法制審議会民法(債権関係)部会           第62回会議 議事録 第1 日 時  平成24年11月13日(火) 自 午後1時00分                        至 午後6時00分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第62回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,能見善久委員,野村豊弘委員,鹿野菜穂子幹事,潮見佳男幹事,福田千恵子幹事,山川隆一幹事が御欠席です。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日は予備日として予定していただいた会議ですので,新たな部会資料の配布はございません。配布済みの部会資料51を使用させていただきます。この資料の内容は後ほど関係官の金から御説明いたします。   なお,この部会資料51に関して,「補訂」と右肩に記載した1枚紙を配布しておりますが,このペーパー記載のとおりに訂正させていただこうと思います。部会資料51は既に法務省ウェブサイトで公表済みですけれども,それも補訂後のものに差し替えようと思います。   このほか,高須順一幹事から,「部会資料51の第2(詐害行為取消権)に関する質問事項」と題する書面を御提出いただいております。また,東京弁護士会法制委員会有志の方から「民法(債権関係)の改正に関する論点の補充的な検討(2) 詐害行為取消権(責任説)」と題する書面,大阪弁護士会民法改正問題特別委員会有志の方からは「詐害行為取消権に関する部会資料51(中間試案のたたき台)の修正提案」と題する書面がそれぞれ提出されております。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料51について御審議いただく予定ですけれども,前回の部会の終わり方が慌ただしかったものですから,部会資料50について補足的な御意見がございましたら,この段階でお伺いしておきたいと思います。 ○中井委員 ただいま部会長からも御指摘ございましたけれども,前回最後5時半を過ぎてから差押えと相殺に関する議論,将来債権の譲渡と相殺に関する議論がなされました。実は,弁護士会においても必ずしも十分その論点について準備ができておらず,その場での発言も十分にできていないと感じております。とりわけ,債権譲渡と相殺の抗弁についてはほとんど意見が出なかったわけですが,その中には,将来債権の譲渡と相殺に関する新たな規律の提案が含まれております。その提案についてほとんど意見がないまま中間試案に向けて議論が進むのは必ずしも適切ではないと感じております。   提案は,従来より拡張的なものですけれども,その当否,若しくは拡張するとしても,その要件,そこでは将来発生する債権と同一の原因に基づいて生じた債権との相殺を認めてはどうかという提案がありますが,その基準の当否等について,更に審議してはいかがかと思っております。ただ,部会での審議は終了しておりますので,もし可能であれば,今後開催予定の分科会等に付議することがよろしいのではないかと思って御提案する次第です。 ○鎌田部会長 内容的には,分科会での補充的な審議をしてほしいという以上には特に修正提案等を提出はしないということでよろしいですか。 ○中井委員 ええ,内容については,皆様御用意されていないと思いますので,それは避けさせていただきます。 ○鎌田部会長 分かりました。それでは,この論点につきまして第3分科会で審議していただくということでよろしいでしょうか。   松本分科会長を始め関係の委員,幹事の皆様には御負担をお掛けしますけれども,よろしくお願いいたします。   それでは,続きまして,部会資料51について御審議いただきます。この部会資料51は,「中間試案のたたき台(概要付き)」のサンプルを兼ねたものでありますが,まず事務当局からその趣旨について説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 ただいま部会長から御紹介がありましたように,部会資料51は,副題として「~中間試案のたたき台(概要付き)のサンプルを兼ねて~」と書いてありますように,中間試案のたたき台を12月以降に御提示することの前段階として,このような様式のものの提示を予定しているということを事前に御案内し,その上でもし御意見があれば伺いたいという趣旨で作成したものでございます。   このサンプルそのものの御説明に入る前に,中間試案において公表する文書として何を想定しているのかということをまず御説明したいと思います。   中間試案の取りまとめが行われました場合には,中間試案の本体,これは従来から部会資料でゴシック体で書いてきた本文に相当するものですけれども,この中間試案の本体を,この部会の決定を経た文書として公表することになります。また,慣例によりまして,中間試案についてのパブリックコメントの手続を実施する際には,事務当局である法務省民事局参事官室の文責において中間試案の補足説明という文書を作成し公表することを予定しております。ここまでは,昨年の中間的な論点整理の場合と同様でございます。   この中間試案本体とその補足説明に加えまして,その中間のバージョンになろうかと思うのですけれども,「中間試案(概要付き)」というバージョンをもう一つ作成しようと考えております。これは,中間試案の補足説明という文書は,これまでの例を見ても往々にして分量が大変多いものになり,それを読み込むこと自体が大変であるという難点が指摘されていたと思います。他方,中間試案の本体だけを読んでその内容を理解していただくということもまた,なかなか容易ではないであろうと予想されます。そこで,中間試案本体のそれぞれの項目ごとに(概要)という欄を設け,その欄に1項目当たり1パラグラフ程度のごく簡単な説明を付けて,それによって中間試案の内容をより多くの方に容易に理解していただける形を整えたいと考えております。したがいまして,今回の中間試案におきましては,最終的に中間試案本体についての部会の決定を頂いた後,事務当局において各項目ごとに(概要)欄を付したバージョンというものを用意し,さらに,従来どおりの「中間試案の補足説明」を用意する,こういう形で進めていきたいと考えております。   本日これから御審議いただく部会資料51ですが,これは中間試案(概要付き)の様式で用意いたしました。今後,中間試案を広く多くの方に読んでいただくために,これを推奨するバージョンにしたいと考えております。これを御覧いただきますと,一つの論点について(概要)として1パラグラフ程度の説明を付しております。最初のページ,第1の1のところは,一塊の論点として記載した内容がかなり豊富ですので,それを分解して幾つかのパラグラフで説明しておりますけれども,基本的には1論点ごとに1パラグラフで簡潔に説明するようにしたいと考えております。   今後の審議でお示しする中間試案のたたき台につきましても,この概要付きの様式で作成しようと考えております。もっとも,この(概要)欄は,いずれ作成いたします中間試案の補足説明と同様に,事務当局の責任において作成するものという位置付けですので,その分量,内容などについては事務当局に御一任いただきたいと考えております。今後の「たたき台」の審議における基本的な検討対象は,本文の書き方に限るということです。本日の部会資料51は,サンプルとして提示しただけですので,議事の進め方について何か注文を付けるわけではありませんが,12月以降,中間試案のたたき台の審議に入りました後は,審議の対象は基本的に本文をどのように書くかということであり,(概要)欄についても参考のために併せて御提示いたしますが,それは必要に応じて助言を頂くにとどめて,その部分は基本的に事務当局の責任で執筆するという形をとりたいと考えております。   また,本日のお配りしているサンプルでは,(概要)のほかに(備考)という欄がございます。中間試案のたたき台では,このような(備考)欄を付けようと思っておりますが,これは最終的な中間試案の概要付きバージョンには残らないことを想定しております。この(備考)欄をなぜ設けたのかといいますと,第2ステージにおけるこれまでの審議の経過から突然,中間試案のたたき台という形で本文と(概要)欄しか掲載されていない資料をお渡しするだけでは,この間の議論の経緯を適切にお伝えすることが難しいことがあるからです。そういった論点については,この(備考)欄を活用して,補充的な説明を提供したいと考えております。これは,「たたき台」限りでの工夫ということになります。   さらに,「たたき台」におきましては,それぞれの論点の大きな固まりごとに,その最後の部分に「取り上げなかった論点」という四角で囲った欄を設けております。この欄も,専ら「中間試案のたたき台」の審議用に設けたもので,これまで議論した論点のうちで取り上げなかったものをこの欄でお示ししたいと考えております。   以上が「たたき台」の形式に関することです。   続きまして,たたき台の内容に関することですけれども,このサンプルを見ていただきますとお気付きのことと思いますが,本文につきましては,できる限り一本化して,語尾を「ものとする。」と表記することを目指したいと考えております。内容を一本化して「ものとする。」と表記するに当たっては,なお異論があるものについては,調整弁として(注)を活用したいと考えております。サンプルである部会資料51におきましては,例えば2ページ,第1の「3 代位行使の方法等」のところには(注)がございます。このほか,この部会資料51の中に(注)を付したものが3か所ほどあったと思います。このような(注)において,反対意見があること,あるいは別案が示されていることなどを紹介することによって,このような(注)の記載で必要な情報を補うことによって,本文はできる限り一本化した記載にしたいと考えております。   もっとも,なお一本化が困難であるという場合には,従来の部会資料のように甲案,乙案を併記する,あるいは甲案,乙案,丙案を併記する,こういったこともあり得るとは考えております。今回の部会資料51では,たまたま甲案,乙案の併記という選択をしたものはありませんでしたが,「中間試案のたたき台」をお示しする段階では,事務当局側から甲案,乙案という形で提示することもあるでしょうし,逆に,議論の中で甲案,乙案を併記すべきであるという意見を述べることを排除する趣旨ではないということを申し上げておきたいと思います。   このほかに,本文の語尾の表現として,可能性としては「引き続き検討する。」という表現もあり得ると考えております。本文を「ものとする。」と書いて一本化すること,あるいは甲案,乙案を併記することでは,なお合意形成が難しいけれども,しかし論点としてなお検討対象として残しておきたいというものがあった場合には,語尾を「引き続き検討する。」と書くなどの工夫によって合意形成を目指したいと考えております。   以上のような「たたき台」の作成方針を採る趣旨について,補足して説明いたします。この段階でできる限り一本化を目指すという方針については,これまでの審議と,ここからの中間試案の取りまとめを目指す段階では,議論の仕方が変わることになる,あるいは変わるべきであると考えたからであります。これまでの審議では,とりわけ中間的な論点整理の作成過程では,基本的にどの案がよいかといった議論,あるいはどの論点は取り上げて,どの論点を落とすべきかといった議論の仕方は余りせずに,論点の整理にとどめてまいりました。そして,第2ステージの一順目の審議においては,中間試案を視野に入れて,どの案がよいのかという議論を重ねてきたわけではありますけれども,それは,部会メンバーのそれぞれが現段階でどのような案がベストだと思っているかという観点からの意見を聴取してきたものであったと思います。もちろん御自身の意見そのものではなく,合意形成をするためにこう考えるべきではないかという御意見も頂いてきましたけれども,多くの論点については,それぞれの意見を述べ合ったにとどまっているものが多かったわけであります。その結果として,案を並べるとすると,甲案,乙案,丙案,更に丁案,あるいは乙案が二つに枝分かれするといったような分布になっているのが現状ではないかと認識しております。それはそれとして着実に議論が深まってきたと私は思っておりますけれども,最終的に立法を目指す会議であります以上,最終的にはどれか一つの案で一本化することができなければ,その論点は取り上げることができないことにならざるを得ないわけであります。ですから,ここからの議論におきましては,これまでいろいろ意見が分かれてきたけれども,どの案であればまとまることができるのか,直ちに全員一致は難しいにしても,差し当たりどのような考え方であれば多数派を形成することができるのか,それを見極めていく段階に来ているのではないかと私は思います。そうすることによって,自分がベストと考える案ではないけれども,消極的にでも,その案であれば相対的に支持することはできるといった形でまず多数派を形成することができれば,そのような案を重点的に取り上げて具体化し,パブリックコメントにおいても,現時点における部会の多数意見はこうだけれども,どのように考えるのかという問い掛けを効果的に行うことができるのではないかと考えます。   そういった趣旨で,今回の部会資料では,やや従来の議論の経緯からすると唐突に,事務当局の意見を強く押し出してきたという印象を与えたかもしれませんけれども,私どもなりに,このような案であれば現時点でのこの部会で大方の賛成を得る見通しがあると考えたものを御提示しております。逆に申しますと,「取り上げなかった論点」につきましては,その案が優れている,優れていないということはさておいても,今後,この部会で多数派を形成する見通しが立たない,コンセンサスを得る見通しが立たないと判断したものについては,取り上げない論点の方に分類させていただきました。もちろん私どもが取り上げないという形で提示した論点についても,なお取り上げるべきだという議論をしていただいて差し支えないとは思いますけれども,その際には,優れているということだけではなくて,やはり多くの方の支持を得ることができるかどうかといったことも加味して御議論していただければと考えております。   部会メンバー各位の御意見は,これまでの3年間にわたる審議で十分聴取してきたと思いますし,それを詳細な議事録に残すこともできたと思っております。ここからは,御自身がどう考えるのかということだけではなくて,今後,議論を一本化することができる可能性があるのかどうか,議論の一本化を目指す観点からは消極的ではあるけれども賛成できるのか,それでも反対であるのか,こういった辺りについて議論を深めていきたいと考えております。そういうものとして,私どもも「たたき台」を提示していきたいと考えております。   こういう「たたき台」の作り方をする以上は,中間試案で「ものとする。」と書いてあったとしても,従来の法制審議会の部会における中間試案の「ものとする。」よりは,それで決まりというニュアンスがやや低いのではないかという気がいたしております。私どもとしても,法制的な十分な検討ということも含めて,なお考えていきたいと思っておりますし,そういう意味で,当たり前のことでありますけれども,パブリックコメントの結果によって結論が大きく変わるということも当然にあり得ると思います。そういう性格のものという留保はあるにしても,現時点でのこの部会の到達点として,多数派を形成することのできる案,コンセンサスを得ていく可能性がある案を,できる限りまとめていきたい。そして,今後それはまだ変わる可能性が十分あるということを,中間試案の補足説明を始めとして,様々な形で明らかにしながら,今後の議論を呼び掛けていきたい,そういうことを考えております。   冒頭の私からの説明は以上でございます。 ○鎌田部会長 ただいまの説明につきまして何か御質問,御意見等ございますか。 ○大島委員 ただいまの部会資料51の書き方についての意見を申し上げます。   今回示された部会資料51「~中間試案のたたき台(概要付き)のサンプルを兼ねて~」という副題のとおり,今後の部会における審議を経て中間試案として取りまとめられるものと認識しております。   このたたき台に至るまでに60回以上の部会,合計十数回の分科会の会議において活発な議論が行われたわけではございますが,部会資料の提案に対して委員,幹事の意見が一本化された論点は非常に少なく,多くの論点について賛否両論があり,様々な課題が指摘されたと記憶しております。中間試案を御覧になる全ての方が,この部会の議論の経緯を詳細に把握しているわけではないので,先ほど筒井幹事から御説明がありましたとおり,補足説明などでも結構でございますので,ある程度の経緯が分かるように記載し,パブリックコメントに付していただきたいと,繰り返しになって恐縮ですが,お願いをいたします。 ○松岡委員 質問と若干の要望です。   質問は,先ほど御説明になった中で,「取り上げなかった論点」を明示するというのはよく分かりました。ただ,その「取り上げなかった論点」について補足説明がどの程度書かれるのかが気になっております。今回はもちろん「取り上げなかった論点」については何も補足説明はありません。ただ,先ほどおっしゃったように,今後コンセンサスを得られる見通しがないということで振り分けられたのは分かりますが,その一言だけでは足りない,かなり議論した点があると思います。「取り上げなかった論点」の全部について詳細に補足説明するまでの必要はないとは思いますが,重要なものについては補足説明で「取り上げなかった論点」についても,こういう理由から取り上げなかったと示していただけると有り難いです。 ○筒井幹事 御要望の趣旨は大変よく分かります。本来であればその部分にも丁寧に目配りをするべきであろうとも思います。もっとも,実情としては,そこまで手が回りません。それが実情でありますので,ある論点を取り上げないこととした理由については,必要に応じて部会の場で御質問いただきたいと思います。あるいは,むしろ御意見として,中間試案で取り上げるべきだという御意見を述べていただき,それについて事務当局からも適宜の意見を申し上げ,他の部会メンバーからも御意見を頂くといった形の進行が考えられるのではないかと思います。中間試案の補足説明において「取り上げなかった論点」についてコメントするかどうかについては,これは正に必要に応じてですが,そのようなことも考えていきたいと考えております。 ○三上委員 改めて言うのも大変恐縮なのですが,そもそもこの審議会の委員の構成自体が,実際の世の中の世論を反映するものかという点で一番最初に議論がございまして,学者とか当局の先生方,ステレオタイプに言いますので,決して批判をしているわけではないのでお許しいただきたいのですが--に比べますとユーザー側の民間に当たる部分の委員は少数でございまして,そういう中で,単に多数,少数というだけで方向が決まるというのは議論の仕方としておかしいと思っております。また,少数の民間委員にも,実質上は立場が180度異なると,これもステレオタイプ的には,想定される委員がいるわけで,そういうそれぞれの背後に業界を背負って出てきているメンバーもいるということに御配慮いただいて,是非その多数とか少数の構成の範囲もよく判断した上での検討をお願いしたいと考えております。 ○佐成委員 形式的な話ですけれども,今回このサンプルを頂戴しまして,非常に簡潔で分かりやすいという印象を受けました。ただ,バックアップ委員会のメンバーからしますと,少なくとも条文がどうなるかというところがやや不明瞭な感じを抱くという意見がございました。(概要)のところを読めば大体分かるようには思うのですが,現行の条文からどう変わるのかというところが,論点は書いてあるとしても,やや不明瞭な気がいたします。もちろん補足説明等で書かれるのでしょうけれども,できましたら,立法化した場合に,現行条文をどういじくるつもりなのかというところも明確化するような形で中間試案を仕上げていっていただけないかといったような意見がございました。 ○筒井幹事 大変重要な御指摘をありがとうございます。この中間試案と条文の関係ということに関わると思いますので,一言申し上げたいと思います。   中間試案ですから,最終的な条文でないことはもちろんですし,条文を目指す上での細かい用語のチェック,表現ぶりのチェックといったことは全くできていないのが実情ですので,中間試案それ自体が条文になるという前提で細かい文言の議論をしていただくことは,余り有益でないと思います。そういう留保の下でお読みいただいたほうがよいと思うのですけれども,しかし,ある程度は最終的な条文をイメージすることができるものとして御提示したいと考えておりまして,今回の「たたき台」のサンプルにおきましても,従来の部会資料の本文との比較で言えばかなり条文に近づいてきたという印象をお持ちいただけたのではないか,もしそのように感じていただけたとすれば,私どもの狙いは成功しているのではないかと思います。   ただ,そうは言いましても,既存の条文の改め方をどのように表現するかというのは,これは常にある難しい問題です。既存の条文のこの部分を削るとか,この言葉を加えるという書き方をしたほうが,的確に改正のイメージが伝わる場合もあると思いますし,改正内容を溶け込ませた形で表記したほうが分かりやすい場合もあると思います。そこで,書き方のルールは固定的に決めないで,一つ一つの論点に応じて,できる限り的確に内容が伝わる工夫をしていきたいと考えております。 ○中井委員 ただいまの進め方について弁護士会として議論ができているわけではありませんので,個人的な意見になりますけれども申し上げておきたいと思います。   まず,一つは中間試案本文と中間試案の補足説明付きのもののほかに,このような概要版をお作りになるという基本的な考え方については大変いいことだと思います。是非その方向で進めていただきたいと思います。   次に,これまでの議論では,ある意味で拡散的な意見が確かに多かったと思いますが,今回,中間試案を作成するに向けてここを転換期として,ある方向性を持った案を具体的に出していくという方針を示されました。法律を作るという作業においてはそういうことが私も必要不可欠だと思っております。この段階でそういう方向に入るという方針についてにわかに理解,どのように考えていいのか整理できていませんけれども,必要なタイミングなのかなと私も思っております。その際,先ほど三上委員もおっしゃられましたけれども,これまでの議論の中で様々な利益考慮をして一つにするに当たって,単なる数の大小だけで決めるのは相当とは言い難いと思いますので,そこは中身の軽重というのか,重みを考えていただいて,是非方向性を決めていただきたいと思います。   それであっても複数の案があるところ,それをどのように表記するかということで,(注)という形での調整弁と,甲案,乙案という二つの併記案という調整弁を予定されるとのことです。基本的には一つの案に絞るという方向性を承認するとしても,これまでの審議の過程の中で,やはり無理をして一つに決めてしまうと,かえって反発といいますか混乱をして無用な争いが生じるのではないかと懸念する論点も少なからずあります。弁護士会の中でも必ずしも意見が一致していない論点もあって,その出し方によっては誤解を生じたりするのではないかと危惧しております。したがって,(注)を記載する,若しくは甲案,乙案に振り分けるに当たっては,その辺りも十分配慮していただければと思います。   加えて,先ほど筒井幹事が最後におっしゃられた,従来の中間試案の出し方と比べて相当程度方向性がはっきりしたものにするとすれば,これまでの立法作業に関わった者にとって,私は経験ございませんけれども,出てきた中間試案について,誤解を生むようなことがあってはならないと思いますので,今回のような作成方針で中間試案が作られていることについては,パブリックコメントの際,中間試案を公表する際に適切に説明をしていただきたい。つまり「ものとする。」という方向性を示した案であっても,なお十分にパブリックコメント等の意見を反映させ,若しくは第3ステージにおける審議を経て変わることがあり得る,より適切な条文の方向に進むことがあり得るということをお示しいただきたいと思います。 ○大村幹事 三上委員及び中井委員が御発言になった多数ということについて,御質問というか,確認をさせていただきたいと思います。   私は,筒井幹事がおっしゃったのは,意見が対立するものを多数決で決めようという御趣旨ではなかったと理解しております。法制審は,最終的には多数決ということになる場合もあるのかもしれませんけれども,私が委員幹事として今まで出てきた会合でそのようなことになったのは非常に異例な事態だったと認識しております。ただ,案を取りまとめるに当たって,これからは多数の人が合意できるようなものに集約していこうという姿勢を示されたというのが一つ,もう一つは,最終的には完全な全員一致に至らないとしても,少数意見になった方がぎりぎり容認できる線で取りまとめることはあるべしということもおっしゃったと理解いたしました。そのような理解でよろしいのかどうか,複数の方から御質問が出ておりますので,改めて整理をしていただければと思います。 ○筒井幹事 ありがとうございます。私の説明の不十分であったところを大村幹事に整理していただいたと思います。大村幹事のおっしゃったとおり,この部会におきましても,基本的には従来の民事系の法制審の部会の伝統にのっとって,最終的には全員一致を目指していきたいと考えております。軽々に多数決で決するということは,全く考えておりません。差し当たりであっても,多数という言葉を軽々に使うべきではないということを,三上委員や中井委員から御指摘いただいたと受け止めました。私が申し上げたかったことは,全体のコンセンサスを得られる見込みがありそうな案を暫定的にでも見極めて,その案を具体的に練り上げ,今後の中間試案や,次のステージの審議を通じて,最終的にコンセンサスが得られるかどうかを詰めていく。その上で,どうしても反対意見が残るときには,諦めるのかどうかという決断の問題が出てくるのではないかという理解をしております。私どもとしては,最終的に全員一致が得られる案を最後まで模索していきたいと考えており,その第一歩として,この中間試案の議論を通じて,できる限りコンセンサスが得られる見通しのある案に絞り込んでいくという作業をしたいと考えております。 ○松本委員 筒井幹事が強調された全員のコンセンサスをなるべくとる方向でやりたいという御意見はもっともだと思うんです。私が問題にしたいのは,そのスパンの問題,期間といいましょうか,いつまでにというところでありまして,通常の法制審であれば中間試案が出れば,その年の秋ぐらいに要綱試案か要綱が出て,翌年の通常国会辺りに提出するというのが多分多いと思うんですが,今回は恐らくこれだけ膨大なものについて一気にやるというのは相当無理があるのではないかと思います。つまりコンセンサスを様々な多彩な論点についてとるというのは大変難しいことです。だからこそ,今回落とす論点というのがかなり出されたんだと思うんです。その場合に,中間試案に残る論点と,中間試案で「取り上げなかった論点」ということの意味が,中間試案に残った論点は,一気に短期間に立法に進めるつもりの論点なんだ,「取り上げなかった論点」は,もう立法しない論点なんだという単純な振り分けは余り適切でないのではないか。すなわち「取り上げなかった論点」ということの意味は,今の時点では大変意見が分かれているから,ここ1年や2年ではまとまらないだろう。しかし10年後に議論すれば変わってくるかもしれないというものもあると思うんです。逆に,そうでない,今回取り上げる予定の論点でも,意見がそう単純に一致しないものがあるんだとすれば,それは時間を掛けてコンセンサスをとっていくべき論点,つまりもう少し継続審議しましょうという意味のものと,ここはほとんど皆さん一致しているし,かつ現実の必要性も大変高いからやりましょうというもの,さらに一部反対があっても,これはやらざるを得ないですねというのが恐らくまた一部あると思うので,その辺りの振り分けをしていただく必要があるのではないか。つまり1,2年で決めるべきものと,もう少しのスパンを持って決めていくべきものという段階的な整理が私はこれだけの膨大な論点の場合は不可欠だというように考えます。 ○筒井幹事 大変重要な指摘を頂いたと思いますし,松本委員からは,この部会の当初から御指摘いただいてきたことを重ねて御指摘いただいたものと理解しております。   松本委員から御指摘がありましたように,法制審議会への諮問があり,この専門部会が設置された時から,やはり通常考えられる合理的な期間の中で,結論を出していく必要があるだろうと考えております。そのスパンの中で結論を得ることが難しいであろうとこの段階で判断したものについて,「取り上げなかった論点」という扱いにしているわけであります。また,取り上げた論点の中でも,今後の議論の結果,今回のゴールには難しいけれども,引き続き検討しておくべき中期的な課題として残されるものが出てくる可能性はあるだろうと思っております。   その場合に,どの程度の時期的な目標を設定するのかが問題となりますが,それを何も材料がないところで議論することは必ずしも建設的ではないと思いますので,今後,適宜のタイミングで改めて御相談させていただきたいと考えております。 ○道垣内幹事 市民として民法のユーザーであるところの道垣内でございます。それは最初から申し上げているところであり,そのようなことについて更に何か言おうということではありません。これまでの部会資料では,手を付けない条文については,基本的には載せないということでやってきたのだと思います。しかし,中間試案という形でまとまった形で出てまいりますと,書いていないものは実は手を付けないのだということは極めて分かりにくい。もちろん(概要)などや補足説明のところに書くというのも一つの方法ではあるのですけれども,例えばこれについてはさほど現行法に異論はないので手は付けないという形,それが中間試案の示唆しているところであるというところの箇所につきましては,それがなるべく分かりやすい形で御提示いただいたほうがよろしいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。   それでは,頂戴しました意見を踏まえて,取り入れられるものは取り入れる,それから留意すべき点は留意しながら今後のたたき台の作成に当たっていただきたいと思います。   では,中身に入らせていただきます。   部会資料51の「第1 債権者代位権」と「第2 詐害行為取消権」について御審議を頂きます。事務当局から一括して説明をしてもらいます。 ○金関係官 御説明します。   部会資料51は,論点が多岐にわたりますので,冒頭の説明では,債権者代位権及び詐害行為取消権に共通の論点として,事実上の優先弁済,今回の部会資料では債権回収機能と呼んでいますが,この論点についてのみ説明をいたします。   この債権回収機能については,一方で強制執行制度が債務名義の確認や債務者及び第三債務者の利益を保護するための手続を用意しているにもかかわらず,他方で債権者代位権や詐害行為取消権の制度を用いると,そのようなプロセスを経ることなく強制的な債権の回収を実現することができることにはやはり問題が多いのではないか,相殺による債権回収は債権者にとっては利便性があるとしても,それは第三債務者などの利益の犠牲の下で成り立っているのではないかといった指摘がされています。そういった指摘を踏まえて,部会資料51では債権者代位権,詐害行為取消権ともに,債権回収機能を否定するという考え方を採っています。   代位債権者や取消債権者が他の債権者との関係で優先的な弁済を得てしまうという点ももちろん問題とはなりますが,むしろ,責任財産の保全という制度趣旨を超えて,強制執行制度が用意するプロセスを経ることなく,強制的な債権の回収を実現してしまうという問題点をより強調する趣旨で,事実上の優先弁済を否定するという表現ではなく,債権回収機能を否定するという表現を用いています。   債権回収機能を否定する方法については,債権者代位権では,代位債権者による直接の引渡請求を認めた上で相殺を禁止するという考え方を採る一方で,詐害行為取消権では,取消債権者による直接の引渡請求自体を否定するという考え方を採っています。   詐害行為取消権の場合には,債権者代位権の場合と異なり,訴訟の提起によって詐害行為取消権の行使がされる上に,その詐害行為取消訴訟では債務者をも被告とする必要があるとしていますので,詐害行為取消訴訟の判決が確定するまでには,債務者を被告とする給付訴訟を提起するなどの方法によって,被保全債権についての債務名義を取得していることが想定されます。そのため,詐害行為取消訴訟の判決が確定した後直ちに強制執行の手続を採ることを取消債権者に求めることにも合理性があると考えられます。また,詐害行為取消権の債権回収機能が問題となるのは,典型的には1番目に弁済を受けた債権者が,2番目に弁済を受けようとする債権者から詐害行為取消権を行使されるという場面であると考えられますが,そのような場面において,一番手の債権者の手元にある弁済金をあえて二番手の債権者の手元に強制的に移すことには,債権者間の公平という観点からも問題があると考えられます。以上のような観点から,詐害行為取消権の債権回収機能を否定する方法としては,取消債権者による直接の引渡請求自体を否定するという考え方を採っています。   これに対して,債権者代位権は,訴訟外で行使されることも多く,また,訴訟外での行使の場面では,相殺による債権回収が認められるかどうかにかかわらず,代位債権者の手元に金銭を強制的に移す必要性,合理性があるとの指摘がされています。また,債権者代位権の債権回収機能が問題となる場面では,第三債務者が一番手の債権者であるという状況は一般的にはそれほど考えられないことから,詐害行為取消権において問題となるような債権者間の公平の問題も一般的にはそれほど生じないと考えられます。部会や分科会では,債権者代位権についても,代位債権者による直接の引渡請求自体を否定すべきであるという御意見があり,この御意見を踏まえて,債権者代位権,詐害行為取消権ともに,債権者による直接の引渡請求自体を否定するのが最も合理的ではないかといった検討もいたしましたが,以上に述べたような観点から,債権者代位権では,代位債権者による直接の引渡請求を認めた上で相殺を否定するという考え方を採っています。以上です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明がありました部分のうち,まず「第1 債権者代位権」について御意見をお伺いいたします。   御自由に御発言ください。 ○安永委員 債権者代位制度に関しては,労働債権保護を後退させる制度変更を認めることはできないという意見を,労働の立場から再三申し上げてきました。実際の労働の現場では,各労働者から委任を受けた労働組合が,商社や問屋に債権者代位権を行使する旨の内容証明を送り,倒産企業に対する商社などの債務の支払を停止させて,交渉により解決していくケースが多く見られ,これは,本来型の債権者代位権の典型例とも言えると思います。また,会社に相応の財産が残っている場合には,経営者が倒産処理法の適用申請を行わず任意整理を行い,財産隠しを行う例が少なからず生じておりますが,債権者代位権や詐害行為取消権は,このような場合に破産管財人などによる保護を受けることのできない労働者が自力で労働債権の回収を行う手段として重要な役割を担っております。この点,部会資料の3(2)では,「債権者による返還に係る債務を受働債権とする相殺を禁止する」ことが,また7では,「債権者が代位行使をした場合であっても,債務者自らが取立てその他の処分をすることが妨げられない」ことが提案されています。これは,従来の判例法理で認められてきた事項を変更し,「本来型の債権者代位権」の制度を実効性がない制度へと抜本的に修正し,ひいては,債権者代位権を事実上,労働債権保護のために使うことができない制度にしてしまうものと考えております。したがって,労働者の権利の大幅後退を招く提案には賛成することはできません。 ○筒井幹事 安永委員からは,従来からの連合の御意見を繰り返し御主張していただいたものと受け止めております。   そのうち,まず債権者代位権の要件に関しては,今回の案では,債務者が無資力であるときという要件を明記する案を御提示しておりますが,これは現在の一般的な理解を明文化するという趣旨のものですので,これが労働の現場に対して悪影響を与えるものとは私どもは考えておりません。とはいえ,無資力要件を明記するかどうかについては,他の部会メンバーから別の理由による異論も示されているところですので,引き続きこの場で御議論いただきたいと考えております。   それから,3(2)で直接の引渡しを受けた後の相殺を禁止している点については,確かに現在の判例のルールとは異なる提案をしており,自ら債権者代位権を行使する場面を想定すれば,引渡しを受けた後に差押えという一手間を掛けていただくことになる点で若干の手間が増えることになるかもしれませんけれども,それが関係者の手続保障のために必要であることは,これまでの部会資料等で詳細に説明してきたとおりです。他方,他の債権者が代位権を行使したという場面を考えるならば,他の債権者のところに引き渡されたものの不当利得返還請求権について,労働債権を有する者が差押えをするなどして配当に加わっていく手段が新たに与えられることになるわけです。それは一般先取特権を持っている労働債権の保護という観点からすれば,現状よりも前進になるのではないかというのが私の理解です。そういった考慮も踏まえて再度,御検討いただければ有り難いと考えております。   7の「債務者の処分権限」に判例法理と異なるのではないかという御意見については,このようなルールが合理的ではないかということで従来から説明し御議論いただいてきたところですので,それが適当かどうかについては,他の部会メンバーの御意見も聞いてみたいと考えております。 ○中田委員 全般的な問題が一つと,それから債権者代位権全体についての質問ないし意見が一つです。   全般的なというのは,今回の審議の位置付けなんですけれども,これがこの後に始まるものの中に含まれているのか,それとも外で,もう一回このテーマについて審議するのかどうかについてお教えいただければと思います。   それから,債権者代位権全体についてなんですけれども,今回は責任財産の保全を目的とする債権者代位権と,これを目的としない債権者代位権の分類になっております。部会資料35では本来型,転用型だったわけですが,今回新たな区分になっている。そうしますと,責任財産の保全を目的とするものとしないものとの上位概念としての債権者代位権というのが観念できるのではないかと思います。それはどういうものかというと,債権者は「自己の債権を保全するため」債務者に属する権利を行使することができるというものであって,それが責任財産保全を目的とする場合には,無資力要件として現れ,もう一つのタイプの場合ですと,今回の御提案ですと,必要性と補充性という要件で現れるという整理もできるのではないかと思います。今回の提案を純化していくと,そちらの方向にもなりそうでありますし,それはむしろ現行法の元の姿に近いと考えることもできると思うんですけれども,そこまでいかなかったのは何か理由があるんでしょうか。あるいはむしろそこまでいったほうがすっきりするのではないでしょうか。以上2点について。 ○筒井幹事 まず1点目ですけれども,本日の審議の位置付けは第2ステージにおける補充的な検討ですので,従来の審議スタイルで御自由に意見を言っていただければよいと考えております。その上で,今回の議論を踏まえて中間試案のたたき台を御提示する際には,この債権者代位権,詐害行為取消権のところについても,他の論点と同様に改めて御議論いただく機会があることになります。ただ,そうはいっても,この時期に「たたき台」と同じ様式のものを御提示するわけですから,今回の議論を通じておおむね議論が収束することになれば,「たたき台」の議論の時間を大幅に節約できることは十分考えられるわけでありまして,私としては,正直に言えばそれを期待しているわけであります。   第2点ですけれども,それは条文の書き方に関わってくるという御趣旨でしょうか,中田委員の問題意識としては。そこがよく分からなかったので,どうお答えすべきかが分からなかったのですけれども。 ○中田委員 条文の書き方にも関わると思いますが,むしろ9番の「責任財産の保全を目的としない債権者代位権」の位置付けに関わるのだと思います。責任財産保全を目的とするものが本来のもので,9番はその転用型だという従来の位置付けの延長なのか,それとも1と9とを,いずれも債権者代位権のあり得る二つのタイプだというように考えるのかで,多分理論的な意味も変わってくるのではないかと思うんです。債権者代位権を責任財産の保全という制度と見るのか,それとも,債権の持っている効力をいろいろな形で表すというように見るのかという二つの見方があると思うんですが,今回はその中間的なものなのか,それとも,飽くまで責任財産保全が債権者代位権の本来型だということは維持しているのか,そこを知りたいんですが。 ○筒井幹事 原案作成の際には,従来どおり本来型とその転用型という関係をイメージして作っておりました。それは,御指摘がありました9(3)で転用型への準用という書き方をしたところに表れていると思います。ただ,それ以上にこの二つをどのように整理すべきであるか,最終的な条文の書き方との関係でどこまで明らかにする必要があるかという点については,まだ確定的な考え方を持っているわけではありませんので,中田委員のほうから,本来型と転用型という区別といいますか相互の関係をより明確にするほうがよいということであれば,それをどのような形で本文の中に表すべきかというレベルで御提案を頂いたほうがよろしいのではないかと思います。もし,本文に表れない,背後にある理論的なものであるとすれば,立法後に適切な解説を頂ければよいのではないかとも思います。 ○中田委員 私は本来型,転用型という現在一般的に言われているものを必ず維持したほうがいいと申し上げているわけではありません。ただ,今回の提案がやや中途半端な感じがしたものですから,その御趣旨を知りたかったんです。具体的には,9のほうで,保全の必要性が要件となっているのかどうか。なっているとして,9の(2)で掲げられている要件との関係をどう見るのかということが明らかでなかったものですから,お考えを知りたいと思った次第です。 ○金関係官 9はタイトルに「責任財産の保全を目的としない」とありますとおり,責任財産の保全の問題ではないという理解をしておりまして,その観点から9(2)では1(1)の保全の必要性は要件になっていないという理解をしております。9(2)では,代位債権者の権利の実現が妨げられていること,他に適当な方法がないこと,その権利の実現のための代位行使であること,これらは必要性,補充性,関連性の要件と言い換えられると思いますけれども,そのような要件を立てておりまして,1(1)の保全の必要性に直接対応するのは,代位債権者の権利の実現が妨げられていることという要件であると考えております。本来型の債権者代位権が責任財産の保全を目的とするものであるのに対して,転用型の債権者代位権は責任財産の保全ではなく個々の権利を実現するためのものだという理解の下,1では本来型,9では転用型というように,それぞれ従来の本来型,転用型と同様のものを書いたつもりです。それらを包摂する上位概念が必要かどうかという問題については,1の本来型と9の転用型があれば,そこから漏れるものはないという理解をしておりますので,上位概念を特に設ける必要はないと考えておりました。 ○中田委員 確認ですが,そうすると,1の(1)にある「自己の債権を保全するため」というのと,責任財産の保全を目的とするというのは同じ意味だということでしょうか。 ○金関係官 はい,同じ意味だという整理をしておりました。 ○鎌田部会長 中田委員がおっしゃっていた「保全の必要性」というのは,現行法の423条に出てくるように,自己の債権の保全の必要性のことを言っていて,その保全の必要性の現れ方が,金銭債権の場合には無資力要件として現れ,金銭債権のように一般財産を通じて保全されるのではないタイプのものと二通りある。保全の必要性の現れ方には2形態であるという,そういう御趣旨ですね。それを前提とするならば,責任財産保全のためではなくて債権保全のため,その意味での保全の必要性というではないか,ということですね。 ○金関係官 申し訳ございません。責任財産の保全と債権の保全とを区別せずに申し上げていましたが,先ほどの私の発言では,責任財産の保全という意味でのみ保全の必要性という言葉を使っておりました。9における債権の保全というのは責任財産の保全の問題ではないということを前提に,9(2)では代位債権者の権利の実現が妨げられていることという要件を設けているという趣旨です。大変失礼しました。 ○大村幹事 中田委員の御質問の趣旨は自分では理解できたと思っています。現在の案は,責任財産の保全を目的とするのを主として書き,9のそうではないものを従として書くという書き方になっていますけれども,これを2類型並列にして,より上位のもののサブカテゴリーとして置くというやり方があるのではないかという御趣旨だったかと思います。そうなると,9を前に持って行って,1と9を統合整理した形で規定を置いた上で,その他の規定を,言わば双方に関わるような形でぶら下げるというようなことになるのではないかと思います。そのように整理することは可能ではあろうと思いますが,それが何を意味することになるのかについて,中田委員のお考えをもう少し言っていただくとよいと思います。   抽象論,一般論としては,責任財産の保全を目的とするものが主であって,そうでないものが従であるという書き方をしている,そうすると,従であるものについて,その適用範囲を拡張していくことが制約されるかもしれない。これに対して,主従なしに書けば,そういうような制約はより緩まるのかもしれない。そんな気もするのですが,あるいは別の御配慮があっての御提案なのかどうか伺いたいと思います。 ○中田委員 主従で規定するか,あるいは上位の債権者代位権という概念を置くかというのは,多分,債権者代位権制度の趣旨に関わってくるんだと思います。それは両方あり得ると思うんですが,ただ,今回の御提案が前回に比べて主従をより薄い形でお出しになっていながら,しかし,責任財産保全が表に出ているということから,先ほど中途半端と申しましたけれども,趣旨が分かりにくくなっている。そこはあえて分かりにくいままにしておくのがよいのか,それとももう少し考え方をこの場で整理しコンセンサスが得られるのかどうかを見極める必要があるのではないかと考えた次第です。 ○道垣内幹事 私も理解できていないのかもしれませんけれども,先ほど金関係官のほうから,自己の債権の保全ということであるという点は転用型も本来型も一緒であるところ,当該要件は,9の転用型,取り分け一般規定のほうの(2)では,自己の債務者に対する権利の実現が妨げられているという要件に集約されてきているというお話がありました。それを前提としたとき,それでは,本来型の場合においては,同要件は無資力要件に集約されるんだろうか。仮に,もし無資力要件に集約されているとするならば,1の(1)で無資力であるというときと,「自己の債権を保全するため」というのを並べているのはどうしてなのだろうかということになりますし,いや,そうではないんだ,無資力であるというのは別個の要件であり,自己の債権の保全という要件がいろいろなところで解釈論上生きてくる可能性があるのだということになりますと,そのことは,実は9の転用型でも同じではないかという感じがします。条文の書き方の問題であろうといえば,そのとおりなのかもしれないんですけれども,全体としての「自己の債権を保全するため」という要件の位置付けが多少不明確になっているのかなという気がします。 ○金関係官 ありがとうございます。道垣内幹事の御指摘を踏まえて少し補足をさせていただきますと,1(1)の債務者の無資力という要件と,9(2)の代位債権者の権利の実現が妨げられていることという要件が対応関係にあることを前提として,1(1)の自己の債権を保全するためという要件は,債務者が無資力であったとしても責任財産の保全と全く関係のない権利を代位行使することはできないことを示すための要件という整理をしております。それと対応関係にあるものとして,9(2)では,代位債権者の権利を実現するためという関連性の要件があります。確かに道垣内幹事の御指摘のとおり,1(1)の自己の債権を保全するためという要件は,無資力要件以外の責任財産の保全の必要性を拾う側面があり得るかもしれませんが,語弊を恐れずに極端な整理をいたしますと,1(1)の無資力と9(2)の権利の実現が妨げられていることというのが必要性の話で,1(1)の自己の債権を保全するためというのと9(2)の権利を実現するためというのが関連性の話で,転用型の場合にはそれにプラスアルファで補充性,つまり他に適当な方法がないことという要件が付いているというイメージで整理をしております。いずれにせよ,引き続き検討したいと思います。 ○松本委員 私自身は,金関係官の説明と,債権を保全するためという共通のくくりの下に金銭債権と,そうでない特定債権で次の要件が変わってくるんだという部会長の先ほどの整理で一応図式的には収まっていると思います。ただし,従来言われている本来型が使われていたのは,正に債権回収機能があるからです。ところが,それを今回否定するとなると,本来型が使われる場合というのは非常に限定されてくるだろう。   例えば,第三債務者の資力が急激に悪化しているから,取りあえず債権者代位権を使って請求をして,資産をこっちに移しておく必要があるというような場合とか,あるいは時効の援用の場合などに限定されてくるので,もはやそれは,いろいろ使われるという意味での本来型ではなくなると思うんです。そうすると,にわかに脚光を浴びてくるのが9で挙げられているところの転用型で,これに今回非常に大きな位置付けを与えられたということに相対的にはなるんだと思います,こういう書きぶりだと。そこで,この転用型の書きぶりがこれでいいんだろうかというところでありまして,その挙げ方として,(1)のところで,登記手続についての転用型というタイプを挙げて,(2)のところで,その他という一般条項の下に挙がっています。   従来,転用型としては典型的には三つぐらい,あと数え方によって四つ,五つと挙げられていたと思うんです。しかも,従来の議論では,それぞれのタイプについて議論していたわけですが,今回,登記のみに絞ったということはなぜなのか。そして,その他,自己の債務者に対する権利の実現が妨げられている場合において,自己の権利を実現するために他の適当な方法がないときはという,非常に広く,ユーザーとしては,これはいろいろ使えるぞと思わせる表現にされたことの意図は何なのか。転用型と本来型をひっくり返して,むしろこちらのほうを今後は本来型として御活用くださいと,直接訴権を積極的に認めようという趣旨なんだと立法意図が解されるような構造になっているわけなんですが,そういう理解でよろしいんでしょうかということです。 ○筒井幹事 御質問いただいたことのうち,まず9(1)で不動産の登記についての代位行使の例だけを挙げている理由ですけれども,これに先行する第2ステージの部会資料35では,判例に現れた三つほどの例を挙げて御議論いただいたところです。その結果,不動産の登記以外の事例はここで例として挙げるのに余り適当ではないという意見が多かったと思いますので,それを踏まえ,今回は不動産の登記のみを例として挙げることにしたという経緯です。一つでは例として寂しいかもしれませんけれども,これと並べるのに適したものはないということです。しかし,それでも例を挙げることは,次の(2)の要件のイメージを適切に伝える上で重要ないかということで,このような形をとっております。   そして(2)についても,これも部会資料35に基づいて議論したときに,このような要件であれば大方の合意形成が可能ではないかという認識の下に御提示したものですので,御異論があるようならお聞かせいただきたいと思います。実際のところ,他に適当な方法がないという要件は,対象をかなり絞り込む機能を果たすのではないかと考えておりまして,それによって,現在も判例上認められているような幾つかの限定的な転用例のほかに,この立法を契機として新たな適用例がすぐに検討対象となることは想定されないのではないかと思っておりました。 ○内田委員 最初の中田委員からの御意見をめぐる議論に関してなのですが,現行の423条は「自己の債権を保全するため」と書いてあって,ただ,この言葉が,悪く言えば曖昧,よく言えば非常に包摂的な広い概念であるために,様々な解釈を生んできたのだと思います。その中で,これまでも繰り返し部会でも議論されてきたことですけれども,本来型と転用型という二つのカテゴリーが一応抽出でき,それぞれについての要件を定めることが可能であろうということになったので,今回の部会資料では二つのカテゴリーを要件を別々に定めることによって併存させているのだと私は理解していました。どちらかが主であって,どちらかが従というのではなくて,債権者代位権という制度に二つのカテゴリーを併存して置いている。そうすると,最初のカテゴリーのほうの(1)の「自己の債権を保全するため」というのは,現行民法と同じ用語ではありますが,趣旨はやはり債務者が無資力の場合に責任財産を保全するために介入するための要件として位置付けられているのではないかと思います。問題は,それ以上に更に上位概念を措定し,現行423条の「自己の債権を保全するため」という文言が持っているような,解釈によっては非常に広く解し得る言葉を含んだ規定をもう一つ上に置く必要があるかということですが,それについてはその必要はないという判断をしてここに提案をしているのだと思います。したがって,1(1)の「自己の債権を保全するため」というのは,広い解釈の余地があるというものではなく,現行法の423条とは位置付けが違っているのではないかというのが私の理解です。ただ,こうやって併存して置いたとしても,解釈論として,より上位の概念があり得るという議論はもちろんあり得るとは思いますけれども,立法として上位の概念を措定して,更に一般的な射程を持った規律を置くということが必ずしも有益ではないという判断があるのではないかと思います。 ○中田委員 今の内田委員のような整理で今回組み立てるという方針は十分あり得ると思います。そうであれば,そういう前提でここでコンセンサスに至るのであれば,よろしいと思います。ただ,今のお話の中で出てまいりました1の(1)の「自己の債権を保全するため」の概念が,現行法のそれとは異なっているのだというのが,これを見ただけだと非常に分かりにくいのではないかと思います。むしろそこを明確にした上で二つのカテゴリーを置いて,債権者代位権というのは,責任財産の保全を目的とするのが本来のものであるという判例学説によって形成されてきた理解を,今回意識的にとるんだということであれば,そういう立法提案としてあり得ると思います。そこを曖昧にしておきますと,元々の債権者代位権の趣旨との関係などをめぐってまた混乱が起きるのではないかと思います。 ○内田委員 ここから先は学者の解釈論になるかもしれませんが,私自身の解釈では,この1(1)の「自己の債権を保全するため」というのは,現行法と意味が違わないと考えています。ですから,現行法のこの言葉自体が限定的なものであると私は思いますけれども,でも,そこは解釈は分かれ得るところで,転用型の位置付けの仕方に関わるのだと思います。私が最初の発言の中で,現在の423条の文言と,1(1)のこの文言とは位置付けが違うと申しましたのは,中田委員のようなお考えに立った場合の話で,最近そういう有力な考え方があることは存じていますので,そういう立場に立てば位置づけが違うと申しました。しかし,そうは考えない立場もあるのではないかと私自身は考えています。 ○鎌田部会長 中田委員が上位概念があるとおっしゃって,それを規定においたとしても,その上位概念の要件を充足したからという形での権利主張は基本的には考えていなくて,具体的に権利主張するときには,この無資力要件でいくか,今度のこの提案でいけば,9のほうでいくという,そういうことを考えられていると理解したんですけれども,そうではなくて,三つの要件立てをするということになりますか。 ○中田委員 いえ,それは違います。先ほど部会長が整理していただいたような理解でおりました。 ○鎌田部会長 あとは,説明の仕方の問題で,私も,全ては「保全の必要性」という要件の中でのものと考えていましたから,今の説明の仕方だと,要件立ての説明の仕方が従来とは少し変わるということだと思いますが,結論的には,あるいは具体的な機能としてはそれほどは変わらないんですけれども,説明の仕方が変わる点に関心を引き付けられるということになるかもしれません。 ○沖野幹事 保全の必要性の意義ですけれども,現行法の423条の下で,いわゆる転用型も展開しておりますので,現行法の解釈としても,その要件の下で両方があるという前提での展開なんだと思います。かつ歴史的な変遷もございますので,それを,金銭債権についてその行使のための財産の保全が本来であって,他は転用であるという位置付けで固定しないような形が望ましいのではないかと思っております。両方があるということをより明確にするならば,中田委員がおっしゃったような形で債権者は「自己の債権を保全するため」,次の場合においては債務者に属する権利を行使することができるようにして,1号,2号で1と9を書くというようなことも考えられます。けれども,そこまでいかなくてもと考えられるのであれば,あるいはその一般類型的なものが整理され,あるいは場合によっては第三類型を導くかもしれないというような余地を含めたものを書いたほうがいいというところまでいかないのであれば,今のような提示の仕方でも,曖昧だと言われればそうかもしれないんですけれども,固定しないほうがむしろいいのではないかと思っております。   それから,「自己の債権を保全するため」という概念ですが,議論が,現行法の423条の下での保全の必要性が,いわゆる転用型を含んでいるのかどうかという問題と,それは含んでいると考えて,その意味では広いと理解すべきではないかと思っているんですけれども,そのことと1で提示され,無資力が切り出されたときの保全の必要性が現行法の423条よりも狭まっていないかということは,別途あり,9と切り出して1を切り出し,更にそこから無資力を切り出していますので,この「自己の債権を保全するため」というのは,やはり限定された要件立てになっているのではないかと思います。したがいまして,例えば,傘条項というか,そういうもので保全するためというのを使い,かつ無資力であるときには保全するためという形で関連性等を示すために書くとすると,広狭二様の保全の必要性というのを導入することになる,そういう整理になるのではないかと考えております。   それから,提案との関係で申しますと,もう一つ議論の可能性があるかもしれないのは,「責任財産」という言葉の使い方であり,責任財産も多義的な概念ですので,このような形で提示されますと,金銭債権の行政試行の際の最後の引当てとなる財産ということで,一般債権者が最終的に引当てとする財産という意味で使うということだと思うんですが,もうちょっと広い意味での責任財産という使い方もあろうとは思います。ただ,ここではもう少し狭い意味で使うという,そういう使い方をしているということかと思いますけれども,そうした場合に,これはここには出てこないことですけれども,表題をどうするかという問題があり,現行法のように,債権者代位権及び詐害行為取消権というような表題のままであれば問題はないのですけれども,仮に表題に責任財産というような言葉を使う可能性があるとすると,そこは考える必要が出てくるんだろうと思います。 ○鎌田部会長 御意見を踏まえて,検討させていただきます。これは整理の仕方の問題でもあろうかと思いますが,表現だけで言うと,9の(2)は1を包摂してしまうように読むこともできなくないか,まだまだ表現はこれから工夫の余地があるということだと思います。それから,中田委員のようなお考え方は,まず,沖野幹事からも御示唆があったように,要件で二つのタイプのものを並べて,効果はその後ろに両者共通のものとして規定するということにすれば,かなり中田委員の御発想に近づくことにもなるかもしれないので,その辺の整理の仕方も含めて,検討させていただきたいと思います。 ○内田委員 繰り返しになるのですが,「自己の債権を保全するため」という言葉を広い意味を持った要件として掲げて,中田委員がおっしゃったような上位規定の中に入れるとすると,現在,転用型と言われているものがもっと柔軟に使えるようになる可能性は出てくるわけですね。しかし,この部会の議論でも,下請のところの直接請求権など,いわゆる直接訴権とか直接請求権と呼ばれるものがどういう場合に認められるかについてはかなりの意見の対立があるので,一般的な規定から広く導けるかのような定め方をするのはやはりリスクがある。そこで責任財産保全型と,それからかなり限定された,従来転用型と言われていたものを併存して置くという形で今提案されているのだと思います。ですから,この二つの類型を包摂するような広い要件を持った規定を置くとなると,異論はかなり出るのではないかという気がいたします。 ○山野目幹事 債権者代位権についての別なことでございますけれども,よろしいでしょうか。 ○松本委員 ちょっと今の。 ○鎌田部会長 では,関連した意見の松本委員。 ○松本委員 1と9の関係なんですが,1は「責任財産の保全を目的とする債権者代位権」という見出しが付いていて,9は「責任財産の保全を目的としない債権者代位権」という見出しが付いている。具体的条文イメージが出ればもっとはっきりするわけですが,条文に落とし込むときには,これも法律上の小見出しというイメージなのか,それとも,これは言わば学説的な分類としてこういう二つのパターンがありますというレベルなのか。そして,根拠条文は,結局は一つになるのか,それとも2つなのか。そこがはっきりしないから,今のような議論になってくるんだと思うんです。その点はここでははっきりさせることができないから,どうぞ,御自由に混乱して議論してくださいということなのか,それとも,内田委員がおっしゃったように,条文としては分けて,従来の条文をメインにして,転用型としてはこういうのも可能ですというような形に控え目に置くんだということであれば,学説上の上位概念というのはもう一つ別にあるのではないですかというレベルの議論になるのではないかと思うんですが。 ○筒井幹事 御質問いただいたことのうち,各項目の見出しが条見出しを意味するのかという点については,そういうことでは全くありません。条見出しは,条文の内容が確定した後で最後に,それにふさわしい題名を付けるという作業になるでしょうから,それが条見出しになるといった見通しを持って議論することは有害ではないかと思います。とはいえ,この内容で中間試案を公表するに当たって,それを適切に案内する役割というのは期待されると思いますので,そのために見出しの文言が適当かどうかという議論は,していただいて差し支えないと思います。 ○山野目幹事 中間試案それ自体,及び関連するドキュメントの作成のことで感じたことがございますから,1点指摘させていただきます。   筒井幹事から冒頭に御案内がありましたことを理解いたしますと,部会資料において太字で中間試案の本体を示すとともに,同じく中間試案の中に含めるものとして,部会においていまだ意見の分岐があり,パブリックコメント等において一般の議論を更に喚起することに意義があると認められる事項は,適宜,注記を用いて処理されるというお話がありましたし,それから太字の中間試案と,それから(概要)とを添えた文書を読んだ上で議論を全般的にして欲しいということも推奨したいというお話がございました。   それらを踏まえて感じたことといたしまして,中間試案で注記として示す内容について,(概要)でその注記に当たる議論がどのような背景で論じられたのかということをどの程度解説するかという問題について,これは一個一個をその場で御注意いただくことであると考えますが,そのようなことに御配慮を頂ければ有り難いと感じます。   債権者代位権の範囲で言いますと,3のところの代位行使の方法等のところの注記については,その後の(概要)のところで特に(注)のことについてのお話がなく,反面,従来転用型と呼んできた9のところについては,(注)についての説明が(概要)のところにありますが,これらを見て難しいと感ずることは,事柄の重さ,軽さから申しまして,恐らく債権者代位権の債権回収機能というものをどのように考えるかということについては,この部会でももう少し議論していかなければいけませんし,一般においても,そこをどう考えていただくかということが今後において債権者代位権像というものを考える上で非常に重要なものになってくるであろうと思います。   そう考えますと,そこのところは更に議論をお願いしたいという意味では,3のところの注記の趣旨は,短くてもよろしいですから,一言お触れいただいたほうがいいし,そちらが触れていないのに,9はさして重要ではないとは言いませんが,重さ,軽さから言うと,9のほうは別にそれほどしなくてもいいのではないかというようなことも感じます。こういうことは,この後において注記が出てくる度に,(注)に必ず(概要)で挨拶の説明を付けてくださいということをお願いすることは,事務当局にとっても御負担になりますし,読み手の側から見ても,何でも詳しい説明があればいいということにはなりませんから,結局のところ,こういうふうに一箇所一箇所議論する中で,部会における意見の分岐で重要なところについては,もう少し注意を喚起するような補いの手立てを考えたほうがよいのかもしれないというようなことを私たちが気付く都度申し上げていくということになるのではないかと感じますし,自分もそういう気持ちで議事に参加させていただきたいと感じますけれども,今差し当たり気付いたところを1点指摘させていただきました。 ○筒井幹事 重要な御指摘をありがとうございます。私どもの認識も全く同じでありまして,(注)として取り上げたことについては,(概要)欄で触れるようにしたいと考えております。御指摘がありました3の(注)に関しましては,(概要)欄で判例の考え方を紹介しておりますので,実質的にはその判例と異なることを伝えることができているつもりでおりました。ただ,山野目幹事からの御指摘は,それを明記する方向のほうがよりコミュニケーションがとれるのではないかという御指摘かと受け止めましたので,その方向で考えたいと思います。 ○中井委員 今の山野目幹事から御指摘のあった部分でもありますけれども,3の(2)の(注)の記載の在り方です。優先回収,事実上の回収ができるかどうか,相殺を禁止するかどうかについては,研究者の皆さんの意見のレベルと,実務に携わっている方々の認識のレベルには,なお乖離があるのではないか,両方の考え方があり得るのではないか。そのような問題について,最初の筒井幹事の中間試案の作り方に関わるんですけれども,本文で基本的に相殺ができないということを明示する。ここは(注)で取りあえず取り上げていただいているわけですけれども,少なくとも(2)の後段部分について,(注)という取扱いにとどめるのか,甲案,乙案という形で示すのか,この辺りの議論の仕方が先ほど私の申し上げた留意する必要のある部分ではないかと思うわけです。   弁護士会でも意見が分かれております。責任財産の保全で考えていけば優先回収はおかしいねという認識を持つに至る方々もいますけれども,これまでの実務になれている方,若しくは先ほどの安永委員の御発言の中からもうかがえますけれども,債権者代位権の機能として事実上の優先回収を期待している向きもある。それが理論的におかしいのかもしれませんけれども,実務がそうだ,そういう一定のものがあるとすれば,中間試案を取りまとめた後のパブリックコメントの中で広く国民の意見を聞く必要のある論点ではないかと感じるわけです。そういう意味で,ここを(注)とするのか,甲案,乙案にするのか,この辺りのさじ加減についても,もし何かあれば,これが一つの例として単に申し上げているわけで,私はどちらでなければならないという意見を持っているわけではありませんけれども,気になりましたので,可能であればコメントいただければと思います。 ○松本委員 今の御指摘との関連なんですが,もしも3の(2)の(注)が(注)ではなくて,甲案,乙案という形になると,それ以外の項目も当然,甲案,乙案という形になってくる可能性があると思います。例えば2に関しても変わってくる可能性があります。それから,5の費用についても,債権回収機能がないのだから,共益費用ということになるわけで,回収機能を認めるのであれば,従来どおりそんなことは要らないではないかという議論もあり得るわけです。今の御指摘は,債権者代位権の本来型と従来言われていたものについて,従来と同じ枠組みで明文化するという考え方と,そうではなく,がらっと違う枠組みで明文化するという考え方があるということです。甲案の条文のセットと乙案の条文のセットという感じで出さないと,こういうところでちょろっと別の考え方もあると(注)で付記するというのでは,議論がしにくくなるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 そのセットを二通り出すと議論はしやすいかもしれませんけれども,まとめに近づいている段階ではいかがなものか,ということになります。 ○岡委員 中井さんと同じ問題意識からの発言ですが,松本先生も最初におっしゃったように,この債権回収機能を理屈だからといって否定してしまうと,誰も使わなくなる制度になるのではないか。仮登記担保法の二の舞になるのではないかというような心配を弁護士のかなりの人間がしております。中井さんが言うように,従来の実務に対する憧憬だけではなく,本当に少額で行方不明になっていて,ほかに債権者がいないような事例で,相殺機能でうまく片付いている例が確かにあることはあるわけです。それが全て理屈的に全部否定されてしまうということに対する違和感であります。全面的に相殺できていいという意見は,ここまで議論してきた関係でかなりなくなっていると思います。そこで残っている案としては,一定期間経過後の相殺を認めるという従来の案も,そのぐらいだったらいいのではないか,あるいは額を限定するとか,そういう妥協点ができないのか,理屈だけではなく,実務のゆとりというか,そういうものを認めるべきだという意見がいまだに根強くあります。理屈はきれいだし,それでいいと思うけれども,実務の救うべきものが一切なくなってしまうことをどう見るのか,そういう結構大きな論点ではないかと認識をしております。   解決方法は,では,何だと言われると非常に困るわけですが,一つは,一定期間経過後の相殺を認めるというのもあるでしょうし,無資力になって初めて行使できるのであれば,無資力を知って負担した債務ですので,基本的には相殺権の乱用で否定できて,相殺権の乱用に引っ掛からない相殺だけがその実務の知恵として残るというのもあり得るかなと思っております。   言いたいことは,理屈はそうなんだけれども,実務の知恵みたいなものをどうしたらいいのか,理屈はこれでいくけれども,こういう工夫をかませたら多少違いますよと,実務で使える立法になるのではないかと,そんなふうに思いました。 ○道垣内幹事 今後の議論のために一言申し上げたいのですけれども,債権者代位権に優先弁債権を認めないというのは理論の問題ではなく,公平感の問題だと思います。私に,理論的には優先的債権回収ができるのだという論文を書けと言われれば,一応書けます。両方の立場に理論はあり得ると思います。したがって,それは理論と実務の対立ではないのです。学者の中で優先弁済機能を否定しようという意見が多いとなったときに,だから理論と実務の対立だと言うことが今後の議論を悲しいものにしてしまうような気がいたしますので,一言申し上げておきたいと思います。 ○筒井幹事 この論点を本格的に議論するのは本日の目的ではないかもしれませんけれども,道垣内幹事から御指摘があったことのほか,この論点について議論したときに,再三出てきたことではありますけれども,同じ機能を果たしている執行手続等の比較において,少額だからといって債務名義がない差押えが認められるのだろうか,あるいは第三債務者に対する手続保障が全くないままに第三者を巻き込むような権利行使を許してよいのだろうかといったことを考えたときに,債権者代位権に限って異例な取扱いを認めるのはやはり適当ではないという議論をしたように私は記憶しております。それについて,なお異論があり,現状との乖離といった観点からの批判があり得ることは,否定はいたしませんけれども,私は現時点でコンセンサスを目指すのであれば,この案が相対的には優れているのではないかと考えて御提示いたしました。その上で,直接の引渡しを認めた上で相殺を禁止するという方法と,直接の引渡しを認めないという方法と,その選択肢はあり得ることですし,相殺を禁止するという方法が余りエレガントでないという御指摘も第2ステージの議論の中ではあったと思います。しかし,その両者を比較したときに,直接の引渡しを認めた上で相殺を禁止するほうが実務的には受け入れやすいといった声もありましたことから,このような案を現在は提示しているということです。 ○鎌田部会長 実際にどんなことになるかということを考えると,債務名義のない人が債権者代位権を行使して受け取った物は債務者に返す以外に手がないんですね。債務名義のある人が実際に受け取ったときには,どうなるんですか。これは自分に対する返還請求権を差し押さえて,自分で自分に弁済することになると思うのですが,それは相殺禁止に引っ掛かるんですか。 ○金関係官 申し訳ありません,もう一度お願いいたします。 ○鎌田部会長 先ほどの労働者で言えば,労働者は,債務名義を持っていることはないと思うんですが,一般先取特権を持っているんだろうと思います。労働者が使用者の売掛代金債権について債権者代位権を行使して,自分で金銭を受け取れますね。その金銭は返還義務があります。代位債権者は,債務者の持っている返還請求権を差し押さえないと,ほかの債権者のためにやったことにしかならないから,これを差し押さえることはできますね。そして,差し押さえると取立権が生じます。債権者代位権を行使した労働者が,自分に対する返還請求権を自分で差し押さえた上で取り立てる。それは実質的に相殺ではないかというので,相殺禁止に引っ掛かったりはしないんですか,という意味です。 ○金関係官 ありがとうございました。それは引っ掛からないと理解しております。 ○鎌田部会長 その場合,自分で取り立てたから返還請求権は消滅したというためには,差押えが効力を生じてから1週間待たないと駄目なんですか。 ○金関係官 はい,そのように理解しております。 ○鎌田部会長 取立権がない限りは,駄目ですか。差押債権者が取立権を取得するまでの間に債務者が任意弁済するのは有効な弁済ではない。 ○筒井幹事 理屈だけを言うと,少しでも早く配当加入遮断効を生じさせるためには権利供託をすればよいわけですけれども,それをして自ら還付を受けるというのはますます迂遠になりますので,1週間の経過を待って取立てという形をとるのが一番スムーズであるようには思います。 ○鎌田部会長 債務名義を持っている人は,事実上,優先弁済を受ける結果になるのではないかなという疑問が生ずるのですが,そこは1週間待っている間に,誰かが返還請求権を差し押さえてくる可能性があるからいいということですか。 ○高須幹事 今の論点のところでございますが,確かにそうなわけですけれども,実際問題,債権者代位権の場合には,訴訟外で権利行使ができるということで,先ほど岡先生,中井先生もおっしゃったように,理詰めできちんと強制執行みたいなことを意識しないで代位権行使がなされることがある。今,鎌田部会長もおっしゃったように,事実上,金銭を受け取っているというようなときに,代位権で処理していたということがあったんだと思います。それをきちんと強制執行の手続きに乗せていく。今回の提案だと,乗せていくべきだという話になると思うんですが,それがどこまで現実に期待できるのだろうかということが気にはなっています。取り分け,今御指摘があったように,債務名義を持っている人が,実際の強制執行をすることなく,支払を受けてしまったみたいなときに,それでもしっかり強制執行手続に乗せていない限りは,まだ預かっているだけだと考えることに本当に合理性があるのか。やはり全て強制執行で処理をするというのがいいのかどうかについては若干の疑問が残るのではないかと思います。   これまでの分科会の議論の中で,沖野先生と,私とで共同の意見書を出させていただいておりますので,決して研究者と実務家で意見がいつも異なるわけではなくて,ここではある程度,共通の問題意識を持っております。そして,このことは今日の議論で再び出ています。既に取りまとめの段階なので,それは多数にはならないということで,今回もう取り上げないということにするかどうか,私のほうでこれ以上,どうすべきだということは申し上げるつもりはないのですけれども,そこの選択の問題についてもう少し検討してもよいのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 すみません,余計なことを言ってしまって議論を長引かせてしまいました。   ほかにはよろしいですか。 ○松本委員 繰り返しになりますけれども,3のところで(注)でこういうふうにちょろっと書くというのは,先ほどの筒井幹事の御説明からいくと,何か不自然な感じがします。法制審はこうやるんだという御意見なわけです。今まで従来型として繁用されていたところの債権者代位権のやり方がありますが,それは採らないということを明言しているわけですね。ところが,この(注)というのは,違った制度趣旨の別の債権者代位権です。ここで(注)を書くということは,やはり甲案,乙案のイメージを残しているわけなので,そうであれば,もうちょっとほかのところでも違ったルールにしないと一貫しないわけですから,セットとして従来型の案とがらっと変える案がありますと書いてパブリックコメントに載せるというのが一番適切なんだろう。そうではなくて,圧倒的多数は従来型のやり方は適切だと考えていないということであれば,こんなところだけでちょろっと(注)で残すのは不自然だと思います。むしろ(概要)辺りで従来のこういうやり方と別のこういうやり方があるけれども,従来型はとらないんだということをはっきりと説明して,それは間違っているという意見が大多数であれば立法を変えればいいわけですから。 ○大村幹事 松本委員は今二つの方向をおっしゃったと思うのですね。(注)に書いてあることをきちんと膨らませて,言わば,甲案,乙案という形で出す。そうでないのならば出さないとおっしゃったと思いますが,(注)にするといのはやはりその間なのではないでしょうか。甲案,乙案でセットを用意するほどまで(注)の考え方は支持されていない。しかし,(注)を支持する意見が出るようならば,かなり戻って,それにふさわしいセットを考えましょうということになるのでしょうけれども,当面はそこまでするつもりはない,とはいえ,完全に死んではいない,そういうことを書き表す選択肢を完全に封じてしまいますと,ちょっと窮屈なのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 一応2のほうの(概要)にも,3の見直しと関連するというセットの考え方がありますし,3の(概要)の中では従来とは違う扱いをするということを明文で書いてあるので,ここはそれなりに落ち着きがいい整理の仕方ではないかという気がするんですけれども。 ○中井委員 大村幹事がおっしゃられたように,(注)の形でも結構ですから,論点としては是非残していただきたい。ただ,その場合,松本委員がおっしゃられたような問題があるとすれば,そこは工夫していただいて,3のところは注記のみにするけれども,この考え方を採る場合については,代位行使の範囲について直接給付を求める場合は,被保全債権の範囲に限るとか,費用については優先権を認めないという考え方もあり得るという(注)の中に更に補充的説明を一言付けていただくとかの工夫をしていただければ解決できるのかなと思います。いずれも工夫の問題として処理していただくことに異論はありません。ただ,この論点は少なくとも中間試案の中に課題として残していただく方向で御検討いただきたいと思っております。 ○沖野幹事 3のところの(注)は,(注)の形でも残すべき重要な論点だろうと,それほど意見が一枚岩で一致しているというわけでもなく,ここは非常に中核的な部分ですので,違う考え方もあるけれども,まずはこれで本文を出していますということが分かるような形にし,ただ,松本委員がおっしゃるように,この(注)についての考え方を採ると,ほかにいろいろ派生する問題が出てくるというのはそのとおりですので,それは既に言及がされている部分もありますけれども,(注)本体で言及するのか,(概要)で言及するのかは,そこはもう少し裁量の余地があるのかと思いますけれども,それは言及する場所がいろいろあるでしょうし,詳細は補足説明に書かれるということではないかと思っております。   それから,(注)の表現なのですけれども,この規定を設けるべきではない,相殺を禁止しないという考え方もあるということがよろしいのか,相殺を認めるという考え方もあるという形のほうがよろしいのか。と申しますのは,規定を設けるべきではないということになりますと,解釈に委ねるという可能性と,相殺を禁止しないという両方があるから,ここでは括弧で相殺を禁止しないという趣旨であると書かれているのですが,しかし,高須幹事も言及してくださいましたし,あるいは岡委員もおっしゃったように,一定範囲で認めるということが考えられるのではないかという考え方もあるところですと,相殺を禁止しないとなればフリーパスということかと言えば,そうではないようにも思われますので,この(注)どおりの表現がよろしいのか,それとも規定を設けるべきではない,相殺を禁止しない,相殺を禁止しないという中にも待機期間を設けるとか少額であるとか濫用との関係であるという様々なバリエーションがあるというのは(概要)で示すのか,補足説明で示すのか,それとも,そういう余地のほうがある形で(注)を記載するのかということがありますので,私自身は禁止しない中にもいろいろバリエーションがあることが分かるような表現のほうがよいのではないだろうかと,ちょっと未練かもしれませんけれども,考えております。 ○鎌田部会長 ほかの点は。 ○高須幹事 別な件,4ページの7のところでございます。債務者の処分権限を奪わないという趣旨のところで,趣旨はそういう議論をしてきたわけですから了解はしておるのですが,このときに後段の部分,代位行使が訴えの提起による場合でも同様とするという表現だけをしますと,債権者代位訴訟が提起されているケースで,債務者が自ら別訴で本来の訴訟を提起することもできるかのように読めるわけなんですが,それはそれで民訴法上の問題が起きると思います。二重起訴の禁止の問題等が起きるので,この点は民事訴訟法の規律に委ねるという趣旨に理解してよろしいのか,それとも,今回それを踏み込んで,例えば別訴提起を許すとか,あるいは債務者の訴え提起を優先するとするのかというようなところまで意味するのか,この文章だけだとよく分からない。私としては多分,そういう問題は民事訴訟法上の問題になるので,そちらの議論に委ねるという趣旨だと理解しているつもりなのですが,そういう理解でよろしいかどうか。よろしいとすれば,やはりパブリックコメントにかけるわけですから,もう少しそういうことが分かるほうが,よろしいのではないかと思っています。質問のような,やや意見のようなでことでございますが,そこをはっきりさせていただければと思います。 ○金関係官 趣旨は高須幹事が前半におっしゃったとおりです。重複訴訟の禁止の関係で別訴は提起できないことを前提としております。債務者としては,訴訟参加の方法を採ることになりますが,補助参加,共同訴訟的補助参加ではなく,当事者適格が否定されないので共同訴訟参加ができるかどうかについては,部会や分科会でいろいろと議論をしたところですけれども,これについては,矛盾する主文といいますか,代位債権者に支払えという主文と,債務者に支払えという主文を,共同訴訟参加を認めた場合の必要的共同訴訟の中ですることができるのかという問題を始め,いろいろと議論がされた結果,成案を得ることは困難であると判断して,論点から落としたという経緯があります。 ○鎌田部会長 (概要)に書くか,補足説明に書くか,(概要)のほうがいいということですか。 ○高須幹事 いや,補足説明でもよいとは思います。補足説明だと,確かに読むのは大変ですけれども,読めば分かるわけですから,それはもう何らかの形でと思います。取り分け代位権と取消権のところは,どうしても手続法との重なる部分が相当大きいと思うものですから,ここの部分は何らかの形で,補足説明でもいいので,こういう趣旨だということが分かるようにしていただけたらいいかなと思いました。 ○深山幹事 2の「代位行使の範囲」のことについて意見を申し上げたいと思います。   ここでの提案は,被保全債権の額を超えて全部行使できるということが提案されております。(概要)のところでは,債権回収機能を認めるかどうかという考え方を反映した形で,債権回収機能を認めないという前提に立てば,代位行使の範囲については被代位債権全部でいいのではないかという両者の関係が説明されているんですが,私は債権回収機能を重視するかどうかにかかわらず,代位行使の範囲は,金銭債権の代位行使に関しては,やはり被保全債権の範囲に限定されるべきではないかと考えております。直接請求を認めて金銭を回収するということになると,代位債権者のところに自己の債権以上の金銭が直接一旦回収されるわけです。そうすると,物であれば,それは言わば預かり品的なもので,所有権が自分のものになるわけではないわけですが,金銭ということになると,自己の財産に混入してしまいますので,代位債権者の債権者がそれを差し押さえるというようなことも可能になってしまう。そうすると,本来その代位債権者の債権者の引当てにされるべき財産でないものを差し押さえられてしまうことになるという不都合を生じ,そのことを考えますと,債権回収機能を重視するかしないかにかかわらず,それとは違う次元の問題として,やはり受領し過ぎてしまうということについての弊害があるのではないかという気がします。この段階ですので,単なる意見を申し上げてもしようがないんですが,少なくとも先ほど来の議論で言えば,(注)のところで,債権回収機能の考え方とは別に,その点の如何にかかわらず金銭債権に関しては被保全債権の範囲に限るという考え方もあるということを是非御指摘いただいて,なお議論の余地を残していただきたいという気がいたします。 ○村上委員 先ほど高須幹事が言及された7についてですが,ここの表現を見る限り,代位債権者が訴えを提起した場合であっても,なお,債務者は訴えを提起することができるとしか読めないと思いますので,先ほど金関係官がおっしゃったようなことを(概要)にお書きいただくのが望ましいと思います。 ○岡崎幹事 先ほど松本委員と筒井幹事の間のやり取りやその後の内田委員の御発言の中で,9のいわゆる転用型をどの範囲で認めるのかについて議論されましたけれども,その点に関して質問のような意見のような発言をしたいと思います。   これまでの債権者代位権の転用を認めた裁判例を見てみますと,個別の事案類型ごとにその特徴を踏まえて,転用の当否を判断してきたように思います。ところが,今回の9の(2)のような一般的な規定を設けますと,転用の範囲が広がるのではないかと思います。   例えば,第2ステージの一回り目のところで,部会資料35を使って審議がされた際に,使用貸借の借主の使用貸借契約に基づく借主の権利を保全するために債権者代位が認められるかという議論がされたと思います。そのときの議論では,使用貸借の借主は,貸主に対する使用収益請求権を有していないので,貸主である所有者が有する妨害排除請求権,又は返還請求権を代位行使することができないという御意見がありました。しかし,今回の改正によって,使用貸借が諾成契約にされた場合には,借主の貸主に対する目的物の引渡請求権を観念できることになると思います。そうしますと,第三者が使用貸借の目的物を権原なく占有している場合に,引渡しを受けていない借主が目的物引渡請求権を被保全権利として貸主である所有者が有する所有権に基づく返還請求権を代位行使することができることになるのではないかとも考えられます。今のような例については,これが認められるとしますと,転用型の範囲が広がることになるのではないかと思われます。   もう一つ例を挙げますと,例えば,駐車場について二重賃貸借が行われた場合に,現在,実際に使っている,つまり占有している賃借人について,賃料不払いを理由とする解除原因が発生しているときに,現在使っていない,つまり占有していないもう一人の二重賃借人が,賃貸人の有する解除権,及び解除を前提とした目的物返還請求権を代位行使することが可能であるということも,9の(2)の文言からは否定されないのではないかと思われます。   私としては,今挙げた二つの例に関して,転用を認めるべきなのか,それともそうでないのかについては,先生方の御議論にお任せするというスタンスでおりますけれども,転用型が認められる範囲を現状より広げることについてのコンセンサスが果たしてこの部会の中で得られているのか,やや疑問もありますので,発言をさせていただいた次第です。 ○金関係官 ありがとうございます。使用貸借については,目的物引渡請求権が認められるとしても,それが転用型の債権者代位権の被保全債権となり得るかどうかというのは,従来,使用貸借については,使用収益をさせるよう貸主に求める権利が借主にはないので使用借権は被保全債権とはならないという議論があったこととの関係で言えば,諾成契約化されて目的物引渡請求権が生じるからといって直ちにそれが被保全債権となるとは確定的には言えないのではないかと考えております。また,後半の解除の事例についても,そのような解除権の行使を転用型の債権者代位権によって認めることができるとは確定的には言えないのではないかと考えています。むしろ,その確定的には言えないような議論において,仮にその代位行使を認めるべきだという一定の価値判断を選択した場合に,現在の転用型の債権者代位権の要件と9(2)の転用型の債権者代位権の要件とで,結論が異なることになるのかという問題があるのではないかと考えております。例えば,現在,転用型の債権者代位権の一般的な要件として説明されることがあるものとしては,9の(注)のところに記載をしました「債権者代位権の行使により債務者が利益を享受し,その利益によって債権者の権利が保全される場合」という判例がありますけれども,この要件を用いると先ほどの事例で債権者代位権を行使することはできないけれども,この9(2)の要件を用いると債権者代位権を行使することができるという結論になるのかどうか,そこはやはりいずれの要件の下においても個々の事案における価値判断の問題となるのではないかという気がしております。今回の9(2)の要件で申しますと,権利の実現が妨げられていることという必要性の要件の解釈や認定の中で一定の価値判断がされるとか,いろいろと工夫はされるのだろうとは思いますけれども,最終的には,現在の要件と9(2)の要件とで,債権者代位権の行使の可否の結論に大きな差が生じることはないのではないかという感触を少し持っております。 ○岡崎幹事 今の問題は,判例法理の条文化についてどういうスタンスをとるかと関係していると思います。ある判例の中で,今,金関係官がおっしゃった(注)にある表現が使われているとしても,当該事案との関係で使われているということを無視することはできないと思います。つまり,先ほども申し上げましたけれども,これまでの判例,裁判例が債権者代位権の転用の当否を検討する際には,当該事件類型を分析した上で,それが転用型の債権者代位権によって規律するのが相当かどうかという判断をしているわけです。しかし,今回の9の(2)のような一般的な規定を設けると,判例の行ってきたことと同様の事案類型ごとの分析が行われないことになりかねないと思われるわけです。ですから,転用型の債権者代位権の範囲が広がる可能性を秘めているにもかかわらず,このような一般的な規律を設けてもよいのかどうかについて,多数を形成する意見になり得るのかどうかという観点から,御議論を頂く必要があると思います。 ○筒井幹事 岡崎幹事から御指摘いただいたことは全くもっともでありまして,個別具体的な事案を通じて提示された判例法理を一般化するに当たっては,立法としてそれを一般化することが適切なのかどうかという吟味は欠かせないのだと思います。この9(2)に関して言えば,その前の発言で岡崎幹事から御指摘があったように,具体的な事例を挙げて,それらの事例についてどのように判断されることを想定して,この文言を作ったのかといった吟味が必要になるのだろうと思います。現在までのところ,この論点については,今回お示ししたような文言で,従来転用型と言われていたものの受け皿となる一般的な規定を設ける方向に多くの支持が集まっており,現時点ではこのような案を御提示しておりますけれども,それについて更に岡崎幹事から御指摘いただいたような検証を経て今後の作業は更に深めていく必要があるのではないかと思います。 ○松本委員 岡崎幹事の御発言にかなり賛成をしたいです。つまり判例法理を民法に入れる場合に,他に適当な方法がないときは,必ず債務者に属する権利を行使することができるのかということです。他に方法がなく,かつこのいわゆる転用型の代位権を認めることを「相当とする事情があるときは」という限定を多分判例としては加える,裁判所はそういう言い方をすると思うんですが,民法の条文に,他に適当な方法がないときはということとは別に,代位権を行使することが相当と解されるときはというような表現を入れられるかどうかということです。あえて入れるとすれば,信義則だとか,一般条項でもう一段階クッションを入れざるを得ないのではないかなという感じがいたします。そうでないと,権利の実現が妨げている場合というのは一杯ある,いろいろな場合があるのに,なぜこの場合は認められ,別の場合は認められないのかということの説明が大変難しくなって,その点は条文には書いていない理屈でそうなるんですよという,また分かりにくい民法に戻ってしまうことになって,それはよくないだろうと思います。   それから,判例はもう一つ,特段の事情があるなしということもよく言いますが,これは条文には恐らく書けないんだろうと思います。大原則はこうであって,特段の事情がある場合は駄目なこともあるということであれば,特段の事情は条文上は書かないということになるんでしょうが,今回の場合は,これを大原則とするのではなくて,やはり非常に限定された場合なんだというのが事務当局の御説明です。そうすると,やはりもう少し一般条項的に限定する文言を入れておかないと,この条文は広く使えるのではないかという誤解が独り歩きするのではないかという気がいたします。 ○鎌田部会長 その点は少し検討させていただきます。御趣旨は理解しているつもりで,共通の方向性を持っていると思います。それを具体的にうまく盛り込めるかどうかについては更に検討させていただきます。 ○山本(敬)幹事 そのような観点とつながる面と逆になる場面があるかもしれないのですが,9の(注)ですけれども,(注1)について,不要であるという考え方があるのは,そのとおりだと思います。ただ,(2)について,昭和38年判決の定式を採用すべきであるという案がわざわざ書かれているわけですけれども,以前の部会での議論を正確には確認してこなかったので,むしろ御説明を頂きたいのですけれども,積極的にこの文言,つまり判例の定式を条文にすべきであるという意見がやはり有力にあり,そしてまたそれにはもっともな理由があるという御趣旨で挙げておられるのでしょうか。この定式に関しては,この概要の説明がありますように,かなり包括的な書き方で,むしろより広く捉えられる可能性のほうが高いのではないかと思います。そのようなものでも,あえて採用することを(注)で書く必要が本当にあるのか。書く意味としては,従来の判例法理が使っている定式を使うことによって,従来の判例法理が認めていたものに限定するという趣旨を表していることが考えられなくはありません。しかし,このような文言にしてしまいますと,改正前の判例を離れて独り歩きする可能性のほうがむしろ高いのではないかと思われます。そうしますと,このような(注)でわざわざ書く意味と必要がこの段階であるのかということが疑問になってくるように思います。 ○中田委員 9の(2)の要件についてですが,補充性要件をより限定し得るようなものにするというのが一つの方向だと思いますので,それは検討していただければと思います。   もう一つ,補充性要件を理論的にどのようなものとして位置付けるかというのはどうもよく分からないものですから,それは中間要綱で書くことではないかもしれませんけれども,御検討いただければと思います。   それから,(2)の絞り方のもう一つのルートとしては,先ほどの話の蒸し返しになってしまいそうなんですが,1で出ている保全の必要性をこちらでも使うという解釈論が出てくる可能性があるのではないかと思います。そうすると,先ほど内田委員が整理されたこととは異なってまいりますので,そこはそれぞれの規律の関係を明確にするという努力が必要ではないかと思います。私自身は,先ほど申し上げたように,保全の必要性を上に置いて,二つのタイプの要件をそれぞれ置くということで,転用型を広く認めることにはならないとは考えておりますが,それは別にいたしまして,今のままですと,何らかの別の一般的な要件を求めるということになるのではないかと思います。   ほかのこともいいですか。 ○鎌田部会長 はい。 ○中田委員 先ほど深山幹事の出していただいた2の代位行使の範囲のところについて,深山幹事とは別の問題意識なんですが,当該権利の価額という概念が出てくるのですが,これがはっきりしないと思いました。代位される権利が金銭債権の場合には,券面額,債券額のことを言っているのか,それとも債権の実際の価値,つまり第三債務者の資力も勘案した価値を言っているのか,不動産の引渡請求権の場合には,不動産の価格なのか,それとも代金額との差額なのか,はっきりしないように思います。   例えば,資力が十分でない第三債務者が複数いる場合に,両方ともに対し代位行使をするという必要があり得るのではないかと思います。そうすると,ここは金銭債権の部分だとすると,「自己の債権を保全するため」という1の(1)の要件で賄うということもあり得るかなと思いました。 ○金関係官 先ほど山本敬三幹事から御指摘を頂いた点の経緯を説明いたしますと,第1ステージの審議の場で委員・幹事から,この5ページの(注)の要件を示した判例があるからこれを明文化する方向で検討すべきであるという御意見がありましたので,それを中間論点整理で紹介し,かつ,部会資料35でも甲案として取り上げたところ,第2ステージの審議の場でもその甲案に賛同する御意見がありましたので,今回も(注)で取り上げることとしております。   それから,中田委員から頂いた御指摘の趣旨はもちろんよく理解できるのですが,民事執行法や民事保全法でも債権の価額という基準が用いられておりますので,債権者代位権についてのみ保全の必要性という要件のところで全てカバーするということが適切なのかどうか,という問題意識を少し持っております。中田委員の御指摘は,2の後段の「この場合について」以下の一文を全て削除せよという御趣旨だと理解しましたので,再度検討したいと思います。 ○鎌田部会長 民事執行法は,債権差押えの規定だけど,ここは代位行使される権利が債権に限らないという違いがあるんですかね。 ○中井委員 最初に,筒井幹事から多くのものが合意できるぎりぎりのところをまとめられたというお話がありましたので,個別意見を言うことはこの段階では適切ではないと,そう思って申し上げないようにしようかと思っていたんですけれども,1項の無資力要件についてです。無資力要件を明記するという提案がなされているわけですけれども,先ほどからの中田委員がおっしゃられた,債権を保全するために必要というのを頭に置いて,金銭債権については,責任財産の保全というところで無資力要件を明示する。他方,それが特定債権については9のところで新たに具体的要件を定めて,それは必要性であり,補充性であり,そこに頭要件にある保全の必要性なのかもしれませんけれども,その要件を明確にして代位行使できる場面を明らかにする。こういう考え方をお聞きして,大変興味深く思ったわけです。その後者の転用型については,今まで法文になかったことを明らかにするわけですから,従来の判例の形成過程も踏まえて,また先ほど,岡崎幹事がおっしゃられたような不安要素も踏まえて適切な要件化が望まれるだろうと思います。   他方で,金銭債権の代位行使の1については,従来は「自己の債権を保全するため」という要件のみだったわけですけれども,そこに判例上認められていると言われている無資力要件を明記しよう。この考え方については,大方の争いがないというか,大方の承認を得ているということは承知しているんですけれども,なお弁護士会の一部ですが,無資力要件は要らないのではないかという意見がございます。   今回,この提案の中で「取り上げなかった論点」の一つ目に,強制執行の前提としての登記申請権の代位行使の場合を除外しております。これは,当初の提案にあったように,無資力要件が要らない場面の一つという理解だと思います。それ以外にも,仮差押えをした債権の時効中断のための代位訴訟の提起や,強制執行する場合,登記申請権のみならず,登記請求権についての代位行使もあり得る。これらの場面では,無資力要件を必要としないのではないか。それは,金銭債権を保全する必要性に加えて,例えば債務名義があっても,それでは実現できない権利,若しくは保全処分で保全命令をとってもなお保全できない権利がある場面,つまり強制執行保全制度ではこぼれ落ちた場面でなお債権者代位権が使われる,またそういう実益があるということは承認されているところかと思います。そうしますと,それら権利行使ができるとされていた場面で,無資力要件を明記すれば,そういう権利行使はどうなるのかという疑念の生ずるところです。そういうことも考えると,無資力要件を定めない,若しくは,定めるとしても,無資力であるとき,その他,その債権を保全するために必要性若しくは補充性が認められるときに,代位行使できるというような考え方も要るのではないか,と思ったものですから,申し上げておきます。 ○松本委員 無資力という言葉が出ましたので,ついでに発言させていただきますが,債権者代位権の1の(1)の第2文で,債務者が当該権利を行使しないとすれば無資力となるときも同様とするものとするという特別な文言が入っております。これは,債務者は債権は有しているんだけれども,債権以外には何もない。不動産もなければ動産もないというシチュエーションにおいて,当該債権を行使しないと無資力だという,そういう定義をここへ入れているわけですね。これは,債権者代位権に特有の無資力定義と考えてよろしいんでしょうかというのが質問です。休憩後に議論されると思われますところの6ページの詐害行為取消権の1の(1)のところでも,やはり無資力という言葉が2か所に出てくるわけですが,詐害行為取消権の場合の無資力は,債権者代位権の場合の無資力とは違うんだという理解でよろしいんでしょうかということです。すなわち,金銭債権を債務者は有しているけれども行使していないというだけで詐害行為取消権の無資力に該当するとすれば,ちょっとそれはやりすぎだろうと思うんです。そういう意味で,この定義は債権者代位権の場合に特別のものなのかどうかということです。 ○金関係官 今の御指摘の観点から言えば特別のものということになると思います。ただ,債権者代位権の1ページの(1)の「権利を行使しないとすれば無資力となるときも同様とする」というのと,詐害行為取消権の6ページの(1)の「当該行為をしたことによって無資力となった場合も同様とする」というのが,債権者代位権と詐害行為取消権のそれぞれについて,いずれも無資力要件を債務者の無資力とだけ書くのではなく,後段のほうに注記を入れるべきであるという議論を踏まえたものという位置付けではあります。 ○沖野幹事 松本委員の御指摘になった場面の確認なのですけれども,債務者が債権を持っていて,ただ回収しないというだけの場合も,この(1)の後段に該当することになるとすると,それは非常に特有であると,そういうことでしょうか。私自身は,そのままだと時効にかかって消滅してしまうので,確かに,債権がある限りにおいてはまだ十分あるのだけれど,大口の債権で,これが時効にかかるとそれによって無資力になるという局面を考えており,そのような懸念なく権利行使できるものとして債権を持っているということであれば,それはこれに該当しないと理解しておったのですけれども。 ○松本委員 これを債務者が権利行使しないために債権が時効にかかる直前の場合に限定する趣旨ですか。それならまだ理解できますが,この書きぶりから,弁済期を経過したのに行使されていない債権は財産として計上しない趣旨だと私は読んだんです。この点は,確か第1ラウンドでも議論があったと思います。私の当初の理解は,これは無資力ではないという理解だったんです。すなわち,預金債権がたっぷりある。ただ,引き出していないだけだというのは,無資力ではないと理解していたんですが,その場合も債権者代位権行使を認めるべきだというのが第1ラウンドでの部会の多数意見だったと理解をいたしまして,それがこのまま文言になったんだと理解していたんですが,そうではなかったのでしょうか。 ○沖野幹事 申し訳ありません,従来の議論を確認してこなかったものですから,私は,預金債権が行使できるものとして十分あって,差押えもすぐかけられるものであれば無資力ではないと理解しており,その場合も無資力だというのが多数意見だとは認識しておらず,今おっしゃったような局面を受けるためにこの後段ができているとは理解しておらなかったんですけれども,これは経緯の確認をしていただければと思いますが。 ○松本委員 これは重要なことですから,立案者の趣旨はどちらなんでしょうか。 ○金関係官 預金債権が豊富にあるという事例ですとイメージが人によって異なってくると思いますが,ここで問題としているのは,債務者には1本の預金債権があるけれども,ほかには一切財産がなく,しかしその1本の預金債権をプラスの資産としてカウントすれば無資力ではないという場面です。そのような場面では,その1本の預金債権の代位行使を認める必要があるのではないかという観点から,債務者がその預金債権を行使しないとすれば無資力となるという評価をして,債権者代位権の行使を認めるという議論がされたのだと理解しています。つまり,その1本の預金債権が時効にかかりそうかどうかとは無関係の議論です。部会では,債権者が300万円の被保全債権を有し,債務者が第三債務者に1,000万円の債権を有しているけれども,ほかには一切財産がないという場面について,その場面の債務者も一種の無資力と評価すべきであるという議論がされたのだと理解しています。ご参考までに,少し別の場面の話もさせていただきたいのですが,債務者が贈与契約によって不動産の所有権を取得したけれども,その登記が債務者の名義に移っておらず,かつ,債務者にはその不動産以外には一切財産がない,しかしその不動産をプラスの資産としてカウントすれば無資力ではないという場面についてです。そのような場面でも,登記が債務者の名義にならないとその不動産を強制執行の対象とすることができませんので,債務者の有する所有権移転登記請求権の代位行使を認める必要があるように思います。その観点から,債務者がその登記請求権を行使しないとすれば無資力となるという評価をして,債権者代位権の行使を認めるという議論があり得るのではないかと考えております。以上申し上げた理解を前提に,無資力要件を前段と後段に分けて整理をしておりますが,もしその理解自体を改める必要があるということであれば,本日の議論を踏まえて改めたいと思います。 ○中井委員 その事例は客観的には無資力でない。しかし,保全の必要があるから代位行使を認めているという場面ではないでしょうか。そうすると,無資力要件を課すことによる問題,それから漏れたところについての救済場面のように聞こえましたが。 ○金関係官 中井委員の御指摘の趣旨は,無資力要件を不要として保全の必要性のみを要件とするという立場から,先ほどのような事例については,無資力要件の拡張ではなく,シンプルに保全の必要性という要件の中でカバーすれば足りるということだと思います。その方向性ももちろんあり得ると思っておりますけれども,ただ,無資力要件自体は判例法理として定着しているように思いますので,無資力要件を明記することは前提とした上で,しかし先ほどのような事例も代位権の行使を認める必要があるという観点から,今回の部会資料では,繰り返しになりますが,無資力要件を前段と後段に分けて整理するという提案をしております。いずれにせよ,再度検討したいと思います。 ○松岡委員 多分第1ステージか第2ステージで,私もそういう例を出して議論をした記憶があります。そのときにはむしろ,今,中井委員がおっしゃったように,無資力要件でカバーするべきかどうかについても議論があって,これはむしろ保全の必要性の問題ではないのかという趣旨のことを申し上げました。先ほどの体系問題あるいは規律の仕方の問題にも関わるのですけれども,普通に理解されている意味での無資力要件をあえてここに入れた上で更に例外を付け加えるやり方がいいのかどうかについてはもう少し検討したほうがいいと思います。 ○金関係官 ありがとうございます。ただ,松岡委員の御指摘も先ほどの中井委員の御指摘も,究極的には,債務者が無資力でなくても保全の必要性さえあれば債権者代位権を行使することができるということを一般論として認めることに行き着くのだと思いますけれども,少なくとも一般論としては債権者代位権を行使するには債務者が無資力であることを要するという理解がされてきたと思いますので,その意味で若干の懸念も持っております。 ○大村幹事 前のラウンドの議論がどういう議論だったか十分に確認して来ませんでしたが,今日のお話を伺った限りで申しますと,松岡委員や中井委員がおっしゃることはよく分かりますが,無資力要件を維持した上で,しかし,一歩それを緩めるという歩み寄りがされているのがこの1の(1)ではないでしょうか。それは沖野幹事がおっしゃっているような限度で緩めるということにしかならない。その限度でしかここは読めないのではないかなという気がするのですけれども,そうではないのですか。これは金関係官に対する質問になりますが。 ○金関係官 消滅時効に掛かるような場面に限定するという解釈は一つあり得るとは思いますけれども,ただ,それは解釈の幅がかなりあるということになりますでしょうか。 ○松本委員 全然違う解釈を御自由におやりくださいというような無茶な立法提案はありません。ここで新規に提案するのなら,はっきりとどちらかを決めるべきです。そういう場合も無資力とみなすとの規定を置くなら,無資力要件自体は変わらないけれどもその拡張だという趣旨ははっきりしますし,そうではなくて,時効消滅の間際だからということであれば,従来型の無資力要件がほんの少し広がったぐらいで収まる。   それからもう1点,金関係官が詐害行為のところで,二つの無資力があって,これが代位権のところの二つの無資力に対応しているかのようなニュアンスの発言をされましたけれども,当該行為をしたことによって無資力になった場合の無資力は,最初の無資力と定義は変わっていないと私は思うんです。その財産を処分した,放棄した,債務を免除したことによって無資力になったわけだから,無資力という概念自体は変わっていないわけです。ところが,債権者代位権のほうの無資力は,金銭債権という財産があるにもかかわらず,それは無資力だとみなしましょうというわけだから,これは定義が変わっているということになります。 ○松岡委員 重ねて申し上げますが,やはり無資力というのはぴったり当てはまらないと思います。先ほどの例のように被代位債権が時効にかかりそうな場合を取り上げます。その場合に無資力と言えるのかといったら,被保全債権が1,000万円あって,問題になっている被代位債権が3,000万円ですと,通常は無資力とは言わないはずです。にもかかわらず,被代位債権が消滅時効にかかりそうな場合には保全の必要性があるから債権者代位権の行使を認めてきたと思います。それゆえ,保全の必要性の要件を無資力と単純に置き換えるのはおかしくないかという議論をしたと記憶しています。 ○鎌田部会長 詐害行為取消しのほうは,日本語的に言えば,この6ページの「第2 詐害行為取消権」の1の(1)は,無資力の債務者が債権者を害することを知ってしたときは詐害行為である。行為をする前に無資力でない人が行為をして無資力になったときにも,同等とするというので,これはこの二つ並ぶことに,やはり意味がある。 ○松本委員 私が言いたいのは,二つ並ぶというのはそのとおりなんだけれども,そこでいう無資力の定義は一緒だということです。プラス財産とマイナス財産を比べましょうということであって,金銭債権,預金債権は全てプラス財産として計算された上での無資力ということだから,二つのタイプがあるということは,その定義が変わっているということではないんです。しかし,1(1)の債権者代位権に関しては定義が違うんです。 ○鎌田部会長 そういう意味で,無資力は常に同じ意味だというふうなことを前提にして,この1ページの1の(1)の当該権利を行使しないとすれば無資力になるというときは,やはり放っておいたらプラマイがマイナスになるときしか考えられない。今ある預金債権が,このまま放っておいたら時効で消滅してしまうから,代位行使してそれをストップさせるという,そういうふうなケース,国語的にはそういうケースに限られていると読むのが素直ではないでしょうか。 ○松本委員 そうなんですか。 ○鎌田部会長 ええ。 ○道垣内幹事 強いて言えば「無資力である」と書くべきですね。「無資力となる」ではなくて「無資力である」でしょう。 ○鎌田部会長 しなければ。 ○道垣内幹事 「無資力である」。 ○松岡委員 それでいいのでしょうか。 ○筒井幹事 先ほどから金関係官が説明していることは,従来の部会や分科会での議論を踏まえてのものであると繰り返し申し上げているとおりであり,それに拘泥するつもりではないということも付け加えていたとおりであります。「無資力となるとき」のほか,「無資力であるとき」と書いた方が適切なケースがあることは,資料の作成時から意識はしており,表現ぶりについてなお詰める必要があるというのは御指摘のとおりです。その上で,「無資力となるとき」という要件について,今日の御議論では,当該債権が時効にかかることを指して「無資力となる」と書いているのだと読めば御異論がないということなのでしょうか。それであれば,そういう理解に立って原案に必要な修正を加えることは全く差し支えないと考えております。   もっとも,そのようなタイプのものと,登記が他人のところにあって今のままでは無資力であるものを,この段階でそこまで書き分けるのが適当かどうかという問題はあるように思います。 ○鎌田部会長 登記が来てなくても有資力なんですね。それが差し押さえられてしまったり二重譲渡されると無資力になってしまう。難しい ○松本委員 時効にかかる可能性のある債権は行使しなければ全て無資力だというのは,そこにすごく論理の飛躍があるような気がします。民事債権は通常10年間時効消滅しないわけですから,発生した直後にもう時効消滅のことを考えて無資力になるというのは,それは債務者の自由を制約し過ぎている。それだけのロジックでいくとすれば債権者の介入し過ぎだろうと思います。時効直前だということであればよいでしょうが。 ○鎌田部会長 今すぐ行使しないと無資力になってしまうという場合を想定していると思います。   ということで,この辺で15分休憩をとらせていただいてよろしいでしょうか。           (休     憩) ○鎌田部会長 再開します。   詐害行為取消権に入ってもよろしいでしょうか。   それでは,「第2 詐害行為取消権」について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○安永委員 詐害行為取消権の要件として,1の(1)では,「無資力要件」を明確化することが提案されております。この点,第1ステージの議論において,労働者の立場から,悪質な経営者が『偽装倒産』を行い,財産の隠匿や偏頗弁済を行いながら労働債権を踏み倒そうとする場合に詐害行為取消権が労働債権を確保するための手段として大変重要な役割を担っているということを実例を挙げてお示しいたしました。しかし,本提案のように,「無資力要件」が明確化された場合には,取消債権者である労働者が,債務者である企業の『偽装倒産』すなわち「資力があるのに資産を隠したこと」を証明したとしても,「無資力要件」を充足させることができず,詐害行為取消権を行使できる場面が大幅に減ってしまうことが危惧されます。   加えて,部会資料では,2の(1)ウの提案のように,「相当の対価を得てした行為」について,「受益者が,債務者が隠匿等の意思を有していることを知っていた場合に限り取り消すことができる」とするなど,その他の発生要件についても類型化・厳格化する方向で提案がされております。このような発生要件の類型化・厳格化は,詐害行為の典型的事案について,詐害行為取消権の行使を現行法よりも困難にするものであって,本提案が実現したならば,破産法,会社更生法が適用されない任意整理等の倒産があった場合や,偽装倒産がなされた場合において,労働債権の回収は極めて困難なものになってしまいます。したがって,詐害行為取消権に関し労働者の権利の大幅後退を招くとなる提案には賛成することができません。  次に,8のウについてですが,「取消債権者が逸出財産が金銭等である場合,これを直接自己に対して引き渡すよう求めることはできない」ことを提案しています。しかし,これは取り戻し債権者である「労働者」が受益者である「会社役員の親族や金融機関等」から直接に金銭等の財産を引渡しを受け,それによって,その財産の返還債務と労働債権とを相殺するという方法により労働者が優先弁済を受けてきた現行法での実務を著しく後退化させるものであり,労働者の権利を損なうものです。詐害行為取消権等において,相殺により労働者が労働債権を直接に回収し,優先弁済を受けられたことが労働債権の保護という観点で非常に重要な役割を果たしているということは,これまでの部会でも再三労働の立場からとして申し上げてきたとおりです。したがって,労働者の権利を後退させることとなる本提案には,賛成することはできません。 ○筒井幹事 ただいまの安永委員の御発言ですけれども,詐害行為取消権の要件について言及されました部分については,およそ無資力でなくてもよいという御趣旨までおっしゃるのであれば,それは受け入れることが非常に難しい御意見であることになろうかと思います。   8の「逸出財産の返還の方法」について言及されました点は,先ほど債権者代位権について申し上げたのと同様の問題があろうかと思います。ただいま安永委員が問題提起をされましたのは,労働者の側から詐害行為取消権を行使した場面において,現在,相殺によって簡易に満足を得ている場面を想定されての御意見だと思いますけれども,他の債権者がそのような詐害行為取消しを行い,現在は相殺によって処理されている場面において,後に労働者がその取り消された債務者の債権を差し押さえるという場面も想定され得るわけですから,その場合には,先ほど申し上げたのと同様の意味で労働債権の一般先取特権が機能して労働者の保護に働くわけであります。ですから,自らが取り消した場合について,その取消し後にその債権を差し押さえる一手間が増えること自体は否めないわけですけれども,他の債権者の取消し後であっても,それに差押えによって参加していくことができる,それによって一般先取特権を付与された債権の有利さを発揮することができるわけですから,この点については,私は労働者にとって有利な改正ではないかという認識の下にこのような提案をしているつもりです。 ○金関係官 今回の提案は,従来1か条で要件が定められていた詐害行為取消権について,各詐害行為の類型に応じた個別具体的な要件を定めるという方針を採るものですが,これによって詐害行為取消権の行使が難しくなるかどうかという点については,評価が分かれ得るのではないかと考えております。要件が明確に定められることによって詐害行為取消権が行使しやすくなる面もないわけではないという評価があり得る一方で,ただ,確かに基本的には要件を明確化し限定するという発想の下で要件を立てておりますので,従来の判例法理と比べて少なくとも要件の文言のレベルでは詐害行為取消権の行使が限定されるという評価がされやすいとも思っております。しかし,そこは,判例法理の要件の部分と実際の適用の関係,要件の文言のレベルでは比較的行使しやすいように見えるけれども実際の適用は非常に限定されているといった関係もあるのではないかと思いますし,そもそも自分が取消権を行使する場面と自分が取消権を行使される場面とが両方あり得ることをも考えますと,必ずしも常に現状よりも悪い結果になるということでもないような気もいたします。いずれにせよ,引き続き検討したいと思います。 ○高須幹事 今日の趣旨は,従来の論点の補充的な検討の部分と,サンプル案という形で頂いているので,たたき台の先取り的な部分と,実質的には両方あるという御趣旨でございますので,もう一回だけ,その補充的な検討の部分の話をまず御説明させていただいた上で,その上で,たたき台の検討という話のほうへ移らせていただきます。本日,東京弁護士会の意見書を配布資料として提出させていただきました。東京弁護士会だけの意見書でございまして,日弁連のものではもちろんありませんけれども,この東京弁護士会の意見書の中で,6ページのところの冒頭のところでございます。要件のところで,1の(2)債務者及び受益者を被告とするということに対しての一定の危惧といいますか問題があるということが指摘されています。いちいち読み上げることはいたしませんけれども,1ページの下のほうの①のところから,2ページ,3ページ,4ページの上から4行目まで,番号でいうと⑭までなんですが,都合14点を挙げて,債務者を被告とすることによって,債務者と受益者,あるいは転得者が固有必要度適用度訴訟になる,もしこういう立て付けにすると,非常に詐害行為取消訴訟が使いにくくなるのではないかというようなことが示されており,その点について御検討の材料にしていただければ幸いでございます。   すみません,今日が最後と思いますから申し上げるんですが,この意見書では,4ページの6行目から,このような判例及び立法提案の問題に鑑みるときは,被告を誰にするか,及び絶対的無効か,相対的無効かについて,むしろ明文化しないというなら格別だけれども,これを明文化するというのであれば,責任説による抜本的解決を行うほかはないというべきであるという形で結論を述べています。弁護士会の中にもそういう意見があるということを御紹介をさせていただきたいと思います。ここまでが,すみません,補充的検討の部分です。   これからは更に具体的なたたき台のほうの検討ということで,個人的意見とは別な部分で,よりよいたたき台を作るためにということでの発言とさせていただきますが,今の意見書の中の3ページのところなのですが,仮に被告を受益者及び債務者とした場合に,つまり固有必要的共同訴訟になるのではないかとした場合に,⑩と⑪のところでございます。東弁の意見書の3ページ⑩のところで,固有必要的共同訴訟とすると,債務者が期日を欠席するような場合には,受益者のみの自白や認諾というのは効力が生じなくなる。共同被告とされた者の1人のみによる不利益的な訴訟行為なので,それは効力が生じないというのが必要的共同訴訟の場合の規定ということになりますので,そういう場合には効力が生じないということで,自白があるとか認諾しているという前提での訴訟ができなくなる,常に立証が要求されるというようなことで使い勝手が悪くなるのではないか,これが⑩です。   それから⑪なんですが,固有必要的共同訴訟になると,弁論の分離ももちろんできませんので,債務者が欠席する限り,受益者あるいは転得者についてだけとの間で訴訟上の和解もできないということになる。そうなりますと,結局,和解による解決というのが日本では相当多くなされておるわけですが,その自由が奪われてしまう。取り下げてしまえばというのが一つあるわけですが,実は,これも固有必要的共同訴訟になりますと,ある被告のみが取下げによって出て行くということもできませんので,これが⑫に書かれているわけですが,取下げによる解決ということも不可能になるのではないか。このようなことを考えた場合に,今回,被告に債務者を入れるということが実際の訴訟の場面においては非常に使い勝手が悪くなる危険があるのではないか。部会の検討の際には,訴訟告知を義務づけるというようなことで一定の債務者に対する手続的な確保をしようという案も一つの案として出ていたと思いますが,今回この部会資料というか中間試案のたたき台のサンプル案をおまとめいただく際に,そちらのほうはもう完全になしにして,被告とするということになっている。このように債務者も被告とするということで,提案をおまとめになったということについては,それでよろしいのでしょうかという,あるいはなぜ訴訟告知構成は問題があるとお考えになったのでしょうかというところを1点お伺いしたいと思います。 ○金関係官 部会でも議論があったところですが,取消しの効果を債務者にも及ぼす制度とする以上,訴訟告知だけでは理論的にも実際的にも不十分であるため,被告としなければならないということだと思います。確かに御指摘いただいたような問題があり得るとは思いますけれども,そのデメリットと,被告とせずに訴訟告知だけで取消しの効果を及ぼすことのデメリットを比較して,やはり被告とするほうを選択すべきではないかという判断をしております。 ○岡委員 高須さんは遠慮がちに発言しましたけれども,弁護士会で詐害行為取消権を議論したときに,ここがやはり最大の問題になりました。それで,債務者に手続関与の機会を与えるべきというのは,皆それはそれでよろしいと。ただ,被告にしてしまうと,先ほど言ったような窮屈というか,使い勝手が悪いというよりも,実務家が使わない制度になってしまうのではないか。そういう観点から,ここについては,新しい訴訟告知の制度を作らないといけないようになるのかもしれませんけれども,そのような新制度を作ってでも,こういう必要的共同訴訟にはしないほうが実務にとっては妥当であるという意見がかなり強うございました。そういう意味では,ここで(注)も付かない,あるいは本音は乙案ぐらいにしていただきたいというところがあります。このままのたたき台では非常に実務家からは強い危惧があるということは重ねて申し上げたいと思います。 ○筒井幹事 現状が変わることへの危惧があるということは十分理解いたしますし,それを踏まえて,例えば(注)を付けるといった折り合いの付け方を探っていくことは十分考えられるとは思います。ただ,一つには,その効力を債務者に及ぼす場合に,債務者を被告とするという方法を採るのが最も適当であろうということは,これまでの議論の中でかなり明らかになってきているのではないかと思いますし,先ほどの理由の中で挙げられた和解に関しては,現在,債務者を巻き込まない形で行っている和解には理屈の上ではどういう意味があるのかということが,これまでの審議の中で問題となり,それは本来の意味での解決にはなっていないはずだということは,共通理解になっているのではないかと思います。そういうことを踏まえて,今回は債務者をも被告とするという案を提示したわけですので,それも踏まえて引き続き御議論いただきたいと思います。 ○高須幹事 前向きな議論のためにという趣旨での発言なんですが,和解が今本来的な和解ではないということがこの部会の中での議論の中で出てきた。それは正にそのとおりだとは思っておりますし,余り本来的ではないというのはそのとおりなんですが,それでも実際の裁判では和解をしておりますので,実際に裁判では和解が行われているという事実自体はやはり考慮していただいて,それに対する一定の配慮も考えていただくことが,実際の使い勝手という意味では大事だと思った次第でございます。 ○中田委員 今のとの関連なんですけれども,債務者に及ぶということの意味なんですが,取り消されると債務者が受益者に対して返還請求権を持つということになるのか,ならないのかです。これは8の「逸出財産の返還の方法」というところとも関係するのですけれども,債務者が受け取らない場合に,債権者が債務者の受益者に対する返還請求権を差し押さえるということを前提にしているのか,していないのかということです。 ○金関係官 前提としています。詐害行為取消訴訟の勝訴判決が確定すれば,債務者の受益者に対する債権が発生し,その債権を差し押さえることは可能であるという理解をしております。 ○山本(和)幹事 3点申し上げたい,基本的な全体の枠組みに対しては私は賛成なんですが,細かい点を3点言わせていただきます。   その前に,今の御議論のところですが,私,前に申し上げましたけれども,最初は訴訟告知で何とかならないかということは考えたつもりではあるんですけれども,やはりなかなか訴訟告知で既判力を及ぼすということは難しいのかなと,この前,債権者代位権における訴訟告知とか,あるいは株主代表訴訟における訴訟告知とは全く性質が違うわけですね。これはもう訴訟担当で既判力が及ぶことを前提として,手続法上として訴訟告知をやるというわけですので,それは訴訟告知で十分だということになるんだと思うんですが,これはおよそ訴訟担当では判決効の拡張は説明できないだろうと思いますので,訴訟告知で直接既判力を及ぼすという考え方だと思うんですけれども,なぜ,訴状の送達,つまり被告にせずに,しかし,効力としては被告になったのと全く同じ効果が及んでしまうのか。訴訟告知では,単に訴訟を継続したということを知らせているだけですから,自分の側で参加しなければいけないわけですけれども,そういう負担を負わせながら判決効を被告になったのと同じ判決効を及ぼしてしまうということは,やはりなかなかこれは説明し難いのではなかろうかという感触を持って,いろいろ問題があるというのは私もよく理解できるんですけれども,これは被告に必要的共同訴訟にするということでやむを得ないのかなと,今のところそういう印象を持っているということです。   あと細かい点を3点ですけれども,まず,9ページの3の(3)の推定規定の関係なんですけれども,特に後段の部分ですけれども,(3)の後段の部分ですが,これは破産法でもこういう推定規定があるんですけれども,ただ,破産の場合とは推定の対象が違うわけですね。破産の場合は,支払不能についての悪意を推定している,債務者の財産状況が悪化したことを推定しているということですので,取り分け方法が義務に属しない場合,つまりお金で弁済しないといけないのを,単に代物弁済したという程度のことをした場合であっても,支払不能,債務者の状況が悪くなっているというぐらいは知っていたんでしょうという推定を働かせるというのは破産法の考え方でそれは理解できるんですが,この場合は,通謀まで推定するわけですよね,通謀害意まで推定するわけですが,単に代物弁済したというだけで,本当にそこまで推定していいんだろうかというのがちょっと気になりました。ですから,果たして特に方法が義務に属しないものであるときの推定ということはなお考える必要があるのかなという印象を持っているというのが第1点です。   第2点は,10ページの5の(1)のアないしイのところなんですけれども,いわゆる二重の悪意を問題を生じさせないためにこのような規律を置くということは基本的には賛成です。ただ,細かい点ですが,これは詐害行為取消権の類型の1の類型にだけ対応しているように思えて,2とか3の場合,相当対価行為とか特定の債権者を利する行為との関係では要件が違ってくるような気がするんですけれども。つまり受益者,債権者を害すべき事実を知っていたということではなくて,2であれば,例えば隠匿等の処分を知っていたということになるのではないかと思います。3は支払不能を知っていたということになるのかなという感じがしまして,これ転得者否認では,その否認の原因があることを知っていたという,その全体を包含するような一般的な書きぶりになっているわけですけれども,ここで個別にこういう形で書き分けるとすると,個々的に書いていく必要があるのではなかろうかと,それでないと全体を包含できないような気がしたということです。それが第2点です。   最後,第3点は12ページの,先ほど問題になった自己に対して引き渡すことを求めることはできないということですけれども,先ほどの金関係官の御説明だと,債務者は引渡請求権を持っているということですので,債権者代位ができないのかなということです。この引き渡すことができないというのは,恐らく債権者代位としても引き渡すことができないということが前提にされているのかなという,そこは分からないですけれども,と思ったのですが,もしそうだとすると,ここの債権者というのは,恐らく取消債権者のことだけを書いているんだと思うんですが,ほかの債権者が債権者代位権で債務者の引渡請求権についてそれを行使して,自分に対して引渡しを求めることができるのかどうかということは一つ問題になりそうな気がします。相殺ができるかどうかというのは先ほどの債権者代位のところの話に関わってくるんでしょうが,しかし,少なくとも自分に対して引渡しを求めることができるのかどうかということが問題になるような気がいたしまして,取消債権者にそれを否定するんだと,私の理解では,ほかの債権者にもそれを否定すべきではないかという気がするのですが,そうだとすると,この権利は,債権者代位権の対象にはならない権利になるということになるような気がしまして,それは何かどこかで,もしそういうことであるとすれば,どこかで明らかにする必要があるのではないかという気がしました。   以上,細かい点ですが3点。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○深山幹事 15ページの12のところについて意見を申し上げる前に,提案の趣旨を確認させていただきたいんですが,確認したい点は2点あります。まず1点目は,ここで提案されている(1)に書かれているような場合に,債権者は受益者に対して,簡略化して言えば,差額のみの請求をすることができるという意味合いは,債権者は,自分に払えと請求できるということを言っているのか,債務者に払えと請求できると言っているのか,どちらなのか。8との関係で,8では直接請求は否定しているわけですが,それとの関係で,受益者に対して請求できるのは,自分に払えということなのか,債務者に払えということなのかということがまず1点目です。それから2点目は,「のみ」を請求できるという点の「のみ」の意味なんですが,これは単純に理解すれば,このような差額請求しかできなくて,全部の請求はただし書の場合以外はできないと読めるので,そういうことなんですかという点です。まずそこを確認させていただければと思うんですが。 ○金関係官 1点目は,債務者に支払えという趣旨です。2点目は,のみという趣旨です。 ○深山幹事 では,そのことを前提に申し上げますが,そうなると,債権者の請求の仕方が,本文の場合では全額請求はできなくて差額だけになるということで,その提案の意図するところは,簡便な決裁ということなのだろうと思うんですが,しかし,簡便さはさておき,それが取消制度の在り方として,その制度の趣旨に適うのかという点に疑問があります。この12で提案している場合,すなわち金銭が戻ってくる場合というのは,例えば,債務者が受益者の持っている財産を不当に高く買ってしまった,例えば,100万円の価値のある物を1,000万円で買ってしまったというときには,1,000万円が流出するわけです。それを詐害行為だからということで取消して,その流出した代金1,000万円を戻させる。そうなると,反対給付の100万円の価値のあった物は戻さなければならない。そこでその差額の900万円だけを戻すことになるという場面の設定でよろしいのかと思うんですが,確かに計算上は100万円の価値の物が債務者の下にあって,多く出て行った900万円の現金が戻ってくるから,帳尻としては合うんですけれども,しかし,取消債権者からすると,1,000万円の現金が戻ってきたほうが有り難いということは十分あるんだと思うんです。そういう意味で言うと,ここは差額を認めることの意味は分からなくはないので,こういう選択肢を入れることは有益だと思うんですけれども,この差額請求だけしか認めないというのは,やはり余り合理性がないのではないかと思います。そこは取消債権者の選択に委ねて,差額だけを戻せという請求もできるし,反対給付を戻すことを前提に全額戻せという請求もできるとして,そのいずれかを選ばせてもいいのではないかという気がいたします。この点について,何らかの形で,(注)にでも記載して議論の余地を残していただけるような記述にしていただければと思います。 ○畑幹事 詐害行為取消権の基本的な構造について,先ほど議論があったところですが,私個人としては,山本和彦幹事がおっしゃったようなハードルがいろいろあることは確かですが,固有必要的共同訴訟ということを回避することをなお考えたいなという気がしております。この場合,既判力を債務者に及ぼすというよりは,多分,形成力を及ぼすことが問題となっているのではないかという気もいたしますし,もう少し考えられないかなという印象であります。   それから,16ページ,13の転得者に対する詐害行為取消権行使の効果のところであります。これはここのゴシックになっている提案自体はあり得る提案だと思いますが,これまでの部会あるいは分科会でも申し上げたように,倒産法学的には,現行法の解釈として,転得者は基本的には自分の前者に対して担保責任的なものを追求し得ると書かれていることがかなりあると思います。それを前提にしても,この提案というのはあり得るのですが,どういう意味であり得るかというと,担保責任の追及に加えてこういうある種の直接請求的なものを置くかどうかという問題,提案として理解することができ,それ自体は検討の余地があると思います。したがって,本文ではなくて(概要)なり(備考)なり何なりということになるとは思うのですが,倒産法の分野では先ほど述べたように考えてきた人も結構多かったということを踏まえた説明にしていただけないかなという気がしております。   それから,最後に,これはこの段階でどこまで絞るかということに関わると思うのですが,ここで取り上げられなかったものの中で,無償行為についての取消しの話があります。ここに上がっているほかのこと,つまり取り上げられなかったものというのは,確かになかなか難しいのでしようがないかなという気がしているのですが,無償行為ぐらいはまだ検討の余地はあるのではないかという気が個人的にはしております。この段階でどこまで絞るかということはいろいろ難しいところだろうと思いますが,何となく私が今まで関わってきた立法準備作業の感覚で言うと,中間試案としてはかなり絞りに入っているなという印象がないではありません。もちろん事務当局には私などよりももっと経験が蓄積していて,それに基づいて考えておられるのだと思いますし,最後の点は感想だけですが。 ○筒井幹事 この段階で絞り過ぎているのではないかという御指摘は,あるいはお褒めいただいたのかもしれませんけれども,ある論点をこの段階で落とすかどうかということに関しては,基本的にはサポートする意見がどれぐらいあるのかというところに懸かっているのだと思いますので,もし更に御意見があればお聞かせいただきたいと思います。 ○中井委員 今日お手元に大阪弁護士会民法改正問題特別委員会有志の修正提案をお届けしています。私はメンバーではありませんけれども,今回の中間試案のたたき台について,従前から検討しているチームからこのような提案がありました。事務局提案に対して線を入れており,大変失礼な形になっておりますが,分かりやすさの見地からこのようにしたと聞いております。   全てを紹介することはいたしませんが,先ほどの深山幹事と畑幹事のおっしゃっている後ろの細かな論点を先に申し上げておきます。深山幹事から,12で,「価額を控除した額の返還又は償還のみを請求することができる」と,限定されていることの御指摘がありました。大阪意見書もそのことについて論及をしており,深山幹事と同じ意見であるを申し上げております。   同じことは11においても,15ページの上から4行目に明確に指摘されておりますけれども,反対給付について現物があっても価格の償還請求のみを認めている。反対給付の現物返還の選択の余地はない形にしております。この11と12が対になっているわけですけれども,その点について,そうでなければならないのか疑問に思っております。   その背景として,部会資料13ページ9の(2)があるのだろうと推測されます。つまり9の(2)は,詐害行為取消権を行使した債権者の費用について一般先取特権として認める,この点については大阪も賛成をしております。他方で,11の(2)で,現物は返す,他方で,反対給付について金銭で返してもらうときに,この金銭について特別の先取特権を認めるという提案がございます。この提案について,大阪弁護士会も賛成しております。ただ,この優劣について果たしてこれでいいのかということについて疑問を持っております。これは,詐害行為取消権,つまり,例えば1,000のものを300で廉価売買したという場合について,何が財産の逸出と考えるかということに考え方の違いが出ているのかもしれませんが,その1,000の財産が出たこと自体を取り戻そうという発想,だから,1,000の回収費用が優先される。もう一つ別の考え方は,1,000のものを300で売ったんだとすれば,廉価売買ですから,債務者から700の財産が減少したと,こう考えたときに,700の財産を取り戻すことに意義がある。費用についても,700の取り戻しにかかった費用を認めれば足りる。最初の考え方だったら,1,000を取り戻すのに400の費用が掛かったなら,その400の費用を優先して取り戻すという考え方と思います。大阪の考え方は,今のような場合は,詐害行為取消権で債務者財産の回復というのは,700を回復するため,その限りで費用の優先権を認めればいい,これは300の特別先取特権が優先するという考え方に結び付くのではないかと思います。その考え方を採るとすれば,11についても,価格の償還請求のみを認めるのではなくて,価格の償還請求,若しくは反対給付,現物の返還を認めてもいいのではないかという考え方につながると思います。   また,13と14,転得者のところですが,この提案では,13でいいますと,ゴシックの後ろから3行目からですが,「10又は11の権利を転得者の前者に対する反対給付の価額,又は転得者が前者に対して有していた債権の価額の限度で行使することができる。」,つまり,転得者が前者に対して有していた権利の価額を限度とするという要件が13で入っておりますし,14でもただし書で入っております。これが果たして必要なのか,これを削除する提案を大阪はしております。大阪も従前の意見を変えているんですけれども,典型例は,今の廉価売買で,最後の転得者が前者から贈与でその財物を受け取ったという例を考えていただければ結構です。そのとき,最初は廉価売買で1,000のものが300で売買された。最後の転得者は,無償で贈与を受けて,ゼロで取得した。悪意の場合,そのものの返還を求めることができるわけですけれども,部会資料であれば,転得者は1,000の財物全部を戻す。前者に対しては,ゼロの請求権しかありませんので,たとえ受益者が債務者に対して300返せという権利があったとしても,1,000の財産を返すだけのことになる。そうすると,債務者は300の対価を受け取りながら,なお1,000の価値のある財物を回復することができる,行き過ぎではないか,こう考えるわけです。そうすると,この限定がなければどうなるかですが,この原則どおり,転得者も1,000の財産を返すわけですけれども,受益者の持っていた債務者に対する300,これを特別の先取特権として行使できる。結果として,債務者は700の失った財産がそのまま700回復される,それでいいのではないか。結果として,最後の転得者はただでもらった財産を失いますが,300という金銭が留保できる,これは贈与を受けた者にとっては何ら不当な利益ではないと考えるわけです。同じことが14についてもただし書のところについて言えるのではないか。このようなことが先ほどの大阪弁護士会の意見書の後半部分に書いております。 ○松本委員 今,中井委員が御指摘されたところと一部重なってまいりますが,11についてです。これは第1ステージのときも同じ趣旨のことを申し上げたと思います。受益者が現物を返還し,債務者が受益者に対して金銭の形で返還しなければならないというパターンの場合において,その受益者が返還したところの現物に対して特別の先取特権を受益者が有するというのは,受益者の権利をほかの債権者に比べて保護し過ぎではないかという指摘をいたしました。こういうルールが置かれた根拠として,破産法の条文に合わせたんだという説明が今回もされているわけですが,破産法は,債務者の財産全体の清算ですから,受益者が支払って債務者が受け取った金銭は,債務者の総財産の中のどこかに紛れ込んでいるので,財団債権として優先弁済を受益者が受けるというのは,論理的にはそれでいいのでしょう。しかし,破産法も否認された財産処分の場合に,その当該財産について特別の先取特権だというふうな説明はしていないはずなので,そうだとすると,破産法が財団債権としているから,詐害行為取消権でも特別の先取特権にしましょうというのは,少し論理の飛躍があるのではないかと思います。という意見を出しましたところ,今回の案では,(2)の「ただし」というところで,反対給付について隠匿等の処分をする意思を債務者が有しておって,受益者がそのことを知っていた場合は,特別の先取特権は認められないんだということで,少しバランスを取ったかのような提案になっております。   これに対して,先ほどの大阪弁護士会は反対をされて,これよりはもっと広く先取特権の成立する場合を認めるべきだと,たとえ隠匿等の意思があって,それを受益者が知っていた場合であっても,先取特権をもっと認めるべきだという提案をされています。いみじくも中井委員が説明されたように,一部取消しの論理なんだという説明であれば,それはそれなりに一貫しているかと思います。対価関係がきちんと成り立っていない形での売買が行われた場合には,その対価関係の釣り合いのとれていない部分についてのみの詐害行為なんだから,そこの部分だけを取り消す。一つの特定物の売買契約の取消しであっても,実際上は一部取消しにすぎないんだ。それ以外の分は取消しの対象になっていないんだというロジックをとれば,この(2)の前段は成り立つし,さらに,大阪弁護士会の提案されているような後段についても先取特権を認めましょうというのは,一貫しているかなという気はするわけです。しかし,この11(2)の御提案自身は,そのどちらでもない,足して2で割るような感じなので,これでいいんでしょうかという疑問です。破産法のロジックをそのまま持ってくるのは,ちょっと行き過ぎではないかという点と,破産法のロジックをそのまま持ってこない場合を説明するロジックとしては,一部取消しを前面に打ち出すのであれば,一定の説明は可能かもしれないけれどもというところです。ところが,「ただし」の部分を大阪弁護士会のような提案でいくと,相当対価で売却がされて,しかし,隠匿の意思があって,それを受益者が知っていて詐害行為取消権の例外的な適用が認められた場合であっても,全額について先取特権を有するということになって,それは前回の第1ラウンドで松岡委員が指摘されていたと思うんですが,受益者を保護し過ぎになりすぎるのではないかという印象を持ちます。 ○中井委員 大阪弁護士会有志案を検討していただき,ありがとうございます。大阪有志案の考え方は基本的に法務省の原案に賛成する立場です。それに幾つか修正を加えているというところです。   今の11の提案についても,先ほどの価格償還に限るという点については,それに限らなくてよい。反対給付が現物のときには,反対給付の現物を取り戻す権利を認めてもいい,その選択権を与えてもいいだろうというのが一つです。   二つ目は,倒産の場面ではどうか,破産の場面では,廉価売買の場合,1,000の財産を破産財団に戻せば,逆にそこに300のものがあれば,300を戻すという規定になっている。それと平仄を合わせるという考え方に賛成である。ところが,隠匿等の意思のある場合,破産法はどうなっているか,1,000について戻したときに,悪意であれば戻す権利は破産債権として扱い,優先的に戻さないのを原則とする。ただし例外があって,現存利益があるときは,現存利益に限って財団債権として取り戻すことができる。大阪はその考え方を11(2)の後半についても入れているわけです。この法務省提案は,隠匿等の意思があれば全て優先しない,全て請求できない,つまり全て破産債権にするという考え方になっている。しかし,例外的に債務者のところに現存利益があれば,その限りで財団債権とするという考え方を流用するとすれば,現存する限りにおいて先取特権を認めていいのではないか,こういう提案です。したがって,大阪提案の9ページの枠の中に,債務者の財産中に現存する場合に限りと書いておりますので,先ほど松本委員がおっしゃられた全額そのまま取り戻すことになるという趣旨では決してなくて,現存している限りにおいて先取特権を有すると,こういう考え方です。 ○高須幹事 すみません,幾つか質問及び意見を申し述べたいのですが,取りあえず,今日,質問事項というものを一応私の名前で配布いただきました。その1ページ目だけまずお話ししたいと思います。   第2の6ところ,11ページの第2の6の詐害行為取消しの効果のところについてでございますが,本文のほうでは,認容する確定判決は全ての債権者に対してその効力を有すると書いてあって,確定判決効の拡張のように読めるわけですが,(概要)欄には,判決の形成力が全ての債権者に及ぶと書いてありまして,この場合のお作りいただいた資料の御提案と趣旨が,請求認容判決について形成力のみの拡張を認めるのか,あるいは既判力等も含む判決効の拡張そのものを意味するのか,ここについてむしろお考えのようなものがあればお聞かせいただきたいと思います。ペーパーには書いてあるわけですが,確かに考え方としては,行政事件訴訟法32条の取消し判決などは形成力のみだというような御説明があり,一方で,会社法の株主総会決議取消判決などは,むしろ,これも説の争いがあるところではあるんだと思いますが,多数説意見では形成力に限らず既判力も及ぶという考えもあるようでございますので,考え方によるんだと思いますが,今回の場合,詐害行為の場合にはどういう趣旨にしたらよいのかという問題があるのだろうと思います。もし定まったお考えがあるというなら教えていただきたいと思いますし,あるいはこれも解釈に委ねるんだということがあれば,それはそれで一つの態度だとは思いますが,状況をお聞かせいただきたいと思います。これが1点です。   もう1点が,やはりペーパーの2のところに書かせていただいたのですが,この部会資料の全ての債権者に及ぶという(概要)欄の中に,詐害行為時や判決確定時の後に現れた債権者を含むと書いてありまして,詐害行為後の債権者に対しても責任財産を構成するというか,強制執行のときに,簡単に言えば配当を受けることができるという,こういうふうな趣旨にするというような御主張だったと思うのですが,詐害行為後に登場してくる債務者の債権者というのは,本来であれば当該財産については責任財産としての当てになっていなかったわけでありますから,物権的に戻ってきたんだから,配当してもいいではないかという発想というのは,一つの考えではあると思いますが,やや乱暴ではないか,もう少し緻密な解釈をしてもいいのではないかというような思いがしておりまして,その点はどうなのでしょうかというのが1点です。   ペーパーのところの2の第2パラグラフというんでしょうか,「取り分け」のところで書かせていただいたんですが,価格償還請求の場合などには,今回の提案ですと,価格消化も一旦債務者に返すというような形で,恐らく強制執行ということだと,債権執行をするという形になるんだと思います。その場合の今の実務の在り方を考えますと,現在の執行実務の慣行を前提とすればという部分でございますが,1個の債権について,その全体を差し押さえるということはしないで,請求金額に満つるまでという形で差押えを認めているという状況だと思います。すなわち超過差押えにならないように配慮していると思われますので,他の債権者か別途債権執行に加わってくる,こないによって,第三債務者がどの程度の執行を受けるかの範囲は変わってくるのだろうと思います。そうしますと,もし,不動産のときのように,物自体が戻ってきているんだから,全ての債権者が強制執行に加わってもいいではないかという,そういう議論を,この価格償還の場合にしますと,必ずしも戻ってこない,受益者なり転得者なりに結果的にではあるかもしれませんが,留保されている部分まで,詐害行為後の債権者が加わっていけるというようなことになるのではないかと思いまして,そうなると,あるいは具体的な結論においても現実的な妥当性というものを欠くのではないか。取り分け受益者,転得者のほうにも債権者というのはいるわけですから,その責任財産を構成するという面を考えると,取消債権者側のほうだけが全てを持って行くみたいな発想でいいのかどうか,ここは考える余地がもう少しあるのではないかと思っておりますが,この(概要)ですと,当然のように書かれておるんですけれども,そこはそう考える余地はないのでしょうかということでございます。 ○金関係官 まず1点目ですけれども,部会資料51の18ページの「取り上げなかった論点」の2番目に,詐害行為取消訴訟の競合という論点があります。そこでは,詐害行為取消訴訟は,各債権者が自己の有する詐害行為取消権を訴訟物としてそれぞれ訴訟を提起し,それぞれ個別に手続が行われ,それぞれ個別に判決がされる,形成力の拡張はされるが既判力の拡張はされないという趣旨のことを具体的に明文化してはどうかという提案がされて,その提案に関する部会の審議では,提案の内容自体に問題はないけれども,あえて条文に書くまでのことではないといった御意見を頂いたところです。今回の提案はそこでの議論を前提としておりましたので,既判力についてはそれぞれ個別にのみ生じるという前提でおりました。   次に,2番目の点の前半ですけれども,御指摘のとおり,債務者の全ての債権者というのは,詐害行為時の債権者に限らず,現在の全ての債権者という趣旨で今回の提案をしております。その理由として,まず一つには,例えばある債権者が詐害行為取消権を行使したことによってある不動産の登記名義が債務者に戻ってきたことを前提に,他の債権者が新規の融資をしたという事例で,その債権者がその融資に関する債権を請求債権としてその不動産の強制執行をしようとしたところ,実はこの不動産はある債権者が詐害行為取消権を行使したことによって債務者に戻ってきたものだから,詐害行為後に新規融資をして新たに債権者となった者はその不動産を強制執行の対象とすることはできません,という結論になるのは相当でないだろうという点が挙げられます。もう一つには,今回の提案では,債務者に詐害行為取消しの効果を及ぼすこととしておりますので,債務者は詐害行為取消しの効果によって完全に自己の所有権を回復することになります。そのことを前提としますと,詐害行為時の債権者かどうかを問わず,全ての債権者が,債務者の所有権の回復を前提に行動してよいということになり得るのではないか,この点も一つ挙げられるかもしれないと考えております。 ○山本(和)幹事 今の第1点なんですけれども,私は分からないところがあって,この形成力か既判力かという議論は,行政訴訟,取消訴訟とか,株主総会決議取消訴訟では,私は余り実益がない議論かなと思って,既判力が及ぶからといって,そこで何か具体的な違いが生じる場面は余り少ないのではないかなと思っているんですが,この場面も果たしてそうかどうかというのはよく分からなくて,例えば,詐害行為取消しがされたことを前提として不動産が戻ってきた。それに強制執行を掛けてほかの債権者も配当に参加した。ところが,受益者が後で,ほかの債権者に対して,いや,あの詐害行為取消しは要件を欠いている。だから,取り消されていないんだ。取消しは自分の財産なんだ。だから,その配当は不当利得だというような不当利得返還訴訟なんかを起こしたときに,その他の債権者には既判力は及ばないと言っちゃっていいのかどうか,それが実体法上,不当利得として成立するかどうか私はよく分からないですけれども,詐害行為の要件を欠いているという主張がなお受益者は後から,他の債権者に対してはできるという,既判力では遮断されないということで果たしていいのだろうかということはちょっと気になっていますので,果たしてこう断言していいのかなというのはちょっと心配なところもあるんですが。 ○金関係官 ありがとうございます。他の債権者と債務者に形成力さえ及んでいれば今御指摘があったような問題は生じないという考え方が一つあり,その考え方に従って先ほどの発言をいたしましたが,そもそもここでの提案は,本文で形成力に限定するとしているわけではありませんので,概要欄の形成力に限定する旨の記述を,今の山本和彦幹事の御指摘を踏まえて修正するということになろうかと思います。ただ,敗訴判決の既判力が他の債権者にも及ぶとすると現在の実務や一般的な説明と異なることになると思いますので,その点は引き続きこの勝訴判決に限った場合の既判力の拡張というところで説明をすることになるとは思います。その理解を前提に適宜の修正をしたいと考えております。   それから,先ほど高須幹事から頂いた御質問のうち,最後の点についてお答えしないままになっていると思いますけれども,受益者や転得者が価額償還請求をすべき場合に,全ての債権者が債権執行をしてくると,受益者や転得者が本来確保し得るはずの金銭まで債権執行の対象となってしまうのではないかという御指摘だったかと思います。全ての債権者が強制執行をすることについては,それを不都合であるとは考えていないということを先ほど申しましたが,もう1点,今回の提案では,詐害行為取消権が行使されると,その取消しの効果が債務者にも及ぶということですので,仮に余剰があったとしても,それは本来受益者や転得者ではなく債務者の手に渡るべきものだという理解をしております。ですので,受益者や転得者が本来確保し得るはずであるという前提の部分において,価値観や立場の対立があるということだと思います。現在の部会資料の立場を前提としても,受益者の保護の観点から言えば,受益者の反対給付返還請求権に優先権を認めたり,詐害行為取消しの範囲について広げはしましたが一定の絞りを掛けたりといった考慮をしておりますので,それをどのように評価するかという点も含め,高須幹事の御意見を踏まえた検討をしたいと思います。 ○中井委員 恐る恐るですけれども,1の「無資力の」という言葉が入ったわけです。最初に質問をさせていただくと,同じ1の(5)のアですが,行為の当時,債権者を害すべき事実を知らなかったとあります。これは今の条文と同じ言葉のただし書を使っているわけですが,この債権者を害すべき事実というのは何を指すのか。それは,体裁からすれば,(1)の無資力の債務者であることなのかどうか。この債権者を害すべき事実というのは,例えば5,転得者に対する詐害行為取消しの要件のところでも何箇所か出てきます。したがって,この債権者を害すべき事実というのは,一般的概念として今後とも詐害行為取消しの条文の中に出てくるのかと思うんですが,この意味するところと無資力の関係について教えていただければと思います。 ○金関係官 御指摘のとおり債務者の無資力を知っていたことが中心になってくるとは思います。ただ,行為の態様によっては,例えば債務者が廉価売却の買主になるというような場合であれば,その行為は客観的にも詐害行為に該当しないということでしょうけれども,主観的な債権者を害すべき事実を知っていたかどうかという観点から見ても,その場合にはたとえ債務者の無資力を知っていたとしても債権者を害すべき事実を知っていたことにはならないということにはなると思います。 ○中井委員 お尋ねしたのは,現在の424条は,本文が債権者を害することを知ってした法律行為の取消し,ただし書で,債権者を害すべき事実を知らなかったときは,この限りでない。これは明らかに対になっている。破産法の否認は,160条1項で,破産債権者を害することを知ってした行為で,破産法には,無資力という言葉は出てこない。大阪提案との関連で質問をしているわけですけれども,ここで無資力という言葉を使わなければいけないのか,結局は債権者を害すべき事実を知っているかどうかだとするならば,債権者を害する事実を知ってした行為,つまり現行法と同じ規律に結局はなるのではないか。それを頭だけに無資力と持ってくることの意味なんです。実際これが果たして単純債務超過なのか,支払不能との関係などについて考えなければいけないのか,かえって議論が混乱しないか。破産法との関係で違う概念なのかどうかという議論も出てくる可能性がないのか,この辺りの懸念を持つものですから,明確にする必要があると感じた次第です。 ○金関係官 ありがとうございます。念のため前提を確認させていただきますと,ここでの提案は,詐害行為取消権の要件として債務者の無資力が必要であると一般的に言われているところを条文上も明記するという趣旨のものですので,何か新しい規律を設けようというものではありません。今の中井委員の御指摘の趣旨は,そもそも無資力要件は不要であるということなのか,そうではなくて,無資力要件は必要だけれどもそれは債権者を害することを知ってした行為という要件で読み込めるから明記は不要であるということなのか,仮に後者であるとすれば考え方の対立はなくて,条文に明記するかどうかの問題だろうと思いますので,確認をさせていただければと思います。 ○中井委員 実質論としては対立はないと理解しておりまして,表現としては,大阪提案のこの文書の1項(1)にありますように,現行法と同様,債務者が債権者を害することを知ってした行為で足りるのではないか。つまり法律行為を行為と直しているだけですが,それでいいのではないか,主観的要件についても債権者を害する事実を知っていたか,知らなかったかが問題になる。偏頗行為の部分については,支払不能であることを知っていたか,知らなかったかが問題になる。その規律の仕方は破産法と平仄が合っておりますので,一般的理解を損ねることはないのではないか。ここであえて別の言葉を持ってくることによる混乱があるのではないか,こういう懸念です。 ○三上委員 今のところの関連で,誤解していたら恐縮なんですけれども,行為時に債務者は無資力である必要はあるんですよね,通説では行為時に無資力でなければ,事後的に無資力になっても対象にならないという,そういう意味での無資力の債務者ですよね。 ○金関係官 はい。 ○三上委員 それで,「害する行為」をしたということで,破産の否認にあるような,「知ってした」という部分がないというのは,主観意図を問わずに,客観的な現象面で判断するという趣旨なのでしょうか。 ○金関係官 御指摘の「知ってした」に対応する部分は,部会資料51の6ページの(1)の「債権者を害することを債務者が知っていたときは」という文言です。現行の民法424条では,「債権者を害する行為をした」という客観面と,「債権者を害することを知っていた」という主観面とが,一口で「債権者を害することを知ってした行為」と表現されていますが,今回の提案はそれを二つに分けて表現しようとするものです。ただ,主観面と客観面の相関関係で詐害性の判断をするといった発想を変えようという意図はありません。 ○三上委員 それなら結構です。そういう意味であれば,支払停止があった後は,「知って」は外れないんですか。 ○金関係官 はい。御質問の趣旨は恐らく破産法160条1項2号の規律を民法に取り込むのかということであると理解しましたが,その提案はしておりません。 ○中田委員 大阪弁護士会の御提案についてお伺いしたいんですけれども,破産手続開始原因を要件にするということなんですけれども,そうすると,法人の場合は,債務超過でもよいという理解でよろしいんでしょうか。   それからもう一つ,支払不能を要件とするということと,債権者取消権が責任財産の保全の制度であるということとがどう結び付くのか,この2点について教えていただければと思います。 ○中井委員 二つとも大阪に対する質問でしょうか。   第1点目は,1項の(5)のイの部分で破産手続開始の原因となる事実としている部分についての御指摘かと思いました。この趣旨を先に申し上げておくと,部会提案は,債務者が上記1の行為の後,無資力でなくなった場合となっていますけれども,無資力だった,一旦資力が回復した。そうしたら行使はできない。果たしてそれでいいんだろうかというのが大阪の素朴な疑問です。その後再び無資力になったらどうなるのだろうか。その問題を解決するという別案として,詐害行為取消権を行使するときに無資力でないと駄目ではないか,若しくは無資力に代わる要件が必要ではないか。この無資力に代わる要件としてここで,取消しのとき,つまり口頭弁論終結時になりますけれども,債務者について無資力であるか,それに代わる概念として適切なものがないかと考えて,ここでは破産手続開始の原因となる事実を想定したわけです。それがなかったら行使できませんよと。行使時基準にしましょう。その意図は,詐害行為した後一時的に資力が回復した,再び無資力になった,果たしてそのときにその前の詐害行為を無罪放免していいのかどうかについては解釈に委ねたほうがいいのではないか。少なくとも行使時点について資力が回復しているときには使えない,行使できない,資力が回復していなかったら取消権を行使できるという規律がいいのではないかという考えに基づく修正です。   なぜ,「無資力」という言葉を破産手続開始の原因としたかという,そちらの問題については,大阪弁護士会は「無資力」という言葉を外したから,それに代わるものとして何がといったときに,破産手続開始の原因が適切であると考えた次第です。まだ検討不足かもしれません。留保させていただきたいと思います。   二つ目の支払不能の御質問の趣旨が理解できなかったので,もう一度御指摘いただければと思いますが,よろしいでしょうか。 ○中田委員 大阪弁護士会のご提案では,1で破産手続開始原因と書かれ,3で支払不能という概念を取り入れておられるので,この部分です。これはむしろ事務局にお聞きしたほうがいいかもしれませんけれども,支払不能という概念を取り入れることについて責任財産保全という詐害行為取消権の制度の趣旨との関連をどう考えるのかということだったんです。ただ,それはむしろ事務局にお聞きしたほうがいいかもしれませんので,併せてこの点について質問なり意見を申したいと思います。   部会資料51の第2の3(1)について,今回の御提案は,偏頗弁済については,無資力+支払不能+通謀害意という三つの要件を重ねていて,かつ事後的に支払不能又は無資力でなくなったときには消えるという,こういう規律の御提案なんですが,何か非常に複雑で重いなという感じがします。ただ,これは恐らく部会資料35について様々な意見があって,それを集約しようということでこういう御提案になっていると思いますので,ここでそういう方向でまとまるのであれば,それはそれで仕方がないのかなとは思いますが,実際上はやはり非常に使いにくくなるだろうと思います。破産法の否認権の規律とそろえるという方向は私も賛成なんですけれども,形式的にそろえようとすると,今回の御提案のように非常に重くて複雑な要件になって,詐害行為取消権の機能を損なうおそれがある。危機時期における債務者の再建再生を支援するという考え方は,破産法でも民法でも共通するものとすべきだとは思うんですが,ただ,形式的に否認権の枠の中に収めようとすると,非常に複雑になって私的整理への支障など別の問題が生じる。そうすると,むしろ破産の場合と詐害行為の場合とを実質的にそろえることを目指すほうがいいのではないかと思っております。  ただ,もうこの段階ですので,なかなかそれが難しいのだとすると,具体的にどう解決するかなんですが,私は本来は対象を絞り込んだ上で無資力を推定するというような形で対応すればいいと思っております。しかし,それが難しければ,無資力要件については,これは御提案どおり残して,それは債権者が証明するわけですが,支払不能要件については,被告側で証明する,受益者のほうで債務者が支払不能でなかったということを証明すれば否定されるというように割り振ることによって,破産法の考え方と民法の考え方とを調整できないだろうかということを考えたんですが,いかがでしょうか。 ○沖野幹事 今の中田委員の御提案に対して,そのような考え方を更に検討してはどうかと思います。と申しますのは,この特定の債権者を利する行為の特則についての要件がやはりいかにも重いと思われます。無資力で支払能力で通謀害意ということですので。なぜそうなっているかというと,倒産法とのいわゆる逆転現象への対応であるということと,それから,例えば先ほど来問題になっております一番基本的な1の要件では支払不能というのは入れずに無資力というのが詐害行為取消の基本である。それを明示するかどうかという問題があるということでしたけれども,そういう制度として構築しながら,ここだけ支払不能を入れるというのは,やはり破産法よりも,よりこちらのほうが広いという場面が出てくることは望ましくないという考え方であると思います。そうであるならば,基本は無資力+通謀害意なんだけれども,しかし,支払不能ではないというようなことであれば別だという形で,消極的な要件にするというのはそれなりの理由があるのだと思います。破産法と証明責任が違ってきて,その点で詐害行為取消のほうがやりやすくなるという面があるのかもしれませんが,元々要件が3本立てになっているということですので,その実体的な要件からしても,その点は必ずしも懸念に当たらないのではないかと思います。   3についてもう一つなんですけれども,通謀して他の債権者を害する意図というのが何を指すかということは従来から問題ではあるのですが,それも解釈に委ねるということに最終的にはなるんだと思いますけれども,ここで確認したいのは,無資力と支払不能についての主観的要件との関係でして,1については,無資力であることを知っているかというのは,受益者が債権者を害すべき事実を知っていたかということで,無資力であるという状態で,かつ債権者を害するような行為をしたという,両方含んだ概念として構築されているということですので,通謀して他の債権者を害する意図を持ってということ,それは当然無資力であるということは認識した上でということなんですけれども,支払不能まで当然に認識しているのかということで,もし,支払不能まで当然認識しているのであれば,支払不能というのは,ここにもう既に組み込まれてくることにもなりそうで,そうではないとずれるということだとすると,その部分の主観は必要ないのかどうか。そうしますと,もし消極的要件にするならば,支払不能ではなかった,あるいは受益者が支払不能ということは知らなかった。だけど,無資力とは別概念であるという前提なのですけれども,その点も考える必要はないだろうかと思います。   併せてあと1点別の項目で,14についてなのですけれども,本日お配りいただきました訂正なんですが,この訂正は前記10により債務者に対して行使することのできた権利又は価額を控除した額と続くんでしょうか。この権利の価額のほうかもしれませんけれども,この権利分を評価して,それを引くという御提案なんでしょうか,まず中身の確認なんですけれども。 ○金関係官 はい。権利の価額又は反対給付の価額という趣旨です。 ○沖野幹事 そうしますと,10というのは,偏頗型のといいますか,受益者が弁済を受けた,例えば,代物弁済を受けたというような場合に,まずは物を返還しないと債権が復活しないということで,その債権が復活した場合については,13で転得者は代位行使していくということになるんですけれども,その場合には,13で代位行使していくという場合には,この受益者の地位をそのまま承継する形なので,受益者が直ちに権利行使ができなければ,もうそれは権利行使ができない。実質的には劣後するだろうということになると思うんですけれども,ところが,14の局面では,受益者であれば劣後するだろうところ,転得者との関係では優先的にその分取るという規律になりそうなんですけれども,そういう規律にならないでしょうか。取りあえず疑問を伝えたので,私が非常に誤解をしているかもしれませんし,今日頂いた提案なので,全く誤解かもしれませんが,そうでなければ検討していただければと思います。 ○中田委員 私も細かいところをもう一つだけなんですけれども,7の詐害行為取消しの範囲というところなんですけれども,債権者はその詐害行為以外の行為の取消しを請求できないという規律なんですが,この範囲なんですけれども,基準時との関係なんですが,一旦詐害行為取消しをした後で,別の債権を取得した場合には,その債権に基づいて行使するということは可能だと理解しますけれども,それでよいかどうかです。   それからもう一つは,債権者が複数の債権を持っていて,そのうちの一つの債権に基づいて詐害行為取消しをしたときに,残りの債権に基づいて他の詐害行為を取り消すことができるのかどうかという問題もあるように思いました。これは多分書き方を明確にすればはっきりすると思うんですけれども,今のままですとその辺りちょっと曖昧ですので,御検討いただければと思います。 ○金関係官 中田委員から御指摘いただいたところは,可能であることをより分かりやすく記述せよということだと理解しましたので,改めて検討させていただければと思います。 ○高須幹事 何度も申し訳ありません。お配りさせていただいたペーパーの2ページ目の3のところでございます。今出ております部会資料ですと,11ページの8の逸出財産の返還の方法のところでございますが,確かに,どのようなものが逸出したかによって返還方法が異なる,そのとおりだと思います。部会資料12ページに入っていくわけですが,アとイのような場合,つまり登記がある不動産の場合や,債権であるような場合については強制執行が,基本的にその詐害行為取消訴訟で請求が認容されれば,その後速やかに強制執行手続に入ることができる,こういう立て付けになるだろうと思います。ところが,ウとエの場合なのですが,これが,あるいは私の執行法の理解が間違っていれば,むしろ御指摘いただければそれで結構なんですが,私なりに考えた結論ですと2ページ目,これは私のペーパーの方ですが,2ページ目の3のところなんですが,逸出財産が動産なり金銭,金銭が特定できる前提で動産扱いになる場合ですが,その場合については,債権者が債務者に対して一定の金銭債権を持っていて,債務者は,受益者に対して,その動産なり特定金銭なりを返してもらうという権利を持っているという話になりますから,その動産なりを差し押さえるには,もし第三者が受益者,転得者のことですが,任意に提出する場合には,民事執行法の124条で,その第三者が執行官に任意に提出して動産執行を掛けてしまえばいい。このときは速やかに判決が出ることによって執行段階に移れるんだろうと思います。問題は,第三者が任意の提出を拒んだ場合でございまして,このとき,私なりの理解では,債権者が債務者に対して,今のように金銭債権についての債務名義を有し,金銭執行を行うという前提を維持する限りは,民事執行法の163条の動産引渡請求権,これの差押え命令の執行になるのではないかと思いました。これによると,差押えの日から1週間以内に執行官にその動産を引き渡すべきことが請求できるという規定にはなっておるわけですが,これ自体には強制力がありませんので,第三者が任意に引き渡さないときには,第三債務者が引渡拒絶のケースとして,差押債権者がこの者を被告として,執行官に引き渡すべき旨の訴訟を更に提起しなければならない。いわゆる取立て訴訟と同じ扱いだと思うんですが,そうなるのではないかと。その勝訴判決をもって初めて実行ができるのではないか。そうなると,詐害行為取消訴訟で請求認容判決をもらった上で,改めてこの訴訟を起こさねばならないとなると,二度の訴訟が必要となり,相当時間が掛かるのではないか。いわゆる時間のコストみたいなことが課題になりはしないのだろうかという質問です。あるいはもうそれに対しては,今回の御提案だときちんと答えが用意されておりますというのでは,それで全く結構なんですが,ちょっと教えていただきたいと思います。   同じ構造は,(2)の価額償還の場合も同様でございまして,よりストレートだと思うのですが,価額償還請求が今回は受益者,転得者から債務者に支払うんだということになれば,債権者から債務者に金銭債権があり,債務者は受益者,転得者に対して価額償還請求権を持っている。これは正に債権執行の構図になりますので,やはりその場合も,債権差押え命令を取得した上で取立て権の付与,そして支払がない場合には,取立て訴訟という形になると思われるのですが,仮にそうだとすると,同じように詐害行為取消訴訟を取立て訴訟を起こさねばならない。ここでやはり2回裁判をやらなければならないのだろうか。仮にそうだとすると,かなり重い制度だなと思うのですが,その点はいかがでございましょうかという質問でございます。 ○筒井幹事 現在提示している案によれば,ただいま高須幹事に御説明いただいたとおりの帰結になるのではないかと思います。それはやむを得ないのではないかという判断に基づくものでありますが,しかし,二度目の訴訟の手間をやや省略するための方策としては,代位権のところでも出てまいりましたけれども,直接の引渡請求権は認めて,しかし,それによって直ちに満足を得ることはできないという相殺禁止のルールを設けるという選択肢は,なおあり得るのではないかとは思います。それは,どちらがいいのかは,議論の余地があり得るのではないかと思います。 ○中井委員 ただいま高須幹事と筒井幹事の間でやり取りがなされた点について,かつての大阪案は,ここに何らかの架橋の手続が設けられないのか,取消判決で,受益者は債務者に対して金銭を支払え,若しくは物の給付をせよ,加えて,債務者は取消債権者に対して支払えという二つの債務名義ができる。できたにもかかわらず,今のような形で差押えをした後,改めて取立訴訟を起こさなければならないとなれば極めて迂遠である。大阪案は,債務者に対して給付一本化する代わりに,そこは何らかの架橋手続を設けることによって一体的解決ができないかと提案したわけです。ただ,訴訟法に詳しくありませんので,できるのか,できないのか分からないのですが,この原案では,そこの部分については特段の手当てはしない,こういうことだと思います。そうだとすると,やはり振り返って今筒井幹事がおっしゃられたように,直接請求を認めた場合には,当然受益者は債権者に対して支払え,若しくは物を給付せよ,という判決が得られて,その債務名義ですぐに執行ができる。その便宜というのはかなり大きいのではないか。その後,相殺を認めるかどうかは次の問題として今御指摘がありましたけれども,その考え方もなお留保されていいのではないかと私も思います。   それ以外に,戻って恐縮ですが,3の特定債権者を利する行為の特則で,この提案について支払不能であることを知って,かつ通謀を要件とする考え方について,弁護士会でもこの考え方に賛成する意見が相当ありますが,ここはかねてからありましたように,この通謀要件を新たに設けることについては,慎重意見がなお強くあります。そこは支払不能を知って,で足りるのではないかという意見です。ただ,今回の提案は,内部者について,先ほど山本和彦幹事からすれば,行き過ぎではないかという御指摘もありましたけれども,内部者であることから,通謀の部分を推定するので,支払不能を知ってとする破産法と規律を合わせるべきだという考え方の方々にとっては,ここでかなりの歩み寄りがあるのかなという印象を持っております。なお少し意見が分かれているということを申し添えておきたいと思います。   ちなみに大阪有志案は,この通謀要件まで入れるのは過大であるという考え方で,破産法とあわせて支払不能であることとを知って,で足りるのではないかという意見です。私はちょっと違うのですが。 ○松本委員 先ほど11の議論をしたときに,大阪の案は,今回の事務局提案の(2)の後半の部分について,先取特権が成立しない場合を更に限定するものだということを私が発言しましたところ,中井委員は,いや,債務者の財産の中に反対給付またはそれによる利益が現存するという要件があるから,不当ではないんだということをおっしゃいました。そして,破産法の168条に,同じような文言がある。反対給付によって生じた利益の全部が破産財団中に現存する場合というような書き方がしてある。それに合わせているんだということですが,その破産法でいうところの現存利益が破産財団中にあるということ,あるいは大阪がそれに近い表現をされているということの「現存している」というのは一体どういう場合を指しているのでしょうか。つまり民法の世界だと,不当利得の利得が現存している,していないという議論で,無駄遣いというんですか,浪費した場合は現存していないという説明をよくしまして,出費を節約している場合は現存を認めることになるのですが,破産法の,破産財団中に反対給付が現存しているという概念は,民法の不当利得の理論に全てお任せの議論なのか,それとも,破産法特有の理論があるんでしょうかということをどなたか御説明いただきたいんですが。 ○鎌田部会長 どなたでも結構ですので,説明をしていただければ。 ○山本(和)幹事 両説あるんだろうと思います。不当利得と同じように,その対価が存在していればそれで現存だということを認める見解もありますけれども,もう少し狭く不当利得の場合よりは狭く現存概念を捉えるという考え方も取り分け改正後は有力になっているのではないかというのが私の現状認識ですが,間違っているかもしれません。 ○松本委員 こういう質問をする趣旨は,債務者は反対給付は得ているわけだけれども,金銭で得ているわけですから,その受け取った反対給付が現存している,していないというのはどうやって判断するのかが大変難しいという気がするんです。破産者は多くは経済活動をやっているわけですから,その間は金銭の出入りはしょっちゅうしているはずなのです。そういう場合に,よほど特殊な場合だけ反対給付が現存していないということになって,普通は経済活動をしている以上は金銭は全て反対給付としては現存していると考えて破産法は運用されているんでしょうかということをお聞きしたいんです。もしそうだとすると,事務局提案と大阪の案は相当違うということになると思います。 ○畑幹事 ですから,両説あるということだと思いますが。 ○松本委員 両説ありますということで新たな立法をされてしまうと,結局分かりにくい民法ということになるので,破産は破産で両説あってよく分かりませんが,民法で新たに規定を提案する以上は,やはりクリアなルールにしたほうがいいかなと思います。 ○鎌田部会長 ほかの点はいかがでしょうか。 ○山野目幹事 本日,中間試案のたたき台に関する,言わばトライアルの論議をしたと理解しております。事務当局におかれましては,部会資料で,中間試案の案に(注)を添えるというレイアウトや,「取り上げなかった論点」の列挙など様々な周到な工夫をしていただいて,中間試案をまとめていくための非常に有意義なレールを敷いていただいたのではないかと感じます。そういうものを御提示いただいたのを踏まえて,今日のように議論をしていくというのをこれからしていくものと思います。皆さんと感覚が同じかどうか分かりませんが,この御提示いただいたものについての議論を伺っていると,例えば,詐害行為取消権の1の(2)の債務者も被告にしなければならないというような提案事項については,(注)を添えることが相当なのではないかと私は感じましたから,参考として,今後の事務当局の中間試案のたたき台作りの参考にしていただくために所感としてお伝えいたします。   単に異論があったら(注)を付けるということをしていきますと,大変たくさん(注)が付いていくことになりますけれども,本日の御議論で,高須幹事はこの問題については一貫して独自の理論的なバックボーンを持って異論を唱えておらますが,それに限らなくて,岡委員からは,実際的な面からもこの問題についての問題提起がありましたし,手続法の観点からも,この提案をどういうふうに受け止めるかについて多様な意見が語られたと思います。何よりも,詐害行為取消権の制度を今後どうしていくかということに関して,ここが制度の本質に関わる重要なキーになる部分であろうと感じます。そういうものについては,(注)を活用するような仕方で,正にパブリックコメントのような契機を通じて,社会に問題提起をしていって,それを踏まえて今後の審議が進められていくべきなのではないかと感じました。対症的,刹那的に(注)を増産してくださいということを求めていくような議事にすべきではないと感じますけれども,反面において,制度の本質に関わるようなことは正面から明瞭な仕方で(注)を抱えるようなことが今後の方針としてよろしいのではないかと感じます。事務当局が御提示いただいた中間試案のたたき台が本日の拝見した印象では比較的スリムになさったというか,筋肉質になさったというか,それは褒め言葉ですかとまた筒井幹事がお述べになりそうですが,そういうものを御提示いただくことはよろしいと考えますとともに,それを受けての部会の審議は,今のような観点からしていくということを自分としては心掛けたいと感じました。一定のリズム感を持って成果物を仕上げていかなければいけないという要請が一方にあると思いますが,ここでの作業はこれからますます社会的な注目を浴びることにもなると予想しますから,余り拙速であるということになることでも困るものであって,そちらにも注意して審議をしていかなければならないのではないかと感じました。感想を申し上げさせていただきます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○岡崎幹事 私も今の山野目幹事の御発言の趣旨に賛成です。今,山野目幹事が挙げられた詐害行為取消権の1の(2)の被告をどうするかという問題などは,今日の御議論を伺っていましても,多数派を形成できる案が果たしてこの案なのかについて疑問もあります。これは,裁判所の内部でも中間試案に対するパブコメの中で丁寧に意見を聞いていきたいと思っている論点のうちの一つでありますし,弁護士会でもかなり意見が分かれているようですので,(注)という扱いでよいのかという問題もあると思います。この論点については,甲案,乙案という形にし,別の案で一貫するとどういうことになるのかもある程度示していただいたほうが率直な意見が出やすいのではないかという気もします。仮に(注)を付すだけにしますと,(注)の書き方にもよるとは思いますけれども,全面反対という意見が非常に強くなる可能性もなくはありません。むしろ,例えば,先ほど出ました訴訟告知を要求するなど,別の落としどころが見えたほうが合意形成によい場合もあるわけでして,それを単に(注)として別の案ではないという形で御提案なさった場合にどういう効果が生まれるかも見極めどころではないかと思います。 ○中井委員 たたき台51を頂いて,少しですけれども,議論いたしましたが,ある程度論点を落として合意を達成できるところに集約していこうという基本的な考え方について,そこに出席していた弁護士会委員からは,基本的にその考え方に賛成だという意見でしたし,今回,債権者代位権,取消権をおまとめいただいた内容についても,大阪はいろいろ意見を言っていますけれども,基本的な考え方については同調する意見が多くありました。ただ,先ほど,山野目幹事,岡崎幹事から御指摘のあった最も基本的な被告に債務者を含めるのかどうかということについては,大きな対立がありましたので,この点については,きちっと問題提起をしていただきたいと思います。代位権では,直接給付を求めて相殺できる,できないの議論については,なお大きな論点として理解しておりますので,肝心な論点が十分議論できるような形で出していただきたいと思います。今までの立法の例から,中間試案に出てきたものがそのまま要綱になるというような危惧感から,全面反対という,リアクションが出かねないという懸念を持っておりますので,十分御配慮いただきたいと思います。 ○筒井幹事 ありがとうございます。頂いた御意見を十分踏まえて対応を考えたいと思います。この点について何らかの手を加えることが必要であろうということは十分認識しております。   一つには,(注)において,債務者は被告とせず,訴訟告知は必要とするという別案があることを明記するのが有力な選択肢として考えられるところですけれども,岡崎幹事からは,甲案,乙案という両論併記で,全体的な体系を示すという方向をも示唆されておりますので,そういった選択肢も含めて検討したいと思います。   それから,中井委員から最後に言及がありましたように,語尾が「ものとする。」となっていても,これで決まるわけではなく,更なる議論を呼び掛ける趣旨であるということについては,冒頭で申し上げましたとおり,今後とも重ねて強調しつつ議論を進めていきたいと考えております。 ○三上委員 9ページの(4)特則は,これは必要な規定なんでしょうか。先ほどから支払不能などの概念が入ってきて民法が重くなるという指摘があって,ここにまたこれだけのために支払停止という概念が入ってくるんですが,破産法の場合は,破産の申立てから1年間遡るというか,1年以上は遡らないという規定ですから,否認的行為と支払停止の間は1年以内であっても破産申立てから1年超はなれていれば推定規定は働かない,という規定ですが,この提案だと,詐害的な行為と支払停止の間が1年以上離れていない限りは推定が及ぶという意味で,こっちのほうが厳しい規定になるのではないでしょうか。そこまでして,つまり破産法の場合には,破産の申立てという一つの確定日から1年間という点で明確ですけれども,こっちは個々の行為,破産法で言えば,否認されるべき行為から1年間を計算するという規定になっていて,必ずしもパラレルになっていないし,先ほど支払不能,停止の前後で立証責任を転換するかで,そこまでは民法はやらないとおっしゃったことも考えると,ここにだけ出てくる支払停止という概念を入れてまでこの規定を設ける意味があるのか,その点はどうなんでしょうか。 ○金関係官 まず支払停止による推定規定の必要性についてですけれども,この推定規定は,以前から支払不能の立証が難しいという御指摘があったことを踏まえて,そこの手当てをする趣旨のものでありまして,支払不能という要件を入れることとセットで,必要性のあるものではないかと考えております。次に推定をかける範囲についてですけれども,詐害行為取消権の場合には,否認権の場合とは異なり,破産手続開始の申立ての時点という基準がありませんので,詐害行為の時点を基準とせざるを得ず,行為前1年以内としております。ただ,ここはむしろ1年では短くて,もう少し長くすべきである,支払停止に陥ったのだから1年ではなくてもう少し長く推定をかけるべきであるという御指摘を頂いたこともありますので,三上委員の1年では長いという御指摘と,逆に1年では短いという御指摘の双方があることを踏まえて,引き続き検討したいと思います。 ○岡崎幹事 中間試案のまとめ方について,重ねて発言させていただきたいのですが,先ほど筒井幹事から,場合によっては補足説明で別の案について言及をするというような趣旨の御発言があったかに思いますが,補足説明については,ここの部会の場での審議の対象にならないということもございますし,また,かなり膨大な分量になるということが予測されないでもないと思います。そうすると,やはり制度の根幹にわたる部分に関して一定の御意見の対立がある場合には,中間試案の本文の中で明確に別の案を示したほうが,やはり意見を付ける国民の側から見ると適切なのではないかなと思います。 ○筒井幹事 私の先ほどの発言が不明確であった可能性があると思うので,少し付け加えますが,債務者を被告とするという本文の考え方に対して,少なくとも(注)を付けて,その中で別案があることを紹介するのは,本日の議論の成果として必須であろうという認識をしております。他方,債務者を被告とする甲案と,被告としない乙案を併記するということになりますと,それはここだけにとどまらない問題になるので,個別の項目を超えた体系的な整理が必要になるであろうと思います。これは代位権のところで松本委員が御発言になったことと関係すると思いますけれども,そのような両論併記をいたしますと試案として非常に見にくいものになるのではないかということも危惧されます。ですので,仮に(注)に書くとした上で,その(注)の考え方を採った場合に派生して考える必要がある他の論点項目については,(概要)の中で拾えるものは拾うことも考えたいと思いますけれども,それ以上のことは補足説明で論及することにとどめざるを得ないのではないかということを,現段階での所見として申し上げたという趣旨でございます。 ○中田委員 (注)の位置付けなんですけれども,既にお話しになったことを聞き逃したのかもしれないんですが,(注)はこの審議会の審議の対象外なのでしょうか。 ○筒井幹事 (注)は審議の対象,中間試案そのものであるという理解です。つまりゴシックで書いてあるところと,(注)と書いてあるところまでが中間試案の本体という位置付けでありまして,ただ,(注)を他の部分と区別できるようにするためにゴシック体にはしていないということです。よろしいでしょうか。 ○中田委員 はい,御趣旨はよく分かりました。あとは見たときに分かりやすいかどうかですね。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回の会議は,11月27日火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省20階第1会議室でございます。   次回の議題ですが,新たな部会資料52を事前送付することを予定しております。対象とする項目としては,消滅時効のうちの主に原則的な時効期間や起算点に関する部分,これは部会で議論していただいた事項についての補充的な検討をお願いするものです。それから,債権譲渡の対抗要件について取り上げる方向で準備をしております。それからもう1点,典型契約における要物性の見直しについて,横断的な視点から何らかの提案をすることを考えております。以上の3点についての議論を予定しておりますので,テーマの数としては少ないかもしれませんが,しかし,十分な時間を掛けて御議論いただいたほうがよいテーマではないかと思っております。よろしくお願いいたします。   それから,連絡事項ですが,机上に第三分科会第6回会議の開催のお知らせを配布させていただきました。ここに記載のとおり,来週の火曜日に第三分科会の第6回会議,第2ステージにおける最後の分科会になりますけれども,開催が予定されております。本日の会議で,この紙に記載してある論点のほかに,部会資料50の債権譲渡と差押えに関する論点が追加されましたので,出席を予定されております委員,幹事の皆様は,部会資料50も併せてお持ちいただきますようにお願いいたします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日も長時間にわたり熱心な御議論を賜りまして誠にありがとうございました。 -了-