法制審議会少年法部会第3回会議           議事録 第1 日 時  平成24年12月17日(月) 自 午後4時01分                        至 午後6時25分 第2 場 所  法務省第一会議室 第3 議 題  少年法の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○佐藤(剛)幹事 大変,お待たせいたしました。予定の時刻になりましたので,ただいまから法制審議会少年法部会の第3回会議を開催いたします。 ○川端部会長 本日は御多忙中のところ,お集まりいただきましてありがとうございます。   なお,本日,武委員及び藤本幹事は所用により欠席されております。   さて,本日は前回の審議で皆様にお諮りし,御了解いただきましたとおり,まず,要綱(骨子)第二「少年の刑事事件に関する処分の規定の見直し」について審議した上で,要綱(骨子)第一「国選付添人制度及び検察官関与制度の対象事件の範囲の拡大」についての2巡目の審議を行うこととします。本日の要綱(骨子)第二「少年の刑事事件に関する処分の規定の見直し」についての審議に関して,前回,事務当局にお願いした試案について,まず事務当局に説明をしていただき,その後,この試案を基に審議を行いたいと思いますが,そのような進行でよろしいでしょうか。   それでは,まずは事務当局の方から配布資料について説明をお願いいたします。 ○佐藤(剛)幹事 配布資料9でございますが,前回の部会における御質問に対して,口頭で回答させていただきました,不定期刑の言渡し状況と長期・短期の幅の相関関係についての資料です。   続きまして,配布資料10ですが,こちらは少年の刑事事件に関する処分の規定の見直しに関する試案でございます。内容につきましては,後ほど説明させていただきます。   続きまして,配布資料11ですが,配布資料10の試案のうち,第二の二につきまして,長期と短期の定め得る範囲について図示したものであります。   また,事務局配布資料のほかに,須納瀬委員提出資料,それから本日御欠席の武委員作成の意見書を配布しております。 ○川端部会長 それでは試案について御説明をお願いいたします。 ○上冨幹事 議論のたたき台とするために,事務当局で作成いたしました,事務局試案について御説明いたします。事務局試案は,項目として第二の一から三までございますが,このうち一につきましては,諮問の別紙要綱(骨子)の第二の一と同じ内容でございます。したがいまして,本日は二及び三について御説明させていただきます。二及び三は,少年法の第52条に関するものです。まず,二についてですが,二は少年に対する不定期刑の原則を定めるものです。不定期刑の対象者につきましては,前回の部会における議論を踏まえ,現行法の「長期三年以上の有期の懲役又は禁錮をもつて処断すべきとき」のうち,長期三年以上という要件を外し,「有期の懲役又は禁錮をもつて処断すべきとき」としております。これによりまして,少年に対して実刑を科すときには,少年法51条2項により,いわゆる無期の緩和刑を科す場合を除きまして,全て不定期刑を科すということになります。   また,前回の部会における長期と短期の幅については,制限を設けるべきであるものの,現行の運用として言い渡されている不定期刑の言渡しができなくなるような改正はすべきではないという御議論などを踏まえまして,長期と短期の幅については,「長期から五年を減じた期間(長期が十年を超えるときは,長期の二分の一)を下回らない範囲内」という制限を設けることといたしました。なお,第二の第二文,「この場合において」以下の記載は諮問の別紙要綱(骨子)の第二の二の内容と同じものでございます。   次に三について御説明します。三は,不定期刑の短期について,二の特則を定めたものです。不定期刑については,長期と短期のいずれもが刑ですから,二においては,長期・短期ともに処断すべき刑の範囲内において定めることを原則としております。他方,前回の部会におきまして,不定期刑の長期と短期については,長期は行為責任を重視して定められるものであるのに対し,短期は少年に対する教育的配慮,すなわち特別予防の観点を重視して定められるものであることから,下限を下回ることも許されるとの御議論がございましたので,これを踏まえ,三において,少年の改善更生の可能性その他の事情を考慮し特に必要があるときは,処断刑の下限を下回ることができるといたしました。   また,このようにいたしました理由としては,長期が処断刑の下限となる場合につきまして,短期を必ず処断刑の枠の中で決定しなければならないとすると,短期を定めることができなくなりますので,これを回避するということもございます。処断刑の下限を下回ることができるといたしましても,無制限に下回ることを許容することについては,相当ではないのではないかと考え,処断すべき刑の短期の二分の一を下回らず,また,二において規定した長期と短期の幅の制限に反しない範囲内で,短期については定めなければならないということといたしました。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。ただいまの上冨幹事の御説明についての質疑を行いたいと思います。なお,試案の当否につきましては,後ほど審議いたしますので,この段階では試案の内容を明確にするという観点からの御質問に限ってお願いいたします。それではよろしくお願いします。 ○小木曽委員 三についてですけれども,この具体的な例など,もしあればお教えいただけると有り難いのですが。 ○上冨幹事 御説明いたします。三で処断すべき刑の短期を下回るような短期を定める具体的な例という趣旨でよろしゅうございましょうか。そのような趣旨で御説明いたしますと,例えば,処断刑の短期を更に下回る短期を定めることで,その少年については改善更生の意欲を持たせることができるという効果を特に期待できるというような事情がある場合,あるいは,下限を下回る短期を定めることが,少年の円滑な社会復帰に資するというような事情がある場合,あるいは行為責任の上限が処断刑の下限に近いために,短期について処断刑を下回る期間を定めることができるようにしなければ,適切に短期を定めることはできないような場合などが考えられるのではないかと思っております。 ○小木曽委員 それで,この処断すべき刑の短期の二分の一は分かるんですが,この「二の期間を下回らない範囲内において」ということは具体的に起こり得る罪種というか,刑というか,そういうのはどうでしょうか。 ○佐藤(剛)幹事 例えば,強盗致傷罪は,法定刑が6年以上の有期懲役となっています。処断刑も同じく6年以上の有期懲役になった場合を考えますと,その処断刑の範囲内で長期を定めることになりますので,もし仮に長期を6年に定めたとすると,この処断すべき刑の短期の二分の一という要件がなければ,二の期間,つまり,5年の範囲ですので,短期については,1年以上,6年未満の範囲内で定めることになります。   ただ,もう一方で処断すべき刑の短期の二分の一を下回らない範囲内,こういった要件を設けますので,結果として,短期は,処断刑の下限である6年の半分の3年を下回らない範囲,つまり,3年以上,6年未満の範囲内で決められると,こういうことになります。   他方,例えば同じ強盗致傷罪で処断刑が6年以上だとしまして,今度は長期を10年とする場合ですが,この場合は,その二の期間,つまり5年の期間を下回らない範囲内という要件がなければ,短期が3年以上,6年未満の範囲内で定めることになりますが,この二の期間を下回らない範囲内という要件があることから,今度は短期が5年以上,6年未満の範囲内で定めなければならないと,こういった関係になります。なお,短期の上限が6年未満となるのは,酌量減軽の場合と同じく,三の規定を適用した場合には,元の処断刑の範囲内で短期を定めることができないと考えているからです。 ○川端部会長 小木曽委員,以上でよろしいでしょうか。ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○髙橋幹事 最高裁の髙橋です。先ほどの質問ともちょっとかぶるんですけれども,第二の三なんですが,「少年の改善更生の可能性その他の事情を考慮し特に必要があるときは」ということで,先ほど例示として挙げていただいた,1番目はこの「少年の改善更生の可能性」の事情というふうに理解したんですが,「その他の事情を考慮し特に必要があるときは」というのは,先ほど二つ目,三つ目に例を挙げられた,円滑な社会復帰とか,あるいは行為責任の上限が処断刑の下限に近い場合という,こういう理解でよろしいでしょうか。 ○上冨幹事 後者といいますか,私が先ほど挙げたうちの社会復帰の話,それから,行為責任の上限が処断刑の下限に近いような場合というのは,おっしゃるとおり,その他の事情の例になるかと思います。   また,少年に改善更生の意欲を持たせることができるという効果が期待できるかどうか,そういう事情があるものについて,試案を作成した私どもの立場としては,やはりその他の事情の一つではないかというふうに考えております。むしろ,改善更生の可能性というのは,刑の短期を定めるに当たって,客観的にその時期に少年の改善更生がなされるであろうということが認められるような場合に,それに基づいて短期を定めることが,改善更生の可能性といった事情としては典型ではないかというふうに考えているところでございます。 ○合田委員 今のことに関係する部分もあろうかと思うんですが,この三の規定と酌量減軽の規定との関係をどのように整理なさっているのかということを伺いたいんですね。一つは,適用の順番として,どういう関係に立つのかということと,それから,酌量減軽のときに考慮されるべき事情と,この三のところで考慮されるべき事情の関係をどのように整理されているかをお尋ねしたいと思います。 ○上冨幹事 まず,適用の順番としては,刑法の法令の適用として,酌量減軽が必要な場合には酌量減軽を行って,処断刑が定まり,それを前提として,更に今回御提案させていただいている規定に基づく短期の定め方がなされるという順序になろうかと思います。   両者の関係でございますが,この第二の三の規定と刑法上の酌量減軽については,どちらか一方を適用することも可能でしょうし,酌量減軽を行った上で,更にこの第二の三を適用することも可能であるという考え方をしております。   その実質的な関係でございますが,酌量減軽を行った場合には,不定期刑の長期・短期の双方に減軽の効力が及ぶということで,酌量減軽を行うか否かについては,当該行為の行為責任が重視されるものだろうと考えております。これに対して,第二の三の規定は不定期刑の短期にのみ効力が及ぶ制度として考えておりますので,その短期の性質に鑑みた,特別予防の観点が重視されて,酌量減軽を行う場合とは異なって,一律に責任非難の減少という評価を伴わないものではないかというふうに考えております。そのような意味で,酌量減軽を行わずに,第二の三のみが適用される場合は,責任非難が減少したという評価を行うことは相当ではないものの,特別予防の観点からは,短期について処断刑を下回る量刑を行う必要が特にあるという場合になるのではないかと考えております。   一方,両方の規定が重畳的に適用される場合というのは,行為責任の見地からまず,酌量減軽を行って,処断刑を導き出し,その範囲内で更に短期を定めることが,特別予防の観点からすれば,なお重過ぎるという場合に,酌量減軽を行って定まった処断刑を更に超えて,短い短期を定めるということが想定されるものと思っております。   酌量減軽を行う場合と,第二の三の規定で考慮する場合とでは,考慮要素については,具体的な事案においては重なる場合もあろうかと思います。ただ,酌量減軽を行う場合には,先ほど申し上げましたように,行為責任に対する評価が軽くなるということが問題となりますので,そのような観点から,考慮すべき事情を見るということになろうかと思います。その行為責任の観点から,長期・短期を減軽することが許容できるのかといった観点から,その具体的な事情を考慮するのではないかと思っております。 ○合田委員 今の後者の方については,もう少し,今,お答えいただいたところを踏まえて頭を整理してみようと思いますけれども,前者の方の適用の順番の関係でいうと,例えば今の不定期刑を科す場合には,酌量減軽まで入れて処断刑を出して,だから,判決の法令の適用の書き方は,文章式で書きますと,これこれの刑期の範囲内でというところで処断刑を出して,その後に少年法のこれこれの規定で何年以上何年以下という書き方をしておりますけれども,二も三も含めて同じような位置付けだという,こういう理解でよろしゅうございますか。 ○上冨幹事 現行法と同じ考え方でよろしいかと思っております。 ○植村委員 私が誤解しているかもしれないんですけれども,この酌量減軽と,この三の関係は,要するに長期を決めるに当たって,その長期が酌量減軽しない処断刑の範囲内にあれば,もう酌量減軽はしないと,それで,三で短期を決めると。長期を決めるに当たって,酌量減軽しない前提の処断刑ではちょっと賄い切れない場合に酌量減軽をして,更にこの三を適用すると,こういう理解ではないかと思っているんですが,違うんでしょうか。そうでないと,責任刑という関係からいくと,短期も含めて,ごっちゃに酌量減軽するというのはおかしいように思うんです。 ○岩尾委員 基本的には,そのようになるかと思います。まず,その酌量減軽をどのような場合にするのかという判例の考え方が,今,御指摘いただいたような考え方に立っておりますので,そういったような考慮がなされるのであろうというふうに理解しております。 ○川端部会長 植村委員,よろしいでしょうか。ほかにいかがでしょうか。   御質問もないようですので,試案を基に審議を行いたいと思います。御意見のある方はどうぞお願いいたします。 ○川出委員 今,話題になった三の部分についてですが,前回,短期がなぜ処断刑の下限を下回ることができるのかということが議論になりました。その際に申し上げたことを若干補足させていただきたいと思います。まず,そもそも処断刑というのがどういう意味を持っているのかですが,まず法定刑が特定の犯罪類型に対して問うべき責任の上限と下限という形での枠を定めたものだとしますと,処断刑というのは,加重・減軽事由がある場合に,法定刑を修正した形での責任の枠を定めるものだと考えられます。そうすると,不定期刑の短期というのは,先ほどの御説明にあったように,行為責任に対応するものではなくて,少年の改善更生の観点から,それよりも低い刑を定めたものだとすれば,それは責任とは必ずしも対応しないので,処断刑の下限を下回っても構わないだろう。そのようなことを,前回は申し上げました。   その後少し考えてみたんですが,確かに,法定刑を加重する場合は,それで説明が付くと思うのですが,逆に減軽する場合は,酌量減軽については,先ほど責任非難の減少といった御説明がありましたけれども,例えば自首などのように,必ずしも責任非難の減少に対応しない形での減軽というのもあり得ます。そうすると,減軽事由によって決まる処断刑は,責任の枠ということで説明し切れない部分が出てきますので,不定期刑の短期が処断刑を下回ることができる理由として,それは責任と関係ないからだというだけでは説明として不十分だということになろうかと思います。このことは,現行法において,不定期刑の長期のみならず短期についても処断刑の枠内で定めるとされているのはなぜなのかということにもつながるもので,現行法の考え方は,要するに,処断刑というのは,様々な要素を含むかたちで法定刑を修正して決められるものであり,そうだとすると,不定期刑も刑である以上は処断刑の枠内で決まるのだということなのだろうと思います。それを前提に,今回の事務局試案を見てみますと,私なりに理解したところでは,それは,不定期刑の短期というのは,少年法が定めた特別の減軽事由なのだという考え方に立つものだろうと思います。特別の減軽事由なわけですから,刑法の規定によって定められた処断刑のそれを更に下げることも可能です。下限の二分の一というのも,そのような発想から出てきているのかなと思いました。いずれにしても,そのように考えれば,短期も刑であるということを前提に,かつ,処断刑の下限を下回るということも十分説明できるだろうと思います。   それから,下限を下回ることにつき限界を設けるという点についても,今申し上げたように,それは1つの減軽事由であるわけですから,例えば強盗なら5年以上というように,法定刑に下限があるものについては,減軽事由を適用する場合に,二分の一にするというように方法を定めることにより,そこに一定の限界を設けるということも説明が付くと思います。以上の理由で,私は,この試案に賛成いたします。 ○堀江幹事 前回の議論を伺っていて感じたことですが,今回の試案の三との関係で,処断刑の下限を短期が下回ることができるという理由として,前回の議論では,先ほどおっしゃったように,短期は特別予防ないし改善更生という観点から定めるものであって,責任とは対応しないからだという議論が強調されていたように思うのですが,しかし,短期の性格をそのように捉えることが,処断刑を下回るのを認めるために不可欠なのか,少し引っ掛かるところがございました。   短期の性格については,前回の議論では,責任刑とは関係がないんだという御意見が多かったように思いますが,他方で,武委員が発言されていましたように,短期も責任刑だという御意見もあって,そこはいろいろな考え方があり得るのではないかと思います。短期も責任刑だとおっしゃるのは,想像するに,例えば短期5年なら,幾ら改善更生したとしても最低5年は入っておいてもらわないと責任を取った,罪を償ったことにはならないんだよと,そういうような意味合いなのかなと思うんですが,それはある種分かりやすい説明だろうと思います。それに対して,短期は責任とは対応しない,改善更生の観点から定めるものだと考えた場合,短期の年数というのは,先ほど上冨幹事がおっしゃったように,その時期に改善更生がなされるだろうという意味のものと捉えることもできますが,他方で,よく言われる改善更生へのインセンティブを与えるというような議論に立った場合には,例えば最低5年は入るというような年限を定めることが,インセンティブうんぬんということだけで説明し切れるのか,若干分かりにくい面があるという感じがいたします。もちろん,前回御指摘がありましたように,仮に短期も責任刑で,長期・短期の幅は責任刑の幅だと考えることに対しては,責任刑の幅はそんなに広いものではないという問題もあるわけですが。   いずれにしましても,短期の性格については,まだいろいろな議論があり得るように思うわけです。にもかかわらず,今回の試案の三を説明するために,短期の性格について特定の立場を採用することが妥当なのか。またそもそも,その必要があるのか。仮に短期は責任刑だという立場に立った場合でも,いささか乱暴な議論かもしれませんけれども,特別法である少年法で,特別な減軽として,処断刑を下回ることができる旨を定めるのであれば,それはそれ以上の説明を要しない,このような考え方もあり得るのではないかと思うのです。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。ただいまの堀江幹事からの御指摘は,「短期」の法的性格をめぐる点で特別予防との関連はどうなるのかということなのでしょうか。つまり,責任と特別予防との関係がポイントだという御指摘なのでしょうか。 ○堀江幹事 前回の議論だと,短期の性格をどう捉えるのかということと,短期が処断刑の下限を下回るのを認めることとの結び付きが強調され過ぎていたといいますか,両者は本当に論理必然の関係にあるのだろうかという疑問を持ったという趣旨です。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。今,堀江幹事から御指摘がございましたけれども,この点に関して何か御意見がありましたら,どうぞお願いします。 ○佐伯委員 前回は,なぜ処断刑の下限を短期が下回ることができるかということを議論していましたので,それは特別予防の観点からであろうということが強調されたと思いますけれども,もちろん刑罰ですから,堀江先生が今御説明になったように,5年なら5年,なぜ刑務所に入っていないといけないのかと問われれば,それはもちろん刑事責任に基づいて入っていないといけないということですので,刑罰である以上は長期が責任の上限であり,短期もまた責任と無関係ではないことは確かで,ものの見方というか,両方の面があるのかと思います。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。   先ほど川出委員は,この事務局試案自体に対しては賛成の御意見であったと思いますが,これに対して反対とか,あるいは異議があるというような御意見がございましたら,御発言をお願いいたします。 ○望月委員 前回の審議の時もそうでしたが,法律を専門に学んでおりませんので,不定期刑について理解するのは本当に難しいことであると改めて感じました。ですので例えば裁判員に選ばれた方にとっては負担も大きいと思いますし,課題もあるのではないかと思います。今,委員の方々のお話を伺って,少しずつ具体的なイメージができてはきましたが,法律の専門用語などは,本当に分かりにくいです。その辺りのことを,どうかみ砕いて説明していただけるのか,やはり一つの課題だと思います。   この試案については,今までの不定期刑には法的な不備があり,それが改善され,長期刑を基準にした刑の定め方が示されていますので現状ではこの内容を支持したいと思います。ですが,今後,少年の可塑性に重点が置かれた不定期刑そのものについて,罪を犯した少年の責任や被害者への謝罪,再犯防止,それから国民の理解などの視点を取り入れた検討も是非お願いします。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。今,望月委員から検討に当たっての視座の御提示がございましたけれども,今後2巡目の議論のときに改めて,御提案の趣旨に沿って御議論させていただきたいと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○瀬川委員 望月委員のおっしゃったことですが,例えばどんな言葉が分かりにくいのか,はっきり言っていただく方がいいのではないかと思います。先ほどの処断刑とか,それから酌量減軽とか,そういう言葉でしょうか。 ○望月委員 そうです。それもそうですが,この審議の中では,少年の改善の効果とか,円満な社会復帰等を前提に議論されていることが多いように思いますが,被害者や支援者には,なぜそれが当然の前提になってしまうのかという思いがあります。 ○瀬川委員 その趣旨は,犯罪を犯した少年については,社会復帰とか改善更生というものを議論すること自体が奇妙に感じられるということでしょうか。 ○望月委員 被害者を支援する私の立場から言うと,少年法の前提があって,そこから始まるということが理解しにくいというか,なかなか受け入れ難いという思いがあります。今瀬川先生がおっしゃったような専門用語も,理解の妨げになっていると思います。 ○瀬川委員 そうすると,後者の方で言われたのは,いきなり改善更生ということを議論することに違和感を感じるという意味合いですね。 ○望月委員 そうです。武さんはよくおっしゃることですが,少年法が立ちはだかっていますので逆送されて刑事裁判になったとしても,少年は特別という前提がありそのことは受け入れ難いものです。支援をする立場で,本当に苦しんでいる被害者の方々と接していますので。でもそういうことを言い始めるとそもそも論になってしまいますので,この現状においては,一歩前進ということで,この試案がいいのではないかと述べさせていただきました。 ○川端部会長 望月委員,よろしいでしょうか。次の議論の段階では,今の趣旨を十分に踏まえて,納得のいくような形での御説明をお願いする形になると思いますので,よろしくお願いします。   ほかにございませんでしょうか。 ○堀江幹事 もう一つ前回の議論との関係で,先ほどの短期の性格の問題のほかに,前回は,長期についても,その性格いかんが議論になって,そして責任刑,これを点と捉えるか,幅と捉えるかはともかくとして,少なくとも責任刑の上限がすなわち長期だという御意見が比較的多かったのかなと思います。しかし,先ほどの事務当局の御説明では,長期については,行為責任を重視して定めるというふうな言い方をされたと思うのですけれども,少しそこは何か別の要素,責任刑,行為責任以外の要素も含めるという,そういう考え方の余地も残す意図がおありなのでしょうか。特に前回の議論の中で,学説の公定の当否というような御発言ですとか,長期を第一次的に決めるといっても,行為責任だけではなく,改善更生等,他の考慮を加味して決めるという考え方もあるのではないかという御意見もあったところです。その辺りは,今回の試案の御提案に当たって,事務当局として,長期あるいは短期の性格について,何か一定の立場を前提にされるというわけでは必ずしもないのか,その点を確認させていただきたいんですけれども。 ○上冨幹事 刑罰の機能が一般的に,一般予防,それから特別予防という考え方があるということ,それから,行為責任の程度を超えて,言わば予防目的で刑罰を科すということが許されないということについては,この不定期刑について,今回提案させていただいているものについても,何も変わるところはないと思っております。   したがいまして,長期について,例えば保安目的での拘禁を認めるというような趣旨では全くございません。ただ,長期につきましても,当然,特別予防といった観点も,長期を定めるに当たって,考慮の要素となるという意味でということは変わりがないと思いますので,そのような意味で,最初の御説明の際には,長期を定めるに当たっては,行為責任の程度が重視されるという御説明の仕方を申し上げたということでございます。 ○川端部会長 堀江幹事,以上でよろしいでしょうか。ほかに御意見がございましたら,お願いいたします。 ○瀬川委員 確認ですけれども,今の御趣旨で言うと,結局,保安目的で長期を延ばすということはあり得ない。しかし,改善更生に必要だと,もっと長期になり得るということになりますか。 ○上冨幹事 私どもの現在,案を作っております考え方としては,長期は責任の程度をもって上限が画されるんだろうと思っておりまして,それを超えるもの,それを超える長期というのを科すことはできないだろうと思っております。 ○瀬川委員 改善更生についてもそうですね。 ○上冨幹事 はい。 ○瀬川委員 結構です。 ○川端部会長 ほかに特にございませんようでしたら,次へ進みたいと思いますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。 ○瀬川委員 この議論はこれで終わりでしょうか。 ○川端部会長 1巡目の議論として,まだほかに御意見がございましたら,どうぞお願いしたいと思います。 ○瀬川委員 試案についてですが,こういう形で少年の改善更生の可能性という言葉が出るのは初めてと思うのですが,それでよろしいですか。 ○佐藤(剛)幹事 少年法には確かに改善更生という文言は今まではありませんが,更生保護法等では改善更生という文言は使用されています。 ○瀬川委員 少年法制の中では初めてですね。それで,こういう形で規定されるということは非常に大きな意義があるというように私は考えています。つまり,立法論議として,少年不定期刑のことをこういう形で規定するということは,その後の刑事司法の展開においても,この言葉は非常に重要な意味を持ってくると考えております。すなわち,矯正保護の段階で,少年不定期刑について,工夫というか,改善更生に向けての一段の工夫というのが必要ではないかと思います。特に少年刑務所の中での処遇,それから,仮釈放というのは不定期刑のキーポイントですので,仮釈放の適正な在り方,その後の保護観察の処遇が重要です。少年受刑者について,処遇を特化するというのは非常に難しいことかもしれませんけれども,改善更生の可能性の探求は裁判所の段階で終わるわけではないと考えています。元々,不定期刑というのは廃止論もあったわけで,そのことを含めますと,ここでこの少年不定期刑が残ったという意義は,強調されるべきで,今後も少年に対する教育刑的な側面に重きを置かれることになると思いますので,矯正保護の現場で是非一段の工夫をお願いしたいと思います。 ○花村関係官 矯正局でございます。少年受刑者の処遇につきましては,前回御説明をしたとおりでございます。1点だけ,私どもは刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律に従い処遇をしていますが,この30条に受刑者の処遇の原則という条文がございまして,「受刑者の処遇は,その者の資質及び環境に応じ,その自覚に訴え,改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを旨として行うものとする。」と定められておりますので,委員御指摘のとおり,少年受刑者の処遇につきましては,まだまだ充実強化していきたいと考えております。 ○吉田関係官 保護局参事官の吉田でございます。少年の不定期刑を言い渡された者の仮釈放の運用につきましては,前回,御説明をさせていただいたとおりでございますけれども,その審理に当たりましては,短期の三分の一を経過した時点で,仮釈放の要件を満たしますが,刑務所におきましては,その短期の三分の一を経過する前から,仮釈放の適否についての審査を始めるということになっておりますし,その後,定期的に審査を行って,仮釈放の申出をするということになっております。そういった規定を踏まえまして,今後も適切に仮釈放の運用がなされるように,また,引き続き保護観察につきましても,少年の特性等を勘案して,充実した処遇が行われるように努めてまいりたいと思っております。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。   それでは,ほかにございませんようですので,少年の刑事事件に関する処分の規定の見直しについての第1巡目の議論はこの辺りで終えることにして,次に国選付添人制度及び検察官関与制度の対象事件の範囲の拡大についての第2巡目の審議に移りたいと思います。   国選付添人制度及び検察官関与制度の対象事件の範囲の拡大に関する審議につきましては,まず冒頭で前回お願いしましたとおり,須納瀬委員から付添人の担い手である弁護士のレベルアップのための弁護士会の取組について御説明を頂いた後に,国選付添人制度の対象事件の範囲拡大について審議し,その後に検察官関与制度の対象事件の範囲拡大について,国選付添人制度の対象事件の範囲拡大との関連性も含めて審議したいと存じます。このような進行でよろしいでしょうか。   それでは,そのようにさせていただきます。須納瀬委員,付添人の担い手である弁護士のレベルアップのための弁護士会の取組について御説明をお願いいたします。 ○須納瀬委員 須納瀬でございます。先ほど御説明ありましたように,私の方から資料の配布をお願いしております。「弁護士会における付添人活動の研修等について」というA4,1枚の紙を御配布いただいておりますので,それに基づいて御説明させていただきたいと思います。この間,付添人に選任される弁護士が増加している中で,日弁連や各地の弁護士会としては,初めて付添人活動を行う者も含めて,少年事件,少年審判の特質を踏まえて,適切な活動ができるように,更にはそのレベルアップ,質が向上するように努めておりますので,その一端を紹介させていただきたいと思います。   各地の弁護士会の取組と,あと日弁連における取組というものがございますが,まず,各地の弁護士会におきましては,一つは研修会等を実施しております。付添人活動に関する研修というのは,大半の弁護士会で行っております。研修対象としては,新規登録会員向けの研修,それから,新規登録会員かどうかを問わず,全会員向けの研修がありまして,1年にその両方を行っている所も少なくありません。大規模弁護士会では,年に複数回の研修を実施して,いずれかに参加できるようにしております。   研修の内容としては,経験豊富な弁護士が講師になるほか,併せて家庭裁判所の裁判官や調査官,児童精神科医,スクールカウンセラー,保護観察官,就労支援事業者機構の方をお招きするなどして,少年事件の特質を踏まえた付添人活動についての理解を深めるように工夫しております。事例検討会というのでは,特定のケースについて報告してもらいながら,付添人活動について意見交換をし,他の弁護士の意見も聞くことで,よりよい活動につなげております。また,各弁護士会では少年院や児童自立支援施設等の施設の見学なども行っております。   それから,会員に対するサポート体制ですが,新規登録会員が初めて付添人活動を行う場合には,経験ある弁護士と共同受任をするという体制をとっている弁護士会があります。また,ベテラン弁護士のアドバイザー名簿などを作り,付添人活動をバックアップする体制をとるなどしております。   それから,マニュアル等の作成ですが,後に述べますとおり,日弁連でもマニュアルを作成しておりますが,大規模弁護士会を中心に各弁護士会でも地域の実情に即したマニュアルを作成しているところです。また,会員向けの広報誌などで活動報告を掲載し,一般会員の参考に供するようにしています。それから,家庭裁判所との連携ですけれども,先に述べましたとおり,研修会に家庭裁判所の裁判官や調査官,書記官をお招きして,家庭裁判所から見た少年審判のポイントや付添人活動への要望等をお聞きしております。それとは別に,家庭裁判所と弁護士会の懇談会などの場で付添人活動をテーマに取り上げ,試験観察などにおける家庭裁判所との連携について協議したり,付添人活動への要望,評価できる点と同時に,裁判所から見て問題ではないかと思われるような付添人活動について,率直に御意見を伺い,付添人活動の質的向上に役立てているところであります。   次に日弁連,日本弁護士連合会における取組ですけれども,日弁連でも研修会を実施しております。各弁護士会での研修会のほか,全国の会員が衛星中継で受講できる特別研修というのを行い,年1回は付添人活動をテーマにしております。それから,各弁護士会で実施している研修に際し,要望があれば,日弁連から経験豊富な弁護士を講師として派遣しているところです。   次に研究会の開催で,全国付添人経験交流集会と記載しておりますが,これは全国の弁護士が付添人活動の経験を交流し,その質的向上を図るために,相互に研究を深める場です。1991年以来,毎年1回,全国を持ち回りで開催しており,今年は大分で22回目を開催いたしました。年々参加者も増えており,今年は約400名の会員が全国から集まり,少年院の実情,あるいはぐ犯事件での付添人活動等のテーマで6つの分科会で経験を交流いたしました。   それから,マニュアルの作成ですけれども,全ての弁護士会が独自にマニュアルを作成するのは困難ですので,日弁連が付添人活動に関するマニュアルを作成しています。一つは,A4,4ページ程度の簡便なもので,最低限の内容を記載した「付添人活動の基礎知識」というものです。それから,更に細かい部分まで詳細に解説した,やや厚いもの,それが「日弁連付添人活動のマニュアル」というものですけれども,この両方を作成しておりまして,これにより少年事件の特質を理解して付添人活動ができるように配慮しております。この付添人活動のマニュアルは,従前から作成しておりましたけれども,この間の付添人の増大に対応するために,この度新たに改訂をいたしまして,全弁護士会に約1万部配布して,付添人活動に携わる可能性のある弁護士に無償で提供するようにしているものであります。これ以外にも,「子どもの権利通信」という子どもの権利委員会が発行するニュースでも付添人活動に関する情報提供を行っているところです。   以上のとおり,弁護士会としても,刑事裁判とは異なる少年審判の手続的な特性等を踏まえ,より適切な付添人活動が行われるように,更にレベルアップできるように研修等に努めているところでございます。すみません,長くなりましたけれども,以上です。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。ただいま須納瀬委員から,弁護士会における付添人活動の研修等について御説明を受けました。この点について,何か御質問がございましたらお受けして,お答えしていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   この点については前に,植村委員の方から御発言があったと思いますが,植村委員,いかがでしょうか。 ○植村委員 今の御説明は,私も若干知っているとおりだと思っています。ですから,仮に今回の立法がされていくと,また,多くの弁護士さんが付添人となっていかれますので,引き続き弁護士会では会員のレベルアップに努めていただければ幸いだと思います。 ○須納瀬委員 ありがとうございます。 ○川端部会長 それでは国選付添人制度の対象事件の範囲拡大についての審議を行いたいと思います。第1回部会における審議を踏まえますと,これから御審議いただくべき論点としては,国選付添人制度の対象事件の範囲拡大の必要性,国選弁護人制度の対象事件の範囲及び国選付添人の選任の要件,つまり選任後,家裁の職権判断とするか,少年等が請求した場合に選任するか,ということになろうかと思います。そこで,これらの点について,順次,御審議を頂き,これ以外に関しては,必要に応じて御発言いただくことにしたいと思いますが,そういうことでよろしいでしょうか。どうもありがとうございます。   それでは,まず国選付添人制度の対象事件の範囲拡大の必要性について御意見を頂ければと存じます。よろしくお願いいたします。 ○佐伯委員 私は国選付添人制度の対象事件の範囲は是非拡大すべきであると考えておりますので,少し理由を申し上げたいと思います。まず,非行事実が存在しないのに誤って少年を処分に付するということは,これは絶対あってはならないことですし,また,少年の健全な育成のために適正な処遇の決定をすることのためにも,非行事実の内容や原因が正しく認定されることが重要だろうと思います。そのためには,やはり弁護士の方の付添人活動というものが非常に重要であると考えております。また,少年を取り巻く環境の調整や社会資源の確保ということも少年の立ち直りのためにできるだけ早く取り組まれる必要があり,そのためにも弁護士付添人の方の活動が重要であると思っています。以上のような理由で対象事件は是非拡大すべきだと考える次第です。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。ただいまの佐伯委員の意見を踏まえながら,あるいは別の観点から御意見がございましたら,お願いいたします。 ○小木曽委員 私もこの付添人の範囲を広げる,特に職権主義的に行われている,審判等で家庭裁判所が必要であると考える範囲がより広いということはあろうかと思いまして,その範囲について,国選付添人がいるということは必要であろうと思います。こういうふうに申しますと,特に被害者の方々からは,少年を過剰に保護しているというような印象を持たれることがあるかもしれませんけれども,これは必ずしも少年を甘やかすとか,その責任を認めさせないように付添人が付くわけではなくて,正しい事実認定に基づいた,反省に基づいた更生ということの必要のために,付添人が活動するということが必要な場面があろうかと思いますので,その点は誤解のないようにといいますか,少年を甘やかそうというそういう趣旨ではないということを是非私は強調しておきたいと思います。 ○武内委員 武内です。結論として私も国選付添人の範囲の拡充には賛成でございます。今,小木曽先生の方から被害者の立場にとっても,必ずしも意向に反するものではないという御指摘を頂きましたけれども,支援の現場にいる者としては,私も同じような感覚を持っております。適切な付添人活動がなされるということは,事案に関しての説明をきちんと被害者側へ加える,あるいは状況に応じて適切な示談対応と被害回復への努力ということにもつながっていくことにもなりますので,付添人の範囲が拡充するイコール,被害者ないし被害者支援の観点から,それが反するというものではないと理解しております。もっとも,この場で論ずるテーマではありませんが,付添人の範囲が拡充するのであれば,将来どこかの場面で被害者のための弁護士制度の拡充というのがまた俎上に上がればうれしいなという感想を持っております。 ○堀江幹事 少し先走った話になるかもしれませんが,既に第1回でも御指摘があったように,被疑者国選弁護の範囲との間でそごが生じていて,それが実際上大きな問題であるということは否定できませんので,少なくとも被疑者国選の対象事件と同じ範囲までは拡大する必要があるだろうと思います。更にそれ以上に広げるべきか,どこまで広げるかということについては,国費の問題もありましょうし,また検察官関与の範囲の問題にも絡むという考え方もあるかもしれませんけれども,それはそれでまた議論になるとしても,少なくとも,今,申し上げたような範囲までは拡大する必要があるということは,明らかだろうと思っております。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。この点につきましては,ただいまの御意見を踏まえて,また改めて検討させていただきたいと存じます。   次に国選付添人制度の対象事件の範囲について,御意見を頂ければと思います。これまで範囲の拡大ということを議論したわけですが,今度は必要性について御議論いただいて,具体的に国選付添人制度対象事件の範囲について御意見を賜りたいと思います。 ○川出委員 範囲につきましては,私も,堀江幹事がおっしゃったことに賛成です。付添人の方が果たしている役割を考えれば,身柄を拘束された全事件に付けられるのが一番よいのかもしれませんが,やはりお金の問題もあるでしょうから,ある程度まで絞らざるを得ないということであれば,被疑者国選の対象事件については,事件が家裁に送致された後も,必要であれば国選で付添人が選任できるようにすることを考えるべきだろうと思います。少年事件は,基本的に全件送致ですので,捜査段階で被疑者国選の形で少年を担当されている弁護人の方は,当然,家裁に事件が送られ,調査審判がなされるというところまでを見据えた弁護活動をされるでしょうから,それにもかかわらず,家裁に送致された後,必要であるのに国選で付添人が付けられないという事態というのは,弁護士の方の活動の一貫性という意味でも,また,援助を受けられなくなる少年の立場を考えても問題があると思いますので,少なくともその範囲では範囲を拡大することが必要だと思います。別の面からいいますと,どういう場合に国選の付添人を付ける必要があるかという点について,先ほど,正しい事実認定を行うという観点,それから適正な処分を決定するという観点から,付添人の方が関与する必要があるという指摘がなされていますが,そうした点から見ても,被疑者国選の範囲というのは,その必要性が高いということが言えるのではないかと思います。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○須納瀬委員 日弁連としては,前回申し上げたとおり,基本的には身体拘束された少年の全件まで拡大をする必要性があるという意見を持っているところでございます。それに対して,今回,被疑者国選と同等の範囲までという提案がされ,少なくともそこまでは広げる必要があるのではないかという御意見が,諸先生方から出されているということについては,従来の私どもが申し上げていた点について,一定御理解を頂けているということで,大変有り難く思う次第です。そういう意味では,積極的な御意見が出されているということについては,感謝申し上げたいというふうに思います。もちろん制度であります以上,予算の制約等というのも考慮せざるを得ないわけですけれども,やはり付添人の必要性ということから考えた場合に,繰り返しませんけれども,やはり被疑者国選以外の部分について,ぐ犯であるとか,あるいは道交法違反の共同危険行為等の事件等などについても,私ども,付添人活動をやっていて,これらと,例えば窃盗とで必要性がそれほど変わるかというと,むしろそういう事案の方が必要であると感じるところもあるということでございますので,前回申し上げたとおり,ここまでの拡大ということは大きな評価,大きな前進として評価しておりますけれども,それ以外の範囲の必要性ということも,御理解を頂きたいと思う次第です。 ○川端部会長 今,須納瀬委員から御意見がございましたが,この点に関して何か御意見がございましたら,お願いいたします。 ○小木曽委員 先ほど川出委員からもありましたけれども,予算があれば,それに反対する人は余りいないのではないかと思いますけれども,やはり税金を使うということになりますと,どこかでやはり線を引かなければいけないということになるのだろうと思いまして,その事実認定の正確さということと,それから,要保護性,あるいは環境調整という役割があると思うんですけれども,その全てについて,やはり必要性の高いところに資源を投入するということになるのではないかと考えまして,そのうちの例えば環境調整とか要保護性ということだけで限りある資源を投入するということに,社会全体の理解が得られるかどうかということも考えますと,やはり重大なところで被疑者国選の幅と合わせるという辺りが理解しやすいところなのではないかという印象を持ちます。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。被疑者国選との関連で考えるという観点からしますと,ぐ犯までは広がり過ぎるのではないかという御意見として承ってよろしいでしょうか。この点に関しては,いろいろ問題があると思いますので,どうぞ御意見のある方は,御自由に御発言をお願いします。 ○瀬川委員 私もこの要綱(骨子)に賛成です。少年法が職権主義的な構造を採用しているということから見まして,家庭裁判所が中核となって,こういう形で運用するというのは望ましいと思っています。それから,ぐ犯にもこの点を拡大せよというお考えについてですが,弁護士,付添人の方から見ると,ぐ犯の場合に付添いが必要だったなという必要性を感じるような事案というのは確かに現場ではあるのではないかと思います。ただ,犯罪少年あるいは触法少年と比較すると,ぐ犯という事案自体は非常に微妙,しかも,定型性に欠きますので,そういう点でなかなか事実認定の適正化という観点から,今回のような立法の論議の中でそろえるというのは難しいのではないかと私は考えています。今後検討する必要はあるかもしれませんけれども,今回の立法論議としては,理論的には少し難しい面を持っているのではないかということを申し上げておきます。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。今,ぐ犯の問題が出ておりますが,ほかに御意見ございましたら,どうぞお願いします。   特に御意見がないようですので,ここで15分間の休憩を取りたいと思います。 (休     憩) ○川端部会長 皆さんおそろいのようですので,再開したいと思います。   では続きまして,国選付添人の選任の要件についての審議に移りたいと思います。この点につきまして,御意見がございましたら,お願いいたします。 ○川出委員 選任の要件につきましては,現行法とは異なり,請求によることを認めるかどうかが問題になるだろうと思います。仮に請求によるということになりますと,刑事裁判における国選弁護人と同じ扱いをするということになりますが,やはり刑事裁判の場合とは,国選で選任される付添人の意味合いが異なるのではないかと思います。この点につき,少年審判は職権主義構造だからということが言われるのですが,その中身は,要するに,非行事実と要保護性の双方について,裁判官,それから調査官が主体となって,少年にとって有利,不利を問わず,積極的に調査を行うという構造になっているということだと思います。   そのような前提の下では,国選付添人というのは,裁判所が行うだけでは不十分であるとか,そこまで言わないにしても,付添人がいた方が,より適正な事実認定や処分の決定ができるという場合に選任されるものだということになります。そうだとすれば,選任の必要があるかどうかは,やはり裁判所が判断すべきものであって,少年が請求したから選任するという形にはならないのではないでしょうか。刑事裁判の場合ですと,被告人の立場に立って防御してくれる人というのは誰もいないわけですので,被告人が求めるのであればそうすると,弁護人というのは国選で付ける必要があるということになるんでしょうが,請求で。そうではないわけですから,やはり裁判所の裁量によって選任するという現在の枠組みを維持すべきだろうと思います。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。ただいまの件につきまして,何か御意見がございましたら,お願いいたします。 ○小木曽委員 私も今の裁判の構造といいますか,在り方というか,審判の在り方を根本的に見直すということであればまた考える余地があるかと思いますが,そうでなければ,今の枠組みで考えるということではないかと思います。 ○須納瀬委員 確かに現行の少年法の構造というのは家庭裁判所が行って,少年に対する後見的な役割も果たすと,そういう構造になっておりますので,川出委員がおっしゃるとおり,刑事裁判と構造が違うのはおっしゃるとおりだと思います。しかしながら,例えば非行事実の認定における適正手続等の場面においては,完全に裁判所と対立するわけではありませんけれども,より少年の主張を,適正に主張できるようにするためには,付添人の役割にはいろいろな側面がありますけれども,弁護人的な役割を果たす必要性があります。そういう場面を考えると,家庭裁判所が後見的な役割を果たすから,直ちに,付添人は必要ではないと言えるのかどうかというと,やはりそういう場面では付添人が必要になってくるのではないかと思います。更に言うと,要保護性の場面では,事実認定の場面と比べると,少し弁護士付添人の必要性が後退する場合もあるのかもしれませんけれども,現実に弁護士付添人が果たしている役割等を考えますと,その点については,裁判所の機能を補完して,十分な役割を果たしているということがございますので,その点でも,付添人を付ける必要性があると思います。更に言うと,少年が納得して保護処分を受け入れるという,そういった機能からいっても,付添人を付ける必要性がある場面があるのではないかと思います。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。別に論争をあおるわけではございませんが,川出委員,何か今の点に関して御意見がございましたら,御発言をお願いいたします。 ○川出委員 非行事実の認定に関しては,職権主義ですから,裁判所は,少年に有利,不利にかかわらず,その事実を調査し,解明するという立場にあるわけでして,そこが刑事裁判とは決定的に違います。刑事裁判の場合は,検察側から被告人にとって不利な証拠が提出され,それに対して被告人が特に反論しないような場合に,被告人にとって有利な証拠を裁判所が積極的に取り調べるというようなことはしないわけですから,そのような活動をしてもらう者としての弁護人を,被告人の請求があった場合には選任する必要があるということになるわけですが,少年審判の場合は,裁判所が,刑事裁判で弁護人が行うようなことをするという前提であるわけです。それは建前であって,実際には,裁判所が期待される役割を果たしていないということであればともかく,そうでなければ,裁判所が必要性を感じないときにまで,請求されれば,国選で付添人を選任しなければならないというのは,そもそもの国選付添人の性格に合わないのではないかと思います。 ○川端部会長 突然の御指名で申し訳ありませんでした。裁判所の立場から現状に関して何か御説明していただける点がございましたら,よろしくお願いいたします。 ○嶋原委員 東京家裁の嶋原です。家裁の現場でこの会議に出ているのは私だけなものですから,ちょっとしゃべらせてもらいます。現在の運用状況なんですけれども,これは個々の裁判官が事案ごとに判断するということで,それを前提にしてお聞きいただきたいのですが,例えば,「事案の内容」としては,少年院送致等の重大な処分が見込まれるかどうかといった点,それから,非行事実に争いがあるかどうか,これは,具体的に,その争いの内容や,それが一件記録に照らしてどういう意味を持つのかとか,そういう内容を見ます。それからあと,「保護者の有無その他の事情」といった点では,少年に保護者がいないということで,ほかに援助してくれる近しい者もいないかどうかと,こういった点,それから,保護者がいたとしても,虐待等で少年が保護者による十分な援助を受けることができないかどうか,こういった点を見ます。それから,これは第1回にも話題に出たんですが,暴力団との関係断絶など保護者には困難な援助が必要かどうかと,こういった点などを見ます。これらを総合的に考慮して,国選付添人を選任するか否かを判断しているということが現状かと思います。 ○須納瀬委員 今の御説明は,現在の裁量国選制度の下での裁量権の行使の内容等を御説明いただいたのかなと思うんですけれども,被疑者国選弁護人が選任されているという事情,第1回にも説明しましたように,被疑者国選弁護人というのは,家庭裁判所,被疑者段階から家庭裁判所の審判を見据えて活動をしているわけですけれども,そういった国選弁護人が選任されているという事情は,国選付添人選任の際の,一つの考慮要素になっているのかどうなのか,その辺りを教えていただければと思います。 ○馬渡幹事 ではこの点は私の方から御説明します。実務の現状ということでお話ししますが,被疑者国選弁護人が選任されているという事案において,例えば少年が引き続き弁護士付添人による援助を希望していると,又は希望していないといったような点につきましては,国選付添人選任の要否を裁判官が検討する際に考慮に入れる一事情とはなり得ると思います。もっとも,被疑者国選弁護人が選任されていたことや,少年が引き続き援助を希望しているということ,こういったことがあれば,直ちに国選付添人を選任しているという現状ではありません。個々の事案ごとに,先ほど嶋原委員が述べられたような事情を総合考慮して審判の手続に弁護士付添人が関与する必要があると認められた場合に,初めて国選付添人を選任するというのが現在の実務であると理解しております。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。 ○佐藤(隆)幹事 ただいま,家庭裁判所の裁量権行使の実情について御議論がございましたが,今回の要綱(骨子)は,国選付添人選任の必要性を判断する際に,家庭裁判所が考慮すべき要素を改めるということまで含む趣旨なのか,事務当局にお伺いしたいと思います。 ○川端部会長 今,佐藤幹事から御質問がありましたが,岩尾委員,お願いします。 ○岩尾委員 御提示させていただいております要綱骨子案でございますが,これは国選付添人の選任に関わる対象事件の範囲を拡大しようと,こういうものでございまして,その際の選任要件の基本的な枠組みについては,従前どおりであることを前提としております。そして,家庭裁判所がその選任の必要性を判断する場合の考慮要素についても,規定の文言を何ら変更するものではございません。したがいまして,先ほど御説明がありましたような考慮要素というような部分につきまして,基本的にはこれまでの運用と同様のものになるのだろうと考えております。 ○川端部会長 佐藤幹事,以上でよろしいでしょうか。ほかにいかがでしょうか。 ○須納瀬委員 今,被疑者国選弁護人が選任されているという事案では,少年の希望等が一つの考慮要素になるというような御説明があり,ただし,直ちに選任されるということまでは意味をしないというような御説明があったかと思います。そして,新しい今回の改正によっても,その考慮要素は基本的には変更がないというようなお話だったかと思います。実情として,そのとおりかなというふうに承っているわけですが,ただ,繰り返しになりますけれども,弁護士というのは,やはり被疑者段階から審判を見据えて活動しており,弁護士の側としてはやはり是非選任してほしいという希望があります。それであるからこそ,日弁連の立法提言においては,そういった活動を保障するためにも,請求選任というものが必要であるということを主張していると,そういう関係にあるということを御理解いただければと思います。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。もしございませんようでしたら,次へ移りたいと思っておりますが,いかがでしょうか,よろしいでしょうか。   それでは,引き続きまして,検察官関与制度の対象事件の範囲拡大についての審議に入りたいと思います。第1回部会の議論を踏まえまして,検察官関与制度の対象事件の範囲を拡大する必要性や検察官関与制度と国選付添人制度の対象事件の範囲の関係について,御審議いただきたいと思います。この点について,御意見がございましたら,お願いいたします。 ○佐藤(剛)幹事 この点につきましては,本日所用のため欠席されています,武委員から事前に意見書を頂戴しております。意見書には,国選付添人制度に関する御意見も含まれておりますので,ここで全文を朗読させていただきたいと思います。よろしいでしょうか。   それでは,朗読いたします。   意見書,少年犯罪被害当事者の会。   私たちの会「少年犯罪被害当事者の会」は平成9年12月に結成しました。子どもを理不尽な少年の暴力によって殺された親たちを中心に一切の団体や宗教等にとらわれることなく,当事者の立場で純粋に少年法の改正を訴えてきました。   私たちの願いは,私たちの子どもが味わったような悲劇を繰り返さないようにすること,そして,子どもたちをこれ以上被害者にも加害者にもしないことです。   1,今回の諮問では,検察官関与について,その範囲が長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪のものに拡大することが検討の対象とされています。現行法に比較してかなりの範囲の事件が検察官関与の対象となることになります。事実認定をしっかりしていただくことは私たち被害者にとって不可欠なことであり,それは基本的にどのような種類の被害でも変わりはありませんから,被害者から見れば1歩前進に間違いありません。   私たちは従来,国選付添人制度の対象事件の範囲の拡大について反対していません。身柄を拘束された少年に付添人を付けるのは,その少年の言い分をきちんと聞くために必要でしょう。私たち被害者は少年の言い分を聞かずに審判をしてほしいなどと言うつもりは全くありません。しかし,国選付添人制度の対象事件の範囲を拡大すると,審判の構造としては少年側の人間が1人増えるということにほかなりません。しかも弁護士という専門的な立場の人です。これは私たち被害者から見れば,審判が現行の審判と比較して,更に少年側の人間のみによって構成されるということです。私たち被害者はこれまでも少年の主張だけを聞いて行われる審判に大きな不信感を抱いてきました。国選付添人の対象事件の範囲の拡大は私たちの不信感を更に大きくするものです。審判は公正に行われる必要があるのは明らかです。元々,少年が何をしたのかを明らかにする手続に少年側の人間しか出席しないという制度は事実誤認を引き起こす危険が大きいものでした。今回の国選付添人制度の対象事件の範囲の拡大はその危険を増大するものです。そのような事態を避けるため,国選付添人制度の対象事件の範囲が拡大されるのであれば,付添人が付けられた事件についての事実認定には検察官関与が必要と考えます。   2,今回の審議対象は検察官関与の範囲の長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪への拡大です。これが1歩前進であることは上記のとおりです。でも,私たちが従来主張してきたこととは必ずしも一致しません。私たちは事実認定の重要さを繰り返し訴えてきました。逆送されるか否かで事実認定の手続に大差があるわけですが,現行法では家裁の裁量で逆送か否かが決められるわけです。このような不合理をなくし,被害者あるいは一般国民の審判への信頼を回復するために,家裁の審判においても,少なくとも被害者が死亡したり重傷を負ったりした一定の重大事件については,自白事件も含め検察官関与を,家裁の裁量ではなく,原則としてほしいと主張してきたのです。   でも,残念ながら,今回の諮問には入りませんでした。私たちは繰り返し述べているように少年法の理念を否定するつもりはありません。ただし,少年を保護・教育して更生させる・健全育成するというのなら,本当に更生させることのできる制度にする必要があると思っているのです。現在の少年法制は,理念として掲げるものを実際に実現できる制度になっておらず,極めて中途半端な制度です。更生の大前提となるのが適正な事実認定です。事実認定をいい加減にしてよいとする理由はどこにもないでしょう。特に人を殺したり傷つけたりした重大事件においては,何をおいても事実を明らかにすることが不可欠です。事件の真相を明らかにする。それは事件を起こした少年に対していかなる処分が必要かを考えるに当たっても必要不可欠なはずですし,被害者の名誉回復や尊厳の維持にも重要なことなのです。何度も申し上げているように,不十分な事実認定は少年の更生にもつながらないばかりか,反する結果にもなるでしょう。私たち被害者は繰り返し申し上げているとおり,これまで不十分な事実認定のままで行われている少年審判を全く信用してきませんでした。少年に甘いという単純な理由からではありません。きちんと事実認定をしないままで行われる少年審判の後にはいったい何が起きるのでしょうか。少年は本当に反省できるのでしょうか。厳密な事実認定を行わない現行制度の下で,私たち大人は少年に本当に更生できる環境を与えられているのでしょうか。実際にこういう事件がありました。   13歳の長女を15歳の少年に殺された母親は,少年審判での不十分な事実認定と少年の主張にどうしても納得できず,少年が社会復帰してきた後で民事調停を起こしました。被害者の母親が民事調停で直接加害少年から聞いた事実は,審判で認定された事実とは全く異なるものでした。審判では被害者自身が,殺された建物に少年を誘いこんだとされていた上,殺害の動機も被害者の言葉にかっとなって,とっさにその場に落ちていた布を拾って首を絞めて殺害したと認定されていましたが,民事調停での少年の自白で,実際には少年が被害者を建物内に誘いこみ,用意していった布で首を絞めて殺害していたことが分かったのです。被害者の母親には審判に対する強い不信感が残りました。検察官不在の審判で,加害者側の言い分だけが通ったため,逆送にもならなかったと感じています。調停を起こさなければ分からなかった事実はほかにもあり,理不尽さを感じています。   現在の審判では,このように少年のうそが通ってしまう現実があります。それが少年の更生にとってマイナスであることは明らかです。社会ではうそは通用しないという基本ルールを少年に教える義務が大人にはあります。厳密な事実認定は被害者のみのためではありません。少年の更生を目的とする少年法の理念の下においても不可欠なはずです。   また,大津での少年のいじめ自殺を発端に,現在いじめ問題がメディアに大きく取り上げられています。いじめは犯罪です。それでもこれまで多くの事件で真相が明らかにされてきませんでした。学校もいじめた側の親もいじめと認識していなかったとか,いじめは存在しなかったとかの繰り返しでした。でも今やっと「大変なことが起きた。それをうやむやにするのではなく,本当は何が起きていたのかを明らかにし,再発を防止する必要がある」という動きが出てきているのだと思います。いじめた側が実際に逮捕されたケースの報道もされています。正に少年事件なのです。事実を明らかにすることが再発の防止に不可欠だということはいじめの例を見ても明らかでしょう。少なくとも,被害者に死傷の結果を生じたような重大事件などでは,自白事件を含め,対審できちんと事実認定をする必要があると思います。そのような重大事件において,きちんと事実認定されないということのほうが,そもそもおかしいのです。少年審判も国の制度である以上,国民の信頼の上で行われるものでなければなりません。現在の少年審判は,被害者のみでなく国民の信頼を得られる制度になっているのでしょうか。少年の健全育成を掲げる少年法の下で,現在の制度が本当に少年の更生を実現できる制度になっているのであれば,国民の納得も得られるでしょう。本当にそうなっているのか検討していく必要があると思っています。   3,適切な事実認定が必要だとしても,必ずしも検察官関与は必要ないという意見もあります。検察官関与に反対する意見です。検察官が審判に出席すると,少年が萎縮して話せなくなるとか,和やかに行われるべき審判制度に反する等の理由が常に挙げられます。でも,逆送された事件で実際に少年が何も話せなかったという例が何件あったでしょうか。実際には刑事法廷においてさえ,きちんと話せる少年がほとんどだと思うのです。検察官が関与したからといって,直ちに審判が和やかでなくなるということにもならないと思います。そもそも重大事件を起こした審判の場なのです。本来厳しい場であるはずなのです。ただし,私たちは厳しい言葉で少年を問い詰めてほしいなどと言っているわけではありません。少年であることに配慮した質問の仕方というのもあるはずです。和やかにという意味はそういうことではないのでしょうか。   今回の諮問では,私たち被害者の上記のような主張は取り上げていただけませんでした。時間が必要だし,各方面からの議論も必要なのだと思います。でも,私たち被害者は今回の改正についてもまた見直しをしていただき,私たちの主張について再度検討していただく機会を作っていただきたいと思っています。   私たちの苦しみ悲しみは,一生変わりません。でも,国として私たちにも加害者と同様の権利を与えてくれたなら,それが,私たちが自分たちの力で前を見ながら生きていく力になるでしょう。 ○川端部会長 ただいま武委員の御意見を朗読させていただきました。今の御意見も踏まえまして,御意見がございましたらお願いいたします。 ○山﨑幹事 私自身も少年事件に関わる弁護士として,今の意見書にもありましたけれども,子どもたちをこれ以上,被害者にも加害者にもしないというために頑張って活動しているつもりです。そしてまた,更生の大前提となるのが適正な事実認定であるということの御主張にも全く共感するところです。その上で,検察官関与制度の対象事件の拡大ということを考えたときに,なお,私はやはり問題があるだろうと考えております。御承知のとおり,少年は未成熟であるがゆえに,捜査機関の誘導等に迎合しやすく,たやすく虚偽の自白に至る危険性が高いとされております。少年審判の手続には,刑事裁判の場合とは異なって,予断排除原則や伝聞法則が採用されておりません。このため,たとえ少年が捜査段階で虚偽の自白を余儀なくされたという場合であっても,裁判官はその虚偽の内容の自白調書を含む全ての証拠に目を通した上で審判に臨むことになり,多くの場合には有罪の心証を形成して,審判に裁判官が臨むことになるものと考えられます。これに対して少年が審判で非行事実を争ったときに,審判への検察官の関与を認めた場合には,裁判官が有罪の心証を形成した状態のまま,更に検察官による少年の弁明への弾劾を認めるということになりますので,非行事実を争う少年を著しく不利な立場に置き,刑事裁判の場合以上にえん罪の危険性を高めるものと言わざるを得ないと思います。このような意味で,少年審判における検察官の関与には,そもそも手続構造上の問題があると考えております。   また,現行法における検察官の審判関与は,その導入時において,対象の事件が一定の重大事件に限定されたという経緯がございます。この点に関して,第1回の会議において,東京家裁の嶋原委員の方から,現行法の対象である事件以外についても家庭裁判所の実務で検察官の関与が必要と思われる例があるという旨の御説明がありました。しかしながら,そこで指摘された裁判官と少年との対じ状況の回避,あるいは証拠の吟味等における多角的な視点の確保という点につきましては,現在の実務でも,事案に応じて少年に対する質問の順序やその方法を工夫したり,あるいは裁定合議で3人の裁判官が審理を担当するということで対応されており,重大な問題は生じていないものと認識しております。したがいまして,御指摘のありました点も,現行法の適切な運用によって十分に対処が可能であろうと考えられますし,また,裁判所から見て検察官の関与が望ましい場合があるということだけでは検察官関与の対象事件を拡大する立法事実としては十分と言えないのではないかというふうに考えております。以上の次第で私としては,検察官関与の対象事件の拡大には問題があると考えております。 ○植村委員 山﨑幹事は十分御理解されている上での発言であるわけですが,今,御指摘の中に有罪の心証という言葉がありました。これをそのまま見ますと,もう審判する前から家裁の裁判官はもう,言わば刑事でいうと,有罪の判決をする程度の心証を抱いているというような印象を与えるわけですが,もちろんそうではないわけで,刑事のいう意味での,合理的な疑いを超えた有罪の心証というものを抱いて,家裁の裁判官が審判に臨むということはないわけです。ですから,そこは言葉のミスリードになるといけないと思って,あらかじめ,山﨑幹事は十分御承知なんでしょうけれども,そういう意味で,事実認定というのを言うのはちょっとおこがましい感じはありますが,証拠で出てきたいろいろな事象を見ていくというのが,事実認定だろうと思うんですけれども,少年法の建前は,それを家庭裁判所の裁判官だけがやるということで,刑事のように当事者がいろいろ主張,立証することをアンパイヤーとして見るというよりは,最初から実態に踏み込んでいくということで,立場が違うわけで,それを先ほど山﨑幹事が有罪の心証とおっしゃったんだと思いますが,それにしましても,いろいろな角度から見ていくということも,山﨑幹事の言葉にもございましたが,そのためには,付添人側から有効適切な主張,立証がされていくということは非常に貴重なことだと思いますが,そういったことが起こってきますと,必然的に新たな主張,立証ということもなされる可能性も出てきます。そうすると,場合によると補充捜査ということも必要になってきます。そういったことについて,円滑な実施をするには検察官が関与されていたほうが,全ての事件で必要だという意味ではありませんが,そういったことも必要になってくることもあると思います。また,先ほど来の被害者側の御意見もありましたが,そういった被害者側の視点といったものも,審判に反映させる立場として見ると,もちろん調査官がおりますので,家裁もその点についてフォローするわけですけれども,検察官の指摘といったものも貴重なものになってくると思います。いずれにしても,裁量的国選付添人の関係も裁量ですけれども,検察官関与も裁量ですから,真に責任を負っている家裁の方で必要と認めたときに関与するということなので,言わばそういった形での選択肢を一つ設けると,既にあるわけですけれども,その範囲を拡大するということ自体は,それほど不合理な立法政策ではないと思っております。 ○望月委員 私は武さんの意見書を支持したいと思います。平成9年から少年犯罪被害当事者の会を主催されて,多くの事件に関わり,被害者を支えられてきた経験を基にして,いろいろな問題提起と被害者の願いがしっかりと込められた意見書だったと思います。支援者の立場からもやはり検察官には事実認定の専門家として是非多くの審判に関わっていただきたいと思います。短期間で事実認定をしなければいけませんので,確実にそれを行うためにも,また,裁判官の負担を軽減するためにも,それから,被害者や一般国民に少年審判の公平性や公正性を示していくためにも,それから,少年のえん罪を防ぐためにも,検察官がより多くの審判に関わっていくことが大切だと思っています。少年に対する国選付添人の範囲の拡大を審議されるのであれば,なおのこと検察官の関与も見直されるべきだと思います。更に被害者に対する国選弁護人についての検討にもつなげていっていただければ,それはとても有り難いことだと思います。 ○赤根委員 武委員,それから植村委員,そして望月委員の御意見は非常に重いものと受け止めております。検察官関与の必要性について,検察官の立場からも申し上げたいと思います。一般論として言えば,例えば強制わいせつ事件を取り上げてみますと,少年が犯行態様を争うなどして,非行事実を否認するというような場合には,非行事実の認定のために,被害者本人に審判廷で証言してもらう必要があることがあります。そのような場合に,被害者の心情に十分配慮しつつ,適切な質問を行わなければならないわけですけれども,検察官は既に捜査過程で被害者側の事情にも通じていますので,そのような質問が可能になるわけです。そして何よりも証人となる被害者には,面識がある検察官が質問に立つことで,安心感を持っていただけると思いますし,したがって,質問に対してのお答え,つまり証言もしやすくなるように思っております。   第1回部会において,嶋原委員から御紹介がありましたように,現行法の対象事件以外でも事実認定に検察官が関与する方がよいであろうと思われる場合もあり得ましょうし,今述べたように,被害者がいて,特に強制わいせつ等,性犯罪の被害者等につきましては,このようなことがより当てはまるのではないかと思います。なお,審判廷での少年に対する質問に関しましては,出席検察官が少年に対して毅然とした態度で質問を行うことが必要な場合もあるかと思います。ただ,当然のことながら,そのような場合には,検察官は少年審判の特質を踏まえて,少年に対する適切な配慮を欠くことがないものと承知しております。 ○瀬川委員 先ほど山﨑幹事の言われた問題点の指摘というのは,検察官関与の導入の議論の際にも論じられたところだと思いますし,もし全事件に検察官が関与しているのであればともかく,前に事務局が出された資料を見ますと,平成23年で検察官関与が17件だったかと思います。当初は厳罰化批判を背景にしまして,少年審判の雰囲気が壊れてしまうような懸念もあったわけですが,件数から見ると,比較的に謙抑的というか,抑制的にやられているような印象を私は持っています。   それから,もう一つは実態として,そういう検察官関与を導入して,大きな弊害が出ているのかどうかということです。これはやはり,我々も関心があるし,実態としてどうなのかということは関心があります。司法研究だったと思いますが,改正少年法の運用に関する研究が平成18年に出され,検察官関与の問題点も検討されていて,全体としては,適切な配慮がなされているという評価をしていました。私としては確かに山﨑幹事のおっしゃっていることの趣旨というのはよく理解しているつもりですけれども,現在の制度を考える場合に,検察官関与に大きな欠陥があって,それを拡大してはいけないという議論にはつながらないのではないかと私は考えております。もちろん委員,幹事の中でも裁判所として,どのようにお考えかを是非お教え,あるいは指摘いただきたいと思います。 ○豊澤委員 最近の実情について,裁判官からお聞きしたところを御紹介させていただきたいと思います。検察官関与が行われた事件の多くの事件においては,検察官は少年審判手続の特質について十分に配慮して,関与されていると思われます。例えば,着席したまま発問する,あるいはその口調も和やかなものにしたりするということで,威圧的にならないような配慮がされているようです。もっとも,検察官関与が求められる事件というのは,非行事実の有無やその内容について,深刻な争いがあるという事案が多うございますから,中には検察官が少年に対して,必要に応じて厳しい質問を行ったということもありますけれども,裁判所から見て,検察官の関与によって審判が必要以上に糾問的なものになるなどした事案があったとは把握しておりません。 ○瀬川委員 検察官も裁判官の方も,裁判員制度のように慎重に運用されて,問題点や弊害が出ないようにされる努力をされていると思いますけれども,この制度も先ほどの山﨑幹事の御指摘のような問題点も十分配慮して,今後も適切に運用していただきたいと思います。 ○川端部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○山﨑幹事 実態に関する評価については,様々な立場でいろいろあると思いますけれども,弁護士会の調査の中では,やはり非常に糾問的な尋問で少年が十分に供述できなかったという報告がなされた事案もございました。それとやはり,先ほど申し上げたように,取調べにおける自白の任意性,信用性が問われるような事案において,取調べ担当の検察官が審判でも尋問するということが,少年にとって仮に捜査段階の自白が虚偽のものであったときに,しっかりそれを撤回できるような環境が確保されるかどうかという点において,問題がやはりあるのではないかと,そういう指摘もなされておりましたので,その点は指摘しておきたいと思います。 ○岩尾委員 今,検察官関与制度の対象事件の範囲拡大の必要性だとか弊害について御議論いただきましたけれども,国選付添人制度の対象事件の範囲との関係についても御議論いただければ有り難いと思っております。 ○川端部会長 今,岩尾委員から御指摘がございましたけれども,対象事件の範囲の関係について御意見を承りたいと思いますので,よろしくお願いします。 ○瀬川委員 国選付添人制度と検察官関与制度というのは,独立した制度でありまして,それぞれにおいて必要性を検討するということは必要かもしれません。また,論理必然的にその範囲が一致しているというわけではないと思います。しかしながら,両制度の対象事件の範囲については,刑事立法の論議としては,政策的な観点を含めて論議すべきだと私は考えております。特に国費,予算措置を採ってやるわけですから,国民の理解と合意をやはり視野に入れて議論すべきだと思います。特に先ほど武委員のお話もありましたけれども,やはり不安感を持たれるということはあり得るわけで,我々も想像できるところだろうと思います。実際には一方的な事実認定が行われたり,国選付添人が出ればワンサイドな議論がされているというわけではないんですけれども,そういう危惧感というか懸念を持たれるということは,配慮すべきではないかと私は思います。国民の信頼確保という観点から見て,対象事件の範囲については一致させるということが妥当であるし,必要ではないかと考えております。 ○川端部会長 どうもありがとうございます。今の問題につきまして,ほかに御意見がございましたら,お願いいたします。 ○佐藤(隆)幹事 ただいまの御意見に関連して,平成19年改正法において,検察官関与と国選付添人の範囲が一致している理由ないし趣旨を確認することが有意義ではないかと思います。   検察官関与制度の対象事件を超えて,国費による弁護士付添人の選任を認めることになったと仮定し,その対象事件において,国費による付添人が選任されて,更にそこで非行事実の存在が争われたという場合を想定しますと,そもそも当該事件は検察官関与制度の対象外ですので,そこでは,事実認定に関わる争いがあるにもかかわらず,検察官が関与できないという事態が生じることとなります。平成19年改正法の立案関係者は,国費による付添人が選任されて非行事実の存在が争われている場合に,検察官の関与が認められないとすれば,事実認定手続の一層の適正化を図るため,検察官及び弁護士付添人双方が審判に関与することとした制度の趣旨からは必ずしも適当とはいえず,また,そのような制度について国民の納得と信頼を得られるのか疑問が残る,としています。   国選付添人制度及び検察官関与制度の対象とすべき範囲についてはそれぞれ検討される必要があるものの,「少年審判手続のより一層の適正化及び充実化を図る」という今回の諮問の趣旨に照らしますと,瀬川委員の御意見は,事実認定手続の適正化の在り方をめぐり,平成19年改正に当たって考慮されていた,被害者を含む国民の納得と信頼という観点に関わる重要な指摘だといえ,その方向性は支持できるものではないかと思います。 ○堀江幹事 念のために事務当局の方に確認させていただきたいんですけれども,第1回の会議の冒頭で,検察官関与の範囲拡大と国選付添人の範囲拡大の問題というのは,独立のものだということを強調しておられたかと思います。しかし,その上で,第1回では,両者が連動する,しないという議論があって,その議論の中で,今,佐藤幹事から御指摘があった19年改正の際の当局側の説明の話も出ていたわけです。結局のところ,独立だとはおっしゃりつつも,その限りでは言わば連動しているとお考えなのだと,つまり,19年改正のときの考え方というのは,今回の改正案を出されるに当たっても維持されていると理解してよろしいのでしょうか。これをあえてお聞きするのは,改正案の提示の仕方ですとか,あるいは,仮に委員の方々で決を採るということになった場合のその採り方にも関わってくることだと思うからです。独立のものだとおっしゃった趣旨と,本当に完全に独立のものなのか,それともやはりセットのものと考えて提案されているのかという点を確認させてください。 ○川端部会長 今,事務当局に対する質問が堀江幹事から出されておりますが,お願いします。 ○岩尾委員 御指摘ありましたように,第1回のこの部会での議論で,私の方からも説明させていただいたところでございますが,まず,今回,検察官関与の対象事件を拡大するかどうかという,その必要性を考えるに当たっては,やはり国選付添人の対象事件の範囲とは別の独自の必要性,立法趣旨ということを念頭に置かなければいけないだろうというところで,まず,それぞれ別個の観点から必要性を御説明させていただいたというところでございます。その上で,やはり国選付添人制度の対象事件の範囲と連動させる必要性があるかどうかというところについては,御議論いただきたいということは,申し上げさせていただき,さらに,19年改正の経緯についても御質問を受けた中で御説明させていただいたところでございます。その点の議論の経緯については,堀江幹事の御指摘のとおりだと思っています。そして,今現在についても,先ほど瀬川委員から御説明がありましたように,それぞれの必要性を考えた上で,そしてかつ,必ずしも一致するということが論理必然的なものではないと考えつつも,政策的に連動させるということの当否,正当性というものは19年改正のときから変わりはないのではないかと考えているところでございます。 ○堀江幹事 今の御回答を踏まえつつ,私なりの意見を申し上げさせていただきます。先ほど瀬川委員がおっしゃった点は,確かに分かるところもあると思います。特に付添人に国費を投入するに当たって,同じ範囲で検察官関与もあり得るという形に制度としては作っておくべきだ,そうでないと,国民の納得,納税者の納得が得られない,そういう御懸念は理解できないではありません。ですので,国選付添人と検察官関与の対象事件の範囲,両制度の適用可能範囲を一致させるということには,政策判断として合理性はあるだろうと私も思います。ただ,では逆にそういう形の制度しかあり得ないのかというと,それはそうではなくて,範囲が異なるという形も,選択肢としては考えられるのではないかとも思っております。付添人だけが付くと少年に有利な主張だけが通ってしまう,ワンサイドになるという危険,それを国費を投入する中で認めていいのかという御懸念なのでしょうけれども,そのような危険は,抽象的には分かるのですが,しかし実際,具体的にどうかと言いますと,今一つ実感が湧かない。第1回にも申し上げましたように,私選で付添人が付く数が増えているわけですが,それに伴って,一方的に有利な主張だけが通る,ワンサイドになるという事態が増えているのかどうなのか。それから,少年審判の構造は職権主義であって,裁判所の権限,イニシアティブが強い,そういう手続構造の中で,一方的に少年側の主張しか出ないということが,実際どれぐらいあるのか,そこも必ずしも明らかでないように思います。ただ,この点は,根本的に,職権主義というものに対する,あるいは裁判所に対する不信感をお持ちだということなのかもしれませんけれども,しかし,そのように,職権主義の下でもワンサイドの状況が生じる危険があるのだということを前提にするとしても,そもそもそれは,付添人が付くから生じるのだとか増大するのだと言えるのか,そうではなく,本質的には,付添人の有無を問わず問題になり得る話なのではないかという気がします。ですから,検察官関与の範囲拡大の必要性の問題は,それ自体として議論するというのが本筋であって,それが国選付添人の範囲を拡大することと連動して出てくる必然性はないように思いますし,政策判断としても,それぞれの制度の必要性のいかんによって,範囲がずれるという制度設計をすることもあり得ないわけではない。また,実際のところ,現行法でも改正案でも,国選付添人の適用可能範囲と検察官関与のそれとを一致させる,連動させるという考え方は,必ずしも完全に貫かれているわけではないように思います。 ○佐伯委員 もちろん制度として両方を分けるという制度はあり得るところだろうと思いますけれども,この問題は,一般的に検察官関与を認めるかどうかという問題ではなくて,非行事実の認定のために検察官関与が必要であると裁判所が御判断になったときに,それでも認めないのかという問題であって,今回,適正な非行事実の認定のためということを一つの理由として,国選付添人制度を拡大しようとする場合に,非行事実の認定のために検察官関与が必要であると裁判所が御判断になっても認めないというのはやはりバランスが悪いように私には思えます。そういう意味では,立法政策的にはそろえて拡大することが必要ではないかと思います。 ○武内委員 私は今,佐伯先生がおっしゃった,裁判所が必要性を感じた場合でも付けられないのかという問題意識に関しては,同じ意見を持っておりますけれども,そうであれば,それは恐らく付添人が国選で付されているか,私選で付かれているかということとは必ずしもリンクしないのではないのかなという印象を受けました。 ○川出委員 検察官関与の範囲については,議論の筋としては,やはり,まず,非行事実の適正な認定のために,どの範囲で検察官が関与する必要があるのかということを検討すべきだと思います。国選付添人が選任された場合に,検察官が関与できないというのは不均衡だという点は,先の観点から検察官関与が必要な範囲が明らかにされた上で,補充的な理由として考えるべきものではないでしょうか。そうではなく,最初から,国選付添人の範囲と一致させるべきだという議論をすると,前にも申し上げましたが,国選付添人が選任されていない場合に,検察官が関与できるのかという疑問が必ず出てくると思います。要綱骨子にあるように検察官関与の範囲を広げれば,国選付添人が選任されていない場合でも,検察官が関与することはできるわけですから,その後,必要的に付添人が選任されることになるとしても,順序が逆で,出発点となっている説明とは整合しないと思います。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。そろそろ予定の時間が経過しますので,本日の議論はこの程度として,次回以降の審議について決めたいと思います。次回の審議につきましては,特に御意見がなければ,まず少年の刑事事件に関する処分の規定の見直しについて,第2巡目の審議を行った上で,諮問全体に対するまとめの審議を行い,その後,議論が終結したようであれば,採決を行いたいと考えております。こういうやり方でよろしいでしょうか。どうもありがとうございます。特に御異論もないようですので,そのようにさせていただきたいと存じます。本日の会議につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思います。それでよろしいでしょうか。ありがとうございます。最後に,次回の部会の日時等について,事務局に御説明をお願いいたします。 ○佐藤(剛)幹事 次回の部会は明年,来年の1月28日月曜日,時間は午後4時から開催する予定であります。場所につきましては,追って御連絡いたします。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。   それでは本日はこれで散会としたいと思います。長時間にわたってどうもありがとうございました。 -了-