法制審議会           被災関連借地借家・建物区分所有法制部会           第6回会議 議事録 第1 日 時  平成24年12月11日(火) 自 午後1時29分                        至 午後5時44分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  罹災都市借地借家臨時処理法及び被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○山田部会長 予定の時刻が参りましたので,法制審議会被災関連借地借家・建物区分所有法制部会の第6回会議を開会いたします。   本日は御多用の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   事務当局から配布資料の説明をお願いいたします。 ○岡山幹事 配布資料の説明をさせていただきます。   事前に配布資料目録,部会資料8及び部会資料9を郵送させていただきました。部会資料8は,罹災都市借地借家臨時処理法の見直しに関する要綱案のたたき台(その2)と題するものです。前回の部会におきましては,本日は要綱案(案)の御審議をいただきたい旨をお伝えしていたところでございますけれども,優先借家権制度の在り方など,幾つかの点について,なお御議論をいただいた上で要綱案(案)を作成させていただきたいと考えており,たたき台(その2)とさせていただきました。本日この資料に基づいて罹災都市法の見直しについて御審議いただきたいと考えております。   次に,部会資料9は被災関連建物区分所有法制の見直しについての個別論点の検討(2)と題するもので,被災マンション法の見直しのうち,建物敷地一括売却決議制度について取り上げております。このような制度に関しては,中間取りまとめの第2の1,後注において記載していたところですが,これまでの部会においてはこのような制度を設けるかどうか,設けることとした場合の制度の具体的な内容について,中心的に御議論していただく機会があまりなかったところでございます。そこで,部会資料8の御審議が終了した後,この部会資料9の御審議をお願いしたいと考えております。   なお,被災マンション法の中間取りまとめについては,12月4日まで,パブリックコメントの手続に付しておりました。現在,その取りまとめを行っているところであり,次回部会においてパブリックコメントの結果を御報告する予定でございますが,部会資料9に関連する御意見については,後ほど御審議の際に,事務当局から内容を御紹介する予定でございます。 ○山田部会長 それでは,本日の審議に入りたいと存じます。まず,部会資料8について,御審議をお願いします。資料では,「第1 見直し後の制度の適用の在り方」から始まっておりますが,制度の適用の在り方については,一通り各制度を御審議いただいた後に,最後に御意見を伺うことにしたいと思います。そこで,まずは「第2 借地権保護等の規律」の「1 借地権者による土地の賃貸借の解約等」について,事務当局から資料の説明をお願いします。 ○川副関係官 それでは,資料の説明をさせていただきます。「1 借地権者による土地の賃貸借の解約等」についてです。   前回の部会では,主に本文②の部分について,解約の申出等があった日に借地権が消滅することとする甲案,それから解約の申入れ等があった後,3か月後に消滅することとする乙案というのを提示させていただきました。そして,御意見を頂いたわけですけれども,甲案,乙案双方に御支持があり,またこの3か月という数字を災害時であるという事情を考慮して短期にすべきではないかという御意見を頂いたところでございました。   そのように頂いた御意見を踏まえまして,事務当局において更に検討させていただき,今回の資料では,解約の申出等から3か月後に消滅するということを諮らせていただいております。借地権者を早期に地代等から解放する必要性が震災時,災害時には特に高いということが言える一方で,借地権設定者が直ちに合意解約等に応じないという場合があるとすると,それは借地権設定者としても今後の土地の利用の見通しが直ちにつかないような場合が多いのではないかということも考えられるところでございます。そうすると,借地権者,借地権設定者,双方の利益調整を図るという観点からは,やはり一定の猶予期間を設けた方がいいだろうということを考えた次第でございます。   その上で,具体的な期間としては,そのような借地権設定者側の事情も考慮すると,借地借家法第8条が3か月ということを規定して,双方の利益調整を図っているということを参考にすると,この同じ期間とすることがやはり相当なのではないかということでこのような提案をさせていただいております。これを前提としますと,以前から御質問いただいていた適用関係ですけれども,政令で定める災害により借地上の建物が滅失した場合には,借地借家法第8条第1項より借地権者が解約することができるという場合には,借地借家法第8条第1項によることになりますし,借地借家法第8条第1項では認められないという場合は,本規律によって解約等をすることになることになります。   具体的な場面として考えられるのは,借地契約の更新前に建物の滅失があったとき,それから定期借地権等が設定されていたときに,借地上の建物が滅失したときということが考えられるかと思います。現在のたたき台のところにはその旨を明示しておりませんが,実際に条文にする際には以前御注意いただきましたように,借地借家法第8条第1項を除くとか,そういった適用関係を明示するような形になるのではないかと思われます。   今回の提案内容については以上でございます。御意見がありましたらお願いいたします。 ○山田部会長 それでは,御質問,御意見がありましたらどうぞ御発言ください。いかがでしょうか。 ○鎌野委員 前回も議論のあったところですけれども,特に,補足説明のところにあることで,理由はそういう理由で,特に述べませんけれども,この申出があった日から3か月を経過することによって消滅するという,この案に私は賛成でございます。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでございましょうか。   前回からの変更点は,事務当局の説明にありましたように,本文②において,解約申入れ等から3か月経過後に借地権が消滅するという点でございまして,御意見は幾つかあったわけですが,事務当局としては先ほど申し上げた理由で3か月ということでお諮りをしております。 ○森田委員 借地借家法第8条1項を除くという点ですけれども,これは契約更新後についていずれの規定によるかによって結論が変わってこないとすると,除かなくても特に支障はないような感じがしますけれども,結論が変わってくるという点がおありであれば,その点を御教示いただきたいのですが。 ○川副関係官 結論としては,解約の申入れから3か月で借地権が消滅するということで,変わりはないと思っております。ただ,先ほどちょっと御説明いたしましたが,借地契約の更新前だけに限るというよりは,第8条第1項で解約ができない場合を広くというのでしょうか,第8条第1項でできる場合はそれによる。それによることができない場合について,こちらを使うという関係を表すには,第8条第1項を除く,それ以外のときはこちらでできますという規定ぶりの方がいいのかとは思っております。具体的にどんな書きぶりにするべきか,実際の法律にする際に検討しなければならないかと思っておりますけれども,適用の関係としてはそのようなことを考えている次第です。 ○山田部会長 ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。   そうしましたら,冒頭で岡山幹事からお話がありましたように,改めて要綱案の案というのをこれについてはもう一度作成してお諮りすることになり,そのために,要綱案の案の内容をどういうふうにするかという作業を今後進めるわけですが,それに際しては,第2の1については,3か月という期間をもったものとして進めていくことについて,御了解いただけますでしょうか。   ありがとうございます。   それでは,次に,第2の「2 借地権の対抗力」について,事務当局から説明をしてもらいます。 ○川副関係官 それでは,「2 借地権の対抗力」につきまして資料の方を説明させていただきます。前回は,主に本文②の掲示により対抗力が認められる期間について御意見を頂いたところでございます。前回の資料では本文②の期間は〔3年/5年〕ということで両方を提示しておりました。今回の資料では,〔3年〕としておりますので,一応3年とすることでどうかということで諮らせていただいております。前回の部会におきましては,5年を維持すべきという御意見もございましたし,政令の施行の日を起算点にして,期間としては借地借家法第10第2項と同じで2年間で足りるのではないかという御意見も頂きました。借地借家法第10第2項というのは建物の再築に必要な標準的期間を考慮して2年間,掲示により対抗力を認める期間を定めたものと言われておりますけれども,基本的に建物が滅失してなくなってしまっているという場合には,その2年間というのが基準となるということは間違いないわけです。   ただ,被災時は人手,資材の不足などから建物を再築するまでの期間が通常時に比べて長く掛かるといったことも少なくないものと想定されますので,2年間よりも長い期間を設けるべきであるという,そういうことの考えの下にこのような規律を提案させていただいております。   掲示による対抗力の付与を認めるのは,借地上の掲示といったものと,滅失した建物の登記を一体のものとしてその建物の残影として暫定的に対抗力を認めているにすぎない規定ですので,これは余りに長期間とするのは相当ではないと考えられます。借地権者の側としても利用するかどうか分からないまま,何年も土地を放置するといったことは考えにくいわけでして,再築を目指すということになるのであれば,できる限り早期に再築しようとすると思われますので,先ほど言ったような人手,資材等の不足といったことを考慮しても3年程度とすれば足りるのではないかということを考えまして,今回,3年とすることをお諮りしております。この点については,前回の部会においてもいろいろ御意見を賜りましたので,期間についてなお御意見がありましたら頂きたいと思います。それ以外についても,何らか御意見がございましたらお願いしたいと思っております。 ○山田部会長 説明,ありがとうございます。それでは,第2の「2 借地権の対抗力」について,御質問,御意見がありましたら御発言をお願いいたします。 ○細谷委員 ②の3年ということなんですけれども,借地権者としてそれは長く更地の状態で放置することは必ずしも望ましいことではないことは事実だと思います。ただし,3年以内に家を建て替えて登記をするということは実際に確実に可能なのかどうかというところが非常に問題があるのではないかと思います。賃貸人の側から特に残存期間が短い場合には,借地契約の解約ということも問題が出てくると思いますし,その建替えというのはかなり長期の期間掛かるおそれがあるのではないかと。平常時に家を建て替える間に滅失するまでには通常賃貸人側との交渉をして,それが成立した時点で滅失するということになるわけですから,こういう災害時に3年というのは長いようだけれども短いのではないかと,やはり5年が相当ではないかということを思っております。 ○山田部会長 いかがでしょうか。期間の点について早速御意見を頂きました。 ○住本幹事 御参考までに,私どもが通常住宅建設の工事期間を申し上げますと,平均的なものでございますが,いわゆる戸建住宅につきましては,着工から3か月から長くて6か月,半年以内というのが平均でございます。それから,マンション,いわゆる共同住宅でございますが,タワーマンションなどを除きまして,大体着工してから1年から1年半ぐらいというのが平均的な期間といわれております。御参考までに以上でございます。 ○山田部会長 いかがでしょうか。 ○山野目委員 細谷委員の方から,3年というのはある程度の期間があるように感じられるけれども実は短いという御感触を頂いて,私も伺っておりまして同感であるという気持ちを抱く部分がございます。その上で,意見を申し上げますけれども,川副関係官が御説明になったように,建物の滅失の登記の参照も期待しつつ,登記による対抗要件がない状態での対抗力を法制として画一的に認める期間というものを余りに長期にするわけにはいかないという要請は,やはり無視することができないものでありまして,3年よりも長い期間を更に設けるということを考えていくということは,この文脈の法制の組み方としてはやはり難しいのではないかと感じます。そのように考えると,部会資料で御提案になっている3年という期間がやむを得ないものであると考えます。   その上で,性質の異なる二つのことを申し上げようと思いますが,1点目は,確かに細谷委員がおっしゃるように,きちんと計画を立てて資材等を調達して工事をする期間というものにかなりの期間を要すると思います。3年の期間が経過した後であっても,そこに掲示ないし掲示の痕跡が残っていたり,建設工事が行われたりしているような場合には,取引裡において登場する関係の第三者が背信的悪意者として扱われる可能性というものがあるものでございますから,現在の解釈論を前提としても,借地権者が直ちに決定的な不利益を被るものではないということを指摘させていただきたいと考えます。   それからもう1点,これは別な観点でございますけれども,今般法制の検討においては,現行の借地借家法第10条が発想として提示している掲示による対抗力の保存という仕組みを用いて何かを設えるということを考えることが限界でございましたけれども,今後の我が国において様々な災害が発生し,現地において掲示をさせることが必ずしも相当ではないと認められるような災害が将来において起こるかもしれないことを考えますと,土地の賃借権の登記や建物の登記をより簡易,迅速に実現するような方策というものを課題として,不動産の権利に関する公示の在り方についての少し長期的な研究をしていく中で,工夫していくということも宿題としては認知されていてよいのではないかと感じます。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでございましょうか。 ○山谷委員 私はこの3年というのはかなり厳しい期間かなと受け止めています。といいますのは,この3年というのは築造し,かつ登記に至らないといけないという期間です。例えば今般の大震災の場合に,1年9か月経っていますけれども,また計画すら立っていない案件というのが少なからずあると思うんです。これからまずどういうふうな建築設計を立てるかという問題とあと資金の手当を考えて着工して築造まで3年と考えた場合に,かなり窮屈さは否めないのかなと思います。確かに,先ほど御説明のように,余りにも長期間にするのは相当でないというのは一般として私も承知するところなんですが,いざその大震災が起きたときに,その3年というものできちんと対応できるものかと考えた場合に,どうもそこはすっきりいかないものが残るというのが私の意見です。そこのところ,何か工夫があればいいんですけれども,ちょっと今のところ別の法制度の手当とか付かないものですから,ちょっと私の実感としては3年というのはいかがなものかなというのを改めて申し上げたいと思います。 ○山田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○根本委員 私は前回,この2年ということを主張させていただいた立場でございますけれども,今回の東日本大震災において,取扱いがうまくいかないというのは,建築制限が掛けられている地域,要は土地の区画の利用がはっきりしなかったところが相当大きな要因になってはしないかということを指摘させていただきたいと思います。これの関係で,行政上その建築をしてはいけませんという期間がとられている間はどのようにカウントされるのでしょうかという質問が出てまいります。それを御質問した上でなおかつ従前の立場を主張させていただきたいのですけれども,やはり復興,再建ということに関しては,個々の問題も当然重要でございますので,それを無視することはできませんが,全体としてどのように町を再び作り上げていくのかという視点も欠かせないと思います。そこには,ある程度のスピード感も当然必要であり,2年という要請をやはり踏まえるべきではないかと考えているところでございます。起点が飽くまでも政令の指定の日からということでございますので,2年で十分なのではないかという立場を改めて主張させていただきたいと思います。 ○山田部会長 前半は御質問がありましたので,そこについて事務当局からお答えをお願いします。 ○川副関係官 建築制限が掛かっている期間については,今提案している3年といったところから除外されるのかどうかという整理だと思うんですけれども,そのようには今のところは考えておりません。こちらで規定する場合はそういった場合分けをする,この場合は除くとか,この期間が終わったとかとそのようなことを法制で定めるのはちょっと難しいと思っておりまして,そのような期間を除くということではなくて,政令施行の日からということで3年間と考えているのが前提でございます。 ○山田部会長 いかがでしょうか。年数で具体的な数字をどう定める方向で考えるかということですが,御発言のなかった方々もそれなりに思いはお持ちではないかと思います。事務当局の3を軸にして,5と2の両方の御意見も出ておりますので更に御意見を賜れればと思います。理由はもう既に出ていることで,この理由を重視したいというようなこともあり得るだろうと思います。いかがでしょうか。   それでは,ここはちょっとまだ十分に議論がこの場で集約できないと考えられます。要綱案の案というのを改めてこの場にお諮りすることが事務当局の任務でございますが,そこに向けては今日の御意見がなお3年を軸にして両側にあるということを基にして,事務局としては,3年をなお維持されるならば,もう少し説明内容を追加できるかどうかということについて御努力を頂いて最後はまとめられるようになると良いと思います。   よろしゅうございますか。この点は議論を続けさせていただくということにしたいと思います。   それでは,次は第2の「3 土地の賃借権の譲渡又は転貸」でございます。事務当局から説明をしていただきます。 ○川副関係官 この「3 土地の賃借権の譲渡又は転貸」については,前回の部会資料からゴシックは特に変更はしておりません。こちらについては前回の部会において申立期間について1年では短いのではないかという御意見を頂戴いたしました。もっとも現在のところ,もう一度1年ということでお諮りさせていただいております。以前,御説明いたしましたように,第2の1で先ほど御審議いただきました解約が可能な期間というのは政令の施行の日から起算して1年としておりますけれども,政令の施行の日から1年と考えますと,大体半年から1年ぐらいで避難所から仮設住宅に移って今後の生活がどうなるかということの見通しを立てるような期間と考えられると思うんですけれども,この間に,今後の借地契約をどうするかということについて決めていただく。譲渡,転貸ということが難しいのであれば,解約をしてしまうという方向にいくことも考えられますし,譲渡,転貸ということで許可申立てをするということも考えられます。1年間という間にどうするかという今後の方向性を決めるということで,やはり解約の場合と同じ期間にして,制度を設けておくということがよいのではないかと思っておりまして,今回,もう一度1年ということで提案させていただいております。   許可の申立て,代諾許可の申立てにつきましては,最終的に裁判所が判断するということになりますけれども,しっかりした譲渡転貸の相手方というのを見付けていれば許可されるということも多いのではないかと考えられますので,申立てまでの期間と解約をすることができるまでの期間を一致させておいて,今後の借地契約の方向性についてその間に借地権者の方に判断していただくと考えるのがよいのではないかということを考えているところでございます。この点についてや,そのほかこの制度全体につきましても御意見を賜ることができればと思っております。よろしくお願いいたします。 ○山田部会長 それでは,御意見,御質問,御発言がありましたら,どうぞお願いいたします。 ○細谷委員 今の御説明ですと,解約するか譲渡転貸するかどちらかを選ぶみたいな感じなんですけれども,こういう賃借権譲渡,転貸という制度を設ける以上,できるだけ新しい方がそこを買い取って,建物を建て替えられるように制度を作ったけれども全然利用できなかったということではよくないと思います。そういう意味で,1年というのはやはりちょっと短いと私は思います。やはり借地権の譲渡はなかなか買手を見付けるのは,ましてこういう震災時ですから,非常に困難を極めるのではないかと。せっかく制度を作った以上,この制度を利用できるような一定の期間を保証すべきではないかと思います。 ○山田部会長 ありがとうございます。いかがでしょうか。 ○根本委員 違うことばかり申し上げなければいけない立場でちょっとつらいんですけれども,前回の部会で,私はちょっと理由を申し上げるのを忘れておりましたので,ここでコメントだけさせていただきます。   この前提が,建物が滅失した場合ということでございまして,既に地上部分に建物が実質上存在しないという,そういう中で転貸まで認めるのは,やはり借地権者の方を過度に保護することになりはしないかという懸念からこの制度自体に反対を前回申し上げた次第でございます。   加えまして,そういう転貸が行われますと,全体を面的に復興するというような場合には,やはり権利関係が非常に複雑になってくる可能性がございまして,復興そのものが遅れる可能性もあるのではないかということを強く危惧する。そういう立場からこういう制度は設けるべきではないのではないかということを申し上げた次第でございます。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。   この部分は前回からの変更はないところでございますが,制度の要否について,ただいま根本さんから御発言がありました。制度について必要であり適切であろうというお立場を前提とされて,年数について長くすることが適当だろうという御意見をその前に細谷さんから頂いております。どちらの点に関してでも結構ですし,また更に三つ目の論ずるべき点がありましたら,それも含めて,土地の賃借権の譲渡又は転貸についていかがでございましょうか。 ○住本幹事 2にも絡んでくることでございますが,今回の罹災法の改正の目的は,私の認識としましては東日本大震災を踏まえまして,復興・復旧をより重視した,それを眼目に置いて改正を進めていると理解しております。そうした場合に,根本さんと細谷さんが意見が分かれているんですが,被災を受けた場合,今回もそうですが,大災害を受けた場合には,特定の人たちが利益を得るということは通常ありませんで,地主であれ,建物の所有者であれ,借家人であれ,借地権者であれ,基本的に皆さんが被害者となり得る。そういった中で,いかに早く復興,復旧をさせるかという場合には,通常の場合と違って短期間の間に権利関係をできるだけ早く整理といいますか簡略化して復興に資するようにするというのが,今回の改正の眼目だと私は理解しています。   そういたしますと,今回の賃借権の譲渡又は転貸について,通常の場合に比べて,借りている方,借地人の方についても,若しくは貸している方も被災者ですので,短期間のうちに御判断を頂き,その中で最低限の保護をしつつも,できるだけ短期間のうちに御判断を頂く。皆様にそれをお願いする。それによって復興を早くする,促進させるというのが今回の改正の眼目だとしますと,2の場合ちょっと戻ってしまって恐縮ですけれども,通常時に比べて,短くなっても借地人のみならず土地所有者の方も違う場面でやはり同じような判断を強いられるわけですから,通常の場合に比べてある程度借地権者の方の選択肢が狭まるという制約があっても,ある意味致し方がないのではないかというのが前半でございます。   後半について,政令指定のことを申し上げます。政令指定につきましては,法務省さんと協議をして政令指定をしますが,直ちに指示が起きたら大規模な災害があればここの地域については,特に2と3の部分については対抗力のところについては,基本的に速やかに政令指定するという制度になるのではないかと理解しておりましたので,この政令指定を速やかにするという前提で制度をお作りになるのか,実態を踏まえてじっくりと時間を掛けた上で,政令指定をする制度にするのかということについても御配慮いただければ幸いでございます。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。「3 土地の賃借権の譲渡又は転貸」です。 ○山野目委員 根本委員から今日,前に御発言を頂いた反対意見の背景説明を頂いて大変よく理解することができました。ありがとうございます。やや私がまだきちんと理解してないというか,聞き漏らしたのかもしれないのですが,主に転貸借の場合の権利関係が複雑になるという御心配をおっしゃったように聞こえました。譲渡の場合は,その問題はないという感触でいらっしゃるのか。その点を教えていただければ有り難いと存じます。 ○山田部会長 根本さん,山野目さんからの質問がありましたが,お答えいただきますようにお願いします。 ○根本委員 お答えの仕方が非常に難しいのですが,基本的に違いはないと思っております。例えばですが,新たに面的な開発をしてその地区の復興に資そうとする事業者,あるいは人が現れた際に,どなたと交渉をさせていただいたらよろしいのかということが非常に分かりづらくなる。あるいは,その対象者の属性によって大きく物事が変わる可能性があるのではないかということを危惧しているわけでございます。 ○山野目委員 2点申し上げます。1点目は,今,根本委員からお答えを頂戴したことについて,更にお尋ねを差し上げたりするつもりはなくて,自分が感じたことを申し上げますけれども,転貸借であると結果として出来上がる法律関係が複雑になるということが確かにあると感じます。そのことがおっしゃったことであるものと私は最初に受け止めましたが,今の御説明ですと,結果として出来上がる法律関係ではなくて,譲渡や転貸のことが話題になった際の交渉の関係が多角的になるという側面をおっしゃったように感じまして,どちらに力点を置くかでこの制度の評価について微妙な影響を及ぼしてくる部分があるのではないかと感じます。   自分が感じるところを申し上げますと,交渉相手が複雑になるというところは,少し私が不勉強なのかもしれませんけれども,まだピンと来ないところがございまして,転貸借の場合には,俗に現場でいうA,B,Cの関係に近いものになりますから,結果として出来上がる法律関係が複雑になるということが分からないでもありません。そう考えますとここの3で御提案いただいている規律について,譲渡のみ残して,転貸借の方を削るということが一つ考えられないでもありませんが,ただしかし借地借家法19条の普通法制の建付けは譲渡と転貸を並べておりますから,その特例であるこの規律で転貸借のみ削るということは,立法の在り方としてはいささか安定感がないのではないかと感じます。   こういう御議論を恐らく裁判所の方でも当然認知した上で,個別の事案に向かっていただくものであろうと想像いたしますから,そういたしますと法制としては譲渡と転貸をこの御提案のとおり置いておくこととし,そのように話が進む際の転貸借についての運用上の問題点の指摘を根本委員から頂いたと受け止めるべきであると感じました。   それから,もう1点は,細谷委員の方から期間を長くしてほしいという御意見があって,それも被災地のいろいろな状況を想像すると,あり得ることかもしれないと感じますから,引き続き事務当局においては今のような御意見がどれくらい尊重しなければならないリアリティがあるか,ということは御検討いただきたいと希望しますが,同時に私は少し細谷委員の方にも少し引き続き御検討いただきたいと感ずることは,3の提案というのは,借地普通法制が建物が存在している借地権こそきちんといろいろな手当で守ってあげましょうという基本思想で出来上がっているものに対して,例外を作ろうとしているものですから,ここの例外の間口を余り大きくして,建物がないまま商品として動いて回る借地権というものを過度に保護しようとすると,長い目で見たときに借地法制と向き合うときの我が国のいろいろな立法の考え方において,必ずしも借地権者の側の利益にならないのではないかという面もいささか御勘案いただきたいと考えます。そのことは裁判所に対して,建物のない状態での借地権の財産的評価を見極めた上で,財産上給付の金額を見極めなければならないというのは特殊な扱い,処理を求める場面であるということになって表れるものでありまして,そのような例外的な事態というものは,やはり抑制的に扱わなければいけないという側面にも御留意があってよいと考えます。   ただし,期間を本当に1年と決め付けて考えることが,現段階では少し早すぎるのかもしれませんから,それは事務当局においてもまた引き続き御検討いただければ有り難いと感じます。 ○山田部会長 ありがとうございます。「3 土地の賃借権の譲渡又は転貸」について,更にいかがでございましょうか。 ○住本幹事 まず,2点申し上げます。1点目は,今,山野目先生もおっしゃったように,根本委員がおっしゃっていることは,私から見ますと例えば土地区画整理事業をやろうとしますと,借地権者を確定する必要がございます。したがって,その間に借地権者が移転したりしますと,それを追っていく必要がございます。これは用地買収,土地収用などでは一般的な例でございますので,そういった転々譲渡が,特に面的事業をやるときに行われてしまいますと,非常にそれがやりづらくなるということではそのとおりなんですが,所有権の譲渡もその場合は同じでございますので,極論を申し上げますと,権利固定をしてしまえば面的整備事業については可能なんでございますが,所有権固定までこの法律でするわけではございませんので,そこは区画整理事業等の法律でやるという手もあるのではと思います。   それから,2点目,これは先ほどの繰り返しで,事務当局,岡山参事官にお聞きしたいんですが,政令施行の日,私先ほど申し上げましたように,基本的にここの対抗力のところにつきましては,後ほどの適用関係といいますか,適用法制との関係の兼ね合いもあるんでございますが,基本的に大災害があって,かなり大きな被害を受けた,それは国土交通省なり地方整備局,我々が把握し,そうした段階で速やかにここの部分についての政令は適用すると認識していたのでございますが,そういう御理解でよろしゅうございましょうか。 ○岡山幹事 それでは私からお答えいたします。おっしゃるように,見直し後の罹災都市法の制度のうち,借地権の対抗力の規定というのは,大規模な災害が発生したときには借地権者の保護の観点から速やかにその政令を発動するものと私どもの方としては認識しているというところでございます。 ○山田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○森田委員 先ほどから3年とか1年とかという期間を区切って調整するときに,実際その期間内に権利行使をすることができるような状況にないような場合でも,一定の期間で区切ってしまうとそこで権利行使ができなくなるという不都合をどう調整するかということが問題になっているわけですが,政令指定をする際に,借地権の対抗力のような場合については,速やかに適用した方がよいけれども,他の場合については,一定の状況が整ってそこで想定される権利行使が実際上も可能になるような状況が整ってから期間を起算した方がよいように思います。一般に法律で期間を設定するときには,様々な状況を考慮した上で一定の期間が設定されるわけでありますけれども,その期間によることが明らかに不適当であることが実際には生じえます。先ほどその地域全体に建築制限がかかっているような場合にそのことは考慮されるのかという質問に対して,法律で期間を定めた以上は考慮されなくても仕方ないというのが川副関係官のお答えでしたけれども,例えば,長期間にわたって建築制限がかかっていた場合には,その期間内には権利行使の可能性がほとんどない場合もあり得るわけです。そういう場合に,どのような調整をしたらよいのかという問いが先ほどから出されていると思います。   このような問題については,例えば,借地権の対抗力については,速やかに政令を定めてその施行の日から直ちに対抗力を付与するけれども,他の期間については,政令で別に定める日から起算するというように,その規律の適用を遅らせるというような方法によって,先に述べたような二律背反の状態を調整するような仕組みが法制的には考えられないのかという感じがいたしますけれども,それは無理なのでしょうか。つまり,政令施行の日から直ちに規律を適用するというよりも,権利行使の可能性について実際の状況を見てその規律が適用される起算点をゆっくり定めた方がよいというという場合と,借地権の対抗力のように速やかに政令を定めて規律を適用した方がよいという問題があって,この二つの要請が相対立しているわけですから,それをいずれかで決めてしまおうとしますと,必ず無理が生じる。それをどういう仕組みによって調整することができるかという問題が先ほどから提起されているように思いますので,その点を詰めていくとやはり法制上は無理だということであれば仕方がありませんけれども,別の方策,つまり,異なった考慮を要する二つの問題を両立させるような方策が考えられないかということについて,もう少し検討していただいた方がよいのではないかと思います。 ○山田部会長 今の点について何かありますか。森田さんからの御発言についてです。制度の適用の在り方については,最後にまた議論をするという順番としているのですけれども,ここまでに取り上げた具体的な三つ制度の中に,森田さんの御指摘では,反対方向に向いていると見ることができる制度が入っているということで,森田さんには一つ新しいアイデアのお話も頂いたように思います。ちょっとまた違う観点からの考慮があってよいだろうという御指摘であったと思います。 ○住本幹事 実務上は,我々の方が把握した上で法務省さんと協議するとなっていますので,今の御指摘は結論から申し上げて難しい。といいますのは,おっしゃるのは施行と適用を分けるということだと思うんですが,特にこういう災害時につきましては,施行するかしないかということが精一杯でございまして,仮に施行適用を分けるというようなことをしますと,その間に逆に空白期間が生じますので,その空白期間をまずどうするんだと。であればもっと早く適用すべきではないかと。   通常,この政令を施行するという,政令指定ということで,政令を定めるということは,速やかに適用する必要があるから政令を作るということの要請を受けて,我々は政令を今まで適用,指定してきたものですので,通常の法律のように,準備期間,通常の法律は準備期間が必要なので,若しくは周知期間が必要なので,施行までの間,若しくは適用までの間,期間をあけるということはあろうかと思いますが,こういった緊急災害法において,施行と適用の日を分離するというのはなかなかこちらとしては説明がしづらいというのが正直なところです。   繰り返しになりますが,もし政令を指定する必要があるということは,速やかな適用,施行が必要だという要請に基づいて政令を定めるわけでございますから,そこにおいて更にその都度期間を考慮するというのは,政令を適用,施行する側にしてみますと,かなり至難の業ということを申し上げたいと思います。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○佐藤(岩)委員 この新しい規律が適用される状況を考えると恐らく被災市街地復興特別措置法が適用されると思います。そうすると大体2年をめどに復興計画を立て,その後に事業が始まるということになると思います。そうした場合に,土地区画整理事業,あるいは再開発事業の中で借地権を考慮するという事態を考えると,事業期間中は借地権は安定していた方がよいけれども,事業期間中に借地権者が変わるのは事業にとって差し障りがあるという,そんな感じがいたします。   そうすると借地権の対抗力の方は3年でよいけれども,つまり事業期間までずっと安定させた方がよいけれども,譲渡,転貸についてはその前に権利者を確定させた方がいいのかと思います。結論として,事務当局の原案がスケジュール感としては適切との印象を持ちました。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。   それでは,この点についても,多様な御意見を頂いたところであります。要綱案の案に進める際には今日の議論を十分に参考にしていただいて,必要なところは考え方を補っていただくということでお願いをいたします。森田さんから御発言のあった点については,また今日,この資料8の議論の最後にもう一度取り上げることがあろうかと思いますので,またそこで事務当局から追加の説明がありましたら説明をしていただきたいと思います。   それでは,先に進みたいと思います。第2の後注というのがございます。資料8は4ページの下から二つ目のブロックでございます。ここでは,第2の借地権保護等の規律の各制度についていずれも強行規定とすることを提案しているところですが,前回の部会において,特段御異論がなかったと認識しております。ここについては,事務当局からの説明はお願いせずに,この第2の後注の2行について,御意見,御質問かありましたらお伺いしたいと思います。いかがでございましょうか。   それでは,第2の後注については,まだ中身が必ずしも十分に安定しておりませんが,このような性格のものとするということとして,これまでの議論を更に詰めていくということとさせていただきます。   それでは,次に「第3 被災地一時使用借地権(仮称)」に進みます。事務当局から説明をお願いいたします。 ○遠藤関係官 第3の被災地一時使用借地権につきましては,前回,御議論いただいたところから実質的な変更があったところとしまして,存続期間のところがございます。5年以下というところについて,前回は括弧が付いておりましたけれども,特段期間について御意見を頂いていなかったところかと思いますので,今回は括弧を外して5年以下ということで御提案をさせていただいております。   それから,形式といいますか表現としましては,③について,前回は存続期間を更新することができないという表現になっておりましたけれども,②の表現に揃えたということでございます。被災地一時使用借地権につきましては,前回,説明義務を借地権設定者の側に課すことは考えられないかというところも御議論を頂きましたけれども,この被災地一時使用借地権が使われる場面を想定しますと,土地の所有者,借地権の設定者になろうとする者に過重な義務を課してしまうと,制度がうまくいかなくなるということもあるのではないかというように考えておりまして,今回の提案ではそのような説明義務を設定者の側に課すということはしないという形で提案をさせていただいております。 ○山田部会長 それでは,御質問,御意見がございましたら御発言をお願いします。   いかがでございますか。よろしいでしょうか。実質的には前回と変更はないという御説明でありました。表現は少し変えていただいております。それも含めて,今日のこの資料8のような形で次のステップ,要綱案の案に進めさせていただけるかどうかをお諮りできればと思いますが,御意見はよろしいですか。   それでは,第3の被災地一時使用借地権(仮称)につきましては,次の段階,要綱案の案に今日のたたき台その2の内容で提出するということとさせていただきます。   それでは,その次でございますが,「第4 優先借家権制度の在り方等」に進みます。 ○石渡関係官 それでは,「第4の 優先借家権制度の在り方等」について御説明いたします。優先借家権につきましては,前回部会におきましても活発に御議論いただいたところでございまして,甲案に賛成する御意見,乙案に賛成する御意見の双方がございました。また,乙案の中では担当者素案の乙案①として記載させていただいていた通知制度に比較的多くの支持が集まったように思います。そこで乙案①としていた通知制度を中心に整理したというところでございます。もっとも乙案としてこの通知制度に限らず,他にこのような考え方があるのではないかという御意見がございましたら賜れればと考えております。   また,現在記載のような制度の詳細につきましては,必ずしも詰められていないというところもあろうかと思いますので,このようにすべきであるといった点につきましても,御意見を伺えればと思っております。さらにこのような制度につきましては,意義がどこまであるのか,実効性がどこまであるのかという点について,疑問も示されていたところでもございますので,このような制度を設ける必要性,あるいは相当性につきましても御意見を賜れれば幸いでございます。 ○山田部会長 それでは,「第4 優先借家権制度の在り方等」について,どうぞ御質問,御意見について,御発言をお願いいたします。 ○佐藤(岩)委員 前回,公務で出られなかったものですから,教えていただきたいという質問です。補足説明の6ページの一番最後の行に,被災地の早期の復興という観点から,甲案が望ましいと書かれていますが,そのロジックを教えていただければと思います。これは要するに通知義務のようなものがあると復興が妨げられるという,そういう趣旨に読めるのですが,なぜそうなるのかを御教授いただければと思います。混乱した状況ですので,旧借家人を探すのが大変だということはよく分かりますが,その点は「知れているもの」ということになっております。その辺を少し教えていただければということです。 ○山田部会長 補足説明に書かれている意見ですね。そのロジックについて,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○石渡関係官 私が理解したこの意見の趣旨といたしましては,恐らく被災時に早期の復興ということを考えるに当たっては,賃貸人の側にも余り義務を課すという方向ではなく,義務を課さないことで家を建てていくということの方が早期の復興に資するのではないかという趣旨の御意見であったのではないかと思っております。もし,勘違い等がございましたら,御指摘を頂ければと思っております。 ○佐藤(岩)委員 ここで想定されている状況は,家主が家を建てて,それを誰かに賃貸したいという状況です。その貸す相手が第三者になるのか,旧借家人になるかということであって,なぜ通知義務を課すことが復興の妨げになるのかがよく分かりません。要するに,被災地の早期の復興のためには甲案が望ましいという考えは,借家市場がひっ迫している状況を前提に,より有利な条件で貸せるように誘導するという,そういう立法政策をとることまで含むのかが問われることになるのではないかと思います。   他方で,国土交通省の方から先日御説明があったように,災害復興住宅融資では,旧借家人に賃貸することを条件とする施策が講じられております。そういうインセンティブがあることによって,十分に家主の再築意欲というものは刺激されるのではないかと思っております。そういう民事法と公的な施策との連携の中でこそ早期の災害復興を図っていくことがむしろ期待できるのではないかと,そのような印象を持ちました。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○森田委員 私は以前に甲案の方がよいのではないかと申し述べましたけれども,前回,途中で退席いたしました関係で,この乙案について議論がどの程度あったのかと存じ上げませんので,質問させていただきたいと思います。それは,乙案のように通知義務を課すということにした場合に,通知義務に違反した場合の法的なサンクションというのは,どういうものになるのかという点です。その通知があれば賃貸借契約を締結する相当程度の可能性があったのにそのような機会を奪われたという「機会の喪失」がここでの損害賠償の対象になるわけですが,機会の喪失それ自体が損害賠償の対象となるのは,生命の維持や,重大な後遺症などそれに比肩すべきような法益が問題となる場合に限られるというのが,最高裁の判例の考え方でありますので,ここでの通知義務違反については,賃貸借契約を締結する可能性を失ったこと自体について損害賠償というサンクションは考えにくいところです。   そうなりますと,通知がなされたならば,確実に賃貸借契約を締結したであろうと言えるような特段の事情がある場合であれば,契約を締結できなかったことが賠償すべき損害であるといえるわけでありますが,乙案によっても,建物を新たに築造した元賃貸人は,通知をする義務を負うだけであって,別に通知をした元賃借人に対しては優先的に契約を締結しなければいけないという法的な義務はありませんから,それを立証することはほぼ困難であるとしますと,通知義務違反について法律上損害賠償というサンクションはおよそ考えにくいように思います。そういたしますと,この通知義務というのは法的な義務として規定するとしても,実際上は努力義務といいますか,法的なサンクションがない義務ということになろうかと思います。   たとえそういうものであっても,気持ちとしてあった方がよいということなのかどうかというのが甲案との違いであって,基本的には実際に法的なサンクションがないという点では法的義務がないのと同じだけれども,その限度で残した方がよいということで乙案になったのか,それとも法的なサンクションがあるという前提で乙案が残っているのか,いずれなのかということであります。 ○石渡関係官 法的なサンクションといたしましては,損害賠償の問題になり得るということになろうかと思います。他方で,森田委員から御指摘いただいていますとおり,通知義務に違反すればすぐに何らかの損害賠償になるというわけではないと考えております。具体的には御指摘のとおりですけれども,通知をしなかったとしても確実に賃貸借契約が結べるということではありませんので,もちろん通知さえあれば賃貸借契約を結べたという立証までできるという状況があるとすれば,それが損害賠償につながるということがあると思いますけれども,そういった場面でないということですと,慰謝料程度のものが考えられるかどうかということになってくるというのが実際上のことだと思います。そうようなものであっても制度として設ける必要があるのかどうかということが問題になるものと思います。 ○森田委員 慰謝料の点については,財産的な利益に関する意思決定が侵害された場合の慰謝料請求については,最高裁は慰謝料請求権の発生を肯認し得るような高度の違法性がある場合に限って認めておりますので,これを前提にすると,通知がなくて不本意だというだけでは慰謝料請求はできなくて,通知をしないだけではなくてそのことが当事者間の信義に著しく反するような特段の事情がある場合に限られてきます。その観点からいっても,慰謝料請求が認められるのはかなりレアケースになるのではないかという気がいたします。 ○鎌野委員 今の森田委員のこととも関連して,意見を述べたいと思います。私は基本的にこの乙案でいわゆる通知義務を課す案でいいのかなということでございます。基本的な判例の理解は森田先生のおっしゃったとおりですけれども,必ずしも高度の違法性ということについて,はっきり言えるのかなと。例の公団住宅の事例で,従前の賃借人に対して,分譲を持ちかけて,何年か後に募集をかけて安く売ったというときの,最高裁の判例など,そういった財産的なものについて,公団は,従前の居住者が同じ分譲価格でこのあとすぐに一般の分譲をすると考えていたことを知っていたにもかかわらず,今後の分譲の仕方について,従前の居住者に対して十分に説明しなかった。そういう言わば十分な説明を受けて交渉する,ないし熟慮した上で契約を結ぶという機会を奪ったというようなことで慰謝料,それを高度というかどうかというのは別として,そういう判例などを考えるとやはり通知義務違反というのも微妙なところがありますけれども,やはり損害賠償,慰謝料請求の対象になるのかなと思います。   そして,恐らく私が乙案,これは私の理解でありますけれども,多分,ここでの最も重要な社会的というか実質上の意味というのは,従前の借家人の側が,建物が被災して壊れちゃったけれども自分としてはそこに家主さんが建物を建てるということであると引き続きその賃借人としてその募集に応じて残りたい。だけれどもそれがいつになるか分からない。ですから,恐らくここで知れている者に対してということで,実際には従前の借家人の側からもし家を建てるような場合には知らせてくださいねということで,家主に住所などを知らせて,そしていざ家が築造されて借家人の募集をするというときに,その交渉の機会を与える。借家条件その他ということで特に借家人が優先されるということはない。   そういった意味では,限定的ではありますけれども,借家人の交渉の機会を与えてその限りで保護していいのではないか。そうするとやはり何らかのこういった規定が必要になり,その規定の在り方として築造したときには賃借人の募集に先立って,そういう知れている者に対して通知する。   このようなことが一般的に想定されるとしたら,従前の借家人からそういった連絡を家主が受けている。それにもかかわらず通知をしないで他の賃借人との間で契約を結んだというのは被災時の借地借家法制の在り方として問題なのかなというようなことで,私はそういった意味では,落ち着きどころというか,そういった双方の利害の調整,利益の調整というようなことで,通知義務程度は課していいのかなと,そういった意味で乙案に賛成をいたします。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでございますか。 ○山野目委員 第4回会議におきまして,かつての賃貸人としては建物を再建する際に,全く知らない人に貸すよりも,従来において賃借してくれていた人に安心して貸すことができるという気持ちを抱くことが通常であるという,住本幹事であったと記憶しますが,指摘があり,また避難所における法律相談などの機会に被災地で見た状況に鑑みると,かつて賃借人であった者に通知するように求めることは考えられないことではないという,これは津久井幹事の御指摘であったと記憶しますが,それら指摘がありました。   一般に大きな災害の後は,避難による居所の不安定や通信ないし交通の障害などにより隔地者間において行われる契約成立のための交渉について,そのまま民法の規定を適用することのみでは適切でないと認められる状況が大いに予想されるものでありまして,かつての賃貸人に通知を求める規律はそれが設けられますならば,そのような観点から講じられるかもしれない法制上の措置とも連続性を持つものとして理解することができることでありましょう。   また,かつての賃貸人がかつての賃借人に通知をするものであるという規律を取り入れますならば,そのような規律の存在は賃貸人であった者が,通知の履践について抱く関心が正当なものであることを法制上明瞭にし,個人情報保護等との考え方の整理に資することでありましょうし,更に融資などの公的住宅政策の実施という契機においても,かつての賃貸人に融資をする機関などが,賃借人であった者に対し通知をしたかどうかということを確かめるということが,これもまた正当な関心に基づくものであることの社会的な説明が可能になるのではないかと考えます。   第4回会議におきましては,被災地における住宅の確保が公的な補助や融資など公的住宅政策を基本に据えるべきものであるとしても,民事法制が何らの配慮もする必要がないということにはならなくて,公的住宅政策と民事法制との協働という契機が重要であるという御発言が佐藤岩夫委員からあったことを想い起こしながら,私はこの問題を考えておりました。ただいま佐藤委員からは同じ趣旨の発言を本日も頂いたと認識いたします。   必ず乙案で決めていってくださいとまで,事務当局に対して強く意見を申し上げるというところまで自分としてはまだ考えが練り込まれておりませんけれども,しかし本日,こういう形でこの問題が本格的に議論されていると共に,これが初めてではなくて,第4回会議におきまして若干想い起こすということをさせていただいたような御議論もあったものでありまして,この部会での数次にわたる会議で出された意見を総合的に引き続き勘案して事務当局としては考えを練っていただきたい。私自身ももう少し勉強してみなければいけないと感じておりますけれども,そういうふうな意見を抱いております。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでございますか。 ○垣内幹事 乙案の内容について1点御質問させていただきたいのですけれども,従前,囲みの中にあるような形で甲案以外にあり得る規律として①,②,③というものが掲げられておりまして,現在の乙案はそのうち①に相当する部分を提案に含めて御提案になっているということなのですが,このような内容の規律,通知義務について規定したという場合に,その囲みの中で従前検討の対象となっていた②の誠実交渉義務,信義に従い誠実に交渉しなければならないというような内容については,これはもう全く乙案の内容,あるいはその前提としては含まれていないということになるのでしょうか。   前回,吉政幹事の御発言だったかと記憶しておりますけれども,②の考え方が背景にあって,その具体化として①などを位置付けることも可能ではないかというお考えがあったところかと思いますけれども,そういった目から現在の乙案を見た場合に明文では書いていないけれども,誠実交渉義務的な考え方が前提にあって,その表れとして乙案になっているという理解と,およそその通知さえすればよいのであって,その後の交渉の在り方などは全く何でも誠実である必要は全くないという前提に立って通知義務のみを定めている提案ということになるのか。その辺り,仮にこれが立法になった場合には,解釈上,いろいろと議論があり得るところかなと感じまして,事務局の御理解を示していただければ有り難いと感じております。 ○山田部会長 では,事務局の理解をお話しください。 ○石渡関係官 今回は誠実交渉義務ということを明示的に取り上げて,この規律に設けるという案を提示していないということではございますけれども,乙①から③というのは基本的に同一の思想といいますか理解に根ざしておりまして,従前の建物の賃貸人と賃借人との間で交渉の機会が持たれることが望ましいことであろう,それは借家人の保護にもつながるし,コミュニティの維持にもつながると,こういった共通の理解の中で,具体的にそれを法律にしていくとするとどのようなものが考えられるかといったところだと思っております。   それを前提といたしまして,この誠実交渉義務ということを明示的に書いてはいないという意味では,明示的な義務があるわけではないとは思いますけれども,仮に乙①のような制度が設けられたということになりますと,通知をした上で,その通知を基に交渉が始まるということになりますと,一般論として信義則の働くような関係というものが成立してくる。その中で信義則的な要素を考えるに当たって,こういった通知があったということが一定程度考慮されるということがあり得るのだろうと考えております。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。  ○住本幹事 前回,里見の方から御説明しました融資と補助との関係について再度私の考えを申し上げさせていただきますと,仮に①を適用された場合には,通知が行きます。融資の場合には,通知をした上で,その方々に優先的に入れますよというような内容の通知をし,交渉し,できるだけ優先的に入居していただく。お断りされれば,ほかの方を募集する。   補助の場合,災害型の特定優良賃貸住宅という制度を恒久化のために予算要求しているわけでございます。この補助金の場合には,恐らく通知内容としては募集が始まりますということをお知らせして,何日から募集が始まりますよという通知で終わり。①であれば今のように運用をすることによって融資制度,それから補助金制度に対しても対応できる内容,整合性がとれた内容となると考えております。   なお,補助金は建設,本体の方は5分の1補助で,共同施設の部分は5分の4です。 ○山野目委員 今,住本幹事がおっしゃったことを前回明確におっしゃっていただきたかったと痛切に感じるものでありまして,前回,今のような歯切れのよい御指摘がなかったことから,融資と補助との関係の議論に若干の錯綜があったと記憶しています。沖野委員から的確に整理する御発言を頂いたということも併せて記憶しておりますけれども,今の住本幹事の御発言のとおりであると私は考えておりました。それを前提に,今,公的住宅政策の観点からのボキャブラリーでおっしゃったことを民事法制の,といいますか,私法的な観点から整理し直していいますと,乙案で話題になっている通知というものは決して賃貸借契約をしませんかという申込みであったり,あるいは申込みの誘因であったりというような私法の講学上の分類でいいますと,意思表示であったり,ないしは意思の通知に近いような要素を持つものでは決してあり得ず,募集を始めましたよ,という事実を告げるという講学上の分類でいうと観念の通知を求めているものなのであると整理されるべきであって,この通知の内容は,そのようなニュートラルなものであるときちんと性格規定されれば,住本幹事がおっしゃったように融資のみならず補助との関係でも障害がなく,むしろ組み方によっては適切なハーモニーを組む制度として認識,理解することが可能になると感じます。 ○里見幹事 本筋の議論ではないんですけれども,前回たしか融資と補助が同時に受けられるのかという御質問があって,今一つ歯切れの悪い説明をしたので改めて整理をしてまいりました。   先ほど住本が申し上げたとおりですけれども,基本的には補助の制度だと公募,融資はむしろ限定するということで,融資というのは,住宅金融支援機構の融資ということで,これは業務規定に書いてあり比較的限定した条文になっているので,被災した建築物に住んでいた者に優先的に貸すということを融資の条件にして,融資を絞っているような条文になっております。結論から言うと,この補助を受けてかつ融資を受けるというのは,今の制度ではできないということで,前回も難しいのではないかとたしかお答えしたと思うんですけれども,今の制度はできない。難しいということでございます。   他方,一般的にどうなのかというのは,ちょっとこれは私の職務を超えるんですけれども,普通は補助が入った範囲以外の部分に融資を受けるというのは,一般的には可能だという認識も一部申し上げたか,申し上げてないかちょっと自信がなかったんですけれども,多分そういうことで整理ができるのではないかということでございます。   ただ,今の制度は一方が住本が申し上げたように公募,一方が優先的にやるということですので,その範囲においてちょっと同時には難しいのではないかということの整理を改めてしたというところでございます。 ○山田部会長 御説明ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○津久井幹事 先ほど出た,通知義務がサンクションとして機能するのかどうかというところについて意見を申し上げます。私はこの通知義務は山野目委員がおっしゃったように,観念の通知という軽いものと考えますと,損害賠償の根拠になるサンクションと考えない方がいいと思っています。   甲案の論拠は,早期復興を阻害するのではないかというトラブルにつながるような,損害賠償の問題につながるような事態を想定しておられると私は理解していますが,そういう負の効果をもたらす仕組みとしてこの制度を強調するべきではないと思っています。   阪神淡路大震災のときに,罹災法が当初好意的に受け入れられたのは,借家人の権利が全く何もなくなってしまうという失望感の中で,権利の中身はともかく,無権利者にはならないということが大きなインパクトをもって被災者の方々に受け入れられたという点です。   乙案の中身がさほど大きなものではないとしても,甲案だと全くの無権利者で終わってしまうのに対し,蜘蛛の糸のようなものであれ,とにかく救いがあるということがメッセージとして大きいと思います。私たち弁護士が被災地に行って,被災直後の法律相談をするときに,無権利者になった居住者の方々にこういう制度があるから将来元に戻る機会があるんだよと伝えることができれば,これはかなり大きなインパクトだと思います。私は,そのプラスの面の方を強調するべきであって,サンクションがあるかどうかということは強調しなくてもいいと考えます。   地主さんの側からしても,補助制度とうまくリンクするんだとお伝えすることで,前向きに復興に取り組むということができると思います。補助制度は,法律相談などに行く一般の弁護士などは普段は知識を備えていないわけですが,通知義務がきちんと根づいたものになれば,その絡みで有益な情報提供ができると思います。   弁護士の立場からで恐縮なんですが,直後の法律相談をするときに,この制度があるかないかによって被災者に希望を与えられるかどうかということが,大きく変わると思うので,乙案を支持したいと思います。 ○山田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○森田委員 最初に確認したかったのは,まさに今の点でありまして,乙案についても,これが法的なサンクションがあるという前提で乙案を採るということになりますと,そのような前提に立って民事法制として,通知義務を課すということが適切かということを論じなければいけないわけですが,実際に法的なサンクションがあるのかを詰めて考えていくと,そういう意味での乙案というのは,実際上は考えにくいことになると思います。そうすると,ここでは「通知しなければならないものとする」と書いてあるけれども,その意味するところは,「通知するように努めるものとする」というのとほとんど同じであって,実際上の努力義務として通知義務を課すのが望ましいと考えるか,そのようなものでも法律に定めることが必要かどうかという点に帰着するだろうと考えた次第であります。   先ほどの融資とか補助とか,他の法制によってここでの政策目的を実現するということは,むしろそちらの方が望ましいのであって,民事法制として定めることができるのは,せいぜい努力義務のようなものとして規定することしかできないのではないかということであります。そのことを明確にした上で,乙案を採るのと甲案を採るのとでは,法的サンクションの点では実際上はあまり変わりないけれども,メッセージ機能ということに着目するのであれば,そういう意味での乙案を採るということは,選択肢としてあり得てよいのかなという感じがしています。   ただ,このままの乙案でいきますと,「通知しなければならないものとする」と書いてあって,これを法律の知識がない人がそのまま読んで,これを厳格に履行しようとすると,それが困難な場合にも,法律に書いてあるから,これは法的な義務だから,ということで加重な負担を感じる人がいるとすると,それはかえって適切でないだろうと思います。   先ほど,今回の乙案では,誠実交渉義務を明示的に取り上げてその規律を設けるという提案をしなかったというご説明がありましたが,誠実交渉義務についてなぜ法律に明示的な規定を置かない方がよいのかといいますと,法律に誠実に交渉しなければいけないと書いてあったとすると,真面目な人ほど誠実にというのはどこまで交渉しなければならないのかということが判断に困るような局面も出てくることがその理由になろうかと思います。ここで書いてある趣旨は,そういう法的なサンクションがあるということではなくて,できればそうするのが望ましいというメッセージを法律の中に含めたいということであって,そうであれば,それにふさわしい規定の仕方があるのではないかということを申し上げたかったわけであります。 ○鎌野委員 多分,今の森田先生,津久井先生のおっしゃるところは非常に悩ましいというか,最大の問題だと思います。この乙案というのをどういう性質の通知と見るかという,一つの在り方としては,法的なサンクションがないものとして,そしてやはり規定としてもそのことが明確になるような規定を設けるという在り方が提案されたというか,そういう考え方があるのではないかという御意見と承りました。   そうすると,そういうのが果たして民事法制として成り立つのかというか,そういう問題があって,もしそれはそれで成り立つということであれば,それについて特段私は反対しないし,そういった意味では,今のお二人の御意見ということで,この法制というか乙案の意味があろうかと思います。   ただ,やはり先ほど言ったように,森田先生の言葉を使えばかなり高度な違法性があった場合のみ何か法的なサンクションというか慰謝料としての損害賠償というような,ある意味では法的サンクションを与える伝統的な民事法制の在り方というのもあるのではないか。そうすると,私はどちらかというと,やはり乙案のような形で設けるとしたら,やはり民事法制としての座りというのは何らかの法的な効果を持たせることなのかなと思います。実際にそれによって,具体的な損害賠償責任が家主に直ちに発生するというのは,実際上はなかなか難しいか分かりませんけれども,そういう余地も残しておくという意味です。   それでそうすると乙案をどういうふうに根拠付けるかということですけれども,これも私がもうかなり信念をもって言えることではないので,ある意味では暫定的な考えなんですけれども,こういった場合に大規模な被災によって,賃借人,あるいは賃貸人もそうですけれども,予期しない偶然の契機によって建物が失われて終了した。そういう場面なわけです。そうするとそういった場合においては,もしこういう震災などの災害がなければ,賃貸借関係が続いていたという,そういうのが想定される中で,やはりそういった偶発的な場面を契機にこういう関係になったというときに,一種の従来の我が国の借地借家法が築き上げられた,言わば最後の信頼関係の法理というか,そういうことでそれの延長線上として,もし賃貸人の方が新たに建物を建てるのだったら,少なくとも従前の賃借人について通知して,交渉の機会を与えるという,そういったそこまである意味では信頼関係の延長として認めるという法制の在り方もあるのかなと。   そういった意味では,ある意味では利害関係というか,利害関係人として賃借人というのを把握することができるというような形で,そしてやはりここで最もそういった意味では,賃借人にとってはもし賃貸人が新たな建物を建てるんだったら,自分はそこに居住したい。引き続き新たな賃貸借契約を締結したいということが自分の知らない間に,賃借人の募集がなされて,もう他の賃借人が決まっているというのは,やはり先ほど言ったようなことから言うと,できるだけ避けるべきではないかなと。そういったことで賃借人に従前の場所のその建物,新たな借家条件ではありますけれども,そういった機会を失う恐れというのを極力避けるべきではないか。もちろん,その趣旨は賃貸人としては従前の賃借人に捕らわれることなく,賃貸人がこれはと思うような新たな土地の利用,建物の利用,新たな借家人像というのを描いているわけですけれども,そのときにも先ほど申し上げたように従前の賃借人にも交渉する機会を与える。   そして,私は,そこまでで,その限りでの誠実義務というか,そこの交渉の機会を与えるという限りの誠実義務ということまで認めてもいいのではないかということで,ある意味では,我が国の借地借家法の信頼関係の法理の延長ないし最終版という理由でやはり乙案というのが望ましいと考えます。ちょっと長くなりまして申し訳ございません。 ○山田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○沖野委員 私法上の規律として,基礎付けられるかという点ですけれども,どのように基礎付けられるかというのをずっと考えておりまして,今,鎌野委員がおっしゃった配慮義務といいますか誠実義務といいますか,賃貸借契約が突然の災害によって建物が滅失し,打ち切られたというときに,次の機会を与えるというようなことが賃貸借契約上の一種の余後効として賃貸人に配慮義務として課されるのかということを考えますと,なぜ政令指定の災害だけなんだろうかということが少し気に掛かっておりました。   ただ,基礎付けとしましては,広範にわたる災害ということでなければ,終了したとしても,その地域というか,近隣は無事だということを考えるならば,賃借人の側としてあえて賃貸人から特に情報を提供してもらわなくても十分情報をとり得るような地位というのは期待されるということは一つの説明になるのかと思われまして,それは非常に困難で他の地域に行かざるを得ないというような場合に,賃貸人の方で改めて建物を建てるかどうかすら分からないような状況下で建てるのであれば,その機会といいますか,改めてそちらに戻ってくる,従前の形での居住等ですね,その可能性についての情報を提供するということをこの局面だけ求めるということもそれなりに理由が付くのかという感じがしまして,なかなか困難な感じはするのですけれども,私法上のということを言うならば,一つは政策判断をダイレクトに入れてしまうか,もう一つは賃貸借契約における賃貸人と賃借人の間でそのような配慮義務の思考というのが,この場合には特に顕在化してくるんだという説明をすることになるのかなと思います。それが説得的かどうか,しかしそういうような説明で基礎付けることはできないだろうかと考えております。   サンクションの問題ですけれども,森田委員の御指摘のように,基本的には実質的なサンクションはやはりないのではないかと思われます。民法上もほかにも通知義務が課されていて,サンクションがはっきりしないというのは,賃借人の修繕の必要や他からの権利主張についての通知義務とか,あるいは事務管理のときの通知義務,いろいろな通知義務があります。これらの場合,ある程度損害が発生する場合もあり得るということが想定されるんですが,この場合は損害とは何かというのはこういうものが発生するでしょうと確度をもって言いにくいということはあると思います。しかし,全くないかというとそれもやはり否定できないわけですので,実質的には努力義務ではないかということと,努力義務として書くべきかというのはまた違うことのように思われまして,実際上は,余り損害賠償といっても認められる場合はないだろうけれども,しかしそれは賃貸人の配慮義務としてそういう義務が賃貸借契約の終了後もなおあり得るんだということを明らかにするというのはなお意味があるのではないかと思います。   それから,多くの場合は自発的にそのようなことがされるだろうということがありまして,とりわけ意味があるのは,自発的にされない場合,しかしそのときは強制力も何もないので,何の意味があるのかという反論につながるかと思うんですけれども,ただ自発的にされない場合も義務として書かれれば,やはりした方がいいとか,するだろうという方向につながると期待されます。何も書かれないときよりはこの配慮というのが具体化する可能性を高めるという意味では,それは意味のあることではないかと思います。   御懸念の一つとして,しかしそうすると真面目で誠実な人ばかりが過大な負担を負う行動になりかねないという点については,それは義務の内容を明確化する話だと思われまして,その知れたる債権者というのも幅があって,知っているということであれば,従前の賃借人はみんな知っているということになりかねませんので,知れている賃借人という場合,ここがもう少し分節化する必要がないのかは気になります。誰が賃借人かは分かっているけれども,亡くなったかもしれなくて相続人は分からないとか,あるいは所在や連絡先が全然分からないときに,公示送達などをするかというとそうではないと思われますので,知れている者への通知というのはさほど負担なく通知ができるという話ではないかと思いますので,過大な義務としてとられないような工夫の余地はあるのではないかと思われます。   そして更には,先ほど誠実交渉義務との関係で問題となっておりましたけれども,具体的なサンクションというのが明確になくても,他の手法,あるいは誠実交渉としてやはり通知をするというのはその一環であるということは明らかになる形で次につながっていくということがありますので,なお義務を書くということには意味があるのではないか。その意味では,乙案の方向で検討していけないかと思っております。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。 ○山谷委員 弁護士として,被災地の相談をしていますと,やはり双方から相談を受けます。そのときに,仮に通知義務というものがあった場合に,どう説明するかという問題がやはり直面すると思います。それを前提にして考えた場合に,私は元々甲案に賛成する立場で発言していたんですが,通知というものをどういうふうに位置付けるかというその役割を私は努力義務程度のものかと思って,であればなかなか実効性が保たれないのではないかと。   例えば被災地で相談を受けたときに,こういう義務があります。先生,これはもしそれに違反した場合,どのような効果が発生するんですかというときに,努力義務ですとなれば,やはり賃貸人側としてもやはり受け止め方が違います。それこそ余りひどいことをすると,損害賠償につながるんですとなれば,やはり受け止め方が違う。その意味では,被災地で賃借人,賃貸人の双方を見た場合に,そこまで損害賠償義務を課すまでの法制というのがあっていいのかどうかをやはり考えないといけない。   つまり賃貸人も賃借人も被災者ですので,被災者同士の法的なトラブルというものをどこまで押さえられるかという問題もやはり考えないといけないと私は元々考えていたんです。だけれども,どちらかというと今日考えてきたのは,一般論としてはコミュニティの維持,あるいは交渉の機会を与えるという政策判断,これは否定できないだろうと私は考えて,実は努力義務程度であればいいのかなという感じはしてきたんだけれども,今の議論をお聞きすると,やはり実効性ということを考えた場合には,極めて限定された場面があるけれども,損害賠償というものを念頭に置いての制度でないと,なかなか通知という制度が機能しないと私は今受け止めているんです。   最終的に,賃貸人と賃借人の間の法的なトラブルの種を制度として置くのがいいのかどうかという問題も私は悩ましいところだと思うんですけれども,もし賃借人の側に交渉の機会を与える。あるいはコミュニティの維持というものを政策判断として捉える,肯定するとなるとぎりぎりのところで損害賠償義務というものを念頭に置いた法制度でないと,なかなか実効性は保てないのではないかというのが私の意見です。最終的には,今日この時点では,それこそ努力義務ではなく,限られた場面を念頭に置きますけれども,損害賠償義務というものを念頭に置いた制度がやむを得ないと今は考えております。 ○山田部会長 いかがでしょうか。様々な観点からたくさんの御意見を頂きましてありがとうございます。右から見たらこう見えるし,左から見たらこう見えるというようなことで,ここでいかがでしょうかというのをお諮りする段階でもないと思います。ここはちょっと引き続き事務当局に今日はこの項目だけで,10を超える御意見を頂いたように思いますので,それをも十分咀嚼していただいて,もう一度汗をかいていただくこと,お願いをしたいと思いますが,よろしいでしょうか。   第4の優先借家権制度の在り方等については,これまでの項目と比べるとちょっとまだ進捗度合いが手前のところにあるかもしれませんが,今日のところは今のような形で次回に持ち越したいと考えます。   それでは,全体の後注というのが部会資料の8にございます。ここについて進みたいと思います。全体の後注は現行の罹災都市法の規律について廃止する制度を記載しております。後注につきましては,前回の部会において特に御異論がなかったところと認識しておりますが,今日,改めて御意見,御質問がございましたら頂戴したいと思います。いかがでしょうか。   それでは,事務当局からの説明も省略しておりますが,後注の4項目について廃止するものとするという点については,今日のたたき台その2に基づいて,御異論がなかったということで,次の要綱案の案に進めていただきたいと思います。   それでは,冒頭で,資料の順番を変えて進めてまいりましたところである部会資料の第1,ここに戻りたいと思います。部会資料8の1ページでございます。「第1 見直し後の制度の適用の在り方」の説明をしていただきたいと思います。 ○川副関係官 この点につきましては,前回の部会におきましても法制の技術的側面も強いところでありまして,意見を具体的に述べるのが難しいという御指摘なども頂いたところでございます。現在も政令指定の在り方については,事務当局の方でいろいろと協議をしていたり,国土交通省の方にも御相談したり決めていただいたりということがあるところでございますけれども,これまでの運用としましては,政令指定というのは災害と地区をしておりまして,地区の指定は都道府県ということではなく市町村単位で行っておりました。地区指定については,国土交通省の方で被災した市町村に罹災都市法の適用を求めるかどうかを照会していただいて,その市町村からの申出があれば指定をするという運用であったと認識しております。   それによって,例えば阪神・淡路大震災では,大体災害から20日程度後に指定があって,新潟・中越は約6か月後と遅いんですけれども,短いとそのようなくらい,20日ぐらいというところで指定があったことがございます。市町村に適用についての意見を聞くことが前提になりますと,自治体自体の機能が麻痺してしまっている状態だとやはり数週間というのは厳しい可能性もありますし,自治体自体は機能しているということであれば数週間ということも可能になるということが前提にならざるを得ないのかなと思っております。   そこで仮定の話が入ってしまって恐縮なんですけれども,地区の指定というのが必要かどうかということについても引き続き検討をこちらでも続けていきますし,御意見があればいただきたいと思います。また,それからもう一つ分割適用の話についても御意見があれば伺いたいと考えております。   先ほど賃借権の譲渡・転貸の関係のところで,森田委員から政令によって起算日を別に定めるというようなことができないかという御意見があったかと思うんですけれども,それについては住本幹事の方からやはりなかなか難しいという御説明をいただきました。実際に,現実として何か月後にそれが必要になっているのかということを判断して,将来のことに適用するというのは難しいと思いますけれども,分割適用ということで,ある制度について先に今必要なので適用すると。ある制度については後から適用を考えるということもあり得るのではないかということで,②のところで,制度を指定するということを提案させていただいているところでございます。   ただ,分割適用が本当に必要性があるのかということについても若干検討の必要があるのではないかと思っております。先ほどの御意見を踏まえると必要性があるということなのかもしれませんけれども,例えば対抗力の特例などは災害後できるだけ早い時期に適用されるのが望ましいというところは御意見が一致しているところだと思っております。   では,ほかの制度は早くに適用してしまっては弊害があるのか,早く適用してしまう,最初のうちは機能はしないけれども,必要なときにその制度についても適用になるということなのであれば,全てを早期に適用してしまうということもあるのかなと思っておりまして,もちろん分割適用ができた方が便利だという抽象的なことは間違いないと思っているんですが,今回の全体の法制というのがだんだん見えてきたこの状況で,この全体の制度を前提に本当に早期に適用されては問題があるという事情があるのかということを検討した上で,分割適用を設けるかどうかということは最終的に結論を出さなければならないと,事務当局としては考えているところでございます。   そういうことがございますので,この適用についても,もし御意見がありましたら,伺うことができれば大変有り難いと思っております。 ○山田部会長 それでは,「第1 見直し後の制度の適用の在り方」について,御質問,御意見をいただけませんでしょうか。   先ほどの森田さんの発言については,②で考えられるのではないかということが第1段階で,しかし,分割適用でない進め方をすると森田さんの問題提起に対してはやはりなお対応できてないということになろうかと思いますので,その辺も含めて総合的な観点からそれぞれ御意見を頂ければと思います。 ○山野目委員 2点申し上げます。一つは今部会長から意見を述べるように,という御指示のあった分割適用の問題ですが,部会長が分割適用するのであろうかと漏らされたし,川副関係官の説明ぶりを聞いていると,分割適用が本当に適当なものであるか,とか,必要があるか,とかいうようなお口ぶりのようにも聞こえますが,確かに今回の要綱案の細部がかなり見えてきた現段階になって,何がなんでもこれとこれとは別な時期にしなければならないと強く言わなければいけないというものが現在の案を見た範囲で,あまり見当たらないということは一方では言えるであろうと感じます。   それと同時に,私は忘れることができないことは,東日本大震災のときの現行法に対して,被災各県の弁護士会から分割適用という言葉を使って現実に意見,要望がありました。もちろん事情が異なり,優先借地権の制度も一括で適用されてしまう仕組みになっていたので,その弊害を強く危惧した日弁連や被災各地の弁護士会がそこはやめてくれということをおっしゃったという背景がありますし,それは今回はなくなると思いますが,しかしやはりあのときに,一旦この新しい法制を適用すると全面的に適用されてしまって,その後,いろいろな差し替えができなくなるということの不便を痛感した記憶をどうしても忘れることができません。   結局は,川副関係官がおっしゃった地区の指定をどのくらいの細密さでどのくらい迅速にするかということ,そういう実務的な側面に依存している部分が大きいですが,分割適用ができるとオープンにしておくということをなお御努力いただくことが望ましいということは,強い意見ではありませんが,感想というか,そういうふうなことも引き続きお考えいただきたいなということは申し述べさせていただきたいと感じます。それが1点目です。   それから,2点目は,今日,途中の細かな議論をしていた際に,政令指定を早くしなければならないという問題と,被災地の現状を想像すると,いろいろなところで定められる期間が短すぎるのではないかという問題がぶつかり合って,政令で起算日を操作できるようにしたらよいのではないかという,この二つの要請を調和させる観点から,その問題状況を見抜いて,また提案も含めて,森田委員からお出しいただいた整理と提案というものは,大変にシャープなものであると私は聞いていて感じまして,可能性は御検討いただきたいと考えます。   同時に,少し心配なところがあり,それは二つあって,一つは住本幹事がおっしゃったことであって,実務的に起算日を決めてくれと言われるのが必ずしも円滑にいかないし,そのとき事態に直面した政府に余計な事務を作ってしまうという側面があると思います。   それから,もう一つ,理論的に憲法の41条及び73条6号との関係が少し心配で,帝国憲法と異なり,行政府が緊急勅令などを発する権限は認められていないですから,例えば法律に対抗力は3年だよと書いておいて,それは立法者としては概ね常識的にいって災害から一定期間経過した後に政令が施行されてそこから3年であるという意味で定めているのに,例えば政令で起算日は10年後にしますとすると,13年間その問題に付き合わなければいけないという事態になるのは,ほとんど行政府に対する包括委任に近いものになってきてしまい,そのようなものが現在の政令の考え方で許されるのかという点は,かなり微妙であると考えます。このアイデアが採用されるときに何らかの歯止めを置いておかないと,今のような面が理論的には説明することができないということも感じます。   これは私の強い意見ではなくて,直感ですが,余りそういうことをするよりも1個1個のところで何年というのを適切に見定めていくということをした方が近道であろうという気もいたします。例えば,対抗力の3年に関していいますと,住本幹事がおっしゃった建物を建てるのに大体掛かる年数と,佐藤委員がおっしゃった被災地市街地復興特別措置法の2年とを足すと,大体ここのこの3年になります。もとより起算日が少しずつ異なりますから,ぴったりは一致しませんけれども,接近してくるのではないてでしょうか。ですから,今,議論されている各所での期間の考え方というものは,それほど不自然な結果を深刻にもたらすものではないのではないか。飽くまでも想像ですから断定したことは言えませんけれども,そういうことも感じております。 ○山田部会長 ほかにいかがですか。 ○住本幹事 言い訳を先に申し上げさせていただきますと,分割適用については,先ほど申し上げました対抗力のところだけを例えば先行するとかという,二つだけに分ける程度が実務上は助かります。例えば全部分割で五つぐらいに分割をされてしまいますと,市町村に実態上今まで意見を聞いておりますので,今後も聞かないというわけにはいきませんので,そうしますと市町村の方が全部お任せだったらいいんですけれども,市町村によって,私のところはAとBをお願いします。私のところはCとDをお願いしますと言われると,全く収拾がつかなくなりますので,実務上,各市町村に聞かなければいけないという前提でこの政令指定をするというのを是非御認識いただきまして御議論いただきたいと思います。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがですか。   私から山野目さんの御意見の内容についてお伺いしたいのですけれども,分割適用について,積極的になお検討してほしいということでしたが,その背景にある一つの典型的な例は施行すべきかどうかについて判断が早期に熟する項目とそうでない項目とがあるので,早い部分については早くに決めて,遅い部分については必要だという判断ができたところですればいいだろうということと理解しました。   今日の森田さんの発言に私は触発されたのですが,適用すべきだという判断を早期にできる。しかし,すぐに適用する必要はあまりないことがあって,そしてできるだけ被害の状況から見ると,すぐに適用を始めるとそこから1年とか3年とかで切れてしまうけれども,半年延ばせば1年半になり,3年半になる。そこをにらんでその分割適用というか分割の政令の公布ということも可能なようにするということを含意されているのでしょうか。 ○山野目委員 後者の含意はございません。今の部会長の整理のとおりでございまして,繰り返しのことになりますけれども,分割適用の当否ということで漠と議論されている事柄でしたけれども,分類をしますと,今日,森田委員が主に問題意識としてお持ちになった,なるべく定められた期間が効き目を持つよう周期を遅くするために政令指定を遅くしようという問題意識と,それから地区を定めなければならない必要や地区を定めなければならない細密度,それから地区を定める際の手順として住本幹事がおっしゃった市区町村への問合せというような実務的な問題の処理についての手順が規律の内容によって異なるのではないか,というこの二つの問題は異質な問題でありまして,私がずっと注視してその観点から分割適用を考えていただきたいと申し上げているのは,この地区指定との関係のみでありまして,森田委員がおっしゃった関連の問題意識はそれとして重要であると思いますが,私の意見としてお願いする際の問題意識にはございません。   そのことを翻訳しますと,地区指定が円滑に行くなら,それほど強く分割適用を頑張ってくださいと申し上げるつもりもございません。 ○山田部会長 ありがとうございます。「第1 見直し後の制度の適用の在り方」について,ほかにいかがでございましょうか   それでは,ここは少し技術的なことも重要な役割を果たしているところかと思いますので,住本さん,山野目さんから頂いた御発言を参考にして,もう少し事務局で検討を続けていただくこととしたいと思います。   それでは,部会資料8について,順序が前後いたしましたが,第1から最後の全体の後注まで御議論を頂いたところでございます。この議論については,本日の御意見を踏まえて,事務当局において更に検討を深め,そして要綱案の案の作成に進めていただきたいと思います。どうもありがとうございました。   3時半をちょっと過ぎたところでございますので,今日は大きく二つの課題がありまして,ここで休憩をとって,後半,「被災マンション法の見直し」に進みたいと思います。           (休     憩) ○山田部会長 今日の後半を再開したいと思います。   「被災マンション法の見直し」についての御審議をお願いいたします。部会資料9は,建物敷地一括売却制度に関する資料となっております。まず,「第1 大規模一部滅失した区分所有建物を取り壊すことなく敷地と共に売却する制度について」について事務当局から説明をしてもらいます。よろしくお願いします。 ○遠藤関係官 それでは,部会資料9の第1について御説明をいたします。大規模な災害により大規模一部滅失した区分所有建物を取り壊すことなく敷地と共に売却する,このようなことを可能とするかどうかにつきましては,中間取りまとめにおきまして,第2の1の(後注)でなお検討する旨を記載させていただいたところでございます。   パブリックコメントに寄せられた意見のうちこの第2の1の(後注)に関するものについて御紹介させていただきますと,このような建物を取り壊さずに敷地と共に売却することを可能とするということにつきまして,賛成する旨の意見が相当数寄せられたところでございます。また,部会において中間取りまとめについて御議論いただいた際にも,このようなことを可能とすることを支持する御意見が複数挙げられたところでございます。   そこでこういった制度につきまして,第1では多数決により,建物と敷地を一括して売却する旨の決議をすることができる制度として建物敷地一括売却決議制度という名称を付しておりますけれども,このような制度を設けることを本資料において提案し,御議論を頂くこととした次第でございます。   建物敷地一括売却決議制度の概要につきましては,第2におきまして,一応のたたき台をお示ししておりますけれども,要するにかいつまんで申し上げますと,建物と敷地それぞれにつきまして,権利を基準とした多数決による団体的拘束を及ぼすということを考えているわけでございますけれども,基本的には建物について区分所有者及び議決権を考慮するということと共に,敷地について敷地利用権の持分割合を考慮する。こういった区分所有者,議決権,それから敷地利用権のそれぞれについて一定数の多数,第2では5分の4と言っておりますけれども,5分の4以上の多数によって建物と敷地の一括売却を決議するということを認めるということを考えております。このような決議を認めることとすることの当否のほか,認めることとした場合に,特に検討する必要があると考えられる事項について御意見を頂ければと考えております。   建物敷地一括売却決議制度について若干補足して御説明をいたします。まず,このような制度を設けることの意義でございますけれども,これは建物を取り壊すことを前提とするかどうかにかかわらず,建物と敷地を買い受けようとする者が表れた場合に,区分所有者が自分たちで建物を取り壊すということを前提としなくても,買い受けを希望する者に対して,建物と敷地を売却することかできるようにするという点にあろうかと思います。   この点につきましては,中間取りまとめの補足説明では,取壊し決議制度,それから敷地売却決議制度という二つの決議を同一の機会に行うことを可能とする手当てを講ずるという提案も記載していたところでございます。このような措置を講ずれば,取壊しを前提として建物と敷地を売却するということが一応は可能になろうかと思います。そして,建物が大規模一部滅失している以上は,仮に建物と敷地を買い受けようとする者が現れたとしてもほとんどのケースでは建物を自ら取り壊して敷地を改めて有効利用しようという動機を持っている場合が多いというように思われます。   しかしながら,必ずしもそのようなケースばかりではなく,建物を再利用することを意図して買手として名乗りを上げるという者が現れることも一概には否定できないところではないかというように思われます。区分所有者の側から見てみますと,買手が取壊しを前提とするかどうかはともかく,要は建物と敷地に関する権利をお金に換えて,代金の分配を受けて,区分所有関係を解消するということが目的になろうかというように考えられます。そうしますと,区分所有者の側から見ますと復旧や建替えを断念して売却することとした以上は,買受人が建物を取り壊すかどうかにかかわらず売却できるというような制度を設けることにより柔軟な対応が可能になるのではないかというように考えられるところでございます。そこで買受人が建物を取り壊すかどうかにかかわらず,多数決で建物と敷地を一括して売却することを可能とする制度を設けることが考えられるのではないかということで,第1のような提案をしているところでございます。   続きまして,補足説明の2でございますけれども,これまで建物敷地一括売却決議制度につきましては,正面から取り上げることをしておりませんでしたので,このような制度を設けることができる理由として考えられるところを整理する必要があろうかと思いまして,その整理をした結果を記載したものでございます。   御説明をいたしますと,これまで御審議いただいておりました取壊し決議制度と敷地売却決議制度,これらは大規模な災害により大規模一部滅失した建物について,区分所有者が復旧も建替えも断念したというような場合につきまして,それまで継続してきた区分所有関係を多数決により解消するという方策として位置付けることができようかと思います。   そして,大規模な災害時におきましては,区分所有者だけでは取壊し費用すら負担することが困難であり,取壊し決議さえままならないというような事態も生じ得ると考えられるところです。そのような場合を想定しますと,必ず建物を取り壊してからでないと敷地を売れないとするのではなくて,建物を取り壊さずに敷地と共に売却するということも,復旧や建替えを断念した場合の選択肢として一定の合理性を有するのではないかというように考えられるところでございます。   また,これまで御検討いただいておりました取壊し決議や敷地売却決議につきまして,なぜ団体的拘束が及ぶのかということの根拠としましては,区分所有権や敷地利用権が元々区分所有法上,建物全体の利用の在り方から団体的拘束を受けることが予定されているという性質の権利であるということに加えまして,被災した区分所有者全体の利益や被災地の健全な復興という観点からある程度の権利の制限,個々の区分所有者が権利の制限を受けるということもやむを得ないのではないかということが根拠になろうかと考えられます。   そうしますと取壊しや敷地売却について団体的拘束が及ぼせると考えるのであれば,これらの方策と同様に区分所有関係を解消する一手段として位置付けることができる建物敷地一括売却につきましても一定の団体的拘束を及ぼすことができるのではないかというように考えられるところでございます。   また,このような建物敷地一括売却決議制度につきましては,少数者を排除するために濫用的に利用されるおそれがあるのではないかという指摘もあろうかと考えられます。しかしながら,建物が大規模一部滅失したという前提があるとすれば,そのような建物に関する区分所有関係を何とかしなければいけないというのが目下の区分所有者の課題と考えられますので,このような状況の下で少数者を排除するという濫用的な意図をもって制度が利用されるというおそれはそれほど大きくはないのでなはいかと考えられるところでございます。   以上を踏まえまして,建物敷地一括売却決議制度を設けることの当否について,御意見を頂きますと共に,このような制度を設けるに当たって検討すべきと考えられる事項がございましたら,併せて御意見を頂戴できればというように考えております。 ○山田部会長 ただいま事務当局から,第1,大規模一部滅失した区分所有建物を取り壊すことなく敷地と共に売却する制度について,説明をしてもらいました。ここでは,多数決により建物を取り壊すことなく敷地と共に売却することを可能にする制度を設けることについてその必要性や許容性について,説明があったところであります。このような制度を考えるとすると,各論的な問題も当然に検討する必要があり,それは部会資料9の3ページ以降に,第2として,各論的な記載がありますが,それらについての御議論はまた今日,これに引き続いてお願いすることとし,まずはここではこの第1に対応した形でこのような制度を設けることについての総論的な意見にできるだけ御発言を集中していただけますと幸いに存じます。しかし,どうしても関連することでありますので,第2の各論についてもまだ説明は改めていたしますが,そこに言及しながらでも構いませんので,どうぞ総論的な御発言というところに重点を置いて御質問,御意見をよろしくお願いを申し上げます。 ○山野目委員 中間取りまとめを決定した際の会議において発言させていただいたことでございますけれども,十分に制度の輪郭を示し,問題点等も掲げて,パブリックコメントに付するのであるならばともかく,それらのことを必ずしもしないで後注という形で示して中間取りまとめに盛り込み,意見を募るということになると,その制度が良い制度なのではないかという観点から様々な期待を抱いてお考えになる向きの御意見を承ることになって,議論を適切に整理して進めていくことができないのではないかという危惧を申し上げました。   今の経過の御説明を伺って,その危惧を一層深くする部分がございまして,それが遺憾であると感じるということは申し上げておきたいと感じます。 ○山田部会長 それではほかにいかがでございましょうか。 ○鎌野委員 この制度については,最初の補足説明のところで取壊し決議制度,それから敷地売却決議制度,そういう二本立てにして,ただこのようなことも妨げるものではないというような表記が後注でしたか,あるいは補足説明のところであったので,私もそのことを第1回の部会で確認させていただいて質問した記憶があります。それから,第3回の部会においては,むしろこういう制度を積極的に掲げるようにしてはいかがかという御意見を申し上げ,そういったニーズも高いのではないかというようなことを関係の委員の方にお聞きして,ある意味ではそういったことについて積極的な意見を賜りました。   そういったことの手前,私としてはもちろん山野目委員から3回の部会で御指摘いただき,ここの補足説明のところでも最後のところで濫用的な扱いとか,依然としてそれは私自身の中でも払拭できず,若干の心配は抱いておりますけれども,なお私としてはこういった制度というのをここの御提案にあるような形で設けることは考えられるかどうかというようなことで,やはり表題に掲げていただければと考えております。   それで,補足説明の中での提案理由が説明されて,ほぼそれに尽きるわけでありますけれども,その中で特にやはり私がそういうふうに思うに至ったということで,2点だけ申し上げておきますと,第1点は確かに区分所有者の間では特に費用の問題でしょうけれども,復旧決議,もちろん建替えは成立しない,その決議が成立しない,それから復旧決議も成立しない,その大きな理由というのは,費用負担の問題というようなことで4分の3以上集まらないという場面が想定されるわけです。それでいわゆる解消制度へと向かうという流れで,そしてその中にあって区分所有者はそういった意味で建物の解体から始めて敷地売却,あるいは敷地の上に建物の再建ということですけれども,例えば買受人が区分所有建物を一つの大きな見取図としては買受人自身が取り壊して新たな建物を再建する。その再建する建物は区分所有建物かそうでない建物かというのがあり得るわけですけれども,この補足説明の御説明にもありますように,買受人自体が復旧すると何とか復旧できるのではないか。それから,買受人としては先ほど申し上げたように,区分所有でないそういう建物に従前の建物を利用したい。あるいは,買受人が一部は取り壊すけれども,一部はまだ維持するという,いわゆる建築でいうコンバージョンというかそういう可能性もある。   なかなか多くの人の意見が対立し,費用負担の問題から4分の3以上ということで復旧の方向性は難しいけれども,言わば区分所有ではなくて最終的には買受人一人という単独所有になったような場合には,場合によってはその建物について買受人の意図である意味ではどのようにでも活かせる,やはりそういう道も残しておくべきではないかというのが第1点でございます。   それから,もう1点は,説明が重なりますけれども,やはりまずは建物を解体するということから始めますと,公費解体という制度に乗ればいいんですけれども,そうでないような場合には,解体費用というのがどうしてもまずは念頭にある。そのときに果たして相当な解体費用が掛かると思われますので,5分の4以上の賛成が得られるかどうかという問題があって,そうするとそれも成立しないということになると,復旧もできない,建替えもできない,恐らく復旧ができないということは当然維持,管理ができないというようなことで,そういった被災のままいわゆる塩漬けというか,管理不全,そういう状態に置かれる。そうするとやはりそういった解体費用の負担ということから来る,そして公費解体が今後全ての場合適用されるかという懸念もありますので,そういった場合にはこういった選択肢というのも設けて,いわゆる管理不全の状態での区分所有建物の放置というのを解消する手立てというものを選択肢の一つとして設けておくことはどうか。もちろん買受人が表れないとこの制度は機能しないんですけれども,こういう制度を選択肢を入れることによって,買受人を得る可能性,それからそういったことであれば解体費用の負担なく,区分所有者の側としては解消という手続に乗れるというようなことで,私は基本的にこういった制度を設けることについては賛成ということで意見を申し上げたいと思います。 ○山田部会長 それでは,いかがでございましょうか。 ○根本委員 一応こういう制度を是非入れていただきたいという立場で一言申し上げます。第3回のときにも申し上げたところでございますけれども,現実のニーズはこういうところにあるのではないかと。むしろケースとしてはこちらの方が多いのではないかという実態認識がございます。実態にあった制度を早く復旧復興が進むような形での法制度上の手当がなされるということを是非にお進めいただきたいと考えております。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでございますか。 ○森田委員 前提の確認ですが,取り壊すことなくということで,売却した結果,その建物をどうするかは買い受けた人の自由であるいう前提の文脈で,部会資料9の補足説明では,また先ほどの鎌野委員のご発言においても,買受人は,建物を取り壊すほかに,建物を復旧することを前提に買い受ける場合もあり得ると言われますが,そこでいう「復旧」というのは,建物区分所有法でいう「復旧」ではなくて,ただ単にその建物を維持して再利用するというだけのことですね。そうなりますと,例えば,買受人が建物を復旧して,そこが従前と同様に住める状態になったときに,従前から住んでいる者のうち特定の人はそこに同じ条件で住むことができる。例えば,買受人から区分所有権を買い戻すというような方法をとればそれは可能ですが,特定の者との間では売却の際にそのような合意をあらかじめ締結していくけれども,他の特定の者とはそのような合意にはせずに出ていってもらうというようなことも買受人は自由にできることになります。つまり,買受人が建物を復旧することを前提として売却するという場合に,従前の区分所有者の中で復旧後の建物に誰が住めるか,誰が住めないかというのも買受人が自ら自由にセレクションすることができて,そのような前提で建物に残る者の賛成を取り付けて,それで多数を形成する,そういう形でのこの制度の利用もこれは妨げないという,そういう理解でよろしいでしょうか。 ○遠藤関係官 基本的には買受人がその復旧をした後,どのようにするかということが決議自体で縛れるということではなかろうと思いますので,そういうケースもあるやもしれません。ただ他方で,殊更に特定の区分所有者を排除するために,このような建物敷地一括売却決議を一旦かませ,更に誰か第三者に建物を一旦買い取らせた上で,ほぼ大多数の人がそこに戻る。結局,一人か二人いなくなっただけです,というようなことになりますと,これは一般法理の世界になってしまうのかもしれませんが,ある種,虚偽表示ではないですけれども,決議の内容を違う目的で使っていると評価をされるケースも出てくるのではないかと考えているところでございます。 ○森田委員 今のような合意がある場合には,多分公にではなくて内々に特定の区分所有者の間でそういう話を取り付けておいて,多数派工作をして進めるということになりますので,そういう話の蚊帳の外に置かれた人から言うと,建物敷地一括売却決議の時点では聞いてもいなかったということになりますし,買い受けた建物をどのように利用するかは,法的には買受人の自由であるというのが原則でありますから,原則として後からは何も言えないということになると思います。今の事例は極端な例かもしれませんけれども,濫用的な使われ方がされ得る制度だとすると,制度自体に一定の問題があるということになります。こういう制度を設けるべきかどうかというのは一つの政策判断ですが,仮に設けるとした場合に,そのような濫用的に使われ方がされないような制度的な手当てを十分に組み込んだ上で創設すべきではないかというのが私の考えであります。   建物区分所有関係においては,取壊し決議もそうでありますし,通常の場合の建替え決議もそうでありますけれども,建物区分所有関係を終了させるというときの終了原因は何で,その終了原因についての十分な合理性が決議によって担保されるということがこれらの全ての制度に共通して要請されることであります。単に決議において多数をとれば何でもできるということではなくて,そこでの合理性を担保するためにどういう仕組みを組み込むかが重要でありまして,通常の建替え決議についても手続要件についてそういう観点から議論をしてきましたし,それから,取壊し決議についてもこれまでそういう観点からの工夫について検討してきたわけでありますけれども,今日提案されている建物敷地一括売却決議制度の中身を見ますと,これは各論に入ると思いますけれども,その点の手当てが十分ではないのではないかと思います。   つまり,この場合には建物区分所有関係の終了事由は何ですかと聞かれますと,建物の売却というのが終了事由だという説明は何か腑に落ちないところがあって,例えば,具体的に建物を売却すべき理由を聴いてみますと,まず建物を取り壊してその後に敷地を売却すればよいかもしれないけれども,その間の費用負担が必要になってくるので,その場合に,あらかじめ敷地売却先の第三者の候補があるのであれば,その者がサポートするということがあり得るかもしれないわけですが,そうであれば最初の段階からこの第三者が関与する形で一括して進めた方が合理的ではないかということだとすると,それは建物を取り壊すことに合理性があるということと,それから費用負担の関係で建物の取壊しと敷地の売却を一括した方が合理的であるというのがその理由であるということになります。この二つの理由が決議をする際に,十分説明をされ,そのことを前提に決議をするということだとしますと,建物区分所有関係の終了原因もはっきりするわけであります。これを,単に建物をどう使うかは買受人の自由で建物敷地一括売却決議そのものとは無関係であって,そのような前提に立って,建物区分所有関係を終了させて建物と敷地を一括売却するのが合理的なのかということが決議においては問題となるにすぎないと説明されますと,それは,そういう形では少なくとも従来は考えてこなかったのではないかと思います。   今回の提案は,大規模災害が起きた場合に限って適用される規律でありますから,それはあくまでも例外的なことなのでそれだけを考えればよいというのは一つの考え方でありますけれども,同じような問題は,実際に通常の建替えの場合にも生じうる問題であります。建替え決議をしようと思ってもうまくいかない。しかし建物の老朽化が進んでいて,「塩漬け」になっているという鎌野委員の表現を使いますと,そういうマンションが出てきたときにどうするべきかという問題は,大規模災害の場合以外にも生ずる問題です。実際,建物区分所有法の一般法制の中でも,従来からこの種の提案は既に存在するところでありますが,その立法のモデルになりうるものが被災マンション法の中に存在することになりますと,それをモデルにして一般法制においても同様の建物敷地一括売却制度が必要でないかという議論が,将来必ず出てくることが十分に予想されます。そのときに,これは大規模災害の場合に限った特別な制度なので一般法制のモデルにならないとはなかなか言えないことでありますので,そういう観点から言っても,一般法制上も十分にその合理性が説明できるような仕組みとして組んでおく必要があるのではないかと思います。   そういう観点から言いますと,建物の取壊しを前提とする売却,つまり建物の取壊しプラス敷地売却というのを一括してやるという建物敷地一括売却制度について検討すべきではないか。これまで,建物の取壊しと敷地売却のそれぞれについて決議制度を設けることを検討してきたわけですが,その両方に当たるものを一括して決議することはできないのかという観点から制度を作り込んでいくのが適当であって,売却後の建物の利用方法については買受人の自由であるという前提で制度を組んでいくのは,冒頭に述べましたような様々な濫用的な事例が考えられますので,それに対する手当てが十分に組み込めないことになるのではないかという危惧を持っております。 ○山田部会長 ありがとうございます。いかがでしょうか。もう少し総論のところで議論がありましたらお伺いしたいと思いますが,森田さんからも具体的な各論について言及していただきながら御発言いただきましたので,各論に入って具体的な議論を展開していただくということも望ましいように思います。いかがでしょうか。   それでは,総論については複数御発言いただいたところでございますが,また各論的な検討を最後まで進めた上で,総論的な御発言がありましたらお伺いするということで各論的な検討に進めていきたいと思います。   それでは,「第2 建物敷地一括売却決議制度の各論的検討」に進みます。この御説明は事務当局から1の多数決要件から最後の6の期間制限まで一括して御説明を頂きたいと思います。ただ,その後の検討は多数決要件から順次項目ごとに区切って進めたいと考えております。それでは,事務当局からの第2の全体にわたっての御説明をよろしくお願いします。 ○遠藤関係官 それでは,第2の各項目につきまして全体を通して説明を差し上げたいと存じます。基本的には,建替え決議制度に関する規律や取壊し決議制度,それから敷地売却決議制度といった,この部会で検討いただいた制度に関する規律の中から必要な規律を取り上げて,この建物敷地一括売却決議制度についても規律をするということで御提案を差し上げております。   この内容につきましては,パブリックコメントの関連する御意見の内容,あるいは森田委員の方から御指摘があったかと思いますけれども,ここに書かれているもの以外にも何らか制度の合理性を担保するために必要な手当てがあるのではないかという御指摘も当然あろうかと思いますが,その点につきましては,この第2以下では不十分なところもあろうかと思います。大変恐縮ではございますけれども,そのような前提のものであるということを御了解いただければということで,取りあえずのたたき台ということで御審議いただければと存じます。   まず,前注でございますけれども,制度の適用対象としましては,大規模一部滅失した建物を前提としているという旨を記載しております。これは先ほど御説明を申し上げましたとおり,建物敷地一括売却決議制度も,取壊し決議制度と同様に,大規模一部滅失してそのままでは建物の利用が困難な状態に陥っている,区分所有者だけではもはやそのまま利用を継続するということが困難な場合というケースにつきまして,区分所有関係を解消するというために認められる制度というように位置付けているということでございますので,大規模一部滅失した建物ということが前提になろうかと考えているところでございます。   続きまして,「1 多数決要件」でございますけれども,建物敷地一括売却決議は,建物の処分を含んでいるという点では取壊し決議制度に類似する点がございますと共に,敷地の処分を含んでいるという点では,敷地売却決議制度と並ぶものであるということができようかと思います。このように,建物敷地一括売却決議制度は取壊し決議,敷地売却決議,それぞれの要素を含んだ決議となっているというように考えられますので,両者の決議に必要な多数決要件を満たすということが必要になると考えられます。   そこで,区分所有者及び区分所有法38条に規定する議決権,これは建物に関するものになろうかと思いますけれども,その議決権のほか敷地利用権の持分割合を考慮しまして,これらのそれぞれにつきまして,5分の4以上の多数を満たすことを多数決の要件とするということを提案しております。   続きまして,「2 決議事項等」でございますけれども,これは売却の内容を明らかにして区分所有者に賛否の意思決定をしていただくという点では,基本的に敷地売却決議制度における決議事項の要請と同様の要請が働くと考えられようかと思います。他方で,代金の分配ルールにつきましては,敷地売却決議の場合とは異なりまして,一義的には定まらないというところもあろうかと考えられます。すなわち買受人が建物を取り壊すということを前提とし,それを前提に売却されるということになりますと,経済的に見れば取壊し決議がされ,引き続いて敷地売却決議がされる場合と同様ということになろうかと考えられますので,建物の価値はゼロとしまして,敷地利用権の持分割合を基礎として算定しつつ,本来であれば各区分所有者が負担するべきであった取壊し費用を控除するなどの計算方法によって最終的な分配額が決められるということが公平にかなうのではないかというように考えられようかと思われます。   他方で,建物に価値があるということを前提にこの売却決議がされる場合には,建物の残存価値を考慮しまして,売買代金を建物と敷地それぞれに割り当てまして,建物なら建物,敷地なら敷地の権利関係に応じて代金を分配するということが公平にかなうという場面もあり得ようかと思われます。   そのほか,建物に価値を認めて代金の分配を決めるに当たっては,建物の被害状況を考慮することも考えられようかと思われます。このように売買代金の分配につきましては,取壊しが前提とされているかどうかや建物の被害状況に応じて公平な分配のルールが異なるということもあろうかと思いますので,法律により一律に分配の基準を規律するよりは売却の内容に応じて決するということの方が望ましいのではないかと考えられるところでございます。そこで今回の部会資料9では,分配に関する事項を決議事項とした上で,それについては衡平を害しないようにしなければならないということを提案しております。   続きまして,「3 集会の手続」に関する規律ですけれども,こちらは建替え決議制度に関する規律を参考に必要な規律を設けるということでございまして,これまで御審議いただきました取壊し決議制度と同様の提案をしております。それから,説明会の開催の要否等につきましても,他の今回検討している制度と同様に検討する必要があるということになろうかと思われます。   それから,「4 決議に賛成しなかった区分所有者の取扱い」でございますけれども,ここでも建替え決議制度と同様に,決議に賛成しなかった者に対する催告を経た上で,その決議の内容による売却に参加しない区分所有者に対しては賛成者の側から売渡し請求をするということを提案しております。また,売渡し請求がされたにもかかわらず,一定期間決議の内容に従った売却が実現されない場合につきましては,売渡し請求を受けた区分所有者の側から再度自分のところに区分所有権及び敷地利用権を売り渡せという再売渡し請求を認めるということも,建替え決議制度の場合と同様の規律を設けるということを前提としております。   それから,「5 売却に関する合意」,「6 期間制限」につきましても,取壊し決議制度で御検討いただいたところと同様でございまして,売却の合意につきましては,売却内容を実現する主体にその決議の内容により売却する旨を合意したものとみなすという規律を設けるということ。それから,期間制限につきましては,一定の期間を制限するということでございますけれども,この期間につきましては,取壊し決議制度等との平仄といいますか同様の期間にするという必要があろうかと考えております。資料の説明は以上になります。 ○山田部会長 ありがとうございます。それでは,資料の説明に入る前に申し上げましたように,項目ごとに御審議をお願いしたいと存じます。多数決要件の前に,前注がありますが,前注について何か御意見はございますでしょうか。よろしいですか。それでは,また後でお気付きの点がありましたら,前注も含めて戻っていただいてお願いするということで,1の多数決要件,実質問題,最初でございますが,ここについていかがでございましょうか。 ○山野目委員 法制的にこの制度を仕組もうとすると,今,部会資料の第2の1で御提案になっているような形で仕組むのが相当であるといいますか,こういうふうに仕組むことしか恐らくイメージすることができないものであろうと感じます。少し理論面を確認しておきますと,全員一致であれば,ここに記されていることができるのは当然のことであろうと考えます。   問題は,多数決でこれを導入するということについて,森田委員が御指摘になったように,この建物敷地一括売却決議制度を普通法制に入れることが論議の対象になること自体を危惧しておかなければいけない問題点の一つですが,私が感じますことは,それ以上に,事もあろうに被災時において導入されようとしていることの問題点がありまして,1995年の神戸の震災の際に観察されたことでもありますが,反社会的勢力が壊れかかったマンションの権利を買いあさって,様々な魂胆を巡らすというような用いられ方をするという事態があり得るものでありまして,あるいはそれとは別の問題ですが,そこまでいかなくても大規模一部滅失したマンションについて建替えの議論をしようとするときに,建替えではなくて,第2の1で仕組んだ様々な要件や効果の方がハードルが低いと建替えの要件や手順を換骨奪胎するための仕組みとして,この手段がなり下がるということもあり得るものでありまして,そういったことが1との関連では心配でならないということは申し上げさせていただきたいと考えます。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでございましょうか。 ○根本委員 繰り返し同じことを申し上げることになるんですが,震災あるいはその他の大規模災害での傷ついたまちの復興あるいはこういうマンション等々の復旧ということを第一に考える,そのお手伝いを一番スムースに行く形での法制を考えていこうということであるのだろうと思います。   したがいまして,でき得る限り選択肢は多く,簡便に,スピードが速く進むように全体の枠組みを仕組んであげるということが一番重要なことであろうかと思います。したがいまして,やはりこういう制度は当然必要でありますし,もちろん御懸念がいろいろあることは理解できるのですけれども,全体として効用が大きい,利益が大きいということを追い求めるということも非常に重要なことであろうと考えます。   反社会勢力の話もございますけれども,それはほかの先ほど審議が終わった案件についても言えることでございまして,個々の最悪のケースを考え出しますと,いろいろなことが全てにわたって何もできないということを招きかねないのではないか。そこを私は非常に懸念いたします。全体の利益が早く最大化するようにそういう制度設計ができれば一番いいのではないかと考えます。その意味で,既に決着済みと言われればそれまでですが,5分の4という数字はまだ高すぎるかなという立場を改めて示させていただきたいと思います。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○鎌野委員 総論のところで,山野目委員,森田委員の御懸念というのは私も十分理解し,なおその点については,若干というかかなりのちゅうちょはしておりますけれども,先ほどの山野目委員の御発言のように,やはり建替え法制などと比べて,この場合,特に多数決要件などを緩和するということはやはり否定的に考えなくてはいけないのかなと,ですからそういった意味では基本的に現行の建替え法制の要件と同様の,ですからそういった意味では,御提案にあるようにそれぞれの敷地利用権の持分の価格まで含めて5分の4以上の多数という要件はやはり必要なのではないかと考えます。 ○山田部会長 ありがとうございます。 ○森田委員 質問ですが,決議の多数決要件については,区分所有法38条に規定する議決権のほかに敷地利用権の持分の価格の割合を考慮するということですが,これを考慮することによって特別な違いが出てくるのはどの点なのでしょうか。 ○遠藤関係官 ちょっと説明が不十分であったかもしれませんが,ここで言っているのは区分所有者及び議決権,区分所有法38条の議決権並びに敷地利用権の持分の割合,それぞれについて5分の4を要求するという趣旨でございます。 ○森田委員 議決権と敷地利用権の持分割合とがずれる場合というのはどういう場合なのでしょうか。 ○遠藤関係官 ずれる場合もあり得るのではないかと思っているんですが,一般論としてよく言われますのが,例えば再開発事業の場合のときには,元々の地主さんの方が持分を敷地については多く持っているというケースがあり得るのかなと考えております。 ○山田部会長 ほかにいかがでしょうか。それでは多数決要件はひとまず置きまして,決議事項等,2でございます。(1),(2)併せて御質問,そして御意見がありましたら御発言をお願い申し上げます。 ○山野目委員 性質が異なる二つのことを申し上げます。一つは,この決議事項に固有のことというよりも総論的なことですけれども,森田委員の御発言にも少し示唆があったことでありまして,ここで行われようとする決議が建物の従後の姿として取壊しを予定したもの,そのような趣旨のものであるということが何か伝わるような法制上の表現を工夫することができないものでしょうか。建物の従後の姿について見通しが得られていないと,事務当局はもう既にお気付きであると想像しますが,ここから後の細かな論点を詰めていくときに大変な理論的,実務的な困難があるものでありまして,導入するとすれば建物敷地一括売却決議制度をもって従後の姿として標準的には取壊しを予定した制度であると仕組んでいくということの工夫はなお執着していただきたいと感じます。それが1点目です。   それからをもう一つは,各論ですが,(1)のウ,それから(2)に関わることです。両方にまたがることですけれども,売得金の配分方法が衡平に定められているかどうかということは最終的に司法審査の対象になると理解していますけれども,床面積と敷地共有持分割合からどの程度において乖離すると衡平を欠くことになるのか。それは司法審査で円滑に判断することができるかどうか。また今,遠藤関係官が指摘なさったように,床面積と敷地共有持分の各割合は一致するとは限らないものでありますから,これらに大きな乖離があったときに,資産価値の面から見て一体どれに標準を置いて考えることがふさわしいかといったようなことが,ここの提案されている法制の理解としても非常に苦しむところがありますし,それらについて個別の事例で当事者がしたことの司法審査を衡平性要件の観点から求められた裁判所が苦しむことにならないのかということも心配で,そのような点を引き続き御検討いただければ有り難いと感じます。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○鎌野委員 これはこの問題特有の問題ではないんですけれども,前から若干気になっていて,ひょっとすると答えは簡単に出てくるのかも分からないし,難しい問題かも分からないので,もう自分の中でもやもやしているということをとどめないで,それをちょっと事務当局にもお考えいただきたい。もしすぐに回答が得られるということでありましたら,私自身も頭がすっきりするのでということで,回答を頂ければと思うのです。   このアのところの売却の相手方ということで,これは別にこの制度に限ったことではなくて,建物を区分所有者自らが取り壊した後,敷地を売却するという場合も全く同じなのですけれども,従前の区分所有者が買受人になる。売却の相手方になるという場合に,その者は決議に加わることができるのかどうか,それを数えるのかどうか。一方ではやはりそういった者も決議につき権利者なので,それも考慮すべきだ,当然入るべきだと考えられるが,他方では,自己契約ではないかという問題があります。実際のケースではひょっとすると少なからずあるかも分からない。例えば複合用途型の区分所有建物において1階部分などで店舗の区分所有権を持っている,そういう者が資金もあり,それなら買いましょうというようなことがあり得るので,そういった場合どう考えるかということです。   もし,今,お答えいただけるのだったら,お答えいただいて,もし若干問題になるということであったら,ちょっとお考えをいただければと思います。 ○山田部会長 ありがとうございます。いかがですか。 ○遠藤関係官 その点につきましては,正にこの場面ではなくて,敷地売却も含めてのところだと思いますので,そこはちょっと整理を一旦させていただければと思います。 ○鎌野委員 分かりました。そこは私自身も考えてみますので,事務当局もよろしくお願いします。 ○山田部会長 それでは,ほかにいかがでしょうか。 ○福田幹事 先ほど山野目委員から御意見を頂いたところと関連するところでございますけれども,(1)のウの売得金の分配に関する事項とそれから(2)の衡平を害しないようにそれを定めなければならないという要件の関係で,分配基準やどこまで決議で決めるかという点について,もしこの法制を仕組むとすれば十分に議論をしておいていただきたいと思っております。   まず,建物を取り壊すことを前提に建物が無価値だという前提で決議をするという場合につきましては,資料9に書いていただいているとおり更地の価格から取壊し費用を控除して,それを敷地利用権の持分割合で単純に分配するということで,それほど問題ないのかなと考えます。   他方,これが必ずしも取壊し前提ではなくて,建物について一定の財産的価値を認める場合があるという場合に,その建物についての価値の部分を一体どうやって分配するのだろうかというところが若干よく分からないところでございます。パッと思い付くのは,その建物の例えば各専有部分の配置,何階にあるのかとか,角部屋であるかとか,そういうことであるとか,あるいは滅失の程度などを考慮して,各専有部分ごとにきちんと金額を決める。その金額まで具体的に決めたものを決議するということが考えられるのかと思うわけです。ただ,仮にそれをしようとすると,決議の前に恐らく専門家に入っていただいて,各専有部分ごとの評価をきちんとしていただき,その上で決議をするということになるかと思われるのですけれども,それは決議の前の準備段階としてはかなり重い作業ではないだろうかと思ったりもいたします。そういった基準であるとか,どこまで決議をするのかといったところの具体的なイメージについても御議論いただければと思う次第です。 ○山田部会長 ありがとうございます。 ○佐藤(正)委員 確認なんですけれども,イの売却により得られる金員の見込額というのは,各区分所有者ごとに提示されるということで間違いないですよね。そういう認識でよろしいでしょうか。 ○遠藤関係官 ここで考えていたのはそうではなく,それとウの分配のルールが合わさって各自が得られる金員の見通しが立つであろうと。結局,売得金の見込額というのも最終的な売買契約の詰めとの交渉で買手側との交渉で決められることでございますので,決議の段階で絶対にこうなるということでは性質上なかろうかと思います。ただ他方で,売得金の分配ルールが実際に売却が終わった後に,またそこから1から話しましょうということになりますと,後々の売買代金の清算というところで難渋するということになろうかと思いますので,あらかじめそこは形式的なルールといいますか,こういう基準で分配されますということを決議の中で決めていただくということを考えておりました。 ○佐藤(正)委員 このイの金員というのは全体で幾らですよということですね。 ○遠藤関係官 そのように考えておりました。 ○鎌野委員 先ほどの建物を取り壊すのか,それから建物を維持するのかと,そういったことによってここのイとかウが違ってくるだろう,まずはイですね。その点ですけれども,やはり山野目委員,あるいは森田委員が御指摘のように,この基本的な制度設計というか標準型というのを取壊しを前提に考えるという在り方が一方であろうと思います。ですけれども,場合によっては買受人の選択で建物を維持するというものも残す。そこが一つの分かれ道だと思いますけれども,私は基本的には維持するという方向も排除はしないと。   ただ,標準系としては取り壊すということを前提に制度設計をしてもいいのかなと。それは具体的にここの場面で先ほど御指摘があったように,取り壊す場合と維持する場合とでやはり解体費用,それからまた建物が残るというようなことで違いが出てきて,特にそれが先鋭化するのは専有部分ごとによって価格が違うではないかと。そして,ひょっとすると自分の住戸部分は災害の2,3か月前にリフォームをしてお金を掛けてかなり価値が上がっているんだ,市場価格も上がっているんだという場面もある。そういう問題も出てきやしないかと。それでやはり裁判所としてはそういった問題は非常に難しいという御指摘だと思います。   一つの割切り方としては,これは飽くまでも被災マンション法,被災時の特例だということで基本的にはそれは被災マンションであるというようなことで,それがゆえにもう管理不全というか,管理というのはあり得ない。建物を現状で維持するということを多数決によって,5分の4以上の選択によって否定する決定をした。そうすると,もうそのマンション自体の個々の区分所有権は,将来にわたって維持するということを前提とした建物でありませんので,全体と見て評価して,個々の専有部分の価値というのはこういったウの分配に関しては反映させないというような立法の在り方もあるのではないか。むしろそちらの方がすっきりするんではないか。また,それが通常の区分所有,法制とは違って,被災マンションの特有のものだと,そういう制度設計があり得るのではないかということで,私はどちらかというといろいろな要素を考えなければいけませんけれども,そのように考えております。 ○山田部会長 ありがとうございます。先ほど福田さんの御発言の中に,売得金の分配に関する事項はどの程度のことを考えているのか,議論してほしいというお求めで終わりましたが,御議論いただくためにはまずちょっと事務当局でどう考えているかというのが示されるといいかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○遠藤関係官 資料で補足説明が十分に書き切れていないところもあろうかと思いますけれども,まず取壊しを前提とした場合は,先ほど福田幹事から御指摘があったような計算方法になるのかと考えております。他方で,そうではない仮に取壊しを前提としない場合にどうなるのかということにつきましては,建物がどこまで残っているのか。あるいは一部壊れていて,一部は生き残っているという場合に減築しましょうというような売買の契約の在り方,買受人がそのように使うということも前提としているだろうと思います。   なかなか法律でルールを書くということは難しいのかなというのがこの補足説明の趣旨でございます。具体的に決議としてどこまでやるのかということですけれども,現段階ではそこまで細かいところまで決めてもらうということは考えておりませんでしたが,具体的な売得金の見込額については当然決議するに当たって,何らかの根拠が示されないと多分多数は形成されないであろうと,5分の4というような大多数は形成されないということになろうかと思います。その過程の中でこういう理由でこの代金は決められているんですという話が説明されることになると考えておりました。 ○森田委員 説明すべき内容と決議する内容というその両者は必ずしも一致しないわけですね。今の点のお答えとしては,説明はするのだけれども,決議の対象としは,建物の維持を前提とした場合には売得金の分配というのが一律の基準によるものではないとすると,各区分所有権ごとに個別に評価をして売得金の分配額を定めるというところまでは決議事項としなければいけないということではないということなのでしょうか。決議の前提の説明として,その点に関する事情が含まれていたとしても,決議事項としてはそこは入らない,各区分所有者の取り分については決議で定める必要はないということでしょうか。 ○遠藤関係官 各区分所有者の取り分については,決議でその分配ルールとして個々人は幾らですということは定める必要はないんだと思いますが,先ほど御説明をちょっとしたかもしれませんが,要するに売買代金を区分所有者側が得られたときには,その段階で分配ルールを改めて決めるということではなくて,具体的に幾らになるということが計算で一律に導き出せるという分配ルールは決めていただくということを考えておりました。 ○福田幹事 その分配ルールが機械的にその計算に当てはめれば幾らという金額が出るというものであれば,その基準さえ定めればいいと思うのですけれども,基準の内容によっては先ほどの滅失の程度であるとか,専有部分の配置というような機械的に定まらないようなものを考慮要素とする場合には,やはり具体的な各専有部分ごとの金額まで決めておかないと,もう一度決め直すということの作業が入ってしまうのではないかという疑問でした。 ○遠藤関係官 その壊れたものを基準として分配ルールを決めますというだけだと,ここでいうところの分配ルールとしては十分ではないのではないかと思っておりました。要するに分配事項について,何らかの計算式なり何なりでもいいんですけれども,実際に代金が手元に渡った段階ではそこから先はもう機械的に決まるというところまで詰めていただく。その積算の根拠として建物が取り壊された状況というのは考慮されるのかもしれないですけれども,決議事項として出てくるのは飽くまでその分配の基準になるということかなと。 ○福田幹事 その分配の基準というのは,実際に入ってくるお金が具体的に決まったらあとは機械的に101号室の人は幾ら,102号室の人は幾らと機械的に算出できるような基準までは必ず決めなくてはいけないという,そこはよろしいわけですよね。   考慮要素によっては,そういう機械的な基準が決められないのではないかと思います。そういう場合は,個々の専有部分について具体的な金額まで決めておいて,あとは売得金額が多少動いた場合には最初に決めた分配金額に応じて計算し直すというのはもちろんあると思いますけれども,それはそれとして最初の個々の金額を決めておかないと最終的な売得金の分配額が自動的に決まるということにならないのではないでしょうか。 ○遠藤関係官 そういうケースもあるかと思います。 ○森田委員 最初に問題となった点ですが,建物を取り壊すのか,維持するのかという点については,買受人が建物を買い受けた後にどう決めるかは自由であるとする前提に立って考えていきますと,法制の組み方としては,そこはブランクなままで決議をすることでよいということになるはずなのですが,ただ具体的な点を詰めていくと,今の議論で明らかになりましたように,ウの定め方については,取壊しと維持のどちらを前提にするかによって,その内容が変わってくることになるわけであって,そこが制度としてうまく組めているのかというのが先に申し上げた私の疑問であります。   建物の維持を前提とするときには,直前に議論があったような微妙な問題が生ずるとすると,決議の時点では建物の取壊しを前提とした売却であるという説明をすることにしておいて,そうなりますと,建物は無価値であるので,あとは敷地の売得金については機械的に分配するということで決議は取っておいて,その後建物を買い受けてから,実際には建物を維持してそのまま再利用することにすればよいといえそうです。建物を再利用するということならば,売却金額の評価が少し低いのではないかといえるような場合であっても,その点については,決議をする上では,売却後の建物の利用方法は決議事項ではないので決議それ自体には何ら問題ないと逃げることができるとすると,全体として決議の合理性が今言ったようなところまで含めて担保されていないことになっていて,制度としては適当ではないのではないか。取壊しを前提とした制度とするのか,その点はブランクで買受人がどうするかは自由であって,決議事項には含まれないものとして単に多数をとればよい決議制度として組むかという辺りは,やはり詰めておく必要があるのではないかという気がいたします。 ○山田部会長 ありがとうございます。 ○鎌野委員 ちょっと先走ったことになって申し訳ないんですけれども,また後でそこのところは議論になると思うんですけれども,やはり今,森田委員の言われたことは非常に大事で,それで次の集会の決議の注のところに説明会というのがありますよね,やはり私は基本的にはその説明会でその辺りまだ確定はしていないんでしょうけれども,やはり特にこの売得金の全体の算定においても影響を与えるので,そこはブランクにしておかないで,果たしてこういう決議の前提として買受人が取り壊すのか,あるいは維持するのかというのをはっきりさせておいた方がいいと思います。ですから,そういった意味では,ちょっと先走ったことですけれども,説明会の意義というのは相当大きいのかなという気がします。 ○山田部会長 3の集会の手続にも関わる御発言を頂きました。なお,(1)の決議事項等として,売得金の分配に関する事項,及び,これを決議事項とした場合に事後的な司法審査をするための基準としての(2)の衡平という組み合わせが提案されて,この点はいかがでしょうか。福田さんの御質問に対しては,賛成かどうかはともかく。答えとしては出てきましたでしょうか。 ○福田幹事 分配の事項としてどこまで決めなければいけないかという点については結構でございます。事務当局として分配の基準をもちろん法律で書けないのはそのとおりだと思うのですけれども,具体的にどういうものをお考えなのかについて,もし,お考えがあればお伺いしたいと思います。建物をそのまま残すという前提の場合です。 ○遠藤関係官 一番あるのは,正に建物の価値を前提として,専有部分の価値というのがそのまま買手のところに引き継がれていくということになるのであれば,元々専有部分を持っていた人に相応のお金が行くということになると思いますので,建物の価格に相当する部分については,専有部分の価格,床面積割合になるのかもしれませんが,それを基準として割り付けていく。敷地は敷地でそれとは別に敷地利用権を基準として割り付けていくというのが一つ考えられる基準かなというように思っております。 ○根本委員 もっと単純に考えていたんですが,大規模一部滅失した建物でございますので,維持するにしても相当程度の補修費用が掛かるのが前提かと思われます。価格の2分の1以上の価値は既に失われておりますので,補修費用が残りの2分の1でできるとは通常は考えられないと想像いたします。となりますと各戸ごとに被災状況が違う。補修費用が違いますということになりますと,実は建物の価値がマイナスになりますという方も出てきかねないという状況がございます。したがいまして,敷地と建物を分けて考える。あるいはその区分によって,分けて考えるというのは非常に難しくなります。   ですから,鎌野先生がおっしゃったとおりある程度,被災地での割切り,早くというところを入れなければいけませんので,一つの割切りをここに入れていただかないと,ものが回らなくなってしまうのではないかと思います。300戸のマンションについて300件の査定を全部入れますかということになりますと,非常に難しい実務がそこに発生してくるなと。それが一人の鑑定員で済むかどうかもよく分かりませんので,スピード感を求めるのであればもっと割り切った考え方をそこに入れていただいた方がよろしいのではないかと思います。 ○山野目委員 私は,今,根本委員がおっしゃった割切り,スピード感というキーワードのお話を大変よく理解することができます。正にそういうことを旨として,被災地に限らないのかもしれませんけれども,今後21世紀においていろいろな場面で出来してくるマンションの問題を考えていかなければならない。そのことについても同感でございます。   そして,それは恐らく事業法制の発想であると考えます。住本幹事がお帰りになってしまって,話を聞くことができないことが残念ですが,恐らく今のような割切りをして,スピード感をもってしていこうということは,簡単に言うと,1棟の建物に場面が限定されているとはいえ,一種の法定再開発の制度の展開であって,それを事業としておやりになるときに,そういう割切りやスピード感があってもよいと考えます。もちろん常に照応の原則,手続の公正さ,それに対する司法審査の担保ということは必要ですけれども,全く異なる発想から事業法制でできると思います。   国土交通省が被災地に限らずマンションの再生のために,この発想のようなこともしましょうということをお考えになるなら,私は全然異論がなくて,それは大いにおやりになったらよいのではないかと感じます。しかし,私法的な法律関係の公正な処理を旨とするものとして要請され,かつ,そのような従来法制の展開の上で積み上げられてきた民事基本法制の中で,これを入れようとすると,やはり根本委員が驚かれたような,そんな議論までするのですかと,話が細か過ぎでとても,というような,そのような議論は,しかし避けられないと私は感じます。 ○山田部会長 いかがでございましょうか。 ○杉藤幹事 再開発は住本ではなくて私が担当しているんですけれども,マンションの建替え一般につきましては,この場の議論とは別に,継続的に検討するというようなことで政府部内でもお話はございますので,それはまた別途の問題として,その際にはいろいろ御見解を賜りたいと考えております。 ○山田部会長 いかがでしょうか。「2 決議事項等」で,一部に議論が集中して,そこが重要な点でもありますが,ほかの点も含めて御発言はございませんでしょうか。なお検討しなければならない大きな課題があるということかと思います。   それでは,先に進ませていただきます。既に,鎌野さんから「3 集会の手続」に関する御発言を頂いておりますが,その点を含めてどのような点からでも御質問,御意見について御発言を頂ければと思います。 ○鎌野委員 この説明会なのですけれども,(注)のところ,説明会を開催しなければならないものとするかどうかうんぬん,なお検討するということですが,やはり私は説明会というのは避けて通れないと思います。本法制においてこれを設けるとしたら,その意義は非常に大きいと思います。それで,やはりこの説明会は,もちろんここで言う建物敷地一括売却決議の説明会ではありますけれども,飽くまでも説明会なので,必ずしもこの決議の方向で進むということではなくて,更にもう一度仕切り直しというような可能性もあると思うのです。具体的に言えば自分たちで復旧するような場合には,どのぐらいの費用が掛かるのか,あるいは建替えの場合にはどうなのか,それから,復旧というのも最小限の復旧であればこのぐらいの費用で済むというようなことで,説明会は,各区分所有者が判断し決定をする機会を与える場として意義あるものと思います。余り細かなことを法で定めることはできないと思いますけれども,やはり説明会というのは外すことができないと思います。そして先ほど少し先走って申し上げましたけれども,そこにおいてはもしこういった建物敷地一括売却決議をするということであったら,建物を取り壊すのか維持するのかということは重要であると思います。   この点は,恐らく費用にも跳ね返ってくると思います。維持するということであったら,当面解体費用は掛からないし,壊すということであったら,それは売却金の中から控除されるということになるでしょうから,やはりそういったことも含めて説明会というのは是非とも必要だろうと思います。   なお,この事務当局の御提案というのは,一部の外国法制では復旧決議が成立しないような場合にはじめて解消に移行するという法制もありますが,この御提案はそうではなくて,横並びで,一方では復旧決議,一方では建替え決議,また一方では解消決議ということで,必ずしも復旧決議を経た上でこういうことになったということではないので,なお復旧の可能性もあるという意味でもこの説明会が必要だろうと思います。 ○山田部会長 ありがとうございます。 ○佐藤(正)委員 今,鎌野先生から説明会について御意見がありましたけれども,実際にマンションでは,説明会というのは非常に一般的でして,法律に書いてあろうが無かろうが説明会というのはもっとたわいないことでも実際に行われていることでございますので,ましてや今回このような区分所有権を失うような話であれば,あってしかるべきだと意見を申し述べさせていただきます。    ○山田部会長 ありがとうございます。説明会の点,あるいはほかの点で集会の手続に関して,御質問,御意見はございませんでしょうか。   それでは,先に進みたいと思います。「4 決議に賛成しなかった区分所有者の取扱い等」でございます。どうぞ御質問,御意見を御自由に御発言いただきたいと思います。 ○山野目委員 部会資料の4のところは,参考にして,という御説明の後で,必要な規律を設けるものとする,とあって,これで済ますことができるのであれば,委員,幹事としては大変に楽でございまして,事務当局にお委ね申し上げればよろしいことですが,ただし,それでは委員,幹事として無責任であるとも感じます。きちんとした提言ができる用意はありませんが,少し心配であるということのみ申し上げますが,建物の従後の姿が曖昧にされたままの制度として仕組まれたときに,再売渡し請求の要件は,勢い観念的な法律行為の成立ということにならざるを得ないでしょうし,反対者に対する売渡し請求の時価の問題などについても説得力のある要件設計を設えることはおよそ困難になると感じます。 ○山田部会長 ありがとうございます。その心配に対しては何か御用意はありますか。 ○遠藤関係官 再売渡し請求の要件といいますか,何が一定期間内に行われなければ再売渡し請求が発生するのかという点につきましては,御指摘のとおり,このような建物敷地一括売却決議という決議の内容が実行されなかったときというのが,他の建替え,取壊しの並びで考えますとそこが基準になるということになり,そうしますと,その決議の内容に従った売買契約が成立しなかったときという趣旨になるのかなと考えております。   時価につきましては,基本的には売渡し請求がされた当時の客観的な取引価格ということが建替えの場合であってもそうでありますし,取壊しの場合であってもそうであるということになりますので,この場面でも基本的にはそうなるということになろうかと考えております。 ○山野目委員 おっしゃった2点とも恐らくそういうことになるであろうと思いますし,皆さんも御存じでいらっしゃると思いますが,それぞれ申し上げますと,再売渡し請求が今までのほかの場面での使われ方は,何か現場の物理的状況が動かなかったときに,それができるということになるものでありまして,ある法律行為をすればよろしくて,されないときにのみ再売渡し請求ができるということは,再売渡し請求の制度を設けたことには実質的にはならないのではないでしょうか。そういうふうな批判を受ける心配を抱きます。   それから,時価ですけれども,従来の時価の考え方は,従後の姿が決まっていて,その前提のもとで開発利益の分配を前提とした価格であるということでしょう。その時その時の単純な価格を時価と呼ぶという,そのような素朴な国語的な時価の概念ではなかったように感じますから,やはりそのような議論に耐えていかなければいけないということであり,そのことに注意を払っていただきたいものと望みます。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。「4 決議に賛成しなかった区分所有者の取扱い等」でございます。よろしいでしょうか。よろしいでしょうかというのは,この資料9でよろしいでしょうかということをお諮りしているわけではございませんので,今日のところの御議論,山野目さんからは宿題を2点,なお考えてほしいという趣旨でいただいたのだと思います。いかがでしょうか。   それでは,「4 決議に賛成しなかった区分所有者の取扱い等」については,ここまでとさせていただき,先に進みたいと思います。   「5 建物と敷地の売却に関する合意」についていかがでございましょうか。 ○沖野委員 ここが適切な箇所かどうかが分からないんですけれども,この決議の内容を決定するに当たっては先ほど来問題となっております建物の処遇をどうするかということについて,一定の立場を明らかにしないと決まらないということが前提になっているように思われます。そうしたときに売買契約を締結してその締結自体も決議の内容に従った締結ということですから,建物は取壊しを前提とするのか,存続を前提とするのかということが含まれた上で,少なくともその前提といいますか基礎となるといいますか,その上で契約を締結するということになると思うのですけれども,その後どうするかは買受人次第だということになりますと,想定と違うという場合があり得ると思います。その場合は契約自体の問題として例えば錯誤とか,そういう契約の効力の問題として考えられるのだろうかということと,もしそうなった場合に例えば売渡し請求をして,売主を限定して売却したところ,しかし想定されていたものとは違う形に買受人が使うということだと全部本当は価格なんかも変わってくるはずではないのかという話になりますと,そのときには先ほどの決議の内容に従った売買契約は効力がなかったということになりますと再売渡し請求というような話がまた出てくるのか,それとも決議無効という話になるのか,どういうことになっていくのかというのが自分の中で整理できないでおります。そういったことを考える必要はないのかどうかも含めて,何らかの光を与えていただけると有り難いんですけれども,どうでしょうか。 ○遠藤関係官 基本的にその売買契約というか,買手側がどうするかということについては,飽くまでここで言っている決議というのは,区分所有者の内部的な意思決定の問題になりますので,直ちに買受人を縛るということにはならないであろうというように考えられます。さらにその決議の内容に従った,ここでいうみなし同意が成立した区分所有者の集団というものがどういう売買契約をするのかという,売買契約の目的といいますか,動機といいますか,そこまで縛るのかということになりますと,今の決議事項といいますか,立て付けからするとそこまで縛ることは求めていないというのが基本的な発想でございます。 ○沖野委員 この決議によってどういう想定でどういう価格決定がということは正に最終的な売得金の分配に関する事項を決めていくためには必要ですし,さらには売得金の額を定めるに当たっても必要で,その一方当事者としての売主側の意思表示といいますか,その基礎は意思表示自体も決議に従った売買契約を締結しなければいけないということだとすると,それは明らかな想定になっているように思うのですが,そのこと自体は全く考慮はされないという前提だと理解してよろしいですか。 ○遠藤関係官 売得金の分配のルールにつきましては,その限度では拘束力が及ぶのかなとは思っておりますけれども,今の決議事項の内容だけからしますと,それを超えて何らか拘束が及ぶということにはならないのではないかと。その点につきまして,拘束力を及ぼした方がいいのではないかとか,悪いのではないかという御議論は別途あろうかと思っておりますので,その観点からも御意見を頂ければ有り難いと思っております。 ○沖野委員 気になっておりますのは濫用と言われる場合に,いずれの選択肢もあり得るということだとすると,一定の選択の下で進めてきたけれども,実は元々違うことを想定していて,結果的にはこの決議とかの外で一定の人たちだけが利益を得るような形の仕組みができるのかできないのかというのが元々問題になっていたと思うんですけれども,それを意思表示の瑕疵などを使うことによって防ぐことができるようになっているのか,なっていないのかというのが関心事項だったのです。それは基本的にはもう関係がなくて,もし必要ならば別のルートを考えざるを得ないという,そういう考え方の下での御提案だと理解いたしました。 ○遠藤関係官 このペーパーだけではそのようにはなっていないというお答えになろうかと思います。 ○森田委員 最初に述べたことの繰り返しになりますが,従来は,建物区分所有関係を終了させる法的理由というのが何であるかを示して,それについて決議をする。その理由が建物を建て替えるとか,取り壊すといったような具体的な理由であったと思いますが,この建物敷地一括売却決議というのは,そこでいう売却が最終的な建物の処遇ではなくて,買受人が建物をどうするか,更地のまま他に売ることも自由であるし,建て替えることも自由だし,建物を再利用することも自由である。その前段階である建物の売却を捉えて,それを建物区分所有関係の終了原因としてしまうと,実際にその後建物はどうするかということについては,直接の決議の際に審査の対象とはならない。そうなりますと,なぜ建物区分所有関係を終了させるべきなのかという点の合理性の担保ができないのではないかというのが,私が最初申し上げたことです。このような前提で制度を組みますと,必然的にそのような問題が生じますので,従来の決議制度の中で合理性を担保していた仕組みを建物敷地一括売却制度ではどこで折り込むのかが問題となりますが,その選択肢は限られてくると思います。   決議事項の中でどこまでできるかというのは,先ほど議論になったところだと思いますけれども,今議論になっているみなし合意のサンクションのところでも,みなし合意というのは決議の内容によって定まる関係にある以上,やはりそこは抽象的な売却だけが対象になって,その背景事由は入ってこないことになります。したがって,あり得るとすれば,先ほどの集会の手続に関する規律の中で対応するほかないように思います。決議の前提となる説明会というのは,これは普段行われているような説明会とは違い,法律が要求している説明会であって,そこでは売却を必要とする理由としてどこまで説明することを要するかということを法律に書き込んでおいて,その説明が実際とはくい違っていたり,そこで示したデータが現実のものと違っていたということがあったときには,そのことが決議の瑕疵となって決議無効を主張することができるものであります。その限度で,決議の合理性について事後的な法的な審査が可能であり,そのことを通じて決議の合理性の担保ができるのであれば,何とかクリアできるでしょう。   しかし,そこがうまく組めないのであれば,やはり売却決議が濫用される危険性について制度的には対応しようがなくて,最初言われたような一般法理を使うほかないということにならざるを得ないわけです。したがって,ポイントは集会の手続を具体的にどのように定めるのかということであって,そこが今言ったような点から耐えられるようなものになっているかどうかということをお示しいただいて,これだったら大丈夫ですと言えるかどうかによって最終的な結論は決まると思います。今日はそこがまだ提案されていないわけでありますから,これではいけないということもできないし,これで十分だということも言えない。そういう状態ではないかと私は見ております。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○萩本委員 意見ではなくて,ここまでの話を伺ってきて,特に民法の先生方に対して質問なのですけれども,今,森田先生はじめ様々に示された懸念というのは,この今回の部会資料9で提案されている場面でだけ問題になることなのでしょうか。といいますのは,この出発点として,建物取壊し決議はできると言い,敷地売却決議もできると言っているわけです。それを同時にやることもよいのではないかという議論があって,ならばいっそのこと建物もそのままで売ってしまえるようにしようということで,その最後の選択肢はどうかということで議論していたと思うのですけれども,その前の段階まででも私は何か同じことがあるような気がしています。とにかく壊しましょうといって壊しました。その後に敷地売却するときに,説明会を開いて,こういう買主が手を挙げているけれども,この人は公園にすると言っている。この人はここに工場を建てると言っている。この人はマンションを建てると言っている。買主の候補が複数いて,どれに売りましょうかという場面で,公園にするという人がいいからそこに売りましょうといって,5分の4の決議がされましたと。   ところが,買った人は公園しないで建物を建てちゃいましたというのだって当然あり得るわけで,何かあたかもこの仕組みを入れると初めて出てくる問題ならばここで合理性ということが問われ,それを説明できないといけないということになると思うのですけれども,それは本当にこの場面だけなのかが私にはちょっと分からないので,単純な敷地売却のときに,どうなるのかといった辺りから,基本が分からなくて申し訳ないのですが教えていただければと思います。 ○森田委員 ご質問の一つが私にも向けられていると思いますので,私の意見として御説明させていただきますと,今,問題にしているのは,建物区分所有関係を終了させるという法的事由が問題となる局面でありますが,敷地売却決議というのは,既に取壊し決議によって従前の建物区分所有関係は終了するということが決定された後に,残る敷地の共有持分権をどうするかという問題であって,この局面では建物区分所有関係という法的拘束は存在しないわけです。   そのことは,ここで特別法として敷地売却決議がなかったときにはどうなるかを考えればよく理解できると思います。この場合には,建物の区分所有関係は終了しているわけですから,民法の一般原則に従って敷地について共用物分割請求をすることが可能であります。それを共有物分割請求によらずに,ここで用意したような敷地売却決議で行うとすることは,特に問題は生じないわけです。これに対し,ここで問題にしているのは,建物区分所有関係は団体的拘束として一定期間続くことが想定されていて,その終了事由をどう定めるかという局面であります。したがって,敷地売却決議についてはおっしゃるとおりだと思いますけれども,その前段階となる建物の取壊し決議とか,あるいは建替え決議,そして建物敷地一括売却決議については,いずれもこれによって建物区分所有関係が終了するということですから,それをこういう理由で終了させるという合理性が確保されるような仕組みが組み込まれていて,その濫用の危険がないかが問題とされるべきであるということを私自身は申し上げているつもりですので,御指摘された問題とは区別できるという前提で考えています。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかに今の萩本さんの質問に対して,私の意見としてはこうだという御説明がありましたらお願いいたします。 ○沖野委員 その後の用途などが契約の効力に影響するかという点を伺ったために御質問を誘発してしまったのではないかと思うんですけれども,私自身が気になりましたのは,そのいずれかによって実は決議の内容が左右されるという前提ではないのかと。そうであるにもかかわらず,実は違っていましたというところを対応するような手法があるのか,ないのかというのが問題関心だったものですから,一般的に本当はもっと高く売れたんではないかというような話は普通にあるのかもしれませんけれども,この制度特有の問題が出はしないかというのが問題関心です。 ○山田部会長 お二人からのそれぞれお考えの表明を頂きましたので,少し進めてよろしいですか。今の萩本さんの御発言を機縁にした御発言ももちろんウェルカムですが,「5 建物と敷地の売却に関する合意」について,更に御意見がありましたらお伺いしたいと思います。   それでは,ここも今日のところの御意見は概ね出していただいたように思いますので,この項目としては最後の期間制限に進みたいと思います。「6 期間制限」について,御質問,御意見がございましたら御発言をお願いいたします ○山野目委員 期間制限の法制的な仕組み方そのものということではありませんけれども,ここで期間制限が話題とされておりまして,いわば具体的な現場のリズムをイメージすることが可能な場面ですから,それに関連して心配であると感じていることを申し上げます。それは端的に一言で申し上げますと,問題になっているものは,前提として,大規模一部滅失に立ち至った建物でございます。そういうものを買う人は,どのような人であるか,ということの想定が私にはできません。   建物を買った人は建物に存する無数の抵当権の処理に直面し,又は取壊しをする場合には,その取壊しを実行した後の段階において不動産登記法の55条が定める特定登記の処理等の登記手続上の極めて煩瑣な手順を負担することになります。パブリックコメントにおいて日本土地家屋調査士会連合会が提出している意見は,このような観点の指摘を含むものであると理解することができます。   実務とは,まさに神が宿る細部の集積のことでございまして,表示に関する登記を日頃から見ている人たちであるからこそ,このようなことに気付いたものであると感じますけれども,このようなことを考えますと,一括して売却するという際の買い手のイメージがうまく結ばれません。日本中に一人でもいれば,それは法制として仕組む理由になるのではありませんか,という御議論があるかもしれませんけれども,どこまで法制として仕組まなければいけない立法事実があるか,という点も私は議論していきたいと感じます。   取壊し後の敷地売却というゴシックの本体の方で提案されていた提言の方であれば,この問題は起きませんけれども,本日の御提案の局面に関しては,そこのところがどうしても心配になるという指摘でございます。 ○山田部会長 ありがとうございます。事務当局としては,今の御指摘について持っていらっしゃるイメージはありますか。買受人の具体的なイメージです。 ○遠藤関係官 抵当権については,基本的には決議だけでどうこうなるという性質のものではございませんので,これは取壊しの場合も同様ですけれども,別途それは同意なりの処理が必要になってくるということかと思います。   その上で,買手がいるのかどうかという御議論が正に御指摘のあったところかと思いますけれども,それにつきまして部会で以前,根本委員だったかと思いますけれども,そういったケースもあるのではないかということを前提に我々としてはそれを受け止めて取りあえず御提案をしているということでございます。 ○山田部会長 根本さんから何かございますか。 ○根本委員 前回その件で発言させていただきましたときには,今回の東日本というよりも来たると予想される首都直下型であるとか,3連動であるとかいう大都市部を襲うものをまず念頭に置きました。もちろんその中でも価値のあるものに限られるかもしれない。経済的な価値のあるものに限られるかもしれませんけれども,買う事業者は当然おられるでしょうという前提がございます。現時点におきましても,再開発事案などを見ますと相当煩瑣なことを事務手続上やっております。案件によっては30年以上掛かってようやく再開発を行うというような事例もございますので,そういう事例に鑑みますと,ある程度の事務負担というのは当然覚悟して,それも含めた価格というものを今回のこの対象となる建物についても提示する事業者が現れてくることは十分想像できると考えております。 ○山野目委員 今,根本委員に大変有益なことを御指摘いただいたと感じます。覚悟をした事業者は,どんなに困難な実務上の手順,登記手続などでもしてきたし,これからも,それは期待することができることでしょう。それは今,根本委員の御指摘にあったように本質は再開発としての性質を持つ事案であると思います。もちろん実態として都市再開法が定める市街地再開発事業に該当するいわゆる法定再開発の場合もありますし,それに準拠しないでする場合もあることでしょう。都市再開発法に準拠してする場合には,登記その他の実務上極めて煩瑣なことについて,手続を簡易にする権利変換その他,それに即応する登記手続の特例などの制度上の支援があります。税制上の支援もあります。   それに準拠しないで行われる再開発の場合には,更に苦労は大きいですけれども,しかし発想の基本は再開発の考え方に準拠して行われていると思います。そういったところの手当てまで見込んだ上で,今回のこの一括売却の制度を入れるのであれば,それを強いていけないと言う理由はありませんが,そこまでの行き届いた配慮をここで議論している民事基本法制に入れて仕組むということについて,どうしてもしようとすればそれは当面の立案の作業に相当の御負担をお掛けするのではないか。ここは,それをすべき場所であるか,ということについては懸念を抱きます。 ○山田部会長 ありがとうございます。期間制限そのものについて,いかがでしょうか。   各論をずっと議論してまいりましたので,時間が残っていることもあり,総論についてもう一度御意見を賜れればと思います。そして,ポイントはこの制度を設けることについてどうかということでもありますが,それと共に途中で何人かの委員,幹事の方から御議論いただきましたが,仮に設けるとするならば,という条件が付いていたかと思いますけれども,そういう御発見もあったかと思いますが,取壊し前提で制度を作っていってはどうかという御意見だったように思います。それは売得金のところなどについても少しいろいろな可能性があって,それぞれのときにどうなるのだろうかというもののように思います。沖野委員の御発言などの問題も前提を決めれば全て解決するかどうかよく分からないんですけれども,しかし一定方向にある程度議論が進んでいく可能性があろうかと思います。   しかし他方で,前提を決めてもその後そうならないならば,かえって不都合が生じるのではないかということもあるかもしれません。この辺りについて,絞るわけではありませんが,各論を一通り議論した上で,今日の後半の冒頭の総論に立ち戻って,御発言がありましたら承りたいと思います。いかがでしょうか。 ○金子幹事 若干の問題提起をさせていただきたいのですが,今日の議論をお聴きしますと,結局,取り壊すのかあるいは復旧するのかということが決議内容に影響し,かつその決議がその後の買受人の態度を縛るという形にしないと,組めないような感じがしたのですが,およそその後は煮るなり焼くなり勝手にしてくれという,そういう決議の仕方というのは,組めないものなんでしょうか。   それは恐らく売得金に影響をする,あるいは特に分配の方に影響するということなのかもしれないし,かつこれが全員合意ではなくて,多数決で少数の人たちが排除されるというところと関係して,難しいところはあるということは承知しているつもりなのですが,何か2段階の決議とは別の決議,あえて取壊しということを前提にせずにする特別な決議のようなものというのはやはり組むのが難しいんでしょうか。それが考えられると余り細かいところを気にせずに済むと思うのですが,その辺も含めて,もし御意見があれば伺っておきたいと思ったんですが,いかがでしょうか。 ○山田部会長 ありがとうございます。金子さんから御意見を頂きたいというお求めがありました。 ○鎌野委員 確定的ではないんですけれども,まだ自分の中でも揺れ動いているんですけれども,こういった建物敷地一括売却決議制度について,どちらかというと賛成するというか,積極的な意見を持つ者として,今の御意見というのはもっともで私も基本的な出発点としてはそういうふうに考えて,そういうふうにというのは,先ほど申し上げたやはり説明会とは切り離せないんですけれども,森田委員が言われましたように,説明会で売却の理由というのを十分説明をして,ですから区分所有者に対しては,ある意味ではそのプロセスというか,売却後のことについて取壊しなのか維持なのかについて説明すべきであると思います。   そういうことで恐らくここで言う第2の2のところの売却金員の見込額とか最終的にはそれが売得金の分配に影響してくるので,そういう判断をするときに,恐らく説明会のときに取り壊して,あるいは存続させて,こういうことで結局見込額がこういうことになりますよと説明するのだと思います。そういう判断の下に,区分所有者が賛成するか反対するかの決断をして集会に臨み,最後の5のところの合意事項ですけれども,売却決議の内容ということで,基本的には売却金員の見込額,あるいは売得金に関する分配というようなことを考慮して賛否を投じるということになると思います。当然買受人としては買い受けた建物についてどうしようかというような見込みがあり,ある程度の予定が決まっており,一般的には,建物を買い取った後にそれを維持してコンバージョンするとか,一部減築をするとかについて考えるというのではなくて,最初からそういったことは決まっているのだと思います。そういう形のプロセスを示されて値段が幾らになるか,そして各区分所有者は,およその見込みでどのくらいの売得金が得られるかというようなことで,票を投ずるというか賛否を決すると思います。そして場合によっては,余りこの額が多くないのなら他の方法を考えようと。少なくともこういった方法での一括売却には賛成しないという決定がなされるのだろうと思います。   ですから,そこのプロセスというのは,説明会などを通じて,示される必要があるのでしょうけれども,基本的にはそれが確保されていれば,あとになってやはり買受人の方がいろいろな社会状況をにらんで,存続させることを予定していたけれども,実際に細部を調べてみたら,維持というのもなかなか大変だと。それなら取り壊そうということになったり,または,これとは逆の場合もあり得て,それはそれで,買受人に詐害の意図があったときは別ですが,構わないと思うのです。   ですから,基本的にここでの決議の内容というのは,今,金子幹事が言われたように,とにかく被災ということで,一般的には通常の場合とは違って,なかなか復旧が難しい,その1棟だけではなくて周辺の区分所有建物,その他についての被害があると,もう立ち直るのがなかなか難しいという段階で,もう自分たちでの建替えなり,復旧なりを断念して区分所有関係を終了させて,もう一括して売却しましょう。そして,それは基本的にはその売却金額の判断で,買受人が示す判断で自分たちの生活の再建に見合うかどうか,それでやっていけるかどうかという判断なので,基本的に説明会等で売買代金見込額が幾らになるかというプロセスはしっかり説明される必要があろうと思うのですけれども,その決議内容自体についてそれは影響しないのではないかと私は考えて,そういった意味では,金子幹事の問題意識と多分共通していると思います。 ○山田部会長 ありがとうございます。いかがでございますか。 ○山野目委員 金子幹事からお悩みを語っていただきまして,売得金の分配のところが煮るなり焼くなりという発想の決議にしないとやはり暗礁に乗り上げるということを指摘いただき,御苦労の一端を吐露していただきました。   今日の議論を顧みますと,売得金の分配のことに加えて,反対者に対する売渡し請求に係る時価の算定方法,それから再売渡し請求の要件,恐らく細かく整理するとこの三つが,従後の想定が決まらないといろいろ議論がしにくいという指摘を受けたところであると考えます。そこのところについて何らか隘路を突破することができないかという問題提起を頂いたと受け止めます。   つらつら鑑みますに,従後の想定が決まらないで,多数決で自分が持っている区分所有権を失うことになる人の状況を考えたときにその人の納得感というものが,やはりどうであろうかということは率直に気にならざるを得ないものを感じます。私は今般,建物区分所有法制の一角をなすこの法制の立案に関与させていただくに際して,改めて現行の普通法制を立案するに当たって大きな力を発揮された方で法務省民事局に当時おられた濱﨑さんがお書きになったものを読み直してみました。   62条のところを拝見しますと,決議として再建建物の概要が決まってなければならず,のみならず区分所有権の従後の帰属の状況もきちんと決まっていなければならない。これらのことを説くにあたり,そこには,こう書いてありました。つまり,自動的に決定することができるほどにきちんと決まっていなければ従後の姿を決めたとは言えない。このように強くお書きになっていて,その趣旨は何か,なぜこのように考えるか,と言うと,その決議の案を示して,あなたは賛成か反対か,反対ならば時価を払って出ていきなさい,というものが後ろに控えているからこそ,それをするのであったら従後がきちんと決まっていなければならない,ということをお書きになっていて,濱﨑さんのその考えというものは,けっして濱﨑さん個人の独自の考えではなくて,1981年の段階で法制審議会民法部会財産法小委員会の第93回会議でも,単なる多数決で区分所有を終了させることはマンション居住者の意識とずれが出てくる,と整理されていたところです。   同じ会議において,建替えというものは,取壊しというよりもむしろ所有権の形態を変えていくのみのものであるから,多数決で従後の姿を精密に示すならばそれが許容されるという説明があって,さらに,先般の建物区分所有法制の論議,2011年の11月6日,法制審議会建物区分所有法制部会第6回会議においても同様の整理が確認されています。こういう議論の積み重ねで従来の立法がされてきましたし,司法判断を見ましても,建物区分所有等に関する法律の70条が定めている一括団地建替えの規定が憲法に適合すると最高裁判所が判断した際に,やはり合理的,客観的な必要性が点検され,かつ,過半数を相当上回る特別多数が定められているから憲法に適合すると述べたものであります。   私たちは,やはりここでのこの今日の議論を考えていくときに,少なくとも民事基本法制の中で考える限りは,そのような従来立法の積上げの議論の経過を振り返り,又は最高裁判所が示唆している憲法適合性のテストによっても及第点をもらえるようなものを仕込まなければいけないのでありますから,やはり民事基本法制として時価と再売渡し請求と売得金の分配の問題について,従後の姿を示さないまま,多数決で決めるということについては,それでいけるだろうかということについて懸念が残るということは申し上げておきたいと感じます。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにございませんか。 ○森田委員 いくつかのことを申し上げましたけれども,今回,建物敷地一括売却決議制度が提案されたのは,これまで取壊し決議と敷地売却決議というのがそれぞれ提案されていたわけですが,それらを一括して行うことが便利ではないかということではなかったかと思います。パブリックコメントに出てくる意見というのも,その多くは,二つの決議がそれぞれ可能であるのならば,それらを一体としてやるということも可能にすべきではないかというものであったと思います。そうしますと,それらを一体として行う決議制度を作るというのが,それに対する正面からの答えであるはずであって,その場合には煮るなり焼くなり自由ということから出発するのではなくて,建物を取り壊すということを前提としてそれを敷地の売却と一体として行う決議制度としてどう組むかというのを検討するというのが一つの行き方で考えられるところです。それであれば,それほど困難なく一定の対応をすることによって,実現することが可能ではないかと考えます。   これに対し,それよりもう少し対象を広げまして,パブリックコメントで出されている意見よりも更に広げて,買受人が建物をどうするかは自由であるという前提での建物敷地一括売却制度で組むということになってくると,先ほどの議論で明らかになったように,非常に抽象的なところで決議がなされてしまうことに伴う問題が生ずるわけです。また,建物敷地の売却後には買受人には何も法的な縛りがないということだとすると,建物区分所有関係を終了させるということについて,現行制度が用意している様々な合理性を担保する仕組みが全部外れてしまうということになるので,そこをどう組み込んでいくかが問題となるわけです。   抽象的なところで決議をするという前提をとった場合には,決議事項の中には完全に組み込むことはできないので,どの局面で組み込むか。先ほど説明会のときに,建物敷地を一括して売却しないとしたらどういう選択肢があるのかというシナリオを想定して,いかなるデータを示さなければいけないのか。その点について詰めて検討した結果,一括売却の合理性があるということを十分担保できるような仕組みが組めれば,そういう意欲的な制度をデザインすることもあり得なくはないけれども,今の段階ではそのような制度が可能であるという見極めは少なくとも私自身はついていないということですので,今後の検討においては,むしろパブリックコメントで出されている意見というのは,取壊し決議と敷地売却決議の二つを一括して行うことを認めてよいのではないですかという意見が多数であることを踏まえて考えると,そのような方向での検討も行うべきであって,そこで出されている意見を超えて,更に意欲的な一括制度というのを設ける必要があるのかについても再検討の余地はあろうかと思います。そこは,どうせ新たに一括売却制度を創設するのであれば,そういう更に幅広なニーズに応えることができるような制度を用意しましょうということも理解できますが,その反面で,その場合に生ずる問題は克服することがよりハードルが高くなってくることは否定しえないところではないかという気がいたします。 ○山田部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○鎌野委員 先ほどの私の発言で,第2の2の福田幹事などの御意見を受けた私の意見として,売得金の分配に関して,従前の区分所有建物,専有部分の価値については基本的には考慮しなくていいのではないかという発言を申し上げました。それはそれとして,他方では4のところの決議に賛成しなかった者に対しての時価,これは山野目委員から適切に説明がありましたように,これは決議に賛成しなかった人というのは,そういった一括売却を望んでいない人で,依然として建物を存続させてそこに住み続けようという人なので,ですからここの時価評価というのは先ほど私が申し上げた2の(1)のウのところの考え方とはやはり違うのではないか。やはりその点は配慮して,やはり民事法制としてはその辺りの区分所有者の公平,そういったことは維持すべきではないかと考えます。 ○山田部会長 具体的な御意見も頂きましてありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。   総論に立ち戻ってよかったと思います。複数の意見を頂戴いたしました。更に御意見がないようでしたら,今日は,この辺りで部会資料9についての御議論とさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。   ありがとうございます。   それでは,本日の御審議は部会資料8の借地借家関係,そして部会資料9のマンション関係,建物区分所有関係のダブルヘッダーでございましたが,誠にありがとうございます。この程度としたいと思います。   それでは,事務当局に次回の議事日程等について説明をしていただきます。 ○岡山幹事 次回の議事日程等について御連絡いたします。次回の日程は,平成24年12月26日水曜日,年が迫っておりますが申し訳ございません。時間は午後1時30分から午後6時までとなっております。場所は法務省の大会議室でございます。   次回の部会では,被災マンション法に見直しに関する要綱案のたたき台について御審議いただきたいと思います。また,被災マンション法の中間取りまとめに関するパブリックコメントで寄せられた御意見についても御紹介する予定です。部会資料は1週間前を目途に発送いたしますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○山田部会長 それでは,法制審議会被災関連借地借家・建物区分所有法制部会を閉会させていただきます。   本日も御熱心な御審議を賜りまして誠にありがとうございます。          -了-