法制審議会 第169回会議 議事録 第1 日 時  平成25年3月15日(金)   自 午後1時28分                         至 午後2時08分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題   1 自動車運転による死傷事犯の罰則の整備に関する諮問第96号 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○松本司法法制課長 ただいまから法制審議会第169回会議を開催いたします。   本日は,委員20名のうち17名に御出席いただいておりますので,法制審議会令第7条に定められました定足数を満たしていることを御報告申し上げます。   本日は公務のため,谷垣法務大臣を始め政務三役が当会議に出席できませんので,大臣から託されております挨拶を西川事務次官が代読いたします。 ○西川事務次官 事務次官の西川でございます。法務大臣の挨拶を代読させていただきます。   法制審議会第169回会議の開催に当たり,一言,御挨拶を申し上げます。委員及び幹事の皆様方におかれては,御多用中のところ本会議に御出席いただき,誠にありがとうございます。また,この機会に法制審議会の運営に関する皆様方の日頃の御協力に対し,厚く御礼申し上げます。   さて,本日御審議をお願いいたします議題は,自動車運転による死傷事犯の事案の実態に即した対処をするための罰則整備に関する諮問第96号についてです。   この諮問事項については,昨年9月の諮問以降,刑事法(自動車運転に係る死傷事犯関係)部会において調査・審議が重ねられ,その結果が本日報告されるものと承知しております。   依然として,飲酒運転や無免許運転など悪質・危険な自動車運転による死傷事犯が社会的な問題となっている上,これらの事犯に対する現行の罰則や法定刑が国民の意識に合致しているのかとの指摘もあり,事案の実態に即した対処をするための罰則整備が求められているところです。   そこで,早急に法整備を行う必要があると考えておりますので,できる限り速やかに答申を頂きますようお願い申し上げます。   それでは,この議題についての御審議をよろしくお願いいたします。   以上,代読させていただきました。 ○松本司法法制課長 誠に恐縮ではございますが,事務次官は公務のため,ここで退席させていただきます。           (事務次官退席) ○松本司法法制課長 ここで,報道関係者が退室しますので,しばらくお待ちください。           (報道関係者退室) ○松本司法法制課長 それでは,伊藤会長,よろしくお願いいたします。 ○伊藤会長 伊藤でございます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。   まず初めに,本年2月8日に開催いたしました前回の会議,第168回になりますが,以降,本日までの間におきます委員の異動について御紹介いたします。   異動内容の詳細につきましては,お手元にお配りしております人事異動表のとおりでございますが,新たに就任された委員が本日出席されておられますので御紹介いたします。   東京大学教授の井上正仁氏でございます。 ○井上委員 よろしくお願いします。 ○伊藤会長 どうぞよろしくお願いいたします。   福岡県弁護士会所属の弁護士,川副正敏氏でございます。 ○川副委員 よろしくお願いいたします。 ○伊藤会長 どうぞよろしくお願いいたします。   それでは,本日の審議に入りたいと存じます。   先ほどの法務大臣の挨拶にもございましたように,本日の議題は一つでございます。   その議題であります「自動車運転による死傷事犯の罰則の整備に関する諮問第96号」の御審議をお願いしたいと思います。   まず,刑事法(自動車運転に係る死傷事犯関係)部会における審議の経過及び結果につきまして,同部会の部会長を務められました西田委員からの御報告をお願いいたします。   それでは西田委員,こちらにお願いいたします。           (西田委員,報告者席へ移動) ○西田委員 刑事法(自動車運転に係る死傷事犯関係)部会長の西田でございます。私から,刑事法部会における審議の経過及び結果を御報告申し上げます。   諮問第96号は,「自動車運転による死傷事犯の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処をするための罰則の整備を早急に行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というものでありました。   本諮問は,依然として,飲酒運転や無免許運転など,悪質かつ危険な運転行為による交通死傷事犯が少なからず発生しているという自動車運転による死傷事犯の実情や,現行の罰則規定が国民の意識に合致していないとして,罰則の整備を求める御意見が見られるようになったことを契機として,事案の実態に即した対処をするための罰則整備を行う必要があるとして,諮問がなされたものであります。   本諮問につきましては,平成24年9月7日開催の法制審議会第167回会議で,まず部会において調査・審議すべき旨が決定され,これを受けて,刑事法(自動車運転に係る死傷事犯関係)部会が設置されました。   同部会では,平成24年10月2日から本年2月13日までの間,合計7回にわたって調査・審議を行いました。   部会においては,当初から具体的な要綱案を示して調査・審議を行うのではなく,10月25日及び26日の2日間にわたりまして,13の被害者団体の方々からヒアリングを行い,そこで示された御意見や御要望を踏まえまして,検討の方向性を整理し,以下の4点といたしました。   第1は,危険運転致死傷罪に新たな危険運転行為を追加すること。   第2は,危険運転行為と同等とまではいえないが,危険性や悪質性の高い運転行為により,人を死傷させた場合について,自動車運転過失致死傷罪より重い法定刑とする罰則規定を設けること。   第3に,道路交通法の救護義務違反の罪を犯してでも,現行法上の危険運転致死傷罪の適用を免れようとする者が生じやすくなるのではないかという,いわゆる「逃げ得」の状況が生じ得ることに対処するため,事後に逃走するなどした場合に,従来よりも重い処罰を可能とする規定を設けること。   第4に,無免許運転で人を死傷させた場合について,従来よりも重い処罰を可能する規定を設けること。   以上,4点を検討事項として議論を重ねた次第であります。   そして,法整備に向けてより具体的な議論を行っていくこととし,まず事務当局において作成した事務局試案をたたき台として議論を行い,その議論を踏まえて作成された要綱案について,更に議論を継続いたしました。   その結果,本年2月13日の第7回会議において,賛成多数により,本日配布資料刑1としてお手元に配布しました要綱案のとおり,法整備することが相当であるとの結論に達した次第でございます。   それでは,要綱案の概要について御説明いたします。お手元の刑1「諮問第96号に関する要綱案」をお開きください。   要綱案は漢数字の一,二,三,四という構成になっております。まず要綱案の漢数字「一」の規定でございますが,これは通行禁止道路を進行し,重大な交通の危険を生じさせる速度で運転する行為を,危険運転致死傷罪における危険運転行為に追加するというものです。   要綱案の「通行禁止道路」については,道路交通法により自動車の通行が禁止される道路のうち,他の通行者としては,自動車が来ないはずであるという前提で通行しているという観点から,類型的に危険性・悪質性の高いものに限定することとしまして,「一」の左側に(注)として掲げてありますとおり,政令におきまして,車両通行止め道路等を定めることにしておりますが,例えば,一方通行道路あるいは高速道路の逆走などが,その中に含まれる予定でございます。   法定刑は,危険運転致死傷罪のそれと同じく,致傷の場合が15年以下の懲役,致死の場合が1年以上20年以下の(有期)懲役としております。   この規定につきましての部会での議論の概要を御説明いたします。   主な議論といたしましては,通行禁止道路の進行が危険運転行為と同等の危険性・悪質性を有しているのかという点でした。   この点について,一方で,通行禁止道路である一方通行の逆走であっても,時刻や道路状況等によっては,他の通行者がおよそいない場合もあり,他の危険運転行為と同等の危険性・悪質性があるとまでは言えないのではないか,という御意見もありました。   しかし,通行禁止道路については,他の通行者としては,そもそも車は来ないと信頼しており,禁止に反して自動車が進行した場合には,通常,衝突を回避することが困難であり,通行禁止道路の進行は,この点で危険運転致死傷罪の赤信号殊更無視の類型と基本的には同じ構造を持ち,同等の危険性・悪質性を有していることから,通行禁止道路を進行し,かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為を,危険運転行為に追加することが相当であるとの意見が多数を占めるに至った次第であります。   次に,要綱案の漢数字の「二」を御覧ください。   この「二」は,更に算用数字の「1」として,「アルコール又は薬物の影響により」,算用数字「2」として,「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気の影響により」,それぞれ正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転し,これらの影響によって正常な運転が困難な状態に陥り,人を死傷させた場合を処罰の対象とするものです。   この規定は,危険運転行為と同等とまではいえないが,危険性・悪質性の高い運転行為により人を死傷させた場合について,自動車運転過失致死傷罪よりも重い法定刑とする罰則規定を設けるものであります。   その法定刑につきましては,危険運転致死傷罪の法定刑よりは軽く,かつ自動車運転過失致死傷罪の法定刑よりは重くすることとし,致傷の場合が12年以下の懲役,致死の場合が15年以下の懲役としております。   なお,「自動車の運転に死傷を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの」につきましては,漢数字「二」の左側の(注)にありますように,道路交通法において,運転免許の欠格事由の対象とされている病気の例を参考としつつ,その症状に着目して,自動車の運転に支障を及ぼすおそれのあるものに限定することとしております。   次に,この規定についての部会での議論の概要を御説明いたします。   まず,アルコールや薬物の影響による場合につきましては,アルコールや薬物を摂取したものの,危険運転致死傷罪における危険運転行為の類型に当たらない運転行為により人を死傷させた場合については,従前からの自動車運転過失致死傷罪や道路交通法違反の罪で処罰すれば足り,これらとは別個に加重された罰則を設けることは必要でなく,また相当でもないという御意見もありました。   しかし,現行の危険運転致死傷罪における,暴行に準じるような危険運転行為と同等とまではいえないものの,なお危険性や悪質性の高い運転行為,例えば,アルコールや薬物の影響によって,正常な運転に支障が生じるおそれのある状態で,そのことを認識しながら自動車を運転した上,「正常な運転が困難な状態」という,客観的に危険性の高い状態に陥り,人を死傷させる場合があること,また,そのような場合,自動車運転過失致死傷罪としての評価では不十分であることから,この規定のような罰則規定を設ける必要性や相当性があるという意見が多数を占めました。   また,「病気の影響」による場合につきましては,病気は予期せずに突然発作が起きる場合もあり,病気にかかった者が,正常な運転が困難な状態であることを認識しながら運転することが考えにくいので,この場合に,当該状態を認識しながら運転することを捉えて,危険運転致死傷罪の構成要件とすることは無理であるが,しかし,他方,発作により意識喪失に陥るおそれがあり,それを認識しながら運転を継続するというケースはあり得るので,そのような行為は危険運転行為と同程度とまではいえないとしても,危険・悪質であることから,病気の影響による類型についても,要綱案の漢数字「二」の規定の対象とすることが相当であるとの意見が多数を占めました。   また,アルコール又は薬物は,通常,被疑者・被告人の意思により摂取するものであるのに対し,病気に罹患することは意思に基づくものではないという点で違いがあることから,「アルコール又は薬物の影響」による場合と,「病気の影響」による場合とを分けて規定すべきであるとの御意見を踏まえ,政令で定める部分があることなども考慮いたしまして,それぞれ算用数字の「1」と「2」に分けて規定している次第であります。   次に,1枚めくりまして,要綱案の漢数字「三」について御説明いたします。   要綱案の漢数字「三」の規定は,アルコール又は薬物の影響により,正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し,運転上必要な注意を怠って人を死傷させた上,その時のアルコール等の影響が発覚することを免れる目的で,更にアルコール等を摂取したり,その場を離れて身体に保有するアルコール等の濃度を低下させるなど,アルコール等の影響が発覚することを免れるべき行為を処罰の対象とするものです。   この罪の保護法益は,危険かつ悪質な運転行為を防止し,人の生命身体を守ることが主たる保護法益でありますが,重大な証拠となるアルコール等の影響の有無又は程度に関する証拠収集や保全を妨げる点では,刑事司法作用をも併せて保護法益とするものと考えられます。   法定刑は,酒気帯び運転罪,自動車運転過失致死傷罪,証拠隠滅罪の法定刑とのバランスを考え,また,自動車運転過失致死傷罪が人を死亡させた場合と負傷させた場合とで法定刑に違いを設けていないことなども考慮しまして,人の死傷の別にかかわらず,12年以下の懲役としております。   この規定についての部会での議論の概要を御説明いたします。   主な議論としましては,そもそもこのような規定を設けることが許容されるか,すなわち,この規定がアルコール等の影響という,自己の刑事事件に関する証拠隠滅行為を罰する性格を持っていることから,刑法上,自己の刑事事件に関する証拠隠滅行為は期待可能性がないことを理由に,不可罰とされており,アルコール等の影響の発覚を免れるべき行為を行うことについても,期待可能性がないのではないかとの御意見がありました。   これに対しましては,判例でも,犯人が他人に自己の刑事事件の証拠の隠滅等を教唆した場合には,証拠隠滅等教唆罪の成立が肯定されていること。学説でもこの点において,定型的に期待可能性がないとはいえないとされており,自己の刑事事件に関する証拠の隠滅行為であっても,一定の場合には期待可能性があると考えられること,また,道路交通法が規定しております,交通事故を発生させた状況の下では,車両等の運転者等は,救護や報告等を行わなければならないことが罰則によって義務付けられております。そのことは広く一般の国民の常識ともなっているのでありますから,このような場合に限っていえば,自己の刑事事件に関する証拠隠滅行為を行わないことへの期待可能性は十分に考えられることから,この規定が処罰の対象とする証拠隠滅行為については,期待可能性がないとまではいえず,また,立法政策としても,この規定を設けることが相当であるとの意見が多数を占めた次第です。   次に,漢数字「四」について御説明いたします。   要綱案の漢数字「四」の規定は,漢数字「一」の罪を含む危険運転致傷罪,「二」の罪,「三」の罪又は自動車運転過失致死傷罪を犯した者が,その罪を犯した時に無免許運転であったときを加重した法定刑で処罰するものであります。   具体的には,漢数字「一」の罪を含む危険運転致傷罪を犯した者については,6月以上20年以下の(有期)懲役,「二」の罪を犯した者については,人を負傷させた者が15年以下の懲役,人を死亡させた者は6月以上20年以下の(有期)懲役,漢数字「三」の罪を犯した者については,15年以下の懲役,次に,自動車運転過失致死傷罪の罪を犯した者については,10年以下の懲役としておりますが,これは,道路交通法の無免許運転罪の法定刑が3年以下の懲役に引き上げられるであろうという改正が見込まれており,そのことも踏まえて,無免許運転罪との併合罪加重以上の法定刑としたものであります。   この規定についての部会での議論を御説明いたします。   主な議論といたしましては,この規定を設ける理由や必要性についてであります。   すなわち,道路交通法の無免許運転罪との併合罪加重された刑よりも,更に加重された法定刑とする理由や必要性がないのではないかとの御意見もありました。   これに対しましては,無免許運転が自動車運転のための最も基本的な義務に違反した,著しく規範意識を欠いた行為であり,運転免許制度が予定する必要な適性,技能及び知識を欠いているという意味では,抽象的・潜在的ではありますが,危険な行為であるところ,無免許運転で人の死傷を生じさせた事案については,無免許運転の反規範性や抽象的・潜在的な危険性が顕在化かつ現実化したものと評価することができるので,道路交通法の無免許運転罪との併合罪加重以上の法定刑とする必要があり,この規定を設けることが相当であるとの意見が多数を占めた次第です。   要綱案につきましては,一括して採決に付され,私を除く出席委員16名のうち,賛成14,反対2の賛成多数により,要綱案のとおりの法改正を行うべきであるとの結論に至りました。   以上のような審議に基づき,諮問第96号については,配布資料刑1のように法整備を行うことが相当である旨が決定された次第です。   以上で,当部会における審議の経過及び結果の御報告を終わります。 ○伊藤会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの御報告及び要綱案の全般的な点につきまして,御質問及び御意見を承りたいと存じますが,まず御質問がございましたらよろしくお願いいたします。 ○吉田委員 このほかの類型というのは検討されたんでしょうか。あるいは,被害者団体の方から要望があったケースとか。 ○西田委員 例えば,飲酒運転は,一律に危険運転致死傷罪にすべきだとか,あるいは無免許運転についても同じであるとか,様々な御意見が出ましたけれども,やはり現行法とのバランス,あるいは法定刑のバランス,それから構成要件の明確性といった観点から,実体法として採用可能なものに限って議論させていただきました。   しかし,被害者団体からの御要望については,可能な限り対応したというふうに考えております。 ○伊藤会長 吉田委員,よろしゅうございますか。 ○吉田委員 結構です。 ○伊藤会長 どうぞ,ほかに御質問がございましたらお願いいたします。   それでは,御質問が特段ございませんようでしたら,御意見をお願いいたします。 ○川副委員 川副から意見を申し上げます。   今回の御提案は,危険運転致死傷罪が適用されなかった最近の悲惨な事件の被害者や御遺族からの御要望に応えようとされた点で,その御努力には敬意を表したいと思います。   しかしながら,自動車運転は極めて多くの国民が仕事や私生活で日常的に行っており,その事故の態様につきましても,多種多様ですから,申すまでもないことですが,一般国民の目から見ても,どのような行為が重い処罰の対象になるのか,その範囲ができる限り明確にされることが,特に重要だと思います。   そのような観点から考えまして,私は,この要綱案に賛成することはできません。   今,西田部会長から御説明がありましたように,部会で議論がほぼ出尽くしているとは承知しておりますが,私なりに整理した理由の要点を申し上げさせていただきます。   まず第一は,一方通行道路の逆走など通行禁止道路を走行して起こした事案を危険運転致死傷罪と同じ刑罰に処するものでございますが,対象となる道路は,やはり多岐にわたりますし,「殊更に」といった同罪の規定の限定もありません。速度の点につきましても,確かに文言上限定されているかにも読めますけれども,具体的な状況に応じて,かなりの幅があり得ますことから,適用範囲が広がりすぎるおそれを否定できません。   第二ですが,算用数字「1」のアルコールや薬物,算用数字「2」のてんかんや一定の精神疾患の影響があるとされている事案に関して,その主観的要件の点で,危険運転致死傷罪の「正常な運転が困難」という点を相当に緩和した上で,これに準ずる重い刑を設けるものでございます。   しかし,新しい要件であります「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」という認識については,例えば,適法な服薬の副作用による場合なども想定しますと,実際上は自動車運転過失致死傷罪の過失の要件であります「予見可能性」と区別するのが大変難しく,両者の限界的な事例への適用場面で,しばしば判断の分かれる事態が生じることは避けられないのではないかと考えられます。   また,特定の病気を対象とします第二の算用数字「2」が立法化されますと,それらの病気が全て自動車運転に支障を及ぼす危険なものだといった偏見を助長するとともに,広く精神障害者らに対して,たとえ道路交通法上は免許取得要件を満たしておられても,自動車運転への過剰な萎縮効果を与えることになりかねません。この点は批准が予定されています国連の「障害者権利条約」の趣旨との関係でも問題があるように思われます。   第一の通行禁止道路と,第二の算用数字「2」の病気の対象範囲は政令に委ねられているわけですが,この点も国民には分かりにくくなります。立法化後の推移の中で,国会審議を経ない形での拡大を招きかねないと思われます。   第三ですが,ひき逃げ事案のうちアルコールや薬物の影響の有無,程度が発覚することを免れる目的で行った行為を重く処罰するものでございます。刑法では自己の刑事事件に関する証拠隠滅行為は,期待可能性がなく処罰しないとされていることとの整合性の点につきましては,確かに御指摘のような先例がありますけれども,今回の刑の重さをも併せ考えますと,なお疑問が残るように思われます。また,現場を離れて一定の時間が経過するだけでも適用され得ることから,対象範囲の拡散が懸念されるところでございます。   最後に,第四でございますが,危険運転致傷罪,それに自動車運転過失致死傷罪,それから今回の新設罪を犯した者が無免許である場合の加重処罰を定めるものですけれども,たまたま免許を失効させた者など,無免許運転が必ずしも結果に影響したとはいえないような場合,免許を取得したことが全くない者と同じように違法性や責任が大きいとは考えにくく,両者を一律に重く処罰する根拠は,十分ではないと思われます。   以上のように,この要綱案は,構成要件がなお明確になっているとは言い難く,処罰範囲が広くなりすぎて過度の重罰化を招くおそれがあるなどの点で,見過ごすことのできない問題があるように思われます。   部会での御議論及び本日の御説明を伺っても,その懸念を払拭することはできません。   したがいまして,結論として,私はこれを答申することには反対をいたします。 ○伊藤会長 分かりました。   それでは,他の委員の方,御意見いかがでございましょうか。   他の委員の方から,特段の御発言がございませんようでしたら,ただいま川副委員から御意見の表明がございました。原案についての採決に移ってもよろしゅうございますか。           (「異議なし」の声あり) ○伊藤会長 それでは,御異議がないようですので,原案についての採決に移らせていただきます。   諮問第96号につきまして,刑事法(自動車運転に係る死傷事犯関係)部会から報告されました要綱案のとおり答申することに賛成の方は挙手をお願いいたします。           (賛成者挙手) ○伊藤会長 事務当局で票読みをお願いします。   よろしいですか。   それでは,反対の方も挙手をお願いいたします。           (反対者挙手) ○伊藤会長 事務局で票読みをお願いします。 ○松本司法法制課長 それでは,採決の結果を御報告を申し上げます。   議長,部会長を除くただいまの出席委員数は15名でございますところ,原案に賛成の委員は14名,反対の委員は1名でございました。 ○伊藤会長 採決の結果,賛成者多数でございましたので,刑事法(自動車運転に係る死傷事犯関係)部会から報告されました要綱案は,原案のとおり採択されたものと認めます。   採択されました要綱につきましては,会議終了後,法務大臣に対して答申することといたします。   西田委員,ありがとうございました。           (西田委員,自席へ移動) ○伊藤会長 これで,本日の予定は終了でございますが,ほかにこの機会に御発言いただけることがございましたら,お願いいたします。 ○能見委員 この審議会には長く出ているわけではないので,審議の仕方のルールがよく分からないのですけれども,今日は,要綱案を一括して全部賛成するか,反対するかという形で採決されているわけですけれども,場合によっては,要綱案を一つ一つといいますか,幾つかに分けて採決するということも当然考えられると思います。   要綱案の部分的な採決では具合が悪いという場合ももちろんあるでしょうけれども,しかし我々からすると,分けられるのであれば分けていただくという方が,賛否が表明しやすいので,今後検討していただければと思います。 ○松本司法法制課長 採決の在り方につきましては,今日の御提案も踏まえまして,その内容に応じて,また御相談させていただければと思っておりますので,よろしくお願いいたします。 ○伊藤会長 御指摘ありがとうございました。   ほかには,何かこの機会に御意見がございますでしょうか。 ○山根委員 参考になるか分からないんですが,ちょっと情報提供ということで1点だけ。アルコールのことなんですが,ノンアルコールビール,ノンアルコールカクテルというのが,今大変人気になっております。運転時でも飲めるということも人気の理由と思われるわけなんですが,一方で,表示や絵柄等に問題があると感じていまして,お酒と似た紛らわしい絵柄であったり,フルーツの絵であったりということが,私どもの方でも問題になっております。低アルコール飲料も混在し,実際間違ってお酒を飲まないつもりの者がアルコールを飲酒してしまったりとか,あと子供が間違ってアルコールを飲酒してしまったりと,実際事故も起きている状況があります。   ですから,私ども消費者団体としては,適切な表示等々を求めて活動しているわけなんですが,そういったことが現状あるということをお知らせしたいと思ってお伝えしました。 ○伊藤会長 ありがとうございました。   ほかに御発言ございますか。よろしゅうございますか。   それでは,本日はこれにて終了といたしたいと思います。   本日の会議におきます議事録の公開方法でございますが,審議の内容等に鑑みまして,会長の私といたしましては,議事録の発言者名を全て明らかにして公開することとしたいと存じますが,この点はいかがでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○伊藤会長 よろしゅうございますか。   それでは,そのようにいたします。   なお,本日の会議の内容につきましては,後日,御発言を頂いた委員等の皆様には,議事録案をメール等にて送付させていただきまして,御発言の内容を確認していただいた上で,法務省のウェブサイトに公開したいと存じます。   最後に,事務当局から事務連絡がございましたらお願いいたします。 ○松本司法法制課長 次回,総会の開催予定につきまして御説明申し上げます。法制審議会は,例年2月と9月に開催することとなっておりますが,次回の総会につきましても,例年どおり9月に御審議をお願いする予定でございます。具体的な日程につきましては,後日改めて御相談させていただければと思っております。つきましては,皆様方におかれましては,御多忙のところと存じますが,是非ともよろしくお願い申し上げます。 ○伊藤会長 それでは,これにて本日の会議を終了いたします。   本日はお忙しいところをお集まりいただき,また熱心な御議論を頂きまして誠にありがとうございます。次回もどうぞよろしくお願いいたします。 -了-