法制審議会           民法(債権関係)部会           第67回会議 議事録 第1 日 時  平成25年1月22日(火)自 午後1時00分                      至 午後6時22分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第67回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,潮見佳男幹事,福田千恵子幹事,森英明幹事が御欠席です。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として部会資料56,「たたき台(4)」を配布しております。この部会資料につきましては,本日,右肩に「部会資料56補訂」と書いてあります紙を机上に配布しております。この紙に記載のとおり修正させていただこうと思います。法務省ウエブサイトに掲載するバージョンでは,この修正が溶け込んだ形で公表したいと考えております。また,本日,机上には安永委員から「中間試案のたたき台(4)についての意見」と題する書面を提出いただいております。その内容は後ほど安永委員から御紹介いただけるものと思います。それから,本日,御欠席の佐藤則夫関係官から「書面による意見陳述」と題する書面を頂いております。後の議論の際に読み上げることはいたしませんけれども,関係部分で必要に応じて言及させていただこうと思っております。それから,大阪弁護士会民法改正問題特別委員会有志の方から,意見書を提出していただいております。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料56について御審議いただきます。休憩前までに部会資料56のうち,「第7 契約の成立」までについて御審議いただき,午後3時25分頃を目途に,適宜,休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料56の残りの部分について御審議を頂きたいと思います。   それでは,まず,部会資料56の「第1 相殺」について御審議いただきます。一括して御意見をお伺いいたしますので,御自由に御発言ください。  特に御意見はないでしょうか。 ○佐成委員 第1のところを全部ということでよろしいですね。2のところ,「相殺の効力」の「(1)相殺の効力発生時期」という項目について,内部での検討で意見がございましたので紹介させていただきます。まず,これは相殺の遡及効を否定する提案,即ち,現行法を改める提案を中間試案に掲げるということですけれども,実務界の中にはまだ遡及効を否定することへの抵抗といいますか,弊害を指摘する声があります。これには「現状を維持するという考え方がある」と書いてあるので,それはそれでよろしいかとも思うんですが,確認したいのは,仮に効力発生時期を意思表示のときに改めた場合にも,これはあくまで任意規定であって,遡及効を認める別段の合意が認められるということは当然だろうし,この改正提案はまさかそこまで排除する趣旨ではないだろうということを確認してほしいという意見でございます。   それから,もう一つは,中間試案のたたき台全体の書きぶりについてですけれども,改正提案が当事者間あるいは関係者間の任意の合意による別段の定めを排除するような強行規定なのか,それとも,そうではなくて任意規定なのかという部分については,これまでの部会の議論の中でも任意規定か,強行規定かを明示するという方向性はある程度,「できる限り」ということではありますが,示されていたかと思うんですけれども,中間試案においてもその辺りを明確にした上でパブコメに掛けていただきたいといった意見がございましたので,併せて御検討をお願いします。 ○能見委員 同じく相殺についてですが,一つは今の「相殺の効力」の部分に関しての確認ですけれども,私自身は,相殺の遡及効を維持したほうがいいという意見を持っており,そのことは前に申し上げたわけですけれども,この部会資料では,意思表示の時に相殺の効果が生じるという立場が本文で書かれており,相殺の遡及効を認める立場は注で触れられていますが,これは相殺の意思表示の時に相殺の効力が生じるという立場が法制審議会では多数であったという位置付けをしているようですが,必ずしもそうではなかったのではないかと思います。 ○筒井幹事 多数かどうかということを明示的に確認するような議事の進め方はしておりませんけれども,現段階で改正提案として残して,パブリックコメントを求めるのに足りる程度の支持はあるであろうという認識の下に,事務当局としてはこのような提案をしております。しかし,それについてこの部会の中で異論がないわけではありませんので,それを注記することによって,中間試案としての合意形成を目指してはどうかという提案をしているということです。 ○能見委員 私の個人的な意見は意見として別にありますが,ここでの多数意見が意思表示のときに相殺の効力が生じるというのであれば,こういう書き方で構いませんけれども,もし,両方の意見が同じぐらいであったとか,反対の意見が強かったというのであれば,そのことがわかるような何か書き方の工夫を検討していただければというのが一つです。  それから,もう一つは「相殺の要件」のところですが,(1)ですけれども,実質的には,私はこのように理解することに異論はないんですけれども,このように書くと相殺という制度が何か分かりにくくなるなという感じを持ちます。相殺というのはお互いに債権が対立しているときに簡易な決済をするというのが本来の制度だと思いますが,そのような相殺制度のもとでは恐らくは弁済期が到来しているということを前提で今まで考えてきたのではないか。そして,お互いに弁済期が到来して,お互いに現金を移動して弁済する代わりに,相殺という形で双方の債務が消滅するのだと。これだと非常に分かりやすい。   そのことを原則とした上で,相殺する側からすればまだ期限が到来していないときであっても,相殺する側の債務について期限の利益を放棄することができるような場合には,そういう場合にも相殺できるというのは,論理的には分かりやすいと思いますが,(1)に書いてあるような書き方をすると,ここに至るまでの議論のプロセスないし論理の全てを理解していないと分かりにくい。相殺というものがかえって分かりにくくなると,そういう印象を持ちましたので,それを意見として申し上げたいと思います。   それから,同じく「相殺の要件」に関連してですけれども,従来も同じかもしれませんけれども,ここに書いてあるような考え方でいくと,相殺をする側からすると自分の債務の弁済期が到来していないときにも原則として相殺ができることになりますが,その債務について利息が定められているとどうなるかという問題が生じます。期限の利益に関する規律のところでは,債務者はそれでも期限の利益を放棄することはできるけれども,相手方債権者に損害を与えてはいけないということで,期限までの利息分は払う形になるんでしたっけ。 ○鎌田部会長 そこは議論のあったところです。 ○能見委員 もし,そうだとすると,相殺に関しては,債務者は期限前だけれども,期限の利益を放棄して相殺ができる。しかし,期限までの利息は払わなくてはいけないという考え方を採ると,その利息に相当する額は相殺するときの額といいますか,相殺の中に計算上含めるのか,それとも相殺の外で利息分はまた賠償として,相殺の意思表示をする側が払うということになるのか。この点について,どんな議論があったのか,確認しておきたいのですが。 ○鎌田部会長 そこは少し違う観点から言えば,ここにこのように書いてあることは,期限の利益の放棄を媒介としないで相殺ができる,あるいは期限の利益を放棄できる場合と違う場面も含まれるという,そういう趣旨でこの提案があるのか,あるいは期限の利益の放棄を言い換えているだけなのかということにも関連するかと思うんですけれども,その点も含めて事務当局としてのお考えを教えていただければと思います。 ○松尾関係官 今,能見先生から御質問を頂いたことについてお答えいたしますが,まず,今回の提案で期限の利益の放棄との関係ついては,媒介としなくてよいが,実質的には期限の利益の放棄を言い換えているだけであるということを前提としております。相殺の意思表示とは別に期限の利益の放棄の意思表示が必要だという考え方を採ることについては,部会の中で御異論というか,御懸念を示す意見がかなりあったと理解しておりますので,そういった考え方は採らないということです。   その上で,その場合に期限までの利息を払わなければならないかどうなのかということについては,最終的には契約の内容にもよるのだろうと考えていて,つまり,期限までの利息を支払わなければ期限の利益を放棄することはできないという合意があるのであれば,そもそも,ここでいう相殺をすることができる要件には当たらないということにもなりそうだと思います。また,その場合に別途払わなければならない利息相当額が相殺の対象になるかどうかということは,考えていなかった問題ですので,検討していきたいと思っております。 ○能見委員 期限の利益を放棄するということを媒介としないでも,実質,同じような状況にあれば相殺できるということはよく分かります。ただ,逆に言うと,期限の利益を放棄するという意思表示を媒介としないで相殺できるが,実質が同じになるように扱うべきだとすると,結局は期限の利益の放棄のところの規律に従わざるを得ないのかという気がします。そうすると,弁済期未到来の債務の債務者が反対債権で相殺する場合にも,相手方に期限までの利息が取れなくなるという損害が生じるならば,相殺する側はその分の損害は払わなくてはいけないという考え方は十分あり得るだろうと思うのですが,その部分は,先ほど言いましたように,相殺の中で計算するのか,相殺の外で賠償するのかが問題となりますが,この点は,今後検討するというように理解いたしました。 ○村上委員 2の(1)「相殺の効力発生時期」について,民法506条2項の規律を維持するという考え方が注記されております。私は,その考え方の根拠として,例えば,相殺の意思表示が黙示の意思表示であった場合や,訴訟上の意思表示であった場合,意思表示の時期をいつと見るべきかが判然としないことがあって,そういうことを考えると,意思表示の時に相殺の効力が生ずるとするのは,問題ではないかという趣旨の発言をした記憶があります。ところが,(概要)欄や(備考)欄を見ますと,その点には触れていただいておらず,ほぼ専ら過払金返還請求権と貸付債権との相殺についての記載のみがされています。   しかし,このような記載ですと,相殺の遡及効を否定することに問題があるのは,こういうケースに限られるかのような印象を与えてしまうおそれがあるのではないでしょうか。その結果,ひょっとすると,パブコメにおける回答を一定の方向に誘導してしまうおそれがあるのではないかと危惧いたします。   また,(備考)欄の第1段落を見ますと,「従来,相殺適状時に債権が消滅したという当事者の期待が遡及効と整合的であると説明されることがあるけれども,その説明は実態に合致しておらず,相殺の意思表示がされた時点で初めて債権が消滅したという期待が生ずるのが通常である。」という記載があります。しかし,当事者の期待が通常はどうであるのかということについては,恐らく両方の考え方があって,考え方が分かれるのではないかと思います。そうだとしますと,ここまで書く必要があるのでしょうか。二つの考え方があるとした上で,今回のこの提案はこちらの考え方に基づく案なのだという説明をすれば,それで十分ではないでしょうか。(備考)欄は事務当局の責任で記載されるものだということは,もちろん,十分,承知しておりますけれども,意見が対立する点については,いずれの意見に対してもそれなりの目配りをしていただいて,記述の客観性が保たれるような御配慮を頂くことが望ましいのではないかと考えています。 ○筒井幹事 御指摘をありがとうございます。   (概要)欄について,事務当局の文責において公表するということについては,繰り返し申し上げてきたとおりであり,それが適切な内容となるように御意見を頂くことは大変有益であると思います。他方,今回の部会資料に掲載している(備考)欄に関して,バランスを失しているという指摘がありましたが,この記載自体で完結的にバランスをとろうとして書いているものではないということは,私が繰り返し,この場で申し上げてきたことでありまして,これまでの議論の経過に鑑み,説明を補充しておく必要があるだろうと考えた事項のみを(備考)欄で書いております。繰り返しになりますが,(備考)欄というのは,従来の議論の経過に照らして,今回の中間試案のたたき台を提示するに当たって,我々のほうから説明を補充しておく必要があるであろうと考えた場合に書いておりますので,それが一部の考え方の紹介だけにとどまっていることは,当然にあり得るわけであります。それについては,従来からの部会資料を併せてご覧いただければ容易に分かることだと思います。もっとも,この(備考)欄の記載内容は,将来,中間試案の補足説明に受け継がれていくであろうと考えられますので,その中間試案の補足説明においては,ただいま,頂きましたような御意見を十分踏まえて,もちろんバランスよく,様々な議論の経過を紹介していきたいと考えております。 ○道垣内幹事 能見委員と松尾関係官の間の御議論で,若干,私は松尾関係官がおっしゃったことが能見委員にうまく伝わっていないのではないかという気がいたしますので,一言しておきたいと思います。松尾関係官が主観的にそう思われたのかどうか分かりませんけれども,例えば弁済期があると,その前に利息が発生するわけですが,そのときに利息を含めた全額を支払わなければならないかどうかというのは,金銭消費貸借のところの規律に大きく依存するわけでして,早目に弁済しても,それまでの利息しか払わなくてよいということになりますと,相殺をしたときも同じであり,先のものまで債務の額に含まれることにはならないのだろうと思います。   他方で,利息についての規定はあるけれども,利息を合わせた形で債権額が,あるいは債務額というべきかもしれませんが,存在していると見るべき場合もあるだろう。そう考えると,未経過分の利息について,それが相殺の対象となるのかならないのかということは,一律には書きづらい問題であって,その債務の性質によるというところがあるのではないか。こういうことを松尾関係官がおっしゃろうとしたのではないかと思いまして,勝手ながら,補足をしておきたいと思います。 ○深山幹事 私も道垣内先生と同じようなことを申し上げたかったのですが,それと関係して(概要)の書きぶりにも関わってくるんですけれども,「相殺の要件」の議論については,現行法の解釈としても,期限の利益を放棄することによって,受働債権に関しては期限前でも相殺できるという解釈が広く支持されています。それを踏まえて,その点をより明確にする趣旨で,今回のゴシック体の提案になっていると理解できるわけですが,それに対して,(注)で現行の要件を維持するという考え方が別の考え方として示されますと,期限の利益の放棄を媒介として,受働債権が期限前であっても相殺できるという現行法の解釈自体を否定をする趣旨とも読めなくもないと思いますので,もう少し説明を書き足していただいたほうが分かりやすいのかなという気がします。   早目に払った分の利息がどうなるかという議論にも関わりがあるところであり,今回の提案と現行法の下での期限の利益の放棄を媒介として早目に相殺することができるという解釈との違いが微妙に出る可能性があると思うんです。そういう違うが出るということを意識させるためにも,少し概要あるいは補足説明に,その議論の背景のようなものを書いていただくと,読み手にとって分かりやすいのではないかと思いまして,あえて申し上げました。 ○松本委員 能見委員と松尾関係官の問答に道垣内幹事の発言,その辺りについて私も少し確認させていただきたいんです。(1)で相殺の意思表示をする債務者が弁済期前に自己の債務を履行することができない場合にあっては,弁済期にないと駄目なんだと。すなわち,期限前弁済ができない債務でもっては,弁済期到来までは相殺できないと書いてあるわけです。それで,期限前弁済ができるか,できないかによるという説明を松尾関係官はされたわけですが,少し確認したいのは,期限前弁済ができない場合であっても,なお,相殺ができて,あとは損害賠償等で更に調整をするという趣旨なのか,できない以上は絶対にできないんだという趣旨なのかというのが第1点。   もう一つは,期限前弁済はできるし,将来の利息も払わなくていいんだという場合と,期限前弁済はできるが,将来の利息は払っていただきましょうという場合と,両方が契約の趣旨からはあり得ると思うんですね,強行法的に禁止しない限りは。そういう場合に期限前弁済は構わないけれども,その分,将来利息を賠償金として払ってもらいましょうという特約がある場合について,相殺,プラス,その損害賠償額相当分についても相殺できるという趣旨なのかということです。すなわち,松尾関係官の先ほどの説明をもう少しクラリファイしていただきたいという趣旨です。 ○松尾関係官 1点目についてですけれども,そのことが当該債務を発生させる合意の中身によるのではないかということを申し上げたつもりです。つまり,このルールから何か一律に導かれるということではなく,当該債務を発生させる契約で,期限の利益の放棄の可否や利息の発生について,当事者がどういう合意をしていたかによって相殺ができるか,できないかが決まるのではないかということを申し上げたつもりです。   2点目については,道垣内先生からの御発言があったところではありますが,私からは先ほど能見先生にもよく考えていないので検討させてくださいとお答えしたところですので,それに変わりはありません。 ○松本委員 お答えいただきたいことが必ずしもお答えいただいていないので,もう一度,確認なんですが,期限前弁済はできないと,損害賠償相当額を払ってもできないという趣旨の契約であれば,相殺の要件を満たさないと理解してよろしいですかという質問なんです。 ○筒井幹事 そのように答えたと思いますので,松本先生の御意見を言っていただければよろしいのではないでしょうか。 ○松本委員 確認しているだけです,この趣旨を。 ○筒井幹事 ですから,そのように答えたと思います。 ○鎌田部会長 ちょっと入り組んできて,期限前弁済の場合の弁済時から本来の弁済期までの利息の取扱いというのは,ほかのところで議論の対象になっていて,それに多分,連動するんだと思うんですけれども,現在の要件と,ここで提案されているものとの違いを一言で言うと何になるんですか。期限の利益を放棄するという意思表示が要らないということが違いなのか,あるいは期限の利益が現在,放棄できるとされている場合とこの場合とでは違う原理を持ち込んだから,現在の要件とは違うんだという趣旨なのか,そこのところだけはっきりさせておいたほうがいいように思います。 ○松尾関係官 少なくとも期限の利益の放棄が要らないということをはっきりさせたということにとどまるつもりです。 ○鎌田部会長 現在の要件を維持するというのと別の考えとして出されると,どこにその違いがあるんだろうかという疑問が残って,いろいろな理解をされると,かえって提案の趣旨が誤解を招くことになるので,そこははっきりさせておいたほうがいいと思います。 ○中井委員 まず,今の関連のことのみを先に申し上げると,受働債権の期限が到来していなくても相殺できるという規律にしたとき,自働債権の額は期限が到来しているから確定しているが,受働債権の額は期限が到来していないので,何が消滅するのかというところが問題になるのではないか。それは2の(1)の効力の問題と重ねて考えていかないと,ここだけの議論にならないのではないかと思います。   つまり,意思表示のときに効力が生じるとすれば,その時点で計算する受働債権の額がその期日までなのか,弁済期までなのかと,考え方としては二つがあり得るのだろうと思います。相殺の遡及効を認めたら,相殺の適状時の額ということになると思いますから,そこで決まるので,2の(1)と併せて議論しないと,議論がかみ合わないのではないかと思いました。   申し上げたかったことは,「相殺」の1の(1)と2の(1)の「相殺の効力の発生時期」について,中間試案として,どのような形で整理して国民に問うのがよろしいかという議論ですから,中身についての賛成,反対は,ここでの議論の対象にならないとは理解しております。   とはいえ,「相殺」のこの2点については,最初,能見委員からもお話がありましたし,その後,村上委員からの御示唆もそうだろうと思いますけれども,審議会における議論の結果を取りまとめたものとして,中間試案としてまとめて世に問うのが適切なのかという観点から考えたときに,審議会の結論は,このようなものではなかったのではないかという印象を持っております。裁判所実務からは2の(1)の問題が中心だったかもしれませんが,効力発生時期について意思表示のときとすることによる問題点について,幾つか御意見がありました。また,弁護士会は,遡及効を認める考え方について,それは説明したつもりでした。研究者の方々は分かれているのかもしれませんけれども,このような形で取りまとめて世に問うのがこの論点について適切なのか,疑問を持っております。   一つは分かりやすさの点でいうならば,1の(1)は極めて分かりにくくなったのではないかと思いますし,2の(1)については果たして意思表示のときに効力が生じるということの必要性について,遡及説に対して,それほど積極的な賛成といいますかがあったのか,なお疑問を持つものです。現在の要件を維持する,若しくは506条第2項の規律を維持するというのが多数であれば,ここの提案は中間試案としてしなくてもよいという決断もあるのではないかと思う部分です。なお,昨日,日弁連でも,各単位会の意見が出てきましたけれども,2の(1)に関しては,多くが内容的な意味で反対が多かったことを重ねて申し上げておきたいと思います。 ○中田委員 「相殺」の中のほかに移ってもよろしいですか。 ○筒井幹事 中井委員の御発言に関して,それほど強くおっしゃらなかったのかもしれませんけれども,2の(1)を中間試案の本文から削除するという御提案があったものと受け止めました。それについてどうするか,更に御発言があれば承りたいと思います。私どもとして今回この案を提示したのは,最初の能見委員の御質問に対する返答にも関わっているのですけれども,従来の議論の形勢として意思表示の時に効力が生ずるという改正をする考え方が多数を占めていたという認識は,必ずしも持っておりませんでした。しかし,これまでの議論の中で指摘されていた現状維持の理由の一部については,必ずしも適当ではないのではないかと考え,そのことをお伝えするために(備考)欄を書いたというのが,今回の事務当局が用意した資料の内容です。審議の過程においては,議論の形勢が変わることは一般にあり得るのですから,その可能性を試みたということです。ただ,本日の議論でもなお,従来の状況と変わらず,相殺の遡及効に関する見直しはしないということがこの部会の意見の大勢なのだとすると,この段階でこの改正項目は見送るという決断をすることも十分あり得ると思っておりますので,そういった観点から御意見を頂ければと思います。 ○山野目幹事 1の(1)の論点でございますけれども,ゴシック体で提案されている内容のような規律を考えることによって,相殺の概念が分かりにくくなるという御感触もお示しいただいて,それも理解することができる部分がありますけれども,そもそも,現行法の解釈,運用自体が受働債権の弁済期に関わって,相殺の意思表示一本で相殺を主張立証すればいいのか,期限の利益を放棄する旨の意思表示の主張立証が必ず必要なのかということについて,規範の理解として曖昧な部分があると感じます。それを明瞭にしようということが1の(1)の提案の最も重要な部分ではないかと考えます。   しばらく前に部会長が,この提案の趣旨は何ですかとお尋ねになったことについては,私はそこに核心があると理解しておりまして,そのほかにも議論すべき点は若干あるかもしれないということは,今日の御議論で分かりましたけれども,それは引き続き御議論いただくことではないかと感じます。そのような議論を可能とするステージを整えるという意味では,1の(1)はこのような提案であるべきなのでないでしょうか。   それから,2の(1)は幾つか御指摘もありましたように賛否は分かれていて,何が多数かという議論は形成されていないだろうと感じます。部会資料の御提案も,ゴシックで書いてある内容が多数を占めたという趣旨でお出しいただいているものではないと感じます。しかし,反面,この相殺の遡及効の問題をめぐって,部会において充実した議論がされたことは事実でありまして,ここでこれを取り上げなかった論点の欄に持って行ってしまうということで,果たしてパブリックコメントにおいて活発な豊かな議論を喚起するという観点から望ましいのかと考えれば,それはいろいろな見方があるかもしれませんけれども,私はそれは望ましくないと感じまして,これはこのような形で,中間試案としていろいろな意見を募ってみるということがよろしいのではないかと考えます。 ○鎌田部会長 ほかに2の(1)に関連しての御意見がありましたらお出しください。 ○内田委員 これは実務からの声ということですけれども,企業間で債権債務を持ち合っているというときに,それぞれがたった一本ずつの債権債務であるというときには,相殺適状の時点で債務は消滅したという期待を持つということもそれなりに分からなくはないのですが,現実には多数の債権債務を持っていて,その中のどれとどれを相殺するかが,戦略的に判断されるという実務があるとのことです。そのときに,たまたま最初に相殺適状になったものが対当額で消えたという期待を本当に実務で持っているのかというと,かなり疑わしいと感じているわけです。   そういう場面で,特約を結べる場合には最初から遡及効を否定する特約を結んでいると伺ってはいますが,結べない場合もありますので,そういう実務の実態ということも考えると,デフォルトルールとして相殺について意思表示を要求するというルールを採って,それを基に意思表示の時点が戦略的に選ばれているということであれば,このルールには実務的にも相当な理由があるのではないかと判断しています。 ○能見委員 私は,この審議会で両方の議論があったことはあったので,それは尊重したいと思っています。ただ,私の誤解があったのかもしれませんが,今,ここに原案として出ているようなものが中間試案として公表されると,例えば2の(1)であればゴシックになっている本文の部分,これに対する注として,現行規定を維持するという考え方もあるという形で中間試案が出ると,この審議会における議論の分布を必ずしも正確に反映していないことになって問題ではないか。ですから,中間試案を出す段階で余りいつまでも二つの意見をただ並列するのはよくないという議論があるかもしれませんが,ウエートを付けるということはありうるか思います。そして幾つかの意見にウエートを付けて公表するのであると,ここに今,出ているような案では,審議会における議論の分布を反映しておらず,かえって逆の印象を読者に与えるので問題ではないかというのが発言の趣旨でございます。ですから,私としては,今,ここの中間試案の段階で,意思表示のときに相殺の効力が生じるという案を落とすということは必要ないと思いますが,審議会の議論における意見分布は反映させた方がよいと思います。   それから,もう一つ,今の,内田委員の御発言に関連して,相殺に関して一般的な意見というほどでもないのですが,いわば感想だけ申し上げたいと思います。それは,どのような相殺をイメージするかという問題です。内田委員の意見の中にもあったんですが,企業間において継続的な取引がなされ,相互に債権債務がたくさん発生していくという状態は当然考えられるわけです。そういう場合には単に債権が互いに対立しているという以上に,双方の複数の債権の間にある種の牽連性みたいなものがあって,こういう牽連性のある債権の間での相殺が問題となるときは,従来以上に広く相殺が認められて構わないと思います。差押えと相殺の問題においても,相殺を広く認める立場が多数となっていますが,これも本来,牽連性のある債権の間では相殺を広く認めるのが適当だという考え方が背後にあるんだと思います。相殺というものが交互計算に少し近くなってきているような,もちろん,交互計算とは違うわけですけれども,何か,そういう動きがあるなという感じがしました。   それが一概にいけないとは思いませんけれども,そのように相殺の要件を緩和する場合に前提となっているのは,互いの債権債務にある種の牽連性があるということであって,これに対して牽連性がない債権債務の間の相殺では相殺の要件なども違って然るべきだと思いますが,うまくその二つを分けることは難しいために,どちらかに寄せて考えざるを得ないということではないかと思います。けれども,どのような相殺を想定するかという相殺のイメージの違いがあるために,相殺の要件などをめぐっても,いろいろ問題があるのではないかという感じがいたしました。しかし,これは,最初に申し上げましたように,だから,どこをどうしろという意見ではなく,見解の対立の背後にある相殺のイメージについての感想でございます。 ○鎌田部会長 ほかに2の(1)関連がないようでしたら。 ○松本委員 能見委員が盛んにおっしゃっているウエートの付け方については,前回,私が同じような趣旨のことを申し上げたわけですけれども,結局,この部会の方針としては現行法を維持しないという案は,甲案,乙案という形の併記はできないんだというのが事務当局のお考えなので,その原則を採る以上は幾ら現行法維持の考えが多くても,変えるという案と同じウエートでパブリックコメントに付すということは,できないということのようでした。それが1点。   もう1点は,1の(1)の意義について山野目幹事が,期限の利益の放棄の意思表示を媒介させないで相殺を可能にするというところに,この提案の一番の意味があるんだということをおっしゃったわけですが,そうすると,期限前弁済の場合について,すなわち,期限前弁済ができるか,できないか,できる場合にどういう要件を満たさないと駄目か等が,この問題の前提として当然あるわけです。相殺でないところの期限前弁済の場合についても,期限の利益の放棄という考え方は介在させないで,債務者が期限の利益の放棄という意思表示を黙示の意思表示すらしなくても,弁済ができるということになるのか,それとも相殺特有の論点として,従来,期限の利益を放棄して相殺と構成されていたのを相殺についてのみ,期限の利益の放棄は不要だとするという趣旨なんでしょうか。弁済のところでは,この辺の議論は一切,改正提案としてはされていないようです。 ○鎌田部会長 期限のところで議論したんだと思いますけれども,何か御指摘はございますか。 ○岡委員 (注)のところの書き方で,3回,続けて同じような議論がされていると思います。弁護士会は特に相殺の遡及効については,余りない一致した論点でございまして,これすら(注)の考え方があるにとどまるのかというような不満というか,幻滅というか,意見がございました。一つの提案でございますが,(注)がないところでも現行法維持の考え方があるのは,前提ということですので,(注)には,なになにとの考え方も有力であると書くのは如何でしょうか。こういう使い分けができるのかなと思いました。 ○筒井幹事 様々な御意見を頂きましたので,それを踏まえて再考いたします。(注)の書き方を工夫するという御提案も頂きましたけれども,ニュアンスを付けて(注)を複雑化させるのは,外部からは分かりにくいので余りよろしくないような気がしております。現在の多数意見が現状維持なのだという御指摘もありましたが,本日の議論を経てもなおそうであるとすれば,この段階で改正を見送るという選択をすべきであろうと思います。そういう意味で,本文を現状維持として(注)に改正提案を書くという方法は採るべきでないということを私は申し上げてきました。それについて,異論はあり得るでしょうから,この場で議論してくださいとも申し上げてきましたけれども,私の考えとしてはそうであります。   この部会として最終的な成案を得るためには,基本的に多数決をしない,全員一致を目指すということを私は申し上げているわけですから,この段階で部会内部で少数にとどまっている案を世に問うて,最終的にこの部会で全員一致が得られるのかということを考えてみる必要があると思います。今回の資料では,事務当局としては,議論の結果として形勢が変化する可能性は十分あるだろうと思って,この相殺の遡及効という論点ではこのような案を提示し,その理由を補充するために(備考)欄を書いたわけです。しかし,それでも従来と状況が余り変わらなかったのだとすると,この論点は中間試案では取り上げないことを真剣に考えなければいけないと思います。もっとも,本日の議論では,我々の提示した案をサポートする意見もありましたので,それも踏まえて,再考させていただこうと思います。いずれにしても,今回の案をこのような形で中間試案に盛り込むのだとすれば,(概要)欄や補足説明において十分な説明が必要であろうということ,これは間違いのないことであろうと自覚しております。 ○鎌田部会長 それでは,中田委員,先ほど留保していただいた御意見をどうぞ。 ○中田委員 別のところについてです。3の「時効消滅した債権を自働債権とする相殺」について,援用前であれば時効期間満了後に相殺適状になったとしても相殺できるというところですが,時効期間が満了した債権を他から譲り受けて,それを自働債権として相殺するということが可能になりますけれども,それは適当ではないのではないかということです。これは,前にも申し上げたかもしれませんが,取り分け,現行法の下では判例はそのように言っておりますので,それをあえて変えるというのだとすると,その説明が必要になるのではないかと思います。   それから,5について,二つあります。一つは字句だけのことです。5の中で「反対債権」という言葉が出てきますけれども,これは自働債権としていいのではないかと思いました。反対債権という概念は必ずしも一つではありませんので,かえって分かりにくくなるのではないかと思いました。   それから,もう一つは取り上げなかった論点とも関係するのですが,相殺権の濫用に何らかの形で言及する必要があるのではないかと思っています。特に無制限説を採って,しかも,現在よりも相殺の可能性を広げているということについては,相殺権濫用の規律も置くこととセットとして私は考えておりました。それが取り上げなかった論点ということで落とされてしまったわけでして,そうすると,この点について何らかの形で言及できないのかということです。一番いいのは復活していただくということですが,そうではないとすると,例えば1の先ほどの要件のところの(注)で書くか,それも駄目だったら(概要)で書くか,もっと下がると補足説明で書くかという辺りになると思うんですが,私としてはできれば相殺権の濫用について,それを考えた上で無制限説を採ったんだという,そういう考え方があるということに言及していただければと思います。 ○鎌田部会長 それぞれについて,事務当局において引き取らせていただいて,検討させていただくということでよろしいでしょうか。ほかに御意見はございますか。 ○岡委員 相殺権の濫用を取り上げるべきだという中田先生の意見に賛成でございます。相殺の遡及効の撤廃に対する反対のように弁護士会の一致した意見ではございませんが,取り上げるべきだという意見の単位会もございましたし,私個人としても取り上げるべきだという意見でございます。 ○松岡委員 先ほど中田委員からの御質問の1点目について,お答えいただいたほうがよろしいのではないかと思います。具体的には3の「時効消滅した債権を自働債権とする相殺」について,消滅時効にかかった債権を譲り受けた場合に,現在は相殺を認めていないのに,提案された規律では認めるかのように読めると中田委員はおっしゃいました。そういう趣旨であるのかないのかを,はっきりさせていただきたいと思います。 ○松尾関係官 第二読会のときの中田先生の御発言の御趣旨を十分に理解していなかったために,そのことをはっきりと本文に書かなかったのですが,少なくとも今の判例を否定するという趣旨ではなくて,現在と同様に,引き続き解釈に委ねられるということだというつもりです。そのことを是非書くべきだということであれば,本文の書き方を再考したいと思います。   あと,併せて申し上げておきます。相殺権の濫用について復活すべきだという御意見を幾つか頂きましたが,取り上げなかったのは,どのような要件にするのかということについて,コンセンサスが得られそうな案を本文として取り上げるのは難しいと考えたわけですけれども,もし,御提案があれば,検討させていただきたいと思っております。 ○鎌田部会長 それでは,よろしくお願いいたします。   次に,「第2 更改」「第3 免除」及び「第4 混同」について御審議いただきます。これらを一括して御意見をお伺いいたしますので,御自由に御発言ください。 ○三上委員 佐藤関係官も「三面更改」の記述のところで,現在の発生消滅方式による集中決済への影響をおっしゃっておられますが,本部会でも述べましたけれども,今,こういう更改型の集中決済が使われない理由は,債権者変更に伴う更改に債権譲渡の対抗要件が必要であるいうことが民法に明文で規定されているからです。もとの三面更改の提案には8ページの(4)はなかったので,その点を多と考えていたわけですが,今回,債権者,債務者の交替による更改の復活とともに,この部分も出てきてしまいましたので,一言,申し上げたいわけでございますが,現在の集中決済の場面では,こういう対抗要件を必要としないという前提で,発生とか消滅をしたということをうまく組み合わせた形で実務を組み立てております。   佐藤関係官の御意見は,それと三面更改は違うものであるということの確認をしたいという言い方ですが,私のお願いは,(4)は少なくともここでは取り外して解釈に任せるとしていただきたいということです。このまま書かれてしまうと,集中決済は全て明文の脱法的,潜脱的行為のようにとられる懸念がございまして,更改は民法の分野では債権の消滅のところに出てくるところ,弁済,相殺,免除,混同,いずれによる消滅にも対抗要件は要求されないことを考えますと,更改という消滅にだけ必要と考える,債権譲渡と同じだと考えるのもひとつの見方にすぎないのではないかと思います。我々のこういう場合の発想は,佐藤関係官の意見にもありますように,基本的に免責的債務引受の延長という発想から入ってくるんですが,どうも,民法の先生方は,債権譲渡のアナロジーから入ってこられるというところで,意見が合わないわけです。 いずれにしましても,集中決済機能の世界的な競争の中でのノベーションを阻害しないという意味で,三面更改と今現在,行われている集中決済は違うものであるという確認,これは佐藤関係官の御意見,私の意見は少なくとも三面更改の(4)はこの提案から落として,解釈に委ねるという形でお願いしたいと思っております。 ○鎌田部会長 関連した御意見はございますでしょうか。 ○神作幹事 私も三上委員の御意見に賛成でございます。三面更改のそもそもの議論の出発点は,集中決済の法的安定性を高めるということであったと理解しております。そして,この要請は,単に日本にとって重要であるのみならず,リーマンショック後の金融・経済危機の中で決済の安定性確保は,世界的な課題となっています。集中決済制度において,その法律構成はともかく,第三者対抗要件を求めている国というのは,少なくとも私は知るところではございません。実務的な要請からいたしましても,三面更改という議論の趣旨に照らして,第三者対抗要件を要するという(4)のは,本体から外して,もし御異論があるようであれば,こちらのほうを(注)のほうに移すことが適切ではないかと思います。これまで三面更改で達成しようとしていたことは,第三者対抗要件を必要としないということが前提であったと理解していますし,理論的にも,更改の一種として位置付けるのであれば,対抗要件を要求しないことが素直であると思います。現時点では「三面更改」という形で議論されておりますが,ただいま述べたような「三面更改」のご提案が目指しているそもそもの趣旨・目的,これまでの議論の沿革に照らして,私も是非,(4)については見直しを御検討していただければと存じます。 ○山野目幹事 6の「三面更改」の提案についての私なりの理解を申し述べさせていただきますと,(1)から(3)までのところは,三面更改,更改による当事者の参加なる概念を明瞭にして,それを民法の規律として明らかにしようという提案であると理解をいたしました。集中決済等の取引の基盤となる概念を民法という基本法典に置くことによって,この概念を用いてされる取引の安定を狙おうという,先ほど神作幹事からあった集中決済に対して安定性を与えるというような要請に応えようとした部分なのではないかと受け止めます。併せて(4)は,そのような概念に基づいて行われる取引についてのスタンダードな,標準的な対抗要件の在り方についての提案をしているものであって,差し当たっては今回の提案のほかの債権譲渡,債務引受,更改に関する規律などとの整合性を考慮して,このようなものを標準的な規律として提案しているのではないかと理解をいたします。   そうであるといたしますと,(1)から(3)の基本概念の提示のところはともかくとして,(4)のところについては民法にこういうふうな規律を置いたとしても,特例法によって様々な手当をすることは十分に考えられるところでありまして,むしろ,民法にスタンダードな対抗要件の規律を置いておくからこそ,特例的な制度の検討を促すことが可能になるのではないかと感じます。6の提案は全体として集中決済に適用がないとか,念頭に置いていないとかいうものではなくて,正に集中決済を念頭に置いた提案でありますし,集中決済が実態として行われているさまを阻害するものではなくて,正にこの提案の規律を民法に置くということを出発点として,より基盤の強固な集中決済のシステムの制度的な整備が,進められていくことのきっかけを提供しようとしているのではないかと理解いたしました。   それは私一個の理解にとどまりますけれども,もし,そういうふうな理解があり得るとすれば,今,委員・幹事から御心配があったようなことも踏まえて,そういう可能性もあるということがどこかに表現されるようなドキュメントとして,中間試案が提示されればよいのではないかとも感じます。 ○鎌田部会長 「三面更改」関連でほかに御意見はございますか。 ○中井委員 今の山野目幹事,神作幹事,その前の三上委員も,どうも三面更改については集中決済の仕組みの基礎的な枠組みとして使うことを前提とした御発言と理解をいたしました。その上で,(4)については削除してはどうかという御提案かと思いますが,今日,配布された佐藤関係官の資料を,私はこの場で拝見したので中をよく読んでいませんが,下線部だけを拝見させていただくと,佐藤関係官いわく,現在,使われているCCPを利用した集中決済の仕組みでは三面更改の規律を使わない,三面更改の規律は及ばないと理解しているという表明がなされています。そうしますと,お三方々の御意見であるにもかかわらず,実務では使わないということの確認を求めているとすれば,何のための議論をしているのかという素朴な疑問を感じざるを得ません。 ○深山幹事 三面更改の議論は,債権者あるいは債務者も含めて当事者の交替による更改と,債権譲渡あるいは債務引受がどういう関係になるのかという議論がベースにあるような気がいたします。佐藤関係官は現在行われている債務引受等で構成されるものと三面更改は違うという御見解であり,これは別の制度として考えるべきだという御意見だと思うんですが,前回のこの場の議論では,今回の2,3の規律というのは,債務引受ないし債権譲渡の規律に委ね,そこで規律をして,更改の規律にはしないという考え方を提案されていました。ところが,今回,三面更改との関係で,それが復活してきたということなのかなと私なりに理解しております。今の三面更改の議論の基礎になる,2,3で提案しているところの当事者の交替による更改と債権譲渡,債務引受との関係を意識して,同じ制度なのか,別の制度として規律するのかということが問題点として分かるような提案ぶりとしたほうがよろしいのではないでしょうか。 ○岡委員 「三面更改」のところに関する意見でございますが,また,この反対説の書き方の問題に帰着するんですが,(注)の書き方はこれでいいのかもしれませんが,少なくとも(概要)の最後の2行についてです。弁護士会の多数の意見は三面更改の規律を民法に設けるべきではない,三面更改の規律は特殊な領域に関するものなので,少なくとも民法に規定を設けるべきではないという意見が多数でございました。何となく反対勢力というふうな印象を持たせる表現になっておりますので,反対の意見ではなく,どこに規律を置くかという問題も中間試案では問題提起の一つになると思いますので,(注)あるいは(概要)の最後の2行については,規定の場所の問題に関する反対意見もかなりあるという表現で書いていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ただいままでの意見に関して事務当局から。 ○松尾関係官 佐藤関係官から御提出いただいているメモについて,1点,確認を求められていることがございますので,その点について発言をさせていただきます。佐藤関係官のメモの中では,現在のCCPを利用した集中決済の仕組みの中で用いられている法律構成のうち,免責的債務引受によって決済をしている局面について,三面更改の規律が導入された場合に,当然に三面更改の規律が適用されることにならないことの確認を求められていると思います。その点については,三面更改の規律が強制的に適用されるわけではなく,当事者が免責的債務引受によって債権の置換えを実現しようとしているのであれば,それは,そのように法律構成がされるわけでありまして,三面更改の規律は飽くまでもオプションの一つであると考えているという次第でございます。 ○内田委員 もう一つ,深山幹事から債権譲渡,債務引受で当事者交替の更改を吸収するという議論があったのに,三面更改との関係でこれは復活しているのではないか,債権譲渡,債務引受との関係はどうなるのかという御質問というか,御意見がございました。ノベーションというのはローマ法以来ある制度で,諸外国にもありますので,当事者交替の更改を全く民法から消してしまうのはどうかという御意見もあり,それで復活をしていますけれども,これは三者契約でなされるという形で制度設計されていますので,三者が合意すれば,今ある債権を消して,抗弁なども全て消して,新たな債権を発生させるということはできるだろう。それを債権譲渡とか債務引受という,同一性のある債権を財産権として譲渡するとか,あるいは引き受けるということとは,一応区別して制度設計できるのではないかということで書かれているのだと思います。ですから,債権譲渡,債務引受とは,一応,制度の立て付けが違うので,並存して置かれることもそれなりに説明は付くのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○三上委員 繰り返しで恐縮ですが,今の内田委員の御発言のとおりだとするのであれば,佐藤関係官がおっしゃっているのは,三面更改の規定がこういう形で入ってしまうと,今,行われていることが脱法行為のようにとられるという懸念,つまり,違うことをやっているつもりなんだけれども,事実上の効果は更改と同じではないかという指摘・懸念にさいなまれている状況でありながら,当事者間ではこれで大丈夫という理解の下に実務は進んでいるということだと思います。   そういう状況に,集中決済に近いような法制が入って,そこになおかつ,(4)のような規定が入ってしまうと,更に脱法性の色彩が高まってしまうという懸念を実務家としては持つ,そういう意味で,6の提案をされるのだったら,(4)を落とした形での提案で,そこにも更改の一般規定が適用されるかどうかは解釈問題に委ねる程度にしてほしいという依頼でございます。これはこのまま提案して,違う制度を作ることであればいいと,確か,山野目幹事はそういう意見だったかもしれないんですが,必ずしも立法的解決が望めないところでもこういう取引は使われておりますので,(4)が入ったままで提案されるのであれば,むしろ置かないほうがいいという意見もあるということを付け加えさせていただきます。 ○山野目幹事 今,私の意見に御言及いただいたところは,そのようなことは申し上げませんでした。 ○鎌田部会長 ほかに「更改」関係はよろしいでしょうか。 ○中田委員 「更改」の1のところですけれども,「給付の内容」という言葉が出てまいります。これは現在の債務の要素というのについていろいろ御検討された結果,給付の内容という言葉を選ばれたのだと思います。これは目的という言葉よりも分かりやすくて,よろしいと思うんです。ただ,給付という言葉は多義的で分かりにくいという面もありますし,それから,同じ更改でただいまの6の(2)には,「債務と同一の給付を内容とする」という表現も出ておりまして,少し分かりにくいのではないかと思います。現在のところはこれでよろしいと思うんですけれども,中間試案の全体ができたところで,給付という言葉を洗い出して,その用法に大きなずれがないかどうかを確認する作業をしたほうがいいのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 よろしければ,「免除」「混同」についての御意見をお伺いします。 ○中井委員 「三面更改」の(4)で予定している第三者対抗要件ですけれども,これは債権者の交替による更改の第三者対抗要件が引用されていることからすると,その前提として,一方当事者が極めて多数のものに適用されるのだろうと思います。ここで想定されている第三者対抗要件は,全当事者で作成した書面に確定日付を取るパターンで,これは9ページの(備考)欄の下から8行目ないし5行目を拝見して,そのように読めたわけですけれども,基本的にはそれを念頭に置いているということでよろしいでしょうか。つまり,契約書の書面に確定日付を取ることによって対抗要件にしようという考え方でしょうか。 ○松尾関係官 債権者交替による更改の対抗要件制度によるわけですけれども,それが結局,債権譲渡の対抗要件制度をどう仕組んでいくかと,連動して考えるべきであるということを書いているつもりであります。債権譲渡の第三者対抗要件制度が登記になるのであれば,債権者交替による更改,あるいは三面更改の対抗要件も登記になるべきであろうということであり,それ以外の第三者対抗要件制度になる場合には,現在の民法第515条で必要とされている確定日付のある証書で,対抗要件を具備することができるという考え方になるのであろうということを念頭に置いております。 ○松本委員 三面更改の位置についてなんですが,集中決済のために民法に作ったんだと一方は言い,他方,金融庁サイドは集中決済には必要ないと言うという大変矛盾した状況が起こっていると思うんです。事務当局は集中決済のために使ってくださいといっても,民法に置く以上は,それは集中決済以外にもどんどん使ってくださいという趣旨になるわけですよね,市民であれば使ってくださいと。   この制度は,集中決済の側が使おうと思えば使えるかもしれない,幾つか特別の規定で手当をすればということなんでしょうが,一般市民社会,ビジネスのほうは,そういう集中決済とは無関係に使ってくる。すなわち,債務引受とか,取り分け,債権譲渡の脱法手段として使われる可能性があるのではないかという危惧があります。すなわち,間に誰かをかませることによって事実上の債権譲渡が可能であり,かつ,正に旧債権債務が消滅をして,新たな債権債務が発生するということは従来の抗弁等が全て消えてしまうということを意味します。   これは,確か前の第二読会のときにも議論があったところですが,抗弁対抗等が全てできなくなってしまうという一種の債権ロンダリング的な債権譲渡の代替手段として使われる可能性があるというのは,かなりリスキーなことではないかと思います。債権譲渡の前回の議論でしたかで,異議なき承諾という制度は廃止をして,抗弁権等の放棄の明確な意思表示で代替するんだという提案がされていました。それはそれで,大変クリアな提案だと思うんですが,三面更改において政策的な集中決済以外に使われる場合について,抗弁が自動的に消えてしまうと,特段の放棄の意思表示をしなくても消えてしまうというのは,異議なき承諾を抗弁の積極的放棄と置き換えるのに比べると,大変問題を残すことになるのではないかと思います。   したがって,どのような用途にでも使われる三面更改を民法に置く以上は,相当,いろいろな手当をした上で置くべきだと思います。集中決済のために使うということであれば,弁護士会が主張するような特別法の中で,しかるべきふさわしい法理を置くというのが一番いいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 今,御指摘があったような点を考慮してこの形にし,また,御批判のある対抗要件についても,債権譲渡と同等のものを入れるという規律にしたんだと理解しておりますけれども,御指摘の点を更によく精査をさせていただきます。 ○道垣内幹事 また,松尾関係官の中井委員に対する返答の解説みたいなことになって恐縮なのですが,9ページの下から8行目のところの「なお」の以下の読み方が問題なのだと思います。恐らく松尾関係官は,「なお,同条の規定を準用する場合には,集中決済機関を介在させた取引のように複数の三面更改が組み合わさって成立する取引については,全当事者で作成した合意を証する書面に確定日付を付することによって,全ての三面更改について第三者対抗要件が具備することができるとすることを想定している。」という点につき,それによって確定日付のある証書になって,これをもって通知するという趣旨でお書きなのではないかと思うのですが,このままですと,契約書に確定日付があるというだけで,通知がなくても対抗要件になるという考え方がこの部分についてだけは採用されることが前提になっているかのように読めるのではないかというのが,中井委員のおっしゃりたいことだったのだろうと思います。   したがって,もし,仮に私の理解,つまり,書面に確定日付を付する,そして,そのことによって通知をすることとなり,対抗要件が備えられたことになるということであるならば,若干,言葉を足していただく必要があるのではないかと思いましたが,誤解なのかもしれません。 ○松尾関係官 説明が不十分であったことがよく分かりました。ありがとうございます。民法515条の対抗要件が何によって具備されるのかということなのですが,「債権者の交替による更改は,確定日付のある証書によってしなければ,第三者に対抗することができない」とされていて,この規定は証書によって契約をし,確定日付があれば,それで対抗要件が具備され,通知は不要であると考えていました。それと同じような規定にするという趣旨で,この(備考)を書いたつもりですので,確定日付を付した後に通知を必要とするということを特に考えてはいなかったわけなんですが,そこに誤解がありますでしょうか。 ○道垣内幹事 いずれにせよ観念的な問題ですが,通知があると想定するかしないかは両方あり得ると思うのですが,仮に想定しないのであれば,その前の辺りのところで通知うんぬんについて触れることの意味をはっきりさせたほうが,全体としては債権譲渡の対抗要件でいくのだけれども,この場合だけ特別だみたいに読まれかねませんよというのが,恐らく中井委員のお話だったのではないかと思います。 ○松尾関係官 御趣旨はよく分かりましたので,書き方を考えてみたいと思います。 ○内田委員 あえて付け加えることもないと思いますが,515条の債権者交替による更改というのは,起草者の時点から三面契約ということが前提ですので,通知など問題にならないのですね。みんなで契約書を作って,それに確定日付を取るということで,それをそのまま踏襲しているということだと思います。 ○松本委員 先ほどの発言の追加というか,補足で三面更改が債権譲渡の代替として使われるかもしれないという指摘をしたところ,部会長が,だから,6の(4)の規定を置いたんだとおっしゃいましたが,そうであれば,単に第三者対抗要件についての規定だけではなくて,効果としては異議なき承諾と同じ効果が発生するわけですから異議なき承諾の規定,それが改正提案されているところの抗弁の放棄の規定も,ここに加えるべきだろうと思います。 ○鎌田部会長 それは三面更改だけではなくて,債権者の交替による更改も同じようになるわけで,しかし,この二つとも今回の三面契約になっているわけですから,債務者が当事者となった上に,更に重ねてもう一つ別の意思表示をする必要があるのかどうかという問題の提起だろうと思いますので,その点はまた検討していただきます。 ○松本委員 すみません,そういう意味もありますが,三面更改という意思表示とは何ぞやという話で,三面更改という言葉を使えば抗弁の対抗の放棄というのも当然,何も言わなくても入るという話なのかどうかという前回,議論したのと似たような感じの,一体,どういう表現をすれば,どういう意思表示が行われたことになるのかということと,大変密接に絡んでくることだろうと思います。更改ですと言えば,抗弁の放棄は当然,デフォルトに入るということなのかどうかということです。 ○鎌田部会長 旧債務を消滅させ,それとは全く別の新たな債権を成立させる意思表示が必要だというのが3の(1),6の(1)のそれぞれから出てくるということであって,契約書に更改あるいは三面更改とタイトルを付けたら,当然,そう読めるかというふうな問題の提起かと思いますが,その点が脱法にならないようにするにはどうしたらいいかということについては,更に検討させていただければと思います。 ○沖野幹事 既に部会長のおまとめで明らかになっているとは思うんですけれども,恐らく,松本委員がおっしゃる点は,部会資料の7ページの3の(概要)の(備考)の上のところ,債権譲渡の抗弁の切断について,抗弁放棄の意思表示を明確にする必要があるのではないかという点についての説明と重なるところではないかと思います。ですので,三面更改だけではなくて,そもそも,3のところが基本になる問題であり,これについてどう考えるかということですが,債権譲渡ではなくて更改を使うという場合に,それをいかに確保するかという問題かと思います。   もう1点,その直前に出ました515条の関係なのですが,これも9ページの道垣内幹事の御指摘があったところですけれども,そもそも,元は3の債権者の交替による更改のところと連動している面があり,そして,3において3の(2)で,第三者対抗要件を債権譲渡の第三者対抗要件と整合的な制度に改めるということが書かれており,その考え方が具体的に何を要求することになるのかは,実はこの(概要)欄では必ずしも明らかになっておらず,三面更改のところの(備考)欄に至って明確になるという書き方になっておりますために,やや分かりにくい面があるのではないかと思います。   そして,これは(備考)欄ですから,飽くまで今回の理解のためにということですので,最終的にはどんどん変わっていくということだと思うんですけれども,ただ,9ページの(備考)欄ですと,もし,債権譲渡の第三者対抗要件を確定日付のある証書の通知とするという考え方によれば,現在の民法第515条の規定を準用することになると考えられるということですが,他方で,515条については3のところでは改めるという考え方を採られていますので,この記述だけを見ますと3については改めるんだけれども,三面更改の場合には現在の規定を準用するというような形になっていて,若干,誤解が生じるような記載になっているのではないかと。そういう趣旨ではなく,3の(2)で515条と同じ規律になる形になるので,その場合にはこちらでもそうなるという御趣旨だと思いますので,そこは疑義が生じないような書き方にしていただくといいのではないでしょうか,今の理解が正しいならですけれども。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。「混同」について。 ○三上委員 手短に,前回の議論で免責的債務引受の際に物上保証と同じように保証を引き継げるようにしてほしいというお願いをしまして,その際に保証人の保護の話も議論になったと思うんですが,8ページの5の(4)の規定をそのまま準用すれば,免責的債務引受にも適用できると思いますので,これを同じような規定をそちらのほうに設けていただければと思います。 ○鎌田部会長 そこは検討させていただきます。 ○高須幹事 「免除」のところですが,よろしいですか。「免除」の資料10ページのところでございます。ほぼ確認だけの問題だとは思うのですが,今回,「第3 免除」のところで,いわゆる単独行為の構成を採った上で,債務者の利益を害することはできないというただし書を設けるという案が本文として出ているとことの趣旨ですが,(概要)(備考)欄を読むとこれは損害賠償責任の発生を認めるという趣旨と理解されます。   それに対して,(注)のほうは従来の合意構成という可能性を残して,一定の場合には免除が一方の意思のみではできないという余地を残すという案になっています。そうだとした場合に(注)があるものですから,本文で免除によって債務者の利益を害することはできないと書くと,その場合にも免除ができないかのような印象を受けてしまいます。全くの誤解なのかもしれないのですが,そんな可能性がちょっと弁護士会のバックアップ委員会などでも出たりもしたもので,仮に私の理解が間違っていなければ,(概要)のところの2行目から3行目のところにかけて,債務者の利益を害することはできないとする趣旨は何かという説明を付け加え,それは損害賠償責任の発生を認めるものであるということをもう少し,明確にしていただいたらいかがかと思います。前提が全く違っていれば話しは別ですが,そういう趣旨であれば,そのほうが分かりやすいかと思っております。 ○鎌田部会長 ほかに「免除」及び「混同」に関しましての御意見はございますでしょうか。 ○岡委員 今の高須さんの発言につき事務当局は如何ですか。 ○松尾関係官 高須幹事のおっしゃった趣旨で書いておりますので,書き方を検討させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかによろしいですか。よろしければ,「第5 契約に関する基本原則等」について御審議を頂きます。一括して御意見をお伺いいたしますので,御自由に御発言ください。 ○大村幹事 太文字で書かれている提案そのものについては,異論があるわけではないですが,説明について希望を申し上げます。1の「契約内容の自由」の(備考)欄の説明のうち,「契約自由の原則に属するその他の自由」という項目があり,この中で,契約の相手方を選択する自由,あるいは契約をするかどうかの自由というのを規定しない理由が書かれております。この二つの自由についてパラレルな形で説明がされておりますけれども,このうちの契約をするかどうかの自由については,契約交渉段階に関して規定を置くということが提案されていますので,それとの関係が明らかになるような説明をちょっと加えていただくとよいかと思います。 ○松本委員 12ページ,(備考)のところについての趣旨についての質問なんですが,12ページの上から4行目,それから,5行目のところ辺りに法令という言葉が出てまいりまして,契約自由の原則に対する制約原理の具体的な内容には触れず,それぞれの法令に委ねていると。ここで言うそれぞれの法令というのは,民法以外の取り分け行政規制的な意味の法令を考えられているのか,民法も入っているということなのか。民法自体にも契約自由の原則についての一定の制約原理があるのではないかと思います。すなわち,従前の議論でも契約正義の原則を民法に掲げるべきだという意見があったはずですから,そういう趣旨も含んでいるのかどうか,ここで言う法令は何を指しているのかについて少し御説明ください。 ○筒井幹事 もちろん,民法も含めてという趣旨です。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○山本(敬)幹事 13ページの「付随義務及び保護義務」について,少し修正の提案をさせていただきたいと思います。   2点ありまして,まず,ここでは付随義務と保護義務の問題が一文の形で挙げられていますけれども,かなり性格の異なる問題ですので,(1)と(2)に分けて書くほうが,何が提案されているかということが分かりやすくなるのではないかと思います。   もう一つは,以前の部会のときに,ここでの問題と後ろの情報提供義務の問題にまたがる問題として,特に相手方の生命,身体又は財産に危害が及ぶ可能性のある情報については告げなければならない義務があるという結論については争いがないとしても,それがどこで受けられているのかという点についてやり取りがあったと思います。私もその際にその点が分かりにくいということを申し上げましたが,結論が一致しているのであれば,3の「保護義務」の部分で,これだけですと「当該契約に基づく債権の行使又は債務の履行に当たり」とされていて,締結段階が拾えているようには少なくとも読めませんので,その前に「契約の締結及び当該契約に基づく債権の行使又は債務の履行に当たり」というような形で,締結段階についても少なくともカバーされていることが明らかになるほうが望ましいのではないかと思います。これが修正提案ですが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 ただいま,御提案のありました点について何か関連した御発言はございますでしょうか。 ○高須幹事 確か分科会だったと思いますが,議論した覚えがございまして,今,山本先生が御指摘になったようなこと,二つ目のほうの話でございますが,契約締結時における保護義務ということを意識的に表現するということは大切なことかと思います。 ○道垣内幹事 契約締結時に一定の保護義務があるということを否定しようとして発言しているわけではないのですが,現在,部会資料として配られております3のところにおきましては,「当該契約の趣旨に照らして必要と認められる」ということが全体に掛かってきているわけでして,「相手方の生命,身体,財産その他の利益を害しないよう」というところにも掛かってきているのだろうと思います。そして,私はそう解さないとおかしいと思っています。例えばある財産の保管に当たって注意義務を低減しているときには,そうでないときに比べて,どのような行為をすべきであったのかは変わってくるはずであり,契約においてしなくてよいとか,すべきであると規定した内容というのは,保護義務に関しても関係してくるべきだと思います。   しかるに,契約締結時の過程の問題というのは,「当該契約の趣旨に照らして」ということとは少し離れてくるわけです。そうしますと,契約締結段階の保護義務の話もここに併せて載せるということに,あえて反対するつもりはないのですけれども,もし,そうするのならば,当該契約の趣旨ということについて注意を払う必要があるのではないかと思います。 ○中田委員 3については,ここで出されている規範と契約解釈及び信義則との関係が必ずしもはっきりしないことが,今のような問題に表れているのではないかと思います。(概要)では付随義務については「信義則に基づき」ということが書かれているのですが,本文では書かれていないわけです。仮に,この規範は契約解釈あるいは信義則を具体化したものなのか,そうではなくて,第三の領域なのかということがもしはっきりしているのであれば,そこを明らかにした上で整理をするということが必要ではないかと思います。 ○佐成委員 私も今の中田委員の御意見と同じなんですけれども,要するに「契約の趣旨」と最後のまとめで書かれているにもかかわらず,信義則との関係がはっきり分からないということです。特に前段部分に「明示又は黙示に合意されていない場合であっても」と書かれているものですから,契約とおよそ離れて信義則で別途,出てくるような印象も受けるわけです。読み手に分かりやすくしていただきたいというところがございますので,その辺りを整理していただければと思います。 ○山本(敬)幹事 「当該契約の趣旨に照らして」という文言が入っているのは,以前の部会の議論を踏まえてのことだと思います。ここで問題になっているのは飽くまでも契約上の義務であり,契約上の義務違反に基づく責任等であるとするならば,ここで認められる付随義務,そして,保護義務についても契約との関連性が示される必要があるのではないかという議論がありました。それを踏まえて「当該契約の趣旨に照らして」という文言が入れられているのだろうと思います。表現がこれでよいのかどうかという点については,なお検討の余地はあるかもしれませんけれども,契約との関連性が示されなければおよそ第三の領域でもなく,不法行為と全く変わらないではないかという話になりかねないと思います。そのような趣旨で入っているということを踏まえて,表現の適否を考える程度ではないかと思います。   ただ,先ほど道垣内幹事が御指摘された問題に関して言いますと,保護義務についても,契約との関連性が示されないと,ここで定めるのが適当とは言い難いかもしれないということを申し上げました。それは,契約の締結段階でも変わらないと思います。どのような契約を締結するかという観点から,相手方の生命,身体,財産等の利益についても,どのような情報の提供ないし説明をすべきかということが決まってくる。どのような契約を締結しようとしているかということが指針になってくるという点においては,締結前でも変わらないのではないかと思います。それを超えて一般的に相手方の生命,身体,財産等の利益を害さないようにするという義務が否定されるわけではないでしょうけれども,それはここでの債務不履行責任を基礎付ける前提としての保護義務の問題とは,一応別になる。ここで定める以上は,このような限定があったほうがよいと私は理解しています。 ○中井委員 この「契約の趣旨」という言葉について,今,山本敬三幹事がおっしゃられた意味を私なりに理解しているところを申し上げると,かつては契約の趣旨対社会通念という対立構造もありましたけれども,そうではなくて,契約の性質,目的若しくは当事者の知識,経験に,例えば取引通念なども加味して解釈されるところの契約の趣旨,そういう契約の趣旨に基づいて保護義務なりが生じてくると理解しております。そこで,ここの「契約の趣旨」が,今,申し上げたものを含んで導かれるものであるということは,どこかに書かれるのか。それとも,それは理解としてそうだということを出発点として,あとは契約の趣旨に照らして判断するのだと,この辺りについて確認をしておきたいんですが。 ○筒井幹事 いろいろ御議論はあり得ると思いますけれども,私自身は,契約の趣旨という言葉は,もともと取引通念なども含めて解釈されるという意味を持っているという理解をしておりました。しかし,そのことが誤解されるおそれがあるという指摘があり,これまで議論が行われてきたということもありますので,今回の中間試案では,履行請求権の限界事由のところで1か所だけですが,ブラケットで囲んで,その内容を書いたということであります。この「たたき台」では,契約の趣旨という文言にこのブラケットを繰り返し付するのは煩雑でもあるので,それは避けましたけれども,中井委員の御発言はそれが分かるようにしたほうがよいという御趣旨だと受け止めましたので,適宜,参照されるような書き方の工夫を考えてみたいと思います。 ○鹿野幹事 先ほど道垣内幹事と山本敬三幹事がお話になった,契約締結過程における保護義務ないし付随義務のことについて一言申し上げます。確かに契約をまだ締結していない段階であっても,当該当事者がどういう契約関係に入ろうとしているのかを観念できる段階があるかもしれません。しかし,契約締結過程の義務一般に契約の趣旨という概念を及ぼすのは,行き過ぎであるように思います。契約締結過程といっても,最初から対象が明確に定まっている場合ばかりではなく,ごく漠然としたものから,やり取りを積み重ねていって次第に具体化し,最終的に契約が締結されるということもあると思いますし,その漠然とした段階であっても保護義務は問題となり得ます。ですから,結論を申しますと,もし,ここで契約締結過程の保護義務等を提案するのであれば,道垣内幹事がおっしゃったように,既に契約を締結した当事者間の義務とは別立てで,契約締結過程の義務の規定を設けるという提案のほうが,誤解がなくてよいと私は思います。 ○岡委員 付随義務のところに関する質問でございます。2点,あります。前回の部会資料ですと,「債権債務関係における信義則の具体化」という見出しの下に,ゴシック体の中に信義則という言葉が入っておりました。今回はゴシック体からは落とし,(概要)には書かれている。ゴシック体からは今後,信義誠実の原則というのはそぐわないということで落とす決断をされたのか,されていないのか,もし,されたとしたら,どのような理由なのかを教えていただきたいと思いました。信義誠実の原則というのは非常に実務家としては使いやすい言葉で,それが今後,どうなるのか。先ほど中田先生が第三のジャンルとおっしゃいましたけれども,ゴシック体における信義則という言葉の今後の位置付けみたいなものについて,何か決められたことがあるのだったら,教えていただきたいというのが1点でございます。   もう一つは,ゴシック体の3行目の「当該契約によって得ようとした利益を得ることができるよう」という,この表現はなかなか違和感があるといいますか,契約の目的という言葉を避けようとされたんだと思いますけれども,余り評判がよくなかった状況でございます。だったら,いいのを考えてこいと言われると思うんですが,対案が直ちにあるわけではありませんが,何かこれでこなれているのかという疑問がございました。その2点です。 ○筒井幹事 この部分の書き方や,その背後にある考え方などについて,まだまだ,議論を深めていく必要があり,中間試案レベルでももう少し工夫の余地があるだろうと思いますので,考えてみたいと思います。それとは別に,今,岡委員から御質問があった信義則という言葉を使うのかどうかということに関して発言します。これまでの議論で,信義則の具体化とされる論点が幾つか取り上げられていますが,それを条文イメージとして表現する際に民法1条2項の信義誠実の原則という言葉を繰り返し使うのかどうかという点ですが,これについて現段階で確定的な考え方を持っているわけではありませんが,しかし,信義則の具体化というからには信義則という言葉を使わないでその具体的な内容を書いていかないと,本来,それを具体化したことにはならないのではないかという感触を持っております。そういう趣旨で,信義則という言葉を使わないで他の言葉で語る努力をしていきたいとは考えております。   現在も民法の中に,それは信義則の具体化であると言われている規定はあると思いますが,そこでは信義則という言葉は使われていないと思います。それと同様に,信義則の具体化としての規定を新たに設けるに当たっては,言葉をできるだけ工夫して書いていこうと考えております。これは書き方の問題ですから,最後まで議論があり得るとは思いますけれども,今の時点でも御意見があれば伺いたいと考えております。 ○大村幹事 山本敬三幹事が最初におっしゃった問題のうちの第2点について,契約締結前の保護義務をどうするかということで,実質について,それを認めることについて異論はなかったのではないか,ただ,それをどこに書くかということについて争いがあったと整理をされたかと思いますけれども,そういうことであるのならば,実質のほうをここで確認していただいて,その実質がどこかに現れるようにしていただくということがまず大事なのではないかと思いました。   どこに置くかということについては,山本敬三幹事がおっしゃったのは,ここに置くべきだという主張だったのか,十分に理解できなかったのですけれども,私自身はもう一つおっしゃった契約交渉段階に置くという選択肢もあり得ると思っております。道垣内さんや鹿野さんの御発言もあるいはそういう趣旨かもしれませんけれども,規定を置くかという問題とその位置をどこにするかという問題を切り離す形で,何とか処理をしていただきたいと思います。 ○山本(敬)幹事 補足ですけれども,以前の部会の折に,私はむしろ締結段階のほうに書くべきであるという提案をしたところ,必ずしもそうではなく,前のほうで受けられるのだというような意見も出ました。今回,後ろのほうを見ますと,この点が出ていませんので,他の意見のほうがコンセンサスを得ることができる案として受け止められたのかなと思いまして,それならばこちらできちんと書いてくださいというお願いをしてみたという次第です。ですので,もし締結段階で書くことについてコンセンサスが得られるのであれば,私としてはむしろ本意ですので,それであればよいと思いますが,むしろ,大村幹事に言っていただいたように,おそらく結論は一致していると思いますので,どこに書くかについてコンセンサスが得られないので,そもそも書かないということだけはどうかやめていただきたいというのが私の意見だということを申し上げておきます。 ○中井委員 関連してですけれども,この義務が存在することについては,大村幹事がおっしゃるように皆さんの中では相違がない。どこに書くかということになって,二つに分けるという案が何人かの方から出ました。しかし,私は部会のときでも申し上げたかと思いますけれども,契約の締結段階もそうですし,契約が締結された後の履行の段階でもそうですし,更に,契約が終了してから後の段階も理念的にはあり得るだろうと。分けるということについては,契約終了後の清算過程における義務がどのような形で顕在化するかどうかはともかくとして,契約過程全体を通じた理念ではないかと思っています。そうだとすれば,契約に関する基本原則の一番頭の部分で,全体をカバーするような形で規定されるのが基本的には望ましいと考えております。具体的な言葉としてどのように書けるかどうかは,更に御検討いただきたいと思っています。 ○岡崎幹事 私も3の「付随義務及び保護義務」に関して,一言,申し上げたいと思います。(概要)欄についての意見で申し訳ございませんが,下から4行目に「多くの裁判例によっても認められ」と書かれています。その意味は,裁判例では,信義則という一般条項の解釈を通じて,妥当な解決が図られているということだと思いますけれども,これは飽くまで個別具体的な事実関係の下で,そのような解決がされたということであって,多くの裁判例がこういう一般論を言わば法理として示しているかというと,必ずしもそうではないと考えます。仮に裁判例について(概要)欄で言及なさるのであれば,その辺りが明らかになるような表現ぶり,例えば「個別具体的な事実関係の下において,これらの義務違反を認めた裁判例もある」というような表現があり得ると思いますけれども,そういった工夫をなさっていただくと,よろしいかと思います。   もう1点,ここでも(注)が付されていますが,(概要)欄では(注)について特段の説明がされていません。先ほどの筒井幹事の御説明によりますと,ゴシックの部分についての説明を(概要)欄に記載する御方針ということであり,(概要)欄に何を記載するかは事務当局の専権であるという整理をされているということになりますと,私が申し上げることではないのかもしれませんけれども,(注)の考え方を知りたい読者の立場から見ますと,補足説明を見なくても,(注)で示された考え方がどういう視点に立脚しているのかが簡単に分かるよう(概要)欄に記載していただいた方が,便利ではないかと考えます。   例えば,ここでは「(注)の考え方に関して,1条2項の信義則の規定と重ねて規定を置く必要はなく,一般条項を定式化することについては,いろいろな懸念があり得る」という趣旨の説明になると思いますけれども,ごく簡潔で構いませんので,そのような御説明を入れていただく方がよろしいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 1の「契約内容の自由」ですけれども,冒頭,松本委員から「法令の制限内において」の「法令」が民法を含むかという御質問がありましたが,ほかに特に御意見もないとすると,ここで法令という言葉で決まってしまうような気もするんですが,更に検討はしておいたほうがいいかなと思っております。それについては前回,確か,山野目幹事から法令という言葉がどのような使われ方をしているのかを考えた上で用いたほうがよいという御指摘がありました。それから,仮にこの規定が翻訳されて外国に向かって示されるときに,どのように訳されるのかなということが若干気になります。モデル立法なんかですと,強行法規とか強行規定という言葉を使っているのが多いと思うんですが,それが何も制限がなくて,法律あるいは命令で決めれば何でも制約できるということになると,ニュアンスが違ってくるのかなという感じがしますので,更に検討してはどうかと思います。 ○鎌田部会長 206条よりもより厳格な要件を課することが妥当かというふうなバランスも考えなければいけないと思いますので,少し事務当局のほうで検討していただきます。   ほかにはいかがでしょうか。   それでは,次に「第6 契約交渉段階」について御審議いただきます。一括して御意見をお伺いしますので,御自由に御発言ください。 ○大島委員 第6の「契約交渉段階」の記載ぶりについて,2点,意見がございます。   まず,1の「契約交渉の不当破棄」についてですが,試案の内容は契約の締結前であれば,当事者は交渉をいつでも取りやめることができるという原則を明文化すると同時に,例外として損害賠償義務を負う場合があることを明示しているものと思います。しかし,中小企業の経営者など中間試案を読む方に対し,契約交渉の不当破棄を明文化しようとした趣旨が正確に伝わるかについては,やや疑問がございます。例えば原則と例外を別項目にするとか,あるいはただし書以下が本規定を置く主たる目的であれば,原則の部分を不要とするか,又はその表現を改めるなど,簡潔,明瞭な記載ぶりを御検討いただきたいと思います。   そして,2点目は次の14ページの2の「契約締結過程における情報提供義務」についてですが,これもただし書の記載は分かりやすいと考えますが,本文の記載は中小企業の経営者などの専門家以外の人には理解しづらいのではないかと思います。本文の記載は,契約を締結すべきかどうかを判断するための基礎となる情報は,各当事者が自己責任で収集することが原則であることを明文化したものと考えます。本規定についても先ほどの1の「契約交渉の不当破棄」の規定と同じく,本文とただし書の関係について別項目にするか,あるいはただし書以下が本規定を置く主たる目的であると思われますので,原則の部分の表現を改めるなど,簡潔,明瞭な記載ぶりを御検討いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○三上委員 「情報提供義務」のところで,内容は当初の提案と比べて非常によく考えられたものになっていると思いますが,金融機関としては,この文言では情報保有者側の事情が考慮されないのではないかという懸念が残ります。具体的には,金融機関の守秘義務です。例えば店頭に振込契約に来られたお客様の振込先がその日に二重不渡りを出したことを銀行は知っていた。当然,それをお客さんに説明すると,例えば旅行代金の振込みだったら,振込みを取りやめられたはずだと。しかし,それは守秘義務の関係上,言えない。そういう事情はこの文言から出てこないのではないか。そういう意味で,情報提供するに支障のない場合に限るような言葉の修正ないし,御配慮を賜ればと思います。 ○大村幹事 今の点と関連するのですが,6の1の「契約交渉の不当破棄」,それから,2の「情報提供義務」で考慮すべき要素として挙げられているものが,どのくらいの具体性というか,提案としての熟度を持っているのかということについて,お考えをお聞かせいただきたいと思います。1と2を比べますと,一切の事情の中に挙がっているものは,共通なものも多いですけれども,違うものもございます。これは十分に一つずつ検討された上でこの差が出ているということなのか,あるいは三上委員がおっしゃったように,まだ,ここに何を入れるかというのは検討の余地があるが,こういう形のものを作るということが想定されているということなのかということについて,お伺いしたい。お伺いしたいと申し上げているのは,(概要)や(備考)を見た限りでは,そのところが必ずしもはっきりしないように思うからでして,今後,そこを詰めるということだと思います。そこのところを念のために確認をさせていただければと思います。 ○笹井関係官 これは,先生がおっしゃいましたように,今後,更に詰めていくことを前提としたものです。例えば不当破棄であれば進捗状況などが大きな要素になってくると思いますので,それぞれの性質に応じて,意識的に内容を変えてはおりますけれども,これが確定的なものであるということではございません。 ○佐成委員 1と2に共通ですけれども,原則,例外という形で提案されているというのは,この提案それ自体への賛成,反対は別にしまして,非常に分かりやすいということです。表現を改めるにしても,このような構造は維持して提案していただければ,有り難いと考えております。 ○沖野幹事 2点,あります。今,佐成委員が御指摘になった点でもあり,あるいは大島委員の御懸念の点でもありますけれども,しかし,原則は何かということを示すということは非常に重要な点だと思います。その場合に1のタイトルなのですけれども,1は「契約交渉の不当破棄」となっているんですが,ここを「締結の自由と契約交渉の不当破棄」と書いてはどうでしょうか。先ほどの基本原則のところで,契約締結の自由についてはまた後ほど言及があるとされたこととも整合しますので,この内容を書くならば,タイトルをそのように考えてはどうかというのが一つです。   もう一つは,大村幹事からも御指摘のあった点に関わる,その更に細かなことなんですが,1と2を比較した場合の特に2についての(2)で14ページの下から2行目ですが,契約の性質,相手方の知識及び経験となっておりまして,2の中では相手方というのは,言わば情報優位者を想定されていると思うんですが,ここはむしろ当事者,あるいは各当事者というか,両当事者のほうがよろしくないでしょうか。ちなみに,1では当事者の知識及び経験となっており,相対的にそれぞれがどのような知識,経験があるかということが重要なように思われますので,もちろん,一切の事情ですから,もう片方の当事者の状況も入ってくると思うんですけれども,あるいは1と2で特にここは相手方に限定されたとすればその趣旨を説明していただくと,そういうことなのかと思うという面もあるかもしれませんが。 ○笹井関係官 これは誤記だと思いますので,修正させていただきます。 ○山本(敬)幹事 2の「契約締結過程における情報提供義務」のただし書部分の(1)(2)(3)の書き方及び位置付けについて,意見を申し上げたいと思います。(1)は前からも出ていたかと思いますが,これは,この要素を加味しないと,過剰な情報提供義務の負担を課せられることになるという点ではよいだろうと思います。   問題は(2)と(3)で,(2)は要するに「一切の事情に照らし,その当事者の一方が自ら当該情報を入手することを期待することができないこと」となっています。この要素の位置付けなのですけれども,その人が当該情報を入手することが期待できなければ,その契約の相手方は情報を提供しなければならないかというと,必ずしもそのようなものではなくて,むしろ,情報を提供しなければならないとしても,その人が自分で情報を入手することが期待できるときには,そこまで情報を提供する必要はないという意味で,消極要件的な要素になるのではないかという印象があります。   例えば,その当事者が既に情報を知っている場合は提供する必要は当然ありませんし,その人がむしろ自分で調べることができるし,それが期待されているときには,提供する必要はないという形で働く要素であって,ほかの要素とこの2が並ぶものではなく,位置付けを消極的な形にする必要があるのではないかと思います。理論的にもそうですし,実践的にもそうではないかと思いました。   (3)の書き方がまた難しくて,非常に工夫をされたのだろうと思います。その内容で当該契約を締結したことによって生ずる不利益をその当事者の一方に負担させることが相当でないこととなっています。例えば,一方が専門家で,他方が素人だという場合には,情報提供義務が認められやすいということが言えるだろうと思います。   そのような場合に,その契約を締結したことによって生ずる不利益を素人のほうに負担させることが相当でないことというのが考慮要素なのか,むしろ,そうではなくて,そのような場合には専門家のほうに情報を提供させるような負担を課すことがむしろ期待される,つまり考慮要素としては,情報を提供しなければならないとされる者に,情報を提供しなければならないと期待されることが,むしろポイントになるのではないかと思います。ですから,(3)の中身は,(2)に挙げた事情に照らして,相手方が当該情報提供することを期待することができるというのが考慮要因になるのではないかと思いました。   情報の提供を受ける側に不利益を課すことが期待できるかできないかというよりは,情報提供義務を課されるほうに,情報を提供すべきであるという負担を課すことが期待できるかどうか。そうしますと,最初のほうで三上委員がおっしゃっていたような,何らかの事情からそのような情報を提供することが期待できないというような要素も,そこでカバーされていくのではないかと思いました。  分かりにくい言い方をしたかもしれませんが,(1)(2)(3)をこういう形で並べるよりは,もう一段,工夫をする余地があるのではないかと思った次第です。 ○中井委員 2の「情報提供義務」自体を今回の民法改正で取り上げて,これを明文化していくという基本的な考え方については,弁護士会は賛成です。その上で,この情報提供義務をどのような形で明文化するかについては多方面から意見があり,強い反対意見もある中で,このような形で要件化を検討されているということは,十分,理解できるところではあります。ただ,この情報提供義務の規律の仕方については,本文で損害賠償する責任を負わないということを書いた上で,ただし書という構成を採ろうとしたわけです。これはその前の「契約交渉の不当破棄」の構成にある意味で倣ったのではないか。ただ,果たして同じようなレベルで倣う構成がいいのか,是非,見直していただけないか。   つまり,「契約交渉の不当破棄」は契約を締結するか否かのまず自由があるのだろう。それに対して交渉を続けていても,原則,契約締結する義務を負わない,ある場面で契約締結しなかったら損害賠償義務を負う場合がある。そこの要件化がただし書以下に精緻になされているという理解です。それに対して,「情報提供義務」は同じ構造なのだろうか。取り分け,賠償責任を負わないところの書き方が果たしてこれでよいのか,弁護士会の中ではかなり疑問が出ていました。むしろ,ただし書以下のところ,これは最終的には信義則の問題になるのだろうと思っておりますが,信義則上,提供すべき情報を提供する,それだけでは分からないから,その具体化を図っていく。それを正面から書いたほうが分かりやすいのではないかと感じております。   では,そのときの要件化について,ここでは認識可能性,期待可能性,不相当性という三つの要件を取り上げて,ある意味で,絞ろうとしているわけですけれども,なるほど,そういう捉え方もできるのかとは思いつつ,例えば今の山本敬三幹事の御説明を聞いても,この要件は精緻に組み立てないと,議論はまとまらないのかなという印象を持っております。   そうだとするとですけれども,裁判例の中では具体的事実関係の下で情報提供義務が認められている,若しくは説明義務が認められているわけですけれども,そこの一般化した要件は,ある意味で,正直に言って漠然としたものではないか。それは従来から言われているようにというのでしょうか,従来,言われていたというか,提案されていたのがあったかと思いますが,それは契約を締結するか否かの判断に,通常,影響を及ぼすべき情報について様々な事情,契約の性質とか,各当事者の知識や経験,取引経過など,そういう一切の事情を考慮して,結局は信義則に基づいて提供すべき場面で提供義務が発生するのではないか。   これが要件なのか,という御批判があって,だからこそ,その精緻化が進められているんだろうとは思いますが,果たしてその精緻化した要件ということができるのか,そういう方向で進むのがいいのか,私が申し上げたいのはある意味で裁判例上の最後の取りまとめの言葉ですから,結局は,そういう包括的な諸事情を挙げた上で,情報提供義務の存在を認める,そういう方向性も,十分あり得るのではないか。このような提案ともう一つ,そのような方向性での提案を取り上げることができないかと感じております。   具体的には本日,配布させていただきました大阪弁護士会有志案として書面化しておりますが,これがその対案でございます。これでは要件化になっていないという御批判があるのかもしれませんが,別の方向として,もう一度,御検討いただけないかと思って提示する次第です。 ○岡委員 「情報提供義務」の書き方で,先ほど筒井さんがおっしゃったように信義則の具体化をできるだけ努力するということで,(1)から(3)が出てきたものだと理解しております。弁護士会で議論していたときも説明義務にはいろいろな局面があると,医者の手術に関する説明義務もあるでしょうし,消費者に対する投資についての説明義務もあるでしょうし,労働者の就職に際しての過去の経歴,前歴,前科だとか,懲戒処分歴だとか,そういうことに関する説明義務もあるだろうと。   向きも局面も非常にばらばらなので,それを一つの言葉で頑張って書くのが立法作業だといえばそうかもしれませんが,特に最後の労働者の過去の経歴等に関する説明義務については,(3)で先ほど山本敬三先生がおっしゃったようなところで乗り越えるしかないのかなという議論をしておりましたが,労働契約では相当,判例の積み重ねもあるはずです。でも,弁護士も自分の得意分野しか詳しくありませんので,この(1)から(3)で,労働者の説明義務から医者の説明義務から投資業者の説明義務まで,全部,本当にうまくやれているのかという疑問が生じました。そうなると,大阪提案のようにもう少し抽象的な表現でやったほうが実務的ではないのか。そういう意見もございました。 ○中田委員 「情報提供義務」のところで,「その内容で当該契約を締結しなかった」という表現になっている点についでです。問題となっている情報は,まず,契約を締結するか,しないかについての情報,第2に,その内容あるいはその条件で契約をするかどうかについての情報,それから,3番目に契約の履行に関する情報があると思うんですけれども,この提案は第2のその内容での契約締結に係る情報だけではなくて,第1の契約を締結するか,しないかについての情報も入っているのではないかと思います。ところが,その点がゴシックのところで必ずしもはっきりしていないと思いますので,それが入るのであれば,はっきりさせたほうがいいのかなと思いました。他方で,第3の例えば目的物の使用方法といった契約の履行に関わる情報というのは,多分,入っていないんだと思いますけれども,そうだとすると,それも説明をしておいたほうがよいように思いました。 ○鎌田部会長 それぞれ,御指摘いただいた点を事務当局において,更に詰めて検討させていただきたいと思います。ほかに「契約交渉段階」に係る御意見はございますでしょうか。   それでは,続きまして「第7 契約の成立」について御審議いただきます。一括して御意見をお伺いしますので,御自由に御発言ください。 ○安永委員 第7の「契約の成立」の「1 申込みと承諾」について,(2)のような規定を入れる場合は労務供給契約の成立が従来よりも厳格に解釈されないような規定ぶりとなるよう,御配慮いただきたいと思います。理由の詳細は本日提出した意見書で御確認いただければと思います。   3の「承諾の期間の定めのない申込み」の(1)の部分については,ウイーン売買契約条例第16条を参考とする案を本案として併記していただきたいと考えます。今回,提起をされている(1)の提案については,第二ステージの審議で初めて提案をされ,論議が行われたものですが,その際,第49回部会では「法務省提案では最高裁判例を維持できない」という指摘や,「ウィーン売買条約を参考としてはどうか」という意見が出され,それを受けて「これらを踏まえれば,法務省提案で了とした意見が変わる可能性がある」という意見や,「法務省提案とともに,ウイーン売買条約を参考とする提案も今後一つの選択肢としてはどうか」といった意見が寄せられたところであり,部会審議を通じて法務省提案以外の案も有力視され,今後これらを念頭に置けば意見が変わりうる可能性が見られたように記憶をしております。こうした点を踏まえれば,ウイーン売買条約を参考とする案という部会審議を通じて有力になった案も,法務省提案とともに本案として明記し,その概要とともに,手続として少なくとも一回はパブリックコメントに掛けて,広く意見を募る必要があると考えます。   また,本論点については,パブリックコメントに掛ける際は法務省提案と,辞職届と撤回をめぐる最高裁判例との関係を明記することは必須であると考えます。なお,主張の詳細については,本日提出した意見書,及び,第49回部会に提出した意見書をお読みいただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○筒井幹事 安永委員からは,意見書を別に用意して審議の進行に御協力いただきまして,ありがとうございます。詳細な内容を記していただきましたので,十分,検討したいと考えております。   御指摘いただいたもののうち,本文レベルでの修正を御提案いただいております「3 承諾の期間の定めのない申込み」につきましては,御指摘のような意見があったのはそのとおりだと思いますけれども,隔地者の間という限定を取り除くという考え方がこれまでのところ比較的多くの支持を集めているであろうという認識の下に,現在,このような案を提示しているわけです。御指摘のような別の考え方が提示されていることは,補足説明など何らかの形で紹介しながら,パブリックコメントに付することができるような工夫を考えてみたいと思います。 ○山川幹事 甲案,乙案という形で表記することが,一体,どのような基準でなされるのかという点を必ずしも承知していなかったんですけれども,私も実際上の影響力が,労働関係については大きくなる可能性があるので,そのような取扱いが可能であればお願いしたいと思います。   1点,補足は最高裁判例と抵触するということを,私の意見としてお書きいただいているようですが,そのままのとおりだったか,記憶ははっきりしないんですけれども,厳密に言えば,最高裁判例の前提とするルールに抵触するということになろうかと思います。要するに,労働者が合意解約の申込みをして,その場で人事部長は承諾したけれども,一晩たって撤回をしたところ,人事部長が承諾したことによって合意解約が成立しているという判断がなされたのですが,もし,撤回ができないということになりますと,使用者が承諾する前に撤回したという主張自体が失当になってしまうおそれがあります。このように,昭和62年9月18日の最高裁判決の前提とする法的ルールに抵触することになるのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 先ほど安永委員から御指摘のあった部分に関連して,意見書の3ページあたりに挙がっている部分について,補足だけさせていただきたいと思います。  私自身,前の部会のときに,国連物品売買契約に関する国際連合条約の16条が参考になるのではないかということを申し上げました。そのときに考えていたのは二つの点でして,一つは,今日の部会資料でいいますと17ページの「承諾の期間の定めのある申込み」の部分についてです。現在の提案は,「承諾期間を定めてした契約の申込みは撤回することができない。ただし,申込者が反対の意思を表示した場合は除く。」という提案になっています。   先ほどの国連条約のほうでいいますと,撤回できるという前提を採った上で,どのような場合に撤回できないかということを定める際に,承諾期間を定めているかどうかに関わりなく,要するに撤回することができないものとすることを示していた場合という形で定めています。それに対して,現在の提案は,承諾期間を定めてしたかどうかで決めてしまうという態度ですけれども,私は国連条約16条の立場のほうが合理性があるのではないかなと思って,そのときに発言しました。それがコンセンサスを得られないというのであれば仕方がないと思いますけれども,この国連条約も日本法になっておりますし,非常に大きい重みを持つものであって,しかも,今,申し上げたような意味で合理性があるとするならば,もう少し考えてみる余地があるのではないかと思います。   もう1点は,今日の部会資料でいいますと,20ページの6の到達主義を採ることとの関係で,撤回が認められる場合に,その撤回の通知がいつまでに到達すればよいのかということが問題になります。現在は発信主義ですので,承諾の意思表示を発信するまでに撤回の意思表示が到達しなければならないということでクリアなのですけれども,だからこそ,527条のような規定があったわけですが,到達主義によるとなりますと,承諾の発信時までに撤回の通知が到達することが必要なのか,それとも,承諾の通知が申込者に到達して,契約が成立するまでに撤回の通知が承諾者に到達していれば足りるのかという新しい論点を生むことになります。このままですと,この点についてルールが何も書かれていませんので,かなり大きい問題を残す可能性があります。ですので,単純に527条を削除するのではなくて,撤回の通知がいつまでに到達すれば,撤回の効力を有するのかという規定を設ける必要があると思います。   前の部会のときに申し上げたのは,考え方は分かれるかもしれませんけれども,承諾をする人の期待ないしは契約成立の期待を保護するという観点からしますと,承諾の通知を発するまでに撤回の通知が到達することが要求されてもよいのではないか。そして,国連条約16条もそれを採用しているので,そのような規定を設けたほうがよいのではないかということを申し上げました。これも先ほどと同じでして,コンセンサスが得られないということかと,一旦,思いはしたのですけれども,かといって規定しないと,何もルールがないままではかなり大きい問題を残すと思いますので,結論としてどうであれ,何らかの規定を必ず設ける必要があるのではないかということを改めて申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 「契約の成立」に関する御意見,ほかには。 ○山野目幹事 別の論点にいってよろしいでしょうか。19ページの5の「申込者及び承諾者の死亡又は行為能力の喪失」の論点でございますけれども,ここに(1)(2),それぞれ1か所ずつ「意思能力を喪失し」という概念が登場してまいります。部会資料53,第2で意思能力を議論したところの理解を踏まえて言えば,これは法律行為の効果内容を理解する能力という意味で用いておられるものであろうとは理解いたしましたが,そうであるといたしましても,意思能力は一時的に失うことがあり得るものでありまして,薬物などによってするようなこととか,あるいは疾病,疾患等によって一時的に失うようなこともあると思います。そういう場合も射程に含めた規律の御提案ではないだろうと想像しますから,表現ぶり等は最終的に法文にするときの段階の作業としてはお任せしますけれども,意味は意思能力を喪失した常況になったことという趣旨であると私は受け止めました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○松本委員 国連のウイーン売買条約をどこまで参考にするかという議論が出ているわけですが,確か私の記憶だと日本法と違った概念,すなわち,この条約の日本語訳だと撤回という言葉と,それから,取りやめという余り法律用語的でない熟語が与えられているところの,英語で確か一方がwithdrawで,もう一つがrevokeという異なった用語が使われています。ところが,日本の民法ではそこは両者を合わせて撤回という概念で操作しています。これら二つを分けていないので,もし,ウイーン条約の考え方を日本の民法に入れるのであれば,その辺りもどちらの意味で入れているのか,ウイーン条約の日本語訳でいうところの撤回で入れるのか,取りやめの意味なのか,両方を含んでいるのかという辺りも,少しクリアにする必要があると思います。 ○内田委員 安永委員と,そしてまた,山川幹事からも申込みの撤回について労働契約に関する御指摘を頂いたのですが,撤回を認めるということになると,例えば,労働契約を締結するために使用者側がこれから雇いたい他社の人などに対して,うちで働かないかといって労働契約締結の申込みをして,それを受けた側がそれを真剣に受け取って準備をしていたところ,一方的に撤回されるということも認めることになりますが,それで本当にいいのだろうかと疑問に思います。つまり,労働契約の労働者からの合意解除の申し入れについては,確かに撤回を認めるということは合理的だと思いますけれども,一般原則として契約の成立に関する申込みの意思表示の撤回が自由にできるという原則を採ることの弊害についても,検討する必要があるのではないかと思いました。   それから,もう一つ,安永委員から,そして山本敬三幹事からもウイーン条約16条についての言及がありました。安永委員にはウイーン条約16条の翻訳も御準備いただいていますけれども,この16条は原則として申込みの撤回はできると言った上で,例外として2項の(a)(b)と二つを置いているわけです。自由に撤回できるという原則だけですと明らかに弊害があるので,それを制限するために二つの制約を置いているわけですが,この制約のうちの(b)の「撤回することができないものであると信頼したことが合理的であり,かつ,当該相手方が当該申込みを信頼して行動した場合」,これは明らかに英米法のプロミッソリーエストッペルの法理をベースにしたもので,日本法にないものです。   この制約を外してウイーン条約の1項だけを入れるということは多分,あり得ない。ウイーン条約できちんと置いている制約を外してしまうわけですから明らかに弊害が出てしまう。弊害がないように絞りを掛けようとすると,日本法にない概念を持ち込むということになって,かなり難しい問題になるのではないかと思います。ウイーン条約が原則,撤回できるとしたから,こういう制約が必要になったわけですが,この原則を採ったのは英米法がそうなっているからでして,日本法の場合には大陸法の発展を踏まえて,相当な期間,撤回できないというルールを現行民法がすでに採っているわけですので,そちらからスタートして議論したほうがいいのではないかと思います。 ○能見委員 先ほどの山本敬三幹事のご発言との関連で,私も申し込みの撤回について一言述べておきたいと思います。承諾期間の定めのない申込みがなされた場合と申込みの撤回との関係についてです。3のところに書かれている規律は,申込みに承諾の期間の定めがなくても,「相当な期間」は申込みに拘束力があるということで,その間は撤回はできないというもので,これが(1)のルールです。(2)のほうは「相当な期間」よりももっと長い期間なんでしょうけれども,「相手方が承諾することがないと合理的に考えられる期間」が経過したときは,今度は申込みの効力がなくなりますから,この場合には申込みを撤回しないでも,契約が成立することはない。従って,ちょうど,両者の中間の部分が撤回ができる期間ということになります。   それで,撤回ができる期間に申込みを撤回する行為が申込者からなされたとして,それが承諾者の承諾行為との関係でいつまで有効な撤回として扱われるかという点について何かルールを設ける必要はないのかというのが,山本敬三幹事の先ほどの御意見だったと思いますが,その部分に関しては私も同様に思います。確かにウイーン条約というのは,今,内田委員が言われたように英米法の考え方からできていて,これを日本法の中にうまく取り込むのは難しいところがあるんですが,しかし,山本幹事のご指摘のように,有効に撤回がなされるために,撤回の到達と承諾の到達の前後を比較して,撤回の到達が先であればよいとするのか,それとも,撤回の到達に対して先に承諾の通知の発信を比較して,発信よりも先に撤回が到達しないと,有効な撤回にならないと考えるのか,どっちのルールを採るかというのを明らかにしておいたほうがいいのではないかという気がいたします。この点について何もルールを設けないと,どうなるのでしょうか。承諾について到達主義を採用したことから,撤回行為の到達と承諾の到達とを比較することになるのでしょうか。論理必然的に決まるものでもないので,どっちのルールのほうがいいかという妥当性の検討とともに,ルールが明確になるようにしておいたほうがいいのではないかと思います。 ○村上委員 5について,先ほど山野目幹事が御指摘になった点は,全くそのとおりだと思います。眠っただけでも意思能力は失われますので,「意思能力を喪失し」という文言は,何らかの修正が必要かと思います。 ○山川幹事 内容にわたる議論になるかもしれませんので,ごく簡単に申します。先ほどの内田委員の御指摘の件で,確かにいろいろな場面を考える必要があると思います。ただ,労働契約の成立の場面で考えますと,労働契約の実態上,労働者のほうで申し込む,採用に応募するという場合に,労働者が応募を撤回するというのは極めてよくある話で,労働契約が成立してからも,採用内定を辞退するということは,退職の自由が認められていることとの関係もありますので,よく起きることです。もう一つ,別の人を雇うためのコストがかかるのではないかという点ですが,日本の人事慣行では雇うほうも非常に慎重にしていますので,撤回されるとすぐに雇ってしまうというようなことは,余り実際上はないのではないかと思います。すみません,ちょっと内容にわたってしまいますけれども。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。頂戴した御意見を踏まえて,事務当局で引き続き検討させていただくということでよろしいでしょうか。ありがとうございました。   それでは,ここで休憩を取らせていただきます。3時50分再開ということにさせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開させていただきます。   次に,「第8 第三者のためにする契約」について御審議を頂きます。一括して御意見をお伺いいたしますので,御自由に御発言ください。  特に御意見はないと思ってよろしいでしょうか。   よろしければ,「第9 約款」と「第10 不当条項規制」について御審議を頂きます。一括して御意見をお伺いいたしますので,御自由に御発言ください。 ○佐成委員 「第9 約款」ですけれども,二読のときに比べて「契約の内容を画一的に定めることを目的とするもの」に限定するという形で定義を修正するなど,一定の御努力をされたということはあるんですけれども,ただ,内部で議論している状況も考えますと,もともとかなり反対意見が強い論点ということもあって,現時点でも懸念の声,反対意見,慎重論というのが経済界の中では非常に強いと認識しております。   それで,私としては,私自身の意見も第50回のときにもかなり時間を掛けて述べましたけれども,民法に約款に関する規定を置くということそれ自体について,かなり否定的な意見を持っておりますし,中間試案の中に本当にこういう形で提案することがふさわしいかということについても,大変疑問は感じているところであります。けれども,そうはいっても中間試案の段階で,この論点を丸ごと落としてしまうというのも,これまでの部会の審議から考えて果たして適切かという見地もあります。そういうことを踏まえつつ,内部ではいろいろな意見もありますので,時間は限られていたんですけれども,いろいろな方にも聞いてみますと,やはりもっと激しく反論すべきだとか,いろいろ言われました。しかし,そうはいっても,筒井さんのいろいろお話とかも考えつつ,この第9に関しては,そもそもその全体に強い反対意見があるということ,1から4まで全てについて反対意見があるということを注記していただくということで,内部では「両論を併記しろと主張しろ」とまで言われたんですが,それも部会の状況から考えても余り適切ではないだろうと思いますので,(注)を付していただいて,パブリックコメントに掛けていただくということでいかがかなと思います。御検討をよろしくお願いいたします。 ○三上委員 個別のところで意見を言わせていただきますが,まず,「約款の組入要件」の2の文言なんですが,この文言ですと,まず,一つは1行目のところで約款を使う取引をした以外に,「約款を使う」ということの合意が別途,必要かのように読める。それから,同じように3行目のところに「内容を知ることができる機会を与えた」というときに,単に用意しただけではなくて,ここに用意していますよとか,ここで御覧くださいという別の行為が必要かのように読めるという指摘がございまして,これはどちらもそういう趣旨はないと思いますので,単純に「約款を用いる契約をする場合において」とか冒頭はそういう表現にして,3行目のところは「内容を知ることができるときは」と,「機会を与えた」という部分を取ってしまえば,そういう誤解を生まないのでないかと思いますので,そのような記載に御修正願えればと思います。   それから,別に言わずもがなで,(注)の「事前に約款を明示する」という部分は,弁護士会も強い要望をされておられて,そういう意見があったことは事実ですから,ここにこう記載されるのことに関しては異論はないんですが,私の考え方は飽くまで事前に明示されて読む機会があれば,その後は説明義務の問題であって,約款の組入れとか組み入れないの問題ではなくなるので,本来,この提案をここに置くのはおかしいのではないかという見解を持っております。   それから,3の「不意打ち条項」に関しては佐藤関係官の意見が先に出ておりまして,別に打合せをしてきたわけではないんですが,そのとおりで約款は不特定多数といいますか,多数の個性を相手にしますので,個々の相手方によって適用状況が変わるということでは,約款の有効性自体を疑わせることになりますから,当該約款が通常,対象にしている一般的な人々を想定した上での「標準的な相手方」であるということが分かるような何がしかの手当をお願いしたいと,趣旨は佐藤関係官が別途で述べられていることとほぼ同じでございます。   それから,「約款の変更」に関しても佐藤関係官がおっしゃっておられますことをそのまま引用したいと思います。   最後に「不当条項」ですが,事前に御説明いただいた理解で申しますと,不意打ち条項も不当条項規制も,特に不当条項規制の説明の1行目の「前記第9,2によって契約の内容となった」という限定が付いておりますので,組入れという要件を通して契約の一部になった部分に関してのみの適用ということですから,いわゆる約款のような定型的な書面を使っていても,事前に説明されたとか,事前に交渉があったとか,事前に相手方が納得した場合には組入れを経由していないので,こういった規制は掛からないという理解でおります。そうすると,内容が不当であっても事前に説明を受けていれば公序良俗に反するとか,要するに約款だからではなくて,契約そのものが問題になる場合を除いては,規制の対象にならないはずですから,結局,不意打ち条項と言っている内容は同じではないかと思います。   言い換えれば,不当条項は不意打ち条項の一部といいますか,「不意打ち」という表現が限定的であれば,それを含めるような条項にすればいいので,不十分な合意で契約の一部になった条項について,とても普通の人は想定し得ないような不当な内容だったといったような規制の内容になると思います。そうであれば3があれば十分といいますか,あるいは正しい理解だったか,いまだに自信はないんですが,山本敬三幹事が当時,クリアネスという言葉で指摘されていたものが3に含まれることが明らかになれば,もう第10は独立して置く意味はないのではないかと考えております。 ○岡田委員 「約款」の1の「約款の定義」のところですが,これを読んだことによって前に「約款」について消費者側,相談員側の解釈する約款と,部会での解釈がかなり違っているというようなことを発言させていただきましたが,この条文でそこが明確になるのかどうなのかというのがもう一つ不明瞭ですが,どうなんでしょうかね。つまり,定型的に準備され,印刷されたものは,全部,約款と我々は思っているし,当然,消費者紛争の事業者はそういうことを主張するのです。ところが,そうではないよという議論があったのですが,この書きぶりでそれが明確にはならないような気がするのですけれども,そこを教えていただきたいと思います。 ○筒井幹事 何が約款に当たるのかについては,定型的に用意されていて交渉の余地が全くないようなもの,これまで約款として議論されてきた典型的なものは,これに入っていると思います。他方,約款の定義に関しては,従前の議論では,これまで取引実務において約款として語られていたものよりも幅の広い定義が提示されているとして,特に経済界から御懸念が示されていましたので,今回の案では「契約内容を画一的に定めることを目的とする」という言葉を入れたものです。(概要)欄では「ひな形」という言葉を使って,交渉を行うことを予定して,その交渉の出発点として用意されたものについては,「画一的に定めることを目的とする」という要件で除外する旨を明記しており,それでかなり対象は絞り込まれているのではないかと思います。その上で,岡田委員の御懸念されているようなものが具体的にこの定義の内側にあるのか,外側にあるのかといった精査は,今後さらに十分,点検していかなければいけない課題だろうと思っております。 ○岡田委員 結局,相談員が懸念しているのは,それこそ悪質な事業者の作ってきたものも,全部,約款と解釈されないかどうか,そこの部分がものすごく懸念があるので,もし,今後,相談員対象の講座とか講演とか何かがありましたら,その辺を明確になるような形で御説明いただくなり,書きぶりを御検討いただくなりお願いしたいと思います。 ○能見委員 余り詳しくない分野なので確認しておきたいのですけれども,2のところで「約款の組入要件」で太字で書いてあるのと,それから,(注)に書いてあるように対立があって,(注)のほうは約款使用者のほうから約款を明示的に提示するということを要件とするという立場であり,これを採らないのが太字のほうだと思いますが,太字のほうで書かれている立場でも約款の内容を知ることのできる機会を与えることは約款の組み入れのために必要であり,例えば消費者というか,相手方が約款使用者に対して約款を見せてほしいと,見せることの開示の請求権までは恐らくないんでしょうけれども,見せてほしいと求めたのに対して見せないということがあれば,機会を与えたことにはならないということで,約款の組入要件は欠けると,そういう理解でよろしいんですね。 ○筒井幹事 私はそのように考えております。 ○能見委員 どうもありがとうございます。 ○大村幹事 まず,「約款」と,それから,「不当条項規制」につきまして全体として委員の間で様々な意見があるのを調整されて,バランスをとられて,こう取りまとめになられたのだろうと理解いたしました。個別の問題について個人的な意見を申し上げるということは,この段階ではいたしませんけれども,1,2,確認をさせていただければと思います。一つは,今,直前に能見委員が話題にされた点とも関わっているんですけれども,本文と(注)とで二つの考え方が書かれているわけですけれども,私は直前の二読がどういう議論なのかを十分に把握しておりませんけれども,当初の議論では,開示が困難な場合に何をすればよいのかという議論のスタンスというのが一つあったのではないかと思います。   それで,困難な場合には一定の行動をとっておけばよいという考え方があり得るとすると,それは本文の側でカバーされているのでしょうか,それとも,(注)の側でカバーされているのでしょうかということなんですけれども,本文の側でカバーされているのであれば,何か,事前の開示が困難であるときということを示すような要件を設けられるということは,二読の際に明示的に排除されたのでしょうかということをお伺いしたいと思います。(注)のほうだとすると,「明示的に提示することを原則的な要件として定める」と書いてあるんですけれども,原則的な要件だと例外というのが何なのかということをもう少しだけ,書いていただいたほうがよいかなと思って伺いました。それが一つです。   それと,不意打ち条項と不当条項規制の関係について,先ほど三上委員から御意見がありましたけれども,事務局のほうとしては不意打ち条項のほうは内容の当否にかかわらず,契約内容から除かれるという点に主眼を置かれていて,不当条項規制のほうは内容規制だと,そういう仕分けなんだと思って伺いました。   ただ,採用要件と,それから,内容,不意打ち条項と不当条項規制,これはどう規定を配置するかという全体としてのバランスというんでしょうか,一体になった規律になるものだと理解しますけれども,それで,すごく形式的なことなんですけれども,「約款」というところの中に1から4までありまして,「不当条項規制」だけが,今,第10というので別立てになっているんですけれども,これはどうしてなのかなということなんですけれども,元々,議論し始めたときに不当条項規制というのがあって,その中には約款に限らない規制というのも入っていたために,残っているのではないかなと推測いたしますが,現在では,これも三上委員がおっしゃいましたけれども,約款として契約内容に取り込まれたものの規制だけが問題になりますので,第10と独立に立てずに,むしろ,「約款」の項目の中のサブ項目とされたほうがよいのではないかと思いました。 ○筒井幹事 まず,「2 組入要件」において事前の開示が困難であるという要素はどのように組み込まれているのかというお尋ねですけれども,現在,提示している本文の案では,それを要素としていないのではないかと思います。分科会で話題になったことを例として挙げますと,保険の約款においては事前に交付することが極めて困難であるとは言えないけれども,それを事前に渡すことにどれほどの意味があるのか,その内容を理解してもらうことは説明義務の問題として考えればよくて,約款の組入ルールとしては機会が与えられていればよいという考え方があり得るのではないか。このような考え方が本文では提示されていると私は理解しております。   他方,(注)のほうは,そういった場合であっても提示することを原則的な要件とすべきであるという考え方であると思います。もっとも,原則を指摘するにとどまり,例外に該当する場合の取扱いは提示されていないと思います。   また,「不当条項規制」だけが第10という別項目になっている点は,御指摘のとおりの経緯によるものですので,確かに第9の中に組み込んだほうがよいというのは,全くそのとおりだと思いました。 ○大村幹事 今,お答えいただいた第1点について,どういう場合が念頭に置かれて議論されたのかということはよく分かりました。大部な約款を示すということは合理的でないということがあるというのがあるだろうというのは,そうだと思いますけれども,それは事前の開示が困難だと言えるのかもしれませんが,それはさておき,その場合以外に,このルールを採用したということになると,従前は開示されたものについて開示をしなくてよいという方向の力が働きはしまいかというのがやや心配ですけれども,その点については何か御議論があって,こういうことになったのでしょうか。 ○筒井幹事 御指摘の点については,その観点から一定の議論があったというよりも,その点は(注)で取り上げている考え方のほうに表れているのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 今,話題になっていた点については,最終的に本案で,「契約締結時までに相手方が合理的な行動を取れば約款の内容を知ることができる機会を与えた」という形で,広く捉えられる要件設定をして,その中で,合理的なものとして要求される行動とはどのようなものかということは解釈に委ねるという趣旨だと,私は受け止めていました。   ですから,開示を問題なく要求してよい場合は,開示されたものを見ることが合理的な行動と解釈されることになるでしょうし,開示が困難な場合は,例えばどこかへ行って,ないしはどこかにアクセスして見ることが合理的な行動だと解釈されて,その機会が与えられていれば,この要件は満たされる。そのような形で解釈に委ね,可能な限り,コンセンサスが得られる案として提示されたのだろうと思いました。そして,そこが解釈に委ねられたままでは不安であるというのが,注記されている見解ではないかと思いました。ですので,結論に違いが出るかというと,そうではなく,本案でも適切に解釈されれば,一致した適切な答えになるのだろうと思いますが,それを明確にどこまで書くかという問題だけではないかと思いました。   この組入要件について三上委員が指摘されていたうちの1点目で,約款を用いることを明示であれ,黙示であれ,合意したことが前提で,それに加えた要件として,先ほど申し上げた2番目の要件が出てきているので,合意を外すのは問題があるということは,申し上げておきたいと思います。   ついでで申し訳ないのですが,1点目の「約款の定義」で「画一的に定めることを目的とする」ということが付け加えられた点については,これがコンセンサスを得るための唯一の道だろうということで提案されたのだろうと思います。理論的には,特に組入れの問題に関して何度も申し上げてきましたように,文書の性質の問題ではなく,契約のされ方の問題ですので,ひな形であろうと何であろうと,どのような形で合意されたのかが問題であって,内容について合意されたのであれば,それは通常の合意ですし,詳しい点についてはこの文書によりますという形で契約されたのであれば,この組入れのルールによることになるということをずっと申し上げてきました。しかし,特に不当条項規制まで合わせてとなると,このような「画一的に定める」という要件が必要になると考えられたのだろうと思います。   それでしかコンセンサスが得られないというのであれば,やむを得ないのかもしれません。ただ,例えばひな形でも何でもよいのですが,交渉をすることを予定されている文書だけれども,実際には何の交渉もされずに,包括的にこれによりますと合意された場合には,この約款の定義には当たらないことになるのかもしれませんが,組入れのこのルールが,類推というかどうかは分かりませんけれども,これに準拠した形で契約内容に取り込むことを認めないことには,実際はうまくいかないと思います。ですので,このように定義がされたとしても,組入れのルールの実質に変わりはないのだろうと思いました。   それ以外に,更に「不意打ち条項」に関しては,大村幹事が補足してくださいましたとおりでして,先ほど三上委員の御意見がありましたけれども,この原案のままで不意打ち条項の趣旨はきちんと表現されているのではないかと思いました。 ○中井委員 2の「組入要件の内容」の本文と(注)についてです。先ほど大村幹事と筒井幹事の間でやり取りがありました。本文は,その議論の中で事前の開示が現に行われているとしたとしても,そこまでは不要ではないか,著しい困難がなくても開示までは要求しないという形での取りまとめと理解をしております。それに対して弁護士会としては,懸念を表明したつもりでした。現在,少なくとも事前に提示しているものがあるとすれば,現にあると思っているんですけれども,本文にすることによって,それを開示しなくてもよいという方向になるのはいかがなものかという意見を申し上げたかと思います。   原則としては事前の提示を要件としてはどうかという提案をしていたわけですが,事前に提示することができない場面というのはそれなりにある。それは認めましょう。では,その場面ではどう考えるかといえば,本文のような相手方が合理的な行動を取れば,約款の内容を知ることができる機会を付与する等で対応することでよいのではないかと考えていた次第です。   仮にそうだとすれば,このような形で提案して,世に問うことについて特に反対するものではありませんが,(注)については,このままでは誤解を生むと思います。先ほど筒井幹事から少し表現をされましたけれども,弁護士会としても原則的に提示することを求めますけれども,困難な事情,それができない場面であっては,それにかわる機会の保証で足りる,そういう枠組みとして(注)を補充していただくほうが,問い方としてはよろいしいのではないかと思っております。御検討を賜ればと思います。   約款の定義については契約の内容を画一的に定めることを目的とするということによって,限定を加えたのだと理解しております。それによって,先ほどから,経団連さんを始め,まだ,なお反対をしているところがあるやに思いますけれども,そことの調和という形で,これで合意に達するのなら,是非,このような限定を入れた上で問うという提案でよろしいのではないかと思います。   この趣旨は,内容の変更を予定していない,交渉を予定していない,そういう類型を念頭に置いているのだろうと思います。残る問題は,先ほど山本敬三幹事がおっしゃられた,現実に交渉しなかった,変更しなかった場合にどうなのかというのは,なお,解釈としては残るのかもしれませんが,まずは約款の範囲をこのような形で限定して問うこと自体については,よろしいのではないかと思っております。   この趣旨は,内容の変更を予定していない,交渉を予定していない,そういう類型を念頭に置いているのだろうと思います。残る問題は,先ほど山本敬三幹事がおっしゃられた,現実に交渉しなかった,変更しなかった場合にどうなのかというのは,なお,解釈としては残るのかもしれませんが,まずは約款の範囲をこのような形で限定して問うこと自体については,よろしいのではないかと思っております。 ○鹿野幹事 私も,約款の定義については,今,山本敬三幹事と中井委員がおっしゃったように,本来もう少し広い範囲のものがこの定義に入れられ,組入要件の規定に服するべきではないかという気がしています。ですが,中間試案としては,今までの議論を踏まえた結果という意味でいうと,これでよろしいと思います。   それと,不当条項についても発言してよろしいでしょうか。25ページの第10の「不当条項規制」のうち,2行目の「契約内容の全体を考慮して」というところについて,疑問ないし質問がございます。この一節は,ある契約条項が問題となっている場合に,その契約条項一つだけを見るのではなく,契約全体の中でそれがどういう意味を持つのかというところを考慮に入れて,不当かどうかが判断されるという趣旨だろうと思いますし,そのこと自体には,もちろん異論はありません。ただ,ここで「契約内容の全体を考慮して」として,あたかも考慮要素はこれだというような書きぶりをとると,もしかしたら,客観的な契約内容だけでもって不当性が判断されるように見られるかもしれません。まず,そういう趣旨なのかどうかということが質問であります。   私個人としては,客観的な契約内容だけではなくて,もう少し広く契約をめぐる諸事情が不当性判断において考慮されてよいのではないかと考えております。例えば,この約款がどういう当事者間での,どういう契約において用いられることが予定されている約款なのかという,言わば当事者の属性も考慮されるべきだと思います。また,契約条項の定め方についても,非常に分かりにくい形で定められているときには,相手方に不利益をもたらすということがあり得ます。契約条項を分析して明らかにされた客観的な内容だけをとると,不当とまでは言えないものであっても,その明確性を欠く定め方によって不当という判断が可能となるような場合もあるかもしれません。例えば,契約締結後の権利行使などについて一定の制限を加えている条項などを例にとると,その意味を当事者が分かっていれば適切な権利行使ができたのに,不明確な定め方のためにそれを自覚することができず,事実上権利行使が妨げられて不利益がもたらされるというようなこともあり得ます。   後者のような問題については,不意打ち条項などによってカバーできる場合もあるかもしれませんけれども,常にそうだとは限りません。要するに,純粋に条項の内容だけではなく,ほかの事情も合わさって一定の限度以上の不利益が相手方にもたらされるということがあり,そのような形で不当条項規制の中に入ってくるような問題群があるのではないかと思うのです。そこで,「契約内容の全体を考慮して」という表現を,「内容」だけに限定されるわけではないという意味を込めて,若干改めてはどうかと思います。例えば,「契約全体を考慮して」という表現をとるのも一つですし,あるいはゴシックの本文はそのままにした上で,(概要)ないし(補足説明)のところで少し説明を加えて頂くなりして,その考慮要素が余りに限定されないようにしていただければと思います。 ○岡委員 3点,申し上げます。   1点目は,最初に三上さんがおっしゃったところであるんですが,短い約款,A4,1,2枚でやる統一不動産賃貸借契約書ですとか,販売店と結ぶ基本契約書ですとか,そういう短い統一契約も1でいけば約款に当たると。2として「約款を用いることを合意した場合」,この読み方に係ると思うんですけれども,じっくり説明して通常の合意をした場合,短い約款について通常の説明をして合意をした場合に約款規律は多分,適用されない。三上さんもそうおっしゃったと思うんですが,それが2の「約款を用いることを合意した場合」というのだけで,今,区分けしようとしているように見えるんですが,それでは少し分かりにくいのではないかという疑問でございます。短い約款について通常の合意をした場合をどうやって外すのかという点が2の表現の「用いることを合意した場合」,最後に「約款は,その契約の内容となるものとする」と書いてしまっていますので,2が読みにくくなっているのではないかというのが第1の意見でございます。   第2の意見は,今のような約款でも通常の合意をした場合は除くという趣旨が,約款の変更と不当条項については「前記第9,2によって契約の内容となった契約条項は」と,これで排除していると思うんですが,それが不意打ち条項のところにないのは意図的にないのか,ここにも同じような通常の合意をした場合には適用されないというのが,不意打ち条項にあってもいいのではないかと思いますので,その点について意見を申し上げたいと思います。   3点目は,不意打ち条項と不当条項規制がかなりダブり合っているのは事実ですけれども,全体的にはこのままでいいという意見の下に,不意打ち条項はこの表現を見る限り,人ごとに判断される,ある人にとっては不意打ちだけれども,ある人にとっては不意打ちではないと理解したんですが,その点はどなたかの意見で,それはおかしいという書面意見が出ておりましたので,現在,法務省としては不意打ち条項は人ごとに判断するのか,条項ごとに判断するのか,その点,どちらの立場なのか,説明していただければと思います。 ○筒井幹事 最後にお尋ねいただいた点は,佐藤関係官の意見書の2ページにあり,三上委員も引用して発言され,それから,山本敬三幹事が現在の案でよいのではないかという観点から発言された部分だと思います。その点については,解釈の幅があり得るという認識の下に,この案を提示しております。「相手方の知識及び経験」という考慮要素は,その取引の相手方として想定される一般的なグループに属する人たちに通常,想定される知識,経験という理解の仕方があると思いますし,他方で,個別の当該契約の当事者ごとにという判断の仕方もあるかもしれません。それらの解釈の余地を現時点の文言では排除していないわけです。佐藤関係官の御意見では,その点についていずれの考え方も排除しない趣旨の提案であれば,その旨を明示して意見を問うべきであるとのことですので,そのようにさせていただこうかと考えております。 ○山本(敬)幹事 今の点については,約款を使われる側の当事者の知識や経験に照らして,合理的に予測できたかどうかという点についての話だったと思います。ただ,不意打ち条項の中で考慮されている事情は,更に約款使用者の説明などの契約の締結の経緯も含んでいます。これは,どのようなシチュエーションで契約をしたかに応じて違ってくる要因だと思います。   そして,このような不意打ち条項がそこに含まれていることが隠蔽されるような形で,契約締結の経緯も進んでいった場合には,不意打ち条項の判断がされやすくなるだろうと思いますし,そうではなくて,締結の経緯からして,このような条項が含まれていることが合理的には予測できたときには,不意打ち条項には当たらないという判断がされる可能性があるだろうと思います。その意味では締結過程での話であって,どこまでの条項が契約内容に組み込まれるかという問題ですので,契約のされ方の問題になる。その意味で,個々の契約に応じて違う判断が出てくるだろうと思います。つまり,画一的判断だけではいけない問題になると思います。そこが,不当条項規制と性格が異なる事柄ではないかと思います。   ただ,不当条項規制についても,先ほどの鹿野幹事の御意見は,個別の経緯も含めて不当条項規制を行うべきだという御意見でしたけれども,それは一つの意見としてあるかもしれませんが,現在の提案は必ずしもそうはなっていないのではないか,というのは言い過ぎかもしれませんが,少なくとも組入規制と不当条項規制は少し性格が違う,そして,不意打ち条項に関しては,先ほど申し上げたような形になるのではないかと思います。 ○松本委員 「約款の定義」のところなんですが,今回の定義は差止めの対象としての不当な約款ということを考えると,恐らくこれで適切なんだろうと思います。しかし,不意打ち条項規制の対象となる契約条項か,あるいは不当条項規制の対象となる契約条項のセットかという観点から考えると,これでは狭いのではないかと。これは山本敬三幹事が何回か前の発言でおっしゃったことでありまして,私も全く同感です。ひな形の場合,取り分け,業界団体が作っているひな形のような場合に,それをある事業者がそのまま,ひな形ですよといって契約書にした場合,約款ではないんだということになって不当条項規制すらも掛かってこないというのは,恐らく不当だと思うんです。   正にどのような形で契約内容に取り込まれたかというところが問題なんだろうと思います。相手方との交渉が一般的には予定されているが,実際は行われていないというような場合は約款とほとんど変わりがないわけですから,不当条項規制とか,不意打ち条項規制の対象としては取り入れるべきだろうと思います。差止めの対象となる約款だけを念頭に置く定義というのは,民法には差止めの規定は入らないわけだから,制度として矛盾していると思います。不当条項規制の対象として考えるべき約款は何なのかという形で定義をしたほうが生産的だろうと思います。 ○鹿野幹事 先ほど山本幹事がおっしゃったことについて,一言だけ申し上げます。先ほど私は,不当条項規制のうち,「契約内容の全体を考慮して」という文言について発言し,考慮されるのは契約の客観的な内容だけではないのではないかという趣旨のことを申しました。そうすると,どこまでの事情が考慮されるのかということが問題となりますが,契約をめぐる事情には段階があると思いますし,そのうち個別事情を考慮するのかということについては,確かに意見が分かれうると思います。ですが,個々の具体的な契約における事情という意味での個別事情についてはともかく,どういう当事者間での契約に用いることを予定した約款なのかとか,あるいは,約款条項自体の定め方が非常に分かりにくいというようなことは,個別事情ではなく,類型的に捉えられる問題であると思いますし,少なくともそういうものは,ここの不当性の判断の考慮要素になりうるのではないかと思います。先ほどの発言でも,あえていわゆる個別事情ではない例を挙げたつもりでしたし,今のような趣旨で,客観的な内容だけに限定されるような表現につき,少し改めていただければと申し上げたつもりです。 ○山下委員 大体はもう意見が出ているところと重なるわけですけれども,まず,「組入要件」のところは,ゴシックの本案のほうでいくと,先ほどから懸念されているように事業者のほうはこれで組入れの要件がえらく簡単になったと,ウエブ上にアップしておいて見たければ見てくださいと,それで済むんだというような理解をされても困るので,今のところ,相手方が合理的な行動を取れば知ることができると,相手方の事情だけに着目しているのですけれども,約款を開示するのが非常に簡単な契約書1枚を全部印刷しておけば,それで済むような契約類型というのは世の中にごまんとあるはずなので,そういうものについてまで何かウエブ上でいいとか,そういうことをされないように,相手方以上の事情とともに何か開示することがどれぐらい容易かという,そういう要素も何か,先ほど解釈で要するに決めましょうということではあるかと思うので,そのときに事業者側の約款を使用する側の事情も少し考慮に入れられるような文言を工夫できないかということを一つ思いました。   それから,「不当条項規制」のところは,鹿野幹事がおっしゃることと大分重なるのですが,どうも第10の案を見ると,要するに不当なものは不当で無効であるとしか言っていないようで,やや一般条項としても余りに抽象的すぎるのかなという印象は持っておりまして,その上で,ただ,それではドイツの約款規制のように信義則に反して不当にと入れればそれでいいかというと,それも先ほどの信義則という言葉を条文で使うかどうかという,そういう問題があるので,なかなか,難しいところではあるのですが,何か,不当ということをもうちょっとかみ砕いた,先ほどの契約締結過程の辺りの情報提供とか,契約破棄のところはかなり考慮すべき事情というのを盛り込まれていたと思うので,多少,そういう工夫ができないのかということを思いました。   それから,こういう不当条項規制が約款規制だということで消費者取引に限らず,事業者間取引にも民法で規定をするという,それはこれまで議論してきた結果で,そういう方向でいこうということはコンセンサスがあると思うのですが,不当条項規制で消費者取引と事業者間取引ではおのずとやり方も違うので,そのときに鹿野幹事がおっしゃったような契約内容という言葉をここで使うと,やや当事者の属性というのでしょうか,そこが全く抜け落ちるということになっています。個々の契約の全ての個別事情を考慮するかどうか,そこはまた別問題でありますけれども,当事者の属性ぐらいのところは,類型的なものとして少し読み込めるような書き方にしてはどうかなと,取りあえず,その2点を感じたところでございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○山本(敬)幹事 今の山下委員の御指摘は,かなり以前の部会のときにも出ていたものでして,私自身も不当条項規制の基準に関しては,消費者契約法との差別化を図る必要があるのではないかということを申し上げてきました。実践的には,消費者契約の場合には消費者契約法の規定によれば足りるわけですので,この約款規制が固有の意味を持つのは,事業者間取引になってくるだろうと思います。そうすると,単に「不当」にと書くだけで,後は解釈に委ねて,消費者契約法とうまく差別化ができるかというと,できなくはないのかもしれませんが,よく分からないということになるかもしれません。   そうしますと,何かを挙げる必要があるのですが,今の考慮要因として「当事者の属性」を挙げられたのは,そのようなものも考慮されるようにという御指摘なのだろうと思いますけれども,更にもう少し,中間試案以降の課題として残るのかもしれませんが,定め方について検討の余地があるだろうと思います。以前の部会のときには,私自身は,この「不当」の内容については,約款使用者と相手方の契約上の利益に不均衡を生じさせる,そこで「著しく」と書くかどうかは先ほどのような点からなお検討の余地はあるのですけれども,単に「不当に」と書くよりは,何が「不当」かということを示すものがもう少し示されるべきではないかと思った次第です。 ○松本委員 「組入要件」の部分なんですが,私は一律の組入要件というのは,これだけありとあらゆる約款が業種ごとに様々に使われているという世の中において,一本の規律でやるというのは不可能に近いのではないかと思っています。しかし,最低限の要件は可能だろうと。約款の内容を知ることができることというのが最低限だろうと。これを下回ればもう契約内容に組み入れるというのは駄目だろうと。しかし,実際に組み入れられたことになるかどうかは,それプラス,それぞれの業種ごと,取引態様ごとによって多分,異なって要件が加わってくるわけであって,そこには行政規制的なものも当然,考慮に入れた上で,評価されるのだろうと思います。したがって,組入要件を書くとすれば,極めて抽象的かつ片面的な形でしか書けないだろうと思います。   それで,本日の議論を承っていると,契約締結時までに約款を明示的に提示しなければならないという案に比べて,今回の案はそこが軽くなっているから,約款が大変使いやすくなっているのではないかという指摘があるわけです。しかし,約款の定義にはまってしまうと,不意打ち条項規制だとか,不当条項規制だとかが掛かってくるわけだから,2が広くなってしまうと,逆に約款を使う側に不利になるという声が出てきてもおかしくはないんだけれども,それが出てこなくて,ここが広くなって約款を使われる側にとって不利だという主張だけが出てきているというのは,少しバランスを欠いているのではないかと思います。そういう意味もあって,ここの2の部分は余り厳密に線は引けないだろうし,引かなくてもいいのではないか,最低限だけを決めておけばいいのではないかという気がいたしております。 ○三上委員 私が最初に述べましたことに関して,決して山本敬三幹事と違うことを言っているつもりはないので,山本幹事が使われた言葉を使わせていただくと,2の最初の1行目は,「契約の当事者にその契約に約款を用いることに関する合意がある場合において」,というような表現であれば問題ないと思います。3行目も「できる機会が与えられていたときは」,であれば問題ないと思います。   それから,今の松本委員がおっしゃったこと,ないしは先に岡委員がおっしゃった,組入要件を使わないで契約の内容になっている約款について,組入要件も同時に満たしているときに,不意打ち条項とか,不当条項規制が掛かってしまうように読めるのではないかという点は,私も多少気にしております。それで,私としては組入要件が決まってしまうと,組入要件のみによって契約に組入れられることにならないような方向にする努力,事前に約款条項を提示して説明したり,熟読の機会を与える,という方向に実務はすすむように思うんですが,ただ,そうであることを明らかにするためには,本当は「約款を用いることの合意がある場合において,契約締結時までに約款が明示されない場合には」というような,何か,そういう限定句が要るのではないかという気もしております。 ○大村幹事 松本委員がおっしゃった組入要件と,それから,不当条項規制,これの全体がシステムをなしているというのはおっしゃるとおりだと思うんですね。私も最初に全体のバランスの上で,こういうところに落ち着いているのだろうと申し上げましたけれども,その全体を見たときに,組入要件は少し緩い感じがするんですね。他方,山本敬三幹事もおっしゃいましたけれども,不当条項規制のほうは,今度はこれだと内容規制がきつすぎるのではないかなという感じがするんですね。あるいは松本委員がおっしゃったように,後ろがきついから前を緩くということになっているのかもしれませんけれども,全体のバランスをとるんだとしたら,別のバランスのとり方も何かあるような気がいたします。 ○中田委員 冒頭に佐成委員から,そもそも,規定を置くことには賛成できないという御意見がありまして,にもかかわらず,佐成委員は非常に御尽力くださって,一応,ここで議論することについては,一緒に参加しておられるということだと思います。私は,是非,規定を置いていただいたらよろしいと思うんですが,佐成委員の御提案のように,規定を置かないほうがよいという意見もあるということを(注)か何かでもしも書くのであれば,私は書かなくてもいいのではないかと思いますが,書くのであれば,この規定を置く積極的な意義というのも,是非,(概要)の中で更に明らかにしていただくとよろしいのではないかと思います。   現在,(概要)の中には今のままだと法的に不安定な面があると書いていますが,むしろ,規定を置くことによって法的な安定性が高まり,経済活動の安定性にも資するというメリットがあるのではないかと思います。そういうメリットを是非とも共有できればと思います。あとは個人的にいえば,今,この時点で民法を改正する際に,これだけ社会的に重要な約款について何も触れないというのは,いかにも奇妙だという感じがいたします。また,約款についての規定を置くことによって個別合意との関係など,理論的にも明確になるという,そういうメリットもあると思いますので,是非とも規定を置く方向で合意が形成できればと思います。   その上で,細かいことを二つだけ申し上げたいんですが,一つは1の(概要)で,ひな形についての話が先ほど来,出ております。これは,こう「契約書ひな形のように」と書きますと,そこの部分が独り歩きして,ひな形に当たれば別なんだとなってしまって,どうも何か趣旨がずれてしまうのではないかと思います。ですから,「契約書ひな形のように」という言葉は(概要)から削ってもいいのかなという気もいたします。   それから,もう1点も細かいことですが,「約款の変更」について4の(2)で,「合理的な方法により周知することにより,効力を生ずる」となっておりまして,それはそれでいいと思いますが,実際上は,いつ,効力が生ずるかということも重要になってくるのではないかと思いますので,これは今の時点では明確にすることはできないと思いますけれども,今後の検討課題として留意するといいのではないかと思います。 ○中井委員 約款全体の基本的な方向性については,今の中田委員の御意見に賛同いたします。その上で,第10の「不当条項規制」について鹿野幹事からの御発言,複数の委員から御発言がありましたけれども,「契約内容の全体を考慮して」という言葉が,従来,信義則に反してという言葉に代えて,その内容を豊富に具体化するために使われた言葉かと思いますが,前の部会でも議論が出ていましたけれども,ここについてはもう少し具体的な事情を取り込むことによって,予測可能性を高めるという方向性がよろしいのではないか。前の部会資料では,例示としては契約の性質,契約全体の趣旨,以下,当事者の属性や同種の契約に関する取引慣行などが挙げられておりましたけれども,そういうことを考慮して,その上で,信義則に反する程度の権利の不当な制限や義務の不当な加重がある場合だろうと思います。その辺りを考慮して,更に検討していただければと思います。 ○三浦関係官 私は手短に2点だけ申し上げます。   1点目は意見ではございません,言わずもがなということで,注意だけなのですけれども,まず,24ページ,4番の「約款の変更」のところです。これまで約款に関する議論としては,規定を設けるべきか否かという入口の議論を中心にやってきたので,約款の変更に関する具体的な規律については,経済界を含めて十分な議論が必ずしもされていなかったなという印象を持っておりまして,したがって,この文言自身にどうこうということはないのですけれども,今後,議論していく上で,ここはよく経済界の実態も踏まえて,取引実務に悪影響を与えることがないように,慎重に議論していただくということが大事かなと思っております。ほかのところに比べると議論の熟度がもしかしたらちょっと浅いかもしれないので,今後の進行の中で少し気を付けたらいいかなというのが一つでございます。   それからあと,もう1点は不当条項規制で,先ほどから「不当であれば無効になる」というのは,ややトートロジー的ではないか,不当とはどういう意味かといったコメントもございましたし,あと,「契約内容の全体を考慮して」というのは,これまでの信義則の,ある意味,言い換えではないかというような,いろいろなコメントがあったと思うんですが,いずれにせよ,若干,気にしていたのは,今までの部会資料で用いていた表現で,特に不当とは何かというところで,例えば部会資料42では,「信義則に反して相手方の利益を一方的に害する」ものを不当な条項とするというようなアイデアが書かれておりました。   他方,今回は「信義則に反して一方的に」うんぬんという文言がどこからもなくなっていて,それで,何でなくなったのかとか,あるいは,今ある文言とはどういう関係にあるのかというところが分かりにくいと。それで,読み方なのかもしれませんけれども,私どものところの所管業界の一部では,前回の部会提案よりも,不当条項の規制対象が広くなってしまったのかと懸念している方もいたりして,「信義則に反して一方的に」という文言を復活させてほしいとか,そういう意見もございます。そこで,そうするかどうかは別として,前回まで使っていた「信義則に反して相手方の利益を一方的に害する」といったような文言なり,アイデアが今回の提案の中ではどう使われているのか,その文言がなくなっているのはどうしてなのかというようなところについて,分かりやすくしたほうがいいかなと思っております。先ほどあったように,それはここに言い換えたんだということなのかもしれないし,なぜ,言い換えたかというと,法制上,使えない文言だからということなのかもしれないし,お考えがあるのだとは思うんですけれども,そこのところはクリアにしておいたほうが,前回の部会資料などを読み込んでいる方との関係では,分かりやすくなっていいかなと思いました。 ○大村幹事 今の三浦関係官の御発言にもありましたし,それ以前にも関連の御発言がありました。元々,鹿野幹事が一番最初に御指摘されていたことだと思うんですけれども,「不当条項規制」の中の「契約内容の全体を考慮して」というのは,個別の条項だけを見れば不当に見えるものも,全体として見れば妥当であるということがあるので,そういうふうな判断の仕方をするのだということを注意的に書いていているという趣旨だろうと思います。そのことと,どの程度の条項を不当だと判断するかという不当性の程度の基準を書くかどうかという問題,それから,不当かどうかを判断する際に,書かれているもののほかに,どのような事情を考慮するかという問題,三つぐらいの問題があるように思うんですね。それを整理したほうがいいのではないかなと思います。   今,書かれていることとの関係でいうと,「契約内容の全体を考慮して」というのが条項だけを取り出して見るのではなくて,他の条項との関連も考慮するということだとすると,これが何か,それ以上の含みがあるように読まれないようにする,これは技術的にいうと,この部分を切り出して2項にするのかどうか分かりませんけれども,注意的に書くというようなことをし,そして,考慮要素と不当性の程度について,基準を書き込めるならば書き込むという方向で整理されるのがよいように思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   それでは,今までの様々な御意見に関して,事務当局から御回答等があれば頂ければと思います。 ○筒井幹事 ありがとうございます。頂いた様々な御意見を十分に踏まえて「たたき台」の修正作業を行った上で,もう一度,御意見を賜りたいと思います。   特にまとめの発言をするという趣旨ではないのですけれども,何点か,お答えしておいたほうがよいと思ったことについて申し上げます。まず,約款の定義に関して,中田委員から(概要)の中で「契約書ひな形のように」と書くのはややミスリードではないかという御指摘を頂きました。その点は,気を付けたほうがよいと私も思っておりましたが,従来の案から修正を図ったことを分かりやすく伝えようと思ったので,こういう書き方をいたしました。しかし,その書き方について留意したいと思います。   「契約内容を画一的に定めることを目的とするものをいう」という要件は,客観的に「ひな形」であれば外れるということを意図したものではありません。ひな形を用意し,それに基づいて契約交渉がされた場合には,それは約款ではないことになるわけですが,例えば,市販のひな形を画一的な契約内容とする目的で使用した場合には,それは約款に該当するという想定で,現在,このような案を提示しております。このことは,少なくとも(概要)欄で説明しようと思いますが,本文の書き方をもう一工夫する必要があるのかもしれません。   それから,2点目ですけれども,「約款の組入要件」の表現ぶりに関する御意見を頂きました。その冒頭の「その契約に約款を用いることを合意し」た場合というのは,約款に含まれる個々の条項の内容についての合意は必要でなくて,条項の総体としての約款を用いることについての合意が必要である旨を表現したものです。この文言で十分かどうかは,なお精査する必要があるとしましても,少なくとも(概要)欄でその旨を伝えることによって,誤解がないようにしようと思います。   それから,同じく「組入要件」のところで,「機会を与えたことによって知ることができるときは」という具体的な修正案の御提示がありましたけれども,客観的に知ることができる状態が確保されていれば,その機会は誰が与えたものでもよいのかという問題を立てたときに,それでよいのかもしれないと思いつつも,なお若干の疑問があり得るように思いまして,現時点では基本的には約款使用者がその機会を与えることが必要だという整理をした上で,それで不都合な場面があるのかどうかを議論したほうがよいのではないかと考えております。そういう趣旨で,現時点ではこの文言を維持しておきたいと考えております。   それから,「約款の変更」に関して御意見を頂きました。また,佐藤関係官からも書面で詳しく意見を述べていただいております。今後,十分に検討していきたいと思いますが,今回の案そのものが試みの案であり,このような形で提示するのは初めてのものです。中間試案の段階で初めて提示する案にしては,一見,具体的に詰められた案のように見えてしまうかもしれませんけれども,ある程度は具体的な案を提示しなければ,今後のパブリックコメントで適切な意見を聞くことが難しいであろうと考えて,試みに具体的な案を提示いたしました。しかし,内容的には,この部会で十分審議されたわけではありませんので,冒頭のところで「引き続き検討する」という文末表現を用いています。この表現が登場するのは,保証のところに次いで2回目ですけれども,ここについても内容的な精査がまだできていないということで,「引き続き検討」という言葉を使うこととしております。   取り分け,佐藤関係官からも御指摘がありましたけれども,(1)のエにおける「適切な措置」とは何なのかといったところは,実情を十分に踏まえて,今後,詰める必要があるだろうと思いますし,それから,(2)に関して周知とその効力発生の時期の関係ということを中田委員から御指摘いただきましたけれども,正にそういった点を今後,詰めていく必要があるだろう考えております。   それから,「不当条項規制」に関していろいろ御意見を頂きました。最後に大村先生からは具体的な修正の御提案を頂きましたので,その点は持ち帰って考えたいと思います。三浦関係官から,従来の案よりも広げる意図であったのかどうかというお尋ねもありましたけれども,そのような意図では必ずしもないのですけれども,どのような表現を用いるのが適当であるかは非常に難しいところなので,今日,頂いた御意見を参考にして,可能であればもう少し修正する提案をお示ししたいと考えております。 ○松本委員 ただいまの筒井幹事の一番最初に発言された「約款の定義」のところについての御発言との関係なんですが,一方があらかじめ用意している紙であると,相手方が誰かによって交渉に応じて変える場合もあるが,全く交渉に応じない場合もあるというような形で,あらかじめ文書が作られているというような場合に,私は交渉を経た部分は約款でないということでいいと思うんですが,交渉しないで一方的に押し付けてきている部分は,なお約款ではないかなと思います。   そういう意味で,交渉が予定されている,いないという前段階の意図よりは,むしろ,交渉を経たか,経ていないかというところのほうが重要ではないかという,山本敬三幹事が大分前に指摘されたことに賛成をしたいわけです。あらかじめ同じ文書が用意されているという点は同じであっても,相手方とのやり取りによって,ある場合は約款として評価され,したがって,不当条項規制の対象となるが,ある場合はそうではなくて,通常の契約ルートになる場合もあると,そういうものではないでしょうか。そういう趣旨でおっしゃっていると理解してよろしいですか。 ○筒井幹事 御指摘いただいた点も含めた議論があるのだろうという理解をしておりますので,そのような議論がされていることを紹介して,今後,更に議論していくのがよいのではないかと理解しております。 ○山本(敬)幹事 一言だけ補足ですけれども,現在の定義を善意に解釈すれば,約款そのものの定義というよりは,約款による契約が行われた場合でいう約款の意味を書いておられるのだろうと思います。その意味で,約款による契約とはどのような場合か,内容についての個別の合意があるわけではない契約とは,このようなものだということを書こうとされているのだと思います。それがよいかどうかは次の問題だということも指摘しておきたいと思います。 ○鎌田部会長 ある意味で1と2がワンセットになって,適用対象に入るかどうかが決まると言ってもいいのではないかと思います。   ほかに「約款」関係で御意見はよろしいでしょうか。   それでは,次に「第11 売買」について御審議いただきます。一括して御意見をお伺いいたします。 ○大島委員 「売買」のところの「3 売主の義務」についてでございますけれども,第二読会の議論の際,私から「当該売買契約の趣旨に適合した」との表現に対して,瑕疵とされないために契約書などの取引関係書類に,当事者の合意事項や目的物の属性を必要以上に細かく記載しなければならなくなるのではないかとの懸念を申し上げました。しかし,「契約の趣旨に適合した」という表現は,契約書に何でも書き込めばいいということではなく,当事者が契約をした目的や契約をした経緯など,契約をめぐる一切の事情を勘案して,総合的に評価するものであることを確認させていただきたいと思います。部会資料53で,「契約の趣旨に照らして」という言葉が出てきた際にも申し上げましたが,この言葉の意味するところを中間試案の読者に正確に理解していただくことが非常に重要だと考えおりますので,改めて(概要)欄にその趣旨を記載していただきたいと思います。 ○筒井幹事 御指摘をありがとうございます。先ほども契約の趣旨について,その内容をブラケットで説明している部分が容易に参照できるようにしたほうがよいという御指摘を,確か中井委員から頂きましたので,そのようにしたいと思います。少し補足いたしますと,大島委員が確認したいと言われたことは全くそのとおりなのですけれども,私自身は,「契約の趣旨」という言葉を使うと,なぜ契約書にたくさん書かなければならないことになるのか,そのような懸念の理由がそもそも分からないと思っております。契約の趣旨という言葉を使うのは,契約書に明記されていないことが考慮されることを明らかにするためです。そのために,わざわざ契約の趣旨という言葉を使っているのですから,このような言葉を使った規定が仮にできたときに,何でも契約書に書かなければならなくなるという考えは,誤解にほかならないのであって,正さなければならない考え方なのではないかと思います。契約書に書いたほうがよいというのは,それが必要なことであれば現在でもそうですし,今後もそれは変わるわけではなくて,それは契約の趣旨という言葉を使って規定を設けることとは何の関係もないというのが私の理解です。 ○高須幹事 全体的な担保責任のところの立て付けというか,構造の問題なんですが,第二読会の部会のときにも発言させていただいたわけですが,売主の担保責任のところの566条2項というのが現行規定にはあって,存在するはずの地役権が存在しなかった場合の規律と,それが解釈論的には存在するはずの借地権が存在しなかったような場合にも,類推適用されるという解釈がある。   つまり,そこで存在するはずの不動産利用権が存在しない場合についての手当みたいなものが566条2項でなされていると思うのですが,今回の御提案の中に,明らかな形ではそのことについての言及はなくて,566条に関しては1項についての言及にとどめられいる,つまり,あってはならない権利の負担が付いていた場合のみが規定されているのですが,これは特に格別の意味はなくて,2項に該当する場面の問題もそれはそれできちんと手当てしますよという意味なのか,それとも,契約不適合という一般論の中に落とし込むという御趣旨なのか,恐らくパブコメを書くという段階になると,その辺りも明確とした上で対応していただいたほうがいいと思っておるものですから,その位置付けはどのようにお考えになっているのか,教えていただければと思います。 ○新井関係官 その点は,二読の審議のときに私が申し上げたことを踏襲しております。つまり,この問題につきましては,本文でいえば26ページの3の(1)の「財産権」と書いてあるところの「財産権」の範囲を契約の解釈によって明らかにするというところで問題になっていく。契約解釈により,売買の対象たる財産権に地役権などが含まれるとされ,それを移転しないということであれば,それは債務不履行であり,一般原則に基づいて損害賠償ないし契約解除を認める,ということを基本的にはイメージしています。一般原則に取り込まれるということなので,現行の規律からの変更点ということで,中間試案というドキュメントにおいてそこの辺りの考え方がきちんと伝わりやすくなっているかどうかというのを再度精査した上で,必要に応じて書きぶりを検討したいと思います。 ○中田委員 関連してなんですけれども,いわゆる法律上の瑕疵というのがどこに入るのかが少し分かりにくかったのですけれども,いかがでしょうか。 ○新井関係官 基本的には従来判例が示した物の瑕疵という理解の延長線でいえば,3の(2)に当たるのではないかと理解しております。一応,そういうことを念頭には置いております。 ○中田委員 3(2)の品質というところがそれに当たるのかなと読んでいて思ったのですが,ただ,法律上の瑕疵については物の瑕疵よりも,むしろ,権利の瑕疵に近いのではないかという議論もあるところですので,そのように整理してよいのかどうかも含めて,もうちょっと検討したほうがよいかなという印象を持ちました。 ○新井関係官 1点だけ確認させていただきたいのですが,従来,法律上の瑕疵が物の瑕疵か,権利の瑕疵かという点につきましては,競売の担保責任における取扱いにおいて差が生じるということで,一つ議論の実益があるとされていたと理解しております。今回,34ページの「競売における買受人の権利の特則」は,物の瑕疵か,権利の瑕疵かというところで区別するという考え方を採らないということを前提に作っているので,公法上の用途制限みたいなものを物の瑕疵か,権利の瑕疵かと明確に区別する実益の一つは,消えることになるのではないかと理解していました。更になお,その辺りの区別をはっきりさせる必要性について,御指摘いただければと思うのですが。 ○中田委員 そもそも(2)と(3)の関係がどうなのかというところが一番大きな問題としてありまして,(2)と(3)が物の瑕疵と権利の瑕疵に対応しているのかどうかということだと思います。あえて区別しているのだとすると,何か,区別している意味があるのかもしれなくて,そうすると,法律上の瑕疵をどちらに振り分けるのかという問題が出てくるということだと思いますので,むしろ,(2)と(3)の関係が明らかになれば足りるかなと思いました。 ○高須幹事 同じような趣旨であり共通することですので,付け加えみたいな話なんですが,先ほどの新井関係官からの御指摘のことはそれなりに分かるんですね。そういう意味でカバーできているというのはよく分かるんですが,売主の担保責任の規定は,売主の履行に問題があった場合の対処方法についてのカタログを作っているということだと思います。そこで,そのカタログのよしあしという問題を考えたときに,一覧性というか,見て分かるような規定ぶりというのが大事だと思いますものですから,規律がカバーできていないというつもりは全くないのですけれども,読みやすい担保責任の規定を設けるという観点から工夫いただいたらいいのではないかと思って,先ほどのようなことを言わせていただいた次第です。 ○松岡委員 全く違うところについての質問です。28ページの「4 目的物に契約不適合がある場合の売主の責任」は,効果についての基本規定と思いますが,解除についての規律が分かりにくいと感じます。債務不履行解除一般についても現行法とはかなり異なり,帰責事由は要らず,重大な不履行があれば足りるとする趣旨の新しい提案がされています。それとここの規律とはどういう関係になるのか,軌を一にしているものか,そうではないのかがよく分かりません。現行の瑕疵担保責任の規定は目的不達成によって解除ができ,帰責事由は要らないとしているわけですが,一般の債務不履行を理由とする契約解除について仮に現行法のような規定を維持するとすれば,この提案の4はどうなるのかがよく分かりません。   特に無催告解除について,(1)のただし書で制約されている修補とか,追完の請求に余り意味がないときは,先にそうした請求をしなくてもよいということなのかもしれませんが,それは読み取りにくいです。(2)で上記(1)の「履行の追完をしないときは,債務不履行の一般原則に従って……解除をすることができるものとする」とありますが,例えば修補請求や追完請求をして,それが履行されないときに限って解除できるのか,そうした請求に対して修補や追完がされなければ,ささいな瑕疵であっても解除ができるのかがよく分からなくなっています。あるいは補足説明で説明される予定かともしれませんが,単に債務不履行の一般原則に従うとしか書かれていませんので,提案内容がよく分からないのではないかというのが正直な感想です。 ○筒井幹事 資料の意図としては,債務不履行の一般原則のルールが見直された場合には,そのルールに従ってという趣旨です。部会資料の他の部分の項目番号を引用して,その要件に従ってと書いたほうがクリアであるかもしれませんが,正確に引用しようとすると長くなるので,それを「債務不履行の一般原則に従って」と表現したつもりです。 ○松岡委員 そうだとすると,それでよろしいのかもしれません。しかし,ここの部分は改正が必要だと考えるが,債務不履行解除一般は必ずしも,今の提案には賛成できないという意見も多分,結構あると思います。そうすると,中間試案での提案内容は,必ずしも債務不履行解除の問題と一体というわけではありません。債務不履行解除一般の提案が受け入れられなければここはどういう提案になるのかが,理解しにくいと思っています。 ○筒井幹事 御指摘の趣旨は分かりますが,余り中間試案として提示する案に枝分かれを生じさせないほうがよいと思いますので,個別の意見は個別の項目に対する意見として書いていただくという形でのパブリックコメントにさせていただければと思います。 ○中井委員 松岡委員の質問に関連するのかと思いますけれども,読み方について確認したいのですが,(1)で契約不適合があったときに何ができるかということが書かれている,(2)のときに「履行の追完をしないときは」として,その後に一般原則に従って損害賠償解除ができると書いている。とすると,そこの読み方ですが,(概要)を読ませていただくと,「本文(2)は,売主が引き渡した目的物に契約不適合があった場合に」となっておりまして,本文の書き方と微妙にニュアンスが違う。   つまり,解除を例にするなら,まずは追完請求をして,いずれを使うかの選択は自由かもしれませんけれども,追完請求をした上で,しかし,債権者のほうが履行の追完をしない,それを経て初めて一般原則に基づいて契約解除ができると読むことになろうかと思うんです。しかし,(概要)はそうではない。つまり,選択肢は追完請求するか,損害賠償するか,解除をするか,それはそもそも自由な選択をするという立場に立てば,必ずしも(1)があってから(2)という関係にはならないと思うんです。(1)があって,初めてそれが終わってから解除か損害賠償ができると,それを明確に意図したのか,意図していないのかの確認をさせていただきたいのですが。 ○新井関係官 目的物に契約不適合があった場合に,損害賠償を請求できるための要件は,債務不履行による損害賠償の一般原則による,そして,契約の解除についても契約の解除の一般原則による,ということを意図しておりました。したがいまして,例えば解除を念頭に置きますと,催告解除というルートに乗せるということであれば追完の請求,すなわち,催告をした上で解除をするというルートになるでしょうし,仮に追完が不能であるというような局面であれば催告をなしに,ほかの要件を満たす限りにおいて,契約の解除をすることができるということを「債務不履行の一般原則に従い」という言葉で表そうとしていたということです。ですので,最初の「債務不履行の一般原則」に入る前に追完請求という具体的なアクションを要するかどうかというと,必ずしも常にそれを必要としているということを意図していたわけではございませんでした。そういう追完の請求,すなわち追完の催告が必要かどうかというのは,飽くまで全て債務履行による損害賠償なり,解除の一般原則に規定されている要件に基づく,ということを表現しようとしていました。 ○鎌田部会長 確かに(2)は「売主が上記(1)の履行を追完しないときは」で始まるし,(概要)の第3段落も「債務不履行の一般原則に従って,追完の不履行による損害賠償の請求をし,又は追完の不履行による契約の解除」と,何か追完請求が必要的に先行しなければいけないと読むほうが素直な読み方になっているように思われるんですけれども,それはそういう意図ではないということですね。 ○新井関係官 はい。 ○鎌田部会長 文章からは,今,お二人から疑問が提起されたような読み方をするほうが素直かもしれないので御配慮を。 ○深山幹事 部会長の整理されたのとおりなのですが,私も,まずは追完するという順番が付いているのか,そうでないのかということを疑問に思って読んでいましたが,今の整理で分かりました。必ずしも追完を先行的な要件にしないのであれば,むしろ,(2)のところは「履行の追完をしないときは」というのを冒頭に持ってくるのではなくて,それは取ってしまって,正に(概要)のほうにあるように,契約不適合がある場合には債務不履行の一般原則に従って,損害賠償ないし解除ができるということをまず謳った上で,それを制限する規律として,ただし,損害賠償請求や解除をする前に追完がなされたときは,それが制約されるという順番になるのかなという気がします。参考にして御検討いただければと思います。 ○道垣内幹事 場所が違うのですが,よろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 取りあえず,今の「目的物に契約不適合がある場合」についての御意見を。 ○岡委員 2点あります。   1点は,契約不適合という言葉について,まだ,かなり抵抗がございました。その前の3の(2)の「適合したものでなければならない」,これはすんなり浸透しつつあるように思うんですが,予想外に不適合というのは反対が多かったと思います。いろいろ考えてみますと,ここで不適合という新たな概念を持ち出す必要は余りないのではないかと。「目的物に前記3(2)に違反する債務不履行があるときは」うんぬんと表現をすれば,誰も文句を言わなくなる可能性があると思います。そこで,契約不適合という概念をわざわざ作る意味がどこにあるのかというのをお伺いしたと思いました。目的物に関する債務不履行でよいのではないかと個人的には思いました。   二つ目は4の(3)の追完権のところでございますが,弁護士会の中に両論がございます。ここについては注ぐらいで,規定は設けずに権利濫用等の解釈に委ねるという考え方もあると書くのは如何でしょうか。(3)についてはかなり新しい概念でもありますし,賛否もそれなりに分かれておりますので,追完権については注を書いたほうがよろしいのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 関連して4についての御意見でほかには。 ○山本(敬)幹事 4の(3)なのですが,この提案ですと,例えば代物請求をしたのに対して修補の提供をしたときには,それが買主に不相当な負担を課すものでないときに限って,弁済の提供としての効力を有するということになるのだろうと思います。これでカバーできる部分はよいのですけれども,問題は「弁済の提供としての効力を有する」という書き方でして,履行請求に対しては弁済の提供をしても抗弁にはならなくて,請求が認められるだけではないかと思います。ですので,例えば買主が代物請求をしたのに対して,売主が修補をしますといって,しかも,それが買主に不相当な負担を課すものでないときは,代物請求は認められないということを書かなければならないのではないかと思います。その意味で,弁済の提供としての効力を有するというのは,確かに損害賠償責任と解除についてはカバーできているのですけれども,これでは書き方としてはなお十分ではないと思いました。  規定の中身については,これは書くべきだろうと思います。ただ,「不相当な負担」というのがまた解釈問題として残ってきて,かなり難しくなるかもしれないということはあります。   それから,(概要)の部分の書き方の問題だけなのですけれども,次の29ページの2段落目で,「以上で取り上げた」の部分の,「隠れた」を要件として設けないことはそれで良いと思うのですが,「現行法では」という説明のところで,「内容確定に当たって織り込まれていたか否かを『隠れた』という要件において判断していると考えられるが」と書いてあるのは,潮見幹事の御意見でして,民法学全体もこのように解釈しているとまでは現時点ではまだ言えないように思いますので,違う書き方をしていただいたほうが公平かなと思いました。 ○松本委員 第二読会のときに私が危惧を申し上げた部分なんですが,すなわち,売買契約における瑕疵担保責任あるいは債務不履行の一元化論といいましょうかがあって,今回の改定提案の背景に債務不履行一元化論があるんだということが補足説明に書かれていたわけです。その考え方でいくと,種類物売買をモデルにして売買のデフォルトルールを作ろうということで,従来の現行法における特定物売買であれば,後発的瑕疵があって,それについて債務者に責めに帰すべき事由がない場合については,損害賠償の対象にはならないんだと私は理解をしておりましたが,債務不履行一元化論は,むしろ,種類物売買の場合の瑕疵基準であるところの履行期における瑕疵の有無のみで債務不履行の損害賠償を判断する考え方であって,従来よりは特定物売買の売主の損害賠償の責任が重くなるということで,それでいいのだろうかという疑問を前から述べておりました。28ページの4の(2)の部分,「履行の追完をしないときは」というのを括弧に入れてしまいますと,単純に買主は債務不履行の一般原則に従って,不履行による損害の賠償を請求するということになるわけですが,この場合の「債務不履行の一般原則に従って」というのは,部会資料53の35ページの「債務不履行の損害賠償とその免責事由」というところによりますと二つのルールがあります。その二つ目のルールが,「債務不履行が,当該契約の趣旨に照らして債務者の責めに帰することのできない事由によるものであるときは,債務者は,不履行による損害を賠償する責任を負わないものとする」ということなので,今のような後発的瑕疵で責めに帰すべき事由がないような場合,例えば地震による崩壊のような場合については,瑕疵担保責任としての損害賠償責任は負わないと理解してよろしいんでしょうか,それとも負うという趣旨なんでしょうか。 ○新井関係官 松本委員がおっしゃるように,債務不履行による損害賠償責任が免責されるという考え方について一般原則を適用するというのは,ここの提案のとおりです。この提案はそういう前提になっておりますので,一定の場合,損害賠償が免責されるという局面があろうかと思います。その他方で,どの債務不履行を問題にするかということがあろうかと思います。というのは,今の部会資料の考え方ですと,引渡し前に瑕疵が生じたということであれば,追完請求権の対象になるという整理をしており,追完請求権について不履行があれば,それはそれで損害賠償の対象になると……。 ○松本委員 だから,「追完の履行をしないときは」という文言が入っているということですか。 ○新井関係官 そういう意味では,追完義務を履行しないということで債務不履行による損害賠償という捉え方が考え得るということです。そして,それが免責されるかも,一般原則に従って判断されるということを考えております。 ○松本委員 そこで,部会資料53の34ページの「契約による債権の履行請求権の限界」というところを読みますと,物理的に不可能,過分の費用に加えて,更にウのところで,その他契約の目的とか取引通念とか,いろいろな事情を考慮して,「当該契約の趣旨に照らして,債務者に債務の履行を求めることが相当でないと認められる事由」がある場合には,追完請求はできないということになっているわけです。これは換言すれば,例えば地震による崩壊の場合に,なお,修理して,あるいは建て直して引き渡すべきだという趣旨の契約だったのかどうかというところに還元される考え方であって,そのような特約があるのであれば,地震があろうが何があろうが,ある時点において完全な建物としての引渡しをしますという趣旨であれば,そのとおりなわけですが,一般的な取引感覚として従来はそういう場合には,特約がなければですけれども,建て直してまで引き渡すべき義務は認められていなかった,その分,代金も請求できないということにはなるんでしょうが,そういう整理だったと思うのです。それが今回,変わったと考えるのか,変わっていないんだということなのか,いかがなんでしょうか。つまり,特約的なものがあることをデフォルトに置くのかということです。それも契約の趣旨だということになるのかもしれないけれども。 ○新井関係官 今回の資料の考え方を説明すると,追完請求権があるとしてもその限界事由があるかどうか,松本委員がおっしゃるように,契約の趣旨を踏まえて判断することになる,したがって,地震などの場合に目的物が大きく損壊してしまったような局面において,修補という対応を売主に求めるのは契約の趣旨に照らしても苛酷であるということであれば,修補の限界事由に当たるということが導かれるのだろうと思います。 ○松本委員 簡単に言うと,従来とそれほど変わらないということなのか,従来と大分変わりますよということなのか,どっちなんですか。もし,従来と相当変わるのであれば,そのことはパブコメの際にはっきりと言うべきだと思うんですが,そのほうがいいんだという意見が多ければ変えればいいし,従来のようなデフォルトのリスク配分のほうがいいんだということであれば,変えるべきでないということになると思うんですが,どっちか,よく分からない改正案というのは,意見が言いにくいと思いますが。 ○内田委員 従来のというのは,売主に帰責事由のない後発的な損傷が生じたという場合に,5で代金減額の請求ができますけれども,それで結果的に,従来,危険負担的に処理をしていたのと同じ結果になりますね。ただ,帰責事由の有無について,単に売主に過失があるかどうかで判断するのではなくて,債務不履行の一般原則に従って,つまりこの提案によれば,契約の趣旨に従って売主がどこまでのリスクを引き受けていたかということを実質的に判断して評価するということが明らかになります。ただ,従来も裁判例はそう判断していたと思いますので,その点でも実質において違いはないのではないかと思います。 ○能見委員 既に先ほど山本幹事が「隠れた」という瑕疵のところの記載について,29ページのところですけれども,説明の仕方を改めたほうがいいという趣旨の発言をされましたが,私も,山本幹事のご趣旨とは少し違った意味で,「隠れた」という従来の要件に替えて契約不適合の中で判断されることの積極的な意義を強調する説明があるとよいと思いました。「隠れた」瑕疵という要件のもとでは,瑕疵が客観的に現れている場合,容易に発見できる場合には,隠れた瑕疵ではないということで,買主の救済を一切与えられないことになるので,いわば,オール・オア・ナッシングの解決をしているわけですけれども,「隠れた」という要件がなくなって,契約の不適合で判断するというときには,例えば瑕疵自体は客観的には現れていて,買主としては知ろうと思えば知ることができたかもしれないけれども,その意味では買主側にも過失はあるかもしれないが,それでも契約不適合の責任を認める余地が出てくるし,それが適当な場合が恐らくあるのではないかと思います。   そういう場合には,買主のほうにもそれなりに責任といいますか,過失があるので,売主の契約不適合の責任を認めるとしても,過失相殺などによって,その意味ではオール・オア・ナッシングではない解決が可能になることも,「隠れた」という要件を落として,契約不適合によって処理することのメリットであると私は思うのですが,この点について賛同か得られるのかどうか分かりませんけれども,このような理解が可能であれば,この点も説明の中に付け加えていただけると有り難いのではないかと思います。要するに従来瑕疵担保責任はオール・オア・ナッシングで解決していたのを,責任を肯定した上で過失相殺で処理するという余地も認められるということだと思います。 ○内田委員 従来,「隠れた」という言葉は,単に外から見えるか見えないかではなく,瑕疵を前提に契約を締結していれば,隠れていなかったということになるし,瑕疵が外から見えていてもないものとして契約していれば,隠れたと評価していたと思います。その判断基準を表に出して規律を設けようということだと思いますので,実質を変える趣旨ではないように理解しておりました。 ○能見委員 判断基準を表に出すということ自体については別に反対ではありませんが。 ○内田委員 4の(3)ですけれども,岡委員に質問させていただきたいのですが,追完権を認めることに対して非常に消極的な意見があるので,注を付けてほしいという御意見でございました。確かに,総則的なところで追完権という規定を置くことに対して非常に反発があり,特に債務不履行をしている側に権利を与えるような規律の仕方に対して,非常な抵抗感が示されたと思います。そこで,実質的に最も問題になる売買のこの場面で,権利という言葉を使わずに,一定の追完の請求に対して相手に不相当な負担を課さない別の履行の提供をして,それが合理的であれば債務不履行にならないのだということだけを規律しているわけです。実質において,この規律のどこに不都合があるのかを聞かせていただければと思います。 ○岡委員 今,一般論でおっしゃったところで,債務不履行した買主が一定の行為をしたら,それが通るんだと,権利的に構成するところに対する違和感だろうと思います。基本的には中身に反対している弁護士はそれほどいないと思います。書き方及び権利的な表現が不安である,信義則あるいは一般論の解釈でやるほうがよいという程度の意見だと思います。 ○内田委員 これは権利的には書かれていませんで,売った車に小さな不都合があるときに,買主が別の新車をよこせというのに対して,簡単に修理できますから修理させてください,それで買主に対して別段不便も掛けないでしょうといって修理の申出をしたときには,それを認めるというのが取引の常識なのだろうと思います。それは特別な権利を認めるとかいうことではなくて,取引の合理的な判断基準が書かれているだけではないかと理解しています。以前使われた追完権という言葉に対する反発から,せっかく修正されている案なのに,これに対してなお権利であると評価されるのは残念な気がいたします。 ○岡委員 一言,いいですか。合理的な事例は内田先生のおっしゃるとおりですが,そうではないことを言い出す人も実務には一杯いますので,その心配をする弁護士がいるんだと思います。 ○加納関係官 今の内田先生の御質問に関係することになるかと思いますが,岡先生の御意見とはまた別に,4の(3)につきましては,私も懸念とまでは言わないんですけれども,気になるところもありまして,先ほどの自動車の例はそれでいいですが,例えば電化製品に不具合があり,映らないので変えてほしいと買主である消費者が思ったときに,何か,交換用の部品みたいなのを事業者がぽんと送ってきて,これでいいんだとして,だから,我が社の取扱いでは修理はしませんというようなことがあったりするようでございまして,その場合に交換のキットをぽんと送ってくるというのが代物なのか,それとも,ここで言うところの修補なのかというところは,私も事案によってはいろいろあるんだろうなと思ったりもするんですけれども,消費者契約でこういうふうなものが問題になったりする場合に,なかなか,事業者のほうからぽんと何かこうしますと言われたときに,消費者のほうがいやいや違うんですという話をどこまで言えるのかなというのが実は気になるところとしてございまして,この提案自体は多分,いろいろと売主と買主のバランスをとって,こういうふうな不相当な負担というところで排除するんだということで,規律の内容としては合理的ではないかと私も思うんですけれども,実際にうまくいくのかと,特に不相当な負担というのがどうなるのかという点に気になるところがないわけではないというところでありまして,その辺はもうちょっと実務の御意見とかも聞きながら考えていくべきかなというふうな気がいたします。 ○山本(敬)幹事 4の(3)については,比較法的に見ますと,追完の方法を誰が決めることができるかという点について,売主の側が決めることができるという立場もあります。ここではそれを採らずに,買主が選択できるという立場を採っているという点で,既に売主の権利性を奪っている提案になっているのだと思います。しかし,買主が選択できるとすると,それが常に認められるということになれば問題が生じるので,このルールが定められているのだと思います。   そのときに,今,加納関係官がおっしゃった問題に引き寄せて言いますと,売主がそれと異なる方法による追完の提供をしたと言えるのは,飽くまでも当初の契約の趣旨に照らして,それが契約の趣旨に適合した追完方法であると言える場合であって,そう言えなければ,それは追完の提供をしたことにならないと言えるはずです。さらに,仮に契約の趣旨に照らして適合的な追完の方法だとしても,それが買主にとって不相当な負担を課すときにも,それは認められないと言えるのではないか。   そのときの「不相当」の判断基準は,なかなか一致が得られないかもしれませんけれども,買主はこのような契約,例えばこの代金でこのような性質を持った目的物を買うという契約をした場合に,その目的がこの追完の方法では実質的には達成できない。それよりも低いもので我慢せよということになってしまうときには,買主に不相当な負担を課すことになるというのが一つの基準ではないかと思います。ですから,消費者にとってこのような追完をされても,追完の方法としてはあり得るのかもしれないけれども,契約をした趣旨には反するという場合には,それは拒絶できることになるのではないかと思います。   最後の部分は,なお検討の余地があるところではありますけれども,そのような形で解釈されていくものでして,ルール自体としては問題はないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 多分,古典的な発想でいけば,最終的に落ち着いたところが,元々,それが追完請求権の内容であって,それを超える請求は過大な請求であり,それを下回る提供は債務の本旨に従っていない,したがって,有効な追完の提供ではない。こういうふうなことを前提に,双方の提案の出し合いのプロセスの中で,あるべきところへたどり着いていこうという,その発想方法が古典的な伝統的民法の権利構成からいくと,違和感を感ずるということなのかもしれないんですけれども,実際の紛争解決プロセスにはより適合的だというような理解を個人的にはしているんですけれども,その辺について更にまた議論をしなければいけないのかもしれません。 ○岡委員 今の趣旨であれば,(3)の3行目のところに,「異なる方法による契約の趣旨に適合した追完の提供をしたときは」とでも入れてくれると,安心感は広がると思います。 ○松本委員 単なる確認なんですが,今の4の(3)の議論と,後のほうに出てくる10の「買主の義務」の議論をつないでいいんでしょうかということです。普通はつなぐように思えるんです。すなわち,追完の提供を売主がした場合に,それが弁済の提供としての効力を有するということは,買主サイドから見れば,契約の趣旨に適合しているものであれば受け取る義務があるんだと,したがって,受領を拒否するということは債務不履行であって,契約解除,損害賠償の対象にまでなるとつないで理解してよろしいですか。普通に考えると,そうなりそうなんですが,そうではないという趣旨ですか。 ○鎌田部会長 最後のところは受領遅滞をどう考えるかにもよるんでしょうけれども,前のほうは山本敬三幹事が提起した問題との関係では,弁済の提供としての効力を有するというか,受領を拒むことはできないというような,そういうものとしては,多分,受け入れられる話なのではないかと思います。 ○松本委員 受領を拒むことはできないという書きぶりにしたにもかかわらず,拒んだ場合は10で言うところの買主の義務違反になるんですか。受け取る義務の違反。 ○鎌田部会長 受領遅滞の前提となる条文として機能するんですね,10は。だから,それは一般的な受領拒絶,受領義務違反の話になるのではないでしょうか。 ○松本委員 その場合に,今,部会長が留保された10の買主に義務違反の効果というのは何なのでしょうか。債務不履行一般に任せるということであれば,損害賠償とか解除とか,あるいは強制的な受領強制というのが当然考えられるわけですが,ここには義務だと書いてあるんですが,効果については何も書いていないということは,債務不履行一般に委ねるという理解になるんでしょうか。それとも単なる義務であって効果とは結び付かない,せいぜい,一般的な損害賠償の対象となる情報提供義務違反と同じレベルの義務違反ということですか。 ○鎌田部会長 受領遅滞についての提案もなされていますので,受領遅滞についての提案内容に従った処理がされる。 ○松本委員 部会資料54の8ページの受領遅滞のところを見ると,受領遅滞の効果としては2点です。一つは増加した費用の負担はここで言えば買主だと,それから,もう1点は売主の側の保存義務が軽減されるということです。10でいけば,アの場合にはそれは一応,当てはまるわけですが,イの対抗要件具備に協力する義務の違反を受領遅滞と見たところで,この改正提案の受領遅滞の効果としては全く意味がない。ここに買主の義務としてこの二つをわざわざ書く以上は,一般的な受領遅滞以上のものを考えているのではないかと私は理解していたのですが,そうではないとおっしゃる。そうすると,特にイの違反なんかは単なる紳士的な義務違反にすぎないんですかという話になってきて,一般的な意味の不法行為が受皿になる可能性もありますという程度のものなのか。むしろ,ここで書くのであれば,もう少し積極的に売主側からの何かアクションが起こせるようなものでないと,わざわざ,書く意味はないのではないかと思うんですが。 ○鎌田部会長 それはどうでしょうか。 ○新井関係官 補足いたします。10の「買主の義務」に違反した場合の効果として念頭に置いていたのは,松本委員がおっしゃるような,損害賠償ないし契約の解除でございました。ここに書いてある義務に違反するということは,契約違反を構成するということになりますので,先ほど言ったような損害賠償ないし解除が,一般原則に基づいて可能だ,ということです。履行の強制までできるかどうかというのは,二読の議論の中ではなお異論もあったと思うので,そこはあるいは最終的に解釈に委ねるということになるのかもしれませんが,効果としてはそういうことでございます。 ○松本委員 そうすると,受領遅滞にとどまるわけではなくて,買主の側の債務不履行だと,履行強制の部分は別にして,という位置付けだということですね。 ○新井関係官 はい。 ○鎌田部会長 ほかに,まだ,「売買」については,今,話題になった項目以外にたくさんありますけれども。 ○岡崎幹事 9の「競売における買受人の権利の特則」についてですけれども,ここの(注)で,「現状を維持すべきである。」との考え方があることを記載していただいていますが,先ほどの発言とも共通しますが,(概要)欄に,特に(注)の一つ目の考え方について,ごく簡単で結構ですから,その根拠の核心部分を記載していただくと,読み手にとって分かりやすいと思います。   その核心部分ですが,これまでの部会での議論においては,物の瑕疵は権利の瑕疵と性質が少し違うのではないか,物の瑕疵は権利の瑕疵と比べて非定型的であって,その有無の調査が容易ではないという指摘がされていたかと思います。したがって,物の瑕疵を競売の中で問題にすると,手続が覆滅される余地が格段に増えてきて,関係者が多い競売の中で,そのように手続が覆滅されることになると混乱が生じますし,それを避けようと思うと遅延が生ずるのではないかと,こういう指摘だったと思いますけれども,今,申し上げたようなことのエッセンスを簡単に盛り込んでいただくとよろしいかと思った次第です。 ○三上委員 今のところに関連して,(注)のところの「また」以下なんですが,(2)を設けないということは,誤解かもしれないですが,配当を受けた債権者は一切返還しなくてよいという規律のように読めて,債権者としては非常にうれしいんですけれども,恐らく,それは現行法よりも後退するものとして誰の支持も得られないと思いますので,「また」以下のところの(2)というのは,(2)を「目的若しくは権利の不存在の場合には」,という条件が入った提案に置き換えるという提案のほうがよろしいのではないかと思う,というのがここの部分です。   それと,ついでで申し訳ないんですけれども,もう1点,「売買の予約」のところで前も言いましたが,ここに書いてあるのは選択権,オプションの話で,その後,いろいろ,銀行の契約書も全て見てみましたけれども,いわゆる「選択権」の意味で「予約」と使う場面はないのではないか,普通の民間の人々は,予約というときには履行期が将来にある現在の確約,つまり,クーリングオフは別として,一方的には破れなくなってしまうものであると理解していると思います。このほかにも時効の更新だとか,譲渡制限特約とか,使い慣れた用語と離れる場面もほかにもあるわけですから,ここも「予約」ではない「選択権」として定義し直すほうがよいのではないかとも考えております。 ○三浦関係官 9番ではなくて別の項目でよろしいでしょうか。29ページの5番で,「目的物に契約不適合がある場合における買主の代金減額請求権」なんですけれども,ここの(3)です。「減額請求の意思表示はかくかくしかじかの意思表示と同時にしなければ,その効力を生じないものとする」という記述がございます。それで,確か,前回の部会までのところ,二読のときまでの議論では,多分,このように具体的に書かれていなかっただけかもしれませんけれども,印象としては代金減額請求権をしたら,基本的には追完請求権などは行使できないように自動的になるんだとも理解をしていた方もおります。今回,29ページに記載の(3)の案は,その趣旨が30ページに書かれてあって,予想外の事態を避けるということになって,これはこれで理解できるので,これはこれで案として書いていただくのはいいとしまして,他方,通常の実務の中ではあえて解除権を放棄する旨の意思表示を行わない実態もあるということで,減額請求の意思表示をしたら,むしろ,それは契約の解除をする権利を放棄する旨の意思表示とみなしてくれというような御意見もございました。   ですので,ここのところは多分,二通りの考え方があって,ここで書いていただいているように,あえて追加的に,解除はしませんよという意思表示をして初めて減額請求が効力を生じるという記述も一つあるとは思いますし,他方,二読のときの整理のように,代金減額請求をしたら,解除権のほうは自動的に放棄するとみなすのだという考え方も,両方あり得るかなと思っています。そういうことを,(注)は仮に行き過ぎだとすれば(概要)のどこかでもいいと思うんですけれども,そこは両案があり得るのだというふうなことをもし書くことを御検討いただければ幸いに思います。 ○道垣内幹事 先ほどの4をめぐる議論を十分に理解できていないのですが,一言だけ申しますと,28ページのところの(概要)の下のほうの本文(3)のところで,履行自体はできるわけですよね。だから,それを書いてあげたほうがいいような気がしました。   発言したかったところはそこではありません。高須幹事が最初におっしゃった地役権の問題なのです。地役権については,売買契約において,どのような財産権を移転する義務を売主が負っていたかという問題に集約させるというふうなのが,新井関係官の御説明だったのではないかと思うのですが,地役権が例えば売買の目的物から明示に排除するという特約が結ばれても,土地本体の売買がなされれば,当該地役権は買主に帰属するのではないかと思うのです。281条は土地の所有権と地役権が分離したものに帰属することはないというシステムになっていますから。そうすると,地役権については,本当に売買契約において移転が約された権利の範囲の問題に吸収し切れるものなのかというのが若干,気になるところがあります。   もちろん,通常の場合にはそこに含まれているだろうと思われまして,しかるに,あると言った地役権がなかった場合には,移転するはずのものを移転しなかったのだからということで,ここの規律に入れてくることができるのですが,少し注意しておく必要があるのではないかという意味で発言させていただきました。 ○鎌田部会長 分かりました。ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 今,道垣内幹事の御発言で3に戻りましたので,3について一つだけあります。3の中で「売買の内容」という言葉が三つ出てくるのですけれども,2番目は(1)のイ,3番目が(4)で,それぞれオブジェクトという意味での売買の目的ということで理解できます。ところが最初に出てくる(1)の柱書きのところで,「売買の内容に従い」という部分がやや不明瞭な感じがいたしますので,少し言葉を補ったほうがいいのではないかと思いました。 ○深山幹事 34ページの9の「競売」のところに戻るんですけれども,2点,確認的に申し上げたいと思います。1点目は極めて形式的なことかもしれないんですけれども,(1)のところについて,主語は買受人はということで,当然,「債務者に対し」という趣旨だろうと思います。現行法も「債務者に対し」という文言が入っており,「債務者に対し」という文言がないことに特別な意味はないと思うので,もし,特別な意味がないのであれば,「債務者に対し」という文言を入れていただいたほうが分かりやすいし,(2)にもつながっていくのだろうと思います。   それと,もう1点,(4)の期間制限のところについて,これを提案することに異存は全くないんですけれども,分かりにくいなと少し思いました。6の一般の期間制限のところと9の(4)の関係について,考え方としては幾つかの考え方があるんでしょうし,6のところの一般的な担保責任の期間制限について,甲案,乙案のどちらを採るにしろ,それとは関わりなく,9の(4)のところは一律1年という考え方ももちろんあり得ると思います。しかし,それ以外の考え方もあるかと思いますので,(概要)で両者の関係について少し解説をしていただいたほうが,分かりやすいような気がいたしました。御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですね。ほかに。 ○中井委員 9について,物の瑕疵を取り込むとした場合を想定して相当限定した要件を定めた,その方向性は理解できないわけではないんですが,買い受けた目的を達することができないという要件を一方で設定して,他方で,効果としては代金の減額と契約の解除としています。契約の解除を認めるのは,買い受けた目的を達することができないときであることは,十分,理解できるんですが,他方で,代金の減額という効果を認める要件として,果たして買い受けた目的を達することができないときというのが適合するのか,厳し過ぎるといいますか,家を買った,シロアリがいた,そのまま,家は持ち続ける,場合によっては解除しなければならない事態もあるかもしれませんけれども,代金減額,シロアリ駆除と一定の柱を取り替えることによって使える,こういう場合もあると思いますが,どうも適合しない。   つまり,対価と著しく均衡を失するような損傷があったときということだと思うのですが,それが読み込めるような要件にしなければ,論理としても整合しないのではないかという印象を受けました。対案として,買い受けた目的を達することができないに代わる要件をどう表現したらいいのは,にわかには出ないんですが,代金減額との兼ね合いを考える必要があるのではないかと感じた次第です。 ○松本委員 一気に進めて15番ですが,「買戻し」のところで従来と変えて,返還すべき金額,買戻し金額については当事者が別段の合意をすることができるということで,こうなると,再売買予約との関係がどうなるのかというところが問題になってくると思うんです。従来の議論だと,買戻しが不都合であり,不便だから再売買予約がされているんだと。ここで買戻しをしやすくすることによって,再売買予約をやらなくていいようにしようという政策的意図なのかどうなのかということです。それとの関係で,買戻しは売買契約の解除だと民法にはっきり書いてあるわけですね。だから,払ったお金を返して,現物を返すんだと。ところが,返金すべき額については自由に決められるんだということになると,それは解除なのかどうか。解除だという部分まで変えないと,ひょっとすると駄目ではないかなという気がします。解除を残すのであれば,解除プラス何か契約金の支払とかいう構成にしないと,解除の一般論との関係で合わなくなってくるかと思いますので,その辺,もうちょっとお考えいただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○山本(敬)幹事 37ページ,14番の「危険の移転」についてです。まず,(1)で,「買主は,売主が目的物を買主に引き渡した時以後に生じた目的物の滅失又は損傷を理由として,前記4又は5の権利を行使することができない」となっています。ただ,引き渡しますと,引渡債務が履行によって消滅するはずですので,それ以後に滅失・損傷したとしても,債務がないわけですから,不履行にそもそも当たらない。したがって,4又は5の権利はあるはずもないというのが論理的ではないかと思います。そうしますと,書くとするならば,4又は5の権利は「認められない」であって,「行使することができない」というのは適切ではないだろうと思います。   それから,(2)で「売主が当該売買契約に適合した目的物の引渡しを提供したにもかかわらず,買主がそれを受け取らなかった場合であって,その目的物が特定されているときは」という書き方になっています。これも,どう理解していいのか,最初は分からなかったのですが,特定していないと,提供をそもそもしたことにならないのだろうと思います。そして,後ろの(概要)の説明を見ると,それを書こうとしておられるようにも読めます。とすると,提供の前提として,特定して提供したということであって,この書き方ですと,提供した後もずっと特定が必要であるということを要件としているように見えて,それはそれで意味があるのかもしれませんが,少なくとも(概要)の説明とは合っていないように見えます。ですので,ここは書き方を正確にしていただければと思います。   それから,もう一つ言いますと,この場合には「上記(1)と同様とする」となっています。ということは,(1)のただし書も入ってくるわけです。つまり,その滅失又は損傷が売主の債務不履行によって生じたときは,この限りでない。ただ,(1)の債務不履行は,引き渡したときより前に債務不履行,例えば保管義務違反などがあって,瑕疵の原因になるようなもの,あるいは滅失・損傷の原因になるようなものが作られていたということが(概要)では挙がっています。ですから,ここで言う債務不履行は,引渡し前の債務不履行に限られると見てよいのではないかと思います。ところが,(2)は,それもありますけれども,一旦提供して受け取らなかったので,保管している,その保管している間の義務違反も掛かってくると思います。ただ,受領遅滞の効果として保管義務の程度が軽減されるということがありますので,その軽減された義務すら尽くしていない場合がここで念頭に置かれています。このように違いが出てきますので,(1)と同様とするというのはよくなくて,(2)についても,「売主の債務不履行によって滅失又は損傷が生じたときは,この限りでない」という書き方をもう一度,別に書く必要があるのではないかと思います。   あと,小さいことですが,(概要)で「本文(1)は,いわゆる給付危険の移転時期に関するルール」と書いてあるのですが,別に給付危険に限っていないのではないかと思います。解除の可否も含まれてくるとするならば,わざわざ,「給付危険」と書く必要はなく,単に「危険の移転」と書けばよいのではないかと思ったということだけを申し上げておきます。 ○鎌田部会長 今の点で何かありますか。 ○内田委員 (2)の「その目的物が特定されているときは」という部分についての御疑問ですけれども,種類物で,一旦,引き渡すために分離をしたけれども,相手が受け取ってくれないということで,特定が失われるという場合もあるわけですね。ですから,危険負担の規定の適用がされるためには,判例上は一応,分離をして保管する状態が続いているということが要求されていますので,それを表現しようとしたということだと思います。表現に不備がありますでしょうか。 ○山本(敬)幹事 38ページの4行目からの書き方で,判例をきちんと読めということなのかもしれませんが,「種類物売買については,危険の移転の前提として目的物が特定されている必要がある」と書いてあると,先ほどのような誤解なのでしょうか,誤解の余地があるかもしれないと思いました。もう少し,正確に知らない人にも分かるように書いていただければということだったのかもしれません。 ○鎌田部会長 取立債務なんかだと分離がなくても弁済の提供ができてしまって,そのときには特定が生じない。そういうケースがあり得るということを考慮に入れたものだと理解しています。   それから,(1)のただし書の売主の債務不履行というのは,隠れた瑕疵が存在しているときというのが典型なのではないかと思うので,それが引渡し後に顕在化したというのが典型例になるのだろうと思いますので,おっしゃったことと違わないのだろうと思いますけれども。 ○山本(敬)幹事 (概要)の説明は,必ずしもそうはなっていなかったのではないでしょうか。最後の4行で,「もっとも,その滅失又は損傷が売主の債務不履行(引渡し前の保存義務違反等)」と書いてありますので,先ほど申し上げたように理解されたということです。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○松本委員 15番の追加です。一言だけですが,買戻しを担保目的のためにもっと使ってもらいましょうという趣旨で,こういう改正をされるのであれば,利息制限法との関係での清算義務についての規定も入れなくてはならないと思うんですが,そうなると,担保法の改正になってしまうので私は前にも言いましたが,今回の買戻しは担保法的な部分は取りあえず置いておいて,むしろ,本来的な買戻し,例えば土地供給公社などが分譲したんだけれども,買主が一定期間内に操業を開始しないような場合に買戻しができるという特約,そういうのがもっと使いやすくなるようにという趣旨の手当が必要であればするというところにとどめたほうがいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 この点は更に御意見を踏まえて検討させていただきたいと思います。   ほかには。 ○山本(敬)幹事 「売買」ではなく,取り上げられなかった論点でもよろしいでしょうか。その一番上の「冒頭規定の規定方法」で,現在は効力規定の形になっているものを定義規定にするかということがこれまで議論されていて,私の理解する限りでは,定義規定にするということ自体については余り大きい異論はなかったのではないかと思っていました。今回,取り上げられなかったということが何を意味するのかということをお教えいただきたいのですが,そのような修正をしないということなのかどうなのかということをまずは確認させていただきたいのですが。 ○筒井幹事 条文の書き方そのものにかかわるので,中間試案において取り上げることが適当かどうかという問題もありますけれども,お尋ねの点について取り上げなかったということは,現時点では現状維持の方向で考えていると御理解いただいた上で,違う考え方について問題提起を頂ければと思います。 ○山本(敬)幹事 分かりました。では,問題提起をさせていただきます。市民にとって分かりやすい民法にするという観点から,典型契約の意味を定義という形で示すということが提案されていて,それは改正の趣旨からしても適当ではないかということが言われていたと思います。その意味では,あえて現在のまま,これこれによって効力を生ずるという形で残さなければならない理由は特になく,実践的に何か大きい問題があれば別ですけれども,定義の形で規定するほうが私は望ましいという意見をなお主張し,御賛同が得られれば,そうなってほしいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○新井関係官 岡委員から御質問があった点について,1点,お答えしていなかったことがあったかと思います。「契約不適合」という概念をあえて使った理由ということを御質問いただいています。これは,基本的には契約の趣旨に適合していないということの略語ではあるのですが,代金減額請求権ですとか,あるいは期間制限の適用場面を切り出すという,そういう技術的な意味もあって,今回,そのような略語ないし概念を用いているということでございます。この契約不適合という言葉が適切かどうか,適切な言葉をなお探求することについては現段階では柔軟に考えておるんですが,そういった適用場面を切り出す概念として必要だということで使ったものです。 ○岡委員 目的物に関するものを切り出すという意味では分かるんですが,その切り出し方として目的物に関する債務不履行という表現ではなく,目的物に関する契約不適合とした何か理由はあるんでしょうか。 ○筒井幹事 略語の問題なので,これ以上に議論してもと思いますし,岡委員から御指摘があったように,書きおろすということでうまく対応できるなら,それも一つの方法かもしれないとは思います。ただ,瑕疵という用語別の平易な言葉に置き換えるという作業は,今回の改正作業の中で必要になってくるだろうと考えております。もちろん,瑕疵という用語を維持すべきであるという御意見もあることは承知しておりますが,しかし,民法で最も分かりにくい用語の典型として挙げられている言葉でもありますので,見直す努力を続けていきたいと思っております。その際に,どのような用語に置き換えるかという一つの案として,現時点では契約不適合という用語を差し当たりは提示しているのですけれども,それで確定ということではなくて,引き続き議論していくということで御理解いただければと考えております。 ○鎌田部会長 なかなか,言葉の選択はここは難しいところだと思います。「契約不適合」は非常に幅広く使われることもあるし,逆に瑕疵の言葉を変えたから,9の「競売」のところも瑕疵を使わなくなって損傷になって,そうすると,損傷が15か何かではまた違う意味で損傷が使われるというふうに,いろいろなところに連動してきていますね。そういう意味では,どういう言葉を使うのが最も適切かについては,更に多角的に検討を続けていただければと思います。   ほかによろしいでしょうか。特に御発言がないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 次回会議は再来週になります。来月,2月5日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は未定ですので,別途,会議の主管部局から連絡が行くことになると思います。次回の議題は,部会資料57「たたき台(5)」を新規に配布する予定であり,取り上げるテーマとしては残りの全部を予定しております。「贈与」から始まりまして「貸借型」以降を全てお届けするようにしようと思います。資料のお届けのタイミングは,今週金曜日から来週火曜日にかけてということになると思いますけれども,残りの項目全てをお届けできるように進めたいと考えております。   それから,もう一つ,今後の日程について,しばしばお問合せを頂いておりますので,若干の説明を補充しておきたいと思います。2月の部会については,2月5日に次回会議があり,その翌週の12日に予備日が設定されております。これは文字どおり予備日ですので,今週金曜日からお届けする予定の部会資料57についての審議がもし2月5日の会議中に全て終えることができた場合には,12日の会議は開催しないことにしようと考えております。そして,2月19日については,今までお配りしたたたき台のうち(1)から(3)までの改訂版を事前にお届けして,議論していただくことを予定しております。また,その翌週,2月26日,これは以前に日程の案内を差し上げたときは予備日としておりましたけれども,この日にたたき台の(4)と(5)の改定版についての御議論を頂くことを考えておりますので,予備日ではない正規の部会と御理解いただいて,関係団体等におかれましては必要な準備をしていただければと思います。よろしくお願いいたします。   そして,3月以降ですけれども,3月以降も定例の火曜日の日程確保に御協力をお願いしたいと申し上げてきました。ここまで来ますと,ある程度,見通しも立てることができますので,少し補充いたしますが,3月5日につきましては事務当局側の都合により開催しないことにいたします。次に,3月12日ですけれども,これは2月中に中間試案についての部会での取りまとめが行われました場合には,開催しないことにしようと思います。2月26日に中間試案の取りまとめが行われない場合には3月12日以降,会議を続行することになりますので,そのために会議日程の確保を引き続きお願いしたいと思います。その最初が3月12日ということになります。以後,3月19日,3月26日についても同様でございますけれども,いずれも中間試案の取りまとめが行われました後は,会議を開催しないことにしたいと思います。更に4月についても,現段階で4月2日については部会を開催しないということにしたいと考えております。   整理いたしますと,依然として火曜日の日程確保に御協力をお願いしたいという点では,何も変わってはいないのですが,3月5日については確定的に開催しないことをお伝えいたしました。それから,中間試案が取りまとめられました後は,3月は開催しない,4月2日も開催しないということにしたいと思います。4月9日以降について開催するかどうかは未定でありますけれども,是非,日程確保をお願いしたいと考えております。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 御質問は。 ○岡崎幹事 たたき台の改訂版を今後,御用意いただけるということですけれども,その際に,初版との変更点を示すために,例えば変更部分にアンダーラインを引くなどの御配慮を頂けますと大変助かります。よろしくお願いします。 ○筒井幹事 本文に関しては,御要望に沿うものを部会メンバー限りで御提供させていただこうと考えております。他方,(概要)欄については,元々,暫定的な案としてお示ししているものでもありますし,御意見を反映することも含めて,様々な書き直しを行うことを考えております。また,その作業をいつの段階で行うかということも,一律には決めにくいところがあります。そういうこともありますので,(概要)欄については,これをいちいち見え消しの形で提示するというのは予定はしておりません。本文に関しては御要望のとおり,対処したいと考えております。 ○岡崎幹事 本文には(注)も含むと考えてよろしいですか。 ○筒井幹事 そのとおりです。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   本日も長時間にわたりまして,熱心な御議論を賜りましてありがとうございました。 -了-