法制審議会民法(債権関係)部会           第64回会議 議事録 第1 日 時  平成24年12月4日(火) 自 午後1時00分                       至 午後6時23分 第2 場 所  法務省会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第64回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,能見善久委員,安永貴夫委員,山下友信委員,福田千恵子幹事が御欠席です。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日の会議用の資料として,部会資料53「中間試案のたたき台(1)(概要付き)」を事前送付させていただきました。この部会資料につきまして,事前に何名かの部会メンバーから誤字の御指摘を頂きまして,その主立ったものについての正誤表を机上に配布させていただいております。ウェブサイトで公表する際には訂正後のものを公表したいと考えております。   このほか,本日は沖野眞已幹事から,「部会資料53関連:「任意債権」に関する規定の検討のお願い」と題する書面を御提出いただいております。また,潮見佳男幹事からは,「中間試案のたたき台(1)についての意見」と題する書面を御提出いただいております。また,日本商工会議所・東京商工会議所から,「民法(債権法)改正に対する商工会議所の意見」と題する書面を御提供いただいており,机上に配布させていただきました。 ○鎌田部会長 本日の審議に入ります前に,まず,深山委員から,一言,発言がございます。深山委員,お願いいたします。 ○深山委員 今日の第64回会議は,パブリックコメント手続を実施する中間試案のたたき台について審議に入るちょうど節目の時期に当たります。そこで,今後の部会における審議の在り方について少しお話をさせていただきたいと思って時間を頂いた次第です。今後の部会審議の在り方については前々回の会議において,筒井幹事からお話申し上げたところであり,別に私がそれと異なることを申し上げるつもりはございませんけれども,改めて私からも委員・幹事の皆さんに対して,今後の部会審議の在り方についてお願いを申し上げたいと,こういう趣旨でございます。   私は民事局長に着任直後に,この部会で御挨拶したときにもお話ししましたけれども,過去において法務省民事局参事官室に10年おりまして,自らも担当の参事官として,あるいは審議官として非常にたくさんの法制審の部会に参画してまいりました。久しぶりに民事局長という立場で民事局に戻って9月25日に着任をし,その直後からこの民法(債権関係)部会の審議に参加したわけです。民事局長として,この部会の審議に参加した現時点での感想ですけれども,これまでの経験に照らしてみて,部会審議は既に3年行われていますが,いまだに非常に多くの論点について意見が分かれていて,しかも,個々の意見の内容も,それが採用されれば最終的には条文の前提となる要綱案になるんだという,そういう観点から見ると,まだまだ,抽象度が高いと感じました。したがって,条文の前提となる要綱案を取りまとめるまでの道のりは遠いなというのが第一の感想です。   ただ,考えてみますと,民法は民事基本法中の最も基本となる法律で,しかも,債権法は,その中核的な部分を占めているわけで,学説・判例も膨大なものが積み上がっておりますし,社会的に見ると国民の経済生活や企業の経済活動の基礎を支えている制度的なインフラでもあります。また,行為規範としての側面だけでなくて,裁判規範としても極めて重要な機能を果たしており,私もつい,この間まで民事裁判官でしたけれども,民事裁判官の仕事の大半は,民法の解釈・適用をしているということですので,裁判規範としての重要性も他の法分野と比べて極めて高いものがあると思います。   こういった様々なことを考えると,これを全面的に見直すという作業を始めたわけですから,3年という期間は決して短くはありませんけれども,3年が経過しても,なお,多くの論点について改正の具体的な方向性が見い出せていないというのは,やむを得ないのではないかと思います。ただ,同時に今後,要綱案を取りまとめていくためには,部会における審議の仕方あるいは議論の仕方が変わっていかなければいけないとも感じました。今日,私がお願いしたいのは,この点についてです。   債権法の見直しというのは,民事基本法を所管して恒常的にその見直し作業を行っている法務省の民事局にとっても,戦後直後の時期はともかく,この何十年かで最もボリュームのある立法課題だと思っております。民事局内に担当者を置いてこの作業に実質的に着手したのは平成18年の秋ですけれども,その当時,私は民事局の審議官として,当時の寺田局長とも随分議論をして,民事局として相応な覚悟を持って,この作業を開始したものでございます。ただ,改めて民事局長として,この部会の審議に参加して,債権法の改正法の成立にこぎつけるまでの今後の道筋についてあれこれと考えますと,法制審の審議の後に更に国会審議が控えていて,そこでも大変な議論になるだろうということもあってのことですが,これからどれほどエネルギーを要するのか,にわかに想像できないぐらい大変なことだと,改めてそう思っている次第です。   そして,ここにおられる委員・幹事の皆様もそれぞれ本職をお持ちで忙しい中,この見直しの作業のために委員・幹事をお願いしておりまして,これまでの3年間,皆さんが当部会の審議に費やしたエネルギーとか時間は,既に膨大なものになっていると認識しております。法務省としても債権法の見直しというこれまでにない大きな立法作業を行うために内田参与に法務省においでいただくというようなこともありましたし,また,担当参事官である筒井幹事の下に,相当数の担当局付も配置してきておりますが,こういった人的体制については,これからも更に充実をさせていくつもりでございます。したがいまして,大変な作業ではありますが,法務省民事局としては,今後,どんな困難があってもこれまで進めてきたこの見直しの作業を頓挫させるわけにはいきませんし,合理的な期間内に要綱案の成案を得て,法務大臣に要綱を答申しなければならないと思っております。   しかし,各論点について改正の要否あるいは改正内容について様々な意見が分かれている状態のままでは,これを法律案の前提となる要綱案に盛り込むことができないということは言うまでもありません。   当部会におけるこれまでの審議は,基本的に個々の論点について各委員・幹事が自ら最も妥当だと考える意見を述べ合うということが中心だったように思われます。こういった議論の過程は,法制度の在り方を見直すこの種のフォーラムの審議においては当然に必要なものだと考えておりますし,私の過去の経験においても多くの部会において,審議過程の前半部分はこういった議論が中心でございました。部会というフォーラムで各論点について委員・幹事がそれぞれ最も妥当だと思う見解を述べ合い,このことによって自ら意見を述べた委員・幹事が他の委員・幹事の反応を見て,意見を変えるということもあるでしょうし,また,他の委員・幹事が披瀝した意見を聴いて,自らの考えを変えるという方もおられると思います。このようにして,それぞれが意見を述べ合うという中で自然発生的に大方の了解,つまり,コンセンサスの得られる案が形成されるということも間々ありまして,当部会でも幾つかの論点は既にこのような段階に達しているのではないかと思います。   ただ,債権法のような大きな法分野を見直す際には,極めて多くの論点が提示されることになりますので,それらの全てについて自然発生的にコンセンサスの得られる案が形成されるということは到底期待することができません。そもそも,委員・幹事の皆さんは,今回の審議の対象となっている債権法の分野について,それぞれ専門家として,あるいはユーザーとして高い識見をお持ちであるということから,委員・幹事をお願いしているわけです。つまり,それぞれの専門的な知見,あるいは立場に基づいて多様な意見を述べていただけるからこそ,これだけの人数の方々に委員・幹事をお願いしているわけで,各論点についての意見が分かれるということ自体は,そのことの反映でもあって,当然といえば当然のことだと思っております。   しかし,他方で要綱案を取りまとめるためには,各論点について対立する意見を整理・集約して,最終的には一本化しなければならないわけです。その方法は一般論として考えればいろいろあるところです。御存じのことだと思いますけれども,法制審議会の組織や議事について定めた法制審議会令においては,議事は最終的に委員の多数決によって決すると規定されておりますので,多数決という方法によれば必ず最後は何らかの結論が一つにまとまると,こういう制度的な仕組みになっております。しかし,これもまた,御案内のとおりでしょうけれども,民事系の法制審の部会においては多数決によることなく,委員・幹事全員の賛同を得て要綱案の取りまとめがされているというのが,これまでの通例でございます。   先ほど申し上げましたように,部会審議のある段階までは各論点について委員・幹事がそれぞれ対立した意見を述べ合うという過程が通常であると言いながら,最終的に全員の賛同を得て要綱案の決定に至っているのは,部会審議のある段階から審議の仕方や議論の仕方が変わって,それぞれの委員・幹事が互いに妥協して,成案を得る方向で議論をするようになるからだと思います。よくあることですけれども,甲案,乙案とあって,それぞれの支持者が鋭く対立している。それぞれの支持者からすれば,それぞれの案がベストであると強く主張している場合であっても,次善の策として反対案に配慮をした譲歩案が提案される,あるいは第三の丙案が提案されて,甲案,乙案どちらの支持者もベストではないけれども次善の策としてやむを得ないという形で,大方の同意が得られる案が形成されていくと,こういった妥協が繰り返されるからこそ,これまで,最終的には多数決によることなく要綱案の取りまとめができているのだろうと思います。   立法は妥協だとしばしば言われますし,妥協という言葉は日本語としては節を曲げるみたいな感じがあって,消極的な響きがないわけではないと思います。しかし,部会の審議において新たな法規範を生み出そうという大きな目的に向かって,それぞれの委員・幹事が自らとは異なる見解とか立場のメンバーの存在を理解して妥協を図り,そのことによって多数が賛同できる案を形成していく,こういった過程は,私が思うところ,立法過程で最も創造的な部分であり,言わば立法作業のダイナミズムの発現と言ってもよいと思います。   これまでの多くの民事系の法制審の部会において,多数決といった原始的な方法,プリミティブな方法によることなく,要綱案の決定に至っているということは,民事系の法制審の部会が持っている審議の文化あるいは環境が非常に成熟したものであるということを示しており,私は民事系の部会の誇るべき伝統だと思っております。   そこで,今後の当部会の審議におきましても,より国民に分かりやすく,現代の社会の状況に適合した新しい債権法を生み出すと,あるいはそういった新しい債権法を形あるものにするといったマインド,これを私自身はよく立法者的なマインドと言っていますが,こういったマインドを委員・幹事の皆さんが共有して,個々の論点につきまして妥協し合って,コンセンサスの得られる案を形成する努力を是非していただきたいとお願いする次第であります。   平成21年11月から始まったこの部会の審議も3年を超えて,冒頭に申し上げたとおり,本会議は一つの転換点といいますか,節目の時期であることから,余り例のないこととは思いましたけれども,事務当局を代表して委員・幹事の皆さんに,このようなお願いを申し上げた次第です。当面は,これまでの部会における審議の到達点である中間試案として,どのようなものを外部に示すべきかについて,できる限り一致した意見が形成されるような審議をお願いしたいと思いますし,中間試案に対するパブリックコメント後は,いよいよ,その結果も踏まえて,各論点についてコンセンサスの得られる成案を形成する方向での審議を是非お願いしたいと思います。事務当局としてもこのような形で議論が円滑に進行するよう,資料の提供,議論への参画の仕方等々についてできる限りの配慮をしていくつもりなので,よろしくお願いいたします。   部会審議の貴重な時間を拝借して失礼しましたけれども,私がお話ししたいことは以上でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   続きまして,筒井幹事から今後の部会の進行等に関する説明があります。筒井幹事,お願いいたします。 ○筒井幹事 本日から中間試案の取りまとめに向けて,中間試案のたたき台の審議に入っていただくことになります。この中間試案のたたき台における本文の書き表し方につきましては,既に中間試案のたたき台のサンプルとして御提示した部会資料51に基づきまして御説明したところですので,それは繰り返さないことにいたします。本日以降の審議の対象は,(注)を含む意味での本文でございます,この部分が中間試案として部会決定の対象となるところですので,今後の議論では,この(注)を含む本文の書き表し方に集中して御意見をいただきたいと考えております。中間試案としてどのような案を国民に提示するのかという部分が審議の対象であり,そこで取り上げている個々の案への賛否の議論は,これまでに十分行ってきたところですので,本日以降は本文の表現ぶりに集中していただきたいということを重ねてお願い申し上げます。   なお,中間試案の取りまとめ後の審議スケジュールとして,どのようなことをイメージするのかによって,中間試案の審議の仕方は変わってくるのではないかという指摘は,以前から頂いていたところですけれども,その点については中間試案のたたき台が一通り出そろった後,中間試案の全体の見通しを部会の中である程度共有できるようになったところで,必要に応じて改めて御相談したいと考えております。 ○鎌田部会長 ただいまの説明について何か御質問はございますでしょうか。 ○松本委員 民事局長から,法制審議会としては多数決のルールがあるんだけれども,民事の分野ではそういうのは従来,やってこなかったから,なるべくコンセンサスが取れるようにという御発言でした。   例えば一つの論点について甲案,乙案,丙案等々とあるという場合に,どれが一番いいですかという意味のコンセンサスというのはあり得ると思うんですが,それが取れないという場合に,当該論点については今回は取り上げないという選択肢はあり得ないのかと,つまり,にっちもさっちもいかない状況で,何か変えなければならないという場合に,それは決断として,こっちにいくか,こっちにいくかというのを判断しなければならないということはあると思うんですが,今回の債権法改正の論点は確かにそういう部分も一部ありますが,多くはそれほど切実なものではないところについて,こちらのほうが理論的に優れているとかいう感じの議論が大変多いわけで,それはそれで,それぞれの論者の主張としては意味があるんでしょうけれども,そういう学説的な争いのレベルでどっちを採るかというので,そこで多数決だとか,無理なコンセンサスというのは余り生産的な感じがしないので,今回,決めることはしないで,今後,継続的に議論するんだという感じの選択肢も私は十分あると思います。   債権法というのは大変大きなものですから,そんな短期間で局長がおっしゃったように,みんながコンセンサスを取れるようなものはなかなかできないと思いますので,無理をしないでもう少し長期的にやるべき部分と,今回,一気にやる部分とをうまく仕分けをする必要があると私個人は考えております。 ○筒井幹事 ありがとうございます。御指摘いただいたこと自体に異存はありません。私どもとしても,それぞれの論点について一つ一つ,コンセンサスを得るための検討を行い,これまでの甲案,乙案,丙案という議論の中からこの案であればコンセンサスが得られるのではないかという案を見いだしたり,あるいは別の案をお示しして見いだそうと試みたり,あるいは合意形成が困難であると判断して改正を見送る提案をしたり,一つ一つの論点について真剣に検討をして,たたき台を提示いたしました。ですので,松本委員が発言されたようなことについては,これ以上,重ねて抽象的に議論するよりも,個々の論点の審議を通じて更に議論を深めていきたいと私は考えております。 ○大村幹事 深山委員の御発言は,法制審の民事系の部会のこれまでの伝統について御確認をされるという趣旨だと思って伺いました。おっしゃるような形でこれまで審議してきたものと私も了解しております。松本委員の先ほどの御発言ですけれども,その点についても我々は立法できるものはできるだけ立法する,しかし,できないものはできないということでやってきたと認識しております。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。ありがとうございました。   それでは,本日の審議に入ります。本日は部会資料53について御審議いただく予定です。具体的な進め方といたしましては,休憩前までに部会資料53のうち,「第5 無効及び取消し」までについて御審議いただき,午後3時半頃を目途に適宜,休憩を入れることを予定しています。休憩後,部会資料53の残りの部分について御審議いただきたいと考えておりますので,よろしく御協力のほどをお願いいたします。   まず,部会資料53の「第1 法律行為総則」と「第2 意思能力」について御審議いただきます。一括して御意見をお伺いいたしますので御自由に御発言ください。 ○大島委員 今,御指摘の項目以外も全般に係ることなんですが,よろしいでしょうか。たたき台の書きぶり全般について意見を申し上げたいと思います。ゴシック体の本文の文末は「ものとする」ということで統一されていますが,現在の条文の語句や表現を修正する内容と,新たに規定を設ける内容が混在していて非常に分かりづらいと感じました。そこで,例えば文末を「何々に変更する」又は「何々を新たに設ける」のように書き分ける,あるいは変更する項目と新設する項目は別立てにするなど,表現を工夫していただきたいと考えております。また,たたき台には参照する条文が括弧書きで引用されておりますが,中間試案の読者は法律の専門家とは限りませんので,条文を引かなくても中間試案が読めるようにしていただきたいと思います。分かりやすい民法を目指すという観点から,最低でも関連条文を記載していただきますようにお願いをいたします。 ○筒井幹事 中間試案の読み手の立場という視点から,大変貴重な御指摘を頂きました。前半で御指摘いただいた書きぶりについては,私どももどこが変わったのかができる限り分かるように,しかし,一読して内容を読み取ることができるように,いろいろ工夫をしながら書いたつもりですので,もし何か具体的に想定されている項目がありましたら御指摘いただければと思います。もう一つの御指摘で参照条文を書くかどうかということですが,今までの部会資料では参照条文を掲載してまいりましたが,差し当たり,私としては,読み物として余りボリュームが大きくならないものとする工夫も大切ではないかと考えており,少なくとも概要付きというバージョンでは,参照条文を掲載しない方針を採ったところです。 ○大島委員 前半に指摘をさせていただいた具体的なところは,例えば6ページの第3の1でございますけれども,「心裡留保」の(1)は現在の規定を改めるものであるため,文末を「無効とする」に変更することですとか,(2)は判例を踏まえて明文の規定を設けるものであるため,文末を「対抗することはできないという規定を新たに設ける」という記述への変更をしていただければと考えております。これは飽くまで一例でございますが,よろしくお願いいたします。 ○筒井幹事 ありがとうございます。全体を通じてどういう書き方が適切であるかについては引き続き検討していきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○潮見幹事 本日,お配りした分についてはどういう形で取り扱わせていただいたらいいんでしょうか。私だけでなくて安永委員のものもございますけれども,これは見てくださいという形で言えばいいのでしょうか。 ○筒井幹事 意見書などのペーパーを提出された方は,適宜の箇所で,それについての説明などを自由に御発言いただければと思います。欠席されている安永委員のペーパーについては,該当箇所の審議の際に読み上げて紹介することを考えております。 ○潮見幹事 ありがとうございます。   先ほど筒井幹事のお話にもありましたように,あるいは深山委員のお話にもありましたが,ここの論点についてどのように考えるのか,どの見解が望ましいのかということについての意見は,私は申し上げるつもりはございません。論文とか体系書とかいろいろなところでも書いていますし,書いてないことについてはここでも申し上げましたから,本日改めて言うつもりはございません。また,この間の議論の中でいろいろな案が出てきて,その案を逐一,取り上げろなどということも申し上げるつもりもございません。以降もそのつもりです。   ただ,その上で,ゴシックの部分,それから,(注)の部分をどのように書くのかという部分についての意見も含めて,申し上げさせていただいきたいと思います。典型例が「法律行為総則」,私の今日の席上配布資料の3に当たるようなところがそうかと思いますが,いろいろな案が出ておりました中で,それなりに支持があり,また,それなりに論拠があり,かつ補足の説明等でも,それなりに十分な論拠があるということが確認されているというような形で出されている提案につきましては,今回の中間試案では,例えば別案という形で取り上げるという方向で,むしろ,積極的に書いていったほうがいいのではないかという感じがいたしました。   前回の中間論点整理のときには,正にこれを論点として取り上げてよいのかどうかという点に絞ってパブコメに出したわけで,実際に今回の中間試案というものが中身についての直接の御意見を国民に問うということになることになりますから,そうであれば,少し別案という部分の注記が増えるかもしれませんが,そのような方向でお考えいただければ有り難いなという印象も持っております。その意味で,第1の「3 任意規定と異なる慣習」のところは,黙読していただければと思いますけれども,法務省側の事務方でおまとめいただいたのが全く逆の立場からの案というようなものもそれなりの支持,それから,論拠を持ってここで議論をされたのではないかと思っております。   そういう意味では,別案というような形で「法律行為に関して慣習があるときは,その慣習に従う。ただし,慣習と異なる意思を表示したと認められるときは,この限りでない」というような逆の案についても,今回は尋ねたほうがよいのではないかと思いました,ということで書かせていただいたということです。 ○筒井幹事 本日,御欠席の安永委員から,「任意規定と異なる慣習」の部分についての御意見がありますので,読み上げて紹介いたします。   民法92条の事実たる慣習は,労働者に有利な労使慣行を根拠付けるために使われることがあります。部会資料の提案は,現行民法第92条の「慣習による意思を有しているものと認められるとき」を「慣習による意思を表示したとき」に改めるものですが,これでは従来よりも要件が厳格となるおそれがあります。本提案については,民法第92を維持するという別案のほうが望ましいと考えます。 ○山本(敬)幹事 これは全体に関わる事柄ですので,この場で既に申し上げておきたいと思います。今のように本案がある中で,非常に有力であり,支持を集めたものがある場合には,例外かもしれませんが,注記をして別案を掲げるということだと思います。それが前提だとしますと,中間試案で取り上げなかった論点がたくさんあります。中間試案で取り上げなかった論点というのは,恐らく今の対比でいいますと,本案が中間試案では取り上げないというものだろうと思います。それに対して,有力な考え方として取り上げるべきであり,こういう内容で提案をすべきであるというものがあるときに,現在の書き方ですと,それを別案として注記する方法がなくなってしまっているように思います。   このような点について,どうすればよいかということを最初に決めておく必要があるのではないかと思います。私は,本案があり,それに対して有力な別案があるときに,それを明記するのであれば,中間試案で取り上げないという本案に対して,取り上げるべきであるという別案にもしかるべき場が与えられるべきではないかと思います。この点は全てに関わる部分ですので,最初に確認させていただければと思います。 ○筒井幹事 御指摘のような約束事については,抽象的に議論することが非常に難しいと思います。基本的には前々回の会議でしたでしょうか,中間試案の作成方針として私が申し上げましたように,今後の審議でコンセンサスを形成する見込みがあるものに絞り込んでいく必要があるという観点から,論点の取捨選択をして,今回のたたき台を提示しております。したがって,たたき台で取り上げなかった論点というのは,コンセンサスを形成し得る見込みがないという判断をしたものであるわけですが,その取り上げないという判断を本案として是認していただいた上で,それでもなお別案というものが何らかの形で掲載されていたほうがよいということになるのでしょうか。そういった可能性については,最初から全く否定してかかろうとは思っておりませんけれども,抽象的な約束事をあらかじめ設けるのではなく,何か具体的な例が出てきたときに,それについて議論するとことにさせていただければと思います。 ○山本(敬)幹事 では,これが必ずしも適切な例だとは思っていないのですけれども,4ページ目の最初の法律行為の第1の中で,中間試案で取り上げなかった論点のうちの一つ目として,「法律行為の意義等の明文化」のイというのがあります。これは,法律行為に関する基本原則に当たるもので,法律行為は意思表示に基づいて効力が認められるというような基本原則に関わる論点でした。これは,以前の部会で議論したときには,異論は余りなかったように思いました。もちろん,法令の規定に従い,その枠内でという部分についての書きぶり,及び現行91条との関係について,検討する必要があるという指摘が最後のほうに内田委員からありましたけれども,それについての応答もされていたという中で,その意味では,積極的に規定すべきではないという意見が必ずしも出ていなかった中で,最終的に取り上げないという論点になっています。   これはもちろん,何らかのお考えがあってのことだろうと思いますけれども,これまでの部会の審議を反映しようとしますと,全く提案しないということがいきなり,ここでこのような形で出てくるのは,どうも問題ではないかと思った次第です。私個人は,前回の部会審議のときに出ていた案を本案とし,別案として規定しないという考え方もあるというぐらいがむしろ適当ではないかと思いますけれども,仮に取り上げないというのが本案であるとするならば,ここは正に別案としてでも提案があげられてしかるべきではないかと思います。私個人の考え方はむしろ本案と別案が逆ですので,その意味では余り適当な例ではないのですけれども,しかし,一つの例といえるかもしれません。 ○中井委員 私も全体的なことになるわけですけれども,前々回,筒井幹事から中間試案の取りまとめの仕方についてある程度,絞り込む方向で考えたいというのが一つ,それから,絞り込んだときでもある程度,方向性を積極的に明示していくという考え方が示されたかと思います。そのような基本的な考え方について,私も賛成をさせていただいたと思っております。ただ,これまで3年間,議論してきて積み重ねたものをこの段階で整理するわけですから,コンセンサスの得られる見込みのないものについては,この段階で中間試案にも取り上げないという判断は,それ相応に理由があると思いますし,反対はいたしません。   しかし,それであっても,中間試案というのが実質上,国民に対して民法改正の方向性を具体的に提示して,その意見を聴く極めて重要な機会だと認識しておりますし,前回の中間論点整理についてのパブリックコメントでは必ずしも方向性が見えないまま,網羅的に聴いておりますから,意見が必ずしも明確な形では出ていないとも感じております。したがって,そういう意味でも今回のパブリックコメントは極めて重要だという認識をしているわけで,その前提となる中間試案の対象が,これまで議論してきた中で余りにもざっくりと落とし過ぎるのは,いささかもったいないと。山本敬三幹事がおっしゃられた1点についても,今回,論点として取り上げないとなっていますけれども,そのほかにも幾つか載せるべきではないか,問うべきではないか,そういうものについては,この4回の審議の中で積極的に取り上げていただきたいと感じております。それが一つ目。   二つ目は,方向性を示す,それに対して意見を聴くという基本的な方向性についても,先ほど申し上げましたように異論はないんですが,今回のたたき台の第1を拝見したとき,提案とそれに対する(注)のみになっています。しかし,この中の幾つかの論点,個々具体的に審議する中でまた申し上げたいと思いますけれども,いまだ優劣の付け難いもの,国民に対しては甲案と乙案と並列的に聞いてもよいような項目も少なからずあるのではないか。それに対して,一つを取り上げるのみで他を取り上げない,若しくは(注)の中で極めて弱いトーンでしか触れない。こういう提示の仕方がいいのかというと,論点によっては並列的に聴くほうがいいものがあるのではないかと感じております。だから,その辺りも,それが先ほど潮見幹事が,別案とおっしゃられるものが,場合によっては甲案と乙案という形で,並列的に取り上げるのが好ましいと判断するときにはそのような形に修正する,若しくは主たる案は原案どおりでいいとしても,潮見幹事のおっしゃられたような提案を明確に出すとすれば別案として,場合によってはゴシックになるのかどうか分かりませんけれども,提示する。そのような工夫を是非していっていただきたいと思っております。 ○筒井幹事 ありがとうございます。一般論としては,山本敬三幹事と中井委員の御発言に全く異存はありません。我々の当面の判断として,正にたたき台として,取り上げないという仮の判断をして御提示したものについて,取り上げるべきであるという御意見を頂くのは,この審議の場の役割ですので,それについては,是非,御意見を頂きたいと考えておりますし,それに対して,およそ書き直す気はないとか,新しい論点は一切取り上げないという姿勢で審議に臨んでいるわけでは,もちろんありません。頂いた御指摘を踏まえて,もう一度,事務当局で考え直してみたいと思っております。   山本敬三幹事から御指摘いただいた点については,今回のたたき台の中では,第1の「1 法律行為の意義」のところで取り上げることが考えられる論点ではないかと思います。ここでは,法律行為という用語の意味を知る手掛かりが何もない現状を改め,契約がその代表例として含まれていることを明文化するという提案を掲げておりますが,それとともに,法律行為の意味についても手掛かりとなる規定を設けるべきではないかという御意見を,例えばここに(注)として書くのか,本文で明記するのかといった点について,更に事務当局で検討したいと思います。また,「任意規定と異なる慣習」について頂いた御意見についても,改めて検討してみたいと思います。 ○山本(敬)幹事 その点については,その方向で御検討いただきたいと思います。部会の審議のときには,法律行為の定義のみを定めるという考え方もあるけれども,定義し切れないということで,かなりたくさんの異論が出ていたように記憶しています。だからこそ,基本原則に当たるものを規定として分けるか,分けないかということは別にあるかもしれませんが,定義ではなく基本原則に当たるものを明示する必要がある。ただ,その中身については多少の異論があったところでしたので,それを踏まえて御検討いただければと思います。   それ以外に,細かい表現についても当然,この場で取り上げてよいといいますか,それがむしろ必要だと理解してよろしいのですね。それについて申し上げてよろしいでしょうか。「公序良俗」の(2)「暴利行為」に関する部分ですが,基本的にはおまとめいただいた方向でよいと思いますが,2点,できれば本案,しかし,それが無理でも別案という形で追加できないかということがあります。   まず,いわゆる主観的要素として,このような形でおまとめいただいたことは,私はよいのではないかと思います。あり得るとすれば,困窮,経験の不足,知識の不足という例示に当たる部分をどこまで書くかということで,趣旨からしましても,この三つでなければならないということではないのだろうと思います。部会審議では,従属状態あるいは抑圧状態を利用するという形態も例として挙がっていました。そして,これを挙げておくことは,理論的だけではなく,実践的にも大きい意味があるところです。部会でも出ていた状況の濫用に当たるものを認めることはできないかという考え方をこれで全部ではないかもしれませんが,一部でも受け止めることができるようになると思いますし,それを明らかにするという意味があると思います。その意味で,これを付け加えられないかというのが1点目です。   もう一つは,客観的要素のほうで,ここでは,「著しく過大な利益」,「著しく過大な義務」が挙げられています。私個人は,「不当な不利益」等でよいのではないかという意見を申し上げましたけれども,それでは賛同が得られないということで,こうなっているのだろうと思います。それは,そうならざるを得ないのかもしれませんけれども,それにしても「著しく過大」というのは,二重に表現が掛かっていまして,これは余りに強調が過ぎているのではないかと思います。その意味では,「著しく」を残すとするならば,「著しく不当な」にする,ないしは,「過大な」を私は残すべきではないと思いますけれども,残すのであれば,「著しく」を除くか,どちらかではないかと思います。私としては,「著しく不当な」という辺りで統一できないかと思います。   それが表現に関する提案で,慣習については,潮見幹事の御提案に全面的に賛成したいと思っています。「意思能力」については,後で潮見幹事のほうから御意見がありそうですので,そちらにおまかせしたいと思います。 ○潮見幹事 そこに書いているところをお読みいただいたら,それによって発言に代えますのでお読みください。要するに,考え方自体はこれでいいかと思うんですが,「法律行為の結果」という,この表現は余りにもまずいというのをそこに書かせていただいたとおりです。あとは山本敬三幹事が後で補足されるのであれば,発言していただければと思います。 ○佐成委員 今,山本敬三幹事から「暴利行為」の表現についての御指摘がありましたので,それに関連して申し上げておきます。経済界としては(注)で書かれてあります考え方を従来からおおよその前提として考えているということでありまして,今後の合意形成ということを考えますと,せいぜいこの辺りまでがある意味では経済界としても譲歩し得る限度なのではないかなと感じます。ところが,今,山本敬三幹事は更に拡張的な表現ぶりを提示されようとされておりますが,果たして,それで本当に合意形成が得られるのかという点については,若干,私は疑問を感じております。むしろ,経済界には,そもそも規定を設けるべきではないという意見もあります。けれども,そこを何とか説得して判例の部分までは条文化するということも考えられないわけでもないのです。ですから,合意形成ということだけを今,念頭に起きますと,あまり拡張的に刺激的なゴシック体にしてしまうと,反対のコメントが相当程度出てしまうということもありますし,そこら辺は十分,お考えいただいたほうがいいのではないかなと感じた次第です。 ○潮見幹事 読み上げなければ議事録に書いていただけませんか。それとも,今ので読んだことにして後で入れてよろしいか。いいですか。   1の下のところを落としていましたので,申し添えます。すみません。   これも先ほどの「任意規定と異なる慣習」と同じように,法律行為の場面での意思能力が欠けている場合の法律行為が,その効果がどうなるのかというので,無効か,あるいは取消しかということでいろいろ議論があったと思います。また,取消しという方向で考える立場についても,これもまた,一定の支持と論拠が示されていると思っているところでして,これも先ほどの「任意規定と異なる慣習」と同じように,もし賛同が得られるのであれば,せめて別案のような形で付記をしていただいて,国民に問うということにしてはいかがかと思います。 ○大村幹事 先ほどの「暴利行為」についてですけれども,基本的にはここに書かれている方向で案をまとめていただきたいと思います。その上で,山本敬三幹事の個別の指摘について賛成いたします。   佐成委員から危惧が示されまして,反対あるいは懸念を示される方を説得するためには,一定の線引きが必要であろうというお話がありましたが,それは御意見としてよく理解できます。ただ,ここに引用されております判例法理について一言申し上げておきます。大判昭和9年5月1日ほかとありますけれども,大判昭和9年5月1日は暴利行為のリーディング・ケース,最初のケースでありますが,この定式は妥当ではないということがあちこちで言われてまいりましたし,判例も現在の状況で見ますと,この線を大幅にはみ出しているというのが実情ではないかと思います。判例の線をそのまま認めようということですと,現在の判例の線というのを考慮に入れて,それが過度に広がらないような文言を考えていくというのが適切ではないかと思います。   もう一つ,別の点についてですけれども,第1の1の「法律行為の意義」についても一言申し上げます。この前の審議のときには,こういうものを置くかどうかということが主たる争点だったと了解しています。今回は,そういうものを置こうということで具体的な御提案がされているのだと思いますが,それには賛成いたします。「契約のほか,単独行為が含まれるものとする」ということで,単独行為とは何であるか分からないから,例示として取消しを挙げられたという趣旨だと了解いたしました。しかし,一般の方々にとって取消しというのが単独行為の例として適切なものであるかどうかということについては,やや疑念がないわけではありません。例えば「契約のほか,遺言その他の単独行為が含まれるものとする」というのではなくて,取消しというのを特に選ばれた理由が何かあるのであれば,お聞かせいただきたいと思います。 ○鎌田部会長 何かありますか,その点について。 ○筒井幹事 特に深い考慮をしたというよりは,代表例として取消しや解除の意思表示といったものを想定し,その中から差し当たり取消しを例示として書いたというのにとどまりますので,ただ今,頂いた御指摘を踏まえて,考え直そうと思いました。 ○大島委員 私も「暴利行為」についての意見を申し上げます。第2読会では産業界の委員を中心として暴利行為の明文化に反対する意見が多く,また,それを反映して,(注)に規定を設けるべきではないとの考え方が示されているものと思います。これは中間試案のたたき台全般について言えることだと思いますが,「暴利行為」の箇所のように(注)に二つの案を記載するのは分かりづらいと考えておりますので,例えば(注1)とか(注2)のように分けて,表記するように御検討をお願いいたします。また,規定を設けるべきではないとする考え方の理由についても,(概要)に盛り込んでいただきたいと考えております。   なお,暴利行為に関しましては第2読会の議論の際に私から,暴利行為のみを明文化することは,民法90条の一般規範としての意味合いを弱めるのではないかとの意見を述べさせていただきました。今回のたたき台では暴利行為が公序良俗違反の一類型なのか,それとも別の類型なのかが不明確であり,第2読会までの議論と異なっていると感じますので,両者の関係,法的性質についても明示していただきたいと思います。 ○山野目幹事 引き続いて,1の(2)の「暴利行為」について意見を述べさせていただきます。中間試案は是非,現在,御提示いただいているような仕方で本文の部分についての基本思想をこのような仕方で御提示いただき,また,(注)も体裁については工夫の必要があるかもしれませんが,基本的にはこのような骨格で起草いただきたいという意見を述べさせていただきます。その内容的な適切性については,大村幹事がおっしゃったとおりであると感じます。文言につきましては幾つか御意見がありましたところを踏まえて,事務当局において精査いただきたいと考えます。   そのような際の参考にする趣旨で意見を述べさせていただきますけれども,確かに山本敬三幹事がおっしゃるように「著しく」と「過大」が重複して用いられているのは,量的ないし程度の概念が重複して用いられている嫌いがございまして,推敲したほうがよいように感じます。それとともに,「不当な」というふうな評価の匂いの強い言葉にすることによって,佐成委員や大島委員が御注意になったような懸念が生ずるということもあるのかもしれません。私の一つの感じ方ですけれども,部会資料の2ページのほうに登場してくる「著しく過当な」というものは,必ずしも程度,量的な概念の繰り返しにはならず,「過当な」という日本語が熟しているかどうか,更に検討する必要があるかもしれませんけれども,そういうものも含めて推敲いただきたいと考えます。 ○松本委員 私も「暴利行為」の部分なんですが,山本敬三幹事の御意見に基本的に近い発言になりますし,大村幹事の御意見とも近くなります。現在のこの案だと,ここまでいったら誰だって公序良俗違反と言うだろうという意味では,コンセンサスが取れていると思うんですが,その逆に範囲を狭めていて,これから外れたものについては有効なんだという逆の作用のほうが大きくなるという危険を感じまして,そうなるのなら,むしろ,明文化しないほうがいいという判断になります。すなわち,判例の現段階の到達点を過不足なく書くとすると,これだと絞り過ぎているから,立法提案としては判例を改定して,もっと要件を厳格にしろという方向になってしまっていて,そういうコンセンサスは恐らくないんだろうと思います。みんなが一致する部分はこうだというのは言えても,それを明文化すると,そうでない部分については,今度は逆に真っ白だという話になりかねないというところを考慮して,文言を御検討いただきたいと思います。 ○岡田委員 この「暴利行為」のところで先ほど山本幹事からお話がありました従属状態とか,抑圧状態という言葉を聞いたときに,正にこれは消費者被害だなと思ったですね。今回のこの提案の中で,合理的に判断することができない事情,この中でこの二つを読むのかなと私は勝手に思っていたんですが,それは難しいということであれば,この二つの言葉を何らかの形で入れていただきたいと思います。 ○筒井幹事 「暴利行為」をめぐって様々な御意見を頂きました。ありがとうございます。暴利行為に関しては,この部会の議論が始まった当初から,規定の要否や規定内容について様々な意見があって,大きく意見が分かれていたところであり,むしろコンセンサスを得るのが難しい論点の一つであるとすら言えるところであったと思います。   しかし,この論点については,およそ契約の全部やその一部の条項を無効とすべき場合の一般条項として,あらゆるものを民法90条を根拠として判断しているという現状は,余りにもルールが不透明ではないかという問題が指摘されてきたところであると思います。それは,今回の改正の趣旨にもかかわる重要な問題であると,私は考えております。それゆえに,これまで民法90条を根拠としてきたものの中から,より具体的なルールを抽出し,それを明文化する方向で,これまで議論を重ねてきたところであります。ですので,なおも意見が分かれているということは,今日も改めて認識いたしましたけれども,しかし,何らかの形でゴールにたどり着くための努力を今後も続けていきたいと考えております。そのための一つの案として,今回の案を御提示いたしました。ですので,このような案を中心に据えつつ,他にも様々な意見があることを紹介しながら,中間試案の取りまとめをしたいと考えております。 ○岡崎幹事 「暴利行為」に関して更に一言,述べさせていただきたいと思います。先ほど大島委員からもお話がございましたように,第2ステージの最初の頃に,暴利行為についての議論が行われた際には,経済界出身の委員を中心として慎重な意見が複数出ていたと認識しています。現在の(注)の第2文に,「規定を設けるべきではないという考え方もある。」という形で,この意見を記載していただいておりますけれども,細かい表現ぶりにわたるところで恐縮ですが,「考え方もある」という表現からは付け足し的なニュアンスを感じないではないところがあります。仮にニュートラルに書くとすると,「考え方がある。」ということになるような気がします。また,大島委員から,(注)に書かれた考え方に関しても,(概要)欄に理由を記載してはどうかという御提案がありましたが,その御提案に賛成します。 ○岡委員 簡単な質問を一つと意見の紹介をさせていただきたいと思います。   弁護士会の意見は,第1の1について少なからず反対があったところで,中途半端過ぎるのではないかということです。部会資料の27ページの第6の1については,(注)として「現状を維持すべきであるとの考えもある」と書かれているのですが,第1の1には現状を維持すべきであるという意見の考え方が(注)で示されておりません。この違いは何かというのを最初ですので,是非,お聞きしたいと思いました。当然,改正案を提案しているんだから,反対の人は反対と言えば足りるということで,(注)を記載していないのだろうと思いますが,現状維持でいいという考え方の注記をしているところもありますので,この二つの違いは何かというのが結構気になる人もいますので,この違いについて意味があるのかないのか,その質問をさせていただきます。   それから,「公序良俗」「暴利行為」「任意規定」「意思能力」,基本的にはゴシック体の趣旨について中間試案の方向でいくというのに,弁護士会としては賛成意見が多うございました。最後に「意思能力」のところの表現について潮見先生のペーパーに,潮見先生に御質問なんですが,意見の2行目で「法律行為をする今年の意味を理解」……。 ○潮見幹事 ごめんなさい,「こと」です。 ○岡委員 弁護士会も「結果を理解して」という表現がなじみがないといいますか,何を意図しているのか,意味までは要求しないけれども,結果だけでいいんだという目的のようにも思いまして,その目的には共感できるんですが,その表現として,これでいいのか,こういうコンセンサスは今まで余り議論していないのではないかと,そういう意見がありましたので,コメントを申し上げます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○松岡委員 潮見幹事が書面で出されている「任意規定と異なる慣習」の部分について,基本的には潮見幹事の御意見に賛成です。意思表示について明示の意思表示があるというほかに,黙示の意思表示があるというのは法律家であれば,十分熟知しているので,本案でも論理的には問題ないのですが,あえて「意思を表示したとき」と書きますと,いかにも厳しく何か積極的に明示しないと駄目だというニュアンスになってしまいますので,よろしくないでしょう。むしろ,考え方としては反対の意見として提示されている,そういう慣習があればルールとして従うのは当然で,従わないときにその旨を示せというほうが説得力があります。それゆえ,私は,そちらを本案にするほうがいいと思いますので,御検討いただきたいと思います。 ○三上委員 まず,「暴利行為」に関しては単純に反対だけ言っても仕方がないのですが,本日の議論を聞いておりましても,これだけ厳しくすると範囲が狭まるという松本委員のような反対もあれば,暴利行為として無効になるのが広がるという経済界からの反対という,両面からの反対があるという意味で,規定を設けるべきではないという考え方はかなり強いのではないかと思います。また,揚げ足を取るようで恐縮なんですが,「別案」と「考え方」というと,何か「別案」が強くて「考え方」は付け足し,少数意見のようなイメージがあって,特に(注)の前半の,判例の文章をそのまま条文にするという案は,ほとんど支持の意見を聞いたことがないような気がいたしまして,むしろ,(注)では,このような規定を設けないという「別案がある」とだけ書いていただいたほうがよいのではないかと考えております。   また,細かい文言で,「経験の不足」とか「知識の不足」と言われても,知識や経験が十分な状態で交渉に臨めることはまず我々の経験でもないので,元々の判例は「無経験」,「ない」と言っているわけですから,「欠けている」というぐらいの強い言葉が要るのではないかと思いますが,言葉の問題はこれ以上いちいち取り上げません。ただ,原則反対ですが,残るのであれば「著しく」という言葉は残していただきたい。。   それから,「意思能力」のところでも,「結果を理解し」というと,特にどこまでの結果を理解するのかによってかなり範囲が変わってくる懸念があります。そういう意味では,(注)にあるように,例えば意思能力を欠く状態でされた法律行為は無効とするとだけ書いてしまって,あとは解釈に任せる。現状もそれで十分機能しているわけですし,これでいいのでないかと考えておりまして,私が見る限り,聞く限りでは,結構,これプラス日常行為の部分を付けるというのが,多数の意見ではないかという気がしております。それであれば私は潮見幹事の案でもいいかなとは思っているんですが,この部分と,松岡委員もおっしゃいましたが,92条の部分は「別案」,(注)に書いてあるものを本文にして,本文を別案にするぐらいのほうがいいのではないかと思います。   そういう意味で最後に全般的な話になるんですが,本文と別案とをどちらを本文にして,どちらを別案にするということを,どのように事務局で判断されているのかという部分に,かなり,疑心暗鬼を持っておりまして,発言の数とか,外部意見を募集したときの案の合計とか,そういう客観的な基準の多数に基づいて本案と別案を分けておられるのか,その辺も何がしか御説明されたほうが,私のように少数意見に回るほうが多い人間にはコンフォータブルと考えております。 ○鎌田部会長 ほかに特に御意見がないようでしたら,今までの意見を踏まえて事務当局……。 ○松本委員 「意思能力」にも既に入っているんですか。私も何人かの御意見と同じように,「法律行為の結果を理解して」というのは大変分かりにくい。恐らくここで意思能力といっても,法律行為の内容によって非常に相対的なものなんだということを言おうとして,こういう表現になっているんだと思うんですが,そうしますと複雑なデリバティブ商品なんかを購入する場合に,結果とは一体何ぞやというと,私は全く理解できないわけですから,私は多分,意思能力がないということになって救済されると大変有り難いんですけれども,恐らくそういうわけにはいかないんだろう。とすると,結果では駄目なんだろうと思います。では,代わりに何か適当な言葉が使えるのであれば,それを使えばいいですが,もし適当な言葉が思い付かないのであれば,三上委員がおっしゃったように裸の意思能力という言葉でいくという案も考えられるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。事務当局に対する質問については,ここの部分についての御意見を全部伺った上で,まとめて事務当局から答えてもらったほうがいいと思いますので,そうさせてください。 ○中田委員 「任意規定と異なる慣習」の部分なんですけれども,現在の91条については動かさないという御方針だと理解いたしました。そうすると91条と,それから,御提案の92条,どちらも「意思を表示したときは」になって同じになってしまうのではないかという気がしまして,そうすると,この規定の存在意義が問題となってくるのではないかという感想を持ちました。 ○佐成委員 一言だけ申し上げます。先ほど三上委員が発言された「暴利行為」の(注)のところについてです。全体的なご発言の趣旨は結構だと思います。けれども,別案として,判例をそのまま条文化するような考え方には支持がないから削るという点については,私はむしろそれに近い考え方をもっておりまして,経済界の中にも比較的そういう意見があるかと思いますので,削るというのはやめていただけないかなというところだけお願いします。 ○筒井幹事 様々な御意見をありがとうございます。そのうち「意思能力」に関してですが,「結果を理解」と記載しておりますのは,確かにこのように書いてみると,非常に高いレベルの能力を要求しているというニュアンスが出てしまうというのは,原案の検討の際にも気付いていたことですので,御指摘を踏まえて更に検討したいと思います。「結果」と書きましたのは,幾つかの教科書に,法律行為の結果を弁識する能力といった表現が出ておりましたのを参考にしたものです。他方,弁識という言葉は,理解して判断することを意味すると思いますが,このように分解して書いてみると,随分,高いレベルを要求しているように読めてしまうことが分かりました。そういうことで,もう一度,初めから考え直したほうがよいと思いましたので,引き続き検討したいと思います。   幾つか御指摘いただいたうち,形式にかかわることですけれども,まず,中田委員に言及していただいたことで,私が冒頭に話すべきであったことを忘れていたことがありました。今回の中間試案のたたき台では,検討対象となる規定のうち改正をしないものについては,取り上げておりません。これは,これまでの部会の審議の中でも繰り返し出てきたことですけれども,改正を想定していない規定については,取り上げないというのが一つのお約束事になっております。しかし,中間試案の読者にそのことが的確に伝わるようにする必要があるという問題意識も持っておりまして,このたたき台が一巡した後,二巡目の改訂版に入るときには,その旨を明記する何らかの工夫を考えてみたいという気持ちは持っております。それは,たたき台が一巡した段階で,改めて検討してみたいと考えております。   それから,(注)があるものとないものとの違いに関するお尋ねがありました。どの論点にも反対意見はあるのに,規定を設けるべきでないという意見があると注記されていたり,注記されていなかったりするという違いがあるが,その理由は何かというお尋ねであると理解しました。その違いを抽象的に説明するのは大変難しいんのすけれども,従来の部会資料において,規定を設けるという甲案に対して,乙案として規定を設けないという考え方を紹介していた論点については,そのような異論がある旨の注記をすることによってバランスをとることを想定しながら,私どもとしてはたたき台を作成いたしました。ですので,(注)が付いていなければ反対意見がないということを意味するものではないことは,この議論の中でも確認しておきたいと思いますし,また,中間試案を公表する際にも,その点をアナウンスするようにしたいと思います。   本案と別案の区別についての三上委員のお尋ねについても,基本的に同じお答えになると思いますので,具体的な問題が出てきたところで,そのような御意見を提示していただいて,議論していただければと考えております。 ○鎌田部会長 それでは,本日,頂戴した……。 ○中井委員 すみません。1の「法律行為の意義」のところの内容といいますか,こういうふうに「含まれるものとする」という問い掛けに対しては含まれるだろうと。しかし,これが例示のみが挙げられてどんな形で条文化するのか,逆にこういう問われ方はイメージできないのではないか,こういう問い方が果たしていいのか,若干,疑問に思いました。先ほどの山本敬三幹事でしたか,前の部会資料27では,ここは意義の明文化の問題と効力と二つを問うて,効力については落とすとなっているわけですけれども,効力から意義を明らかにするという考え方もあり得るのではないか。そうだとすると,契約,取消しその他の単独行為,そのほか,意思表示に基づいて効力を生ずる行為,これが法律行為だろうというような,こういう落とした論点を拾い上げることによって明らかにするということも考えられるのではないか。   そういう考え方もあるのではないかというところで発言は終わりですが,今日例えば潮見幹事から具体的な提案が文章で出されているんですけれども,これは,この部会までにするのが好ましいことは言うまでもないことだと思いますけれども,部会後にも議論が続く,若しくは部会の結果を踏まえて例えば弁護士会の中で議論があるというときにそういう意見を表明する,文書で事務当局にお届けするというような事実上のことが考えられるんですけれども,そういうことについては前回,意見があれば事前にどんどん出してくださいという御要請があったこととからも,歓迎と理解してよろしいですね。 ○筒井幹事 あらゆる機会を通じて,御意見をお寄せいただくことは歓迎しております。御質問,御意見は,いつでもお寄せいただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,続きまして「第3 意思表示」について御審議を頂きたいと思いますので,一括して御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○道垣内幹事 細かいところの表現だけの問題なのですが,2の「錯誤」の(2)の2行目に,「上記(1)の錯誤があった場合と同様に扱うものとする」というのがございまして,(概要)のほうを読みますと,錯誤があったというところだけをこれによって満たして,その後の主観的因果関係と客観的重大性というものは,(2)においても要求されるのだという説明がございますけれども,ちょっと分かりにくいかなという気がいたします。例えば,「上記(1)にいわゆる意思表示に錯誤があった場合に当たるものする」とか,そのようなほうがいいかなという気がいたしました。 ○鹿野幹事 私も表現について2点,申し上げたいと思います。   1点目は,今,道垣内幹事がおっしゃったこととほぼ同趣旨なのですが,(2)の本文だけを見ると,主観的な因果関係と客観的な重要性が要件となっているのかが分かりにくく,確かに(概要)を見るとこれらも要求されるのだということが分かるのですけれども,むしろそれは本文に明確な形で示されたほうがよいのではないかと思います。しかも,本文の(1)では,主観的な因果関係と客観的な重要性の要件に係るところが,「表意者がその真意と異なることを知っていたとすれば表意者はその意思表示をせず,かつ,通常人であっても・・」と表現されています。「真意と異なることを知っていたとすれば」という表現は,表示が真意と異なるという表示錯誤の類型を念頭に置いて用いられたものだと思われます。ところが(2)で扱われている錯誤は類型が異なり,いわゆる動機の錯誤ないし事実錯誤が問題となっているので,ここでは,「前提とされたことが事実と異なるということを知っていたとすれば」ということになるのだと思います。ですから,そのような違いがある点も含めて,単に1項の錯誤があった場合と同じと書いたのでは分かりにくく,明確に記載した方がよいのではないかと思いました。   それから,第2点は,第2項の(2)のアのところですけれども,「表意者の錯誤が法律行為の内容になっているとき」と書かれているのですが,これは私にはよく分かりません。恐らくここの部分は,前提とされた事項が法律行為の内容となっていたと評価される場合には,それが事実と違うことは,一方当事者の単なる動機というレベルを超えて,法律行為の内容に関する錯誤になるということを表現しようとするものだと思われますので,この部分を少し検討していただければと思います。一つの案としては,今,申しましたように,前提となる事項というふうな表現をとることが考えられるのではないかと思います。 ○潮見幹事 席上に配布した2ページ目のところに書いているのが正に今,鹿野幹事がおっしゃった後者の点と全く同じことで,例えばということで判例法理を基礎に据えるのであれば,こういうふうな形で書くことも可能かもしれませんねという少し案みたいなものも示しておりますので,また,御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 「錯誤」についてはたくさん意見が出るだろうと思いますので,まず,「錯誤」についての意見を全部お伺いしておきたいと思います。 ○山本(敬)幹事 では,「錯誤」に関して申し上げます。最初の錯誤の意味については今の御指摘のとおりだと思います。  その上で,まず,(2)のイで「相手方が事実と異なることを表示したために生じたものであるとき」とされている点についてですが,これは従来から不実表示として指摘されていたものを錯誤のルールの中で取り込むもので,私はこの方向で進めていただければよいのではないかと思います。ただ,そうしますと,この表示を相手方ではなく,第三者が行う場合があります。詐欺については後のところで提案が行われていますが,それに対応した事柄がここでも必ず出てくると思いますし,そして,これまでの部会でも議論されていたところで,それが現在の提案では落ちているのではないかと思います。後ろの詐欺の規定を準用するということもあり得るとは思いますけれども,少なくともそごを来さないように同じ考え方が当てはまるように修正をする必要があると思います。   その上で,その修正のための事柄として,詐欺に関わる点ですけれども,よろしいでしょうか。その修正に関わる部分としては,「詐欺」の(1)の8ページ目の下から2行目ぐらいで,「媒介をすることの委託を受けた者又は相手方の代理人」という限定がされています。これは,現在の消費者契約法の規定をほぼそのまま代理人に加えて付け加えたものですが,部会のときの意見では,これに限定するのではなく,もう少し広く捉えられるような規定を設けるべきではないかという意見が示されていました。   そのときには,「その行為について相手方が責任を負うべき者」という基準が示されていて,議論があったところです。恐らく内容が必ずしも明確になっていないということで落とされたのだろうと思いますが,部会のときにも申し上げましたように,比較法的にはユニドロワ原則を始めとして,幾つものところが採用している基準ですので,私はこの批判は当たっていないのではないかと思います。いずれにしましても,この点について最低限,別案の形で挙げていただく必要があると思いますし,もし,この場でそれに代わる何らかの基準を上げようというのであれば,例えば「相手方がその意思表示を行うために用いた者」という形など,限定するのでなくもう少し広げる道を更に検討する可能性を置いておいたほうがよいと思います。 ○大島委員 私も「錯誤」のところで(2)のイでは,不実表示という新しいルールを錯誤の一類型として記載されています。不実表示は第2読会までは意思表示の規定の拡充という論点で議論されてきました。仮に錯誤の一類型として位置付けるのであれば,なぜ,不実表示が錯誤であるかについて十分な説明が必要であると思います。不実表示は産業界や労働界から多くの反対意見が寄せられた重要な論点であり,論理的にも詐欺などと同様に錯誤とは異なる独立の類型であると捉える意見もあることから,項目を別立てにするなど分かりやすく中間試案に記載すべきと考えております。 ○鎌田部会長 「錯誤」関連の意見がほかにありましたら。 ○松本委員 2点,一つは(3)のイのところでありまして,いわゆる共通錯誤については表意者に重大な過失があっても取り消せるんだということですが,その意味なんです。すなわち,共通錯誤というのは表面的な合意でもって,一応,契約が成立しているということを前提にして,重大な過失があっても双方から取り消せるという構成が前提にあるのかということです。それとの関係で真意の部分の契約,一致している部分ですね,真意の部分では一致しているから共通錯誤なんでしょうが,そこの部分の契約は一体,どうなっているんでしょうかというところで,共通錯誤について部会で掘り下げた議論は余りしていなくて,ここの重大な過失があって取り消せる,取り消せないというところで急に出てきたので,少し議論が未熟ではないかなという印象があるのが一つ。   もう一つ,不実表示の部分で山本敬三幹事がおっしゃった第三者が事実と異なることを表示した場合について,詐欺の場合と同じようなルールを入れるべきだという御意見ですが,私は,入れないという事務局提案は,それなりに理由があると思うんです。つまり,第三者の詐欺というのは第三者がだまそうという故意で発言をしている,情報提供しているわけですが,不実表示の場合の相手方との関係で,相手方の故意を要求しない,相手方が誤った情報を提供したという客観的要件だけでいいとしていることは,取引の当事者であるということからくる特性だと思います。   したがって,第三者が故意でもなく過失でもなく,単に誤ったことを言ったということで,それを取引の相手方が知っていたという要件だけで不実表示として取り消せるというところまで行っていいのかどうかという点については疑問がありまして,第三者と相手方との間に関係が深い場合,たとえば金融機関と売主が同席をして勧誘しているという状況下で,どういう説明をしているか,もう一方の当事者はきちんと分かっているというような状況の場合は,適用してもいいんだと思うんですが,適用できる場合はかなり限定されるのではないかと思います。 ○筒井幹事 その議論はそれぐらいにしていただくこととして,安永委員から発言メモが提出されていますので,読み上げます。   「2 錯誤」の(2)イについては,これまで「意思表示に関する規定の拡充」で提案された「不実表示」の規定を「錯誤」の箇所で規律する提案と考えます。   これまでの審議で発言してきたように,不実表示については応募者が採用時に不実表示をしたことを理由に,使用者が労働契約締結後に採用取消しを行う危険があり,労働者の雇用保障及び思想・信条の自由やプライバシー,人格権の保障が現行法制よりも更に交代することを懸念しているところです。   不実表示を2の(2)イのように規律することについて,当方の懸念が解消されるのであれば,この案で進めていただきたいと考えますが,何か事務局から関連して御説明があれば聞かせていただきたいと思います。 ○筒井幹事 よろしいでしょうか。引き続き発言いたしますが,先ほどの大島委員の御質問とも関わるかもしれませんけれども,不実表示のルールをここに配置いたしましたのは,従来の部会審議から一貫したものであると認識しております。これまでの部会資料では,項目としては別立てにしておりましたけれども,不実表示に関しては,我が国におけるこれまでの裁判例の分析として,動機の錯誤の一類型,動機の錯誤のサブルールとして位置付けられているという理解があり,そのことを部会資料でも紹介しながら,これまで議論していただいてきたと思います。今回のたたき台では,それに沿った形で具体的に錯誤の中に位置付けて提案しております。ですので,このように位置付けた場合の実際上の当否について,今後,更に御議論いただければと思います。   また,安永委員からのお尋ねにつきましては,採用の場面において応募者が事実と異なることを告げてしまった場合のトラブルに関する御懸念は,これまでの審議の過程でも繰り返し御指摘いただいてきたことですので,その趣旨自体は理解いたします。もっとも,不実表示に関して,このように動機の錯誤の一類型として位置付けた場合には,要素の錯誤に関する要件がかぶってきます。不実表示がなければ意思表示をしなかった,それが通常人であってもそうであったと認められるという要件がかぶってくるという点が,重要なのだろうと思います。そしてまた,重過失がないという要件がかかることについては,異論もあろうかとは思いますけれども,現在の案であれば,この重過失要件を通じて一定の絞り込みが図られるという面もあると思います。動機の錯誤の一類型として位置付けた場合に,このような要件がかかってくることを確認していただいた上で,それでも異論があるのかどうかをご検討いただきたいと考えております。 ○山川幹事 このアの位置付けについてはおっしゃるとおりかと思います。それで,安永委員から示された御懸念に対する対応の一つですが,議論したときに,例えば人格に関わるような事柄でしたら信義則等によって,そもそも聞いてはいけないとか,そういうようなことの対応も可能であるという御意見か,御説明があったと記憶しています。   それを文言上,反映させるにはどうしたらいいかということですけれども,先ほど来,(2)の柱書きのところにも御意見があって,道垣内幹事,鹿野幹事の御意見に私は同感なんですけれども,それの表記上の問題ですが,前提となる事項というところを先ほどの信義則違反みたいなものが除かれるという趣旨で,例えばですけれども,前提となるべきなどと表現していただくと,その辺りの懸念が解消されるのではないかと,現実に前提としていたということだけでは,懸念が解消しづらいのかなと思いますし,前提となるべきとか,すべきとかいう表記でも,特に通常,問題となる規律には影響を与えないのではないかと思いますので,その辺りももし可能でしたら御考慮いただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○岡委員 弁護士会は不実表示を錯誤の一類型とする方向性に賛成でございます。表現のところでございますが,(1)の客観的重大性の表現については異論がございました。消費者,事業者概念も民法に入ってくるとなると,通常人という言葉を使ったときに,非常に意味が分からなくなるのではないかという問題点と,不実表示で逆適用の問題もいろいろ議論されておりました。そのようなところから,客観的重大性の表現については山本敬三先生が法曹時報の論文に書かれた表現に,「そのように考えるのが合理的であるとき」という表現を提案されていたと思いますが,そのような通常人という言葉ではなく,合理的とか正当性とか,そのような言葉をここで使っていただきたい,使うほうが適切ではないか,こういう意見がございました。 ○佐藤関係官 手短に御説明させていただきます。先ほどお話にありました第三者による不当表示ですが,若干,懸念している例がございます。具体的に申しますと有価証券,株式あるいは社債を販売する場合に, 発行会社が目論見書というものを作成いたします。一方で,社債や株式を証券会社が一旦, 全部,引き受けて,それをお客さんに販売することがございます。お客さんに販売するときには, 発行会社の責任で作られた目論見書を証券会社がお客さんに示す訳ですが,その目論見書に仮に不実表示があった場合には,一体,どう取り扱われるのか。証券会社が不実表示をしたのか,あるいは第三者たる発行会社が不実表示をしたことになるのか,まず,その解釈がどうなるのかというところが1点,懸念するところでございます。解決策として,一つの方策としては, 第三者による不当表示について先ほど山本敬三幹事の御発言にございましたように, 詐欺と同様に規定を設けるということが明確で,よいのではないかと考えるところでございます。   もう1点は解釈の問題になるのかもしれませんが,今,申し上げた例で, 証券会社の行った行為が不実表示と解釈されるとするならば,その行為を全て不実表示なので取消し可能とすると,取引の安定性にとってやや酷な面があるのかなと感じます。提案というよりは,注意書きあるいは(概要)の記載ということかもしれませんけれども,表示をした側の故意や過失などを勘案するという,そういう考え方なり提案もあるというところを(説明)として補足いただければ有り難いと感じる次第でございます。 ○中田委員 2の(2)のイですけれども,従来,不実表示と言われていたものをここに取り込んだということですが,私の印象ですと,従来,不実表示という言葉が少し表に出すぎていて,そのためになかなかコンセンサスが得られなかったのではないかと思います。それを今回,錯誤の一部に取り込むことによって,コンセンサスが今,できつつあるのではないかと思いまして,この方向がいいと思います。現在の詐欺や錯誤の規定がそれで十分なのか,あるいは十分に分かりやすいのかについては,多分,そうではないというのが一般的な理解であると思います。その内容を具体化し明確化していくという,この方向で進めていただければと思います。 ○笹井関係官 先ほど,山本敬三先生から,第三者の不当表示についての修正意見を頂きました。その趣旨について少し確認させていただければと思いますが,「第三者の詐欺と同様に」とおっしゃいましたのは,詐欺についての部会資料で申しますと,8ページの(1)に書いてあるものと同じような規定を設けるべきだということであるのか,民法96条2項と同様の規定を設けるべきであるということなのか,いずれなのでしょうか。 ○山本(敬)幹事 詐欺については,現行法は,第三者が詐欺をした場合には,相手方の主観的要件を課して取消し可能性を認めているのに対して,相手方の主観的要件に関わりなく取消しを認める場合として(1)を挙げておられるのだと思います。不実表示について,それと異なる扱いをする理由があるかというと,私はないと思いますので,現行96条2項に当たるものに加えて,私は代理人と「媒介」に限定するべきではないと思いますけれども,いずれにしても,不実表示についても準用するというかどうかは別として,同じ考え方が当てはまるようにしていただきたいということで先ほど申し上げました。 ○内田委員 佐藤関係官から,目論見書の例を挙げて第三者の不実表示についてのルールが必要ではないかという御発言があったのですが,この不実表示を動機の錯誤の一類型として位置付けるというのは,特に下級審の裁判例の中に既に見られる判断ですので,現行のルールを変更するとか,何か追加するということではないわけですね。   したがって,今の目論見書の場面も証券会社が発行体から商品を購入し,顧客に販売する。そのときに発行体が作成した目論見書を証券会社が顧客に提示するという場面で,その目論見書に誤った記載があったときに顧客が錯誤に陥り,それが要素性のある錯誤であったというときにどうなるかというのは現行法にある問題でして,そのような相手方の不実表示の場面について要素の錯誤の要件を満たした場合には,どういう文言を使うかの問題はありますが,法律行為の内容になったかどうかということを問わずに,錯誤の可否を判断するというサブルールを明確化しているのが提案の趣旨だと思います。ですから,もし,ここで第三者のルールを入れるとすると,現行法にないものを追加するという意味を持つのではないかと思います。 ○佐藤関係官 内田委員がおっしゃることは理解できているつもりではありますが,私が若干懸念しておりますのは, 表示者の誤った認識が相手方の事実と異なる表示により生じた,この事実と異なる表示により生じたというのをどう読むのか。現行における動機の錯誤においての要件をどう読むのかということと関連しているのかもしれませんが,ごく僅かであっても何らかの形で事実と異なる表示がされた場合には,錯誤に陥った相手方はすべからく取消しができるのだということになるならば,第三者が行った不実表示であるか否か,その辺りの関係性をもう少し整理すべきではないかと思い,先ほどの発言をさせていただいた次第でございます。 ○深山幹事 錯誤の点についてはたくさんの意見が表現ぶりの点も含めて出ているので,今,ゴシック体で提案されているものは相当程度,変更されて,この後,再提案されのではないかとは思うんですが,その関係で2点申し上げます。1点目は念のための確認的な意味で申し上げますが,議論に出ている(2)の動機の錯誤というものを何らかの形で明文化するときに,(3)や(4)の要件といいますか,例外的な要件がかぶってくることが前提の議論になっていると思いますが,今の表現ぶりは,「意思表示をしたとき」というところから書き始まりがあって,やや分かりにくいので,全体の構成を見直す中で少し表現を整理をしていただく必要があるのではないかということです。もう一つは私自身の理解が,勉強不足かもしれないんですが,今回,(2)のイで不実表示の規律をここに入れた点です。不実表示の場面というのも,動機の錯誤の一場面といいますか,同種の類型の一つと位置付けられるので,そういう意味では,(2)に入ってくること自体に違和感はないんですが,他方でアとイの関係なんですけれども,不実表示と言われている場面であって,それを錯誤の一類型として取消しの対象とするときに,前提としてはその錯誤が法律行為の内容になっている,ここの言い方は錯誤に係る前提事実がと直すべきだという指摘はそのとおりだと思うんですが,要は法律行為の内容になっているときでないと,不実表示の場合であっても,錯誤という効果に結び付かないのではないかと私自身は理解をしていて,アとイがいずれかに該当するときはという形で横並びになる関係なのかどうかという疑問があります。これは理屈の問題なのかもしれないのですが,こういう形で錯誤の中に取り込んで議論するのであれば,両者の関係についても御検討いただいた上で全体を整理していただければと思います。 ○松本委員 第三者による不実表示のところの,山本敬三幹事の詐欺の規定と同じ趣旨の規定を置くべきだということの意味が必ずしも私は理解できていないから,こういう発言になるかと思うんですが,詐欺に置かれているのと全く同じような規定を置くということが果たして適切なのかということは,慎重に事務局で検討いただきたいということです。   佐藤関係官がおっしゃったような発行会社が作った目論見書を使って証券会社が販売する,別に発行会社の人が同席をして,その人が説明をして,隣で証券会社の人が株を持って売るということのほうがもっと分かりやすいわけですが,そういう場合は,たとえ第三者である発行体の人に故意がなくても客観的に誤った情報で,かつ,それが重大な情報だと,1か所でも誤っていればという意味ではなくて,契約の締結をするかどうかについて重大な,重要な情報であって,客観的に誤りであれば取り消せるという,契約の相手方が誤った重要な情報を提供した場合と同じように扱っていいと思うわけですが,そうではない,全く無関係な第三者が全く無関係なところで誤った情報を提供して,それを信じた一方当事者が取引に臨んでいるという場合に,詐欺の場合と同じように誰かが誤った情報を提供した結果,この人は誤解をしているんだということを知っていれば,それが要素の錯誤,契約内容に取り込まれていなくても,全て取り消せるという方向でいいのかどうかと。   消費者取引の場合は,そこまで保護すべきだという考えはあると思います。あえてもっと言えば,相手方が誤解をしているということが分かっていれば,それは説明すべきだという義務が消費者取引の場合はあるんだという考え方は十分あり得ると思うんですが,一般的なルールとして,そこまでいくべきなのかどうかは,かなり議論する必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。「錯誤」以外の「意思表示」関連の提案についての意見がございましたらお出しください。 ○山本(敬)幹事 「心裡留保」について意見を申し上げたいと思います。心裡留保については,部会の当初からですけれども,欺罔型の心裡留保とそれ以外の心裡留保を区別すべきだということを私も主張してきましたし,第31回会議でも,部会資料で甲案として,原則として現行93条を維持した上で,相手方をだまそうとするタイプの心裡留保の場合には,相手方に過失があっても原則どおり,意思表示は有効とするという案が示されていました。今回,それと異なって現行法をそのまま維持することとされています。それは欺こうとするとか,欺罔型の要件の定め方が必ずしも安定的ではないという判断によるのではないかと思います。   そのような判断はあり得るとは思いますけれども,現行法のまま維持しますと,現行法が抱えている問題が残されたままになることは指摘しておかなければならないところです。例えば,部会でも出ていましたけれども,表意者が相手方の業務を妨害するために,本当は契約するつもりがないのに契約をするという申込みをしたケースで,表意者が契約するつもりがないことを相手方が知ることはできたというときには,現行法を維持しますと,契約は無効ということになります。そうすると,業務妨害の意図が成功するわけでして,このような事態が残ってしまうのは大きな問題です。そして,学説でも,このような問題があることが意識されて,現行法の下でも,意思表示が無効になるのは,相手方に過失があるだけではなくて,重過失がある場合に絞るべきだという見解も主張されてきたところです。このような問題が,この提案ではそのまま残ってしまうことは,やはり大きな問題ではないかと思います。   その意味では,私はこれが本案だと思うぐらいですけれども,問題を意識していただくためには,最低限,別案として前の部会の甲案に当たるものを示す必要があると思います。そして,後のほうでも出てくる「代理」その他の様々なところで,この考え方が応用される場面があるということも,これまで部会で申し上げたところです。その意味でも,これは心裡留保に限った問題ではありませんので,改めて強調しておきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○三上委員 1か所,「錯誤」のところで,(注)の不実表示を設けることに関する意見なんですが,大島意見でも,あるいは産業界には基本的にBtoBの取引に不実表示をそのまま持ち込むということに関しては,非常に慎重といいますか,反対の意見が強いわけです。ある程度,事業者間というのは化かし合いといったら言葉が悪いですが,当然,書いてあることが真実かどうかを調査して取引をするというルールがありますし,これは立場の強いほうが,虚偽を言って取引をするという場面のことを想定しているのではなくて,むしろ,立場の弱いほうがなるだけ,例えば状態良好とか,信用万全とか,事実に反するようなことを告げて取引しようとすることは間々あるわけで,そういったことをBtoBに一般論として不実表示と認めるということに関しては,影響が出てくる可能性があるということを危惧する意見が多数でしたので,「・・考え方がある」という部分も設けないものを,理由としてはBtoBにそのまま適用することに対する反対という理由で,別案として取り扱っていただければと思います。すみません,遅れまして。 ○神作幹事 後に検討される箇所の先取りになりますけれども,代理権の濫用については従来,民法93条ただし書を類推適用するということで心裡留保と同じ規律が適用されてきたところでございます。ところが,今回,資料17ページのご提案では,代理権の濫用の場合の第三者保護について重過失の基準に変更されています。これに対し,心裡留保に関する民法93条ただし書のところは変更されていません。私は93条の心裡留保について,ただし書で重過失基準を採用していないようですので,代理権の濫用の場合もそれに合わせることになるのかと思って資料を拝読しました。心裡留保の場合と代理権の濫用の場合とで同じ基準が適用されてきたからです。このたび,心裡留保と代理権濫用とでルールを分けることにした理由について教えていただければと思います。逆に,分ける理由がなければ,むしろ93条ただし書についても重過失基準を採用することが考えられるようにも思いましたので,この点について教えていただければと思います。 ○金関係官 直接のお答えにはなりませんけれども,代理権濫用のほうについて形式的な説明だけいたしますと,ここでは判例法理である民法93条ただし書の類推適用という発想を採らないことを前提としておりますので,民法93条ただし書からは完全に離れたところで代理権濫用の法理を再度構築し直すことを前提に改めて要件を検討した結果,重過失とすべきだという判断をするに至ったということだと思います。 ○神作幹事 実質的な利益状況が両者の基準を分けることを正当化するほど大きく異なるという御判断をされたのでしょうか。 ○筒井幹事 御指摘いただいた趣旨はよく分かりましたので,検討させてください。 ○山野目幹事 11ページの4の(4)のところに「意思能力を喪失し」という概念が登場し,同じように12ページの5のところにも,「意思能力を欠く状態であったときも」という概念が登場し,これらに登場する意思能力は,今般,御提案いただいている法律行為の意味を理解する能力という趣旨でお書きいただいたものと理解し,そのような理解を前提に意義のある提案として成り立っていると理解いたしました。決して事理をわきまえる能力という意味ではないのだろうと理解しました。確認のコメントです。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○三上委員 4の97条関係の(3)は任意規定という理解でよろしいのでしょうか。恐らく「正当な理由」というのは,例えば住所変更を怠ったぐらいでは入らないという認識でおるんですが,金融実務ではみなし送達ということで届け出の住所に発送したときには,適時に到達したものとみなす,という規定が入っておりまして,この規定が入ったとしても,これは飽くまで任意規定で,別途合意すればそれは当事者間では有効だという理解でよろしいでしょうか。 ○笹井関係官 基本的には,任意規定ということになろうかと考えております。 ○筒井幹事 様々な御意見を頂きましたので,それを踏まえてもう一度,検討したいと思います。その中で,表現ぶりに関しても様々な御意見を頂きました。例えば,「錯誤」のところで,表意者の行為が法律行為の内容になっているときという要件の表現ぶりについては,これだけでは適切に意味が伝わらないのではないかといった御趣旨の御意見を頂きました。それを踏まえて再検討したいと思いますが,それと同時に,前々回の会議で申し上げたことですけれども,これは飽くまでも中間試案であって,これがそのまま条文になるという前提で案文を提示しているわけではありません。そのことを踏まえて,現時点での部会としての審議結果を提示して国民の意見を問うために,ある程度,分かりやすさを重視して表現することも必要だと思います。そういう趣旨で,表現ぶりについては,今後さらに詰めていきたいと思います。条文化の際には更に慎重な検討が必要になるということは,もちろんそうであると認識しております。 ○松本委員 今の筒井幹事の御意見との関係で,11ページの(3)2行目の「相手方が正当な理由がないのに到達に必要な行為をしなかったためにその意思表示が相手方に到達しなかったときは」と,この「到達に必要な行為」という用語を見て,私は一体,何を意味しているのだろうかということで,クエスチョンマークを付けました。それで,(概要)を読んでいくと,3のところに相手方が正当な理由なく意思表示の受領を拒絶し,又は受領困難若しくは不能にした場合と,これでようやく中身が分かったわけなので,むしろ,(概要)に書かれていることを本文に入れるほうが分かりやすい民法ということにふさわしいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,引き続き第4の「代理」について御審議いただきます。一括して御意見をお伺いしますので。 ○道垣内幹事 「代理」は101条の関係から始まっております。したがって,99条,100条というのは変更しないというのが前提となっていると思うのですが,そのことと,18ページの7の(2)というのが採っている前提との関係が若干気になるところです。つまり,これは代理人が自らを本人と称して権限外の行為をした場合を念頭に置いて,110条と同じように扱うということなのですが,その大元には,代理人が自らを本人と称して権限内の行為をした場合というのがあるはずです。しかるに,99条と100条は,そのような場合を念頭に置いている規定はありませんので,もし,仮に7の(2)を置くのであるならば,その前提としての原則が必要になるのではないかという気がいたします。 ○山野目幹事 部会資料の15ページ,「4 自己契約及び双方代理」の問題について意見を述べさせていただきます。大づかみに申し上げますと,ここでは(1)のところで顕著に表れておりますけれども,自己契約及び双方代理の効果として無権代理無効の効果が当然に生ずるものとする構成,すなわち,当然無効構成を捨てて,言わば形成権的に効果不帰属の意思表示があったときに初めて効果が否定されるものとする,言わば効果不帰属意思表示形成権構成に改めるという提案を頂いていて,それと表裏をなしますが,当然無効構成は16ページの注記のほうに言わば落としてあるという御提案を頂いているところであります。私は率直に申し上げまして,このような仕方で中間試案を提示し,論議を喚起するガイドとしていくことについて,それで適切な論議の喚起ができるのかということについて,少なからぬ躊躇を感ずる部分がございます。   部会の論議を顧みて,確かに効果不帰属意思表示形成権構成というものが語られましたけれども,その論議がされる都度,それに対して抵抗感を示す意見もかなり有力に唱えられていたと感じます。現行の法律効果の理解を大きく改めるものでありまして,ここのところは慎重にしていただくという見地からいえば,感覚としては,むしろ,当然無効構成を本来の案とし,効果不帰属意思表示形成権構成を注記とするくらいの感覚が,そのくらいの慎重さの感覚があってもよいのではないかと感じます。実際上,及ぼす影響としても自己契約や双方代理に当たる法律行為を原因とする権利変動は,例えば不動産登記の場面で登記官の審査の対象になります。   今まではそれらに当たることが添付情報などから明らかである場合には,登記申請を却下してきたはずでありまして,そうではなく,このような実体法理解の変更が行われますと,一つの考え方の可能性としては,一旦は登記がされ,効果不帰属の意思表示があるのを待って登記を抹消するというような法律運用になる変更を迫る部分があると思います。登記の点は別に考えるということもできなくはありませんが,少なくとも,そのような議論に発展させていくような実際上も問題の大きい今回の論議,問題提起になっているということを踏まえて,中間試案の作成,推敲に向けて事務当局のほうにおきまして,是非とも,このような観点も視野に入れて御検討いただきたいと感ずるものでございます。 ○中井委員 今の4の点ですけれども,山野目幹事の御意見に弁護士会は賛成します。先ほど中間試案の作り方について,場合によっては甲案,乙案というような考え方もあり得る,今の山野目幹事は逆で別案を本案にという御意見でしたけれども,この辺りは正に審議の過程でも対立のあったものではないかと思います。ここは,是非,提案,聴き方も含めて御再考いただけないかと思います。 ○筒井幹事 御意見はよく分かりました。念のための確認ですが,5の「代理権の濫用」の効果についても,ただ今の御意見は関連することになりましょうか。 ○山野目幹事 5の「代理権の濫用」については,少なくとも私は意見を留保させていただきます。こちらは4で扱っている自己契約・双方代理ないしは利益相反と若干性質が異なる部分があると感じます。そこまでに今日はさせていただきます。 ○中井委員 弁護士会で議論したときは,4と5については甲案,乙案型で検討するのが適当ではないかという意見でした。 ○山本(敬)幹事 効果の定め方について関連がありますので,ここで申し上げたいと思います。自己契約・双方代理と利益相反行為については,私はこの原案どおりでよいと思います。ただ,書き方としては,細かいのですけれども,(1)から(4)が自己契約・双方代理,(5)が利益相反で,(1)から(4)を準用するというのは,私の感覚としては違うと思わないではありません。というのは,利益相反が基本であって,その特殊な例が自己契約・双方代理ですので,特殊なものから一般的なものへの準用というのは,方向が逆ではないかという気がしました。しかし,中身がいけないという問題ではなくて,位置付けの問題だと思います。山野目幹事の先ほどの御意見を伺いますと,自己契約・双方代理についてかなり強調した御意見だったですけれども,もう少し広く利益相反についてはどうなのだろうかということも気になりました。ただ,効果としては,今,申し上げたとおりです。   むしろ,申し上げたいのは,表見代理のほうの効果の定め方でして,全て同じになっています。18ページ以下で,効果の定め方が全て,本人に対して「その効力を生ずるものとする」という書き方に改められています。これは通俗的な理解にはかなっているのですが,現行法を見ますと,本人が「責任を負う」という形で定められています。これは理由のあることでして,相手方から本人に対して代理人が行った代理行為の効果を主張してくる場合に,本人はそれを拒否できない,その意味で「責任を負う」ということです。それに対して,本人の側から,表見代理の成立を前提として,表現代理の効果を主張して,相手方に対してその履行を積極的に求めていく等のことは,現行法は想定していないと思います。  ところが,「効力を生ずるものとする」となりますと,その区別がなくなってしまって,当然に表見代理の効果として有権代理であるかのごとく効果帰属することになると思います。これは,現行法を積極的に変える理由があれば別ですけれども,ないのであれば,書きぶりを改めることが必要ではないかと思いました。   それ以外に関しては,先ほどから出ていましたように,109条に関していいますと,二つ,申し上げたいことがあります。  一つ目としては,前から議論がありましたように,代理権授与表示に関しては,意思表示そのものではないけれども,意思表示に関する規定が類推適用されることが従来から認められていたところだと思います。その中で一部,取り込んで書いていただいているのですけれども,特に白紙委任状のケースで起こるのですが,代理人に当たる者が白紙委任状を補充して相手方に提示して代理権授与表示を行う場合に,本人がそのような内容で補充されることを承知していないときがあります。この場合は,客観的には代理権授与表示の内容と本人の意図がずれてきますので,錯誤に類するケースである。したがって,原則として「無効」を認め,本人側に重過失がある場合については,「無効」の主張を認めないということが言われていました。それに見合った提案がこれまで行われていたのが,ここでは落ちています。私は,このように109条を補って規定するのであれば,これも併せて提案すべきではないかと思います。ここでは,本案として挙げてよいのだろうと思います。   もう一つは,先ほどの93条について申し上げたことでして,例えば109条,あるいは後で出てくる無権代理人の責任などにも当てはまることなのですが,本人が積極的に相手方を欺罔するような意図を持って代理権授与表示に当たるものをした場合に,実はそのような代理権を与える意思はなかったことを相手方が知ることができた,つまり過失があるときには,このままですと,表見代理は成立しないことになるのですが,そのような欺罔の意図を持って表示する者との関係で,相手方に過失があるから表見代理が成立しない,したがって,本人側は責任を免れるというのは,私はおかしいのではないかと思います。   その意味で,先ほどの心裡留保に関する規定の中身とも連動するところではありますけれども,このような場合については,本人側は,現行法で言う表見代理の「責任」に当たるものを免れないというような形で規定するべきではないかと思います。そのような提案もこれまであったところですので,最低限,別案としてでも挙げていただきたいと思いますし,93条のほうで本案になるのであれば,ここも本案になると思います。 ○中田委員 先ほど道垣内幹事が御指摘になられました7の(2)ですけれども,私も代理人が本人と称して権限内の行為をしたらどうなるのかというところから考えるべきだと思います。そうすると,問題点としては顕名主義との関係がどうなるのかということがあります。引いておられる昭和44年の最高裁判決で,調査官は代理意思があれば代理行為が成立するということを言っておられるんですが,ただ,そうしましても代理人を本人と思って契約した相手方の保護を考える必要があると思います。これは義務負担授権を入れないということとも共通性があると思いますので,このような規定を設けるかどうかを更に検討した上で,設けるとした場合にこれも道垣内幹事がおっしゃったことですけれども,99条あるいは100条との関係で検討するということになるのかなと思いました。 ○鎌田部会長 分かりました。ほかにはよろしいですか。 ○山本(敬)幹事 最後の「授権」について一言,申し上げたいと思います。20ページ以下で,授権についてはいろいろ議論があった中,おまとめいただいたところでして,基本的な方向性はこれで結構かと思います。ただ,(1)で事前に授権をしている場合のルールだけが書かれていて,従来あった事後的に追完を行った場合についての規定が今回,落とされています。しかし,これは積極的に落とす理由はないと思います。むしろ,実際の裁判例でも,勝手に子どもが親の財産について抵当権を設定した後に,親がそれを「追認」したというケースがあるところです。授権に関しては,性質に反しない限り,代理に関する規定を準用するとされていますので,追認の規定が準用されるのかもしれないのですが,追認は飽くまでも代理の問題であって,ここでいう追完は処分権限に当たるものが事後的に補われる場合ですので,これは明確に規定しておいたほうがよいのではないかと思います。   さらに,取り上げなかった論点のうちの21ページですが,104条に当たる部分は,恐らく「委任」のところでまた出てくるのではないかと思いますが,前の部会で検討したときには,部会資料を見る限り,104条に当たるものについて,これは自己執行義務に関わるものですけれども,104条に規定があっても,内部関係については明らかでないので,委任の側できちんと書くべきだという説明が行われていました。ということは,外部関係に関する規定は書かないといけないのだろうと思います。その際に,その中身をどうするかという点についても,「委任」のところで議論がありました。それがここで,取り上げなかった論点として上がっているというのは,何を意味するのかが分かりません。現行法を維持すると考えているのか,そうでないと考えているのか,確認させていただきたいと思います。   そのほか,ここには無権代理と相続が上がっていますけれども,私の理解では,分科会で検討したときには,かなり方向性が出てコンセンサスが得られるのではないかと思ったのですが,今回,このような形になっているのは,分科会で議論した者から見ますと唐突感が否めないところです。これは御説明していただいた上で,本当にこのような扱いをすべきかどうかを議論すべきではないかと思います。 ○金関係官 民法104条については,現行法を維持するという趣旨です。つまり「やむを得ない事由があるとき」という要件を緩和する趣旨の論点は取り上げないという趣旨です。その場合,委任のところでも「やむを得ない事由があるとき」という要件を前提に内部関係に関する規律を設けることになると思いますが,もし委任のところで「やむを得ない事由があるとき」という要件よりも緩やかな要件を採る趣旨の論点が取り上げられるのであれば,代理のところでも同様の論点を取り上げる必要があるという理解をしております。   無権代理と相続については,確かに分科会で一定のコンセンサスが得られた点として,部会資料29のような場合分け,すなわち本人が無権代理人を相続した場合,無権代理人が本人を相続した場合,第三者が本人と無権代理人の双方を相続した場合という場合分けをした上で規律を設けるのではなく,もっとシンプルに,本人や第三者は無権代理人を相続したとしても無権代理人の地位に拘束されないという趣旨のルールを設けるという方向性が示されたと認識しております。ただ,その方向性に一定のコンセンサスが得られたということと,中間試案としてある程度条文を意識した形で提示した場合にコンセンサスが得られるかというのとでは,別の問題があると考えておりまして,ここでは,条文に近いものとして中間試案を提示した場合にコンセンサスを得ることはなかなか困難ではないかという判断をしております。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○山本(敬)幹事 今の点についてよろしいでしょうか。これが,あるいは最初に申し上げた典型例の一つなのかもしれません。そのようなお考えが事務当局のほうで主流を占めたというのは,もちろん,理由のあることなのだろうとは思いますけれども,部会及び分科会での検討を反映しているかといいますと,必ずしも反映していないわけでして,むしろ,何らかの形で規定を設ける,しかも,その内容についてのコンセンサスが一定程度,得られているのであれば,私はそれがむしろ本案ではないかと思いますが,それを本案として提示した上で,そうは規定し切れないのではないかという問題点もあるというような形で別案が付く,ないしは少なくとも甲案,乙案という形で提示されるのがあるべき姿ではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○筒井幹事 もちろん,最終的にどうするかは部会で御議論いただくことですけれども,たたき台においてここに盛り込まなかった理由は,先ほど金関係官から説明したとおりです。分科会の議論の中では,無権代理と相続に関して類型化した詳しい規定を設けることに対しては,異論が多かったと思いますけれども,それに対して,それらの類型に通ずる一定の抽象的なルールを書くという提案があり,それについて一定の支持する意見があったという経緯であったと思います。   ただ,各類型に通ずる一定の抽象的なルールを表す規定といったものが,果たして条文化することのできる性質のものかどうかについては,私は大いに疑念を感じております。そういう理由で,今回のたたき台では落としたということです。これに対して異論があるという御発言を頂きましたので,更に御意見があれば伺いたいと思います。 ○山野目幹事 今の問題につきまして,分科会で御議論いただいた先生方には御努力があったものだと感じますし,しかし,その反面におきまして,筒井幹事がおっしゃったように専ら理念を語る規定が法制的に成り立つかという問題に加えて,分科会ではなくて部会でこれを議論したときには,複数の委員・幹事から,言わば民法典が持つ法典としての細密さといいますか,どこまで細かい問題について規定を置いていくのかという観点からも,この規定を置くことの当否という御議論があったと記憶します。それらを総合して,恐らく事務当局が御判断になったものだと感ずる部分が大きいものですから,中間試案のたたき台の提案としては,これでよいのではないかと私は感じます。   それとともに山本敬三幹事が御指摘になったように,この問題について部会,分科会を通じて活発な論議があって,一定の成果のようなものが見えていたことも事実でございますから,取り上げなかった論点というところに1行を書いてしまうのみでは残念であるという気もしまして,これは要望になりますが,補足説明であるのか,また,補足説明であるとしてそのどこになるのか,よく分かりませんが,多分,9番のところのどこかに部会や分科会でこのような論議があったということは,一般の論議において御検討いただくときに,参考に資する趣旨で書いていただいてもよいのではないかもしれないと感じます。補足説明は事務当局がお作りになるものでございますから,御判断はお任せしますし,要望として申し上げます。 ○三上委員 表現の問題なんですけれども,109条,110条の辺り,6,7の辺りで「過失によって知らなかったとき」とか,要は「善意無過失」という言葉と「正当な理由」という言葉が二重に使われておりますけれども,私が習った限りでは,代理のところでの「正当な理由」というのは善意無過失のことだという理解ですが,そうすると,特に両方が重畳して出てくる6の(2)の場合に,善意無過失が表現を変えて2回出てくることになります。もちろん,109条の場合の善意無過失というのは,恐らく本人の側が相手方に過失があること,ないしは悪意であることを立証する責任があって,110条の場合には信じた側に立証責任があるという,立証責任の転換を意味して書き分けているのかもしれないんですが,それならそれという形で書かないと,違う言葉で表現していると,違う内容と普通の人は理解するのではないかと考えております。   多少,法律を勉強した人間には「正当な理由」という言葉になじみがあるんですけれども,また,「正当な理由」は権利外観的な意味があって,単なる善意無過失と違うんだという,内田先生の本にはそう書かれていたような記憶があるんですが,ただ,似たような言葉を違う表現で書くと,特に6の(2)のように二重に出てくる場合には,普通の人には分からないのではないかという気がしております。これは単なる意見です。   それから,無権代理のところですが,そのときは別の委員だったので,単に全くこの場の理解が得られなかったから落ちたのかもしれないんですが,無権代理人自身が代理権がないことについて善意であった場合であっても,相手方も善意無過失であれば,相手方の保護を図るべきではないか。また,無権代理人が代理権の不存在について悪意又は過失がある場合には,相手方が過失であっても重過失でない限り,保護を図るべきではないかという意見を全銀協として申し上げたと思いますが,決して理の通らないような主張ではないと思いまして,取り上げを再考願いたいと考えております。 ○道垣内幹事 善意無過失と正当の理由は,必ずしも同じで概念ではないと思いますので,この原案のままでいいと思います。 ○沖野幹事 三上委員,道垣内幹事が御指摘になった箇所に関連してですけれども,部会資料29を見ますと,形としてはむしろただし書のほうが先に書かれていて,更に正当な理由があるときとしまして,更にその対象が違っておりますので,規律の内容はこれであるべきだと思います。しかし,一見したところ,かなり分かりにくいように思われますので,これは(概要)などで,少し説明を足していただいたほうが親切ではないでしょうか。 ○内田委員 少し戻るのですけれども,「自己契約及び双方代理」のところで,山野目幹事のほうから効果不帰属意思表示構成ではなくて,効果不帰属が本案であるべきではないかという御意見がありました。他方で,代理権濫用については意見を留保すると言われたのですが,山野目幹事の最初の主張については中井委員からも御支持があったかと思います。ただ,108条の改正,「自己契約及び双方代理」の部分は,現行法上は行為の外形のみに着目して自己契約・双方代理を対象に処理をしていますけれども,これに(5)で,実質的な利益相反の規定が加わっている点に留意が必要です。   現在は自己契約・双方代理の108条の要件が狭いので,実質的には利益相反の問題が代理権濫用として処理されているという部分があると思います。しかし,108条がこのように実質的な利益相反をきちんとカバーするということになると,従来,代理権濫用で処理されていたものも108条というか,利益相反の規定で処理することが可能になってくるので,効果は同じでないとおかしいのではないか。特に全く外形だけで利益相反であるかどうか分からない事案になってくるとなると,取りあえずは有効で,しかし,それが後で覆るという構成もあり得るのではないかというのが原案の趣旨だろうと思うのです。本案と注記の原則をひっくり返して大丈夫かどうか,それは代理権濫用のほうにも波及する可能性があると思いますので,もう少し検討したほうがいいように思いました。 ○中田委員 今の点について確認的なことなんですが,自己契約・双方代理というのは法定代理にも及ぶということでしょうか。仮にそうだとすると,826条との関係がどうなるのかということがもし御検討いただいているのであればお教えいただきたいですし,まだであれば,また,引き続き検討していただければと思います。 ○山野目幹事 内田委員,中田委員が御指摘になった問題について,中間試案を作っていっていただくに当たっての参考となる意見を2点に分けて述べさせていただきます。   1点目は,正に内田委員がおっしゃったとおりで,代理権濫用との関係で少し微妙に整理しなければならない問題があるからこそ,そちらについては意見を留保させていただきました。引き続き整理を頂きたいと考えます。   もう1点は内容に関わることですが,確かに一方の極には自己契約及び双方代理という外形的といいますか,むしろ,定型的と言ったほうがよいと考えますが,定型的に代理権を行使させることが適切でないことが明らかであると認められる類型があり,一方においては,代理権濫用のピュアな部分である実質的,非定型的な判断をしなければならない局面があって,利益相反はその中間にあると考えます。そして,その利益相反の中にも実は自己契約・双方代理に近いようなかなり定型的な判断になじむというか,あるいは判断をしなければならない形態のものと,内田委員がおっしゃった代理権濫用と余り区別なくというか,少し便宜的に運用されてきたような代理権濫用寄りの実質的非定型的なものとがあって,これから,そういうふうな異なるカテゴリーを法制的に仕分けしていくような検討する時間があるかどうか,分かりませんでけれども,中田委員がおっしゃったように,法定代理の場面での自己契約・双方代理,利益相反まで含めて,効果不帰属意思表示形成権構成を採用するとすると,その影響というか,実際上の波及が非常に大きいということがどうしても私には心配として残ります。   親権者と複数の未成年の子がいるときの遺産分割において,未成年者の一人ずつに特別代理人を選任しないと利益相反になるというのが登記先例の解釈です(民事局長通達昭和30年6月18日民事甲1264号・先例集追Ⅰ369頁)が,このような事例はほとんど自己契約・双方代理に近いような定型的判断をしなければいけない,すべきものであり,しかし,利益相反の形態なのですね。しかも,法定代理の局面です。こういうものも視野に含めて,引き続き,慎重に御検討いただきたいというお願いでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   それでは,「第5 無効及び取消し」についての御意見をお伺いいたします。 ○加納関係官 幾つか申し上げたいと思いますけれども,まず,無効・取消しの効果の21ページから22ページにかけてのところなんですが,ここで1の(2)あるいは(3)のただし書とで,相手方が詐欺又は強迫をした者であるときには,この限りでないものとするというふうなことが書かれています。   (概要)の解説に書かれているところで,23ページ辺りに書かれていることは,趣旨は理解しまして,この趣旨自体に特に反対するというものではありませんが,1点,こういう詐欺,強迫をした者であるときに,被害者を保護するということを言うのであれば,例えば暴利行為の規定を入れるとした場合の暴利行為に該当する行為をした者とか,そういうのも入れる必要があっていいのではないかというのが気になったという点と,あと,私どもの所管する法律の関係ですけれども,消費者契約法の不実告知であるとか,その他特商法とか,いろいろな法律で被害者保護の観点から取消権を設けている規定がありまして,そういうのも今の法律では全て民法の規定で不当利得の考え方を処理するとなっておりますので,そういったのが読めるような形にする必要があるのではないかと。   だから,詐欺,強迫だけではなくて,例えばこれは単なる思い付きの域を出ない一案ではありますけれども,無効又は取消しの原因となる行為をした者であるときとか,何か,そういった形で詐欺,強迫をした者だけではなく,そのほかも読めるようにしておく必要があるのではないかと思いました。ただ,自分でそんなことを言いながら何なんですけれども,例えば錯誤取消しとか,そういった場合に錯誤取消しの場合の原因をした者というのは誰なのかとか,分かりにくいところがありますので,そういうことでなかなか書くのは難しくて,詐欺,強迫ということになったのかなと勝手に推測したりもしましたけれども,ただ,例の不実表示の錯誤取消しがあるんだということを前提に,錯誤取消しの場合には,そういったことであるとかいうふうな整理をすれば,そこは混乱なく整理できるのではないかと思いましたので,御検討いただければと思います。それが1点であります。   それから,26ページの「法定追認」のところなんですけれども,ここの125条の規律に弁済の受領などを付け加えるということについては,消費者庁としては現時点では反対でございます。それで,このことについてはそうではないほうがいいと思うのですが,少なくとも27ページの「第6 債権の目的」のところの(注)にあるような形での注記,現状を維持すべきであるという考え方もあるというような記述をしていただけないかと思います。   その理由は,26ページの(備考)に書いていただいたところが,そういう解釈がうまくいくのかというところに懸念があるというところでありまして,理屈としては(備考)の考え方に賛同するものでありますけれども,これが解釈としてうまくいくのかというのは,取り分け消費生活相談の場とか,そういった場でうまく処理されるかということについては,まだ検討する必要があると思っておりまして,少なくとも中間試案を意見募集に掛ける際には,消費生活相談員とか,消費者団体の意見というのも十分踏まえた検討をする必要があるのではないかと思っておりまして,その旨,付記をしていただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○佐成委員 4の「法定追認」のところで,今,出たとおりでございますけれども,私どもの方の内部のある業界からも,(備考)の箇所には確かに書いてあるけれども,反対意見があるということを,現状維持という意見があるということを,注記の箇所で示していただきたいという意見がございましたので,よろしくお願いします。 ○岡田委員 加納関係官に言っていただきましたが,正に相談員としては,この(概要)のところの弁済の受領,これを提案に出して頂くとすごく助かります。 ○松本委員 1の(1)の「無効な法律行為」の次の「(取り消されたために無効であったとみなされた法律行為を含む。)」ということの趣旨が分かりにくいんです。というのは,22ページの下から4行目から3行目にかけて,「法律行為が無効であること又は既に取り消されたことを知らなかったときは」という表現があるものですから,一体,21ページの方の下から2行目の「(取り消されたために無効であったとみなされた法律行為を含む。)」ということの意味が,私は頭が非常に混乱をしております。普通であれば取り消されれば無効になるというだけの話だと思いますので,まだ,取り消されていない契約で給付を受けていた者は,取り消されれば,それを返さなくてはならないというだけの話だと思うんですが,22ページの方だと,「法律行為が無効であること又は既に取り消されたことを知らなかったとき」ということだから,取り消された後で契約をしたというような,何か分からないような表現になっているんですね。ひょっとすると22ページの下から3行目は,取り消し得るべきことであったことを知らなかったということの誤りなんでしょうかというのが文言上の分からないことです。   もう1点は,22ページの(2)のいわゆる給付利得の精算についての明文化ということなんでしょうが,有償契約であり,かつ相手方が無効であるということを知らなかった場合の相手方の給付利得の返還義務については,「給付し若しくは給付すべきであった価値の額又は現に受けている利益の額のいずれか多いほうを限度とする」という,この表現が適切なのか,ちょっと分かりにくいという感じがいたします。   すなわち,5,000円の価値のものについて1万円払ったとしますね。それで,無効だとか取り消された場合に,5,000円の価値のものを返して1万円を返してもらうということになる,それだけの話なのに,つまり,1万円又は受けている利益は5,000円ですね。多い額を限度とすると,何か1万円を返さなくてはならないのかと,変な感じですよね。5,000円の品物を受け取ったものは,5,000円の品物そのものを返すか,あるいは5,000円の価値を返しさえすればいいのに,何となく自分が給付すべき額は1万円だと,あるいは給付した額は1万円なんですよね。すると,1万円を返還しなければならないのかとも読めるので,高い額を上限とする,限度とするということの意味が。もうちょっと分かりやすく書けませんでしょうか。 ○鎌田部会長 そこは工夫をさせてもらいます。 ○山本(敬)幹事 今の「無効な法律行為の効果」についての(2)ですが,現存利益に当たるものを「又は」でつないで,どちらかを上限とするというのは,これまでの議論の中で出ていたかどうかの記憶が必ずしも十分ではないのですが,少なくともよく議論したという記憶はありません。これが付け加えられた趣旨を御説明いただいたほうが,今の松本委員の御質問に対するお答えとしてもよいのではないかと思います。   さらに,これがより大きな問題なのですが,(3)で,無償契約の場合についてのルールがありますけれども,単独行為のルールが抜けているだろうと思います。つまり,遺贈などの単独行為の場合についても利得消滅の抗弁を認めないといけないわけでして,現在の提案では,(2)と(3)で有償と無償の契約できれいなように見えるのですけれども,元の部会のときの提案を基にもう一度組み直していただければ,このような遺漏は防げるのではないかと思います。   それから,松本委員が最初に質問された善意の対象についてですけれども,無効であること又は取り消されたことが善意の対象だとしますと,取消原因があることは知っていたが,まだ取り消されていないときに,悪い見方をすれば,早く費消したものは返さなくて済むということを容認するような結果になる可能性があります。そのような可能性の当否まで含めて考えると,本当にこれでよいのかどうか,検討の余地があるのではないかと思います。ここで十分な議論をした結果だったのかどうかの記憶は必ずしも定かではありませんが,そのような問題が残っているように思います。 ○岡委員 三つ申し上げます。   最初は,加納関係官と同じような意見が弁護士会でもありました。詐欺,強迫のところに暴利行為の人も含めるべきであるという点と,「法定追認」のところに反対意見が弁護士会も相当数ありましたので,ここは(注)には書いていただきたい。これが1点目でございます。   2点目に,5の「取消権の行使期間」のところで,3年,10年というのが多数意見を形成できる見込みありと認定されたようでございますが,まだ,ここは3年,10年というのは,そこまでたどり着いていないのではないか。消滅時効の期間と恐らく同じほうがいいのだとすると,弁護士会としては5年,10年の考え方ですが,ここをどんなふうに,今,問い掛けたらいいのか,もう少し3年,10年をゴシックに残すのは行き過ぎではないかという意見でございます。   それから,三番目に復活折衝を認めるべきだという最初の意見の弁護士会の意見でございますが,部会資料29の2の「複数の法律行為の無効」,これは最高裁の判決もございますし,確かに反対意見もございましたが,ここについては,是非,ゴシック体に復活していただきたい,また,それだけの価値があるのではないかという意見が強うございましたので,復活折衝その1として提案させていただきます。 ○山本(敬)幹事 復活折衝の幾つ目になるのかというところですけれども,27ページの取り上げなかった論点ですが,そのうちの一部無効に関しては,2(1)の「法律行為に含まれる特定の条項の一部無効」は,基準を書き表すのが難しいという判断ではないかと思いますし,その点をめぐってたしかに意見が分かれていたと思います。ただ,次の2(2)の「法律行為の一部無効」に関しては,私の理解では,異論はほぼないのではないかと思います。つまり,法律行為の一部が無効であれば,その一部分のみが無効である。ただ,例外としてその一部分が無効であれば,そのような法律行為はしなかっただろうというときには全部が無効になる。このルール自体は学説でも異論のないところですし,比較法的に見ても,19世紀に作られたドイツ法は逆なのですけれども,他の多くの立法例等を見ても,余り異論のないところではないかと思います。ですので,(1)が駄目ならば(2)も駄目だということにはならないものでして,(2)に関するルールは復活して,本案として出していただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○松岡委員 先ほど松本委員と山本敬三幹事から御指摘のあった点で1の(2),「いずれか多い額を限度とする」という点についてです。私は返還すべき範囲についての書面で御提案を申し上げ,そこでは対価の限度ということで,むしろいずれか少ない額を限度とするという趣旨の意見を述べました。それがこの整理では,ある意味では全く逆になっているようで,十分理解ができませんでした。それが1点目です。   それから,先ほど山本敬三幹事がおっしゃった2点目に関連してです。山本幹事は,無償契約のルールはあるけれども,単独行為,例えば遺贈のルールが抜けているのではないかと指摘されました。私は,これは実は微妙な問題であるという趣旨を第2ラウンドで発言いたしました。すなわち,契約を中心とする債権法の改正というときに,単独行為一般,特に遺贈等まで含む一般的な規定を民法総則に置くとの提案ができるのか問題であり,むしろ契約に特化した清算のルールとして民法総則ではなくて契約総則に規定を置いたほうがいいのではないかと申し上げました。   この案は,そういう意味ではどっちにとってもやや中途半端な形になっておりまして,法律行為一般についての規定を置くのであれば,山本敬三幹事のおっしゃるとおり,単独行為に関してのルールも含まないと,一般規定としての体裁が取れないわけですし,仮にそのような内容が諮問との関係で答申には盛り込みにくいということであれば,契約清算のルールに特化して,規定の位置も変えることを検討するほうがいいのではないかと感じています。 ○中田委員 今の点なんですけれども,無効な単独行為の中で取消しとか解除の無効についてのルールは,契約法に関するものになるのではないかと思うんですね。解除による原状回復義務の履行の場合に,無効であったとすると,多くは有償契約のルールになるのではないかと思いますけれども,無効な単独行為について検討していただくとすれば遺贈だけではなくて,そちらも御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 今まで頂戴した意見について,事務当局から何か発言はありますか。 ○笹井関係官 現存利益について御質問がありましたので,部会資料の考え方を御説明したいと思います。部会資料では,返還すべき本質は償還義務であるということを前提に,しかし,現存利益や対価がそれよりも小さい場合には,それによって制限するということを御提案しております。松岡先生は全く逆であるとおっしゃいましたけれども,現存利益やその対価が償還義務より小さいという場面を想定しており,松岡先生のお考えを逆にしたつもりではありません。例えば,客観的な償還義務が50万円だけれども,対価は30万円だったと。その30万円で買ったものを受領した者がこれを第三者に40万円で売ったと。このように,現存利益が対価よりは大きいけれども償還義務よりは小さいという場合に,現存利益部分を給付受領者に取得させる必要はないのではないかということで,こういう提案になっているということでございます。   それから,もう1点,暴利行為をした者を(2)(3)のただし書に記載すべきであるという御意見がございました。部会資料では,暴利行為をした者はそもそもその法律行為が無効であることについて悪意であると考えられることから落としております。善意の対象,これも山本敬三先生から御指摘のあったところですけれども,ここでは,善意,悪意の対象を取消原因の有無ではなく,取り消されたことにした関係で,詐欺,強迫をした者は取消原因は知っているけれども,取り消されたことは知らない場合があり得ますが,暴利行為はそもそも効果が無効であり,暴利行為をした人はそのことについて悪意であるということで,ただし書には書いていないということでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   よろしければ,ここで休憩を取らせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 再開させていただきます。   「第6 債権の目的」について御審議を頂きます。一括して御意見をお出しください。 ○山野目幹事 28ページの3番,「外国通貨債権」について意見というよりも要望を申し上げさせていただきます。この3のところでは現在の403条の規定の変更,それから,昭和50年の最高裁判所の判例の下で運用されている外国通貨指定債権の解釈運用についての変更が提案されているところでありまして,どちらにつきましても,外国通貨で債権額を指定したときは,その通貨でのみ弁済するということが当事者の合理的な意思であるということを(概要)で,専らそう指摘いただいているところであります。   確かにそういう見方も合理的な一つの考え方であるかもしれませんが,外国通貨で債権額を指定すると,本当にほとんど常にその通貨でのみ弁済をするということが当事者の意思なのかということの中身自体について,私は少し心配な部分がありますし,部会の審議を顧みても,私の記憶ではここを議論したときに,その日の会議の終わり頃に議題になりまして,皆さん,お疲れが顔に浮かんでいて,余り意見がないまま,議論が進行していたような記憶がございます。要望と申し上げましたのは,(概要)のところでもう少し現行の規定ないし判例に即した考え方だってなくはないというようなほうのことも,書いていただいたほうがよいのではないかと感じます。このままだと,確かにそちらが合理的だというのなら合理的だよね,とパブリックコメントでも意見が出そうなような気がいたします。   国民の意識と,それから,実務とのそれぞれの面で指摘をさせていただきますが,国民の意識の面から見たときに,通貨に関する大幅な国際化の改革が行われた際には,報道などでもコンビニエンスストアでユーロとかドルで決済がされて,物を買うことができるようになりますよということが喧伝されましたけれども,しかし,私の体験ではコンビニエンスストアでドルやユーロでお金を払ったり,釣銭をもらっていたりするのを見たことはございません。いささかドメスチックなことを申し上げているかもしれませんが,国民の意識を問えば,そういう部分はまだ濃厚であろうと思います。   それから,もう一つ,実務のことを申し上げれば,御紹介いただいているような昭和50年の判例があって,現在の裁判実務の下では外国通貨指定債権であっても,弁論終結時の為替相場で換算して円で給付判決を出すことが多いのではないかと想像しております。また,現在の実務の下においても,被告は原告に対し1万ユーロを支払えという判決がされるということはあり得るものでありまして,この判決がされたときには,その判決の強制執行が申し立てられて,例えば不動産の強制競売がされる場合において,その執行裁判所が恐らく配当表を作るときなのでしょうか,邦貨だと,つまり円だと幾らになるかということを計算するということになるのかもしれません。不動産の強制競売の売得金をユーロで納める人はあまりいないと想像しますから,多分,そこは円で納められたものを円で配当することとなり,執行裁判所がそのときにそのようにするものでしょうけれども,そこまで問題を持ち込まないで判決裁判所がその問題処理をするという場合が,現在では頻度として一定数あるものが,そこの頻度というか,運用に対し微妙に,あるいは実際上,影響を与える部分が含まれている,そういう提案であるということも意識した上で,一般に議論していただいたほうがよいと感ずるものですから,ゴシックで記された部分についての意見ではございませんけれども,(概要)以下のレベルで何らの御工夫があれば有り難いという要望を述べさせていただきます。 ○鎌田部会長 この点に関連して。 ○畑幹事 今,山野目幹事がおっしゃったことに関連するのですが,この議論を前にしたときに,確か強制執行になったらどうなりますかという問題提起が恐らく中田委員からあり,解決はしていなかったような気がしますので,私はむしろ(注)で強制執行がどうなるかということを検討する必要があるということを注記したほうがいいかなという気がします。恐らく考え方としては,今,山野目幹事から御紹介があったように,どこかの段階で換算して円で解決するということになるか,あるいはいわゆる金銭執行はできないという可能性もなくはないのですが,そこを検討する必要があるということは,留保したほうがいいのではないかという気がしております。 ○松岡委員 第6の「債権の目的」という表題の問題です。取り上げられなかった論点,32ページの第2の1は,「債権の目的」[43頁]という表題を指すのだろうと思うのですが,債権の目的といった場合,契約の目的だとか,目的物だとか,そういう類似する言葉とはかなり違っておりまして,日常用語と相当違う言葉の使い方になっています。もちろん,それは法律用語なので慣れればいいと言われればそうかもしれませんが,国民に分かりやすい民法を目指すという目標を掲げている以上,なお,「債権の目的」というわかりにくい言葉を維持することについては,私は強い疑念を持っております。今回,取り上げなかった理由については特に御説明がないのですが,「債権の目的」という言葉について今回は改正せずに維持する積極的な理由があれば,お示しいただきたいと思います。 ○新井関係官 32ページで「債権の目的」を「取り上げなかった論点」として上げている趣旨は,399条を削除するということはしないと,399条の規定内容を維持するということにとどまっております。 ○筒井幹事 経緯は新井関係官から説明したとおりですけれども,今回の作業をしている途中で,そういった議論があったことは認識いたしましたので,基本的に,目的という言葉を内容と置き換えることが可能であるところは,最終的な条文化の際にはまた改めて検討することとして,今回は,目的という言葉を内容と置き換えることが可能であれば,そのように切り替えようと考えております。既に配布しているたたき台の表現についても,もう一度,改訂版までに見直そうと考えております。第6の「債権の目的」というのは,章名や節名の引用という程度の意味のものとして残す可能性はありますけれども,全般的にはそのように改めたいと考えております。 ○松本委員 外国通貨のところに戻ります。ここで「別段の意思表示がないときは」という限定が付いているわけですが,これは明示的な意思表示ということに限定しているのでしょうか,それとも,後ろのほうで出てくるような取引の契約の目的とか,契約締結に至る経緯その他の事情に基づき,取引通念を考慮して定まる当該契約の趣旨に照らしてというような趣旨も,ここに入るのでしょうかという質問でありまして,明示的な意思表示がない場合は全てこのルールだというのは,狭すぎるのではないかと思います。この部会は契約の趣旨で決めていこうという発想が強いわけなので,ここも正に外国通貨債権で表示をするというのは,それなりのいきさつがあって,そうしているわけなのだから,正に契約の趣旨から見て外国通貨債権でしか履行を認めないという趣旨なのか,そうではないのかというのは,契約の趣旨から判断すればいいだけの話なので,こういう別段の意思表示がない場合はこうだという決め付けは,狭すぎるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 これについては,強行規定か,任意規定かという争いがあって,任意規定であるということを明示するというのがこの文言の第一の目的であって,中身について,松本委員のおっしゃったような内容をどうすれば,うまく反映できるかということは次の課題だろうと思います。 ○中井委員 「債権の目的」の1の「特定物の引渡しの場合の注意義務」,このような出し方が本案となることについては議論の経過から理解するところですけれども,なお,(1)について契約の趣旨が明らかでないときはどうなるのかと考えたときには,それは善良な管理者の注意をもって保存すべきではないのかと考えますので,単純に別案というのでしょうか,それに対して現状を維持すべき案という形で提示していただいていますけれども,趣旨が明らかでなければ善良な管理者の注意をもってとするならば,原則は善良な管理者の注意をもってするんだけれども,契約で別途定めたときには,その契約の趣旨に従いますよという提案の仕方もあるのではないかと考えます。弁護士会は従来,現状維持案のみを申し上げていますけれども,そのような考え方について提示できないかと思います。 ○岡委員 4の「法定利率」のところですが,第6は1と中間利息控除のところに(注)として別案が書かれている中,「法定利率」のところにそういう(注)がないのは,何かかなり目立つ感じがいたします。弁護士会の中には部会でも申し上げたように,5%で変えなくてよいという意見でありますとか,3%に変えるけれども,変動制の公式方程式は作らないという意見でありますとか,部会では中田先生が上限を設けるべきではないかと,そのような意見もまだまだあったところですので,法務省から見て(注)は是非,変動制についての別案あるいは違う考え方について,(注)として記載をするべき重要な項目であろうと思います。 ○岡崎幹事 私も今の岡委員の御発言と同趣旨の発言ということになりますけれども,これまでも,仮に法定利率の変動制を採用した場合,裁判実務の中で中間利息控除の取扱いを巡って大きな混乱が生ずる可能性があるという懸念を表明してきたところでございます。今回,中間利息控除については(3)で御提案され,その(注)では,規定を設けないという別案が示されています。確かに中間利息控除について,適切な条文を作ることは,実際上,そう容易ではないと一方では思うところでありますが,仮に中間利息控除の規定が設けられないとすると,翻って,変動制を採用するという(1)の提案自体の採用も困難になる可能性があるのではないかと考えています。   また,先ほど岡委員から御紹介がありましたように,これまでも部会の中で変動制に反対する意見がございましたので,(1)において固定制を維持する選択肢をできれば甲案,乙案の形で,そうでないとしても(注)の形でお示しいただくのが相当ではないかと考えております。固定制を維持する場合には,5%という利率も維持するという案もあれば,利率は変更して例えば3%で固定するという案もあるのではないかと思います。   (3)の「中間利息控除」に関して,(注)で変動制を導入すべきであるという考え方が紹介されていますが,この変動制の意味が(注),あるいはその下の(概要)欄を拝見しても,必ずしも明らかではないと思います。これは,例えば交通事故ですと,事故の発生時などの一定の時点における変動利率に固定して,その利率で中間利息控除を行うということだと理解はできますけれども,その点を文章の中ではっきりとお書きになったほうが分かりやすいのではないかと思います。   それから,今日は(備考)欄は審議の対象ではないと理解はしておりますけれども,1点だけ指摘をさせていただきたいと思います。31ページの「中間利息控除」の(備考)欄の3段落目の「また」で始まるところで中間利息控除の実務について批判的な見解が紹介されております。   こういう見解があること自体は理解しますけれども,中間利息控除の実務は,特に交通事故を中心とする不法行為に基づく損害賠償請求事件の中で,できるだけ,一般の社会から見て許容される範囲で損害賠償実務を安定的に運用する,事件ごとに余りばらつきが生じないような形で,公平に損害額を算定するという観点から実務家の諸先輩が努力して,作られてきたと理解しておりますが,これに対する批判としては,(備考)欄の書きぶりは厳し過ぎるという印象を持っております。恐らく補足説明の中で,同様のことを書かれるのだと思いますけれども,事務当局におかれましては,補足説明を起案するに当たって,記載ぶりについて無用な反発を招かないような工夫をしていただけると有り難いと思っております。 ○高須幹事 引き続き,「中間利息控除」のところでございますが,飽くまで表現の問題に徹するといたしましてでございますけれども,今,岡崎幹事からも説明がありましたように,この中間利息控除問題は法定利率との関係が,どうしても対をなすようなところがあるという前提で考えざるを得ない部分があると思います。そのときに,今回,お示しいただいた28ページの法定利率のほうの部分について,アのところにあるように法改正時の法定利率は年3%とすると,例えばこういう表現で記載をした場合でございますが,中間利息控除に関して30ページの本文の記載がいかにブラケットで囲んであるといいながら,年5%とのみ書いてあるということの分かりにくさについて気になります。   (備考)欄を見ますと,なお,この(備考)は岡崎幹事からも出ましたように,今回,飽くまで参考として載っているだけということだと思いますけれども,ただ,重要な観点が記載されていると思っておりまして,31ページの(備考)欄の2段目のところの中間利息控除に適切な考えを見付けようとしたときにというところの3行目で,「そうだとすると,中間利息控除の割合については,あらかじめ合理的な変動ルールを用意することは困難であり,時宜に応じた法改正によって対応するのが合理的であると考えられる」と。これは一つの考え方であり,私自身の意見とは別にではございますけれども,多数を形成し得る余地のある考えだと思うのですが,そうなると,時宜に応じた法改正によって対応するとなると,それは現在3%ではないかということが,28ページの法定利率のところに示されているようにも思われます。   そうなりますと,30ページの中間利息控除のブラケット部分は,ただ,5と書くのではなくて,場合によっては5と3と書くとかあり得ないのだろうかと。二つ書いてはいけないというルールが,もしかするとあるのかもしれませんが,その辺は私には分からないのですが,素朴に試案を読むほうの立場に立ったときには,ただ,5が相当かと聞かれるよりは,3と5のどちらが相当ですかと聞いていただいたほうが自分なりの意見を言いやすいのではないかと思いまして,そのような表現の余地があるのか,あるいは,ないのかも御検討いただければ幸いかと思います。 ○中井委員 続けて,「法定利率」に関するところですけれども,今,出ておりますのは(1)の法定利率を変動制にするかどうかという議論の立て方と,(3)中間利息控除をどうするのかという議論,これを二つ分けて立てているように思いますけれども,そのような問題提起の仕方が混乱を招かないかと思います。   つまり,ここでの部会提案は,法定利率については変動制を採用すると,その中身はともかくとして,それに対して中間利息控除はそれでは耐えられないので固定制を採用するのだと,つまり,法定金利変動制プラス中間利息控除については固定制,しかも固定制についてはこれまでの実務,一定の業界に与える影響等の多いことから考えて5%という現行の利率を維持すると。これが一つのセットではないか。それに対して,変動制を法定利率で採るなら,この中間利息もそれに連動した変動という考え方を採る,若しくは中間利息について固定制を維持するなら法定利率も固定制でなければ耐えられないという考え方,これもあり得る。先ほど岡崎幹事の御意見もそのように私は聞こえました。   そのときの固定制が5%という現在の金利が不当であれば,法律で3%に変えるというのはあり得るかもしれませんけれども,そのときは中間利息控除も同じ3%という形の固定制になると。先ほど(備考)欄にあるその利率が不適切になれば,法改正でもって4%ないし5%に変えて,法定利率も変われば同時に中間利息控除も変わる,こういう考え方もある。つまり,(1)と(3)はセットで提案しないと,ばらばらで議論して果たして収束がつくのかという感じを持っております。そういう観点からの検討を是非,お願いしたいと思います。 ○筒井幹事 まず,議論の整理として申し上げますと,中間利息控除の規定というのは,法定利率について変動制を採ることとした場合に初めて議論の俎上に上ってくるのではないかと私は理解しております。つまり,法定利率について見直しをしない場合はもとより,固定利率として他の利率を定めるという場合には,今回の立法において中間利息に関する何らかのルールを設ける積極的な理由はないと考えております。今回の改正で法定利率が変更された場合に,平成17年の最高裁判決に基づいて,今後も変更後の法定利率を参照するという実務運用がされるのかどうかは,もちろん今後の損害論の中で検討されればよいことですけれども,それは法律改正によって参照しにくい形に変更したわけではありませんから,引き続き実務に委ねておけばよいということになるのだと思います。   一方,今回の改正で変動制を採ることとした場合には,平成17年の最高裁判決との関係では,法定利率が必ずしも参照が用意ではないものに変わってしまうので,その場合の実務の混乱を避けるために,「(3)中間利息控除」という項目による立法的な手当をするかどうかという問題が,論点として出てくるのではないかと私は理解しております。   それから,数字に関する御意見に対しては,今回の「(3)中間利息控除」の(備考)欄におきまして,法定利率について変動制を採りながら,中間利息控除については固定制とせざるを得ないと考えた理由は,詳細に述べておりますので,その説明に委ねようと思います。その上で,中間利息控除についてのブラケットの中の数字をどうするかについては,御提案があれば考えたいと思います。複数案を提示することを最初から否定しているわけではありません。前回の会議で消滅時効について議論した際には,ブラケットの中の数字を3年という形で提示しておりましたところを,3年,4年,5年という複数案を併記するという提案があり,それについてどうするかが事務当局の宿題になっているわけですから,ここについても併記するという案は,それ自体としてあり得ないとは考えておりません。   ただ,中間利息控除についての規定を仮に設けるとした場合に,この5%という数字は,ブラケットに入れておりますから,もちろん確定的なものとして考えているわけではありませんけれども,この数字を変えることは,直ちに現在の損害額算定の実務を変えることを意味しますので,その点に留意が必要であると思います。それが適当なのかどうかという観点も含めて御議論いただいた上で,ブラケットの中であるとはいえ,5%という数字を変えるのか,あるいは別の案も併記するのかという点について,御意見を賜りたいと思います。 ○野村委員 今の事務当局のお考えはよく分かりました。一方で,中間利息は将来の利率を想定して決めるのが筋だけれども,それが決められないというところから書き始めながら,他方で,スタート時の法定利率を仮の数字とはいえ,3%という確定した数値を置いています。その上で,中間利息として5%という数値を置くと,将来の実務という観点からすると,中間利息のほうが高くていいという,そういう誤解を与えるということになるのではないかという心配を感じましたけれども。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。法定利率の変動制を採ったときに,中間利息をどうするかという一般的な問題と,現在,5%で運用されているものが変わったときの経過措置的な配慮が必要ではないかという問題の,両方がここに入っているように思うんですけれども,そこは少し整理した上で,最終的な案を出させていただければと思います。利息債権以外で何か御意見はございますか。 ○中田委員 1の「注意義務」の点ですが,まず,質問なんですけれども,「契約の趣旨に適合する方法により」という御提案ですが,この契約の趣旨というのは34ページに「契約の趣旨に照らして」について(備考)で御説明があるんですけれども,これと同じなのか,違うのかということです。と申しますのは,「債権の目的」のほうの「契約の趣旨」というのは,この点についての前回の審議の際の資料31の44ページの乙案ですと,「契約及び目的物の性質に従って」ということでしたが,それが多分,維持されているのではないかと思うんですが,そういう理解でいいかどうかです。例えば当事者の狙いとかということだけではなくて,契約の類型,それが例えば賃貸借契約であればこうだとか,あるいは有償契約であればこうだとかというのも,注意義務のほうに入ってくるのではないかと思うんですが,そこを御説明くださいますでしょうか。 ○新井関係官 34ページの「契約の趣旨」と第6の1の「契約の趣旨」,第7の3のウにある「契約の趣旨」など,部会資料53の「契約の趣旨」は,同じ意味であることを前提に作っておりまして,部会資料31では,確か「契約及び目的物の性質」という規定振りの提案を,これは検討委員会試案の書き方を確か踏襲していましたが,取り上げておりました。この考え方も,「契約の趣旨に照らして」と同じ考え方であろうと理解しております。 ○中田委員 分かりました。ただ,34ページの「契約の趣旨に照らして」のほうが契約をした目的ですとか,締結に至る経緯一切の事情となっていて,契約自体の種類とか,性質というのが必ずしもはっきりしなかったものですから,お伺いしたわけですが,それも含むという理解でよろしいわけですね。  そうだとしますと,第6の1の(1)というのは,正にここでいう契約の趣旨に適合する方法でその物を保存するというのは,ごく当然のことではないかと思います。例えば賃貸借の場合に,いきなり善管注意義務というのがくるのではなくて,用法に従った使用収益ということになるのだろうと思います。また,善管注意義務という一般的な規定をここに持ってきますと,中身が曖昧なまま,損害があれば自動的に善管注意義務違反とされるということにもなりかねないということもあります。むしろ,それは契約に照らして判断するんだという,この原案が非常に説得的だと思いまして,中井委員が先ほどおっしゃったような御懸念というのは,それほど心配しないでいいのではないかと思いました。 ○中井委員 誤解しているのかもしれませんけれども,契約の趣旨が明らかでないときの準則というのは要らないのですか。それは契約の趣旨を究明していけば,必ず義務の程度は明らかになるということを前提にしているようなんですけれども,明らかにならないときもある。そうだとすれば,そのときには善管注意義務をもって保存すべきだ。そのルールを明らかにしておく必要はないのかと思うんですが,いかがでしょうか。 ○中田委員 私は,ですから,例えば賃貸借の場合ですとか,寄託の場合ですとか,契約類型によってかなり決まってくるのではないかと思いますので,全く何も分からないという状態はむしろないのではないだろうかと思いました。 ○潮見幹事 全く中田委員と同意見です。ただ,結局は文言表現の点だと思いますけれども,契約の趣旨に照らしてという言葉の中に,今,先ほど中田委員がおっしゃっておられたような契約の種類だとか性質だとか,類型的な特質だとか,そうしたものを含めた形で表現し切れているのか,実際に規定の文言にしたときに,どういう言葉が望ましいのかというのは,なお,検討をすれば,それで十分なのではないかと思います。今日は余り中身を議論するところではないというので,これ以上,申し上げることは差し控えますけれども。 ○岡委員 少し戻って「中間利息」のところで一言だけ,意見を言わせてください。逸失利益の計算について5%が3%に変わると額が変わるので,公平性あるいは混乱が生じるのではないかという点でございますが,逸失利益の算定について岡崎さんがおっしゃったように,諸先輩の工夫で公平性あるいは事案に応じた納得性が出ておるのは,賃金センサスと割引率,その組合せでそれなりの合理性が感じられるという,その計算式にあるんだろうと思います。そうだとすると賃金センサスは今,どんどん下がっている,それは直接に反映される。割引率については今のところ,5%で高止まりしているわけですから,それが3%に法定利率が下がるんだとすれば,その3%を適用するのが公平だと思いますので,ブラケット内の数字は3%にすべきだろうと思います。   経過措置の点を鎌田先生がおっしゃいましたけれども,確かに気になる点ではありますが,法律で経過措置を決めるべきものではなく,優秀な裁判官が慰謝料だとか,定額賠償も最近は認められておりますのでうまくやってくれるのだろうと,岡崎さんの発言からもそう思われますので,経過措置は必要ないのではないかと,そういう意見を持っております。 ○内田委員 今の点ですけれども,現在の実務の運用は,諸先輩の経験とか様々な知恵を重ねて賠償額が決まっているのだと思いますが,それは割引率とか賃金センサスのほかに生活費の控除の割合とか,場合によっては過失相殺の割合とか,様々なことが考慮されていて,最終的に出てくる賠償額の妥当性,それが国民から支持されるかどうかというところがかなり大きな考慮要因になっているのではないかと思います。中間利息控除の5パーセントという数字は,その最終額を算出する過程で使われている一つの要素だと思います。そうであるとすると,およそ人身損害の逸失利益についての賠償額が今,大体,相場が幾らぐらいになっていて,それを動かすべきでないのか,あるいは動かしたほうがいいのかという議論は,この部会では全くしていませんので,やはりそれを議論すべき場で中間利息控除の割合も,それから,計算の方法自体の妥当性も抜本的に議論すべきではないかと思います。その議論をせずに,損害賠償訴訟の引伸しなど,今の法定利率が高すぎるために弊害が生じている別の局面を念頭に,法定利率を引き下げて変動制にしようという議論をしていることに引きずられて,その結論を安易に中間利息控除に反映させ,最終的に出てくる賠償額を大きく変動させてしまうということは,実務に無用の混乱を招くのではないかという点も十分考慮すべき問題であるように思います。 ○佐成委員 今,内田委員がおっしゃったところは,内部での議論の中でも出ております。ここはブラケットで5%となっていて,ブラケットの趣旨が現状維持のためということであれば理解できるけれども,そこを3%にするとか,変動制の議論に引きずられて議論するということになるのではないかと,かなり懸念を表明する意見がございましたので,そこは慎重に考えていただきたいなと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中井委員 中身の議論はよくないことを承知しながらですけれども,先ほど内田委員がおっしゃられたことに関しても,典型例として我々弁護士として依頼者にどう説明するのかと思う身近な例,これは前回も申し上げましたけれども,後遺障害で5年分の逸失利益を現在価値に置き直して計算をする。そのとき従来は5%で引き直して遅延損害金は5%だった。結果としては論理的には同じ数字になるはずです。   しかし,中間利息は5%,法定利率は変動の3%と仮にしたときには,1年先のものは5%で割り戻して,しかし,遅延損害金は3%で結論は同じ数字にならない。これは極めて説明困難であると思っています。長期になったときには長期の金利が分からないというところで,別の問題が生じることは十分承知しているんですけれども,身近な3年先,5年先のことが果たしてこれで合理的に説明できるのか,疑問を感じざるを得ないということを重ねて申し上げておきたい。そこで,変動制を採るなら変動制を採るというのも,一つは論理的な選択肢としてはあり得るということをもう一度,申し上げておきたいと思います。 ○筒井幹事 念のための確認ですが,ここで中井委員がおっしゃっている変動制というのは,変動制の法定利率に連動した数値という御趣旨でよろしいでしょうか。 ○中井委員 はい。そういう趣旨で申し上げました。 ○筒井幹事 中間利息控除のところの(注)に,変動制を導入すべきであると記載されている意味がよく分からないという御指摘が先ほどあって,私も実はよく分かっていなかったのですけれども,ただ今の御発言でそう理解すればよろしいということを理解いたしました。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○潮見幹事 弁護士会の先生方が注記してほしいとおっしゃっておられる内容というものを確認させてほしいんです。というのは,法定利率について変動制を採って,それから,中間利息控除で変動制を採るという考え方は,今回の法務省がお示しになられたもので示されていると思います。それからまた,法定利率で変動制を採り,中間利息控除で固定制を採るという考え方があるというのも,この中で表現されていると思います。   入っていないのは,法定利率で固定制を採り,かつ,法定利率で固定を採るという選択肢で,そのときに4の「法定利率」のところに,注記のところで固定というのが書かれていないということなのですが,書いてほしいという内容というものは,固定制を維持すべきであるという考え方があるということですか。さらに,そこに固定制を維持した上で5%を維持する意見もあるということも書いたらどうかという提案なのでしょうか。それと連動して,中間利息控除の場合にも仮に固定制が法定利率で採用されるとするならば,これこれ,これというような書き方で何かを書いていただきたいという希望を表明されているのでしょうか。 ○中井委員 私が答える立場にもなくて,弁護士会もここは意見が分かれています。したがって,部会提案のような考え方もあり得るという意見もあります。しかし,(1)については現状5%固定という意見もあります。したがって,本当に変動制を採用するのかということに対して世に問う,従来どおりの固定制でいいのではないかというのを世に問うてほしいというのが強い意見としてございます。そのときに5%を変えて,法律で3%とする,そういう固定制を採るという考え方を否定するものではありません。そのとき,固定制を採っているなら中間利息控除について何か書くのかといったら,先ほど筒井幹事もおっしゃられたように書かなくてもいい。これは裁判所というか,従来の実務に委ねるという考え方はあり得るのかと思っております。 ○鎌田部会長 よろしければ,次に「第7 履行請求権等」について御審議いただきたいと思います。一括して御意見をお伺いいたしますので,御自由に御発言ください。 ○大島委員 3の「契約による債権の履行請求権の限界」についての意見ですけれども,これまでの部会の議論を伺っていますと,(備考)欄にある契約の趣旨に照らしてという表現については様々な議論があり,今もなお,委員・幹事の皆様において理解が共有されているとは言えない状況ではないかと感じます。その点を踏まえますと,(備考)欄の「契約の趣旨に照らして」についての説明は,パブコメの際に読者の誤解を避けるためにも重要なものと思いますので,(備考)欄ではなく(概要)欄に記載すべきと考えています。 ○潮見幹事 お手元に配布していただいたことが第7に関してはほぼ全てですけれども,今の大島委員の御発言に対しても私は賛成したいと思います。先ほどから出てきているような契約の趣旨に照らしという言葉自体がいろいろな意味でとられるおそれもありますから,余計にそうしていただければと思います。   その上で,席上配布資料の私のものの3ページ目のところに二つだけ挙げさせていただきました。一つは「債権の請求力」のところですが,取り上げなかった論点にも関わるのですが,追完請求権,この言葉がいいかどうかは別として,不完全な履行がされた場合の完全履行請求ということを基礎付ける基本的なルールというようなものをもしできるのであれば,「債権の請求力」の1で御提案になっている部分の近くに,あるいはくっつけて置いていただければ有り難いというか,そういう意見も少なからずあったと思いますから,何らかの形で配慮を頂ければと思います。   とりわけ,今後,出てくるでありましょう売買あるいは請負の辺りで瑕疵修補請求権というものの規律が具体化されることになれば,また,更にそれでの瑕疵担保責任が契約責任という観点から基本的に捉えられるということになるのであれば,余計にこの辺りにいわゆる完全履行請求に係る基本ルールというものが設けられるのがふさわしいのではないか。そういう意見があった以上は,あったというか,少なからず支持があったということから考えますと,何らかの形で注記でもしておいていただければとと思います。   それから,もう一つは3のところの「履行請求権の限界」のイですが,履行に過分の費用を要することというのは,若干,誤解を招くのではないかと思います。むしろ,私の意見のところのイであえて読み上げませんけれども,一部分だけを見てください。と履行を受けることについての債権者の利益と,それから,履行することに要する債務者の負担,この間の不均衡というものを捉えて,そして,履行請求というものが濫用的であるというような場合について,こういう限界というものを設定するというのが恐らくイの背後にある考え方ではなかろうかと思います。そういう意味では,こういう規定を置くこと自体には異論はございませんけれども,少し文言的に誤解のないように工夫をしていただければと思います。 ○筒井幹事 安永委員から発言メモが提出されていますので御紹介いたします。第7の3ほかに関する発言です。   第7の3,第8の5では,「契約による債権の履行請求権」や「契約による債務不履行における損害賠償の範囲」と,タイトルに「契約による」という文言が付されています。この点については,「契約による」との限定を付けてしまうと契約関係にはないが,一定の法律関係に入った者が信義則上負う義務,例えば派遣先企業が派遣労働者に対して,あるいは元請企業が下請企業に労働者に対して負う信義則上の安全配慮義務や職場環境調整義務が当該債務の中に含まれなくなってしまうのではないかと危惧されるところです。そこで,「契約による」という限定を付けることによって,そのような問題が生じるのかどうか,御教示いただきたいと思います。 ○松本委員 私も3のイで,正に潮見幹事が御指摘されたと同じような印象がありまして,履行に過分の費用を要することという言葉が裸で出ているというのは,大変違和感があります。何と比べて過分なのかというところを書かないと,すごく混乱するのではないかと。では,何と比べてかというと恐らくウではないかと思うんです。つまり,契約の目的,契約締結に至る経緯その他の事情に基づき,取引通念を考慮して定まる当該趣旨の契約に照らして過分の費用となる場合ということだろうと思いますから,言わばウは一般的な受け皿条項なんでしょうけれども,過分の費用に関しては正にこの要件を課さないで裸の過分というのはあり得ないのだろうと思います。物理的に不可能のほうは恐らく物理的に不可能だということで,客観的な評価でいけるんだろうと思います。 ○筒井幹事 ただいま松本委員から御指摘いただいた点,それから,一つ前に潮見幹事から第7の3に関して御指摘いただいた点は,全く異存ありませんし,部会での議論でもそうなっておりました。むしろ,物理的に不可能であるという要件にしても,規範的な評価が入ってくることがあるのではないかという御指摘を頂いておりましたので,今回のたたき台の書き方は,それをうまく表現できていないという御指摘は全くそのとおりであり,工夫したいと考えております。ただ,たたき台を提示する段階でも,そのような問題意識は理解していたのですが,,例えば,アとイをつなげて書いた上で,その他のという形でウを書き,その前のアとイがウの例示であることを示すという書き方をいたしますと,そのような構文の意味を御理解いただくのは非常に難しくなるであろうと考えました。そういうことから,当面の対策として,現在はア,イ,ウと分けて書いてあるわけです。この現状に対して御懸念があるという指摘は,全くそのとおりですので,何らかの表現上の工夫について更に検討したいと思います。 ○深山幹事 契約の趣旨に照らしてということが,34ページに(備考)として書いてあります。これは(概要)に書くべきだという御意見もありましたけれども,この契約の趣旨とか,あるいは契約の趣旨に照らしてという言葉があちらこちらに出てまいります。今日の資料でも先ほど中田先生のほうで,第6の1のところに出てくるのとの関係性をお尋ねになっていましたし,この後の第8の「損害賠償」のところにも当該契約の趣旨に照らしてというような言葉が出てまいります。同じ趣旨,意味で使っているのかどうか,もし,そうであればこの場所に書くことがふさわしいのかどうか,単純に一番先に出てくるところに書くという考え方もあるでしょうし,そうではなくて,ここに書くにはそれなりの意味があるということであれば,それはそれでお教えいただきたいと思います。いずれにしろ,ここで解説する意味があるんだということが分かるように書いていただいたほうが,読み手への親切に資するのではないかという気がします。その前提として,まず,この場所に書いた趣旨というのがあれば教えていただければと思います。 ○岡委員 私も「契約の趣旨」というキーワードについて適切な説明をすべきだという意見でございます。その中身なんですが,ゴシック体のところは契約の目的,契約締結に至る経緯その他の事情に基づき,取引通念を考慮して,取引通念を少し仲間外れにしている表現になっております。ただ,部会資料の34ページの下から3行目を見ると,ここは平等に,目的,経緯,取引通念といった考慮要素を例示するというふうに書き方が微妙にずれております。弁護士会としては平等に,目的,経緯,取引通念に基づいて定まる契約の趣旨と書いていただけるとかなり理解は進むのだろうと思いますが,現在のゴシック体では,取引通念を仲間外れにして書いているのは,相当,深い意味があるのか,そうでないのか,その辺の記載の趣旨をお伺いできればと思います。 ○筒井幹事 岡委員の問いに対しては,そこでの考慮事情と,取引通念との関係については,いろいろと議論があり得るのだと思います。ただ,たたき台を提示する段階では,取引通念というものが,契約の目的などと並列関係にある事情なり事実なりと言えるものかどうかは,恐らくよく考えなければいけない問題があるのだろうと思いました。そこで,現段階での一つの答えとして,取引通念は,考慮事情とは区別されるという理解に立って,グループ分けをした案をブラケットで囲んで提示しております。しかし,これが最も優れているとまでは必ずしも考えておりませんので,それらを単純に並列するという修正案についても,よく考えてみたいと思います。   それから,一つ前に深山幹事から御質問いただきました契約の趣旨という文言の前のブラケットが第7,3だけに付されているという点については,ここだけに付することに特別な意味があるという趣旨ではありません。ただ,契約の趣旨という文言は,もともとブラケットの中に書いたような意味を表しているのだと私は思いますので,その点についての一定の共通理解が得られるのだとすると,最終的な条文では,その考慮事情を繰り返し書かなくてもよいのではないかとの思いがあります。ですので,契約の趣旨という文言が最初に出てくるところでは,ブラケットでその考慮要素等を詳しく書き,その後は繰り返しては書かなかったということであります。しかし,繰り返し書いたほうがよいという御意見があれば,それでも構わないと考えております。実質としては,現在のたたき台でも,契約の趣旨という言葉は,ブラケットの部分が付されていなくても同じ意味で書いているつもりでございます。   それから,その前に御紹介した安永委員の御意見も,この辺に関わるものです。「契約による」という限定は,金銭債務の特則のように専ら便宜的に付したところがあります。それは,法定債権については改めてまた別の機会に御議論いただくという趣旨で,今回のたたき台では契約による債権だけを対象とする案を提示しております。しかし,それ以外のところについては,これまでの議論に従って,民法の規定内容をできる限り明確にする趣旨で,契約に基づく債権と法定債権についての規律を分けて定めようという発想で提示したものでございます。このような項目については,契約に基づく債権のみに手気宇要される規定を設けるときに,法定債権についてどうするかというのは,また,別のところで御議論いただくことを予定しております。   その際に,安永委員からは,契約に基づく債権ではないが,信義則上,これと同様の取扱いを受けるといった類型のものに影響が及ぶのかどうかという御懸念が示されましたが,そういう御懸念は不要であろうと考えております。従来から裁判実務は,契約に基づく債権と法定債権には違いがあることを認識した上で,御指摘のような信義則に基づく規律を組み立ててきたわけですから,それが今回,このような形で規定の明確化を図ったからといって,影響を受けるといったことは全くないと私は考えております。 ○道垣内幹事 契約の趣旨に照らしてというのをどこに置くかとか,(備考)から(概要)に移すとか,そういう話がありますが,1点だけ,留保をしたほうがいいのではないかと思うところがあります。今後,審議が進んでいくと,契約の解釈の準則という問題が出てきます。そのとき,そのような準則が仮に全部落ちる,規定されないということになりましたら,契約の趣旨というものはこういうものなんだ,ということをここで書くことには十分,意味があると思います。しかしながら,仮に契約の解釈準則がある程度の形で規定されるということになりますと,契約の趣旨とは,それによって決まってくるのだろうと思います。したがって,後ろのルールとの関係で,どこに書くのか,どのような形にするのかというのは決まるのではないかということを一言しておきたいと思います。 ○山野目幹事 岡委員のほうから問題提起を頂いた,取引観念を考慮して定まるという文言,字句の位置の問題でございますが,こういう感じ方もあるという趣旨で,今後の検討の御参考にしていただく意味で申し上げますけれども,筒井幹事がおっしゃるとおり,ここを議論し始めるといろいろな語順,字句,表現の組合せがあって,際限のない議論になりまして,それはむしろ今後の検討の中でされていくことであると考えますが,私が最初にこれを読んだときの印象では,岡委員は取引観念を考慮して定まる,というのが独りぼっちにされていて,何か寂しく劣位に置かれているという感覚でおっしゃいましたけれども,私はむしろ離してあるからこそ,このウエートが高くなっていると感じて,弁護士会の先生方が従来より非常に重視しておられる思想ないし原理のことに,法務省事務当局は最大限の配慮をなさったと受け止めました。ですから,日本語の受け止め方はいろいろあるものでありますから,弁護士会の先生方におかれましても,今後,引き続きこの検討がされていく中で,一体,どういうふうな表現がお考えを表現していくのに当たって最良なのかということは,更に私どもも御一緒に勉強させていただきますけれども,御検討いただくことがよろしいのではないかと感じます。参考までに申し上げます。 ○中井委員 山野目幹事がおっしゃられたように,弁護士会の中では,このような流れになりつつあるということは,民法改正について勉強している方々,バックアップの方々については,それなりに理解が進みつつある,それであってもなお,契約の趣旨一本化説に対しては潜在的危惧感を持つ広い層がいることを重ねて申し上げておきたい。その危惧感を持つ人たちには,一定の契約のみに基づかない,それ以外の,ここで外在的と言うと非難を受けるんですが,言葉で言うならば社会通念,それを取引に落とすなら取引通念一般によって制約されることが必要ではないかという意見を聞きます。   そこで,この3についてもそうですし,次の第8の1で議論されるところについてもそうですけれども,契約の趣旨を挙げるなら,それの対として社会通念ないし取引通念をいわゆる並列的におくほうがより好ましいという意見がある。それを果たして(注)で書いてくれというべきかどうかが迷うところです。その取引通念なりをどう契約の趣旨に読み込むか,このワーディングを含めて,これで仲間外れ以上に価値を置いていると読むのか,その辺り,なお,慎重に検討していただきたいと思っております。(注)として並列型を強く言うべきだという意見も出ていることを申し添えておきます。 ○山本(敬)幹事 位置の問題その他につきましては,これまで出ていた意見に付け加えることはありませんが,細かい文言についてだけ指摘させていただければと思います。ブラケット内の「その他の事情に基づき」という部分で,「基づき」という言葉をこのような場面で使うのかという点について疑問を感じました。「基づき」というのは,根拠に当たるものを示すものだろうと思います。事情が根拠かというと,そうではなく,本来ならば「事情を考慮し」とくるところが,後ろに取引通念を別立てにしたので,二つ同じ言葉は使えないということで,こうなったのかもしれないと思います。その意味では,深い思い入れがあって「基づき」になっているのではないのだろうと推測した上で,ここは例えば「事情に従い」などの別の表現を使うことが必要ではないかと思います。細かいと感じられるかもしれませんが,契約がどのような考え方によって成り立っているのかということを表す部分でもありますので,特にお願いできればと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 2の「履行の強制」の(1)のただし書,「債務の性質がこれを許さないとき」という規律と,3のウの「その他,相当でないと認められる」ということとの関係がどうなのかが分かりにくいような印象を受けました。前者は履行の強制の限界で,後者は履行請求権の限界なのかなと思うんですが,そうすると,履行請求権と履行の強制との関係はどうかという問題にもなってきますので,この二つの関係について何らかの形で考え方を示しておいたほうがいいのではないかなと感じました。 ○鎌田部会長 ずれがあってもいいんですね。 ○中田委員 はい。履行請求権一般と履行の強制とのずれに加えて,契約による債権の履行請求権というもう一つの要素も絡んでくるものですから,その二つの関係が分かりにくくなっているのだろうと思います。 ○鎌田部会長 検討させていただきます。ほかにはよろしいでしょうか。 ○道垣内幹事 思い付きで恐縮なのですが,1,2,3と,この順番なのですかね。1,3,2なのではないかという気がどうもしてならないのです。それが中田委員のお話にも関わってきていて,実体法上の請求権がない場合というのがあって,そのときにはもちろん履行強制はできなくて,なお,債務の性質が許さないという場合もあり得るというものかなと思うとともに,他方では,2は契約上,債権に限らないというふうな整理の仕方なのかなとも思います。自信はないのですが,一言だけ。 ○鎌田部会長 それと関連するんですけれども,3は読み方によると一時的にストップするというのも含まれているように読めるんだけれども,これは履行不能が典型に挙がっているように,履行請求権が消滅すると言っていいかどうか分からないけれども,消滅するような場合を念頭に置いているんですね。   それでは,次に「第8 債務不履行による損害賠償」について御審議いただきます。一括して御意見を伺いたいと思いますので,御自由に御発言ください。 ○潮見幹事 また,席上配布のところの潮見の4ページ。これは一括って全部ですか。 ○鎌田部会長 では,1から順番にやります。 ○潮見幹事 1ですけれども,4ページ目のところにも書きましたように,少し気持ち悪いところもないわけではありませんが,(2)のほうで「当該契約の趣旨に照らして」という文言を付加したという点については,過失責任原則を基礎とせず,契約内容から免責事由を導き出すということを示したことで,多としたいところです。第3分科会だったと思いますけれども,そこでいろいろ議論されて,最終的に考えられたことを踏まえて,法務省のほうでこういう形でまとめられているのであれば,それはそれとして,特にこういう形で提案することに対して反対をするつもりはございません。もちろん,契約の趣旨に照らしてというのは今後,また,いろいろ考えるところはあるのかもしれません。   また,(1)と(2)ということについて分けるということについても,こういう形でパブコメで出して聴くのがよろしいのではないかと思います。   それから,先ほど筒井幹事の御発言があった法定債権については,また,後でいろいろ議論されるのかと思いますけれども,席上配布物に一つの簡単なイメージみたいなものは書きましたけれども,免責のルールというものを設ける方向も,そのときに少し御検討あるいはパブコメで聴くかどうかということを含めて,お考えいただければと思います。 ○中田委員 今の1についてですが,(1)で「債務者がその債務の履行をしないときは」としまして,本旨という限定的な文言を削ったということです。本旨という言葉を削ることは構わないと思うんですが,ただ,これだけを読みますと,全く履行しない場合に限られると誤解されてしまうのではないかと思います。ですので,本旨という言葉にはこだわらないんですけれども,いろいろな態様の債務不履行を広く含んでいるということが分かるようにしたほうがいいのではないかと思います。 ○高須幹事 1の(2)のところでございますが,「契約の趣旨に照らして債務者の責めに帰することのできない事由によるものである」という表現につきまして,今,潮見先生からもやや気持ちの悪さが残るという御指摘も頂きましたが,弁護士会の中にもいまだに「契約の趣旨に照らし」という言葉を入れることに対して,抵抗感を持つという考え方もありまして,そういう意味ではこの表現で落ち着けばそれはそれでよい。ここまで長い道のりを歩いて来たという思いを持っておりますので,何とか,そのような形で収まればという思いを持っております。   その上で,先ほど来,出ている契約の趣旨の理解の仕方については,既に前のところでの議論がありましたように,どのような位置付けにするのか,議論を深入りすることは避けながらも,一定の考え方を構成していく必要があると思いますし,弁護士会としてもその辺はやや神経を使っているところもありますので,引き続き,検討していきたいと思いますが,トータルとしては「債務者の責めに帰することのできない事由」という言葉も入れ込んだ一つの中間試案提案が出ているということについては,引き続き,これを維持していただきたいと思います。 ○潮見幹事 1点だけ,誤解のないようにということで発言させていただきたいのですが,私が気持ちが悪いのは,「当該契約の趣旨に照らし」というほうではなくて,むしろ,「責めに帰することのできない事由」という,こちらのほうで,ただ,それでもなお,最終的にこの間の議論は多としたいということです。 ○鎌田部会長 次に,2について御意見をお伺いします。ここはよろしいですか。   では,3についての御意見をお願いいたします。 ○松岡委員 私の誤解であればよろしいのですが,3のイの書き方によく分からないところがあります。本文36ページから37ページにかけては,「債務者の債務不履行により債権者が契約の解除をしたことを填補賠償請求権の発生原因として明記するものであり,従来から異論がないとされる」と書いてあるのですが,本当にそうなのでしょうか。契約の解除の個所はまだ提案されていませんので,どうなるか分かりませんが,いわゆる責に帰すべき事由,帰責事由がなくても契約の解除ができることを主張する有力な案があります。それを採った場合,契約の解除をしたからといって,直ちに損害賠償の請求ができるとは考えられません。ここは債務不履行による契約の解除をしたことにより損害賠償債務が生じるという意味ではないのだろうと思いますけれども,やや誤解の生じる表現になっているという気がします。 ○松本委員 同じく(1)のウのほうなんですが,解除しなくても填補賠償が請求できる場合があるべきだということで,37ページに具体的に二つの例が挙がっています,交換契約と継続的供給契約が挙がっているわけですが,これら二つはともに言わば解除したくない,解除しないほうがメリットがあるというタイプのもので,これはそれなりにニーズがあると思うんですが,そうでない通常の単発型の例えば売買契約の場合も,このルールが一般的に適用されるわけですから,相当期間の催告をした後,債権者としては解除する,履行請求をする,填補賠償請求をするという三つの選択肢があるわけです。   (2)のところを読みますと,填補賠償の請求をすれば履行請求はできなくなるということは書いてあるんだけれども,解除との関係はどうなのかと。填補賠償の請求をすれば,解除はできなくなるというルールは必要がないのかどうかということです。あえて(2)にそういう趣旨のことは書いていないということは,填補賠償請求をした後で,なお,解除権は残っていると反対解釈すれば読めるわけですが,そこまでの選択肢をまだ残しておく必要があるのかどうかについては,いかがなんでしょうかということです。 ○筒井幹事 その場合に解除権が残っていても不都合はないと考えておりましたが,何か問題がありますでしょうか。 ○松本委員 填補賠償の請求をするということは,金銭で解決をしようという選択をしたわけですよね。履行請求ができなくなるということとの関係でいくと,填補賠償の請求をしたのにお金を払わないのなら,履行してくれと言っても構わないというロジックになりませんか。 ○山野目幹事 松岡委員と松本委員がおっしゃったことについて,私も,誤解かもしれませんが,直感で感ずることをそれぞれ申し上げますと,松岡委員がおっしゃった(1)イは,ここの文言,字句も債務不履行により債権者が契約の解除をすると書いてありますし,それから,構造として,この損害賠償請求がされた債務者被告が1の(2)の抗弁を提出して損害賠償責任を免れるということは,可能であるという仕掛けで成り立っていると私は理解しました。それから,松本委員がおっしゃったウのほうは筒井幹事と同じで,解除権を認めることになっても何か進んで有害なことはないのではないかとも感じます。   以上,参考までに申し上げます。 ○潮見幹事 私も山野目幹事と同じ意見です。ただ,松岡委員がおっしゃったところについては,恐らくゴシックのほうではなくて,(概要)のところの36ページ,下から2行目の填補賠償請求権の発生原因としての解除というところに違和感を覚えておられるのではないかと思いまして,私も同じところがあるので,この部分を,少し文言的に表現を工夫されたらいかがでしょうか。 ○松本委員 私の違和感というのは,先ほど言いましたように三つの救済策があるわけですね,履行請求,解除,填補賠償請求と。解除をすると確かに形成権だから履行請求ができなくなるというのはよく分かるわけですが,填補賠償の請求をする,履行請求をするというのは言わばオルタナティブな関係にあるんだと考えれば,一方をしたから一方が消えるという必然性はないのではないかと。そういう意味で,解除もどちらかをしたからといって,解除権が消えるわけではないというのと同じことになるのではないかということです。 ○筒井幹事 頂いた御意見は,(備考)欄の書き方についての御指摘という整理も含めて考えたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしければ,4についての御意見をお伺いいたします。 ○道垣内幹事 山野目幹事が3の理解についておっしゃったところ,つまり,3の填補賠償の場合にも,もちろん,1の(2)の抗弁というのは成り立つのですよねというところは,理解として正当であるということでよろしいわけですよね。そうだとしますと,それが全体としては分かりにくくなっていると思いますので,何らかの形で明記をして分かりやすくする必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 4についての御意見はいかがでしょうか。   ないようであれば,5についての御意見をお伺いします。 ○潮見幹事 5です,席上配布資料の4ページのところを御覧になっていただければと思います。書いていないところから申し上げます。これもいろいろ分科会で御審議されたのではないかと思います。実際に部会のところでも416条の規定の在り方については改正の方向で,例えば通常損害,特別損害という枠組みは残してほしいという特に実務家の先生方からの強い御意見があり,また,他方で契約による債権あるいは債務不履行の場合には,契約の趣旨ということから賠償範囲というものを判断されるべきものであるというような考え方も,また,多々,主張されたのではなかろうかと思います。   さらに,どちらの立場を採るにしても,あるいは,とりわけ後者の立場を採った場合には,予見可能性という観点から賠償範囲を画するという捉え方もあるという見方も示され,他方で予見可能性という概念を用いて賠償範囲を画するということについては適当ではないという意見もあったと思います。更には契約締結後に予見あるいは認識することもできたような損害について,どう処理するのかということも議論があって,そういうものを全部ひっくるめて落ち着き所というか,落とし所を探ろうとして,このような提案といいましょうか,案が出てきているのではないかと思います。   その工夫をされたという部分については,これまた,努力については多としたいところはございますが,この5の部分については私の配布資料でいえば5ページ目のところですが,事務局から出された案ですと通常損害と特別損害に当たるのでしょう,イの損害との関係がよく分からないというところがあります。更に,これは注記のところにもございますが,通常生ずべき損害と書いただけでは,一体,何を基準に判断するのかが正に評価者に白紙委任されるということにもなりかねません。これは前から私がずっと言っているところで,これは注記でフォローされているのでしょうが,少し感じましたのは,ほかの箇所では先ほど来,契約の趣旨に照らしてという言葉がキーワードになって,いろいろなルールが策定されようとしているのに,この部分については柱書きのところも含めて契約の趣旨に照らしてという観点が出てきていまん。ここに,少し気掛かりなところがあります。そういう意味で,少し対案的なものでちょっとだけ変えたものをお示しさせていただいたというところです。   それは,4ページの下のゴシックのところに書いているようなもので,こんなものではどうだろうかということです。この期に及んで対案かと言われるお叱りを受けるのは,重々,承知の上で示させていただいていますが,法務省の提案したものを基本線に据えて,少し文言表現あるいは捉え方を工夫をすれば,そこの(1)(2)のような形でまとめても結果的には同じようなことになり,かつ理論的には少し改善されるのではないかと思った次第です。   (1)のところでは契約の趣旨に照らして,損害賠償の範囲が確定されるべきであるという基本準則を示す。正に,そこでは契約内容の確定法理と賠償範囲の確定準則とのリンクというものを示しておくと。(2)のほうでは,先ほど申し上げました契約締結後の認識あるいは認識可能になった損害について,そうした基本準則というものをどのように解釈し,適用し,運用するのかというルールを書く。契約解釈の補充ルールみたいな形で示す。これによって通常損害,特別損害という枠組みを捉えることができるし,契約の内容,趣旨という観点からの賠償範囲を判断すべきであるという考え方も,基本的に(1)のところでいかすことができる,それから,予見可能性ということに特化しない形での評価というものも取り込むことができるということで,さらに法務省の基本的な考え方というものにもそれほど大きく違わないので,こんなものもあるかなと思って少しお示しをした次第です。ただ,これは時宜に遅れたというところもあるかもしれませんし,見捨てられても仕方がありません。 ○松本委員 今の潮見幹事の御意見の多分,半分ぐらい同じ話になると思うんですが,部会の議論の流れからいくと,私はここの5の(1)のイに関しては,契約締結時に両当事者が予見し,又は契約の趣旨に照らして予見すべきであった損害と当然になるんだと思っておりました。ところが,契約締結時両当事者予見説は別案にすら出てこないというのは,一体,どうしたんでしょうかという非常に不思議な思いでありまして,原案がそちらになって別案に現在の判例を維持するというのが出てきてもおかしくはないかと思うんですが,どうして契約締結時両当事者予見説というのが全く消えてしまうのか。   これだと今年の司法試験の民法の問題に出てきたように,契約締結後,債権者がある事情があるんだということを告げると,一気に賠償範囲が広くなるのかという余り合理的でないような結論になりかねないと思いますし,さらに金銭債務について41ページの8のほうで,利息超過損害を当然に認めるんだということと5の(1)のイをつなぐと,金銭債務の弁済期の直前に債権者がやってきて,あなたが弁済してくれないと私はそのお金でもって,こうしようと思っていたのができなくなって,大変な損害を被るんだと言われると,それを賠償しなければならないのかということで,非常に不当な結果になるのではないか思います。もちろん,金銭債務の場合は,債権者はほかから調達すればいいではないかということですが,先ほどの法定利率をどうするんだという話とも連動して,調達金利というのはそんな法定利息どころではないというのが一般的な理解ですから,その辺も考える必要があるのではないかと思います。 ○岡委員 通常生ずべき損害の言葉を残していただく,このゴシック体に弁護士会としては基本的に賛成でございます。松本委員がおっしゃったように,通常生ずべき損害が契約締結時の予見ルールに代わると,弁護士会としてはかなり強い反対になると思います。そういうことも配慮していただいて,こうなったのかもしれないと思いました。   ただ,部会資料39ページの3行目では,本文(1)のア,通常生ずべき損害をイの予見ルールの代表例と見る考え方を提示しています。ここには相当な反発がございました。具体的にはゴシック体のイの頭の「その他」というのが非常に反対であると。「その他」と「その他の」で法制上は違うかもしれませんが,部会資料を読むと,とにかくイの代表例であると,予見ルールの定型的なものであるという位置付けになって表現されておると思います。しかし,部会でも能見先生もおっしゃっていただいたと思いますが,予見ルールだけではない客観的なルール,相当因果関係説の裁判例が忍び込んできているのだろうとは思いますが,予見ルールとニアリーイコールだけれども,今までの実務で予見ルール,プラスアルファの実務が「通常生ずべき損害」として定着しており,それは守るべきではないか,守るべきであるという意見が弁護士会には相当強うございます。   したがいまして,意見としてはイの「その他」というのは取っていただくのを本案にし,しかし,予見ルールで全部ひっくるめるという考え方があるのは承知しておりますので,(注1)のところに通常生ずべき損害というのを除くとか,全部,予見ルールで考えるべきである。そういう案が表示されるのはいいと思いますが,少なくともアがイの代表例であるという案を本案にすることについては,現在,弁護士会では相当反発が強いということでございます。 ○佐成委員 38ページの(概要)の1の最初の部分で,416条1項の文言を維持しつつ,2項にいう予見の主体・時期を明示するなど,規定の具体化,明確化を図るとされていますが,この部分については全く異論はございません。ただ,その次のところでイをこのような形にするということについては,まだ,若干,経済界の中でも異論があります。   つまり,416条2項の文言を維持することを前提に,予見の主体及び時期だけを明示するということであれば結構だけれども,特別の事情とか,そういった文言の部分までをここに書かれているような形で,事情と損害を同視した形で改正するということにつきましては,まだ依然として,異論があります。ただ,ゴシック体の部分をそのように改めよというところまでいっているわけではありません。最終的に多数派を形成できるのは,もしかしたらこのゴシック体の考え方なのかもしれないからです。ですけれども,少なくとも現段階では(注)でそういった意見があること,要するに416条2項の文言を維持しつつ,予見の主体及び時期のみを明示するといった考え方もあるということだけは,注記していただきたいということでございます。   それから,あと,先ほど松本委員が予見の時期について,契約締結時が相応しいということもおっしゃっていまして,私自身も個人的にはそこをそう改めることには非常に賛同するところなのですが,ただ,実務への影響も大きく,おそらく多数派を形成することは無理だろうというのが私の個人的な感じでございます。 ○中井委員 潮見幹事に確認ですけれども,対案(1)ですが,ここの2行目に債権者に生ずべき損害を債権者に通常生ずべき損害とすれば,先生の意図は全く外れてしまうのでしょうか。 ○潮見幹事 そこで通常を書く意味が私には分かりません。 ○中井委員 先ほどの岡委員からもありましたけれども,そこに枠組みを課すということですが,契約の趣旨だけではなくて。 ○潮見幹事 契約の趣旨に照らせばという文言,あるいはそこに何が書かれているのかということの理解次第だと思いますが,先ほどの(備考)欄に書かれていたような観点から,契約の趣旨というものが捉えられるのであれば,それに重ねて通常という言葉を入れる必要は全くないし,かえって契約の趣旨で表現されているものとは,何か違った観点からの賠償範囲のルールがそこで定められることになるというような逆のメッセージが伝わり,好ましくないように思います。ただ,もちろん,これは,これから先の議論がいろいろありますから,その中で,多分,考えておられる内容というのは,中井先生と私とそれほど変わらないのかもしれないと思っているところもありますから,なお,この先,いろいろ議論で深めていったらいいのではないかと思っております。 ○中井委員 発言した趣旨を補足しますと,基本的に予見可能ルールについての考え方を採ったときの弁護士会が常に懸念するのは,その予見は,契約で場合によっては明らかになるかもしれませんし,その後,債権者が伝えることによって明らかになるのかもしれません。しかし,その予見可能な範囲の損害全てとなったときの過大性に対する危惧が常にある。そこに相当因果関係というと,それがはっきりしない,通常といってもはっきりしないという御批判のあることは承知したうえ,そこに契約の趣旨を取り込まざるを得ないということも理解をする。その上で,折衷といってしまうと,原理原則がなくなるという御批判になるのかもしれませんけれども,契約の趣旨に照らして通常生ずべき損害というのであれば,まだ,我々は説得しやすいなと思った次第です。 ○道垣内幹事 中井委員のお話を確認させていただきたいんですが,そうなりますと,潮見幹事のご意見の(2)とか,原案ですと5の(1)のイのところが問題だということになりますか。予見ができたとしても制約がないといけないということですよね。そうすると,通常は一本でやるというのが帰結になるのでしょうか。 ○中井委員 いいえ,(2)についての規律は残していただいて結構だという趣旨ですが。 ○道垣内幹事 「通常」という言葉によって何を切ろうとされているのかということです。(2)を残すとしますと,予見可能であるならば,それは通常でなくても賠償の対象となるというわけですよね。そうしますと,予見できたものは何でも賠償の対象になるというのは問題であり,何かの制約が必要であるということにはならない,そういう目的を達することはできないような気が伺っていてしたのですが,それは私の誤解なのでしょうか。 ○中井委員 (2)を入れると制約する原理の目的を達することができなくなるのではないかという御指摘ですか。 ○道垣内幹事 そうですね。 ○中井委員 ここにも従来の特別事情があっても,その場合の通常というのが掛かるのと同じ考え方を採っているんですけれども。ですから,(2)が入っても,そこから出てくる損害については通常の要件が掛かるという理解です。 ○道垣内幹事 特別の事情から生ずる通常の損害と。 ○中井委員 という従来の理解の延長線上で申し上げているんですけれども。 ○道垣内幹事 従来,それが従来の実務上の理解だったかは私は知りませんけれども,分かりました。 ○鎌田部会長 潮見幹事の御提案は,契約の趣旨に照らせば生ずるんですか,損害が。 ○潮見幹事 照らせば生ずべき損害の賠償。 ○鎌田部会長 照らせば生ずべきというのはよく分からない。 ○潮見幹事 言葉がこれでいいのかどうかは,検討していただければと思います。 ○鎌田部会長 「当該契約の趣旨に照らせば賠償されるべき」という保護範囲の問題ですね。この表現でいくと「生ずべき」になっているので。 ○潮見幹事 分かりました。 ○中井委員 今のやり取りの,賠償すべきとなるとすれば,そこに規範的な要件が入っているんですよね。ですから,予見可能といったときに予見可能であれば,そこに直接的因果関係があれば全て賠償の範囲になるという考え方につながることに対する危惧なんですね。賠償すべき範囲というときの「べき論」は何なのかと考えたときに,それは通常という評価,言葉の中で表現されるのではないか。それは契約の趣旨に基づく場合でもそうではないか。契約締結後,知り得た事情についてもそうではないか,こう考えるんですが,それはおかしいんでしょうか。 ○潮見幹事 内容を議論するところではないと思いますが,一言だけ申し上げます。だからこそ,(1)のほうで予見という言葉を私は使っていない。何も(1)のところは賠償されるべき損害の範囲が予見可能性によって決まるなどというような,そんな枠組みでは立てていない。先ほど部会長から御注意がありましたような,むしろ,部会長がおっしゃったような観点から賠償の範囲が画されるべきである。その意味では契約の趣旨に照らしてというところが唯一であり,かつ決定的な賠償範囲の確定基準あるいは根拠になり得るところである。それに輪を掛けて,それ以外の要素,要因というものを挙げる必要はないのではないかと思っている次第です。 ○鎌田部会長 対立点は理解できましたので,それを踏まえて,また,整理をさせていただきたいと思います。 ○中田委員 単なる補足なんですけれども,今回の案は非常によくお考えいただいたと思うんですが,従来,予見可能性と言われていたのを「予見すべき」というように変えておられていて,それで予見すべきの中身は何かというと,38ページの下から3行目から始まりますけれども,「賠償されるべき」か否かとなっています。ですから,賠償されるべきということと予見すべきという同じ「べき」という言葉を使っていても,そこに少しずれがあるかもしれませんので,そこを明確にするという作業かなと思いました。 ○道垣内幹事 おっしゃるとおりだと思うのですが,予見し,予見すべき,でございますので,現実に予見しているというほうのところに,規範的な判断が入ってくるということがうまくいくのか,いかないのか。この部会で現在の議論で一致しているのは,松本委員もおっしゃいましたけれども,何かの事情が債務者に伝われば,そこから生じる損害は何でも賠償の対象となるというのは,おかしいということですよね。   しかるに,今の現行法の条文はそれを特別事情から生じる損害であっても,通常損害しか賠償の対象にならないと解釈することによって,それを達成しているというのが中井委員の御説明だったんですが,しかしながら,事情というのをどこまで個別的に分解するのかという問題がございますので,そうなりますと,個別的に分解していきますと,そこから生じるある事情を予見していれば,かなりとっぴな損害であったって,当該事情から通常生じる損害であるという場合というのが出てくる可能性というのはありまして,それが松本委員のおっしゃる問題につながってくるんだろうと思います。   そうなりますと,そのような問題を,現行法における解釈として説かれるところ,すなわち,予見対象は事情であって,賠償対象はそこからの通常の損害であるというところで処理をするのか,それとも,事情を予見していれば,そこから生じる損害はすべて賠償の対象になる可能性があることを制約するという形の文言を置くのか,ということがポイントかなと思います。 ○山本(敬)幹事 今の道垣内幹事の御指摘はもっともで,そして,松本委員が指摘された問題は前から出ていた問題でして,このままの形ではそれが残ってしまうので,どうすればよいのかが思案のしどころだと感じていました。仮に小さな手直しで,それをカバーしようとするならば,イの部分の債務者が「予見し」が削除されることになるのではないかと思います。つまり,「契約の趣旨に照らして予見すべきであった」ということにする。ここでは,事後的に予見すべきことになったものであってもというニュアンスが入らないといけないわけですが,ただ,私はこれでもよいのですけれども,異論のある方々からは納得が得られないかもしれませんので,表現は多少,工夫する必要があります。いずれにしても,単に「予見し」だけですと,そこで規範的評価が一切入らないことになって,問題に対応できなくなってしまうだろうと思います。その意味では,規範的評価に一本化するという方向で考えられないものかと思います。 ○松本委員 (2)の意味が分かりにくいということなので,39ページの説明を見ると,正に契約締結時には予見できていなくて知らなかったことを履行期前に債権者が伝えるとか,あるいは予見可能になったという場合の債務者を救済するために,債務者の責任を限定しているんだと書いてあるわけなんですが,債務者がその損害を回避するために,契約の趣旨に照らして相当と認められる措置を講じたとすれば,そもそもこういう場合に限定する必要はない。契約締結後に初めて予見可能となった事実に限らず,当初から予見されていた,あるいは知っていた事実であっても,契約の趣旨に照らして回避するために相当な措置をとったのに,なお,責任を負わされるというのであれば,それは絶対責任ですから,契約の趣旨という言葉を入れる以上はおかしいという気がいたします。(2)を残すのであれば最初の1行半を削除するという必要があるのではないでしょうか。 ○内田委員 まず,予見の対象が特別事情と現行法はなっているわけで,それを前提とした議論もなされましたけれども,実際の裁判例は事情を予見の対象として認定しているものもありますけれども,事情と損害を区別せずに予見可能な損害について賠償の対象とするというものも多数あるわけで,改めて厳格に予見の対象を事情に限るような改正をすると,実務とそごを来してくるのではないかと思います。柔軟に行われている実務をサポートするという点からは,損害を予見の対象とするほうが問題が少ないのではないかという気がいたします。   その上で,予見可能性というのが現行法の言葉ですが,沿革的理由から「予見することができた」という表現になってはおりますけれども,実際には予見する対象は蓋然性ですので,ある債務不履行があると100%の確率である損害が発生する場合もあれば一定の確率で発生する場合もある。損害発生について非常に低い蓋然性が予見可能になる場合もあり得るわけですが,だからといって,常に損害賠償の対象になるとは通常,考えていないわけですね。ですから,予見可能性というのは規範的評価を含んでいて,相当因果関係の相当性といった概念は,あるいはそういう規範的評価を入れるための道具として使われていたのかもしれません。   しかし,現行法の文言と整合的に規範的な評価を入れようとすれば,現実に低い蓋然性で予見が可能であったとしても,予見すべきであったとまでは言えない,逆に,ここまでは予見すべきであった,という具合に規範的な表現にしたほうが運用しやすいのではないかということで,予見すべきという表現を入れているのが原案です。したがって,ここに既に規範的な評価を入れ込むことができるようになっていますので,それに加えての制約の表現というのは別になくても,十分,実務に対応できるのではないかと思います。 ○中田委員 今の内田委員の御説明で非常にはっきりしてきたのですが,蓋然性が低い場合のほかに例えばその損害が正当なものかどうかという問題があると思います。違法営業についての逸失利益ですとか,オーバーステイの労働者の逸失利益ですとか,あるいは賃貸人の貸す債務の不履行による賃借人の長期間にわたる営業利益とか,そこら辺が蓋然性という言葉だけで対応できるのかどうか。「べき」というのに,予見すべきであり,また,予見した上で負担すべきであるというのが入っているのではないかと思うんですね。それで御趣旨は分かるんですけれども,ちょっと分かりにくいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 すみません。引き続き,6,7を併せて御意見を頂戴したいと思います。 ○佐藤関係官 6について1点,お願いしたいところがありまして発言させていただきます。6のゴシック体の2行目に,「状況に応じて相当」という言葉がございます。この文言自体は40ページの上から6行目にも書いておりますが,文言の当否については引き続き検討する必要があるということであろうと思っております。ただ,一般の方向けにパブリックコメントに付することを考えますと,もう少し内容なり,あるいは考え方を分かりやすく記載いただければ有難いと思っているところでございます。   私の問題意識を申しますと,相当と認められる措置というのが, 事後的に明らかになったような全ての事情を考慮に入れて,言わば後知恵的に判断するということになりますと,いろいろな支障が生じるかと思っております。典型的な例で申しますと,中小企業で財務状況が悪化してくると,早期に, 過失相殺がなされる可能性を考えて融資の引上げを行ったり,あるいは担保実行が早期になされる可能性もあります。その結果,事業の再生の妨げになるような,そういう懸念もあると考えておりますので,「状況に応じて相当」という点につきまして,(概要)か,あるいは補足説明におきまして, どういう考え方であるかを明らかにしていただければ幸いと考えるところでございます。 ○岡委員 基本的には賛成意見が多いんですが,部会でも申し上げましたように消費者被害の事案において,裁判所が過失相殺を柔軟に使い過ぎているという意見はかなりございまして,その観点から見ると「状況に応じて相当」というのは広くもなり,狭くもなり,少し不安だなと。これについて,そう深い議論は部会でもなかったのではないか。それほど深く詰めたわけではないんですが,それこそ,ここに当事者の属性とか,契約の趣旨とか,何か,そういうものを入れたほうがうまくいくのではないかという議論をしてきました。まだ,それほど詰め切ってはいないので,「状況に応じて相当」だけでは広すぎるという問題意識でございます。 ○高須幹事 大部分は岡先生から御発言いただいているわけですが,結局,今,佐藤関係官も言われたように,「債権者がそれらを防止するために状況に応じて相当と認められる」という部分の説明を,もう少し具体的イメージをはっきりさせて書いていただけたらよろしいと思います。そのことで皆が様々なイメージを持って,パブリックコメントで自らのイメージに基づいて勝手に意見を言うということが想定されますので,その辺をお願いできればと思います。 ○道垣内幹事 同じ文言についてですが,(概要)を見ますと,この文言自体の当否について引き続き検討する必要があると書いてありますので,問題なさそうなのですが,同じく引き続き検討するという前提の下で私が思いましたのは,例えば「債権者はそれらを防止するために合理的に求められる措置を講じなかった」ぐらいにしたほうが,全体の趣旨は通じやすいのかなと思いました。 ○三上委員 同じところばかりで恐縮ですが,部会の席でも言いましたけれども,こういう損害の拡大防止義務のような概念を持ち込むことによって,例えば不完全履行であっても受領する義務が発生するかのような誤解を生んでしまうということは問題でして,また,できることがあったとしても,それに関して相当の費用や手間を要するとか,そういった場面への考慮等も必要ではないかと考えております。そういう意味で文言はいろいろ修正,引き続き検討すると書いておられますが,どのような文言にしても今のような誤解というのは出てきてしまうのではないかということを考えますと,現行法の文言維持でもよろしいのではないかと考えております。少なくとも例えば約定弁済の金額が不足しているにもかかわらず,預金にある金額だけでも弁済に充ててくれれば遅延損害金が減ったとか,不完全なものを履行した場合でも,それを取りあえず受け取って売却してくれれば損害は減っていたはずだ,それをしなかったために,それが腐って全額損したということへの抗弁は認めるべきではない,そういうことを認めないような文言を工夫していただきたいと考えております。   次の7も含むんですか。これは具体的な質問になるんですけれども,7の損益というものには例えば当該損害に関して保険が掛かっていた場合の受取保険金は入るのかどうか。それに関して損害を受けた側が保険を掛けていて,それによって補填を受けたときには,その分は控除されるということですか,それとも,保険というのは保険料を払って対価として受け取るものですから,それとは関係ないという理解でよろしいのか,確認させていただきたいと思います。 ○新井関係官 保険の性質にもよるのかなという気がします。生命保険とかですと入らないというようなことになるのかなと思うんですけれども,損害保険ですと場合によっては入ってくる場合もあるかなと考えていたんですが。 ○三上委員 少なくともその場合には支払った保険料は差っ引くみたいな,そういう計算になるということなのでしょうか。 ○新井関係官 申し訳ありません。先ほどお答えした損害保険については,損益相殺を否定した判例がございます。そうすると,少なくとも判例を前提とすると,損害保険で損害の一部が填補されたときの扱いは,損益相殺ではなく,保険代位の問題となるのではないかと思います。 ○潮見幹事 長く言いませんが,多分,今,新井関係官がおっしゃった結論的には,例えば損益相殺なんかの場合に引かれるということになるのかもしれませんが,少なくとも判例法理を前提にすれば,損益相殺そのものの問題としてではなくて重複填補,損益相殺的調整という枠組みで処理をしていたのではないかと思います。 ○深山幹事 むしろ,事務局に教えていただきたいんですけれども,今,ここで6のところで議論している「債権者がそれらを防止するために状況に応じて相当と認められる措置を講じなかったとき」という点と,一つ前の5の(2)のところに非常に似た表現があります。根底にある考え方で,いわゆる損害軽減義務的なもので共通するものがあるのかなと思ったりもして読んでいたんですが,効果といいますか結論が,6のところは裁量的に額を調整するという従来の損益相殺的な効果を導く要件になっているわけですが,5の(2)のほうは責任を負わないという免責するという効果に結び付いています。同じような表現がなされているので,この両者の関係が気になったのですが,関係ないということなのか,あるいは関係するけれども,これはこれで合理的な使い分けなのかという辺りが理解できなかったので,恐縮ですが,教えていただければと思います。 ○筒井幹事 お尋ねの点は,私どもが教えるというものではなくて,過失相殺の要件効果については,不法行為に関する規定との関係でばらつきがあるので,どちらかにそろえるのかということが従来から議論されてきました。,この点について,今回のたたき台では裁量的に定めることができるという規定ぶりで御提案しているということです。それがなお相当でないとすれば,違う書き方をすることは考えられるとは思います。 ○深山幹事 6のところの議論は裁量的にという趣旨で,それには別に反対はしなくて,むしろ,そうだとすると,5のほうは不整合のような気がしたので質問をさせていただいた次第です。5のところは,元々は,契約時を基準に予見の基準時の考えるという説を採ったときに,更に損害賠償義務を負う場合を広げる方向で,前の部会資料では乙-2案というのが提案されていて,今回の資料では,それをひっくり返した形で,原則,不履行時を予見開始の基準時にして,しかし,それだと広がってしまいすぎるので,一定の範囲で免責して責任の範囲を小さくするというように変更した関係になっているので,従前の乙-2案と今の5の(2)が同じなのかどうなのかが,よく分からないなという疑問があるんです。つまり,5のところで免責される範囲というのは,これで明確になっているのかなという疑問もあって,更に過失相殺の6のところとの関係で,果たして提案として整合しているのかなという疑問があって,頭が整理できないまま,御質問をさせていただいたという次第であります。 ○鎌田部会長 分かりました。むしろ,5の(2)のほうの問題ですね。   ほかに6,7についての意見がないようでしたら,8,9についての御意見もお伺いします。 ○三上委員 まず,8にいては,これまでの考え方は金銭損害に関しては法定利率相当を証明せずとも認める代わりに,その超過は認めないという解釈だったんですが,今回は下方硬直性だけが残って上が外れるという形になって,平等的な発想ではありません。もし,その方向を貫くのであれば,せいぜい,それを立証責任の転換時点として,それ以上ないし以下であることを立証したいほうが,それを証明するという格好にすべきものであろうと思いますが,ただ,それでも金融機関の場合には,金銭債務に関しては利息制限法で理由のいかんを問わず,上限が法律で画されているにもかかわらず,反対側が上限がなくなるということはゆゆしき事態ということもあります。そういうこともありまして,超過損害に関する立証での一般と同じような債務不履行損害を認めるということに関してはなぜこちらが本文になっているのか,反対意見を述べたいと思います。   それから,不可抗力の免責に関しては,単純にここは不可抗力まで免責しないのは厳し過ぎるという意見だったはずなのが,一般の債務不履行と同じという格好になっております。いろいろ説明は書いてありますが,これは一般の債務不履行一般からしますと当初に出てきた,つまり,不可抗力以外の債務不履行は認めないという意見が形を変えて忍び込んできたという懸念も与えるものですし,そうではないと,判例によって金銭債務とそれ以外の債務の不履行の場合が分かれているというのは余りに楽観的な見解しすぎて,不可抗力以外の部分のグレーゾーンに関する規定が余りに曖昧になってしまうと思います。   かつ,不可抗力に関しましても,東日本大震災のような大惨事を捉えますと,当たり前のように考えられるのかもしれませんが,それと例えばゲリラ豪雨によって水浸しになったとか,あるいはたまたまの落雷によってある町工場が1軒,丸焼けになったときとどう区別していくんだと。それらを合理的に区別できるような基準が果たして判例だけで成り立っていくのかと。かつ,そのような不可抗力がいつ去ったのかというのを誰がどうやって立証するんだと。そもそも,こういう厳しいという意見の背景には法定利息が5%と高すぎるというのがあったわけで,そこは本当はベースレート的な,昔で言うところの公定歩合のそのもののレート辺りが本来は不当利得的なもののやり取りとして,十分なレートではないかという提案も分科会のほうではして,それほど異論もなかったという記憶ですが,結局,本文になっているのは当初の事務局案のままで,現在のレートとある意味,さして変わらない,貸出しという与信の場面でのベースレートである金利に更に2.5%,これは損害そのものかもしれないんですが,上乗せしたレートで法定利率のほうの提案がなされておりますから,こういう結果になっているだけで,だからといって,不可抗力を際限なくという言い方は語弊があるかもしれませんが,明確な基準なく,それだけをとってしまって債務不履行一般と同じ規律にするということは非常に危険であろうと考えるわけです。   最後にもう1点,この提案の矛盾点を指摘しておきます。金銭消費貸借に関しましては,利息は損害ではないという理解だったと思いますので,不可抗力があったとしても金利の発生自体は止められないという理解,金利を超える遅延損害金は認めないという理解でよいと思いますが,例えばそういう不可抗力が発生している間に貸金の期限が来たと,その際の期限以降の利息に関する約定は,そういう意味では遅延損害金以外はないわけですからないと。しかし,それは利息を払うべき債務だからということで,そこから先は法定利息になるのか。そうすると法定利息を改廃したはずの場面で,金銭消費貸借債権に関しては法定利息が登場する,通常の金利であれば例えば1.○%で借りていた人が,そこから先は3.5%なり,5%なりという金利で払い続けるという契約になってしまう。このような矛盾も,言い掛かりのように聞こえるかもしれませんが,この法理を当てはめていけば発生してしまうが,これが果たしていいのだろうかということもありますので,我々としては基本的に現行法の維持でいいのではないかと考える次第です。 ○筒井幹事 本日の会議では,多くの方がそういった御自身の意見の陳述を避けていただいたのに,なぜ,そのような意見を述べられるのか,理解できません。本文や(注)についての修正の意見を述べていただきたいと考えております。ただ今の御意見は,(1)については現状維持という既に注記されている考え方を重ねて述べたものであると理解してよろしいでしょうか。そして,(2)についても現状維持でよいという御意見を述べられたものとという理解でよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 現在の419条を維持せよという意見になりますね。 ○三上委員 ひとことでいえばそうですが。 ○潮見幹事 私も,ずっと自分が言いたいことは今日は言わずにやってきたものですので,むしろ,筒井幹事あるいは冒頭の深山委員の御発言に沿った形で発言をさせていただきたいと思います。そういう意味で,少し自分の考えとは違うところも申し上げるかもしれませんが,席上配布資料の8のところに書かせていただきましたが,(2)の部分について金銭債権だけを特別扱いするということでよいのかという意見には,この間の議論で少なからず支持があったと思います。そういう意味では,あえてこだわるところはないのかもしれませんけれども,別案として付記する必要はないのかと感じました。   それから,(2)419条3項を金銭債務に適用しないという,この部分については読み方次第で,配布資料に書きましたようにAとBの両方の読み方ができるのではないかと。つまり,419条3項が適用されない結果,金銭債務の債務者は,不可抗力の抗弁を出すことができるという御趣旨なのか,それとも,適用されない結果,先ほどの三上委員の発言に一部戻りますけれども,金銭債務の不履行を理由とする損害賠償責任からの免責は,債務不履行の一般法理によって律せられるということになるのかということが若干分かりにくいかなと思います。これはどっちかに分かりやすく書いていただければ足りるという,それだけのことですけれども,少し誤解のないような形で意見を聴いたほうがいいのではないかと思いました。 ○筒井幹事 安永委員からの発言メモがありますので読み上げます。「9 賠償額の予定」についてでございます。   第8の9の提案にあるように,民法第420条第1項後段を削除し,請求し得る賠償額を制限する旨の規定を置くことに賛成いたします,とのことです。 ○村上委員 8のところで,(1)についての(注)を書いていただいていますが,(2)についても,同様の(注)を書いていただくほうがよいのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 9の「賠償額の予定」についてです。これは以前の部会のときに申し上げたことを踏まえてのことですけれども,(2)で,方向性としては,このような規定を設けていただくのはよろしいと思うのですが,ただ,「著しく過大である」という表現については先ほどと同じような疑問があります。この点は,先ほどと同じような扱いをしていただければと思います。もちろん,コンセンサスが得られるのが前提ではありますけれども。  もう一つは効果の部分で,まず,最終的に「債務者にその支払を請求することができない」とされています。   これは,前回の部会のときには,「減額できる」というような表現にされていたのが問題ではないかという指摘を受けて,変えられたのだろうと思います。ただ,「著しく過大な」というように定めますと,「効力を生じない」という判断がなされるべき場合ではないかと思います。にもかかわらず,支払を「請求することができない」とわざわざ書きますと,有効だけれども,請求権だけが制限されているのかなど,不必要な解釈問題を発生させるのではないかと思います。その意味では,この書き方は適当ではない。やはり「効力を生じない」というような形,ないしはそれに準ずるような形に改めていただいたほうがよいのではないかと思います。   もう1点は,「相当な部分を超える部分」についてです。これも以前の部会のときに申し上げたことですが,特に条項の一部無効については提案をしないという方向のようですので,それとの対応は明示的には出てきませんけれども,一般原則としては,不当な部分が無効にされれば,その限度でその条項は生きるはずです。もちろん,消費者契約や約款等については別の考慮が必要かもしませんが,一般原則としては不当な部分が無効にされればよいとなりますと,「合理的な金額」まで減額するのは問題ではないかということで,「不当とされる限度」でないしは「過大とされる限度」でというのが民法の一般原則になるはずではないかということを以前の部会で申し上げました。   恐らくその点をお考えいただいた上で,「相当な部分を超える部分」にされたのだろうと思いますが,これも,「相当な部分」とは何かということで,また疑義を呼ぶことになるのではないかと思います。先ほど私が申し上げたような,「不当とされる部分」ないし「過大とされる部分」というような表現でコンセンサスが得られるのであれば,そうしていただければと思いますし,それが難しいのであれば,せめて別案としてお書きいただけないかと思います。 ○岡委員 時間が過ぎていますので,簡単に質問だけさせていただきます。利息超過損害の意味をバックアップ会議で聞かれて答えられませんでした。金銭債務の不履行であるビジネスチャンスを失って100万円なら100万円の損害が生じたと。そのときに遅延損害金は刻々,毎日毎日,金銭債務の不履行で不履行日から毎日,増え続けていると。そういう場合に特定の100万円プラス遅延損害金全部を請求できるのか,それとも,ある時点で払ってくれたので遅延利息は50万円にとどまったときに,100万円引く50万円を利息超過損害として請求できるのか,そこの関係を問われたんです。私が理解していないことを伝えるのは難しいかもしれませんが,金銭債務の不履行による特定の損害と,遅延損害金,これは払われない限り,ずっと延々に日々,加算されていくものです。この二つの関係は,どう考えたらよろしいのか,もし,可能であれば,それが分かるような記載をしていただければと思います。 ○中井委員 8の「契約による金銭債務の特則」の(1)ですけれども,その(注)の書き方が利息超過損害について賠償請求を認める旨の規定を設けるべきでないという考え方という形で整理されておりますけれども,これは419条1項を維持するという考え方とは別のことを意味しているんでしょうか。それは私の誤解かもしれません。特段,意図がないのであれば419条1項を維持する,2項も維持するという記載のほう が分かりやすいのではないかと思った次第です。本文が「維持した上で」後段を書いているから,その後段部分だけを指したのかとも思いますが,分かりにくかったと思ったのが1点です。これは書き方の問題ですから御検討いただければと思います。   それから,取り上げなかった論点で,最後の「債務不履行責任の免責条項を制限する規定の要否」についてです。これを取り上げないとなっていますが,不当条項規制がどうなるのか,それが,約款だけを対象になる方向になるのか,この辺りの見通しとの関係ですけれども,この段階で落としてしまうということについては,更に御検討いただけないかと思います。残してほしい,復活してほしいと意味です。 ○筒井幹事 検討はいたしますが,落とした理由としては,債務不履行責任の免責条項に関しては,消費者契約のルールとしては消費者契約法に規定がございます。そして,事業者間のルールとしては,この部会でも御発言がありましたように,様々な条項との組合せの中で免責条項が置かれるという可能性があって,そのことを一律に否定してしまうのは適当でないという問題があると思います。そのような審議の経過から,御指摘のあった論点については合意形成が困難であろうと判断したということです。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○沖野幹事 部会資料そのものではなく,本日,席上で配布していただいたものについてなのですが,今,お話しさせていただいてもよろしいでしょうか。復活折衝も困難を極めているときに,新規折衝のようになってしまって誠に申し訳ないのですけれども,資料が配られておりますのでそのときの方がよろしいかと。取扱いの一般論として例えば何か,これまでに十分な議論がなかった新規のものは最後にまとめてということであれば,その回にさせていただきますが,今,よろしいでしょうか。申し訳ございません。   任意債権に関する規定の部会での検討のお願いというペーパーを出しております。その趣旨だけを説明させていただきたいと思います。任意債権という概念があることは一般的に認められており,特定の給付を本来の内容とするものについて,債権者又は債務者が他の給付に代える権利を持つというものです。   任意債権については,旧民法には規定があったところが現行法にはなくなっている等の経緯があります。この度,中間論点整理に対するパブリックコメントにおいて,任意債権に関する規定を設けることを要望するという意見が出ておりました。その意見自体をここに引いております。金融実務においてそのような規定を設けることが取引の安定に資するという観点からの意見でございました。こういう意見が出ておりますことから,もしも実務において必要とされるということであれば,今後の展開のための礎というものを民法に用意するというのは,民法の一つの役割であり,責務ではないかと考えたところであります。   そこで,この問題ですけれども,任意債権自体が選択債権との異同で論じられることが多いものですから,ちょうど,第3分科会におきまして選択債権についての一定の項目が付託をされた際に,任意債権についても検討する必要はないだろうかについて御議論いただきました。その際には様々な御意見が出ましたけれども,しかし,その一方で具体的な規定として,どういうものを置くのかというイメージがないと検討のしようもないという御指摘がございまして,そこで第3分科会では終わっていたと思います。今回,選択債権という項目が取り上げられましたし,また,債権の目的という項目に関することではないかと思いまして,そこで,任意債権について新たに規定を設けるということを,その必要性や内容とともに御検討いただけないかというのがこの趣旨です。   これまでの部会では審議の対象とはなっておりませんでした。それは今,申し上げましたような経緯からです。これを今回,いろいろな問題がある中で改めて出させていただきますのは,先ほども申し上げましたように講学上も認められているものですけれども,取り分け実務でニーズがあるということであれば,基本的な概念を示す規定というものを民法に設け,そして,更にその後の展開の基礎というのを用意するということは,重要なことではないかと思われたものですから,このような形で提出いたしました。規定のイメージや更にはもし中間試案で取り上げていただけるならば,それに対する意見を照会していただくことになりますので,その際にこのような記載の仕方でどうかということをここに書いております。時間も超過していて申し訳ないのですけれども,任意債権に関する規定の創設の当否や内容を問う項目というのを中間試案で取り上げていただけないか,それについて部会で御審議いただけないかというものです。 ○鎌田部会長 この点に関連して御発言があればお出しいただきたいんですけれども。 ○中田委員 今,講学上とおっしゃいましたけれども,外国ではそのような法概念があり立法提案もありますし,日本でも認められておりますが,ただ,それを民法に規定する必要があるかどうかということの問題だと思うんです。そこで,実務ニーズを知る必要があって,その機会として今回のパブリックコメントを利用できるのであれば,うまく対応できると,そういうことだと思います。ただ,そうするとどんどん広がってしまってパブコメの趣旨に反するのかどうか,私にはよく分からないんですけれども,ただ,実務のニーズがどうかというのは知ってみたいなとは思います。 ○鎌田部会長 他方で,当事者間で代用権の行使についても明確な定めを置いていたときに,民法の規定がないから,その約定は効力を生じないのではないかというおそれは杞憂でしかないような気がして,そのために条文が必要だろうかというのが,今,伺った限りの直感でございますが,少し事務当局で更に検討させていただく,そのプロセスの中で御意見があれば頂戴しておくということでよろしいでしょうか。   ほかにはいかがでしょうか。特にないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。終了予定時刻を超過してしまいまして申し訳ありません。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回の部会は2週間後の12月18日,火曜日,午後1時から午後6時まで,会場は法務省地下1階の大会議室になります。次回は,事前に部会資料54,中間試案のたたき台その2を送付して御議論いただく予定です。審議対象となる事項としてどこまで盛り込むことができるか,自転車操業の状態なので心もとないのですけれども,全体の4分の2に達することを目標としたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。   それから,本日は,欠席された安永委員の発言メモを読み上げて紹介いたしました。中間試案のたたき台の審議からは,時間の節約のために,欠席者の発言メモについては公表する意見書として提出していただき,読み上げて議事録に掲載するという取扱いは省略させていただこうと思っていたのですけれども,そのことを事前にアナウンスしておりませんでしたので,本日は読み上げることにいたしました。しかし,次回以降は,審議時間の節約という観点から,欠席のときに意見をお届けいただく際には,そのまま法務省ウェブサイトで公表する意見書として提出していただきまして,議事の中でいちいち読み上げるということは省略させていただきたいと思います。御協力をよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 進行の不手際で大分時間を超過してしまいましたけれども,大変熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。   本日の審議は以上で終了とさせていただきます。 -了-