法制審議会民法(債権関係)部会           第60回会議 議事録 第1 日 時  平成24年10月23日(火) 自 午後1時00分                        至 午後5時59分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第60回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,能見善久委員,野村豊弘委員,安永貴夫委員,潮見佳男幹事,福田千恵子幹事,森英明幹事が御欠席です。   本日の会議の配布資料を確認させていただきます。事務当局からお願いします。 ○筒井幹事 事前送付資料として部会資料49をお届けしております。また,積み残し分を審議する関係で配布済みの部会資料48を使わせていただきます。これらの資料の内容は,後ほど関係官の新井,金,笹井から順次,御説明いたします。   このほか,中井康之委員から2通の書面を御提出いただいております。「不安の抗弁について」と「継続的契約の終了事由について」でございます。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料48及び49について御審議いただく予定です。具体的な進め方といたしましては,休憩前までに部会資料48の残りの部分及び部会資料49の「第1 契約の解釈」までについて御審議いただき,午後3時30分頃を目途に適宜,休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料49の残りの部分について御審議いただきたいと思います。   それでは,まず,部会資料48の「第4 事情変更の法理」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○新井関係官 それでは,説明いたします。「第4 事情変更の法理」では,「1 事情変更の法理の明文化及び基本的な要件・効果の在り方」の本分第1パラグラフにおいて,その存在が異論なく承認されている事情変更の法理の明文規定を設けることを提案しています。本文の第2パラグラフでは,事情変更の法理の基本的な要件につきまして,判例や伝統的な学説を踏襲したものとすることを提案しております。そして,本文第3パラグラフでは,その効果として当事者が裁判所に対して契約の解除又は契約の改訂を請求することができるものとすることを提案しております。補足説明の中では,事情変更の法理の明文化に伴う訴訟手続に関する規定の整備の要否を問題提起しておりますが,裁判所による契約の改訂はその性質上,非訟事件とする考え方というのもあり得ると思いますので,その可能性なども含めまして御意見を頂ければと思います。   「2 契約の改訂における裁判所の判断の具体的在り方」では,当事者が具体的な改訂案を示して契約の改訂を請求した場合であって,裁判所がその改訂案を相当と認めたときに限り,裁判所が当該改訂案による契約の改訂をすることができる旨の規定を設けることを提案しています。改訂内容につき,裁判所の裁量の余地を設けたほうが望ましいとの考え方を採る場合には,具体的な規定の在り方を含めて御意見を頂ければと思います。   「3 手続的要件としての再交渉の要否等」では,まず,(1)において,事情変更の法理による契約の解除又は契約の改訂を認容するための手続的要件として,当事者間で再交渉が尽くされたが,合意に至らなかった場合などを要するものとすることの要否につき,問題提起しています。(2)においては,その再交渉の間,当事者が自己の負担する債務の履行を拒むことができる旨の規定を設けることの要否を取り上げております。   「4 契約の解除の請求と契約の改訂の請求との相互関係等に関する規定の要否」では,(1)において,契約の解除の請求と契約の改訂の請求とが競合した場合に,裁判所の判断の優先劣後関係に関する規定の在り方を問題提起しております。甲案は契約の改訂の判断を優先するとの提案,乙案は契約の解除の判断を優先するとの提案,そして,丙案はいずれの要件も充足する限りで,裁判所が相当と認める請求を選択して認容することができるとする提案です。そして,(2)で,は契約の解除を認容する際に,裁判所は裁量により,当事者の一方に金銭の給付を命じることができる旨の規定を設けることの要否を問うものです。   この「第4 事情変更の法理」については,全体を通じて規定を設ける場合の具体的な在り方などを分科会で補充的に検討することが考えられますので,この論点を分科会で検討することの可否についても御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○大島委員 1の「事情変更の法理の明文化及び基本的な要件・効果の在り方」のところでございますが,事情変更の法理は現在,実務上,かなり限定された場面のみで適用される例外的なものであると認識をしております。このような例外的な法理を明文化することは,濫用を助長する懸念がございます。多くの中小企業は長引くデフレなどの影響から,取引先からのコストダウンや値引きの要求が厳しくなっているのが現状です。本来は事情変更の法理が認められないケースであっても,取引先から「このような条文がある」と迫られれば,先方の言いなりにならざるを得ない事態になることも十分に考えられます。そのため,事情変更の法理の明文化には反対をいたします。 ○鎌田部会長 ほかの御意見は。 ○三浦関係官 「事情変更の法理」につきましては,省内で検討いたしましたところ,所管業界の声を背景に,省内からは反対の意見が寄せられています。その趣旨は,一つは実務が混乱しないかということでございまして,今,大島委員がおっしゃったことと少し重なるかもしれませんけれども,この条文を悪用する人はいないだろうか,例えば契約を締結した後に商品価格が変動した場合に,契約どおりの履行を拒むといったクレームが出てこないだろうかといった心配がございます。   二つ目に,裁判所による契約の改訂を認めるということに仮になりますと,例えば戦争や災害といった場合に契約改訂を求める訴訟が多く提起されて,裁判所が受け止め切れるかどうか,裁判所のキャパシティとの関係でどういうことになるのだろうかという懸念もございます。すごくたくさん寄せられて,しかも,えいやと決めてしまえれば簡単なのでしょうけれども,一つ一つの契約の趣旨や経緯をしっかり吟味して,裁判所の方は判断されるのだと思いますので,そのときに多種多様な取引実態を踏まえて,適切な金額や条件を決定するというような作業がどっと来たときに,裁判所の方にとって,それは容易ではないのではないかというような指摘もございました。   その他,いろいろな裁判所がどこまで介入するかということについての懸念,部会資料の29ページのイに書いてあることが更にございまして,以上のような実務からの懸念がかなり示されたということでございます。後段の裁判所での対応の可否については,もちろん,この場には裁判所御出身の委員・幹事の皆様もおいででございますので,むしろ,そこについてはよりふさわしいお話が聞けるのかもしれません。   それからあと,4番も続けてよかったでしょうか。4番の「契約の解除の請求と契約の改訂の請求との相互関係等に関する規定の要否」につきまして,所管業界の一部から反対するとの意見が寄せられましたので御紹介したいと思います。裁判所がその裁量によって当事者の一方に金銭の給付を命じることを認めるということなんですけれども,給付額をどう決めるか,どういう根拠で決めるかということで,借地借家法みたいに先例がきちんとあって,計算しやすいところではよいのかもしれませんけれども,なかなか根拠が曖昧な分野も残るのではないか。そうだとすると,決定される金銭給付の内容は,必ずしも当事者にとって妥当なものになるとは限らないのではないかということで,提案に反対する意見が寄せられました。 ○筒井幹事 連合の安永委員から発言メモが提出されておりますので,読み上げて紹介いたします。   部会資料では,事情変更の法理について明文化し,その効果として「当事者が裁判所に対し,契約の解除や改訂を請求することができる」旨の規定を設けることが提起されておりますが,これについては,労働契約への影響を強く懸念しております。   まず,契約の解除についていえば,仮に労働契約を適用除外とせずに事情変更の法理が規定された場合には,経営状態が悪化したことを理由とする解雇に関し,使用者側が従来の整理解雇四要件を充足する旨の主張と並列的に,新たに「事情変更の法理により解雇は正当である」旨を主張することが考えられます。   この場合,事情変更の法理の要件は,整理解雇四要件とは異なる視点から定立された異なる判断基準であり,しかも具体的判断における裁判官の裁量は大きいことから,事情変更の法理の要件と整理解雇四要件とを具体的事案に当てはめた際には,結果としてこれまでに比べて有効とされる解雇の範囲が拡大されてしまう懸念があります。   また,4(2)では,解除を認める際の金銭調整についても提案されていますが,労働契約の解除に関しては,解雇の有効性要件を充足していない場合に,金銭補償をもって解雇を正当化して契約を終了させることは認められておらず,労働分野の立法政策としても否定されてきた歴史があることに留意すべきです。   次に,契約の改訂についていえば,現在の条文や法理によれば使用者による労働契約内容の変更は,労働者の同意が得られないときは,労働協約又は就業規則による労働条件変更が認められる場合,又は使用者が労働条件変更権を有しており,かつ,変更権の行使が適法である場合にのみ,その効力が認められます。   しかし,提案のような制度が導入されれば,これらの要件を充足しない場合であっても,使用者が裁判所に労働契約内容の変更の判決を下すように求め,判決による契約内容改訂が可能となります。これは使用者が労働契約の変更を求める新たな手段となり,また,労働契約内容の変更に当たっての本来の姿である集団的労使関係での団体交渉へ与える影響も懸念されるところです。   事情変更の法理は,主として継続性のある契約に妥当すると考えられ,労働契約はその典型と言えるものです。仮に部会資料が提案する事情変更の法理が労働契約に適用された場合,これが労働契約の新たな終了法理・内容変更法理を創設するものとなり,また,制定法化により明文化された条文が現場に出ていったときに使用者に与えるインパクトをも考えると,労働分野に大きな影響が及ぶものと考えます。   以上の懸念から,事情変更の法理について規定する場合は,その適用から除外するなど,労働契約には適用されないことを明確にしていただきたいと考えます。 ○佐成委員 1のところのみですけれども,まず,申し上げたいと思います。既に出ていますのは反対意見ばかりということですが,経済界も基本的には反対意見が強いということでございます。   そのことをまず御報告するとともに,1のところで要件を一応定立されておられるので,そこについても申し上げたいと思います。つまり,ここでは,当事者において予見することができないという予見可能性の問題と,それから,責めに帰すべき事由,この言葉自体は最終的にどうなるか分かりませんけれども,責めに帰すべき事由という現行法でも使われているような要件を基にして,規範を定立しようというお考えのようですけれども,ただ,現行法で使われている予見可能性とか,あるいは帰責事由と言われるようなものと,ここで言われている予見可能性あるいは帰責事由というのは,量的という言い方は適切かどうか分かりませんが,恐らく量的には相当違うと思いますし,質的にもかなり違う部分があるのではないかという感触を抱いております。   実際,ここにいうような事情変更が認められてきたのは激甚災害だとか,そういったような局面ではないかというのが一般的な認識かと思われるわけです。そういう意味では,仮にこの提案を認めるとしても相当注意した立法をしないと,先ほど濫用の懸念ということがかなり表明されていたと思いますし,実務家はそこを一番懸念するのですけれども,相当,通常の意味での帰責事由あるいは予見可能性とは違うのだということを明確にしていただかないと,濫用の危険性に照らして,立法化には反対したいという感じがいたします。 ○高須幹事 先ほど来,慎重論がたくさん出ているわけですが,ただ,事情変更の原則自体は,基本的には存在するのだというようなことで伝わってきておるんだと思います。これを最高裁判例が明確な形で認めたものはないというような指摘もあるわけですが,それは要するに要件が厳しいということの一つの証左なのかもしれないと。つまり,実際にこの法理があるということ自体は今,全く否定されているわけではないような状況下で,立法化だけ見送るということの意味がどれだけのものがあるのだろうかということに関して,やや疑問を感じます。   この改正の中で,今後,事情変更の原則は認めないという法律を作るというようなもし意見があるのであれば,それはそれで一つの検討すべき提案だと思いますが,そのときは,私はそれはそれで行き過ぎだと思いますから反対したいと思いますけれども,今,そのような提案がなされているわけではない。要するに,何もしないで従来のままに委ねるというのは,余り解決にはならないのではないか。中小企業の保護というような形の先ほど御指摘も頂いて,なるほど,そうだと私も思っておりますけれども,逆に中小企業のほうから事情変更の原則的なことを大企業に働きかけるということもあり得るのではないかという気もしまして,何らかの明確な要件があったほうがよろしいのではないかという気がします。   労働契約への配慮はもちろん大事なことですから,そこはしっかりとした解釈論を構築するわけですが,事情変更の原則自体はいわゆる一般法理であるのに対して,労働契約は労働契約に関しての特殊な特化した規範になるわけですから,そのことの考え方をしっかり定着させればよろしいのではないか。濫用のおそれに関しては,そこが一番大きな問題だと思いますから,安易に濫用されるような制度にしないという知恵が求められているのではないかと思います。その限りで,今,佐成委員から御指摘があった帰責事由とか予見可能性というのが,いわゆる債務不履行論のところの予見可能性や帰責事由とは質的に違いがあるというのは,私もそのとおりだと思いますが,その点に関しては従来の民法の解釈とか判例の評釈などの中にも指摘されているところでございますので,そのこと自体がまだ我々が知らないということではなくて,ある程度,理解を進めていくことができるのではないかと思います。   るる申し述べて申し訳ありませんでしたが,そのようなことを考えたときに今回の改正の中で,ここを何も触れないというのは余り現実的ではなくて,いろいろな問題を乗り越えた上で,一定の法理を構築するということには,それなりの意味があるのだろうと思いますので,事情変更の原則について一つ立法化を検討するということは,大切なことではないかと,このように思います。細かな論点はまた後ほどということにして,取りあえず,制定すべきかどうかということについてはそのように思います。 ○佐成委員 今の高須幹事の御意見の結論とか,その辺の話ではなくて,最高裁判例の話が出ましたので,一言,私もそこについてはコメントしたいと思いました。つまり,部会資料30ページの上のほうに,平成9年7月1日の最高裁判例が正に典型的であると書かれていて,高須幹事はこれを非常に限定的であると考えられておられるようですけれども,果たしてそのような評価で本当によいのかということです。実際,この判例をよく見ますと,どうも関西方面のゴルフ場の「乗っ取り」に絡む事例ということでございまして,「典型的」という評価はいかがなものかと思います。また,確かに原審である高裁では事情変更の法理の適用が認められていたということでありまして,表面的には,非常に要件がぴったり一致しているような「典型的事例」とも見えるわけです。つまり,のり面崩壊などというものはおよそ予見できないではないかということと,しかもゴルフ場改修のために莫大なお金を掛けているのに,お金の負担なしで当初会員が優遇されるのはおかしいではないかということだけを捉えれば,確かに事情変更の法理を適用してもよさそうな事例に見えるわけです。しかし,よく見ると,事案の本質は,いわゆる「乗っ取った側」が当初会員を追い出してしまおうというようなところが色濃くうかがわれておりまして,実際,なぜ,私がこんなことを申し上げるかというと,これは最高裁が結局破棄自判している事案だからなのです。   差戻しではなくて,最高裁の目で見れば結論は明らかだという事例,即ち,原審までに出された証拠だけで明らかに自判できるという事例で,事情変更の法理が否定されているという破棄自判事例なものですから,厳し過ぎるというような評価では必ずしもないのではないかということを今,感じたところでございます。そういうこともありまして,高裁ですら安易というわけではないでしょうけれども,明白に濫用的なものを許容しているというところが,実務家としては濫用の懸念を強く感ずるところなので,仮に立法化するとしても,かなり慎重にしていただきたいというのがここで申し上げたいところでございます。 ○岡委員 弁護士会の意見でございますが,高須さんがあのような意見を言ったことに象徴されますように,バックアップ会議での議論が大分変わってまいりました。今回,議論したところ,賛成のほうが多数でございました。ただ,私の第一東京弁護士会及び福岡県弁護士会は濫用のおそれ,あるいは誤ったメッセージになるとの懸念,余りにも事例の少ないことを明文化する必要はないなど,部会資料にも書かれていることを理由に明文化に反対でございます。   私はその意見をここで少し紹介させていただきたいと思います。賛成のところもいろいろその先が分かれておりまして,多分,中井先生が大阪の意見を次に言うと思いますので,それは中井先生にお任せをして,一弁では解除あるいは契約改訂という守る側の武器だけ書かれている。実務家から見ると攻めるほうで考えたらどうなるんだ,そういう攻める場合のイメージが湧かないというのが反対論の一つの理由になっております。例えば1,000万円の土地売買契約でハイパーインフレがあって,額面からいくと1億でないと売主のほうは応じたくないと,そういう場合に攻めるほうは1,000万円と引換えに土地を渡せと,多分,そういう請求をするのだろうと思います。   それに対して事情変更の法理を主張する人は,そのときに,部会資料にも通常の攻撃防御手段として使うからいいんだと書かれておりますので,1,000万では全然駄目なので解除して一切応じないと,あるいは契約改訂を主張して3,000万なら応じると,そういう訴訟になるのかなと思います。ただ,それは1,000万円と引換えに土地をよこせという,そういう履行請求権の限界の問題ではないのですかと,そういう議論がなされました。それは解除と契約改訂という守る側の武器で対処すればいいんだ,あとは訴訟上の問題がどうなるかというので対応できそうな気もいたしますが,攻める側としては1,000万円を提供しても土地を渡さないんだったら契約解除だと,今は1億で売れる逸失利益を失ったので1億の損害賠償請求をすると,多分,損害賠償請求するのだろうと思うんですね。その損害賠償請求に対して解除とか契約改訂がどう効くのかなというのが分かりません。そういう場合,裁判所が損害賠償請求の金額を調整して落とすのではないかと思います。   しかし,部会資料の事情変更の法理は想定外の事由なので,予見可能性の外にあるから損害賠償請求は棄却されるのではないかと,それが原則と思われると書いている箇所があります。そうなると,事情変更の法理が適用されるときは,攻める側が解除して損害賠償請求したらいつもゼロなのかと。それは変ではないでしょうか。だから,攻める側が損害賠償請求したときに事情変更の法理はどんなふうに展開されるのか。そんなふうな疑問が出ました。そこについて,更にそれはこうなるんだよという解説をしていただければ,また,一弁も変わってくるかもしれません。結構,認める方向に流れがきましたので,かなり実務家として実務的に考えるようになりましたので,攻める側から見た損害賠償請求がどんなふうに対処されるのか,そこも詰めていただきたいと思いました。 ○鎌田部会長 今の点については。 ○新井関係官 すぐにはクリアなお答えはできないので,岡先生に今日出していただいた事例についても頭の中を整理して考えてみたいと思います。また,分科会で議論していただけるようであれば,できる限りそのときにフィードバックを試みたいと思います。具体的な攻撃防御の場面でどのように事情変更の法理が機能するかについても念頭に置いておく必要はあると思います,加えて言うと,この事情変更の法理自体は,部会資料の補足説明の中では,どちらかというとディフェンス側が援用する場面で語られることが多かったように思いますけれども,オフェンス側として使うということも一応,私としては想定しています。それをどう今後,組み立てていくかということをまた考えさせていただきたいと思います。 ○深山幹事 弁護士会の議論の状況については,岡先生から紹介がありましたけれども,法理として事情変更の法理自体を否定するという考え方が少ないという意味では,必ずしも消極ではないのでしょうが,明文化するかどうか,あるいはどういう要件にするか,更には効果をどうするかと考えたときに,私の印象では必ずしも弁護会はいまだにそう前向きではないのではないかと思っています。私個人も,明文化するかしないかも慎重に考えるべきであり,仮に明文化するとしても,それはかなり限定した局面を想定して,厳しい要件の下で認めるに止めるべきではないかと考えております。   先ほど明文化自体の議論として,何もないよりはいいのではないかという指摘があり,それもごもっともだと思うし,他方で,いろいろな濫用の懸念があるという実務界のお話ももっともだと思います。それを調整する方策を考えるとすると,濫用がなされないような明確で厳しい要件を課すというのは一つの答えなのだろうと思います。今,部会資料で提案されている要件について,さほど違和感はないのですが,「事情の変更が生じ」というところを更に「著しい事情の変更が生じ」ぐらいにすると,なお,例外則であるということがはっきりするのかなという気がいたします。そのような厳しい要件の下で認めるということでよろしいのかなと要件論については考えております。   それに関連して,岡先生から損害賠償との関係について問題提起をされましたけれども,私の理解では,ここで提案されている要件の中に,事情の変更について当事者が予見することができないという点や,責めに帰することができない事由により生じたということが盛り込まれていると考えられ,その点を踏まえると,基本的には損害賠償請求権が成立しない状況を想定しているんだろうと思います。そういう意味では,損害賠償請求権で調整するとか,対抗するというようなことができないような場面に限って,この法理の適用が問題になるということなのではないかと考えます。   もう1点申し上げたいのは,効果の点なのですけれども,ここでは解除又は契約更改という二つの効果が提案されていますが,契約改訂を請求するという効果については強く反対したいと思います。実務的には種々の交渉がなされ,あるいは和解的解決が模索され,その中で,契約の改訂ということが議論に上るのでしょうけれども,そうだからといって,そのことを効果に結び付けるというのは合理的ではないし,全く違った意味を持っています。解除が認められることを言わば背景として,解除で白紙にするよりはという観点から当事者が譲り合うということは当然期待されるわけですけれども,一方的に改訂を強制される,あるいはそういうことを裁判所に対して判決として求めるということについては,その必要性も認められないし,制度としても合理的ではないと思います。   更に言えば,訴訟手続としても,それが形成的な判決を意味するのだとしたら,訴訟手続上の整備も必要になるというようなことを考えますと,効果の点については解除一本ということで整理し,解除を認めるべき場合にのみ適用される法理という位置付けにすべきではないかと思います。 ○村上委員 事情変更の法理の適用が認められるべきケースは,先ほどから皆さんが御指摘になっているとおり,極めて例外的な場合に限られるはずだと思いますけれども,そのことが,条文上,うまく表現できるのかどうか,非常に心配です。今回の御提案のような要件ですと,これを一般の方がお読みになったときに,そのことがきちんと理解されるでしょうか。   例えば,失業した,あるいは重い病気にかかったという場合に,それで事情変更の法理が適用されると考える人は,恐らく法律家の中にはいないと思うのですけれども,一般の方がこれを御覧になると,契約の締結後,失業したのだから,契約の基礎となった事情に変更が生じた,そのことは契約締結時に予見できなかったし,失業したのは責めに帰することのできない事由によるものだ,そして,失業して収入がないのに当初の契約内容に拘束されるというのは信義則に反して著しく不当だとお考えになるということは十分あり得ると思います。それで,この法理が使えると思って主張してみたところ,それは認められませんよと言われるということになりますと,一般の方に分かりやすい民法とはいえない,むしろ,一般の方に大きな誤解を与える民法ということにすらなりかねないだろうと思うのです。   次に,効果につきましても,特に契約内容の改訂については,どのような改訂が認められることになるのか,極端なことを言いますと,裁判所が相当と認めさえすれば,どこをどのように変えてもいいということになりかねませんけれども,それでいいのでしょうか。何らかの縛りを掛けなくていいのか,しかし,縛りを掛けるとして,その縛りの掛け方をうまく表現できるのかということについても,かなり心配があります。補足説明の30ページを拝見しますと,裁判所は具体的な和解条項案を示すことも少なくない,そういう和解実務が高く評価されていると記載していただいている部分がございますけれども,和解は飽くまで最終的には当事者双方の合意によって成立するものでありまして,判決によって強制的に契約内容の変更をするというのとは,根本的に異なります。また,民訴法265条の定める裁判所等が定める和解条項の制度にも言及していただいていますけれども,これも,現実にはほとんど用いられていない制度であるということのほか,この制度は,当事者間の合意が現実には成立していないけれども,合意にかなり近い状態になっているという場合に,これを用いるということが想定されている制度ですので,この制度の存在を考慮に入れてこの問題を議論するというのは,いかがなものかと思います。 ○金子幹事 若干,お話を伺っていて感想めいたことを申し上げます。この法理を実際に法文化するという話になったときは,立案を担当する側の者として懸念を覚えます。といいますのは,この法理を発動して事情変更がないから認められない方向に作用するという場合はいいんですけれども,事情変更があるからとして何らかの法的効果を認める場合のイメージに皆さんの間で大分開きがあるような気がします。それは基礎事情の変更といったときに,基礎事情に物価の変動が入るのかとか,自然災害は入るのかとかいう議論がされないままになっているところに原因があるような気がします。   ですから,そういうところにコンセンサスが得られれば,それに合うような法文を書くことによって,これでどうだというお示しをすることも可能になると思うのですが,今は学説あるいは最高裁の判例の要件が先行しているので,それに当てはまるのかどうかという発想になっているかもしれませんが,例えば物価変動や自然災害が基礎事情に当たるとしても,予見可能性の点でそれが何十倍までは予見可能なのか,100年に一回の自然災害は予見可能なのかどうかという辺りは,ここの適用の場面ではどっちの考え方もあるような気がするんですね。   佐成委員がおっしゃった通常の予見可能性と違うというのは,恐らくその趣旨のことで,例えば東日本大震災で二重ローン問題がありますけれども,あれを裁判所に持ち込んだら事情変更の適用が認められるのでしょうか。その辺りの認識が一致しないまま,議論をされているような感があって,契約内容どおりの履行の強制を求める場合は,それが権利濫用になるとか,あるいは信義則違反になるということで解決できる部分もあると思われ,それと別途に事情変更の法理として明文化することのすみ分けも考えなければいけないものですから,もう少し,どういう場面に適用されるのかということを議論していただいたほうが,生産的ではないかなという気がします。   それもこれも全部,裁判所の裁量に任せればいいんだというのもまた一つの考え方かもしれませんが,それでは基本的にどういう場面に適用されるのかを想定しないまま立案するのかという批判になかなか堪え難いところがあります。今後,これを導入するという方向の議論を続けるのであれば,その辺りの議論を深めていただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。今,金子幹事のおっしゃったことも……。 ○岡田委員 私たち相談員としては,事情変更の原則という言葉は知っているのですけれども,一体全体,そんなものが使える場面があるのかなということでずっと来たのですが,今回の大震災では住宅ローンは別として,それ以外のもっと小さな金額の契約なんかでも,こういう原則が使えれば消費者は救済されるのではないかというようなのが結構あったように思います。ですが,今回の提案を見て,果たして今,金子幹事がおっしゃったように,どこまで認められるのかというのが見えないのです。解釈ができません私には。そんなことで,信義則という言葉だけよりは何らかの形で,この事情変更の原則というものが判例等である部分,場面によるのでしょうけれども,認められているのであれば濫用がされないような形で,なおかつ,分かりやすい形で書いていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 いろいろと御指摘いただきました。もうちょっと具体的なイメージを共有したほうがいいというのは,誠にごもっともな御意見でありますが,そういったものも含めて事務当局としては分科会で補充的な検討をということでありますけれども,残された時間も非常に少ないので,分科会での検討をする上でも,こういう点については十分に配慮せよという御意見があれば,この場でお出しいただきたいと思います。 ○三上委員 私も,事情変更の法理があること自体は否定するものでもありませんし,ここに書いてある条件がある意味,一般的すぎるということも,皆さんの意見と同じですが,一つは事情変更というときに,よく金融機関であれば相場が大きく変わったとか,例えばブラックマンデーがどうのとか,リーマンショックがどうのと,統計学的には何十万年に1回しか起こり得ないはずのことが実際には10年に1回ずつ起こっているわけですけれども,それも事情変更という人がいるので,非常に定義は難しいと思います。   結局,この法理の行き着くところは,そういうことも全部含めて当事者を契約に拘束することが正しいのかどうかという判断であるような気がするんですが,その際に,是非,我々として忘れてほしくない部分は,先ほど東日本大震災の話も出てきましたけれども,事情が変わったというときに,変わった事情によって契約の一方当事者は大きな不利益を得るのに,片方の当事者は大きな利益を得るというような,最初にあった土地の値段の変更のように売るほうは大損を蒙るのに,買うほうは瞬時に莫大な利益を得る,そういう場合に適用されるものであって,例えば大震災でローンが返せなくなったから,それを免除しましょうというのは,お金を貸す側の全面的な損失でもって契約をなくすという,徳政令のような話で,これは事情変更の法理を適用する場面ではないと思うんですね。   ですので,事情変更の法理は,両当事者にとって拘束を解くことが正義にかなう場面に限定するようなものでないと,このような規定が設けられて,更にそれを適用する手続規定みたいなものも入ってくると,誰もが使える規定のようになって,事情が変わっていないにもかかわらず,これを主張して,その後,事実上の和解交渉が続くというような裁判実務になってしまうのではないかという懸念を持っております。よって,4番目の「当事者を拘束する」というところもそういう観点が必要であろうと考えております。   その後の手続規定の部分は,恐らく信託法の150条などを参考に提案されたんだと思うんですが,信託法のように信託関係とか,信託をした事情がある程度明らかで,限定されていれば,まだ,こういう対応はできるかもしれないんですが,それでも,その立法当時に,裁判所が後見的な役割の限界を指摘して,提案型の変更案を示すという法案に落ち着いたはずですので,それをあらゆる契約に一般化するというのは,私が言うのもおかしいですが,裁判実務に重い負担を掛ける規定になってしまうのではないかと思います。さらに,こういう規定があると,こういうものは頻繁に使えるんだという誤解を生むような気もいたしまして,規定を設けるとすれば,言ったような趣旨で限定的なものにするか,効果も,契約から当事者を解放するという意味で,解除一本に絞るという形でいいのではないかと考えております。 ○高須幹事 度々ですみません。私も先ほど一般論としては立法化すべきではないかという発現をさせていただきましたが,効果あるいは要件についてしっかり絞るということは,当然の前提だと考えておりますし,岡先生からも御指摘があったように弁護士会の中で少し,そういう立法化に理解を示す意見が増えてきたということも,そこはしっかり限定するということが当然の前提になっているのだと思います。今の三上委員からも御指摘があったように,一方当事者に不利になるような形にするみたいなことを考えるのは本来ではないし,そういうことで認めてしまうのでは,信義則上,それが認められるようなケースでは決してないと思いますから,そういうところはしっかり要件も考えるべきだと思います。   効果の点に関して1点ですが,解除を認めざるを得ないようなケースにある程度,限定するということは合理的な考えなのかなと,ここは少し考えがまとまっていない部分もあるのですが,そのような気もしております。契約改訂の合理性というものを全く否定するわけではないのですが,日本の場合には,比較的,訴訟上の和解という形で争いが解決するというケースが多いというか,期待できると。したがって,契約改訂によって解除を避けて解決するという場合について,訴訟における和解の中でそれを実現するということにある程度,期待するということがあってもいいのかなというような気がしておりまして,契約改訂の効果を何らかの形でもたらす必要性は感じておりますが,そのこと自体を判決という形でできるとまで書き切ってしまうかどうかについては,やや慎重であってもいいのかなと,今日の中でも御意見が幾つか出ておりますが,そこはそのように考えております。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○松本委員 一つは政策的な判断として,事情変更の原則を民法に置くかどうかについて賛否両論があって,どちらかというと,消極的な意見のほうが多かったかなという印象を受けます。私はここで立法しない,明文化しないということを決めたとしても,事情変更の原則自体は否定できないものだと思います。もし,コンセンサスが取れるような文言が考えられるのであれば明文化もあり得るのでしょうけれども,今の段階ではどうも難しそうな印象を受けておりますので,そうであれば,もう少し裁判所の具体的な事件との関係で判例の展開を待つとか,学説の成熟を待つということで,今回は見送りということでも別に影響は全くないと考えます。見送ったということは,事情変更の原則を日本では一切認めないんだということを決めたわけではないはずです。   それが政策的な部分ですが,テクニカルな部分としての事情変更の法理の要件の部分,26ページの一番上のところで,「かつ,当事者の責めに帰することのできない事由により生じたものであって」という表現がどういう訳か何の留保もなしに出てきているんです。従来の議論だと,責めに帰することのできる事由,できない事由という表現は不適切だから削除するという意見が事務当局としてはかなり強かったという印象なんですが,ここではそういう留保なしに,従来型の文言で出てきているというのは,事情変更の原則と債務不履行あるいは危険負担等は全く違うのだから,ここでは責めに帰すべき事由という文言のほうがいいんだという評価なのでしょうか,それとも単なるミスなんでしょうか,どっちなのでしょうか。意図的なのか,そうでないのかということです。 ○新井関係官 本文で示しているのは,飽くまで,これまで伝統的に言われていた要件立てを,まずは検討の出発点に据えるという趣旨で,要件として提示しているということです。もちろん,ほかの論点で「責めに帰すべき事由」という文言を見直すということであれば,それとの平仄を踏まえて,ここでも「責めに帰することのできない事由」という用語を用いるのが相当かどうかということは,また,別途,問題になることであろうと思います。部会資料の本文で示した要件立てで本当に十分かどうかということは一つ課題であると思っており,今日の部会の御意見を伺っていても,更にその外縁を明確にする必要性が指摘されておりますので,そこは更に御意見を頂く,あるいは私どもも考えていきたいと思っております。 ○中井委員 弁護士会の岡委員,二人の幹事から意見がありましたけれども,弁護士会の意見全体をもう少し申し上げておきます。おおむね2年前になりますが,第19回部会での議論は,バックアップ会議と呼ばれる各単位会から来ていただいている方々の意見をお聞きして,その集約結果をここで発言させていただきました。そのときは,事情変更の法理については極めて慎重論が強くて,その法理自体を記載することに対する反対論が多かったというのが事実です。今日,経済界若しくは三浦関係官がおっしゃるような背景事情と同様の認識の下に,そういう意見が多く出たということでした。   ところがその後,2年間,この問題に限らず,どのような形で民法を改正していくのかということについて,バックアップ会議の皆さんの中では相当程度,認識が変わってきています。かつて,この議論をしたときに,少なくとも事情変更の法理というものについて,法律家としては一般的に承認されている核となる部分があるのであれば,そして,それが否定されないのであれば,それを明文化すべきではないのかという当初の問題提起に対して,2年たった今,多くの弁護士会のバックアップ会議に出席している委員の中では理解が得られてきている。それが最初に岡委員が皆さんに申し上げたことです。ただ,これが必ずしも弁護士会全般の意見なのかというと,私自身もまだ自信がございません。   そういう観点から,ここの要件論一般については,理解を示す,更に詳細化するか,限定を加えるかはともかくとして同意する。それで,それを何らかの形で法文化することに前向きな意見が多数を占めました。しかし,効果論になったときに意見が現段階では全く分かれています。一つは先ほど深山幹事からお話がありましたけれども,解除に限るべきだ,契約改訂は認めるべきではない,これは相当数,出ております。また,裁判上の行使という構成に対しては,裁判外での行使も認めるべきであるという,それなりの意見が出ております。また,裁判上の行使としたとき,一体,その訴訟手続はどうなるのだと,恐らく新井関係官からも御示唆がありましたけれども,非訟手続等で行うのかもしれませんが,その具体的な手順というのが全く見えません。それに対する大きな危惧の表明がありました。   そういう意味で,この後,2以降で議論されるのかもしれませんけれども,解除と改訂の関係についても,このような規律が果たしてできるのか,解除したときに金銭的給付で補填するなどということが果たしてできるのか。これについて先ほどからも反対論がありましたけれども,弁護士会の中でも強い疑問が呈されています。すなわち,要件論については一般論として承認できるけれども,効果論,その具体化の議論を進めると,現段階では理解を示しているバックアップ委員の中でも,ばらばらというのが現状と言って差し支えないと思います。そうしたときに,今回の改正をどういう姿勢で進めていくのか。間もなく第2ラウンドの主要な議論が終わって中間試案の作成を進めるに当たって,この論点を更に詰めていくことが果たして妥当なのか。それは,今,松本委員がおっしゃられたように,場合によっては見送るという決断があるのかもしれません。   そういう気持ちもありますが,大阪弁護士会は,そこで,どう考えたかということを御紹介したいと思います。大阪弁護士会の意見は,契約は守られるべきであるということをまず表明すべきではないか。それは契約締結後に事情が変わっても,原則,契約は守られるべきだと。しかしながら,ここに掲げているように,契約締結時に予想できなかった事情で,責めに帰すべき事由がいいかどうかはともかくとして,そのような大きな事情の変更があった後,なお,従前の契約で両当事者を拘束することが信義に反する場面というのはあるでしょうから,それら信義に反する場合は,その契約の拘束から免れることがあることを表明するにとどめる,効果は一切書かない,こういう提案です。   これは現在の裁判所も含めて法律家の中で,そういう原理原則のあることを承認するなら,その原理原則を何らかの形で成文化する。しかし,効果については様々な議論があり,また,実例も少なく,裁判例での応答も少ない。そう簡単に条文がなくてできる話ではないのかもしれませんけれども,もう少し,実務なり,判例の動向を待って次のステージで,民法改正もそれほど長くない先にまたあるのだろうと思いますので,次のステージでその効果論については検討していく,こういう考え方はどうかというのが大阪案です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○山本(和)幹事 今,中井委員からも若干,御指摘があり,また,32ページのところで訴訟手続に関する規定の整備の要否につき,どのように考えるかというお問い掛けもありますので,若干,考えたことをごく簡単にお話ししたいと思いますが,いろいろな考え方があって,前提としては裁判上の行使が必ず必要であるともしするとすれば,幾つかの選択肢があるのだろうと思います。非訟事件と,今,中井先生が言われた構成,先ほど信託の話も出てきましたけれども,借地とかの非訟事件にするという構成はもちろん考え得るのだろうとは思いますけれども,恐らくその後の提案の2とかのように裁判所が自由にその内容を構成,契約内容を改訂するのではなくて,当事者の主張に基づいて改訂をするというような仕組みであるとすれば,訴訟手続で構成するのかなという感じを持っております。   訴訟でやる場合も,この権利を形成権として,形成権だけれども,訴訟上でしか行使できないという,多分,否認権はそういうものなのだろうと思いますが,そういうような構成の仕方があると思いますし,ここで示唆されているように形成訴訟として考える,詐害行為取消権はそうではないかと思うんですが,そういう構成の仕方もあり得るのだろうと思います。一長一短あるのかなと思っていまして,ここに書かれているように形成判決にすれば,その契約内容について既判力で確定できるという点が一つのメリットとしてあるのだろうと思います。ただ,他方で形成訴訟としたときに,それを抗弁権的に行使できるのかどうかというのは一つの問題で,つまり,形成判決というのは確定しなければ効力が生じないので,相手方の履行請求に対して契約改訂を主張したとしても,その判決が確定しないうちに第一審判決で相手方の請求を棄却できるのかという問題があります。   ただ,これについては詐害行為取消権との関係で,判例はその効果を一部,一定の要件の下に前倒しすることを認めている判例があるので,ただ,その判例に対しては批判も強いのですが,そういうようなものを持ってくれば,あるいは何とか解決できるのかもしれないと思っていますが,ここはそれぞれ一長一短,かなり慎重に見極める必要があるのかなと,分科会で御検討されるということであるとすれば,その辺りを御検討いただきたいと思います。   それであと,訴訟手続上,ほかに考えられることはということだとすれば,一つは第三者に対する効力,契約が改訂等がされた場合に,それが例えば保証人とか連帯債務者についても効力を生じるのか,あるいは賃貸借契約のような場合に転借人等にも効力を生じるのかという第三者との関係,形成判決にすれば第三者効を認めるという方向にいきそうですけれども,その辺りも考える必要があるのかもしれないということ,それから,後のほうで出てくる解除と契約改訂という二つの仮に効果が認められるとすれば,それを統一的に解決する必要があるのかどうかということです。   一方当事者は解除を主張し,他方当事者は契約改訂を主張すると。同じ訴訟でそれが本訴,反訴のような形でやる場合はいいわけですが,別訴でできるのかとか,一旦,一方の判決が確定した後に別の主張ができるのか,契約改訂が確定した後に解除の主張が再度できるのかとか,そういう統一的な紛争解決の必要があるのか,それをどの程度,強く訴訟上の効果まで認めていくのかといったような問題もありそうな感じがしますので,その辺りも御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○佐成委員 2と3について分科会で議論されるということなので,簡単に,コメントさせていただきます。   2のところにつきましては,契約改訂については経済界は基本的には反対であるということです。要は契約の一部を修正するだけで,当事者間の利害状況を完全に均衡させるとか,公平に持って行けるとか,というような場合ももちろんあるとは思うのです。けれども,それぞれの場面でいろいろ契約していますと,お互いにいろいろな条件を全て総合的に判断して,契約を結んだということが大前提でありますものですから,それを後になってパーツを一つだけ外して均衡できるかというと,必ずしもそうとは言えないという部分は残ります。つまり,当初の契約締結時の状況というのは実務上は非常に重たいというところを十分,斟酌した上で御検討いただきたいというのが,2についてでございます。   それから,3につきましては,手続的要件としての再交渉というものが要件として掲げられておりますけれども,訴訟手続の中で事情変更の法理による請求をした場合にも,再交渉というのは恐らく裁判外でやられるのだと思うのです。そうとしますと,その間の裁判手続を中断させるとか,どうするのか,私には手続的によく分かりませんけれども,その辺りについても当然,御検討いただきたいということでございます。 ○高須幹事 資料の32ページの今,山本先生から御指摘があったところとの関連なわけですが,資料の32ページの(2)のところに,契約の解除や契約の改訂の内容につき,既判力等の拘束力を付与しなければならない不十分な場合があるとすればという前提で,その場合には,いろいろ難しい問題が訴訟法上,執行法上,起きますよという御指摘があって,なるほど,かなりいろいろ難しいなという認識を私も持っておりますので,分科会でもう一回,詰めたらいいと思いますが,その前提として,相殺の抗弁のような場合には確かに別途,手当をする必要がある,つまり,別債権というのが存在しているわけで,その扱いをどうするかという問題を処理しなければならないと。   ただ,事情変更の原則のときの場合のケースのときに,そのような相殺の抗弁のようなことに対比されるような別債権のようなものが必ずしもあるわけではなくて,当初の契約内容が解除されるか,解除によれば効力がなくなる,あるいは改訂をすると契約内容が変わるということになるわけですが,そのこと自体について,別途,既判力との拘束力を付与しなければならない場合というのが余り想定できなかったものですから,どちらかというと,そのような必要は余りないという方向での考え方もあっていいのかなと思いました。私としては,そのように思っているんですが,もし,こういう場合のことを懸念しておりますということがあれば,分科会に合わせて勉強していきたいと思いますので,具体的に御指摘いただければと思うのですが。 ○鎌田部会長 分かりました。ほかによろしいでしょうか。   たくさん御指摘いただいていますが,効果については契約の改訂に消極的な御意見も頂きましたが,ほかに何か,特に効果に関して御意見はありますか。今まで頂戴したような御意見を踏まえて……。 ○中井委員 ほかに,2,3,4について御意見がどうもないという印象を受けました。実務に携わる者若しくは経済界の皆さん,消費者の皆さんからの御発言はあったのですけれども,研究者からの御発言は,松本委員お一人だったように思います。これを分科会に付して検討するということですけれども,分科会でそれぞれの論点について,更に詰めて,解除だけだったらどうだ,変更権を認めるとしたら,どのような変更権の認め方をするのか,それを裁判上の行使だとすれば,今,山本和彦幹事からおっしゃられた様々な論点について整理をして,問題点を検討していく,又は金銭的給付を認めるとすれば,どのような形でその基準化を図るのかを検討する。それは一分科会で,1回でできることなのかと私は正直に思います。   分科会を設立した当初の御説明では,分科会では分科会に付託された論点について詳細な検討を加えた上,改めて部会に戻して部会で最終的な判断を行うというのがルールであったかと思います。今後の中間試案のスケジュールは,変わらないのだろうと理解をしておりまして,変わらないことについて異議があるわけではありませんが,これまでの分科会で議論されたことが残念ながら,これまで部会に戻されて議論をされているわけではないと思います。残された短い時間の中で,それがなされるものなのだろうと私は思っておりますけれども,この問題を今日のこの議論の状況を前提に果たして分科会で議論をして,そこで様々な検討を加えた上で部会に戻すという手順を踏むのが適当なのか,もう少し素直な意見交換があっていいのではないか。   このような効果に関する議論が全く分かれている状況で,かつ,整理されていない状況であれば分科会には付さない。そういう意味では,事情変更の法理の明文化は見送るということをここで判断すれば,これ以上,分科会に御負担を掛けることもないと思うのですが,そのような考え方についてはいかがなのでしょうか。 ○鎌田部会長 今の御提案についての御意見はございますか。 ○松岡委員 確かにおっしゃることは非常によく分かりまして,変数が多すぎ,これらを一体,どういう組み合わせでどう整理をして議論を進めたらいいのか,第2分科会に検討が委託されると決まっているわけではないのでしょうが,どこの分科会で検討することになっても,4,5時間ぐらい掛けて検討しても話が詰まるか,御指摘のように,見通しは非常に悪いと感じます。今の中井委員の提案に直ちに賛成するわけではありませんが,もう少し,ほかの委員・幹事の方からも意見をお出しいただかないと,議論を詰めようがないという気がいたします。 ○鎌田部会長 少なくとも事情変更の法理の存在それ自体を否定する意見はなくて,法理の存在と,これが適切に,主として要件の面だと思うんですけれども,絞りを掛けて誤解のないような定式化ができるなら,規定が置かれることには肯定的な御意見がかなり多かったと思います。この点での規定の在り方の検討は分科会で詰めていただいて,それが頑張ってみてもできないということであれば,それを前提にして次のステップを考えるということになると思います。その部分と,効果については御指摘のように意見が余り出てきていないので,まだ,議論が熟していない感があるのと,多様な可能性が併存的に残されたままです。それで,分科会でどこまで詰めることができるかという課題があると思うんですが,効果の面とその前の部分とはやや性質の違うところがあるので,全部,ひっくるめて,この際,やめてしまうというのはちょっと性急な感じもしますので,可能な範囲内での御議論をしていただければと思っています。 ○松岡委員 それでは,関係するところで効果について1点だけ,意見を述べさせていただきたいと思います。33ページの2の「契約の改訂における裁判所の判断の具体的在り方」については,改訂権の新設そのものに反対の意見が多いので,この問題をそれほど時間を掛けて取り上げる必要があるのかどうか疑問もあります。   その内容について,御説明にもありますように,非訟的に全部お任せをするというタイプもあり得ます。それに対して,ここで提案されているようにかなり限定的で,当事者が主張した改訂案を裁判所が相当と認めるときに限り肯定するとなっており,最初読んだときの印象では限定が非常にきつすぎると思いました。当事者の一方の提案の一部が合理的であり,それを採ることも可能である場合も,この御提案ですとオール・オア・ナッシングみたいな感じになって,結局全部が合理的でないと認められないからです。   しかし,先ほどから,そもそも改訂に対して非常に消極的な御意見がありますので,効果の点を考えると,もし改訂権を認めるのであれば,余り非訟的に広げるのではなくて,ここに書かれている御提案のように相当限定した形でしか改訂を主張できないことにしないと,恐らく賛成は得られないだろうという感触を持ちました。 ○松本委員 効果に関しては大分前に岡委員が御指摘されたことがございましたが,債務不履行になるのか,あるいは履行請求という債権者側からの攻撃に対して,債務者として何が言えるのか。ここで出てきているのは解除できるとか,契約改訂を求めることができるという,言わばカウンターアタックなわけです。そうではなくて,単なるディフェンスとしての履行請求を拒否をしても債務不履行にならないとか,損害賠償請求はできないという効果は,事情変更を認める以上は必然的に付いてくるものであって,解除や契約改訂というのはそのプラスアルファだと思うんです。   そうすると,事情変更の効果としてのディフェンス的な部分はここに書かなくても履行請求権の限界のところで書かれるという話なのか,あるいはここには書いていないけれども,当然なんだという話なのか。債務不履行,損害賠償の要件を満たさないということがここ以外の点から明白なのであれば,それはそれでよろしいわけですが,そうではないのであれば,少なくともディフェンス的な効果はどこかで明記しておく必要があるのではないか。ただ,前提として,どういう要件を満たせばというところがあって,そこのコンセンサスができればという話です。ひょっとしたらできないかもしれません。   そうなると,民法に書かれる文言は中井委員がおっしゃったような,いかなる場合でも一旦契約をすれば,ずっと拘束されるわけではない。拘束されない場合もあるが,どういう場合かは明記しないというやり方になる可能性があります。そういうルールが多分,存在しているというのは,みんな,認めていると思うんですが,では,どういう場合かということについてコンセンサスができないのであれば,そういう拘束されない場合もある,例外もあるということだけを民法に書くことに,意味があるのかないのかという判断に尽きるのではないかと思います。それでも書いたほうがいいんだという意見が強いなら書けばいいのでしょう。書かなくても,そんなことは当然だということであれば,書かなくてもいいということだろうと思います。 ○山本(敬)幹事 どこで申し上げるべきかということを悩んでいるまま,終わりそうですので,もういいかとも思っていたのですけれども,一言申し上げておきます。  今の御指摘の中で,最初に岡委員が指摘された問題ですけれども,これは現行法でも存在する問題でして,なぜ損害賠償請求の場面で事情変更の原則が正面から語られないのかといいますと,語る必要がないからだと思います。というのは,現行法でいいますと,債務不履行があれば415条で損害賠償請求できるわけですけれども,現行法でいえば,責めに帰すべき事由がないと言えれば免責されるわけです。そして,今の事情変更に関わる問題も含めて,損害賠償については,現行法では責めに帰すべき事由がないということで,債務者に責任からの解放を認めているわけでして,責めに帰すべき事由の解釈問題の中に全て含まれているのだろうと思います。そして,これは,責めに帰すべき事由の表現を含めてどう改正するかに関わりなく,その要件の問題として吸収されていくことになるのではないかと思います。   そして,履行請求権の限界問題については,現行法では明確な形で規定はないわけですけれども,不能ないしは不能に類するものとしての履行請求権の限界の解釈問題として,現行法では扱われていますし,改正で履行請求権の限界に関わる要件が定められるとするならば,それの解釈問題に吸収されると思います。  そうしますと,このような形で契約の解除が認められるのか,あるいは契約改訂が認められるのかということは,そのような損害賠償請求や履行請求権の限界問題ではカバーされない問題として残ることになります。それが現在では判例法でカバーされているのに対して,このように事情変更の原則を明文化するのは,この規定でしかカバーできないことを規定したものと位置付けられるのではないかと思います。  いずれにしましても,損害賠償請求や履行請求権の限界問題については,事情変更の原則よりもう少し緩い形で免責に当たるものが認められている。現行法の下においても,そして,改正案においてもそうであるということを前提にして,ここでの問題を議論する必要があると思います。 ○道垣内幹事 山本幹事と恐らくはほぼ一緒のことなんだろうと思いますが,ある契約条項について改訂をしてしまうと,当該契約がせっかく全体をいろいろ考えてあるのに,それが崩れてくるという指摘があるわけですが,その問題は,別に事情変更の原則とか,契約の改訂だとか言って,大上段に振りかぶらなくても,ある契約条項に基づく履行請求がされたとき,裁判所が,この契約条項はこういうシチュエーションを前提にしているところ,当該シチュエーションにないので,履行請求ができないという判断を下すことによっても生じるわけですね。そして,それは契約の解釈という形でしばしば行われていることなのだろうと思います。そして,例ののり面崩壊の事件も,本当に事情変更の原則でやらなければならなかったのかというところは若干,怪しいところがあるような気もいたしまして,実りある議論をするためには,個々具体的な履行請求の拒絶ではなく,将来にわたる効力の変容ないしは消滅を起こさなければならないようなタイプのものに限定して,話を考えていくべきではないだろうかと思います。   そうしますと,そのことは先に扱われます継続的契約における終了の規律の問題にも絡んでくるわけでして,そのような比較的長期の契約についての話としてまずは考え,そして,それについて仮に何らかの法理が民法上できましたら,次に,それをてこにして,契約解釈の場面以外においても,契約改訂ないしは事情変更の原則の適用が認められてくる可能性があると考えるべきではないか。そして,その点については,高須幹事がおっしゃったように,事情変更の原則は一切認めないと書くのならば,懸念は全て払拭できるけれども,実際として判例法理である程度,動いている以上は,書かなければ話が済むというわけではないですから,継続的な契約とか,将来に持つ契約についてだけ条文を置いたとしても,個別契約については一切,適用されないということになるとはもちろん限らないわけです。そうではありますが,議論をするときには,念頭に置いている類型をもっと前面に押し出して,限定的に検討していくのが現実的ではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○佐成委員 今,道垣内幹事がおっしゃっていた長期の契約ということですが,私もそれはそのとおりだろうという感じがしております。そして,35ページの中段のところにも,国際取引などでハードシップ条項と言われるものが長期の契約で使われていて,再交渉するということが書いてありますが,実務感覚からすると,若干,ニュアンスは違うのです。つまり,私が今,申し上げたいのは,効果としての解除なり,契約改訂ということ自体の話ではなく,またここでの再交渉という話でもなく,そもそもちょっと話が違うのではないかということを逆に言いたいというところでございます。   つまり,確かに国際取引ではこういうようなことが多いのですけれども,必ずしも実務界でこういうプラクティスの評価が高いかというとそうでもなくて,基本的には入れたくないわけです。当初の契約どおりにやるのが最も望ましいわけなのですけれども,契約の長期性ということでやむを得ず,入れているという面があるというところがあります。契約における長期性と,そういった将来における何らかの変更というものはある程度,不可分の関係にはあるというのはよく分かりますけれども,これがあるから再交渉をもっと入れましょうとかいうような積極的な話ではないと思います。長期契約の話になると多分,再交渉の話が出てくると思って敢えて申し上げたのですけれども,再交渉というのは必ずしも実務界でそれほど評判がいいプラクティスというわけではなくて,本来は入れたくないけれども,やむを得ず入れているというところもありますということを指摘したいのです。 ○鎌田部会長 大変恐縮ですけれども,これまで頂戴しましたような御意見を踏まえて,分科会で可能な限りの補充的検討をしていただく。そして,中井委員が御指摘のように,一度,この部会へ必ず戻ってくるという手続は踏むつもりにしておりますので,そのような手順で進めさせていただければと思います。   続きまして,「第5 不安の抗弁権」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○新井関係官 それでは,説明いたします。「第5 不安の抗弁権」では,「1 不安の抗弁権の明文化」において,その存在が異論なく承認されている不安の抗弁権を明文化することを提案しています。   本文で提案している要件では,主体を双務契約において先履行義務を負担するものに限定しています。また,相手方につき倒産手続の開始等一定の客観的事象が発生したことによって,自己の債権につき,履行が得られないおそれが生じたことを要するものとしています。そして,その客観的事象については,契約発生後に発生したものであって契約当時に予見できなかったものであるか,又は契約締結時に存在していたものであって合理的な理由によりそれを知ることができなかったものであるということを要するものとしています。そして,相手方が弁済の提供又は相当の担保を提供したことを不安の抗弁権の阻却要件として設けることも提案しています。そして,不安の抗弁権の効果として,自己の債務の履行を拒むことができるとともに,それによって債務不履行による損害賠償責任を負担せず,また,契約を解除されない旨を規定することを提案しております。   「2 担保不提供による契約の解除に関する規定の要否」では,不安の抗弁権の行使要件を満たす場合において,当事者が相手方に相当の期間を定めて担保の提供を求めたにもかかわらず相手方が担保の提供をしないときに,当事者が契約の解除をすることができる旨の規定を設けることの要否を問題提起しております。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について,一括して御意見をお伺いします。異論がないということではないと思いますが。 ○佐成委員 経済界の議論状況ですけれども,不安の抗弁権についても消極意見が強いようです。特に保険業界さんのほうからは,不安の抗弁権を理由に保険契約者が保険料を支払っていない間に事故等が発生した場合,保険会社が保険金の支払債務を負うのかどうかが不明確になるというようなことを懸念する消極意見がございました。 ○鎌田部会長 ほかには特には。 ○中井委員 最初に弁護士会の意見を申し上げた上で,私の意見を申し上げたいと思います。   弁護士会の意見は,不安の抗弁権なる概念なり,法理が一般的に存在している中で,この法理を明文化する方向に賛成という意見が多い実情です。ただし,提案されている例示にしても,その要件としての相手方から履行が得られないおそれが生じた場合という要件については,疑問といいますか,もう少し限定的に厳格に記載すべきではないかという意見が出ております。しかし,それ以外の,例えば先に履行すべき義務を負う場合に限るという考え方,また,第2段の契約締結後に生じたものであって,契約締結時に予見することができず,又は契約締結時に既に生じたものであっても,合理的な理由により知ることができなかったものであることを要するという,こういう意見についてはほぼ賛成意見ですし,また,(2)の効果についてもほぼ賛成意見です。そうだとすると,その要件についてどのような形で規定していくかを,慎重に検討していただきたいと思っております。   以下は私の意見になりますが,メモを作らせていただきました。基本的に私は不安の抗弁権については実務に与える影響が非常に大きくて,それこそ不安に思っております。それは第1読会でも申し上げたとおりでして,少なくとも先履行義務を契約において約した以上,後の義務が履行されないリスクは,本来,取っているんだろうと。にもかかわらず,先履行をしなくてもよい,履行拒絶を認める,これを認めることについては非常に危険だと感じています。   何となれば,ここで書いておられるような履行を受けることができないおそれが生じたということで履行拒絶を認めるとすれば,契約を締結して商品なり,材料が入ってくることを予定していた事業者に極めて多大な影響を与える,しかも,その権利の行使の仕方としては履行拒絶ですから,何もしなくてもよい,という最も簡単な方法で権利の行使ができるわけで,要件を曖昧で,弱くすると濫用の危険があって,取引の実務に大きな影響を与えるのではないか。それを危惧しているからです。したがって,この法理を明文化するにしても,要件を厳格に定めていただきたいというのが基本です。   そこで,今回の具体的な提案について,個別に幾つか疑問がございます。一つは相手方に倒産手続開始の決定があったことと書いていることについては基本的に反対です。これは倒産法の見地から民事再生手続が開始した,会社更生手続が開始した,そのとき,管財人ないし再生債務者は履行の選択をできますけれども,履行を選択したにもかかわらず,履行拒絶がなされれば,再生,更生ができない。むしろ,仮に当事者間の基本契約の中で再生手続開始なり,倒産手続開始があったときに,期限の利益が喪失する,契約が解除できる,履行拒絶できる,たとえそういう合意があったとしても,その合意自体が再生法ないし更生法の目的,趣旨に反するものとして,無効と解される余地さえあるのではないか。いわんや,合意がなくてもこのような効果を認めることは極めて疑問であると思っています。   破産手続開始については,部会資料の他の国の法律の中では,破産手続開始を不安の抗弁権の一事由にしているようですが,このことについては,なるほど,そうかなと思う面もありますが,破産手続開始をした場合でも,管財人は裁判所の許可を得て履行の選択ができるという規定が設けられております。そうだとすれば,破産手続事務処理にどうしても必要不可欠なものと判断して,裁判所の許可を得て履行選択したにもかかわらず,破産したという事由のみをもって仮に履行拒絶できるとすれば,それは破産法の趣旨に反するのではないかと思います。   むしろ,ここで問題にすべきは倒産手続の開始の申立てがあったとか,支払不能,支払停止があった,その後に履行すれば,破産手続開始の申立てがあるにもかかわらず,のこのこと履行提供して,みすみす,それが破産債権になる。それは到底,耐え難いこと,それは民事再生とて,会社更生とて同じだろうと思いますので,ここは倒産手続開始の申立てがあったときは,履行拒絶ができる,しかし,倒産手続開始があれば,逆に履行拒絶はできないと考えるべきではないかと思っております。   次に,相手方の財産に対する強制執行があったこととなっておりますけれども,これも強制執行であれば競売開始決定があればそれでいいのか。これも他国の法律,スイスですけれども,強制執行不奏功の場合に不安の抗弁の事由として認めておりますので,開始決定だけで果たして履行拒絶していいのかどうか疑問があります。   次ですけれども,相手方から履行が得られないおそれが生じた場合,これが包括的な要件ですが,繰り返しになりますけれども,このおそれというのでは極めて主観的に読めます。部会資料では,そこを客観的,合理的な徴表を例示することによって,このおそれについても客観的,合理的な理由に限定している趣旨を意味しているのだろうと思いますが,この言葉だけからは,それだけのことは分かりませんので疑問です。   部会資料を見ますと,他国の例が幾つか載っていますけれども,ドイツの民法であれば,給付能力の喪失による危殆化,スイス債務法であれば,支払不能に陥り請求権を危殆化,フランス民法では,支払不能状態に陥り代金を失う急迫な危険,そして,ヨーロッパ契約法原則9:201条2項では,相手方がその履行期の到来時に不履行になるであろうことが明白である限りにおいて,これらのことを考えますと,支払不能,給付能力の喪失等によって不履行になることが明白であるから,履行拒絶できるという考え方が読み取れるのではないか。そのぐらい限定した要件にすべきではないかと考えております。   それを取りまとめたものが私のメモの提案①でございます。ただ,この案を昨日,弁護士会で申し上げますと,余りに狭すぎるという意見を受けました。例えば請負契約においてゼネコンが工事をしている途中で施主に支払能力の不安が生じたときに,それでもビル請負工事を続行し,完成させなければならないのか等の場面を想定したときでも,明らかな場合というのでは限定が厳しすぎると。   そこで,更に検討をさせていただきました。この部会資料でも幾つかの判例紹介が40ページのところでございます。これらの判例を正確に読んだわけではありませんので,間違っているかもしれませんが,私のメモでいえば3ページの4の部会資料の裁判例というところで,簡単にコメントしております。いずれも例えば支払遅滞に既に陥っている,そういう信用不安が生じている中で,当事者間で一定の交渉があって,担保提供なり,財産状況の開示を求めたにもかかわらず,それらに協力しないことによって,裁判所は信義則ないし衡平の原則から,履行拒絶を認めているということが読み取れるのではないかと思います。   そうだとすると,仮に要件を私は「おそれ」は反対で,少なくとも「具体的なおそれ」とか,「客観的に請求が受けられないという具体的な危険」とか,そうすべきだと思いますが,そのように緩やかにした場合,結局は信義則に反する,若しくは公平に反する場面で初めて履行の拒絶ができるという要件を重ねるということができないのか。こういう見地から提案したのが提案②でございます。いずれにしろ,部会資料での提案より要件部分について,例示も含めて見直しを是非していただきたいというのが私の意見です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   関連した御意見はございますか。あるいは事務局から何かございますか。 ○新井関係官 中井委員に教えていただきたいのですが,中井委員の御提案では,括弧書きの中で,倒産手続に関し「開始後は除く」となっております。他方で,倒産手続の申立てというのを一つのトリガーとして規定するという御提案ですので,そうすると,倒産手続の開始の前には不安の抗弁権があったものが,倒産手続が開始した時点で,その抗弁権は消滅すると理解をすればよろしいのでしょうか。 ○中井委員 抗弁が消滅するとか,緻密に考えたわけではありませんが,申立て時点から開始時点までに先履行義務の時期が到来したときに,それを履行拒絶することは正当化できる。何となれば,履行した結果,直ちに倒産債権になるわけですから,倒産債権になることを承知で履行を求めることは,それこそ当事者間の公平に反することだろうと思います。しかし,開始後に弁済期が到来した場合は,開始後にそれを履行しても,それは共益債権,若しくは財団債権になるわけですから,構わないだろうと。   仮に履行を止めていても,管財人が解除か,履行の選択ができるわけで,不安があれば管財人に対して催告をするというのが破産法では用意されています。その結果として解除されれば履行しなくて済む,履行の選択がされれば,それは裁判所の許可を得て履行の選択をするわけですから,そのときは当然,履行拒絶の抗弁権はなくて履行する,それによって財団債権になる。このような整理をしているにとどまります。その権利が喪失するとかいう形についての概念整理はお任せするといいますか,そこまでの検討ではございません。 ○山本(和)幹事 今の倒産手続開始の部分ですけれども,私は基本的には中井委員の御提案に賛成です。少なくとも再建型手続の開始決定をトリガーにするということは,恐らく相当ではないのだろうと思いまして,それは事業再生を著しく害するという中井委員の御指摘はそのとおりだと思います。   申立てにするのかどうかというのは,ほかに幾つかの選択肢があり得るように思いまして,清算型の破産申立てがトリガーになるというのは多分,いいのだろうと思いますけれども,再建型の申立ても本当にトリガーにしていいのかどうかということは,これはむしろ中井委員とか岡委員とか,実務の先生方のほうが詳しいと思います。例えばJALのような事件で申立て,あるいはすぐ開始したからいいと思うんですが,申立てから開始まである一定の時間があったときに多数の取引がある。それが全部とはいいませんけれども,不安の抗弁権で止まってしまうということで本当にいいのか。共益債権化という余地もあるのだろうと思うんですが,共益債権化されたものまで止まって,不安の抗弁権がなおあるというようなことでよいのかどうかということは,少し疑問がある感じがすると。   他方で,破産手続開始決定について,中井委員が言われることはもっともなところがあるんですけれども,ただ,破産の場合には財団債権になっても,なお,弁済の補償が本当にあるのかどうかという場合は何かありそうな感じがして,有力な見解でも破産については管財人が履行選択しても,不安の抗弁権を認めるという見解はあると承知しておりますので,破産の場合はあるいは手続開始決定も含めてトリガーにしてもよい場合があるかなと思っていまして,なお,幾つかの選択肢があると思いますので,慎重な御検討を頂ければと思っています。 ○中井委員 ありがとうございます。山本和彦幹事から御指摘のあった点,まず,破産手続開始については,実は昨日の第1原案ではこれをトリガーに含めておりました。ただ,この点についても破産法で規定が準備されているので,直ちにトリガーにしていいのか,疑問であるという意見も踏まえて修正しております。また,スイス債務法とかは破産手続開始が確かにトリガーになっておりますので,十分,あり得る考え方とも思っております。ここは御検討いただきたい。   それから,再建型,民事再生,会社更生の申立てにつきましては,ここではトリガーに入れておりますけれども,山本和彦幹事が御指摘のとおり,これは裁判所の許可若しくはしかるべき監督員等の承認が得られれば共益債権化するわけで,その場合は開始と同じ意味ですので,その手続を取ることによって履行拒絶はできないと理解をしております。そこは,表現をそこまで入れるとややこしくなるので,これにとどめています。 ○鎌田部会長 信義則,公平判断の中でうまく調整できるとか,そういう仕組みではないんですか。 ○中井委員 括弧書きで書くのは,法文を想定するよりは説明のために書いたもので,更に立法化するについては,どのような形に落とすのかは検討しなければならないと思っています。ですから,提案①,提案②とも,破産手続開始若しくは民事再生の申立て等については本文といいますか,2行目のところで処理すべきことだと思っておりまして,提案②を採っても,それは信義則とか公平以前の問題と理解しております。 ○沖野幹事 今の中井委員の御説明に対して,確認をさせていただきたいと思います。共益債権になるという場合に,自己の債権につき相手方から履行を受けられないことが明らかな場合という,この要件が満たされなくなる,言わば担保が提供されないのと同じだと解され,破産の場合の財団債権だと財団不足というようなことがあるけれども,しかし,財団債権になる限りは,その場合も特に財団不足というようなことがない限りは,この要件を満たさなくなるという理解もできるように思います。そういう理解でよろしいのか,それとも,本来はそうなのだけれども,しかし,手続開始の申立てと書いてあるとその部分について争いといいますか,かえって,不当な拒絶を招きかねないので,書いたほうがいいという御趣旨なのか,その点を確認させていただければと思います。 ○中井委員 おっしゃるとおり,要件としては相手方から履行を受けられないことが明らかか,具体的な危険かというところでカバーをされているとは思っていますが,例示として書いた以上,その例示に当たれば履行拒絶できると解されては困りますので,開始というのを除外しました。仮に申立て後,開始までに共益債権化があるならば,それも厳密な意味では括弧書きで例外として入れておいたほうが誤解が生じなくていいという,そういう判断もあったんです。御趣旨に対して的確な回答なのか分かりませんけれども,要件としては「明らかでない」ということでカバーできるとは思いますが,例示として挙げた以上,説明が要るのではないか,こういうことです。 ○沖野幹事 説明として書かれているということですね。 ○高須幹事 今,中井先生から提出されています不安の抗弁権についてのメモの部分でございますが,昨日のバックアップ会議でも意見が出たみたいな御紹介を頂いたとおりで,弁護士会の中でうまく一つの案にしていなくて申し訳ないのですが,不安の抗弁権を余り広く認めるといけないという中井先生の御指摘は,非常に弁護士会としても認識しているところというか,日頃,仕事をしている中で,不安の抗弁権を理由として出荷停止等の措置をとった場合に結果的に相手を追い込んでしまう,不安を現実化する抗弁になるというような言い方を考えておるんですが,そういうことがあってはいけない。したがって,この要件はかなり絞らなければならないという点は,非常にそういう意見を持っておりまして,私もそういう意見を持っております。   したがって,今日,提案の①,②という形で中井先生に示していただいたというのは,その中でどの程度,絞り込むかという問題ではないかと思っておりまして,①については相当絞り込んであるわけですが,その分,これは厳し過ぎるのかもしれないということで,少し緩和するとすれば提案②というのがお示しいただいた部会資料よりは絞り込んであり,提案①よりは緩いという意味で,真ん中ぐらいになるのではないかという趣旨でございます。私もそのような意味で,提案②のほうについて一つ現実的な在り方として考えてもよろしいのではないか。具体的なおそれなどという形で,おそれという部分を絞り込むということが大事なのかなと思います。   その上で,やや,ここは私の意見になってしまうのですが,信義則あるいは契約当事者間の公平に反するときはという要件については,確かに判例等にそういう表現は出てくるわけであり,部会資料にも示されおる知財高裁の平成19年4月5日という裁判例に,正にその表現は出てくるわけなのですが,この裁判例では,それを要件として取り上げているというよりは,不安の抗弁の根拠として,そのことが指摘されているという形でございますので,ここの部分を要件化するに当たっては余り一般化すると,この辺の判断に該当するかどうかという非常に難しい判断をしなければならないということになりますので,何らかの例えば立証責任のところで考慮するとか,あるいは要件の在り方をもう少し考えるとかという意味での,やや基準としては少し具体的にするか,あるいは例外的部分だということを明確にするかというようなことの工夫が更にあっていいのなと,このように思います。   緊急状態で不安の抗弁というのが出ることが多いと思いますので,その判断に非常にデリケートな部分があって,判断に迷うということになると,効果的にこの抗弁を利用するということが使いにくくなると思いますので,その点も加味していただいて,検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○道垣内幹事 細かな話なのですけれども,沖野幹事の御質問に対する中井委員のお答えに関連しまして,何らかの事由により履行を受けられないことが明らかな場合ですので,例示を余り精緻化するのはおかしいと思います。また,開始後を除く,とまで書きますと,手続開始の申立てがあれば必ず当たるのだということを逆に示唆しそうなのですが,嫌がらせの申立てもあるわけでして,非常に精緻な議論ではあったのですが,私は括弧内も要らないと思います。 ○鎌田部会長 大変具体的な御提案を頂いておりますので,それらを踏まえて事務当局の側で更に検討を深めさせていただきたいと思います。   「2 担保不提供による契約の解除に関する規定の要否」,これは担保提供の請求があった場合の事後処理といったらおかしいんですけれども,フォローの問題でございますけれども,これについて何か御意見はございますでしょうか。 ○岡委員 弁護士会の多数は反対でございました。ここまで認めるのはいかがなものかという実務的な感覚でございます。ただ,弁護士会で話しておりますと,倒産手続開始とか申立てよりももっと前の危ないなという状態のときに継続的供給を止めたり,ゼネコンのマンションとかビルの工事を止めるわけです。止めるだけで,その後,どうなるんだと。請負工事を途中で止めると,いつまでたっても報酬請求権の弁済期は来ませんし,継続的供給の品物を止めると,その品物に関する弁済期も来ないと。したがって,弁済期不履行の解除もできない。したがって,宙に浮くので,理論的にこういう担保を持ってこなかったら解除できるという規定は美しいし,あってもいいのかなという気はするんですが,何となく,そこまでやるのは行き過ぎではないかという意見が強うございました。最後のシナリオを提示しないままの感想ですが,それが今の実務界の議論の状況です。 ○山本(敬)幹事 質問なのですが,今回の御提案は,不安の抗弁権の要件として,先履行関係がある場合に限定するという立場を採られているわけですけれども,2で,仮にこの考え方に従って,相手方に相当の期間を定めて担保の提供を求めたにもかかわらず,相手方が担保を提供しないときに解除ができるとしますと,先履行関係があるときはこれで解除できるけれども,同時履行関係のときは履行期まで待たないと解除する手段はないということになるのでしょうか。もう一つ,よく分かっていないところがありますので御説明いただければと思います。 ○新井関係官 まずは,不安の抗弁権が認められる場合の解除権というのをここでは取り上げているのですが,そうすると,当然,山本敬三幹事が御指摘された先履行義務がない場合ですとか,そういった不安の抗弁権の要件には必ずしも当てはまらないような場合についても,担保不提供ということでの解除というのが認められるべきではないかいうのは,また,別途問題になるのだろうとは理解しております。 ○山本(敬)幹事 ということは,何も特に付け加えて規定しない限り,同時履行関係の場合は,要件を満たしていないので,担保提供を求めることはできないということですので,後はこの規定の趣旨に従って,類推なり何なりを実務においてするかどうかという問題が残ると理解するのでしょうか,それとも,この担保提供によるいわゆるオフェンシブな効果に関しては,必ずしも先履行関係のある場合に限らず,認める可能性をまた提案されるということなのでしょうか。趣旨が分からなかったので確認させていただきます。 ○新井関係官 そこはこの資料では詰められていない点なのだと思います。この点につき,どのようにしていったらいいか,御意見があればお伺いしたいと思います。 ○内田委員 十分理解していないのかもしれませんが,同時履行の場合であれば,相手を債務不履行にすることはできるわけですよね。それでは不十分なのでしょうか。 ○山本(敬)幹事 同時履行関係で,履行期が定まっている場合に,相手方のほうに信用不安があるという事態が生じているときには,現時点では解除をする手段はなくて,履行期まで待って自分の債務の履行の提供をして,しかし,相手方が履行しないので,そこで解除できるのであって,例えば履行期が3か月先だとすると,3か月は待たないと解除する手段がない。しかし,先履行関係にあるときには,担保提供を求めることによって,今から相当の期間経過後に解除する道が開けるという違いが出てくると思うのですが,それで本当によろしいのでしょうかという質問です。 ○内田委員 多分,この原案はそれでいいというスタンスだと思います。それで不十分であるということであれば,別途,考える必要がありますが,元々,先履行の場合も自分の履行期は来ているわけですよね。だから,同時履行関係にある場合に,履行期が来る前に何かをするということを,ここからは導くことはできないのではないかと思います。 ○高須幹事 今の点なんですが,結局,部会資料ですと契約関係からの早期の離脱を認める必要性というか,有益性を考えてということだと思いますが,反対側から考えると,確かに不安事由があってなかなか先履行を求めることは合理的ではない,あるいは信義則上,妥当でない場合があるとしても,それで契約関係まで打ち切られてしまうということが不安の抗弁権を出された側として,そこまでのことまでいってしまっていいのかどうか。履行拒絶というところでバランスをとっておいて,その間に何とか,要するに不安事由を解消できれば,それは契約関係の継続を認めるということもあり得る選択肢ではないか。   それを相当な担保ということだけで,ここでは絞りを掛けるわけですが,相当な担保を提供できなくても何とか事業を継続しようという努力をしている場合もあると思いますので,一気に解除まで認めてしまうという2のところについては,一つの考え方ではあるとは思いますけれども,別の考え方もあるのではないかと思います。先ほど来,弁護士会としては,ここまでやるのはという意見が強かったというのも,そのようなところと一つ関係しているのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はございますでしょうか。 ○道垣内幹事 私の理解が至らないだけなのかもしれませんが,担保を仮に提供した場合,その後,倒産手続が開始した場合,これは否認の対象にはならないのでしょうか。 ○新井関係官 否認の対象になるかどうかは,また,別途,問題になると思います。 ○道垣内幹事 そうすると,危ないなと思ったので,担保が取れたので自分が履行した。予想したとおり,倒産手続が開始したということになったら,担保供与も否認されるという事態になってしまう。 ○山本(和)幹事 裁判をやってみないと分からないですけれども,解釈としては,あるいはそういう場合は有害性がないという議論はできるかもしれないような,ただ,保証の限りではないということかもしれません。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですね。それでは,頂戴した御意見を踏まえて,更に検討を続けさせていただきます。   「第6 継続的契約」について御審議を頂きたいと思いますので,事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。   「第6 継続的契約」の「1 継続的契約の終了に関する規律」の「(1)期間の定めのない継続的契約の解約申入れ」では,期間の定めのない継続的契約の当事者が相手方に対して予告期間を定めた解約の申入れをした場合において,当該契約の趣旨・目的や契約の締結から解約の申入れまでの期間の長短などの諸事情に照らして当該契約を終了させるのに相当な事由があるときは,当該契約は上記予告期間を経過したときに終了する旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。また,解約の申入れにおいて定められた予告期間が合理的でないときは,解約の申入れから合理的な期間を経過したときに契約が終了するものとしています。   「(2)期間の定めのある継続的契約の更新拒絶の制限」の第1パラグラフでは,期間の定めのある継続的契約の当事者は相手方から更新の申出を受けた場合において,当該契約の趣旨・目的や従前の更新の経緯などの諸事情に照らして当該契約を終了させるのに相当な事由がないときは,当該更新の申出を拒絶することができない旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。また,第2パラグラフでは,当事者がその規定によって更新の申出を拒絶することができないときは,更新前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなし,その期間の定めはないものとみなす旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。   「(3)継続的契約の解除」の「ア 債務不履行を理由とする継続的契約の解除」の第1パラグラフでは,継続的契約の当事者は相手方に債務不履行があった場合でも,当該契約の趣旨・目的や債務不履行の内容・程度などの諸事情に照らして当該債務不履行が当事者間の信頼関係を破壊しないものであるときは,当該債務不履行を理由とする解除をすることができない旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。また,第2パラグラフでは,仮にそのような規定を設ける場合には,債務不履行による当事者間の信頼関係の破壊の程度が著しいときは,民法541条所定の催告をすることなく,契約の解除をすることができる旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。   「イ 消費者・事業者間の継続的契約の解除」では,消費者と事業者との間の継続的契約については,消費者はいつでも契約の解除をすることができる旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。   「ウ 継続的契約の解除の効果」では,継続的契約の解除は将来に向かってのみその効力を生ずる旨の規定を設けるという考え方を取り上げています。   「2 多数当事者型継続的契約」では,多数当事者型継続的契約についての一般的な規定は設けないことを提案しています。   「3 分割履行契約」では,分割履行契約についての一般的な規定は設けないことを提案しています。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について,これも一括して御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○大島委員 中小企業が代理店契約やフランチャイズ契約において,トラブルに見舞われることは珍しくありません。継続的契約について規定を設け,一方的な申出による不当な解除や更新の拒絶を認めないとすることは,このような中小企業の保護につながるものと思います。ただし,継続的契約はあらゆる契約類型において存在しておりますので,適用される範囲を明確に規定することが必要であると考えます。   中小企業の契約の実態として,例えば二次下請,三次下請の製造業においては,同一の製品について電話やファックスなど口頭での受発注がなされることが多くございます。また,継続的な部品の発注であっても,数箇月ごとに仕様が変わることも決して珍しくなく,また,そのような場合における当事者の意思も明確ではありません。このように継続的契約に当たるかどうかの判断が困難なケースが多く見られるのが実態です。仮に,規定が適用される場面が明確に定められなかった場合,むしろ,不適切な解除が増えるおそれがあるのではないかと危惧をしております。 ○筒井幹事 連合の安永委員の発言メモを読み上げます。「継続的契約の終了に関する規律」の(1)から(3)の提案についての御意見です。   労働契約という点でいえば,労働関係法規の適用される労働契約は,役務提供契約であるとともに継続的契約にも該当します。そのため,役務提供契約の規定の編制方式やその在り方によっては,継続的契約の規定は,労働契約や雇用類似の役務提供契約にも適用されることになります。   部会資料の(1)(2)(3)のアでは,継続的契約について,契約の終了,更新拒絶,解除について相当な理由がある場合などに制限を加える方向での提案がなされています。この点,これらの規定が設けられることは,労働者や雇用類似の労務供給者が契約の継続を望む場合は,その保護に資するものと言えますが,一方で,これらの者が契約の継続を望まない場合には,事実上,労務供給者に当該継続的契約からの離脱を許さないことになるなど,不当な人身拘束をもたらすおそれがあるものと考えます。   そこで,労務供給者が自ら労務を供給する自然人である場合の労務供給者側からの解除等については,これらの規定を適用除外とするなど,不当な人身拘束からの回避という見地から,問題の生じない規定としていただきたいと考えます。   また,(3)のイでは,消費者・事業者間の継続的契約の解除について提案がなされていますが,部会資料提案の事業者概念の中には,自ら労務を供給する自然人は含まれないことを明記すべきと考えます。   労務供給者は,大企業である場合もあれば,自ら労務を供給する自然人である場合もあり,消費者との力関係も多様です。労務供給者が大企業であれば消費者保護のために消費者の解除権を規定することに意義がありますが,労務供給者が自ら労務を供給する自然人の場合は,消費者との関係で強い立場にあるわけではなく,当該労務供給者の生活保障を考えれば,消費者にこのような解除権を付与することは必ずしも妥当とは言えないと考えます。 ○三浦関係官 「継続的契約」について申し上げます。まず,1の(2)の「期間の定めのある継続的契約の更新拒絶の制限」という部会資料49ページに関連してですけれども,これに関して所管業界の一部から反対するとの意見が寄せられました。その趣旨は,部会資料の51ページの真ん中辺りに,第20回会議での議論の御紹介がありまして,これとほぼ同旨でございます。確かに言われてみると,期間の定めがあるのであれば,そこで終わるのが何となく原則ではないかと思われるところ,若干,49ページの書き方ですと,相当な事由がないときは拒絶できないということで,更新しないとする側に立証責任といいますか,かなり説明の負担が重く,続けるのが原則になっているところがあって,信義則上,相当でない場合には拒絶することはできないという今の考え方との関係でも,強い表現だなという気は確かにいたします。   それから,続けてよろしいでしょうか。(3)の「継続的契約の解除」ですが,部会資料の53ページでございますけれども,これについても所管業界の一部から反対するとの意見が寄せられたところでございます。継続的契約にも様々な種類があるし,取引実務においてはよりよい契約相手を自由に選択できるのが原則であるというのが基本的な考え方で,具体的な懸念としては,部会資料54ページの補足説明1の第2パラグラフに書いていただいているような理由での反対意見というのが聞こえてきております。   それから,55ページの「消費者・事業者間の継続的契約の解除」については,これも同様に所管業界の一部から反対するとの意見が寄せられておりまして,そもそも,御提案のような規律は民法ではなくて,消費者契約法や特定商取引に関する法律で定める事項ではないかというのがまずあるんですが,それに加えて,全ての契約において消費者に一方的な解約権が付与されるということだとすると,事業者としては収益見通しを立てることが困難になって,解約コストを織り込んだ価格設定にせざるを得ないのではないか。また,例えば情報通信事業者におけるクラウド取引のような場合に,多数の取引対象者がいる,取引条件というのは平準化してやっているんだけれども,取引相手の中で消費者の場合は解除ができるということになると,取引の経済的安定性を欠く,事業者側の多大な負担と損害を生じることになるというような御指摘がありまして,以上のような考え方を理由に提案に反対する意見が寄せられたということでございますので,御紹介をさせていただきました。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○三上委員 まず,継続的契約とは何かという点には,試案の段階から随分と議論がありまして,適用範囲の大小が明確にならないまま,こういう規定を設けてよいのかという大きな論点があるということを最初に申し上げます。(1)の場合に期間の定めのないケースであれば,例えば契約の中に両当事者がいつでも解約の申出をできるという条項があれば,それはそれで有効だという結論が導かれて,ところが,(2)のように,一旦,期限を定めますと,例えば期限の3か月前までに一方当事者から更新しない旨の通知があれば,終わるという契約がなされていたとしても,それでもなお,この規定が強行法規的に適用されるというような解釈になるのであれば,なるだけ,期限を設けない方向に契約を持って行こうとする力学が働くという意味で,立法の仕方としては余り健全とは思われないのではないかと思います。   それから,いずれにしても,継続的であれ,何であれ,契約である以上は期限が来れば終わるというのが契約の原則であるわけですから,継続的契約の一定の場合には期限が来たからといって終わらせるわけにはいかないというのは,その例外に当たるべきはずです。この書き方も説明を聞いていると,そういう趣旨で書かれたようなのですが,少なくとも基本的には契約が来れば,そこで終わると。ただし,ここのような事情があったような場合には,契約の存続を要求することができるというような立て付けにして,かつ立証責任も契約の存続を主張する側が立証しなければならないということを明確にすべきであろうと思います。   それから,(3)に関しましては,さすがに基本的に債務不履行があれば信頼関係は終わるはずのものでして,継続的契約だから債務不履行の度合いがきつくないといけないという点については,借地借家法のような衣食住の住を失ってしまうというところに関する社会学的な配慮といいますか,そういった例外的な規定を経済取引一般に持ち込むことになって,いかがなものかと感じます。何をもって信頼関係というのかも曖昧ですし,また,それが世の中の動きにつれて,解釈のぶれが大きくなってしまうという問題もあるのだろうと考えております。 ○佐成委員 (2)と(3)について,経済界での議論の状況について御紹介いたします。   今,三上委員からも出ましたけれども,期間が定められているということは実務的には非常に大きいことなので,期限が来たら終了するという原則が明確になる必要がまずあるのではないかという指摘が(2)についてはございました。   (1)の期限の定めのないものについては,特段の意見はございませんでした。   それで,(3)ですけれども,(3)については債務不履行に関して信頼関係破壊法理を一般的に持ち込むのは,非常に不明確さが残って,実務的にどうなのかという懸念を述べる方がいらっしゃいました。それはアのところです。それから,イについては事業者概念,消費者概念を民法に持ち込むということで,そもそも問題があるという意見でございます。 ○岡田委員 継続的契約については消費者に関係があると思いますが,まず,継続的契約という意義が明確ではなくて,いわゆる私たちは特定商取引法の六つの特定継続的役務,あの認識が中心ですから,それ以外のものが果たして継続的役務に該当するかどうかというので,まず,判断できないというのが現状です。それを何らかの形で使えるように明確にしていただきたいと思います。   民法にその意味では規定を入れていただきたいと思います。また更新のところですが,先ほど通信のことができましたけれども,消費者被害の場合に更新を消費者が希望するというより逆に更新したくないにもかかわらず,既に約款でその意思表示をしないと更新というふうに決められていることがトラブルになることが少なくありません。ここにも消費者と事業者の情報や交渉力の格差があるように思います。   それから,3番目の消費者に関していつでもということになっていますが,後からしっぺ返しを食うかもしれないのですけれども,もうちょっと明確な範囲を決めていただくことがトラブル防止になるように思います。 ○金関係官 これまでのいくつかの御指摘に関連して若干の補足をさせていただきます。まず継続的契約の定義が不明確であるという点については,部会資料48の46ページの補足説明のところに定義を記載しておりますが,これが非常に広くて限定がないようなものだという御批判であると思います。それ自体はそのとおりなのですが,ただ,例えば(1)と(2)の解約申入れと更新拒絶の制限に関するルールは,継続的契約に該当してこれらのルールが適用されると直ちに解約申入れや更新拒絶をすることができなくなるというわけではなくて,飽くまで個別具体的な事情,契約の趣旨・目的などの諸般の事情に照らして,当該継続的契約の継続性の保護の要請がどれぐらいあるのかということを検討した上で,最終的な判断をするというものですので,継続的契約に該当するものであっても,例えば契約期間が満了すれば直ちに終了すべき性質の契約であるならば,先ほどの諸事情を考慮するという判断プロセスを経た上で,しかし結果的には更新拒絶は認められるという判断になるということが想定されています。継続的契約については,通常,裁判所の判断としても,まずは継続性の保護の必要性がある契約かもしれないという方向の思考プロセスに入った上で,しかし個別の事情を考慮した結果そうでもなかったというような判断がされているように思いますので,そういう思考のプロセスを経ているということを条文上も示すことはできないか,そういう提案をしているつもりです。   次に(2)の更新拒絶の制限のところの主張立証責任についてですけれども,部会資料48の50ページの補足説明のところで,原則は期間の満了によって終了するけれども例外的に更新拒絶が否定される場合があるという記述をしております。また,49ページの本文のところでは,当該契約を終了させるのに相当な事由がないときは更新拒絶をすることができないという記述をしております。これらの記述は,更新拒絶を否定しようとする側が相当な事由がないことについての主張立証責任を負担するという趣旨のものです。ただ,御指摘のとおりその趣旨が分かりにくいと思いますので,表現ぶりについて再度検討したいと思います。   最後に,三上委員から御指摘を頂いた点ですけれども,解約申入れの制限のところでは,解約権が留保されていればその解約権が尊重されて解約をすることができるのに対して,更新拒絶の制限のところでは,更新拒絶をすることができることを示すような合意があったとしても,(2)の規律が強行法規的に適用されるため更新拒絶をすることができない場合がある。その結果,継続的契約の実務が期間の定めを設けない方向に流れていくのではないかという御指摘だと理解しました。ただ,期間の定めのある契約の場合でも,解約権の留保というのは恐らく可能で,例えば民法618条に期間の定めのある賃貸借についての解約権の留保に関する規定があるところです。このように期間の定めがあってもなくても解約権,解除権を留保する合意は可能で,かつ,解約権,解除権を明確に留保した以上はそれが尊重されると思いますので,その点は両者共通と考えてよいのではないかと理解しております。 ○松本委員 (1)についてなんですが,何人かの方が言っておられますように,継続的契約という概念の定義がないままに使われておりますから,恐らく発言される方によって想定されているタイプの契約がそれぞれ違うんだと思います。雇用を念頭に置かれる方,賃貸借を念頭に置かれている方,あるいは消費者取引としての特定継続的役務を念頭に置いておられる方,あるいはフランチャイズだとか,継続的な供給契約を念頭に置いておられる方によって,それぞれ違った意見が出てくるということで,余り生産的な提案にはなっていないのではないかと思います。   (1)については,私は昔,法律の勉強を始めた頃に,そもそも期間の定めのない契約というのは,いつでも両当事者から解約申入れができるものなのだ。なぜならば,永遠に拘束するような契約というものはあり得ないからだと習いました。と考えると,期間の定めのない契約というのは非常に不安定な契約で,いつでもやめられるというのが大原則なわけです。ただし,解約申入れが特に不相当な場合には解約できないんだとひっくり返るのが原則だと思うんですが,(1)では,解約申入れをする側が当該契約を終了させるのに相当な事由があるときということを立証しなければならないかのような書きぶりになっておりますので,私はこれは大原則に反しているから反対いたします。   逆であれば結構です。相手方のほうが終了させるのに相当な事由がないとか,不相当であるという特段の事情を立証できれば解約は認められないというのはあり得ると思いますが,今回の原案は余り適切ではないと思います。もちろん,契約のタイプによっては,例えば雇用の場合であれば明確に特別の被用者保護の原則が働きますし,賃貸借においても正当事由による拘束が入ってくるとか,特別法による様々な保護が,当然,考えられるわけですが,一般ルールとしての原則はいつでもやめられるということでしょう。したがって,やめさせたくない側が立証しなければならないとすべきだと思います。 ○中井委員 弁護士会の意見を申し上げますと,継続的契約の終了に関しては部会資料にありますように,継続的な物品供給契約やフランチャイズ契約などを代表例として相当に紛争事例があって,そのときの解決の在り方に一定の基準なりが形成されつつある。したがって,これを何らかの形で明文化していくということは必要ではないか。そういう意見がおおむね弁護士会の多数を占めております。ただ,今回の提案については幾つかの疑問が提示されています。必ずしも整理されておりませんが,私なりにメモを作らせていただきましたので,メモに基づいて申し上げたいと思います。   一つは先ほどから幾つか御意見が出ていますけれども,原則と例外を明確にすべきではないか。本件は(1)も(2)もある意味で例外からの規定ぶりになっていて,今回の改正においては原則が明らかにできるものは原則を明らかにした上で,例外を規定しようという考え方だとすれば,松本委員からも御指摘がありましたように,少なくとも期間の定めのない契約については,解約告知によって終了するのが原則ではないか。それなら,まず,それを明らかにすべきではないか。また,期間の定めのある契約であれば,期間満了をもって契約は終了する。それが原則ではないか。それを確認する必要があるのではないかという意見が強くあります。   その次に定義の問題です。部会資料では,第1読会のときに議論されたと思いますけれども,契約の性質上,当事者の一方又は双方の給付がある期間にわたって継続して行われるべき契約という形で定義付けて,一定,終了について保護が必要なものを抽出しようとする,その抽出の方法として「行われるべき」という評価概念を入れて特定して,こういう「べき契約」については一定,解約について制限をしようとしていると思われるんですが,部会資料に説明があっても本文中には一切,その種の説明がないので非常に分かりにくい。   ここは,私は二段階の問題ではないかと思っています。給付が継続的に行われる契約というのはたくさんある。しかし,原則は期間の定めがなければ解約告知によって終了するし,期間の定めがあれば期間の満了をもって終了する。しかし,典型的には継続的な物品供給契約やフランチャイズ契約のように,当事者が契約の継続を期待している場合,その期待が合理的な理由に基づく場合,だからこそ,保護が必要になる。こういう継続的契約というのはある。まず,それを抽出することが必要なのだろうと。その抽出するのが単に継続して行われるべき契約だけでは不十分で,何をもって抽出するかというと,契約の内容,目的や当事者の属性,契約に至った経緯,契約締結後の取引の実情,解約申立てに至る経緯,そういう諸事情によるのではないか。   契約締結に至った経緯でいうならば,契約締結するときに相当額の投資をしている,また,契約締結後の取引の実情であれば注文者に極めて依存している,フランチャイズであれば完全に依存しているわけですけれども,そういう依存の度合いなど,こういう考慮要素は一方当事者に契約の継続を期待させることを判断する諸事情ではないか。その諸事情の判断を経て,継続的契約では一方当事者の契約の継続に対する期待は正当に保護されなければならない,そういう類型が抽出される。抽出されたら次の段階は,だから,終了のときには単純に解約告知では駄目ですよ,期間満了,直ちに更新拒絶は駄目ですよ,そこに解約する側が何らかの相当な事由なり,正当な理由なり,相手方の契約継続に対する期待に対応する,それをある意味で減殺する相当事由なりが必要になるのではないか。その二つを書かないと分からないのではないかというのが私の意見です。   最終的には,そういう契約継続への期待と,それを終了させる相当な事由の相関関係によって,期間の定めのない契約であれば合理的期間をそこで判断する,3か月で終了するか,6か月で終了するか,場合によっては2年で終了するかという形になって,期間の定めがなければ,いずれ,どこかで終了する規律にならなければおかしいわけです。更新拒絶の場合については,それら更新拒絶に相当な理由があれば,幾ら契約継続に対する期待があったとしても期間満了をもって終了する。しかし,期待のほうが大きければ更新拒絶で終了せず,期間の定めのない契約となって,今度,どこかで継続の期待に対してそれを上回る終了させる相当な事由が生じたときに合理的な期間をもって終了する。こういう規律が相当ではないかと感じております。   それを私のメモでは提案1と2という形で明らかにさせていただきました。いずれもまず,本文において原則を明示する,ただし書で諸事情を記載して,それによって契約継続に対する合理的理由があるかどうかを審査する,合理的理由があれば次に継続的契約を終了させることに相当な事由があるかどうかを考えて終了を判断する。期間の定めのないのが1で,期間の定めのあるのが2で,同じように原則を最初に掲げてただし書で同じ判断構造で例外事由としている。このようなことが考えられないかと思います。 ○中田委員 1の(1)の定義なんですけれども,どの程度の抽象的なルールを考えるのかということで変わってくると思います。松本委員がおっしゃるようにいろいろなものがあって,人によって考えているイメージが様々ですから,余り具体的な規律は置きにくいかもしれません。   ただ,今回のように定義を置かなくて,かつ分割履行契約についての規定も置かないという提案ですと,非常に不明確になると思います。例えば90キロの米を3回に分けて引き渡す契約ですとか,一定の期間で分割返済する金銭の消費貸借ですとか,そういうのも入ってしまうことになるのではないかと思います。私としては,定義を置いて,分割履行については別に規定するというのがいいと思いますけれども,別の選択肢としては,そもそも継続的契約という言葉を使わないという方法もあるかなと思います。単に期間の定めのない契約とか,期間の定めのある契約として,専ら契約期間の問題についての規律とするというのは,外国の立法案や立法モデルなどでもむしろ最近は多いので,そういう方向もあるかもしれません。   その上で,期間の定めのない継続的契約の解約申入れについてですが,何人かの方からお話がありましたように,今回の案ですと,期間の定めのない契約は相当な事由がない限りは解消できないと,もちろん,解約権の留保ですとか,解除権があれば別ですけれども,そういうことになると思います。それは裁判例を検討された結果だとは思うんですけれども,一般ルールとしては異例ではないかと思います。私は,原則としては何人かの方がおっしゃいましたように,合理的な予告期間があれば,終了するということを出発点に考えてよいと思います。ただ,もしも様々な事情を考慮に入れたいというのであれば,予告期間の合理性の評価要素を具体的に明示するという方向はあると思います。裁判例の結果を予告期間の合理性の中で考慮するというような立法提案が外国でもありますので,それは考えられなくはないと思います。ただ,それもどういった要素を示すかによっては,規律の一般性,抽象性が損なわれて,ある特定類型の規律になっていくという問題はあると思います。   次に,(2)の「期間の定めのある継続的契約の更新拒絶の制限」ですが,これも何人かの方がおっしゃいましたとおり,まずは期間満了によって終了するという原則を示して,その上で,更新についての規律を置くというのがよいと思います。合意がない場合でも更新をさせるということになると,根拠が必要になると思うんですが,その根拠が何かが余りはっきりしていないように思います。例えばその根拠を信義則に求めるというのであれば,そういう考え方で整理することになるかと思います。   それから,(3)の「解除」についてですが,これは債務不履行解除の一般要件の定め方との関係で決まってくると思います。それから,将来に向かっての効果ということですけれども,細かく言うと,一体,どの時点から見て将来なのかという問題があると思います。解除原因が発生したときか,解除のときなのかです。また,この効果については任意規定であるということをはっきりさせておいたほうがよいと思います。   2の「多数当事者型継続的契約」については余り賛成論がないようなので,落ちてもしようがないかなとは思いますが,例えば当事者から要求があれば,他と違う取扱いの理由を開示する義務を負わせるというような解決はなおあると思いますけれども,支持がないようだったら仕方ないかとは思います。私としてはそういうルールはあり得ると思いますが。   最後に,3の「分割履行契約」ですけれども,概念を置くことには二つの意味があると思います。一つは先ほど申し上げましたとおり,継続的契約の概念を明確にするという意味です。もう一つは,履行が可分である契約の解除についての規律を示すという意味です。これは,資料を拝見しますと,60ページの下から二つ目のパラグラフで,一部解除の規律に委ねるということのようですけれども,一部解除の規律については,本部会の審議でもそれほど明確になっていないのではないかと思います。そうすると,分割履行契約の概念をなくすのであれば,契約期間の問題とは別に,履行の分割可能性の問題について,一部解除の問題として独立して検討する必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございます。 ○金関係官 期間の定めのない継続的契約について,解約権が留保されていない場合であっても,当事者は何らの理由もなく解約をすることができるのが原則だという御指摘が複数ありましたが,部会資料ではそれとは少し異なる発想に立っていますので,一応その趣旨だけ説明させていただきます。継続的契約について期間の定めを設けず,かつ,解約権も留保していないという場合に,それでも原則として何らの理由もなく解約をすることができるのかどうかというのは,若干はっきりしないところがあると考えております。むしろ,継続的契約について,その契約が終わる時期をあえて設定しないで,かつ,解約権もあえて留保しないという判断を当事者がしているのに,なぜ,何らの理由もなく直ちに解約をすることができるのかという疑問が十分あり得るのではないか。見方によっては,当事者がそういう判断をした以上,一定の特別な場合に限り契約を終了させることができるとすれば足りるのではないか。例えば一方当事者に債務不履行があった場合であれば債務不履行解除によって契約を終了させることができる。また,合意解除ないし合意解約の方法を用いて,当事者の合意によって契約を終了させることもできる。今回の提案は,この二つの方法に三つ目をプラスする形で,一方当事者が解約を認めるに足りる一定の事由を主張立証した場合には,解約の申入れによって契約を終了させることができるという規律を設けるものであるという整理をしておりました。   例えば民法597条は,期間の定めのない使用貸借については,目的の定めがないことが前提ですが,いつでも返還請求をすることができる,つまりいつでも解約ないし解除をすることができるとしていますけれども,これについては,最高裁の判決で,この規定は使用貸借の無償性に基づくものであるとの説示をしているものがあります。少なくともこの判決によれば,期間の定めのない継続的契約一般について何らの理由もなく解約をすることができるのではなくて,使用貸借が無償契約であるからこそ何らの理由もなく解約をすることができるということになりそうです。また,賃貸借に関する民法617条も,解約の申入れをして一定の期間が経過すれば賃貸借が終了するという規定ですけれども,この規定の解説などを見ますと,この規定は期間の定めのない賃貸借において一方当事者に解約権を与えるとともに,一定の期間が経過して初めて賃貸借が終了するという方法によってその解約権に一定の制約を加えるものでもあるという説明がされていることがあります。少なくともこの説明によれば,民法617条があることによって初めて当事者に解約権が与えられているのであって,ほかの全ての継続的契約について当然に解約権が与えられているわけではないということになりそうです。ただ,民法617条の解説の中には,この規定は期間の定めのない契約の本質を示したものであるという説明をするものが確かにありますので,悩ましいところではあると考えておりました。しかし本日の御議論を伺っておりますと,原則としては解約の申入れをすることができるという理解をすべきであるということですので,その理解を前提として改めて検討したいと思っております。 ○山川幹事 ただいまのお話にも若干関係がありますし,それから,先の安永委員の御意見,それと,中井委員の御発言にも関わりがあります。これは雇用類似の役務提供契約の取扱いに関わることで,コメントというか,質問になるかもしれませんけれども,中井委員のメモの一番最後のところを大変興味深く拝読しました。   つまり,別段の定めがある場合ということで,賃貸借,使用貸借や雇用など,継続性を本質とする契約類型は,そちらの規定が特別法であるということで,それから,役務提供契約で請負人等が書かれておりますけれども,こちらについては継続的契約に関するルールが特別法になると,そういう御理解でございまして,役務提供契約がもし契約類型として規定される場合に,役務提供者のほうの交渉力が弱い場合をどう取り扱うか,以前,その点の際にも議論がありましたけれども,雇用類似型と言われるものについて,もし作られるとしたら交渉力格差に配慮する何らかの独自の規定を設けることが第一義的には考えられますけれども,特別法ないし特別規定の位置付けにおいて,もし,こちらの中井委員のような御提案が採用されるとしますと,雇用類似の場合においては,継続的契約のルールのほうが特別規定として優先的に適用されて,言わば任意解除権が制約されるという結果がもたらされるかもしれないという感じがしております。   ただ,継続性を本質とする契約類型が特別規定の場合は,そちらが特別規定になると,それ以外の役務提供契約についてはどうなるか。その辺りの振り分けを,一体,どうするのかという問題があろうかと思います。雇用が継続性を本質とするというのは,梅先生辺りまで遡ると,先ほど松本先生がおっしゃられたように,元々,雇用は当事者をずっと拘束するということは予定されていないというか,当事者はそういう意識がないのが通常であるとされています。現在はその前提自体が大きく変わっていますけれども,ここで賃貸借,使用貸借等が挙げられていますが,一つ考えられる要素は,ほかに当事者の属性,先ほど,これも挙げられましたけれども,交渉力格差みたいなものがここに加わってくるのかなという感じもいたします。   そうなりますと,後で出てくる事業者,消費者との関係で,交渉力格差とか情報の格差に配慮した理念規定を設けるということが,規定の振り分けに際しても影響を与えてくるかなという感じもいたします。安永委員のメモとの関係では,労働者ないし雇用に順ずる立場にある役務提供者の言わば解約の自由が制約されるという危惧がありますけれども,これは金関係官が御指摘のように,実際にはそういうことは考えにくいということになると思います。けれども,なぜ,労働者側の更新拒絶が制約されることが考えにくいかといいますと,当事者の属性,それを反映する考え方が多分,基礎にあるので,そういうものは考え難いということになるのかなと思っておりまして,この三つの,つまり,継続的契約と役務提供の関係,それから,当事者の交渉力格差が,特別法と一般法の考え方を整理する際に考慮が必要ではないかなと思った次第です。 ○深山幹事 期間の定めのない契約とは,継続的契約に限らず,そもそもどういうものなのかということに関連して,先ほど金関係官が現行法の解釈等について言及されましたが,学生時代には,期間の定めのある契約とない契約を比べると,ない契約のほうが非常に不安定で,いつ解約されても仕方がないような契約というイメージを持ちながら勉強した覚えがあるんですけれども,実務に出ていろいろな契約や取引を見てみると,必ずしもそうとばかりは言えないのかなと感じました。期間を定めるということの意味は,例えば1年であれ,3年であれ,その期間内は契約関係が確保されるという面と,そこから先は保証の限りではないという面と,当然,両面があるわけです。   それと比べて期間を定めないというのは,明日にでも解除されるということを当然に意味するわけではなくて,例えば1年というような短期間では解約されないという地位を確保したという見方だってなくはないという気がするんです。いろいろな交渉の中で,期間を定めたり,定めなかったり,定める場合にも長目の期間だったり,短目の期間だったりということが実務では行われるわけです。そういういろいろな実際の取引に照らして考えてみると,そもそも期間を定めなかったときに即時解約ができるのが原則で,極めて例外的な場合にだけ,それが制約されるという発想を採る必要はないのではないかと思います。   ここは考え方がいろいろあるのかもしれませんが,無償契約である使用貸借ですら,一定の目的が定められているときには,期間が定められなくても,目的が達成するまでは契約関係が維持される旨規定されておりますけれども,有償契約を含めて,明確な期間を定めた契約とそうでない契約を比べたときに,具体的な期間がないと直ちに契約を解約されても仕方がないという前提を採る必要はないのではないかという気がいたします。   そういう意味では,先ほど金関係官がこのように考えていたんですけれども,考えを改めるというコメントは,私から見ると改めないでいただきたいと申し上げたいところです。中井先生の御意見については,ほとんど感覚的には同じ感覚を持っているんですが,期間を定めない契約は一方当事者の解約の申出によって契約が終了するのは当然だという前提に立った上で,ただし書になっているところについては,果たしてそうなのかなという気がするところです。   少なくとも予告期間を定めないで,即日,今日で終わりということができないということについては,多分異論はないのでしょうが,一定の予告期間を定めた場合であっても,その予告期間で当然に終了するのが当事者の合理的期待に反するような場合に,期間の定めがあるときに更新拒絶が否定される例外的な場合と同じような例外の余地を認め,更に一定期間,契約期間が延びるというような規律もあり得るのかなと思います。解約申入れをした者が定めた予告期間の満了にもかかわらず,そこで終わらせたくないという契約存続を望む側の抗弁のようなものをどう規律するのかというのは,立法技術的には難しいなという気がするんですが,少なくとも期間の定めのない契約が当然に不安定で,すぐに終わる契約という発想自体は,採る必要がないということだけは申し上げたいと思います。 ○松本委員 今,深山幹事のおっしゃったことに基本的には私は賛成です。というのは,そういう契約はたくさんあるだろう。期間を定めていないけれども,実はという契約は一杯あるだろう思うんです。この後,休憩に入った後,再開後に行われる予定の「契約の解釈」というところで,正にそこの議論がなされるわけです。例えば契約の趣旨からいって,あるいは契約の目的からいって,こうなんだということが一杯あるでしょうから,その場合は当然,契約の解釈によるほうが優先すると思います。   期間の定めを契約書に書いていないからというだけで,いつでも解約できるということはないわけですが,しかし,契約の目的とか趣旨とかから必ずしも明確に導き出せないという場合にどうなるのかについて,大原則はいつでも解約できるんだということです。安定した契約をしたければ,契約にきちんと定めればいいわけなのに定めていないということは,両当事者がいつでも解約できるという権利を留保しているからなのであって,わざわざ解約できるということは書かなくても,デフォルト的には解約できるというのが大前提だから書いていないということだと思います。そうでない趣旨の黙示の特約あるいは契約の趣旨からの解釈ができれば,そちらでやる分には全く問題はないと思います。 ○山野目幹事 別な論点ですが,多数当事者型継続的契約に関して,差別的取扱いを禁ずるような堅い効果内容を定める規律は設けないという部会資料の提案には反対いたしません。しかし,中田委員が示唆をなさった,求めに応じて理由を説明する義務というような規律は,十分に考えられるところであると感じ,中田委員の意見の同調いたしますから,可能であれば,事務当局において御検討いただきたいと望みます。 ○中田委員 休憩前にすみません,期間の定めのない契約においては,原則としては終了しないという金関係官の御意見については,深山幹事も賛同されるところですけれども,そういう考え方があり得るとは思います。例えばフランスでも,だからこそ,拘束力の例外として終了させることができるという規定を置く必要があると説明する提案もあるくらいですから,そのような考え方は不可能ではないと思います。ただ,一般に言われているのは,例えば,永久契約の禁止の理念ですとか,そもそも契約制度の担いうる意味ですとか,あるいは当事者の合理的な意思を考えるということなどから,原則は予告期間を置いた上での終了を可能とするということになるのはないかと思います。深山幹事のおっしゃるような,いきなり終了させ得るというのは誰も考えていないわけでして,当然,合理的な予告期間を伴うと思います。その上で,あとの問題は松本委員がおっしゃったように,契約の解釈によってカバーできるのではないかと思います。 ○中井委員 先ほど(1)と(2)の意見を申し上げましたので,(3)以下の弁護士会意見を申し上げておきます。   (3)の「継続的契約の解除」については,若干の賛成もありましたけれども,反対のほうが多い。基本的には先ほど,これが賃貸借等で形成されてきた,信頼関係を基礎とする契約における法理を一般化するという考え方に疑問を呈する意見が多かったということです。その結果として,アについての規律は前段,後段を含めて要らないのではないかという意見が多数でした。   イの「消費者・事業者間の継続的契約の解除」については反対意見もありますが,賛成意見が多かったということです。なお,日弁連といたしましては,2006年12月14日に消費者契約法の実体法改正に関する意見書,そして,2012年2月16日には,消費者契約法日弁連改正試案を提案させていただいております。その中では,継続的契約についての中途解約権を消費者に認めるべきであるという意見を述べております。   ただ,この解約権を認めるとだけなっておりますけれども,そのときに損害賠償を一定払うのかというのは別問題だと考えておりますので,何も事業者側の利益を全て奪って,消費者が自由に解約できて何ら負担を負わないというわけではなくて,契約の拘束からは解放される。しかし,そこで一定の損害賠償は考え得る。具体的に特定商取引法でも,解約はできるが,平均的損害というのでしょうか,合理的な範囲での損害賠償は伴うものと理解されておりますので,仮にイの規律を設けても,その適用を全面的に排除する,つまり,損害賠償を全面的に排除するという趣旨までは含まないという理解で賛成する意見です。   (3)の「ウ 継続的契約の解除の効果」についてはほぼ賛成意見でした。2と3については特段の意見は出ずに,この提案でよろしいということでございました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにはよろしいでしょうか。   今回も様々な御意見を頂戴したところで,期間の定めのない継続的契約の解約申入れについては基本的な前提的認識について幾つかの考え方があるということで,その辺の考え方をどうするかということも影響するかもしれませんが,どっちからいっても結論が同じであれば,提案内容は具体的に確定できるのだろうと思います。ただし,民法の典型契約でもある使用貸借,賃貸借,雇用よりも無名契約のほうが解約申入れをしにくいという形に,今,なっているので,そういうところのバランスも,それで本当にいいのかということも,あるいは検討する必要があるのかもしれないという気がいたします。 ○中井委員 先ほど山川幹事からも御指摘があった,私のメモの最後の別段の定めがある場合について,これは弁護士会で議論したわけではなくて,私がメモを作るについて最後,この規律はどうなるんだろうという疑問を持って,取りあえずの整理として書きました。もし提案者側でここの整理があったのであれば教えていただきたいと思ったのですが,差支えがなければ。 ○金関係官 賃貸借,使用貸借,雇用等において個別の規定がある場合には,その個別の規定に従うという御趣旨であれば,同様の理解をしておりますけれども…… ○鎌田部会長 特に役務提供契約と継続的契約との関係が一番微妙なところだと思うんですが。 ○金関係官 失礼しました。その点については,今回の継続的契約の規律は,個別の契約類型の規律よりも抽象的に,継続性のある契約一般ということで規律を設けるものですので,役務提供契約という個別の契約類型の規律のほうが,一般法・特別法という言葉を使えば特別法に当たり,継続的契約の規律のほうが一般法に当たるという整理をしておりました。ですので,役務提供契約のところに契約の継続性に着目した規律があって,その規律の内容と継続的契約のところの規律の内容とが矛盾する場合には,役務提供契約のところの規律が優先的に適用されるという理解をしておりました。 ○鎌田部会長 中井委員の整理とは少し違うということになりますか。 ○金関係官 役務提供契約のところの規律よりも継続的契約のところの規律のほうが優先的に適用されるという御趣旨であれば違うということになりますが,中井委員の整理を私が正確に理解していないかもしれませんので,改めて検討したいと思います。 ○山川幹事 申し訳ありません。そうすると,仮に役務提供契約で新たな規定を作って,受領者の任意解除権を認めるとすると,継続的契約であっても,そちらの任意解除権の規定が優先されるという理解になるということでしょうか。 ○金関係官 そのような趣旨で申しました。 ○山川幹事 そうだとしますと,先ほどの私の見解では別の配慮が別個,必要になるということになろうかと思います。 ○鎌田部会長 その辺のところは,論理的に当然そうなると誰もが一致して結論を導けるかというと,そうではないように思いますので,むしろ,どういう関係に立つのかということを,はっきりと原則を検討した上で,それが条文になるのかどうかは別にして,明示的にそこの関係を整理しておかないと,人によって理解が違うというと大変混乱を引き起こすことになると思いますので,そこは検討させていただきたいと思います。 ○松本委員 何回か前の発言で中田委員がおっしゃった継続的契約という言葉を使わないで,期間概念のほうを使ったほうが適切ではないかという御意見に私は賛同したい感じがいたします。というのは,継続的契約というのが,今,一応,金関係官が整理されましたけれども,広い概念過ぎて,どれを想定するかによって同じルールについても賛否両論が当然出てくるタイプのものです。他方で,履行に期間を要するとか,一定の期間を前提とした契約,ただ,これも定めがあるかないかというのはありますけれども,そういうタイプの契約について解約がどうなんだという議論のほうが,もう少し,ニュートラルにできるのではないかと思いますので,事務当局のほうで中田委員の御提案についても御検討いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。あとは抽象的に優劣を決めるよりも,具体的に規定と規定がどことどこでぶつかっていて調整の必要があるかという,そういうところで具体的に考えていただければと思います。   後ろのほうといいますか,「2 多数当事者型継続的契約」,「3 分割履行契約」については御意見もありましたけれども,基本的にはこの提案については,余り異論はないと理解させていただきました。1の「(3)継続的契約の解除」については,ウについては異論はないと思いますけれども,ア,イについては少し御意見もあったところですので,それを踏まえて継続的に事務当局で検討を続けさせていただきたいと思います。   随分,遅くなりましたけれども,ここで休憩を取らせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 再開をさせていただきます。   部会資料49の「第1 契約の解釈」について御審議いただきます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○笹井関係官 「第1 契約の解釈」「1 契約の解釈に関する基本原則」の(1)は,典型的には,例えば契約書に記載されている条項についての理解が当事者間で一致している場合のように,契約内容について当事者間に共通の意思がある場合の契約解釈の原則を取り上げるものです。契約の解釈は,表示の客観的な意味を明らかにするものであるという見解が有力に主張されたこともありましたが,ここではこのような見解は採らず,当事者の共通の意思があるときは,契約はその共通の意思に従って解釈しなければならない旨の規定を設けることを提案するものです。   (2)は,典型的には,契約書に記載された条項について当事者の理解が異なっているなど,契約の成立は認められるものの,契約内容について当事者に共通の意思がない場合の契約解釈の基準について取り上げるものです。ここでは表示の客観的な意味のみによって契約内容を判断するのではなく,契約締結に関する事情を考慮し,この事情の下において,当該契約の当事者がどのような意味でその表示を理解したと考えるのが合理的であるかを基準として,契約を解釈するという考え方を提案しています。   (3)は,(1)と(2)によっても契約内容を確定することができない場合のいわゆる補充的契約解釈に関する規定を設けるかどうかという問題を取り上げるものです。(1)と(2)によって契約内容を確定することができない場合には,任意規定などを適用することも考えられますが,一般的な場面を想定して設けられた任意規定を適用するよりも前に,まず,当該個別の契約に即した解釈を検討すべきであることを理由に,当事者の仮定的な意思を確定することができるときは,その仮定的な意思に基づいて契約を解釈すべきであるという考え方がありますので,その当否を取り上げています。   「2 条項使用者不利の原則」では,約款及び消費者契約においては類型的に一方当事者が契約内容を決定することに鑑みて,このような契約類型に特有の解釈指針を定めるかどうかという問題を取り上げるものです。これらの契約について通常の契約解釈の手法を尽くした上で,なお,合理的と考えられる解釈が複数存在する場合には,その複数の合理的な解釈のうち,その条項を準備した当事者に不利なものを採用するという考え方の当否を取り上げています。これは複数の解釈可能性がある条項を準備した当事者が,条項の内容が確定できないことによるリスクを引き受けるのが妥当であるという考え方に基づくものです。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について一括して御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○佐成委員 まず,1についてですけれども,内部で議論した限りでは,契約の解釈に関するこういう準則を置くことに対しては,反対意見が非常に多かったということです。仮に規定を置くとしても,部会資料で示されている考え方は実務とは必ずしも一致しないと。つまり,この考え方は意思というものを非常に前面に出していますが,実務では表示の客観的な意味に基づいてプラクティスを行っているということでございます。したがって,まず,表示の客観的解釈によるということを何らかの形で明示した上で,場合によって当事者の意思というのが考慮要素として現れるというようにしてもらわないと,実務の実際の契約解釈のプラクティスとは違うのではないかということでございます。   それから,(1)の共通の意思ということですけれども,これは契約締結時の共通の意思なのか,それとも,表示の解釈自体に争いが生じた,そのような解釈時点での共通の意思なのかという点は,いずれも後になって思い返してからの処理になるため,微妙に異なり得るので,いずれなのかを明確にする必要性があると思います。それから,実務では基本的に表示に基づいて判断していますが,解釈時点,紛争時点で両当事者が最終的にそれでいいよと言ったら,共通の意思であるかどうかということや,当初にあったかどうかということをいちいち詮索するよりも,とにかくその時点で明示的に合意して,それで紛争解決したということにもなるわけですから,実務的にはそれで必要十分であって,当初の共通意思を探求することを原則とする(1)は,そういう意味でも何か紛らわしいという感じもいたします。   もちろん,表示に惑わされず,それをオーバーライトしてしまうというのは,当事者が明示的に合意すれば,そうなるのは当たり前の話なので,ここに書かれていることそれ自体がそれほど問題だという話ではないのですけれども,実務は何といっても,表示の客観的意味を重視するので,仮に(1)のような規定を設けるとしても,表示の客観的意味の重要性をしっかり規定に反映してほしいという意見でございます。 ○大島委員 2の「条項使用者不利の原則」でございますが,民法に消費者,事業者という規定を設けた場合,大企業から個人事業主までが一律に事業者とされ,実態的に個人,消費者と変わらない中小企業もこれに該当することになります。消費者,事業者という区別の必要性が情報力,交渉力の格差という点にあり,その点から消費者を保護しようとするのであれば,消費者契約法で対応すべきです。また,合理的な解釈が複数あるときは,個々の事情を勘案し,最も妥当と思われる解釈が採用されるのが実情ではないかと思います。このような場合に,条項使用者不利の原則を民法に規定することは,事業者の間の情報力の格差を考慮しない結論となり,妥当ではないと考えます。そのため,消費者契約について条項使用者不利の原則を民法の中に導入するべきではないと考えます。 ○三浦関係官 2の「条項使用者不利の原則」については,産業界から反対意見が寄せられております。意見が寄せられているのみならず,確かに中身を伺うともっともなところがあり,経産省としてもなかなか本提案は賛成し難いと考えています。反対の趣旨は部会資料の5ページの一番下から6ページにかけて,あるいは6ページの真ん中から少し下のところに書かれてある,長大な条項を作成せざるを得ないというところでございますけれども,こういった懸念があり,実務が混乱するということなのだとすれば,今回の債権法改正の趣旨から考えても,あえて,こういったルールを作るというのは本旨ではないのではないと考えております。 ○佐成委員 三浦関係官が今,経済界の意見を代弁していただいたようなのですけれども,2のところについて意見を述べさせていただきます。2のところは今,三浦関係官も御指摘いただいたようなところと,それから,明文化することによって安易な援用につながるのではないかといった懸念が表明されておりました。   私が申し上げたいところは2点ございます。一つは,補足説明の6ページの上から3行目のところに,「この準則を援用する裁判例もあり」と書かれてあるんですけれども,一読のときもこの裁判例の具体的な例が資料に示されておりませんで,これまでずっと来ております。私の検索の仕方が不十分だったのか,一体,どういう裁判例を想定しているのかというのが具体的に私には確認できなかったんですね。それで今回も改めて,判例検索をやってみたんですが,ヒットせずでした。私もこれに一概に反対しているというわけではなくて,今後の議論のためにも勉強したいと思いますので,もし具体例を教えていただければ更に検討したいと思いますので,そこは明示していただくことをよろしくお願いしたいということが一つございます。   それから,もう一つは,この条項使用者不利の原則の位置付けに関してなんですけれども,この提案は一読のときの議論を踏まえて,要するに全ての解釈方法が尽きたところで初めて現れるというような御説明になっているかと思うんです。けれども,内部で議論していた中で,国際取引を多くやられている方からの意見では,この解釈準則というのは確かにあり得るんだけれども,実際に様々,並列的に存在する解釈準則の一つで,ワン・オブ・ゼムにすぎないのではないのかという御指摘がございました。つまり,飽くまで並列的,選択的に適用される解釈準則の一つにすぎないのであって,言わば「リーサルウエポン」として最後に登場するという位置付けというのは,必ずしもそういうわけではないのではないかというような指摘があったので,一応,御紹介をさせていただきたいと思います。   ですから,ここの提案は確かにこうなっていますけれども,国際的に見てみると,こういう解釈もあります,ああいう解釈もあります,という中で,解釈者がどれを採るかという選択肢だけの話であって,最終兵器としてこれを出してくるという位置付けが本当に世界的に共通するような一般的な考え方なのかというのは,かなり疑問があるのではないかというのが,国際取引をやっている実務家から出ておりましたので,報告させていただきます。 ○高須幹事 まず,1の「基本原則」のところでございますが,まず,どのような表示がなされるか,端的に言えば,契約書にどう書いてあるか,これがまず最初の出発点になるというのは,私どもも仕事をしておって,もちろん,それを見て判断をするということでございますから,そこはそのとおりだと思うのですが,ここで言われている原則である契約の解釈に関する基本原則,つまり,解釈の必要性ということを考えたときに,何をよって立つ原則とすべきかということが結局,問われているのだと思います。   そうなりますと,書かれている内容からまず表示から手掛かりとして内容を考えていくのは当たり前として,その場合の解釈の中には当事者の意思というものが大事だということを結局,ガイダンスするというか,そういう意味での基本原則が役に立つのではないか。我々も争いになった事件の相談を受けて,要するにお互いの意見が違う,契約書の読み方が違うという場面の中において,あなたは,一体,何をしようとしたのか,あるいは相手方との間でどういう話合いをしたのかというようなことを質問しながら,本来,この契約関係はこう理解すべきだという考え方を構築していくわけでございますので,解釈に関する基本原則という意味では,(1)(2)(3),個別にはそれぞれ弁護士会も賛成とか,少し疑問とかもあるんですけれども,要するに意思というものを大事にするという考え方は,一つあってもいいのではないかと思います。   それから,2のほうの「条項使用者不利の原則」のところで,事業者というのが一くくりにされてしまって,不利な扱いを受けるということについてどうかという御指摘は確かにもっともだと思います。そこでの解決方法を,そこで全ての事業者を外へ出してしまうということも一つかもしれないのですが,場合によると事業者の中にも中小零細の事業者のような場合に,消費者的な保護のようなことを一部,考えていくというような発想もあってもいいのではないかということで,中小零細の事業者の保護という観点からの別な考え方といいますか,それだけをくくり出すという余地もあってもいいのではないかなと思います。そのようなことも考えますと,2について一律に事業者を入れてしまうから妥当性がないのではないかとは,必ずしも考えなくてもいいのではないか思います。   私の意見が先になってしまいましたが,一応,弁護士会としては,ここについてですが,1の「契約の解釈に関する基本原則」のところの(1)は,基本的に賛成という意見が多うございます。バックアップ委員会の意見ですが,特に反対しないという表現もありますけれども,基本的には賛成という意見が多うございます。(2)についても基本的には賛成ということでございますが,一部,反対意見があるということで,あるいはまた,御指摘があるかもしれません。(3)については少し意見が分かれて,反対という意見があり,ただ,賛成のほうがやや多いですかね,微妙なところ,五分五分ぐらいかもしれませんが,そのような状況でございます。   それから,「条項使用者不利の原則」については,基本的には賛成ということで賛成意見が大半を占めているということでございます。 ○山野目幹事 1の(3)と2について意見を述べさせていただきます。   1の(3)のほうでございますが,笹井関係官の御説明にもあったように,この規定を設けることについて,どのような有用性があるか,仮定的意思を事後的に斟酌することの問題性というような観点からの検討も必要でありますし,理論的な面から見て,法律行為の内容が不確定な場合には,その法律行為は無効である,と従来において言われてきたこととの関係がどのように整理されるか,ということについても検討しなければならず,それこれを考えますと1の(3)の規律を置くことが本当によいのかということについては疑問を感ずるものでございますから,なお御検討を頂ければとお願いします。   2のほうの「条項使用者不利の原則」について,大きく分けて二つのことを述べさせていただきます。まず,この原則の性質理解の問題ですけれども,これも笹井関係官の御説明にあったように,事業者の利益も考慮した合理的に成立可能な解釈が複数ある場合に,その中から選ぶときには相対的に見て,事業者に不利な解釈を採用するという契約解釈の準則,言い換えますと解釈の要素の一つを示したものであると私は理解しております。佐成委員のほうから,最終兵器ではないであろうというお話がありましたけれども,私が理解していないのかもしれませんが,笹井関係官ないし部会資料のほうも別に最終兵器であるとおっしゃっているものではなく,そこのところは,それほどそれぞれの御議論が違う,対立したことをおっしゃっているのか,ということは疑問に感じました。一つの解釈上の指針というか,要素として理解されるものであれば,是非,採用していただきたいということが1点目です。   もう1点は,この原則を前向きに考えるときの法制上の表現の在り方ですけれども,条項使用者不利の原則というのは講学上,築き上げられてきた学問上の用語法でありまして,多分,法制上,これが採用されるときに見出しが条項使用者不利の原則になったり,法文が,なるべく事業者に不利なように解釈せよ,という何か事業者をいじめ尽くしてやろうというようなサディスティックな,そういう表現になったりするということは考えられないというか,そういうものであるべきではないであろうと考えます。例えば約款の条項の解釈に不明確がある場合には,条項使用者の相手方の利益も十分にしんしゃくして解釈されなければならないとか,条項使用者の相手方の利益が尊重されなければならないとか,そういうエレガントな表現を恐らく立案の際には選んでいただくことができるものと感じます。   それから,配列の面でも1のほうの規定が置かれないということに場合によってはなったときには,2の置き場所に困るな,とかいうような理由で,何か,消えてしまいそうな気もして心配ですが,約款のところとか,不当条項規制のところに置いていただくということも,配列としてはあり得ることですから,御検討いただきたいと望みます。   なお,1点,補足しますけれども,先ほど,何でもかんでも不利なように解釈するぞというような理解ではないであろうということを申し上げましたが,従来の裁判例で用いられたときにも,それは何かあからさまで露骨に事業者を不利に扱ってやろうというような書き方をしている裁判例はないと思われます。しかし,実質は条項使用者不利の原則の哲学に立って問題処理をした裁判例というものはあるものであろうと感じておりまして,国民生活センターのパイオネットの裁判例などを検索していただくと,その中から見いだしていただくことは,今,手元にその資料がありませんけれども,可能であるとも感じておりますから,なお調査をしていただくことは考えられると感じます。 ○佐成委員 先ほど「リーサルウエポン」と形容したのは,一読のときの議論を踏まえてのものでございます。つまり,一読のときに私がそもそもこの条項使用者不利の原則というは,リスク分配の仕方として不合理な基準であるということを表明しましたら,これには有用性がある,というのは,いろいろな解釈があって決着がつかないときに働くという有用性があるという反論がございました。私は,解釈指針として既にいろいろあるから,それで十分ではないか,任意規定,あるいは慣習なり,条理なりで十分ではないかと発言しましたら,そうではなくて,「リーサルウエポン」として働くんだよというような御趣旨の御指摘を頂いたものですから,それに対する反論として,国際取引の場面ではそのような理解は一般的ではないのではないかという趣旨であえて申し上げたということでございます。ですから,山野目幹事と同じようなワン・オブ・ゼムの解釈指針なので,あえて入れる必要はないのではないかということを重ねてまた申し上げたいということでございます。 ○鹿野幹事 1の(3)のところについて2点,申し上げたいと思います。(3)のところが,いわゆる補充的解釈の考え方を示したものであって,契約の欠缺は直ちに任意規定による補充されるのではなく,むしろ,契約の趣旨・目的に従って補充がなされるべきだという趣旨で書かれているのだとすると,その限りでは反対はなく,むしろ賛成です。ただ,この資料の説明を拝見しますと,3ページの下のほうに,(3)については「当事者が合意していなかった事項がある場合や,何らかの合意はあるが,その合理的な解釈可能性が複数あるためにいずれを採用すべきかを確定することができない場合」などにおける契約解釈の基準を取り上げたものだと書かれているのですが,ここに例示されたこの二つを同じように捉えることができるのかということについて,私には疑問があります。   つまり,当事者が,ある点について,この場合はこうだと決めていたのだけれども,字義的に多義性があるなど複数の解釈可能性があるという場合は,必ずしも契約に欠缺があるという場合ではありません。むしろ,多義的で複数の解釈可能性がある場合,とりわけ当事者が異なる理解を主張しているような場合に,その複数の中からどれを選択するのかは,ほとんどの場合,1ページの(2)の基準によって確定されるのではないか。つまり,合理的に考えればどう理解したものと認められるかが基準となるのであり,ただその場合に,その合理性の判断において契約全体の趣旨・目的というところなども考慮されるでしょうが,そのような問題なのではないかと思いました。その点が第1点です。   それから,第2点は,もう一つのおよそある事項について当事者が合意していなかったという場合についてです。これが正に契約の欠缺がある場合であって,補充的解釈が問題になる典型的な場合だと思うのですけれども,(1)と(2)が問題となる場合と,(3)の補充的解釈が問題となる場合とでは,若干,広さが違うのではないかと思います。つまり,補充的解釈というのは飽くまでも,中心的なことについては当事者に合意があり,しかし,ある事態が生じたときにおける解決基準など中心以外の点について当事者は決めてはいなかったという場面において問題となる解釈準則なのではないかと思います。この1ページの書き方ですが,(1)(2)(3)と並べられると,何か,それが同列のようにも見えてしまうので,その点に御配慮いただければと思います。 ○山本(敬)幹事 1の「契約の解釈に関する基本原則」について意見を述べたいと思います。以前の部会でも申し上げたことですけれども,若干,繰り返しになりますが,少しお時間を頂ければと思います。   まず,(1)で,当事者の共通の意思に従って解釈しなければならない旨の規定を設けるものとしてはどうかという点については,高須幹事が御指摘されていましたように,共通の意思があると言えるのであれば,それに従って解釈することは,契約制度の本来の趣旨から出てくることであって,これを否定することはできないのではないかと思います。先ほど,佐成委員の御発言がありましたけれども,共通の意思が確定できる場合にまで,なお表示の客観的意味によらなければならないのだと,そこまでおっしゃっているわけではないだろうと思います。その意味では(1)が原則であるということは,認めておられるのではないかと思います。   次の(2)に,表示の客観的意味とは違う書き方にはなっていますけれども,当該契約に関する一切の事情を考慮して,その事情の下において当該契約の当事者が合理的に考えれば理解したと認められる意味に従って解釈すると提案されています。ただ,共通の意思が確定できる場合には,これによるのではなく,(1)によるのであるということが確認されれば,懸念されているような問題は出てこないのではないかと思います。   (3)については,先ほど鹿野幹事がおっしゃってくださいましたけれども,想定しているのは,契約に欠缺がある場合であって,何もなければ任意規定,あるいは慣習があれば慣習によって,その部分が埋められるという場面です。ただ,任意規定や慣習は典型的な場面を想定しているものであって,当該契約の趣旨に必ずしも合致しないことがしばしばある。そのような場合に,契約の趣旨に従ってその部分を埋めるのが(3)の基にある考え方です。これも先ほど言いましたように,契約制度の趣旨は,当事者が自分たちの法律関係を自分たちによって形成するところにあるということからしますと,当該契約の趣旨からその部分が埋められるのであれば,それによることが制度の趣旨から出てくるのではないかと思います。その意味では,(3)も当然のこととして規定すべきではないかと思います。   これは,この書き方だけを見ていると,すぐ思い浮かばないのかもしれませんけれども,現実には非常にしばしばやっていることです。当事者が特に何も定めていない。しかし,当該契約をした目的からすると,この部分はこうでないと,この目的を実現できない。あるいは,様々な契約条項を当事者自身が定めているときに,この契約条項そのものには当てはまらないけれども,その契約条項の趣旨からすると,言わば類推して,この場面についてはこれによるべきである。このような操作をするときは,全て(3)の適用としていることであると,(3)から見れば言えると思います。   例えば,売買契約の目的物に,契約上想定していない瑕疵があったという場合について,特にその場合にどうするかということを何も定めていないときには,現行法によりますと570条が適用されるわけですけれども,当事者が契約をした趣旨,例えば契約した売買代金が特に低く設定されているなどの事情からすると,この程度の瑕疵であるならば,買主側が売主に対して損害賠償請求等はできないということが契約の趣旨から出てくる場合がある。あるいは,賃貸借契約でも,ごく短期間,自分が使わない間にごく安い賃料で貸すという場合に,通常の使用の範囲内で瑕疵に当たるものが出てきたときに,606条によれば貸主が修繕義務を負う。しかし,契約の趣旨からすると,この程度の軽微な瑕疵であれば,賃借人の側が負担すべきであるということが出てくる。このようなものが想定されていると考えれば,違和感なく,通常行っている解釈操作ではないかということがお分かりいただけると思います。   外国の例では,例えば,違う場所でそれぞれ診療所を開業している医者がお互いに診療所を交換する。つまり,自分が他方のほうの場所へ移って,そこで診療所を経営する。相手方も同様にするという契約をしたのに,わずか数箇月ほどして,契約をした一方当事者が元のところに戻ってきてしまった。このような場合について,契約では何も定めていないけれども,このような短期間で元のところへ戻ってこられますと,顧客を奪われることになりますので,交換をした趣旨が実現できない。当該契約の目的からすると,少なくとも相当期間は元へ戻ってきて競業行為に当たるようなことをしないということが出てくると認めた。これが補充的解釈を認めた判例として有名なものなのですが,このような形で,契約自体には定めがないけれども,この契約をした趣旨・目的からすると,こう考えるしかないというような形での解釈操作が必要になってくる。これが,山野目幹事の御指摘に対するお答えということになります。   (1)(2)しか書かず,(3)に当たるものを何も書かないと,この問題についてどう考えるかということが結局,抜け落ちることになります。考えようによっては,契約に定めがなければ,任意規定や慣習がそのまま適用されるとされて終わる。そのような解釈もあるかもしれませんが,そうした疑義は残すべきではない。特に今回の改正では,契約の趣旨を尊重するという考え方に従って,様々な場面で提案が行われています。(3)は,それをサポートする非常に重要なルールだと思いますので,必ず定めるべきではないかと思います。   少し長くなりました上に,少し熱く語りすぎてしまったかもしれませんけれども,どうか御容赦いただければと思います。 ○沖野幹事 順番が逆ですけれども,2のほうの「条項使用者不利の原則」について佐成委員から問題提起がされまして,私が以前に関連したことを申し上げたようにも思いますので,その点を釈明したいと思います。リーサルウエポンという表現をしたことはないのですけれども。条項の解釈や契約の解釈について,各種の準則を置いているという立法例は割合に見られるところです。例えば,全体を見て解釈すべきだとか,いくつかの準則が置かれており,そして確かに,そういう各種の解釈準則の関係が必ずしもはっきりしないランダムとも見える形で置かれていて,その関係自体が議論になるというようなこともあるわけで,そういう中に,この不明瞭解釈準則が入っているということも,少なからずあると思います。   ただ,問題はこの準則がどういう前提の下に働くかということで,例えば全体を見て解釈する,一つのものに捉われずに整合的に解釈すべきだというような準則と,作成者不利なり,これもいろいろですけれども,消費者との関係で事業者不利なりといった準則とがあるときに全く並列に位置づけられるのか,かつ,字義からいろいろな可能性がある中で,まず,消費者有利な意味が採用されるべきだという形で出てくるのかというと,そうではなくて,多義性が残る場合に,その多義的な解釈のうち,一体,どちらを採るかという場合の基準として,そのように多義性が残るという前提のもとで発動する解釈準則であり,先ほど出した例ですと全体を見て解釈すべきだとか,この条項だけはこうなっているけれども,しかし,趣旨としてはこういうことだろうということでその意味が一つに決まるのであれば,それはもう,その意味になるのであって,そのような意味で,合理的な解釈手法といいますか,1の(1)を踏まえてほかの書かれない準則というのがあると思いますけれども,そういったものも踏まえて選択肢が絞られた中でのどちらに不利かという決定だという意味で,その意味では最終的というか,なお多義性が残る場合に発動するという前提なのであって,およそ最初から消費者有利とか,約款の相手方に有利なものだけを並べて,そちらを採るという解釈準則ではないことを確認したいと思います。   以上は釈明ですが,したがいまして,だからこそ,そう簡単に幾らでも働くということではないはずで,裁判例ですけれども,数は少なく,端的にこれによった例が1件あったと思います。数が多くはないのは,ある意味,このような準則の性格上当たり前といえば当たり前のところもありますので,その意味でも御懸念には及ばないのではないかという気もいたします。   それから,今度は1の「契約の解釈に関する基本原則」です。山本幹事がおっしゃいまして,鹿野幹事も趣旨としてはそうおっしゃったのではないかと思いますけれども,ここで書かれていること自体は決して何か特別なことというのではなく,契約はまず当事者の合意なのですから,何が合意されたかということを探求すべきだし,何よりも両当事者間においてどのような法律関係になるかを決するものなのだから,当事者が考えていなかった空白があったときには,まず,慣習とか任意規定というよりも,当事者はどういうような趣旨であったのかということを考えるのだというもので,その考え方においては異質なことではないというか,契約とはそういうものだということを契約の解釈の場面で書いているということではないのかと思います。   (3)について問題があるとすると,一つは例えば仮定的当事者意思というと,何か非常に特殊なことをやっているようだという感じがいたしますけれども,山本幹事も鹿野幹事も契約の趣旨や目的に照らして,と言われており,この契約ならばどういうことだったろうかを考えていく,そういうことを言っているんだということであれば,むしろ,普通にやっていることではないかと思います。条項にあるAという事項が書いてあって,Bという事項には書いていないけれども,Aについてのこの条項があるということは,Bについてもこういう趣旨と考えるべきではないのかというような判断の仕方だと思いますので,それを明らかにしてはどうかというのが(3)であり,そして,今,言ったようなものをどのように書けるかという点について,仮定的にあったとすればと書くと問題であるならば,契約の趣旨とか目的とかに照らしてという定式もできるかと思いますが,主眼は,当然に類型的な基準によるわけではないという点にあり,そういう意味のものだと思います。   ただ,(3)が更に分かりにくいのは,補足説明の3ページの4のところで,場面として当事者が合意してなかった事項がある場合にどうかというのは分かりやすいのですけれども,何らかの合意はあるけれども,合理的な解釈可能性が複数あるために,いずれを採用すべきかを確定することができない場合というのが挙げられており,何か合意はしているんだけれども,その意味が一体どちらなのかというこの場合というのは非常に分かりにくくて,つまり,この場合は何らかの合意をしているのですから,当事者はどういう合意をしたのかということを正に確定するのが最初で,それでも決まらないときに当事者が合意していたとしたらどうだろうかを探るという,そういう発動の仕方は考えられないので,この場面を入れてくると,一体,これは何の準則なのかということが問題となってきて,その場面設定の説明においてやや疑義というか,混乱を生じるのではないかと思います。その場面をもう少し明確に説明すれば,より分かりやすいのではないだろうかと思います。 ○大村幹事 私も今の沖野幹事の意見に同調いたします。第1の1の(1)(2)(3),このうち(3)については若干,留保したいところがありますが,全体として,この考え方でよろしいのではないかと思っております。留保したいと申し上げた点いうのは,沖野幹事が仮定的契約意思という言葉を使われましたけれども,補充的契約解釈をどの程度まで行うかということついては基本的な契約観によって考え方の分かれるところなのではないかと思います。ただ,先ほど山本幹事が,こう考えるしかないという例を挙げられた,その限度であれば,おっしゃるような解釈がされるということは十分にあり得ることだろうと思います。   資料の文言でいいますと,「合意したと考えられる内容を確定することができるとき」と書かれておりますので,補充的な解釈によって確定することができない場合にまで,この方法を使おうというわけではないという了解の下に,(1)(2)(3)という考え方でいくということについては原則として同意いたします。その上で,ここからが先ほど沖野幹事に同調すると申し上げた点になりますが,説明のほうを少し工夫ないし整理をしていただいて,誤解が生じないようにしていただくことが望ましいのではないかと思います。   (3)と(1)について申し上げますが,(3)について山野目幹事がおっしゃった契約内容を確定することができない場合と,法律行為の目的の確定性というものについて整理が必要なのではないかと思います。その点を整理をして,契約内容の不確定により契約自体が成り立たないという場合ではないということを前提にして,その先に補充をする場合が出てくる。逆に言えば,補充をするときには,先ほど申し上げたように内容を確定することができることが前提になっている。この順序を説明の中に分かりやすく書いていただきたいというのが(3)についてです。   それから,(1)について佐成委員のほうから最初に反対だという御発言がありましたけれども,山本幹事がおっしゃったのと全く同じことを繰り返すことになりますが,当事者の共通の意思があるときに,契約書の客観的な意味がそれと違っているという場合恐らく佐成委員も,違っているほうの意味でやってほしいとお考えになってはいないだろうと思います。そういう場面を念頭に置いて,このルールが意味を持つということを書いたほうがよいと思うのです。これは高須幹事がおっしゃったことですけれども,契約書は決して軽視されているわけではなくて,契約書があるということはもちろん前提になるのだけれども,契約書に書かれていることの客観的意味と,当事者の共通の意思とがくい違うときに,当事者が予想していなかったような意味,客観的意味が契約内容とされてしまうことはない。そういうことなのだということが分かるように,御説明を頂きたいということでございます。 ○岡田委員 この解釈のところで,(1)(2),この辺は消費生活センターでふだんやっているところです。ただ,(3)に関しては,どうも具体的なイメージが補足説明を読んでも,私は湧きませんでした。先ほど,山本敬三幹事のお話を聞いていて,かなり具体的な理解ができたように思いますし,ここも使えるなというふうな感じを受けましたので,いろいろ出ていますけれども,(3)の文章からはどうも私たちは引いてしまう感がありますので是非,先ほどの山本敬三幹事の説明のような解釈ができるような文にしていただきたいと思います。   条項使用者不利の原則というのは,後ろの比較法を見ますとドイツでは1976年にできたというので,そんな昔にできたのを何で今,我が国の民法に入れられないのかなというのが歯がゆい感じがするのですが,ただ,私は消費者に限定するのではなくて,当初から申し上げています消費者に限りなく近いような劣位にある事業者も含めて,沖野幹事や山本幹事の御説明のような形で,是非,これも入れていただきたいなと思います。 ○山本(敬)幹事 作成者不利の原則は,1976年どころか,フランス民法や旧民法にも規定があったところでして,もっと古いものであるということだけ,一言,付け加えておきます。  それはともかくとしまして,申し上げたかったことは,先ほど大村幹事がほぼおっしゃってくださいました。特に3ページの下のほうの,何らかの合意はあるけれども,その合理的な解釈可能性が複数あるために,いずれを採用すべきかを確定することができない場合が,補充的解釈の例として,従来,挙げられていたかというと,私は挙げられていなかったのではないかと思います。しかも,契約の本体部分についてこのような事態が生じますと,契約内容が文字どおり確定できないわけであって,山野目幹事がおっしゃっている不確定性のゆえに無効と言われていたケースに当たりますので,それが余計に整理を要するという疑義を呼んだのではないかと思います。したがって,この部分は少なくとももう一度,整理し直していただければと思います。   そして,(3)の規定の書き方がこれでよいかという点については,何人もの方から指摘がありましたけれども,ここで書かれていることがどのような意味を持つかといいますと,当事者がそのことを知っていれば合意したと考えられる内容とは,正にこの契約をしたこの当事者が,つまり,このような目的で契約をしたこの当事者が,あるいは,このような条項を定めたこの当事者がこの部分を定めていないことを知っていれば,きっとこう定めたであろう。当該条項からすると,これが類推されるときに,それを知っていれば,この当事者ならばこう定めたはずである。この目的で契約したのだから,この目的を実現するように,この部分をこう定めたはずである。こういったことを書き表そうとしたルールであり,基準であるということです。   それが分かると,多少はイメージが湧きやすくなってくるのではないかと思いますが,卒然と読むだけでは,すぐには理解できない可能性が,今,お話を伺っているとあるのかもしれないと思いました。当たり前すぎると思いすぎていたのかもしれませんけれども,その辺りは,説明を更に積み重ねて理解を得る努力をすべきではないかと思った次第です。 ○中井委員 1の(1)(2)(3)について拝見し,補足説明も読みながら,実は岡田委員と同様,よく分からないなと思いながら,今日,臨みました。山本敬三幹事ほか,研究者の皆さんの御発言を聞いて,なるほど,そうかと私たちが日頃,やっていることの作業の確認であるなということを,改めてここで確認できたと思います。そういう意味で,弁護士会の意見もそうですけれども,従来,民法にこういう解釈に関する基本原則の定めがありませんでしたが,これが整理できるのであれば,また,今,おっしゃっていただいた内容であれば,私としては同意できる事柄ですので,それを明文化することに賛成したいと思います。   ただ,正直に言って,ここのゴチック体の文字は極めて分かりにくいと思います。後ろに比較法資料が付いておりますので,その関係で教えていただきたいと思いますし,若しくは条文化するに際して検討していただくことなのかもしれませんが,まず(1)の原則,当事者の共通の意思に従って解釈しなければならない。これは大原則ですけれども,フランス民法やDCFR,ヨーロッパ契約法原則は,洗練さはないのかもしれませんが,当事者の共通の意思に従って解釈されなければならないという前に,例えばヨーロッパ契約法原則であれば,「文字の字義と異なるときであっても」とか,フランス民法改正草案であれば,「条項の文言どおりの意味に基づいて言うよりもむしろ」とか,DCFRⅡ-8:101であれば,「それが文言の言葉上の意味と異なる場合であっても」と,こういう言葉が付けられております。私の俳句説に立てば美しくはないんですが,非常に分かりやすいという意味で,工夫があればいいなと感じました。   また,(2)がヨーロッパ法との関係でどれとぴったりマッチするのか,教えていただきたいと思うのですけれども,例えばヨーロッパ契約法原則の101条の(3)「契約は,両当事者と同種の合理的な者であれば同じ状況の下で与えられるであろう意味に従って解釈されなければならない」,前半は読みませんでしたけれども,この意味だとすれば,ここでは両当事者と同種の合理的な者がそのような状況の中で考えたものという規定ぶりになっておりますけれども,先ほどから,山本敬三幹事の御発言などを聞いていると,同じ契約をした当事者その者がその場で合理的に考えるとも聞こえたといいますか,そのようにおっしゃっているように思います。ここで書いている両当事者と同種の合理的な者,同じレベルでの平均人的な発想が,ここには交じり込んでいるのかなという気がしますが,そこは余り細かな話過ぎるのかもしれませんけれども,違うのか,同じなのか。   この条項が,ヨーロッパ法を表現しているものなのか,例えばフランス民法のテレ草案の136条2項,当事者の共通の意図を見付け出すことができないとき,契約は,同様の状況に置かれた合理人が与えるであろう意味に基づいて解釈される。この表現と理解したらいいのか,この辺りを教えていただきたい。   そうだとしたときに,(3)の補充規定に関する定めですが,ざっと見ただけで,きちっと読めていないのかもしれませんが,最後のユニドロワの第4.8条に条項の欠缺とその補充ということが明文で設けられていますが,それ以外,フランス法で,これに当たるものがあるすればどういう表現になっているのか,当たるものがこの条文なのだというならば,それがどのように表現されているのか,教えていていただければ有り難いと思います。 ○山本(敬)幹事 まず,(2)の規定の現在の提案が,先ほど御指摘されたヨーロッパ契約法原則の,部会資料の後ろのほうの資料6ページの一番上の5:101の(3)と似ているようで,少し違うのではないかという御指摘だったと思いますが,私は,似ている部分があるけれども,違うという御指摘は全くそのとおりだと思います。当該当事者を基準にするのか,それとも,そうではなくて同種の合理人を基準にするのかということが,この解釈に関する争いのポイントの一つでして,部会資料で提案されているのは,当該当事者を出発点とすべきであるという考え方です。これは,(1)や(3)と共通した考え方に基づきます。   ただ,当該当事者を出発点とするのだけれども,当該当事者の主観をそのまま基準として採用するのかというと,そうではなく,当該当事者から見て,しかし,合理的にどう解釈すべきだったのかという基準を入れる点では,かなり共通しています。しかし,先ほど言いましたように,出発点としては,平均人あるいは合理人からスタートするのではなく,飽くまでも当該当事者から出発すべきであるという考え方によるものと理解すべきだと思います。   (3)については,御指摘されていたのはユニドロワ原則で,資料の8ページの第4.8に,欠缺とその補充という規定があります。そのうち,(2)で,補充のときに何を考慮するかというところで,当事者の意思や契約の性質,目的が入っているのが,先ほどの(3)の提案に対応している部分ではないかと思います。ただ,ユニドロワ原則の第4.8は,それだけでなく,(2)の(c)や(d)が挙がっているところからすると,客観的な基準による補充も併せてここに入っていると読むことができそうです。その中で,当該契約の趣旨に照らしてという基準を切り出しているのが,(3)の提案の特徴だと思います。   補充的解釈について,これを契約制度の趣旨から認め,判例・通説を含めて広範に展開しているのは,むしろドイツ法です。ただ,ドイツ民法にそのような補充的解釈を直接定めた規定があるかというと,ありません。あるのは157条という総則の規定なのですが,それによると,契約の解釈について,取引慣行を考慮し信義誠実に従って解釈しなければならないと定められています。では,信義誠実に従ってどう解釈しなければならないかという点について,契約制度の趣旨に照らして解釈するという考え方が判例・学説によって展開されてきて,現在,ほぼ確立していると考えられます。  もちろん,ドイツでも,学説レベルでは細部について対立があるわけですけれども,(3)の提案は,そのほぼ通説的なあるいは判例に従った考え方におおむね対応した提案になっているというのが,比較法的に見たときの位置づけです。しかし,その点は差し当たり置くとして,最初にも申し上げましたように,契約の制度の趣旨からすると,おのずと出てくることが提案されていると私は理解していますし,それは,先ほど沖野幹事が冷静に御指摘されていたとおりではないかと思います。 ○鎌田部会長 (2)に関しては誰を基準,あるいはどういう基準に基づいてという部分があるのと同時に,どういう場面でこの原則が持ち出されるのかということと二つあって,後者のほうについては「当事者の共通の意思がないとき」と書いてありますけれども,これは契約条項に定めがあるけれども,その意味についての両当事者の理解が一致していないときということですね。何にも定めていないときの欠缺の補充だと(3)になってしまいますから,(2)は複数の意味付けのあるときという意味で,フランス民法でいえば,1157条とか1158条的な場面を想定していると理解していいですね。 ○笹井関係官 そのとおりだと思います。 ○佐成委員 (2)についてですが,3ページの補足説明のところにも書いてありますけれども,錯誤との関係が当然,問題になり得るということでございます。つまり,今,部会長がおっしゃっておられたところもありますが,錯誤が必ず問題になり得ます。要するに,表示は合致しているが,ただ,両当事者がそれに与える意味が一致していないという場面ですから,解釈でどちらかに軍配を上げる,あるいは全く違う第三の解釈になるという場面だということです。いずれになったとしても,錯誤が一応問題になり得る状況であるという点は,変わりません。ですから,この解釈準則を入れることによって錯誤が必ず問題になり得るというところだけは,国民一般に分かりやすくするという意味で,そういったところも手厚く説明していかれる必要があるのではないかということだけ指摘したいと思います。 ○岡崎幹事 「契約の解釈に関する基本原則」に関してですけれども,契約の解釈として当事者の表示行為の意味内容が問題になる事件について,従来の裁判実務がどのようなアプローチをしてきたかを振り返ってみますと,まずは当事者の意思からアプローチするというよりは,表示行為の客観的な意味からアプローチする場合が多かったのではないかと思います。裁判になるような事件では,当事者の表示行為の意味内容が明確でない場合が多いわけですけれども,まずは,認定が比較的容易な表示行為の客観的意味からアプローチして,当事者の内心の意思がそこから逸脱していたときには,別途,錯誤や虚偽表示という形で,言わば契約の成立の問題から切り離して外出しにして,改めて主張立証をしていただいて,その上で処理をしてきたのではないかと思います。   中間論点整理に対する裁判所のパブコメの結果を見ましても,今回の(1)から(3)の提案内容に対しては,懸念を表明する意見が多数を占めておりまして,これは,当事者の意思が前面に出過ぎることに対する漠然とした不安感の表れなのではないかと思います。先ほど来,山本敬三幹事や大村幹事から,非常に説得力のあるお話があり,その点はその点として理解できますけれども,こういう規定が今までの裁判実務に修正を加えることになるのかどうかについて,不安感があるということだと思います。   例えば,ある不動産を100万ドルで売買するという契約書が存在しているけれども,売主も買主も100万円で売買するつもりだったというケースを想定しますと,今回の提案を踏まえますと,100万円の売買契約が成立したということになりそうです。その場合,契約書の存在を認識して,売主の債権者が売買代金の差押えを掛けたときに,つまり,善意の第三者が入ってきた場合に,差押債権者に不測の損害が生ずることはないのかという問題が考えられます。   あるいは虚偽表示の意味が従来の解釈とは変わってくるのではないかと思います。従来ですと,仮装した合意があり,その裏に真の合意があるという二段構えで考えられていましたけれども,今回の(1)の提案を踏まえた場合には,仮装した合意は考えなくてもよく,真の合意について意思が一致しているわけですから,それだけを考えればよくなるのではないかと思います。その場合,裁判の実務の中で,例えば,売主が代金を200万円とする仮装の契約書に基づいて,請求原因として200万円の売買代金を請求したときに,実はそれは仮装であって本当の代金は100万円だったという場合,買主は,従来は虚偽表示を抗弁として主張してきましたけれども,今後は,積極否認をして200万円の売買契約を否認して,代金は100万円であったと主張するという形で,請求原因レベルで勝負をしていくことになるのではないかと思います。今後はそうしていくというのであれば,それはそれで構わないのかもしれませんけれども,第三者が出てきたとき,例えば200万円の売買代金を差し押さえた差押債権者が出てきたときに,その保護はどうなるのでしょうか。現在であれば,考えられるのは,94条2項の適用ですが,同項は,意思表示の無効について善意かどうかを問題にしているところ,今回の提案を踏まえた場合には,意思表示の無効が出てこないことになりますので,94条2項を適用することができるのかが今一つよく理解できません。こういった点が先ほど申し上げたような漠然とした不安感につながって,それで,消極的な意見が強くなっていると思っております。 ○道垣内幹事 細かいところを突っ込むようで申し訳ないのですけれども,代価が「100万ドル」と記載された契約書があったときに,その後,その契約書の外で100万円だったよねと合意をすれば,100万円を代価とする合意が成立するわけですよね。しかるに,その契約書の文言を信じた人これまで94条2項で保護されてきたんですか。それは94条2項の問題ではないのではないかと思うのでして,私には挙げられた例がよく分かりません。  そこで,もう少し本道に戻ってお話をいたしますと,最初に岡崎幹事のおっしゃった表示の客観的意味というものに従って解釈をするということですが,目的物を「犬」と書いてある契約書がある場合,誰も「犬」という言葉を「猫」の意味では普通は使っていない。同じく,「100万ドル」という言葉を「100万円」の意味では使っていない。したがって,「100万ドル」と書いてあれば,その意味は100万ドルであるというところが出発点になるというのは当たり前の話だと思います。しかるに,両当事者が100万円と合意していたのに,しかしながら契約書においては「100万ドル」と書いてしまったというときに,一方当事者がその書き間違えを奇貨として,「100万ドルである」と主張してきたのですが,しかし,裁判所から見ると,両当事者が100万円で合意をしたということが明らかであるというときには,それを錯誤の問題として処理をするのか,それとも,100万円の売買契約の成立として処理をするのかという問題があります。しかるに,そのとき,私は現在の裁判実務においても100万円の売買契約として処理をしているのではないかと理解をしているのですが,それは違うのでしょうか。違わないとするならば,別段,1の(1)とかということが,何か裁判実務を大幅に変えるといったことにはならないのではないかと思いながら伺っていたのですが,確認をさせていただければと思います。 ○岡崎幹事 例については確かに適切かどうか,よく分からないところはあります。後半の御指摘に関しては,考え方は恐らく二通りに分かれると思います。つまり,契約の成立の問題として取り上げる考え方と,抗弁として考えるという考え方の二通りに分かれると思います。そして,そのどちらが正しいかということを断定できる状況にはないと考えています。 ○高須幹事 引き続きですが,今,虚偽表示の話が出ましたので,この場合の当事者の共通の意思というのと,意思の欠缺のところで問題になる,いわゆる内心的効果意思の一致というのは,また,別次元のような気がします。そういう意味では,当事者で通謀して虚偽表示をするという場合の共通の意思の解釈というのは,それなりにできるのではないかと思いますので,このような規定を置いたときに虚偽表示との関係で,必ずしもより何か難しい話になるのではないような気がします。岡崎さんからすればただの例にすぎないということだと思うので,私もその例を取り上げて何かを言いたいわけではなくて,言いたかったことは,結局,そういうふうに共通の意思に従って解釈するという解釈準則みたいなものがあったときに,それを使ってどう運用するかというのは正に裁判所の腕の見せ所なわけですから,それほど心配されないで,むしろ,職責を十分に発揮していただければいいのではないかと思った次第です。 ○中井委員 また,教えていただきたいのですが,先ほど山本敬三幹事からドイツ民法の157条,契約は取引慣行を考慮し,信義・誠実に従って解釈されなければならない,これを引かれました。そのときに補充解釈,条項の欠缺の場合の補充の準則というような御発言であったように聞こえたんですが,弁護士会もかねてから,契約の合意を尊重するという基本的な考え方に対して,常に裸の合意に対する危惧があるということを,申し上げてきたかと思います。   契約の解釈に当たって,契約当事者の真意を探求し,それが第一の基準になるということについて否定するつもりは全くございませんが,その真意の探求に当たって当然,任意規定であったり,慣習であったり,若しくは取引慣行,社会通念,そういうものが考慮されるだろうと理解しております。だから,真意の探求に際しても,ここでいう157条の取引慣行を考慮し,信義・誠実に従ってされるのと,こう思っているのですが,それが先ほどの欠缺の場面でドイツの場合でも157条が機能するのか,お教えいただければと思います。 ○山本(敬)幹事 御質問の趣旨がつかめていないかもしれませんが,先ほど,ドイツ民法の157条を使って,補充的解釈に関する判例・学説が展開されているということを申し上げましたけれども,その上で,補充的解釈の中身,特に基準をどう理解するかという点については,かなり幅のある議論状況になっています。   一方の有力と考えられる考え方は,基本的には,当該契約の趣旨を実現する方向で補充を行う。そこにこそ,補充的解釈の存在意義があるのだということを強調します。他方で,そして,判例の中でも様々なものがあるわけで,それによりますと,そうしたものももちろんカバーしているのだけれども,当該契約類型においては,このようなことが一般的に当該問題についての一応の解決と考えられる。あるいは,信義則に照らすと,このような問題についてはこう解すべきである。それに従って当該欠缺を埋めるということも補充的解釈と呼んでいるものも少なからずあります。   しかし,これは,他方の考え方からしますと,厳密に言えば,任意法規でそのまま定められているわけではないけれども,任意法規について言わば法形成を行っている場合に当たる。あるいは,一定の事情がある場合について,法によるとかくあるべしということを考えて,それで埋めている。その意味で,客観的な法による補充が補充的解釈の名の下に行われているという指摘もあります。このように,様々議論があるところでして,だからこそ,長い論文も書けるというテーマです。しかし,制度の趣旨としては,当該契約からスタートするという考え方が有力ではないかと理解しています。   そして,御質問に対する答えは微妙なのですけれども,例えばこの提案の(1)で,共通の意思に従ってという場合には,もちろん,共通の意思をどのように確定するかということが次の問題なのですけれども,先ほどのお話でいいますと,合理人ではないと思います。この契約をしたこの当事者をスタート地点に置かないと,この解釈準則の存在意義を説明できません。   ただ,(2)においては,それがスタートになるけれども,合理的にという客観的な枠がはめられている。(3)についても,この契約をしたこの当事者がということだけれども,個々の当事者が心の中でどう思っていたかということではなくて,このような契約をした以上,この問題についてはこのような定めをしたはずだ。その意味では,事実の確定というよりは,それらの契約に関する事実を基礎として推論を行っているという側面があることは否定できないと思います。しかし,そうであったとしても,可能な限り,当該契約をスタート地点に置くというのが(3)の趣旨ではないかと思います。   お答えになっていないかもしれませんけれども,純粋に主観的な意思の確定ではない部分が取り分け(2)(3)については含まれている。(1)についても,一体,何が当事者の共通の意思だったのかということは,民法に明文で定められないとしても,様々に考えられる経験則その他のルールに照らして判断することは避けられない。といいますより,それはもう当たり前のことですので,そこで,考え方によっては,一定の評価的な判断が行われていると言いたい人は言うかもしれません。しかし,飽くまでも思想としては,当該契約をした当事者がスタートであり,その当該当事者が何を意図していたかということが,(1)においては,探究されるべき問いとして置かれなければならないということだと思います。 ○鎌田部会長 随分,御議論を頂いて,(1)は大原則,抽象的,一般的原則の宣言とも見えますし,条項の文字が書かれているけれども,両当事者は通俗的な意味と違う意味で定めたときには,共通の意思のほうを採りなさいよという,大原則の発現形態でしかないんですけれども,そちらのほうを当面は念頭に置いているようなものとして考えているのか,読み方によってかなり大きな差になってくる。(2)も,この表現だけでいくと非常に幅広い,いろいろな場面に適用されるような条項にも読めるし,補足説明を読んでいくと,ある限られた場面を念頭に置いた規定のようにも読める。ここで重要なのは多分,当事者の意思を中心に解釈する。そして,抽象的合理人ではなくて具体的な当事者だということを宣言する。ここは立場としては両方あり得て,抽象的合理人の理解に従って解釈すべきだという立場と,そこは具体的な契約当事者を中心にした解釈をするという立場がある。この後者を採るという原則を宣言するということだろうと思います。   (2)と(3)の間にはかなり違う場面の転換がある。(3)は欠缺の補充の問題で,ただ,契約内容の確定との契約内容全体の問題ではなくて,契約の中のある部分ということですね。その辺のところが全体として分かりやすいように記述する工夫ができれば,したほうがいいと思います。   2の条項使用者不利の原則も,ある意味では(3)の後ではなくて,(2)と(3)の間に挟まるんでしょうね,多分,解釈の順番としては。ただし,場面が2のほうは限られているから別立てになっているという,そういうことですね。これも場面を限っている立法例と,条項作成者不利の原則を(2)とほぼ同列のものに一般化して組み込んでいるところがあるけれども,ここは場面を限った提案をしているというところが特色になっているのだろうと思いますけれども,そういうことでよろしいですね。 ○内田委員 2の原則について,どこまで最終兵器というか,最後の手段なのかという話もありましたので,一言,補足したいと思います。非常に古い原則であるとか,どのくらい古いのかという話も先ほど出ましたが,欧米ではコントラ・プロフェレンテムと呼ばれている原則で,ラテン語で呼ばれていることからも分かりますように,非常に古い原則です。アメリカの権威のある体系書の中では,この原則の説明の中でフランシス・ベーコンの言葉を引用していますが,今から400年以上前に書かれた文章です。その中で,最後に依拠すべき原則であるという言い方をしています。そういう古い原則が現在に受け継がれていて,各国の立法に入っているということだと思います。   もし,この原則がなかったらどうなるかということを考えてみますと,両当事者が交渉してある条項を合意した。ところが,その条項の意味がはっきりしない。契約の解釈をした結果として,どうしてもAとBという二つの意味が残り,Aを採ると一方当事者が有利だし,Bを採ると他方当事者が有利になる。いざ適用の段階になって双方が自分に有利な解釈を主張しているということになると,多分,その条項について当事者にはそもそも意味を確定できる合意がなかったということで,条項自体が契約から落ちるのではないかと思います。   ところが,プロフェレンテムというのは条項を提供した者という意味ですけれども,約款のように一方が条項を提供している場合には,それがどういう意味であるかを解釈して,最終的にどうしてもAとBという二つの解釈が残った場合に,それで条項が落ちるというのはおかしいので,条項を提供した当事者に不利なほうを採ろうというのがこの原則なのだと思います。そういう意味で,古くから合理性のある原則として受け継がれてきているものです。日本では産業界が反対したのでこの原則を採らなかったというと,かなりインパクトのある選択になるのではないかと思います。本当に採用しなくていいのかどうか,もう少し慎重に検討してはどうかと思います。 ○中田委員 1のほうなんですけれども,研究者の委員・幹事からは1の(3)について理論的な問題があるという御指摘があるんですが,それに対して,実務を代表される委員の側からは,むしろ,1の(1)についての疑問が表明されています。このような言わば食い違いは,中間試案でこのままの形で出すと,同じようなことがまた出てくると思うんです。私なんかは1の(1)(2)は当たり前のことではないかと思うんですが,必ずしも当たり前とは理解されないということを前提にして中間試案を丁寧に提示すれば,最終的には御理解が得られるのではないかと思いますので,先ほど部会長がおっしゃったことですけれども,御注意いただければと思います。 ○三上委員 手短に今の(1)(2)ないしは(3)も含めてですが,岡崎幹事は漠然とした不安とおっしゃいまして,我々も実務的に契約で生活している人間にとっても漠然とした不安があるというのは,基本的に当事者間に争いがなければ,契約の文言の意味が違っても,そのとおりに追加で合意するなり,確認書を交わせば済む話で,必ずもめた場面でこういう条項が出てきますので,現代契約における契約書の重要性というのは否定し切れないと思うんですね。   民法内にも,今回,書面化を要求する提案が出てきておりますが,スタートラインは,当事者間で書面の合意があるときには,そのとおりの共通の意思があると推測するみたいな原則が最初に来て,(3)の場合も当事者で合意しないことは全く当事者間に契約がないんだという原則がまずあって,その例外として,それでは信義則に反するとか,そういう場合にこういう補充規定が出てくるはずではないか。山本敬三幹事が例として挙げられた競業避止も,書いていなければ競業してよいと解釈するのか,競業避止義務を負わないと書かないと競業避止義務が付いてくるのかというのは,ある意味,政策的な判断かもしれないわけなので,さも,それが一般原則で出くるかのように御説明されると,契約する側は何でもかんでも全て書かないといけないのではないかという疑問も出てくるわけです。   さらに,契約総則の,契約の目的を達せられるように協力する義務を負うという議論のところで,TOBあての融資に関して,非常にそれは危険な発想ですと言いましたが,そういう目から見ると,ここに書いてあることはそれの拡大一般論化版なんですね。全て契約した趣旨に沿って解釈せねばならないとされると,何のために文言を作ったんだという部分が出てきます。ということで,ここに書いてある原則はもっともで,民法は大陸法系からきている意思主義ですから,原則まで動かすつもりはないのは私も共通なんですけれども,契約実務的には欧米的な考え方も出てきておりますし,イギリス法は文言をそのとおり解釈する,そういう厳格さがあるからこそ,金融取引ではイギリス法が準拠法になるのであり,米国でエンタイアアグリーメントとかウエーバークローズを使う契約が発達しているのは,それ以外にどんな参考資料を後から持ってきても,契約に書いてある内容以外のことは駄目ですという契約の仕方でないとビジネスが円滑化しないからです。   そういう現実を捨象して,フランス法ではどうとか,ユニドロワではどう,だから,民法もこうでは,なかなか,契約の世界で生きている人間は不安が払拭し切れないということですので,リライトされるに当たっては書面で交わした文言があるときには,それは尊重されるという原則を忘れないでいただきたいと思っております。 ○鎌田部会長 これまでに頂戴した御意見を踏まえて,なかなかハードな仕事になると思うんですけれども,事務当局において更に検討を続けさせていただきます。 ○村上委員 1(1)につきましては,これでいくとなると,例えば虚偽表示というのはどういう場面に出てくることになるのか,余りすっきりとした気持ちになれないところがございますので,そういうところについて,よく分かる御説明を頂けないかと思っております。 ○鎌田部会長 対第三者関係も含めて検討は進めたいと思います。 ○道垣内幹事 すみません,虚偽表示について申し上げるべきだったのですが,虚偽表示の定義はいろいろとあり得ると思います。そのうちで,私は必ずしもそうは思っていないんですけれども,岡崎幹事がおっしゃったように,表層的な合意と陰の合意があると仮に定義しますと,その二つとも両当事者に共通の意思があるわけです。そして,表層合意のほうは共通の意思があるのだけれども,虚偽表示だから無効になる。こういうだけではないかと思うので,それほど説明が難しくなるわけではない気がします。ただ,これも虚偽表示の分析によりますので,これ以上は申しません。   私が申し上げたいことは,2についてです。そこに,条項使用者不利の原則と書いてあるのですが,それを部会長は先ほど,条項作成者不利の原則とおっしゃいました。この2つは微妙に違うような気がするのです。つまり,作成された契約書を持ち出した人がリスクを負うという話なのか,それとも,自らが作成した人がリスクを負うのかというのは違います。また,約款使用者又は事業者と書いて,消費者保護の問題となっていますが,内田委員がおっしゃったような契約解釈の大原則の一つであると言うときには,必ずしも消費者保護というのが前面に出ているわけではないのだろうと思います。   また,リスクを引き受けていない条項使用というのもあるわけでして,私が誰かと契約をする際に,文房具屋さんで賃貸借契約の紙を買ってきて,私が相手方に呈示したときで,そこの文言の解釈に曖昧さがある場合に,私がリスクを引き受けていることになるのかというと,必ずしもならない気がします。  結論として,約款使用者又は事業者に限定する準則にすることは一つあり得る選択肢でございますので,別段,それに特に反対するつもりもありませんけれども,そういうふうに全体の原則との関係で,なぜ,このようなルールにするのかということについては,なお,一定の説明が必要なのではないかと思います。 ○鎌田部会長 それでは,今の御意見も含めて事務当局で引き取らせていただいて,更に検討を深めていきたいと思います。   少し後ろが厳しくなりつつありますけれども,「第2 法定債権に関する規定の見直しの要否等」について御審議を頂きたいと思います。事務当局から説明してください。 ○新井関係官 説明いたします。「第2 法定債権に関する規定の見直しの要否等」では,「1 法定債権の不履行による損害賠償に関する規定の要否」の本文(1)において,債務不履行による損害賠償の範囲について規定する民法第416条を専ら契約上の債務の不履行を適用対象とする規定に改めた場合に,契約上の債務の不履行以外による損害賠償の範囲に関する規定の要否及び具体的な規定の在り方を問題提起しています。補足説明ではこの点につき規定を設けず,解釈に委ねることの可否についても問題提起しています。また,本文(2)では,債務不履行による損害賠償の免責要件に関して,専ら契約上の債務の不履行を対象とする規定を設ける場合に,事務管理,不法利得又は不法行為から生じた債務の不履行による損害賠償の免責要件について,規定を設けることの要否及びその具体的在り方について問題提起しています。   「2 その他の規定の見直しの要否等」では,まず,本文(1)において,民法第400条につき契約当事者のみを対象とする規定に改めた上で存置する場合に,事務管理又は不当利得を発生原因とする特定物の保存義務について,同条と同一内容の規定を設けることを提案しています。本文(2)では,委任に関する民法第647条及び第650条第2項を改正する場合に,これらの規定を準用している事務管理についても委任の改正に沿った改正をすることを提案しています。   以上の論点のうち,「1 法定債権の不履行による損害賠償に関する規定の要否」については,規定を設ける場合の具体的な在り方及び規定を設けずに解釈に委ねるとする問題点の整理などについて,分科会で補充的に検討することが考えられますので,この論点を分科会で検討することの可否についても御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について一括して御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。   「1 法定債権の不履行による損害賠償に関する規定の要否」の(1)(2)ともに,分科会で補充的に検討するという御提案で,それに従うのが妥当であろうと思いますが,分科会での審議に当たってはこの点に十分注意をすべきであるとか,あるいは基本的な方針についての御意見がありましたら,この場でお出しいただいておくと大変助かるので,よろしくお願いします。 ○中田委員 確認なんですけれども,1の(2)なんですが,不法行為から生じた債務の不履行による損害賠償の免責要件の部分の意味がよく分からないんですけれども,これは遅延損害金のことを言っているのでしょうか。 ○新井関係官 そのとおりです。 ○中田委員 そうですか。そうすると,遅延損害金一般についての免責要件というのは分かるんですが,その免責要件について債務の発生原因である不法行為によって,遅延損害金が免責されるかどうかということがよく分からないんですが。 ○新井関係官 1の(2)で問題提起しているのは,一旦,成立した不法行為による損害賠償請求権という,言ってみれば元本に当たる債権があり,それとはまた別に遅延損害金,損害発生と同時に発生すると言われますが,遅延損害金というのは債務不履行による損害賠償として出て参りまして,それの免責事由ということが問題になります。それが問題になる前提というのは,金銭債務一般につきまして,一定の場合に免責するということを規定上,明らかにすべきではないかということが審議の対象になっていますが,金銭債務一般を対象にした議論ですので,基本的にはそれは不法行為による損害賠償債権についても妥当するということになります。そこで,その場面での免責時の在り方について,ここでは取り扱っているということです。 ○中田委員 分科会で詰めていただければいいんですが,資料の10ページの補足説明の最後の辺りにある第37回会議での発言を受けて,今の問題が出ていると思うんですが,不履行の原因についてのリスクを債務者が引き受けるべきかどうかについて,債務の発生原因である不法行為を考慮するという,そこのつながりが分かりにくかったということですが。 ○松岡委員 こういう理解でしょうか。今の御議論は,契約の不履行の場合には金銭債務といえども,必ずしも絶対的に免責を認めないものではなく,契約の趣旨であるとか,引き受けたリスクとの関係で免責される場合があるかもしれない。これに対して,不法行為は現在の規定でいいますと,故意または過失があり,違法性もある加害者が損害を引き起こしたことであり,かつ侵害された法益が金銭債権に代わる形で填補されているものですから,その金銭債務の履行遅滞については免責される余地はない。と,こういう趣旨で御提案になっているのではないかと私は理解したのですが,違いますか。 ○新井関係官 部会資料を作る段階では,提案された一つの考え方を紹介したにとどめており,その評価について一定の考え方を有していたわけではありませんでしたが,今,松岡先生がおっしゃったような考え方も,一つあり得るということでお聞きしました。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。「2 その他の規定の見直しの要否等」についての御意見も伺いたいところですけれども,余り御異論はないと思ってよろしいでしょうか。 ○三上委員 全く関係ないところで恐縮なんですけれども,事務管理の702条3項なんですが,これまで,度々,第三者弁済とか多数当事者のところで,「本人の意思に反して」というのは本人の単なる好き嫌いではなくて,武士の気質のような前近代的な規定を廃して,「本人の合理的な利益に反する」とか,客観的に分かるようにしてほしいという依頼をしてまいりましたが,もし,それを改正していただけるのであれば,ここも併せて改正すべきだと思いますし,もし,ここが今回の諮問の範囲外で,ここは手を付けられないということであれば,ここが手を付けられないから,ほかのところも元のままにするというような発想は,避けていただきたいということだけ述べさせていただきます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。2の(1)(2)については特に異論はないと受け止めてよろしいですね。 ○高須幹事 1点だけ,報告ですが,弁護士会の意見は必ずしも反対という意味ではなくて,賛成意見も十分あるんですが,私の所属しております東京弁護士会は別個に規定を設けること自体のみが唯一の可能性なのかどうかということについては疑問があって,400条なり,そちらの規定の中にただし書等を設けて処理してもいいのではないかという一応,考え方を持っておりますので,そのことだけ御報告させていただきます。 ○鎌田部会長 続きまして,「第3 その他の論点」について,事務当局から御説明を頂きたいと思います。 ○新井関係官 「第3 その他の論点」の「1 民法第403条の見直しの要否等」では,本文(1)において,民法第403条につきまして任意規定であることを規定上,明確にすることの要否を取り上げております。また,本文(2)においては,外国の通貨で債権額を指定したときに,債権者は債務者に対し,履行地の為替相場により日本の通貨で支払うことを請求することができるとする判例法理につきまして,それが任意規定であることを明らかにしつつ,明文化することの要否を取り上げております。 ○鎌田部会長 この点についての御意見をお伺いいたします。 ○三上委員 金融機関としては,どちらの提案にも特段の反対はございませんでした。ただ,履行地における為替相場というものが当事者に紛争なく,一時的に決まるものなのかどうか,つまり,外貨で表示している以上は,受け取る側はその外貨の為替リスクを負っているかもしれないので,例えば日本でいえば中値で円を渡されても,外貨に替えるときにはTTSとの間の利ざや分だけ損をするので,ここでいうところの為替相場というのは,そこでいえばTTSなのだと解釈されないとおかしいのではないかという指摘があるということと,もう一つは民法の適用場面は日本国内の契約だけだと思うんですけれども,国内の親会社との契約で外貨で現地貸しするという場合に,特約は設けていないことが多いと思うのですが,ドルで貸したらドルで返ってくるというのが外国では当たり前の話で,それをここは任意規定で反対の意思表示がない限りは円で返せますと言われたら困るという指摘があります。ただ,実際にはそんな問題は起こっていないので,金融機関としては明確な反対の意見はなかったということです。   ただ,私が言うべき話ではないのかもしれませんが,FXの業者によっては,簡単には日本円に換金できないような国の通貨の売買を勧めておいて,結局,日本円に換金できなくて困るといった例も過去にあったようですから,そういう業者に限っては特約を設けているのが普通でございますから,それでいいのかどうかという点だけは付け加えておきたいと思います。 ○鎌田部会長 履行地における為替相場をめぐる問題は現行法でもある問題で,金融機関は心配のないような対応をされているんだと思うんですけれども,ここについて特に改めるアイデアは今のところはないわけですね。 ○新井関係官 そうですね。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○中井委員 第3の1について弁護士会の意見は,どこも賛成ということですが,私の素朴な疑問ですけれども,13ページで①と②の二つの選択肢があって,従来の法律の規定との連続性かもしれませんが,②で整理したとのことです。しかし,①の整理が素直なように思うのです。ここで外国の通貨で債権額を指定したときという意味ですけれども,恐らく外国の通貨で債権額の合意があったということだろうと思いますが,その場合,普通であれば当該外国の通貨で決済されるのではないか。別段の合意,意思表示があって,円貨で履行が請求できるというのが,極めて自然に思うのです。これは通貨高権とかがあったから原則と例外が逆になっているのか,その辺りはいかがでしょうか。 ○松岡委員 従来からその点を問題にする見解は若干はあったと思います。必ず日本円で支払えというのは,正に,今御指摘のとおり,通貨高権を考えた見解だと思います。しかし,私自身もそれには疑問を持っています。例えば外国通貨と両替する場合に外国通貨を給付する義務を負っている者が,その外国通貨を給付せずに日本円で払えるのかというと,そんなばかなことはなく,それは契約の趣旨に反するから駄目だろうと思います。そういう極端な事例は契約の趣旨等で制約が働きますので,そんな無茶な主張はできないだろうと思っていますが,自信はありません。 ○中田委員 質問なんですけれども,403条を任意規定にした場合に,その後,どうなるかなんですけれども,判決手続では外国通貨の主文になるんでしょうね。その上で,執行ではどうなるんでしょうか。 ○新井関係官 それは403条固有の問題というよりは,外国通貨で表示された債務名義をどう強制執行で実現していくかという一般的な問題だろうと思っております。もし,私の話に誤りが含まれていたら御指摘いただければと思うのですが,私が文献などを見た限りでは,配当にできるだけ近い時点での為替相場で日本円に換算した上で,その換算額に基づいて配当するという考え方のを,文献では見たことがございます。恐らく,実務でもそういった形で処理されるのではないかと思っております。 ○山野目幹事 例えば1の(2)の局面でいうと,債権者が債務者を被告として提起する訴訟で,日本の通貨で支払うことを請求したときには,判決主文が日本の通貨になって,事実審の口頭弁論終結時の為替相場で日本円に換算するという実務になっているものではないでしょうか。 ○鎌田部会長 内容的な問題提起としては,要するに原則,例外を逆転させた任意規定の規律にするという考え方は採れないのかというのが中井委員の御提案であるので,検討させていただくということにします。 ○佐成委員 特にこの点について賛成,反対というわけではございませんけれども,この論点で出てきた意見だけ紹介しておきます。ここで「任意規定であることを明らかにする文言を付加する」となっているのですけれども,当初から任意規定か,強行規定かということをできるだけ明らかにするという方針でございますので,そこはくれぐれもよろしくお願いしますということです。場合によっては,そういう任意規定と強行規定の区別を一回一通り,議論するような場があれば,というような意見もありました。 ○鎌田部会長 分かりました。ここは特に強行規定説もあるので,特に必要性が高いという趣旨で,昔,インパクトローンか何かのときに少し議論されたことがあるような記憶がありますけれども,そのことがあるので,ここではそれを特に前面に出したということだと思います。   少し積み残しができてしまいましたけれども,時間の関係もありますので,本日の審議はこの程度で終了とさせていただきます。   分科会につきまして御報告をさせていただきますが,本日の審議において分科会で補充的に審議するとされた項目がございますが,それらの論点につきましては,部会資料48掲載の論点については第2分科会,部会資料49掲載の論点については第3分科会で審議していただくことといたします。それぞれ,大変重たい課題でございますので,松岡分科会長,松本分科会長を始め,関係の委員・幹事の皆様には御負担をお掛けしますけれども,何とぞ,よろしくお願いいたします。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 この部会の次回会議は11月6日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は検察ゾーンの17階,東京高検第2会議室になります。次回の議題は本日の積み残し分を引き続き御検討いただくほか,新たな部会資料を事前送付することを予定しております。   既に配布済みの部会資料49までの審議を終えますと第2ステージおける一巡目の検討が最後まで到達するわけですが,その後,11月に開催予定の正規の部会2回,それと予備日1回,この3回の会議では,検討済みの幾つかの論点についての再検討をお願いしたいと考えております。その際には,本日の会議の中でも中井委員から言及がありましたが,分科会で補充的に御議論いただいた論点の中から,法定利率,保証,債権者代位権・詐害行為取消権を取り上げ,分科会での議論も踏まえて,再検討のための資料を提示しようと考えております。また,第2ステージでの一巡目の検討後に事務当局で補充的な検討を行ってまいりました有価証券についても,再検討のテーマとして取り上げようと考えております。こういった再検討用の部会資料についても,いつもどおり事前にお届けしようと考えております。若干の遅れが出るかもしれませんが,できるだけ早くお届けできるようにしたいと考えております。   また,11月における再検討は,分科会での議論の成果を踏まえて改めて部会にお諮りすることも大きな目的の一つですけれども,それに加えて,この再検討の機会は,次の中間試案のたたき台の議論につながる,その懸け橋となる検討の機会でもあります。そういった意味から,11月にお示しする部会資料のうち一部のものについて,具体的には債権者代位権・詐害行為取消権を想定しておるのですけれども,その部会資料の体裁を中間試案のたたき台のフォームとして準備中のものに従って作成し,言わば中間試案のたたき台のサンプルをあらかじめお示しすることにしたいと考えております。そういうものとして部会資料を事前送付することを予定しておりますので,よろしくお願いいたします。   次に,分科会の開催のお知らせがございます。机上に1枚紙を配布させていただきましたとおり,第2分科会の第6回会議が来週10月30日,火曜日,午後1時から午後6時まで開催されます。場所は本日と同じ法務省20階ですが,会議室が異なっており,法務省20階の最高検大会議室になります。議題についてはペーパー記載の部会資料44の論点のほかに,本日の会議で部会資料48関係の論点が第2分科会に付託されておりますので,それについても御準備をお願いいたします。固定メンバー以外で参加予定の方がいらっしゃいましたら,事前に事務当局まで御一報いただきますようにお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   本日も,長時間にわたり熱心な御議論を賜りまして,ありがとうございました。 -了-