法制審議会 民法(債権関係)部会           第59回会議 議事録 第1 日 時  平成24年10月16日(火) 自 午後1時00分                        至 午後6時15分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第59回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は野村豊弘委員,山下友信委員,鹿野菜穂子幹事,福田千恵子幹事,森英明幹事が御欠席です。   まず,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日は積み残し分を審議いただく関係で,配布済みの部会資料48を使わせていただきます。この資料につきましては,それぞれ担当の関係官から後ほど説明いたします。   また,机上には,先の通常国会で成立いたしました労働契約法の一部を改正する法律に関係する資料を3点配布しております。厚生労働省の岡関係官からの御提供いただいたものです。労働契約法の一部を改正する法律の条文,新旧対照表,いわゆる施行通達の3点です。   このほか,高須順一幹事から,第1分科会第6回会議の審議結果に関係する資料の御提供を頂きました。これは分科会の議論と関係するものですので,後ほど分科会の報告の際に改めて御紹介したいと思います。 ○鎌田部会長 本日は部会資料47及び48について御審議いただく予定です。具体的には,休憩前までに部会資料47と部会資料48のうち「第2 和解」までについて御審議いただき,午後3時15分頃を目途に適宜休憩を入れることを予定しています。休憩後,部会資料48の残りの部分について御審議いただきたいと思います。   それでは,「第3 寄託」「12 特殊の寄託-場屋営業者の特則」について御審議いただきます。この論点につきましては,前回既に事務当局から説明がありましたので,早速御意見をお伺いしたいと思います。御自由に御発言ください。 ○神作幹事 特殊の寄託-場屋営業者の特則につきまして,宿泊事業者に範囲を限定した上で厳格な責任を課し,さらにそのような厳格責任の制限に関する規律を置くことが御提案されております。部会資料76ページにおけるその理由について記載された部分を拝読いたしますと,76ページの下から5行目のところですけれども,「宿泊施設には,旅行者に危険な街道からの庇護を与える公共的施設としての性格がある」と説明されています。このような宿泊施設の公共的施設としての性格から宿泊事業者の厳格責任が正当化されるということでございますけれども,これは歴史的にはこのような説明がなされると思うのですが,現在このような説明で宿泊事業者だけを切り取って厳格な責任を課す根拠として十分に合理的,説得的なのかどうかという点について検討する必要があり得るように思います。宿泊施設以外のレクリエーション施設等々,今様々な施設がグラデーションを持って存在しておりますので,そうだとすると,宿泊事業者に限定して先ほどのような公共的施設としての性格という理由付けによって厳格な責任を課すことの正当性について,更に議論を深める必要があるというのが第1点でございます。   第2点でございますけれども,仮に宿泊事業者にやはり厳格な責任を課す必要があると判断された場合でございますけれども,74ページの(2)のイを拝見いたしますと,「客を宿泊のためにその事業の範囲内で施設に受け入れた宿泊事業者は,宿泊客がその施設内に持ち込んだ物の保管を引き受けたときは」ということで,保管を引き受けたかどうかということでルールの適用の有無を区別しています。もし責任を厳格化する場合には,この「物の保管を引き受けた」というのは一体宿泊事業者の場合にはどのようなことを意味するのかを明らかにしておく必要があると思います。典型的にはフロントに預けるのがこれに当たることは確かであろうと思うのですけれども,例えばポーターさんに荷物を渡す,宿泊施設内にある駐車場に車を止める,等々いろいろな段階があって,もしルールを厳格化するのであれば,もう少し「物の保管を引き受けた」場合というのがどのような場合かを明確にしておく必要があるのではないかと思ったところでございます。   場屋営業者の特則について,宿泊事業者に限ることの合理性と,それからルール自体の内容について,特に「物の保管を引き受けた」かどうかを一体どのような基準で判断するのか,以上の2点について発言させていただきました。 ○鎌田部会長 事務当局から何かございますか。今の点について何か御意見をお持ちの方がいらっしゃいましたらお出しいただければと思います。特にないようでしたら,事務当局で更に御意見を踏まえて検討させていただきます。   ほかにはいかがでしょうか。 ○佐成委員 バックアップ委員会で議論をして出てきた意見を御紹介しようと思います。   一つは,74ページの本文のところで言えば,例えばイの①のところで,物の紛失についても責任を課すようになっていますが,現行法の商法は「紛失」というものを明示していないという点を捉えて,「紛失」についてまで責任を負わせることの妥当性について明確化してほしいといった意見がございました。   それともう一つは,ウのところの賠償額の制限に関してです。1日当たりの宿泊料の何倍に相当するということをデフォルトルールにするということが提案されており,実際に賠償額に一定の制限を設けるという提案の趣旨は非常に重要だとは思いますけれども,現実に実務で行われているのは,むしろ定額で定めることが多いようでございます。当然それは経済情勢とかによって変動することが前提になっておりますけれども,変動することを前提に限度額としては定額で定めるということになっております。この点はそもそも業法なりモデルフォームなどのソフトローなりで実態に合わせて運用されているので,現行のデフォルトルールをいじるといいますか,変更する必要性は少ないのではないか。むしろ新しいデフォルトルールを生み出すこと自体が困難ではないか。いずれにしても,仮にやるとしても中小の事業者にとってそのデフォルトルールを変えるということの影響は大きいと思われるので,十分慎重に検討していただきたいという意見でございましたので,御紹介させていただきます。 ○鎌田部会長 この点についても事務当局から特に御発言はありませんか。 ○松尾関係官 特にはございません。 ○岡委員 弁護士会の意見でございますが,相当強い意見ということではないんですが,全般的に事業者の概念を民法に持ち込むことに反対であるという意見は,依然として根強くございます。その観点から商法にある事業者に関する特則をそのまま民法に持ち込むことについて反対意見がかなり強いという一般論がございます。   それから,もし導入する場合についてのルールとして,ホテルに限るのがどうかという意見もございましたし,付け加えますと,この宿泊料の何倍であるという制限,これがイの②とウの①とウの②に出てきますけれども,この宿泊料の何倍という定め方に合理性があるのかという点について疑問が出ました。ヨーロッパでは,何かここに100倍という数字が入ってみたり6万円という数字が入ってみたりいろいろあるようでございますが,そういう具体的なイメージが出ればまた別かもしれませんけれども,この宿泊料の何倍という定め方について異論がそれなりにございました。   エとオについては,もし導入するとしても,そう大きな反対はございませんでした。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○松本委員 最初に発言された神作幹事の御指摘は,大いにもっともなところだと思います。78ページに「宿泊施設の公共性から」という公共性という言葉が出てきているんですが,今までの当審議会の草案の中で公共性を根拠に,提案が説明されたことはほとんど記憶にございません。もちろん民法の中に公共性の概念を入れていって,民法を変えていくということは一般論としては必要だと思うのですけれども,ここの宿泊事業者についてのみ公共性を根拠にして厳格責任というのは,そこだけ突然強調されている感じがいたします。現在の社会においては金融機関などのほうがもっと公共性は高いのではないかと思いますが,だから金融機関に厳格責任をという話が出てくるのかということです。電力業界だってすごく公共性の高い事業をやっているわけです。そういう意味で,公共性を根拠にする議論というのはちょっと用心をしなければならないのではないかと思います。   そういう点で,厳格責任に持って行く場合に,神作幹事がおっしゃったように,それを引き受けたという意思的な要素でもってきちんと根拠付けるということであれば,それと類似のタイプの業種については同じような責任にしようということで,落ち着きがいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,ただいままでに頂戴した御意見を踏まえて,事務当局で更に検討を続けさせていただきます。   続きまして,「第4 組合」について御審議いただきます。事務当局から一括して説明をしてもらいます。 ○川嶋関係官 組合契約については,その団体的性格から,無効又は取消しに関する規定の適用に一定の修正が加えられると解されています。こうした解釈を明文化することを提案する考え方を取り上げたのが,「1(1)組合契約の無効又は取消し」です。   また,他の組合員が出資債務を履行しない場合における同時履行の抗弁の規定と解除の規定の適用にも,同様に一定の修正が加えられると解されています。「1(2)他の組合員が出資債務を履行しない場合」は,こうした解釈を明文化することを提案するものです。   次の「2 組合の財産関係」のうち,(1)記載の各論点は,組合財産の独立性,組合財産に属する債権,組合債務に関する通説的な解釈を明文化することを提案するものです。   組合財産に属する債権に関しては,第1ステージの審議における意見やパブリック・コメントの手続に寄せられた意見において,組合財産に属する債権の債務者がその債務と組合員に対する債権とを相殺することを禁じる民法第677条に信託法第22条に倣った例外規定を設けることを提案するものがありましたので,(2)アで,これを取り上げました。   「3(1)組合の業務執行」は,主として組合の意思決定の方法について定めている民法第670条を改めて,決定された組合の意思を実行する方法についても通説的な解釈を明文化した規定を設けることを提案するものです。   それから,組合は法人格を持ちませんので,組合が第三者と法律行為を行うためには,代理の形式を用いざるを得ませんが,民法には組合代理についての規定は特に設けられておりません。そこで,「(2)組合代理」では,通説的な解釈を明文化することを通じて組合代理に関する規定を設けることを提案しています。   「4 組合員の変動」と「5 組合の解散及び清算」は,組合員の加入・脱退,組合の解散・清算に関して,主として判例法理や通説的な解釈を明文化することを提案するものです。このうち,5(1)イは組合員が一人になったことも解散事由として規定するという通説的な考え方を取り上げたものですが,これに対しては,組合の事業の継続性を重視する観点から,組合の成立時には二人以上の組合員の存在を必要としつつ,一度組合が成立して事業が開始された後には,組合員が一人となった場合であっても組合の存続を認めるべきであるとする見解も示されています。しかし,複数の組合員の存在を成立要件としておきながら存続要件とはしないことには理論的一貫性に疑問がありますし,組合員が一人となって団体としての外形を喪失しているにもかかわらず,独立した組合財産の存在を許容することには弊害もあり得ると考えられますので,本文ではこの見解は取り上げませんでした。   「6 内的組合」は,構成員相互の間の契約に基づき共同して事業を行う点で民法上の組合と共通するものの,事業活動に必要な全ての法律行為を一人の組合員が自己の名で行い,組合財産も全てその組合員の単独所有とする点で組合とは異なる性質を持つ内的組合について,内的組合と匿名組合との区別の基準についてなお検討を要するとの指摘があることを踏まえて,今般の見直しでは規定を設けないものとすることを提案するものです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明がありました部分のうち,まず「1 組合契約の成立」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○中井委員 (1)について弁護士会の意見を御紹介しておきますと,アについては,前段の考え方については賛成で,後段の例外について意見が二つに分かれております。このような例外を設ける考え方に賛成する意見と,この例外は省いて,本文のみでいいという考え方です。その本文のみでいいというのは,第三者と取引を開始することによって区分けするという考え方について,第三者との取引といっても様々あるわけで,組合が成立して,その事業のために鉛筆を買ったというのもある意味で第三者の取引かもしれませんので,それで区別することが果たして適当なのか,その区別自体ができるのかという疑問もあります。仮に区別をせずに組合契約の効力を妨げられないとしても,仮に一人について無効・取消し原因があったとき,残りの者たちだけで組合を存続させることが不適当と考えれば,解散するなり自ら対応することができるわけですから,あえて区別するまでの必要はないのではないか。意見は半々に分かれておりますけれども,後者の考え方でいいのではないかと思っております。   イについても,結局はこの考え方自体についてはおおむね賛成ですが,先ほどの意見が分かれたところの関係で,組合が第三者との取引を開始した前後で分ける必要はないという意見と,原案でよいという意見に分かれております。アについて別案を採るなら,イについても別案をとって第三者との取引開始の前後を問わないという考え方になろうかと思います。 ○岡委員 質問でございますが,補足資料の81ページの上から4行目のところでございます。一人又は数人に無効取消しがある場合でも組合契約全部の効力が妨げられないのは分かりますが,その無効又は取消し事由がある人について脱退させるという効果になるんでしょうか。それとも無効・取消しがある人については,やはりその組合に参加するという契約が無効又は取消しになって,出資金を原則取り戻せるということになるのでしょうか。詐欺等があれば善意の第三者の問題が出るかもしれませんが,この脱退させるという表現が,無効又は取消し事由のある人についても将来効しか及ぼさないという積極的意味があるのか,そうではないのか,弁護士会で議論になりましたので,少し解説をお願いしたいと思います。 ○川嶋関係官 不用意に「脱退」という言葉を用いてしまいましたが,そこのところについては,そのような観点での検討はしておりませんでした。無効・取消し原因のある組合員について,97ページで取り上げる「脱退」というスキームによらずに,そもそも組合員たる資格を有しないものとする,仮に何か出資してしまっていたとしたら,それを巻き戻す,そういう処理も考えられると思います。 ○中井委員 今の点ですけれども,これは脱退という言葉は使ったけれども,つまりイで言うならば組合契約の取消しのときは将来に向かってその効力を生ずると。アのときは意思表示の瑕疵の問題ですから,この瑕疵が無効であれば元々無効,取消しであれば原則どおりに遡及的に取り消し,そのように理解をして考えてよいのではないか。そういう意味では,この脱退という言葉自体が不適切というか,そのように考えなくてもよいのではないかと,弁護士会で議論したことを御紹介しておきます。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○川嶋関係官 御指摘を踏まえて,中間試案では整理したいと思います。 ○道垣内幹事 みんな分かっており,私だけが分からないのかと思って発言しなかったのですが,あえて発言いたしますと,例えば4人が組合契約を締結して,組合の事務執行として第三者と契約をしたとします。組合自体に法人格を認めないということになりますと,A,B,C,Dが契約当事者になって相手方と契約をしているという形になります。しかるに,Dは組合契約の締結に当たって錯誤があったとした場合に,どういう処理が行われるという前提に立っているのだろうかということなのです。取引をした後は第三者の保護のことを考えるというわけですが,ここで第三者の保護というときには,契約が有効になるということだけを意味していて,例えばDが拠出した財産については組合財産にならず,それを差押えの対象にできない,あるいはDの個人財産もそうですね,そのような責任財産の減少に対して第三者を保護することはここでは考えていないということですね。組合がA,B,Cを組合員として存続するということなのですが,第三者の保護というときに,それでいいのかというのがちょっとよく分からないのです。これに対して,岡委員は,脱退として処理するのですよね,とおっしゃいました。非常に例外的なことを認めるわけで,詐欺や錯誤などにもかかわらず,あえて脱退とする。しかし,そうしますと,先ほどの事例で,Dは契約当事者になる,契約をしたことになるわけですね。   以上からしますと,補足説明における言葉の問題に限らず,結局どういう効果になるのかということについて詰めておく必要があるのではないかと思います。多分今のままですと,別にそれが絶対いかんと言っているわけではないのですが,Dについて錯誤があるということになると,恐らくA,B,Cと相手方が契約をしたことになって,かつDの財産は遡及的に組合財産にはならなかったことになるということなのでしょうし,それはそれでもいいのかもしれません。しかし,錯誤や詐欺における第三者の要保護性の問題を考えると,例えば詐欺については第三者の保護規定があることと整合的なのかということも併せて考える必要があるのではないかと思います。すみません。結論がございません。 ○能見委員 自分の理解を確かめるだけの発言みたいなものですけれども,今,この1の(1)のアのところで問題となっているのは,本来であれば意思表示の瑕疵に関する規定が適用されるような無効とか取消しの原因がA,B,C,Dのうちの一人,例えばDにそういうものであったというときに,そのDというのが何らかの意思表示をした,あるいは合意をしたことで法的に拘束を受けるかという問題と,それから,もう1つは,組合契約はある種の合同行為的なものと考えられているので,Dは,A,B,Cとお互いに意思表示を交換し合って契約しているわけですが,その中の一人Dが抜けたときに,残りでもって組合が存続するのかという問題であり,二つは違う問題なのではないかと思うのです。   それで,このアの前半部分と,「その例外として」と書いてあるのと比較しながら考えると,前半のほうは組合契約の効力が妨げられないものとするとは書いてありますけれども,これは今私が言った二つの問題のうちの,一人が抜けても組合契約が存続するという問題を扱っているわけですが,この問題の先に,一人にそういう錯誤などの原因があっても,その人が意思表示の拘束力を否定して単純に抜けるということはできないと。抜けるためには脱退をするという方法しかないんだというようにつながるのではないかと思いました。以上の原則に対して,その例外として,取引があるまでの間に今のような錯誤の主張を誰かした場合には,意思表示の規定に従う。そういうものとしてここでは作られているというふうに私は理解したんですが,ちょっと道垣内さんと少し微妙に理解が違ったような気がするのですけれども。 ○道垣内幹事 そうですね。極端な話になりますと,DがA,B,Cに脅迫されて組合契約を結んで,それでその組合の業務執行というのがなされた後に,Dも責任を負うというのも変な感じがするのです。このような強迫の場合を考えてみますと,組合自体はDが脱退した形で存続するのであって,それまでの法律行為には影響を及ぼさないということには当然にはなりそうもないような気がします。それは強迫については第三者保護の規定がないことと関係しているわけでして,それに対して,詐欺ならばその部分に結局A,B,C,Dの組合契約がなされていて,かつ対外的な取引をしたというときの取引の相手方もその詐欺の取消し前の第三者というふうな形の保護を与えるということなのかなという気がします。詐欺の場合の結論は能見委員と同じになるわけですが,構成の仕方が違うということになるかもしれません。 ○中井委員 今の議論を聞いて弁護士会は全く誤解しているのかですけれども,A,B,C,Dという道垣内先生は例を挙げられましたので,それで考えたときに,本来的にA,B,C,Dで組合契約というのは一つ成立する,Dに意思表示の瑕疵があれば,その瑕疵を理由に無効若しくは取消しとなったときには,組合契約自体が無効若しくは取消しになるのが本筋であるという理解をしています。それが正しいのか。にもかかわらず,一人の無効・取消し事由があっても,また取消しの意思表示をしてもA,B,C,3人の間で組合契約自身は存続させる,そういう特則を設けるというのがこのアの規律で,そのような特則を設けるのは第三者と取引をした後ですけれども,第三者と取引をしない限りは,原則どおり組合契約は取消し若しくは無効で成立しない,こういう理解を前提にしています。その理解が正しいのか教えていただきたい。そういう理解を前提にしたとき,Dさんについては無効若しくは意思表示を取消したわけですから,本来どおり,出資を仮にそれまでしていたとしても,それは全部取戻しすることができる,元々組合を構成しなかった。したがって,脱退とは考えなくてよいという理解をしたんです。あえて脱退とするなら,一旦4人で成立して,意思表示の瑕疵のある人も意思表示をして脱退する,無効だったら一体いつ脱退するのかよく分かりませんけれども,そういうふうに考える必要はないというのが先ほどの議論のつもりだったのですが,教えていただければと思います。 ○能見委員 ちょっと今の点は,特に団体の契約の部分が私の理解とはちょっと違っていたと思いますけれども,私はまだ第三者との取引がなされる前であっても,誰かA,B,C,Dのうちの一人の錯誤等の無効の意思表示があったときに,組合契約全体が無効になるとは考えない。ここの表現は,「例外として」というところでは組合契約の効力は意思表示の規定に従うものとすると書いてあるので,何かあたかも組合契約自体が無効になるかのようにちょっと印象としては思えるんですけれども,恐らくそういう理論は余りないのではないでしょうか。まだ取引がない段階で一人が錯誤の意思表示をした。その人は抜けるだけの話で,したがって,団体全体としていうか,その4人のうちの一人に意思表示の瑕疵があったときに組合契約そのものがどうなるかという点に関して,今の御意見は,前提となる理解が少し私とは違っていた。どっちが正しいのかよく分かりませんけれども,少なくとも違っていたと思います。 ○道垣内幹事 一応私も申し上げておきますと,私は,前半は中井委員と同じ理解です。しかし,今までの議論というのは,多分そこまでしか明らかにしてこなかった。そこに,ただし書か何か分かりませんけれども,第三者との取引が開始していないといった要件を入れて,第三者保護の問題をここに組み入れていくことによって,それではなされた取引はどうなるのかという問題が別途生じてくるのかなと理解をしております。しかし,論理的なところもさることながら,組合契約そのものがどうなるのかという問題と,そういうふうな取消しがなされる前ないしは無効主張がなされる前に行われた取引というのは,どのような形で保護されるのか。それは表見代理なのか何なのかというふうなことは,第三者保護の問題を視点に入れる限りにおいては,詰めておく必要があるのかなという気がいたします。 ○松岡委員 私の理解は先ほど能見委員がおっしゃったとおり,組合契約の場合に,参加者の一人について無効・取消し事由があっても,必ずしも常に組合契約全体が無効になるというふうには従来は考えていなかったと理解しています。   それからもう一つ,今後検討していただくときに考えたほうがいいと思う点があります。第三者保護の趣旨が今回盛り込まれるといたしますと,第三者の主観的態様について何も定めない規定を設けるのは,やはり詐欺等の場合と比較して少しバランスが悪くはないかと思います。 ○川嶋関係官 今の点ですけれども,これには基になった立法提案がございまして,その立法提案の(1)アの第2文に相当する箇所について,私は,第三者と取引を開始する前であれば組合契約全体がなくなってしまうというふうに理解していたのですが。もしよろしければ,この立法提案をされた研究者の方に,ちょっとそこを御説明いただけたらと思うんですけれども。 ○中田委員 私個人の立法提案というわけではありませんが,今の川嶋関係官のおっしゃる理解ではないかと思います。組合契約は,必ずしも大勢ではなく,たとえ二人でも成立し得ますけれども,そうすると,意思表示の取消事由あるいは無効事由があるときは,原則としては,それはそのまま適用されるのが自然なように思われますが,しかし,組合の団体性に鑑みて,第三者との取引が始まった後はそれを主張できないということだと思います。ただ,先ほど御指摘の立法提案によりますと,その場合にそのような意思表示をした当該組合員については,組合に対する求償権を与えるということで,第二段階の解決を図っている,それはセットになっているんだと思います。第三者との取引の開始前についても契約は成立させて,あとは解散によるという解決の仕方もあるかもしれませんけれども,少し重いのではないかなという感じがいたします。   それとの関連で申しますと,今回の御提案では,残存組合員が一人になった場合であっても組合契約は存続させて,解散によって解決するという発想だと思うんですけれども,今申し上げたように,二人しかいなくてAの詐欺によってBがAとの組合契約を締結したというときまで全て解散手続によるというのは,ちょっと重いかなという感じはしています。 ○能見委員 たくさんの場合はどうなんですか。組合でも結構大きい組合みたいなのがありますけれども,二人ではなくて。二人だと団体的な性格は余りないでしょうけれども,多数人の組合のときにもその組合契約全体が効力を失うということになるのでしょうか。 ○中田委員 第三者との取引開始前にどういうふうに解決するかというのは,理論的に考えて組合契約の団体性という観点から処理するというのが一つだと思います。ただ,現実的な解決の妥当性ということを考えると,第三者との取引を開始する前であれば,内部関係の問題だけですから,一旦その組合契約についてはなしにして,もし残存者だけで新たに組合契約を締結したければ,それはそうしたらいいのではないかと思いますけれども,そこで団体性を強調して,いや,その場合でも一人が抜けた残りで組合契約が成立するということは,選択肢としてはあり得ると思います。ただ,その抜け方が何なのかですね。それを脱退と見るのか,それともその人を含まない契約が成立したと見るのか,そこの説明の問題だと思います。 ○能見委員 私が先ほど申し上げたのはそういうことで,団体契約として残るか残らないかという問題と,それから,瑕疵のある意思表示をした人が拘束を受けるかどうかという二つ問題があって,私の場合,比較的ちょっと大きな団体を考えていたので,二人の場合はもちろんあって,また別途に考えなくてはいけないのかもしれませんけれども,多数の構成員がいる組合の場合であれば,一人に意思表示の瑕疵があっても,残りの人たちの合意で組合が存続するというふうに解していいだろうと。意思表示の瑕疵を主張できる当事者に関して,その人がどういう状況の下で抜けるということを認めるかというのは,この取引が開始する前,開始した後でちょっと差を設けるという,いろいろな組合せはあるかもしれませんが,抜けられるとしたときに,例えば取引がまだ開始する前であれば脱退という形ではなくて,その人の意思表示の無効自体を主張させて,出資した財産などは当然に戻ると。脱退の形を採ると,もしかすると金銭でしか払い戻しはしないとか,現物で必ずしも戻ってくるとは限らないので,そういう意味で現物出資したものはそのまま戻る形の抜け方というのも一定の場合には認める必要があるだろうと。それをこの「例外として」うんぬんというこの後段のところで認めれば十分なのかなというふうに私は個人的に思いました。   第三者が絡んでいなくても,恐らく大きな組合ですと,これも第三者のうちに入るのかもしれないけれども,出資を集めてどこかで口座か何かにお金をまとめていたり,いろいろな財産の管理とかいろいろなことがもう既に発生していると思いますので,それを全て御破算にするというのは何か余り現実的ではないような気がいたしました。ちょっと個人的な意見ですけれども。 ○松本委員 今の論点について私も能見委員の考えに大変近いです。というのは,伝統的にそういうふうに教えられてきたというだけの話なんですけれども,組合員の一人について意思表示に瑕疵があっても,ほかの組合員の意思表示の部分に影響が及ばないというのは,多くの場合は多分そうだと思うんです。ただ,二人で組合を作ったときに,一人の意思表示に瑕疵があって,では一人組合として残して意味があるのかというと,恐らくないでしょう。それはなぜかというと,二人でやるから組合という一種の条件といいましょうか,前提があるわけなので,それが崩れれば,残るもう一人で一人組合というのを認めるか認めないかは次の議論ですけれども,それをすることの意味がないのであれば,それは団体設立の合意としての組合自体の効力がなくなるということであると思います。   では,3人だったらどうかと。これは恐らく場合によると思うんですね。一人が落ちても,残りの二人でやっていくという意思があるのであれば,組合を残せばいいだろう。しかし,3人のうち一人が落ちた場合,この人は我々の組合活動にとっては不可欠な人なんだということであれば,それはやはり解除消条件とでも言うんでしょうか,ということで全体としての組合設立の合意はなかったということになるんだろうと。では,100人とか1,000人であればどうかというと,これは恐らくこの人が入らなければという,誰が見てもというのがあればそうなるでしょうし,そうでなければほかの人々の間で残るという理解でいいのではないかと思います。 ○中田委員 論点は出ていると思うんですけれども,組合について契約としての同一性を考えるのか,団体としての同一性を考えるのか,どちらにより重点を置くかというのが理論的な問題としてあると思います。それから,もう一つ,実質的な問題として,意思表示に瑕疵あるいは無効原因のある当事者についてどの程度の責任を負わせ,どの程度まで保護するのかという実質的妥当性の問題があると思います。なお,組合については契約であるということを考えますと,二人から成立するということはやはり外せないのではないかと思います。 ○潮見幹事 中間試案に向けての整理に当たってのお願いということで発言させていただきたいのですが,いろいろ今議論を聞いていますと,結局ここで提案されているものというのは,既に組合員である人について意思表示に瑕疵があったような場合に,有効か無効か,それ両方の可能性があって,それを切り分けるものとしての基準として第三者が登場するかしないかという理解をしておられるように感じました。そして,原則は有効であり,第三者が登場する前であれば無効処理をしてよいというように処理しているのですが,これは一見すると非常に明確なものの,ここまでの議論を聞いていますと,幾つかの捉え方で違いがあるように思いました。一方で,こうした場面での契約の効力自体を全体として有効と見るか無効と見るかという点で,能見委員や松岡委員の意見と,それから弁護士会が基礎に置いた意見とでちょっと違いがあるようです。また,仮に全体としては有効であると捉えた場合には,先ほど能見委員がおっしゃったように,瑕疵のある意思表示をした人が一体どうなるのかということを処理するルールが必要になってくるでしょう。他方,契約全体が無効になると捉えた場合には,第三者保護に関するルール作りが必要になって,そこでは,松岡委員がおっしゃったように,第三者性について何ら制約を加えなくてよいのか,主観的な面で何らかの制約をしなければいけないのかという枠組みでの議論へと進んでいくのではないかと思います。   このように見たとき,基本ルールとしては,先ほどの団体性,契約性にも関わりますけれども,こうした場面での契約を原則として有効と見るのか無効と見るのかというところから問題を提示していただければいいのではないかというように思います。今回の中間試案の整理の仕方というのは,一つの可能性を示しただけであり,何かしら一つの方向から全部を一括して処理しようというような傾向が強く出すぎているという印象を受けます。できれば,もっと様々な角度からもう少し整理していただければと思って発言させていただきました。 ○山本(敬)幹事 まだ分かっていませんので,どなたか分かるように少し説明をお願いしたいという趣旨での質問です。元の80ページの(1)のアの提案が,この文言で一体何を意味することになるのかという点の確認です。  まず,本文では,一人又は数人について意思表示に無効・取消原因があっても,組合契約の効力は妨げられないとされています。ということは,一人又は数人について意思表示に無効・取消原因があることは,組合契約の効力が否定される原因にならない。ですから,組合契約については様々な効果があると思いますけれども,その効果が主張されるときに,いや,一人又は数人についての意思表示に無効・取消原因がある。取消しの場合は更に取消しの意思表示をしたところで,それは組合契約の拘束力を否定する根拠にはならないということを恐らく述べているのだろうと思います。   問題は,その例外として,第三者と取引を開始するまでの間は,意思表示の無効又は取消しに関する規定に従うものとするとされている点です。これは,今の原則の文字どおりの例外だとするならば,組合契約の効力を否定する原因になるという趣旨なのか,それともそうではないのかということが少しよく分かりません。例えば,出資義務の履行を求められるときに,自分には出資義務がもはやないのであると主張できるということなのか。しかし,それで他の者たちが行った組合契約の効力まで否定されるというような意味を持っているのか,持っていないのか。あるいは,無効又は取消しに関する規定に従うというのは,複数の人がいる場合の意思表示の一部が効力を失われた場合に,他の意思表示ないしは契約の効力にどのような影響が及ぶかという点に関するルールが現在あるとは思いませんけれども,あるとして,そのようなものに従うということなのか。この「従う」ということが何を指しているのかが少しよく分かりませんので,どなたか御説明頂けないかと思います。 ○川嶋関係官 (1)アの記載の趣旨を説明いたします。A,B,C,Dという4人の組合においてDに意思表示に無効又は取消しの原因がある場合を例にとりますと,まず第1文の「組合契約の効力は,妨げられない」というのは,残存するA,B,Cの3者の間で組合契約は生きるという趣旨の記載です。Dがどうしてその組合に入らないのかという点については,先ほどの繰り返しになりますけれども,補足説明では「脱退」という言葉を用いましたが,必ずしもそれはいわゆる「脱退」である必要はないと思います。そこは改めて整理する必要があるところです。   そして,第2文の「組合が第三者と取引を開始するまでの間は,組合契約の効力は,意思表示の無効又は取消しに関する規定に従う」というのは,A,B,C,Dの4者間の組合契約そのものがなかったことになると,そういう趣旨で記載したものです。 ○山本(敬)幹事 例えば一人,二人,三人の場合はそうかなと思うところもありますけれども,例えば100人ぐらいの構成員がいる組合契約で,一人について錯誤等の無効ないし取消原因があって,その者にとっては,自分のした出資さえ返還してもらえれば,あとはどうなっても別に構わないというときに,1人の意思表示が無効ないし取り消されれば,組合契約全部の効力を否定する原因になるという必要があるのかという点は少しよく分からないのですけれども,そういうことまでこの例外は含んでいるのかなと今伺ったのですけれども,それでよろしいでしょうか。 ○筒井幹事 今,山本敬三幹事から御指摘いただいた点は,先ほどからの御議論で整理が必要だということが明らかになったと思いますので,改めて事務当局において本日の議論を受け止めて整理を行い,次の中間試案のたたき台を示すという手順にさせていただこうと思います。 ○山本(敬)幹事 そのときに,やはり無効又は取消しに関する規定に従うという表現は非常に曖昧で,何を意味しているかよく分かりませんので,ルールの内容が明確に示せるような表現をお考えいただければと思います。 ○鎌田部会長 能見委員のような考え方をとった場合に,イのような原則は成り立ち得るのですか。 ○能見委員 これはどういう場合に組合契約全体が取り消されるのかというもう一つ何かちょっとルールがないといけないと思いますけれども,私の場合は原則として残るというふうに考えます。でも,組合契約全体が取り消されるという場合があるとすると,そのときに遡及効を持たせないという,そういう考え方ですよね。それは両立というか,あり得ていいと思いますが,繰り返しになりますけれども,どういう場合にそもそも組合契約全体が取り消されるのかというのを詰める必要があると思います。 ○松本委員 山本敬三幹事が質問されたことに対する回答についての確認なんですが,確かアの本文2行目の組合契約の効力は妨げられないものとするということの意味は,A,B,C,D,4人いて,Dについて無効だったとしても,A,B,Cという3人の組合としての効力は存続するというふうに御説明されましたよね。Dも含めてという趣旨ではないとおっしゃいましたね。よろしいですか,それで。   だとすると,そこの部分とイを組み合わせると,無効だとか取消しという原因があったとしても,その落ちるところの一人については将来効のみなんだということですよね,第1文とイを足せば。それと別にアの第2文で,第三者との取引開始前は,一人についての無効・取消し事由があれば組合契約全部が消えてしまうという説明でしたよね。 ○川嶋関係官 イは,組合契約全部が取り消される場合の将来効という趣旨なのですが。 ○松本委員 その組合契約全部が取り消されるということの意味がちょっと分かりにくいんです。そのDの組合加入契約の意思表示が取り消されればどうなるのかについては,考え方が幾つか分かれていましたですね,今日の議論でも。そうなれば組合契約が全部消えてしまうんだという理解もあれば,そうではなくて,その一人についてだけ脱落するにすぎないんだという理解もあるわけです。正に先ほど質問した趣旨のアの一文の趣旨は,Dが落ちてもA,B,Cで組合が残るということを確認したわけで,事務局はむしろそっちの御説明でやっておられるわけですよね。そうしますと,イのこの組合契約が取り消されたというのは,瑕疵のあるDについてのみ取り消されたという意味だと私は理解したんですけれども,そうではないんですか。 ○川嶋関係官 イは,一人についてのみということではなくて,例えば詐害行為取消し等によって,組合契約全体が取り消されるような場合を念頭に置いたものなのですが。 ○松本委員 そういう特殊な場合のみを想定されているわけですか。そうしますと,アの第2文で言う取消し,無効なんかとは全く違うシチュエーションだということですね。 ○川嶋関係官 そうですね。第三者との取引開始の前後というメルクマールを設けることがよいかどうかということについては別の議論があるわけですけれども,アの第2文とイとでは,組合が第三者と取引を開始する前と後とで場面をそもそも分けていますので,別のシチュエーションだということにはなるんだと思いますけれども。 ○松本委員 そうしますと,イで詐害行為取消しなんかを考えるのであれば,第三者が現れる前であっても同じではないですか。個々の組合加入者の意思表示の無効とか取消しではないところのもう少し別の観点からの全体の取消しをここでお考えなんだとすれば,なぜ第三者との取引という形で分けるのか。つまりアとイというのは第三者保護だということで私は理解したわけですけれども,今の御説明だとイは別に第三者保護でもないような気がするんですけれども。 ○鎌田部会長 第三者保護といえば第三者保護なんだと思うのですけれども,アで想定している場面とイで想定している場面とは場面が全く違う。文面だけからそれが直ちに読み取れるかというと,なかなか難しいところがありますので,先ほど来御指摘を受けたところを踏まえて,提案内容が誤解なく理解されて,具体的にどういう場面でどういう効果が生じてくるかということができるだけ明確になるような提案内容にし,また,補足説明もそれに併せて分かりやすい形に整理するという作業を恐縮ですけれども,お願いしたいと思います。 ○道垣内幹事 言わずもがななことなのかもしれませんけれども,中井委員が最初におっしゃり,私が賛成であると申し上げた見解と,能見委員,松岡委員がおっしゃった見解とは違うということなのですが,その違うということの意味は,結局組合員の一人について組合契約をする意思表示に無効又は取消しの原因があっても,組合契約の効力は妨げられないものとするというルールが確認規定なのか,創設規定なのかという違いがあるというだけでして,その理屈をどちらにとるかということと具体的に妥当な結論がどうなのかという問題は別問題で,具体的な結論については別段対立があったわけではないと思います。   その上で,例外を設けるかどうかについては,なお場合によっては対立があるのかもしれませんけれども,かつ中間試案の取りまとめをする際に,いずれの見解を採るかということを明確にしないと作れないというわけではどうもないのではないかという気もしますが,少し考慮の中に入れていただければと思います。 ○鎌田部会長 ということでよろしいんですか。私の理解では,例えばA,B,C,DのうちのDが出資した部分は,無効・取消しであれば出資分はそのままDに戻るという理解と,Dの出資したものは組合にとどまっていて,Dは脱退によって払い戻しを受けるだけという理解で,具体的結論が違うんだというふうに……。 ○道垣内幹事 それは脱退なのか,その意思表示の取消しの一般規定によるのかというところに違いがあるというだけであって,一人欠けたときに組合契約全体が無効になるというのが本則で,例外としてそうではないというふうにするのか,それとも一人抜けても残りは残るというのが本則で,それを確認するかという点については,その議論は残るということの結論には影響を及ぼさないだろうというだけです。 ○鎌田部会長 いや,私が誤解しているのかもしれないけれども,対外的にA,B,Cの組合になるのか,対外的にはA,B,C,Dの組合になるのかという違いが両説の間にあるのかと思って。 ○大村幹事 今の点ですけれども,道垣内さんからは確認規定なのか総説規定なのかというお話がありましたけれども,能見先生や松岡先生のようなお立場に立ったときに,このアの前段を置くことによって,今,部会長がおっしゃったDが残るという理解をされているのか,されていないのかをここで確認すればよろしいのではないでしょうか。そういう理解をしていないということであれば,実質は変わらないということになるのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 そこのところについて,能見委員。 ○能見委員 私の説明は,先ほどアの前段の部分は,Dは残って脱退によって抜けていくと。だけれども,この「例外として」というところの以下のほうは,私としては,この場合も団体は残るけれども,当該個人は自分の意思表示は無効だといってそのまま出資を取り戻すことができる,そういうふうに理解するのがいいのではないかと。 ○鎌田部会長 ちょっとそういう意味で理解の違いがありそうなので,それらをうまく整理して議論の状況を……。 ○神作幹事 組合の使われ方は多様だと思うのですが,現実に使われる一つのタイプとして,投資の受け皿として組合が使われるというケースがあります。そのような投資のスキームとして組合が利用された場合に,詐欺的なスキームが登場し,それに引っ掛かった投資家が組合契約を取り消したときに巻き戻す処理ができないと,実際上,非常に深刻な問題が起こるのではないかと思いますので,その点一言だけ申し上げさせていただきます。 ○鎌田部会長 それでは,今の点も含めてよろしくお願いします。 ○松本委員 単なる確認なんですが,先ほどのイのところの議論をしたときに,これは通常の取消しではなくて,非常に特殊な詐害行為取消しなんだとおっしゃったんだけれども,先ほどの能見委員の立場,すなわち第三者との取引開始前までは意思表示の無効・取消しで最初からなかったことになると。しかし,それ以外の場合,簡単に言えば第三者の取引開始後ということでしょうが,その場合は前段の意味として効力は妨げられない,組合は残り,当該無効・取消しに関わる意思表示をした人は脱退するんだとおっしゃった。それは結局イの将来に向かってのみその効力を生ずるというのとほとんど変わらないですよね。そういうこともあって,私はイとアで単に第三者が現れる前と現れた後とで,現れた後についてはそういう将来効しか認めないという趣旨の遡及効のない取消しあるいは無効だというふうにこのイを理解していたということです。 ○鎌田部会長 よろしいですね。   1の「(2)他の組合員が出資債務を履行しない場合」についての御意見は,いかがでしょうか。 ○中井委員 これも弁護士会の意見を紹介しておきますと,基本的にアもイも賛成する意見でした。ただ,アについては,「その例外として」以下の部分について必要なのか,疑問を呈する意見がありました。つまり業務執行者が置かれていない場合であっても,組合契約が成立した以上,各組合員は出資の義務を負うのではないか。お互い同時履行の抗弁を主張させずに,履行していなくても「お前は履行しろ」,「お互い履行しろ」で出資させるのが当然ではないか,なぜここで例外が必要なのか,そういう疑問が出たことを御紹介しておきます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,「2 組合の財産関係」についての御意見をお伺いいたします。 ○松本委員 単に私だけが理解できていないのかもしれないんですが,2の(2)のアの(ア)の2行目のところがちょっと理解できないんです。「組合の債務者が当該債務を負担した時又は組合員に対する債権を取得した時のいずれか遅いときにおいて」の次ですね,「当該債務が当該組合員に対するものでないことを知らず」ということの「当該債務」というのは,この組合から見て第三者が負担しているところの組合に対する債務ですよね。それが「当該組合員に対するものでないことを知らず」というのは,どういうシチュエーションを言っているんでしょうか。当該組合員というのは第三者が有しているところの債権の債務者ですよね。 ○沖野幹事 この表現は元々に信託法の規定を参考に新たに提案されたということで,その信託法の規定のほうをそのまま並列して書き表すと,このような書き方になったということではないかと思います。趣旨は,当該債務が当該組合員に対するものであったならば,単純に同じ主体に債権債務が立つので相殺できるようだけれども,そういう状態にない,ということを知らなかったということを書くためにこう書いてあるのだと思います。信託の場合は固有財産と当該信託財産と他の信託財産というのがありますので,それらを書き分けるためにはやや回りくどい表現をしなければならないという事情があるのに対して,恐らくこの場合はそういうことがないとすると,もっとすっきり書けるのかもしれません。 ○松本委員 すっきりとかの話ではなくて,(イ)と比べていただければ,(イ)はよく分かるんです。当該債権が組合員に対するものでないことについて善意無過失であった場合は相殺できると,これはシチュエーションが大変よく分かるんだけれども,(ア)のほうは第三者が組合に対する債務者であるというシチュエーションにおいて,当該債務が当該組合員に対するものではないというのは日本語になっていないですよ。つまり第三者は,自分は債務者だということは認識しているわけなんです。組合が債権者だということは認識しているわけなんです。ところが,当該組合員に対する債務でないことを知らずなんていうことはあり得ないわけだから,何か当該債務を残すとすれば,その次の当該組合員は別の言葉に置き換えないと,日本語として通じないのではないですか。 ○沖野幹事 今,二つのことが絡んでいるのかと思いました。一つは相殺ができる債権債務の対立が同一主体に対してある,あるいはその債務の性格が同じであると申しますか,その点でここでのシチュエーションというのは,第三者が組合に対する債務者であって,しかし,債権のほうはそのうちの特定の組合員に対する債権だということでずれがあるので相殺ができないのだけれども,ずれがないと信じたという場合,その信じたほうについて,債務側について信じた場合と債権側について信じた場合というのを(ア)と(イ)で書き分けているということで,(ア)のほうは自分の債務のほうが当該組合員に対して負っている債務だというものだと考えていたというような場合であれば,債権と同じ人に対して成立しているので相殺ができると考えていたところ,実はその点について理解が間違っていたという場面を記載する表現として,この表現が適切なのかという御指摘は一つあって,そうだとすると,その表現の仕方をより分かりやすいなり明確な形で書かないと混乱が生じるという御指摘だと思います。もう一つは,そもそもこういう場面が起こるのかということで,自分の債務というのは組合の債務者であるという場合には,当然その債務というのは組合員に対する債務であるということは分かっているはずではないかという問題で,その点は信託法22条をそのままここに持ってくる同じ状況があるのかという御指摘なのだと思います。信託の場合ですと,受託者として登場する相手方は全く同じで,しかも,その取引について信託であることを明示する必要は全くなく,代理のような顕名は必要がないということがありますから,相手方からすれば当該債務がどちらのほうに帰属するのかというのは分からない,債権についても分からない,取引がどちらから発生するか知らされる訳ではないということがありますので。そういうシチュエーションが組合の場合同様にあるのかという……。 ○松本委員 沖野幹事のおっしゃることはよく分かるんですが,日本語の表現として,(ア)は分かりにくい,(イ)はよくよく分かるんです。つまり当該債権というのは何ですかというと,その前に書いてあるところの組合員に対する債権だというのは分かるから,そこに誤解があったということについて善意無過失の場合は相殺を認めましょうということで,(イ)は日本語として素直なんですが,(ア)は当該債務というと,その前の文章に当該債務を負担したときというのが出てくるから,当然これですよね。債務者が負担している債務……。 ○鎌田部会長 当該債務が組合の債権ではなくて,個人の債権だというふうに誤解した場合という意味ですね。それを分かりやすいように書けという御趣旨ですね。 ○中田委員 沖野幹事の御発言のとおりだと思うんですけれども,松本委員のおっしゃっている表現が分かりにくいというのは,これは確かにそうなんですが,表現を整理した上で,なおこのような規律,信託法22条に相当する規律を置くことの当否というのは,もう一段階問題があるように思います。仮に信託の場合には,これも沖野幹事がおっしゃったことですけれども,受託者が受託者としてする取引なのか,固有の取引なのかが分かりにくいということがあるのに対して,組合の場合には組合の取引か組合員の取引かというのがより分かりやすいんだとすると,同じような規律を置く必要はないのではないかという,その実質論との二段階あると思うんですね。   実質論のほうでこのような規律を置く必要がないのだという結論になるのであれば,表現の点について議論しても,結果的には余り意味のないことになるのではないかと思います。 ○佐成委員 今の点ですけれども,要するに信託法22条を類推するといいますか,それに倣った規律を設けるということの実質につきまして,私も若干疑問に感じています。そもそも,組合一般の財産関係が,本当に信託財産と同様の利益状況にあるのかということが一つあるのだと思います。それと,もう一つは,業務執行者を置いている場合と置いていない場合とでは,やはり今のような利益状況がちょっと変わってくる可能性がありますので,そこら辺の区別を踏まえる必要があると思います。もちろん,もし規律を置く意味があるのであれば置くということになるのでしょうし,実際,規律自体は非常に説得力ある規律だなとも思うのですけれども,一般的に組合というのはいろいろなものがあるわけですから,それを入れてしまって本当に大丈夫かなというのが心配だということでございます。 ○中井委員 表現はともかく中身について弁護士会の意見としては,このような相殺を認める規定を設けることには反対という意見が多かったです。基本的には組合財産保護の観点という理由からです。ただ,一部にはこういう相殺を認めるべきであるという意見もございました。そこで今,中田委員からおっしゃられた具体的な例として,A建築会社とB建築会社が共同企業体である仕事をしているときに,A建築会社と取引をした場合,その債務が果たして共同企業体の債務なのか,A建築会社自身との取引の債務なのか,これは分からない場面は確かにあるだろうと思います。そのときに反対債権を持っているからA建築会社から買って相殺できると思っていたけれども,実はそれはA建築会社の債務ではなくて組合の債務であった,こういう(ア)の場面は十分想定されますので,その場合で相殺期待を保護するのか,それとも組合財産を保護するのかという観点で考えるべきだろうと。そこで,観点を変えれば,A建築会社からの債務,実はそれはA,B共同企業体の債務であったのかもしれませんけれども,当該取引の過程においてAから仕入れて,Aに弁済したとき,相殺ではなくて弁済をしたとき,やはり弁済自体が保護される場面があるのではないか,そういう観点からも別途要件が同じなのかどうかも踏まえて考えるべきではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見,いかがでしょうか。 ○道垣内幹事 組合員の一人が業務執行の過程で第三者と取引をするというときに,どのような形態でするということが本則であるというのが前提になっているのかというのがよく分からなくて,つまり先ほどとまた同じ例を出すのは恐縮ですが,A,B,C,Dの4人が組合員であるというときに,Aが業務執行者のときに組合を顕名し,ないしはB,C,Dから代理権を授与されているということを顕名することが本則であり,対外的には,それによって初めて組合の取引となると考えますと,誤解は生じないのですね。誤解が生じる場合というのは,当該相手方との関係では,Aが単独債務者である場合にほかならないような気がするのです。組合の場合にこういう規定を置くということになりますと,組合契約でも何でもなくて,AがBから代理権を授与されていて,顕名しないでAが相手方と取引をしたのだが,これはBを本人とする代理行為であると相手方が考えて,Bに対する債権を取得すると信頼した場合の相殺を保護するという規定がなければバランスがとれていないことにはならないのだろうかという気がいたします。   組合の業務執行で第三者と契約するという場合の形態の本則は何なのかということをまず確定しないと,議論が混乱するのではないかという気がします。 ○中井委員 先ほどの発言を補充しておきますと,A,B共同企業体のある建築現場があったときに,A,B共同企業体,業務執行者Aとして取引するなら,それはもう誤ることはあり得ないのですけれども,Aと取引をしている下請先というのはたくさんあって,下請けというのはA建築会社との間でたくさんの現場を持っていますから,そこである材料を入れるときに共同企業体の現場に入れるのか,ほかの現場に入れるのか。ほかの現場に入れたものはAに対する固有の債権,共同企業体の現場に入れたものに対して組合に対する債権となるのだろうと思いますけれども,そのときに顕名して,A,B共同企業体Aというのと,単純にAと表示しているのと,実際様々あり得るのではないでしょうか。それがないならこの規定を設けても相殺の生じる場面がないだけの話で,仮にAと表示していて,実はA,B共同企業体のためだった場合にこの相手方の保護をしなくていいのかと,そういう問題だと理解しています。その理解がよろしいのかです。 ○道垣内幹事 そういう理解かもしれないというふうには思うわけでございまして,現実を考えると,そうしなければならないということになりますと,組合というのはそういう意味で極めて特殊で,別にA,B,C,Dの組合の業務執行であるというふうな内部的な実質を持っていれば,Aが単独名義で行為をしても,当該取引によって債権を取得したものは組合財産に対しても執行していける,組合債権者の実質になるわけですからということになるわけですよね。信託というのは正にそうだと思うので,その受託者が受託者の名前,甲信託銀行という名前で取引をし,その取引がある信託の業務執行であるというふうな形を相手方に示さなくても,たまたまそれが信託事務執行であるならば当該相手方は信託財産に対して執行していけることなります。逆に,たまたま内部的にそうではなくて,甲信託銀行の固有財産の取引であるということになりますと,信託財産には執行していけないという効果が生じる。そういう仕組みになっているわけですが,それと同じように組合を考えるということなんでしょうか。それとも,これは代理の問題だよと,代理の一般原則で処理をする問題なんだよという話になるのかというのが分からないままでおります。 ○鎌田部会長 多分,中井委員の挙げられた例も法的には,客観的に見れば顕名があったんだと思います。だけれども,契約書なんかを作成しない取引の中では個人の取引と相手方が誤解することがある。個人として取引しても組合のものになるという説明は,やはり法的には難しいのではないでしょうかね。 ○能見委員 今までの議論に異論があるわけではありませんけれども,組合財産に属する債権を考えているのか債務を考えているのか,ちょっと議論が少し入り組んでいたと思いますので,この(2)のアのところで松本委員が最初に問題提起したのは,組合財産に属する債権で,相手方が債務者で,したがって,相手方からすると,自分は組合員個人から借りたとのか,あるいは組合自体に対しての債務を負っているのか,それを誤解したというタイプですね。ちょっとその点,少し議論が混乱していたように思います。組合の責任財産がどうのこうのというのはこれとは違う問題で,中井委員が問題にされたような相殺を認めると,組合の財産である債権というものが組合員個人に対する反対債権によって相殺されることで組合財産が減ってしまうという,そういう問題があるということですね。 ○鎌田部会長 その点については意見の分かれる部分があるということで,事務当局と引き続き検討させていただきます。(1)のブラケットに入っている部分ですけれども,「組合財産に属する財産」という,これはこういう表現を使っても大丈夫だろうかという趣旨でのブラケットですか。 ○川嶋関係官 補足説明に記載しましたが,88ページの2(1)のイの第2パラグラフのとおりでございます。 ○鎌田部会長 この点については何か御意見ありますか。 ○三上委員 括弧だけの意見ではなくて,実務的にも組合との取引で少なくとも財産関係に関してもめた経験はないので,今更の話になってしまうかもしれませんが,この(1)の,例えばアの規定などは,過去から通説,判例と言われていますが,明文で設けるということは,構造的に組合員の債権者は組合財産に関して劣後するということに決まってしまうわけですね。しかし,組合の債権者は組合にも組合員の財産にも平等に掛かっていける,そういう法人類似の状態を作り出すことになります。持分には昔から差押えもできないと解されていますけれども,例えば譲渡禁止財産とか当事者間の契約で処分ができないようにしても差押えには負けるという規制のほうが,民法では主流だと思ってきたわけです。   どうしてここにだけこれほど強力な財産の分離を認めようとしているのか。昔からこれ,通説,判例だと言われていますが,それほど最近にこういう判例が続出しているわけでもなく,何か古い判例がその後に争われずに残っているだけで,むしろ余り議論されてこなかった分野であるような認識をしております。私は学者ではありませんので,非常に失礼なことを言っているかもしれないんですが,例えば組合は登記の方法もありませんから,個人が不動産を拠出したとして,それが個人の名義のままになっていることを奇貨として,組合員が第三者に処分したら,その第三者との間では177条の関係になるのか,それとも94条2項で救われるだけの関係になるのか,確か後者ではなかったかという気がするんですが,すみませんが,択一にも出ないようなところを私は余り勉強しなかったので記憶が定かではありませんが,そこまで強力な財産の分離を認める必要があるのか。過去には,確かに権利能力なき社団という法人格が取得できない法の欠缺がありましたけれども,今はもうそういうものは立法で埋められているわけです。この状況においても,なおかつ今回法律を整備してまで公示のない財産の分離,差押えも認めない財産の分離を認めてしまうと,「事業」の認定を緩くしてこれを悪用するものが出てくるのではないかみたいな気もするわけです。   保証契約もそうですが,例えばこの後で出てくる和解契約も書面を要求しようかというときに,こういう団体的な性格でありながら,契約の書面化も定款に当たる規約の書面化も出資財産,財産目録の作成も要求されていない,こういう団体を強化して法制化していっていいのかという疑問を持ちます。(2)が入るというのは最低限の進歩ですが,本来的には,これは道垣内幹事がおっしゃった無権代理の問題に集約されてしまうのかもしれませんが,であれば,もう権利関係は全て善意ないし善意無過失の第三者を保護するという形で統一していくとか,なにがしかの歯止めを掛けないと,抜け穴になってしまいかねないという疑問点を挙げておきたいと思います。この期に及んで大上段の議論で恐縮でございます。 ○中井委員 (1)のイですけれども,総組合員が共同してのみ行使することができるというこの表現ですが,総組合員に当該債権が帰属すること,そして,それを持ち分に応じて,分割して行使することができない,そういう趣旨を表現していると思うのです。そのことと,その後の業務執行として当該債権を行使する場合の行使の在り方,これは別問題だと思いますが,この共同してのみ行使することができるという表現をすることによって誤解を生まないか,と思います。   それから,先ほどの私の発言ですが,債権と債務をひょっとしたら逆に言っていた可能性もあります。議論を混乱させて,能見先生に整理していただいたように思いますので。 ○鎌田部会長 (1)のア以下に関して,表現の問題もあるけれども,中身自体についての問題も提起されているところですので。 ○松本委員 最初に発言したこととの関係もあるんですが,(2)ア(ア)の表現が大変分かりにくいと言ったことの一つの原因は,当該債務が当該組合員に対するものでないことを知らず,かつ,知らなかったことについて過失がないという部分が,二重否定で何かひっくり返るような感じで分かりにくかったんです。このままだと,組合でもなく,組合員でもない者に対する債務であると善意無過失で信じていた場合も相殺できるかのように読めます。もうちょっと表から書いて,組合が債権者であると信じるにつき,正当な理由がある場合とかいうふうに書いていただくと,すーっといくんです。ただ,それだと先ほどの表見代理っぽいイメージが出てくるから,それを避けるためにこういう回りくどい表現を信託法は採り,そして,改正提案といいましょうか,事務局としてはそういう表見代理的な色彩をできるだけ入れないために,こういう分かりにくい表現にされたということでしょうか。 ○筒井幹事 現段階では最終的な条文化をにらんだ文言の精査までしているわけではありませんので,現在の文案が分かりにくいということであれば,その御指摘を頂ければよいと思います。この部分は,第一ステージでの議論やパブリックコメントで信託法22条に相当する規定を設けるべきであるという意見がありましたので,基本的に信託法の条文表現を活かしてその提案を取り上げ,その当否を問うているものです。 ○岡崎幹事 (1)のウの(ア)では,組合の債権者は組合財産に対し,その権利を行使することができるものとするというご提案がされておりますけれども,この点について,具体的にどのような民事訴訟手続又は民事執行手続によって権利を行使することができるのかをここで考えておく必要があると思います。権利能力なき社団に関しましては,一定の訴訟法上の規定があり,また,判例上,執行手続に関する考え方が示されておりますけれども,組合が権利能力なき社団の要件を満たしていない場合にどういった訴訟手続を行い,また,執行手続を行うかについては,これまで必ずしもはっきりしていなかったと思われます。   これは民法というよりは,民事訴訟法なり民事執行法なりの整備の問題になるのかもしれませんけれども,何らかの整備をする余地が理論上あるのかどうかについて,先生方の御議論を頂ければと思っております。 ○鎌田部会長 御意見がありましたら,お出しいただければ。すぐにないようでしたら,また,お気付きのときに出していただくということで。 ○中田委員 先ほど来の御議論について3点ございます。   まず,組合財産か組合財産に属する財産かというのは,包括的な組合財産と,そこに属する個別の財産とを区別する必要があるかどうか,またこの表現で妥当かどうかという問題だと思います。  それから,(1)のイの共同してのみ行使することができるという点について,共同してという表現がいいのかどうかというのは,これは更に検討したらいいと思いますけれども,実質として,組合員のうちの一人が単独で行使できるのか,あるいは債務者がある特定の組合員だけに弁済することができるのかという,その実質を詰めた上でどのような表現にするのかということだと思います。   3番目に,独立性を強調し過ぎであるという御指摘ですけれども,これは現行法の下でも676条1項の解釈として説かれているところでありますので,特に何かここで新たな独立性が強化されたというほどのことでもないのかなと思っています。 ○鎌田部会長 中田委員,組合財産に属する財産という表現,これは組合財産に属する個別の財産という意味ですけれども,ここにあるアとウについては,むしろ「組合財産に属する財産」という記述にしたほうがいいというふうにお考えか,あるいは組合財産という表現にとどめておくほうがいいというふうにお考えか,御意見がありましたら,御教示いただければと思います。 ○中田委員 アとウは,組合財産に属する個別の財産についての記述であると理解していたんですけれども,そうだとすると,あとはそのことを明確にしたほうがよいかどうかという表現の問題だけだと思います。それとは別に全体の持ち分についてどのように債権者が権利行使できるかというのは,これは別の問題となるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにこの2に関連した御意見ございますでしょうか。 ○潮見幹事 先ほど議論になった2の(1)のイあるいはウにも関わるのですが,ゴチックで書かれているところは,債権の行使というところを中心に整理をしておられますが,むしろ,ここでの理論の前提としては,債権の帰属という問題があるわけです。債権の帰属をめぐって共有だとか,処分がどうだとかいう話が問題になるわけです。そういう意味では,この問題を債権の行使という面に特化して考えた場合には,先ほど岡崎幹事がおっしゃられたような問題が出てくると同時に,債権が誰に帰属しているのかが曖昧になるかもしれません。だからといって,どういう文言がいいのかというのは定見がないのですが,債権の帰属面も併せて考慮に入れていただければと思います。 ○山野目幹事 今の潮見幹事の御意見にも関係しますが,2の(1)のところでア,イ,ウという形で全体として組合財産の独立性に関して,現行法上は必ずしも体系的な規律が設けられていないという状況を受けて,その方面からのかなり踏み込んだ規律の整備の方向を示唆しておられるところで,それはそれで理由があることであるというふうには感じますが,三上委員がおっしゃった差押えも含めて,組合財産の独立性を強調し,更にそのことを規律上明確化することで本当によいかという問題と,岡崎幹事がおっしゃった訴訟手続及び執行手続上の法律関係上の疑義といったような事柄に関して,なお議論が熟しているのかどうか少し心配の残る部分があります。中田委員がおっしゃったように,確かに現行法の解釈として認められているところを踏み越えていないような提案を頂いていることは,そのとおりであると感じますが,その形成されてきた通説的解釈がかなり古い時期から恐らくそれほど議論の対象にならずに行われてきたものであったと感じられ,三上委員がおっしゃったように一般社団法人や一般財団法人に関する規律が整備されたり,登記上の公示が可能である有限責任事業組合に関する規律が整備されたりしてきていて,状況の変化があるということを踏まえますと,組合財産の独立性に関わる規律を勇敢な仕方で設けることについて少し心配な部分が残ります。自分としてどういう意見があるというものではありませんけれども,先ほどの中田委員の御指摘との関係でも,もう少し中田委員の御意見も聴いてみたいというふうに感ずる部分がございます。 ○中田委員 まず,潮見幹事のおっしゃった帰属についての規律にすべきであるというのは,これは多分債権だけではなくて,組合に属する財産の帰属の問題一般の中で考えていくべきことではないかと思います。その中で債権については,行使という観点から更に規律を設けるかどうかということかと思います。   それから,山野目幹事のおっしゃったことですけれども,もし独立性についての規定を最近の立法の動向も踏まえながら規定していくということになりますと,信託法23条ですとか有限責任事業組合契約法とかを参照しながら詳細な規定を置くということも選択肢としてはあると思います。ただ,そこまで詳しく書くのが適当かどうか。そうしますと,財産分離についての民法の規定ですとか,あるいは船主責任制限法の規定ですとかを参照しながら,このような規定にするという方法もあり得ると思います。他方でおよそ規定を置かないで現在の676条1項の「処分」の解釈から帰結を導くという,現在のままにしておくというのは,変更しないという意味で当たり障りがないのかもしれませんけれども,しかし,規律の不透明さということはやはり残ってしまうと思います。今回の御提案の表現しかないということではないと思いますけれども,やはり何らかの規律の明確化,しかも,それは余り詳密にしないで示すという方向が探求されるべきではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,この点も頂戴した御意見を踏まえて,更に検討を深めさせていただきます。 ○佐成委員 一応念のためですが,(2)のイの組合債務に関して事業者の概念が入るのは問題であるということだけ,同じことの繰り返しなのですけれども,経済界の意見として申し添えさせていただきます。 ○岡委員 弁護士会も同様ですというのを1行付け加えさせていただきます。 ○鎌田部会長 それでは,次に「3 組合の業務執行等」について御意見をお伺いいたします。   ここは特に異論がないと思ってよろしいでしょうか。 ○岡委員 おおむね異論はなく,ほぼ賛成でございますが,(1)の(ウ)業務執行者を置いている場合であっても,総組合員によって執行することは妨げられないものとするとの点につき一言意見を述べます。それは解任すればいい話ではないかという意見もございまして,行方不明のときには便利ではないかという意見もあるんですが,何か(ウ)についてはちょっと唐突だなという意見がございました。 ○三上委員 岡委員と全く同じところで,業務執行者を一人置いている場合も「総組合員」に業務執行者を含むのであれば余り意味がない規定かなと思います。むしろ例えば3人組合員がいて,一人が業務執行者で,あとの二人が普通の組合員というときに,あとの二人が銀行にやってきて組合の預金の引き出しを止めてくれ,通帳を紛失・再発行,印鑑を改印してくれ,通帳・印鑑は業務執行者が持ったまま返さない,という依頼に来るというのはよく起こる事態でございまして,今回のこの法制は業務執行者が決められていても,3人の過半数の2対1の2のほうがやって来れば,その意向に従っておけばそれでよいという趣旨なのであれば,そのように記載していただきたいですし,総組合員,要は業務執行者がいるときには,それも含めてその3人全員が同意しないと行使できないという趣旨なのであれば,それを明確にしていただきたいと思います。また,その場合も先ほど岡委員がおっしゃったように,残りの二人で業務執行者を首にしたといって来れば,過半数の二人でそういう行為ができるのか。別に会社の取締役会あるいは株主総会と違って会議制度は採用されておりませんから,招集通知も何もなく,とにかく過半数の二人が集まって,そこで決めたことが全て組合を支配すると,そういう考え方でよいのか。ここは,そういうルールのほうが取引する相手としては楽といいますか,分かりやすいので,そういうふうな規定にすべきなのではないかと考えております。   それと併せて,この670条3項ただし書も今後はこのような規定をそのまま置いておくつもりなのか,なくしてしまうという提案なのかということも併せて確認できればと思っております。 ○道垣内幹事 私は90ページの3の(1)のイの(ウ)というのは,是非置いていただきたい規定であると申し上げたいと思います。先ほどから申し上げていることの繰り返しになりますが,組合の業務執行というのは単なる代理だというふうに個人的には思っておりまして,業務執行の代表者を置くというのは,A,B,C,Dといったときに,B,C,DはAに対して代理権を授与するけれども,ほかの人に対しては他の組合員は権限を有しないという形になっているということなのだろうと思います。しかし,代理の本則,一般原則として本人が何かについて第三者に代理権を与えても,本人の権限が制約されるわけではないですよね。そうすると,A,B,C,Dの4人がそろって出ていけば,これはある種できるのは当たり前のことであって,解任しなければできないというふうになるというのが組合の法人格とかを認めているというような考え方に近づくような気がして,私は妥当ではないと思います。解任すれば済むから,それでいいのではないかとか,あるいは三上委員がおっしゃるようにA一人でできるのにAも連れてきて,A,B,C,D,4人来るんだから,できるのは当たり前で,規定する意味ないではないかというのはおっしゃるとおりです。しかし,できないかというと,私は代理の法理からできるのだと思います。 ○大村幹事 基本的な考え方については,道垣内さんがおっしゃっているようなことかと思いますが,この(ウ)の規定は業務執行者,第三者の場合を想定している,そのときに意味があるのではないですか。そのときには今おっしゃったように,第三者である業務執行者というのは代理人だけれども,総組合員が本人として行為すればそれでよいという規定と思って伺ったのですけれども。 ○道垣内幹事 大村さんの付加に賛成します。 ○中田委員 今の大村幹事のおっしゃったことに賛成ですが,更に第三者から組合に対して意思表示をするときに,その受領をどうするのかということもありますので,その点でも意味があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○佐成委員 中身の議論というよりも,むしろ用語の問題とも言えるのですが,「業務執行」という言葉についてです。現行法でも使われていますし,一応の意味は分かるのですけれども,新たに明文化する「組合代理」という言葉との関係を国民に分かりやすくする必要があるということです。というのは,「業務執行」の中には,ものの本によれば,「対内的なもの」と「対外的なもの」があるという説明がなされることがあります。そのうちの「対外的なもの」については,新たに明文化される「組合代理」というものと同じなのか,違うとすると,どっちが広い概念なのか,ちょっと見ただけではよく分かりません。いずれにしても,概念の使い方が不明確だと規律自体も不明確になるおそれがあるので,立法に当たっては,そこら辺も御配慮いただきたいということだけ申し添えたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○山本(敬)幹事 余り本意ではないのですが,非常に技術的な細かいことだけを申し上げたいと思います。  まず,今回の御提案では,業務の決定と執行という二本立てで書き改めるということではないかと思います。そうしますと,イの(イ)の業務執行者が選ばれた場合の1行目ですが,「組合の業務を決定し執行する」になるのではないかと思うのですが,これはそれでよろしいのでしょうかということです。   もう一つは,これは他の部分の提案の仕方とも重なるので,原則に従っておられるだけなのだろうと思いますけれども,現行670条の変える部分だけを書いておられるので,変えない部分,つまり670条の3項の組合の常務に関する部分は残すということが,補足説明を読めば書いてあるのですけれども,このゴシックのところだけ見ますと,何かそこを削除するのかなという誤解を生むような気もいたします。これはきちんと読めばよいということなのかもしれませんが,ゴシック部分が読まれるべき本体だとしますと,もう少し工夫があってもよいかもしれないと思った次第です。 ○鎌田部会長 現行法に手を付けない部分は提案の中に書かないという原則できましたけれども,このように並べられると,おっしゃるように第3項はどうしてしまったんだろうというふうなことで誤解が生ずる可能性もありますので,その辺はちょっと工夫をお願いします。 ○筒井幹事 山本敬三幹事から重要な御指摘を頂いたと受け止めております。今回の部会資料を作る際にも,特に組合のところでは現行法のまま手を付けない規定がかなりあって,その規定群の中に部分的に新しい規定を附加するものであることを御理解いただかないと,改正の趣旨が分かりにくい提案が多かったわけです。そのために,部会資料のうちある項目については,現在ある一定の規定を維持するほか以下のような規定を設けるというような書き方,これはこれまでの部会資料の作り方からすると例外的であると思いますけれども,こういう書き方をしたところがあります。そういった中で先ほど御指摘があった670条3項については,1項を改めるという部分だけを書いた関係で3項が分かりにくいという御指摘を受けたのではないかと思います。こういった問題は,この後の中間試案をどのように分かりやすく書くかという問題に直結しておりますので,できる限り様々な工夫をしたいと思いますし,また,御相談させていただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   では,次に,「4 組合員の変動」について御意見をお伺いいたします。 ○山野目幹事 組合代理の御検討も,あったほうがよいでしょうか。 ○鎌田部会長 すみません。3の「(2)組合代理」についての御発言があれば,お出しください。   特に異論はないということでよろしいですか。 ○岡委員 弁護士会は,今の(2)の組合代理については,ほとんど賛成でございます。 ○鎌田部会長 それでは,「4 組合員の変動」についての御意見をお伺いします。   こちらも特に御異論はないと思ってよろしいでしょうか。 ○岡委員 4の組合員の変動に移っているわけですね。(1)の組合員の加入のイの…… ○山本(敬)幹事 少し前の部分について一言,よろしいですか。邪魔をすることになって申し訳ありません。  組合代理についての93ページのウの第三者の保護です。これについては,組合代理の要件が満たされていないこと又は代理権に加えた制限は,善意無過失の第三者に対抗することができないものとするとされていますが,補足説明の中でも,一般法人法との関係について言及されていますし,少なくとも善意ではなく付加的な要件を定めるのはよいとしても,これと表見代理に関する規定との関係をやはり整理する必要があるのではないかと思います。そのときに,無過失というのは確かに分かりやすいのですけれども,代理のほうでは,少なくとも現行の110条で正当な理由という表現が使われていて,それを無過失に変えるという提案は行われていないと思います。そうすると,両者の関係をどう考えればよいのかという点については,少なくとも意識はする必要があるだろうと思います。  しかし,この種の問題については判例を含めて無過失で定着しているので,これでよいという御判断だというように理解すればよろしいのでしょうか。 ○川嶋関係官 この記載の趣旨は,95ページに補足説明の中で記載したとおりで,善意無過失という立法提案があったので,まずはそれを取り上げましたが,山本敬三幹事の御指摘のとおり,一般社団法人法との比較についてパブリック・コメントでも意見が寄せられていましたし,そこは結論が決まっているわけではなく,議論の結果次第だと思います。表見代理等との関係もなお検討しなければいけないと思います。 ○中田委員 93ページのウのところは,組合代理の要件が満たされていないことと,代理権に加えた制限があることという二つのことが書いているわけですが,この中にも更に具体的には区別され得るものが入ってくる可能性もあると思います。それらを包括的に善意無過失という言葉で書くのか,それとも正当な理由ということで書くことができるのか,あるいは個別に要件欠缺等の種類ごとに書き分けるのかということではないかと思います。 ○鎌田部会長 では,今の点は引き続き検討させていただくようにいたします。   4に移ります。どうぞ。 ○岡委員 4の(1),(2)についておおむね賛成でございますが,2点コメントさせていただきます。   1点目は,(1)のイの(イ)の事業者に関する例外について反対という意見でございます。これは,事業者の概念を民法に持ち込むこと自体に反対という観点からの反対が多いわけでございますけれども,それとは別に,加入前の債務について全員が事業者である場合でも当然に連帯弁済責任を負わせるという中身について,ここまで書き切る必要はないのではないかと,そういう中身的な意見から反対する意見もございました。   それから,2点目は(2)のアのやむを得ない事由があっても脱退することができないとする内容の合意は無効とするという点です。補足説明にあるように,判例を元に強行法規であることをここだけは特別に明示するという書き方についてですが,基本的には賛成の意見が多いんですが,ここまで書き切っていいのか。やむを得ない事由がある場合には脱退できるという任意規定を置く場合と,やむを得ない事由があってもできないとする内容は全て無効とするという強行法規の書き方では,何か微妙に違うものであって,少し行き過ぎではないかという意見が少数ございました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   特にないようでしたら,「5 組合の解散及び清算」について御意見をお伺いいたします。 ○深山幹事 (1)の組合の解散のイのところです。組合員が一人になったことを解散事由とするかどうかについて,結論から申し上げると,一旦契約が成立して事業が始まった場合には,その事業の存続ということも考慮すべきではないかという観点から,当然に解散事由にするということについては慎重に考えるべきではないかと思います。片や一人になった状態が続くことの弊害ということも補足説明にあるように考えられるところですので,その折衷的なルールとして,妥協的な考え方かもしれませんが,一定期間組合員が一人となった状態が続いたときに解散になるという規律も考えられてよいのではないかと思います。   契約なんだから複数でなければ成り立たないという原理的な問題も一方であるんでしょうけれども,先ほどその契約が成立するところでも議論があったように,契約というところを重視するのか,事業というところを重視するのかという議論にもつながるかと思います。やはり成立の段階では契約という実質からして,複数の当事者組合員が必要だとしても,一旦有効に成立して対外的な事業が始まった場合には,対外的な観点なり社会的な実態を踏まえると,契約ということに余りこだわらずに事業の意義をより重視してしかるべきです。また,例えば一旦一人の組合になっても事後的にまた組合員が増えるという可能性があるということを考えると,即時に解散としてしまうというのはやはり不都合があるのではないかと思います。信託においても受託者が受益権の全てを固有財産で1年以上持っていると,それが終了事由になるという規律がありますけれども,これなども参考に考えると,1年という期間がほどよいかどうかはともかく,そういう一定期間一人になった場合に初めて解散となるというような規律も検討されてよいのではないかと考えます。 ○佐成委員 今の点と重なりますが,経済界の中でもやはり,成立時点ではなくて成立後に一人となることを解散事由にすることを疑問視する意見がございました。つまり,成立時点には複数の組合員がいたのだけれども,その後一人になってしまったという場合について,後で人を誰か連れてくるまでの間の法律関係ということが現行法上も問題になるわけですけれども,この問題を完全に明文規定で「組合員が一人になった場合を解散事由にする」という形で決着させてしまうのではなくて,できれば解釈に委ねていただきたいという意見がございました。ということで,内容的な問題点も確かに補足説明には書かれてはおりますけれども,それはそれでまた対応すればよいのではないか,もしそういうことであれば弊害ということで規制法なりなんなりで規律すればいいような話ではないか,私法上は,ここは,もし理論的にという程度の提案であれば,実務的には依然として解釈に委ねておいたほうがいいのではないかという意見でございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○畑幹事 組合の清算のところもよろしいですか。前にも申し上げたのですが,清算原因の(2)のアのほうがどうもしっくり来ないまま現在に至っています。例えば組合契約の無効又は取消しに係る訴訟というのは,どういう訴訟を想定しているのか,誰が誰をどういう請求で訴えるということを想定しているのかという辺りからして,そもそもはっきりしないという印象があるのですが。 ○川嶋関係官 会社におけるような成立取消しですとか成立無効の訴えという制度を設けようということは考えておりませんので,そうなってくると,確かにどんなものがあるのかということになるんですが,例えば,意思表示に無効又は取消しの原因がある組合員が出資義務の履行を拒絶するために,その余の組合員全員を相手に組合関係不存在確認の訴えを提起するような場合ですとか,そういったものだと主文で無効とか取消しが現れるわけではないですけれども,そういったものが想定されるのではないかと思います。あるいは,ある組合員の債権者がその組合員の財産に強制執行したところ,その組合員が組合に出資したものであると反論して,その組合が第三者異議の訴えを提起した場合に,その債権者が,この組合契約は公序良俗違反で無効であるなどと主張した場合には,それも組合契約の無効に係る訴訟と言えるのではないかと思うんですけれども,これはまだちょっと検討が不十分ですね。 ○畑幹事 それから,確認なのですが,これは組合のところの冒頭の議論とリンクしているわけですよね。つまり全員について無効とか取消しになる,全員について組合契約の効力が否定されるような場合を念頭に置いているという理解でよろしいですか。   そうすると,しかし,この補足説明には,訴えが提起されない場合もそれはそれで何とか処理できるというようなことが書いてあります。本当にそうなのかというのはよく分からないのですが,もし処理できるのであれば,どれがそれに当たるのかよく分からないような判決にかからしめて清算開始原因ということにする必要が果たしてあるのかなという気もちょっといたします。 ○道垣内幹事 確かに畑幹事のおっしゃるとおりだと私も思います。例えば今,川嶋関係官が出された例で,債権者が公序良俗違反を主張したという場合には,差押えは認められることになりますよね。ところが,その時点で清算を開始するということになりますと,組合財産は例えば組合債務の弁済に用いるという手続が起こるはずであって,差押えを認めないというふうにしないと,清算と対立してしまいますよね。だから,なかなかいい例は出てこないかなという気がいたします。 ○山野目幹事 この無効又は取消しに係る請求が認容された判決という要件を清算の手続要件としてお取り上げになった部会資料は,参考になさった先行の提案を尊重するという趣旨でお書きになったものであろうというふうに忖度いたします。その点に御礼を申し上げるとともに,そのような観点で規律を考案していくことが本当によいかということについては,もう少し洗練をしたほうがよいように感ずる部分もございます。   二つ申し上げますけれども,ここのみ認容判決という手続的な要件が出てきますけれども,むしろ恐らくは組合契約が取り消された場合という実体的な表現をして,前のほうの論点で挙がっていた第4,1,(1),イのところの取消しの将来効と結び付け併せながら,その場合には清算開始原因になる,という規律が自然に規律表現として受け容れ易いのではないかと感じますし,それからもう一つは,無効が普通に,というか,ここで当然のように一緒に並んでいますけれども,無効は将来に向かってのみ無効になるという規律は提案されていないし,多分そのような考え方は自然に受け容れにくい部分があるのではないかとも感じまして,無効の場合にはどちらかというと,清算になるというよりは普通の個別の不当利得返還請求権と物権的請求権の行使の組合せによって処理されていくという考え方になるというほうが親しむかもしれません。これらのことにつきまして,もう少し事務当局において御検討いただくことが望ましいと感じます。 ○鎌田部会長 それでは,御指摘を踏まえて検討を継続させていただきます。   次に,「6 内的組合」について御意見をお伺いいたします。   これは規定を設けないというのが原案ですけれども,そういうことでよいというふうに委員,幹事ともお考えだと理解しましたが。 ○岡委員 弁護士会は,設けないということに,賛成でございます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,ここで15分の休憩を取らせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 再開をさせていただきます。   部会資料48の「第1 終身定期金」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 「第1 終身定期金」のうち「1 終身定期金の在り方」では,終身定期金契約は終身性,射倖性というほかの典型契約にはない性質を有する反面,実際にはほとんど利用されていないとの指摘がされていることを踏まえると,その存否を含めて検討する必要があると考えられます。そこで,甲案では,終身定期金契約を削除する考え方を取り上げることとしました。他方,終身性,射倖性という特性に着目して終身定期金契約を引き続き典型契約として存置することも考えられますが,この場合にはその特性に着目した見直しを行うことが考えられますので,これを乙案として取り上げています。   1において乙案を採用する場合には,2の(1)から(8)までの論点が問題になると考えられます。これらの見直しの要否についても併せて御意見を頂ければ幸いです。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について一括して御意見をお伺いいたします。 ○佐成委員 経済界の中で議論したところですが,特に生命保険業界さんのほうからは,現行民法の規定が使われているという意識はなく,終身定期金に関する規定を削除するという甲案に賛成であるという意見がございました。また,経済界全体としても削除することに異論はないといったような印象を受けております。 ○高須幹事 弁護士会の状況でございますが,各単位会によって分かれておるというところでございまして,基本的には御提案の甲案のようにもう削除でいいという立場と,それと異なり,仮に規定を削除したとしても,無名契約としての終身定期金が残る可能性はあるということであれば,手掛かりとなる規定を設けておいてもいいのではないかということで,乙案に賛成という単位会もございました。ここは意見が分かれておるというところでございます。   内容に関しては,必ずしも厳しい対立があるわけではないのですが,入口のところで二つに分かれているという状況でございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○松本委員 第1ステージでも申し上げたことなんですが,私は,削除には反対です。今は,使いにくい,使うように法律家が支援しない,行政も支援しないと,そういった様々な要素があって使われていないんだと思います。ニーズがないかというとそうではない。いみじくも生命保険業界が廃止を強く打ち出しているということが何となくニーズがあることの裏返しではないかと。つまりそのニーズを生保のほうに引っ張りたいという意図があるのではないかと思われます。生保ではなく,社会保険でもないところの老後保障を現在高齢者が持っている資産でもってどのように行うのかという点は,今後の日本の高齢社会化がどんどん進んでいく中で,本当に切実な問題だと思います。それに対応できるような制度として使い得るもの,使いやすい制度にして残すというのが一番いいと思うんです。これを廃止するというのは,逆のメッセージになってしまいかねないところがあります。無名契約として何をしてもいいんだと言われればそうなんだけれども,典型契約としてある種の類型が民法に載っているということは,確か大村幹事がどこかの本で書いておられたと思いますけれども,非常に積極的な意味があるわけなので,それを消してしまうというのはよくない。使われていないのを使っていただけるような形に変えていくという方向の改正が一番望ましいと思います。   そういう意味で,ここにもし規定を残すのならばというふうに書かれている事柄については十分検討の余地があると思います。全面的に賛成というわけではありませんけれども,原則として有償契約にして,ルールを整備していくという方向に賛成です。 ○鎌田部会長 ほかの御意見,いかがでしょうか。 ○佐成委員 関連して,生命保険会社さんの話が今,松本委員から出たので補足として述べたいと思います。生命保険会社さんとしては,この2以下の規定ぶりについても,「金銭を除く」とはなっていますけれども,類推適用されるのではないかということを懸念しているということです。特に現行実務と異なる考え方が示されている部分もあって,その辺にやはり抵抗があるということです。例えば,2の(3)のイというのは,終身定期金の基準者が早く死んでしまったという場合について,終身定期金契約は効力を有しないというデフォルトルールになっていますけれども,これは現行実務とは異なるのではないかということで抵抗を示されるなど,いずれにしても,規定を残すとすると,かなり現行実務との整合性を十分とっていただかないと,金銭を除くとはいっても,やはり相当影響が出るのではないかということで抵抗は強いということでございます。 ○鎌田部会長 特に規定存置の要否というのが一番中心的な論点になろうと思いますので,この点について更に御意見があればお出しいただければと思います。 ○能見委員 私も松本委員と似た感覚は持っているんですけれども,現在のこの終身定期金の規定を何か少し手直しして存置するという意義は余りないのではないかという気がします。恐らく今は,無名契約で処理していると思いますけれども,例えば最近ですと,高齢者用の老人ホームとか,ああいうところで物とか金銭を給付するのではなくて,サービスを終身提供するということは考えられるかもしれません。それも合意ベースで幾らでも中身は定めることができると思いますけれども,こういうところで終身定期金ではないが,終身サービス契約というようなものが作れるのであれば,そういうものは意味があるかなと思います。繰り返しになりますけれども,現在のこの終身定期金の中身をちょっといじるということで対応できる問題ではないと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○中田委員 第一ステージでも申し上げたことですので繰り返しになりますが,私も削除はしないほうがよいと考えております。現実的有用性と理論的有用性があると思うんですが,現実的有用性としては松本委員もおっしゃいましたように,高齢化社会に入っている現在,この種の契約がいろいろアレンジして今後とも使われる可能性があると思います。現に現行規定を参照した具体的な制度が幾つか検討されているということもあります。裁判例も多くはありませんけれども,幾つか現にあるということでして,そうしますと,いろいろな問題点を検討した結果の標準的な規律を民法に置いておくということは,実際上も社会にとって有益ではないかというのが第1点です。   それから,理論的有用性は,終身性や射倖性を持つ規律を民法に置くことによって,その種の契約の幾つかの問題について方向性を示す,あるいは外国における議論との架橋を図りやすいという意味もあると思います。それに対して,保険実務に対する影響の懸念ということがございますけれども,これはそもそも終身定期金としてはまず外れているということが前提となりますし,それから,保険については詳細な法律や約款による規律があるわけですので,それが優先的に適用されるということは当然のことでありまして,そこの御懸念は必要ないのではないかと思います。現在,現行法の下でも同じことがあるわけですけれども,保険は独立した規律になっているということで問題ないと思います。   それから,能見委員のおっしゃったサービスとのリンクというのもあると思うんですが,それを発展させていきますと,老後扶養の問題とも関係してきて,それが家族法に与える影響ということも考えた場合に,なお慎重な検討が必要ではないかという気がいたします。そうすると,今回御提案いただいたような骨格の方向で検討していただくというのは現実的ではないかと思います。 ○内田委員 今,中田委員から裁判例もあるという御指摘がありましたけれども,企業年金の事件で契約の性質としては終身定期金であるという言い方をしたものはありますけれども,終身定期金であるという性質決定は何らの意味も持っていません。終身定期金であるという性質決定が多少なりとも意味を持っている可能性があると思われる事件は公表裁判例の中で,私の見たところでは5,6件です。一つはっきり終身定期金としての認定が意味を持っていそうなものが戦前にありますけれども,これは隠居とか家督相続の関わる事件で,判例六法などでよく引かれている事件ですが,かなり特殊なものです。戦後のものについては,終身定期金であると言われていますけれども,しかし,民法の終身定期金の規定が適用されて結論が左右されたというわけではありません。ということで,実際上,民法の規定は裁判例の中ではほとんど意味を持っていないのではないかと思います。   ただ,現実には,松本委員が言われたような意味での潜在的なニーズはあり,それについてきちんとした規律を置く必要性はあるのだろうと思いますけれども,それが果たして民法で置けるかという問題も考える必要があると思います。やはり行政的な手当てを含めてきちんとした規律を置く必要があって,それが果たしてここでできるか。今回一応工夫として幾つかの規定の提案が出されていますけれども,これがそういう目的に照らして十分であるとはとても言えないように思います。起草者は終身定期金が使われるであろうと予測をしたわけですけれども,そのうちの企業年金に関わる部分については,既に充実した企業年金の法律ができていて,完全にそちらでカバーされています。それ以外の私的年金については,やはり行政的な手当ても含めた充実した規律が必要で,果たして私法的な骨組みだけの規定で対応できる問題かどうかというところに疑問があるということです。   そこで,起草者の予測も外れたし,現実には使われておらず,潜在的なニーズについては行政的規制も含めた別途の対応が必要だということになりますと,なお規定を置く意味としては,射倖契約の典型として位置づけて規定を置くということも考えられるかと思います。一読のときにもそういう御意見が幾つも出ました。確かに,ドイツやフランスは賭博とかについての規定を置いて,その関連で終身定期金の規定を置いていますけれども,そういった規定を置く実務的なニーズが日本にあるのかというと,少なくともこれまでのところ,そういうニーズは全く感じられません。こういったことを考えると,果たして使われるかどうか分からない規定について,ワーディングについても細心の注意を払いながらこれから条文を作っていくという作業をやるべきかということについては大いに疑問を感じます。もし置かないということについてある程度支持が得られるのであれば,この段階で判断するということもあり得るのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 今の御意見を踏まえて,使われる例がこれまで非常に乏しかったということ,そして,これから後どのような使われ方がされるかという点については,あるいは使い道があるかもしれないという中で,仮に今回の乙案を採用して,2ページ以下の規定を置くとした場合に,今出ている以外にほかにどのような可能性があるのか,それが入るのかという点について確認をさせていただきたいと思います。   2ページでは,有償での場合に限定する,そして,財産権を移転する義務を負う契約に限定するということが指摘されています。ここから先は,実際の例があるかどうか分からない教室設例のようなものにすぎないのですが,例えば共有財産や,組合財産も含めてもよいのかもしれませんが,それを分割する,ないしは清算する場合に,財産自体は他の者が取得するとした上で,もう一方の者には終身定期金のような形で金銭を定期的に,死亡に至るまで交付するというような契約をしたとして,それはこのような提案でカバーされることになるのか,仮になるとしても,この中のどの規定が意味を持つ可能性があるのかという点をお聞かせいただければと思います。きちんと考えられていないのですけれども,ひょっとすると,定期金の債務を負う者が履行しない場合に解除することによって,最初に財産をこちらの当事者に帰属させるとした部分に影響が出てくる可能性があって,そこで意味があるかもしれないという印象を持ったのですが,その当否も含めて少しお聞かせいただければと思います。 ○鎌田部会長 どなたかその点について御意見をお持ちでしょうか。 ○山本(敬)幹事 少なくとも財産を移転するという定義には当てはまっているのか当てはまっていないのかよく分からないということも含めて,事務局の方にお聞きするのが適当なのかどうか分からないのですけれども,差し当たりお聞かせいただければと思いますが,いかがでしょう。 ○松尾関係官 定義の問題については,既存の立法提案を取り上げたものであり,今の山本先生の問題提起について考えが及んでいたわけではないんですが,御議論いただいた上で,仮にそういうものを含めるべきだという結論になるのであれば,それを踏まえてワーディングをこれから再検討していけばよいのかなと思っております。お答えになっていなくて申し訳ありません。 ○山本(敬)幹事 ただ,そのようなニーズが現実に将来的にもあり得るのかということはもちろん次の問題ですので,この辺りは実務家の先生方からの感触もお聞かせいただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見,いかがでしょうか。 ○松本委員 2点あります。私は射倖契約の一般理論として民法に規定を置くという考え方に対しては反対です。そういう意味で,この終身定期金的なものを残す場合の修正案として事務局が苦労された案でしょうけれども,終身定期金基準者として第三者がいて,その第三者の死亡までというような内容の契約でも構わないというのは,これは正に射倖契約臭が非常にぷんぷんして,余り望ましくないと思っています。終身定期金の受取人が第三者であるという場合の当該第三者が死亡するときまでということであれば,これは実態的ニーズと合っているわけですけれども,終身定期金契約と全く無関係な誰かが死亡したときというのは,そんな契約を何のためにやるんだという感じがいたします。すなわち終身定期金には射倖契約的な性質が当然あるわけだけれども,射倖契約一般ではなくて,正に老後の生活保障のためのニーズを満たしていけるような制度,それを支援するような任意規定として使い勝手のいいものを置くということが適切だと考えます。もちろん行政法規的な支援も必要だと思います。有料老人ホームが正にそうです。だからといって民法から積極的にこの終身定期金を削除して,反対のメッセージを出す必要はないのではないか。民事ルールの整備と合わせて行政的な規制が必要だというのは当然のことだろうと思います。   それから,終身定期金について使いやすいルールを作っていくとなると,恐らく一定の時間が掛かると思います。それは時間を掛けてやるべきでしょう。民法改正自身が長期的にやるべきものだというふうに私は考えています。これが1点です。   もう1点は,ちょっとこれ,質問なんですが,3ページの補足説明の2のところで終身扶養契約についての言及がされていて,第一パラの真ん中よりちょっと下辺りですが,終身扶養契約が対象に含まれるとすると,家庭内における役割分担の固定化を助長するなどの懸念があるから,元本に役務を含めないものとすべきだと説明されています。この提案では終身定期金の対価,すなわち元本に役務は入れないんだと書かれているわけですけれども,これが論理的にちょっと頭の中でつながらないんです。終身扶養というのはお金を給付する終身定期金ではない形の現物給付的な扶養契約を意味しているのではないんでしょうか。そうだとすれば,金銭の給付ではないところのサービスの給付を終身給付の内容にする契約というのを認めるか認めないかという論点が一つあって,それと別に元本に役務を入れるか入れないかという論点がある。私は過去30年間あなたのお世話してきたんだから,私は今後毎月これだけの金銭をあなたからもらえるという,そういう類いの終身定期金契約は望ましくないという趣旨だろうというふうにここからは理解できて,その理由は役割固定化になるからだというふうに私は読んだんです。となると,終身扶養契約とちょっと論点がずれているのではないかと思います。終身扶養契約をした場合に,扶養の義務を負う人が個人で全てやらなければならないというわけでは多分なくて,当然サービスを提供してくれる第三者に依頼してお世話するということでもいいはずだから,そこは役割分担にはつながらないんだと思います。 ○松尾関係官 今,松本先生から御指摘いただいた部会資料に記載する終身扶養契約が何を意味しているのかという問題ですけれども,今の民法689条には,元本のことは特に書いていないですけれども,対価については「定期に金銭その他の物を相手方又は第三者に給付することを約することによって」と書いていて,金銭以外のものを対価として渡すものも広く含まれており,そのことを積極的に変えることは提案していないので,対価として金銭を渡すものだけでなく,それ以外の役務を対価とする終身扶養契約も現在は終身定期金契約の対象となっているが,これを積極的に除外することにするという趣旨で書いていました。それ以上のことを意図していたつもりはないのですが,まだ,松本先生の問題意識がまだよく分かっていないもかもしれません。 ○松本委員 私は先に役務を提供しているんだ,あなたのお世話をしてきたんだということを元本にするという話と,今後私のケアをきちんとしてくださいというのを給付内容にするという話はちょっと次元が違うと思うんですが。 ○鎌田部会長 そこは説明の問題ですので,補足説明の検討をさせていただきます。 ○松尾関係官 すみません,分かりました。松本先生に御指摘いただいた部分は,補足説明に誤字があったということです。つまり,「対価」と書くべき部分を「元本」と書いていたことに基づくものなので,お詫びの上,訂正させていただきます。 ○高須幹事 一つ前に戻って,山本敬三先生からの御指摘について十分な説明にはならないのかもしれませんが,発言させていただきます。従来の私の感覚ですと,終身定期金というのはなかなか利用しづらいところがある。それは保険があるからとかという話だけではなくて,やはり何かを将来にわたってしてもらうために今,何かを渡すということは基本的に危ない話だという発想がどうしてもあって,この種の契約をするというのは非常にリスクが大きいというようなところで,使いづらいというよりは使わない方向でいくという発想があったのだろうと思います。   ただ,今日,話題に出ていますように,これからの高齢化社会の中でいろいろなサービスが出てくる,その中には従来のようにちょっと怪しげなというか,非常に個人的な部分での終身定期金の利用というものではなくて,もっとビジネススキームとしての終身定期金を利用した本来的なビジネスのようなものが出てくる。そうなれば,終身定期金契約はもっと信頼性のある制度になってくる可能性はあるわけですから,何となくそういうのが出てきそうな気配といいますか,そんな雰囲気はやや感じつつあって,従来のように,そんな危ない話はおやめなさいみたいなアドバイスをしていた時代から少し変わりつつあるのかなと。ただ,それがどう変わるかについてはまだ私どもも定見もないし,こういう実例がありますという御説明もしづらいところです。ただ,そういうことをビジネスとして考える仕事が出てきているので,あるいは終身定期金の構造に乗ってくるのかもしれないというような雰囲気はちょっと感じておるというのが一応の実感でございます。 ○潮見幹事 多くは申しませんけれども,今,高須幹事がおっしゃったような観点から捉えた場合に,果たしてそういう取引を終身定期金という提携契約あるいは典型契約という定型性で捉えるのが果たして適切なのでしょうか。むしろ,それとは違った形でのビジネスモデルに対応する類型を作って処理すべきなのではないでしょうか。私も,先ほど松本委員がおっしゃった射倖性というのを余り正面に出すのは適切ではないと思います。そういう中で,終身性とそれ以外に終身定期金契約の典型性を示すものは一体何なのかが,私にはよく分かりません。まして,先ほどから出ている高齢扶養だとか高齢者サービスのための役務提供という面を前面に出して,終身定期金契約を捉えていこうとした場合に,定期金という側面にのみ特化した形でのルールを立てるのが果たして適切なのか,強い疑問を感じます。したがって,少数説かもしれませんけれども,私自身はそこがはっきりしないのであれば,先ほど内田委員がおっしゃったような方向で処理をするほうが,今の段階では好ましいのではないかと思います。 ○松本委員 終身定期金というような信用できない契約を普通はしないだろうと。確かに全く見ず知らずの人にそんなことをするかといったら,しないと思うんですね。しかし,日本において終身定期金の代用的なことは実際行われています。親族間扶養が実は日本の老後扶養の大部分を占めているわけなんですが,その親族間扶養をしてもらうために贈与をするとか,あるいはもう少し極端になると,養子縁組をして養子に相続を期待させて養親の老後の扶養を親族扶養の形でやってもらうというのは大変多くあります。そして,それがこじれて紛争になるケースもたくさんあるわけです。履行済みの贈与について撤回が認められるのかどうかとか,あるいは養子にとって,その後贈与したところ,養親と養子との関係が悪くなって養子縁組を解消した場合に贈与はどうなるんだとか,現実の判例はいろいろあるわけです。考えてみると,贈与とか養子で処理をするというのも表だっては何の約束もないわけで,親族になればきちんと面倒を見てくれるだろうという非常に淡い期待の下にやっているわけですから,そこをもう少しきちっと契約だということを表に出してやる,老後扶養の契約化と一般に言われていることですけれども,そちらのほうがより安全で確実なのではないかという気がするわけです。   ただ,確かに今の制度のままでは使いにくいですから,もっと使いやすい条文にして,そして,それを支援する弁護士とか司法書士とか,そういう人たちが積極的にこういうスキームを使いましょうというように持って行かない限り,それは使われないと思います。条文を変えるだけでは確かに意味がないというのは事実ですが,だからといって芽を潰してしまうというのもマイナスが大き過ぎるのではないかという意見です。 ○道垣内幹事 終身定期金という契約類型を存続させるべきかどうかということについては,確定的な意見はないのですけれども,先ほどの松本委員のお話が一番典型例ですが,扶養の形のために使うという例を考えますと,遺留分はどうやって計算するのでしょうか。契約だから別段遺留分侵害の問題は生じないのでしょうか。あと3年ぐらいしか生きそうもない人が,20年間生きて終身定期金が得られれば,対価的な関係が十分であるという終身定期金契約を締結して,不動産を例えば推定相続人の一人に移転するということになった場合には,これは遺留分侵害は起きないのか,それとも結果として3年だったら,3年との関係で遺留分を計算するということになるのでしょうか。信託でも問題のあるところですが。 ○松本委員 別に私は,この分野の専門家ではないので,例えばフランスでどういうふうに扱われているのかについては専門家の人に聞いたほうがいいんですけれども,感覚的には射倖契約性は必ずあるわけです。今の有料老人ホームが入居者の生存期間の計算間違いをして困っているということは,正に射倖契約だからなわけです。したがって,その範囲内では遺留分侵害の話にはならないのではないかというふうに取りあえずは思っているわけですが,最初から特定の人に財産をたくさん残すためにそういう制度を使っているということがはっきりしているような場合は,また別になると思います。余命が非常にはっきりしているにもかかわらず,長期間扶養に必要な財産を元本として譲渡したということであれば,それは射倖性がむしろないわけです。つまり長生きするかもしれないし,早く亡くなるかもしれないしというところにこの契約の特徴はあるわけで,終身性という不安定なものに依拠する契約というのは,正にそこがポイントなんだろうと思います。 ○能見委員 先ほどちょっと私申し上げたのも,現在は終身定期金ですから給付されるものは定期金という形でお金なんですけれども,これだと私の感じでは,こういうものがないわけではないかもしれないけれども,余りこれからのいろいろな老人なんかの生活の保護といいますか,支援のために使えるということはないのではないかと。むしろ一時金を出してサービスの提供を受けるというタイプの,ですから,終身契約ではあるかもしれないけれども,終身定期金というのとはちょっと違うタイプのものも含めるといいのではないかというふうに思ったわけです。   それで,先ほどから親族扶養との絡みで,親族が扶養というサービスを提供するようなタイプのことを念頭に置いた議論をされていますけれども,それはちょっと親族間の問題で扶養義務とかいろいろなものと関係するので,余り民法として立ち入るのは,少なくとも典型契約として立ち入るのは適当ではなくて,それよりも本当に第三者がサービスを提供するもので,現在どういうふうに法律構成しているのか分かりませんけれども,介護付きの老人ホームみたいなものでもって,最初に相当なお金を払って終身間面倒見ますというタイプのものがあると思いますけれども,こういうものもある種の考え方の基準になるような考え方をここの典型契約で示すことができれば,それは何か意味があるんだろうと思います。ただ,今からこの民法典の改正に併せてそれをやるというのはなかなか難しいかもしれないので,私として今すぐやるということではなくてもいいのではないかと思います。仮にやるというときにポイントがどこにあるのかよく分かりませんけれども,一つはやはり終身ということですから,かなり大金を払ったのにすぐ死んでしまったというときにどうするかという問題と,それから,現在の規定もありますけれども,不履行で解除といったことができるのかできないのかとか,幾つかのポイントに絞って簡単な規定を置くということはあり得るかもしれないと思います。 ○潮見幹事 終身定期金契約とか括弧付終身定期金契約というものを典型契約という形で捉えて規定する場合に,どういう観点から典型性というものを考えていくのかが,やはり分かりません。そもそも,典型契約というものの中には二つのタイプのものがあって,一方では私法関係の基本的な枠組みというものを構成するようなものを典型契約として民法の中に規定を置くというタイプのものがあり,他方では,現実の社会において実際に必要性が高い契約類型というものを典型契約として置くというタイプのものがあると捉え,このような二つの観点から典型契約を規律しようという向きがあるように感じ取っています。   そういう意味で,この終身定期金をめぐる意見を聞いていますと,どちらの意味で典型性を理解しようとしているのだろうと考え込んでしまいます。民法典が現行法の下で作られたときには,恐らく両面は持っていたと思います。つまり,先ほど松本委員がおっしゃったところですけれども,終身性という不安定な要素というものを持つという面から典型性を捉えていくということになると,前者の意味での典型性になるでしょうし,他方で,補足説明で書かれているところは,現在の高齢者の扶養だとかそれ以外の状況,老後の生活保障などといったものを含めた形で,現実の社会において必要性が高い契約類型として,それにふさわしいルールを作るべきではないかという観点から典型性に関する説明をしているように感じます。   そういう目で見た場合に,後者の視点からは,能見委員が先ほどおっしゃったようなところからもそうでしょうが,全面的に規定を見直してルール化をしていく必要があるでしょうし,そのときには,補足説明で示されている観点からのルール化は,ちょっと難しいのではないかと思います。   他方,前者,すなわち終身性という視点から規定を設けるというときには,果たして私法関係に基本的な枠組みを何か提供するようなものとして終身定期金契約が有意なものであるのかについては,私自身は納得ができません。そういう意味で,先ほども申し上げましたが,事務当局が示された内容で終身定期金に関する規律を残す方向で考えるのは難しいと思います。 ○山野目幹事 内田委員から明確な事実等を点検することができないなどの事情があるのであれば,この時点で踏ん切りのある指針を考えることも検討してほしいという御発言があったことは,伺っていて,ごもっともであると感じましたし,松本委員からは射倖性よりも終身性を重視すべきであるという御意見があって,これも共感を抱くところが多いですし,能見委員からは現行法を少しいじっただけのものを出しても余り意味がないというお話があって,これもなるほどというふうに思って,どれもなるほどと感じますし,そのようなことから,すごく悩み深い論点であるというふうに考えますとともに,少しまた事務当局にも御検討いただきたいことですが,この終身定期金に関し,中間試案ないしそれに関連する文書で今後どのような問いかけを社会に対して行っていくべきかということを少し手順の問題として考えたときに,もちろん現行法の終身定期金の典型契約としての存置の当否や,その規定の細部の見直し等についてのことも中間試案に盛り込まなければいけないとは考えますけれども,それと併せ,どのような形でできるか少し分かりませんが,やや包括的に社会に問いかけるような仕方で,今後の我が国の国民生活,社会経済を考えたときに,職業生活をリタイアした後のときを睨み,各個人,市民が持っている資産をどのように活用するかという観点から見たときに,どういうふうな取引形態が想定され,また,育てていくべきだろうかというふうな観点から,何か知見を出してほしいというような問いかけをしてみても,悪くはないのではないかと感じます。   と申しますのも,部会の委員,幹事の知見のみで確定的な方針というか方向を決めてしまうということが心配であるというふうに感ずる部分があります。現在の終身定期金の契約のイメージのみに捕らわれないで,そのような包括的な尋ね方をすることもあってよいと考える次第です。フランスは2006年に大規模な担保法の改革をしたときに,持っている資産に担保権を設定した上で,言わば逆向きの抵当権,日本で言うとリバースモーゲージに近いですけれども,それで老後の生活のための給付を受けるというような仕組みを想定した規律を設けました。そのようなものが簡単にできるかどうか分かりませんけれども,一般の意見を聴取した後,潮見幹事がおっしゃるような典型契約を設けるに当たっての言わば二つの観点といいますか,二つのテストといいますか,そういうものにパスし得るようなものが出てくるのであれば挑戦すべきですし,出てこないのであれば余り無理をする必要はなくて,可能性としては終身定期金の契約類型を廃止するということや,あるいは長期的な課題として留意するにとどめておくということもあるかもしれませんし,少し何かそのような手順のこともお考えいただきたいということを望みます。 ○筒井幹事 ただいま山野目幹事から御提案いただいたこともまた,大変魅力的な提案であると受け止めました。ただ,中間試案において少し抽象化した形での問題提起を行うかどうかについては,本来それは中間論点整理においてすべきことであり,あるいは我々としては行ったつもりであったことですけれども,それほど積極的な新しい提案が寄せられたわけではないというのが現状であると思います。今般の様々な改正事項の中で,この終身定期金にどれぐらいの力を注ぐべきであるかを見極めるべき時期にむしろ来ているのではないかという気もいたします。   そうしたときに,削除という提案について多くの支持が集まるのであれば,それを中心に中間試案を組み立てることを考えてはおりましたけれども,むしろ本日の議論を聞いていると,そこへの抵抗感を示す御意見も少なくないと思います。そうしたときに意見がまとまらない場合の最後の落ち着き所は,常に現状維持という力学が働いてしまうのだと思います。現状維持という選択肢もあり得るとした場合に,最低限この規定だけは見直しておくべきだといった御意見を募集するという道も考えてみる必要があるのではないかという気がしております。 ○中田委員 筒井幹事が最後におっしゃったことは選択肢として十分あると思います。もし可能であれば,現行法の中でここだけは解決すべき点を具体的に示すほうがより説得的だと思います。ですから,その方向はあり得る一つの選択肢として残すべきだと思いますが,本日御提案いただいた具体的な提案というのは,これはこれで骨格を示すものとして一まとまりになっているので,これを完全に消し去るというのはもったいないのではないかなという気がいたします。ですから,恐らく削除論と,今回の御提案と,それから現行法を維持しつつ最小限の修正を施すという多分三つぐらいの方向になるのではないかと思います。   そのうえで,今まで出た御意見について一言ずつコメントしたいと思います。内田委員からこれまでの裁判例では終身定期金の規律が機能していないのではないかという御発言がございました。ただ,それぞれの裁判例を見ますと,離婚や離縁の後の給付ですとか,退職後の給付ですとか,あるいは売却に対する対価とか幾つかのタイプがありますが,終身定期金という概念があることによって,その合意をきちんと認識することができるようになるという機能は持っているのではないかと思います。   次に,道垣内幹事がおっしゃった遺留分についての問題ですが,フランスでは親子間の終身定期金契約において相続法上の問題が当然出ているようでして,これは個別的に考えていくべき点だと思いますけれども,その際にはフランスでの議論が参考になり得るのではないかと思います。   それから,能見委員がおっしゃった,より広く終身契約一般についての規律を模索すべきではないかというのは,それはもっともだと思いますが,しかし,取りあえずは終身定期金についての規律を設けて,それを場合によっては今後広げていくためのワンステップにするという可能性はあると思います。その中で能見委員がおっしゃった大金を払ったのにすぐ死んだらどうかとか,あるいは解除の場合にどうなるかという点ですけれども,それについては今回の御提案の中で具体的に提示されていますので,それは対応できているのではないかと思います。   最後に潮見幹事のおっしゃった果たして有用性があるのかということですけれども,これはもちろん典型契約の捉え方によるんだと思いますけれども,少なくとも今後の社会においてこういった契約をしようという際に,契約自由に基づいて何か契約を設計する際にそれを支援するという機能は,やはりあるのではないかと思います。 ○松本委員 私も今,中田委員が筒井幹事のまとめを評価されたのと同じような意味で,このまま取りあえず残しておいて,将来の課題にするという選択肢は十分あり得ると思います。というのは,今まで改正提案の議論が出てきた部分では,ここは不合理だから直しましょうとか,判例と矛盾しているから直しましょうというのはたくさんありましたし,制度をこういうふうに変えましょうというのもありましたが,使われていないから,邪魔だから削除して条文の数を減らしましょうという趣旨の提案は,ここ以外はないんです。つまり現在この条文があって,弊害だから削除しましょうというような議論ではないわけです。今使われていないから削除しましょうという議論はちょっと乱暴かと思います。しかも,このままでは駄目だとしても,使われるようになる可能性をいろいろ秘めた制度である。そうだとすると,使いやすい制度にしていくためにはやはり専門家を集めて,フランスの法律なんかも勉強してきちっとした条文にしなければならないだろうと。それは恐らく1年や2年では終わらないかもしれないと思います。   したがって,それはまた別の作業としてやればいいと思うんです。民法の改正というのは多くの論点が多分そうだと思うんです。一気に1年や2年で全部取り替えましょうなんていう議論はなかなかできないんだと思いますから,論点が成熟してきて大方の意見がまとまった部分について順次変えていくという長期の流れの中から見れば,これについても,あと5年後,10年後に変えていくということは十分考え得ると思います。弊害があるなら削除すればいいわけですけれども,弊害があるという意見は全く出ていないと思います。したがって,現状のまま凍結して手を付けないという案は十分あり得ると思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。終身定期金契約の在り方については,甲案,乙案が提案されていますけれども,それ以外に将来の更なる検討の言わば手掛かりを残すという意味で現行法を不合理な部分は改正した上で維持するという三つの案が今並立しているということだと思います。それを前提に今後少し検討を進めていきたいと思いますが,甲案ならば2の規律は一切要らないということになります。乙案ですと,2を積極的に検討する。丙案的な第3案ですと,この中でこれだけは直しましょうと,そういうふうな議論の仕方になるんだろうと思うので,前提が違うと議論の仕方は全く違ってきますけれども,2の(1)以下について御意見を一括してお伺いすることとしたいと思います。   正直言って,議論の蓄積が十分にあるというわけでもないので,全く新しい提案ということですと,少し慎重にならざるを得ないという気もしなくはないんですけれども,御意見が余り出てこないようでしたら,順に(1)は有償型に限るという提案ですけれども,特に御意見はないでしょうか。 ○中田委員 この方向がいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかには,(2)で成立要件について今少し厳格な要件を定立するということですが。 ○松本委員 先ほど申し上げたことなんですが,イの第三者の死亡に至るまで終身定期金を給付するという場合のこの第三者は,誰でもいいという書きぶりなので,それは余りよくないと思います。現行法689条もその点はこの提案ほどではないけれども,やや曖昧で,当事者の一方が自己,相手方又は第三者の死亡に至るまで定期に金銭その他のものを相手方又は第三者に給付するということなので,この第三者とのつながりが必ずしもはっきりしていません。私は第三者に給付するという場合に限って第三者の死亡というのを入れるというのが適切であって,そうであれば第三者の同意というのは考える必要がないと思います。 ○鎌田部会長 フランス民法は逆にむしろ明示的に給付を受けない第三者の終身という設定の仕方もできるという規定も置いているところでありますけれども,そういう場合にその人の同意なんか要らないだろうということ,あるいはそういうものを認めるべきでないということですね。 ○松本委員 それは特殊な場合を考えることができると思うんです。実際に扶養を必要とする人ではなく,その人をお世話する人に定期金を給付するというタイプの契約もありますから,そういう場合は確かに契約の当事者ではない第三者の死亡で終了するというのは合理性があると思いますが,一般化してしまうと本当の射倖契約丸出しになるから余りよくないと思います。 ○鎌田部会長 (3)についてはどうでしょうか。 ○内田委員 個別の問題についての検討の仕方なのですが,今の議論は全く頭の中だけで空想で議論しているわけですね。実際にこう使われているからこうすべきだという実務的な需要とか必要性も全くなく,頭の中だけで比較法的にはこういう例もあるとかという議論をしている。こういう改正を本当にすべきなのかということはやはり非常に疑問を感じます。これから使われる可能性があるものとして,例えば介護のような契約は,これは確かにあると思いますが,それは終身定期金ではなく介護契約として合理的な規律が考えられるかどうかという検討が必要だと思いますし,元々立法者は純粋に年金を考えていたわけですが,年金については今,企業年金について確定拠出にしろ確定給付にしろスキームができていて,もし年金について民法に規律を置くならば,やはり既存の既に整備されたスキームとの対比で民法にどういう私法規定を置くべきかという検討をすべきではないかと思います。そうではなく,私的保険で今行われている部分もありますが,それならばやはり保険の実態を踏まえて議論すべきではないかと思います。そういう検討をせずに空想であるべき規律を議論するというのは,余り生産的ではないように思います。   しかし,いきなり廃止するということに対して反対があるということであれば,先ほど筒井幹事が言われたように,一切現行法に手を付けないという選択肢が残る。それが一番コストは掛からないと思いますが,ただ,それが今回の改正の中でどういうメッセージを発するかということもやはり考えていただければと思います。 ○中田委員 今の内田委員の御意見は,先ほど来の御議論で理解しているつもりですけれども,それは甲案を採るか乙案を採るか丙案を採るかという段階の問題で,今やっていることは,仮に乙案というか,仮に具体的な規律を置くとしたらどうなるかという問題ですので,少しそこは分けていただいたほうがよろしいのではないでしょうか。ここでは具体的に一つずつ見ているわけでして,その上でやはり廃止しろという御意見であれば,それはそれで分かるんですけれども,今は取りあえず御提案いただいているものについて詰めていくということかなと思いました。   そこで,(3)に戻るのですけれども,30日以内の死亡した場合についての規律は異論があり得るというようなことが補足説明の中で置かれていますけれども,ただ,こういったことは先ほど能見委員のおっしゃった非常に早く亡くなった場合ということを考えたり,あるいは比較法的な知見を踏まえたりすると,なおあり得るのではないかと思います。 ○鎌田部会長 (4)についても何か意見があればお聞かせいただければと思いますが,給付方法に関連しますから,(4),(5),(6),(7)全体について何か御意見があれば。 ○道垣内幹事 すみません,(3)に戻るのですが,中田委員のおっしゃるように,イの規定があってもよいということには賛成いたしますが,その説明の仕方が問題です。極端に早く死んでしまった場合にはという理由を出すのは,私はおかしいだろうと思います。そうしますと,極端に長く生きた人も除かなければならないという話になりますし,そしてまた,リバースモーゲージなどを多数の人をプールにして行うという例を考えますと,かつて議論になったときには,早く死ぬ人もいるし,長生きをされる方もいらっしゃるということを全体的に計算して出して,合理性を持たせるということだったわけでありまして,極端に早く死ぬ人が存在することは計算に組み込まれるべき事情なのですよね。しかし,にもかかわらずイはあってよいと思うのは,契約締結時に存在していた原因により,というところがポイントであると思うからです。そのときには,結局射倖性が尽きているといいますか,端からもう短いということが分かる状況でやっている,そういう理由であろうと思います。 ○鎌田部会長 当然これは有償契約を前提にするときの不均衡の大きさを考慮するんだから,無償でもいいというふうになると,無償の場合にはこれを適用しなくても別に構わないということになりますね。 ○中田委員 先ほど私,(3)について能見委員の問題提起に答えると申し上げたんですが,その(3)については,今,道垣内幹事のおっしゃったような説明の仕方になると思います。ただ,ほかに(6)のようなものと併せて早期に亡くなった場合についての手当がある,そのうちの機能的には(3)も一翼を担っていると,そういうつもりでおりました。   なお,(6)については規定を設けないということになっておりますけれども,非常に限定的な絞りを掛けた上で,ごく例外的に解除を求めるという方法はあり得るのではないかと思っています。 ○松本委員 私は(3)の30日以内というような数字を民法に民事ルールとして規定するのは,ちょっと異様な感じがいたしまして,余り賛成しません。終身定期金契約と若干似た有料老人ホームの入居一時金についてこの問題が多くの紛争として起こっております。早く死亡した場合あるいはいろいろな事情があって,すぐに退所した場合に入居一時金の大部分が返ってこないとか,初期償却として何割かが落とされるとかいう問題があります。行政規制的には90日ルールというのが今ございまして,90日以内であれば,実費は当然取りますけれども,残りを全額返すということになっております。もし必要だとすれば,そういう行政規制的なものでやって,民事ルールとしては明確な数字を入れないで,相当性とか不相当性かといった幅のある概念で,争いがあれば諸般の事情を考慮して裁判所で決めてもらいましょうという形でいくか,あるいは中田委員がおっしゃったように,解除権のほうに持って行くほうが収まりがいいのではないかと思います。 ○道垣内幹事 私の発言は,(6)については設けないものとしてはどうかということに賛成するということが前提で,私は(6)は今,直接に議論すべきところではないかもしれませんが,賛成です。 ○鎌田部会長 (7)以下についても御意見があればお出しください。 ○高須幹事 (7)についての弁護士会の状況でございますが,一般的にまず個別論点につきまして仮に乙案を採る場合には,どちらかと言えば賛成という意見のほうがおおむね多いという中で,(7)についてはやや反対のほうの意見が弁護士会の中では上回っております。責めに帰すべき事由ということを故意,過失に改めるというほうが明確になるというのはそのとおりだとは思うのですが,実は意見が分かれておりまして,過失の場合に適用していいのかという意見もあれば,逆に言えば故意,過失がある場合は当然として,それ以外の場合にも一定の場合には適用があるのではないかとの意見もあります。要するに受け止め方によって大分差がありまして,現行の責に帰すべき事由という言葉に含まれているものが,だからこそ分かりにくいんですが,分かりにくい部分だけいろいろなところを盛り込めるということで使い勝手のよさというか,使っていないので使い勝手がいいという言い方は変なんですが,何とでもなるのではないかという一種の親しみを弁護士会としては感じているところが多いと,こういうことでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○道垣内幹事 私は(7)は故意だけではないかと思うのですが,過失で交通事故に遭ったら払い続けなければいけないというのは,私にはどうも考えにくいのです。 ○鎌田部会長 それでは,これまでに頂戴しました御意見を踏まえて,議論を整理するようにしたいと思います。   次に,「第2 和解」について御審議を頂きます。事務当局から説明していただきます。 ○松尾関係官 「1 和解の意義(民法第695条)」では,(1)で和解契約の要件から互譲を不要とする考え方の要否を,(2)で和解契約に書面要件を課す考え方の当否をそれぞれ取り上げております。   「2 和解と錯誤」は,これまでの判例通説を踏まえて,当事者の一方又は双方が争いの対象となった事項を誤って認識して和解の合意をした場合であっても,当該当事者は錯誤の規定によって和解の無効を主張することができない旨の規定を設けるという考え方の当否を問うものです。 ○鎌田部会長 それでは,一括して御意見をお伺いいたします。弁護士会は。 ○中井委員 (1),(2)ともにほぼ全ての意見が反対でした。(1)については,やはり和解については互譲を必要とするという考え方を採りたい。その互譲については,相当緩やかに解してもよいということを前提にしながらも,互譲を要件とすべきであると。実務的な要請というのがむしろ弁護士会の感覚として強いのだろうと思います。紛争が発生した,それで円満解決をする,そのときに和解が使われる,そのときにお互い互譲することによって円満成立しているという説明,それによって紛争解決に資している,こういう評価があるからだろうと思います。   それに対し,全く互譲していないのにそれを和解と呼んでよいのかという反論なのかもしれません。場合によっては,それは和解と呼ばずに全て権利を認めて合意が成立しただけ,若しくは全ての権利を放棄したという結果なのかもしれませんが,それを広い意味での和解と呼んで,それが典型契約たる和解でなくても別にいいのかもしれません。しかし,ここで和解から互譲を外すことについては,ほぼ一致して反対でした。   (2)については,書面によらない和解契約でなければ効力を生じないという考え方については理解できるという意見もありましたけれども,多くの紛争解決事例において書面まで要求したときに紛争解決に資するのかという観点から見ると,日本人的に手を握って紛争は終わるという紛争解決処理パターンは極めて多いと。それは些細な事件において一般的に行われていて,「ごめん」,「一回食事をおごる」,おごることによって全て水に流して和解が成立する,これは極論かもしれませんが,多少の金銭をお支払いして紛争は解決する。書面なしに終わっていたと思っていたけれども,金銭を受け取った上で,「いや,書面がないから,なおこれだけ請求できる」ということになりかねない。一定額の金銭の支払によって紛争が解決している事例を考えると,書面を要件とすることは過大ではないか,こういう反対意見です。 ○佐成委員 1の(1),(2)ですけれども,経済界の中での議論ですが,(1)については,やはり互譲の要件は残しておいたほうがいいのではないかという意見がある程度ございました。今回は互譲の要件を削除してよいという意見は余り聞かなかったのですけれども,そういう意見も若干あるとは思いますが,残しておいたほうがいいのではないかという意見が今回議論した中では聞かれました。   それから,(2)についてですけれども,やはりこれも最終的に実務上,書面を作成する場合というのは非常に多いけれども,柔軟な紛争の解決という観点から余り厳格な書面を要求するというのはかえって好ましくないのではないか。ほかに慎重に契約を締結するべき類型というのはいろいろあるにもかかわらず,ここだけ厳格な書面を要求するというのは,確かに確定効という問題はありますけれども,そうだとしても,やはりバランスを欠くというような意見もございまして,(2)についても消極的な意見が多かったということでございます。 ○道垣内幹事 失礼な言い方になりますが,お許しいただければと思います。先ほどの中井委員の紹介された弁護士会の意見なのですが,12ページの説明の6行目のところから,実務的な観点からは当事者の互譲が要件とされていることによって,当事者が和解契約の締結に納得しているという実態があるので,その実務上の意義を重視すべきであるということが書いてあり,そのことを再び確認されたのだろうと思います。   しかし,他方で中井委員は同じく互譲がないという場合に関しても,その権利を放棄するないしは全額を認めるという和解ではない契約として効力はあるだろうということをお認めになりました。そうしますと,もし仮に実務的な観点から当事者の互譲が要件とされているのですよ,そうしないと和解は成立しませんよというふうに説明しているとすると,それはだましているのではないだろうかという気がするわけです。つまり互譲を要件としなくても争いは終結するにもかかわらず,互譲しなければ和解は成立しませんと説明していたら,それはおかしいのではないかと思うのです。もし仮にそうではなくて別の理由を付けるということになりますと,今,検討の対象となっておりませんけれども,和解と錯誤というものは和解に特有の条文であって,互譲性がない場合には錯誤等の主張を認めるということで違いが出るのだということならば,またそれはそれで分からないわけではありません。しかし,互譲性の要件に錯誤の主張の可否を結び付けるということで本当によいのだろうかというのには若干自信がないところです。本当に互譲が必要なのだろうかというのが理屈の上ではよく分からないところであります。 ○佐成委員 今の点なのですけれども,確かに互譲がない場合に無名契約としてやる場合というのは当然あると思うのですけれども,その場合には確定効を明示的に多分契約書なり何なり書面で合意しておくということになるのだろうと思います。他方,互譲を要件として残しておきますと,恐らく民法上の和解のこのデフォルトルールが適用になって,確定効について明確に契約書上に規定しておかなくても,互譲が要件事実ということでございますから,それが自然に働くということで,若干そこら辺は違いがあるのかなという気はいたしております。 ○山本(和)幹事 今のところなんですが,ADRの場で時々話を伺うんですけれども,認証ADRにしても,あるいは金融ADRのようなものにしても,和解の仲介というものがそのADR任務とされているんですが,時々一方申立人,消費者等が相手方事業者等に対して請求しているのがどう見ても全部認められると。一切譲歩の必要はないということで事業者を説得して,その結果,事業者もそのとおりだと認めて合意ができるという例があるようなんですが,それをそのまま認めていいんだろうかと。和解の仲介が役割であるにもかかわらず,互譲はないということになるので,そういう場合に消費者の言い分を少し削ってもらって和解の形にするというようなことも言われる方がいて,それは非常に本末転倒な感じがするのですけれども,どうしても民法のほうで互譲が必要だということであれば,そのADR法とかの解釈に言うところの和解というのは,民法にとっては違った和解なんだという説明をすることもできなくはないような気がするので,やや不自然な感じがするということで,特段どうしろというお話ではありませんけれども,そういうことがあるということです。 ○深山幹事 まず,1の互譲の点については,弁護士会はほぼ皆反対ということなのですが,私は必ずしも互譲が実務的にそれほど意識されておらず,今の山本先生の御発言にもありましたけれども,訴訟上の和解でも緩やかに解しているという気がいたしますので,絶対的な要件ではないのではないかという気が個人的にはしております。   もう1点申し上げたかったのは,2の錯誤との関係です。弁護士は職業的に和解の代理人をしておりますので,日常的な感覚で申し上げると,せっかく成立した合意がそう簡単に蒸し返されては何のために合意したか分からないという感覚が一般的にはあるんですけれども,しかし,ここで提案されている規律が果たしてどういう新たなルールを明文化することになるのかというのが今一つぴんと来ません。補足説明を拝見すると,95条の錯誤一般の要件の特則としての提案というふうに理解できるんですけれども,その特則の方向性としては和解の成立を狭める方向の特則だろうと思います。先ほど申し上げたように,蒸し返しをそう簡単にさせないという感覚からすれば,その方向性自体には異論はないのですけれども,この表現については,争いの対象になった事項についての誤認かどうかという非常に漠とした表現で,新たな特則としての規律として機能するのかなと思います。他方で,95条の適用については,一般論として実務的にはかなり厳しく適用されており,そう簡単に錯誤無効の主張が通るという感覚を持っておりませんので,特に新たな規律を設けなくてもそう簡単に和解が錯誤によって無効になるという判断は裁判上なされないのではないかと思います。そう考えますと,果たしてあえて明文化して錯誤の特則を設けることにどれほど意義があるのかという気がいたしております。そういう意味では,特則の規律がなくても一般的な95条の解釈・適用に委ねてもいいのではないかと考えております。 ○中井委員 互譲を要件とすることに対して二つの批判を受けたわけですけれども,道垣内先生の御指摘に関しては,放棄をすること自体は何ら問題もない,また,相手方の請求を全て認めるということも問題はない。いずれも紛争が発生したときの解決の一つのありようとして否定はされない。それを和解と呼ばなければならないのかということに素朴な疑問があります。和解という以上は,互譲を要件として成立すると定めても,その三つの紛争解決のいずれもがあり得るわけですから,終局的にそれほど実務的には困らないのではないか。逆に実践的なことを考えれば,普通は紛争というのはいずれにも何らかの問題があって発生しているのであって,100,ゼロのものが紛争として顕在化しているものはほとんどないはずです。そうすれば紛争解決に当たる当事者として円満解決を目指すときに,和解という解決方法は互譲を要件としているということが実践的な意味から言えば,紛争解決の役に立っている,そういう実務感覚があるということだと思います。   それであっても,確かに一方の請求がほぼ認められるような場合,それは裁判手続の中でもあります。しかし,裁判所は和解という手続をとっている。それは利息だけを放棄する,場合によっては訴訟費用の負担をお互いの負担とする,そういう形だけでも互譲の一つとして十分意味があって,それをもって和解として何ら問題はないのではないかと思います。   次に,山本和彦幹事からADRのことをおっしゃられて,ADRはそうなのかと。裁判外紛争解決手続ですから,裁判外で紛争を解決する,正に紛争解決のために専門家が間に立って調整をする,紛争の解決の仕方は今申し上げたように請求の全てを認めてもいい,請求を全て放棄してもよい,互譲で穏当なところで和解をするのもよし,だとすると,この第2条で書いている紛争解決手続の利用の促進に関する法律で言う解決の方法を和解に限っているのがおかしくて,紛争の解決を目指すための解決手法として広く和解も請求認諾も債権放棄も入れればいいだけのことではないかと思うのですが。 ○村上委員 訴訟実務を担当しておりまして,互譲が要件とされているために不都合が生じて困ったという経験は,私はしたことがありませんし,聞いたこともございません。中井委員もおっしゃいましたように,訴訟費用は各自の負担とするという条項を入れるだけでも互譲の要件を満たすと考えられておりますので,そういった点から,互譲が要件とされているために困るということは,ほとんどないだろうと思います。また,互譲の要件を不要とすると,訴訟上の和解と請求の放棄や認諾との区別ができるのかという問題もありますので,そういうことを考えますと,互譲の要件を削らないと困るということがないのであれば,そのまま存置しておいていただいていいのではないだろうかと思っています。 ○岡田委員 先ほどADRの話が出ましたので,消費生活センターは行政型ADRと言われているのですが消費者センターの和解というか話合いの場合は,事業者に対しては,ある部分行政指導的なものをバックにしているといわれています。ですから,余り互譲という言葉を使うことはないのですが,消費者のほうが余りに権利を主張するときには,消費者に対して,行政指導で収めると立場にないものですから,歩み寄りで解決しなければ駄目だと説得する場合があります。もしここで話合いがつかなかったら最終的には司法の手続しかないと行政の限界を伝えるという形で消費者に対して互譲という精神を特に使うような気がします。   それから,先ほどADRの話が出ましたが,私の知る限りでは,金融ADRはかなり行政指導といいますか,行政権を発揮するように思いますので山本先生がおっしゃったようなところがあるのかなと思います。互譲というのは,私は使いやすい一つのツールかなと思いますので,残しておいていただきたいと思います。 ○道垣内幹事 互譲してはいけないと言っている人は誰もいないわけで,互譲しなければ和解にならないかということが議題ですので。 ○岡田委員 言葉として残してもらえたらと考えた次第です。 ○山川幹事 労働組合法にも和解の規定はあって,私自身,労働委員会で労働組合と使用者の和解の経験がありますけれども,確かに説得の際には互譲ということが民法にも書いてありますよということを言うことは効果があると思うんですけれども,法律の要件として位置付けることとはまた別で,こういうことが民法の規定でできるかどうか分かりませんが,理念ないし行為規範的な意味での互譲ということと,厳密な法律要件としての互譲を別に書き分けることがもしできれば,そういう方法もあるのかなという感じがちょっと単純な印象ですけれども,しております。 ○鎌田部会長 1に関連して,ほかにはよろしいですか。 ○中田委員 ただいまの山川幹事の御提案はなかなか魅力的だと思うんですが,実際の規定の仕方としては難しいのかなと思います。むしろ互譲要件を立てておいて,それを緩やかに解するということでも同じようなことを狙っているのではないかと思います。互譲を求めることの根拠として,和解が権利を変動させるという効果までもたらすのだとすると,互譲を求めるほうが当事者の合理的な意思に合致するという説明が従来されていて,それはそれで理由になっているのではないかと思います。   もう一つの書面の要求については,仮に書面契約にすると,権利の変動を生じさせる契約として売買や贈与とのバランスが悪いのではないかという気がします。それから,書面契約を要件とすると,書面によらない和解は和解として無効だとしても,無名契約としての効力はなお残るのではないかと思うんですけれども,それも否定するのだとすると行き過ぎではないかと思います。   それから,書面を要求する理由として軽率な和解の防止とか契約内容の確定ということが果たして和解においてそこまで求められるのかなという気がいたしますので,結論としてはここで既に出ているとおり,書面を要求としないということでいいと思います。 ○道垣内幹事 しつこくて申し訳ありませんけれども,権利変動というのは,権利というのは当事者の主張内容のことを言っているわけではないので,当事者の主張との関係で互譲が起こっても,権利変動が生じているとは限らないし,当事者の主張そのものを認めたとしても権利変動は起こっているかもしれないわけですよね。したがって,私はそれが一般的な説明だとすると,その一般的な説明はおかしかったのだと思います。 ○山本(敬)幹事 かなり以前になりましたけれども,深山幹事が,2の和解と錯誤に関しては,規定が必要ではないのではないか,錯誤の一般規定の解釈によって適切に解決できるということをおっしゃいました。この点については既に第18回会議のときに私自身申し上げているところですけれども,錯誤の一般規定をそのまま適用すると,むしろ逆になるのではないかということをまず確認すべきだろうと思います。といいますのは,和解契約をする前提として,何らかの事実について一定の認識はしたけれども,その認識が誤っていたという場合がここで問題になると思います。それは錯誤の定義からしますと,動機の錯誤ないし事実錯誤と言われるものに当たります。現在の判例法によりますと,そして,現在有力に考えられている改正提案によりますと,それが法律行為の内容になったときには,もちろん要素の錯誤に当たればですけれども,契約が無効になる,ないしは取消しが認められることになります。   和解契約の場合は,正にこの争いの対象になった事柄についてはこうすると契約するわけですので,法律行為の内容になっているとしか言いようがありません。そうしますと,一般規定を卒然と解釈・適用するならば,むしろ無効ないし取消しが認められることになってしまうと思います。しかし,よく考えてみれば,この和解契約の場合には,そこで争いの対象になった事柄について一定の認識は確かにしたのだけれども,それが実際にはAであろうとBであろうと,それに関わりなくこの内容で和解契約をするということを当事者が合意しているわけですので,非常に厳密に言えば,そもそも錯誤もないと言えるかもしれませんし,仮に錯誤があったとしても,少なくともそれを理由として無効ないし取消しの主張はもうしないということについて当事者が一致していると思います。この場合には,やはり錯誤の無効ないし取消しの主張をすることはできないということに結論としてはなるわけですけれども,放っておきますと規定上はっきり書かれていないので,この結果がどこからどう出てくるのか明らかでないということになります。したがって,和解のところでやはり明文の規定を置くべきではないのかということを以前にも申し上げましたし,先ほどの御指摘に対して,やはりこうしておかないとうまくいきませんということを申し上げたいと思います。   そして,1についての先ほどの議論ですけれども,少なくともこの和解と錯誤の効果からしますと,争いの対象になった事項について,AであろうがBであろうが,この内容で和解契約をするのだということがあれば,今の効果を認めるということですので,その効果を認める際の要件として互譲が不可欠の要件になるということはないのではないかと思います。実際の紛争の場面での使い勝手のよさは別として,このような効果から考えたときの要件としては,私もやはり互譲を要件とすべきではないという意見に賛成したいと思います。 ○岡田委員 消費者にとっては錯誤を取り消すことができないというのは大変厳しいですが,法律的にはこれが当然だろうというふうに思うのですけれども,この錯誤のところに不実告知というのは入るのでしょうか。そこを心配する相談員が一部ありますので,教えていただきたいと思いまして。 ○鎌田部会長 それでは,そこは山本敬三幹事から御説明を頂きたいと思います。 ○山本(敬)幹事 錯誤に関しては,先ほど申し上げましたように,この点についての認識の誤りがあったとしても,この内容で契約をするということですので,そもそも錯誤に当たるものはないかもしれないし,仮にあったとしても錯誤無効ないしは取消しの主張は認められないということを申し上げました。その意味で錯誤法に関する特則ということになるだろうと思います。   しかし,それは飽くまでも法律行為の内容になっているかもしれないけれども,無効主張ないしは取消しを認めないということだと思います。それに対して,この契約をする際の基礎になった事実について,相手方が不実の表示をして,そのために誤認した。それに基づいて契約をしたというときに,この不実表示に当たる規定が設けられるとするならば,それに従って取消しの主張をすることができるかどうかということは,私は別問題ではないかと思います。詐欺が行われた場合を考えれば,この規定があるからといって詐欺取消しが否定されるということにはならないでしょう。問題は,不実表示に関するルールを飽くまでも錯誤法の枠内だけで考えるのか,それとは別の意味もあると考えるのかということではないかと思います。 ○深山幹事 山本敬三先生の御意見に対して私の考え方だけコメントしたいと思うんですが,例に挙げられた一定の事実,事項がAであれBであれ,いずれにしろこういうふうに決めるという場合について,後日それがどちらかであることが分かったと,こういう場合というのは山本先生自身もちらっとおっしゃいましたけれども,そもそもそれは錯誤がないというふうに考えられます。つまりAであれBであれ,こういうふうに決めるという限度では,後日そのことが明白になったとしても,それは元々どちらである可能性もあるということを認識しているわけなので,錯誤はないというふうに考えるべき場合もあるでしょう。あるいは,それを非常に軽率に思い込んだということであれば,それは表意者の重過失というところで蹴られるということもあるでしょうから,そういう意味で言うと,それほど困らないのではないかという感覚です。ではこういう規定を入れると,逆に弊害があるかというと,必ずしも弊害はないのかもしれないんですけれども,ただ,必ずしも軽率ではなく,たまたま何か誤解をした,それに乗じて合意を成立させてしまったという場合で,詐欺とまでは言えないような場合でも,相手の誤解に乗じたような合意というようなものについて,やはり一定の錯誤無効を認める必要性がないわけではない。そういうときにこの提案のようなものが支障になるかもしれないという懸念は感じております。なので,冒頭あえてそうそう簡単に蒸し返しは認めるべきではないということを申し上げた上で意見を述べたのは,目指す方向はそう違わないとは思うんですけれども,この規律が果たして規律として適当かどうかということについては,先ほど申し上げたように疑問を感じるというところでございます。 ○鎌田部会長 2については賛否意見が分かれるところでありますけれども,同時に賛成の場合でも,この書き方でいいかというふうなことも問題になろうかと思いますので,そこも含めて御意見があればお出しください。 ○中井委員 意見ではなくて,錯誤の議論を聞いていて(1)の互譲の問題について確認といいますか,教えていただきたいんですけれども,債権があるかないか分からないから,一切請求権を放棄しますという形での合意ができたとき,かつ和解に一定の場合に錯誤主張ができないという規律を組み合わせたときに,互譲を要件とすると,それは請求権の放棄として処理され,そのときは錯誤の一般適用になる。ところが,互譲を要件としなければそれも和解契約として一定の場合,条件を満たせば錯誤の対象にならない,そういう違いが互譲を要件とするかしないかで出てくるんでしょうか。 ○鎌田部会長 それは山本敬三幹事への質問ですか。 ○中井委員 全部認諾した場合も全く同じなんですか。 ○山本(敬)幹事 今のケースがどうかということは少し置いて,一般的に言いますと,これは先ほど中田委員が御指摘されたところとも少し関わるのですが,和解について互譲を要件とするものと考えて,そして,和解と錯誤について先ほどのような一応の理解を前提として,錯誤の特則,ないしは疑義があるかもしれないところを明確にする規定として定めることにしますと,和解のこの定義に当てはまるものであって初めてこの特則ないしは確認規定が適用されることになるだろうと思います。ですので,仮に互譲を要件としますと,現実に互譲がない場合は,これは適用されない。そうすると,一般規定に戻ることになるかもしれないのですが,ただ,中田委員がおっしゃいましたように,これは民法典が定める典型契約としての和解契約ではないかもしれないけれども,無名契約としての紛争解決契約のようなものに当たるとしたときに,この和解と錯誤についての規定が特に定められた趣旨からしますと,この無名契約たる紛争を解決契約にも類推されないとおかしいのだろうと思います。当事者はそのような趣旨で契約しているわけですので,そうなると思います。しかし,そうしますと,なぜわざわざ互譲を要件にしなければならないのかということが問われることになるのではないでしょうか。 ○中井委員 そういう結論になるのなら,是非互譲を要件としていただいて,両方同じ解決にしていただきたいというのが実務的要望です。論理的ではないけれども。 ○鎌田部会長 和解と錯誤の山本敬三幹事の御理解ですと,こういう規定がないと錯誤の主張ができてしまうと,そういう意味で創設的ですか。私は契約の趣旨からいえば当然だというのが山本幹事の御意見かなと思ったんですが。 ○山本(敬)幹事 これは厳密に言うと考え方が更に分かれ得るところで,私が先ほど申し上げましたように,これはそもそも錯誤はないというように本当に一致して皆さんがお考えになるとするならば,一般規定でも錯誤の無効ないし取消しの要件を満たさないということで,比較的簡単に結論が出ると思います。ただ,やはり錯誤はあるのではないか。一般的な感覚としても,何かそこに思い違いのようなものが窺えますので,やはり錯誤はあるとすると,錯誤無効ないし取消しに関する規定をそのまま適用すれば,法律行為の内容になっているわけですから,無効ないし取消しが認められるはずである。しかし,この和解契約の趣旨からすると,それはおかしいとするならば,和解契約の趣旨に合うような形で,これは創設的な規定なのかもしれませんが,錯誤無効ないし取消しを認めないという規定を置く必要があります。  このように,この和解における「錯誤」の場合に,一体錯誤はあると考えるかどうかという点について,恐らく争いの余地があるだろうと思います。ですので,一致しているのであれば心配は余りないかもしれませんが,一致していない以上はやはり明確な規定を置いておく必要があると思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○松岡委員 余計混乱させることになってしまうかもしれませんので,そうなったら申し訳ないのですが,どちらの意見もそれなりに理由があってなかなか自分の立場を決めかねています。書面によるという提案と互譲を要件としないという提案に論理的関連性がどこまであるのかがよく分からないところです。そもそも契約の拘束力についてどういうスタンスを取るのか必ずしも一致した見解があるわけではないのですが,和解契約は,正に互譲,すなわちギブ・アンド・テイクでどっちも何かを出捐する有償契約だから合意のみで拘束力を有していて,特に書面はそれほど強くは要求されない,と考えられます。しかし,一方的に相手方の請求を全部認諾したり自らの請求を全部放棄する場合は,言わば無償契約に極めて近いか,無償契約そのものとも考えられますので,そういう場合にはむしろ合意の拘束力を根拠づけるためには書面が要る,という対応も考えられます。互譲要件を外すことによって書面要件が必要になってくるという理解でよいのか,はっきり分からないので,どなたかその辺を説明していただけると助かります。 ○道垣内幹事 私は互譲を要件としない,かつ別に書面でなくてもよいというふうに考えておりますが,松岡委員のおっしゃった話は説得力のある話だろうと思います。だけれども,もし仮にそうであるならばこれまで互譲要件を残すべきだというふうに主張された方々の前提となっていたところ,すなわち互譲要件は軽い要件としましょうということの正当化が難しくなるのではないかと思います。個人的にはどちらの立場をとっても別に書面はなくてもよいと思いますが,そういう感想を抱きました。 ○三上委員 正面から松岡委員の質問に対する回答ではないんですが,実務感覚としては互譲があったかなかったかで効果が全く変わってしまうという結論は受け入れ難いと思います。もしそうであれば,どんなときにも1円だけ差し上げましょうと,英米法の約因みたいに名目上譲った部分を作っていく,そういう実務になると思います。しかし,これはものすごく無意味なことだと思います。そういう意味で互譲という言葉があるかないかに余りこだわらないんですが,少しでも譲ったかどうかというので効果が変わるのであれば,例えば先ほど訴訟費用は双方負担にするという指摘がありましたけれども,争った金額に対して非常に僅かな数字であれば,こんなもので譲ったことになるとかならないとか,そこでまた争いが起こるような気がします。そういう意味で,その互譲があったかなかったかで切るという考え方に関しては,私は非常に疑問に思うといいますか,先ほど山本幹事は類推適用があるという話をされましたけれども,もうそんなことを言わずにどちらも結果は同じであるという形にすべきではないかと思っております。 ○沖野幹事 今,例えば山川幹事がおっしゃったような,あるいはほかの方もおっしゃったように,結論としては互譲があろうがなかろうが効果は変わらないというところは基本的に一致しているんだと思うんです。それなのに要件のところだけ出てくるところの気持ち悪さと,しかし,その文言があることによって当事者の行動に働きかけるその意味を全く無視していいのかというところで悩んでおり,何とかできないかということを先ほどから考えているんですが,そして,これは,一応アイデアだけ申し上げるんですけれども,現行法では委任と準委任の規定が,委任は法律行為の委託で,これを法律行為ではないものに準用するという規定になっています。これを参考に,代表例は互譲の規律を置いて,しかし,紛争をやめるという合意について準用するというような,そんな構造を考えられないでしょうか。アイデアとしてお伝えしたいと思います。 ○道垣内幹事 そうすると,解決が成立したということを主張するときの要件事実としては,言っても言わなくてもよいと。 ○沖野幹事 いずれかの類型になりますので,結論としてはそうですね。でも,実質は,互譲の要件は効果には効いてこないということを実現しつつ,行為規範としてかけたいという点を実現するというのが趣旨ですので。 ○道垣内幹事 ちょっとしつこいですが,なぜ行為規範としてそのようなものが,近代市民法においてと言ったら大げさですけれども,課されるのですか,自分に権利があるときに。互譲しましょうというのは,それは醇風美俗ですか。私は行為規範として課されること自体がおかしいと思います。 ○山川幹事 なかなか心理学的な話になってきて難しいのではないかと思いますが,何かやはり紛争を解決したことを心理的に正当化する,あるいは組織内の意思決定の仕組みにも関わるのかもしれませんけれども,ちょっとそれ以上は説明できない,専門でもありませんので。しかし,そういうことも実際にはあるのではないかという感じしか言えません。申し訳ありません。 ○鎌田部会長 請求内容だけではなくて,請求の仕方とか後々追加的な請求をしないとか,そういうものも含めて何か譲っているという,こういう感覚と要件としての互譲との間にずれがあるのではないかと,そういうことですね。 ○中井委員 お話を聞いていて,紛争をやめる一つの契約類型と位置付けたときに,おっしゃるとおりに互譲がなくても紛争をやめることはできる,そのとおりだと思うんです。ではこの典型契約として何を置くのかという議論のときに,紛争解決する合意の類型を一つにしなければいけないのか,若しくは非常に幅広いものを全て捉えられるものにしなければいけないのかと考えたときに,ほかの典型契約は決してそんなぎりぎりの話はしていないのではないでしょうか。一般的に紛争を解決する一番多い類型は何か,その一番多い類型の要素を抽出して典型契約を作っていると,そういう考え方が正しいのかどうか私にはよく分かりませんが,仮にそうだとすれば,一般的な紛争解決の中で一番多いのは,少なくともお互いどこかで譲歩して手を握っている,和解をしている,それによって紛争解決をしている。その一番多い類型のものの要素を拾い出して,それを民法典の中に典型契約として入れましょうというのであれば,互譲のあることによって紛争を解決するというのが一番典型的にあるのではないでしょうか。私は決してそれ以外の紛争解決の方法を否定するわけではない,その紛争において一方が全く正しければ,それは請求認諾をすればいいし,請求放棄をして,紛争を解決するという契約を結ぶ,それは否定しないわけですけれども,それを全部包括しなければ典型契約として類型化できないのかというふうに議論が進んでいくと,そうでなければならないのかということに対する素朴な疑問を感じます。   先ほど山本敬三幹事から御指摘がありましたように,仮に私のような二つの分類,それは沖野幹事からの名案があり,山川幹事の御示唆にもよるんだろうと思いますが,典型契約としての互譲を要素とする和解契約において一定の場面で錯誤主張はできないという規律があるとすれば,それ以外の無名契約になるのかもしれませんけれども,債権放棄若しくは認諾することによって紛争を解決しようとする合意が成立したときにも,典型契約である和解における錯誤の適用範囲についての規律をその無名契約である二つの類型に準用することは何ら問題がないのではないか。それで平和に解決できるなら,是非そういう道を考えていただきたい。 ○岡委員 人身被害のところについての補足資料の15ページの3のところでございますが,これについては弁護士会から相応の意見として,やはり残すべきであるという意見です。和解の時点で予見することができず,不均衡がある人身被害が新たに明らかになった場合には効力が及ばない旨の規定について「意思解釈の問題であり」とは書いていますが,先ほどの錯誤無効と同様に,こちらのほうについても明らかにするべきではないか,事例も多いところでございますので,これは明文化していただきたいという意見がそれなりにございました。 ○鎌田部会長 それでは,「第3 新種の契約」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 説明いたします。   「第3 新種の契約」の「1 ファイナンス・リース契約」の(1)では,物の使用収益を目的とする一方で,ユーザーの支払う金銭が物の使用収益の対価ではないというファイナンス・リース契約の一つの特徴的な要素を抽出して,その要素を含む契約に関する規定を設けるという考え方を取り上げています。具体的には,当事者の一方が相手方の選定した目的物を取得して,これを相手方に引き渡すとともに,当該目的物の使用収益を相手方がすることを受忍する義務を負い,他方,相手方が当該目的物の使用収益の対価としてではなく,当該目的物の取得費用等に相当する額の金銭を支払う義務を負うことを内容とする契約が存在することを示す規定を設けるという考え方です。この考え方によれば,例えばリース提供者によるメンテナンスを伴うことなどの諸般の事情によって,実質的には賃貸借と同視することができるようなファイナンス・リース契約については,ユーザーの支払う金銭が物の使用収益の対価であるという認定がされることによって,この規定の適用対象からは除かれることになるという理解をしております。   (2)では,(1)の契約については,その性質に反しない限り,賃貸借の規定が準用される旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。   (3)の第1パラグラフでは,ユーザーはリース提供者に対して瑕疵担保責任を追及することができないということを示す趣旨で,瑕疵担保責任の規定などの売買契約の規定を有償契約に準用すると定める民法第559条の適用を否定するという考え方を取り上げています。また,第2パラグラフでは,ユーザーはリース提供者がサプライヤーに対して瑕疵担保責任に基づく権利を有するときは,リース提供者に対する意思表示によって,リース提供者の有する当該権利を取得することができるという考え方を取り上げています。   「2 ライセンス契約」の(1)では,民法の典型契約の一つとして,ライセンス契約に関する規定を設けるという考え方を取り上げています。具体的には,ライセンサーが自己の有する知的財産権に係る知的財産についてこれをライセンシーが使用することを受忍する義務を負い,他方,ライセンシーがその知的財産の使用の対価として,ライセンサーに金銭その他のものを給付する義務を負うことを内容とする契約である旨の規定を設けるという考え方です。この考え方は,先ほど和解の議論の際に中井委員がおっしゃっていたように,数多ある多種多様なライセンス契約,有償のものもあれば無償のものもあり,クロスライセンスや特許の独占的通常実施権の設定契約のようなものもある,そういった多種多様なライセンス契約のうち,最も典型的かつ基本的な権利義務関係についての規定を設けようというものです。ですので,例えば無償のライセンス契約といったものを否定する趣旨の規定ではありません。   (2)の第1パラグラフでは,ライセンス契約は他人の知的財産を使用してその対価を支払うという点で賃貸借に類似する側面があるとの指摘がされていることを踏まえて,ライセンス契約の性質に反しない限り,賃貸借の規定が準用される旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。例えば,第55回会議で議論しました賃貸物件が譲渡された場合における賃貸借契約の当然承継に関する規定が仮に新設された場合には,この賃貸借契約の当然承継の法理については,ライセンス契約の性質に反するという解釈が有力である一方で,ライセンス契約の性質に反しないという解釈もあるようですので,ライセンス契約にそのような当然承継の法理に関する規定の準用があるかどうかは,その解釈に委ねられるという理解をしております。以上です。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について一括して御意見をお伺いいたします。 ○大島委員 1と2の両方,よろしいですか。 ○鎌田部会長 はい,結構です。 ○大島委員 それでは,まず,1のファイナンス・リース契約についてですけれども,このファイナンス・リース契約は,その多くがリース事業協会の標準契約書に基づいて事業間で行われており,実務上の取扱いが安定しているものと思われます。また,リース契約にはファイナンス・リースのほか,メンテナンス・リースやリースバックなど多様な形態があり,その形態も日々変化していると認識しています。ファイナンス・リースのみを民法の典型契約として取り上げるのであれば,その明確な理由を示していただきたいと存じます。   次に,2のライセンス契約ですが,中小企業にとってはライセンス契約をめぐって,権利化されていないノウハウなどの知的財産をいかに侵害行為から守るかが重要な経営課題です。幾つかの賃貸借等の規定を準用しない転用するだけの規律であれば,こうした課題の解決に資することはないため,民法に条文を置く積極的な意味はないものと考えます。また,ライセンス契約の対象となる知的財産の範囲は,特許や商標などの権利化されたものから,ノウハウや営業上の秘密まで非常に幅広くございます。さらにライセンス契約の内容やライセンスを与える当事者の意思も多種多様であり,適切な規定を置くことは困難であると考えます。そのため,ライセンス契約を典型契約の一つとして規定することには賛成できません。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに御意見いかがでしょうか。 ○三浦関係官 それでは,私もまとめて御紹介いたします。   まず,ファイナンス・リースについては,これを賃貸借の特則として規定することについて所管業界の一部より取引の実態に適合しないとの反対意見が寄せられました。中身は3点あります。一つは,ファイナンス・リースの中にもいろいろあるということです。例えば,メンテナンス・リースみたいなものもありますが,これについては,民法606条を準用しないとすると,実態と乖離してしまうことになります。つまり,606条を適用しないという提案について,それでいいものと,それではいけないものがあるのでしょうということです。第2に,定義の中で「当該目的物の取得費用に相当する額の金銭を支払う義務を負う」という部分なんですけれども,例えば再生型倒産手続のときにこのリース債権というのはどうなっていくのか。御提案の文言によれば,再生債権という,要は再生のときに取りにくい債権になるおそれがあるけれども,でも,実際にはそういう債権になるものもあれば,もう一つ共益債権というんでしょうか,取りやすい債権になるものもあるということで,これが2点目です。要は,例えば606条が使えるか使えないかとか,再生型手続のときにリース債権がどっちになるかとかいうときに,いろいろなものがありますよと。だから,なかなか一つの規律では当てはまらないのではないですかというのが以上2点の共通点ですね。   三つ目は,これは規定の作り方の問題かもしれませんけれども,リース契約での実際の取引では,売主からユーザーに直接納入することが通例なので,リース提供者はリース物件をユーザーに引渡す義務は負わないのだという意見がありました。したがって,「当事者の一方が相手方の選定した目的物,財産を取得して,これを相手方に引渡す」という定義は実態と乖離しており,よって適当でないとして,提案に反対する意見が寄せられました。   それから,ライセンス契約について,これを典型契約として規定すること自体については,その必要性については反対意見と賛成意見とに分かれました。反対意見は,そもそもライセンス契約を典型契約として規定すること自体が不必要だとのことでした。規定を設けること自体には賛成する意見もありました。ただ,賛成意見のほうも,有償性を前提とすることや賃貸借の規定を準用するという今の規定の方向性については反対する意見でございました。   幾つか主張のポイントはあるんですが,かいつまんで申し上げると,まず一つは,ライセンス契約も多種多様なんだという話であります。これも有償か無償かがある,それから,クロスライセンス,サブライセンスいろいろありますということでございます。先ほどの金関係官の御説明の中で,これは飽くまでもライセンス契約の中の典型的なものだけに関する規定なので,当てはまらないライセンス契約がたくさんあるのは,それはもう無視してもらえればいいというお話があったと思いますけれども,言葉ではいかんせんライセンス契約という言葉なので,クロスライセンスもサブライセンスもぱっと見,その中に入ってしまうように思えるので,そういう心配があるのではないかと思います。   それからあと,規律の中身については,そもそも特許法を始め個別の工業所有権法があって,その下で判例実務が相当蓄積されているので,したがって,規定は要らないという話がありました。また,賃貸借類似とするのもなかなか厳しいのではないかというのが大きな声でございまして,例えばサブライセンスについては民法612条を使うという御提案がありますけれども,これも特許法の整理の中でそれとはちょっと思想の異なる当然対抗制度のような制度がもうできていたりとか,ほかにも615条とか618条とか幾つか賃貸借類似ということで準用を想定しておられる規律について実態と合わないとか,あるいは既に特許法で考えられている既存の規律と合わないですよという,そういう中身に対する意見もございました。   それで,したがって,結論として,だから要らないのだという声と,それでもライセンスは大事な話なので,何か記述があるといいねという意見と,ちょっと省内でも分かれているんですけれども,以上のような議論が今経産省の状況ということでございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○金関係官 今の御指摘を踏まえて何点か補足をさせていただきます。まず,いわゆるメンテナンス・リースについて,修繕に関する規定が準用されないのは相当でないという御指摘についてですけれども,その御指摘の背景には,ファイナンス・リースと一口に言っても多種多様な類型のものがあるという御認識がおありでしょうし,確かにそれはそのとおりなのですが,今回の提案は,そういった御指摘を踏まえて,ファイナンス・リースとはこれこれこういうものだという規定を設けるのではなくて,使用収益の対価としてではなく金銭を支払うタイプの契約,つまり,目的物の使用収益を目的とするけれどもその使用収益の対価としてではなく金銭を支払うという性質を持った契約についての規定を設けようという提案をしております。ですので,いわゆるメンテナンス・リースが賃貸借そのものと評価されるような場合には,そもそも今回の提案でいうところの使用収益の対価としてではなく金銭を支払うタイプの契約には当たりませんので,この規定は適用されず,既存の賃貸借の規定が適用されるという理解をしております。ただ,メンテナンス・リースについては,一般に,リース提供者によるメンテナンスを伴うため賃貸借の側面を一部有することになるといっても,その部分が契約全体のうちの一部にとどまる場合には,ユーザーが支払う金銭の一部については使用収益の対価であるけれども,それ以外の部分については使用収益の対価ではないという認定,評価がされることもあると言われていますので,一口にメンテナンス・リースと言うだけでは少し不正確さが残るかもしれません。ただ,発想としては今申し上げたとおりです。   次に,再生債権なのか共益債権なのかという御指摘についてですけれども,大雑把に語弊を恐れずに言うならば,使用収益の対価であれば共益債権,使用収益の対価でなければ金融の側面が強くなって再生債権,更生担保権と扱われるという理解をすることができると思いますけれども,今回の提案は,先ほども申しましたとおり,使用収益の対価ではないものだけを取り出して規律を設けようとしております。ですので,使用収益の対価であると認定されてリース料債権が共益債権として扱われるようなリース契約は,そもそも今回の提案の適用対象からは除かれているという理解をしております。   次に,リース提供者の引渡義務についてですけれども,これについては,リース提供者が引渡義務を法律上負うということと,その目的物を実際に引き渡すのがリース提供者ではなくサプライヤーであるということとは,全く矛盾しないという理解をしております。リース契約の実態として,部会資料48の17ページの図にありますとおり,目的物の引渡しを実際に行うのが通常はサプライヤーであるということは当然の前提としておりますけれども,ただ,少なくとも法律上は,リース契約の当事者であるリース提供者が,ユーザーに対する目的物引渡義務を負っているという趣旨です。   最後に,ライセンス契約のところで,民法612条の準用に関する御指摘を頂いた点についてですけれども,確かにサブライセンスについては,その法的性質として,ライセンサーつまり権利者が直接サブライセンシーに対して,特許で言えば通常実施権を直接設定するというような理解をする見解と,そうではなくて,民法の転貸のような発想で捉える見解があって,三浦関係官の御指摘のとおり,前者が有力で,当然対抗制度もその見解を前提としているという御指摘だろうと思います。ただ,ここで民法612条を準用するということの趣旨は,必ずしもサブライセンスを民法の転貸のように捉えるということではなくて,権利者の承諾なくライセンシーがサブライセンスをしようとしてもそれは無効である,つまり権利者の承諾なくサブライセンスをすることはできないというルール自体については,先ほどのいずれの見解に立っても共通で,かつ,そのように無断でサブライセンスをしようとしたライセンシーとは契約関係を維持できないので解除をしたいという要請の下,民法612条2項のように解除権を行使することができるというルールが妥当することについても,やはり共通であると考えられますので,この民法612条の準用というのは,先ほど申しましたどちらかの見解を前提とするものではなくて,サブライセンスは無断ではできないという基本的なルールを設けようという趣旨のものです。 ○三浦関係官 ありがとうございます。大変有益な補足説明を頂いたと思います。   幾つかの部分は,したがって,お互いによく理解を深めればあるいは最後,より分かりやすい書き方にしていけば解決できる問題もあるのかもしれない。1点だけちょっと確認なんですが,ファイナンス・リースについては,要するにここにある規律が当てはまらないものがたくさんあるよという話というよりは,むしろここにあるのが当てはまるものを対象としたいんだということだと思うんですが,他方,ファイナンス・リースという言葉は使われることになるのでしょうか。 ○金関係官 その点は重要な問題だと考えておりまして,あり得る方法としては,飽くまで例えばということですけれども,ファイナンス・リースという言葉は使わずに,賃貸借の節にこの規律を設けた上で,条文の見出しは特殊な賃貸借などとするとか,そういったことがひょっとするとあり得るかもしれないと考えております。他方で,やはりファイナンス・リースという言葉を条文の見出しなどで使わざるを得ないということになるかもしれないとも考えております。いずれにせよ,その辺りのことはもう少し議論が進んだ後で検討したいと考えておりまして,現時点で確定的な方針を持っているわけではありません。 ○潮見幹事 金関係官がおっしゃられたファイナンス・リースを賃貸借の中に入れて,表題は特殊な賃貸借として扱うということには,私は反対です。   それから,ライセンス契約のほうですが,こういう典型的な契約形態があるということは,分かりますが,このようなものを現在の規定として置くということには,私は反対です。   それには幾つか理由があって,第一に,先ほどから何人かの委員がおっしゃられたように,ライセンスの供与といっても,そういう場面というのはいろいろなところがあって,かつ,多種多様です。そういうもののエッセンスだけを取り出して,典型契約として個別の規定を置き,あるいは準用規定を置いて処理するということで果たして対応できるのかというところについて大きな疑問を感じるからです。   第二に,例えばリースのように,実務的にもある程度各論レベルでのルールあるいはその背後にある基本的な考え方について,何らかの形で明確な形の枠組みが形成されている場合はまだしも,ライセンスの場面では,そのようなルールあるいはその背後にある基本的な考え方というものが果たして明確に形成されていると言えるのか,疑問に感じます。著作権だけに限って申し上げますと,著作権研究所で著作権契約法というものを制定してはどうかというのでプロジェクトを組んで研究をしたことがあります。そうした中でいろいろ議論をしたり,あるいはそれぞれの意見も交換したりしたのですが,その部分に限っても,万人一致の具体的な規定のイメージをつかみ切れませんでした。そういうところから考えると,事務当局が示された典型契約としてライセンス契約の規律を設けるのは,ちょっと難しいのかなと思います。まして,ライセンス契約で問題となる規律は,ここで問題になっているような賃貸借に関わるような規律に限られません。そもそも,ライセンス契約というものが一体どのようなものか自体も含めていろいろな複雑な問題があります。そうした中で,その議論を中間省略して,こういう簡略化された,そして,一部の場面に特化したような形での冒頭規定と個別規定を置くことについて,私は疑義を感じます。   第三に,お示しになられているような規律をルール化するということによって,それが知的財産のビジネスにどういう影響を与えるのかというのはしっかりと考えておく必要があると思います。法制審の議論でこういう戦略的な観点というのを挙げるというのは必ずしもいいのかどうか分かりませんけれども,ライセンス取引が我が国の国家戦略にとって非常に大きな意味を持つところ,ルールの置き方次第では,規制の強化につなぐことにならないのかとか,自由な取引活動あるいは自由な契約というものに支障を来さないかという観点からの慎重な検討が必要だと思います。   それから,第四に,直前に申し上げたことにも関係しますが,ライセンスに絡む問題については,例えば文化庁の文化審議会の著作権分科会の小委員会などでもいろいろな形で議論しておりますので,その辺りの議論も反映するような形ですり合わせをしながら規定を作らないと,実際には具体的な場面で適用する局面で少し齟齬が生じたり,あるいは解釈上の疑義が出てきたりして,かえって民法の基本法典としての意味が失いかねない事態が生じるのではないかという危惧を感じます。   以上の理由で,あえて強い調子で申し上げましたが,規定を置くことには反対します。 ○高須幹事 すみません,またファイナンス・リースに戻りますが,部会資料の20ページの記載の意味を御説明いただいた上での私の意見になるかなと思うんですが,20ページの冒頭のところに「民法上もファイナンス・リース契約を中途解約が一律に禁止された契約であると定義してしまう」と弊害が生じるとあります。そして,5行目に「これらの懸念もあり,ファイナンス・リース契約を賃貸借とは異なる典型契約として規定することには異論が少なくない」というふうに記載いただいておるわけなのですが,そのファイナンス・リース契約を賃貸借の範ちゅうに属する,特殊な賃貸借だというふうな形にすると,いわゆる中途解約を認めないというトラブルを防げるのかのような記載に読めるんですが,具体的にはどういう構成でそういうことになるのかを教えていただきたいと思います。私の理解だと,賃貸借にしても期限を定めて中途解約しないという契約にしていたら,中途解約ができることにならないのではないかという気がしたものですから,あるいは違う意味が含まれているのかもしれないので,教えていただければとまず思ったのですが。 ○金関係官 20ページの「これらの懸念」というのは,御指摘を頂いた「悪質な事業者」のところから始まる文章で示している懸念というよりも,その前までのところで長い記述をしております税務・会計上の懸念を主として念頭に置いておりましたので,つながりの悪い文章になっていると思います。そこは特に何か意味があるというわけではなく,書き方が悪かったということに尽きると思います。申し訳ございません。ただ,「これらの懸念」と中途解約の禁止というところの関係を一応説明いたしますと,弁護士会から御指摘を頂いております,ファイナンス・リース契約を典型契約とする際にはリース契約に関する消費者被害が一部で生じていることを十分に考慮すべきだという点に関して,ファイナンス・リースという名の典型契約の節を設けて独自の規定を設けるのと,今回の提案のような位置づけの下で規定を設けるのとでは,若干違う面があるかもしれないというニュアンスで,「これらの懸念」の中にその問題をも含むような記述になっているということになろうかと思います。 ○高須幹事 ありがとうございました。今の御説明を受けての意見で申し訳ありませんが,弁護士会としてはというのはちょっと大げさかもしれませんが,弁護士会の中にはこのファイナンス・リース問題というのが中小の事業者,零細の事業者について消費者被害に準じるような弊害が生じているというところを非常に問題視しているところがございます。したがって,消費者契約法でも救えない部分がこの問題に出てきているのではないか。それを今回の民法の改正の中でファイナンス・リース契約を典型契約化する中で,幾ばくかの改善につながるのであれば,それは望ましいことではないかという意見があり,典型契約化に対する積極論というものがある。この点を私は第一読会でも発言をさせていただいたという経緯がございます。   ただ,今回のように賃貸借のほうに寄せるというか,賃貸借の類型にするという形になりますと,今,指摘させていただいた方向の典型契約にはならないのかもしれないというところがございまして,今,金関係官からも可能性があるのではないかというところで,実は私が所属している東京弁護士会だけが唯一そこに期待をかけて,今回の提案に賛成ということなのですが,残りの単位弁護士会は全て反対意見となっております。つまりこのような内容でいくと,必ずしも中小零細企業者に対する救済の形にならないのではないか,そういう中でこの種の規定だけを盛り込んでも,抜本的解決にはならないので,新たな別の可能性を考えたほうがいいのではないかということが残りの全ての単位弁護士会ということになります。弁護士会の意見としては大勢が今回の明文化には慎重論,東京弁護士会だけが繰り返して申し訳ありませんが,今からでも何とかなるのであればもう少し内容を考えた上で立法化ということです。この意見はもう極めて少数ですし,残された時間との関係でいいましても難しいのかもしれないとは思いますが,このような意見を持っております。 ○大村幹事 私の申し上げたいことは,基本的には直前の今の高須幹事と同じでございます。ファイナンス・リース契約あるいはライセンス契約について,本日否定的な御意見が相次いで出ました。内容がこれでいいのかという御意見はいくつも出ているわけですけれども,積極的にこれらのものを置くということには意味があるだろうという御意見がなお残っているのかどうかということをもう少し議論したほうがよいのではないかに思っております。   それとの関係で,三浦関係官にもし可能ならばお尋ねしたいのですが,先ほど議論の状況について御説明があった中で,ライセンスについては一方でこの規定内容では困るけれども,しかし,規定を置くこと自体はライセンスの重要性に鑑みて,あってもよいのではないかという意見もあるとおっしゃっていたかと思います。後者の意見,すなわち,規定の内容はともかくとして,積極的に規定を置いたほうがいいのではないかという省内あるいは関係の方々の意見というのをもう少し詳しく御説明いただけると審議の参考になるのではないかと思ってお尋ねする次第です。 ○三浦関係官 ライセンス契約について何か規定を置いたほうがいいのではないかという意見が来ています。それで,少し敷衍してお話ができるといいのですが,実は余り御期待いただいているほどたくさんお話しできるかどうか分からないです。その趣旨はどちらかというと,もう少し抽象的なものです。つまり今の意見は,実は情報通信関係の業界からなんですけれども,その業界では物の取引もあるんだけれども,むしろ情報とか技術といったことについての取引というのが非常に重要なんだと。重要なんだから,何か充実した規定があって,それでもって法的安定性が増してライセンス取引がやりやすくなるということがもしあるのであれば,それは有り難いというようなことでございました。   ただ,中身については,そうはいっても先ほど申し上げたようないろいろな留保がついていて,そこはちょっと悩ましいというか,具体的にこういう記述でという提案まではちょっとなくて,そこはある意味作るのであれば素手でというか,一からかなりしっかり考えなければいけない,彼らもやはり賃貸借の準用というふうにちょっと簡単にはできないので,特許法との関係なども考えながらしっかり一から考えなければいけないであろうという,そういった話でございました。 ○佐成委員 簡単に経済界内部での1,2に関する議論状況だけ御報告させていただきます。   まず,1については関係業界のほうから反対意見が出ているということを除きまして,経団連の会員企業といいますか,内部のメンバーの中では,やはり関係会社にリース会社を抱えているというようなところもあって,消極意見は強かったという印象でございます。   それから,2につきましてですが,ライセンス契約に関しては,特に賛成,反対ということではなしに,そもそもこういう規定を典型契約とすることについての疑問の声があって,実務感覚からして,賃貸借というものの準用ということ自体に違和感を示される方がいたということでございます。 ○松本委員 私は,ライセンスについては大きな意味で典型契約と言えなくもない,しかも,立場の互換性もあるから,民法に典型契約として置く可能性はあると思うんですが,置いたとしても現段階においては,ライセンス契約というものがあります,終わりぐらいの感じになりかねない。となると,置かないのとほとんど変わらないから,無理して置かなくてもいいのではないかなと思います。   ファイナンス・リースにつきましては,積極的に置かないほうがいいと思います。その理由は,第一ステージで申し上げたことと繰り返しになる部分が多いわけですが,一つはファイナンス・リースというものが典型契約としてふさわしいかどうか疑問があること,もう一つは一定の立場の者にしか意味がないことです。リース事業協会から意見書を送ってきていますけれども,ほとんどB to Bでしか扱われていない。真っ当なファイナンス・リースはB to Bだけだと思います。B to Cのリース契約というのもありますけれども,これはもう割賦販売法の脱法行為であって,とんでもないものです。となると,非常に限られた事業者間の取引でのみ意味があるものであり,かつそれも割賦販売法の個別信用購入あっせんと代替性があるわけです。ただ,リースのほうが多用されたのは,税法上の特典と企業会計原則上の特典があったからです。法律外の要因でもって積極的に使われるようなタイプの契約がビジネス上は大変重要ですけれども,それは民法の典型契約としてはふさわしくないのではないかと思います。もし置くのであれば,むしろ信用購入あっせんに関する規定をきちんと整備して置くほうが適切ではないかと。弁護士会が提携リースについて特に零細中小企業に被害が生じているから,何とかすべきという意見書を出しておられますが,これは消費者向けの個別信用購入あっせんを利用した販売活動で,販売業者がきちんと説明をしないとか強引な契約をするというのと大変よく似た現象を,提携リースという形を使ってサプライヤーが生じさせているということで,両者は大変似ています。   したがって,それらを抑えるためであれば,共通の法律で規制するのが適切ではないかと思います。たまたま,比較法の資料を見ておりましたら,ドイツのところで,ドイツでは一時期ファイナンス・リースに関する規定があったんだけれども,今はもうないんだと。むしろ信用取引についての統一的なルールのほうで規制しているんだということでありますから,私は日本でもやるのであれば,そちらの方向でルール化を図るほうがいいんだと思います。そうしたとしても,現在のビジネス上必要とされていて,ビジネス上の利点がまだ残っているリースについては,約款がきちんと整備されておりますから,全く困らないでやっていけますので,全く弊害はないと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 特に強い意見というわけではないんですけれども,ファイナンス・リースについて一つ教えていただきたいんですが,フルペイアウト型のファイナンス・リースは今回の提案の外だという理解になるんでしょうか,それとも入っているのでしょうか。 ○金関係官 フルペイアウト型は入っているという理解をしております。メルクマールは飽くまで使用収益の対価としてではなく金銭を支払う契約かどうかという点ですけれども,通常,フルペイアウト方式のものであれば,金融的側面が強くて,ユーザーが使用収益の対価としてではなく金銭を支払っていると評価,認定される場合が多いのではないかという理解をしております。 ○中田委員 そうしますと,むしろフルペイアウト型に絞っているということですか。 ○金関係官 フルペイアウト型かどうかという点をメルクマールとするのではなくて,飽くまで使用収益の対価としてではなく金銭を支払っているかどうか,ここをメルクマールとして規律の範囲を画そうとしております。そういう意味では,厳密にはフルペイアウト型に絞っているわけではないということになろうかと思います。民法の規律としては,使用収益の対価かどうかという点,その一点に着目して判断をするという整理のほうが合理的ではないかと考えております。 ○中田委員 ありがとうございました。と申しますのは,ファイナンス・リース契約についての規律を置くことが倒産法において意味があるという御指摘が確か第一ステージであったと思いますので,それとの関係でフルペイアウトがどのような位置付けになっているのかを確認したかったということです。そのほかに仮に規律を置くとしたら,中途解約の禁止ですとか,検査確認通知ですとか,リース契約などの概念についても入れたほうがいいのではないかと思いますけれども,あとは結局,時間との関係かなと思っています。   ライセンスのほうなんですけれども,仮にこの規定を置くとすると,もちろん知的財産法に及ぼす影響もさりながら,民法の総則あるいは物権法にもたらす影響も考える必要があると思います。フランスの物権法改正案でも知的財産の取扱いについては随分議論があったというふうに聞いておりますので,仮に置くとしたらそちらも検討する必要があるだろうということです。 ○中井委員 弁護士会の意見は先ほど高須幹事から御紹介がありましたように,東京弁護士会を除いて反対という意見でした。方向性について,リース契約について何らかの形の法規制の必要性についての意見はありました。それが民法における典型契約としてという意見は今申し上げたように少数で,多かったのは先ほど松本委員からお話がありましたけれども,それは特別法ですべきではないかという意見です。若干その背景となるものを申し上げておきたいんですが,リース事業協会が出している統計資料によると,2005年,2006年頃は260万件ほどあって,リース残高も年間7兆8,000億ぐらいある。直近の2011年では件数自体が174万件で100万件減っていて,かつリース残高は4兆5,000億になっている,7兆8,000億ぐらいから4兆5,000億ぐらいまで下がっている。これは税制の改正が大きく影響しているのだろうと思いますが,リーマンショック等の日本経済の影響かもしれませんけれども,少なくなってきている。この中で,荒っぽく言えば,事業者対事業者の普通のリース,あるべきリースの数と,弁護士会が問題にしている小口リース,提携リースの数ですが,小口・提携リースが全体の40%を超えると聞いております。事業者間のリースについてそれほど紛争トラブルがあるわけでもなくて,リース契約は,部会資料にあるような三角関係できちんと処理され,それらは様々な類型が業者で工夫され,実務で問題は起こっていない。その問題が起こっていないところに典型契約として無理をして入れることによって,様々な軋轢が生じるのではないかという見地からだろうと思いますが,リース業協会からの反対意見が私ども弁護士会にも届いております。   他方で,リースについて何の問題が起こっているか。仮に民法がそういう紛争解決を予防する,若しくはあるべき方向を民法の役割として考えるのであれば,今起こっている問題を解決できるのかが問われるのではないか。問題は,圧倒的に提携リース,小口リースで,40%を超える,しかし,金額においてはずっと小さい,1件当たり200万円以下のものがほとんどだと聞いておりますが,そこで起こっていることに対して,今回の提案が賃貸借を原則の類型と位置付けた上で様々な例外規定といいますか,準用しない,準用するという形で規定することがどういう影響を与えるのかを考える必要がある。紛争が発生している提携リース,小口リースに対して,いい影響,役に立つ規律としてリースの正常化が進むのかというと,その可能性はほとんどないのではないかというのが弁護士会の評価です。   仮に賃貸借の規定を原則にするというのであれば,賃貸は使用収益させて初めて賃料が発生するはずですが,使用収益の対価でない,一番根本のところが違うものを賃貸として位置付ける。仮に賃貸として位置付けるのなら,使用収益できなくなった,リース物件が滅失したのならリース料債権は発生しない,毀損したのなら当然減額になる,リース提供者,賃貸人は修繕義務を負う,それが基本にあるという形で規律できるなら,今紛争が起こっている小口リースや提携リースに対しても何らかの指針が生まれるのかもしれません。しかし,これは正常に行われているリース契約とは正反対の規律を設けなければ実現しない。それは予定されていないと思うんですが,だから弁護士会としては反対せざるを得ないと思います。   第一読会のときに,私は逆説的に申し上げて,仮にリース契約を典型化するなら,正常なリースとは正反対に瑕疵があれば,滅失すればリース料は発生しない,リース業者は抗弁の切断もできない,瑕疵があれば修繕もしなければいけない,中途解約もできる,賃貸借の原則に従って中途でやめることもできる。それを基本として置き,それによって小口や提携リースの問題リースについては対応する。正常なリースはそれを約款でも契約でもいいから,任意規定なのでひっくり返してもらって,リース業協会が使っているマニュアルに従った契約にする。そうすれば,仮に消費者ないし弱者との間の契約で任意規定と異なる特約を作ったときには,場合によっては不当条項規制や消費者契約法の保護が受けられる。そのような典型契約としてのリース契約ならまだ意味があるのかもしれませんけれども,方向性がそうでないとすると,多くの弁護士会が反対しているように,このような形で規律することは賛成できないという意見になります。 ○内田委員 この新種契約は先ほどの終身定期金と違って,日本の経済社会の中で間違いなく実態があり,実務で非常に多く使われているわけです。ファイナンス・リースの場合,数が減ってきているという問題はありますけれども,それでも相当な数,存在している。裁判例も相当な数,蓄積しています。そこできちんと典型契約として認知してはどうかということで,一読の段階から提案としては出ていたわけですが,独立の典型契約としていろいろな規律を置こうとすると,正に中井先生がおっしゃったような意味のある規定を中に盛り込んでいこうとすると,非常に強い反対があって,なかなかそれは困難であるということが分かってきたのだと思います。   そこで,今回の部会資料は発想を変えていて,新規に新しい契約類型を打ち出すというものではありません。ファイナンス・リースにせよライセンスにせよ,実際に裁判例でたくさん問題になっているわけで,問題になる都度裁判所はファイナンス・リースとは何々である,ライセンス契約とはこういうものであると一生懸命苦労して性格付けをして紛争解決をしておられるわけですけれども,その際,現行民法の中の典型契約との関係付けが必ずなされるわけです。これは解釈論としてもせざるを得ない。そのときにファイナンス・リースにしてもライセンスにしても,一番近いところにあるのが賃貸借です。ただ,ファイナンス・リースの場合には,物を使用するという点では非常に近いけれども,金融的な側面もあって,賃貸借と同じではないと言われている。ライセンスの場合は無体物であるという点で違いがあり,典型的な賃貸借ではないのですけれども,しかし,権利義務の点では非常に近接した契約類型であるということが認められているわけです。   そこで,解釈論としても賃貸借との差別化というか,関係をどう位置付けるかということは議論せざるを得ないことであるし,してきたことですので,せめてその点については,独立の一つの契約類型,新種の契約類型として認知をした上で,賃貸借の規定がどこまで準用可能なものであるかを明らかにするという限度で規定を置いてはどうかという提案をしているのだと思います。ですから,これは一読で出ていたような,新しい契約類型を打ち出して,いろいろな規定を入れていくというのとは全く発想が違っていて,既存の典型契約の中に位置付けるとすれば,大体この辺りのところで,既存の規定の中で準用可能なものがあるとすると,こういうものであるということを明らかにする,その限りで民法の中に位置付けをしようというものです。   そんなことをするのにどれだけの意味があるのかという御批判もあると思いますけれども,やはりこの領域はまだ法形成の途上にありますので,裁判所でもいろいろ工夫をしながら今後具体的な紛争解決の中でルールを形成していくだろうと思います。そういう法形成のための前提として,一つの契約類型を認知するための道具として,こういう契約を新たに民法典の中に位置付け,それによって,法形成がされやすくなるという面もあるだろうと思います。   もう少し積極的に規律を置くべきだという御意見もあるかもしれませんが,それに対しては非常に反対も強いということがあり,他方で,何も置かないということになると,今ここで規定を置こうと提案しているような,契約としての位置づけの作業を,正に無の状態から裁判所が毎回,毎回紛争の都度苦労して繰り返すことになります。そこで,契約の認知のための手掛かりとなるカテゴリーを提供するという限度で規定を置くことには意味があるのではないか,そういう問題意識だろうと思います。そういう観点からもう少し議論してもいいのではないかという印象を持ちました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。   それでは,いろいろと御意見を頂いたところですので,これらを踏まえてファイナンス・リース契約,ライセンス契約について更に検討を深めますが,それ以外に新種の契約として更に取り上げるべきものがあるという御意見は,もうよろしいですね。   では,「第4 事情変更の法理」以下が残ってしまいましたけれども,予定した終了時刻も過ぎておりますので,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   本日は,分科会への委託案件はありませんので,次回の議事日程等について事務当局から説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 この部会の次回会議は,来週10月23日火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は法務省20階の第一会議室です。   次回は,本日の積み残し分のほか,新たに事前送付いたします部会資料49,これは既に電子データでお手元に届いていると思いますけれども,この部会資料49に基づいて御議論いただくことを予定しております。   また,分科会関係ですが,第一分科会の第6回会議が開催されましたので,その内容につきまして机上配布のペーパーのとおり御報告いたします。この第一分科会第6回会議で配布されました資料を,改めて本日の部会でも配布しております。右肩に中井メモと書いてある「契約の履行が途中で不可能となった場合の報酬請求権等について」と題する書面,それから,部会資料39の比較法資料の追補です。この追補は,法務省ウェブサイト上では,既に掲載されております部会資料39の末尾に添付する形で公表いたします。このほかに,本日の会議の冒頭でも申し上げましたように,本日,新たな資料として高須順一幹事から相殺の要件の明確化における第一分科会第6回会議における発言の補充」と題する書面を御提出いただいております。その内容につきましては,書面の冒頭に,発言の補充の趣旨という形で的確にまとめていただいておりますので,これをお読みいただければ,御趣旨を理解していただくことが可能であると思います。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   本日も長時間にわたり熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-