法制審議会           被災関連借地借家・建物区分所有法制部会           第5回会議 議事録 第1 日 時  平成24年11月28日(水) 自 午後1時31分                        至 午後5時05分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  罹災都市借地借家臨時処理法及び被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鎌野部会長代理 それでは,予定の時刻が参りましたので,法制審議会被災関連借地借家・建物区分所有法制部会の第5回会議を開会いたします。   本日は御多用の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は山田部会長が御欠席ですので,私が部会長代理として進行を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。   それでは,早速,事務局から配布資料の説明,それで議事という形で進めさせていただきたいと思います。   事務当局から配布資料の説明をお願いいたします。 ○岡山幹事 配布資料の説明をさせていただきます。   事前に配布資料目録,部会資料7を郵送させていただきました。部会資料7は,「罹災都市借地借家臨時処理法の見直しに関する要綱案のたたき台」と題するもので,本日の御審議は,この資料に基づいてお願いしたいと考えております。   配布資料の説明は以上でございます。 ○鎌野部会長代理 それでは,本日の審議に入りたいと存じます。   本日は,部会資料7に基づき,罹災都市法の見直しについて御審議を頂きたいと思います。   まず,部会資料7の「第1 見直し後の制度の適用の在り方」について,事務当局から資料の説明をしてもらいます。よろしくお願いします。 ○川副関係官 それでは,資料の説明をさせていただきます。   まず,資料全体の構成から御説明させていただきますけれども,若干担当者素案から変更しております。変更の趣旨としましては,前回の御審議を踏まえて,見直し後に設ける方向で考えている制度を項目として取り上げることとし,現行の罹災都市法における制度の中で廃止すべきと考えている制度については,たたき台の中の7から8ページ辺りになりますけれども,(後注)ということで記載いたしました。   また,見直し後に設ける方向の各制度の並べ方につきましても,借地借家法の規律の順序を参考にして変更させていただきました。   全体の構成については以上でございます。   続いて,たたき台の「第1 見直し後の制度の適用の在り方」について御説明申し上げます。   ここは前回の部会においては,担当者素案の内容を基本とすることで御異論はなかったところと考えております。そのため実質的には,内容は担当者素案から変更しておりません。   本文①では,大規模な災害を政令で指定するものとすること,本文②では,制度を適用する地区を政令で定めること,また適用する制度自体についても政令で定める分割適用を提案しております。また,本文②の後半では,追加指定について提案しております。   前回の部会におきまして,例えば借地権の対抗力の特例といったところについては早期に適用することが求められることから,地区指定をしないというような可能性もあるのではないかという御意見も頂きました。ただ,借地権の対抗力といった借地権者,それから借地権設定者といった契約当事者のみならず,第三者に直接関連するような規律について,地区指定をしないまま適用して,区切りが不明確となることはないかというような点や,それから現行法を今まで適用する際には地区指定を行っておりましたので,そのような制度自体の在り方を変更するまでの必要性があるのかと,こういった点も踏まえて,こちらの必要性については検討する必要があると考えております。   そこで,補足説明のところでは,見直し後の制度を適用する際に常に地区指定を必要とするかどうかについては,なお検討する必要があると書かせていただいておりまして,何らか御意見を賜ることができればと考えております。   次に,補足説明で,「また」以下の第2のパラグラフのところに書いてございますけれども,分割適用につきましても具体的には見直し後の制度としてどのようなものが整備されるかということを踏まえる必要があると思いますけれども,分割適用の必要性があるのかということを具体的に検討する必要があると考えております。これについても借地権の対抗力の特例といったものについては素早く適用することが相当である一方で,現地の状況を判断した上で適用するということが適切な制度もあるのではないかという御意見はあるところだと思います。   ただ,見直し後の制度について,素早く借地権の対抗力といったようなものと同様に適用するべきではないと,早く適用すると何らか弊害があるというようなことが積極的に言えるものがないのであれば,見直し後に整備される,各制度を全て合わせて素早く適用してしまうといったような制度の在り方もあり得るところかなというところもありまして,具体的に分割適用について積極的に必要であるのかどうかということについても,なお検討する必要があるのではないかと思いまして,補足説明をこのように記載させていただきました。   説明としては以上でございます。地区指定の点や分割適用の必要性等につきまして,またそれ以外につきましても御意見があれば,お願いしたいと思います。 ○鎌野部会長代理 本日は要綱案のたたき台ということで,事務局の御説明について,自由に質問,あるいは御意見を述べていただければと思います。   今,川副関係官からあった「第1 見直し後の制度の適用の在り方」につきまして,御質問,御意見がありましたら御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。   これは②のところ,前段と後段があって,先ほど御説明があったように,特に前段については,全ての制度について地区指定が必要かという点について,御意見などを伺いたいと。それから,後段の部分は,制度の分割適用が必要となる場面が具体的に考えられようが,こういった分割適用という点についてはどうかということですけど,いかがでしょうか。   特にございませんか。関係官のほうで補足に何か御説明があれば,この制度の分割適用ということで,例えばどういうものが考えられるか。 ○川副関係官 特に前回お話が若干出ましたのは借地権の対抗力のところでして,ここで最初に裸で地区指定はどうですかと聞かれて,答えにくい面もあろうかと思いますので,もしあれでしたら,具体的なそれぞれの制度のところで御意見があれば,また後ででも言っていただければと思います。特に問題になっていたのは,借地権の対抗力というところでしたので,そこの点について,先ほど言ったような地区の指定がなくても,その場合は政令で定める災害により建物が滅失したというような事情があるということで,対抗力の特例を認めるというようなことになると思いますけれども,そのほうが適切と言えるのか,それともそこには不安があるというようなことなのか,その辺も御意見があればと思って,お聞きした次第でございます。 ○鎌野部会長代理 いかがでしょうか。特になければ,今,御説明がありましたように,これから各論的な問題を取り上げていきますけれども,その際に二つのこと,一つは地区指定について,もう一つは分割適用について,そこのところでまた御意見を述べていただければと思います。   それでは,次に移らせていただいてよろしいでしょうか。   それでは,「第2 借地権保護等の規律」に入ります。   「1 借地権者による土地の賃貸借の解約等」について,事務当局から説明をお願いします。 ○川副関係官 それでは,第2の「1 借地権者による土地の賃貸借の解約等」について御説明申し上げます。   前回の部会におきましては,この制度を設けること自体については御賛成の御意見を頂いたところと考えております。そこで,たたき台では,担当者素案と同様の制度を設けるものとして,そして今回,借地権者による解約の申出等があった場合の効果として,本文②で甲案と乙案というのを提案させていただきました。ここは担当者素案で,(注)として書いていた部分でございます。   甲案のほうは,申入れがあった日に直ちに借地権が消滅するという内容になっております。これは大規模な災害が発生した場合,当該借地だけでなく,その周辺地域にも深刻な被害が生じるといったことが考えられ,借地上の建物が滅失した借地権者は,借地を事実上利用することができない状態になるといったことが生じると考えられます。このような借地権者を地代や借賃の負担から解放するということが,この解約の制度を設けようという趣旨になると思いますが,その趣旨からすると,借地権者に解約の申入れ等をした後,更に例えば乙案では3か月となっておりますけれども,その期間の地代等を負担させるのが相当かというふうなことが問題としてあると考えています。   他方,借地権設定者側からしますと,直ちに借地権が消滅するということになりますと,地代等の収入がなくなるということでございますけれども,現代におきまして,借地権というものが土地の価格の数十%の価値を有するというようなことも言われている状況からすると,借地権が直ちに消滅する,それによって土地を利用できる立場に復帰して,第三者に貸すこともできるということになるという面では,借地権設定者側の被る不利益はそれほど大きくないのではないかと考えられるところです。   また,被災地の復興という観点からは,利用されないまま,土地が数か月放置されるというよりは,早期に借地権を消滅させて,借地権設定者が土地を利用できる状態に戻すというのが望ましいのではないかとも考えられると思いまして,甲案では,解約の申入れ等があった日に借地権が消滅するものとするということを提案しています。   他方,乙案では,3か月経過した後に借地権が消滅するといったものを提案させていただいております。やはり直ちに借地権が消滅すると,借地権設定者側に,多大と言えるかどうかはともかくとしても,何らか不利益があるという以上,そこの点を重視すべきであるというような考えからすると,借地権が消滅するまでに一定の期間を設けるということが相当とも考えられるところです。乙案でこの期間を3か月としておりますのは,これは借地借家法第8条第3項の規定と同様の期間としております。   前回の部会におきまして,その場合の適用関係の整理といいますか,借地借家法第8条との関係ということについて御質問があったかと思いますけれども,それについては補足説明で記載しましたとおり,甲案を採る場合には,借地契約の更新の前後を問わずに,このような解約が認められることとなること,それから解約の申入れ後の効果として,直ちに借地権が消滅するということの2点について特例となるということになります。それによって,政令で定める災害により借地上の建物が滅失した場合には,こちらの規律のほうで解約するということになるものと思われます。   他方,乙案を採った場合には,今回の制度は,借地契約の更新前の滅失について解約を可能とするという意味での特例となりまして,借地契約の更新後の建物の滅失については,借地借家法の第8条によるという整理になると考えております。   説明としては以上でございます。制度全体として,このような制度を設けるということについての御意見のほか,効果の点について,甲案,乙案についてどちらが相当かというような御意見がございましたら,伺うことができればと思っております。 ○鎌野部会長代理 いかがでしょうか。第2の「1 借地権者による土地の賃貸借の解約等」について,御説明がありましたように,担当者素案では,政令施行の日から起算して1年,そこに括弧がついていましたけれども,今回はそれが外れている。それから,(注)のところで,担当者素案では,説明があったのが甲案と乙案と二つの案が示されているというのが今回の説明でございます。いかがでしょうか。   恐らく今回は,事務局のほうで是非とも甲案,乙案という形で今回ここに掲げさせていただいたので,どちらがいいかというようなことについて積極的に御意見を賜ればという意図だろうと思います。   いかがですか。特にございませんか。これはできたら次回の要綱案に向けて,恐らく事務当局としては,甲案,乙案の御意見の多寡といいますか,そういうのを伺いたいという多分意図だろうと思います。 ○根本委員 すみません,前回出ていなくて発言するのは申し訳ないのですけれども,甲案の場合には,余りにも急過ぎるという感覚を持ちます。3項のほうを基準にした3か月という期間があらかじめございますので,一定の期間を置いたほうがよろしいのではないかという感覚を持っております。 ○鎌野部会長代理 根本委員の御意見ですと,乙案のほうがよろしいのではないかと。   いかがでしょうか,そのほかに。 ○沖野委員 意見の前に確認をさせていただければと思うことがあります。甲案か,乙案かの選択にかかる猶予期間は,一方で後始末のためにどのような期間が必要かということと,本来の解約申入れであれば1年というところを,借地借家法が3か月とし,更にそれを短縮すべきかという中で,所有者側の損害の填補として,この間の地代分は実際に明け渡すかどうかにかかわらず,取らせるというような形で調整するということの2点と理解しております。   そうしたときに,借地借家法の8条3項のほうが滅失一般については3か月というような形で調整するというのを,それが最低限の調整であると見るのかどうかです。それとは違う事情として,更新前にも適用されるということは確かに特例であると思いますが,更新後の場合にそれを短縮する基礎となる事情があるのかです。お伺いしました限りでは,被災地の復興のためには早くに,明渡し等をするのであれば早く行って次のものに適時に着手したほうがよい,一般則によるよりも前から次の利用の形について手を打てるようにするという考慮くらいかなと思われまして,それがどのくらい重い要請なのか,数箇月のことで,そうなるのかということです。   もう一つは,甲案によりました場合に,そのような形で,3か月分は地代を少なくとも取れるというような形で所有者側に配慮するということをしないときなんですけれども,これは明渡しになりますと,敷金の返還などということがあるのかどうか。そうしたときに,滅失して解約申入れがされると直ちに明渡しというときに,実際に建物はないわけですけれども,がれきなどの撤去などは必要かと思いますので,それに要する日数等にもよるのかもしれないんですけれども,これが非常に速やかにできるとなりますと,敷金などは直ちに返すということになると思いますが,場合によっては,被災している賃貸人への配慮としても,調整を考えなくてよいか,返すべきは返すべきなのですが,例えば事情によっては猶予するというようなことが考えられるのではないか。イメージとしたのは,全然違う場面ですけれども,占有物の場合の返還の際に有益費償還に関し裁判所の判断で一定の猶予を認める制度などがあり,参考にできるかと思いますので,そもそもそういった必要性があり得るのかどうか,その点について何か情報がありましたら教えていただければと思います。 ○鎌野部会長代理 今の点どうですか。前半は確認で,甲案と乙案の違い,それから後半は,御質問も含まれているんですか,敷金の扱いとか,がれきの処理とか,そういった場合の配慮というか,甲案というのは,その点についてはどう考えているのか。 ○川副関係官 前半部分につきましては,御指摘いただきましたとおり,滅失一般について定めている借地借家法第8条第3項の期間を短縮して,現在はなくすということですけれども,短縮するという要素としましては,先ほどおっしゃったような大規模な災害が起こった後の被災地の復興という点は大きな考慮要素になるのではないかと考えております。   借地借家法第8条の第3項の場合,3か月とされておりますけれども,これは借地借家法の場合は第8条第2項で借地権設定者側からの解約というものも定めておりまして,第3項が借地権者側からの解約と借地権設定者側からの解約,どちらについても効果は3か月で消滅するというようなことにされていると思うんですけれども,借地権設定者側からの解約というふうなことを考えた場合に,解約があった場合に直ちに借地権者が不法占拠の状態になってしまうというのは相当ではないことから,猶予期間を設けているというような説明もされておりまして,今,借地権者側から解約するという場合に,そのような考慮要素は特に必要ないのではないかと。どちらかというと,借地権設定者側の不利益との調整というので,何らかの期間を設けるかどうかということだけを考えればいいのではないかと考えております。その上で,先ほど申し上げました復興ということをプラスすると,直ちに消滅ということも考えられるのかどうか,借地権者の側の保護ということを考えれば,そのような制度も考えられるのではないかということで,甲案というのを提案させていただいたという次第でございます。   それから,仮に甲案の場合に明渡し等が直ちに行われるという場合になりますと,直ちに借地権設定者側に何らかの返還をしなければいけないと,敷金といったものを返還しなければいけないというような事態は考えられると思いますので,その場合に支払の猶予というようなものを求めるというような制度を設けるということは当然考慮しなければならないかなと思っておりまして,仮に甲案というようなことになれば,そのような制度を設けるということを含めて考えていきたいと思っています。 ○沖野委員 甲案と乙案とどちらがよろしいのかと考えましたときに,借地借家法の場合が最低限だとすると,乙案しかないだろうと思ったのですが,それに加えて今回は特別な事情があって,その要請があるということになりますと,今度は甲案を基礎としつつ一方で所有者側に過酷な状態が生じないようにそのための手当てを組み込む必要はないだろうかと考えました。   そういうふうに考えますと,今のような特別な事情が震災等の場合にはあるのだとすると,甲案にしつつ,しかし一方で,気になりますのは,明渡しまでの期間というようなことは全く考えなくてよろしいのか,本当に即時ということでよろしいのかというのが,なお気になるところであるんですけれども。3か月分の地代分については仕方がないとしても,直ちに返還する規律については具体的事情による一定の猶予などの措置が設けられることが組み合わされた上で,震災の復興の特殊性をより重視するということが考えられるのではないかと今の時点では思っております。 ○鎌野部会長代理 沖野委員は,甲案を採った場合,なお先ほども言われたように敷金の問題とか,それからがれきの処理とか,ですから乙案でいう3か月とは別に何らかの猶予というようなことが考えられるのではないかと,そういう御意見ですか。 ○沖野委員 そういう制度や配慮を組み込む必要が全くないという事実なり,データがあるのであれば,それでよろしいかと思うのですが,そういうのがないと,やや調整の仕方として,一方に偏しているような気がするのと,最終的に明け渡ししないと,その間は不当利得で払うということになるので同じなのかもしれませんけれども,即時というので大丈夫なのかということが気になっております。 ○鎌野部会長代理 乙案を採ったような場合には,3か月の中に恐らくそういうのも吸収されるであろうと。ですが,甲案を採った場合には,なお今,御指摘のような問題というのがあるのかどうかということだろうと思います。 ○山野目委員 1の提案が適用される局面は,現在の借地市場に存在している借地権の全般が適用対象になると理解しております。その理解の前提でまいりますと,現状を前提にするならば,ちまたには三つの種類の借地権があるという理解になるのではないでしょうか。借地借家法3条が定める普通借地権と,それから借地借家法制定前に設定されていた既存借地権と,それから借地借家法に基づいて設定された定期性の定期借地権,事業用定期借地権及び事業用借地権のような類いのものと大きく3群のものがあると考えます。   これらを用いる人たちの,一言でいうと契約に関するスキルのレベルというか,内容というものは様々なものがあって,昔からずっと使ってきているのですが,ほとんど書面のようなものはありません,というような形態のものから,かなり細密に契約条項を組み,ビジネスとして借地権の設定が行われて,相当数の契約条項を盛り込んだ借地権設定契約書を作って借地が行われている場合というのがあって,両極とその中間に様々な形態のものがあるであろうと感じます。細かく精密に契約条項を用意しているものの中には,例えば借地終了時の建物収去,その後のその他の物の収去,それを経ての土地の明渡しなどの期間や手順について,相当細かいことを定めているものもあれば,そうでないものもあります。   それから,もう一つ,もっと大きな比重の問題は,経済的利益の清算の問題について,借地の存続期間の半途,中途において,一方の当事者の解約申入れなどによって,借地が終了する際に一番徹底しているのは,残った期間の地代,賃料を全部支払ってくださいというようなことまで規定しているものから,そこまでいかないけれども,何らかの算式を用いて,一定のコンペンセートをしてくださいというような利害調整があらかじめ仕掛けられているものがあるし,これもそうでないものもあるというのが実情であろうと認識しております。   そう考えたときに,1の規律が適用されるときに,そのような様々な契約的な細密的な調整があり,その中身も様々であり,またそういうことについて無頓着である借地の関係もあり,というときに,そのようなものとして,ある種の調整が一般に行われている慣行があると定型的に想定することができるのであれば,その慣行に対して立法者が介入するような明確な規律を設けて,何か法制上の措置を講ずるということが可能であると思いますが,そうでない状況であるとすると,何かを書いても役に立たなかったり,あるいは借地のそれぞれの事例に混乱を起こすというようなことがあり得るであろうと想像します。   恐らくそういうふうな実態も見据えながら,ここの1の御提案というのは,今のような建物収去上の問題処理とか,中途解約における清算の処理とかのような問題には立ち入らないで,借地の終了の成否の要件の問題を専ら規律することによって,この局面についての法制上の最小限の規律を与えておこうとした趣旨に出たものであると理解しておりました。   そうであるとしますと,先ほど川副関係官のほうから,甲案を採った場合には,更に敷金やその他のことについて何か考えなければならない,というお考えがありましたが,そういうことは余りしないほうがいいだろうと私は感じます。合理的なもの,普遍性のあるものを作ることに困難があるであろうと思います。沖野委員が御心配になったようなことが甲案について払拭し切れないのであるとするならば,それは,乙案を採用すべきであるということになるものでありまして,恐らく法制的なエレガントから見ても,他に特段の立法上の価値判断を要請する御意見がなければ,借地借家法の規律との関係で,乙案による規律がきれいに仕組めるのではないかというふうな見通しも抱いております。 ○鎌野部会長代理 大変有益なというか,今の現状を踏まえた上で,結論としては,山野目委員は乙案のほうがすっきりしているのではないかと,よろしいのではないかという御意見と承りました。 ○細谷委員 借地権の解約に至るということは,恐らく借地人としては,家の建替えも断念せざるを得ない状況で,借地権譲渡という道もあるわけですけど,次の後の項目で議論になるんですけど,借地権譲渡の道も絶たれて,最終的に解約せざるを得ないということだろうと思うんです。そういう意味では,普通借地権を私は想定していまして,事業用の借地権というのはちょっと考えていないんですけど,普通用の借地権者が解約することによって,賃貸人側は,土地が返ってくるわけですから,何十年も借りているというケースが多いわけです。その場合に賃貸人が不利益になるということは余り想定できない感じを持っているんです。ですから,甲案でも構わないのではないかという意見があります。 ○鎌野部会長代理 甲案を支持するという御意見がありました。 ○垣内幹事 意見及び質問なんですけれども,意見といたしましては,甲案と乙案の違いと申しますか,甲案のような借地借家法8条と異なる規律を設けることの必要性について,あるいは既に御言及があったのかもしれませんけれども,私自身の考えておりますところでは,乙案のように3か月を経過したときに契約が終了するというのは,借地借家法との整合性という点では非常に分かりやすい規律かと思うのですけれども,借地借家法8条で想定しております場合というのは,無論,大規模災害のような場合ではなくて,たまたま当該建物が滅失したという場合でありまして,この場合には賃借人としては,直ちにその後どうするかということについて考慮を開始して,しかるべき合理的な判断をして,その判断が解約ということであれば,解約した上で3か月の期間経過後に終了すると,そういうことかと思います。   それに対しまして,大規模な災害が起きて滅失したとしますと,滅失は,災害によって直ちに滅失するということですので,災害直後の混乱した状況の中で,借地権をどうするかということについて,それほど速やかに判断ができないことも十分考えられるのではないかと思います。そう考えますと,1か月,2か月がすぐに経過したようなときに,そこから更に3か月,合計賃料は実際上は利用できていない分を含めて5か月とか,6か月とかを払わなければいけないというような事態が生じます。仮にそうした事態が懸念に値するものだと考えますと,借地借家法8条よりは短い期間で契約の終了を可能にするという判断があり得るのではないかと思われます。私自身はそういった判断は十分あり得るものであり,そうであるとすれば,乙案よりも短い期間で借地権を消滅させるということもあり得るのではないかという感じがしております。以上が意見であります。   御質問と申しますのは,その前提に立ったときに,甲案は解約の申入れがあった日に消滅するということになっておりまして,その日に即日消滅ということですと,やはり,沖野委員の御指摘もありましたけれども,賃貸人の側としても,かなり唐突に事態が変化するということになるわけですが,例えば1か月とか,3か月よりも短い一定の期間で消滅するという規律を設けることは法制上難しいということなのかどうか,ということを確認させていただきたいというのが御質問のほうであります。 ○鎌野部会長代理 いかがでしょうか,最初の御意見を踏まえた上で質問ということで,例えば1か月という短い期間はどうでしょうかということだと思います。 ○川副関係官 法制上というところでございますけれども,法制上1か月といったような期間を設けることができないといったことはないと思います。ただ,具体的になぜ3か月が例えば1か月であれば1か月とすると短縮できるのか,また1か月という期間が,先ほどおっしゃっていただいたような調整をするための期間として,借地権設定者にとっても許容できる範囲のものだというようなことの説明が何らか付くのかというところ次第かなと思っております。それで今,直ちにという言葉を掲げさせていただいておりますが,3か月よりも短縮するということが法制上できないということではないと思います。 ○森田委員 意見をということですので,前回,既に内容的には示唆していると思いますが,私自身は乙案がよいかと思います。それで,借地権設定者である土地所有者のほうで土地を直ちに使いたいという場合は,乙案を採った場合には,一般に借地契約を終了させることはどちらかというと土地所有者のほうにとっては不利益ではありますけども,この場合は土地所有者がそれを望んでいるわけですから,借地権者は合意解除することが可能です。したがって,借地権者のほうで地代を払い続けたくなく,即時に借地契約の終了を望む場合には,そういう合意で解除するという方法もあるわけですので,懸念されたような復興との関係については,別のルートで処理することが可能だろうと思います。   それから,ここでは問題としては,借地契約が履行不能になっていないということが前提となっているわけであって,場合によっては,そもそも例えばその地域が放射能汚染によって長期間使用することができないというような評価ができる場合には,これは履行不能によって借地契約は直ちに消滅しますので,ここで問題とされるべきは,履行不能とは言えない状態,つまり土地を使うことが可能であるという場合であって,そのような場合の調整としては,解約申入れによって直ちに借地契約が終了するというのはややバランスを失しているのではないかと思います。   最後に,法制的な問題ですが,「解約申入れ」という概念を用いながらその効果が即時に契約が終了するという立法例があるのか,ないのか。これは民法の通常の理解によれば,「解約申入れ」というのは,一定の期間の経過によって契約が終了する場合のことを講学上言っているように思いますので,甲案を採った場合は,そもそも「解約申入れ」という概念を用いるのが適切かどうかという点についても,疑義が生じるのではないかという気がいたします。 ○鎌野部会長代理 いかがですか。関係官のほうで,特に最後の解約申入れということが甲案になじむのかどうか。 ○川副関係官 解約の申入れで直ちにという例があるかということですが,それが何かこの制度でという例が見付かっているわけではございません。それで,言葉としても適切ではないのではないかという御指摘を頂きましたので,更にそこは検討したいと思います。申し訳ありません。 ○鎌野部会長代理 森田委員からは,これまでの委員とは別の理由ということで,乙案がよろしいのではないかという御意見と承りました。 ○山谷委員 私は,基本的には甲案賛成派だったんです。といいますのは,この案の趣旨というのは,借地権者の保護という点から言えば,地代からの負担を免れるという意味では,甲案がふさわしいかと思ったのですが,今,いろいろなお話を伺うと,それこそ賃貸借契約,借地契約が終了した後のいろいろな処理を考えますと,直ちにというのは,時間的な余裕がない感じがします。特にがれきの撤去であるとか,そういう退去の手続のためには,何らかの期間の猶予があったほうがいいのかなという感じがしまして,現時点では乙案に傾きつつあるということでお話ししたいと思います。 ○山野目委員 今,②の御議論を頂いていますけど,①について,簡単な小さなことを指摘させていただいてよろしいでしょうか。①の規律は,政令指定災害との間に因果関係が認められる建物滅失について適用するという趣旨の御提案であると理解しております。その関係でですけども,「政令で定める災害により」の後の読点は,要綱にする際の読みやすさを考えて入れておられるものと考えますけれども,恐らく法制的には読点を外した上で,その後の「建物の滅失があった場合」というのは,「建物が滅失した場合」であうと考えます。これは内容に関わらない推敲のことでございますから,部会長,部会長代理,事務当局にお任せいたしますものであって,それほど強く申し上げることではありませんが,気付いたことですから,申し上げさせていただきます。 ○鎌野部会長代理 よろしいですか,その点は。どうもありがとうございました。 ○沖野委員 これはむしろ皆様に確認したいという趣旨で,垣内幹事のお考えにあった3か月を少し短縮するような形で,それが甲´案なのか,乙´案なのか,分からないのですが,可能性としては1か月か2か月しかないと思いますけれども,そのような考え方は採り得るのかどうかということについて,例えば乙案が望ましいという考え方にあっては,これは借地借家法の規定とそろえるということが重要であるということなのか,一定の期間は設けるべきだという考え方から,現行法にある3か月ということであるのか,もし乙案のような考え方がよろしいのではないかとおっしゃった御意見の中で,しかしこれを2か月とすることは許容されるという御趣旨なのか,それはなお3か月であるというお考えなのか,もし明確化できれば,集約に向かえるか向かえないか分からないんですけれども,より明確になるかと思いますが,いかがでしょうか。 ○鎌野部会長代理 今の点いかがですか,乙案´ということで,3か月ではなくて,もうちょっと短い期間というのもあり得るのかどうか。 ○山野目委員 沖野委員からの御質問は,乙案のほうに傾いた意見を申し述べた者の全員に対するお尋ねであると聞こえましたから,発言させていただきます。   私自身の考えは,3か月より短い期間を法制上の規律として選ぶことを妨げないという認識でおります。それとともに,しかし審議のこの段階で妨げないといって,あと事務当局が投げられると,1か月半にするとかはありませんから,可能性は3か月を1か月にするか,2か月にするかしかないことでしょう。そうすると,その辺りでお悩みになることを想像して,おつらいだろうと思いますから,そうであれば,災害の形態はいろいろですから,今後に起こる災害を全部見通して,何か経験として価するものを述べていただくことというのは難しいかもしれませんけれども,少なくとも私よりはそういうふうな実情について知見のある方から何か感触をおっしゃっておいていただかないと,事務当局に御負担をお掛けするのではないかということも感じます。 ○鎌野部会長代理 このような御提案を頂きましたけれども,今後この辺りを事務当局に練っていただくのに,そういった御経験というか,津久井幹事とか,山谷委員とか,もし何かその辺りの感触がございましたら。 ○津久井幹事 3か月より短い期間も考えられます。場面は違いますが,阪神・淡路大震災のときは,罹災法の正当事由の異議などは3週間という極めて短時間の中で実際やり切っているので,3か月でも今後のことを考えることは十分できるのかなと思います。ただ1か月とか,2か月という期間を裏付けるような立法事実や,これまでの災害でのエピソードが思い当たらないですね。   むしろ3か月が借地借家法8条で定められた趣旨は,私は存じ上げないんですが,今回の震災でいえば,場面は違いますけども相続放棄の熟慮期間についていろいろ検討いただいた経過があり,あれは3か月が長いか短いかという議論の末に延ばしたんですが,3か月というのは,一つの物事を考える目安としては,ちょうどよいというような感覚はあります。   先ほどの1か月,2か月に短縮できないかという理由が,今後のことを考える期間として3か月より短くても足りるかという御指摘であれば私は理屈としては,1,2,3どれもあり得ると思いますけども,3か月を捨てて,他の期間を考えるというところまではちょっと知見がございません。 ○山谷委員 今回の東日本大震災の例を見ると,3か月でも足りない例というのは結構あったんだと思うんです。一つは,主としてがれきの問題ですが,それこそ被災地の業者が手配が付かないということと,あとがれき撤去の費用がなかなか手当てが付かないということで,半年ぐらいまではかなりがれきがそのままになっていた状況があるんです。ただ,これからの大震災を踏まえた場合に,それが一般化していいのかどうか,なかなか悩ましいところがありまして,1か月で済む場合もあり得ないではないと。であれば,何らかの期間を決めないといけないとなると,今までの法制度を踏まえた場合,3か月というのが出てくるのかなという感じは受け止めております。 ○垣内幹事 今の御発言を伺っていまして,あるいは私の発言の意図について,私が十分に私の考えをうまく表現できていなかったのかなと思う部分がございまして,と申しますのは,今,熟慮する期間という観点からの御指摘があったかと思いますけれども,借地権者が解約するかどうかを熟慮する期間については,第2の1の①で政令の施行の日から1年ということになっていて,これは十分な期間はそちらのほうでは用意されていて,今,3か月という形で問題となっておりますのは,解約の申入れを借地権者のほうが決断したというときに,その後,解約の効果が生じるまでの期間で,すなわち解約の意思決定をした後に,なお賃料を負担し続けなければいけない期間を3か月とすることが相当であるのか,それとももう少し短縮することが考えられるのか,という点です。   これは仮に政令施行が直ちにされて,1年経過ぎりぎりのところで踏ん切りがついて解約したというときに,なお3か月の賃料を払うということになりますと,事実上,建物は滅失しておりますので,土地を有効に利用することができないままに1年と3か月などの賃料を支払い続けるということになるわけですが,そのことが相当なのかどうかということかと思います。 ○森田委員 前回問題になった点ですが,甲案を採った場合には,借地借家法8条1項の規定の適用は排除されるかについては,これは排除されないという理解でよろしいのでしょうか。つまり,借地借家法8条1項の規定によって3か月の経過によって終了させるのか,甲案によって即時に終了させるのか,借地権者はいずれをも選択できるということになるということでしょうか。「解約の申入れ等」という「等」のニュアンスに含まれているのかもしれませんが,いずれかを選択できるという前提でいきますと,借地権者が解約の申入れをしたときにどちらの解約申入れなのかということについて,曖昧になって疑義が生ずるという局面が出てくるのではないかという議論が前回あったかと思います。特則ということの意味は,借地借家法8条1項に基づく,3か月の猶予期間の経過を待って土地を明け渡すということを前提に借地権者が解約申入れすることは,借地契約の更新後については排除されていないという理解でよろしいでしょうか。 ○川副関係官 大規模な災害により,借地上の建物が滅失した場合には,新しい規律によって解約ができるということになって,第8条第1項の場合のものは排除されるというふうな関係になるということを前提でこちらの資料は作ったつもりでおります。片面的な強行規定との関係もあるかと思うんですけれども,もちろん当事者間で3か月分払いますよという合意をされて,払うというようなことがあれば,いいとは思うのですが,このような規定がもしも甲案のような効果で定められた場合には,政令で定める大規模な災害が指定されると,その場合に解約するというときには,こちらの規律のみで考えるということが相当だと考えています。 ○森田委員 片面的強行規定といわれましたが,これはどちらを保護しているということなのでしょうか。 ○川副関係官 借地権者側です。 ○森田委員 ということは,借地権者にとって有利なほうの解約申入れを選択ができるということと片面的強行規定ということは,両立するのではないでしょうか。 ○川副関係官 そのような規律に反する特約はできないというようなことで定めるということになると思うんですけれども,それが直ちに当たるかということは違うかもしれませんが,借地借家法の考え方としましては,どちらも選べるというような状況だと,借地権者側が何らかの圧力といいますか,理由から,自分の有利なほうというのが必ずしも選べないような状況になるということがあり得るということで,借地権者にとって不利なものは無効とするというのが強行規定だと思うんですけれども,そのような考え方からすると,選べるというよりは,適用としては,解約の申入れということとしましては,新しい制度というのを適用して,それ以外の合意を何らかするということになりますと,借地借家法第8条第1項というような規定に基づく解約の申入れとは,また別の形になるのではないかと思います。 ○森田委員 解約申入れが当事者のどちらにとって有利か,不利かというのは,事情によっても変わってきますから,一方的に当事者の一方にとって有利とは言えないのではないかと思います。もしそういうことであれば,借地借家法の一般規定の適用が排除されるかどうかは法律に何も規定されていないと,この点は解釈に委ねられることになりますので,今おっしゃられたような解釈が当然に採られるかというと,そうではないのではないかと私は思います。 ○鎌野部会長代理 よろしいですか,そういう御意見を伺ったということで。後でまた5ページのところの(第2の後注)ということで今言った御説明があったような強行規定かという,そういう議論もあろうかと思います。 ○山野目委員 2点申し上げさせていただきます。   森田委員からの御質問に対する川副関係官の御所見で,片面的強行規定に言及された部分は,少し私には理解しかねる部分がありましたけれども,それ以外に関してはおっしゃったとおりであって,御提案の趣旨は,借地借家法8条は適用されなくて,新しい規律に全てが委ねられるという趣旨で提案なさっておられるものであると理解していました。そうであるとすると,森田委員が御指摘のように,どこかでそれは法制上明瞭にしておくということがあったほうがよいと,そのことが望まれるのかもしれません。裁判所からパブリックコメントで出されている御意見でも,そこのところをはっきりさせてほしいという御指摘があったと記憶しております。   それから,もう1点は,垣内幹事がおっしゃったことですが,御指摘のとおりであって,3か月というのは,誰かが何かをじっくり考える時間として適当かどうかということで,津久井幹事や山谷委員の御意見をお伺いしたという趣旨のことはないと思います。むしろこれは,考えると,土地を所有している人が借地権が消滅して,地代収入,土地の対価に係る賃料収入がなくなると告げられてから,次の借り手を探すまでの間,余り短いと,そこの土地からは何も入ってこなくなってしまうという問題について,どこまで配慮が必要ですか,というところに,経済的に突き詰めていくと,考えなければいけない問題がありますから,そこについて垣内幹事は御注意を喚起なさったものと考えます。   そのように自分なりに理解した上で,しかし改めて考えても,3か月を2か月か1か月にすると,何かそこのところががらっと変わるか,ということは,被災地のその時の災害の実情に応じて,いろいろな場面がありますから,ここで抽象的に議論することは難しいと感ずる部分があって,そうであるとすると,8条がひとまずの参考の期間として出している3か月というものを法制上採用するということで,ここでよほど強い意見が出なければ,恐らく事務当局がこれからいろいろ法制的に整理されていくときには,そうするほかないのかもしれないというふうなことも感じます。 ○細谷委員 垣内幹事の御意見に賛成なんですけど,実際に借地人としては,多分地代を払えなくなるということが想定され,既に滅失してから数箇月間,地代を払い続け,更に地代を払うことが困難な状況の中で,仮に解約したところで,地代を払えないのではないでしょうか。そうすると,地代を払わないまま3か月が経過するということだってあり得るわけです。そういうことについてはどう考えたらよろしいのですか。 ○川副関係官 仮に乙案のようなものを採った場合には,借地権が3か月間は借地契約が続くということになりますので,今,正におっしゃられた地代を払うことができないという現実的な問題というのは発生することがあろうと思いますけれども,実際上は払わなければいけないお金として,地代を遅滞している状況になるということにしかならないのではないかと思います。 ○岡山幹事 あるいは保証金とか,敷金を入れていれば,そこから控除された形で処理されるとか,あるいは実際もしそういう地代が払えないというのであれば,合意解約という形にして,早目にその辺を処理するということも,借地人のほうとしては現実的な選択になるのではないかと思います。 ○鎌野部会長代理 そのほかに何かございますか,かなり多くの意見を伺いましたけれども。   特に理由を付して私がまとめるということはしませんけれども,甲案がよろしいという御意見,それから乙案がよろしいという御意見,これは比較的多くの方がそういった意見を頂きました。それから,仮に甲´案といいますか,中間的なものとして,3か月というのをもう少し短く1か月とか,2か月というのがよろしいのではないかという御意見も頂きました。   それでは,第2の1については以上ということで,次の第2の「2 借地権の対抗力」,こちらのほうに移っていきたいと思います。   御説明をお願いいたします。 ○川副関係官 では,次に借地権の対抗力について御説明申し上げます。   前回の部会におきましては,現行法の5年間,当然対抗するという規律を維持すべきであるという御意見を頂きました。しかしながら,今回,補足説明に記載しましたとおりに事務当局としては考えておりまして,今回,たたき台では,再度,担当者素案と実質的には同様の特例を設けるということを提案してございます。   その理由としましては,補足説明にあるとおりですけれども,言うまでもないことではありますが,公示の原則というのが不動産取引において基本となる極めて重要な原則であると考えられるということがございます。本来は登記が予定されている借地権について,借地借家法の第10条というのは特例を認めておりますが,その規定の内容としても,取引をしようとする第三者に不測の不利益が生じることがないような配慮をした上での規律となっております。   例えば借地借家法の第10条第1項でいえば,土地取引では現地を見聞することが通例となっているということから,その土地を見に行って,建物があるということが分かって,その建物の名義を調べれば,土地の所有者との名義が違っていれば,何らかの使用権というものが推測できると,そのような考えに基づいていると思われますし,借地借家法の第10条第2項のほうでは,滅失した建物についての掲示などをすることによって,土地と滅失した建物との登記というのを結び付けると。それによって,滅失した建物の登記に言わば予後効のようなものを認めて,借地権が存在していたということが推測できるような規定となっております。   このように第三者の配慮が全くされていないというか,第三者が借地権の存在を推測するような手掛かりがないという状態で借地権の対抗力が認められる場合というのは,極めて限定された場合,必要性が相当に高いというような場合に限るということになるだろうと考えております。   それを前提にして,大規模な災害が発生して,借地上の建物が滅失したという場合を考えますと,災害発生直後は,借地権者としては土地に立ち入ることもできないというようなことも考えられますし,掲示をしようとしてもできないといった場合が起こることが考えられます。また,掲示したとしても,復興作業の中では,先ほどもありましたがれきの処理といったことも起こることがありますので,掲示というものが作業の妨げになるというような可能性もございますので,災害直後については,掲示することはなかなか困難であろうということが考えられます。   他方で,大規模な災害が発生したという事実,それから政令によって指定されたという事実,こちらの事実は明らかな事実ですので,災害の発生直後であれば,これらの事実によって,当該土地について売買をしようとする第三者が何らか例えば公示がされていないという土地であっても,借地権が設定されているというようなリスクを予測して取引をするということ自体は不可能ではないのではないかと考えられます。けれども,このような期間を現行法のように長く続けるということ自体は,先ほど述べたような原則に反するところがございますし,また復興の観点からも,土地取引が円滑に行うことができないといった支障が生じる可能性があり,相当ではないと考えています。   そこで,今回のたたき台では,公示なくして,借地権を対抗できる期間というのは6か月とさせていただいております。その後は掲示することにより,借地権を認めること,そしてその期間については,被災時であることを考慮して,借地借家法の第10条第2項の場合よりも長くし,ここについては,まだどちらとは示しておりませんが,3年又は5年とすることを提案している次第です。   なお,(注)がございますけれども,この(注)については,借地借家法の第10条の第3項,第4項の規律を準用するということを注意的に書いているものです。借地借家法の第10条第3項では,対抗される借地権の存在を知らなかった土地の買い主の保護のために,土地の売り主側の担保責任の規定を準用しておりまして,第4項では,その場合の同時履行の規定を準用しているということがございまして,今回についても,何ら公示がなく,又は掲示というような手段によって借地権の対抗力を認めるということを提案しておりますので,借地借家法第10条の場合と同様にこのような規律を準用するということを注意的に書いてございます。   現行法の規律を廃止すること,そしてこのような特例を設けるといったことの適否など,それから特例を設ける場合に具体的な内容について御意見を頂ければと思います。 ○鎌野部会長代理 いかがでしょうか。これについては,担当者案では①の6か月というところに括弧があったのが,その括弧が取れております。ですけど,②の政令施行から3年又は5年と,それは括弧がそのままついておりますので,特に3年か5年かということを恐らく事務当局としては是非とも御意見を伺いたいということだろうと思います。もちろんほかの点でもよろしいですので,御質問,あるいは御意見をお願いいたします。 ○細谷委員 ①の第三者に対抗できる政令の日から6か月ということの6か月というのは,なぜ6か月なのかというところは,どういうふうなことなんでしょうか。 ○川副関係官 6か月というところが何かこのようなデータに基づいてということが具体的に言えるだけのデータを集めようとしてみたのですが,6か月というか,何らか目安となるデータがないかと思って集めようとしてみて,また国交省さんなどにも御相談させていただいて,考えているところなんですけれども,なかなかこれだという数字が出てくるようなデータというものが見付からない状態でありまして,抽象的なことでしか考えられていないところはあるかもしれません。   一応こちらの6か月という期間というのは,掲示をするということが実際上困難であるし,掲示を求めることも相当ではないと思われる期間で,先ほど補足説明のところでも申し上げましたけれども,土地の取引の安全という観点から許容される期間ということで考えるしかないと思っておりまして,土地に立ち入って掲示といったような行動をすることが可能となるような期間として,6か月程度とするのが相当ではないかということで,今,たたき台では6か月とさせていただいているところでございます。 ○細谷委員 例えば,がれき等が6か月以内できちんと撤去されて,更地の状態に戻るという可能性はあるのでしょうか。 ○岡山幹事 全ての震災においてこうだと私どもが言い切れるだけの自信があるわけではありませんが,おおよそ一般的な災害が起きたときに6か月程度ということであれば,がれき等が処理されるでしょうし,被災した借地権者の方も現地に赴かれて,私どもが今提案している掲示ということを要求しても,さほど酷な要求ではないのではないかという発想に基づいているということでございます。 ○根本委員 前回の議論は議事録で読ませていただいただけなのですけれども,①の6か月というところについては賛成という立場でございます。こちらについては,様々な取引のその後の安定性の問題もございますので,公示なしに置かれる期間としては6か月程度でよろしいのではないか。なぜという部分は別にいたしまして,よろしいのではないかと思っております。   他方,②につきましては,現状の規定で2年という一般則があるわけですけれども,それは建物が滅失した日からという理解をしております。今回の場合には,政令の施行の日から更に3年ということで,非常に長い期間,対抗力を認めるということになっております。先ほど出ておりました復旧・復興なり,新たに再建するということから考えますと,少し長く取り過ぎではないかという感覚を持ちます。したがって,こちらは一般則のほうの2年にお戻しいただいてもよろしいのではないか。2年と記載したとしても,それは建物滅失の日からではなくて,滅失の日から数えれば,更に長い期間になるということでございますので,短くてもよろしいのではないかと考えます。 ○鎌野部会長代理 ここでは3年か5年かということですけれども,事務当局の案はですね。ですから,2年にしたらどうかと。政令施行から2年ですね,そういう御意見を賜りました。そのほか何かございますでしょうか。ここのところは恐らく今後事務当局としても詰めるときに3年か,5年か,あるいは2年かというようなことで,是非とも御意見を伺いたいということでございます。 ○山谷委員 何年がそれこそふさわしいかという,なかなか微妙なところだと思うんですけども,東日本大震災が終了して1年8か月になって,もうじき2年になるんですけども,今回のこの件は,土地取引の安全と復興との絡みで見ないといけない論点かと私は見ているんです。その意味では2年間過ぎて,土地の取引を円滑にするのがふさわしい期間なのかどうかという点では,すごく私は疑問に思っています。   では,どのぐらいの期間がいいのかというのは,それこそ復興事業との関係で必ずそこが問題になると思うんですけども,やはり今のところは3年というのもめどがまだ付いていない状態かと思いますので,ある程度余裕を見れば,5年というのはすぐ出てくる期間かなと私は受け止めています。ただ,復興事業というものを民間のほうで手掛ける方法もあると思うんですけども,ただその辺り前例がなかなか見当たらないで,現実に東日本大震災の例を見た場合に3年でも短いなという感じが私は正直しておりまして,その意味では5年説に賛成したいと思います。 ○鎌野部会長代理 5年ではいかがかという御意見を承りました。 ○細谷委員 3年,5年ということなんですけど,政令の実際に2年の現行法の10条,それは建物がある程度計画的に取り壊し,その前に貸主さんとの交渉をしたりして,それから滅失して,取り壊して,建築する。もちろん自然災害の場合とか,火事とか,そういう場合もありますけど,この2年というのは結構大変なわけです。そういう災害時で大変混乱した中で,恐らく貸主さんのほうから建替えについては非協力な態度に出てくることも相当予想されるということで,場合によっては,建物を建て替える場合に,非訟手続等を起こさなければいけないということも出てくると思います。そうなってくると,3年すら短いのではないかということで,私としては5年ぐらいの猶予期間を交渉して,更に貸主さんとのそういう調整をしたりする期間としては,やはり5年ぐらいの期間がないと,家の建替えはできないのではないかと思います。 ○鎌野部会長代理 5年という御意見でした。   そのほか何かございますでしょうか。ここのところは数字で,なかなかすぱっと理論的に割り切れるということではございませんけれども,事務当局としては,3年か5年かという問いを発したんですけれども,2年でよろしいのではないかという御意見,それから5年がよろしいという御意見を今のところ頂きましたけれど。 ○山野目委員 自分の意見を述べるということではなく,発言させていただきますが,今の意見分布ですと,事務当局がこの後,要綱案を作っていくときには困ると想像します。みなが必ずぴったり全員一致にならなくても,かなりいろいろなお立場があって,しかし可能な限り集約したものを答申にしていくということが法制審議会の理想でございますから,もう少し私はこの期間の問題について,国土交通省とか,被災地に行かれた実務家の先生から意見をお出しいただいたほうが,事務当局の今後の参考になるであろうと感じます。無責任なお願いになりますが,何分にも自分に経験がありませんから,そのようなお願いをした上で,事務当局の今後の立案がうまく進むとよいというふうな希望を抱きます。   そのような所感を申し上げさせていただくのは,更に申し添えますと,根本委員のほうからおっしゃっていただいた御意見はごもっともですが,恐らく震災の場面に直面した政府は,今こういう落ち着いて議論をできる時だからいいのですけれども,被災地の非常に悲惨な状況が毎日のように報じられて,そこの人たちの心情たちを酌まなければいけない状況の中で,政令制定の判断を強いられるという全く普通ではない心理的な環境で政令制定が求められることになって,ここを政令施行から2年と決めておいて,なるべく長い期間を取ってあげなくてはいけないという心理が働くと,②のほうの政令施行が遅れると思います。ところが,①のほうの政令施行は早くしなければいけないので,股裂きの状態になって,その時に直面することになった政府が非常に苦しむことになりますから,そうでないような知恵を今のうちに考えておかなければいけないと感じます。   他方,5年という御意見が二つありましたが,そのほかの御意見がないまま論議が進んでいくことは,それでよいでしょうか。被災地のことを考えれば長いほうがいいということは間違いありませんけれども,本当に借地権の対抗力の特例というものが,借地借家法の普通的規律が2年であるのに,その倍以上の期間を設けるということが,法秩序との関係で見たときに,安定的に説得力のある期間として採用されたと見てもらえるのかというところは,民法の研究者として見れば,やはり少し心配なところはありますから,そのようなことも含めて,もう少し御議論を伺ってみたいという希望を抱きます。 ○里見幹事 必ずしも私自身が実情を詳しく知っているということではなくて,それは現地の弁護士の先生のほうがお詳しいと思うんですけども,この議論を事前に読んだときには気付かなかったんですけど,先生方の御議論を聞いていて,面整備,例えば土地区画整理事業をやるといって,都市計画決定はやったけれども,工事はまだというところと,まだ都市計画決定を議論しているところと,いろいろあるわけですけれども,面整備をするような所では,将来像が大体分かるわけです。ここは面整備,区画整理事業が終わった暁には,きちんとかさ上げされて,自分が住めるなということが割に分かるというのが早いんですけれども,何を言いたいかというと,最低二つぐらいは分けて議論しなければいけないのではないかと思いながら,お聞きしていたんです。   もう一つは,単純に山裾で例えば津波も全然来ていない,でもちょっと怖いみたいな所について,各々が悩むわけです。面整備事業には入っていないと。自力再建をするのか,どうするか,あるいはもう一つ,面整備手法として,防災集団移転というのがありまして,区画整理事業の場合は都市計画決定なので,最後には有無を言わさずエリアが決まるんですけども,防災集団移転の場合は合意した人だけを高台に移すという事業でございますので,そこで地権者の判断が入るということもあって,三つぐらい場合によっては分けなければいけない。   最低でも二つに分けて議論していく中で,借地権者なり,借地権設定者の方,こっちの場合,対抗力ですから借地権者のほうだと思うんですけども,借地権者の方が判断できる期間がどれくらいかというのを幾つか,想定する。山野目委員もおっしゃっているように将来の災害は分からないんですけれども,今,我々が経験した中であるのは阪神・淡路と東日本というのは一番大きい災害でございますので,そのような場合に各々単独で家を建てる場合,任意事業で所有者なり,権利者の判断で何かが動かせる場合,さらにもちろん意見は現実には聞いてほぼ全員同意でないと事業はできませんけれども,法律的には権利者の意向と関係なく都市計画決定で進められる事業と,この三つの場合では,保護の期間は違ってもいいのではないかという意味で,単純に3だとか,5だとかいうことではないのかなと思いながら聞いていました。今,皆様に御提供できるような材料がないのは申し訳ないんですけど,少なくとも三つぐらいは分けて考えなければいけないのかなということをちょっと思ったということでございます。 ○鎌野部会長代理 貴重な意見,どうもありがとうございます。 ○津久井幹事 阪神・淡路大震災の経過から見ますと,罹災法は5年間,何もしないでいいという内容で取引の安全を脅かす可能性があったにもかかわらず,対抗力の有無で紛争になったというようなことは聞いておりません。つまり5年という期間であっても,取引の安全に対する支障というのは,現実的にはさほどないだろうと思います。今どきは調査も容易ではありますし,過去,建物があったかどうかということも現地に行かずともグーグルで分かるような御時世ですので,そういう意味では,そういったことへの配慮は要らないような気もします。   ただ,一方で,今回は看板を立てなければいけないわけで,看板が5年間も持つとは思わないです。今,御指摘あったように,被災地ではどんどん区画整理なり,都市計画なり,集団移転なり,いろいろな事業がどんどん進んでいくのに,5年も前の看板がずっとあるというのは,何となく奇異な感じもします。借地借家法のスキームをそのまま利用するということを考えると,3年というのもありではないかと思います。私個人としては特に意見はないのですが,弁護士会としては,対抗力の規定は罹災法のものをそのまま残したほうがよいというふうな意見を申し上げていたところですので,そういう意味では5年と。 ○鎌野部会長代理 山野目委員が事務当局がなかなかまとめるのが大変だというようなことで,いろいろお聞きしたほうがよろしいということですけども,なかなかどちらかの方向にまとまりませんけれども,いろいろなお立場から御意見は伺ったところです。   そのほかに何かございましたら,御苦労でも最終的には事務当局におまとめいただかなければいけないんですけれども,3年という御意見もあった,積極,消極はともかくとして。5年という意見が比較的多かったように思います。2年という御意見もありました。ですけども,いろいろな要素ということを考えなくてはいけないという非常に貴重な御指摘は頂いたと思います。 ○根本委員 ここで借地権に対抗力がある中で,里見幹事にお伺いしたほうがよろしいかと思いますけど,土地区画整理等を行う際に,何らかの障害になりはしないかということを少し懸念いたします。その辺りは何ら問題がないという理解をしていてよろしいのでしょうか。 ○里見幹事 私も担当部署ではないのですが,確か区画整理の場合は,権利はそのまま移っていきますので,そのときに多分所有者,あるいは借地権者,各々権利に応じて,例えば地区外移転するなら補償金を払う,区画整理ですと換地といって動かすわけですけども,そのままくっ付いていく,いろいろな形が採れるかと思いますので,恐らく対抗力そのものの問題というよりは,誰が借地権者なのか,借家権者なのか,行方不明者がいるかどうかというところのほうが現実には問題で,余り対抗力は問題でないと思います。戻って確認いたしますけれども,それほど対抗力だけが問題になるとは思えないというのが私の直感でございます。 ○根本委員 お伺いした趣旨は,早く再建に取り組んでいただきたいということです。そのためにどういう全体像を描くか,どういう新しいまちを早く造り上げるか,それに適した制度としてはどちらがいいかということをお考えいただいたほうがよろしいという趣旨で今お伺いした次第です。 ○津久井幹事 土地区画整理法の85条の権利の申告というのがあって,借地権があることを申告するとき,85条の3項で登記のない権利については,地主さんの連署が必要になるという規定があるので,区画整理で,対抗力がないとすると,手続が若干ややこしくなって,借地権者の権利が揺るがせになってしまうのではないかということです。 ○里見幹事 理解が浅いままでこういう公の場で議論してはいけないのかもしれませんけど,恐らくおっしゃるとおりなんですけども,この場合の対抗力は,何もなくても対抗ができるという状況のことは,区画整理,事業する側からすると,何のよすがにもならなくて,権利を主張する方は,もちろん建物はないけど,政令で対抗力があるんだと言っても,ないものを確認するというのは結構難しいのではないかと,実務的にはですね。だから,何を言いたいかというと,立て札だけでいいと言えば立て札が証拠になるんですけども,この法律によって守られていますというだけだと,結局余り差はないのかなという感じをしたんですけども,すみません,不確かなので,帰ってからきちんと確認させていただきます。申し訳ございません。 ○鎌野部会長代理 そのほかに何かございますでしょうか。よろしいですか,この件については。いろいろと御意見を頂きました。   それでは,次に移らせていただきたいと思います。   今度は第2の「3 土地の賃借権の譲渡又は転貸」でございます。   事務当局のほうから御説明をお願いします。 ○川副関係官 それでは,次に「土地の賃貸借の譲渡又は転貸」について御説明申し上げます。   前回の部会におきまして,このような制度を設けること自体は御賛成いただいたと考えております。それを踏まえて担当者素案から実質的な変更はなく,今回,土地の賃借権の譲渡又は転貸という制度をたたき台で提案させていただいております。   前回の部会におきましては,制度趣旨としてどういうことを考えるのか,判断の枠組みとして,借地借家法第19条の場合と異なったようなものになるのかという御質問を頂いておりました。事務当局といたしましては,建物が滅失してしまった場合にも,このような譲渡,転貸の許可に関する特例を設けるということの趣旨としましては,第2の1でありました解約を認めるということと同様に,実質的には借地を利用することができなくなっている借地権者について,地代等の負担を減免させて,その土地について投下資本を回収する機会を与える必要があると考えております。それに加えて,大規模な災害が発生した場合に地域全体が被害を受けているというようなことが考えられますので,被災地の土地の利用というものが促進されれば,復興に資するということにもなるという,その点も制度を設ける趣旨であろうと考えているところです。   たたき台のほうでは,(注)としまして,借地借家法の第19条第2項以下の規律や,それから借地借家法の第4章の規律を準用するということ,そのようなことをするということを注意的に記載しておりますけれども,今回設けられる新しい制度としましては,借地借家法第19条の場合と,建物があるかないかという違いがありますけれども,基本的には借地権者,それから借地権設定者双方の利益の均衡を図るという点では類似した判断構造になるのではないかと考えております。そこで,具体的な規律についても,借地借家法の第19条の場合と同様にすることを前提に提案させていただいている次第です。   それから,前回は,本文の②のところですけれども,申立てが可能な期間を1年とするのが相当なのか,期間について,解約の場合と同様の期間とするという理由を申し上げておりましたけれども,その理由が本当に理由となっているのかどうかということについて御意見を頂いたと思います。   この点なんですけれども,第2の1で御検討いただいた解約の申入れといった場合と,譲渡,転貸する場合,譲渡,転貸を諦めて解約の申入れをするということは考えられると思いますけれども,今回の譲渡,転貸の場合の許可の申立てという制度と,どのような関係になるのかというのは,様々なパターンがあると思われますので,それとの関係で何らかの期間を区切るのはなかなか困難だろうと思っております。   借地権者として,このような譲渡,転貸の許可が出るまで,実際に譲渡,転貸するまでの間の地代等の負担を続けるということになりますので,借地権者としましても,借地契約を今後どうするかというのは比較的早期に判断すると思われますので,やはりこれについては政令の施行の日から起算して1年という期間とする,そこで区切っておくというのがいいのではないかということで,そのまま提案させていただきました。   最後ですけれども,前回の部会におきまして,更にこのような申立てがあった場合に,裁判所が附随決定する際には,土地の賃借権が譲渡されたりした後にどういう建物が建てられるのかが分からないと,なかなか判断することが困難であるという御指摘も頂いたところです。この点につきましては,申立てがあった場合には,借地の非訟手続に基づいて判断がされるということになりますけれども,今後,再築する予定の建物についての資料とか,情報といったことが判断に必要だということはごもっともだと思いますけれども,その点については裁判所から申立人である借地権者のほうに要求していただいたり,譲受人となる予定の人について,利害関係参加人として非訟の手続に参加するというようなことが考えられるのではないかと考えています。   前回の部会の中では,実際に非訟手続に強制的に参加させるというような御提案もあったかと思うんですけれども,当事者の立場ではない譲受人となる予定の者を強制的に参加させるというのは難しいのではないかと思っておりまして,また実質的にも借地権者の側からして,再築予定の建物の情報について,裁判所の御理解を得られなければ,それによって判断について不利益を被る可能性があるわけですから,協力が得られないということはなかなか考えにくいのではないかと思っておりまして,事務当局としましては,強制的な手段というのは必要ないのではないかと考えております。   ちょっと長くなりましたけれども,土地の賃借権の譲渡又は転貸については,そのような趣旨で御提案させていただいております。 ○鎌野部会長代理 御説明いただいたとおりです。これも前回の担当者素案とほぼ同じで,ただ②のところの施行の日から起算して1年という括弧が付いていたのを,それが取れたということでございます。   何か事務当局の御説明について御質問,あるいは御意見などがあれば,発言を願いたいと思います。 ○根本委員 前回欠席したことを一番悔いている項目なのですが,既に入れるということでここでの議論は収束しているという前提で申し上げます。1点指摘させていただきたいのは,こうした規定を設けることは,被災した都市の復興,あるいは再建に対して障害になり得るであろうということです。それがたとえ短時日の間であっても,転貸に次ぐ転貸がなされる可能性もございますし,現実の土地取引等の中において,こうした事例が開発の妨げになってきた,あるいは再建の妨げになってきたという実例が幾つかあると私自身は聞いております。でき得れば,こういう規定は置かないでいただきたかったという意見だけ申し上げさせていただきたいと思います。 ○鎌野部会長代理 これについては消極的という御意見と承りました。そのほか何かございますでしょうか。前回は根本委員は御欠席でしたけれども,この制度自体はよろしいのではないかということでしたけれども,中身について,特に現行の借地借家法の19条などとの関連,特に財産上の給付などにおいて,どのようなものかと,19条と異なるのかどうかと,そういうことも問題になろうかと思いますけれども,この点にかかわらず,どこからでも。 ○福田幹事 先ほどの川副関係官からの御説明についての確認でございます。   まず,1点目ですけれども,今回のスキームが借地借家法19条,平時のスキームと基本的に同じでよいかどうかということを前回も御質問させていただきました。今の御説明ですと,基本的には同じ判断構造になるということでございましたので,今回の規律について,制度趣旨としては,被災地の土地の利用の促進ということはあるのだろうと思いますけれども,だからといって,借地借家法19条のときと異なって,利用の促進のために財産上の給付を安くして,譲渡,転貸を促進するというような,そういう考慮要素の働き方はしないという理解でよいのかどうかというのが1点目でございます。   それから,2点目で,新しく建つ建物の種類や構造や規模などが十分に情報が得られないとすると,裁判実務で支障が生じるのではないかという観点から前回質問させていただいたところです。先ほど川副関係官から,基本的には申立人を通じて,あるいは譲受人が利害関係参加をしてきて,そこで資料が出てくるのではないかという御説明を頂きました。もしそのような資料が出てこない場合には,判断について不利益を被ることになるから,そういう意味では必ず出てくるだろうというお話だったかと思いますけれども,その前提の理解としては,新しく建つ建物の種類や構造や規模などが分からないと,裁判所としては,借地権の譲渡,転貸が借地権設定者に不利になるおそれがあるかどうかについての判断は恐らくできない,少なくとも不利になるおそれがないとは言えないので,却下になるだろうと。その強制力をもってして,きちんと判断資料は出てくるだろうと,そういう理解でよろしいのでしょうか。お願いいたします。 ○鎌野部会長代理 2点,確認ということですけれども。 ○川副関係官 まず,1点目のところにつきましては,被災地の土地の利用促進のためにという制度趣旨というところが,財産上の給付の額を判断するのに当たってどう考慮されるかということであったかと思いますけれども,事務当局として,実際上考えているところとしましては,財産上の給付というものは,正に当事者間の利益の均衡を図るために必要があるときにどのように判断されるかということでございますので,促進のために直ちに財産上の給付の判断が高くなる,とか,安くなるといったことが,こちらで何らか言えるというところはないのではないかと思っております。   それを踏まえて,そのような制度趣旨もあるということも踏まえた上で,ただ実際上,法文上,出てきますのは,当事者相互の利益を図るということで,どのような額が相当かということで御判断をしていただくことになりますので,直ちに制度趣旨がどちらに動くということがあるのか,ないのか,こちらで確定的なことはなかなか言えないのではないかと思っております。   それから,もう1点のところにつきましては,何らかの資料がない場合,再築される予定の建物について資料がない場合にどうなるかということですけれども,当然,判断としては,たたき台のほうでも①のところでもございますけれども,譲渡,転貸しても,借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらずということがございますので,そのような判断をする際に,実際にどういう建物が建つのか,何も情報がないということが考慮される事情となると,そのおそれがないと言えるかどうかを考慮する際の事情になるのは,そのとおりであろうと思います。その場合には,分からない以上,おそれがないとは言えないというような判断に傾くこともあり得るところだと思いますけれども,実際上,それによって許可がされる,されないという判断は,個別の事情によるということになろうかと思います。   ただ,一方で,実際上,この土地の賃借権の譲渡又は転貸につきましては,元々の借地契約が譲渡,転貸されていくかどうかということ以上のものはございませんので,元々建っていた建物があって,借地についてどのような建物を建てるという条件等が設定されているような場合には,そういう条件がついたものが譲渡,転貸されていくということですので,全く分からないというような事態が本当にあるのかというのも分かりませんけれども,少なくとも建てられるとしても,条件に従ったものが建てられるという前提に立つしかないのではないかと思っております。 ○細谷委員 土地の賃借権の譲渡,転貸という点でいきますと,自然災害で滅失した建物,借地権者としては,家の建替えができないというところで,借地権の譲渡する道が開ければ,更に新しいところに移転するということも可能になるのではないかという点で,是非こういう制度を設けていただきたいと,賛成であると思います。   あと,政令の日から起算して1年ということは,かなり厳しい期間だなと思っているのですが,実際に新しい譲受人を探して,交渉して,それと成約になる場合,結構時間が掛かる。ましてこういう災害時ですから,相当時間を要するということで,1年という期間なんですけど,2年ということにはならないのかなという意見であります。 ○鎌野部会長代理 一つ,こういった制度自体には賛成であると。ただ,②の1年という期間については,例えば2年ということではいかがかという御意見と理解しました。   そのほか何かございますでしょうか。特にございませんでしたら,(第2の後注),そこのところまでやらせていただいて,休みを取りたいと思います。   それでは,(第2の後注)の点についての御説明をお願いしたいと思います。 ○川副関係官 それでは,(第2の後注)のところについて説明させていただきます。   担当者素案では,強行規定とすることについては,土地の賃貸借の解約の点についてのみ取り上げて補足説明で記載しておりました。ただ,今回改めて(第2の後注)として,第2の制度全体について,このような規定を設けるということを記載しております。第2の各制度については,借地借家法の規律を参考にしまして,いずれも借地権者,又は転借地権者に不利なものは無効とする片面的な強行規定とすることを考えております。   説明は以上でございます。 ○鎌野部会長代理 そのような御説明がありました。いかがでしょうか,この点について。特にこの点については,これでよろしいでしょうか。   それでは,まだ後半,重要なのが幾つかありますけれども,ここで休みを取らせていただきたいと思います。           (休     憩) ○鎌野部会長代理 それでは,再開させていただきたいと思います。   あと二つ,第3と第4がございます。   まず,「第3 被災地一時使用借地権(仮称)」でございますけれども,それに入りたいと思います。   まず,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○遠藤関係官 それでは,「第3 被災地一時使用借地権」について御説明いたします。   被災地一時使用借地権につきましては,パブリックコメントに付しました担当者素案において,このような新たな制度を設けるものとする甲案と,特段の規律を設けないものとする乙案という二つの案を提示させていただいておりまして,前回の部会でも二つの案をお示しして御議論を頂いたところでございます。そして,パブリックコメントの結果におきましても,このような制度を設けるべきであるとする意見が多数寄せられたところでございますし,前回の部会でもこのような制度を設けることについて積極的に反対する意見は示されなかったものと認識しております。そこで,今回の要綱案たたき台におきましては,甲案によって資料を作成したということでございます。   さらに,制度の具体的な中身について,担当者素案から改定があった点を中心に御説明いたします。   まずは,被災地一時使用借地権を設定することが可能な期間についてでございますけれども,担当者素案では1年と2年をスラッシュで併記していたところでございます。この点につきましては,前回の御議論で2年とすることがよいのではないかという意見を幾つか頂いたところでございますので,この要綱案のたたき台では2年ということにさせていただいております。   他方で,パブリックコメントでは,1年としつつ,政令で延長すると,設定可能期間を政令で延長するという措置も考えられるのではないかという意見も相当数出されておりまして,前回の部会でも,このような考え方について賛同を示された方もいらっしゃいました。そういったこともありまして,今回の要綱案のたたき台では2年とはしておりますけれども,亀甲括弧を付した上で更に御検討をお願いするという形にしております。   それから,設定可能期間ではなくて,存続期間についてでございますが,これは前回は5年に亀甲括弧を付していたところでございますけれども,この点につきましては,特段御意見を頂いていなかったことかと思いますので,一応今回は亀甲括弧を外した形で書いております。   それから,①のうち被災地一時使用借地権を設定する要件に関連しまして,存続期間を5年とするという要件と,それからもう一つ,この規律の適用を受けることとする旨を定めて借地権を設定したときという二つの要件を①では提示させていただいております。このうち本規律の適用を受けることとする旨を定めて借地権を設定したときという要件につきましては,前回幾つかの御指摘,それから御議論を頂いたところと存じます。   まず,この要件が必要となる意義についてでございますけれども,一つは,被災地一時使用借地権と借地借家法第25条の一時使用目的借地権,この二つを区別する必要があるという点が挙げられると考えられます。   それから,もう一つの意義としましては,後の紛争を防止するという観点から,当事者が被災地一時使用借地権という特殊な借地権を設定したということについて十分に理解した上で契約していただくために必要となるという意義もあろうかと考えられます。   この二つが,本規律の適用を受けることとする旨を定めて借地権を設定したとき,という要件の意義になろうかと思います。   この要件を満たさない場合にどうなるのかという点についても前回御質問を頂きました。この場合,当然本規律の適用がないことは明らかでございますけれども,他方で,新しい制度,新しい法制におきましては,借地借家法第25条の適用を排除するという趣旨は含んでおりませんので,借地借家法第25条の要件が満たされる場合には,当然借地借家法上の一時使用目的の借地権として扱われることになろうかと考えられます。   さらに,借地借家法第25条の要件も満たさない場合もあろうかと思いますが,この場合については,強行規定の適用を受けることとなるのか,あるいは契約が全体として無効となるのかにつきましては,個別の合意を解釈して決せられるべきということになろうかと存じます。   それから,当事者が被災地一時使用借地権を設定するということを十分に理解した上で契約を締結するということを担保するという二つ目の意義に関しましては,前回の御議論で説明義務を課すということも考えられるのではないかという御指摘も頂いていたところかと思います。この点につきましては,説明義務を課すということになるとすれば,恐らくその説明をするのは借地権設定者側になろうかと思いますが,被災地において借地権の設定者にこうした義務を課すことが相当かどうかという点について,更に検討する必要があろうかと思いますし,そもそも被災地一時使用借地権の趣旨,つまり簡明な法律関係の下に暫定的な借地権を設定することを可能とするという趣旨との関係で,説明義務違反をめぐる紛争が生じ得る可能性をどのように考えるかという点につきましても,検討課題として挙げられるのではないかと考えておるところでございます。   次に,要式行為性につきましてです。パブリックコメントでも,要式性については,公正証書を要求すべきであるという意見と,必ずしも公正証書による必要はないのではないかという意見の二つに分かれていたところでございますけれども,被災地の状況に鑑みますと,常に公正証書によらなければならないとしますと,かなり被災地一時使用借地権が利用される場面が限定されるということになろうかと思います。そもそも被災地一時使用借地権は,被災地の復興に資するという観点から新たに設けられる制度になろうかと思いますので,余り重い要式性を求めるということになりますと,利用が必要以上に制限されてしまうということにもなり,相当ではないとも考えられるところでございます。   そこで,要綱案のたたき台では,このような考え方に立って,必ず公正証書を要求するということまではせずに,公正証書等の書面によらなければならないという考え方に立って記載しておるところでございます。もっともこの点に関しましては,先ほど御説明しました当事者が十分に契約の内容を理解した上で借地権の設定をするということを担保する必要があるという観点からも,若干影響する論点かと思いますので,そういった観点からも御意見を頂ければと考えております。   説明は以上になります。 ○鎌野部会長代理 ありがとうございました。   それでは,御質問,御意見がありましたら御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。説明がありましたように,前回は甲案,乙案と。乙案というのは設けないということですけれども,今回はそういった乙案を支持されるという方がいらっしゃらなかったと認識して,事務当局としては甲案,乙案ということではなくて,一本に絞って御提案と。それから,亀甲括弧の2年というのを,これは前回は1年又は2年とあったのを2年ということですけれども,まだ依然として,亀甲括弧は付いているということですので,これについて御意見を伺いたいということでございます。補足説明にもありますように,この点については,なお検討するというようなことで設定可能期間を1年としつつ,延長可能とするというようなことも考えられるけれども,どうかということ,それが多分第一のお尋ねだろうと思います。   それから,前回は存続期間の5年以下のところの5年のところに亀甲括弧が付いていまして,今回はそれが取れているということで,この点を御確認いただきたいということです。そのほかにも,本規律の適用を受ける旨の合意という要件のみでよろしいのかどうかという要件の問題,それから要式行為性,公正証書等の書面ということでよろしいのか,このようなことを今回是非お尋ねしたいという御説明でありました。いかがでしょうか。どこからでも御意見を頂ければと思います。 ○吉政幹事 前回お尋ねするべき点であったかと思うのですけれども,1点お尋ねします。要式行為とするかどうかなどの点について意見を求められているとのことで,違うことになってしまい恐縮ですけれども,適用を排除する借地借家法の条文に関して,御提案は,現行の25条,一時使用目的借地権を参考に適用を排除する規定をピックアップされているのだと理解いたしました。3条から8条は,新たに導入される制度において当然に排除されることになると思うのですが,17条など,借地条件の変更に関する規定,とりわけ増改築の許可に関する規定などを排除してしまって問題は生じないでしょうか。5年という期間であるにせよ,被災直後に契約が締結されるわけですので,条件の変更が必要となる場面もあるかもしれないと感じました。あえて17条などの適用を除外する趣旨がどこにあるのかということがお尋ねしたかったことです。 ○鎌野部会長代理 御質問ですけれども,いかがですか。 ○遠藤関係官 ①の効果のところが借地借家法3条から8条までうんぬんという,以下のところで書いておりますけれども,基本的には,借地借家法上の25条の一時使用目的の借地権と同じ効果をもたらすということで整理したという次第でございます。御指摘いただきましたのは,被災直後に直ちに設定されるような借地権であるということから,後々,5年間なり使っていく間に増改築するという必要性が考えられるのではないかと,その場合に17条のようなものが必要になってくるのではないかという御指摘かと思いますが,基本的にそういった増改築をするということになりますと,それだけ建物がもつ期間というのも長くなってくるのであろうと感じます。   そうしますと,この17条というのは,裁判所が承諾に代わる許可を与えるという制度でございますけれども,そこまでの増改築のニーズというのが,5年間という短い間にどこまであるのかというところは考えなければいけないのかなと考えておりますし,仮に増改築の必要があるということであれば,適宜任意の交渉に委ねていても問題ないのではないかなと考えておるところでございます。 ○山野目委員 表現のことで,小さなことを1点指摘させていただきたく存じます。第3の③の文言表現ですが,②の主語と同じにしていただくほうが恐らくよいと感じます。表現が現代化された借地借家法の法文の表現の仕方では,更新を問題にするときの更新の概念の対象が,存続期間ではなく,契約を更新するのであって,「契約は当事者が更新することができないものとする」としていただくべきところではないでしょうか。   今のままの文言ですと,存続期間は5年の範囲内で変更することも許されないのではというような誤解を招くおそれがあります。仙台弁護士会からパブリックコメントでお出しいただいている御議論とかみ合った議論をしていただくためにも,そのようなことを御勘案いただければ幸いであると感じます。 ○鎌野部会長代理 その点はよろしいですね。 ○遠藤関係官 若干補足しますと,③の趣旨としましては,今,仙台弁護士会のパブリックコメントで寄せられた意見の中にもありますように,存続期間を変更する,法定の5年という範囲の中で変更するということを排除するという趣旨は含んでおりません。ですので,一応趣旨としては,政令施行から2年と,それから存続期間が法定で5年となっていますので,最大で7年間の間は被災地一時使用借地権という借地権が存在する余地はあるけれども,それを超えたらなくなるということを考えているということでございまして,表現ぶりにつきましては,今,御指摘を踏まえまして,もう一度改めて検討させていただければと思います。 ○鎌野部会長代理 そのほか何かございますでしょうか。事務当局からお尋ねになりたい第1点というのは,先ほど御説明がありましたように,設定可能期間,今,仮に亀甲括弧で2年というようなことですけど,これで特に御異論ありませんか,あるいは御意見。   第2点目としては,①の本規律の適用を受けることとする旨を定めてという,本規律の適用を受けるものの合意という要件はこれのみでよろしいかどうかと,この点もよろしいですか。先ほど御説明があったように,この要件を欠いているような場合の効果はどうなるかということについては,既に御説明がありました。   第3点としては,要式行為性ということで,書面と,ただ公正証書までは要求しないと,そういう案でございますけれども,この点もよろしいでしょうか。 ○細谷委員 先ほど書面の説明義務を要するか否かということを言われましたけれども,契約書について,正確な理解を得るためには,書面できちんと説明する義務があるのではないかと。一時使用借地権についても十分な理解がないまま契約が結ばれることが多いのではないかということで,特に最終的には更新ができないということになるわけですから,それはきちんと説明する義務があるのではないかと思います。 ○遠藤関係官 規律の全体としまして,まず契約に書面というものを要求しているということが1点挙げられるかと思います。その上で更に特殊な借地権を我々は設定しましょうという旨を契約書に明示していただくというところを超えて,更にどういった事情を説明する必要が出てくるのかということになりますと,基本的にはこの二つの点で足りるのではないかということを今の時点では考えているということでございます。説明義務を課すということになりますと,説明義務を果たしたのかどうなのかと,書面によるという場合には,どういったところまで書いてあれば,それが説明義務を担保するだけの十分な書面になるのかというところで,また紛争が出てきてしまいまして,この制度を設けた趣旨ということが,ある程度後退してしまうのではないかということも他方で考えているというところでございます。 ○細谷委員 定期借家制度なんかについては,書面の説明義務というのが付されています。よく説明されていないケースというのも時々あるんです。もちろん形式的な説明義務しか果たしていないところもあるんだけど,こういう特殊な契約を結ぶ際に十分な理解を得る必要があるのではないかという感じはするのですが。 ○遠藤関係官 定期借家の38条に,御案内のとおり,似たようなといいますか,書面による説明義務を課している条文があるんですけれども,被災地一時使用借地権が設定される場面というのが,正に被災直後ということでございます。定期借家の場合ですと,ある程度業者なりが間に入ったりして,借地借家法についても詳しい方が御対応されるということも期待できるところではあるのですが,この場面では,必ずしもそこまで土地の所有者,借地権の設定者側が書面義務というものについてきちんと理解した上で契約してくれるかというと,ちょっと心もとないというところもありまして,余りこの場面では,土地の所有者側の負担を増やさなくてもいいのではないかと思っております。   ただ,御懸念はあろうかと思いますので,この特殊な借地権というものが被災地においては設定できるんですというようなことについて,ある程度十分な周知徹底といいますか,震災直後では特殊な法律関係になるということでございますので,その辺は配慮した上でいろいろと活動していくということになるのではないかと考えておるところです。 ○山野目委員 説明義務のようなものがあったほうがよいという細谷委員の御発言から酌み取れることを思案してみますと,確かにそうであって,よく分かると感ずる部分と,少し踏みとどまって考えてみたいと思う部分と両方ありまして,それら両面を申し述べさせていただきたいと考えます。   その前提としてのイメージですが,今の遠藤関係官の御説明と少し私との間に感覚の乖離がありますけれども,それほどばたばたしているときに設定されるものではなくて,この政令施行は,バラックを建てようという話ではないのですから,少し遅れるものと想像します。やや被災地が落ち着き始まってきて,バラックのようなものではないけれども,それほど長く使う建物ではなくて,取りあえず町並みを立ち上げていくときに,短いサイズの定期終了の借地権があったほうがよいという需要に応えようとしているのではないでしょうか。そうすると,細谷委員の御心配が分かると感じた部分は,確かに借り手の側に正確な理解を確保してあげなければいけないということもあるであろうと思います。   同時に,よく考えると,反面において,貸手の側も,短いタイプの特殊な借地権なので,長く居座ってもらっては困ります,ということをきちんと借り手に理解してもらう必要があるし,貸手自身もよく理解している必要があるものでありまして,定期建物賃貸借のときと少し事情が違うのは,あちらは借り手が予期しないで早く追い出されては困るから,貸手がきちんと説明しなくてはいけないというお話ですが,こちらはそうではなくて,借り手にとっても,貸手にとっても,正確な法律関係理解が求められる場面でありますし,それが発災直後の騒然とした状況の中ではなくて,やや平静が,まだ回復し切ってはいませんが,回復され始まった頃に問題になる事柄であろうと私はイメージを有していました。   その前提で考えますと,細谷委員が御心配になったように,何らかの形で説明があったほうがよいと思いますが,同時に私が悩ましいと感ずるのは,民事の法制において説明しなければならないという規定を入れよ,とおっしゃれば,入れること自体はあり得るのかもしれませんが,説明義務に対する違背があったときの効果がどうなるかということが分からないまま,民事の法制にそれを入れても,それは機能する規律にならないと考えます。定期建物賃貸借のときは,あれ自体がイレギュラーな制度ですし,また先ほど申し上げたような状況ですから入っていますけれども,ここはそれと同じことにはならないし,説明義務の規定を入れると,かえって違反の効果をめぐって,疑義を惹き起こすということになるであろうと感じます。   その上で申し上げますが,やや被災地が落ち着き始まったときに機能するものであるとすれば,間の説明役になる人というのが,被災地を訪れた弁護士さんというようなイメージもあり得るし,場合によっては,宅地建物取引業者であるということも,このくらいの時期になってくると出てくるであろうと思います。この種の場面のときには,おおむね宅地建物取引業者が媒介するときには,説明義務の一内容として説明していただくということを期待してよい状況であり,場合によっては,国土交通省令を見直していただける可能性もあり得ない話でもないであろうと思いますし,そのような場面で関係者に対して正確な法律関係理解を促すということは期待することができるであろうと思います。   それから,もう一つ申し上げますと,この借地権は,貸手のほうにとっても,早く出ていってもらいたいということを明確にしておくということにメリットがあるものですから,全てがうまくそういうふうに期待してよいかどうか分かりませんが,登記されることがないものではありません。   申し上げたいことは,登記することが貸手にとって不愉快な出来事であるとは限らなくて,定期借地権のかなりのタイプが貸手の利益のために登記されることが実態として見受けられるのと同じでありまして,登記されることがあり得るであろうと感じます。どのような形式で登記するかは,法務省民事局がこの法律が出来上がった後,また悩んでいただきたいですけれども,その登記をするときには,恐らく法律の専門家でない人が申請手続をするということは余り想像することができませんから,資格者代理人が介在すると想像します。資格者代理人が介在するときに,本当に特殊なタイプの借地権ですが,理解していますか,という実体を確認した上で,登記の申請手続を履践するということになるでしょうから,そのときに借り手に対しても貸手に対しても正確な法律関係理解が促されるということになるのではないでしょうか。   これらのことを考えると,細谷委員と心配を共有するものではありますが,民事の法制に説明義務を入れるという手法よりは,もう少し異なるアプローチで御心配に対応していくということを考えていきたいと私としては感じます。 ○住本幹事 私のほうから2点,1点目は,被災地一時使用借地権,検討会のときも議論させていただきましたが,東日本大震災で湾岸部,岩手などの海岸に近い所について,仮設住宅を造るに当たって,一時使用目的の契約書で作っている例が結構ございます。また,使用料が無料という例もあれば,無料という代わり固定資産税なら免除するという例もありました。一方,有料という例もございます。貸手の側は,たまたま更地を持っている方ということで,普通の方々の場合が多く,そうした方々に説明義務を課すということになりますと,逆に過重になることが心配です。借りるほうは,地方公共団体等でございまして,貸すほうが普通の方でございますので,そこは被災地一時使用借地権が速やかな用地の提供をお願いするということからしますと,説明義務を課すということになると過重な義務になりまして,かえって一時使用借地権を設定する理由が薄れてしまうと思います。   2点目としましては,山野目委員がおっしゃるように,本格復興の時期に入った場合には,宅建業者が入ってくるのが通常になります。おっしゃるように説明義務は,専門家である宅建業者について義務を課すというのが本来であって,被災地一時使用借地権は災害時に更地を持っている方に短期間に必ず戻ってくるので,是非土地をお貸しくださいという趣旨で作るものですので,普通の方々にはそこまで過重な責任を負わせないことによって,バランスを取ったほうがよろしいかと思います。 ○細谷委員 もう1点,要するに土地,抵当権が設定されているような場合,不動産業者が仲介する場合,重要事項説明がされますよね。そういうことまでは求めないということになるのでしょうか。 ○遠藤関係官 それは既に抵当権が設定されている土地に被災地一時使用借地権を設定する場合ということでしょうか。そこの点については,余り検討はしておらなかったんですけれども,説明義務を課さないという以上は,その点についても基本的に法律で縛るということはしないと考えておりました。 ○鎌野部会長代理 そのほかに何かございますでしょうか。この点についても,幾つか,特に説明義務に関して課したほうがいいという御意見と,その必要はないのではないかという御意見とがありました。   それでは,「第4 優先借家権制度の在り方等」,そちらのほうに移っていきたいと思います。   御説明をお願いいたします。 ○石渡関係官 それでは,「第4 優先借家権制度の在り方等」について御説明いたします。   優先借家権制度につきましては,現行法の規律を廃止し,これに代わる特段の規律を設けないものとする甲案,優先借家権制度に代わる何らかの規律を設けるものとする乙案を提示して,御議論いただきましたところ,前回,補足説明に記載のとおり,甲案に賛成する御意見,乙案に賛成する御意見,現行法の規律を維持すべきとする御意見がございました。   そこで,優先借家権制度の在り方等につきましては,なお引き続き御議論いただく必要があるということで,甲案及び乙案を提示しております。なお,乙案につきましては,前回は四角で囲みました担当者素案の乙の①から③の制度を中心に御議論いただいたというところではございますけれども,この①から③までの検討に限るものではございせんので,乙案は何らかの規律を設ける考え方という形で整理させていただきました。この点についてどのように考えるかというところは悩ましいところでございまして,前回是非,委員,幹事の皆様からのお知恵も拝借したいということをお願いしたところでございます。   そこで,もちろん甲案を採用すべきであるという御意見がございましたら,そのような御意見も伺いたいと思いますとともに,乙案として,他にこのような制度が考えられないかといった御提案がございましたら,そういった御意見につきましても御発言を頂ければ大変有り難いと思っております。   説明は以上でございます。 ○鎌野部会長代理 前回もたくさんの意見を頂きましたけれども,甲案,乙案というのはそのままにして,ただ乙案というのが前回は①,②,③と付いていたのを,今回は四角の中に入れて,例示としてという位置付けにしたという御説明でございました。いかがでございましょうか。 ○細谷委員 質問なんですけど,優先借家制度は余り阪神大震災のときも活用されていなかったということを聞きますが,まちづくりという点で,例えばそこにいた借家人がまちづくりに参加するという形で,権利を確保することができた。区画整理とか,そういう制度の中で借家人の権利を確保することができたというようなケースはあるのでしょうか。 ○住本幹事 御案内のように,土地区画整理事業の場合には,行政法に基づく最終的には強制的な手段でございますので,優先借家ということで何か処理したというよりも,元々借家人の方につきましては,移築が原則でございますので,移築されれば,借家人がそのまま移行されますし,移築しない場合には,補償金をお支払いして出ていっていただくということで,借家人のほうが元々土地区画整理事業自体に借家人の保護制度が措置されておりますので,優先借家権制度を使って何か土地区画整理事業というものは私自身は存じませんけれども,津久井幹事のほうがもし御存じであれば。 ○津久井幹事 借家が全壊したら,借家権が消滅します。そのよう状況下で無権利者であった従前の居住者は,恐らく土地区画整理事業を行うときに,その時点で多分単なる無権利者ということになっていたと思われます。ですから,彼らを保護するために,区画整理の網をそのままかぶせても,うまくワークしない。ところが,当時,優先借家制度が当たり前のようにありましたので,従前の借家人も借家人として扱うということで,今,住本幹事からおっしゃっていただいたような形で,権利者といいますか,対象者として扱ったということはあると思います。西宮市,あるいは宝塚市の震災区画整理でそのような扱いをしたという新聞記事があったような覚えがあります。   それから,再開発のときには,借家人は元々対象外ということになってしまうので,そのときは,優先借地権を行使して入り込んだりするような事例は実際ありました。それがうまくいったのか,むしろそれが支障になったのかというところまでは,私はちょっと存じません。 ○細谷委員 今,いろいろ議論していますと,なかなかこれは難しくて,私権の権利調整という形で,優先借家権,私も考えるところがあるんですけど,なかなかこれを認めるということになれば,貸主側の権利を侵害することにもなるということで,何とかそういう借家人を別の手法で,公法的な手法で救済していくことができないのかということを,これは国交省にもお願いなんですが,一つの案として,例えば密集市街地の防災街区整備に関する法律みたいな法律を活用して,従前借家人の権利を確保するというような方法が採れないものなのかというのは意見としてあるのですが,その辺はいかがかなということです。 ○住本幹事 災害時の借家人の方々の保護のシステムとしましては,当初はまず仮設住宅にお入りいただく。今回新しいシステムとして,みなし仮設ということで,従来の賃貸住宅を仮設として扱って,普通の賃貸住宅に仮設として一時的に住んでいただくこともしております。その後には,災害公営住宅を適用しまして,災害公営住宅でも,激甚災害,今回のような災害の場合は,収入基準は基本的に撤廃されますので,被災者であれば入れます。災害公営住宅の数が今まで余り足りないということは,時期的に足りない,造るのが遅いのではないかというのはもちろんあるのですが,予算の制約で数が足りなかったという例は私は存じません。   基本的に仮設住宅,災害公営,若しくは今,予算制度上ございますけれども,昔でいいますと都民住宅というのがございます。地域優良賃貸住宅ということで,準公営的な住宅についても,賃貸住宅について補助を出すことによって,修繕など,若しくは家賃補助を出すことによって,災害公営住宅が仮に足りないとしても,賃貸住宅について一定の家賃以下に抑えた災害の賃貸住宅版制度も作りました。したがいまして,そういったもので基本的にカバーしていこうということに公的制度上はなってございます。 ○沖野委員 これもまた教えていただきたいという点なのですけれども,居住の場合と事業の場合とで違うということはあり得るのかという点でして,従前の資料等におきましても,両者で少し違いがあるのではないかという御指摘も受けていたかと思います。   それで,居住自体については,当該具体的な場所に戻るよりは,地域に戻れれば,それなりの需要を満たせるのではないかと考えられます。そのときの問題は,この地域に戻ってきたいのに供給がないということであろうと思いますけれども,今の御説明によれば,むしろ供給面は,現在手当てがかなり行き届いている。もちろんその想定を上回るような場合が全くないわけではないということはあるのかもしれませんけれども,かなりのところ行き届いているとしますと,では,それは事業目的のような場合も同じように考えてよろしいのか。   事業の場合には,特定の正にこの場所で営業を再開するということに利益があるという指摘もされておりますので,もっともそれも類似のというか,近隣の地域の供給があれば,同じように考えられるということもあろうかと思います。元々優先借家権制度というものが,制度趣旨はともかくとして,制度としていろいろ困難な面があるとすると,違うものとして見直してしまうのか,またその際にも対象を縮減するというようなことが考えられるのかというのが一つ気になっておりまして,両者で分ける,あるいは事情がかなり違うというようなことがあるのかどうか,また仮に例えば乙案的な発想を採るにしても,事業用のものに限ってしまうというようなことが現実的な話として考え得るのかという点について何か情報を頂ければと思うのですが,いかがでしょうか。 ○石渡関係官 法制審議会に先立ちます研究会におきましても,特に事業用の方につきましては,その場所自体に戻るニーズというのもあり得るのではないかと,こういった御意見があったこと自体は事実でございます。ただ,事業用と単純に言いましても,事業と居住を一体的にやっているような方もいらっしゃったりして,なかなか単に事業用,居住用と決めて線引きをしてしまっていいのかどうかという問題があり得ると思っております。   その上で更に事業用の方に限るということを仮にしたとしても,どういった制度を設ければいいのかということは,なかなか悩ましいところなのかなと思っております。特に乙案のような制度につきましても,事業者であれば,このような制度がなくとも,賃貸借契約の交渉をすることができるのではないかとも考えられようかと思います。事業用ということで別の制度にする,あるいは事業用に限った制度を作るということにつきましては,以上のように難しい問題があるとは思っておりますけれども,御議論いただければと思っております。 ○岡山幹事 1点追加いたしますけれども,もちろん事業用という方については,その場所で営業する利益があるのではないかということは沖野委員がおっしゃるとおりかもしれません。他方で,これも研究会でも出た意見だったと私は記憶しておりますけれども,被災後のいろいろな復興の過程において,街そのものががらりと変わってしまうということもよく起こり得るのではないかと思います。そうしますと,その場所で営業する利益というものも果たして必ず守らなければいけないのか,街全体が変わってしまいますと,従前の顧客とかも変わってしまうこともあり得るので,そういった面において,その場所において営業する利益を守るために優先借家権制度が働く余地がどこまであるのだろうかという意見もあったと記憶しております。 ○沖野委員 最後に補足があった点ですが,まち全体が変わってしまうというにもかかわらず,当該場所に当該賃貸人がかつ同じ目的の賃貸物件を建てるという場合にこそ働き得るというか,少なくとも現行法は違うかもしれませんけれども,そういう形で限定するのだと思うのですが,そういう場合も周りが変わってしまうのだから,必ずしもそのような利益を保障するというような必然性はないという御指摘は当てはまるという理解でよろしいでしょうか。 ○岡山幹事 そういうふうに御理解いただいて結構です。 ○住本幹事 本日,公的制度で,先ほど御指摘がありましたが,住宅局でございますので,その点について,住宅部門に限って基本的に公的支援を厚く補助制度なりやっています。災害公営住宅などで住宅部門については補助制度,現金としての補助金制度があるということが1点でございます。   それから,2点目でございますが,罹災都市法全体について以前から申し上げているのでございますが,今までであれば,若しくは今までもあってもそうなんですが,基本的に公的支援において,できるだけカバーしていきたいというのが我々の願いでございますが,阪神大震災でもそうでございましたが,大規模な震災が起きた場合に,若しくは今後,今まで以上の震災が起きた場合には,官民挙げて復興していくためには,民間の純粋な賃貸住宅についても,早期な復興・復旧をお願いするという観点からしますと,すべからく公的賃貸住宅において対応するというのではなくして,公的賃貸住宅も全力で頑張りますが,純粋な民間賃貸住宅も早期に立ち上げていただいて,それを供給していただくというのが被災者救済であり,まちづくりの再興につながると考えております。 ○根本委員 今の住本幹事の御発言に触発されたわけではないのですが,早期にという観点から申しますと,甲案を選択していただきたいと考えます。全ての建物が被災するわけではございませんで,有効に使えるものを使いながら,被災した地区について再開発を行い,とにかく早く供給するという形の民間の事業行為を後押しするという意味では,是非甲案でいっていただきたいと考えております。 ○山野目委員 住本幹事が今御指摘になったことは,御自身がおっしゃられたとおり,罹災都市借地借家臨時処理法の改正問題について,一貫してお述べになってきた御意見であって,承って,同感であると感じます。それで,住本幹事の御発言を受けて,根本委員が御発言になって,触発されたとおっしゃいましたが,お二人のやり取りの読み方も微妙であると感じます。私なりに自分が感じていることを申し上げさせていただきますと,住本幹事がおっしゃるとおり,東日本大震災に関しては,公的な住宅政策が,様々な批判があったにせよ機能して,今日まで来ているというふうに,大づかみにいうと評価することができるのではないかと考えます。   それは漢字2文字のキーワードを使って整理すると,公助ということで大きくくくることができると感じます。このような意味での公助というのは,今後起こる大きな災害においても当然働くべきものであって,申し上げなくても,国土交通省を中心にそういうことは政府として今後ともお考えいただくものであろうと考えています。そのような動きをにらみながら,戦前から存在していた立法を引き継いできているところの現在の優先借家権の制度というものは何かというと,公助とは全く無縁の世界で,街にいる人たちの,かつて貸していた人とかつて借りていた人との間の,公助ではなくて,共助でございますが,共助の考え方をしかし法律によって押し付けるという制度であるものでありまして,強いられた共助を定めているのが現在の優先借家権の制度ではないかと理解しています。   公助が基本にされるべきだということを考えるとすれば,共助に余り比重を置くことはいけませんし,ましていわんや,それを法律の力で,民事法制の強制的な効果を伴って押し付けるということは適切でないであろうと感じます。それとともに,しかし住本幹事がおっしゃったように,公助のみがこれから起こる大きな災害,取り分け一番危惧されるのは首都圏の直下で起こる震災,極めて甚大な災害になるでありましょうけれども,それにおいて,当然,公助に期待していきますけど,公助のみで本当に今後もできるであろうかということについて,必ずここで国土交通省にお約束してくださいとお願いしても,それはなかなか難しいです,というお話になるでしょうし,ほぼ,難しいです,と先ほどからおっしゃっているものであろうと理解します。   そうしますと,前回会議において佐藤岩夫委員のほうからも御発言がありましたが,公助に期待しつついくことは当然であるとしても,民事法制が何もしなくてよいかということを考えたときに,公助が機能することをにらみながら,もう少しソフトな仕方で何か被災地における当事者の共助を支援していくため,促していくための制度,装置が可能ならば工夫されてもよいのではないかという視点があってよいもと感じますし,住本幹事のお話を,そこまでおっしゃらなかったかもしれませんが,素直に延長していけば,そのような発想になるのではないかと私は感じておりました。 ○鎌野部会長代理 どうもありがとうございました。いかがでしょうか。これは甲案,乙案示されており,今後これを詰めていかなくてはいけないということで,是非多くの委員,幹事から御意見を伺えればと思います。 ○吉政幹事 本日の議論では,積極的に甲案のほうが良いのではないかという御指摘もありました。しかし,前回の議論では,思想としては乙案に賛成したいという御意見が,先ほど山野目委員から御紹介もありましたとおり多かったのではないかと感じております。前回の部会では,賃借人がコミュニティーに戻ってくるという価値自体は重要であるので,そういった観点から乙案,すなわち事前交渉制度を設けることに意義があるのではないかという御指摘がありました。ただ,その反面,法的安定性を害するのではないか,賃貸人としては何をすればよいのか分からない,あるいは十分なサンクションがなく実効的ではないのではないか,などの懸念が示されていたと理解しております。   しかし,私個人としては,規律が不明確だというだけの理由であるならば,事前交渉制度を断念すべき理由には必ずしもならないのではないかと感じました。といいますのも,賃貸人がどのような行動をとればよいのか分からないではないかという御懸念はよく分かるんですけれども,いささか逆説的な言い方をしますと,何をすればよいのか分からない,またどのようなサンクションが課されるのか分からないという状態にあるからこそ,賃貸人としては,賃借人と適切な形で交渉を行おうとする,あるいはできることはしておこうと,万全を尽くしておこうというインセンティブを働かせることが可能になるとも考えられます。   また,事後的に裁判所が判断するにはルールが不明確に過ぎるのではないかという問題もあるかと思います。しかし,これは立法で明確なルールをあらかじめ作っておくということ自体,難しい問題なのではないかと思います。実際適用が問題となるのは,大災害の後ですから,どのような災害なのか,問題となっている建物がどのような性質のものなのか,賃貸人と賃借人の関係はどうだったのかといったような様々な要素に応じて,適切な判断が求められる問題なのではないかと思います。   したがって,どのようにルールを作ったとしても,種々の要素を判断した上で裁判所が裁量的に判断せざるを得ない問題なのではないかと思います。そして,実際,日本の裁判所というのは,労働法制などに代表されますように,当事者の交渉過程も含めて,種々の要素をかなり裁量的に判断するということを行ってきたわけですので,罹災法が想定するような例外的な事態において,そのような機能を果たすよう求めたとしても,何も新たに無理難題を強いることにはならないように私個人としては感じるところです。そういった観点から,基本的に乙案の方向でよいのではないかと感じます。 ○鎌野部会長代理 どうもありがとうございました。どうでしょうか。もちろん先ほど甲案がよろしいという御意見もありましたし,何人かの方から乙案がよろしいという意見がございました。それで,更に乙案,担当者案ということで①,②,③などもあり,その前に先ほど御説明のときにもこれ以外に何か御意見がないかと,なかなか①,②,③,前回のところでも両面あると,評価できる面となかなか難しい面があるということで,そのほか何かないかということで,住本幹事などから公的な側面というようなことでいろいろな御指摘を頂いたんですけど,民事法制として,このほかに①,②,③以外に何かないかということで,もしそういうものがあれば,御提案を頂ければということですけれども,なかなか難しいかも分かりません。   それも含めて,①,②,③の各論的なことに入っていきたいと思いますけれども,これについてはいかがでしょうか。どこからでも,ばらかして,①までは何とか可能だけれども,②,③は難しいとか,逆に③は絶対難しい,いろいろな選択肢がこの提案にもありますように,一つ,又は複数というようなことで,担当者案も括弧の中で示していますけれども,この点についても是非御意見を伺えればと思います。 ○津久井幹事 口火を切るという限度でありますけれども,私は乙案を採り,①のみを採用するような仕組みがよいと考えております。新たな④案は,本日までに結局思い付きませんでしたので,そういう前提です。   まず,賃貸募集前の通知は,実際にやることは必ずしも難しいことではなく,震災時のいろいろな社会状況の中で,事実上の困難があるとしても,いろいろな形でフォローすれば十分にできることだと思います。何よりも,契約を自由意思で決めるという,その部分は何ら侵していないわけで,機会を与えるというのにとどまるので,私は①を排除する理由はないと思っています。   一方,誠実交渉義務というのは,実際に契約の締結を強制するものではないものの,こういった義務があるということになりますと,少なくとも貸主の側は選択肢が狭まるわけで,私的自治に対する過度の萎縮をもたらすことが非常に心配です。実際に誠実交渉義務がワークするかどうかということも,何をもって誠実かということを考えると,なかなか難しい。いろいろ混乱を招く原因になり得るのではないかと懸念しています。   ③の第三者への賃貸禁止は,②に性質も似てはいるんですが,それ以上に第三者に賃貸を禁止するということは,その期間が1週間であれ,2週間であれ,大家さんから店子さんを募集する機会を奪うことになるわけで,こういった禁止というサンクションでやるよりか,むしろ今ある制度の公的制度として,従前の店子さんなら大家さんに補助が出るとか,店子さんにも家賃補助がなされて賃料の確保が促されるという,太陽政策のほうが恐らく実際になじむのではないか。発想はいいと思うんですけれども,私は③もよくないと思います。ということで,①のみを選択するのがいいと考えております。 ○鎌野部会長代理 どうもありがとうございました。具体的な乙案の①までは認めてよろしいという御意見です。 ○細谷委員 私自身は,優先借家制度を残したいという気持ちはあるんですけど,ただ現実の問題として,優先借家制度自体をこれ以上いろいろなことで被災地の混乱を招くようなことになることは決して好ましいことではないと思います。借り主として,賃借人として,今,津久井幹事がおっしゃったように,交渉の機会をせめて1回ぐらい与えてほしいということで,貸主の方も従前の居住者に知らせるということ自体は,それほど抵抗はないのではないかと思いますし,そういう交渉する機会を設けるという点では,募集前の通知というのは必要ではないか。あとの2項については,なかなか難しいかなという感じがいたします。これは当事者の協議に任せるしかないのかなと思いますので,できればそういう募集前通知という制度を設けられれば賛成です。 ○鎌野部会長代理 ①の制度について賛成という御意見を頂きました。 ○住本幹事 里見のほうから第1回か,第2回の参考資料7ということで,災害時の賃貸住宅の居住者の居住の安定の確保についてという資料を御説明したときに,皆さんお持ちでないかもしれませんが,二つポイントとしてございまして,先ほど申しました5ページ,「3 民間賃貸住宅の供給促進」,①というので補助という制度がございまして,これは民間の賃貸住宅を造るときに,被災した人たちを入れていただく,災害公営の補完的なものでございますけれども,一定の家賃を下げて入れていただいた場合には,下にございますように最大2割を激甚災害の場合は補助するとしております。このように相当な民間賃貸住宅に対しての補助を創設しまして,これを来年度概算要求においては恒久化できないかということで概算要求しております。   仮にこれが恒久化された場合におきましては,真ん中に要件がございまして,被災者であることで,かつ原則公募により選定することということになってございまして,ちょっと気になりましたのは,公募原則が前提になりますと,余り従前の居住者の方を無条件で入れるとか,優先入居になりますと,ここの公募原則に引っ掛かりまして,逆に補助が受けられなくなってしまう可能性があります。   一方で,8ページにつきましては,昔でいいますと住宅金融公庫の融資でございますが,これだけ住宅支援機構の直接融資でございますが,この低利融資につきましては,今回の災害では5年間ゼロ%の融資で,これは入居募集で,当時の賃借人に対して優先的に賃貸することが必要となりまして,優先借家に親和性を持つ制度でございます。他方優先借家権制度を今回法制度化し,元いた方を優先入居としますと大家さんが元いた場所に賃貸住宅を建てようとした場合に,先ほどの補助制度が使えなくなる可能性が出てきてしまいます。公募ということが,補助を入れる以上,被災者の方々については平等に扱うという考えに立っております。直接の補助を入れるというのが災害公営住宅なり,補助金制度上のこれもルールとなっておりまして,そうしますと災害融資でいいのではないかということであれば,優先借家的なもので支援機構から直接の融資というのはぴったりなんでございますが,仮に補助制度を受けると,2割ぐらい補助を受けて,作り直すといった場合に,余り公募原則に直接反するような規定がされますと,罹災法があるがゆえに,補助金制度が受けられないことになってしまいます。したがって,優先借家にならないようなことがございます。 ○鎌野部会長代理 そのほか何か御意見がございましたら。今のところ,甲案がよろしいという御意見,それから乙案がよろしいという御意見,複数あって,①の賃貸応募前の通知と,こういう制度はあってよろしいのではないかという御意見を複数頂きましたけれども,②あるいは③のような制度まで必要だということでありましたら,是非ともそういった御意見も賜りたいと思いますけれども,いかがでしょうか,あるいはどういう点からでもよろしいですので。 ○沖野委員 すみません,今の御説明との関係で確認をしておきたい点です。悩ましい問題があるということはよく分かりましたし,制度趣旨としても,本当に従前の賃借人の保護だけでよろしいのか。例えば土地を借りていて,再築はできないという人は,今度は建物の賃借人としてこちらに戻ってくるようなときも考えられ,保護を図る場面としてもともと建物賃借人であった特定の人だけではないのではないかということがありますので,それとの関連もあるのですが,それはそれとして,今,補助制度との関係で,補助制度を見直すということもあるのかもしれませんけれども,原則,公募により選定するということと通知との関係なのですけれども,募集は公にするんだけれども,個別の通知を従前の方には送って,より実質的な機会を与えるということであれば,この限りでは,公募要件は満たすという理解でよろしいですか。 ○里見幹事 その範囲においては多分大丈夫だと思いますけれども,公募というのは一定の期間に誰でも応募ができる状況で募集すればいいので,その事前の準備で何かやっていること自体は,恐らく問題には余りならないのではないかと思います。最終的には財政当局との関係もあるので,確定的にここでオーケーと言えないんですけれども,多分論理的には,最終的に皆さんが,例えば優先枠とか設けてしまうと駄目なんですけれども,いつからいつまで応募してきてくださいと,その中に従前の居住者が8割ぐらい結果的に占めたということであれば,多分問題視はされないのではないかと思います。補助の制度の場合,我々だけでうんとは言えないところがあるんですけれども,多分そうなると思います。 ○沖野委員 そうしますと,その点が一つと,融資と補助はセットでは受けられないという仕組みになっているのですか。といいますのは,災害により被災した当時の賃借人に対して優先的に賃貸することが必要とするその融資と,それから結果的にそうなったという場合は,優先的に賃貸することが当初からではないんだけれども,公募の形をするんだけれども,結果的にはこの要件を満たす,それは駄目なんですか。そうすると,いずれにしても,どちらかは諦めなければならないわけですか。 ○里見幹事 この制度の範囲においては多分一緒には受けられないのではないかと思います。一般的には普通の融資,公的な低利融資ぐらいだと,入るものが違えば,例えば物に入るやつと人に入るやつとか,共同施設に入る補助とか,いろいろなのがあるので,実は対象部分が違うと,同時に入るというのは理論上あるんです,この制度ではないんですけれども。しかし,同じ対象部分に公的な融資が入ったり,同時に補助が入るというのは駄目なことが多いと思います。だから,これですと対象を限定していないので,多分駄目だと思います。 ○沖野委員 ということは,制度設計によっては,選択自体を奪う可能性になるということが問題だということですよね。問題かどうかはともかくとして,そういう結果をもたらすということですね。どちらでも,建てる側がということではなくて。 ○里見幹事 それはどっちかを変える。例えば助成制度を変えろということも理論上はあり得るんですけど,これはなかなか難しいかもしれないですけれども,どっちかが譲らないとぶつかるところがあるということを多分住本が申し上げたんだと思います。 ○鎌野部会長代理 そのほかに何かございますでしょうか。なかなか難しい制度ですけれども,幾つかの貴重な御意見を伺いました。特に整理することはしませんけれども,先ほど申し上げたような形で乙案の①については賛成する者が複数いたということで,もちろん甲案がよろしいという御意見もありました。乙案の②,③,担当者素案の飽くまでも例示でございますけど,それについては支持する御意見は今回は出なかったという形でよろしいでしょうか。 ○吉政幹事 私個人としては,むしろ②の誠実交渉義務というのを中心に組み立てられればいいのではないかと思います。といいますのも,例えば③というのは,交渉の可能性をあらかじめ賃貸人側が奪ってしまうような行為ですので,②の誠実交渉義務の一形態として位置付けられるべきものだと思います。全体の構造として,通知プラス誠実交渉義務という形のほうがきれいなのではないかと思います。   また,事前に通知しなければいけないかということですけども,借家人に交渉の機会を与える,借家人であったということを理由に交渉を拒絶したりしないということにポイントがあるわけですから,借家人事前交渉制度というよりは,従前の借家人に対して交渉の機会を与える制度と位置付けられたほうが,制度の趣旨からしましても,また先ほどの御指摘のあった補助金との関係なども考えましても,いいように感じました。十分に考えがまとまっていない発言で申し訳ありません。 ○鎌野部会長代理 ②についてもそういったことで賛意を示すというか,そういう御意見を伺いました。   いかがでしょうか。今日承った御意見を更に精査していただいて,要綱案という形にこれから事務当局では御努力いただくということだと思います。   それでは,第4はこれぐらいにさせていただいてよろしいでしょうか。   あと少しございますので,最後のところで(後注)ということで,1から4,これは全て廃止という御提案ですけれども,それについて一括して御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。 ○川副関係官 それでは,御説明を申し上げます。   最後の(後注)では,冒頭でも若干申し上げましたとおり,現行法の規律の中で廃止を予定している制度というものを列挙しております。   まず,1として,優先借地権制度及び借地権優先譲受権制度,それから3,借地権設定者の催告による借地権の消滅,それから4,貸借条件の変更命令制度といったところにつきましては,基本的に前回の部会におきましても廃止をするということで特段御異論はなかったところではないかと思います。   この中で1点,優先借地権制度につきまして,前回,実際に権利が設定された例がどのくらいあったのかという御質問を頂いていたことと存じます。その点につきまして若干回答させていただきますと,阪神・淡路大震災当時の資料としまして,神戸地裁,それから簡裁に設けられた震災事件処理センターという所が公表した資料がございまして,その資料が「判例タイムズ981号」に載っております。そこで震災関連の調停事件や非訟事件の件数等の統計的な資料が収録されております。   その資料によりますと,優先借地権関係の調停事件の申立件数は,平成9年7月末までで252件,このうち資料では罹災都市法の第2条による本則的処理がされた件数,この本則的処理というのは,恐らく優先借地権の成立を認めて調停が成立した件数を指すものと思われますけれども,このような処理がされて,調停が成立した件数は,7月末現在で4件ということでございます。それ以外に調停が成立したケースでは,ほとんどが優先借地権を放棄して,対価として,金銭が支払われるといった解決がされたという報告がされております。   また,優先借地権関係の非訟事件ですけれども,平成10年6月末当時の受理件数は91件とのことでありまして,併せて優先借地権の成立を認めた決定例が8件紹介されております。もっとも8件のうちの2件につきましては,抗告審で破棄されたということの記録がございます。   そのほか,神戸弁護士会が平成11年3月に公表した資料としまして,罹災都市借地借家臨時処理法非訟事件決定例集という資料がございます。こちらのほうは,神戸弁護士会のほうで神戸弁護士会の弁護士の方から寄せられた罹災都市法関係の非訟事件の決定例をまとめたという内容のものでございまして,先ほど御紹介しました震災事件処理センターの資料とどの程度重複があるのか不明なんですけれども,優先借地権関係の非訟事件決定例というのが21件収録されておりまして,そのうち優先借地権の設定を認めたものが5件となっております。ただし,こちらについても,そのうちの2件は抗告審で破棄されたというような御紹介があるところでございます。こちらで把握している例としましては,そのような件数になっております。   続きまして,先ほどちょっと飛ばした2の借地権の存続期間の延長というところでございます。この点につきましては,前回の部会におきましては,現行の制度を維持するべきではないかということで,廃止することに御反対という御意見もございました。また,廃止するべきではないかという廃止することに賛成の御意見も頂きました。それを踏まえまして,今回のたたき台では,現行法の規律については廃止するということで提案させていただいています。   理由につきましては,既に担当者素案の補足説明でも記載しましたとおりでして,前回の部会で検討していただいた以上のものが事務当局としてあるわけではないんですけれども,借地借家法という法律自体,借地権の更新を考える,契約の更新を考える際には,借地権者側の事情のみではなく,借地権設定者側の事情も一定程度考慮されるという判断枠組みがございますので,現行法の規律のように借地権設定者側の事情は一切考慮することなく,借地契約を一律に10年間延長するということは,借地権設定者側の不測の損害というものが大きいのではないかと考えている次第です。   また,実際上,借地権者側としましても,借地を使うことが事実上できなくなっているというような借地権者についても一律に借地権が延長されるということになりますと,当然解約すればよいという御指摘はあるところとは思いますけれども,解約しなければ,そのまま契約がずっと続いてしまうと,そういう行為を要求されるということにもなります。   また,更に仮に10年間に期間が延長されたとして,10年という期間が何らか居住用を含めた安定した建物を建てるための期間として十分なのかと,結局それは足りなくて,実際に何か建物を再築しようという場合には,結局は個別に借地権設定者の承諾を得るとか,交渉するといったようなことが必要になるということなのではないかということも考えられまして,一律に10年間延長するといった規律は廃止することが相当ではないかというのが事務当局としての意見でございます。したがいまして,このような廃止をするというものの中に列挙する形でたたき台を作成させていただいております。   (後注)につきましては以上でございます。 ○鎌野部会長代理 今,事務当局から1から4までまとめて御説明を頂きましたけれども,御質問,御意見については二つに分けまして,まず1,3,4を先に質疑,応答,議論いたしまして,その後,2について,分けて,質疑,応答,議論をさせていただきたいと思います。   まず,1,3,4,これらについては前回の部会において,これらの規律及びこれらを前提とする規律を廃止するという方向で特段異論がなかったと思いますけれども,そういったことでよろしいかどうかということを確認させていただくと。その前提として,何か質問がございましたら,あるいは今回更に御意見がございましたら述べていただければと思います。 ○山野目委員 1,3,4を廃止することに賛成です。そのことを申し上げた上で,やや先走ったお願いですけれども,(後注)の審議が終わった後で,第1の問題について,一言御発言させていただきたく考えます。審議の冒頭において部会長代理のほうから,各論を論じた後,発言してもよろしいというお許しを頂いていましたから,その希望を今述べさせていただきます。 ○鎌野部会長代理 今,そういった御発言がございました。そのほか何かございますでしょうか。そうすると,1,3,4については,前回同様,今回もこれについて廃止するということでよろしいですね,御異論がないということにさせていただきます。   それでは,第2の借地権の存続期間の延長につきまして,この点についてはどうでしょうか。前回は消極的な御意見もあったということで事務当局のほうから御説明を頂きましたけれども,第2についての御意見,御質問,お願いいたします。いかがですか,特に反対だと,消極的に考えるという御意見があれば,是非承りたいと思いますけれども,よろしいでしょうか。それでは,これも廃止ということで御異論がなかったということでまとめさせていただいてよろしいでしょうか。どうもありがとうございました。   それでは,本日予定していた審議はこれで一応閉じたいと思いますけれども,閉じる前に何か御意見,御要望,御質問などがございましたら。 ○山野目委員 部会資料7の1ページ目の「第1 見直し後の制度の適用の在り方」という論点につきまして,事務当局のほうから補足説明において細かく見ると二つの論点の提起を頂いていました。一つ目は,常に災害の指定に加えて,地区を指定することを必要とすべきかという論点で,もう一つは,分割適用の具体的な在り方をどのようにすべきであるかという論点であったと理解しています。これについて,本日の会議の冒頭のここの審議の段階で,各論の検討の途中,あるいはそれを終えた上で発言することも許されるという御指示を頂いておりましたから,今,述べさせていただきます。   それで,この二つに小分けしたときの論点のうちの後のほうの,分割適用を可能とする具体的な在り方というのは,おおむね要綱案に向かって各制度の姿が見えてまいりましたから,あとはどのような単位で,あるいはどのような組合せで分割適用を可能とするかということを,いささかテクニカルに検討していただくという段階に入ったのではないかと感じますから,これは事務当局のお仕事という言い方はやや無責任に響くかもしれませんが,しかしやはり事務当局にしていただくことであって,ここで何か委員,幹事が大きく基本的な考え方を述べなければいけないという段階を過ぎているのではないかと感じます。   それに対して,もう一つの,災害のみならず,常に地区の指定を必要とするかという問題のほうにつきましては,実は前回,第4回会議におきまして,私が本日の資料でいいますと第2の2ですが,借地権の対抗力の問題は速やかに政令指定しなければいけないのに,地区の指定が伴うと遅れるのではないかというようなことを,あの場の思い付きで申し上げさせていただいたような部分がございまして,きちんと考え込んで述べたのではありませんが,それを事務当局のほうが真摯に受け止めていただいて,今日こういうふうな論点の提起をしていただいていると感じます。   私も無責任に申し上げてしまったかもしれないと感ずるのは,確かに急ぐ必要はありますけれども,借地権の対抗力という不動産取引において第三者に影響する事柄を,どこの地区なのかも分からない状態で,災害のみを指定するということで,本当に安定的な民事の法律関係の規律ができるかと問われますと心配な部分もございます。   このように考えてまいりますと,悩ましくてよく分からない,ということが,率直なところです。つまり,恐らく借地権の対抗力の問題というものは,発災後,直ちにそれほど政策的に微妙な価値選択をしないで発動されるべき制度であると考えられますから,速やかに発動すべきであって,恐らく特定非常災害と同じくらいのテンポで指定されておかしくないものだろうと考えます。   今でも記憶していますが,まだ枝野官房長官が眠っていないのではないかといううわさが語られた日々のあの発災直後の短い期間のときに官房長官が記者会見をして,特定非常災害に指定しますという発言をしました。その中継の画像を私は記憶していますけれども,あのスピードでされておかしくない事柄であると考えます。ただし,特定非常災害の場合には,多くの事項は災害を指定すればよろしいのであって,地区を指定する必要はありません。あのスピードで地区の指定なしでしてしまって,余り問題がないのは,特定非常災害の法制は,国民がお役所に届出をするとか,いずれにしても一種お役所に対して何かアクションを起こすときに,余り重くない制度にしてあげるとか,そういう国民対お役所のような関係で問題になる場面がほとんどですから,専ら特定非常災害とその事象との因果関係が判断できればよいし,しかもそれはかなりアバウトに判断することができることであって,それほど弊害が起きないという事柄が,あの法制に並んでいると感じます。   ところが,こちらのほうは,素早くしたほうがいいことですが,お役所との関係というよりは,取引に入ってきた第三者と借地権者との間の関係の規律という,同じに並べることができない重い問題を扱っていますから,急ぎなのであって地区はいいのではないですか,と簡単に済ますことができない部分が残るであろうと考えます。しかし,さはさりながら,現行法について行っているような市区町村の単位まで指定して精密な地区指定をしなければいけないとすると,とても特定非常災害のリズムでは指定することができないであろうと予想します。   なぜ市区町村まで調べ,あれだけ時間が掛かるのかということを考えますと,どこが震度が幾らだったかというような情報は,発災直後に直ちに気象庁から出るはずですが,多分それだけでは指定することができない運用がされてきていて,建物の損害状況を現地で調べて,初めて政令指定していると想像します。それをするのには法務省は法務局しか手足が地方になくて,法務局は建物の損壊状況を調査する機関ではありませんから,恐らく地方公共団体とか,地方公共団体と連携をとる国土交通省との連絡調整をしなければいけないという状況になってきて,時間を要するのでしょう。   今日の審議を顧みてみて,種々の事項が順次に論議されましたが,第2の2の対抗力が割と素早く指定が必要ですし,そのほかのものは少し考えてから指定してもよいであろうと考えます。しばらく考えてからしてもよいことは,建物の損壊状況などを丁寧に調べてから発令することでよいと思いますけれども,借地権の対抗力の特例の発動を市区町村の精密な指定までしなければならない運用を今後も考えていかれるのか。それの結論がいずれであるにしても,法務省としてどのような政府内の府省間の連携をとった上で政令指定をしようと考えていらっしゃるか,またどのような連携が可能であるか,これらについての検討の細部がないと,この部分についての意見がここの委員,幹事の間でも議論しにくいと感じます。 ○鎌野部会長代理 どうもありがとうございました。御意見を承ったということです。   それ以外に何かありますでしょうか,全体に関して。   それでは,本日の御審議はこれにて終了したいと思います。   あと,次回の議事などについて,事務当局から御説明をしてもらいたいと思います。 ○岡山幹事 次回の議事日程等について御連絡いたします。次回の日程は,日時としましては平成24年12月11日午後1時30分から午後6時までの間となっております。場所は,東京地方検察庁15階会議室でございます。   今後,本日の御議論を踏まえまして,罹災都市法の要綱案の案を作成し,次回部会において要綱案の案を御審議いただきたいと考えております。資料につきましては,会議の1週間前をめどに送付いたします。   なお,次回部会の予定でございますが,罹災都市法の要綱案の案についての御審議のほか,場合によっては,時間に余裕がありますと,被災マンション法の見直しについても御審議いただきたいと考えております。これは飽くまでも可能性のものでございます。予定していたスケジュールとは若干異なりますけれども,検討すべき点が多数残っておりますので,次回部会で被災マンション法の見直しについても取り上げる可能性があることを御承知おきいただければと思います。なお,その場合には,事前にメール等で御連絡を差し上げますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○鎌野部会長代理 それでは,本日は山田先生の代行ということで務めさせていただきまして,山田先生に次回はバトンタッチさせていただきますけれども,まとまりがつかないぐらい拡散した状態でバトンタッチすることを避けられ,また非常に御熱心な有意義な御審議を頂き,なおかつ時間よりも若干早く終わらせることができました。どうもありがとうございました。 -了-