございまして,その御意見,御要望のうち刑事実体法による罰則整備に関するものが1枚目に記載し,それ以外のものを2枚目に記載してございます。   資料13の1枚目の刑事実体法に罰則整備に関する御意見,御要望につきましては,その内容としましては,危険運転致死傷罪の適用範囲の拡大というものと,危険運転致死傷罪の構成要件の明確化というものと,ひき逃げをした場合の厳罰化というものと,自動車運転過失致死傷罪の法定刑の見直しというものと,その他のものという分類が可能だと思われますので,そのように記載をしてございます。   そして,2枚目の方でございますが,刑事実体法による罰則整備に関するもの以外の御意見,御要望につきましては,その内容から,捜査,公訴提起に関するもの,公判に関するもの,道路交通法に関するもの,その他の法律に関するもの,被害者支援に関するもの,更にその他と分類されると思われましたので,それに従って記載をしてございます。 ○西田部会長 内容的なことにつきましては,もうお目通しいただいていると存じますが,特に資料13の方にまとめられております御意見,御要望の概要と,内容別,まず危険運転致死傷罪の適用範囲の拡大,それから構成要件の明確化,ひき逃げの厳罰化,逃げ得を許さないでほしいという御希望ですね。それから,自動車運転過失致死傷罪の法定刑の見直し。特に罰金刑,致死の場合の罰金刑の廃止。それから,裁量的免除規定の廃止の要望などもございました。5として,その他というのがございます。   次の2ページの方で,刑事実体法による罰則の整備に関する以外のもので,これもいろいろございました。捜査や公訴提起に関するもの,公判の運用に関するもの,道交法に関するもの,それからその他,ドライブレコーダー,アルコールインターロック,そういう物理的,機械的な手段を義務付けるべきであるというような御意見,様々なものがございますが,大きく分けますと刑事実体法に関する罰則整備に関するものと,それ以外,訴訟法,あるいはその他の行政取締法に関するもの,それから技術的,機械的なものに分けられるかと存じます。   したがいまして,この部会の性質上は,第1ページ目にあります刑事実体法による罰則整備に関するものということを,今後の議論の対象としていきたいと存じますが,ここの1ページ目に挙がっております論点以外,ヒアリングにおいて,こういう意見もあったと。あるいは御自身,こういう部分も議論すべきであるという御意見がございましたら,この機会にお伺いしたいと存じますが,ございませんですか。 ○山下委員 私もヒアリングを2日聞いたんですが,その聞いた上での感想的な意見を簡単に述べたいと思います。確かに今回,被害者遺族の,又は被害者団体のそれぞれの話は,極めて重い内容でありまして,内容によっては,本当に涙なしでは聞けないという内容もあったわけです。もちろん,それは被害者,遺族であれば,そのように考えるのは当然だと思うんですが,そして,今回のこの部会といいますか,法制審議会は,その被害者遺族等のそういう要望を契機として行われていることは確かなんですが,ただ,資料の13の2枚目にもありますように,今回聞いていると,特にはもちろん罰則の整備というか,厳罰化を求める声が多かったんですけれども,それ以外にも,遺族の願いというのは,交通事故,悲惨な事故をとにかくなくして,もうこういう被害者を出さないでほしいという,そういう希望が根底にあったと思います。   そして,それは罰則の整備だけではなくて,この交通政策ですね。それから先ほど言われた技術的なドライブレコーダーとか,いろいろな技術的な問題,そして最近報道でもありましたが,大型バスに自動ブレーキ装置を整備させるという義務付けをするとか,これは当然,普通の自動車もそうですが,そういうような技術的な問題とか,いろいろな問題と組み合わせて総合的にやらないといけない問題で,この刑罰の厳罰化だけでは解決できないことは明らかでありまして,そういうことも踏まえて,被害者の遺族の要望はよく分かるんですけども,従来の刑法理論とか,そういうものを弛緩させることがないように慎重な議論をしていく必要があるのではないかということを,改めて思いましたので,一言感想を述べさせていただきます。 ○西田部会長 ありがとうございました。おっしゃるとおりで,まずこれはヒアリングの結果,被害者団体の御要望をまとめたということでありまして,これが全部実現できるというようなことは決して意味しておりませんので,今後,このうちどういうものをくみ上げることができるか,それは慎重に検討していきたいと存じます。   ちなみに,この刑事実体法による罰則整備以外の部分について,事務局としてどう対応されるかについて,御予定があればお聞かせください。 ○稲田委員 その点につきましては,私の方から申し上げさせていただきます。   今までもお話にございましたように,ヒアリングで頂いた御意見のうち,今部会のテーマであります自動車運転による死傷事犯の罰則整備に関するもの以外のものにつきましては,ここに法務省,あるいは検察,更に警察からも委員,幹事の方においでいただいておりますところから,これらの方々から,その御意見,御要望につきましては,しかるべき部署にお伝えいただきたいと思っております。ただ,そのほかの省庁に関係する部分の御意見,御要望につきましては,私ども事務局から何らかの形で関係する省庁に提供させていただきたいと考えているところでございます。 ○西田部会長 どうもありがとうございました。では,しかるべき各部局を代表なさっておられる委員,幹事の皆様,関係の機関に,それ以外の部分につきましては,法務省刑事局からしかるべく処理をしていただきたいと存じます。   以下では,刑事実体法による罰則整備に関するものにつきまして議論を進めてまいりたいと思いますが,今後の議論の進め方について,事務局に何かお考えがあればお述べください。 ○岩尾委員 審議の進め方につきまして,事務当局といたしまして,今考えているところを述べさせていただければと思います。   まず,本日第1巡目の御議論ということでございますので,被害者団体から出されました御意見,御要望に対して,どのような対応・方策があり得るのかということを一通り御議論いただきまして,その上で次回以降の会議において,二巡目の御議論として,本日の議論を踏まえた上で,より具体的に対応方策について御検討していただいてはいかがでしょうかと考えているところでございます。   資料13の1枚目に記載しております,先ほども事務当局の幹事から御説明したとおりでございますが,この被害者団体からの御意見,御要望を整理しますと,危険運転致死傷罪の適用範囲の拡大を求めるものと,危険運転致死傷罪の構成要件の明確化を求めるもの,ひき逃げをした場合の厳罰化を求めるもの,更には自動車運転過失致死傷罪の法定刑の見直しを求めるもの,その他とおおむね分類することができると考えられますので,この分類に沿って御審議いただけますと,審議がより充実したものになるのではないかと思います。   なお,事務当局といたしまして,検討のたたき台として,今お話ししたような分類に沿って,それぞれ考え得る対応・方策を,配布資料14の考え得る対応・方策案としてまとめております。適宜,御議論の御参考にしていただければと思います。なお,御要望がございましたら,改めてこの考え方を御説明させていただきたいと思っております。 ○西田部会長 ただいまの事務当局から配布資料14についてということですが,それ以前になお審議の進め方につきまして,御意見,御要望がありましたらどうぞ。 ○清野委員 私,10月25,26の両日行われました被害者団体からのヒアリング,2日間参加させていただきました。被害者支援に関わっている者として,改めて,被害者あるいは御遺族の切実な思いを感じ取ったところであります。   今回の法制審議会は,被害者団体からの要望が一つの契機となって開催されておるわけでありますので,審議を進めるに当たりましては,ただいま御説明がありました,提案がありましたように,被害者団体からの御意見,御要望,これを踏まえまして,どのような対応・方策があり得るのか,そういう観点で是非御審議いただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○西田部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見ございますでしょうか。   ございませんようですので,先ほど事務局から御説明のありました配布資料14,考え得る対応・方策案というものについて,まず事務局の御説明を伺いたいと存じます。 ○保坂幹事 それでは,御説明いたします。   配布資料14とともに,席上に,先ほど御説明した被害者団体からの御意見,御要望と,これから御説明いたします考え得る対応・方策案と左右対称に並べた資料が席上に配布されているかと思いますので,そちらも併せて御参照いただければと思います。   まず,考え得る対応・方策案の1の危険運転致死傷罪の適用範囲の拡大という御意見,御要望につきまして,そこで挙げられている運転行為は,大別いたしますと,アルコール等を摂取した運転ですとか速度超過での運転など,内容や程度によりましては,既に危険運転致死傷罪の対象とされているものと,一方通行の逆走運転など,現時点では危険運転致死傷罪の対象とされていないものとの二つに分けられると考えられます。そのうち,後者,つまり現時点では危険運転致死傷罪の対象とされていないものの中には,無免許運転など,死傷の原因とはならない運転行為ですとか,前方不注視や脇見での運転などの,それ以外の運転行為もございます。   御要望の趣旨は,飲酒運転や速度超過の運転など,内容や程度によって危険運転致死傷罪の対象となり得るようなものにつきましては,その危険運転致死傷罪の要件を緩和するなどして重い法定刑とすべきではないかというものと考えられます。他方,一方通行の逆走運転など,現地点では危険運転致死傷罪の対象とされていないものにつきましては,危険運転行為の類型に追加すべきであると,こういう御趣旨ではないかと考えられるところでございます。   これらの運転行為につきまして,危険運転行為と同等の危険性,悪質性を有するものにつきましては,資料に対応・方策1と書いてございますように,新たに危険運転行為として追加するという方法が考えられますし,危険運転行為と同等とまでは言えないけれども,危険性,悪質性の高いものにつきましては,対応・方策2のように,自動車運転過失致死傷罪よりも重い法定刑とする罰則規定を設けるという方法が考えられるところでございます。   次に無免許運転,無保険,無車検運転やひき逃げというものにつきましてですが,これは人の死傷の直接の原因となるものではないことから,対応・方策1や,あるいは対応・方策2ではなくて,検討課題として記載しておりますように,従来よりも重い処罰が可能となるような規定を設けることができるかどうか,別途検討する必要があろうかと思われます。それ以外の運転行為につきまして,自動車運転上の過失ではありますものの,危険運転行為と同等の悪質性,危険性を有するとか,あるいは同等とは言えないまでも,危険性,悪質性を有するという類型というのは,なかなか考え難いのではないかと思われるところでございます。   次に,2の危険運転致死傷罪の構成要件の明確化に関する御意見に対する対応・方策について御説明いたしますと,被害者団体の方からは「殊更に」ですとか,「進行を制御することが困難な高速度」などの評価的な構成要件が分かりにくく,これを明確にするべきというような御意見,御要望,あるいはアルコールや,高速度に関する適用基準を明確に数値化すべきという御意見,御要望を頂いておるところでございます。   こうした御意見,御要望に対しましては,対応・方策1のように,評価的な規定をより明確なものに改めるという方法と,対応・方策2のように,現行の規定を改めずに,その意義,解釈は裁判例の蓄積に委ねるという方法が考えられるところでございます。   次に3のひき逃げをした場合の厳罰化を求める御意見,御要望に対する対応・方策でございますが,ひき逃げは事後の行為でございまして,人の死傷の直接の原因となるものではないものでございますので,検討課題として記載しておりますように,従来よりも重い処罰が可能となるような規定を設けることができるか,別途検討する必要があると考えられるところでございます。   続きまして,4の自動車運転過失致死傷罪の法定刑の見直しの御意見,御要望につきましては,対応・方策1から3までとして記載しておりますけれども,自動車運転過失致死傷罪の法定刑の引上げ,あるいは自動車運転過失致死罪の方の罰金刑の廃止,自動車運転過失傷害罪の刑の裁量的免除規定の廃止という方法を挙げてございます。   事務当局といたしましては,平成13年,あるいは平成19年の刑法改正の立法経緯ですとか,その際の議論を踏まえて,このような方法での法定刑の見直しの当否につきまして,委員,幹事の皆様の御意見を伺いたいと考えているところでございます。   最後に,5のその他に分類されているものでございますが,これについては,対応方策案はお示しをさせていただいておりません。その理由も含めて御説明いたしますと,まず,悪質,危険な運転行為自体を危険運転致死傷罪の予備行為として処罰すべきという御要望でございますが,悪質で危険な運転行為であったとしても,死傷の結果が発生していない段階での運転行為を予備罪として処罰の対象とすることには,相当慎重な検討が必要であろうかと思われます。道路交通法におきましては,酒気帯び運転,酒酔い運転,速度超過での運転などが既に処罰対象とされておりまして,それら以外に死傷が発生していない段階で処罰の対象とすべき運転行為というのは考え難いのではないかなと思われるところでございます。   次に,同乗者等の加功行為やあおり,唆しなどについて共謀共同正犯とすべきとの御要望につきましては,加功,あおり,唆しについては,その内容や程度によりけりでございまして,共犯としての責任を問うこと自体が困難なものから,教唆,幇助,共謀共同正犯で処罰され得るものまで様々ございます。そのため,それらのものを一律に共謀共同正犯として処罰するというような法整備は困難ではないかと思われるところでございます。   次に,自動車運転過失致死傷罪と危険運転致死傷罪の罰則関係を一本化すべきという御意見についてございますが,これが仮に,言わば故意犯と過失犯の区別をなくしてしまうという意味で,過失犯の自動車運転過失致死傷罪と故意犯の危険運転致死傷罪の罰則規定を一本化するという御提案だとしますと,そのような法整備というのは,故意と過失を区別する基本的な法体系からして困難ではないかと思われるところでございます。   次に,自転車の運転につきましては,法制審議会に対する諮問が自動車運転による死傷事犯に対する罰則整備というものでございましたし,現在伺っているところでは,警察庁におきまして,自転車の交通ルールの徹底方策に関する懇談会というものを開催されるなどの取組みを行っておられるということでもございまして,当部会の検討課題とは別のものにはなるのではないかと考えられるところでございます。   それ以外の項目につきましては,罰則整備の具体的な内容を伴うものではございませんでした。したがって,5のその他につきましては,特段の対応の方策等は示してはおらないということでございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   まず,左右対称になっております表の2枚目の5のその他につきまして,本部会での議論の対象とはしないということについて,事務局から御説明がございました。   今の点につきまして,御異論,あるいは御質問がございましたら。   部会長としても事務局の御説明はしかるべきものかと存じますので,今後の議論におきまして,5のその他については,これを議論の対象とはしないということで進めてまいりたいと存じます。   次に,4の自動車運転過失致死傷罪の法定刑の見直しと。これについても被害者団体からの御要望がありました。これに対する対応として,この右側に,まず同罪の法定刑の引上げ,それから同罪の場合の,特に過失致死罪の場合の罰金刑の廃止。それから過失致死傷罪の場合の裁量的免除規定の廃止と,この三つが対応・方策として示されているわけですが,この4の対応・方策1,2,3について,委員,幹事の御意見があれば伺いたいと存じます。 ○井田委員 前回も少し申し上げたところですので,簡単に私の考えを申し述べたいと思います。   まず対応・方策1とあります自動車運転過失致死傷罪の法定刑を引き上げるということにつきましては,私の知る限り,国際的に見ても過失致死傷に対する7年までの懲役というのは,希有なぐらい重い法定刑だと思います。また,前回御指摘させていただいたところではありますけれども,立法事実としても,今,量刑の水準を見たとき,決して法定刑の上限近くのところに刑が集中しているということもない,いわゆる突っつき現象も生じていない。ましてや張り付き現象は生じていないようであります。   そうであるとすると,ここでこの自動車運転過失致死傷罪の刑の上限を一律に引き上げる,それによって業務上過失致死傷罪との間の刑の差を,今は7年と5年でありますが,これを例えば10年と5年というような形で広げるということが,果たして理由付け可能なことなのかどうか。私はそれはかなり困難なのではないかと考えております。   また,対応・方策2と3にありますところ,つまり致死罪の罰金刑を廃止するという部分と,それから傷害罪の裁量的免除規定の廃止するという部分につきましても,この種の事例の中には,やはり軽い対応を妥当とするような軽微な事例もあるのではないか。また,この種の犯罪類型というのは,普通の市民でも行為者になり得る,そういう犯罪類型であって,被害者の側にもかなり落ち度があるというケースもあり,場合によっては,どちらが加害者や被害者であるのか,なかなか判別が難しいというケースもあるということもお聞きしています。重いものには重く,軽いものには軽くするという基本方針からしますと,対応・方策2と3にあるような御提言,必ずしも直ちに採用するというわけにはいかないのではないかと感じております。   ただ,過失致死罪に対する罰金刑とか,裁量的免除規定とかについては実務上,それがどういう機能を果たしているかについて,私には,よく分かりませんので,できれば実務に詳しい方に御発言いただくのがよろしいかと思っております。 ○西田部会長 ありがとうございました。   消極という観点からの御意見でしたが,実務的な観点からどなたか。 ○赤根委員 最高検の赤根でございます。   まず,対応策の2の方の自動車運転過失致死罪についてですけれども,実際の交通死亡事犯の中には,例えば酒に酔って道路に寝込んでしまわれた方を自動車でひいてしまうといった,被害者側の事情を考慮する必要があるという事案がないわけではございません。第1回の当部会の配布資料の4の第4表だったと思いますけれども,交通事件の検察庁終局処理人員の処理区分別構成比というのを見ていただきますと,平成23年には自動車運転過失致死等,そこには自動車による業務上過失致死,重過失致死も含まれますけれども,で処理した4,800件余りのうちの27.9%について,略式命令請求がなされております。かなり多くの事案について罰金刑に処せられているということであります。   仮に自動車運転過失致死罪について罰金刑を廃止してしまいますと,これまで罰金刑に処せられていた事案について,起訴猶予として不起訴処分とせざるを得ない事案も相当数出てくると思われます。かえって御遺族にとって納得し難い結果にならないかということが懸念されるところであります。   それから,対応策3の関係でありますが,自動車運転過失傷害罪の刑の裁量的免除規定につきましては,適用事例をほとんど承知しておりません。したがって,この規定があることによって刑が不当に免除されているというような実情にはないと思われます。捜査の結果,刑の免除が相当であると認められるような事案につきましては,通常,起訴猶予の処分がされているのではないかと考えております。 ○西田部会長 ありがとうございました。実務的な観点からの御意見で,趣旨としては,井田委員と同じく,この方策を採ることには消極という御意見でございましたが,ほかに御意見ございますでしょうか。 ○今井委員 今,両委員の御発言と重なる点がございますが,一言申し述べたいと思います。特にこの対応・方策3の点でございますが,私もこの廃止するという方向については,慎重な検討が必要ではないかと思っております。   この自動車運転過失傷害罪の刑の裁量的免除規定というものは,御案内のように平成13年に危険運転致死傷罪が創設された際の刑法改正で新設されたものであります。その際には,いろいろなことが考慮されたわけですけれども,自動車運転による過失傷害事犯の中には,軽傷で情状もさほど悪くないものがたくさんあると。そして,明らかに刑の言い渡しを要しない軽微事犯も含まれているということが認識されまして,そのような軽微事犯については法律上刑の言い渡しをしないということを明らかにすることが適当だと考えられたところです。そういった方針を,事例処理の方針を法文上明らかにすることが必要ではないかということも考えられまして,刑の裁量的免除規定が創設されたところです。   その後,平成19年に自動車運転過失致死傷罪が創設されました。その際の刑法改正におきましても,この刑の裁量的免除規定については改めて議論がなされましたけれども,当時におきましても,なお維持すべきであるという見解であったと思われます。   私は,このような平成13年,19年において,法改正に際して議論され,共有された認識は,今,お二人の御意見も踏まえても,なお今日でも妥当するものと思われますので,対応・方策3については,慎重に対処すべきであろうと思います。 ○西田部会長 ありがとうございました。   今,3人の委員の方から,いずれも消極の方向での御意見がございましたけれども。 ○山下委員 私ども,基本的にはいずれもする必要はないと考えておるんですが,ただ,前回ヒアリングで遺族の方々が言っている趣旨というか,特に引上げの趣旨は,要するに危険運転致死傷罪が非常に厳格な要件で定められているために,ぎりぎりのところでそれに当たらないとされて,自動車運転過失致死傷罪に落ちたときに,刑の落差というか,非常に軽く処罰されてしまうということの不満。要するに,先ほど一本化という議論もあったんですけれども,要するに危険運転致死傷罪と自動車運転過失致死傷罪が2つあって,危険運転致死傷罪は非常に厳格な要件の下にあるために,しかも運用上も捜査が十分にされていないために,危険運転致死傷罪が適用されなくて,自動車運転過失致死傷が適用されてしまうと,7年以下と非常に刑が軽くなってしまうということに対する御不満だったと思うんですね   したがって,今後,やはりこの危険運転致死傷罪はどういうふうにするか,今回のこの議論の中では,先ほどあったように広げるとか,中間的なものを作るとか,そういうものとの関係で,やはり自動車運転過失致死傷罪についても議論しなければならないのかなという気はしますので,順番としては,これは最後にというか,先に危険運転致死傷罪の方をどうするかという議論をした上で,もう1回議論した方がよろしいのではないかという気がいたします。 ○西田部会長 御意見はよく分かりますが,一応ここでは自動車運転過失致死傷罪の法定刑の引上げは留保ということで,罰金刑の廃止や裁量的免除規定についてまで留保という御意見ではないですね。 ○山下委員 そうではないです。 ○西田部会長 ですから,この対応・方策の1につきましては留保して,これは確かに問題1の適用範囲の拡大の対応・方策の2の,危険運転行為とまでは言えないが,悪質,危険性の高い運転行為によって人を死なせた場合に,自動車運転過失致死傷罪よりも重い法定刑とする罰則規定を設けるかどうかということとの関連で,こっちの構成要件がなかなかクリアカットできないような場合に,それに準じた方策として自動車運転過失致死傷罪の法定刑の引上げということもあり得るということで,ここは留保しますが,一応単独で自動車運転過失致死傷罪の法定刑を一律引上げという御意見ではないということでよろしいですね。 ○山下委員 そういう趣旨です。 ○西田部会長 では,そういう趣旨に対しまして,この点は一応議論の対象とはいたしませんけれども,御要望の第一に対する対応策2を議論しますときに,再度この点も考慮に入れるという留保を付けまして,今後の議論においては,一応4の自動車運転過失致死傷罪の法定刑の見直しは議論の対象とはしないということで御了解を頂きたいと存じます。   次に,多少順番が異なりますけれども,本来ですと5,4と来まして3なのですが,3については別途議論が可能ですので,まず,比較的に対応の明確な2の構成要件,危険運転致死傷罪の構成要件の明確化,これに対して,対応・方策として評価的な規定をより明確なものに改める。他方,現行規定は改めずに,その意義解釈を裁判例に委ねるという,極めて対照的な二つの対応・方策が示されているわけですが,この点について委員,幹事の御意見はいかがでしょうか。 ○山下委員 当然,これは以前の法制審議会で議論した上で立法されたわけで,その際に,特に「殊更に」という言葉が非常に遺族の方々から非常に評判が悪かったと思うんですが,又は,「進行を制御することは困難な高速度」,こういう用語について,これを使うことについて,どういう議論があって,その結論としてこういう用語が入ったわけなので,その議論を御紹介いただいた方がよろしいのではないかと思うんですが。 ○西田部会長 これは1回目のときに既に事務局から御説明があったと存じますけれども,なお私自身,この部会に入っておりましたので,「殊更に」ということの意義につきましては,単純に赤信号という認識ではなく,赤信号であろうとなかろうと,もうそういうことを意に介することなくやるというような,そういう意味であるというのが「殊更に」という文言を,原案になかった文言を付加した理由であったと思います。   それから,進行を制御の方ですか。これはもう読んで字のごとくで,要するに,道路の形状,あるいは天候,気温,その他周囲の状況に応じて当該スピードのまま進行した場合に,制御することが困難なような運転行為という,そういう趣旨であるという理解だったと思いますが。   なお,事務局から補充していただければと。 ○上冨幹事 若干補足させていただきます。   まず,「殊更に無視」の関係でございますが,今部会長の方から御説明がありましたが,当初の諮問の要綱骨子案では,赤信号に従わずという文言で諮問がなされておりました。ただ,実際にその後の部会における議論におきまして,例えば故意に赤信号に従わないという行為の中でも,例えば黄色から赤への変わり際に行うといったもののように,その悪質性,危険性という点で,必ずしも極めて高いとまでは言えないものが含まれてしまうのではないかという御指摘がありまして,議論の結果,「赤信号を殊更に無視」という表現にするということとされたと承知しております。   それから,「進行を制御することが困難な高速度」という点につきましては,その意義は,先ほど部会長からも御説明あったとおりですが,例えば,現在公刊されております文献などでは,この意義については,速度が速すぎるために道路状況に応じて進行することが困難な状態で自車を進行させること,例えば,カーブを曲がり切れないような高速度での走行など,道路の形状や路面の状況といった道路状況,車両の構造,性能,積載状況等の具体的な客観的事実に照らし,当然に,あるいはハンドル,ブレーキの操作の僅かなミスによって,自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになると認められるような速度での走行がこれに当たるというような解説がされているようでございます。 ○西田部会長 どうもありがとうございました。   山下委員,今のようなことでよろしゅうございましょうか。   その上で,構成要件の明確化,端的に言えば評価的な要素を削除する,「殊更に」というような文言の削除ということになろうかと思いますが,そういう方向で議論するか,それとも対応・方策の2,現行規定は改めず,その意義は従来と同じく裁判例の蓄積に委ねると。 ○井田委員 今,それらの規定上の文言のもつ基本的意味につきましては御説明いただきました。果たしてそれらが法律上の概念として明確性を欠いているということまで言えるかどうかですが,私は,明確でないと断定してしまうことはできないという意見です。したがって,対応・方策の2の方ががよろしいのではないかと思っております。   簡単な理由を申し上げたいと思うんですけれども,今日お配りいただいた事例集をざっと見せていただいても,先ほど御説明があったような基本的な理解に基づいて,判例も裁判例も次第に蓄積されてきているようでありますし,また今後も,こういう形で更に具体化・精密化していくことが期待されると考えられます。構成要件を明確化せよという御意見が出てくる背景にありますのは,むしろ現行の危険運転致死傷罪の規定に一見当たりそうに見えて,実は適用が難しいというケースがかなり多く,そのことが悪質な事案の適正な処罰に至っていないという自体なのではないかと想像されます。明確化すべきだとする御主張も,そのような趣旨のものとして理解するべきではないかと考えるのですが,そのことはひとまずおくとしまして,法律上の概念として見たときに,それらの文言は必ずしも明確性を欠いているとまでは言えないと考えております。   法律上の概念は,無理に明確化させようとしますと,具体的に妥当な結論を導けないというおそれも出てきます。アルコールとか速度に関して,もう少し明確に数値でもって基準を設定すべきではないかという御意見がありますけれども,例えば呼気とか,あるいは血液中のアルコール濃度につきましても,必ずしもその濃度の数値的な分量と運転行為の危険性が正比例の関係に立つのではない。数値が高ければそのまま危険性も高くなっていくかというと,必ずしもそうではなくて,体調その他いろいろな要因によって左右される。したがって,むしろいろいろな当該事例の個別的な諸事情を考えた上で総合的な判断をするのがよい。判例実務もそういう立場に立っているわけです。   速度についても同じことが言えます。運転の危険性との関係は必ずしも直線的ではなくて,道路の状況とか,あるいは天候のいかんにより随分影響される面がある。そういう意味で,数値基準で機械的にやっていくと,必ずしも妥当な結論が導けない,そういうケースが多く出てくることが予想されるわけです。   そもそも法律上の評価的概念は,法適用の公平さとか,あるいは安定性とか,あるいは具体的な結論の確保といった重要な機能を持っており,それを一律に機械的なものに,記述的なものに置き換えればそれで済むということではないように思われます。また,先ほどの御説明にもありましたように,そして,事例集にある裁判例を見ましても,判断の蓄積によって,具体化・明確化というのはそれなりに実現されているという感じがいたします。そのような現状があるのに,それをここで御破算にするというのは,少なくとも,まだ時期尚早ではないかと考えております。   ただ,先ほど申し上げたように,御意見の根底には,一見当たりそうで,でも当たらないという事例が随分多いので,それが不当だという感覚があるのではないかと思いますが,また別途それには対応する必要があるのではないかと思っております。ここでは,対応・方策の2の方に賛成する次第です。 ○西田部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見ございますでしょうか。 ○武内委員 危険運転致死傷罪の構成要件の明確化に関して,過去の附帯決議等を踏まえると,やはり私としても,現時点で即,機械的な数値的なものへの明確化をこの部会で議論するというのは,まだそれだけの立法事実が積み重なっていないのかなという考えではあります。しかし,逆において,被害者の方々と弁護士として接している実情の中で,実務の運用感覚としては,やはりこの規定は必ずしも明確に判断できるものではないと言わざるを得ない。例えば,警察では危険運転致死傷として立件を目指して送致をするけれども,検察庁では同罪での起訴を見送る。あるいは,検察庁は危険運転致死傷罪での判決を求めるけれども,裁判所では縮小認定をされる,という事例は,残念ですが,現状,必ずしも少なくないと考えます。   捜査機関相互で,あるいは捜査機関と裁判所で,その構成要件に関する判断が異なるというのは,これはやはり重い処罰を希望していた被害者ないし遺族にとっては,非常に失望,落胆を導くということも否定できません。   ですので,今次の部会での客観的な明確化,これはまだ早いかなと私も考えますが,しかし,今後も継続的に判例の蓄積等を踏まえながら検討を重ねていかなければいけない課題ではないかと,そのように考えております。 ○西田部会長 ありがとうございました。   具体的な御提案としては,2については,今回は時期尚早ということで見送るということでよろしゅうございますね。   では,御異論ないようでございますので,2の構成要件の明確化,あるいは簡略化と明確化,この二つについては,今後の部会においては議論の対象とはしないということにしたいと存じます。   そこで,被害者団体からの御要望に沿う形で,1の危険運転致死傷罪の適用範囲の拡大,これに対する対応としては,現行の危険運転致死傷罪そのものを拡大するという方向と,それから,それと同等とまでは言えないけれども,これに準ずるようなものを自動車運転過失致死傷罪よりも重い刑,法定刑とする罰則を設ける。二つがあるわけですが,この左側の欄に列挙されました幾つもの危険な運転行為の中で,現行法の危険運転致死傷罪に匹敵するような,すなわち,それ自体が暴行に準ずるようなものであり,その結果の致死傷が傷害や傷害致死罪に匹敵すると見られるような,そういう方向で現在の危険運転致死傷の中に拾い込むべきものがあるかどうか。まず,この点について御議論を頂ければと思いますが,御意見ございますでしょうか。 ○橋爪幹事 今の対応・方策1につきまして,意見を申し上げたいと存じます。   今回のヒアリングにおける御意見の中にもございましたが,一方通行の逆走運転を危険運転行為として追加することがあり得るかと存じます。すなわち,一方通行を故意に逆走し,しかも重大な危険が生ずるような速度,態様で走行する運転行為,これは生命・身体に対して極めて危険性が高い行為と言えますし,また,このような運転行為を故意に遂行することを考えますと,主観的にも十分な悪質性があると思いますので,こういった選択肢は考え得るかと思います。 ○西田部会長 ありがとうございました。   今,橋爪幹事からは,左の欄の最初の括弧の次ですね。次の括弧の第1の一方通行の逆走運転,これは危険運転致死傷に加えていいのではないかという御意見がございましたが,ほかにいかがですか。 ○島田幹事 先ほどの橋爪幹事の御指摘に,私も賛成であります。その上で,少々追加と申しますか,補足させていただきたいのですが,その一方通行の逆走というのが,なぜ特に危険かと申しますと,恐らくほかの交通関与者がそんな方向から走ってこない,あるいはそんなところに車がいないはずだと信頼して,それ故に,そういう対応が十分にできないからではないでしょうか。そのように考えますと,歩行者天国に進入いたしますとか,それから,先ほど井上幹事の御指摘にありましたが,高速道路の本線の逆走。これは一方通行ではなく,通行区分違反ということですが,その危険性の程度,違法性の程度というのは同等と考えられます。そうなりますと一方通行だけでなくもう少し膨らまして,進入禁止場所への重大な危険を生じさせるような速度での進入などとすることも考えられるかと思われます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   ただいまの御指摘は,歩行者天国のような,まさか車が来ると思っていないような場所,あるいは高速道路のように,当然,方向性が一定しているはずのところを逆走するような場合。この二つを更に加えてはどうかという御意見でした。   ほか,いかがでしょうか。 ○石井委員 ちょっと警察の立場,立証する,捜査する立場から申し上げたいと思います。   最初も,この危険運転致死傷罪の構成要件の明確化につきましては,今,座長の方から客観的な数字はとおっしゃられましたので,それはそうだと思うんですが,立証する立場でございますと,今のもの,評価的な要素というのは,万人を納得させるために非常に厳しいハードルになっています。ですから,ほかの委員から御指摘がございましたように,一般の方から見ると,当たるのではないかというものが当たらないということがままございます。この条文の明確化,少なくとも国民に対する規範として機能するためには,やはり国民が十分理解できるものである必要があると思いますので,数値化はともかくといたしまして,もう少し明確なものにするということは議論があってもいいのではないかと思います。   それから,あと,一方通行の問題でございますけれども,これも故意に一方通行を逆行したということを立証するという観点で申しますと,歩行者天国に突っ込んだ,高速道路へ入ったというのは,それぞれ歩行者が一杯いますし,高速道路は順行する車がたくさんおりますので,立証は多分簡単だと思いますけれども,通常の場合を考えますと,この手のやつは,深夜,細い路地か何かを一方通行の規制を逆行して進むと。そうすると,対向車両等はほとんどございませんので,一方通行であるという認識を取るということが非常に難しくなってきます。現実の立証を考えますと,防犯カメラか何かがないと,そこを一方通行で自分が入ったんだという故意性を立証するというのは,なかなか現場では難しいと思います。   構成要件は,ある程度明確なのかもしれませんが,立証の観点から,どこまでその立証ができるのかというところもこの部会で御議論いただきますと,捜査をする者としては大変有り難いところでございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   石井委員のただいまの御意見,後半の方は,特に一方通行の逆走のような場合の故意性の立証についての問題点の御指摘として承りましたけれども,前半の方は,現行の208条の2の構成要件について,なお検討を要するという御意見でしょうか。何か具体的な御意見はございますでしょうか。 ○石井委員 いや,具体的なところは,今のところにわかにはないんですが,やはり先ほども申し上げましたとおり,国民の方から,なかなかこの条文を示して,被害者の方に御覧いただいても,当たるではないですかというようなところがありまして,現場として大変苦労しているということを申し上げたところでございます。 ○西田部会長 それはよく理解しました。それは,では今後,この危険運転致死傷罪をどこまで拡張できるかという議論と併せて,明確化についてなお検討すべきであるということで,それも念頭に置きながら今後の議論を進めてまいりたいと存じます。それでよろしゅうございましょうか。   ほかに御意見ございますか。 ○今井委員 過労運転等に話題を振ってよろしいでしょうか。 ○西田部会長 どうぞ。 ○今井委員 こちらに考え得る対応・方策案といたしまして,対象運転行為として過労運転,居眠り運転が挙がっております。これについても,可能性としては対応・方策1ないし2が考えられるところですけれども,結論として,私は,これはかなり難しいだろうと思っておりますので,若干意見を申したいと思います。   先ほど高橋委員から,大変分かりやすいプレゼンテーションを頂きまして,私たちも過労運転の機序でありますとか,あるいはその重大性について認識が深まっただろうと思いますけれども,高橋委員は最初に,過労運転という概念について共通の定義はないとおっしゃいました。また,西田部会長から改めて御質問があった際も,過労の定義に関してはそういう状況であり,現行の法令によると,道交法等によっているだけですが,下位法令でも定義がないということでありました。   そうしますと,確かに実態としては過労運転,あるいは過労の最後に位置づけられます居眠り運転というものは,一般的に言うと危険運転になるのでしょうけれども,これを罰則の対象として,1つの法的な概念として盛り込むことはかなり難しいのではないかというのが,総論的な感想です。   仮に過労運転,居眠り運転を引き起こすような過労運転を取り出して,構成要件としてかけたという場合には,そのような過労運転についての故意があって,結果的に人の致死傷という結果が生じた場合に危険運転致死傷罪に盛り込むことになると思われますけれども,では,どの段階で過労運転についての認識があったかと申しますと,先ほど高橋委員からのプレゼンテーションによりますと,例えばパワーポイントの8番ですとか,その前提として4番の図があるかと思いますが,意識あるいは無意識状態が行き来しながら,最終的にストンと意識が落ちるということですので,石井委員の御発言にもあった点と関連いたしますが,どの段階で過労性の認識があったかというのを立証するのは,極めて困難ではないかと思われます。   そういうふうに,そもそも過労運転というものを,危険運転,すなわち暴行に準ずるような運転としてくくり出して把握することが,医学界においても定義自体が困難であるという前提の下で,これを法律用語として取り出してくることの技術的困難さと,仮にそれができたといたしましても,居眠りに直近する過労の点を捉えて,仮に捉えられたとしてですが,その際の認識を立証することの困難性,あるいはそもそもそうした認識が医学的に認められるものなのかということをも踏まえますと,御要望は分かるのですが,対応・方策1ないし2で対応するのは相当困難ではないかと思っております。 ○西田部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見ございますか。 ○清野委員 この御意見,御要望の6点目に関して申し上げたいと思います。   被害者団体からの御意見,御要望の中で,運転中に発作を起こすような病気にかかっていた人,こういう人が自動車を運転して人を死傷させた場合について,危険運転致死傷罪の対象にしてほしいという意見が多かったと記憶しております。栃木県の鹿沼市で起きました事案のように,医師から運転時に発作を起こす可能性が高いなどの理由で自動車の運転を禁止されていたにもかかわらず,あえて自動車を運転し,運転中に発作を起こして人を死傷させた,このような場合。あるいは医師から飲むように指示されていた薬を飲まずに自動車を運転して,発作を起こして事故を起こした。こういったケースについては,処罰の在り方をどうするかについて,考え得る対応・方策1,危険運転致死傷罪への追加,あるいは2の危険運転致死傷罪に準ずる罪にするということについて,是非検討をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。 ○西田部会長 ありがとうございました。 ○山下委員 過労運転について,ちょっと先ほど御意見があったので,私も意見を述べます。   先ほど高橋委員からの御説明がありましたが,過労運転というのは,確かに自分自身が過労であるかどうかということの認識がない場合もあるという御説明がありました。そして,実際,過労運転というのは,実際には自分が普通に走っているときでも,職業としてバスを運転しているとか,トラックを運転しているとか,要するに職業上の中での過労ということが普通であって,それはやはり労働環境の問題であり,その本人だけの問題ではないといいますか,非常に厳しい労働環境の下で働いている中で過労が起こるのであって,本人だけの責任とするのは非常に難しい場合が多いということと,今あったように,そもそも危険運転の認識があるかどうかという意味で,過労運転しているということの認識がどれだけあるのか,ないのか,そしてその立証ができるのかということもありますので,過労運転を危険運転の類型に,又は準ずるものとして取り扱うことは,極めて困難であると思います。   また,居眠り運転については,確かに亀岡の事件は,正に居眠り運転で,しかも一晩中乗り回したという,非常にそこが問題なんでしょうけれども,しかし,これもどの段階で居眠りするのかということは,自分では余り意識がなくて走っているわけだと思いますので,これも危険運転の認識があると構成することは極めて難しいと思いますので,現行の危険運転の中に入れるとか,又は準ずるというのは,困難ではないかと思います。 ○西田部会長 ありがとうございました。   現在までのところ,一方通行の逆走運転,それから一定の病気によって意識を失うような場合については,危険運転致死傷罪に取り込むべきだと。他方,過労運転については,やはりこれは概念の定義等も難しいところから,無理があるのではないかという御意見だったと思いますが,大体,そういうところでよろしゅうございましょうか。 ○山下委員 一方通行の関係でよろしいでしょうか。現行法上の妨害運転致死傷罪の中で,走行中の自動車の直前に進入するというのは例示であると言われていて,様々な割り込みとか,幅寄せとか,あおりとか,対向車線へのはみ出し行為なども含むと言われているんですが,しかし,今の逆走は入らないということでこれは立法されたのかどうか。当時,その立法されたときの問題意識というか,さすがにそこまでは含まないということなのか,それも入るかどうかということが余り議論されないでこういう規定になったのか,その辺はどうなんでしょうか。 ○上冨幹事 一方通行を逆走した場合についても,事案によっては刑法第208条の2,第2項後段の類型に当たり得るという前提で考えられていたものと承知しております。ただ,この類型は,目的が規定されていることとの関係で,相手方が具体的に存在するということが前提で考えられていたものですので,一方通行の逆走の場合においても,単に一方通行のところに進入して,その結果事故が起きたというだけで足りるかというと,必ずしもそうとは言えないということになろうかと思います。今回議論されているものは,恐らく現行の規定よりもっと広がりを持ったものとして検討されるものなのかなと理解しております。 ○山下委員 そうだとすると,先ほど石井委員の話で,深夜に逆走する,余り車が走っていない状況で一方通行を逆走するというケースだとすると,もちろん今の現行法には当たらないわけですが,それで,なぜ危険運転と認識できるのかということですね。逆走しているということは認識していても,危険でないと思って走っている可能性もあるわけですので,一方通行逆走というケースが,今の現行法を超えて更に広がりを持ったものとして作る必要が本当にあるのかどうかというのは,若干疑問を感じます。 ○西田部会長 その点は議論の素材とすることまで否定するという御趣旨ではないと思いますので,一方通行の逆走運転,一つの例示でありますが,歩行者天国等も含んで,そういうものを危険運転致死に新たに取り込むという論点として,ここでは承っておきたいと思います。   したがいまして,現在までの御議論を整理いたしますと,一方通行の逆走運転,それからてんかん等の病気の問題,これについては現行の危険運転致死傷罪の問題として検討すると。過労運転については,現時点では,これは考えないという整理にさせていただきたいと思います。   次に,対応・方策の右側の2の,危険運転行為と同等とまでは言えないけれども,悪質性,危険性の高い運転行為によって死傷させた場合に,現行の自動車運転過失致死傷罪より重い類型を設けると。この点について,その可否と,もしそうであるとするとどういう類型がこれに当たるかについての御意見を伺いたいと思います。 ○井田委員 被害者団体のお話をお聞きしていまして,アルコールを摂取したり,あるいは薬物を摂取したりした上で運転行為を行い,人を死傷した場合については,現行の危険運転致死傷罪の規定をかなり大きく広げる形で対応してほしいという御要望が強かったのではないかと感じました。   ただ,今日も御発言の中に出ておりましたけれども,現行の危険運転致死傷罪は,人の身体に向けられた暴行行為と,言わば法的には同視できるような意図的な危険運転行為,法的にはそれは生命・身体との関係での具体的危険行為と呼ぶことができると思うんですけれども,そういうものを基本犯とする結果的加重犯としての構造を持っています。そうであるとすると,この基本構造自体を破壊するような,あるいは否定するようなそういう大きな修正というのは難しいんだろうと考えています。   とすると,問題は,現行の危険運転致死傷罪には当てはまらないが,単に自動車運転過失致死傷罪ということで対応するのでは,評価として十分ではない。そういう悪質で危険な運転行為に基づく死傷の事案,これに対する処罰をどうするかということになります。そうなると,対応・方策2にありますように,危険運転致死傷罪と,それから自動車運転過失致死傷罪の中間に新たな犯罪類型を創設するということを検討すべきではないかと考えるわけです。   余りイメージで語ってはいけないと思うんですけれども,殺人罪というのは,これは100%の故意犯であり,そして,自動車運転過失致死傷罪というのはゼロ%の故意犯,つまり100%の過失犯であるということが可能です。そうであるとすると,現行の危険運転致死傷罪は,言わば50%の故意犯であると考えることができるのです。そこで,この部会での問題は,そこに30%の故意犯というべき犯罪類型を作ることができないかということなのではないかと,私自身は考えています。   先ほど申し上げたように,現行の危険運転致死傷罪は,人の身体に向けられた暴行行為と法的に同視し得るような,そういう危険運転行為,言い換えれば,生命・身体に対する具体的に危険行為というものを基本犯とするような結果的加重犯です。アルコールとか薬物とかの影響で正常な運転が困難な状態で運転するのは,正にそういう生命・身体に対する具体的危険行為と考えることが可能であり,それを故意で行っているところに,50%故意犯として性格付けることが可能なゆえんがあると思うわけです。   これに対して,30%故意犯と私が言いますのは,アルコール又は薬物の影響で正常な運転が困難な状態で運転しているという認識まではないというケースが問題となっているからです。今,自分が体の中にアルコール又は薬物を保有しているという認識はある。正常な運転が困難な状態にまで発展しかねない,そういう状態にあることの認識まではあるかもしれないというときに,その程度で主観的要件としては十分な新しい犯罪類型を考えることができないかが問題となるのです。言い方を換えますと,外形的,客観的には危険運転致死傷罪と全く同じ要件を充足するが,単に故意という主観的要件の部分だけが,正常な運転が困難な状態というところの故意までは必要なくて,その前段階の事態の故意で十分だという,こういう犯罪類型を作れないかということであります。   より法律的に厳密な議論をするとすれば,現行の危険運転致死傷罪が,具体的危険行為を基本犯とする結果的加重犯の構造を持っているとすると,私のいう30%故意犯は,抽象的危険行為を基本犯とする,そういう結果的加重犯として考えることができないかということであります。実は,今の刑法典の結果的加重犯規定は,その二つを区別していません。というよりも,むしろ抽象的危険犯の形で基本犯を規定している場合が多いということができるのではないか。   例えば,刑法260条後段に建造物損壊等致死傷罪というのがありますけれども,これもその基本犯部分は,生命・身体との関係で決して具体的危険行為として規定されているわけではありません。判例も,また通説も,そこに具体的危険性についての故意などは要求していないわけであります。   他方,学説には,結果的加重犯について,以前からもう少し成立範囲を限定すべきだという議論はあります。直接性という要件を要求すべきだとか,あるいは故意についても具体的危険性を基礎付けるような事情を認識すべきだというような学説が一部に根強くありました。そこでは,明らかに基本犯として具体的危険行為を要求するか,抽象的危険行為でもよいとするかという,考え方の違いがあったといえるわけです。いずれにしましても,現行の危険運転致死傷罪の規定自体は,基本犯をぐっと絞って,具体的危険行為のみに限定した類型ですが,その下にもうちょっと広げた形での抽象的危険行為を基本犯とする結果的加重犯というのが考えられるのではないか,というのが私の結論であります。そのような中間類型に対する法定刑は,現行の危険運転致死傷罪よりもかなり軽いものでなければならないのは当然です。このように考えて,対応・方策2を支持したいと思います。 ○西田部会長 ありがとうございました。 ○山下委員 今の井田委員の意見に対する反論といいますか,私自身は,やはりこの危険運転致死傷罪というのは,元々,過失犯ではなくて,暴行による傷害,傷害致死罪に類するような危険行為による結果的加重犯として作られた,刑法の中でもかなり特殊な規定だと思うんですが,そうなると,やはりそれに準ずるというものはないのではないかと。やはり,これは過失犯か,傷害の故意による傷害致死に類する危険運転行為による結果的加重犯のどちらかしかないのであって,真ん中はないのではないかと。理論的に,確かに故意が50%とか30%という表現はあり得るとしても,これは飽くまで,危険運転であるということの認識がなければならないのではなくて,それがないような行為が,客観的にそれが危険行為に見えたとしても,危険運転に対する認識がないわけですので,それを故意による暴行による傷害や傷害致死と類するような危険運転と見ることはできないのであり,自動車運転過失致死傷か危険運転致死傷のどちらかしかないのであって,その真ん中があるとは考えられないのではないかと思います。 ○西田部会長 ほかに御意見はございますでしょうか。   山下委員の御意見によりますと,方策の2については,考えられないし,考えるべきでないという御意見かと思いますが,そうしますと,この点については,対応しない方がいいという結論ですか。 ○山下委員 ですから,対応1ができるかどうかを検討し,それができないと対応2は駄目だということですから,危険運転致死傷罪の問題としてはもうそれで終わりで,あとは先ほど言った自動車運転過失致死傷の方の問題として対応するのか,しないのか,又は何もしないのか,そういう選択肢になろうかと思います。 ○木村委員 今の井田委員の方から,危険性がどれだけ具体的かどうかということで,程度の差があるのではないかという話があって,いや,そういう区別はないのではないかというのが山下先生の意見だと思いますが,危険性の程度だけに反映しないような,やはり悪質さとか,そのほかの要素で責任とかということになるのかもしれませんけれども,普通の自動車の運転よりはちょっと重くしないとおかしいのではないかという類型は,考えられることは考えられると思います。なので,結果に直結しないような要素というのも考慮する必要はあるのではないかとは思います。 ○西田部会長 ありがとうございました。今の木村委員の御意見は,この中の例えは無免許運転ですとかひき逃げなどについて妥当する御意見かと思いますが,時間の都合もございますので,まず,そちらの方に対応2はちょっとペンディングにしておきまして,この無免許運転,無保険,無車検,それからひき逃げ,これらについてどう対応するかということについて,御意見ありますか。 ○今井委員 無免許運転,無車検,無保険車の運転について,若干意見を申し上げたいと思います。   今も,客観的な暴行に準ずるような運転というお話がありましたけれども,無免許運転,無車検,無保険に係る運転行為というものが,客観的に見て暴行に準じる危険性を持っているかというと,必ずしもそう言い切れない場合もあるかもしませんし,また,無免許運転と人の死傷との間に,無免許であるが故に人が死傷したという直接な因果関係を認めることはできないと思われます。したがいまして,無免許運転,無車検,無保険の運転ということを危険運転致死傷罪の対象としてくくり出してくることは,難しいのではないかと思われます。   他方で,無免許で運転したということについては,運転者の責任非難も高まるでしょうし,また,行為の違法性に関してもこれを高める要素が認められると思います。すなわち,無免許で自動車の運転をしているということは,本日,石井委員の御説明にもありましたように,基本的な道路交通のルールに違反して,そういった意味で規範に反して自動車を運行に供しているわけですから,当然,運転者の責任非難を高める要素としてくくり出すことが可能でありますし,また,免許を持っていないということは,一般的には道路交通の安全を害する運転をするということになりまして,それがひいては,ここで問題にしております道路交通に関連している人の生命・身体に対する危険をも惹起する要素として把握し得ると思われます。法益侵害の危険性もある行為であると考えられます。   そうしますと,無免許運転については,運転をした行為者の責任を加重し,あるいは違法性を加重するということによって,重く処罰することができないかを検討する余地があるのではないかと思います。 ○山下委員 先ほどの木村委員のお話とか,今の今井委員の話にもあるんですが,今言われているのは,結局それは過失犯の中での違法性とか有責性に関する要素の話であって,危険運転とはやはり質的に異なるのではないか。それは飽くまで過失犯の枠内での違法性を強めたり高めたり,有責性を高める要素であって,この危険運転とはちょっと違うレベルの議論ではないかなと思います。   私自身は,もちろん,この無免許運転とか,無保険とか,無車検ですね,これは当然危険運転にはならない。先ほど今井委員が言われたように,直接これが死傷の結果を及ぼすような因果関係のあるものとは到底言えないわけですので,これは危険運転には当たらないと考えます。 ○西田部会長 木村委員や今井委員の御意見も,正に山下委員と同意見だったと。 ○山下委員 ただ,理論構成というのは,危険運転に準ずるとかそういうものではなく,これは,飽くまで過失犯の中での違法性,有責性の問題ではないかということです。 ○西田部会長 今井委員も,そういう御趣旨。 ○今井委員 ここはこの部会の議論になるかどうか分かりませんけれども,そこはいろいろ考え方の分かれるところでして,客観的に暴行に準ずるものを危険運転としてくくり出したという立法趣旨に鑑みますと,私が申し上げましたのは,私の意見ですが,無免許であろうと何であろうと,そういった危険性を持つ行為はあるだろうということで,あとは,責任非難を高めたり,あるいはその他の違法性の理解によっては,違法性を加重する要素として無免許であったことを考慮できるのではないかということです。 ○西田部会長 分かりました。そういう理解でよろしいですね。 ○山下委員 それはいろいろな考え方があると思います。 ○西田部会長 このほか,ひき逃げについて,何か御意見ございますでしょうか。 ○島田幹事 被害者団体,御遺族の方のヒアリングをお聞きしていても,ひき逃げの逃げ得ということに対する強い非難がすごくよく感じられました。ただ,先ほどからの議論にもありますように,ひき逃げ自体は行為後になされたことでありますので,ひき逃げがあったこと自体を,運転行為それ自体の危険性に反映させるという解決は,やはり難しいだろうと思います。しかし,この場合,生命を軽視して,自分の罪責を隠そうとする,あるいは罪責を軽くしようとするといった態度は,加重するだけの実質的な違法性ないし責任の加重要素とは言えると思いますし,飲酒後に逃走したという場合には,そういった隠す動機であるということがしばしば見られると思いますので,その辺りにも配慮した罰則になることが必要ではないかと考えております。飽くまで危険運転致死傷とはやや別枠でということであります。 ○西田部会長 ほかに御意見ございますか。 ○山下委員 今の島田幹事の発言についてですが,一体それをどのようにやるのかというのが,よく分からなかったんですが。 ○島田幹事 まだ私も,明確な具体案を持っているわけではないのですが可能性は二通りぐらいあるかとは思います。1つはそうしたひき逃げ行為自体を従来より重罰化する,あるいはそれの結果的加重犯的なものを認めるということ。もう1つは飲酒行為の後に逃げているということは,それを自動車の運転が,正常な運転は困難な状態であったのを隠そうとしているということを,何らかの形で考慮するということが考えられます。 ○西田部会長 ちょっと議論を整理させていただきますと,まず御要望の1につきましては,対応・方策の1,現在の危険運転致死傷を広げる。取り上げるものとしては,一方通行の逆走,それからてんかん等の一定の病気の場合ですね。過労運転については,これは取り上げないと。てんかん等につきましては,次回,今日,御欠席でございますが,辻委員からレクチャーを受けて,更に議論を深めたいと存じます。   それから,無免許,無車検,ひき逃げ等については,これは刑を加重する事由になり得るのではないかという御意見が強かったと思います。   それから,対応・方策の2については,危険運転致死傷と自動車運転過失致死傷罪の中間として,抽象的危険行為をくくり出して,その中間的な犯罪類型を作るべきではないかという井田委員の御意見と,これに対して山下委員からは,現在の危険運転致死傷罪を拡張可能かどうか,これをまず検討し,それに準ずるような形態は設けるべきでなく,拡張ができないのであれば,現在の自動車運転過失致死傷罪の法定刑の引上げによって対応すべきであるという御意見だったと思います。   山下委員,具体的に法定刑を引き上げるとすると,どういう,どの程度のことをお考えですか。 ○山下委員 私は別に引き上げるべきだと考えているわけではなくて,最後の最後の手段としてということで,第1回目の会議でも,上限の懲役7年に張り付いていないということでしたので,逆に言うと,法定刑の上限を7年にしたから刑が重くなったということはないということであれば,例えば,懲役10年まで,元々これは被害者団体は10年にしてくださいと,窃盗罪が財産犯でありながら10年なのに,なぜ身体犯であるこの自動車運転過失致死傷罪が軽いのかという議論があったわけですので,理論的には,懲役10年まで引き上げておいて,そこである程度,危険運転は一切広げないという前提ですけれども,そういうことは理論的にはあり得るかなと思っていますが,私は積極的に引き上げるべきだと思っているわけではないんです。ただ,最後の手段としてはそういうのもあり得るかという理論的な御提案ということでございます。 ○西田部会長 しかし,被害者団体の御意見,御要望,特にいろいろな重大な事項が今回の諮問の契機になっているわけですけれども,その点について,この部会の対応として基本的な山下委員の考え方を,もう一度ちょっと述べていただけますか。 ○山下委員 これは当然,自動車運転過失致死傷は,同時に道路交通法違反の罪などとの併合罪になりますので,それとの関係で考える必要があると思います。そして,現在,道交法違反のまた重罰化ということも検討されているようですから,それと,今の自動車運転過失致死傷罪という過失犯に関する一般的な規定を,例えば,懲役10年以下に引き上げて,それと道交法違反の併合罪として,少なくとも今よりは少し上のレベルまで処罰することができるようにしておくと。そして,危険運転でカバーできない分は,そこで少し引き上げることで対応するということが,理論的にはあり得るのではないかと思います。 ○西田部会長 そういう御意見もあり得ると思いますので,今出た御意見,大体私がまとめたようなところで御異論ないかと存じます。   そこで,次回の議論につきましては,事務局で今日出た御意見を総合的にまとめていただいて,論点を整理していただき,更にその論点について詰めた議論をしていきたいと存じます。   なお,次回におきましては,辻委員から,一時的に意識を喪失させる特定の病気についてレクチャーを受けるつもりでおります。   次回の日程はもう決まっていると思いますが,事務局から御説明お願いいたします。 ○保坂幹事 次回の会議の日程は,12月4日火曜日午後1時から3時頃まででございます。場所は東京地検の15階の会議室を確保してございます。 ○西田部会長 では,今日はこの程度で終了したいと思いますが。 ○武内委員 すみません,今,事務局の方で論点表を御準備いただけるということを伺いましたけれども,かなり期間が短い中で恐縮ですが,もし,事前にメール等ででも頂くことができましたら,準備しやすいので,その点,是非御配慮いただければと思います。 ○保坂幹事 はい,できる限り対応させていただくようにします。 ○西田部会長 次はもう来週の火曜日ということで,その次が,今の予定ではいつでしたか。18日ですね。そうすると,2週間ぐらいあるということで,次回は非常にショートノーティスなので,論点を更に詰めて,いろいろな御意見を頂くということで,そこで何かまとめるという方向には多分いかないと思いますので,十分そこで御議論を頂くという趣旨で行いたいと存じます。   では,本日はこれにて散会いたします。   議事録は,何か特に匿名にするとか,議事録に載せるのが不適切であるとかという部分がございましたでしょうか。ございませんですね。   では,顕名で,そのとおり議事録公開させていただきます。   以上です。 -了-