法制審議会           新時代の刑事司法制度特別部会           第1作業分科会(第4回) 第1 日 時  平成25年5月23日(木)   自 午前 9時59分                         至 午後 0時39分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり)           議        事 ○吉川幹事 ただいまから,法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会第1作業分科会の第4回会議を開催いたします。 ○井上分科会長 皆様には,御多用中のところ御参集いただきましてありがとうございます。   本日は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,「通信・会話傍受」,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」についての議論を順次行うことといたします。   なお,本日の議論につきましては,あらかじめお申出がありましたので,小坂井幹事に代わりまして,「通信・会話傍受」に関しては神幹事に,また,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」に関しては青木委員に,それぞれ御出席いただくことにいたします。   まず,本日の配布資料について,事務当局から説明していただきます。 ○吉川幹事 御説明いたします。配布資料4-1,4-2及び5は,本日議論が予定されている「通信・会話傍受」及び「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」について,それぞれ考えられる制度の概要と検討課題を整理したものです。この内容につきましては,後ほど各検討事項の議論に際して,それぞれ説明があります。   また,参考資料として,各検討事項に関する参照条文をお配りしております。さらに「通信・会話傍受」に関して,島根幹事から資料が提出されておりますので,これもお配りしております。   資料の御説明は以上でございます。 ○井上分科会長 それでは,早速,本日の一つ目の検討課題である「通信・会話傍受」についての議論に入りたいと思います。   この検討事項につきましては,まず,通信傍受について議論し,次に会話傍受について議論するという順序で進めていきたいと思います。   まずは,通信傍受に関し,配布資料4-1の内容について事務当局から説明してもらいます。 ○上野幹事 資料4-1を御覧ください。「通信傍受の合理化・効率化」に関しては,基本構想を踏まえて,「対象犯罪の拡大」,「立会い,封印等の手続の合理化」,「該当性判断のための傍受の合理化」について,それぞれ考えられる制度の概要と検討課題をお示ししています。   まず,「第1 対象犯罪の拡大」について説明いたします。   考えられる制度の概要では,これまでの部会での御議論を踏まえ,通信傍受の対象犯罪に追加する犯罪として,①として「窃盗,強盗,詐欺,恐喝」を,②として「殺人」を,③として「逮捕・監禁,略取・誘拐」をそれぞれ掲げたほか,④として,具体的な罪名は挙げていませんが,「その他重大な犯罪であって,通信傍受が捜査手法として必要かつ有用であると認められるもの」を掲げています。   これらの犯罪について,対象犯罪への追加の要否・可否を検討する際には,「犯罪の重大性」と「捜査手法としての通信傍受の必要性・有用性」が重要な視点になると考えられることから,これらを「検討の視点」として掲げています。   その上で,「検討課題」においては,具体的な罪名ごとに,特に検討すべきと思われる論点を記載いたしましたので,御議論いただければと思います。   なお,②の「殺人」については,現行の通信傍受法では,組織的殺人が対象犯罪とされているところ,新たに殺人を対象犯罪に追加する場合には,このような現行法の考え方との整合性をも踏まえて,御検討いただきたいと思います。   次に,「第2 立会い,封印等の手続の合理化」について御説明いたします。   考えられる制度の概要では,「傍受の対象となる通信について,通信事業者の施設において暗号化した上で送信し,捜査機関の施設においてスポット傍受の機能を組み込んだ専用の装置で復号化することにより傍受を行い」,「傍受の原記録は,傍受した通信を暗号化して記録することにより作成する」という新たな仕組みを採用し,この仕組みを用いて傍受を行った場合には,通信事業者等による立会い及び封印,裁判官に対する傍受の原記録の遅滞なき提出は要しないものとしています。   このような新たな仕組みについては,まず,現行法における立会い,封印等の手続と同程度に傍受の実施の適正を担保できると言えるものであるのかを御議論いただく必要があると思われますので,これを検討課題の「1」といたしました。   新たな仕組みの具体的な内容については,当作業分科会の第1回会議において技術的な観点からヒアリングを実施しましたので,その内容を踏まえつつ,新たな仕組みは現行法における立会人の役割に代替し得るか,立会人による封印の機能は新たな仕組みによって代替され得るか,また,新たな仕組みを採用した場合,裁判官に対する原記録の遅滞なき提出を要しないこととするかといった点について,御検討いただきたいと思います。   また,第1回会議におけるヒアリングの際にも説明があったように,通信の暗号化・復号化には鍵が用いられますが,その鍵の生成装置は誰が管理することとするか,また,鍵の具体的な生成行為や送信装置への入力は誰がどのように行うこととするかといった,鍵の取扱いについての具体的な手続・方法についても,検討課題の「2」として掲げましたので,御検討いただければと思います。   次に,「第3 該当性判断のための傍受の合理化」について御説明いたします。   考えられる制度の概要では,該当性判断のための傍受の方法として,全ての通信を一旦記録しておき,事後的にスポット傍受の方法による必要最小限度の聴取を行う仕組みを新たに採用することとしています。   この仕組みについては,傍受の実施の適正を担保する方策として,具体的にどのようなものが考えられるかが検討課題になるものと考えられます。   具体的には,現行制度の下での傍受の方法を前提とした「① 立会いを伴う方策」と,「第2」で御議論いただく暗号技術を用いた新たな方法を前提とした「② 立会いを伴わない方策」のそれぞれについて,該当性判断のための傍受の合理化の具体案を提示していますので,これらが傍受の実施の適正を担保し得るものか御検討いただきたいと思います。   なお,これらの方策は,二者択一のものではなく両方を採用することもあり得ると考えておりますが,この点についても御議論いただければと思います。   御説明は以上です。 ○井上分科会長 今,事務当局から説明がありました資料に沿って,まず,「第1」の「対象犯罪の拡大」という点から順番に議論を進めていきたいと思います。   この「対象犯罪の拡大」につきましては,これまでの部会での議論を踏まえますと,「検討の視点」に示されている二つの視点が重要となると考えられますので,この視点を意識しつつ,「検討課題」に掲げられている「個々の罪種に関する追加の要否・可否」について,具体的な議論を行っていきたいと考えます。   この「対象犯罪の拡大」につきましては,本日,島根幹事から,この点に関する御意見の概要を記載した書面を提出していただいておりますので,議論の出発点として,まず島根幹事から御発言をお願いしたいと思います。 ○島根幹事 参考資料の一番最後に付いている資料を参照していただきながら御説明したいと存じます。   部会でも申し上げましたように,警察といたしましては,近年の犯罪のグループ化,組織化の進展によって大きな被害を生じているような状況,あるいは携帯電話が主要な犯罪ツールとなっている状況等に鑑み,通信傍受の対象犯罪の拡大を図るべきであると考えております。どのような犯罪を対象とするかにつきましては,いろいろな考え方があり得ると思います。例えば,法定刑を基準にするというようなことも選択肢の一つと考えておりますが,今日は,私どもからは,捜査現場におきまして,実際の事件捜査を通した経験から要望が強く出ていて実務上の要請が高く,かつ社会的な要請も高いと認められるようなもの,そして,当然ながら通信傍受が捜査手法としての有効性も高いと認められるような犯罪類型について,通信傍受の対象とすべきではないかと考えておりますので,紹介をさせていただきたいと存じます。   資料は,イメージが湧きやすいようにということで,便宜的にグルーピングしたものでありますので,そうしたものとして理解していただければと思います。   まず,第1のグループといたしましては,組織というかグループを背景としたような犯罪を傍受の対象とすべきではないかというように考えております。振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺,あるいは組織的に広域に行われるような強盗,窃盗といった罪種につきましては,部会でも度々主張させていただきましたが,通信傍受の必要性は高いと考えております。詳細については,今回は割愛させていただきます。   そのほか考えておりますものとして,例えば,児童ポルノの関連犯罪でありますけれども,これは撮影や製造を行うグループとそれを不特定多数に販売するグループというように組織的に分業化されており,グループで行われる可能性の高い犯罪であるということで,こうした犯罪組織の実態解明を行うために通信傍受が有効かつ必要であるというように考えております。   具体的な法令としては,児童ポルノ法を考えております。この児童ポルノ法というものは,平成11年の施行でありまして,現在の通信傍受法制定以前には余り想定されていなかった形態の犯罪です。それから,いろいろな国際会議等でもこの児童ポルノ対策の推進というものが非常に重要な課題であるとされ,国際的な要請も高いと言えるのではないかと考えております。   それから,ヤミ金事犯につきましてですが,これも上納金,あるいは用心棒代といった形で暴力団の資金源となるなど組織的な犯行がなされている状況にあります。依然として年間100億円を超える被害が発生しており,社会的な取締りの要請も高いと言えます。このヤミ金も当然個人で行うものではなくて,組織を背景として行われる犯行形態であるということで,通信傍受で組織の実態解明を図る必要が高いと考えております。具体的な法令としては出資法等を想定しております。   それから,次の人身取引関連でありますけれども,これも人身取引の撲滅,それから被害者の保護ということが国際的な課題となっておりまして,近年でも外国人の女性を温泉街で売春させていたグループが摘発されるといったような事案が発生しております。これにつきましても取引でありますので,当然買う側と売る側の連絡があり,売る側,すなわちブローカー組織の実態解明を図るためにも通信傍受の対象とすることが適当ではないかと考えております。具体的な法令としては売春防止法,刑法の人身売買罪を考えております。   第2のグループは,暴力団犯罪の関連のものであります。近年の北部九州に見られるような情勢を踏まえますと,暴力団犯罪につきましては,その実態解明を図るために幅広に通信傍受の対象として取組を推進する必要があると考えております。特に,今非常に問題になっておりますのは,一般国民が標的となり得るような犯罪で,暴力団員と認められる者に市民が直接暴力を振るわれたり,襲われたりするというケースでありまして,刑法で申し上げれば傷害ですとか,逮捕監禁,恐喝,放火等が挙げられると考えております。   現実に起こっている事案の状況を踏まえますと,例えば,特別法犯として,爆発物取締罰則ですとか,火炎びんの使用等の処罰に関する法律に規定する犯罪というものも対象とすべきであろうと考えております。この種の犯罪につきましては,上位者の関与というものが当然予想されるわけですけれども,迅速な傍受を実施することによりまして,被疑者や指示を出した上位者の検挙を図る必要があるというように考えております。   次に,賭博関連の犯罪も通信傍受の対象とすべきではないかと考えております。これはいわゆる暴力団の伝統的資金獲得活動の一つと位置付けられております賭博でありますとか,あるいは特別法で定められております,ノミ行為のようなものを想定しております。これらはグループとして行われる犯罪であるということはもちろんでありますけれども,携帯電話が客とのやり取りに使用されるという意味での主たるツールでありまして,このやり取りを傍受できれば検挙に結び付く可能性は非常に高いと考えております。   それから,マネー・ロンダリング関連ということでありますが,これも様々な犯罪行為によって得た収益についてマネー・ロンダリング行為を行って,暴力団の資金として運用しているという実態がうかがわれまして,暴力団の資金源を封圧するという観点からも通信傍受の必要性は高いと考えております。具体的には組織的犯罪処罰法が想定されます。   第3のグループとしては,組織性の解明のために通信傍受が有効と見られる凶悪犯罪が考えられます。現行法におきましても,組織的殺人は通信傍受の対象となっておりますけれども,組織性を解明する有効な手段として位置付けられている通信傍受を実施する要件として,この組織的犯罪処罰法にいう組織的であるということを疎明しなければならず,傍受が有効に活用できない状態が続いております。こうした状況を打破し,効果的な傍受を実施するために通常の殺人でも傍受実施を可能とすべきではないかと考えております。誘拐等につきましても迅速な被害者の救出,あるいは組織性解明のためにも同様ではないかと考えております。   第4のグループといたしまして,テロ犯罪関連があります。先日もボストンでテロ事件が発生いたしましたけれども,我が国でもいつテロが起こってもおかしくないということでありまして,発生してから対応するということではやはりこの種の犯罪に有効十分に対応できていないと言わざるを得ないと考えております。これも,当然ながらグループで行われる犯罪であり,万が一発生した場合に速やかな対処が必要ですので,ハイジャック処罰法やサリン法,あるいは刑法でいいますと内乱や外患誘致といった罪種が現在の通信傍受法制定時の政府原案においても対象とされておりましたので,こうしたものについても通信傍受の対象とすべきではないかと考えております。   これに加えまして,最近,国際的にもテロ行為の準備活動をきちんと規制するということが強く求められておりまして,例えば外為法ですとか,関税法違反の無許可輸出といったものも対象とする必要があるのではないかと考えております。   最後に,その他として具体的に考えておりますのは,例えば,最近発生しているインターネットバンキング等を利用して預貯金を別の口座に送金するというような手口の犯罪形態です。これにつきましても,グループで行われておりまして,振り込め詐欺と似たようなところがありますけれども,被害金は出し子と呼ばれる末端構成員が引き出すケースが多くて,その出し子は検挙できても,上位者の検挙に至らないというケースも多いところであります。こういった組織の実態を解明し,上位者まできちんと検挙するためにも通信傍受が必要ではないかと考えております。以上,御説明させていただきましたとおり,捜査上の必要性があり,社会的に非常に重要な問題となっている,こういった罪種につきまして,通信傍受をより効果的に活用させていただきたいということで,対象犯罪の拡大を強くお願いしたいと考えております。 ○井上分科会長 ありがとうございました。ただいまの島根幹事の御発言を踏まえつつ,先ほどの事務当局から説明があった検討課題のいずれについてでも結構ですので,御意見,御質問等,御発言をお願いしたいと思います。 ○神幹事 通信傍受の対象は確かに4罪種に限定されているということが分かっているのですが,現実にこれによっていわゆる事案が解明されたというケースというものは,過去10年ぐらいでどの程度あるのでしょうか。 ○島根幹事 事案が解明されたというのは,例えば被疑者が検挙されたかというような意味ですか。国会等では報告をしているのですけれども,今は手元に数字を持っていないのですが,数字は公表もしておりますので,各年ごとのものが御入り用であればまたそれは別途提出いたします。基本的には薬物関係の事案であれば,いわゆる「業として」の事案が多いのですけれども,これについてはかなりのレベルで検挙ができているところであります。ここ数年では,組織的殺人,それから銃器の関係の事案につきましても通信傍受を実施した実績がございます。ただ,これは残念ながらなかなか検挙という形に結び付いていないという実態がございます。 ○神幹事 国会報告等の資料的な数字についてはある程度分かっていますけれども,要は,これまでの通信傍受がどの程度有効だったのかという,その有効性があって,なおかつ,罪種が限定されていて活用しづらいとおっしゃるなら分かるけれども,元々対象となっているものについてもさほど大した効果が上がっていないのであれば,対象犯罪をむやみに拡大するのではなく限定して考えなければいけないのかなという前提でお聞きしたのです。 ○岩尾幹事 今おっしゃった現行法の下での件数が上がっていないということについては,これから議論いたします,立会いの問題やスポット傍受の問題などとも関連がありますので,今ある対象犯罪自体について件数が少ないということが,通信傍受の有用性がないということに直結するとは限らないということを御理解いただきたいと思います。 ○後藤委員 通信傍受が有効ないし必要な犯罪の典型的な例として,振り込め詐欺が挙がっています。ここで言う振り込め詐欺は,実体法的には,組織的詐欺に相当するようなものだと考えてもよいのでしょうか。 ○岩尾幹事 要は社会的な実態として,危険性だとか悪質性という観点から見ると,振り込め詐欺というものは,通信傍受の必要性・有用性が高い犯罪だということだと思います。ただ,それを実体法的に見て,必ず組織的犯罪処罰法の組織的詐欺に該当するかどうか,そこまで解明できるかどうかというのはまた別問題ではないかという気がします。 ○井上分科会長 後藤委員の御質問の趣旨はどういうところにあるのでしょうか。 ○後藤委員 例えば,振り込め詐欺的なものを対象犯罪とするとしたときに,もし条文に組織的詐欺を対象犯罪とすると規定した場合に,どういう問題が起きるかということです。 ○岩尾幹事 部会で警察の幹事の方も御発言されていたと思いますが,組織的犯罪処罰法の組織的詐欺というものは,団体要件が規定されているなど,非常に厳格な要件になっております。そうすると,組織的詐欺に限定した場合,通信傍受でそもそも解明しようという組織性自体を傍受令状の要件に取り込むことになるというような問題がございまして,そういう意味では対象犯罪自体を組織的詐欺だというふうに限定すると,まず機能しないのではなかろうかという問題があります。 ○後藤委員 その「機能しない」という意味は,要するに令状請求ができないということですか。つまり最終的に解明したいと思っているのは,組織的詐欺なのだけれども,令状請求の段階でそこまでの疎明ができないということですか。 ○岩尾幹事 令状請求の段階の問題です。特に,傍受令状については対象犯罪の嫌疑の十分性まで求められているということからすると,かなり請求のハードルが高いのではないかと思います。また,少し理屈の観点から言うと,対象罪名以外の令状請求の要件という形で,組織的犯罪処罰法の中の団体要件を用いて限定を加えようとする場合には,これは,刑の加重要件であるのに,どうして傍受令状の請求要件の規定に,この加重要件を借りてきて何らかの限定をしようとするのかというところも,あまりうまく説明できないのかなというような思いもします。結局,傍受令状を出すときには,別表については基本的には犯罪の構成要件という形で規定されていて,それにプラスして「数人の共謀によるもの」として行われたというような犯行態様の要件も3条で別途規定されているわけで,つまり,対象犯罪そのものに組織性というようなものを持ち込まなくても,令状の要件の中に限定が組み込まれています。そもそも,補充性の要件も加わっているので,単に詐欺罪とか窃盗罪を対象犯罪に掲げたとしても,どういう態様の犯罪が対象に入ってしまい問題になるかというと,そのような事例は想定されないのではなかろうかという気もしています。 ○井上分科会長 私も思い付きですけれども,いわゆる社会的実態としての振り込め詐欺が実体法上の組織的詐欺と一致するかというと,振り込め詐欺の方がもう少し広がりがあるかもしれないと思うのです,組織実体として。実体刑法上は必ずしも組織的詐欺形を組成するとはいえないけれども,社会実態としては組織でやっている。そういうものもあると思います。そこまで対象にするのなら,実体刑法上の組織的詐欺に限定するのは狭すぎるという問題もあるかもしれないですね。 ○後藤委員 だからと言って詐欺一般を対象犯罪にするというのは飛躍があるように思います。対象犯罪の要件にするのか,令状請求の要件にするのかは様々な考え方があり得ると思うのですけれども,組織的詐欺を対象犯罪とすると令状が発付されないからといって,いきなり詐欺一般に広げるというのは飛躍があるのではないでしょうか。そこに何らかの限定が必要ではないかと思います。   そのためにどういう限定をするかという問題ですね。もしも,最終的に解明したいものが,捜査官側の目的としては組織的詐欺に当たるのだけれども,その組織性について令状請求の段階では疎明ができないということが問題であれば,その組織性の部分についての疎明の要件を緩めるというような考え方があり得ますね。 ○井上分科会長 抽象的にはそういうことを言えるのかもしれないのですけれども,具体的にはどうすればよいということですか。 ○後藤委員 今は,全部について,十分な理由が必要になっているわけですよね。団体として行っているということについても十分な理由がないといけないという作りですね。 ○井上分科会長 そこは要件の括り方の問題ですけれども,岩尾幹事が言われているのは,「数人の共謀」というところで限定しているので,不都合はないのではないかということなのです。いずれにしろ,結果として限定しなければならず,単なる単純詐欺や単独犯の詐欺などを対象にするというようなことは,どなたも念頭に置いてないと思うのですね。その限定を,罪名のところで行うのか,令状発付の要件のところで行うのかという問題だと思います。   後藤委員の意見としては,入口のところで狭めないといけないということなのですか。 ○後藤委員 そもそも目指している犯罪が今の厳格な組織的詐欺よりもっと広いものだとすると,対象犯罪としては詐欺という形にして,ただ令状請求の要件のところで,組織性に当たるものの疎明を令状請求の要件とすることも考えられます。 ○井上分科会長 令状請求の要件のところで組織性を要求するのなら,罪名のところで団体要件を疎明しろということと同じではないですか。組織性というところの定義の仕方だと思うのですけれども,いずれにしろ組織性を解明しようというのが目的で,令状発付の段階でそこまで疎明することは難しいとなると,どちらで行っても難しいということにならないですか。 ○後藤委員 完全な疎明は難しいとしても,それを疑う根拠はなければいけないのではないでしょうか。 ○岩尾幹事 通信傍受法3条には,「別表に掲げる罪が犯されたと疑うに足りる十分な理由がある場合において」ということ,プラス「当該犯罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるとき」という要件があり,共謀の点については,当然疎明が必要になっているわけです。仮に,対象犯罪は組織的犯罪処罰法の組織詐欺にしておいて,その組織性の疎明の程度を少し下げるということにすると,結局,現行法に規定されている「数人の共謀によるもの」という要件を疎明するのとほとんど変わらなくなるのではないですか。組織的詐欺の構成要件としての「団体の活動として」というようなものまで求めなくて,疎明の程度を緩めると,結果的には「数人の共謀によるもの」ということを要件とすることになってしまうのではないかと思います。   先ほどもう一つ申し上げたのは,通信傍受法3条には,それにプラスして,補充性として「他の方法によっては,犯人を特定し,又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難である」という要件も加わっているので,それらを総合したときに,どういう詐欺が入ってきてしまうのか,御懸念されるような態様はどういうものなのかというのがあまり想定できないのではないかと思います。 ○後藤委員 「数人の共謀」という要件ではちょっと広すぎるのではないかと思います。振り込め詐欺的なものをイメージしたときに,もっと厳格な絞り込みが必要だと思います。例えば,その犯罪を行うことを目的とする組織によって,不特定多数の人に対して反復継続して行っていることが疑われる,そこから先の表現は難しいですが,十分な理由があるとか,相当な根拠があるとか。 ○神幹事 私も後藤委員と同じでして,やはりこの資料に出ているような刑法典に載っているような単純な構成要件の窃盗だとか,詐欺だとかということではなくて,何か絞りがあっていいのではないかと考えています。一つは,後藤委員が今おっしゃっていたような組織的な形の要件,つまり,組織的犯罪処罰法の要件をくっ付けるという形のものなら理論的には考えられるのかなと思っています。それが,いろいろ難しいとおっしゃっているとするならば,先ほど島根幹事がおっしゃった正に組織的ないろいろな意味合いの犯罪が出ていたと思うんですが,それを取り込めるような形の何か限定するようなものが,組織性という要件が必要ではないだろうか。現に今の4罪種についての通信傍受法の規定を見てみても,あれはある意味では罪種のところでもきちんと絞った上でやっている,すなわち通信傍受によってこういうことが行われ,一般の国民を巻き込むようなことはすごく少ないですよというメッセージが伝わっていると思うんですね。それを「数人の共謀」という要件だけでもって通信傍受を実施できるとすれば,そのメッセージ性がなくなってしまいます。元々政府原案でかなり幅広にあった対象犯罪が限定されたというのは,やはりこれから行われるような犯罪,将来犯罪のようなものまでが通信傍受令状によって傍受が行われるということに対して,いろいろな角度から議論する中で,これは組織的なものにある種限定していこうではないかという形で限定されたと思うので,対象犯罪についてもそういった限定する要件を具体的に英知を絞って,例えば振り込め詐欺なら振り込め詐欺グループ,窃盗団の窃盗ならその窃盗団というものを取り込めるような,構成要件で作ることは難しくても一般的な何かができないだろうか,そういうふうに考えているところです。 ○髙橋幹事 具体的な知恵は持ち合わせていないのですけれども,やはり「数人の共謀」という要件だけだと,今,ターゲットとしようとしている組織的な振り込め詐欺とか,あるいは集団で強盗,窃盗を繰り返す強盗団,窃盗団以外のものもかなり幅広に取り込んでしまう危険性があるので,後藤委員や神幹事が言われたとおり,いろいろと考えて,うまく絞り込めるような規定の仕方ができればいいと思っています。 ○島根幹事 いろいろな御意見があるのも分かっておりますけれども,私どもとしても一般的に行われているような単純な詐欺のようなものを対象として取り込みたいと考えているわけではありません。いろいろなお知恵があり得るのであれば,それは本当にこれからの検討だと思いますけれども,結局先ほどもお話が出ましたけれども,入口のところで絞ってしまうと考えるのか,それとも今の実質的に令状の審査要件である通信傍受法3条本文と各号のところで,そこは自ずとある程度限定がされてくるのではないかと考えるのか,そこの考え方というのは多分大きく二つあるのではないかと思っております。しかし,なかなかこの3条の現在の要件自体を変えるというのは,恐らく全体に響く話になってくるので,結構大変なのではないでしょうか。捜査機関は単純な詐欺について通信傍受を行うことは考えていないと言っても,実際にはやり得るではないかと思われるかもしれませんが,やはり通信傍受というものは非常に捜査の労力が掛かる捜査手法でありますので,本当に組織の上位者をターゲットとする場合に実施したいと私どもとしては当然考えております。また,いろいろな,先ほどの補充性ですとか,そういうものの疎明というものをきちんとやっていかなければいけませんので,例えば,「数人共謀」という要件であるからといって3人で単純な詐欺を行ったような事案まで傍受の対象に入ってくるかというと,それは現実の令状審査の段階で,かなりいろいろな問題点が指摘されてくるということになるのではないかと考えております。 ○井上分科会長 対象犯罪のところで絞らないで,要件のところで絞るとすると,恐らく念頭に置いている犯罪によって,要件の絞り方というものが変わってき得る。そうすると,いろいろなタイプのものを要件として用意しないといけないかもしれなくなるので,その辺も考えておかないと,具体的に条文を書き込めないのではないかという感じがします。   今までは専ら振り込め詐欺の話であったのですけれども,他の罪種の関係では御意見いかがですか。 ○神幹事 部会での議論では,具体的な意味合いでの突き上げ捜査が非常に難しくて非常に捜査機関としては困っているという犯罪としては,外国人を含めたいろいろな窃盗団による窃盗だとか,いわゆる振り込め詐欺,それについては,恐らく部会の委員・幹事の方たちもある程度のイメージを共有できたと思うのです。   ただ,ここの強盗,恐喝となった場合については,具体的なイメージはちょっとすぐには浮かばないのですよね。それを取り締まらなければいけない,組織的なものが増えてきたということだけで,それを対象犯罪に入れてしまうということになると,なかなか今私たちが言っていたようなイメージのもので限定するのも難しくなるので,イメージを共有できないものまで対象犯罪に入れるのはいかがなものかと考えています。   逮捕・監禁,略取・誘拐のところについても,略取・誘拐については基本構想の中にもありましたけれども,逮捕・監禁についての組織的な形の一つのイメージ像というものも,先ほど言った窃盗団だとか,振り込め詐欺グループとはちょっと違って,イメージの立てにくいものがあるなという感じがあるので,なるべくそこは限定すべきではないかと思います。部会の皆さんがイメージを共有できて,これは必要だねと考えるものに限定されるべきではないだろうかと思っています。 ○上野幹事 事務当局から申し上げますと,強盗については,集団窃盗が集団強盗になり得る話ですので,窃盗とセットにして資料に挙げております。それから,恐喝については,世間で言われている振り込め詐欺の中には恐喝になるものもありますので,そういう意味で詐欺とセットにして資料に挙げております。 ○神幹事 今のお話では,強盗一般,あるいは恐喝一般を対象犯罪とすることを考えていない,振り込め詐欺なり,あるいは窃盗団による窃盗に関連して入ってくるものを想定しているということだとすると,それを想定できるような形でこれらを取り込むという形の縛り,組織性の縛りというものをみんなで英知を絞って考えるべきではないかなと思っているのですが。 ○井上分科会長 事務当局から配布資料の趣旨について説明がありましたが,島根幹事が作成した資料の趣旨についても御説明をもう少ししていただければと思います。 ○島根幹事 私の配布した資料ですと,「1」の「組織を背景とした犯罪」と「2」の「暴力団犯罪関連」については,私どもとしてはかなり広く対象として取り込んでいただきたいというところがあります。一般国民が標的となり得るものについては,幅広にということです。強盗や恐喝については,事務当局のようなお考えももちろんあり得ると思いますけれども,私どもとしては,事務当局のお考えとオーバーラップする部分もありますが,違った角度からのものとしての罪名を取り上げさせていただいたということでございます。 ○岩尾幹事 強盗については,現行法の政府原案では強盗致死傷が対象犯罪に入っていたので,振り込め詐欺や集団窃盗の延長線上にある強盗のほかに,犯罪の重大性という観点から強盗致死傷をどう考えるのか,ということは別の切り口としてあるのかもしれないと思います。 ○井上分科会長 ほかにも,いろいろな犯罪が挙がっており,特に島根幹事のペーパーでは相当いろいろなものが挙がっているのですけれども,御意見があればいただきたいと思います。神幹事の感覚ですと,児童ポルノとかヤミ金関連の犯罪については説得性がない,イメージが湧かないということですか。 ○神幹事 私ども弁護士ですから,そういう事件はやっていますから,ある程度は分かりますけれども,そこまで対象犯罪を広げるものなのかなということはあります。元々通信傍受そのものの創設自体に反対してきましたので,やはり必要最小限,今必要なので困っている,今はないですけれども,蛇頭のようなものがあったので,集団密航が政府原案に入ったような形で,今,困っているものをきちんと対象とするという形で限定されるべきではないだろうかと思います。 ○井上分科会長 部会で私も言いましたけれども,今既に有効な捜査手法がなくて困っている犯罪もそうですけれども,近い将来,差し迫って必要になりそうなものも取り込んでおかないと,立法としては不備なのではないかという見方もあるように思います。 ○上野幹事 事務当局から,国会報告いたしました通信傍受実施状況につきまして,御紹介いたします。平成24年に通信傍受を実施した事件数は10件で,その内訳としては,拳銃所持等の事件が3件,組織的殺人の事件が1件,薬物関連の事件が6件であり,計39人を逮捕しております。   通信傍受を実施した10件の事件について,罪名と逮捕人員を順番に御説明しますと,1件目が覚せい剤取締法違反の事件で,1人逮捕し,2件目から4件目までの銃刀法違反の事件では,いずれも逮捕人員はございませんでした。5件目は麻薬特例法違反の事件で,これも逮捕人員はございませんでした。6件目が麻薬特例法違反の事件で,11人を逮捕しております。7件目が麻薬特例法違反の事件で,12人を逮捕しております。8件目が麻薬特例法違反の事件で,8人を逮捕しております。9件目が麻薬特例法違反の事件で,7人を逮捕しております。10件目が組織的殺人の事件で,逮捕人員はございませんでした。   ただし,この逮捕人員は,通信傍受を実施したことで逮捕できた人数を計上したもので,その事件で最終的に逮捕できた人数とは必ずしも一致しません。また,これは飽くまでも平成24年中に逮捕した人員ですので,例えば平成25年に入ってから更に捜査した結果逮捕できたことで人員が増えている可能性もございます。平成24年に関しては以上でございます。 ○井上分科会長 まだ御意見もあろうかと思いますが,「第1」の「対象犯罪の拡大」についての議論はひとまずここまでとさせていただきます。これにつきましては,対象犯罪を一定の範囲,具体的にどの範囲かは別として一定の範囲で拡大する必要があるという点では,基本的に認識が共有されているのではないかと思われます。他方,具体的にどのような範囲で対象犯罪を拡大するのかという点については,見解の相違があったところであります。また,拡大するとしても,構成要件に組織性など何らかの要件を付加することにより限定すべきではないかという御意見とこれに対する反論,あるいは令状発付の要件のところで,現行法よりもっと絞り込むべきではないかという御意見とこれに対する反論も示されたところです。今後は,こうした議論の状況を踏まえ,どのような罪種をどのような形で追加するのが適当かについて,更に具体的な検討を行っていきたいと思います。   次に,「第2」の「立会い,封印等の手続の合理化」及び「第3」の「該当性犯罪のための傍受の合理化」についての議論に入らせていただきます。   まずは,「第2」の「立会い,封印等の手続の合理化」について議論していただいて,その後,「第3」についても議論を拡大していくという形にしたいと思います。「第2」の検討課題のいずれについてでも結構ですので,御意見等がありましたら御発言をお願いしたいと思います。 ○後藤委員 前回説明していただいたものをもう一度反芻してみて分からなくなってしまったことがあるので,今,お分かりだったら教えていただきたい点があります。前回いわゆる原記録の作成の手順は分かりました。けれども,現在,通信傍受法の22条の傍受記録というものがありますね。それはどの段階でどういうふうに作ることになるでしょうか。 ○上野幹事 裁判所に提出する原記録を作るのと同時に傍受用の記録も作るということになるのですけれども,裁判所に提出する原記録には暗号を掛けてしまうので,出来上がった時点から全くいじれなくなるわけです。傍受用の記録,つまり,捜査で活用する方の記録については,暗号を掛けてしまうと全く活用できなくなりますから,そのまま暗号を掛けずに作成するということで理解しております。 ○後藤委員 そうするとそれは中身としては,裁判所に行った原記録と全く同じものということですか。 ○岩尾幹事 裁判所に提出する原記録と同じものが傍受記録用として一旦作成されますけれども,傍受記録については,そこから消去する部分があるので,そういう意味で違いがあります。ただし,傍受が終わった段階では原記録と同じ傍受記録用の記録が同時に複製版のような形で出来上がっています。 ○井上分科会長 傍受記録を作らなければ捜査に活用できないですよね,原記録自体は見られないわけですから。 ○岩尾幹事 原記録はそのまま封印して,速やかに裁判所に提出されるということですね。傍受記録も同じタイミングで作成していく,そういう理解でよろしいですね。 ○島根幹事 そこは,今の法律の規定,20条と22条のところですね。原記録と傍受記録の作り方は,基本的に同じと御理解いただければと思います。 ○井上分科会長 ほかの点でも結構ですので,御発言いただければと思います。 ○川出幹事 検討課題の「1」のところですが,部会で申し上げたことの繰り返しになりますけれども,ここに立会人の役割として挙がっている四つの点は,第1回の作業分科会で警察庁の方から説明していただいた方法によれば全て代替ができるだろうと思います。   まず,一つ目と二つ目の点については,通信事業者から通信を捜査機関の施設に送るわけですから,通信事業者によって担保されることになりますし,三つ目のスポット傍受についても,適正にスポット傍受を行う機能を組み込んだ装置でしか傍受ができないということですので,ここも問題ありません。それから,四つ目についても傍受した通信は,自動的に全て録音するように設定しておくことになるでしょうから,この点も代替し得ると思います。   それから,2番目の立会人による封印の機能についても,原記録については出来上がった時点で暗号を掛けるということですから,改ざんすることはできませんので,これも問題なく代替できるだろうと思います。   最後の,裁判官に対する原記録の遅滞なき提出を要しないこととできるかということについては,現行法で,遅滞なく原記録を提出しなければならないとされている理由が何であるのかに関わるかと思います。その理由としては,一つには,捜査機関が長期間持っていると紛失してしまうおそれがあるのでそれを防ぐということ,それからもう一つは,捜査機関が封印を剥がして,中身を改ざんする可能性があるので,遅滞なく提出させることにより,その余地をなるべく少なくするということが考えられます。   このうち,紛失の点は,どういう仕組みをとっても紛失の可能性はありますので,そこは同じなのかもしれませんけれども,改ざんの余地を少なくするという点は,先ほどの話にあったとおり,新たな仕組みの下では改ざんのしようがないわけですから,そうだとすると,遅滞なく提出しないことにしても,適正は担保されるということになるのだろうと思います。紛失してしまう可能性がある点は,そもそも,遅滞なく提出しないと担保できない話なのかを考えてみる必要があって,それは,むしろ,管理を適正化することで担保すべきものではないかと思います。 ○井上分科会長 現行法を作ったときの記憶が余り鮮明ではないのですけれども,遅滞なき提出という要件は,改ざんの可能性をできる限り小さくするという趣旨によるものであったのではないかと思います。できるだけ速やかに,中立の立場の裁判所の下に原記録を置いた方がいいだろうという発想だったのではないかと思います。 ○神幹事 今の川出幹事の意見は大体私もある程度は理解できます。ただ,私どもとしては完全にこれは今までの制度と同程度になっていると言えるのかどうかということについては若干疑問があります。一つは,現行法上,立会人は外形的には何かをチェックする形,何ができるかどうか分かりませんけれども,第三者がそこにいることによって悪さはしないというか,そういう抑止力が働くという部分があったと思いますし,例えば外形的なチェックをするといった場合において,スポット傍受をして該当性があって聞いていると思っていたら,どうも見ていたらずっと聞いているということが分かった場合には,やはりそれなりの意見を言うことがあるとか,そういうことがあったはずなのです。そういったことが,警察の施設の中で警察が行うとなった場合には,その部分とはちょっと違ったものが残るので,完全には代替はできないのではないだろうか。   更に言えば,これは蒸し返して恐縮なのですが,日弁連的には元々傍受の実施を適正に担保できるかどうかということについては,現行の制度だけでは不十分であるという認識を持っています。それはもう既に部会で幾つか意見を述べているので,そういった場合については独立した第三者による監視が必要ではないだろうかと述べています。ここでは述べません。そういった第三者機関のようなものが入れば,今のような形で立会人を用意したりするということはなくてもいいかなということは分かりますけれども,それとちょっと違うのではないかという意見を述べたいと思います。   もちろん封印に関しては,川出幹事と全く同じで,ここに何か入るということはないだろうと思います。ただ,いわゆる一括して後から裁判所に提出するということについては,先ほど改ざんということに関して言えば,恐らくそういうことはないかもしれませんけれども,紛失なんていうのは証拠物を警察で紛失することも結構ありますので,そもそも終わったものを警察に留めておく必要がないという意味で,今までどおり終わったものは逐次裁判所に送るのが妥当ではないだろうかと思います。 ○井上分科会長 立会人の機能のところは,本来の趣旨より膨らませておられるのではないかと思います。立会人がいることによって圧力を掛けるということまでは想定してないはずなのです。そこも,現行法の立案時にある程度議論をしたはずで,日弁連の御意見はどうだったかは神幹事も加わっておられたので御承知かもしれないですけれども,多くの意見はそこまでの役割を立会人に負わせるというものではなかったと思います。   第三者機関については,この場では特に立ち入りませんけれども,その機関にどういうことをすることを期待しておられるのかという機能が不鮮明ですので,もし部会の場で,第三者機関を設けよといった意見をお出しになるのであれば,そこのところも明らかににしていただく必要があり,そのような質問をさせていただくつもりです。 ○髙橋幹事 検討課題「1」の最後の「○」に書かれた裁判官への原記録の提出の関係なのですけれども,通信傍受の手続の合理化という関係でみると,捜査機関としても今までの実務で原記録ができたらそれをすぐに裁判所に運ばなければいけないということ自体も事務としてはかなり煩瑣だったということが前提になっていると思います。神幹事から逐次裁判所に送るのが妥当ではないだろうかという御発言がありましたが,きちんと保管した上で,逐次ではなく合理的な期間内にまとめて届けるという形にして,事務を合理化するということにしても,適正さの担保も確保できるのではないかと思います。 ○島根幹事 原記録の提出の関係なのですけれども,まず現在の実態で申しますと,部会のときも申し上げましたように,通信傍受はかなり全国的にも限られた施設で行っておりますので,私ども都道府県警察というのは,大体自分の県警の管轄内で活動することが通常なわけですけれども,通信傍受の場合ですと,かなり遠距離の施設に行ってそこで傍受をして,原記録を管轄の裁判所に運ぶという作業をやっておりまして,非常に捜査機関側にとっては大きな負担になっているというのが実態でございます。   先ほどの遅滞なく原記録を提出するということが改ざんを防止するという意味に力点を置くのであれば,今回の技術的な手法で改ざんが不可能であれば,遅滞なくというところをある意味では緩和するということは可能ではないかと考えています。先ほどの紛失防止というのは,私どもとしては非常に恥ずかしい話であり,勿論本来ないに越したことはないのですが,法律としては,紛失防止というところに力点を置いて考えているよりは,やはり改ざん防止に力点を置いているのであろう,そうだとすると,一定の間隔で裁判所に提出することにしても,事後的なチェックは十分に可能であり,適正担保は確保できるのではないかと考えております。 ○井上分科会長 そろそろ「第3」の方にも議論を拡大して進めていきたいと思います。「第3」は,事後的にスポット傍受を行う仕組みについての適正担保方策の在り方ということですが,先ほど事務当局から説明があったように,立会いを伴う方策と伴わない方策は並存することもあり得るという前提で御議論いただければと思います。 ○神幹事 「第3」に関してですが,この立会いを伴う方策というものは,恐らく全国一律に傍受装置を全部配置できないという場合については,従来どおりNTTなり通信事業者の施設で行わなければならないという場合を想定したものという理解でよろしいのですか。しかもその場合についてはリアルタイムでやらなくてもできるという形にしているという点が違うというだけと理解していいですか。 ○岩尾幹事 新しい手法といいますか,機械的な担保をするという方策を導入することとしたときに,新しい方策で一本化するのかというと,やはり現行法の方策は残した上で,新しい方策でやる場合にはこういう手続になりますよということを法律に加えるということが考えられるのではないかと思います。そうすると,どういう場合にどちらの手法を採るかについては,便利のいい方が合理的に選択されるのでしょうから,旧来の手法がどの程度使われるかは分かりませんけれども,その点も一応議論する必要があって,現行法ベースでやったとしたら,その現行法の中にこういったスポット傍受の事後的なやり方というものを入れることの可否についても議論していただきたいということです。 ○後藤委員 スポット傍受をするための機械があって,それがきちんと機能するので裁判所に行く原記録と同じものしか残されないという期待があるわけですね。そうすると,本当にそのように機械がきちんと機能しているかを,誰がどうやって確かめるかという問題があるのではないでしょうか。そうでないとそういうふうに作ってあるのだから大丈夫だ,信用しなさいというだけのことになってしまいますので。機械がそれ以上の不正な操作ができないものになっていることを誰がどうやってチェックすると考えたらよいでしょうか。 ○井上分科会長 後藤委員,何かアイデアはおありですか。 ○後藤委員 先ほど神幹事が言われた第三者機関はそういうチェックをすることを期待されているのか思います。 ○井上分科会長 第三者機関なるものについては,部会で議論してもらおうと思うのですけれども,モデルにしておられるオーストラリアのオンブズマンが果たす役割は必ずしもそうではないですよね。 ○後藤委員 そこは,機械の機能を確認する何らか制度的なものが必要でしょう。 ○井上分科会長 何らかの形での確認が必要なことについては余り異論がないと思うのですけれども,そのために具体的にどういう形があり得るのか,適切なのかという問題でしょう。 ○神幹事 今,後藤委員がおっしゃったように,その機械が今我々が説明を受けているようにきちんと作動するものかどうか,それがあって初めて代替できるかできないかという議論ができるわけですから,それが作動するものであるということを誰かがきちんと保証しなければいけない。それは警察の関係者であってはいけない。そういう意味ではこの種の傍受装置に関する専門的な知識を持った人にやってもらわざるを得ない。一番確実な方法だけれども,金と時間がかかってどうしようもないのは,リバースエンジニアリングの逆解析をして確認するという方法があります。しかし,これは間違いありませんということで一番いいですけれども,そんなことは現実的ではないと思います。そうだとするならば,例えばソフトウェア監査というものがあって,それを第三者機関に認証させるというような形のものが入っているISMSとかISOの2万7千何番台というそういう具体的な形の認証を取ったものを入れるとか,あるいはまた,装置を作って納入した業者に自分のところの製品は間違いないという宣誓をさせるというような方法があります。この場合,もし宣誓に違反して問題のあることが発覚したら,その業者は恐らく致命的な批判を受けることになるから,納入している装置が間違いないということを保証するような形のものが必要だと思います。   それからもう1点,納入した装置が更にその後もきちんとそのとおりになっているかどうかということもやはり見ておく必要があるのではないかと思います。これもやはり専門的な第三者が定期的に,納入業者,作った業者であるとか,場合によってはそのことに詳しいNTTの関係者が確認を行って,きちんと作動していますよ,うちの傍受記録はそういう形しか使われていませんよということを見るということがやはりあって初めて,皆さんが安心できるのではないでしょうか。 ○島根幹事 具体的なやり方についてはまだこれから検討しなければならないと思うのですけれども,装置については一定の機械的・技術的な形のものを作っていくわけですので,基本的にはまず仕様書を作って,その仕様に基づいて業者が当然それに従った形でやる。そして,その仕様どおりにできたかどうかということを監査して,それで納入されるということになってまいります。基本的には特段秘密の事項がない限りは,その仕様というものはオープンになるわけですので,そこで広く一般の方が見るということも可能ですので,それ以上に何かもう少し専門的な方が見るべきではないかということは,例えば内部的にそういったものを検討することはあり得るのかもしれませんけれども,それ以上に第三者的なものを法的に義務付けるというところまで必要が果たしてあるのかと,そこまでの必要性は疑問だということであります。 ○神幹事 加えて傍受装置というものはかなりシンプルなものにしておくべきだと思います。傍受をするために必要なものしか使えないという形のものにして,例えばキーボードもない,マウスもないとか,そういった形のものにして,聞いたところは残るけれども,聞かなかったところは消えてしまうものとか,スポット傍受機能が付いているとか,必要最小限のボタンが付いているとか,そういうすごくシンプルなものでよいと思います。それほど専門的でない人でも使えるものにする。それにインストールして,ほかのものができないという形にする必要もあります。 ○井上分科会長 機器が見かけ上シンプルであるということと機能が確実であるということとが,本当に一致するのかどうか分かりませんし,見たところシンプルだと安心できるというのもいかがなものかとも思いますけれども,御趣旨はよく分かりました。   鍵の点についても検討課題「2」で挙げているのですけれども,今のお話は,専ら機器の話ですよね。 ○神幹事 鍵の点については,これは専門的ないろいろな鍵の作り方があるらしいのですが,今度予定されているものはどのようなものかということは分かりますでしょうか。いわゆる共通鍵なのか,いわゆる公開型の鍵で暗号系を持っているものなのか。何か二つのパターンがあるらしいのですけれども。要するに,暗号を解くものとアクセスできるものと二つ鍵を用意する場合,それを別々にすることによってなかなか中に入れないというものと,そうではなくて,共通鍵を使って,簡単に言うと,入れるときと出すときは違う番号になっているとか,そういうようなものが公開暗号鍵というらしいのですけれども,それが共通のものでもかなりの精度があるということなのですが,恐らく共通鍵を想定しているのですかね。 ○上野幹事 事務当局としては,恐らく共通鍵というふうに理解していますが。 ○神幹事 そうだとすると,鍵の生成が,少なくとも当該捜査機関が作ったり改ざんしたりすることはできない,これは絶対に必要だろうと思います。それから,具体的に鍵を配布したり,管理したりする場合にどうするのかということについて,これは意見なのですけれども,例えば,鍵を共通鍵で裁判所用のものを含めて三つ作る。裁判所は,その鍵のうち,もし今回の令状を出す場合,今回来た傍受記録について暗号を元に戻せるという鍵を一つ裁判所に残しておくという形をとって,令状請求をして,令状が発付されるときにいわゆる裁判所から捜査機関が通信事業者用と捜査機関用の鍵を二つ持っていって,それで通信事業者の方には送信の際にそれを利用するということで令状とともにそれを提示するという形を採るというやり方にするということ。それは,どんな鍵かというと,言わば我々が今使っているsuicaのような形の鍵,カードキーがありますが,suicaというものは複製できないのだそうです。そういうようなものはコストとしても1,000円とか2,000円でできるという話を聞いていますので,そういったものを裁判所を介してきちんと必要なカードキーしか渡さない形をとって,それを受けた捜査機関側も鍵の管理者をきちんと決めて,あるいは通信事業者は送信してしまえば使わないでしょうから,通信事業者においても送信の度に使う担当者だけが持つという形を採ればどうかと考えているのです。少々抽象的で申し訳ありません。 ○髙橋幹事 イメージがよく分からないのですけれども,鍵を三つ作って,裁判所と通信事業者と捜査機関で持つとすると,かなり煩雑なような感じがして,鍵は共通なものが一つあればいいのかなという気もするのですけれども。   それからもう一つ,裁判所が鍵を作るというように聞こえたのですが,鍵の作成という事務が裁判所の権限としてそもそもどういった位置付けになるのかよく分かりません。裁判所は,令状審査に当たって,要件を判断して令状を発付するかどうかを決めるという職責を負っているところですが,どういう権限に基づいて,鍵を作成して,それを交付するのかということです。裁判所の役割としてマッチしないのではないかと思います。捜査機関が鍵を作るということは,問題があると思うので,通信事業者で,共通の鍵を一つ作るということが簡便のような気がするのですけれども,どうですかね。 ○井上分科会長 最後の点ですが,令状に条件を付けられますよね。その一つと考えることはできないのですか。この鍵を使ってやりなさいという条件と考える。採尿令状でも医療上相当な方法で実施すること,そのために病院はここにしなさいという条件を付けることもできなくはないと思うのです。文字で条件を付けられるけれども,それ以上具体的に鍵を作ることまで条件を付けることに含まれるかというと,ややずれるかもしれないですけれども。権限の所在については,それほど難しい問題ではないような気もしますね。   髙橋幹事からの御発言にもありましたが,共通鍵一つではなぜいけないのか,鍵を三つにすることによって,一つの場合と何が違うのかについて,もう少し説明していただけますか。 ○神幹事 本来であれば,通信事業者は暗号化して送信するときだけしか鍵を使わないのですね。警察の場合には,それがいった場合については,警察ではそれを受けて暗号化を元に戻して,更に今度は裁判所に送るという鍵がいるのですよね,本来。それをセットにしたものなのですね。 ○岩尾幹事 共通鍵というものは暗号として共通しているというだけであって,当事者は当然それぞれ持ってないと必要な行為ができないので,今,神幹事が言われたような形にはそれほど違和感がなかったのですけれども。 ○井上分科会長 神幹事が提案されたのも同じ共通鍵と理解していいのですか。 ○神幹事 そうです。 ○上野幹事 同じ形の鍵を三つ作って,3人の人に配るというお話ですね。 ○神幹事 それと,裁判所で鍵を作るということは,そこはちょっと裁判所の方としてもそんな仕事に入らない。要は裁判所の管理下における業者のところに鍵を取りに行くということでもいいと思います。それをその業者に発注したり作ったりするのは誰がやるのかということは,それを裁判所にやらせるというのはどうかと。そこはちょっとまた考える余地があるのだろうと思うのですけれども,ただ配布する場所としてはそこがいいのかなと考えただけです。 ○井上分科会長 時間の関係もありますので,この点についてはこれまでとさせていただきたいと思います。今,御議論いただいた点につきましては,暗号技術等を活用した仕組みによって立会いを必要とせず,捜査機関の施設において傍受を行い得ることとするという点,また事後的なスポット傍受の方法が許容され,立会いを伴う方策と伴わない方策の両者を併用し得るという点については,それほど大きな異論はなかったのではないかと思います。   また,具体的な制度の在り方につきましても,機器等が適正に機能することを担保する仕組みが必要ではないかという点,鍵の発行,管理等が適正に行われる仕組みにしなければならないという点についても,方向性としては,かなりの程度の共通認識が得られたと思います。他方,その仕組みに第三者機関が必要なのではないかという御意見と,そこまでの必要はないのではないかという御意見も示されたところです。そこで,今後は技術的な措置を含めて,具体的な制度設計について,更に進んで検討していくということにしたいと思います。   次に,「会話傍受」についての検討に入りたいと思います。まずは,配布資料の内容を事務当局から説明してもらいます。 ○上野幹事 資料4-2を御覧ください。会話傍受に関しては,基本構想において,「犯罪に関連する会話がなされる可能性が高く,かつ,犯罪と無関係の私的な会話がなされる可能性が乏しい場面」として,三つの場面を念頭に置いて検討を行うとされ,具体的には,「振り込め詐欺等の拠点となっている事務所等」,「対立抗争等の場合における暴力団事務所や暴力団幹部の使用車両」,「コントロールド・デリバリーが実施される場合における配送物」が挙げられています。   もっとも,この会話傍受については,我が国では現在導入されていない捜査手法であることから,どのような様態で行われ,どのような成果が期待できるのかについて,いまだ具体的なイメージを共有化できていないのではないかと思われます。そこで,検討課題「1」として,各場面で行われる会話傍受の具体的なイメージについて,御議論いただく必要があろうかと思います。   次の検討課題「2」では,権利制約を最小限にするための制度の在り方について,通信傍受との差異を設けるか否かという点も念頭に置きつつ,「対象犯罪の限定,嫌疑の程度,捜査手法としての補充性等はどの程度要求されるか」,「最小化,すなわちスポット傍受の方法を必要とするか,具体的にどのように行うか」,「傍受ができる期間をどの程度とするか」といった点について,御検討いただく必要があると思われます。   検討課題の「3」では,傍受の実施の適正を担保するための方策について,やはり通信傍受との差異を念頭に置きつつ,どのような方策が考えられるか,具体的には,「立会い,封印等を必要とするか」,「令状提示を必要とするか」,「傍受ができる期間・時間の遵守をどのように担保するか」,「会話の当事者に対する事後通知を必要とするか」などの点について御検討いただく必要があると思われます。   最後に,検討課題「4」として,会話傍受を行うことが考えられる場面のうち,①と②においては,傍受機器の設置や取り外しのために,事務所等に立ち入ることが必要となり得るところ,その立入りの法的根拠についてどのように考えるか,裁判所の発する別途の令状が必要かという点について,御検討いただければと思います。   御説明は以上です。 ○井上分科会長 今,説明がありました資料に沿って議論を行っていきたいと思いますが,会話傍受については,事務当局の説明の中にもありましたとおり,まだ具体的なイメージを必ずしも共有できていないように思われますので,検討課題「1」について,まず,島根幹事から,考えられる具体的な会話傍受のイメージについて,御説明いただければと思います。 ○島根幹事 私の方から,傍受をしたい会話及び想定される機器等の設置方法につきまして現在考えておりますイメージを御説明させていただきたいと存じます。   これは基本的には,基本構想で掲げられている三つの場面を念頭に置いております。ある程度部会のときにも御紹介いたしましたけれども,順次御説明いたします。   まず,振り込め詐欺の拠点となっている事務所等ということでありますけれども,これは正に欺罔行為等の実行行為が行われているということもありますし,首謀者がメンバーに指示,命令を行う,例えば,グループのメンバー間の関係,役割分担の様子が分かるような会話,例えば,首謀者が今日のノルマ額ですとか,詐取金の分配をメンバーに指示する,あるいは,架け子が受け子に対して現金を受け取りにいく場所を指示する,そういった会話を傍受できれば非常に有効な捜査手法となるのではないかと考えております。   それから,二つ目でありますけれども,対立抗争等の場合における暴力団事務所等ということでありますが,これは対立抗争の指示等が行われることが想定される場面でありまして,例えば,暴力団の幹部の襲撃計画の相談,それから犯行後における実行犯への逃亡の指示といったような会話を傍受したいと考えております。   それから3点目ですが,コントロールド・デリバリーにおきましては,配送物を受け取った者が,その中身を知らなかったと弁解していわゆる知情性を否定するという場合がかなり想定されるわけでありますので,配送物を受け取ったときの言動,上位被疑者や送付元に対する「届いた」というような連絡,あるいは,配送物を更に別の場所に転送する際の配送先への連絡といったような会話を傍受したいと考えております。   想定される機器の設置方法でありますけれども,これは機器の仕様によって異なりますので,仕様とともにこれから検討すべき問題でありますけれども,いずれにせよこの会話傍受を行うというためには対象者に察知されずに機器を設置するということが不可欠となります。傍受機器の具体的な取り付け方法につきましては,諸外国の例として,イタリアでは,期日外の視察のときにそのような説明があったと承知しておりますけれども,例えば業者を装って対象とする室内に立ち入るとか,あるいは捜査機関と連携する鍵屋に施錠を解いてもらって,室内に立ち入る,あるいは,捜索を装って当該室内に立ち入るといったような方法を採っているというような話でありましたけれども,こうした方策が一つの参考となるのではないかと考えております。 ○井上分科会長 ただいまの島根幹事の御説明も踏まえつつ,先ほど説明がありました検討課題のいずれについてでも結構ですので,御意見等がある方は,御発言願います。 ○神幹事 まず質問させていただきたいのですが,この3番目の配送物に関してですが,これは設置したところからずっと,移動されている間も全部聞いているのですか。 ○島根幹事 どの時点を傍受するのかということも検討すべき課題ではあるのですが,本当に有効なのは,届いた後,「届いたな」,「ああ,薬物あったな」,「よし,これどうするか」という会話であり,そうしたところの方が主として傍受したいところでして,搬送途中が全く無意味かというとそうだとは必ずしも思いませんが,主として念頭に置いているのは,荷物が届いた後,開披した後の会話で,そこがポイントになると思っております。 ○後藤委員 前提的な確認ですけれども,ここではこういうものを導入すべきかどうかを議論するよりも,導入するとすればどんなものがあり得るかを議論するという理解でよいですか。 ○井上分科会長 制度の要否については最終的には部会で議論するべき事柄だという位置付けです。 ○神幹事 まず検討課題の「2」ですけれども,やはり通信傍受以上にプライバシー侵害という危険性が非常に高いという意味では,やはり対象犯罪は,通信傍受以上に限定がされるべきではないだろうかというふうに考えています。嫌疑の程度もそれなりに十分なものが必要だろうというふうに考えます。   それから,捜査手法としての補充性は通信傍受の場合もありますので,これは当然要件に入れますが,なおかつ,会話傍受が言わば時間的にも内容的にも無限定になるということを考えた場合に,いわゆる緊急性という要件,例えば,今そういうことをしなければもう誰かに危険が及んでしまうとか,そういうような緊急性の要件も必要なのではないかと私は考えます。   それから,スポット傍受による最小化が必要かどうかということになると,やはり通信傍受以上にずっと聞いていますから,本来そういうことが可能ならばすべきだろうけれども,どんなふうにするのかというところはちょっと分からないところなのですが。   それから,傍受できる期間をどの程度にするのかということについても,やはりずっと聞いてしまうという意味では,通信傍受のような10日間,あるいは通じて30日間というような長い期間は想定されないのではないか,例えば,1日とか何時間とか,2日間とか,そういう形のものに限定されるべきものでいいのではないかと考えています。 ○井上分科会長 緊急性については,補充性の一つと考える見方もあり得ますよね。けれども,差し迫った危険があり,その時点を通り越してしまうと危険が現実化してしまうという場合として,その危険の中身を人の生命,身体,あるいは重要な財産ということに限るとすると,コントロールド・デリバリーの場合は,入らないということになる。しかし,コントロールド・デリバリーの場合も,不可欠な証拠がその時点でなければ得られない。そのような意味で緊急性があるという点では,同じとも言えると思うのですけれども,個人の生命,身体,あるいは重要な財産に危害が及ぶという場合に限るといったイメージなのですか。 ○神幹事 私のイメージはそうですね。コントロールド・デリバリーに関して言うと,これは会話傍受によらなければ本当にいけないのだろうかと。あるいは補充性のところでほかの捜査手法でも可能なのではないかというようなことも考えたりしているのですが,ちょっとそれは捜査している側ではないのであれなのですが,ちょっとほかの二つとは類型が違うような気がするのです。 ○井上分科会長 振り込め詐欺も,生命,身体に対する危険があるとは言えないかもしれない。「重要な財産」の「重要」というものがどの程度かによって結論が違ってくるのだと思うのですけどね。 ○岩尾幹事 その点に関連してなのですが,対象犯罪の限定の話は,通信傍受のような形で最初にどのように限定しますかというような議論をしても余り意味がないのかなと思います。結局,会話傍受は,場面を絞って議論しましょうということなので,それぞれの場面ごとに考えられる対象犯罪はある程度決まってきて,振り込め詐欺等の事務所であれば,詐欺罪や恐喝罪ということになるでしょうし,対立抗争等の場合の暴力団事務所であれば,その対立抗争に関連して行われるような殺人罪,粗暴犯や銃器関係の犯罪になるでしょうし,コントロールド・デリバリーであれば薬物犯罪ということになるのではないかと思います。 ○井上分科会長 コントロールド・デリバリーは,銃器関係の犯罪もあり得ますね。 ○岩尾幹事 そうですね。一般的に生命犯や身体犯に限定すると,②しか対象とならないと言われているようにしか受け止められなかったので,どういう御趣旨かなと思いました。 ○後藤委員 まず当事者への通知の点についてですけれども,通信傍受でも通知することになっているので,それはやはり必要だと思います。ただし,会話傍受の場合,音声だけ聞いても誰が話していたか分からないこともあり得ます。そうすると,会話の傍受は場所に対するプライバシーの制約とも捉えられるので,場所の管理者に事後的に通知するといったやり方があり得るのではないかということが一つです。   それから,機器の設置とか取り外しのために立ち入るとなれば,その立入りには憲法上も当然に裁判官の令状が必要になると思います。 ○川出幹事 立会いについては,傍受の実施に沿ってどの場面に立ち会うのかを考えてみますと,例えば,事務所等に機器を設置する場面と,実際に傍受をしている場面が考えられます。このうち,機器を設置する場面に立ち会うことは無理でしょうから,実際に考えられるのは,機器が設置され,別の場所で会話を聞けるような状態になったときに,それを聞いている場所に立ち会ってもらうという形であろうと思います。   その上で,誰に立ち会ってもらうかについては,会話傍受の場合は,通信傍受における通信事業者に該当する者はいませんので,立ち会ってもらうとすれば,地方公共団体の職員になるのでしょうが,実際に立ち会ってもらえるかという問題があると思います。   そうすると,通信傍受と同じように,何らかの技術的手段を用いることで立会いを省略することができないかが問題となるのですが,そもそも令状で指定された場所の会話を傍受しているかどうか,傍受ができる期間を遵守しているのかといった点については,通信傍受の場合と違って傍受する会話が事業者から送られてくるわけではないので,その部分の担保ができるのかということを考えざるを得ないだろうと思います。   それから,後藤委員が最後におっしゃった,傍受機器の設置や取り外しのための立入りの法的根拠についてですが,事務所内の会話を傍受するという場合,事務所内に入らなくても,例えば,その隣の部屋の壁に高性能の傍受機器を設置して会話を聞くということもありえますので,必ず,そこに立ち入ることが必要ではないのですが,通常は立入りが予想されるものですから,事務所内等の会話の傍受を認める以上は,それを必要な処分というかはともかく,それに付随するものとして,そこへの立入りもその権限の中に含まれていると考えられると思います。その上で,立入りの部分について司法審査が必要かどうかということは,もう一歩先の問題であり,例えば,強制採尿のための連行に関する判例がいっているように,立入りの部分について,本体の会話の傍受とは別に司法審査を要求するということも考えられるだろうと思います。ただ,その場合も,別途の令状が必要ということではなくて,会話傍受を審査する際に,併せて審査するということになろうかと思います。 ○井上分科会長 今の最後の点は,そういう処分として制度を作った場合に,令状で傍受が認められるということだけで,必要に応じ必要な処分として立ち入ることができるとすることが適切かどうかということだと思います。そこのところは,もうワンクッションあって,立入りも重要な権利侵害を伴うので,その点についても格別の審査が必要だということになるのではないかと思いますね。 ○髙橋幹事 裁判所の立場としては,そこはきちんと審査をした上で令状を発付することになると思います。 ○神幹事 今の「3」のところですけれども,皆さんの意見に大体出てきているのですが,傍受ができる期間,時間の厳守をどのように担保するかということなのですが,先ほど来,通信傍受でもいろいろな技術的な進歩が遂げられていますので,例えば裁判所の令状で決められた期間,その期間が経ったら自動的にもう実際上作動しないような機器を作るということは多分今の時代では可能ではないかと思うのですけれども。 ○井上分科会長 多分,聞く方の機器については可能だと思いますが,傍受して送信する方のマイクのような機器について,スポット傍受的な仕組みが組み込めるものなのでしょうか。おそらく小さな機器でないといけないので,素人考えでは,かなり難しいと思うのですけれども。そうだとしますと,立会いを置かないとすると,受信する方のところで時間や聞ける範囲などを限定していくということで果たして代替可能なのかどうかですね。 ○島根幹事 まだ,その辺の具体的なところまでは検討は進んでおりませんので,傍受した会話の送信を有線の形態でやるか無線の形態でやるかも含めて,多分いろいろなやり方はあり得て,それと受ける側の先ほどおっしゃられたような機器ができるかどうかということは今後の検討課題ということです。 ○井上分科会長 送信機器の方に機能を組み込めれば,通信傍受にかなり近い話になると思うのですけれども,多分,現実的ではないので,受信する側の機器で対処するしかないと思いますね。 ○髙橋幹事 若干関連しますが,有線か無線かどちらか分からないのですけれども,それをほかの人間に傍受されると,これはまた権利侵害が大きくなるので,電波を発するときに会話を暗号化した上で送信するというイメージになるのですかね。 ○島根幹事 すみません,ちょっとまだそこまでの具体的なところまでは。 ○井上分科会長 ただ,特殊な周波数帯を使う,あるいは送信する電波自体に暗号を掛けるということだけなら,小さい機器で済むのかもしれませんので,それは技術的にあり得るのではないかと思います。その辺も含めて検討していただく必要がありますね。 ○上野幹事 先ほど神幹事の方からスポット傍受は当然必要だろうというお話がありましたが,資料を作った立場から,検討課題のところにスポット傍受を必要とするかという書き方をした趣旨について御説明させていただきます。   この会話傍受の案では,今のところ三つの場面に対象を限定していることから,犯罪と無関係の会話を傍受する可能性が低く,権利制約の程度は相当程度限定されると考えております。したがって,犯罪と無関係の会話を傍受することとなる可能性が極めて低いと評価し得るのであれば,基本的に犯罪と関係のある会話のみが傍受されるのである以上,スポット傍受はそもそも要らないという考え方もあり得るのかなと考え,このように資料に記載しました。その辺も含めて御議論いただければと思います。 ○神幹事 やはり可能ならスポット傍受が必要ではないかというふうに思っています。それとこの類型においては,権利制約が少ないというふうに言われていますけれども,これは実際上,暴力団事務所というものは昔はすごく分かりやすかったのです。大きな看板を掲げて,ここが事務所と分かったのですよ。今はあっちこっちにたくさんあるわけですよね。これを全部会話傍受の対象としてしまうのですかね。そうなってくると,自宅兼の事務所なんかあったりすると,そこの部分では家庭内の会話まで入ってしまうということがあり得るから,必ずしも権利制約が少ないとは言えないのではないかと思いますので,可能ならばそういうものは作っていただきたい。スポット傍受的な機能が付いているものは作ってほしいと思います。 ○後藤委員 同じようなことですけれども,いかに場所を限定してもやはりいろいろな会話があり得るでしょう。ターゲットにしている犯罪についての会話だけが行われるというのは,むしろ非常に特殊な事例になると思います。ですから,やはりスポット傍受的な考え方が必要なのではないかと思います。 ○井上分科会長 文字通りスポット傍受が必要なのか,それとも,機能的にそのような限定をできる仕組みが必要かつ可能なのかということだと思いますね。 ○川出幹事 確かにスポット傍受ができればよいとは思うのですが,通信傍受の場合であれば,ある時点から通信がなされるので,それを一定時間聞いてということになるのですが,例えば,事務所などの場合,ずっと会話がなされている可能性があるわけですね。そうすると,どの時点を基準にスポット傍受を始めるのかを決めるのがなかなか難しいように思います。分科会長がおっしゃった機能的な限定というのは,具体的には,どのような仕組みになるのでしょうか。 ○井上分科会長 いろいろな方法があり得ると思います。会話の予想される主体というものが特定できればそれで限定するし,時間帯ということで限定する,あるいは,のべつ幕なくしゃべっている場合もあれば,シーンとしていて突然会話が始まるということもあるわけで,そこのところで時間を区切って,ところどころチェックしていくということなども考えられるように思います。スポット傍受というのはそういうものですよね。方法は幾通りかあるので,そういうものを組み合わせることによって,機能的に限定できるかどうかという話なのだろうと思います。 ○川出幹事 令状提示のところですけれども,通信傍受の場合の通信事業者と違って,会話の当事者以外の,その場所を管理している人はいないわけですから,会話傍受の場合は令状提示は不要ということになるように思います。 ○神幹事 例えば,地方公務員,消防署員に提示するということも考えられないですかね。全くなしにするのですか。 ○井上分科会長 そこも検討課題かもしれませんね。ただ,我々は割と気楽に消防署員というふうに言うのですけれども,そんなことを気楽に言って良いのかなという気もします。相手の立場で考えますと。   会話傍受については,大体この辺にさせていただきたいと思います。この点については,配布資料にあるように,限定された場面を対象にすれば,権利制約を最小限のものにとどめられ,かつ,傍受の実施の適正が担保される仕組みを構築するということが可能であるという意見が出されました。その一方で,通信傍受と同等の権利保障,適正担保を,会話傍受についても実現することは必ずしも容易ではなく,プライバシー権等に対する過度の制約にならないように,傍受を実施する適正な範囲の限定,その他のところで慎重な検討が必要ではないかという御意見が示されたと思います。今後はこうした議論の状況を踏まえ,技術的な点も含めて,より具体的な検討を行っていきたいと思います。   次に「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」についての議論に入りたいと思います。ここからは選手交代ということで,神幹事に代わり青木委員に御出席いただきます。   この検討事項につきましては,御承知のように,第1回の会議において,「勾留と在宅の間の中間的な処分を設ける」こと及び「被疑者・被告人の身柄拘束に関する適正な運用を担保するため,その指針となるべき規定を設ける」ことについて,青木委員から具体的な御提案を頂いた上で,議論を行ったところです。本日は,その第1回目の議論を踏まえた上で,「第1 勾留と在宅の間の中間的な処分」についてから,更に検討を続けていきたいと思います。   事務当局において,第1回会議での議論を踏まえて,この検討項目について資料を作成していますので,まずは,資料5の「第1」の内容について説明をしてもらいます。 ○保坂幹事 御説明いたします。「第1」の「勾留と在宅の間の中間的な処分」について,考えられる制度の概要といたしまして,中間処分は,一定の事件について,勾留の理由がある場合であって,中間処分が相当であるときに限り,することができるとするとともに,裁判官は,検察官から中間処分の請求を受けたときに,被疑者を中間処分に付することができるというものをお示ししております。   また,中間処分の期間としては,2か月とし,中間処分に付された被疑者は,一定の事項を遵守しなければならないとした上で,これに違反した場合等においては,捜査機関が直ちに被疑者の身柄を拘束して刑事施設等に引致することができるとともに,裁判官は,一定の場合には,検察官の請求によって被疑者を勾留することができるというものをお示ししております。   そして,「検討課題」として,「1」から「8」までをお示ししておりますけれども,1点目の「中間処分を設ける趣旨・必要性」につきましては,具体的な制度案を考える際に前提となる事項であり,現行法上,勾留と在宅の間の中間的な処分が存在しないことによってどのような問題が生じているのかという観点から,現在の勾留の運用に具体的などのような問題があるのか,また,仮に中間的な処分を設けるとした場合に,どんなケースのどのような者が対象になると想定されるのかといった点を御検討いただきたいという趣旨でございます。   2点目の「勾留との関係」は,新たに中間的な処分を設けるという場合に,罪証隠滅又は逃亡の防止を図るための制度として勾留と中間的な処分が並存することになることから,両者の関係をどう考えるかという問題です。   すなわち,①として書いてありますように,中間処分は,勾留の理由がある被疑者のうち一定の要件に該当するもの,例えば,一定の義務を課すことによって,罪証隠滅又は逃亡を防止することが期待できるような場合に限って,特に選択し得ることとするか,あるいは,②として書いてありますように,勾留の要件を改めていわゆる補充性を要件として,中間処分によっては罪証隠滅又は逃亡の防止を図ることができない場合に限って勾留することができることとするかであり,「考えられる制度の概要」は,前者の①を前提としてお示ししていますが,この点は,全体の制度設計にも関わるところであり,御検討いただきたいと思っております。   3点目の「中間処分の要件」ですけれども,ただいま申し上げたとおり,勾留との関係を踏まえて検討する必要があると考えられるところであり,具体的には,対象犯罪についてどのように考えるかという点のほか,それ以外の要件をどのように定めるべきか,中間処分を選択するのが適当でないと考えられるのはどういう場合かといった点について御検討いただければと思います。   4点目の「中間処分をする場合の手続」は,この制度概要案のように逮捕を前置して,勾留との選択とするのかどうか,検察官の請求によることとするのかどうかという点,さらには,検察官が勾留を請求した場合にも裁判官が中間処分を選択し得るということにするのかどうか,その場合の理論的根拠をどう考えるかという点のほか,あらかじめ被疑者の陳述を聴くこととする手続的な要件を設けるかどうかという点についても御検討いただければと思います。   5点目の「中間処分の内容」は,中間処分は,罪証隠滅又は逃亡の防止を図るための,勾留に代わる処分になりますので,罪証隠滅や逃亡の防止に実効性あるものにする必要があるという観点から,被疑者にどういう事項を義務付ける必要があるのか,さらには取調べのための捜査機関への出頭を義務付けることとするのか,それらの遵守をどういうふうに担保するのかという点を御検討いただきたく思います。   また,中間処分の期間というものをどの程度のものにするのかについても,御検討いただきたいと思います。   6点目の「勾留への移行」は,中間処分は,罪証隠滅・逃亡の防止に実効的なものにする必要があるという観点から,どういう場合に勾留に移行し得ることとするのかという点や,その場合の手続,特に,罪証隠滅や逃亡のおそれが切迫しているという場合に,それを適時に防止して,迅速な身柄拘束をするということができる仕組みとしてどういうものが考えられるかという点についても御検討いただきたく思います。   7点目の「勾留から中間処分への変更」は,先ほど申し上げた「移行」とは逆向きですけれども,勾留中の被疑者について,中間処分への変更を可能とするのか,その場合の理論的根拠をどう考えるのかといった点について,御検討いただきたく思います。   8点目の「起訴後における中間処分の必要性」は,現行法上,起訴後については保釈制度がある中で,更に中間処分を設ける必要があるのかどうか,保釈制度との関係をどう考えるのかといった点について御検討いただきたく思います。   御説明は以上です。 ○井上分科会長 今,説明があったとおり,この検討項目については「1」から「8」までの検討課題が掲げられておりますが,そのうち「1」の「中間処分を設ける趣旨・必要性」から「4」の「中間処分をする場合の手続」までは相互に関連する事項でありますので,まず,これらをまとめて議論の対象として,次に「5」以降をまとめて議論するという順序で進行させていただきたいと思います。   それでは,まず「1」から「4」までの四つの検討課題について,御意見,あるいは御質問等がありましたら御発言をお願いします。 ○青木委員 このように検討課題をまとめていただきまして,少し頭の整理ができましたので,部会で発言したことを一部撤回して,今の考えを申し述べたいと思います。今回中間処分となっていますから中間処分と言いますけれども,部会のどこかで多分私は,中間処分は勾留代替ではなくて勾留とは別というように申し上げたかと思うのですけれども,いろいろ考えていくと,やはり勾留とは全く別と考えるよりは基本的に勾留というものが前提にあって,言わば勾留の執行を猶予されているといったようなもので,猶予期間中は遵守事項が定められていて,一定の条件が満たされれば勾留に移行するという執行猶予付き勾留のようなものと考えると考えやすいのではないかとちょっと頭の中が切り替わりました。ということをまず申し上げた上で,「1」から「4」までに関してですけれども,基本的になぜこういうものが必要だと申し上げたいかというと,やはり拘禁というものは最後の最後の手段であって,ほかに罪証隠滅や逃亡を防げる方法があるのであれば,そちらを採るべきであって,最終的に拘禁が必要,それしか方法がないというときに限って身体拘束をするべきであると考えます。   そういうふうに考えますと,ほかに方法があるかないかということについては当然考えなければならないことになるはずであって,ほかに方法があるかないかも考えずに,勾留をしてはならないということになるのだと思います。それで,この人については別に勾留もしなくても最終的には問題ないという人と勾留が必要な人とがいるわけですけれども,それがスパッと一本の線で分かれるかというと,恐らく灰色の部分というものが残るのだと思います。それで灰色になった部分について,本当にほかの方法では駄目なのだろうかということを今検討できる状況にあるかというと,今の法律はその中間がないわけで,ほかの方法というものがないわけですから,それは勾留になるか勾留にならないかのどちらかに分かれているわけです。それが全て勾留にならないという方向になっているのであれば,それはいいのかもしれませんが,100パーセントということはちょっと考えにくいわけです。そうなると,そういう中間的なものがあれば,そちらで足りたものがそういう検討をしようがないわけですから,ほかの方法というものがないわけで,そういうことを検討せずに勾留になっているものというものがある。そういうものが一定数あって,それについてやはりそのような方法で足りるのであれば,勾留ではなくそういう方法を採るべきではないかと考えます。そういう意味で,「1」の関係でいえば,そういう形で本来ほかの方法で足りたものについて,拘禁されていたものを防ぎ,本当に拘禁が最後の手段だということを徹底するためにこういうものが必要だというものが設ける趣旨の一つです。そういうことで言うと,勾留との関係では理の必然として補充性が要件になるということになるのではないかと,ですから,①ではなくて②ということになるのではないかと思います。   3番については,基本的に勾留が執行猶予的になっていると考えると,勾留するかしないかについて対象犯罪も何もないわけですから,それは個別の判断になるということになって,特にその対象犯罪について限定する必要はないのではないかと思います。   4番の中間処分をする場合の手続に関しては,基本的には勾留というものが前提にあって,それが一定の要件の下で,遵守事項が守られている限りは勾留にはならないというものだと考えますと,当然逮捕前置で,勾留請求をされて,あるいは中間処分の請求でもいいのですけれども,そういう形で請求された場合にもちろん当然中間処分で足りないかどうか,それで大丈夫かどうかということを裁判所も判断するわけで,それで足りないとした場合に初めて勾留をするし,それすら要らないとなったら請求は却下するということになるのだろうと思います。   中間処分をするに当たって,勾留が執行猶予されるようなものと考えれば,当然勾留と同じような形で手続が始まるわけですから,あらかじめ被疑者の陳述を聴くことになると思います。それでその後の問題に絡みますけれども,そういう意味で勾留の執行が猶予されている状態から勾留に移行するときには,移行する要件があるかどうかということについて弁解を聴くということは必要なのだろうと思います。ザーッと意見を申し上げましたが,そのように考えております。 ○井上分科会長 ちょっと質問させていただいていいですか。執行猶予的なものという位置付けということですけれども,執行猶予とは理由,性質が大分違うと思うのですが,どういう意味で執行猶予的なのでしょうか。   それと,仮に執行猶予的なものだとすると,執行猶予の場合には,違反があったときは,執行猶予を取り消して,本来の処分を執行できますよね。それと同じだとすると,新たな勾留請求,勾留処分が必要ではなくなると思うのですが,それでいいのですか。   もう一つは,執行猶予の場合は,いきなり実刑に付さなくても社会内で社会復帰というか改善更生が期待できるということなのですけれども,中間処分の場合は逃亡とか罪証隠滅のおそれがあるということを前提にしているわけですよね。そのような被疑者であるのに,身柄を拘束しないでも良いというためには,そこのところの理由付けが必要なのではないかという感じがするのですね。特に,執行猶予の場合でも,本人に任せておいたら十分でないと認められる場合は保護観察付きとなり,そういう意味の拘束が付くのですけれども,そういったこととの整合性はどうなるのかですね。その3点についてお伺いしたいと思います。 ○青木委員 執行猶予そのものというつもりはないのですけれども,考え方として勾留されるだけのものがあって,勾留がいつでも執行される状態であると。「何々的」というと分かりにくいのかもしれませんが,保護観察付き執行猶予,遵守事項付き執行猶予みたいな形になるのですかね。要するに,元々勾留があるのだけれども,勾留をしない代わりに罪証隠滅や逃亡を防止するために必要な事項を定めた命令があって,その命令は,それに違反して,罪証隠滅のおそれが高まり,あるいは逃亡のおそれが高まったら,あるいは,違反しなくとも罪証隠滅のおそれが高まり,あるいは逃亡のおそれが高まったら,勾留に戻る,あるいは移行するという条件付き勾留という中身を持ったものだという趣旨なのですが。 ○井上分科会長 いまいちピンと来ないところがあります。執行猶予的なものと言われたので,そちらとイメージがダブっているからなのかもしれません。 ○後藤委員 執行猶予というと,勾留の執行停止という今でもある制度と紛らわしくなるので,勾留に代わる処分というようなイメージの方が分かりやすいように思います。   それを前提にして,「2」のところの問題ですけれども,例えば勾留に関する60条の条文は基本的に今のままにして,「ただし,中間処分で足りるときはそちらを選択しなければいけない」というような形で定めたら,青木委員が構想されているものに近付くのではないかと思います。 ○髙橋幹事 裁判所の立場から言うと,新たな中間処分というものができた場合には,どういう事件,あるいは,どういう被疑者について正にこの処分にふさわしいといえるのかということをあらかじめ制度を考える段階で具体的に検討しておかないと,安定的な運用ができないと思うのです。その意味で,前回も議論があったのですけれども,制度として中間処分ができた場合に,先ほど青木委員は灰色部分とおっしゃったのですけれども,どういう犯罪類型のどういう人がこの中間処分にふさわしいのかという具体的なイメージをきちんと共有化しておく必要があると思います。例えば,今でも痴漢事件とか,公務執行妨害の事件で,前科がなく,普段は普通の社会人として会社に勤務しているという人の場合には,その事案の重さとか,勾留の必要性などを総合的に判断して,勾留を却下しているケースが非常に多いと思うのですよね。   その場合にも,実務的には,ときには誓約書のようなものを書いてもらって,逃げ隠れしませんとか,あるいは必要があれば裁判所や捜査機関にきちんと出頭しますなどという約束をしてもらった上で勾留を却下するようなこともあるのですけれども,中間的処分ができてしまうと,場合によっては,そういった人たちに確実に約束を守ってもらうために,今まで勾留を却下していたものが中間処分の方に流れるということも想定できるのではないかと思うのです。ただそのようなことは恐らくこの制度を作る以上,本意ではないのかなと思うので,どういう層がこの中間処分にふさわしいのかということについて,具体的なイメージとして,考えておられるところがあれば教えていただきたいのですけれども。 ○青木委員 前提の認識が違うのだと思うのですね。恐らく今だったら勾留は却下されていますよと言われるものの中に,勾留の却下されてないものが相当程度あると考えていますので,多分認識の差があるだろうと思うのです。ですから,先ほど灰色と申し上げたのは,そういう意味で,今だと却下されているものもあるけれども,勾留になってしまっているものもあって,そういう意味では今だったら却下されているものが,こういう制度ができてしまうと,この中間処分の方に入ってきてしまうものもあるかもしれませんけれども,一方で,今だったら勾留されてしまっているものが,こういう制度ができて必ずそういう判断をしなければならないとなったら,その中間処分に行くものというものが出てくるのではないかということです。 ○岩尾幹事 まず,勾留要件があると認められるというと,罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれが認められるということになります。だから本来は勾留なのだけれども,特別に執行猶予的な考え方でこの新しい中間処分を設けましょうという考えと,どうも勾留の補充性の要件を加えるということがイメージとして合わないのですね。青木委員のような考え方を採るならば,むしろ勾留要件があるという前提なので,勾留が原則で,何らかの事情が加わっているから特にこのケースについては中間処分で足りるとするということになり,勾留との関係では①の考え方に近いものとなるのではないかと思います。   特に,どんな事情が加わったらこの中間処分でも足りると考えられるのかについては,やはり罪証隠滅,逃亡のおそれがあるわけですから,そのおそれの程度がどのようなものなのか,そして,罪証隠滅するとしたら,そのターゲットとなる罪証の内容や性質はどうなのかという証拠構造との関連で考えなければいけないと思います。一般的な遵守事項もあるでしょうけれども,特に個別のこの事件について,こういう遵守事項を設けるからこそ罪証隠滅のおそれが相当低くなって,この事件ではこういった特別の処分も可能ですよということになるわけです。加えて申し上げると,裁判官がこういう遵守事項なら勾留までしなくても,中間処分で足りるでしょうということを裸で判断するのも結構難しいというような気もします。捜査段階の強制処分というものはやはり検察官が請求して,それに応じて裁判官が判断するというものですから,そういった今までの通常の強制処分との関係性もよく吟味して議論しなければいけないなと考えております。 ○島根幹事 元々中間処分を設ける必要性ということについての認識が多分違うので,私どもとしては,そもそも必要性についてどうなのだろうというところがあるのですが,そこは今日は置いておきます。やはり先ほどからお話が出ているように,身柄拘束という重大な不利益処分というものを必要最小限にしたいという,そういう実践的課題でこういった中間処分をお考えになっているのでしょうから,勾留の要件そのものを変えてしまうということであれば,また違った議論があり得ると思うのですけれども,恐らくそこは現在の勾留の規定は基本いじらないということだと思います。そうすると,やはり先ほど岩尾幹事からもありましたように,勾留の理由はあって,その後,勾留の必要性というところで,事案の軽重ですとか,その証拠関係ですとか,被疑者の状況というもので相当性を判断するというところをどうするかということで,議論がされるべきものなのだろうと考えております。   だとすると「2」の関係でいいますと,やはり②はどうなのだろう,やはり①の方が基本として考えるべきものなのではないかと考えております。そうすると,この考えられる制度の概要の「1」の「中間処分が相当であるときに限り」という部分については,恐らく実際に具体化するとなるとここの書き方が非常に難しくなってきて,おそれの程度について判断基準のようなものを書いていくことになるのか,その辺は分かりません。私どもとしては,「5」の方の遵守事項の中身とも絡んでくるのですけれども,やはり逃走とそれから罪証隠滅のおそれというものを完全に今の勾留と同じレベルにするということは難しいのだろうと思います。そこは一定程度下がらざるを得ないのではないかということで,やはり中間処分の要件としても例えば現在も権利保釈の除外事由になっている法定刑の重い事件といったようなものは基本的には対象外にするべきなのではないかと思います。   おそれについては逃走と罪証隠滅の二つがあって,逃走の防止の方は,恐らく一定の社会的地位があって会社に勤めているというような人で,逃げると非常に不利益が大きいという人は,余り逃走は考えないというのが経験則上も合理的かなと思うのですけれども,やはり罪証隠滅の防止の方は,これはもう罪証隠滅してしまえば,捜査機関側としては一つ大きな立証手段がなくなってしまうわけですので,それを完全に防止するのは基本的には相当難しいと考えておりまして,そういう面からも,繰り返しになって恐縮ですけれども,対象犯罪について入口のところで限定をした方が適当なのではないかと考えております。 ○川出幹事 「2」のところですが,青木委員がおっしゃったように,もともと灰色の部分を対象として中間処分というものを考えるということであれば,①に行くのではないでしょうか。現在では勾留されている人のうち,勾留の必要性が認められるにしても割合低いというものについて,中間処分を新たに設けることで,一定の遵守事項を課して中間的な処分をする形で勾留を回避するということであれば,①の方向になるのが自然だという感じがします。   配布資料の「考えられる制度の概要」によれば,この中間処分における担保手段は,遵守事項の違反があった場合には勾留に移行するということであって,第1回会議の際に議論となった制裁手段は設けないということになっています。それとは異なり,強力な担保手段を設けた上で,中間処分を広く勾留の代替処分として認めるということであれば,②のような話にもなりうると思うのですが,このように限られた範囲で中間処分を認めるということであれば,やはり①ということになると思います。 ○井上分科会長 先ほど島根幹事から「3」の対象犯罪を限定すべきではないかという御意見が出たのですが,その点についても御意見を伺っておきたいと思います。 ○青木委員 自ずと決まってくることであって,対象犯罪というところで限定する必要はないのではないかと思います。要するに,結果が重大であったとしても,それぞれ事情が違うわけですから,必ずしも対象犯罪というところで区切れるものではないと思います。 ○岩尾幹事 要は,この中間処分を設ける趣旨だとか,勾留との関係をどう考えるかということによるとは思うのですけれども,①のような考え方をすれば,島根幹事が言われたように,一つは権利保釈の除外事由を定めた刑訴法89条1号の規定が参考になるのではと思います。また,対象犯罪のみならず,この制度の対象から除外するかどうかの観点から,同条の他の号の規定についても,ある程度検討する意義があるのではないかと思います。 ○井上分科会長 そろそろ次の「5」の「中間処分の内容」から「8」の「起訴後における中間処分の必要性」までの検討に移りたいと思います。これらのいずれでも結構ですので,御意見等があれば御発言をお願いします。 ○青木委員 理屈はともかく,結論的には同じような話をすることになると思うのですけれども,義務の遵守をどのようにして担保するかということに関しては,ここに書かれているような,要するに義務を遵守しなければ勾留に移行するという形なのかなと。それから,中間処分の期間については,これは2か月になっていまして,いきなり2か月でいいのかなということはありますけれども,最大の期間としてはこの程度かなと思います。   それから,どのような場合に勾留に移行することとするかということに関しては,これは遵守事項が定められれば,それに違反したことということなのでしょうけれども,違反した場合の全てということではなくて,それによって罪証隠滅,逃亡のおそれが高まったというようなことが要件に加わるのかなと。逆に,例えば,逃亡はしていないけれども,逃亡しそうだというおそれが相当程度に高まったという場合には,遵守事項違反ではないのかもしれませんが,そのような場合も移行するということはあり得るのかなと思います。   それから,勾留中の被疑者について中間処分への移行を可能とするかということに関しては,これは本来勾留をしなくて済むのであれば,勾留はできるだけ避けるという意味で,中間処分への移行もあり得るのかなと。勾留の取消しの請求というものもあるわけですけれども,勾留の取消しの請求がされた場合に,裁判所が取消しをせずに,中間処分に変更するということもあるのかと思います。   それから,起訴後の中間処分の必要性については,これも前に申し上げましたけれども,起訴前に中間処分だった場合に,起訴後もそのまま続くということがあるでしょうから,そういう意味では必要でしょうし,保釈と勾留取消しというものが,今でも併存しているわけですけれども,中間処分という形のものは,それはそれで保釈とは別のものとして併存してあってもいいのではないかと思います。 ○井上分科会長 これも私からの御質問なのですけれども,条件は,事務当局が用意したもののとおりだとすると,罪証隠滅又は逃亡の防止を図るために必要な一定の事項を義務付けるということですよね。それに違反しても,直ちには勾留には移行せず,実質的に逃亡,罪証隠滅のおそれがあるかどうかをもう一回審査するのだと言われたのですけれども,そこが整合するのかなということをお聞きしたいと思います。   もう一つは,勾留の執行猶予と言われたので,遵守事項に違反した場合,もう一度審査をしてもらうということが整合するのかということで,先ほどの質問と同じなのですけれども。   それと3番目が,検討事項に書いてある取調べ等のための捜査機関への出頭についてはどういうお考えなのかということです。 ○青木委員 最後の,取調べ等のための捜査機関への出頭というものは,元々取調べ受忍義務に関する考え方について前提が違うのでということなのだと思うのですけれども,それは認められないと考えています。それから,違反があった場合について,それは遵守事項の定め方にもよるのだろうと思いますけれども,遵守事項が即,罪証隠滅,逃亡の防止ということと結び付くようなものだけの場合には,その違反イコール勾留ということでいいのでしょうけれども,もう少し程度の低い遵守事項も入ってきた場合は,そのまますぐに勾留に移行するとならない場合もあるのではないかということで,それは定め方がどうなるかによることになるのかなと思います。   すみません,もう1つの質問は何でしたか。 ○井上分科会長 勾留の執行猶予と言われたのですが,勾留という処分がもうなされているわけですよね,中間処分が執行猶予的なものだとすると。そして,いろいろな遵守事項があって,中間処分が取り消されれば,執行猶予の場合の刑の執行に相当する勾留に当然移行することになるはずだと思うのですけれども,そこでもう一度裁判官を介在させて,中間処分のままでいいのか,それとも勾留なのかという判断させるということが,執行猶予的なものという理解と整合するのかということなのですけれども。 ○青木委員 判断することになりますかね。 ○井上分科会長 なるのではないですか。違反があっても,実質的に罪証隠滅と逃亡のおそれのいずれかが認められる場合に初めて勾留するということなので,そこに裁判官の判断を介在させるわけでしょう。それは制度として整合するのかということなのですけれども。   青木委員を追及するつもりなのではなくて,やはり新たな制度を作るときには,整合性を確保しなければなりませんので,質問させていただいたのです。 ○岩尾幹事 2点ほどございます。1点は勾留中の中間処分への変更の話なのですけれども,これは前回青木委員が,たしか勾留から中間処分に行ったり,中間処分から勾留に行ったりと短期間で行ったり来たりしない方がいいと言われていたような気もしたので,お考えを変えたのならば,理由を教えていただきたいなということです。また,この中間処分への変更はどういう原因で行うのか。要は,弁護人の請求や裁判官の職権で行うのかということなのですが,先ほど申し上げましたけれども,捜査段階での強制処分について,捜査機関側からの請求なしに処分の内容が変わるというところはどう説明がつくのだろうかなと思います。また,弁護側から請求することができるとした場合,これは起訴前保釈とどう違うのだろうということです。そもそも起訴前保釈が認められていないのは,我が国では勾留期間が非常に短期間であり,勾留の際に裁判官が判断をして,10日後に更に延長する場合にもまた司法審査を行うという制度になっていることが指摘されますが,そういった考え方とどう整合するのだろうかという点を教えていただきたい。   それから,もう1点ですが,出頭義務をどうするかという点については,理屈はちょっと置いておいて,機能的に考えると,一切出頭に応じなくて,2か月間経ったら結局期限切れで在宅状態に戻るのですね。そうすると,中間処分の期間については,罪証隠滅や逃亡のおそれを防止した状態で,当然取調べをも含む形で捜査が行えるような期間として考えないと,この中間処分という制度が有効に機能する場面がより狭まってくるのではないかと思います。 ○青木委員 被疑者の勾留から中間処分への変更については,迷っているというのが率直なところでして,絶対に駄目というのも状況によってはどうかと思ったので,あり得るという申し上げ方をしたということです。   それから,捜査機関への出頭が絶対に見込めないという状況が前提とされるわけではないと思うのですね。ただ,それが遵守事項になってしまうということについては,それは取調べを受忍する義務をそこで認めてしまうことになるので,それはできないということです。取調べに全く応じない形でこの2か月が過ぎるということがいつもの状態として考えられるということではなくて,実際上は取調べ,呼出しがあったら行きますということはどこかで話としては出るのかもしれませんが,そういうことも含めて,これは勾留でなく中間処分でも大丈夫だという判断がされるのかもしれませんが,それは義務という形にはならないということで考えたいと思います。 ○井上分科会長 義務にならないというより,してはいけないという御意見だということですよね。 ○髙橋幹事 その関係で,仮に,個別の事件で,裁判所が,遵守事項として,検察官が起訴,不起訴を判断するためには出頭してもらう必要があると考えて,そういう遵守事項を付けた場合は,中間処分自体が違法,あるいはその遵守事項の部分だけ無効になるというイメージなのですかね。 ○後藤委員 先ほど岩尾幹事から青木委員に対する問題提起については,例えば2か月間経った時点で,勾留の要件があるのかどうかという問題になると思います。だから,そこで当然に勾留されるというわけではないと思います。一番難しそうな捜査機関への出頭の問題については,現在勾留についての要件の条文は,取調べを受けさせるために勾留してよいという条文にはなっていません。そうすると,中間処分を勾留に代わる処分として考えたときに,取調べのための出頭を義務付けることができるというのは,そこは整合しません。だから,それを一般的な義務として課すことには無理があるのではないかと思います。   ただし,例えば,現在でも逮捕の場面では,出頭しないことが逃亡の可能性を示す一つの徴表として考えられている場合があります。それだけで逃亡するだろうと決めることはできないとは思いますけど,出頭しないことによって逃亡の可能性が増したという認定ができるのであれば,それは勾留への移行の理由になり得るのではないかと思います。 ○井上分科会長 後者の点は,刑事訴訟法199条1項で,一定以下の軽い罪の場合には,そういう場合に限って逮捕できるとなっていますね。そういうものも,逮捕,身柄拘束の必要に当たるのだという考え方もあるわけで,我々は学会の仲間内だけで議論をしていると,そういう考えは余り流行らないのですけど,そういう説もあるわけですね。   さらに,確かに取調べのために逮捕,勾留して良いとは書いていませんけれども,刑事訴訟法198条1項但書の解釈として,逮捕,勾留されている被疑者の場合には,取調受忍義務がある,あるいは少なくとも,取調べのための出頭を拒むことはできないし,出頭した後,勝手に退出することも許されないという解釈もあるわけですね。そういう解釈も学説の中ではそれほど人気がないかもしれないですけれども,専ら後藤委員が言われたようなお考えだけを前提にして押し通せるものかどうか,そこのところは留保が必要ではないかと思います。 ○川出幹事 勾留への移行のところですが,勾留に移行するのは,一つは遵守事項違反の場合ですが,それと並んで,さきほど青木委員もおっしゃったように,遵守事項違反がなくても,逃亡や罪証隠滅のおそれが高まるような事情があったという場合も,移行を認める事由として入れておいた方がいいと思います。元々,逃亡や罪証隠滅のおそれの程度が低いという点を考慮して,中間処分を認めているわけですから,そこの事情が変われば勾留へ移行するのがむしろ自然ですし,それにより,中間処分を認めることによる弊害も防ぐことができると思います。   それから,手続については,配布資料の「考えられる制度の概要」の中に,遵守事項に違反した場合,その他一定の場合に刑事施設に引致できるとありますが,これは,恐らく最初に中間処分を認める段階で,遵守事項違反等があったら,直ちに引致できるという形の制度として組むということだろうと思います。引致のために別途の審査を経るということになりますと,その間に罪証隠滅がなされてしまうといったこともあるでしょうから,この形の制度が妥当だと思います。 ○島根幹事 「5」の関係での話ですけれども,最初にややテクニカルな話なのですが,この中間処分は,裁判官がこういうことをしなさい,あるいはしてはいけないという遵守事項を付けたときに,その遵守事項のチェックというか,それが担保されているかどうかということは,誰がその責任を持って担当すべき仕事なのかということが一つあります。例えば,勾留であれば,身柄の処遇自体は警察で言えば留置部門というところがやっているのですけれども,これは中間処分の効果をどう考えるかによるのですが,捜査の一環という位置付けで,遵守事項のチェックというものもあるのかどうかというところがどう整理されるのかなということが一つです。これは疑問というか考えているところであります。   それから,遵守事項については,私どもとしては非常にできるだけ高いレベルで,その遵守事項が守られないと,そもそもこの中間処分についてどうなのかというところがあります。例えば,現在の状況で考えれば,ある者がどこに所在しているかということは携帯電話のGPS情報を使えば,ある程度まで確認はできるわけで,それをすべきだと言っているのではないのですが,そういうかなり多角的な方法も今の時点で言えばあり得るわけです。そういったかなり幅のあるものをこの遵守事項で定めることができるのかどうかというところがあります。   それから,先ほどの取調べのための出頭というところについては,そもそもの理屈のところの話はありますけれども,やはり私どもとしては,勾留に代替するという考えでいくのであれば,現実に勾留の期間を利用して私どもとして取調べをやっているという実態を踏まえますと,その出頭も確実に担保されるような措置が必要なのではないかと考えております。 ○井上分科会長 この点につきまして,中間的な処分に付された者が遵守事項に違反するなど,一定の場合には捜査機関による引致も可能として,裁判官の判断を経て勾留に移行することとするという点については余り異論がなかったと思います。   しかし,例えば,対象犯罪を基本的に権利保釈の制限事由に連動させた形で限定するべきかどうか,あるいは,この中間的処分と勾留との関係について,検討課題「2」の①,②のどちらを要件とするのか,被疑者が遵守するべき事項をどのように定めて,その遵守をどのように担保していくのか,さらには,これと関連して,取調べ等のための捜査機関への出頭を義務付けることとすべきなのかどうかといった点については,いずれも制度の根幹に関わる論点ですけれども,なお見解の相違が見られます。また,運用上の懸念も示されたところであります。さらに,御意見が出なかったのですが,検察官が勾留請求をした場合も,裁判官が中間的な処分を選択し得ることとするのかどうかという点なども制度の基本に関わりますので,こういう議論の状況を踏まえ,なお残された検討課題もあるものですから,さらに具体的な制度の在り方についての検討を引き続き行っていきたいと思います。   次に,「第2 身柄拘束に関する適正な運用を担保するための指針となるべき規定」についての検討に入りたいと思います。配布資料5の「第2」の内容について,事務当局の方から御説明してもらいます。 ○保坂幹事 配布資料5の「第2」ですけれども,当分科会の第1回会議を踏まえまして,青木委員からも御提案を頂き,それに対する指摘もありましたので,それぞれA案,B案という形で二つずつ案を示して,両者を対照しつつ御検討いただけるようにしてあります。   「1」は,否認及び黙秘の取扱いに関する留意事項を規定するもので,A案は,当作業分科会の第1回会議で青木委員から示されたもので,B案は,勾留等の判断に当たって,事実を認める供述をしないこと等の事情のみをもって,罪証隠滅等のおそれがあると認めてはならないことを確認的に規定するというものです。   「2」は,身柄拘束の必要性の判断に関する留意事項を規定するもので,A案は,当作業分科会の第1回会議で青木委員から示されたもので,B案は,その議論の実質を汲んで,勾留に当たって,その必要性を適切に判断するように,という趣旨で,社会生活上の重要な利益を不当に害しないように留意するということを確認的に規定するというものです。   検討課題は前回同様ですけれども,そもそも,このような規定を設ける必要があるのかどうか,実務上,このような指針規定がないことによって,何か具体的な不都合があるのかどうか,さらにこれを設けた場合に,その法律上の効果がどうなるか,現行の運用にどういう影響が及ぶこととなるのかといったことについても御検討いただきたいと思います。   御説明は以上でございます。 ○井上分科会長 この点については,当分科会の第1回会議でもかなり議論したところでありますので,あと10分ぐらいを目途に,できるだけ簡潔に御意見を頂ければと思います。 ○髙橋幹事 「1」,「2」のいずれについても,A案については前回かなり議論があったので,新しく出されたB案についてそれぞれ意見を簡単に言います。「1」のB案については,これは余りにも当然のことですので,このような規定を設ける必要性があるのかなと思っているところです。それから,「2」のB案につきましては,裁判所が勾留の判断をする際には,いろいろな利益を考えておりまして,社会生活上の利益以外でもその被疑者・被告人の健康状態ですとか,いろいろなことを考慮して考えている中で,こういう規定を設けると社会生活上の利益を特に重視して判断しなければいけない,ほかの考慮要素よりもこれだけは抜きん出るような形で読めてしまいますので,こういう条文を設けるとかえって不相当なのかなと,そういう気がしております。 ○後藤委員 「1」のB案について,私は必ずしも否定しなくてもよいと思います。裁判所の立場からすれば余りにも当然だと言われるのでしょうけれども,それを条文上に示すことで,判断方法に指針を与える意味があるだろうし,逆にそれを設けたらといって不都合は特にないでしょう。そうすると,これに反対する必要はないと私は思います。 ○井上分科会長 物事をどちらから見るかなのでしょうね。 ○岩尾幹事 「1」の方で,B案を設けた場合に,どういう支障が生じるのか,当たり前のことを確認的に書いたという意味合い,あるいはその当たり前のことを書いたことによって,逆に何か特別の意味があるのではないかということで,どういう解釈がされていくのか,ということは一応慎重に検討する必要があるのかなと思っております。ただ,A案と比較すれば,A案は,前回も申し上げたのですけれども,「不利益に考慮してはならない」というこの規定の文言だけからすると,やはりどのような場面でもどういう形でもおよそ考慮してはならないと読まざるを得ないので,このままの形ではちょっと条文にはなりにくいというか,難しいなという気はしています。 ○後藤委員 仮に,B案の弊害があるとすれば,理論的にA案のような考え方が正しいのにB案で条文を作ると,黙秘や否認を考慮してもよいのだと宣言する結果になるという点かもしれません。A案のように一切考慮すべきではないという理論的立場を採るなら,B案は正しくないことになると思います。ただし現実には,一切考慮してはいけないというA案的な立場では,多くの人たちは一致できないでしょう。そうするとB案のような条文を設けることが現実をより悪くするという意味は持たないのだろうと思います。 ○井上分科会長 後藤委員の御意見ですと,そういう積極的な意味があるということですね。しかし,A案的なものを絶対だと言う人からすると,大きな打撃になるわけですが・・・。 ○後藤委員 それは確かにそうです。そういう効果も持つことも予測しつつ,どちらかといえばプラスになるのではないかという考えです。 ○島根幹事 これはちょっと感想めいた話で恐縮なのですけれども,当たり前のことだから書いてもいいだろうということは一つの考えとしてはあると思うのですけれども,刑事訴訟という全体の中での話なので,その一部分の勾留と保釈の判断のところだけこういうふうに書くという「1」のB案のようなものは,逆にそれ以外のことはどうなのというような議論が出てくる訳で,そういうことを全体的に考えないと,この規定だけ見れば当たり前のことだから書けるというのはどうなのだろうという感想でございます。 ○青木委員 前回A案という形で出したので,それはそれで維持はしたいのですけれども,ただ文言をどうするかということなどに関しては,A案の言葉どおりでないといけないということではありません。当たり前のことであっても,きちんと書いておくという意味で,このB案そのものでいいともまた言いにくいのですけれども,やはりこういう規定はとにかく入れていただきたいということを最後に申し上げたいと思います。 ○井上分科会長 この点については,第1回会議にも相当程度議論したところでありますが,そもそも論としてこういう指針のようなものを設ける必要があるかどうかというところで意見の違いがあります。その前提としては,恐らく勾留や保釈の運用についての認識,あるいはその評価が食い違っているのだろうと思われますが,この点については,このような規定を設ける実務的な要性があるかどうかということを含めて,更に吟味をしていくということが必要なのではないかと思われます。   最後は,少し急がせてしまい,申し訳ありませんでしたが,本日はこのぐらいにさせていただきます。   本日の第4回会議までに当分科会において検討すべき事項は一通り議論することができたと思います。事項によりましては,まだ意見の対立が大きい検討課題も少なくありませんけれども,その一方で,一定程度の意見の一致を見た検討課題もあり,おおむね各事項について,今後の検討の中心となる課題が絞られ,あるいは明らかになったと思っております。   今後は,6月14日に開催が予定されている特別部会での報告のために,本日の議論を含めて,これまでの当分科会での議論について,事務当局作成の配布資料に加筆,修正を施しつつ整理して資料を作成したいと考えております。   その内容につきましては,事前に当分科会の構成員や御発言を頂いた委員・幹事の皆様にお示ししたいと思っておりますが,特別部会での議論のためのたたき台であるという資料の性質と特別部会までに時間的余裕が余りないことから,資料の取りまとめにつきましては,基本的には私にお任せいただければと思っております。   予定していた事項は全て終了しましたので,第4回目の会議はこれで終了したいと思います。なお,本日の会議につきましても,これまでと同じで,特に公表に適さない内容にわたるところはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした形の議事録を公表するということにさせていただきます。   また,前回同様,事務当局において,議事録ができるまでの暫定的なものとして,本日の議論の概要をまとめて,全委員・幹事に送付していただくことにいたします。   それでは,本日はこれで閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-