法制審議会民法(債権関係)部会           第61回会議 議事録 第1 日 時  平成24年11月6日(火) 自 午後1時00分                       至 午後5時57分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第61回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,潮見佳男幹事,福田千恵子幹事,森英明幹事,山野目章夫幹事が御欠席です。   本日の会議の配布資料を事務当局から確認していただきます。 ○筒井幹事 事前送付資料といたしまして部会資料50と51をお届けしております。また,積み残し分を審議する関係で配布済みの部会資料49を使わせていただきます。以上の資料の内容は後ほど担当の関係官から御説明いたします。   また,委員等提供資料として,日本弁護士連合会の「民法(債権関係)改正に関する意見書(その3)」と「民法(債権関係)改正に関する意見書(その4)」,日本司法書士会連合会の「民法(債権関係)改正における保証制度に関する意見」をそれぞれ配布しております。いずれも本日の審議に関係する記載部分がございます。それから,高須順一幹事から「中間利息控除について」と題する書面を御提出いただいております。   その他の連絡事項ですが,本日の会議では,事務当局側の席に法務省民事局の松井参事官と高橋局付が座っております。民事局参事官室において有価証券などを担当している関係で事務当局として審議に加わることにさせていただきます。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料49,50,51について御審議いただく予定です。休憩前までに,部会資料49の積み残し分と部会資料50のうち「第2 保証人保護の方策の拡充等 1 個人保証の制限」までについて御審議いただき,午後3時25分頃を目途に適宜,休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料50の残りの部分と部会資料51について御審議いただきたいと思います。   それでは,まず,部会資料49の「第4 消費者・事業者に関する規定」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「第4 消費者・事業者に関する規定」の「1 消費者に関する規定」では,民法に消費者契約に関するルールを取り入れるかどうかという問題を取り上げています。消費者契約に関する個別のルールの当否については,既に関係する個別の箇所で御審議いただきましたが,ここでは,民法に消費者契約に関するルールを取り入れるかどうかを総論的に御審議いただければと思います。   民法に消費者契約に関するルールを取り入れるとしても,これまでの審議において,その具体的な方法として二つの考え方が示されています。第1に,消費者契約などについては,当事者間の格差に留意して民法を解釈しなければならないなど,民法の解釈の基準になるような抽象的な規定を設けるという考え方です。第2に,これまで関係する箇所で御審議いただいたような個別具体的な規定を民法に設けるという考え方です。部会資料では(1)と(2)において,この二つの考え方のそれぞれの当否を取り上げています。なお,この二つの考え方は矛盾するものではなく,抽象的な規定と個別具体的な規定の双方を民法に設けるということも考えられます。   「2 事業者に関する規定」では,民法に事業者に関する規定を取り入れるかどうかという問題を取り上げています。   事業者に関する個別のルールの当否についても,既に関係する個別の箇所で御審議いただきましたが,ここでは,民法に事業者契約に関するルールを取り入れるかどうかを総論的に御審議いただければと思います。   前記1で検討した消費者契約に関する規定を民法に取り入れるのであれば,必然的に事業者概念を取り入れることとなりますが,事業者に関する規定として議論されているルールは,当事者間の取引に限って適用されるべきルールや,一方当事者が事業者であれば,他方の属性にかかわらず適用されるルールなどがあり,必ずしも消費者概念を民法に取り入れるかどうかとセットになる問題ではないと考えられます。そこで,民法に事業者に関するルールを取り入れるかどうかについては,消費者とは一応切り離して御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について,一括して御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○大島委員 契約当事者の情報力,交渉力の格差に留意するという部会資料の考え方は理解できますが,その目的を達成するために消費者,事業者という概念を民法に設けることには反対をいたします。消費者保護を目的とした規定であれば消費者契約法に設けるべきと考えます。   事業者といっても,法務部に多数の弁護士を抱える大企業から個人事業主まで,多様な事業者が存在するのが実態です。個人の事業者を含む日本の企業数420万社のうち99.7%が中小企業であり,そのうちの87%が更に小さな小規模企業,約380万社です。こうした事業者の中には,情報力,交渉力の面で大企業と同様に捉えることができず,実質的に消費者と同じレベルと言っても過言ではない事業者も数多く存在しています。こうした実態を踏まえず,多様な事業者を民法で一律に事業者と規定した場合,一般に情報力,交渉力が弱い小規模事業者に不利に働くことが非常に懸念されます。   なお,仮に情報力,交渉力の格差を民法で是正するのであれば,単に消費者,事業者という概念を導入するよりも,こうした格差に配慮しなければならない旨の一般規定について,適切な要件を定めることが可能かどうかを検討すべきと考えます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○三浦関係官 部会資料の14ページ,第4の1のほうでございますけれども,消費者に関する規定について,消費者の概念を民法に取り入れることに対しては,引き続き産業界から強い懸念の声を頂いているということを御紹介させていただきます。   その趣旨は,一つには,我々がパブリックコメントで去年申し上げたようなこと,それから,今,大島委員がおっしゃったようなこと,さらに,個別に提案されている消費者契約の特則として民法に盛り込むべきとされている事項についての異論というのがあるということでございます。   あと,それに加えて,何故そうした強い違和感が産業界から寄せられるかということについて,これは具体的にそう言われているわけでもないのですけれども,多少私が忖度しますに,次の2点は考慮を要するのかなと考えています。   一つは,法律といったときに,法律そのものはいいとして,法律の周りのインフラ,つまり,法律を決めるためのインフラあるいは法律を実施するためのインフラというのが法律には普通あると。例えば法律を決めるときには審議会という立て付けがあるし,法律を決めた後,その中身によっては執行官庁が付いてくるということだと思うのですけれども,例えば消費者に関しては,今まで消費者契約法があって,それは消費者契約法という法律が単独であるわけではなくて,その前段階で中身を議論する場があり,条文によってはそれを内閣府で執行してきたということでございまして,仮に民法なりで消費者の契約に関するルールを取り込むとすると,そういったところとの関係はどうなのかと。昔,消費者契約法案,国民生活審議会のところで議論されておりましたけれども,当然,国民生活審議会とこの場とではメンバーシップも違います。法律が裸で転がっているというよりは,前後の川上行程,川下行程があるので,そういうものとセットにして考えたときに,どういうつながりになるのかというところが,一つ根底にある難しい,考えなければいけないポイントかなと思いました。   あともう一つ,違和感の前提にあるかもしれないと思ったのは,なぜ消費者だけかということかもしれません。必ずしもそうしたいというわけではないのですけれども,例えば一つ,民法という法律を大契約法にする,大取引法にしてしまうという大きな哲学を持って,それで,およそありとあらゆる契約に関するルールを集めるというのは,一つの哲学としてはあると思うのですが,今議論されているのは消費者契約法との関係だけでありまして,ほかのルール,例えば,同じように契約という名前が付いているという意味で労働契約法がありますけれども,もちろん労働契約法を持ってくるという話はないわけでございます。あと,契約という名前は法律の名前にないけれども,独禁法とか下請取引に関する法律,いろいろあると思いますが,そういうものまで一緒にしようというふうには誰も考えていないだろうと思います。   そういう中で,消費者の部分だけが出てきているように見えてしまうというところが,もしかしたらあるのかなということでございまして,以上,この点については懸念の声が届いているということを紹介させていただきました。 ○佐成委員 経済界関係の意見ということなので,関連で申し上げておきます。   一読のときに詳しく意見は申し上げたので,ここで繰り返すつもりはございません。今,経済界で議論が変わっているかどうかということだけ申し上げようかと思いますが,基本的には,この点に関しては依然として強い反対があるということでございます。   現状,消費者法体系というのは別途整備されていて,それなりに発展をして,これからも消費者庁・消費者委員会の設置なども含め,日々発展していくという状況でございますので,民法にこの段階でその一部を取り込むという方向性については,なかなか理解は得られていないのではないかという印象を受けております。ですから,まず1の消費者概念の取り込みということについては,依然として経済界も反対の意見が強いということです。   2の事業者概念に関しても,個々の論点の端々で申し上げましたけれども,やはり一口に事業者と言っても,今,大島委員がおっしゃっていたとおり,非常に多様な事業者がいるという中で,本当に適切な規律ができるのかというところに疑問があります。提案については,確かにその趣旨は分からないわけでもないのだけれども,本当にそれで大丈夫なのかという面で,やはり反対が強いのです。加えて,特に,消費者概念との関連はないような局面だとしても,対になる消費者概念との結び付きを払拭できずに,強い違和感を感じる,あるいは強く反対をするというのが,現時点での経済界の一般的な認識ではないかと考えております。 ○岡委員 強い支持の意見を発言させていただきます。   配布させていただいた資料の日弁連の「意見書(その4)」というのを見ていただきたいと存じます。これは日弁連の理事会を通った意見でございまして,委員とか幹事の重みよりもはるかに重みのある意見と理解していただければと思います。   今,経産省とか経団連から,消費者概念の持ち込みに反対だという声がありましたけれども,消費者契約法というものがもう既に存在し,消費者に配慮した規定が日本にあり,それを消せという意見ではきっとないと思います。単に位置だけの問題だとすれば,消費者規定の適切なものを民法に持ち込むということについて,社会のコンセンサスは得られるのではないかと思います。   それで,日弁連の意見をポイントだけ申し上げますと,2ページの第2を見ていただきたいと思います。「民法に消費者契約など契約当事者間に知識・情報等の格差がある場合には劣後する者の利益に配慮する必要がある旨の抽象的な解釈理念を規定することに賛成する。」という意見でございます。これは,法務省の部会資料の14ページの(1)とほぼ同様でございます。文言的には多少違いますけれども,抽象的な解釈理念を,部会資料にもありますとおり,「消費者契約を始め,情報,交渉力等に格差がある当事者間で締結される契約に関しては」という表現でございまして,この方向にもちろん日弁連としては賛成でございまして,大島さんがおっしゃったような中小あるいは零細事業者についても,交渉力等の格差がある当事者間の契約に含まれてくると思いますので,大島さんの立場に立っても,このゴシック体は支持されるのではないかと先ほど感じました。   法務省のゴシック体の表現と日弁連の意見の違いは,「法律を解釈しなければならない」という表現と,日弁連の意見は,契約解釈については考慮しなければならないと,この違いが若干ございます。ただ,これについては,契約の解釈及び債権法の解釈というふうに,民法の中の部分を絞れば,両方があり得るのではないかと考えております。   それから,2番目の意見としまして3ページでございます。3ページについては,当初ありました消費者契約法の実体規定を全部民法に取り込むのは反対である,消費者契約法へのレファレンス規定を置くべきである,これは現在,法務省の資料にはありませんけれども,このような意見を持っております。   それから,3ページの下の第4のところでございますが,消費者の定義及び概念については,法務省の部会資料の17ページの上から5行目にある別案のような,もう少し消費者概念を広げる案に日弁連としては賛成でございます。   それから,4ページに移りまして,第5の意見でございますが,「事業者間契約においても一定の場合には消費者保護規定の準用ができる旨の明文規定を設けるべきである。」という意見を持っております。ただ,これについては,法務省部会資料の14ページの(1)のゴシック体がそのようなことを許す規定とも解されますので,そのことを明らかにするのであれば,(1)のような表現でも支持はできるのではないかと考えております。   5ページの第6の意見でございますが,抽象的解釈規定だけではなく,消費者契約の細かい規定を民法に持ち込むことに基本的には賛成でありますが,5ページの第6に書いてありますとおり,現在の消費者契約法の構造からいきまして,不当条項規制については,消費者契約法を拡充する方向で行くべきではないか。不当条項規制以外の消費者に関する契約各則については民法に取り込むことに賛成であると,このような意見でございます。   第7以降は個別の論点でございますので,ここでは省略いたします。   以上,日弁連としては,抽象的な解釈規定の導入には賛成でありますし,消費者概念を少し拡大した上で,不当条項規制以外の各則を民法に持ち込むことに賛成であるということでございます。 ○岡田委員 今,岡委員のほうから発表がありましたけれども,消費者側としてもそれに尽きると思います。   先ほど来,消費者関係については消費者契約法があるということですが,それは前から申し上げていますけれども,消費者契約法がどの程度浸透しているかということを,多分御存じない意見ではないかと思います。PL法,それから消費者契約法ができたことによって,それまで業法だったものが民法を超えた形で規定されたという部分では,消費者契約法,PL法は大変画期的だと,私はこの民法部会に参加して更に感じました。   そういうことを思いますと,この期に及んでまだ消費者概念を民法に入れるべきではないとか,事業者概念を入れるべきではないとか,その辺の議論というのは時代錯誤としか思えないのです。ですから,民法の中に個別に消費者を保護する特則を全部入れろとか,そういうことは考えておりません。なまじそういうものを入れて,後から,やはり不完全だったという声が出てこないとも限りませんので,概念とか基本的な部分,それを是非入れていただくことによって,業法なり特別法が更に整理されていくのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○三上委員 これは,銀行界というよりも,私個人の意見がかなり入っているという前提で言わせていただきます。まず(1)の民法解釈の原則の提案に関する部分の反論から申しますが,情報力,交渉力の格差というのは,アプリオリに存在している場合もあるでしょうけれども,往々にしてそれは一方当事者の努力,勤勉,忍耐の歴史の賜物であることも多いわけです。確かに,全てがレッセ・フェールでよいということでないことは十分に理解しております。しかし,世の中に本当にイーブンな当事者間の契約というものは存在しないと言い切ってもいいと思います。どのような契約にも必ず,売り手市場ですとか買い手市場という,そういう不平等な状況は伴います。それを平等化するのは不可能ですし,あらゆる場面で一律に平等に近づけようとする思想自体も,私は危ないと思っています。そしてまた,平等に近づける道具として民法を使うという発想自体も,私は非常に危険なものだと感じています。   ある程度格差が顕著で定型的になっているものを,たとえステレオタイプになろうとも,当事者間の属性に規制を加えていこうと,これが消費者契約法だとか下請法だとか,先ほど三浦関係官がおっしゃった労働契約法もこの種に入るかもしれませんが,そういう方向。あるいは,取引内容そのものに注目して,情報量の格差,著しい偏在に着目して規制を加える,例えば金商法ですとか割賦販売法といったような方法論でいく。それ以外に埋まらないその他もろもろの部分,これは格差の存在そのものが悪いわけではなくて,それが一定の受任限度を超えて,結果に著しく不当な影響を与えている場合にこそ,初めて対処すべきものでありまして,それこそ,その場面というのは,信義則ないし公序良俗が出てくる部分だと考えております。   ですから,(1)のようなものを,個人の尊厳だとか両性の本質的平等と並ぶ民法解釈の基本に据えるということは,スタートラインの平等を民法でうたうといいますか,あるいは判官びいきという人情を民法に持ち込むというか,これは自由主義経済の下での経済取引の基本法である民法に,言ってしまえば社会主義的な色彩を与えるという懸念もはらむものでありまして,このような基本法の性格の転換を含むような提案ということ自体が,ある意味,今回の改正の趣旨に反するとまで言えるようなものではないか。ちょっと言い過ぎかもしれませんが,そこまで懸念する次第でございます。   抽象的な文言だけで言葉尻を捉えるようで申しわけないのですけれども,「格差」という言葉は,「格差社会」のように,法律に疎い政治家とかマスコミが飛び付きやすいマジカルワード,政治学的に言うシンボルです。「民法で格差社会を是正する」とか,「格差社会を是正するための民法改正」などという言葉がマスコミ等で踊ってしまうと,何のために,長らくこうやって知恵を出し合って,いい民法にしようとしてきたのかという趣旨がゆがんでしまう,そういう懸念も捨て切れません。   そういう意味で,民法全体を貫く趣旨として,(1)のような民法解釈の原則を据えるということ自体には,強く反対したいと思っております。   次に,(2)の消費者概念を持ち込むということに関してですが,平成2年の消費者契約法の制定からまだそれほど,十分な期間が経過したとは私は考えておりません。適切な消費者保護と健全な経済活動の調和がとれた消費者保護の在り方というのは,なお模索されている途上であると私は考えております。   そもそも,消費者概念自体も明確になっているとは言い切れないのではないでしょうか。例えばアパートの大家さん,NGOとかマンション管理組合など,あるいは昔の権利能力なき社団に属したような団体とか,農業従事者のような自ら生産する個人など,こういうセミ消費者と言うべき存在に全部事業者法理を当てはめてよいのか,こういう細かい議論はまだ残っていると思います。逆に,個人保証問題で,社長だって消費者だという主張がありますけれども,同じような規模で商売をしているのに,個人事業主と無限責任を負う合名会社の社員を比較して,前者は事業者だけれども後者は消費者だと,こういう議論が果たしてそれでよいのか。後者はむしろセミ事業者とでも言うべき存在ではないのか。このような状態で消費者保護に関するルールを民法に規定するということで,事業者と消費者の二元論で民法を縛るということが果たしてよいことなのか。実際に既に存在している,存在しつつある事業者でも消費者でもない中間層というものを,民法で強引にどちらかに白黒つけてしまうということでよいのか。その点で,たまたま今日配布されました弁護士会の提案の中には,事業者にも消費者法を適用してもいいではないかという提案がされておりまして,これは正にその矛盾点を認識したような提案ではないかと考えております。逆に言うと,このような中途半端な提案があれば,更に民法の適用とか解釈を混乱させるのではないかと考えるわけです。   実際,こういう規定が民法に入ってきますと,本来保護されるべき場面を超えた取引にまで,こういった考え方が及ぶ懸念を捨て切れない部分があります。金商法上の紛争の現場では,いろいろ批判はありますけれども,事業者間取引の現面で,金商法上の定義ではプロ同士の取引の間であっても,裁判になって実際の現場で何が焦点になるかというと,結局,説明をした相手方の担当者なり社長が説明を理解できたかという争いです。結局,放っておくと,組織としてはプロでも実際に運営している個人は消費者で,消費者として理解できる範囲だったかどうかというに等しい争いになりつつあります。こういった部分がそのまま民法に反映されてしまうのではないかという危惧も捨て切れないわけです。   このような状況で民法に消費者概念を取り込んでしまうよりも,今しばらく消費者保護のほうを充実させていって,もう少し議論の成熟を待つべきではないか。正しい適切な消費者の保護を図る範囲というのを検討していくべきではないかと考える次第です。   それから,まとめて(3)の事業者についても述べさせていただきますが,今の話の逆で,事業者間取引に適用される法律を民法に入れるということにも,やはり慎重であるべきだと考えております。事業者というのは,恐らく商人よりも広い概念だと思いますので,今既に,事業者だけれども商人ではないというカテゴリーが存在しているわけです。これをどういう位置付けにするかということに関しては,これまでの分科会を含めた会議でも十分に議論されたわけではないと思います。また,法人と商人と事業者の相互の関係ということも十分に議論されたわけではない。そういうことで,実質的な議論がないままで,事業者の,商法の一部と言うべきなのかもしれませんが,それをそのまま民法に持ってくるというのは,いささか乱暴ではないかと考える次第です。   さらに,その場合の「事業」という言葉に関しても,会社法でいうところの事業と,組合などでいう事業,更にもう一つ,「経済事業」という別概念が提唱されておりますが,こういう未分化の概念を適切な解釈が生まれることを期待していきなり持ってくるということも,かなり強引ではないかと考えるわけです。   以上,かなり過激で失礼な意見表明になったかもしれませんが,その点は御海容いただき,これらの提案には,強く反対したいと考えております。 ○松本委員 三上委員の御意見に半分賛成で半分反対の意見を述べることになると思います。まず賛成の部分は,事務当局の作った原案における消費者概念なり事業者概念について,消費者契約法の定義をそのまま持ち込まれるつもりであれば,それは私は適切ではないと思います。正に三上委員がおっしゃったとおりでありまして,消費者契約法の消費者概念は大変よくないというか,全ての法主体を消費者と事業者の二つに分けるという,とんでもない分類をしておりまして,消費者団体は消費者ではなくて事業者だという分類になっております。事業者であれば,本来の事業と無関係であっても,事業者であるということになるとか,非常に不都合なところがはっきりと出ておりますので,消費者契約法の改正に当たって,消費者概念,事業者概念の見直しは必須だと思います。消費者でも事業者でもない法主体というのは当然あるわけで,それをもっと正面から認めるような構成にしなければならないだろうと思います。   商法の商行為法的なものを民法に持ち込むという発想が,事業者概念を入れて事業者間取引についての特則という発想の裏にはあるかと思うのですが,これも三上委員がおっしゃったとおり,商法上の商人概念と消費者契約法上の事業者概念は相当違いがありますから,事業者概念を民法に入れるとしても,本来の事業との関係での事業者という形で絞ったほうがいいのではないか。そうであれば,例えば,自分の扱っている商品について事業として売買している以上は,それは買い手である消費者よりも商品等の知識があるのは当然ですから,格差があるということを前提にした法理が適用されてもおかしくないと思いますが,ある側面で事業者であれば,そして特に法人の場合には,全ての側面において事業者になるということだと,問題が生じます。これは金銭消費貸借のところでも述べたと思いますが,事業者が貸し手で,消費者が借り手の場合,諾成契約として拘束力は発生するけれども,いつでも消費者サイドからは解除できるというような規定が提案されていました。これは貸金を業とする事業者であれば,そういうルールを適用することは考えられるでしょうが,事業者であれば一律というのは,それは少しやり過ぎではないかと考えております。   以上が三上委員と基本的に同じ立場の発言ですが,次にそうでない部分について述べます。格差者間の取引について民法を適用する場合の解釈理念を掲げるルールを置くということは,これは私は適切だろうと考えております。   第1ラウンドの論点の議論のときに,格差者間契約についての特則というか,解釈理念規定を入れるという考え方と,消費者契約についての解釈理念規定を入れるという考え方が一般論として出されてきたときに,私は,格差者間契約についての解釈理念規定が置かれれば,消費者契約についての解釈理念規定は必要なくなるだろうということを言いました。今でも基本的にはその立場は変わっておりません。ただ,今回日弁連がお出しになったような格差者間契約の典型としての消費者契約というのを一つの例示として出した上で,本体としては格差者間の契約というふうに対象を限定するというのは,大変賢明なやり方であると思います。したがって日弁連の考え方に賛成をいたします。   最後に,各論的な部分で消費者契約に関する特則をどんどん入れるべきかどうかというところでありますが,ここは私は是々非々であります。今回の民法改正提案の一般的なトレンドとしては,ビジネスルール化の傾向,取り分けBtoBの事業者間のファイナンスだとか,事業者間の種類物売買取引を迅速に行うためのルール整備という側面が大変強いです。それはビジネスのニーズを反映しているわけでしょうから,それ自体を全面的に否定するつもりは全くございませんが,そうなると,従来民法が前提としていた抽象的な人と人の間の取引をモデルとしたルールが変わってくる,言い換えれば民法における人のデフォルト値が変わってくるということになります。人のデフォルト値は事業者であるというルールの世界に消費者が放り込まれた場合には,BtoBのルールで律されると消費者にとって不都合が起こってくるわけです。その典型としては,ここでも挙がっておりますが,時効などがあると思います。時効の起算点や期間について当事者が自由に決められるということだと,恐らく消費者取引の場合に,消費者に対するしわ寄せが出てくるおそれがあるわけです。そのように民法のルールが現状よりもBtoBのほうに動いた場合には,BtoCのCを保護するための特則を置かざるを得ないだろうと思いますから,その限りで,消費者契約についての特則を置くということには賛成せざるを得ないと思います。   もちろん,その前提としての民法自体をBtoB中心のルールに変えるという方針をとらないということであれば,今言ったようなことの必要はなくなるわけですけれども,民法の性質を変えるということであれば,消費者契約についての特則は不可避だろうと思います。 ○加納関係官 民法に消費者に関する規定を設けることにつきましては,基本的には立法政策の問題でありまして,消費者契約法の現在の規定を民法に取り込むかどうかということは別にしまして,十分あり得る選択肢であると思います。消費者保護立法は,消費者庁において積極的に取り組むべきということは当然でありますけれども,だからといって,民法に消費者概念を入れることについて反対するというものではありません。   ただ,今回の部会資料に書かれているところで申しますと,様々な消費者概念を導入したことを前提とする規定について,仮に民法に消費者概念を設けないということとした場合に,今般の消費者契約に関する個別のルールをどの法律に設けるかという,部会資料49でいいますと,21ページの「法体系的な整理の問題」と書かれているところですけれども,ここについては,先ほど来,似たような御意見も出ているところですが,慎重に検討する必要があると考えております。   すなわち,現行の消費者契約法は,ここに書かれているのと同じですけれども,第2章において消費者契約に関する特則を設けておりますが,基本的には勧誘と不当条項に関する規制ということでルールを設けているのみであります。これは,消費者被害が不当な勧誘とか不当な条項に関して生ずることが多いという認識に基づきまして,消費者利益を擁護するという観点から,民法の特則を設けるというふうにしておりまして,現在の消費者契約法の1条の法目的も,これを受けて,不当な勧誘や契約条項,それから適格消費者団体の差止めについてもありますけれども,それについて規律を設けるというふうに法目的を規定しております。   なので,例えば資料21ページにありますように,区別の基準等に関しまして言いますと,仮に今回の提案されております消費者契約に関するルールを消費者契約法に入れることができるかどうかということを考えるならば,消費者契約法の法目的との関係を踏まえて検討するということにならざるを得なくて,それを超えるところについては,消費者契約法の法目的自体を改正するということになりまして,実質的には新法の制定に近いような改正をすることにならざるを得ないということになります。   例えば,御提案のルールの中の時効期間や起算点に関する合意でありますとか,賃貸借契約終了時の原状回復義務に関する特約等につきましては,その内容に照らしますと,現行の消費者契約法の規律になじむと思われますが,それ以外のルールということになりますと,先ほど申し上げたような消費者契約法の法目的からの検討が必要だと。仮に消費者契約法に導入するということを検討するとなるとですね。そう思います。   また,現在の消費者契約法の第2章のルールにつきましては,適格消費者団体の差止請求の対象としているというのもありますので,個別のルールについても,差止請求の対象とすることができるかどうかという点の検討も,やはりせざるを得ないとことでありまして,民法に消費者概念を導入するのが仮に難しいとなった場合に,消費者契約法にそれらの規定を設ければよいという単純な話には,なかなかならないのではないかと考えられますので,その点,申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○大村幹事 消費者に関する規定の導入の可否につきましては,私個人の一般的な意見につきましては,これまで何度か述べてまいりましたので,この席で繰り返すことはいたしません。今日話題になっていたこととの関係で幾つか述べさせていただきたいと思います。   一つは,第4の1の(1)につきまして,格差という言葉が使われていることについてです。消費者契約を典型例として掲げるかどうかはともかくといたしまして,格差契約に関する規定を置くこと自体の当否が話題になっておりました。   一方で,三上委員御自身が,言い過ぎではないかとおっしゃっていたかと思いますけれども,平等という価値が民法の中で全く配慮されていないかというと,それはそうではないだろうと思います。三上委員もおっしゃったように,既に公序良俗規範を通じて,平等原則は一定の限度で民法の世界の中に取り込まれ,実現されているのだろうと思います。   だからといって,全ての不平等や全ての格差を民法がなくすべきだとか,なくせるということを,この提案は考えていないだろうと思います。一定の限度を超える不平等あるいは不公正をどのようにして是正するのか,その線引きをしていくというのが,ここでやるべき作業なのではないかと考えております。それが1点でございます。   もう一つは,様々な契約がある中で,消費者契約だけをなぜ取り出すのかというお話がありました。原理上は正におっしゃるとおりで,様々な契約があるわけです。しかし,三浦関係官も実態上の認識としてはそうだと思いますけれども,この30年,我々の民法の世界で,重要な問題として対応が検討されてきたものは消費者契約だろうと思います。比較法的に見ても,この30年間の民法の世界での大きな課題の一つは,消費者契約にいかに対応するのかということだったと思います。そうした事実を捨象して,他の契約類型もあるのだから,それらと足並みをそろえて考えなければいけないというのは,理屈ではありますけれども,現実にそぐわないのではないかと思います。   消費者契約について対応が必要であるのならば,それについて一定のルールを設ける,そこからはみ出す部分について,更に対応が必要であるということならば,それに見合った形の規定を置いておくというのが現実的な考え方なのではないかと思います。   それから,3つめでございますけれども,松本委員が,今回の改正案が全体としてビジネスルール寄りに偏っているのではないかという御趣旨の発言をされたかと思いますけれども,具体的に提案されているものの中には,確かにBtoBを想定したルールがデフォルトとされているものはあると思います。そのときには,松本委員がおっしゃるように消費者に関する特則を設ける必要があろうかと思いますが,ルールの中には,反対に,BtoBにはそぐわないものがデフォルトとして置かれるものもあるように思います。その場合には,事業者間の取引についての特則を置くことが必要になるのではないかと思います。   ですから,民法が想定する人のデフォルトがどちらかに変わるということではなくて,人の概念には幅があるので,場面に応じて何をデフォルトとするかを決め,特則が必要ならば特則を置く。そういう考え方なのではないかと思います。   取りあえず以上でございます。 ○岡委員 三上さんの意見に三つ意見を申し上げたいと思います。   まず最初に,日弁連は決して社会主義を目指すものではございません。また,当事者間の格差を是正とまで標榜するものではございません。法務省の部会資料も「留意」という言葉でございますし,日弁連の提案も考慮,配慮です。考慮と留意が,どう違うのか微妙なところはありますが,大村先生がおっしゃったような,目の前にある現実の実質的,構造的な不平等に対して可能な範囲で対処するべきである,そういう意見を申し上げているところでございまして,そんな階級概念を持ち込もうとか,そういうことでは決してございません。三上さんもおっしゃるとおり,消費者契約法をもう少し育てていったらいいではないかと最後におっしゃいましたけれども,三上さんの立場,経団連の立場も,消費者を妥当な範囲で保護あるいは自立支援しようということは,お考えになっているはずでございまして,そろそろ,それを民法に解釈理念として入れてもいい時期が来ているのではないかということが日弁連の意見でございます。   それから2番目に,三上さんが,消費者契約法ができてまだまだ十分な期間がたっていないとおっしゃいましたけれども,この10年間でかなり最高裁の判決も出ましたし,いろいろな考え方が充実してきているだろうと思います。いつか山下先生が,様変わりしたと,消費者契約法制定時を振り返っておっしゃっていましたけれども,弁護士の中でも,消費者契約にかなり尽力する弁護士が相当増えてきておりまして,こういう抽象的な解釈理念を民法に持ち込んでもいい時期は熟しているのではないかと考えております。   それから3番目に,事業者間契約に準用すべきだと日弁連が書いているのは矛盾だとおっしゃいました。その点については後でまた申し上げようとは思っておりますが,事業者間契約あるいは一方が事業者である旨の規則の導入には,日弁連は反対でございます。三上さんがおっしゃったとおり,商人概念を超える事業者,セミ事業者,その辺りについて,今の法務省の提案のような事業者ということで広くくくって,BtoBに近いような規律を持ち込むことについては,日弁連は反対しておりますので,矛盾はしていないと,ここで弁明をさせていただきたいと思います。   事業者概念についての意見は,頭を整理したいので後で述べさせてください。 ○山本(敬)幹事 私からは,結論としては,弁護士会がおっしゃっているような方向性に近い意見を述べたいと思います。   既に部会資料で議論を的確に整理していただいているところですが,一般法として構成された対等な主体を前提にした民法とは,近代市民社会の民法,言わば古典的な民法を現在も維持すべきであるとする考え方が前提とするものだと思います。ここでは,生産・販売と消費が必ずしも十分に区別・分離していない。その意味で立場に互換性のある者どうしが対等に取引を行うことを一つのモデルとして,それで出来上がっているのが近代市民社会の古典的民法ではないかと思います。   言うまでもないことですけれども,大量生産・大量消費の時代を迎えますと,生産・販売と消費が分離してくる。要するに,商品を生産して販売する事業者と,その商品を購入して消費する消費者との間に立場に互換性が失われてくることになる。現在の市民社会とは,事業者と消費者が対等に契約を行うことを前提として成り立っている。そうしますと,市民社会の基本法としての民法も,消費者,そして消費者と事業者が行う契約を構成要素としていくことが求められている。消費者を民法に取り入れる理由をあえて述べよと言われるとこうなるのではないかと思います。   ただ,その場合の消費者法の考え方ですけれども,三上委員が階級という言葉でおっしゃっているのは,単に格差があるということだけではなくて,そこに弱者がいて,その弱者の保護政策として消費者法を構想するということが前提になっているのではないかと思います。   しかし,これもまた言うまでもないことですけれども,1990年代以降の議論,そしてとりわけ消費者契約法が制定されてから後の議論の中では,消費者契約法,更にそれを含む消費者法が,以前のように消費者を社会的な弱者と見て,言わば後見的,パターナリスティックな保護を目的とするものというよりは,消費者もまた,自分の法律関係を自律的に形成できる存在と見た上で,そのような消費者の自律を保護し,支援するための法だと捉えられているのではないかと思います。これはむしろ,近代市民社会の基本原則,つまり,私的自治や自己決定を尊重するという考え方を否定するものではなくて,それを実質的に保障しようとするものだと言えると思います。   その意味で,現在の消費者法は,単なる保護政策に基づく特別法ではなくて,現在における市民社会の基本原則から基礎付けられている。その意味で,民法の中に取り込むだけの前提は備わっているということが,これもまた言わずもがなのことをあえて言葉にしただけのことですが,言えると思います。   ただ,問題はその上で,民法に取り込むとしても,消費者に関する個別的なルールを全て民法の中に取り込むべきかどうかは,私は分けて考えるべきだろうと思います。やはり消費者に関する法の適切な法形成をしていくために,民法の中に全部取り込むことが適切かどうかは別問題である。私自身は,特に消費者契約に関する事柄については,現在の消費者契約法を軸にしながら,それを拡充して消費者契約法典を形成していくほうが,より整合的で統合的な法形成を促すことが可能になると考えています。   ただ,そうすると今度は,全部を消費者契約法ないし消費者契約法典に取り込むのがよいかとなりますと,現代における市民社会の基本法としての民法にそれが全く反映されないことになる。それが21世紀の民法として本当にあるべき姿なのかというと,やはりこれは疑問と思わざるを得ません。   そうしますと,考え方としては,消費者に関する定義をきちんと見直す必要があることは松本委員のおっしゃるとおりですが,その定義を見直した上で取り込む。と同時に,現在の消費者契約法1条をベースにしながら,消費者契約に関する基本原則に当たるものを民法の中に取り込むことは,十分に考えてよい方向だろうと思います。   ただ,その消費者契約法の基本原則なるものは,これも弁護士がおっしゃっているように,情報・交渉力の格差がある場合に,それを考慮すべきであるとするならば,より一般的な原理として,それを民法に定めることも考えられる。それは,規定の位置としては,契約や債権というよりは,民法の冒頭,通則辺りに定めるという方向になろうかと思います。   その際に,今日,日弁連からお示しになられている案は,熟慮された結果だろうと思うのですが,消費者契約の解釈として定めるのは,私は問題が大きいと思います。今後における民法の在り方を問題にする事柄ですので,単に契約の解釈というのではなく,この法律,つまり民法の解釈原則として定めるべきだろうと思います。更にもう一つ付け加えて問題点を挙げますと,契約の解釈の中で,本来の解釈でない,修正的な要素を組み込んだ解釈を正面から認めるべきだとおっしゃっているのに等しいのだろうと思います。これはやはり慎重に考えるべき事柄でして,理念からいいましても,民法の解釈原則として冒頭に定めることが望ましいのではないかと思います。 ○佐成委員 簡潔に申し上げます。   今の山本敬三幹事の,消費者法を近代市民社会の原理で基礎付けるという考え方については,私も非常に共感を覚えております。経済界として結論は違いますけれども,今の考え方というのは非常に理解しやすいと思いました。   それで,申し上げたいのは,今議論になっております格差契約といいますか,(1)でございますけれども,これの抽象的な規定を民法に取り込むという方向性について,先ほど私はそれについては,基本的には発言しませんでしたけれども,日弁連の提案でいくと,消費者契約を典型として,そのほかにも含まれ得るという形になっているのだろうと思うのです。しかしながら,現行の消費者契約法は,情報の量と質,それから交渉力の格差ということで,ある程度「格差」の限定をしているのですが,民法に取り込む場合,どこまでそのような類型的な割り切りをするのかが問題です。射程として,情報の量と質,交渉力の格差だけを想定しているのかもよく分からないのですが,要するに,格差という言葉は,ある意味では,先ほど三上委員もおっしゃったとおり,政治的な匂いもしますし,いろいろなものが入り込むというところで,それを解釈原理として入れていいのか,本当に実務的に使えるのかということが気になるところなのです。   かえって混乱を起こしたり,紛争をもたらすのではないかという気もしております。もちろん,消費者契約法であれば,類型的に,情報の量・質の格差とか交渉力の格差というのは分からないでもないのです。経済界もそれについて別に反対しているわけではないし,先ほど岡委員もおっしゃっていたとおり,経済界として消費者保護を推し進めないなどということは全く考えておりません。事業者は当然消費者あっての事業者でありますから,事業者が「お客様第一」というのは,単なる言葉だけではございません。実際に消費者が自立した形で商品・役務を受容するというのは,健全な市場経済を前提とする限り,事業者にとっても大事なことだと思うのです。ただ,一般的に「格差」という言葉は,受け手によって相当いろいろなイメージをお持ちになると思われますので,本当に民法にこれを入れるとした場合には,十分慎重にしないと,国民一般に一体どういうメッセージを与えることになるのかが全く見えなくなります。三上委員はかなり政治的な受止めをされておりまして,そういう受け止めをされる方も実際多数いるのではないかと思いますし,意図しないようなメッセージを与えかねないのではないかという気がします。   そういう意味で,私は基本的には反対ですけれども,仮に入れるとしても,無限定に民法に格差という言葉で入れてしまうというのは,しかも消費者の情報と交渉力以外に「等」と書いて入れてしまうというのは,本当にそんなことをしていいのか,幾ら民法の理念規定だとしても,ちょっと乱暴にすぎないかという気がしております。それは実務家としての感覚でございます。   以上,それだけ申し上げておきます。 ○筒井幹事 まだ発言を留保されている方もいらっしゃいますので,後ほどまた御発言いただきたいと思うのですが,消費者・事業者に関する規定について,これまでの審議の経過を振り返って若干の発言をしたいと思います。   この部会の冒頭,第1ステージから繰り返し述べてきたことですけれども,消費者・事業者という概念を民法に入れるのかどうかについての結論は留保しつつ,具体的な規定を設ける必要性があるのかどうかをまずは個別に十分議論しましょうということで,ここまで審議を進めてまいりました。   本日配布された日弁連の意見で,消費者契約に関する多くの特則について規定を設けることに賛成であるという意見が表明されましたので,それによって形勢に変化があるかもしれませんが,これまでの審議の過程では,消費者契約に関する特則についても事業者間取引に関する特則についても,おおむねネガティブな意見が数多く表明されたという経過であったと思います。   そういったことを踏まえて,個別規定として一体どのようなものが残り得るのかを,この後の中間試案のたたき台に向けて我々としても考えていこうと思っております。その上で,個別の規定としてどれが必要なのか,必要でないのかを議論し,仮に必要なものがあったとした場合に,その規定を民法に置くのかどうかといった形で,次の議論を進めていきたいと考えております。   また,それとは別に総則的な規定と申しますか,今回の部会資料でお示しした第4の1の(1)のような規定を民法に設けるのかどうか。これに関しては,本格的に議論していただいたのは今日が初めてであったと思いますけれども,賛否が分かれていると思います。こういった論点について今後どのようにして合意形成を図っていくのか,合意形成ができない場合には規定を設けないという結論になりがちでありますけれども,どのように審議を進めていったらよいのかについては,本日の議論を踏まえて私どものほうでもう一度よく考えて,中間試案のたたき台において一定の考えをお伝えしたいと考えております。 ○松本委員 今の筒井幹事の御発言との関係ですが,私個人は,民法の中に消費者契約に関する特則を個別に入れるか入れないかよりは,1(1)に書かれているような一般的な解釈理念規定を置くか置かないかのほうがより重要な論点だと考えております。たとえ個別のところに消費者契約の特則が置かれなくても,解釈理念規定があれば,個別の条項は消費者契約に適合的に解釈されるという方向に誘導される可能性が大変大きいと思います。裁判所としてそのような適切な解釈をしてくださると信じておりますので,そういう意味では,総則に解釈理念規定を置くか置かないかのほうにより力を入れて議論していただきたいと思います。   それから,格差という言葉だけを裸で議論すると,今,格差社会と言うと貧困の問題ですから,貧困を理由にして民法のルールを変えるのかという話になりますが,恐らくそうではない。つまり,貧困は原因であって,貧困だから交渉力が弱いとか十分な知識がないとか,あるいは従来の公序良俗,暴利行為の規定のところでも,窮迫に乗じてというような使い方をいたしますが,そういう形で出てくるわけで,裸の貧困というのは民法にはストレートには出てくるべきではないと思います。   したがって,格差というのも,理念として入れるのであれば,何の格差かということが曖昧にならないように入れるべきです。確かに「等」というのは,少し曖昧で何でも入ってくる可能性があるので,条文化するとしたらここはもう少しクリアにすべきであって,ほかに適切な表現がないのであれば,消費者契約法が使い,かつ消費者基本法でも同じような表現を使っていますが,既に法律が使っているところの情報と交渉力に限定するのが適切かと思います。 ○山川幹事 私も,ここで言われている格差に対応する抽象的な理念規定を設けるということには賛成したいと思います。   ただ,先ほど三上委員も言われましたように,本当に類型化できるものでしたら,そちらで対応するということも考えられるものですから,ここで抽象的な理念規定というものを考える場合には,飽くまで個々の事案に即してという趣旨が明確になるような形で,その意味で,解釈というか,個々の事案に応じた適用に重点が置かれる形かなと考えております。   格差につきましては,今,松本委員が言われましたように,自由な,といいますか,市場原理がきちんと機能するには交渉力と情報の二つが重要であるということは,理解できるのではないかと思っております。   あとは,振り分けの点は,私として申すことはありませんけれども,1点は,労働契約につき,消費者契約法に適用除外規定が置かれていますが,そのようなことに留意する必要があるという点と,先ほど三浦関係官がおっしゃいましたように,立法のプロセスといいますか,法形成のプロセスをどちらの審議会で行うのかという点,それから法の執行といいますか,実効性確保をどういうふうに行政が行うのか,その辺りを考慮した振り分けという点も,もし入れるとしたら,あるいは分類するとしたら,作業が重要になるのではないかと思います。 ○山下委員 また後で岡委員から,事業者概念を導入するのはけしからんという御発言があるのだろうと思いますが,先に私のほうから申し上げますと,要するに,消費者という概念を入れるかどうかは,産業界と法曹界で大分意見が違うということですが,消費者が絡まない事業者概念を入れることについては,両者一致して反対ということのようにお見受けしますけれども,そうした場合にどういうことになるかというと,結局,今の商法で商行為の総則というところがあって,主として債権法で,物権法も一部入りますけれども,雑多な規定がばらばらと並んでいます。今やこの部分というのは,法学部や法科大学院の学生もだんだん勉強しなくなって,法律家の間でも知識が欠落していっているのを懸念しているのですけれども,たまたま民法と商法が歴史的にヨーロッパの大陸で発展してきた中で,今,規定の振り分けが行われているのですが,それをまたそのまま維持するのがいいのかどうかですね。事業者の概念をどうするか,あるいは事業者が絡む規定として民法に入れる,その規定内容をどうするかについては,いろいろ御意見はあって,なお審議する必要があると思いますけれども,全体として,第4の2にあるように,これまで事業者絡みで置いたらどうかという提案がされた規定,それほど多くはないわけです。これもまたいろいろ御批判があれば,やめるというのもあるかと思いますので,そういう意味では,法典を分けて規定をするというのが,国民,ユーザーのための立法としてふさわしいのかどうかとなると,相当な疑問の余地があるのではないかと思います。   ただ,事業者という概念を入れることによって,何かイデオロギッシュな一定の効果が生ずるのではないかとか,そういう御懸念はあるのかもしれませんが,そこは規定内容を絞っていけば,そうおかしなことにはならないのではないか,そのように考えております。 ○岡委員 今の事業者概念についての日弁連の意見を申し上げたいと思います。   「意見書(その3)」の21ページをお開きいただければと思います。結論を申し上げますと,消費者概念の対概念としての事業者概念が民法に入ってくるのは,それはやむを得ないでしょうと。ただ,その対概念の事業者概念を使っていろいろな特則を置くことについては反対であるというのが日弁連の意見でございます。   まず,21ページの「(2)理由」の1)のところですが,「事業者に関する特則については,一般化して民法に取り込むことができる場合を除き商法に規定を置くべきである。」。商行為概念,商人概念がいいかどうかについて,弁護士が一致した意見を持っているわけではございませんけれども,BtoBについては商法の商行為法にあるほうが分かりやすい。古い弁護士の言うことかもしれませんが,商法に置くのが筋であるというのが今の弁護士の多数意見でございます。   22ページのほうに移っていただきまして,事業者概念の特則に反対する最初の理由が,上から4段落目ぐらいの「さらに」というところでございます。さらに,立法提案のように,この規律のほかに,事業者間契約の規律,一方が事業者である場合の規律,及び経済事業概念を持ち込んだ規律,5種類も入ってくると複雑化して国民に分かりにくい。2種類だったらよくて5種類だったら駄目なのかという議論はありますが,弁護士会の多数の意見としては,かなりごちゃごちゃして,法務大臣の諮問の分かりやすさに反するのではないかという声が強いのは事実でございます。   それから,もう一つ大きな理由としては,22ページの一番下の辺りでございます。先ほど三上さんもおっしゃっていましたけれども,経済事業というのが「収支相償う」,この概念はなじみがないし,どこまで広がるのか分かりにくいということで,反発がまだ多うございます。   23ページのほうにいきまして,そういう経済事業概念を入れたとしても,NPO,PTA,マンション管理組合等々,中小零細事業者までが全て事業者の概念に入って,かなり厳しいBtoBの規制が及ぶのではないか。そういう実質的な懸念から,事業者概念に関する特則について反対をしております。   24ページ以降に細かい個々の提案について意見を書いておりますが,商法526条の商人間の売買の検査義務のところについても,今回は事業者概念がかなり広がった上に,瑕疵を発見すべきときから相当期間内に通知をしなかったら終わりということで,526条よりも厳しくなった上に事業者概念を広げるのかと,それについては反対であるという意見が24ページ以降に書かれてあります。   以上,消費者概念の対概念としての事業者概念が入るのはやむを得ないけれども,その事業者概念を使って,契約各則の,今提案されているいろいろな規定については,中小零細,NPO等々に厳しくなる,厳し過ぎるのではないか,そういう意見でございます。 ○鎌田部会長 ほぼ意見はお出しいただいたと思いますので,先ほど筒井幹事から話がありましたように,今日頂戴した御意見,これまでの御意見を踏まえて,更に事務当局において検討をさせていただきたいと思います。 ○三上委員 過激な演説をしてしまいましたので,今日はそれだけにしておこうと思ったのですが,余りに(1)の部分に学者の皆さんが賛成されるようなので,蛇足と思いますが,こういうことを言っていた人間がいたという記録だけのためにも一言言っておきたいのですけれども,ここに書いてある提案は,民法の1条か2条の辺りに入れるという提案です。弁護士会が主張しておられるように,債権総則とか契約総則に入れるという話ではなくて,民法の1条か2条に入れるという発想なのです。その際に,信義則の一場面として,情報とか交渉力の格差が著しく大きい場合にはそれに配慮しましょうという提案ならまだ,これまでの延長で分からないことはないのですが,それに至らない,とにかく情報や格差がある場合には,その格差があることを考えましょうという思想なわけで,自由競争というものは差を付けるための競争なわけですから,それが一定範囲に収まる範囲においては,その差を捨象するというのが民法の原則だったのではないかと,銀行に勤務する前から,私は思っていました。   したがって,格差があるときにはそれを考えましょうという原則は,かなり大きな転換でないかと感じまして,信義則とかそういう問題とは異質の概念を民法全体に持ち込むような気がしているのですけれども,本当にそれでいいのかどうかを是非十分に考えて検討いただきたいということを,最後に付けさせていただきました。 ○中井委員 今の規定の位置に関して,先ほど山本敬三幹事から法律の解釈として基本的なところ,つまり第1条,第2条に置くような御発言がありました。第2条が解釈の基準になっていますが,ここでは「個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として,解釈しなければならない。」,この規定に並ぶのかということについて,弁護士会もよく分からないところがありまして,契約法に関する法律,意思表示等に関する一部総則も入るのかもしれませんが,契約関係について議論している範囲に関しては,山本敬三幹事がおっしゃるように,当該民法の条文についての解釈において考慮すべきであると,弁護士会も考えております。加えて,これまでの議論の中で,契約の趣旨と並んで当事者の属性というものを考えて,様々な規定を形成してきたのではないかと思います。そういう意味で,合意された契約条項について,解釈するに当たっても,弁護士会としては,当事者間の情報量なり交渉力の格差を考慮して解釈していくことができるのではないかと考えているわけです。   そうすると,一般的な条項を,仮に承認を得られるとすれば,入れる部分は,契約法の解釈若しくは契約条項の解釈に当たって考慮することができるという意味で,契約の一番最初のところ,債権の一番最初,信義則の具体化辺りに並んで規定してもいいのではないか。 ○鎌田部会長 事務当局から何かありますか。 ○筒井幹事 規定の置き場所については,何らかの提案をしたわけではありません。この総則的な規定は,中間的な論点整理の取りまとめの過程で,新たに問題提起がされて中間的な論点整理に掲載されましたので,部会で本格的に議論するのは本日が初めてであります。この論点について議論していただくために,提案されている内容をそんたくして部会資料を書きましたけれども,その際には,これまで何人かの方が言及されたように,民法第2条を参照しております。しかし,仮に規定を設けるとした場合にどこに置くかという点は,中井委員から御指摘があったように,今後の議論次第ということになろうかと思います。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。   それでは,恐縮ですけれども,次に進ませていただきます。   「第5 規定の配置」について,事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「5 規定の配置」においては,債権関係の規定の見直しを踏まえ,これらの規定を民法典全体の中でどのように配置するかという問題の幾つかを取り上げています。   本文1で取り上げているのは,債権総則と契約総則を再編成するかどうかに関わる問題です。民法は,強制履行や債務不履行による損害賠償など債務不履行責任について定めた規定は債権総則に,契約の解除や危険負担に関する規定は契約総則に,それぞれ配置していますが,これらはいずれも債務不履行が生じた場合に問題になり,機能的には一体のものとして考察の対象とされているものであることから,これらが異なる位置に配置されているのは適切でないという指摘があります。そこで,本文1では,これらを統合して規定すべきであるという考え方の当否を取り上げています。なお,この点については,例えば債務不履行の免責事由や損害賠償の範囲についてどのような規定を設けるかにも関係する問題であると考えられます。   本文2では,典型契約の配置に関する問題を取り上げています。民法は,有償か無償かのみが異なる同種の類型の契約の中では,まず無償の契約に関する規定を配置し,その後に有償契約に関する規定を配置していますが,今日の社会においては,むしろ有償契約のほうが重要な役割を果たしていることから,有償契約の規定を先に配置すべきであるという考え方があります。そこで,このような考え方の当否を取り上げています。   このほかにも,法律行為に関する規定や消滅時効に関する規定をどこに配置するかなど,規定の配置に関しては様々な問題がありますが,これらは,それぞれの項目についてどのような見直しがされ,どのような規定を設けるかにも関係する問題であり,引き続き検討する必要があります。最終的には個別の項目の見直し次第によって判断する必要がありますが,本文で取り上げていない問題についても,現時点で御意見があれば御発言いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明がありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○大村幹事 規定の配置の問題につきましては,以前に議論したときにも余り意見は出なかったと記憶しております。実務関係の委員の方々にとっては,どちらかといえば二義的な問題だという御認識なのではないかと思います。ただ,ここに出ていることに即して申しますと,第5の1は,多くの民法学者の感じているところなのではないかと思います。   現在のパンデクテン体系をどれくらい尊重するかについては,一方の極に私のように懐疑的な者がおりますが,他方の極に何としてもこれを維持すべきだという方もいらっしゃると思います。そういう方であっても,債権総則と契約総則の関係を整理すべきだという点については,基本的な方向としては御異論はないのではないかと認識しております。   そもそも,現行の民法典の債権総則の編成自体は,それほど明確な原理に基づいてできているわけではなく,起草過程を見ますと,紆余曲折の結果,現在のようになったというものでございます。また,諸外国の法典の債権総則に当たるところを見ましても,何か共通の規定の配置の仕方があるというわけでは必ずしもないように思います。ですから,最低限,使い勝手の悪い部分については,今回の改正で是非直すという方向でお考えいただきたいと思います。実務上は従来の規定の配置で慣れておりますので支障はないかもしれませんけれども,今後の若い世代の法律家を養成していく上で不可欠のことなのではないかと思っております。   それから,第2点については,有償,無償ということで,有償契約を先に配置するということが提案されております。これも社会的な実態に鑑みれば,有償契約をまず先に規律して,それに続けてそれに対応する無償契約の規定を置くというのが妥当だろうと思います。   ただ,無償契約が全く役割を果たしていないわけではございませんし,これからの社会の中で,無償契約を活用していく場面というのもあろうかと思いますので,有償契約を前に置くことによって無償契約を軽視しているという印象を与えないような御説明をしていただければと思っております。   それから,最後に3点目ですけれども,ここにゴシックで書かれていない点については,またその問題に応じてというお話がございましたが,資料の34ページ,最後のところに,今回の改正対象となる債権関係の規定を独立させるという可能性について御説明があります。これは一つ考えられるやり方なのではないかと思います。先ほど話題になりました格差に関わるような規定を総則に置くのか,それともそうでない場所に配置するのかというのも,新法の出来上がりのイメージと関わっているところがあろうかと思います。そうした観点からもこの問題を御検討いただければと思います。   従来の立法におきましては,こういう問題は,最後になると法制上の問題であるということで,審議会の手が届かないところで決められることがございましたが,民法典の改正におきましては,出来上がりがどういう形の法典になるかというのは,かなり重要な問題ですので,この場の意見を徴していただく機会を今後も設けていただければ幸いでございます。 ○鎌田部会長 ということでございますので,是非積極的に御発言を頂きたいのですが。 ○中田委員 第5の2,典型契約の配列についてです。実質は,この御提案及び大村幹事が今おっしゃったことに賛成なのですが,説明の仕方について若干気になりますので,1点だけ申します。   31ページに典型契約の配列についての説明があり,現在の民法典は,「その他」を含めると四つの類型に分類されているということが出発点になっているようです。しかし,これは民法典自体のというよりも後の学説による分類でありまして,これは一つの考え方ということだろうと思います。特に,賃貸借をどこに位置付けるのかは結構議論があるところだと思います。そこで,これは当然の前提ということではなくて,ただ,今度新たに配列を考えるとすると,実質的にはここで御提案されているようなことでよいと,そういうことかと思うのです。 ○佐成委員 産業界の議論の中では,やはり盛り上がりはなかったのですけれども,2点だけ申し上げておきます。ここで書かれている問題意識自体については,もちろん共感を覚えております。例えば,最初の部分の1ですけれども,1についても,機能的に一体のもの,要するに債務不履行の場面での規定が債権編と契約編に分かれてしまっていて,これでは使い勝手が悪いというのは,問題意識としてはよく分かります。ただ,その後の補足説明を読みますと,一長一短みたいなことが書いてあって難しいなという感じで,経済界としては何とも言いにくいという面があるということを申し上げておきます。ですから,問題意識自体は共感を持っておりますので,是非,学者の皆様の英知を絞っていただきたいということが一つでございます。   それから,有償契約を先にするということについて,これも実務的には分かりやすいと思います。大村幹事がおっしゃったとおり,無償契約というものも,実務的にもかなり重要であり,今後もむしろその重要性は増していくだろうとは思います。けれども,それを軽視するというメッセージを残さない限りは,有償契約を先にするというのは非常に分かりやすく,別段,実務界として反対するということはないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにはよろしいでしょうか。 ○筒井幹事 ただいま佐成委員が言及してくださった点ですけれども,第5の1におきまして,債務不履行に関連する規定の置き場所を一つにまとめるとした場合に,それ以外の規定をどのように配置するかにつきましては,第1ステージの審議の最後のころ,第20回会議において規定の配置について御議論いただいた際に,大村幹事,山本敬三幹事,それから山野目幹事から書面で御意見を頂き議論をいたしました。そのときの議論の成果を踏まえて,三つの考え方があり得るのではないかと整理しております。部会資料では,どの考え方にも一長一短があるという書き方をしてはおりますけれども,これらの考え方,あるいはほかにもあるかもしれませんが,いずれかの考え方で決めていかなければ,債務不履行関係の規定を一つにまとめるということが実現しないわけです。この点につきまして今後とも御意見をお聞かせいただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 それでは,また御意見がありましたら,引き続き事務当局にお寄せいただくということにさせていただきまして,部会資料50について御審議いただきたいと思います。部会資料50は,これまでの第2ステージにおける審議を踏まえて,補充的に検討すべき論点を取り上げたものでございます。まず事務当局からその趣旨を説明してもらいます。 ○筒井幹事 部会資料50は,ただいま部会長から御紹介いただきましたように,これまでの審議の中で,更に補充的な審議が必要であろうと考えた幾つかの論点をピックアップして資料を作成したものです。そのうちの多くのものは,分科会において議論していただいた成果に基づいて,新たな提案をし,あるいは新たな論点の整理をしたというものです。有価証券に関しましては,分科会での議論をお願いした論点ではありませんけれども,補充的な審議が必要であろうということで,この資料の中で取り上げたものです。よろしく御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,部会資料50の「第1 法定利率」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○新井関係官 それでは,説明いたします。   「第1 法定利率」,「1 変動制による法定利率の決定方法」では,第2ステージにおける法定利率の在り方に関する審議等を踏まえまして,法定利率の具体的な在り方を提案するものです。すなわち,法定利率につきまして,変動部分と固定部分の和に基づき決定されるものとした上で,変動部分は基準貸付利率の変動に伴って変更され得るものとする利率の変動制を採用することを提案しております。もっとも,基準貸付利率の変更をリアルタイムで法定利率の変動部分とすることは,実務上の負担が過重になり得ることを踏まえまして,変動の有無を判断するための基準日を年1日設けた上で,その日の基準貸付利率と従前の変動部分との間に一定以上の有意な差がある場合にのみ,変動部分を基準日の基準貸付利率に変更するものとしております。そして,変動部分が変更される場合の最小のかい離幅として,差し当たり,0.5%をブラケットで囲んで示しております。   また,固定部分は,施行時点における経済状況等を勘案して,法定利率として適切と考えられる水準の利率から施行時点における変動部分を控除して求めるものとしております。現時点で変動制による法定利率制度の運用を開始すると仮定した場合の利率として,差し当たり3%という数字をブラケットで囲んで示しております。本日の基準貸付利率は0.3%ですから,これを変動部分とする場合には,固定部分は「3-0.3=2.7%」となるというイメージです。   そして,変動部分と固定部分との和につき0.5%刻みの数字とするための所要の修正を施すことにより,法定利率の小数点以下の数字が過度に細かいものとならないようにすることを提案しています。   「2 変動制による法定利率の適用の基準時等」では,法定利率を変動制にするのに伴い,個々の債権につき,どの時点の法定利率を適用すべきかについての規定の在り方を取り上げるものです。   (1)では,利息を支払うべき債権につき,利息の支払いをすべきこととなった最初の時点の法定利率を適用するものとすることを提案しています。また,(2)では,金銭債権の遅延損害金については,(1)とパラレルに遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率を適用するものとすることを提案しています。(3)では,債権の存続中に法定利率の変更があった場合に,当該債権に適用される法定利率も変更するものとするか否かを問題提起しております。   「3 中間利息控除」では,損害賠償額を算定する際の中間利息控除について,中間利息控除するか否かを解釈に委ねることを前提に,中間利息控除する場合に用いるべき割合について規定を設けることの要否を問題提起しています。その割合として,差し当たり判例と同じ5%の固定割合をブラケットで囲んで示しております。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分のうち,まず「1 変動制による法定利率の決定方法」と「2 変動制による法定利率の適用の基準時等」について御意見をお伺いします。御自由に御発言ください。 ○佐成委員 産業界の中で議論してきた中では,1の方向性自体については,おおむね異論はないのではないかと思います。数値などは,ブラケットで書かれてありますので,果たしてこれが妥当かどうかは別にしまして,考え方としては,これは非常にいいのではないかということだと思います。   1のイや,2の(1),(2)についても特段意見はございませんでしたけれども,(3)については,実務上の混乱の種にならないかといったような懸念が若干ありました。 ○鎌田部会長 ほかには特によろしいでしょうか。 ○三上委員 1ないしは2の考え方自体は,こういう考え方でも構わないと思うのですが,具体的な数値ですが,この案でいきますと,恐らく2.5%がボトムで,それを変動に合わせて0.5刻みで上がるという発想ではないかと思いますが,2.5という数字は一体何なのか。   そもそも,法定利率の目的を何に置くかというときに,金銭債務の特則が適用されるときなどペナルティー的に使われるものと考えるのか,そうではなくて,お金を持った瞬間から何がしか発生するはずの,一種の不当利得的なものの清算という趣旨で考えるのかによって,この数値の水準は違ってくると考えておりまして,この会議でも確か,第一読会か第二読会のときに中井委員のほうから,今のこの御時世で5%で借りられるところなんて,探すほうが難しいという厳しい御意見がありましたが,一方で,この御時世で5%で運用する先を見付けるのはもっと困難だという,立場によって非常に変わってくる数字です。そういう数字を置くときに,今提案されているボトムの2.5というのは,極端に言うとゼロと5の中間を採ったということでもないのでしょうが,どういう哲学でもってこの数字を持ってきたのか。   損害賠償の金銭債務の特則自体を廃止するという議論,あるいは債務不履行一般のこれまでの議論,契約で請け負った範囲と不可抗力の組合せにするとか,そういった部分と連動するので,ここだけで意見を述べるには難しいものがあるのですが,もし例えばこの基準になる0.3とか,今の供託金利の0.25というような利率を,金銭を何らかの理由で保有した者が,その保有期間の不当利得的なものを清算するという意味で払う率にするとして,それが損害賠償の場面では低きに失するという意味であれば,金銭債務の特則のところで,極端なことを言えば上乗せを4.7にして,出来上がりを5%で始めて,それをみなし損害額にするとか,いろいろな発想は出てくると思います。そういう意味で,ここで2.5%の意味というか,目的を明らかにしておかないと,何に使うために法定利率を設けて,それを変動に変えたのですかという疑問が付いて回るのではないかという懸念が残ると思います。   それから,これはそういう意見もあったということなのですけれども,今回,昔の公定歩合に相当する数字をベースにしておられますが,ここではLIBORとかTIBORという,最近評判は芳しくないですが,市場実勢を表すレートを使うという発想もあり得るのではないか。日銀金利という政策金利を基準にしますと,市中金利を無視して金利を高目に誘導したりとか,バブル退治のために一気に引き締めるとかそういう政策的な意図が入ってくるので,それが果たして私法の法定利率のベースとして適切なのかという意見もございました。   最後に,上乗せ部分の括弧で囲まれている出来上がり3%,最低2.5%という数字は,我々が普段,法定利率が適用されるのは余りに不合理ではないかと思う場面を考えると,依然として高きに失するという感触を持っております。 ○岡委員 弁護士会の意見はある程度分かれております。法務省提案でいいという意見もございます。後から中井さんが言う大阪のような意見もございます。第一東京弁護士会の議論を踏まえて私個人の意見としては,現在,5%を3%に変えるという,3という数字については予想外に支持が多く,3%に今回下げるのでいいのではないかと私個人も思っております。   ただ,方程式を今決めてしまうのがいいのかという点については,昔の高金利時代を知っている古い人間としては,5%よりもかなり高くなる方程式になりますので,方程式を今から決める必要はないのではないか。この部会資料にも,その都度,国会が改正すればいいではないかという意見に対して反論を書いてありますけれども,世の中どう変わるか分かりませんし,3%に今回変えるのはいいけれども,方程式までは作らないというやり方を支持したいと個人的には思っております。   3については,三上さんがおっしゃるように,根拠,哲学は何かという議論が弁護士会でも大分出ましたけれども,遅延損害金であるとか,訴訟になった場合に,真面目に訴訟をやっている人については,民事訴訟のほうで法定利率を抑えるような制度を作るということで対処するしかない。真面目に訴訟をやっている人についての救済は民事訴訟でやり,数字として2.5とか2とか言われると何となく違和感があり,5%はやはり高過ぎるという感覚があって,3という数字には賛成したいと思います。方程式を作るのには個人的には反対意見を申し上げたいと思います。 ○中田委員 今の岡委員の御懸念との関係なのですけれども,第1の1で,上限を決めないと非常に高くなる可能性があると私も思いました。頂いた資料を拝見しますと,9%の時期もあったりしますので,この方程式でいうと11.7%にもなってしまいます。それを抑えるために,上限を決めるという方向で弁護士会の御懸念が収まり得るのか,あるいはそもそも上限を決めるのが適当かどうかというのも一つかと思います。例えば,現在5%ですので,5%を軸にして上下2%ぐらいの幅の中で考えるということもあるかと思いました。ただ,全くの思い付きですので,実務的に耐え得るかどうかについては御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 一般の金利が高いときに法定利率が高くなっても,それほど問題ではないのではないかという気がするのですけれども。 ○三上委員 しつこくて恐縮ですが,今の低金利時代に5%という高金利は,裁判をやっている立場でいきますと,当事者の行動パターンをゆがめているという実感があるのです。相続でもめている一方当事者から預金を払えというときに,以前であれば,取りあえず銀行に交渉にやってきて,払う,払わないで,これでも払わない,だったら裁判すると,決裂して裁判になったのですが,今は何の交渉もなく,まず訴状が飛んできます。なぜなら,先に訴状を飛ばしたほうが,送達日から先5%の安全かつ高率の運用を前提に交渉ができるからです。   同じように,公定歩合が9%の頃というのは市中金利が10何%の時代ですから,そのときには出資法とか利息制限法の範囲内で商売ができなくなってしまうということもあるので,そちらを見直さなければいけないような状況ですが,そういうときには,逆に法定利率が3%か5%だと,債務不履行したほうが得だから,しばらく債務不履行で放っておいて,手前で運用してから返すという行動が蔓延するかもしれないわけです。 ですから,今,部会長がおっしゃったように,ある程度,市中金利に連動したような数字にしておかないと,中立的な金利を提供するということにならならないのではないかという気はしております。これは飽くまで個人的な感想でございます。 ○岡委員 利息超過損害が認められれば,市中金利が高い場合の対応は理論的にできるのではないかという議論はしておりました。 ○道垣内幹事 2に関しまして,(1)(2)と,(3)との関係が私にはよく分からないのですが。 ○鎌田部会長 事務当局から説明させます。 ○新井関係官 (1)と(2)は,利息等が具体的に発生するスタートの時点の法定利率によるという考えですけれども,まずその当否を問うた上で,更に(3)のように,期中に法定利率が変わったときに,個別の債権に適用される法定利率も変更されるものとするか否かは,別の問題であると整理して,この部会資料は作成しております。   ただ,そうすると恐らく,その時々に発生する利息にその時々の法定利率が適用されるという考え方に帰着してしまうのであろうということも,一応念頭にはありまして,そこを補足説明の中では言及しているのですけれども,整理の前提としてはそういうことです。 ○道垣内幹事 (1)(2)はスタート時点を決めるだけだから,(3)とも両立し得るという意味ですか。 ○新井関係官 そうです。 ○道垣内幹事 スタート時点のときにスタート時点の法定利率が適用されるというのは当たり前ではないですか。 ○鎌田部会長 (1)(2)というのはスタート時点で固定するという考え方が基本なのに対し,(1)(2)でスタートしておいて途中で変動するという考え方もあるけれども,それをどうするかというのが(3)ということですね。だから,(1)(2)はワンセットだけれども,(3)は別の原理を付加するかしないかということ。そういう理解でいいですね。 ○新井関係官 はい,そうです。 ○鎌田部会長 (3)がなければ固定的になってしまうけれども,(3)があれば,正に流動制になるということです。固定制といっても出発点に固定されるという意味の固定制なのですけれども。 ○道垣内幹事 (1)(2)につき,出発点においては出発点の法定利率が適用されるというのは当然のことであって,それによってその後も固定されるのだというふうに(1)(2)のルールを読まないと,(1),(2)のルール自体に意味はないですよね。そうすると(1)(2)と(3)というのは並列されるべき話ではなくて,違う話なのではないかと思いました。にもかかわらず,あえて並列されているということは,私の以上の理解が正しくないのかなと思って伺ったのですが,具体的な内容が分かれば,それで結構です。 ○沖野幹事 2の(1)(2)ですが,スタート時点でということですが,スタート時点がいつかということについて,それを明らかにするというのが(1)(2)の主眼ではないでしょうか。契約時なのか債権の発生時なのかとか,そういうところで時点をまず確定させた上で,しかし更に変動があったときどうかという御趣旨かと思いましたが,そのような理解でよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 それはそのとおりです。   ほかにはよろしいでしょうか。ほかに特に御意見がないようでしたら,「3 中間利息控除」についての御意見をお伺いいたします。 ○野村委員 遅延損害金については,過去の金利を考慮に入れるということになるので,変動制にすれば,その変動した過去の金利で計算が可能になりますけれども,中間利息の控除というのは,将来の一定金額の現在価値を予測するということなので,将来の金利を予測して,その予測した金利によって,中間利息を控除することになります。しかし,将来金利の予測というのはそう簡単にはいかないので,遅延損害金の計算と同じようには考えられないと思います。また,予測した金利が変動する場合に,それによる中間利息の控除は,きわめて複雑になります,だからといって,ここにあるような年5分という固定の数字を入れるというのは,やや考え方が矛盾するかと思うのです。ですから,規定をしないか,あるいは入れるとすれば,将来の予測をどう考えるのかということが分かるような規定にするということが必要ではないかと思うのです。 ○高須幹事 今,野村先生から御指摘いただいたことと共通するわけですが,中間利息控除について,第一読会及び第二読会で意見を言わせていただいておりますので,それを踏まえた更なる意見を今日はペーパーで用意させていただきました。全てを読み上げることは避けますが,趣旨としては,今回5%で固定するということに対しては,やはり私として反対ということでございます。   先ほど部会資料の御説明のところで,判例が5%を採ったという御指摘も頂いたわけですが,最高裁の平成17年6月14日の判例がそれに当たると思いますが,それは平成10年前後から平成15年ぐらいまでの間に,5%の法定利率が高過ぎるということがあり,また,中間利息控除をいくらとするかは事実認定の問題に属するという視点から,2%とか3%とか4%とかという下級審裁判例がいくつも出て,それに対する最終的な統一意見を作るというところで,平成17年の最高裁判例が出たのだと思います。これについては事実認定の問題ではなくて,飽くまで法定利率によるというのが法の趣旨だということから5%と定めるとの最高裁判例となった。つまり,現行の法定利率が5%になっているからそういう結論が出たのだと思います。   そうすると,今回,法定利率のほうを,先ほど来議論していますように,経済の実情との間で差があるということで変えていこうと。具体的には3%という数字が出ている中で,ここだけは従来の5%を維持するということについて,合理性がないのではないかと私は思います。第一読会,第二読会の議論を通じて,この問題の抜本的な改正検討は難しいとされ,このこと自体は,私自身も議論に参加させていただいてある程度実感しているつもりです。不法行為については,ここでは抜本的な検討をすることができないので,この問題については不法行為の改正のときに抜本的に改正しましょうと。この点は理解しているつもりなのですが,その結果として,ここで5%と明文で決めるというのが,なぜそういう帰結になるのかが,やはり合理性を欠くのではないかと思います。   そういう意味で,私としては,現在この問題について,固有の考え方をこの部会で決めることができないとすれば,むしろここでは,中間利息控除の問題については決めないという形で,将来の改正に委ねるべきだと考えます。   そのように考えた理由をペーパーでは幾つか書かせていただいたのですが,損害保険について,中間利息控除額を変更すると保険金の支払額が非常に大きくなるのでダメージがあるという御指摘もあるとは思うのですが,しかし,やはりおかしなところがある。書かせていただいた理由の一つにしているのですが,中間利息控除の名の下に,実際には将来の利益を現在価値に反映するという作業以上のことを,5%ルールということでやるということになれば,それはやはり,取扱いとしては本来的でない取扱いを,中間利息控除という名目の下にやっているというだけのことになるのではないか。そうなると,結局それは,不合理な取扱いをしていますねという社会的批判を受けるのではないかと思います。コンプライアンスなどという言葉を,民法の改正の中で使うのは視点が違うのかもしれませんが,企業の発展ということを考えたときには,社会的に好守され難いような取扱いを認めていくようなことは,よくないのではないかと思います。   その意味で,私としては,ここは従来の議論を踏まえれば,決められないというのは一つの在り方だと思いますが,現状の5%を,法定利率を変えると言いながらこの中間利息控除だけは固定することを決めるというのは,決して合理的な考え方ではないと思いまして,反対ということでございます。 ○佐藤関係官 今の点につきまして,実務的な観点から業界の意見を聴取しましたところを御紹介させていただきます。   結論的には,両先生の御意見とやや反するところもあるのですが,実務上の観点から見て,中間利息控除について,その利率を含めて民法上明記することが望ましいという意見が出されております。その趣旨としましては,民法に何も規定がないとするならば,どの利率を適用するべきなのか,これは現在の法定利率を適用するのか,あるいは新しい法定利率になるのか,いろいろな意味から争いが増加しかねないということを懸念する,こういう意見でございます。   では,具体的に年5分がいいのか3分がいいのか,あるいは別の利率がいいのか,ここについてはいろいろな議論があり得るところで,補足説明にもございますように,これまでの議論もありましたが,取り分け逸失利益の算定について,擬制の上に擬制を重ねており,そういう不自然な状況であるということから,究極的には,不法行為の領域の議論が行われて,この問題について適切な損害賠償法理が,なるべく早く議論されることが必要であると考えております。そして,その中間的な移行期の暫定的な段階でどのように対応するかということが,ここでの議論のポイントになるのかなと思っておりますが,先ほど申しましたように,実務的な観点からは,何らかの規定を民法で明記していただきたい,そうしないと実務的な混乱が生ずると,こういう懸念が多数寄せられております。 ○筒井幹事 安永委員の発言メモを読み上げて紹介いたします。「第1 法定利率」の「3 中間利息控除」についての御意見です。   部会資料では,損害賠償額の算定のために中間利息控除を行う場合,その割合を「年5分」とする考え方が提起されています。しかし,この提案によると,労働災害の被災者が企業から損害賠償を一時金で受けることを選択した場合,賠償金受取時から将来の毎月の給与支払時までの間,法定利率である5%で複利運用したときの利息相当額が控除された金額しか受けられなくなってしまいます。本提案には,労働災害の被災者が企業から損害賠償を受けるに当たり,大幅に目減りした賠償額しか受け取ることができなくなってしまう,という問題があることに御留意いただきたいと考えます。 ○高須幹事 今の関係官の御発言を踏まえてなのですが,もしどれを採っていいか分からないという疑問があるとするなら,それは何らかの措置を採るというのが一つの合理的な考えかもしれません。最高裁の判例が安定性を考えて統一的な扱いをしなければならないということを一つの論拠にしたということからも,そのような取扱いは合理的だと思います。私は本来的には明確な基準を設けることは,あり得る選択肢だろうと思っています。   ただ,そのときに5%のほうへそろえるというのは,法定利率を今のように下げていくということであれば,やはり議論の方向性が違うのではないか。仮にそうであれば中間利息控除も3%でいいのではないか。現行の5%から3%に変えることについて,急激な変更は保険実務を更に混乱させるという議論が更に続くのであれば,附則で,3%への移行は,例えば改正施行後少し期間を置くという経過措置を取る。少しというのは不明確なので明定したほうがいいと思いますから,2年なり3年の期間をおいてその間に移行するみたいな附則まで設けるとか,そこまでいろいろな工夫はしてもいいと思っています。いずれにしても,将来,ここが大変難しいところだと思いますが,不法行為法の改正がいつできるかということについての展望が全く開けていない今の段階において,最終的にはそこで変えるのだから,それまで5%にしておきましょうという議論は,その間の交通事故等の不法行為訴訟における実務を,国民から見れば非常に分かりにくいものにするというか,これでいいのだろうかという疑問を呼ぶようなものにしてしまうのではないかと思います。   ですから,私自身の意見にこだわるつもりはありませんけれども,5%の固定で,あとはこの次の改正までねみたいな言い方は,ここではもう一工夫も二工夫も要るのではないかと思います。 ○佐成委員 佐藤関係官が適切にまとめていただいたところと基本的に同旨でございます。まず一つは,法定利率の問題と中間利息控除の問題は本来は全く別の問題であるということです。確かに,最高裁の判例では中間利息控除には法定利率を使うべきであるとされておりますけれども,本来は中間利息控除という問題は,不法行為法の分野できちんと議論すべきものであって,当部会の審議範囲として果たして適切なのかというところがございます。確かに未来永劫5%でずっと固定という含意であれば問題がありますけれども,さはさりながら,それではそこまで踏み込んだ議論をするのかということになると,当部会の審議範囲を超えかねません。その意味では,審議範囲を超えるところではどうしても現状維持という考え方を採らざるを得ないと思われますので,仮に法定利率を変動制に移行すれば何か現状維持のための手当てをせざるを得ないということになります。実際,この部分に何も規定を置かないということで果たして本当に大丈夫なのでしょうか。特に中間利息控除に関しては,実務上の安定性ということが非常に重要なファクターでありますので,取りあえず現行実務を維持するというメッセージだけは何らかの形で与えておく必要があるのではないかということです。もちろん,この5%に固定するという明文規定を置くということには,確かに高須幹事がおっしゃるような問題点はございます。あるいは安永委員が言っているようなこともあるのかもしれませんけれども,少なくとも現行実務を当面維持するという,必要最小限の手当てについては,やむを得ないのではないかという感触を抱いているところでございます。もちろん,変動制の導入を見送るのであれば話は別ですけれども。 ○村上委員 非常に難しい問題ですが,規定を設けないで解釈に委ねておくことにしたのでは,今後,かなりの長期間にわたって,損害額算定の実務に大きな混乱をもたらすことは避けられないと思います。   変動制を採るのであれば,中間利息控除においても変動制を採るという考え方にも,一定の合理性はあると思いますし,また,変動利率が変動部分と固定部分とから成るということにした場合に,固定部分を設ける趣旨が御説明のようなことだとしますと,中間利息控除においては変動部分だけを用いるとすることでよいのではないかという御意見も出てくるかもしれないとも思います。ただ,いずれにしましても,利率が変動するということになりますと,損害額算定の実務に不安定要素が持ち込まれるということも明らかだと思います。   中間利息控除が実際上大きな問題になりますのは,何十年にもわたる長い期間の逸失利益を算定する場合ですけれども,部会資料添付の別紙を拝見しましても,過去数十年単位で見ますと,公定歩合はかなり大きく変動しており,5%よりもはるかに高い利率がかなり長く続いていた時代もあるわけで,そういったことが今後再現されない保証はありませんので,そうなった場合にどうなるかも含めて,慎重に検討することが必要だと思います。なお,定期金賠償制度の利用が一般化すれば,話は違ってくるでしょうが,それについても,そう簡単に結論が出せるわけでもないだろうということがあります。   損害額算定の問題は,社会的影響が非常に大きいと思いますので,中間試案において複数の案を併記するなりして,広く社会の御意見を伺った上で決断をするしかないのではないかと思います。 ○畑幹事 今まで話題になったかどうか記憶していないのですが,法定利率というのは,今問題となっている損害賠償額の算定だけではなくて,ほかにもいろいろなところで出てくるのではないかと思います。私が知っている範囲だと,例えば,倒産債権を現在化する際に,法定利息分を差し引いて現在化というようなことがありますし,その辺りも視野に入れる必要はあるのかなと思います。取り分け今の現在化する話などは,何人かの方がおっしゃったことと共通しますが,やはり何かしら決めざるを得ない。解釈に委ねるというのではちょっと困るのではないかという印象はあります。 ○筒井幹事 ただいま畑幹事から御指摘いただいた点は,重要な問題であろうと思っております。法定利率について変動制を採った場合に,現在,法定利率の規定を参照している民事執行法や倒産関係の法律の規定については,恐らく固定の数字を書き込む方向で整備を考えるのではないかと思っております。それについては,この部会の守備範囲外とはしないで,いずれまた次のステージで御意見を頂く機会を設けるべきであろうと思っておりました。そのことと中間利息控除とは,直ちにリンクはしないかもしれませんけれども,留意すべき議論ではないかという気もしております。 ○中井委員 法定利率の問題については,私自身の意見はもう既に第二読会で申し上げているとおりで,変わっていないのですけれども,大阪弁護士会は当初,変動制は一定やむを得ないのではないかという考え方を採っていたわけですが,今回,これが中間利息控除とのセットで出てきたところから疑問を呈しています。   つまり,法定利率は3%になるけれども,他方で中間利息控除を5%と決め打ちする。決め打ちすることについては,それぞれ社会的な必要性,先ほどからいろいろ御指摘があるところで,一定理解できるところではあるのですけれども,これを将来分の金銭の現在化という観点からすれば,直近の金利を見るなら過去10年で1%ということで,変動利率の根拠にするなら,これから先,3年,5年の債権を現在化するにおいて,なぜ1%ではなくて,3%でもなくて,5%なのかということについて,合理的な説明が果たしてできるのか。少なくともそれであれば,生命・身体に関する損害賠償の算定について,ここで5%と決め打ちすることは,前提の法定利率で変動制を採ることと,やはり理論的に矛盾するのではないかというのが,大阪で出てきている意見でして,そうすると,3も1も,果たしてこのままでいいのかという疑問です。   変動制を容認する,その根拠が運用なのか調達なのかという議論はあって,そこが曖昧なままで,これは三上委員もおっしゃいましたけれども,2.5%か3%というのが出てきた。ここについても恐らく積極的論拠はない。3%がよくて5%がよくないというのも,私自身は正直言ってよくは分かっていないわけですけれども,大阪はなぜ3%が出てきたのかという意味でも,1の法定利率の決めの仕方については疑問を持っている。その以降の変動の仕方については,仮に変動制を採るとすればこういう考え方は,0.5%刻みがいいのか1%刻みがいいのかは別として,あるのかもしれません。大阪もその点については否定するものではありませんけれども,前提として,3%でスタートすることについての積極的論拠がこの部会資料から感じられない,理解できなかったというところです。 ○三上委員 金融機関としては,中間利息控除に関しては積極的な異議があるわけではないのですが,一つの見方という意味でいきますと,法定利率は,恐らくそれ自体は短期的な利息の調整という趣旨を持っているのではないかと思いますが,中間利息控除で使われる数字は長期金利です。ですから,いまだに,この御時世ですら,例えば更生担保権の現在価値算定などでは,厳しい管財人だと5%を超える割引率を提示したりされて,そういう根拠も過去のレートの,何年まで遡って平均を採るかによって出てき得る数字ですから,5%だから高過ぎる,低過ぎるという根拠にはならないと思います。   そういう意味で,考え方として,第二読会の初めでは評判が悪かったのですが,長期金利と短期金利に分けて長期金利はプラス1%上乗せするとか,そういう発想もありだと思います。今,この御時世で5%は高過ぎる,今の5%に当たるのは3.5%という意味であれば,不当利得的なものを清算するレートという意味では,せいぜい1.5%とか2%ぐらいにしておいて,長期間の割戻しレートを考えるときにはプラス1%にするとかいうほうが,商人は運用に長けているから商事法定利率は民事法定利率に1%乗せるのだ,というよりは,はるかに説得力のある根拠付けになるのではないかと考えております。 ○松井関係官 今,商事法定利率についてのお話がございました。先ほどの提案のように,民事法定利率について,我が国の一般的な経済情勢を反映させる利率の変動制を採用する場合には,商法514条の年6分という商事法定利率についてどのような制度とすべきか検討する必要がございます。   商事法定利率は,商人であれば非商人よりも有利に資金を運用できるはずであるなどの理由から,民事法定利率より年1分高くなっているところですが,例えば,民事法定利率について,その時々の金融市場における一般的な金利のすう勢に見合った水準とするのであれば,これと別に商事法定利率を設ける合理的な理由はなく,商法514条を削除するという考え方もあるでしょうし,他方で,現行法のように,民事と商事の2本立てを維持しつつ,民事法定利率に若干の上乗せをするという考え方もあるかと思います。   この点は商行為法の分野の問題ではございますが,この場には実務に携わる委員,幹事の皆様が多数いらっしゃいますので,もし現時点でお考えがあれば,御披露いただければと考えております。 ○三上委員 個人的な意見になりますけれども,恐らく金融機関にいる人間は同じ意見だと思いますが,商人であれば1%多く回せるはずだというところは,何の根拠もないというのが正直な実感で,商行為に関係ない損害賠償みたいなものでも,誰かが銀行を訴えててくるときには必ず6%で請求して,判決では5%になるみたいな,より多く請求するための根拠の一つにすぎないものになっています。また,同じ金融機関なのに,銀行は6%だけれども信用組合は5%というのも,およそ誰も納得していないと思います。そのような違いは会社法と民法以外には遭遇しない違いですから,今申しましたように,そういう違いを設けるぐらいであれば,短期法定利率と長期法定利率で1%違いを設けるほうが,よほど現実に即していると思います。短期と長期の区分は1年超か1年以下かで設ければいいのではないかと考えております。 ○松本委員 2点申し上げたいのですが,一つは,中間利息控除について,何%がいいのかというのは私も全く分かりません。決め打ちで従来やってきたのだろうし,今後も決め打ちしかないのではないか。つまり,将来の金利の変動に合わせて,毎年のように控除すべき利息を変えるという2の(3)のような考えは,中間利息控除については不可能だとすると,どこかで決め打ちになると。その場合に,スタート時点における変動金利という,2の(1)とか(2)の考え方を採ると,例えば,死亡時期が1日違うだけで損害賠償額は相当変わってくるという問題が起こってきて,それでいいのかという疑問があります。ただ,これは先ほどから議論が出ていますような,特に人身事故の損害賠償額をどう算定するのかという大きな枠組みの中で議論しないと,余り生産的ではない。中間利息だけで議論するのは生産的ではないと思います。   ただ,今回,普通の法定利息については変動金利制を採るということを仮に合意したとして,仮に中間利息についてもそれに合わせて取りあえず3%にするという判断をしたとすると,それは中間利息控除の場合の法定利率も今後変動していく,損害が生じた時の金利に合わせて変動するというメッセージを出すことになると思いますので,そうであれば,そこの部分の合意が取れていることがまず必要ではないかという気がいたします。   となると,人身事故の賠償額についてのルールの全体の見直しが終わるまでは,今の計算方法は取りあえず現状維持でやるというのが一つのやり方かなと思います。そうでないやり方を採るということは今後を縛ることになるのではないかという気がいたしますので,今後の部分について議論が終わった後であればまだしも,そうでない場合は,取りあえず現状で凍結というのは,一つのあり得べきアイデアだと思います。それが1点。   もう1点は,この低金利の時代に,消費者契約法の9条2号に,金銭債務についての違約金とか損害賠償額の予定条項のうち年14.6%を超える部分は無効だという規定があるので,ここの部分が固定でいいのかという議論が起こってきてもおかしくはないと思うのです。この超低金利なのだから,ここが14.6%では高過ぎるではないかと。先ほどの3%が法定利率だとすると,14.6%というのは5倍ですよね。ちょっと高過ぎるのではないかと。   消費者契約法は民事の契約ルールですから,変動金利になるとすると,ここもこのままでいいのかという議論はあり得ると思います。 ○野村委員 先ほど申し上げたのは,遅延損害金との関係で,中間利息控除の利率として,実際に固定した数字を入れるのは,理論的に難しいのではないかということで,解釈論によらざるを得ないのではないかという趣旨で申し上げました。もし,規定がうまく設けられるなら,それはそれで確かに実務上も非常にメリットがあると思うのです。今まで出てきた中で,不法行為に基づく人身損害についての損害賠償とか中間利息の控除であれば,全く別の考え方もいろいろあると思うのです。例えば,今議論している法定利率よりも更に高い利率で損害賠償を算定するとか,中間利息も,極端に言えば控除しないという考え方もあり得るのかもしれないわけです。   ただ,それは全く別の議論で,ここではある程度一般的なことを考えざるを得ないとすると,年5分のような固定した数字を入れておくのは,法定利率が変動していくこととの関係で,特に法定利率のほうが将来予測される利率(過去の法定利率の基礎となる市場金利を資料として推測されると考えられる)よりも低くなるというときに大きな問題が出るのではないかということで,先ほど申し上げました。 ○高須幹事 私も発言の補充でございますが,先ほどから,この問題は長期で見なければならないという議論も出ていて,これは部会資料31のときの私の意見書には書かせていただいたのですが,福岡弁護士会が過去の日銀の,当時は公定歩合と呼ばれていた利率を調べた平均値があるのですが,2008年時点での過去30年平均の旧公定歩合の利率が2.572%ということでございます。私は公定歩合によることがいいとは全然思っていないのですが,仮にここで何らかの形で中間利息控除の額を決めねばならないという議論になったとしても,やはり5%というのは少し首をかしげるのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○筒井幹事 中間利息控除のところについてたくさんの御意見を頂きました。私どもとしても,年5分という数字をブラケットで囲んでおりますように,この数字が絶対によいとは考えているわけではありませんし,補足説明をお読みいただくと,この規定を設けること自体にも非常に困難を感じていることを読み取っていただけたのではないかと思います。   しかし,一方で,こういった規定を何も置かなかった場合の実務の支障を懸念する声には十分耳を傾けていく必要があるだろうと考えまして,このような案を提示しているわけです。もし規定を置くとすると,数字はともかく,もし中間利息控除を行うとすれば,この数字を使ってくださいという規定の仕方を提案しているわけですけれども,その点についてそれほど御異論がないということであれば,引き続き,ブラケットの中の数字をどのようにするのか,差し当たり現状を維持するという趣旨で5%とするのか,あるいは高須幹事から再三御指摘があったように違う数字を入れることを検討するのかといった辺りを,今後中間試案に向けて更に検討していきたいと考えております。 ○松岡委員 今の筒井幹事のまとめられ方には若干違和感と異論があります。   中間利息の控除の問題が確かに法定利率の問題と全く連動するものではない,ということは理解できますが,野村委員や高須幹事が問題とされているのは,今,超低金利時代になっていて,遅延損害金は低いのに中間利息控除が余りにも高く,被害者の救済の点で両者のバランスが悪いということです。そして,今後どういう金利水準になるかは分からない話ですが,一方で変動金利制を採って上下させるのに,中間利息だけを固定しておいて本当にいいのしょうか。松本委員が示唆されたように,中間利息控除もまた,ある一定の時期の変動する基準でもって決めることがありえます。中間利息控除の率だけを固定することは,理論的にも落ち着きの悪いものを感じます。 ○中井委員 私も,中間利息控除について何らかの規定を置き,5%を更に検討していくという方向で意見がまとまったとは思っておりません。   むしろ,ここは決められない,場合によっては今と同じように書かないという選択肢も十分にあるのではないか。変動制を法定利率について採るということを前提とするならばそういう方向も十分あり得る。私の意見は,元々,法定利率は5%でいい,それを前提に中間利息も現在の実務を追認する形で明らかにすることについて違和感はございませんが,その前提を変えたときに,野村委員,高須幹事がおっしゃることには,別の数字を入れるというよりは,場合によっては白紙ということも十分含んでおられるのではないかと理解しております。 ○沖野幹事 規定を設けるという場合なのですけれども,これは民法に規定を設けるということなのかどうかということが気になっております。と申しますのは,私自身がイメージしておりましたのは,規定を設けるという場合も,経過措置として設けるというイメージでありまして,現在,民法には中間利息の控除そのものの規定はないわけで,404条について変わったときに,その部分についての取扱いがどうなるかということは決められないということは,基本的な合意を得ていると思うのです。しかし,何ら手掛かりを置かなくて混乱させてよいか,取り分け不法行為についての正面からの見直しがいつなされるのか必ずしも定かではない中で,かなりの長期にわたって,いろいろな解釈が出るという事態を放置してよいのかという問題だとしますと,民法には規定しないけれども,404条の改正に伴って,当面このような形でいくというような規律を設けるという趣旨なのかと理解していたのですが,そのようなことも考えられるか,あるいは,そもそもそういうことは法制的には無理なのか,それはいかがでしょうか。 ○筒井幹事 アイデアとしては内部でも話題にしたことはありますが,それについて今,定見を持っているわけではありません。いずれ不法行為法の見直しをする際にこの問題についての一定の結論が出るまで,現在は判例法によって民法404条を参照しているルールについて,経過的な規定を設けるべきであるという発想自体は,それが多くの支持を得られるのであれば検討に値するとも思いますので,更に御意見を伺いたいと思います。 ○道垣内幹事 沖野幹事がおっしゃったような選択肢が本当にあり得るのかということなのですが,この補充的な検討のペーパーの6ページというのは非常によくできていて,中間利息の控除をすべき場合はどのような場合かは分からない,だけれども,もしあるときにはこうしますというルールであると書いてあるわけですね。例えば,不法行為の場合には中間利息を控除する,保険の支払いのときは中間利息を控除するということがはっきりしているときに,経過規定みたいなものを設けるというのは可能なのかもしれません。しかし,対象範囲が決まらないという形で,経過規定を置くのが可能なのか。では何が決まったら経過規定ではなくなるのか。不法行為について経過規定を置きますと,そのことは不法行為の損害賠償については中間利息を控除することを正面から認めることになる。そういう話になってしまいますので,私は今の沖野幹事の御発言には賛成できません。 ○中井委員 補充ですけれども,中間利息の控除について,ここは損害賠償額の算定に当たってと書いていますから,不法行為における人身損害等を典型にして,しかも長期間というのを典型にしている。しかし,人身損害であっても,後遺障害であれば3年,5年先の金額を現在価値に置き直して算定する場合がある。それが果たして長期を前提とした金利でいいのかと言われると,正当化根拠がないように思われます。   それから,畑幹事がおっしゃられた他の法律,倒産法等で現在価値に置き直すとき,それは現在において,倒産時点において,2年後,3年後の債権額を現在価値に置き直すとすれば,それも一定,抽象的に5%などという金利を適用するのではなくて,もちろん今回変動制を採用するならばの話ですけれども,その時点における法定金利で割り戻すというような考え方もあり得るのかもしれません。そちらのほうがむしろ明確な基準ができるようにも思います。こと人身損害については,損害額の評価の問題ですから,それを決め打ちするのは,変動制を採る以上,逆に奇妙な気がいたします。 ○鎌田部会長 これも意見が大きく分かれているということだと思います。現行実務も,年5分と決まっているのか,法定金利を参照すると決まっているのかという評価も分かれると思いますので,中間試案までにどう対応すればいいか大変悩ましいところでありますけれども,事務当局で引き取らせていただいて,更に検討を続けさせていただければと思います。   ここで一旦,休憩15分を取らせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは再開させていただきます。   「第2 保証人保護の方策の拡充等」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○川嶋関係官 「第2 保証人保護の方策の拡充等」は,部会資料36で取り上げた「根保証の規定の適用範囲の拡大」と「保証人保護の方策の拡充」について,第44回会議において提示された新たな立法提案や,第1分科会第4回会議における審議の結果を踏まえて,中間試案に向けて論点の再整理を提案するものです。   「1 個人保証の制限」では,個人を保証人とする保証契約を原則的に無効とするという考え方について,対象とする保証契約を民法第465条の2第1項の貸金等根保証契約に限定し,かつ,いわゆる経営者保証は除外するという案に絞り込んだ上で,引き続き検討することを提案しています。   第1分科会第4回会議では,原則として個人保証を無効とする規定を設けた上で,その例外として,有用性の認められる個人保証を個別的に列挙する規定を設けていくというアプローチの仕方では,現実的な成案を得ることが困難ではないかという問題提起がありました。個別列挙の方式によって例外的に個人保証を許容すべき場合を漏れなくリストアップすることは困難であり,また,個別列挙するものとしないものとの選別を全て合理的に説明することも困難であるというのが,その提案の理由です。   こうした問題意識を前提にして,個人保証の原則的無効というアプローチを採るとしても,その対象範囲は相当に限定したものとすべきではないかという提案がありました。そして,個人保証を原則的に無効とする場合の対象範囲については,保証をめぐる社会的な問題が類型的に見て現実化していると見られるものに限定することが考えられます。その有力な選択肢として,平成16年民法改正で導入された貸金等根保証契約という類型に限定するという案があり得るのではないでしょうか。  また,現実的な選択肢として,主たる債務が事業用の融資である保証契約のうち,いわゆる経営者保証は除外する方向で検討を進めるべきではないかという提案がありました。すなわち,経営者保証の有用性について一定の支持があることを前提にすると,これを一律に無効とするのは適切ではなく,経営者である保証人の保護は他の方策によって図られるのが相当であるという提案です。   本文は,以上を踏まえて論点の再整理を図ったものですが,この案では,「経営者」をどのように定義するのかが今後の重要な検討課題となってきます。これについては,引き続き検討していく必要がございます。   「2 契約締結時の説明義務,情報提供義務」は,第1分科会第4回会議において,説明義務,情報提供義務についての附帯的な立法提案について審議がされましたので,これを分科会会議の審議の結果を踏まえて修正したものを取り上げました。   「3 個人保証における責任制限」は,第1分科会第4回会議において,比例原則に関する立法提案のほか,身元保証に関する法律第5条の規定を参考にした保証債務の減免に関する立法提案について審議がされましたので,これを取り上げました。   「4 根保証の規定の適用範囲の拡大」は,貸金等根保証契約に関する規定のうち,極度額の規律の適用範囲を保証人が個人である根保証契約一般に拡大すること,その余の根保証に関する規定の適用範囲を貸金等根保証契約以外に拡大するかどうかについては引き続き検討することを,それぞれ提案するものです。   根保証契約については,保証人保護を更に拡充する観点から,平成16年改正で新設された規定を貸金等債務が含まれない根保証にまで及ぼすことが考えられますが,他方で,家賃債務保証に関する実態調査において,根保証に関する規定の適用範囲を家賃債務保証に拡大することに対して,賃貸借契約が継続しているのに根保証契約のみが終了するのは妥当ではないとの意見が寄せられていますし,パブリック・コメントの手続に寄せられた意見にも,平成16年改正で新設された規定を貸金等債務が含まれない根保証にまで及ぼすという考え方に反対するものが見られました。このような意見の状況を踏まえると,民法第465条の2以下の根保証に関する規定のうち,極度額の規律と元本確定に関する規律とを区別して議論するのが相当であるように思われます。   そして,第44回会議及び第1分科会第4回会議においては,極度額の規律に限って保証人が個人である根保証契約一般に拡大するということであれば,現実的な成案となり得るのではないかという提案がありましたので,本文ではこれを取り上げることにいたしました。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分のうち,まず「1 個人保証の制限」について御意見をお伺いいたします。御自由に。 ○大島委員 個人保証をめぐって様々な保証被害があるということは認識しております。商工会議所といたしましても,できる限り個人保証によらない融資慣行の確立が望ましいと考えております。   しかし一方,様々な中小企業の経営者の方にヒアリングをいたしますと,民法で個人保証の一部を原則として禁止することについては賛否両論の意見がございました。個人保証の一部を廃止することについて前向きな意見もございましたが,個人保証の設定を条件とした融資を受けている中小企業に必要な資金が回らなくなるという懸念を示す方もいらっしゃいました。個人保証を民法で禁止する場合には,中小企業向け融資に及ぼす影響に配慮する必要があると考えております。 ○佐藤関係官 1のところと,若干3のところにも関係するところでございますが,1と3を考え合わせた上で,今回の保証人保護のための事務局の御提案につきましては,例えば1でありますと,経営者の範囲をどうするかという点を含め,実務上の問題点について,いろいろと検討する必要があるとは思っておりますが,1で書いているような,契約段階で一定のものを無効とするという,言わば契約の成立の場面における制限と,3で書かれております履行請求時の場面における,俗な言い方で言えば出口の場面における制限ということ,この双方の場面で一定の制限を設けて保証人保護を図ると,こういう方向性自体については,基本的に賛成したいと考えております。   当庁におきましても,既に監督指針におきまして,経営者等以外の第三者による連帯保証を原則的に禁止するといった記述も設けておりますし,また実態を見ますと,特に3が想定する場面につきましては,履行請求時において一定の保護を図らなければ,中小企業の事業再生ですとか経営者の再チャレンジ,生活再建を支援することにもいろいろな問題があると,こういう認識を持っておりまして,今申し上げたような二つの局面において,保証人保護のための制限を設けるという方向については,基本的に支持したいと考えております。   ただ一方で,これらの保証人の保護の方策に重きを置くばかりに,今,大島委員からも御発言がありましたように,円滑な資金供給の妨げにならないように,こういうバランスのとれた規律とする必要があると,このように考えております。   1のところについて若干申し上げますと,経営者保証は除外すると,これは正に円滑な資金供給の妨げにならないようにという限界事例での配慮と認識しておりますが,もう一方で,どうやら実態を見ますと,経営には関与していないものの自ら連帯保証の申し出を行ったような人,こういう人につきましても,保証についての現実のニーズが存在しているということで,私どもの金融庁あるいは中小企業庁の指針におきましても,自ら保証の申し出を行った人については保証を認めると,このような取扱いとしております。   したがいまして,個人保証の制限を考える上でも,経営者保証の中身ということで,経営には必ずしも関与はしていないものの自ら保証の申し出を行ったような方,こういう実務上のニーズも踏まえた上で規定の詳細を御検討いただければと,このように考えております。 ○道垣内幹事 考えがまだまとまらないまま発言するのですけれども,金銭消費貸借契約を諾成契約化したときに,根保証契約とは何なのかというのが今一歩不明確になるような気がいたします。   どういうことかと申しますと,例えば貸出し枠を1億円としておりましても,1,000万円が交付された段階で保証人が出ておりますと,それは1,000万円の保証をしているにとどまるわけでありまして,その後もう1,000万円が貸し出されたとしても,金銭消費貸借契約に要物契約性があるということになりますと,主債務が未成立ですから,2番目の1,000万円の貸付による債務は,普通保証ですと保証債務の範囲に入ってこないことになります。それを入れようとすると根保証契約を締結する必要がある。したがって,現時点で貸し出されている額よりも,将来,多額の額が貸し出される可能性があるというタイプのものについて全額保証しようというときには,根保証でやるということによってのみ可能だったように思います。   しかるに,1億円について諾成的な消費貸借契約が成立して,それがリボルビング式で貸し出されるとなったときには,当該1億円の債務について保証するという契約が現在は1,000万円しか金銭が交付されていないときに締結されたとしますと,それが根保証という概念に当てはまるのかどうかというのが微妙になってくる事案が出てくるような気がいたします。   分からないまま見切り発車で手を挙げてしまったのですけれども,諾成契約性との関係で,根保証という概念をこのような規律をするときには詰める必要があるのかなと考えております。 ○三浦関係官 私の発言は,大島委員,佐藤関係官のお話への付け足しのような感じかと思いますけれども,経済産業省の中でも,「1 個人保証の制限」に対して,中小企業金融を担当している部署などから,個人を保証人とする保証契約を原則的に無効とすることとか,保証人保護の方策について,金融の円滑化の観点から慎重な検討をお願いしたいという意見を受けております。   それで,その心というのは,一つは,正に今,佐藤関係官がおっしゃったような,積極的に連帯保証の申し出があった場合というのもございますし,あともう一つ,省内で話題になったものとしては,形式的には第三者に見えるのだけれども,実は実質的な経営権を有している人の場合はどうなのだろうか。例えば創業者である,先代の社長が,形としては息子に経営を委ねているけれども,まだ株も持っているし,事業用資産も持っているということで保証人となると,これは実例でそういうのがあったということですけれども,そういう場合はどうするのだろうか。あるいは先ほどの,進んで連帯保証を申し出る場合というのは,例えば取引があって,ある商品の販売先の決済資金を,販売元の役員が保証するような場合もございます。したがって,金融庁あるいは信用保証協会の指針といった今あるルールの中では,個別に判断をしているということでございまして,仮にこれが一律の禁止ということになりますと,なかなか影響が大きいということでございますので,そういったところに気を付けながら慎重に検討するべきではないか。実際に第三者保証というのが現状利用されているということで,その保証の可否が個別の事情を勘案して判断されている,そういう実態を少し取り入れて考える必要があるかなということでございます。 ○三上委員 先ほど道垣内幹事がおっしゃった問題ですが,リボルビングラインに関して抵当権を設定するときの登記実務は,一時期までは,契約が一つであれば普通抵当だと言われていたのですが,いつ頃からか分かりませんけれども,今は根抵当権を設定する必要があると思います。そのパラレルで考えると,リボルビング契約に関する保証は根保証の部類に入ってきます。今回の提案は包括根保証の禁止ですから,個別の借入れごとに個別保証してもらうのは対象外だと思うのですが,リボルビングラインを設定する対象というのは,コミットメントライン法が適用される範囲ということで,おのずと一定以上の規模の企業が限られてきますので,そこに経営者以外の第三者の保証が入るケースというのは,それほどあるわけではないのですが,実際そういうことが起こった場合には,本当はコミットメントラインであれば,金を貸してくれと言われれば貸すという契約なのですが,そこに一々保証書を入れるというのが条件になってくると,機動性が阻害されるという場面も出てくるかもしれません。   ただ,実務をやっている上では,佐藤関係官がおっしゃった意見に同意しますので,参考として申し上げました。 ○岡委員 日弁連の意見としては,先ほど御紹介いただいたように,原則禁止でポジティブリストを上げるという提案でございました。しかしながら,日弁連も,今意見に出たような適正な金融を阻止するということは全く考えておりません。そのバランスをどこにとるかということだと思います。経営者保証を除外するという経営者保証の除外について,最終的には弁護士会のポジティブリストにも載っておりますので,これを認めた上で,禁止をどの範囲にするかということだろうと思います。   昨日のバックアップ会議では,9ページの別案として書いてあります主たる債務が事業者の貸金等債務,単発債務も含むという辺りを法務省が別案として取り上げていただいておりますが,正直言って,この別案でもまだ不満といいますか,もう少し禁止する範囲を広げる余地があるのではないかという意見があるのが現状でございます。   しかし,コンセンサスを得られるところを探していかないといけないというのは承知しておりますので,現時点では別案プラスアルファ,別案に根保証ぐらいを付け加えるのはどうかという意見もありましたけれども,別案プラスアルファを対象にしつつ,経営者保証の範囲をどのように設定すればバランスがとれるのかということを更に検討していくべきであるという意見でございます。   ただ,先ほど佐藤関係官がおっしゃった,積極的に申し出のある方,これについて認めるというのは,現時点ではなかなか難しいように考えております。ただ,実際,進んで申し出があった第三者について,実例も調べた上で本当に認めるべき場合,先ほど誰かがおっしゃった資産のある方,資産のある方については,物上保証を出せばいいようにも思いますけれども,物上保証を出すのではなく人的保証がいいというのであれば,違った余地もあるのかもしれないと思います。取りあえず現時点では,別案プラスアルファの辺りで何とかコンセンサスを目指していただきたいというのが日弁連の意見でございます。 ○佐成委員 バックアップ委員会の意見ですけれども,対象とする保証契約を御提案どおり貸金等根保証契約に限定して,かつ経営者保証を除外するという提案については,肯定的に評価できるということでした。ただ,これ以上個人保証の禁止範囲の拡大をすることについては慎重であるべきだといったような意見でございます。 ○松本委員 部会資料49の,先ほど議論した消費者の特則の18ページの④というところに,主債務者が消費者の場合における個人を保証人とする保証契約については,一定の例外を除き無効とする旨の規定を置いたらどうかという提案がありまして,最初にこちらを読んだものですから,これはひどい提案だと思いました。その後で,今議論している部会資料50の8ページを読んで,個人を保証人とする貸金等根保証契約を無効とするということで,少し良くなったなと思ったわけですが,個人保証の問題は,事業者向け融資に対する個人保証というところに一番大きな問題があるわけですから,先ほど日弁連の御意見としてあったように,9ページの別案としての「主たる債務が事業者の貸金等債務であるものを対象とする」というほうが適切ではないか。   というのも,通常の住宅ローンであるにもかかわらず根抵当権が設定されているようなケースがあるのですね。金融機関としては根抵当や根保証のほうが念のために便利だから,これにしましょうとか言ってやるらしいのですけれども,そうなってくると消費者が主たる債務者である融資についても,1だと入ってくることになって,それでいいのかと。無効になるというリスクがあるから,そんな無茶な根保証契約はしなくなってよいという行為規範的な役割を期待すれば,これでもいいかもしれないですけれども,まず正面から事業者向け融資についてはというルールにし,その上で貸金等根保証についてはとしたほうが,より適切ではないかと思います。 ○中井委員 1の個人保証の制限については,日弁連の意見は岡委員から申し上げたとおりで,また,今の松本委員も実質それに賛成していただいたと理解をしております。   そこで,先ほど松本委員からも御指摘がありました主債務者が消費者の場合における個人保証については,ここで特段取り上げられてはいないのですけれども,その検討はなお残っていると理解してよろしいのでしょうか。 ○筒井幹事 消えているかもしれませんが,一巡目の審議で取り上げられていた論点なので,次の中間試案でどうするかは,また御意見を伺うことになろうかと思います。 ○松本委員 もし,部会資料49の18ページの④が今回の部会資料50の8ページの1に修正提案されていないとすると,部会資料49の18ページの④は全く不適切だと思いますから,ここは,主債務者が事業者の場合における個人を保証人あるいは消費者を保証人とする保証契約については無効とすると,是非御訂正いただきたいと思います。 ○中井委員 松本委員は,9ページの別案ですが,主たる債務が事業者の貸金等債務を対象とする個人保証,この原則禁止─もちろん例外はあるわけですけれども─については賛成の御意見と承りました。   そこで,先ほどの主債務者が消費者の場合における個人保証の禁止については,なお議論の対象になると考えているのですけれども,今の松本委員の御発言は,そちらは要らないという御趣旨だったのでしょうか。 ○松本委員 部会資料49の18ページの④だけを入れるとすれば,これは極めて不適切だという趣旨ですから,先ほどの部会資料50の9ページの別案が通れば,④はもう一つ別の類型ですから,今,中井委員がおっしゃったように議論としては残ると思います。そういう意味で,先ほどの私の発言は誤解でございます。 ○筒井幹事 先ほどの私の発言を訂正することになるかもしれませんが,部会資料50の「1 個人保証の制限」のところでは,主たる債務者が消費者である場合については積極的に除外する方向で問題提起をしておりまして,仮に部会資料50の9ページ記載の別案を採るのであれば,その別案においては,主債務者が消費者である場合を明示的に除いたほうがよいのではないかという提案をしております。   それは部会資料50の補足説明に書きましたとおり,主債務者が消費者である場合を含めますと,住宅ローンや奨学金などが対象として含まれてきてしまう。それについて個人の保証を禁止するかどうかについては,多くの方がそういうものまで禁止しようとは考えていないのだと思います。結局,主債務者が消費者である場合を対象といたしますと例外を個別列挙で定めなければならず,それは第1分科会第4回会議で議論されたように今後の立案作業上の大きな障害となるのではないかと思います。ですので,そういったものを類型的に除外してしまうためには,事業用の融資に限るべきではないかというのが,部会資料50の9ページに書きました別案の趣旨でございます。 ○深山幹事 今の筒井さんの御説明に関連してなのですが,別案の趣旨は今御説明のとおり,あえて主たる債務者が個人である場合を除く趣旨で提案されていると思うのですが,全て除いてしまうのがいいかどうかという問題が更に残ると思います。補足説明にあるように,住宅ローンであるとか奨学金については,確かに,そこまで個人保証を禁止するのは行き過ぎという批判があるでしょうが,個人保証はそれらばかりではないわけです。そこの切り分けがだんだん細かい切り分けになっていくので,適当かどうかという議論はあるかもしれませんが,例えば,主たる債務者が個人である場合も含めて,およそ貸金等債務についての個人保証を禁止するということをベースにしつつ,ただし住宅ローンと奨学金に係るものを除くというように,例外の例外という形で切り取っていくという方法もあるのかなと思います。この二つだけの例外でいいのかという議論はあるのかもしれませんが,他方で考えなければいけないのは,いわゆる消費者ローンに対する個人保証をして,保証人が悲惨な状況になるという社会的な事象があるということもここで救おうとすると,主たる債務者が個人である場合の全てを除いてしまうというのも,今起きている社会的な問題に対する対処としては不十分なのではないかという気がいたします。   先ほど岡先生のほうからも御紹介があったように,別案と本文と合体して,禁止する範囲として両方の類型を考えるということもあっていいと思うのですが,更にその範囲を広げて,冒頭申し上げた住宅ローンや奨学金等を除いたところの個人に対する信用保証全般にまで個人保証禁止の適用範囲を広げることも検討してよろしいのではないかと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   それでは,「2 契約締結時の説明義務,情報提供義務」と「3 個人保証における責任制限」について御意見をお伺いいたします。 ○佐藤関係官 まず,2につきましては,(4)について,保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合には,信用状況を説明しなければいけないと,このことについて若干の懸念を有しております。   具体的に,保証人にとって債務者の信用状況を知りたい,ただ,知れないのでトラブルが発生しているという問題点は理解できるところでございます。他方,債権者側,仮にこれを金融機関と致しますと,金融機関が債務者の信用状況について情報提供を保証人に行った,ただ,結果的に保証契約を締結しなかったような場合,そうすると信用状況の開示ということ自体,債務者の適正な利益を害してしまうという可能性も考えられるところでございます。また,提供すべき信用状況というのは,どの程度の具体的な範囲のものであるのか,これが分からないと,金融機関側にとっては予測可能性が害されかねないと。また,信用状況の情報の極めて厳格な正確性が求められますと,債権者側の調査義務が問題となりかねず,そうしますと,いずれにしましても義務がやや過大なものになり,そうすると融資の委縮ですとか,マクロ的に見て金融の円滑の阻害につながりかねないと,このような懸念を有しておりますので,(4)については,よほど慎重な検討が必要ではないかと考えております。   続きまして,3についても簡単に申し上げます。まず,「3 個人保証における責任制限」につきましては,現実に有用な個人保証も存在しているということに鑑みれば,履行請求時における保証人保護の方策は重要であろうと。先ほども申しました事業再生ですとか経営者の再チャレンジ,こういう問題を鑑みましても,一定の制度化の意義はあると考えております。ただ,過大な保証であるがゆえに一切請求できないといったような,硬直的な制度となると,これはやはり円滑な資金供給の妨げとなる,このような弊害もあるのではないかと考えておりまして,柔軟な制度になることが必要と考えております。   (1)と(2)につきまして,簡単にそれぞれ申し上げますと,まず(1)の,裁判所がいろいろな事情を考慮して減免できるという提案につきましては,減免の手続あるいは具体的な事項についてどう判断するか,これは更に検討の必要があろうかと思っておりますが,このような規律を設けるという方向性自体は,基本的には支持したいと考えております。ただ,実務が適正に対応できるように,具体的な減免の判断の在り方については,十分に議論する必要があろうかと考えております。   もう一方,(2)の御提案につきましては,有用性も理解はできると考えておりますけれども,仮に履行を一切請求できないとなりますと,例えば,よく創業時に融資をするというケースがございます。誰かが事業を立ち上げるときに,創業時におきましては,ある意味で過大な保証であるかもしれないと。ただ,そういうものを一切請求できないとなると,創業時融資などが止まってしまい,円滑な資金供給の妨げとなる可能性があるため,慎重な検討が必要であろうと。   少なくとも,全面的に,保証債務の全部の履行を請求することができないとなるならば,明らかにこれは行き過ぎではないか。最低限過大な部分の履行を請求することができないということに限定する必要があって,更にそれも踏まえて慎重な検討が必要ではないかと考えております。 ○三上委員 佐藤関係官と重なりますが,まず(4)の信用状況に関しましては,一番分かりやすい究極的な質問は,保証人から「債務者はきちんと弁済すると思いますか」と聞かれたときに何と答えるのだというものです。「返ってくると思います」と答えると虚偽を言ったことになるかもしれませんし,それを曖昧に回答すると,「債務者がこれを怠ったとき」に該当すると言われるかもしれないというところで,こういう曖昧な概念は受け入れ難いと感じます。   また,信用状況というのは,顧客にとってはセンシティブな情報ですし,一定部分から以降は,金融機関にとっては,内部格付けその他等々,営業秘密でもあるわけですので,そういうものの開示はできません。ですから,「延滞の有無」とか「借入総額」とか具体的な項目にしていただければ,回答する余地はあるのではないかと思います。   逆に,(3)の延長というか,(3)は保証契約をする際に何を知らせるかということで,ここに書いてあることだけであれば,保証契約書に書けば済む話ですから,大したことではないのですが,保証期間の間に被保証債務がどうなっているか,延滞なく返済されているか,今残高はいくらか等という質問に回答する義務は,むしろ付加して設けておいたほうがいいのではないかと思います。これは我々としても,そういう質問は保証人としては当然の権利だ,つまり,回答しても守秘義務には反しないと考えております。   それから,3の(1)と(2)の関係ですが,(1)は,判決でこういう判決が下せるのかという点は,私にはよく分からないのですが,これの最大のポイントは,こういう判決が出た後に隠し財産が発覚したときにどうなるのかです。それは和解契約で言えば,和解の前提の錯誤になるのか,基本的には,これ以外に財産はないという前提での判決になると思いますので,それは判決の騙取のような形で,再審の訴えが可能になるのかどうか。既判力で遮断されてしまわないで,救済手段があるということが確認できれば,こういう考え方はあるのではないかということです。   ただ,(2)のように,履行を請求することができない,債務者の側から拒絶できるという中途半端な場面を残されるのは,実務上困る場面が出てくる懸念があります。払えない以上は過大なのだ,請求するほうがおかしいという,そういう居直りを助長するかのような規定になってしまいかねないので,手続的には(1)に一本化すべきではないかと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○三浦関係官 11ページの2については,所管業界の一部から慎重な御検討をお願いしたいという意見が寄せられました。全体的に,部会資料にもありますような事務コスト,実務的負担といったところを気にしているということでございますけれども,特に(4)については懸念の声が高かった。具体的に,信用状況といってもどこまでの範囲を言えるのか,それから,それを保証人に言ってしまって,個人情報保護の観点からの問題はないのだろうかというお話はございました。   それから,12ページの「3 個人保証における責任制限」については,「(2)比例原則(過大な保証の禁止)」というところについて,これも過大か否かの判断基準というのは,どのくらいはっきりしたことが言えるのだろうかということで,その点,慎重な検討が必要ではないかという意見がございましたので,御紹介いたします。 ○松本委員 まず2ですが,保証契約は,前の現代語化の際の改正において,書面が必要だということになりました。ここで言う(1)から(3)まで,特に(3)というのは当然書面に書かれていることです。(1),(2)は言わば法の解釈をはっきり説明しなさいということですが,これも恐らく,実務的には,では書面に書きましょうということになると思います。というのは,義務違反の効果がどうなるかにもよりますが,仮に取消しだとするとそのようなリスクを冒すよりは書面に書いておきましょうということになると思うので。そうなると,ここで言いたいのは,書面に書いて渡すだけでは駄目ですと。宅建業法のように,書面に基づいて口頭でも説明しないと駄目だというところまで明文化するのかということで,もしそうだとすると,書面による説明を受けましたというサインを別途もらいましょうかということになるかもしれない。   (4)については,何人かの方が言っておられることですが,これは書面に書くというのは難しいと思いますし,どういうふうに説明するかというのはなかなか問題があるかと思います。   12ページの3については,三上委員と全く同じ意見でありまして,(2)の比例原則というのは,確かにこういう考え方は十分成り立つし,実際の訴訟において信義則の適用等を通して実現するということはあり得ると思いますが,これを民法の条文に書いた場合に,それ自身が独自の規範として機能するかどうかというと,何をもって過大と言うかが大変曖昧なので,明確な規範として機能させるのは難しいのではないか。そうなると,この点は(1)の一要素として,当然考慮されているはずなので,(1)の中に溶け込ませて,そこで処理をするほうが適切ではないかと考えます。 ○大島委員 11ページの2についてですけれども,保証人保護に配慮が必要なことは当然であり,保証契約締結時に十分な説明を行うことは不可欠であると考えております。しかし,(4)のように,主たる債務者の信用状況について保証人に説明しなければいけないとする規定を置くことは,慎重な検討が必要だと思います。保証人保護の規定を置くことと同時に,中小企業に対する融資が委縮することのないような措置が必要であることを御理解いただきたいと思います。 ○佐成委員 2の(4)については,皆さんから意見が出ておりましたけれども,経済界でも,信用状況というのが非常に曖昧だということで,もし立法するのであれば明確にしてほしいという意見がございました。   それから,3の(2)の比例原則ですが,これは元々,要件が非常に曖昧ということで,要件を明確にしてほしいという意見が経済界の中に一般的にあったのとは別に,若干コメントさせていただきますと,これは前に山野目幹事がフランスのマクロン判決を引用されて,日本でもこれに類する立法を検討したらどうかということで,問題提起されたものだと思います。その中身自体は,理論的には確かに非常に合理的であると,私は個人的には感じたのですが,実際問題として,過大かどうかを本当に判断できるのか,個人の財産状態を本当に正確に把握できるのかという,そこが一番大きな問題ではないかという感じもしております。この補足説明にも書かれてありますとおり,個人の保証人の財産状況というのは,倒産手続を用いないで本当に把握できるのかというのは,かなり大きな問題と感じております。ただ,引き続き検討するこということであれば,それはそれでいいのかなと感じております。 ○中井委員 弁護士会の意見ですけれども,2については,このような考え方に賛成であることは従来どおりです。   皆さんから御指摘を受けました(4)についてですけれども,この信用状況については,確かに概念としては広いので,そこを具体化していくことによって,今の御意見を聴いていても解決できるのではないか。三上委員からも延滞の有無というお言葉がありましたけれども,借入残高であるとか延滞の有無であるとか,もう少し要件を抽出して具体化することによって,説明義務違反かどうかの判断が容易になるような基準を定立すればよろしいのではないか。   また,第1の解決ができた場合,金融債務の場合については経営者保証しか残らないわけで,経営者保証の場合は基本的に(4)の問題はほとんど顕在化しないでしょうから,そういう意味で積極的に検討を続けていただきたいと思います。   また,「3 個人保証における責任制限」につきましても,今の御意見から,これに対して根本的に反対するという意見ではなかったと理解しております。弁護士会も基本的に(1),(2),これはともに入れることは理論的には可能だし,(2)で過大な部分については,少なくとも履行請求できないという規律は,(1)の,裁判所は減免ができるという規律と両立できるのではないかと考えております。   もちろん,今の御意見を聴く限りでは,(1)について御理解が得られるとすれば,(2)の過大という概念が困難であるとしても,具体的には(1)の中の保証人の支払能力の中で,その要素は取り入れることができるのでしょうから,その一要素として考慮していただいて,責任の減免で処理をするという考え方は十分あり得るし,可能ではないかと思いました。   なお,最後に1点,ここの記載が,「引き続き検討するものとしてはどうか。」となっている点が若干気になりまして,今まで,これは補充的な検討ということで,書き方が違うのかもしれませんけれども,これは中間試案に向けてなお引き続き検討するという趣旨だろうと思いますが,他の記載方法と違うところについて特段の意味があるのかどうか,これは念のために御説明いただければ有り難く思います。 ○筒井幹事 このような記載方法を採りましたのは,前注を置きましたように,論点の再整理だからです。中間試案のたたき台に向けて,このような形での検討を継続するということを,本日の時点ではお諮りし,それに基づいて次の中間試案のたたき台を考えようという趣旨にとどまります。 ○中井委員 ほかのところでは,「改めるものとしてはどうか」という形での議論が進むことが予定されているのかと思いますが,皆さんの御意見をお聴きいたしましても,それは引き続き検討することについて,それほど支障がなかったように理解しますので,是非中間試案で取り上げる方向で具体化していただきたいと思います。 ○道垣内幹事 3の(1)と(2)の関係が若干議論になったところでございますけれども,(2)というのは,どちらかといえば2の話ではないのかという気がするのです。と申しますのは,3の(1)というのは,きちんとした保証契約が成立しているけれども,信義則上,保証債務額を減免するという話なのに対して,(2)というのは,そもそも保証人の財産・収入に照らして過大な保証契約を締結しないようにしなさいという規範があって,しかしそういうときであっても,保証債務の履行を請求する時点において保証人の財産が十分であれば,わざわざ契約成立時に瑕疵があったと言わなくて,そのままの請求を認めてあげましょうというルールではないかと思います。そうしますと,3の責任制限というところに(1),(2)を並べることによって,若干理論的な関係が不分明になっているのではないかという気がいたします。   それに関連いたしまして,そういうふうに3の(2)を整理いたしますと,「過大であったとき」という客観的な書き方をするというのが妥当なのかという問題が出てくるような気がいたします。と申しますのは,債権者の行為規範として課されているルールであると考えますと,過大であることが分かっているときというように,債権者の主観的な要件を考えることも可能なのではないかという気がいたします。もちろん,それは現実に知っているというときに限りません。しかるべき調査をして,不当に過大な責任を負わせないようにしなさいというルールは,もちろん考え得るのですが,整理としては,主観的要件を課すほうが整合的なのではないかという気がいたしております。 ○岡田委員 個人保証に関しましては,保証人になる人というのは,主債務者の説明で,結局は,正確なところはほとんど,ないしは主債務者に不利なことというのは,伝えられないまま保証人になるわけですから,そういうことを考えますと,2とか3というのは,保証人が自分の立場を正確に認識して,なおかつ責任をとらなければいけないし,責任をとることを前提に保証人契約をすると考えますと,保証契約自体が適正に結ばれるということにもなると思われるので,是非この方向で検討していただきたいと思います。   それから,問題になっています2の(4),この辺のことは,個人保証からすれば絶対ここが知りたいところという感じ,一番大事なところと思えますので難しいかどうかはともかくとして,提案どおりに検討していただきたいと思います。 ○山本(敬)幹事 これまでの部会で何度か発言していることの確認になってしまうかもしれませんが,まず2の説明義務,情報提供義務に関しては,既に御指摘があるところですけれども,(1)から(3)までは債権者が当然に知っている事情であるのに対して,(4)は当然に知っているとは言えない事情が対象になっていると思います。そうしますと,債権者にとって,知っていた,ないしは容易に知ることができたという要件をかぶせないと,一種の結果責任のような形になってしまう。それは,やはり行き過ぎではないかと思います。そして,伝えるべき内容も,信用状況という漠然としたものでよいのかということは,先ほども出ていましたけれども,もちろん財産状態を含むのはそうかもしれませんが,一番大事なのは,主たる債務者が債務を履行することができなくなるおそれに関する事実ではないかと思います。そういったものを対象として定めていく方向で詰めるべきではないかと思います。   次に,3についてですが,まず(2)については,以前の部会でも何度か申し上げたことですが,契約の一般法理である暴利行為に関するルールとどのような関係に立つのかということをきちんと整理しておく必要があると思います。このままではその関係がよく分かりません。(2)とは別に暴利行為に関する規定が適用できるのですかという質問に対して,どう答えるかということです。   何が違うかといいますと,暴利行為に関するルールでは,今のところ提案されているのは,主観的要素と客観的要素が含まれているということです。つまり,経験,知識等が不十分であることを利用したという要素と,不相当な不利益を受けるような内容の契約であるという要素が含まれているのに対して,(2)では,保証人の不利益に当たる部分が過大であることが要素とされていて,主観的要素に当たるものが,ここでは少なくとも挙げられていません。そうすると,そのような意味で特則を定めるということなのか,それともそうでないのかということが問題となってきます。   この問題に関する比較法的な状況からしますと,基にされたのがフランス法で,少し違うのかもしれませんけれども,ドイツ法系ですと,例えば一定水準の内容であるときには,主観的要素に当たる部分が推定されるといった形での説明もあるところです。その辺りをきちんと整理する必要があるのではないかと思います。   私自身は,この部会で何度も申し上げましたように,契約が無効になるのは意思に瑕疵があるからである。その意味で,主観的要素に当たるものが不可欠だろうと思います。それを推定という形で説明するのは一つの方法だと思いますけれども,そういったものを一切抜きにして,内容のみを理由として無効にするのは,もちろん公序良俗の一部分としてあることはあるのですけれども,非常に限られたものになるのではないかと思います。   もしそうだとすると,この規定によって暴利行為に関するルールが排除されるのはおかしいだろうと思います。方向としては,規定が仮に必要だとしても,暴利行為に関するルールと整合性を持つ形で定める必要がありますし,それが難しいのであれば,暴利行為に関するルールがきちんと整備されるならば,それによれば足りると思います。   次に,その上の(1)ですが,ここまで茫漠としたルールで契約に対する介入を本当に認めるのかといいますと,これはかなり深刻な問題ではないかと思います。実際の被害を目の前にしますと,やはり救済せねばと思うわけですけれども,民法に定めるルールとして,本当にこのような形でよいのかどうかは,かなり慎重に検討する必要があるのではないかと思います。少なくとも,これもこの部会で何度か申し上げてきましたけれども,考慮すべき,そして正当化できる要素としては,保証契約が締結された後に保証人にとって不利な事情が発生したときに,それを債権者が適切に告げていない。その結果,保証人として何らかの対応をする機会を失ったときには,保証債務の額を減免する。このような考え方があり得るのではないかと思いますが,そのような正当化が可能なものをもう少し整理して,それを規定する方向で,更に引き続き検討することとしてはどうかと思います。 ○鹿野幹事 先ほど申し上げるべきだったのかもしれませんけれども,2と3とは異なる点も含め,申し上げたいと思います。   2については,契約締結時における説明義務,情報提供義務ということで,これについては多くの御指摘がありましたが,私は基本的に賛成です。ただ(4)については,信用状況の内容等を具体化する必要があると考えているところです。   一方,3では,履行請求時に保証人に対する請求をどういう形で制限をするかということが問題とされており,この方向にも賛成ですが,さらに,これらと異なる点と申し上げたのは,具体的には11ページの上のほうに書いてあることについてです。つまり,契約締結をした後に保証人に対して情報を提供するという義務についても検討する必要があるのではないかということでございます。従来から議論がありましたように,現実的には,保証人が知らない間に遅滞に陥っていて遅延損害金が発生していたり,更に期限の利益が失われていたりすることが,保証人にとって最も困難な状況として考えられます。そのような事態を防ぐという意味で,期限の利益を喪失させる前に,事前に保証人に通知する義務を債権者に負わせるべきではないかと思います。そもそも保証人は保証債務を負っているわけですから,自分の債務がどのような状態なのかについては,知る機会が与えられるべきではないかとも思われます。保証人に情報がないことが具体的に保証人にかなり酷な結果をもたらすのが,先ほど申しました2つの場合なのだろうと思うわけです。   ところが,資料の11ページの上では,この点につき消極的な書き方がされています。確かに,一方で実務的なコストが発生するではないかという観点からの御批判もありましたし,他方で,いずれにせよ守秘義務との関係を整理する必要があるとは思いますが,契約締結後の保証人に対する通知義務ないし情報提供義務をもはや問題にせず取り上げないということでよいのかは疑問です。先ほど言いましたように,保証人が自分の債務について知り得ず,知らぬ間に不利益を被るということは,問題だと思っているところです。   資料11ページの上のほうには,(1)において個人保証の制限を加えれば,この点についての問題が発生することがなくなるので,ここには規定は置く必要がなくなるという趣旨のことが書かれています。しかし,確かに多くはそうなのかもしれませんけれども,果たして(1)で取り上げている場合だけでしか問題はなかったのかというと,そうとは言い切れないのではないか。ほかの場面でも,契約締結後の情報提供が問題となり得るような,そして具体的に保証人に不利益が生ずるような場面が従来からあったのではないかと思いますので,この点について更に検討する必要があるのではないかと考える次第です。 ○佐成委員 先ほどの山本敬三幹事の3の(1)に関する問題提起については,私も共感するところがあるということを一つ申し上げたいと思います。それから,(2)については,暴利行為による無効との関係ということで問題提起されておられましたけれども,これについても,一つ申し上げたいと思います。もちろん比例原則については,私がスポンサーではなくて山野目幹事だと思うのですが,山野目幹事のメモによれば,フランス法では「無効」ではなくて「失権」となっていて,立法提案でも「請求することができない」と書いてあって,「無効にする」とは書いていないという点を指摘したいと思います。果たしてそういう立法が日本の法制上成り立つのかどうか,私にはよく分かりませんけれども,暴利行為による無効との関係ということで言えば,あるいはそういう整理をされるのかなというのが今感じたところで,それだけ付け加えておきます。 ○内田委員 山本敬三幹事に御質問なのですが,先ほど暴利行為との関係の整理が必要であると言われたのですけれども,文字どおりの暴利ということで言うと,この場合には債権者は別に暴利は得ていないわけですね,貸したお金を返してもらっているだけですので。そうすると,著しく過当な利益を得るという意味での暴利行為の問題ではなくて,むしろ状況の濫用のような,契約そのものは不当ではないけれども,相手との信頼関係など状況を利用して結んでしまったという,そういう場面との調整という趣旨でしょうか。そうだとすると,暴利行為の現代的展開というか,やや広がった部分との関係なのかなと思います。 ○山本(敬)幹事 暴利行為というネーミングがよくないということが従来からも言われていたところですけれども,現在検討されている新しい暴利行為のルールは,対価があるような契約において,その双方の対価が不均衡を来している場合だけを念頭に置くものではないと思います。客観的要素に当たるものも,著しい不利益,あるいは権利が害されているという形で定めることによって,こうした無償契約の場合についても,その射程を及ぼすのがあるべき方向ではないかと思います。したがって,暴利行為というネーミングを使う必要はなかったわけで,公序良俗違反で無効という場合には,そのようなものもカバーできていたと思いますし,実際にカバーしているケースもあったと思います。   その意味では,ここでの「比例原則」というネーミングも,この言葉をよく使う人間からしますと,どうかなと思うところはあるのですが,少なくとも過大な保証の禁止として挙げられているルールと,今言った意味での新しいタイプのものも含めた暴利行為のルールは,私から見ると,やはり重なっているように思えます。   そして,この提案が更に暴利行為に関するルールとの関係でどうなるかという点については,ここでは,過大な部分の履行を請求することはできないという形で,無効論で言いますと,一部無効に当たる処理が提案されています。それに対して,民法90条で公序良俗違反を理由に無効とするときに,一部無効で考えるのか,全部無効で考えるのかということは大きな論点で,ここでも議論したところです。取り分け主観的要素が加わってくるような場合について,一部無効で本当によいのかどうか。相手方の弱みに付け込んで契約をした場合に,適正と考えられる部分までは有効とするという形の処理でよいかといいますと,暴利行為のほうではかなり議論の余地があるところだろうと思います。その意味でも,特則を定める必要があるのだということをおっしゃっているのかもしれませんが,そこはもう少しきちんとした形で説明が要るだろうと思います。   付け加えて言いますと,(2)の過大な保証の禁止のルールは,確かに客観的要素のみがここで書かれているわけですけれども,私が想像するには,現実に紛争が起こった場合に,締結過程において保証人がどのような状況にあって,どのようにしてこの契約をさせられたのかということの考慮を抜きにして考えることは,あり得ないのではないかと思います。その意味でも,実質的に見ても,先ほどの暴利行為に関するルールと重なりは避けられないと思います。 ○松本委員 2の(4)ですが,今までの議論では,信用状況の説明をどうやってやればいいのかという点が中心だったと思いますが,別の点で,限定の仕方,すなわち保証人が主たる債務者の委託を受けて保証した場合に限定しているというところが若干引っ掛かっております。というのは,では債務者の委託を受けないで保証した場合は信用状況を説明しなくていいのかと考えると,債務者から頼まれてもいないのにリスクを侵して,わざわざ自分が保証人になりますといって出てきた人に対しては,説明しなくていいという趣旨かもしれないですが,この書きぶりだと,債権者から委託を受けて保証人になる,つまり,債権者から保証人になってくれと頼まれて保証人になるという場合は,説明しなくていいのかと。私は,そちらこそ正に説明しなければならないと思うのです。   債務者から委託を受けて保証人になる場合は,保証人になるかどうかの決断をする前に,債務者からそういった点については説明を受けているのが本来のあるべき姿なわけで,そうでない場合,債権者のほうが特定の第三者に保証人になってくれと頼むような場合こそ,債務者の信用状況をきちんと説明しなければならない。論理的にはそういうことだろうと思います。   しかし,実際には,主たる債務者から頼まれて,いい加減な形で保証人になる人が大変多いから,そこで債権者のほうからもう1段階説明をさせることによって,債務者からの委託という場合における保証人被害を防ごうという政策的な配慮からこういう限定をされているのでしょうけれども,論理的には,もう少し広げないと,本来の説明義務からは外れていくのではないかと思います。それが1点。   もう1点は,主たる債務者の信用状況を債権者が説明できるというのは,金融機関が債権者のような場合に限定されてくるのではないかと思います。継続的な取引をしている相手方であれば,従来,きちんと代金は払ってもらえています,あるいは1回遅滞がありましたということぐらいは言えるかもしれないけれども,それ以上のバランスシート等は分からないのではないかと思うわけです。となると,(4)の義務主体は,金融機関とか貸金業者という業として貸金をするものというふうに限定しないと,不適切ではないか。   逆に,金融機関でない者が新たな事業者と取引をしようとする場合に,債務者の信用状況がよく分からないから保証人を付けてくれというのは,むしろあり得るのではないかと思うのです。そういう場合に,主たる債務者の信用状況を説明しろと言われても,分からないから保証人を付けることを依頼しているのだとすると,できないことを要求していることになってくるような感じがします。そういう保証取引はするなということであれば,それはそれでいいわけで,信用状況が把握できないような相手と取引をして,保証人を要求するようなことをしなさんなと。しかし,そこまでやるとちょっとやり過ぎかもしれないので,そういう点からも,(4)はもう少し文言を検討する必要があると思います。 ○道垣内幹事 松本委員の実質論はよく分かるのですが,このような限定が置いてあるのは守秘義務の解除のためでしょう。つまり,主たる債務者からの委託がないのに主たる債務者の信用情報を保証人に言ってはいけないのに対し,委託がある場合に委託をもって守秘義務の解除があると考えることができるというのがこの理由になっているのではないですか。 ○松本委員 金融機関の守秘義務は,法律上の明確な規定はないけれども,実務慣行上一般に認められているのだとされていると思いますが,それ以外の場合に,相手が法人であれば個人情報保護法は適用されませんから,一般的な守秘義務というのは係ってこないと思います。そういう意味でも,金融機関に限定すれば,これはそれなりに意味のある規定になると思います。 ○鎌田部会長 この点については,先ほど来幾つかの御指摘もあったので,続けて検討させていただきます。 ○岡崎幹事 3の「(1)保証債務の減免」について,先ほど山本敬三幹事がおっしゃったことに私も共感を覚えます。現在の提案は,種々の考慮要素を挙げていますけれども,それらを考慮してどのような基準で判断するのかが必ずしも明らかではないと見受けられます。仮にこのままの文言で条文が定められますと,裁判官によってかなり判断にばらつきが出る気がしますし,また,かなり大きな裁量を裁判官に与えることになると思いますけれども,それで果たしてよいのかどうかに関しては,立法政策としてどう考えるか,慎重な検討が要るのではないかと思います。   アプローチとしても,先ほど山本敬三幹事が示唆されたところが参考になると思いまして,なぜ保証債務が減免されるのかという理論的な問題をどう考えるかを検討することが必要であると思います。 ○岡委員 3点申し上げたいと思います。   1点目は,保証契約締結後の説明義務について,日弁連としては項目を挙げて具体的な提案をしたところでございます。法務省提案では,今の段階では落とされていますが,三上さんからも,項目を絞れば可能だろうし,敬三先生からも,そういう事情が考慮になり得るというお話もありましたし,鹿野先生からもそのような趣旨がございましたので,是非,保証契約締結後の情報提供義務についても復活していただきたいと思います。   二つ目は,3のところでございますが,こういう規定は,倒産法との関係もあると思いますが,生活の保護といいますか,家族の保護といいますか,最低限の生活破綻の防止という,倒産法的な考慮もきっとあるのではないかと思います。それを民法の中に入れられるかどうか,もし入れられるのであれば,それを入れると,岡崎さんの今の疑問に一つ答えられるのではないかと思います。   分科会でも,こういう話があったときに,債権者のほうの対抗手段として破産申立があり得るのではないかとの意見がありました。それはその人を信用できない場合にはあり得ると思いますが,債務がほかにそう大きくない場合に,保証だけ片付ければ生活再建ができるという場合には,(1)あるいは(2)というのは効果的に働く場合があるだろうと思います。そういう意味で,1及び2なのか,合体版なのかは別として,是非この方向は検討していただきたいと思います。   実務家としては,三上さんがおっしゃったように,隠し財産があった場合にどうなるのか,財産調査が今完璧ではないではないかということも気になりまして,財産開示制度をもっと強力にするとか,(1)で隠し財産が分かった場合の条件付き復活というのは厳しいのかもしれませんが,(2)であれば,取りあえず請求できないという判決が出て,その後,隠し財産があれば,再度請求すれば認容されるのかなとも読めるところであります。フランス法の実定法ということでしたので,その辺も調べて,隠し財産で逃げ切るのを防ぐために,(2)のような制度が有効だとすれば,(2)の方向で考えていただきたいと思います。   それから,3番目には,2の(4)の信用状況のところについては,今日出たような意見を基に詰めていただきたいと思っております。主債務者のことを調べもせずに,いざとなったら保証人から取れるからいいやと,そういうのを防ぐ意味もあるだろうと思います。債権者が認識している回収可能性の根拠たる事実とか何とか,最終的には敬三先生がおっしゃったような,リスクがどのくらいあるかと債権者が考えていることを,主債務者サイドだけからではなく債権者サイドからも言うことによって,保証人がより自立的な判断ができるようになるのではないか。そういう観点から(4)を更に詰めていただきたいと思います。 ○山本(和)幹事 3の(1)ですけれども,裁判所は減免することができるという訴訟手続上の性格ですが,必ずしもよく分からないところがあって,恐らく身元保証法を参考にされていると思うので,身元保証法について私は勉強していないので,そこにどういう解釈がされているか分からないまま申し上げるのですけれども,この文言だけ見ると,形成判決,裁判所が減免することによって初めて保証債務が実態法上そのような額に変容するという規定ぶりのように思われますけれども,それでいいのかどうか。かなり異例な構成ということになるのかもしれないという感じはするということです。   それから,支払能力を考慮に入れるということにした場合の,なかなか難しい問題点というのは,三上委員とか岡委員が言われたのと私も同じ感触を持ちます。後から隠していた資産が見付かったというような場合には,破産免責の場合には免責の取消しという制度があって,免除を取り消されるわけですけれども,いずれにしても非訟事件で仕組むことは不可能で,実体験の内容に関わるものなので不可能だと思いますので,既判力は生じるということになるだろうと思いますから,普通に考えればそれは,新たな事実が出てきたからといって再審事由にはならないので,それでいいのかどうかということ,それを前提にしてコンセンサスを得られるのかどうかということを考える必要がある。   それから,後から支払能力が回復するということも十分考えられる。判決が出た次の日に1億円の宝くじに当たると。その場合でも,なお減免されたままの保証債務でいいのかどうかということも問題になりそうには思います。まず決めの問題だと思いますけれども,更に考えていただければということです。 ○安永委員 3の(2)について,労働債権の保護の観点から申し上げます。   経営者個人やその家族が労働債権に関する保証契約を締結する場合に,保証債務の内容が保証人の財産・収入に照らして過大と評価される場合が少なくないことが想定されます。この場合,提案のように,「労働者が過大な部分の履行を請求できない」ということになりますと,労働者の生活保障に直結する労働債権を保全し,弱者である労働者を保護するという観点からは,時として結果の妥当性が得られなくなることが生じてしまうように思われます。つきましては,労働債権との関係では,個人保証における責任制限について慎重な検討をしていただきたいと思います。 ○筒井幹事 部会資料50の2,3の辺りは,語尾が「引き続き検討する」と記載されているその文字通りに,まだ十分な検討がされていないことを自覚しており,今日の議論の中でも多くの御指摘を頂いたと思いますので,引き続き私どものほうでも検討したいと思います。   先ほど岡委員から,主たる債務の履行状況に関する情報提供義務についても論点として立ててはどうかという御提案があって,確かに2(4)の信用状況という議論のところで,ここでは元々,効果が取消しになっていることもありますし,適切な保証意思を形成することをサポートするような規定がイメージされていたのだと思います。   ただ,信用状況という場合の具体的内容がまだ十分明らかではないということで,幾つか頂いた御意見を踏まえて更に検討したいと思いますが,そこで出ていた延滞の有無とか主債務の残高といった項目は,従前は主たる債務の履行状況に関する情報提供義務という整理をしており,それは今回は個別には取り上げていないわけです。それはなぜかといえば,1のところで経営者保証以外の保証が禁止されるのだとすると,そういった義務を課する必要性は余り想定されないのではないか。これは補足説明に書いたとおりのことですけれども,延滞の有無や,主債務の残高といった事項は,経営者である保証人に対してまでその情報を提供する必要はないと思うので,論点の整理の仕方としては,これでよいのではないかと考えております。 ○村上委員 すごく細かなことかもしれませんが,2について,一言だけ申し上げますと,これは,保証契約を締結した事実が認定できることを前提として,取消権を与えるという話になっているわけですね。ですが,保証契約締結の意思表示をした事実が認定できることが前提となっているということは,主債務者が履行しないときには,その代わりに履行しますという意思表示を保証人がしたことを前提として,しかしそういう説明を受けていなかったのであれば取り消せるということにしようという考え方に見えるわけですが,果たしてそれを理論的にうまく説明できるのか,気になります。 ○中田委員 先ほどの筒井幹事の御説明についての質問ですけれども,第2の2というのは1を前提としているものなのでしょうか。それとも,1とは独立して2の義務があり得るのでしょうか。もし後者だとすると別の論点になると思うのですけれども。 ○筒井幹事 1では,例えばその対象を貸金等根保証契約などに限定することが前提となっております。それに対して2では,そのような限定が付されていないので,独立の論点であろうという整理をしたつもりです。 ○中田委員 私が誤解しているのかもしれませんけれども,独立の論点だとしますと,1が経営者保証に限定しているというので,2の問題が出てこないということにならないのかと思ったのですが。 ○筒井幹事 貸金等債務以外の保証に関して,2の説明義務などは問題になるであろうと考えられますので,1の提案についてどのような結論になったにしても,それとは別に2の論点が残るのではないかと考えたということです。 ○中田委員 そうだとしますと,1の補足説明の5にあります契約締結後の主たる債務の履行状況についての説明義務というのも,同じように別の論点になるのではないでしょうか。 ○筒井幹事 主に問題とされていたのが貸金等債務に関する保証であろうと理解して,今回は削ったわけです。補足説明に書いたことの繰り返しですが。 ○中井委員 要するに,2については,許容された個人保証について適用されるという理解をしてよろしいわけですね。ですから,経営者保証についても許容された保証ですから,その場合については,2のうち一部について説明は要らない場面はもちろんあるけれども,それ以外の場面では2の(1)ないし(4)がいずれも妥当すると,そういう理解をしております。   その上で,(4)の信用状況について,先ほど,延滞の有無とか借入残高だけ述べましたけれども,これは当該借入れではなくて,当然,他の借入れについてのその類いの情報のことを申し上げたにすぎません。その後,岡委員からもありましたように,当該主債務者が弁済できるかどうかに関わる信用状況一般だろうと理解をしております。その例として,今日配布いただいた日本司法書士会連合会の意見書5ページの上のほうに,幾つか具体例がありますので,こういうものも参考になるだろうと思いますし,また,山本敬三幹事がおっしゃられたように,債権者が保証契約を締結する時点で把握していた,若しくは容易に把握することができたという限定が必要かどうかという辺りも,検討の余地があると思います。   また,保証人が主たる債務者の委託を受けたかどうかについては,前回からの議論の経過の理解としては,先ほど道垣内幹事がおっしゃられた守秘義務との関係で,こういう限定を加えたものと理解をしております。だから,仮に委託を受けていない場合に,どのような情報提供をするのかは別個の論点で,それは保証人がリスクを採ったのだから,もう要らないという理解でいいのかどうか,ここは更なる検討が必要なのかと思います。   併せて,司法書士会連合会の意見書を拝見して,今まで全く議論になっていなかった,しかしやはり検討しなければならないと思ったことは,意見書の最後の6ですけれども,結論としては10ページに出ていますが,保証人が死亡したときに相続人に対して保証債務の履行請求ができる,現行法はそうですけれども,死亡時点で主債務について履行がなされていて,延滞が発生していなかったら,保証人の相続人が全く気付かないまま単純承認をする場面が容易に想定されます。そういう事案において,その後延滞が発生して保証債務の存在を知ったときに,もはや放棄ができないで困る,こういう場面が現実にあるからという御指摘なのかと思います。この問題は今まで全く議論に出ていませんでしたけれども,時機に遅れているのかもしれませんが,検討に値する御指摘だと思いました。 ○岡委員 中田先生と同じ問題意識なのですが,1がもし通ったとしても,家賃保証だとか奨学金保証だとか住宅ローンは残るわけで,あるいは売買取引の第三者保証あるいは経営者保証は残っていますので,それについては契約締結後の説明義務の問題は残るのではないでしょうか。 ○筒井幹事 御趣旨はよく分かりましたので,再検討いたします。 ○鎌田部会長 ほかによろしければ,4の御意見をお伺いしたいと思います。   特に御異論はないと思ってよろしいですか。 ○岡委員 異論がないではなく,賛成という意見を日弁連としては申し上げたいと思います。 ○松岡委員 直接ここの問題ではなくて関連することなのですが,一言申し上げておいたほうがいいかなと思うことがありますので,発言させていただきます。   現行法でも,貸金等根保証契約では極度額の定めがあるのですが,こういうふうに一般的に限度額が必要だという案に賛成です。ただ,この方向に舵を切りますと,代位のときの問題に跳ね返ってくる可能性があるということを申し上げておきたいと思います。   現在は,共同保証人間の求償については,465条がありますが,基本的には各保証人の負担部分は頭割りで平等だという前提で議論しています。前に,501条の5号について判例法をそのまま準則にして規定してはどうかという御提案があったときに,それには問題があるという発言をさせていただきました。その後,その問題を考えてみますと,次のようなことに思い至りました。現行民法ができたときには,基本的には被担保債務の全額についての保証であり,全額についての担保物権設定である,ということが前提とされていましたために,保証については基本的には共同保証人の頭数で割って負担部分を決めてもよかったわけです。しかし,この改正提案のように限定的な保証とか一部保証がたくさん入ってきてよく使われるようになってまいりますと,債権者に対する責任の限度額が違うため,内部での負担配分を単純に頭数で割って決めるという基準が維持できなくなるのではないかと考えています。   問題は,担保の提供者である物上保証人の代位の場合の負担割合についても同じでして,現行規定は392条や501条各号で担保目的物の価額あるいは価格を基準にするとなっております。しかし,根抵当権が抵当権の中心になってきますと,責任限度額は不動産価額自体ではなく,極度額ということになりますので,やはり同じように,単純に不動産価額で負担部分を決める現在の基準がそのまま維持できるのでしょうか。ここには結構大きな問題があることを最近気付きました。   そういう問題を第2ステージの審議の最後辺りに検討して間に合うのかはわかりませんが,こういう問題があるということだけは,皆さんにも認識していただきたいと思って発言をさせていただきました。 ○中田委員 4については方向性は賛成です。その上で3点あります。  一つは,継続的な商品売買に係る代金債務の保証の場合には,極度額だけではなくて,期間のほうも広げる余地があるのではないかと思います。   あとの2点は運用の問題なのかもしれませんが,賃借人の債務の保証について,非常に多額の極度額を設定するという実務になった場合にどうしたらいいのかということが気になります。  もう一つは,実際ありそうなことなのですが,賃貸人が求めているのは非常に広い範囲の保証だと思うのです。単に家賃だけではなくて,損害賠償ですとか,賃借人が明渡しをしない場合に代わりに残置物を処理することとか,賃借人が心神喪失状態になったときに身柄をどうするとか,いろいろなことについて保証人が責任をもってほしいという希望が賃貸人にはおありだと思うのです。そこが貸金等の場合と違っておりまして,貸金等の場合ですと金額だけで処理できるのですが,賃借人の債務の保証については非常に広いものですから。そこで,ひょっとしたら契約を2本にするようになるのではないか。つまり,賃料保証については極度額の規律に服するけれども,それ以外の,必ずしもそれは保証とは呼ばないかもしれないけれども,実質的に全ての債務について,あるいは責任について保証人に要求していくという,もう1つの契約が併用されるという実務となるという問題もあり得ると思います。それは運用面で解決すべき問題かもしれませんけれども,実際には貸金とは違う問題の生じ方があり得るのではないかを注意しておく必要があると思います。 ○高須幹事 今,中田先生から出た前半の部分の,期間の制限みたいなものを継続的な売買契約などには課すことも可能ではないかという視点について,賛成という意見を述べたいと思います。   取りあえず極度額以外の部分については,どんなものも含めて拡大することができるかどうかみたいな発想で我々も考えていたのですが,考えてみれば,貸金等根保証以外の継続的な保証が問題になるケースは,また別な類型があるわけですから,その類型ごとに,例えば拡大できるものとできないものが更に考えられてもいいと思いますので,そこは賛成したいと思います。 ○松岡委員 中田委員の御発言に関係した質問です。12ページの3の,先ほど議論したところです。個人保証における責任制限には,特にどういう保証を対象とするとの制限が付いていませんので,賃借人の保証の場合にも,やはり保証債務の減免だとか比例原則が考慮される余地があるのではないかと思うのですが,そういう趣旨で理解してよろしいでしょうか。それとも,3は1,2の続きで限定的なものと考えるべきですか。 ○川嶋関係官 3の(1)ですけれども,ここは,個人保証一般についてこういう規定を設けることを引き続き検討してはどうかという提案ですので,賃借人の保証の場合を特に除外する趣旨ではございません。 ○佐成委員 一言だけですが,4の2文目の「引き続き検討するものとしてはどうか」というところですが,ここについては,かなり慎重に検討してほしいという意見が寄せられておりまして,当たり前のことですけれども,念のため申し上げておきます。 ○岡委員 先ほど日弁連の意見が,4,賛成とだけ簡単に申し上げましたけれども,高須さんが言ったような,もっと膨らませるところは膨らませてほしいという留保条件付きの賛成でございますので,流れとしては,中田先生,高須先生の意見の方向が弁護士会の大勢だということをお伝えしたいと思います。 ○鎌田部会長 1,2,3,4で適用範囲が全部違う,適用対象となる保証契約が全部違うのですね。かなりきめ細かく対応されていて,複雑な構成になっていますけれども,それぞれの特性を考慮してということだろうと思います。引き続き検討という記述がたくさん出ているように,今日頂戴したいろいろな意見がある問題ですので,頂戴したような意見を踏まえて,更に事務当局で検討を詰めさせていただきます。   次に進ませていただきます。「第3 有価証券に関する規定の整備」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○松井関係官 「第3 有価証券に関する規定の整備」は,部会資料37で取り上げた証券的債権及び有価証券に関する規定の整備について,第2ステージにおける審議の結果を踏まえて再整理をした提案をするものです。   資料全体を御覧になっていただきお分かりのとおり,指図証券の譲渡の効力要件等については,有価証券法理にのっとり規定を整備することとしますが,基本的には,特別法による有価証券を除くと,民法の規定の適用がある有価証券の典型例が限られていることから,現行法の規律の内容を維持したまま規定を整備するという考え方を前提としています。そして,そのような方針の下に,指図証券,記名式所持人払証券,その他の記名証券及び無記名証券について,それぞれ資料記載のような規律を整備することを提案するものです。   なお,この論点は商法の分野にも関係することから,若干の商法学者の先生方の御意見を伺いながら,このような提案をしているところでございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま御説明のありました部分について一括して御意見をお伺いいたします。 ○神作幹事 御提案の内容につきまして,私は基本的に規律の実質については賛成いたします。学会における問題意識,正に松井関係官が言われましたように,有価証券であるのにもかかわらず証券の交付が第三者対抗要件になっているという現行民法の規律は,明らかに有価証券法理に反しますので,そのように明らかにおかしなところは訂正する必要があります。それから,これも何回か申し上げさせていただいておりますけれども,商法典における商行為総則の有価証券に係る規定には,抗弁の切断についての規定が欠けております。したがって,抗弁の切断については,有価証券に関する他の規律と一体化した上で規律の欠缺を塞ぐことが必要です。これらの現行法の問題点を解決している点において私は,基本的に適切な御提案であり,かつ,これから出てくる有価証券が必ずしも商事証券に限られない可能性があることを考えると,規定の位置としても民法にまとめて置くのが適切ではないかと思います。   部会資料37の御提案と比較いたしますと,例えば免責の規定について,資料37では,手形法40条3項のルールによるべきだとされておりましたところが,今回の御提案では民法470条の免責のルールでいくものとするといった点において,変更がございます。この点につきましても,特別法がない限り,有価証券一般については静的安全の保護にも留意するという観点から,高度の流通性を担保する意義を有する手形法40条3項の規律ではなく,民法470条の規律を維持するという考え方は,十分にあり得るところかと思います。   もちろん,有価証券である以上,所定の資格を有している場合には権利の推定が働きますので,権利の推定との関係で,手形法40条3項のルールのほうが一貫しているのではないかという議論はあり得ると思います。しかし,先ほど述べたような理由により,民法470条の規律を維持する点についても,私は個人的には賛成したいと思います。   ただ,幾つか,疑問ということまでのこともないのですけれども,気になる点がございます。第1は,記名証券の扱いについてでございます。18ページの(3),記名証券については,(1)と(2)の有価証券に該当しないものであって,債権者を指名する記載がなされている証券であると定義した上で,公示催告手続に乗せることが提案されています。私は,規律の実質については,冒頭に申し上げましたように賛成いたしますけれども,従前は,記名証券が有価証券かどうかについては非常に争いがございまして,今回の御提案は,記名証券が有価証券の一種であるということを明らかにしている点について,どのように考えたらいいのかというのは,私自身,少し悩んでいるところでございます。個人的には記名証券も有価証券だと考えておりますので,御提案のとおりでよいと思うのですけれども,学会全体を見回しますと,記名証券が有価証券かどうかということについては,説が分かれているところでございます。   しかし,それにもかかわらず記名証券について立法論としては公示催告手続に乗せる必要があるという点については,多くの研究者の意見は一致しているのではないかと思います。と申しますのは,記名証券については,一般に権利の行使に当該証券の提示及び交付を要すると定義されておりますので,それを有価証券と定義しようがしまいが,無くしてしまったり燃やしてしまったときに,公示催告手続がないと困ることになります。したがって,記名証券について公示催告手続に係る規律を及ぼすという点については,私も賛成いたしたいと思いますけれども,記名証券を有価証券と明確に位置付けることについては,異論もあり得るのではないかとやや気になるところがございます。   第2に,記名証券の定義なのですけれども,アの定義を読みますと,典型的な有価証券に認められる特徴を否定しておりまして,譲渡についてはむしろ指名債権譲渡の方式による,質権の設定も同様であると述べております。記名証券がなぜ有価証券なのかということについての積極的な特徴ですとか法的効果が挙げられていない点が,もしかしたら分かりづらいのではないかと思います。そうだといたしますと,記名証券につきましては,提示証券性ですとか受戻証券性のように,権利の行使に証券が必要であるということを真正面から打ち出すことが考えられるようにも思われ,記名証券を有価証券として位置付ける場合にはなおさらその積極的な定義について検討を要すると思った次第でございます。   したがいまして,私の個人的な感想にすぎませんけれども,有価証券の(1)から(4)の並べ方のうち,(3)の記名証券は有価証券性が明らかな(4)の後に持ってくることとして,記名証券が有価証券かどうかということについては,明確にしないという提案の仕方もあり得るように思います。公示催告手続は現行法の立て付けでは,有価証券のうち民法施行法の57条によって無効とすることができるものがその対象であると明確に定められておりますので,有価証券であると言わない限り公示催告手続の適用がないというのが現行法だとは理解しております。けれども,先ほど申し上げましたように,学会における記名証券についての有価証券性についての議論との関係が少し気になるところでございます。   ただ,最後に述べました点は,専ら体系上の問題あるいは理論上の問題かと思いますので,冒頭に強調いたしましたように,規律の実質としては,私は基本的に賛成いたします。 ○松井関係官 有益な御指摘,ありがとうございました。大きく2点御指摘いただいたと思っております。   一つ目は,(3)のその他の記名証券が有価証券と言えるのかどうかという点,これにつきましては,従前の部会から公示催告手続に乗せるという要請があるということで議論が進んでおりまして,非訟事件手続法のほうで有価証券について公示催告手続があるという仕切りになっておりますので,そうしますと,有価証券に当たるという前提で規定を作らざるを得ないかなと。また,そういうコンセンサスの下に,その他の記名証券が有価証券であるという整理で進んできたのかなと思って,このように書いておりますけれども,中間試案などでの商法の学者の先生方の御意見等も踏まえまして,考えていきたいと考えております。   2点目は受戻証券性の規定の要否の点でございますが,部会資料17ページの上から10行目ぐらいに,なお書で,受戻証券性に関する規定を設けるかどうかについて,仮に設けようとすると手形法の39条辺りが参考になるわけですが,一部弁済の可否やその場合の債権者が採るべき措置に関する規律,また株券などのように反復継続する場合,これは株券に限らず,利息が付く金銭債権で,利札のように分離できない場合の取扱いも含むと思いますが,そのようにいろいろな有価証券を考えた場合,うまく規定が作れるかという問題もございますが,なお先生の御指摘を踏まえながら,また検討してまいりたいと考えております。 ○佐成委員 私は法学者ではないので余計なことを言うつもりはないのですけれども,神作先生がおっしゃっていた,今の17ページの補足説明(2)の部分について,一言申し上げたいと思います。つまり,手形法第40条第3項の規律に従った内容に改める提案を採用せず,今回は現行の民法第470条の規律内容をそのまま維持して,飽くまで静的安全を優先させるということでしたけれども,有価証券法理の自然な帰結からしますと,ここは変えてもいいように思いました。実際,一貫性から考えても,その方が据わりがいいように感じます。むしろ,私はこれを読んでいて,ここだけは大変違和感を覚えました。確かに,受戻証券性についてはいろいろな問題があるので無理かなという感じでいたのですけれども,ここは別にそんな障壁がないのではないかという気がしたのですけれども,その点はいかがでしょうか。 ○松井関係官 どのような証券を念頭に置いているかという問題になると思います。有価証券といいましても,狭い中で取引するようなものもあれば,広く流通するものもあるかもしれません。そのような特定の対象を,今,事務当局としてこれを念頭にというのを提示しにくい状態にあるというのが現状でございます。現に,この部会資料に書きましたように,現行の民法が直接適用になっている証券というのがほとんどないという中で,あえて規律を変えていく積極的な立法事実というのがなかなか難しいと。ですので,こういう証券を念頭に置きたいということがもしあれば,それに応じて流通性をもう少し増すような方向の改正というのもあり得るかもしれませんが,現状としてはこういう状態であるというふうに御理解いただければと思います。 ○佐成委員 もちろん,実務的な場面を具体的に念頭に置いているわけでは全くなくて,要するに,有価証券という形で現行の規律を整理し直して,例えば,民法上「対抗要件」とあるところを全部「効力要件」に改めるなどして,有価証券法理で一貫させようとしているのに,なぜここだけ,さしたる障害もないのに,このように放置されたままになっているのかというのが,読んでいて非常に違和感を覚えたということ,それだけでございます。 ○中田委員 無記名証券について教えていただきたいのですけれども,無記名証券は記名式所持人払証券に準じた規律ということですが,そうしますと公示催告手続の対象にもなるということでよろしいでしょうか。 ○松井関係官 証券の特定の観点で困難になる場合もあるかもしれませんけれども,特定できる限りは公示催告の対象になると考えております。 ○中田委員 番号が付いているとか,そういう場合ですね。 ○松井関係官 おっしゃるとおりです。 ○中田委員 同じく無記名証券についてですが,19ページの上のほうの③というところで,無記名証券の質入れの話が出てくるのですけれども,ここには明示されていませんが,無記名証券の質入れについては,権利質の規定が適用されるという理解でよろしいでしょうか。 ○松井関係官 先生のおっしゃっているのは,具体的に権利質の何条の辺りをお考えでしょうか。 ○中田委員 現在は無記名債権は動産として扱われているので,動産質だということは分かるのですけれども,無記名証券を有価証券としたときの質入れは権利質になって,直接取立権も発生するのかどうかということです。 ○松井関係官 おっしゃるとおり,今,動産質ですけれども,これは動産ではないという整理をしますので,むしろ権利質のほうに該当して,366条は直接適用があるという形になろうかと思っております。 ○岡委員 質問なのですが,16ページに,商品券,コンサートチケット,乗車券については,473条の適用の余地が場合によってはあると。そうなると,場合によってはこの改正が通れば,商品券とか乗車券とかコンサートチケットについて,公示催告が可能になるということなのでしょうか。 ○松井関係官 商品券にもいろいろなものがあると思うのですけれども,今日,私,たまたま手に持っていた商品券を見ましたら,公示催告手続の適用はありませんと書いてある商品券もございました。ですので,その性質に応じて,その内容に応じてと部会資料に書きましたけれども,まず一つは,特定の観点で難しいものもあるかもしれないと。また,発行するときの場面や,紙にどう書いてあるか等によっても内容が変わる可能性も十分にあり得るということを考えております。 ○岡委員 そしたら,公示催告の余地がありますと,発行者が判断してそう書けば,公示催告ができるようになる可能性が高いということですか。 ○松井関係官 発行するほうの当事者が特定の番号などを付して,それを将来的に公示催告手続に乗せたいということを考えているのであれば,現時点ではそれを認めても差し支えがないのではなかろうかと,支障はないのではなかろうかと思っております。 ○神作幹事 今の御質問に対して,私の理解では,有価証券を私人間の合意で作れるかどうかという,一般的な論点に関連すると思います。記名証券というのは私人間の合意で作成できることには争いがないと思います。権利の行使に証券が必要だという意味における記名証券であれば,これは法律上の根拠がなくても私人間の合意で作れるということには異論がないと思うのですけれども,無記名債権を法律上の根拠または慣習法上の根拠なしに,創設できるかどうかは,議論があるところだと思います。この点は,少なくとも,御提案では当然に私人間の合意で無記名証券を作成できるとはいっておらず,解釈論に委ねられており,私個人は,公示催告手続に乗ってくるような有価証券としての性質を有するかどうかは,法律上の根拠がない有価証券の場合には,商慣習や慣習を含む当該証券の利用のされ方や流通の仕方等を総合的に判断して決定されることになるのではないかと考えています。 ○松井関係官 あともう一つ補足いたしますと,先ほど岡委員がおっしゃった商品券が公示催告の対象になるのかどうかというのは,現行の民法施行法57条にも既に,無記名証券については公示催告手続で無効とできるという条文がございますので,条文としては全く変わらないということになろうと思います。ですので,その解釈適用についても現行と変わらないということになろうと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,恐縮ですけれども,続きまして「第4 相殺」について御審議いただきます。事務当局から説明していただきます。 ○松尾関係官 「第4 相殺」は,部会資料37で取り上げた債権譲渡と相殺の抗弁と,部会資料39で取り上げた法定相殺と差押えについて,第2ステージにおける審議の結果を踏まえて新たな提案をするものです。   「1 受働債権が差し押さえられた場合における相殺」においては,民法第511条について,判例法理である無制限説を条文上明確にすることを部会資料39で提案しておりましたが,これに加えて,差押え時に具体的に発生していないものの,発生原因が存在する債権を自働債権とする相殺が可能であることを条文上明確にすることを提案しています。   例えば,委託を受けた保証人が差押え前に締結された保証契約に基づき,受働債権の差押え後に保証債務を履行して生じた事後求償権を自働債権として相殺することができるか否かについて,現在は必ずしも明らかではないと言われています。この点について,第3分科会第4回会議の審議においては,委託を受けた保証人が破産手続開始の決定前に締結された保証契約に基づき,破産手続開始決定後に保証債務を履行して生じた事後求償権を自働債権として相殺することができるとされている判例との整合性を考慮する必要があり,相殺を禁止する必要はないとする意見がありました。そこで,今回の部会資料では,破産法の規定を参照して民法第511条を改めることを提案いたしました。   「2 債権譲渡と相殺の抗弁」について,第3分科会第4回会議では,従来,この論点について無制限説と呼ばれてきた考え方によると,相殺の抗弁を対抗することができる範囲が狭いのではないかという意見があり,その範囲を拡張すべきであるとする意見がありました。しかし,部会資料37の提案については,基準として明確ではないとする意見や,相殺の抗弁を対抗することができる範囲が広過ぎるとする意見がありました。   このような審議の経過を踏まえて,今回の部会資料では,1の論点と同様に,債務者対抗要件具備時に具体的に発生していないものの,発生原因が存在する債権について相殺することができるとするとともに,債務者対抗要件具備時に発生原因が存在しない場合であっても,債務者対抗要件の具備時から譲渡された債権が発生するまでの間の譲渡された債権と同一の原因に基づいて生じた債権を反対債権として,相殺の抗弁を主張することができるとすることを提案いたしました。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について,一括して御意見をお伺いいたします。異論なく御支持いただいていると思ってよろしいでしょうか。 ○三上委員 まず1の部分は,内容に異論があるわけではないのですが,(2)のアとイで,「生じた」というのと「取得した」というものを使い分けておられるのですが,これは「差押え前の原因に基づいて取得した債権」は含めるという趣旨なのか,それは「生じた」という言葉に包含されるという趣旨なのかという点を確認しておきたいと思います。   それから,2に関しては,これは前の提案に比べますと,「同一の原因」ということですから,非常に狭い範囲のものだけが対抗できるという趣旨であろうと推察いたします。そうすると,特に我々は預金債権を念頭に置いて話をするのですが,債権譲渡禁止特約が引き続き有効でないと困る場面がかなり残ってしまうという理解になりますので,ここの問題ではありませんが,譲渡禁止特約の問題と連動する問題であるという趣旨として理解させていただきました。 ○松尾関係官 必ずしも三上委員のお尋ねの趣旨がよく分かっていないかもしれませんし,よく考えていなかったのですが,「差押え前の原因に基づいて生じた」他人の債権を「取得した」場合が相殺の対象に含まれることを,必ずしも否定する趣旨ではありませんでした。どう考えるべきかについては,御議論いただければと思っております。 ○中井委員 1ですけれども,この規律は,結局,差押えの場合と倒産時の場合の平仄を合わせるという考え方だろうと思うのです。この点について,民法の研究者の方々,また倒産法の研究者の方々が,本当にそれでいいのかということについてお聞きしたいと思っております。   つまり,倒産時においては,確かに債権者平等が,より「強く要請される破産手続開始決定後における相殺の範囲が差押え後よりも拡張されることを正当化することは困難である」という,「これは」以下の4行のところです。倒産時においては財産拘束がありますから,その範囲でどのような債権者が相殺できるか一定の規律が設けられる。それに対して差押え時の場合には,まだ債務者についての財産拘束がないわけですから,差押え後に発生した債権は,債務者の一般財産から権利行使して回収可能,つまり,倒産時は回収行為が制限されるのに対して差押え時はまだ回収可能。そういう状態であるけれども,同じように相殺できるようにして第三者債務者を保護する,こういう規律になっているわけです。第三者債務者としては権利行使が可能かどうかは,倒産手続が開始したかしないかで決定的に違うにもかかわらず,ここが本当に一緒でいいのか。   すなわち,差押えがあった後,たまたま主債務者のために保証していた,保証履行を急ぎして求償権を作って,その求償権に基づいて相殺することを認めるわけですね。それは倒産時であれば,もはや財産拘束があるから,倒産開始前の原因があるときには,そういう求償権を取得して相殺することは容認していいとしても,単純に差押えしかないときに,そこまでのことを認めなければいけないのか。つまり,平仄を合わせなければいけないのか,ここについて統一的理解が得られているのか。仮にこれが得られているのであれば,規律を合わせるという方向なのだろうと思いますけれども,今までの民法レベルの議論と倒産法の議論とでは,そこは違ったのではないか。部会資料23ページの5行目以下の東京地裁昭和58年の判断がむしろ一般ではなかったのかと思うものですから,御意見をお聞かせいただければと思って申し上げました。 ○鎌田部会長 これはむしろ民法側に対する問い掛けですね。 ○中井委員 ええ。 ○三上委員 金融実務からの回答を申し上げると,今懸念されるような場面というのは,ほかから回収できるときには,狙い撃ち相殺という相殺権の濫用の一場面に包含されるのではないかと思います。差押命令が来る場面というのは,何度も申しておりますけれども,債務者が危機的状況で,あとは単に法的手続に進むか進まないかで,実際に法的整理に進むものは,全ての倒産の1割もいかないのではないかと考えておりますので,そう考えると,利害状況としては差押え段階も倒産段階もそれほど変わらないと思います。むしろ,これまで散々倒産法の側から,実体法でできないものが破産法でできることはおかしいという議論がなされてきたわけですから,ここで実体法と倒産法の考え方が合致するというのは,円満な解決ではないかと思います。   銀行実務で問題になる保証の求償権取得の場面とか,手形の買戻しの場面では,それぞれの約定書で差押え以前に反対債権を取得するよう契約上の工夫をしておりますので,なかったからすぐに実務が困るというわけではないのですが,中井先生の御懸念に実務的に回答すると以上のようになると思います。 ○中井委員 今までは無制限説か制限説か,弁済期の前後で議論し,無制限説については行き過ぎではないかという議論があった。今回はそれをはるかに超えて,差押えを受けてから代位弁済をして,求償権を作って,それで相殺を認める。そういうことは,執行制度に対して相当な制約を課すのではないか。従来の民法学者の方々で制限説を支持されていた方々にとって,このような考え方は容認できるのですかという,むしろ素朴な疑問なのです。合わせるという考え方を採ればこういう規律は理解できますし,場合によっては三上委員がおっしゃられたように,差押えと倒産手続というのはほぼ同一に考えていい,現実的には債務者はそういう経済状況にあるのだと,そう考えれば正当化できるのかもしれませんけれども,果たしてそうだったのかという疑問なのです。 ○鎌田部会長 このことについて御意見ございますか。   それは更に引き取らせていただいて検討させていただきますが,債権譲渡のほうについてはどうでしょうか。 ○岡委員 今の511条のほうで,倒産側から見ると,中井さんと同じように,一気通貫して理解はしやすいところですが,民法の教科書を前に調べたときには,潮見先生の教科書だけに東京地判が引用されていて,違っていいのだという記載があっただけでしたので,ほかの先生方がどんなふうに考えられているのか,中井さんと同じように非常に知りたいところでございます。   ただ,しーんとしていましたので,そう反対が多くないのであれば,これで個人的にも支持しますし,基本的に債権法改正反対という立場の人も,何となく個人破産で破産法になじんでいるのか,この表現に違和感がなく,ある程度支持があったことを御報告申し上げておきます。   それからもう一つ,1のほうで気になったのが2点だけございまして,(1)で,反対債権があれば全部オーケーなんだと,(2)のアで,差押え前の原因に基づいて生じた債権でないときは駄目だと,二重否定しているのが,どうも素人には分かりづらく,アを1のほうに持ち込んで,第三者債務者は,債務者に対して差押え前の原因に基づいて生じた債権を有するときは相殺できると,(2)のイの例外を設けるというほうが分かりやすいし,破産法の条文にも沿っているように思います。二重否定にしないと何か論理的な穴が空くというのであれば,しようがないと思うのですが,もう少し分かりやすい表現があるのではないかと思います。   それからもう一つは,差押え前の原因が危機時期の原因であるときに,破産法では危機時期に取得したものであれば排除できる規定があると思うのですが,今のままだと,単発差押えのときに危機時期というのはないかもしれませんが,理論的には危ないと知って取得した原因の場合には,例外を設ける余地はあるのではないかと思いました。 ○筒井幹事 表現ぶりが二重否定になっていて分かりにくいということに関しては,御指摘を踏まえてよく考えてみたいと思います。このようにした理由は,現在の民法511条が反対解釈の可否をめぐって争われてきたという経緯もありますので,まずは正確に内容をお伝えしようということで,このような書き方をしたわけです。このような内容で御異論がないということであれば,中間試案のたたき台をお示しする段階では,もう少し分かりやすくなるような表現ぶりの工夫を更に検討してみたいと考えております。 ○松本委員 中井委員から,1について民法学者はこれでいいのかという御下問がありました。私は別に相殺と差押えの専門家ではありませんので,独自の説があるわけではありませんが,恐らく,(1)で無制限説を採ったのだから,(2)というのはその延長上であって,特に違和感がないという感覚ではないかと思います。仮に(1)で制限説を採るということであれば,(2)がくるというのは非常に違和感があって,反対する人が多いでしょう。そういうロジックだと思いますから,むしろ制限説をなぜ採らないのかという,そちらのほうを議論するほうが重要だと思います。 ○中田委員 私自身は制限説がよいと考えてきているわけですけれども,ここでは,これまでの判例及び実務の定着ということを考えると,立法論としては無制限説のようなことになってもやむを得ないのではないかというのが,私だけではなくて,従来,制限説を唱えてこられた方も同じような理解ではないかと思います。その上で,今,松本委員もおっしゃったように,そうだとすると,(2)の拡張というのは延長上にあるのではないかということで理解しているのだと思います。   その上で,表現だけのことですが,(2)のイですけれども,「差押え前の原因に基づいて生じた他人の債権を」とあるのですが,「差押え前の原因に基づいて生じた」という部分が必要なのかどうかです。これがなくても意味は通るのかなと思ったのですが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 どこまでを取るということでしょうか。 ○中田委員 「差押え前の原因に基づいて生じた」までが,余り縛りになっていないのではないかと思いまして,その後の「他人の債権を差押え後に取得したものである」ということで足りるのではないかと思ったのですが。 ○山本(和)幹事 事務当局に代わって説明すべき立場ではないと思いますが,差押え前の原因に基づいて生じた債権でない場合には,アでカバーされているので,アとイの重複部分を避けるという,単なるそういう趣旨ではないかと思います。 ○中田委員 表現の問題だけだと思いますので,今の山本和彦幹事のおっしゃるようなことであるのでしたら,それを分かりやすく示していただければと思います。 ○鎌田部会長 そういうことにさせていただきます。   「2 債権譲渡と相殺の抗弁」については,よろしいでしょうか。   特に御意見がないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   次回の議事日程等について,事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回の会議は11月13日火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は法務省20階の第1会議室です。次回は予備日として予定していただいた会議ですので,新たな資料の配布予定はございません。本日の積み残し分である部会資料51について御審議いただく予定です。   それから,分科会の開催結果の報告がございます。机上に配布いたしましたペーパーのとおり,第2分科会第6回会議が開催されましたので,その旨を報告いたします。また,その際に,事務当局から配布いたしました分科会資料8と,中井委員から御提供があった資料についても,本日改めて配布させていただきました。   それからもう1点,御案内があります。法務省ウェブサイトの民法(債権関係)部会のページにつきまして,これまで,部会資料が掲載されているページとそれが審議された会議のページにずれが生じていることなどから,必要な情報を探すのが非常に大変であるといったような御指摘を頂いておりました。そのような御指摘を踏まえまして,民法(債権関係)部会のトップページのところに,便利なリンクが張ってあるPDFファイルを幾つか掲載いたしました。そこを開いていただきますと,PDFファイルから直接各回の会議のページへのリンクもしておりますし,全ての部会資料や議事録にも,直接そこからアクセスできるようになっております。今後の中間試案の検討に向けまして,この部会の審議に関心を持っていただいている皆様に御活用いただければ有り難いと思っておりますので,御案内させていただきました。   以上でございます。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了とさせていただきます。   本日も長時間にわたり熱心な御議論を賜りまして,ありがとうございました。 -了-