法制審議会           新時代の刑事司法制度特別部会           第17回会議 議事録 第1 日 時  平成24年12月25日(火)   自 午後 1時35分                          至 午後 5時32分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり)           議        事 ○吉川幹事 それでは,ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会の第17回会議を開催いたします。 ○本田部会長 皆様には年末の大変お忙しい中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,基本構想の策定に向けて,更に議論が必要と考えられる論点についての議論を行いたいと思います。これまでの議論の状況を勘案いたしますと,お手元の議事次第に記載しております「取調べの録音・録画制度」,「有罪答弁制度(自白事件を簡易迅速に処理するための制度)」,「被疑者・被告人の身柄拘束・出頭確保の在り方」につきましては,必ずしも十分には議論を尽くせていないと思われますので,まずはこれら3つの論点につきまして議論を行いたいと思います。そして,その後で,前回からの持ち越しとして,「その他」の論点についての議論も行いたいと思います。   それでは,まず本日の配布資料につきまして,事務当局から説明してもらいます。 ○吉川幹事 御説明いたします。本日は,審議を予定している論点について,資料58及び59をお配りしたほか,第13回会議で既にお配りした資料46-1及び46-2を再配布いたしました。これらは,これまでの御議論等を踏まえて,現段階で考えられる制度の概要やこれまでの御議論で提示された御意見,そして検討課題等を整理したものでございます。これらの内容につきましては,後ほど,それぞれの議論に際して説明があります。また,配布資料ではございませんが,席上には,本年9月から10月にかけて,米国,欧州で実施した視察の結果をまとめた報告書をお配りしております。なお,韓国視察の報告書につきましては,次回にお配りさせていただきます。 ○本田部会長 それでは,早速,本日の一つ目の論点でございます「取調べの録音・録画制度」についての議論を行いたいと思います。   この論点に関しましては,第13回会議におきまして,「検討課題」を一通り議論したところですけれども,「検討課題」が多岐にわたるということ,また,時間が限られていたということもございまして,なお十分には議論を尽くせておらず,全体的な検討の方向性が見えていないように思われます。そこで,基本構想の策定に向けまして,第13回会議の議論に引き続き,更に議論を進めさせていただきたいと思います。   本日は資料としまして,第13回会議で配布しました資料46-1及び46-2を再度お配りしております。議論に先立ち,資料に記載された「検討課題」につきまして,第13回会議の結果も踏まえた形で,事務当局から改めて説明してもらいます。 ○保坂幹事 御説明いたします。再配布資料としております資料46-1と資料46-2についてです。   まず,資料46-1を御覧いただけますでしょうか。この資料は,取調べの録音・録画制度に関しまして検討すべき主な課題を整理した資料であり,第13回会議でお配りしたものです。   ここでは,「検討課題」を「1.制度の枠組み」,「2.制度の対象とすべき事件」,「3.その他」の3つの項目に分けておりまして,第13回会議では,各項目に記載の点を中心に御議論をいただきました。第13回会議の御議論に引き続き,これらの「検討課題」について更に議論を深めていただく必要があろうかと思われますので,本日も同じ資料を再度配布させていただいております。   続きまして,資料46-2です。この資料は,取調べの録音・録画制度の枠組みについて,考えられる主な選択肢を整理したもので,その内容につきましては,第13回会議の際に御説明したところです。本日は,第13回会議におきます御議論の結果を踏まえて,更に御議論いただくことになろうかと思われますので,若干の補足をさせていただきます。   まず,資料の「1.全体的な枠組み」のところに書いております,録音・録画を捜査機関の行為義務とする「甲」と,必要な録音・録画を実施していない取調べで得られた供述の公判での利用を禁止する「乙」の2つの考え方についてです。   この点について,第13回会議におきましては,取調べの適正を図る,あるいは国民や裁判員に分かりやすい制度とするという観点から,「甲」の考え方を基本とすべきであるという御意見,あるいは,録音・録画記録による取調べ状況の事後検証可能性が確実に担保されるのであれば,「乙」の考え方もあり得るのではないかという御意見がありましたほか,「甲」,「乙」の考え方は相互に排他的ではなく,2つの考え方を併用すべきであるという御意見もございました。これらを踏まえて,更に御議論いただければと思います。   次に,「2.対象とする取調べの範囲」に書いております,取調べの全過程の録音・録画を原則とする「A」,取調べの一部の録音・録画を必要とする「B」,録音・録画が必要な範囲の選択を捜査機関の判断に委ねる「C」という三つの考え方についてです。   この点につきましては,第13回会議におきまして,取調べの録音・録画の有効性を最大限に生かす観点から「A」の考え方によるべきとの御意見,取調べの全過程の録音・録画は取調べの機能等への支障が大きいとして最小限録音・録画しなければならない範囲を定める,すなわち「B」の発想があってしかるべきとの御意見などが示されたところです。こうした御意見も踏まえて,更に御議論いただければと思います。   また,「3.録音・録画による影響」に関しまして,第13回会議において,資料に例として記載されているような場合は,録音・録画の対象外とすべきであるという意見などがあったのに対し,資料に「視点」として記載しております観点からの御指摘のほか,録音による影響と録画による影響とを区別して考えることもできるのではないかという御意見も示されましたので,このような点も含めて,更に御議論いただければと思います。   さらに,「4.法的効果」として記載しております,証拠能力を一般原則により判断することとする「Ⅰ」,必要な録音・録画が行われていない場合には自白の任意性を否定する,又は任意性の欠如を推定することとする「Ⅱ」,自白の任意性を認めるためには,録音・録画記録の証拠調べを必要的なものとする「Ⅲ」の3つの考え方についてです。   この点について,第13回会議においては,「Ⅰ」の考え方のように,特別の法的効果を設けないとすると,録音・録画制度を導入する効果が減殺されてしまわないかとする御意見,3つの考え方のいずれでもなく,必要な録音・録画が実施されていない場合には,取調べで得られた供述は全て証拠能力を否定することとすべきとの御意見などがあった一方で,「Ⅱ」や「Ⅲ」の考え方のように,特別の法的効果を設けることについては理論的に難点があるとする御意見,「Ⅰ」の考え方によっても,通常存在してしかるべき録音・録画記録が欠けている場合には,任意性を立証することは事実上困難になるのではないかとする御意見もあったところです。こうした御意見も踏まえて,更に御議論いただければと思います。   最後に,資料46-1に戻っていただきまして,「取調べの録音・録画制度について」ということですが,その「検討課題」の「2.制度の対象とすべき事件」や「3.その他」のうち,「参考人の取調べの録音・録画」に関し,第13回会議においては,対象とすべき事件について現実的な観点から段階的に拡大していくとしても,最終的には全事件を対象とすべきであるとする御意見や,在宅被疑者の取調べや参考人の取調べも制度の対象とすべきとする御意見などがあった一方で,諸外国でも対象を重大事件,身柄事件の被疑者に限っている例が多く,制度の導入に当たってはリスクも考え,試行の経験を踏まえて慎重に進めていくべきであるという御意見,参考人の取調べを制度の対象とすることは,参考人の負担や協力確保の面から問題があり,現実性にも欠けるという御意見なども示されたところです。こうした御意見も踏まえて,更に御議論いただければと思います。 ○本田部会長 それでは,「取調べの録音・録画制度」につきまして,資料46-1に沿って「検討課題」を中心に議論を行いたいと思います。ここでは,「検討課題」が3点記載されておりますが,まずは1番目の「制度の枠組み」について議論し,その後に,2番目の「制度の対象とすべき事件」と3番目の「その他」を議論いただきたいと思います。   それでは,1番目の「制度の枠組み」に関し,「録音・録画による影響」についての認識を前提としつつ,「制度の在り方」,「対象とする取調べの範囲」,「法的効果」について,資料46-2も御参照いただきながら,御議論いただきたいと思います。御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○宮﨑委員 少し部会長の議事進行からはみ出す点があろうかと思いますが,まとめて発言をさせてください。   前にも申し上げましたけれども,検察の在り方検討会議以来,この録音・録画の在り方についてはずっと議論が行われてきたところでありまして,録音・録画の目的が,しつこいようではありますけれども,公判における任意性立証というだけではなく,もっと広く捜査の適正を担保するという点にあることは確認されているところであります。特に日本では,被疑者に弁護人の立会権が認められておらず,かつ,世界にまれなほど取調べ時間が長い日本において捜査の適正を担保するためには,捜査機関の裁量を許さない全過程の録音・録画が不可欠であると考えています。制度全体の枠組みという御提示の中で言えば,捜査機関に録音・録画の作為義務を課すことは,捜査の適正担保のために極めて重要であります。一方,捜査機関が任意性立証に必要と判断した部分に録音・録画の対象を限る制度は,えん罪の危険を生むばかりでなく,録音・録画が果たすべき捜査の適正を担保するという役割を無視するもので賛成はできません。   また,録音・録画の対象者でありますが,拘束中の被疑者だけに限るべきではありません。非拘束の被疑者にも及ぼすべきです。諸外国では,重罪の身柄拘束に範囲が限られるのではないかという御意見もありましたが,外国でも決してそうではないとも聞いておりますし,まして非拘束の被疑者に対して弁護人立会いも認められず,長時間,例えば,毎日のように呼び出して困惑させる捜査手法は日本独特であります。また,日本では逮捕状を取りながら任意捜査と称して長時間取調べを行い,その後に逮捕状を執行することも珍しくありません。任意捜査を録音・録画の例外にすることは,このような取調べに偏重した日本の捜査を変えさせることはできないと考えます。村木事件の教訓は任意捜査かどうかを問うていません。えん罪のおそれや捜査官の誘導は,事件の軽重を問いません。また,法定刑で録音・録画を線引きする意見もありますが,日本では,殺人で逮捕する前に窃盗や死体遺棄で捜査することも日常であります。逆に言えば,罪名や法定刑で録音・録画の線引きをすれば,捜査当局が自由自在に録画対象かどうかを切り分けられる,捜査当局が選別できる,こういう日本の制度の下では重大事件ですら一番重要な当初の取調べ,最初の取調べ部分を録音・録画の対象外とすることになり,危険だと考えます。法定刑だけで対象を決めてはならない,このように考えているところです。   さらに,参考人取調べの録音・録画も重要と考えています。被疑者に対しても,最初は参考人としての取調べが行われていること,また,共犯的な地位にある参考人は,自分の保身からも捜査官の誘導に乗りやすいと考えられること,被害者も犯人の罪を重くしたいという動機から捜査官の誘導に乗りやすいと考えられること,目撃者についても,捜査官の誘導がなされると供述がゆがめられるおそれがあることなどが,えん罪事件で指摘されているところであります。   私のように録音・録画の拡充を訴えると,予算であるとか手間暇が膨大になるという御意見もあります。通信傍受の議論の際,捜査当局は技術革新を強調されましたが,技術革新は何も通信傍受の分野だけではないと考えます。小型で安価,かつ,データ処理が簡単な録音・録画機器も出回っています。   数年前,私はカリフォルニアでパトカーに乗せてもらう機会がありましたが,小型で簡単に360度回転する車載カメラが全パトカーに取り付けられていました。今や日本でも,タクシーにすら車載カメラが設置されている時代です。捜査当局にやろうという気があれば,いつでも,どこでも録音・録画は簡単にできるはずだと考えています。   ところで,今回の検討課題に録音・録画の対象外とすべき事例が挙げられています。私は,捜査の適正担保の観点から,対象者の拒否は録音・録画の対象外とすべきではないと考えていますし,名誉・プライバシーが害されるおそれも,開示の制度的な工夫や仕組みで解決し得ると考えています。また,カメラの前での萎縮効果も,捜査官の研修などで是非乗り越えるべきと考えています。報復のおそれについては,まずは供述人保護の問題として検討されるのが本筋だと考えますが,それで対応できない場合があるとの御意見もあろうかと存じます。しかし,暴力団事件では無理な捜査の結果,無罪事案が多いことも事実です。こういうことを口実に暴力団捜査全てを録音・録画の対象外とするかのような議論には賛成できません。捜査の適正を担保する意味からも,例外を認めることの必要性やその範囲について,諸外国の制度や日本の暴力団捜査の実情も踏まえ慎重に検討すべきと考えます。 ○大野委員 制度の枠組みを考えるに当たって,録音・録画による影響を考慮した制度設計を行うことが不可欠であるということについて申し上げたいと思います。   第13回会議でも詳しく申し上げましたとおり,検察における録音・録画の検証結果等により,録音・録画の下では被疑者が十分な供述や弁解ができない場合があることが,実証的に明らかになっています。具体的には,次のような事例も相当数報告され,その具体的な内容が記載されているところです。   まず一つ目は,一部の録音・録画を行ったものだけではなく,取調べの全過程の録音・録画の実施を試みたケースにおいても,被疑者が,時には弁護人と相談の上で又は弁護人の指導によって,録音・録画を拒否した事例があるということです。   二つ目は,被疑者が録音・録画の下での取調べとそうでない取調べで実質的に異なる供述をした場合であって,被疑者自身が,録音・録画をしない取調べにおいて,録音・録画の下では十分な供述ができないと述べた事例があります。   三つ目は,取調べの全過程を録音・録画した事件の被疑者が,捜査の終了時に録音・録画されていない状況で,録音・録画の下では必ずしも十分な供述ができない旨を述べた事例があります。   これらの事例においては,録音・録画の下では被疑者が十分な供述をすることができない場合があることが,取調官の主観だけではなく,被疑者の意思表示や言動などという外形的な事実によって根拠付けられているのであり,説得性や客観性を欠くとの指摘は当たらないと思います。   ここで特に御留意いただきたいと思いますのは,取調べで供述調書を作成する過程と,最初から録音・録画された状況で供述を求めるのとでは,全く状況が異なるということです。例えば,上位共犯者や所属組織に関することを含めて供述を拒んでいる被疑者に対しては,これまで,取調べにおいて,まずは供述調書化することを前提とせずに,話だけをするよう説得して供述を得,その上で,その信用性も吟味しつつ,被疑者が納得した範囲内で供述調書にするという段階を踏んで説得をしてきたというのが実情です。こうした説得の過程を通じて,被疑者としても,供述調書とした範囲では,自己の供述が記録に残り,上位共犯者や組織の関係者の目に触れることに納得してきたと言えます。   しかし,最初から録音・録画された状況の下では,被疑者の供述が逐一記録され,直ちに証拠となってしまうため,被疑者としては,まずは証拠化を前提としないで供述するということがそもそもできませんし,取調官としても,そのように説得することができないということになります。その結果,そもそも供述が得られないということになるおそれが極めて大きいと考えられます。   そして,そのような共犯事件に限らず,録音・録画の下では,事実を話すことができない被疑者は現実にいるということに留意すべきだと思います。   この問題に関して,現在でも,最終的に供述調書が作成されて公判に証拠として提出されているのであるから,そうした供述を得る場面も録音・録画できるのではないかという御意見もあるようです。もちろん,事案や被疑者にもよることでしょうけれども,録音・録画を実施したら,そもそも供述が得られず,その場合はもちろん調書も作成できないことについてまず御理解いただきたいと思います。   また,録音・録画制度の趣旨・目的を説明すれば被疑者の理解が得られるのではないかという御意見もあります。しかし,報道で公になっていることでありますけれども,刑事手続に通じた弁護士である被疑者が全過程の録音・録画を拒否した事例もあることを指摘したいと思います。   さらに,ひとまず取調べの全過程を録音・録画しておいて,その記録媒体の証拠開示や再生の場面で適切に対処すれば,影響を回避できるのではないかという御意見もあります。   しかし,録音・録画による影響を回避するためには,最終的に裁判所の判断によって開示や再生がなされない可能性があるだけでは足りず,将来録音・録画媒体が上位共犯者等に対して開示されず,上位共犯者の公判で再生する必要があったとしても再生されないということが,被疑者から供述を得ようとする取調べの段階で例外や留保なく保障できることが必要となるのであり,そのような仕組みを設けることなどできないのではないかと考えます。   以上申し上げましたように,録音・録画が被疑者の供述等に影響を与え,取調べや捜査の機能に支障が生じるという問題があって,証拠開示や再生の制限といった事後的な対応だけでは問題が解消できない場合があることは,否定できないと考えており,この問題の制度化に当たっては,録音・録画を義務付ける制度とするにしても,録音・録画の下では十分な供述ができないと認められる場合などについて,適切に録音・録画の対象外とする必要があると考えるところです。   もちろん検察においても,これまでお話をしておりますように,録音・録画の試行に積極的に取り組んでいるところであり,その有用性も確認しているところではありますけれども,この会議で録音・録画制度について一つの結論を取りまとめることを目指すに当たっては,刑事司法制度を構成するものとして,現実に機能する制度とするため,ただいま申し上げたような例外・対象外とする部分を適切に設けることが最低限の前提になってくることについて,是非御理解をいただきたいと思います。 ○安岡委員 全体的な意見としては,宮﨑委員の発言にほとんど賛成です。「検討課題」の中の「制度の枠組み」について申し上げると,可視化,取調べの録音・録画の目的は,適正な捜査,それから適正な調書の作成を担保するという,言葉は悪いですけれども,監視するところにあると私は考えます。したがいまして,例外規定を置かなければいけないのは理解するんですけれども,その場合に,これは例外にする,これは原則どおり可視化するというところの判断に捜査機関の裁量が入ると,例えば,このペーパーの例にあります捜査への影響が大きい場合,それから今,大野委員がおっしゃいましたように,そもそも供述がとれなくなってしまうような場合を皆例外にしてしまうおそれがある。捜査機関の裁量によって例外適用する余地がない制度にしないとおかしいのではないか。これは,捜査の適正を担保する,確保するための規制措置なんですから,規制される側の裁量で,規制を免れ得るのでは.制度として矛盾が生じるのではないかと考えます。   それから,今の刑訴法の運用の中で,度々例外の原則化が起きている,例外と原則が逆転している現象が見られるとの指摘を耳にしますし,論文なんかでも読んだりするわけですけれども,可視化については,例外と原則の逆転現象が起きないような制度設計を是非お願いしたいと思います。今は,刑事手続に,一般の市民も加わっているわけですが,その刑訴法の運用で,例外と原則の逆転現象が起きている。それで,新しく導入する可視化の制度でも同じようなことが起きたとなると,刑事手続に対する国民の信用や,法律を守ろうという遵法精神にも影響が及ぶ事態になろうかと思います。制度化に当たっては例外の原則化という逆転現象が起きないような工夫を是非お願いしたいと思います。 ○大久保委員 今の宮﨑委員,安岡委員の発言からは被害者の視点ということが全く抜け落ちているということを感じましたので,少し被害者としての発言をさせてください。   もちろんおっしゃるように,取調べの録音・録画制度を導入するということの必要性は理解できないわけではありませんけれども,それを全過程に義務付けるとか,あるいは,全事件に義務付けるということは,私は絶対に反対です。昨日のいろいろなニュースでも,世田谷の宮沢さん御一家殺害事件のお母様がテレビに出て,とにかく被害者は何があったのか真実を知りたいということを強くおっしゃっていたことからもお分かりいただけると思いますけれども,被害者は何よりも事件の解明を求めています。大野委員の発言にもありましたように,録音・録画することによって,取調べやその捜査の機能が損なわれて事案の解明が難しくなるというようなことは,やはり受け入れることができません。   また,繰り返し述べているように,犯罪者は被害者に責任転嫁したり,虚偽の供述をしたり,殊更被害者を悪く言ったり,被害者の名誉やプライバシーを侵害する供述をすることがありますが,現在ではそういうことに対しての罰則もなく,こうした許し難い供述内容が録音・録画されている,あるいは,録音・録画されるのではないかと思うだけで,不安で不安で,いつもそのことが気に掛かって,精神的な回復もできず,社会復帰も図れません。そのため,たとえ取調べの録音・録画制度を導入するにしましても,お配りいただきました資料46-2の「C」にありますように,捜査官の裁量で録音・録画を行うこととして,必要があって,なおかつ問題がない範囲のみでの録音・録画を行うというような仕組みにするのが望ましいと考えます。また,仮に一定の場面の録音・録画を義務付ける制度にするとしましても,先ほどお話ししたような被害者の事情を十分に配慮するために,取調べで必要な供述を聞き出すことができなくなるようなおそれがある場合は,やはり録音・録画の対象外とすべきだと思います。そしてまた,これも既に申し上げたとおり,少なくとも被害者や関係者の名誉・プライバシーを害する供述が実際になされたり,あるいは,なされる可能性が高い場合も,それはやはり対象外としていただきたいと考えますので,やはり捜査機関の裁量を尊重するということが必要だと考えております。 ○神津委員 最初の段階でフリーの議論がなされていたときに,私は,この録音・録画の問題について,こういう言い方をしました。つまり,その供述の任意性との関わりから透明性と説明責任を高めるということは不可欠なのだろう,そこにおいて,録音・録画の義務化というのは極めて有効であり,それが不適切だという事情があるならば,それらを具体的に列挙して解決策を追求すべきだと,こういうことを概略申し上げたんですが,その後いろいろなお話を伺ってきたわけなんですけれども,私は今,そのとき申し上げたことの基本的な考え方には全く変わりがないところでありまして,そういう意味では,この資料46-2において言えば,全体的な枠組みとしては,「甲」も「乙」も両方とも生かすべきなのだろうということですし,議論を先取りして申し訳ないんですけれども,制度の対象ということでいえば,この選択肢の中で「A」ということしかないのではないのかなと思います。いろいろな事情ですとか制約については,何らかの対策をそれぞれ定めるべきなのだろう。   やはりこの問題を考えるにおいては,私が当初申し上げたような基本の軸をしっかりするということは極めて大事であって,その基本的な軸のところがのっけから中途半端であると,話がきちっと定まらないのではないのかなと思います。いろいろな事情・制約はあるということは重々理解をした上で,しかしながら,それらのことが基本的に録音・録画をやらなければならないという本質的な問題を損ねるようなものではいずれもないのではないかと思います。   例えば,いろいろな事情・制約があります中で,例えば,組織犯罪の問題については,それを抽出といいますか,それを区分して取扱いを定めるということや,あるいは,性犯罪を含めてプライバシーの問題が関わる場合の録音・録画による証拠の扱いを遺漏なきような形で取り扱うという形で定めるなど,いろいろな措置を施すことを十分に検討していくことが不可欠なのではないかなと思います。   いずれにしても,様々なことを相当丁寧に考える必要がありますが,例えばということで申し上げますと,一方で,いろいろな捜査情報といいますか被疑者の供述がテレビとか新聞に連日のように随分出てしまっておる。前から何でかなと思っていたわけですが,非常に違和感を感じるわけでありまして,例えば,今日の新聞を見ても,山梨県で起きた事案がほとんどの新聞で取り扱われていて,被疑者,逮捕された人がひものようなもので絞めて殺したなんということが出ているわけです。そういう本来慎重に取り扱われるべきような捜査情報が,実質的に日本全国津々浦々に公表されているような状況でありまして,一体何を根拠にそういうことがまかり通ってしまっているのだろうと思います。   私は,被害者の御遺族の感情ということも含めて考えると,これは全くそういったことが配慮されていないということなのだろうと思います。ですから,確かに,取調べの録音・録画に関して,プライバシーの問題が非常にポイントになることは事実だろうと思いますし,そこにおいて,丁寧な取扱いがきちんとできるということを担保させなければならないと思いますが,まずその現状,そういう意味でのいろいろな取扱い,そういったことについても,しっかりとメスを入れていく必要があるのではないかと思います。繰り返しになりますけれども,きちっとしたルールを持つことと併せて,録音・録画について,是非前に進めていただきたいと思います。 ○後藤委員 先ほどの大野委員の御発言を拝聴して考えたことがございますので申し上げたいと思います。確かに現状では,調書に署名・押印しない限りは,証拠としてそれが裁判所に出たりすることはないだろうと期待して供述する人たちはいるのだと思います。しかし,その期待に,現在の法律上,本当に裏付けがあるかは疑問です。つまり調書が使えなくても,取調べをした捜査官の証言は一定の場合にできるわけです。例えば,被告人の不利益供述であれば任意性要件があればできます。それから,第三者の供述の場合は,例えば,証言拒絶などがあった場合に,捜査官が取調べで聞いたことを証言する可能性はあるわけです。捜査官は,それについて証言拒絶権があるわけではないので,聞いたことを正確に再現しなければいけない義務があります。そうすると,これは悪い言い方に聞こえるかもしれませんけれども,現在,調書にならなければ供述が外に出ないと信じて供述している人がいるとすれば,それは実は誤解を与えて供述させる結果になっていないでしょうか。現在も被疑者取調べのときに供述拒絶権の告知をしているけれども,そこでは話したことが証拠になるかもしれないとまで告げてはいません。被疑者,参考人も含めてもそうです。そのこと自体が,告知としては不十分なのではないでしょうか。 ○島根幹事 それでは,私は制度の枠組みということで,以前に警察の方から申し上げたことと繰り返しになるかもしれませんが,申し上げたいと思います。   当然,この問題を考えるに当たりまして,無辜の方を処罰するようなことはあってはならないわけでありますけれども,治安責任を負う警察としては,捜査に余りに支障が出て,現在であれば検挙できるような犯人を検挙できなくなってしまうような制度には賛成し難く,新たな刑事司法制度を考えるに当たりましては,人権保障と治安維持の要請とのバランスを考慮していただきたい,これが考え方の出発点でございます。その大きな論点として,いわゆる全過程の取調べの録音・録画の法制化ということについて申し上げたいと思います。   先ほど何人かの委員の方からもお話がございましたけれども,録音・録画の目的につきまして,主として取調べの適正確保,あるいは,事後的な検証可能性を考えておられる方々がいらっしゃいます。そうなりますと,ほぼ自動的に全過程が当然とされ,また検証可能性ということでは,それ自体は価値中立的であるという言われ方もされます。私ども,この目的の捉え方自体,必ずしもそうだとは思っていないのですけれども,例えば,業務が適正に行われ,また,事業活動が不正に利用されることを事後的にチェックできるように,事業者に対しまして,帳簿であるとか,本人確認書類等の関係記録の保存義務をかけることがあります。こうした記録であれば,その作成・保存に一定のコストが掛かるという問題があるにしても,記録の作成・保存自体には余り問題は生じないわけでありますが,これに対しまして,取調べの全過程の録音・録画は,コストの問題はまた別の大きな問題としてありますが,それに加えまして,取調べの機能が損なわれるなど,現実に弊害が生じるということで問題が大きいと考えているわけであります。これは,私どもが現在実施しております試行の中での現場取調官からの報告ですが,調書化には応じないものの,取調官に対して犯行を自供していた殺人事件の被疑者に対し録音・録画を実施した結果,録音・録画実施下では一切自供しないというような事例もありました。現場では,このように被疑者の供述態度に変化が生じることがあるということを,かなり強く危惧しております。端的な例として,いわゆる死体なき殺人事件で,これは被疑者の取調べで供述を得られなければ被害者の遺体を発見することはまず不可能でありますけれども,事件の立件も極めて困難になります。被疑者がカメラの存在を意識することが供述の妨げとなることがある以上,どのような場面を録音・録画するかについて捜査側に合理的な一定の裁量を与えるべきであり,それを考慮に入れずに全過程録音・録画を一律制度化することには賛成し難いところであります。   それから,具体的な支障の説明につきましては,先ほど大野委員等からも御説明がございましたので,私からは省略いたしますけれども,例えば,捜査の初期段階では,優秀な捜査官であるほど,被疑者との一定の環境を醸成するために,取調べに際し,自らのプライバシーに関わる事項や事件に直接関係のないようなやり取りを重ねます。こういったものは,そもそも録音・録画の下でのやり取りにはなじまないと考えておりまして,必ずしもこれは取調官の力量や慣れといった問題で解消すべき問題ではないだろうと考えております。あるいは事件によっては機密的な情報を取り扱う事件の取調べがあり,被疑者がたとえ知っていても,広く公にされるべきでないような捜査情報というものにつきましても,再生制限というだけでは必ずしも十分ではないのではないか,こういったものについては録音・録画を実施しないことができるようにすべきであろうというように考えております。そもそも捜査活動が公訴事実というものに収れん,結実していくまでには,被疑者,被害者,関係者を始め,非常に広範囲な様々な事項を対象として,紆余曲折を経て進んでいくものですから,どうしてもその段階では支障が生じる「おそれ」というレベルの問題で考えざるを得ないと思っておりまして,事後的な検証としてということだけで,この制度を組み立てられることについては消極だということを,改めて申し上げたいと思っております。   第13回会議におきまして,法制化に慎重であるという見解を申し上げましたのも,そういった意味で,録音・録画が実施可能で,これは法律違反だと言われる可能性があるのであれば,現場としては多少,捜査上の支障があっても録音しておいた方が無難だという方向になってしまい,結果として,犯人を検挙できない事態になってしまう。そうしたことにならないようにする必要があるとの観点から申し上げたものでありまして,いずれにせよ,法的効果の捉え方を含め,きめ細かな仕組みを十分に考えていただきたいと思っております。 ○小坂井幹事 私は,神津委員が述べられたことにほぼ全面的に賛同するという立場から,少し今までの意見と重なった意見を述べることになります。やはり基本軸というのはものすごく大事だと思いますよね。この部会が,要するに,そもそも何のために設立されたのかということも踏まえながら考えますと,要は,取調べと調書に過度に依存しない,こういうことですよね。過度ではなく,適度だったらどんどん依存していいという含みは,別に私はないと思いますけれども,いずれにしても,この中で,結局,結論を言ってしまえば,この資料46-2でいいますと,「甲」案かつ「乙」案で「A」という選択しかないということは明らかだろうと思います。捜査機関の側の方から,いろいろなことは毎回お聞かせいただいているわけですけれども,結局は,過度に依存しないということは,何よりも捜査段階の供述に,調書という形でそれに直ちに依存してしまうことをやめようという問題です。これは量の問題と質の問題と両方あると思いますけれども,私は基本的には,やはり質の問題だと思います。取調べの依存を低めていこうというコンセンサス自体は,既にこの特別部会の中にあろうかと思いますけれども,結局,過度に依存しない,質をきっちりと良質のものにしていくというのは,密室での取調べ,ブラックボックスでの取調べ,そこでできた,非常に私は刺激的な言い方かもしれませんけれども,作文調書に依存することはもうやめようと,こういうのが正に今問われている問題だと思うわけです。こう考えていきますと,正に過度か過度でないかの基準もはっきりしてくると思うわけです。要するに,ブラックボックスの中で作られる作文調書に依存することはやめましょうと,こういうことになるはずです。   私はやはり,捜査機関の側の方からのいろいろな御発言の中で,もしかしたら,全過程は原則であると,あとは例外をどう設けるかという議論をされようとしているのかもしれないんですけれども,基本的にありのままを残さない制度を温存していこうという発想がある,これに極めて違和感を感じるわけです。今までの多くの問題は,全てありのままをそのまま残さずに,それを片方の見方からすれば説得過程ということになるかもしれませんけれども,あるいは,そこで虚偽供述が生まれていくという過程が現にあって,それが検証できないということがあるわけです。ですので,何よりも全過程を原則にするということをまず確立して,基本軸をきっちり定めた上で,あとは個別の例外論に入っていくのだろうと思います。   あえて私の立場から申しますと,この資料46-2の録音・録画による影響で対象外とすべきものが幾つか挙げられているわけですが,私はやはり,基本的には,これは入口規制ではなくて出口規制の問題,つまり公判再生での制限の問題でほぼ全て解決できるだろうと思っています。実施困難な場合として,機器の故障とありますね。これは物理的な支障ですからやむを得ないということになると思いますが,例えば,同時に通訳人の拒否というのが挙げられているんです。が,これはやはり,もちろんいろいろな考慮要素は当然必要にはなってこようかと思いますけれども,通訳人で,例えば録音・録画を拒否されるというのは,これは相当通訳自体が危ないと見るのがむしろ自然ではないかと思われます。本当はきっちりとした通訳にきちんとやってもらわないといけない。録画を嫌がるのはあり得るかもしれませんが,録音すべきだという形になります。ですから,それ自体も必ずしも実施困難な場合に,直ちに例外事由として挙げることが相当かどうかには疑問があります。   先ほど宮﨑委員が言われたことですけれども,被疑者への影響という問題については,これはむしろ,そこでありのままを残さない形で供述がゆがめられる危険性が極めて大きいので,私は拒否は認めるべきではないと思っています。ただ,ここはものすごく議論のあるところだと思います。日弁連でも相当議論しており,大きく議論が分かれる要素はあります。が,私の現在の考え方としては,先ほど宮﨑委員がおっしゃったように,拒否自体は認めないというのが正しいだろうと思います。   それとプライバシー等の問題,これは正に,出口規制の問題で全て解消が可能だろうと基本的には思っています。捜査への影響という問題も,秘密保持,萎縮等ありますけれども,これも,なぜ,入口で規制しなければならないのか,私は納得のいく答えを得られているとは思いません。検察のなされた7月4日の検証を見ておりましても,やはりその評価については前回既に申し上げておりますけれども,やはり出口規制で十分足りるのだということがむしろ論証されている。全過程であることが最も効果的であるということが論証されていると考えます。法的効果について申し上げれば,この「Ⅰ」,「Ⅱ」,「Ⅲ」はどれも分かりにくいところがあるわけですけれども,やはり義務違反がある以上は,当然,法定でそれは証拠排除する,法定証拠主義として排除していくというのが正しい考えだろうと思っています。 ○但木委員 捜査当局の立場からは,全過程の録音・録画をすれば,これまで検挙できた事件が検挙できなくなる,そういう事件も出てくるのではないか,つまり弊害は無視できないという御意見が出て,片や,逆の立場からは,捜査の適正の担保というためには全面的な録音・録画が必要ではないかと,こうおっしゃっておられて,言ってみれば,では,どうするのかなということになろうと思うんです。録音・録画は,捜査官にとって非常に不便になる面が出てくるというのは分かります。今,正に,検察も警察も録音・録画を一生懸命試行しながら,その可能性を探っている段階にあろうかと思います。率直に申し上げると,私はまずきちっとした制度を作って,一部から始めるのがいいのではないかなというのを一つ申し上げたい。それからもう一つ,これは全然違う観点なんですが,裁判員裁判というものが今もう動いているわけです。プロの裁判官というのは,何年掛けても任意性があるかないかということを判断しなければならないときがある。ある意味ではプロですから,それでやっていけるわけです,それが仕事ですから。だけれども,裁判員は決してそれが仕事ではありません。何年も任意性の判断のために時間を費やすことはできないわけです。そういう人たちが,短時間のうちに判断できるような資料を作らなければならないというのは,これは別に捜査当局の都合とか,あるいは,捜査の適正の確保というのと全然別の問題として考える必要がある,そういう時代に入ってきています。つまり,裁判員が,裁判員制度の中で,任意性の問題について,きちんと自信を持って判断できるような資料を用意しなければいけない。これはやはり第一次的には法律家,あるいは,捜査を担当した者の責任として,私はあるのではないかなと思っております。   その中で,例外として,例えば,暴力団の事件をどうするかというようなことはもちろんあるだろうと思います。それは裁判員制度においても,そういう組織的な犯罪で一定の危険性があるものについては排除されている。そういう意味で,排除されるべき事件があることは間違いなくて,先ほど死体なき殺人の例を,どなたかがおっしゃっておられましたが,私はそのとおりだと思います。死体なき殺人というのは,ある意味では,まだ生きている可能性があるんですね。ですから,そういう事件の場合でも,なおかつ,初めから全面的な録音・録画をすべきだと,それはなかなか現在の捜査当局としては,「そんなことやって,助かるはずのものが助からなかったらどうするんだ。人の命が懸かっているのだぞ。」というのは,私は正直に言って出てくるだろうなと思います。そういう意味で,合理的なものは例外として設けなければいけないけれども,では,全面的な録音・録画を止めるかという話になると,私は少なくとも裁判員制度というものを始めた以上は,それについては,少なくとも,それについては逃げるわけにはいかないのではないかなと思っております。その制度をある意味では出発点にしながら,しかし,その中でいろいろなものが出てくるだろう,学ぶべきものも出てくるし,こういうところはやはり作り方がおかしかったのだというのも出てくるような気がする。そういういろいろな経験を得ながら,次の展望を持ってやっていくというのが,私は,一番現実的で,かつ,将来性のある解決の仕方ではないかなと思っております。 ○周防委員 今までの議論を聞いていますと,捜査当局としては,やはり今までの取調べのやり方にかなり捉われていて,その立場から全過程の録音・録画に強い反発というか批判をされていらっしゃる。でも,是非,取調べの録音・録画を前提とした新しい捜査手法というものを,これから一つ一つ積み重ねて考えていっていただきたい。本当に,今までの捜査が真相の解明というものを果たしてきたのか。果たしてきているのだったら,そもそもこの会議はないはずなわけで,そこにもやはり多くの市民は疑念を持っているわけです。ですから,取調べの録音・録画という制度をきっかけに,新しい捜査手法,そういうものをきちんと確立していただきたいと思います。   それと,これはちょっと大胆な提案かもしれないんですが,一部の録音・録画から開始するという中で,すぐ着手していただきたいのは,検察での取調べは全て全過程,例外なく録音・録画するという提案をしたいと思います。 ○井上委員 まず,宮﨑委員と但木委員は「2 対象とする取調べの範囲」まで踏み込んで議論されましたが,そこのところは置くとして,但木委員が言われた裁判員時代におけるという点は非常に重要な要素ですけれども,厳密に言うと,裁判員は,任意性については,意見は言えるけれども判定には加われませんので,そこがターゲットではない。むしろ,供述の信用性の評価のところで大きな意味を持つということになるのだろうと思います。その意味では,結論としてはその方向が正しいのだろうと思います。   中身については,私はこれまで意見を申してきましたので,繰り返しません。議事録のとおり陳述いたしますので,そのように議事録に書いておいてください。   もう一つ,そういうことを前提に,どの範囲かは別としても,例外というものを認めざるを得ない。この例外についてですけれども,安岡委員は裁量だと言われたのですけれども,これは裁量ではない。さっき言われた,全過程にするか一部にするかというのは,それは裁量ですけれども,例外は要件の定め方の問題であって,「何とかのおそれ」というような予測を伴う要件の書き方にすると,その認定が非常に難しいという問題なのですよ。そこについてどういう要件の書き方があるかは,実際に書いてみないと,明確で,かつ実行可能な要件にできるかどうか分からないのですけれども,そういう作業をやるべきだと思うのです。中身については,出口論で全部できるというのは,やはり余りにも楽観的な考え方であって,現実論から言うと,録音を拒否する,録音するなら供述しないという被疑者の場合とか,あるいは身の危険があるので供述を渋るという人については,拒否させないようなテクニックというか,うまく説得をしろとか,あるいは保護の方が優先ではないかというのは,それ自体としてはそうなのかもしれないけれども,それを前提に組み立てることは恐らく現実的でないと思うのです。ですから,そういうことももちろん考えていかないといけないですけれども,現実にそれで供述をしないということはあるので,そういうことも例外として考えていく余地は十分あるだろうと思います。ただ,さっきの繰り返しですけれども,要件の書き方の問題として,本当に実行可能なのかどうかというところまで踏み込んで議論をしていく必要があるだろうということです。   いずれにしても,全体としては但木委員のおっしゃる方向に賛成で,勢いに任せて一気にという御意見もあるかもしれませんけれども,ある範囲でできるだけ動かしやすい形で作って,それを段階的に拡大していくということの方が現実的だと思います。そうでないと何度も言うようですけれども,これだけ意見が分かれているところで合意点を見つけるのは至難の業だと思っています。 ○龍岡委員 この枠組みのところですけれども,「全体的な枠組み」の中での議論に入るのかと思いますが,どういう事件について録音・録画をするのかということと,その一つの事件についてどの範囲で録音・録画するのかということとは,今まで区別して議論してきたように思います。少し混線しているような感じがしていますので,まずどういった事件についてやるかということを議論して,それから録音・録画する例外の場合を考えていったら,もう少し整理できるのではないかと思います。   例えば,但木委員や井上委員が言われたような裁判員裁判の事件については,今までの検証結果から見ましても,余り問題がないのではないか。そういう意味で,まず,裁判員裁判対象事件については一応全部について録音・録画をすると考える。その上で,更に例外とすべき場合,つまり,この資料46-2によりますと,「対象とする取調べの範囲」について,全過程とするか一部にするか,裁量にするか,そういった議論をしていけば,もう少し議論が詰まっていくのではないだろうかと思います。私は,裁判員裁判対象事件については,原則として全部についてというのでいいのではないかと思いますし,裁判官的な立場からは,できるだけ多くの事件について,取調べの録音・録画をやってもらった方が任意性についても信用性についても判断しやすいという面もありますので,裁判員裁判事件だけではなく,もう少し広げてもいいのではないかと思います。今までの検察庁や警察の検証の結果を踏まえて,余り問題がないところで決めていったらいいのではないかと考えます。 ○本田部会長 まだ御意見があろうと思いますけれども,今の御発言もそうですし,宮﨑委員の御発言もそうでしたけれども,「制度の枠組み」だけではなくて,次の「検討課題」の「制度の対象とすべき事件」と「その他」も含めて,御意見のある方の御発言をお願いいたしたいと思います。 ○上冨幹事 宮﨑委員と小坂井幹事の御意見について,その趣旨を明らかにする意味で,1点確認させていただきたいんですが,録音・録画を捜査機関の義務とした上で,供述人の拒否をその義務を解除する理由としないという制度にするという御意見として伺いましたが,その場合,例えば,今,井上委員からお話のあったような,録音・録画をするのであれば供述はしないけれども,録音・録画をしないのであれば供述するというような被疑者については,それは供述を得られなくてもやむを得ない,あるいは,それはそういう制度なのだという前提での御意見だとお伺いしてよろしいということでしょうか。 ○小坂井幹事 そういう難しい質問には真正面から答えないようにしようかと思っているんです。けれども,全然得られなくていいかどうか,それは一つの議論だと思います。より得られるようにする方法はあるはずだというのも一つの議論ですよね。しかし,その問題は基本的には供述人保護の問題に収れんされると思うので,正に舟本委員が前々回ですか前回ですかおっしゃったように,これはきっちり保護できるというシステムさえあれば,それは供述できるということにもなるでしょう。ですから,それはどちらかだと現実には決め付けられないと私は思っています。 ○露木幹事 話は枠組みのところに戻ってしまうんですけれども,入口論か出口論かという議論が先ほどから出ておりまして,井上委員から御説明があったとおりだと私も思っているんですけれども,その出口論でなかなか難しいというのをもう少し事例を踏まえて御説明いたします。例えば,暴力団の犯罪について,私どもは全過程の録音・録画は難しいと申し上げているわけですけれども,そういう暴力団などの組織を背景としているかどうかというのは,これは逮捕当初からいつもはっきりしているのかというと,必ずしもそうではないわけです。組織性を疑って捜査を遂げても,結果的に組織性が明らかにならなかったということは多々あるわけですし,逆に組織性の疑いは乏しいのではないかと当初思われていても,結果的に組織性が明らかになるということもあります。   例えば,拳銃使用の殺人事件で暴力団員を逮捕したというような場合には,当然のことながら,拳銃の入手経路を始めとして,組織的背景の解明を行うことになりますが,結局本人が一切供述をしなかったために,それが明らかにならなかったということも少なくないわけですね。逆に,単純な万引きの事件で,それがたまたま強盗致傷に発展したというようなケースもあるわけですけれども,そういうケースで暴力団員を逮捕した場合,これは個人的な犯罪かというと,本人の供述によって,実際には組織的窃盗グループによる犯行の一端であるということが判明する場合もあります。このように,逮捕当初に,組織的な犯罪であるか否かは,なかなか予見しにくいということは避け難いと,私どもは思います。   それから,暴力団犯罪だけではなくて,被害者の名誉ですとかプライバシーの関係で録音・録画が難しいというケースがあると申し上げておりますけれども,これも性犯罪のように類型的にそういうことが認定できるというケースもあろうかと思いますが,もちろんそういう場合だけではありません。例えば,住居侵入型の強盗致傷事件を認知したという場合に,被害者からはその限りで申告があって捜査を開始して,被疑者を検挙した。ところが,その取調べの中で被疑者の供述から,実は,被害者が強姦されていたというような事実が突然取調べの中で判明するということもあるわけです。これはなかなか入口当初では名誉・プライバシーの保護が必要であった事案かどうかということを判断するのが難しいということを物語っているケースだと思います。ですので,そのおそれの認定というのは難しいんですけれども,例外というかはともかく,その検討は回避できないというのが実務の実感でございます。 ○川出幹事 「制度の枠組み」の中の「法的効果」に関して,述べさせていただきたいと思います。第13回会議での議論の際に,被疑者の取調べについて,それを録音・録画しなかったことによって特別な法的効果が生じるとする場合,二つの枠組みがあり得るという話が出ておりました。その一つは,録音・録画を義務付けた上で,それをしなかったという義務違反があった場合に,その直接の効果として自白の証拠能力を否定するという枠組み,もう一つは,自白の任意性と関連付ける形でその証拠能力を否定するという枠組みです。   まず,最初の,録音・録画しなかったことの直接の効果として証拠能力を否定するという枠組みですが,この場合は,第13回会議でも御指摘がありましたように,義務違反と,自白の証拠能力の否定を直結させることが果たして妥当なのかという問題があると思います。録音・録画を義務付けられている場合に,それに違反して録音・録画をしなかったという場合にも,あえて違反した場合から,例えば,例外要件の判断を誤ったというような場合まで,様々な状況の下での様々な態様の違反が考えられますので,違反があった場合に一律に証拠能力を否定することが,果たして政策論として妥当なのかという問題がありますし,また,手続に違反があった場合の証拠能力の否定ということは,これまでは,違法収集証拠排除法則の枠組みの下で議論されてきたわけですが,それとの整合性がとれるのか,すなわち,録音・録画の義務違反が一律に重大な違法と評価できるのかということも問題となります。   次に,もう一つの自白の任意性と関連付けるという枠組みですが,今日,再配布していただいた資料46-2の「法的効果」の部分の「Ⅱ」と「Ⅲ」がこれに対応するものかと思います。このうち,「Ⅱ」は,必要な録音・録画が行われていない場合には,取調べで得られた自白の任意性を否定する,又は,任意性がないことを推定するということなんですが,これも第13回会議で指摘がなされていましたように,録音・録画をしなかったということと,自白の任意性があるかどうかということは必ずしも直接に関連するものではありませんので,こういう規定の仕方が,そもそも合理的なのかという問題がありますし,また,任意性がないことを推定するという点については,それが何を意味するのか,よく分からないところがあります。推定規定というのは,通常は,ある事実につき立証責任を負っている側が,その前提事実を立証すれば,立証すべき事実の存在を推定されることにより,立証責任が軽減されるという効果を持つものですが,任意性については,被告人側に,自白の任意性に疑いがあることを立証する責任があるわけではなく,検察官が任意性に疑いがないことを立証する責任を負っているわけですから,そもそも推定規定を置く前提に欠けることになるように思います。   それから,「Ⅲ」の任意性の立証方法を限定するという方法ですが,これについては,なぜ録音・録画記録でしか任意性立証ができないということになるのかという根拠を考えてみますと,結局は,録音・録画がなされることを担保するという点に求めざるを得ないのだろうと思います。つまり,録音・録画を義務とした上で,一定の例外を認めるとした場合,例外に該当したときは,別の手段での任意性立証を当然に認めることになるでしょうから,そうでない場合に録音・録画記録でしか任意性立証を認めないということは,結局は,義務違反に対するサンクションとして,任意性の立証を許さないということにほかなりません。それは,中間に任意性を挟んでいるだけで,第1の枠組みである,必要な録音・録画をしなかったという義務違反があったこと自体により証拠能力を否定するというのと,結局は同じことではないかと思いますし,そうだとすれば,第1の枠組みに対する批判が同じように妥当します。そう考えていきますと,結論としては,録音・録画をしなかったことに特別の法的効果を結び付けるというのはなかなか説明が難しいのではないかと思います。 ○大野委員 「対象事件の範囲」の問題について申し上げたいと思います。   この点につきましては,既に検察においても試行を重ねている犯罪類型があるとはいえ,録音・録画制度が新たに設けられる制度だということを考慮していただく必要があると思います。   捜査機関としましては,これまでは取調べの機能に支障が生じない範囲で,裁量により録音・録画を試行してきたところ,制度の枠組みの在り方にもよりますが,新たな制度が捜査機関に対して取調べの録音・録画を義務付けるものであるとすると,捜査機関としては,必要性に乏しい場合を含めて録音・録画を義務付けられ,かつ,手続が違法とされることのないよう,録音・録画が義務付けられる場面に該当するかについての慎重な判断を求められることとなります。新しい制度を設けるに当たっては,理念としてどうあるべきかということだけではなく,実際に現場で回るといいますか,現場で機能する制度となるのかについての検討が不可欠であると思います。そうした観点からは,最初から様々な事件を対象とするのは現実的ではなく,これまで何人かの委員がおっしゃいましたように,実際に試行を重ねてきた裁判員制度対象事件を対象とするのが現実的ではないかと考えております。   また,これは第13回会議でも申し上げましたけれども,「身柄拘束との関係」については,被疑者が身柄を拘束された事件を対象として制度化するべきであると考えております。   特に,これまで,逮捕前に被疑者を任意同行するなどして行われる在宅取調べについては,その適正確保を図る必要が大きいという趣旨の御意見もありましたが,被疑者に任意同行を求めて在宅で取調べを行う場合であったとしても,逮捕に至らない事件も多数あるのが実務の現状です。   ここで逮捕を前提とするものに限って録音・録画の対象としようとすると,逮捕するかどうかは取調べの結果をも踏まえて判断されるものですから,その範囲を一義的に画することはできないこととなりますし,任意同行段階の取調べを全て制度の対象とする場合には,その実質は在宅の取調べと同じことになりますから,両者を区別することはできず,結局,膨大な数の在宅事件全てを対象とすることになりかねないということになりますけれども,これが必要かつ現実的であるとは思えません。したがいまして,制度の対象とするのは,被疑者が身柄を拘束された事件とするべきであり,これを超えるものに捜査機関として対応することは,現実問題として困難であると思います。 ○後藤委員 先ほどの川出幹事の御発言に触発されて,「法的効果」の問題について一言述べたいと思います。これは「全体的な枠組み」とも関係しますけれども,私は,捜査官に対して,こういう場合には録音・録画しなければいけない,あるいは,一定の場合を除いて,原則として録音・録画をしなければいけないという範囲と,それに違反した場合の効果とを対応させてセットになる形で定めるのが一番明確だし,運用もしやすいであろうと思います。川出幹事は,必ずしも義務違反と証拠能力否定とを直結させるのは合理性がないという御意見だったと思います。けれども,仮に,本来,録音・録画すべき取調べだったのに,それをしなかったとします。その後に,被告人から,取調べの中でこんなことを言われたとか,こんなことをされたという,任意性を否定する,あるいは,疑わせるような事実の主張があったとします。そのときに,例えば,取調官の証言によって,取調べ過程でそのような事実はなかったという立証をすることを認めるべきかどうかが問題になります。私はその立証を認める必要はないし,認めるべきではないと思います。本来,録音・録画すべきことが要求されている場面であれば,そこで任意性を否定するような事情が主張された場合には,録音・録画していなければ任意性を認めることはできないという制度にするべきではないかと思います。そうすると,そのような場面では,録音・録画の記録は,任意性を認めるための法定証拠のような機能を持つことになると思います。 ○小野委員 一般論で恐縮なんですが,ここの会議での目的というのは,やはり現実に起きている事柄について,その問題解決の方法をどれだけ効果的に提供できるかということに尽きるだろうと思うのです。   先日生じたパソコンの遠隔操作事件について,今,ここで議論されていることによって,それが解決し得る手段を提供できるのか。捜査当局の方は,この全面的な録音・録画が実施されると検挙できる事件が検挙できなくなるおそれが出てくる,こういうふうにおっしゃるわけですけれども,この4件というのは検挙してしまったわけですね,事件になってしまったわけです。これはもちろん録音・録画によって,その取調べの中身が全部解消されて解決できるかという保証はないものの,そこに一歩近づく有効な手段であるということは間違いないわけです。その問題について,残念ながらこれまでのところ,我々がなるほどと思えるような検証結果が全然出されていない。その4人の方というのは結局,そのうち2人は自白もしてしまっているという事態について,本当に深刻に受け止めているのだろうか。その問題の解決を具体的にどうやるべきか,そういう姿勢が,私には残念ながら見られないわけです。少なくとも,この場での議論でも,そのような姿勢がちっとも示されていないというのが,私としては非常に残念に思えてなりません。少なくとも,こういうような事例が生じない一つの有効な方策として,録音・録画というのはあるのだろうと私は考えておりまして,そういう意味から,対象事件をどのように絞るかという議論を仮にするとしても,そのような観点を忘れてはならないだろうと思います。 ○舟本委員 この場では,余り具体的な事案に関して議論するというのは,私はいかがかなと思っているんですけれども,今,小野委員から遠隔ウイルスの誤認逮捕事案のお話がありましたので,この件について,若干私どもの反省といいますか,姿勢というのを述べたいと思います。4人の方を誤認逮捕してしまったことは誠に深刻に受け止めておりますし,遺憾なことだと思っております。捜査に当たった4警察においては,それぞれ事件について検証を行って,先般,その検証結果も公にさせていただきました。私どもは真剣に,この事件について検証を行ったところでありまして,そうした中で浮かび上がってきましたのは,一つは,やはり何と言いましても,激変するサイバーの犯罪に対して,我々の捜査機能は,残念ながら,対応しきれていなかったという問題があったということです。これは恐らく,サイバー犯罪に対してどう対応していくかという世界共通の課題であると思います。国境を越えた犯罪,とにかく今回の事案で,真犯人は海外のサーバを次々と転々としていく,接続回路を匿名化するTORというソフトを使用して,遠隔ウイルスを忍び込ませたという,やはりこういうサイバー犯罪独特の問題があろうと思います。   それから,供述,4人の方のうち2人が自供したということでありますけれども,これは結論として言えば,我々としても,供述に対する吟味をもっとやるべきだったということを強く反省しております。一つは,最初から同居の方の身代わりという形で自認をし,また,否認をして供述が変遷していたという,その変遷状況をどのように捉えるべきだったかという問題があります。もう一方は,少年ということで,刑事手続の説明について,やはりもっとそうしたことを配慮しながら説明すべきではなかったかという反省をいたしており,検証結果の報告書にも記載されているところであります。そうしたところから,これらの事件の供述に関する問題が,今,小野委員が言われたように,そのまま取調べの録音・録画につながってくるというような話には,ちょっとならないのではないかと,この検証結果でも私どもは受け止めております。 ○村木委員 今ちょうど,PCメールのお話が何人かの委員から出ましたので,若干,私もあえて触れさせていただきたいと思います。今,舟本委員はあのように言われましたが,身代わりとか少年に対する刑事手続のこととか,そういうことはもちろんあるでしょうけれども,実際には全く真犯人でもない人が,犯行のメールに書かれた犯人の名前の由来を子細に説明をするとか,動機について,楽しそうな小学生を見て困らせてやろうと思ったというようなことを自供するというのは,今,舟本委員が言われたようなことだけが問題であったわけではないと思っています。私自身も同じように取調べを受けたので,ああいうことになってしまうプロセスというのは非常によく分かるんですね。捜査で分かったことを取調官からたくさん教えられてしまうとか,それから例えばですけれども,「君だったらどうする。」とか「どういうふうに想像するの。」と聞かれて,一生懸命捜査に協力しようと思って答えたことが自分の発言として調書になってしまうとか,あるいは,「こんな客観証拠があるのだよ。」と言われて,うそつきだと言われたくないと思って,一生懸命それにつじつまを合わせて話を作ってしまうとか,あるいは,他の人の証言を聞かされて,私なんかは他の人の調書なんかも見せられて,「この人はうそを言っていると思うか。」と聞かれて,「彼はそんなうそなんかつく人ではありません。」というと,それが「君の証言も彼のと同じでいいね。」といって調書ができてしまうとか,やはり「否認していると長くなるよ。」とか「裁判がひどい結果になるよ。」と繰り返し言われるとか,そういうことが起こっているわけです。こういうことを防ぐために,やはり是非,録音・録画制度をきちんと取り入れてほしいと思っています。取調監督制度とか,いろいろなことをやってくださっているのはよく分かっていますが,今言ったような取調べのプロセスを考えると,部分だけを誰かがチェックに来たというだけではこういう問題点はなくなりません。是非,しっかりした制度にしていただきたいと思っています。   裁判員制度から始めたらどうかというようなお話がありましたけれども,それではさっきのPCメールの事件だとかは対象になりません。それから例えば,裁判員制度の対象の殺人は重大犯罪といわれますが,裁判員制度の対象にならないものでも殺人罪の懲役5年よりはもっと重い刑罰が下る犯罪もあるので,できるだけ対象事件の範囲は拡大をしていただきたいと思っています。もちろん段階的な実施というのは私自身も反対をしているわけではなくて,そうやるのが現実的だろうと思っています。そういう意味では事件をできるだけ拡大してほしいということと,コスト面とかいろいろな問題があれば,例えば,まず録音だけ先行させるとか,検察官の取調べだけは先行させるとか,いろいろなやり方がありますので,そこは頭から事件を絞るのだということで道筋を決めてしまわずに,できるだけ幅広い事件をきちんと対応できるようにするということで議論を考えていただきたいと思っています。 ○小坂井幹事 警察におかれて問題事例が発生したときに検証されて,それを公表されるようになった。これは私の認識が間違っていなければ,志布志事件,氷見事件,足利事件以降,そういうことをきちんとされるようになった。このことは私は評価すべきだと思っています。ただ,今回の問題で供述吟味が足りないという総括の仕方が本当に正しいかどうかは,やはりもう一度見直していただくべき問題ではないか。つまり,繰り返しになって恐縮ですけれども,ブラックボックスの中で作文調書を作っているのではないか,取り調べる側に大きな原因があるのではないかという視点が,どうも今回の検証でも見受けられない感じがします。やはり軽微事件で長時間の取調べがなされて,その結果,虚偽の自白調書が作成されてしまっているケース,今回も正にそうですけれども,そういう事例があるわけです。ですから,私は,この対象事件というものを見たときに,全事件を対象にするという発想自体,これは当然,基本的な軸としては持つべきだと思います。ただ,現実問題とすれば,それはもちろん段階的実施を私も否定するわけではありませんし,それをどこからどういう順序でやっていくかということはもちろん工夫すべきだと思いますけれども,重大事件のみに限るのだと,こういうことにはならないだろうと思っています。   第13回会議ですか,海外では重大事件に限っているというような御発言もあったかと思いますけれども,法務省の調査でも,例えば,イタリア,オーストラリアの連邦犯罪,台湾なんかは,これは事件を限っていないように見受けられます。イギリスとオーストラリアの各州,あるいは,韓国,香港なんかも,むしろ軽微事件は省くという発想で,重大事件に限るとは捉えられてはいないのではないかなという感じがいたします。そういうこともありますので,私は今,村木委員がおっしゃったみたいに,録音だけオーケーということになれば,ICレコーダーを設置すること自体は極めて容易な話ですから,そういう意味では全事件を対象にする,ただし,段階的になるべく広く実施していくと,こういう発想が大事なのではないかと思います。   それと身体拘束の問題なんですけれども,これも海外では,ほとんど身体拘束されている場合に限っているという御発言もあったかと思いますけれども,オーストラリア,オランダ,台湾などは身体拘束下に限っておりません。先般行きましたフランスの予審段階での取調べも身体拘束に限っていなかったです。もちろん私の方に過ちがあれば指摘していだたきたいと思いますけれども,そういうこともありますので,何も身体拘束に限っているわけではありません。それと,具体例をどこまで挙げるかどうかという問題はありますが,これも繰り返し申し上げているとおり,志布志事件,氷見事件,足利事件を捕捉できないような基準を設けるのであれば,これはもう今回の制度を設立することに関しての極めて大きな問題になるので,それを捕捉できないような形の範囲設定をすべきではないだろうと思います。   若干余計なことになるかもしれませんが,例えば,全過程というときに,第13回会議でしたかね,安岡委員の質問に岩尾幹事がお答えになって,「身体拘束ということであれば,逮捕状が執行された段階からが始期でしょう。」とおっしゃって,別にそれが誤りだとは言いませんけれども,例えば,アメリカでミランダ警告がなされるという場合,これは何も形式的な逮捕に限っているわけではなくて,ミランダの判決自体が実質的な逮捕という基準を設けていたように思います。私の認識が間違っていれば,これは御指摘いただきたくて,研究者の方の方がむしろお詳しいでしょうけれども,現実の実務では自己負罪供述を求めるような,あるいは,それに向けた発問する段階ではミランダルールで警告を発しているのが前提なのではないのかなという感じもするわけです。そういう意味では,相当身体拘束といっても前倒しした形での始期設定は可能なのではないのかなと思っています。 ○井上委員 私は,ここも第13回会議の議事録のとおり陳述するということにさせていただきたいのですけれども,やはり現実的に考えていくべきだと思うのです。一気にというのは分かるのですけれども,それは現実的ではないのと,合意が得られないのではないかと思いますので,段階的にと考えるのです。問題は,その段階の切り方で,ここはいろいろな考え方があると思うのですけれども,少なくとも身柄事件と非身柄事件は必要性の高さ,あるいは強さという点で差があると思うのです。参考人については区切りが非常に難しくて,そこを最初からターゲットに含めるというのは現実的ではないと思っています。   あとは議事録のとおりですが,1点,お二人の委員が,検察官の取調べからと言われたのですけれども,これは法技術的にはかなり難しくて,特に,供述の証拠能力を結び付けた書き方をするとすると,区別を設けるのは非常に難しいのです。もちろん捜査上の行為規範として書くときはそういう書き分けはできるんですけれども,公判での供述の任意性の判断などの点で,少なくとも事実上密接に結び付いてくるので,そういう限定ないし区別ができるのかはかなり疑問です。   また,録音だけというのは,これは書き方として録音又は録画とすればいいので,それは運用上の問題でできるのだろう。そう思っています。 ○安岡委員 身柄拘束されているところから始める,ないしは,そこに限るという議論なんですけれども,先回の部会でも意見を言いましたが,むしろ任意調べが問題だと思います。いつでも調べの場から退出できることが保障されているのだと大野委員が御発言になったと思いますけれども,それがその御発言のように行われていないのが問題であって,法律の原則が破られている実態があるのだろうと考えます。実際に志布志事件で調べを受けた方々の話とか,足利事件の菅家さんですね,それからあと,結局は立件されなかったですけれども,大阪の東署でものすごい何かやくざに取り囲まれているような調べを受けているのを,たまたまICレコーダーで被疑者の方が録音していた一件がありました。これらはいずれも任意といいますか在宅状態での取調べだったわけです。逮捕された後の不適正な取調べは,これはなくしていかなければいけないわけですけれども,任意といいながら,その任意が保障されていない方が,むしろ可視化を必要とする要求の高さと,今,井上委員がおっしゃいました,要求の高さということでは,不適正な取調べをさせないようにする,規制する必要性の高さでは,むしろ任意調べの方が要求が高いのではないかと思います。少なくとも捜査機関の管理する施設の中で行われる取調べは,身柄拘束されているかどうかにかかわらず,必ず可視化,録音・録画されるべきだろうと思います。しかも,取調べの最初のところで,この調べからはいつでも随時あなたの方から打ち切って出ていくことができますよと確認している,またその調べの結果を調書にするのだけれども,それが逮捕状の請求の資料になったり,それから公判段階で証拠として使われる可能性があるのだというような説明ですね,その調べの趣旨,内容を説明するところを録って,それで確かに取り調べられている人が,そこを了解しているかどうかを確認できるような場面から始めるのが必要だろうと思います。 ○露木幹事 先ほどから何人かの委員の方が,全事件・全過程ということを飽くまで原則といいますか理想とすべきであって,段階的ということも含めて,そういうことを念頭に法制化ということをおっしゃっているのだろうと思うのですけれども,前々から申し上げているとおり,私ども,そもそも法制化自体に懸念が拭えないということがございます。更に全事件・全過程ということを念頭に置いた場合に,これも第13回会議に申し上げましたけれども,これはものすごい警察官の増員ですとか警察署の改修ですとか,そういうコストは掛かるわけです。一般の刑法犯だけでも,年間40万件も検挙しておりますし,交通事故ですとか交通違反も含めますと,100万件以上検挙しているわけです。そういうものも全部,一応は制度的に対象なのだとしたときに,そんなことが現実にできるのかということを真剣に考えなければならないと思うのです。前に私は,比喩的に,京都府警ですとか大阪府警規模の,つまり数千から数万の警察官の増員が必要になるのではないかということを申し上げましたけれども,そんなことが今の財政事情の下で可能なのかということは,やはり前提にして議論をすべきだと思います。そういう意味で,段階的にゆくゆくは全事件・全過程とするということは,私は不可能ではないかと思います。 ○本田部会長 まだ御意見もあろうと思いますが,時間の都合もございますので,ここで15分間休憩をとらせていただきたいと思います。           (休    憩) ○本田部会長 それでは,再開させていただきます。 ○椎橋委員 録音・録画の枠組みとか録音・録画の対象となる取調べの範囲,その例外等については全て関連していると思いますけれども,議論の進め方としては,私は龍岡委員の言われたようなやり方でやっていくのが効率的だと思っております。全体的な枠組みとして,例えば,裁判員裁判対象事件を基本として,経験の中で対象を広げる可能性を追求していく,そして,その例外はどうするかというような形で考えていくというのは非常に生産的だと思います。ただ,私自身はまず,裁判員裁判対象事件を基本にするというのは賛成ですけれども,飽くまで基本にするということで,それより広げるのか,それとも裁判員裁判対象事件の中でも対象にしなくてもよい犯罪もあるのかどうかというのは,今のところは留保させていただいて,よりきめ細かに考えていく必要があると思っております。   また,「対象とする取調べの範囲」については,「A」,「B」,「C」という考え方がありますけれども,「A」という考え方を採って例外というものを過不足なく規定するというやり方を前に提案したことがありますけれども,制度設計の問題だといえばそうかもしれませんけれども,「A」,「B」,「C」というのは,なかなかうまく切り分けることができないようなところがあるのではないかと,そのような趣旨の御発言があったこととも関連するんですけれども,やはりどういうような犯罪,どういう場合を録音・録画の対象とするか,例外にするかというのは,具体的な事案で取調べをやってみないと分からないということがあると思いますので,そういう意味では,あるところまでは例外の対象外だと,ある時期から取り調べてみたら例外の対象となる事件だというようなことがあり得ますので,そういう意味では,「A」,「B」,「C」というものの組み合わせというような設計の仕方もあり得るのではないかと思います。   それから,3の例外をどうすべきかということなんですけれども,これについて小坂井幹事は,事後規制でほとんど足りるのではないかと言われましたけれども,私も井上委員と同じように,それだけでは録音・録画によって生ずる弊害への対応策としては少し足りないのではないかと思います。特に機器の故障等については,これはやむを得ないことですし,また2番目の被疑者への影響が大きい場合で,被疑者が拒否したというような場合,例えば報復のおそれがある場合など,これは私は,当然に対象外にしていいのではないか。被疑者が録音・録画を拒否したという場合に,黙秘権によって被疑者は供述するか拒否するかの自由が認められているのに,何で録音・録画が拒否できないのかという,その根拠が私にはよく分かりません。取調べを適正化するために正当化されるのだということなのだと思いますけれども,それは,言ってみれば,強制的に録音・録画をした上で取調べを受けさせるということになると思いますので,やはりそれに伴う被疑者の負担,不利益というのはあります。それが報復のおそれと結び付いているというような場合に,その人を本当にどうやって守れるのかというような問題が出てくると思います。   さらに,それ以外の供述者の名誉とかプライバシーの問題とか秘密保持とか萎縮というような問題については,そのおそれがあるか否かという判断をしなければいけないので,この判断というものはなかなか難しい場合があるのではないか。この判断によって,それ以上録音・録画を続けるべきではないということになれば,それは結果的には一部の録音・録画ということになりますので,そういう意味では先ほどの「2.対象とする取調べの範囲」のところの「A」,「B」,「C」との関係にも関わってくるということになろうかと思います。   それから法的な効果については,私は,この大まかな「Ⅰ」,「Ⅱ」,「Ⅲ」でいうと,「Ⅰ」というか「Ⅰ′」ぐらいになるのではないかと思うんですけれども,なぜかといいますと,それはやはりこの制度は録音・録画制度は供述の任意性を担保する一つの方策だということ,これは多くの方が認めておられることだと思うんですけれども,そうであれば,録音・録画のルールを遵守しなかったということが直ちに黙秘権を侵害するということにはならないので,直ちにその後の供述が排除されるとか,あるいは任意性がないことが推定されるというようなことは,なかなか理論的には説明が難しいのではないか。ただ,やはりこういう録音・録画制度を作ったという場合は,その趣旨というものは尊重しなければなりませんので,全く「Ⅰ」と同じでいいかどうかということになると,やはりそれは制度の趣旨にそぐわない。ですから,具体的にはそれほど変わらないかもしれませんけれども,というか,枠としては「Ⅰ」と変わりないかもしれないんですけれども,こういう制度があるのに,録音・録画を怠ったのだよということを被告人ないし弁護人の方から主張する。そうであれば,任意性を判断する一つの,しかも,その趣旨に反したことにふさわしい考慮がなされるべき要因の一つになるということだろうと思います。   それから,先ほど小坂井幹事が言われたことについて,少し私の発言と関係していたのかなと思いますので付言しますが,アメリカの場合にミランダがかなり広く解釈されているのではないかという御趣旨だったと思うんですけれども,やはりミランダはミランダで身柄拘束下での黙秘権,弁護権等の告知義務を課したものだということで,身柄拘束に近いのではないかという,テリータイプのストップ・アンド・クエスチョンの事例についても,ミランダ告知を及ぼすべきではないかという議論が以前からあるのですけれども,その主張は受け入れられておりませんで,やはり身柄拘束のときに,ミランダ告知が適用されるという形は維持されていると思います。   関連して,身柄拘束と任意ということについて,安岡委員は,その限界が難しくて実質的には身柄拘束のようなときに任意という形で処理されるのはまずいということをおっしゃったのだと思うんですけれども,そういうような事例があったということはありますけれども,その場合はしかし,裁判所によっても,私の受け止め方では,非常に強く批判されていると思います。その後の判例でも,事案ごとの事情をいろいろ配慮しながら,いろいろな形で慎重に判断されてきている。劇的な形で変わっているとは言えないかもしれませんけれども,例えば職務質問の際の留め置きについて時間的な長さ,留め置きの形態等について,任意の範囲に止まるのか,強制処分と評価すべきなのかにつき,警察や裁判所といった現場ではかなりの苦労がされている。やはり基本的には身柄拘束されているからこそ,本質的に強制的な契機がある。だから,それについてはミランダ告知をしなければいけないということで,やはり身柄拘束とそれ以外の場合は大分違う,分けて考える必要があるのではないか。身柄拘束に実質的になっていたら,それは身柄拘束として扱うということが正しいことですが,身柄拘束とはいえないが,完全に自由ではないという領域全部に広げるということになると,ほとんど任意性が争われないような事案についても録音・録画義務が課されるということになりますので,そこまでの必要があるかは疑問です。 ○本田部会長 それでは,「取調べの録音・録画制度」についての議論はここまでとさせていただきまして,本日の二つ目の論点でございます「有罪答弁制度(自白事件を簡易迅速に処理するための制度)」についての議論に入らせていただきたいと思います。   第13回会議では,自白事件のうち一定のものを簡易迅速に処理することで刑事司法の効率化を高めるという方向性自体につきましては特段の異論はなかったようでございますが,制度が有効に機能するのかどうか疑問であるとの御指摘もなされたところであります。いまだ今後の検討の方向性というものが十分に見えていないのかなと思われます。そこで,実効性のある制度として,どのような考えがあるかなどにつきまして,更に議論を行いたいと思います。本日は,これまでの議論の結果を踏まえまして,改めて検討課題等を整理した資料をお配りしてますので,まずは事務当局から簡単に説明をお願いします。 ○保坂幹事 御説明いたします。資料58を御覧いただけますでしょうか。この資料は,自白事件を簡易迅速に処理するための制度につきまして,これまでの御議論を踏まえて「考えられる制度の概要」や,「検討課題」を改めて整理して作成したものです。   まず,「考えられる制度の概要」についてですが,これまでの御議論では,一定の自白事件について,捜査・公判段階を通じて簡易迅速な処理を可能とする制度を設けることについては,おおむね御異論はなかったと思われます。その上で,制度の枠組みとしまして,第13回会議でも御議論いただいたように,「A案」,すなわち,「被告人が公判廷で有罪を認めた場合には,証拠調べを行うことなく被告人を有罪とできることとする」というものと,「B案」,すなわち,「犯罪事実は証拠によって証明するが,手続を簡易迅速化する」というものが考えられるところです。   次に,「これまでの議論を踏まえた検討課題」についてですが,まず,「(1)公判段階の簡易迅速化を可能とする制度の枠組み(A案とB案の当否)」のところです。これまでの御議論におきまして,我が国で採用するものとしては,証拠調べをしない制度ではなく,簡略でも証拠調べを行う制度が相当ではないかという御意見があった一方で,弁護人の援助や捜査段階での証拠開示といった手続保障を講じるのであれば,証拠調べを行わずに有罪とする制度も採用可能ではないかなどの御意見もあったところです。この点につきましては,更に御議論いただく必要があろうかと思われます。   なお,この点に関しましては,資料にも書いておりますように,「憲法38条3項との関係」や,「被告人が有罪を認めただけで証拠調べを行うことなく有罪とすること(当事者処分主義)の当否」といった点が重要であるという御指摘もあったところですので,これらの点にも御留意いただく必要があろうかと思われます。   次に,「(2)対象とする科刑の範囲とそのための手続の在り方」についてです。第13回会議におきましては,実刑相当事案につきましては,より時間を掛けた証拠調べや量刑判断を要し,即日判決に適しない場合が多く,また,弁護人による情状立証の準備期間も考慮すると,現行の即決裁判手続によることは困難ではないか,実刑相当事案については,量刑の見通しが事前に明らかになるなど,被告人側にも制度を用いる動機付け,あるいは,メリットがなければ制度が活用されないのではないか,科刑可能な範囲も含めて,より具体的な制度設計の検討が必要であるなどの御指摘がありました。これらの御指摘も踏まえて,資料には「実刑相当事案における即日判決の困難性(その解決方策)」,「実刑相当事案における被告人側の制度活用の動機付けやメリットを与える方策」,「科することができる刑の範囲(科刑制限)」というものを挙げております。また,新たな制度を設ける方策としましては,現行の執行猶予に限定された現行の即決裁判手続の改正によるというほかにも,即決裁判手続を残しながら,これとは別の新たな制度を設けることもあり得ると考えられますので,その点も挙げております。   次に,「(3)捜査段階の簡易迅速化を担保するための措置」につきましては,第13回会議に引き続き,考えられる仕組みとして,「ア 有罪陳述の撤回等の場合について,公訴取消後の再起訴の制限を緩和する。」というものと,「イ 有罪陳述の撤回等を制限する。」という二つを挙げております。このうちの「ア」に関しましては,これまでの御議論で,公訴取消までの間に証拠が散逸するおそれがあり,これを防止できなければ,捜査段階の迅速化の実効が上がらないのではないか,身柄事件について公訴を取り消した後における身柄拘束の在り方を検討する必要があるのではないかという御指摘もございましたので,更にその2点を課題として挙げております。また,「イ」に関しましては,第13回会議では特に御意見はなかったところですが,このような仕組みを設けることの要否・当否,制限の内容や要件・効果を念頭に置きつつ御検討いただく必要があろうかと思われます。   最後に「(4)対象とする事件,手続保障の在り方,上訴制限の在り方その他新たな制度の要件・手続・効果を定める上で留意すべき事項」につきましても,第13回会議に引き続き,(1)から(3)までの「検討課題」をも踏まえまして,更に御議論いただければと思います。   資料の御説明は以上です。 ○本田部会長 それでは,有罪答弁制度,いわゆる自白事件を簡易迅速に処理するための制度につきまして,ただいま御説明があった「検討課題」を中心に議論を行いたいと思います。   ここでは,「検討課題」が4点記載されておりますが,(1)が制度の枠組みに関するもので,あと2点以降,(2)ないし(4)につきましては,制度の具体的な内容に関するものですので,まずは制度の枠組みに関する(1)について議論いただき,その後,(2)以降の議論を進めたいと思います。 ○酒巻委員 まず1番目の大きな枠組みについては,前回議論したときに,A案とB案,どこまでぎりぎりの議論をしたか忘れてしまいましたが,A案というのは,これはアングロサクソンの人たちが採っている考え方で,要するに,被告人が有罪を認めている以上,もう有罪か無罪かを確かめる裁判はやらないということ,本人がそう言って認めている以上,有罪であるということは当然の前提にして先へ進む,こういう考え方だろうと思います。これは被告人が有罪を認めたというのを一つの証拠として,つまり自白として,それに基づいて事実を認定しているのではありません。これに対してB案の方は,ヨーロッパや我々が普通にやっている,やはり犯罪事実というのは,証拠に基づいてきちんと合理的な疑いを超えるところまで証明しなければいけない,有罪無罪は裁判をやって確定する。ただ,犯罪事実を認定する手続は事件のタイプがいろいろあるのでこれに即して一定のタイプについては簡易迅速化しよう,そういうことだろうと思います。ですから,A案というのは,煎じ詰めると現実の事案の真相というか,現実にあった事柄とは無関係に被告人がそれでよいと言えば,刑事裁判の世界ではもう有罪にして話を進めようというものですから,このような考え方は,アングロサクソンの人は普通だと思っているのかもしれませんけれども,我が国の一般国民や,あるいは,刑事訴訟法の1条に書いてある,そしてこの部会でも最初の方に皆さんで議論した,事案の真相解明というのは何であるかという事柄を考えてみても,A案はやはり適切でない,なじまないのではないかと考えております。これが一番基本的な枠組みについての私の意見です。   そうしますと,やはり本人が認めた上で一定の証拠に基づいて,しかし,通常の公判手続よりは手続を簡易化するという方策を採るのが適切であろうと思います。いろいろな方策がここに書いてあるわけですけれども,これまでも,最初は,簡易公判手続だったと思いますが,比較的軽微で,かつ,本人が有罪であることを認めている事件については迅速に裁判を行おうという頭で作られた制度は幾つかありました。しかし,簡易公判手続ははっきり言って失敗しました。それから,先般の司法制度改革で作られた即決裁判手続は,一定類型の事件では動いておりますけれども,余り活発には動いていない。この度も,新たな簡易手続を設計するに当たっては,手続の関与者,関与する一番大事な人は被告人ですけれども,弁護人,検察官,そして裁判所,それぞれがやはり使ってもいいなというふうなインセンティブがないと,これは結局一生懸命考えて作っても動かないということになるおそれがある。   考えておかなければならないもう一つの観点は,即決裁判手続を作ったときに議論されたとおり,裁判だけ簡易化しても,結局,その前の準備をする捜査のところが思い切って簡素化できないという問題があると思います。刑事司法に投入する資源の適正な配分という観点からは,公判だけでなく捜査もできるものは省力化しないと意味がないだろうということです。即決裁判の場合は,皆さん御承知のとおり,それを始めようとするところまでいっても,途中で被告人側が,やはりこれでは困ると,本式の裁判をしたいということになりますと,全部,元の木阿弥になる。このため,捜査もそういうことを想定して徹底的にやっておかなければいけない,そういう問題がありました。ですから,今度,本当に簡易手続を,そして証拠に基づいて事実を認定するという簡易手続を作るのであるとすれば,何らかの形で,これは2の(3)に関することですけれども,捜査の省力化にも資するインセンティブが必要でしょう。(3)に「ア」と「イ」が出ているわけですけれども,一番徹底したのは「イ」で,一回被告人,弁護人の方が有罪を認める,こっちの手続でやってくださいと言った以上はもう撤回はできないというものです。そうすれば捜査の方も,正式裁判にはならないという前提で省力化することができる。これは机上の設計としてはとても明瞭です。しかし,弁護人や被告人の立場からすれば,一回有罪を認めて簡易な手続でいくと決めると,もう絶対撤回できないと言われたら,多分,最初から使わないのではないか,こっちでいくということ自体がなかなか決意しにくくなるのではないかなという気がします。それに比べて「ア」の方は撤回は認める。ただ,途中で有罪の自認を撤回するという場合に,必要があれば,一回仕切り直しをして,公訴を取り消して,もう一回捜査に戻るということです。これは何らかの立法をしなければならないわけですけれども,そういうふうな制度設計の方が,全体としては動かしやすいというか,手続関与者に一層この制度を使おうというインセンティブが働くような制度設計となるのではないかと思っております。今考えているところは以上でございます。 ○大野委員 まず,制度の枠組みという点で意見を申し上げたいと思います。検察としては,実刑事案を含めて一定範囲の自白事件について,捜査段階・公判段階を通じ,より簡易迅速な処理を可能とする手続を是非とも設けていただきたいと考えています。その上で,制度の枠組みに関して述べますと,先ほど酒巻委員がおっしゃいましたように,B案を前提として具体的な検討に進むのがよいのではないかと思っています。   なお,B案を採る場合においては,証拠の収集及び犯罪事実の立証について責任を負う検察官の判断によって,事件が簡易迅速な処理に適するかの判断や手続の申立てがなされる仕組みとするのが相当と考えます。   その上で,自白事件を簡易迅速に処理する手続の在り方ということについて申し上げます。現行の即決裁判手続については,利用が限られているというのが現状と言わざるを得ないと思われますけれども,その原因を踏まえまして意見を申し上げます。   1点目として,第13回会議で但木委員からも御指摘があったと思いますが,現行の即決裁判手続の下で,検察官としては,どうしても,被告人が将来否認に転じることをも懸念し,それに備えるため,被疑者の詳細な取調べ等をも含む捜査を遂げた上で起訴するという運用になってしまうことから,こうした懸念に対応し,捜査段階の簡易迅速化を担保できる仕組みを必ず設けていただきたいということです。   その具体的な方法としてですが,まず,同意の撤回を制限することが検討対象となり得るだろうと思いますけれども,少なくとも,被告人が同意や有罪陳述を撤回したことなどの事由により通常公判に移行することとなった場合には,一度公訴を取り消し,所要の再捜査を遂げた上で再度起訴することが可能となるように,現行刑訴法340条の規定を改めて,公訴取消後の再起訴の制限というのを緩和していただきたいと思います。こうした仕組みが設けられれば,検察官としても簡易迅速な捜査処理がしやすくなると思います。   なお,同意が撤回されるなどして通常公判に移行した場合には,その時点で公訴を維持したまま捜査を行えばよいという御意見もございましたけれども,被告人の当事者としての地位に鑑みると,特に第1回公判期日後の被告人又はその近親者の取調べや捜査機関による捜索差押等の強制処分には慎重な配慮を要するのではないかと考えており,公訴を維持しながら捜査を行うというのは難点が大きく,十分な捜査が困難となりかねないと考えます。   次に,現行の即決裁判手続の利用が限られたものにとどまっている原因の2点目としては,執行猶予が付されるべきことが明白な事件においてしか利用できないということがあります。例えば,常習累犯窃盗や覚せい剤の自己使用などの事案では,実刑相当であったとしても,簡易迅速な処理が可能なものが少なくないように思われますけれども,こうした事案については即決裁判手続を利用することができないというのが現状です。簡易迅速な手続により実刑も科すことができるとすることについては,弁護人が防御の準備をしたり,あるいは,裁判所が科すべき刑を検討するための十分な時間が必要であるから,簡易迅速な処理になじまないという御意見もございましたけれども,その点については,例えば,具体的な制度設計の中で,起訴から判決宣告までの期間の在り方を検討していくことでも対処できるのではないかと思いますし,その結果,現在の運用で審理の約1週間後に判決を言い渡すなど変わらない状況となり得たとしても,捜査段階の簡易迅速化と併せて考えれば,なお,全体として簡易迅速処理に資するものとなるのではないかと考えます。   また,実刑も科され得ることとなると,被告人側がこの手続を利用するメリットがないという御意見もございましたけれども,この点についても,まず制度の在り方を具体的に考えてみる中で,例えば,新たな手続についての同意を得る際に,検察官が予定する求刑を提示して予測可能性を高めることを含めて検討することも考えられるのではないかと思います。このように,指摘された御懸念に関して対処する方策も含めて,より具体的な検討へと議論を進めていってはいかがかと思っております。 ○小野委員 以前の会議でも,ちょっと述べましたが,今,大野委員がおっしゃった点で,一つは,即決について同意を撤回した後の捜査,再起訴という仕組みそのものは検討に値するのではないかなと考えております。現実的に今そういう問題が即決を利用しにくくしているということは間違いないと私も考えておりまして,その点についての制度的な検討というのはあり得るかなと思います。   それから,即決の現時点での執行猶予だけという問題についてですけれども,一つには,もっと早く即決の適用ができるという仕組みも考えられてしかるべきだろうと思うと同時に,検察官の量刑意見というものがあらかじめ示されるということになれば,被告人,弁護側もこれを利用しやすくなるということがあり得べしかなと考えます。ただ,その場合に,裁判所がどうするのかということになってくるわけですので,その場合には,裁判所の判断にも影響を及ぼすという仕組みがないと,なかなかそこは使いにくいことになってしまうというジレンマがあるわけです。現実に今,求刑よりも重い量刑というのは幾らでもあるわけで,もちろんこの仕組みは非常に軽い事件ということですから,そうならないのかもしれませんけれども,そこまで踏み込むということになると,かなり大きな制度的な問題にもなりかねないので難しいのかもしれませんが,つまり,事件としては,やはり結果がどうなるかということが,こういう簡易な手続を使う上でも絶対に必要なわけでして,今は執行猶予だということで,よし,それでいこうとなるわけですけれども,実刑になりますよと,検察官の量刑意見も分かりますよとなったときに,それで本当に大丈夫ですかということになってしまうわけですね。そこのところが現実的な問題としてはどうしても前面に出てくるので,そこの仕組みを更に突っ込んで工夫をしていただかないと,結局のところ,やはり使いにくいことになってしまわないか,そこが一番懸念される点です。 ○小川委員 ちょっと違った視点から,この「検討課題」の中に挙がっていないんですが,一部執行猶予の法案が前回の通常国会に出されて,今,廃案状態でしょうけれども,また今度,通常国会に出されるはずなので,私,その部会にも出ていましたので,その制度を事務当局の方から御説明いただいて,その制度と大分かぶってくるのではないかと。ですから,特に薬物事件の場合には,治療プログラムと組み合わせるので,そうすると,再犯しないように保護観察にして治療していこうというような制度と組み合わさってくる,かなりの対象事件がオーバーラップしてきて,むしろそっちの方がやりやすいというか,やりたいという感じになっていくのではないか。だから,これは余り使われない心配があるかなと思いますので,若干事務当局の方から一部執行猶予の制度を御説明いただけないでしょうか。 ○上冨幹事 それでは,刑の一部執行猶予制度に関する法案も担当しておりますので,まず制度の概要を御説明した上で,若干敷衍して御説明したいと思います。   刑の一部執行猶予制度と申しますのは,現在の刑法では,刑というのは,全ての部分が実刑か,あるいは,全てについて執行猶予して執行猶予期間中の社会内処遇を行うかといういずれかの選択肢しかございません。これについて,新たな制度として,刑法改正による一般的な一部執行猶予制度と,それから薬物に関する新たな特別法を作った上での薬物だけの一部執行猶予制度の二本立ての制度の導入を考えております。このうち刑法改正による一部執行猶予制度については罪名の縛りはなく,これまでに刑務所に受刑したことのない,初めて実刑判決を受ける人について,3年以下の懲役や禁錮の言渡しをする場合に,その刑の一部の執行を猶予することができるという制度です。例えば,例を挙げますと,懲役2年,そのうち6か月について3年間刑の執行を猶予するといったような判決が想定されております。加えて,薬物犯罪については,薬物使用者でありましても,初めて実刑判決を受ける場合には,刑法上の一部執行猶予制度の対象となるわけですけれども,更に二度目,三度目といった累犯の人であっても,薬物使用については,やはり一部執行猶予の言渡しをできるようにしようというのが薬物に関する新法の内容でございます。薬物使用者については,やはり3年以下の懲役又は禁固の言渡しをするために,前に服役前科があったとしても執行を猶予することができるとするとともに,その執行猶予期間中,必ず保護観察に付するというところが,刑法に基づく一部の執行猶予制度とは異なるということになります。   以上のような法案を,今,御紹介がありましたとおり,先の国会で審議未了で廃案になってしまいましたけれども,改めて制度化の方向で現在準備をしているところでございます。   今,議論になっております簡易迅速な手続により処理されるであろう事件との関係について若干申し上げますと,まず,薬物事犯以外の事件につきましては,先ほど申し上げた刑法上の一部執行猶予の対象となる事件につきましては,初めての実刑判決を受ける人だけが対象となります。したがいまして,例えば,服役前科のある万引きといった窃盗事件や,無銭飲食のような詐欺事件,あるいは,道路交通法違反などを繰り返し行っている人で,なお事案のそれぞれの内容からすれば簡易迅速な手続の処理に適するといった事件は当然あると考えておりますし,そういったものについては,元々一部執行猶予制度の対象とならないということになりますので,全く重ならないということになると考えております。   それから,それ以外の事件に関してですが,現在想定されています簡易迅速な手続については,まず,検察官としては,事案が明白であって,証拠調べも速やかに終わると見込まれる事件に限って手続を求めるということになると思われますし,被告人・弁護人側から見ても,時間の掛かる情状立証を要するということはなくて,量刑をめぐる争点もないといった,この種の手続による処理に適すると考えられる事件について手続に同意するということになるのだろうと思います。そうしますと,そのような事件の申立てがなされた事案について,量刑のための証拠調べや裁判所の判断に常に多くの時間を要することになるとは必ずしも考えられないのではないかと考えております。さらに,具体的な審理を考えた場合には,検察官においても弁護人においても,一部の執行猶予があり得ることを前提として必要な情状証拠についても簡易迅速な手続に適する内容や方法で主張立証を行うということになると思われるところです。   私ども,一部執行猶予制度を担当している事務当局といたしましては,この一部執行猶予制度と実刑相当事案の簡易迅速な手続による処理とが,例えば,およそ相容れない,あるいは,一部執行猶予が導入されるのであれば,簡易迅速な処理の制度が不要になるというふうな関係にはないものと考えております。 ○髙橋幹事 まず,全体的な枠組みに関して,まずはA案なんですけれども,A案につきましては,こちらのペーパーにも書いてありますとおり,憲法38条3項との関係で慎重な検討が必要になろうかと思いますし,また,被告人が実体的な真実を離れて自分が有罪となるかどうかを決めるというようなことができるという,いわゆる当事者処分主義につきましては,日本の刑事司法,あるいは,国民感情と整合するのかという問題もあるかと思いますので,かなり慎重に検討する必要があると思います。   Aに関しては,判決前調査をセットに考えてはどうかというような御意見も出ておりますが,判決前調査を入れてじっくり量刑の審査をするということになると,そもそも簡易迅速な制度という趣旨と合わないのではないかという気もいたしますし,また,現在でも裁判官だけの裁判,あるいは,裁判員裁判におきましても,自白事件でも,量刑につきましては,当事者から適切な主張,証拠を出してもらった上でよくよく評議をするなどして検討して,基本的には妥当な結論を得ていると考えておりますので,そもそも判決前調査が必要だというような立法事実というものがあるのかという点についても疑問に思っております。   次に,B案についてですが,この点に関しましては,第13回会議でも問題点を指摘させていただいたところです。実刑相当事案の場合に即日判決を言い渡すというのは極めて困難であること,あるいは,現在の即決裁判手続では起訴後14日以内に第1回の公判期日を設けるということになっておりますが,実刑相当事案において弁護人の準備が果たしてこの範囲内で可能なのかというような懸念があることを示させていただいたところであります。   先ほど,具体的な制度設計の中で,実刑相当事案の場合は,例えば,第1回公判期日から約1週間後に判決をすると定めることも考えられるのではないというような御趣旨の御意見もございましたけれども,現在でも可能な限り早期に判決言渡期日を指定しておりますし,また,実際には事案の内容ですとか証拠の量,それから最終的な刑を定めるのにどれぐらい検討の期間を要するのだろうかということを考えまして,事案に応じて判決言渡期日を決めております。一律に何日以内と定められましても,それが果たして実務の実情に合うのかとも考えられますし,そもそも,そのように一律に何日以内,あるいは何週間以内と定め得る性質のものではないのではないかとも思います。また,弁護人の準備期間についても,現在,起訴から第1回公判期日までの期間が14日以内となっているところ,この期間を延ばしてはどうかというような御意見もあろうかと思いますが,実刑相当事案の場合には弁護人の準備に要する期間というのは,事案によってそれぞれ様々でありますので,やはり同じように一律に何日以内というのはなかなか定め難いのかなと思っております。   それから,先ほど,刑の一部執行猶予についての御説明がございましたが,実際にこの法案が成立して刑の一部執行猶予が可能となったような場合,これが即決裁判手続に乗ってきますと,裁判所といたしましては,これは実刑相当なのか,それとも,刑の一部は執行猶予すべきなのかと非常に判断に悩むことが予想され,相当慎重に考えることになると思いますので,こういった事案も含めて新しい制度の中で処理するということが果たして可能なのかという点についても,きちんと検討しなければいけないと思っております。   最後に,捜査の簡易迅速化につながるのではないかというような御説明もありましたが,裁判所としましては,実刑相当事案の場合には,犯罪事実あるいは犯状事実,一般事実など量刑判断に必要な証拠というのは,これまでと同様に公判廷に出していただく必要があると考えておりますので,どのようにすれば直ちに捜査の簡易迅速化につながるのかなというところも疑問があるところでございます。 ○井上委員 髙橋幹事が慎重に検討をと言われたので,裁判所としても検討の余地があるということかなと思うのですけれども,現在の制度ですと,執行猶予が付いているから簡易迅速に処理できたという説明でしたね。しかし,執行猶予を付けるときにも当然刑を決め,執行猶予が取り消されれば実刑になるので,そこも慎重になさっているはずだと思うのですよ。ですから,その説明はちょっと齟齬が出てくるように思います。私が疑問に思うのは,一般論としておっしゃることはよく分かるのだけれども,かなり類型的な処理になじむ事案というか罪種もあると実務家の方々からは聞いているものですから,そういうものがあるとすれば,そこを切り出すことができないのかということです。そういうところまで踏み込んで検討すべきではないかと思います。およそ実務的には,こんなものは検討の余地もない,特に裁判所の実務にはなじまないとまでは言われていないと思うのですけれども,もう少し踏み込んで議論をすべきではないかと思っています。   メリットはどこにあるのかという議論のところで,現実的に言うと,捜査の簡易迅速化というところにポイントがあるとの御意見がありました。今髙橋幹事が言われたように,迅速にはなるのだけれども,量刑判断に資するような最低限の証拠は必要なのに,それが得られず,量刑判断に本当に支障が出ることになるのか,そういう詰めた議論もする必要があるでしょう。   ついでに言いますと,A案は全く人気がないのですけれども,結論として,ここまで踏み切るのは現状では無理だとは思うのですけれども,およそ我が国の国民には体質的に受け入れられないとまでいうのは言い過ぎで,戦後改革のときに,かなり真剣に議論をして,そこまで行こうとしていた時期もあったのです。それに対して,障壁を設けたのが刑事訴訟法1条の「真相を明らかにする」という部分であり319条の2項と3項なのです。それは,その当時,有力だった方たちの考え方だったわけですけれども,そこのところは時代によって動いてきているかもしれない。だから,検討の余地が全くないとは私自身は思わないのですけれども,それを取るべきだと積極的に言うほど大胆ではありません。そこはちょっとこだわっておきたいと思います。 ○髙橋幹事 実刑相当事案でも類型的な処理になじむ事案や罪種もあるのではないかという点なのですが,例えば,同じ被告人に対して,常習累犯窃盗の罪で,何度も判決を下す場合に,最初は2年4か月,次に2年6か月,その次は3年というように刻んでいくような場合もあるんですけれども,ただ,実際には,常習累犯窃盗で2回目の起訴がされてきたから類型的に何年何か月というふうに刑を決められるものではなくて,やはり実刑のときは執行猶予と違って,刑を決めるのに1か月,2か月刻みで悩んでいるというのが実情であります。どういうものが類型的な処理になじむのかというのは,私は,現時点では頭に浮かびません。なお,このB案に関しましては,検討という言葉を使ったかもしれませんが,私としては,極めて消極的に考えるということでございます。 ○後藤委員 これは前にも発言したことですが,この案の中で有罪陳述等の撤回があった場合に公訴を取り消すという構想の問題意識が,私には理解しにくいです。このような場合には,公訴提起のための嫌疑の基準がやや緩和されたものであるという発想がこの構想の前提になっているのかもしれません。もしそうだとしても,検察官としては有罪の根拠があると自信を持っているからこそ起訴をしているはずです。それなのに,有罪陳述が撤回されたから公訴を取り消さなければいけない理由が私には分かりません。そのような場面で補充捜査をする必要が出てくる場合があることは理解できます。けれども,基本的に現行法は,起訴後の補充捜査を禁じる仕組みにはなっていないと思います。   現に,略式命令に対して正式裁判の請求がされると,正式裁判に移行するけれども,そのときに検察官は公訴の取消しをしてはいないでしょう。必要があれば補充捜査をして公判立証に臨むという姿勢で対応されているので,有罪陳述の撤回の場合に,なぜ公訴の取消しをして,被告人だった者をまた被疑者に戻さなければいけないのかがよく分かりません。被疑者として取り調べるために考えられているのかもしれません。しかし,この場合,被告人は有罪陳述を撤回しているということは,否認に転じているわけです。その人を被疑者として,いわゆる取調べ受忍義務を課して取り調べるためにもう一度被疑者に戻すのだと聞こえなくもないです。もしそうだとすると,それは正に取調べと自白に依存した刑事手続の刑事司法の在り方を再生産することになってしまいそうです。ですから,この場合に補充捜査が必要だとしても,公判期日の指定を先にするとか,あるいは,必要があれば公判手続の停止を制度として入れてもよいかもしれないけれども,有罪陳述の撤回があったからといって公訴を取り消すという対応がなぜ必要なのか,私にはよく分からないです。 ○上冨幹事 今の御意見に関しまして,資料を作成した立場から若干申し上げますと,公訴取消しを認めるということについて,このような手続にのった事件の起訴の基準が低くなっているという理解ではないのだろうと思っております。ただ,起訴の段階で前提としていた証拠関係が,特に被告人の供述が撤回されることに伴って違ってくる。一方で,この簡易な手続にのる関係で,例えば,裏付け証拠などの捜査について,合理化できるところは合理化してあって,それは飽くまで自白が維持されているということを前提とした証拠関係で必要な捜査は行われているけれども,自白が撤回された場合の証拠としては,必ずしも十分ではないというような事案があるのではないか。そのような場合についても,なお自白が将来撤回されるかもしれないということを前提にしたあり得べきことを想定した詳細な裏付け捜査を尽くすことが必要だとすれば,現在の制度と余り変わりがないのではないかという問題意識の御提案ではないかと理解しているところです。 ○但木委員 すごく難しい話を皆さんでしているので,結局この制度は,それほど理屈の問題ではなくて,制度を導入したならば本当に全体的に荷物が軽くなるのかどうかという,非常にプラズマチックな話なのだと思うのです。そう思うと,一つは,弁護人にとって,これは熱意を持てる制度として構築できるのか,弁護人から魅力的かという問題が一つと,それからもう一つは,むしろ警察にとって魅力的か,つまりは警察から見た場合に,一体どこが捜査で非常に手間が掛かっていて,それがこういう制度を作ることによって,このくらい軽減されるという,警察から見た場合の魅力があるかなという問題というように,非常に実利的に考える話ではないかと思います。そのためには,これを使える典型的な事例というのが一体何で,その事例ではこういう捜査が必要で,それをこの制度を採ればこういうふうに軽減できるというようなことをやはりもう少しきちんと掘り下げないといけないと思うんです。ここはむしろ検察も含めてですけれども,警察も,今後,裁判員裁判とか,あるいはすごく日進月歩しているハッカーとかいろいろな,どうしても金と人を大量に投入しなければならない事件というのが現に出てきているわけで,そういうものにはいろいろなDNAとか,あるいは通信手段の復元とか,それこそ大量のエネルギーと多大な経費が必要なわけで,そういうことから言うと,もし何か軽減できる分野があるなら,軽減できたらいいなと思います。検事も裁判員裁判なんかにかなり大量のエネルギーを割かなければならないわけで,それがどのくらい軽減できるのか。それと制度の合理性というのは,その後どういう合理的な制度ができるかなというのを考える話で,一番大事なところは,本当にこの制度を作って,どういう魅力的なところがあるのかというのをきちっと検討することではないかなと思います。 ○露木幹事 今の但木委員の御発言に関連してですけれども,警察も含めて捜査を省力化できるかという点は,(3)の「イ」の有罪陳述の撤回等を制限できるのかどうかというところに関わってくるのではないかと思います。これは前回も申し上げたとおりなんですけれども,再起訴制限の緩和だけですと,後戻りをして捜査をすることができることとなったとしても,その時点で,携帯電話などでは,被疑者が電話したという電話会社の記録というものが一定期間たちますと消去化されて,私どもが手に入らないですとか,防犯カメラにしても,一定期間経過しますとどんどん上塗りされていきますので,もう映像は残っていないということもありますし,目撃者の証言であれば,記憶が薄れてはっきり証言ができなくなっているというようなこともございますので,この有罪陳述の撤回等が,自由に今,現行制度のように撤回できますよということになりますと,その場合に備えて,当初段階から捜査を尽くさなければならないということになって,なかなか実態は変わらないのではないかなと思います。 ○川出幹事 捜査の省力化を可能にするためには,再起訴制限の緩和だけでなく,有罪陳述の撤回等を制限するのが効果的だというのはそのとおりだと思います。その上で,有罪陳述の撤回を制限するということの意味,あるいは法的な効果についてなのですが,一つ考えられるのは,被告人が有罪陳述を撤回し,無罪を主張したとしても,簡易迅速な手続をそのまま進めるということです。   しかし被告人が無罪であると述べた事件は,そもそも簡易迅速な手続で進めることが不相当な事件ということになるでしょうから,有罪陳述の撤回制限の効果を,先のようなものと捉えることはできないだろうと思います。そうしますと,有罪陳述の撤回制限というのは,一度有罪陳述をすれば,もはや無罪であるという主張はできないことを意味することになります。しかし,そのように自白を維持する法的義務を被告人に負わせることができるのかということが問題となりますし,仮にそのような義務を負わせたとして,それにもかかわらず,被告人が,公判で,私は実は無罪なんですと言ったときに,裁判所はそれを聞かなかったことにするということになるのか,そこもよく分からないところがあります。   以上のとおり,有罪陳述の撤回を制限するという場合に,制度の仕組みとして,どういう形で撤回を制限して,その法的効果がどうなるかというのを詰めて検討してみる必要があると思います。 ○但木委員 いろいろなことを検討すべきだと僕も思っていて,例えば,略式みたいにある期限を決めて公訴に移行するかしないか決めるという制度があるわけですから,有罪の答弁の撤回に期限をつけるということだってあるのではないかなと思いますし,いろいろな制度はあるだろうと思います。変な物を作らないで,かつ,便利なものができれば,それは大いに結構だと思いますが,もうちょっといろいろな点を検討してみる必要がありそうだなと思います。 ○龍岡委員 私も今,但木委員の言われたことに共感を覚えるところがありますが,確かに,この新しい制度を作るについては憲法上の問題とか,それから証拠収集の在り方の問題とかいろいろありますので,それらについてもう少し検討してみて,制度化の可能性があるのだとすれば,刑事司法における合理的な処理のための体制として,選択肢としてこういうのを作っていくということは考えられるのではないだろうかと思います。例えば,自白だけで有罪とするということは,これは憲法上の問題があって,公判廷の自白については判例もありますけれども,基本的にはできない。とすると,やはり有罪の陳述以外に最小限の証拠は必要であることから,最小限の補強証拠は収集することによってこの手続にのせていくということは考えられる。また,有罪の陳述の撤回があった場合,それはどの程度あるかということが問題になろうかと思うのですが,その場合にどうするか,何か方策がないかというのも考える必要がある。   それから科刑の範囲の実刑の問題について,私もこれは疑問に思うんですけれども,仮に,ある程度軽い実刑についてやるとすれば,アメリカでは連邦量刑ガイドライン制度があるようですけれども,こういったものによってある程度,こういう場合はこれだけの刑だというようなことが,目安としてつくようにすることができるとすると,必ずしも細かい立証を特に必要としないでも処理できるという制度が考えられるのではないだろうかという感じがしています。この点については新しい制度を検討する上で,十分検討してみる価値はあるのではないだろうかと思います。私は,疑問もありますが,できるならば適正迅速処理のためにも,ある程度合理的な処理というものを考えていく必要が出てきているのではないかというふうに感じています。ただ,やはり当事者処分的なところについては,我々の感覚というか,一般国民はどういうふうに考えているかといったことにも大きく影響されるので,この辺のことについても十分に検討する必要があるのではなかろうか。これは前にも申し上げたところです。 ○本田部会長 それでは,まだ御意見もあろうかと思いますが,時間の都合もございますので,有罪答弁制度についての議論は,ひとまずここまでとさせていただきたいと思います。   それでは,本日,三つ目の論点でございます「被疑者・被告人の身柄拘束,出頭確保の在り方」についての議論を行いたいと思います。   この論点に関しましては,これまでに身柄拘束の運用を適正なものとするための明文規定を設けるべきだという御意見や,勾留と在宅の中間的形態の制度や起訴前保釈を認めるべきだとの御意見があった一方で,これらに対して,それぞれ御異論もありました。特に身柄拘束の運用に関する明文規定に関しましては,十分に議論を尽くせていないと思われますので,この点に重点を置きながら,更に議論を行っていきたいと思います。本日はこれまでの議論の結果を踏まえて議論いただくために,主な御意見や示した課題をそれぞれ記載した資料をお配りしてありますので,まずは事務当局の方から説明をいたします。 ○保坂幹事 御説明いたします。資料59を御覧ください。これまでの御議論を踏まえて,更に御議論を深めていただくということで,これまでに提示された主な御意見を資料に記載いたしております。   まず,検討課題のうちの「1 勾留要件・保釈要件の在り方」につきまして,これまでの御意見ですとか課題を整理しており,否認や黙秘をしている,あるいは,供述調書に署名をしないということについて,不利益な取扱いをしないことを法律上明確にすべきであるという御意見がございました一方で,下の方に記載しておりますとおり,否認や黙秘などの供述態度・供述内容が,罪証隠滅のおそれを判断する一つの状況証拠となり得ることは当然であるという御意見もあったところです。   次に,検討課題のうちの「2 身柄拘束・出頭確保方策の在り方」につきましては,住居制限や特定の人物との接触禁止等の命令に違反した場合に初めて勾留するような勾留と在宅の中間的形態の制度を導入すべきであるという御意見ですとか,起訴前の段階で被疑者の保釈を認める制度を導入すべきであるという御意見があった一方で,こういった御意見に対しまして,現行の身柄拘束期間を前提に,これらの制度を導入する必要はあるか」,被疑者の捜査機関への出頭を確保する形で,制度設計ができるのか,勾留以外の方法によって,罪証隠滅や逃亡の防止を実効的に確保できるのかなどの課題を指摘する御意見もあったところです。こういった御意見を踏まえまして更に御議論いただければと思います。 ○本田部会長 それでは,「被疑者・被告人の身柄拘束・出頭確保の在り方」につきまして,資料59の内容も踏まえ,「勾留要件・保釈要件の在り方」と「身柄拘束・出頭確保方策の在り方」と併せて御議論をいただきたいと思います。 ○髙橋幹事 1番の「勾留要件・保釈要件の在り方」の一つ目の○と二つ目の○,これに相対する五つ目の○,六つ目の○と関連いたしますけれども,裁判所の立場から,勾留や保釈といった身柄拘束に関する判断の実情というものがどのようなものかについて,簡単に御説明したいと思います。   まず,被疑者や被告人が黙秘あるいは否認している場合に,そのことゆえに直ちに罪証隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとか,あるいは,逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとか,こういう判断をしているものでは決してございません。   では,どうやって判断しているのかといいますと,罪証隠滅の関係で御説明いたしますと,これは基本的にはいろいろな要素を総合的に考慮して判断しております。具体的に言いますと,当該事件において,犯罪の内容とか,あるいは罪の重さというものを見た上で,そもそも罪証隠滅の対象となり得る事実はどういうものなのだろうか,それに対して,罪証隠滅の方法としてどういった方法が考えられるのかというのを検討して,まずは客観的に罪証隠滅の可能性がどの程度あるのかというのを考えます。さらには,被疑者・被告人に罪証隠滅の意図を抱きやすい状況にあるのかという,いわゆる主観的な要素についても併せて考えます。その上で具体的かつ現実的に,本当に罪証隠滅の危険性があるのかと検討していく次第であります。   例えば,罪証隠滅の対象とか方法につきましては,被害者や目撃者への働き掛けですとか,関係者との口裏合わせ,あるいは証拠の廃棄・隠滅,あるいは新たに虚偽証拠を作成する,事案によっていろいろなものが考えられるんですが,証拠の収集状況によっては,実際にそのような隠滅工作が不可能又は困難,あるいは,実効性に乏しい場合というのも多々あります。こういった場合には,被疑者や被告人が仮に黙秘や否認をしていたとしても,罪証隠滅のおそれは低い,あるいは場合によっては罪証隠滅のおそれはないという判断をすることもよくあります。   一方で,罪証隠滅の客観的可能性が高い場合には,これと併せて被疑者・被告人の供述態度や供述内容も斟酌した上で判断いたします。というのは,こういった供述態度・供述内容というのは被疑者や被告人が罪証隠滅の意図を抱きやすいのかどうかというのを判断する上での一つの要素となりますので,こういったことを斟酌した上で罪証隠滅についての判断をいたしております。   分かりやすい例を挙げますと,例えば,酒に酔って警察官に暴行したというような公務執行妨害のような事案ですと,仮に勾留請求があって,その被疑者が否認していたり,あるいは覚えていないと供述しているような状況であっても,実際に警察官に対して何か具体的な働き掛けをして罪証隠滅ができるのかと考えますと,それは通常困難なわけでして,またこのような事案で,それでも無理をして被疑者が罪証隠滅を意図するのかというのも通常考えにくいわけでありまして,こういう場合には罪証隠滅のおそれが低い,あるいはもうないと考えて却下するようなことも間々あります。電車内での痴漢行為などの条例違反についても,同じような判断枠組みが当てはまる場合があります。 ○青木委員 今の髙橋幹事の御意見では,運用上別に問題はないという御意見だったと思うんですけれども,特に,実際にやっていない人というのは当然やっていないわけですから否認するわけですね。その場合に,裁判所が本当に真剣に否認しているということと関係なく罪証隠滅のおそれなどを判断しているかというと,恐らく多くの裁判官はそうされているのかもしれませんけれども,その人の置かれた立場だとか,その人の具体的な事件だとかそういうことに照らして本当に悩みに悩んで結論を出しているかというと,それはそうではないように思うんですね。現実に実際にやっていない人が長期間にわたって,起訴後も含めてですけれども,勾留されるという事件はあるわけで,そういうケースの場合には,やはり身体拘束というものが圧力になって自白を強要するということが結果として行われているという実態はあると思います。もちろん運用で改善できればいいわけですけれども,明文化されていれば,それはどの裁判官であっても必ずその判断経過をとらなければならないわけで,そういう意味で明文化するということには非常に意味があると思います。   今日,配布されましたイタリアの報告書の4ページから5ページにかけて,イタリアでは明文規定があるということが書かれています。ただ,イタリアで裁判官に伺ったときには,その規定が入れられた経緯については,残念ながら御説明を伺えなかったんですけれども,その後,研究者の方にお聞きしたりしたところでは,やはり自白をさせるための手段として身体拘束が使われるということがあってはならないということが,このような明文規定を入れた経緯のようです。こういう規定を入れて,実際に救われる人というのはそれほど多くはないのかもしれません。今の時点で勾留が非常に問題がある形で行われるとは言いませんけれども,こういう規定があることによって,更に慎重に判断されることになって,身体拘束を自白強要の手段にして自白強要が生まれるというようなことが少しでも減るのであれば,それは入れる価値があるのではないかと思います。   それから,身体拘束というのは,その人の社会生活上も,あるいは特にやっていない人が自分の防御権を確保するという意味で,非常に大きな人権の制約になるわけですね。ですから,身体拘束というのは本当に最後の最後の手段であって,そのほかの方法では目的が実現できないという場合に初めて採られる手段だと思います。任意捜査の原則というのは法律上定められているという御意見はありましたけれども,身体不拘束の原則,あるいは,身体拘束は最後の手段であるということをもっと法律上明確にしておくということも意味があると思っています。   それとの関係で,後段の「出頭確保方策の在り方」についてですけれども,現実に勾留まではする必要がないけれども,いわゆる在宅では不安であるというものもあると思うのです。その場合に,今はむしろ勾留の方にいってしまっているのではないかという気がします。その中間的なものについて,勾留と,勾留ではないけれども全くの在宅ではないというものを入れる意味というのもあると思います。その場合に,要するに,そういう中間的なものでは足りないという場合に限って勾留をする。必ずその中間的なものについてそれで足りないかどうかということを判断するということも非常に意味のあることだと思いますし,イタリアでもそのような形でやっていると聞きました。   そういうことで,これ以上前と同じことは繰り返さないんですけれども,ここに書いてある中身で言うと,「1 勾留要件・保釈要件の在り方」に書かれている上の二つの○に加えて,あと任意捜査の原則というか,身体不拘束の原則というのを明文化すべきというような趣旨も含めて,上の丸三つの○,それから「2 身柄拘束・出頭確保方策の在り方」の上の一つの○については,是非導入すべきだと考えています。   もう1点,否認をしているというのが,供述態度としておよそ考慮されないのかということに関しては,認めているということは有利な方向に判断されるということはもちろんあり得ると思うのです。その裏返しとして,有利には判断されないという意味では全く考慮されないということにはならないとは思いますが,否認しているということが不利に判断されるということと,認めているということが有利に判断されることの裏返しとして考慮される結果になるということとは,違うのではないかと思っています。 ○龍岡委員 ただいまの青木委員の御意見を踏まえて,これまでの議論の中に勾留や保釈に関して,その要件を見直すべき,あるいは否認や黙秘については不利益に考慮してはならないということ,いわゆる比例の原則ですか,これを明文化すべきであるというような御意見があったわけですが,これは結局のところ,現行の制度が必ずしも運用がうまくいっていないのではないかということを前提とした御意見であるように思います。   これに対して,先ほど髙橋幹事から説明がありましたし,私の方から直接反論するというのは難しいところはありますけれども,裁判官時代に令状部で専門的に令状事件を扱った経験などから申しまして,先ほどのような御意見の前提については,私は違和感を覚えます。裁判官としては,やはり身柄を拘束するということは非常に大事なことであるということを考えて慎重に事件を処理しているというのが現状であります。ここのところを理解していただきたいということで少しお話をさせていただきたいと思うのですが,要件について,罪証隠滅のおそれとか,そういったものについては,先ほど髙橋幹事から説明されたとおりであって,これは非常に慎重に検討しているわけでして,否認しているから直ちに罪証隠滅のおそれがある,勾留もするし保釈の除外事由に当たるというような,そういう簡単な判断をしているわけではないということを御理解していただきたいと思います。資料を慎重に検討し,要件があるかどうかを常に慎重に判断しているというのが実際の令状処理に当たっている裁判官のやり方であると私は信じています。私自身もそう努めてきましたし,私の知る限り裁判官はそうやってきていると言えると思います。   もう少し触れさせていただきますと,いわゆる比例の原則の主張についても,言われる趣旨は理解されており,これを全く無視しているということでは決してない。身柄を拘束されるということは社会生活上大変な不利益になることは否定し難いところなわけで,これは勾留の要件,刑事訴訟法60条1項各号の要件があることのほかに,その必要性があるかどうかという必要性の判断の中で考慮されているわけでして,全くこういったことを無視しているわけではないということを申し上げておきたいと思います。   このように,裁判官は身柄の拘束については慎重に判断しているのが実情でありまして,保釈の要件についても,十分に検討し,適正な運用に努めているといえます。また,その判断の当否については刑事訴訟法上,準抗告とか抗告等の手続によって判断の適正が確保されるようになっているわけです。そのようなことからも勾留や保釈の要件を見直したり,あるいは,御指摘の点について明文化する必要性というのが,どの程度あるのかというのが私にはまだ疑問に思われます。もう少し具体的に説明していただきたいと思います。   あと,身柄の関係で在宅と拘束の間の中間的な処分のことも触れられましたけれども,具体的にそのような制度が可能であれば考えるのも必要かと思うのですが,具体的にどういうことがイメージされるのか必ずしも私にはよく分からないので,この辺のことについて,もう少し説明していただけると有り難いと思います。 ○大野委員 先ほど髙橋幹事あるいは龍岡委員から,この問題についての裁判所の対応について御説明があったのと同様に,検察においても,被疑者・被告人の勾留や保釈の要件をめぐる判断は厳格に行っており,その運用は適切になされているものと承知しています。   実際に,統計資料によっても,逮捕された被疑者のうち約13%は勾留されておらず,勾留請求が却下された被疑者も1年間で約千数百人に上っておりますし,被告人からなされた保釈請求の半数以上が許可され,勾留中の被告人の約2割が審理の終結前に保釈されているという実情があります。   このように,被疑者・被告人の勾留や保釈をめぐる運用は厳格かつ適切になされていると理解しており,勾留・保釈要件を改める必要はないと考えています。   今後,身柄拘束の指針となるような規定を検討することについては,現在の運用に問題がないにもかかわらず,なぜそのような規定を設ける必要があるのか,それにより運用にどのような影響が生じ得るのかといった点について,極めて慎重な検討が必要であると思います。また,青木委員から中間的処分についてお話がありましたけれども,第14回会議においても議論がなされましたように,この点について適切な対処がなされた中間的な処分というものが果たしてあり得るのかということについてそもそも疑問があると考えております。 ○周防委員 裁判官の方や検察官の方は,御自分たちが今やっている運用に何の問題はないのだと力強くおっしゃるんですが,当事者としては当然そう考えると思うんですが,どうしてこういう議題が上がるかというと,一方ではそういうことが適切に行われていないのではないかという疑念があるから当然上がっているわけで,御自分たちは確かに適切に運用していると言い張っても,それは外からそう見えなければ,それはちょっとまずいのではないかと思うんです。明文化する必要性がないとおっしゃいますが,明文化してもいいではないですか。そもそも勾留ということには,それなりの重大な人権侵害を伴うことになるのだということを多くの人に知らせる意味でも。明文化することで,まさか明文化することで検察や裁判所が,今まで不適切な運用をしてきたのだということを別に自白したとは誰も思わないと思うので,きちんと広く多くの人に知ってもらうためにも,こういうことを明文化するということに,僕は全く疑念を持たないのですが。 ○安岡委員 原則の明文化に関しては何回か意見を申し上げました。今,青木委員は,裁判所の運用を規制するというか形成する効果を期待して原則の明文化が必要だとおっしゃいましたけれども,全く違う観点で,何度も申し上げていますけれども,刑事手続の原則が法律を読んで一般の市民に分かるような形にしてもらいたいと思います。例えば任意捜査が捜査の原則であることは刑事訴訟法179条から読み取れるというお話に対して,それでは普通の人は読みとれないんですよと何回も申し上げました。そういう意味で,この任意捜査に限らず,被告人の利益であるとか,刑事手続の原則を一般の人が読んで分かる形で条文化していただきたいと思います。 ○村木委員 この制度,身柄拘束が適切に運用されているかどうかということについては,裁判官によってとか,時期によってとか,いろいろなばらつきがあるのではないかと,正直率直にそう思っています。自分の例を考えても,私が悪いことをしたのではないかという報道がずっとあって,幾らでも罪証隠滅ができるような状況が2週間,3週間と続いた後に,身柄を勾留されて半年近く勾留というのは,本当に適切な運用だったのか非常に疑問に感じています。   身体拘束というのは本当に非常に大きな人権侵害ですから,それに関して,明文規定を作るとか,ルールについてある程度メルクマールを世の中にきちんと示すということは,非常に大事なことですし,是非やっていただきたい。それから,身柄拘束をして勾留をするというのと,在宅でというのとゼロか百でなくて,その中間的なものを作るというのは非常に検討に値することだと思います。自分が保釈されたときにも,こういう人とは接触をするなと具体的に納得のいく条件が付いていた。そういうやり方を持ち込んでくるということは,非常に合理的だと思っています。これだけ議論になっているというのは,適切に運用されていない状況があるとたくさんの人が感じているのだということを前提に,もうちょっと知恵を出していただきたいと思います。 ○井上委員 原則の明文化ということですけれども,一般論としてはよく分かるのですが,例えば,「疑わしきは被告人の利益に」など大原則はたくさんあるわけですけれども,これも,その外延や射程については,人によってかなり理解に幅がある。大きな筋ないし核になるところでは一致しているのですけれども,どこまで及ぶのかという辺りになってくると,意見が分かれるのです。ですから,いざ法規の形で書き表すとなると,かなり時間を要するし,意見が一致するかどうか分からないところがあります。既に規定があるところは,それを出発点にしてやっていますからいいのですけれども,規定がないところでは,何でも明文化できるかというと,相当難しい。そのことをまず前提にするとして,1点は,黙秘や否認について不利益な扱いをしないということに関して,青木委員は,利益の扱いをしない反面としての不利益はいいのだとおっしゃったのですが,髙橋幹事が言われたような使い方,つまり,主観的な要素を,証拠隠滅の意図を持つ可能性がある事案かどうかという判断の基礎的な情報の一つにするということ,これも駄目なのかどうなのかです。つまり,黙秘や否認の不利益な扱いに関しては,それのみで直ちに身柄拘束をする要件があるというように使ってはならないという点では,異論は多分ないと思うのですが,そういう書き方でないとすれば,書き方によっては,かなり解釈の余地が出てくるので,その辺どこまでのことをお考えなのかということです。また,任意捜査の原則,あるいは,身柄不拘束の原則と言われたのですけれども,それは刑事訴訟法197条1項但書自体から,読めることですし,身柄拘束については厳格な要件が法定されており,手続も定められているのですから,それにのっとらなければ身柄拘束できないわけで,そこからも当然のことだと思うので,それに加えて一般原則を規定する必要があるのか,私にはまだピンと来ないところがあります。   「2」のところだけ簡単に言いますと,中間的な形態,これはどういう形があり得るのかということに踏み込んで議論を更にするという余地は十分あると思っていまして,それをやるべきだろうと思うのですが,保釈については,前から言っていますように,法的期間の制限のある勾留という処分を前提にしながら,その執行を停止する一つの形なんですよ。だから,そうなってくると,起訴前の保釈に関しては,全体として整合するのかという問題があります。つまり,起訴前においては,勾留延長をしても最大20日間という身柄拘束期間の制限があり,その中で,保釈というものを考えられるのかということです。現実的には,それとは違う形の中間形態というものを詰めて検討した方が生産的だろうと思っています。 ○神幹事 私は,青木委員が述べられたこと全部に賛成いたします。それから,身柄拘束が適正に行われているのかどうかについては,村木委員が述べられたように,裁判官にもよると思います。良い裁判官に当たると,きちんと勾留を取り消してくれたとか,勾留にならなかったということがあるんですが,実は,むしろそうではない方が弁護士の経験から見ると多いんですね。保釈についても,私がやってきたある事件で,無罪が確定した事案ですけれども,結局半年間,検察側の立証が済むまで何度やったって保釈は出ません。それは結局,いわゆる共犯者の自白によって巻き込まれたという事件なんですけれども,そういった案件というのは,村木委員の場合にも例にあるように,木で鼻をくくったような,いわゆる保釈却下決定が出てくるんですよ。これって,当の被告人も納得できないと思うんです。要するに否認をしているということとか,あるいは訳の分からない弁解に終始していると言っているけれども,結局は何も犯罪事実について言っていないのに,そういう不利益な結果になってしまうというのは問題があると思います。言わずもがなではあっても,身柄拘束の指針となるような明文規定はきちっと置いてほしいし,できれば,勾留と在宅の中間形態の処分も入れてほしいと思います。 ○椎橋委員 明文化の問題ですけれども,前にも申し上げたので繰り返しになると思うんですけれども,日本国憲法33条には,現行犯以外の場合には,裁判官の令状によらなければ逮捕されないと書いてあるんですね。ですから,正にその基本の大原則を憲法に書いてある。また,刑事訴訟法197条には,先ほどから出ておりますけれども,その条文に素人には分からないとおっしゃいましたけれども,「但し,強制の処分は,この法律に特別の定めのある場合でなければ,これをすることはできない。」と書いてありますので,これによってやはり強制処分というのは,正に例外の規定に当たる場合にしか認められないのだと読めます。例外である逮捕については,刑事訴訟法199条以下に被疑者が罪を犯したことを疑う相当な理由がある場合,そして原則は令状を発付するという場合にのみ逮捕は認められないと書いてあるんです。勾留についても,権利保釈の除外事由というのがあって,それに当たらなければ保釈される可能性というのはあるということなんですね。ですから,身柄不拘束が原則であり,身柄拘束は例外であるということは,法律上ははっきりとしているということだと思います。それから,そのことは現実にも数によって示されておりまして,逮捕が13万余,それから勾留が11万人程度ということで,勾留の段階で更にチェックが入っている。逮捕について言うと,前にも申し上げましたけれども,先進国の中で比べてみても,多くの国は数倍ないしは十数倍,二十何倍という数になっておりますので,それもやはり日本では身柄拘束が非常に慎重に行われているということを,数でもって実証されているということが言えると思います。   ところで,もう二十数年前ですけれども,アメリカで研究していたときに傍聴した陪審員裁判がありましたが,それはこういう事案でした。女性がスーパーマーケットから警察に電話して「来て助けてほしい。」というので,警察が急行した。そして,警察官が女性を見ると,若い女性,17歳なんですけれども,目にあざを作っている。警察官は,これはDVではないかと思って,その家に行った。ところが,家に行ってみると,その夫と,その兄がいて,お酒を飲んで興奮している状態だった。女性の方は,「自分を助けてほしい。だけど,夫は逮捕しないでほしい。」と言い出したんですね。というのは,夫の兄もいたし,お酒を飲んで興奮しているので,逮捕しても,また後で夫からより強い暴行が加えられるおそれがあると考えたんでしょうね。ところが,警察は,DVは,その頃既にアメリカでは原則逮捕ということになっていたと思いますので,その夫を逮捕した。ところが,その逮捕を裏付けるためにいろいろ女性に聞いてみると,女性の方は,今度は,「いや,これは夫に殴られたのではない,氷に滑って転んだときにできたあざなのだ」と言った。ところが,それに対して警察は,これはうそをついて警察官の公務執行を妨害したということで,その女性も逮捕したんです。DVの被害者であると考えられる女性を逮捕することは日本では少し考えにくいんですけれども,しかし,男も逮捕され,女性も逮捕される。これは,刑事手続の運用を害する行為には厳しい対応がなされる一つの例でもあります。その女性が被告人の陪審員裁判を見に行ったんですけれども,証人として女性を前に診たことがある医者とか,それから警察官の証言があったので,外形的な事実としては,医者の証言は,前にもそういうような形で何度か治療したことがあるということがありましたので,これは外形的な証拠としては有罪になり得るような事案だったと思うんですけれども,しかし,この事案については結果は無罪の評決が下されました。陪審裁判をめぐる被告人側の戦術にはいろいろ面白いことがありましたが,長くなりますので,ここではお話ししませんけれども,結局,その事件は犯罪阻却事由があると,つまり被告人にはうそをつかざるを得なかったやむを得ない事由があるというので無罪だということになるんです。しかし,そのことによってその逮捕がいかんというようなことは言わないんですね。それから,それに対して,もちろん刑事補償,国家賠償がされるということはない。無罪が出て,陪審員が正しい判断をしたのだということで終わったということで,アメリカではある意味で非常にドライな面があるので,そういうような形で結論を出すと,正義が実現されたということだと思うんです。こういうようなやり方もあるということですので,そういうようないろいろな事情がある中で,膨大な数の逮捕があるのです。これに対して,日本の場合は相当慎重に身柄拘束をしているということは間違いないだろうと私は思います。 ○宮﨑委員 裁判所も検察も適切に運用しているということですが,ただ,外国の起訴時の身柄拘束件数を見ますと,やはり日本はかなり高いということは疑いを入れないのではないか。韓国も,日本に比べると,身柄拘束率は極めて低いと思います。韓国の裁判所に聞いても適切に運用しているとおっしゃるでしょうし,日本の裁判所に聞いても適切に運用しているとおっしゃるでしょうけれども,こういう特別部会がなぜ開かれるようになったか,私は,検察の在り方検討会議のときに裁判所にかなり文句言いましたけれども,人質司法と言われる弊害が出てきているから,今こういう問題が出てきているわけなんですよね。したがって,韓国の事例がなぜ身柄拘束が少ないのか,こういうことも比べると,やはり日本はそれほど適切に運用してきたとは客観的に言えないのではないかと思います。もっと客観的に言えば,刑事さんが,「お前,否認していたら出られへんぞ。」と,こういう取調べをしなくなるまで,制度改正は逆に言えば必要なのではないかと,こう考えるわけであります。今,椎橋委員から,ここを読めばこうなる,ここを読めばこうなると,これは分かりますけれども,それでも,なおかつ,いまだに人質司法という実務が横行しているわけですから,それをなくすためのどういう制度的な提言をすべきか,こういう観点から考えていただきたい,このように思います。 ○本田部会長 まだ御意見もあろうと思いますが,時間の都合もありますので,「被疑者・被告人の身柄拘束・出頭確保の在り方」についての議論は,ひとまずここまでとさせていただきます。   最後に,「その他」といたしまして,第13回会議以降で議論していない論点,また言い足りなかった点につきまして,御意見のある方の御発言をお願いします。ただ,時間が無制限ではございませんので,簡潔に分かりやすくお願いいたします。 ○小坂井幹事 この前も「その他」で出てきませんでしたので,私は,DNA型データベースに関して若干意見を述べて,あと併せて通信傍受についても若干の意見を述べたいと思っています。なるべく手短にやります。   現行DNA型データベースは,国家公安委員会規則,DNA型記録取扱規則というもので扱われているという現状で,平成17年以降推移していると思うんですが,恐らく諸外国ではDNA型データベースの収集等に関しては,いずれも法律に根拠を持っていると思います。私は,以前のこの会議の中でも若干申し上げましたけれども,警察庁における,いわゆる大臣研究会の中で,最初は法定化を前提に警察の方でも取り組んでいらっしゃったのが,いつの間にかその方向がなくなったという経緯があるんです。やはりここはきっちり法律化すべき問題だと思います。DNA型自体,いわゆる高度のプライバシー情報とも言われているわけですが,DNA型データベース,型に関しては,これは必ずしも高度のプライバシー情報ではないのだというところで,その採取と保管と情報分析の過程というのは,きっちり法律で明示すべきであって,要は,それ以外の情報分析等は許容しないのだということを定めるべきではないかと思っています。それと,遺留DNA型,あるいは,変死者DNA型,あるいは被疑者DNA型情報が各データベースの相互利用というのはあり得るとは思うんですけれども,他方で,やはり目的外使用を禁じるという規定も必要だろうと思います。   それから,正にDNA型の情報というのは,これは今や,正に証拠の王といいますか,非常な重みがあるわけです。そうであればあるほど,今のようなきっちりした収集・保管といったものが必要になってくるわけです。併せて弁護側からのアクセスというものをきっちり定めるような体制を作るべきであろう。それと管理機関自体,もちろんこれは証拠だから警察だと,こういうことに基本的になるとおっしゃる趣旨は理解しますけれども,それほど重みのあるものであればあるほど第三者機関による監督,あるいは,第三者機関による管理運営というものも,当然考えられてしかるべきだろうと思います。   必ずしもDNA型データベースに限らず,私はやはり,関係資料となるような証拠に関しては,これは第三者がきっちりチェックできる体制にしていい時期にきていると思っています。もちろんそういうこと自体,非常に極端な意見だと言われる見解はあろうかと思いますけれども,例えば,通信傍受に関して,この前,神幹事がオンブズマン制度への第三者のチェックというものが必要だとおっしゃった。川出幹事だったと思いますけれども,いや,裁判所がチェックする以上,それはもういいのではないですかという意見を言われた。私は従来の20世紀型の刑事司法であれば,それで足りたと思います。けれども,今はそういう業界人だけで処理することが市民の側から見て問題なのだという時期に明らかに差し掛かっていると思います。警察,検察,裁判所,もちろん弁護士も含めてですけれども,あるいは研究者も含めてですが,業界人内部で足りたというのはやはり旧来型の刑事司法であって,市民によるチェックというものをきっちりとはめ込んでいくという制度が必要だと思います。取り分けDNA型データベースについてはそうですし,その他の資料についても,私はそういったチェック機関を設ける必要性が現段階では出てきていると認識すべきだと思っています。 ○島根幹事 今,DNAに関する御意見が出ましたので,そちらを先に言わせていただきたいと思いますが,まず,DNA型データベースの問題につきましては,以前も議論があったわけでありますけれども,私ども,現在のデータベースというものについての考え方は,基本的には,現行の個人情報保護法制の基本的な考え方によるならば,適法に取得したものについて,その管理・保有は合理的範囲で許されるものと考えておりまして,そういう意味で現時点,法律がなければならないとは考えてはいないということをまず申し上げたいと思います。   それから,DNA型,飽くまでもこれは型ということでありますので,警察組織として,いわゆる遺伝情報や病気に関するような情報の分析を行う必然性,合理性というのは全くないわけでありまして,現実にも,型を私どもは個人識別のために使っておりますので,そういう意味で規制の必要性というものも,それほど高いというようには考えていないということでございます。   それから,よく第三者機関ということが言われるわけでありますけれども,もちろんこの客観証拠重視の時代でございますので,私どもも証拠の収集段階から保管・管理というものについて,きちんと責任を持ってやらなければいけないということは当然だと考えております。しかし,これを恒常的な組織として第三者機関を設けるということになりますと,その第三者性,それからその組織の責任をどのように考えるのかという問題があると思います。当然ながら人的・物的・財政的基盤というものも相当深刻な問題でありまして,これはやはり現状を前提としつつ運用上,きちんとした取組みをしていくということが妥当なのではないかと考えております。 ○神幹事 小坂井幹事から,通信傍受について若干の発言がありましたけれども,補足したいと思います。通信傍受は,少ないながらも年々適用範囲が拡大されています。国会報告によると,平成23年においては,犯罪と無関係な通話を傍受した割合は,当初7割程度だったものが91%と9割を超えて,この年は,27件の令状請求に対し,2件の却下事例が現れています。犯罪に関連しない多数の通話が傍受され,徐々に捜査当局は通信傍受を大胆に拡大しようとしているのではないかとさえ思えます。このような結果になったのは,立会人が実際は外形的な判断しかできないというところに原因があっただろうと思います。   ところで,第15回会議で警察庁から提案された通信傍受の合理化・効率化案については,都道府県警察で立会人なく事後的にスポット傍受の確実な実施をすることがうたわれています。ここでは改ざんの可能性がないということが大きな適正化の担保になっていますけれども,該当性判断のためのスポット傍受というのは,最小化原則という形で関係のない会話はなるべく聞かないというものであったと思います。ところが,都道府県警の中でこのスポット傍受を行いますと,外形的にすら監視をする人が全くいないわけであります。確かにスポット傍受機能が付いていて,一定時間が来たときに切れるということはあるかもしれません。しかし,恐らくそのままずっと聞いて,最後まで聞くということも可能になります。誰もチェックできないというところが問題だと思います。スポット傍受は,捜査側の都合を考えるだけでなく,通信を傍受される側にとっても,通信の秘密やプライバシーを保護する観点から,傍受を最小限にして無関係な通信は傍受されないようになっているというような制度が必要だと私は考えます。その意味で,今後もその点は検討する必要があると思っております。   もう1点,何度もで恐縮ですが,上訴の在り方について意見を述べたいと思います。現行法は,無罪判決に対して,検察官が上訴することを許していますが,検察官が上訴をした場合,無罪判決を受けた人は経済的にも精神的にも大きな負担を受け続けることになります。そればかりでなく,無罪判決に対する上訴を許すことは,上訴審の判断の誤りによって,罪を犯していない人を処罰する危険を大きくしています。いわゆる東電OL事件において,ゴビンダ・マイナリ氏は,平成12年4月14日に無罪判決を受けたにもかかわらず,検察官の控訴によって平成24年6月7日に再審開始及び刑の執行停止が決定されるまでの12年間の自由を奪われました。この経験は,無罪判決に対する上訴を許すことが,罪を犯していない人を処罰する危険を大きくしていること,そしてその結果が極めて深刻であることを示しています。社会秩序の維持の観点から,真犯人が無罪になることは望ましいことではないと思います。しかし,真犯人を無罪としないために,無罪判決に対する上訴を許すことは,同時に罪を犯していない人を処罰する危険を大きくすることが避けられません。罪を犯していない人を処罰することの方がより大きな害悪であり,避けなければならないと考えます。   被告人は公権力を持たない個人であり,裁判の過程と結果で生じる不利益を直接受ける立場にあります。これに対して,検察官は公権力を行使して組織的に証拠を収集し,公判活動を行う立場にあります。検察官がこの公権力を行使した結果,一旦無罪の判決が下されたときは,被告人の不利益の下に,再挑戦の機会を与えることは必ずしも公正ではないと考えます。疑わしきは罰せずという観点から,上訴の制度を改正し,下級審において検察官が有罪を立証することができず,合理的な疑いがあると判断されたときは,無罪が確定するものとすべきです。   私は,この部会で,これまで検察官上訴について2回にわたって述べてきました。その際,幾つかのことを述べ,井上委員からもいろいろな御指摘を受けましたので,今回詳しいことは述べません。実際上は解決済みの問題なので覆そうというからには不都合があるという事実的基礎を示さないと議論にならないという御指摘もありました。しかし,こうした事件が存在することこそ,その事実的基礎になるのではないでしょうか。一度検討してみる必要があると考えます。 ○酒巻委員 最後の神幹事の意見については,私も前に反対の意見を述べたと思いますから繰り返しませんけれども,日本弁護士連合会は,現在の上訴制度それ自体が憲法違反だと考えているわけではないんですね。 ○神幹事 はい。私も,憲法違反とは考えていません。 ○酒巻委員 そうすると,立法政策として検察官上訴だけは認めないと。ということは,翻訳すると,第一審判決に重大明白な事実認定の誤りがあっても,あるいは,重大明白な量刑不当があっても,被告人に有利な判決については一切上訴は認めなくて,被告人に不利な判決についてだけ上訴は認めると,そういう立法政策を採ったらいいのではないかということですね。つまり普通の法律家,あるいは一般国民が見ても重大な事実誤認があって無罪判決が誤っている可能性があるという場合も,それは一切修正はしないという刑事司法制度を作ろうという御提案だと理解してよろしいですね。 ○神幹事 結構です。 ○酒巻委員 そうであるとすれば,それは国民代表である国会が決めることですけれども,私はそのようなへんぱ(へんぱと)な立法政策には反対です。 ○井上委員 最後の点から言いますと,私はいろいろ申し上げて反対したわけではなくて,割と簡単に反対しました。それで,今の神幹事の議論は極端すぎる暴論であって,反論する気も起きません。暴論であるということは,御自身もお分かりだと思います。   それともう一つ,通信傍受についてのオンブズマン,これ21世紀と言われましたが,発想は20世紀ですよ。トータルとして通信傍受制度がどういうふうに適正に運用されているかということは,現在の制度でも,国会に年次報告を出してチェックをするという仕組みになっている。問題は,個別のチェックなのですけれども,個別事案のチェックを,捜査とか刑事手続と関係のないオンブズマンに,いろいろな情報を開示してチェックしてもらうということが適切なのかどうか,そこまでする必要があるのか。そういう観点からすると,私は疑問です。裁判官によるチェックがあるから十分だということではなく,むしろ個別の事件の中身に立ち入って,いろいろな情報とか証拠に立ち入ってチェックをするとすれば,それは今の裁判官の司法的抑制のチェックの仕組みが最も適切だと考えられ,採用されているわけです。そこにオンブズマンというのを入れてくるのは非常に違和感があります。   もう一つは,立会人の問題ですけれども,今おっしゃったのは,立会人の役割としてどこまでやってもらうことが可能で適切なのかという議論に関わってきて,今の制度でやってもらっていないことまでやってもらえという議論であり,本当にそういうことができるのかです。捜索差押について立会人があるのがモデルになっているわけですけれども,捜索差押のときも並行していろいろなところを捜索する,立会人がそれを全部詳細にチェックするのか。そこまで求められているのかというと,それは不可能です。捜索の過程で捜査官が許されていないところまで見るかもしれないし,違うものを持ってくるかもしれない。しかし,それは事後的に準抗告だとか,その後の手続でチェックしていくという仕組みしかないし,現行法ではそうなっているわけです。ですから,立会いをもっと実質化して,全部チェックしてもらうということを前提にした議論は,やはり不適切であると思います。最終的には機械化したスポット傍受というのがどこまで絞り込んだスポットになり得るのか,それが本当にそのとおり実施されるのか,そこの問題に結局還元されるので,そういうものが機械的に可能だということを言われているんですけれども,それが本当にそうなのかどうかというところに踏み込んで議論しないと,一般化して議論したら,議論がどんどん膨れ上がってしまうと思います。 ○周防委員 無罪判決に対する検察官上訴の禁止について,くどいようですが述べさせてもらいます。疑わしきは被告人の利益にの原則を守るためには,無罪判決に対する検察官上訴を禁止すべきだと思います。いろいろな角度から考え,私はそう確信していますが,時間もないので,ここではあえて1点だけ,以下の理由を述べさせていただきます。   元裁判官の木谷明さんは,法政大学の最終講義で,裁判官時代,友人の検察官から以下のようなアドバイスを受けたと発言されています。「裁判官は,検事の主張と余り違った判断をしない方がいい。検察は庁全体で相談してやっているのに対し,裁判官はたった1人か,せいぜい3人ではないか。そんな体制で検事に勝てるはずはない。仮に第一審で無罪にしても,検事が控訴すれば大抵破棄される。」。このことから考えますと,一審の裁判官が無罪判決に消極的な姿勢にならざるを得ない現実が見えてくるのではないでしょうか。三審制ではあっても,一審無罪ということは,少なくとも一つの裁判体で検察官の有罪立証に合理的な疑いを持ったわけですから,疑わしきは被告人の利益にの原則によって検察官控訴は許されないと思います。   刑事裁判の取材をしていて特に感じたのは,有罪にするのは当たり前のような有罪率の高さと無罪判決に対する控訴が許されていることとを背景に,裁判官は検察官の控訴を意識して無罪判決に慎重になりすぎているのではないかということです。この無罪判決に対する検察官上訴の禁止について,是非とも議論を深めていただきたいと思っています。 ○島根幹事 2点,発言をいたします。1点は通信傍受の関係で先ほど数字,これは評価の仕方になるかもしれませんが,最近,犯罪関連通信の割合が減っているのではないかという御意見がありました。これは当然ながら,「他の方法によっては,犯人を特定し,又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難である」と,この要件を一生懸命疎明し,罪種としては,最近では,従来の覚せい剤等の薬物事犯以外の,拳銃の加重所持ですとか組織的殺人,そういったものも,何とかこの通信傍受で犯罪事実の解明をしている結果と考えておりますので,単純に犯罪関連通信が減っているのではないかということは評価としていかがかということについて,1点意見を申し上げたいと思います。   それからもう1点は,通信履歴の保存の関係で一言申し上げたいと思います。これは,先般の刑訴法改正で,いわゆる保全要請という仕組みを作っていただきまして,私ども,これで現在までに二十数件ほど保全要請を行っておりますが,これは当然,前提としては事業者がその業務上実際に記録している通信履歴ということになります。ただ,やはり現実の問題を見てみますと,振り込め詐欺の典型的な事業として,1年ほど掛かるような事案は多く,しかも,これは末端を幾ら捕まえても,結局頭になる部分を叩いていないので,いつまでたっても,こういったグループが完全に壊滅状態にならないということで,やはりこういった通信履歴の保存について,議論の土俵の問題はありますけれども,是非御配慮いただきたいと考えております。 ○大野委員 2点申し上げたいと思います。   まず,検察官の上訴権を制限すべきという御意見に対しては,酒巻委員,井上委員と同様に私も反対です。誤った裁判がなされた場合に,公益の代表者である検察官が上訴し,これを是正する制度が設けられていることは,事案の解明や真犯人の適正な処罰を図るとともに,被害者を含む国民の裁判に対する信頼を確保する観点から,必要であると考えています。   事実誤認や量刑不当を理由とする検察官上訴を禁止又は制限すべきとする意見は,一審判決の事実認定が明らかに誤っていたり,量刑が明らかに不当である場合にも,被告人に有利なものである限り,それを是正せずにそのまま確定させようとするものであり,被害者を含む国民の理解は到底得られないと思っています。   刑事司法手続において無実の者が処罰されるような事態があってはならないことは申すまでもありませんけれども,他方で,事案の解明や真犯人の適切な処罰も重要なのでありまして,被告人の利益のみを考慮して検察官上訴を制限すべきというのは余りにもバランスを欠いた議論ではないかと思います。   現実にも検察官の上訴というのは極めて慎重な検討の上で行われています。原判決に看過し難い事実認定や法令の解釈適用の誤りなどがあったと思料される場合に判断しているわけですけれども,例えば,実際に控訴される事件全体のうち,大半は被告人側控訴によるもので,検察官控訴によるものというのは全体の中で1%から2%程度にすぎません。また検察官が控訴した事件のうち,約80%前後については,結果として検察官控訴を容れて原判決を破棄するとの判決がなされております。このように,検察官の上訴は適正に行われており,全体として見れば,事案の解明や真犯人の適正な処罰の実現に十分に寄与していると言えます。したがって,現行制度を改正して,検察官上訴を制限する必要性も相当性もないと考えております。   もう1点は,先ほど島根幹事がおっしゃったことに関連しますけれども,以前の会議でも申し上げましたけれども,通信履歴を長期間保存すべき必要性ということについても,検察としても非常に切実な問題として考えています。   この問題は,現在,通信事業者において通信履歴をどのような仕組みでどの程度保存しているのかにも関わってきますし,関係機関において,必要な検討や調整を進めてもらう必要があると思いますけれども,少なくとも当審議会としての積極的な意見を表明すべきではないかと考えております。 ○神津委員 手短に二つ申し上げさせてください。一つは,手続二分の問題なんですけれども,前回,私は,裁判員制度との関係で,裁判員の立場からすると分かりやすさが求められているという観点で積極的に検討していただきたい,そして,裁判員制度に関する検討会で取り上げられるということであれば,そのことを是非お願いしたい,こういう旨を述べたんですけれども,逆にその検討会で扱うということが難しい,あるいは刑事司法全般に関わる問題だということであるのであれば,是非この部会で取り上げていただきたいなということを改めてお願いを申し上げておきたいというのが一つです。   それからもう一つは,これはもう全般に関わってなんですけれども,これからいろいろな議論を取り込んでのたたき台を作られるということだと思うんですが,今ほどのいろいろな議論を見ても,本当に多種多様,立場によって様々な意見が当然あるんですけれども,是非やはりこの部会で取り上げるということに至ったというのは,いろいろな大きい問題があるからこそ取り上げるに至ったということだと思いますので,そのことについては是非,難しさはいろいろあっても,正面から取り上げていただきたいなということをお願い申し上げておきたいと思います。 ○井上委員 今の御発言にあった裁判員制度検討会においては,私は座長を務めておりますので一言申し上げます。そちらの検討会でも,手続二分論については,一番最後の方のその他事項で,取り上げるかどうかを含めて検討するということになっています。取り上げるとすれば,裁判員制度特有の問題として議論をするというのが守備範囲なので,そういう問題だということを説明してくださいと,その提案者には言うことになるだろうと思います。それと,結論として,一律の制度化を図るというほどの前提事実はないというのはこの前申し上げたとおりで,この本部会でも,現段階でこれ以上踏み込んで検討する問題ではないというのが私の意見です。 ○岩井委員 先ほど裁判官の方から,実刑にするのには非常に量刑資料を慎重に検討なさるというお話を伺ったんですけれども,やはりその量刑資料というのが当事者から出されたものだけで検討なさるとすると,犯罪者処遇機関としてきちんと責任の持てる量刑ができるのかどうかということに対して,私は疑問を持っておりまして,是非,先ほど神津委員がおっしゃられたような,手続二分制度についても検討していただきたいと思っております。 ○本田部会長 それでは,まだ御意見もあろうかと思いますが,閉会の予定時間をかなり過ぎましたので,「その他」の議論につきましてもここまでとさせていただきたいと思います。   これまで第8回会議から第12回会議までにかけまして,当部会で議論する全ての論点を一通り議論し,そして第13回会議から本日の第17回会議までにかけまして,焦点を絞った議論を行わせていただきました。限られた時間の中ではございましたけれども,大変活発な御議論をいただきました結果としまして,具体的な制度設計を進めるべきものや,また,制度を導入するか否かを更に議論するため具体的な制度の在り方を検討すべきものなど,各論点についての今後の検討の方向性等がある程度見えてきたのではないかと考えております。   そこで,来年1月に予定しております第18回会議,第19回会議におきまして,今後の具体的な制度設計の指針となる「基本構想」の内容を御議論いただきまして,その取りまとめを行っていきたいと思います。まずは,当方におきまして,これまでの議論の結果を踏まえ,「基本構想」の案を作成させていただき,次回及び次々回の会議では,この案を基に議論いただきたいと思っています。「基本構想」の案の内容や具体的な審議方法につきましては,更に検討した上で,事務当局を通じまして第18回会議までに御連絡したいと思います。   今日もいろいろな議論があり,まとめていくのは大変難しいとは思いますが,神津委員もおっしゃいましたように,やはりできるだけまとめていくということで,是非よろしくお願いいたしたいと思います。   予定しておりました事項は全て終了しましたので,これにて本日の議事を終了したいと思います。本日の会議につきましては,特に公表に適さない内容に至るものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録に公表することとさせていただきたいと思います。よろしいですね。   それでは,次回の日程でございますが,来年1月18日金曜日,午後1時30分から午後5時30分までを予定しており,場所は,法務省第1会議室,法務省ゾーン20階にお集まりいただきたいと思います。   それでは,本日はこれにて閉会いたします。どうもありがとうございました。 -了-