法制審議会           新時代の刑事司法制度特別部会           第1作業分科会(第2回) 第1 日 時  平成25年4月25日(木)   自 午前 9時58分                         至 午後 0時29分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり)           議        事 ○吉川幹事 それでは,ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会第1作業分科会の第2回会議を開催いたします。 ○井上分科会長 本日も御多用中のところを御参集いただきまして,ありがとうございます。   本日は,お手元の議事次第のとおり,「取調べの録音・録画制度」についての議論を行いたいと思います。   まず,本日の配布資料について,事務当局の方から説明していただきます。 ○吉川幹事 お手元の配布資料2は,本日議論が予定されている「取調べの録音・録画制度」について,考えられる制度の概要と検討課題を整理したものです。この内容につきましては,後ほど議論に際して説明があります。   また,参考資料として,「取調べの録音・録画制度」に関する参照条文をお配りしております。さらに,本日の議論に関して,小坂井幹事から,「被疑者取調べの録音・録画制度について」と題する資料が提出されておりますので,これもお配りしております。資料の御説明は以上でございます。 ○井上分科会長 それでは早速ですが,「取調べの録音・録画制度」についての議論に入りたいと思います。   この検討事項につきましては,基本構想に記載されました二つの制度案を念頭に置いて具体的に検討を行うこととされています。そのため,両制度案について,順次議論していくことにします。   まず,配布資料2の内容について,事務当局の方から説明していただきます。 ○保坂幹事 それでは,御説明いたします。資料2を御覧ください。   「取調べの録音・録画制度」につきましては,基本構想を踏まえて考えられる制度の「第1」として,「一定の例外事由を定めつつ,原則として,被疑者取調べの全過程について録音・録画を義務付ける制度」と,「第2」として,「録音・録画の対象とする範囲は,取調官の一定の裁量に委ねるものとする制度」の二つをお示しいたしております。   まず,「第1」の制度案について御説明いたします。   この制度概要としては,裁判員制度対象事件の,いわゆる身柄事件につきまして,被疑者の取調べ状況を録音及び録画の方法により記録することを捜査機関の行為義務とした上で,①として,やむを得ない事情により録音・録画をすることが困難であるとき,②として,録音・録画をしたならば弊害が生じるおそれがあると認めるときという二つの類型の例外事由を定めるものとしております。   この案につきましては,基本構想にも示されているとおり,「録音・録画の対象外とすべき場面を適切に対象外とする制度となり得るか」という点,すなわち録音・録画義務の例外事由の具体的な在り方というのが当作業分科会における検討の中心になろうかと思われるところです。   具体的な検討課題について御説明いたしますと,検討課題の(1)は,①の類型,すなわち外部的要因により録音・録画の実施が困難な場合として,どのような例外事由を定めるかというものでございます。   これまでの部会における議論を踏まえますと,録音・録画に必要な機器の故障や,通訳人による録音・録画の拒否などのやむを得ない事情により録音・録画の実施が困難な場合を例外事由とすることが考えられるところでございますが,その当否などについて御検討いただきたいと思います。   次に,検討課題の(2)は,②の類型,すなわち録音・録画の実施により取調べや捜査の機能等に弊害が生じるおそれがある場合としてどのような例外事由を定めるかということでございます。   まず資料では,「ア 検討の視点」といたしまして,個々の例外事由について具体的に検討するに当たっての視点というものを挙げてございます。   これまでの部会における議論を踏まえますと,録音・録画の義務とその例外事由が現実に機能するように過不足なく定めるためには,例外事由の前提となる弊害の有無,内容及び程度,弊害があるとして,その当該弊害について録音・録画義務の例外を設けることにより対処すべきか,それ以外の方法により対処すべきか,あるいは実際の場面において例外該当性の判断というのがいかなる形で行われることになるのかといった観点から,例外事由の在り方の具体的な検討を加えていく必要があると思われますので,これらを視点として挙げております。   次に,「イ 個々の例外事由」については,これまでの部会における議論を踏まえて,考えられる例外事由を挙げております。   (ア)の①から④までは,録音・録画が被疑者の供述に影響を及ぼすおそれがある事由,(イ)は,被害者を含む関係者の名誉等に影響を及ぼすおそれがある事由,(ウ)の①と②は,取調べや捜査の機能に影響を及ぼすおそれがある事由をそれぞれお示ししておりますけれども,先ほど御説明した「検討の視点」も踏まえまして,それぞれの例外事由について具体的な御検討を頂ければと思います。   次に,検討課題の(3)でございます。「その他」として二つ挙げております。   1点目は,刑訴法198条第1項の規定による取調べのほか,いわゆる弁解録取手続も録音・録画義務の対象とするかどうかでございまして,その必要性や問題点などについて御検討いただければとは思います。   2点目は,録音・録画義務に違反した取調べにより得られた供述の証拠能力について特別の規定を設けるかどうかでございます。この点は,部会でも御議論があったところでございますが,例外事由の具体的な在り方にも関連すると思われますので,例外事由についての御議論も踏まえて,更に御検討いただければと思います。   次に,「第2」の制度案についてです。この制度案の制度の概要といたしましては,被疑者の取調べの一定部分について捜査機関に録音・録画を義務付けた上で,それ以外の部分については捜査機関が裁量により録音・録画を実施することができるものとしております。   録音・録画が義務付けられる「取調べの一定部分」というのは,具体的事件において捜査機関が個別に判断するのではなくて,録音・録画の必要性や弊害を考慮して,制度として画一的に定めておくということで,「※」としてそれを記載してございます。   この案につきましては,録音・録画を義務付ける「取調べの一定部分」として,具体的にどのようなものが考えられるのか,その義務に対応する例外が必要なのかどうか,必要だとした場合にその例外事由は何なのかといった点や,対象事件の範囲の在り方が検討課題になろうかと思われますので,その旨を記載してございます。   説明は以上でございます。 ○井上分科会長 それでは,この配布資料2に基づきまして,まずその中の「第1」の制度案から議論を始めたいと思います。   なお,小坂井幹事から提出された書面につきましては,各検討課題に関する小坂井幹事の発言の際に適宜御参照いただくということにさせていただきます。   「第1」の制度案は,「一定の例外事由を定めつつ,原則として,被疑者取調べの全過程について録音・録画を義務付ける」というものでありまして,どのような例外事由を定めるかということが中心的な課題となります。   そこで,まず,検討課題の「(1)録音・録画義務の例外①」,つまり外部的要因により録音・録画の実施が困難な場合としてどのような例外事由を定めるかという観点から議論していただきたいと思います。どなたからでも御意見,御質問等があれば御発言ください。 ○小坂井幹事 極めて素朴な質問なんですけれども,ここで198条第1項の規定により取り調べるときということで,取調べの規定が198条第1項にあるからということでこれを持ってきていらっしゃると思うんですが,私どもが勉強不足かもしれませんけれども,そのときに場所的な要件とか,あるいは時間的な段階の要件とか,何かそれはイメージが定まっているものなのでしょうか。あるいは必ずしも定まっていないものなのかが分かれば御教示いただきたいと思います。   もう一つ,ここではいわゆる「映像及び音声を同時に記録することができるものに限る。」という文言が入っていて,両方やる前提だということになっておるわけです。けれども,これは多分157条の4の2項の文言を入れてきていらっしゃると思うんですが,逆に316条の14なんかだったら,この種の媒体についてちょっと違った書き方をしていたりもします。ですので,これは中身のこれからの議論にも関わってきますけれども,この文言を選択されたのは何か特別な理由があるのかないのか,その辺りを教えていただければと思います。 ○井上分科会長 後者の御質問は,恐らく,後で議論になるでしょうから,そこで御議論いただきたいと思います。 ○小坂井幹事 分かりました。 ○井上分科会長 前者は,場所と時間についての御質問でしょうか。 ○小坂井幹事 そうですね,ちょっと私が勉強不足かもしれませんが,コンメンタールの198条第1項のところをパラパラ読んでいても,必ずしも明確に書いていないのです。もしかすると書いてあるのがあるのかもしれませんが,何か定まったものがおありならと思いまして。 ○井上分科会長 場所というのは,具体的には警察署の取調室なのかどうかということですか。 ○小坂井幹事 そうですね。 ○保坂幹事 特にこの場所に限るというような趣旨ではなくて,取調べというものがこの規定に基づいて行われているので,この規定に基づく取調べというものをやる場合という趣旨で資料は書いております。その上で,どこでやる取調べについて義務付けるかは,例えば,全く機材の配備ができないようなところで取調べをやるときに,それでもなお取調べの録音・録画を実施する義務があるのかどうか,その点については例外事由の中身の議論としていただければと思います。 ○後藤委員 これも前提的な問題になってしまうかもしれないですけれども,今ここに書かれている案だと,録音・録画は完全にセットで考えるということですね。 ○井上分科会長 その点は,後ほど議論をしますので,まずは例外①から議論を始めましょう。 ○後藤委員 例外①でも問題となると思われるので,その意見を言いたいのですけれど。 ○岩尾幹事 例外①の「やむを得ない事情により1の記録をすることが困難であるとき」というのは,少なくとも外部的な要因による支障ですから,そこの場面では録音と録画を切り離して議論する意味がそもそもないのではないか,これに対して,例外②の場合には,議論があり得るのではないかという意味で,分科会長は後で議論になるのではないかと言われているのだと理解したのですが,いかがでしょうか。 ○後藤委員 例外①のところでも,録画はできないけど録音の機材はあるという場合もあるわけで,ここで議論してもよいと思うのですが。 ○井上分科会長 それはそうですが,録音と録画を区別するか否かということは,後の問題にも関わってくるので,最初からその点の議論を始めると,議論が混乱すると思われます。ですから,まずは,検討課題のそれぞれの項目から議論を開始していただければと思います。 ○小坂井幹事 この検討課題の(1)つまり,例外①ですけれども,機器が故障してしまったとき,これは不可抗力で故障してしまったときまでも例外にできないというのは,それはなかなか厳しいものがあると思うので,それ自体はやむを得ない。そうだとして,部会をやっているときからちょっと私違和感を感じておりますのが,通訳人に関してです。これは割と早い段階から,当然例外になるであろうという前提で,事務当局のペーパーなどが出てきた経緯があるわけです。けれども,部会でも申し上げたのですが,率直に申し上げて,通訳人で記録を残してもらっては困るという通訳の方というのは一番危ないわけですよね。例えば,平成2年ぐらいだったか,木谷判事の浦和時代の判決だったと思いますけれども,正に通訳人が訳している部分がきっちりと,あのときは録音だったかもしれないですれども,録画・録音で記録に残っていないといけないんだ,そういう可視化の要請が強いんだということは裁判例でも言われている部分です。ですから,ここの通訳人の拒否というのを余り安易に,外部的要因で例外事由の中に,先ほど当否を含めてという言い方をされましたから,当然入っているという意味ではないと思いますけれども,そうたやすく入れるべきものではないだろうと思います。やはりそこはプロセスを踏んでいって,それこそ,先ほどの話に戻るかもしれませんが,顔は撮らないけれども声だけは録る,声もそこまで困るんだったら変声するとか,幾つかのそれに到達する段階はあり得るはずなのです。こう書かれてしまうと,これはもちろん論点として書かれているからこう書かれているんでしょうけれども,通訳人に関しては,そのプロセスを相当議論した方がいいのではないのかなという感じがします。   同時に,その他やむを得ない事情ということで,岩尾幹事は,録画か録音かどうかは次の議論になるのではないですかとおっしゃるわけだけれども,私どもも逆に言うとよく分からなくて,その他のやむを得ない事情によって記録することが困難であるというのは,一体どんな場面なんだろうと思います。故障しているのは分かります。通訳人が拒んでいるというのも,それはそれで分かる。その他って何だろうというと,結局,今はかなり厳格な機械をお作りになって,そういう部屋を設定され,そこでやっているのが録画・録音だとされています。確かに,なかなか機械も追い付いていないとか,まだ足りていないのではないかとか,真偽のほどは定かではありませんが,いろいろな報道があったりしますよね。そういう場合に,これはやむを得ない事情だから,この機械を使いませんというのであれば,何となく分かってくるわけですが,しかし,そこは制度を立ち上げる以上は録画と録音をセットすることに必ずしも固執せずに,ケースによりますが,録音だけということを入れることにすれば,これはまた部会でも結構議論になったところで,多くの方がこの意見を述べていらっしゃったと思うのです。率直に申し上げれば,今どきICレコーダーを用意することが不便なわけもなく,これは誰でもできることで,私でさえ使える機械です。ですから,それはすぐに使えることになって,この(1)のやむを得ない事情により1の記録が困難であるときというのは,ちょっと想定しにくくなってくるのではないのかというのが率直な意見です。 ○上冨幹事 もちろんその他としてどのようなものを考えるかというのは御議論の対象だと思うのですが,資料を作った立場から申し上げますと,例えば,機材そのものは故障していないけれども,停電になってしまって機材が使えないということも当然あり得るでしょうし,また,場所の問題として,先ほどちょっとお話がありましたけれども,録音・録画機材がおよそない場所で取調べをせざるを得ないというような場面も想定されるのではないかとは考えております。そのほかにどんなものがあるのかについては更に御議論いただくことだと思っております。   それから,若干踏み出してしまうかもしれませんが,その録音と録画との関係については,また後ほど御議論あるのかもしれませんが,義務の解除という形で録音・録画を考えた場合,録音のみといった中間的なものについては,それぞれ中間的な義務が掛かるのかどうか,そのようなやり方をしたことが後ほど義務違反として評価されるのかというように,恐らく個別にいろいろな論点のバリエーションが出てくるということがあり得るのかなとは思っております。 ○髙橋幹事 この例外①に関して,機器が故障したとき,それから通訳人として立ち会う者が記録を拒否したとき,両方に関わる問題なんですが,特定の機器のある取調室で取調べをしようと思っていたら,その部屋に設置されていた機器が故障していたが,ただ,合理的な範囲内に別の代替機器があって,それを利用すれば録音・録画できるという場合は,機器が故障したときの要件に当たるのか,当たらないのか,あるいは通訳人の場合も,当初予定していた通訳人が拒否をしたんですけど,ほかの通訳人をすぐ手配することができるような状況で,その通訳人であれば拒否なく録音・録画できるという場合は,この要件には当たるのか,当たらないのか,その辺り資料を作成された事務当局としては,どういうイメージで考えておられますか。 ○保坂幹事 その他のやむを得ない事情という,書き方の問題はあるのかもしれませんが,機器の故障で困難な場合,あるいは通訳人の拒否によって困難な場合も,やむを得ないと言えるようなものということを資料としてはイメージしておって,今,髙橋幹事が言われたような,他がすぐアベーラブルであるような場合にこれに当たるかというと,そういうことを意図しているわけではないのです。ただ,他方で,どこまでの困難性を現実に追求するのか,代替が不可能でないと当たらないのかというのは,例外事由該当性の判断というところにも関わってくるので,その辺は御議論いただきたいと思っております。 ○後藤委員 一つの機械が故障したら,当然にこれに当たるという意味ではなくて,そのために録音・録画することができないという,最終的な要件が条文としては入るので,この案ではそれを省略しているだけだと私は理解します。そう考えると,例えば,録音だけだったら,ICレコーダーのようなものを考えれば,それが用意できない場合というのは余り考えられないのではないですか。何か特別な装置があるところでやらなければならないという頭で考えると例外が広がっていくけれど,もっと実質的に考えれば,設備の限界のために録音も録画も全くできないという場面は余り多くはないのではないでしょうか。 ○岩尾幹事 今の点,まず,手元にあるICレコーダーでルールもなしに録って,どういう形や手順を経て保管するかというようなことなども全く整理されていないのに,ICレコーダーであれば使えるということで,それを用いて録音をしたとして適正さの担保になるのでしょうかということに疑問を感じます。また,それ自体の適正性の争いが生じたら何の問題の解決にもならないのかなと思います。   それから,最初の点ですが,ここで比重があるのは,外部的な要因によって記録することが困難なときという点であって,その外部的要因というのはいろいろなものが考えられるわけです。その典型的なものとして,必要な機器の故障だとか,通訳人の記録の拒否というのがありますけれども,それはやはり考え方で,例外の範囲が広がり過ぎるのが問題であるという御指摘については,単なる一個の機器が故障したとか,1人の通訳人が拒否したということで当然に例外に当たると考える必要はなくて,そこはそういう事情からして困難な事情にあると認められるのかどうなのかということを考えればいいんだろうと思います。少なくとも外部的な要因で困難になっていたときには,不可能なことを強いるというのは無理ですし,また適正な取調べを迅速に行うということの必要性とか意義というものはやはり否定できないんだろうと思います。 ○小坂井幹事 もちろん最終的に不可能なものは強いることはできないわけです。けれども,例えば,ICレコーダーのケースでいえば,しつこいようで恐縮ですけど,それは検察庁で揃えていただいて,持っていただいたらいいわけです。警察庁で揃えていただいて持っていただいたら済むことです。どうしても不安だったら2台セットすれば何の問題もないわけですから,それはそういうふうに極めて容易な問題だろうと思います。 ○島根幹事 不可能なことを強いるものではないという話での関係ですけれども,まず,録音・録画機器の故障や,代替機器を使えないという際に,これはこの枠の中の前提が,いわゆる裁判員制度対象事件ということですので,例えば,今議論になっていた,機器ならばすぐ整備すればいいではないかという話は差し当たり考えなくていいのではないかと思いました。要するに,対象事件が広がれば広がるほど機器の整備というのも当然重要な問題になってくるわけで,裁判員制度対象事件であれば,今のところ年間大体3,500件から4,000件ぐらいですから,何とか機器の整備も対応できるとも考えられるので,そういう意味では,そういう場合であればやむを得ない事情ということには必ずしもならないのかなというのが一つでございます。   それから,先ほど通訳の問題で小坂井幹事がおっしゃった点については通訳の正確性の問題であって,今議論になっている録音・録画の制度目的からすると,ちょっと議論としては違うのではないかと思います。やはり,こういった通訳というのは,例えば,少数言語であればあるほど,どうしても通訳者となり得る対象が絞られてきて,報復などのおそれも当然ありますし,そのために拒否されることもあり得るわけなので,通訳が対応できないという場合は,通訳の正確性の問題とは別の問題として,例外事由の一つとして考えておくべきであろうと思っております。 ○井上分科会長 まだ御意見もあろうかと存じますけれども,ひとわたり御意見を伺いましたので,先に進んでよろしいでしょうか。   この例外①について,皆さんの御意見では,機器の故障については,どこまで厳しくその該当性を認定するかは別として,そういう例外を何らかの適切な形で設けるということについては,基本的に異論はなかったように思います。   他方,その他の外部的要因については,その他やむを得ない事情というものがはっきりしないという御意見もある一方で,様々な場合が想定され得るとの御意見もありました。これを例外事由とするか否かということ自体や,例外事由とするとしてどういう規定ぶりにするかということについては,必ずしもまだ認識が共有されていないように思いますので,今後これらの点について更に詰めた議論を行っていくということにさせていただきたいと思います。   それでは,次に,「(2)録音・録画義務の例外②」,つまり,録音・録画に伴う弊害に対処するための例外事由についての議論に入らせていただきたいと思います。   この検討課題については,これまでの部会での議論を踏まえますと,「ア 検討の視点」というところに掲げられた視点が,個々の例外事由の在り方を検討する際に重要となると考えられますので,これらの視点を意識しつつ,「イ 個々の例外事由」について具体的な議論を行っていきたいと思います。   これまでの部会では,録音・録画に伴う弊害に対処するための例外事由につきましては,その要否を中心として様々な御意見がありましたが,当分科会におきましては,飽くまで今後の部会での議論に資するという観点から,できる限り,どういう例外が考えられるかについて具体的な議論を行っていただきたいと思います。   まずは,(ア)として記載している,録音・録画をしたならば「被疑者が十分な供述をすることができないおそれがあると認めるとき」から議論を進めていきたいと思います。ここには①から④まで四つの事情が挙げられていますけれども,まず,①の「被疑者が録音・録画を拒否したこと」について,御意見がある方は御発言をお願いします。 ○後藤委員 私は,本人が拒否した場合は録音・録画できないのではないかと考えています。それに対してはいろいろな御異論もあると思いますけど,私はそれは例外として入れざるを得ないのだろうと思います。ただ,そうなると,先ほどの議論にも関連して,例えば,録画は嫌だけど録音は良いということもあり得るので,それの対応は必要だと思います。   もう一つは,①があっても,なおかつ②,③,④が必要なのかという疑問があります。もし①を入れるのであれば,①で全てカバーできるのではないでしょうか。これらの例外事由に関する基本的な柱書きのところは,被疑者が十分な供述をすることができないおそれという被疑者の立場で見ているわけです。そうすると,本人がそれは嫌だと言えば録音・録画をしない,それで全て対応できることになりそうです。逆に本人が,録音・録画してもいいですよと言っているのに,②,③,④に当たって十分な供述ができなくなるおそれがあるから録音・録画しないということがあり得るのかという疑問があります。 ○井上分科会長 後藤委員が最後に指摘されて点は,②,③,④のところで,もう一度御議論いただきたいと思いますが,まずは,被疑者自身が拒否しているという場合をどのように考えるかということについて議論を進めたいと思います。 ○小坂井幹事 この①の拒否問題というのは,ちょっと私も整理しないままお話しする形になって恐縮なんですけれども,率直に申し上げまして,日弁連内でも延々と議論してきたところです。それで,一応ほぼ一貫して多数意見は拒否は認めるべきではなかろうと,やはりこれは国家の義務として全過程の録画・録音をすべきであって,本人の意向にかからしめるべきではないであろうということでした。それがやや多数ということです。私の本日の提出させていただいたペーパーでもその趣旨で書かせてもらっております。   それはなぜかといいますと,もちろんパターナリズムなり何なりだと言われればそのとおりなところはあるわけです。が,やはり今までのえん罪ケースなどをいろいろ見てきた場合,あるいは本特別部会の機縁ともなっている村木委員の事件を見てきた場合でも,村木委員御本人ということではありませんけれども,周辺の方の供述の取られ方を見ていると,恐らくこういったケースで拒否ができるんだよということになったときに,どうなんだろうか。もちろんどういうプロセスの下に拒否があったと認定するかどうかの問題は,これはまた十分に議論していただく必要のある大事な問題だと思うんですけれども,そういう事件の場合に,恐らくあのケースであんなえん罪を防げたのかというような観点から実証的に考えてみたときに,拒否を認めると,ちょっと苦しいのではないか。つまり,ほとんどの人は,録画・録音が権利だとしても放棄していくだろう,放棄した中で事実と相違する調書がどんどん作られていくという事態を防げないのではないのか。率直に申し上げて,今なお我々というか日弁連内がこの拒否論に関して,拒否肯定論も非常に強くあるんだけれども,それに踏み切れないのは,なおやはり拒否させることによってそういう事実と相違する調書がどんどん作られ,かつ証拠能力が認められるという方向になっていくのではないか。そうであれば,それはちょっと認めることができないということです。私は,現段階では拒否することを直ちにといいますか,拒否を例外とすることには反対です。 ○川出幹事 被疑者が録音・録画を拒否したことを例外事由として認めるか否かを考えるに当たっては,取調べの録音・録画というのは,被疑者の権利ではなく,飽くまで,自白の任意性立証を容易にする,あるいは,取調べの適正を担保するための制度だということが,前提になると思います。そういう観点からすると,被疑者がそれを拒否した場合に,そのことゆえに直ちに録音・録画をしなくてよいということにはならないはずで,被疑者が拒否した場合に例外として認めるかどうかは,録音・録画をすることによるメリットを上回るデメリットがあるかによって判断されるべきことになります。このペーパーが,被疑者が録音・録画を拒否したことを,「被疑者が十分な供述をすることができないおそれがあると認めるとき」に当たる一事情として位置付けているのは,正にそのような考え方に基づいているのだと思います。その観点から考えると,録音・録画されていなければ供述するという被疑者が現に存在する以上,被疑者が拒否した場合でも必ず録音・録画しなければならないとすると,そうでなければ得られる供述が得られなくなる可能性があるわけですから,個別の事案において,被疑者が十分な供述をすることができないおそれがあると認められる場合に,被疑者が拒否したことを例外事由とするのは,妥当ではないかと思います。 ○島根幹事 結論としては,私も拒否の場合は例外として認めるべきだろうと考えておりまして,現在行っている試行でも,今から録音・録画するからと言うと,いやいや,それはやめてくれと,それだったら俺はしゃべらないというような例も現実に出てきているわけでありますので,やはり一方で,取調べの機能が過度に落ちるおそれがあるわけです。ですから,仮に録音・録画を義務付ける制度とした場合,被疑者がどうしても機器があるんだったら俺はしゃべらないぞと言ったときに,きちんとそれが除外されるような仕組みというのは,これは絶対に必要なものだろうと考えております。 ○後藤委員 今の議論を拝聴して,私自身は逆に,本人が要求したときは録音・録画せざるを得ないように思いますけれども,それは今日の議論の範囲を超えるので,いずれ別の機会にお話ししたいと思います。そういう意味では,川出幹事の整理に従うと,私の考え方は,権利的な構成に近い考え方ということになるのかもしれません。   それはさておいて,確かに小坂井幹事がおっしゃるように,悪く言えば,録音・録画を拒否させてひそかに調べるようなことが起きてはいけないので,録音・録画を断る場面までは,やはり客観的に記録されるべきなのだと思います。この①を例外として入れるときには,そういう手当てが必要ではないかと思います。 ○井上分科会長 今,後藤委員が言われた権利性の問題ですけれども,先ほど,②以降については,結局は被疑者が拒否したということでカバーできるのではないかと言われたのは,そういう見方を前提にされたものですよね。そこのところでも当然に御議論が出るんだろうと思いますが。 ○岩尾幹事 取調べをする側からすれば,被疑者が拒否した場合に,その拒否自体が真意に基づくかどうかという,その疎明手段の確保は非常に重要なことであって,運用上は必ずやられるとは思うんです。ただし,拒否の場面を必ず録音・録画しなければならないかというと,そういう硬直的なものまでを要求するかどうかというのは,またひとつ検討する必要があると思います。例えば,弁護人と被疑者が連名により拒否をするという書面を差し入れているとか,あるいは毎回運用上入室のときから録音・録画をしていて,その都度,取調べの開始当初に拒否の意思が伝えられた,そんなことがあったというようなときに,毎回の取調べの拒否の場面まで必ず録らなければいけないかというと,そうでもないような気もいたします。 ○髙橋幹事 後に,本当に真意に基づく拒否であったかどうかが争いとなったときに,裁判所が判断する場合を想定しますと,硬直的に考える必要はないんですけれども,できるだけその際の生のやり取りが録音・録画という形で残されていると,判断をしやすいのではないかと思います。   一方で,被疑者のみの書面などが出された場合には,それは無理やり書かされたんだというような争いが生じることがあり得るので,今,岩尾幹事がおっしゃられたとおり,弁護人と連名というのであれば,弁護人ときちんと相談した上で意思決定をしたのであろうという意味で,判断の材料としてはより良いと思うんですが,いろいろ柔軟にこの辺りはより良い疎明資料を検討していただきたいと思っております。 ○小坂井幹事 今,拒否自体についてはいいのではないかという説の方が若干多いのかなという感じがあるわけです。けれども,これは次の議論になりますが,仮に拒否を認めるというのであれば,②,③,④がどうして要るのかということには当然なると思います。それと,岩尾幹事がおっしゃったみたいな,拒否の対応自体はそうファジーでいいか,ちょっとファジーというと失礼ですけど,何かそういうふうに聞こえたんですけれど,やはりこの部会なり作業分科会なりで録音・録画制度を作るんだというときに,基本構想にも書いてあるとおり,なるべく広く,とにかくやることが適正化である,あるいは任意性,信用性の立証のためであるという,そういう前提からしますと,拒否自体に,やはり,正にきちんとしたプロセスを経た上で拒否しています,それから当然のことながら,再開はすぐにできるんですという,そういう担保をきっちり作る形での拒否制度にしていただかないといけないのではないかと思います。やはり私としては,話が元に戻って,拒否を認めることによって特にそういうプロセスについてファジーなままの拒否制度を認めることになると,今までよく行われたような,つまり見えないところでの話合いの下で調書が作られていくということで,結局この部会のミッションを全うできないのではないかというおそれを感じます。 ○井上分科会長 そういうプロセスを厳格に整えるならば,拒否を例外事由にすることも反対しないということですか。 ○小坂井幹事 それはあり得ると思いますね。 ○井上分科会長 川出幹事が指摘された点はいかがですか。小坂井幹事が言われた懸念というのも分かるのですけれども,逆に本当に録音・録画されるなら供述しないという人もいることはいると思うのですね。そういう場合は,仕方がないということなのですか。 ○小坂井幹事 仕方がないといいますか,私どもは正に,今回私が出したペーパーでは,一定の事由についてはそれは認めようということですね,ごく限られた一定の事由のみですが。それで,しかし,なおかつ,本人が録ってくれというのを録らないというのは,これは明らかに背理なので,本人が異議を述べたときには,それは当然録るべきであろうと思います。 ○井上分科会長 今申し上げたのは,拒否しても録音・録画するというのなら,もう話さないという人が出てき得るけれども,そうなってもしようがないということなのかということです。拒否を例外事由にしなければ,そういう事態が生ずることもあるわけですよね。 ○小坂井幹事 あと一定の事由の場合ということですね,別の例外事由を認めるとき。 ○井上分科会長 別の事由にも当たらず,何も理由を言わずに嫌だと言ったら,それはしようがないということですか。 ○小坂井幹事 しようがないというか,ほとんどの場合は黙秘権行使だと思いますが。 ○岩尾幹事 録音・録画の拒否が黙秘権の行使と擬制できるかというと,それは明らかに違って,明確に録音・録画さえ止めてくれれば話しますよという人は現にかなりの数いるわけです。そういう人の話を聞かないということになると,やはり刑事手続の一つの目的である事実の解明機能も落ちますし,弁解をきちんと聴取しないまま公訴提起等の処分をするということになれば,被疑者にとっても不利益が生ずるのではないかというような点が懸念されると思います。 ○小坂井幹事 岩尾幹事のおっしゃっていることは非常によく分かります。現状の実務の感覚からストレートに言えば,そういうことになってくると思います。けれども,しかし,黙秘権告知をして話す以上は,それは正確なものでなければならない,ありのままでなければならない,逐語録でなければならない,それで初めて証拠になるのが文明国家の制度なんですから,不明確なことしか私は言うつもりはないんだからというのであれば,それは供述拒否の一環だと思います。 ○井上分科会長 そこは見方が多分違うんでしょうね。   ①からまず手始めに議論するようお願いしたのですけれども,②から④にも議論が及びつつありますので,②から④の事由も含めて御議論いただければと思います。 ○小坂井幹事 ③と④との違いが,私よく分かっているようでよく分からないんですが,これは何なんでしょうか。 ○保坂幹事 ③については,書いてあるとおり,被疑者が十分な供述ができなくなる理由として,自分とか関係者の名誉,利益を害するようなことが記録されることを気にして十分にしゃべれないという場合,④というのは,被疑者自身が,例えば,自分の非常にプライベートなことをしゃべるときにしゅう恥するということもありましょうし,あるいは例えば,自分の言い分を言うときに,それが全部記録されていることによって,どう使われるか分からないというようなことを気にして,その供述を渋るとかためらうという場合,そういう趣旨でございます。 ○小坂井幹事 そうすると,③の「被疑者又は」という表現は余り意味がないということですか。 ○井上分科会長 そうではなく,言葉としては,「名誉,利益」と「不安,緊張,しゅう恥」が違うという,そういう立て付けなのでしょう。 ○後藤委員 先ほども少し出た議論ですけれども,もし本人が拒否したときは,一定の要件で限定するとしても基本的に録音・録画しなくてもよいということになったときに,②,③,④を入れる意味が私にはよく分からないです。本人が録音・録画してくれてもいいですよ,話しますよと言っているのに,なおかつ,いや,あなたは十分話せないだろうと判断して録音・録画をしないということがあり得るでしょうか。悪く言えば,おせっかいというか,本人がしてくれていいですよ,私はそこで話しますからと言っているのに,取調べする側がこのような判断をすることができるのでしょうか。 ○岩尾幹事 必ずしも明確な意思表示として拒否が出るかというと,やはり検証してみても,きちんとした形の拒否にならない,ただし,話が録音・録画されていることに不安等を感じて躊躇しているというような状態は当然考えられて,なかなか明確な拒否があるかどうかで結論を完全に二分するということはうまくいかないのではないかと思われます。   さらに,意図的に拒否できない人というのも当然想定できると思います。例えば,暴力団のようなケースを考えると,上位者のことを供述しようとするときに,供述は渋ってはいるんですけれども,そこで拒否してしまうと,その拒否の意思表示をしたこと自体によって,その組織からは不利益に取り扱われるというようなことがあるのではなかろうかと思います。そういう事態もありまして,なかなか拒否の意思表示ができない場合だとか,あるいはなかなか明確にしない,そんな場合も拒否する方に水を向ければいいのかもしれませんけれども,またそんなことをすると,先ほどの論点にあったように拒否をしようよう(しようように)しているのではないかと言われることもあり得ますので,そういう意味で,やはり大きなくくりとして,取調官とすれば,様々な事情から見て合理的に供述ができないような状況になっているというような判断ができるケースはあり得るのではないかと思われます。 ○髙橋幹事 この②から④というのは,捜査官がいろいろな事情を基に,更に被疑者が十分な供述をすることができないおそれがあると忖度して要件に該当するかを判断するという作りになっているんですけど,本当にその捜査官の判断が的確だったのかというのが後に紛議になったときに,これを判断するのは,非常に難しいことになってくるのではないかと思います。だから,もし仮にこういうものを入れるとしたら,相当疎明資料をきちんと揃えてもらわなければならないと思いますし,そもそもこういった要件が,明確にきちんと裁判所で判断できるような要件として成り立ち得るのかなという疑問がありまして,先ほど後藤委員が言われていたように,記録を拒否したということは,明確に拒否したという事実が,それも真意で拒否したんだということが,まだ認定はしやすいと思うんですが,この②から④の要件というのは,裁判所にとって,どういう資料に基づいてやれば的確に認定できるようになるのか,検討が必要だと思います。 ○島根幹事 今,髙橋幹事のおっしゃられた事後的な判断を容易にしたいというお気持ちは分かるのですけれども,私ども,基本的には,全体にかかってしまう話なのですが,やはり捜査現場の判断をできる限り尊重してもらいたいということを一方で思っております。   それは置いておいても,先ほど岩尾幹事もおっしゃられたように,組織犯罪の例を度々申し上げて恐縮ですけれども,やはり拒否をしていないというときは,組織側にとっては何かをしゃべっているなということが分かるわけであり,やはりその中で例外事由が拒否だけだということになると,逆の意味で本人の危険が増すというようなことも当然考えられるわけでありますので,こういった拒否以外の事由というのも取り上げておくべき必要があるのではないかと考えております。 ○井上分科会長 この②から④についても,疎明という問題が確かにあるとは思うのですけれども,②と,③及び④とでは少し性質が違いますよね。②というのは,例えば事案の性質とか被疑者とその背後関係だとか,そういうことから疎明がある程度できる場合もあるように思うので,②,③,④全てについて事情が同じと見て良いものでしょうか。 ○小坂井幹事 今回私が出させていただいたペーパーは,率直に言いますと,②の場合を一つの考慮要素として,ただし,いわゆる①の要素があり,異議を申し立てたときは当然録画・録音しなければならないと,こういうことになっています。ですので,その意味で①の要素は入っているんですけれども,もちろんこの①,②,③,④のうち,①と,②,③,④とに段差があることは,これは誰が見ても分かることですが,②,③,④グループでいうと,今,分科会長がおっしゃったように,②と,③,④とで相当の段差はあるという感じがします。   ここはまた水掛け論になってしまって恐縮なんですけれども,③,④というのはこれは何なんですかね。つまり録音・録画されていれば,私はしゃべりませんよと,こうおっしゃるわけですよね。②の場合であれば,これは正にしゃべれないんだということ自体が,瑕疵ある状態と言ってはなんですけれども,本人の意思ということで黙秘しているということにはなかなかならない気が私はしないでもないので,今回,断腸の思いで,あの例外事由を入れたんです。しかし,この③,④に関しては,結局,黙秘権行使には様々な理由があるわけで,いろいろな人に配慮して黙っておく人は黙っておくわけですよね。本人が恥ずかしければ黙っておくわけで,それを殊更こじ開けるだけの理由が見付からない。基本構想が言っている深刻な支障とか大きな支障ということにそもそもこれは入ってこないというのが今回の私が出したペーパーの意味です。②についてのみは一定の要件の下に例外として認めざるを得ないのかなというのが今回のペーパーです。 ○岩尾幹事 ②のところには,事務当局で出したペーパーは「加害行為等」となっておりまして,これは加害行為のほかに畏怖,困惑行為というようなものも考えられるという趣旨で「等」が入っているわけでございますが,小坂井幹事から提出された資料については,「生命又は身体に重大な危害が加えられるおそれ」ということでかなり限定的になっております。また,その加害行為といっても,生命,身体に限らず財産に向けたものとか,あるいは生活の平穏を脅かすような形で嫌がらせや,付きまといをするというようなことも当然あり得るわけですから,そういった生命,身体の重大な危害に限定しなければいけないのかどうなのかというところについて,御意見を伺えればと思います。 ○小坂井幹事 これは確か部会で,但木委員でしたか,生命,身体の明白かつ現在の危険,とおっしゃたかどうか分かりませんが,そういうような場合にまで可視化原理を優先するべきなのかというような,そういう言葉だったかどうかは別にしまして,そういう趣旨のことをおっしゃった。そのときに,もし可視化が広く当然全過程でという発想を持っている者にとっても,そこはやはり考慮の余地のある問題だということがこの今回のペーパーのきっかけです。おおむね理念付けの問題と実証的な問題とがあろうかと思うんですけれども,理念的に言えば,やはり適正化と任意性・信用性立証,それと記録をそのまま残す,広範にやるんだという大原則からすれば,なるべく広くなんですよね。それで,要するに,極限的な場合にだけ限定していこうという発想になりますね。   それで,実証的な意味でいうと,これは正に村木委員などの事件を想定したときに,どの例外事由であれば村木事件は防げたのかという発想でこちらは実は考えているところがあります。今言っている重大な生命,身体の危険というレベルであれば,そこで例外事由にしても,あの事件はああいう展開をたどらなかったであろうと,分かりませんよ,これは,厳密には分からないけれども,そういうふうな発想になるわけです。が,そこで今おっしゃった困惑レベル,あるいは財産,平穏でもいいですけれども,そういうレベルのものまで含めて,そのおそれがあったときに例外とすることになれば,これは共犯者問題にも絡んでくるから,参考人問題にも絡んできかねませんけれども,それはほとんどの人が全部,録画なんかもういいですわとなってきます。録音もいいんですとなりかねない。事実と違う調書が積み上げられて,あのえん罪事件が起こったであろうと,こういう発想から,実証的に考えても,どこで線を引くかとすれば,このぎりぎりの部分で線を引くしかないという発想で今回のペーパーになっています。 ○井上分科会長 それは実証というものではないですけれども,そういうのを広げれば,抜け道ができてしまうではないかという御趣旨なのでしょうね。   この②,③,④は,結局①に還元されるのではないかというのが後藤委員の御意見ですよね。 ○後藤委員 そうですね。それだけではなくて,柱書きの要件は十分な供述をすることができないおそれ,となっていますね。本人が録音・録画してもいいですよと言っているなら,この柱書きの要件は認められないのではないかという気がします。 ○井上分科会長 先ほど後藤委員,さらに小坂井幹事から,録画は嫌だが録音なら良いという場合,それでも良いのではないかとの意見が出ました。機器の正確性担保の問題は,岩尾幹事が言われたように,そう簡単には対処はできないだろうと思うのですけれども,そもそも,録画されるのは嫌だけれども録音はしていいという人が出てくる場合が,実際にどのくらいあるのでしょうか。そこのところが,いまひとつよく分からないのですが。 ○後藤委員 私が聞いた限りでは,被疑者が,映像が残るのが恥ずかしいから嫌だとか,自白はするけれども,語っているところの映像が残って誰かに見られるのが嫌だから,それはやめてほしいといった場合はあるのではないですか。 ○井上分科会長 それほどあるのですかね,実際に。 ○後藤委員 それは実際にあり得るのではないですか。 ○井上分科会長 頭で考えるだけなら,そうでしょうけれども。 ○小坂井幹事 私もきっちり検察庁の,去年ですか,7月4日のペーパーを全部整理して表にしているわけではないので間違っていたら恐縮ですけれども,拒否事例の相当件数が見られるのが嫌だ,録画されるのが嫌だと,記載されていたように思います。そのときに検察官の方で,では録画は切って録音にしたらどうですかという問い掛けは別にされていないので,その後の結果は分かりません。けれども,要は,見られることに抵抗があるという表現を使っているケースは,7月4日の検証結果でも相当数あったと思うんです。だからこそ特別部会の議論でも,録音だけという発想もあり得ますよねと有識者の方を中心にそういう議論が出たことは事実です。だから,確かに分科会長がおっしゃるみたいに,実際にどうなんですかと詰めていった議論まではまだ実証までしていないんですけれども,ただ,僕はそこはやはり検討の余地が当然あると思います。   こちらは正直申し上げれば,本音は,正に録画・録音の方が情報量もきっちりあるし,録音の方がずっと落ちるわけだから,そういう意味では,本来は録画であるべきであるという発想は持ってはいます。けれども,だからといって録音もやはり逐語録としてはきちんと残るわけですから,それは今の調書よりずっとベターなことは明らかなので,それをすっ飛ばしてしまう必要は何もないという発想でおります。 ○井上分科会長 「録音及び録画」と書いてあるけれども,ベストは録音及び録画だが,しかし,本人が録画が嫌だと言った場合は録音だけでも良いと,こういう御意見ですね。 ○小坂井幹事 はい。 ○岩尾幹事 多分運用面で考えた場合に,録画は嫌だけれども録音ならいいと明確に言った場合には,取調官は恐らくそういうやり方も考えるのだと思います。要は,今後こういった義務化の法律ができた場合を考えますと,やはりいろいろな本人の供述の任意性等の確保のための手段をできる限り残しておきたいというのは,取調官としてもそういう発想になるんだろうと思います。あとは,あえてどの程度あるか分かりませんけれども,規定の上でも録音と録画義務を分けて,それぞれ例外を書き分けるまでの必要性があるのだろうかというところはもう少し検討してみる必要があるのかなと思います。   一方で,小坂井幹事が提出されたペーパーでいうところの被疑者の拒否の話に戻ってしまいますけれども,あそこで言っているのは,録音と録画を分けてはいますけれども,録音も嫌だと言っている場合でも,録音は行わなければならないということになるので,そこは録音・録画を分けるという議論とは少し違うのかなという気はいたします。だから,およそ録音ならいいという場面ではないわけですね。録音も嫌だという場面でも録音はしなければいけないという意味で,録音と録画を分けられて規定されているというか,そのペーパー上はそう書かれているということで,後藤委員が言われているのとはちょっとケースが違うかなと思います。 ○後藤委員 それは小坂井幹事に代わって言えば,小坂井案の元々の基本方針が本人の意思に関わらせないという方針だからですね。 ○川出幹事 例外事由の話に戻ってもよろしいですか。 ○井上分科会長 どうぞ。 ○川出幹事 先ほど出ていました①と②から④の関係についてですが,私も,③と④については,①に解消できるのではないかという気がしています。②については,先ほど岩尾幹事がおっしゃったように,拒否したくても拒否できないという場面が十分考えられると思うのですが,③と④について,そのような場面が本当にあり得るのかは疑問に思うところがあります。ただ,その上で,あえて,①とは別に,これらを例外事由として残しておく意味があるとすると,④が特にそうだと思うんですが,捜査官から見てそこに挙がっているような事情があって,被疑者が十分な供述をすることができないと考えた場合,仮に,そのような場合も全て①で賄う形にしたとすれば,捜査官側から,拒否もできますよというようなことを被疑者に言うことになると思います。それが果たして妥当なのかという問題が生じてくると思いますので,そこの部分に立ち入らないようにするために,こうした例外事由を残しておいて,捜査機関側の判断で録音・録画しないことを認めるという方法もあり得るかなと思いました。 ○井上分科会長 その前提としては,もし拒否を例外事由とした場合,「これから録音をしますが,拒否することはできますよ。」と,拒否ができることをも告知した上で実施する。その上で,被疑者が拒否はしていないけれども,③,④,あるいは②も同じかもしれませんけれども,そのような事情が認められるときは,更に「こういう事情があるのだけれども,本当に拒否しないのですか。」と尋ねると,こういうことですか。 ○川出幹事 そうですね。捜査官が,被疑者の状態を見て,非常に不安とか緊張,羞恥心を覚えているときに,「拒否をすることができるけれども,しないのか。」と言ってもよいのかということで,それは避けた方が良いということであれば,④のような例外事由を作っておいた方が良いのではないかということです。 ○小坂井幹事 かえっていきなり切ると乱暴ですよね。いきなり切ることになりませんか。 ○川出幹事 いきなり切るというのは,どういうことでしょうか。 ○小坂井幹事 つまり意思確認のようなプロセスは全部省いてしまって,この人はもじもじしてはるからと,ブチッと切る。 ○川出幹事 意思確認という意味では,拒否できるということを告げることは当然行うことになると思います。その上で更に,拒否に向けた説得的なことをするのを認めるのかということが問題で,それはやらないということです。 ○後藤委員 おっしゃっている意味は,拒否を誘導するようなことをするよりは,このような例外を残した方が良いという意味でしょうか。 ○川出幹事 はい。もし,こうした例外事由がなくて,全部①の録音・録画の拒否で処理されるということになると,恐らく,捜査官側としては,拒否の説得とまで言わないにしても,おっしゃったとおり,録音・録画はしない方がいいのではないかという誘導的なことを言わざるを得ないと思います。 ○髙橋幹事 捜査の場面として,どんなイメージで③,④のような事態が生じるかというと,最初に録音・録画を,特に拒否しなくて始めたけれども,被疑者がブルブル震えてなかなかしゃべれない。そこで,「どうしたんだ。何でしゃべれないんだ。」と問いかけると,やはり「録音・録画されるから」というような答えが返ってくる。そういうプロセスがあって初めて,捜査官側も,こういう理由で話せないんだなと分かる。そこでまたそういう状況を認識した上で,「では,止めた方がいいのかな。」というような,押し付けるような形ではないやり取りというのは可能な気もします。 ○川出幹事 具体的にそういう状況が起きた場合は,おっしゃるとおりだろうと思います。そうしますと,③や④で,取調べの開始時点で,被疑者を見て,録音・録画を止めるというようなことまで想定されているのかどうかが問題ですね。 ○髙橋幹事 もしそういうのを想定しているとしたら,後々こういう例外要件に当たるかどうかと判断する立場としては,何で捜査官はまだ取調べを始めていないのに,どういう素材を元にこういう忖度をして判断したのかというのが非常に分かりづらくなってしまうのではないでしょうか。そうすると,やはりここに至るまである程度やり取りしながらこういう判断をしていくと考えていくと,場合によっては最終的には拒否というところに集約させるというのもあり得るのかなと思うんですけど。 ○岩尾幹事 例えば,「著しく不安,緊張」というような場面で考えられるのは,拒否はしないんだけれども,「今私が言ったことは一言一句録音・録画されてしまうんですね。」と,その録音・録画がどんな不利益に使われるかも分からないということで,なかなか言葉が出てこないので話ができないというようなケースがあり得るんだろうと思います。また,「しゅう恥心」のような部分で言うと,性犯罪等のケースで,特異な性癖を持っている被疑者が,事実は認めるけれども,録音・録画されている場面では詳しい供述はできないというような形で十分な供述が得られない,こういうようなケースが考えられるんだろうと思います。   実際,そういうケースをどういう形で認定していくかということになると,髙橋幹事が言われたように,取り調べる前からそういう状況が明らかになるということは通常考えにくいのではないかと思います。取調べをして,その話を聞きながら,どういう理由で口が重くなっているのか,供述しないのかということを確認しつつ,それはやはり先ほどからも繰返しになりますが,運用面でこういう要件に当たるということを十分疎明できるようなものというのは何らかの形で残したいと思うのは,当然捜査官としては通常の行動原理だろうと思いますから,そういう形で,どういう理由で供述をしなくなっているのかというのは残されるものと思われます。それを超えて,では,あなたは供述できないから拒否しなさいと言うかというと,それよりは,こういう要件に当たって十分な供述ができないんだという形で認定できた方がいいのではないかと思います。 ○小坂井幹事 今の岩尾幹事のおっしゃったことに即して言いますと,私どもは③,④は例外事由にならないという立場です。ですから,②,つまり私が出したペーパーでいうところの②レベルの要件説明はさせてもらって,こういうことになるわけですよね。要件説明すると,そこからこぼれてくるということがあちらも理解されることになるわけですね。そこで岩尾幹事がおっしゃったのが,「これ一言一句記録が残されたら困るんですわ。」と,こういう話が出るわけでしょう。そこはやはり取調べ技能と説得の問題にかかってくる気が私はします。それは一言一句記録するのが正に取調べであり刑事手続なんだからという話にしかならないのではないか。それであちらが納得されるか納得されないかで決まってくるのではないのかなという気がします。だから,極論すれば,それで駄目なのはもう諦めなければしようがないし,それなら話そうという場面は当然あり得るわけですから,どちらを選択するかになると思います。 ○井上分科会長 小坂井幹事が提示された案について,具体的にどういう手順でやるのか考えますと,「これから録音します。」という告知はしないまま録音・録画を始め,この例外事由に当たるときだけ,「こういう理由があるので止めます。録音・録画をしませんが,いいですか。」と被疑者に尋ねると,こういうプロセスになるということですね。 ○小坂井幹事 そうですね。 ○井上分科会長 そうすると,一般的には告知はしないということになるのですか。 ○小坂井幹事 そうですね,そういう意味ではですね。ただ,これから録音しますよと言うのが,どっちみち今のシステムでしょうから。 ○井上分科会長 今はそうですけど,これだと告げなくて良いことになるのではないですか。 ○小坂井幹事 そこまでは書いていないので,言う,言わないについては,別にそこにこだわっているわけではないです。ただ,要件に当てはまるかどうかについての説明はどのみちするわけですから,「これはどうかね。」と,こういう話になるわけです。 ○井上分科会長 小坂井幹事が提示された案の要件に当たる場合には,ということですね。 ○小坂井幹事 はい。 ○後藤委員 先ほどの議論,特に③,④に関わって,私は川出幹事がおっしゃったような,拒否の誘導あるいは誘いのようなことが仮に起きるとしても,やはり,最終的に本人が断ったということは,明確な要件にした方が良いのではないかなと思います。だから,やはり①に収束させる方が良いのではないか。そうしないと,捜査官のその時々の微妙な判断で録音・録画するかどうかが決まる,それで,後でその適否が問題になるという,非常に難しい状況が生じるのではないかと思います。 ○井上分科会長 後藤委員の御意見は,②の場合も,結局①に収斂させるべきだということでしょうか。 ○後藤委員 そうです。 ○井上分科会長 小坂井幹事の書き方ですと,ニュアンスが違いますよね。 ○小坂井幹事 私の今の案とは違います。 ○島根幹事 非常に現場感覚的な話で恐縮ですけれども,実際取調べをやっていると,特に初期段階であれば,本当になかなか反応しない被疑者というのはかなりたくさんおります。はっきり「はい」とか「いいえ」と言えればある意味ではまだこちらはやりやすいわけなんですけれども,そこまでいかないような被疑者というのは実はかなりいます。本当に黙ってしまって,こちらから何か問いかけても反応しない,では,それは嫌だということだなというようなことを言って,例えば,ちょっとうなずいたというのを黙示の拒否と見ていいのかどうかとか,またそういうところで何か争いになるようなことになっては,現場としては非常に困ることになります。そのような意味では,やはり先ほどのようなファクターというものもあった方が動きやすいのかなとは考えます。 ○井上分科会長 そろそろよろしいでしょうか。次が,(イ)と(ウ)です。これについては,まとめて御議論いただきたいと思います。(イ)が「関係者の心情,名誉,利益等が著しく害される」というものです。先ほどの(ア)の③の方は,それを慮って被疑者が十分な供述をしないということですが,(イ)の場合は,客観的にそういうおそれがあるときということです。(ウ)は「捜査に著しい支障が生じる」という場合です。これらの点について御発言をお願いしたいと思います。 ○小坂井幹事 これにつきましては,特別部会で大分議論が出ていたかと理解しております。基本構想自体がどうもそういうくくりをしていらっしゃるのではないかなと,文章を読んでいればそう思われるんです。結局は,公判再生の段階で抄本化なら抄本化することで足りる,あるいはそれより以前の,共犯者関係が特に問題になるかと思いますけれども,証拠開示の段階で条件を付けることでクリアできるということで,まず問題は生じないと理解できるのではないかと思っています。 ○川出幹事 関係者として想定される典型例は被害者だと思うのですが,その場合,この(イ)には,二つの異なる場面が含まれるのではないかと思います。一つは,被害者の「心情」を害するという面で,これは,部会で大久保委員がおっしゃっていたように,被疑者が,取調べにおいて,被害者の落ち度を含めて,あることないことをいろいろと供述したことが記録として残ることが被害者にとっては非常に苦痛であるということですから,要するに,被害者に関する被疑者の供述が記録されること自体が問題だという話だと思います。これに対して,もう一つは,被害者の「名誉,利益」が害されるという面で,これは,被害者の名誉を害するような被疑者の供述が記録されたものが公判で再生されて一般に知られることになるということを問題とするものだと思います。この両者は,問題とされる局面が異なりますので,それを例外事由とするかどうかを考えるに当たっても,区別した方が良いと思います。   具体的には,小坂井幹事がおっしゃった,証拠開示に条件を付けるとか公判での再生を制限するといった方法は,今の区分でいえば,名誉や利益が侵害される局面には対応できるのですが,被疑者の供述が記録されて残ること自体が心情を害するという局面には対応できません。それに対処しようとすれば,端的に,録音・録画の例外とするしかないということになります。   ただ,被疑者の供述が記録されて残ること自体が被害者の心情を害するので,それを例外事由にするということにした場合,例えば,性犯罪で取調べをする際に,被疑者が何を話すかを事前に全て予測することはできないでしょうから,結局,性犯罪に当たる事件は一律に録音・録画の例外とせざるを得なくなるだろうと思います。しかし,そこまで認めると,例外の範囲が極めて広くなりますので,それは難しいように思います。   次に,被害者の名誉等が害されるという局面への対応については,被疑者の取調べ状況が記録されたDVDなどをどのように使うかということも関係してきます。例えば,自白の任意性立証のために用いるのであれば,基本的には全部を見ざるを得ないでしょうが,そうではなく,実質証拠として使うということでしたら,検察官は,立証と無関係な部分は除いて証拠調べ請求するでしょうから,それによって,例えば,事件と関係なく被害者の名誉を害するような供述をしている部分が除かれる場合もあるかと思います。その上で,公判に出てくる部分については,例えば,現在でも裁判員裁判において,被害者の名誉やプライバシーを害するような供述が記載されている調書については,検察官が,全部読み上げるのではなく,裁判員に黙読してもらうといった運用がなされていると聞いたことありますが,そのような工夫をすることで対応が可能かと思います。仮に,そうした対応をすることで,名誉等が害されるという事態を封じることができるのであれば,(イ)は例外事由にしなくてもよいということになるのではないでしょうか。 ○井上分科会長 最初のところは,多分そういうふうに三つを一つと二つに分けるのではなく,最終的に心情を害するということもあると思うのですね。名誉を害するとか利益を害する,そういうおそれのあることが録音されること自体を不安がるということですが。 ○川出幹事 確かに,その供述が明らかになって名誉や利益が害されることについて不安を抱くということもあるでしょうから,その意味では,録音・録画されること自体についても,心情だけが問題ではないというのは,そのとおりだと思います。 ○井上分科会長 そうですね。心情だけに限らないので,2段階あるということですか。 ○川出幹事 はい。 ○保坂幹事 小坂井幹事に質問なのですが,先ほど(イ)のところで,開示とか再生の制限で,まず賄えるんだろうということでおっしゃったんですが,他方で,小坂井幹事の名義で出されている,加害のおそれがあるときにオフにできるという案について,これがもし開示とか再生の制限という出口規制のところで賄えるのであれば,この例外が果たして要るのかどうか,その趣旨がよく分からないのです。つまり,被疑者がそのことを気にして十分な供述ができないということを,そのフィルターを通しているのであれば,100%の保証ができないという意味でこれが例外になってくるというのは分かるのですけれども,そういうフィルターをどうも介したように書いていなくて,供述が外に出て,それが加害につながってくるということを想定しているように見受けましたので,そうだとすると,その例外は出口規制では賄えない部分があるということを前提とした加害の例外でありながら,こちらの(イ)の方の関係者の名誉に関しては,出口規制で全て賄えるというのは,想定される弊害の内容によって出口規制が変わり得るという,そういう前提でいらっしゃるんですか。 ○小坂井幹事 この案はですね,それは正に取調べ段階でのリアルタイムの御本人の心境というものに照らして,ぎりぎり例外事由を認めるとしたら,ここだろうという発想が強いですね。私自身は従来から出口規制で全て足りるはずだという発想を特別部会でも申し上げてきました。それでとことんやれないかという形でずっと組んできたわけですけれども,最終的にはここだけがどうしても残るのではないか,つまり生命,身体に関する危険があると,こういうふうにリアルタイムで思う人がいた場合には,それは黙秘権行使とは言えなくて,自分の意思で黙っているということにはならないのではないかと,そういうような思考を経た上で,ここだけが例外として残ったと,こういう発想ですね。つまり,生命又は身体に重大な危害のおそれがあるときは,これはプロセスを当然踏んでもらうんだけれども,その上で,例外にしてもいいと。それは保坂幹事がおっしゃったみたいに再生制限だけでは,あるいは証拠開示の条件化だけではもしかしたら漏れるかもしれないという危惧が強く表明されてきているので,最大限の妥協をしたと,こういうことです。 ○後藤委員 (イ)について,名誉そのほかの利益については,記録の使い方のところで,ほぼ対処ができるのではないでしょうか。また,関係者の心情まで考慮するとなると,例えば,被害者の心情といってもいろいろだと想像できます。大久保委員がおっしゃったように思う方もいるだろうし,逆に,被疑者があることないこと無責任なことを言っているとすれば,それをきちんと記録しておいてほしいと感じる方もいるのだろうと思います。そうすると,これを例外事由にすると非常に不安定なものになるので難しいのではないかと思います。 ○髙橋幹事 私としても,これを認めるとかなり例外に当たる場合が広がっていくのではないかという懸念があります。判断基準も非常に曖昧であり,安定的な運用ができないのではないかと懸念されます。例えば,被疑者があることないことをいろいろと話すというような例が出されていますが,実際にそれはあることなのか,ないことなのかというのを,その時点で本当に分かるかどうかという問題もあります。また,恐らく被害者の方が録音・録画されたくないと思うのは,例えば,性犯罪ですと,犯行態様をかなり事細かに,しかも,こんなやり取りもありましたというのを赤裸々に話すような場合とかもあるかと思います。そうすると,被害者の方の心情等を考えていくと,性犯罪の場合であったら,それこそ川出幹事がおっしゃったように,全てこういう事情に当てはまるのではないか,あるいは性犯罪に限らず,被害者のある事件で,被害者の落ち度を被疑者が強調しているような場合などもこれに当たるのではないかと考えていくと,どんどん広がってしまう懸念があるのではないかと思います。取調べの場で話した内容については,録音・録画はしておいて,証拠開示の場面とか,あるいは実際に証拠が採用されたときに,それをどう再生するか,要は,傍聴人に聞かれないような形での運用上の工夫というのも可能ですので,そういった形で手厚く保護していくというのも合理的なのではないかと思います。 ○島根幹事 この(イ)の問題なんですけれども,警察は気持ちとしては被害者に成り代わって捜査をしているという気持ちでやっておりますので,この(イ)の部分というのは非常に重く考えております。ですから,先ほど川出幹事や髙橋幹事もおっしゃったように,実は,罪種で本当に性犯罪絡みのものとかストーカー絡みのものとか,そういうようなものを全部外すというようなことも私ども検討段階では考えておりました。ただ,そうはいってもやはり捜査は常に動いていくわけなので,なかなか罪種で仮に外したとしても,どういう事件でどういうふうに出てくるかというのは分からないというところもあって難しい問題はあるなと一方では考えつつ,ただ,取調べですと,やはり公判と比べて罪体立証に必ずしも直接必要不可欠でないような部分というのも相当出てくるわけです。当然,初期的な段階であればあるほど,被疑者がしゃべりたいのであれば好きにしゃべらせるという,そういう過程を経てやっていくわけですので,その部分が,幾ら出口で規制するとしても,全部記録に残るということ自体が,やはり被害者にとってどうなんだろうと考えておりますので,こういったファクターというのも必要なのではないかと考えております。 ○井上分科会長 部会では,被害者は録音されること自体を不安に思うという指摘もあったわけで,それは,恐らく,出口規制について必ずしも全幅の信頼が置けない,そういう不信があるからではないかと思うのですね。そして,そうだとすると,仮にこの点を例外事由としないとするならば,出口規制の方について全幅の信頼を置いていただけるような整備というか,配慮を当然にしていかなければならないと思います。   この(ウ)の方は,島根幹事から何かおっしゃられることはありませんか。 ○島根幹事 ここのところは非常に結構であると考えています。 ○後藤委員 私は,結論的には(ウ)は例外として適切ではないように思います。まず,②の十分な取調べをすることができないおそれは,余りにも抽象的なので,これを例外とするのでは,制度化したことにならないのではないかと思います。   それから,①の「捜査上の秘密が害されるおそれ」については,よく分からないところがあります。取調べをして,そこで得た供述を証拠として使うという前提でこれを考えているのかどうか。もしそうであるとすれば,いずれその供述は法廷に出さざるを得ないわけですね。確かに,証拠開示についてなど,それぞれの場面で,いろいろな手当てによって対処できる場合が多いでしょう。もしそれでもどうしても対処できないというときは,そこで得た供述を証拠として利用すること自体が無理になりそうです。小坂井幹事の案には,録音・録画できない場合に,供述証拠化のための取調べではなくて,言わば,捜査のための情報取得のための手段として位置付けてしまうという発想があると理解します。対応としては,その方が分かりやすいようにも思います。その中で得られた供述で法廷に出したいものがあるのなら,それを証拠化するための取調べは改めて録音・録画の下にするというやり方の方が合理的かもしれないと思います。 ○岩尾幹事 今よく理解できなかったのですが,捜査情報の取得のためのインタビューというのか何か分かりませんが,そのやり取りの場面は録音・録画の対象にならないということをおっしゃられたんですか。 ○後藤委員 そういう場面を認めるという案があり得るかもしれないということです。小坂井案は,そういう考え方なのではないですか。 ○小坂井幹事 いや,組織犯罪等で停止要件がある場合,止めるというときに,そこで止めて何が話されても,それは証拠にはできないという立て付けなわけですよ。だから,それは裏返しで言えば,今,後藤委員が言われたように,純然たる情報,つまり証拠となり得ないもの,それについては,それは録画なしで話してもらう機会は設けている案なんです。 ○井上分科会長 小坂井幹事の案はそうなのですか。 ○小坂井幹事 そうなんです。 ○岩尾幹事 小坂井幹事の案は,要は,そこはやはり取調べは取調べであって,調書も取ること自体を禁止しているわけでも何でもなくて,ただ,それを実質証拠として使用することが禁止されているというところまでは,理解をしたんですけれども。ただ,その録音・録画を止めているときの取調べ状況は別の方法で立証してもいいというところになってくると,よく理解できないのですが,その取調べ状況を何の目的に立証するのでしょうか。 ○小坂井幹事 別の方法で立証はできないわけです。ごめんなさい,私のこの文章が非常によくないんだと思いますが,お手元にあるところでいきますと,1ページ目の,最初の○二つは理解していただいていると思うんですね,理解というか難しいことは書いていないわけですから,録画と録音の問題が最初の○に書いてあって,○の二つ目が,いわゆる例外事由として,かろうじて我々が認めるのは,この範疇ですよということを書いて,ただし,そのプロセスを被疑者の意見を聞いた上で,また,異議を述べたときは,この限りではないと,ここまでは今ずっと議論されていることですね。   三つ目の○の「録音・録画義務の規定に違反し,又は例外規定により録画等又は録音を停止して行われた取調べにおける供述は,証拠とすることができないものとする。」という点ですが,これは,違反であっても,例外事由で止めた場合でも,証拠とすることはできないんですよと,こういうくくりにしているわけですね。ただ,そこで何があり得るかといえば,当該犯罪に関わらないのか,関わるのか,純然たる証拠として日の目を見ない情報については,取得することはあり得るだろうと,こういう発想なんです。 ○井上分科会長 そうすると,そこの部分は,「規定に違反し」というところになるということですか。 ○小坂井幹事 規定に違反しない。この組織犯罪の,正にこの一つ上の要件をクリアしている場合に止めますね,止めてしゃべってもらいますね。 ○井上分科会長 今おっしゃった「一つ上の要件」というのは何ですか。 ○小坂井幹事 一つ上の○のことです。「被疑者若しくは共犯の言動,被疑者若しくは共犯がその構成員である団体の主張又は」から始まって,「取調べを録画等又は録音することにより・・・生命又は身体に重大な危害が加えられるおそれがあるときは・・・意見を聴いた上で」とある部分です。 ○井上分科会長 その部分は,生命又は身体に重大な危害が加えられるおそれががあるときに限られるわけですよね。 ○小坂井幹事 そうです。 ○井上分科会長 しかし,捜査情報をとるというのは,そのおそれがあるときに限らないのではないですか。 ○小坂井幹事 限らないです。 ○井上分科会長 そうすると,生命又は身体に重大な危害が加えられるおそれがない場合でも,それが外に出たら捜査の秘密が暴露されるということはあるのではないですか。 ○小坂井幹事 あるかもしれません。 ○井上分科会長 つまり,本人あるいは親族に危険は及ばないけれども,そういうことをしゃべったということが漏れると捜査の秘密が暴露されるという場合というのは考えられるわけですよね。その場合は,小坂井幹事の参考資料の二つ目の○に入ってこないですね。そうすると,そういうところは全部録音・録画しなければならないこととなってはいても,そういうのを外に漏らさないようにするためには,意図的にその義務に違反しろ,録音をしないようにしろ,そうすれば捜査情報としては使えると,そういうことになりはしないでしょうか。そのように違反しろというのはいかにもおかしいので,そういう場合は録音しなくて良いと正面から書くべきではないかというのが,小坂井幹事の案を一見した限りでの印象です。 ○小坂井幹事 ちょっと議論はかみ合っていないかもしれません。 ○井上分科会長 言葉を代えて言えば,小坂井幹事が言っている捜査の秘密が漏れるというのは,この本人とか親族等の生命,身体に重大な危害が及ぶ場合なんだと,そのように限定して読んでいるのですけれども,本当にそうなのだろうか。危害は及ばないけれども,その部分をしゃべったということが分かれば,捜査の秘密がばれてしまうことがあるのではないか,ということなのですが。 ○小坂井幹事 ちょっと井上分科会長の言われたこととずれがあると思うのは,捜査の秘密というのは,これは飽くまでも捜査機関側が何を漏らすか,漏らさないかという,そういう立て付けだと思うんですけれどね。こちらの生命,身体に危害があるというのは,正に被疑者側が,あるいは被取調べ側が,何らかの情報を捜査機関に与えるという場面なんですよ。だから,少なくとも,むしろ事務当局の方の発想が違っていれば私が誤解していることになるけれども,この捜査の秘密としてくくっていらっしゃるのは,正に捜査機関側が,一番分かりやすい例で言えば,これこれこういうことがあるんだけれどもどうなんだと当てる場面ですよね。 ○井上分科会長 当てる場面も含めてです。ちょっと後藤委員の議論とごっちゃになってしまったところがありますが,後藤委員は,そういう部分は録音しなくてよい。ただし,その録音しなかった部分は供述証拠としては使えない,そう言われたわけですね。これに対し,小坂井案の場合は,取調室に来てから終わるまで,全部録音・録画しなさいということになっており,今のような場合はそれを止める理由にはされていないのです,そこが違うのです。その点を確認したかったのです。 ○小坂井幹事 分かりました。それは違います,それは出口規制です,捜査上の秘密は。 ○井上分科会長 出口規制で足りるということですね。 ○小坂井幹事 はい。 ○井上分科会長 分かりました。 ○小坂井幹事 証拠開示と出口規制です。 ○井上分科会長 証拠開示については,そういう部分は開示しなくてよいとすることも考えられるという御趣旨ですか。 ○小坂井幹事 幾つかの段階が当然あるわけですよね,条件化とか抄本化するとか,それからDVDですから閲覧だけとか,幾つかの段階があり得るし,私自身は大阪で別に開示までされなかったケースはないんですけど,この前,東京の弁護士さんに聞いていると,どうも5号レベルですら開示されていないケースがあり得るようです。ですので,弁護人として余り言いたくはないですが,弊害事由はそれなりに機能はしているようではあるので,そういうことになるのかなということです。 ○後藤委員 私が小坂井幹事の案を引用したのは,供述を証拠化することを取りあえずは前提にしない取調べというのを認めるという点についてです。 ○井上分科会長 それは録音・録画しなくてよいということでしょう。そこは小坂井案とは違うのではないですか。その部分は録音・録画しなくてよいのであれば。 ○後藤委員 小坂井案の方が,そのための条件について明確に限定していますね。 ○岩尾幹事 その場合,どういう目的とか要件もなくて,今日は情報収集を目的とする,すなわち調書を取るつもりがありませんということで,録音・録画を行わない取調べができるということですか。 ○後藤委員 確かに,そこに一定の客観的な要件を定める必要はありますね。 ○井上分科会長 それほどはっきり分けられるものなのでしょうか。「今日,これからは情報収集です。だから,ほかのことはしゃべっちゃ困ります」とでも言うのでしょうか。 ○後藤委員 しゃべられても,別に,困ることはないでしょう。 ○井上分科会長 いや,しゃべっても,録音・録画していないため,それは証拠化できないわけですから,そこは録音しないといけない。そのため,しゃべり出しても,「ちょっと待ってください」と言って止めた上,取調べの手続を改めて取らなければならない。そのように,情報収集と証拠化に結び付く取調べというものを截然と分けてやる必要が出てくるわけですけれども,それが実際的かどうかということです。 ○島根幹事 すみません,供述証拠とすることはできないということがよく分からなかったのですが,要するに,被疑者がしゃべった内容を録取しているのが供述調書で,捜査側がいろいろ言っていること自体は,一つのきっかけにはなっているのかもしれませんけれども,それは別に被疑者の供述内容とは直接関係ないわけです。だとすると,今のような,こちらとして捜査上の秘密が害されるというような部分というのは,基本的には調書の中には普通は入ってこないわけなんですけれども,そこが証拠とできないというところが,よく分かりませんでした。 ○後藤委員 それは,録音・録画しないために取調べの適正の確保が危ういということですね。だから,そこで取った供述は証拠にしないと,最初から諦めて聴くということです。 ○岩尾幹事 後藤委員が言われているのは,こういった捜査上の秘密が害されるおそれがあるときというような例外事由を設けなくても,情報収集目的の事情聴取であれば,およそ調書を取らないということを前提に録音・録画の対象にはならないと,こういうふうに理解させていただいてよろしいのでしょうか。 ○後藤委員 無条件ということではなく,一定の限定をする必要はあるでしょう。 ○井上分科会長 新しい例外事由を設けるということですよね。なお,証拠能力との結び付きの点は,次のところで議論させていただきたいと思います。   時間も押していますので,今までの部分についてはこの辺でよろしいでしょうか。   今議論いただいたところについては,被疑者が録音・録画を拒否した場合を例外とするということについては,異論もありましたものの,具体的にどう要件化するかは別として,かなりの方の意見が一致しているように思われました。また,被疑者又はその親族等に加害等が及ぶ場合を例外とするということについても,小坂井幹事は,被疑者の意思と絡めての限りですし,後藤委員は拒否の中に含めてしまうということでしたけれども,ほかの方の御意見は,基本的に同じ方向を向いているのではないかという感じがしました。これに対し,その他の事由については,まだ意見の違いが大きいように思われます。   一般的には,制度趣旨が損なわれるような広範に及ぶ例外事由とするのは適切でないと思われますが,他方,取調べが現実に機能するという点もやはり考慮する必要があり,この両方のバランスをどのようにとるのかという問題だろうと思います。   今日の議論を通じまして,意見の相違点や問題点が,かなり明らかになったところですので,これを踏まえて,今後は真に例外とすべきなのはどのような場面であって,それに適切に対処するためにどういう例外事由を定めていくべきか,その必要がどれくらいあるのかといった点を詰めていく,そのような作業になっていくのではないかと思います。今後はより一層,実際的な場面をイメージし,具体的な規定の在り方も意識しながら,議論を深めていくということとしたいと思います。   次に,「(3)その他」の議論に入らせていただきたいと思います。   まず,弁解録取手続も録音・録画義務の対象とするかについて御議論いただければと思います。 ○小坂井幹事 もう当然といいますか自明のことだと思われます。実際の現在の弁解録取手続というのは,正に取調べとして機能しておりますし,詳細なものが作られることも間々あります。実際の現在の録画・録音の運用状況を見ておりましても,警察段階でも弁解録取を録音・録画されているのは結構多くて,検察段階ではほぼ全過程に移行していらっしゃいます。ですので,これを省く理由は何もないから,当然入れていただくことになると思います。私はむしろ,ここは余りに自明なんですけど,先ほど198条について質問をさせていただいたのは,実況見分なんかで,要は,現場供述なのか,指示なのかどうかというのは絶えず公判で議論になったりすることがあるんですけれども,やはりあの場面も当然全過程を原則とする以上は対象に含ませてもらうのが当然筋だろうし,そういう法制度にすべきなのではないのかということを併せて言わせていただきたいと思います。 ○井上分科会長 2番目に言われた,実況見分あるいは検証の現場での指示・説明を含めた供述については,後で議論していただくとして,弁解録取手続に絞って御意見を頂ければと思います。 ○後藤委員 現実には,私が承知しているところでは,特に検察庁の場合は,弁解録取と取調べはそれほど明確に区別してなくて,東京地検では,弁解録取書というのを別に作らないで供述調書だけという例も多いように伺いました。そうすると,やはり最初から全て録音・録画に含めるというのが合理的だと思います。 ○岩尾幹事 要は,実質的な中身の取調べを弁解録取の機会にやったときには,それは弁解録取手続と同時にというか引き続き取調べをやっているという整理になっているはずで,その場合には,もう弁解録取の冒頭で黙秘権の告知等をしている。そうすると,その規定上,あえてわざわざ弁解録取手続も録音・録画の対象にしますと書かなくたって,198条の取調べも同時に行われているわけですから,その場面は対象になるでしょう。だから,弁解録取手続だけ書く意味があるとするならば,本当に認否だけを確認しているというような単純なものになるのではなかろうかと思っています。 ○島根幹事 小坂井幹事は先ほどそこは自明だということだったのですが,当然ながら刑訴法上は弁解録取と取調べというのは分けて書いてあって,実態として取調べをやっているではないかということかもしれませんが,私どもの準則であります犯罪捜査規範では,供述が犯罪事実の核心に触れる,つまり,弁解の範囲外にわたると認められるときは,弁録ではなくて供述調書でやれとなっていて,そこは分けております。規範上は一応そういう整理で,警察の方はそういう運用をやっている。   ただ,その中で,弁録を対象にするかどうかというのは,取調べの一部だからということではなくて,それが任意性等の判断に当たって意味があるということであれば,この弁録を対象にするということはあり得るのかなと考えております。 ○髙橋幹事 裁判所の立場としても,弁録自体が証拠請求されることもありますし,正に初期段階の供述ですので,弁解録取のときにどういうやり取りがあったかということも実際上問題になりますので,やはりこの段階から録音・録画の対象にすべきだと思います。 ○井上分科会長 ほかの方はいかがですか。特に付け加えて御意見がなければ,先ほど小坂井幹事が言われた,実況見分や検証の場合の現場供述も対象にすべきではないかという点について御意見をいただければと思いますが,小坂井幹事のお考えでは,それも取調べだということですか。 ○小坂井幹事 取調べだというより,正に今,髙橋幹事がおっしゃったように,例えば,犯行再現なども,端的に供述証拠として扱われますから。 ○井上分科会長 その場合も録音・録画義務の対象として規定するということをお考えなのでしょうか。 ○小坂井幹事 考えています。 ○井上分科会長 しかし,実況見分や検証の現場における単なる指示や説明にとどまるものとして,供述証拠として公判に出していくことはない場合も多々あるわけですよね。他方,供述として出していく場合には,当然322条がかかっていくというのが判例であり,多数の考え方であるわけですから,322条との関係の限りで手当てするというのでは足りないのですか。後で証拠能力とか証拠調べの方法の制限ないし限定という議論をするわけですが,供述証拠として出てきた場合は,その証拠としての扱いのところは322条との関係でかぶっていくものと思うのですが。 ○小坂井幹事 その限りはといいますか,私どもは,これから議論になるんですけれども,テープとセットで初めて適格性が認められるという見解です。 ○井上分科会長 それが供述証拠として利用されるということになれば,その供述を得た過程,あるいはその任意性を立証する必要が出てくるわけです,後で議論するわけですけれども,例えば仮に322条1項の任意性の要件の認定ないし立証について限定を置くとすると,それだけで賄える話ではないのかということなのですが。 ○小坂井幹事 分科会長がおっしゃっているのは,その部分をテープにとっておけば良いではないですかと,こういう意味ですか。 ○井上分科会長 いや,捜査・訴追側において供述証拠として使いたいのであれば,同じような扱いをせざるを得ないはずなので,それだけで十分対処できるのではないか。実況見分や検証における指示・説明についても必ず録音・録画しなさいとする規定を置くまでの必要はないのではないかということです。 ○小坂井幹事 その点は詰めておりませんので,今日はまだ回答できません。 ○後藤委員 例えば,現場に連れて行って,そこで指示や説明を求めることは,捜査官としては,取調べではないという意識でしょう。今の井上分科会長の整理だと,そういうものは取調べの中に入れなくてよいことになると思います。けれども,322条が適用されるような情報,つまり供述証拠の採取になると更に大きな問題が生じます。例えば,平成17年の最高裁判例に表れているような実況見分として犯行を再現させるような場合がありますね。あの判例は,それを動作による供述の取得と見ているのだと私は理解しています。そのような場面をどう扱うかという問題はあるでしょう。 ○井上分科会長 供述証拠として使うのならば,結果としてそういうことになるということでしょう。だから,取調べで得た供述と同じような証拠とするための要件がかかってくる。検証調書としての要件に加えて,供述証拠として供述調書と同じ要件がかかってくるということを,その判例は言っているわけです。 ○後藤委員 しかし,捜査実務では,被疑者に犯行再現させて撮影するということを,取調べとは意識していないでしょう。そうすると,理論的には取調べとは何かという非常に難しい問題があるのだと思います。しかし,それも含めるということを条文で決めることまでは難しい感じがするので,解釈に委ねざるを得ない部分があるのだろうと思います。 ○井上分科会長 322条,そして319条も絡んでくると思うのですけれども,その証拠能力の要件にするか,あるいは取調べ方法の制限をするかは別として,そういうものを仮に置くとすると,供述証拠として使っていくとすれば,それがかかってくるのではないですか。 ○後藤委員 当然にかかってくるかが問題ですね。 ○井上分科会長 当然にかかってくるのではないでしょうか。取調べのところの規制を置かなくても,証拠能力とか証拠調べの方法に制限を置けば,それはかかっていかざるを得ないですよ。 ○後藤委員 取調べをするときには一定の例外を除いて録音・録画しろという条文になるわけですね。そうすると,犯行再現の場面はどうなるのか,そこでは録音・録画していないときに,この規定に反しているのか,反していないのかという問題が起きますね。 ○井上分科会長 証拠としての取扱いのところで要件化されれば,逆上って,実況見分や検証の時点で,仮に捜査側がそういう指示・説明等をも後の公判で供述証拠として使いたいと考えるときは,録音・録画せざるを得ないし,録音・録画していなければ,判断ミスで,後で供述証拠としては使えないことになるだけではないでしょうかということを申しているのですが。 ○後藤委員 そうなるかどうか。取調べを録音・録画せよという条文を定めたときに,実況見分は取調べではないので,録音・録画しなかったのは正当だという主張が当然出てきますね。だから証拠能力に影響しないという主張です。 ○井上分科会長 後の議論になりますけど,後藤委員のお考えですと,そういう道を残すということですよね。 ○後藤委員 残してよいのかという問題があるのだけれども,ここで取調べとはどこまでを含むのかということを,条文化によって厳密に詰められるのかという問題もあります。 ○井上分科会長 後藤委員の御意見としては,結局,犯行再現のところは,録音・録画しろという規定を設けろというのか,それは難しいので設けられないというのか,どちらなのでしょうか。 ○後藤委員 先ほど言ったのは,今の段階では難しいのではないかということです。井上分科会長がおっしゃっているのは,それも録音・録画せよという条文を設けるべきということでしょうか。 ○井上分科会長 録音・録画しろという条文を置く意味がどこにあるのですかということです。私も,実況見分や検証について一般的にそういう規定を置くのは難しいと思うのです。そして,仮に,小坂井幹事の案のように,録音・録画していないものは使えませんよ。供述調書としても使えません,取調べ状況の立証もそれ以外はできませんと,こういう規定を322条とか319条に絡む規定として置けば,その供述を得た場面は違ったとしても,公判で319条とか322条の証拠として出ていく限り,その規定がかかっていくはずだと思うので,それで賄えるのではないかいうことをお尋ねしたわけです。 ○後藤委員 つまり井上分科会長がおっしゃっているのは,そこで得た供述を供述証拠として利用しようとする限りは全て取調べとみなされるということですか。 ○井上分科会長 別に「取調べ」とみなす必要はなく,319条と322条の要件にかぶせた規定を作れば,供述証拠として用いられる限り,その規定が適用されるという,それだけのことだろうと思いますが。 ○後藤委員 だから,どういう規定を作るかが問題ですね。まず,録音・録画についての行為規範を作りますね。そして,それに反して取調べしたときは,例えば,小坂井幹事の案によれば,そのときの供述は証拠にできないとするわけですね。そうすると,犯行再現のときに,録音・録画しなかったことが,その規定に反しているのか,反していないのかが問題になるのではないですか。 ○井上分科会長 分かりました。その証拠としての取扱いの在り方について,後藤委員と私のイメージがずれているので,食い違いが出てきたのでしょうね。また後のところで議論しましょう。   それでは,「その他」のもう一つの検討課題である「録音・録画の義務に違反した取調べにより得られた供述の証拠能力について,特別の規定を設けるか」について御議論を頂きたいと思います。 ○小坂井幹事 これは,全過程について義務は設定するという前提ですよね。例外をどうするかの議論は先ほどあったとおりですけれども。それで,義務違反という事態が生じるわけです。そのときに,それで証拠能力がなおかつありますよと,これはちょっと私は違法収集証拠の議論からいっても,逆にそれはむしろ素直に証拠能力を飛ばすのが普通なのではないのかなという感じがあります。かつて,というか,今でも,物と供述とは違うんだという議論があって,むしろその場合でも,供述については,それは物とは違って違法があれば証拠能力が飛んでしかるべきだという有力学説は幾つかあるわけです。ですから,そういうことに照らしても,私は理論的にそうおかしいと批判,これから批判されるんだろうけれども,批判される筋合いではないのではないかというのが一つです。   それと,任意性問題といったときにも,部会なんかでも任意性との関連性は薄いとかいろいろとおっしゃるんだけれども,そこは刑事弁護をやっている実務家と,あるいは捜査機関側との実態に関する認識のずれが非常にあると思うんです。要は,今の密室取調べでやっていることは,事実の歪んだ調書が作られておるんですわ,これは。おるんですわと断定してしもうたら,またものすごく怒られると思いますけれども,要するに,そういう蓋然性が極めて高いわけです。そこで,では,それがきっちりしたものであったことを示そうと思ったら,ダイレクトな録画・録音でやるしかないんですね。要するに,できるはずの録画・録音ができないという場面を想定すると,これは任意性に疑いが少なくともあるんです。任意か不任意かは厳密には分からないかもしれないけれども。だから,私は任意性原則からいっても,そう論理的に筋の違ったことを言っているわけではないのです。これはやはり是非義務違反と証拠能力はセットにしていただきたい,されるべきだろうと考えています。 ○後藤委員 一定の場合に録音・録画を義務付けるという規定を設ける,いわゆる行為規範を作るとすれば,その実効性を確保する必要があるので,その違反があったら証拠能力を認めないというのは自然な流れだと私は思います。ただし,これを考えるときには,例外要件をどういうふうに定めるかも関係してくると思います。つまり例外要件が非常に,記述的といいますか,明確に限定的に書かれている場合は,違反しているかどうかも明確になるので,すぐ効果に結び付きやすいのだと思います。それに対して,今日の案に出てくるような,非常に幅広い例外がいろいろあって,しかも評価的な要件になっていると,録音・録画しないという捜査官の判断が妥当だったかどうかは非常に微妙な判断になります。その判断が間違ったからといって直ちに証拠能力の否定に結び付けるのが躊躇されるという関係があるように思います。ですから,私としては,例外規定をなるべく記述的な要件で厳格にすることと,それに違反した場合は,証拠利用を認めないという効果とをセットで定めるのが良いのではないかと考えます。 ○島根幹事 最初に,小坂井幹事の,歪められた調書が山のようにできているという事実認識自体については,警察としては,基本的には調書を読み聞かせて,それでこれでいいんだなと被疑者に確認した上で署名と指印をさせているというところがあるわけですので,それが全く問題がなかったとは言えないかもしれませんけれども,およそ歪められた調書が山のようにできているという認識は議論の出発点としていかがなものかということをまず申し上げたいと思います。   その上で,これはこの後の「第2」の話にもつながってしまいますが,仮に「第1」のような行為義務をかけて,それを前提に,いわゆる義務履行のためには証拠能力を否定するという論理になるという御主張に聞こえたんですけれども,やはりこの録音・録画というのは,取調べに対する外形的な規制なんだろうと思っておりまして,それで常に任意性に疑いがあるということには必ずしもならないのではないか。飽くまでもそういう判断をするために役に立つものだという政策的な配慮として位置付けるべきものであろうと考えております。それから,任意性の立証方法として非常に役に立つということは分かるんですけれども,それは非代替的なものかというと,これも必ずしもそうではないでしょうから,この基本構想の考え方自体が,録音・録画の有用性を前提としつつも,他方で弊害をいかに最小にしていくものかということで,バランスを持って考えるべきだろうということからすると,即証拠能力排除というのは一種の劇薬のようなものなのではないかと考えております。 ○井上分科会長 この証拠能力を否定する理由ないし根拠なのですけれども,それほど簡単に「自然な流れ」と言えるのでしょうか。例えば,違法収集証拠として構成した場合,いろいろな議論はありますけれども,ほかの違法収集証拠一般について,判例を基にした考え方と対比すると,この場合どういう理屈付けをするのかはかなり難しいと思うのですね。先ほど後藤委員は,供述が録音・録画されていないと適正とは言えないかもしれないから排除することになるということを言われたのですけれども,例えば,機械の故障の場合は録音・録画されていない。けれども,その場合については,証拠能力を認めるわけですが,その場合も適正さが証明されていないということにならないのでしょうか。録音・録画されていない供述については,いかなる例外事由に当たろうと証拠能力を否定するということならばまだ一貫しているのですけれども,そうではないわけですよね。そこはどういうふうな説明をするのですか。 ○後藤委員 それが,ある種の妥協であることは確かです。できなかったときは仕方がないだろう。でも,逆に,できたのにしなかったときに,何で救済しなければいけないか,それを救済する必要があるでしょうか。 ○井上分科会長 救済になるのですかね。そうだとすると,小坂井幹事の案の一つがおかしくなる。加害のおそれがある場合は例外に当たるというのに,証拠能力は否定するとなっているので,救済できないわけですから。 ○小坂井幹事 その場面では救済できません。ただ,私の案がややこしくなっているから誤解を招いていたら恐縮ですけれども,少なくとも機器の故障に関して言うと,割とシンプルではないんでしょうか。機器の故障がある以上は,あえて言えば,不可抗力によってダイレクトに証明する資料を持ち得なかったわけですよね。その場合には一般原則に戻って,証拠能力の立証は,それはいろいろやるわけですよ。でも,そうでない場合というのはできたわけですよね。ダイレクトな証拠を残せたわけですよね。それがありませんといって,それでは立証できんでしょうとなるのが普通だと思うんです。 ○井上分科会長 加害のおそれのある場合はどうなるのですか。加害のおそれがあって,被疑者本人も録音・録画しないことに異議を言わない場合は。 ○小坂井幹事 なるほど,私の二つ目の例外ですね。 ○井上分科会長 物理的にはできたのだけれども,そういうおそれがあるからできないわけですよね。この場合も同じ扱いにしないとおかしくないのでしょうか。 ○小坂井幹事 だから,私の名義の資料では,加害の場合は,その場で話していることについて,これはもうオープンになったら証拠にできないんだという前提があるわけですよね,元々が,例外にした理由が。 ○後藤委員 証拠能力を認めていないのでしょう。 ○小坂井幹事 そうそう。そこで話したことが残ってしまったら,要するに,俺の生命,身体,家族の生命,身体が危ないんだよと言うからこそ止めて話を始めるわけではないですか。 ○井上分科会長 でも,供述調書は取っているわけですよね。 ○小坂井幹事 取るか取らないかはどちらでもいいんですけれどね。 ○井上分科会長 いや,取っていないとおよそ証拠となりませんから,問題外でしょう。 ○小坂井幹事 いずれにしても証拠にはならないです。私の案に書いたと思いますけれども,次にまたその機会がありましたと,率直に言えば,では,証拠にしてもいいよという場面が来たとしましょうか。そうであれば,それは韓国型でやっていただくしかないんですよ,取ってもらって証拠にするんです。ちょっとややこしい説明ですが。 ○井上分科会長 それに関連して,二つに分けてしまっている。加害のおそれの部分も,取調べ状況の立証方法としては使えますとしているわけですが,どうしてこうずらしているのですか。証拠能力がないとする以上,状況を証明する必要もないのではないでしょうか。 ○小坂井幹事 ないですよ。ただ,拒否の判断が変わることがあり得ますから。 ○井上分科会長 被疑者側がということですか。しかし,こういう規定をしなくても,ここから録音してもらって結構です,録音しても危険はありませんということになれば,それ以降は録音を始めるわけですよね。 ○小坂井幹事 それでいいかどうかは議論がありますけれども,全過程を担保というか,韓国型的な担保は最低限すべきではないかなという発想です。 ○川出幹事 先ほど後藤委員がおっしゃった点についてですが,録音・録画を捜査機関の行為規範として定めている以上,その実効性を確保するために,それに反した場合には自白の証拠能力を否定するという制度も,制度の在り方としては考えられなくはないと思います。しかし,それは,捜査機関に対する行為規範を定めている他の規定,刑訴の捜査に関する規定は,すべからくそれに当たるということになると思いますが,それらについての違反があった場合との整合性がとれないので,録音・録画の規定に違反した場合も,一般の違法収集証拠排除法則の枠内で考えるべきものであろうと思います。その上で,供述証拠の場合は,排除基準が非供述証拠と異なるという考え方もあり得ますが,そうだとしても,恐らく,違法があれば直ちに証拠能力が否定されるということにはならず,証拠能力が否定されるのは,ある程度重大な違法があった場合に限られるということになろうかと思います。そして,後藤委員がおっしゃったように,違反といってもいろいろ考えられるわけで,例えば,意図的に義務に違反して録音・録画をしなかったということであれば,現在の判例においても,違法性の程度を判断する際に,捜査機関の意図がどうであったかという点が考慮されていますので,場合によっては,重大な違法となることもあるだろうと思います。他方で,例外要件は,記述的に書くといっても限界があって,ある程度幅を持つというか,捜査機関による判断の余地を残したものにならざるを得ないだろうと思います。そうすると,捜査官の現場での判断が,後に裁判所の目から見ると誤っていたという場合に,直ちに証拠能力が否定されるというのは妥当ではないので,そのような場合には,重大な違法には当たらず,証拠能力は肯定されることになろうかと思います。   それから,小坂井幹事に質問なんですが,先ほどの話で,例外事由に当たって録音・録画を停止した場合にも,その間の取調べによる供述の証拠能力は否定されるということなのですが,他方で,その場合には,取調べ状況の立証は,記録媒体以外でもできるとされていますよね。これは,具体的にはどういう場面を想定されているんですか。 ○小坂井幹事 私のペーパーの2ページの上のことですね。 ○川出幹事 はい。ここで,取調べ状況を記録媒体以外のもので立証するというのは,どういう場合を想定しているのかということです。 ○小坂井幹事 だから,その後に正に証拠ができる場合があり得るわけですよね。Aの段階で例外事由だとして,何もない。Bの段階で,いや,これは別に組織のどうたらこうたら関係ないので,私は調書を作って構いません,録画しますとBの段階で録画しますね。それで,ただ,その場合でもAの取調べが争いになることはあり得ますよね。 ○川出幹事 影響があるからですか。 ○小坂井幹事 そうそう,Bの調書の証拠能力のためにAの争いになってくる。そのときに,Aのときにないわけですから,その場合は正に今実務でやっている水掛け論になるのか,ならないのかということがあり得るというので置いた規定です。 ○川出幹事 例えば,最初の取調べでは,自分の犯行だけでなく,組織の上位者の関与についても供述しており,それが全部記録されてしまうと加害のおそれがあるので,例外として録音・録画を停止した上で取調べをしたとします。ここで想定されているのは,その上で,改めて,自分の犯行部分についてのみの取調べを録音・録画する形で行って調書を作成するというような事例でしょうか。 ○小坂井幹事 そういうことはあり得るでしょうね。 ○川出幹事 そのような事例で,前の取調べの状況が後の取調べに影響しているということが争いになったときに,検察官に対して,記録媒体以外の証拠で,前の取調べの状況を立証することを認めるということですね。 ○小坂井幹事 そういう場合があり得るだろうと思います。 ○川出幹事 そうすると,仮に,前の取調べの段階で,自己の犯行部分の供述に関して調書が作成されていたという場合,記録媒体以外のもので,前の取調べが適正に行われており,自白も任意になされていたことが立証されたときには,その調書も遡って証拠にならないのでしょうか。取調べ状況が適正だということが立証できるのであれば,証拠としていいはずだと思うのですが。 ○小坂井幹事 証拠にならないという設定になります。川出幹事のおっしゃっていることは,理屈としては非常に分かりますけれども,それをもしやり始めたら,それはもうずるずるになっちゃいますよね,何の歯止めもなくなりますよね。 ○井上分科会長 その例外の場合だけですよね。「ずるずる」にはならないでしょう。 ○小坂井幹事 分かりませんが,それで言い出すと,絶えず途中からスイッチを入れてということが可能になりかねませんかね。そうはならないですか。 ○川出幹事 そもそも,例外事由に当たる場合でも,その間の取調べによって得られた供述を証拠とできないというのは,録音・録画をしていない取調べで得られた供述というのは,そもそも適正な手続で獲得されたものではないという発想から来ているのではないのでしょうか。 ○小坂井幹事 適正でないというか,元々証拠にしない大前提のものであるはずだということです。 ○川出幹事 ですから,そこで証拠にしない理由は何なのかという話です。それは録音・録画されていないような取調べというのは適正ではないという推定が働くので,たとえ例外事由に当たっても供述調書は証拠にできないということではないんでしょうか。 ○小坂井幹事 そこは表裏があると思うんですけど,ややこしいことを言うようで恐縮ですが。川出幹事がおっしゃるような発想もあり得るんだけれども,正にここで証拠にしないというのは,証拠にしない大約束の下にやっている情報収集なんですよ。危ないから。 ○井上分科会長 そこは小坂井幹事流に想定して,そういう世界の中で物を言っておられるので,ずれてくるのではないかと思うのです。その場合も供述調書は取って,証拠化する場合があり得ると考えると,ずれてくるんですね。小坂井幹事は,そういう危ない場合は証拠化もしない。だから,外に出ることもないから,証拠として使えなくても当然ではないかと,こういうお考えなのですけれども,その出発点である録音・録画することによって危なくなる場合と証拠化される場合とがずれると,それに続く議論も違ってくることになるのではないでしょうか。先ほど言われたように,危なくなるのも,客観的に危なくなるということではなくて,最終的には供述できなくなるというところにいくわけでしょう。そうすると,ずれが出るのですよね。そこの問題かなと思いました。   もう一つ小坂井幹事に質問したいのですけれども,この証拠能力のところを,証拠能力を奪うというのと,取調べ状況についての証拠調べの方法を限定するという,その両方を提案されているのですが,後者だけではなぜ駄目なのでしょうか。証拠能力に結び付けないで,取調べ状況の立証については,録音・録画しないといけない場合は,録音・録画によらないといけないということだけでは,なぜ駄目なのですか。 ○小坂井幹事 それは制度趣旨を全うするためです。 ○井上分科会長 証拠調べの方法の限定だって,全うできるのではないですか。 ○小坂井幹事 いやいや,それは分かりません。分かりませんというのは,私自身が二段階構えの案を出してしまったなということは申し上げているとおりで,今のこの証拠能力がありませんという案は,基本的に証拠能力部分については,そのときの取調べに関する録画記録と,こうくくってしまっていますよね。従来は,正直申し上げれば全過程ということが非常に強力にありましたから,それ以前の部分が1個でも欠ければ全部飛ぶんですよと,こういう発想だったわけですよね。ただ,恐らくそれでどんどん詰めていく際には,なかなか井上分科会長の御納得も得られないだろう。そこで,とにかくセットになっていればそれが供述録取であり,任意であり,適法であるということは言えるだろう。だから,その限りでは残しましょうと,こうなったわけですよね。それで,その中間形態をどうするかについては,やはりあるものについてはそれで立証してもらう。このときに省かれるのは,結局,主張自体失当の部分ぐらいだと思いますけれども,そういう形の立て付けをすることはおかしくないのではないですか。つまり非常に制度趣旨の全うの仕方としてはいいのではないか。 ○井上分科会長 御質問したのは,取調べ方法の規制という形で設けるという案も出ていたわけで,それだけで賄う方が,証拠能力と結び付ける場合より理論的な問題点は少ないようにも思われるので,そういう可能性はないのか,お考えではないのかということを聞いたわけです。 ○小坂井幹事 だから,もちろん制度として議論していただく一つの対象としていただくことに対しては,別に何の異論があるわけではありません。ただ,当該場面は残しておくのが筋だろうという思いが強いものですから。 ○井上分科会長 そこは御趣旨とは矛盾しないように思うのですけど。 ○小坂井幹事 それと,島根幹事が言われた非代替的なもの,代替というのは幾らでもあるという言い方をされたのが非常に気になっているところがあって,それは録画・録音記録が唯一ですわ,それは。それの代替できる記録なんていうのは基本的にはないですよ,それは。速記官入れて逐語録を録るなら別ですけど。という感想を持ちました。 ○島根幹事 そうすると,今行っている実務は一体何なのだろうかという疑問があるということは申し上げたいと思います。 ○小坂井幹事 それを変えるのがこの部会です。 ○井上分科会長 小坂井幹事は,今の実務のやり方はおかしいという見方なのでそうなるのでしょうね。   時間が押してきていますので,この点については,ひとまずこのぐらいにさせていただきたいと思います。これまでの議論で,弁解録取の手続を含めるかについては,弁解録取と取調べの関係をどのように考えていくのかということがポイントであるということが明らかになったと思います。証拠としての取扱いについては,録音・録画義務に違反した取調べにより得られた供述の証拠能力を否定する,あるいは,そういう場合の取調べ状況を証明するものとしては原則として録音・録画でなければならないものとするいうやり方も含めて,どういうふうに対応していくのかについては御意見が分かれている状況だと思います。この点は恐らく,例外事由の具体的な在り方とも連動した問題ですので,そこについての議論を踏まえ,かつ,理論的な整合性にもやはり十分配慮しながら,今後更に検討していく必要があるのではないかと思います。   次に,「第2」の制度案についての検討に進みたいと思いますが,これについても具体的な検討を行うことが求められていますので,制度の採否に関する議論に終始するのではなく,できる限り制度の具体的な在り方について積極的な御意見を頂きたいと思っています。考えられる制度の概要,三つの検討課題のいずれについてでも結構ですので,御意見を伺いたいと思います。 ○島根幹事 この第2案について,結局,最初の第1案の例外事由についてどう考えるかということとも絡むのですけれども,私どもとしては,やはり基本的には現場の捜査官が明確に判断できるものであってほしいと考えております。そういう意味で,先ほどの実際の認定自体がまた争いになるというのは裁判からすればどうなんだろうという素朴な疑問を持っております。そういう意味で,私どもとしては,例えば,先ほども申し上げた暴力団関係であれば,罪種を並べてしまう,性犯罪等のものであれば,そういった条文を一定部分引いてしまうというような,今の組織的犯罪処罰法で引いてあるような書き方,つまり,事件として抜いてしまうということも考えたのですけれども,それで全部網羅し切れるかというのは難しい面もあるだろうということで,このような取調官の一定の裁量という制度も十分成り立ち得るのではないかということを考えているわけでございます。   それから,ここも小坂井幹事と多分根本的に食い違う部分だと思いますけれども,私は全過程の録音・録画でなければおよそ任意性等の的確な判断ができないとは考えておりませんので,そういう意味からも,一定部分について事務当局の方で御提案がなされたような仕組みというのは十分あり得るのではないかということをまず申し上げたいと思います。 ○小坂井幹事 島根幹事の言われた一定部分とは,どういうものがイメージされますか。 ○島根幹事 逆質問のようになってしまいますが,これは事務当局の方で何か考えておられることというのはあるのでしょうか。先ほどの御説明では,制度として画一的に定めておくということでございましたけれども。 ○保坂幹事 これがいいとか悪いとかではなくて,その趣旨だけ御説明すると,例えば,取調べのこれこれしている場面であるとか,身柄拘束中のこの段階における,あるいはこの時点における取調べは録音・録画をする,つまり,取調べというのは何日にわたったり,何時間にわたってすることはあるわけですが,このシーンあるいはこの段階のものは必ず録るというのが考えられるのではないかという趣旨で,「一定の部分」ということでございます。それがどこなのかは,正に議論いただきたいと思います。 ○島根幹事 ただいまの御説明を前提にしてですけれども,これも度々申し上げているように,この録音・録画制度の目的にも絡んでくるわけですけれども,任意性等の判断に役に立つということと,捜査上の弊害とのバランスで私ども考えるべきだと思っております。当然ながら,被疑者がいつ,何を言い出すかというのは正直分かりません。ただ,総体的に見てそういう弊害が少ない部分というのはあり得るのかなということで,例えば,先ほど「第1」の方で出てきておりますけれども,弁解録取の場面であるとか,それから,供述録取のさなか,先ほど,幾ら署名があっても,その調書を信用できないという話がありましたが,そうやって調書を読み聞かせて間違いないかと,何か言いたいことないかと言って確認している場面を録れば,私はかなりの程度任意性等の判断に役に立つのではないかと,そういうことも十分あり得るものと思っております。 ○小坂井幹事 それだと,やはり基本構想そのものが打ち出している,正に深刻な支障のみ,それは「第1」に係る文言だったかもしれませんけれども,なるべく広く,なるべく録画・録音していこうという趣旨に沿っていない。今,任意性立証の関係で言われまして,私自身は確かにおっしゃるとおり,任意性立証,信用性立証自体,全過程と一体だと思いますけれども,少なくとも取調べの適正化ということが強く今回の基本構想では打ち出されているわけですから,それからいきますと余りにも虫食いではないかという印象を拭えなくて,それだと制度としての趣旨が全うされ得ないのではないかという印象を持ちました。 ○島根幹事 取調べの適正化ということも一つの目的と仮に考えるとしても,結局のところ,被疑者がどういうふうに反応というか対応しているかというところで,その部分は読み込める部分があると考えておりますので,一定部分の録音・録画を実施すれば,かなりの程度担保できるのではないかと考えております。   それから,下の検討課題の方の話にも関わりますけれども,対象事件の範囲の在り方については,録音・録画機器の整備状況にも絡みますけれども,基本的にはやはり裁判員制度対象事件が適当だろうと考えておりますし,例外の要否についても「第1」と基本的には同じように考える必要があるのかなと考えております。 ○後藤委員 それは,一定の部分についても例外があり得るという構想ですね。 ○島根幹事 それはあり得るのではないかと考えております。 ○後藤委員 それがあり得るでしょうか。そこは現実に想定しにくい気がするのですけれども。一定の部分というのはかなり限定的なものだろうと想像しますので。 ○島根幹事 その一定部分については,今ここで,この範囲と決め打ちはしていませんので。 ○井上分科会長 必ずしも両立し得ないものではないですよね。「第1」の方の例外事由,どれを取るかは別にして。 ○後藤委員 例えば,本人が拒否したときには,あり得るかもしれませんね。 ○井上分科会長 あり得ますよね,機器の故障もそうですよね。その一定部分を録ることすらできないということはあり得ると思います。ほかのものについても,考えられなくはないと思います。だから,必ずしも矛盾するわけではないけれども,ほとんど考えられないという御意見でしょうか。   その一定の部分というものがはっきり見えてこないと,なかなか詰めた議論ができないのかもしれませんけど,髙橋幹事,いかがですか。 ○髙橋幹事 任意性の判断に資するために録音・録画をどういう部分にするかという問題なんですけど,一定の取調べの段階だけに限ったり,あるいは何かエポック的な部分だけを録音・録画しておくとした場合,いろいろな争いが生じることが想定される中で,本当にそれで足りるのかなという疑問はあります。 ○島根幹事 現場の発想からすれば,役に立つと思えば,恐らくそれは録る範囲は広がるわけです。ただ,それと,義務的にどの部分を録るかというところは違ってくると思います。結局のところ,争いがあって,任意性が否定されてしまえば,下世話な言い方をすれば,損するのは捜査側のわけですので,そこは一定の合理的なところに落ち着くということはあり得るのだろうと思っております。 ○井上分科会長 義務的なのは一定の部分に限って,あとは事案ごとの判断だということですね。その判断が間違って,後で任意性が問題になって,うまく任意性が立証できなければ,それはもうしようがない。ミスだったということになるということですよね。 ○島根幹事 そういう発想です。 ○川出幹事 対象事件の範囲についてですが,このように限定された形であれば,第1案のように,裁判員裁判の対象事件で被疑者が逮捕・勾留されている事件に限る必要はなく,もっと広げてもよいのではないかと思います。 ○井上分科会長 それでは,議論はこのくらいにさせていただきたいと思います。   「第2」につきましても,結局,部会でも採否に関する御意見があったところですけれども,この分科会としては,録音・録画の有効性,有用性を活かす趣旨から,できる限り広い範囲で録音・録画が実施されるとようにするということが望まれますけれども,その持っていき方が,島根幹事の考え方ですと,義務的な部分と事案ごとの現場の判断によってカバーするところを組み合わせて対応するのが適切だということであるのに対し,それでは足りず,やはり義務として明確にすべきだという御意見が他方にある。そこの考え方の違い,アプローチの違いがここに表れているのだろうと思います。この場面でも,結局,「一定の範囲」というのはどの範囲であって,録音・録画の対象外とすべき場面としてどういうものがあるのか,またそれが適切に除外される制度になり得るのか,そういうことが検討の課題になるのだろうと思います。本日の御議論を整理した上で,「第2」の制度案につきましても,「第1」の制度案と並行して更に議論を行っていただければと思います。   それでは,本日の議論につきましては,部会への報告を念頭に置き,事務当局作成の配布資料に加筆,修正を加えるという形で整理させていただきたいと思います。その上で,取調べの録音・録画制度について第4回会議で更に議論するかどうかは,次回の議論の検討状況をも勘案して検討させていただきたいと思います。   次回は,予定どおり,刑の減免制度,協議・合意制度及び刑事免責制度に関する議論を行いたいと思います。具体的な議事次第につきましては,更に検討の上,事務当局を通じて追って御連絡させていただきたいと思います。   予定していた事項は終了しましたので,本日の議論はこれで終了させていただきたいと思います。   なお,議事録の関係ですが,本日の会議につきましても,特に公表に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにして議事録を公開するということにしたいと思います。また前回同様,事務当局において,正式な議事録ができるまでの暫定的なものとして,本日の議論の概要をまとめて,全委員・幹事に送付してもらうことにしたいと思います。   次回は,5月16日木曜日,午前10時から午後零時30分まで,場所は同じこの部屋でということになっておりますので,御参集いただければと思います。   本日はこれで閉会したいと思います。ありがとうございました。 -了-