法制審議会           民法(債権関係)部会           第65回会議 議事録 第1 日 時  平成24年12月18日(火)自 午後1時00分                       至 午後5時29分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会第65回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,能見善久委員,潮見佳男幹事,福田千恵子幹事が御欠席です。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として部会資料54「中間試案のたたき台(2)」をお届けしております。このほか,本日は,中井康之委員から「中間試案のたたき台(2)に対する修正提案」と題する書面,本日御欠席の潮見佳男幹事から「中間試案のたたき台(2)についての意見」と題する書面をそれぞれ御提出いただいております。それから,大阪弁護士会民法改正問題特別委員会有志の方々からも意見書を提出していただいており,以上を机上にて配布しております。   なお,本日御欠席の潮見幹事の御意見につきましては,前回会議の最後に御案内いたしましたように,今回から読み上げて紹介することを省略させていただこうと思います。もっとも,この意見書は,そのまま法務省ウェブサイトにて公表いたしますほか,本日の会議でも適宜この意見書があることを御紹介しながら進めてまいりたいと考えております。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料54について御審議いただく予定です。具体的には休憩前までに部会資料54のうち,「第6 期間の計算」までについて御審議いただき,午後3時ころをめどに適宜休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料54の残りの部分,最後まで御審議いただきたいと思いますので,よろしく御協力のほどをお願いいたします。   それでは,部会資料54の「第1 契約の解除について」御審議いただきます。一括して御意見をお伺いしたいと思いますので御自由に御発言ください。   中井委員,御発言はございますか。 ○中井委員 メモを出させていただいています。このメモは,ひとつの一貫した考え方に基づくものというよりは,中間試案を取りまとめるに当たって,異なる立場からそれぞれ注を入れたらいいという場面もあるという認識から提案させていただいていますので,その点を最初に申し上げておきたいと思います。   その上で,解除について,(1)は催告解除として整理できるもの,(2)は無催告解除として整理できるものと理解していますが,その中でエについては,無催告なのか催告なのかという問題からは少し離れていると思います。エは履行期前の解除に関するものですから,(2)と区別して規律したほうがいいのではないかというのが一つの提案です。それから,(2)はアとイは恐らく例示であろうと。そうするとウが本来的要件ではないか。整理の仕方として,ア,イ,ウという並べ方もありますが,2の本文にウの中心的な要件を記載し,例示としてアとイがあることを明らかにしてはどうか。分かりやすさからという意味での提案です。   次は内容に関わるものですが,(1)について,ただし書の記載内容が正直分かりにくいと思っております。その分かりにくいというのは一つは表現の問題です。「その履行がされなくても」という意味内容について,弁護士会の中でも幾つかの意見が出ました。まだよく読んでいませんが,潮見幹事からもその部分についての御指摘ではないかと思われます。潮見幹事は,その期間内に履行されなくてもというように説明されておりますが,弁護士会はその履行が未来永劫されなくても,つまり永久になされなくてもという意味ではないかというような意見も出ておりまして,「その履行がされなくても」という意味内容について明らかにするといいますか,限定したほうがいいのではないか。これが1点です。   2点目は「契約の目的を達することができる」という概念について,これまでも部会若しくは分科会で議論されているところではあるのですが,この概念は確かに例えば瑕疵担保のところでも出てきている概念であり,判例上も使われていますが,一般的にこの概念で,ここで言えば催告したけれどもその不履行があっても解除できない場面の切分けとして分かりやすいのか疑問のあるところです。   この部会資料の概要の1の最後の3行のところで,数量的にごく1部である場合,若しくは付随的な義務の場合を例示しているわけですけれども,従来弁護士会の整理としては,その債務の不履行が軽微であるときというのを申し上げていたわけですけれども,それを具体的に取り込んで,その不履行が軽微であるとき,その他その履行がなくても契約をした目的を達することができるとき,とするほうが明らかではないかという提案です。   それから,言うべき順次を間違えたかもしれませんが,(1)と(2)として,催告解除と無催告解除を設けたということは弁護士会の考えを整理していただいたものと理解しておりますけれども,その要件立てが先ほど申し上げました契約の目的を達することができるときという基準を基に(1)と(2)は立証責任をひっくり返すという意味での整理をし,債務不履行が契約目的を達することができないときに無催告解除でき,催告解除はそれを逆転させている。一つの基準で行われているように思われるわけですけれども,本来的にはその当否が更に検討されるべきではないかと思っております。   その当否について,(1)のただし書の中で,若干修正を加えさせていただいたのと同時に,(2)では,契約目的不達成だけではなくて,それはもはやその不履行の状態,不履行の内容を見て催告をしても意味がない場合ということを従来から申し上げているとおりで,その趣旨を盛り込むほうが無催告解除のできる場合が明確になるのではないか。   そこで私のメモで提案をさせていただいているのが,その不履行が次に掲げる場合,つまりここでいうアとイの場合ですが,そのほかに上記(1)の催告をしても,その不履行により契約の目的を達することのできないことが明白であるとき,無催告解除ができるという提案をさせていただいています。   明白という言葉を入れているのは,無催告解除ができる場面の限定として必要であろうと思います。これはかねて重大な不履行があっても解除という重大な効果を発生させるためには催告を原則とすべき,催告した上で不履行の場合に解除できると申し上げてきた考え方に基づくものです。そういう考え方を踏まえた修正提案ですから,その考え方自体を否定し,一元説的にすっきりさせるとすれば,場合によってはこれらを別案として整理し直すのが適切なのかもしれません。   (2)のエについては,先ほど申し上げましたように,期限前に解除できる場面ですから,私のメモの(3)は,それを別途取り上げたものです。異なるところは(2)では本文に上記(1)の催告をすることなくということが入りますが,果たして期限前に解除するときに,上記(1)で意味するところの催告というのはあり得ないわけですから,エの本文にある催告をすることなく,という意味内容がある意味では曖昧になっています。これまでも,履行する意思があるのかどうかを確認するという意味での催告を入れるのか入れないのかという議論をした経緯があったかと思いますが,そういう催告を必要としないのであれば,別途(3)という形で独立した解除理由として整理するのが分かりやすいのではないか。そういう意見です。 ○松本委員 (2)ウについて,基本的に中井委員と同じ趣旨の発言をさせていただくことになります。これは,(2)のウを素直に読むと大変誤ったイメージを読者に与えると思います。すなわち当事者の一方が履行をせず,これにより契約をした目的を達することができない場合に,無催告解除ができるということは,例えば売買契約において,引渡しを受けられない。引渡しを相手方が期日にしてくれない。これはもう契約目的を達成できない,とんでもない事態ですから,即解除できるのかというとそうではないですよね。催告をした上で,なお猶予期間を与えたのに,それでも履行しない場合には解除できるというのが今までのルールです。このウは大変誤解を与える,今までとガラッと変えるのかと思わせることになりますが,この文章を書いた人の意思はそんことではないと思うので,正に催告が無意味であるという点を明確にする。このままの状態だと契約目的を達成できないということだけでは恐らく解除の要件を満たさないので,猶予期間を与えたとしても契約目的を達成できない場合ということに限定する必要があると思います。 ○鹿野幹事 今の御発言にほぼ尽きているのですが,私もこの(2)ウについては,表現が適切ではないと思いました。今,松本委員が,履行がなかったという例を挙げられたのですけれども,更に,例えば一応の履行はあったけれども給付された物に重大な瑕疵があるというような場合でも,そのままであれば契約の目的を達成できないようにも見えるわけですが,代替する別の物を給付することや修補その他の方法によって,瑕疵のない物の給付を実現する可能性が存在するのであれば,催告をして,なお履行がないときに初めて解除ができるということになると思います。ですから,ウは少しその点の説明が足りないのではないかと思います。   なお,今,催告をすることが無意味だということについて,お二人の委員が御発言になったのですが,これも,明確にするべきだと思います。催告期間を設けても債務者に契約に従った履行をすることを期待できない場合と,催告期間を待つことを債権者に期待できない場合があります。後者の典型が定期行為ですが,それに準ずるような場合にもやはり無催告解除ができる。これらを明らかにするような表現にするべきではないかと思います。 ○筒井幹事 最初に中井委員から頂いた御意見のうち,1(2)エの履行期前の解除について別項目とすべきではないかという御指摘は,私どもも資料作成後に検討していて全く同じことを考えておりましたので,次の資料ではそのように改めようと考えております。   また,中井委員のその余の御意見,松本委員と鹿野幹事から頂いた御意見についても,御指摘いただいたことについて異論があるわけではございませんので,前回会議でも冒頭で申し上げましたように,条文表現を固める作業ではないにしても,意図がもう少し伝わるような表現ぶりを検討させていただきたいと思います。   このほか,潮見幹事からこの部分に関して,概要の書き方なども含めて幾つかの御意見を頂いておりまして,その中で,この1(1)ただし書について,潮見幹事の意見書の1ページ下から4行目の②と書いてあるところですが,ただし書を不要とする考え方もあることを注記したほうがよいという御意見を頂いております。もっとも,この点は御本人にあらかじめ確認すればよかったのですけれども,表現ぶりはともかくとして,重大な不履行ではない場合,軽微な不履行である場合,あるいは契約の目的を達することができる場合など,何らかの表現で除外要件を設けることについては,これまでの審議でそれほど異論はなかったのではないかと思います。この点については,潮見幹事の御意見をサポートする考えをお持ちの方がいらっしゃいましたら補足していただければと思います。 ○松岡委員 今の点,私は,催告解除の場合において催告に応じた履行がなくてもなお解除できない場合があると考えておりますので,この提案でよろしいのです。しかし,議論の中では,催告をしても履行がなければ,それが重大な債務不履行であるというかどうかは別にして,とにかく直ちに解除ができるとする御意見もあったように記憶しております。潮見幹事が注記するべきだとおっしゃるのは,そういう意見があったということについてではないでしょうか。 ○鎌田部会長 そこは議事録等をもう一度見た上で,また御意見の趣旨を確認した上で対応を考えさせていただきたいと思います ○山本(敬)幹事 2点,問題点を指摘させていただければと思います。  まず,先ほどから出ている(2)のウの要件の定め方についてですが,催告をすることに意味がないような状況であって,契約をした目的を達することができないというような限定の付け方をするという考え方が示されていましたけれども,そのような限定が想定しているのは,売買契約であれば物の引渡債務など,要するに契約の本体的な債務の不履行ではないかと思います。しかし,判例等を見ましても,付随的な義務の違反があっても,それで直ちに解除できるわけではないけれども,表現はともかくとして,契約目的を達成することができない,ないしは重大な不履行に当たる場合は解除が認められるとされていて,催告をする・しないということが必ずしも問題になるような場面ではありません。その意味では,契約した目的を達することができないことの限定の仕方は,慎重に考えないと,外れるものが出てきてしまうのではないかという危惧があります。   もう一つは,(2)のエなのですが,書かれていることは履行期前の問題であって,これが別枠にされています。実際にそのような履行期前の場面で問題が生じることは私ももちろん了解しているのですが,これは以前の部会のときにも出ていたことだと思いますけれども,履行期が経過した後についても同じようなことが問題にならないのか。つまり,例えば,履行期前から確定的に債務を履行しないと債務者が言っている。そうこうするうちに履行期が来てしまったという場合に,そこで解除するためには,常に催告しなければならないのか。そうではなくて,無催告解除を認めてもよいのではないかというようなことが問題になると思います。つまり,この履行拒絶が解除事由になるというのは,確かに履行期前に特に問題になる。履行期前でも解除できるのかということが特に問題になるという意味で,そうなのだけれども,履行期前に限った問題なのかというと,必ずしもそうではないのではないかという指摘が以前の部会でもあったと思います。  別枠にしますと,ますますこれが履行期前に特有の問題であると理解されてしまうようなおそれが少し感じられました。確かにどう表現すればよいかは難しいのですが,少なくともこの時点では,履行期前に完全に限定する趣旨ではないということを確認しておく必要がある。そして,どのような要件立てにしていくかについては,更に検討する必要があるということを確認する必要があると思いました。 ○鎌田部会長 山本敬三幹事も(2)エの2行目の「その当事者の一方が履行期に」という部分の「履行期に」を削れとまではおっしゃらないのですか。 ○山本(敬)幹事 履行期前に特に解除できるかどうかという問題があることは先ほども申し上げたとおりですし,直ちに解除できるかどうかは明文で書いておきませんと問題が生じるという意味で,履行期前であったとしても解除できるというような形で書く必要があるだろうと思います。 ○新井関係官 資料を作っていた際の考え方を一応確認のために申し上げておきますと,履行期後に履行拒絶があった,あるいは履行拒絶の状態のまま履行期を経過したという場面については,(2)のウのほうで拾えるのではないかという理解を前提としております。したがって,実質的な帰結について,山本敬三先生と理解の相違はないものと思います。他方,エというのは今回,切り出したほうがよろしいのではないかという御指摘を頂いたところで,それとの関係で,きちんと考え方がが伝わるかどうかということが改めて問題になると思いますので,引き続き検討させていただければと思います。 ○深山幹事 今の山本敬三先生の御指摘に関連してなんですが,履行拒絶の場合の切出し方について,(3)の点は,履行期前に限定した履行拒絶が新たな解除事由になるかどうかという形でその当否を尋ねるべきで,履行期前から履行拒絶をしている結果,履行期が到来してなお履行をしないという場合は,今の関係官の御説明のように,(2)のウの一部とするか,もしくは,ウとは別に(2)の中の別の一類型として規定を入れるべきであり,そういう切分け方のほうが適当ではないかと思います。   その場合に,催告を要件とするのかしないのかという点も個別に考えるべきであろうと思います。つまり履行期前の段階で履行拒絶による解除を認めるとした場合に催告が必要なのかどうかという問題と,履行期前から拒絶しており履行期の到来した後に解除するというときに,そもそも履行拒絶の場合には無催告解除だというのであれば,履行期限が到来した後も当然無催告解除になるのでしょうが,履行期前の履行拒絶について催告を要件とした上で解除を認めるという考え方を採ったとしても,更に履行期が到来した後に解除する場合には,履行期前から拒絶していたということを前提に,そのときにはもう催告は要らないという考え方もあり得ると思います。このような問題もあるので,やはり切分け方としては今申し上げたような切分け方をした上で,それぞれ催告がいるかどうかについて意見を問うということにすべきではなかろうかと思います。 ○岡委員 中井さんが最初に言った点の一つの補足でございます。(2)のウの契約目的不達成の言葉と(1)の催告解除の例外要件としての契約目的達成,この言葉が同一であることについて弁護士会としては疑問を持っているところでございます。いみじくも山本敬三先生がおっしゃったように,契約の重大な不履行概念で無催告解除と催告解除の基準を統一すると,恐らくそういう考え方に立ってこの提案がなされていると思うんですが,それは学会で有力なことは承知しておりますので,ゴシック体で書かれた結論になるのは法務省の判断だろうと思います。しかし弁護士会が一貫して言っていることは,やはり催告解除が原則で,それの例外として軽微な不履行があります。しかし,その例外要件と無催告解除の要件である契約目的不達成とは違うのではないか。こういう意見がまだ根強くありますので,少なくとも(2)の契約目的不達成と(1)の例外要件たる言葉と一緒にするという考え方ではない考え方が今なおあるという意味では,注として帰責事由以外にその点も付け加えていただけたらと思います。 ○岡崎幹事 私も契約目的を達成することができるという文言に関して,発言したいと思います。裁判実務では,債務不履行の程度について,契約の目的を達成することができない不履行と契約の目的を達成することができる不履行という二分論的に考えられているわけではなく,不履行の程度にはグラデーションが存在すると考えられていると思います。そして,原則は債務不履行があれば催告解除が可能であって,例外の一つとして軽微な不履行のときには解除が制限され,別の例外として,非常に重大な不履行のときには催告なく解除ができるということになっていると思います。第2ステージでは,重大な不履行及び軽微な不履行に関する例外を設ける案など幾つかの案の中の一つとして契約目的達成の可否によって区別する提案が示されていたところ,今回は,契約目的達成の可否によって区別する案に絞って,御提案いただいていますけれども,これまでの議論の中で,契約の目的を達成することができる,できないという文言で,統一することでいいのかどうかについて,十分議論されてきたのかやや疑問もありますし,先ほどどなたか御発言になりましたけれども,裁判実務の中で債務不履行に基づく解除の要件との関係で契約目的の達成の可否について十分論じられているかというと,そうでもないと感じております。そういう意味で,概念自体,未成熟なところがあるのではないかと感じております。   そのような未成熟な概念をキーワードとして導入することによるデメリットも考えておく必要があるかと思います。その観点からすると契約目的の達成の可否を唯一の提案とすることでよいのかどうかについては,今,岡委員がおっしゃった意見に通じるところですけれども,私としても別の選択肢もあり得ると思っております。   それとの関連で,帰責事由を削除することについて,第2ステージでも意見が分かれたと理解しております。今回,その点に関しては(注)で書いていただいておりますので,本文と(注)という限度においては,一定の手当てがされていると理解しておりますが,ここでの審議の対象外になるかもしれませんが,2ページの備考欄の書きぶりがやや本文を支える論拠に偏っているという感覚を持っておりまして,もう少しここの書きぶりをニュートラルな形にしていただくことができないかと,これは将来的には補足説明の書きぶりということになると思いますけれども,そのようなお願いをしておきたいと思います。   例えば,2ページの備考欄に「部会においては,」で始まる段落がございますが,ここで債務者の帰責事由という要件を必要とすべきであるとの意見があることが紹介されており,その論拠として「不履行に至った債務者側の事情をも解除の可否の判断に取り込むために」と書かれておりますが,帰責事由の要件を必要とすべきという意見は債務者側の事情だけを取り込もうとしているわけではなくて,むしろその下の段落に,「しかし,」というところで反論として3行ほど書かれていますが,要は債権者側の被る不利益の程度なども取り込む概念として債務者の責めに帰すべからざる事由による場合はこの限りではないという要件を要求しようとするものなのではないかと思いますので,ちょっとこの辺りも工夫を要するかと思いますし,その下の「むしろ,」というところでは,本文を支える記述がありますが,これに対しては反論もあり得るところだと思いますので,この辺りも少しニュートラルに表現していただければと思います。 ○内田委員 契約目的という言葉に関しての岡委員と岡崎幹事の御発言に対して,ちょっと意外な感じがしましたので補足したいと思います。契約の目的を達成できないということを基準にして解除の可否を判断するというのは,大審院及び最高裁判例の表現です。最高裁は民法が解除という制度を認めている趣旨は,どんな債務でも催告すれば解除できるということではなく,要素となる債務の不履行によって契約の目的が達成できなくなることを理由に解除を認めているのだということを述べて,単なる付随義務違反による催告解除を否定しており,同じような表現を使っている判決が幾つもあります。   それを踏まえて,これは部会でももう既に何度も議論されていることですが,この表現が使われているということでして,このような言い回しを用いる判例はかなり古くからありますので,用語が熟していないということはないと思います。実務でも定着しているという理解の下にこの表現が使われているのだと思います。 ○道垣内幹事 潮見幹事のご意見について一言だけ申し上げます。潮見幹事は,1(1)のただし書について,「期間内に履行がされなくても」という表現の方がよい,というわけですが,そのような表現を用いますと,期間後かなり時間が経過しても,なお履行がされないときには,どうなるということなのか,ということになります。しかし,本提案は,中井委員がおっしゃったように,当該不履行部分の履行がずっとされないときにでも,なお契約の目的を達成することができるかどうかというメルクマールに基づいてできあがっており,履行された部分だけで契約目的が達成できるときは,催告後になお履行がされないときでも,やはり解除はできない,ということだと思います。潮見幹事は,②において,催告をしてもなお履行をしないときは,当該不履行によって契約目的が達成できなくなるか否かにかかわらず解除できるという見解の注記を求めているようですが,その注記をすべきか否かはともかく,①でおっしゃっているような文言変更は,実は,②の見解に近くなっているようにも思えます。しかし,それは,部会において,十分に議論された意見ではないのではないかという気がいたします。 ○中田委員 (1)の契約の目的について,先ほど内田委員がおっしゃったことは,私もそうだろうなと思っておりました。ただ,表現として,「契約の目的の達成を困難にする不履行」というのがいいのか,それとも「重大な不履行」とするのがいいのかについて,これまで両方あり得るということで議論してきたわけですが,今回そのうちの一つを出してみたということで,これはこれで十分あり得ると思います。   ただ,その上でなんですけれども,目的という言葉が多義的であって分かりにくいというのは,これはどうしても伴うことであります。さらに表現として,「契約の目的」という言葉と,「契約をした目的」という言葉と,それから次に出てくる複数契約の解除のところでは「契約を締結した目的」という言葉が出てきまして,その結果,あたかも違うものであるかのように誤解されても,議論が紛糾するだけですので,そこは表現を工夫したほうがいいかと思います。   それから,契約の目的を達することができないというのは,これまでも出てきたわけですけれども,契約の目的を達することができるというと,それが一体何のことなのかがちょっと分かりにくいかもしれません。多分,その趣旨は,履行されなくても契約をした目的が達成されるについて重大な支障がないとき,そんな意味だろうと思うんですが,それを目的という言葉に取り込んでしまおうとするので,ちょっと分かりにくくなっていると思います。ということで,表現を少し工夫していただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○大島委員 今までの議論と違う観点なんですけれども,1ページに使われている言葉について2点ほど意見がございます。まず,(1),(2)を通じて「契約の目的」,あるいは「契約をした目的」という二つの表現が出てまいります。この二つの表現が同じ意味を示しているのであれば,「契約をした目的」に統一したほうがよろしいのではないでしょうか。仮に意味が異なる場合には,概要欄に表現が異なっている趣旨を記載していただきたいと思います。   次に2点目なんですけれども,(注)に阻却要件という言葉が出てまいりますが,この表現は非常に専門家以外の方には分かりづらいと思いますので,平易な表現にしていただきたいと考えています。 ○岡崎幹事 先ほど内田委員から契約の目的の達成の可否というのは最高裁の判例でも使われている言葉だという御指摘がございました。確かに部会資料に今回挙げていただいている昭和36年の判例などを見ますと,それに似た文言がございまして,「当事者が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠ったに過ぎないような場合には,特段の事情の存しない限り,相手方は当該契約を解除することができないものと解するのが相当である」というフレーズが出てきたりしております。   また,最高裁昭和43年2月23日判決は,不履行が「契約締結の目的の達成に重大な影響を与えるものである」から,このような債務は「要素たる債務にはいり」,その不履行を理由として契約を解除することができるといっています。しかし,これが,契約の目的を達成することができるかどうかを唯一の基準とするかのような今回の御提案と同じ趣旨なのかどうかについて,よく考えてみる必要があるということです。   昭和36年の判例も附随義務の不履行に関する判断であって,そのときに使った文言が,附随義務の不履行に限らない,債務不履行解除一般の要件としてふさわしいのかどうか,債務不履行解除一般の要件として契約目的の達成の可否を持ち込むことについて議論が十分に尽くされているのかどうか,それが先ほど私が指摘した趣旨でございます。 ○鎌田部会長 その点は岡委員の御意見もあったところですので,少し検討をさせていただくということで引き取らせていただきます。ほかの部分,2以下についての御意見も含めてお出しいただければと思います。 ○松本委員 3の(5)です。ここの部分は確か前回の給付不当利得のところでも全く同じ趣旨のことを申し上げたんですが,この表現はかなり不当な結果に導くことになると思います。すなわち償還すべき額は,自己が当該契約に基づいて給付し若しくは給付すべきであった価額又は現に受けている利益の額のいずれか多い額を限度とする。   これは単純に考えて,1,000円のものを1万円で買った。購入者側が契約を解除したという場合に,常識的に考えれば,品物を返して1万円を返してもらうということになると思うんですが,この文言を当てはめると,品物がなくなっていて価額で償還するという場合には,1,000円を返せばいいと思うんだけれども,給付し若しくは給付すべきであった価額を返さなければならない。その多い額を限度として返さなければならないと読めるので,1万円返さなければならない。ということは1万円払っているので相殺されて1円も返ってこない,ということになって,非常に不当な結論のように思われるので,日本語表現をもう少し正しいイメージが持てるような表現にしていただきたいと思います。   潮見幹事がここの部分はないほうがいいのではないかという趣旨を書いておられますが,このままの文言を残すなら私もないほうがいいと思います。   もう1点,現に受けている利益という表現が出てくるんですが,解除も言わば給付利得に似たタイプ,あるいはその中の一つの特殊なタイプだと考えれば,通常は給付利得の場合は詐欺だとか,無能力といった少し特殊な場合を除けば,現存利益による制限はないというのが通説の理解だったと思いますから,その点からも現に受けている利益というのを何の制限もなしに置くのはやはり不適切だと思います。 ○新井関係官 まず資料作成に当たっての考え方を申し上げておきますと,(4)で「給付及びそれから得た利益を返還することができないときは,その価額を償還しなければならない。」というときの「価額」というのは,基本的に時価であるということを前提にしております。その基準時については別途問題にがなると思いますが,基本的には時価です。(5)というのは,時価を償還しなければならないということを前提として,(5)の要件を満たすケースにおいては,償還すべき額について上限を画する。その上限というのが給付すべきであった対価の価額,又は現に受けている利益の額のいずれか高いほうになるということです。つまり,(4)を前提としつつ(5)はその(4)で決まる額の一部をカットするという形でのみ機能するということを表そうと,実質として表そうとしたことはそういうことです。それがきちんと伝わるか表現なのか,更に工夫の余地があるかどうかについては,御指摘も踏まえ,更に考えたいと思います。   それと現に受けている利益のところの意味ということなんですけれども,これは例えば売買契約で品違いで,対価は10万円だったんだけれども,価額30万円の品物が来たということであれば,買主の手元で目的物が滅失して,解除したので価額を返還しなければならない。そのときに返還すべき価額というのは,給付すべき額ということで,上限を画するのであれば10万円ということになると思いますが,仮に30万円の価値のあるものについて,20万円で転売したために返還できなかったということであれば,対価よりは上回る20万円,20万円が現に受けている利益ということになりますので,20万円を返還するということになるのではないか。そうすべきではないかと。その20万円というのもその実際のものの価値よりは低い額ではあるんですが,そういう額で現に受けている利益の額として20万円というのは,それは返還するのが公平ではないかということで(5)は提案しているというものでございます。これについてまた御意見を頂ければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○中井委員 2の複数契約の解除,この提案を設けていただいたことは結構かと思います。それとの平仄で前回議論したことで恐縮ですけれども,たたき台1の無効及び取消しのところで,取り上げなかった論点の中に複数法律行為の無効というのがございます。仮に複数契約の解除,これは確かに最高裁の判例があるわけですけれども,このような形で取り上げていただけるとすれば,前回も申し上げましたけれども,複数の法律行為の無効について少なくとも同一の当事者間に関しては,再度取り上げるかどうか御検討いただけないかと思います。それが1点です。   戻って恐縮ですが,1の文言ですので,将来的に更に検討されると思いますけれども,(2)のイで履行請求権の限界という言葉が出てきます。その後にも履行請求権の限界という言葉が出てくるわけですが,中間試案で国民に問うときに,この表現ぶりについては更に御検討いただけないか。逆に言えば,履行不能という言葉はもう使わないということを前提に事務当局ではお考えなのか。従来の履行不能との関連性が分かるほうが問いかけとしてはよろしいのではないか,表現を御検討いただければと思います。   三つ目,整理の仕方ですけれども,1の下に,帰責事由について(注)になっています。これは弁護士会も本件たたき台2の中でも,(注)として維持することでよしとするか,場合によっては,甲案と乙案という形で提案するか。悩むところがこの後にもあるんですが,「第2 危険負担」のところで,弁護士会意見を踏まえて,536条1項を削除するか維持するかについては,甲案,乙案という形で昇格する提案をしております。それとの関係で場合によってはこの(注)は岡崎幹事から先ほど御指摘がありましたけれども,なお議論すべき重要な論点であると思いますので,(注)ではなくて別案の形で記載することも検討してはどうかと考えております。 ○山本(敬)幹事 戻ってしまって恐縮なのですが,確認させていただければと思います。債務不履行による契約の解除の要件についてです。  これは以前の部会でも少し出ていた問題だと思うのですが,この要件の書き方は解除の典型的な場面を想定していて,ここでは,当事者の一方が債務を履行しない,ないしはできない場合に相手方が契約を解除するための要件が書かれています。これは現行法でも問題として指摘されていることではありますけれども,確かに債務者が債務を履行することはできない。しかし,何らかの理由から債権者のほうが契約を解除しない。例えば,違約金の約定があって,それで日々幾らかずつ違約金相当額を取れるなど,いろいろな理由があって解除してくれない。このような場合は,債務者にとっては,もはやこの契約を続ける意味は何もない。確かに自分は債務を履行してないかもしれないけれども,これに拘束され続けるのはおかしいのではないか。現行法下では,債務者のほうから,この契約から離脱するための術がない。どうするかということが問題になっていました。  重大な不履行という考え方は,重大な不履行があるために,契約をした意味がなくなり,当事者をこの契約に拘束し続けることがもはや無意味になっているときには,契約からの離脱を認める。ということは,債務者側からも離脱は認める。損害賠償は別問題であるということでして,そのような考え方が示されていたと思います。ところが,現在の提案によりますと,今の御指摘とも少し関わるのですが,現行法でいう履行不能に当たるものもこれでカバーされていて,債権者側からの解除は手当てされているけれども,このままでは債務者側からは何も言えない。少なくとも今後も解釈に委ねられるという問題状況が残るように読めるのですが,この点についてどのように検討されたのかということを少し確認させていただければと思います。先ほど申し上げればよかったのですけれども,申し訳ありません。 ○内田委員 どうされたかというか,これは部会でのこれまでの審議を踏まえて,そのエッセンスを提案として出しているわけですので,それで足りなければ,このような内容を入れてはどうかという御提案を頂ければいいのではないでしょうか。 ○山本(敬)幹事 提案を自分がしたかどうかの記憶は定かではないのですが,問題意識としてはずっと持っていたところです。しかし,この提案の仕方の中にどのように書き込めるかは,難しいもしれませんが,今申し上げた問題が残ってしまうと,特に履行不能のような場合を定めて,なお残ってしまうのは,後で出てきますように,危険負担制度がに解除に一元化されるとするならば,なおさらのこと問題で,手当てが必要ではないかと思います。その意味では,どう接合するかは難しいのですけれども,やはり落としてしまうのは問題ではないかと思います。 ○鎌田部会長 事務局の側で作り出すのはなかなか難しいと思いますので,山本敬三幹事から是非具体的な提案を追加的にであれお出しいただければと思います。 ○三浦関係官 3ページの2の複数契約の解除のところですが,このような規定を設けるべきでないという考え方があるという(注)がございます。これは(注)でよいとは思いますが,特に一般の方が読んだときに,規定を設けるべきでないという考え方の趣旨が全く書いていないので,国民の意見を問うという観点から,一言付け加えなくてよいのかという問題意識があります。例えば,「要件を明確にすることが難しく,過度に広く解釈されるおそれがあることなどから,このような規定を設けるべきでないという考え方がある。」とか,もし(注)に書くのが難しければ概要のところに書くということでもいいかもしれませんけれども,少し趣旨を書いたほうが資料として分かりやすくなると思いますので,御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○中田委員 今の点について,私はこの規定は是非置いていただいたらいいと思うんですが,明確化は更に試みたらいいと思います。具体的に申しますと,ちょっと気になったのは,この表現ですと,同じ当事者の間で基本契約,個別契約があって,基本契約の債務不履行があったという場合に,基本契約だけでなくて既に締結された個別契約まで解除できるということになってしまわないかということがありまして,それを外したほうがいいのではないかと思います。   そのために,これは前にも申し上げたんですが,目的という言葉が二つ使われておりますけれども,若干内容が違うかもしれませんので,そこを少し整理することで明確になるのではないかと思います。 ○松本委員 先ほど意見を述べた3の(5)の話で,新井関係官から想定している事例を説明していただきまして,それはそれで理解できますから,その趣旨が明確になるような表現,すなわち売買契約において買手側が解除する場合で,実際に払った以上の客観的価値のあるものを受け取っている場合を想定されているんだと。逆の場合,実際に払ったよりはるかに価値の低いものを受け取っている場合については,その価値相当額を返すだけでいいんだということが明確に分かるような表現にしていただきたいというのが一つです。   もう1点は,払った額以上の高価なものを受け取っていて,それが売手側の債務不履行になっているという場合の処理として,例えば1,000円払ったけれど,間違って1万円のワインを給付された。債務不履行であると。買手側がしめしめと思って飲んでしまったと。この理屈でいくと,1,000円を返せばいいだけだ。つまり1,000円払っているからもう相互返還の関係はないということで終わってしまうわけですが,それでいいのかということです。客観的な価値から減額される場合の主観的要件をもう少し限ったほうがいいのではないかと。   例えば,責めに帰すべきでない事由によって,現物の返還が不可能になった場合とか,何か絞ったほうがいいのではないかという気がいたします。理屈の立て方としては1,000円払って1万円のワインが来て,しめしめと思った場合は,それでもう追認したんだから解除ができないという理屈も立つとは思いますけれども,この規定をストレートに適用すると,そういう場合も1,000円返せばいいということになって,ちょっと不当かなと思います。 ○内田委員 私はワインの味なんか分かりませんので,1,000円払って1万円のものが来ても1,000円のものだと思って飲んでしまうことはあるわけです。その場合にやはり1万円を返せというのはおかしいのではないかということで,不当利得の原則としてはこれでいいのではないかと思います。誤って高価なワインが来たことに気づいてしめしめと思って飲んだというような主観的な悪性が加わった場合には,別の法理でそれをカバーするというのが原案の立場だと思います。ですから,しめしめという場合に,何も手当てしないと決めつけているわけではありませんので,何も知らずに飲んでしまったような場合を想定すると,原則のルールはこれでいいのではないかと思います。 ○松本委員 何も知らずに飲んでしまう場合はおっしゃるとおりでいいと思います。 ○鎌田部会長 よろしければ「第2 危険負担」から「第4 代償請求権」までについて御審議いただきたいと思います。一括して御意見をお出しください。 ○大島委員 危険負担について,第2読会において,東日本大震災のような事例を踏まえますと,解除ではなく危険負担によって対応するほうが望ましいケースもあるのではないかという意見を申し上げました。私からの意見は,概要欄に「契約各則のパートに危険負担について規定を設けることは検討されている」と記載され,備考欄には検討されている契約類型が示されているものと思います。しかしながら,契約各則のうち,どの類型に危険負担の規定が置かれるかは非常に重要だと思いますので,備考欄ではなく概要欄に記載していただくとより分かりやすくなるのではないかと考えます。 ○村上委員 第1の4のところで申し上げた方がよかったのかもしれませんけれども,第1の4「解除権の消滅」の(1)は,536条1項を削除することにした場合に,547条をそのままにしておくと問題が生ずるのではないかという問題意識だろうと思いますので,そうだとしますと,第2の1のところで,536条1項を維持するべきであるとの考え方があるという注記をしていただいているわけですから,第1の4のところにも,536条1項を維持するのであれば,このような手当ては要らないことになるという,その関連が分かるような注記を付けていただく方が望ましいのではないかと思います。 ○岡委員 危険負担の廃止,解除一元化論のところですが,この考え方を支持する意見が強かったというのは認めますが,536条1項を維持すべきという考え方もかなり残っておったところだと理解しております。   かなり大きな変革を求めるところでございますので,(注)ではなくこういう骨格的なところは甲案,乙案で表現すべきと思います。たたき台の半分が出たところで甲案,乙案と書いているのは消滅時効のところ一つだけというのは少しさみしいというか,法務省の強い意思が感じられるというか,いろいろ評価はあると思いますが,この危険負担は大きな舵の変更になりますので,(注)ではなく乙案として書くのが相当ではないかと思います。   もう一つ,536条1項を維持すべきであるという考え方に立つと,534条の合理化バージョンも残すことになると思いますので,そのような危険負担を残すという(注),あるいは乙案の書き方についても534条を入れてほしいという意見がございました。 ○中井委員 今の岡委員から発言ですが,私のメモにも記載しているとおり536条第1項については甲案と乙案という形で明記していただくのがいいのではないか。また534条については基本的に変える考え方に賛成ですが,この御提案では売買のパートにおいて給付危険の移転に関するルールを明文化するとされておりますが,必ずしも売買のパートに限らないと思われますので,この部分に置いておくという考え方も(注)で記載してはどうかと考えます。 ○岡崎幹事 私も岡委員,中井委員と同趣旨の意見になりますが,536条1項を削除して,解除に一元化するという提案に関しましては,これまでもこの部会の中で実務家の委員・幹事の間から強い懸念が示されていたと理解しております。やはりここは甲案,乙案という形で示していただくほうがこれまでの審議の状況に照らして望ましいのではないかと思われますし,また概要と備考の欄に言及して恐縮ですけれども,これらの記載はやや削除するほうに偏っているように感じます。実務を担当している者の実感から来る問題意識が杞憂にすぎないかのような印象を与える書きぶりになっているように思いますけれども,法制審のメンバーの間で意見が分かれている問題でもございますので,もう少しニュートラルな形で国民の意見を虚心坦懐に聞いていただくことが望ましいのではないかと思います。 ○山野目幹事 第2の1,危険負担に関しまして,甲案,乙案という形での問題提起をすべきであるという御意見が複数出されているところでございますけれども,私の感じるところでは,そのような問題提起の仕方をすることについて必ずしもにわかに賛成することができません。岡委員のお話ですと,法務省の強い意思だそうですが,法務省の強い意思ではなくて,恐らく部会でしてきた議論の積み上げの全般を見た上での法務省事務当局の御判断であろうと感じます。   その部会でしてきた議論というものは,意見分布の数の多い少ないということも一つの考慮要素にはなるかもしれませんが,必ずしも数の多寡のみではなくて,そこで出された議論のそれぞれの御意見の足腰の強さといいますか,議論の全体的な体系的説得力のような観点も踏まえての評価がされなければならないものでろうと感じます。この問題について,どうしても債務不履行解除について責めに帰すべき事由,伝統的な意味での責めに帰すべき事由を要しないという立場を採ったときに危険負担との間での重複感が非常に濃厚であって,危険負担の制度を従来の骨格を維持したまま残すことについて,十分な論理的,体系的な説明ができないのではないかという疑念が繰り返し語られ,それに対して十分それを払拭する議論がされなかったという印象を私は受けます。   そうであるとしますと,そのような議論の積み重ねを前提としてこれからの問題提起をしていくべきでありますし,さはさりながらしかし536条1項の存置を強くおっしゃった御意見があるのも確かでありますから,そのようなところの全般をバランスよく御覧いただいて,ゴチックの言わば本文に当たる問題提起と注記とに書き分けて,問題提起をしていただいているものでありまして,これが一番いろいろな観点から見たときに,バランスのよい問題提起の仕方なのではないかと感じます。   申し上げたかった意見の骨子は,この点まででございますが,もう一つ事務的なことといいますか,中間試案の作り方の関係で少し指摘させていただきたいことがございまして,それはこの1の注記で536条を維持すべきであるという考え方を書いておりますが,仮にこの注記のほうの考え方でいった場合には,こういう問題もあるではないか,ああいう問題もあるではないかという御指摘が今複数ありました。そういうものを全部書いていくことが中間試案の読み手に対して効率のよいコミュニケーションになるのかということについても,丁寧にそれをしたほうがいい場面もあるかもしれませんけれども,必ず機械的に,注記の意見を採ったときには,こうであるというレファレンスを非常に細密にしなければならないと考えることもどうであろうかという疑問も感ずるところがございますから,事務当局のほうにおいて御検討いただければ有難いと感じます。 ○道垣内幹事 甲案,乙案にするのか注記にするのかということについては,意見はございません。それではなくて,中井委員がおっしゃった536条1項を維持すべきであるという考え方を採る場合には,534条も当然修正されて残るという点につき,本当にそうなのかということについて一言申し上げたいと思います。   中井委員のメモが出ているわけですが,これは引渡義務が履行された場合には,債権者が危険を負う,負担すると書いてあるだけであって,これは無意味なのではないかと思うのです。そうするとやはり未履行の間は,債務者が危険を負担する,536条1項だけがあればよいということになるのではないかと思いますので,少なくとも536条1項を維持するというときに,534条が合わせて残ってくるというのは必然ではないということは指摘しておきたいと思います。 ○筒井幹事 危険負担に関する第2の1について様々な御意見を頂きました。現状維持すべきであるという考え方を甲案,乙案として併記される一方の案として掲げることについては,私は当初から消極的な考え方を申し述べてまいりました。それは,現行法の改正である以上,改正する意見がまとまらなければ最終的に現状維持となることは,どの論点についても常にある問題でありまして,それを一つの案として掲げて意見を問うことに意味があるとは思えないからです。あくまでも改正すべきであるという提案をもって世に意見を問うて,それに対して反対意見が大勢を占めるようであれば考え直すというのが基本的なスタンスであるべきではないかという考えを持っております。もっとも,この点については,両方向からの御意見がありましたので,全体を見渡しつつ更に考えたいとは思っております。   それから,備考欄の記載内容について,岡崎幹事から二度にわたって御指摘がありました。備考欄は,あくまでも今回の部会会議における審議の便宜のためだけに書いたものです。この論点については,山野目幹事から御指摘があったように,削除するという考え方の論拠のほうに説得力があると考えて現在このような案を提示しておりますが,このような形で「たたき台」を提示するに当たっては,今までの議論の経過を踏まえて,もう一度その理由を整理して提示する必要があるであろうと考えて,今回の部会資料ではこのように備考欄を書いたということであります。   この備考欄は,将来的には中間試案の補足説明に引き継がれていくわけですけれども,差し当たりは,専ら部会における審議の便宜のためのものです。この部会内部においてはこれまでの審議の積み重ねがありますので,このような書き方でも十分コミュニケーションがとれると考えて,このような記載を用意いたしましたが,しかし,補足説明については,これを初めて読む方がいらっしゃるわけですので,そういう方がいることを念頭に置いて,岡崎幹事の言葉をお借りすればニュートラルという言い方になるでしょうか,様々な意見があることを十分踏まえながら説明する必要があろうと思っております。その意味で,岡崎幹事の御指摘は大変ごもっともなことであると受け止めております。 ○中井委員 先ほど道垣内幹事から御指摘を受けた点に関して,536条1項が残るから534条といったのは私ではなくて岡委員ですが,その点はさておき,先生御指摘の問題は理解いたしますが,この部会提案では売買のパートに給付危険の移転時期,つまり引渡しなのか登記なのかということに関連するものを記載する。売買のパートのときにそれが最も先鋭的に問題になることについては,そのとおりと認識しておりますけれども,必ずしもそれに限らない抵当権の設定契約やその他物件の移転に関して,地上権の設定もそうかもしれませんけれども,その場面でも危険の移転がどの時期なのかということは問題になるだろう。それぞれのパートに設けるよりはどこで移転するのかということが明記されてもいいのではないか。こういう観点から考えれば534条全面削除でなくてもよいと考える次第ですが。 ○道垣内幹事 議論がかみ合っていないような気がします。私が申し上げているのは,特定物に関する物権の設定又は移転を目的とする契約についての危険負担を定める際に,引渡義務が履行されたときには移転すると書いても,それは無意味であり,引渡義務が尽きたのではない場合に,どういう基準で危険が移転するというルールがあって初めて危険負担のルールの意味があるのではないかということを申し上げたつもりです。 ○鎌田部会長 登記と引渡しが別々の時に行われるときには危険移転の時期を定める意味はあるかもしれませんけれども,御指摘の点は……。 ○道垣内幹事 細かくなりますので申し上げませんでしたけれども,仮に534条以降を修正した形で維持するというのが,この部会の最終的な意見になったときにも,登記でよいのかということについては,なお議論があり得えます。したがって,少なくとも当然のようには書けないだろう。次の段階として問題がありうることは,そのとおりです。 ○松本委員 先ほど村上委員が御指摘されたこととの関係なんですが,第1の4と第2の関係でありまして,私は第1の4の(1)を読んだときには,これは何を意味しているんだろうかというのがはっきり言ってよく分からなかったんです。ところが,村上委員がこれは536条1項の削除を前提とした議論なんだと喝破されて,ようやくそういう趣旨かということが分かった次第であります。   しかし,そうなるとこれは言わば解除される側から催告をして解除するかしないかを早く決めてくれということを言う制度を適用しないという提案なんです。ということは,解除権はずっと残るという話になるわけで,契約関係が解消されないでずっと残るという大変不安定と言えば不安定な状況を将来まで残す。解除する側が解除すると言わない限り解除権は残るという感じになって,これでいいのか。従来の危険負担の理屈から行けば,解除するまでもなく,双方の債務は消えているということで決着しているわけだけれども,今回その危険負担の制度を廃止して,当然消滅という構成は採らない,解除権者の側の決断以外による消滅は認めないんだという制度にしようというのが第2の提案なんです。   そうだとすれば,解除される側がどちらか早く決めてくれと言える制度というのは,早期の関係の早期の安定化という点では,不可欠なものだと思うのです。そう考えれば536条1項削除論を採るのであれば,547条について,4の(1)に書いてあるような形で適用しないとするのは逆方向だという印象を持ちます。 ○沖野幹事 今の4の(1)の点なんですけれども,松本委員が御指摘になりましたように,これの内容の当,不当といいますか,政策判断がこれでいいのかということ自体は議論の余地があるように思われます。解除権がずっと残り続けるということにつきましては,一方で期間制限,あるいは契約から発生する債権債務自体の時効消滅等の問題もあり,それによって解決される部分はあるかと思いますけれども,基本的に(1)の考え方というのは,双務契約において,一方の債務がもはや損害賠償でも履行請求でも全く請求できないときに他方の債務だけがずっと残るという場合にも,そのときには解除によってそれを消滅させることが最大限保障されるべきだという考え方を採るものですから,そうしますといわゆる危険負担における債務者主義を正にそのまま採用するところを意思表示によって明確化を図るという点だけを重視しているという考え方ではないかと思われます。   それに対しまして,(1)のような考え方を採らないといたしますと,解除の相手方としては,自分の債務はなくなっているといいますか,履行請求もされないし,損害賠償もされないという中で,自分の権利だけがあるという場合に相手が解除するかどうかによって契約がどうなるかという帰すうを決着させたいという,その利益をどこまで強く認めるのかという問題ではないかと思われます。   債権者として利益を取得できるだけなのだから,その点はもはや重視しなくてもいいんだと考えるならば(1)のようになるかと思うんですけれども,例えば交換契約であったような場合に,当該物が入ってこないのであれば,他に契約をしようというようなときの債権者の利益とか,あるいは受領義務なども考えますと,債権者としても移転の義務を負う場合があるとか,受領のための準備をするというようなことがあり得るんだと考えますと,もうさっさと決着させたいということがあるかもしれませんし,更に単純に期間制限がされた場合,期間満了があった場合との対比でいきますと,催告によって解除権を行使する機会を相手方に与えていますので,それに対して何らの確当もしなかったというときであっても,なお解除という地位を保証すべきなのかというのは判断が分かれるのではないかと思います。   私自身はどちらもあり得ると思っておりまして,債務者主義で想定されるような両債務間の対価関係とその負担を誰が負うべきかというところをどこまで重視するかという問題ではないかと思っているのですが,これまで4の(1)というのはほとんど議論がされてまいりませんでした。そもそも部会の第40回会議では全く意見が出ず,それを踏まえて第1分科会の第3回会議で取り上げられたようでございますけれども,そのときにも御発言が一つあったのみで,そのままいっているものですから,ちょっとこれは中身が本当にこれでよいかということを改めて考えておく必要がありはしないかと思います。 ○鎌田部会長 何か御発言はありますか。 ○内田委員 4の(1)のような場面で解除権が消えないで残り続けることでよいかという御議論ですけれども,これは履行請求もできず,損害賠償責任も免責されるという場面ですので,通常は同時履行の関係にある反対給付が履行されることはなく,解除権が行使されずに残っていても問題はないのだろうと思います。そのような理解を前提に,解除権を持っている側としては,解除して全て消すか,それとも行使せずに代償請求権を行使するかという選択肢があったほうがいいということで,これまで議論してきたのではないかと私は理解しております。 ○山川幹事 第2の2に入ってもよろしいでしょうか。私は今回の本文が妥当ではないかと思っていたところですけれども,本日の潮見幹事の御意見,もしかしたらこれは御紹介いただいてからのほうがよかったのかもしれませんけれども,条件付き的に本文の修正の御提案も含まれているようでありますので,ちょっとだけコメントしたいと思います。   この提案の御趣旨は,536条の2項に相当する規定を残す場合に,債務者の責めに帰することのできない事由による不履行であるということを要件とすべきではないかという御趣旨かと思いますけれども,確かに債務者に帰責事由があって,それで履行不能が生じた場合に反対給付請求権が生じないということ,これは大変適切な指摘で,恐らく異論はないのではないかと思われます。その場合に,要件ないし請求をする際に債務者の責めに帰することのできない事由によるということまで債務者が主張,立証すべきかというのはまたちょっと別の次元ではないかと思われます。   つまり債務者に帰責事由があることによる履行不能,例えば労働者側が履行拒絶したとか,そういう場合は,恐らく今の取扱いは,例えば536条2項の帰責事由が債権者にないとか,あるいはより細かく債権者の帰責事由に「よって」とあるので,因果関係のような要件も含まれていて,それは債権者の帰責事由によって履行不能が生じたわけではないということで,現行の規定では,債権者の帰責事由の当てはめで対応されているのではないかと推測します。今,1項を受けるというような規定も536条2項にはないわけですので,その意味では本文のような御提案でも現行法の実質規律は変更されないという説明が可能ではないかと考えております。もちろん概要等でその旨を明らかにすると議論があるということを示すのは可能であるかと思います。   1点だけ概要の立て付けのことで,2で恐縮ですけれども,未就労部分の賃金債権と書かれています。備考では契約類型ごとに固有の規定を設ける場合はそちらを優先するというと,なぜここで賃金が出て来るのかというお話があるかもしれませんので,例えば契約類型によっては,未履行部分の反対給付請求権が発生するかどうかは明確でないという指摘が生じ得るとか。そういう形でニュートラルな表現もあり得るのではないかと思います。細かいことですけれども失礼しました。 ○筒井幹事 山川幹事の御意見の趣旨はよく理解できましたので,検討したいと思います。引用された潮見幹事の意見書の4ページに,危険負担の第2の2についての御指摘がありまして,これも山川幹事から御紹介していただいたとおりですけれども,債務者の責めに帰すべき事由がある場合を除外すべきではないかという御指摘があります。それらの点は,実質としては全くそのとおりですので,それを適切に表現する方法を改めて考えたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。受領遅滞,代償請求権についても御意見があればお出しください。 ○高須幹事 代償請求のところでございます。ちょうど同じように潮見先生の意見の5ページのところです。代償請求についてこれまでの第2読会での議論の中では,一応甲案,乙案,更に丙案という形で三つ並べて,分科会でもここは議論したところでございます。いわゆる損害賠償の免責事由との関係では損害賠償ができないときに限定するかどうかというところを部会で議論して,あるいは分科会でも議論をしてまいりました。その議論の一つの方向性として,この本文が書かれているということ自体には異議はないのですけれども,ただこれで固まったというわけではないような印象を持っております。弁護士会の中には,これまでの判例はそうではないというという理解に基づいて,必ずしも免責される場合に限定する必要はないのではないかという意見も引き続き出ているところでございますので,潮見先生の御意見と私も同じくするところがありまして,(注)ぐらいには書いてもよろしいのではないかと思っております。 ○松岡委員 受領遅滞のところの第3のイのところです。中身には異論がないのですが,債務の内容が特定物の引渡しであるときは,債務者が引渡しまで,部会資料53第6,1の区分に従いそれぞれ軽減される保存義務を負うとある点です。もちろん,ここは争いがあったところなので書きにくいのでしょうが,この書き方では一体どう軽減されるのかがわかりませんので,補足の説明を加えていただきたいと思います。 ○中田委員 受領遅滞のアのほうなんですけれども,この規律自体にはもちろん異論はないんですが,概要にも出てまいります485条ただし書との関係を整理しておく必要があると思います。現在は,この点は学説で議論がありまして,民法典の起草者の見解の分析などに基づく研究もありますけれども,増加費用の負担を明文化すると,その学説の議論が条文の解釈ということで顕在化することになると思います。そうしますと,485条ただし書の適用領域と新しい413条の適用領域との関係を確認しておいたほうがいいのではないかと思います。最終的には,それは概要,あるいは補足説明のレベルの問題になるのかもしれませんけれども,考え方自体は,ある程度共通認識に立っておいたほうがいいように思います。例えば413条のほうは,不可抗力による受領不能の場合であっても履行提供時以後の費用の増加を債権者の負担とするのに対して,485条ただし書のほうは,受領遅滞がない場合でも債権者側の原因で費用が増加したときは債務者の費用負担の原則の例外として増加分は債権者に転嫁される。例えばそんな説明になるかと思うんですが,そこら辺を確認できればと思いました。 ○山本(敬)幹事 代償請求権についてですが,先ほどから問題になっていますように,「債務不履行による損害賠償の免責事由により履行に代わる損害賠償を求めることはできないとき」ということを要件とするかどうかという点について,これまでも議論があったところでして,少し意見にわたってしまうところがあるかもしれませんけれども,このような要件を設けるという方向で意見の一致を見たと言えるのかは疑問の余地があるだろうと思います。   とりわけ論拠として上がっているのが,債務者の財産管理に関する干渉となる側面があるので限定すべきであるということですが,少し目を広げて考えてみますと,債務者の側に免責事由がない,つまり従来でいう帰責事由がある場面については,損害賠償をしなければいけない。この場合は,代償請求という形で財産管理への干渉を受けることはない。  しかし,免責事由がある者は,財産管理に対する干渉を受けることになる。どうも逆ではないのか。要するに,責めに帰すべき事由がない者のほうが干渉を受けることになるのは,果たして適当なのかという疑問も誘発します。  さらに,これは以前の部会のときにも出ていたと思いますけれども,主張・立証責任をどう考えるかというときに,想定しているのは,まずは損害賠償を請求しなさい。それが負ければ代償請求で行きなさいということで,債務不履行による損害賠償について免責事由があることについては,債務者側で立証したのを受けて主張すればよいだけだという理解があるかもしれませんけれども,債権者側がそもそも債務不履行による損害賠償を請求せずに,免責事由がある。だから,代償請求をするという主張をしてきた場合に,どのような攻撃防御の仕方になるのかというのも少しよく分からないところもあります。   その点で,かなり問題をはらんでいるということを今言うのが適切かどうか分かりませんけれども,まだこれで確定というわけではありませんので,このような問題があることを踏まえて,本当にこのまま中間試案に出すのか,大きな疑問があるということを申し上げておきます。 ○筒井幹事 代償請求権だけに限りませんけれども,とりわけ代償請求権について複数の方からの御意見があり,御欠席の潮見幹事からも御意見を頂きましたので,本文の書き方についてもう少し検討したいと思います。また,今の段階で既に意見が分かれているから立法を見送るという選択肢は,常に有力なものとして存在するのであろうとは思っておりますけれども,それでも成案を得る可能性をもう少し追求したいという意味で,現在の本文を維持した上で,ただ今のような御議論があることを何らかの形で書き足すような方向で,次の機会までに検討させていただければと考えております。 ○山本(敬)幹事 念のためですけれども,代償請求権について規定を設けるべきであるという立場に立った上での意見だったということを申し添えておきます。 ○中井委員 第3の受領遅滞に戻りますが,先ほど534条の関係で,給付危険の移転時期について,534条に引渡しないし登記を入れるのであればですけれども,この受領遅滞の効果としても,この備考欄の説明のように売買のパートに危険の移転について規定を設けるのであれば,一般論としてここに記載することもなお検討してよいのではないかと思います。これが1点です。   2点目がイですけれども,部会のときには,軽減されるとしか書きようがないという議論になったのかもしれませんが,この部会資料53の第6では,これは分かりやすさの観点から申し上げているわけですけれども,(1)として契約によって生じた債権については契約の趣旨に適合する方法により保存する,(2)で契約以外の原因によって生じた債権については,善良な管理者の注意をもって保存する,こういう提案がなされている。それに合わせてというのであれば,少なくとも法定債権については,自己の財産に対するのと同一の注意義務をもって保存する,という形で具体的に提案してよいのではないのか。そのほうが分かりやすいのではないか。   また,契約によって生じた債権についても,単純に軽減されるというよりは,特段の合意がなければ,自己の財産に対するのと同一の注意をもって保存すれば足りるという書き方でいいのではないか。そういう提案もありましたので,御紹介し御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。よろしければ,「第5 条件及び期限」及び「第6 期間の計算」について,御審議いただきます。こちらも一括して御意見をお伺いしたいと思いますので,御自由に御発言ください。 ○松本委員 第5の1の条件の(1)ですが,条件についてこの本文に書いてあるような定義を置くということですが,私はより重要なのは概要のパラ1のところに書いてあるような停止条件あるいは解除条件という大変分かりにくい誤解を与えるような用語が現行の民法にそのまま使われているという,ここを直すほうがよほど重要だと思いますから,少なくともこの概要のパラ1に書かれている考え方が有力にあるということは,せめて(注)で指摘していただきたいと思います。 ○筒井幹事 御指摘のことは,かねてから御発言いただいておりましたし,そのことはこの部会ではかなり多くの方の賛同を得ているのではないかという認識をしております。ただ,この中間試案における本文の書き方という問題に関わってくるのですけれども,繰り返し申し上げているように,中間試案は条文そのものではなくて,ここでの実質的な改正の内容を踏まえて,条文化の作業はその後に行うものです。それは最終的な要綱案であっても同じだと思いますけれども,とりわけ中間試案においては条文そのものではないことに留意が必要です。そういう観点からすると,専ら条文上の用語の置き換えに関わることを中間試案の本文に書くのは,必ずしも適当ではないという問題があります。   とはいえ,松本委員の御指摘のような議論があったことは間違いなくて,それはかなり有力に主張されていたと認識しておりますので,あえて概要欄にそのことを記載したということです。このような形で,この部会で議論されてきたことは十分反映されていると思いますので,書き方としてはこれで御了解いただければと考えております。 ○中田委員 条件の(2)の130条の規律の改正ですが,中身はこれでよろしいと思うんですけれども,「条件を付した趣旨に反して故意に」という新たな概念を提示されていて,趣旨は分かるんですが,「条件を付した趣旨に反して」を入れると,「故意に」というのが本当に必要なのかどうかがよく分からなくなってきました。その点について御検討いただいた結果がもしあれば教えていただきたいんですけれども。 ○筒井幹事 中田委員に御説明することができるほどに考えたわけではありませんで,現在の故意という言葉に対して,限定的な意味を持つ言葉を付け加える必要があるという限度での提案でございます。 ○山本(敬)幹事 これは確認なのですが,取り上げられなかった論点として,11ページの下の部分ですが,133条の不能条件があがっています。以前の部会での議論でも,原始的不能に関するルールをどうするかという点について,原始的不能であるというだけでは契約は無効にならないとする方向で,従来は無効としていた伝統的な通説を改めるということで議論が進められていました。   契約の原始的不能について,そのような考え方を採用するのであれば,133条についても,停止条件付法律行為は,停止条件の成就が初めから不能であるという理由だけでは無効にならないというような形で平仄を合わせて書かれるべきであるというような議論が行われていたと記憶しています。  これが取り上げられないというのは,どのような趣旨か。これは,契約の原始不能の場合についてのルールをどうするかということとつながっていますので,どう理解すればよいのか,どう受け止めればよいのかということをお聞かせいただければと思います。 ○川嶋関係官 この点につきましては,第3分科会第1回会議で議論がされたところでして,その際には,原始的不能の場合には給付の内容が実現不能であるのにそのような内容の債務を発生させる契約の効力をどうするのかということが問題になるのに対し,不能条件の場合にはそのような問題は生じない,つまりこれらは別問題なのではないかという指摘がありました。そういった議論を経た上で,民法第133条の規律は維持してよいのではないかという方向で概ね異論はなかったものと認識いたしまして,このたたき台では本文で取り上げないという判断をいたしました。しかし,御指摘を踏まえて改めて次回までに検討したいとは思います。 ○山本(敬)幹事 その分科会での議論は,私自身は直接承知してないのですけれども,部会では先ほどのような議論があったところだと思います。原始的不能であり,初めから履行ができないというだけでは契約は無効にならないというルールを前提にするのであれば,133条も,このままで整合性が本当にあるのだろうかという疑問を誘発するのではないかと思います。その意味では,先ほど申し上げましたように,中身については余り争いがあるとは私は思っていませんが,平仄を合わせるのであれば,停止条件付法律行為は,その停止条件の成就が初めから不能であるという理由だけでは無効にならない。文言はともかくとして,そのような内容に修正される必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 私は個人的には,債務内容が原始的に不能であるというのは履行請求しても履行を実現できない場合のことで,この場合には,債務不履行解除で最終的に契約関係に決着がつくという提案がされているんですけれども,例えば1,000円を返せという債権に不能な条件が付いているときには,不能な停止条件が付いていると条件が成就しないから一切請求できないので,債務不履行の問題も起きないですね。そういう意味でやはり原始的不能の問題と,不能条件の問題とは全然性質が違うのではないかと思うんですけれども,直感的な印象にすぎないですか。 ○山本(敬)幹事 そのような理解ですべて説明できるかどうかということもありますし,停止条件について,そのような理解でとらえるのであれば,契約もそうではないのかとつながる可能性はないのか,そこは完全に区別可能だということで整理ができるのか。そこは議論がありそうですので,そうだとするという前提での意見だったと受け止めていただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   「第7 消滅時効」について,御審議いただきます。ここも一括して御意見をお伺いしますので,御自由に御発言をください。 ○松岡委員 2点申し上げたいことがあります。一つは,12ページの2の(注)についてです。前々回の審議の終わりに,山本敬三幹事から,消費者契約に基づく消費者に対する債権だけを別に扱うことについては十分な理由が示されていない,という御指摘があったと記憶しております。  それに関して申し上げます。現在の規定では,消費者に対する債権のかなりの部分が1年から3年の短期消滅時効にかかっています。一般の時効期間について5年短縮案ですとそれほど大きな影響は出ないかもしれませんが,5年短縮案が成り立たずに短期消滅時効だけ全廃ということになりますと,一気に10年と極めて長くなってしまいます。それは合理的ではないというのが,時効研究会の提案根拠の一つです。   もう一つは,企業のように帳簿をきちんとつける義務があり,証拠書類を5年間以上残しておくというのが当然になっている場合とは違って,消費者にはそこまでは期待できません。特に少額の債権につきまして,債務者である消費者が,現在の1~3年より長く弁済の証拠を保存しておかなければいけないことになるのは,やはり妥当ではありません。   住宅ローンの債権のようなものは別で,これについては,一般の5年とか10年の間,消費者も領収書の保存が必要となってよいでしょうが,長期にわたって弁済の証拠を残しておく必要が必ずしもない債権については,やはり例外を設けるのが適切です。そのような規定を民法の中に置くのか,それとも消費者法という特別法で民法の外に置くのかについては,更に議論があるところですが,少なくとも短期消滅時効を全廃するだけであとは何も手当をしないのではなく,是非(注)のようお書きいただきたいと思います。   2点目は,13ページの2のところの記述です。甲案が紹介されていて,そして甲案の問題点が紹介され,さらに別案について述べるという形で記述がされております。しかし,甲案の問題点については別案だけではなく,15ページの5に当たる生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効のところでも相当の対処がされる構造になっているのではないかと思います。それが13ページの2の記述では,甲案に問題点があって,だから別案が出てくるという書き方になっていますので,このままではいかにも甲案には合理性がないという印象をかなり強く与えると思います。私は必ずしも甲案に賛成ではないのですが,説明の書き方が誤解を与えかねないので,表現の修正をご検討いただきたいと思います。 ○松本委員 今の松岡委員が指摘された2の(注)の部分なんですが,双方既履行の場合であれば,弁済の証拠を消費者側は取っておかない,他方事業者は税務上等々の法制的な理由から証拠を残している可能性が大きいというようなことで,消費者に対する債権の消滅時効期間を短くするというのは実質的な根拠としてはあると思うんですが,双方未履行のような場合に,事業者が消費者に対して請求できる期間は3年で,逆に消費者は5年だという一つの有償双務契約における債権について,どちらのどちらに対する債権かによって,消滅時効期間が違うというのはそれでうまくいくんでしょうかという疑問があります。   民法の現行の短期消滅時効はほとんど事業者側の義務の履行が終わっていて,代金や報酬債権という消費者に対する債権が未履行で残っているか,あるいは既履行かもしれないという場合なわけですから,これは一方的な債権だけが残っている場合を想定しているので,未履行の場合も,既履行の場合も短くするというのは,それはそれで一定の根拠はあるんだろうと思うんです。しかし,こういうふうに事業者の消費者に対する債権はそもそも3年だと。そうでないのは商行為であれば5年だ。一般であれば10年だとかいうふうに非常に一般化するというのは,かなり難しい問題を発生させるのではないかと思いますから,消費者向けの特則を置くのであれば,もっと限定して現行の民法に対応したような,事業者既履行の場合という限定を入れるべきだろうと思います。 ○中井委員 同じくこの2についてですが,この(注)について今お二人から御意見を頂きました。大阪弁護士会から提案した案を残していただいたわけです。前に山本敬三幹事等からの御指摘があり,また今,松岡先生からは一定御支持していただける含みもあったのかと理解いたしましたけれども,なお松本委員からもこのような形で規定することについては,仮にあるとしても限定的でなければならないのではないかという御示唆を頂いたものと理解しました。   弁護士会でも前回以降更に検討を重ねまして,この(注)について,かねてから筒井幹事がおっしゃられているように最終的に合意ができる,成案に至るかどうかという観点から,見直させていただきました。つまり,消費者に対する債権について3年という部分については,削除した形で改めて案を作り直して,それを丙案として並べていただけないか,こういう提案とともにお願いです。   その丙案の内容については,私のメモ2ページ目の第7です。基本的には,権利を行使できるときという起算点から10年間という時効期間を維持した上で,事業者の契約に基づく債権については,5年間の時効期間を新たに設けるものとするというものです。事業者という形で拡大はする。しかし,契約に基づくという債権においては限定する。短期消滅時効について一律廃止するということには賛成した上で,かといって一律10年は長いというのは先ほど松岡委員からも御指摘を受けたとおりで,それを10年,5年という極めて単純な二分にするという案です。   この提案をさせていただくと同時に,(注)は削除してもよろしいのではないかということを考えた次第で,松岡委員からの御支持を受けかけていたのかもしれませんが,御検討いただければと思います。 ○松岡委員 先ほど言おうとして落としたことが一つあります。短期期間の例外として3年がいいのかどうかも問題です。民法改正研究会の提案では,1年から3年の現行の短期消滅時効の中をとって2年としたように思います。こうした例外を設けず,現在平均して2年であるものが一般的な期間の5年とか10年になるのは,先ほど申し上げた弁済の証拠を保持しておかなければいけない負担から考えると,なおかなり重いという印象がぬぐえません。   大阪弁護士会が前回提案されたことに賛成したものの,梯子を外されてしまいましたので,その点をどうしたらいいか,私は迷っております。 ○松本委員 中井委員の提案,丙案についての質問なんですが,先ほど私が原案の(注)で言ったことと同じ疑問がやはり出てくるわけです。相手方が消費者の場合も消費者が事業者に対して請求できる期間は5年なんですか。事業者の有する契約に基づく債権と書いてあるから,事業者が債権者の場合のみが5年であって,事業者が債務者の場合は,10年もありということですから,つまり同じ双務有償契約から生じた債権が一方は5年で,逆方向は10年だという状況を前提とされているのですか。 ○中井委員 今の点は,記載しているとおり,事業者が事業者に対する債権,事業者が消費者に対する債権,これはいずれも5年。逆に消費者が事業者に対する債権は原則どおり10年になるという限りにおいては,先ほどの松本委員の批判がここでも当たっています。 ○深山幹事 中井先生から提案のなされた丙案ですが,これは弁護士会の中の議論に関与している多くの弁護士が考えているところでありますが,消費者契約に基づく事業者の消費者に対する債権については3年とするというところも落としてはどうかということを前提に提案をしております。しかし,松岡先生からのお話も踏まえて,この段階で落としてしまうのもどうかと考え,丙案にした上で消費者契約云々のところをブラケットで囲んでいただいて,そこに対してのパブリックコメントを求めていただくということも一つの問い方ではないかなと思います。既に甲案,乙案になっていて,議論の絞り込みという観点からは例外的にはなっているところを更に選択肢を増やすということは,一般論としては妥当でないことは理解していますが,この時効の問題というのは,極めて重要な問題ですので,この段階で絞り込み過ぎてしまうのもいかがかという観点から,そのような選択肢を残していただいたらどうかと提案したいと思います。 ○筒井幹事 丙案を新たに立てるかどうかは,ここでの議論に委ねたいと思うのですが,意見対立の構図を整理するために発言いたします。主として中井委員がメモに基づいて御発言いただいた考え方は,原則的な10年という時効期間に対して,契約に基づく事業者の債権を例外とするものだと思いますが,この例外には,消費者契約に基づく事業者の債権が含まれており,それ以外に事業者間の契約に基づく事業者の債権が含まれているのだと思います。したがって,松岡委員が問題にされた消費者契約に基づく事業者の債権は,中井委員から提示されている例外のほうに,対象としては含まれている。しかし,時効期間について,中井委員の御提案は,それを現在と同様の起算点から5年というものであり,他方,松岡委員からは,消費者契約に基づく事業者の債権に関しては,3年,あるいは2年でよいのではないかという提案があるという意見分布になっていると理解しましたけれども,それでよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 それでよろしいですね。 ○中井委員 はい。 ○松本委員 丙案としてきちんと立てるのであれば,後始末規定も置くべきだろうと思います。すなわち双方の履行請求権についての消滅時効期間が異なるという状況下において,例えば消費者の側から自分の代金債務の消滅時効の期間経過後,事業者の履行義務についてはまだ消滅していないという時点において,履行請求をした場合にどうなるのか。代金を払わずして履行してもらえるという状況を是とするのか。それは不当だとすれば,事業者として拒めるという根拠規定を置く必要があるんだと思います。すなわち同時履行の関係の主張に関してのみ消滅時効の規定は適用しないというような何か特則を置かないと不当なことになるのではないか。それを不当だと考えないのであればまた別ですが。 ○野村委員 松本さんの意見は分かりますけど,現行法でも,起算点は別に考えるわけですよね。そうすると5年という長い期間ではないけれども,双方の債務の消滅時効期間の満了時点がずれるということは幾らでもあるわけですね。だから,松本さんみたいな考えにすると,従来のところも変えるということを含むということになるのでしょうか。 ○松本委員 それは,先ほども申し上げたとおり,現行の民法の短期消滅時効についての規定をざっと見る限りでは,事業者側の債務の履行が終わっているような場合をほとんどは想定していると読めます。だから,紛争にはなっていないんだと思うんです。完全に双方未履行の場合にどうなのかという,そういうのは想定していないと思います。 ○鎌田部会長 野村委員がおっしゃった一般的な債権の場合であっても,それぞれの起算点がずれると似たようなことが起きる。そういう趣旨ですね。 ○内田委員 契約の場合には大体双方起算点が一致することも多いでしょうから,その場合に時効期間が違っていれば,松本委員が言われたような問題が正に起きてくると思います。その問題に加えて,今回,時効について様々な意見が対立していた中で,甲案,乙案という二つの案に原則的に絞っているのは,時効制度はやはり全体像を示さないと比較できないということがあるからだと思います。期間だけを議論していては決着がつかないわけで,期間を短期化するということは当然今の時効障害事由に当たるものを認めやすくする。つまり,時効の進行を止めやすくするということが含まれますし,他方で生命・身体についての賠償請求権については厚く保護するということもセットになる。全体として評価する必要があるということで,あえて絞って全体像を示しているわけです。その中で丙案ということを言われますと,期間だけではすまないわけで,丙案を採った場合にはほかの項目がどうなるのかという全体像をやはり示していただく必要があるのではないかと思います。   したがって,期間のところでだけ丙案を入れるかどうかということの決着をつけるのは難しいのではないか。全体についての御提案をやはり頂かないと,比較できないのではないかと思います。 ○中井委員 仮に,甲案,乙案,丙案と三つ定立することによって,御指摘のような問題が起こるとすれば,私の理解では甲案を積極的に支持しておられる方がいらっしゃるのか。単純に10年を5年にするという案ですけれども,私はない,あるのかもしれませんけれども,三つあるのを減らす,そういう効率性の観点から減らすとすると,私はむしろ甲案がもう検討対象から外れていいのではないか。 ○鎌田部会長 道垣内幹事,御発言は。 ○道垣内幹事 内田委員がおっしゃったように,例えば2年の消滅時効を例えば消費者に対する債権について置きますと,中断事由,更新事由を広くするということには今度は必ずしも正当性がなくなってくるわけであって,そうすると,組合せの書き方として,結構難しくなるだろうと思います。   (注)でこういうふうな消費者に対する事業者の債権というものについては,短くするという考え方を出しているのは,このような考え方を採った場合には後ろとの間で当然には整合性が確保されないということを示しているという意味もあるのかなと思います。そう考えると,こういう書き方もあり得るのかなと考えます。   もちろん,書き方が複雑になるからといって,そうするのがいかんというつもりはありません。   次に,松本委員がおっしゃっているところですが,それは現行法はそうであるということでしょうか。つまり,一方が既履行で,片方が未履行の場合を念頭に置いているということなんですが,条文を適用する限りにおいては別に双方未履行でも適用になるわけです。 ○松本委員 その点は私も疑問なんです。条文上はそのように読めるんだけれども,本当に双方未履行の場合に小売業者の部分にも適用しているのかどうかは私は分かりません。 ○道垣内幹事 時効が問題になるときに,請求を受けた側は,私は履行はしていないけれども時効期間が経過していますと主張するわけではなく,その意味で双方未履行であるということが事前に決まっているというわけではないですよね。本当は弁済しているけれど,証拠がないので,時効を援用するということもあるわけで,時効の議論をするときに,実体的に双方未履行だとか一方既履行だとかという議論をすることに,さほど説得力があるとは思えないんですが。 ○松本委員 ちょっとよく分からないですけど,履行期を違える双務有償契約が普通にあると思うんです。 ○筒井幹事 問題の所在は既に明らかになったので,今日の議論はそれぐらいでよろしいのではないでしょうか。そういう問題があるという御指摘をいただいたということで。 ○山野目幹事 中井委員から2の甲案の支持者がいるかというお尋ねがありましたから,コメントをさせていただきたいと考えますが,私個人が特に甲案に絞って熱烈な支持者であると申し上げるつもりはありませんけれども,甲案はあり得る見解であって,この部会においてもそれを支持するという言い方であったかどうかはともかくとして,こういうふうな解決の仕方というものは十分に考えられるという論調での御議論がされてきたものであると私は理解しております。   甲案と乙案の関係は,起算点についての異なる思想を対比する形で問題提起しているものでありまして,そのうちの甲案について,更に時効期間というもう一つの小分けの論点について,別の考え方があって,多様であるという問題状況を示すために注記が付けられているものでありましょうから,今,御提示いただいている甲案,乙案と甲案との関係での注記というものは,読み手に分かりやすいのではないかと感じます。   甲,乙,丙と三つに並べるということもあり得るのではないかとも思いますが,中間試案の作り方として一般的にそういうルールを作れとまでは言いませんけれども,余り3以上の数でたくさん提示するということが読み手から見てどうなのかというようなことについても御検討いただけるのがよろしいのではないかと感じます。   あとは小さなことですが,松本委員御指摘の問題は筒井幹事が火消しにかかったとおり,火消しされてよいと考えます。8の時効の効果との関連もございますし,野村委員御指摘のように,今までもあった問題でありますし,そのような認識の下で引き続き御検討いただければよろしいのではないかと考えます。 ○鹿野幹事 12頁の2の(注)の消費者契約に基づく事業者の消費者に対する債権についての取扱いについて申し上げたいと思います。私自身は,先ほど松岡委員がおっしゃったように,これにつき異なる時効期間を設けることもあり得ると考えており,これに触れて頂くことには賛成です。ただ,資料では,その特別の時効期間を設けるかという問題が,甲案に付随する考え方であるかのように示されており,これに疑問を覚えます。というのは,ここでの甲案,乙案の対立は,今,山野目幹事がおっしゃったように,起算点についての考え方の違いにあります。その異なる考え方による起算点を前提として,そこから何年ということを書いているのだと思います。しかし,事業者の消費者に対する債権の時効期間を一般の債権の時効期間より短くするということは,甲案だけではなく乙案でも問題となり得ます。先ほど松岡委員が御紹介くださったものとして時効研究会の案と民法研究会の案があり,時効研究会の案は,表現ぶりの違いはありますけれども,実質的には,起算点につき乙案に近い考え方をとった上で,時効期間を一般的には5年とし,事業者の消費者に対する債権については3年とするという考え方を採ったものです。時効研究会がこうだからということをここで議論するつもりはありません。ただ,消費者に対する債権の特別時効期間の問題は,甲案だけに付随して生ずる性質のものではないと思いますし,したがって,甲案,乙案の対立と切り離した書き方をしたほうがよいのではないかと思います。 ○松本委員 元々の疑問に立ち返るんですが,双務有償契約で双方の主たる給付義務について消滅時効の完成する時期が違うことが現実にもあるんだから,ここでも構わないんだという論調を何人かの方がおっしゃっています。そこでお伺いしたいのは,現状ではそういう場合に消滅時効にかかってない側が履行請求してきた場合に,どういう扱いをしているんでしょうか。請求を認めるんでしょうか。   山野目幹事がいみじくもおっしゃったように,消滅時効の効果について,抗弁権なんだ,消滅してないんだということであれば,説明はしやすくなると思うんですが,消滅しているんだという考え方を採ると,一方は消滅しているけれども,一方は消滅していないという状況について,現状でも一杯あるんだよとおっしゃる方は,それをどういうふうに処理されているのでしょうか。 ○鎌田部会長 その点も検討の対象とさせていただいて,今後の議論の整理をさせていただきたいと思います。 ○松本委員 特に私がこだわっているのは,履行期を少しずらしているというのはあり得ると思います。引渡時期と代金支払い時期,例えば3年と10年ということになると7年ずれるんですね。あるいは5年と10年でも5年ずれるわけで,それは少し不当のではないかなと思います。 ○岡田委員 消費者の立場でいいますと,松岡委員のおっしゃった消費者側の領収書など証拠書類の保存期間が今までは2年だったものが5年になってしまうというと,確実にほとんど手元にないということになるのではないかとその辺が一番最初から気にしていた部分なので,その辺を配慮していただいて,なおかつ消費者側に対して,5年のところ3年とかいう議論がここでなされたということがパブリックコメントのときに,一般の消費者にも分かるような形で残していただければ,消費者も議論の経過を理解できると思うのですが,全くそういうのがなくて,短期消滅時効は全部なくしてしまう,5年になるというとかなり混乱するのではないかと思いますので,結果はどうであれ,何らかその経緯が分かるような形で(注)でもいいし,こういう意見があったという形でもいいですけれども,是非残していただきたきたいと思います。学者の方々も随分と検討していただいたということを私は評価したいと思います。 ○佐成委員 甲案の話だけちょっと簡単に申し上げます。先ほど山野目幹事がおっしゃったように,別に熱烈に支持しているわけではもちろんございませんが,ただあり得る選択肢としては提示しておきたいのです。つまり,経済界の中で議論しますと,どうしても乙案にはまだ抵抗感が強いが,甲案ならある程度意見の集約ができる可能性もあるという感触もありまして,多数派を形成できるかどうか分からないんですけれども,非常にあり得る選択肢として提示しておきたいということです。甲案にはいろいろ問題点があるのは承知しておりまして,これ一本で聞くわけにはいかないでしょうけれども,考え方の対立点として甲案,乙案というのは非常に分かりやすく,どちらを採るんだという提示の仕方をしたいのです。個人的には乙案は確かに非常に合理的だなと感じておりますけれども,ただ現状の経済界の議論状況,あるいは受け止めを拝見しますと,にわかに乙案というのはかなり開きがあるような気がしておりまして,中間試案の提示の段階では,甲案を,問題点があるのは承知しておりますけれども,やはり提示しておくのがふさわしいのではないかという趣旨でございます。 ○鎌田部会長 消滅時効の1と2に当面議論を集中させてそこで意見が出尽くしたところで休憩にしたいと思っておりますけれども,1,2に関して,御意見が更にございましたらお出しください。   特にないようでしたら,15分間の休憩を取らせていただきます。3時35分再開ということでよろしくお願いいたします。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開させていただきます。   「第7 消滅時効」の3以降について御意見がありましたらお出しいただければと思います。 ○佐成委員 5についてですが,基本的に2において時効期間を短期化した場合に,生命・身体について長期化するという考え方それ自体は十分理解できるんですが,なかなか現行よりも長期化してしまうというようなものについては懸念が強いというのが現状でございます。特に,証拠の散逸とか,そういったところを非常に懸念するのが実務界でございまして,そういう意味で(注)のところに,現状よりも長期になってしまうことには異論があるという注記をしていただけないか,御検討をいただきたいと思います。 ○岡田委員 同じく5ですが,ちょっと確認なですけれども,製造物責任法の蓄積被害とか潜伏被害,それとの関係をちょっと周りで聞かれたものですから,教えていただければと思います。あれは症状が出てからということですよね。そうすると権利を行使することができるというところで読めるのかどうか。その辺を確認させて下さい。 ○鎌田部会長 蓄積被害,潜伏被害が明らかになり,あるいは損害が固定した時が起算点になるから,そこから計算し始めるということでよろしいですね。 ○岡田委員 それでよろしいわけですね。 ○加納関係官 17ページの7の停止事由のところなんですけれども,それの(6)のいわゆる協議による時効停止というものについて,これを時効停止事由にすることについては賛同したいと思うんですけれども,この合意というものについて今回協議の内容を明らかにするという観点から,「書面による」合意というので明確化を図るということで,その考え方自体は理解できるんですが,パッと本文の17ページの「書面による」合意というのを見た瞬間に,これは約款でこういうのもあるということも含むのかどうかというのがちょっと気になりました。   例えば,協議するという約款において書いていれば,これに当たるんだとしますと,実質的に時効期間を合意により延長するというのと同じようなことになりはしないかというのが危惧されましたので,そこのところはこの合意というのは何らかある程度,例えば18ページに書かれているような趣旨からしますと,当事者間で紛争に関する協議がある場合の合意だとか,何か絞られているものなのか,それとも例えば契約条項,約款その他で合意があったという場合も含むものなのかというどちらなのかというのはこの合意というのは今回提案されたものだと思いますので,明らかにしていただいたほうがいいのではないかと思いました。 ○筒井幹事 お尋ねいただいた点は,本文の表現に関して更に精査する必要があるかもしれませんけれども,その趣旨として,権利の承認に当たり得るようなものはここでは想定されておりません。ですから,権利が存在することを前提とするような一定の合意,加納関係官から御指摘がありましたように約款でとなると,それは特定の債権を念頭に置いた条項ということになりましょうから,それは,ここで言っている協議には該当しないという整理になるのだろうと理解しておりました。 ○佐成委員 関連ですが,合意の対象が協議,権利に関する協議になるということについて,提案としては理解するんですけれども,それプラス,これは元々時効間際に時効で解決してしまうこともできる局面での協議ということですので,当事者間に時効を意識した合意がされる必要があるのではないかというところも一つ論点としてはあり得ると思います。補足説明なり何なりで,そこら辺は議論があり得るというところを説明していただいて,もし始期と終期を明確化するのであれば,単に協議というだけですと非常に漠然としてしまうという問題が生じるので,例えば,時効を意識した明示的な合意をしたほうがいいのではないかということを説明していただきたいと思います。,ここを単に協議としますと非常に漠然としたものをイメージして,それだけで中断効を認めて本当にいいのかが問題になりますので,ちょっと補足説明で何かそういったところも書いていただければと感じました。 ○三上委員 同じところですけれども,「書面による」という部分が括弧に入っていて,ここが議論になると思うんですが,債務の承認には今のところ書面が要求されていないということで,実際にその債務の承認に当たる場面には,支払い猶予の懇願,残高証明の発行依頼とか,必ずしも債務の承認を意識しなくても相手方が債務を承認していることが前提のものであればよいという判例になっております。それと同じ前提で,ここで「協議を行う旨の同意」というときも,協議を行っていることを推測させるものでよいという趣旨であれば,書面を要求することによって正に「協議を行うということの合意」が必要であるかのような誤解を生むのではないかと考えております。   実際の裁判の経験では,承認の場合も口頭でこういうことがあったと言うだけではだめで,そういうことがあったと手元の書類で立証しないと認められないという実感を持っております。そういう実務とのパラレルでいきますと,必ずしもここで書面を要求しなくても事実上書面のようなものがないと協議が続いていたということは立証できないことで同じ効果が生まれるのではないかと思います。ここに改めて「書面」と書くことで,むしろ,先ほど佐成委員がおっしゃったような,正にそのことについてこれが必要であるというような懸念を生んでしまうのではないかと考えております。   それから,この提案で恐らく問題になるのは,いつ協議が始まっていつ終わったのかが明白にならないという,時効停止の起算点,再度の時効進行の始期の点だと思うんですが,この時期に及んでこういうことを言うべきなのかどうか分からないですが,もしそうであれば協議に関する通知を一方が送っておく。そうすると協議の通知から半年なり1年間で協議期間が設けられる。相手方がもう協議を打ち切るとか,あるいは協議に応じない,債務を否認するような書面,そういったものを送ればそこから時効進行が再開するという形にすれば一つの方法として明確になると思います。ただそれは合意ということではなくて,一方的な通知でも構わないということになります。銀行の例ですと,「残債をお支払いいただきたく御返答願います」とか,あるいは「弁済についてのそちらの計画について御説明いただきたく」,というようなもので,結局そういうのは催告と変わらないものになると思います。なので,つまるところ,「催告の催告」を認めて,相手方がその催告には応じないということを明確にすれば,そこから時効の進行が始まるというのと変わらないし,起算点も明確になるのかなという気もいたしております。これはちょっと遅れた提案であれば,そういう意見を後で出すということになると思うんですが,それが1点です。   それから,もしここに書面という言葉が入るのであれば,ここだけの問題ではないんですが,電磁的記録も有効であること,例えばメールでこういうことで相談したいと相手方からメールが来たという場合でも認められるということを明確にしていただきたいと考えております。 ○岡委員 同じく(6)のところでございます。弁護士会の意見はかなり分かれておることを踏まえて発言いたします。先ほど内田先生が5年,10年にすれば停止事由だとか,そちらにも影響してくるではないかとおっしゃいましたが,まさしく影響しておりまして,5年,10年ということを前提にして,このような協議という不明確なものはなくてよいという意見もかなり根強くございます。それを踏まえると,(6)については(注)として反対意見,(注)として書かなくても反対意見を述べればいいんだという御説明もありましたが,(注)としてこのような制度を設けるべきではないという考え方があると書いて頂きたいと思います。この意見は10年,5年を念頭に置くから置かないでいいというのが本意ではあります。そこまで書き出すときりがない,分かりにくくなるということもあると思うんですが,10年,5年という長い状態でそれ以外にも目配りをして弁護士会は意見を言っているということを,可能であれば,(6)については(注)として反対意見を書いてほしいという意見を申し上げます。   二つ目は,今,三上さんがおっしゃった書面によるという(6)の本文とアの両方に出てくるところについてですが,弁護士会にも両方の意見がございます。その場合に,このブラケットはたたき台の審議でどちらかに決めようという趣旨で出されているのか,中間試案でブラケットのまま出すこともあり得るということなのか,その点をお伺いしたいと思いました。 ○筒井幹事 ブラケットの意味に関するお尋ねに対してのみまずお答えしますけれども,現在の「たたき台」でブラケットに入れて提示しておりますのは,ブラケットのままで中間試案とすることを想定したものです。 ○山川幹事 先ほどの佐成委員の御発言にちょっとだけコメントです。もし概要の中に現状との比較というのを書くということでしたら,3パターンが考えられまして,5の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についてですが,現状との比較では現状より消滅時効期間が短くなる場合と同じになる場合と長くなる場合の三つが考えられます。ただ現状より短くするという意見はないと思いますので,少なくとも同じという案が排除されない,細かく表現ぶりは申しませんけれども,そういう趣旨が分かるようにしていただければと思います。 ○山本(和)幹事 3点ですけれども,16ページの下から5行目辺りの,備考のところですけれども,つまらないことですけれども,例示として担保不動産競売が挙がっていますが,担保不動産競売が担保権の実行としての競売に含まれることは恐らく自明で,これは担保不動産収益執行のことを書きたかったのかなというような印象を持ちますので,参考までに。   それから,7の今出ている(6)のところで,イのところなんですけれども,最後の協議から1年というのは結局協議が長期間行われなかったときについて,協議から離脱がない限りは,ずっと時効が完成しないというのはおかしいという御趣旨だと思うんですが,そうだとすれば1回も協議が行われない,協議の合意はあったけれども,一度も協議が行われなかったときは,ずっと完成しないのかというとやはりそれはおかしいような感じがして,その場合はやはり合意から1年なり何なり,長期間たった場合にはもう一回も開かれなかった場合には,同じように完成するということではないのかと気がするということでした。   それから,最後が少し内容,趣旨かもしれませんけれども,7の(1)のこの裁判上の請求等で6か月間時効が完成しないということの趣旨なんですけれども,これは訴えを提起してすぐ取り下げる。6か月後にまた訴えを提起して取り下げるということをずっと繰り返すと,ずっと完成しないままになるということなんでしょうか。というのがちょっと疑問で,それが果たして相当かという問題とそういうことだとすればそういうことでパブリックコメントに掛けたほうがいいような感じがするんですが。   私は,現状の理解が十分でないのかもしれませんが,今は裁判上の催告となるということだとすると,催告に催告に重ねることはできないということであるとすれば,少なくとも2回目の訴えを取り下げたところでは時効が完成するということが現行法なのかなという気もするのですが,今の書き方だとずっと時効は完成しないというようにも読めるので,ちょっと趣旨を明らかにしてパブリックコメントに掛けたほうがいいのかなと思ったということです。あるいは何か私の誤解があるのでしょうか。 ○筒井幹事 御指摘いただいた3点のうちの1点目と2点目は,御指摘のとおりだと思いました。3点目については,あまり意識はしておりませんでしたけれども,現在の解釈論とかかわるところだと思います現在もそのように理解されているのだといたしますと,7(4)に書いたような手当てが7(1)についても必要ではないかという御指摘であると受け止めました。 ○畑幹事 今の点は,現行法の149条がどういうふうになるのかという問題ではないかと思います。それ以上の意見ということではないのですが,一応一言だけ。 ○中田委員 先ほど山本和彦幹事のおっしゃった第1の部分ですが,つまり16ページの備考欄なんですけれども,そこでは担保権の実行としての競売に物上代位を含むとされています。これは恐らく民事執行法1条の解釈としてそのように説明されておりますし,教科書でもそう書いてありますので,そういう理解だろうと思います。ただ,担保権の実行としての競売という言葉に物上代位が入るというのは分かりにくいように思いますので,そこは分かりやすくしていただいたほうがよろしいのではないかと思います。 ○鹿野幹事 14ページの4の不法行為による損害賠償請求権の消滅時効に関して申し上げます。ここでは,(1)で3年の短期の時効期間が,(2)で20年の長期の時効期間が掲げられているのですが,特に(1)の3年の期間について,本文か別の箇所かはともかく,どこかである程度の含みを持たせた記載ができないだろうかと思います。と申しますのも,損害賠償請求権が行使された場合,それが債務不履行構成によるのか,不法行為構成によるのかで時効に大きな違いが生ずるということ自体に果たしてどこまで合理性があるのかという問題は,従来から指摘されていたと思います。もっとも,現行法では起算点の定め方なども違うので,必ずしも期間だけで単純に比較できるわけではありません。しかし,今回,12ページで債権の消滅時効一般の問題として起算点につき乙案のような考え方を採るとしますと,時効期間と起算点に関する大きな枠組みが,不法行為の場合と債権一般の場合とでかなり共通化してくることになると思いますし,その点は既にこの部会資料でも15ページの概要のところに書かれているところです。   そして,15ページでは更に生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効については,債務不履行であれ不法行為であれ共通の,一般より長い期間を設けようではないかという考え方が示されており,しかも,概要のその括弧の中には724条の削除可能性ということも書いてあるのです。そういうことであれば,特に先ほど言いました14ページの4の不法行為による損害賠償請求権の短期の期間については,一般の債権の時効期間,とりわけ乙案の短期のほうの期間と合わせるという可能性も考えられるのではないかと思います。もちろん,乙案の短期の期間が3年ということになると,それはそれで不法行為で示された期間と一致するのですけれども,乙案自体が3年,4年,5年として,期間の具体的な数字についてはなお検討可能性があるとしているときに,14ページの4の不法行為についてだけ,3年が絶対的なものであるかのように記載することが果たしてよいのかが気になります。これを合わせるべきなのか否か自体についても議論があるとは思いますけれど,その点につき,14ページの4のどこかで触れていただければと思います。 ○松本委員 先ほども少し議論があったと思いますが,7の(6)の協議による時効の停止という部分ですが,書面をきちんと交わしておけば証拠が残るから争いの余地はないんでしょうが,イの最後の協議が行われたときから1年という,この裸の協議という文言について,後ろの18ページの一番最後のところに意味が不明確であるとの指摘があるとかかれています。正にここが最大の問題であって,一方は協議した,あるときに協議したつもりだけど,他方は協議したつもりでないと,それは協議ではないという争いになることは幾らでも想定可能なんですね。したがって,このままでは規範としては機能しないのではないかと思います。電話をかければ協議なのか,メールを打てば協議なのか,協議の定義をやはりはっきりさせない限り,イは駄目だと思います。 ○内田委員 今,議論のあった協議についてですけれども,少し前の佐成委員の御発言について御趣旨を確認したい点があります。ここで協議が停止事由として置かれている理由は,これは支持される方それぞれに思いは違うと思いますが,元々は現行法上,債務を承認することなく合意で時効を止める手段がない。このため,協議をしていても,時効期間の満了が近づいてきたら,裁判沙汰にはしたくないのに,とにかく時効を止めるために訴えを提起しなければならないという問題があって,それを合意で止められるようにしたいということが大きな理由だろうと思います。   そうだとすると,この協議は典型的には時効をにらんで合意をするということだと思うわけですが,ただ時効を止めるためにということを明示的に言う必要は必ずしもないので,当事者が権利を巡って協議をしていたということがはっきりしていれば,そこで止めてもいいのではないかという趣旨の案になっていると思います。時効だけが前面に出ると却って合意しにくいこともあろうかと思います。これに対して,佐成委員の先ほどの御発言は,むしろ時効を止めるための協議であるということが表に出たほうがいいという含意があるのでしょうか。 ○佐成委員 それを積極的に私も支持しているわけではないんですけれども,そうであれば正面から時効を止めるという合意を認めるという立法提案のほうがもっと分かりやすいとは思います。要するに協議という言葉が不明確なのです。やはり実務で協議というと何を意味するのかというところは,多分もっと詰めていく必要があるんでしょうけれども,そうであれば,時効は,大体日にちが分かりますから,明確化するのではないかというニュアンスで先ほどは申し上げました。立法提案ではなくて,どちらかというと補足説明でそういった明確化の手法としていろいろあり得るのではないかということを何か書き加えることができないかという,思い付きと言えば思い付きなんですけれども,そういう趣旨でございますので,明確に時効を止める合意というところまで踏み込んだものではございません。ですから,本文を直せとという趣旨とは全く異なります。 ○深山幹事 今の内田先生の御質問と佐成さんの答えに関連して申し上げます。弁護士会の中では,この協議が不明確だということから,書面を要求したうえで,書面の内容も,その趣旨が時効を意識したものである必要があるのではないかという議論がありました。具体的には,一定の期間,時効の完成を停止させるという趣旨が含まれた書面による合意にすべきであるという考え方が示されています。私自身も,元々の提案の趣旨からすれば,そういう形でクリアにすることが相当であると考えておりますので,注においてその点について触れていただけると有難いと思います。 ○道垣内幹事 若干,新たな提案のようで,申し上げるのは気が引けるんですけれども,時効の「停止」という言葉遣いに関連して,「ストップする」という言葉がどうも曖昧に使われているような気がするのです。つまり「停止」というときには,常識的な意味としては,時効期間の進行が停止するという意味と時効期間の進行は継続するのだが,一定期間,時効完成を援用できないという意味が考えられると思います。現行法の時効の「停止」というのは,別に時効期間の進行をストップしているわけではなくて,仮に協議中に時効が完成したとしても,拒絶する旨の通知があったときから6か月間は時効の完成が止まるということなのだろうと思うのですけれども,「停止」という言葉は,そのことが分かりやすい言葉なのかというのは,若干疑問があるような気がいたします。   場合によっては,概要とか補足説明とかに「停止」というのはどういう意味なのかということについて一言書いていただいたほうがよろしいのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 8もよろしいでしょうか。8の時効の効果の(1)なのですが,援用権者について,「当事者又は権利の消滅について正当な利益を有する第三者」と改めるとされています。これは,このような形で改正するかどうかという問題なのか,それとも説明の問題なのか,少し判然としないところがあるのですが,仮にこのように書きますと,「当事者」の意味が現行法とは変わることになるだろうと思います。現行法は,「当事者」で従来の全ての問題をカバーしてきたわけです。そこで,仮に(1)のように規定を改めるとしますと,この「当事者」はどのような意味なのかという,余り生産的でない議論を誘発するかもしれないという心配もあります。その意味で,あえてここで「当事者」という言葉をまた使わなければいけないのか,少し疑問の余地があると思います。   もう一つは,「権利の消滅について正当な利益を有する第三者」という点で,以前の部会の審議のときにもこれでよいかどうかということが議論があったところです。恐らく,これがベストアンサーではないかもしれないけれども,当面の考えとしては,この程度のものでということで残っているのではないかと思います。ただ,これで保証人や物上保証人は入るけれども,現在の判例を維持するならば,後順位抵当権者は入らないということが果たしてこの解釈で導けるのかと言いますと,問題もありそうです。「正当な利益」とは何か。利益を得ることは間違いないけれども,それだけでどうも判断していないようである。それが「正当な利益」でカバーできるのかというと,どうもうまくいってないかもしれないということが以前の部会のときにも出ていました。ですので,現時点でよりよい案が必ずしもないので困るわけなのですけれども,以前の部会で申し上げたのは,現在の学説の理解によると,利益があるだけではなくて,他の権利者に影響を及ぼすような場合は援用を認めない。後順位抵当権者が,2番,3番といるときに,3番抵当権者が1番抵当権の消滅時効を援用してしまいますと,2番抵当権者が影響を受けざるを得なくなってくる。このような場合には,判例は否定しているようであるというような分析があるところですが,それをうまく言葉にできないので,こうなっているということだと思います。   その意味で,なお検討の余地があるという説明はやはり少なくとも必要ではないかと思います。このままで本当によいかどうかは,なお詰めなければならないだろうと思います。 ○筒井幹事 御指摘ありがとうございます。この言葉のままでよいのかどうか。もちろん条文案を提示しているわけではないということは繰り返し申し上げているとおりではありますが,このままの表現でよいかどうかは,引き続き御議論いただきたいと思います。   現在の案は,これが従来よりも明確な基準を提示しているというよりも,当事者以外に援用権者がいることを明確にするという観点から,基本的には現在の判例を維持することを前提に,それを抽象的に表す言葉として,このような案が提示されていると私は理解しておりました。それについて更に検討が必要だというのは,御指摘のとおりだと思います。   他方,御発言の前半で指摘されました「当事者」という文言がこれでよいのかというのは,端的にいいますと,債務者又は承継人とか,そういう言葉に置き換えるべきだという御指摘だったのでしょうか。 ○山本(敬)幹事 債権の消滅時効だけですと,それでよいかもしれないと思うのですが,それだけということなのでしょうか。 ○筒井幹事 そういう問題があるということを御指摘いただいたということですね。理解いたしました。 ○中井委員 先ほど条件,期限のところでは,松本委員から,そして先ほど停止のところでは道垣内幹事からそれぞれ言葉についての意見があったわけですけれども,私もやはり今回の分かりやすさの観点から,確かにゴチック若しくは(注)で入れないことになるのかもしれませんけれども,それらの問題については,それぞれの箇所で分かりやすく御提示いただくのがいいのではないか。条件のところでは説明文の中に入れるのではなくて,やはりこれらを効力発生条件,履行条件,効力消滅条件というような形に置き換えることはどうか。期限についてもそうだと思います。   他方,停止のところも,これを完成の停止というような言葉に変えるのかどうかも含めて御検討いただく。他方で,時効の更新事由のところは,中断事由という言葉を使わずに更新事由という新しい言葉を使っておりますので,中断事由と本文は書いた上で,この中断というのは分かりにくいから,更新という言葉,若しくは弁護士会の一部では再進行というような言葉も出ておりますけれども,こういう言葉について置き換えることも,中間試案の目的がどこら辺りに置くかということとも関係するのかもしれませんが,分かりやすさの観点から検討いただけないかと思います。 ○三上委員 今の中井委員の発言とは違う話で,先ほどの深山幹事の御発言を伺って,その前の内田委員の説明をお伺いしていて,7の(6)の合意の概念について当事者間で話合いをすることが決まっているのに裁判を起こさないと時効の中断が図れないという場面を回避するための特殊な手段,お互いに権利の存在について争いはあるけれども協議を続けるというような限定された場面で,その旨の合意を書面でするようなイメージを想定される人と,私のように,お互いに案を出したり,反対提案をしたりしていることで協議を行う合意があったことを推測させる書面があるのであれば,合意があると認められるというのとかなり開きがあると思います。なので,ごく一般に回収交渉が行われている場面は停止していると考えるのか,正に停止する旨の合意がかなり明確に要求される場面なのか,この提案はどちらを前提にされているのかという部分をある程度補足説明で明らかにした上で,パブリックコメントに問わないと,それぞれが都合いいように考えて,賛成したり,反対したりするのでは,余り意味がないと思いますので,もう少し「協議の合意」ということに関する意味を明らかにしなければと思います。 ○筒井幹事 協議の合意に関しては,今日の審議で,私や内田参与から御説明したことで,その内容がある程度は明らかになっているのではないかと思うのですが,協議という以上は,双方向のやり取りがあることが当然に含意されているはずであります。したがって,一方的に通知をするという類いのことは,催告に当たる可能性はあるとしても,この協議には該当し得ないものであると理解しております。   また,ここで協議というのは,時効の停止についての合意までは要求しておりません。時効の停止を合意する必要はないけれども,協議を行うことについての合意が必要があるということを御説明したつもりです。そういった協議の合意の内容は,概要欄などで触れておこうと考えております。   少し前に松本委員から御指摘がありましたが,この協議による時効の停止については,外縁がはっきりしないという問題があります。この点に関して,柱書のところでは協議の合意があったという要件で明確化を図っているにもかかわらず,イのところでは「最後の協議」という要件となっており,これでは不明確だという御指摘があるのは,私どもも自覚しているところです。しかし,協議による時効の停止という提案におきましては,何らかの形で時効の停止を打ち切る仕組みを設けておかなければ,この提案がそもそも成り立たないのであろうと思っております。このため,現在はイで,最後の協議と書いておりますが,更にこの点については検討を深める必要があると思います。いずれにしても,この項目は新規の提案ですので,今後も引き続き検討を深める必要があるというのが現状認識です。 ○中井委員 今の(6)について,筒井幹事のおっしゃるような問題点のあることを踏まえて,私は先ほど山本和彦幹事から,この最後の協議から1年ということに問題があることを前提に,協議を行う旨の合意があったときから1年というのも併せて入れておいたらどうかという御提案であったものと理解しております。そうだとすると,協議がなくても本文で協議をする旨の合意があれば,そこから1年がいいのかはともかく,1年で当然に終わってしまう,それで長いとすればアで拒絶をすればそこから6か月で終わる。ということで,イの最後の協議という要件が要らなくなるという考え方,和彦先生の意見はそのように理解したんですが,それも一つの考え方だと思いました。 ○鎌田部会長 消滅時効関連で,ほかに御意見は。 ○筒井幹事 少し前に中井委員から時効関係の用語の問題について御指摘いただいた点について,補足しておきたいのですけれども,停止条件のところで松本委員の御指摘についてお答えしたとおり,用語の単純な置き換えについては中間試案の本文で取り扱うのは適当ではないと考えており,そのような議論があることを概要欄で紹介するという扱いを考えていると申し上げました。これに関連するものとして,中井委員から,時効の更新のところは用語を変えているのではないかという御指摘がありましたけれども,更新については,現在の中断とは実質的な内容も変えておりまして,この新しい実質を持つものを,差し当たり更新と称することとするという理解でこのように書いております。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   これは現行法でもある問題なんですけれども,8との関連で,148条は触らないでこのままでいいということですね。明示的に援用権者の範囲を広げたけれども,時効の中断の効力,あるいは時効中断をさせる方法ということについては,特には今回は修正をしないで,従来の解釈と同じ解釈に任せる,そういう趣旨でよろしいですね。   それでは,次に「第8 債権者代位権」について御審議していただきます。一括して御意見をお伺いしますので,御自由に御発言ください。 ○中井委員 債権者代位権については,2の代位行使の範囲と代位行使の方法等についてです。これは事実上の優先弁済を認めるのかということとも関連していますけれども,代位行使の範囲については,直接債権者への支払いを認める場合に,被保全債権額を超えて認めるのかという点については,なお意見が分かれていたのではないかと思います。この点,注記で残すという考え方があり得るのではないかというのが一つです。   3の代位行使の方法については,直接請求を認めた場合について,相殺することができないという考え方を本案として,相殺を禁止しない,つまり規定を設けないという案を注記していただいていますけれども,なおこの相殺を禁止するとしても,それを一定期間に限るという案もなお同程度の重みであったのではないかと理解しております。   そこで注記の中で二つ書くのが適当かどうかは少し考えなければいけないのかもしれませんが,相殺を禁止しないという考え方のほかに,一定期間に限り相殺を禁止して期間が経過した後は相殺を認めるという考え方があることをなお注記で残して,意見を聞いてみるのも適当ではないかと考えます。 ○筒井幹事 御指摘いただいた点のうちの直接の引渡しを認めないという考え方の取扱いについては,以前に詐害行為のほうで議論があったことも踏まえて,その考え方をこの部会でどれぐらいの方が支持されるのかをお聞きしたいと思います。   もう1点の相殺の禁止についての一定期間に限るという案は,確かにこの部会の中で議論がありましたけれども,それについてはなぜ相殺を禁止するのかという根拠との関係が問題となるように思います。相殺を禁止するという考え方は,部会資料の中で繰り返し説明してまいりましたように,債務名義がないにもかかわらず,あるいは第三債務者の正当な利益を守る手続が履践されていないにもかかわらず,他人の権利を行使して満足を得ることは不当であるという点にあると思います。この観点から考えてみますと,相殺禁止を一定期間に限るという考え方は,そのような強制的な満足を得ることが不当であるとは必ずしも捉えておらず,強制的な満足は得てもよいのだけれども,事実上の優先的な満足は認めるべきでないという考え方に立っているのではないかと理解いたします。そうだといたしますと,この立場の方は,相殺を禁止するという本文の考え方との関係では,それに反対であるという意見になるのではないかと思います。   このように整理してみますと,基本的には,相殺を禁止すべきであるという立場とそれに反対する立場が対立しているのであって,もう一つの別の立場を注記する必要性はそれほど高くない,というと異論が出てくるかもしれませんので,御意見を伺いたいと思いますけれども,そのような認識の下に,相殺禁止を一定期間に限るという案は取り上げていないということです。 ○中井委員 1点目の私の言い方が悪かったからかもしれませんけれども,2の代位行使の範囲については,直接請求を認めた場合に,なお被保全債権を超えて給付を認めたとき,代位債権者の倒産リスクを抱えることになるので,それが適当でないという考え方から被保全債権の額に限るという考え方だろうと思いますが,この原案では一つのユニットである限りは,被保全債権を超えて行使できることを前提としているわけで,そこに制限を掛けようという意見もあるのではないか。それを注記するという提案でした。   それから,3の相殺についての御説明を十分理解できなかったんですが,確かに相殺を禁止しないという考え方が存在する。それを明記していただいたことについて,私の立場からすれば全く異存はないわけですけれども,その考え方に対して批判があることは承知しているわけで,だからこそ(2)の原案の提案がある。その折衷的な,これは一種の妥協なのかもしれませんけれども,考え方として一定期間相殺を禁止するけれども,その後相殺を認めてもいいのではないかという考え方はあり得たわけで,それを全く排斥されているといいますか,両案の間でなお現在も残っているのではないかという理解の下に申し上げた次第なので,どちらかでないといけないということはないように感じたのですが。 ○筒井幹事 2点目については,先ほどは私の考えを申し上げたので,更に御議論いただきたいと思いますけれども,1点目は私が勘違いしてお答え申し上げました。部会資料21ページの2については,中井委員から御指摘いただいた考え方は,以前の部会資料で提示していた考え方でありまして,それに対しては,とりわけ相殺を禁止するなど,代位債権者が直ちに債権の満足を得ることを認めない立場を採るのであれば,代位行使の範囲は制限すべきでないという意見があり,その意見への応接として前回の部会資料から,言わば折衷的ということになりましょうけれども,民事執行法の規定などを参照したこの考え方を現在は提示しているところであります。   それに対して,以前の部会資料の案のほうがよかったという御指摘なのかもしれませんけれども,これまでの部会での議論の経緯としては,それに対しては批判が強くて,もう少し緩やかに代位行使を認めるべきではないかという御意見に配慮して,このような原案になっているところです。 ○畑幹事 筒井幹事が勘違いしてお答えになったとおっしゃった債権者への直接引渡しの点であります。私は,やや消極的な意見を申し上げたと思うのですが,この部会にあっては少数であったと思いますので,債権者への直接引渡しを認めるということが中間試案の本文になるということには異論ございません。ただ,そのことと23ページ7の債務者の処分権限が制限されないということとが組み合わさると,訴訟手続的にも非常に複雑な問題,あるいは今までなかった問題を生じるということは,この部会や分科会で議論してきたことだと思いますので,場所としては23ページの7かあるいは21ページの3に対応する補足説明だと思いますけれども,できればそういう問題が生じるということを書いていただくことを検討していただければと思います。 ○松本委員 第2ステージのときに議論になったと思っていまして,決着がどうなったかの記憶が曖昧なので,御質問ですが,(1)の自己の債権を保全するためということの意味として,債務者には銀行預金はたっぷりあるけれども,現金は一切ない。借家に住んでいる。という場合に,なお債権を保全するためという要件を満たすのか満たさないのか。すなわち預金債権はその当該債務者の債務の額をはるかに上回るだけある。しかし現金はないという場合に,保全の必要のために代位権行使による銀行預金の払戻しを債権者に認めるという趣旨で前回の議論が決着したのか。それともその場合は無資力ではないんだということで認めない。別途,差押え等をやりなさいということで決着したのか,いずれだったんでしょうか。それとも決着していないということだったでしょうか。 ○筒井幹事 決着していないという認識です。その点について,少なくとも中間試案を出す段階で,一定の結論で合意を形成するのは難しかろうと認識しておりますので,現時点では御指摘の点はなお解釈に委ねられるということだと思います。 ○松本委員 極めて重要な要件だと思うんですが,そこをあえて決めない立法なんていうのはあり得るんですか。 ○鎌田部会長 今の御質問の趣旨は,資力はあるけれども現金がないという前提ですか。 ○松本委員 そうです。 ○鎌田部会長 そういう意味では,金銭債権の代位行使には無資力要件は必要だけれども,それを例示的に書くかどうかだけではなくて,資力はあるけど現金がないという場合にも,債権者代位権の行使を認める余地があると考えていたのでしょうか。。 ○筒井幹事 現に代位行使しようとしている債権以外には財産がないというケースを松本委員は御提示されたのだと理解いたしました。現に代位行使しようとする債権の額は債務総額を大きく上回っていて,その意味では無資力でないけれども,その債権が行使されないとすれば資力が不足するというケースについて,代位行使を認めるか認めないかという点について,以前の会議で議論になり,それについては両論があったと認識いたしました。 ○松本委員 時効消滅してしまえば,無資力になるリスクはあるわけですが,時効完成までたっぷり時間があるという場合に無資力と評価するのか。自己の債権を保全するためという言葉であれば,認められる余地はあるかなと思うんです。任意に弁済しないんだから,現金がないんだから。しかし,それはイコール無資力だと言われると本当に無資力なんですかという,日本語の語義の面での疑問が出てきますし,立法するならこの部分をやはりきちんと決めるべきではないですか。入口のところではっきりしないようなルールを新たに立法するというのは非常に変な感じがします。 ○筒井幹事 新たに立法するわけではなくて,自己の債権を保全するためという現在の条文の文言を維持することを,ここでは提案しております。 ○内田委員 今,松本委員がおっしゃったように,その点が議論になって,決着がつかなかったのですよね。つかなかったので,この部会の議論を踏まえてこう決めますということは今の段階で出せないので,現行規定の文言を維持する案に加えて,注記で無資力要件を明示するという案を挙げて,それについてパブリックコメントの意見を聞こうということにしたということです。それに対して松本委員のおっしゃるように,いやその点ははっきり条文から分かるように書くべきであるという意見が出てきてももちろん構わないわけですが,部会の議論の結論としては今一本化ができる状態ではないと思います。 ○松本委員 私が言っているのは,無資力要件の中身について,こういう考え方とこういう考え方があるというのは出したほうがいいのではないかということです。 ○内田委員 それは解説でもいいわけですね。 ○松本委員 解説も結構です。つまりすごく単純なようで,はっきりしないというのは,私,授業をやっていて大変違和感を感じます。 ○山野目幹事 松本委員がお出しになった問題は,解説とおっしゃっいましたが,概要とか補足説明の中で書くというお話になりつつあるものなのでしょうか。私は不自然な気持ちを抱きますすが,民法の世界には解釈が対立している問題はたくさんあり,それらについていろいろ話題になりそうなことは全部書き込むということでしょうか。松本委員の問題提起を今している立法の作業として受け止めるのであれば,自己の債権を保全するためという文言に代えて,ある種の御提案をなさるなら具体的におっしゃっていただいて,部会の席上での意見分布を確認すべきでありますし,そうでないのであるならば(1)の自己の債権を保全するため,について,複数の考え方,理解があるということを概要や補足説明に書くことは,おかしいと考えます。 ○鎌田部会長 関連した御意見があればお出しください。 ○中井委員 私は(1)の整理の仕方は基本的にこれでいいのではないかと思っております。松本委員がおっしゃられていることは松岡委員も確か問題提起されたことだと思いますけれども,私の従前の提案としては,ここに自己の債権を保全するために必要があるときは,という言葉を入れて,より明確化を図るということを申し上げました。参考にしていただければと思います。 ○岡委員 違う観点で,3番の(2)の注のところでございますが,中井さんの提案の続きでございます。弁護士会で再度議論したところ,相殺を自由に認める。従前どおり直接給付を受けたら,相殺できるという意見はかなり少数になっております。それに代わって出てきているのが,深山局長の言葉ではないですが,今までの実務を一定程度認めるという創造的妥協が相当であるという考え方でありまして,少額だったらいいのではないかとか,訴え提起による代位権行使の場合はいいのではないかとか。沖野先生が前回に言われた債務名義があるときはいいのではないかとか。何らかの条件付きで従前認められていた相殺を認める余地を残してほしい。こういう意見はまだ根強いものがあると感じました。   したがって,この注も無条件相殺許容説ではなく,債務名義がある等一定の場合には相殺を認めるという考え方もある。そういう表現にしていただければ現在の弁護士会の実情には沿うと思います。 ○筒井幹事 債務名義があれば差押えをすればよいというのは,ずっと繰り返し出てきた議論ではないかと思うのですが,議論になってしまうのなら止めますが。 ○沖野幹事 その議論が出るならお答えしたほうがいいのかと思ったのですが,相殺について,一定範囲では相殺を認める余地を残すべきではないかという考え方は繰り返し述べられてきました。その一定範囲の区切り方をどこまで正当化できるか。その際に実務の知恵とか便宜とかいうことをどこまで入れられ,理論的にも正当化できるかということと,もう一つそこには債権執行というものがどのくらい簡単にできるか。それから,介入できるとしてもあえてそれを踏まなければいけないのかという問題関心が元々ありました。ただどういう場合に相殺を認めるかという場面自体が論者によって,必ずしも固まらないために十分な提案として維持しにくいということはあろうかと思います。   ちなみに債務名義があるならばという考え方ですが,これは結局この債権者が自分に交付を受けた後に何をするかと言えば,強制執行をかけるわけですけれども,強制執行は,債権執行になりますので,自分を第三債務者として裁判所に差押命令を求め,差押命令を受けてから1週間経過するか,あるいはもっと簡単に封じようと思ったら供託をするのかもしれませんけれども,1週間たったら自分から取り立てる。実際には取り立てないので,充当を直ちにして裁判所に報告するだけだとすると,それをあえてやらせる必要があるのかという問題意識です。ほかの債権者がかかってくるための相当な期間,これは1週間だと短過ぎるならば,それなりの一定期間,1か月とかを取るならば,この要請は十分満たせるのではないか。更にそれは債務名義ということから強制執行が可能であるとか強制執行に直ちに入れるということであれば,一般の先取特権がある場合というようなことも含めて考えていくと,現在行われている実務にそれなりの正当化を与えて,できるという場面もあるのではないかという考え方に立っておりますけれども,それが説得的かどうか,あるいはそれで一枚岩の考え方が出せるのかということかと思います。 ○鎌田部会長 その点も含めて少し検討させていただいて,最終的にどういうまとめ方をするのが一番適切かということの判断は事務当局に任せていただければと思います。 ○松本委員 沖野幹事の御発言とも関係するんですが,23ページの7の債務者の処分権限まで認められる。その上で債権者の優先弁済的権能を完全に否定されるということから,債権者代理権を使うことのメリットというのは,非常に限定されてくる。したがって,先ほど私が言ったような入口における議論というのは,実質的には無意味な議論になるのだろうと思います。使われなくなるから。したがって時効中断のような形ではメリットは残るんでしょうが,優先弁済に近づけるというメリットはほとんど事実上はなくなってくる。それをしようとしても7で債務者が横から入ってくると,債務名義がない限りは債権者は次のアクションを起こせないということになるわけですから,使われなくなる制度になるんだろうと思います。したがって,余り議論しても生産的ではないでしょう。それでもやはりルールは整備しなければならないからやっているんだということでしたから,それで結構です。 ○鎌田部会長 「第9 詐害行為取消権」の審議に移らせていただきます。こちらも一括して御意見をお伺いいたしますので,御自由に御発言ください。 ○中井委員 3の特定の債権者を利する行為の特則について,弁護士会の一部の意見を御紹介したいと思います。   私のメモ第9の3の特定の債権者に利する行為の特則のところに,(注)を新たに設けるという提案をしております。その理由は(1)で要件としてアとイの二つ,支払不能であったときと債務者と受益者との通謀を挙げているわけです。これを支持する意見もございますが,この通謀概念についてその範囲も含めて明確ではないということ,また倒産法の規律と整合させたほうがよいという考え方に基づいて,ここは支払不能でありかつ支払不能であることを知っていることを要件とする考え方も十分あり得るのではないか。それについて,注記をしてはどうかという意見です。   (1)をそうするとすれば,(2)イについても同じように別案が考えられる。そういう趣旨で注記を新たに設けるという考え方です。 ○鎌田部会長 何か関連した御意見はほかにございますか。 ○筒井幹事 御指摘のありました項目については,現在の判例法理を踏まえた合理的な規律を明文化することが適当ではないかという方向で,これまでの部会の議論は比較的収れんしてきているのではないかという現状認識でおりますので,もちろん様々な異論があることは理解いたしますけれども,できましたらこの形で提示したいと考えております。 ○鎌田部会長 効果の点については。 ○中井委員 1の受益者に対する詐害行為取消権の要件の(2)で債務者及び受益者を被告とするという案に対して,(注)で訴訟告知を入れていただいています。この注記を入れたことは賛成です。それとの関係で,効果について,訴訟告知をした場合,果たしてどうなるのかという議論があったかと思います。民事訴訟法で解決するのか,現行法のままで解決できるのか,更に明示の改正が必要なのかという難しいだったかと思いますが,その点を民法で詐害行為取消の効果として,次のように修正してはどうかという意見です。   すなわち仮に訴訟告知で足りるとする考え方を採ったとき,そのままでは債務者に対する効果が明らかではありませんので,取消の訴えに掛かる請求を認容する確定判決は債務者及び債務者の全ての債権者に対してその効力を有するものとするというような形で明示するという提案です。このようなことを,民法に書き込むことによって,訴訟法レベルでどうなるのか。十分に理解といいますか検討はできておりませんが,そういう考え方がないかと提案させていただいた次第です。これを採ることによって,訴訟告知で足りるとなるのであれば,実務的には便利であるという,背景事情に基づくものです。 ○鎌田部会長 この御提案に関連して何か,訴訟法の御専門の方は。 ○松岡委員 今の御提案について,訴訟法はよく分かりませんので,訴訟法の先生に御意見を伺いたい。今の御提案は認容する判決についてだけとなっているのですが,これはそれでよろしいのですか。いい例がうまく浮かばないのですけれども。 ○中井委員 これは認容する判決だけでよろしいのではないでしょうか。棄却する判決だったら他の債権者は別途訴訟が提起できるという理解をしております。 ○畑幹事 理論的にはこれから更に詰める必要を感じておりますが,仮に債務者に対して訴訟告知で足りるという規律を採った場合には,今,中井委員から御提案があった方向で考えることになるだろうと思いますので,(注)にするかどうかちょっと分かりませんが,そういう考え方に何らかの形で言及するということには賛成いたします。 ○山本(和)幹事 私も結果としてはそういうことになるんだろうと思います。ただ,私はそこはなかなか難しいので,訴訟告知というのは難しいのではないかという印象を持っていたということです。ただ,現在のあれでも26ページの概要のところで,真ん中ぐらいのところですけれども,この訴訟告知を義務付けるという考え方の説明のところとして詐害行為取消の効果が債務者にも及ぶことを前提としつつもという表現があって,ここで今の中井先生の御趣旨は表れているのかなという印象は持っておりました。 ○鎌田部会長 7,8についても,中井委員,お願いします。 ○中井委員 8は,逸出財産の返還との関わりです,8の(1)のウと(2)で従前のたたき台から,ここは修正がなされて取消債権者に対して,金銭若しくは動産の場合,その引渡を求めることができるという考え方に改められているわけです。大阪弁護士会は,従前のたたき台の考え方に賛成していたわけですけれども,そのような考え方を採ったとき,この7の詐害行為取消の範囲について後段のような限定は要らないという考え方になりますので,それを7の注記で掲げるというのが一つ目の提案です。   前後の説明がまずかったかもしれませんけれども,8で,従前のたたき台で提案されていた本案がこのたたき台2では全く削除されているわけです。果たしてそれでよいのか。前回は債務名義を2回とらなければいけない。つまり受益者が債務者に対して引き渡すことのみだとすると,そこで債務者に対して支払いを命ずる判決をとっても更に取消債権者が受益者から強制執行で回収しようと思うときに,一旦判決で得た債務者の受益者に対する返還請求権なりを差押え,なお任意の履行がなければ,取立訴訟等を提起しなければならない。こういう問題があるという指摘があったかと思います。恐らくそれを受けて,取消債権者に対して直接給付を認めるという考え方に変更されたのではないかと推測するところです。   しかし,大阪弁護士会の考え方,この詳細については,本日配布しました有志案を御覧になっていただければと思いますけれども,取消については受益者から債務者に対して,財産を戻すという形で一貫させるのがいいのではないか。そういう考え方を残していただきたい。残すとすれば8(1)ウと(2)の部分が削除されるというか,自己に対しては支払い,引渡しを認めない。認めないとした上で(3)と(4)は削除されるという考え方を残してはどうかということです。   なお,そのような考え方については,2回強制執行しなければならない,債務名義を2回とらなければいけないのではないかという問題点についてですが,これは確か筒井幹事がそのように御説明され,それが解決すべき課題ですねという御指摘があった点です。詳細を調べたわけではございませんが,既に債務名義のある金銭債権に対して,他の債務名義を持っている債権者が差押えをしたとき,承継執行文を得ることによって,差押えを受けた,つまり債務名義のある,差押えを受けた債権を行使できるという考え方が幾つかの執行法,民事訴訟法の教科書に記載されているとの報告がございましたので,仮にそのような書物による考え方があるとすれば,詐害行為の場面でもその考え方が使えるのではないか。そういう観点から前回のたたき台の案をなお(注)として残していただきたいという意見です。 ○深山幹事 今の中井先生の御意見の補足をさせていただきたいと思うんですが,今,発言のあった議論,すなわち,一般論として,有名義債権を有名義債権の債権者が差押えれば承継執行文を受けられるということについては,多分余り争いのないところであり,その争いのないことが教科書に書かれているんだと私は理解しております。   そのことが詐害行為取消権のところでそのままストレートに当てはまるかということが議論になり得るところであり,取消訴訟が認容されて取り消すという主文とともに,受益者が債務者に一定の金銭を支払えという主文の判決が出たときに,その判決主文がその債務者の受益者に対する債務名義になるという解釈がとれるのであれば,先ほどの一般論に従って,取消債権者は,その訴訟なり別の訴訟で債務者に対する債務名義を得れば,それで債務者の受益者に対する有名義債権を差押えて承継執行文を得ることができることになり,そうすると,二度訴訟を起こす必要がなくなるだろう,という議論につながっていくんだと思います。   これに対し,取消訴訟において,受益者は債務者に金銭を戻せという判決が出ても,それは債務者の受益者に対する有名義債権にはならないんだという前提に立つと,もう一回訴訟を起こしなさいという先ほどの議論になるわけです。この点について議論が分かれるなら分かれるということを意識した説明をしないと,何が問題なのかということが一般の人々に分かりにくいのではないかという気がいたします。 ○筒井幹事 この場で資料を用意せずに直ちに議論できるほど単純な話ではないかもしれませんが,一般論としては,有名義債権を差し押えて取立権が発生したときに,承継執行文を得ることができるという命題は,裁判所書記官に対して承継執行文付与の申立てをするという通常の場面で考えると,それは無理でしょうというのが私の感覚であります。つまり,競合する差押えがあるかどうかなどについて,執行文付与の申立てを受けた裁判書記官は判断しようがないので,その申立ては却下して,執行文付与の訴えを提起してもらうほかないのではないでしょうか。執行文付与の訴えにおいて勝訴判決を得たのであれば,それは承継執行文を得ることができるわけですから,初めに戻って,有名義債権の差押えをして取立権が発生したときには承継執行文を得ることができるという命題は,結局は正しいのかもしれませんけれども,それは承継執行文付与の訴えを経てということになりはしないでしょうか。そうだとすると,訴訟を2回やるのは避けたいという問題意識には,応えることができていないのではないかという気がいたします。 ○鎌田部会長 関連して御発言はございますか。 ○畑幹事 逸出財産の返還方法について,直接引渡しではなくて,債務者に戻せという考え方があるということを明らかにするという中井委員の御意見に賛成いたします。私個人の意見がどうかということではなくて,今の段階でこれが姿を消すというのは,今までのこの部会での審議の状況を適切に反映してないという印象があります。   それから,その先どうなるかということについては,ここで議論し出すときりがない感じもいたしますが,いろいろな考え方がある,検討する必要があるということを補足説明で書いていただくということではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかに関連した御発言はございますか。   それでは,ほかの点についての御意見があればお伺いいたします。 ○岡委員 部会資料32ページの8の(3)のところについて,よく分からないという意見が昨日のバックアップで出ました。これは取消債権者は金銭等については直接引渡しを求めることもできる。直接請求を求めた場合に,取消判決が出ているので,債務者も受益者に,「俺に寄こせ」という請求権が立つだろうと。その二つは両方立つので,どちらかを履行したら片方は消えますよと,こういう(3)の規定だと思うんですが,その前提として直接引渡しを求める判決が確定した後でも,あるいは訴訟中は無理ですよね,取消効果が生じてないですから,確定した後,受益者はどちらにも払えるというのが前提にされているんですか。   これは現在の実務では債務者に効力が及ばないという現行実務ですので,現在は問題が生じていません。しかし,債務者に効力が及ぶとした場合に起きる新たな問題だと理解しておりますが,こんな細かいことまで考えなければいけないのかとか,民法にここまで書くのかという問題はあるんですが,理解の前提として直接引き渡せという判決が確定した後,受益者はどちらに払ってもいい。それが前提になっているのでしょうか。 ○金関係官 はい,前提になっています。取消債権者としてはそれでは困るという場合には,債務者の受益者に対する債権について差押えや仮差押えをして対応することが可能であるという前提です。   もう1点,現行法では問題になっていないという御指摘についてですけれども,例えば動産の贈与契約が詐害行為であるとして取り消され,取消債権者が受益者に対して自分にその動産を引き渡すよう求めた場合に,受益者がその動産を債務者に返してしまった後でもなお,取消債権者は受益者に対して自分に引き渡せと求めることができるのかという問題は,現行法の下でも,すなわち債務者に詐害行為取消しの効果が及ばない現行法の下でも,議論になり得るのではないかと思っております。受益者が詐害行為によって受けた利益を債務者に全て返還した場合,債務者から受けた利益を全て吐き出した場合でもなお,取消債権者は受益者に対して自分に引き渡せと求めることができるのかという問題ですけれども,少なくとも当然に求めることができると異論なく考えられているわけではないと思います。   いずれにせよ,先ほど山本和彦幹事が,今回の提案は債務者に対する訴訟告知で足りるとする場合でも債務者を被告とする場合でも,債務者に詐害行為取消しの効果が及ぶことが前提になっていると指摘されましたけれども,正にそのように考えておりまして,部会の中でも,少なくとも債務者に詐害行為取消しの効果が及ぶこと自体には,責任説を一旦置きますと,異論はなかったと理解しております。そうしますと,冒頭に申しましたとおり,債務者に詐害行為取消しの効果が及ぶ以上,債務者は受益者に対して権利を取得することになりますので,受益者が債務者に支払ってしまうのを取消債権者が嫌う場合には,債務者の受益者に対する債権について差押えや仮差押えをして対応すべきだということになるのだろうと思います。 ○岡委員 資料として提出いたしました大阪弁護士会の特別委員会有志の3ページ以下に,今の点をかなり詳細に書いております。こんな細かい議論が必要になり,仮差しもしないと取消訴訟を起こせなくなるようで大変心配しておりますが,このメモを参考にしていただければと思います。 ○深山幹事 今の金関係官からの御説明に関連することですけれども,確かに現行法でも取消判決が確定した後に,取消債権者ではなくて,債務者のほうに戻せるかどうかとかいう問題があるのかもしれませんし,岡先生が言われたように,被告にするかどうかはともかくとして,債務者に効力が及ぶとなると,この問題がクローズアップされてくると思います。その場合に(3)の規律は一つの考え方だともちろん思うんですが,他方で,せっかく取消債権者が取消訴訟を起こして勝訴して判決を得ても,受益者が債務者に返しますと言って返してしまうことを当然のこととして認めていいのかどうかというのは,これは議論の余地があるのではないかという気がしております。   それを認めるという考え方もあれば,それは認めないという考え方もあり得るのではないかという気がします。その意味で,33ページの真ん中辺に,解釈論上異論がないと思われる帰結を明文化したものであるという説明をされていることについて,かなり違和感を感じておりまして,どなたも異論がないということなのかなという気がしますし,少なくともこの点についてはこの部会で明確な議論がなされたという印象を私自身は持っていないので,果たしてこの説明が適当かどうかということについて再検討いただければと思います。 ○高須幹事 一言だけ,申し述べさせていただきます。いわゆる個別修正説で中間試案を作るという場合に,やはりポイントはいかに内容的に適切な個別修正ができるかにかかっているんだろうと思います。今の点で,金関係官から御説明いただいた部分なわけですが,保全がかかるという前提で先ほどの岡先生からの指摘について,このような中間試案の内容でいいという御説明だったと思うのですが,もし,ここで部会資料32の(3)のところのように,引渡しを請求することはそもそも払うことができるんだという前提のときに,本当に保全がかかるのかどうかということを,もっとお調べいただいて,より正確な考え方を中間試案を見る人に知らせていただいて意見を求めるようにしていただいたらいいのではないかと思います。私としては,保全がかかるのかどうかについては若干の危惧を持っているものですから,ちょっとその辺もお調べいただければと思います。 ○金関係官 先ほど仮差押えと申しましたのは,取消債権者が債務者に対して持っている被保全債権,詐害行為取消訴訟における被保全債権,これを民事保全手続でいうところの被保全債権として,債務者の受益者に対する債権,詐害行為取消しの効果が債務者に及ぶことによって発生した債務者の受益者に対する債権について仮差押えをするということでありまして,債務者は無資力ですし保全の必要性はあると思いますので,それほど障害はないのではないかと思っておりましたが,引き続き検討させていただければと思います。 ○岡委員 詐害行為取消訴訟提起時,あるいは提起前にも仮差しできるという考えですか。 ○金関係官 今の説明は判決確定後のことを想定したものでしたが,ただ,いくつかもちろん問題はありますけれども,必ずしも絶対に不可能とまでは言えないのではないかと考えております。 ○鎌田部会長 関連した御発言はございますか。 ○中井委員 同じ8について,これは先ほどの私の発言と違う立場からですが,ここの(注)につきましても,相殺を禁止しないという考え方のみが記載されていますけれども,これも従来から議論され,かつて提案されたこともある一定期間相殺を禁止し,期間が経過した後は相殺を認めるという考え方がこの段階で全く排斥されていいのか。仮に(注)でこの記載を残すのであれば,先ほどの債権者代位権と同様ですけれども,こういう相殺を禁止しないという考え方のほかに,一定期間相殺を制限するという考え方がある旨を残してはどうか,御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。ほかの箇所についても御意見があればお伺いいたします。 ○野村委員 ちょっと前のところで,多分欠席していたのであまりよく分からないのですけれども,被保全債権の額を超えるときに,他の行為の取消しが請求できないというのは,これは同一の取消訴訟の中でできないという趣旨と読めばよろしいのでしょうか。ほかの債権者もその債権者が取り戻したものに請求していけるとすると,取消債権者が債権の全額を満足できない場合があるのかなと思ったのです。そのときは別途,他の行為について,取消訴法を提起するということなのかなと思いました。 ○金関係官 詐害行為の目的物の価額が被保全債権の額を超えている場合には,二つ目の詐害行為の取消しは認められないという規律を想定しておりまして,その規律は同一の訴訟手続の中で行うかどうかを問わずに妥当すると考えております。ですので,御指摘のとおり,結果的にほかの債権者が競合することによって,取消債権者が十分に満足を得られないような事態も生じ得ると思います。ただ,だからといってこの後段の部分を外してしまいますと,逆に,被保全債権の額を超えていくつもの詐害行為を同時に取り消すことができることになりかねませんので,そこは折衷的な結論ということで今の提案になっているのだと思います。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。 ○野村委員 そういうやり方もあるのかなと思います。ただ後からもう一回,回収できなかった残りの部分について,改めて取消訴訟をするということはあり得るのではないかと考えました。 ○金関係官 すみません,それはできるという前提です。 ○野村委員 それはできないという趣旨で作られているということが先ほどの御説明だったのかなと思いますが。 ○金関係官 いえ,申し訳ありません。説明が悪かったと思いますけれども,そういう趣旨ではありません。 ○筒井幹事 足りない分が後から出てきた場合には,もう一度やることは可能だということだと思います。 ○中田委員 今の点なんですけれども,足りないかどうかというのは,7でいう権利の価額の解釈の問題になるのかなと理解しました。それは多分債権者代位権のほうでも同じでして,21ページの2で,当該権利の価額とありますけれども,その評価の問題ではないかと思います。 ○沖野幹事 13の転得者の反対給付等の扱いなのですけれども,基本的に転得者が反対給付等をしていた場合の権利行使をダイレクトに債務者なり戻った財産に対する強制執行等からできるという場合のその地位は債務者の財産にとってどうかということを基準にし,受益者ができた権利行使についてそれをベースにするという考え方だと理解しています。また,基本的にはそうなるべきではないかと思うのですが,ただ10,11だけによる場合に元が12であるような場合の権利行使がどうなるのかという問題が残るように思うんですけれども,その点の調整なり,効果は明らかにしなくていいのかということです。例えば廉価な売却行為が取消の対象であったところを目的財産が更に転売されて,転得者の下にあるというような場合に,廉価売却が取り消されたということになりますと,目的物は受益者の下にないので,受益者に対して行使するとすれば,価額償還ということになるのではないか。受益者は代金を払っていますから,そうしますと場面としては12にいって,隠匿等の意思があるかどうかによって,単純に差額決済にするか,それとも一旦価額の部分を戻して,反対給付について権利行使をする。そういう処理に受益者との関係ではなるんですけれども,転得者のところまでいっていますから,転得者も売買によって取得していたとしますと,その場面で転得者に対して現物の回復を求めたという場合に,その反対給付の取扱いが問題になります。そのときに受益者に対して行使されたならば,あったであろう状態だとしますと,そもそも10,11の場面にならなくなりそうで,12になると差額決済になってしまうので,受益者は返して終わりということになりますから,受益者が権利行使するという局面にならず,転得者の権利行使が宙に浮いてしまうように思われるのです。   そういう理解でよろしいかです。そう理解すると,その場合の手当てを設ける必要はないだろうか。あるとした場合に,そういった場面があちこち出そうで,それを全てゴシックで書き切るのは,無用の混乱を招くような気もしますので,適切な幾つかの場面については更に調整の規定なり規律を検討するものとするぐらいのことを書いておく必要はないだろうかということですが。 ○金関係官 その理解でよいかとお尋ねいただいた点については,その理解ではないと考えておりまして,御指摘を頂きました12が元の場合というのは想定しておりませんでした。そのことを示しておりますのが,部会資料54の36ページの13のところで,ゴシックの3行目からですけれども,「受益者が詐害行為取消権を行使されたとすれば債務者に対して行使することのできた前記10又は11の権利を」としている部分です。ただ,御指摘のとおり,受益者に対して詐害行為取消権が行使されたとすれば本当は12が適用されるような場面も含め,11の問題と捉えるということを前提としておりますので,そこが分かりにくいといいますか,この書き方ではそうは読めないということだろうと思います。そこは御指摘のとおりだと思いますので,表現の修正を検討したいと思います。ただ,規律として想定しておりますのは,11か12かというのは実際に受益者が詐害行為取消権を行使された場合に初めて問題となる話ですので,転得者が詐害行為取消権を行使された場合に関する13の規律においては,受益者のところで必ず11の権利行使の可否が問題となることを前提として,受益者が行使できたはずの11の権利を転得者が行使できるという規律です。その意味で,元が12の場合というものは想定しておりませんでしたが,いずれにせよ御指摘を踏まえて少なくとも表現については何らかの工夫を検討したいと思います。 ○沖野幹事 そうしますと,そもそも11と12の関係自体もその点が明確になっているのかということは少し分かりにくいようには思いますけれども,ただいずれにせよ,表現の工夫で全て手当てができるのであれば,それで御検討いただければと思います。 ○畑幹事 前のラウンドで申し上げたことを再び申し上げることになるので恐縮なのですが,今の13の転得者の前者に対する反対給付の扱いについては,倒産法の否認権に関する文献に限っていいますと,前者に対するある種の担保責任の追及で解決するというほうがむしろ多数で,前者には効果が及ばないから,前者には責任追及ができないと書いている文献はあまりないように思いますし,この場でもそういう考え方が債権者取消権についてもあり得るという御意見も複数あったように記憶しますので,何らかの形でそういうことを,これももちろん補足説明の話ではないかと思いますけれども明らかにしていただくほうがよいのではないかと考えます。 ○中井委員 13について,先ほど沖野幹事からの御指摘のような問題,また今の畑幹事からの御指摘のような前者に対してできるかという問題等があると思います。したがって,漏れがまだあるのではないかという危惧を持っていますが,これを果たしてどこまで書き切るのか,それができるのかということも含めて検討する必要があるだろうと。   否認では,この部分についての明文は置いていないわけで,だとすると否認にない部分をこの詐害行為取消のところでどこまで詳細に明文化するのがいいのかということも踏まえて検討してはどうか。逆に言えば,ここについては明文化を諦めるという意見もあり得ると思います。大阪弁護士会の有志案はそのような明文化はしないという提案をしております。   少し戻って11の(2)のただし書です。これは前回のたたき台のときに議論して,結論としてはこのような形になったのかと思いますが,なおもう一度申し上げておきますと,隠匿等の処分の意思のあるときには,受益者はその特別の先取特権を有しないという提案になっているわけですが,ここは倒産法の規律とは異なっているのではないか。つまり倒産法の規律では隠匿等の処分を有する意思を持っていても,少なくとも破産財団の中に現存利益があるときは,現存利益について財団債権として行使できるという地位を保証しているわけで,破産債権にしていない。それとの平仄からすればここの受益者は債務者に現存利益がある限りにおいては,その範囲内で特別の先取特権を与えてもいいのではないかという考え方はなおあるのではないかと思います。   前回の議論では現存利益に対する御批判があって,それが明らかでないということからここは削除されたのかと思いますが,破産法でも使われている考え方ですので,なお検討の余地があるのではないかと思っております。   更に12ですけれども,11の現物返還に対して,12は現物返還ができなくて金銭の返還,若しくは価額償還したとき,本文では,反対給付の現物返還を求めることができないことを前提に,差額償還のみ債権者は求めることができるという構成になっています。これは前回から維持されているようです。   ところがその後,ただし書は何かというと,隠匿等の処分意思を有しているときには,差額ではなくて,全部を償還しなければならない,という規律にしている。仮にそれは理解できるとしたときの(2)ですが,上記(1)ただき書き,つまり隠匿等の処分の意思のあるときについて,全額償還をする,それを前提とするからだと思いますけれども,反対給付の現物の返還を請求できるということになっていて,隠匿等の意思があれば全部償還して,反対給付の現物返還,若しくは価額償還を請求できることになる。   ところが,隠匿等の意思がないときには,受益者は現物返還の請求をする機会が全くないという構成になっています。果たしてそれでバランスがいいのかということを疑問に感じます。それをどう解決すればいいかですけれども,12(1)の本文に戻りますけれども,債権者は全部償還を求めることができるのを原則にする。ただし,受益者が反対給付については,その価格,価値分を控除する権利を認める。ただ,その受益者に隠匿等の悪意があるときには,その抗弁主張を認めないという形にすれば,(1)についての規律は実質上維持できる。その上で(2)の部分ですけれども,上記(1)ただし書の場合においてを削除する。そうすると,差額償還の主張をせず全部償還をした上で,現物返還を求める機会を隠匿等の意思のない受益者にも認めることができる,そのほうがバランスがとれているのではないかと思います。   それ以外に幾つか大阪弁護士会から指摘があるんですが,私の能力を超える部分もたくさんありますので,本日配布させていただいた大阪弁護士会の有志案を是非御覧になっていただければと思います。これを陳述したものとみなすということで御了解いただきたいと思います。 ○山本(和)幹事 1点だけ,中井先生の一番最初におっしゃったことですけれども,私の理解が間違っていなければ破産法を改正する際に転得者否認について,改正しよう,とりわけ二重の悪意というものについては批判も多かったので,これについて要件を変えようという意見はかなり有力にあって,中間試案までの段階ではそれが提示されていたということだったと思います。   その後の審議の経過は,仮にそういうふうにした場合に,その後の効果がどうなるのか,とりわけ転得者の反対給付をどのように保護するのかという法律関係が必ずしも明確ではない。先ほど,畑幹事が解釈について言われましたけれども,やはりそこがなかなか明確にできないということが一つの大きなネックとなって,最終的には要件の改正も断念して,二重の悪意を残したという経緯があったように記憶しております。   そういう観点からすれば,私はこの審議の際のどこかでも申し上げたと思いますけれども,この際,この転得者取消権について,一定の要件を明らかにするとともに,その転得者の反対給付の原理についても法律関係をある程度明確にしていただく。そしてそれを前提として破産法の規律もそれに合わせて書いていただく,私はここはそれを変えていただく,今のままだと逆転現象が残ることになりますので,破産法のほうも二重の悪意というのは改正して,それとともに転得者の反対給付の保護を明らかにするという規律を設けることが必要ではないかと,私自身はそういう前提で考えております。 ○中井委員 できるのであれば,今の山本和彦幹事の意見に賛成です。鋭意よろしくお願いいたします。 ○松本委員 中井委員がおっしゃった11の点についてですが,私も後半の部分は同じような見解でありまして,これは11は実質的には一部取消しのルールだと思いますから,それなら正面から一部取消しなんだと構成してしまうほうが大変分かりやすくなるのではないかと思います。   ただ,中井委員が11の前半でおっしゃったほうの部分,利益が現存している場合にもこの特別の先取特権を当該返還した財産上に認めるべきだという主張は,それはちょっとおかしいのではないかと思います。つまり破産の場合は,総財産の中に利益が現存していれば,そこから優先的に弁済を財団債権として受けられるというルールなんでしょうが,ここでは当該返還したものとの関係での先取特権を認めるかどうかですから,それ以外のところに利益が現存している,そこから返してもらえば本来はいいというのが筋だと思います。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。   詐害行為取消権に関してほかに御意見はございますでしょうか。特にないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 本日配布済みの部会資料54について全て審議を終えることができましたので,来週に予定しておりました予備日は開催しないことにさせていただこうと思います。喜んでいただけることかもしれませんが,十分な分量の部会資料を御用意できなかった点で,我々として反省すべきかなとも思っております。いずれにしても,改めて年明けから審議を続けていただきたいと思います。   次回日程は年明け1月15日火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省地下1階の大会議室です。この次回会議用に部会資料55,「中間試案のたたき台(3)」を御用意する予定です。どこまでを対象とするかまだ分かりませんけれども,多数当事者の債権債務,保証債務,債権譲渡などが含まれることは間違いないと思います。   資料の発送ですけれども,部会メンバーには12月27日にメール送信することを予定しております。印刷物の郵送は年明けになろうかと思います。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日も熱心な御議論を賜りまして誠にありがとうございました。来年までしばらくお休みとなりますが,よいお年をお迎えください。 -了-