法制審議会 民法(債権関係)部会 第72回会議 議事録 第1 日 時  平成25年5月28(火)自 午後1時00分                     至 午後2時51分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第72回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。    (委員等の自己紹介につき省略)   次に,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○筒井幹事 事前送付資料として部会資料61をお届けしております。また,本日は机上にて,山本敬三幹事から提出されました「債権法の改正と民法典の編成」と題する書面を配布しております。このほか,以前の会議で,大村敦志幹事,山野目章夫幹事から提出されました民法の編成に関する意見書を改めて机上に配布しております。 ○鎌田部会長 本日は2月26日に開催されました第71回会議における中間試案の決定後初めて開催される会議となりますので,本日の審議に先立ちましてまず事務当局から中間試案の決定後の経過と,今後の審議の進め方について説明をしてもらいます。その後部会資料61の「第1 規定の配置」につきまして御審議を頂きたいと思います。   それでは,中間試案決定後の経過と今後の審議の進め方について事務当局から説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 御説明いたします。前回の第71回会議におきまして中間試案の部会決定を頂きました。その際,その当日の審議結果を反映させる作業について部会長と事務当局に一任されましたので,会議終了後,部会長の指示に基づいてその作業を進めまして,3月17日に中間試案を法務省ウエブサイト上で公表いたしました。   また,この中間試案につきまして事務当局から2種類の説明文書を公表する予定であると説明しておりましたけれども,そのうち「中間試案(概要付き)」につきましては3月19日に,そして「中間試案の補足説明」につきましては4月16日にそれぞれ法務省ウエブサイト上で公表いたしました。   そして,パブリックコメントの手続につきましては,当初4月1日スタートと案内しておりましたけれども,中間試案の補足説明の執筆作業が大幅に遅れました関係で,パブリックコメントの意見募集期間を4月16日から6月17日までと変更して手続を実施しております。   以上の経過につきましては,部会メンバーには随時電子メールによりまして事前に御連絡を差し上げてきたところですけれども,改めてこの会議の場で御報告いたします。   なお,パブリックコメントの締切りの日につきましては,先ほど申し上げましたように6月17日と設定されておりますけれども,各団体における機関決定の手続をとる関係などで提出期限に遅れることが見込まれる場合には,個別に御相談いただければ柔軟に対応するようにいたします。これは前回の「中間的な論点整理」についてのパブリックコメントの際の取扱いと同じでございます。これまでにも既に個別の問合せを頂いており,そのように回答してまいりましたけれども,それ以外の団体におきましても必要がありましたら個別に御相談いただきたいと思います。   次に,中間試案の取りまとめの審議の過程で,事務当局として幾つかお約束していた事項がございました。まず一つは,中間試案の部会決定に至ったといっても,個々の項目についてはまだ部会の中に意見の対立があり,パブリックコメントの手続を行うに当たってはそのことを適切に周知する措置を講ずることをお約束しておりました。この点につきましては,パブリックコメントの手続は電子政府の総合窓口,いわゆるe-Govというウエブサイト上で意見募集の公告をしておりますが,その意見募集要領の頭書きの部分の第2パラグラフにおきまして,この中間試案が確定的な案ではないことや,意見の一致を見ていない項目が少ないことなどを明示的に説明しております。   また,「中間試案(概要付き)」や「中間試案の補足説明」などの説明文書を公表するに当たっては,(概要)欄や(補足説明)欄の記載が部会審議の対象とされたものではなく,専ら事務当局の責任において執筆したものであることを明記することをお約束したところですけれども,その点につきましてもそれぞれの説明文書の表紙で,その真ん中の最も目につきやすいところにその旨を記載しておりますので,御確認いただければと思います。   以上のとおり御報告いたします。   次に,審議スケジュールにつきまして,現時点で可能な範囲でお伝えしておこうと思います。既に部会メンバーには電子メールにて5月,6月,7月の会議開催予定の御連絡を差し上げておりますけれども,今回のパブリックコメントの手続を踏まえた第3ステージの審議につきましては,7月16日の会議から始めることにしたいと考えております。   今回のパブリックコメントの詳しい結果報告につきましては,9月以降になると見込んでおりますけれども,7月16日と7月30日に予定されている2回の会議など,パブコメの結果報告前の会議におきましては,その会議で取り上げるテーマに限定したパブコメの結果の速報版を用意いたしまして,それに基づいてパブコメの結果を踏まえながら審議していただくことを考えております。   第3ステージの具体的な審議スケジュールにつきましては,パブリックコメントに寄せられた御意見を十分斟酌した上で,7月16日の会議で御相談したいと考えております。   なお,8月以降の会議日程につきまして,8月27日以降の火曜日の全てを対象として日程確保に御協力いただきたいとお伝えしているところですが,現時点においてもその見通しは変わっておりませんので,引き続き8月27日以降の火曜日の日程確保に御協力いただきたいと思います。   他方,5月と6月につきましては,本日と,それから6月18日に会議を予定しております。この2回の会議は第2ステージにおける審議の補充と位置付けようと思います。本日の会議では部会資料61におきまして規定の配置という問題を取り上げておりますけれども,これは中間試案では取りまとめの対象とはしなかった事項ですので,中間試案のパブリックコメント期間中に補充的に審議するのにふさわしいテーマではないかと考えて,このような準備をいたしました。   また,6月の会議では,中間試案において引き続き検討するとされた事項のうち,保証に関して,引き続き検討すべき課題を整理するような審議をお願いしようと考えております。パブリックコメントの手続中ですので,結論を固めていくような審議をするタイミングでないのは当然のことですけれども,例えば保証人保護の方策のところでは,いわゆる経営者といった表現にとどめて,その中身についての議論に踏み込んでいない項目がございます。そういったところについて,あり得べき選択肢を挙げて,それぞれのメリット,デメリットなどを整理するような機会を持てればと考えております。   このほか,6月の会議では準備の都合上まだ確定的ではありませんけれども,弁済による代位について中間試案の取りまとめの過程で新たに提案された事項について補充的な議論をすることなどを考えており,これについて6月の会議の事前送付資料としてお届けしようと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいまの説明につきまして御意見御質問ありますでしょうか。   よろしいですか。 ○佐成委員 中間試案の,一番最後の取りまとめのときに,私が最後のほうでいろいろ申し上げました点につきまして,適切にそれらの点について御配慮いただいていること,要するに,まだ意見対立があるというところを適切に御配慮いただいていることにつきまして非常に感謝申し上げたいということを一言申し上げます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにはいかがでしょうか。   よろしければ,本日の審議に入りたいと思います。部会資料61の「第1 規定の配置」について,事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 それでは,「第1 規定の配置」について御説明いたします。   民法典に置かれている規定をどのように配置するかについては,この部会で検討されている論点について最終的にどのような内容の改正がされるか,結論が出た段階で改めて検討する必要がありますし,法制的な観点からの検討が別途必要になりますが,本日は,現時点での議論状況を踏まえて,規定の配置についてのお考えをお聞かせいただければと思います。   本文の1では,規定の配置に関する具体的な問題の一つ目として,債権総則と契約総則に含まれる規定をどのように編成するかという問題を提起しております。債権総則と契約総則に含まれる規定,特に債務不履行に基づく損害賠償と契約の解除に関する規定が異なる場所に配置しているのは分かりにくいという問題意識には,この部会の内外で一定の支持が見られるように思います。   このような問題意識を踏まえて,債権総則と契約総則をどのように再編するかについて,これまでの審議では,例えば,債権総則と契約総則の区別を維持した上で,まとめて配置することが特に望ましいと考えられる部分に限って統合するかどうかを検討するという方法,債権総則と契約総則を一体化するという方法,現在の債権総則の規定を専ら契約債権を対象とする規定に改めた上で,契約総則に属する規定と併せて配置するという方法などが検討の俎上に上りました。   これらの編成方法については,体系的な整合性,分かりやすさ,現在の編成との継続性などの観点から,それぞれ長所と短所があると思いますので,どのような編成方法が望ましいか,御議論いただければと思います。   本文の2では,民法典全体をどのように編成するかという問題と関連するものの少しレベルの異なる問題として,個別の規定をどこに設けるかという問題を取り上げています。今般の改正により,これまで民法に規定のなかった項目について規定が設けられるとすると,その規定をどこに配置するかが問題になります。中間試案で取り上げられている項目のうち,これまでの民法にない新たな規定として(1)から(10)までに掲げたようなものがあり,これらの規定が設けられた場合にそれをどこに配置するかについて御審議いただきたいと思います。   それぞれの規定の配置を検討するに当たっては,そもそもこのような規定を設けることに反対であるという意見もありますが,ここでは飽くまで仮にその規定を設けるとすればどこに配置するかを中心として御議論いただければと思います。   本文3では,本文2と同様に個別の規定の配置を問題とするものですが,現在の民法に置かれている規定のうち,第3編第1章第1節の「債権の目的」に含まれる規定をどこに配置するかを問うものです。これらについては現在債権編の冒頭に置かれているものの,債権の内容に関する事項を網羅的に規定したものではないことなどから,債権編の冒頭に一括して置くのは適切ではなく,それぞれの内容に則してより適切な位置に置くべきであるとの指摘もあります。仮にこられの規定の配置箇所を見直すとすればどこに配置すべきかについて,御議論いただければと思います。   以上のほか,規定の配置についてどのような問題があるかについて御意見がありましたら,この機会に伺いたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明がありました部分につきまして御審議を頂きたいと思います。ただいまの説明では,あるいは部会資料においては,1から4までの四つの課題に分けて記述されておりますけれども,取り分け1の言わば総論的な課題と2,3はかなり密接に結びついていると思いますので,あえて分けて議論の対象とせずに,一括して御意見を伺おうと思いますので,全体につきまして御自由に御発言ください。 ○中井委員 この後,山本敬三先生からいろいろお話があるのだろうと思いますが,その前に少し確認をさせていただきたいのですけれども。それは,山野目幹事から前に出していただいた資料の冒頭に「考察の前提」で書かれている部分に関連する事柄です。この編成に関してここで議論することの意味を確認というか教えていただければと。   つまり,山野目先生も後段で御指摘がありますけれども,当部会において中心的に調査,審議すべきは,望ましい債権関係規定の規律の内容そのものなのだろう,正に御指摘のとおりかと私も理解しております。中間試案にもこの編成の問題については全く論点として提示もせず,パブリックコメントの対象にもしていない。ひょっとしたら諮問の対象外なのか。諮問の対象の内容と密接不可分に関連していることは言うまでもないとしても,この編成の位置付けについてここで議論した成果が今後どのような形で,要綱の中に入るのか。入ったとして,その後法案作成についてはこの審議会の仕事ではなくて,法制局も含めた法案作成の担当部署における作業になるのか。   本日,この議論をする基本的な位置付けと言いますか,その辺りについて事務当局からお教えいただければ,また私としては山野目先生からもここに御示唆いただいたことについて御意見お聞かせいただければ有り難いなと,こう思っております。 ○鎌田部会長 その点につきましては事務当局から基本的な考え方を説明してもらいます。 ○筒井幹事 御質問ありがとうございます。   編成に関する議論の持つ意味について,私自身この部会の審議が始まってから必ずしも十分な説明をしてこなかったところがありますし,ときには多少混乱したことを申し上げていたかもしれません。お尋ねがありましたので,中間試案の取りまとめがされた現時点で,改めて私の考えを申し述べたいと思います。   法制審議会の民事系の部会におきましては,従前から,実質的な内容に関わること,これは法制審で決定すべきであると考えられていたと思います。そして他方,専ら法制上の問題については,答申があった後の法案作成の作業の過程で精査されていくことである,こういう整理でこれまでの審議が進められてきたのではないかと思います。そのような基本的な整理については,この部会においても全く同じなのであろうと思います。   ただ,前回この編成問題に関して議論したときに,確か山本敬三幹事からだったと思いますけれども,民法における規定の配置は個々の規定の実質に大きく関わるのだという御指摘がありました。そのこと自体は全くそのとおりであろうと思います。そういたしますと,先ほど申しましたように,実質的な内容に関わることは法制審で議論する,専ら法制上のことはその後の法案作成作業の中で考えると抽象的に色分けをしたとしても,具体的にどこまでが部会の審議の対象になるかといえば,そこにはグラデーションがあるのであろうと認識をしております。   そして,法制審における過去の様々な部会の審議を振り返ってみましても,要綱案を作成する段階では,それぞれの項目をどのように配列するのかといった点についても,それは審議の対象として議論をしてきたのではないかと思います。どの項目が前にあったほうがよい,後ろにあったほうがよいということについては,御意見を伺ってそれで確定させてきたのだと思います。もちろん,答申の後に専ら法制上のことであるという理由でそれを修正することはあり得たわけですけれども,基本的には,要綱案の配列についても部会で十分議論するべきであろうと思います。   ですので,この部会におきましても,中間試案では各項目の配列自体には特段の意味はなくて,専ら中間試案を理解していただくために便宜と考えられる配列にすると説明してまいりましたけれども,最終的な要綱案につきましては,配列についても御意見を伺いながら進めていきたいと思います。   その上で,最終的な条文とこの部会での議論とが完全に一致するのか,ずれを生ずることがあるのかといったことについては,これは第3ステージの議論の進め方に大きく関わってくるのだろうと思います。私どもとしては,できる限りそういったずれが生じないように審議を進めていきたいと考えております。ここでの議論の成果が最終的な条文の形に結び付くように進めていきたいと思いますが,それは第3ステージの審議の進め方との関わりで,また改めて話題にさせていただこうと考えております。 ○鎌田部会長 そういうことでよろしいでしょうか。   それでは,ほかの御意見を頂戴しますが,山本敬三幹事から本日特にペーパーも御用意いただいているところですので,まず御意見を頂ければと思います。 ○山本(敬)幹事 まとまって申し上げるほどのことはありませんが,今回お配りさせていただいたものは,冒頭にもありますように,2010年12月14日にお出しした意見書を基に,その後の議論の推移等を踏まえて加筆,訂正を加えたものでして,大筋は全く変わっていません。   若干付け加えた部分というのが,今日の1点目に指摘されているところと関わります。つまり,債権総則と契約総則の関係をどう整理すればよいのかという点について,少し補充して書かせていただきました。今日お配りいただいたもので言いますと,8ページ以下に書いている部分です。結論は変わっていないのですけれども,あり得る可能性を含めて少し補充して説明しています。私自身の結論は,今日の部会資料の中で二つ考え方をお挙げいただいていたうちの前半と同じで,債権総則と契約総則を現行法のようにパンデクテン・システムに従って分けて規定するよりは,もう統合してよいのではないか,そして,統合するとした場合に幾つかの統合の仕方はあるけれども,「債権及び契約総則」として書いていくのが望ましいのではないかということです。これは,前回でも結論として同じことを申し上げています。   可能性としては,債権総則と契約総則を一応現行法の編成と同じように分けた上で,部会資料でも指摘されていますように,中身については契約を念頭に置いて,あるいは契約という発生原因に基づいて内容が規定されてくる部分はむしろ契約に関する規定として定めるのが適当ではないか,そうすると,むしろ契約総則に契約に関わる基本原則を含めてたくさんの規定を置くのがよいのではないかという考え方があり得るところです。そのほうが,現行法の編成が形の上では一応維持されていますので,現行法との接続という点でもスムーズではないかという考え方があり得ます。しかし,それは何を意味するかと言いますと,債権総則からたくさんの規定が契約総則へ移るわけでして,債権総則と言いながら,例えば債務不履行の損害賠償責任に関する規定などが債権総則に書かれずに契約総則に書かれているという事態になります。これは,債権総則と言いながら,重要なルールがそこにはほとんど書かれていないことになってしまいますので,パンデクテン・システムを維持しているように見えながら,全く維持していないということになる。それならば,そのような変則的なことをせずに,債権総則と契約総則を統合して規定するのが,実質的にも,そしてまた見た目の分かりやすさという点でも望ましいのではないかということを補足して書いています。要するに,私は,10頁に書きましたように,民法総則は別の理由から残した方がよいと考えていますが,債権総則と契約総則に関しては現在のパンデクテン・システムを墨守する必要はないと考えています。   今日の部会資料では,二つ目の考え方として,まずは契約について規定をし,その上で契約以外について準用するかどうかは別として,契約とは別のルールを後ろに置くという考え方も挙げられています。これはより一層ラディカルにパンデクテン・システムから離脱するということで,考え方としてはもちろんあり得るわけですけれども,しかしそれで本当にうまく規定できるかどうかが,恐らく後でも議論が出るだろうと思いますが,問題になるだろうと思います。債権総則の債権の内容や効力に関する問題は,まだそれでもいけるかもしれないと思うところはありますけれども,債権の保全に関する問題や契約上の地位の移転とか債権譲渡,あるいは多数当事者の問題を契約に関するルールとしてまず定めるというのが本当に適当なのかどうかは,やはり問題として残るのではないかと思います。この点は,後で議論になればまた補足したいと思います。   ほかにもありますけれども,差し当たり以上のとおりです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,今御指摘のあった第2の考え方に属する見解を御支持される委員,幹事の方からの御発言がありますと議論がしやすいかと思うのですけれども。 ○大村幹事 山本幹事の御意見を踏まえつつ,全体について意見を申し述べたいと思います。   まず,出発点なのですけれども,規定の配置については,様々に関わりを持つ,言わば立体的な構造を考えざるを得ない法規範相互の関係について,条文という形をとって番号をつけて記述する以上,規範間の全ての関係を記述し尽くすということは困難なことであると考えております。結局,あるところを強調し,あるところについては目をつぶるという形で,相対的に望ましいものを選択するということにならざるを得ないと認識しております。ですから,ある考え方が理論的に完全であって,他の考え方がそうでないという問題ではないのだろうと思っているということをまず申し上げておきます。   その上で,最後は法制上の問題もあろうかと思いますけれども,問題を考えていく際に制約になる事柄がどういうものかということについて感想を述べたいと思います。   山本幹事からパンデクテン方式をどのぐらい崩すのかという御発言ありましたけれども,そもそも理想的なパンデクテン方式というのは一体何なのかという問題もあると思っております。仮にパンデクテンの編纂方式を採るとして,それを純化した書き方というのがどこかの法典で実現しているのだろうかという問題であります。日本の現行民法の債権総則が本当に全ての債権に一般的に当てはまるような規定を集めたものかというと,それは必ずしもそうではないのだろうと思います。他方,ドイツ民法典については,最近の編別がどうなっているか不勉強で正確に申し上げることできませんが,ドイツ民法典の債権編の編成についても十分に純化された形になっているのかという問題があるように思います。ですから,現在あるものを崩してはいけないとか,あるいは,ほかの在り方がおよそあり得ないということはないのではないかと思います。   ここまでが前置きですけれども。その上で,事務局が示してくださった三つの考え方のうちのどれかということなのです。私は山本敬三幹事がおっしゃった第2の考え方というのは一つの考え方だろうと思います。それから,第3の考え方,契約に妥当する規定に純化した形で契約総則を置くとする考え方ですが,これもあり得る考え方だろうと思います。   最終的に第3の考え方が無理ということであれば第2の考え方でもよろしいと思うのですけれども,第2,第3の差がどれぐらいあるのかということも意識したほうがよいと思います。仮に債権と契約の双方に関する総則を考えて規定を置くとしたときに,そこに置かれた規定の適用範囲が問題になると思います。そこに規定を置いた以上は例えば法定債権のところにはもはや規定を置く必要はないのだと考える必要はなくて,法定債権のほうにより明確なルールを置いたほうが契約に関するルールと法定債権に関するルールの適用関係が分かりやすくなるということであれば,そちらにも規定を配置するということは十分にあり得るのだろうと思います。ですから,第2,第3の考え方は理念型としては両極にあるのかもしれませんけれども,実際の選択としてはその間のどこかに着地するということがあるのではないかと思っております。   そして最後ですけれども,これは山本さんにお伺いするというか補足をしていただきたい点です。ここで言われている第2の考え方,債権と契約とに共通の総則を設けるという考え方は,現在の日本民法典からは確かに少し離脱することになると思うのですけれども,ドイツ民法典の元々の考え方からするとそれほどおかしいのかと言えば,私は必ずしもおかしくないような気もしています。釈迦に説法であるわけですけれども,債権総則と債権各則という区切りになっていて,契約総則と言われているものはどちらかというと債権総則のほうに属していたのではないかという印象を私自身は持っております。第2の考え方に立つとして,具体的にどのように編成するかということは問題になるとは思います。しかし,仮にパンデクテン方式を維持するとしても,これは選択可能な考え方なのではないでしょうか。少なくともここまではいって,更にどこまでいけるのかを考えるべきではないかと思います。 ○鎌田部会長 関連してどうぞ。まず基本的な考え方についてほかの御意見をお持ちであれば出していただく,あるいはただいまのような見解に対する御質問等があればそれを出していただくということで議論を進めさせていただければと思いますが。 ○山野目幹事 2点申し上げます。   1点目は,議論の仕方のことですが,第1の考え方とか第2の考え方というのが皆さんおっしゃっているときに同じものを指しているのかどうか少し心配です。少なくとも自分はこういう言い方をさせていただきたいのですが,部会資料2ページの「(2)具体的な考え方」の冒頭に出てくる現行の規律配置の基本イメージを維持する考え方が0番の考え方であり,これに対し,2ページの下のほうにある第1の考え方が第1の考え方で,3ページの冒頭にある第2の考え方が第2の考え方という呼び方を差し当たりさせていただきます。   内容のことに関して申し上げれば,大村幹事がきれいに整理なさったように,どの考え方にも得失,メリット,デメリットがあるものでございまして,完全無欠の提案というものはない,という前提でそれぞれの比較をしていかなければならないものであろうと考えます。それはこれからここで委員,幹事の間で御議論いただいてよろしいと感じます。   私が差し当たり一つ心配であることは,第1の考え方ないし第2の考え方を採ったときに,法定債権に関する規律を置く部分のパートというものが従来よりも光が当たってその役割が大きくなると言いますか,あるいはより工夫を凝らして編成をしなければならないことになると想像しますけれども,その内容がどのような編成になるかが少しイメージがつかみにくい部分があります。どうしてもこの部会では債権関係の規定中,契約に関する部分の議論に熱が入って議論が進められてきていますけれども,この編成の問題を考えるときには法定債権に関する規律の中身についてある程度のイメージの見通しを持って議論をしないと,0番ではなくて第1,第2に進むのだとする際に非常に無責任な議論になりますから,そこのところは若干考え込んでおかなければならないのではないかと思います。   もっと具体的に言うと,法定債権という言葉の意味ですが,事務管理・不当利得・不法行為のことを専ら指して法定債権とおっしゃっているのかもしれないであろうと感じますが,実は民法全般を見回すと,事務管理・不当利得・不法行為の規律が少なくとも直接必ずというふうに適用されるとは限らない債権関係というのが幾つかあるものでありまして,相隣関係の場合の償金であるとか,遺失物拾得のときの報労金であるとか,占有回収の訴えの損害賠償であるとか,盗品や遺失物の即時取得のときの弁償金の給付とかいったようなものの法性決定を見通さないまま事務管理・不当利得・不法行為のところのみ念頭に置いて法定債権の規律を作り上げて,その他のいろいろな雑多な債権関係の形成,規律に関する手当てが落ちてしまうような事態が法典編成上起こるということは困るものでありまして,その点も見通してこの編成の議論をしなければならないのではないかと感ずる部分がございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見いかがでしょうか。 ○岡委員 弁護士会には0番,1番,2番の意見全部ございました。それに加えて,実務家としてはしっかり書いてくれたらちゃんと使うのでお任せしますという人もいました。   2番については,やはり今,山野目先生がおっしゃったような法定債権に関する総則を多分作らないといけなくなるのではないですか,契約総則があって法定債権がくるのであると,法定債権の総則というのを作らないといけなくなるけれども,それは全然議論してないではないですか,それを今やるのは無理ではないか,こういう意見がかなり強くて少数説になっておりました。   それから,1番の考え方は,山本敬三先生のこの最後の章の考え方でありますとか,ドイツ民法のように契約総則をこの中にボコンと入れるやり方,二つが1番の考え方としてあるのだろうと思います。私は個人的にはこの案が分かりやすくていいのではないかと思います。実務的にこの山本敬三先生の案を見ますと,詐害行為取消権にしても弁済にしても債権譲渡にしても,契約による債権がそういうところに適用されていくのですよということが実務的にも分かりやすくなるのではないかと思います。   あと,損害賠償と解除がくっつくのも分かりやすくなると,そういう観点からこの1番の考え方が大筋としていいのではないかということを申し上げたのですが。最終的には多数説にはなっておりません。   その反対の理由というのは人によっていろいろありましたけれども,この債権及び契約の総則のところに契約とそれ以外のルールをどうせ書くことになるのではないか,そうなるとやはり法定債権についての総則というのを書き込むことになるのではないか。そうしたらやはりその議論が余りこの部会ではなされていないので,できるのか,無理ではないか,そういう意見が出て少数説になっております。   最終的にはこの0番の考え方,従来の考え方を維持してやるしかないのではないか。先ほどの法定債権に関する総則というのを一番ごまかせるという結果になることが一つと。それから,やはり民法改正そのものに反対をしている方々がいらっしゃる中で,こういう順番のところで強行する具体的な意味がどれほどあるのかと。先ほど筒井幹事も並べ方が意味に関わるとはおっしゃいましたけれども,まあそれほど大きく関わるものでもないのではないか。そういう観点から,0番の考え方,従来の考え方を維持するというのが実務家から見ると一番安心できると,そういう考え方が多数であったように思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見いかがですか。 ○中井委員 岡委員から,弁護士会は三つの意見に分かれているという御紹介があったとおりです。この0番を支持する方々から出た意見としては,先ほどの私の最初の質問とも関わるわけですけれども,中間試案では各具体的規定の内容について提案をして意見を広く聞いているわけですけれども,この編成に関してはパブコメの対象にもしていません。それをしないままに第3ステージに入った,第3ステージで編成に関して一定の意見をこの部会で形成するなら,中間試案で今回の論点出しとともに,この編成についての一定意見を広く聞く,こういう必要性があったのではないか。それをしないままにこの編成の問題を第3ステージで議論して,具体的色付けをした提案をしていくということが果たして適当なのかという疑問が出されました。もちろん,その点は第3ステージの結果を踏まえて,議論すれば足りると言えば足りる話なのかもしれませんけれども,真ん中を飛ばした形で最終形が出ることに対する疑問です。   そこをどのように理解したらいいのか。それは,具体的な内容について議論を尽くしてここで提案をするということと,編成の問題は密接不可分ではないかと思うからです。今岡さんから,先ほど筒井さんからは余り具体的内容と編成の問題は関係がない,中身に合理性があれば編成の問題は立法作業の問題として任せていいのだ,こういう考え方もあるのかもしれませんが,それはどうかな,と思うところがあるわけです。   ただ,中間試案で提案したもの以外第3ステージで議論しないのかと言うと,そういう合意はないわけですから,中間試案として出したもの以外について新たな論点が出てくれば議論するのは当然,編成の問題も密接に関連するならそれを議論するのは当然という考え方もあるので,ただちに私の申し上げたことが適切なのかどうか,自分で言いながら疑問に思うところもあるのですが,結構多くの弁護士会から今申し上げたような疑問が出されたことをやはり御紹介しておきたいと思います。   それについてどう考えたらいいのか,教えていただければ,各弁護士会に対して御説明申し上げることもできますので,意見と言いますか質問も交えて申し上げました。 ○鎌田部会長 今の点に関連して御意見御発言があればまずお伺いしておきたい。 ○中田委員 弁護士会の御懸念はよく理解できます。ただ,ここではやはり内容を決めていくことが重要で,その内容についてパブリックコメントの結果などを踏まえて修正を施しながら確定していく,そうやって決まった内容をより分かりやすくクリアに示すにはどうしたらいいのかを考える,そういう順番ではないのかという気がしております。   ですから,よりよい編成を考えて,その内容を分かりやすく体系的に示すことができればそれがベストであって,最初から編成問題を第3ステージで取り上げないというのはちょっと順番が違うような気がいたします。   ただ,そうは申しましても現実に可能なものでないと難しいということはもっともだと思いますが,今日は第2ステージの補充ということでもありますので,一応頭の体操としては0番,1番,2番,考えてよろしいと思います。   更に付け加えますと,3番になるかどうか分かりませんが,別の考え方もあると思います。例えば,フランスの草案の一つの最近のものなのですけれども,債権債務関係の中で債権債務関係の発生源,制度,証明という三つの構成にするものがあります。まず,発生源としては契約,不法行為,その他とします。その次の制度というところでは,債権総則に対応するような債権者の権利ですとか,各種の債権債務関係ですとか,債務の消滅ですとか,あるいは債権債務関係のオペレーションというのでしょうか,債権譲渡とか契約譲渡とかそういうふうなものを置く。その次に証明が来て,各種の契約というのは更にその後になるのですけれども。このように,何も抽象的な総則を最初に持ってこなくても,まず発生源を書いて,その次に債権債務についての共通規定を置くというようなこともあり得るのだろうと思います。   それをここで採るべきだということではなくて,そういうものも含めて内容を最も分かりやすく体系的に示すにはどうしたらいいのかということを検討すべきだと思います。   そのほか各論的なことを申しますと,個別の事項については二つのテーマに関わる事項の取扱いが難しいと思います。例えば消滅時効をどこに置くかとか,あるいは更改をどこ置くかとか,それぞれ二つのテーマにわたるものです。それらについては個別に検討すると同時に,二つのテーマに関わる事項をリストアップをして,最後にその配置について全体として統一的な考え方を確認するということも作業の手順としてはあり得るかなと思いました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○中井委員 次は中身の点で。部会資料に,先ほどの山野目先生の整理に従えば,0番と第1の考え方と第2の考え方があるという整理で申し上げます。まず第2の考え方は,契約に基づく債権を一つの柱にして整理する。各種契約があるかどうかはともかく,次に法定債権という形で整理をする。仮にこの考え方をとったときは,先ほどから御議論があるように,法定債権と整理したものについては総則的規定を必然的に置かなければならないだろうと思います。しかし,どのような形で法定債権の総則的規定を置くのかについて具体的お話はないと理解しております。   また,山本敬三先生から御提示のあった第1の考え方ですが,債権総論と契約総則を合体させて,その後各種典型契約を整理し,最後に,この事務管理・不当利得・不法行為といった法定債権を並べるわけで,この法定債権部分について第1の債権総則と契約総則を合体させた規定がどういう形で適用されるのか,どの範囲が準用されるのかに関する規定が必要になるのではないか。しかし,それについても,山本敬三先生の御提案からはよく理解できないのです。仮に,第1若しくは第2の考え方をとったときの法定債権について,債権についての規定をどのような形で及ばすのか,どのようなイメージなのか,正に頭の整理と,今中田先生におっしゃっていただきましたけれども,整理という意味で教えていただければと思います。逆に言えば,そこが十分議論されないまま第1の考え方,第2の考え方を採るのはやはり問題があるのではないかと感じているからお尋ねする次第です。 ○鎌田部会長 今の質問に当たる部分につきましてお答えが今出せれば出していただければと思いますけれども。 ○山本(敬)幹事 まず確認させていただきたいのですけれども,0,1,2という第2番の最後の考え方の場合は,最後に恐らく事務管理・不当利得・不法行為を念頭に置いた法定債権関係に関する規定を独立に置くことになると思います。その際に,契約に関する規定を踏まえて,これらについてのルールをどう考えるかということが問題になるわけですが,先ほどから何人かの方がここで総則的な規定が必要になるのではないかとおっしゃっていますけれども,それはどのようなイメージなのかということをお聞かいただければと思います。   何となく,基本的には準用規定のようなものを置いて,そして性質の違いに応じて,特に契約の趣旨に照らしてという部分は法定債権関係では出てきませんので,それが債務発生原因の趣旨に照らしてと読み替えるのかどうか分かりませんけれども,そのような準用に当たるものを考えておられるのではないかと想像したのですけれども,そうなのかどうかということを確認させていただければと思います。あるいはそのようなこともここで議論してほしいという趣旨なのかもしれませんけれども。 ○鎌田部会長 法定債権の総則規定というときには,その法定債権とはどんなものかということを包括的に規定するようなものというイメージと,今の債権総論が契約に適用される規定と整理されてしまうと,その債権総論が契約以外の発生原因の債権に適用されるとどうなるかという,こういう規定が必要になりますよねという,この二つではちょっとイメージが違って,後者でイメージすると今の山本敬三幹事がおっしゃったように準用するので済んでしまうではないかということになってしまうのではないかと思うのですが。 ○中井委員 第2の考え方に従った場合は,例えば債務不履行に基づく損害賠償を考えたときに,中間試案では(1)が契約に基づく債権,これは契約の趣旨に照らして帰責事由があるかどうかで免責事由があるかどうかを判断しましょう。(2)で法定債権を想定して法定債権の原因に照らして,発生原因ですか,に照らして帰責事由があるかどうかで考えましょうと,こういう形で整理して問うているわけです。   仮にこの第2の考え方をとれば,最初の契約に基づく債権に関する規律の中ではその損害賠償の免責事由については契約の趣旨に照らして帰責事由があるかないかによって損害賠償義務がありますという条文が置かれる。他方で後ろのほうの法定債権の章では,そこにも総則的規定があって,法定債権の不履行については法定債権の発生原因の趣旨に照らして帰責事由があるかどうかという規定を置く,こういうイメージではないかと思ったわけです。   そうだとすると,その法定債権についての履行請求権の限界にしろ免責事由にしろ,それらについて総則規定がいるのではないですか。その後に不当利得として発生原因や遅延損害金について特別な規定であるとか,不法行為についての特別な規定であるとかが入ってくる,こういうことを第2の考え方ではイメージをしたわけです。このイメージを前提にすれば法定債権の上にまず総則規定があるでしょう。これについてどのような,今のようなイメージなのか,それとも第何条第何条については契約の趣旨を法定債権の原因と読み替えると,このような規定を置くことを想定されているのか。これが第2の考え方を採ったときの総則規定の在り方についての問いのつもりでした。   また,第1の考え方,山本敬三先生の考え方を採ったときは,拝見する限り,この第一部の第一章「債権及び契約の成立及び内容」以下のところに債権と契約と両方に関する規定がまだら模様に入るわけですから,どれかが債権に関する規定でありどれかが契約に関する規定ではないかと推測するわけです。同時に,履行の請求及び強制については契約に基づく債権のみならず一般の債権を想定しているのではないか。そうすると,第3部の法定債権関係の第一章から第三章に基づいて成立する法定債権について,その債権自体の規律についてはこの第一部の規律の中のどれかが適用されるのだろう。ではどれかが適用されるということを第三部のどこかで明示されるのか,いや,明示されないとすれば第一部の中で適用される債権規定と適用されない規定については当然にあるものとして判断するということを想定されているのか。若しくは第三部のところに総則的規定ができて,第一部のうちの何条何条は以下の法定債権についても準用すると,このようなイメージをお持ちなのか。この辺りをお尋ねした次第です。根本的な誤解があればそれについても御教授いただければと思います。 ○山本(敬)幹事 とりあえず説明だけさせていただきます。一番最後の18ページに一覧の表が挙がっていますので,それを御覧いただいたほうが簡単かもしれません。第一部の「債権及び契約総則」で,債権ないし契約に関する規定がこのような形で,まだら模様かどうかは分かりませんが,組み合わさったような形でありますけれども,適用関係は単純なつもりでして,債権債務についての規定として書かれたものは債権債務一般に適用されますので,法定債権関係に基づく債権債務についてもそのまま適用されます。それに対して,債務の発生原因である契約に即した規定を置く必要がある部分は契約に適用されるという仕組みになるのではないかと思います。   ですので,先ほどの損害賠償の問題に関しては,債務発生原因である契約の趣旨が何らかの形で規定の要件の中に入ってくるとしますと,それはやはり契約に関する規定ということになりますので,法定債権関係に基づく債務の不履行問題に関しては何らかの手当てが必要になると思います。それが部会の中でも議論されていた事柄です。先ほどの債務発生原因に照らしてという形で明文化するかどうかは次の問題ですけれども,この提案ですと,何らかのルールが総則レベルで定められる,ないしは不文の当然の規定として想定されるという扱いになるのではないかと思います。   基本的には,債権及び債務についてのルールとして定められていれば,それは従来で言う債権総則の規定と同じでして,何もない限りは契約以外の法定債権関係についてもそのまま当てはまると考えていました。 ○中井委員 こういう形で議論を進めるのがいいのかどうか分かりませんが,山本敬三先生の「債権総則と契約総則の関係」で,なぜそれを合体させるのかというところのポイントですが,9ページの上に2点御指摘があるのかと。   それは一つは,体系編成に当たって論理的な一貫性や整合性を保つ必要があることは確かだとしても,実用性や理解の容易さを犠牲にすることは許されないという考え方に立っているが1点。   2点目は,その次ですけれども,債権総則に定められている制度や規定についても,債権・債務の発生原因に応じて具体的な規律の在り方が規定されている場合も少なくないこと,この2点かと。   分かりやすさの典型例が,債務不履行に基づく損害賠償と解除が現在分かれていることについての分かりにくさを解消する。若しくは債権譲渡,債務引受に引き続き契約上の地位の承継について整理できるというメリット。こういう分かりやすさの観点が主に出ているのかなという感じがいたしました。   しかし,今のお話を聞く限りにおいて,この「債権及び契約総則」という項を作ったときに,今先生が御指摘になられたように,この中には契約関係に適用されるもの,債権に関して規律されるものが分かれて存在し,債権に関して規律されるものについては法定債権にも当然又は明文で,若しくは何らかのカンファレンス規定を付けるのかもしれませんが,準用される,こういう関係になるようにお聞きしました。そうすると果たして当初狙った分かりやすさが少なくとも第一部の中の規定を分解しないと分からないという点では,新たな分かりにくさを生んでいるように思うわけです。   パンデクテン体系がいいのか論評できる立場にはありませんが,今の現行法は債権に関する規律があり,契約に関する契約総則があり,法定債権に関する規律があり,契約に基づくものも法定債権に基づくものも最初の債権に関する規律を見れば分かるという限りにおいては,論理構成としては分かりやすいのではないか。これは分かりやすさ対決をしてどれだけ意味があるのかになるのかもしれませんが,合体することが直ちに分かりやすさに貢献しているとは思えないわけです。だとしたら,やはりそれ以上に合体させることについての積極的な意義付けを是非教えていただけないかなと思うわけです。   そのことが,なお0番,実は当初は山本敬三先生のは非常に分かりやすいなと内心思ってはいたのですけれども,ちょっと考え方を改めて,今0番のほうがいいのではないかと思っているのは,そういう分かりやすさ対決の問題とともに,このような問題については中間論点整理では出ていた,しかし中間試案では全く触れられていない,パブコメはこれが最後であるという中で,最終段階でその編成問題がこのような形で大きく変わることを前提とした取りまとめをする方向に仮にいくとすれば,そのことに危惧を持っているからです。そのことだけを理由に,それは勉強が足らんのかもしれませんけれども,そのことだけを理由に反対する根拠を与えることになりかねないという危惧,戦略的な発言をするのは不適切かもしれませんが,そう思うところもあり,申し上げた次第です。 ○山本(敬)幹事 どちらも一長一短があって,ベストの解決がない中で,しかしよりベターな解決はどれかという問題なのだろうと思います。ですので,既に分かっていることとは言え,一応この場で0番の問題点も挙げておく必要があるだろうと思います。それは,現行法を教えるときの悩みとして常に指摘されることでして,実際の紛争の場面では債権総則と契約総則の両方を見ないことには解決ができない。両者が必ずしもまとまった形で規定されているわけではありませんので,何がどう関わってくるのか分かりにくい。ましてや契約総則と言いながらどこまで契約の総則なのかというと,もっと総則的な規定は債権総則に定められていて,十分に勉強した人には分かりやすいけれども,そうでない人には分かりにくいという問題があるということはもう言うまでもないことで,私の意見書にもそれは明示しています。   もう一つの大きな問題はやはり,先ほど少し申し上げたことでもあるのですけれども,例えば今例に上がっている債務不履行に基づく損害賠償責任に関する規定で,この部会ではこれまでのところ,契約の趣旨をどう理解するかという点はなお詰めないといけないところかもしれませんが,契約の趣旨に照らしてというような規定を規定の中に盛り込むことが想定されているのではないかと思います。そうしますと,これをどこに規定するかというと,0番で言えば債権総則に規定することは難しくなるのではないでしょうか。そこで契約の趣旨に照らしてという規定を置くのは0番の思想からするとおかしくて,むしろ契約総則のほうへもっていかないといけなくなる。そうすると,契約に関わる規定が,先ほど申し上げましたように,どんどん契約総則のほうへ回っていくことになる。そうすると,債権総則がどうなるのか。本当にそれは債権総則として意味のあるまとまったものになるのか。現行法からするとかなりの部分が除かれたものになっていく可能性がある。そうしますと,イメージしておられる0番の最終的な姿がどうなるのかというのが気になるところです。0番でも,今提案されているような契約の趣旨に照らしてということを債権総則で書いてよいのだとおっしゃるとするならば,そこでもやはりでは法定債権はどうなるのかという問題は残るわけでして,何となくイメージは分かるのですけれども,実際に抱える問題の大きさはそう変わらないのではないかという気がいたしますが,いかがでしょうか。 ○中井委員 第1の御指摘の問題については,大村先生の2010年12月1日付けの意見書でも,現行法ではどうか,つまり,債権総則と契約総則を見なければ駄目ではないかと,それは2段階で分かりにくいということに対して,実際はそうではなくて更に段階があって,意思表示に関しては総則を見なければいけない,契約成立するかどうか代理権があるかどうかこれも総則を見なければいけない。山本敬三先生は総則は維持されるということを大前提にして御議論されている。債権総則を見て,契約総則を見るけれども,これだけでは賃貸借契約の解消は分からない。だから契約各則の中の賃貸借契約を見る,若しくは使用貸借を見る。4段階構成と書かれております。御提案は分かりやすさの限度で債権総則と契約総則はくっつけるけれども,民法の総則は残すし,当然契約各則は残す。論理構成が4段から3段になる,大村先生の整理によれば。果たしてそれでどこまで分かりやすくなっているのか。それは程度問題ではないのか。総則を残すのであればその体系的な理解を進める意味で債権総則があり,契約総則があっていいのではないか,という反論が成り立ち得ると思います。   二つ目ですが,損害賠償について現在では債権総則の中にある。中間試案では債権については契約に基づいて成立した債権もあれば,法律上の原因に基づいて成立した債権もある。それがいずれも債権総則で規律されるわけですけれども,そこは発生原因に基づいて免責事由が異なる。契約の趣旨に照らして帰責事由があれば責任を負う,なければ責任を負わない。法定の発生原因に照らして帰責事由があるかないか。それを債権総則の損害賠償の中で二つ並べて規律すること自体は,それはそれほど不自然でもないのではないかと感じている次第です。   つまり,その後ろには契約に基づく債権についての個別規定と法定債権に基づく個別規定が控えているわけですから,それに基づいて発生した債権自体についての損害賠償義務の存否について債権総則に二つに分かれた規律が置かれても,分かりやすさの観点若しくは体系的観点から壊れているとは思えない。   同じように,履行不能,請求の限界についても場合によっては契約に基づくのと法定債権で違うのであればそこに書き分けても別に構わない。同様の問題があれば,それを債権総則の中で区別して書いてもいいのではないか,こう感じる次第です。 ○大村幹事 どのように議論していいのか分からないのですけれども,実際の問題に則して,中井先生のお考えを伺いたいと思います。まず最初に,先ほど触れていただいたように,私の意見は元々は法律行為の規定も契約のところに統合したほうがいいという意見でして,個人的にはそれがいいと思っています。しかし,これは先ほど私も申し上げましたし,他の方もおっしゃっていると思いますけれども,現時点で可能な範囲で何がよいかを考えるということで,現実的に考えてできる限り分かりやすくするならば,どこまでのこととするかということだろうと思っています。   現在の状況で考えたときに,総則の規定を契約のところに移すということについて皆さん賛成し難いということであれば,それはやむを得ないとして,しかし,なお統合できるものがあるのではないかと観点から,ここでの議論に参加させていただいております。   債権総則と契約総則をどうするのかを一般的に議論することも必要なのですけれども,これも既に発言ありますけれども,我々が大学の教師として教えているときに,やはり債務不履行の効果が分かれているということは非常に問題があると感じています。その点については最低限何とかしたいと思っております。中井先生は,それでも一方が契約に関するものであり,他方が債権一般に関するものであるとしたら別々にしなければならないというお考えなのでしょうか。 ○中井委員 解除と損害賠償が分かれていて分かりにくくて教えるのが大変だという点は,そうだろうという印象は持ってまして,私もこの編成に関する審議の際にその不都合さ,理解を妨げることについては同意した記憶があります。ただ,今の問いに関しては,現在の体系を維持する以上,それは分けて規律することでやむなし。それで体系的維持を図ったほうが結果的にはより分かりやすいものになるのではないかという理解をしております。 ○山野目幹事 性質の違うことを二つ申し上げます。   一つは,仮に0番でいったときのイメージについて自分が抱いているところ,想定を申し上げますと。債務不履行による損害賠償,中間試案で言いますと第10の規律は,今ちょうど中間試案の第10の1が書いてあるような仕方で0番でいったときには債権の総則のところに,大づかみなイメージとしては415条のあの場所の改正提案として規律が法文として表現される仕方で置かれるという在り方は,十分にあり得るのではないかと感じております。それが1点です。   それからもう1点は,今しがたの中井委員の御発言ではなくて少し前におっしゃった分かりやすさを競い合う感覚ということでお触れになったことは,編成問題を考える上では大変に重要なことではないかと感じます。ここで御提案いただいている0番,1番,2番のみならずいろいろな御意見が全て分かりやすさを追求しての御発言ですし,分かりやすさがどうでもよいというお考えの方はいないと考えますが。分かりやすさというのは多様であって,誰から見たときの分かりやすさなであるか,ということについては,かなり慎重に,あるいはかなり謙虚に考えなければいけないのではないかと感ずる部分がございます。   特に0番,1番,2番と分けたときの1番ですけれども,部という単位が出てきて,編と章との間に別の単位が出てくるということは今までの法制では多分ほとんど見かけないことでありまして,現在の編成よりも編成の輻輳性が更に増幅される結果になります。これは,こういう民法についての専門的な知見を豊かに持っていて,例えばこういうところの論議に参加している方にとっては輻輳性が増幅して精緻になればなるほど分かりやすいですが,見方によるとかえって分かりにくくなる部分もあるのでありまして。誤解を恐れずに言えば,分かりやすさのエリート主義的な追求といいますか,そういうことが決してないように心して議論しなければならないと感じます。   教える場面での不便さはいろいろありますが,それも考えてみますと,どのような教育機関でどういう聴衆を相手に話すかに応じてやはり手法を変えながら話さなければならない部分があります。昔,鈴木禄弥先生という民法学者がいて,民法の体系をかなりエキサイティングに,このほうが分かりやすいだろうということで書き換えてお書きになった本がありますが,あれは優秀な学生にとっては分かりやすいですし,私も聴衆が一定の水準に達しているときは,ああいう考え方で,学生とこれでやろうねと言って話してやることが,ないではありません。けれども,そうでないときには普通の編成で,ごく普通に前から話してあげたほうが分かりやすいということもあるものでありまして,それは様々でありますから,分かりやすさの議論というものは難しいということを中井委員のお話を伺っていて感じました。 ○岡委員 実務家にとってはやはり416条の損害賠償の範囲がどうなるのかが関心の的でありまして,先ほどの0番のイメージでいきますと,今の民法416条は債権総則にそのまま残ると。今提案されている契約の損害賠償のところは契約総則のところに特則として置くと。元の民法416条がどれほど不法行為・不当利得・事務管理に及んでいるのかはなはだ疑問ではありますが,今回は事務管理・不当利得・不法行為の損害賠償の範囲については検討しなかったので,従前の形を残して次の改正のときに見直しますという説明は極めて実務家には納得しやすいところであります。それでいけば0番はすんなりくるわけです。   1番の例えば山本敬三先生の説にしても同じようなことになるのか,どのようなことになるのか,敬三先生の説でいった場合に416条あるいは損害賠償の範囲がこの債権及び契約の総則のどこにどんな形で入ってくるのか,そのイメージ沸かしていただければ1番の支持者も増えるかもしれないなと思いました。 ○山本(敬)幹事 結論としてこの18ページで言いますと,階層性が増して,エリート主義だというような指摘がありましたが,それは違うだろうということだけは申し上げた上で,第二章「債権及び契約の効力」の「第二節 債務及び契約の不履行」の「第一款 債務及び契約の不履行による損害賠償」に現在の415条,416条の改正提案が入ることになります。それ以外に,そこに契約の趣旨に相当するものが書かれるとなったときに,法定債権関係についてどうするかという点は,ここでの議論の結果次第だと思いますけれども,何の明文の規定もいらないということになれば,何も書かれずに契約に関する規定のみがここに置かれ,やはり手当てが必要である,そうでないと不明確になるということで何らかの規定が考えられるのであれば,それもここに置かれるということになると理解していました。 ○岡委員 中間試案の補足説明の119ページを見ますと,416条の,今の提案は契約による損害賠償の請求はこうこうするとだけ書かれていますので,敬三先生の話だとこれだけがボコンときて,契約以外の債務不履行による損害賠償の条文は消えてなくなるというイメージなのでしょうか。 ○山本(敬)幹事 それはここでの検討の結果によると,先ほど申し上げたとおりだと思います。 ○道垣内幹事 中井委員のお話と岡委員のお話が同じなのか違うのかというのを確認したいのですが,岡委員の先ほどのお話というのは,416条は現行法として存在し,それは今回の改正対象となっている契約以外のところにも適用される条文であり,契約以外のところでは手をつけていないのだからそのまま残るはずであり,他方で,契約違反に関する損害賠償の範囲というのは契約プロパーの条文なので,場合によっては契約総則に入るかもしれないというわけですね。   さて,その後に今後どういうふうに進んでいくか分かりませんけれども,法定債権関係について再検討して改正をするということになったときには,岡委員が差し当たって残すところの債権総論はなくなるということなのかということなのですね。つまり,そのときには契約総論,契約各論プラス法定債権関係で,法定債権関係の中に総論と各論があるという話になるのか。   また,中井委員は416条のところに二つ並べるという方向でおっしゃったのではないかという気がするのですが,法定債権関係について再検討をした後も,損害賠償の範囲に関する規律は債権総則のところに存在し,仮にそれが契約と法定債権関係で違うことになったとき,あるいは不法行為と不当利得は違うとなったときにも,その部分に並列して最低2条,場合によってはそれ以上を並べるという整理の仕方を考えていらっしゃるのでしょうか。   私は岡委員のおっしゃることは非常によく理解できまして,そうすると最終的に山本敬三幹事がお書きになったものにかなり近付いてくるわけですよね。そして,それを差し当たって今回どうするかという問題に収れんできるのだと思います。これに対して,中井委員のお話は少し違うのかなと思いましたので,お教えいただければと思います。 ○岡委員 整理ができれば1番,2番でいいのではないかというのは私の意見でもありますし,弁護士会でもそういう意見はございました。 ○鎌田部会長 部会資料61の第1の1に関する議論に集中していると思うのですけれども,この点についてほかの御意見。 ○高須幹事 中井先生が分かりやすさ対決という言葉を使われて,それからその点に関して山野目先生からもそのことを今回の議論の一つのキーワードではないかという御指摘があった点に私も賛同するものであります。今日の議論は飽くまで第二読会の補充ということですからいろいろな議論があってよろしいのだろうと思いますし,なかなか答えも出ないところだと思うのですが。少なくとも分かりやすさという観点から今回の民法の改正を考えているというところで,その観点からの構成ということをここでは議論してきたということが最低限今日の議論で確認できたのではないか。ただ,問題は分かりやすさを何に求めるかというところは確かに難しくて,そう簡単には結論は出ないということだと思います。   私ども弁護士会はいろいろな議論があったものの,0番が比較的多かったというのは御指摘があったとおりなわけですが。多分その中には我々はそれが一番分かりやすいと考えているからだと,ずっとそれを使ってきましたから。そういう意味では今我々はそれが分かりやすいと考えている部分があるのですが,果たしてそれが今後の世代でもそうなのかどうかはまた別だと思いますので。そういう意味では分かりやすさの内容をどこに求めるかはそう軽々には答えは出ないのだと思いますが,その観点から引き続き検討していくということが少なくとも今日の第二読会の補充で確認できたのではないかと,印象だけでございますが,そのような考えを持ちました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   これまでの御意見をお伺いしていても,分かりやすさ対決というのは象徴的ですけれども,編別が変わると個々の規定の意味が変わってしまうと,そういうふうな懸念は余りない。仮にそのおそれがあるとすればそれは契約債権に適用になるのか,あるいは債権債務一般に適用になるのかを明示的に書き込めばいいのだということで,編別が法典あるいは規律の内容を変えてしまうかどうかという意味での重要性というのはそれほど大きくないというのが大体共通の理解なのだろうと思います。   もう1点,山本敬三幹事が御指摘になった点でもあるのですけれども,今回の提案の中には契約債権についてはその契約の趣旨をいろいろな形でもっと明示的に盛り込みながら考えていかなければいけないという提案の数が多いわけで,その点をどう考えていくかというのがもう一つの観点なのだろうと思います。   それで,契約債権が現実にある債権の大部分だとしたら,極端に言えば契約債権をモデルにして,実際の授業でもそれをやるのですけれども,契約債権をモデルにして成立から消滅までをずっと分かりやすく規定して,そしてそれ以外の契約以外の債権については当該箇所でほかの場合にどうなるのかを書き込むか,契約債権以外のものをまとめてどこかに書き下ろすという,こういうことが一つの考え方としてあり得る。それが0番ではなくて1番や2番という提案が出されてくる背景として重要な部分なのかなと思います。しかし,そうすると中井先生が懸念するように,法典全体の印象を変えてしまうということが改正作業に対してある意味で無用の反発を招く懸念があるという御指摘もあったのだと思うので,その辺を十分配慮しながら今後どういう形で整理していくのが最も分かりやすくて趣旨を正確に伝えられるのか,また,そこである程度変更するのであればどういう対処をすればその趣旨が最もよく理解されて,誤解に基づく反発みたいなものを招かないで済むのかという,その辺のところを工夫しながらまた検討を進めさせていただくということにしたいと思います。   が同時に,この部会資料の中での第1の2とか3という形で提起されていますように,そうは言いながらどこへ入れるのかが,2については今までなかったものですから,これはどういうところに入れていくのかがよいのかということはどんな考え方をとろうともやはり必然的に問題になってきますし,3については従来の場所でいいのかどうかという問題が提起されていますので,こちらの点についても今御意見があれば伺っておきたいと思います。 ○松本委員 今まで議論のあった部会資料61の規定の全体的な配置,体系論の話についてです。考え方が三つあるかのように部会資料では説明されているわけですが,話を聞いていると,0案というのは従来のタイプで,発生原因の規定と発生した債権共通の規定を一応分けようと。ただ,従来の債権総論と言われているものは本当に債権の総論なのかという批判が確かにあるわけで,それをどう評価するのかということは問題ですが,その点は括弧に入れて,従来の形を残そうという考え方が一つ。   1案,2案と言われているのは違うように見えるけれども,話を聞いていると,基本的に同じであって,法定債権のところにどれぐらい規定をたくさん並べるのか,つまり準用ではなくて具体的に展開した規定をどれぐらい並べるのか。言い換えれば,法定債権のところのボリュームをどれぐらいにするかの違いが1案と2案の違いです。分かりやすい民法という観点からは債権総論という抽象的な部分をどれぐらい残すのかというところでまず議論を集約する。債権総論の中でも債権者代位権だとか詐害行為取消権だとかというのは発生原因とは直接関わらないタイプのものだから,これは独自のものとして残るだろうし,債権譲渡なんかも残るのでしょうかね。ただし,債務不履行に関わる部分,履行障害の部分は契約に基づくものとそうでないものではかなり違うところがありますから,そこを体系レベルで分けて規定するという案と,いや,分けないという案でまず議論をして,その上で分けるというのであれば法定債権についてどれぐらい詳細な規定にするのかというところで,分ける案の中の亜種として幾つか考え方が出てくるということかと思います。 ○鎌田部会長 416条関連で言うと,法定債権については解釈に任す,特に規定を設けないという立場を採ると,この第1,第2どちらもある程度同じで,法定債権のところにはその規定はないということになります。併せて,法定債権は大体金銭債権ですから,419条関連の規定の側から言ってもそうなるかどうかとか,そういう検証も必要なのかもしれないですが,意外と1個1個のものについてやっていくと,法定債権特有の規定を置かなければいけない部分はそれほど多くないのかもしれないという気はします。 ○大村幹事 意見ではないのですけれども,松本委員が0,1,2という形に整理をされましたので,それとの関係で今までの議論がもしかすると一致していないのではないかと思ったことを申し述べます。   それは,損害賠償の範囲について契約に関するルールとそうでないルールとを仮に二つ想定するとしたときに,0の考え方によるとそれはどこに配置することになるのかということです。一つの考え方は,今ある規定の場所を動かさない。契約についての特則というものを定めたとしても,それは損害賠償に関するルールであるということで,今は債権総則のある場所にあるのだからそこにまとめて規定を置く,そこに契約の特則が入れてしまうのだという考え方が一方にあり得ると思うのですね。他方,いや,契約の特則は契約にしか適用されないのだから,新しく置くのだとしたら契約総則なのだと考えることもできる。仮に0であるとしてもこの二つはあるように思いますので,整理の際にそれを考慮いただけると幸いです。 ○鎌田部会長 2,3についての御意見もありましたらお出しいただければと思います。 ○岡委員 3点申し上げます。  まず,債務引受のところですが,私が所属する第一東京弁護士会で議論していたときに,免責的債務引受は債権譲渡の並びが分かりやすいと思うけれども,併存的債務引受は複数当事者間のところ,連帯債務あるいは保証債務のところにもっていったほうが分かりやすいのではないかとの意見がでました。保証の規律を併存的債務引受に及ばすときにもそのほうがやりやすいでしょうし,弁護士の感覚からいくと,免責的債務引受と併存的債務引受は大分違うという感覚からもこういう意見が出てきました。   免責的債務引受は併存的債務引受プラス債権放棄だというような理論からいくととんでもない説なのかもしれませんが,実務家としてはぱっと債権譲渡と免責的債務引受,連帯債務等と併存的債務引受,そういう発想が出てきましたので,私もなるほどと思いますので,意見を申し述べておきます。   それから二つ目は約款ですが,約款の変更まで採用されるかどうかまだ微妙だとは思いますけれども,やはり約款は一まとまりのルール,成立にも関係するけれども,不当条項規制もあり変更もありということになりますと量も結構になってきますので,成立とか内容にばらばらに放り込むよりはどこかにブロックとして,それが敬三先生の18ページの各種契約総則の通則になるのかどうかはよく分かりませんけれども,やはりブロックとして独立して,一まとまりで書いたほうが分かりやすいという意見がございました。   それから,3番目に継続的契約ですが,今のところ考えられているのは終了に関する特則だけですので,余り大仰に一まとまりとして置くよりは,終了だけという効果に則したこじんまりした後のほうの場所のほうがいいのではないか,そういう意見がございました。   以上の3点です。 ○鎌田部会長 今の継続的契約は後のほうの場所へというのは,契約総則,債権総論的なところ,契約総則の一番後ろのほうにくっつけるという,そういう意味での後のほうという意味ですね。各則の後ではなくて。 ○岡委員 0番,1番,2番,みんないますのでそれぞれイメージするところは違う話で。 ○鎌田部会長 分かりました。   ほかには特に。 ○中田委員 継続的契約なのですけれども,これは何に着目するかで変わってくるのだと思います。期間の定めのない契約を一方的に解消できるという規律を契約の拘束力の例外だと考えますと,契約総則のかなり最初のほうに置くという選択肢もありえます。様々な契約の横断的な規律だと考えると,第三者のためにする契約と並べるという考え方もあると思います。契約の終了に着目しているという面を重視しますと,解除の次に置くということも考えられます。それから,契約の期間という面に着目しますと,法律行為の期限とも共通性があるのだと思います。   というので,いろいろな置き場所があるのですけれども,特定の見解に余りコミットしないという観点から契約総則の最後のほうに配置するという今回の御提案は,それはそれで十分考えられると思います。ただ,契約総則の内容いかんによっては,場合によっては第三者のためにする契約の近くに置くか,解除の近くに置くか,ということもまだあり得るかもしれませんので,現段階ではまだ確定的に決めなくてもいいかなと思いました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。そのほか4の1,2,3には掲げられていないけれども,なお留意すべき点ということがございましたら,これについても御意見をお伺いしておきたいと思います。 ○安永委員 4の「上記のほか」というところですが,「雇用」の規定の配置に関して質問をさせていただきたいと思います。   雇用規定の配置の順序ですが,新しい民法の規定においても現行民法と同じく「雇用」,「請負」,「委任」,「委託」の順序を維持するものと理解をしておりますが,それでよろしいでしょうか。中間試案では「請負」,「委任」,「雇用」,「委託」の順番に記述がされていたため,念のために確認をさせていただきたいと思います。 ○筒井幹事 その点については,まだ議論がされていないのだと思います。それを前提として,だから現時点では現状維持だということになるのか,あるいは現時点ではニュートラルで,現状維持か現状を変えるのかは改めて議論するということになるのか,その理解は分かれるのかもしれませんけれども,少なくともこの部会ではまだ議論がされていないのだと認識しております。   安永委員がどのような形を望まれるのか,もし御意見をお持ちでしたら紹介していただければと思いますけれども。 ○安永委員 具体的な提案がまだなされていない段階ですので,理由を詳細については述べることは控えますが,「雇用」については現状の規定の配置を是非維持していただきたいという意見であることを申し上げておきます。 ○鎌田部会長 この点については,山本敬三幹事からは少し違う場所に移すという提案があり,本日のペーパーにも書かれているのですが,御発言がもしあれば。 ○山本(敬)幹事 前回のときにも書いたことで,この点は全くそのままです。最後のページにその配置の例が書いてありますし,説明としては15ページ以下に書いています。現行法とは違って,まず独立的な労務の提供に関する一連の規定を定め,その上で,これは立場が分かれるかもしれませんが,民法の雇用契約については,少なくとも戦後しばらくしてから後現在に至るまでは従属労働を対象にしているという理解で,民法学者のレベルでは一致していましたので,少し性格の異なるものとしてむしろ後ろに回すほうが全体として分かりやすくなるのではないかという観点から,まず「請負」,「委任」,「委託」を定め,そして「雇用」という配置にしてはどうかということを一応案として書いています。   もちろんその上で役務提供を独立したものとして考えるのか,それとも準委任を拡充するという形で規定するかという点は,決着はつきつつあるのかもしれませんけれども,もし準委任として拡充するというのであれば,委任に関しては現行法と編成としては変わらないということになるということをここで書いています。   現行法を維持するほうが望ましいというのは,現行法がそうなっているのだからそのままでよいではないかということかもしれませんが,さらに現行法でなければならない,それがより望ましいのであるという理由を今後またお示しいただけるのであれば,それに即して議論できればと思います。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○大村幹事 その他ということですので,今回の話題の外になるのかもしれませんが,時折申し上げておりますように,枝番ができないような御配慮をお願いしたいということを重ねて申し上げたいと思います。今回は相当に広い範囲の見直しをしまして,その上で改正をするということなので,全体を見直した上での改正であることを示し,一貫したものを示すという意味でも,通し番号になるように工夫をしていただきたいと思っております。これは法制上の問題かもしれませんので,お願いだけをしておきます。   ただ,そのこととの関係で,先ほどの編成をどうするかということもかかわってくるということを申し上げておきます。現行法に近い編成を採るという考え方は枝番を作るという方向と親和的なのではないかと思います。そうなりますとかなり見にくい形になるのではないかと思います。編成を考える際にはそのようなことも考える必要があると思うということを申し上げます。 ○岡委員 大村先生の話に関連するのですが,法制上の話なのでここでの議題ではないということであればそう言っていただければ結構なのですが。条文がどうなるのだという話がもうちらほら出てきております。一つの考え方は,398条から700条までの間に今回のを押し込むと。家族編の条文は変えないと。そうなると枝番号は必然的に出てくるのだろうと思います。金商法などは条文を変えない工夫でそういう枝番が出たように聞いておりますが,そういうふうにされるのか。それとも家族法をドンと後ろのほうに,2,000条ぐらいに繰り下げて,通し番号にするのか,はたまたどうせ最終的には全部見直すので,債権法とかいう新しい法律を作るのか,どうなのだと聞かれることがあります。もし話せることがあればお話しいただければと思います。 ○筒井幹事 お尋ねの点については,現時点では何も考えを持っておりませんので,残念ながらお話しできることは何もないのですけれども,取りわけ条番号の振り方は,最初に申し上げた法制上の問題に含まれる部分が多いのだろうとは思います。ただ,そうは言っても,どういう形が望ましいかについての御意見は是非伺いながら進めていきたいと考えております。 ○佐成委員 編成に関しては,余り経済界のほうでは従前どおり議論はございませんが,今日の議論をお聞きしていてちょっと感想的な話を申し上げておきたいと思いました。   当たり前のことですけれども,今回中間試案でかなり論点を落としたとは言え,250を超えるような改正提案がなされている。これが全部実現すればかなり大掛かりになりますから,0案というのですか,その提案でもやはり条文の問題にしろ相当大掛かりにしなくてはいけないと。場合によっては山本敬三幹事が提案されるような形にしていかなければいけないというのはあると思います。それは当然のことだと思います。   とはいえ,実際には意見対立があるということも冒頭先ほど私も申し上げておりますけれども,そうした中でどこまで改正が実現するかという,やはり最終的な結果の部分にも関わってくるのかなということなのです。仮に,民法の全体的な見直し自体は長時間かけて実施したのだけれども,出てきた結果がそれほど大きくないということであれば,0番というのはかなり親和的ではあります。他方,議論の集約のために,例えば今後1年間,どれぐらい議論するのかちょっと分かりませんけれども,そうした議論の結果,ある程度大掛かりな修正ということになれば,それなりに分かりやすさという観点でいけば相当大掛かりな編成替えが必要となり,なかなか0番というのも維持しにくいのではないかというところもあるかと思います。ですから,そこら辺の実質的な議論との兼ね合いでやはり編成はその都度考えていくということだろうと思います。   あと懸念している部分として一言申し上げると,やはり約款については,経済界は非常に強く反対をしていて,実際,強い反対意見があるということです。ですから,仮に入れるということであれば,先ほどちょっと岡委員もおっしゃいましたけれども,ブロックというか一つ別立てで入れていただくという形のほうが議論の落ち着き先としては座りが良いと思います。つまり,約款規制の部分は,ちょっと異質な気がいたしまして,従来の民法の体系とも,実務的な感覚とも異質な気がします。例えば,比較法上は,もちろんドイツ民法では契約の直前のところに入っているというのは承知しておりますけれども,実務的な感覚からするとやはり異質な感じを受けますものですから,もし仮に入れるということであれば従来の体系とは切り離した別立てという形にするということになるのではないかなという気はしております。   いずれにしても,今回論点が多岐にわたっているので,仮にそれらを全部入れれば相当やはり編成も変更せざるを得なくなり,0番というのはかなり枝番も出てくるということもありますでしょうし,それが本当に分かりやすいのかという議論にもつながってきますので,今日に限らず,今後の議論の展開によってまた改めてというところもあるのかなというのが感想でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがですか。 ○松本委員 条文の件なのですが,大村幹事がおっしゃったように,0番は枝番説に親和的だし,1番,2番の案は全体の構成を変えようという発想だから,それでは番号も振り直しましょうかという考え方に親和的だということになるわけです。問題は今回の債権法改正の熟度がどれぐらいかということであります。つまり非常に包括的な内容で熟度の高いもので,これで当分もつのだというものであれば一気に番号を振り直してきれいにして,これで10年,20年,30年,50年使ってもらいましょうということでいいわけですが,私がこの間の審議に参加してきた印象では,大分当初の案に比べると小さくなっているわけで,そういう意味では今後の課題がいっぱい残っていると言えば残っているわけです。   となると,まだ引き続き改正しなければならない部分が出てきます。私は前から言ってますように,10年間かけて少しずつ改正していくべきだという考え方ですから,10年後ぐらいに一気に通し番号に直すというのが一番いいのではないかと思うのです。そうしないで今回つまみ食い的な形である程度コンセンサスのとれたものについてのみ改正をするのだということだと,恐らく次のステップの改正が出てくると思うのです。となると,そこでまた通し番号にするか,枝番を付けるかという話になって,格好の悪いことになるのではないか。つまり,今回の改正の熟度との関係で番号の振り方は考えたほうがいいのではないか。どれぐらいかけて民法の全体を改正するのかというスパンとの関係で考えるべきではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   なじみの深い条文の数字を変えるなという御意見もあったりしますが,これも最終的にどの程度の改正になるか,御指摘のようにそれとの関連で考えざるを得ないことだろうと思います。   ほかにはよろしいですか。   ほかに御意見がないようでしたら本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明をしてもらいます。   ○筒井幹事 本日は様々な御意見を頂き,ありがとうございました。この議論の続きは,最終的にどのような内容の改正をするのか,どのような規模の改正をするのかということと密接に関係していると思いますので,そういった見通しを持つことができた後に,また改めて御議論いただく機会を持てればと考えております。   次回会議ですが,来月6月18日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は法務省地下1階大会議室でございます。次回の議題につきましては冒頭で御案内いたしましたように,保証人保護の方策の拡充に関する幾つかの論点と弁済による代位に関する論点について御議論いただくことを予定しております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了とさせていただきます。   本日も熱心な御議論を賜りましてありがとうございました。 -了-