法制審議会民法(債権関係)部会           第57回会議 議事録 第1 日 時  平成24年9月18日(火) 自 午後1時00分                       至 午後6時06分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 それでは,法制審議会民法(債権関係)部会の第57回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   大村先生,久しぶりの御出席なので一言御挨拶をお願いします。 ○大村幹事 東京大学の大村でございます。1年弱,長期在外研究のために欠席いたしまして,すっかり法制審の審議状況から置いていかれておりますけれども,この間,いくつかの外国で講義・講演等を行ってきまして,法や法学の国際化の波というのを改めて感じてまいりました。落ちこぼれておりますけれども,何とか追い付いてまいりたいと思いますので,どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○鎌田部会長 こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日の部会資料として,部会資料47を事前送付いたしました。また,積み残し分を審議する関係で,配布済みの部会資料46も使わせていただきます。これらの資料の内容は,後ほど関係官の笹井,松尾,川嶋から順次御説明いたします。   また,部会資料に関係するものとして,「部会資料46比較法資料補追」と題するものを机上配布しております。本日の審議事項と関係する比較法資料を追加するものです。これにつきましては,ウエブサイト上は,既に公表済みの部会資料46の末尾に追加するなどの形で補訂をすることにより公表したいと考えております。   また,委員等提供資料として安永貴夫委員から,東洋大学の鎌田耕一教授の著作のコピーが提出されております。 ○鎌田部会長 本日は部会資料46,47について御審議いただきます。具体的には,休憩前までに部会資料46のうち「第2 委任」「4 委任の終了に関する規定」の「(3)破産手続開始による委任の終了(民法第653条第2号)」までについて御審議いただき,午後3時10分頃を目途に適宜休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料46の残りの部分と部会資料47について御審議いただきたいと考えておりますので,よろしくお願いいたします。   それでは,「第2 委任」の「1 委任者の義務に関する規定」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「第2 委任」「1 受任者の義務に関する規定」のうち,「(1)受任者の指図遵守義務」では,一般に受任者は委任者の指図に従わなければならないとされていることを踏まえて,これを条文上明示するかどうか,またその例外を規定するかどうかを取り上げています。甲案は原則として受任者が指図遵守義務を負う旨の規定を設けた上で,学説などで説かれているところを踏まえ,指図を遵守することが委任者にとって不利益であり,かつその変更を求めることが困難であるときは指図に拘束されない旨の規定を設けるという考え方です。   他方,受任者が例外的に指図を遵守する必要がないと言えるための要件を適切に記述することが困難であるとすれば,指図遵守義務に関する原則を含めて規定を設けないことも考えられます。乙案はこのような立場から規定を設けないという考え方を取り上げています。   「(2)受任者の忠実義務」では,受任者は委任者と利害が対立する状況において,自らの利益を図ってはならないという忠実義務に関する規定を設けるかどうかという問題を取り上げるものです。忠実義務に関する規定を設けるかどうかは,実態的に受任者に忠実義務を負わせるのが妥当かどうかという問題と,善管注意義務に関する規定とは別に規定を設ける意義があるかどうかという問題の両面から検討する必要があると思いますので,それぞれについて御審議いただければと思います。   「(3)受任者の自己執行義務」では,受任者が復受任者に委任事務の処理を委ねることができるかどうか,委ねる場合の受任者の責任をどのように考えるかという問題を取り上げています。   アでは従来の考え方に従い,原則として受任者は自ら委任事務を処理する義務を負い,復受任者を選任することができないという原則を定めることを提案しています。   イでは例外として復受任者を選任することができるのがどのような場合であるかという問題を取り上げていますが,これは既に審議がされた任意代理人による復代理人の選任の論点と同様の要件を定めるべきであると考えられます。   ウは受任者が復受任者を選任することができる場合の受任者の責任について,選任及び監督の責任に軽減するのではなく,債務不履行の一般原則に委ねることを提案するものです。   エは復代理人の権限等を定めた民法第107条のうち,復代理人と本人との関係を定めた部分は代理の内部関係に関する規定ですので,内容を維持したまま委任の箇所に移すことを提案するものです。   「(4)受任者の報告義務(民法第645条)」のアでは,委任者の求めがなくても受任者が報告義務を負うのはどのような場合かという問題について,善管注意義務の解釈適用に委ね,規定を設けないことを提案しています。委任者の求めがなくても報告義務を負う場合があることは従来から説かれていますが,それは委任事務の内容等によって様々であり,一律の規定を設けるのは困難であると考えられるからです。   また,イにおいては長期間にわたる委任における相当期間ごとの報告義務についても規定を設けないことを提案しています。これは長期間にわたる委任には様々なものがあり,相当期間ごとに報告義務を負うという記述がデフォルトルールとしても必ずしも一般に妥当するものではないと考えたからです。   「(5)委任者の財産についての受任者の保管義務」では,委任者が委任事務の処理に当たって,受任者の財産を保管する場合の法律関係を取り上げています。この場合の受任者の注意義務等については現在規定が欠けているため,有償寄託に関する規律に従うものとすることを提案しています。   「(6)受任者の金銭の消費についての責任(民法第647条)」では,民法第647条を削除することを提案しています。受任者が委任者の金銭を保管している場合に,善管注意義務の内容としてその金銭の利殖を図る義務があるのに,受任者が消費したために利殖を図ることができなかった場合には,善管注意義務に反した債務不履行に基づく損害賠償責任として,同条と同様の責任を負わせることができると考えられ,他方利殖を図る義務がない場合にまで返還すべき日からではなく,消費した日からの利息を支払う義務を負わせる必要はないと考えられるからです。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明がありました部分のうち,まず「(3)受任者の自己執行義務」までについて御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○筒井幹事 安永委員の到着が遅れていますが,先ほど発言メモを受け取りましたので,読み上げて紹介いたします。「(2)受任者の忠実義務」に関する御意見です。   受任者の忠実義務については,第1ステージでも労働者の立場から発言いたしましたが,個人が自ら有償で事業者に労務を供給する契約は,その多くは労働契約ですが,委任・準委任に該当するものが少なくなく,一般に委任者である事業者が優越的地位を有しており,受任者である就労者に忠実義務を課すことが条文上明記された場合,委任者の優越性を更に強めることが危惧されます。受任者の忠実義務が条文上明記された場合,その条文が現場に出ていったときにどのように読まれるか,行為規範としてどのような影響を及ぼすかという点に関しても,強い立場にある委任者による濫用の危険が増すことが強く懸念されるところです。このような点から,受任者の忠実義務の規定は設けない方向で検討していただきたいと考えます。 ○佐成委員 今の(2)ですが,一読会のときにも,忠実義務に関してはいろいろ発言をさせていただいて,「慎重に」ということで意見を述べましたが,その後もいろいろ考えて,現在でもやはりまだ慎重にしたほうがよいのではないかと感じております。   その理由は,もともと忠実義務というのはアメリカ法で信託受託者について認められてきたという沿革にあります。それがその後アメリカにおいてもアナロジーが非常に拡張していって,いろいろな分野に広まっていったのではないかということです。私としてはそういう認識がございまして,だとしますと一般的に委任の受任者が信託受託者と同じような利益状況に本当にあるのか疑問に感じるからというところが主たる私の根拠でございます。   アメリカの信託法の教科書といいますか,ケースブックなんかを見ましても,Trust Administrationの冒頭のところにまず,忠実義務Duty of loyaltyが書いてあって,その後にDuty of prudenceだとか何とかが続いて書いてあってという具合に,やはり信託受託者という,信託財産の処分権を完全に自分の手元に置いた人が本質的に義務付けられるような規範として本来は成り立っているのではないかという気がいたします。   そうしますと,例えば会社法に関して置かれておりますけれども,それもどちらかというと一種のアナロジーではないかと考えるわけです。要するに会社財産を信託的に管理しているような立場にある者を義務付けるべく,そういった中で取締役の忠実義務というものが発展してきたのではないかということです。そのほか,遺産管理人とか,他人の財産の処分権を完全に手元に置いた人に対する本質的な規範として,いろいろなところに多分アナロジーで広まっていったと思うのです。けれども,ことこれ日本の民法の中の委任というのは,今も安永委員の御発言の中にもありましたけれども,かなりいろいろ雑多で広いものも含まれているということがあります。   ですから,その中には,確かに信託受託者的な方もいらっしゃれば,そうでない方もいるというのが現実であろうと思います。それから準委任という形にもなるとしますと,そこに,そういったバックグラウンドがあってアメリカで発展してきた忠実義務をそのまま持ち込むというのは,先ほど笹井関係官のほうから御説明があった最初の論点,つまり本当にそれを入れてよいのかという論点からしても気になるところがありまして,まだ慎重に考えたいというところです。   それから,ここでは分かりやすさという観点から提案されておりますけれども,補足説明では正に信託法の条文を引用されておられるので,そういう意味からも慎重に考えたほうがよいのではないかなというのが私の意見でございます。   それで,ここにも善管注意義務だけでは導けないような義務があるのではないかという御指摘もありますし,仮にそうだとしますと,それはそれでもっともな話だなとも思いますので,もしそういうものが本当に有用であって明確にしておくことが望ましいということであれば,むしろ個別の具体的な規定を設けるという対応もあり得ると思いますので,抽象的に一律の忠実義務を敢えて入れるということについては慎重に考えたほうがよいのではないかというのが私の意見でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○三上委員 まず(1)ですけれども,ここに書いてある趣旨は委任者の指図に反することをやっても善管注意義務を遵守していれば責任を免れるということであろうと思うわけですが,委任にもいろいろな種類の委任がございまして,例えば銀行取引での振込は委任契約の典型のように言われていますが,最近は振り込め詐欺の振込みを窓口で防止しなかったことが銀行の善管注意義務だという訴訟も起こっている時代でして,少なくともこのような条文を設けるのであれば,委任に従わない権利といいますか,従わないことは認められるけれども,従わない義務を負うわけではないということを明確にする必要があるのではないかと思います。ただ,非常に珍しい条文になると思うので,むしろこのような条項を設けるよりは,解釈に委ねておけばよいのではないかと考えております。   それから,(2)ですが,結局佐成委員がおっしゃったこととほとんど同じなんですけれども,信託法で議論されたときも,これは私法一般の議論ではないですよねというようなやり取りがかなりあった上で,信託法に忠実義務が入りましたので,信託法にあるから民法に持ってきてというのは,信託法制定当時の議論からすると趣旨が違うのではないかという点を付け加えたいということと,忠実義務をどのように取るかにはいろいろな見解があると思うのですが,会社法の忠実義務は競業避止や自己取引禁止などに結び付くという理解をしているわけですけれども,銀行取引上の委任にはいろいろな種類の委任がありまして,もし競業避止だとか利益相反の基礎規定になるということであれば,例えばチャイニーズウォールを敷いていてもM&A等々に関するアドバイザリー業務などがやりにくくなる,マイナスの効果を及ぼすという懸念もございます。   そういうことも含めまして,忠実義務を負う負わないは委任の種類によってかなり開きがあるものですし,場合によっては今回の提案の中で委任の中に,今でいう準委任の一部が事務の委託として入ってくる場合もあるわけですから,忠実義務のような,広く捉えれば危険とも言える条文を一般論として取り込むことに関しては非常に慎重であるべきで,金融機関としても明確に反対したいと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。(1)(2)とも消極,つまり(1)の乙案支持,あるいは(2)に対する消極意見のみが表明されているところですけれども,ほかの御意見がございましたらお出しいただければと思います。あるいはまた(3)についても御意見があればお出しください。 ○岡委員 (1)(2)が飛ばされそうになりましたので,急いで手を挙げました。   (1)については弁護士会の圧倒的多数意見はやはり乙案でございました。甲案の趣旨は理解できるものの,様々な委任が存在するところ,これだけで十分かというのに疑念が多く,やはり解釈に委ねるべきという乙案の支持が圧倒的に多数でございました。   忠実義務のところについては,賛成と反対が拮抗しているという状況でございます。忠実義務に関する反対の理由としては,佐成さんとか三上さんがおっしゃったような理由もありますし,規定を設けるべき必要性を感じないというのもございました。(2)は賛成・反対がほぼ同数というところでございます。   (3)のほうにも進んだほうがよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 御意見があればお出しいただければと思います。 ○岡委員 (3)についてですが,まずアの自己執行義務の明文化については賛成がほとんどでございました。ただ私の所属する一弁では明文を設けないほうがよいとの意見でした。自己執行が原則であろうけれども,契約の趣旨の解釈で対応すれば足りるということで,明文化に反対という意見が一部ありましたが,大多数は賛成でございました。   それから,復受任者の選任の規定につきましては,乙案が多うございました。ただ,やむを得ない事由というのは狭過ぎるので,ある程度緩めるべきであるという意見はございました。しかし甲案のような,「期待するのが相当」という文言には違和感というか,反発を持っておりますので,甲案の文言には反対であるけれども,契約の趣旨に照らして相当な場合には復受任を認めてよい,そのような契約の趣旨をもう少し正面に出した,緩める案については賛成という意見がそれなりにございました。多数は乙案でございます。   それから,ウについては設けないものとする意見に賛成がほとんどというか,バックアップメンバーとしては賛成が全部でございました。   それから,エの直接請求関係というべきものだと思いますけれども,ここについても基本的には賛成という意見が多うございましたけれども,特に復受任者の委任者に対する報酬の直接請求権,これについては反発といいますか,反対といいますか,そのような意見が多うございました。賃貸借の直接請求権のところにもありましたように,直接請求されても受任者に払えば足りるとか,直接請求できるのは債務不履行がある場合だとか,そういう要件をかませればまた違った意見が出てくるかもしれませんが,一般論で同一の権利を有し義務を負うという条文に対する不安感といいますか,この抽象的規定では疑問が残るという意見が相当数ございました。 ○三浦関係官 (3)の受任者の自己執行義務に関しまして,省内より寄せられました1つの所管業界からの意見ということで御紹介させていただきますが,イにつきまして乙案を支持という意見がございました。理由は部会資料にある一般論と同様でございますけれども,委任者は受任者を信頼して契約を締結するため,委任事務の処理を受任者以外の第三者が行う場合がより限定されている乙案を支持したいという意見が寄せられましたので,御紹介いたしました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○神作幹事 忠実義務について一言申し上げさせていただきたいと思います。   先ほど来,特に規制される側から忠実義務の明確化に反対する御意見が強いようですけれども,分業化や専門化が進んだ現代社会の中では,忠実義務のような,信頼を一般的に法的に担保するための法的道具立てがあることが明確にされていることが,私は非常に重要であり,またその必要性も高いのではないかと思っております。   確かに法的に不明確であるという点は否めませんけれども,しかし逆に考えればオープンエンドであることが,実務及び理論の発展につながる面があると思います。特に諸外国においては一般条項である忠実義務,さらにはより法的根拠が不明確な利益相反の議論の中から高度な信頼を支えるような様々な新しい仕組みが考案され批判され発展してきているという面があることも事実と思いますので,私は忠実義務について一般的な規定を置くということについてはまだ諦めないで,更に検討していただければ大変に有り難いと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○佐成委員 (3)のエのところについて内部の議論で意見がありましたので,報告させていただきます。   エについては,確かに規定そのままを委任のところから持ってくるだけなので,現行法の解釈はそのままということではありますけれども,やはり下請人の直接請求権に関する問題と同様の問題状況があり得るということで,懸念を表明する意見があったということだけ報告させていただきます。 ○山本(敬)幹事 (3)についてですが,既に以前の部会でも申し上げたことで,繰り返すまでもないかもしれませんが,アについては,原則として委任事務の処理を第三者に委任することはできないということが,現行法では委任ではなく,代理のところの規定を基にして言われているわけですけれども,それを明確に規定するということについては,もちろん賛成したいと思います。   イについては,前にも申し上げましたように,私は甲案を支持したいと思います。その理由は,既に部会資料に的確におまとめいただいていますので,特に付け加えることはありません。先ほどからの御意見を聞いていましても,甲案の定め方が,現在の案で示されているものですと,必ずしも詰め切れていないということについての危惧感が示されていたのだと思います。その意味では,明確な定め方を更に考え,そしてそれができるのであれば,甲案のような定め方をすること自体には,余り反対はないのではないかと思います。   先ほどの御指摘の中で,復受任者を使うことができる場合が限られているほうが望ましいというのも,一定の委任を想定して,その委任の趣旨からするとそうであるべきという御趣旨ではないかと思います。それは,甲案の書き方によるわけですが,委任の趣旨に照らして,その受任者が委任事務を処理しなければならないということが必ずしも出てこない場合についてまで,乙案でなければならないとおっしゃっているわけではないのだろうと思います。その意味では,甲案の書き方について,今直ちに妙案があるわけではないのですが,先ほど申し上げましたように,委任の趣旨に照らしてその受任者に委任事務を処理させなければならない理由が特にない場合というのをうまく書き表せないものかと考えているところです。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○村上委員 (3)のイについての意見を申し上げます。   補足説明の54ページを見ますと,やむを得ない事由がある場合に限ることにするのは,復受任者を選任できる場合を限定し過ぎているという指摘があるとの記載があり,その根拠として,信頼関係というのが知識,経験,専門的能力などに対する信頼,委任事務を適切に処理してくれるはずであるという結果に着目した信頼であることが多いと記載されております。しかし,仮にそうだとしても,その場合,同様の知識・経験を有する第三者に事務処理を委託することが不合理とはいえないとある部分は,果たしてそうなのだろうかという疑問があります。   第三者に同様の知識・経験があるか否かを誰が決めるのか,誰が判断するのかということが重要な問題なのではないだろうかと思うわけです。その第三者に同様の知識・経験があると受任者は判断したけれども,委任者はその判断には同調できないということがあるかもしれないと思いますので,委任者が第三者の知識・経験には問題があると,その人には事務処理を委ねるわけにいかないと考える場合に,いや,受任者の側で第三者の知識・経験には問題はないという判断をしたとすると,復受任者を選任できるということで本当によいのだろうかということを疑問に思います。 ○山本(敬)幹事 今の御意見についてですけれども,それは委任事務処理一般について言えることでして,委任事務の処理の仕方について選択肢がいろいろあって,どの選択肢をどのようにとることが望ましいかということについて一定の幅がある場合が実際には多いだろうと思います。正にそのときのために,善管注意義務が規定されているわけでして,その場合は,善管注意義務に従って委任事務を処理しなければならないということだと思います。   そして,仮に自己執行義務についてイの甲案によるとしても,委任の趣旨を踏まえた善管注意義務に従って復受任者に当たる者を選任し,一定の指示を行うという仕組み自体は変わらないのではないかと思います。もちろん,これは私の考え違いかもしれませんので,どなたかから補足していただければと思います。 ○村上委員 多少付け加えますと,委任をするときに誰に頼むかというと,この人に任せて大丈夫かどうか,その人に十分な専門的知識・経験があるかということを事前に調査し,この人なら大丈夫だろう,この会社なら大丈夫だろうという判断をして,委任するということも多いのではないかと思います。   そのときに,委任したら,別の人にぽんと復委任されてしまったということでよいのかどうか。その人には頼むつもりなかったんですよ,いろいろ調べてあなたが一番良いと思ったから頼んだのにということにならないかを危惧しているということです。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,次に「(4)受任者の報告義務(民法第645条)」から,最後の「(6)受任者の金銭の消費についての責任」までについて御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。  おおむね異論はないと思ってよろしいでしょうか。 ○高須幹事 弁護士会も,おおむね異論はないので,一応御報告だけですが,(4)に関しては基本的に賛成という意見が専らでございました。(5)についても若干の留保はあるのですが,基本的には賛成ということでございます。(6)も賛成が多数意見なのですが,ただ一部にこの規定自体が持っている意味みたいなものを明確にしておくという意味では,置いておいたほうが分かりやすいのではないかという意見がございまして,私が所属している東京弁護士会は一応そういう意味で現行法の規定を置いておいたほうが分かりやすい,意味があるだろうとの意見です。また,事前のバックアップ会議ではドイツやフランスなどの外国でも引き続き同種の規定を置いているところがあるのではないかなどということも指摘されて,残してもよいのではないかという程度の意見がありました。ただし,おおむねの意見はむしろ資料の提案に賛成ということでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,続きまして「2 委任者の義務に関する規定」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「2 委任者の義務に関する規定」の「(1)受任者が債務を負担したときの解放義務(民法第650条2項)」では,委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担した場合の委任者の義務を取り上げるものです。甲案は,現在の民法第650条第2項が規定する代位弁済請求権は,受任者を債務から解放するための一方法を規定したものにすぎず,委任者はより一般的な解放義務として弁済資金の支払義務を負うという考え方に基づいて規定を設けるという考え方です。これに対し乙案は,代位弁済請求権を規定する現在の民法第650条第2項を維持するという考え方です。   「(2)受任者が受けた損害の賠償義務(民法第650条第3項)」は,委任事務を処理するために受任者が被った損害についての委任者の賠償義務について,報酬においてそのリスクが考慮されていたかどうかをしんしゃくするという考え方をとらず,現在の民法第650条第3項を維持するという考え方を提案しています。報酬において損害を被るリスクが考慮されていたかどうかの判断や,それをどのようにしんしゃくするかが困難であること,リスクが考慮されていた場合には損害賠償請求権の減免が合意されていたと考えられる場合が多いことなどを理由とするものです。   「(3)受任者が受けた損害の賠償義務についての消費者契約の特則(民法第650条第3項)」では,民法第650条第3項の賠償義務について,受任者が事業者で委任者が消費者である場合の特則を設けるかどうかという問題を取り上げています。消費者である委任者は賠償義務を負わないとの規定を設けたとしても,結果的には報酬に転嫁されるなどして,必ずしも消費者にとって有利になるとはいえないことから,特則を設けないという考え方を提案しています。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま御説明がありました部分について一括して御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○三浦関係官 「(1)受任者が債務を負担したときの解放義務」でございますけれども,所管業界の一部から乙案を支持するという意見が寄せられております。理由は部会資料の62ページの3にまとめていただいているとおりでございました。以上,意見の御紹介でございます。 ○鎌田部会長 ほかに(1)に関連する御意見はございますか。 ○深山幹事 (1)についてですけれども,この問題の所在といいますか,検討すべきこととして,(1)のタイトルにありますように,債務を負担したときの解放義務という観点から考えると,現行の650条2項はその一つの答えを示していると思いますが,他方で費用についての事前あるいは事後の償還請求という制度も現行法上あって,一読会のときにも甲案の提案の趣旨が費用の償還請求とこれはどう違うんでしょうかという質問めいた指摘をさせていただきました。   その点について部会資料で,その対象となる費用の範囲が違うという考え方があり得るという説明があって,それは一つの説明だと理解していますが,費用償還請求というもの自体を否定するという趣旨は,この提案に含まれていないと思いますので,現行の費用償還請求をすることにより,受任者としては債務から解放されるという手段はいずれにしてもあるということが前提になっていると思います。   その上で更にその方法とは違う代位弁済請求という現行の650条2項のような,もう一つの解放の手段も残しておくべきかどうかということは一つ検討すべきことで,実務的には余り見られない請求だとは思いますが,全く使われていないということでもないと承知しておりますので,あえて代位弁済請求という現行法の規律をなくすべきだとも思っておりません。そういう意味では,現行法どおりでよいのかなと個人的には思っています。   甲案に対する疑問は,先ほど言いました費用の範囲の点です。甲案のような規律を費用償還請求権とは別に設ける意義として,償還といいますか,精算の対象となる費用の範囲が違うという理解が正しいのかどうかということについて疑問があります。当然に必要であった費用,これは費用償還請求の対象になるとし,必ずしも必要とまではいえない費用でも負担してしまった費用についてはその請求ができる領域があるという御説明なのですが,果たして必要でない費用を受任者が負担してしまった場合に,当然に委任者がそれを払わなければならないことになるのか,極端な例を言えば,全く無駄な費用,無駄な債務負担をしてしまったようなときであっても,委任者はその費用を払わせられるのかということについてはやはり疑問を感じます。   そういう極端な例においては,善管注意義務違反の損害賠償義務が受任者に発生するような場合になるのかもしれませんが,そこまで極端でなくても,必要でない費用を負担した場合に,当然に委任者が負担しなければならないという領域を認めること自体に疑問を感じておりまして,そのような観点から甲案には問題があるのではないかと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   それでは,(2)についての御意見をお伺いします。 ○内田委員 (2)の受任者が受けた損害の賠償義務についてですけれども,原案は文言を改めるとしても,内容的には現行650条3項を維持するということになっています。ただ,補足説明の64ページの2の辺りにも触れられていますけれども,特に専門家に対して委任をするということは現在多くなっているわけですが,受任者の専門性などの要素を考慮して,専門家に対して頼んだのだから,その専門家が自らの裁量で仕事を行っている過程で生じた損害について,いちいち委任者にそれを転嫁することが適当かどうかという問題が提起されている。しかし,これについて具体的な立法提案が示されていないので,本文では取り上げていないと書かれています。   今日はちょっと補追でお配りした比較法の資料がございまして,「部会資料46比較法資料補追」というものですけれども,その冒頭に「オランダ民法第7編406条」が挙がっています。ここで紹介されておりますオランダ民法の規定は,役務提供一般についての規定という体裁になっているわけですが,私はオランダ語が分からないので正確なところはよく分からないのですけれども,英語ではサービスと訳されてはいるのですが,元になっているオランダ語は必ずしも役務提供一般というよりは,もう少し他人に何かを委託するといった趣旨の意味を含んだ言葉であるように思います。その意味では委任とかなり共通性のある概念であると思えます。   その2項を見ますと,顧客が,これは委任者ですけれども,役務に関連した特定の危険であって,役務提供者,つまり受任者の責めに帰することができないものが発生した結果として,役務提供者に生じた損害を填補しなければならないという,日本民法と同じ原則が書かれた上で,役務提供者がその職業又は営業の遂行として行為していた場合には,第1文の規定は当該危険が当該職業又は営業の遂行からその性質上当然に生ずるリスクを超えるときに限って適用するとありまして,専門性とか,あるいは職業的,営業的な性格を持った委任事務を行っている場合に,その職業又は営業の性質に含まれているようなリスクについては,役務の受領者,つまり委任者の側が,賠償の責任を負うということはないというルールが定められています。   それにプラスして,第3文では有償の場合に報酬の決定において当該危険が考慮されていなかったときに限って適用されるという,報酬との関係の規律も置かれています。これが参考になる一つの立法例ではないかと思うのですけれども,現代の専門家への委任という場面においては,やはりその専門性の性質を考えて,その専門性に含まれていると考えられるようなリスクについては賠償責任を軽減するというルールを置く余地があるのではないかと思います。部会の一委員としてこういう提案をさせていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ただいまの提案を含めまして,各項についての御意見をお伺いします。 ○松本委員 恐らく委任の射程をどこまでに置くかという,後で出てくる準委任と委任をどう区別するか,あるいは準委任にも入らない,その他の役務提供とどこで切り分けるかという問題と今の点がかなり関連しているのではないかという印象を受けています。すなわち一番狭い意味の委任,法律事務を行うということであれば,受任者が損害を受けるということはどうも余りないのではないかという気がするんです。   つまり代理人として行為をする場合であれば,法律行為の効果が本人に帰属するから,それは基本的には本人が損害を受けるわけです。恐らく受任者が受けた損害というのは準委任型といいましょうか,法律行為以外の事実行為に関する委任で,かつ後で出てくるような信頼関係に基づいて裁量のある行為を専門家に行ってもらうという場合に事実上限定されるのではないか。   例えば医師に手術を行ってもらう場合に,医師がそのプロセスにおいて自分自身が何かに感染してしまう場合とか,あるいは警備業者に警備を依頼したところ,その警備業者が業務の遂行の過程において負傷するということは十分考えられると思うのです。そういう点から考えると,法律行為の委任という本体の議論をしているところで,ここの議論は何かうまくすっきり収まらない感じがいたしまして,後の準委任のところで考えたほうがよいのではないかという気がします。法律行為の委任で損害を被る場合があるんだということであれば,私の誤解だということになりますが,もしそういうケースがあればお教えいただきたいと思います。 ○鎌田部会長 そういった事態を生ずる蓋然性が高いか低いかであって,本質的に違うというわけではないという御指摘と思ってよいですか。 ○松本委員 いや,法律行為の委任を遂行する受任者が,固有の意味の委任のプロセスにおいて,損害を被るということが果たしてあるのかという話であって,代理であればないのではないかと思うのですけれども。代理でない場合であっても,経済的には本人の負担の下に受任者の名前において行うということでしょうから,そこは賠償義務の問題ではなくて,経済的な効果の帰属という,いわゆる間接代理の話になるのではないかと思うのですが。 ○内田委員 これは委任がどういう範囲に適用されるかという問題ですけれども,現行法では法律行為の委任という言葉が使われています。現行法を起草するときに参考にしたドイツ法の系統の民法では事務処理という言い方をしていて,もう少し広いのですけれども,日本では法律行為と言葉を限定した。ただ,起草者はそれによって委任の範囲を非常に狭くするという意図は持っていなかったようで,例えば弁護士に何か法律行為についての委任をしたという場合に,その仕事をするために自らの裁量で出張したり,いろいろな調査をしたりという行動をするわけですが,その部分が全て準委任であって,契約を締結する瞬間だけ委任であるとは起草者は考えていないし,また現実に裁判実務でも全体が委任と捉えられてきたのではないかと思います。   そういう出張したり調査をしたりという過程で損害を受けることは,事故とかですけれども,あり得るわけで,それについて全て委任者が責任を負うのかということに疑問があるということです。 ○道垣内幹事 遅れて参りまして,議論の流れを理解していないかもしれませんが,オランダ民法406条2項というのは二つの点で参考になるのだろうと思うのですね。   まず第1点は,いろいろなところに言えるわけなのですけれども,現行の日本民法650条3項は,「自己に過失なく損害を受けた」という文言でして,過失という言葉を使っているわけですが,一般に過失について,ある種のリスクの発現があったときに,それがどちらが引き受けているリスクなのかを考えて判断されるべきだという観点をとりますと,オランダ民法のような形で,当該リスクの発現については誰が引受けをしているのかという観点を書いていくべきだろうと思います。そして,それは「過失」の意味を,債務不履行法の一般原則その他のところと平仄を合わせるとそうなるのであり,そのことを示しているという意味があります。   しかし,それだけではありませんで,第2点目としまして,内田委員が先ほどおっしゃった,法律事務を頼まれたときに出張することもあるという話に関係することがあります。つまり,オランダ民法406条2項は,「役務に関連した特定の危険」という言葉になっているわけですね。しかるに,日本の現行民法は,「委任事務を処理するために・・・・・・損害を受けたとき」という広い書き方をしています。そして,後者のような書き方をしますと,法律事務を行うに当たって役場に行く際に交通事故に遭ったというのも含みそうなのですけれども,オランダ民法では,含まれないという可能性も十分にあるのではないだろうかという気がいたします。私は,オランダ語を直接読んで,オランダ法の本を研究して発言しているわけではないので,本当は何も言えませんが,この文言だけは何かそういう気がするわけです。   そうなりますと,その点も検討しておく必要があるのではないか。つまり,松本委員が,法律事務のときには通常このようなことは起きませんよねとおっしゃるのは,出張して交通事故に遭うのはここに含まれないというところから始まっているお考えなのだろうと理解できまして,オランダ民法はどうもそういう立場なのではないか。受任者が交通事故に遭ったときに委任者のほうが責任を負うわけではないことというのは,別にリスクの引受けがどちらにあるかという問題と別個のところで,そのようなことはそもそも契約対象ではないというところから入っていくのではないかという気がするのです。   まとまりがないですが,オランダ民法のような形でよいのではないかという結論を申し上げるとともに,そのように改正することの意味は2点あるのではないかということを指摘させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに関連した御意見ございますか。 ○松本委員 頭が全然まとまっていないのですけれども,弁護士が和解の交渉の依頼を受けて,相手方と和解交渉しているときに,暴力行為を受けるというのはありそうな感じがするので,そういう場合に委任契約において手当てをされているのか,それともここでいう民法の一般的な規定でもって,暴力行為を受けるについて弁護士に過失があったかどうかで判判断されているのか,それとも普通に交渉していて暴力を受けた場合はやはり委任者が賠償ないし補償をするという扱いになっているんでしょうか。いかがなんでしょうか。 ○中井委員 今の質問に対して答えるわけではなく,むしろお教えいただきたいのですが,650条3項というのは他の契約類型にはないだろうと思います。通常に対価を得て役務を提供する,その過程で過失なくして被害に遭って損害を受けても,基本的には受任者側といいますか,役務を提供する側で負担しているのではないか。   その中で委任に限って委任者に請求できる根拠は何だろうかというのが素朴によく分からないのですが,これが無償で,信頼関係に基づいて委任をしているような典型的な場面を考えたときに,確かに受任者が損害を受けたときに,委任者がその補填をする。その限りで理解できるのかなと。ただ,対価関係があって,委任とはいえ有償であれば,その事務を引き受けたものが基本的にリスクを負担するというルールのほうが分かりやすいのではないか。650条3項の根拠なるものが委任一般になぜあるのかというところがよく理解できません。ただ,弁護士会は基本的にこの考え方がよいのではないかという意見ですが。 ○内田委員 委任というのは代理の内部関係と典型的には言われますけれども,互換性のある者同士で,つまり自分でやろうと思えばできるんだけれども,それを他人に代わりにやってくれと代理権を与えて頼んだ。その人が代わりにやっていて,何か損害を被ったという場合には,委任者が指図をして,それに従って受任者が行動していて,損害が生じたということなので,委任者が自分でやれば自分が受けていたはずの損害であるということで,そのリスクは委任者のほうで負ってくださいというのが元々のこの規定の趣旨ではないかと思います。   それはそれであり得ることかと思うのですが,現代では委任の互換性が必ずしもなくて,自分でできないような専門的なことを他人に頼む。弁護士の場合,正にそうですけれども,そういう仕事が増えているので,その場合には専門性ゆえに,先ほど挙げた例で道垣内さんから交通事故の場合どうなのかというお話がありましたけれども,私が元々典型的に想定していたのは,正に松本さんが挙げたような,きちんと仕事をしていたのに相手の恨みを買ってしまって損害を被るというような場面で,それを全部委任者が負担しなければいけないということに疑問があったということです。   交通事故も全部無条件にカバーされるか規定かといったことについては,もちろん議論の余地があるでしょうから,規定を置く際にはそういった点をきちんと詰めて文言を選ぶ必要があります。ただ,専門性ゆえに他人に何かを頼んだ場合についてのリスクの分配としては,全てを委任者に負担させるという規定はやはり適当ではないのではないか,やはり制約をしたほうがよいのではないかというのが提案の趣旨です。   具体的にどういう文言を選ぶか。私は別にオランダ民法と同じ規定を置けという趣旨ではありませんで,着想のヒントがオランダ民法にあるだけですので,それも参考にしながら,どう制限するかの議論をしてはどうかと思います。ともかく,そういう制約を課すという方向での改正をしてはどうかという提案です。 ○佐成委員 弁護士が交渉のときに交渉相手から暴行を受けるなどの被害に遭うということは,今もそうですが,昔も結構あったようでございます。私は企業法務のほうにおりますので,どちらかというと報酬を支払う側,要するに委任者側なのですけれども,そういう場合に現状どういう調整をしているかといいますと,例えば殴られてけがをした損害額を明示的に支払うというよりも,むしろ報酬額全体をいくらか増額することで調整することが多いように感じます。要するに,そのような遭難を伴う困難な交渉をされたということで,報酬を若干はずむわけです。実際,交渉事で現場に行ってみると,激昂した人などに追い回されてというようなことは結構あるわけです。   そういう場合には,単純に交渉がまとまって契約書を作ってもらったという結果の部分だけではなしに,そうした結果に至る過程の部分についても多少報酬額全体で調整をして手当てをしているということです。つまり,現状では結果的には委任者が損害額をある程度負担するような形になりますので,必ずしも今回のルールとは直接は関係しませんけれども,実態としてはそういった個別具体的な事情に応じて,それなりの調整も行われているということだけちょっと補足させていただきたいと思います。 ○潮見幹事 内田委員がおっしゃられたような方向も基本的に考えられると思います。ただ,そのときにオランダ民法のように,委任の専門性に注目して考えるルールを立てていくほうが好ましいのか。あるいは,これは中井委員の御発言に関わるかもしれませんけれども,委任の趣旨に照らして,委任事務遂行の際に生じた損害が誰のリスクとして負担されるべきなのかという観点から捉えていくのも一つの方法ではないでしょうか。   前回の会議で審議された請負のところですか,対価危険が議論になったときに,報酬の関係の話も先ほど佐成委員がおっしゃったところも含めて議論も出ていましたから,ここでも同じようにもう少し広いスタンスで考えた上で,更にその中から専門性を抽出していくのか,あるいは無償性というものに特別の考慮を示したようなルールを個別に設けていくのかというのを事務局で考えていただければよいのではないかと思いました。 ○中田委員 潮見委員と大体同じですけれども,最終的には委任の趣旨ということになるんでしょうが,もう一つ前の段階として,委任事務における危険の存否とか程度とか,そういうことが最初の検討材料になってくるのだろうと思います。   元々650条3項の「委任事務を処理するため」という部分については,どういう文言にするのか,確か立法段階から議論があって,割と限定したのではなかったかと記憶しているのですが,この表現も含めて内田委員の提起された問題について更に検討することに賛成です。 ○鎌田部会長 新しい御提案がなされました。この点については元々賠償・補償という文言の適切性についても更に検討するという提案のあるところなので,分科会で検討してもらうというのもあり得るんですけれども,いかがでしょうか。そもそもの650条3項の趣旨も含めて議論をしたほうがよいとも思われますので,御面倒をお掛けしますけれども,分科会で検討していただければと思います。 ○松本委員 分科会で検討していただくときの確認なんですが,これは特約等が一切ない場合の任意規定としてどういうのが適切かという観点ですよね。特約があればそれが優先するし,あるいは先ほど佐成委員がおっしゃったような,報酬額から一定の推測ができるような場合についても適用されないと。そういう手掛かりが一切ない場合について,どう考えるのが適切かということですね。 ○鎌田部会長 任意規定の際にそれらは全部暗黙の前提になっていると処理してしまうのも一つの方法ですけれども,例えばオランダ民法は報酬の決定の中でそれが考慮されているというのを明示的に条文の中にも盛り込んでいるわけで,その辺の前提条件をどう条文に反映させるのが最も適切かということも含めて,御検討いただけるのが一番よろしいように思いますが,そういうことでよろしいですか。 ○岡委員 この条文,余り使ったことはないんですが,会社法の先生の教科書の中に,取締役が代表訴訟を起こされて,最終的には勝ったけれども弁護士費用を負担せざるを得なかったという案件について,過失なく損害を受けの要件のところで全くの濫訴のような代表訴訟を起こされて,弁護士費用を負担せざるを得なかった場合,この場合に適用できるんだとおっしゃっていて,それを使ったことがあります。   そのときに,このオランダ民法ほどではないんですが,報酬がそういうリスクまで含んでいるか含んでいないか,濫訴的な代表訴訟については認められるけれども,最終的に勝ったとしても有責性がグレーな訴訟については駄目だとか,そういう考慮をして使っている例もありますので,それも念頭に置いて検討していただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。それでは,このテーマは分科会で補充的に検討していただくことにいたします。   (3)についての御意見はいかがでしょうか。 ○中井委員 (3)については,このような特則を設けなくてもよいという意見が多数を占めたのですが,消費者関係の委員会からは,こういう規定は是非設けてほしいという意見でした。今,議論をお聞きして翻って思うと,消費者が仮にこのような形で委任をした場合に,その遂行過程で起こってきたリスクについて,消費者が引き受けると考えているのだろうか。そのリスクが顕在化したときに払うというのか,そうではないと思うんです。だとすればまた先ほどの私の発言,それを善意に考えてくれた潮見幹事の御意見にもあるのかもしれませんけれども,消費者と事業者との一般的な契約の趣旨,若しくはその類型に照らせば,当然こういうリスクについては事業者側が負担している。一般的にそのように解することができれば,この特則は要らないし,ほかに解する余地があって,明確化しておくことが必要であれば明確化する,そういう考え方もあり得るのではないかと感じました。 ○岡田委員 前の議論を聞くまでは,ここまではちょっと消費者だからと要求はできないなと思っていたのですが,今の議論を聞いていましたら,消費者の状況は中井委員の御意見につきますので,是非御検討頂きたいと思います。 ○鎌田部会長 むしろ(2)に先ほどの内田委員の御提案のようなものが入ってくると,(3)をわざわざ別立てにしなくても,(2)の中に読み込めるような原則づくりのほうが望ましいように思いますので,その点も含めて分科会での御検討を一旦は待ちたいと思いますが,そういうことでよろしいでしょうか。   では,続きまして「3 報酬に関する規律」について御審議を頂きます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「3 報酬に関する規律」の「(1)無償性の原則の見直し(民法第648条第1項)」では,委任の無償性の原則の見直しを提案するものです。委任契約は無償が原則であり,特約がなければ委任者に対して報酬を請求することができないとされていますが,現実の取引においては委任の無償性が原則であるとはいえないことから,アでは委任の無償性の原則を定めた民法第648条第1項を削除することを提案しています。さらに,事業者が事業の範囲内で委任契約を締結するときには,むしろ有償性が推定されるという考え方がありますので,イではその当否を取り上げています。   「(2)報酬の支払方式」では,委任の報酬には二つの方式があることを踏まえて,報酬に関する規定を設けることを提案するものです。委任の報酬は委任事務の処理という役務そのものに対して支払われ,時間的又は量的に区分された履行の割合に応じて額が算定されることが多いと考えられますが,委任の中にも一定の成果がもたらされたときに報酬が支払われることが合意されていることもあります。そこで,これらの二つの方式のそれぞれについて,報酬の支払時期や委任事務の処理が中途で終了した場合の報酬請求権の帰すうについて規定を設けることを提案しています。   「(3)報酬の支払時期(民法第648条第2項)」では,他の役務提供型の契約と同様に,役務の提供を報酬の支払に対する先履行とし,成果完成型においては成果の完成後,履行割合型においては委任事務を履行した後に報酬を支払わなければならない旨の規定を設けることを提案しています。   「(4)委任事務の処理が中途で終了した場合の報酬請求権」においては,委任契約が終了したり委任事務の処理が不可能になったことなどにより,契約当初予定されていた委任事務が完了しなかった場合に,受任者が報酬を請求することができるか,どのような範囲の報酬を請求することができるかという問題を取り上げています。履行割合型においては,中途で終了した場合には既履行部分の報酬のみを請求することができるのが原則であり,成果完成型においては成果が完成しなければ報酬は全く請求することができないのが原則ですが,仕事の完成が不可能になったことについての注文者の関与によっては,これらの原則を修正する必要があると考えらえる場合もあります。ここでは委任者の関与の程度に応じて,報酬を全額請求することができる場合と既履行部分についての報酬を請求することができる場合とがあるものとすることを提案しています。   請負における同様の論点について,前回御審議いただきましたが,これと整合的に扱う必要があると考えられます。報酬請求権の要件及び範囲については,分科会で補充的に検討することも考えられますので,その可否も含めて御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま御説明いただいた部分について一括して御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○安永委員 (2)から(4)まで一括して御意見を申し上げたいと思います。   (2)(3)で委任の報酬の支払方式について,成果完成型と履行割合型に区別した提案をされておりますが,この提案には反対いたします。前回申し上げたとおり,請負や業務委託型の就労形態がかなり広がってきており,例えば,雑誌記事の取材・執筆,清掃,広告版下作成,プログラミング等,多数の業種があります。   これらの業務は「完成」の概念についてなじみにくいため,委任契約あるいは準委任契約として扱われている例も少なくありません。このように就労者が自ら労務を供給し,その対価を受ける契約は,成果に対して報酬を支払うのか,それとも役務提供そのものに対して報酬が支払われるのかの区別が困難な契約や,両方の要素が混在している契約が多く,特に準委任には,これに該当しうる契約が少なくありません。例えば,予定していた仕事が予定どおりに完成すれば報酬が支払われるが,予定していた仕事ができなくても,あるいは仕事の完成度が低くても,一定の労務を供給したことについての報酬が支払われることは少なくありません。それは,「役務の提供によってもたらされる成果」についての合意があっても,「成果」の基準が客観的に明確ではなく抽象的で主観的な評価を含むことが多いため,と考えられます。   また,役務提供契約の中には,仕事が完成するか否かなどの結果を見てから報酬支払方法を決定するものがあります。例えば雑誌の出版に関して出版社が企画をして,記事の取材・執筆を外注するような場合,企画・立案し,外注する時点では取材できるかどうか,どの程度記事ができるか不明ということも少なくありません。これに類似している契約は,コンピューターのプログラム作成等でも見られますが,労務供給の場合,仕事が完成するかどうかはやってみなければ分からず,仕事の完成の可能性を模索してチャレンジするケースが少なくなく,このような契約について,成果完成型と履行割合型という分類を当てはめるのは難しいと考えます。また,報酬請求権の発生の有無をめぐる紛争において,現在その多くは約定報酬のうちの一部である供給した労務に対する報酬部分の支払がなされることによって解決が図られておりますが,報酬の支払方法について成果完成型と履行割合型に区分して民法で規律された場合,特約がない限り全ての契約は成果完成型か履行割合型に振り分けて規律させられてしまうことになってしまって,それ以外の中間的な解決ができなくなるのではないか,ということも危惧されます。さらに,履行割合型と成果完成型に区別をした規律を設ければ,労務供給を受ける事業者が優越的地位を濫用して,「当該契約は成果完成型であるが,成果が実現されていない」として報酬支払いを拒絶する紛争が現在以上に多発することも懸念されます。   以上により報酬の支払い方式を成果完成型と履行割合型に区別する提案には賛成できません。   また,「(3)報酬の支払時期」についても,報酬の支払方式で述べたことと同様の理由から,「成果完成型」と「履行割合型」に分けた提案について,反対をいたします。   次に,「(4)委任事務の処理が中途で終了した場合の報酬請求権」についてですが,部会資料のアからエの提案に反対をいたします。   まず,アとイについては成果完成型と履行割合型を峻別している点で,先ほど申し上げた理由から賛成ができません。その上で,アについては「履行割合型の委任契約が中途で終了した場合には,履行の割合に応じて報酬を請求することができる規定」を設けた場合,この規定の反対解釈として「履行割合型であることが明確でない役務提供契約については,この契約が中途で終了した場合には役務提供契約は既に履行した割合に応じて報酬を請求することができない」との解釈を招くおそれがあります。   また,イについては「成果完成型の委任契約が中途で終了した場合に,既にした委任事務の処理の成果が不可分で,それによって受任者が利益を受けるときには,既にした履行の割合に応じた報酬を請求することができる規定」を設けた場合は,この規定の反対解釈として,「既にした役務提供の成果が可分ではない」あるいは「役務受領者に利益が生じていない」という理由で報酬請求権を否定することが可能となってしまうと思います。   次に,ウとエについては委任事務の処理が中途で終了した場合の報酬請求権について,部会資料の提案では536条第2項よりも報酬請求権の発生要件を厳格化し,役務提供者の報酬請求権を制約するものと考えられるため,賛成できません。請負で述べたことの繰り返しになりますが,ウについては「義務違反」という要件が,536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」という要件より狭く,救済範囲が限定されます。エについては「ウの義務違反がなくても,委任者側に生じた事由で委任事務の処理が不可能となったときは,既にした履行の割合に応じて報酬を請求できる」とされますが,音楽演奏等が本番前に自粛ムードなど「委任者側に生じた事由によって」中止されたケースなどでは,「既にした履行の割合」がゼロである以上,演奏家は報酬の請求ができないことになります。民法536条2項を契約一般に適用される条項から除外するとしても,委任に関しては536条2項の危険負担の定める「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは,債務者は反対給付を受ける権利を失わない」と同じ規定を置くべきと考えます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに御意見ありますか。 ○岡田委員 消費者契約の場合は準委任と思われるようなケースのほうが多いのですが,いずれにしろ成果完成型,履行割合型というので明確に分けられるのであれば,何か分かりやすくなるような気もするのですが,今も安永委員の意見にもありましたけれども,どっちにもつかないようなものが余りに多いので,なお分かりにくくなるのではないかと思えて仕方がありません。 ○松本委員 委任には2種類あるという,頭から二つに分けるというのが何か無理があるという気がいたします。というのは,成果報酬の特約がそもそも無効になるということは多分ないと思うんですね。つまり安永委員がおっしゃった,分けるのは反対だということだけれども,二つのタイプが現実に存在するということは恐らく否定できなくて,成果報酬の特約は委任の本旨に反するから,公序良俗違反で無効だということには多分ならないんだと思います。そうすると議論の立て方としては,一般的に委任と言われているものはどういうものなのかをまず考える。もちろん特約は自由だから,成果完成型と言われているものは結局報酬支払についての特約がどうかによってそうなるだけの話だと思うんです。   弁護士との契約の場合に,成果完成型の成功報酬をプラスすることが多いと思うのですが,それは正にプラスであって,デフォルト的には恐らく履行割合型が本体ではないかと思うんです。それに成功報酬を付けるか,あるいは日本で成功報酬100%というのは余りないと思うのですけれども,どちらも特約になるのだろうと思います。そうすると特約は禁止できないにしろ,委任のデフォルトはどちらなのかということを決めていけば十分であって,いきなり頭から委任には二つあると言われても,デフォルトに二つあるというのは何なのですかという話になってしまって,議論が混乱するような気がいたします。タイプが二つあるということと,入口から二つ分けたルール形成をデフォルトルールとして2種類用意するというのは別の問題ではないかということです。 ○中井委員 (2)について,弁護士会も意見が分かれております。ただ,私自身は,松本委員のおっしゃられた考え方に賛成です。二つという類型が現実の社会の中に存在すること自体は否定いたしません。しかし,その二つを並列するという意図がよく分からない。原則は委任の場合は,履行割合型の契約で,当事者間で別途合意をすれば,それは成果完成型という報酬合意をすることはもちろん許されるのだろうと思いますので,そのような形のほうが分かりやすいのではないか。限界類型について分からなかったら基本的には履行割合型として処理すれば足りると,そういう考え方に賛成いたします。 ○鎌田部会長 (1)について特に御異論はないということでよろしいでしょうか。 ○山下委員 (1)のイのところですが,商法512条を換骨奪胎したようなものかと思います。ここは委任で,商法512条は委任に限らず,これは他人のために行為をしたとき何でも含むと。事務管理も含むということまで言っていますので,委任に限ってしまうと非常に狭いのですが,後の役務提供契約のところでも対応する規定が提案されているかと。これでかなりカバーされると思うのですが,今の商法512条と比べるとそれでも若干狭くなるところの問題は一応認識しておいたほうがよいのかなと思います。   ただ,一般的にこの民法512条のような形で民法にこういうスタイルを置けるかとなると,なかなか難しいと思いますね。そこはある程度狭めるということで割り切るか,それで無理ならまた商法で何か考えるか,そういう問題ではないかと思います。   それから,ここでは事業者といっていますけれども,67ページの一番下のほうの補足説明の2のところの事業者の説明だと,これは66ページの下の囲みの経済事業を行う事業者というものを意味しているようにも書かれているので,この事業者はそういう一定の企業的なものに限るかどうかと。ここも一つ書き足しておいたほうがよいと思います。この程度の報酬の請求権であれば,経済事業者と言わず,事業者一般でもそうむちゃくちゃ広いということもないのかなという気はしています。一応そういう問題があります。 ○岡委員 (1)については削除し,中立的にするという意見が弁護士会では多うございました。ただ,定義規定を置くときには有償又は無償でという言葉が入ってこざるを得ないのではないかという人もおりました。また,最初の部会で申し上げたような,田舎のおじちゃん,田舎だけではなく都会でも近所の人に頼む,いろいろな事案があるので,現行法でよいのではないかという意見が一部の単位会で強うございました。普通の人同士の間では契約の解釈の中で特別な約束がない限り,報酬は請求できないという規定を残しておいてよいだろう。一般的な事業者間の取引については契約の趣旨及び解釈で請求できる。メッセージ的にも文化的にも現行法を残したいという会が一部ございました。   それから,イについては笹井さんの説明の中で,受任者が事業者である場合には推定するとおっしゃって,その推定には誰も反対ではないのです。しかし,このゴチック体では,合意がない限り義務を負うと書かれており,推定ではないのではないかとの理由から反対意見が多うございました。 ○大村幹事 (2)についてですけれどもよろしいですか。先ほど来,(2)についてこのように二つの類型を設けることを疑問視される見解が出ているかと思いますけれども,その議論の中にはこの二つを同じように並列することがよいのだろうかという問題が一つあると思います。   それから,並列しないとして片方がデフォルトだとしたときに,デフォルトでないほうの類型について何も規定を設けなくてよいのかという,もう一つ別の問題があると思います。仮に何人かの方がおっしゃったように,履行割合型というのが原則だという前提に立ったとして,成果完成型というのがそれなりに存在するというときに,それを全て特約に委ねることにしてしまってよいのかどうか。ある契約が成果完成型であるということは分かる,しかし,それ以上のことについて必ずしも明確なルールがないというときに,その受皿となるような任意規定を置くことは,どちらを原則とするかということとは別に考えられることなのではないかと思います。私個人の意見としては,仮にこの二つについて重み付けをするとしても,それぞれについて任意規定を設けておくことはあり得る選択肢ではないかと思います。 ○佐成委員 経済界の中での意見ですが,(1)アについては特にはございませんでした。イについては,事業者概念の持ち込みという点で問題があるということを指摘する意見がございました。   それから,(2)については,成果完成型について請負との区分が不明確になるということを主たる理由として,疑問視される意見の方がいらっしゃいました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○松本委員 (2)の話なんですが,請負のところでどういう議論をしたのかちょっと記憶が曖昧になっていますけども,請負は完成後に報酬請求という民法の原則を残すということでしたか,それとも途中で支払うというタイプもあるから,それを典型契約として二つ分けて,両方任意規定を置きましょうという話になりましたか。多分,特約で処理をしているのではないですか。 ○笹井関係官 請負のところは,支払時期としては完成後に支払う旨の規定を設けるという提案をしていたと思います。 ○松本委員 しかし,実際には一部前払いとか,途中段階で何回か支払うということがあり,建設請負の場合にはむしろそちらのほうが多いぐらいではないかと思われるわけですが,それにもかかわらず原則として後払いを維持すると。そうすると委任の場合において,現実類型として二つあるから,二つ並列的に書きましょうかというのは少しアンバランスな感じがするということが一つ。   それから,現実類型としてあるから2種類のデフォルトルールを規定したほうがよいという議論の場合に,ではどちらか分からない場合にどうなるのですかという部分が残るわけです。はっきりと特約をしており,成果完成型だと決まれば,そこから自動的に幾つかのルールが多分決まってくるでしょうから,典型的にはこうなるでしょうねという意味のデフォルトルールのセットを条文化することはあり得ると思うのですが,その入口で区別できない場合で,しかし委任であるという場合に,どちらでいくのかというのが正にデフォルトルールのデフォルトたるゆえんなわけで,それが決められないような形の並列規定というのはちょっとおかしいのではないかと思います。 ○中井委員 先ほどの松本委員の意見に賛成をしたわけですけれども,今の意見については大村幹事がおっしゃられた第2の問題についてはなお留保してよいのではないかと私は思います。すなわち,純粋に並列型で二つの一般的規定を置くという考え方には疑問があり,基本は履行割合型として規定すべきである。特約で成果完成型の報酬支払合意をすることはもちろん許される。   そのような場合に,その後に議論される(4)の中途で終了した場合の報酬請求権の帰すうについて,履行割合型の場合はこうなるし,成果完成型で合意している場合はこうなるというルールを置くこと自体,それは大村幹事がおっしゃられた2番目の考え方として十分あり得ると思います。今の松本委員の発言がそこも置かなくてよいとまでおっしゃっているのかを確認したいのですが。 ○松本委員 置かなくてよいという趣旨ではありません。先ほど言いましたように,何らかの手掛かりでもって,取り分け報酬支払い時期についての特約があれば,あるいは報酬特約条件についての特約があれば,そこから成果完成型だということは分かるわけで,それ以外の細かい特約がない場合に,民法の中にセットとして置くか,あるいは民法の中に置かなくても一定のセットとしてのデフォルトルールは十分考えられるだろうと思います。   すなわち,請負の場合に原則は完成後の支払だと民法では規定しておくんだけれども,そうでないタイプの支払方が現実に行われているわけであって,そういう場合に,では途中でトラブったときにどうなるのか等について,それなりのまとまったルールが形成されているわけですから,それらを民法の中に置くか置かないかというのはまた次の問題の議論だろうと思います。 ○潮見幹事 ちょっと確認なのですが,今回の事務局から出された提案も委任全体について当該規律を成果完成型と履行割合型に分けて,二つを並列させて考えていこうというのではなくて,報酬の支払の方法について履行割合型と成果完成型という二つのものであるのではないかという観点からルールを設けようという趣旨ですよね。   そうであれば,今,中井委員とか,松本委員がおっしゃられていた部分と今回の提案の71ページに書かれているものを見て申し上げるならば,(4)のアとイですが,こっちが原則であっちが例外ですという形で整理をすれば,それで必要にして十分だという御発言の御趣旨と理解してよろしいでしょうか。松本委員や,中井委員の大村発言以前のものを前提にした場合には,こういう区別自体を規定で設ける必要がどこにあるのかという観点から問題提起されていたのかと思っておりましたところ,直前に御発言がございましたから,そうであればアが原則,イが例外という形での対応であれば構わないということでしょうか。 ○笹井関係官 補足ですけれども,(2)の提案は,世の中の委任にこういった二つの類型があるということを踏まえて,報酬についての規定を設けてはどうかということでございまして,完全に並列させることを前提にしているわけではなくて,大村先生からも御指摘いただいたように,どちらかをデフォルトにして,一定の特約があった場合にはそのような場面についてのルールを設けることを全く排除しているという趣旨ではございません。 ○鎌田部会長 今の説明はそうなんですけれども,ある意味で(2)というのは(3)(4)の前置きでしかない。成果完成型委任と履行割合型委任という二つの委任の類型があると言ってしまうと,先ほど御指摘があったように,委任と請負との区別も分かりにくくなってくる。これはつまり債務内容の区別ではなくて,支払方式についてこういう特約がなされているが,時期が書かれていないときはどうするか,支払方式についてこういう特約がなされているけれども,中途で終了したときはどうするかというところの,細かい部分でのルールを作ろうという提案であって,委任をこの二つの類型でかっちり分けてしまって,どっちが原則であるかというように委任の法的性質それ自体をここに押し込めようというのはちょっと違うという前提で御議論を頂ければよいのではないかと思います。 ○中井委員 そういう意味で,報酬支払についての合意が何も見えないときには,履行割合型の報酬支払の合意があるということを原則にして,別途明らかに成果完成型の合意があればその規律を置く,それでよいと思っているわけです。そういう意味では潮見幹事の御質問であれば,(4)について,アという規律とイという規律が別途置かれることについて反対するものではないということに結び付きます。 ○鎌田部会長 これはどちらでもない形というのもありますか。一定の仕事はやってください。いわゆる完成に達しなくても最後まで誠実に仕事をすれば報酬は支払いますというようなもの。むしろそっちのほうが古典的な意味の委任になるのかもしれないという気もします。しかし,これはいわゆる成功報酬とも違いますよね。 ○松本委員 それは弁護士の普通の契約のやり方ではないですか。プラスアルファの成功報酬というのが普通行われているやり方でしょうから。したがって,報酬の支払方について特約をするのは自由ですよというだけの話であって,更に遡れば報酬支払の義務はあるんですかというもう一つの論点がありました。報酬を払う払わないというところすらはっきりしない場合に,払わなければならないのかという論点。   それから,報酬を払うということははっきりしている場合に,ではいつ払うのかという論点があって,不明確な場合に最終的にどのルールで処理するのかというのが民法の規定でしょうから,報酬は成功したときにのみ払うという特約が存在することが明確であれば,そういうのを成果完成型と類型としては呼ぶんだというだけの話でしょうから,特約がある場合が成果完成型になる。それ以外の途中解約等の特約がない場合について,民法であらかじめ規定を置いておいたほうがよいということであれば,それを置くということだろうと思います。 ○鎌田部会長 具体的な規定の在り方については分科会で補充的に検討するという提案でもありますので,いろいろ頂戴した御意見を踏まえて提案内容を分かりやすく明快で,しかも弊害がないものにするにはどうしたらよいかということを分科会で検討していただくということでよろしいでしょうか。その際に更にこういう点に留意すべきであるという御意見があればお出しください。 ○中田委員 前回,請負について申し上げたことですけれども,報酬の支払時期の問題と具体的報酬請求権の発生の問題とが混じっているような感じがします。ですから,(2)について(3)(4)との関係で整理し直すんだとしますと,今の点も併せて御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。それでは,ただいま頂戴しました御意見を踏まえて分科会で補充的な検討をしていただくこととさせていただきます。 ○中井委員 最後の(4)のウとエについて,取り分けウ,これは後の任意解除のところで確認したほうがよいのかもしれませんが,ウの中が(ア)と(イ)に更に分かれているわけですけれども,(ア)は任意解除権を行使することができるとき,このときの結論は履行割合に応じた報酬,任意解除権のところでは,任意解除権を行使した場合,相手方が被った損害を賠償しなければならない。この損害の考え方との平仄についてよく分からないところがあります。   これは任意解除のところで議論をしたほうがよいのかもしれません。そこで,確認のためウの(ア)は任意解除権を行使することができるときと,(イ)解除権を行使することができないときに分かれていますが,行使することができないときというのは,解除権を放棄した場合,若しくは期間の定めをして中途解約を認めないような場合,それでよろしいですね,という確認だけをさせてください。 ○笹井関係官 はい。任意解除権を行使することができないということについては,今,中井先生がおっしゃったとおりだと考えておりました。 ○村上委員 (4)のウとエについて意見を申し上げます。ウとエは,結局,義務違反があるか否かによって区別されることになると思いますが,ここに言う義務というものがどういう意味なのか,どういう場合に義務違反があり,どういう場合に義務違反がないことになるのか,明確ではないような気がいたします。共通のイメージを皆さん本当に持っておられるのでしょうか。   そういう共通のイメージがないままこういう立法がされますと,民法典の他のところで用いられている義務とここでいう義務とが同じ意味なのか,ここでは特殊な意味での義務ということになってしまわないだろうかということを危惧しております。 ○中井委員 今の発言に関連して,請負のところでも同じ義務違反と生じた事由というのが出て,次に資料を頂いている役務提供契約のところでも出ている。だからこの三つを通じてどこかでこの議論をしていただきたいと思います。   弁護士会の中ではこの義務違反という言葉について強い反対意見を述べているところがございます。それは帰責事由という言葉との関係でも出てきています。また,委任者側に生じた事由という概念についても,補足説明を読ませていただきますと,危険領域的な言葉として使われているようですけれども,仮にそうだとしても危険領域的な表現として「生じた事由」が,皆さん共通の概念として理解できているのか。そこには疑問を呈する弁護士会がございますので,議論の場を設けていただきたいと思います。 ○佐成委員 (4)のイの部分についてですけれども,前回も,請負のところで申し上げましたとおり,現行法は報酬だとか代金だとか利益だとかの用語を,かなり文脈に応じていろいろ使い分けているので,分かりにくくなっている部分があるように感じます。例えば,これは現行法そのままではありますけれども,ここには「既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる」となっているわけですけれども,その前のところに,「既にした委任事務の処理の成果が可分で,それによって委任者が利益を受けるときは,受任者は」となっているので,「受けた利益に応じて報酬を」と書くのが素直なようにも思うわけです。けれども,ここは「履行の割合に応じて報酬を」となっているという具合に,分かりやすさの点で問題があるのではないかと思います。   現行法の立て付けを一から全部見直せということではないですけれども,もし分かりやすくできるのであれば,そうした用語法の辺りもいろいろ検討していただければということでございます。 ○松本委員 ウとエが議論になっているわけですが,アとイは履行割合型か成果完成型による区分のデフォルトルールですね。ウとエに関しては二つのタイプに分けないで,共通的にウとエがデフォルトになるという趣旨で事務当局は起案されているんでしょうか。ウとエも実はどっちかのタイプを念頭に置かれているんですか。   というのは,エを見ればはっきりしますが,履行割合型であればエのルールなんて要らないです。当然の話だから。そうすると,エがわざわざ置かれるのは成果完成型の場合に委任者側に生じた,例えば住宅を探してくれという依頼をしていたけれども,必要がなくなったという場合に,成果完成型であっても一定努力してくれた分については報酬を払わなければならないという,成果完成酬型特約の場合についてのみ意味があるルールとしてエを考えられているということでしょうか。 ○笹井関係官 エについて申し上げますと,エは特に履行割合か成果完成かということに分けて規定はしておりませんけれども,おっしゃったとおり,履行割合型の場合には原則と一致するということです。成果完成型についてだけ意味があるというのはそのとおりだと思います。 ○中井委員 だとすると,どこに意味があるのかというと,成果割合型であっても,可分であり,委任者に利益があるときはイで解決しますので,結果的にエに意味があるのは利益がないときであっても報酬できる,その点に意味がある。それは請負においてもそれは成果完成型ですけれども,途中で危険が発生して,それ以後の履行が不能となった。そのときの危険負担について,利益がない場合であっても請負人に報酬請求を認める。   今までは成果完成型であれば請負を典型として報酬請求ができなかった場面で,請負人に保護を与える。請負の場面ではそうですし,ここでは受任者に成果完成型であっても委任者側に生じた事情の場合に報酬請求を割合的に認める。この救済規定だと思うのですが,この当否についてはほとんど議論がされていないように思うのです。弁護士会の中ではその場面まで救済規定は要らないではないかという意見と,ここでの提案の考え方についても一定の合理性があるのではないかという意見,委任者側でリスクが顕在化したにもかかわらず,受任者側が全く割合的にも報酬できないのは酷ではないかということで,こういう調整規定を積極的に評価する意見もあるのです。   この点について,請負のところでも余り議論が出なかったとように思いますが,是非皆さんにお聞きしたいのですが。 ○鎌田部会長 安永委員からは厳し過ぎるという御意見を頂いたところです。 ○笹井関係官 ちょっとその点の補足ですけれども,今,中井先生は,エの規定は今まで報酬請求できなかったものについての救済規定ではないかという御指摘を頂きましたけれども,それは今まで536条2項の帰責事由がどういうふうに理解されてきたのかということに関係してくるのだと思います。536条2項の帰責事由の範囲が少し曖昧でもあるので,ある立場から見れば中井先生がおっしゃったように救済規定であろうと思いますし,ある立場から見れば今まで100%もらえたものがその履行割合しかもらえないと,削減されてしまうということなのかもしれません。その点については,むしろ実体としてどういう解決が適切なのかということを正に御議論いただきたいということでございます。 ○中井委員 そうすると生じた事由と義務違反についての概念整理が更に重要な意味を持ってくると思いますし,雇用のところに入ればいよいよ帰責事由で解決されている場面が,義務違反と生じた事由について,使用者側の危険領域についてどこまで含むのかという議論に横並びに関連してくるものですから,問題意識としては笹井関係官がおっしゃられたことだと理解をしております。   ただ,請負の場面,役務提供の場面,委任の場面では,従来ではここで例示で挙げられている生じた事由については,債権者側に帰責事由のある場面ではないと思いますので,私としては救済が広がっていると理解をしました。   他方,雇用に関して言うならば,救済が狭まる定義付けになっている可能性がないわけではない。これが安永委員の御説明だと理解をしております。そういう理解が正しいのかどうかも含めて,是非意見を頂きたいと思いました。 ○松本委員 先ほどの最初に議論した履行割合型と成果完成型の切り分け,あるいはどちらが原則でどちらが特約かという議論と,ここのエは相当つながってくるという印象を持っております。すなわち履行割合型というのが委任の原則類型であって,そうでない類型も特約をすればできるんだということだとすると,成果完成型の特約をわざわざするということは,どちらかというとエのタイプで委任者側に生じた事由の部分については委任者に負担をさせないという前提の下に成果完成報酬にしているという推測も働くのではないかなと思うわけです。   それが嫌なら本来型にすればよいわけだから,最後に成約したときだけ報酬をたっぷりいただきますという契約でやるということは,途中でエのような事情で成果の完成ということができなくなるとリスクは,その特約の中に含まれていると考えられなくもないと思います。 ○潮見幹事 言い方に迷うのですけれども,先ほど中井委員がおっしゃられたところについてちょっとだけ申し上げます。   ここの説明,整理の仕方は笹井関係官がおっしゃったとおりだと思います。ただ,536条2項の責めに帰すべき事由ということが一体どういう意味を持っているのかということについては,議論があると思います。実際に536条2項が最近使われるケースというのはほとんど雇用,あるいは雇用に比較的近い形の請負でして,そこでの責めに帰すべき事由というものの捉え方自体に関しては,一方でここでいうところの義務違反のような趣旨で捉えているものもあり,他方で領域説的に理解をするのが好ましいのではないかという裁判例もあったと思われます。   そういう意味では,雇用のところでこの部分についてどういう仕切りをするのかというのは,雇用固有の問題としてまず考えておく必要があろうかと思います。そのときには仮にここのエに当たるような部分に関して,このようなルールと同じようなものを設けるということになれば,先ほども少しお話がありましたように,従来もし仮にそれが536条2項の適用問題として処理されていたならば,これが報酬を丸々もらえていたものが丸々もらえなくなるというような,一種の現行法と比較した場合の制約ということになろうと思います。   したがって,議論する必要があるのは,むしろこれは労働関係でお詳しい方がおっしゃっていただいたほうがよいと思うのですけれども,536条2項が労働契約,雇用契約,あるいはそれに類似の請負契約で使われている場面で,果たして帰責事由というものが義務違反プラスアルファのように捉えられてよいのかどうかでしょう。この点については,また議論があると思うので,その考え方次第によったら違ったことになります。エのようなものを支持する人たちから見た場合には,これは従来ならば報酬請求権が発生しないにもかかわらず,ここでは割合的な部分にせよ,報酬が認められるという形のルールが今回新設されることになるということになるでしょう。それでよいのかという形の議論になっていくと思います。   問題はここから先で,今申し上げましたように,536条は確かに一般規定としては存在しておりますけれども,実際に我が国で使われているのはある一定の特例の契約類型に限られています。そういう場合に,役務提供全般に同じような考え方として妥当させてよいのかというかどうかは,これはここで考えて決着を付けるしかないのかなと思います。エのような考え方というのも,政策判断としてはあるのかなというところも個人的にはないわけではありませんが,果たして本当にそれでよいのか。実務的にも納得のいく解決ができるのかというのは少し考えなければいけないと思います。   536条2項の元になったのは,記憶違いでなければ,この部分に限っていえばドイツ民法の考え方であろうと思います。ドイツ民法でいうところの債権者の責めに帰すべき事由というのは,元々は義務違反のような観点から立てられていたことは間違いないと思うのですが,ただ彼の国でも,そこにいうところの責めに帰すべき事由というものが,債務者の責めに帰すべき事由と同じかどうかということについては議論がございます。その意味では,どういう形で報酬請求をどういう場合に認めたらよいのかを議論して,これが創設規定になるのか分かりませんけれども,エのような規定が望ましいということであるならば,ここで設けたらよいと思います。 ○山川幹事 雇用と民法536条2項につきまして,また申し上げる機会があろうかと思いますので,ここではエに関して1点質問させていただければと思います。   補足説明,76ページではエの御提案が民法648条3項に相当すると書かれております。質問といいますのは,648条3項の場合は要件が受任者の責めに帰すことのできない事由と書かれておりますけれども,これに対してエのほうで委任者側に生じた事由と若干議論になってはおります要件になっています。もしこの二つが同じであるかどうか。これもお伺いしたいのですが,同じであるとすると,むしろエのほうの要件が狭まっているような感じがいたします。   75ページにある自宅が滅失した事例ですが,恐らく両者で差があると考えられるのは,自宅の滅失が天災地変によって起きた場合ということで,その場合は受任者の帰責事由は恐らくないということになると思いますけれども,委任者側に生じたとはいえないのではないかという感じがしますので,むしろエのほうが狭まってしまうような感じもいたします。ちょっと門外漢なので,誤解かもしれませんけれども,この責めに帰することができない事由という民法648条の要件と,エの委任者側に生じた事由というのは,実質同じことを指しているのか,それとも違うのかについてお伺いできればと思います。 ○笹井関係官 いえ,そこは全く同じというつもりではございませんでした。ただ委任については今648条3項がこういう規定を設けておりますけれども,そのほかの,例えば請負など他の契約類型と整合性を図るような形で規定を設けてはどうかということで,こういった提案をしたということでございます。 ○山川幹事 ということは,エのほうが要件としては限定的であるという理解は,これはこれでよろしいんでしょうか。 ○内田委員 委任は通常履行割合型になっていると思いますが,その場合は648条3項と結論は全く同じではないかと思います。ただ,成果完成型の特約があった場合でも,委任者側に生じた事由によって途中で駄目になった場合には,そこまでの報酬が取れるというのは現行法上は出てこないことだと思いますので,そこは広がっているのではないかと思います。 ○山川幹事 ありがとうございます。つまり,現在の民法648条3項の適用範囲の問題で,それを修正するという趣旨ですか。 ○内田委員 はい。 ○山川幹事 ありがとうございます。 ○山野目幹事 御議論のありますイ,ウ,エを通じて,分科会でなお今の意見交換などを参考にして細部をお詰めいただくと想像しますが,その際の検討などにおいて,小さなことですが,言葉遣いのことでのお願いがあります。履行の割合というときの割合という言葉が議論を混乱させるというか,誤解のあるイメージをもたらしかねない部分があるように感じます。完成型と履行型とかと言葉を整理していただいたほうがよろしいのではないかと感ずる部分がございます。割合という言葉を使うと,何か全部は取れないのですよ,というイメージが元々そこに内包されているような意味合いを持ちますけれども,部会資料でも履行割合型と言われるときの括弧の外の説明では,全部が取れなくて一部だというニュアンスではなくて,役務の提供そのものに対して報酬が支払われるという概念整理がされているものでありまして,ここのイとエのところも割合に応じたというよりは,受任者が受けた利益に応じ,あるいは利益とみなされるものに応じて報酬などが支払われるということを伝えようとしていることが基本的趣旨であると感じますから,この点など平明な言葉遣いになるように,ということのほうも留意しながら御議論いただくことがかなうと有り難いと感じます。 ○鎌田部会長 中田委員,よろしいですか。 ○中田委員 山川幹事と同じようなことでしたので結構です。 ○道垣内幹事 確認だけなのですが,山川幹事の御発言中,家屋が天災地変で滅失した場合に,自宅の売却に当たっての媒介をしている人がそこまでしたことについて報酬が取れるかということに関して,天災地変で発生したときには委任者側に生じた事由ではないという御理解を示されたと思うのですが,そのような理解と,この資料が前提とするところの理解は同じなのでしょうか。私はそれは正に委任者側に生じた事由であると思っていたのですが。 ○笹井関係官 今,道垣内先生がおっしゃったとおりで,この部会資料を書いた趣旨としては,ここに挙げた例は委任者側に生じた事由という趣旨で記載したものでございます。 ○山川幹事 そうすると,今回の津波とか震災で工場が焼失したり滅失したりした場合にも,労基法26条の債権者の責めに帰すべき事由というのは債権者に起因する事由と解されていますが,そういう場合も6割の休業手当を払わないといけないんでしょうか。労基法26条の広義の帰責事由では,天災地変で工場が滅失した場合は6割の休業手当も払わなくてよいというのが一般的な理解なので,ここでの言わば委任者側に生じた事由というのはそれから比べるとかなり広いという理解になるんでしょうか。 ○潮見幹事 536条2項で義務違反プラスアルファといった部分の理解というものをもう少し詰めて考えなければいけないのではないでしょうか。つまり,536条2項で雇用とかそれに類似する場面で,どういうふうに帰責事由が考えられているのか。先ほど義務違反プラスアルファと申し上げました事由が,ここでは委任者,雇用では使用者側の領域で生じた事由というように広く捉えているのか,それとも,雇用契約においてもプラスアルファの部分は実はそれほど広いものとしては捉えられていないのではなかろうかという問題です。   実際の裁判例などを見ますと,義務違反とはいえないけれども,領域思考的な形で捉えているのかといわれると,なかなかそこまでも言い切れないのではないかという印象を個人的には持つところがございますので,そうであるならばなおさら,委任,その他の役務提供の場面で果たしてそういう領域的な表現で考えてよいのかという問題は残ってこようと思います。   そういう意味では,先ほど山野目幹事のお話にもありましたが,分科会などで一体どういう文言が,何ていうのか,余り誤解のないような形で,しかも分かりやすい表現でできるのかというのを少し御検討いただければと思います。   それと同時に,仮にそれが難しいからといって,今の現行法の責めに帰すべき事由などという言葉を使うということになると,これはかえって話を曖昧に先送りにするということもありますから,それだけはできれば避けてほしいなということも併せて申し上げます。 ○松本委員 (4)のウとエの関係についてです。ウについては(ア)(イ)ということで,委任者が任意解除権を行使することができるときとできないときに分けて報酬請求を規定しているわけですが,エについてはその二つの分類がされていないのは,これはあえてしていないのか,それとも当然ウの次にあるんだから,エには書いてないけれども,やはり(ア)(イ)の分類が前提なのかという点をちょっと確認したいんです。   というのも,領域説というのは元々雇用のところから出てきていて,雇用で問題になるのはまだ働いていない部分の報酬がどうなるかということであって,働いた部分については工場を閉鎖しようがもらえるのは当たり前だと思うわけです。   エというのは正にまだ,これは働いた部分の報酬はもらえますというだけであって,雇用における領域説のアナロジーからいけば,成果が完成したら得られたであろう報酬まで取れるということになるわけなのです。ところが委任は任意解除権があるから,任意に解除できる場合は報酬を取れないこともあるということで,ウにおいては(ア)と(イ)ということで,任意解除権がある場合とない場合で分けて丁寧に書かれているわけですが,エはそこを分けていないというのが少し不十分ではないかという気がするのですが,そこはいかがなんでしょうか。 ○笹井関係官 エは元々働いた分だけがもらえる,働いていない部分はもらえないということですので,ウの(ア)(イ)のような区別は設けていないということです。 ○松本委員 使用者側に生じた事由の場合には報酬請求できる,労働者側の事情の場合にはできないというように,正に将来働けない部分についての報酬請求ができるできないというところで,雇用の領域説は議論しているわけです。そうすると,エにおいて履行割合型で履行した分の報酬をもらえるというのは当たり前のことだから,領域説などと言う必要もないわけです。わざわざここで領域説的発想を入れたのは,先ほどのお話だと成果完成型であって,本来はもらえないはずの報酬の部分について領域説発想を入れてもらえるようにしようということですが,実際に働いた部分を払ってもらうだけだと,領域説と言えるかどうか若干疑問なぐらいであって,委任者側に生じた事由で履行が不可能になった場合は,将来最後まできちんとやれば得られたであろう報酬まで請求できるとしないと非常に中途半端になると思うんです。   任意解除が可能なタイプの場合は,正にウの(ア)履行した割合に応じた報酬に相当する金額しか取れないということでつじつまが合うわけですが。任意解除できないときはという(イ)であれば,領域説的に考えればもっと先の分まで請求できてもおかしくないと思うのですが,いかがなんでしょうか。 ○山本(敬)幹事 今の点は,中井委員が最初のほうで,任意解除権の規律と平仄が合っているのかということを示唆されておられましたので,そこで併せて議論する必要があるのではないかと思います。   それと同時に,少し付け加えたいのですが,最初のほうにも出ていましたように,全体の構成をある意味では分かりやすく示していただいているのですけれども,別の観点からきちんと整理し直さないと,それぞれのルールの持っている意味が分かりにくくなっているのではないかと思います。それも含めて分科会で検討していただければと思います。  考え方としては,デフォルトルールが履行割合型に当たるものだとしますと,(4)のアで,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができるというのがデフォルトルールであって,ただし,成果完成型の合意がある場合は,この原則は適用されないということをまず明確にする必要があると思います。つまり,成果完成型の場合は,履行の割合に応じて報酬を請求することはできないのが原則であるということをまず確認する。   そうしますと,履行の割合ではなく,当初予定していた報酬全てについて請求できるのはどのような場合かということが次の問題になります。それを規律しているのが,イだと思います。アとイを区別してよいのかという点は後で議論すればよいと思いますが,まずはこのようなルールが定められている。   そうすると,問題は,成果完成型の場合で,全額ではなく,履行した割合について報酬を請求できる場合を認めるかどうかですが,これを規律しているのがイとエになっているのだろうと思います。  このうち,イは,従来の判例法で認められていたものを明文化しただけですが,エは,新たな提案になっていています。そして,領域説は,飽くまでも全ての報酬が取れるかどうかを問題として議論されてきた問題なのですが,ここでは,成果完成型からすると,本来は認められないはずの割合的な報酬を請求できる場合を特に認めようというものです。したがって,これは,一種の契約改訂に当たるものを認める例外ルールを新たに創設しているわけで,その根拠が問題になっているのだろうと思います。そのような形で整理して議論し直さないと,少し混乱してしまうのではないかと思った次第です。今のような整理になっているかどうかも含めて御検討いただければと思います。 ○山川幹事 今の山本敬三幹事と同一の趣旨かと思いますが,ウは多分,履行不能が生じた場合の不能になった部分に対する報酬の問題で,エは既履行部分に対する報酬の問題で,それで多分内田先生の先ほど言われたことからしますと,履行割合型については当たり前で,雇用について536条2項を適用するのは多分ウに相当する不能になった部分の問題であるということで,私の理解ではエについて任意解除権の行使が可能かどうかについては,既に履行済みの部分に対する報酬の問題なので,要らないのではないかと考えております。 ○内田委員 整理としては山本敬三幹事がおっしゃったとおりで,それが分かるように書けと言われたのですが,読んでいただければ分かるように書いたつもりなのだろうと思います。   同じ資料の5,6ページの(2)に請負の話が出てきますけれども,このアとかイに対応する事柄を書いているわけです。松本委員から雇用の領域説との関係を詳しく指摘されたのですが,雇用は固有の問題もあると思いますので,雇用のところでやはり議論したほうがよいのではないかと思います。   冒頭で安永委員からも,委任には非常に雇用的なものもあるという御指摘がありましたけれども,取りあえずは純粋の委任を想定して,雇用的なものはやはり雇用に引き付けて解釈されると思いますので,純粋の委任について請負的な報酬の支払の特約があるという場合であっても,場合によっては,つまりエの場合には既に履行した部分についての報酬が取れるというルールを作ろうということで,これは新設であるというのは山本敬三幹事御指摘のとおりです。そういうルールを請負のところのルールと整合的にこちらにも置くという提案です。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。ただいままでに御指摘いただいたような点を踏まえて,分科会に補充的に検討していただきたいと思います。ここで休憩にします。           (休     憩) ○鎌田部会長 再開させていただきます。   次に,「4 委任の終了に関する規定」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「4 委任の終了に関する規定」「(1)委任契約の任意解除権(民法第651条)」では,両当事者はいつでも委任契約を解除することができるという原則を維持した上で,委任が受任者の利益をも目的とするものである場合には,委任契約を締結することによって受任者は契約で予定された利益を取得することができるという合理的な期待が生じており,これを一方的に失わせるのは適当でないと考えられることから,この場合には受任者に対して損害賠償義務を負うという規律を設けることを提案しています。   「(2)委任者死亡後の事務処理を委託する委任(民法第653条第1号)」では,当事者が死亡した後の委任契約の効力を取り上げるものです。当事者の死亡によって委任は終了すると規定する民法第653条第1号は任意規定ですが,遺言制度など,他の整合性を考えると,当事者の合意によって無制限に死後の委任が有効となるわけではないと考えられます。   そこで,どのような委任契約であれば当事者の死亡後も有効であるかを条文上明確にするという考え方もありますが,その有効性は委任事務の内容や遺言制度の趣旨などを考慮して判断する必要があり,有効性に関する一律の規定を設けることは困難であることから,新たな規定は設けないことを提案しています。   「(3)破産手続開始による委任の終了(民法第653条第2号)」は,委任契約は当事者が破産手続開始の決定を受けたことによって終了するという規律を見直すかどうかという問題を取り上げるものです。   アは委任者が破産手続開始決定を受けた場合に関するものですが,これが委任の終了事由とされた趣旨を踏まえ,この場合に委任が終了するのは委任者の財産の管理及び処分を目的とするものに限るという考え方を取り上げています。   イは,これを前提とすると委任者が破産手続開始決定を受けても存続する委任契約があることになるため,契約の解除・報酬・損害賠償について民法第642条と同様の規律を設けるという考え方を取り上げています。   ウは,受任者の破産手続開始の決定を受けた場合に関するものであり,この場合には委任者は委任契約を解除することができるという考え方を取り上げています。 ○鎌田部会長 ただいま御説明がありました部分につきまして,一括して御意見をお伺いします。 ○中井委員 この(1)ですけれども,ゴチック4行についての弁護士会は,基本的にこのような考え方に賛成であるという回答になるのです。ただ,この補足説明に書かれている損害賠償の範囲について確認をしておきたいと思います。   78ページのところの2では,受任者の利益を目的とするという概念については幅があるけれども,従来どおりこの概念を使う。それを前提として,解除したときの損害賠償の範囲として2の第3段落の3行目から,結局約定の報酬から受任者が債務を免れることによって得た利益を控除したものとする,このような考え方が示されているわけです。   他方で,3では受任者の利益を目的とする究極の場面で,基本的には任意解除権を有しない場面という整理をされているかと思います。   そこで,先ほどの前の71ページの(4)のウのところの規律との関係で質問を留保させていただいたのは,ウは委任者に義務違反がある。義務違反にも様々なものがありますが,解除権の行使がその究極だとすればそのときの平仄ですが,ウの(ア)は任意解除権を行使することができるときとされていますので,78ページでいうならば,2の受任者の利益を目的とする場合も解除ができる場面ですから,入るように理解できます。71ページのウの(イ)は解除権を行使することができないとき,つまり任意解除権を放棄した場合,若しくは任意解除権を有しない特約がある,若しくは期間の定めがあって中途解約ができない場面などが想定されるかと思うのです。そうだとすると義務違反の場合は,任意解除権がある場合は将来利益については合理的期待がないと恐らく考えて,履行割合の報酬のみと考えているようです。他方で78ページの任意解除権を行使した場合,受任者の利益を目的とする場合については,将来利益を期待できるとして,損害賠償の範囲を基本的に約定報酬全額,そこから免れた利益はもちろん控除しますけれども,としている。ここの平仄が合っているのかどうか疑問だったものですから,教えていただければと思います。 ○笹井関係官 71ページのウで,(ア)(イ)を分けた趣旨ですけれども,結局71ページの(4)のウのところで賠償させるべき範囲は,その契約からどういう利益を得られるか,どういう利益の範囲であれば合理的な期待が生じているのかを考えていくという考えが基礎にありまして,任意解除権があるかないかでこういった区別ができるのではないかと考えたために,(ア)と(イ)を分けているということです。   ただ,今,中井先生からも御指摘がありましたように,任意解除権の行使ができる場合の中にも,その契約から取得できる利益には様々であり,また任意解除権が行使できるかできないかも特約によって様々なパターンがあり得ると思いますので,そういう意味では,71ページのウの基本的な考え方としては契約からどういう範囲の利益であれば合理的な期待が生じていると言えるかを基礎に据えて考えていくということだと思うのですが,(ア)と(イ)のような分類の仕方が適切かどうかを含めて,もう少し考える必要があるかなと思っているところです。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。 ○中井委員 はい。先に進めていただいて。 ○鎌田部会長 ほかの御意見ございましたら。 ○岡委員 委任の今の任意解約の場合の損害賠償については,相手方が被った損害を賠償しなければならないという抽象的な規定にしておりまして,請負の任意解除の場合の損害賠償の定め方としては,全額の報酬から免れることができた利益を控除すると書いてあります。その違いは78ページを見ますと,受任者の利益は報酬だけではないから,これを超える部分の賠償も必要になると考えられるので,請負よりも委任の場合のほうが損害賠償が多くなるので書き分けたということなんでしょうか。   そうだとすると,受任者の利益で報酬だけではなく,こういうふうに書き分けるほど類型的に出てくる損害の費目というのはどんなものなんでしょうか。この二つの質問をさせてください。 ○笹井関係官 受任者の利益としてどういうものがあるのかについて直ちに提示できるものはないのですけれども,ただ,受任者の利益をも目的とする委任について,任意解除権を行使できるかどうかについては,昔から判例の展開があり,判例が変遷してきているという評価もありますが,有償であるということだけではここにいう利益に該当しないということでは一貫しているのだと思います。そういう意味で,報酬に収まり切らない利益があるということは,今まで判例の展開から見ても否定できないのではないかと思いまして,そういうことを念頭に置きながらこの補足説明を書いたのだと思います。 ○内田委員 請負の場合の解除権というのは,これはいろいろな説明の仕方があると思いますけれども,基本的には損害軽減義務のような発想が背後にはあるのだと思います。注文者にとって不要になった仕事をあえて続ける必要はない。社会的にも無駄なことですので。解除権は認めるけれども,しかし一方的に解除する以上は約束した報酬を払いなさいということなのだと思います。   委任の場合は基本は信頼関係がベースにあるので,信頼できないというのであればそういう損害賠償なしに契約を自由に解除できるということになっていますが,しかし受任者の利益にもなる委任,例えば担保目的の取り立て委任が例に挙がっています。それから,これはちょっと最高裁判決とは違った発想なので,適当な例かどうか分かりませんけれども,最高裁の事案でいうと賃貸されている建物の管理を委ねられて,一定のまとまった金額の預託も受けているような管理会社の利益が,報酬が一定額支払われていたとしても,必ずしもその報酬だけに限らない,一定のまとまった額の金銭の預託を受けることによって,管理委託契約の契約書に現れていない利益が当事者間で合意されているような場合があり得るのだろうと思います。   そういったものも一方的に解除することによって全て奪われますので,一方的に解除されたことによって生じた損害であるということが証明されれば賠償の対象になるということではないかと思います。そういう意味では少し請負の場合とは違った発想がここではとられているということではないかと,私は理解しておりました。 ○高須幹事 今,中井先生,岡先生から指摘があったように,ここで受任者の利益を目的とするということをどう考えるかにもよると思うのですが,ややもすると受任者の利益を目的とするという抽象的な概念は広く捉えられる危険があるのではないかと思います。   そのときに報酬及び更にその報酬を超える何がしかの利益まで認められるかのような規定を原則的に設けるということについて,本来なら無理由解約ができることを前提としている委任契約において,それを損害賠償ということで調整するというところまではよいとしても,損害賠償の額が大きくなり過ぎはしないかという危惧が弁護士会のバックアップ委員会の中では出ておりまして,それで請負との比較において同じような立て付けでよいのだろうか,あるいは請負以上のものが認められるかのような表現がよろしいのだろうかということが疑問として出てきているところでございます。   具体的にどうしたらよいかということは,もちろんよく考えねばならないのですが,ここで従来,委任は自由に終了させることができるとしたものを,一旦受任者の利益を目的とするような場合にはそうではないという制限法理が働き,更にその後今度は損害賠償という形で解決していこうという流れに判例はなってきたのではないかという漠然とした理解をしておるんですが,その場合の損害賠償の中身に関してもう少し慎重に考える必要があるのではないかということが,やや弁護士会の中の議論を通じて気になったところということでございます。 ○深山幹事 先ほど中井先生から指摘のあった「平仄が合っているか」という点については,私も同じような疑問を持っていて,それに対しての笹井関係官からの取りあえずのお答えが,中途で終了した場合のところの規律を見直そうかというニュアンスであるように私はお聞きしたのですが,どちらかというと見直すべきなのは71ページのほうでなくて78ページの今のここの部分の議論のほうなのではないかなと思います。   任意解除権が行使された場合の損害賠償の範囲のほうが果たして今の補足説明のとおりでよいのかなと感じており,こちらのほうについて,どこまで賠償するかという点がしっくりこない原因のような気がいたします。   そのこととも関係するんですが,ここで書かれている任意解除権の行使を認めるとしても,受任者の利益を奪ってはならないということに関して言えば,受任者の利益というのは具体的に何なのかということが問題になって参ります。これは報酬の一部だと思うのですが,報酬であれば所詮お金の問題なので,損害賠償という形で填補すれば,それはそれでバランスがとれるんだと思うのですが,これを超える,あるいは報酬以外の利益もある場合を想定すると,考え方としてはそこも金銭的に調整するということもなくはないんでしょうが,むしろ在り方としては,報酬以外の利益をも受任者がそこで得るような契約の場合には,任意解除権自体が認められない,解除を認めないという方向でバランスをとってもよいと思います。実務的には合意によって一定の金銭的な賠償を条件として合意解除が成立することはあるんでしょうけれども,それは合意の問題ですから,法の規律としては,報酬以外の利益がある場合には任意解除権そのものを認めないということでバランスをとって,報酬を奪われるという利益に関しては,賠償という形で金銭的に調整をするとしてはどうか。   こんな形で,そもそもどこまでの報酬が賠償の対象となるのか,それが全額の報酬なのか,履行割合に応じた報酬なのかというところを考えていくというような整理がよろしいのではないかという気がいたしました。 ○松本委員 深山幹事の意見と基本的に近い発想なのですが,78ページのところでの報酬を超える損害というのが何となく分かりにくいです。タイプとしては最大限報酬額が取れればよいものと,それからそもそも任意解約ができないという,担保目的のものが一番はっきりしている,この二つというのは大変分かりやすいわけですが,その間にもう一つ,任意解約はできるが報酬を全額払ってもまだ足りない,もっと損害賠償を払えというタイプのものがあるというのが分かりにくくて,内田委員が紹介された例の場合,それを委任と性質決定するのが果たして適切なのかどうか。すなわち不動産の管理は委任なんでしょうが,それに併せて非常に巨額のお金を無利子で自由に使ってもよいという特約が付いている部分について,委任の一部だから自由に解約ができる。しかし,それだと無利子で巨額のお金を自由に使えるという利益が害されるから,その分一定の金額で損害賠償を認めるべきだという判例があるという御紹介だったわけですが。   全部が委任で任意解約できると考えるのが適切なのか。それとも深山幹事がおっしゃったように,そもそもそういうタイプの場合解約できないと考えるべきなのか。それとも一つの契約ではなくて別々のものであって,不動産の管理委託の部分は自由に解約ができるけれども,巨額のお金を無利息で自由に使っていいという部分は別の契約であって,委任のストレートな論理は適用できない。   全部合わせて委任と考えるから,第3タイプとして報酬全額プラス損害賠償が必要だということになってくるので,二つを分けて金銭の無償での消費貸借については,解約については別途損害賠償を取れる場合もあるとするのがすっきりして分かりやすいのではないでしょうか。 ○内田委員 今の御意見で,深山幹事の任意解除権自体を制限すべきではないかというお考えは,私は解釈論としては非常に共感を覚える考え方です。下級審を含めてそういう方向で任意解除権を制限する裁判例が重なってきた中で,最高裁は委任はやはり基本は信頼関係をベースにしているので,信頼できないというときに認められている解除権を制限すべきではない,生じてくる問題は損害賠償で処理できるではないかということで,広く解除を認める方向にかじを切ったわけです。それをベースにしてこの案が作られています。もちろん,最高裁の考え方はおかしいから新規にルールを作れということであれば,御提案いただければよいとは思うのですが,現在の判例,56年判決を元にしてルールを作るとすれば,こうなるのではないかと思います。   他方で,56年判決の事案を松本委員がおっしゃるように,細かな利害関係ごとに分割して,ここは委任で,ここは準委任,ここは消費貸借,あるいは寄託というような形で分解するのも魅力的な考え方だとは思いますが,今までは委任というのはやはり法律行為の委任を含む全体としての仕事を一つの契約として捉えて処理をしてきたと思いますので,その裁判実務の発想を踏まえて考えたときにはこういうルールになるのではないかと思います。ですから,これに異論があり得るというのはもちろん分かるのですけれども,判例の基本的なルールを明文化するということであれば,やはりこうなるのではないかと思います。 ○松本委員 今の場合,巨額のお金を保証金名目か何かで預けているんでしょうか。お金を自由に運用してもよい,無利息だ,収益はあなたが全てもらってもよいというのは,そこだけ切り離したら委任ではないと思うんです。不動産の管理契約の一部として,損害賠償に備えての保証金的な性質のお金が動くということはあるんでしょうが,それを超える部分についてまで全て委任契約の一部だと無理に考えなくてもよいのではないか。最高裁が無理に考えているのだから,私が否定しても意味がないのですが,幾つかの契約に分けたほうが今の場合は分かりやすくて議論もしやすいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 そうはいっても実態としてそれぞれ別々の運命に服させるというのもこの精神に全く反してくるのでしょうから,一体として処遇する際に運用益みたいなものをどう処理するかが一つの課題になるだろうと思います。他方で,ここの規律との関係でいえば,報酬を超える利益も賠償するというのが一般化されるとどこまででも広がりそうに見えるけれども,今の例でいえばそれはワンパッケージだし,ある意味では運用益が実質的な報酬の相当部分を埋めているような関係に立つので,報酬を超える利益がそれほど広がりを持つものではないのだということが何らかの形ではっきりする。直接的な利益だけということが分かるような,これも解説の中で書く以外にないのかもしれませんが,そういう部分を考慮に入れるのも一つではないかと思います。 ○中井委員 補充ですけれども,先ほど71ページと78ページとの関係でいうならば,深山幹事から指摘がありましたように,私も71ページを適切だとすれば維持し,78ページの損害論について考え方を整理してほしいと思います。   その趣旨は二つで,一つは損害を超える報酬,利益について,委任契約について信頼関係に問題が生じたから解除権を一方で認めながら,報酬を超えた利益についてまで当然に請求できるのが,果たしてよいのかという疑問があります。   二つ目は,損害賠償の範囲の78ページの3段落の「したがって」からの3行ですけれども,これはすべきであると断定的に書かれているんですけれども,果たして約定報酬全額が原則なのかということについても,留保が必要ではないか。71ページの関係でいうならば,お互い解除されることがあり得るのだから,合理的に期待できる利益としては出来高までの部分というのが71ページのところでの原則とすれば,78ページの損害賠償の範囲を補足説明に断定的に書かれることについて,見直していただきたいと思います。   立法提案としては,ここは請負と違いまして,損害についての案を書かないようですので,本文として損害賠償をしなければならないに,とどまるのかもしれませんけれども,留意をお願いしたいということです。 ○松本委員 鎌田部会長が御説明されたような,巨額の金銭の運用益が委任の報酬として想定されているというタイプであれば,全く反対はしませんが,それなら報酬だというだけの話なのでしょう。私はこの文章を読んで,報酬はきちんと将来の分も払ってもらうんだけれども,それ以上に更に損害賠償をたっぷり取れる場合があるんだと読めたものですから,それを委任の中で処理するというのは問題ではないかと。むしろ委任とは別の,どういう理由か知らないけれども,無償で巨額のお金を自由に運用させて,もうけは相手方が全部もらってもいいという贈与に近いタイプの契約があったとして,それを一方的に取りやめて,お金を直ちに返せという場合に,では損害賠償が取れるのか取れないのかについて,委任とは別に考えるほうが議論がしやすいのではないかということです。   ただもう一点あり得るとすれば,運用益を報酬に充てるということになっていたんだけれども,例えば株式相場等が低迷しておって,本来想定されていた報酬額にまだ満ちていないから,ここで任意に解約されて運用できなくなると,当初想定されていた報酬として十分でないんだという事情が万一あるのであれば,それはむしろ本来想定されていたであろう金額の報酬についてはきちんと払ってもらえるという形で処理をすればよいのではないかと思います。 ○岡委員 先ほどの中井さんの意見の補足ですが,損害を賠償しなければならないという結論に弁護士会は賛成でございます。請負のほうもむしろそうすべきだという意見でございます。それはなぜかといいますと,損害という表現の方が,減額できる柔軟性が出るということでございます。特に委任の場合,先ほど内田先生が信頼関係が壊れたからもう維持させる必要はないということをおっしゃいましたけれども,その信頼関係破壊にはお互いの事由があるわけで,受任者のほうにも悪い場合があるときの任意解除もありますので,その場合に約定の報酬全額を損害と前提にした損金額はきっと認められないと思います。受任者にも悪い場合があると。   それから,弁護士のバックアップ会議で出たのは,契約直後に任意解除権が行使された場合には,そんな約定報酬全額に対する期待を持つ人は普通はいないという点です。また,弁護士が成功報酬の約定をしていたときに途中で切られた場合,勝てる保証のない,むしろ勝てっこない訴訟の成功報酬がこの規定によって全部認められるようになるのはおかしいと思いますので,やはりもう少し柔軟に解釈できるような方向で補足説明を書いて,ゴシック体のところは損害賠償という表現が実務としては使いやすいと思います。 ○内田委員 ちょっと誤解があるように思うのですが,弁護士に対する委任契約などは,もちろん受任者は報酬を得るという利益を持っていますけれども,それはここでいう受任者の利益を目的とするものではないと思います。そういう委任契約は損害賠償などしなくても解除できるわけです。その原則は飽くまで維持した上で,判例でこれまで形成されてきた受任者の利益をも目的とするもの,これはもっと限定されたものですけれども,それを一方的に解除する場合にはそこから生じた損害を賠償しなければいけない。仮に報酬額が名目上非常に低額であったとしても,実際に生じた損害は賠償すべきだというのがここでの趣旨です。通常の委任については,常に賠償しなければ解除できないということは全くないと思います。ましてや,契約した直後に解除するなんていうのは,通常は何の負担もなしにできるのであって,それが飽くまで原則だと思います。   受任者の利益をも目的とするというのが判例を前提として限定的に考えられていることを前提にお考えいただければと思います。 ○笹井関係官 損害賠償の範囲についていろいろ御意見がございまして,恐らく今,最高裁の判例の流れとして,任意解除権の行使を認めつつ,損害賠償で処理をするというルールを採っているわけですから,裁判所は何らかの基準で損害を算定しているわけですが,その算定の基準を引き続き解釈に委ねるほうがよいということであれば,そういう方向性もあり得るかと思います。   ただ,お伺いしたいのは,ここで損害の対象が報酬だけではなくて,これを超える部分の賠償も必要になるということに対する批判が多かったように思うのですけれども,内田委員からの発言とも関連するかもしれませんが,どういう場合に解除権とともに損害賠償義務が発生するのか。単に有償な場合でも損害賠償請求権が発生すると考えるべきだと思っておられるのか。その点を確認したいと思います。   と言いますのは,報酬を超える部分についての損害が賠償の対象になることに対する批判があるということは,報酬部分だけが損害賠償の対象になると考えるべきだという御意見だと思いますけれども,仮にそうだとしますと,それは有償の契約の場合に常に発生する損害ですので,有償の場合には常に損害賠償請求権が発生するとすべきだとお考えなのか。そうではなくて,何か報酬以外の利益がある場合に,初めて損害賠償請求権が発生すると考えておられるのであれば,やはりその損害賠償の対象はその要件と関連するものになってこざるを得ないのではないかと思います。 ○中井委員 答えになりませんが,少なくとも有償だけでここでいう受任者の利益を目的とするものには当たらない,有償プラスアルファの要素が必要だろうと。そこはどのぐらいの幅なのかということについては議論があると思っています。それであっても委任契約を解除したときの損害賠償義務として,委任契約で予定されていないものを超えてというところに違和感があります。解除すること自体,信頼関係が何らかの事情で,両方に帰責性はないけれども,気が合わなくても信頼関係が破壊されることもあるわけですから,そのときの解除権行使の結果の負担として重たさを感じるというところです。   ただ,次の部会資料47の役務提供契約にも,同じように解除の規律がありますけれども,そこは委任ほど受任者の利益を目的とするところが問題にならないのですが,成果完成型,期間の定めがある履行割合型,いずれについても全額報酬が請求できることを原則とした規律が提案されているので,思想的には一貫して,請負から委任も,そして役務提供契約も流れているのではないか。その最後行き着くところの役務提供契約について,実は最も危惧を持っているわけですけれども,3年間の役務提供契約をして,中途解約禁止の契約を締結したのち短い期間で解除したときであっても,約定報酬全額が請求できる。これを原則類型として提案されているものですから,その一貫した考え方について任意解除権の行使と損害賠償の範囲との関連性についてもう少し制約的・謙抑的であってよいという理解をしています。 ○笹井関係官 その点なんですけれども,今の民法第536条第2項の効果をどう考えておられるのかということだと思います。536条2項には,「反対給付」と書いてあるのですが,その範囲も限定されているとお考えなのでしょうか。部会資料の提案は,私なりに理解しますと,民法第536条第2項との連続性をそれなりに意識していると思います。同項は,債権者に帰責事由がある場合には反対給付を請求する権利を失わないということなので,それとの連続性を考えると,中井先生がおっしゃった3年の事案ですと,3年分の利益が請求できてしかるべきなのではないかと思います。もっともこれも前回申し上げたことですけれども,本当に3年間全く解除しませんよという契約なのかどうか,合意によって解除権が契約上与えられていることは十分あり得ると思いますので,536条2項の「反対給付」の内容は最終的には契約の解釈によって確定されるということはあり得るとは思いますけれども,ただそれは536条2項そのものから出てくるわけではないのではないかと理解しております。 ○潮見幹事 とりとめのないことで申し訳ないのですが,委任の場合に任意解除された場合における損害というものの中に,報酬相当額というものが入るのか入らないのかという問題がある一方で,中井委員が度々おっしゃっておられることに関連しますが,報酬相当額を超えるような,受任者の利益に結び付けられた地位を金銭で補填することが,受任者の利益に結び付けた形で,委任解除の枠組みに取り込んでよいのかという問題があります。帰責事由という言葉はともかくとして,何らかのプラスアルファのものがないような状況で,受任者の利益の賠償を任意解除であるということで認めてよいのかということが含まれているのではないかと思いました。   さらにこの問題で,仮に任意解除の場合に報酬相当額の損害の賠償もその中に含まれる。一部か全部かにかかわらず含まれるのだとするならば,先ほどから度々問題になっている資料71ページの報酬請求権との関係が果たして整合性をもって説明が可能なのかどうかを考えていかなければならないかということは,度々ここで,特に弁護士の先生方から問題視されているのではないかと思います。その分をきちんとまず整理しないことには,この辺りの見通しはつかないのではないでしょうか。   弁護士の先生方が懸念されているというのは,請負のところで任意解除の場合に報酬相当額,報酬全額を損害賠償として請求することができるというように書かれていましたから,そうしたら委任の任意解除の場合に報酬相当額が一体どういう扱いを受けるのだろうかというところについての不安なのではないでしょうか。しかも,そこでは全額ということになっていましたから。   そういう場合に,委任の任意解除の場合に,損害賠償はどうあるべきか。ここから先は事務局で,あるいは分科会でやられるのかもしれませんが,一つは先ほど中井委員がおっしゃられた受任者の利益に結び付く価値相当額といいますか,利益相当額の金銭的な補填というものを,任意解除の場合に果たしてストレートに認めてよいのかどうかという点を,詰めていただければと思います。債務履行の損害賠償とはちょっと違いますから,そこまで言ってよいのかどうかという話です。   それから,報酬のほうについては,仮に71ページで挙げられているような枠組みが好ましいということであるのならば,それと矛盾のない形で任意解除の場合の損害賠償も立ててほしいと思います。とりわけ,71ページの,これは私の見方がちょっと違っていたらお直しいただいたらと思いますが,(4)のウの(ア)は委任者が任意解除権を行使することができるときはということで,実際に行使するかしないかは関係ないんですよね。できるときは割合相当額の報酬を請求することができるとなっていますから。   任意解除権を行使した場合にどうなるのかといったら,恐らく同じような扱いにせざるを得ないのではないでしょうか。そうしないのであれば,報酬の問題はこちらで扱い,損害賠償のところではそれは無関係であるということを何らかの形で示すのが好ましいのではないでしょうか。   定見はありませんけれども,この辺りは基本部分を整理しないと,危うい問題も出てきそうだという印象を抽象的にはもっているので,是非分科会などで御検討いただければと思います。 ○岡委員 先ほどの笹井さんの質問なんですが,単なる有償委任契約について理由なく解除できる,ただし不利な時期にやれば損害賠償が生じるという現行法のイメージで話していました。そうすると不利な時期であれば損害賠償しなければならない任意解除と,こういう特殊な,本来解除できないけれども金銭で解決するような損害賠償を伴う任意解除が2種類あると考えればよいんですか。 ○笹井関係官 任意解除が2種類というか,任意解除権は民法第651条という一つの根拠規定に基づいて発生するわけですが,その場合にどういう範囲の損害賠償請求権が発生するかについて,不利な時期の場合にはその不利な時期に解除をしたことに基づく損害賠償請求権が発生し,受任者の利益をも目的とする委任契約を解除した場合には,それによって奪った利益についての損害賠償請求権が発生するということではないかと思います。 ○深山幹事 今の御説明の確認なんですが,そうすると現行法の651条の規律を維持する,つまり2項も含めて維持するということが前提の議論で,特別な利益がないようなシンプルな報酬請求権と見合いになっているような委任を想定すると,その帰結としては,今の条文の文言でいえば不利な時期になされた解除だということに基づいて,その割合的な報酬を限度として損害賠償請求権が発生することになると理解するのであれば,何となく分かるんです。   つまり,今回の(1)の提案が特別な利益がない場合には割合報酬の限度で損害賠償するということを意味しているのであれば理解できるんですが,御提案はそういう理解でよろしいんでしょうか。 ○笹井関係官 今,先生がおっしゃったのは4の(1)でしょうか。   ここでの損害賠償,履行の割合に応じた報酬部分は報酬として発生していると思いますので,損害賠償請求権の対象になるとは考えておりませんでした。 ○深山幹事 分かりました。要するに,報酬という性質で払われるのか損害賠償なのかという点は,請負のときの議論において報酬相当額の損害賠償という言い方があったので,ちょっとそれに引きずられた感もあるのですが,現行法の理解,解釈として,任意解除権を行使したときに,その解除されるまでに行った受任者の業務に対応する報酬は当然に報酬として払う,本来の報酬支払時期がもっと先になっていたとしても,報酬として払うということが前提であれば,私の疑問はそれで解けてきます。 ○潮見幹事 もう1点だけすみません。今の笹井関係官の御発言ですと,注文者の任意解除の場合と委任の任意解除の場合とで損害の捉え方が違ってきませんか。33ページでは,注文者の場合の任意解除で,この損害の捉え方は報酬をベースにしたものですよね。そうなると,同じ役務提供でも請負の場合と委任の場合では損害賠償の損害の捉え方が違ってくることになりますが,それでもよいということでしょうか。請負の場合も報酬をどうするかということは損害賠償の問題とは関係のない形で処理をするほうが一貫するということにはならないんでしょうか。   今日どうこうというわけではありませんが,何らかの形でこれも是非整理をしておいていただきたいと思います。前回も少し申し上げましたが,特に危険負担関係での536条2項は先ほど話題になりましたが,反対給付請求というものが一体どういう法的性質のものかということも議論がございますので,この辺りは余程はっきりさせておかないとややこしいことになるのではないかと思いましたので,一言言わせていただきました。 ○笹井関係官 1点だけよろしいですか。今の潮見先生の御指摘ですけれども,請負の場合はやはり基本的には仕事が完成しないと報酬請求権は発生しないので,任意解除をした場合には報酬請求権は発生しないのが原則です。しかし完成はしていないけれども,利益部分については損害賠償として請求できるということではないかと思います。   私先ほど,深山先生に対して履行割合型のことにしか触れなかったんですけれども,履行割合型においては,途中で終わった場合には,これは71ページに書いてあることですけれども,履行割合部分については報酬として発生する。成果完成型においては,前回の会議でも申し上げましたように,これを損害賠償請求権として構成するのか,報酬請求権として構成するのかというのは,幾つか考え方があり得るところだと思いますので,その点も併せてまた整理していきたいと思います。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。 ○中田委員 損害の内容とは違って,損害の要件についてです。   今回の御提案は,651条の1項,2項を維持して,それに付け加える,比喩的に言うと3項を付け加えるという御提案かと思います。そうしますと,2項ではただし書があって,やむを得ない事由があるときは賠償しなくてもよいというのが入るのですが,今回の新たな3項ではそこの部分が落ちてしまうということになります。なぜ落ちるかというと,判例で言うところの任意解除権の放棄特約というのは契約の解釈の問題で現れることであり,さらに,解除権放棄特約がある場合であってもやむない事由がある場合は別だというのは,その特約の射程の問題として解すれば足りるということで,結局,除外の部分を全部解釈のほうに送ってしまっているのだろうと思います。ただ現在の2項と新たな3項を比べたときに,3項に言わばただし書がないという部分が非常に分かりにくくなるのではないかという気もいたします。   契約解釈の問題,特約の認定,あるいは射程の問題だというのはよく分かるのですけれども,判例理論を明文化するというのであれば,やはりそこの部分が残ってしまうし,安定性という意味ではもうちょっと工夫の余地があるのではないかという気がいたしました。 ○鎌田部会長 御指摘いただいたような点を考慮して,同時に中途終了の場合の報酬請求権の取扱いに係る分科会での議論との整合性を意識して,なおどのような原則を立て,それについての考え方の指針をどう補足説明で提示していくかということについては,更に検討を深めていただくということにさせていただきたいと思います。 ○松本委員 1点だけ,頭がもやもやしているのですが,最高裁の56年判決を絶対視して,それをいかに民法に整合的に取り入れるかという議論なのですが,その56年判決というのが大変分かりにくくて,委任契約における受任者の利益というのが,委任契約の本質の中に入っている場合と入っていない場合があるのではないかと。56年判決ではむしろ委任の外側に受任者の利益を考えている感じがするんですね。そこが代理受領といったものと少しタイプが違うのではないかと思います。   恐らく契約の趣旨からいって,中途で当該契約を解約されることによる損害が発生する,そしてそれが不当であって,賠償すべきだと評価される場合はたくさんあると思うのですが,それを何か1か所が委任契約であれば,それに付随しているものについても委任契約の任意解除の問題として一般化することによって大変分かりにくい状況が生じているんだと思います。   受任者としては本来は報酬をきちんと取れれば,それで損害は発生しないはずであって,そこは請負と同じだと思うのです。報酬全額を回収してもなお足りない損害があるから賠償すべきだという議論だと思うんですが,それは何か委任の外側のような感じがします。   他方,別の方向からの議論で,任意解除は自由なんだから報酬はそもそも取れないんだ,損害賠償名目であっても報酬は取れないんだと。しかし報酬ではないところの固有の損害賠償というものがもしあるのであれば,それは定める必要があるでしょうけれども,それは委任から来る,委任者の行為から生ずる損害と言えるのかという点に大変先ほどから引っ掛かっております。 ○鎌田部会長 その点もきちんと説明が付くように努力をしていただくということにしたいと思います。 ○道垣内幹事 それとの関係でいいますと,任意解除権は放棄していても,ないしは任意解除権があっても,債務不履行解除ができる場面というのはあるわけですよね。そのときの解除権者側が取れる額とのバランスというのもどこかで考えなくてはいけないと思います。実は発言に当たり,図や表を書いて考えていたのですが,整理がつかないままに既にこの論点は終わろうとしておりますので,最後に一言だけ申し上げます。 ○鎌田部会長 任意解除しないで債務不履行解除してもらったほうが得になるという提案だとおかしいと思います。整合性はきちんと保たなくてはいけないだろうと思います。   (2)についての御意見もお伺いしたいと思いますが,特に御異論はないですか。 ○三上委員 一応実務はこれが原則になっておりますので,特に反対するわけではございませんが,例えば公共料金の引落しですとか,ローンの返済ですとか,あるいは学費とか家賃の継続的振込契約ですとか,銀行が原則的に連名口座を認めていないせいもあるのかもしれませんが,口座を家族などで共同で使っている場合の代理人選任届,あるいはよくあるのは遺言が貸金庫に入れてあるけれども,当該本人が死んでしまって,妻女の代理人選任届がしてあったとしても,本人死亡で終わってしまうと,継続的な引落しとか貸金庫の開扉ができなくなってしまう。そういう形で死亡によって終了するというルールがあるがために,かえって困っている場面のほうが目に付くという実感を持っております。   銀行側は,655条で救われている場面が多いのですが,例えば654条のようなアフターサービスも,余りこういう事態にまで行き着くことはないのですが,もし死んだことは知っているけれども,相続人と連絡がつかないというときに,どう対応してよいか困るような場面に,責任を持って判断しなければならないとなると,困るかもしれないわけです。   そういう意味で,経験から演繹的に物を言うというのは非常に危険かもしれないですが,本当に死亡イコール終了がデフォルトルールでよいのか。むしろ今は成年後見状態になっても委任は終了しないということですから,本人の希望とか意思が確認できない状態になるから信頼関係としての委任が終わるというルールでもないようです。ということは,ここに書いてあるように相続法制の僭脱になることだけが理由なのであれば,そういう場面というのはむしろまれではないかとも思えます。そういう意味で,現行法のままでも構わないのですが,自動的にそこで終わってしまうことが本当によいのかどうかというのは,もしほかの実務の方でも意見があれば聞いてみたいと思います。 ○鎌田部会長 多分おっしゃることについて共感を覚える向きも少なくないと思うのですけれども,具体的にどういう制度にすると過不足なくそれに応えていけるのかという点について,何か案をお持ちでしたら教えていただければと思います。 ○三上委員 委任者の死亡の場合には,相続人ないし受任者のほうから解除ができるという規定にするという考え方もできると思います。委任者破産の場合も一応これに類した方向に行くような規定になっておりますから,それと同じようなことが考えられるのではないでしょうか。 ○中田委員 例えば「特定の事務を目的とする委任であって,民法第5編の規定に反しないもの」というような規定の仕方がもし可能であれば,ただいまの要請には合うのかなという気がいたしますけれども。 ○鎌田部会長 その辺のことも考慮に入れて,何らかの対応が可能であるかどうかを更に検討させていただければと思います。   (3)の破産手続関連では御意見いかがでしょうか。 ○畑幹事 前回も倒産法関連の事項について,どこまで踏み込むかということが少し話題になりました。その際,事務局のほうから倒産関連だからカテゴリカルにこの部会の守備範囲ではないとするわけではないという御説明があり,それはそうかなと思っております。ただ,中身としてどこまで踏み込むかというと,やはりやや謙抑的であってよいのかなという感触が個人的にはあります。それとの関係もあり,ここでも最終的にどういう落ち着きどころがよいのか,よく分からないところがあります。   ということなのですが,どういうところに行くにしても可能な限り理屈を整理しておいたほうがよいと思いますので,若干の感触を述べさせていただきます。   アのところですが,82ページの補足説明において,最判平成21年を踏まえた議論になっていると思いますが,かなり最近の最高裁判例ということなのですが,これが説得的なものなのかどうかということについては疑問を持っています。ここの(3)のアに書いてあるような結論にいくとしても,判例に依拠した説明の仕方でよいのかなということです。つまりこの最高裁判例というのは,破産手続が開始すると委任者が財産の管理処分権を失うということに着目しているわけですが,もしそこに着目するのだとすると,これはほかのところでも問題になりますが,会社更生ですとか,あるいは民事再生で管財人が選任された場合も同じことが妥当しなければおかしいはずであります。   しかし現行法は,例えば会社更生手続の開始を委任の終了事由とはしておりませんので,この最高裁判例の説明というのは現行法の説明として成り立っていないのではないかという感じがしておりますので,これに依拠するのはどうかなということがあります。   それと若干関連があるのですが,最高裁が扱っているような,会社が破産した場合の取締役の権限がどうなるのかという問題と,委任一般の帰すうという問題は,全く同じかどうかということにも疑問を持っております。最高裁が言っていることは恐らく,破産手続が始まった以上,取締役が会社財産の管理処分に関する権限は失うと。しかし,それと離れたことについては権限を失わないということだと思いますし,それはそうなのだろうと思うのですが,そのことと委任一般の帰すうというのはちょっと別問題として考えることができるし,またそれが必要ではないかという気がいたします。   ここでも定見を持たないままで申し訳ないのですが,例えば会社役員の権限の問題ではなくて,会社が個別的に何か物事を会社外の人に委任していたという場合に,会社が破産したからといって,これが当然に失効する必然性はないのではないかという議論も従来からあるところでありまして,それも一理あるかなと。一応委任契約としては残しておいて,何らかの処理をすると。会社更生は民事再生では現にそうなっているわけですから,そういうことも視野に入れて考える必要があるのではないかなと思います。   それから,イについてですが,今の話にも少し関係すると思うのですが,倒産手続が開始しても終了しない委任について,扱いが問題になるのはそのとおりなのですが,この場合の委任の報酬請求権は誰に請求できることになるのかを前提として整理しておく必要があるのではないかと思います。   取り分け自然人が破産した場合に財団と関係ない事項を例えば誰かに頼んでいたと。例えばアの考え方に従って,そういう委任は終了しないと考えた場合には,報酬請求権が財団との関係でどうなるのかという話であるのか,自由財産に対して報酬請求をするという話になるのかという辺りを詰めておく必要があるのではないかなという感じがします。   それから,ウについても理屈の上では,ほかの倒産手続はどうなのかという問題があるように思います。結論が出ないままで感想だけ述べて恐縮ですが,取りあえず以上です。 ○山本(和)幹事 私は現在の,当然全て執行するという規律に比べれば,ここに掲げられた考え方のように,きめ細かに考えていくことには基本的には方向性としては賛成です。ただ,今,畑幹事も言われたように,ほかの考え方もあり得るとは思っていて,特にアの点は畑幹事が言われたことと同じかどうかちょっとよく分かりませんけれども,この場合も当然執行という,この場合というのは財産の管理処分を目的とする委任契約についても,当然終了という帰結。私の理解はこの最高裁,結局破産手続が生じると破産管財人という財産の管理処分を専門とする機関が置かれると。そして裁判所はその財産の管理処分を最も適切に行えると考える人を管財人に選任するはずなのだから,従来の財産管理処分についての委任契約は執行して,管理処分権は管財人に一元化するという発想に出ているのかなと理解しているので,それはそれで一つの理屈ではあるように思うのですけれども。   ただ,繰り返してというより,この世の中の分業化の中で,同じ財産の管理処分といっても非常にいろいろな専門化が進んでいる状況の中で,通常弁護士でしょうが,破産管財人に選任される人が全ての財産管理処分の分野において最も適切に活動するということがアプリオリに言えるとも思えないので,より専門的な受任者がいて,破産管財人もその受任者にその事務を委ねるほうがより合理的な財産の管理処分が可能であるという場面もありそうな感じがするとすれば,当然に執行させるということでなくてもよいのではないか。つまり管財人にその従来の委任契約を履行する選択肢というのを与えてもよいのではないかと。   その場合には,相手方のほうに解除権を与える必要があるかもしれません。つまり,そうすると結局請負型の規律,あるいはこの後出てくる役務提供でも同じ提案がされていますけれども,そういう方向性で,契約を残す余地があるような規律というのもあり得ないではないように思っています。なお,選択肢はあるのではないかという感じがしているということです。   最後に,前回請負のところで申し上げたように,今,畑幹事も言われましたけれども,議論の仕方,この場で決定するのが適当なのかどうか,あるいは更にこの規律を民法に残しておくのが適当なのかどうかということにつきましては,請負のところで述べたのと同じ感触を持っているということで最後にしたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに御意見いかがでしょうか。 ○三上委員 イとウに関しては賛成したいと思いますが,アに関してはまず「財産の管理及び処分を目的とするもの」ということ自体が非常に曖昧で,金融機関もいろいろと委任的な契約をしていますが,どれが当然に終了すべきで,どれが終了すべきでないという判断に迷うというのは,やはり困る部分がでてくると懸念しています。   恐らく公共料金の自動引落しというのは正に財産の処分を目的とするものになると思うんですが,むしろ特に再建型倒産手続であればそういうものこそ本当は終わらせたくないのではないかと思います。   さらに,ここで書いてある論理は破産と,例えば管財人が登場する前提の会社更生には適用があるかもしれませんが,DIPが中心の民事再生では申立代理人弁護士が申立ての段階から最後の計画を作るところまで非常に重要な役割を負っておりますけれども,ではあの弁護士との委任契約は一旦申立ての段階で切れるとか,そんなことは考えていないと思うんですね。   そうすると,法的倒産法制によって考え方が変わってくるという場面もあるということであれば,実際には各破産法によってそれぞれ規制を任せたほうがよいのではないかという気もしておりまして,そういうことも含めまして,民法に置くかどうかという点はともかく,もし置くとすればもう中途半端な型ではなくて,一律に終了するか,一律に管財人に任すという形にするか,いずれかで行くべきではないかと考えております。 ○岡委員 弁護士会の意見は,基本的には賛成が多うございます。アについても限界が不明確であるという三上さんの意見も分かりますけれども,運用で何とかなるのではないかと。   やはり破産管財人としては,一応全部終了という今の実務を頭に置いて,全部終了するので急いで全部調べなくてよいと。一応全部止まると。調べ直した結果,破産管財人としてこれは続けたほうがよいと思うのは再契約なり,それを履行選択と言うかどうかは別として,実務では選んで復活交渉をしているんだろうと思います。訳の分からない会社に飛び込んでいく破産管財人としては,そのほうが安心して行けるように実務としては思っております。   それから,イのほうについては終了しない委任契約について,破産管財人に解除権を頂いておりますが,これは理屈に合うんでしょうか。弁護士が言わなくてもよいのですが,破産手続と関係ないと言っているのに管財人に解除権をもらう理論的根拠は何なんだろうという議論は一応しました。しかし実務家としては武器があるほうが役に立つと。解除権があっても行使しなければよいわけですので,理論的な疑問を持ちながらも,イについては賛成の意見が多うございます。   それから,ウについてもこれはこれで結構なんですが,破産だったら何で損害賠償義務を負わないのかなと。損害賠償義務を負っても破産債権になるのであれば,破産財団としては特に大きな負担ではないですので,相手方のことを考えると,損害賠償義務なしというのにそれほどこだわらなくてもよいのかなという意見を個人的には持っております。   それから,こういう規定は,破産と民事再生,会社更生は違いますし,破産について,今,民法にあるから民法で議論しておりますけれども,前回,畑先生,沖野先生,山本先生がおっしゃったように,やはり倒産法のフォーラムでこういうことを詰めるべきだという意見に賛成です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにはよろしいでしょうか。それでは,頂戴した意見を踏まえて検討を続けさせていただきます。   次に,「5 準委任」と「6 特殊の委任」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「5 準委任」は,準委任に関する規定の適用範囲をどのように規定するかという問題を取り上げるものです。現在は多様な役務提供型の契約が準委任契約に該当するとされていますが,これらの契約の中には必ずしも委任の規定を適用するのが妥当ではないものも含まれているとの指摘があります。本案は委任契約が当事者間の信頼関係を基礎とする点に特徴があるとされていることを踏まえ,法律行為でない事務の委託のうち,本来の委任と同様に当事者間の信頼関係を基礎とするものを準委任として,委任契約に関する規定の適用対象とするという考え方です。乙案は,民法典の起草者が本来想定していた対外的な事務処理の委託を準委任とするという考え方です。これに対し,丙案は甲案や乙案のような限定を設けず,現在の民法第656条を維持し,法律行為でない事務の委託を準委任とするという考え方です。   「6 特殊の委任」の「(1)媒介の委託に関する規定」では,媒介の委託に関する規定を設けるかどうかを扱っています。媒介の委託は準委任に該当し,通常の準委任とは区別される特殊な特徴を備えているとまでは言えないように思われることから,本文では媒介の委託に関する規定を設けないことを提案しています。   「(2)取次ぎの委託に関する規定」は,取次ぎの委託に関する規定として二つの考え方を取り上げています。アでは財産権の取得を目的とする契約の取次ぎにおいて,取次者がその財産権を取得した場合には,取次者と委任者との間で特段の行為を要することなく,その財産権は委任者に移転するという考え方を取り上げています。イでは,取次者は相手方が契約上の債務を履行することを保証したときは,取次者はその債務と同一の内容の債務を委任者に対して負うという考え方を取り上げています。   「(3)他人の名で契約をした者の履行保証責任」では,承諾なく他人の名で契約をした者が相手方に対してその他人が債務を不履行することを保証した場合には,追認を取得する義務を負うという考え方の当否を取り上げるものです。本文ではこのような帰結の内容は債務不履行一般の原則から導くことができることから,このような規律を設けないことを提案しています。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま御説明いただいた部分について一括して御意見をお伺いいたしますので,御自由に御発言ください。 ○安永委員 5の準委任について申し上げます。準委任の規定の適用範囲を限定するかどうかに関して,現行の民法第656条に修正を加える必要はないと考えます。   まず,甲案については法律行為以外の事務委託契約を信頼関係の有無と裁量の程度により区別することは困難だと考えられます。   乙案は,法律行為ではない事務につき第三者に対するサービスか委任者に対するサービスかで区別する必要性と意義は明らかではないと考えられます。   丙案は,限定する規定は設けないとするものですが,この提案は準委任に関して規定を設けず,現行民法第656条を廃止し,準委任と委任とを区別せずに,両者を委任に一本化すると理解したところです。この場合には現在の委任と準委任を包摂する委任の定義が問題になってくると思いますが,雇用との明確な区別は困難であると思われます。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○三浦関係官 ここでも1件御紹介したい御意見ございまして,これは情報サービスで,クラウドコンピューティングをイメージしていただければと思いますけれども,そこから5の準委任の甲乙丙の中で,乙案に対する慎重な意見が寄せられております。つまり第三者との間で法律行為でない事務を行うことを委託するものに限定するということに対する慎重意見なり疑問ということでございます。理由は85ページにある補足説明の3の中段,第2パラグラフにある記載と同じでございます。   クラウドコンピューティングでは御案内のとおり,例えばアプリケーションを複数の人に使ってもらうわけです。クライアントが,あの人にも使わせてあげてねと指名したときに,クライアントに対しても,また,そのクライアントに指名された人に対しても,クラウドサービスを提供している側としては同じようにアプリケーションなりデータベースを使ってもらっているわけです。そのとき,クライアントと,クライアントに指名された者とで違う契約の規律になる,というのは実務の感覚と合わないということで,そこをどう理解したらいいか,という疑問の声を頂いております。 ○山野目幹事 5の論点についてでございますけれども,丙案を推すという意見を述べさせていただきます。   甲案は,当事者間の信頼関係に基づくかどうかということを指標として,準委任の概念を見直そうとするものでありますけれども,当事者間の信頼関係という極めて実質性の高い概念を裁判実務上コントロールすることに頼るものとして扱うことについては,大きな困難が予想されると感じます。   乙案の第三者との間で法律行為でない事務を行うものであるかどうかという区別は,必ずしも本質的な区別になっていないと感ずる部分がございます。   そのようなところから丙案を推したいと考えますが,丙案の理解について私が感ずるところを1点申し添えさせていただきますと,安永委員から御心配の指摘があって,現在の準委任の概念を大幅に見直して,現在の委任と現在の準委任を再編成することが丙案に含意されているという御理解の指摘と,それを踏まえての御心配があったものですが,丙案それ自体は必ずしもそこまで言っているものではなくて,656条の委託の事務に特段内容的な限定を加えないということまでを提案していて,その上で新しい法制で現在の委任と現在の準委任をどういうふうに概念として再編成するかについては,92ページの第3の役務提供契約の概念等がどのように扱われるのかについての見通しを得た段階で,その帰すうも踏まえて,改めて検討されているという意味において留保されているものであると理解しております。 ○山川幹事 同じく83ページの5の準委任に関してなのですが,雇用とか役務提供との区別の関係もありまして,マトリクス的な表を作ろうと思ったのですが,能力不足で非常に難渋しております。   その点で御質問ですけれども,四つありまして,このいずれの案でも委託という要件が入っておりますけれども,この委託というのがどのような意味を持つのか。単なる依頼ということではないということか。教科書等では委任者又は第三者の事務を委託するという趣旨が書かれておりますけれども,その点で役務提供契約と区別されるような意味をこの委託という要件が持っているのかというのが第1点です。   第2点は,今も山野目幹事からお話がありましたけれども,甲案における信頼関係に基づいてというのは独自の要件と理解してよろしいかという点です。信頼関係に基づいてという要件と,一方が他方のための裁量を持って事務を処理するというのが別立ての要件になっているのかどうか,つまり,信頼関係には基づかないけれども,裁量を持って事務を処理するという事態が考えられるのかどうかというのが第2点の御質問です。   第3点はこれと関係しますけれども,雇用との区別との関係では,裁量を持って事務を処理するに当たらない場合は直ちに指揮命令下で役務を提供するということで,雇用のほうに分類されるのか。つまり両者に当たらない,裁量を持たないけれども,指揮命令もないというような事態が存在し得るのかどうかというのが第3点です。   四つ目が乙案についてですけれども,こちらには裁量を持ってという要件がないのですけれども,これは含まれないのかどうか。あるいは乙案においても裁量を持ってという要件が含まれているという趣旨であるのかどうかです。   以上,4点につき,なかなか整理が自分ではできなかったためにお伺いできればと思います。 ○笹井関係官 1点目の委託という言葉の意味ですけれども,これは今の民法の643条ですとか656条で使われている言葉をそのまま使ったというだけですので,それによって今までの概念を変更するとか,役務提供との区別を「委託」という文言の中で解決しようということを意図していたわけではございません。   それから,二つ目の「信頼関係」と「裁量を持って」というところが別の要件なのかどうなのかという御質問ですが,信頼関係があるということと裁量を持って事務を処理するというのはおおむね一致するのではないかと考えておりました。というのは,やはり事務処理に当たって受任者に裁量があり,受任者が幾つかの選択肢の中から善管注意義務を持って選択していく,そこにその受任者に頼むという信頼関係が生じてくるのではないかと思っていたところです。ここは,一般によく委任の特徴として言われている当事者間の信頼関係に基づく関係であるということを,法律行為の委託ではなくて,事実行為の委託の中にもそういう特徴が見いだし得るものに限定しようという趣旨で取り上げた考え方です。   それから,三つ目の裁量も指揮命令もないという場面があるのかどうかということですけれども,何か明確な考え方があるわけではないのですが,役務提供契約という類型を設ける必要があるのか,またその外縁をどういうふうに定めていくのかということと関わってくると思います。   それから最後に,乙案には裁量という要件が設けられていないけれども,これは裁量は不要だとする趣旨なのかどうなのかということなのですが,ちょっと正面から答えることになっていないのかもしれませんが,乙案の趣旨というのは,今の656条を前提にして,656条が法律行為でない事務の委託を準委任と呼んでおりますので,この法律行為でない事務のうち,準委任者に代わって第三者に対する事務を処理する,そういう類型を切り出そうというものでございますので,現在の民法第656条の準委任の一部分を切り出した,そういう考え方でございます。 ○鎌田部会長 よろしいですか。ほかにいかがでしょうか。 ○佐成委員 準委任のところですけれども,経済界の議論の状況だけ報告させていただきます。   甲案は非常に分かりやすいとは思うのですが,現行実務で,これまで準委任で処理されているものに,何らかの限定を加えることで,そこから漏れてしまうものが,無名契約化してしまうと,そこだけ規律が不明確となるおそれがあって,それが果たして実務上耐えられるのかという点で懸念を表明する意見がございまして,慎重論が強いということです。要するに丙案に近い考え方が今は強いのではないかという印象でございます。   甲案も非常に魅力的ではありますが,今,山野目幹事もおっしゃったとおり,裁判規範として十分機能するかというところもありますし,なかなか難しいのかなという気はしております。 ○鎌田部会長 おっしゃられたように,甲案,あるいは乙案もそうかもしれませんけれども,現行より狭めると,はみ出た部分の受皿をどうするんだという問題が出てきて,それがこの後出てくる役務提供契約を提案するところにつながっていると思いますので,その両者の関連も含めて御意見がありましたらお出しいただければと思います。 ○松本委員 今,正に部会長のおっしゃったことで,丙案の支持がかなり多いわけですが,丙案というのは文言的には現状維持です。判例・学説にお任せということなのですが,他方でその後で出てまいりますところの役務提供型の典型契約という92ページのところの叙述を読んでいると,何か引き算するんだと。雇用,請負,委任,寄託に入らないタイプの役務提供契約について規定を置こうという,引き算の提案になっているという印象を受けるんです。積極的な定義をしないで,どれにも該当しないものについて受皿規定を設けようということですが,これをやってしまうと結局,準委任は準委任として現状のまま残り,かつ引き算をしたその他役務提供契約という典型契約が出て,結局どっちになるのかということを分類するメルクマールが何もない状態になることになって,それでよいのかという疑問があります。   他方で,引き算ではなくて役務提供型の典型契約として,明確な定義は難しいかもしれないけれども,メルクマールを立てるんだということであれば,この準委任の提案はその逆のような感じで,準委任を受皿規定にするという感じになります。私は,むしろ委任の規定がストレートに適用されるタイプの準委任というのはこういうものだということの積極的な定義をする努力していただきたい。つまり委任プラス本来の準委任陣営とはどういうものかというのをきちんと決めたほうがよいのではないかと思います。 ○岡委員 弁護士会の意見ですが,甲案の支持はありませんでした。乙案の支持が多少ありましたが,多数は丙案支持でございました。 ○大村幹事 私は基本的な考え方としては松本委員と同じ方向を支持したいと思っています。現在,役務提供型といわれる契約類型があるわけですけれども,これで十分なのだろうかというところが議論の出発点なのだと思っています。どの規定でも十分に対応できないものについて,規定を置くことを積極的に考えるならば,その規定との関係で現存の典型契約規定の射程を絞っていく,あるいは明確化していくということになるのではないかと思います。   ただ,具体的な書きぶりの問題としては,役務提供契約のほうを定義するのがよいのか,あるいは今,御提案になっている準委任の甲案のようなものをリファインする形で書いていくのがよいのか,そこは選択の問題かと思っております。 ○鎌田部会長 役務提供のほうの議論といずれ併せて検討していくことにせざるを得ないと思っていますが,次の6について御意見がありましたら。 ○山下委員 (2)のアの取次ぎによる所有権の取得の問題ですが,これは90ページの下のほう,(4)で引用されていますように,以前,権利の処分を目的とする取次ぎについて議論があって,これも問屋のようなものに限れば一挙に所有権が委任者から第三者へ移転し,それは問屋のようなものに限れば合理性があるけれども,いろいろな他のケースが出て問題も多いのではないかという御意見が多かったかと思いますが,こっちの取得のほうについても恐らく同じようなことになるかと思うので,やはりこれ一般規定を置くというのは慎重に考えて,問屋のようなものについて,今は判例でこれは認めているのですが,いかにも気持ちの悪い判例なので,そっちはそっちでルールを考えるということは商法ではあってよいのかもしれませんが,一般論としてはどのように考えるかということについては慎重でよいのではないかかという感想でございます。 ○高須幹事 弁護士会の状況でございますが,今の(2)のところ,やはり今,山下先生から御指摘があったとおりで,やや特殊な事案ではないかということで,一般化には慎重という意見が一方であります。一方でありますという意味は,賛成論もあり,弁護士会は意見が分かれておるということなのですが,反対論の趣旨は特殊な判例で,一般化するのは慎重にすべきではないかということで,ここは意見が分かれているところでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。(1)についていかがでしょう。(2)で取次ぎが出ているので,それとの関係で媒介と出てくるのですけれども,取次ぎについても慎重にといえば,媒介にはもっと慎重にということになるのかなとも思いますが,いかがでしょうか。慎重論が支配的であると思っていいですか。 ○岡委員 弁護士会の意見ですが,媒介の委託については設けないが賛成が多うございました。ただ,設けるべきだと,取次ぎの委託に比べると媒介の委託のほうが庶民には身近なので,むしろそちらのほうの条文化がよいのではないかという反対意見もございました。   それから,(2)のアについては高須さんがおっしゃったとおり,賛成意見もありますが,反対意見のほうが多い。(2)のイについてはアよりも反対意見が多いという分布でございました。(3)については賛成意見で一致しておりました。 ○鎌田部会長 (3)については特に異論はないと思ってよろしいでしょうか。ほかに御意見がなければ「第3 役務提供型の典型契約総論」について御審議を頂きたいと思います。事務当局から説明をしてもらいます。 ○笹井関係官 「第3 役務提供型の典型契約(雇用,請負,委任,寄託)総論」においては,役務提供型の典型契約全体についてどのような典型契約を設けるかという問題を取り上げるものです。現在は役務提供型の典型契約として雇用,請負,委任,寄託が設けられていますが,今日の社会においては役務の提供を内容とし,これらに該当しないと考えられる契約が増加しており,また既に御審議いただいたように,請負に関する規定の適用範囲や準委任に関する規定の適用範囲については見直しが検討されています。これらを踏まえて,役務提供型の契約全体について,既存の典型契約の適用範囲の分担を見直すかどうかや,新たな典型契約を設けるかどうかなどを御審議いただければと思います。   役務提供型の契約については,具体的な内容の役務を対象として,新しい典型契約を設けるという考え方,請負や委任と並んで役務提供一般を対象とする典型契約を設けるという考え方,既存の典型契約を含む役務提供型の契約全体に適用される総則規定を設けるという考え方などがあり得ますが,本文では役務の提供を前提とする,役務の提供を内容とする契約のうち,既存の典型契約に該当しないものを対象として,新たな典型契約を設けるという考え方の当否を取り上げています。 ○鎌田部会長 ただいま御説明のありました部分について,御意見をお伺いいたします。 ○安永委員 役務提供契約の審議に当たり,本日資料として机上に実態調査を通じて収集した業務委任契約書を素材にした『労務サービス契約の法律関係』を配布させていただきました。こちらに役務提供契約に関し様々な実態が紹介されていますので,是非参考にしていただきたいと思います。   『労務サービス契約の法律関係』は業務委託契約書を素材にしたものですが,労働相談などでは委託就労の場で契約書さえも交わさずに覚書,メモ程度で働いているケースも多く聞かれるところです。先ほどの議論でもありましたが,多様な業務に関して業務委託等の名称の契約が締結されており,その中には役務提供契約の各典型契約に必ずしも該当しないものも少なくありません。これらの契約においては,生身の人間である労務供給者が自ら労務を供給し対価の支払いを受けるのであり,労務のストックができないことや,労働力市場において労務供給者が過剰であること等に起因して,労働者類似の労務提供者が労務提供先との関係で契約内容に関する交渉力が低いのが通例となっております。民法の役務提供契約に関する条文は,役務提供する人が役務提供を受ける人と比較して,優位に立つ場合,対等な場合,劣位にある場合の三つの類型のいずれについても適用がなされるものです。この点,部会資料94頁後段の補足説明に,「英会話などの習い事の指導,保育,介護,エステの施術」などの事例を挙げていただいておりますが,その大半が消費者契約,つまり役務提供を受ける側が役務供給をする側と比較して契約内容に関する交渉能力が低く,役務供給をする側が優位に立つ類型であるように思います。   その点で,これらの例ばかりを念頭に役務提供契約の議論が進んでいくことには,弱い立場の労務提供者の保護という点からは強い懸念を持っており,ここでは労務供給という側面も見ていただきたいと思っているところです。なお,私たちは労働者ですが,その前に消費者でもあり,様々な場で消費者の立場からも発言をさせていただいているところです。したがって,消費者保護については私たちの立場からも重要だと思っております。また,企業などに対して情報量等の面で契約当事者間の格差がある点からも,弱者保護という共通する面を持っていると思っており,私たちも消費者,労働者という両面の立場で悩み多い検討を行っております。   しかし,その上で,あえて申し上げることになりますが,特に役務提供契約においては,消費者保護という視点での規定も,民法に置かれた場合は,その条文の作り方次第では弱い立場の労務供給者,つまり労働者にとって過酷に機能することがあります。このような場合は消費者保護は,特別法である消費者契約法で手当てしていただきたいと思っております。   役務提供契約における労務供給者は特別法である労働法の枠の外に置かれることも多く,その場合,一般法である民法の新たな役務提供契約についての規律がそのまま労務供給者に適用されることになります。役務提供契約を規律する場合,弱者である労務供給者保護の視点を持たなければ,雇用類似の役務の提供者にとって過酷な結果をもたらすことになります。   また,役務提供契約を規律することについては,労務提供者が自ら有償で労務を供給する個人である場合,その契約が民法上のどの類型に該当するのか,あるいは混合契約若しくは無名契約なのかの区別について,議論や判例の蓄積が十分でないことによる困難さも,あるように思います。   従来は,労働関係法規に特別規定があるものについては,当該労務提供者が労基法・労契法・労組法上の労働者かどうかを判断すればよく,また,労働関係法規に特別規定がない部分については,特に問題となることが多い民法第536条2項の規定が,全ての契約に適用される条文であったため,民法上の役務提供契約の各類型の区別の困難さは,余り問題とはなりませんでした。そのようなこともあり,労働法分野においては,各類型を区別する具体的判断基準は十分に議論されず,判例の蓄積も十分ではない状況にあると,認識しております。   以上のようなことを踏まえ,第1ステージでは役務提供契約であっても典型契約に該当しないものは,受皿規定を設けるのではなく,従前と同様に無名契約又は混合契約として契約当事者の非対等性などを考慮して,当事者の意思の合理的解釈や信義則などによりこれを規律すべきであることを発言させていただきました。そして,現段階においてもそのスタンスは基本的には変わりません。   しかし,もし新たな役務提供型契約の類型と,それに対応する規定を置くのであれば,労務供給の実態という観点からも,国民生活において役務提供契約がいかなる問題が生じているかを十分に把握していただき,それを念頭に置いた上で役務提供契約の規律の検討をしていただきたいと思います。   そして,自ら有償で労務を供給する者がこれまで享受することができた権利や,その保護水準が,たとえ民法上のどの契約類型に該当する場合であっても,新たな役務提供型契約の規律が置かれたことによって,少なくとも後退することだけは無いようにしていただきたい,と強く申し上げさせていただきます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに御意見いかがでしょうか。 ○岡関係官 初めて発言させていただきます。   今の安永委員と基本的には同じような意見なんですけれども,やはり契約の中にも役務提供者のほうが立場が弱い場合もございます。それで,補足説明ですとそういう懸念もあるけれども,そういったものも含めて規定は設けて,ただ解除のところですとか報酬のところで,規定の適用に当たってどういう配慮をしていけばよいかというのを検討すればよいと書かれております。   ただ,今回の部会資料47を見ますと,必ずしも役務提供者が弱い場合に配慮した規定というものがないのではないかと思われまして,どうしても消費者保護という観点からの議論が中心にされているのではないかなと思いました。   ただもちろん,私は前回からしか出ていないので,認識は不十分かもしれませんけれども,確かにエステですとか教育ですとか,そういった消費者保護が必要だということも十分理解できますので,例えば一つには今回役務提供型契約というのを設ける場合には,雇用に類似するようなもの,あるいは役務提供者が弱い者で事実上,雇用に類似するような者とかを除くとか。あるいはどうしても入れる場合は,雇用を参考に,どういう規定を設けるかということもあるでしょうし。ということで,もうちょっと慎重な検討が必要ではないかなと思いました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。これも今,御発言がありましたように,具体的にどんな内容を考えているのかによっても,新たな役務提供契約という領域を設けることへの賛否,あるいは意見の内容が変わってくると思いますので,お許しいただければ部会資料47に移っていきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,部会資料47の「第1 準委任に代わる役務提供型契約の受皿規定」の「1 役務提供者の義務に関する規律」と「2 役務受領者の義務に関する規律」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 部会資料47の「第1 準委任に代わる役務提供型契約の受皿規定」では,部会資料46の「第3 役務提供型の典型契約(雇用,請負,委任,寄託)総論で取り上げた考え方を受けて,役務提供を内容とする契約のうち,既存の典型契約に該当しない補集合を差し当たり役務提供契約と称した上で,これに関する規律として考えられる具体的な内容を検討しようとするものです。   「1 役務提供者の義務に関する規律」では,役務提供者の注意義務の程度を取り上げています。   アでは原則として役務提供者は善管注意義務を負うという考え方を提案しています。   イではその例外として,無償の役務提供者は有償の場合に比べて注意義務の程度が軽減されることを提案しています。同時に,事業者がその事業の範囲内で役務を提供する場合には,無償であっても注意義務は軽減されないという考え方の当否を取り上げています。   「2 役務受領者の義務に関する規律」では,役務受領者は協力義務を負うという考え方の当否を取り上げるものであり,請負における注文者の協力義務と同様の問題を取り上げるものです。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明をしていただいた部分のうち,まず「1 役務提供者の義務に関する規律」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○安永委員 部会資料では無償の役務提供契約の場合,提供者が事業者の場合は注意義務の軽減を認めないとする提案がなされています。そして事業者の概念に自らの労務を供給し,報酬の支払いを受ける,個人が含まれる可能性が少なからずあります。事業者が無償で役務提供契約をする場合としては,大規模災害発生時に行う災害救助や支援や,道路の応急復旧作業等の活動が考えられます。私たちも東日本大震災の後に多くの組合員を連れてボランティアに行ってまいりましたが,被災地では多くの建設労働者や一人親方といわれる人たち,あるいは工務店が,被災地の半壊家屋等の応急復旧のための無償ボランティアを行っておられました。   このような場合に,事業者であることをもって注意義務の軽減を認めないとされることについては,妥当性に疑問を持っていることを申し上げておきたいと思います。 ○三浦関係官 たまたま今の安永委員と同じことを申し上げようと思っていました。ただ唯一,個人の場合に加えて,法人の場合もあると付け足したいと思いますけれども,やはり同じように,例えば産廃業者の方が震災の瓦れき処理にボランタリーで参加しているといった場合に,どういうことになるのかなと。そういう観点からすると,イの後段というのは適当かどうかということを申し上げたいと思っておりました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。アあるいはイの前段までについては特に異論はないけれども,イの後段についてはボランティア活動等を中心に問題の生ずる場合があると,こういうふうな御意見だったと思います。 ○中井委員 イの前段の弁護士会の意見ですけれども,多くはこの考え方に賛成ですが,一部にこれで果たしてよいのかと。ここは役務提供契約と,場合によっては準委任,信頼関係を伴うものとの関係の規律分けの問題が絡むのかもしれませんけれども,役務提供でも一定の信頼関係のあるものが想定できる。これが想定から外せれば別かもしれませんが,想定できる場合がないわけではない。   例えば,隣の奥さんが隣の子供を無償で預かる。介護の世話を近くの老人クラブで行うとか,そういう例で,自己のためにするのと同一の注意でよいのか。それは信頼関係法理を介在させて,準委任の契約に分類すれば準委任の善管注意義務ということになるのかもしれません。先ほどの準委任との区別との関連で,なお注意する必要があるという意見でした。 ○岡田委員 アはもちろん賛成で,イですが,後段の部分ですけれども,消費者被害では結構無償ということで被害に遭っているものですから,ここの事業の範囲での無償ということに関しては,善管注意義務にしてよいのではないかと思います。 ○中田委員 アについて,実質はよろしいと思うのですけれども,善管注意義務だけとしますと,契約から離れた一律の固定的なものだという印象を与えるおそれがないだろうかと思います。寄託については後で出てきますけれども,契約内容が明確ですので,善管注意義務ということで足りると思うのですが,役務提供契約は様々なものがありますので,そうするとやはり契約と結び付ける文言があったほうがよいかなという気がします。例えば「契約の趣旨に従い」というような文言を考えました。   それから,イの前段なんですけれども,これも一律に自己のためにするのと同一の注意としますと,やはり固定的なものになってしまうのではないかという気がします。先ほど中井委員から御指摘のあったような問題などもあると思います。   また,イの前段についてもう一つ考えましたのは,事務管理の場合の義務のレベルとの比較です。事務管理については697条の基礎にある法理,あるいは698条の反対解釈によって,やはり善管注意義務が認められているのだと思います。それに比べて,無償の役務提供契約の場合には常に軽くなるというのが妥当かどうかというのはやや疑問かと思います。そこで,有償の場合よりも注意義務がある程度軽減されるという程度のことで足りるのではないかなと思います。 ○佐成委員 まずそもそも受皿規定を設けることそれ自体について,経済界の中では慎重論,あるいは反対意見が多くあるというところが一つです。   それから,先ほど岡関係官,あるいは安永委員からもありましたけれども,例えば,個人請負事業者の中にも,いろいろな実態があって,言わば単なる個人の労務提供者にすぎないとでもいうべきような方もいらっしゃるということです。けれども,だからと言って,事業性のあるものについてまで一律に労働法的な規律を考えるというのは必ずしも適当ではないのではないかという意見も経済界の中にはございました。   それと,1のア,イについてですけれども,基本的に消極意見が強いわけですけれども,イの特に後段については事業者ということの例外を入れるということで,消極意見が更に強いということでございます。 ○高須幹事 基本的にはこの種のアとイの前段部分の規定を設けるということは,今まで何も規定がなかったことを鑑みると,置いたほうがよいのではないかと思います。   イの後段の部分の事業者ということで区切るということに関しては,弁護士会としては事業者概念で区切るというのは妥当かどうかということの疑問もあり,今日の御指摘の中でも,事業者にもいろいろなタイプがあるということについて御指摘がありましたので,私もむしろ役務提供者が事業者の場合の特則を置くというのには慎重であるべきかと思います。   そうすると問題は,アとイを置いたときに,今日の議論の中でも出てきているわけですが,画一的にしてしまうことに対する問題点というのがあって,それは恐らく善管注意義務をどのように考えるかということと,イのところでいえば無償ということをどのように考えるか。部会提案の中にも事業者の場合の特則の根拠のほうでは出ておるわけなんですが,その無償性,あるいは有償性というものは全体的に捉えて,一見無償に見えてもそこには有償的な要素がある場合もあるというのは,御指摘を頂いているわけですので,やや分かりにくくはなるのかもしれませんけれども,このアとイについては柔軟な解釈を今後可能とするというようなことで,規定を設けた上で解釈を,そういう解釈があり得るんだということをここである程度考えていくことが一つの方向性ではないかと思います。 ○内田委員 イの後段についてなのですが,安永委員や三浦関係官からボランティアのお話が出て,非常に重要な御指摘で,難しい問題だと思いますが,これは飽くまで契約の成立が前提ですので,たとえボランティア活動であっても契約が成立し,かつ事業者であるということは,つまりプロであるということを信頼して契約をするわけですので,その場合に,タダでやるのだから自己のためにするのと同一の注意でよいというのにはちゅうちょを感じます。   災害の場合のボランティアには契約関係が認定できない場合も多いと思いますが,本当に1対1で契約をしたと認定できるような場合については,やはり事業者としてプロである以上はプロとしての注意義務を負うのではないか。その場合の善管注意義務がいかにも高いというイメージがあるのかと思いますが,これは中田委員が言われたように,正に契約の趣旨に即して善管注意義務が判断されるということであれば,実態としてはそれほど不都合はないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 それでは,引き続き「2 役務受領者の義務に関する規律」についての御意見もお伺いいたします。 ○安永委員 役務受領者の協力義務については,規定を設けることについて基本的に賛成をいたします。加えて,役務提供を内容とする契約の場合,役務提供をなすためには役務提供を受ける側の協力が必要不可欠であるため,従来の典型契約以外の役務提供契約だけではなく,雇用など他の契約類型についてもこのような規定を置くべきだと考えます。   なお,協力義務については,義務違反の効果が一律ではないとの批判がありますが,義務違反の効果については,個別の契約毎に契約の趣旨や目的,役務の内容や種類等を勘案して決定されるべきであり,義務違反の効果については,これを一律に定める必要はないと考えます。 ○道垣内幹事 1個戻って大変恐縮なのですが,中田委員が御発言されたのを内田委員が受けておっしゃったことに対して,それは正しい理解だったんだろうかというのが気になりまして,確認をさせていただきたいのです。私は中田委員の御発言は,役務提供者は善良な管理者の注意をもって役務を提供する義務を負うというときの「役務」という内容は契約によって定まるのだという趣旨で,「契約の趣旨に従って」とおっしゃったのかなと思いまして,別に「善良なる管理者の注意」というのが契約の趣旨によって定まるとおっしゃったのではなかったのではないかという気がしたのです。ところが,内田委員は別の理解をされましたので,確認をさせていただければと思います。 ○中田委員 内田委員の御発言を正確に理解していないかもしれませんが,私が申し上げたのは,役務の内容は契約によって決まってくるけれども,それによって注意義務の程度が変わってくるということなんですが。 ○道垣内幹事 それは注意義務の程度が変わるのですか。内容が変わるのではないですか。注意義務の程度という概念は,そういう概念ではないのではないかと思うのですが。 ○中田委員 この点については道垣内幹事の御論文もあるところですが,程度なのか内容なのかというのは従来も余りはっきりしていないと思うのです。ただここで申し上げたいことは,一律の客観的・固定的なものではないんだということです。 ○道垣内幹事 それは注意義務の注意の程度が変わるということですか。つまり,なすべき注意の程度は契約の趣旨によって一律ではないということが決まってくるのか。当該属性を持っている契約者,契約当事者に期待されるものが何なのかによって決まってくるのか。もし仮に後者であるならば,それは個別具体的な契約の趣旨の問題では必ずしもないのではないかという気がするのですが。 ○中田委員 私は当事者の属性というよりも,契約の性質というつもりで申しました。そうだとすると,道垣内幹事からしますと結局はそれは役務の内容,債務内容になってしまうのではないかということだろうと思いますけれども,私はそこをもう少し広く考えておりました。 ○道垣内幹事 分かりました。 ○松本委員 2の役務受領者の協力義務のところですが,ここでは仕事の完成のためにという限定が入っているのは,ここで言う役務提供契約というのは仕事の完成を目的とした契約を考えているからという話なのか,それとも役務提供契約にはいろいろなタイプがあって,その中には仕事の完成を目的としているようなものもあって,それは請負かなと思うのですが,請負でもないという,ちょっと訳の分からないようなタイプについて特別の義務を課すという話なのか。   ここでの仕事の完成のためにという要件を非常に軽く考えると,先ほどから議論が出ているように,役務提供契約ということで消費者契約の想定されているケースが大変多いんだとすると,ここで協力義務を強調するというのは,消費者問題の解決にとっては逆効果になるのではないかと思います。   もちろん,契約一般の理論から協力義務は出てくるということは,請負のところにも書かれており,受皿規定においてはその点が一層強調されるべきであって,わざわざここに特出しして書くのは余り適切ではないと思います。 ○岡田委員 今の松本委員に加えまして,とかく消費者が役務提供に関わる場合は仕事の完成というところでトラブルになります。例えばエステティックであったり,学習指導であったり。エステティックであればダイエット効果を約束するとか,学習指導であれば何々中学校に合格させるとか。その言葉で親ないしは消費者は契約することになります。   そういう意味で,協力という言葉がすごく理解しにくいのですけれども,こういう文言が入ってくることによって提供者は債務不履行を逃れるためにこういう条文を使う可能性がかなりあるように思えます,こういう義務という文言は入れないでいただきたいと思います。 ○佐成委員 イの協力義務に関してですが,請負でもこれは議論になったわけですが,請負の場合は完成義務が請負人側にあって,注文者側がある程度協力しないとうまくできないというようなことが,類型的に言えるのかもしれないとは思うのです。しかし,受皿規定の中でこういう一般的な規定を設けることについては,むしろ契約の趣旨を適切に解釈することで対応するべきだという意見の方が,経済界では強いように感じております。 ○中井委員 弁護士会もこの2については反対意見が多数を占めました。理由としては,役務提供契約の多種多様性から一律,抽象的とはいえ,協力義務を定めることについてはいかがなものか。逆に賛成する意見もあったわけですけれども,ある意味で抽象的な規定であればよいのではないか。それに対しては契約関係における債権者の協力義務,付随義務的なところをどの程度書き込むかにもよりますけれども,これは請負のところでも同じ議論があったかと思いますが,そちらで足りるのではないかという意見もあり,契約総則などで記載するなら個別に役務提供契約のところで特段に書く必要はない,このように意見が分かれました。 ○三浦関係官 全体として少し慎重な御意見の多い中で,やや申し上げにくいのですが,これをサポートする声も省内にはありまして,これはIT関係の業界でございます。請負のときと基本的には同様の立場から同様の趣旨の意見となりますが,システムを作って納入するというのは請負の方の話ですけれども,もう少し継続的なサービスで,先ほども例に挙げました,例えばクラウドサービスのように情報やデータをお客様からお預かりして管理するというような,そういう請負に入らないようなITサービスの場合も,やはりITという技術的なところでいろいろお客様の御協力が必要だというケースもあり,それに対応するような規定を設けてほしいという声もありましたので,申し上げさせていただきます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○村上委員 協力という言葉の内容がはっきりしないものだから,そこが問題になる余地があるのだろうと思います。   それともう一つは,どの契約について協力義務を規定し,どの契約については規定しないのかということを契約類型全体を通して眺めてみないといけないのではないかと思うんですね。   例えば,売買でも一定の場合に協力義務が発生し得ることは間違いないと思うのですけれども,では,売買についても協力義務の規定を設けるのかどうか,あるいは委任だったらどうだろうかとかいうことも考える必要があります。委任でも協力義務が発生する余地があり得ると思うのですけれども,ではそれも規定しましょうかということになるかどうかという問題があって,それらを全部通してもう一度最後に眺め直してから決めることにしないと,思わぬところで思わぬ問題が生じる危険があるように思います。   例えば,特定の幾つかの類型についてのみ協力義務を規定しますと,他の類型の契約では,その反対解釈として,協力義務なんていうものはありませんよねということになるかもしれない。それでよいのかという問題も生じる可能性があるだろうと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○内田委員 協力義務を負う契約をある程度限定する必要があるというのは,そのとおりだと思うのですが,これはほかの典型契約の議論とも絡むのですけれども,もし請負契約という典型契約の適用対象をある程度限定するというスタンスがとられる場合には,無形のサービスの請負については請負契約でカバーされないということになります。それがここに入ってくる場合には,その種の,仕事の完成によって初めて報酬が得られ,そして完成の義務を負うという契約については,協力義務を規定するというのはあり得る選択ではないかと思います。ですから,そういう意味では少し限定して認める余地もあるのではないかという印象です。 ○鎌田部会長 そういう意味では,ここの「役務提供者による仕事の完成のために」というのは,限定を含んでいる。仕事の完成を目的としないものについては対象にしないという提案だと読むべきだということでしょうか。 ○笹井関係官 いや,そこまでは考えておりません。 ○鎌田部会長 分かりました。その点も含めて頂戴した御意見を踏まえた再整理をさせていただければと思います。次,報酬にいきますか。   それでは,続きまして「3 報酬に関する規律」について御審議いただきます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○笹井関係官 「3 報酬に関する規律」の(1)から(4)まででは,役務提供契約の報酬に関する規律を取り上げています。役務提供契約の報酬については,委任と同様の規定を定めるべきであると考えられますので,委任の報酬に関する規律を同様の論点を取り上げています。したがって,委任の報酬に関する規律の箇所で御議論を頂いたことがここでも妥当すると考えられますが,委任とは異なる議論が妥当するという御意見がありましたら,御発言いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について一括して御意見をお伺いいたします。 ○安永委員 報酬の支払方式,報酬の支払時期について部会資料では,成果完成型と履行割合型に分けることが提案されていますが,両者の区別は困難であるなど,その問題点や懸念点については,「委任」の箇所でも述べたとおりであり,反対いたします。   (4)の役務提供の履行が不可能な場合の報酬請求権についても,部会資料のアからエの提案について反対いたします。   まず,成果完成型と履行割合型の峻別について賛成できないことは,既に報酬の支払方式・支払時期の箇所で発言したとおりです。その上でアについてはこの規定の反対解釈として,「履行割合型であることが明確でない役務提供契約については,この契約が中途で終了した場合には役務提供者は既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができない」との解釈を招くおそれがあると思います。   また,イについてはこの規定の反対解釈として,「既にした役務提供の成果が可分ではない」あるいは「役務受領者に利益が生じていない」との理由で報酬請求権を否定することが可能となります。次に,ウとエですが,役務提供の履行が不可能な場合の報酬請求権について,これらについても部会資料の提案は請負と委任の項でも申し上げたとおり,現行の民法536条2項と比べて報酬請求権の発生要件を厳格化し,役務提供者の報酬請求権を制約するものと考えられます。   よって,民法上の役務提供契約に関する報酬請求権については,現行民法が定める「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは,債務者は反対給付を受ける権利を失わない」という要件と効果をそのまま維持するべきと考えます。   なお,もし仮に危険負担について部会資料の提案をとるのであれば,少なくとも部会資料47の4頁の第1「準委任に代わる役務提供型契約の受皿規定」の2「役務受領者の義務に関する規律」で提案されている役務受領者の義務について,全ての役務提供型契約に,受領義務を含む協力義務を課すことを明記し,その上で役務受領者の受領拒否は原則としての義務違反であり,例外的に義務違反とならない正当事由の主張,立証責任は役務受領者が負うことが明確になるような規定とすべきと考えます。 ○道垣内幹事 委任のところで本来発言すべきであったと思うのですけれども,3の(1)の有償性の推定についてです。有償性を推定すること自体は合理的であろうと思うのですけれども,最終的な中間試案として,役務受領者は報酬を支払わない旨の合意がない限りそうなるという書き方にするというのには若干抵抗があります。   つまり,私もちょっと法制執務的によく分からないところがあるのですが,そのような書き方をしますと無償であるということの主張をする,つまり推定を崩す人というのは,支払わない旨の合意があると言わざるを得ないのではないかという気がするのですが,シチュエーションによって無償の場合は幾らでもあると思うのですね。例えば,私は大学内で引っ越し関係の仕事をさせられておりますが,ここの荷物は本当は移動させる荷物の一覧表に含まれていないのですよね,と運送業者に申しましたら,ああうちでやっておきますよと言ってくれるという場合があるわけですよね。そして,うちでやっておきますよと運送業者が言ったときには無償でやってくれると私たちは考えているわけであって,そのときに有償だとは思ってないのですね。そのときすぐにやるのではなくて,次の日にまた来てくれる場合ですらそうですね。   そうすると,シチュエーションを主張していくことによって有償性の推定を覆すということも認めるべきではないかという気がいたします。 ○山川幹事 7ページの(4)の役務提供の履行が不可能な場合でありますけれども,先ほどの委任のところでエの部分に関して,これは成果完成型,そういう区別をするかどうかも問題になると思いますけれども,成果完成型については特に意味があるということで理解しておりました。   また,ウが未履行部分についての問題で,エが既履行部分についての問題だということもこちらでは理解しております。そうすると,エについては役務受領者に生じた事由によってという要件が係っておりまして,成果完成型の場合は従来の取扱いだとゼロであったところに,こういう要件の下で報酬請求ができるということだろうと思いますが,履行割合型の場合ですとこれはむしろ限定的に働く可能性があるようです。後で出てくる雇用のところでは,役務受領者に生じた事由というのは確か入ってないと思います。既に労務を提供した部分については,通常は当然どういう理由で将来の履行が不可能になっても報酬は請求できると思いますので,この辺りは,成果完成型という考え方をもし導入する場合には,先ほどの点において意味があるということを明らかにする必要があるのかなと思います。   あと1点だけ,先ほど役務提供契約の定義に関して,取りあえず補集合といいますか,他の類型に当たらない場合ということで議論を進めてきたわけですけれども,先ほど大村幹事のお話にもありましたように,準委任について現状維持で,役務提供契約のほうから適用範囲を決めていくということになりますと,やはりどこかで役務提供契約の定義の議論をしておく必要があるのではないかと思います。   例えば,18ページの規定の編成方式のところはそれに関連するのではないかと思いますので,単なる希望ですけれども,どこかで役務提供契約の定義を積極的にすべきかどうかも含めて議論する機会をお作りいただければと思います。すみません,直接には関係ないことまで含めましたけれども。 ○岡委員 委任と違う点だけ述べよということでしたので,履行割合型と成果完成型が役務提供契約の報酬の代表例の二つではあると思いますが,委任と違って,それの組合せだとかそれとは違う報酬約束もきっとあるのではないかと思います。   委任のところでは履行割合型を原則として,成果完成型を特約のほうに回すという順位付けの議論もあったと思いますが,ここではどのようにするのか。代表例二つを立法上どう定めるかということについて知見はないのですけれども,委任よりもはるかに多様性のある報酬形態が定められるのではないかと思います。   弁護士の報酬の場合も着手金と成功報酬の組合せでやりますが,着手金というのは成果完成型にはならない報酬になるでしょうし,タイムチャージと月額顧問料の違いもありまして,タイムチャージも月額顧問料も恐らく履行割合型の一種になると思うのですが,同じ履行割合型といっても,時間的・量的と書いていましたけれども,少し違うものがあるだろうと思います。   携帯電話の料金体系,よく分からないのですけれども,一定量までは一定額で,それを超えると何か単価が違うとか,そういう報酬の定め方もあるやに聞いておりますので,委任よりも何かもっと多様性のある中の代表例と定めたほうが無難なのではないかなと思いました。 ○三浦関係官 請負にはならない,継続的な役務提供契約が情報サービス取引ではもろもろございます。先ほどクラウドということを申し上げましたけれども,ほかにもヘルプデスクとか,SEのサービスとか,何か問題が起こったときの問題解決支援とか,そういうサービスがあって,それらのサービスについて適用される規律が明確でなくて,報酬請求の時期とか,どのぐらい払えるのだとか,いろいろ問題になって,トラブルとなることがしばしばあると聞いております。   したがいまして,請負に関する議論の際に,可分な成果があるときに,その部分に応じた報酬ということについて賛成のコメントを御紹介したわけでございますけれども,こちらの役務提供についてはその可分な場合に払うということ,あるいは成果完成とともに履行割合という形態があることを明記することなどについて,一定の意義があるという声も寄せられておりますので,その点御紹介させていただきました。 ○松本委員 岡委員の御指摘,大変重要だと思います。委任の場合は順位があるというか,デフォルトはこちらで,成果完成型の特約があればそちらでいくと。中途で履行不能になった場合はどうかと言うと,それぞれによってルールが変わってくる。しかし,ここで言うところの受皿規定の場合には,どちらがデフォルトというのは言えないから受皿になるわけです。となると,報酬特約がない場合に報酬を払うか払わないかというのはデフォルトで規定できるでしょうが,報酬を払うという特約はあるが,しかし支払方式について何の取り決めもない場合に,デフォルトが何かというのは決められないのではないかと思うんです。   そうすると,成果が完成すれば報酬を払うという特約がある場合について,もし途中でトラブルが起こったらこうだという,途中からの規定しか設けられないという規定の仕方になるのではないかと思います。そこが委任のところで議論したのとはかなり様相が違うのだろうと思います。 ○中井委員 まず委任の場合と役務提供契約の場合とで履行割合型と成果完成型,どちらを基本とするかという点についてですが,私は役務提供契約の場面でも基本は履行割合型ではないかと思っておりました。   その上で,(4)のウについてのみですが,弁護士会の意見は見事に分かれました。この考え方に賛成という意見もあります。しかし,一方で安永委員と同じように,労務サービス契約のように,提供者側が個人若しくは弱者をイメージして,この規定を,こういうシチュエーションを考えたときに,やはり基本は536条2項若しくは義務違反があるとして報酬請求権を処理しようという考え方。若しくは義務違反があるわけですから,損害賠償請求で将来部分については処理したらよいではないかという考え方。   他方で,消費者の関連委員会の皆さんからは,役務受領者側が消費者の場面を想定して,逆に役務の押し付け的なことを問題視されて,将来部分の請求を認めるのはとんでもないという反対論が出ています。弁護士会の意見は見事に分かれております。   ということは,役務提供契約に含まれているといいますか,対象とする契約類型が様々で,安永委員がおっしゃられる,提供者が労働者の場合などの類型の契約を念頭に置くのか,受領者側が消費者で,提供者が強い事業者,強いというか,悪質にといったらよいのか,一定の事業者からサービス提供を受ける場合を想定するのかで,規律の仕方をどう整えていくのか,よく考えなければならない。若しくは規定できないということもあり得るとも思っております。 ○佐成委員 報酬に関する規律ですが,今も御意見がいろいろ出ておりましたとおり,やはり受皿という性格上,いろいろなものが含まれるということかと思います。だからこそ特約が付されることはむしろ普通であるとも言えるわけです。そういう前提に立ちますと,そもそもデフォルトをきちっと見いだすというのは非常に難しいだろうということは考えられます。   それで,共通項として(1)は有償性の推定のみを取り出すという提案かと思いますが,これについては経済界としては事業者概念が入るということで,そのこと自体で慎重な意見が強いということでございます。ですから,この報酬に関する規律に関しても慎重にという感じを抱くというところでございます。 ○鎌田部会長 御指摘のように,ここで役務提供契約が受皿としてカバーするのは委任類似のものに限らない,もうちょっと幅が広くなってくるわけでありますけれども,当面この提案の内容としては,先ほど委任のところで提案されたものにほぼ準じた原案になっております。委任の報酬に関する提案につきましても,様々な御意見を頂戴して,それを踏まえて分科会で補充的に検討するということでございましたので,ここは委任と役務提供との相違点も意識しながら,分科会で補充的に検討を頂いてはどうかと思いますが,いかがでしょうか。では,そのようにさせていただきます。   大変中途半端なところになってしまいましたけれども,6時を過ぎてしまいましたので,本日の審議はこの程度とさせていただきます。   分科会につきまして御報告をさせていただきます。本日の審議につきまして幾つかの論点について分科会で補充的審議することとされましたが,部会資料46掲載の論点,部会資料47掲載の論点ともに,第1分科会で御審議いただければと思います。中田分科会長を始め,関係の委員・幹事の皆様には御苦労をお掛けしますけれども,よろしくお願いいたします。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 部会の次回会議は,来月10月2日火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は法務省20階の第1会議室になります。次回は正規の会議ですので,新たな部会資料48を事前にお届けする予定です。その内容としては,終身定期金,和解,新種の契約,更に事情変更等が含まれるものとなる予定です。   それから,分科会の開催のお知らせがございます。第3分科会の第5回会議が来週9月25日火曜日に開催されます。時間は午後1時から午後6時まで,場所は法務省地下1階大会議室です。その議題などについては机上配布のメモのとおりです。第3分科会の固定メンバー以外で参加を予定されている方がいらっしゃいましたら,事前に事務当局まで御一報くださいますように御案内申し上げます。 ○鎌田部会長 本日も長時間にわたって熱心に御審議いただきましてありがとうございました。大分積み残しを作ってしまいましたけれども,次回で追い付いていけるように頑張りたいと思いますので,是非よろしく御協力のほどをお願いいたします。本日はどうもありがとうございました。 -了-