法制審議会           新時代の刑事司法制度特別部会           第20回会議 議事録 第1 日 時  平成25年6月14日(金)   自 午前10時04分                         至 午後 4時40分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり)           議        事 ○吉川幹事 それでは,ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会の第20回会議を開催いたします。 ○本田部会長 おはようございます。本日は皆様,大変お忙しい中,御出席いただきまして誠にありがとうございます。   なお,本日は御案内のとおり,大変長時間にわたる会議でございますので,よろしくお願いいたします。   本日は,お手元の議事次第のとおり,新たに委員になられた方の御紹介,配布資料の説明の後に,作業分科会での検討状況を踏まえまして,「基本構想」に掲げられた各検討事項について,議論を行うことといたします。   まず,東京高等裁判所における異動に伴い,小川正持さんがこの部会の委員を退任されまして,新たに東京高等裁判所判事の角田正紀さんが委員に任命されました。   角田委員,一言御挨拶をお願いいたします。 ○角田委員 東京高裁判事の角田でございます。よろしくお願いいたします。 ○本田部会長 それでは,本日の配布資料につきまして事務当局から説明していただきたいと思います。 ○吉川幹事 本日は,資料62として,「作業分科会における検討(1)」と題する資料をお配りしております。これは,作業分科会における,現時点での検討の結果を取りまとめたものであり,各検討事項ごとに,「考えられる制度の概要」と「検討課題」を記載しております。もとより,採否に関する意見は留保しつつ検討いただいたという前提でございますが,基本的には,作業分科会において一定程度の認識の共有が図られたと考えられる内容を「考えられる制度の概要」に記載した上で,それについての別の御意見や今後更に検討を要すると考えられる点を「検討課題」に記載しております。具体的な内容につきましては,後ほど,それぞれの議論に際して説明があります。   また,席上には参考資料をお配りしております。これは,各作業分科会で参考資料等として配布された資料を整理してまとめたものでございます。   さらに,あらかじめ大久保委員と村木委員から,御発言の際の補助資料として,御意見を記載したメモの御提出がございましたので,席上に配布させていただきました。   そのほか,本日の議事進行の予定を記載した「第20回会議の議事進行」と題する書面もお配りしております。   なお,本年1月に取りまとめられた「基本構想」につきましても再配布いたしましたので,必要に応じて御参照ください。 ○本田部会長 それでは,早速,議論に入りたいと思います。   先の第19回の会議では,部会の審議を効率的に進めるため,基本構想に記載いたしました各検討事項につきまして,専門的・技術的な検討を加えつつ,制度設計に関するたたき台を作成する場といたしまして,当部会の下に二つの作業分科会を設置しました。そして,当面の進め方として,まずは作業分科会で各検討事項についての検討をしていただき,その結果を踏まえまして当部会で議論を行い,その後引き続き,作業分科会で検討を行うことによりまして,制度設計に関するたたき台を作成し,それを踏まえまして,当部会で採否を含めた審議を行っていくことといたしました。   これまでに,各作業分科会が4回ずつ開催され,各検討事項につきまして,まずはひとわたりの検討を行っていただきました。分科会長をお願いしました井上委員,川端委員,また分科会構成員の方々におかれましては,精力的に検討を進めていただきまして,本当にありがとうございました。   各作業分科会には,今後,制度設計に関するたたき台の策定に向けまして,更に具体的な検討を進めていただくこととなりますので,本日は,皆さんから,現時点における検討の結果に対する御意見,また,今後の検討の方向性についての御意見を頂くことを主眼としつつ,各検討事項について,議論を進めていきたいと考えております。   時間の制約もございますので,本日は事項ごとに議論に費やす時間を区切って議論を進めることといたします。議論の順序は,基本的に基本構想に記載されていた順序によりますが,時間配分を考慮いたしまして,席上にお配りしてございます「第20回会議の議事進行」と題する書面に記載した順番で議論することとし,また,効率的に議論を行う観点から,一部,検討事項を併せて議論することといたしたいと思います。なお,それぞれの議論に際し,配布資料の内容につきまして説明してもらいますが,この説明は事務当局にお願いすることとします。   それでは,早速,「取調べの録音・録画制度」についての議論を行うこととしたいと思います。   まずは,配布資料の内容につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 それでは,御説明をいたします。   資料62の1ページ目を御覧ください。   取調べの録音・録画制度につきましては,第1作業分科会におきまして,基本構想に沿って,「一定の例外事由を定めつつ,原則として,被疑者取調べの全過程について録音・録画を義務付ける制度」と「録音・録画の対象とする範囲は,取調官の一定の裁量に委ねるものとする制度」の二つの制度案について具体的な検討が行われました。   資料には,これまでの検討状況を踏まえ,各制度案について,それぞれ「第1」,「第2」として,現時点で考えられる制度の概要と検討課題が記載されております。   まず,「第1」の制度案について御説明をいたします。   配布資料の「考えられる制度の概要」にありますが,基本構想にも示されているとおり,「1」として,裁判員制度対象事件の身柄事件について,被疑者の取調べ状況を録音及び録画の方法により記録することを捜査機関の行為義務とした上で,録音・録画の対象外とすべき場面を適切に対象外とできる制度となり得るかという点,すなわち録音・録画義務の例外事由の具体的な在り方を中心として検討が行われました。   例外事由につきましては,「2」にありますが,まず,「①」の,機器の故障や通訳人による録音・録画の拒否などのやむを得ない事情により,録音・録画をすることが困難であるときというものと,「②」の,録音・録画により弊害が生じるおそれがあると認めるときの二つの類型に分けられております。   「②」の類型の例外事由は,更に「ア」の,被疑者が録音・録画を拒否し,十分な供述ができないおそれがあると認めるときと,「イ」の,加害行為や畏怖・困惑行為がなされるおそれにより,被疑者が十分な供述ができないおそれがあると認めるときのほか,「ウ」の,その他に分けられております。   そして,「3」では,取調べだけではなく,弁解録取手続も録音・録画義務の対象とするかについて,分科会での検討を踏まえ,準用という形で,同じく対象とすることとされております。   次に,「検討課題」について御説明をいたします。   まず,「検討課題」の「1」についてです。   例外事由の「①」の類型,すなわち,一定の外部的要因により録音・録画の実施が困難な場合の例外事由につきましては,例外の具体的範囲や要件等について意見の一致を見ていない点もあり,更に詰めた検討を行う必要があるとされております。   次に,「検討課題」の「2」ですが,例外事由の「②」の類型,すなわち,録音・録画に伴う弊害が生じるおそれがある場合の例外事由の在り方につきましては,「(1)検討の視点」に挙げた観点から,多角的な検討が行われました。   「(2)個々の例外事由」のうち「ア(被疑者の拒否)」及び「イ(加害行為等のおそれ)」につきましては,これらを例外事由とすべきことについて,ある程度意見が一致をしましたが,異論もございました。また,例外事由とする場合の要件等についても様々な意見が示されたことから,「ア」及び「イ」に挙げた点について更に詰めた検討を行う必要があるとされております。   次に,「ウ」は,その他の例外事由についてですが,資料に,「(考えられる例外事由)」として挙げられているものについて議論が行われたものの,要否も含めて意見の隔たりがあり,更に検討を行う必要があるとされております。   次に,「検討課題」の「3」は,録音・録画を実施しなかった場合の法的効果についてです。   一つ目の○の「録音・録画されていない供述の証拠能力について,特別の規定を設けるか。」,二つ目の○の「取調べ状況の立証には録音・録画記録を必要的なものとするか。」の2点について議論が行われましたが,いずれについても異なる意見が示されており,三つ目の○に挙げておりますが,例外事由の具体的な在り方を踏まえて,理論的な整合性にも留意しつつ,更に検討を行う必要があるとされております。   次に,「第2」の制度案について御説明をいたします。   この「考えられる制度の概要」につきましては,被疑者取調べの一定部分,例えば,弁解録取手続や取調べにおいて被疑者に供述調書の内容の確認を求める場面などについて,捜査機関に録音・録画を義務付けた上で,それ以外の部分については,捜査機関が裁量により録音・録画を実施することができるものとされております。   この制度案につきましては,「検討課題」の「4」に挙げておりますように,適切な範囲の録音・録画の実施が担保される制度となり得るか,「第1」の制度案において,適切な例外事由を設けることができるかという点も考慮しつつ,「1」から「3」に挙げた「『「取調べの一定部分』の範囲」,「例外の要否及びその内容」,「対象事件の範囲」について,「第1」の制度案と並行して,更に検討を行う必要があるとされております。   この検討事項に関する参考資料につきましては,お配りをいたしました「参考資料」の1ページ以下にございますので,適宜,御参照いただければと思います。 ○本田部会長 それでは,「取調べの録音・録画制度」につきまして,「考えられる制度の概要」と「検討課題」の内容を中心に,御意見又は御質問のある方は御発言をお願いいたします。 ○髙綱委員 分科会での議論を踏まえまして改めて申し上げたいのでありますが,第1案のような制度を採った場合には,主に二つの問題から,結局,捜査への支障,弊害というものを適切に回避できないのではないかと考えざるを得ないのであります。   それらは,一つには,例外該当性についての取調官の判断の合理性や妥当性というものが裁判で争われる可能性があること。そして二つには,その判断の合理性なり妥当性が結果的に否定をされたときに,その取調べが違法とされ,これに法的サンクションが加えられることから生じる問題であります。   若干具体例を申し上げますと,前者は,例えば,ある被疑者から,暴力団等の犯罪組織について,その組織的な関与が供述される可能性があるような場合に,これを取調官においては例外と判断したい,ただ,いずれその判断の合理性等を何らかオープンな形で疎明しなければならないとなりますと,この種の事件については,そもそも録音・録画を控える意味がなくなってしまうと考えて,取調官は困惑せざるを得ないのではないかという問題でございます。   今一つは,取調べは事案ごとに様々でありまして,全て取調官の見通しどおりに進むとは限りません。例えば,ある性犯罪の被疑者が被害者等の名誉やプライバシーに関わることを言い出す可能性があるので,これは例外だと判断して録音・録画しなかった,しかし,結果として,そういう供述は出なかったというケースでも,この例外の判断が争われて,取調べそのものが違法とされ得る,そういう可能性があるとなりますと,調べ官は,結局,萎縮をして捜査への弊害を回避する可能性を適切に追求しなくなる。諦めて,取りあえず録音・録画をやっておくかということになるのではないのかなということであります。結局,その全過程義務付けを原則とする第1案では,例外というものを現実に機能する形で適切に設けるということがなかなか困難ではないかと考えるものであります。   一方で,第2案のように,録音・録画しても極めて弊害の少ない場面,これに限って義務付けをするとともに,ほかは取調官の裁量に委ねるというやり方は,これは一定の理解ができるアプローチであると考えます。一定のと申し上げたのは,弊害はこの場合でも完全にゼロではありませんので,懸念はなお残るという意味であります。   いずれにいたしましても,今申し上げましたような観点からも,引き続き,分科会におきまして捜査への支障を適切かつ実効的に排除するような仕組みを検討していただきたいと考えるものであります。 ○村木委員 分科会の先生方には本当に精力的な御検討いただいて,心から感謝をしております。今後もまた分科会での検討があるわけです。先生方に叱られそうですが,もうこの部会が始まって2年以上が経っています。法案提出まで順調に行っても3年が掛かるということで,今後更にまた精力的な検討をお願いしたいと思っています。   まず,総論的なことを申し上げたいと思います。   この部会の設置の趣旨は,えん罪事件とかいろいろな問題が発生をして,取調べ偏重,調書偏重の弊害というのが看過できないところまで来た。こういう弊害をなくして,新しい時代に即した刑事司法制度を作るということがこの部会の設置のスタートだったと思っています。部会が発足してから後もPCメール事件とかいろいろなことが起こって,国民としても良い形の刑事司法制度にしてほしいという思いは非常に強いと思っています。   録音・録画は,この問題にとって非常に大事な解決手段だと思います。今,警察の方の御発言もありましたように,録音・録画の弊害とかリスクに関する懸念というのがある,それはよく分かります。ただ,今の取調べ,今の調書の弊害が余りにも大きいからこの議論が始まったということは是非忘れないでいただきたいと思っております。問題を引き起こした関係者である警察や検察の方が,やはりこの問題について,この部会が設置された趣旨を踏まえて,できるだけ建設的な形で議論に参加をしていただくことを改めてお願いをしたいと思います。   そういう意味では,具体的には,録音・録画は必須だと思っておりますし,録音・録画を取り入れる趣旨に照らせば,取調べというのは原則録音・録画をするということを基本とした制度を是非作っていただきたい。ここは譲れないところだと私は思っております。   基本構想で,この「第1」と「第2」という二つの案が示されました。理論的には,両方の案があるのだろうと思いますが,元々取調べでいろいろな問題があって,録音・録画を取り入れようというときに,録音・録画の範囲を取調べ側が選ぶという案というのは,なかなか今の段階で採るというのは難しい。「第2」の案を採用するというのはあり得ないのではないかと思っております。是非「第1」の案でやっていただきたいと思っています。   その場合,「例外」がどうなるかということですが,基本的なお願いは,例外ばかりが増えて,いつの間にか例外と原則がひっくり返ってしまう,あるいは例外のルールが余りにも曖昧で,今,警察の方もおっしゃったように,後で争いばかりが起こるというようなものにはしていただきたくないと思っています。   ここで例外の①というのがあります。例えば,機器が故障したとか,通訳人の都合だということも絶対ないとは言いません。しかし,こういう場合でもできるだけ録音・録画が行われるように最大限の努力をしてほしい。そういう意味では,機器の故障は,そもそも取調べ機関が機器を整備をしておくのは責任ですから,あってはならないことですし,もし,録音が駄目でも,せめて録画だけはするとか,そういったことをきちんとやってほしい。   通訳人についても,通訳人が録音・録画を拒むというのはどういう場合かよく分かりませんが,もし通訳人の身の安全のためということであれば,通訳人を画面から外すとか,録音だけにするとか,再生のときに通訳人が特定されないようにするとか,いろいろなやり方があるわけです。通訳人の都合で肝心の被疑者が録音・録画をしてもらうということができなくなるということは,どうも本末転倒のような気がしてなりません。   それから,例外の②でございます。これは,自分とか自分に近い人の身に危険が及ぶようなときに,録音・録画をしたくないというのは一定程度理解ができると思います。もし,その御本人が拒否をするまでの間の録音・録画がきちんとされる,あるいは拒否をしていることが明確に分かるような手段をお採りいただければ,こういったことが例外となるというのは納得ができるように思います。理由のいかんを問わず,本人がノーと言ったら録画をしないという制度もあり得るのかなと思いますが,ここは是非また御専門家の意見を頂いて自分なりの考えをまとめたいと思っております。   それから,「その他」ということで,被疑者の不安とか緊張とか羞恥だとか名誉だとかうんぬんということが挙げられていました。こういうものは,私も経験しましたが,逮捕されて取調べを受けるということであれば誰もが感じることであります。程度の差はあるでしょうが,そういうものだと思いますので,こういうものを広く例外の理由とするということになると,みんな例外になってしまうのではないかと思います。   また,関係者の心情とか名誉とか利益ということも今お話がありましたが,そのために今度は被告人や被疑者の身を守るための大事な録音・録画がされないということも,これもまたそういうことは困ると思っております。捜査機関の捜査に支障があるということも同じでございまして,これは証拠開示や再生の制限で対応すべき問題ではないかと思います。   いずれにしましても,今の警察の方のお話にもありましたが,そもそもどういう供述をするかということを事前に分かっているのは本人だけでありまして,それ以外の人はそういうことは予測をできないわけですから,本人が拒否する場合を除いては,いろいろな例外を作れば作るほど,必ずそれが後で争いの種になるということになるわけですから,そうしたものを例外とする制度は是非採用しないでいただきたいと思っております。   また,これだけではなくて,録音・録画の対象事件とか参考人の取扱いとか,この問題については幅広い議論を後にまたしなければいけないと思いますが,できる限り録音・録画の範囲を広げていただきたい。コストなどの様々な問題もありますから,場合によっては録音だけということでも良いし,そういったことについては柔軟に自分も考えていきたいと思っておりますので,是非良い制度になるようにお願いいたします。 ○大野委員 今回示されました「第1」の制度概要について意見を申し上げたいと思います。   これまでも,原則として被疑者取調べの全過程について録音・録画を義務付ける「第1」のような制度案を検討する場合においては,録音・録画の下では被疑者が十分な供述ができないと認められる場合等を適切に録音・録画の対象外とする必要があると申し上げてまいりました。この度,作業分科会において,こうした例外とすべき場面について,個別に具体的な検討をしていただいた上で,まだ途中とはいえ,考えられる制度案を示していただいたわけですけれども,今後更に作業分科会で詰めた検討を行っていただきたいと思います。   現段階で検討対象とされている例外事由を見ますと,まず,制度概要「2」の①において,機器の故障や通訳人の拒否その他のやむを得ない事由により,録音・録画をすることができないときが掲げられています。これらの事由が生じることは,先ほど村木委員がおっしゃいましたように,実際にはまれであろうと思いますけれども,録音・録画を制度化する以上は,実際にこうした事由が発生したときに適切に対応できるように録音・録画義務の例外とする必要があると考えるところです。   次に,制度概要「2」の②においては,録音・録画により弊害が生じるおそれがあると認められるときとして,「ア」の被疑者の拒否の場合と,「イ」の加害行為又は畏怖困惑行為がなされるおそれにより被疑者が十分な供述をすることができない場合とが掲げられています。   このうち「ア」の被疑者の拒否については,被疑者が録音・録画を実施しなければ供述できるのに,制度上録音・録画を義務付けて,供述が得られなくてもよいという制度とすることは,捜査機関にとっては受け入れ難いところであり,例外とする必要があると考えております。   また,その点に関連して,録音・録画の拒否場面を録音・録画しなければならないこととするかが検討課題とされておりますが,この点については,これを必須としなくても,録音・録画を実施しないことによる不利益を負う立場にある捜査機関において,拒否の有無についての争いが生じた場合に備えて,必要に応じて運用で録音・録画を行うなど適切な対処を行うこととなると考えられるということを指摘しておきたいと思います。   また,「イ」の加害行為等のおそれにより十分な供述ができない場合についても,同様に例外とすべきであり,それに当たっては,被疑者が十分な供述ができなくなるというのは,生命,身体に対する重大な加害行為がなされる場合であれ,その余の畏怖困惑行為がなされる場合であれ,同様であって,要するに,被疑者が十分な供述ができないほどの影響があるかどうかが問題であると考えますので,これらの事由によって十分な供述が得られなくなることを回避するため例外とするのであれば,ひとしく例外事由とするべきであると考えます。   以上,今回示された「第1」の制度概要について感じるところを申し上げましたが,今後の作業分科会での検討に際しましては,「検討課題」の「2」「(2)」「ウ」に記載されたからまでのその他の例外事由についても,これらを例外事由とせずして取調べの機能を損なうこととならないのかという観点から,作業分科会においても更に検討を進めていただきたいと思います。 ○安岡委員 作業分科会の皆様,それから事務当局の皆様,お暑い中を大変御苦労されましてありがとうございました。   可視化の問題で,意見一つと,質問を一つします。   意見は,最初に述べられました警察庁の委員の方と真っ向から対立する,それから今,大野委員が述べられたのと真っ向から対立するものです。可視化義務付けの例外扱いはいずれにしても設定せざるを得ないと思うのですけれども,そういう例外規定を設ける場合には,事件が裁判に移ったときに,取調官が例外規定を適用した判断が適正だったのかどうかを実質的にきちんと裁判で争うことが可能なものに限っていただきたい。事後検証できる例外規定に限る。そうでない例外規定は設けるべきではない。   例えば,先ほど村木委員の御意見の中にありました「甚だしい羞恥心を覚えるおそれがある」という条件などは,これは後で検証するのは全然不可能ですので,そういうものは例外として認めるべきではないと思います。また例外規定を設ける場合には,後にその例外規定の適用が適正だったかどうか争える,事後検証できるようにするシステムを併せて考えていただきたい。例えば,可視化された状態での供述を被疑者が拒否したことを例外扱いとして認めるなら,拒否場面について,本当に拒否したのか,捜査官の唆しと言うと言葉は悪いですけれども,捜査官に言われて拒否したのではない,真実自分からこれはやめてくれと言ったのだと後日検証できるような方式を,例外規定とセットで設定していただきたい。   それから,質問は,こういうケースがあるのだろうか,こういうケースがあったときには,それをブロックするシステムはあるのだろうかということです。どういうことかと言いますと,「第1」の場合については裁判員裁判対象事件に限るとされていますけれども,例えば,窃盗と傷害で逮捕して取調べが行われると,その取調べ,調書作成の過程は可視化されないわけですから,可視化,録音・録画媒体抜きの調書ができ上がりますが,それを検察官が起訴時に強盗傷人の罪で立件したとすると,裁判員裁判になるわけですね。それで,その被告人が裁判では否認に転じたとなると,捜査段階で調書でこういうのがあるぞとなるのではないか。そうすると,裁判員裁判法廷なのだけれども,そこに可視化されていない調書が出てくると思うのですけれども,こういう場合にはどうなるのでしょうか。   それから,例えば,殺人・死体遺棄事件があったとして,まず遺棄容疑で逮捕して,取り調べた中で,殺人についても認めて,それが調書化された。ところが,殺人容疑で再逮捕したときには,可視化されて取調べを受けている中で,被疑者が否認するなり黙秘をして,その殺人を認める調書が取れなかったとします。すると,殺人・死体遺棄ですから裁判員裁判になるわけですけれども,その法廷に,遺棄容疑で逮捕・取り調べたときの可視化されていない調書が出てくるのではないかと思うのですけれども,こういう場合には何かブロックする規定などがあるのかどうなのか,これが質問です。 ○上冨幹事 今御質問いただいた点でございますが,基本的には「第1」案のような制度を作るのであれば,その義務付けの対象となる範囲の事件をどのように定めるかという問題と,それから,録音・録画されていない取調べにおいて作成された供述証拠の証拠能力をどのように考えるかという,いずれにしても,制度の作り方の問題なのではないかと思います。   ただ,ブロックという御趣旨が,例えば,行為義務が課されていない手続下において作成されたものであっても,すなわち,義務違反がない場合であっても証拠にしないという御趣旨であるとするならば,そういう制度として改めて設けない限りは,証拠能力が否定されるということには必ずしもならないのだろうと思います。   いずれにしても,具体的な制度をどういうふうに組んでいくかの問題かなと考えます。 ○神津委員 作業分科会での検討状況ということについては,大変に難しい問題を検討されてきたということについては改めて敬意を表しておきたいと思います。そのことを申し上げた上で,以下,少し率直な物言いになるかもしれませんが,あらかじめお許しを頂きたいなと思います。   これまでのいろいろな議論を振り返ってみて,そもそもこの検討を,取り分け取調べの録音・録画制度ということについて検討をしなければならないというふうに至ったのは何でなのだろうかという,そのことの原点に立ち返らないといかんのではないのかなという思いを強くしています。そもそも考え方を,やはり根っこのところから転換していかないと,どうも堂々巡りの議論に終始してしまうのではないかと思います。   いろいろ頂いた議論,御意見の中を見ますと,これまでのやり方で別に困らないではないか,そう言っているととられても仕方のないような御議論も少なからずあるのかなという気がしています。そもそも考え方を転換するというのは,具体的には,やはり基本的には録音・録画をするものなのである,あるいは録画ということがなかなか難しい場合においても,せめて録音ができないのかといったことを追求するということが基本なのではないかと思います。取調べをされる方も,これは当たり前の話ですけれども,一人の人間なのであって,聖人君子ということはあり得ないわけですから,聖人君子ということはあり得ないということを前提にその制度を作っていかないと,これは結局,こういう検討をするに至った様々なあってはならないケースが次々と明るみに出てきたということが,結局これからもまた繰り返されてしまうのではないのかなという懸念を強く持ちました。そういった思いからすると,二つの制度案が検討することとしてあるのですけれども,二つ目の「取調官の一定の裁量に委ねるものとする制度」というのは,私はこれはあり得ないなと改めて思います。   それから,個別の話の中身にも幾つか触れたいと思うのですが,例外とするという一つ目の考え方の中においても,例外とするという中に機械の故障というのがあるのですけれども,これだけを見ますと,少しこれ本当にいつの時代の話かなという気が率直にします。これだけICレコーダーも普通に普及をしているような世の中であって,のっけから機械の故障ということがしょっちょうあるみたいな,それと,それをカバーする手だてというものを同時に表現していないような形で例外として真っ先に挙げているというのは考えられないなと私自身の感覚からすると思います。   それから,通訳の方の拒否ということについても,これだけのグローバルな世の中で,したがって,日本語を話せない人の犯罪,そういった事案が多くあるということだと思うのですけれども,そういう時代だからこそ,これをはなから例外だと挙げられていることについて,これはやはりまず録音・録画は基本なのであって,そのことに向けてどういうふうに努力するのかという姿勢が見られないなと思います。   それから,法的効果ということに関してなのですけれども,私は冒頭に申し上げたように,基本的にはこれは録音・録画が当たり前のものだと考え方を転換していかなければいかんと思っていまして,そういう中においては,取調べ状況の立証ということについては,録音・録画記録というものは必要だということがなければ,この全体の制度の効果というものが減殺されるんだろうと思いますし,また,仮に被疑者が拒否した場合を例外とする場合においても,その拒否の場面の録音・録画,あるいはそれに加えて被疑者と弁護人の連名での上申書ということも,これは極めて有効な手段として検討することが必要なのではないかと思います。   私は,この部会でこれまで透明性と国民に対する説明責任の強化ということを申し上げてまいりました。是非そういう観点に立って,やはりこの検討をするに至った原点を常に見極めながら検討を重ねていっていただきたいなと思います。 ○今崎委員 ただいまの議論を伺っておりまして,裁判所の運営をあずかる身から一言申し上げます。   「第1」の案について,対象とする事件は,取りあえず裁判員制度対象事件となっていて,恐らくこの範囲については今後更に検討されるということでありましょうが,いずれにしても,裁判員制度対象事件のかなりの部分がこれに入ってくるということは間違いないのだろうと思っております。   それを考えたときに,これは先ほど来から何人かの委員からも御指摘がございましたけれども,例外について当たるかどうかという判断が,後の訴訟にどういう影響を及ぼすかということについては,私どもとしては懸念を感じざるを得ません。   具体的に申しますと,例えば「2」の②の例外のうちの,「イ」が上がっておりますけれども,こういったものが後の訴訟で,例えば,証拠能力の判断に影響するかどうかという形で問題になるとすると,かなり手続が重くなる可能性がございます。更に申し上げれば,例外を広く採るということは,証拠能力だけではなく証明力の問題にも係ってまいります。事後的な検証が客観的に,しかも,明確になされるような制度設計にしていただくことを強く希望いたしますし,その上で,特に証明力判断が問題になるような場合に,客観的かつ明確な制度がないときには,裁判,取り分け裁判員裁判ではかなり大きな問題が生じる可能性があるということを申し上げておきたいと思います。 ○井上委員 神津委員の御発言について,やや誤解もあるようですので申し述べさせていただきたいと思います。   最初にお話しになられた方向性については,それはこの部会で御議論いただくことだと理解しており,分科会としては,基本構想で付託された事柄について,技術的な点や理論的な整合性などの点を中心に議論し,考えられる案というものを作りつつあるということでございます。   また,例外の①について,最初にこのような事項を掲げるのは不適切ではないかということですが,これが例外の最も重要な点だということではなく,最低限このような場合は録音・録画しなくてもやむを得ないだろうということで,例外としてミニマムなものをまず①として掲げてあるだけです。おっしゃったように,機器の故障や通訳人についても,最大限努力して,録音・録画を実施することができるように努めるということは当然のことでして,そう努めても,どうしてもできないという場合に例外とされ得るということだと思います。   ICレコーダーの点についても,分科会でも議論しましたけれども,その辺の街角で売っているようなものを買ってきて録音すればよいという安直なことではなく,やはり正確に記録し,真正性を保った形で保全することにより,後で問題が生じないようにしなければならず,そのためにはそれなりの装置が必要になってくるわけですし,通訳人についても,適任の通訳人が得られにくい少数言語等もありますので,ぎりぎりどうしても駄目な場合は,やはりやむを得ない。そういう趣旨の例外規定だと理解していただきたいと思います。 ○大久保委員 まず,分科会の先生方,事務当局の皆様,本当にここまでまとめていただきましてありがとうございました。私の発言につきましては,本日配布の一番後ろの方に別添資料として付いておりますので,それを参考にしていただければと思います。   その中で,まず1枚目につきましては,実は,この4月10日に,自民党におきまして「治安・テロ対策調査会」のヒアリングが行われました。そのときに,私自身が幾つかの資料を出した,その中にこちらの資料にあります「(1)刑事司法に望むこと」ということで①~③まで提出させていただきました。   その結果,「犯罪被害者への支援強化」といたしまして,5月21日,自民党の方から,「世界一の安全を取り戻すために~緊急に取り組むべき3つの課題~」としてまとめられ,その提言の中に,「今後さらに,新たな刑事司法制度の検討の中で,犯罪被害者の視点を的確に反映していく必要がある」,そしてまた続いて「被害者が再び犯罪の被害に遭うことがないよう,きめ細かな対応をとる」ということが文言にしっかり反映されまして,5月27日,安倍総理に報告されております。   このような状況もありますので,是非この部会におきましても,犯罪被害者の視点を更に的確に反映をしていただきたいと思います。   先ほど,委員の皆様からの可視化に関します意見を聞いておりましても,その中ではなかなか,例外事由としてということで,その被害者の名誉うんぬんという辺りは出ましたけれども,まだ本当にその被害者の現状,置かれている立場というものが御理解されていないように感じます。   全てを録画するということになってしまいますと,今までの試行の結果の報告からも問題があるとされましたように,やはり取調べの機能が損なわれて,事案の解明が困難になることや,被害者の名誉やプライバシーが害されることが出てくるということがはっきりと分かっておりますので,そのようにならないような仕組みに是非していただきたいと思います。   「第1」の案,「第2」の案とありますけれども,「第2」の案であれば,取調べの機能を損なったり,被害者の名誉等が害されるというような程度は低いように見えます。もちろん,先ほどから例外があるとどんどんそれが広がっていくというような意見もございましたけれども,しかし,そこはしっかりと被害者が今後被害から回復をして社会復帰をしていくためには,被害者が刑事司法に関わったとき,裁判に関わったとき,それ以上被害者に二次被害を与えないようにという視点を決して忘れないようにしていただきたいと思います。 ○周防委員 村木委員や安岡委員,そして神津委員のおっしゃったことは,ほぼ私が考えていることと一緒ですので,それにプラスして一つお話ししたいのですが,警察・検察関係者の方のお話を聞いていると,録音・録画がいかに取調べの機能を損なうかという視点でお話しになっていますが,いまだに旧来やってきた今までの取調べの機能というものにすがりついているというか,今までの取調べにしがみついていて,録音・録画によって今までの取調べにどういった弊害が起こるのかという視点で物を見られているのではないのか。今ここで,警察・検察関係者の方々に是非考えていただきたいのは,取調べを録音・録画することで,これからの取調べで一体何ができるか,そっちの方できちんと知恵を絞るべきではないか。何だか後ろ向きで,今まで自分たちがやってきた取調べのやり方を,これによって邪魔される,邪魔されたくないから例外を一杯作りたい,そういうふうにしかやはり聞こえてきません。これは神津委員もおっしゃったことですが,警察・検察関係者の方の意見を聞いていますと,今までだってきちんとやってきたではないかと,少しぐらいの間違いはあったかもしれないけれど,録音・録画を取り入れられることによって損なわれる不利益の方が大きいのだとおっしゃっているようにしか聞こえないので,是非,録音・録画することによってこれからどういった取調べができるのか,そういう観点でもう一度録音・録画について考え直していただきたいなと思っております。 ○佐藤委員 分科会での検討に向けての要望と,それから1点お尋ねをしたいと思います。   要望の方ですけれども,今伺っていて私が思いますのは,既に基本構想の中で,被疑者取調べの録音・録画制度を導入するという方向性を定めた上で,分科会で審議が行われてきていると承知しますので,その方向性と異なる結果は恐らく出ていないのだろうと思います。そういう観点に立って見ましたときに,刑事訴訟法の第1条の「事案の真相を明らかにし」ということを前提として制度が仕組まれていくべきだと考えますと,どうしても第1案であろうが,第2案であろうが,一定の除外事由というものを定めざるを得ない。それは物理的な問題も含めて捜査上の問題,あるいは今,大久保委員が言われたように,人権上の問題を考えて除外を設けざるを得ない。そうなりますと,その除外をしたことが適正であったかどうか,あるいは適正に行われたという判断を捜査側なり,裁判官,あるいは裁判員が行うときに,除外事由というものを設ければ,相当工夫をしたとしても,恐らくいろいろ困難な点は残る。これは除外の適正性の判断という性格上,やむを得ないことだろうと思うのです。そうしますと,除外事由を設けざるを得ない,しかし,その認定は非常に難しいと,こういう現実に鑑みますと,第1案と第2案の違いは,どこに帰着するのだろう。それをぎりぎり突き詰めていきますと,それほど違いは生じないのではないかと思うわけです。   そこで,元へ返りまして基本構想の録音・録画制度を導入するという立場に立ってみますと,形式的に義務付けをしていくということが果たして本当に録音・録画というものを的確に行わせる制度として作れるのだろうか。ひょっとすると,形式上は一見緩く見えるけれども,実質的な定め方によって,実はその導入というものを確かなものにすることができるかもしれない。そうすると,結局は,証拠法則の問題になってくるのではないか。そうしますと,ここから先はお尋ねなのですけれども,分科会の審議の中では,この録音・録画を実質証拠として用いるという議論はあったのか,なかったのか。ない,ないしはそういうことは考えていないということであるとすると,任意性判断の証拠ということになるのでしょうけれども,そのときの任意性の証拠としての判断,それが先ほどの除外事由の判断と深く関わってくるとして,そういう点で,この第1案,第2案を見たときに,どこが違ってくるのかと,そういう視点で是非検討を重ねていっていただければ,実質的に有効なものが作れるのではないか,観念論をやっていても,前に恐らく進まないだろうと,そう思いますので,要望と質問を申し上げました。 ○井上委員 御質問の点についてお答えしますと,実質証拠の問題につきましては,この部会でも御議論があったとおりでありまして,そこでははっきりした結論は出ていないと思うのですが,基本構想では実質証拠としての証拠能力を制限すべきであるとは言及されていません。ですから,現行法ないしその下での解釈どおりのままなのだろうとは思っていますけれども,とにかく分科会への付託事項ではありませんので,そこには踏み込んで議論するということはしませんでした。   証拠としての取扱いも,「検討事項」に記載されていますように,まず,任意性の問題とするのか,あるいは違法収集証拠として証拠能力を問うのかという問題があり,任意性一般あるいは違法収集証拠の証拠能力一般との理論的な整合性ということが越えなければならない山となります。また,そのような証拠能力を制限するというやり方とは別に,任意性などが争われたときに,それを証明する方法を制限するという形で対処するというやり方,これも部会で示されていましたけれども,そういうやり方もあり得るかと思われます。どれがベストなやり方なのか,そういうことについて,作業分科会で議論している途中であります。 ○小坂井幹事 今,佐藤委員の御発言について,「第1」と「第2」については,考えようによっては違わなくなってくるのではないかという趣旨に私は受け取ったわけです。けれども,私も分科会で幹事として議論に参加させていただいておって,正に井上分科会長がおっしゃるように,分科会自体は確かに基本的に技術的な問題を議論するんだということにはなっているわけですが,同時に,理論的整合性というような議論も出ましたように,それが実態とどう関わるのかの議論があります。そういう議論も確かに分科会の中ではしているという経緯があるということを御紹介した上で,やはりこの「第1」と「第2」が基本構想の中にうたわれていて,この前,分科会でこれに関して議論をさせていただいて,率直に申し上げれば,この「第1」に関しては,まとまってきたペーパーについて,方向性がどこまであるか,ないかとかの議論はいろいろあるでしょうけれども,それなりには煮詰まった議論が3ページにわたって今回まとまる形になっている。それが実情だと見ています。「第2」については,見ていただいたらお分かりいただけると思いますけれども,詰まっているとはちょっと申し上げにくい状態になっています。そういう議論の状況としてはなっていると見るのが正しいだろうと思います。   それで,警察の方などから,「第2」が良いというような話が最初に出たりしたわけですけれども,その中で弊害というのはやはり何らかの形でオープンになる以上は,とにかく録画範囲は裁量でやらないといかん,少なくせんといかん,こういう議論にざっくり言えば聞こえるわけです。けれども,これはやはりどんなシステムだって最低限裁判所がチェックはするわけなので,そこでオープンになるならないという形で異を唱えることが現段階で相当な段階にあるとは思われません。これはもう既に村木委員,安岡委員,神津委員,周防委員がおっしゃっていることなので,同じことの繰り返しになりますけれども,取調べの録音・録画制度の導入には,正に取調べ適正化目的というのが厳としてあるわけです。その場合に,規制という言葉を使うことが適切かどうかは分かりかねますけれども,規制される側といいますか,そちらが自由に出し入れできるという制度は,これはどうしても本末転倒にならざるを得ないので,そういう点はやはりきっちり確認,認識しておく必要があるのではないかと思っています。   その上で,今回,取調べ録音・録画制度ということで,「第1」の方に枠囲いがあって,「考えられる制度の概要」というのが出ております。この「第1」の中には,「いわゆる裁判員制度対象事件について逮捕又は勾留されている被疑者」と,こういう文言が出ているわけですけれども,これは御承知のとおりというべきか,基本構想でまず念頭に置くのが裁判員制度対象事件であるとして,先ほども議論が出ましたが,更に範囲の在り方については検討を加えるということにした経緯でこの文言が入っているわけです。この枠囲いの中にこれが入っていること自体に何か論理的な必然性があるわけではないのではないか。したがって,先ほどもちょっと議論が出ましたが,今後この制度構想の枠組みの中で対象事件を広げていく議論が,この部会で開始されていくことになるであろう。そして,その枠組みは,たとえまだ不完全であっても,できつつあると見てよいのではないか。更に言えば,参考人取調べに関しても,この基本的な制度枠組みの中で,この延長線上に想定していくことが可能なところまでたたき台ができつつあるのではないのかな。そういう認識を持っています。   この中で,先ほども出ていましたが,「映像及び音声を同時に記録することができるものに限る。」と,こういう文言が一応入っているわけです。けれども,これはもちろんたたき台として入れられたというのは趣旨としては理解するのですが,先ほどから繰り返し議論が出ておりますとおり,ここで録音のみという場面がこの制度の中に組み込まれてはいけないという理由は逆に言えば何もないわけです。それは録画できない状況であって,録音はできる状態である場合とか,私どもの発想からすると,録画は拒否するが,録音はオーケーという方もいらっしゃるだろうということもあったりするわけなので,いずれにしても,制度に録音を組み込むということは,今後これは前向きにといいますか,当然のこととして考えていくべきではないかなと思っております。   確かに難しいのが,この次の例外事由とされているものをどう扱うかなのです。が,「2」の①については,私などは,物理的支障に関しては,結果的にどうも故障しておったなということが後から分かったような場合をどちらかというとイメージしてきたところはあるのですが,いずれにしましても,こういう支障,やむを得ない事由というものはとことん一定のプロセスを経てやっていく。駄目だという通訳人が仮にいるなら,少数言語でなければですよ,少数言語の場合はこうだ,ああだという議論はあり得るかもしれませんが,きちんとそれで構わないという通訳人もいらっしゃるわけですから,そういう通訳人を持ってくると,こういうようなことに当然なるわけですので,これは相当なプロセスを踏んだ上でないと例外にもならないのではないのかな,そういう認識で良いのではないのかなと思っています。   実質は,②の「ア」と「イ」になるわけです。けれども,これは中身の議論に入りますが,これは作業分科会でも相当議論されて,なかなかこの「ア」も「イ」も悩ましいところは正直申し上げればあろうかと思います。仮に,「ア」のように拒否を前提にしつつという上で,なおかつ,これは「十分な供述をすることができないおそれがあると認めるとき」という形で捜査官の方が判断されるというか,何らかのことをされるということを前提にも読めなくもないのですけれども,恐らくは,意味としては,拒んでいる人に対して,拒まずに録画・録音下で良いでしょうということを告げられるというような場面が想定されるのかなと思ったりはするのです。が,いずれにしても,捜査官の一定の判断が入る形になっているのかなと思います。   「イ」についても,別個の事由ですけれども,そういう形の判断が入ってき得るので,仮に判断を入れるんだとすれば,やはりこれは相当に要件の絞り,先ほどから出ております事後的な検証という意味からいっても,それがなるべく一義的に明らかになるような形の要件の絞りが必要になってくるのではないか。そういう意味で言いますと,②の「イ」に,財産に害とか畏怖若しくは困惑まで含ませられているのについては,いかにも広過ぎはしないのか。こういうことを入れていくと,どんどん不適正取調べの防止は困難になってくるのではないかと,こういう考えを持っております。   時間がありませんので紹介だけになりますけれども,参考資料の方の最初の2ページから4ページにかけまして,これは私の名義で出した現在の当方の案という形で提出させていただいているものがございます。この案自体は,基本的に②のうちの「イ」を採用した上で,なおかつ,生命,身体への重大な危害が加えられるおそれがあると認められるときに限って止めることができるという,基本的にはそういう例外案ということになっておりますけれども,ここは被疑者が拒否した場合の問題を含めて,まだ検討の余地がいろいろあるんだろうと思っています。   長くなりましたが,以上です。 ○後藤委員 私も第1分科会のメンバーですけれども,先ほどの安岡委員の御発言を伺って,私自身の問題意識が足りなかったと考えた点がありましたので,お話しします。   この「第1」の案は,基本的に,録音・録画を義務付ける範囲を事件の重さによって区切るという考え方をとっています。そして事件の重さを決める基準として身体拘束の理由になっている罪の重さによって決めるという考え方を採っています。しかし,現実には余罪の取調べも行っていて,それは必ずしも違法とはされていません。そうすると,この基準の罪名には当たらない罪の嫌疑を理由に身体拘束されていても,実質上は,裁判員制度対象事件に当たる罪について被疑者として取り調べられる可能性があります。そういう場合をどうするのかという問いとして,安岡委員の問題提起を理解することができるように思いました。その点は確かにもう少し詰めて考える必要があると思いました。 ○椎橋委員 まず,分科会で精力的に詰めた議論をされたことについて敬意を表したいと思います。   先ほど神津委員が,この問題は原点に立ち返って考えるべきだとおっしゃいましたけれども,適正な取調べを実現すべきということについては全ての委員・幹事が同じ考えで臨んでいると思います。取調べの録音・録画を実現している海外の国々についても,違法な取調べやその結果として生じた誤判とか,そのような問題を経験した上で,それぞれの録音・録画の法律を作ってきたと思われます。そして,我々は当初,八つの国々の録音・録画制度について参考にしてきて,そのうち次第に日本に参考になるのはどの制度かというようなことを考えているうちに,一番参考になるのは,アメリカとか韓国とかいったような国々の制度ではないかと思うのですけれども,例えば,韓国では録音・録画の実施は検察官の裁量に委ねられています。アメリカは,連邦では録音・録画制度は採っておりませんけれども,州とか,あるいはそれより下の自治体のレベルで録音・録画をしている法域があります。しかし,その場合でも対象を重大な犯罪に限定して,そして捜査機関の裁量に委ねるというところが多いということは言えると思うのです。ですから,この「第2」案についても,録音・録画を義務付ける取調べの一定の部分をどう考えるか,これは「第1」案の内容を相当取り入れるということによれば,「第2」案もなお検討に値するということは言えると思うのです。ただ,「第1」案の方が明確性という点では優れていると思いますので,「第1」案を採るという立場に立った場合には,いかに例外を過不足なく規定するかということが重要だと思いますし,その場合に,「第1」案の例外に書かれている①,②については,②の場合,②の例外事由に該当するかを判断する上で難しさというのはあるかもしれませんけれども,それは更に今後表現ぶり等を工夫をするということによって,適切な文言にしていく努力をすべきではないかと思います。現実に,共犯事件の場合は,被疑者は録音・録画がなければ,供述したい,供述してくれる,それによって真相が解明されるということはあるわけですから,例外該当性の判断が難しいからといって,木目の細かい,具体的に妥当な制度設計を諦めてしまうというのではなくて,やはり飽くまでそういう必要な部分がある場合には,それを取り込むという形で,そして,それをうまく表現できるということを考えていくべきではないかと考えております。 ○神津委員 先ほど井上委員から御指摘を幾つかいただきましたので,時間の関係もあるので一つだけ申し上げておきたいと思うのですが,ICレコーダーについて,その辺のものを持ってくれば良いということではないというのは全く私もそのとおりだと思います。したがって,この目的にかなう水準なり機能というのはどういうところなのかというところは少し科学的に検討を深めていただきたいなと思います。一方では,被疑者がひそかに録音していたものが,結果的に調書の証拠能力を否定するというような事案も確かあったと記憶していますので,そういう意味では,やはりそういう,その場合は目的にかなうようなことに結果としてなっていたのかなと,こんなふうにも思いますので,そのことをお願い申し上げておきたいと思います。 ○周防委員 例外事由で録音・録画されたくないということばかり言っていますけど,逆に,これは対象事件の範囲にも関わってくるとは思うのですが,録音・録画をしてくれなければ取調べに応じないという逆のこともあるので,そこも一つ検討していただきたいと思っています。 ○本田部会長 それでは,時間の都合もございますので,「取調べの録音・録画制度」についての議論は,ひとまずここまでとさせていただきたいと思います。   次に,「通信傍受の合理化・効率化」,「会話傍受」についての議論を行うこととしたいと思います。   まず,資料の内容につきまして事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○上野幹事 資料62の5ページを御覧ください。   まず,「通信傍受の合理化・効率化」について御説明いたします。   「通信傍受の合理化・効率化」については,第1作業分科会において,基本構想に沿って,「対象犯罪の拡大」,「立会い,封印等の手続の合理化」,「該当性判断のための傍受の合理化」につき,それぞれ具体的な制度案の検討が行われました。   資料には,これまでの検討状況を踏まえ,それぞれ「第1」から「第3」まで,現時点で考えられる制度の概要と検討課題が記載されています。   まず,「第1 対象犯罪の拡大」について御説明します。   基本構想では,振り込め詐欺,組織窃盗,略取・誘拐,「通信を媒介にして行われる犯罪」を含め,通信傍受の必要性・有用性が高い犯罪を対象犯罪に追加することについて,具体的な検討を行うこととされています。   第1作業分科会においては,これを受けて,配布資料の①から③までの具体的な犯罪について検討が行われるとともに,④として,これら以外に具体的な犯罪が考えられるかについて検討が行われました。   その結果,対象犯罪を拡大すること自体には特段の異論はありませんでしたが,具体的な拡大の範囲,特に,④として,具体的にどのような罪種を含めるかについては,更に検討の必要があるとされ,また,対象犯罪に組織性の要件を付加するかなど,罪名に加えて何らかの限定要件を付すこととするかについても,その必要性や実効性について異なる意見が示されたため,更に検討の必要があるとされています。   次に,「第2 立会い,封印等の手続の合理化」について御説明します。   現行法の下で,通信傍受は,通信事業者の施設において,通信事業者等の立会いを得て実施しており,傍受した内容を記録した記録媒体は,立会人による封印を経た上で,遅滞なく裁判官に提出することとされていますが,基本構想においては,「暗号等の技術的措置を活用することにより,立会いや封印等の手続を合理化すること」について,具体的な検討を行うこととされています。   第1作業分科会において,警察庁の技官から,技術的な事項に関するヒアリングを実施した上で,検討が行われた結果,「考えられる制度の概要」の「1」の新たな仕組みにより,立会人が果たすべき役割や封印の機能を代替し得ることについては特段の異論はありませんでした。   他方,この新たな仕組み自体の適正を担保する方策の在り方や,通信の暗号化・復号化に用いる「鍵」に関して,その生成装置を誰が管理するのか,また,その装置を使って鍵を生成する行為等は誰がどのように行うのかという点や,裁判官に対する原記録の提出時期については,異なる御意見が示され,更に検討を行う必要があるとされています。   次に,「第3 該当性判断のための傍受の合理化」について御説明します。   現行法の下で,通信傍受における聴取は,リアルタイムで行っていますが,基本構想においては,「全ての通信を一旦記録しておき,事後的にスポット傍受の方法により必要最小限の聴取を行うことも可能とする仕組み」について,具体的な検討を行うとされています。   第1作業分科会において,その具体的な方法として,「第2」で検討した新たな仕組みを用いることとされる(1)の方策と,現行制度と同じく通信事業者の立会いや封印を要することとする(2)の方策について検討した結果,いずれによっても適正を担保し得ることについては特段の異論はなかったところです。   次に,資料の8ページを御覧ください。   「会話傍受」について御説明いたします。   「会話傍受」については,第1作業分科会において,基本構想に沿って「考えられる制度の概要」の「1」の①から③までの三つの場面を対象として,具体的な制度案の検討が行われました。   資料には,これまでの検討状況を踏まえ,現時点で考えられる制度の概要と検討課題が記載されています。   「考えられる制度の概要」においては,基本構想で示された三つの場面ごとに対象犯罪が掲げられるとともに,嫌疑の十分性,捜査手法としての補充性を要件とすることとされ,また,会話傍受を実施するに当たり,傍受機器の設置や取り外しのために事務所や車両に立ち入る必要があるときは,令状発付の際に裁判官の許可を受けなければならないこととされています。   「検討課題」は,大きく2点掲げられています。   1点目は,会話傍受による権利制約を最小限するためには,どのような制度とする必要があるかです。具体的には,傍受の実施要件として,補充性に加えて緊急性をも要することとするか,傍受の実施方法として,スポット傍受の方法又はこれに代わる方策を要することとするかといった点について更に検討を行う必要があるとされています。   2点目は,会話傍受の実施の適正を担保するためには,どのような方策が必要かです。具体的には,資料に挙げられているように,立会いや封印等を要することとするか,また,これらを技術的手段により代替し得るか,令状提示を要することとするか,傍受の時間的・場所的制限の順守をどのように担保するか,また,これらを技術的手段により代替し得るか,事後通知を要することとするかといった点について,更に検討を行う必要があるとされています。   なお,これらの検討事項に関する参考資料につきましては,併せてお配りした参考資料の7ページ以下にございますので,適宜御参照ください。 ○本田部会長 それでは,「通信傍受の合理化・効率化」,「会話傍受」につきまして,「考えられる制度の概要」と「検討課題」の内容を中心に,御意見又は御質問等がある方は御発言をお願いします。 ○小谷委員 捜査の現場の立場から,通信傍受の対象犯罪の拡大,それから会話傍受の必要性につきまして,申し上げたいと思います。   まず,通信傍受の対象犯罪の拡大ということでございますが,これまでも振り込め詐欺でありますとか組織窃盗の例を挙げまして,犯行の事前準備,実行,事後の証拠隠滅等の様々な場面で携帯電話が必須の犯行ツールとなっておりまして,このような犯罪に対しては,通信傍受が極めて有用な捜査手法であるということを説明してまいりました。   同様に,振り込め詐欺や組織窃盗以外の犯罪においても,通信傍受が必要かつ有用なものが数多く出てきております。配布資料5ページの「考えられる制度の概要」に明示されております犯罪において,グループで行われるものについて通信傍受が活用できれば,被疑者の特定や検挙,知情性の立証,実態解明等に有用であると思われますので,是非対象としていただくよう御検討いただければと考えております。   一例を御紹介いたしますと,「④ その他重大な犯罪であって,通信傍受が捜査手法として必要かつ有用であると認められるもの」に掲げられているものの中で,外国人女性を売春スナックで稼働させるために売買した人身売買事案でありますとか,暴力団組長による違法風俗店の収益に関するマネー・ロンダリング事案など,仮に通信傍受が可能であれば,犯罪組織の上位者の特定や検挙,実態解明等ができていたのではないかという事例がございます。   こうした犯罪はグループで行われることが通常で,通信傍受が極めて有効であると思いますし,取り締まりに対する社会的な要請の高い犯罪,あるいは現行の通信傍受法の制定後に社会情勢の変化により出現あるいは増加した犯罪であると思います。こうした犯罪への対象拡大についても是非御検討いただければと思います。   次に,「会話傍受」の導入の必要性ということでございますが,これまでも御説明申し上げましたように,配布資料8ページに例示されました三つの場面を対象に会話傍受を行うことは,極めて有効な捜査手法になり得るものと考えております。特に,振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺に関して最近の状況を申し上げますと,被害は極めて深刻でございます。警視庁では,昨年1年間で644人もの特殊詐欺の犯人を検挙いたしました。しかし,被害は収まるどころか,今年に入っても増える一方でございまして,4月末現在で被害件数は昨年同期に比べて378件増加の898件,被害額は約6億6,000万円増加の約27億2,000万円となっており,被害の拡大に歯止めがかからない状況が続いております。このような現状を打開するためには,被害者方などに現金を受け取りにくる受け子のみならず,その背後にいる首謀者や,だましの電話をかけるかけ子などの共犯者を根こそぎ検挙する必要がございます。もちろん通信傍受の活用も不可欠でございますが,アジトにおける会話の傍受が非常に有効と考えております。   現場の検挙事例から,振り込め詐欺のアジトでは,犯人らの生活実態がなく,だましの電話をかけることを目的として通ってくる,正に詐欺の犯行現場であるということが分かっております。そこでの会話を傍受することができれば,役割分担の解明,被疑者の特定や検挙,知情性の立証等に極めて有効で,組織を一網打尽にできると考えております。是非とも会話傍受の導入に向けた検討を行うべきであると思います。事務当局におかれましては,今後の検討に資するよう,会話傍受に関する諸外国の制度や機器の仕様等について調査をお願いできればと考えております。 ○神幹事 ただいま警察の関係者の方から,会話傍受,通信傍受の必要性や有用性についてお話があったところでありますが,私ども弁護士としては,まず通信傍受にしろ,会話傍受にしろ,憲法上のいろいろな問題があるということも含めて,いやしくも一般の国民が,自分の会話を理由もなく聞かれるようなことがないような制度にしていただきたいと考えています。特に通信傍受,恐らく会話傍受もそうなると思うのですが,元々従来型の捜査観,捜査概念というのは,犯罪があると思料したときに捜査が始まると書いてあるのですけれども,通信傍受のこの制度の採用によって,厳格な要件が書かれていますが,一定の場合については,これからあるかないか分からない将来の犯罪を探索的に行うことも許容しています。今回検討されているように対象犯罪が広がることによって,私たちの会話が傍受される範囲も広がる可能性もあると考えています。その意味で,対象犯罪の拡大については,なるほど,この部会でも振り込め詐欺や組織窃盗については度々述べられていて,現実問題としても振り込め詐欺というのは非常に多いということもよく理解しておりますが,ここに掲げられている窃盗,強盗,詐欺,恐喝という形で,何らの限定要件を加えない,言わば,刑法典に記載されている犯罪そのものを採り上げて,対象犯罪とするのはいかがなものかと考えております。   従来,通信傍受の対象となっている4罪種があるわけですが,これらについては,ある程度の対応といいますか,そのイメージが湧くのですが,このような裸の構成要件ではなくて,先ほど,「こうした犯罪を行うグループがある」という話がありました。やはり組織犯罪であるということが必要だと思いますので,そこを明確にした立法にする必要があるのではないかと考えています。私どもとすれば,できれば,組織的犯罪処罰法の,いわゆる団体の活動として組織により行われたというような形の犯罪類型のようなものにしたらどうかとは思うのですが,そこまでするとなかなか団体要件が難しいという御意見がありました。部会でも述べましたけれども,ここは私たちとしては,作業分科会の方に戻った際に,組織性の要件を入れたものを考えるべきだと思っています。私が何となく考えてみたもので,法律的な文書にはなっていませんが,例えば,「一定の目的を持って徒党を組んで,首謀者がいて,当該犯罪について,それぞれが役割分担をするような形のものが組織的に行われた場合」という形のものを入れて,振り込め詐欺だとか組織的窃盗が入るものが作れないか,このような限定要件がもう少しブラッシュアップした形で部会で議論できれば良いなと思っています。   それから,5ページの枠囲いの中では,「① 窃盗,強盗,詐欺,恐喝」というところは,詐欺,窃盗がちょっと度が過ぎて恐喝や強盗になってしまうということがあり得るだろうと思います。「② 殺人」については,組織的殺人が元々ありますけれども,この「殺人」をここに入れるということについても,組織的な要件をどう作るかによりますけれども,そういったもので入れられれば,恐らく組織的殺人とは別な形で傍受の対象となるということも選択肢としてはあり得ると思います。③のうち,「略取・誘拐」については,ある程度組織的に行われていることも何となくイメージができますが,「逮捕・監禁」については,必ずしも部会では,今まで十分な議論はなかったと思います。さらに,④については,もちろん必要かつ有用な犯罪,犯罪性が高いものというものを入れるべきではないかという議論はありましたけれども,具体的な形で出てきたのは今回が初めてです。   私は,少なくとも私たちが日常生活をする上で通信傍受や会話傍受が簡単にはなされないという共通認識の下で,この犯罪はやはり何とかしなくちゃいけないよねといったものに限定してやっていくということが必要であると強く考えているところです。その意味で,④の犯罪については,よくよく慎重にやらないと,なかなか難しいと思いますので,今の段階では,私としては反対です。③の「逮捕・監禁」についても,必ずしも組織犯罪にならない場合ものもありますから,組織性の縛りを付けるしかないのではないかなと思っています。できれば限定的に,今困っているものに限るべきだという意見については,部会の中でも,あるいは作業分科会の中でも述べてきました。これからやっていく上で将来を見据えた形のものというものも対象にしていかないと,使い勝手が悪いのではないかという御意見もありました。しかし,将来にどのような犯罪が世の中に蔓延するかというのは,なかなか予測が難しいところでありまして,現実問題としても,例えば今から十数年前に通信傍受法が作られたときには4罪種になりましたけれども,その原案にはかなりいろいろなものが入っていて,「逮捕・監禁」なんかも入っていました。けれども,十数年経った段階ではびこっている組織的窃盗とか,いわゆる振り込め詐欺といった形のものは,仮に原案どおりの傍受法ができていたとしても,対象犯罪になっておらず傍受することができなかったわけで,それはその都度その都度考えていくべきではないかと考えております。 ○井上委員 神幹事も分科会のメンバーで,御自分の意見に沿った議論に言及されたのですが,私は,自分の意見を今この段階で言うつもりはありませんけれども,公平を期するために,分科会で出ている議論を紹介しますと,罪名だけの問題ではなく,要件として,「数人の共謀」という要件も入っていますし,補充性を要求するということでも絞られているという意見もありました。   また,神幹事の言われる将来犯罪をも含んでいるので,一般の人に拡大するという議論は,分科会では必ずしも出なかったものでして,今伺っていて,論理的にそういうことが言えるのか疑問を持ちましたけれども,それはまた分科会でも出していただければ議論したいと思います。   さらに,「徒党を組んで」という要件をかけるべきという御意見も,今日初めて伺ったことで,どうして分科会で出してくれなかったのかと思いますけれども,そのときに出た議論としては,そういう組織を組み,各自の役割分担をして犯罪を行っているということ,その事実こそが傍受を実施することによって初めて解明できることなのに,出発点においてそれを要件として課した場合,傍受がそもそもできなくなってしまう。それでよいのかという御意見と,他方,御心配のところについて何らかの歯止めの要件をかけるべきではないかという御意見があるということです。これらは必ずしも矛盾するものではないので,その点については更に分科会の方で検討させていただくつもりですが,神幹事も,通信傍受法制定のときから関わっておられるので,知恵を絞って出していただければ,もっと建設的な議論ができるのではないかと思います。 ○宮﨑委員 こういう捜査手法については,従来から代替的捜査手法として,可視化できない障害事由として捜査当局から主張されてきたわけであります。検察の在り方検討会議はもちろん,その10年以上前から捜査側は取調べに代わる代替捜査手法がないから治安を考えると可視化ができないということをずっと言っておられたわけで,我々は,それはおかしいのではないかと言ってきたわけですけれども,今回かなり大幅に代替的捜査手法を導入されることとなる場合,可視化の対象についても大幅に広げることが可能になるはずですねと,確認を兼ねてまず意見を申し述べるとともに,少なくともこういう捜査手法を使った事件の取調べについては,全過程可視化を当然すべきであり,それを妨げる理由はないはずだと考えております。   それはともかくとして,これから質問です。   ITの関係で,私はよく分からないので教えてほしいのですが,メールの傍受について具体的にどうすることになるのでしょうか。既に起きた犯罪については,メールサーバーから,過去の通信録を取ってくるのですが,これからのメールを傍受しようというときには,今現に行われている,メールをそのまま傍受するということになるのでしょうか。そのときはスポット傍受はどういう形でされるのでしょうか。素人的に変な質問になっているかもしれませんが,それについて教えてほしいと思います。   それから,会話傍受についても,スポット傍受が話題に上がっていますけれども,具体的にどういう器具で,どうするのか,今分かっている範囲で教えていただければと思いますので,よろしくお願いします。 ○上野幹事 すみません,事務当局から発言させていただきます。   通信傍受法では,傍受の対象は通信であり,通信の定義は,電話その他の電気通信であって,その伝送路の全部若しくは一部が有線であるもの又はうんぬんということになっておりますので,メールについても通信傍受の対象であるということは,もう御承知のことかと思います。   メールの傍受の場合にスポット傍受的なことをどのようにするのかという御質問がございましたが,もちろんメールの場合は,電話と全く同じように,一定時間で切るということでやっても余り意味がないと思われるので,始めの何文字まで読めるようにする,その後はマスキングをかけるというような形で,スポット傍受と同じ発想でメールを読むと承知はしております。 ○井上委員 既に行われたメールがどこかのサーバーに残っている場合,これは通常の捜索差押の手続で行う。つまり,記録媒体とかサーバーそのものを差し押さえるか,その記録を別の媒体に移して差し押さえるというのが今の制度ですので,そういうやり方になると思います。 ○宮﨑委員 会話傍受のスポット傍受についてはどのようにするのでしょうか。 ○上野幹事 会話傍受については,どのようにスポット傍受をするかどうかも含めて分科会で御議論いただいているところと承知しております。 ○宮﨑委員 分かりました。メールについては,要するに,現に行われている通信をどこかでつないで持ってくるわけですよね。現に行われているリアルタイムのメールのやり取りだとか,そういうファイルの交換だとか,そういうものを持ってくるわけですけど,そういうときのスポット傍受のやり方というのは,今考えておられるのは,一旦記録に落として,それからそこのマスキングをかけて一部だけ読んで関係があるかどうかという判断をすると,こういうことでしょうか。 ○上野幹事 そのように聞いているということでございます。 ○宮﨑委員 質問した理由は,アメリカに行ったときに,メールの傍受は,捜査機関の中で現実に捜査していない部署が傍受をして,捜査に関係のあるメールのみを捜査部署に渡すという形でスポット傍受をしていると言っておられましたので,日本でも,これだけ罪名が広がり,いろいろな傍受方法があるならば,スポット傍受の手続の透明化について検討する必要が起こってくるのかなと思ってお尋ねしました。 ○佐藤委員 1点,後学のために教えていただきたいのですけど,通信傍受に関しては,憲法上,通信の秘密ということがあって,非常に厳格な手続で,また厳格な姿勢でこれまで議論が行われてきたし,実施されていると思いますけれども,会話傍受では憲法上の権利はどの規定と関わるものなのでしょうか。 ○井上委員 個人のプライバシーの保護ということになれば,憲法13条を根拠にするというのが今の憲法学ではほぼ通説です。そして,その13条で保障されたプライバシーの権利を通信にも及ぼしたのが憲法21条2項の通信の秘密の保障だというのが憲法学の定説です。 ○神幹事 それに加えて,会話傍受の場合は装置を設置するために住居に入ってしまうということになると,住居の不可侵との関係がありますので,別に憲法上の問題が生じます。 ○井上委員 住居に立ち入るとすれば,おっしゃるように憲法35条の住居の不可侵権を侵害するということになりますね。 ○但木委員 どうも皆さんの方向は,客観的な証拠収集については,それなりの要件をかけながら,しかし,広く認めていこうという方向であるというようにお聞きしました。非常に大切な方向性であると思います。やはり私は,前回申しましたように,余り支持を受けていないのですけれども,全面解禁説というか,犯罪に限定を付けないで通信傍受を認めるべきではないかと思っています。それは,例えば,窃盗といっても,万引きから組織的なヤクザあるいは中国人その他の外国人が加わった窃盗団の窃盗というように,非常に幅広いもので,必ずしも罪名だけで決められない。それから,それが通信傍受が必要であるかどうかは,更にその具体的な事件でしか判断ができないと思うのです。裁判所にかなりの負担をかけざるを得ないのかなと思いつつ,やはり司法的なチェックがしっかり行われなければいけない。それが一つは,共謀の疑い,あるいは補充性というような要件をきちっと裁判所において司法的判断として出してもらわなければいけないだろうとは思います。しかし,他方で,やはり捜査というのは発展していくもので,最初から全部分かっていれば,何も通信傍受の必要はないわけですから,例えば,組織性についてかなりの要件をかけてしまうとなると,その組織性が正に立証できないので通信傍受をせざるを得ないという,そういう事件の性質がある場合というのはたくさん考えられるわけです。だから,そういう意味では余り具体的な事例で使えないような仕組みを作ってしまうのはどんなものかと思います。前回の通信傍受法の制定で,やはりかなり後悔したのは,誘拐について何もできなかったということと,組織的殺人という非常に難しい要件を作ってしまったために,殺人罪で団体の活動として行われるという疎明がなかなかできなくて,実際にはほとんど使えなかったことです。殺人について何人もが意思を通じてやるという事例はたくさんあって,そのときに携帯電話が使われる事例というのはたくさんあるわけで,やはりそういうものについて適応できなかった,使えなかったというのが非常に大きな痛手だったような気がします。そういう意味で,捜査というのは徐々に進展していくもので,初めから全ての姿が分かっているものではないということを御理解いただいて,要件というのをお考えいただければと思っております。 ○小坂井幹事 但木委員の御発言にはいつも敬服しておるのですけれども,今のおまとめに関しては,ちょっと非常な違和感を感じてしまいましたので,あえて申し上げます。   私は,通信傍受に関しては,作業分科会の実質的なメンバーではありませんから,議論がよく分かっていないところもありますけれども,例えば,今回,「第1 対象犯罪の拡大」という形で枠囲いがあって,その中に①から④までがあるわけですね。やはり多くの人は,これを見たときに,こんな増やしてどうするつもりなんやと思われるのがまず第一印象であることは間違いないと思います。今も少し出ましたけれども,かつてこの部会でも議論がありましたが,十二単を着せられて,なおかつ,プレーの場面を限定されたんだと,こういう意見があったわけです。その十二単を着る,着ないの問題については,例えば,立会い,封印等の手続の合理化というような形で,これは科学的な進歩で代替していく要素があるんだろうとは思います。けれども,やはりこのプレーの場面をどうするかというのは,これは問題としてもどうしても残るわけです。これはやはり私は,国民的な,市民的な合意,そういうものが成立する範囲というものは,捜査機関への極めて高度な信頼というものが確立されていないと,なかなか難しいのではないのかなという感じがするわけです。ですから,よほどの強い必要性というものが裏打ちされてこないと,それはそう容易に広がっていくものではないだろう。今後作業分科会で議論されるということですし,またここにも戻ってくるのでしょうが,必ずしも神幹事に何か立証責任がおありなわけではなくて,これはやはり作るべきだという方に,これだけの必要性があるということを一個一個丁寧に論じていただく必要が当然あるだろうと思います。この①から④でばっとくくられてしまうと,これは相当に違和感を感じる市民の方が多いのではないかというのが率直な感想です。 ○青木委員 今の御発言に関連してなのですけれども,この議論の中で,通信傍受が今よりは拡大されるということは前提になっているわけですね。どの程度拡大するかというのは,これからの議論なのでしょうけれども,いずれにしても,今までよりは使い勝手の良い制度にしようということなのだろうと思います。そうやって拡大していくということになると,一方で,濫用の危険というのもやはり考えなければいけないのだと思うのです。それで,国民の理解という点から言うと,先ほどの神津委員の言葉を借りれば,透明性と説明責任というのは,この問題についてもやはり必要なのではないかと思います。それで,この「検討課題」の中で,立会いとの関係では,6ページで,第三者による認証というようなことで,その適正担保方策の在り方というのが載っているのですけれども,その問題とは別に,実際に通信傍受が本当に適正に行われているのかということについて,もちろん事前に裁判所の令状があって,あるいは不服申立てという制度はありますけれども,それ以外に,国民の立場からすると,誰かがその適正さについてしっかり監視をしているという仕組みが必要なのではないかと思います。   それで,今,国会に報告されることにはなっていますけれども,それは公表が前提なので,非常に概括的なことしか報告されていません。それで,何らかの第三者的な機関を作って,もちろん守秘義務がある者によって構成される機関で,そこに対してはもう少し詳しい報告をする,説明をする。そして,その説明されたものについて,本当にそのとおりなのかどうかについて検証できるような機関というのをやはり作る必要があるのではないかと思います。対象犯罪について,確かになかなか絞り切れないというのは,それはそれで分かるのです。その時代に即した形で対象犯罪を広げていくのだとすると,対象犯罪を拡大していっても,自分たちのプライバシーはきちんと守られるのだという安心の下でこういう制度を進めていくためにも,第三者機関というようなものが大いに必要だと思います。   直接関係はないのですけれども,留置施設視察委員会というのができました。これについても,当初そのようなものを作ることについて疑問が出されましたけれども,透明性という点では非常に大きな役割を果たしていると思いますし,警察に対する信頼というのも非常にそれで大きくなっていると思うのです。それと同じ制度という意味ではないですけれども,そういう機関というのは非常に意味があるのではないかと思いますので,一言申し上げたいと思います。   これは,分科会の議論にはなっていなくて,部会で議論しましょうという話になっていたようですので,今後是非それについて取り上げていただきたいと思います。 ○井上委員 分科会への付託事項を離れましたので,私も質問をさせていただきますと,現行の通信傍受法では,裁判官,裁判所が関わることによって適正を担保するという仕組みが結構手厚く作られていると思うのですけれども,それで足りないところはどこなのでしょうか。また,それで足りないということを示す立法事実はあるのですか。 ○青木委員 現時点では,とにかく非常に少数のものしか実際には行われていないと思うのですね。それで,今現に濫用されているということを言うつもりはありませんが,裁判所が全部について全てチェックしているわけではないと思うのですね,チェックできる仕組みにはなっているかもしれませんけれども。ですから,そういう意味で,立法事実があるかと言われれば,現時点で問題が生じているという意味での立法事実はないと思いますけれども,これから拡大しようというときに,そういうものがセットで必要なのではないかという意見としてまとめさせていただきます。 ○井上委員 事実ということでなくても,理屈でも結構なのですけれども,どこが欠けてくるのかということはやはり論証していただかないと議論が進まないと思うのです。恐らくオーストラリアのオンブズマン的なものをお考えだと思うのですけれども,そういうものを設けても,常に全件を詳しく見るというようなことは現実に不可能ですので,何らかの申立てとか疑いがあるときに発動される。それと,我が国の現行制度のように,当事者に不服があるとか,何らかの理由があって裁判所に異義が申し立てられ,裁判官,裁判所によって審査されるというのとで,どこがどう違ってくるのか,私などにはよく分かりませんので,この場でなくて結構ですから,それを正面から議論するというのであれば,きちんと説明していただきたいと思います。 ○青木委員 では,時間の関係もあるでしょうから,今後まとめて意見として出したいと思います。 ○島根幹事 先ほど罪種の拡大は捜査機関に対する信頼が大前提であるというお話がありましたが,罪種が拡大するから濫用されるというのは少しおかしいのではないかと思います。今回,通信傍受の要件自体を変更するということは基本的に考えておりません。確かに,対象犯罪の拡大により,通信傍受の回数が増え,傍受される対象となる通信の量が広がるということはあるかもしれませんけれども,それは濫用ということではないのではないかということを申し上げたいと思います。   これまで,通信事業者の施設で傍受を行い,なおかつ,立会いを付すことによる適正の担保というものは,他の技術的な方法によって担保し得るのではないかということで,議論が進んできていると承知しておりますので,罪種が広がると大変なことが起こるということでは必ずしもないことを申し上げた上で,今後の検討を進めていただきたいと思っております。また先ほどの第三者機関についても,基本的にはそれぞれ個別の事件ごとに裁判官による事前のチェックがあるとともに,傍受内容は記録として残されるということで事後チェックされる仕組みが十分整っているので,それとは別途に何かまた第三者的な監視が必要だという御指摘は,理解が難しいということを申し上げたいと思います。 ○酒巻委員 これまでの御議論の確認ですけれども,通信傍受については,「立会い」や「封印」等の手続が使い勝手が悪いと,これまで言われていますね。この「立会い」と「封印」というのは,元々,通信傍受法を作ったときには,私の理解では,やはり通信傍受の手続過程を適正化する,そのときに,その当時の技術においては,やはり人間による立会いと記録の封印ということが最適だと考えられて作られたものです。けれども,現在では,基本構想にも表され,また,作業分科会で資料として配布されたポンチ絵にもありましたけれども,暗号化や鍵という様々な技術によって,その部分については,現在のような人間でなくて機械がやってくれて,しかも,暗号化と鍵で十分大丈夫だという点については,作業分科会においてもほぼ意見の一致はある,したがって,あとは,そのような技術的手法を前提にして,「検討課題」に記載されているような,鍵の生成や保管を誰が行うのかなどの,合理化の制度を設計について検討すればよいと,そういう理解でよろしいのでしょうか。 ○井上委員 その点については,鍵の生成と保管,それと,その装置自体が確実に動くことの認証ということがキーポイントであり,それらが担保されれば,人間に何かさせるよりは確実だろうということです。作業分科会では,委員の皆さんに挙手で確認するということまではいたしませんでしたけれども,大方の理解は得られているのではないかと思われます。そういう理解に立って作業を進めているというのが私の認識です。間違っているようでしたら,神幹事から御発言くださればと思います。 ○神幹事 基本的には分科会長のおっしゃるとおりなのですが,現実問題として,立会いと機械との違いがあるとすれば,これは分科会でも述べましたけど,現に捜査に関係のない人が立ち会っているというだけでも,悪さはなかなかしにくいものだろうという点です。そういった部分というのは,恐らく機械では代替することはできません。要は,適正にそれが機能するかどうかと,鍵の管理とか生成をどうするのかということがここでの重要なポイントだろうということは,私にも異論はございません。 ○小野委員 対象犯罪の件なのですけれども,もちろんそれなりに限定をしておかないと,日常的な通信が基本的にスポットであれ何であれ傍受された上で,そこからも調べられるということになる。今でも,実際の通信傍受の状況を見ると,犯罪と関係なかった通信というのは大変たくさんあるということになっていますよね。例えば,振り込め詐欺なんかの場合でも,受け子だの,出し子だの,そういった中には,本当に軽い気持ちで,友達に誘われてこういうふうにやったということが現にあるわけです。そうすると,それは本当に日常生活の中のちょっと延長といいますか,それが日常生活そのものである人も中にはいるのでしょうけれども,そうでない人間が相当数いるわけで,そういう人たちの通信がどこかで対象とされる,どこかのきっかけで何か対象とされる,そういうことになっていくわけですので,そういう意味では,罪種を広げていけばいくほど,日常的な通信が基本的に幅広く対象とされていってしまうというような形にどうしてもなりがちなわけですね。そういうことでいうと,我々の通信は,常に捜査機関の傍受対象になるんだという中で市民生活を送るということになりかねないので,是非どういう形で限定をかけていくのかという技術的な難しさというのは,それはお聞きしていて難しい問題はあるんだろうということは分かるのですけれども,それにしても,そこのところは慎重に検討していただかないと,私たちの普通の通信が,つまり携帯で普通の通信がみんなどこかでチェックされているんだと,そんな社会になってしまうんだということだけは避けていただきたいなと思います。 ○松木委員 通信傍受の合理化につきましては,技術的なところでは,いろいろと課題になってくるところが多々出てくるのではないかと思いますので,以前に申し上げさせていただきましたけれども,通信事業者の方も一体そういったことが技術的に実行可能なのかどうなのか,それに対して通信事業者の方の負担がどのようになるのかといったようなところも慎重に検討をしなければいけないと思いますので,是非今後の検討に当たっては,通信事業者の方々からの意見も聞いていただいた上で,お進めいただければと思っております。 ○大久保委員 先ほど,但木委員がお考えをお話しくださいました後,小坂井幹事が,違和感を感じるとおっしゃいましたけれども,私は全く違和感を感じませんで,但木委員がおっしゃるとおりだと思いました。ますます犯罪は今後とも組織化,巧妙化してきておりますので,やはり長期的な展望に立って,今現在ではなくて将来予想されるような犯罪の形も見据えてこの制度をしっかりと拡充をしていく必要があると思います。   そして,小野委員が今おっしゃいました懸念ですけれども,ビデオ,監視カメラですね,あれが入ったときもそのような考え方がありましたが,今の国民はいかがでしょうか。あれはやはり犯罪防止や,犯罪者を検挙するということに大変役に立っているというような考え方が,国民一般の考え方になっているのではないでしょうか。 ○後藤委員 通信傍受の可能な対象犯罪を広げるというのは,重大な決断をすることになります。そのためには,現状で実際通信傍受がどれくらい捜査の役に立っているかを,なるべく客観的に捉える必要があるだろうと思います。例えば,国会に報告されている公表された数字ですと,私の記憶では,実際に令状が出て傍受したけれども,役に立つ会話は一つも聞けなかったというケースがかなり多いと承知しています。記憶がはっきりしていなくて恐縮ですが,言わば成功率といいますか打率といいますか,令状を取って実際やってみて,実際に目的とする傍受ができたかどうかという数字は,この場で共有した方が良いのではないでしょうか。 ○上野幹事 平成24年の通信傍受の状況を国会報告した資料を見ますと,事件数が10事件あったのですけれども,そのうち全く犯罪関連通信がなかったというのが2事件であったと思います。もちろん一つの事件で複数の携帯電話を傍受するということがありますので,そういう場合に,この携帯電話では犯罪関連通信がなかったというのはもっとほかにもありますが。 ○後藤委員 令状の単位で数は分かりますか。 ○上野幹事 令状の単位では,ちょっと今,数えないと分かりません。 ○後藤委員 もうちょっと成功率が低かったように私は記憶しているのですが。 ○井上委員 後藤委員の言われたことなのですけれども,では,どのくらいの打率ならば効果的だと認められるかと言いますと,そのような基準はないのではないでしょうか。諸外国の状況を見ても,後藤委員の言われるような傍受をしてもヒットしない例というのは結構あるわけです。また,傍受すべき通信に該当しない場合,それでも延々と聞き続けるのかということになると,合理的な時間,該当性判断のための傍受を続け,該当性が確認できなければ,そこで打ち切らなければならないし,打ち切られるわけですので,そういうものを含めて評価しないといけない。ですから,打率3割だったら実効を挙げている,それ未満だと実効性に欠ける,そういう類いの話ではないので,成功率や失敗率というものを持ち出すことによってどういう意味があるのか。また,どういう基準で評価するのかというところまで踏み込んで意見を言っていただかないと,こういう議論をすることに何の意味があるのか,私にはよく分かりません。   それに,通信傍受の実施状況に関する資料は公表されている。件数についても,令状の件数,あるいは通話の傍受件数も全部報告されていますから,御承知のはずではないですか。 ○松尾関係官 かつて通信傍受に関する法律が制定されました過程で,私は当時,法制審議会の委員として議論に参加しておりました。非常に激しい議論がございました。その結果できたのが現行の通信傍受に関する法律で,甚だ使い勝手の悪い法律だと,今日もそういう御批評がありましたが,それを作ったわけです。議論としては,憲法論なども様々ありましたけれども,全体のトーンとして,日本では刑事手続において,通信傍受とか,あるいはおとり捜査とか,あるいは司法取引とか,そういったものは不純物であるという気持ちが強く流れていたと思います。それに対して何が犯罪に対する捜査のオーソドックスなやり方かと申しますと,それは専ら取調べでありました。取調官が誠意を尽くして被疑者と向き合い,心を一つにして真実を語らせるというのが捜査の正道であるという考え方が,少なくとも何年か前までには支配的であったわけです。その前提が今崩れてきていて,取調べに過度の依存をしてはならないというので,この部会も発足しているわけですけれども,しかし,先ほど申しましたような不信感のようなもの,不純物だという見方は消えていないと思います。その意味では,制度を作り,あるいは拡張していく場合に,やはり国民に対しては丁寧な説明が必要だと,今日もそういう御指摘はございましたけれども,それは大事なことだろうと思います。   最近,私は国語の辞書を少し調べる機会がありましたけれども,「通信傍受」という言葉は,広辞苑ですら載っていないのです。広辞苑はさすがに「通信傍受法」という法律名の方は見出し語にしておりますけれども,そのほかの中規模ぐらいの辞典ですと,「通信傍受」も「通信傍受法」もどちらも見出し語にしていない。そして,英和辞典を見ましても,ワイヤータッピングの訳語は通信傍受ではなくて盗聴という,そういう訳語だけが現在でも表示されております。そこに先ほどの不純物という見方がまだ流れているわけですし,最近アメリカで大きな事件が起こったようで,そういうことも考慮に入れなければなりませんが,私は通信傍受をもう少し活用していくことはやはり必要だと思います。日本で年間20件というのは,ドイツやフランスと比べてはるかに少ないですし,イタリアなどは年間12万件などという大変な数だと言われています。そういうことを良しとするわけでは決してありませんけれども,しかし,一方でそういうグローバルな動きと距離を縮めていくことも必要なことだと思います。 ○露木幹事 先ほど小野委員が,通信傍受の対象犯罪を拡大すると,我々の日常生活で使っている携帯電話なども対象になるのではないかということをおっしゃったように思いましたので,一言実態を申し上げたいと思います。例えば我々が実際に使っている携帯電話は,自分の名前で契約をして,それを日常生活に使っていると思いますけれども,そのようなものが実務で傍受の対象になることはまずありません。犯罪を行っている者が,正直に自分の名前の携帯を使えば,すぐに足が付くことは,これはもう自明のことでありまして,犯罪に使用される携帯電話のほとんどが他人名義のものなのです。そういうものを使っているからこそ,この通信傍受法3条の要件に該当する,通常の捜査では,犯罪の解明ができないということに該当して,この傍受法にのってくるという仕掛けになっておりますので,もし他人名義の携帯電話を使っている方がいらっしゃるとすれば対象になるかもしれませんけれども,そういうことはほとんどあり得ない話でございますので,私は,そういう危惧をお持ちになることは無用であろうと思います。 ○本田部会長 まだ何かと御意見があろうかと思いますが,時間の都合もございますので,「通信傍受の合理化・効率化」,「会話傍受」についての議論は,ひとまずここまでとさせていただきたいと思います。   それでは,区切りも良いところでございますので,ここで昼休みということにしたいと思います。           (休     憩) ○本田部会長 それでは再開いたします。   次は,「刑の減免制度」,「捜査・公判協力型協議・合意制度」,「刑事免責制度」について議論を行うことといたします。   まず,配布資料の内容につきまして,事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○吉川幹事 それでは,御説明させていただきます。資料62の9ページを御覧ください。まず,「刑の減免制度」から御説明します。   刑の減免制度については,基本構想において,「事案解明のための協力をすれば,量刑上の恩典付与の対象となることを明確にし,被疑者に自発的な供述の動機付けを与えるものとして機能する制度」とされており,第1作業分科会では,これを念頭に検討が行われました。   まず,「考えられる制度の概要」につきましては,「1 自己の犯罪事実を明らかにするための行為」と「2 他人の犯罪事実を明らかにするための行為」とを対象とすることとされております。   このうち,「1 自己の犯罪事実を明らかにするための行為」につきましては,まず,「罪を犯した者が,自己の犯罪事実を明らかにするため一定の重要な行為をした場合」が減軽事由,つまり自首制度における「自首」に相当するものとされています。そして,刑の減軽の相当性判断の考慮要素として,「①当該行為をした時期及びその内容,②当該犯罪の軽重及び情状,③その他の事情」を規定上明示することとされ,効果については,「その刑を減軽することができる」とされています。   次に,「2 他人の犯罪事実を明らかにするための行為」につきましても,枠組みは基本的に同様ですが,刑の減免の相当性判断の考慮要素の②について,自己の犯罪だけではなく「他人の犯罪の軽重及び情状」も掲げられているほか,「③これらの犯罪の関連性」,つまり,当該供述等をした者が犯した犯罪と,他人の犯罪との関連性が掲げられています。また,効果に刑の減軽だけではなく免除をも認め得るとされております。   そして,「3」の対象犯罪については,特段限定しないこととされています。   次に,「検討課題」について御説明します。   1点目は,「刑の減免事由」であり,まず,(1)に記載のとおり,「他人の犯罪事実を明らかにするための行為」について,共犯者の犯罪事実のみならず,それ以外の他人の犯罪事実を明らかにするための行為をも含むこととするかという点が挙げられております。また,(2)に記載のとおり,対象となる行為を,一定の重要な行為に限定するとして,作業分科会で意見の出た,「犯罪事実を明らかにするために欠くことのできない行為」との規定にするかという点が挙げられます。   さらに,2点目と3点目は,「減免事由の該当性判断」と「3量刑に与える影響」であり,減免事由に該当するか否かについての主張・立証,あるいは裁判所の認定の在り方や,この制度の導入によって量刑にどのような影響を与えるかについて,更に検討する必要があるとされております。   そして,4点目は,「供述等の真実性の担保」であり,恩典を得たいがための虚偽供述等を抑止するための対処方策についても,更に検討する必要があるとされております。   次に,11ページを御覧ください。「捜査・公判協力型協議・合意制度」について御説明します。   基本構想では,捜査・公判協力型協議・合意制度は,検察官と弁護側との合意に基づく証拠収集を可能とする手段として位置付けられております。これを踏まえ,第1作業分科会において検討した結果,「考えられる制度の概要」に記載した制度とすることが考えられました。すなわち,この制度の中心は,検察官と被疑者・被告人及び弁護人との間における合意である言えるところ,被疑者・被告人においては,他人の犯罪事実を明らかにするため,「1(1)」に記載したような協力をすること,検察官においては,「1(2)」に記載したような処分又は量刑上の恩典等を付与することに合意できることとされ,また,「2」にあるとおり,合意は,検察官,被疑者・被告人及び弁護人が連署した書面によらなければならないこととされております。   また,被告人との間で又は証人となり得る者との間で合意が成立しているときに,裁判所が,合意の存在及び内容を把握した上で審理を行うことができるようにするため,「3」にあるとおり,検察官は,裁判所に対し,合意が成立している旨を明らかにしなければならないこととされております。   次に,「4」にあるとおり,合意の成立後も,少なくとも一定の場合,当事者は合意から離脱できることとするのが相当と考えられ,当事者が離脱した場合,合意は,将来に向けてその効力を失うこととされております。   この点に関連して,「5」にあるとおり,離脱の場合の当事者間の公平を担保するための仕組みを設けることも必要と考えられたところでございます。   次に,「検討課題」について御説明します。   1点目は,制度上,検察官と被疑者・被告人及び弁護人との間で合意できる内容に関し,検察官が「特定の科刑意見」,すなわち求刑を述べることに合意できることとするかという点です。当事者間の合意が裁判所を拘束するものではないことを前提としつつ,その意義や実効性について更に検討する必要があるとされております。   2点目は,「合意及びそれに向けた協議の手続等」であり,ここに記載された各点について更に検討する必要があるとされております。   3点目は,「合意からの離脱等」であり,特に,検察官の合意違反により被疑者・被告人が合意から離脱した場合における当事者間の公平を担保するための仕組みの在り方に関し,更なる検討が必要とされております。   4点目は,制度の「対象犯罪」の在り方です。   5点目としては,制度の具体的な在り方に関連し,又はこれを踏まえ,収集される供述の真実性担保方策や捜査への影響について検討する必要があるとされております。   なお,14ページには,捜査・公判協力型協議・合意制度について,考えられる手続の流れを図示しております。   最後に,15ページ目を御覧ください。「刑事免責制度」について御説明いたします。   基本構想において,刑事免責制度は,裁判所の命令により,証人尋問における証言という形での供述証拠の収集に資するものと位置付けられています。これを踏まえ,第1作業分科会において検討した結果,次のような制度とすることが考えられております。   すなわち,(1)として,検察官は,裁判所に対し,証言をすべき旨の命令を請求することができる。(2)として,この請求があったときは,裁判所において,証人に対し,証言をすべき旨の命令をする。(3)裁判所による命令があったときは,証人は,刑事訴訟法第146条の規定にかかわらず,自己が刑事訴追を受け,又は有罪判決を受けるおそれのある証言を拒絶できないものとする。(4)として,命令があった後に証人が尋問に応じてした供述及びこれに由来する証拠は,証人による偽証に係る事件を除き,証人に対する刑事事件において,証人に不利益に使用できないものとするというものでございます。   さらに,このような制度を導入した場合には,現行の第1回公判期日前の証人尋問においても利用できるとすることが考えられます。   次に,「検討課題」について御説明します。   1点目は,刑事免責制度の枠組み自体に関するものであり,「(1)命令請求の在り方」,「(2)裁判所(長)の判断事項等」,「(3)命令の効力」の三つの観点から,どのような場面で,また,裁判所のどのような関与の下で利用できるものとするかを更に検討する必要があるとされております。   2点目は,第1回公判期日前の証人尋問における利用の在り方であり,現行の第1回公判期日前の証人尋問において,刑事免責制度を利用できるものとすることに加え,同証人尋問の要件自体を拡充するかについて更に検討する必要があるとされております。   3点目は,制度の対象犯罪の在り方です。   4点目として,刑事手続の公正及び国民感情との関係や,本制度の下で収集される証言の信用性担保方策についても「検討課題」とされているところでございます。   なお,これらの三つの検討事項に関する参考資料につきましては,併せてお配りした参考資料の18ページ以下にございますので,適宜御参照いただければと存じます。 ○本田部会長 それでは,「刑の減免制度」,「捜査・公判協力型協議・合意制度」,「刑事免責制度」につきまして,「考えられる制度の概要」と「検討課題」の内容を中心に,御意見又は御質問のある方は御発言をお願いいたします。 ○大野委員 まず,刑の減免制度について申し上げますと,作業分科会での御検討によりまして,大分明確な形で制度案が示されてきたのではないかと思います。これまでこの部会でも御指摘があったように,この制度を導入するに当たっては,制度の明確性が重要な課題の一つとなるのではないかと思いますけれども,その点からすれば,「検討課題」の「1」(2)については,減免の対象となる行為がより明確となるように,「犯罪事実を明らかにするために欠くことのできない行為」を対象にするのが良いのではないかと思います。   この制度については,「検討課題」の「2」の,公判での判断方法が課題の一つとなるだろうと思います。被疑者・被告人が真に自己又は他人の犯罪事実を明らかにするための一定の重要な行為をした場合には,検察官においても,それを適切に評価して,被告人側の主張を争わず,あるいは必要な立証をすることとなるものであります。そして,仮に犯罪事実を明らかにする行為の有無や評価について争いが生じた場合であっても,検察官としては証拠開示制度に従って,被告人がその主張をするため必要な証拠の開示を行うとともに,捜査官の証人尋問等を通じて減免事由がないこと等を立証することとなると考えられますことから,それを基に,裁判所において適切な判断を行うことができるのではないかと考えております。   また,この制度が導入された場合に,不当な誘導がなされることとなるとの御意見もあるようでございますけれども,この制度を明確な形で導入することができれば,その告知をするとしても,犯罪事実を明らかにする供述をした場合の効果等が現在よりも明確になるのでありますから,不当な誘導の余地はより少なくなるはずだろうと思いますし,運用上,制度内容の告知方法について,例えば一定の指針を設けることも可能ではないかと思います。そのため,この制度に特有の取調べの録音・録画の在り方を検討する必要もないのではないかと思います。   次に,捜査・公判協力型協議・合意制度についても,作業分科会での検討を経て制度内容を具体化していただいたところです。   検察に身を置く者として,取調べを通じた供述証拠の収集が次第に困難となっていることを身をもって感じているところです。それに対応して,新たな刑事司法制度が適切にその機能を果たせるようにするため,配布資料の制度概要に記載された仕組み,すなわち検察官と被疑者・被告人及び弁護人との間の合意を通じて他人の犯罪事実を明らかにする証拠を収集する仕組みを導入することが必要であると考えています。これまでのところ,協議・合意制度の対象犯罪については具体的な検討がなされていないようですけれども,例えば,経済犯罪などにおいては,被疑者に罪を犯した意識が希薄であったり,あるいは,自分が知っている知識のうちどこまでをありのままに供述するかを戦略的・打算的に計算していることが少なくないのではないかと思います。   私どもとしては,これまで取調べを通じて事案を解明してきた犯罪について,あまねく協議・合意制度を通じて供述を収集することを意図しているものではなく,これに適した犯罪について,現在も行われている供述収集のプロセスを,より有効で,手続の適正にも配意した形でルール化するものとして,本制度を導入するべきであると考えております。   このような前提で,制度の具体的な在り方について申し上げますと,合意できる内容については,被疑者・被告人が提供する協力は,その内容及び程度において様々なものであり得ることから,それに見合った適切な恩典付与に合意できるようにするため,多様な内容に合意できることとしていただきたいと思います。   この点,「検討課題」の「1」のいわゆる求刑合意については,異論もあると聞いておりますけれども,現在でも被疑者が取調べの場で検察官の求刑がどれくらいのものとなるか非常に気にする言動をすることがあるように,求刑が最終的な裁判所の判断にも,また被疑者の心理にも一定の影響を与えることは事実だろうと思います。当事者間で求刑についての合意がなされたときに,裁判所にとっては,いずれにしてもそれに拘束されるわけではない以上,両当事者が異なる科刑意見を述べる場合と対比して,より参考としやすいようにも思われますから,裁判所の量刑判断により資することはあっても,支障となることはないのではないかと思っています。   また,「検討課題」の「5(2)捜査への影響」に関しましては,対象とする事件の在り方とも関連する問題となると思われますが,司法警察員からの送致事件について本制度を利用することを想定しますと,検察官と司法警察員とが,相互に連携して,この制度を通じて得られる協力を十分に活用して捜査を進めていくようにできることが必要であると考えておりますので,その具体的な方策についても更に作業分科会で御検討いただきたいと思います。 ○安岡委員 質問があります。弁護人の関与は,どの程度議論されているのかということです。捜査・公判協力型の協議・合意制度では明確に被疑者・被告人には弁護人が付いて,弁護人の合意も必要だということになっていますが,刑の減免制度,それから刑事免責制度については弁護人の関与について言及がないのですけれども,どんな議論状況なのでしょうか。 ○岩尾幹事 刑の減免制度に関しましては,弁護人の関与は必ずしも必要的だと考えているものではございませんし,議論の中でも,意識的に弁護人の関与が不可欠だというような御意見はなかったように承知しております。   それから,刑事免責制度につきましても,これは,まず対象とする人は,立場上,証人として召喚される,尋問を受ける方でございまして,そして,その命令を受けた場合の効果としては,その証言に関して派生使用免責が係るということで,特段不利益な効果が生じるものではないと考えられますことから,この点についても弁護人が不可欠だというような御意見はないところでございます。 ○井上委員 後者の点なのですけれども,刑事免責というのは取引的なイメージを持っておられるのでそういう御質問になるのだと思うのですが,刑事免責それ自体は,一方的に供述拒否権というか,自己負罪拒否特権を消滅させて証言義務をかけるという制度ですので,そこで交渉の余地というものはないのです。取引的な要素が出てくるのは協議・合意制度なので,それについては被告人側の正当な利益をきちんと守れるように弁護人の援助を必要的なものにしているということだと思います。 ○山口委員 刑の減免制度について御意見を申し上げたいと思います。   私は,結論としては,このようなものを導入することには相当の意義があると考えておりまして,賛成でございます。ただ,先ほど大野委員も申されましたけれども,明確な形で導入するという必要性もあろうかと思いますので,この行為については不可欠な行為といったような形で限定する必要があろうかなとは思いますが,特に他人の犯罪行為については,共犯者に限定する必要はないのではないかと考えております。   既にこのようなことが実務的にも行われているので,必要ないという御意見もあるいはあろうかとも思いますけれども,現在行われていることが問題があるというような立場に立たない以上は,このようなものを明確な制度として導入しておくということは,政策的意義という点に照らして極めて妥当なのではないかと考えております。 ○今崎委員 刑の任意的減軽・免除は,現在,刑法上の自首がそれに当たるわけでございます。これは裁判官の裁量で行われておりまして,実際の適用場面は,刑の下限を下げなければいけないという場合にこれが働いてくるという形になるのは御承知のとおりかと思います。   自己負罪の場合も,それから捜査協力型の場合も,その両方にかかってくるわけですけれども,実際に得られるかどうか分からないというのを見て,刑の減免制度がそもそも自発的な供述等を促すという実効性を持つのかということについては若干疑問を持っておりますが,それがあるということを前提にした上で,特に気になるところを申し上げますと,「他人の犯罪事実を明らかにするための行為」についての減免制度ということになりますと,これが実際に裁判で争われた場合には,その要件判断はかなり難しくなってくる可能性がございます。ここにありますように,当該行為をした時期及び内容,自己及び他人の犯罪の軽重及び情状,これらの犯罪の関連性その他相当と認めるときはといった辺りを実際に判断しなければいけないということになるわけです。元々裁判所は,目の前にいる被告人の犯罪事実があるかないかを判断するということを役割としておりますけれども,これが深刻に争われれば,その人が話した内容について,別の犯罪について先のような部分に立ち入った審理をしなければいけないという場合が生じ得るということになってくるわけで,それが訴訟の在り方として良いものかどうかということについては,慎重に見ていただく必要があるのではないかと考えております。 ○髙綱委員 捜査・公判協力型協議・合意制度についてですけれども,私ども警察といたしましては,これまでも申し上げてまいりましたけれども,依然としてやはり懸念なしとしないということをこの時点で申し上げておきたいと思います。   分科会で幹事からも申し上げましたように,警察捜査への支障でありますとか制度の悪用可能性,そしていわゆる引込みの危険といった,こうした制度が存在すること自体による弊害,それをきちんと排除する仕組み,これを考えなければ,依然として導入によるメリットよりもデメリットの方が大きいのではないかと考えざるを得ないということであります。   加えまして,こうした取引的制度は,被害者を始めとする国民感情からもなかなか理解が得られにくいものではないのかなと考えます。したがいまして,今後とも分科会におきまして更に慎重な検討を願いたく存じております。 ○角田委員 裁判所の立場から,2番目の捜査・公判協力型協議・合意制度について一言だけ申し上げたいと思います。これは日本には今まで全くない制度ですが,作業分科会の方で大分詰めた検討をしていただいて,イメージは把握できるところまできているという理解をしております。ただ,それでもこの資料62の11ページ「考えられる制度の概要」の項目をずっと見ていって,裁判所の立場でこれがうまくワークするだろうかと考えたときに,二つばかり指摘しておきたいと思います。一つは,「量刑上の恩典」として「特定の科刑意見」というものがございます。これは多分目玉だと思いますけれども,言うまでもありませんが,量刑については求刑に裁判所が拘束されないということがまず理論的にはありますし,また,実務的にも従前と違って裁判員裁判になって求刑を超えるような量刑も昔よりは増えてきているというようなことがあります。そうした場合に,これが恩典として機能するかどうかということが非常に大きな問題をはらんでいて,被告人側からすれば,これはだまされてしまったというようなことになる場合もあり得る,少なくとも恩典としての機能は限定的ではないか,これが1点です。   付言しますと,即決裁判手続に乗せるとか,あるいは略式に乗せるというようなこともこれ項目が上がっていますけれども,これらも略式不相当とか即決不相当ということで,裁判所が相当でないと考えれば,通常の手続に移行させる,そういう仕組みになっていますので,そこに手を付けないでこの新しい制度をワークさせるというのはなかなか難しいであろうという印象を持ちます。   もう一つは全く別のことですけれども,これは他人の犯罪についての申告制度を使うという場面について,例えば,協議が調って不起訴の合意ができたという場合に,しかし,被疑者・被告人側に合意違反がありました,いろいろな場合が想定できると思いますけれども,合意違反があったということで,検察官の方から合意から離脱するということは当然あると思います。しかし,これは立場の違いで,同じことが全然違う評価になる場合は幾らでもあるわけで,被告人あるいは弁護人側からは,合意違反ではないと主張されることがあると思います。それは真実か真実でないかという争いの場合もあるでしょうし,それ以外の場合もあると思いますが,そのように対立して,検察官の起訴自体が合意違反ではないかということで公訴棄却を求めるというようなことになったとき,裁判所がどういう審理をせざるを得ないかというと,他人の犯罪事実において,その申告が真実だったかどうか,要するに,被告人の事件について,本来審理すべき項目でない他人の犯罪事実について申告した内容が真実だったかどうか,ここのところが審理の対象になってくると思います。これはやむを得ないことではあるわけですが,ただ,非常に手続を難しくする,あるいは重くする,そういう問題点があると思います。ですから,私は大きな方向性としてこういう制度を採用する方向の議論をすることに別に反対というわけではありませんけれども,今あるたたき台を前提として見てみても,非常に課題というか疑問点が多いので,それを乗り越えるような議論ができるかどうか,そういう問題があると思います。 ○小坂井幹事 私は,この作業分科会の議論には参加させていただいておりましたけれども,これから述べるのは私の意見ということで簡単に述べたいと思います。   減免につきましては,先ほど今崎委員がおっしゃったことと重なるのですが,自首は確かに相当一義的に決めることが可能だと思われるのです。けれども,この減免制度での要件をどう作っていくかという問題があるわけですが,相当多義的で評価的なものにならざるを得ないところはあろうかと思われまして,大野委員は,主張立証責任等に含めて減免事由がないことを検察官が立証すれば良いので,結構シンプルなのだという言い方をされたのですが,弁護側からの立場からすれば,どうもそうでもないのではないか,主張立証責任なんかの問題も結構これは難しいのではないのかなというような認識を持っております。   それで,もし仮にこれを導入するのであれば,これはやはり取調べの録音・録画全過程は必須になってくるであろうと思います。なぜならば,それだけそういう不当な誘導という話が先ほど出ましたけれども,そういう場面が考え得るわけで,単に告知のマニュアルを作ったら足りるというようなことではないのではないかと思っています。   次の合意につきましても,これもなかなか難しいところがあろうかと思いますけれども,仮に導入していくのであれば,それは協議開始前の取調べについては,全過程を録音・録画する,そして合意後について録音・録画することについては,これは分科会の議論で私は何となく自明の前提のように議論がされているように認識しているのです。もし間違っていれば,それはおっしゃっていただいたら良いのですけれども,そういう形になっているのではないのかなと思います。   それで,同時に協議前に弁護人の援助が当然必要なのだと,これも作業分科会の議論でおおむねまず異論がなくて,そういう形になっておったと思うのですが,やはり捜査協力型を前提に,それだけだと考えてしまった場合には,そこで付く弁護人というのは,供述されてしまう側の立場を別に考慮するわけではありませんので,必ずしも弁護人だけでカバーできない。ですから,全過程の録画・録音が必要だと,こういう関係に立っているのではないかなと思っています。   他方で,これは捜査協力型と申しましても,やはり共犯型にならざるを得ないのではないか,あるいは共犯的なものをどこまで含むかという関連性の問題はあるのかもしれませんけれども,そういうことになるので,結局やはり,一応基本構想では次の段階と言われてはいるのですが,自己負罪型を併せてこれは検討対象として今後議論していくことにならざるを得ないのではないかと思っています。そして,そうだとした場合,弁護人の援助というときに,これはその段階で,協議が開始される段階で,やはり一定の証拠開示というとちょっと刺激的な要素があるのかもしれませんが,捜査機関側が情報の開示を必要に応じてできるんだというような括りは必要になってくるのではないかと思います。   この合意制度に関しては,弁護士会内部でもいろいろな議論があって,基本的に消極論の方がまだまだ強いというのが現状だと思います。それはそういうことだろうと思われるのですけれども,隠れた取引が一方で現状の中で相当程度あるというのは弁護実践上の認識でもありますので,それを本当の意味でクリアにしていく形の制度構築ができるのであれば,それは様々な議論をしていく余地はあるだろうと考えています。   免責については,この事務当局が出されたペーパーの中でさえ,もはや録画・録音の一言も書いていないのですけれども,これでもなお私は巻き込みの危険があると思いますので,録画・録音は必須ではないかと考えています。 ○龍岡委員 前の二つとは少し違って「刑事免責」のことについて述べさせていただきます。   「検討課題」の「1」の(1)で,「おそれがある場合」も挙げているのは,現実に証人が証言するのを待つことなく,事前に命令を発して効率的に証人尋問を進めていこうとするものということが考えられますけれども,そもそもその場合まで取り入れる必要がどれほどあるのか,私は疑問の余地があるように思われます。   また,(2)の「B案」の,裁判所は証言「命令の必要性及び相当性を実質的に審査」するというのも,どのような場面で,どのように判断するのか,もう一つはっきりせず,具体的なイメージができないというところがあります。検察官が命令を請求できる場面を,証人が証言を拒絶した場面という明確なものに制度上限定しますと,(2)の裁判所,裁判長の判断事項等についての「A案」で,裁判所は,請求の適正を判断するに当たり,請求する場合が明確で判断も容易であって,必要性の観点からも,これで支障があるとは思われない。まずは,証言を拒否するという明確な場合に限って十分検討していただいて,それ以外については,どの程度必要性があるかについて更に御検討をお願いして,具体的な必要性があれば,それなりの方策を考えていく,規定を考えていくということではないだろうかと思います。私としましては,明確に証言を拒絶している場合の方が,極めて明確ですし,要件もはっきりしているし,取りあえず必要性はその程度でも十分ではなかろうかと考えております。 ○露木幹事 この分科会は,私も参加をいたしておりまして,協議・合意制度についての問題点は,先ほど当方の髙綱委員の方から申し上げたとおりですけれども,刑の減免と,それから刑事免責についても,分科会で私が申し上げたことを少し御紹介しておきたいと思います。先ほど今崎委員ほか裁判所の方からも御発言がありましたけれども,刑の減免制度の,他人の犯罪事実を明らかにするための行為,これについて供述したことを評価しようとする場合に,それが公判において,どういう他人の犯罪を明らかにする上で貢献があったかという点が争点になり,その他人の犯罪事実についての捜査状況のようなものがその公判で一定程度明らかにならざるを得ないということになりますと,その捜査が終わっていれば大した支障はないのだろうと思いますけれども,現に捜査が進行中であるとか,あるいはまだほとんど捜査が開始されていないという場合に,それが明らかにされてしまうと,相当捜査にダメージがあるということ,これについての考慮が必要ではないかということを申し上げております。これは協議・合意制度についても同様の問題点があるだろうと思います。   それから,刑事免責についてでございますけれども,他人の犯罪事実に加功したもの,他人の犯罪事実について証言をするということが求められている場合に,なかなかその証言が得られないという問題は確かに現状あるわけですけれども,これはその者がその証言をすると,自分が刑事責任を問われるということがその原因になっている場合もありますけれども,それをしゃべることによって組織から報復を受けるということ,それについての心配をするがゆえに証言できないというケースも多々あるわけです。ですから,この免責によって証言を十分に確保するというのは,それだけではなかなか難しくて,その者が証言をした場合に,組織からの報復を受けないように実効的な保護措置を講じるということが同時に必要になってくるであろうと思いますので,その保護措置についての整備が伴わない形で,免責制度のみが先行するということについては,なかなか慎重な検討が必要ではないかということを分科会でも申し上げております。 ○酒巻委員 私は,この刑の減免制度,それから協議・合意制度,刑事免責制度を検討した分科会のメンバーではありませんが,これまでそれぞれの制度について,ある意味で技術的な問題点についての消極的な指摘がたくさんあったのですが,そもそも,この部会の一番の基本的目標は,捜査段階の取調べと供述調書に過度に依存しない新時代の刑事司法制度を構築するということであり,これに関連する一つの大きなテーマが,今議論している制度ですね。つまり,密室で人を厳しく取り調べるのではなくて,別の新たな供述証拠を得る方策を考えようということです。取調べの録音・録画は,取り調べて調書を作りこれを後で証拠にするのは前提にして,その適正を担保しようとする話なので,一体どこが新時代なのか良く分からんと常々思っているのですけれども,新時代の刑事司法,つまり,取調べに過度に依存しない供述証拠の獲得手法というと,今議論している制度であると思います。しかし,どうも今までのお話を聞くと,それぞれみんな問題があって,余り積極であるとの御意見は聞かれないのですけれども,そうしたら,一体皆さんどうするおつもりなんだということです。やはり,取調べの在り方と関連付けて,広い意味でお考えになった方が良いのではないかと思います。 ○松木委員 捜査・公判協力型の協議,それから合意制度については,私も今,酒巻委員がおっしゃられたように,こういった刑事手続における証拠の収集を,検察官と弁護人との間の合意を通じて行うことができるようにすること,これは,被疑者・被告人の側から見れば,弁護人から十分な援助を受けて,自分の選択の利害,得失を十分理解して判断できるようにして,その上で対応していくということにより,正に新たな時代の刑事司法制度の象徴的なものとして捉えられる制度でないかと思っております。ある意味,企業でこういった制度が導入されたときにどうなるのかを考えてみますと,一つ考えられるのは,従業員と企業との関係においては,そこではある程度の緊張関係みたいなものも出てくるということはあり得るのだろうと思いますけれども,ただ,今,企業の方としては非常にコンプライアンス,ガバナンスといったことを,これを自らやっていかなければいけないということを強く自らに課していますので,そういった流れの中において,こういう制度が新たに導入されるということは,企業にとってのコンプライアンス,ガバナンスを推進していくというところからも意味のある制度ではないかと考えております。   それを更に突き詰めていきますと,他人の犯罪事実ということだけではなくて,やはり自己負罪型の制度というものも企業のコンプライアンス,ガバナンスを進めていくというところからは,かなり意味のある制度になるだろうと考えておりますので,是非ともこういったものについても,この部会で十分に検討を加えていただければと考えております。 ○但木委員 私もただいまの御意見に賛成であります。先ほど松尾関係官が,どうも日本の捜査の在り方というのは,取調べに依存して,真実は何かというのを追求していく,これに絞られてきた。それで,それ以外のものは不純なものだと考えてきたところがあるのではないかという御指摘をされました。正に大事なことは,新しい時代にどういう捜査によって犯罪をきちんと摘発して真実の犯人に適正な科刑をするか。その逆を言えば,絶対に無辜の人に罪を負わせるようなことをしないか,そういう課題について,新しい時代にどうしたら良いかということがここでの論議なのだろうと思うのです。そういう意味で,可能性を余り排除してしまうのはどうかな,いろいろな制度が,例えば通信傍受にしても新しい展開があると思いますし,あるいはビデオ映像にしても新しい展開があるでしょうし,いろいろな時代の要請というのがあり得る。その中の一つとして,この刑の減免制度とか,あるいは協議・合意というようなものが出ているのだろうと思うのです。非常に大事なことは,刑事手続をできるだけ国民の前に明らかにしていく。こういう制度でやりますよということを明らかにしていくことが非常に大事ではないかなと思うのです。   例えば,協議・合意の問題ですけれども,協議・合意が本当に全ての犯罪に適しているのかどうか分かりません。しかし,経済事犯,財政事犯というようなものについて言えば,私は司法取引というのも,日本でもあり得るのではないかと思います。例えば,会社犯罪の場合に,先ほど松木委員が言われたように,今,コンプライアンスというのは企業にとっての一つの根本的な理念となっていますよね。そうすると,実際は非常に高い地位の人がある特別背任をやったという場合に,それについて,たくさんの部下の人が知っていて,それは,形式的に言えば共犯になるのですが,その人たちが他人の,他人というか高い地位の人の犯罪事実について語れば,その人については起訴しませんよというのは,私はそれはそれで新しい時代として,むしろやるべきではないかと思います。そして,その基本は,弁護制度の充実ということにあるのだと思うのです。弁護制度が充実されたので,そういうことが可能になってきた。だから,可能になってきたものは,やはり取り入れるべきではないかと思います。ただし,制度設計はこれから皆さんで細かくやっていただかなければいけないけれども,精神としてこれを排除してしまうべきではないと思うのです。   例えば,度々いろいろな制度との関連で,振り込め詐欺という話がありますが,ああいう事件については,やはり,ある1件のオレオレ詐欺のお金を渡したり,電話を掛けたりした人々,この人たちの供述を得て,その1件の下働きをした人たちは全部不起訴にし,その上に上がることによって,ほかの事件も解明できていきますという構図だってあり得るはずだろうと思うわけです。ただし,送致事件については,私は警察と検察庁の協議というのは絶対必要で,そこにおいて一体これを本当に不起訴にしてしまって良いのかどうかというのは,やはり現にその事件を捜査し,送致してきた警察の御意見というのは非常に大事ですから,それはお互いに協議して,では,こうしましょうとやるべきではないかと思うのです。やはり,もう少し自由な発想をいろいろして,新しい時代の捜査というものを考えた方が良いのではないかなという,私はそんな気がいたします。 ○井上委員 補充して申しあげると,一番最後の点は,分科会でも,捜査の攪乱等が懸念されるとの御意見が出たのですけれども,そこのところについては,確かにそういう心配のある部分もあるのですが,被告人側からそういう申出があったからといって,他方の捜査・訴追側が必ず応じなければならないというわけではないのであるから,警察等と検察官の間の連携をより緊密にすることで対処し得るのではないかという御意見も出ておりました。   もう一つは,龍岡委員が言われた点なのですけれども,それは,刑事免責の請求をするときの要件というものの位置付けないし法的性格をどのようなものと考えるかという話なのです。言い換えれば,何のために要件をこういうふうに限定するのかということに関わってくるわけで,それについて裁判所の審査を要する類いのものなのか,それとも,検察官が請求するときの考慮要素なのか,それによって違ってくると思うのです。後者の場合であると,裁判所の役目は,正に当の請求が適式になされているのかどうかという形式面だけを見て,適式になされている限り,証言命令を出して証言拒絶権を消滅させるということになるのですけれども,それはその権利を消滅させることにより当該証人に実質的な不利益を生じさせるわけではなくて,証言をしても,それを証拠にして処罰されないという状態を作り出すということですから,他の場合の要件とは性質が違うのです。分科会では,そういう見方もあるのではないかという意見も出ましたので,その点については,何のために要件を課すのか,そして,それについて裁判所が果たして,またどこまでチェックをしないといけないものかということに立ち返って考えてみる必要があるように思います。 ○龍岡委員 気にしているのは,裁判所として判断するときにどういう判断ができるのだろうかという点なのです。状況からいって,いろいろな資料がないと裁判所というのは判断できないですから,主張だけで判断するというわけにも必ずしもいかないでしょう。取りあえずは検察官が立証をしなければならないので,証人尋問しようとする検察官の方の判断でということになる。そうなると,その点についての判断はあとは適式で行われているかどうか判断すれば足りることであって,そのためには,一番明確なのは,証言を現に拒絶した場合ということになるだろうと思うのです。 ○井上委員 適式性のみ審査するというのは,そういう証言拒絶などの要件の審査もしないということではないですか。 ○龍岡委員 現に拒絶したということになると,それだけで要件が,言ってみればあるわけだから。 ○井上委員 もう少し説明しますと,龍岡委員がおっしゃるような考え方ももちろんありますけれども,要件というのはそういうものではなく,請求があった場合には,手続的に適式性があれば,証言命令を出すということでよいという考え方もあり得るのではないかということです。 ○龍岡委員 その点は分かりました。ここで言いたかったのは,(1)についてのほか,(2)のB案については,裁判所としては,この案では一体どの辺まで考えて対応していくことになるのかというのがイメージとしてはもう一つはっきりしないということです。 ○本田部会長 まだ御意見もあろうかと思いますが,時間の都合もございますので,「刑の減免制度」,「捜査・公判協力型協議・合意制度」,「刑事免責制度」についての議論はひとまずここまでとさせていただきたいと思います。   次に,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」と「被疑者国選弁護制度の拡充」について併せて議論を行うことといたします。   まずは,配布資料の内容につきまして事務当局から説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 まず,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」の関係で御説明いたします。資料は17ページからでございます。   まず,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」につきましては,第1作業分科会におきまして,基本構想に沿って,勾留と在宅の間の中間的な処分を設けることと,被疑者・被告人の身柄拘束に関する適正な運用を担保するため,その指針となるべき規定を設けることにつき,それぞれ具体的な制度案,又は規定案の検討が行われました。   資料には,これまでの検討状況を踏まえ,それぞれ「第1」,「第2」として,現時点で考えられる制度又は規定の概要と検討課題とが記載されております。   まず,「第1」の中間処分につきまして御説明いたします。   「考えられる制度の概要」におきましては,被疑者について勾留の理由があること,すなわち,罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由と,罪証を隠滅し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があることに加えて,「中間処分に付することが相当であるときに限り」,被疑者を中間処分に付することができることとされ,その手続については,検察官からの中間処分の請求を要するとされております。   中間処分の内容につきましては,「3」にありますとおり,中間処分に付された被疑者は,罪証隠滅,逃亡の防止に必要な一定の遵守事項を遵守しなければならないものとされ,その期間は2か月とされているほか,「4」にありますとおり,遵守事項違反があった場合など身柄拘束が必要となった場合には,改めての令状の発付を受けることなく,捜査機関が被疑者を刑事施設等に引致できることとされ,検察官は,遵守事項違反等の点について,弁解を聴取した上で,勾留の要否を判断し,裁判官は,遵守事項違反があった場合など一定の場合には,検察官の請求により被疑者を勾留することができるとされております。   次に,「検討課題」につきましては,資料に「1」から「8」まで記載されておりますが,全体的な制度の在り方に関わるものとして,「2 勾留との関係」というものがございます。この点につきましては,資料に挙げられている①と②の考え方がございまして,いずれも,中間処分が勾留の理由がある被疑者,つまり罪証隠滅,逃亡のおそれのある被疑者を対象とするということは共通しますが,①の考え方は,中間処分が持ち得る罪証隠滅,逃亡防止の機能というのが限定的なものであるという認識を前提に,勾留の理由がある被疑者のうち,中間処分が相当であるものについてのみ,特に選択し得るとするのに対して,②の考え方というのは,罪証隠滅,逃亡のおそれがあるときには,まず中間処分による対処を考えるべきであり,それが困難である場合に,初めて勾留を可能とするという考え方に立つものでございます。   そして,「検討課題」の「3」におきましても,そういった考え方を前提としまして,対象犯罪を限定すべきか,それ以外の要件をどう定めるかといった点が検討課題とされております。   そのほか,「4」から「8」までございますが,「4」は,中間処分の手続に関して,検察官から中間処分の請求があった場合だけではなくて,勾留請求があった場合にも,中間処分を可能とするかどうか,「5」は,中間処分において被疑者に義務付ける事項としてどういうものが考えられるか,「6」は,どのような場合に勾留への移行を可能とするか,「7」は,勾留の途中で中間処分に変更することを認めるかどうか,「8」は,捜査段階だけではなく,起訴後についても中間処分を設けるか,これらの点について引き続き検討する必要があるとされております。   次に,19ページのところですが,「第2」の指針規定につきまして御説明をいたします。   「考えられる規定の概要」といたしまして,まず「1」の方は,否認及び黙秘の取扱いに関する留意事項,「2」の方は,身柄拘束の判断に関する留意事項であり,「A案」「B案」として,分科会で提案されたものと,これと対照して検討する別案の両案が挙げられております。   「1」は,被疑者・被告人が犯罪事実を否認又は黙秘しているとしても,安易に勾留がされないようにという問題意識を前提とした場合に考えられる規定として掲げられているものでございまして,「A案」というのは,否認や黙秘の事実を被疑者・被告人に「不利益に考慮してはならない」とするもの,「B案」の方は,否認や黙秘の事実「のみを理由として」,罪証隠滅・逃亡のおそれを認定してはならないとするものです。   「2」は,捜査を行う上で身柄拘束はできる限り避けるべきであるという問題意識を前提とした場合に考えられる規定として挙げられているものでありまして,「A案」の方は,身柄拘束の回避と釈放に「できる限り努めなければならない」という規定,「B案」の方は,身柄拘束に伴う「社会生活上の重要な利益を不当に害しないように留意」するという規定でございます。   「1」,「2」のいずれにつきましても,現行制度の運用に関する認識ないし評価の違いを背景として,こういった規定を設けることの要否などについて見解の相違があったところでありまして,また,これらとは別の規定が考えられるかどうかも含めて引き続き検討する必要があるとされております。   この検討事項に関する参考資料につきましては,28ページ以下にございます。 ○上野幹事 続きまして,「被疑者国選弁護制度の拡充」について御説明いたします。資料20ページでございます。   基本構想においては,被疑者国選弁護制度の拡充について,その対象事件を,被疑者が勾留された全ての事件に拡大することについて具体的な検討を行うとされたところであり,その旨を「考えられる制度の概要」に記載しております。第2作業分科会においても,このような制度の内容自体には特段の異論はございませんでした。   もっとも,被疑者国選弁護制度の対象事件を拡大することについては,大別して二つの課題について更に検討する必要があるとされております。   1点目は「弁護士の対応態勢」についてです。   被疑者国選弁護制度の導入について審議した司法制度改革本部・公的弁護制度検討会においても,いわゆる司法過疎地域を含めた全国のあらゆる地域において十分な弁護士の態勢が確立されているとは認め難い状況にあったことから,制度の導入当初は,相当対象事件を限定した上で,段階的に現在の対象事件へと拡大する方法が採られることとなったという経緯があると承知しております。   この点について,第2作業分科会では,日本弁護士連合会における検討結果として,被疑者国選弁護制度の対象事件を,被疑者が勾留された全ての事件に拡大することにより,制度の対象事件が約4割増加するとしても,弁護士の増員やその見込み,各単位弁護士会内における応援態勢の構築等により十分に対応できるとの結果が得られた旨の御紹介がありました。   もっとも,これに対しては,各地域の実情,少年審判における国選付添人制度の対象事件が別途拡大された場合に必要となる対応態勢も踏まえた,より綿密かつ具体的な検証が必要ではないかとの意見もあり,更なる検討が必要とされております。   2点目は「公費負担の合理性」です。   平成25年度予算案において,被疑者国選弁護事業費として,既に56億4,700万円が計上されているところ,日本弁護士連合会が推計されるように,対象事件の拡大により,対象事件が約4割増加した場合,更に毎年20億円を超える公費負担が必要となると考えられます。   これを踏まえ,配布資料に記載された諸点を含め,そのような国民負担の増加の必要性及び合理性について国民の理解が得られるか,公費負担の総額の増加を抑制するためにどのような方策が考えられるかについて,更に検討をする必要があるとされております。   なお,併せてお配りした参考資料の40ページ以下に,以上の検討事項に関する参考資料がつづられておりますので,適宜,御参照ください。 ○本田部会長 それでは,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」と「被疑者国選弁護制度の拡充」につきまして,「考えられる制度の概要」と「検討課題」の内容を中心に御意見,御質問等ございましたら御発言をお願いします。 ○佐藤委員 勾留と在宅の間の中間的な処分に関する案について感想を申し上げたいと思います。これを伺うと,一見好ましい仕組みであるかのように感じるのですけれども,この要件のところ,「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり,かつ,罪証を隠滅し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある場合であって,中間処分が相当であるときに限り」というのは,何なのだろう,これはと思います。いろいろ考えてみても,頭がよじれて分かりにくいのですよね。現在の勾留がおかしい,変であるということであるとするならば,それは別ですけれども,これはこれでこの制度を維持しつつ,今読み上げたようなものを作ろうとすると,それは,現在は勾留の必要がない者について新たな要件を設けて勾留には至らない程度の拘束ないしは義務を課して罪証の隠滅を防ぎ,逃走するということにつながるものを防止する仕組みを作ろうというなら分かります。あるいはもう一つ無理して分かろうとすると,現在の勾留制度を一応御破算にして,新たに勾留に準ずる制度の要件を設けて制度を構築しようというなら,これも分かります。しかし,そうではないという形でこれを仕組むとすると,一言で言うと,何か得体の知れないものになるのではないだろうかという危惧を持ちます,というのが感想でございます。 ○酒巻委員 佐藤委員と同じことを聞こうと思っていたのですけど,要するに,普通の一般国民に分かりますか。犯罪の嫌疑があって,逃げるおそれと証拠隠滅のおそれがある人だけれども,おうちに帰ってよいよというのは一体どういう制度なのでしょうか。しかも,保釈と違ってお金を預けていただくわけでもない。それを普通の人に分かるように説明できないと,やはり難しいのではないか,なかなか理解が得られにくいのではないかと思います。これまでの勾留という制度は,嫌疑があっても逃げるおそれがない,あるいは証拠隠滅のおそれがなければ,これは身体拘束されない。更に必要性・相当性がないとして拘束されない場合もあり得た。これに対して逃げては困るから身体拘束する,自由に動かれたら罪証隠滅するから拘束する。拘束か自由か,それは100かゼロなのですけれども,しかし,それはそういう頭で作ってある。身体拘束の要件が全部そろっていて,しかし,身体拘束しないというのは何なのか説明できるかどうかが,まず第一の問題ではないかと思います。 ○村木委員 私がこの部会に参加してきて,いつも大変良い議論をしていただいていると思いながら時々不安になることがあります。それはどういうことかというと,例えば,身柄拘束は適切に行われているのだとか,証拠は適切に開示をされているとか,取調べは適正に行われているとかといった発言があるときです。制度の趣旨にのっとって適切に行われていないことがあるからこそこれだけいろいろな問題が起こっているのに,そういう御発言がこの会議であって,そのたびに非常に私は不安になる。いろいろな問題があるからこそ,こういう会議が開かれているのではないかと思っています。   身柄拘束についても,本当に今の制度で良いのかということについて,たくさん問題提起がされている,疑問に感じている人が多い分野なのではないかと思っています。ここのメンバーの方とか,いろいろな関係者の方に,公式の場ではないところでこの話をすると,「いや,最近は大分良くなりましたよ」という人が一番多い。だけど,この場では誰も問題があったとは言ってくれない。やはり身柄拘束のルールが曖昧だったり,運用にばらつきがあったり,あるいは時には問題のある運用がされていると私自身は実感をしています。   身柄拘束というのは,このメンバーの中で余りそういう目に遭った人がいないので実感がないのかもしれませんけれども,非常に大きな基本的な人権の制約です。本人にとっては,刑が確定していないのに,もう刑罰に処せられているのと同じような効果がある。法律は,あるいはここでの議論は,極めて限定的に,どうしようもないときだけ拘束しているのですと言われるけれども,実際の運用はそういうふうにはなっていないと思います。   私の場合同じ事件で共犯とされた人が,私を含めて4人いましたけど,私だけが否認をして,私だけが身体拘束を受けました。非常に懲罰的なのだなという実感を持ちました。身体拘束されると,家族や周りとの接触も絶たれるし,全く自由がなくて,畳2畳ぐらいのところにずっと閉じ込められているわけですし,24時間監視カメラがあって人が監視をしていて,夜寝るときも,頭の真上に明かりが点いている。かかりつけの医者にも行けない。そういう生活をしなければいけない。これは非常に虚偽の自白を引き出すのにも非常に有効な手段になり得る大変リスクの高いものだと思います。   一方で,確かに,万が一にも罪証隠滅されたり逃亡されたらどうしようという,これを心配するという気持ちは非常によく分かるのです。そこも私は理解ができます。今までは,先ほども御発言があったように身体拘束か在宅か,ゼロか100しかなかった。例えば,家に帰ってもよいけど,誰かと会ってはいけないとか,こういう人と接触してはいけないとか,ここへ行ってはいけないとか,そういう条件付きの中間処分というものができて,今の拘置所に入れておくような完全な身体拘束ではないやり方ができるというなら,これは非常に良いことだと私は思っています。是非,この中間処分ということをやっていただきたい。これは要するに,逃亡や罪証隠滅を防ぐという手段ですから,勾留によってでないとどうしてもそういうことができない,条件付きで在宅ということではできないというときには勾留,そうでなければ中間処分,そういう心配もなければ普通にフリーでと,こういうことで制度を是非作っていただきたい。身体拘束というのは非常に大きな人権侵害でえん罪を生む道具にできるものだということを是非共通認識として持っていただきたいと思います。   今までの議論で,勾留,身体拘束というのは必要最小限のときしかやっていないとここで何度もお話がありましたので,そういう意味で言えば,中間処分を作ったときも,最小限度のものが勾留で,それの必要がないものは中間処分,その必要のないものは在宅でということで,できるだけ人権の制約というのは小さくするという形で制度を作っていただきたい。是非お願いしたいと思います。 ○龍岡委員 今,村木委員の御意見を聞いていて,実務に携わってきた者としても謙虚に受け止めなければいけないかなということは思います。ただ,繰り返しでまた批判されるかもしれませんけれども,裁判所で勾留等の裁判に携わってきた経験から言いますと,裁判官は身柄の拘束がいかに重要であるかということは十分認識した上で,その要件についても厳重に判断しながら,できるだけ適正な運用になるように努力してきたと思います。それが完全で全部問題がなかったかと言われると,必ずしも問題がないとは言い切れませんけれども,もう一回繰り返し申し上げさせていただきたいと思います。   勾留と身柄不拘束,在宅ですね,との間に中間処分も設けるということについては,ある面での身柄拘束制度をよりきめ細かく,また適正に運用していく上で,私はメリットがあるのではないかと思いますが,これを制度化するということになりますと,分科会でも十分議論がされていたように思いますけれども,要件の明確化など検討すべき問題点がまだまだ少なくないように思います。また繰り返しになりますけれども,裁判所としては,現在でも勾留の必要性を十分吟味し,釈放できる被疑者については勾留請求を却下している。これは勾留の要件である刑事訴訟法60条の要件ですね,罪証隠滅あるいは逃亡のおそれ,そういう勾留の要件がある場合であっても,更にその上に必要性を判断して勾留するかどうかを決めているわけです。今回示されていますような規定では,中間処分に付するか否かの相当性の判断は,現行法上の勾留請求を却下するか否かの判断の際の,いわゆる勾留の必要性の判断と重なっていると思われます。中間処分が導入されたとしましても,今まで勾留されていた被疑者が対象となるというよりは,場合によっては,今まで勾留請求が却下されて釈放されていた被疑者が中間処分の対象となるという事態も考えられるのではないか,分科会でもこの辺の議論が随分されていたように思いますが,やはりそういう心配がないとは言えないと思います。裁判官,裁判所としては,勾留の要件があって,必要性がある場合について考慮している。必要性がないということになると,勾留請求は却下して釈放されてきているはずなのです。中間処分といえども,勾留請求却下,釈放の場合と比べますと,被疑者にとってはなお不利益な処分ということになると思います。それでも中間処分が必要と言えるかどうか,制度趣旨として,これまで勾留されていた被疑者の身柄を釈放するということであれば,どのような事件,被疑者がこれに当てはまるのかなど,更に言えば,もっと中間処分の位置付けの点についても十分論議を尽くして,これを踏まえて明確な要件を示していくことが必要であろうかと思います。更に検討が必要ではないかと考えます。 ○井上委員 お二人が述べられた点については,分科会でも議論をしましたが,どちらのイメージでものを見るのかだと思います。現在勾留されている人のうち一部を中間処分に向けていくのか,それとも,現在でも本当に必要があるから身体拘束をしているとすると,そうでない人が取り込まれていくということになるように思われるわけですが,そうなのか。どちらがあるべき姿かということです。御提案の方のイメージというか趣旨は前者なのですが,そうだとすると,先ほど佐藤委員や酒巻委員が言われたような問題が出てくる。逃亡のおそれとか罪証隠滅のおそれがあるのにどうして身柄拘束しなくてよいのか。住居等を制限したとしても,そのおそれが残るとなると,条件を確実に守ってもらえることが不可欠で,それを実効的に担保する仕組みとセットでなければ考えられないという意見も結構ありました。つまり,保釈の場合と基本的に類似しており,保釈の場合は,勾留処分をした上で,保釈保証金によって,逃亡が防止できる人もいる。他方,罪証隠滅のおそれについては,証拠が隠滅されてしまったらおしまいなので,権利保釈からは外しているわけですね。それと同様,実効的な担保措置とセットでないと,整合性のある制度とはならないのではないかという意見もかなり出されている,そういう状況です。 ○髙綱委員 私からも中間処分につきまして,分科会の議論を伺って改めて申し上げたいのですけれども,たとえ遵守事項や勾留への移行があったとしても,勾留されている状態と比較すれば,罪証隠滅や逃走の懸念というのは100%防止されているとは言えないと考えざるを得ないわけであります。例えば,遵守事項違反後に幾ら勾留に移行したとしても,一度隠滅された証拠の復元や再収集,リカバリーは極めて困難なわけであります。また,逃走して所在不明となってしまえば,そもそも勾留そのものが事実上極めて困難になるわけであります。したがいまして,私どもしては,罪証隠滅の防止や取調べのための出頭が勾留と同程度のレベルで確実に担保される仕組みにならない限り,こうした中間処分を設けることには反対と申し上げざるを得ません。   さらに,今申し上げた一定の遵守事項を設けるとしても,これを守っているかどうかの確認ですとか,これに違反があった場合のその違反状況の事実確認,これをどの機関が行うのかということなのです。法制的には裁判所か検察官がやられるのかもしれませんけれども,もしも私ども警察のマンパワーに期待をされるというのであれば,それこそ限られた警察力に,今現在はない新たな仕事,新たな負担を負わせることになるわけでありまして,本来の犯罪捜査だとか治安維持に充てる捜査力がその分割かれるということになるわけですので,治安水準の低下にもつながりかねないのではないか,そういう懸念も持っております。したがって,反対と申し上げざるを得ないものであります。 ○大野委員 中間処分の在り方について一言申し上げておきたいと思います。   中間処分については,捜査に支障を生ずることなく身柄拘束の負担を軽減できる仕組みとなるかという観点から,十分にその在り方を検討する必要があると思っております。   まず,「検討課題」の「2 勾留との関係」に関しましては,これまで御意見がありましたように,中間処分を原則的な形態として勾留に補充性を必要とした場合には,中間処分が罪証隠滅や逃亡を確実に防止できる仕組みではないにもかかわらず,それが原則的な形態となることとなって,被疑者が罪証隠滅し,又は逃亡する事態が増加して,捜査に重大な支障を生じることとならないかということが強く懸念されるところです。   それから,「検討課題」の「5」の「捜査機関への出頭義務」に関しましては,中間処分に付せられた場合に,被疑者が取調べのため出頭しなくてよいことになってしまいますと,被疑者としては,取調べに一切応じることなく中間処分の期間をやり過ごすことによって,実質的に釈放されたに等しいことになってしまい,その間捜査を進めることができなくなるなど捜査に大きな支障が生じることになります。そのため,取調べのための出頭義務をきちんと担保しなければ,このような制度を新たに導入したとしても,捜査機関側がこれを利用しようとは考えないだろうと思います。これらの点について,更に作業分科会で十分に御検討いただいて,より具体的な制度のたたき台に近いものをお示しいただければと思います。 ○青木委員 参考資料の29ページ以下に私の名前で分科会に提出したペーパーがありますが,そこにも書いてありますし,あるいは分科会でも発言していますので,ここで長々と述べるつもりはないのですけれども,やはり村木委員が先ほど言われましたように,もろもろの御議論の中で,やはり今の勾留の実務といいますか,保釈の実務といいますか,それについてどういうふうに考えるかという認識の差が,いろいろな議論のところで差として出てきている部分が大きいのだろうなという感想を持ちました。   それで,制度の細かいことについては,また更に分科会で議論させていただけるということだろうと思いますので,それは抜きにしまして,やはり勾留,身体拘束というのは本当に最後の手段であって,ほかに避ける方法があるのであれば,それは避けるということがはっきりするということ。それと,否認をしているとか,そういうことによって勾留が長引いたりするとか,あるいは勾留されてしまうということがないような制度を是非設計したいと思いますので,そういう観点で,私としては,中間的なものというのがないと,最大限勾留を避けるということにはならないと思っています。むしろ理論的にそうならざるを得ないのではないかなと思っているのですけれども,そこを含めて更に分科会で詰めるということについては賛成いたします。 ○後藤委員 現在の身体拘束の運用が適切かどうかについては,いろいろな見方があって対立すると思います。ただ,法律上はっきりしているのは,先ほどから出ている言い方をすれば,裁判官ないし裁判所としては,在宅か勾留か,ゼロか100かの選択しかないということです。被告人になれば保釈という選択肢もあるけれども,それを除けば他の選択肢はない。そこで,全く自由にすれば逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるけど,例えば50ぐらいの制限でも,それは防げそうだというときでも100の制限を課さざるを得ないことになっています。現状では,言わば構造的に過剰な自由制約をせざるを得ない部分があるのではないか。それを改善したいというのがこの案の基本的な発想だと私は理解します。ただ,龍岡委員もおっしゃったように,実際作ってみて,どういう運用になるか,逆に今まで普通に在宅処理で済んでいた人に制限が課せられることにならないかというおそれは確かにあります。だからここはいろいろな工夫が必要だと思います。それも考えると,この中間処分でもかなり実効性があることが分かる,そう思えるようなものにする,例えば遵守事項違反に対する制裁もある程度充実させる方が,むしろ勾留を減らす方向に導くためには効果があるのではないかと考えました。具体的にはもっと詰める必要がありますが。 ○松尾関係官 「中間処分」という用語で議論が進んでいるわけですが,これは将来,もし法律に取り込むとすれば,「中間処分」ではなくて,何か一つの用語を創作する必要があろうと思いますけれども,取りあえず「中間処分」です。昨年,中国の刑事訴訟法が全面改正を受けました。改正された重点事項の一つが,この中間処分に相当する手続の充実ということでありました。中間処分の制度は前からあったのですが,今度の改正で条文が大分増えまして,ここに力を入れております。公式の理由書等によりますと,その趣旨は,やはり勾留というのは非常に厳しい処分で,被疑者に対する負担も極めて大きいので,それを緩和する趣旨であるという,正に中間処分としての意義をそういうふうに述べております。ただ,できた制度に対しましては,中国におけるリベラルの立場の人たちは激しく攻撃しておりまして,中間処分になるがゆえに法律の規制も裁判所の監督も行き届かなくなり,かえって人権侵害を激化するというような批判をしております。事実がどっちに傾くのかというのは,これから先もっと観察しなければ分かりませんが,最初に申しました名称の問題で言いますと,中国の中間処分は,居住監視という名称です。つまり,処分を言い渡しておいて,どのように暮らしているかということをしっかり監視するという考え方になっています。現在,ここの議論の対象になっている中間処分には,そういう要素は含まれていないと思いますけれども,お隣の中国でそういう動きがごく最近あったということを御紹介申し上げました。 ○周防委員 皆さんのお話を聞いていて,この制度設計がいかに難しいかということが,私にも理解できるところはあります。ただ,それでも何でこういう提案がなされるかというと,やはり現状認識として,勾留というものが不当に行われているのではないか,そういう現場の声があるということをまず分かっていただきたいです。立場が違えば物の見え方は違うので,確かに裁判官の方は今まで正しく運用してきたんだという立場に立つのは当然理解できるのですけれども,私がこういった刑事司法の取材を始めてすぐ,元検察官で現在は弁護士として活躍されている方の何人かを取材したときに,やはりこの勾留の話になったときに,検察官として自分が仕事をしていたときは当たり前だと思っていたことが,弁護士として活動すると,何でこれで保釈が許されないのか,何でこれで勾留されてしまうのか,そういう機会が何度かあったとおっしゃるわけです。この重大な人権侵害になる勾留というものに対して,やはり弁護士,被疑者が非常に負担を感じているということを裁判所及び警察,検察の方がもうちょっと理解を示してほしいなと思います。確かに制度設計は難しいかとは思うのですが,現状の勾留にはたくさんの問題点があって,いつか井上委員に,それは違うと指摘されましたが,人質司法というものが,最初の勾留段階から僕は働いていると思っていますし,人質司法という,そんな言葉を取材の過程で早く学習してしまったというのは,やはりそういう問題が根強く残っているからであるというふうに思っています。 ○小野委員 被疑者国選のことについて触れておきたいのですが,先ほど分科会での議論について御紹介がありましたが,基本的に公費負担ということでいえば,本来,被疑者段階においても弁護人の援助を受ける権利,これは基本的な権利として保障されるべきだということについては,異論はないのではないかなと思っております。ただ,この間,それ以外の要素で限られた人たちだけに国選弁護人が付くとなっていたのを,これを広げていくということは,本来あるべき姿に向かっていると考えているわけです。   弁護士会での調査の報告については,更に詳しい資料の用意も,この勾留段階ということでいえば既にできておりますので,それも後日提出をしたいと思っております。   それから,基本構想では,その後の検討課題とされています,逮捕段階での弁護人選任の問題についても併せて分科会で議論を開始してもらう必要があるのではないか。特に現時点で逮捕段階でかなり緊密な取調べが事実上行われ,中には,録画をしているというケースもあるわけです。そういうことで言うと,逮捕段階で速やかに弁護人の援助を受ける権利というものが保障される仕組みを早く作る必要があるだろうと思います。   それから,これまでの,今出ていた勾留の問題なのですけれども,ほとんどの弁護士は,そして,裁判官を辞めて弁護士になられた方,検察官を辞めて弁護士になられた方,ほとんどの方が口をそろえて,勾留の必要がないものが勾留されていると皆さんおっしゃいます。ほとんどの弁護士はそういうふうに思っています。それは,正にそういう実態があるからでありまして,是非皆さん一度,弁護士登録をして弁護人をやっていただきたいなと思うぐらい,実務の実態はそういうふうになっているのです。だからこそ,そうでないところに何とか新しい仕組みができないかということを議論を詰めていただきたいなと思います。 ○酒巻委員 被疑者国選弁護について,こちらは私も分科会で弁護士会にお願いしたところで,基本的に身体拘束された勾留段階の全事件の被疑者について,国選弁護を拡大することについては,私も賛成です。あとは,ですから,本当に全国津々浦々で,どこで勾留されても必ず請求すれば,どこであろうと平等に弁護士さんが来てくれる態勢が本当に具体的に確実にできるのかということを,小野委員は随分詳しく各地の状況も御説明いただいたのですけれども,より詳細に,きちんと動く制度だということを説得的に御説明いただくことがまず大前提だと思います。そういう意味で,逮捕段階の話もありますけれども,まずは勾留段階の身体拘束された被疑者全体についてそれが賄えるのか,それから,分科会でも言いましたけど,少年の付添人については,法律が通れば範囲が拡大するわけですね。拡大の理由は確か,被疑者国選の対象範囲とのずれがあるということだったと思うのですが,そうだとすると,その先は筋としては,また,少年についてもという話にならないとかえっておかしいような気もするのですけど,そういうことも含めて本当に対処できるのかです。もしそうでなければ,以前,被疑者国選を最初に始めたときと同じように,これは理屈ではなくて立法政策だから,段階的に確実にということも考えていく必要はあるのだと思います。これはまた分科会でやるのでしょうけれども,いずれにしろ,私は,基本的な方向として,憲法34条の趣旨を,より具体的に実現するために,身体拘束された被疑者については,勾留段階で国選弁護人請求権が制度としてあるということは大賛成です。 ○今崎委員 若干私からもお話をさせていただきたいのですが,裁判所は,勾留に当たって別に好き好んで人の人権を侵害しようと思っているわけではありません。我々裁判官としては,やはり刑訴法60条の規定に従って,その要件があるかどうかを誠実に判断してきたつもりです。もちろん個々には間違いもあったでしょうし,あるいは一方当事者からすれば不満があったかもしれませんけれども,しかし,我々は検察官からの準抗告を受けるということだって幾らでもあるわけです。   私の方から申し上げたいのは,現在の実務を前提に,この制度を導入するとしたら,どういう人たちをターゲットにするのかを明確にしていただきたいということです。もし,現在勾留されている人のかなりの部分を中間処分に移したいというのであれば,そういう要件を明確にしていただきたい。そうすれば,裁判官はそれに従うと思います。他方,現状を前提にこの条文が入るのだったら,先ほど龍岡委員からもお話がありましたけれども,多分,今「必要性なし」の理由で勾留請求を却下している事件のかなりの部分がこの対象に入ってくると,こういう運用になると思います。それでよろしいというのであれば,我々裁判所としては,それをきちんと判断していくことになると思います。 ○安岡委員 被疑者国選の方に戻って恐縮なのですけれども,今日の資料の中で,「2 公費負担の合理性」のところの最後が,「国民の理解が得られるか。」となっている。ここは私は不適切であろうと思いました。作業分科会に付託している基本構想には,さらなる公費負担の合理性や予算措置の可否など指摘される懸念も踏まえて具体的な検討を行うとあります。この合理性というところですが,法制審の部会で検討して判断する合理性の有る無しというのは,一体どのぐらいの金がかかって,それが現実的なものかどうかということだと思います。具体的に言えば,例えば,この被疑者国選を勾留全件に拡大すると何兆円も掛かるとか,何千億も掛かるということであれば,それは制度として現実的なものでなく,したがって合理性がないということで,これは先送りしましょうというのが妥当な判断になると思うわけですけれども,現実にはそういう額ではない。そうしますと,ここの「国民の理解が得られるか。」とは,要するに,ある政策にどれほどの国民負担を求めるのか,それから,国民の考えはどの辺にあるのかということの判断になり,これは立法府が判断する事項だと私は思います。立法府の立場からすれば,この制度ということではありませんけれども,例えば,国民がその負担の大きさゆえに反対するかもしれないが,政策的な見地からどうしても導入しなくてはならない制度なのだと判断することもあろうかと思います。したがって,法制審で国民の理解が得られないと判断するので,これこれの制度は導入しないという結論を出すとなると,法制審という機関ののりを超えたというか,権能を超えた行為,判断になるのではないかと考えます。   同じ「公費負担の合理性」の二つ目の○のところに,「公費負担の総額の増加を抑制するため,どのような方策が考えられるか。」というのが突然出てきたのですけれども,これはいよいよ変な項目だと私は思います。法制審の部会でその方策を考えるのであれば,刑訴法の改正によって弁護費用の増加を抑制する方策を考えるということになろうかと思いますけれども,その場合には,対象罪種を絞り込むとか,接見回数を法律上制限するとか,そのぐらいのことしか思い浮かびません。国選弁護の契約をしている弁護士の方とは,国選弁護の約款を認めていただくという形で契約をしているわけですけれども,その約款改正は全然この法制審で審議するようなものではありません。ですから公費負担の総額を抑制するための方策を考えろといって,法制審で考えてしまうと,越権行為ではないかなと思います。そもそもこの「公費負担の総額の増加を抑制するため,どのような方策が考えられるか。」というのは,この部会の論題になっていなかったのではないですか。私が何らかの理由で気を失っているときに,その議論が行われたのかもしれませんけれども,仮にそうだとしても,日弁連の方のこれまでの主張とか,いろいろ種々出されている意見書などを見ると,公費負担の総額の増加を抑制するための方策を考えなければいかんということで部会の場で意見が一致したとはとても考えられません。これは削除していただくか何かしないと,ちょっとおかしい項目だと思いました。 ○椎橋委員 まず,中間的な処分の導入は,井上委員が言われたように,実質的には,起訴前の保釈を認めるかどうかという問題だと思うのです。そうしますと,やはり保釈条件違反,つまり,罪証隠滅とか逃亡をいかに防ぐか,その仕組みをしっかりと作るということが大事なので,今御提案がされていますけれども,私はこれではまだ不十分だと思いますので,本当にそこのところがしっかりと担保できるような,そういった条件をこれから作業分科会の中でもお考えいただきたい。   それから,被疑者国選弁護ですけれども,私もこの制度は非常に重要だと思っておりますけれども,酒巻委員の言われるように,制度化された以上は,あまねくこれが実行されるということが大事で,長期3年以上の被疑者に対する国選弁護が何とか実現されたというのは,司法制度改革に伴うロースクール創設によって合格者が増えたということも大きく寄与しているという面が相当あるのではないかと思うのです。そうしますと,弁護士会は今,司法試験合格者を多くても1,500人,むしろ,それ以下にすべきだと主張されておりますけれども,私はロースクールに在籍しているという関係もあって,被疑者国選弁護の充実と合格者を1,500人以下にするという姿勢とがどういうふうに整合するのかというところが疑問に思うところであります。   それから,被害者に対する支援とのバランスというのも,私は国民に理解される刑事司法制度の構築という意味では重要だと考えておりますけれども,今50億円を被疑者国選弁護に使っている,そして,提案を実現するためには,更に20億円超が必要だとされています。他方で,被害者の問題について,まだいろいろ考えなければならないことが多くありますけれども,今,当面,被害者問題に必要な重要な支援をするということに必要なのは,約10億円ぐらいだろうと,これは人によってどこまでやるかによって違いはあるのですけれども,私はそのぐらいあれば相当なことができると考えております。しかし,被害者に対する支援についての日弁連の姿勢は,私の誤解か,評価の仕方が間違っている部分があるかもしれませんけれども,かなり冷たい感じがいたしておりますので,このバランスという点も是非お考えいただきたいと思います。 ○大久保委員 今の椎橋委員のお言葉に勇気を得まして,私も発言させていただきますが,どちらかと言いますと,こちらに御出席の弁護士さんは,個人的には大変良い人ばかりなのですけれども,こと,この新しい時代の刑事司法を作るということになりますと,その軸足は100%被疑者・被告人に向いて,そのためには必死で御自分の仕事も投げ打ってこちらにかけているという感じばかりが,被害者である私には伝わってきてしまいますので,人としてのバランスをということで大変悲しく思っています。   この中間処分にしましても,あるいは国選弁護人制度にいたしましても,被害者の視点ということがやはり入っておりませんで,先ほど,小野委員も拡大に異論はないのではないかとおっしゃいましたが,国民や被害者の多くは,まだまだ余りにも被疑者・被告人に手厚過ぎるというように,掛けるお金が多過ぎるというように感じています。私も,弁護活動というものはとても大切ですので,それはあっても構わないと思うのです。けれども,世の中というのはやはりバランスが大事だと思うのです。余りにも早い段階から弁護士さんが付いてしまいますと,犯人によっては黙秘とか否認に,明らかに弁護士さんの助言によって転じてしまうということが支援センターなどではよく体験することなのですね。ですから,正しい弁護活動をしていただけるのであれば,必要なことだとは思います。けれども,掛けられる弁護士さんへのお金といいますのは,余りにも違い過ぎますので,その点は,被害者支援に対する弁護活動も弁護士会としてしっかりと取り組んでいただきたいと思っております。それと,被告人の弁護費用であっても,本来は判決後,被告人に負担させるのが当然なのですね。そのところはどのようにしっかりと履行されているのでしょうか。そのような調査結果も踏まえて国民に広く開示をして,そして意見を募ればよろしいのではないでしょうか。是非,被害者の視点ということを,いつも片隅でも結構ですので,頭の中に置いて議論を深めていただきたいと思います。何か無視されているような気がするのです。 ○神津委員 周防監督の映画で,「それでもボクはやってない」というのがありましたよね。それで,あれは痴漢えん罪の話ですけど,ああいうことを世の中に問うてから,ああいうケースというのは本当に減ったのかなと思うのですけど,これはちょっと質問めいた話ですけど,言いたいことは,やはり身柄拘束して,とにかく,やったと言わないと許してもらえないみたいな,そういうことがまかり通っていたからこそのこの検討だと思うので,そのことは改めて申し上げておきたいと思います。 ○本田部会長 ありがとうございました。   それでは,まだ御意見もあろうかと思いますけど,時間の都合もございますので,一応この議題につきましては,ひとまずここまでとさせていただきたいと思います。   ちょうど区切りも良いところでございますので,ここで休憩をとりたいと思います。           (休     憩) ○本田部会長 それでは,再開いたします。   次は,「証拠開示制度」について議論を行うことといたします。   それでは,まず配布資料の方から説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 それでは,御説明いたします。   資料62の21ページ以下を御覧ください。「証拠開示制度」に関する各検討事項につきまして,第2作業分科会におけるこれまでの検討を踏まえて,「考えられる制度の概要」や「検討課題」を記載しています。   まず,「第1 証拠の一覧表の交付」につきましては,「考えられる制度の概要」といたしまして,対象事件において,公判前整理手続における被告人側からの請求により,検察官が保管する証拠の標目を記載した一覧表を被告人側に交付するものとする,とされた上で,検察官が一覧表の交付後に新たに証拠を保管した場合は,一覧表を追加して交付するものとされ,弊害が認められる場合には,その記載をしないことができるものとされております。   続いて「検討課題」ですが,「検討課題」の「1 趣旨等」といたしましては,制度の具体的な趣旨・目的や,現行の証拠開示制度における位置付けをどのように考えるか,「2 対象事件」といたしまして,対象事件を,公判前整理手続に付された事件を前提としつつ,更に限定することが考えられるかどうか,「3 交付の時期」といたしまして,一覧表を交付する時期を,整理手続におけるどの段階とするか,特に,整理手続の初期段階で交付するものとした場合,手続の遅延を招くおそれがないかといった点,段階的な証拠開示制度の枠組みと整合するかといった点について,更に検討する必要があるとされております。   また,「4 交付の要件」につきましては,作業分科会では,整理手続における被告人側からの請求によって交付するものとすることについて,特に異論は見られませんでしたが,「5 証拠の一覧表の記載事項」につきましては,証拠の内容にわたらない記載事項とすることについては異論はなかったものの,具体的な記載事項をどのようなものとするか,作成者の裁量が生じ得る記載事項を設けることが相当かといった点については,必ずしも意見の一致を見ておりません。また,「6 弊害への対応」につきましては,どのような弊害が考えられ,その場合の一覧表への不記載について,不服申立手続を設けるかについて,引き続き検討する必要があるとされております。   続いて,資料23ページの「第2 公判前整理手続の請求権」につきましては,「考えられる制度の概要」として,基本構想に従って,「当事者に公判前整理手続に付することの請求権を与えるものとする。」が掲げられております。   「検討課題」の「1 趣旨等」といたしまして,整理手続は,「争点及び証拠の整理」を目的とする手続ですが,この目的との関係において,当事者に不都合が生じている実情があるのかどうか,また生じているとした場合,請求権を与えることにより,その不都合が解消されるのかといった点や,請求権の効果をどのように考えるか,また,整理手続は,受訴裁判所が公判準備のために主宰するものでありますが,これに付するか否かについて,当事者の判断や意見をどのように考慮する制度とするか,また,実務上,整理手続によらずとも事前準備によって争点及び証拠の整理が達せられる場合もあるところ,これと整理手続の請求権との関係をどう考えるかにつきまして,更に検討する必要があるとされております。   「2 不服申立手続」につきましては,整理手続に付すか付さないかが,当事者に即時抗告を認めて救済すべきものなのか,不服申立手続のために訴訟手続全体が遅延しないか,受訴裁判所の判断を別の裁判所が覆すことが相当かについて,更に検討する必要があるとされております。   続いて24ページになりますが,「第3 その他(類型証拠開示の対象拡大)」につきましては,作業分科会での検討の対象として「一定の証拠を類型証拠開示の対象として追加すること」が掲げられ,その要否・当否を検討することとされておりますが,現行の類型証拠開示について,どのような不都合が生じているのかに関して,作業分科会で具体的に拡大の対象として提案のあった資料記載の証拠について,主張明示前に類型証拠開示の対象とする必要性・相当性があるかどうかを検討するということにされています。   これらの検討事項に関する参考資料につきましては,参考資料73ページ以下にございますので,御参照ください。 ○本田部会長 それでは,「証拠開示制度」につきましては,「考えられる制度の概要」と「検討課題」の内容を中心に御質問,また御意見をよろしくお願いいたします。 ○村木委員 証拠開示については,先の司法制度改革で格段の進歩があったと聞いておりますし,良くなっているということは,関係者の皆さんが口をそろえておっしゃっています。ただ,それでもやはり,特に全く事件に無関係だった人間が被告人となったような場合に,今の仕組みは,必要な証拠開示をしてもらうためには,相当な苦労があるという状況です。是非証拠の標目の一覧表の交付ということをお願いしたいと思います。私の事件はちょっと特殊だったかもしれませんが,それでも公文書の偽造という犯罪で,偽造したときのフロッピーディスクが検察に押収されていて,それでも,それが公判に証拠として出てこないといったことが起こるということを考えると,やはりもう一歩の改革が要るのかなと思います。そのほかについても,証拠開示は是非充実をしていただきたいと思います。   今日は総論を申し上げる場面がそんなにありませんでしたので申し上げませんでしたが,今日いろいろなテーマが議論になっていますが,取調べ以外のいろいろな形で証拠を入手しやすくするための新しい制度を導入するという方向について基本的に私は賛成です。是非いろいろなメニューを今の制度の中に入れていただきたい。そういう意味で,純化ではなくて不純な方向に行くのかもしれませんが,そういうふうにしていただきたい。その上で,獲得をした証拠を弁護側と検察側双方がきちんと見て,また裁判官の前にさらして充実した公判によって裁判が行われるということを是非やっていただきたいと思いますので,よろしくお願いします。   公判前整理手続は非常に良い制度だと思いますので,今以上にそれが活用されるような,例えば,請求権というような話が出ていますが,こういったことも前向きに考えていただければ大変有り難いと思っています。 ○小野委員 私はここの作業分科会に出ていたものですから,私からというのはあれかもしれませんが,ここにある一覧表についてなのですけれども,この21ページの「1 趣旨等」の最初の○に黒ポチが三つありますが,「証拠開示請求のための便宜」という「便宜」という表現が良いのかどうかはちょっとあれですけれども,一覧表の目的というのは,基本的には,開示請求する証拠の存在を知る手掛かりだとは考えているわけですね。開示請求するには,識別事項を示さなければいけないということになっているわけですけれども,やはり証拠の存在を想定できない,非常に難しいという事件がそれなりにあります。そうした場合には,重要な証拠の開示ができない状態が続いてしまうというようなことがあって,やはり一覧表というのは,そういった事態を防止する。防御準備に必要な証拠というのは,弊害がなければ開示されるという趣旨を実現するために必要なものだとは考えているわけです。   そういう観点からしますと,この一覧表というのは,もちろん請求すべき証拠の存在を知る手掛かりとなる情報,これが記載されているということが必要なわけで,逆に言えば,証拠の内容を記載する必要はないわけですね。証拠物であれば,採取資料名とか採取日とか採取場所とか,そういったようなものを,実況見分調書であれば,作成日,作成者,見分対象というようなものが記載される。供述調書であれば,作成日,供述者が記載される,このような仕組みであれば良いのだろう。こういうような一覧表の交付を求めた場合に交付する,こういう仕組みなのだろうと思っています。そういうことで言うと,今の段階的な開示制度という仕組みと非常に合っているのかなと思います。   そして,公判前整理手続の請求権ということで言うと,基本的には今の証拠開示請求権,これが保障されるかどうかという問題であるわけです。裁判員制度対象事件が公判前整理手続に付されるとして,そうではない事件については付されるかどうか分からないという場合に,証拠開示請求権を行使できる前提が公判前整理手続ということになるわけですので,その意味では,防御準備のために必要だという証拠開示の考え方を,そういう権利の保障ということで言うと,公判前整理手続にその証拠開示制度というのは今組み込まれた仕組みになっているわけですから,公判前整理手続に付することを請求できると,こういう形で仕組みを作っていくということが必要なのだろう。そういう意味では,任意開示でもよいではないかということも事件によってはあるかもしれませんし,公判前整理手続をしなくてもよい事件はもちろんたくさんあると思いますけれども,防御準備に必要な証拠開示,これを担保するということになると,やはり開示請求権というものが保障されることになるだろうとは考えているわけです。これは裁判所の裁量的な判断ということではなくて,上級裁判所が審査する,そういう仕組みとして作り出すということがこの請求権を保障するものになるだろうと考えています。   それから,類型証拠の対象拡大なのですが,配布資料には四つの類型の証拠について必要だと指摘をしているわけですけれども,これらは類型的に必要なものだということで,いずれも主張関連証拠として開示されるという場合はもちろんあるわけですけれども,防御準備ということで言いますと,今の段階で,構造の中で類型的に開示する必要があるというものについて絞ってこの資料で説明をしていると考えていますので,主張関連証拠ということでしか開示されないということになると,この主張が,今度は逆にまた広くなってしまうということもあるわけですから,類型で開示できるものは類型でというようなことでこの類型の要件に当たるものを少し増やしていく,ここが必要なのだろうというのが,これを求めている側の議論の大筋でございます。 ○井上委員 先ほど村木委員がおっしゃった件,具体的な事件についてのコメントは差し控えるとして,証拠の一覧表の交付によって,そこで指摘されたような問題というのがどこまで防止できるのかはなお検討が必要だと思いますが,前から申し上げているように,制度全体として,公判前整理手続というのは防御側に証拠を段階的に開示していって,最終的には,防御側に必要と思われるものは全て開示されるということを保障するとともに,当事者双方にそれぞれの主張を的確に明示してもらって争点を有効に整理するという,二つの目的が結び付いた制度として設計されたものです。証拠開示が段階的なものにしてあるのも,正にそのためですので,その基本構造を堅持するということを前提にしながら,問題があるなら,それを訂正していくという姿勢が必要だと思うのです。その公判前整理手続については,時間がちょっと掛かり過ぎているという指摘はありますものの,基本的にはうまく運用され,定着して来つつあると認識していますので,飽くまでそういう大きな枠組の下で,リスト開示の問題についても,どの段階で,どういう形で開示するのが適切かを考えるということが重要だと思います。その点について,分科会でどの程度突っ込んだ議論がなされているのかということをお教えいただきたいと思います。   もう一つは,非裁判員裁判事件における公判前整理手続の請求権の問題なのですけれども,「検討課題」として書かれている,受訴裁判所の判断を他の裁判所で覆してよいのかということ,それによってどういう問題が起きるのかがちょっと分からないのです。受訴裁判所の裁量というのは,個々の事案に応じて柔軟かつ具体的に妥当な形で公判を運営していく上で非常に大きく,それを尊重する必要があるというのは分かるのですけれども,公判前整理手続に付すかどうかということが,それにどの程度関連しているのかというところが今一つよく分かりません。上訴されて争われると,時間が掛かることになるというのは分かるのですけれども,それ以上にどういう意味があるのかを御説明いただきたいと思います。 ○川端委員 私が分科会長なのですが,実質的な議論をされたのは酒巻委員ですので,酒巻委員の方から詳しく説明した方が分かりやすいと思います。 ○酒巻委員 井上委員の御質問の後半部分というのはどういうことを考えたかというと,そもそも公判前整理手続をやってくださいという請求権を作るとすると,請求権が法律的に意味があるためには,裁判所が,その請求に対して,やはりやりませんぞという判断をしたときに,不服申立て,即時抗告ができることが必要となるでしょう。即時抗告をして高等裁判所が,地裁はやらなくてよいと言っているけど,我々高等裁判所は,やはり公判前整理手続をやった方が良いぞという判断をすると,その後に審理を進めて争点整理をしていく主宰者である地方裁判所はやらなくてよいと言っているのに,上にやれと言われてやるのか,それから逆に,やると言ったら,今度,検察官が即時抗告すると,高等裁判所が,これは必要ないというような判断をすると,要するに,その後,両当事者の準備状況を把握しつつ争点を整理し第一審の審理をやっていく裁判体に対して,高等裁判所から介入されると,何かとても変なことにならないだろうかということなのです。他方で,請求権があるとしても,不服申立ては認めないという設計も考えられます。普通,判決前にした決定については原則は認めなくて,即時抗告は特別な場合に認めているわけでして,公判前整理手続をやるか,やらないかというのが,そこで解決しなければならない,将来致命的となるような,判決に影響を及ぼすような重大な違法が生ずるような問題とは思えないので,不服申立てを認めないということは考えられます。ただ,私自身は,不服申立てを認めなければ,請求権を設けてもほとんど意味はないと思います。請求権を設けるべきとの御意見は,証拠開示をやりたいというのが目的かもしれませんけれども,現在の公判前整理手続は,将来の事件の審理のために争点と証拠を整理するために必要があるときやるという要件になっているわけですから,裁判所が,それが必要だとすればやるだろうし,必要でないとすればやらないわけで,現在の制度でも,両方の意見を聞いて決めているのですから,不服申立てを認めないのだったら,請求権を設ける意味はない,そういうことが議論されたのです。   前半の方は,結局,先ほどの小野委員のお話も,つまるところ,現在の証拠開示の制度は,基本的に使い勝手がまだよろしくない。類型証拠開示の請求をするについても,どのようなものがあるかが分からんことには想像ができない場合がある。そこで,リストがあると,想像できない人が想像できるようになることがある。だから,今の証拠開示の制度をより一層実効的によく動かすためにはリストが必要です。そういうことだと思うのです,煎じ詰めると。   そうなのですけれども,それに対しては,井上委員がおっしゃったように,この公判前整理手続の中に証拠開示制度が埋め込まれていて段階的になっている趣旨は,やはり主張を明らかにしていただければいただけるほど,それに関連する証拠は出てくるようにというような頭で設計してあって,正にそれは公判前整理手続の大目的である争点整理のためにそういう設計になっているのです。そこで,今度は,リストというのを導入するとした場合,どこでそれをお示しするかですけれども,リストが開示請求の便宜のために必要だという方は,できる限り早い方が良いとおっしゃる。ただ,主張を明らかにする前にリストを開示する形とすると,全体の構造が崩れるのではないですかという反対意見もあるわけです。私自身の現段階の意見は,基本構想に書かれてあるように,そもそも現在の制度で本当にリストがなければどうしようもないのかという観点から,採否を含めて具体的に検討ですから,今の制度でもきちんと使ってくれればうまくいくのではないかというのが基本的な立場ではあるのですが,それでも,もしリストがあれば,より一層使い勝手が良くなるということであれば,ここにいろいろ「検討課題」として書いてありますけれども,こういうことも十分考えなければならず,段階的な構造と矛盾しないようなリストの理論的な位置付けがあり得るのかどうかということをまず詰めないといけないとの意見です。リストについては,これに関連して皆さんお忘れかもしれませんけれど,既に現行の制度の中にあるのです。主張を明らかにしてくれたら,どういう証拠があるかについては,裁判所が検察官に命じて,リストを作らせて,その中に主張に関連する証拠があるかどうかを裁判所がきちんと調べて判断するという制度は作ってあるので,それがあることと,新しく作るリストとの関係というのも,やはりよく考えてもらわないといけないのではなかろうかと,そんな議論をしたわけです。 ○井上委員 大体分かったのですけれども,受訴裁判所が必要だから公判前整理手続を開くという場合に,上訴裁判所が開く必要がないというのは確かに変だなと思いますが,逆に受訴裁判所が開く必要がないと言うのに上訴裁判所が開けと言った場合,何か不都合が生じるのかというところが,なおよく分かりません。また,確かに,公判前整理手続が証拠開示のためだとすると,今のものとは性質がちょっと違ってくるのかなと思いますし,この問題について,私自身はまだはっきり考えを詰めていないのですけれども,即時抗告をする必要はないというところは,証拠開示をその段階でしてほしいという側にとっては多分異論があるところだと思うのですね。そこで開示してもらって第一審の公判に臨まないと手遅れになるわけで,そこは異論が出るところではないかという感じがします。 ○小野委員 作業分科会では,これらの議論をしてきたわけですけれども,要するに,類型証拠開示,そういう証拠開示があって,それで争点整理ができるわけですよね。証拠開示がきちっと十分に実現されることが争点整理に結び付いていくというのがこの仕組みなわけですから,その前提となる証拠開示が十分に行われるかどうかということがポイントになるのは間違いないだろうと思うのです。そこで,その証拠開示について,確かに段階的ではあるのですけれども,今と,その一覧表が出たからといって,別に段階的な証拠開示がなくなるわけでも何でもなくて,そこで類型開示請求はするわけです。類型開示請求をして,更に主張が出て,それで争点関連証拠として類型以外のものも出てくるという仕組みは何も変わらないわけですから,そのことによって大きな今の段階的な証拠開示の仕組みが変わっていくということには全然なっていないのだろうと思っています。   それから,正に証拠開示によって,それが実現することによって初めて充実した審理ができる。その審理の中で証拠開示されないまま審理が行われるということがあってはならない。必要な証拠開示がないままの審理があってはならないのはむしろ当然なのだろうと思うわけです。それだからこそ公判前整理手続の請求権というのは必要なのでしょうし,言わば,公判前整理手続を請求する中身,どういう理由で請求をするのかということによって裁判所が判断し得るわけですから,当然そこのところで上級審の判断が違うことは当然あるわけでしょうし,しかも,受訴裁判所というのはこれからやるところですから,そういう意味では,上級審が判断することによって,そんなに大きな問題はないだろうと考えているわけです。 ○角田委員 即時抗告の話なども出たので,私の方からどうしても一言申し上げたいと思います。公判前整理手続の請求権を認めるという制度は,不服申立ての制度とセットでないと全く意味がないだろうと思うのです。技術的には多分,3日以内に提起する即時抗告という制度になるかと思います。私は今,高裁で仕事をしていますので,これが導入されれば,私のところにも事件が来ることになって,商売繁盛で良いのですけれども,ただ,これは事件の一番最初の段階ですから,証拠も全くないし,経過も何もないし,要するに,何もないところで原審がこの事件を公判前整理手続に付す,付さないということを事件の類型で判断したものを,その適否を高裁に審査しろというのは,率直に言うと,なかなか難しいというか,無理ではないかなと思います。   それと,これは従前の議論に多分出ていると思いますが,即時抗告も,これは3日の提起期間があり,それから記録を高裁に送って審議をして,決定を書いて,原審に送り返して,その間は一審は何もできませんから,事件を迅速に処理していく一番のスタートダッシュのところで,非常に無駄な時間が開いてしまうというのは大きな弊害だろうと思います。   もう一つ,これはそもそも論ですけれども,事件の審理,進行について最終的な責任は,一審裁判所が負っていて,この事件をどう処理していこうかと考えるわけですけれども,その一審裁判所が,これは証拠開示の問題だけではなくて,争点ですとか双方の言い分ですとか事件の見通しだとかを踏まえて,証拠開示の問題はもちろん考えますけれども,その総合判断としてこれは公判前整理手続に付して進めた方が合理的だ,あるいは付さない方が合理的だ,そういう判断をしたものを,全然別の裁判所が,資料もないところで,いや,一審は付すと言っているけど,やるなとか,付さないと言っているのをやれというのも,相当無理があると思います。   もう一つ遡って考えると,公判前整理手続は,裁判員制度対象事件については必要的ですので,これは必ず行われるわけです。また非対象の事件についても,一審裁判所の運用は,これは間違いなく,弁護人検察官の双方で特に争いになるような場合は,公判前整理手続に付してほしいというのであれば,具体的にどういう事情があるのかというようなことも聞いた上で,三者で意見交換をして付する,付さないを決めているということがあると思います。したがって,請求権を認める必要性の需要といいますか,そこのところはそんなに大きくはないのではないかと考えます。全くゼロということは私もないと思いますけれども,証拠開示の問題に即して考えてみても,いろいろな選択肢があって,任意開示の話も出ましたけれども,それだけではなくて,ある程度進めた段階であれば,これはどうしても証拠開示の問題は避けられないということで,期日間整理手続に付するという手もあるわけです。期日間整理手続に付せば,それは証拠開示の制度に乗っかってくるわけで,いろいろな選択肢の中でどれが一番この事件を迅速に,あるいは充実した審理をやる上で適切か,こういう判断をしているわけですので,一審のそういう判断はある程度尊重していくことで大きな弊害はないだろう,私としてはそう考えております。 ○後藤委員 公判前整理手続に付す請求権を当事者に与える以上,決定に対して即時抗告を許さなければ意味がないのではないかという議論が出ています。即時抗告の権利を認めるべきかどうかは,それ自体重要な論点です。けれども,それを認めなければ,そもそも請求権を認める意味がないとまでは言えないように思います。公判前整理手続に付されるかどうかは当事者にとって非常に重要な利害に関わることなので,それについて,せめて裁判所ははっきりと判断を示してくださいということは言えてもよいのではないでしょうか。現在の訴訟法でも,請求権がある場合に,請求に対する裁判所の決定に対して必ず即時抗告ができることになっているわけではないです。それができない場合も少なくないので,必ずしもセットだと決め付けなくてよいと思います。 ○周防委員 公判前整理手続の請求権ということは,多分,証拠開示について弁護側が強く望むときに請求されることが多くなると思うのですが,基本的に公判前整理手続があろうがなかろうが,証拠は開示されるべきだと,それは公平で公正な裁判を実現するためには絶対に必要なことだと思うわけです。だから,ここで公判前整理手続にかからないと証拠開示してくれないのではないかという,そういうところがあるからこの問題になっているのではないかと思うのです。でも,僕は公判前整理手続があろうがなかろうが,証拠というのはきちんと開示されるべきだと思います。   さらに,証拠というものは,公平で公正な裁判を実現するための公共の財産であると,そこを出発点にしてほしいのです。この部会の議論全体を通じて,証拠開示だけではなくて,いつも議論が対立するときに,何となく思うのですが,その対立の根本には,極悪非道な人非人は絶対逃すまいということを基本に考えて意見を言う側と,無実の人が捕まってしまったときに,その無実の人を処罰しないためにはどうしたら良いのだということを考えて意見を言う側があり,そこで対立が起きる。先ほどの勾留に関しても,少しでも罪証隠滅の可能性が考えられるのであれば,それは捕まえておいた方が良いというのは,明らかに極悪非道の人非人は逃すまいという立場だと思うのですね。そうではなくて,そこに無実の人が誤って逮捕されている可能性があると考えると,やはりそういった勾留はとても危険なものだとなる。証拠開示についても同じようなことが言えて,では,どっちの立場をとるのかというと,僕は,飽くまでも,10人の真犯人を逃しても1人の無辜を罰するなかれで,まず,無実の人が捕まってしまったときに,その間違いがどういうふうに明らかにされるのか,そこを大事にする制度を考えたい。今は,僕は,無実の人が誤って捕まってしまった場合に,その無実が明らかになるのはとても困難な制度の下で裁判が行われていると思っていますので,まず最初に考えなければいけないのは,無実の人が捕まってしまったときに,誤って有罪とさせないためにどうしたら良いかということです。したがって,この証拠開示についても,やはり基本的には全面的証拠開示,証拠というものは正義を実現するための公共の財産である,そこを出発点にしてほしいなと思います。 ○小坂井幹事 話を若干戻しまして,小野委員のお話に屋上屋を架すことになるかもしれませんが,御容赦ください。   リスト開示は何のために我々が求めるかというと,確かに識別のためなのです。要するに,想像力が現在乏しくて想像できないものが,確かにリスト開示されれば,リストで識別できるわけですね。ここで何が起こるかと言いますと,今,識別以外の実体的要件が,実は,証拠開示上の要件があるにもかかわらず,弁護人が請求を漏らしているのではないかという不安は弁護活動をしていると絶えずあるのです。証拠の全体像も見えないですし,正に識別ができないばかりに漏れているのではないかという思いが絶えずあるのです。そういう観点から見ますと,実はこの2段階開示論,今の2段階論とリスト開示は全然矛盾しないと思います。ですから,当然,リスト開示の時期は,類型証拠開示請求の前にすべきです。何をまずするかといえば,類型証拠開示請求の316条の15は,これは検察官の立証に関しての,こちらの受動的な弁護といいますか,正に検察官の請求している証拠の証明力に関して見ていくわけですよね。そのときに,やはり,では,証明予定事実で言われていることがどれだけの質量のことで言われているのか,どれだけの構造で言われているのか,それは実体要件がある限りはチェックできて当然だと思うのですよね。それがたまたま識別できていないばかりに,開示請求できていない要素があるのではないか。次に,それをやった上で,ようやくこちらが積極的な防御活動,弁護活動にも移ることができるというので主張関連ということになるのであって,リスト開示によって,2段階構造は全く私は揺るがないだろうと見ています。   それと,類型証拠開示のどういうものをさらに付け加えるかについて幾つかのことが対象拡大として出ているわけですけれども,これも見ていただいたら分かるように,6号要件に関してこういうものが要るだろう,原供述でなくてもこれは要るだろうというのは,これは正に受動的な防御活動をするために,こういう証拠を開示してもらえれば,それはもちろん検察官主張についてのチェックができる,受動的な防御を全うできるという意味で必要だということになります。その他,共犯者に関する8号要件のものですよね,そういったものを含めても,あるいは押収過程についての調書も,これは正に検察官主張に対する立証に対するチェックのために必要だという意味で,この拡大も不可欠なのではないかなと思っております。 ○髙橋幹事 公判前整理手続の請求権の関係で,先ほど後藤委員の方から,請求権を認めれば,それが裁判所がきちんと判断を示すきっかけになるというような趣旨のお話がありましたけれども,現在でも公判前整理手続を付すか付さないかを裁判所が検討するきっかけとしては,当事者のどちらか,あるいは双方から申出があって,その上で裁判所が双方の意見を聞いて決めていくわけなので,そこは当事者の意見を聞いた上で,そこはこういう理由で必要ないでしょう,あるいは必要ありますねと,理由を示して,判断をしていると思いますので,そこは大きな違いはないのかなと思います。   それから,弁護人サイドが,証拠開示目的で公判前整理手続を求めてくる事例が多いというのは事実でして,これは分科会の議論の中で,法務省の方で整理された参考資料の83ページの「2」で「被告人又は弁護人が申し出たものの整理手続に付されなかった事案について」ということで,これが23件あるうち,任意開示が実際に行われたものが20件あるというデータもあります。裁判所としましても,証拠開示目的で弁護人から申出のあった場合には,検察官の方に任意開示で対応できないかどうかと打診しまして,多くの場合は,検察官が任意開示をして,それでその弁護人としては納得して,公判前整理手続まで付す必要はないと考えられる場合も多かろうと思います。そのほか,申出がありましても,事前の打合せで対処したり,あるいは第1回公判期日を開いた後,期日間整理手続を付すという形で対処するなど,裁判所は,いろいろな選択肢がある中で,どれが充実した公判を実現するために適切なのかと考えて判断しております。   さらに,不服申立権を設けること自体,そもそも疑義がありますし,今申し述べたように,いろいろな選択肢の中から柔軟に相当な方法を選択して裁判所が手続を進めようとしている中で,具体的に現在どんな不都合があるのか,どういう不都合があってニーズがあるのかというところがなかなか裁判所としては見えないというところでございます。 ○小野委員 今の点ですけれども,個別の例を申し上げてもあれなのかもしれませんが,結局,公判前整理手続に付すように職権発動を求めても付さない状態が続いて,ぐずぐずやっているうちに,最終的に,第1回公判を開いて期日間を結局やってというようなことで,だらだらと続いていくというケースが結構あるわけですね。そういうことになると,要するに,裁判所はもちろん証拠そのものは見ていないわけですから,そういう意味で,弁護人が,この事件について,こういう証拠開示が必要である。あるいは,こういう争点整理が必要だというようなことで求めるということになっているわけですから,その辺はかえってそのことによって,つまり公判前整理手続に付さないことによって長期化してしまうという実例が現にあるということを考えると,そこのところはすぱっともう決めてもらうということでやっていただくしかないのではないかなと思っています。 ○今崎委員 ただいまの小野委員のお話を聞いていて思ったのですけれども,実際に裁判をやっていて,公判前整理手続に付さない状態で,検察官と弁護人の間で証拠開示について対立が生じ,どちらも手続を進めてくれないとなると,裁判所は非常に困るのです。ですから,普通は,裁判所の方から検察官の方に,任意開示を何とかしてくださいと依頼をして話を進めているというのが実情です。ですから,実際のところ,そういうふうに対立してしまってどうしようもないとなったら,むしろ裁判所としては,公判前整理手続にさっさと付して進めたいと思うのが通常だと思うので,付さない事件が結構たくさんあるという言い方をされたけど,本当にそうなのかというのは,実は疑問を持っています。   もう一つ,公判前整理手続に付するに当たって裁判所が迷うとすると,今,証拠開示の問題だけ上がっていますけれども,例えば,弁護人に対しては,予定主張を明らかにするという義務がかかりますし,あるいは双方に対して,その後の証拠制限がかかってくるわけです。そういったものをかけてよいかどうかということは,裁判所は迷います。今,専ら弁護人の方から求めた場合をお考えのようですけれども,逆に,検察官の方から求めて,裁判所がそれを却下した場合に対する不服申立てというのを考えた場合には,今度は逆に弁護人に対しても不利益に働く可能性があります。その点はどういうふうにお考えになっているのでしょうか。 ○小野委員 まず,公判前整理手続が不利益になると私たちは考えていないわけです。もちろん証拠開示がきちっとしかるべくなされて,予定主張も出されて,そして,関連も出しということで,そういうことを踏まえて公判前整理手続に付してくれということを弁護人は一般的には求めているわけで,良いとこどりを考えているわけでは全然ないわけですよ。他方で,もちろん証拠制限があることも承知していますし,それだから,きちっとしたことができていけば,それで別に不利益になると考えているわけではありませんで,あるいは検察官の証拠と証拠構造,主張が,やはりこれできちっと確定されるということでもそれなりの訴訟準備,防御準備に役に立つわけですから,特にそれで困るということは余りないのではないかなと思います。つまり公判前整理手続に付されてしまったら困るということは一般的には余り考えられないのではないかと思っています。 ○角田委員 余り細かい議論に入るのは良くないとは思いますけれども,一つだけ紹介しておきたいと思います。公判前整理手続に付したために,事後的に見て,その事件処理を失敗しているなという事例はやはりあります。今,控訴審の租税集中部で仕事をしていますけれども,一審で最初から公判前整理手続に付したために,公判前整理手続だけで1年10か月あるいは1年半くらいかかって,非常に長期化している事件というのがあります。むしろその類いの事件でうまくいく事例というのは,とにかく早く始めて,総勘定元帳だとか確定申告書だとかについては,同意書証として採用できる場合が多いでしょうから,裁判所もそれを見た上で争点整理をし,その上でつまり期日間整理手続に付すなり,あるいは進行協議の中で詰めていく。それで非常にうまくいっている事例もあります。要するに,言いたいのは,実務ではいろいろな事例がありますので,個別にこういう事例があるから制度論としてこうすべきだという議論はなかなか難しいという,その点だけ申し上げたいと思います。 ○本田部会長 まだ御意見もあろうかと思いますが,時間の都合もございますので,「証拠開示制度」についての議論は,ひとまずここまでとさせていただきたいと思います。   次に,「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」と,「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」につきまして,併せて議論を行いたいと思います。   まずは,配布資料の内容について事務当局から御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 二つ続けて御説明をします。   まず,「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」につきましては,資料の25ページからでございます。   この点について具体的検討を行うとされている各事項につきまして,第2作業分科会におけるこれまでの検討を踏まえて,「考えられる制度の概要」と「検討課題」を記載してございます。   まず,「第1 ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」につきましては,「考えられる制度の概要」として,基本構想でも言及されている,「①」から「③」までの三つの類型の証人を対象としまして,同一構内以外の場所に証人が在席をして,ビデオリンクを行うことができるとされております。   「①」の類型といいますのは,性犯罪の被害者など,同一構内への出頭により精神の平穏を著しく害されるおそれがある証人,「②」の類型は,出頭に際しての証人の安全確保のために,同一構内への出頭により加害行為等がなされるおそれがある証人,「③」の類型というのは,証人尋問のための手段を増やすことにより,公判審理の一層の充実を確保するために,同一構内への出頭が困難である事情がある証人が,それぞれ対象とされております。   「検討課題」といたしましては,各類型の対象者の範囲や要件,証人が在席する場所の範囲,当事者の意見の考慮の在り方,現行の同一構内でのビデオリンクの対象罪名や要件の見直しの要否などを引き続き検討する必要があるとされております。   続いて,資料27ページの「第2 被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」につきましては,手続としての信用性の保障を確保する観点から,「考えられる制度の概要」として,対象者の同意を得て,第1回公判期日前の証人尋問を録音・録画し,その記録媒体を公判期日での主尋問に対する供述に代えて用いることができるとされております。   「検討課題」といたしましては,対象者の範囲や要件,防御や反対尋問への影響,負担軽減の程度につきまして,引き続き検討する必要があるとされております。   続いて,資料28ページの「第3」のうちの,まず「1 証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」につきましては,「考えられる制度の概要」といたしまして,検察官が証人の氏名及び住居を知る機会を相手方に与えるに当たって,証人に対する加害行為等のおそれが認められるときは,被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがある場合を除いて,代替措置を採ることができるとされております。   「検討課題」といたしましては,代替措置の要件,代替措置の範囲,防御への配慮,代替措置の可否に関する争いがある場合の裁判所による裁定制度の要否や内容について引き続き検討する必要があるとされておりますほか,代替措置を採った場合の裁判所における証人の氏名・住居の取扱い,あるいは別の仕組みとして,証人の住居・氏名を弁護人には開示をした上で,被告人には知らせてはならない旨の条件を付する制度の当否についても検討課題とされております。   続いて,29ページの「第3」の「2 公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」につきましては,「考えられる制度の概要」として,裁判所の秘匿の決定がなされた場合,起訴状の朗読,証拠書類の朗読,訴訟関係人のする尋問又は陳述において,対象者の氏名等の秘匿を行うものとするという案が示されております。   なお,対象者を証人として尋問するか否かが確定していない公判手続の冒頭段階から秘匿を可能とする必要があると考えられますので,証拠書類等に氏名が記載されているものというのも対象者とされております。   「検討課題」といたしましては,「制度化の趣旨」や「秘匿を認める対象者及び要件」につきまして,資料に記載した点を更に検討する必要があるとされております。   このテーマの最後ですが,資料30ページの「第4 証人の安全の保護」につきましては,「考えられる制度の概要」として,基本構想に示された内容が改めて示されております。   「検討課題」として,これまでの分科会の検討では,一時的な保護に限らず,ある程度永続的な保護措置をも視野に入れた制度を整備する必要があるという意見が示されておりますが,今後の検討の在り方について,様々な他制度との調整や予算・人員等の検討も要することから,当部会や分科会とは別の機会に全体的検討を行う必要があるという御意見と,引き続き当部会及び法制審議会で審議すべきであるという御意見も示されているところでございます。   これらの検討事項に関しては,参考資料は90ページ以下にございます。   続いて,「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」に関しまして御説明いたします。資料62の31ページ以下でございます。   この検討事項につきましては,第2作業分科会において,基本構想に沿って,「証人の出頭及び証言を確保するための方策」,「証拠隠滅罪等の法定刑の引上げ」,「被告人の虚偽供述に対する制裁」の三つの検討事項について,具体的な検討が行われました。   資料には,それぞれを「第1」から「第3」までとして,現時点で考えられる制度の概要と検討課題が掲げられております。   「第1 証人の出頭及び証言を確保するための方策」につきましては,まず,「1 証人の不出頭,宣誓・証言拒絶の各罪の法定刑の引上げ」について,「考えられる制度の概要」として,法定刑の上限案とし,懲役刑については1年あるいは2年,罰金刑については20万円,30万円あるいは50万円とされておりますが,「検討課題」に挙げられておりますように,法定刑を引き上げる理由をどのように考えるか,行政機関等への不出頭等の罪の法定刑と比較して,同程度の法定刑とするか,より重い法定刑とするかといった観点から,具体的な法定刑の在り方について更に検討を行う必要があるとされております。   「2 証人の勾引要件の緩和」につきましては,「考えられる制度の概要」として,証人が召喚に応じないおそれがあるときに,勾引することができるとする「A案」と,召喚に応じないおそれが明らかであるときに勾引することができるとする「B案」が挙げられておりまして,そのほかにも,証人を召喚する根拠規定を明文で設けて,これに伴って不要になると思われる再召喚についての規定を削除するとされております。   「A案」の「おそれがあるとき」の要件と,「B案」の「おそれが明らかであるとき」という要件のいずれが適切かについて,資料に掲げられている観点から更に検討を行う必要があるとされております。   次に,「第2」の方に移りますが,資料32ページの「第2 証拠隠滅罪等の法定刑の引上げ」については,まず,「1 証拠隠滅等,犯人蔵匿等の各罪の法定刑の引上げ」につきまして,それぞれ懲役の上限を3年あるいは5年,罰金刑の上限を30万円あるいは50万円とする案が示され,具体的な法定刑について,「検討課題」に掲げられている法定刑引上げの理由や他罪との均衡を考慮しつつ検討し,あわせて,組織的犯罪処罰法の加重処罰規定の法定刑の引上げの要否についても検討する必要があるとされております。   「2 証人等威迫罪の法定刑の引上げ」につきましても,同様に,資料の制度の概要には,幾つかの法定刑の案が示されており,同じく法定刑引上げの理由や,他の罪の法定刑との均衡を考慮しつつ具体的な法定刑を更に検討し,あわせて,組織的犯罪処罰法の加重処罰規定の法定刑の引上げの要否についても検討する必要があるとされております。   次に,資料33ページの「第3 被告人の虚偽供述に対する制裁」につきましては,現行の被告人質問における虚偽供述についての罰則を新設するのではなくて,確立した証人尋問手続により供述の真実性を担保するべく,被告人に証人適格を認める案として,この資料の「考えられる制度の概要」にありますとおり,被告人又は弁護人から請求があるときは,被告人を証人として尋問するものとされ,被告人が証人として行った偽証にも,刑法の偽証罪が適用されるものとされ,被告人が証人となる場合には,包括的黙秘権は行使できず,一般の証人と同様の証言拒絶権だけが認めるものとされ,また,現行の被告人質問は廃止するものとされております。   「検討課題」といたしましては,資料に記載したとおりでございまして,制度案の内容に関するものとしては,冒頭手続における陳述や最終陳述の取扱いをどうするか,制度の採否にも関連する検討課題として,被告人の防御との関係,現行の量刑実務との関係,黙秘が増加する可能性も含めて,刑事裁判の在り方への影響,被告人による偽造・変造証拠等の公判での使用行為を処罰対象とすることの当否などについて引き続き検討する必要があるとされております。   これらの検討事項に関する参考資料は,99ページ以下にございます。 ○本田部会長 それでは,「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」並びに「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」につきまして皆様の御意見,御質問等をお願いしたいと思います。 ○大久保委員 まず,被害者の視点も考慮して,ある程度の方向性が見えてきたということですが,一層の御理解を頂きながら,今後検討を進めていただきたいと思いますので,「第1」から「第3」に関しまして意見を述べさせていただきます。   まず,「第1 ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」ですが,被害者や証人が裁判所に来なければならないのであれば,やはり危害を加えられるおそれもありますので,今現在行ってくださっております運用上の配慮だけでは不十分だと思いますので,こちらに記載されております「考えられる制度の概要」の中にあります,同一構内以外の場所でのビデオリンクも必要だと思います。また,対象者につきましては,性犯罪等の被害者に限らずに,性犯罪と同じように女性や子供が心身に大きなダメージを負うようなDVですとかストーカー,児童虐待,殺人などのその他の犯罪の被害者も対象として制度の利用が認められる,そしてその制度の利用が認められる要件も,加害行為のおそれがある場合に限らず,やはり被害を受けた方の状況によって認められるべきものだと思います。   それと,「第2 被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」ですけれども,被害者が,捜査・公判等で,その都度,被害状況について繰り返し供述をしなければならないということは大変大きな負担になりますので,録音・録画媒体の公判での活用も積極的に検討していただきたいと思います。この制度によって,公開の法廷において,改めて一から被害者の状況を説明する必要がなくなり,心理的な負担が軽減されると考えられます。これは,ただ単に取調べですとか尋問の回数の問題だけではなくて,被害者等が公開の法廷で証言をしなくても済むというようなメニューといいますか,選択肢があるということ自体が被害者への心身の負担の軽減につながるからです。そして,その制度の対象者につきましても,ビデオリンク方式の対象者と同じように広く認められるべきだと思います。   「第3 証人に関する情報の保護」ですけれども,証人の氏名とか住居の開示に係る代替措置ですが,国民の中には,捜査ですとか公判に協力をする気持ちはあっても,供述調書等の証拠書類の中に書かれた自分の名前とか住所が犯人に知られて報復されたり嫌がらせを受けたりするのではないかというような不安を抱く人もたくさんおりまして,現に,北九州等では証言拒否をした例もあるということを報道等で知っております。国民が安心をして公判審理等に協力できるように,証人の氏名等が開示されないような制度を導入していただきたいと思います。それと,犯人と証人の関係等によっては,名前を知られただけで証人の住所ですとか勤務先等が分かってしまう場合もありまして,そのため,氏名及び住居に代わる呼称ですとか連絡先,それを開示することとしている,資料で言いますと,資料の「A案」としていただきたいと思います。   次に,「公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」ですけれども,ストーカーですとかDV被害の犯人といいますのは,刑務所から出所した後,また被害者に危害を加えるというような実例もあることから,公判の際に,証人として出廷した人々の中には,逆恨みされたり,被害者と同じように危害を加えられたり,嫌がらせを受けたりするのではないかというような不安を抱いている人もおります。そのため,公開の法廷においても証人の氏名等も秘匿される制度を導入していただきたいと思います。このような仕組みがしっかりとなされていなければ,不安を感じて,被害者や参考人が刑事司法への協力をちゅうちょするということにもなるかと思います。そうなりますと,日本の社会の安全・安心にも影響が出てくると思いますので,是非御検討をお願いしたいと思います。 ○大野委員 大久保委員が今お話をされたことに関連しまして,「第3」の「1 証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」ということについて申し上げたいと思います。   現行法では,例えば,組織犯罪やストーカー事案など加害行為等を防止する必要が高い事案であっても,証人の氏名及び住居を知る機会を弁護人に与えなければならず,弁護人の対応いかんによっては,証人の氏名や住居が被告人その他の関係者に知られ,加害行為等がなされるおそれがある場合があり得ますし,少なくともこのような仕組みとなっていること自体が,被害者を含む証人に不安を与えて,その協力や被害の申告をちゅうちょさせる要因となっていると感じているところです。   そこで,配布資料の制度概要に記載されておりますように,証人又はその親族に対する加害行為又は畏怖困惑行為がなされるおそれがある場合には,証人の住居の開示に代わる措置として,勤務先や代理人である弁護士の事務所など,必要な場合に証人と連絡が取れる連絡先を知る機会を与えることもできる仕組みとすることが考えられるのではないかと思います。また,証人の氏名についても,例えば,結婚前の旧姓であるとか,あるいは通称名によることができるとすることが考えられるのではないかと考えます。   このような代替措置を採ることもできるとすることについては,分科会の中での議論でも,弁護側の防御が困難になるとの御意見があったと承知しておりますけれども,およそ全ての事案についてこのような代替措置を採るということではなくて,また不服申立ての手段も検討されるということでもございますから,真に必要な事案で,このような代替措置を採ることができるようにしておくことは,一概に防御を困難にすることとなるものではないのではないかと考えております。 ○髙綱委員 私ども警察は,突然身に降りかかった犯罪被害により,好まずして刑事司法の場に関わらざるを得なくなった被害者の方々と捜査の過程で直接接しております。こうした方々が負っているダメージ,トラウマなどといった心の傷の大きさを目の当たりにしながらも,捜査に協力していただくことによる負担を少しでも軽減するための犯罪被害者対策,犯罪被害者支援を警察の責務の一つとしているところでございます。   こうした立場から申し上げさせていただきますと,被害者等の方々に公判審理に協力していただく中で,その負担を軽減するために,制度上許される選択肢,これを拡大するための検討というものは最大限前向きに進めていくべきであると考えます。是非,引き続き分科会においてビデオリンク方式による証人尋問の拡充や供述の録音・録画媒体の活用について,これを最大限積極的に検討を進めていくべきであると考えます。 ○神幹事 大久保委員には誠に恐縮なのですが,弁護人をする立場から述べさせていただきます。   まず,「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」ですが,弁護人が反対尋問を行うという意味は,単に質問の機会を与えられる権利というだけではなく,証人と物理的に直接対面する権利が含まれていると解すべきだと思います。したがって,ビデオリンク方式による尋問は,証人と対面して反対尋問を行う権利に対する制約であり,これは反対尋問権の一部放棄,対面権の放棄という側面を有しています。また,証人尋問を同一構内でない裁判所等で行うこととなると,証拠の原本や生の証拠物を示すことができず,同一構内でビデオリンク方式を行っていて,ビデオリンク方式による尋問を行う理由がなくなったとしても,証人を受訴裁判所の法廷に呼んで尋問するという取扱いもできません。現状のビデオリンク方式による尋問の場合によるよりも,反対尋問権,対面権の制約が大きくなるので,その導入は慎重でなければならないと思っております。その意味で,分科会では,証拠調べ方式について弁護人の同意だとか,あるいは弁護人が異議を述べたらできないというのはおかしいという御意見がありましたけど,言わば例外中の例外という形で,このような場合があっても良いのではないかと考える次第です。   また,仮にこのような制度を認めるとしても,配布資料の枠囲いにあります一番目の問題について言えば,それは自己若しくは親族の身体若しくは財産に害を被るおそれがあると認められる場合に限定されるべきではないかと考えます。   枠囲いの①については,その対象者は性犯罪の被害者に限られるべきであると考えます。また,②の類型を認めるとしても,それは自己若しくは親族の身体若しくは財産に害を被るおそれがある場合に認められると限定されるべきだと考えます。更に③の類型については,単に遠隔地にある証人であるというだけで,これを認めるべきでないと考えます。   次に,「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」ですが,本来の証人尋問というのは,受訴裁判所において裁判官,検察官,弁護人及び被告人がいる公開の法廷で,まず主尋問を行い,その直後に反対尋問を行うのが原則であります。第1回公判期日前の録音・録画媒体を主尋問に代替するとしても,随分前に行った主尋問に対して反対尋問することにより,弁護人としては非常にやりにくく,被告人の反対尋問権の大きな制約になるので,その制度の創設には反対,消極であるとしか言いようがありません。   仮に,録音・録画媒体を主尋問に代えても,これは裁判所に二度来ていただくという意味では,証人にとっては負担軽減にならないのではないかとも考えます。むしろ,この場合の証人の負担というのは,警察での取調べに続いて検察庁でも同様の取調べが行われ,その供述内容が,被疑者・被告人と供述が合わないといったような場合に,更に警察や検察庁で細かくいろいろ聞かれるというところに大きな問題があると考えます。こうした取調べ方法に関しての抜本的な改革なくして被害者の負担軽減は十分に解消できないと思われます。   「証人に関する情報の保護」についてですが,まず,「証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」については,「A案」については反対であります。「B案」についても不十分であると考えます。さらに,「その他」の部分に書いてありますように,弁護人には氏名・住居は開示した上で,被告人には知らせない旨の条件を付する制度を考えられてよいということを私は分科会で提案しました。しかし,このような制度であっても,事案によっては証人の属性や,証人の証言内容をきちんと確認するためには,被告人にも名前をきちっと言って確認をせざるを得ない場合もあるので,弁護人だけでなく被告人にも住居・氏名を明確にすることが必要であるという意見もあることを付言しておきます。   それから,「公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」でありますが,これが認められる要件については,証人若しくはその親族若しくは財産に害を加えるおそれがある場合に限定すべきだと考えます。畏怖・困惑のおそれがある場合にまで秘匿を認める必要はないと思います。同じく証人の名誉,社会生活上の平穏が害されるおそれがある場合についても,秘匿を認めるべきではないと考えます。また,鑑定人,通訳人又は翻訳人については,氏名等の秘匿対象とすべきではないと思います。   なお,この問題は,現在でも弁護側の同意を得て,法廷で名前を明らかにしない運用がなされており,現状の運用でも対応が可能であり,制度化することでかえって秘匿の範囲が増加するということを恐れております。特に,この運用の中にあって,現にきちっとそれがなされることが重要だと思います。今朝の新聞を見ましたら,横浜地検の川崎支部ですか,いわゆる捜査記録の中に,裁判所の決定により明らかにしないことにしていたんだけれども,黒塗りが忘れられていたために,それが結局,弁護人を通じて被告人に分かったということがあったように思います。ということは,現に,そういったことがなくなることからまず第一歩始めなければならないと思います。 ○後藤委員 二つ疑問がございます。一つはやや細かいことで,29ページに出てくる,法廷での証人の氏名等の秘匿についての疑問です。これは,証人あるいは証拠書類などにその氏名が記載されている人が対象になって,その人から申出があるときという要件になっています。そうすると,まず申出をする機会をどうやって保障するのか,その機会を保障しなくてよいのかという問題がありそうです。そこは検討されているかどうかという疑問です。もう一つは,この案をよく読むと,証拠書類に氏名が出てくる人が対象ですから,供述調書の供述者には限らないわけで,供述調書の中に名前が挙げられている人も申出ができる人の中に入ってきますね。そうすると,例えば,法廷で証言の中に名前が出てくる人も実質は同じ立場になるのではないでしょうか。そうすると,前者だけに申出の資格を認めることで,バランスがとれるのかどうか,逆に後者も入れたときに,申出の機会を保障することが現実にできるのかというような問題がありそうに思います。この文章を拝見する限りでは,その辺の議論がされたのかどうか分かりません。   もう一つは,被告人の偽証についての33ページの部分です。この案で示されているのは,基本的にはアメリカとかイギリスでやっているような,被告人が話したければ証人になる。証人にならなければ,何も話せないという仕組みだと思います。しかし,アメリカやイギリスでは,基本的に,被告人が罪を認めていれば,公判審理をしないという前提があります。日本はそこが違って,被告人が罪を認めていても,法廷で証拠調べの審理をします。しかも,そのときに,被告人が何か言いたければ,証人にならなければいけないという制度は,私が知る限り,国際的に見てもかなり珍しいものになりそうです。もちろん,珍しくてもその仕組みに合理性があれば採用してよいわけです。けれども,本当にそれに合理性があるのか,また,そこまでする必要があるのか。つまり,罪を認めている被告人も,宣誓しなければ法廷で何も言えないことにする必要があるのかという疑問を私は感じるので,そういう議論が検討されたのかどうか,教えていただきたいと思います。 ○上冨幹事 まず,公開の法廷における証人の氏名等の秘匿の関係ですが,「申出があり」という部分については,まずもって,その証人等の人が秘匿してほしいという意向を持っているということが前提だという趣旨でございます。それでは,その申出の手続を具体的にどのようにするかといったことについてまでは,今のところ,まだ分科会の議論は及んでおりません。   それから,証言の中に出てくる方についても同じ位置付けになるのではないかという御指摘については,そのとおりかもしれません。その点については,引き続き,対象者の範囲をどのようにするかという検討事項の中で議論されるべきことではないかと考えます。 ○井上委員 2番目の点なのですけれども,自白事件で被告人に証人適格というか宣誓させて供述させるまでの必要があるのかということなのですが,そうすることによって何か不都合が生じるのでしょうか。また,それを理由として,争われている事件の方も被告人に証人適格を認めずに今のままのやり方で良いという論理になるのかどうかですね。さらに,被告人は何も言えなくなるわけではなく,冒頭での罪状認否は当然あるわけですし,最後の最終陳述も残るわけですね。刑訴法311条が廃止されるだけなので,主張としての陳述はできる。それを証拠として採れるのか,弁論の全趣旨というのを刑事事件でも証拠とすることができるという見解もありますけれども,そこまでいかなくても,被告人の言い分は主張として十分聴いた上で,それをも踏まえて証拠評価をし,事実を認定することになる。それでは不十分なのかどうかという問題ではないかと思います。 ○角田委員 ちょっと質問ですけれども,今の井上委員のお話ですと,罪状認否については,説明の仕方は別として,証拠になり得るという,そういう前提でこれを考えておられるのでしょうか。 ○井上委員 そこのところは両方の考え方があり得ると思うのですが,それらの点を含め,第2分科会ではどういう議論がなされているのかお尋ねしたいということです。 ○酒巻委員 現在は,最高裁判所の判例で,証拠になるという判例があったと思うのですけれども,私は,分科会の議論では,供述証拠を提供する場合には証人になってもらいたい,それ以外の罪状認否ですとか最終陳述は主張ですから,その主張と証拠は区別するのが一番すっきりするであろうという意見を述べました。その分科会の場では,それに対して特に異論は私はなかったと思いますが,証拠として供述を提供する場合は証人,そして冒頭の認否とか意見の陳述の場合は主張,それはちょうど被害者の意見陳述とかの場合と同じですね。 ○角田委員 よく分かりました。これは作業分科会へのお願いということになると思いますけれども,この制度は,要するに,被告人質問を廃止するというところが非常にみそで,そうなれば法廷の風景は激変する,別のものになると思うのです。それでも別に悪いことはない場合もあるのだとは思いますが,自白事件にどういう影響があるかということと,あと否認事件にどういう影響があるかということのシミュレーションを行っていただいて,そこを踏まえて具体的な検討をすべきことになるかなと思います。というのは,問題点としてかなりいろいろなことがあると思いますので。   裁判官としては,今は良い,悪いは別として,法廷で事件のことを一番分かっているのは被告人ですので,被告人はうそも言うかもしれませんけれども,10しゃべって,10うそをつくことはないわけですから,8から9ぐらい本当のことを言って,それ以外がどうかなと,こういう話ですので,いろいろなことを聞いて人物鑑定をやったり,心証をとったりというやり方を,あるいは量刑資料を集めたりということをやっていると思います。それができなくなる,そこのところを,証人という形で自白事件の場合に,弁護人の方で証人申請してくれれば良いのでしょうけれども,なかなか偽証の制裁があるということになると,ちょっと躊躇するかなという予想もあり得ないわけではないと思いますから,そこらあたりを含めて検討していただければ,それを踏まえて具体的な議論ができるということではないかと思います。 ○但木委員 私は前から申し上げているとおり,公判中心主義というのはやはり踏み出さないと絶対に全体の改革にはならないなと思っております。そういう意味で,被告人が公判廷において虚偽を幾ら言ってもよいですよという制度は,確かにプロの裁判官だけの時代には,そういう制度もあり得るかな,つまり裁判官から見れば,8割ぐらいは本当で,2割ぐらいはうそであろうと思って審理するということもあり得ますが,ただ,裁判員裁判,国民が裁判員として自分の仕事を放って裁判所に来て審理しているときに,本当に被告人は言いたい放題うそをついても何も制裁がありませんよという制度が良いのかなというのは,私は非常に疑問に思います。だから,どういう形が良いのか分かりませんけれども,よく要件を考えて,いろいろな意味で無理のないことを考えていただきたいとお願いします。ただし,やはり裁判員裁判が登場することによって,日本の刑事手続というのが,やはり非常に大きく変わったんだということは,是非忘れないでおいていただきたいと思います。被害者の問題も,ある意味で公判中心主義と被害者の保護とのバランスの問題だろうと思います。僕はどっちか一方だけというのは,なかなかどうかなと,確かに反対尋問権が制約される部分というのは出てくると思うのですが,だからといって全部駄目だというのもどうかなという気もしまして,やはりそれは被害者というのは既に犯罪によって人権が侵害されたわけで,それが更に二重,三重に侵害されていくのを,どの程度のところで保護してあげなければいけないかという,そのバランスを間違えないように設計していただければ有り難いと思います。 ○今崎委員 今の但木委員の御発言,誠にごもっともだとは思うのですが,ただ,裁判員裁判で自白事件を審理した身で見ますと,場合によって,被告人が一切しゃべらないということがあり得るという審理は非常に違和感を覚えます。やはり裁判員の方々も被告人の発言を聞きたいだろうと思いますし,また,実際に審理・評議等に参加した身からしますと,裁判員は,被告人の供述内容を非常によく見ておいでと思います。   それからもう1点だけ,今のと外れるのですけれども,ビデオリンクの関係で,配布資料の25ページの枠囲いにございますけれども,このうちの③の遠隔地居住で年齢,職業,健康状態といったことについては,従前のビデオリンクの枠から外れますので,やはり本来的には相当厳しく見るべきものではないかと思っておりますことと,裁判所構外となっておりますけれども,ここで議論されているのは飽くまでも別の裁判所であって,それ以外の施設は含まないというのが裁判所としては相当だと思っておりますので,その点も付け加えさせていただきます。 ○龍岡委員 また話を元に戻すようですけど,先ほど神幹事の発言の中にあった点で,「公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」の関係ですが,このようなことについて規定を設けること自体については賛成です。ただ,神幹事の指摘にもあったのですけれども,刑事裁判の実際におきましては,これまでも裁判長の訴訟指揮に基づいて状況や場面に応じて証人等の名前を法廷で伏せるなどの運用というのが行われてまいりました。ここで新たに明文の規定を作り,要件を設定することで,その要件に該当しない場合については,逆に柔軟な運用ができなくなるおそれがあるような気がします。したがいまして,先ほどの神幹事の御発言では,ここの枠囲いの中の①,②の中で少し限定的に採用すべきだと言われましたけれども,私は逆に,対象とするべき証人の範囲については,なるべく幅広くして,裁判所の運用に任せる方がよく,ここに挙げております①,②も含めていただくのがよいと思います。 ○小坂井幹事 被告人の証人適格について消極論を手短に述べます。   作業分科会で小野委員がおっしゃっていたのですが,弁護士会内でも意見は正直申し上げて分かれております。私のように,かつては証人適格を認めることに積極論だったのですが,今は消極論に転じている者もおります。   一番の理由は,やはり一方当事者である検察官から,他方当事者への偽証罪発動の問題がどうしてもあって,これは弁護人と被告人との間の緊張関係といいますか,これを高める材料になるし,相手方当事者である検察官からくさびを打ち込む材料に,率直に言えばなるという問題です。それは証人でも一緒ではないかという議論が一方ではあるのですけれども,証人は,これはいろいろある中で申請するかどうか決めるのですけれども,被告人に証人適格を認める,認めないという議論になりますと,これは被告人に二者択一を迫ることとなり,どっちかを弁護人が選択をせねばなりません。これは非常に困難な問題です。ですから,昔から弁護人のジレンマと言われているわけですけれども,正に角田委員がおっしゃったように,8まで本当だけれども,2ぐらい,この人,もしかしたらうそ言うてへんかなというときに,どうすんのやと,こういう問題に絶えず立ち向かわないといけないので,これは非常に微妙な問題があると思います。それは同時に,先ほどから出たように,では,アメリカではそういう形でやっているではないか,ジレンマがあると言いながらやっているではないかという議論があるかもしれませんが,正にあそこは,アレイメントがあり,横が二分され,縦も罪責認定手続と量刑手続が二分されている状況です。井上委員は,それが論理的必然性がどうあるのかという議論を先ほどされてはいましたけれども,やはりこれは相当影響があると思われるのです。もし万が一,これをやるというのであれば,実証的にアメリカでどの程度の被告人が証言台に立ち,また立って無罪を主張して有罪になってしまった場合の偽証罪の発動がどの程度あるのか,ないのかとか,これは根本制度が違いますから,そういう実証に余り意味はないかもしれませんが,それはきっちりと調べるような前提を置いた上で,更に慎重に検討していくべきではないかと思います。 ○本田部会長 まだ何かと御意見もあろうかと思いますが,この議題につきましてはここまでとさせていただきたいと思います。   次に,「自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方」についての議論を行うこととします。   まず,資料の説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 資料の35ページを御覧ください。   「自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方」につきまして,第2作業分科会においては,基本構想を踏まえ,捜査及び公判を通じて,より幅広い自白事件を簡易迅速に処理するための制度案のたたき台を作成するべく,「第1」として,捜査段階での簡易迅速化のための具体的な仕組み,これも踏まえて,「第2」の公判段階の手続の在り方を検討するという手順で検討を行っているところです。   まず,「第1 自白事件の捜査の簡易迅速化を確保するための措置」についてですが,基本構想で御指摘のあった「現行の即決裁判手続においては,判決言渡しに至るまで,同意の撤回などにより通常公判で否認事件として審理されることとなる可能性があるため,捜査機関はこれに備えてあらかじめ様々な弁解をも想定した捜査を遂げた上で起訴せざるを得ず,捜査段階の簡易迅速化が実現していない」という点が指摘されていることを踏まえて,まず,「考えられる制度の概要」の「A案」は,簡易迅速な手続,すなわち,現行の即決裁判手続や,「第2」の新手続に同意をしていた被告人が公判期日で否認に転じて,検察官が公訴を取り消したときに,公訴取消後の再起訴制限の緩和をしようとする案であり,必要に応じて公訴を取り消して追加捜査を行った上で再度起訴することも可能としておくことによって,最初の起訴に至る捜査を簡易迅速化しようとするもの,そして「B案」は,「A案」に加えて,第一回公判期日前の有罪陳述手続というのを設けるとともに,簡易迅速な手続への同意及び有罪陳述は,やむを得ない事由がなければ撤回をすることができないとする案でございまして,有罪陳述がされるか否かにより早期に定まるということになるようにするとともに,同意や有罪陳述がされた後の被告人側の対応の変化による追加的な証拠収集を迫られるリスクを低減させて,起訴に至る捜査というのを簡易迅速化しようとするものです。   「検討課題」といたしましては,資料に挙げられておるとおり,「A案」,あるいは「A案」+「B案」について,それぞれ捜査の簡易迅速化を図る仕組みとしての有効性をどう考えるか,「A案」について,公訴取消後の身柄拘束が必要である場合,現行法下の再逮捕・再勾留と同様の取扱いによるものとするか,「B案」について」,第一回公判期日前の有罪陳述手続の具体的な在り方,同意等の撤回を制限することの当否,同意等の撤回を認める「やむを得ない事由」の内容をそれぞれどう考えるか,「A案」のみを採るか,「B案」も併せて採るか,それ以外の制度が考えられるかどうかといった点について,引き続き検討する必要があるとされております。   次に,37ページですけれども,「第2 一定範囲の実刑相当事案を簡易迅速に処理するための新たな手続の創設」でございます。「新手続」と銘打っておりますけれども,考えられる新手続の制度の概要としては,現行の即決裁判手続と同様に,検察官の申立てにより,被告人及び弁護人の同意等を要件として,裁判所の決定により手続を開始し,簡略な証拠調べを行うものとされ,現行の即決裁判手続との相違点として,検察官が,同意の確認に際し,予定する公訴事実の要旨及び求刑内容を告知する,検察官及び裁判所が,被告人に対し,新手続における科刑制限や上訴制限等について告知をしなければならない,実刑を含めて3年以下の懲役・禁錮の言渡しができる,新手続により審判する旨の決定の日からできる限り5日以内に判決の言渡しをしなければならないとされております。   「検討課題」といたしましては,資料の「1 総論的な課題」の「検討の視点」というところに挙げた点を踏まえて,要するに,この新手続というのが,自白事件の簡易迅速な処理手続として有効・円滑に機能するか,あるいは「2 具体的な制度内容」の対象事件,申立ての要件,手続保障,判決の言渡し時期,上訴制限というのをどのようにするかといった点について,引き続き検討する必要があるとされております。   この検討事項に関する参考資料は,参考資料の109ページ以下にございますので,適宜御参照いただければと思います。 ○本田部会長 それでは,「自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方」につきまして御意見や御質問等がありましたらお願いいたします。 ○大野委員 自白事件の簡易迅速処理手続について意見を申し上げたいと思います。   そもそも自白事件を簡易迅速に処理するための手続については,限りある刑事司法に関わる資源をメリハリを付けて有効に分配するとの観点からも,刑事手続における被疑者・被告人の負担を軽減する効果があるという点からも,その一般的な必要性あるいは有用性については,これまでの議論の中で特段の異論がなかったところであると認識しているところでございます。   今回,作業分科会により,「第1」として,捜査の簡易迅速化を確保するための二つの仕組み,「第2」として,一定範囲の実刑相当事案を簡易迅速に処理するための新手続について,それぞれこれまでの検討状況をお示しいただいたところでございますが,これらの仕組みは,いずれも自白事件の簡易迅速化を目指すという方向性に沿ったものとなっており,基本的には相当であると考えております。   ただ,「第1」の仕組みについては,「A案」に加え「B案」のように同意の撤回を制限したり,第1回公判期日前の有罪陳述手続を設けることの有効性,あるいは「第2」の仕組みについては,現行制度と対比して当事者に利用のメリットがあるようなより良い仕組みがないかなど,それぞれ更に検討すべき課題等も示されているように思われますので,それらの点について,更に作業分科会で個別に検討を進めていただくのが良いと考えています。 ○露木幹事 分科会では,私ども警察の立場から,この「第1」の点については,「A案」か「B案」かと言われれば,捜査の簡易迅速化を図る仕組みの有効性をより進めるためには,「B案」が相当であろうという立場でおります。これについては,反論もございましたけれども,これは引き続きまた分科会で検討させていただきたいと思います。   「第2」の点でございますけれども,実刑相当の事案についても,この手続の対象とするか否かという点でございますが,これは,どのような事案が新しい制度の対象になってくるかということによると思いますけれども,現行制度の下では,覚醒剤,大麻の使用事件ですとか単純所持事件,あるいは万引き事件,こういった事件について適用されているケースが多いと思います。こういった事件について実刑相当のものといいますと,過去,例えば5年以内に同種の前科があり,現行の執行猶予対象にならずに実刑相当になってしまうというものが新たにこの制度の対象になり得るということが想定できるわけですけれども,他方,累犯のようなケースですと,今,捜査の対象になっている事案についても,共犯がいる可能性があるですとか,あるいは余罪が多数見込まれるということも一般的に想定できますので,捜査を簡易迅速に済ましてしまうというわけには恐らくいかないだろうと思いますので,そういう意味では,対象事案をどのように考えるかということによって,この簡易迅速処理の効果の度合いも変わってくるのかなということがございます。そういった点もまた今後分科会で詰めて検討していく必要があるのかなと認識しております。 ○龍岡委員 「第2」の方の新手続の方について申し上げたいと思います。   事案とか場面の状況に応じて弾力的に手続を選択できるように,採り得る手続の選択肢を広げることは望ましく,捜査等に関して合理的な負担の軽減を図って,刑事司法全体が十分機能していくように工夫する必要性があるということはそのとおりだと思います。ただ,この観点からも,可能な事件については,簡易迅速に処理し,複雑な困難な事件については,捜査段階から時間と労力を集中するということであれば,例えば,まずは,現在余り利用されていない現行の即決裁判手続について,なぜ余り使われていないのか,その原因を更に分析し,これを有効に活用できるようにしていくことが現実的ではないかと思われます。先ほどの但木委員の御指摘とは少し違う点があろうかと思いますけれども,現在の制度をいかに活用していくかということをもう少し検討してもよいのではないか,執行猶予事案についても,現行の即決裁判手続でも,必ずしも捜査の簡易迅速化にはつながっていないのが現状のように思われます。必要にして十分な量刑手続が一層要求される実刑事案について,このような新手続を導入したとしても,捜査の簡易迅速化につながるのだろうかと疑問に思われるところがあります。また,公判段階を見ましても,新手続の対象とされているような自白事件で実刑となるような事案については,現在でも起訴後大体1か月で第1回公判が開かれて,1回で結審,そして,その後一,二週間で判決というのが一般的ではないかと思われます。被告人が実刑となることも併せて考えますと,これを今以上に短縮迅速化すべきという必要性がどこまであるのか,この辺についても十分検討しておく必要があるのではないかと思います。 ○後藤委員 「第1」の自白事件の捜査の簡易迅速化の部分についての発言です。同じようなことを既に私は,確か2回申し上げたことがあるので恐縮ですけれども,いまだに納得できないのであえて申します。この「A案」は,被告人が態度を変えて有罪陳述をしない場合に,検察官が公訴の取消しをすることを想定しています。しかし,この場面で何のために公訴の取消しをするのか私はいまだに理解ができません。前にこの趣旨を確かめたところ,事務局の御説明としては,有罪の陳述が見込まれるからといって起訴のための嫌疑の基準を下げて起訴しているという前提ではない,同じ基準で起訴しているのだという御説明があったと思います。そうだとすると,ますますここで有罪陳述が撤回された,あるいはその陳述がされなかったら,つまりは否認に転じたからといって,なぜ公訴を取り消さなければいけないのか,分からないのです。被告人の主張が変わったので,補充捜査をする必要があるというのは,もちろん理解できます。けれども,そのために公訴の取消しをする必要があるでしょうか。今でも公訴の提起後に補充捜査をしてはいけないという考え方ではなくて,実際に補充捜査をしていると思います。この場面で公訴を取り消す理由が唯一あるとすれば,結局,被疑者として取り調べるために,被告人を被疑者の立場に戻すということでしょう。そのために公訴の取消しをするのだろうかと想像ができます。しかし,この場面では,既に起訴のための十分な嫌疑があると判断されていて,かつ被告人は否認に転じているわけです。そういう人を被疑者として取り調べるために,あえて被疑者の立場に戻すことが適切でしょうか。それは正に取調べに過度に依存した裁判のやり方をしようとしているのではないかと,私にはどうしても思えてしまいます。この場面で何のために公訴を取り消すのかについて,分科会では議論があったでしょうか。 ○上冨幹事 事務当局の立場で前にも若干御説明したことかもしれませんし,重なるかもしれませんが,まず,公訴の取消しについては,これは公訴の再起訴の制限を緩和することによって,公訴の取消しをする余地を増やすという制度ではありますが,否認に転じたから必ず公訴を取り消すということを想定した制度として構想されているものではないと考えております。むしろ多くの事案では,否認に転じたとしても公訴は維持するということが実際の運用では多いのではないかという前提で議論されているものと考えています。その上で,なお,例外的な場合かもしれませんけれども,公訴を取り消すことで捜査段階に手続を戻して,それによって,もちろん被疑者から否認に転じた後の弁解を更に聴取して必要な補充捜査をするということもあり得るかもしれませんが,必ずしもそういう事態を想定しているだけではなく,多分現状では起訴後においては被告人に近い立場の人の取調べ,あるいは取調べではなく,被告人に近い場所などの強制捜査,例えば捜索差押といったことについても一般的にかなり慎重に行われているだろうと思いますけれども,そういった点も含めて捜査段階に戻すことで捜査の余地を広げるということが考えられるのではないかという発想の制度の構想であろうと考えております。 ○井上委員 前にも発言したのですけれども,要するに,証拠の量の問題だと思うのです。被告人が早い段階から認めている場合に,もちろん起訴基準を超えるだけの嫌疑がないと起訴できないわけですけれども,被告人が認めているということにプラスして十分な嫌疑があるということを支えるだけの証拠が得られ次第,早く起訴をして,簡易に処理することが考えられる。ところが,そうしたところ,被告人が否認に転じたときは,その被告人の供述を除くと,それだけでは公訴を維持することが難しいかもしれないと思われる事態が生じることがあると思うのです。そういう場合に,そこまでは不要だとして見送っていた捜査を,捜査段階に戻ってやるということで,典型的には強制処分などは,起訴後に捜査としてできるのかという問題もあるわけですので,捜査の段階に戻して,やり直しを可能にしようという趣旨でできているのではないかと思うのです。ですから,そういう必要がない場合は戻らないわけで,実際には,上冨幹事が言われたような場合の方が多いのかもしれません。そういうふうに私は理解しています。 ○後藤委員 証拠の量が十分でないといわれる意味は,自白している状態では十分だけれど,それが否認に転じたら,起訴のためにも十分ではなくなることがあると想定されているわけですか。 ○井上委員 それはそうだと思います。被告人の供述も重要な証拠として使ってよいわけですし,現に考慮されるわけですから。自白は揺るがない,裏付けもあると思っていたところ,否認に転じた場合には,自白を除いて考えて,十分かどうかという判断をもう一度することになる。それで十分な場合ももちろん多くあるでしょうけれども,そのままでは十分公判維持できないのではないかと検察官が考える場合というものも出てくると思うのです。そういう場合に,捜査の段階まで戻ることを可能にするということに過ぎないと思うのです。そうでないと,万一を思って,不要と思われる捜査まで時間を掛けてしておかなければならず,迅速処理ということにならないと思われるから,そうすることによって,争いのない比較的軽微な事件については,できるだけ迅速に処理をさせる。そうなれば,手続全体が迅速になりますし,捜査手続も短く済むということなのではないかと理解しています。 ○佐藤委員 本質的な議論ではなくて恐縮ですけれども,教えていただきたいのですが,この「第1」のテーマ,「自白事件の捜査の簡易迅速化を確保するための措置」となっていますけれども,しかし,これは同時に,裁判の迅速化というか,効率的な遂行というか,そういうことにも資しているという評価はしていないのですか。つまり,ここにおける但木委員の主張ではありませんけれども,大きなテーマとして,公判中心主義に変えていこう,公判で事実を確定していこうというときに,できる限り合理化できるところは合理化して,そういう公判を確保していくというのであれば,これは評価ができると思うのですが,なぜ,この捜査の合理化ということだけになっているのでしょうか。 ○岩尾幹事 御指摘のとおり,裁判全体として見て,裁判の終結までの迅速化には当然資するものだと思っております。ここで,なぜあえて捜査の迅速化と掲げているかというと,まず,新しい手続を採用して,実刑相当事案についても対象範囲を拡大したとしても,やはり今の現行制度が余り利用されていない原因として,結果的には捜査の省力化ができないと,それほど活用されないのではないかという観点から,対象となる公判の事件の拡大と,もう少し正面から捜査そのものの省力化という観点からも制度を見直した方が良いのではないかという,そういった観点でこういうふうに「第1」と「第2」に分けていると御理解いただければと思います。 ○上冨幹事 若干付け加えますと,元々現行の即決裁判手続自体が本来重大な事件について資源を集中して公判中心にやっていくことに資する制度として,簡易迅速にやるものは簡易迅速にやろうという資源の配分の制度として構想されてきたわけですけれども,制度制定のときの予想と比べると,即決裁判が必ずしも活発には利用されていない結果,そちらにもそれなりの資源がかかっている。そこで,現行の即決裁判を,より活用させるようにするためには,どこが問題があるかと考えたときに,やはり捜査の省力化が必ずしも図れないシステムになっているところに問題があるとすれば,そこを解決すれば,即決裁判がより使われるようになるのではないかということだろうと思います。 ○本田部会長 それでは,まだ御意見もあろうかと思いますが,「自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方」については,ひとまずここまでにしておきたいと思います。   大変長時間でしたが,予定いたしておりました事項は全て終わりました。本日の議論におきましては,これまでの作業分科会での検討結果を踏まえまして,各検討事項について幅広い観点から多くの御意見を頂いたところでございます。各作業分科会におかれましては,今日の御意見等をも十分に踏まえながら,各検討事項につきまして更に具体的な検討を進めていただきたいと思います。その際の検討の順序や方法等につきましては,本日の議論を踏まえまして,各分科会で定めてやっていただきたいと思います。   次回の部会は,おおむね今年10月頃を目途に開催し,それまでの各作業分科会での更なる検討の結果を御報告していただきたいと思います。その際には,できるだけ制度設計に関するたたき台に近い,より具体的な内容の報告をしていただくことといたしまして,それを踏まえて当部会で議論を行っていきたいと思います。各作業分科会の方々におかれては,大変に御苦労様でございますが,よろしくお願いいたします。 ○神幹事 一つ,意見があるのですが,今日朝からこれまでずっと皆さん議論いただいたのですけれども,恐らくこの場では言い足りなかった部分が委員・幹事の先生にいらっしゃると思うのです。そこで,場合によっては,分科会に向けて個別の形で,今日ここで言えなかったことについても意見を頂く形で,それを反映するような形にした方が,より充実したものになるのではないかということで意見を述べたいと思います。 ○本田部会長 できるだけこの場で口頭での討論をするのが充実した議論になると思いますけれども,今日,冒頭申し上げましたように,時間の制約もありましたので,もし今おっしゃったようなことがあれば,できるだけ簡潔なペーパーで,できるだけ早目にお出しいただいて,各分科会では,それも参考にしてもらいたいと思います。   それでは,ただいま申し上げたような形で今後の審議をしていくということでよろしゅうございますか。 (「異議なし」の声あり)   それでは,分科会長の井上委員,川端委員,各分科会の構成員の方々におかれましては,どうぞよろしくお願いいたします。   予定しておりました事項は全て終了いたしましたので,本日はこれにて終了したいと思います。大変長時間にわたってありがとうございました。   なお,本日の会議につきましては,議事録におきまして公表するのが相当でない部分があるかは改めて検討させていただき,その上で発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきます。   それでは,長時間にわたって誠にありがとうございました。 -了-