法制審議会           新時代の刑事司法制度特別部会            第2作業分科会(第5回) 第1 日 時  平成25年7月26日(金)   自 午前10時00分                         至 午後 0時29分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり)           議        事 ○保坂幹事 それでは,ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会第2作業分科会の第5回会議を開催いたします。 ○川端分科会長 本日は,御多用中のところ御参集いただき,ありがとうございます。   本日は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」,「被疑者国選弁護制度の拡充」,そして「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」のうち,「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」及び「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」について,順次議論を行いたいと思います。   議事に入る前に,特別部会及び分科会の構成員の変更について御説明いたします。   警察庁における異動に伴い,島根悟さんが特別部会の幹事を退任され,新たに坂口拓也さんが特別部会の幹事に任命されました。それにより,分科会の構成員も変更されることとなり,これまで当分科会の構成員であった露木幹事が第1作業分科会の構成員となり,坂口幹事が当分科会の構成員となることになりました。   また,本日は,あらかじめお申出がありましたので,「被疑者国選弁護制度の拡充」の議論については,神幹事に代わって小野委員に御参加いただくことといたします。   それでは,本日の配布資料について,事務当局から説明していただきます。 ○保坂幹事 本日は,配布資料といたしまして,新たに第2作業分科会資料9から11までの3点をお配りしております。資料9は「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」について,資料10は「被疑者国選弁護制度の拡充」について,資料11は「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」のうち,「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」及び「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」について,それぞれ考えられる制度の概要と検討課題を整理したものです。このうち,資料10は,特別部会の第20回会議での配布資料の該当箇所を抜粋したものであり,資料9と資料11は,特別部会での議論も踏まえつつ,更に具体的な検討に資するよう,事務当局において加筆修正を行ったものでございます。内容につきましては,後ほど議論に際して御説明があります。   また,参考資料として,各検討事項に関する参照条文をお配りしております。さらに,「被疑者国選弁護制度の拡充」に関して,小野委員から新たに資料が提出されておりますので,これをお配りしております。そして,当分科会の第3回会議におきまして小野委員から提出のあった資料を再度配布しております。   資料の御説明は以上でございます。 ○川端分科会長 それでは早速,本日の一つ目の検討事項である「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」についての議論に入ります。   この検討事項に関しては,「第1 証人の出頭及び証言を確保するための方策」,「第2 証拠隠滅等罪等の法定刑の引上げ」,「第3 被告人の虚偽供述に対する制裁」について,順次議論を進めたいと思います。   まずは,「第1 証人の出頭及び証言を確保するための方策」について,配布資料の内容を事務当局から説明していただきます。 ○保坂幹事 資料9の1ページ目を御覧いただければと思います。「第1 証人の出頭及び証言を確保するための方策」についてでございます。   本日は,各制度概要案と検討課題全般について御検討いただきたいと思いますが,従前の資料からの主な変更点を御説明いたします。   まず,「1 証人の不出頭,宣誓・証言拒絶の各罪の法定刑の引上げ」については制度概要は変更しておりませんが,検討課題の三つ目の「○」ですが,この証人不出頭等の罪と,「第2」で法定刑の引上げを別途検討する証拠隠滅等,犯人蔵匿等,証人等威迫については,刑事司法作用を保護法益とする点で共通することから,これらの罪の法定刑との均衡をどのように考えるかという点を追加しております。   また,四つ目の「○」のところになりますが,罰金刑につきまして,当分科会で懲役刑を設けるのに伴って罰金刑を引き上げるべきとの意見もございましたが,懲役刑とのバランスも考慮しつつ御検討いただく必要があると思われましたことから,その旨を検討課題に追加しております。   「(参考)」として記載しておりますのは,例えば懲役刑を1年以下とするなら罰金刑は20万円以下あるいは30万円以下,懲役刑を2年以下とするなら罰金刑は30万円以下あるいは50万円以下とすることが考えられるという趣旨の表でございます。   次に,「2 証人の勾引要件の緩和」につきましては,まず制度概要の「1」として,証人の召喚についての規定を設けることとして,被告人の召喚を規定する刑訴法57条を参考にして,「裁判所は,裁判所の規則で定める相当の猶予期間を置いて,証人を裁判所に召喚することができるものとする。」としております。   次に,「2」の証人の勾引要件について,証人が召喚に応じない「おそれがあるときには」勾引できるものとする案を掲げております。これは,被告人の勾引の規定の文言や必要的弁護事件における弁護人の不出頭についての規定の文言と平仄を合わせたものです。従前の御議論では,被告人の勾引要件よりも限定的な「おそれが明らか」といった文言とすべきではないかという御意見もあったところでございますが,被告人の勾引要件より限定的な文言とする合理的な理由があるかどうか,あるいは運用上の不都合というものが想定され得るのかも含めて,いずれの文言が適切かを御検討いただければと思います。   御説明は以上でございます。 ○川端分科会長 ありがとうございました。それでは,ただいま事務当局から御説明があった「1 証人の不出頭,宣誓・証言拒絶の各罪の法定刑の引上げ」と「2 証人の勾引要件の緩和」の二つの検討項目について,順次議論を行いたいと思います。   まずは,「1 証人の不出頭,宣誓・証言拒絶の各罪の法定刑の引上げ」について,いずれの検討課題についてでも結構ですので,御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○上冨幹事 この検討課題は4点ありますので,それぞれを踏まえながら発言させていただきます。まず,法定刑を引き上げる理由としては,これまでにも議論が出ているとおり,公判を中心にそこで真実を明らかにするため,それに支障が生じるような行為を厳正に処罰するということで,恐らく余り異論はないのかなと思っております。そうするとそれを前提に,必要にして十分な刑の評価を法定刑として書くのだろうと思います。   検討課題の二つ目は,そういう観点からすると,行政機関への不出頭の罪と比較すれば,少なくとも同程度以上の法定刑になるのかなという感じがします。そうすると懲役1年というのが一つの下のラインになってくるのかなということで,この考えられる制度の概要のような形になるのかなと思います。   三つ目の検討課題の関係で言えば,この後,議論になる刑事司法作用を保護法益とする罪と類似の作用を持つ罪ですので,その均衡,どちらが重いと考えるのか,同程度と考えるのか,バランスをとらなければいけないので,それと併せて検討していくことになろうかと思いますが,少なくとも,やはり自由刑を法定刑に含めるということは必要になるのだろうと思っていますので,その意味でも制度概要のところに書かれているようなことになるのかなと思います。   罰金刑をどう定めるかについては,例えば,経済的な目的で行われることの多い犯罪について罰金額を高額に定めるという形の立法政策はあるのかもしれませんが,そうでない限りは,一般的には懲役刑の上限とバランスをとった形で定めるのが普通だと思います。この罪については,一般的な懲役刑とのバランスで考えていけば良いのかなと思います。  (参考)のところに挙がっていますけれども,その上の制度概要とこの(参考)のところで比較すると,懲役1年のときの罰金50万円,あるいは懲役2年のときの罰金20万円というのが(参考)の方からは消えています。確かに懲役1年としながら罰金の上限が50万円というのは,ほかの特別法などの立法例から見ると,ややバランスを欠くのかなと思うので,この(参考)で挙がっているような辺りから決めていくのかなということで,部会に上げる資料を最終的に決めるに当たっては,この(参考)の部分を念頭に置いて検討していけば良いのかなと思います。 ○酒巻委員 他の刑事司法作用を保護法益とする罪,証拠隠滅,犯人蔵匿,証人等威迫と比べれば,証人が司法作用に協力しないで,来ないとか,宣誓しない,証言しないというのは,広い意味でやはり刑事司法作用を妨げる罪ですから,当然均衡を考えるというのは必要だと思うのですが,一つは,証言拒絶等というのは不作為なんですかね。だから,ほかは大体,積極的に証拠を隠滅するとか,ほかのものはかなり積極的に法益侵害をやるわけですが,ちょっとそこが違うかな,違うとすれば証人不出頭等の方が少し軽くなるとの説明があり得るかもしれない。   あとは,参考資料で議院証言法を見ていたら,これも罰金だけではないのですけれども,禁錮が入っている,1年以下の禁錮。この禁錮刑というのは,川端分科会長が御専門ですが,一般的には懲役というのは破廉恥罪で,禁錮というのはそれとは性質が違う犯罪だから,そういう刑罰になっているというところがあるすると,証人に呼ばれたけれども,信念に基づいてしゃべらないとか拒絶するとか,そういうことがもしかしてあるのではなかろうか。そして,議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律も,そういう態様の証言拒絶を想定しているのかなという気もしますので,細かいところではありますが,禁錮刑の可能性というのも検討の余地があるのでしょうか。 ○川端分科会長 その点は前にも議論があったと思うのですが,不作為の態様ということで軽くなっているように見えますが,法益侵害という点では,やはり同じであると考えられますので,この場合の禁錮刑は必ずしも適当ではないのではないかという配慮があると思います。先ほどの御意見もこの点に関連するのでしょうか。 ○上冨幹事 私自身は,十分検討を尽くしているわけではないんですが,懲役と禁錮は,もちろん刑の種類としては懲役の方が重いということになるのでしょうが,懲役と禁錮を選択する上で,特に最近の立法で,禁錮というのをどういう位置付けで作っているのかというのは,なかなか明確に言えないところです。酒巻委員のおっしゃるとおり,実際にそういう立法例があることからすれば一つの選択肢かもしれませんが,最近の立法の傾向なども踏まえて,最終的には自由刑の種類を決めていくということになるのかなと思っています。 ○川端分科会長 今の点について申し上げますと,破廉恥罪と非破廉恥罪は,現在では必ずしも明確な限界線がなくなっておりますので,バランス論という形で良いのではないかと思います。 ○酒巻委員 はい,誤解のないように申し上げますと,禁錮刑については,単にいろいろな考え方の一つを述べてみただけで,私がそうすべきだという意味ではありません。   それから,不作為形態と申し上げましたのは,ほかの司法作用に対する罪に比べて証言拒絶は実行行為の形態がそうなっているので,法定刑を定めるについて,そのバランスのとり方の考慮要因になるのではないかという趣旨でございます。 ○川端分科会長 今の点,よろしいでしょうか。 ○神幹事 私ども日弁連はこれまで一貫して,法定刑を上げることに反対をしてきました。立法事実があるかどうかについては,公判で真実を語らせたいという趣旨はよく分かりますが,では,今まで懲役刑はなかったけれども,公判で真実を語らなかった者について,どれだけそういう刑罰を利用して対処してきたのでしょうか。ほとんど処罰することがなかったのではないかと思うので,懲役刑をつけたからといって,引上げによって効果がどの程度あるか疑問を感じています。   それから,民法との関係で,例えば出頭拒否なら民訴法193条にあるのですが,その規定と平仄の合う形で刑訴法も規定されていたのが,今度ばらばらなってしまうことはよろしいのでしょうか。私は,やはり法律自体の全体的な調和ということを考える必要があるのだろうと思っています。   さらに,実際上,懲役刑と罰金刑を設けている場合について,刑法典と刑訴法の条文をいろいろと見てみますと,1年以下の懲役で罰金が30万円というのは,実際上余りないのですね。それから,2年以下の懲役で50万円というのもなかなかないのです。確かに例外はあります,例えば,わいせつ物頒布罪などは2年以下の懲役で250万円です。しかし,これは経済犯的なニュアンスがあるということでそういう配慮がされていると思われます。そうだとするならば,1年以下の懲役で10万円という規定がたくさんありますので,ここはそのまま据え置くとか,あるいは最高でも20万円ぐらいにしておかなければ,バランスを失するのではないかという御意見だけは申し上げておきたいと思います。   それからもう一点,刑事司法作用を保護法益とする罪ということで三つ並べていますけれども,実際上は犯人蔵匿では数が多かったということがありましたが,ほかの二罪についてはほとんど利用されていないというか,桁違いに少ないということがあったと思います。そうだとすると,刑事司法作用といっても,犯人蔵匿が多いので,そこを厳しくするというなら分かりますけれども,それを全部一律にするということも問題ではないかと私は考えております。 ○川端分科会長 ただいまの点について,何か御意見がございますでしょうか。 ○上冨幹事 この証人不出頭などの法定刑の引上げについては,基本的な考え方として,この種の行為を厳正に処罰するんだという司法制度としてのスタンスをまず示すというのが,一番の大きな理由なのかなと思います。これまでの運用の中で,例えばいろいろなやり方で証拠を公判で調べることがうまくいったときに,罰則まで発動しなかったという事情があったとしても,そのことが直ちに今回の新しい司法制度の中で不出頭の罪をどう評価していくかという,法定刑の引上げがそもそも要らないんだということには直接結び付かないのではないかと思います。そこが法定刑を引き上げる理由についての基本的な考え方なのではないかと思っています。 ○川端分科会長 今の点ですが,これは裁判員制度が始まって,裁判の民主化の観点がかなり強くなってきて,司法制度改革という形で刑事裁判制度の大改革が今進行中ですから,それに対応して,法益の捉え方,その程度の差が,新時代において変化が生じてきたという認識の下で, 法定刑の変更という議論がなされていると認識しております。ただ,神幹事がおっしゃったように,やはり法定刑のバランスそれ自体としてきちんと押さえながら議論していった方が良いと思います。上冨幹事が今おっしゃったように,法益の捉え直しという観点もかなり重要な意味を持ってきていると思いますので,その点にも留意しながら御議論いただきたいと思います。   ほかにいかがでしょうか。配布資料で枠を付けて示しておりますので,特別部会に提出する場合も,この枠の範囲内でのまとめになるかと思いますが,そういうことでよろしいでしょうか。   それでは,次に,「2 証人の勾引要件の緩和」についての議論に移りたいと思います。   検討課題について,御意見,御質問のある方は御発言をお願いいたします。 ○髙橋幹事 「2 証人の勾引要件の緩和」のところの,まず1項の方で,ちょっと細かい点かもしれませんが,「証人を裁判所に召喚することができるものとする」となっていますが,実際上,所在尋問のような場合,裁判所外に召喚することもあるので,あえて「裁判所に召喚することができるものとする」という限定をする必要はないのかなと思います。参照されている被告人の方の条文を見ましても,「相当の猶予期間を置いて,被告人を召喚することができる」と規定されておりますので,証人の方も,「裁判所に」という文言はむしろ要らないのかなと思います。   それから2項の方で,「おそれがあるとき」で良いのか,あるいは「おそれが明らかであるとき」の方が良いのかということなのですが,よくよく考えてみても,どっちの文言の方がより厳格なのかよく分からなくなるようなところもあります。少なくとも被告人の召喚の場合は「おそれがあるとき」となっておりまして,正に今,公判中心の審理を実現しようという議論がされている流れの中で,証人に公判に来てもらうということも非常に重要なことですので,被告人の場合と同じ「おそれがあるとき」という文言とするのが相当なのではないかと思っております。 ○川端分科会長 今の点の確認ですが,1項における「裁判所に」という文言を削除するという御意見でしょうか。 ○髙橋幹事 はい。 ○川端分科会長 この点について,事務当局,何かございますか。 ○保坂幹事 身体検査の条文に「裁判所」とあるのを参考に,「裁判所」と書いたのですが,おっしゃることは理解しまして,裁判所以外に召喚することも当然あると思いますので,どういう技術的な書き方があるのかというのは検討させていただきたいと思います。 ○川端分科会長 ほかに御発言がありましたら,どうぞお願いします。 ○宇藤幹事 私の方からは,2の「おそれがあるとき」がよろしいのか,それとも「おそれが明らかであるとき」,こちらの方がよろしいのかということなんですけれども,まず形式的には,平仄を合わせるということで「おそれがあるとき」ということでよろしいのではないかと思います。   実質的に考えてみても,被告人の場合と明確に区別できる実質まではないのではないかと考えます。というのは,恐らくこの種の要件設定を考える場合には,対象となる者の負担の大きさと,負担を求めるだけの理由のバランスということを考えることになろうかと思います。まず,負担の大きさということを考えてみますと,被告人の場合と証人の場合とでは区別がありません。負担を求める理由については,確かに被告人が法廷に来なければ確実に裁判ができないという場合があるのに対して,証人の場合には,直ちに裁判ができなくなるというわけではありませんが,それは恐らく抽象的に判断すればそういうことになるだけだろうと思います。もう少し具体的に見ますと,審理計画を立てて,この日に証人尋問を実施するということで運用するはずでございますので,被告人ほどではないにしても,証人が来なければ審理が滞るということに必然的になるだろうと思います。被告人の場合の方が必要性が一律に高いというわけではないと思います。   あと,運用の面で,「おそれがあるとき」としても「おそれが明らかであるとき」であったとしても,さほど,現在の共通理解を前提とする限りは結果に差異が出てこないのではないかと思います。 ○神幹事 私は,「おそれが明らかであるとき」という形にした方がいいのではないかと思います。被告人と証人というのは,やはり法廷に来る意味合いが違うと思います。被告人がいなければ法廷が開けないということがあり,証人の場合は,期日が無駄になるということがあろうかと思いますが,実際上,証人というのは裁判に協力するという形で,被告人とは,責任といいますか,姿勢がちょっと違ってもいいのでないかと思います。ある意味で,明らかな場合については勾引しますよと,ただし,被告人の場合は,そうでなくても勾引されることがあるので,そこは証人は違いますよということは,条文の上で明確にしておいた方がいいと思います。   それと,実際問題としても,来そうもない者については,事前にいろいろな形で,例えば証人に出てくれるのでしょうね,来なければ勾引しますよと言うと大体出てくるというのが普通のパターンなので,どちらでも変わらないのかなという気はします。けれども,条文上はそういうふうな区別をしておいた方がいいのではないかと考えております。 ○保坂幹事 1の方に関する先ほど私の発言ですが,身体検査の条文は,刑訴法の132条で「裁判所又は指定の場所に」と書いてあり,そこの裁判所だけをここに書いたわけですけれども,どういう書き方がいいかは更に検討したいと思います。 ○岩尾幹事 補足して申し上げますが,期日外証人の尋問については,また別途158条に裁判所外に召喚するという規定はあるのですね。だから,そことの重複にも留意しつつ,基本的な部分の召喚の根拠ということで全体を踏まえた規定を設けた上で,更に特別の要件があるときに期日外証人としては裁判所外に召喚するというような構成もあり得ますので,その点も含めて検討させていただきます。 ○川端分科会長 今の「おそれがあるとき」か,それとも「おそれが明らかであるとき」かという文言の使い分けに関して,御意見がございますでしょうか。 ○酒巻委員 少なくとも刑訴法では,おそれが明らかとか,明らかなおそれというのは出てこない。また,「明らか」という文言を入れたから厳格な要件になるかというと,そういう読み方もあるでしょうけれども,具体的適用においては余り違わないのではないかという気がします。他の条文を詳しく調べたわけではないのですけれども,多分,おそれが明らかとか,明らかなおそれという文言を使っている場合は,おそれの対象になる事項・事象が茫漠としているから,それだけでは危ないので「明らか」というようなことにしているのではないかと思います。   これに対して,こちらは公判に出頭することですから,それ自体が茫漠としているわけではないのです。来るか,それとも来ないかということなので,そのおそれですから,要するに対象が明確なので,「おそれがある」でも「おそれが明らか」でも,裁判官は同じように判断するのではないかと思います。そうすると,「明らか」と入れても入れなくても,「明らか」の方が厳格だといってそれにいろいろ説明を付けても,机上の空論というか,実際上は余り意味がないのではないか。 ○川端分科会長 今の点は,実際上の差は余りないという話のようですが,検討事項ということになるのでしょうか。 ○保坂幹事 御参考までに,当方で証人の不出頭のケースについて調査した結果を御説明したいと思うんですが,本年1月から5月末までの5か月で証人が結果として不出頭だったというのが66件の報告があります。これは網羅的なものではなく報告があったものですけれども,そのうち,事前に出頭しないということを表明していたのが26件あります。それ以外に,曖昧な返答をしていたというものですとか,あるいは連絡が取れなくってしまったというものがあって,それぞれ曖昧な返答というのが6件ほど,重複もありますけれども,連絡が取れなくなっていたというのが7件ほどあるわけです。このように曖昧な返事をしている,あるいは連絡が取れなくなったというケースで,結果として不出頭になるわけですが,その事前の状況で,「おそれがある」という要件と「おそれが明らかである」という要件を仮に当てはめるとしたときに,どういう違いが出てくるかということの御参考にしていただければと思います。 ○川端分科会長 「第1 証人の出頭及び証言を確保するための方策」についての議論はここで終えまして,「第2 証拠隠滅等罪等の法定刑の引上げ」についての議論に移ります。まず,配布資料の内容について事務当局から御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 それでは,資料9の2ページ目,「証拠隠滅等罪等の法定刑の引上げ」についてでございます。これまでの資料からの主な変更点を御説明したいと思います。   まず,制度概要の三つ目の「○」のところに,組織的犯罪処罰法における証拠隠滅等,犯人蔵匿等,証人等威迫の加重処罰規定の法定刑についても案を示しております。これは,証拠隠滅罪等の法定刑を引き上げるといたしますと,組織的犯罪処罰法の加重処罰規定の法定刑についても引上げの要否やその内容を具体的に検討していただく必要があると思われますことから,懲役刑については「3年以下」とする案,「5年以下」とする案,罰金刑につきましては「30万以下」とする案と「50万以下」とする案を掲げております。   次に,検討課題につきましては,法定刑を引き上げる理由をどう考えるかということとともに,二つ目の「○」のところに,それぞれの罪の法定刑相互の均衡というものをどう考えるかについて検討していただく必要があると思われまして,「(参考)」として表にしております。これは例えば表の升を左から右に追っていっていただきますと,証拠隠滅,犯人蔵匿を「3年以下」とした上で,現行法上の法定刑のバランスを維持するということにいたしますと,証人威迫は「2年以下」,組織的犯罪処罰法は「5年以下」とすることが考えられますし,表の一番下の升を左から右に追っていっていただきますと,証拠隠滅,犯人蔵匿を「5年以下」とした上で,証人威迫も同じ法定刑の「5年以下」とすることも考えられまして,そういたしますと,組織的犯罪処罰法の加重規定の法定刑を例えば「7年以下」としない限りは,加重処罰規定としての意味はなくなりますので,これを廃止して,組織的犯罪に係るものについても刑法の証拠隠滅等として「5年以下」の法定刑をもって臨むということになると考えられるところでありまして,こういった意味での相互のバランスというのを検討するための御参考にしていただければと思います。   また,罰金刑につきましても,懲役刑とのバランスも考慮しながら,どの程度引き上げるものとするかということも検討いただく必要があると思われますことから,それぞれの検討課題のところに追加をしております。   御説明は以上です。 ○川端分科会長 それでは,ただいま事務当局から御説明があった証拠隠滅等,犯人蔵匿等,証人等威迫罪,組織的犯罪処罰法の加重処罰規定の法定刑の引上げについて,併せて議論を行いたいと思います。   いずれの検討課題についてでも結構ですので,御意見,御質問のある方は御発言をお願いいたします。組織的犯罪処罰法との関連で,坂口幹事,何か御意見等がございましたらお願いいたします。 ○坂口幹事 では,一つ御質問なんですけれども,組織的犯罪処罰法の方で7年以下という選択肢はないという理解でよろしいんでしょうか。 ○保坂幹事 およそあり得ないという趣旨ではなくて,現行法が3年ですので,7年まで引き上げるのが果たして妥当なのかどうかということで,ここには7年というのは選択肢としては設けておらないということでございます。 ○上冨幹事 証拠隠滅等についても検討課題との関連で申し上げますと,法定刑を引き上げる理由というのは,基本的には証人不出頭の場合と同様で,この種の行為が新しい刑事司法制度の下では厳正に対処すべき,悪いことなのだということをきちんと法的に評価するための引上げであって,そのために必要な範囲の引上げをするということなのだろうと思います。その意味では,ここに制度概要として書かれているような案をベースに議論していくことになるのだろうと思っています。   具体的に申し上げますと,証拠隠滅,犯人蔵匿については,やっていることの中身からすると,例えば強制執行妨害とか業務妨害に一般的には当たるような行為なのでしょうけれども,それと比較して,裁判に関わるこの種の業務の妨害がそれより軽いということはないのだろうと思います。その意味では,他の罪とのバランスを考えると,ここに書かれているように,証拠隠滅などの自由刑については3年というのが下限になるのではないかと思います。   それから,証人等威迫については,従来,威迫という行為が刑法の暴行・脅迫には当たらない場合も含まれるということなどから,元々若干法定刑が低く定められているわけですけれども,証人等威迫というのは,威迫された証人の個人的な法益だけを守るものではなくて,特に今回の関係で言えば,刑事司法作用を侵害する罪という意味も持っているわけですから,その意味では当罰性の評価は今回改めて考え直して,それなりに法定刑を引き上げるということも十分あり得るのではないかと思います。したがって,その結果として,暴行・脅迫罪よりも重い法定刑になることも十分選択肢としてあり得るのだろうと思います。   組織的犯罪処罰法との関係では,元々組織的犯罪処罰法でこれらの罪の加重規定が設けられている趣旨からすれば,今回一般的な証拠隠滅等の法定刑の引上げによって,組織犯罪であっても全て評価し尽くしているというぐらい重くなったのだと言えるのであれば別でしょうけれども,そうでなければ,やはり加重規定を設ける必要性は残るのでしょうから,この基本的な罪の法定刑が引き上げられるのではあれば,それに対応してバランスを考えながら組織的犯罪処罰法についても引上げを考えていくということになるのかなと思います。   なお,罰金刑の関係については,恐らく不出頭罪と同じように,懲役刑とのバランスでほかの立法例を参考にしながら考えていけばいい問題なのではないかと思います。 ○川端分科会長 ほかにいかがでしょうか。 ○神幹事 私ども日弁連は,先ほどの,元々懲役刑のないものについても反対をしているという関係もあり,懲役刑があるものについて,更に懲役刑を上げるということについては,もちろん新しい時代に対応するという意味では分かるのですが,やはり反対です。これまでは,その懲役刑そのものが,現実の裁判実務において法定刑の上限まで来ているという場合についてはかなり窮屈だということで上げるというのが一般的だったと思います。   そういう意味では,少なくとも証人威迫だとか,あるいは証拠隠滅は数も少ないし,それほど多くなかったという理解をしております。犯人蔵匿は,なるほどありましたけれども,張り付いているという状況にはなかったのではないかと思っておりますので,やはりこれにも賛成できません。   それから,罰金刑とのバランスというのは,先ほどと同じように,他の刑法典におけるものとも併せて,単に司法的な作用や機能を妨害するというものについてだけバランスをとればいいというものではなく,刑法典全体の中でのバランスも考えていただきたいと思います。 ○川端分科会長 今の点は前の議論のときにも出てきたのですが,「罪質評価」が法定刑にそのまま反映していくという大原則がございますので,新しい刑事司法における裁判制度の円滑・充実という観点から,それに妨害となるような行為を規制したいという立法事実の下においては,やはり法定刑にもそれなりの変化が必要だろうと考えられております。   それから,ほかの犯罪類型とのバランスという問題はもちろんございますが,それと同時に,似たような犯罪類型の間でバランスをどのように保つかという問題もまた,立法の段階では重要な意味を持ってくると思いますので,その点にも御配慮いただきたいと思っております。 ○酒巻委員 一番最初の話題,証人の不出頭に関連してちょっと気になることがあるので,一言,検討事項として,発言させていただいてよろしいでしょうか。 ○川端分科会長 結構です,どうぞお願いします。 ○酒巻委員 先ほど神幹事の御発言で,気になりだしたのですけれども,民訴に証人尋問の規定が当然あって,刑訴と若干規定振りは違いますが,証人の不出頭ですとか宣誓の拒絶ですとか証言拒絶について類似の規定があり,それには刑罰以外の制裁もありますけれども,刑罰もついている。現状は民訴と刑訴で罰金10万,刑罰については平仄が合っているんです。   その上で,仮に刑事の証人尋問に関する刑罰の制裁を加重するということを決定した場合に,果たしてそれは民訴ではどうなるのであろうというか,平仄がこのままだと合わなくなります。合わなくなってもかまわないんだという説明もあるだろうし,しかし,例えば英米では多分,証人が本来の義務を果たさないときに制裁があって,その制裁は民事でも刑事でも変わらないというのが自然な感じがするのですが,恐らく民訴の観点からは,やはり議論があるのではないかと思うのです。   それから,民訴の規定を見ると,証人の勾引については刑訴の規定を準用するということになっているので,刑訴の規定が変わると民訴にも波及するのだけれども,ここも刑訴についてだけ改正するのか,民事訴訟法についてはどうすべきなのか。   民訴のことを考えて刑訴を決めるというのは変だと思いますけれども,刑訴を決めたときに,それが民訴にも波及するかどうかという問題は,民訴の人にきちんと考えてもらわなければいけないよということに気が付いたので,そのような問題があるということを記録にとどめていただきたいのです。 ○神幹事 私が言わんとしたのは,正に酒巻委員がおっしゃったとおりなのでして,実際上,国民から見たら,民事で証人になろうが刑事で証人になろうが,それが全然違う扱いを受けているということ自体,混乱を招くと思うのです。ここは統一しなければおかしいと思うので,そこについて,民事の方の意見を聞かずに刑事だけ先行してやってしまって,後で民事の方で駄目だと言われると,アンバランスが生まれてしまう。ここは,きちんと配慮して決めてくださいということです。 ○川端分科会長 今の点は,もっと議論した方が良いと思います。   民事裁判と刑事裁判とで裁判員制度の採否が違いますので,刑事司法制度に限定して,我々は今大きな改革の流れの中にいるわけですから,そこにはやはり違いが出てきてもしようがない部分があり得るのではないかと思うのです。この点についての詰めた御議論をここで行って,部会でその点について御意見を伺うということがあれば,その機会を得たいと思います。   この点に関して御発言をお願いします。 ○上冨幹事 民事訴訟法との関係を考える必要があるという御指摘は,そのとおりだと思いますので,今後考えていく必要はあると思います。   ただ,その際に,同じでなければいけないかどうかということも含めて検討すべきであって,今,分科会長がおっしゃったとおり,民事訴訟における証人の位置付けと刑事訴訟法における証人の位置付けが同じであるべきなのか,それとも違っていいのかということは,それ自体,多分議論の余地はあるのだろうと思いますので,それも含めて検討すべきなのかなと思います。 ○川端分科会長 酒巻委員が先ほどおっしゃった英米法との関係ですが,英米法の下においては「偽証するなかれ」という宗教上の強い基盤があります。このような宗教的な背景もありますので,そこはちょっと日本と違う面もあると思うのです。そういった面も踏まえて,改めて議論するための留保事項として置いておきたいと思いますが,そういうことでよろしいでしょうか。   それでは,続きまして「第3 被告人の虚偽供述に対する制裁」についての議論に移りたいと思います。   まず,配布資料の内容について事務当局から御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 それでは,資料9の3ページ目にあります「第3 被告人の虚偽供述に対する制裁」のところについて,これまでの資料からの主な変更点を御説明いたします。   まず,制度概要におきましては,新たに「3」の「(2)」として,いわゆる罪状認否における陳述や最終陳述など,証人尋問以外の手続でした被告人の公判期日における陳述というのは,証拠とならないものとするというものを置いております。   次に,制度設計上の検討課題におきましても幾つかの点を追加しております。   まず,「(1)被告人側の請求によるものとすることについて」のところでございますけれども,一つ目の「○」にありますように,例えば被告人が供述書を提出するなど,証人尋問以外の方法で被告人の供述を公判に顕出する場合に,検察官に反対尋問の機会を与えることが必要かという点です。   二つ目の「○」は,例えば被告人Aと共同被告人Bの事件が併合されていて,Aが自らの請求によって証人となったという場合に,Aは,A自身の事件の関係でだけ証人となるわけですが,Bは当然にはAを尋問することはできないということが考えられます。そこで,共同被告人BによるAの尋問を認めるための法的な手当てが必要かという点を新たに挙げております。   次に,次のページの「(2)」のところでございますが,被告人質問を廃止するということに関しまして,被告人が証人となる場合に,被害者参加人による尋問を認めることが必要か,その範囲・要件をどのようなものとするかという点を新たに挙げております。   なお,現行の被害者参加制度におきましては,被害者参加人による証人の尋問というのは,いわゆる一般情状に関する事項についての証人の供述を弾劾するために必要な事項について許されていて,被告人への質問というのは,刑訴法の規定による意見の陳述をするために必要かつ相当と認められる場合に許されるとされております。   さらに,「(3)公判前整理手続,期日間整理手続との関係」としまして,被告人の証人尋問というものについても,整理手続を経た後の立証制限の対象となるものとするかどうかという点を新たに挙げております。   最後に,「その他(制度の採否に関連する検討課題等)」といたしまして,「刑事裁判の在り方への影響」のところですけれども,部会での御指摘なども踏まえて,三つ目の「○」の二つ目の「・」のところに,自白事件の公判においても,被告人が供述するためには証人とならなければならないものとするということの当否をどう考えるかという点を新たに挙げております。   御説明は以上でございます。 ○川端分科会長 それでは,ただいま事務当局から御説明があった内容のうち,まず,「1 制度設計上の検討課題」について議論を行いたいと思います。(1)から(3)までの検討課題のいずれについてでも結構ですので,御意見,御質問のある方は御発言を願います。 ○神幹事 制度設計上の検討課題の一番最初にある問題の関連ですが,通常,弁護側からいわゆる被告人の供述書のようなものが出た場合,不同意にしてしまえば公判に出ませんよね。ここで今考えているのは,それは同意するけれども,反対尋問の機会を与えるか否かということが問われているのでしょうか。 ○保坂幹事 同意というのと反対尋問の機会というのをどうリンクさせるかというのも,一つ検討課題だと思います。例えば,同意はするけれども反対尋問はするということもあるでしょうし,他にも,不同意としたけれども,322条の要件を満たして採用されることもあり,そのときに反対尋問の機会を与えるかどうかという両方の問題があります。少なくとも,同意した場合だけのことではないという趣旨で資料は作っています。 ○神幹事 もう一点ですが,その場合,そこで反対尋問をするという反対尋問は,証人尋問なのですか,被告人質問なのですか。 ○保坂幹事 これは,被告人が公判で供述するときには証人とならなければいけないという制度を前提としたものですので,ここでいうところの反対尋問というのは,正に証人としての反対尋問という趣旨で問題提起をしているところです。 ○神幹事 例えば,被告人が証人になりたくないので情状に関連した証拠を出した場合,証人に立てるんですか,その情状に関して証言できるんですか。 ○保坂幹事 そこは,被告人が,例えば情状について供述したいときに,それはこの制度を前提とすると,採否の問題はありますけれども,情状についてであっても証人としてしゃべるということが前提です。そうなりますと,情状事項を供述書に書きましたというときに,その供述書が,反対尋問のチェックを受けない状態で公判に顕出されたままでいいのかどうかというところに関わってくるのだろうと思います。 ○酒巻委員 多分,今の実務の運用を前提としたところがあるので,被告人が供述書を出し,それに対して検察官がその内容の信用性について反対尋問するという事態が想定されているんですけれども,果たして本当に日本国刑事訴訟法は,そんなことを想定しているのだろうかということが一つあるのです。つまり,伝聞法則の下ではそもそも書面は原則として証拠にならないのですから,被告人の作った書面,供述書が証拠になる場合というのは,322条で自分に有利なことを書いている場合であって,特信性がなければ,326条の場合を除いては,証拠にならないのです。特信性は,そうめったには認められない。他方,任意性があって,かつ自己に不利益な事実を承認した内容の書面であれば,その書面は証拠になるとされている。しかし,この場合,本来は被告人に不利益な供述内容が証拠になるんだから,論理的にはそれに検察官が反対尋問するというのは考え難いわけです。だけれども,多分そういうのを含んだ書面全体が証拠になるという運用がなされ得るから,検察官としてはその信用性をめぐって,やはりいろいろ聞きたい,反対尋問したいと,こういう事態が想定されるのでしょう。しかし,そもそもこの条文は,書面の中の不利益な事実の承認の部分だけが証拠になるんだというふうに解釈すれば,反対尋問などということは起こり得ないので,要するに全て皆さん書面をお使いになる前提でやっているので話がおかしくなっている気がします。本来,法廷にいるんだからその場で口頭でしゃべって,いいかげんなことを言えば弾劾されるというのが法廷なのだというべきでしょう。   ただ,実際に形式的には不利益な事実の承認に当たるんだけれども,しかしそれ全体が信用できるかどうか分からないというような内容の書面全体について,少なくとも証拠能力が現状では認められているということであるとすると,証人尋問以外の方法で供述を公判に顕出する場合に反対尋問の機会を与えることが必要かという問題が出てくるのかなと思います。 ○上冨幹事 正に,322条の運用がどうなっているかという問題に関わる面はあると思うのです。ただ,実際には不利益事実を一部承認している内容を含んでいる供述書であって,必ずしも検察官の考える真実とは合致しない内容を含むものであっても,一体として証拠能力が認められる場合というのは現実にはあるのだろうと思います。そういう場合に,今ここで想定されている制度の下では,法廷で被告人の供述を顕出するためには反対尋問というものを伴う証人尋問の形でしか顕出できないのだという仕組みをもし採るのであれば,主尋問が口頭で行われるのであっても,書面の形で行われるのであっても,反対尋問という手続が必要な場合があるのではないかという発想の論点だと思います。やはり検討事項としては残すべきだし,逆に,何らかの理由で書面が出てしまえば反対尋問ができないということになると,今考えられている制度の下では,検察官からの証人尋問請求はできないので,それで終わってしまうということになり,この制度を入れることの意味を大きく損なうということになるのではないかという感じがします。 ○川端分科会長 酒巻委員,上申書という名目でいろいろなことが含まれた文書が出てくる可能性はあり得ると思われます。その場合にこういう形できちんと整理をして,内容的に証拠として固めていくという事態はあり得ると思うのですが,いかがでしょうか。 ○酒巻委員 飽くまで建前を言いますと,現行刑事訴訟法は,上申書というのは被告人の供述書でしょうけれども,それは322条の要件を満たす場合以外,あと326条の同意を検察官がすればもちろん問題ありませんけれども,そうでない場合は,証拠になる場合は322条に書いてある場合だけです。ですから,上申書というのは,多分自分に有利なことを言っているんでしょうから,特信性があれば証拠になるのでしょうけれども,不利益な内容を含んでいたら,そこだけが証拠になるのではないのかなと思います。やはり筋は口頭主義,直接主義ですから,そこに居るのだったら,紙に書くのではなくて,しゃべってくださいというのが本筋で,私などは被告人の証人適格というのは,正に自分に有利な内容を証拠として,それは情状事実についても犯罪事実についても,正に法廷にいらっしゃるのですから,法廷で証人という形で供述するのが本筋でしょうと,そういうことでございます。 ○川端分科会長 確かに本筋はそうだと思います。ただ,これは新たな制度として「被告人の証人適格」という今までなかった形の導入でございますので,あらゆる事態に備えて対応しておくということも大事だと思うのです。そういった点も踏まえて御議論いただきたいと思います。 ○髙橋幹事 酒巻委員のおっしゃるところの本筋にも絡むんですけれども,今回この新たな制度を設けるのは,被告人についても,偽証罪の制裁がある下で証人として話してもらう,要するに真実を公判廷に顕出させるための制度だと考えると,例えば,法廷での証言に代えて,書面を出したとしたら,その内容に虚偽の内容が含まれているような場合には,これに対して何らかの手当てをしなければいけないような気がしています。そう考えると,やはり公判廷にいる以上は,きちんと直接口頭でお話ししていただくというのがまず本筋で,仮に例外として,どういう場合に書面に代えるのかというのがよく分からないのですが,そこで虚偽の内容を書面に記載した場合には何らかの担保をしなければいけないと思いますが,その辺りの御検討はいかがですか。 ○保坂幹事 その点につきましては,この資料でいいますと,「2 その他」の○の四つ目のところに,被告人が偽造・変造証拠を公判で使用する行為に対する処罰とあって,そこの下に「・」を付けていますけれども,この場合について,髙橋幹事がおっしゃったように,しゃべれば偽証になるけれども,それを書面にして出したという場合に,そこをどう手当てするのかということを検討課題として挙げさせていただいているところでございます。 ○神幹事 弁護人からすると,本人が話したくないという場合もあるわけです。黙秘権を行使する場合もあるけれども,ただ,証人になれと言われたら,それは嫌だという場合について,この供述書というのは,ある意味では情状面について本人が語るものだということだってあると思うのです。そこで情状面について自分のことを供述調書に書いて,犯罪事実について何も争わないでね,そういうことはあり得ると思うのです。そうした場合に,反対尋問というのはその範囲にとどまるので,証人になっても当該犯罪事実についていろいろなことを聞けるのですか。聞けないとするならば,二分できそうな感じがするのですけれども,要するに,量刑と犯罪事実の審理をね。 ○岩尾幹事 反対尋問の機会を与えるといっている趣旨は,書面に書かれているものが主尋問に表れた事項だと想定して,その範囲内で行うという意味合いです。   ただ,仕組みとしてそれを反対尋問として取り扱うためには技術的にどうしたらいいのかというのは,まだ考えなければいけないと思うんですけれども,尋問が行われるのはその書面の範囲内でということです。 ○酒巻委員 論理的な順番ではありません。たくさん論点があるので,順不同に申し上げます。まず箱の中に入っている,主張と証拠は,はっきり区別するという点は是非やっていただきたいと思います。冒頭手続における認否等の発言とか最後の被告人の意見陳述とかは,ちょうど現行法の被害者の意見の陳述と同じように,意見・主張というのは証拠ではないという点を明確にするのが適切と思います。   証拠として自己に利益な内容の供述を公判に顕出する場合は,基本形は証人になると,そういう大枠は作る必要があると思います。もちろん,これは被告人と弁護人の決断ですから,そうでない場合はどうするかというと,これは憲法上の権利である黙秘権を行使する。一切黙っているかしゃべるか,どちらかになる。しゃべるのだったら,偽証罪の制裁の下で証人としてしゃべっていただく。   この証人尋問は,検察官とか裁判所が強制するわけではありませんので,当然,被告人の請求にかからせるということになる。そういう制度をとったときに,無宣誓供述をそのまま,現行の311条を維持していると訳の分からないことになりますから,これはきれいにやめる。   次の問題は,そうすると証人尋問というのは,被告人でない証人については,やはり裁判員対象事件等で公判前整理手続等をやりますと,公判前整理手続で請求して決定しておかないと,後では原則としては立証制限がかかることになる。これについては,立法過程で被告人は別だという考慮をしていたけれども,それは被告人が証人にはなれない,他方いつでも任意供述することができるという現在の被告人質問を前提で作っていたわけです。これに対して,設計として,被告人も証人と法的に同じ,そのものになるということになると,被告人の証人尋問請求も,やるかやらないかは公判前整理手続の段階で決断しなければならないということになります。   私が弁護人だとすると,これはかなり厳しい決断をすることになると思います。被告人御自身が,将来自分が公判で自分のために,証人となって反対尋問にも耐えて頑張るか,それとも黙秘するか,それを早い段階で決めざるを得なくなりますが,法的な構造としては今述べたとおり,公判前整理手続において証人とならないと決した以上,特段の事情がない限りは,新たな請求はできないとするのが一貫するだろうと思います。   ただ,もちろん立証制限については,やむを得ない事情という要件の具体的適用・運用で柔軟な対応ができるかとは思いますけれども,基本形は立証制限がかかるのではないか。   それから,部会の方でも言及がありましたとおり,被告人に無宣誓供述を許しているこれまでは,被告人が法廷で話すことは,嘘が半分,本当が半分みたいな,そういう公判だったことは間違いない。一方,英米とは異なり日本は自白事件でも裁判をきちんとやっておりますので,自白事件で被告人の話を聞きたい,あるいは量刑について被告人が自分でいろいろと有利なことをしゃべりたい,現にしゃべっている,あるいは職業裁判官も裁判員の方々も,やはり法廷で目の前にいる被告人の口からいろいろ話を聞きたい,そういう御要望とか,これまでのやり方を前提としたものがあるのだと思うのです。これは私の意見ですけれども,やはり取調べと供述は,できる限り紙に頼らないで,密室ではなく公判廷において皆さんが真実を供述して,それに基づいて事実を認定するという本来の刑事裁判の在り方を実現し,被告人の場合はきちんと黙秘権があって,しゃべらなくてもいいのであると,被告人自身の口から直接話を聞きたいと誰が言おうが,黙秘することは正当な権利なのですから,話すか話さないかを決めるのは被告人です。   ですから,場合によっては,法廷で被告人はついに一言もしゃべらなかったという事態になっても,それが刑事裁判であると,当然のことであるということが常識になれば,それはそれで適切なことであろうと私は思います。飽くまで予測ですけれども,そういう事態になることはあり得ることではあると,そういう制度の設計を今しようとしているんだということだろうと思います。 ○上冨幹事 今,酒巻委員がおっしゃった立証制限との関係について言えば,やはりこの制度になるのであれば,立証としての証人尋問の請求は,公判前整理手続を経た場合には当然制限が掛かってくるという位置付けになるだろうと思います。元々,現行の制度で被告人質問が立証制限の対象になっていないのは,形式的には狭義の証拠調べではないということなのでしょうけれども,実質は主張と立証が必ずしも区別されていないから,被告人が公判で何かを主張し始めたときに,それを抑えることはできないだろうという発想だったはずです。主張と立証をきちんと分けるという位置付けになるのであれば,少なくとも立証の関係については制限が掛かるのだと思います。その上で,仮に,望ましいかどうかは別として,新たな主張がなされて,それに対応する立証がどうしても必要だと裁判所が思えば,やむを得ない事由の判断でしていけば良いということになるのだろうと思います。   あわせて,制度設計上の検討課題で残っている点についても意見を申し上げますと,まず,共同被告人の関係については,やはり反対尋問ができるような仕組みを作っておかないと,共同被告人の防御という観点からは問題が生じるだろうと思いますので,この点は十分検討した上で,何らかの制度的な手当てが必要なのではないかと思います。   それから,被告人質問を廃止することに伴う被害者参加人との関係ですけれども,これは元々別の思想に基づく制度ですけれども,被告人質問を廃止することになって,参加人が心情の意見陳述をするために,あるいはその他の目的で認められている参加人の権利が狭められる,あるいはなくなってしまうという制度設計は,やはり問題なのだろうと思います。位置付けが被告人質問から証人尋問には変わるわけですけれども,参加人に尋問を認めることができるような手当てが必要になってくるのではないかと思います。   その際,現行の制度では,証人については情状事実についての反対尋問しか認められていないという点に違いがあって,それをどちらに引き付けて制度設計するか,現行の被告人質問の方に引き付けるのかどうかという問題がもう一つありそうですけれども,今の被告人質問において許されている趣旨からすれば,新たな制度の下でも,罪体も含めて参加人については尋問できるという方向が十分あり得るのではないかと思います。 ○川端分科会長 今,御意見がございましたので,これから順次その点について議論していきたいと思いますが,その前に,酒巻委員がおっしゃった点で,被告人質問の被告人又は弁護人の請求の問題がございますね。公判前整理手続に限定されたような御発言でしたが,弁護人の立場としては,請求の時期とかについて何か御意見がございますでしょうか。 ○神幹事 公判前整理手続だったら大体分かるのですが,一般的な場合にもあり得るので,そうだとした場合,それがどの段階かということについては,まだ詰めていません。 ○髙橋幹事 裁判所の立場からすると,公判前整理手続で,どういう事項について証人として尋問するかということを決めておかないと,なかなか審理計画が立てられないので,恐らくそれは公判前整理手続できちんと整理することになるのかなと思います。詳細に詰める必要はないとしても,大まかにこういう証言を予定していますというところぐらいは整理しておかないと,なかなか審理計画が立てづらいのではないかと思います。 ○神幹事 制度設計上の検討課題それぞれについて意見を述べます。   最初のいわゆる供述調書の提出等について反対尋問の機会を与えるか与えないかというと,抽象的には与えるのが筋だろうと思いますけれども,先ほどから言っているいろいろな問題があるので,どうなのかなという感じで疑問に思っています。   二つ目については,もちろん共同被告人との関係では,片一方は証人になりますので,当然反対尋問の機会は必要であろうと思います。   それから三つ目なのですが,ここがちょっと悩ましいところなのですが,なるほど今の刑訴法上,被害者参加人については,情状に関する証明力を争うことができることになっています。尋問することができることになっていますけれども,実際問題として私どもとすれば,証人尋問にするならやめてほしいと思っている部分があるのです。要するに,被告人質問については,被害者参加人からの質問はなしにしてほしいと思っているのです。   その理由というのは,実は現実に被害者のあるいろいろな事件をやってみますと,言いたいけれども言わずに,実は事実と違うことを言って,被害者に納得してもらいながら被告人質問することは,嘘を言っているわけではないのですけれども,本当は言いたいんだけれども避けて言っている部分がいろいろあるんです。そういうことを今度ぎりぎり詰められてしまうと,言いたいことを言いたくなってしまうので,被害者との間であつれきが生じたりすることがあるので,これはやめてほしいと思っています。少なくとも,先ほど上冨幹事がおっしゃったように,事実にまで入ってこられたらとんでもないことだなと思っています。だから反対です。   それから,公判前整理手続と期日間整理手続との関係,これはもちろん316条の32がありますので,その制約を受けるということはあり得るのだろうと思います。ただ,実際問題,そこで証人尋問を後からしたいといったような場合,非常に悩ましい問題が起こってくると思うのです。例えば証人尋問をしないと思ったが,したくなってしまった,あるいはしようと思ったけれどもやめたいと思った場合についてどうするのかということについて,それが非常に悩ましくて,原則論はそのとおりだけれども,撤回だとかそういうこともあり得るのかなというようなことを考えたりしています。   そうすると,例えばこういう制度ができてしまった場合,誠に言い方はおかしいのですが,全てについて,取りあえず証人尋問の申請はすることにし,途中でそれを撤回するということをやっておかないと対応できなくなってしまうのではないかとも考えています。 ○坂口幹事 被害者参加人の点について,私も上冨幹事がおっしゃったのと全く同意見です。現行法で認められているものについては当然維持されるべきですし,更に今度被告人が証人となるならば,罪体についても被害者参加人が当然質問することはできるということになるのではないかと思います。   神幹事がおっしゃったことは,必ずしも論理的でないように思うので,よく理解できなかったのですけれども,どういうことでしょうか。 ○川端分科会長 それでは,今の議論に限定してお話ししていただきたいと思います。被害者参加人による尋問の問題です。 ○神幹事 私が言っていたのは,現行以上に反対尋問の機会が増えてしまうのは困るというのが大前提なのですけれども,それ以前に,被告人質問なら,ある程度譲歩したりいろいろなことを言って,被害者の感情を逆なでしないような形での被告人質問をするという配慮ができますけれども,証人尋問になってくると,その部分というのはかなり微妙な形になって,場合によっては嘘を言ってしまったということになるかもしれないし,場合によっては,反対尋問等で言われていたのを我慢していたものが噴き出してしまうという形になって,混乱が生じないかなという気がしています。どんなに配慮しても被害者は常に被害者で,絶対許さないのですよ,こうした弁護は大変ですよ,ということです。 ○保坂幹事 恐縮ですが,質問です。まず今,被害者参加人による被告人質問というのは,別に情状の反対質問,弾劾の質問だけじゃなくて罪体についても質問できるということになっていて,被害者参加人の尋問を被告人質問と同じ範囲でやるとしても,被告人が黙っているのではなくて証人になりますという選択をして,かつ主尋問に対して答えたこと,その範囲内での反対尋問の場面で被害者参加人が質問をするということになり,主尋問について答えたことについては,当然反対尋問に対し証言義務が生じるわけですが,そのシーンと被告人質問で罪体についても被害者参加人から質問されているということで,被告人のしゃべる,しゃべらないのところがどう違うのかが,理屈としてよく分からなかったので,御説明いただけませんでしょうか。 ○神幹事 もちろん,おっしゃることはよく分かるのですが,先ほどちょっと申し上げた例というのは,実は事実関係に大きく被害者との食い違いがある場合があるんです。でも,それをやることによって,被害者がどれほど,例えば相手が亡くなったりしていた場合,そこをかなり譲ったりしてやることが多いのです。それを今度反対尋問で突かれたら,俺が言いたかったこと,本当の事実はこうなんだという話になってしまうと,私は法廷が混乱すると思うのです。そういう意味では,証人にするならそこはやめてほしいということを言っているのです。 ○川端分科会長 これは「犯罪事実」に関してもそうだという御意見なのでしょうか。 ○神幹事 証人にするならばということですね。 ○岩尾幹事 神幹事が言われているのは,一般情状についてもということですね。 ○神幹事 情状についてもそうです。そういう部分があります。 ○岩尾幹事 一切廃止ということですね。 ○神幹事 一切廃止すべきではないかとは思っていますけれども,それをもう少し絞るとしても,事実関係については,やられたらかなり混乱すると私は思っています。 ○岩尾幹事 選択肢として,要は今の被告人質問の範囲まで認めるというものと,証人尋問になるのだから今の証人尋問の範囲に限定するというものと,もう一つは一切被害者参加人の訴訟活動は認めないという選択肢があると思うんですが,神幹事が言われたのは,その最後の意見のように聞こえたので,その確認だけです。 ○神幹事 最後です。 ○川端分科会長 ただいまの御意見に対して,何かございますでしょうか。 ○上冨幹事 何となく分からないでもないんですけれども,検察官が聞くのとどこが違うのかなというのが実はよく分からなくて,検察官も反対尋問でぎりぎり聞くと思うんですけれども,そこに一旦証人として主尋問を受けるという覚悟をして,反対尋問に応じる義務が生じた場合に,検察官が聞くのか,被害者参加人あるいは被害者参加人の代理人,弁護士が聞くのかで,そこに大きく差があるような感じもしないなと思ったのですけれども。 ○神幹事 被害者参加人に弁護人が付いている場合については,ある程度中立的な形で言えますけれども,本人の場合もあり得るわけですよね。その場合,ある意味で感情論的なものも組み込んだ形の質問をされてしまうと,被告人の方がかちんとくるような場合が結構あるのですよ。 ○上冨幹事 恐らく被害者参加制度そのものの在り方というか,その中で,例えば本来は検察官と十分にコミュニケーションをとって,適切な質問になるような形でやっていきましょうという前提で設計されているはずの被害者参加人の制度に対する,元々の評価の違いなのかもしれないと思いますけれども。 ○川端分科会長 ただ,これはやはり制度として導入された以上は,どこまでどうやるかということを決めておかなければいけない問題だと思います。 ○神幹事 少なくとも日弁連の中の議論としては,証人になる以上はやめてほしいというのが本音です。 ○川端分科会長 髙橋幹事,裁判所の立場として今の問題についてもし御意見がございましたらお願いします。 ○髙橋幹事 先ほど上冨幹事がおっしゃったとおり,やはり検察官と被害者参加人の間でどれだけきちんとコミュニケーションがとれているかということが一番大事であって,そこがきちんとできていれば,被告人として発言した場合に被害者が被告人質問という形でやるのか,あるいは証人として証言した場合に証人尋問という形でやるのかで,特に大きな差は出てこないと思うのですけれども。 ○川端分科会長 この問題は大体そういうことで尽きているかと思いますので,次へ行きたいと思います。   「2 その他(制度の採否に関連する検討課題等)」について御意見,御質問のある方は御発言をお願いいたします。 ○髙橋幹事 上から二番目と三番目の○に関連するんですが,アメリカなどでは被告人に証人適格を認めているんですけれども,これは,公判では,否認事件の罪体について事実認定を行う際に,被告人が供述する方法としてどうするかというレベルの問題だと思うんですが,現行の日本の刑事裁判を前提とすると,裁判員裁判も含めて,自白事件においても,量刑の判断について公判での資料収集が非常に重要なのかなと思います。酒巻委員のおっしゃるとおり,腹をくくって刑事裁判は姿を変えるんだというふうに国民的な合意ができれば,それはそれで一つの大変革になると思うのですが,一方で,今までは公判での量刑判断にとっては,被告人の供述というのも重要な要素になっていたので,これがもし証人尋問という形となると,弁護人からの証人尋問請求がない以上,裁判所としては,被告人から証拠という位置付けで話を聞けなくなるということになるわけで,そういう制度に変革することが本当に良いのかというのは,これは大きな話として慎重に検討しなければいけないのかなと思います。   それからもう一つ,自白事件で仮に被告人についての証人尋問請求がないとする場合,被告人の供述として残るのは捜査段階の供述ということになりますので,場合によっては322条による請求があったら,そちらの書面を採用するというような形にならざるを得ないという場面が出てくると思います。今の実務では,自白事件の場合は,なるべく公判にいる被告人から供述してもらいましょうという運用をしており,それで足りれば捜査段階の調書は不要ということで,検察官が撤回されたり裁判所が却下するというように,公判廷での被告人の供述を中心に審理を行うという運用を行っているんですが,もし制度ががらっと変わるとなると,公判でなかなか供述が被告人から出てこない場合,捜査段階の供述がメインになってしまうというような,また調書依存という逆転現象が起きてしまうのではないか,今目指している公判中心の審理と逆行してしまわないか,そういう懸念も感じております。 ○川端分科会長 確かにそういう問題はあると思います。 ○神幹事 まず,私どもは,一つ目の○なのですが,不利益推認がなされないという,要は当然のことなんですが,これは明確な明文規定として作るべきだろうと思います。実際上,これは当然の規定なのであるから,およそ明文化をしたとしても弊害というのはないはずなので,これを入れておくということは意味があるのではないかと思っています。   それから,偽証の制裁の下での証言の信用性が高いということと,自己負罪拒否特権の行使が不利益に扱われてはならないということは別の問題だという意味からも,この規定は是非お願いしたいと思います。   二つ目の量刑との関係なのですが,これについては一つの提案として,量刑のための情状資料を得やすくするために,これは既に基本構想の段階で大きな意味での今回の検討課題に入っていませんけれども,要するに情状に限るという形で二分した上で,裁判官による被告に対する量刑質問制度のようなものを入れたらどうかと考えています。そういう意味では,限定的な二分論をここで考えてもいいのではないかと思っています。   それからもう一点は,先ほどの冒頭の問題に戻るのですが,例えば被告人側の弁護人の方から,正に量刑に関連する,捜査段階の調書とは違うものをきちんと書いて,そこで証人になって反対尋問を経て出すということもあるのかなと思います。   刑事裁判の在り方なのですが,黙秘が増加するかどうかというのは,やってみなければ分からないと思います。黙秘自体は被告人の権利ですから,増加したとしても,そのことを問題視すべきではないのではないと思います。少なくとも,それでも刑事裁判の在り方というのは大きく変わるのではないかと思います。   それから,自白事件の公判において,被告人が供述するためには証人とならなければならないものとするということについては,果たして妥当かという意味で,反対という意見を述べておきたい思います。証人として供述しない場合は,322条の調書が出てくるということになると,これは逆にまた調書に頼る形になるので,ここは反対という意見を述べたいと思います。 ○川端分科会長 かなり総括的な形で御意見が出てきましたけれども,ほかにこれに関連する件で何かございましたらどうぞ御発言ください。 ○上冨幹事 今の関連で,一つ目の不利益推認規定の問題ですが,おっしゃるとおり当然の内容ですが,ただ,当然と言いながら,「不利益」とか「推認」という言葉を伴った条文を書くことが,本当に過不足なく書けるのかというか,そこにどんな意味があるのかということについて新たな議論を生じさせないように書くというのはなかなか難しいことで,当たり前だから簡単に書けるというものなのかなという感じが実はします。その関係で言えば,おっしゃった偽証の制裁の下での証言の評価とは別の問題だという御指摘なんですが,本当に別の問題なのか,やはり裏表という面がないのかなという気がしていて,そういう意味で,許されない推認があるのはもちろんとして,許される自由心証的な判断に不当な影響を与えない形でのうまい規定というのが本当に作れるのだろうかというところで若干懸念があるので,慎重に考えた方がいいのかなと思います。   それから,実務への影響といった問題については,これは現在存在しない制度なので,本当に予測の問題になってしまうわけですけれども,強いて考えるならば,別の国の例がそのままになるというわけではないにしても,例えばアメリカの公判でどういうふうに被告人による証言が選択されていて,それに対して,例えば嘘があった場合にどんなリアクションがあるのかといったことの実情を参考にするというのはあるのかなという感じがしているので,そこも含めて検討していただければという感じがいたします。 ○坂口幹事 今の黙秘の話とかいろいろお伺いしておりますと,この制度のインパクトみたいなものを計りかねるところがあるのですが,そもそもこのテーマは,「第3 被告人の虚偽供述に対する制裁」というところから検討が始まったものだと承知しておりまして,要は公判で被告人が嘘をつき放題と,これは許し難いだろうという問題意識で始まって,そのための手当てをということで検討しているうちに,実は公判の在り方をがらりと変えるような,ということは捜査も必然的にすごいインパクトを受けるのだろうと思っているのですが,本当にそれでよろしかったのでしょうか,それがやりたいこと,やるべきことだったのでしょうかと思っています。 ○川端分科会長 今の点ですが,これは被告人の証人適格との関連でこういう問題が出てきたわけでございまして,そうしますと,被告人の供述を証拠としてどうするかという問題がありますから,それが捜査段階に波及していくのは,これはまた当然だろうと思います。   ですから,そこの点に重点があるのではなくて,飽くまでも公判の中で新しい制度設計の枠組みとしてこれをどう考えていくかという観点の議論を続けてきているつもりです。 ○坂口幹事 もちろん,これ自体検討してはいけないとか,意味がないとか申し上げているのではなくて,その問題意識というか,捉え方が変わってきていると私は思っているものですから,黙秘も増えること自体がいいとか悪いという話ではないというのはよく理解しますけれども,事実として黙秘が増えるということが見込まれるのであれば,必然的に,今既にテーマをいろいろ検討していますけれども,この部会で検討すべき捜査段階でのテーマというのも増えてくるかもしれませんし,変わってくるかもしれませんし,その辺も併せて考えてみたいと思います。 ○川端分科会長 そこは,そういう観点が新たに加わりますので,捜査機関としてどうあるべきかというのは,内部でよく御検討いただきたいと思っております。ここは,飽くまでも公判の中で新たな制度として「被告人の証人適格」の採否の検討というところまで来ておりますので,その中での制度設計をどうするかという議論に限定させていただきたいと思います。 ○酒巻委員 現状についての質問です,主として法曹三者の方に。   「その他」の○二番目の現行の量刑実務との関係ということで,自白事件を前提にします。そうすると,元々,要するに両当事者間で犯罪事実については争いがない,認めると,そういう事件で,今は,情状についてはもちろん情状証人も出てくるでしょうけれども,被告人御自身が弁護人の被告人質問に対して自分に有利ないろいろな事情を述べ,それに対して検察官が反対質問,もちろんそのとおりだと思えばしないでしょうけれども,余り偏っているなと思えば,こうなのではないですかみたいな反対質問をして,それなりに被告人が公判廷で話して,それが裁判所あるいは裁判員の量刑の判断の素材になると,こういう理解でよろしいと思うんですけれども,同じような,全く犯罪事実については争いがない事件で,今の質問というのが全部尋問の形になったら,大きく変わると思いますか。それとも,今私が述べたような事態が同じように証人尋問という形式で行われるだけであれば,余りその部分は大きく変わらないような気がするのですが,その辺はどうでしょうか。   つまり髙橋幹事がおっしゃったように,尋問の形にすると被告人がしゃべりにくくなって,そして今やっているような自白事件の審理ががらっと,量刑について様変わりするのではないかという危惧があるようですけれども,杞憂なのかなという気もするんです。いかがでしょうか。 ○髙橋幹事 まず,証人尋問という形であれ,被告人が公判廷でお話をしていただく限りは,これまでと大きな違いは出てこないのではないかと思います。むしろ,新しい制度は弁護人が請求しないと証人尋問できないので,弁護人が証人尋問請求しない場合に,今であれば,裁判所が判断のために必要があるとして聞きたいことをいつでも聞けるという311条の下で,聞きたいことを聞けたんですが,弁護人がもし証人尋問請求しない場合はそれができなくなるというのが一つです。あとは,これももっと詰めていかなければいけないのですけれども,証人尋問を請求する以上,要するに立証趣旨みたいなものが提示されることになると思うので,弁護人の立証趣旨に入っていないようなことを検察官あるいは裁判所が聞くことがもしできないとすれば,そこもかなり制約が出てしまうのではないかと思っています。 ○酒巻委員 請求しなくて被告人に有利な情状が口頭供述の形で顕出されないというのは,当の被告人が請求しないという主体的決断をした結果ですから,しようがないのではないかと思います。 ○川端分科会長 今の点はこれで終わりにさせていただいて,次のテーマに行きたいと思います。   それでは,次に,「被疑者国選弁護制度の拡充」についての議論に移りたいと思います。   この検討事項につきましては,神幹事に代わりまして小野委員に御参加いただくことといたします。よろしくお願いいたします。   配布資料につきましては,特別部会の第20回会議での配布資料と同じ内容のものですので,説明は省略させていただいて,早速実質的な議論に入りたいと思います。   配布資料に記載の検討事項の「1 弁護士の対応態勢」に関しては,当分科会の第3回会議において,小野委員から日本弁護士連合会における検討結果を御紹介いただきました。もっとも,その内容については,配布資料にも記載されているような指摘もございましたことから,本日は,まずこの点について小野委員から追加の御説明を頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○小野委員 本日の参考資料の後半部分に,「被疑者国選第三段階の対応態勢について」という一覧表にしたものがありますが,まず,この表について御説明をいたします。   前回お出しした,今日の再配布資料の右下に「3/29」とあるところから,被疑者国選弁護に関する地裁支部別シミュレーションというのがありまして,これについて前回御説明をいたしましたが,このうち,右の方に赤と黄色で分けた支部があります。これは想定した件数,それから予想できる被疑者国選登録者数という対比で,一人当たり何件ぐらい受け持つことになりそうかというシミュレーションで,赤のところは30件以上,それから黄色のところは15件以上に切り出して示したものです。その15件以上,30件以上となった支部について,今日の参考資料で,各支部ごとに対応態勢がどうなっているかということを各単位弁護士会及び日弁連で個別にチェックをしたのが,本日の参考資料であります。   各支部,それから一人当たり対応事件数の数字が出ています。「15件以上」のところに★印,「30件以上」のところに★印,これは区分けの便宜のために付けました。次の「具体的な対応態勢」としてこういうふうになっていますよというのが,各支部ごとの実情について説明をしているところです。一番右は「応援に際しての交通事情」ということで,本庁から応援態勢があるんだというときには,本庁から電車で何分,車で何分とか,あるいは必要に応じて距離が示されたりというようなことで出しています。   全部の支部について御説明をするのはちょっとあれなので,幾つかピックアップして,このようになっていますと,こういうふうに調べましたということだけ簡単に御説明しておきます。一番最初に目立ちます岩見沢,一人当たり100件と,これは,要するに対象弁護士が1人しかいなくて,想定件数が100件だということでこうなっているわけですけれども,これは本庁の当番弁護士,被疑者国選弁護人に登録している弁護士が警察署からの要請に対応すると書いてあるとおりで,右の方に,本庁からは電車で30分,車で1時間ぐらいの距離なので,それは対応できるんだと,ちなみに,本庁の人数というのは,再配布資料の,例えば札幌なら札幌の本庁を御覧いただくと422人いますと,ここで本庁だけの担当件数は4件ほどになっているので,岩見沢支部を本庁がカバーすることは十分に可能ですよと,こういう類の記載が続いております。   ちなみに,例えば今日の参考資料の下に「4/16」と書かれているところで言えば,千葉県木更津,一人当たり53件,八日市場,一人当たり41件などと書かれているところがあります。これは,ほかの支部に比べて比較的,一人当たり事件が多く見積もられると,この点については,「具体的な対応態勢」のところに書かれているとおりなのですけれども,真ん中辺りのちょっと下の方を御覧いただくと,「その結果,2013年度の裁判員対象外事件の被疑者国選の登録状況は,本庁296人,八日市場100人,木更津108人の登録となっている。」と書かれております。ちなみに,木更津は予想人数が9人で485件というふうになっています。これは,再配布資料の方で御覧いただければ確認していただけると思うんですが,この9人の485件を,木更津については108人が別途登録されているということで,約120人ぐらいの人数で485件を対処するということになります。八日市場でも,同じように八日市場の登録状況は100人となっています。八日市場の被疑者国選登録人数は9人なんですけれども,これが375件をやるということになって,一人当たり41件となっているわけですが,ここに100人が加わってそれを分担していくと,このようなことで対照していただけると,ここに説明してあるような形で各支部ごとに対応ができるということが書かれています。   あと一か所ぐらい,もうちょっと多いところを見ますと,今日の参考資料の下に「10/16」と書かれているところを見ていただいて,滋賀の長浜支部というのが一人当たり45件,これは現状の単純計算では,4人の弁護士が180件を賄うと,このような結果なんですけれども,ここでは彦根・長浜地区ということでまとめて対応するというようなことで,3行目辺りでは,彦根は212件,長浜で180件であるけれども,彦根・長浜地区の392件を30名で担当するということになると,年間13件ぐらいになりますよということです。   このような形で,それぞれの支部について,懸念される恐れがある,ありそうなところについては,個々に調査をして対応態勢を確認しております。その結果,第三段階の対応態勢については,全支部,全庁で対応できると,こういうのが現時点での弁護士会の対応態勢の状況になっています。   取りあえず今のところは以上です。 ○川端分科会長 それでは,ただいまの小野委員の御説明に対する御質問を含め,検討課題のいずれについてでも結構ですので,御意見,御質問がございましたら御発言をお願いいたします。 ○小野委員 あわせて,前回,国選付添人制度の拡充との関係ではどうなんでしょうかという御質問もありました。それで国選付添人制度,今,拡大ということになりかけているわけですけれども,元々国選付添というのは,被疑者弁護のところが終わった後に国選付添人となるわけですから,そういう意味では被疑者弁護との関係で,同じレベルでの問題ではないのだろうというのが一つありますが,それだけでなくて,実際に現状で付添人をどういうふうにしているかというと,観護措置の決定数で見ますと,2010年は観護措置決定数が1万639件になっております。それに対して,弁護士付添人選任数は国選では342件なのですが,付添援助ということで7,867件,現実に対応しております。それから,2011年の観護措置決定数は1万186件で,ここでも国選は376件なのですが,援助で8,742件,いずれも観護措置決定のうちの,2010年では7割,2011年では8割の事件について,現実に今もう付添人として出動して対応しているというのが現状です。   そういうことで言いますと,今当面,国選付添人の拡充が第二段階と言われているようなところを目指してやっているわけですけれども,仮に全件付添になったとしても十分に対応できるということで,そういう点では国選付添が拡大することによって,被疑者国選弁護の対応が困難になるかというと,そういう状況にはないのだということで,こちらとしては十分に対応できると考えております。 ○川端分科会長 ただいまの点も含めまして,御質問等がございましたら御発言をお願いします。 ○上冨幹事 今回また改めて資料を出していただいて,いずれにしても具体的に緻密な検証をしていくための基礎的な資料だと思いますので,出していただいた資料を含めて,きちんと,できるものなのかどうかを詰めていく作業が今後制度の採否を考えるに当たっては重要なのだろうと思います。   まず,最後におっしゃった付添人との関係で言うと,現在援助で行われていることを含めて,現在の被疑者国選の範囲について,今後国選付添人になるという問題と,それから更に言うと,今回の付添人制度の拡充は,現行の被疑者国選に合わせるというお話が元々の出発点だったわけですから,被疑者国選の方が広がれば,次の課題として,もしかすると国選付添人も更に広がるという意味で,二重の拡充の問題が生じるということなので,多分そこも含めたシミュレーションが必要になるのだろうなと思います。   あと,今日出していただいた資料や前回の資料も含めて,ここで細かく網羅的な議論をする場面ではないと思うんですが,1,2点教えていただければと思うのが,前回,今回とも負担の問題については,基本的にお一人の弁護士さんが年間15件ぐらい担当可能というのをメルクマールにされているように思いますが,確か司法制度改革のときは一人10件というのをベースに,いろいろなシミュレーションをしていたのではないかと承知しています。それは,5割ぐらい多くできるようになったというのはどういうことだったのか,もしお分かりになるのであれば教えていただければなという感じがいたします。   それから,同じようなことですが,法テラスの常勤弁護士について,頂いた資料などでは30件ぐらいはできるだろうということで想定されているように思うのですが,これはもう感覚で,私は弁護士ではないので分かりませんが,年間30というのは相当な件数だろうと思います。実際に常勤弁護士の実情を把握している法テラス,あるいは所管している部署である司法法制部といったところとの関係で,年間30件というのが現実に十分機能するのか,あるいは現実に今どのぐらいやれているのかといったことも,把握しておいた方がよいと思いますので,その意味では,いずれかの段階で,例えば司法法制部といった関係部局からもいろいろな情報を聴く機会があった方がいいのかなという感じがしております。 ○川端分科会長 今御質問が2点出ておりますので,小野委員,よろしくお願いいたします。 ○小野委員 最初におっしゃった付添人の拡充といいますか拡大といいますか,これは元々弁護士会としては,被疑者弁護については,今求めている第三段階,当然勾留全件ということを求めて,更に逮捕段階からもということでやってきたわけですね。そういう意味では,目標は付添人制度についても同じでありまして,先ほどちょっと申し上げましたように,国選付添の関係では,全件付添を前提としたシミュレーションをして,それも対応態勢としては可能であるとの結論に現時点では到達をしておりますので,そういう意味では,いずれまた,いわゆる第二段階での国選付添の拡充が,更に第三段階へとなっていくということは,こちらは当然考えていることで,その上での対応態勢を準備してきたと,こういうことになろうかと思います。   ただ,制度の拡大の中で,いわゆる被疑者弁護と付添とが時期的にずれてきてしまったという実情があるわけですので,それはそもそもの,一番最初の付添人制度を国選にするというところの出発点からして既に違っていたわけですので,そこらから時期的なずれは生じてきているのが現状であることはそのとおりですが,いずれは同じものとしてやっていくべきだろうと考えています。   それから,今回のシミュレーションで以前の司法制度改革のときの10人が,15人になったという経過については,私はちょっと今この場では,詳しい経過について理解をしておりません。大変申し訳ありませんが。   ただ,この間,日弁連の国選本部という委員会で全国の弁護士の活動状況,実情を調査した上で,この人数,この事件数ということで対応可能な基準を設定したということはそのとおりですので,そういう意味では,活動として十分にできる範囲での設定をしていると理解をしております。この点について,なお必要であれば,私の方でもまたきちんと聴き取りなどをしてくることはしてもいいと思っております。   それから,常勤弁護士の30件というのも,これも常勤弁護士の現状を基にしてそのような数字を出しているのだと思うのですが,そこも今ちょっとこの場で全ての中身を把握しておりませんので,今,上冨幹事がおっしゃったように,司法法制部などからの調査も,もし必要であればそれはそれを行った方が良いのかもしれません。 ○川端分科会長 この基礎資料の変化には,弁護士人口の増加も影響しているのでしょうか。 ○小野委員 元々,今分科会長がおっしゃったとおり,このところ急激に増加をして,ある意味で一人当たりの手持ち事件といいますか,そういうものの変化もあるのだろうと思いますが,余りつまびらかに私がここで申し上げるのも,間違ったことを言っても申し訳ないので,どちらにしても弁護士の数が急激に増えたことで対応できるようになったということだけは間違いないだろうと思います。 ○川端分科会長 今の点は,数字等も踏まえて,また別のシミュレーションが必要になることもあり得ると思いますので,そのときまた改めてお願いしたいと思います。   この点に関しては,以上でよろしいでしょうか。 ○酒巻委員 もうお二人から出ているんですけれども,先ほど上冨幹事が言ってくださった法テラスの常勤の方,昔,設計したときは,ここが刑事弁護センターみたいになったらうれしいなと思っていたんですけれども,いずれにしろ法テラスもいろいろ場所にもよるでしょうし,僕も,ちょっと30件というのは大変かなという気もするので,法テラスは,総合法律支援法に基づいて運営されている公的機関ですから,そちらの方のデータというか実情も,それは部会とかこういうところで御説明あるいは資料提供していただいたらいいのではないかと思います。法テラスは,ほかにもいろいろな仕事をしているはずですので,現状の人的資源の稼働状況,そういうことも含めて資料はなるべくたくさんあった方がいいと思います。 ○坂口幹事 今の1番の方の論点で,態勢面でのフィージビリティーというかサステナビリティについては,かなりいろいろなデータ等が出てきていると思うんですけれども,2番目の論点の「公費負担の合理性」についても何か,既に論点としては明確なわけですから,これが検討なり検証なりできるようなデータというのを弁護士会なり,あるいは事務当局の方から是非お願いしたいと思うのです。   と申しますのは,公費負担ということになった場合は,警察もまた当事者でありまして,接見室を相当増やさなければならない可能性があると思っています。私は,先月まで警視庁におりましたが,警視庁の身柄の多い署などでは既に接見渋滞というのが起こっておりまして,仮に接見室を増やさなければならないということになりますと,普通の施設設備ではありませんので,ちょっと部屋をつくれば良いということでは済みません。となると,物理的に今の敷地では無理だというようなことすら出てきかねず,そうなると,相当多額の国費が必要になってくると思います。現在,我が国政府は極めて厳しい事業仕分けを続けておりまして,私どもからすると,当然容認していただけるというような予算ですらもつかないという実情を前に,そういう財政当局を説得していけるだけの材料というものがあれば,私どもとしても大変有り難いところでございます。 ○川端分科会長 今の公費負担の問題は,前から議論の対象になっておりまして,やはりここでまた詰めた議論が必要だろうと思われます。この点に関して,日弁連の方で何か御意見がございますでしょうか。 ○小野委員 前回申し上げたとおりで,本日のところは特にありませんが,前からもちょっと申し上げているんですけれども,公費負担というのは,今回の部会でいろいろな検討対象となっているそれ以外の項目についても,相当な予算を要するものが他にもいろいろあるわけですので,ここだけで特に問題になるのかどうかということはちょっと考えますが,ただ,今おっしゃった接見室の問題というのは,それは確かに署によっては一つしかないというところも相当数ありますし,我々も行って,前の接見,特に弁護人の場合には長くなりますから,待っているという状況もある中で,今後どういうふうにしていくのかということは確かに問題があるかとは思っております。   ただ,第三段階での増え方が,今のところ最大見積もって40パーセントということになったときにどうなるのかなと,その辺も詰めた方がいいのかもしれませんね。 ○上冨幹事 この公費負担の合理性については,我々が今考えているのは,政府の法案として最終的に出す制度として合理的なものとして,国民や政府全体を含めて納得できる合理的な制度が設計できるかという問題なのだろうと思います。その意味では,やはり制度の必要性といったことについて,かなりきちんとした論証をする必要があって,弁護人はできるだけ多くの事件についた方が望ましいですねということだけで済む問題なのかというと,そう簡単ではないのだろうと思います。制度の合理性をきちんと論証する必要というのは,もっと具体的な必要性があって,お金をかけてもこれをやらないといけないんですということを国民に向かっても説明しなければいけないということが,ここでいうところの公費負担の合理性の問題なのではないかと思います。   例えば,第一段階,第二段階,第三段階という言葉を弁護士会では使われていますけれども,現在の範囲まで被疑者国選が拡大されてから約4年です。この4年で,今はまだ途中だというのは,それはどこにゴールを置くかの問題なのですけれども,4年間拡大されて,拡大されなかった部分について,どんな不都合が生じているのかとか,これを拡大することによって具体的にどんなメリットが生じるのかといったことを,やはり具体的に考えなければいけないと思いますし,その場合に,例えば私のごく大ざっぱな感覚で言えば,法定刑の低い犯罪については相対的に処分も低くなる,あるいは起訴の割合も減ってくるというような感じを感覚としては持ちますけれども,それが事実かどうかも含めて,必要性といったものをきちんと論証しておかないと,なかなか納得を得られない問題なのではないかと思っています。そういう観点からもまた,実際に実務の運用を見ていて,予算についても関わっている関係部局からもお話を聴く機会があった方が私はいいのではないかと思います。 ○川端分科会長 公費負担の問題は,まだまだ議論しなければいけない細かい論点がございます。ここに挙がっておりますように,日弁連で更にシミュレーションしている部分もあると思います。国選付添人と国選弁護人との関係等の問題がありますので,これについては更に詰めた議論をする機会を作りたいと思います。   本日はこの点はこれで終わりにさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,次に,「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」についての議論に入りたいと思います。   ここからは,小野委員に代わりまして,再び神幹事に御参加いただくことといたします。では,神幹事,お願いいたします。   この検討事項につきましては,本日は時間の制約もありますので,「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」と「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」の二つの検討項目について,順次議論を行うことといたします。   まずは「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」について,配布資料の内容を事務当局から説明していただきます。お願いします。 ○保坂幹事 資料11の1ページ目,「第1 ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」のところを御覧ください。これまでの資料からの主な変更点を御説明します。   まず,制度概要におきましては,柱書きの4行目のところになりますが,証人の在席場所につきまして,「最高裁判所規則で定める」という文言を追加して,規則で定める場所というふうにしております。これは,民訴法や民訴規則のビデオリンクに関する規定などを参照いたしますと,本制度におきましても,証人が在席する場所について最高裁判所の規則で定めることが考えられるという理由によるものでございます。   そして,その次の行ですけれども,これまでの資料では「ビデオリンク方式により」と平たく書いていた部分につきまして,現行の刑訴法の規定に倣いまして,「映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって」と変えております。   さらに,「③」の類型につきまして,同一構内に出頭できないことが真にやむを得ない場合に限定すべきではないかという御指摘があったことを踏まえまして,「著しく」という文言を追加して,「出頭が著しく困難な者」としております。   次に,検討課題につきましては,「1」の「(2)」の「ウ」のところですけれども,「②」の類型の関係で,加害行為等のおそれを回避する趣旨を徹底すべく,証人の在席場所を相手方に知らせないものとするかということを検討課題としてきたところですが,そのための規定の要否,例えばビデオリンク方式により尋問する旨の決定の通知ですとか,あるいは訴訟記録の閲覧・謄写といった場面を対象としまして,証人の在席場所を相手方に知られないようにするための規定の整備というものが必要なのかどうかということも併せて御検討いただきたいという趣旨で,その旨を括弧書きで追加しております。   次に,次のページの「(3)」の「○」のところですけれども,「③」の遠隔地の類型につきまして,制度概要において,先ほど申し上げたように「著しく困難」という要件をお示しいたしましたけれども,他方で,③の類型のビデオリンクといわゆる所在地尋問というものの関係として,両者の長短を考慮して,事案に応じて使い分けができるということが考えられるところですけれども,所在地尋問の158条は,「必要と認めるときは」という要件とされていますので,それとの対比で,③類型のビデオリンクについて限定的な要件とすることが,使い勝手としてどうなのかという点を御検討いただければという趣旨でございます。   そして,「(4)その他」として,刑事施設等に収容されている者について,一定の事由が認められる場合も対象とするかという点につきましても,検討課題として書いております。   次に,「4 現行規定の見直しについて」につきましては,検討課題に関する具体的な点として,それぞれ「○」の一つ下のところに「・」を打って書いておりますけれども,157条の4の第1項第1号,第2号の列挙罪名の見直しについて,いわゆるDVとか児童虐待などに当たる行為の罪名を的確に列挙することができるかどうか,その罪名に該当すること自体が,現行の1号,2号と同様に,ビデオリンクの必要性を基礎付けるかどうかという点,そして,二つ目の「○」のところですけれども,加害行為等のおそれが認められる証人について,同一構内の別室でのビデオリンクも可能にする必要があるかどうかという点については,そういう同一構内の別室でのビデオリンクによって,加害等のおそれが回避できるというのはどういう場合かという点を追加して記載しております。   御説明は以上でございます。 ○川端分科会長 どうもありがとうございました。今の御説明を受けて,「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」について,検討課題のいずれについてでも結構ですので,御意見,御質問のある方は御発言をお願いいたします。 ○神幹事 それでは,順次述べていきたいと思います。   まず,この枠内の第1の類型についてですが,これまでにも述べてきていますが,「精神の平穏を著しく害されるおそれ」という要件は抽象的でありまして,本来不必要な場合にまで多用されるおそれを否定することができないのではないかと考えています。被害者以外の証人にも,精神の平穏を害されるおそれがあれば,同一構内以外の場所におけるビデオリンクを認めるのは広すぎるとも考えます。したがって,この対象は,被害者のみとすべきと考えています。   二つ目の②についても,自己若しくはその親族の生命又は身体に害を被るおそれがあると認められる者に限定すべきであると考えます。財産に害を被るおそれは,限定的に解釈すれば,同一構内で出頭することによってこれが生じることは考えにくいとも思われます。また他方で,これを抽象的に解釈すると,本来不必要な場合にまで多用されるおそれを否定することができないのではないかと思います。「畏怖し若しくは困惑する行為がなされるおそれ」も,抽象的に解釈されることによって,本来不必要な場合にまで多用されるおそれがあると考えます。   三つ目の遠隔地の関係ですが,これについては①,②とは性質の異なるものでありまして,証人の出頭が著しく困難であるときは認めたらどうかということなのですが,反対尋問権の保障という観点からは,被告人が尋問に立ち会うことができる所在地尋問によるべきだと考えます。所在地尋問によることができないときに,ビデオリンク方式による尋問を行うべきではないかとも思っております。要件としても,単に「職業」とするのではなく,裁判員法の16条に,仕事の関係では,「その従事する事業における重要な用務であって自らがこれを処理しなければ当該事業に著しい損害が生じるおそれがあるもの」という形で限定していますので,単に「職業」という形によるのではなくて,もう少しきめ細かなものが必要ではないかと思っています。もちろん,これは所在地尋問とビデオリンク方式というのが同列か同列でないのかと言われると,恐らく同列ではなくて,選択によって,どちらの道もあるということが一般的な解釈だろうと思います。私たちとしては,直接的に反対尋問ができる可能性の多い所在地尋問の方によるべきだという観点から意見を述べています。   「その他」については,特に心情の安定だとか,矯正教育の効果が害されることになる場合についてですが,これについてビデオリンク方式をするというのは認めるべきではないのではないかと考えています。心情の安定や矯正教育の効果ということは,その実質は矯正当局等の都合によるものであって,証人保護というビデオリンクの趣旨とは異なるものではないのかと思っております。そのような名目で被告人の防御権を制限することは許されないと考えています。   それから,「証人が在席する場所の範囲」ですが,裁判所の職員が管理する他の裁判所の構内に限るべきであると考えます。そうでなければ,証人が所在する場所が証言の公正さを損ねるような環境でないことを確保できないと思われるからであります。   「当事者の意見」についてですが,ビデオリンク方式による尋問は,何度も述べていますように,被告人の対面権を制約するものであります。同一構内以外の場所でこれを行う場合は制約の程度が大きくなるという意味で,酒巻委員には何度も指摘されていますが,当事者に異議のあるときにまで実施すべきではないのではないかというように考えています。 ○酒巻委員 私は,基本的には,これは考えられる一つの合理的な制度設計だと思っておりまして,それぞれに細かい点は,大体筋はこれでいいと思います。今既にビデオリンク方式の証人尋問は存在していて,これは憲法の話としてはっきりさせなければいけないのは,少なくともいろいろな憲法解釈がありますけれども,日本国最高裁判所は,現在存在しているビデオリンク方式は,憲法37条の証人審問権を制約するものではないという憲法解釈をしているので,基本的人権としての証人審問権の侵害はない。あったら,そっちも違憲になるということなのです。それが場所が違うところに行くと,突如として権利制約が大きくなるとか小さくなるとかいう話は論理的にはないのですね。   もし権利の制約があるのだったら,権利を制約される人がそれでもかまわないと権利放棄する,すなわち異議がないときに限るというならまだ分かるんですけれども,この制度はそういう権利制約はない。他の証拠調べに関する裁判所の決定と同様の仕切りで,当事者が意見を述べる機会がある。例えば,具体的に,この証人についてはこういう物を示して,どうしても尋問しなければいけない理由がある,だから審理をしている裁判所の建物でやってもらわなければいけないとか,個々の具体的な場合について合理的な理由があれば,合理的な裁判官だったら,それだったらそれは他の場所でやるのは相当でないですねと,やはりこっちでやりましょうということになるのであって,きちんと意見を聴く機会はあるのですから,遠くでやるものだけに限って被告人側に異議がないときに限るというふうな構成をするのは,論理的に全く筋が通らないので,考えるのはやめた方がいいと思います。   あとは,弁護士の先生方は,要件の緩やかな制度は,なるべくやめて,ぎりぎりのところでやった方がいいという基本発想になっていると思うんですけれども,そのような発想自体が私にはよく理解できないのです。これは被告人の証人審問権とか被告人の憲法上の権利やら刑事手続上の権利を直接制約するのではなくて,趣旨は,①,②,③違いますけれども,いずれも証人になる人を保護する,あるいは証人になる人の便宜,あるいはそういう人たちにできる限り的確に口頭で,書面ではなくて証言してもらうための制度ですから,その要件について,先ほど述べたような発想で点検をして絞るというのは,余り納得が得られにくいのではないかという気がします。 ○宇藤幹事 今,酒巻委員が言われたところと大分重複してしまうんですけれども,私の方からは,ビデオリンクについての(3)と(4)についてお話をさせていただきます。   まず,ビデオリンクでの証人尋問の位置付けなんですけれども,恐らく原則として語られるべきは,公判廷での尋問というものであろうと思います。そういう点で言うと,所在地尋問もこれは例外でして,ビデオリンクと基本的には同列に取り扱われるものであって,あとは選択の問題で,一長一短を踏まえつつ,どちらが適するのか,特にビデオリンクについては,裁判の公開という点で,所在地尋問よりは優れているような面もございますので,その点も踏まえて考える必要性はあるのではないのかと思います。   あと,遠隔地でのビデオリンクということからすると,恐らくハッキング等の問題があるので,インフラをどういうふうに整備するかというような問題も出てきたり,あるいは法廷警察権あるいは訴訟指揮権の行使の在り方というのは,もちろん問題のあるところでしょうが,既に我が国で運用されておりますところだと,民事訴訟でのビデオリンクの運用がまずは参考になるではないかと思います。   あとは諸外国,私の知っている限りだとヨーロッパということになるんですけれども,かなりビデオリンクが利用されておりまして,特別な尋問方法ではないように考えております。特に国際的に利用されているというような場合もございます。そういたしますと,恐らくは閉じた専用回線でなければいけないというような議論は,そもそも前提とできません。当然オープンなアーキテクチャーを有する通信回線の上でやられているということになります。そういうところも踏まえて,今後検討する必要性があるのではなかろうかと思います。   あともう一点,このペーパーの(4)のところです。遠隔地以外のところでもこういう場合があるのではないのかということなんですけれども,これはもちろんそうだろうと思います。先ほど申し上げたとおり,所在地尋問か,ビデオリンクかというのは,これは裁量というのは言い過ぎですけれども,一長一短を踏まえて判断すべきものだと思いますので,立法としては,恐らく遠隔地に限らず考える余地はあるのではなかろうかと思いますので,仮に今の文案に含んでいないということであれば,継続的に検討していただくというのがよろしいのではないかと考えております。 ○川端分科会長 宇藤幹事の方から外国の例が出ましたので,欧米の件に関して,事務当局で御存じの点があれば教えてください。 ○保坂幹事 詳細な最新の状況というところまでは追いついていないのですけれども,EU諸国においては,宇藤幹事がお話のように,ビデオリンクがかなり活用されているようでございまして,こちらが入手した資料によりますと,EU諸国の中で裁判所と刑務所との間でのビデオリンクを実施していると回答があった国として,イギリス,ドイツ,フランス,イタリア,オランダ,オーストリア等々,かなりの数に上っているということを現時点で把握しています。具体的にどのようにやっているのかというのは更に調査する必要があると思いますが,現時点で把握しているところを御紹介しました。 ○髙橋幹事 まず,枠囲いの中ですが,裁判所規則で定める場所という形で,裁判所規則の方に委任されるという点は,現行の民訴法と民訴規則の関係とも同じであり,問題ないのではないかと思います。   それから③について,単に遠隔地だけではなくて,やはり絞り込みが必要だと思います。今回の案では,出頭が「著しく」困難という文言になっていますが,この文言が相当かどうかは,また今後の検討になると思いますけれども,こういった形で絞っていくのは相当だと思っております。   そのほか気になる点について申し上げますと,②の類型なのですが,②のような類型に当たる場合に,①には当たらないというような類型として果たしてどういうものがあるのかという点が引っかかります。①の類型があれば②の類型のような場合も全てカバーし得るのではないのかなとも思われます。   それから,検討課題の方にいきますと,1の(4),それから(2)の両方に関わると思うんですが,刑事施設に収容されている者で,「施設外(裁判所)に出頭するとその心情の安定や矯正教育の効果が害されることとなる場合」と書いてありますが,果たして具体的にどういうことを懸念されているのか疑問に思っています。裁判所に出頭するといたしましても,その際には動線として,最寄りの裁判所あるいは公判が行われる裁判所への移動について,いずれにしましても他の人からの目にさらされないような形でされますし,もしビデオリンクという形で証人尋問するとなると,それは一般人からは見られないような形ですることも可能です。場所を変わることによって心情の安定が害されるというのが,一体どういう場合なのか,むしろ証人尋問すること自体,過去の自分が携わった事件について話をすることで記憶がよみがえったりフラッシュバックしたりして,それで心情の安定が害されるという場合はあり得るかなと思うのですが,ただ場所が変わっただけでそんな大きな弊害が出てくるのかと疑問に感じております。   もう一点,神幹事の方からお話がありましたが,異議がない場合のみに遠隔地でというのは,そもそもビデオリンクの利用については証拠調べの方法に関連する事項ですので,一方当事者から異議があれば,そういう方法は採れないというのは,訴訟手続上考え難いです。何度か述べていますが,当事者からの意見をお聴きした上で,その方法が相当かどうかというのは裁判所の方で判断させていただくことになります。 ○川端分科会長 では,第1点の質問の方について事務当局から回答をお願いします。 ○保坂幹事 今,髙橋幹事が疑問点としておっしゃったうちのまず一つ目で,②類型の必要性に関して,①があれば大方,事足りるのではないかという御指摘ありましたが,事務当局として考えたのは,①というのは,当該証人の内心といいましょうか,精神の平穏というところを切り口とした要件である,他方で②というのは,証人の内心というよりは,外形的というか,外部的なそういう行為がなされるおそれという切り口の要件にしています。例えば②のおそれはあるけれども,その証人がそういうおそれを知らない場合,精神の平穏は害されないわけですから,それは②がないと対応できないと,そういう関係にはあるということを考えているところでございます。   それと,刑事施設等に収容されている者のビデオリンクについて,何が必要性かが疑問だということでしたが,これは私は矯正局の担当者ではないので,つまびらかには把握しておりませんが,恐らく今までも,拘置所ですとか,あるいは少年院に所在地尋問で行っているというケースはあると思うんです。その場合,なぜ所在地尋問に行っているのかというと,身柄が拘束されているわけですから,出頭自体に何か不都合があるとか,本人が望むとか望まないとかということとは別の理由で,恐らく所在地尋問をしているのだろうと思います。その理由が存在するのなら,所在地尋問とは別の選択肢として,ビデオリンクでそこをつなぐということが,同じように必要性があるということになるのだろうと考えているところでございます。 ○上冨幹事 何点かまとめて申し上げますが,まず,枠内の①類型について,被害者以外の証人について,この要件で認めるかどうかについては,やはりある特定の罪名の被害者になるかどうかというのは,結果としてそうなったということである場合も多く,証人の心情,立場ということを考えたときには,被害者ではなくても被害者と同様の心理的な状態にならざるを得ない方というのはいると考えられるのだろうと思いますので,現時点で制度の概要としては,やはり被害者以外の証人も含めたものとして考えていくべきだろうと思っています。   それから,②類型のうち,特に畏怖・困惑行為についても,例えば暴力団関係の事件で,無言電話を執ようにし続けるとか,直接的に身体,財産に害を加える場合でなくても,やはり保護されるべき状態というのはあり得るのではないかと考えます。   検討課題の1の(2)のウのところで在席場所の問題ですけれども,せっかく場所を遠くにしても,どこでやっているかを明らかにしてしまうのであれば,意味は失われてしまうことがかなり多いでしょうから,在席場所を必ずしも明らかにする必要は元々ないと思いますし,そうであれば,ここは周辺の制度的な手当ても含めて,必要な手当てをすべきなのかなと思っております。   それから,所在地尋問とビデオリンクの関係については,先ほど宇藤幹事もおっしゃいましたけれども,基本的にはその事案,事案で選択できるようにするという方が在り方としてはいいのではないかと思っています。それぞれ,やはりメリット,デメリットがあるでしょうし,例えば裁判員裁判の場合,所在地尋問をすると,裁判員が必ずしもそこには行かないということが制度的に許されているわけで,そうすると裁判員は証人尋問調書で心証をとるということになって,直接的に心証をとるということでは,所在地尋問の方が一歩譲るという仕組みにならざるを得ない場合もあるので,やはり事案によって選択できるようにしていく方がいいのかなと思っています。   その点では,先ほどの刑事施設に収容されている人などについても,これまで一定の場合に所在地尋問というやり方をしていた例があって,その必要性があるのであれば,選択肢を増やすという意味でビデオリンクの対象にするということは十分考えられると思いますので,やはり検討すべき課題としてあるのではないかと思います。   一方,③の要件として,今回の案では「著しく困難」と絞りが掛かっていますけれども,恐らく実際に今,所在地尋問をするかどうかの判断も,条文上は「必要があるとき」と書いてあっても,本当にその必要性についてはかなり詰めて考えた上で,本当に必要な場合にやっておられるのでしょうから,「著しく困難」と書いたことによって,その要件の書き方によって必ずしも順序がつくとは思いませんので,この概要に書かれているような要件もあり得るのではないかなと思います。  ○坂口幹事 ①と②について,上冨幹事と全く同意見であります。   ①については,被害者であるかどうかという形式的な区別によって扱いを異にする合理性はないと思います。   それから②ですけれども,現実にもう現場で相当な負担が生じておりまして,暴力団の事件などの場合は,何十人もの警察官を動員して証人をボディーガードするということもやっておりますので,是非②については導入をお願いしたいと思います。そして,畏怖・困惑類型についても導入をお願いしたいと思います。これも上冨幹事がおっしゃったとおりですけれども,暴力団の報復というのは,むしろ畏怖・困惑類型により多発するものでありまして,無言電話をかけるなり,動物の死骸を家に投げ込むなり,ふん尿をまき散らすなり,そういうことがありますので,是非その点も含めて検討をお願いしたいと思います。 ○川端分科会長 本日は,「第2 被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」についてまで議論する予定でしたけれども,時間が尽きてしまいましたので,これは次回に回したいと思います。   それから,次回の予定で残りの部分がありますので,それらを検討させていただきたいと思っておりますが,具体的にどういう内容,どういう順序で議論するかについては,事務当局と検討して,追って御連絡させていただきたいと思います。   本日の会議はこれで終了させていただきますが,本日の会議につきまして,特に公表に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきます。   また,議事録ができるまでの暫定的なものとして,事務当局において本日の議論の概要をまとめて,全委員,幹事に送付していただくことといたします。   次回の日程でございますが,9月10日,火曜日午前10時から午後零時30分までを予定しております。場所につきましては,追って御連絡させていただきます。   それでは,本日はこれで終了させていただきます。どうもありがとうございました。 -了-