法制審議会 民法(債権関係)部会           第58回会議 議事録 第1 日 時  平成24年10月2日(火) 自 午後1時01分                       至 午後4時55分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 定刻となりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第58回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。     (委員の紹介につき省略) ○鎌田部会長 本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日の会議用に,部会資料48を事前送付いたしました。また,積み残し分を審議いただく関係で,部会資料47を使わせていただきます。これらの資料の内容は,後ほど関係官の笹井,松尾,川嶋ほかから御説明いたします。   また,部会資料の関係で比較法資料の補遺を配布しております。部会資料48の比較法資料補遺「ファイナンス・リースに関する比較法資料」です。また,前回配布の部会資料47に関して,「比較法資料(追加)」と題する書面を配布しております。部会資料47は既に法務省ウエブサイトで公表しておりますけれども,これに本日配布の比較法資料を追加したものを改めて改訂版として掲載することを予定しております。   このほか,委員等提供資料として,山川隆一幹事から「労働契約における民法536条2項の適用と要件の整理(資料)」と題する書面を御提出いただいております。 ○鎌田部会長 本日は部会資料47及び48について御審議いただく予定でございます。具体的な進め方といたしましては,休憩前までに部会資料47のうち「第3 寄託」「3 受寄者の保管に関する注意義務」までについて御審議いただき,午後3時から3時半ぐらいの間に適宜休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料47の残りの部分と部会資料48について御審議いただければと考えているところでございますので,よろしく御協力のほどをお願いいたします。   それでは,まず「第1 準委任に代わる役務提供型契約の受皿規定」の「4 役務提供契約の解除に関する規律」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「4 役務提供契約の解除に関する規律」では,役務提供契約の当事者が相手方の債務不履行などがなくても契約を解除することができるかどうかという問題を取り上げるものです。   本文(1)は,役務受領者による解除を取り上げるものであり,役務受領者による解除を広く認め,いつでも契約を解除することができるとする甲案と,解除を制限し,やむを得ない場合にのみ契約を解除することができるとする乙案を取り上げています。同時に,乙案を採る場合であっても,期間の定めのない継続的な役務提供契約については,いつでも解約申出をすることができるものとする考え方を併せて取り上げています。   本文(2)は,役務提供者による解除を取り上げるものです。役務提供者からの解除を広く認める必要はないと考えられるため,アでは,役務提供者はやむを得ない事由がある場合に限って契約を解除することができるものとすることを提案しています。イでは,期間の定めのない継続的な役務提供契約はいつでも解約申入れをすることができるとすることを提案しています。ウでは,原則として役務提供者からの解除が制限されるとしても,無償の役務提供契約においては役務提供者の厚意による契約という性質があるため,役務提供者を強く拘束することは妥当でないと考えられることから,役務提供者はいつでも契約を解除することができるとすることを提案しています。   本文(3)は,本文(1)又は(2)に基づく解除をした場合の損害賠償について定めるものです。ここでは,一旦契約をした以上,相手方がその契約から得られると合理的に期待することができる利益を一方的に奪うことはできないと考えられることから,契約を解除した者は相手方にその損害を賠償しなければならないとすることを提案しています。賠償すべき損害の範囲は,解除された側の当事者がその契約からどのような利益を得られると期待するのが合理的であるかによって定められると考えられます。期間の定めのない継続的な役務提供契約や無償の役務提供契約は,いつでも解約の申入れをすることができるとされていますので,解約申入れによって契約は終了する時点までの利益を超える利益を期待するのは合理的でないと考えられますが,期間の定めがある場合などには,その期間,契約が継続した場合に得られる利益に対する期待は合理的なものであると考えられるので,この利益が損害賠償の対象になると考えられます。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について,御意見をお伺いいたします。 ○佐成委員 中身自体の当否ということもありますけれども,既に部会資料48が追加で配られていて,その中に,「継続的契約の終了原因に関する規律」を設けるという記述がありまして,それを読ませていただいて,それとの関係で疑問を感じましたので,発言させていただきます。具体的には,部会資料48の47ページ,補足説明の1(2)のところに,この継続的契約というのは,様々な役務提供契約を含み得るけれども,それらは一般法と特別法の関係に立つのだという説明がなされていて,私もそれはそうなのだろうとは思うのです。しかし他方では,この受皿規定というのも,個別の契約類型から抽出されたものという意味では,一般規定という位置づけになろうかと思います。そうとしますと,「継続的契約の終了原因に関する規律」の方は,言わば「一般規定の一般規定」という位置づけになるのだろうと思うのです。しかしながら,そうした法適用場面における優先劣後関係にあることについて,考えてみますと,この「役務提供契約の解除に関する規律」というものが,単に従来の個々の典型契約の要素を抽出しただけのもので,果たして「継続的契約の終了原因に関する規律」よりも優先的に適用されるものとして,本当によいのかという点で疑問があります。というのは,受皿規定というものの性格上,当然いろいろなものが入ってくるわけですし,将来も,これまで想定されなかったような新しいものも入ってくる可能性があるわけですから,そのような中で,本当に受皿規定の規律を優先させることで対応するということが妥当なことなのか疑問に感じたわけです。   むしろ,もし仮に「一般規定の一般規定」である「継続的契約の終了原因に関する規律」を設けるということであれば,一段高い一般性を備えているという意味でも,そちらの規律,つまり,「予告期間を定めた解約の申入れ」に類するような手続を取ることの方が,債務不履行などがなくても契約を終了させる場面では,むしろ望ましいのではないのかという気がしたわけです。要するに,一つは,将来,多種多様な継続的契約のうちの役務提供型が出てきたときに,本当に特則として十分機能するのだろうかという疑問が一つと,もう一つは,「継続的契約の終了原因に関する規律」で考えられているのは,長期の継続的な契約関係を終了させるに当たっては,円滑な事後処理といったところも視野に入れて,もろもろの関係を踏まえた上で解約処理をしましょうという形になっていますから,むしろ具体的妥当性に優れているとも思われるため,単純に,請負だとか委任だとか雇用といったものの要素だけを機械的に抽出しただけの一般規定で,債務不履行などがなくても契約を終了させる場面全部を,受皿規定として処理してしまうというのはやや乱暴で問題があるのではないかという疑問を感じたということでございます。   それともう一つは,これは役務提供契約の受皿規定・一般規定,あるいは総則規定という位置づけですので,言わば「なす債務」の一般的な規律として考えられると思います。そうしますと,役務提供者からの解除は限定的にしろ,受領者からの解除はある程度広く認めようとする一般的な規律を導入することに他なりませんから,「与える債務」とのバランスから考えて,ややバランスを欠くことにならないかという疑念を抱きます。その意味で,この任意解除の一般的な規律に関しては慎重に考えていただいた方がよいのではないかという意見でございます。 ○大島委員 役務提供型契約は,様々な新しいサービスに対応する受皿となり得ることから,これまでの準委任に変えて規定を設ける必要性は高いと考えます。しかし,中小企業にとって,契約を一方的に解除されれば,事業継続に支障を来すことも考えられるため,解除の規定を設ける際には十分な検討が必要であると思います。   そこで,(1)については乙案を採用し,役務の受領者からの解除は,やむを得ない事情がある場合に限定するべきであると考えます。役務提供契約は,役務の進捗状況が確認できないことが多いため,解約に限定を設けなければ,損害の額をめぐる紛争が起こることは明白だと思います。また,損害の額が少額にとどまる役務提供契約では,力の弱い役務提供者である中小企業が損害賠償を断念することも多いため,解除には一定の歯止めを設けるべきだと考えます。   また,(2)の役務提供者からの解除については,いずれの場合も相当な期間を定めて契約を解除できるものと規定すべきと考えます。中小企業では,給与計算や情報システム管理などの様々な部門でアウトソーシングを利用していますが,役務提供者の事情で急に契約を解除される場合には,十分な引継期間などが確保されないため,実務が混乱することが明らかであると思います。このような事態を回避するため,役務提供者からの解除については相当の準備期間を置いた上で認めるべきだと考えます。 ○安永委員 (1)の役務受領者による解除について申し上げます。   役務受領者による解除に関する規定を置くのでありましたら,乙案のアに賛成いたします。そして,乙案のイの項については,役務受領者の指図によって自ら役務を提供する者など,雇用類似の役務提供者については,継続期間の長さに応じた合理的な期間を設けて申入れをするように義務付けをし,合理的な期間を置かずに解約の申入れをなした場合,又は置いた期間が合理的でなかった場合には,合理的な期間に支払うべき報酬相当額を損害として請求できるようにすべきだと考えます。   雇用類似の役務提供解約については,一般的に継続的契約であると見られ,裁判例は,フランチャイズ契約,代理店契約などにおいて,2週間より長期の予告期間を設けるよう求めています。この点からいえば,雇用類似の役務提供契約についても,その継続期間の長さに応じて合理的な予告期間を置くよう義務付けることが妥当であると考えます。また,仮にこれが難しいとしても,最低限,役務受領者による解除については,民法第627条第1項及び第628条と同じ規定,すなわち2週間の予告期間は置くべきだと考えます。   補足説明の14ページの(3)には,「雇用類似の役務提供契約は,多くは労働契約に該当し,労働契約法が適用されるので,特別な規定を設ける必要がない」という記載もあります。しかし,最近の裁判例がこうした役務提供契約について「労働契約に該当しない」という判断していることに鑑みれば,規定を設ける必要性は十分あると考えます。また,補足説明には,「雇用類似の役務提供契約においても権利濫用の一般法理の適用は妨げられない」との記載もありますが,労働契約でない雇用類似の役務提供契約において解雇権濫用法理が形成されるかは明らかではなく,また,解約の意思表示を無効とする権利濫用法理が当事者の利害状況に適しているかについても疑問があります。  この点,日本相撲協会の力士養成員と日本相撲協会との契約関係につき,昨年2月25日に出された地裁決定では,当該契約関係は,労契法の適用がある「労働契約」には当たらず,一種の有償による準委任類似の契約関係にあるとした上で,「準委任類似の契約関係の終了事由を検討するに当たって,やはり雇用契約,その他の継続的な契約関係の場合と同様に,『継続性』とその基礎にある『信頼関係』というものの価値(重み)を重視せざるを得ない」という判断をしている例があります。また,タンクローリー車の運転手について,請負又は委任若しくはそれらの混合契約であり,労働基準法上の労働者に該当しないとして,解雇権濫用の主張が退けられた裁判例(「協和運輸事件」大阪地判平11.12.17労判781号65頁)もあります。このほかの例として,「山崎証券事件」最1小判昭36.5.25民集15巻5号1332頁,「ソクハイ事件」東京地判平22.4.28労判1010号25頁,「新国立劇場運営財団事件」東京高判19.5.16労判944号52頁などがあります。   なお,新たな提案になりますが,雇用類似の役務提供契約の債務不履行解除においては,「役務受領者は契約の趣旨に従って重要な義務違反がある場合に限り解除し得る」ということを明示することも検討すべきだと考えます。   前回配布させていただきました委員提供資料の『労務サービス契約の法律関係』の記載にも見られるように,雇用類似の役務提供契約においては,就業規則により服務内容を規定しないで,契約書で詳細な服務内容を規定することが少なくありません。幾つかの事例において,役務受領者は契約書に定めたささいな服務条項違反を理由に契約を解除しています。こうした解除は,役務提供者にとっては相当な不利益となり,また,不利益な契約内容変更を甘受させる原因ともなることから,これについては特に明文で規定すべきと考えます。   また,(2)の役務提供者による解除については,部会資料の提案に賛成いたします。 ○三浦関係官 (3)の損害賠償の関連でございますが,これは意見というよりは確認ないし御質問という形で申し上げた方がよいのかもしれません。省内の今回の検討で私の下に届いた声としては,契約の解除がされたことによって相手方に生じた損害賠償責務を負うというときに,その契約内容等に照らして合理性・正当性のある理由に基づいて解除したときも損害賠償をしなければいけないのでしょうかと,もしそうであると,役務提供者に過度の負担を負わせることはないでしょうか,というものがございました。  この意見を基に検討するには,その合理性・正当性のある理由というのはどういうことなのかなど,若干明確にした方がよい点があるように思いますが,さはさりながら,確かに部会資料の15ページの3の(1)を見ると,「当事者は自己の都合で契約を解除することができるとするのであれば,解除をした当事者は,相手方に対し,契約解除によって生じた損害を賠償する義務があるものとすべきである」と書いてあり,そうであるとすると,逆に「自己の都合」ではない理由で解除するときには,損害賠償をしなくてよいということが部会資料の本意なのではないかとも理解できます。  また,確かに今の民法651条第2項でも,委任の規定の中で,解除したときは「損害を賠償しなければならない。ただし,やむを得ない事由があったときは,この限りでない。」となっております。  以上,要するに自己の都合ではなくて,やむを得ない事情で解除をしたときについての損害賠償義務の扱いはどういうふうに考えたらよいか。12ページの一番上の3行には,その辺が明示的に書いていないので,その辺の理解について確認できればということでございます。 ○笹井関係官 合理的な理由とかやむを得ない事情がどういったものであるかにもよると思うのですけれども,もしそれが債務不履行には該当しない,したがって,541条など債務不履行の一般原則に従って契約を解除することができず,解除するために,部会資料で言うと11ページの(1)や(2)に基づいて解除せざるを得ないという場合には,契約の一般原則からいえば解除できないものについて解除を認めるということになる,それに伴って損害賠償が必要になってくるのが原則ではないかと考えておりました。   ただ,恐らく,契約当事者間の信頼関係を破壊するような行為であるとか,一方が契約からの離脱を望んでもやむを得ないような事情というのは,契約解釈によれば,債務不履行があった場合に該当する場合も多いと思われまして,そういった場合には,この提案に基づく解除ではなくて,債務不履行解除ができることになり,結果としては損害賠償が要らなくなるということも多いのではないかと感じました。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。 ○三浦関係官 ありがとうございます。 ○岡田委員 消費者からすれば,(1)に関しては甲案なんでしょうけれども,解除した後の損害賠償の部分,(3)との関係がありますのでこれは相談現場から考えますと躊躇する部分もあります。乙案のアでもいいのではとも個人的には思います。   それから,(2)に関しても,当然アですね。イとウに関しては,消費者からすると,結構こういう事例が多いことから条文が入ると消費者は限りなく不利益を受ける可能性があるので,このイとウに関しては反対したいと思います。   それから,(3)に関しては,解除した場合に必ず損害賠償を請求することができるというふうな規定が入るのは,大変消費者にとっては不利益を受ける可能性があるように思えます。やはりケース・バイ・ケースでということではないでしょうか。当然,損害賠償を請求されてもしょうがないのであれば,これは仕方がないと思うのが一般的な消費者ですので,その意味で,比較法としてオランダ法の408条の3項がありますが,これは参考になるのではないかと思います。 ○中井委員 この問題については,今御発言いただいた4人の方の御意見をお聞きしましても,役務提供契約で想定しているものが極めて多種多様であって,その想定している契約類型に応じて,その効果も考えたいという印象を強く受けました。   安永委員からは,労務サービス契約を想定して,つまり,役務受領者が事業者で,提供者が,ある意味で弱い労働者を想定したときに,役務受領者側からの解除は解雇の正当理由があるような場面に制限したいという御意見につながる。他方,岡田委員の消費者の立場からすれば,受領者は弱い消費者であり,提供者が力の強い事業者の場合に,不要となったサービスについて,たとえ期間の定めがあるとか,中途解約の禁止条項が入っているとしても,その不要なサービスを受けることから免れる権利は留保しておきたい。正反対の利害状況があって,そこからそれぞれ解除できる要件についての御主張があるように感じました。   また,この提案が準委任を残すのかどうか。準委任も委任も含めて,信頼関係を基礎とするのだろうと思いますけれども,この役務提供契約は基本的に信頼関係を基礎としない,サービス業務を対象とするのか,それとも,信頼関係のある事務についてのサービスも含めて想定しているのか。この辺りも,その前提とする考え方が異なれば,おのずと今の議論も違う意見になるのではないか。   更に考慮要素として,佐成委員からありましたけれども,継続的な取引関係との関係について,佐成委員の意見の前提となる資料を拝見していませんが,継続的取引契約に関する規律と,この役務提供契約に関する規律,どちらが原則で,どちらが特則と考えるのかどうかはともかくとして,役務提供契約の多くのいわゆるサービス業務は継続的になっているのではないか。一回的な役務提供を想定して規律を置くのか,そうではなくて,一般的に使われている継続的な,長期間にわたるサービス提供を前提として規律を置くのか。この辺りについても,想定しているものが違えば,おのずと結論が違うのではないか。   そういう形で,想定しているものの違いによって結論も異なっているという印象を強く受けました。   加えて,この考慮事項ですけれども,同じことを言っているのかもしれませんが,この4の議論をする,解除に関する議論をすることと,前回議論をした3の「(4)役務提供の履行が不可能な場合の報酬請求権」との関係をどう考えるのか。ここも,連続してといいますか,整合的に考えないといけないと思うのですが,想定している契約類型によって考え方が異なってくるのではないか。   私は,一つの意見があるというわけではありませんが,そういう意味で,ここの議論は混乱をしているというか,まとまっていないのではないかという印象を受けているということをまず申し上げたいと思います。 ○筒井幹事 ただいま中井委員から御指摘があったように,部会資料でいう「役務提供契約」というカテゴリーを新たに設ける際には,いろいろなことを考えながら検討を進める必要があると思います。準委任との関係については,少なくとも今回の改正で準委任の規定をなくすという提案は今のところ取り上げていませんので,前回の会議でも議論になったように準委任の守備範囲を現在よりも限定するかどうかが問題となり,現在のまま準委任の規定を維持するのか,あるいは準委任の対象範囲を絞るのかについて,検討することになるだろうと思います。   継続的契約との関係が問題となるというのは,全くそのとおりだろうと思いますけれども,それはここに限らず,例えば貸借型にもある問題ですので,それゆえにここでは議論しにくいということには必ずしもならないのではないかと思います。   それから,安永委員から御指摘いただいたことは,第1ステージから繰り返し御指摘を頂いていることであり,十分留意しながら検討していく必要があるだろうと考えております。 ○岡委員 いろいろなものが入ってくるという,その現れとして,(1)についてですが,弁護士会としては甲案,いつでも解除できる,役務受領者が欲しない場合には無駄だという理屈に基づいて,甲案の方が多数でございました。   ただ,雇用類似の場合の心配は全員共通の問題意識を持っておりまして,その場合にどういう例外規定を設けるかについて,部会資料の14ページに御提案いただいたような例外規定を設けなくてもよいのではないかではなく,この規定を設けることを前提に甲案がよいのではないかという意見です。また受領者が事業者で提供者が自然人の場合は穴を開けるとか,委任の規定と同じように,役務提供者の利益も目的としている場合はこの限りではないというような,何らかの例外を設けた上で甲案がよいのではないかというのが弁護士会の多数意見でございました。   ただ,乙案の支持者もございまして,乙案を支持した場合には,先ほど佐成さんがおっしゃった継続的契約の方で,消費者が受領者の場合は解除できると,その規定との組合せを使えば乙案のアでもよいのではないかと,そういう意見もございました。   それから,(3)の損害賠償のところですが,法務省の資料は,理由なく解除できるのであるから履行利益といいますか,契約で定めた利益,報酬を前提とした損害賠償ができるという前提で書かれていますけれども,それ一本の解説付きの損害賠償として書かれると,それは極めて窮屈であると考えます。先ほど誰かがおっしゃった委任の場合の損害賠償については,不利なときになされた場合に限るとか,やむを得ない場合は除くとか,裁判例でも信義則でいろいろ調整をした上で妥当な解決を図っておりますので,この規定を使うんだったら100というのではなく,信義則を使ったグラデーションがあるはずですので,(3)の損害賠償の考え方については,もう少し柔軟な考え方及び解説をすべきであると,そういう意見が弁護士会では非常に強うございます。   それから,(2)の役務提供者による解除のところですが,これは請負にはない規定で,委任には類似する規定があります。役務提供契約一般について,役務提供者側からの解除ができる場合が多いんだろうとは思いますが,任意規定として,ここまで置く必要があるのでしょうか。役務提供者が途中で仕事をやめてしまったら,受領者の方から債務不履行解除して,債務不履行解除の損害賠償の一般論で処理すれば足りるのであって,提供者の方から金払ったら解除できると,そういう規定をどーんと置く必要はないのではないか。置くんだったら置いてもよいけれども,損害賠償に関する例外規定を置かないと,いろいろなものが入ってくるときに何か不便が生じるのではないか。そういう意見が(2)については多うございました。 ○山川幹事 (1)ですけれども,乙案の理解について,アとイというのが何か選択的なような趣旨にも見えるんですが,これは,私の理解ではアとイは一体で,言ってみればアは期間の定めがある場合で,イが期間の定めのない場合。ただ,期間の定めがあるかないか分からない場合はアに入るという趣旨で,アには期間の定めがあるということが書いていない。そういうことで,これは一体と理解しましたが,それでよろしいのかというのが前提です。   あと,問題意識はこれまでも述べてきましたし,また,中井委員のおっしゃられたことと同様で,やはり役務提供契約の規定を作るならば,提供者側の交渉力が弱い場合について規定上も配慮が要るのではないかと思います。   資料14ページの3の補足説明に,「例えば」ということで,権利濫用に関する規定をここに設けるということが書かれております。こういう考え方も,岡委員の言われましたように,私も更に検討を進めるべきだと思います。   ここに挙げられている,必要がないとも考えられるという理由の一つは,労働契約法の適用を受けることが多いということですけれども,これは安永委員からお話がありましたように,問題はむしろ,労働契約法の適用がないけれども交渉力が弱い事例であるということです。そのような実態も多かろうと思いますし,あとは,平成23年4月12日の最高裁判決で,新国立劇場運営財団事件という,オペラの合唱団員が労組法上は労働者に当たるとされた例がございますが,同一人物につき労働契約該当性が争われた民事事件では,労働契約には当たらないとした,平成19年5月16日の東京高裁判決があり,上告不受理等で確定していると思います。つまり,労働契約には当たらないけれども労組法上の保護は必要であるという状況が最高裁判決によって承認されているということです。   もう一つは,権利濫用が許されないことは明らかであるというのが第2の理由ですけれども,役務提供者側の方が交渉力が弱いという契約類型が事象してどれだけ例外的であるかに,この点は掛かってくるかと思います。それほど例外的な事態でなければ,別途規定を設けてもよいのかなと思います。大変例外的な事象でしたら,一般の権利濫用の問題として処理すればよいと思われます。   ただ,このような規定が難しければ,より雇用に準ずるものに限って設けるとすれば,例えば雇用に準ずる場合を除くといった,言わば消極的な規定の仕方も考えられるのかなと私個人としては思っております。 ○佐成委員 今までいろいろ皆さんの御意見を伺っていて,やはり冒頭申し上げたとおり,中二階的な一般規定を置くということが本当に妥当なことなのかということについて,かなり疑問を感じたということです。提案されている中身自体は,それほど違和感はないのですけれども,仮に一般則として置くのであれば,むしろ継続的契約としての解消の場面だけを捉えて,そちらの一般則を適用すれば十分なのではないかというのが私の意見です。むしろ,雇用に近いものであれば典型契約の雇用類似で考えていけばいいし,請負に近ければ請負に引き寄せて考える,あるいは委任に近ければ委任に引き寄せて考えていくというような,そういった捉え方で引き続きやっていった方がはるかに柔軟ではないかなという印象を持ったということを付け加えさせていただきます。 ○岡関係官 中井委員,山川幹事,安永委員,大島委員,特に中井委員と山川幹事がちょうど私も言おうとしていたことをおっしゃったので,余り重ねて言う必要はないと思いますが,ただ1点,ちょっと思ったのは,私の方は雇用類似型の保護といいますか,そちらの観点で考えているわけですけれども,ただ,同じ役務提供者の保護という観点でも,先ほど大島委員から,中小企業の立場は役務提供者でもあり役務受領者でもあるということで,余り役務提供者の保護が強過ぎると,今度は,役務受領者としての立場が逆に害される場合もあるとのことでした。役務提供契約の当事者を保護する場合であっても,いろいろなパターンがあるということで,その辺も踏まえて,更に慎重に検討しないといけないのかなと思いました。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○松本委員 2点申し上げます。   1点は,中井委員のおっしゃったことに非常に共感を感じるということでありまして,まず,この受皿規定の対象がそもそもはっきりしていない。一応引き算ということになっているんですが,何を引くのかがそもそもはっきりしてないというところから,委員・幹事の皆さんの想定しているタイプが確かに違っていて,そういう中で共通ルールを作るというのは相当難しいのではないかというのが第1点です。   第2点ですが,両当事者から自由に解除できるというような発想,取り分け役務の受領者サイドから自由に解除できるという発想は,後で損害賠償を払えという規定がありますから,言ってみれば,契約を破る自由を役務提供契約については一般的に認めるという話につながっていく考え方だろうと思います。なぜ役務提供契約の場合だけ,損害賠償を払うということとセットではありますが,契約を破る自由が認められるのかという点について,この補足説明では,役務受領者が必要としないんだから,提供者にそれ以上役務提供をさせるのは社会的に無駄だという説明がされているわけです。これは,役務提供というのは,提供者側が体を動かして何かやるだけなんだから,もうやめてくれと言われれば,提供者としてやめればそれでいいだけでしょうという発想が多分あるんだろうと思います。   他方で売買の場合に,日本では契約を破る自由は認めないという観点から,強制履行まで認められているわけです。売買の場合になぜ損害賠償を払ってでも解除する権利というのは認められなくて役務だけ認められるのかというと,今言ったような,売買の場合は既に売り手側が持っているところの何か特定物なり種類物の特定化したものがあるはずであって,買主からそれを不要だといって押し付けられることによる実際上の不都合というのを考えているのではないかと思うんですが,役務提供の場合でも,グラデーションはいろいろあると思うんです。体を動かすだけで,それ以外の原材料等の調達は要らないものもあれば,そうでないものもある。請負はかなり売買に近いところがあるから,委任の場合と売買の場合の中間的な位置付けになっているんだと思います。   そうであれば,売買の場合でも,まだ売り手が調達をしていない段階であれば,自由に解除できてもよいという論理が出てきてもおかしくないと思います。ここで役務提供契約に解除の自由,損害賠償とセットの解除の自由という考え方を一般論として入れる場合には,役務提供以外の場合の多様な契約類型についての,いわゆる契約を破る自由という考え方をどれぐらい取り入れるのか入れないのかという議論とも整合させる必要があると思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   非常に多方面からのいろいろな御意見を頂きましたし,補足的な御提案も頂戴したしたところでございますけれども,これら踏まえて,事務当局で更に検討を深めるということでよろしいでしょうか。   では,そのようにさせていただきます。   続きまして,「5 役務受領者について破産手続が開始した場合の規律」「6 その他の規定の要否」「7 役務提供型契約に関する規定の編成方式」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「5 役務受領者について破産手続が開始した場合の規律」では,役務受領者が役務提供契約の途中で破産手続開始決定を受けた場合の法律関係を取り上げるものであり,役務提供者による解除や,その場合の報酬,損害賠償について,民法第642条と同様の規律を設けるという考え方を取り上げています。委任契約において,委任者が破産手続開始決定を受けた場合について御審議いただきましたが,そこにおける議論がここでも妥当すると考えられます。   「6 その他の規定の要否」では,契約の解除には遡及効がないという賃貸借や委任と同様の規定を役務提供契約についても設けることを提案するものです。そのほかに役務提供契約について設けるべき規定がありましたら,併せて御意見をお伺いしたいと思います。   「7 役務提供型契約に関する規定の編成方式」では,雇用,請負,委任,寄託などを含めて,役務提供型の契約類型に属する典型契約をどのように編成するかという問題を取り上げるものです。甲案は,役務提供契約に関する規定を請負や委任と並列される典型契約の一つとして設けるという考え方です。他方,これまで御審議いただいたように,請負や委任,役務提供契約に関する規定には,例えば報酬に関する規定など,共通の考え方に基づく規律を設けるべきであると考えられる事項があることから,共通する規定をくくり出して総則的な規定を設けることも考えられます。乙案は,このような考え方に基づいて役務提供型の契約を編成しようとするものです。これに対しては,総則的な規定を設けることによって,それぞれの契約に適用される既定の全体像が分かりにくくなるという指摘も考えられることから,規定の分かりやすさの観点からも御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明のありました部分につきまして,一括して御意見をお伺いいたします。 ○安永委員 まず,6の「その他の規定の要否」について申し上げます。部会資料で提案されております役務提供契約の解除の将来効については,役務提供契約のうち修繕に関するものについては,例えば時計や電気製品の修理や,家屋の一部改修の際に照明器具や換気用機器を取り付ける場合など,自然人が自ら労務を供給し,その報酬を受け取る過程で様々な物品や部品を交換したり取り付けるものがあります。そして,これらの物品の交換や取り付けに関して,売買契約が締結されるのではなく,役務提供契約の一部として物品や部品等の調達が含まれているものが少なくありません。これらの役務提供契約が解除された場合,将来に向かってのみその効力が生じるものとすると,労務提供者が物品や部品を取り外して原状回復を図ることが許されないことになると考えられ,この場合,自然人であり自ら労務を供給する者の権利水準を低下させることになります。この点から,役務提供契約解除の将来効の条項を民法に設けることについては疑問を持っております。次に,7の「役務提供型契約に関する規定の編成方式」に関してですが,役務提供契約に関する規定を典型契約の一つとして設ける甲案と,役務提供契約を役務提供型の各契約に共通して適用される規定と位置づけ,雇用,請負,委任及び寄託に関する規定の上位にある総則規定として整備する乙案が提案されています。まず,甲乙いずれにおいても,消費者契約など役務受領者が弱者である場合だけではなくて,役務提供者が弱者である場合,すなわち,自然人が自らの労務を供給し,その報酬を受領する契約についても十分配慮して,要件と効果の検討がなされる必要があると考えます。その上で,甲乙のいずれの案を採るかという点では,乙案の,役務提供型契約の総則規定において交渉力等の劣る雇用契約類似の役務提供型契約の役務提供者の公正な利益を守る規制がなされるべきと考えます。具体的には,優越的地位を利用した役務受領者の任意解除権の行使についての制限規定を設けることや,役務受領者の安全配慮義務規定を明示することを検討すべきだと思います。さらに,536条2項の規定がその文言のまま残せるのであれば,その規定を役務提供契約の総則規定に置くべきと考えます。 ○山野目幹事 18ページの7の論点に関して,この論点そのものと申しますよりは,恐らくその前置問題と申しますか,前提に当たる事柄について意見を述べるということになるのかもしれませんけれども,このような形で事務当局におかれて部会資料において役務提供契約の詳細な規律のプランを御用意いただき,さらに,ここで甲案,乙案という仕方で問題提起,お問いかけを頂いているといったようなことにつらつら鑑みますと,大変恐縮で,恐る恐る申し上げるところですけれども,役務提供契約の概念の導入を見送るという選択肢といいますか,可能性というものも当然にあり得るものであるということに一定の比重を置いて,今後の問題提起を考えていっていただくということにも御留意いただければ有り難いと感じます。   そのように申し上げるに当たりまして,二つのことを大きく分けて申し上げさせていただきます。   1点目は,ここまでの役務提供契約に関する論議で,比較的議論が活発に行われたものは報酬,取り分け役務の提供に困難がある場合の報酬請求権の在り方が一つの塊をなしており,また,もう一つは解除,取り分け任意解除権の在り方に関する問題がもう一つの固まりをなしていたと感じますけれども,いずれにつきましても,御論議の様子を拝見しておりますと,交渉力その他の社会経済的関係において,相対的に役務提供者の側が強い場合を念頭に置いての様々な御提言と,役務受領者の方が相対的に強い場合を念頭に置いての御発言,御提案とが入り乱れて交錯し合うという状況が続いてまいりました。このまま,このような概念に関する規律整備を今のような議論を前提に行ったときには,同じ概念によって異なる夢を見ているという状態で規律整備がなされ,場合によっては導入された規律の運用がなされるということになりかねないということを危惧いたします。   いずれにしても,そういうふうにして入る規定は任意規定なのだからよいではないかというふうな見方も,あるいはあるかもしれませんけれども,思い起こしていただきたいこととして,別途議論されております不当条項規制との関係では,任意規定であっても一定の強い効果ないし役割が認められる可能性が議論されていますから,そういった点にも考慮を払う必要があるのではないかと考えます。これが1点目でございます。   それからもう1点は,申し上げました報酬と解除という重要な問題のいずれについても,御提示いただいている規律のイメージ,内容は,委任ないし準委任のところで御用意いただいているものと酷似するという関係が認められます。そうであるといたしますと,確かに役務提供契約の概念の提案によって対応すべき社会的需要があると考えられますけれども,従来の準委任に関する規律を何らかの仕方で整備・発展させていくという仕方で対処をするということも考えられるのではないかと感じます。準委任という言葉は確かに分かりにくいものでありますけれども,概念を整理したり,必要最小限の見直しをしたりすることによって,そのような方向で対処を考えていくということも可能性として加えていただきたいと望むものでございます。 ○笹井関係官 今の山野目先生のお考えをもう少し詳しく教えていただきたいのですけれども,仮に役務提供という概念を見送るということにした場合に,準委任の範囲を制限するのか,あるいは,準委任についても現行法を維持するというお考えなのか。もし先生の今の段階でのお考えがありましたら,お教えいただきたいのですが。準委任の範囲についても現行法を維持されるという御意見でよろしいでしょうか。 ○山野目幹事 今,笹井関係官から私に確認の発言のチャンスを頂いたものだと認識いたします。準委任に関する論点を検討させていただいた際に,現行法と同じ概念理解で考えていったらよいのではないかということを申させていただいたところでありまして,今,機会を与えていただいて大変有り難かったものですが,その際に私が述べさせていただいた意見との関連においても,先ほどの意見を受け止めていただければ幸いであると感じます。 ○鎌田部会長 「5 役務受領者について破産手続が開始した場合の規律」について,何か御発言ございますか。 ○畑幹事 請負や委任と同様に,戦線を拡大するのがよいのかどうかというのは分からないのですが,ほかの倒産手続はどうかという問題がここでもあると思います。   それから,この役務提供契約にどういうものが入るのかということに関係があるのだと思うのですが,部会資料としては,これは請負に近い規律が提案されていると思います。他方,私が聞き間違えたのかもしれませんが,先ほどの御説明だと,委任のところで議論したことも妥当するとおっしゃったような気がします。しかし,請負のところで提案されていた規律と委任のところで提案されていた規律は同じではないので,ちょっと整理する必要があるかなと思います。あるいは,どういうものがここに含まれるかによって,請負に近いものもあり,委任に近いものもあるということになるのかもしれないという気がしております。ちょっとまとまらない意見で恐縮ですが。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○中井委員 5の関係でも申し上げますと,畑幹事からもありましたように,5の考え方の前提は,補足説明にあるとおり,請負の642条の考え方を取り入れているわけですけれども,先ほどの解除のところでは委任に近い考え方を採用し,ここでは,ある意味で逆方向なわけです。つまり,役務提供契約が,信頼関係を基礎とする契約類型を念頭に置く場面もあれば,請負,成果完成型を念頭に置いている場面もあれば,私は役務提供の基本は履行割合型だとは思っているんですけれども,履行割合型を念頭に置く場面もある。ここでは,にもかかわらず,請負を念頭に置いて提案がなされている。果たして履行割合型を中心に考えたらこのような提案が要るのか。それは,双方未履行双務契約の53条解除の原則だけで,役務受領者側に破産手続が開始しても,提供者側は破産管財人の履行選択か解除に従えばよいという考え方も十分あり得ると思います。そうすると,ここも,役務提供契約の一つのパターンを想定して, 答えを出しているのではないか。   ちなみに,弁護士会の意見の多くはこの考え方に賛成でした。一部,破産法53条の双方未履行の一般原則の適用でよいのではないかという意見がありました。私は,基本的な枠組みとの関係で,もう一度考え直すべきではないかと思っております。   その関係で,7も併せて申し上げますと,先ほど山野目幹事からお話がございました。私が先ほど申し上げた素朴な疑問のところを,整理しておっしゃっていただいたものだと思っております。ただ,選択肢としては,山野目幹事は,恐る恐るとおっしゃいましたけれども,役務提供という考え方を見送るという考えもあり得るとは思います。他方で,この役務提供契約類型を,甲案を前提として更に絞り込みをかける。すなわち,信頼関係を基礎とするものについては準委任類型を残す。労務サービス提供契約に関連するもの,安永委員等が大変御懸念をされているものについては明確に省く。それは雇用類似若しくは雇用の類推適用で処理できる道筋を基本とするわけです。それができないとすると,また考えなければいけないのかもしれませんが,雇用を想定したような労務提供サービスについては省く。そういうものを除いた純粋サービス,それは何かといったら,学習塾であるとか,エステであるとか,そういう一定期間のサービスの提供を前提とした契約類型に純化して,その部分についてのみ,それを典型契約として横並びの一つに置く,こういう選択肢はなお残るのと思います。そこでは,先ほどから議論の錯綜しているものをそぎ落として,議論が混乱しないようにする。合間にあるものは,請負に近いものは請負,信頼関係を基礎と置くものに近いものは委任ないし準委任というように,他の典型契約類型の規律に実質上は委ねる。こういう考え方はあり得ないのかと感じております。 ○松本委員 まず,7ですが,先ほどの4の議論のところでもやりましたけれども,引き算の世界でいくと,様々なタイプを念頭に置いて,役務提供契約についての共通ルールが可能なのか。余り可能ではないのではないかという意見がかなり強かったと思うんです。とすれば,甲案を引き算の世界では多分採れないだろうと思います。   中井委員のおっしゃったように,対象をうんと限定して,共通ルールが立てられるものに絞った上で立てるというのは,これはあり得なくはないだろうけれども,それから落ちる役務提供契約をどうするのかという話は相変わらず残るわけです。   乙案の場合は,既存の雇用,請負,委任,寄託も加えた上で,共通ルールを何か作ろうという,更にハードルの高い規定を考えようということなので,こちらの方がもっと難しいのではないかと思います。報酬について,果たして何か共通ルールができるのか,できないのかですね。検討してみて,チャレンジする意味はあるかもしれないですけれども,なかなか難しいかと思います。   その関係で,6の将来効を一般化するという部分も,正に補足説明に書いてあるように,様々なタイプの役務提供契約があるということを前提にすれば,当然に遡及効はないんだというルールは恐らく不適切ということになるでしょう。継続的な契約というふうに大きくくくれるものであれば,遡及効はありませんという説明は大変しやすいことになると思いますが,そうでないものも含めて一律のルールというのは,ちょっと難しいのではないかと思います。 ○山本(和)幹事 私自身は,この5の提案については,これでよいのではないかと思っておりますけれども,先ほど中井委員から,全て破産法53条で規律するというようなお考えもあるということで,それはそれで私自身は一つの政策判断だろうと思いますけれども,その場合には恐らく,請負についても,雇用についても,委任についても,そういうような規律になっていくのかなと考えております。それらの規律がこういう形で規定している基本的な根拠は,やはりその義務が先履行になっているということが大きいのだろうと思っておりますので,そこ,統一的な規律になっていくというのは一つの考え方かなと思いますけれども,ただ,いずれにしましても,繰り返しではありますけれども,この部分については,やはりかなり倒産法に固有の問題であるということがありますので,その検討の仕方については引き続きお考えを頂ればと思います。 ○内田委員 先ほどの山野目幹事の御発言に対してなのですが,正確には前回の御発言を今一度きちんと確認した上で発言すべきかもしれませんけれども,私が理解したところでは二つ,非常に重要な御指摘をされたように思います。   一つは,役務提供契約という概念そのものが言わば同床異夢で,その典型的な事例としてどういうものを想定するかについて,人によってかなり違いがある。同じ言葉で語りながら違った事例を想定して規定を作っていくのは危険なことであるという,その点について警鐘を鳴らされたと思います。   もう一つが,準委任は現在は委任の規定をそのまま準用するという内容ですが,それを,一切手を付けずにそのまま残せとおっしゃったわけではなくて,整備をし発展をさせる余地を更に検討せよということをおっしゃったと思います。準委任は今,任意解除権が委任と同じように与えられることになりますが,同床異夢とはいえ,想定されている役務提供契約の中には,この任意解除権が適切でない場合がかなりあります。それについて,何らかの手当を準委任の規定を充実させていく中でしていくというのはもちろんあり得る方策だと思います。ただ,そうなると,それを準委任と呼ぶのがよいのかどうかという問題も出てきて,名称の問題はなお残るのかなという気はいたしますけれども,今のような理解で,山野目先生の問題意識としては間違っていないと考えてよろしいでしょうか。 ○山野目幹事 今,内田委員が,準委任の契約を手掛かりとして,更にいろいろな発展を考えていくということはあり得るし,先ほどの意見はどうなのかということをおっしゃっていただいた点は,全くそのとおりであると申し上げさせていただきたいと考えます。   そのように申し上げていくということになりますと,これは一つの議論の進め方の可能性としては,呼び方ないし概念の使い方の問題に収れんされてくる部分があるのかもしれません。私,先ほど,役務提供契約の概念についてのここまでの議論の仕方に問題があったし,このまま規律整備をされることには問題であると申し上げましたが,それとともに,この「役務提供」というネーミングそのものも,いろいろ危惧する部分がありまして,恐らく労働といいますか働き手の現場では,この言葉の概念が演ずる役割で危惧する側面があり,かつ民法にかなりのウエートを持って大仰に入った場合には,今まで雇用ないし雇用類似のときに,契約書なんかにいろいろ様々な工夫がされて,現場で様々な対処がなされてきたところのものは,使い手の側,使用する側が交渉力が強いと,これは役務提供だよ,とかというふうなレッテルを貼る仕方で濫用されていくような可能性があって,そのことによって,雇用ないしは労働契約に関する規律がネグレクトされる度合いというのは,今でも横たわっている問題ですけれども,その種の事柄に関わる弊害が助長される事実上のおそれも大きいと感じます。この言葉を避けて,今の656条の中にある,例えば事務の委託というような概念を更に,国民からも見て分かりやすいし,呼び方の面で弊害がないように工夫をしながら発展させていくということは大いにあり得るところでありまして,そのような工夫を伴わせたものであるのならば,7の論点の甲案で御提案いただいている方向というものはあり得るのであって,別の言い方をしますと,7の御提案の「役務提供」という言葉のところを亀甲括弧にしていただければ,私としては納得可能であるという部分もなきにしもあらずです。   そうした工夫を引き続き諦めないでしていく必要があるのではないかと感じまして,先ほど中井委員が,この甲案でいって,雇用ないし雇用類似のものを除くというのをおっしゃったことについては,除く,というのをこういう場で言うのは簡単ですけれども,現場に行ったら,その除かれるものであるということを裁判所に分かるように説明しなければいけないことになるものでありまして,例えば,いろいろな所で働いている音楽家だとかバンドマンだとか,それから,自宅でワープロとか速記の作業をしている人たちとか,あるいは株式会社なんかの取締役兼使用人であるとか,更には医師や弁護士などの裁量的な役務に従事する働き手であるとか,ああいう人たちの個々の状況を考えていったときに,雇用類似のものを除くと,何かただし書か括弧書きのように入れると,狙い通りに除かれるというふうに,うまくいくというふうにはちょっと私には感じられません。中井委員のお言葉の中に,純粋なサービスとして残したものは,ということがありましたが,純粋なサービスって一体何なんだろうかということも少し分からないところがあります。労働は商品ではない,という,この分野を研究するときに定着して受け容れられている原理原則があると思いますし,あの原理が何を意味するかについては,いろいろな議論があることであると思いますけれども,人が手を動かしてサービスを提供するということは,どこかには労働的な要素があるはずであって,ピュアなサービスという概念で規律を作ることができるかというのも少し危惧を感ずるところがあります。   どちらかというと,そちらの方向ではなくて,先ほど内田委員が御示唆になったような方向で,現行の準委任の概念の分かりにくさや,その規律内容の不適切さについての,所要の見直しをするという方向を考えていくということが考えられないだろうかといったところを感じているところでございます。 ○中田委員 5についてなんですけれども,私は,破産手続開始の場合についての規律をここで置くことはいいと思うんですが,ただ,その内容を,請負に近付けるのか,委任に近付けるのか,委任として,現在の653条のようなものにするのか,改めるのかと,ここは議論があると思います。   ただ,ここで申し上げたいのは,今,山本和彦幹事からもございましたけれども,破産手続が契約に与える影響については破産法の方で規定すべきであるという御意見,これは前回あるいは前々回も何人かの方から出まして,しかも,御意見を出された委員・幹事は,いずれも破産法に精通しておられる方でして,非常に重みのある御発言だと思いました。   ただ,民法から破産に関する規定を全部取り除いてしまうというのも何か行き過ぎのような感じがします。普通の人は,なかなか倒産法まで勉強しませんですし,法学部の学生でも,民法は勉強しますけれども,倒産法まで勉強するのは一部ですので,やはり民法の中で,破産の場合にどうなるのかという,破産法との懸け橋になるような規定があるということは,それはそれで意味があると思います。   民法の破産に関する規定を調べてみましたら,家族法も含めて20か条弱あります。むしろこれをグルーピングして,民法に置くかどうかを検討してはどうかと思いました。例えば,破産法に最も近いのは,双方未履行双務契約に関する破産法53条の特則のような規定でして,民法制定当初は賃貸借と雇用と請負についての規定があったわけですけれども,その後,賃貸借については削除されましたが,今回の役務提供契約についての御提案も,このグループに属しているんだと思います。このグループについて,破産法に送るのか,民法に残すのか,あるいは解除権のみ民法に規定するのかとか,いずれにしても統一的にした方がいいと思います。   他方で,それ以外の規定について,民法の中に「破産」という文字があるのは全部削ってしまうというのはちょっと乱暴な感じがいたしまして,やはり個別的に検討すべきではないかと思います。例えば代理権の消滅事由ですとか,それと関連すると思うんですが,委任の終了原因ですとか,あるいは組合員の脱退とかですね。こういった場合には,死亡やその他の終了原因とのバランスを考えるとか,あるいは一覧性という観点から,やはり破産に関する規律を民法の中に残した方がよいように思います。それ以外にも幾つかのグループに分類できると思いますので,民法と倒産法の規定の分配の基準といいますか,在り方というのを考えたらよいと思います。   これは,もうちょっと広く申しますと,履行請求権の規定と民事執行法の規定との関係にも影響するわけでして,倒産法や執行法に関する規定を一切民法に置かない,その議論は別のフォーラムですべきだというのは,やはりちょっと一面的であるような感じがいたします。私自身は,現在程度の規定は民法にあってよいと思いますし,まずはこの部会で検討するということでよろしいかと思います。 ○山本(和)幹事 今の中田委員の御発言に対して特に反対するものではないんですが,というか,この契約の,破産手続開始の契約に対する影響の部分について私が,私自身そういうような意見を持っておるのは,やはり,契約が破産手続開始にどのように影響を受けるかということについては,破産法53条を中心とした破産法においてまず一般的な規定が置かれていて,民法における請負とか雇用とか委任とかの規定というのは,その特則になっているというふうに一般的に理解されていると思われるので,そういう意味では,一般的規定と特則的規定が,民法がその特則的な規定になっているというところが非常に落ち着きの悪さがあるような感じがして,中田委員が言われるように,民法を見てみんな分かればそれはよいんですが,破産法53条も民法に持ってくるんであれば,それは民法で全て一覧的に分かることになると思うんですけれども,今のところ一般的な規定が破産法の方にあるもんですから,そうであるとすれば,特則も破産法の方に置いた方がよりむしろ分かりやすくなるんではないかというのが私の意見で,そして,ここでの議論も,破産法53条等との規律との関係というのを常に念頭に置かなければいけないということからすると,民法について議論するこの場で最終的な決定をするということはどうなのかなというような印象を持っているということを申し上げたということです。 ○中井委員 私も,中田委員がおっしゃることも山本和彦幹事がおっしゃることも,そのとおりだと理解しております。   私も事前に気になりまして確認をいたしましたけれども,契約関係が破産手続開始によってどのような影響を受けるかという問題については,倒産法の中で規律をしてよいのではないか。加えて,破産手続開始だけではなくて,民事再生,会社更生ではどのようになるのか,例えば先ほどの請負でも,それは破産のみであって,再建型倒産手続は適用がない。それに対して,中田委員がおっしゃったほかの類型,例えば,代理権の消滅事由とおっしゃいましたけれども,それ以外に,時効のところでは手続参加の152条や催告の153条,この辺りのものについては,破産手続,再生手続,更生手続がいずれも対象になっていますが,これらは民法に残すべきだろうと思いますし,親族・相続の関係でいうならば,後見人の欠格事由や遺言執行者の欠格事由などについても,これは民法の中に残すべきだと思っておりますので,それぞれ個々の規定を見て,それは今後判断していくべきだと思います。少なくとも,双方未履行の双務契約に関する規律に関しては,山本和彦幹事がおっしゃられた意見で整理していくのがよろしいのではないかと思っております。 ○中田委員 双方未履行双務契約と民法の特則に当たる規定との関係ですけれども,先ほど申しましたけれども,賃貸借,雇用,請負というのは沿革的にも,どっちが先かというのは別にしまして,そういう種類のものですが,委任は必ずしも,元々はそうではなかったんではないかと思うんですね。ですから,破産と契約との関係については全て倒産法に送るというのも,これはまたちょっと概括的なくくりのような感じがいたしますので,もう少し詰めて検討した方がよいのではないかということです。 ○山川幹事 すみません,先ほどの山野目幹事の御発言にちょっと戻ってしまうんですが,御発想に共感するところが多々あります。   ただ,雇用類似のものを除くということにつきましては,そういう可能性も残してはいかがかと思います。もし準委任の規定,あるいはそれに代わる括弧付き役務提供契約の精緻化が図れるとしたら,それに越したことはないんですけれども,この間の資料でも,信頼関係ということで区別するのも何か難しそうですし,また,第三者との間でという要件で区別するのも難しそうですので,それ以外のよりぴったりくるものがあれば,それに越したことはないと思いますけれども,先ほど中井委員のお話との関連で,私自身の意見としては,雇用に準ずるものを除くということは不可能というよりは,むしろそれも考慮に値すると申し上げたつもりです。もし役務提供者の交渉力が弱い類型の取扱いに関して積極的に規定を置くことや準委任に代わる新しいものを定義することが難しければ,消極的な規定の設け方も考慮には値すると,そういう趣旨でした。 ○鎌田部会長 この部分も非常に多様な御意見を頂戴しましたので,これを踏まえた検討を続けさせていただきます。   次に,「第2 雇用」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 「1 報酬に関する規律(労務の履行が中途で終了した場合の報酬請求権)」は,労務の履行が中途で終了した場合の報酬請求権に関する規律の在り方を取り上げるものです。(1)は,労務を中途で履行することができなくなった場合における報酬請求権の範囲について,(2)は,使用者の義務違反によって労務の履行が不可能になった場合における報酬請求権の範囲について,規定を設けることをそれぞれ提案しています。なお,この論点につきましては,これまで取り扱ったほかの役務提供型の契約における報酬に関する規律との整合性に留意しつつ検討する必要があると考えられます。   「2 民法第626条の規定の要否」は,民法第626条を削除しないことを提案するものです。もっとも,同条を存置するとしても,例えば同条ただし書を削除するなど,所要の見直しをすることを検討する必要があるように考えられますので,その要否についても併せて御審議いただきたいと思います。   「3 期間の定めのない雇用の解約の申入れ」は,パブリックコメントに寄せられた御意見を踏まえて,新たに取り上げることとした論点です。民法第627条のうち,第2項と第3項については,特に労働基準法第20条との関係をめぐり,実際に適用されるルールが不明確であることや,そもそも内容の合理性に疑問があることなどが指摘されており,これらの問題を解消する観点から,民法第627条第2項及び第3項を削除すべきであるという考え方の当否を問うものです。   「4 有期労働契約における黙示の更新」の「(1)有期雇用契約における黙示の更新後の期間の定め」は,これまでの部会での御議論等を踏まえて,民法第629条第1項の「同一の条件」に期間の定めが含まれないことを条文上明記すべきであるとする考え方は採らないことを提案するものです。「(2)民法第629条第2項の規定の要否」では,民法第629条第2項を削除するという考え方の当否を取り上げています。   このうち,「1 報酬に関する規律(労務の履行が中途で終了した場合の報酬請求権)」については,具体的な規定の在り方等について分科会で補充的に検討していただくことが考えられますので,その当否についても併せて御審議いただければ幸いです。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について,一括して御意見をお伺いいたします。 ○安永委員 1の(1)では,雇用契約において労務を中途で終了した場合の報酬請求権について,履行割合に応じて請求することができるとする規定を設けることが提案をされておりますが,幾つか懸念があり,このような規定を設けることについては消極的に捉えております。    まず,請負,委任などでの項でも発言をしたとおり,労務供給契約を履行割合型と成果完成型に区別すること,それ自体が困難であると考えております。そして,提案のように,請負,委任及び従来の典型契約以外の役務提供型契約について,履行割合型の場合と成果完成型の場合の規定を設け,雇用については履行割合型の規定のみを設けた場合,実務において,雇用契約は原則として履行割合型であるとの解釈を招き,成果完成型の報酬であれば雇用ではないと解され,労働関係法規が適用される労働者の範囲を減縮する方向に導かれる危険性が高くなるのではないかという懸念もあります。労務が中途で履行できなかった場合の報酬請求権については,従来どおり,契約の合理的解釈等により,紛争解決を図るべきと考えます。   部会資料1の(2)では,従来の536条2項の「帰責事由」について,「使用者の義務違反」としています。「帰責事由」の要件については,請負とか委任などの議論でも申し上げましたが,①「故意,過失及び信義則上これと同視することができる事由」と解する見解がある一方で,これよりも広く解釈し,②「債権者の支配領域で生じた事由」とする見解もあり,判例の見解は必ずしも明らかではないという状況にあります。   この点,今回の提案では,「故意,過失及び信義則上これと同視することができる事由」とする説のみを前提としており,債務者である労働者の救済範囲についての解釈の幅を従来よりも狭くするものと考えられます。もしどうしても使用者の「義務違反」を報酬請求権の発生要件とするのなら,役務提供契約の箇所でも発言したように,最低限,使用者の義務の中に「受領義務」と「協力義務」が含まれることが明示され,「受領が使用者の義務とはいえない理由の存在についての主張立証責任は使用者が負うこと」が明確な規定であることが必要だと考えます。   また,報酬相当額の請求権の法的性質について,補足説明の24ページの(3)に,「報酬請求権ではなく債務不履行に基づく損害賠償請求権と捉えるべき」との記載がありますが,これには反対いたします。既に発言してきたように,債務不履行に基づく損害賠償請求権とすると,「労働基準法の規定の適用を受けられなくなるおそれ」がありますし,加えて,年金受給権にも影響を及ぼすこともあり得ます。これでは現状から大きく後退することになります。   次に,536条2項の文言を見直す必要性などについて申し上げます。   これまでの裁判例を見ると,536条2項の条文にある「債権者の責に帰すべき事由」という要件及び「履行不能」の概念については,解雇,休業,使用者の受領拒否の場合など,賃金請求権の有無について判断基準が長きにわたり蓄積をされ,この条文の下で問題なく実務が機能しております。また,これまでの部会などの審議においても,どのような実務や裁判例で536条2項の条文が機能してきたか,議論があったかと思いますが,従来積み上げられてきた判例法理等を不安定化せずに,536条2項の要件を修正することや,実質的にその内容を維持した上で,536条2項に代わる文言を定律することはかなり困難なように思われます。   また,既に部会で審議をされている,解除や債務不履行に基づく損害賠償のところの「帰責事由」の議論については,「契約の拘束力から解放するために,どのような要件を設定したらよいか」であるとか,「契約の趣旨に照らし,契約上引き受けたリスクが反映されているか」という点から,「帰責事由」という要件の見直しの必要性があることは認識しているところです。しかし,536条2項については,この部会の議論を伺っていても,「帰責事由」という要件の見直しの必要性や根拠がいまだによく分からないところです。   一方,労働のユーザーの立場からは,具体的な労働事件の解決の上での妥当性や必要性という点において,536条2項を見直す理由は見当たりません。536条2項は,労働に関係する分野で使われている条文であり,労働にとっては非常に重要な規定です。この536条2項を契約一般に適用される条項から除外をして役務提供の箇所に移すことは反対をしませんが,536条2項の文言については,法的安定性と必要性の両面から,「債権者の責めに帰すべき事由」,「反対給付を受け取る権利を失わない」などの文言を残すべきと考えます。   536条2項については,現在この部会では,「その実質的な規律内容を維持する」という方向性で審議が進んでいると思います。しかし,新たな文言でこれを維持することが無理なのであれば,536条2項の労働分野での重要性と影響の大きさに鑑み,これまでの文言を残す形で内容を維持していただきたいと考えます。   次に,2の「民法第626条の規定の要否」です。部会資料の,期間の定めのある雇用の解除に関する民法第626条について,「削除しない」とする提案に賛成し,その上で,若干の修正を提案させていただきます。   まず,626条第1項,本文の規定については,労基法14条第1項による有期労働契約の上限が適用されない「一定の事業の完了に必要な期間を定める雇用契約」や,「労働基準法の適用されない家事使用人の雇用契約」について,長期間の契約の拘束から保護するという意義があるため,削除すべきではないと考えます。その上で,1項本文の「又は雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきとき」の部分は,あえてそのような契約が有効であることを前提とした規定を残しておく妥当性はないと考えられるため,削除すべきと考えます。併せて,1項ただし書についても,契約解除が可能となる期間について,商工業の見習い目的とする雇用につき特例を設けておりますが,このような規定に合理的理由はないと考えられるため,削除すべきと考えます。   そして,626条2項については,期間の定めのない雇用における解約の予告期間については,労基法20条の適用される場合の使用者からの解雇を除き,民法627条第1項の定める2週間に統一すべきであり,「3か月前」を「2週間前」に修正すべきと考えます。   整理しますと,民法626条については,第1項本文を「雇用期間が5年を超えるときは当事者の一方は5年経過した後,いつでも契約の解除をすることができる」に修正し,第1項ただし書は削除し,第2項は,「3か月前」ではなく「2週間前」とすべきと考えます。   3の「期間の定めのない雇用の解約の申入れ」について申し上げます。民法627条第2項及び第3項を削除するという部会資料の提案に賛成いたします。   現行法では,期間の定めのない雇用について,労働基準法の適用される場合,使用者は30日前の予告又は予告手当の支払いで済むところ,労働者については特別規定が存在しないため,数箇月単位で報酬を定める場合,あるいは年俸制のように民法第627条第2項あるいは第3項が適用される場合は,30日以上あるいは3か月前の予告が必要となり,使用者よりも予告期間が長いという不合理な結果となっていました。使用者による解雇の予告期間である30日となっていることに比べ,労働者がそれよりも長い期間使用者に拘束されるとすることは正当性を欠き,不合理なものであると考えます。そこで,部会資料の民法627条2項と3項を削除する提案に積極的に賛成をいたします。   その上で,627条1項について申し上げます。   まず,本規定は,強行性のある規定,あるいはそれに類似した効果を持つことが必要であると考えます。そして,本条の「いつでも」という文言については,解約申入れの時期を問わないということをすることを明確にするためというよりは,むしろ労働者の解除権を保障するために必須のものとして維持すべきだと考えます。この労働者の解除権保障の必要性については,今年4月26日放送のNHK「クローズアップ現代」でも,「やめさせてくれない~急増する退職トラブル~」という題で取り上げられたところです。辞めたら損害賠償すると言って足止めするなど,労働者を辞めさせず拘束する動きは,正に現在社会問題化しております。   また,もし可能であれば,627条1項については,更に修正して,解雇と退職は分けて規定することが望ましいと考えます。具体的には,解雇については労働契約法16条を念頭に「いつでも」ということを削除し,反対に退職については,先に述べた理由により,「いつでも」を必須のものとして残す規定とすることが考えられます。その上で,使用者は全て30日前の予告,労働者は2週間前の予告とすることができるならば,労働基準法の適用されない家事使用人等にも適用されるという点で,より望ましい規定になると考えます。   続いて,4の「有期労働契約における黙示の更新」の(1)について申し上げます。   今回の部会資料では,民法629条1項を維持し,無期化説を条文上明記しない方向での提案がされています。まず,この論点については,学説・判例が必ずしも一致せず,重要な労働政策上の問題であることから,労働政策審議会において公労使の三者構成の場で論議されることが本来ふさわしいと考えております。そして,第1ステージの第17回部会においては,並行して,労政審の労働条件分科会で有期労働契約法制について審議が行われていた最中であったこともあり,私たちの立場から,「この論点は公労使三者構成の労政審に任せていただきたい」という発言をさせていただいたところです。   私たちとしては,法制審から労政審にボールが投げられ,それを受け止めた労政審の有期労働契約法の議論の場で629条1項の論議について決着をつくことを期待しておりました。しかし,本論点について審議がなされた2011年5月31日の第87回労働条件分科会において,厚生労働省からは,「公労使で議論する状況にはまだ整理できていない」とされ,結局,この論点は結論を見ず,先送りとなったところです。   雇用のルールは,労政審で本来審議すべきと言う論者や,中長期的には労働契約法に統合すべきものであるとする論者からも,労働法で手当てするには長期間掛かると想定されることから,「民法の規定が労働者の重要な権利となっている場合などは,法制審で審議してほしい」という意見も聞かれます。労政審で本論点が「公労使で議論できる状況に整理できていない」とされた今,法制審で改めて629条1項について議論をしてもよいのではないか,そうすべきなのではないか,と思われるところです。629条1項については,「同一の条件」に期間の定めが含まれていないことを条文上明記することを含め,今一度,法制審で審議することも検討していただきたいと考えます。 ○佐成委員 それでは,経済界の意見を,一通りざっと説明いたします。   1の(1)(2)ともに,経済界は反対であるということでございます。   (1)につきましては,既にした労務の提供に対して報酬を請求できるというのは当然に認められており,規定を設ける必要性に乏しいということです。むしろ賞与に関して,実務上,支給日在籍要件を設けることが判例で認められているにもかかわらず,このような規定を入れると,そのような既存の実務を害されるおそれがあるといったところが危惧されます。   それから,(2)につきましても,やはり規定を設けることには反対であるということです。今,安永委員もおっしゃっていましたけれども,現行法の536条2項の解釈によって内容的にほぼ実現されているということに加えて,判例・学説で否定されている就労請求権の問題について,文言を変えて「使用者の義務違反」とした場合に就労請求権を認めるように読まれかねないといった危惧も示されておりまして,経済界では強い反対や抵抗感があるということです。   それから,2でございますが,2については,結論的には御提案どおり,削除しないということでよろしいのではないかということです。ただ,規定自体の現代化を所要の範囲でやることについては,別に問題はないだろうということでございます。   それから,3でございますが,3については,期間の定めのない雇用の解約,627条の2項,3項に関しては,削除する提案に賛成であるということでございます。   それから,4の(1)については,ここで議論をしてもよいというような安永委員の御意見がございましたけれども,経済界といいますか経営側としては,現行法を維持して,引き続き判例の解釈に委ねるのでよいのではないかという意見でございます。   それから,(2)ですが,(2)につきましては削除をするという提案に賛成であるということでございます。 ○岡関係官 2点申し上げます。   まず,536条2項のところですけれども,先ほど安永委員からも意見がございましたけれども,現在は賃金請求権ということで,これまでやってきておるということもありますし,また,佐成委員から意見がございましたが使用者の協力義務ということがよいのかということもございます。安永委員は先ほど,それを明記するということもおっしゃったわけですけれども,これまで協力義務という議論というのは余り,雇用,労働の分野でなされていないのではないかなと思われますので,にわかに明記するのはいかがなものかと。委任ですとかほかの部分で,そういう義務違反というのを,過失責任主義を排除する中で入れていくというのは分かるんですけれども,先ほど役務提供のところの編成方式はどうするかというところで,松本委員から,報酬のところも必ずしも統一できるかどうかという話もありましたが,ここは現状維持の方がよいのではないかと。むしろ,先ほど別の論点のところでありましたが,今後,雇用の部分を労働契約法との関係でどうしていくかというのを,ちょっと時期は分かりませんけれども,労政審の方で議論することもあろうかと思います。そういうときにこの部分というのも,今にわかに結論を出すのではなくて,ほかの部分と併せて議論することもあり得るのではないかなと思います。そういう意味で,現在の責めに帰すべき事由という文言を,少なくとも雇用の部分は残していただきたいなと思っております。   それから,4の「黙示の更新」のところでございます。先ほど安永委員から,労政審で議論するべきということで一巡目の議論のときにも意見をされて,ただ,実際には,労政審で有期法制の議論をしているときに投げ掛けたけれども,その時点で結論が出なかったというお話がありました。これについては,先ほど御意見の中にもありましたけれども,無期化説を採る方もいらっしゃれば,労働法の高名な方も同一期間説を採る方もいますので,これもにわかに結論が出ないので,時期はいつかというのは何とも分かりませんし,今ここで申し上げられませんけれども,時間をかけて議論していくべき話ではないかなというのが意見でございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○山川幹事 1の報酬請求に関しても,今回の御提案は,労務受領への協力義務といったことを介して報酬請求権を根拠付けるという御提案になっておりますけれども,これまでもお話がありましたように,協力義務ということは必ずしも労働法の判例・学説で一般的なものではございません。損害賠償責任のみを根拠付ける一方で履行強制はできないという見解はございますけれども,例えば,その損害賠償責任の法的性質がもし不法行為責任であるとしますと,その要件には過失が入ってくるので,結局,過失という文言を残すのと余り変わらないような感じもいたしますし,債務不履行責任であるとしますと,履行請求がなぜできないのかという問題があると同時に,そこまでは認めないという説の方が多数であると思います。現在の通説的見解によりましても,不法行為責任ですら,強行法規とか信義則に反する場合に,労務受領拒絶による不法行為責任が生じるという立場が伝統的な見解ではないかと思われます。例えば,解雇無効の場合が従来の536条2項が使われる代表的な場面ですが,もし協力義務を一般的に肯定すると,無効な解雇がなされた場合は一般的に協力義務違反になるのかという問題もあろうかと思われます。いずれにしても,この問題は労働契約理論上の基本的な争点になっておりますので,先ほど来御議論がありますように,決めるとしたら労政審で決めるべき問題であろうと考えております。   ただ,補足説明の25ページにある点ですけれども,536条2項の文言は,反対給付を受ける権利を失わないということになっており,役務提供契約一般もそうかと思いますが,雇用の場合は,役務提供ないし労働義務を履行して初めて報酬請求権が発生すると考えられるので,「発生する」という文言に変えることは望ましいと思います。ただ,その性格はやはり従来の一般的な理解ですと賃金請求権で,損害賠償請求ではないですから,そのような取扱いは維持すべきであろうと思われます。   あとは,25ページの(4),補足説明の部分ですが,これは,私が発言したところを取り上げていただいて大変有り難いことなのですが,やや舌足らずであった部分が私の発言にあったと思いますので,今回の机上配布資料で若干補足をさせていただきたいと思います。   この補足説明では,使用者が労働者の労務の受領をあらかじめ明確に拒絶した場合には,原則として民法536条2項の帰責事由の立証がされたものと扱われていると書かれています。その趣旨についてですが,この図にありますように,飽くまで要件は,現行法ですと,請求原因の4と書いた使用者の帰責事由です。帰責事由は規範的要件で,その評価を根拠付ける事実として,例えば,労働者の適法な履行の提供があって使用者が受領を拒絶した場合,あるいは,使用者があらかじめ明確に受領を拒絶した場合が挙げられます。このような評価根拠事実が主張立証されれば,帰責事由が原則としてあったものとなる。これに対し,帰責事由があるという評価を阻害する,いわゆる評価障害事実として,受領拒絶の合理的理由等を使用者側が主張立証する。このような構造になっていると思われます。下の方に参考裁判例を挙げましたけれども,そのような趣旨を一般論として示しております。   ということで,最終的には,規範的要件としての帰責事由が問題になるという趣旨でした。以上のような評価根拠事実や障害事実の主張立証の構造が維持されるのが望ましいと思っております。こうした構造を,実際の法的ルールの構造をどう表現するかが問題でありまして,責めに帰すべき事由という現行法によるか,あるいは義務違反という構成にするか。私としては,例えばですが,「使用者に起因する合理的とはいえない事由」としてはどうかと思っております。現行法の文言が維持されるということでも差し支えないとは思っておりますけれども,できるだけこうした総合判断がなされるということが明確になる方がよろしいかと思います。   もう一つは,この補足説明でも挙げられていたノース・ウエスト航空事件の最高裁判決は,536条2項の「責めに帰すべき事由」について,労働組合員の一部がストライキを行った場合に,ストライキに参加しなかった組合員が賃金請求等をしたという事案において,536条2項の帰責事由は認められないとしたわけですが,例外的に帰責事由が認められるとした場合として,使用者が不当労働行為意思その他不当な目的を持って殊更にストライキを行わしめたような場合を,帰責事由が認められる例外的な場合として挙げております。つまり,この判決は,労務受領の拒絶に必ずしも限られず,集団的な労使関係法上の原因についても,6条2項を使うということを明らかにした判例でありまして,この最高裁判例からも,総合判断的な枠組みを使うことが,望ましいのではないかと考えております。   報酬に関わる規律については以上で,あとは,ちょっと長くなりますけれども,626条の規定については,この事務当局の案に賛成いたします。しかも,28ページにあるように,ただし書のみを削除して,それからいわゆる予告期間のようなものについて所要の見直しも併せて行うということも結構ではないかと思われます。   627条2項,3項の削除についても基本的に賛成いたします。2項については,削除する,しない,どちらもあり得るかと思いますが,3項については特に,安永委員も言われましたように,辞職の自由への制約が大きいと思います。   ただ,それに代えてどうするかについて,安永委員からは,労基法20条に合わせて30日というふうに,予告期間といいますか,効力が発生するまでの期間を延長するというお考えが述べられましたが,これもやはり私としては労政審の問題ではなかろうかと思っております。   それから,629条についても事務当局の案に賛成です。先ほど岡関係官からもお話がありましたけれども,労政審で取り扱うべき事柄であると考えます。今回の労働契約法改正における議論の中では最終的には落とされてはいるんですけれども,いろいろ労使の議論の中で,ほかの点について議論が非常に対立して,それどころではなかったというのが実際のところで,ではいつ取り上げるかを具体的にいうのはなかなか難しいかと思いますが,恐らく,私個人の見解では,労政審としても,時効の問題等もありますので,この民法の改正に応じて何らかの対応をせざるを得ないと思いますので,そのときに改めて検討するのかなと思っております。 ○岡委員 簡単に,弁護士会の意見を御紹介申し上げます。労政審ではなく民法でやるべきだという意見までは含まれておりません。単純に,提案された内容に対しての意見でございます。   1の(1)については賛成でございます。ただ,これは,今までの議論からすると,債権者側に生じた事由があろうがなかろうが,労働者に債務不履行があろうがなかろうが,役務が可分であって,債権者にも必ず利益があるので,全ての場合において履行割合の報酬を認めるという規定だと思いますので,説明の際には,そういうかなり特殊な場合の決め付けのルールであるというのを書いた方が分かりやすいのではないかという意見がございました。   (2)については,「義務違反」という言葉が大変評判悪い状況でございます。もう今まで出た意見とほぼ同様でございますが,労働のスペシャリストでも,違法な解雇による給料請求権の発生について,義務違反に当たるので請求できるんだという補足説明について,「えっ,違法な解雇による妨害が義務違反になるんですか」というような感覚を持つぐらいですので,やはり「義務違反」という言葉が,今までの蓄積された判例ルールと大分ずれているのではないかということが反対の基礎にあるんだろうと思います。   2についても,削除しないことに賛成でございます。ただ,1項本文の5年については,3年でよいのではないかと,3年にしてもよいのではないかという説が一部ございました。   3の627条2項,3項の削除についても,賛成がほとんどでした。ただ,今までも出ましたように,1項について,労働者側からも使用者側からも,今の2週間ではなく,30日に延ばしてよいのではないかという意見も一部でございました。   4について,(1)に,採らないという説に賛成でございます。   (2)の629条2項の削除については,こんなのないんだから削除でよいのではないかというのが多数説でございましたけれども,一部,調べてみたところ,宝石販売員だとか保険の外交員さんは,現金を担保に取られていることがあるようだと。そういう事例があるんだったら削除までしなくてもよいと,そういう意見も一部でございました。 ○道垣内幹事 1の(2)に関連いたしまして,「義務違反」という言葉では総合考慮というものがうまく表せないだろうという御意見とか,請求できるものが報酬であるということをはっきりさせた方がよいだろうという御意見などは,非常に説得的なお話として伺うことができました。   また,先ほども山川幹事が,総合考慮であるということを丁寧に御説明くださったわけですけれども,山川幹事が正におっしゃったノース・ウエスト航空事件が,民法536条2項と労基法26条が同じ文言,すなわち「責めに帰すべき事由」という文言を用いながら,両者を広狭のある概念と解しているわけですが,その際,より総合考慮的なのが労基法26条で,民法563条2項は単純に過失責任主義のことであるとは山川幹事がおっしゃったように単純には言えず,また,同じ文言を用いながら,意味が違うのだというのもおかしいのではないかということが,補足説明の23ページから24ページにも書いてあるわけです。   これを踏まえたときに,「責めに帰すべき事由」という文言をそのまま残そうという御意見が私にはどうしても理解できないわけでありまして,皆さんが御発言になったように,様々な状況を考慮して決めるべき概念であるということを明確化するためには,「責めに帰すべき事由」という文言から離れる必要があるのではないか。そのために,山川幹事が「使用者に起因する合理的とはいえない事由」という文言を提案されたのは,非常に建設的であるというふうに思うわけです。帰責事由というものが,いわゆる主観的な意味における過失責任主義というものと密接に結び付いているというのは,それはノース・ウエスト航空事件を含めた現在の判例でも労働法学の考え方でもないだろうと思います。文言を前のまま維持するということには強く反対します。 ○鎌田部会長 1の(1)(2)については大分御意見頂戴しましたが,ほかの委任,役務提供などとの調整ということも必要でありますので,事務当局の御提案のように,分科会において補充的に検討していただくということにしたいと思いますが,よろしいでしょうか。 ○山本(敬)幹事 そこで検討していただくために,もう少しだけ,山川幹事がお示しになられた資料の意味と,そこから何が引き出せるかという点について確認をさせていただければと思います。  山川幹事の資料は,非常に分かりやすく,何がどう基礎付けられるべき事実かということを挙げて下さっているのですが,これを見ますと,請求原因のところで,労働契約を締結して,賃金に関する定めがあるが,その労働する義務を履行できない。その上で,現行法でいうと使用者の責めに帰すべき事由に当たるものがあって,それと履行不能の間に因果関係があることが示されれば,山川幹事及び従来の労働法学の理解によると,報酬請求権がこれで基礎付けられるということだと思います。ただ,そのときの使用者の責めに帰すべき事由を実際に基礎付けるためには,下の参考裁判例に挙げられているのがその例だと思いますけれども,労働者が適法に履行の提供をしたが,使用者が受領を拒絶した,あるいは,使用者があらかじめ明確な受領拒絶をしたということが示されれば,基本的にはそれで足りる。それに対して,抗弁として,使用者側で,その受領を拒絶したことについて合理的な理由などの事由があることが基礎付けられれば,この報酬請求を退けることができる。  このように,非常に明確に整理していただいているのですが,これをそのままの形で条文化すると,このケースはうまくいくけれども,ほかにはうまくいかないケースが残るのか,あるいは,そのようなケースについても工夫すればカバーできるような条文ができるのかという点について,お伺いしたいと思います。   といいますのは,先ほどから様々な御意見を伺っていましても,536条2項の規定そのものは少し置くとして,少なくともこの雇用の領域で問題になっている536条2項の使われ方は,かなり特殊なルールとして発展してきているように思います。「責めに帰すべき事由」に関しては,現在の415条の規定をどう修正するかということについて,これまで議論を重ねてきているわけですが,そこで規定の仕方を変えるとするならば,この536条2項も,同じ文言なのだから,同じような定め方にしないと整合性がとれない。そのように考えて,この「義務違反」という提案が出ているわけですが,言葉は「責めに帰すべき事由」だけれども,かなり特殊な考え方に基づいてその意味が変容しているとするならば,何も現行法が「責めに帰すべき事由」と定めているから,同じようにここでも例えば「義務違反」とする必然性も理由もないのかもしれない。そういうことが,これを見ていて,より一層分かってきたように思います。   仮にそうだとすると,前回のときにも出ていましたように,「責めに帰すべき事由」を包括的に置き換えるような文言の御提案もありますけれども,例えば,先ほど私がお尋ねしたような形での定式化はあり得るのかどうか。それをお伺いできれば,分科会での議論の参考にもなるのではないかと思った次第です。 ○山川幹事 ありがとうございます。基本的に,おっしゃられたとおりだと私としても考えます。   御質問の点ですけれども,特に他の役務提供契約,請負等についても536条2項を適用されていますので,そこまで含めるとどうなるかということは,まだ必ずしも詰めておりません。ここでは,取りあえず雇用については,先ほどの報酬請求権の発生というようなお話もあって,特に規定を設けるという事務当局の御提案に即しての話ですが,その場合でも,非常に事例は御指摘のように多様でありまして,例えば,ここの評価根拠事実として挙げたものだけで条文化するというのはちょっと難しいのではないか。それで,茫漠としているかもしれませんけれども,「帰責事由」とか「義務違反」に代えて私なりの提案をしているわけです。例えば,受領拒絶などの評価根拠事実とか障害事実レベルのものを条文化すると,先ほどのストライキに関わる現象ですとか,ちょっとこれだけでは足りないかなという懸念がなくはありません。今お答えできるのはそのくらいです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの御議論を踏まえ,あるいは今後更にまた補充的な御意見をお伺いしつつ,分科会で更なる検討をさせていただければと思います。   2につきましては,若干の修正の御提案も頂いたところであります。3についても同様でございますので,それらを踏まえた検討を続けさせていただきます。   4については,基本的に賛成の御意見もありましたが,労政審での審議を待つべきであるという御意見もあったところでございますので,それらを踏まえて,更に事務当局で整理をさせていただければと思います。   ここで休憩をとらせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 再開をいたします。   次に,「第3 寄託」のうち「1 要物性の見直し」から「3 受寄者の保管に関する注意義務」までについて御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 「1 要物性の見直し」の「(1)要物性の見直し(諾成契約化)」では,寄託は目的物を受け取ることを要しないで成立するものとして,民法第657条の規定を改めることを提案するものです。「(2)寄託物の受取前の当事者の法律関係」では,寄託を諾成契約として改めることに伴い,寄託物の受取前の当事者の法律関係について,規定を新たに設けることを提案しています。「(3)寄託物の受取前の当事者の一方についての破産手続の開始」は,受寄者が寄託物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときに,寄託契約がその効力を失う旨の規定を設けるという考え方の当否を問うものです。   「2 受寄者の自己執行義務」の「(1)再寄託の要件」では,再寄託が,寄託者の承諾を得たときのほか,寄託者の承諾がなくても一定の要件を充足することによっても認められるとして,民法第658条の規定を改めることを提案しています。その場合の具体的な規定の在り方については,復委任の要件との整合性に留意しつつ御議論を頂ればと思います。「(2)適法に再寄託がされた場合の法律関係」では,アで,再寄託がされた場合に受寄者が寄託者に対して負う責任の在り方について,民法第658条第2項を改めることを提案するとともに,イでは,民法第658条第2項のうち,同法第107条第2項を準用する部分を削除して,寄託者と再受寄者との間の直接請求権を認めないとする考え方の当否を取り上げています。   「3 受寄者の保管に関する注意義務」は,受寄者の保管に関する注意義務について,一覧性のある規定を設ける考え方の当否を問うものです。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について,一括して御意見をお伺いいたします。 ○佐成委員 2の「受寄者の自己執行義務」の(1)の「再寄託の要件」に関しては,関係する業界の方から乙案がよいのではないかという意見がございました。理由は,甲案を採用した場合には,受寄者が十分な保管能力を有しないにもかかわらず寄託を受けて,再寄託者に丸投げするというような行為が懸念され,不良業者によって寄託者の利益を損なうようなことになりかねないので,「やむを得ない事由がある場合には」再寄託できるとする乙案に賛成したいということでございます。 ○中井委員 要物性の問題について,弁護士会の意見は基本的に,このような考え方に賛成をした上で,(2)についても,それを前提に,目的物を受け取る前の解除について一定の規律を設ける,そういう基本法的な方向については賛成する意見が多いわけです。ただ,私の意見として,この部会資料でいいますと34ページの上から2段目のところで,本文の別案として御指摘があるわけですけれども,使用貸借についても消費貸借についても,今般,要物契約から諾成契約に変えるという提案がされている中で,一定慎重な契約を締結するという趣旨から,書面によって合意するということを要件としてはどうかと,別のところでもお話をさせていただいています。仮に書面がない場合でも,目的物が交付されたときには契約が成立する。そういう考え方が使用貸借でも,消費貸借でも採り得る。さらに,贈与は逆に,諾成契約になっていますけれども,慎重さを踏まえるならば,同じような規律の方向性もあり得る。とすれば,ここの寄託についても,無償の寄託については同じような考え方がとれるのではないか。そうすると,無償寄託の場合については,目的物交付前の解除の問題については,このような規律は一部要らなくなるという考え方もあり得る。一度横並びで,どこかで整理して議論をする機会を是非設けていただいた方がよいのではないかと思っております。   (2)で,目的物交付前の解除を認めた場合に,受寄者側に準備するための費用を掛けたりする場面があるかもしれない。それについては手当てをする必要があるのではないかという意見が出ました。これは有償寄託の場合に想定されるのだろうと思います。 ○山本(敬)幹事 1の(2)の「寄託物の受取前の当事者の法律関係」のところで,少し確認をさせていただければと思います。   アは寄託者,イが受寄者に関する規定で,ウもそうだと思いますが,イとウの関係は,このような書き方になっていますけれども,何もない場合はウによるというのが原則であって,イは,催告をしなくても解除できるのはこのような場合であることを示した規定ではないかと思いました。   その上で,証明責任がどうなっているかが少し分かりにくいのですが,無償寄託であれば,それで解除はできるけれども,書面による場合は解除できない,あるいは,既に受け取りが行われている場合は解除できないというような割り振りになっているのでしょうか。それとも,書面によらない無償寄託である場合であって初めて解除ができるという理解なのでしょうか。どちらかであるかが分かりにくかったもので,確認させていただければと思います。これは,他の無償契約の証明責任の整理とも整合性を持たせる必要があるところではないかと思いましたので,確認をさせていただければと考えた次第です。 ○松尾関係官 山本幹事が御指摘されたとおり,規定を設けた場合にはウが原則になるのだろうと思っております。なぜ今回の資料の整理をしたのかということを補足させていただきますと,アとイについては,規定を設けることについては異論がないと考えられたのですが,ウについては恐らく議論があり得ると思ったので,分かりにくくはなりますが,ウを最後にすることにした次第です。   その上で証明責任をどうするかというのは,資料作成段階で十分に検討していたわけではなく,これからよく考えてみたいと思うのですが,今お話を伺った限り,山本幹事がおっしゃったうちの後者のような考え方があり得るのではないかと思ったのですが,いかがでしょうか。 ○山本(敬)幹事 贈与の場合の撤回と整合性がとれるでしょうか。 ○鎌田部会長 あえて別にしようという意図は全くないのですね。書面によらない贈与と同じ原則をここでも採用したいということになるかと思います。 ○松尾関係官 鎌田部会長の御指摘のとおり,あえて別にしようという意図があるわけではないので,御指摘を踏まえて,更に検討させていただきたいと思います。 ○山本(敬)幹事 それが確認できるのであれば,それで結構です。やはり,書面があるかどうかということ自体が紛争になるケースが少なくないだろうと思いますので,そこまでよく考えておかないと,うまくいかなくなるのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 1の(3)につきましては,ほかの類似のところとほぼ同様な議論になってくるのかと思うんですけれども,何か御意見ございますでしょうか。 ○山本(和)幹事 補足説明に書かれてありますように,確かに消費貸借とは少し違ったところがあって,受寄者の破産の場合には,あるいはこの規定がなくても,失効させるという規定がなくても,管財人に通常の破産法53条の解除権が認められていて,契約から抜け出せるということにしておけば,寄託者の側は元々引き渡す義務はないわけですから,それで契約を解消できるということで,あるいはよいのかもしれないという気がしました。   それから,寄託者の方の破産の場合には,破産管財人がなお預けたいというような局面があり得るんだとすれば,あるいは請負型の規律といいますか,両方から解除権を認めるという,当然には失効させないという規定の仕方もあるいはあり得るというような気がしましたけれども,恐らくは,ここの補足説明に書かれているように,存続を認める必要性があるような局面というのは余り想定し難いような感じがしますので,一律失効させるという原案で特段問題はないような印象を受けました。 ○鎌田部会長 2についてはいかがでしょうか。第1パラグラフの方については余り異論はないのかと思いますが,第2パラグラフ…… ○道垣内幹事 これまでの議論を踏まえての文章ですので,これまでの議論を理解していないといけないのですが,私は,常に忘れてしまうものですから,大変申し訳ございません。   34ページ(2)のアとウの関係についてです。ウは,補足説明でも,債務不履行解除の一類型であるという形で説明されていたと思うのですが,そうなりますと,これは,寄託物の保管のために場所を空けて待っていたということになると,損害賠償が取れることになりそうです。しかるに,アの場合はどうなのでしょうか。仮に取れないとすると,どちらが先に解除と言ったかによって変わってくるということになってしまうような気がするのですが。 ○松尾関係官 結論としては,アの場合も損害があれば,損害相当額を請求することができるべきだとは思っています。その根拠としては,いろいろな考え方が成り立ち得るかも知れないですけれども,例えば,受寄者に費用が生じたと考えれば,665条で準用される委任の規定によって,費用の償還を請求するということはあり得るのではないかということは考えていました。 ○道垣内幹事 おっしゃることは非常によく分かります。しかし,債権法の改正が,全体としては,そのような解釈的な技術を使わなくても,一般に分かるように作ろうとされており,例えば損害賠償が請求できるときには,それをいちいち書くといったことがされているわけです。しかるに,ここについてだけ,これは委任の規定が準用されるからなんだというふうなことを言われますと,ここだけ急に難しい感じになってしまいます。私は,アでも損害賠償を取れてもよいという松尾関係官の理解に賛成しますが,そうであるならば,その旨を書いた方が分かりやすいのではないかと思います。 ○三上委員 消費寄託においても諾成契約の期間は,この部分が適用あるという前提になっておりますので,意見を申し上げるわけですが,諾成的寄託の,物を受け取る前に,特に寄託者の方が破産した場合には無効になるという規定ですが,例えば,0円で普通預金を契約した後で,銀行の知らないところで預金者に当たる人が破産の開始決定を受けていたというときに,知らないところで預金契約が無効になっていて,そこに誤った振込みがあったら,では,その振込みは預金として成立するのか否かとか,ややこしい結果になるのではないかという危惧をしておりまして,そういう意味で,先ほど山本和彦幹事がおっしゃっておられましたけれども,双方から解除を申し出ることができるという規定にしておいて,必ずしも一律に無効にする必要ではないのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 2の「受寄者の自己執行義務」で,まず,38ページの(1)の「再寄託の要件」ですが,結論としては,前からそうなのですけれども,甲案に当たるものが適当ではないかと思います。先ほど佐成委員から問題点の指摘がありましたけれども,委任と寄託でどう違うかということはあるかもしれませんが,寄託の場合は,人的な信頼というよりは,基本的には保管という役務を提供する能力があることに対する信頼を基礎にしているのではないかと思います。そうすると,やむを得ない場合に限るというのではなく,むしろ当該寄託の趣旨に照らして,必ずしもその受寄者でないといけないわけではない。当該契約で予定された保管という役務が提供できるのであれば,それを提供することができる者に保管させることが必ずしも妨げられるわけではない。そのような場合には,再寄託を認めてもよいのではないかと思います。   ただ,問題は,その文言といいますか,定式の仕方でして,この甲案にあるような「受寄者に自ら寄託事務の処理をすることを期待するのが相当でない」ということで,それがうまく表現できているかということが,やはり疑問が持たれるところではないかと思います。適当な案がまだ考えついているわけではないのですけれども,これを多少手直ししていうのであれば,「寄託の趣旨に照らして,当該受寄者に限って寄託事務の処理をさせることが相当でないときには,再寄託を認めてもよい」というような形で,うまく定式化できないかと思います。この点については,分科会で検討することになっていないかもしれませんが,なお検討をしてみる必要があるのではないかと思う次第です。   次に,(2)「適法に再寄託がされた場合の法律関係」のアの中の後段,「その上で」とある部分で,寄託者の指名に従って再受寄者を選任した場合については,現在の105条の第2項を参考にするような形で,規定を設けることができないかという提案があるところですが,これは,必ずしも適当ではないのではないかと思います。というのは,105条とこことでは前提が違っていると考えられるからです。   105条は,104条を受けた規定でして,原則として代理人は復代理人を選任できないけれども,本人が許諾した場合又はやむを得ない事由がある場合,つまりそのような特別な理由がある場合は,復代理人を選任することが許される。しかし,そのような特別な理由があるのだから,代理人の責任は復代理人の選任・監督に限るということが規定されています。105条の2項は,これを受けた規定で,代理人が例外的に選任・監督上の責任を負うとしても,本人が自ら復代理人を指名したときは,そのような選任・監督上の責任を課す理由はない。ただ,復代理人が不誠実・不適任であることを知っていたときはその限りでない。そういう規定だと思います。   それに対して,ここでは,前提になる原則が変わっていると考えられます。つまり,ここでは,原則として復代理人に当たる者を選んではいけないということは同じなのですけれども,例外的に選任してよい場合は,ここでは,履行補助者責任の一般原則に委ねることにしようということだと思います。これは,105条と違って,復代理人に当たる者の選任・監督上の責任に限らないとしているわけです。それなのに,なぜ本人の指名に従って復代理人に当たる者を選任した場合に,代理人に当たる者はそもそも責任を免れることになるのか。105条2項は,1項を受けて,選任・監督上の責任に限っているのを受けて,それを免れるとしているわけですが,ここでは,選任・監督上の責任に限るのではなく,履行補助者責任の一般原則に委ねるとしている場合に,なぜ本人が指名すれば,履行補助者責任の一般原則から離れて,そもそも免責されるのか。前提とここでのルールとが必ずしも一致していませんので,105条2項に当たる規定をそのままここへ持ってくるのは問題ではないかと思った次第です。 ○中井委員 2の「(1)再寄託の要件」について,弁護士会の意見は,乙案もありましたけれども,甲案の賛成が多かったです。これは,委任との関係で,信頼関係の程度から考えれば,乙案ほど限定するのが適当かというところから,甲案に賛成という意見です。   ただ,この甲案の文言については,期待することが相当でないという言い回しについては,甲案を賛成する者も,この表現ぶりには反対でして,先ほど山本敬三幹事からもお話がありましたけれども,例えば「寄託者の利益のために正当と認められる理由がある場合」とか,「契約の趣旨に照らして相当と認められる事由」とか,緩やかなんですけれども,そのような正当な理由ないし相当な理由が積極的に認められる場合に再寄託が許されてよいのではないか,そういう要件設定でよいという意見がございました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○道垣内幹事 中井委員の御発言に,文言の変更も含めて賛成なのですが,この自己執行義務というのは,信託法でよく言われることですが,いわゆる善管注意の問題とバッティングする場合があるわけです。つまり,例えば家の改築をする間に,家財をまとめてどこかの引っ越し業者の倉庫に預けるという場合,家財の中に大変な貴重な美術品があったというときに,その引っ越し業者,倉庫業者はどのようにすべきなのか。それをそのまま普通の家具と一緒にしていてよいのかというと,そうではなく,湿度管理を行ったり,盗難の危険を避けるために別個にしなければならないことがある。それが当然に期待されているときというのは,そうしなければならないというわけですが,そうなりますと,専門性が,そのような保管とか寄託に関しても係ってくるわけでして,それを前提にしたときには,厳格な自己執行義務というよりも,「契約の趣旨に照らして相当な」と中井委員はおっしゃったと思いますけれども,そのようなときに他者を利用できる,場合によってはしなければならないという方向にあるべきではないだろうかという気がいたします。 ○鎌田部会長 まだ3については御意見が出されておりませんけれども,御意見がありましたら,お願いします。 ○佐成委員 3については,①,②とあって,②で例外として,事業者に関する例外規定を設けるということですが,この点,そもそも例外規定を設ける必要性があるのかに疑問があり,ここまでの例外を認める実益も少ないので,不要ではないかという意見がございました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○岡委員 弁護士会の意見ですが,3については佐成さんとほぼ同じでございまして,①は賛成,②の本文は賛成だけれども,②の例外については反対であると。その反対の中に,「事業者」あるいは「経済事業の範囲内」という言葉に対する違和感の人もいますし,例外自体がないほうがよいと言う人もいますし,商人に限ったらよいのではないかという意見もあるようでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがですか。 ○山下委員 今の点ですが,今の商法では,商人がサービスで物を一時預かったような場合にも一応善管注意義務を負ってくださいということになっています。これは,岡委員や佐成委員のお考えですと,商法に規定があるような場合であればそれなりに合理性があるけれども,民法にこういう内容の規定を置くというのが何となくしっくりこないと,そんな感じなんでしょうか。 ○佐成委員 そうです。 ○山下委員 規定自体が必ずしも不合理なものではないということですか。 ○佐成委員 不合理ではないです。 ○山下委員 商法でも,そのこと自体,おかしいルールだなとは言ってこなかったのですが,この問題も例によってまた,民法に置くか,商法に置くかの問題かと思います。 ○鎌田部会長 商法に規定がそのままある分には,それはそれでいいということですか。 ○佐成委員 ええ,特段,今のところは。 ○山下委員 岡委員のお話で,商人ならばというのはあったのですが,協同組合のようなものであれば商人とそれほど違わないでしょうということになれば,ここで言う「経済事業」のような感覚になってくるんですけどね。 ○鎌田部会長 ほかの点はいかがでしょうか。事務当局として,特に聞いておきたいこと,ございますか。 ○松尾関係官 2の(2)のイについて,寄託者と再受寄者との間に直接請求権を認めるかどうかという点については,これまで意見が分かれていたように思いますので,もし何か御意見があれば,伺えると大変有り難いと思っております。 ○山本(敬)幹事 何もなければ意見がなかったということになりそうですが,部会資料の43ページに,第18回会議で疑問を呈する意見があったということを非常に的確にまとめておられて,付け加えることはありませんので,この意見を変わらず維持しているということを申し上げておきたいと思います。 ○鎌田委員長 ほかに,関連する御意見ございますでしょうか。   それでは,恐縮ですけれども,先に進ませていただきます。「4 寄託物に関する第三者の権利」から「8 寄託物の譲渡と間接占有の移転」までについて御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 「4 寄託物に関する第三者の権利」の「(1)寄託物に関する第三者の権利主張と受寄者の義務と権限」では,寄託物について第三者が権利主張をしてきた場合に,受寄者が返還義務を負う相手方に関する規定と,その場合に受寄者が有する権限に関する規定を設けることの当否を取り上げています。「(2)寄託物に関する第三者の権利主張と受寄者の通知義務」は,賃貸借に関する民法615条を参照し,民法第660条の例外として,寄託者が訴えの提起又は差押え,仮差押え若しくは仮処分の事実を知っていた場合には,受寄者が通知義務を負わない旨の規定を設けることを提案しています。   「5 寄託者の損害賠償責任(民法第661条)」では,(1)で,「寄託者が過失なくその性質若しくは瑕疵を知らなかったとき」であっても,寄託物の性質又は瑕疵によって生じた損害を受寄者に賠償する責任を負うものとして,民法第661条を改めるという考え方の当否を取り上げています。また,原則として(1)の考え方を採る場合であっても,例外的に現在の民法第661条の規律を維持すべき場合があるとの複数の考え方が示されており,これを(2)で取り上げています。   「6 報酬に関する規律」は,寄託における報酬に関する規律については,委任における報酬に関する規律に従うことを提案するものです。実質的な規律内容については,補足説明を御参照いただきたいのですが,これと併せて,具体的な規定の在り方として,準用という方式を採る民法第665条を維持することの当否についても御意見を頂きたいと思います。   「7 寄託物の損傷又は一部滅失の場合における寄託者の損害賠償請求権の短期期間制限」は,返還された寄託物に損傷又は一部滅失があった場合の受寄者の責任に関する期間制限の在り方について,賃借人の用法違反を理由とする賃貸人の損害賠償請求権の期間制限に関する規律と同内容の規定を新たに設ける考え方の当否を問うものです。具体的な規定の在り方については,賃貸借における検討結果によって決せられることになります。   「8 寄託物の譲渡と間接占有の移転」では,寄託物の譲渡に伴う間接占有の移転に関するこれまでの判例の考え方を踏まえて,寄託者の契約上の地位の移転には,寄託者から受寄者に対する通知と受寄者の承諾が必要である旨の規定を設けるという考え方の当否を(1)で取り上げています。また,これに関連して,寄託者が受寄者によって行う寄託物の占有を第三者に移転するには,寄託者の地位の移転とともに行うことを要する旨の規定を設ける考え方が示されていましたが,(2)では,この考え方を採らないことを提案しています。   このうち,「6 報酬に関する規律」については,具体的な規定の在り方等について分科会で補充的に検討していただくことが考えられますので,その可否についても併せて御審議いただければ幸いです。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。順に御意見を伺っていった方が結果的に整理しやすいようにも思いますので,まず,4の「寄託物に関する第三者の権利」についてお伺いいたします。 ○山本(和)幹事 質問というか確認なんですが,4の(1)のアで「第三者」と書かれているんですが,この第三者には,寄託者の返還請求権を差し押さえた差押債権者とか,寄託者の破産の場合の破産管財人等は含まれないと理解してよろしいでしょうか。 ○松尾関係官 基本的には,寄託者以外は全て第三者に含まれると考えていました。 ○山本(和)幹事 そうですか。この中間論点整理とかは「寄託物について所有権を主張する第三者」とか,補足説明においても「第三者が権利主張をしてきた場合」という表現が使われていて,要するに,寄託者と関係なく自分のものだと主張してくる第三者がいた場合の規律かなというふうに私自身は理解していたんですが。差押債権者とかの場合でも引き渡してはならない,強制執行を受けないと引き渡してはならないということになると,あるいは破産管財人の場合とかもそういうふうになると,かなり実際上困るのではないかと思うのですが,規律の趣旨としては,そういう全く関係のない人が来た場合に,強制執行まであれしないと引き渡しては,任意に渡してはいけないですよという,そういう趣旨の規律かなと思ったということなんですが。 ○松尾関係官 それはそのとおりです。先生が今おっしゃったとおりです。 ○山本(和)幹事 そのとおりということですか。それでよいですかね。もしそうであるとすれば,ここ,裸で「第三者」と書いてあるんですが,イの方は「寄託物について権利を主張する第三者」というふうに書き分けているように思うんですけれども,今のような趣旨であれば,アの方にも「寄託物について権利主張をする第三者」と書いていただいた方が明確になるのかなと思ったということです。 ○鎌田部会長 内容的にはそういうことでよろしいですね。 ○松尾関係官 はい。私の先ほどの回答が不適切でしたので,規律の在り方は更に検討させていただきます。大変失礼いたしました。 ○鎌田部会長 では,その点は表現を整理させていただきます。 ○深山幹事 今の点に関連して補足的に御説明いただきたいんですけれども,今の議論は,第三者の人的な範囲をどういうふうに捉えるかということで,今おまとめいただいたように,もう少し分かりやすく書いていただく必要があると思うんですが,もう一つの観点として,一定の第三者がどういう行動をとったときにこの規定が適用されるかということがあります。ゴチック体のところでは「寄託物引渡しの強制執行を受けた場合等」となっていて,ちょっと含みを持たせているんですが,補足説明を見ると「引渡しを命ずる判決が確定した場合等が含まれる」という言い方で,この表現からは,引渡しを命ずる確定判決がある場合であれば,必ずしも強制執行までアクションとして起こさなくてもよいということのようにも読めるし,あるいはそうではないのかもしれないということがよく分からない点です。それから,確定判決がある場合以外にも,「等」というのがあるから,この「等」が一体何を指しているのかということなんですが,例えば,判決と同一の効力を有する債務名義がある場合みたいなことが想定されているのか。今一つ射程距離が分かりにくい御説明になっているような気がするので,その第三者の範囲を明確にすることと併せて,そういった一定の第三者がどこまでの行動をとる必要があるのか,あるいはどういう権利ないし地位を持っていればよいのかという辺りをもう少し明らかにしていただきたい。今この場で御説明いただければ有り難いですし,いずれにしろ,規定を設けるときにはそこが分かるような表現にする必要があるのではないかと思います。 ○松尾関係官 今,深山幹事から御指摘いただいた「等」の中にどこまで含まれるかという点ですが,まず,補足説明に書きました判決が確定した場合については,別に強制執行をしなくても,判決が確定すればそれでよいということを考えておりました。   それに加えて,例えば,確定判決と同一の効力を要する債務名義をどう扱うのかという点も御指摘いただきました。例えば,訴訟上の和解をした場合にどうなのかというのが一つ問題になるような気はするんですが,和解の場合を含めてよいのかという点については,それでよいのか心配をしております。つまり,これを認めると,寄託者とは関係がない第三者と受寄者との間の合意によって,容易に受寄者の返還の相手先が変わってしまうということにもなりかねないので,そこまで認めてよいのかということを疑問に感じている次第です。そして,そのことを考慮すると,線引きがなかなか難しくなるなという問題意識は持っておりまして,そのために,部会資料では「等」という曖昧な書き方にとどめているということです。 ○道垣内幹事 4の1のイというのは,どういう場面に働く規定なのですか。差押えがあったときですか。 ○松尾関係官 差押えがあったときに必ずしも限らないとは思います。要するに,第三者から引渡請求を受けたときには広く適用され得るルールだと理解しています。 ○道垣内幹事 引渡請求を受けたときに,アのルールに基づいては断れない。 ○松尾関係官 断れないです。 ○道垣内幹事 当該第三者に引き渡すということを,アのルールを下には断れないのですか。 ○鎌田部会長 裁判外での請求に対して,訴訟上の。 ○道垣内幹事 裁判外でも裁判内でも一緒かもしれませんが。 ○松尾関係官 私が道垣内幹事の御質問の趣旨を十分に理解できていないのですが,今,道垣内幹事は,例えば,アのルールによって,受寄者は,第三者に対する損害賠償責任を免れるかどうかという観点から問題を指摘しておられるのでしょうか。先ほど私が断れないと申し上げたのは,アのルールがあって受寄者に返還しても第三者に対する損害賠償責任を免れないという意味で申し上げたのですが。 ○道垣内幹事 いえいえ。寄託物に対して,ある第三者が,それは自分のものだから引き渡せと請求してきたと。別に同時履行の抗弁権があるとか留置権があるとかと言わなくても,「アのルールで返してはならない。あなたに渡してはならないのです」と言えば済むのではないのかということなのですが。違うのでしょうか。 ○筒井幹事 仮にそうだとすると,強制執行があった場合に関するアの規律を正当化する契機がどこにあるのかが問題になるのではないでしょうか。つまり,寄託物を引き渡せという判決が出て,それによって引渡しの強制執行が行われた場合には,それに従って引き渡してよい。しかし,その判決を得る過程においては,受寄者において抗弁を主張することができるかどうかということが問題となるのではないでしょうか。 ○道垣内幹事 なるほど。よく分かりましたが,なかなか分かりにくいというのが1点と,第2点目は,イのルールがあったときに若干心配なのは,受寄者は主張しなければならないということにはならないのか。善管注意とかそういうものによってですね。それを受寄者に一般的に課してよいのだろうかというのが気にはなるところであります。   間接占有の場合一般にもある問題であるというふうに補足説明に書いてありますので,では,お前は間接占有一般の場合にどう考えているのかと言われると,考えていませんとしか言いようがないんですが,ここだけにありますと,取り分け契約関係があるときには,特別な主張義務,主張することによって寄託者の権利を守るという義務が発生しかねないような気がしますので,少し書くときには気を付けた方がよいのかなという気がいたしました。 ○鎌田部会長 先ほど,深山幹事,挙手されていたのですが,よろしいですか。 ○深山幹事 先ほどの松尾さんの御説明のようなことで,ぼやかしたということであれば,最終的にはクリアにしていただきたいということだけ申し上げておきます。 ○筒井幹事 そういう御趣旨の発言であるといたしますと,ここで取り上げている提案が非常に分かりにくくて,受寄者が引き渡してよいかどうかの境界が分かりにくいのではないかという認識を,事務当局も共有しております。先ほどの松尾関係官の説明は,だからこそ規定を設けるかどうかについて確信が持てないので,ニュートラルに意見を伺っているという趣旨であります。境界線上の諸問題について疑問があるというのは,私も全く同感ですので,その観点からの御意見であれば,むしろ規定を設けるべきでないと言っていただければよいのではないかと思います。 ○深山幹事 御趣旨は分かりましたけれども,むしろ設けない方がよいというふうには私は考えていなくて,設けた方がよいという観点から,是非分かりやすい適用範囲の規定を設けるべきであるという考え方です。 ○鎌田部会長 これは,(2)とも関連するんですけれども,660条と615条とで通知をする場面に差がありますね。これは,(1)の義務内容と関連しているんですか。 ○松尾関係官 すみません,そこまでは考えていなかったので,今後よく考えてみたいと思います。 ○鎌田部会長 (1)の補足説明の中で,ここでこういうものを作ると,賃貸借についてどうするかも併せて考えなければいけないというふうな説明があって,そういうふうに横並びにしていくと,なぜ615条と660条は違うのかという説明も必要になってきそうな気がしたものですから。以前からの疑問の一つでもあるので,そのうち教えてください。 ○佐成委員 今,道垣内幹事,それから深山幹事がおっしゃった点について,関連業界の方から意見を頂いていたものですから,御紹介させていただきます。   まず,道垣内幹事の御発言に関して,抗弁を援用できるというような規定を設けると,そういう義務が発生する,つまり,そういう抗弁を援用しなければいけないのではないかという懸念が業界の方にはあるということでございます。ですから,消極的な雰囲気があります。   それから,アにつきましては,どちらかと言えば,確かに不明確であるという部分があるとは思うのですけれども,関連業界の方からは,紛争解決や紛争予防の観点からは一定の有用性があるのではないかという指摘も頂いております。それだけ付け加えさせていただきます。 ○岡田委員 5の寄託者の損害賠償責任に関して,消費者は大体寄託者になるかと思うのですが,そうしますと,(1)に関しては現状の条文をいかしてほしいと思います。   それから,(2)につきましては,できれば甲案がよいのですが,それが無理だというのでしたら仕方がない,乙案かなと思います。 ○鎌田部会長 ほかには,4,5を通じて,よろしいですか。 ○佐成委員 5についてですが,(2)については,例外規定をそもそも設けないという意見がございます。設けない方がよいということでございます。650条3項に例外はないわけですけれども,661条を改める中で,更に例外を拡張していくというのには余り賛成できないという意見でございます。 ○山下委員 4(1)イのところについては,先ほどからの道垣内幹事,佐成委員の御意見のような問題はあると思うのですが,イは,これはそもそも,寄託者にどういう権利があるかということを寄託者が受寄者に通知するなりなんなり,そういうことが前提になっているわけでしょうか。受寄者としては,そういう寄託者と第三者との売買契約その他の関係は分からないのでしょうが,こういう義務を援用できるというのは,この前提として義務があるということなのでしょうか。 ○松尾関係官 具体的な義務の内容についてまで考えていたわけではないですが,何らかの義務があることが前提になるように思います。 ○山下委員 そういう前提があるとしても,倉庫業者なんかを考えたときに,そこまで売買契約に巻き込むのがよいのかどうかというのは,ビジネスとして考えれば,いろいろ問題があるのかなという印象はありますね。 ○山野目幹事 4の(1)のアですけれども,この御提案に接したときから,私,少し悩んでいたのですが,ただいまの深山幹事と筒井幹事の意見交換を聴いて,なお一層その感を深くしましたから,意見として申し上げておいたほうがよいと思います。   やはり,ここの「強制執行を受けた場合等」の,ということは,これは議論を促すという趣旨で部会資料にお書きになったものと想像しますが,最終的に法制的に明晰な概念として仕上げていくことに相当の困難があるのではないかと感じます。そう申し上げる背景には,寄託物をめぐって係争関係が生じているときの受寄者の置かれる立場というものは,確かにかなり微妙なものであると思いますとともに,それは社会事実的に見たときには,かなりいろいろな事例があるものであろうと思います。寄託物について権利を主張するというふうに大きくくくったときに,それには,その権利主張がかなり言い掛かりに近いような事例のものから,社会的に相当説得力があって,むしろ受寄者は,その第三者の要請に対してはかなり本気で対応しなければいけないと認められるような場面もあるのだろうと感じます。こういう場面については,何らか明確な規律を設けておくことができるなら置いたほうがよろしいのでしょうけれども,今のような多様性と向き合ったときに,明晰な規律を置くことはなかなかに難しいのではないかという,印象にとどまりますが,抱きましたから,申し上げておきます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがですか。   補足説明にも書いてあるように,これ,動産登記制度の導入の際にもこれに関連した問題が提起されていて,動産債権譲渡特例法の方には一定の規定があるんですけれども,本則たる民法の方にはこういう場合の対応の原則がないということでよいのだろうかという,それは一つの発端ではあるんだろうと思いますけれども,なお検討を続けさせていただきます。   5については,先ほど少し御意見いただきましたけれども,ほかに,4,5を通じて御意見が特にないようでしたら,6についての御意見をお伺いいたします。 ○安永委員 6の報酬に関する規律,委任に従うという提案には賛成できません。今までずっと申し上げてきたことと重なりますので簡単に申し上げますが,委任の項でも申し述べましたとおり,成果完成型と履行割合型が,その振り分けをめぐって混乱するということと,強い立場の労務受領者が優越的地位を濫用して,成果が実現されていないものとして報酬支払いを拒絶する紛争が今以上に多発する危険があるという,主にはその2点でございます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。この点につきましては,分科会における補充的な検討ということが事務当局から提案されているところですけれども,分科会で更に検討していただくということでよろしいでしょうか。では,そのようにさせていただきます。   7について,いかがでございましょうか。   特に異論はないと思ってよろしいですか。   続いて,8についての御意見をお伺いします。 ○山野目幹事 8の(2)は賛成です。   8の(1)ですが,私がいまだ少し理解し切っていないのですけれども,契約上の地位の移転は基本的には三者の合意でするという,恐らくその一般的な考え方があると思いますが,それとの関係で,どのような特則・例外を設けることになるのかが少し分かりません。私の勉強不足かもしれませんけれども,若干お教えを頂けませんでしょうか。 ○松尾関係官 この提案は具体的な立法提案を紹介しているものですので,私の理解が正確か心配はあるのですが,契約上の地位の移転について譲渡人と譲受人の合意があり,それについて相手方の承諾が必要だという一般的なルールについての規定が設けられたときに,どういう意味で今回の提案が特則になり得るかというと,まず一つは,寄託者から受寄者に対して常に通知をしなければならないという点が,特則としての意味を持ち得ると理解しています。   また,契約上の地位の移転の一般ルールは,原則として契約の相手方の承諾は必要ですけれども,例外的に承諾が不要な場合があるということを規定することになると思いますが,受寄者の承諾が必要であるということによって,一般ルールの例外の適用がないということも明らかにする趣旨が含まれているのではないかと理解をしております。 ○山野目幹事 今の御教示でひとまず分かりましたが,通知って,必ず要件として必要であると書き込まなくてはいけないのですかね。承諾する人は,通知を受けているか,知っているか,どちらかであろうと思います。   意見というか感想になりますけれども,(1)でお考えになっていることの内容自体が,それほど合理性を欠くとは思いませんけれども,何か一般原則との緊張関係でどういうふうな配置になって,どのように規律表現をすることに意味があるか,ということを,引き続きなお精緻化して,御検討いただくようなことがあれば有り難いと感じます。 ○山下委員 この問題というのは,解説,補足説明にもありますように,倉庫に事業者が預けているものの所有権を移転するにはどうしたらよいかという問題で,それについて判例が,単なる指図による占有移転だけでは駄目で,倉庫業者の台帳を書き換えるというようなことが必要で,これも京浜地方の倉庫ではそんな商慣習があるというようなことを言っていたもので,かなり特殊なケースについての話です。倉庫についてはこういう問題は確かにあるので,商法の倉庫営業というふうなところに規定があって,それは将来も残るのでしょうから,そういうものに即して規定するというのが一つの解決かと思います。何か規定を置くとすればですね。それを寄託一般についての規定として置く必要があるかどうかというと,その必要性の有無があるかどうかで,これは私もよく分からないところで,いろいろ実情なり御意見を伺えればと思います。 ○鎌田部会長 ここについて,経済界ではどのような御意見をお持ちでしょうか。 ○佐成委員 ここについては,関係業界の方からも特段意見を頂いていないです。 ○深山幹事 8の(1)がどういう場面を前提にしているかについての確認なんですけれども,といいますのは,表現上は「寄託者の契約上の地位の移転」としか書いていないので,どのような場合であれ,寄託者の地位の移転全般を指すようにも見えるんですけれども,8のタイトルでは「寄託物の譲渡」ということが書かれていて,寄託物の譲渡がなされたときに限定しているようにも読めます。典型的には,もちろん寄託物の譲渡があったときに,それに伴って寄託者の契約上の地位の移転の必要性が生じることが多いと思いますけれども,それに限られるものでもなくて,理屈の上だけで言えば,所有権の移転とは切り離して契約上の地位の移転というのは観念できるわけです。もう少し現実的に考えても,例えば譲渡担保みたいなものを含めて,この譲渡には含めて考えているのかどうかも必ずしも分からないし,それ以外の場合でも,何らかの目的で契約関係だけを所有権の移転と切り離して譲渡するということが考えられなくもないということを考えると,ここで規定しようとしている規律の適用範囲が分かりにくいような気がします。タイトルにあるように譲渡を前提にしているんであれば,「寄託物の譲渡に伴って契約上の地位の移転をする場合には」というような限定をするとか,あるいは逆に,そういう絞りを掛けないなら掛けないというように,どちらかはっきりさせた方がよろしいのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 分かりました。この8の(2)の方については特に御異論はないと思うんですけれども,8の(1)ついては,このような規定を設けることの実際的な意味は余り感じられないというものと…… ○佐成委員 先ほど,この部分に関しては特段の意見を頂いていないと発言しましたけれども,倉庫業界の方からは,(1)に関しては,明文化することは望ましいという意見は頂いております。失礼いたしました。 ○鎌田部会長 倉庫業特有の慣行であったり,あるいはビジネス上の要請であるということだとすると,それを民法の原則規定にすることは果たして妥当なのかと,そういう御意見もあったところですので,それらを踏まえて,更に検討をさせていただきます。   それでは,続きまして,「9 消費寄託」から「12 特殊の寄託―場屋営業者の特則」までについて御審議を頂きます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 「9 消費寄託」は,寄託物の返還に関する規律の一部を除き,基本的に消費貸借の規定を準用する民法第666条の規定を改め,消費貸借の規定を消費寄託に準用する範囲を両者の共通点である目的物の処分の移転に関するものに限定し,そのほかについては寄託の規定を適用すべきであるとする考え方の当否を問うものです。   「10 特殊の寄託―混合寄託(混蔵寄託)」では,現在は規定が置かれていないものの,実務的に混合寄託が利用されていると指摘されていることを踏まえて,基本的な要件・効果に関する規定を民法に設ける考え方の当否を問うものです。   「11 特殊の寄託―流動性預金口座」は,流動性預金口座の果たす役割の現代社会における重要性を踏まえて,基本的な法律関係を明確化するために規定を設けることの当否を問うものです。(1)では,流動性預金口座に係る預金契約に関する基本的な規律を設ける考え方の当否を取り上げています。また,(2)では「流動性預金口座への振込みによる金銭債務の履行に関する規律」を設ける考え方の当否を取り上げています。   「12 特殊の寄託―場屋営業者の特則」では,まず(1)で,現在商法第594条から第596条までに置かれている場屋営業者の寄託責任の特則に関する規定を商法ではなく民法に置くべきであるという考え方の当否を取り上げています。(2)では,現在の商法の規律内容が不合理であると指摘されていることを踏まえて,民法に規定を置く考え方を採る場合に規定を全般的に改めることの要否を取り上げています。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,まず「9 消費寄託」について御意見をお伺いします。 ○三上委員 最初に,寄託物受取前の法律関係は先ほど申しましたけれども,お金の入っていない普通預金契約がいきなり無効になるという必要はないという点をもう一度繰り返しておきたいと思います。恐らく債務者・管財人の方でも,別に契約だけして預金がなくても,むしろ債務を負ってない新規取引金融機関に資金を預け入れたい場合もあると思います。   それから,これまでの民法の規定は基本的に,全て消費寄託イコール消費貸借でやってきたわけですが,ちょっと私の不勉強かもしれないんですが,そのときの民法の規定の読み替えし方というのは,消費貸借の「貸主」が「寄託者」になり,「借主」が「受寄者」になるという認識です。では,そのときに,消費寄託の場合の物を預かる利益というのはどちらにあるのとか,それは今まで余り語られてこなかったと思うんですが,例えば預金というのは,御存じのように,預かったお金に利息を付けて返しています。保管料を取るというよりは利息を付けて返している。これは「無償の消費寄託」になるのか。金銭以外の消費寄託というのはよく分かりません。例えば,お米を借りるという例がよく出されるわけですが,その場合にも,そのお米を保管料取って自分で使って返すという取引が普通想定されているのか,それとも,そういう形でお米を借りるんだから,本当は借りた米に多少利息を付けて返すというのを一般に想定しているのかというところは,余りこれまで明らかにされてこなかったと思います。それを今回の提案は,寄託物の返還のときに,寄託の利益が基本的に寄託者のために定められていることが前提かのような規定になっている。また,受寄者からの返還に関しても,そこだけ寄託の規定が適用されているというのは,これまでの考え方と整合しているのかは検討してみる必要があると思います。   もしここで,寄託は飽くまで預ける方の利益であると考えるのであれば,消費貸借契約では,今回の提案でも,利息に関する詳細な規定が提案されておりますけれども,それよりも,ここはむしろ,委任の契約を準用することになるのかは検討次第ですが,寄託本来の保管手数料的な報酬規定の適用をすることを前提とすべきではないのか。そういう意味で,その部分と今回の提案部分の考え方は矛盾してはいないか,これまでの実務の理解からすると,ちぐはぐな提案になっているのではないかという気がしております。   もう一度,消費寄託というのは誰のための利益を想定している契約なのか,消費貸借でいうところの利息や期限の利益に該当するものは誰のためにあるのかというところを整理し直す必要があるのではないかと考えております。 ○鎌田部会長 今の点は,消費寄託と消費貸借との区別であると同時に,寄託と使用貸借の違いにも関連し得るところであるので,総合的に検討するよう,引き取らせていただければと思います。 ○三上委員 あと,預金に差押えがあったとか,第三者が自己の預金だと権利主張するようなときに,その当該預金者に連絡する義務がありやなしやで,660条が準用されるとかされないとか議論があります。通説的には,金銭の場合には,もう所有権が移ってしまっているので,寄託「物」ではないから準用されないと考えられていると思います。しかし,本当にそれでよいのだろうか。実際に預けた人の権利が脅かされているというときに連絡しなくてよいのかというところは昔から疑問がありました。消費貸借において,銀行の債権を,貸したのは自分だと主張する人が現れる場面は余り考えられないことで,660条のような規定は置いていないだけかもしれませんが,その点も含めて,消費寄託と寄託とに分類して,前者は基本消費貸借と同じに考えるとするがゆえに,寄託の規定の中で消費寄託にも適用される条文はどれなのか。今までどちらも同じ「消費貸借」でおおよそやってこられましたが,双方の規定が細かく変わる以上は,どちらの規定がどちらに適用されるかというのも,もう少し精緻に検討されるべきではないかと思います。 ○中田委員 三上委員のおっしゃっていることは非常に重要な問題提起だと思いますし,鎌田部会長がおっしゃった寄託と使用貸借,それから寄託と消費貸借との関係を整序するというのは,当然なされるべきことだと思うんですが,もう一つ,消費寄託と預金契約との関係というのも整理する必要があるのではないでしょうか。預金契約は当然に消費寄託だけなのか。後で出てきますけれども,委任の要素もあるとか,あるいは,全体としての枠組みとしての預金契約と個々の消費寄託と別かもしれないということもありますので,そこは完全に同一ではないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 難しい問題ではありますけれども,事務当局の方で十分に検討・整理をさせていただきます。   ほかに,いかがでしょうか。   次,「混合寄託(混蔵寄託)」につきまして,御意見があれば,お伺いしたいと思います。   特にないようでしたら,また後で戻っても結構ですけれども,一番議論のありそうな流動性預金についての御意見をお伺いしたいと思います。 ○佐藤関係官 流動性預金口座についてでございます。絶対賛成あるいは絶対反対というわけではございませんが,若干疑念として感じているところがございますので,問題意識だけ申し述べさせていただきます。   まず,(1)の御提案ですが,基本的には,銀行に開設された決済用口座で資金決済をするような場面での法律関係を明確化するという観点から規律を設ける,そういう御提案と理解しております。   ただ,資金決済という仕組み全体として見た場合には,この規律だけで果たして十分なのか。例えば,被仕向銀行が倒産した場合などにおいて,決済システムの安定性とか,あるいは決済がなされるという信頼性の確保の仕方,どのような責任関係になるのかなど,いろいろと検討すべき問題がありまして,入金記帳により預金債権が成立するという規定のみで果たして必要にして十分なのか。ややちゅうちょを感ずるところでございます。   また,送金の場面に限定するのではなしに,店頭入金がなされたような場合,入金記帳の前に預金債権が成立したと見る余地が全くないのか。過去,昭和58年の最高裁判例と記憶しておりますが,定期預金の例ではございますけれども,定期預金の預金契約の成立時期について,預金の受入れをする職務権限を有する職員が預金をする趣旨で顧客から現金を受領したときに預金契約が成立するとした判例もあるようでございます。通常で考えれば,入金記帳のときに預金債権が成立するというのが一般的な常識にはかなうかもしれませんが,種々いろいろな例外はあるであろうと。そこを全て律し切れるのか,あるいは律することが適当であるのかというところ,若干の疑念を感じているところでございます。   また,仮に民法に規定するとした場合に,(前注2)も書いてございますが,規定の置き場所についてどう考えるのか。預金契約というのが,いろいろなものがあり得るところで,この流動性預金口座に関する規定だけを民法の中であえて置くのか。これは整理学の問題かもしれませんが,やや違和感といいましょうか,唐突感を感ずるところもございまして,したがいまして,絶対これが問題だというわけではありませんけれども,引き続き細かい点まで含めて検討したほうがよいのではないか。そのように感じております。 ○三上委員 金融界としましては,内容の賛否はともかくとして,流動性預金というくくりだけで,特定の業界に特殊な契約の規定を民法に置くということ自体に対して,反対する意見が多数であったということを最初に申し述べたいと思います。   まず,切り口が「流動性預金」ですが,先ほどの佐藤関係官の意見でも指摘がありましたが,ここで言いたいのは「決済性預金」のことなんだろうと思います。異論もあるんですが,流動性預金の中に通知預金を入れる人もいます。通知預金というのは,少なくとも要求払預金であることは会計上の分類でも間違いないんですが,もし通知預金も流動性預金と考えたときには,通知預金は決済に利用されることは一切考えられていなくて,一定の資金を通知するまでは通知預金に置いておいて,その代わり普通預金よりもほんの僅かですが高い金利を付ける。使うときにはあらかじめ,決められた日数前の解約通知が必要である。こういう,定期預金との中間形態のものに,恐らくここで考えておられる流動性預金の規律を当てはめる必要はないんだろうと思います。そういう意味で,定義自体が一つ問題になり得る。   それから,このアのところで,例えば「預金者によって入金がされ,又は第三者によって振込みがされたとき」という規定があるんですが,それ以外に,第三者が通帳を持って店頭で入金をしに来たときというのは,それは振込みとは普通は言わないです。つまり,預金者以外の人間が入金することもあり得るわけです。その点まで含めていくと,一体その預金者は誰なのだろうか,委託者は誰なのかという問題が出てまいりまして,この点は昔から真の出損者は誰かという大問題だったわけです。特に平成8年の誤振込の最高裁判決によって,少なくとも出損者イコール真の預金者という通説は流動性預金には適用ないと考えられていて,預金者=寄託者が誰かというところは非常に混迷しております。なので,一体として一つの預金になると規定してみたところで,誰の預金になるんだという大きな問題は残っていて,かえって混乱するだけで意味がないのではないかと思います。   それから,イの問題は委任規定の適用の是非ですが,この委任が出てくる場面というのは,取引経過の開示義務の判例が補足説明でも引用されていますが,これは振込みが預金取引に関係すると判断したものではなくて,為替取引,振込と預金取引は全く別物です。別に普通預金口座のない人でも振込みはできますし,今はほとんどありませんが,昔の文書振込ですと,受取人の方も,普通預金口座がなくても店頭で受け取ることもできたというのが為替ですので,為替が委任かどうかどうかというのと預金口座が委任かどうかというのは全く別問題です。その辺りが,補足説明では峻別され切れないままに書いてあるような気がしております。先の最高裁判例で,委任の要素もあるという部分は,「委任ないしは準委任」と書いてあったとおり,ブックキーピング,取引の記録を残しておくという部分のことを指しているんだろうと考えておりまして,それは今回の分類でいけば,役務提供契約ないし準委任の方の話なんだろうと思います。   またさらに,もし役務提供契約というのが,山野目幹事の御意見のように,そもそもカテゴリーとして,設けるのがどうかということで元の準委任に戻って,元の準委任が現行法通り委任の準用になって,そこに忠実義務のようなものが入ってくるのであれば,とてもこの程度の契約に委任の規定が全面的に適用になってしまっては困ります。特に当座預金を相殺する場面では,例えば当座に手形が回ってきても,期限の利益を喪失すれば回収を優先するわけですが,それは忠実義務と真っ向から利害が対立するかもしれないなどという発想は基本的に受け入れ難いと思います。桶屋が風を吹くほうに戻っていくような話になってしまいましたが,流動性預金に委任を適用することには明確に反対ということになります。   最後に,先ほど中田委員から預金契約の特殊性という意見が出て,これは今までの話と違って,色気半分の話になるんですが,流動性預金,預金契約全体もそうですが,特にこういう決済性預金の移転は,やはり契約上の地位と切っても離れないようなところがあります。したがいまして,預金債権の移転は,受寄者である金融機関の承諾が必要という規定を,もし流動性預金口座に関する何らかの規定が置かれることになるのであれば,一緒に検討していただきたいと思っております。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中井委員 弁護士会の意見は,(1)の流動性預金について,こういう限定された範囲の事柄を民法に入れること自体に疑問を呈する意見が多数を占めました。内容以前の問題と思っています。   (2)についても,反対意見がほとんどを占めました。振込みが弁済になるかどうかは,基本的には合意の問題ではないかと思いますし,指定をしていないにもかかわらず,たまたま債権者が持っていた流動性預金口座に,全く知らない間にそこへ振り込まれても弁済の効力が生じるようにも読めるので,そうだとするとなおさら,こういう規定はどうかという意見でした。 ○松本委員 私は前回の会議のときに,73ページの5でまとめられているような意見を確かに述べたと記憶しておりますが,最後のパラで,具体的な立法提案は示されていないから,この点は取り上げないことにしたと。こう言われてしまうと,これ以上何も言えないんですけれども,本当に必要なのは,資金移動取引についての明確なルールを作ることであって,その中のごくごく一部,預金がいつ成立しますかというところだけをつまみ食い的にここで入れるというのは,かなりいびつな感じがいたします。その点は三上委員も言われましたし,中井委員からも先ほど指摘されたことであって,非常にアンバランスな感じがいたしますから,それならまだ置かないで,法制審議会の次の課題として,資金移動法についての部会を作って,きちんと立法していただくという形で進めていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか,この点についての議論はこの程度で。何か特に事務当局から。 ○松尾関係官 中井委員に確認なんですけれども,(2)の規律の部分で,確かに当事者間に合意がない場合に想定していない口座に振り込まれた場合にこれを弁済としてよいのかがという問題があり得るというのは御指摘のとおりかもしれませんですが,今はルールが書かれていないので,実際にそういうことが起きたときの規律内容はよく分からないということになるように思います。弁護士会の先生方の御指摘のような振込みを弁済と評価しないと考えるのであれば,そのことを明らかにする規定が必要であるように思うのですが,それを決める必要もないということでしょうか。 ○中井委員 現実そういうことがあったときも,当事者の推定的合意か,黙示の承諾か,何らかの説明をする必要が生じる場面があるのかもしれませんが,一律このような形で規定することについてはどうかという,消極的な意見だと御理解いただければと思います。 ○深山幹事 今の松尾さんの質問に対する一つの答えになるかと思うんですが,やはり弁済というのは,基本的には現金授受が原則であり,実務的にはもちろん振込みのほうが多いのですが,原理的にはそう理解した上で,弁済方法として振込みが指定されれば振込みによることとなるということであると思います。そのことについて明示でなくても黙示的にでも当事者の意思が読み取れればそれでよいわけですが,規律としては,弁済方法として,この口座に振り込んでくれという債権者の意思があって初めて有効な弁済になり得る,債務の本旨に従った履行になるというふうに考え方としてはなるのではないでしょうか。あとは,その意思解釈の問題として,特定の口座を指定したのか,あるいは,どこでもよいからどこかの口座の振り込んでくれという意思だったのか,あるいは,振込みではなくて現金で欲しいということだったのかというのは,個々に事実認定すればよろしいんでしょうが,少なくとも何も意思表示していないときに,一方的に特定の口座に振り込んだことが当然に弁済になるという規律は,むしろよろしくないと考えます。 ○中田委員 (2)について,振込みをしたときに,それが当然に弁済になるかどうかという問題と,それから,弁済の効力が発生するときに,それがいつ発生するのかというのと,二段階の問題があると思うんですけれども,第一段階の問題については,これはどんな場合でも振込みさえすれば弁済の効力が生ずるとまではいっていないのではないかと私は理解していました。これに関してはいろいろな問題がありまして,例えば,債権額の一部だけを入金したら,常に一部弁済の効力が生ずるのかというと,多分それはそうではないのだろうと思いますし,あるいは弁済の充当とか,債権額に争いがある場合はどうかとかと,いろいろな問題はありますけれども,そこは(2)でもまだ残されているのだと思います。ですから,それは現在とそれほど大きく違わないのではないか。ただ,基本的には弁済だということをいっていますけれども。ですから,必ずしも(2)がおかしな結果をもたらすということにはならないのではないかと思います。   それから,ついでに(1)について,消極論ばかりでしたが,私は,繰り返しませんですけれども,やはり規律を置いたほうがよいだろうと思っております。やはりこれだけ重要な取引について,まず,最低限の基本的な概念ということは入れておいたほうがよいのではないかということです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○中井委員 (2)ですけれども,中田委員に教えていただきたいのですけれども,仮にA銀行口座に振り込んでくださいという指示をしたにもかかわらず,B銀行口座,予期しない口座に振込みされて入金記帳された,そのときであっても,この規律からすれば弁済の効力が生じて,その上で,指示したことが仮に合意であれば合意違反か,若しくは指示に従わなかった違反に基づく損害賠償等の問題で解決することになるのでしょうか。   といいますのは,一つの例として,危機状態にある債権者が弁済を受ける資金を借入のない銀行に振り込んでもらって使おうと思っていたところ,借入のある銀行口座,従来の口座に振り込まれたために相殺されて使えなくなる,このとき弁済の効力を認められるのは困るだろうという意見があったものですから。 ○中田委員 弁済の側から見るか,履行の側から見るかということですけれども,それが履行と認められて,弁済による債権の消滅の効力というのは生じるんだと思います。ですから,そもそもその行為が履行だと見られない場合には,その効力も生じないというだけのことかなと思っております。 ○三上委員 1点,中田委員に確認なんですけれども,こういう重要な取引なので規定を明確に設けたほうがよいとおっしゃっておられるのは,決済性預金の性質についてという御意見なのか,あるいは,松本委員がおっしゃった為替取引という,ちょっとこの部分は混同されて提案されているような気がするのですが,そのどちらのことをおっしゃっておられるのかという点を確認させていただきたいと思います。   これは別に全銀協の意見ではないんですが,為替取引自体に関しては,確かにこの取引の性質をめぐっていろいろな議論がありまして,特にこれで今のところはなんとか動いてはおりますけれども,例えば仕向銀行と受取人,ないしは振込依頼人と被仕向銀行の間には直接契約関係がないというところから,特に誤振込みの場面などで振込依頼人に時々非常にシビアな結果になるという問題点も起こっておりまして,そういうことがあるので,マネーバックギャランティだとか,振込みの請負契約説だとか,いろいろな解釈論が出てくる余地がありますから,確かにこの部分はどこかで法的に明確にしたほうがよいかもしれないと思うところはあります。   これは私の問題意識ですが,中田委員がおっしゃっている明確にすべきというのは,どちらの部分の話なのかという点だけを教えていただければと思います。 ○中田委員 先ほどおっしゃいました,流動性なのか,決済性なのかということで,そこは定義を詰めていく必要はあると思います。特に通知預金がどっちになるのかという議論があるようですので,明確にしていく必要があると思います。   その上で,ここで書かれていることは,入金ないし振込みによって,いつの時点で預金債権が成立するのかということと,それから,その預金債権は複数のものが成立するのではなくて,従来のものに加わって,合計額についての預金債権が成立する,ということで,その限りの規律ということは,それほど異論がないのではないかと思います。   その上で,先ほど来,消費寄託と委任とを分けて,委任のルールというのは預金に入ってこないのではないかということ。これは別の問題ではないかと思います。 ○鎌田部会長 三上委員の御指摘も受けて,預金そのものの問題と,為替的法律関係との関係を少し整理する形で提示できるかどうかということも検討させていただきますし,また,全体として規定の必要性についての疑義も出されたところですので,それらを含めて更に検討したいと思います。 ○中井委員 (1)のアですけれども,預金の成立についてのみ規定するとした場合でも,ここの規律は記帳を基準とするという考え方で統一されているかと思うんです。しかし,先ほど,佐藤関係官からも御指摘があったように,窓口入金のときに果たして記帳一本主義でよいのかは疑問を持っております。現実には,カウンターを超えて銀行の支配領域に入った後,それでもまだ預金は成立していないのかという,理論的な問題があるのではないかと思います。第三者の,振込みを使っている場合は確かに記帳が一つの基準として考えられるのかとは思いますが,現金入金による預金については更に考慮が必要かと思います。 ○鎌田部会長 御指摘いただいたような諸点を踏まえて,更に事務当局で検討を深めさせていただきます。   寄託に関しましては12番だけが残るんですけれども,大変恐縮ですが,時間の関係がありますので,レセプトゥム責任関係の規定を民法に移すことの適否,それに関連して内容を変えることの適否と,この二つの点については,申し訳ありませんけれども,次回冒頭に持ち越させていただければと思います。   分科会についてでございます。本日の審議において,分科会で補充的に審議することとされました論点につきましては,第1分科会で審議をしていただくことといたします。中田分科会長を始め,関係の委員・幹事の皆様にはよろしくお願いいたします。   最後に,次回の議事日程等について,事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回会議は10月16日,火曜日,午後1時から午後6時まで。場所は合同庁舎6号館B棟の東京地検会議室になります。次回は,予備日として予定していただいた会議ですので,新たな部会資料の送付予定はございません。ただ,その翌週,23日にも部会が予定されております関係で,その会議用の部会資料を次回16日の会議よりも前にお届けする形になるとは思いますけれども,その部会資料については23日の部会で審議していただくことになります。次回会議では,本日の積み残し部分のみを御議論いただくことになりますので,よろしくお願いいたします。   それから,第3分科会第5回会議が先週9月25日に開催されました。その概要は机上に配布した資料のとおりですので,その書面記載のとおり報告いたします。この分科会の際に配布された委員等提供資料も本日お手元に配布させていただいております。   また,来週には第1分科会第6回会議が開催されます。次回の第1分科会の審議対象は,部会資料でいいますと39,43,46,47と分かれておりますので,大変恐縮でございますけれども,関係する部会資料をお持ちいただきますよう,よろしくお願いいたします。また,第1分科会の固定メンバー以外で参加を予定されている方は,事前に事務当局まで御一報くださいますようにお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日も熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-