法制審議会 民法(債権関係)部会 第71回会議 議事録 第1 日 時  平成25年2月26日(火)自 午後1時02分                      至 午後6時02分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 それでは,法制審議会民法(債権関係)部会第71回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,中田裕康委員,能見善久委員,沖野眞巳幹事,福田千恵子幹事,森英明幹事が御欠席です。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として部会資料59,「たたき台」(4)(5)の改定版を送付させていただきました。また,本日の机上にて部会資料60を配布しております。これは,この部会の決定の対象となる「中間試案(案)」であり,(注)を含む意味での本文のみを掲載したものです。   このほか,委員等提供資料として,中井康之委員から「たたき台(4)(5)の改定版について」と題する書面,本日御欠席の中田裕康委員から「部会資料59についての意見」と題する書面,潮見佳男幹事から「中間試案のたたき台【改定版】についての意見」と題する書面をそれぞれ御提出いただいております。また,経済産業省産業組織課から「民法(債権関係)改正に関する意見書」を御提出いただいております。 ○鎌田部会長 三浦関係官から,提出資料に関しまして御発言があると伺っておりますので,よろしくお願いいたします。 ○三浦関係官 部会長,ありがとうございます。   意見書をまとめさせていただきました。今,御紹介がございましたとおりでございます。今回,中間試案が間もなくまとまるということで,一つの節目ということで提出をさせていただきました。内容は御説明はいたしませんけれども,これまで基本的に申し上げてきたこと,中にはいつぞや申し上げましたファイナンス・リースの話ではございませんけれども,特定業界に限定されているものは編集方針として除外をしており,したがって,全てではないんですけれども,基本的な内容はこれまでの私どもの発言を総括したような形で作らせていただいております。クレジットは経済産業省産業組織課ということでございますけれども,省内の意見募集,協議を経ておりまして,事実上,現時点での省としての考えをまとめたものという目で御覧いただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   本日は,部会資料59及び部会資料60のうち,前回,審議を終えた部分についての御審議を頂く予定でございます。休憩前までに部会資料59のうち,「第37 贈与」までについて御審議を頂き,午後3時20分頃を目途に適宜,休憩を入れることを予定しております。休憩後,部会資料59の残りの部分と部会資料60のうち,前回,審議を終えた部分について御審議いただきたいと思います。   それでは,まず,「第26 契約に関する基本原則等」及び「第27 契約交渉段階」について御審議いただきたいと思います。一括して御意見をお伺いいたしますので,御自由に御発言ください。特に御発言はないと思ってよろしいでしょうか。 ○中井委員 まず,メモの1項「契約内容の自由」のところは「当事者は」で始まるんですが,ほかのところは「契約の当事者は」で始まります。その平仄が気になりました。これが1点目です。   2点目は内容に関わるので,更に今後,検討することになると思いますが,「3 付随義務」の(1)です。「相手方が当該契約によって得ようとした利益を得ることができるよう」,この「利益を得る」というのは一定の特定した場面ではないかと思うんですが,付随義務が生ずるのは必ずしも利益を得ることのみではないだろう。例えば損失を回避するためにも付随義務が生ずる場面がある。表裏の関係ですから,この言葉に入っているとも考えられますけれども,もう少し別の表現があり得るのではないか。これは第3ステージで検討すべきことかもしれませんが,申し上げておきたいと思います。   それから,第27の「契約交渉段階」の1で,「契約締結の自由」というのが表題に入りました。中身は損害賠償義務がないとして,ただし書を付ける,2の「情報提供義務」についても,損害賠償義務がない,損害賠償の責任を負わないとした上でただし書を付ける。平仄を合わせているんだろうと思いますけれども,仮に1に「契約締結の自由」を入れるとすれば,本来,契約締結するかどうかの自由があることが最初に掲げられてもいいのではないか。これは既に部会で議論した結果,その部分は要らないという結論だろうと思いますが,なお,留意を求めておきたいと思います。   そうだとすると,2の「情報提供義務」についても聞くところによると,相当,御批判が強いようですが,弁護士会としては,是非,これは入れていただきたいわけです。そこで,情報についても原則,各自,契約当事者が収集するということをうたった上で,損害賠償義務を負わない,負わないとした上で,更にただし書があるというような構成も考えられると思います。いずれも今から中間試案を変えるのは適当ではないかもしれませんけれども,第3ステージの議論の参考に供する意味で発言と併せて,メモに記載させていただきました。 ○鎌田部会長 ありがとうございます。   事務当局から御発言はありますか。 ○筒井幹事 御意見をありがとうございます。「付随義務」に関する御意見,それから,「契約交渉段階」のうち「契約交渉の不当破棄」と「情報提供義務」に関する御意見については,御指摘の趣旨はよく理解いたしました。その上で,取り分け詳しい条文表現にわたる議論については次のステージでしっかり議論していかなければならないものと理解しておりますので,そういった検討課題の一つとして受け止めさせていただき,補足説明等で言及しておきたいと考えております。   御発言の冒頭で言及されました「契約に関する基本原則等」のところの書き出しで,「当事者は」を「契約の当事者は」としてはどうかという御提案については,なるほどと思いましたので,そのようにさせていただこうかと思います。特に御異論がないようでしたら,そのように改めさせていただこうと思います。 ○潮見幹事 先ほどの中井委員の発言に関してですけれども,私としては,是非,中間試案ではこの形で聴いていただきたいと思います。特に損失を被らないようにするためということを入れた場合には,今回,新しく入れていただいた保護義務に関する規定との関係というものをどう理解すればいいのかというのを若干,詰めていかなければいけないことがあろうと思います。保護義務に関する規定というものは,これ自体として私は中間試案で聴くべきだと思いますので,余計にこの形で聞いた後は第3ラウンドで議論するということにしたほうがよいと思います。   それから,本当に細かなことですが,見出しですが,2の見出しを「原始的に」と書いているのですが,「原始的に」というのは私たちには分かりやすい。けれども,原始的不能だとか,原始的履行障害だとかというのがありますから,一般の市民の方も見られるということを考えれば,例えば契約成立時にとか,何か,そういう少し分かりやすい表現を採っておいたほうがいいのではないかと思います。 ○筒井幹事 「原始的に」という表現を改めたほうがよいという御指摘は,なるほどと思いました。そのように修正する方向でよろしゅうございましょうか。同じ表現がほかにもないかどうかを点検した上で判断したいと思いますけれども,基本的にそのような方向での修正を加えることにさせていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○中井委員 確認ですけれども,先ほどの私の発言に対して部会長は筒井幹事に確認をされる,また,今の潮見幹事の御質問に対して筒井幹事から回答される。これは,こういう形式を採ることを意識的にされているという理解でよろしいでしょうか,そうだとすれば,その趣旨を最初に確認させていただきたいと思います。 ○筒井幹事 もちろん相互に御議論いただくことが基本であろうと思いますけれども,本日の会議に原案を御提示している私のほうから,御意見に対するコメントを差し上げるのが基本的に適当であろうと思いまして発言いたしました。ただ,もちろん相互に御議論いただくことは望ましいことであると思っております。 ○鎌田部会長 基本的には部会の取りまとめでございますので,委員・幹事相互で意見交換して確定していけばと思います。御指摘のありました第26の1と2については表現上の問題でございますので,表現をここで確定できる限りは確定しておきたいと思います。この原案を記述してもらいました事務当局に,その点について格別の意見があるかどうかを確認させていただいた上で,確定できるところを確定していくという,そういう進め方で本日は進めさせていただければと思っています。 ○松本委員 いささかアカデミックな質問になるんですが,今の「保護義務」のところの(2)の「相手方の生命,身体,財産その他の利益を害しない」という,ここでいう「財産」という概念は,御存知のように特定財産なのか,いわゆる一般財産,総資産あるいは経済的な意味でのプラス・マイナスという意味と,日本語として両方を兼ねているところがあります。その結果,現在の製造物責任法の解釈にかなり私はゆがみが生じていると認識をしている次第でありまして,ここの「財産」についてももうちょっと限定したほうが,今後の混乱を招かないのではないかというアカデミックな危惧がございます。そうでないと,本来の給付義務の部分まで,ここでいう財産侵害に持ってくるような議論を誘発するリスクがあると。これは学説的な単なる整理の問題ということなのかもしれないんですが,少し配慮が必要かと思います。 ○鎌田部会長 その点は第3ラウンドも含めて,引き続き検討させていただくということでお許しいただければと思います。   ほかにはよろしいですか。よろしければ,「第28 契約の成立」から「第31 第三者のためにする契約」までについて御審議いただきます。一括して御意見をお伺いいたしますので,御自由に御発言ください。 ○三浦関係官 それでは,私からは部会資料の13ページですけれども,「約款」の5項め,「不当条項規制」のところについて申し上げたいと思います。ここについては前回の審議で一つ御意見を申し上げました。具体的にそのときに申し上げたのは,「信義則に反して」とか,「相手方の利益を一方的に害する」といった文言が当初は入っていたけれども,落ちてしまった,それが「不当に」と言い換えられたと,したがって,不当条項の規制対象が広くなっているのではないかというような懸念を申し上げたところです。そのとき,付言したかもしれませんけれども,不当条項規制が明文化される場合であっても,現行の民法90条や消費者契約法10条を超えて無効とされる範囲を拡大するものではないという理解を前提としておりました。   今回,それで,部会資料を見て,若干,御配慮を頂いたのかなと思っています。今回は「相手方に過大な不利益を与える場合には」という形で限定をして,修正いただいたんだと理解をしています。一方なのですが,それでも消費者契約法10条と比べますと,「信義則に反して」とか,「一方的に害する」という文言がなくて,あちらにあって,こちらにないのはなぜだろうと,消費者契約法と比べて緩やかな要件のように読めるという不安がまだ払拭し切れないかなと思っておりまして,ここのところは消契法10条と同様に「信義則に反して」とか,「一方的に害する」といった文言を御採用いただけないかどうか,範囲を限定すべきではないかということについて御検討をお願いしたいと思います。 ○筒井幹事 御意見をありがとうございます。この「不当条項規制」に関しては,以前から(注)として本文のような規律を設けないという考え方がある旨を明記しており,まずは規定を設けるかどうかについて大きな意見の対立があると認識しております。その上で,その意見の対立を乗り越えるための折り合いの付け方については,今後,よく考えていかなければいけないだろうと思っておりますし,その際に,ただ今,三浦課長から御紹介いただいたような事情も,十分な考慮を要する重要なポイントであろうと理解しております。そういったことは,(概要)欄や補足説明などで紹介した上で,更に議論を継続していきたいと考えております。 ○三浦関係官 それでは,そのようによろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○山本(敬)幹事 ほかにもあるのですが,今,「約款」の話が出ていますので,「約款」について意見を述べたいと思います。   2点ありまして,まず,1点目は11ページの「約款の定義」の部分についてです。ここは,前回の議論を踏まえて,「契約の内容を画一的に定めることを目的として使用するものをいう」と改められています。このように改められたのは,結構だと思いますが,「目的として使用するもの」と定義することの意味を(概要)欄で分かるようにお書きいただくほうが,理解が得られるのではないかと思いました。  特に前回の議論では,契約書のひな形をどう見るかということが問題になっていました。 契約書のひな形でも,当事者間でそのひな形を基にしながら契約交渉を進めて,それで合意に至るというようなケースは,ここでいう「契約の内容を画一的に定めることを目的として使用」されていないので,ここでいう約款には当たらないということを(概要)欄で明記してはどうかと思います。逆に言いますと,名称は契約書のひな形であっても,実際の使われ方が「契約の内容を画一的に定めることを目的として使用」されているような場合は,ここでいう約款に当たるというのがここでの趣旨だと思います。この微妙な表現を読むだけで分かるかどうかは,それ自体として問題かもしれませんので,(概要)欄なり,補足説明なりでしっかりと補充していただければと思いました。   もう1点は,取り上げられなかった論点で,14ページです。このうちの一番上の「不当条項規制の対象から除外すべき契約条項」が外れています。ただ,これは前からずっと議論していましたように,約款が使用される場合でも特に個別合意があるときには,特別な不当条項規制を行う必要はないので,ここでいう不当条項規制の対象から外れると考えられます。これを規定しませんと,これが今後,解釈問題に委ねられるということになると思います。もちろん,そのように解釈問題として処理することも可能ではあるかもしれませんが,これは約款規制を考える上で非常に重要なポイントですので,明文化しておくべきだと思います。少なくともそのような意見があったということを補足説明で明記していただきたいと思いますし,この点は,不当条項規制を民法に定めて本当によいのか,よいとして,それはどの範囲でそうなのかということを明らかにする非常に重要なポイントだと思いますので,ここで完全に落とすのではなく,第3ステージできちんともう一度,議論することが,約款規制を民法に定める以上,不可欠ではないかと思います。そのことをここで改めて強調しておきたいと思います。 ○鎌田部会長 今の2点は差し当たり補足説明の中で工夫をしていただくということで処理させていただきます。 ○三上委員 今の山本敬三幹事の最後の部分ですけれども,私が理解するところでは,約款自体には広い定義をしても,不当条項規制等の規律が掛かるのは組入条項を使ってのみ約款になった内容についてだけであり,約款を使っていても,事前に説明して,例えばお互いにこれが改正できる,できないの交渉をした上で契約になったものは,別に普通の契約と変わらないということになります。それを明示するものが「不当条項」の出だしの「前記2によって契約の内容となった条項は」という部分であるという,事務局の説明もそうだったと思うんですけれども,それが正しいのであれば,「不意打ち条項」の前にも同じような注書きといいますか,不意打ちも不十分な合意で契約内容になったものに関しての規制だと思いますから,「前記2によって契約の内容となった条項は」という限定が必要ではないかと思います。また,それを突き詰めていくと,組入条項の中に第二項を設けて,これによって契約の内容になったものについては,以下の条文が適用になるといったような一般的な制限条項のようなものを設ける必要があるのではないか,それが恐らく山本敬三幹事がおっしゃった「落ちた部分」に該当する部分に対する明確な説明になるのではないかと思いますので,併せて御検討をお願いしたいと思います。 ○筒井幹事 発言の御趣旨はよく理解いたしました。そのような理解で結構かと思いますけれども,その点に関して先ほどの山本敬三幹事から御発言があった点も踏まえて,今後,更に検討を深めていく必要があるのだろうと思います。基本的には,この辺りの論点については根本的な意見の対立があるところですので,今の段階でどのように微修正するかという議論に深入りするよりも,中間試案としてはこのような取りまとめをさせていただき,議論の経過を(概要)欄,補足説明で十分説明し,その上で,次のステージでどのような最終的な結論を得るのかという形で議論を進めていったほうがよいのではないかと考えております。できましたら,そのように御理解いただければと思います。 ○鎌田部会長 少なくとも不意打ち条項は契約の内容にならないということですから,5と同じ書き出しはそのままは使えないと思いますので,今,説明がありましたようなことで引き続き検討させていただければと思います。 ○佐成委員 「約款」のところですが,前回の議論を踏まえて(注)を付けていただきまして,どうもありがとうございます。これで,一応,私が申し上げた趣旨は反映されたと理解しております。ただ,内部では個々の項目ごとに反対であることを書けというような御意見もあったんですけれども,拝見しますと1の「定義」のところで「約款に関する規律を設けない」という包括的な表現になっているので,私としてはこれで十分かなと思いますので,これでよろしいと判断しております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   「約款」以外の部分も含めて第31までの御意見がほかにありましたら。 ○鹿野幹事 「約款」についてなのですが,13ページの上のほうの「約款の変更」について一言申し上げたいと思います。(2)のところでは,「上記(1)の約款の変更は,約款使用者が,当該約款を使用した契約の相手方に……合理的な方法により周知することにより,効力を生ずるものとする」とされています。周知が必要であり,それが合理的な方法であることが必要だという趣旨それ自体はよいのですけれども,これだけを読むと,周知した時点で約款の変更の効力が生ずるかのようにも見えるのではないかという危惧を少しだけ覚えました。   つまり,もう少し言葉を足しますと,場合によっては,変更する約款の内容につき相当期間の周知を行い,その相当期間の経過によって初めて変更の効力が認められるということがあると思うのです。恐らく,その趣旨は,(1)のエのところに書かれている,不利益の程度に応じて適切な措置が講じられているという要件の中に,実質的には入ってくるのだろうと思われます。けれども,その点が必ずしも明らかにされておらず,(2)だけを読むと,周知があったら,その時点で変更が生ずるようにも見えかねません。本文を修正しなければならないということではないのですが,その点の誤解がないように,補足説明等でその点を明らかにしていただければと思います。 ○鎌田部会長 その点はよろしいですね。   ほかによろしければ。 ○山本(敬)幹事 「契約の成立時期」で7ページの部分です。前回のときに申し上げたことですが,(2)で民法527条を削除するというのはよいのですけれども,到達主義に転換する以上は,撤回の意思表示がいつまでに到達すればよいかというルールが不可欠だと思います。つまり,承諾の意思表示の発信時までに撤回の意思表示が到達する必要があるのか,それとも,承諾の意思表示が到達するまでに撤回の意思表示が到達すればよいのかという点が,到達主義に転換する以上,必ず明記される必要があると思います。   考え方としては分かれるかもしれませんが,承諾の発信時までに撤回の意思表示が到達する必要があると私は考えますけれども,この点については,そのような意見があったということを少なくとも補足説明で明記していただいて,そして,必ずないといけないルールだと思いますので,第3ステージで改めて議論を深めて,明文化できるようにすべきではないかと思います。 ○中井委員 私のメモ5項ですけれども,7ページの上,「申込者及び承諾者の死亡等」の(2)で,「意思能力を喪失し」になっています。(1)のところで前回の議論を受けて,「意思能力を喪失した常況にある者となり」と修正されているわけで,(2)も同じ修正をしたほうがよろしいのではないかと思うのですが。 ○筒井幹事 御指摘のとおりですので,そのように修正しようと思います。 ○岡委員 また,「約款」に戻るわけです。「約款」の2の「その契約に約款を用いることを合意し」という意味がよく分からないというのが,パブコメの準備の段階で出てきました。(概要)のところでは「約款を使用した」とか,「約款を用いる」とか書いてあるんですが,細かいことは約款によりますよという合意を典型的には指すのでしょうか。約款を見せて普通の個別合意と同じように折衝した場合は,約款規律は受けなくなるわけですので,約款を用いるというのは,希薄な合意をするという意味であることを,(概要)か,補足説明で書いていただきたいという声が非常に強うございました。細かいことはここでは折衝せず,細かいことは約款によりますよと,そういう趣旨と理解していいんでしょうか。 ○筒井幹事 そのとおりだと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。よろしければ,「第32 事情変更の法理」から「第35 信義則等の適用に当たっての考慮要素」までについて御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○岡委員 「不安の抗弁権」のところの「再生手続開始又は更生手続開始の申立て」という言葉を削除すべきではないかという意見でございます。まず,民法で破産の場合はかなりほかにも一杯出てきますが,今回の改正案でも再生と更生が出てくるのはここだけではないかと,何か突出しているのではないかという点が一つまずございます。それから,再生・更生の再建型手続の場合には,事業再建の合理的な目的のためになされる場合も多く,それをこういう典型例で出すと,合理的な事業再建をかなり阻害するのではないかという点です。それから,この条文がなかったとしても申立て後,債務不履行には陥るわけですので,ケース・バイ・ケースで不安の抗弁権を使うことは可能であるはずでございます。そういう意味で,ここの再生と更生の例示について,そう積極的な意見がこの部会で多数あったとは私は認識しておらないので,ほかに是非とも入れるべきだという強い意見がなければ,ここは削除するのが相当であると考えます。 ○筒井幹事 そのような御意見があったことを踏まえて,現在,(注)において再生手続,更生手続が開始された後は,このような権利を行使することができないという考え方を紹介しておりますので,そのような意見があることを前提とし,そして,今の岡委員の御発言の中でも,民法に再生手続,更生手続に言及する規定を設けることの全体的なバランスといった問題もありましょうし,それらの問題というのは,倒産法制と民法の規定との関わりという統一的な観点から一度じっくり議論する必要があるということを私は繰り返し申してきたつもりです。そのような形での議論を継続していくということを確認した上で,この書き方については(注)で岡先生が御提案されたような考え方が取り上げられているということで,御理解を頂ければと思います。 ○岡委員 私が言った意見は(注)の後段ではなく,後段は申立てを不安の抗弁権と書いたとしても,開始後は駄目ですよというのが(注)の後段だろうと思います。私が申し上げた意見は,申立て後,開始までの間も不安の抗弁権は認めるべきではないという意見ですので,(注)の前半部分ではあると思います。でも,再生,更生をここだけ突出して掲げるというのが,部会の多数意見を形成する見込みのある意見として有力になされたのでしょうか。 ○新井関係官 更生手続又は再生手続の申立てをむしろトリガーにすべきでないかということは,部会の中でそういう意見があったということを踏まえて,ここは記載したつもりでございます。岡先生の御指摘のような御懸念についてですが,確かに,これらの手続の申立てがあったことがトリガーになっているわけですが,本文で提示している不安の抗弁権を行使するための要件では,行使をする時点で「履行を得られないおそれ」が現にあるということを必要としております。そのことは(概要)でも言及しております。したがって,申立てがあったということで,それのみで一律に行使できるというふうな規律にはしておりません。したがって,一応,岡先生の問題意識については,本文の要件でも吸収できているのではないかと思っていたところです。 ○岡委員 ほかに賛成意見があるのであれば固執はしませんが。今,最後におっしゃったことですが,中井メモにも,その他これに準じた事由によるという提案がなされておりまして,若干,弁護士会でも議論したところであります。ただ,今のゴシック体の案は,再生申立てその他の事由により,その反対給付である債権につき履行を得られないおそれがある場合と書かれていますが,この反対給付とは過去の分ではなく,申立後に履行しようとしている将来の分ですよね。会社更生であれば,許可を得れば共益債権になるというところはありますが,細かい議論でございますので,その点は結構でございます。「準じた事由」というのは,中井さんのほうから発言してもらえればと思います。 ○中井委員 この点については2点,1点目は私のメモの6項ですけれども,「事情変更の法理」については引き続き検討するのですから,第3ステージの議論になるのかもしれません。ここも,原則を書いて例外を書くというのは一つの考え方で,これを常に採るべきであるとまでは考えておりませんし,必要に応じて,そうすればいいんだろうと思いますが,事情変更の法理については慎重な適用を考えるべきではないかと基本的に考えておりますので,契約締結後にその前提となる事情が変更しても,契約の効力には変わりはないんですよ,しかし,次のような事情があるときには契約解除ないし契約の改訂ができるというのがあるべき姿ではないかとすれば,下線を引きましたけれども,事情に変更が生じても契約の効力に変更は生じない,しかし,以下の事情があるときは,という形のほうが今後の整理としてはよろしいのではないか。そういう意見が一つです。   それから,「不安の抗弁権」についても私が慎重意見であることは,前から申し上げているとおりですが,「その他の事由により」という一般的な表現,これはほかの場面でもたくさんあるんだろうと思いますが,例示があって,その他の事由といった場合,ここではこの例示が非常に重要だと思っているものですから,破産手続の開始の申立て,これらに準じるような事由という趣旨を明らかにしたいという趣旨で,ここの「その他の事由」というのを,「その他これに準じた事由」と提案をした次第です。ただ,「その他の事由」というワーディングが,一般的にそれは前の例示と同質のものを基本的に示すんだとすれば,余計な修飾語かもしれませんが,必ずしもそういうニュアンスで使われているとも思えないものですから,念のために指摘をさせていただきました。 ○筒井幹事 御指摘をありがとうございます。いずれも中井委員の御発言の中で言及いただいたことですけれども,「事情変更の法理」については引き続き検討するという扱いになっているので,余り条文的に詰めないほうが,現段階での取扱いとしてはよいのではないかと考えておりまして,この作業を前に進める段階においては,御指摘があったように原則をまず書くといったことは,重要な指摘として受け止めて検討していきたいと考えております。   「不安の抗弁権」のところの「その他の事由」という文言の前に破産手続開始などの例示を置きましたのは,正に中井委員から御指摘があったような趣旨に基づくものですので,これ以上の表現ぶりまで議論して詰めるよりもその趣旨が明らかになるよう説明していくことのほうが,現段階では重要ではないかと考えておりますので,その御意見については(概要)欄等で受け止めていきたいと思います。 ○潮見幹事 先ほどの中井委員の発言の2点のうちの前のほうですけれども,ゴシックの本文自体はこれでいいと思うんです。ただ,御懸念があるというのはごもっともです。その御懸念は,恐らく(概要)を見たところでは,今日は(概要)を審査の対象にしないということですから,ざっくりとした感覚で申し上げますけれども,まさに事情の変更があったものの,契約がそれによって影響を受けないということが書かれないまま,いきなり事情変更の法理という形の説明が出ておりますので,出てくるのではないかと思います。もちろん,事情変更の原則を事情変更の法理と改めたから,その部分で対処はされているのだと強弁すればそれまでかもしれませんけれども,何らかの形でその一文を入れておけばいいのではないかというような感じがいたします。   それから,「不安の抗弁権」のほうの岡委員がおっしゃられたような意見がもし非常に強いようであれば,(注)のところの再生手続又は更生手続の申立てがあった後というのを,ここに一言,入れてあげるというのもありかなという感じがいたしました。   それから,もう一つ,先ほどの話とは全然違うことを申し上げます。「不安の抗弁権」のアとイのところなんですが,予見の主体が誰かというのが入っていないので,当事者というのを入れておかれたほうがいいのかなと思います。本文を見ますと当事者双方も出てきますし,相手方も出てきますし,申立てをした側も,申立てといいますかね,片一方もあるというようなことがありますから,それを入れたからといって特にどうということはありませんけれども,念のために入れておいたほうがいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 今の御意見の後半のほうは,少しそれで検討していただくとして,再生手続開始,更生手続開始については申立てがあったときの対処の仕方と開始後の対処の仕方と,原理が少し異なるのだろうと思いますので,仮に並列で書く場合でも,(概要)の説明の仕方はそれに応じて,少し工夫をしなければいけなくなると思います。その点はどうですか。それを踏まえて今後更に検討することにするか,あるいはここでどっちかに決めることにするか。 ○中井委員 ここは再生手続開始の申立てや更生手続開始の申立てとその開始では本質的に違うと,部会長が御説明されましたが,私もそのように思っております。申立てがあって開始前であれば,その間に給付したら倒産債権になるわけです。開始後はその後に給付したら共益債権になるわけですから,そこで基本的に決定的に違う。だから,開始後は除外してくださいというのが私の意見です。内容に関わって申し訳ございませんが,逆に言えば,開始前であれば申立て後,開始までの間というのは,それが倒産債権になるリスクがあるとすれば,不安の抗弁が機能する場面ではないかと思っております。   ただ,弁護士会の倒産法制検討委員会で出てきた意見は,申立てがあってもその後,裁判所の許可を得て共益債権化することがあるので,申立てだけであれば,そこに誤解が生じる。私は,許可を得て共益債権化されたものについて,不安の抗弁権は開始後と同様に機能しないと思っておりますので,そこの違いではないか。中身に関わることを言って申し訳ございませんが,それを含んで御検討いただければと思います。 ○岡委員 短くします。問題点の把握は中井さんと全く一緒でございます。事後の裁判所の許可で,申立て後開始までの履行の対価が共益債権になる場合が結構あるという問題が一つと,あと,継続的給付であれば,申立て日を含む一定期間の対価は共益債権になるという条文も倒産法にございます。そのようなことを考えると,先ほど筒井さんがおっしゃったように,倒産周りのことを統一的に深めるフォーラムを是非,第3読会なり,第3読会の前に作っていただければと思います。 ○山本(和)幹事 私は結論的には岡委員の御意見に賛成で,例示なので,再生とか,更生とかをあえてここで書く必要性はないのではないかという印象は持っています。ただ,いずれにせよ,第3読会での話で,この段階では私は別のこのまま,中間試案に出されるということでも,特段,異論はありません。個人的な考えは,今,申し上げたとおりだということです。 ○筒井幹事 様々な御意見を頂きまして,その趣旨はよく理解いたしましたので,中間試案としては,本文と(注)の記載をこの形にさせていただいた上で,議論の経緯を十分に紹介し,その上で,先ほど私が申し上げたような形で第3ステージで議論を続けるということにさせていただければと思います。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。   ほかにいかがでしょうか。 ○大村幹事 内容にわたる点ではなくて,全く形式的な点ですけれども,質問が一つと,それを踏まえて意見を述べさせていただきたいと思います。第32から第35までの項目は,以前の資料では全体の最後に付いていたものかと思います。それを今回は,内容に応じた形でどこかにはめ込むということで,この場所に置かれたと理解しております。その先が質問ですが,この場所に置かれるということの意味についてお伺いします。差し当たり,ここに置いたということであって,規定をこのように配置するということを示唆するものではないと了解しておりますが,それでよろしいでしょうか。   その上で意見ですが,最終的にはどこにいくかということは,また,後の段階で決まるということだと思いますけれども,第35の「信義則等の適用に当たっての考慮要素」は,今回,中間試案で意見を聴くに当たっては,「契約に関する基本原則等」の後に置かれたほうがよろしいのではないかと思います。この第35の規定が残るのかどうか,これは今後の議論に掛かっているわけですけれども,そのことはともかくといたしまして,現段階では第26で契約内容の自由という大原則を確認するとともに,私たちは信義則等の適用に際しての考慮要素も考えているのだということが,対比された形で分かるほうが,意見を聴く際にはよいのではないかと思って,一言,申し上げた次第です。 ○鎌田部会長 その点は。 ○筒井幹事 大村先生から御指摘がありましたように,今回の改訂版で,若干ですが項目の配置を動かしましたのは,将来的な規定の配列に言及する趣旨ではなく,意見聴取をするに当たっての差し当たりの便宜ということに尽きます。「たたき台」を提示した当初から,最後のほうに配置されていた幾つかの項目について,その位置のままでは読み手にとって理解が難しいのではないかという気持ちは持っておりましたので,この段階で,契約各則に関する項目よりは前のところに,細かい前後関係まで検討したわけではありませんけれども,契約各則の前に移したということです。また,大村先生からもう一つ御指摘がありました第35を第26の次の辺りに動かすということについて,この場で大方の異論がないようでしたら,そのように改めようと思いますけれども,その点はいかがでしょうか。 ○中井委員 賛成です。 ○鎌田部会長 最終的な確定ではないし,どこへ配置しても収まりの悪さを感じる部分はございますけれども,今,御提案のあったような形で第35については処理をさせていただきます。 ○鹿野幹事 15ページの第32の「事情変更の法理」に関して,確認のための質問と意見を申し上げたいと思います。第32の本文3行目から4行目にかけてですが,ここにかぎ括弧が付いていて,「[契約の解除/契約の解除又は契約改訂]の請求をすることができる」と書かれています。ここで,「の請求」という言葉が括弧の後ろに置かれているのは,契約の解除も含めて裁判上の行使を必要とすることを原案とする趣旨だと理解すべきなのでしょうか。もし,そうであるとすると,例えば場面は違いますけれども詐害行為取消しの規定のように,「裁判所に」というような言葉を本文に入れたほうがその趣旨がはっきりすると思います。そうでないとすると,この「の請求」という言葉は,かぎ括弧の内側に入れたほうがよいように思いますが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 裁判上の請求をするかどうかは,引き続き検討の課題であるということが(概要)欄に書いてあって……。 ○鹿野幹事 そうですね。それは存じています。 ○鎌田部会長 「の請求」は「[契約の解除の請求/契約の解除の請求又は契約改訂の請求]」と,両方に「の請求」を付けろと,こういう趣旨ですか。 ○鹿野幹事 いいえ,普通の解除であると,単独行為ですし,解除の請求という言い方はしないでしょうから,この「の請求」という言葉は,括弧の内側に「契約の改訂の請求」という形で入れて,その後に閉じ括弧を付ければよいと思うのです。けれども,ここでは,もっと深い意味があって,あえてこのようにかぎ括弧の外に「の請求」という言葉が置かれているのだろうかとも思い,その点を確認させていただきたいと考えた次第です。 ○筒井幹事 そういう意図を持たずに書いておりましたが,確かに契約の解除の請求と読むとおかしいというのは御指摘のとおりだと思います。「の請求」の3字を削るという方向で形を整えるのでもよろしいのでしょうか。 ○鎌田部会長 そうすると,契約の改訂をすることができるになってしまう。「契約の改訂の請求」とするほうが収まりはいいように思いますが,更に検討させていただきます。 ○鹿野幹事 そうであれば,先ほども言いましたように,単に,括弧内の契約の改訂という言葉の後に「の請求」を移していただければ,意味が通るのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかによろしいですか。 ○三上委員 第35の「信義則等の適用に当たって」のところですけれども,今回,例示を設けるかどうかということで(注)を入れていただいたんですけれども,前回,私がこれを申しましたのは,恐らく太字の本文のところで「消費者」が残っているところはほとんどなくて,「事業者」は「個人保証」のところで1箇所,残っていたような気がするんですけれども,少なくとも民法の適用対象を消費者と事業者と二分するという議論はここに唐突に出てくるだけで,それ自体が一つの大きな論点でありましたし,今後もやるとすれば,ここに書いてある「信義則等の適用に当たっての考慮要素」の本体とは別の論点になるはずの部分ではないかと考えておりまして,そういう意味で,ここにそれをいきなり持ってくることによって,本来のこの条項のもつ,格差を民法でどう取り扱うべきかという議論が拡散するということに関しての危惧を述べたわけであります。   そういう意味で,もし,道垣内幹事が前回最後におっしゃったように,例示が必要なのであれば,別に既存の民法の概念を使って「個人」と「法人」とか,「使用者」と「労働者」でも構わないと思います。わざわざ,ここに今の民法にはない「消費者」,「事業者」という概念を持ってくること自体を私は問題であると申し上げたので,実際,個人はほとんどが消費者と言われておりますし,現行法の「貸金等根保証契約」のところは,正に法人と個人を対比して規定をされているわけですから,中間試案の案文を今の形から余り変えたくないということであれば,消費者と事業者というのを個人と法人に置き換えて提示すればよい,消費者・事業者問題は別の独立した論点として提示すればよい,と思いますが,その点を再度,御検討をお願いしたいと思います。 ○筒井幹事 前回の御意見に対応する意図で(注)を書き足したのですけれども,更に進んで本文の修正という御意見となりますと,なかなか調整が難しいと思います。これまでの議論の経緯を踏まえてこういった提案がされていたところでありますし,格差のある契約という概念の適切な限定のためには,この文言が一定の重要な意味を持つと考えて,このような案を御提示しております。そういった議論の経緯からすると,この案文は,現段階の取りまとめとして合理的ではないかと思っておりまして,(注)において三上委員のようなお考えも十分酌み取ったつもりですので,この案文で御理解いただければと考えております。 ○鎌田部会長 よろしいですか,ほかに関連する意見は。 ○中井委員 今の点については筒井幹事の意見に賛成です。(注)として二つの考え方が摘示されておりますので,三上委員の意見についても配慮がなされていると思っています。それから,なお,事業者,消費者概念を全て今回の民法改正の中で取り込まないと,何も部会決定されているわけではないと理解しております。保証の部分,時効の部分,そして,この信義則の部分,それから,後に議論される売買における部分等で,なお,残っておりますし,後にまた,提案したいと思いますけれども,消費貸借の部分でも,なお,弁護士会としては強い意見を持っておりますので,ここは,この形で中間試案にしていただいて,今の三上委員が御指摘の論点も含めて,第3ステージで更に議論させていただきたいと希望しております。 ○鎌田部会長 ただいまの御発言もありましたので,恐縮ですけれども,この点については中間試案ではこの形を採用させていただきたいと思います。   ほかによろしいですか。 ○山本(敬)幹事 ごく形式的なことだけです。第34の「継続的契約」の2の部分,18ページです。前回の議論を踏まえて書き直された部分なのですが,(1)で「期間の定めのない契約の当事者の一方が,相手方に対して解約の申入れをしたときは」として,契約が終了する時期を書いているわけなのですが,(概要)欄にも冒頭は書いてあるのですけれども,契約当事者の一方が解約の申入れをすることができるという原則が前は書いておられたのですが,それを削除されています。しかし,ルールとしては解約の申入れをすることができるということをまず確認する必要があると思います。その上で,(1)のルールがくるべきではないかと思います。このままですと,解約の申入れをすることができるのはどのような場合かという解釈問題が残るかもしれません。その意味で,(概要)欄の冒頭に書いてあるとおり,そしてまた,元々の提案がそうであったように戻していただいて,その上で,(1)のルールを定めるということでいかがでしょうか。 ○金関係官 解約の申入れをすることができるという原則は,(1)の第1文に書いてあるという理解をしておりました。解約の申入れをしたときは相当期間を経過すれば終了すると書いてありますので,解約の申入れをすることができる,その場合には相当期間を経過したときに終了すると,2文に分けた場合と同じ意味であるという趣旨です。 ○山本(敬)幹事 内容について争いがあるわけではありません。ただ,(1)では,文理上は,どのような場合に解約の申入れをすることができるかは,書かれていないと読むのが素直ではないでしょうか。できるというのが当然の前提になっているとおっしゃってはいますけれども,それならば,きちんと書いたほうがよいのではないかというのが私の発言の趣旨です。何度も言いますが,内容に争いがあるわけではありません。分かりやすさの問題だろうと思います。 ○筒井幹事 山本敬三先生の御発言の趣旨自体はよく理解いたしましたけれども,現時点で文章の組替えをするほどの必要性があるかという点については,現在の案文のように(概要)欄でその趣旨を明らかにすることによっても対応できているのではないかと思いますので,是非これで御理解いただければと思います。 ○鎌田部会長 どっちがより分かりやすいかという次元の問題だと思います。617条第1項は,まず,解約の申入れができるというところから書き始めているという意味では,山本敬三幹事のおっしゃっていることも一理はあると思いますが,論理的には当然に解約申入れができるから,いつ効果が発生するかだけを書けばいいということで,この整理になっているのだと思いますので,基本的にはこの形でということにして,もう一度,熟考した上で,場合によっては第1文を付けるというような処理にさせていただければと思います。   ほかにはいいですか。   19ページの3の「2(1)の契約」というのは……。いや,それでいいのか,失礼しました。撤回します。 ○松本委員 恐らく今の山本敬三幹事の疑問は,前回だったか,私が取り分け「免責的債務引受」のところで1文と2文がダブっているのではないか,1文はまるで定義のようだという指摘をした際の事務局の御回答が,「免責的債務引受」の(1)が言わば効果を書いたものであって,(2)が要件を書いたものだという御説明があって,今回の修整版もその形がそのまま残っているわけなんですね。したがって,そういう意味では,今の「期間の定めのない契約の終了」についても効果と要件を分けて書いているから,合わせて見れば一つのことを書いているんだという説明は,それはそれで一貫しているとは思いますが,読むほうから見て分かりやすい表現は何かということは,また,別途,お考えいただければと思います。だから,ここだけではなくて,ほかのところにも関連していて,しかも,実際の条文に落とし込むときにどういう表現が一番分かりやすいかという観点が重要だと思います。 ○鎌田部会長 同時に,期間の定めのない契約というのは,解約の申入れをしないと終わらないものだという意味では,解約の申入れができるのは当たり前だという,そういう要素もあるので,その辺も含めて考えさせていただきたいと思います。   ほかによろしいですね。 ○岡委員 大した話ではないんですが,鎌田先生が言い掛けたので同じような誤解を生むのかなという観点からの発言です。「継続的契約」の「解除の効力」のところは読みづらいです。(概要)の冒頭の契約の存続期間を観念することができる契約を債務不履行解除した場合には,こうこう,こうだという趣旨だと思うんですが,「1(1)又は2(1)」と表現すると,その前に規定された終了のことと何か関係があるのかなとつい思ってしまいます。誤解を招きやすいです。ただ,期間の定めのある契約又は期間の定めのない契約を解除した場合にはというのが不安定な文章というのは全く同感です。継続的契約の定義を断念したところから,こんなふうになっているんだろうと思います。でも,もう少しゴシック体のところは考えたほうが国民には分かりやすいと思います。 ○鎌田部会長 余計な議論を誘発してしまいまして申し訳ありませんでした。   よろしければ,「第36 売買」及び「第37 贈与」について御審議を頂きます。御自由に御発言ください。 ○松岡委員 23ページの5の「代金減額請求権」に関して,細かいことですが,2点を申し上げたいと思います。まず,同ページの下から3行目の(3)についてです。この括弧の中は前回に議論があり,履行の追完に代わる損害賠償についても入れたほうがよいという意見があったので入れていただいたと思いますが,疑義があります。すなわち,追完請求権と損害賠償はかなり異質な面もありますので,「損害の賠償を請求する権利を含む。」という形でまとめるのが本当に適切なのか疑問です。代金減額請求と追完請求と損害賠償請求の三つをうまく並べるのは難しいですけれども,括弧に入れるのとは異なる表現の仕方がないだろうかと思いました。   次に,本当は前回に申し上げるべきだったと思いますが,「その効力を生じないものとする」という(3)の書き方が妥当かどうかです。趣旨は24ページの(概要)の後半に書かれていますように,代金減額請求の主張が追完請求若しくはそれに代わる損害賠償若しくは契約の解除という救済とは論理的に矛盾して両立しない場合には認められないということを言いたいようで,更に途中まで交渉があった場合についても実利を含めて説明してあります。しかし,この書き方ですと,例えば契約の趣旨に適合しない物を受け取った買主が取り替えてくれ,あるいは修補してくれ,それが無理なら最後は代金減額してくれと,段階的な主張をした場合,明らかに代金減額請求権を放棄する意思はありませんので,なおそれが認められる余地があります。要するに,書き方が趣旨とうまく適合していない感じがいたします。今すぐに代替案を申し上げることはできませんが,表現ぶりを再考していただけないかと思います。 ○筒井幹事 御指摘の部分の書き方は,必ずしもこれがベストと考えているわけではないので,引き続き議論を深めていきたいと考えておりますし,また,いろいろ御教示いただきたいと考えておるのですけれども,こういう表現になる前は代金減額請求をすると,それに反する内容の権利行使はできないというような抽象的な書き方で何とか表現しようとしていたのが,それが余りにも分かりにくいということで,その実質が分かるように書こうという工夫として,現在の案に至っているという経緯だと思います。表現についてはまだまだ深める必要があることを前提として,当面,具体的書いたほうが読み手の理解の助けになると考えてここまで進めてきましたので,この案文で御理解いただければと考えております。 ○中井委員 今の論点ですけれども,審議の経過としては,前回,代金減額請求権を行使すると,それ以外の権利の行使はできないという規定ぶりだと,実際,交渉過程で代金減額を言ったけれども,満足できる代金減額がなされないとき,その他の権利行使のチャンスを失う,それはよろしくないというところから,このような修正をしていただいた,そういう意味では審議の経過を反映したものだと理解をしております。ただ,確かに同時にしなければならないという規定の仕方が果たして適当なのか,松岡委員の御指摘と同じような感想を受けた次第です。   前回申し上げたことも,基本的には二つのことを,両方の利益を得ることはできないし,両方の権利の行使をすることはもちろんできないという趣旨をいかに表現するかという,この点だと思います。差し当たって,この案で進めることに特に反対するものではありませんが,私も少し疑問を感じたものですから,メモの9項で記載させていただきました。ただ,ここでは代金減額請求の意思表示とその他の権利の行使をともに行使することはできないと書いたものの,「ともに行使できない」という表現は,それほど明確でないなと自覚しながら書いております。そういう意味では,更に引き続き検討するほかないと思っておりますが,参考にしていただければと思います。   それから,併せてこの機会ですので表題ですけれども,4のところ,「目的物が契約に適合しない場合の売主の責任」となっておりますけれども,本文の中身は契約の趣旨に適合しない場合の売主の責任について触れられていますので,4の表題は「契約に適合しない」ではなくて,「契約の趣旨に適合しない」とするのが平仄が合っていいのではないか。とすれば,5や6の表題についても御検討いただけないか。それが私のメモの8項です。   それから,メモの10項は,5の「代金減額」の(3)と同じ問題が,「8 権利移転義務の不履行に関する売主の責任等」の(4)にあるということを念のために指摘させていただいております。 ○筒井幹事 「契約の趣旨に適合しない」という表現については,前回の案で契約適合性という熟語を用いていたところ,分かりにくいという御指摘,あるいは適当でないといった御指摘を頂いたことを踏まえて,本文の書き方としては全て「契約の趣旨に適合しない」と改めました。もっとも,見出しについては簡略に書いてもよいと思いまして,単に「契約に適合しない」としておりますが,しかし,中井委員から御指摘があったところには異存ありませんので,他に御異論がないようでしたら,見出しを含めて全て「契約の趣旨に適合しない」と改める方向で手直ししたいと思います。 ○鎌田部会長 高須幹事が先ほどから挙手されていますけれども。 ○高須幹事 21ページの3の「売主の義務」のところなのですが,(2)と(3)の関係が前のところも少し議論が前回も出たところで,ちょっと分かりにくいというところがありまして,1点,教えていただきたいと思います。(3)のところで,今回,「契約の趣旨に反する法令の制限がないもの」ということが新たに付け加えられておりまして,そのこと自体を規定する必要があるというのは,私もそのとおりだと思うのですが,従来,伝統的にはこれは物の瑕疵と言われたほうに入るという多分,学説的な整理だったと思います。   それを今回,(3)のところに入れると,前半がいわゆる権利の瑕疵に関するものなので,つまり,今回の整理はそういう物の瑕疵とか,権利の瑕疵という概念を全部捨て去って,新たな何か体系を作ろうという趣旨なのか,そこまでのものではないのかというのが読んだときになかなか分かりにくいということがありまして,パブコメに掛けたときにいろいろな議論が出てしまうのがやや心配というところがあります。そういう意味で,今回,(3)のところに「法令の制限」と入れた意味というものを教えていただくとともに,私だけではなくて同じようなことを思う人もいると思うので,(概要)等で何か格別の意味があれば,それを指摘するべきだし,そうでなければ,誤解しないでくださいという趣旨の記載があってもいいのかなと思います。 ○新井関係官 では,私のほうから説明させていただきます。前回,中田先生から,「法令の制限」の取扱いはどうなるのかとの御指摘を受けまして,今回,加えたものでございます。今回,(3),つまり,従来でいえば権利の瑕疵と称されるところに付け加えたわけですが,その理由というのは,最高裁の判例には物の瑕疵,民法第570条の「隠れた瑕疵」の中に法令の制限が入るという判例がございますので,それに従うと物の瑕疵に入るのかなと思っておったのですけれども,近時の競売の担保責任に関する裁判例などを見ると,法令の制限を権利の瑕疵に引き付けて理解していくという流れがあり,また,それは学説でも恐らく有力な考え方ではないかと思われます。あと,もう1点は期間制限の取扱いがあります。売主の責任に短期の期間制限を設けることか否か,議論がありますけれども,仮に物の瑕疵について期間制限を設ける場合に,「法令の制限」のようなものについて,目的物の物理的な欠陥などと同じように消滅時効の一般原則と異なる短期の期間制限を掛ける必要性は見いだし難いのではないかという実質的な考慮があります。このような考慮を踏まえ,今回,法令の制限を(3)のほうに付け加えたものです。その辺りの考え方につきましては,また,(概要)なり,補足説明などできちんと適切に説明するということにしたいと思います。 ○山本(敬)幹事 正に今の(3)の部分なのですが,私のほうは表現だけでして,二つの事柄について「当該売買契約の趣旨に反する」と書かれていますが,これは「趣旨に適合しない」という表現に合わせるべきではないかと思ったということだけです。 ○潮見幹事 「売買」と「贈与」の両方があるんですけれども,両方,いってよろしいんでしょうか,それとも,今は「売買」に絞ったほうがよろしいんでしょうか。あと,手をお挙げになっている方が何人かいらっしゃるようなので,もし,「売買」だけにまず絞ったほうがよければ。 ○鎌田部会長 どうぞ,両方やってください。 ○潮見幹事 いいですか。まず,「売買」のほうです。本務校の職務のために欠席していたときの話なので,不案内なところがありますが,先ほどから松岡委員,それから,中井委員がおっしゃっていた部分ですが,両立できないという趣旨をこういう形で表現したという理解でよろしいんでしょうか。そうであれば,例えば代金の減額が認められるときには,買主は履行の追完に代わる損害賠償及び契約の解除をすることができないというような形のほうが,ゴシックで表れている書き方よりは松岡委員や中井委員がおっしゃったことが含意されているのではないかと思います。ただ,これは,第3ラウンドで更に詰めていただければと思っておるところです。   それから,「贈与」のほうですが,お手元に少しお配りしていて,何か,事前のパブリックコメントみたいで申し訳ないんですけれども,読んでいただくのも大変でしょうから,かいつまんで少しだけ申し上げたいと思います。資料の32ページの「贈与者の責任」に関する部分です。これも本務校の職務のために私が欠席していたときの話で,誤解がなければということで了解してください。この間,私が聞いている説明とか,あるいは贈与契約における担保責任について「売買」と平仄を合わせるという(概要)の説明からしますと,本文の記載は契約責任説の考え方をベースにしていると思われます。   ここで契約責任説をベースにした場合には,まず,贈与契約の解釈をして,それで,契約の趣旨に適合した給付の内容が確定されて,そして,その契約の趣旨に適合した給付をするべき義務が発生するという枠組みで考えていくことになろうかと思います。そのように考えた場合に,今,申し上げたことと本文のゴシックで書かれている内容を合わせて読みますと,贈与者は贈与契約に基づいて契約の趣旨に適合した給付をするべき義務を負う,でも,その違反については責任を負わないという,どうも,そういう枠組みで考えているようなのではないかという感じがいたしました。   また,これも(概要)も合わせて読むなどしたときに,そこにいうところの責任の中には損害賠償だけではなくて,履行とか追完とか,要するに履行に応じなくてもいいという意味が入っているように感じましたし,(概要)にもこのことが書かれています。しかし,ここで贈与者が履行に応じない,追完に応じなくてもよいというのは,少なくとも従来の履行請求権に関する伝統的な理解,私の考えは違いますけれども,伝統的な理解を前提にすれば,契約の趣旨に適合した給付をするべき義務を負うという判断をしたということと矛盾するのではないかと思います。そもそも,履行請求とか,追完請求が認められないというのであれば,契約責任説の考え方をベースにする以上は,贈与契約における贈与者の給付義務自体を縮減しなければいけないからです。   そうであれば,仮に本文のゴシックで書かれているルールが,もし,適切だということなのであれば,そしてまた,契約責任説をベースにするのならば,本文の文言を責任ベースではなくて,義務ベースで書く必要があると思われます。要するに,ないものを引き渡す義務はないとか,あるいは従来の言い方をしたら,瑕疵のないものを引き渡す義務はない,現状で引き渡せばよいとか,あるいは完全な所有権を供与する義務を負わないとかという形で書くのが素直ではないかといます。ただし,私個人がこの立場を支持するわけでは決してないことは申し添えておきます。   ただ,これも時間が迫っておりますし,責任ということで義務の縮減ということをイメージしているということであるのならば,そのことを何らかの形で(概要)で書くなりしていただいた上で,第3ラウンドでより適切な表現に改める方向で考えていただきたいと,強くお願いしたい。あるいはこれでいいということであれば,ここだけは法定責任説の考え方をベースにするという形で説明をするほうが素直だと思いますから,その辺りも含めて,理論的と言われたらそうなのかもしれませんけれども,この辺りは基本的な考え方にも関わってくることですから,今後,検討をお願いしていただければと思います。特に本文のゴシックを変えればいいと思いますけれども,難しいと思えば,このままでも結構だということを申し添えて発言に代えます。 ○山本(敬)幹事 2点,潮見幹事の御意見に合わせてなのですが,まず,最初の「売買」のところで,代金減額請求について,意思表示の効力に絡める形で書くというのはベストとは思っていないということで,改めて検討するということでよいのかもしれませんけれども,例えば期間制限にするか,あるいは消滅時効の一般原則によるかという問題はもちろんありますが,消滅時効の一般原則によるとしても,権利を行使したのはいつかということが問題になるというときに,「効力が生じない」と書かれていますと,代金減額の意思は表明したのだけれども,それが権利行使に当たるのかどうかというような疑義が生じたりするようなこともありますので,ベストではないというよりは,不適切なのだろうという気がいたします。   その意味では,潮見幹事の御意見はなるほどと思いました。可能ならば,改められればよいと思いますし,この段階ですので間に合わないというのであれば,ベストではない,ないしは文言については練り直して検討する必要があるということを明記すべきではないかと思いました。   次の「贈与」に関しては,潮見幹事のおっしゃることに余り付け加える部分はないのですが,部会資料の32ページ以下の部分で,特に32ページの(1)のアで,「贈与によって引き渡すべき目的物が存在せず,又は当該贈与契約の趣旨に適合しないものであること」となっています。贈与によって引き渡された物ではなく,引き渡すべき目的物になっているということからしますと,しかも,それが契約の趣旨に適合しないという事態が生じるとしますと,基本的には特定物しか考えられないのではないかと思います。種類物の場合は,引き渡すべき目的物が契約の趣旨に適合しないという事態は考えられないとしますと,種類物贈与の場合は,現実に引き渡された物が契約の趣旨に適合していないときはこの規定から外れますので,追完請求もできるし,損害賠償もできることになると思います。   これは正に,特定物贈与と種類物贈与で質的な差が出てくるということになって,潮見幹事がおっしゃるように,特定物ドグマをこの限りで復活させたに等しいと思います。これはここだけの問題ではなく,全体に関わることですので,方向性としては,注記に書かれている案が本案とならないと,整合性がとれないのではないかと私も思いました。しかも,(注)の別案の書き方も実は問題でして,これだけを見ますと,常に債務の履行とか,損害賠償が請求できるかのように受け止められるのではないかと思います。   しかし,前から何度も言っていますように,贈与契約でも実際にはこの物を贈与するという内容でしかないというときがありますし,実際にはそのような場合がかなりあるのではないかと思います。ですから,目的物に不具合のようなものがあったとしても,この物を贈与するとしか契約されていないときには,そこには不適合はないわけですので,損害賠償を請求できないし,完全履行請求も当然できない。ですので,この書き方では何か贈与一般について追完請求や損害賠償請求を認めるかのように受け止められます。そうではなく,そのような履行請求とか損害賠償請求が認められるかどうかを一般原則に従って判断すればよいというだけのことですので,中身がそうだと理解されれば,違和感はかなり払拭できるのではないかと思います。いずれにせよ,このままの書き方では,本案でよいという誘導のように見えるようなおそれすらあると思いました。 ○鎌田部会長 何かコメントはありますか。 ○新井関係官 注記でどう書くかというところについて,基本的には山本敬三先生が今,おっしゃったような考え方を注記で書いたつもりでした。この書き方でなお適切でないということであれば改めることも考えたいのですが,そのときにどのように書けばいいかということが問題となって,「贈与者の責任について,一般原則に委ねる」とのみ書くということでもよろしいのでしょうか。あるいは何か適切な書き方について,御示唆いただけるところがあればお願いしたいのですが。 ○山本(敬)幹事 先ほどの潮見幹事の御意見によっていただいて,私は別に構わないと思いますし,仮に注記の表現のような方向を目指すのであれば,先ほど申し上げましたように,債務の履行又は不履行による損害賠償を請求できるかどうかは,一般原則に委ねるということですけれども,それだけでもおそらく伝わらないと思いますので,贈与契約の趣旨を踏まえて一般原則に委ねるということが書かれればよいのではないかと思います。しかし,私は(注)のままでよいという主張をしているわけではなく,これが本案であるべきだということを申し上げたつもりですので,そこはもう一度確認しておきたいと思います。この段階での意見としては申し訳ありませんが,それぐらい全体に関わる事柄ではないかと思います。 ○道垣内幹事 結局,種類物が贈与の目的となったとき,しかしながら,現実に引き渡した種類物に欠陥があったという場合に,どういう処理をするということが前提になっているのかということを明らかにするということ,それは本文なのかもしれませんし,概要なのかもしれませんけれども,そこがまずポイントなのではないかという気が伺っていてしたのですが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 それはそうだと思います。 ○内田委員 「目的物が存在せず」という部分について,これは特定物を想定しているのではないかという御指摘が山本敬三幹事からありましたけれども,それはそうだと思います。ただ,この部分は現行法をそのまま売買の規律のワーディングを使いながら書こうということであって,趣旨は現行法を維持しつつ書くという案ですが,現行法は目的である物又は権利の瑕疵又は不存在とありますので,それを両方,表現できるように書いたということです。「当該贈与契約の趣旨に適合しないものである」という「又は」の後の部分は,種類物も想定して書かれていると理解しています。現行法の規定について,特定物にのみ適用される規定だというかつての通説的な理解もありますが,最近は現行法の511条は種類物にも適用されるという考え方も有力で,それを踏まえた上で,現行法の趣旨をそのまま,ここで表現しようということです。ですから,特定物ドグマに立つとか,特定物にのみに適用される規定として書くという趣旨は全く持っていないと思います。 ○道垣内幹事 私は規律としてはそれでもいいと思うのですけれども,そうなると,「引き渡すべき」という規範的な言葉を使たっとき,種類物の場合には世の中に合致したものがあるということを前提にいたしますと,趣旨に適合しないものであることは基本的にあり得ないことになってしまいますよね。しかるに,世の中に幾らでもある種類物について,たまたま,欠陥のあるものを引き渡したというときにどうなるのかということが問題で,自分はきちんと選んで種類物を10個なら10個,引き渡したつもりであったが,それがたまたま瑕疵のあるものであったというときに,責任を負わない,少なくとも知らなかったならば負わないというのであれば,「引き渡すべき目的物」という言葉で全てを包摂していくのは難しいのではないか,やはり分かりにくいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 多分,内容については理解は違っていないし,特定物ドグマをここだけ復活させたというよりも,先ほど山本敬三幹事が御指摘になったように通常の贈与契約の場合には,言わばあるがままのもの以上の債務は負っていないというのが契約の趣旨だというふうな理解を前提にしているのではないかと私は理解したんですが,問題はむしろそのワーディングで,「瑕疵」を「契約の趣旨に適合しない」と言い換えたがために,契約の趣旨に適合しないものを履行すれば,債務が履行されたことになるというふうな表現になってしまっているところに,むしろ,問題があるのではないかというふうな気がします。(概要)の説明を読むと中身は分かるんだけれども,そこのワーディングの工夫の余地はないわけではないと思います。 ○内田委員 確認なのですが,道垣内幹事の言われた点は,「引き渡すべき目的物が存在せず,又は引き渡した目的物が当該贈与契約の趣旨に適合しないものであること」と書けばいいということでしょうか。 ○道垣内幹事 それでは足りなくて,「引き渡すべき目的物が存在せず,又は引き渡すべき目的物若しくは引き渡した目的物が当該贈与契約の趣旨に適合しないものであること」ということになりますよね。つまり,未履行の場合がありますので。 ○内田委員 未履行の場合も含むように書くということですか。 ○道垣内幹事 しかし,そうすると何かごちゃごちゃしてきますので言わなかったのですけれども。 ○鹿野幹事 私も前回,潮見幹事や山本敬三幹事がおっしゃっているような趣旨のことを申し上げたつもりでした。つまり,結局は,契約の趣旨によるのではないかと思うのです。贈与契約の場合には,私が持っている,その限りでの財産を移転するという趣旨で贈与することが多いでしょうし,そのような趣旨で契約をしたときには,結果的にその目的物に一般的にいうところのキズがあったとしても,契約不適合とはいえないので贈与者は責任を負わないというになるのではないか。けれども,贈与であっても,場合によっては,一定の品質等を確約し,あるいは贈与者が有していない財産まで移転するという趣旨で契約をすることもあり,そこまで引き受けることが契約の内容にされたと解されるのであれば,その不履行については当然,責任を負うということになるのではないかと思います。この提案では,一方で義務があると言いながら,他方で義務がないと言っているのと同じではないかと思います。前回もそのようなことを申し上げたのですが,今回は,その点につき(注)で触れてくださったということだと認識しています。   本来は,(注)ではなくて本文をそうしたいところではあるのですけれども,時間も限られていますし,この段階では(注)に掲げるということでも仕方がないとは思います。ただし,先ほど御指摘があったように,このまま(注)を読むと,何か贈与者がいつも売主と同じような責任を負わなければいけないような考え方が(注)で示されているようにも見え,誤解を招くかもしれないと思います。そこで,この点に関する一つのマイナーチェンジの案なのですけれども,「上記(1)に代えて,贈与者がその契約の趣旨に反して債務を履行しないときは」とすることを提案したいと思います。契約の趣旨に反してということと債務を履行しないというのはトートロジーみたいになるので,わざわざ入れる必要はないのかもしれないのですけれど,贈与契約の趣旨によるのだというところに注意喚起をするという意味で,そこに契約の趣旨という言葉を入れていただければと思いました。   それから,「売買」のところに入ってもいいですか。「売買」のところで,23ページの一番下の(3)については,先ほどから何人かの方から御指摘があったので,これ以上,詳しくは申し上げませんけれども,私もこの表現は,このままでは適切ではないと思います。二つの権利行使が両方はできないのだという限りにおいては,考え方には反対ではないのですけれど,表現ぶりが適切ではないように思います。   それから,もう一つ,細かな点で,表現の問題なのですけれども,22ページの4の見出しと23ページの5の見出しが統一的でないというところが気になります。いわゆる売主の担保責任の規定をこのように改めるということで,4番のところは「売主の責任」と書いてあるのだと思います。一方,5番は,売主の責任の一部なのだけれども,4番以外の内容の責任について,「代金減額請求権」と書かれています。4番のほうだけ売主の責任の観点から見出しが付けられていて,5番だけ買主の権利のほうから見出しが付けられているということが,不統一であるように思われます。そこで,統一を図るのであれば,4番のほうは,売主の責任とした上で,例えば括弧を付けて買主の追完請求権,解除権,損害賠償請求権とし,5番についても,売主の責任とした上で,代金減額請求権とするというような形にしたほうが,統一がとれてよいのではないかと思います。この点は,内容的に反対というわけではなく,あくまでも見出しの統一という観点からの意見です。 ○中井委員 すみません,「贈与者の責任」に戻るんですけれども,最初にこれを読んで,今,御議論を聞いていて,また,前回の山本敬三幹事の御意見と内田委員のやり取りを聞いて,よく分からなくなっていたんです。今,どうも平和的解決に向かって歩み寄りをされようとしているんですけれども,その中身がよく分かりません。(注)であるべきだという方々は,贈与契約の趣旨に適合するものを給付しなければならなくて,贈与契約そのものの趣旨に適合しないものであれば責任を負うんだと。そうおっしゃって(注)を本文に持ってきてくださいと言いながら,他方で,本文自体がその趣旨を書いたものだと,ただ,分かりにくいねと,こう言っているように聞こえるんです。そうしたら,同じことを本文と(注)に書いているんですかという根本のところが,私は理解できないんです。   逆に,本文は特定物ドグマと言っていいのかどうか分かりませんけれども,それに近い趣旨に一見したら読める,それに対して契約責任的に贈与契約についても同じような立場で考えようというのが(注)と読める。ここに,何か先ほどの平和的解決があり得るのでしょうか。私は本文を読んだときに,そもそも,アのところで当該贈与契約の趣旨に適合しないものを交付して,どうして責任を負わないのかと,これは明らかにおかしいだろうと思いますし,イの契約の趣旨に適合しない負担があって,それを交付してもなぜそれでいいんですかと。そうすると「契約の趣旨に適合しない」というのは,そもそも,本文からは取らなければおかしい,これを取ったら,本来,性能があると思っていた,でも,その性能に欠けるものを交付しても贈与の場合は責任を負いませんよ。本来であれば権利の負担がないものを交付しなければ,普通だったらいけないんですけれども,贈与についてはあるがままに交付するからいいですよという従来の考え方を(1)の本文で記載していると読まざるを得ないように思うんです。   つまり,今の議論は平和的解決にならないのではないかと思ったものですから,確認したいと思いました。 ○潮見幹事 先ほどたくさんしゃべったので一言で済ませますけれども,恐らく平和的解決は無理だと思います。ただ,平和的解決に向かおうとしている方向自体は,ある一定の方向は向いているのかなと,それはつまり,贈与契約で何が贈与の場合の贈与者の債務であって,その債務の内容をどのように考えていくのかという観点から,この場合の贈与者の責任の問題も考えていかなければいけないのだということと,この部分については売買とは違った観点からの考慮が妥当するのではないかということの二点において,方向性においては同じだと思います。でも,もう一度,言いますけれども,本文の形は実はそのような形にはなっていないから,平和的解決は無理と思います。 ○鎌田部会長 私は考え方は一致していると思っている。 ○松本委員 私は基本的に中井委員と同じ感想を持ちました。同じことを言っているのなら,なぜ(注)が付いているんだということであって一つにすべきだと。一つにすればどうなるのかという話であって,他方で,違うことを言っているんだとすれば,違いがもっとはっきり分かるように書くべきだろうと思います。恐らく契約の趣旨というマジックワードをここで使っている。今回の民法改正は全般的にそうですけれども,契約の趣旨というマジックワードでいろいろなことを処理をしようとしていることから,それぞれの思惑が入ってきて,違うことなんだけれども,何か同じことを言っているかのように見せ掛ける効果が出ているのではないかと感じます。   はっきりと契約の趣旨が明らかであって,瑕疵があるかもしれないけれども,これをお前にやろうということであれば,それはそれで,別に契約の趣旨に適合したものを渡しているということになるわけですね。瑕疵があれば,当然,取り替えてあげるし,修理もするよということで贈与の約束をしていれば,あるいはきちんとした権利のあるものを渡してやろうということで約束をしていれば,それに反していれば,当然,契約違反だから責任を問えるはずであって,その限りでは特則は要らないんですが,要るのはそこがはっきりしないからだと思うんです。   どういう場合に贈与者の義務違反が生ずるのか,あるいはその結果として責任が生ずるのかというところについての明確な合意がない,あるいはいろいろな事情から見ても,黙示的にこうだというところがはっきりしない場合のデフォルトルールはどうなんだということを考えると,それは無償の契約なんだから,そんなに責任はない。そういう意味では法定責任説ですよね,古典的な意味の。そのものを渡せばそれで終わりなんだというのが贈与の場合は適切だろうと,最後の解決としては,ということなんだろうと思います。   そうであれば,(注)で書いてある趣旨と,それから,法定責任説的な趣旨は両立するんですね,適用される場面が違うんだから。ただ,現在の32ページの(1)で書いてあることは,必ずしもそうは読めないわけです。というのは,契約の趣旨に適合しないものであることという要件があるから,ここは読めないですね。契約の趣旨がはっきりしているということを前提にして考えているとしか読めないわけなので,両立させるとすれば,本文の文言を変えるべきだろうと思います。 ○内田委員 中井委員からの御発言に対してなのですが,注記で書かれている潮見幹事や山本敬三幹事のお考えというのは,贈与契約の場合も一般原則どおり,債務不履行責任が適用される,ただ,どこまで責任を負うかは契約の趣旨によって決まるけれど,無償契約であるという趣旨から,贈与者がどこまでのリスクを負担しているかということは,当然,決まってくるであろう,売買契約のような有償契約と同じ重い責任を負うということは多分ない。それは贈与契約の趣旨によって決まるのであって,それによって贈与者の責任がどこまで及ぶかは決まるから,それ以上の特則は要らないというお考えだろうと理解をしておりました。それはそれで一貫した考え方ですので,十分,あり得る。   しかし,他方で,551条を法定責任説的に捉えるのではなくて,近時は種類物についても適用される規定として,つまり契約責任の特則として同条を理解する考え方も有力にあるわけで,そういう立場に立って551条の趣旨をそのまま残せという考え方もあり,それを本文で書いているということです。その立場に立った場合に,現行法で言うところの瑕疵があるかどうかというところに契約の趣旨に適合しないものであるという言葉を使っているわけです。例えば,新品のサラダオイルを贈与するというときに,贈与契約の趣旨として腐っていても構わないということはないのであって,新品のサラダオイルを贈与する以上,当該種類のサラダオイルが製品として持っているべき品質が当然契約の趣旨として予定されているであろうと思います。それに適合していなければ契約不適合,つまり瑕疵があるということになり,一応,それに対する責任は生じうる。しかし,贈与者が知って告げなかったという場合以外については,通常は贈与者を免責するというのが贈与契約当事者の通常の意思であることが多いので,それをデフォルトルールとして定めて,そうでない場合には特段の合意を認定しようという趣旨で本文は書かれているのだと私は理解をしています。   そうすると,多分,導かれる結論は両者で変わらないのだと思うのですが,飽くまで契約の趣旨だけから責任の重さは導けるという考え方に立つか,それとも,品質に関する契約の趣旨とは区別して,贈与者の責任については贈与契約というカテゴリーに即して,一定のデフォルトルールを法律で定めるというアプローチをとるかというところに違いがあるのではないかと私は理解をしておりました。   それから,道垣内幹事から御指摘のあったワーディングの点なのですが,「目的物が存在せず」の後,「又は引き渡された目的物が」と書くと,未履行の場合がカバーできないという御発言があったのですけれども,売買のところは「引き渡された」となっていますので,平仄を合わせるとすると,そのように書くという選択肢はあるのではないかと思いました。 ○道垣内幹事 具体的な文言の議論をしなければいけない段階だと思いますが,結局,「契約の趣旨」という言葉がこれまで責めに帰すべき事由とか,それに類したところを判断する基準になってきて,どういった義務を負っているかという意味で多く語られてきたのに対して,この部分は「当該契約の趣旨に照らして予定された目的物の性質」ということに限定して用いられているわけです。内田委員の説明も正にそうであったと思います。したがって,「趣旨に適合しない」とだけ書いてしまうと,そのほかのところとの言葉遣いの違いがどうしても出てきてしまいます。そこで,ここは例えば「当該贈与契約の趣旨に照らして予定された性質に適合しない」ときちんと書いたほうが,分かりづらさを払拭することができるのではないかと個人的には思います。 ○筒井幹事 非常に白熱した議論をありがとうございます。この部分は,ただいまの議論をどう反映させるか,少し考えさせていただくということでよろしいでしょうか。現段階で全員が納得するような修文案を直ちに用意できるとも思えないのですけれども,一定の範囲で修正を加えるとともに,議論の経緯について丁寧に説明し,次のステージでまたしっかり議論をしていただくという手順で前へ進めていきたいと思います。 ○鎌田部会長 ワーディングを詰めていくとかなり時間が掛かりそうですので,今のような処理の仕方にさせていただきます。名案を思い付きましたら今日中に出していただいても別に構わないので,少し御検討いただければと思います。   ほかの点について。 ○佐成委員 今の点ですけれども,要するにゴシックの形と(注)という形は維持するわけですね。内田委員の御説明は,私もそう理解しておりましたので非常に分かりやすいのですが,ただ,確かに誤解を招くような要素があるので,そこを修文するという趣旨ですよね。 ○筒井幹事 基本的にそのように考えております。 ○鎌田部会長 ほかに「売買」「贈与」関連でいかがでしょうか。 ○中井委員 「売買」の14の(1)ですけれども,中身について異論があるわけではなくて表現ぶりです。少し分かりにくいのではないか。そこで,私のメモの11項で,一応,対案を示しました。こだわるわけではありません。   また,ただし書の部分ですけれども,「売主の債務不履行によって」と直ちに書いているんですけれども,ここは(概要)のところでは,売主の債務不履行の内容についての説明があります。説明があったほうがここはよろしいのではないか。(概要)の説明には,保存義務違反などが例に挙げられていますけれども,そのようなものを例に挙げたほうが分かりやすいのではないか。参考意見として申し上げておきます。 ○鎌田部会長 内容はよくて,いかに分かりやすくするかという話ですね。 ○筒井幹事 修正して別の問題が生じないかどうか,あるいは大方の理解が直ちに得られるのかどうかということもありますので,少し検討させていただきたいと思います。 ○岡委員 「売買」の7の事業者の調査義務のところでございます。事業者という概念が大分減縮されまして,バックアップで若い人が検索機能で調べたところ,「時効」の(注)のところで事業者概念が出てくるのが1箇所,それから,「保証」のところで「主債務」のところで1箇所出てくると,それから,先ほど議論のありました信義則の考慮要素のところで消費者概念と対になって出てくる,最後がここだろうと思います。ここがかなり一番大きな影響というか,かなり大きな論点になるところだろうと思います。   ところが,事業者の概念について商人ではなく,収支相償う概念を前提にするという考え方が今のところ,ゴシックでも(注)でも(概要)でも,一切,出てきていないと思います。しかし,少なくともこの4箇所は出てくるわけですし,特に「売買」のところでこれを使うのであれば,ゴシックか(注)か(概要)かで事業者については,こんなふうな議論をしておるというのがないと,分かりにくいのではないかと思います。特にここでは(概要)の3行目のところで,商法526条1項を参考とするものであると。普通の人は商人概念がこうなるのかと思いがちなところですので,事業者についての説明をゴシックかあるいは(注)で書くべきだと思いますが,いかがでしょうか。 ○筒井幹事 何か説明が必要だという御指摘はよく分かりました。考えてみようと思いますけれども,手元に案文を用意できていないので,(注)で書くとなるとこの場で御了解を頂けるかどうかという問題がありますので,(概要)欄で対応するということで御理解いただけますでしょうか。 ○岡委員 意見を聴くという意味で,商人概念を維持するのか,収支相償う概念を持ってくるのか,明確に聴く対象にしたほうがいいようには思いますが。 ○筒井幹事 その点については,むしろ,事業者という概念をどのように定義するのか,そのこと自体が今後の検討対象であるということを(注)で書くのが一つの解決策ではないかと思います。事業者概念を用いるかどうかについては,ネガティブな方向での議論は行われてきましたけれども,積極的に設けるとした場合のその概念を詰めていく方向での検討をこれまで十分にはしてきていないという経緯があります。そこで,このような規定を設けるとすれば事業者概念について更に検討が必要であるということを注記することで対応させていただこうかと思います。 ○岡委員 その方向で結構だと思いますが,実務家の多くは商人概念,営利概念にかなり親しみを持って,それでいいのではないかという思いが強いので,それについてはこういう問題があるので,こういう考え方もあるということを補足説明で分かりやすく書いていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 その点は対処してもらうようにいたします。   ほかに「売買」「贈与」関連で。 ○松本委員 15番の「買戻し」でございます。私は前回も発言させていただいたんですが,(1)の買主が返還すべき金額について自由に設定できるんだという部分は,正に担保としての買戻しをもっとやりやすくさせようという発想だと思うので,そうであれば,担保法の見直しの際に併せてやるべきだろうと思います。買戻しと譲渡担保あるいは再売買予約との関係については,いろいろな議論がございます。取り分け,買戻しと譲渡担保,売渡担保と譲渡担保の違いについては,学術論文がたくさんあるぐらいですから,そこの問題をきちんと担保法と横断的に整理をしないで,ここだけなし崩し的に買戻しをもっと担保で使ってくださいと言わんばかりの規定を入れるのが果たしてよろしいのかという気がいたします。したがって,消せとは言いませんけれども,(注)のところで(1)については担保法の見直しと併せて行うべきであるという少数意見もあると,お書きいただきたいと思います。 ○鎌田部会長 コメントはありますか。 ○新井関係官 まず,前提を説明させていただきますと,買戻しの一連の規定について,債権担保目的であれば,これらの規律はそのままでは適用されないという判例法理が恐らく確立しているのであろうと思います。その前提を変えるものではありません。ですので,仮に(1)のような改正を加えるということであっても,判例法理自体を動かすという意図というか,そういう趣旨のものではないと理解しております。その点を(概要)なり,補足説明で言及するということで,おおむね,松本委員の問題意識にお応えできるのではないかと思いますが。 ○松本委員 一体,どういうニーズがあるんですか,担保目的を外して。これは解除ですよ。売買契約の解除権留保特約であって,そこで,当初に払った代金以上に払わないと駄目だと,別に以上にとは限定していないから,代金額より少なくともいいということになるのかもしれないけれども,一体,何のためにそんなことをやるニーズがあるんですか。少なくしてもいいというのなら,ひょっとするとニーズがあるかもしれないですね。担保ではないところの債務不履行的な場合に備えた留保解除権の行使に伴って,代金の半分しか返さなくていいんだぞというようなのは,ひょっとしたらメリットかもしれないですけれども,そうすると,その分,言わば損害賠償としている予定しているというような話になってくるので,別の法理の拘束が働いてくるのではないですか。一体,これは何を念頭に置いているんでしょうか,担保以外で。 ○内田委員 元々,この規定については担保目的には適用しないという文言が入っていたのです。それを入れた上で,しかし,担保目的ではない場面もあるということで,こういう規定を置くということが部会では支持されていたのだと思います。しかし,担保目的には適用しないとなると,担保目的の場合にどういうルールが適用されるのかについて何も書かないということになるので,それについては松本委員が言われるとおりで,将来の担保法の改正の際にきちんと議論して,担保目的の買戻しについてはどういうルールが適用されるかを必要ならば明確に定めたほうがいいだろうと思います。そのような議論は先送りするという趣旨から,担保目的であるとはどういうことかとか,担保目的の場合にどういう規律が適用されるかといったことには一切触れずに,取りあえず,ここでは担保目的でないものを想定して現行の規律を維持するという提案をしているのだと思います。 ○松本委員 買戻しの規律を残すこと自体は,私は結構なことだと思って賛成なんです。だから,担保目的ではないところの買戻しについて,もう少し規定を整備する必要があるだろうという点は全く同一意見なんですが,ここで契約解除の際の原状回復義務についての特に売買代金の返還の部分についてのみ,特段の合意を入れることの社会的ニーズは何ですかということをお聞きしているわけで,理論的にそのほうが面白そうだということでは問題だと思うのです。今回の改正の議論は基本的にニーズに基づく議論だと思うので,その辺り,少し御説明いただければ納得できるんですが,普通,ぱっと見ると,これは担保目的と私も思ったわけです。 ○山野目幹事 内田委員から,従来の部会の審議を顧みての御紹介が若干ございましたところを踏まえ,この論点を過般に審議した際にも発言させていただいたことの繰り返しを含みますけれども,ただいまの松本委員の御発言に関連して,2点,申し上げさせていただきますと,1点目といたしまして,現在の実態においても買戻しが担保目的で用いられることもあるかもしれませんけれども,半面において公的な住宅供給政策の中では担保目的ではなく用いられているものでありまして,むしろ,買戻しの特約が登記されているのは,そちらのほうが主ではないかと想像しております。その場面において民法の規律が現行のものはやや硬直的に見えることから,それを柔軟なものに改めることによって,そのような方面でのこの制度の活用,運用に対して一定の刺激を与えようという意図に出た部会資料の提案であると理解いたします。   もう1点は,担保目的の買戻しももちろんありますけれども,それは現在においても実質的に担保目的であると裁判所が認定する事例については清算法理が働くなど,そちらの法理の適用があるものでありまして,ここで提案されている柔軟化がされた買戻しの場合にも,個別の事案ごとに担保目的であると認定されれば,同じ処理がされるということになるのではないかと感じます。松本委員がおっしゃっている御心配は理解をすることができますけれども,中間試案の中身そのものとして注記に書きますと,少し意味のはっきりしないことを無理に書き込むことになりますから,補足説明で委曲を尽くした文字どおり補足の説明をしていただくのがよろしいのではないかと考えます。 ○松本委員 今,おっしゃった1点目のほうの公的機関,例えば土地供給公社とかが分譲する際に,買戻しの特約を付けているという例があるということは私もよく聞いております。取り分け,工業団地の場合なんかが典型だと思いますが,安目に分譲してきちんと操業してもらいたいのに,いつまでたっても操業しないという状況があるのは好ましくないとか,あるいはバブルの頃が典型でしょうけれども,土地転がしに使われるのは望ましくないといったような点で,買戻し特約が活躍していると思います。   ただ,その場合に買戻しの,今の場合は言わば売主の供給公社の側が買戻権を行使するわけで,その場合に売買代金以上に払い戻しますというような特約をあらかじめ付けるということは,余り考えられないわけですね。むしろ,ペナルティを取りたいぐらいだろうと思うわけです。そうすると,安く買い戻すというのはペナルティ的な意味で,それは意味があるのかもしれないということを先ほど私も発言させていただきましたが,ここのニーズはそういうところにあるということなんでしょうか。 ○鎌田部会長 現状では579条以下の厳しい規律がありますから,これと違う契約内容を持った買戻しが広く存在しているかというと,それはない。どうしてもニーズがあるときは再売買の予約その他の手法を使っているわけですから,今のような御質問に直ちに答えることは難しいと思いますが,諸外国の例を見ると,維持費用,改良費用をどうするかとか,もうちょっと細かい対応をしているものもあったりしますので,これは一つの考え方としてあり得る姿ではないかと思います。松本提案ですと,要は「15 買戻し」は現行法を維持するという提案にしたほうがいいという,そういう趣旨でしょうか。 ○松本委員 私はてっきり,これは担保としての買戻しだと読みましたから,そういう意味で,そこは今はやるべきでないという意見です。それ以外の面について例えば今,部会長がおっしゃったような,では,有益費の償還はどうするんだとかいうような部分は,解除の原状回復についての規定が置かれたわけです,既に提案として。そこに確かいろいろな規定が入っていたと思います。したがって,そこで本来はカバーされるべきものであって,そういうこと以上に何か金額をばちっと決めておく必要があるとすれば,それは損害賠償の特約的な意味を持ったものということになるのではないかと。したがって,先ほど言ったように買戻価格を安く設定するという特約は,買戻権者にとっては有利に働きますから,それは経済的な意味はあるんだろうと思います。逆に高く設定するような契約は,担保以外はほとんどニーズがないのではないかと思っている次第です。 ○山野目幹事 現行法の買戻しは,解除と同じ効果になると記しているのではなくて,支払った代金を返さなければならないと,かなり厳格に効果を書き込んでいるものでございます。松本委員がおっしゃるように解除と同じになるというのであれば,今回の提案でいろいろ解除の場合の原状回復についてのルールの細密化が図られますから,そこに委ねても構いませんけれども,そちらを参照しているものではないのでありまして,現行の579条を放っておくと,使いにくいという問題がやはり残るのではないでしょうか。   公的住宅供給政策で供給された住宅は使用者がかなり使い込んで,一定の年数が経ってから,その買戻しが問題になることが多うございますから,実際の事業執行上もかなり細かな清算の仕組みが定められていることが間々見受けられて,それが民法の厳格な規律の下ですと,再売買合意でやるしかないということになりますから,そこのところについて,もう少しソフトにすることが可能なようにしてあげようという御提案であると理解いたします。 ○高須幹事 理論的な御発言が相次いでいる中で,実際の話みたいなことで大変恐縮なんですが,本来は再売買の予約で行うべきかもしれないケースにおいて,これを買戻しでやってしまう場合というのが実務では間々あります。それは筋が悪いと言われれば,そういうことなんですが,実際にはあります。そのときに,もろもろのことを考えて,ここに今,提案いただいているように別段の合意みたいなことをしたくなることが間々あって,現にしてしまうこともあるということです。   その場合,後になって今の現行の規定だと規定に合わないということで,裁判になって大もめにもめるということがあり得ることでございまして,使い勝手という観点からいえば,今回,このような御提案を頂くということは,実務的には意味のあることではないかと思います。そういう意味で,パブリックコメントに掛けていただいて,こういう制度設計がいいとか,従来のままのほうがいいとか,その辺りの実際の声というものと聴いていただくことには,意味があることではないかと思いますので,(1)のところは確かに理論的にどうなのだろうかという点はあるのですが,実際に使う法律の提案であるという意味では,一つ,御提案を頂いたほうがいいかと思っております。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。 ○松本委員 私はニーズがあるのならそれで結構ですし,担保目的の場合は従来の判例による担保法上の規制が掛かるのであって,ということをきちんと書いていただくということで結構です。 ○松岡委員 松本委員が最後におっしゃったことと同趣旨で,担保目的の買戻しについては基本的には今回の提案の範囲外である,ということは,補足説明ではなく(概要)のところに書いていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに「売買」「贈与」でよろしければ,次に「第38条 消費貸借」から「第40 使用貸借」までについて御審議を頂きます。一括して御意見をお伺いしますので,御自由に御発言ください。 ○松本委員 「使用貸借」まで全部ですか。「消費貸借」の1の「成立」のところなんですが,後ほど議論される「寄託」のところについては,前に私が意見を出したのが入れられて,諾成契約になっても,寄託する義務はないけれども,寄託しない場合に受寄者のほうからの解除権が今回の案では,要らないという意見もあるが,という形で入ったわけです。同じ問題が消費貸借あるいは使用貸借でも起こると思うんですが,「消費貸借」のところ,それから,「使用貸借の成立等」のところでは,そちらの手当がされていないという点は,一貫していないのではないかなと思います。   消費貸借で借りる義務はないんだと,しかし,貸す義務はあるんですね。そういう中で,借主が借りない,受け取らないという場合に,損害賠償で恐らく取れる部分があるだろうから,一定の制裁は行えるんだろうけれども,貸す義務は借主の側から解除しない限りは消えないという構造が果たしていいのかどうか。貸主の側から約定期日が来たのに借りない場合に,催告をした上で解除できるとかいうような手当をしておいたほうがいいのではないかと思います。 ○筒井幹事 この場での御議論に委ねたいと思いますが,これまでの議論の経緯を申し上げますと,諾成的な消費貸借についての明文規定を設けるに当たって,どのような規律を併せて設けることが必要かという問題について,かつて部会資料で幾つかの考え方を提示し,議論していただいた際には,比較的,消極方向の意見が多かったこともあって,また,それぞれについて具体的なニーズが見当たらないということもあって,見送られた論点の一つであろうと認識しております。寄託についても同様に,かつての部会資料で紹介し,議論はされたけれども,その時点では消極意見が多かったという認識の下に,たたき台では掲げていなかったわけであります。   前回のこの議論の機会には,松本委員から佐成委員が紹介された倉庫業界からのニーズの意見を引用する形で,寄託についてこのような規定を設けるべきではないかという御提案があり,それについては特に異論も述べられなかったので,今回はそれを加筆した形で御提示しているわけです。一貫性という理由をここで持ち出すのが適当なのかどうか分かりませんが,消費貸借についてもそのような提案があり,それについて大方の賛同があるのであれば,同様に盛り込むということでも結構かと思いますけれども,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 いかがでしょうか。御意見をお伺いします。これまではその必要性があるという御意見は余り出されていなかったところですけれども。 ○金関係官 前提として1点だけ説明をさせていただきます。寄託の場合には,寄託物を持参してくるのを待っている受寄者のほうが,寄託物が持参されないので困ったという場面を想定していると思いますが,消費貸借の場合には,お金を貸そうとして持参した貸主が,そのお金を借主が受領してくれないので困ったという場面を想定するのだろうと思います。つまり,先ほど松本委員がおっしゃったような場面というのは,貸主がお金を持っていっても持っていっても,借主が受け取ってくれないという場面だと思いますので,それはむしろ借主の側から解除がされたと,少なくとも黙示の解除の意思表示がされたと認定できる場面がほとんどではないかと思っております。今回のたたき台で言えば,(4)の借主の側からの解除権が行使されたものと見るべき場面ではないかと思っておりまして,その意味で,持っていくはずの物を持って行かない寄託の場面と,受け取るはずの物を受け取らない消費貸借の場面とでは,寄託者や借主の側からの解除権が行使されたかどうかの認定において若干の違いがあるのではないかと思っております。ただ,それは程度問題かもしれませんので,御意見を伺いたいとは思っております。 ○鎌田部会長 特に積極的にこの段階で入れろという御意見がないようでしたら,このままの形にさせていただいて,また,パブリックコメントで,是非,入れるべきだというふうな意見が,必要性があれば出てくるのでないかと思いますので,パブリックコメントを踏まえた第3ステージの議論にしたいと思います。 ○松本委員 そういう黙示の解釈で,使用貸借の場合でも消費貸借の場合でも,貸主が用意ができているんだから取りに来いとか,あるいは弁済を提供したのに受け取らないという場合に,黙示の意思表示の解釈として借主による解除があったという処理が一般的にできるのであれば,確かに要らないのだろうと思います。それは恐らく寄託の場合もロジックとしては同じだろうと思います。   それから,ニーズの点では,業界は特約を作れば何でもできますからニーズはないんです。倉庫業界も実は倉庫の標準約款ではきちんと解除権の特約をしているから,民法の手当なんかは要らないわけですが,そういう約款を使っていない場合,特約のない場合について最後までずるずると一方の義務だけが残るという状態は,好ましくないのではないかということであって,必ず黙示の解除権行使というロジックで処理可能だということであれば,あえて貸主からの解除権は要らないということにはなりますが,そう裁判所が解釈してくれるかどうかということによると思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○松本委員 もう1点,「賃貸借」の一番最後のところの「ファイナンス・リース」でありまして,(注)のところに,規定をしない案とか,典型契約として独立させる案というのが書いてありますが,私が前回主張したのは,ファイナンス・リースを入れるとしても,消費者契約については適用しないという案もあるというのを(注)で入れていただきたいということであります。何度も言っておりますが,ファイナンス・リースというのは正に税法上の特典あるいは企業会計原則上の特典との関係で,大いに使われていたものなわけです。現在でも中小企業の場合はそういう特典がありますから,かなり使われているわけで,それはそれで中小企業振興にとっては必要な制度なんだろうと思います。   しかし,消費者リースなるものは,メリットは消費者にとってはほとんどないわけです。むしろ,ここでは賃貸借の一つだとされながら,瑕疵担保責任を貸主であるレッサーに対しては問えないという,デメリットのほうだけをデフォルトルールとして押し付けられるというものになります。金銭消費貸借であれば,現在の案からは消えていますが,部会の当初の案では,抗弁の対抗をデフォルトで認めようという考えがあったわけであって,一般論として借主保護が大変充実をしているわけです。   また,立替払契約という現在の信用購入あっせんで多く採られている法的構成の場合についても,割販法は明文の規定を入れましたけれども,裁判実務では説が分かれていて,最高裁が狭い解釈をしたという点は,私は批判的ではありますが,従来であれば,消費者保護が一般法理としてされていたものが,ファイナンス・リースということになると保護されなくなるという点で,機能的には全く同じなのに,消費者にとって一方的に不利なタイプの契約になります。したがって,そういうものを典型契約として全くの限定なしに民法に入れるというのは適切ではないと思います。したがって,(注)のところに消費者契約については適用除外すべきだという意見もあるとお書きいただきたい。 ○筒井幹事 そういう御意見があることは十分理解しておりますけれども,ここでは基本的に規定を設けるのか設けないのかというところで根本的な対立が強く残っておりますので,そういった論点において規定を設ける方向での注を積み重ねていくのは,議論の様相を的確に伝えることにならないのではないかという考慮もあり,現在,このような(注)の形を採っております。松本委員が御指摘されたような観点から,だからこそ規定を設けるべきではないという意見もあったと思います。ですので,どこまでを(注)で拾い上げるかはいろいろな考慮があると思いますので,この形で御理解を頂いた上で,その内容を十分に(概要)欄等で紹介することにさせていただければと思います。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか,(概要)欄で取りあえずは対応させていただくということで。 ○中井委員 「賃貸借」の「転貸の効果」の(3),私のメモ16項ですが,前回も松岡委員だったか,御指摘があったと思いますけれども,転貸借契約に定めた時期の前に賃料を支払ったとしても義務を免れない,定められた時期の前日であっても駄目なのか。つまり,賃料は定められた期日より普通は前に払うもので,定められた期日より後に払えば遅滞に陥るので,それは,通常,転借人としてはしていない。それを時期の前に払っても賃貸人に対する義務を免れないとすると,行き過ぎではないかという御指摘だったと思うんです。   それがずっと前の先払いだったら,この規律が妥当するわけですけれども,通常の支払である次の期日のものを払うのはいいとして,その次の次というんですか,翌期のものを先に払うことはいけないという限度ではないのか。そうだとすると,ここで一言を足すんですけれども,定められた時期の前に転貸人に対して翌期,次の期以降の賃料を支払ったとしても,それは義務を免れない,しかし,本来,払うべきものをその期間内に払っても,それは対抗できなければ困るのではないかと思うのです。この点は,修正の提案をしたいと思います。 ○筒井幹事 今回の修正で(注)を書き足しましたのは,御指摘がありましたように前回の松岡委員の御意見を踏まえたものですけれども,そこで御指摘がありましたのは,履行期を早い時期に定めることによって,前払に該当しない状態にするといった濫用的な使われ方をする懸念があるということであったと思います。その懸念への対応策としては,現在の条文の文言を維持することによって,解釈上それを読み込めるようにしておくことが考えられるという御指摘だったと理解いたしまして,今回このような(注)を書き足しました。この(注)によって様々な御意見を受け止めることができているのであろうと思います。先ほど中井委員から御指摘があったことについても,それで対応できている面もあり,更により具体的な場面を想定した規定まで設けるかどうかというと,(注)でどこまで取り上げるかという問題もありますので,できましたら(注)はこの形で御理解いただいた上で,別の形でその御意見を紹介するという処理にさせていただければと思います。 ○中井委員 前回の松岡委員の意見がそういう意見であれば,それと(注)が対応していることは理解を致しました。それは合意によって弁済期の定めを変えることによって,事実上,潜脱するのを防ぐ意味で前払としてはどうかと,こういう御趣旨と思います。私の申し上げたかったことは,賃料というのは毎月月末に払うと定められているのを月末ではなくて,その前日に払った場合にどうなるのかと,このままではその場合にも賃貸人に対する義務を免れないことになりませんか。通常は弁済期前に払う,弁済期を遅れて賃料を払うことはないわけで,前の弁済期から次の弁済期の間に払うのが,賃借人としての義務といいますか,日常的な行動なわけで,それが全て賃貸人に対する義務を免れない結果になりませんか。それはおかしいのではないか。   そうすると,本来,期日が毎月月末であれば,その次の翌期の分を早々と払うことは,賃貸人に対する対抗を認めなくていいと思いますけれども,通常の支払であってもこのような結果を招来するのは不適当ではないか。つまり,(注)を付け足してくださいではなくて,本文の修正を求めたつもりです。転貸借契約に定めた時期の前に転貸人に対して翌期の賃料,翌期以降の賃料を支払ったとしても,それは賃貸人に対抗できない,当期というんですか,本来,払うべき期日前に当期のものを払っても,それは当然の賃借人の行動ではないでしょうかと,こういう指摘をしたわけです。 ○松岡委員 中井委員と筒井幹事から言及していただいたので,一言,申し上げますと,前回の発言は両方を含んでいるつもりでありました。今の中井委員の御指摘のように,前月末に払う通常のものを前払として否定的に扱われては困ります。前回は,弁済期をはるかに前倒ししてしまう詐害的な合意が規制から漏れてしまうのは困ると申し上げました。良い修正提案ができればよかったのですが,十分練り上げるに至っていません。そこで,取りあえずは現行のままで,余り触らないで解釈に委ねるか,第3ラウンドで更に今の中井委員の御提案も含めて検討していただければよいと思います。 ○山野目幹事 中井委員の御提案の趣旨は,大変よく理解することができますとともに,私は11の(3)はこのまま,御提案いただくのがよろしいのではないかと感じます。実は11(3)の問題というのは,これが直接に問題としている事項ではありませんけれども,賃貸借契約に基づいて賃料債権は何によって,いつ,発生するのかという,かなり理論的に根本的な問題が関係していて,その議論についての理論的な検討が今後,学界等で深められていくべきだと考えますけれども,その議論にここの規律の置き方が微妙に影響を与えてくる可能性があるのではないかと恐れます。   私個人としては,注記の方向でいくことがよろしいと感じますが,そうであればこそ,一般に意見を問うときには11(3)のような簡明な書き方と注記を出しておいて,筒井幹事がおっしゃったように,その間にいろいろなバリエーションがあるでしょうし,中井委員がおっしゃったのも,そのような危惧で11(3)を細密化してこうとする工夫をお考えになり,それが難しいなら場合によっては注記になるかもしれないですけれども,そういうことをおっしゃっているものであろうと感じますから,現在の文章の案と注記の言わば両極といいますか,両様を示しながら,中井委員の御提案のようなものも視野に入れて,いろいろ意見を出していただくというのがよろしいのではないかと感じます。   11(3)のこの提案のままで規律を置くことは余り良い提案にならないと思いますが,そこに翌期とかと入れると,いかにももっともらしい提案のように見えてきて,余計,何かよくないというか,議論を錯綜させるような気もいたしますから,変な言い方ですけれども,そういう観点からも躊躇を感じます。なお,表現のことですが,翌期ではなくて次期であると思います。 ○鎌田部会長 こんなことを聞くのも申し訳ないんですけれども,11(3)にある「転貸借契約に定めた時期の前に」というのは,中井委員がおっしゃるように弁済期の1日前みたいなものは全部これに当たるという意味なんですか,元々。 ○筒井幹事 積極的にそれを意図して書いているものではないと思います。 ○鎌田部会長 必ずしも分かりやすい表現とは言えないですが,「時期」というのは弁済期の意味ですか,存続期間ですか。 ○金関係官 形式的には弁済期という意味ではありますけれども,1日前でも駄目だということにはならないとは思います。ここの書き方,表現というのは,現在の判例法理と言われているものをそのまま書いたものですので,少なくとも抽象的に言えば現在このルールが通用しているのだと思います。ここでは,そういう意味での判例法理を本文で書いて,それ以外の考え方を(注)で書くというスタンスで整理をしておりますので,その観点からいうと,恐らく中井委員の提案も仮に書くとすれば(注)に書くのだろうと思います。ただ,そうすると,(注)にいろいろなバリエーションの考え方を全て書くことになって複雑になるので,そのいろいろなバリエーションを受け止めるものとして,現行法の文言を維持するという考え方を(注)で取り上げて,その一方で判例法理を本文で書くという整理をしたつもりでした。 ○鎌田部会長 「賃料の前払」と書くよりは,こう書いたほうが明らかに分かりやすいということで,この提案はあるということですね。 ○深山幹事 今の金さんの説明がどうもよく納得いかないんですが,結局,規律として本文(3)と(注)が同じルールであり,「前払」のほうが分かりやすいのか,「定めた時期の前」のほうがいいのかという表現の問題の違いでしかないような御説明に聞こえたんですね。判例法理というのも現行法の解釈をがらっと実質的に変えてしまうような解釈ではなくて,「前払」の読み方を少しかみ砕いたということであって,考え方,規律としては,現行法との表現の違いでしかない議論なんだと思うんです。そうだとすると,本文で何か提案をして,それとは違う考え方を注記に示すんだという書き分け方に,ここはなっていないのではないでしょうか。   更に言えば,ルールとして何か現行法の解釈を改めようということが,部会の多数意見を形成しそうな雰囲気となっているのかというと,私はそういう気はしなくて,今の前払という表現が余り分かりやすくないので,表現を変えたほうがいいという議論しか出ていないような気がします。もっと違うルールにしようという規律は,部会の議論ではないのではないでしょうか。 ○金関係官 (注)の考え方は,「前払」と書けば必ず(3)の意味になるわけではないということを前提として,「前払」という文言を残すという考え方だろうと思いますので,そういう意味では,本文と(注)とでは必ずしも同じことを言っているわけではないと理解しております。 ○鎌田部会長 分かりました。いろいろ議論があり,また,細かい配慮をしなければいけないところもあると思いますが,その全部にここで対応するのは,そこまでのニーズがあるかどうかも疑わしいところがありますので,恐縮ですけれども,この形で中間試案は一旦まとめさせていただくということにします。場合によって,これをめぐっていろいろとなお検討しなければいけないことがあれば,(概要)の中に必要に応じて書くことも検討していただければと思います。 ○道垣内幹事 まとめられたところで,誠に申し訳ないのですが,鎌田部会長が最後におっしゃったことなんですけれども,正に中井委員や金関係官がおっしゃったように,前払というのは支払期日前に支払うことをいうという判例法理が,1日前,2日前に支払ったものまで前払に当たるという判例法理であると理解すべきなのかという問題があるのだと思うのです。そうなりますと,(概要)の問題ですので余り発言するのははばかられますが,本文(3)は民法613条第1項後段の規律の内容を明確化するものであって,判例法理を明文化するものである,とは単純には言えないのだろうと思います。そして,本文の考え方に対して,「『前払』という文言を維持すべきであるという考え方」が対置されるというよりは,判例法理においてパラフレイズされた文言を,事案を無視して,そのまま書くことによって,かえって,中井委員が出された例におけるような柔軟な解釈を妨げるという問題があり得るということは,(概要)の中では書いたほうがよいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 御検討ください。どうすればうまく伝わるか,これもまた,難しいところがあると思うので,弁済期の合意との関係だけで前払と今は書いてありますけれども,それだけにとどまらないという感じもいたしますので,少し,御検討いただければと思います。 ○中井委員 今の点は補足説明なりで説明していただけるということで理解いたしました。   「消費貸借」のところについて,また,3点,申し上げます。前回に申し上げて,今回,反映されませんでしたので,基本的にその考え方は採らない,採用しないということだと理解を致しますが,重ねて弁護士会としては,是非,御検討を賜りたい点です。それは「消費貸借」の1の(4),メモの13項で,金銭交付前に解除した場合に損害賠償をしなければならないという規律について,(注)で,規定を設けないという考え方が記載されていますけれども,ここも仮に事業者,消費者概念を持ち込むことになった場合には,消費者側からの解除については賠償義務を負わないという考え方が少なくともあるということを,(注)に残しておいていただきたいと強く思うものです。   それとの関係で「6 期限前弁済」の(2),メモの14項です。期限前弁済をしたときには賠償しなければならない,という本文に対して(注)が全くないわけですが,この点についても仮に消費者,事業者概念を持ち込むことができた場合,個別規定の中に特則を設ける一つの場面として,消費者が借主の場面では損害賠償義務を負わないということを明らかにする,そういう考え方があることを中間試案の段階では残していただけないものかと,再度,お願いを申し上げます。この場で皆さんから反対意見が出れば,諦めますが,もし,特段の反対意見がなければ,パブコメの中で意見を聴く機会を与えていただけないかと思います。   それから,3の「賃貸借の存続期間」について削除するという考え方,これは確かに多数だったように思うんですが,一部には全く無限定というのはどうかというところから,ほかの法律で使われている50年を上限とする考え方が示されたのではないかと思います。極めて少数説だというのであれば,記録にだけとどめて中間試案に載せないという考え方でいいのかもしれません。いずれも,もう一度問う意図でメモの13ないし15項に記載させていただきました。 ○鎌田部会長 関連した御意見があればお出しいただければと思いますが。 ○三上委員 中井委員には申し訳ないんですけれども,議場に反対がなければとおっしゃったので,反対と言っておきます。失礼しました。 ○筒井幹事 一言だけ補充いたしますけれども,三上委員のような反対意見がある一方で,中井委員に御紹介いただいた意見を述べる方の御懸念もよく理解できるのですけれども,ただ,ここで損害賠償の義務があると書いているのは,期限前弁済の場合に最終的な返済期までの利息を常に全額支払う義務がある旨を定めるということでは決してありませんし,期限前弁済に関しては現在も規定上はこのようになっている,それを維持しているということであります。   三上委員からこれまでの審議の中でも繰り返し御指摘がありましたように,消費者が借主である場合にも一定の調達コストが掛かるような多額の貸付が存在すること自体は否定されないので,消費者契約であれば損害賠償の義務を一切負わないという規定を設けるのは,理屈として非常に無理があるのではないかといった議論が,これまでこの部会ではされてきたと思います。(注)を設けるという提案を繰り返し頂きつつ,それを見送ってきたのは,そういう議論の経緯を踏まえたものです。 ○松岡委員 私は,今の御説明では賛成し難いと申し上げます。特別法等を考慮して50年と言われましたけれども,借地借家法の定期借地契約は短くても50年となっているだけで,上限が定まっているわけではありませんので,それと平仄を合わせるという論理では提案として成り立たないと思います。 ○筒井幹事 松岡委員から御指摘いただいた点については,その御意見はもっともだとも思いますし,それから,この部分について現行規定を維持した上で一部を修正するという御意見については期間の数字を変えるという提案のほかに,その期間経過後は解除権を与えるといった方策を提案する意見もあり,様々なバリエーションがあり得るところでもあります。ですので,(注)をどこまで複雑化させるのかというところにも関わりますので,中間試案のまとめ方としては現在の案文で御理解いただいた上で,様々な議論を紹介するという方法によらせていただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。ほかの方の御意見もあればお伺いしておきますが,それでは,恐縮ですけれども,今の事務局のような整理とさせていただきます。 ○岡委員 4時が近いので短く申し上げますが,「賃貸借」の「敷金」の(1)のところで,ゴシック体というよりは補足説明でお願いしたいという要望でございます。弁護士会で準備しておりますと,敷金の下級審判例等で額を制限しているものが多々ありまして,過大なものは除くとか,専ら金銭消費貸借を目的とするものは除くとか,何か,そういう限定があるべきだという意見がすぐ出てまいります。ただ,ゴシック体に入れるのは厳しいところですので,そういう問題点だとか,下級審判例の存在を補足説明で,是非,入れていただきたいと思います。 ○山本(敬)幹事 「賃貸借」と「使用貸借」について,それぞれ1点ずつ申し上げたいと思います。   1点目は「賃貸借」で40ページの4の部分です。これまで何度も申し上げているので,趣旨だけ申し上げておきます。不動産賃貸借の対抗力等ですが,これまでは,(2)から(5)を賃貸借の対抗ではなくて,賃貸人たる地位の承継問題として規定して,そして,(1)は不動産の譲受人以外の第三者に対する賃貸借の対抗に関する規定として定めるべきだということを申し上げてきました。これは,現行法の立法者がきちんと考えているものを,その後の人たちが物権のアナロジーで「対抗」という言葉を逸脱した形で使ったのが通俗化したという理解が前提になっています。   それを今回,オーソライズするかのように規定するのはいかがなものか。やはり,「対抗」という言葉を,物権,そして賃貸借に関わる言葉として使う場合には,きちんと考えて,混乱のないようにすべきではないかと思います。その意味で,そのような意見があったということを,私は注記でもよいのではないかと思いますが,せめて補足意見で言及し,そして,結論には余り関係ないとしても,物権法制まで含めた全体に関わる非常に重要なポイントですので,改めて第3ステージで検討し直していただきたいと思います。これが1点目です。   もう1点は,「使用貸借」の3の「使用貸借終了後の収去義務及び原状回復義務」で52ページ以下です。これは「賃貸借」と対応した提案におおむねなっているのですが,(1)と(2)だけです。「賃貸借」の場合は(3)で,通常損耗の場合は,借主は原状回復義務を負わない旨が規定されています。これは「使用貸借」も同じではないかと思うのですが,この点はあえて書いていないということなのでしょうか。まず,確認をさせていただければと思うのですが。 ○金関係官 はい。そこはあえて書いていません。 ○山本(敬)幹事 これは使用貸借の趣旨によって様々なのでしょうか。賃貸借契約では,通常損耗の場合について賃借人は原状回復義務を負わない。しかし,無償で利用している者は,原状回復義務を負う場合があるということでしょうか。 ○金関係官 そう考えておりました。 ○山本(敬)幹事 そういう御理解であれば,一応,了解しました。 ○鎌田部会長 ほかに貸借関係の契約3類型について,特に……。 ○中井委員 今の山本敬三幹事と金関係官のやり取りの部分ですが,使用貸借の場合に終了して返したときに,通常損耗部分について意図的に,賃貸借における通常損耗については原状回復する義務を負わないという規律を外しているということなんですね,部会提案は。それは違和感がありますね。気付いていませんでしたけれども,これは入れていただくほうがいいのではないでしょうか,デフォルトルールとしては。 ○内田委員 使用貸借については,普通の家屋を親戚にただで貸すとかいうような場合には,確かにおっしゃるような御指摘は当たっているように思うのですが,部会の議論の中では,事業者間でビジネスとして行われているものもあるということで,その契約の趣旨に照らして,通常損耗の扱いというのは,賃貸借ほどには一律にはデフォルトルールを定められないという判断に立ちまして,こういう案になっているということです。 ○中井委員 ただ,無償で使用を許した以上,使用したことによって通常価値が減じる,自然損耗することも許容しているのが当事者の何か当然の意思のように思われるんですが。それは個人間の使用貸借のみならず,事業者間であっても使用貸借にした以上は,それが一般であって,今,内田委員のおっしゃられたような事情があるなら,企業間であれば地代はただにするよ,しかし,返すときには元に戻して返してねと,別途の合意をすれば足りるだけのように思います。ルールとしては賃貸借とここを意図的に変える積極的理由があるとは思えないのですが。 ○鎌田部会長 変えているというよりもブランクであるというだけの……。 ○金関係官 中井委員がおっしゃったように,ただで使わせている以上は通常損耗も回復せずにそのまま返してもらえばよいという意図である場合ももちろんあると思いますけれども,逆もあり得るはずでして,ただで使わせてあげるのだから通常損耗も全部回復してから返してくださいという意図である場合もあると思います。無償の契約である使用貸借の場合にはその両方があり得て,どちらがデフォルトであるとは言えないのではないかという趣旨です。その意味で,賃貸借のように借主が賃料を支払っている場合とは前提が大きく異なるという理解をしております。 ○中井委員 あえて,この段階で中間試案を書き換えてくださいとまで申し上げませんけれども,少なくとも(概要)若しくは補足説明のところに今のような考え方が十分あり得ることも書いていただきたいと要望いたします。 ○山本(敬)幹事 補足だけなのですが,元々の疑問を言葉に表しますと,使用貸借と賃貸借でルールを変えるということは,有償か無償かでルールを変えるということだと思います。賃貸借の場合は,使用収益をすることの対価を払っているわけですので,対価を払っている以上は,その使用収益に伴う損耗分も対価を払っている,だから,賃借人は負担を負わないというような説明をすれば,使用貸借の場合は対価を払っていないのだから,必ずしも賃貸借と同じようにならないという説明もあるいは可能かもしれない。そう思いつつも,使用収益をすることを認めているということは,使用収益に伴う通常損耗に当たる部分は,貸主が負担するのである。それが使用収益を認めるということの意味ではないかと考えれば,対価を払っているかどうかに関わりなく,通常損耗分については貸主の負担である,それが嫌ならば特約をするしかないと見る可能性も出てきます。私自身はこのような前提で捉えていましたので,先ほどのような意見になったわけですけれども,お答えになられたのは,そうではなく,対価を払っているがゆえに通常損耗分については貸主が負担するというのが,デフォルトルールとして立てられる理由であるという御理解かと思って,先ほど了解しましたと申し上げました。しかし,本当にそれでよいかどうかは,かなり大きい問題かもしれないということだけは申し上げておきたいと思います。 ○道垣内幹事 修正を求めるつもりはありませんが,今後のことのために一言だけお話をしておきたいと思います。デフォルトルールを設けるというのは何のためなのかというときに,当事者の意思が比較的,これが普通だろうというふうな場合に設けるというものもあり得るのですが,詳細な契約書を作ることのできる人のためには置かない,作れない人のために置くという考え方も十分あり得ると思うのですね。そうすると,今,ここでデフォルトルール,任意規定を置くというとき,親戚間の使用貸借というのを念頭に置いてデフォルトルールを置くという考え方も十分あり得ると思います。今後,任意規定をどのような場合に置くかということに関連して,一言させていただきました。 ○佐成委員 今の点ですが,事業者間でも,もちろん使用貸借はいろいろな場面で使っていて,何をデフォルトに考えるのかというのはなかなか難しいという事務局のお考えも,一つ納得できる部分が実務の感覚としてはございます。それで,今,道垣内幹事のほうから,おそらく事業者間を想定されて,事業者間では取り決めを文章にするということが期待されるのだからということなのかもしれないんですが,必ずしも事業者間でもそれほど使用貸借に関しては現実には契約書を作っていないということも往々にしてございます。その点も考慮してみれば,取りあえず,中間試案の段階ではデフォルトルールとして明示するというのは,なかなか難しいのかなという印象を抱いたということでございます。 ○中井委員 この機会ですので,先ほど道垣内先生がおっしゃられたことについては弁護士会の一部からですが,同調する意見がございました。実際に世の中で両方があり得るという場面で何も置かないということよりは,どちらかに決めたルールを置くことによって,特段の契約書を作らない,特段の合意をしないものの間でのルールとしては明確化する,その価値をもっと評価すべきではないかいう意見です。道垣内先生のおっしゃっていることと違うのかもしれませんけれども,そういう意見があります。   今回,契約の趣旨という言葉があちこちに出ているわけですけれども,そこに対する不安感の意見としてもありまして,全てをそこで解決することで果たしていいのか,それが先ほど「贈与」についての議論を聞いているときにもそのように感じました。一定,贈与の場合は一つのルール,それが,特定物だったら,現状,あるがままの姿で交付するのが一般的ルールだと書いてくれているほうが,契約書を作らないもの,特段の合意をしないものにとって贈与の場面ではそうなんだというルールが明らかになるほうが好ましいのではないか。そういう観点というのでしょうか,そういう決め方が今回の改正の中で薄れているというか,後退しているというのか,表現が適切でないかもしれませんが,忘れ去られているのはよろしくないのではないかという意見があったことを御紹介しておきます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○岡委員 今の論点は考えてはきませんでしたが,これだけ説があるとすると,(注)として賃貸借と同じ規定を入れる考えもあるいうのは入れて,その考え方を世に説明したほうがいいように思いました。 ○潮見幹事 個人的には(注)というのは時期尚早ではないかなという感じがいたします。理論的には先ほど山本敬三幹事が言われたように二通りの考え方が私もあると思います。それから,実務の実態というところでも,先ほど佐成委員がおっしゃられたような形での実際の使用貸借の使われ方がもし仮にあるとするならば,実務の実態を見てから判断をするということでもいいのかなと思います。その代わりに,(概要)のところには今日の議論というのを踏まえた形で少し手厚く説明をして,何が問題なのかということをお示しいただければいいのではないかと思うところです。 ○鎌田部会長 できれば,そのような処理にさせていただければと思います。よろしくお願いします。   それでは,遅くなりましたが,休憩とさせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 再開をさせていただきます。   「第41 請負」から「第44 寄託」までについて御審議を頂きますので,御自由に御発言ください。 ○佐成委員 第43の「雇用」なんですけれども,それの1の(1)ですが,労働者が労務を中途で履行することができなくなった場合に,履行の割合に応じて報酬を請求することができるという,この規定について,前回,これについては異論があるということで,(注)で反対といいますか,規定を設けないという考え方があるというのを表示していただきたいという意見を申し上げまして,今回,それが反映されていなかったものですから,改めてお願いをしたいということです。補足説明でという話も内部では考えたんですけれども,最終的な内部の意見では(注)で規定を設けないという考え方を明示することがふさわしいのではないかということでございまして,それを注記していただきたいということです。   理由につきましては,前回,申し上げたのですけども,要するに,賞与に関する支給日在籍要件というのが賃金に関して判例で認められているけれども,ここで報酬という形で包括的に書かれると,報酬の中には賞与が含まれるとすると,また,その議論の蒸し返しになってしまうのではないかという,非常に強い懸念がありまして,現段階でこれににわかに賛成するわけにはいかない,反対であると,そういったような趣旨でございます。 ○筒井幹事 前回の御意見については,専ら賞与が念頭にあるのだとすると,賞与については区別して考えるという判例の考え方によれば,このような規定を設けたとしても影響することにはならないであろうという理解の下に,注記は必要ないのではないかと考えたのですけれども,そうであっても注記をしてほしいという再度の御要望なので,他に御異論がないようでしたら(注)を付ける方向で考えたいと思います。 ○鎌田部会長 まず,関連した御意見を。 ○道垣内幹事 何の注記を付けるのでしょうか。設けないという注記なのでしょうか。それは佐成委員のおっしゃったことに対する過大な反応のような気がいたします。つまり,このルール自体の正当性を疑うのではなくて,このルールの適用範囲についておっしゃっているわけですよね。ならば,このルールの適用範囲について明確にすべきであるという意見があるとか,あるいは,こういう判例があるので,こういう場合には適用されないということが前提になっていると書くとかということならばよく分かるのですけれども,基本的なルールとしての1の(1)が動くとは私には思えないのですが。 ○佐成委員 要するに,この提案は「報酬を請求」となっていて,労働分野では報酬の中には賞与が含まれるというのが一般的な理解であるということを前提に異論があるということでございます。ですから,この提案自体に反対ということです。賃金とか,そういうことであれば,また,話は違うと思うんですけれども,報酬という形で書かれておりますと,確かにこのルール自体は分かるんですけれども,明文規定を置かれると,労働分野への影響が大きいのではないかということで,内部でとても容認してもらえそうもないものですから,そういう発言をさせていただいております。 ○山川幹事 どちらかというと,今,道垣内幹事の言われたことに同感で,むしろ,報酬の範囲の解釈問題,あるいはその報酬がどういう性格のものかということで,つまり,報酬というものの捉え方によっては適切でないという御意見かなと伺いましたので,お任せしますけれども,(注)の意味の在り方といいますか,どういう意味でのことなのかは,かなり逆に注意を要するのかなと思っております。 ○鎌田部会長 おっしゃられたとおりで……。 ○佐成委員 要するに明文規定を設けること自体に反対ということなので,正に規定自体に対する反対でございます。 ○鎌田部会長 反対する理由が,報酬とすると賞与が含まれるからだということですと,(注)には規定を設けないとだけ書いてあって,(概要)を読んでも,なぜ,そうなのかが一向に明らかにならないというのでは,パブコメの意見を出してもらう前提としても十分でないというふうな感じがしますので,仮に(注)を設けるとしてもなぜなのかということを書かなければいけなくて,それは,報酬ではなくて賃金とすればすむというような話なのかなという気もしますけれども。 ○佐成委員 すみません,発言させていただきます。賃金とすればいいということを申し上げているわけではございませんで,今,説明として分かりやすいだろうと思ったために申し上げました。ですから,ここは報酬ではなくて賃金になっていればと言ったのは,そう直せとか,適用範囲の問題とかではなしに,そもそも,このルール自体は分かるんだけれども,明文規定を置くこと自体について影響が大き過ぎるということでございます。賃金にすればいいということで内部的にメンバーの事前の了解を頂いているわけではないので,もし,そういう話になると,一回,持ち帰って,中で再度議論しなければいけなくなってしまうということでして,今すぐ了解ということは,大変申し訳ないんですけれども,私自身もできません。 ○鎌田部会長 その趣旨を踏まえて事務当局においてどう対応するか。 ○筒井幹事 実質が伝わればよいと思うので,(注)の書き方としては,(1)について規定を設けないという考え方があると書くとして,それについて(概要)で趣旨を説明するようにすれば意図は伝わると思います。二つの欄を利用した形での記述を何か考えてみたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○高須幹事 「委任」のところで2点でございます。丁寧な表現ということだけなのですが,一つ目が委任の終了に関する651条の記述のところの62ページでございまして,「委任が受任者の利益をも目的とする場合」うんぬんのところで,括弧書きで「その利益が専ら報酬を得ることによるものである場合を除く」と除外されていると。このこと自体は判例法理もあるところで,いわゆる報酬契約が特約で存在する,あるいは有償委任の場合でも,そのことだけで自由解除が否定されるわけではないと。   私もこの法理自体は当然だと思っているのですが,そういうことが全く説明のないまま,括弧書きだけを見ますと,利益がある場合はと書いてあって,でも,その利益が報酬を得るというだけだと別ですよということは,ずっと民法を勉強してきた人はその判例法理のことだなと分かると思うのですが,皆が皆,そう理解するかとなれば,必ずしもそうでもないような気もしますので,(概要)等には判例法理を前提としたものであるとか,あるいは委任の本質から照らして有償の場合でも,それだけでは否定されるものではないとか,何か,一言,説明を頂いたほうが分かりやすいのではないかと,やや,唐突ではないかという気がしたもので,検討していただければという程度でございます。   もう1点は「準委任」のところの64ページでございまして,今回,このような形での取りまとめになるということは理解をしておるのですが,この場合のブラケットで書いていただいた「受任者の選択に当たって,知識,経験,技能その他の当該受任者の属性が主要な考慮要素になっていると認められるもの以外のもの」,これもさんざん苦労して作った表現ですから,このこと自体にけちをつける気はないのですが,具体的にそれはどういう人が当たるのかの説明が全くなくて,弁護士会でも一定の事例を想定したときに,このケースはどっちなのだろうというようなところが,人によっては感覚が違ってくるようなものなので,何か例示みたいなものを(概要)なりに入れていただいて,こういう場合はこっちに当たるんだみたいなことでの御提案を頂いたほうが,パブリックコメントとしては丁寧ではないかと思います。 ○筒井幹事 御発言いただいた趣旨に異存はありません。ただ,そういった具体例を全て念頭においてそれらを適切により分ける基準を提示しているというよりは,抽象的な検討の中から得られた基準を差し当たりこのような形で言語化したものです。この基準については,御指摘のような具体例との関係で十分な検証を経ておりませんので,ブラケットで囲んで提示しているところですので,そういった問題意識を率直に伝えつつ,十分な意見聴取ができるように考えたいと思います。 ○山川幹事 今の高須幹事の御発言に関連してですけれども,この「準委任」につきまして,前回,大村幹事が指摘されて,それから,山野目幹事がまとめられた点との関連で,充実したパブリックコメントを頂くためには,このような形の中間試案になった背景といいますか,元々,役務提供契約の受皿規定がこの試案では抜けているものですから,その背景として役務提供契約というものにはいろいろなタイプがあって,種々の議論を踏まえて,信頼関係等に着目して,このような準委任の規定のほうで対応するということになったというようなことが書かれてありますと,今のブラケットの議論についてもパブリックコメントの中身に非常に反映されやすいかと思いますので,そういう形で,(概要),補足説明の問題ですけれども,御対応をお願いできればと思います。 ○鹿野幹事 先ほど高須幹事が御指摘になった二つの点については,前回,私のほうでも意見を述べさせていただきました。第1点の62ページの「委任契約の任意解除権」の丸括弧の中については,恐らく判例法理を変更する趣旨というではないとすると,それを補足説明で分かりやすく書いていただくことによって,御対応いただけるのではないかと思います。それから,もう一つの「準委任」のブラケットについては,この前,いろいろと御議論がありましたが,私から消費者契約がどうなるのかということについて問題提起をしましたところ,それは多くはブラケットで書かれたところに該当するのではないかという御指摘もございました。常にそうなるかがはっきりと決まったというわけではないかもしれませんが,そのような可能性等も含めて補足説明に書いていただければと思います。 ○大村幹事 一つ前の山川幹事の御発言と関係するのですが形式的なことを一つお尋ねします。「準委任に代わる役務提供契約の受皿規定」が全て取り上げられなかった論点になっております。この項目には補足説明が付くのでしょうか。これがこのままだと,何だか分かりにくいのではないかと思いました。同様に,後の話ですけれども,法定債権に関する規定をどうするかという点も,結局,項目が残っていません。それならば,どこかに取り上げなかった論点という項目として立てて,これらは2読では検討されたけれども,中間試案では取り上げられなかったということを書かれたほうがいいように思います。 ○筒井幹事 それは補足説明を作成する際の重要な工夫だと思いますので,検討いたします。 ○山本(敬)幹事 「委任」と「寄託」のそれぞれ「自己執行義務」に関わることについて意見を述べたいと思います。   まず,「委任」の59ページですが,まず,(1)については,前回のときも申し上げたことですが,104条を内容は維持して委任のところで定めるということですけれども,「やむを得ない事由があるとき」では限定の程度が強いのではないか。それに対して,前回,「委任者の許諾を得たとき,その他委任の趣旨に照らして相当と認められたとき」でなければ,復受任者を選任できないものするという案を申し上げました。考え方としてはあり得る案ではないかと思います。その意味では,注記をしていただければうれしいですし,それがこの段階では難しいとしても,あり得る可能性として補足説明等で指摘していただき,第3ステージで俎上にのせていただければと思います。しかし,可能ならば,いろいろな分野に関わる部分ですので,御意見を伺う可能性があったほうがよいのではないかなと私は思います。   それと,(2)についてですが,この内容自体はよろしいのですけれども,(概要)欄の一番下の段落で,本文(2)は107条2項のうち,復代理人と本人との関係似関する部分を委任の箇所に移動させるものであるとなっています。ただ,中間試案の今までの部分を見ましても,107条のほうは何も提案がないのではないでしょうか。つまり,107条のうちの復代理人と第三者との関係は維持するけれども,いわゆる内部関係に当たる部分は削除するのではないかと思いますが,それとも,107条はそのまま維持して,重ねて委任のところで(2)を定めるということなのか。それは混乱するのではないかと思います。その意味では,107条の修正提案がないといけないのではないかと思いました。それが「委任」に関する事柄の一つです。   もう一つは,「寄託」の取り上げなかった項目,75ページで一番上の「適法に再寄託がされた場合の法律関係」のイが,おおむね,それに対応するのではないかと思います。これは現行民法でいいますと,658条2項があって,そこでは,現行法の105条と107条2項を準用するという規定になっています。もし,107条2項を先ほどのように対外的関係と対内的関係に分けて,対内的関係は委任のところに移すとしますと,寄託の準用規定658条2項をそのままにすることはできず,むしろ,先ほどの「委任」の(2)に当たるものを「寄託」の場合についても準用するなり,同じ趣旨の規定を置く必要があるのではないかと思います。この点はまずどのような理解になっているのかという点を確認した上で,もし,内容に一致点が見られるのであれば,それをどう書き表すかということではないかと思います。この段階になってこのような指摘をするのも申し訳ないと思いますが,まずはお聞かせいただければと思います。 ○金関係官 民法107条についてまず御説明します。民法107条は,2項で復代理人は本人及び第三者に対して代理人と同一の権利を有し,義務を負うと規定していますけれども,山本敬三幹事の御指摘は,「本人及び」の部分は,内部関係の規定として委任の箇所に移るのだから,ここでは削除するという提案がないとおかしいという御趣旨だと理解しました。ただ,民法107条2項は必ずしも任意代理の場合だけの規定ではなくて,法定代理にも適用のある規定だと思いますので,少なくとも「本人及び」という部分を丸ごと削除することはできないと考えております。そうしますと,例えば「本人(任意代理の場合の本人を除く)」というような修正を提案する項目を一つ設けるかということになりますけれども,それを一つの論点として取り上げる必要はないだろうと判断しておりまして,今議論している論点の概要か補足説明で説明をすればよいのではないかと考えております。 ○山本(敬)幹事 法定代理の場合の本人と復代理人との間の関係として,例えばどのようなものが念頭に置かれているのかということをお聞きしたいというのが一つと,もう一つは,そのような考慮から107条2項を残すとしても,寄託の場合で適法に再寄託がされたときについて準用する規定は,両方というよりは,むしろ,委任に関して新たに規定されたものが準用されることにならないとおかしくはないでしょうかということですが,いかがでしょうか。 ○金関係官 一つ目の御質問は,法定代理人が復代理人を選任することはないという御趣旨でしょうか。 ○山本(敬)幹事 いいえ,そのような意味ではなく,107条2項で本人に対して同一の権利を有するというのが,権限があるということを示すだけと見ればよいのですか。107条2項を残して,どのようなルールが結局,残ったことになると見ておられるのかということを確認したかっただけです。 ○金関係官 直接のお答えになるかは分かりませんが,民法は104条,105条で任意代理,106条で法定代理……。 ○山本(敬)幹事 要するに,任意代理だけではないので,法定代理について何も規定がないことになっては困るという趣旨ですか。 ○金関係官 はい。 ○山本(敬)幹事 1点目は分かりました。しかし,2点目に関しては,むしろ,準用すべき規定は,そうすると違うのではないかと思いますが。 ○筒井幹事 その点は,御指摘いただいたことを示すために別に本文を立てるには及ばないように思いますが,問題意識は了解いたしましたので,それをどこかで紹介する形をとりたいと思います。 ○中井委員 山本敬三幹事が最初におっしゃられた「自己執行義務」,私のメモ20項ですけれども,審議の過程でもやむを得ない事由があるときだけでは狭過ぎるという意見がそれなりにあったのではないかと思います。山本敬三幹事からも一つの契約の趣旨という御提案がありました。ここではやむを得ない事由がある場合のほかに,委任者の利益のために正当と認められる事由があるとき,そういう例を挙げております。少なくとも注記に入れていただくだけの価値はあるのではないかと思います。   同じくそれに平仄を合わせる形ですけれども,「寄託」の「自己執行義務」の69ページですが,ここの(1)のイについてもやむを得ない事由に限られていますけれども,「寄託」の場合も「委任」の場合と同様に,場合によってはそれ以上にやむを得ない事由に限られないのではないかと思いますので,同じ考慮が必要かと思います。 ○筒井幹事 山本敬三幹事,そして中井委員からも御指摘がありましたので,よく考えようと思います。元々,弁護士会からの意見は,どちらかというとやむを得ない事由のまま維持したほうがよい,それを広げるのは余り適当でないという意見であったように認識しておりましたので,弁護士会だけではありませんけれども,実務界に消極的な意見が強いという認識がありまして,注記を見送っておりました。ですので,実務界のほうからそういう声が出てくるのであれば,(注)で取り上げることはあり得るように思いましたけれども,いかがでしょうか。 ○潮見幹事 私の認識も筒井幹事と同じですが,そのときに弁護士会の方々がむしろ懸念されていたのは,先ほど山本敬三幹事がおっしゃられたような委任契約の趣旨に照らしてという言葉で広げることに対する御懸念,危惧,これは休憩前にも出たところにも通じると思いますけれども,その辺りがあっての危惧だったと思います。その意味では,ここで中井委員が御説明になっている委任者の利益のために正当と認められる事由があるときという方向と,先ほど山本敬三幹事が言われたような形での拡張の方向というものが,果たして同じ方向を向いているのかということについては,なお,検討する必要があると思いますので,その辺りも含めて,この部分は検討の余地を残しているということが分かるような形で表現をしていただければ有り難いと思います。 ○山本(敬)幹事 私が今,申し上げた案は,前回,初めて申し上げたことですけれども,信託法を改正したときに,今,申し上げたような方向性がそこで示されていて,それをうまく受け止めるならば,民法でも懸念が生じないような形で書くことはできるのではないかと考えて申し上げました。ですので,それに対してどのような反応があるかということを少し見ていただいて,最終的に決めるというのがよいのではないかと思いました。もちろん,中井委員の挙げられた提案も,少し考え方は違うのかもしれませんし,同じかもしれないのですが,その辺りを踏まえて,更に検討するということでよいのではないかと思います。 ○筒井幹事 御議論を聞いておりまして,直ちに(注)で多くの人が納得するような案を書けるのかどうかに,やや懸念を持ちますので,その議論について十分紹介し,意見聴取をするということにさせていただこうと思います。実務界に根強い懸念があることもまた事実ですので,そういった懸念があることを踏まえて議論を紹介し,更に議論を続けることにさせていただこうと思います。その議論を紹介すべきところは,御指摘がありました「委任」のところ,それから「寄託」のところも中井委員から御指摘いただきましたけれども,それとともに104条もということになりましょうか。 ○山本(敬)幹事 そこまで含めて意見を募るというのがよいのではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○筒井幹事 分かりました。そういった議論があることを的確に紹介できるように考えてみたいと思います。 ○中井委員 メモの21項と23項,「破産手続開始による委任の終了」63ページと,「寄託」のところも同じ論点ですけれども,ここではアで解除したときの報酬請求権について,「既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる」と書かれています。これは破産債権としての権利行使になるはずで,開始決定後の行為についてはもちろん財団債権として行使できますけれども,そうだとした場合,ウの場合は,「その損害賠償について,破産財団の配当に加入するものとする」と。ここは平仄が合わないのではないか。現在の請負の642条のところは,報酬も損害賠償も破産財団に加入するものとするという定め方になっておりますので,ここの表現ぶりは確認といいますか,アのところも破産財団に配当加入で,破産債権ですねということを確認をしたい。そうだとすると平仄を合わせるべきだという意見です。   同じことが「寄託」の9,73ページ,(1)の最後,受寄者が,解除に代わる返還請求をした場合,受寄者は,履行の割合に応じて報酬請求することができるとありますけれども,これも破産債権としての権利行使になると思います。(2)では「破産財団の配当に加入する」となっていますので,ここも表現上の違いを設けた理由があるなら,その理由を教えていただきたいですし,仮にいずれも破産債権と考えているのであれば,同じ表現にするべきではないかという意見です。   それから,併せて9のところですけれども,寄託ということから解除という言葉は使わずに,返還請求できるという形にしたのだろうと思いますが,(2)の,返還時期より前に返還を請求した場合に,受寄者は「契約の解除によって生じた損害」となっています。解除を想定しないで返還請求できると定めるのであれば,その後も返還請求することによって,若しくはこれによって生じた損害の賠償を請求するとなるのが論理ではないかと思います。ここは寄託について,返還請求という性質が解除を要しないということを前提にして,破産手続が開始しても他とは異なって,返還請求という言葉を使っているんだろうと思います。その点はよろしいかと思いますが,今の(2)の一文の中に二つの言葉が入ることは,改めて検討していただく必要があるのではないかと思います。 ○岡委員 場所は同じところですが,違うコメントでございます。まず,「委任」の「破産手続開始による委任の終了」のところで,当然終了という現行法維持か,破産法の管財人の解除に委ねるか,こういう意見の対立を聴くことには賛成でございます。ただ,問い方についてでございますが,民法642条を「委任」にも「寄託」にも持ってこようという考え方だろうと思いますが,そこに根本的な疑問を感じております。   民法642条は注文者が破産になったときに請負人が仕事の途中であれば,まだ,報酬請求権が成立していないので,特別に破産の相手方に解除を与えた,そういう規定だと思います。しかし,委任あるいは寄託の場合にはいつでも解除できる,あるいはやめられるという条文が平時にあります。まず,「委任」のところだけいきますと,ア及びイのところで相手方に解除権を与える規定は意味がない,ダブっているので,普通の民法の規定で解除できるんだから,ここにこういう規定を置く必要はないのではないか。民法642条と平仄を合わせるのはむしろ間違いではないかという問題意識を持っております。   なおかつ,アとイについて破産管財人が解除できるという条文がありますが,これは(概要)を見ても,倒産法の解除権を確認した規定であると書かれておりますので,「委任の終了」のア,イについては当然終了ではなく,管財人の解除権に委ねるという選択肢を問うのであれば,当然終了の規定を削除する,削除したらこうなりますと,そういう規定の問い方のほうが正しいのではないかと感じました。ただ,今の段階でそうごちゃごちゃ直すのが大変だということになると,(概要)の辺りでかなりダブっているというのをきちんと説明していただければ,当然終了か,管財人の解除に委ねるかの問題点が明確になるだろうとは思います。それがまず第1点でございます。   第2点としまして,「委任の終了」の(注)の第2文で,財産の管理及び処分を目的とする部分に限るというのを当然終了説についてのみ書かれていますが,これは前回,山本和彦先生がおっしゃった点を採用したんだと思いますけれども,もし,アないしイの立場,当然終了ではなく解除権に委ねるという立場を採った場合でも,管財人の権限に属しない事項には及ばないというのが及んでくる意見だろうと思いますので,ア,イの書き方に私は疑問を感じています。もし,これを残すとしても財産の管理及び処分を目的とする場合には,当てはまらないというのが上に出てこないとおかしいのではないでしょうか,というのがまず「委任」についての意見でございます。   「寄託」のほうも基本的には一緒でございまして民法642条とは大分違う。寄託者が破産をした場合,相手方受託者は期間の定めがあってもいつでも解除できる,損害があったら損害賠償しないといけないけれども,やむを得ない事由があれば損害賠償に応じなくていい。相手方が破産になったら,その規定は適用されると思いますので,「寄託」の場合も民法642条の考え方を持ってくるのはおかしいのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 コメントはございますか。 ○笹井関係官 幾つか御質問いただきましたので,「委任」について御説明したいと思います。   まず,中井先生から,途中で終わった場合の報酬請求権が破産債権になるのではないか,5の(2)のアとウで平仄が取れていないのではないかという御指摘がありました。これは,委任の具体的な報酬請求権が,いつ,どのように発生するかということにも関わりますけれども,原則として,委任の場合には,請負と異なり,一部でも履行すれば,その部分について履行の割合に従って報酬が具体的に発生しますので,委任が中途で終わっても,その部分までは既に具体的な報酬請求権が発生しており,しかも一般原則によってこれは破産債権であると言えますので,請負と違って,特に規定を設ける必要はないのではないかと考え,破産債権であることを本文で明記はしておりません。ただ,中間試案を読まれる方にとっては分かりにくいということもあるかもしれませんので,補足説明などでは十分,その点に配慮したいと思っております。   それから,岡先生から2点頂いた御質問についてです。1点目は,委任は651条で解除できるから,受任者側に解除権を与える必要はないのではないかということだったと思います。ただ,651条自体は任意規定だと思いますので,それで排除されている場合にどうなってくるのか,また,651条2項で時期的な制約があって損害賠償が課せられる場合がありますし,また,今回の新たな提案によって損害賠償しなければ解除できない場合が規定されるかもしれません。651条が制約される場合であっても,破産した場合には解除ができるということを規定しておく意味があるのではないかということで,今,本文のような書き方になっているということです。   それから,(注)の第2文の「また」以下の表現ですけれども,当然終了説についてのみ財産の管理処分に限るということが書いてあるのは,おかしいのではないかということですが,この点については,解除権の行使という管財人の行為が介在すると,当然,管財人の職務の範囲内のものであるということが前提とされていることは明らかだと思いますが,仮に当然終了説を採りますと,解釈問題として解決できる可能性は十分あると思うのですけれども,場合によっては,財産の管理処分に関する部分に限るとは当然には読めないという指摘もあり得るのかもしれません。そこで,こういった書き方をしているということでございます。いずれにしましても,御疑問の点はよく分かりましたので,(概要)とか補足説明では十分対応したいと思います。 ○中井委員 最初の私の質問に対してお答えいただいてありがとうございます。アについても報酬請求権が破産債権であるということは確認できました。そうだとすると,それでアとウとの書き分けをすることについては,極めて違和感があると言わざるを得ないと思います。ウについては損害賠償ができるとなった上で,その損害賠償請求は破産財団の配当に加入するですから,平仄を合わせるなら履行の割合に応じて報酬を請求することができる,その場合は破産財団の配当に加入することができるというのが論理ではないかと思うので,あえて,それを記載しないのはなぜなのかというのがよく理解できない。   また,請負についても,途中までやって利益のある場合については報酬請求権があるという一般的規定も入るわけですから,642条の場合でも破産で解除された場合に,出来高についての報酬と,そのときの損害賠償請求は破産債権で,破産財団に加入できるというのが現行法の延長線上だと思うのです。整理として本文で分かるようにすべきではないか,補足説明で分かりやすく説明するという問題ではないように思われますので,再考していただければと思います。 ○山本(和)幹事 今のところはあれになるのではないでしょうか,契約の解除によって生じた損害賠償請求というのが契約の解除がもし原因だとすると,それは本当に破産債権かどうかというところに疑義があるとすれば,それについて確認規定をここで設けていると。それに対して報酬請求権は破産手続開始前に原因があるということが明らかであるので,それは明文規定としては要らないという笹井さんの説明と承りました。それはそれで一つの理屈としてはある。   ただ,読む人が破産法のそんな細かいあれまで気にして読むかという問題は多分あるので,そこは明確にということは理解できますが,(概要)等で書けば私自身はそれで明確になるのか,いずれにしても,破産法とそもそも民法の規定がどうダブっているのかという問題は前からあるところで,それが(概要)の一番最後に出ている,倒産法との関係に留意する必要があるというところだと思いますので,これはそのときにもう一度,議論する必要があるかなと思うということで,これからが私が言いたかった問題ですが,今のところの(2)のイのところなんですけれども,破産管財人の解除権が今回,前回の議論に従って入ったのではないかと思うんですけれども,この(概要)の説明を見ると,これは飽くまでも破産法53条の確認であるということなので,委任が有償の場合にだけ適用があるという前提かなと思ったのですが,他方,委任者の解除権というのは,有償,無償にかかわらず,解除ができるというのが従来のあれだったと思いますので,ここをこう並べて単純に書くと誤解が生じるような気もして,何か,破産管財人の解除は有償の委任に限るとかという限定が必要なのかなと,誤解を避けるためには必要ではないかなと思ったんですが,いかがでしょうか。 ○笹井関係官 破産管財人についての記載は,前回の資料で抜けておりましたが,それは破産管財人による解除を認めないということではなくて,破産法に基づいて解除すればよいという趣旨で書いていなかったんですけれども,重複をいとわずに書くべきであるという御意見もございましたので書き改めたということです。そういう意味で,議論の経緯からすると,これは有償の委任契約についての記載だと思いますので,そこを明確にするように書き改めるべきであるということであれば,考えたいと思います。 ○筒井幹事 実質においてそれで異論がなければ,そのように修正しようと思いますけれども,よろしいでしょうか。 ○岡委員 有償委任契約であれば双方未履行双務契約で倒産法で解除できると,無償であれば倒産法はそのままでは解除できない。でも,民法では,無償でも倒産法を飛び抜けた解除権を与えるという趣旨まではなかったんですか。 ○山本(和)幹事 私の理解では,委任者側からの解除権というは無償の場合でもあったと思うんですよね。受任者にそのままやらせておくというのは,破産した受任者ないし破産管財人にそのままやらせるというのは,適当でないという議論はあったと思うんですけれども,破産管財人側からの解除権というのはそもそも必要があるのかと,委任者の委任事務を求める請求権が財産上の請求権であるとすれば,それは破産債権にしかならないわけですよね。何も管財人が委任事務を自ら遂行する必要はない,金銭化されるものになるはずで,他方,その事務処理が財産上の請求権でないとすれば,管財人に対してそもそも請求できるのかという問題が発生すると思われますので,いずれにしても管財人の側からその解除権を認めるという必要はないのではないかというような議論だったのではないかと,そこも解除権を認めるべきだというのはあり得るのかもしれませんけれども,今までの議論からすれば,必ずしもそうではなかったように私自身は認識をしていました。 ○笹井関係官 部会の総意に従いたいと思いますが,部会の今までの経緯としては,和彦先生が,今,おっしゃったようなことではないかと思っておりました。いずれにしましても,この部分に関しては破産法との関係も留意しながら検討しないといけないところだと思いますので,そこで改めて検討されるべき論点ではないかと思います。 ○筒井幹事 この一連の規定について十分に審議が煮詰まっていないということは,繰り返し指摘を受けているところです。現在の案にも,それはそれで理由があるのですけれども,更に議論の余地があるということは理解しておりますので,基本的には現在の案文で中間試案としては御決定いただいて,(概要)欄で今後の検討について触れてはおくこととさせて頂きたいと考えております。 ○山本(和)幹事 そのこと自体は私は結構だと思うんですけれども,ただ,現状だとイについての叙述は先ほど私が申し上げたように,有償,無償との関係で委任者と破産管財人で違うということであるとすれば,コメントを求める場合も誤解を呼ぶのではないかという感じがするので,そこは何か明らかにしたほうがいいのではないかなと思っています。 ○筒井幹事 言葉が足りませんでしたが,その修正をした上でという趣旨です。 ○中井委員 今の点の確認ですけれども,無償の場合,委任者はいつでも解除できるわけですから,イの規律自体,今の和彦先生のお考えによるならば,頭に「有償の委任においては」と付ければ,それで解決しないのでしょうか。破産管財人からの解除は認めないということを明らかにする,委任者については特段の規定を設けなくても済むとすれば,イの頭に「有償の委任において」を付けることによって解決するのではないでしょうか,違うんですかね。 ○笹井関係官 委任者がいつでも解除できるというのは,651条に基づいてということでしょうか。そうしますと先ほど私が申し上げたのは,仮に無償であるとしても受任者の利益のためにされている場合なので,651条の交渉が制限されるというか,損害賠償を負わないといけないときにその損害賠償をどうするかとか,あるいは無償だったけれども,何かの特約でたまたま651条が排除されていたというときに,どうなるかという問題が残るのではないかという趣旨でございます。 ○中井委員 失礼いたしました。なるほど,そうですね。 ○鎌田部会長 それでは,ここは委任者と破産管財人とは違うことが分かるように記述を改めた上で,その他の点については原案を維持する,(概要)に若干の補足的な説明を付加するという取扱いとさせていただきます。 ○筒井幹事 補足ですけれども,少し前の中井委員の御発言で「寄託」の9(2)について,記述がおかしいという指摘を頂いたのは,全くそのとおりだと思いますので,そのように修正しようと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中井委員 「請負」の1の「仕事が完成しなかった場合の報酬請求権」の規律の(1)のイ,メモの17項ですが,前回,議論をしていただいて理解したつもりで,かつての,注文者側に生じた事由によるという言葉が,注文者が必要な行為をしなかったという形で具体化,分かりやすくしたということで承りました。   そのことは結構なんですが,天災地変などの免責事由が注文者にある場合にどうなのか,それであっても割合的報酬が得られるのか。同じ問題は「委任」の61ページ(3)のアの(イ)ですが,成果に対して報酬を支払うという委任契約に限った場面ですけれども,委任者が必要な行為をしなかったことによって事務処理ができなくなった,委任者が必要な行為をしなかったのが,天災地変のために行けなかったとか,情報提供できなかったとか,そういう場面でも受任者は割合的な報酬を請求できるのか。   ここは,そこまで認めていいのかということになお問題があるように思われます。それは注文者に酷ではないか。確かにその結果として請負人は報酬請求ができなくなるわけですけれども,本来,請負は仕事が完成しないと報酬請求できなかったわけで,注文者に免責事由がある,注文者側の事情,範囲内で起こったことかもしれませんけれども,天災地変のような免責事由のあるような場面まで割合的報酬請求ができると考えるのはどうか。   現在,イについては規定を設けないという考え方があるとなっていますから,今日の御議論を聞いていると,この規定の中に包括されて,そこで議論すればいいということになるのかもしれませんが,仮にイの規定を設けるとしても,注文者に免責事由のある場合,委任の場合であれば委任者に必要な行為をできなかったことについて免責的な事由がある場合,そういう場合については例外,適用しないという考え方があり得ると思いますので,(注)を置くことが検討できないかという提案です。 ○笹井関係官 ただいまの御質問ですけれども,中井先生のほうから,今,御紹介がありましたように,元々,この提案は「注文者に生じた事由」として御議論されてきた問題でして,注文者あるいは委任者に帰責事由がない,しかし,その支配領域内において生じた原因によって仕事の完成が不可能になってしまった,委任事務の遂行が不可能になってしまったという場面で,どういう報酬請求権が発生するのかという問題についての議論から発展してきたものです。注文者や委任者に帰責事由がないという場面でも,請負人なり,受任者なりが実際に仕事をしているので,その部分についてだけは割合的な報酬を認めてあげるべきではないかというのがここの提案の趣旨だと思っておりますので,そういう意味では,今,中井先生がおっしゃったように,全く帰責事由がない場面では報酬請求権を発生させるのは酷であるという考え方は,注記されている,この規定を設けないという考え方に包摂されるというか,その考え方そのものなんだと思います。   そういう意味では,中井先生が今,おっしゃった考え方を,注記されている。規定を設けないという考え方と並列するということは,必ずしも両者の関係という点が明確ではなくなるように思います。 ○中井委員 (3)は帰責事由のある場合は基本的に全部請求できると,では,残りは全部,帰責事由があるかないかの二分説なのかということなんですね。今の説明は二分説なんですね。帰責事由があろうがなかろうが,割合的には報酬請求できますよ,帰責事由がある場合は全部請求できますよ。でも,帰責事由がない場面でも,つまり,生じた事由というときは労働契約の場合は領域説的発想をしていると思うんです。その領域より超えた部分で発生したものについてまで,割合的報酬が請求できるとは思えない。   帰責事由と,天災地変とか,先ほどは免責事由という言葉を使っていましたが,これが全く同じことの裏表であればおっしゃるとおりなんですけれども,そこに幅があるという理解をしているんです。自分で言っておきながらですけれども,そこは幅が全くないんですか。 ○笹井関係官 帰責事由がないということと免責事由があるということとが全く同じ意味なのかどうなのかについては,もしかするといろいろ考え方があるのかもしれないのですけれども,注記にどこまで細かく書くかという問題とも関わってくると思いますので,そういう意味では,規定を設けないという考え方に包摂されるということでお許しいただければと思いますけれども。 ○潮見幹事 結論的には笹井関係官がおっしゃったことに私も賛成です。むしろ,恐らくここでお書きになろうとしていたのは,(3)で注文者に帰責事由がある場合を想定して,現行法の536条2項に直接に対応する場面を規律し,他方,イのところでは,注文者に帰責事由がない場合であっても,中井委員の言葉を使えば領域説的な思考を入れて,中間的な何か解決を図ろうという観点から,イのルールというものが作り出されてきているのではないかと思います。   イの領域説的な考え方がきちんと書かれているのかということは別に,そもそも仕事を完成するために必要な行為ということで表現し尽くされているのかということについては,個人的には若干,疑義があるところがありますが,それは措くとしても,今申し上げた中間的な解決をイのところで考えているということを(概要)のところで,これでもかなり表現はされているとは思うんですけれども,言っていただいて,それで,そのような中間的な解決というものが本当に必要なのかどうかという観点から意見を募るというのではどうでしょうか。   その中に,もちろん,こんなものは要らないと,つまり,注文者に帰責事由がないような場合についてまで何らかの特別の措置をする必要はないとかという意見があるのであれば,注記のほうで対応といいますか,そちらのほうに流れていっていただくということでもよろしいのではないかと思います。いずれにしても,イという枠組みを認めるにしても,実際に具体的に仮に条文にするときにどうするのかということについては,中井委員の発言にあったようなところも踏まえて,第3ラウンドでブラッシュアップすればいいと思います。 ○鎌田部会長 そのような処理でお許しいただければと思います。 ○中井委員 潮見幹事から御説明いただいたことが私の懸念ですので,二分説的に考えて本当にいいんだろうかと,これで表現されているんだろうかという疑問です。是非,そういう形で議論を続けていただき,(注)にしない趣旨は分かりました。 ○鎌田部会長 ほかによろしいですか。 ○潮見幹事 本当に細かいことで申し訳ありません。今,55ページ,「請負」ですが,「瑕疵担保」の2の(1)の「瑕疵修補請求権の限界」で,ここのゴシックの本文のところでは,修補という言葉が残っているんですよね。ここは意図的に修補という言葉を残されたのか,それとも,請負にもいろいろなタイプがありますから,ほかのところはみんな履行の追完だとか,何か,そういう形で言い換えているのですが,お任せいたしますので,趣旨に沿うような形で対応していただければと思います。 ○筒井幹事 中間試案では余り細かい表現ぶりに踏み込まないほうがよいと思うので,本文はこのままにさせていただいて,今の問題意識を説明として書き加えることにさせていただければと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか。よろしければ,続きまして「第45 組合」から……。 ○三上委員 11の「消費寄託」のところで,前回に期限の利益がどちらにあるかということで発言させていただいた内容を反映して(注)を入れていただいたわけですけれども,今回の提案はこれまでの考え方をある意味,180度,裏返すものであるということと,それから,現行法で消費寄託を使っている主な例が預金取引で,それ以外に何があるかということで,先日,仄聞したところによると商社間の石油等の資源の取引で,本来,消費貸借で行うところを印紙税との関係で消費寄託の契約形式を採ることが多いということらしいですが,この場合も消費貸借型の消費寄託ということで,預かる側が期限利益を持つ点で預金取引と同じです。そういう実務を前提に修正するということであれば,(概要)のところに「返還時期を定めている場合に受寄者がいつでも寄託物を返還できるとすることは妥当ではない」と,断言調で書かれてありますが,これも一つの意見に過ぎないのであって,そういう意見もある,しかし,これこれ,こうなので現状維持を注記に書いた,というような表現に改めるべきでないかと思いますので,御配慮を賜りたいと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○中井委員 「請負」のところで2点,メモの18と19項です。「瑕疵担保責任」57ページの(4),削除するとだけ書かれているんですけれども,この問題については反対意見もあったし,品質保証期間として再構成するという意見もあったと思いますし,ここは消滅時効がどのようになるのかという,その帰すうとも関係するのではないか。そこで,638条の削除を直ちにしていいのかは,もう少し慎重に検討する必要があると思われますので,(注)でそれを残すという提案をさせていただきたい。つまり,638条を削除しないという考え方,もう少し正確に言えば,消滅時効等の帰すうが決まって,更に検討するということなのかと思いますが,注記がないとすれば,少なくともそういうことをもう少し説明をしていただければと思います。   もう1点は,次の「3 注文者についての破産手続の開始による解除」ですけれども,中身については御修正いただいて異論はございません。ただ,ここの表記の仕方で,全体に言えることですけれども,規律を改め,これこれにするという書き方,それと,これこれの規律に追加して,こういう規律を設けるという書き方,それと,この規律を次のとおり改めるとして,一部,重複しながらも書き改めるというか,全文を書き改めるパターン,幾つかあろうかと思います。ここの3については規律を改め,642条の一部だけ取り出して書かれているんですけれども,分かりにくいのではないか,もう少し丁寧に次のとおり改めるという形で書きおろすほうが分かりやすいのではないかと思ったのが1点。   それと,これは原則は解除できる,しかし,完成しているときは,解除できないという規律のほうが分かりやすいのではないか。ここは完成しない間に限って解除できるという立て付けにしていますけれども,現在の条文と同じようにまずは注文者に破産手続が開始されたときには,請負契約は請負人から解除できるんだ,ただし,開始時点で完成していればもはや解除できませんという構成のほうが,完成しているのか,していないのかという立証責任も含めてですけれども,いいのではないかと思います。修文の問題と立証責任の問題とで検討いただけないかと思います。メモ19項の下線部を引いたのが提案でございます。 ○筒井幹事 「何々を改め,」という1文での書き方とか,「何々を次のように改める。」として文を分ける書き方とか,複数の書き方を使い分けているのは,それぞれ,それが適当であろうと考えたからですけれども,なお表現が分かりにくいという御指摘を受けたところについて,実質が変わらないように書き改めることを検討させていただこうと思います。そういった表現ぶりの細かい修正については,お任せいただければと思います。   638条の削除についての注記に関しては,この規定だけの問題でもなくて,637条の見直しとの関わりなどもありますので,実質的な御懸念を(概要)欄などで御紹介するという形で引き取らせていただければと思います。 ○道垣内幹事 「請負」の55ページ以下で,題名にどうしてここは瑕疵担保という言葉を残したのだろうとのが若干気になりまして,2の(1)も内容は修補請求権ですよね。瑕疵修補請求権となぜ書かなければならなかったんだろうかというのが若干気になるところでございまして,「売買」のところとかと平仄が合っていないのではないかという気がするのですが。 ○筒井幹事 もっともな御指摘だと思います。見出しについて適宜の修正をさせていただくということでよろしいでしょうか。 ○道垣内幹事 もちろん,それで結構です。 ○鎌田部会長 恐縮です,「第45 組合」から「第47 和解」までについての御意見をお伺いします。ここは特によろしいでしょうか。   よろしいということでありますと,以上をもちまして中間試案のたたき台の改訂版に関する議論は一通り終えることができました。時間が心配ではありますけれども,引き続き,部会資料60の「中間試案(案)」について御審議を頂きます。この部会資料60のうちの「第1 法律行為総則」から「第25 免除」までにつきましては,前回会議までの議論を踏まえまして,本文と(注)の修正案が示されていますので,まず,この範囲について御審議を頂きたいと思います。修正履歴付きのものが本日,机上配布されていると思いますので,それを御覧いただきますと前回の議論を踏まえた修正箇所が分かると思いますので,それを踏まえて一括して御意見をお伺いしたと思います。御自由に御発言ください。 ○潮見幹事 大きく修正されているところだけ,1点だけ,今日,席上配布メモを用意させていただいたところなんですが,変えてくれというつもりはございません。また,こういう観点から第3ラウンドで検討していただければという,そういう趣旨で御発言をさせていただきたいと思います。「契約の解除」,第11というのがございます。そこで,「1 債務不履行による契約の解除の要件」のところで,(2)のウがございます。以前に,岡崎幹事からだったと思いますが,ウが分かりにくいというような御指摘があったと思います。多分,分かりにくいというのは,この中にいわゆる一発レッドカード,つまり,債務不履行があれば催告なんて関係なく解除をすることができるという場合と,それから,催告の余地はあるけれども,相手が確定的にそんなものは履行しないと言い張っているという場合と,両方が入っているというようなことから分かりにくいところがあったのではないかと思います。   過去の部会,それから,部会に先行する各種の改正提案のうちの一部の中では,そうしたものを書き分けて示しているものがあったかと思います。そういう意味では,席上配布資料の2ページ目にありますような形で,これがパーフェクトだと決して私は思いませんが,このような形で二つあるということを何らかの形で(概要)のところに表現をしていただいて,その上で,こうした観点から分けて書くということを含めて,第3ラウンドで検討していただければと思います。   ついでに,(3)のほうに履行前というのを入れたらどうですかということは,今日,お配りされている資料に「履行期の前に」と入っているので,これはこれでいいかと思いますが,そういう意味では発言だけさせていただきました。 ○岡委員 席上配布で直ちに意見を言えと言われたのは初めてのことで,ざっと見ると,そんなに多くないので,それもしようがないのかなとは思いますが,頭が相当疲れておりますし,今日,全部,意見を言えないという心配もあります。今後の進め方を含めて何日か以内に意見があればメールで差し上げると,それを採用するかどうかは当局の御判断だと思いますが,そういうことの特例を認めていただきたいというのが一つございます。   それから,今,ざっと読む限り,右に吹き出しがある修正とない修正があるんですが,左側に縦棒があるのが修正が入ったところという理解でよろしいんでしょうか。それでいくと,一番大きなものは「弁済の提供」が復活したというぐらいが,かなり大きな修正という理解でよろしいんでしょうか。 ○筒井幹事 前回の会議で頂いた御意見について検討した結果として,このような修正をしておりますので,どれが大きいというのはなかなか言いにくいところですけれども,「弁済の提供」については,前回の会議で,おおむねこのような方向での修正でよいかとお諮りして,その方向に沿って修正・加筆したところです。   一つ前で岡委員から御発言があった点ですけれども,本日ここまで審議が進んでまいりましたので,できましたら,部会資料60の「中間試案(案)」に基づいて,本日の会議で取りまとめをお願いしたいと考えております。部会資料60のうち,既に審議済みのところの修正についてはこの場で御確認いただき,また,本日審議していただきました後半部分については,本日の議事の結果をその都度できる限り確認しながら進めてきたつもりですけれども,その最終的な反映は部会長に一任する形での取りまとめをお願いしたいと考えております。もっとも,本日の会議で言い漏らした御意見等がありましたときに,それを後日,お伝えいただくのはそれで結構ですし,それについては誠実に対応したいと考えております。最終的に本日の会議結果を反映させて,部会長に一任いただいたものを公表するに至るには,まだ一定の日数が掛かることになりますので,それまでの間に補足的に意見をお伝えいただくことは差し支えありません。 ○中井委員 私も,初見ですが,35ページの「保証人保護の方策の拡充」の(1)アの部分が,従来は単に貸金等根保証契約となっていましたけれども,被担保債権を金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務,いわゆる貸金等債務に限定をしたという修正がなされています。これは貸金等根保証契約の貸金等がなくなって,普通の売買代金債権等も含めた根保証契約について,本来的規定が変わることを想定して,限定をしたのかとも思われますが,前回,このような議論があったのでしょうか。 ○筒井幹事 御指摘がありました「保証人保護の方策の拡充」の「(1)個人保証の制限」のアのところは,これまでは単に「貸金等根保証契約」という形で,民法465条2で定義されている貸金等根保証契約という用語をそのまま無造作に用いていたのですが,貸金等根保証契約というだけではその意味が分かりにくいと思いますので,貸金等根保証契約という用語の意味内容を書きおろすこととしたものです。実質を全く変えておりません。   なお,前回の会議では,イにおける貸金等債務という限定を外してはどうかという御意見がありましたけれども,それについては従来の案分を修正せずに維持しております。その理由は,前回も申し上げましたように,コンセンサスが可能な案としては,このような限定が必要であろうということです。もちろん,議論の経過については,他の項目と同様に,(概要)欄等で説明することを考えております。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。 ○中井委員 今の点,趣旨は言葉を丁寧に書き改めたということで理解を致しました。ただ,そうすると,5の「根保証」のときの規律の適用範囲を拡大したとしても,ここの部分は直ちには連動しないという理解でしょうね。 ○筒井幹事 元々,連動するとは考えていなかったということです。 ○鎌田部会長 ほかの点はいかがでしょうか。 ○筒井幹事 今回の部会資料60の冒頭の(前注)に関して,私のほうからコメントしようと思います。前回会議での御議論で(前注)について何名かのメンバーから,中間試案がこのような形で取りまとめられるとしても,内容的に多くの論点についてなお異論があり,(注)が付されていないものであっても異論があり得ること等を明記すべきであるという御意見があり,それについて賛成する意見も複数あったと認識しております。他方,そのことを書き込むとした場合に,具体的にどのような案文とするのかについては大いに意見が分かれ,そのような内容の案文については,合意形成が非常に難しいということもまた明らかになったと思います。   ひるがえって,そもそも(前注)の役割ですけれども,今回の中間試案を踏まえて今後どのような議論がされていくのかといったことを,この中間試案の一部である(前注)で説明するのは,この文書の性格からして必ずしも適当ではないとも思いますし,また,そういった先例もないという問題もあろうと思います。   以上のことを勘案して,私どものほうからは(前注)の2について,前回の議論で,ここで取り上げられていない論点は今後も取り上げることは一切ないかのような誤読のおそれがあるという御懸念が示された点については,今回は修正した案文を提示しておりますが,更にこれに付け加えて,この部会での審議経緯などに関して一定のコメントをするような(前注)は,付さないという方針で案を御提示しております。   このような案を提示することは,私がこれまで発言してきたことを修正しようという意図ではありません。今回の中間試案の取りまとめに当たっては,「たたき台」を提示する際の事務当局の方針について,これまで繰り返し説明してまいりました。今後も,もちろん補足説明ではその点を明記しようと考えております。また,それに加えて,この(前注)に関して様々頂いた御意見の趣旨としては,パブリックコメントを実施するに当たって,そのような審議経緯が明示されていることが望ましいというものであったと思いますので,パブリックコメントの手続を実施する際には,事務当局の責任においてパブリックコメントの募集要領の中で,これまでの議論を反映した文章を盛り込む方向で進めたいと考えております。   今回の(前注)1と2は,以上のような検討結果に基づいて御提示するものですので,そういった趣旨をぜひ御理解いただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 ただいまの点も含めまして御意見がございましたらお出しください。 ○松本委員 事務局が配布されるカバーペーパーに,是非,きちんと書いていただきたいことがございます。それは,先週の本部会の冒頭にNHKがビデオ撮影をして,その日の夕方に早速流れたようでありますが,そこでの報道ぶりが余りにも中間試案とかけ離れた内容になっているという印象を受けます。私自身は個人保証の制限には賛成なんですが,ただ,この中間試案の書きぶりでは,言わば一番コンセンサスが低いという分類になっているわけです。すなわち,引き続き検討すると。どうなるか分からない,いずれ消えてしまうかもしれないようなニュアンスも含んでいる書きぶりです。甲案,乙案とあって,さらに,(注)でそうでない考え方もあると書いてある場合と比べると,「引き続き検討する」のほうが私にははるかに弱い書きぶりだと日本語的には思います。   しかし,NHKの報道は最初の報道ではなくて,これは後追い報道なんですね。最初の報道であれば誤解をしてというのもあり得るかもしれない。ところが,後追い報道するNHKが個人保証を認めないというのが部会の方針であるかのような報道をするというのは,本当に日本語を読めないのか,それとも,誰かが誤った説明をして,それを記者が真に受けているのか,本当に恐ろしい話だと思います。NHKですらそうなのだから,一般市民は一層誤解をするかもしれないですので,ここに書いてある中間試案のニュアンス等々については誤解のないように,十全の説明をきちんとしていただきたいと思います。 ○筒井幹事 パブリックコメントの募集要領に書くかどうかはともかくとして,ここでの議論のことを正確に報道していただけるように,必要な説明をするということは全く異存はございません。私はこれまでもそうしてきたつもりですが,引き続きそのようにしていきたいと考えております。 ○中井委員 (前注)について前回の審議において,一部,支持の意見もありましたけれども,反対の意見もあったという経過は十分認識しております。その上で,なお,(前注)にこの部会での共通認識を最小限,書けないものかということを願ってはいたわけです。先に筒井幹事から話されてしまいましたので,私が今回のメモで最後の24項で,更に修正の提案をお持ちいたしましたが,検討していただく機会のないのも残念です。意見の分かれていることを少なくとも残して,今後のパブリックコメント,そして,国民各層の意見を反映して,更に国民合意の得られるものを作っていくんだという,こういう姿勢を部会の意思決定として示すことは,非常に重要なことではないかと思っております。   この点を申し上げる前に筒井幹事からお話があって,なかなか共通の理解が得られるのが難しいとなれば,部会決定の中に入れることについて固執するものではありません。しかし,そうだとしても,今,お話がありましたように,パブリックコメントをするに当たって頭書きとして何らかの文章が作成されるのだろうと思います。そこに,今,筒井幹事がおっしゃられたような趣旨で,これまでの部会での共通の認識についてはきちっと書き込んでいただいて,この中間試案の位置付け等に誤解が生じないように,是非,配慮していただきたいと重ねて申し上げたいと思います。   それから,私のメモの25項にもう1点,書かせていただきましたけれども,今回,中間試案そのものと概要版と補足説明版が出ると聞いております。これは大変有益なことで,作業量は大変だろうなとおもんぱかっておりますけれども,そのときに部会決定されたものが中間試案であることについては明確にお書きいただくとともに,概要版の説明にしても補足説明にしても,それは事務当局の責任において作成されたものであって,部会の決定したものでないことについて,明確な注記を重ねてお願いしておきたいと思います。 ○村上委員 同趣旨の発言が既に何人かの方からされていますが,今回の中間試案には,部会で必ずしも意見が一致しているわけではないものがたくさん含まれていますので,そのことが報道機関その他,中間試案の読み手にきちんと伝わるよう,十分な御配慮をいただきますようにお願いいたします。 ○佐成委員 同じ部分につきまして前回も発言しまして,今,筒井幹事が御説明いただいたことで,一応,了解いたします。(前注)にそういったことを書くのは前例がないということでございますので,その点については了解いたしました。ただ,前回もあったかと思いますけれども,部会員全員が同じ方向を向いているわけでは全くないというところ,つまり,前回もありましたけれども,同床異夢の部分が相当程度あると,むしろ,同床異夢の中間試案であると私としては認識しているところでございます。   ですから,あるところで申し上げたこともあるんですけれども,暫定粗案,一種の取りあえずの暫定的な粗い案であると,そういったような認識で受け止めております。部会員の一人としてそう認識しております。皆さんがそう思っているというわけでは必ずしもありませんけれども,今回,取りまとめをするに当たっても,少なくとも私自身はそういった認識であるということです。客観的には中間試案として取りまとめられますけれども,一部会員としては主観的にはそういう認識であるということです。要するに粗いものが暫定的に取りまとめられたにすぎないので,中間論点整理の段階からどれだけ合意形成がされているかということについて,私はかなり疑問を抱いているという,そういう主観的認識を申し上げておきたいというのが一つです。   それから,もう一つは,非常に意見対立が激しい部分があるということをはらんでいるので,そういう意味では,一種の停戦協定みたいなものと,主観的にはそう感じております。ですから,第3読会でも反対すべきところははっきり反対させていただきますので,その点についてはよろしくお願いしたいということでございます。取りまとめには御協力させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御発言はよろしいですか。 ○松岡委員 今までの議論と全く関係ないことで恐縮ですが,パブリックコメントに向けて,この部会の議事録をできるだけ参照できるようにしていただきたいと思います。これを言うと自分に跳ね返ってくるので言いたくなかったのですが,部会での議論の結果が中間試案に結実しておりますので,議事録での議論の内容を検討できるようにしていただかないと,意見が出しにくいように思います。 ○筒井幹事 重要な御指摘を頂いたと思います。私どもも「たたき台」を作成する作業に入りまして以降,それをまとめるのに必死で他の作業が遅れていた面がありますので,今後は全力で対処したいと思いますし,これについてはメンバーの皆様の御協力を是非お願いしたいと考えております。 ○鎌田部会長 それでは,ただいままで頂戴しました様々な御意見を最も適切に反映できるような形での対処を事務当局に対して,私からもお願いを申し上げておきたいと思います。   本日,部会資料59,これが部会資料60の第26以下に当たりますけれども,この部分について御意見を頂戴しましたので,これにつきましては本日の審議の結果を踏まえて,事務当局において修正の作業をしてもらうことになります。その修正の作業が終わりますと,部会資料60,中間試案全体が完成するという形になりますけれども,部会資料60の記載内容に関する修整の御意見につきましては,かなり具体的なところまで議論をしていただくことができたように認識しております。どういった方向性で最終的にまとめるかについても,おおむね,御意見を頂けたと思っておりますので,それらを踏まえて修正の作業を進めさせていただくこととします。この修正の細部につきましては部会長と事務当局に御一任いただくということで,本日の会議をもって,この部会として中間試案の取りまとめを行ったという処理にさせていただければと思いますけれども,よろしいでしょうか。どうもありがとうございました。   それでは,本日の会議をもちまして,民法(債権関係)改正に関する中間試案の取りまとめが行われたこととさせていただきます。   この中間試案に関する今後の段取りにつきまして,事務当局から御説明を頂きます。 ○筒井幹事 誠にありがとうございました。今後のことについては,これまで中間試案の取りまとめだけに全力を注いできましたので,何もまだ具体的に考えることができていないのですけれども,差し当たり,パブリックコメントの手続の実施に向けて,まず,本日の会議で御一任いただいた内容を確定し,そして,(概要)欄の執筆と,それから補足説明を完成させることに全力を挙げていきたいと考えております。   パブリックコメントの時期については,本日の会議で中間試案の御決定をいただきましたので,予定どおり4月スタートにしたいと思います。前回の中間論点整理についてのパブリックコメントでは,意見募集期間として2か月間を取りましたので,おおむねその程度の期間を確保することを考えております。それについては,正式に決まりましたら,部会メンバーに御案内を差し上げた上で,法務省ウエブサイトで公表することにしたいと考えております。 ○鎌田部会長 先ほど御依頼のありました補足的な意見を出すという点については,いつまでというよりも可及的速やかにというような形になりますか,その辺について。 ○筒井幹事 今週中に頂けると有り難いですけれども,来週前半ぐらいであれば対応可能であると思います。その辺りを目途に,よろしくお願いいたします。 ○山本(敬)幹事 中間試案の公表は,そうすると4月1日ということなのでしょうか。それとも違うのでしょうか。 ○筒井幹事 4月1日にパブリックコメントを開始するといたしますと,その時点で補足説明まですべてそろっているようにしたいと考えております。その中で,中間試案本体については,セットでき次第,直ちに公表することにしたいと思います。中間論点整理のときと同様ですけれども,セットできた順に法務省ウエブサイトで公表していくという形で進めたいと考えております。 ○中井委員 パブリックコメントが4月から始まるということは理解をいたしました。そうだとしたときのこの部会の運営については何かこの後,説明があるんでしょうか。 ○筒井幹事 中間試案の取りまとめ以外のことは,現段階で頭の中が白紙だったものですから,直ちにお答えできることはないのですけれども,日程的には,4月第2週以降の火曜日をなお確保しておいてほしいというお願いをしておりまして,本日の時点ではそのお願いをなお維持したいと考えております。実際問題として,パブリックコメントの期間中に会議を開くのかどうか,開くとして何を議論するのかということについて,改めてよく考えた上で御連絡を差し上げるようにしたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,その点につきましても,委員・幹事の皆様方の今後の日程に大きく影響してきますので,できるだけ早く見通しを立てていただくことを要望させていただきます。 ○中井委員 4月の2週とおっしゃられたんですね。 ○筒井幹事 3月中の火曜日と4月第1週の火曜日については会議を開催しないということが,今日の時点で確定ということでございます。 ○鎌田部会長 したがいまして,次回の議事日程等はしばらく先になって御連絡を申し上げるということにさせていただきます。   相当,ハードな日程でこの議事を進めてまいりましたが,御協力いただきましたことに心より感謝いたします。第3ステージは,更に心配なところもございますけれども,パブリックコメントを踏まえて,進めさせていただきます。また,パブリックコメントの期間中にも,それぞれの委員・幹事の皆様,事務当局におかれましても,検討を進めていただければと思います。よろしくお願いいたします。   なお,三上徹委員におかれましては,今回でこの部会への御出席が最後になると伺っておりますので,この場で御紹介をさせていただきます。一言ありましたら。 ○三上委員 最後にこのような機会を与えていただきましてありがとうございます。1年間でございましたけれども,遠慮会釈はないのに誤解,曲解が一杯ある議論にお付き合いいただきまして本当にありがとうございました。その間に無礼な言い方ないしは不適切な表現を,法務省の方々にも,委員・幹事の方々にもたくさんしてしまったような気がいたします。そういったこともひっくるめまして,この席をお借りしておわびを申し上げたいと思います。   第3読会では,銀行界の紳士である三菱UFJ銀行の中原室長が出てこられると思います。この改正法が成る頃には,私は個人保証のできない一介の消費者になっていると思いますが,これだけ議論した債権法でございますので,今後,百年間,世界に誇れるものが出来上がると確信しております。本当に1年間,どうもありがとうございました。 ○鎌田部会長 では,以上をもちまして本日の審議を終了させていただきます。   本日も熱心な御議論を賜りまして誠にありがとうございました。 -了-