法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会 第1作業分科会(第6回) 第1 日 時  平成25年9月11日(水)   自 午前9時58分                         至 午後0時32分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○吉川幹事 ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会第1作業分科会の第6回会議を開催いたします。 ○井上分科会長 御多用中のところを御参集いただきましてありがとうございます。   本日は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,「刑の減免制度,捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度」及び「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」についての議論を順次行うことといたします。   なお,本日の議論におきましては,あらかじめお申出がありましたので,小坂井幹事に代わって,「刑の減免制度,捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度」については小野委員に,また,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」については青木委員に,それぞれ御出席いただくこととします。また,同様のお申出により,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」については,露木幹事に代わって,坂口幹事に御出席いただくことといたします。   まず,本日の配布資料について,事務当局から説明してもらいます。 ○吉川幹事 御説明いたします。配布資料7-1から7-3及び8は,本日議論が予定されている「刑の減免制度,捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度」及び「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」について,「考えられる制度の概要」と「検討課題」を整理したものです。これらは,特別部会の第20回会議における配布資料をベースにして,特別部会での議論を踏まえるとともに,当分科会で更に具体的な検討を進めることに資するよう,事務当局において加筆,修正を行ったものです。この内容につきましては,各検討事項の議論に際して,それぞれ説明があります。   また,参考資料として,各検討事項に関する参照条文をお配りしております。さらに,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」に関して,青木委員から資料が提出されておりますので,これもお配りしております。   資料の御説明は以上です。 ○井上分科会長 それでは,早速,本日の一つ目の検討事項である「刑の減免制度,捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度」のうち,「刑の減免制度」についての議論に入りたいと思います。   まず,配布資料7-1の内容を事務当局から説明してもらいます。 ○吉川幹事 資料7-1「刑の減免制度」を御覧ください。本日は,「考えられる制度の概要」及び「検討課題」の全般について御検討いただきたいと思いますが,これまでの資料からの主な変更点を御説明いたします。   まず,「考えられる制度の概要」について御説明いたします。これまで,「1 自己の犯罪事実を明らかにするための行為」と,「2 他人の犯罪事実を明らかにするための行為」のいずれにおいても,減免事由の内容となる「行為」については,「犯罪事実を明らかにするための一定の重要な行為」としていましたが,先の特別部会での御議論をも踏まえ,いずれも「犯罪事実を明らかにするために欠くことのできない供述,証拠の提出その他の行為」といたしました。   次に,「検討課題」について御説明いたします。   まず,「1 刑の減免事由」のうち,「(1)自己の犯罪事実を明らかにするための行為」につきましては,この場合の刑の減軽事由は,刑法総則に規定される自首と重なる部分があると考えられますので,両者の関係をどのように考えるのかを検討する必要があろうかと思われます。   そこで,検討課題として,「○ 自首規定(刑法42条)との関係をどのように考えるのか。」を記載いたしました。   次に,「(2)他人の犯罪事実を明らかにするための行為」につきましては,当分科会でも先の特別部会でも,そもそも減免事由の該当性判断が難しいのではないかとの御意見が示され,他方で,当事者が主張・立証を適切に行うことにより,裁判所においても減免事由の該当性を適切に判断し得るのではないかとの御意見も示されました。   この点の議論の背景には,「他人の犯罪事実」の範囲に関し,当該被告人の犯罪事実とは全く関係ない犯罪事実をも含むこととするかという問題があろうかと思われます。   そこで,「○ 共犯者の犯罪事実のみならず,それ以外の他人の犯罪事実を明らかにするための行為をも含むこととするか。」と記載した上,「ア 共犯者以外の他人の犯罪事実の範囲を限定するか」,「イ 減免事由の該当性判断の在り方」と記載し,後者については,さらに,「検察官,被告人・弁護人による主張・立証の在り方」,「裁判所において認定すべき事実」を記載しております。   次に,「(3)」につきましては,先ほども御説明しましたとおり,「考えられる制度の概要」では,減免事由の内容となる行為について,「犯罪事実を明らかにするために欠くことのできない行為」といたしましたが,より明確な形で行為を規定することを検討する余地もあろうかと思われますので,この点について,「○ より適切な要件は考えられないか。」との記載をいたしました。   次に,「2 供述等の真実性の担保」のうち,「(1)虚偽供述等に対する罰則」につきましては,まずは,新たに罰則を設ける必要性や,その保護法益をどのように考えるのかといった,基本的なコンセプトに関する事項を検討し,その上で,具体的な構成要件の内容を検討する必要があろうかと思われます。   そこで,「検討課題」として,「○ 必要性,保護法益」と,「○ 罰則規定の基本的な在り方」を記載し,さらに,後者に関しては,「ア 他人の犯罪事実についての虚偽供述等に限ることとし,自己の犯罪事実についての虚偽供述等は処罰対象としないこととするか。」,「イ 刑の減免等の有利な措置をとらせる目的などの主観的要件を規定するか。」,「ウ 虚偽供述のほか,偽造又は変造の証拠の提出等の行為を規定するか。」と記載いたしました。   「(2) その他の方策」につきましては,これまでと同様です。   御説明は以上です。 ○井上分科会長 それでは,「刑の減免制度」に関して,検討課題のいずれについてでも結構ですので,御意見のある方は,御発言をお願いしたいと思います。 ○岩尾幹事 「検討課題」の「1」の(2)と(3)について発言させていただきたいと思います。   まず,「他人の犯罪事実を明らかにするための行為」の中の,「共犯者以外の他人の犯罪事実を明らかにするための行為を含むこととするか。」という点ですが,組織的犯罪などにおきましては,数名の者がいろいろな形態で複数の犯行を敢行することが少なくなく,そのうちの一つの犯罪だけの解明ではなくて,事案全体の解明に資するような有用な制度とする必要があると考えられるところでございます。   そうしてみますと,これらの数名の者が常に一個一個の犯罪行為について互いに共犯関係にあるとは限らないわけですし,また,共犯関係が認められるかどうかというのも,結局その事件ごとに集まった証拠の状況等に左右されることから,共犯者の犯罪事実かどうかというのはあらかじめ判然と区別できないという面があろうかと思います。   そういうことから考えますと,刑の減免制度の対象とする「他人の犯罪事実を明らかにするための行為」を,自己と共犯関係にあるとされる者の犯罪事実を明らかにするための行為に限定するということでは狭きに失すると思われます。他方,他人の犯罪事実の範囲に限定がないのは広過ぎるのではないかという見方も当然あり得るところでございます。制度の在り方として,この点については「考えられる制度の概要」では,自己の犯罪と他人の犯罪の「関連性」という形で考慮要素の一つとするとしているところですが,この「関連性」を減免事由としての対象行為の要件の中に取り込めないかということも検討課題の一つなのかなと思います。   ただ,「関連性」というのは,関連性があるかないかということと,その程度がどの程度かということを区別すること自体が困難でありますし,犯罪行為相互に論理的な関係があるのかどうか,動機や目的が共通しているかどうか,罪質が共通しているかどうか,あるいは,行為者間の人的関係がどうかなど,非常に多くの,様々な事情によって判断されるべきものでありますから,単純に,例えば,「自己の犯罪事実と関連する他人の犯罪事実」とするだけでは,刑の減免の要件としては不明確になってしまうという問題があろうかと思います。そのため,仮に,減免事由を限定するとするのであれば,制度の有用性を損なうことなく,他人の犯罪事実の範囲を明確かつ合理的に画する規定の仕方を検討する必要があるのではないかと考えているところでございます。   それから,(3)の「犯罪事実を明らかにするために欠くことのできない行為」という点に関してでございますが,これまでの「考えられる制度の概要」では,「犯罪事実を明らかにするための一定の重要な行為」という形で議論をしてきたところでございますが,その点については,法律上の減免規定とするにふさわしい限定が必要であろうという基本的な方針を踏まえた上で,要件として明確な規定振りにする必要があり,この認識は皆様共通していたのだろうと考えております。   そこで,今回,これまでの議論も踏まえまして,「明らかにするために欠くことのできない」行為という形で修正しています。これは「欠くことのできない行為」ということで,基本的には協力行為があって,その協力行為によって犯罪事実が解明できたという原因・結果の関係にあることを要するというように解釈できるのではなかろうかと思っておりまして,一定の明確性を有する規定の仕方であろうと思っておりますが,この点は,相当性の考慮事情との関係にも留意しつつ,より明確な規定の方法があるかどうかという観点から検討課題として取り上げる必要があるのだろうと考えているところでございます。 ○小野委員 「他人の犯罪事実」の関係なのですけれども,当該この人の裁判で他人の犯罪事実について,どういう証拠調べをするのかちょっとイメージが分からないですね。弁護人の立場からすると,例えば,減免を求めたいと本人が思っていて,これこれこうだということをしゃべっていると。今のお話にあるように共犯関係にあるかないかによってもちろん違うのでしょうけれども,仮に共犯関係にあるとしても,他人の犯罪事実を明らかにするために欠くことができるかできないか,という判断をするには,減免を求める者の法廷で他人の犯罪に関する一通りの証拠がそろわないと,欠くことができるかできないかという判断ができないのだろうと。そもそも他人の裁判においては,もちろん欠くことができるできないというのは関係ないわけですから,そういうことで判断されるわけではないでしょうし,他人の裁判は他人の裁判でこちらの裁判とは多分関係ないことになるのだろうと。   そうしたときに,この本人の裁判で他人の犯罪事実に関する証拠調べをみっちりやった上でということになってしまうのか。そのような裁判をこのようなことのためにやるのかということになると,その裁判で被告人でない人の共犯なり,あるいは,他人の裁判を併せてやることになるわけですね。結果的にその判断が他人の方の裁判体の判断と違ってしまったりすることももちろんあり得るわけで,他人の方の裁判で「この人の供述なり何なりは全然欠くことのできないものではなかったね」みたいなことに結果的になったときに,一体それはどうなるのかなということで,この仕組みの在り方が全然分からないというか,イメージができないのが率直な感想です。 ○岩尾幹事 こういう形で法律上の減免事由を規定した場合には,減免事由の不存在について挙証責任は検察官にあるということがまず一つの出発点になろうかと思います。そして,その事案の解明に資する行為を積極的に評価すべきことが明確になれば,公益の代表者である検察官としては,被告人の行為が減免事由に該当すると認められる証拠資料を積極的に提出するということが考えられると思います。   その証拠としては,まず,捜査報告書が考えられます。つまり,減免規定を適用するのに必要な範囲で,例えば,他人の犯罪事実の概要はどういうものか,被告人自身の犯罪事実との関係性はどういうものか,被告人の行った行為の内容はどういうものか,それが行われた時期はどの時点なのか,その行為が行われた当時の捜査状況はどういうものか,その行為が行われたことに基づいてどのように捜査が進展したか,そして,結果として認定可能となった犯罪事実はどういうものかなどの事項を記載した簡潔な捜査報告書を提出することが考えられると思われます。また,被告人側からも,被告人質問によって,どういう協力行為をしたかということは法廷に顕出することもできるかと思われます。   刑の減免事由の存否に関して争いが生じた場合というのが疑問だということなのだろうと思いますが,それは先ほども申し上げましたような挙証責任の問題がございます。「こういう行為を行ったことによって減免事由に該当するのだ」という主張が,まず被告人・弁護人側からなされるわけでございますが,それについて減免事由の不存在を検察官が主張するということであれば,それを基礎付ける事実を,捜査官の証人尋問や捜査報告書等の書証の取調べという形で立証していくということになると思います。そういう意味では,裁判所が減免事由の該当性を判断するに必要な証拠資料が法廷に顕出されないということはないと思っています。   そういった減免事由の該当性の判断をすることが,全くの他人の犯罪事実を一から認定しているのと同じことになるかというと,それはやはり異なるのだろうと考えます。現在の裁判においても,他人の犯罪事実の解明に資するような積極的な行為を行ったというのは,一般情状の一つとして主張されることもありますし,それが非常に重要な犯罪事実に関するものであれば,裁判所も十分な証拠調べをした上で,それを判決書に量刑理由の一つとして記載することはあり得ますので,基本的には他人の犯罪事実を明らかにするための行為の認定の仕方は,現行法下におけるものとそれほど異なるものではないのだろうと思います。   それから,認定の結果が異なる可能性についてですが,他人の犯罪事実に関する公判自体が時期的に遅れるということは場合によってはあろうかと思いますが,減免事由については,当該被告人の公判において,その人に減免事由があるかどうかということを認定するわけですから,他人の公判でその犯罪事実が認定されていなければ認定できないというわけではないので,その被告人の行為によって他人の犯罪事実が認定される高度の蓋然性があると認められたならば,その段階で減免規定を適用することは当然あっても良い。結果的に,その後の他人の公判で異なる結論が出るといたしましても,今でも共犯者の公判で犯罪事実の認定が異なるということはあり得ますので,そういった可能性があるということをもって,この制度の導入を否定する理由にはならないのではなかろうかと考えています。 ○井上分科会長 ここにいう「犯罪事実を明らかにする」というのは,その事件の被告人が有罪であることを証明する,あるいは,認定されるということまで意味しているものではないということですね。 ○岩尾幹事 はい,そのとおりです。 ○小野委員 例えば,お互いにあちらが首謀者と言い合っているケースがあったとして,減免を求める側で「いや,他人が首謀者なのだ」という証拠を出してきて,「そうだね」ということになって,減免規定が適用されてですね。他方,他人の裁判で,減免を求めている者の言っていることの証明力は否定されてしまって,やはり減免を求めた者が首謀者なのだという認定になったとして,そういう仕組み・制度を適用した結果は,我々はどう受け止めればよいのですか。現状もそういうことは確かにあり得るかもしれません。現状は心証形成の在り方の問題でそういうことはあり得るとしても,こういう制度を作ってしまって,この制度の適用によって減免してしまいましたと。その結果,それでも仕方ないと言えるのですかね。 ○井上分科会長 今おっしゃったのは,どちらが首謀者か争われるという場合ですが,そもそも,そういう場合もこの対象になるのですか。 ○岩尾幹事 結局,減免規定を適用しようとしている公判で,そもそもその人の行為によって他人の犯罪事実が明らかになったという関係があるということと,自分の犯した犯罪事実と他人の犯罪事実との関係性や犯罪の軽重を考慮した上で,減免が相当かどうかということが判断されますので,どちらが首謀者か分からないような状態では当然減免の対象にもならないでしょう。他方,他人の犯罪事実の解明に協力したとして減免の対象となると認定されるということは,その人の供述によって他人の犯罪事実が解明され,きちんとした裏付け捜査をした結果,それが事実であると認められた上でのことだと思われます。   そういう意味で,他人の公判と自分の公判で結果が齟齬することが往々にして起こるということではないと思うわけです。基本的には供述しているというだけではなくて,その供述の内容についてきちんとした裏付け捜査を実施して,どちらが首謀者であって,どういう実態なのかが解明された上で適用の可否を判断するという過程を経ることから,そういう問題は起きないのではないかと思っておりますが。 ○後藤委員 「欠くことのできない」という要件の問題です。私の疑問は,この判断が的確ににできるかという点と,もう一つは限定的過ぎないかという点です。的確な判断ができるかという疑問については,具体的な捜査の過程において非常に重要なきっかけになったのだけれども,後からたくさん証拠が出てきて,結果的に見れば,あれはなくてもきちんと立証はできたというような経過もあり得ると思います。そういうときは欠くことができたことになるのか,できなかったことになるのか。 ○岩尾幹事 それは肯定されると思います。要は,協力行為をした時点で既にもう犯罪の証明が十分な程度に証拠が集まっていれば,それは「欠くことのできない」行為には当たらないのですけれども,協力行為をした時点では証拠はなかった,しかし,被疑者・被告人の供述を契機に補充捜査が進んだことで,その供述だけではなくて,ほかの客観的な証拠も集まって,最後から見ると客観証拠だけでも認定できるような状態になったとしても,そこは問題ないというわけです。 ○後藤委員 ほかの人が進んで供述してくれたので,この人の供述はなくても,後から考えたら十分捜査も立証もできたというようなケースもあり得るでしょう。 ○井上分科会長 岩尾幹事が言われたのは,結果として見るのではなくて,協力行為をした時点での証拠状態がどうだったかということで判断するということでしょう。今,後藤委員が言われたのは,後でほかの人が供述したという例なのでしょう。 ○後藤委員 そうすると,その場合は当たるという答えですね。 ○井上分科会長 その時点で見れば,後での供述がないわけですから,当たるのだというのが岩尾幹事の御説明でしょう。 ○後藤委員 そうすると,厳密に言うと「欠くことのできない」ではなくて,「欠くことのできなかった」ということでしょうか。その捜査過程において。 ○井上分科会長 それはワーディングの問題で,アイデアとしてはその時点その時点の証拠状態で判断するということなのでしょう。 ○後藤委員 でも,そうなると,供述者にとって,供述しようかどうか考えるときに,これが欠くことができないかどうかを判断できるでしょうか。 ○岩尾幹事 多分自首でも同じような問題があるのではないかと思うのですね。出頭して犯罪事実の申告をしたけれども,捜査側としてはもう既に一定の嫌疑を抱くだけの証拠を持っていたということもあり得ますので,主観において確実に本人が認識し得る状況になければ成り立たないのだということはないのではないかと思います。 ○後藤委員 現在の自首規定ではそこは要件になっていないですね。捜査機関に発覚する前という要件についてのことですか。 ○井上分科会長 この制度は別に取引的な場合だけを考えているわけではないのでしょう。こういう供述をすれば減免してもらえるかどうか分かった上で,その供述をするかどうかを決断するのではなく,とにかく供述をし,それが客観的に見て欠くことのできない重要性を持ったものである場合は,後で減免事由として考えてあげますということなのでしょう。取引的なものの場合は,協力をすることによりどういう効果が発生するのかを分かった上で選択するということになるわけですけれども,今議論しているのはそういう場合に限ったものではないということだと思いますね。 ○小野委員 今の点なのですけれども,こういう制度を作る目的は他人の犯罪について的確な証拠をより得られやすくしたいということではないかと思うのですけれども,そのときに,捜査側から「こういうことを言えば,こういう制度があるのだよ」ということでも言わないと,その供述は引き出せないような気もするし。あるいは,しゃべる方も,そういうことだからしゃべると俺にとって良いことがあるなと思わないと言わないように思うので,結果的に「こうでしたよ,あなた,たまたま良かったね」という仕組みだったら,この仕組みとして機能するのですか。 ○岩尾幹事 これは前回も議論になったとは思うのですけれども,現行制度の下でも起訴・不起訴の基準を一般的に教示するとか,自白した場合はどうなるかということを一般的に教示するというような,利益誘導に当たらないような形で教示することは許されるわけでございまして,こういう制度ができたとしても,当然その制度があるということの教示はできるわけです。しかも,今行われているような,自白をしたら一般的に量刑上どうなるかという話以上に,より明確な形で教示ができるのだろうと考えられることから,こういう制度ができればより一層適切な運用がなされるのではなかろうかと思っております。   また,当然のことながら制度が定着すれば,こういう規定があるということは,あえて教示しなくても分かることになります。今の自首規定については,出頭する前に誰かから教示されて自首しているわけではないでしょうし,その点については,御懸念は当たらないのではなかろうかと思います。 ○髙橋幹事 「他人の犯罪事実を明らかにするために欠くことのできない」といえるかどうかを裁判所が判断する場合,当該被告人の事件を離れて,別の犯罪について減免事由があるかどうかが争われた場合,相当手続は重たくなるなというのは実感としてあります。重たくはなるのですが,これはそもそも制度としても任意的な減免ですよね。   裁判所として刑を決めるときには,この事情だけではなくて,いろいろな事情を含めて考慮して,被告人にとってどういう刑がふさわしいかということを決めるわけで,この事情だけかなり労力をかけて判断したけれども,結局それは刑を決める上でそれほど大きなウエートを占めていなかったということも実際としてはあり得ることも考えられます。刑の減軽,さらに免除というところまで規定がされているのですけれども,果たしてこの事情だけ特出しで,刑法の中に位置付ける必要性があるのかなということが,まだストンと落ちないところです。 ○露木幹事 先ほど後藤委員から「供述者から見て捜査機関が他人の犯罪事実についてどういう捜査をしているのかという状況は分からないのに,自分の行為が欠くことのできないものかどうか判断は難しいのではないか」というお話がありましたけれども,他人の犯罪事実を語れるということは,その他人と何らかの関係があるということが当然想定されるわけですね。その他人が捜査の対象になっていて,捜査がある程度進捗している場合,そういう犯罪事実まで語れる人間であれば,捜査機関には既に発覚しているのだなということぐらいは通常分かるのだろうと思います。ですので,自分が今から他人の犯罪事実について話をするという行為が捜査機関の捜査を進捗させる上で非常に有益であるということは,普通は判断できるのではないかと思います。   あと,それとは別の話になりますけれども,他人の犯罪事実の範囲の問題と主張・立証の問題は非常に関連が深いのだろうと思うのですね。全く自己の犯罪事実と関係のない他人の犯罪事実について,正に捜査機関に初めて話をするということがあったときに,捜査機関としてはそこから捜査がスタートするということになりますので,その話の内容が本当かどうかということを見極めるのに非常に時間が掛かるということもあるでしょうし,そもそも見極めは難しいということもあると思います。   そうしますと,本人の刑の減免という効果との関連でこの制度を組み立てようとするときには,本人の事件の公判が終わるまでに,果たして,先ほど申し上げた見極めができるのかどうかということが問題になってくると思うのですね。ですから,全く自己の犯罪事実と無関係の他人の犯罪事実ということまで対象にしようとすると,結局はその部分がワークしないということになるのではないかと思うのです。   また,無理にそういう制度を仕組みますと,正に主張・立証のところで自分はこういう貢献をしたのだというようなことが出てきて,捜査の状況が関係者の知るところとなり,以後の捜査が難しくなってしまうということもあり得るかなと思いまして,一見,他人の犯罪事実についての情報提供があれば,捜査機関としてはメリットがあるようにも見えるのですけれども,他方で先ほど申し上げたようなデメリットもあるということがありますので,その兼ね合いも考えてこの他人の犯罪事実の範囲を考えていくことが必要なのかなと思うのですね。   共犯の場合には,通常それは本人の犯罪事実と関連している事実ですので,もう既に捜査が行われているということもあるでしょうし,見極めも比較的容易であると思います。仮にそれが主張・立証の場面で明らかになったとしても捜査への影響はあまりないということもありますので,共犯は非常に考えやすいと思うのです。もちろん,岩尾幹事がおっしゃったように,厳密な意味での共犯に限定してしまうと狭過ぎるという問題もありますので,共犯を中心にしながら,どこまでその関連性を広げるかという辺りを議論すべきなのかなと思います。 ○井上分科会長 「供述等の真実性の担保」については御意見が全く出ていないのですが,これも重要な論点ですので,もし御意見があれば出しておいていただきたいと思います。 ○小野委員 引っ張り込みの危険があるのを制度的に作ろうということで,私は基本的に反対なのですけれども,仮にこういう制度が入るとすれば,そこの供述は録音・録画しておかないとまずいかなと,そうでなければ使えないのではないかなと思っています。 ○井上分科会長 ここに論点として書いているように,他人の犯罪事実についての虚偽供述に限るのか,それとも,自己の犯罪事実についても同じように真実性担保のために罰則等を設けるということなのか。その辺はいかがですか。 ○小野委員 自己のものについて罰則うんぬんということはちょっと当てはまらないのではないかと思います。   本人の証人適格を認めて何か制裁を加えるという制度であるならともかく,そうではないとしたときに,「自分のことについてちょっと嘘を言いました」ということについての罰則は考えられないのではないかと思います。     もちろん,現在の法制で「それは嘘でありました」ということが分かったときの量刑の関係はあるかもしれませんけれども,それによって罰則を加えるという仕組みになっていないわけですから,根本的な仕組みの問題に関わってくるのだろうと思いますね。 ○井上分科会長 現行では,自分の事件についての証拠隠滅は期待可能性がないので処罰しないということになっているのですが,この点も立法政策の問題と考えれば,処罰の対象とすることも理屈としては可能は可能なので,そこのところをどう考えるか,理屈を出しておいていただいた方が良いかと思います。 ○後藤委員 自分が刑の減軽を受けるためにわざと虚偽自白するわけですか。そういうことがあり得ますか。その状況がよく分からないです。 ○岩尾幹事 まず,この罰則規定を設けるときに,どういう趣旨で設けるのかというところから議論をスタートさせる必要があると思うのですね。刑の減免制度の適正を担保する趣旨で制裁を設けようということにすると,何らかの主観的な目的要件を付けた方が良いのではないか。それは刑の減免制度による恩恵を得る目的という形での主観的要件を設けるのが適切ではないかなと思います。   仮にその主観的要件を設けたとした場合,捜査協力型では,恩恵を得る目的で自分の犯罪事実だけについて虚偽供述するということは考えにくい。それは自分と共犯関係にある他人の犯罪事実も含めて虚偽の供述をするということになろうかと思いますので,政策的な必要性という観点から,自己の犯罪事実だけに関連するような虚偽供述罪というのは設ける必要はないのではなかろうかと思うところでございます。 ○井上分科会長 後藤委員が言われたのは,観念的に考えられないということだと思うのです。要するに,真犯人ではないのに「私がやりました」と言うことは考えられないではないかと。 ○後藤委員 意識的に自分が有利になるために虚偽自白をするというのは。 ○井上分科会長 ですので,犯人性の点だけではなく,自分の加功の程度とか犯罪事実の中身について,やったことはやったのだけれども,それを軽く言うということはあり得るということなのではないですか,観念的にはですね。しかし,それだけとってみるとあまりメリットがないというのが岩尾幹事の御説明で,共犯関係のような場合に共犯者の関与の有無とか程度を含めて,虚偽の事実を述べるという場合だけ対象にすれば良いのではないか,そういう御趣旨なのだろうと思いますけれども。 ○後藤委員 目的要件については,この判定が的確にできるかという問題があると思います。自分が有利になりたいから言うという動機は,常に考えられるので,それは常にあると認定されそうな気がするけれども,それではこの要件に限定的な意味はなくなります。そう考えると,目的要件で絞るよりは,むしろ後で議論される合意に基づいてしたときなど,もっと明確な要件で限定をするべきではないでしょうか。 ○岩尾幹事 合意の場面における罰則については,罰則の場合はそういう形で規定するということが考えられて,そちらの方は良いのですけれども,刑の減免制度自体は,前提として協議・合意があるわけではないので,仮に主観的要件を設けないとすると,単純に被疑者の虚偽供述罪あるいは被疑者の証拠隠滅罪を設けることと同じにならないか,つまり,他人の犯罪事実に関する証拠であったとしても,共犯関係だと自己の犯罪事実に関する証拠ということにもなりますので,自己の犯罪事実に関する証拠の場合には期待可能性がないという考え方が比較的多いのだと思われます。そういった点で,一般的に期待可能性の問題,現行の刑法の解釈との関係が正面から出てくるのではなかろうかと懸念します。 ○井上分科会長 時間の都合がありますので,このテーマについては今回はここまでとさせていただきたいと思います。   次に,「捜査・公判協力型協議・合意制度」についての議論に移りたいと思います。まず,配布資料7-2の内容を事務当局から説明してもらいます。 ○吉川幹事 それでは,資料7-2「捜査・公判協力型協議・合意制度」を御覧ください。この制度につきましても,本日は「考えられる制度の概要」及び「検討課題」の全般について御検討いただきたいと思いますが,これまでの資料からの主な変更点を御説明いたします。   まず,「考えられる制度の概要」について御説明いたします。   「1 合意の内容」につきましては,被疑者・被告人及び検察官においてそれぞれ合意できる内容を整理して記載し直しました。   また,「3 合意成立時における公判手続の特則」に関しましては,これまでは,被告事件の当事者間で当該事件についての合意が成立している場合と,検察官と証人となり得る者等との間で合意が成立している場合とを区別しておりませんでしたところ,これらを区別した上で,それぞれの場合に対応して,望ましいと考えられる公判廷への合意の顕出方法を記載いたしました。すなわち,前者の場合につきましては,検察官において裁判所に対して合意が成立している旨を明らかにしなければならないこととする,また,後者の場合につきましては,検察官において,合意書面の証拠調べ請求をしなければならないこととする旨を記載いたしました。   次に,「検討課題」について御説明いたします。   「1 合意の内容」に関しましては,これまでの議論において,従前から記載されていた「特定の科刑意見を述べること」に加え,「即決裁判の申立てをすること」及び「略式命令を請求すること」につきましても,最終的に即決裁判手続による審判がなされ,又は略式手続が採られるかが裁判所の判断によることを理由に,その必要性に異論を示す御意見もありましたことから,検討課題に加えております。   そして,「3 合意違反への対処等」に関しましては,「(1)」の検察官による合意違反の場合と,「(2)」の被疑者・被告人による合意違反の場合とが考えられますことから,それぞれの場合について,検討が必要と思われる点を整理して記載いたしました。   具体的には,まず,「検察官による合意違反の場合への対処」としては,「合意に違反する公訴権行使の効力の制限」と,「検察官が合意に違反した場合における合意に基づいて得られた証拠の使用制限」の双方が検討課題になると思われます。   そして,前者の公訴権行使の効力を制限する方法としては,裁判所において合意に違反する態様による公訴を棄却しなければならないものとすることや,合意に違反する訴因等の変更請求を裁判所において却下しなければならないものとすることが考えられるところです。また,後者の証拠の使用制限に関しましては,その必要性や趣旨・目的をも踏まえまして,制限の対象とする証拠の範囲や制限の効力の範囲などの点も含めて検討する必要があると思われます。   他方,「被疑者又は被告人による合意違反への対処」といたしましては,被疑者又は被告人が他人の犯罪事実についての虚偽の供述をし,又は偽変造証拠を提出するなどした場合に,これを合意の正当な履行との関係でどのように位置付けるのか,また,これらの行為を処罰する新たな罰則の要否などが検討課題となると考えられます。   「4 合意が成立しなかった場合の取扱い」に関しましては,当事者間で協議が行われたものの,合意が成立しなかった場合に,協議においてなされた供述の証拠能力を制限するかという点について,対象とする証拠の範囲や制限の効力の範囲も含めて御検討いただきたいと思います。   御説明は以上です。 ○井上分科会長 検討課題として,「1」から「6」まで挙がっていますが,議論の順序として,まず「1 合意の内容」から「3 合意違反の対処等」まで御議論いただき,その次に「4」以降について御議論いただくということにしたいと思います。   それでは,「1」から「3」について御意見がある方は御発言をお願いしたいと思います。 ○後藤委員 直接ここの検討課題に書いてある部分ではないのですけれども,囲みの方の「1」の(1)の「ア」は合意内容が真実の供述をすることです。それに対して,「イ」は証人として真実の証言をすることと分かれています。これを文字どおりに見ると,例えば,「検察官に対しては供述します。でも,法廷では証言しません」という合意もあり得ることになりますね,論理的には。それでよいのかという疑問が,私にはあります。供述するなら,法廷で証言することを約束すべきではないでしょうか。そうでないと,法廷では言わないけれども,ここだけ言いますという約束もできることになります。法廷では証言拒絶して調書を2号書面として使うことを,最初から想定したような合意をすることが適切なのかという疑問があります。だから,「ア」だけを単独で合意内容にするというのは適切ではないように私は思います。 ○岩尾幹事 基本的には「ア」だけで合意をするということは通常は考えられないだろうと思われます。ただ,それぞれの行為の中身として別個の行為だと考えられますので,それぞれの号を分けた形で書いていて,その際に必ず全部,少なくともこの二つがセットでないと合意できないという仕組みにする必要があるのかどうかという点については,そこまでの必要性はないのではなかろうかという気はしています。   というのは,結果的に調書を作成することだけを合意して,法廷では「私は供述しません」と言っているときに,それを協議・合意制度を使った2号書面で他人の公判において信用していただけるだけの十分な立証ができるかどうかというと,基本的にはできないと思っていますので,そこは規定レベルのものではなくて実際の運用の中で解決できるのではなかろうかと思います。 ○後藤委員 しかし,現在の案では証拠法の方を改めるという想定はありません。立法的な手当てをしなければ,検面調書であれば2号前段あるいは後段で採用される可能性があります。検察官としては,普通は法廷での証言まで期待するだろうと思います。しかし,このままの条文を作った場合,論理的には捜査段階での供述だけの合意もあり得ることになるので,疑問があります。 ○川出幹事 「ア」については,その供述調書を公判で証拠とすることを予定せずに,取りあえず真実の供述を得た上で,そこから捜査を進めていくために,それを合意内容とすることもあり得るでしょうから,「ア」だけを単独で規定するとおかしいということにはならないと思います。   そうではなく,その段階で作成された供述調書を2号書面として出してくるという場合ですが,そうしたことが理屈の上ではあり得るとしても,先ほど岩尾幹事がおっしゃったように,証人が公判で証言を拒絶したという場合には,捜査段階で合意に基づいてなされた供述を録取した書面が信用されるかと言えば,それは信用されないでしょうから,あえてその場合を取り出して,合意内容を制限する必要まではないのではないかと思います。 ○後藤委員 今の2号前段では特信性要件はないですね。だから,そこは全く解釈に委ねられる形になってしまいますね。 ○井上分科会長 そういうことではなく,信用性の判断において処理をすれば足りるという御意見なのでしょう。証拠能力の問題としては,形式的にはそれに当てはまるけれどもですね。 ○川出幹事 そうです。そもそも,協議・合意に基づく供述であっても信用できると言えるための重要な要素の一つが,その供述について,それによって不利益を受ける第三者の公判で反対尋問を経るということですので,それがなされない供述録取書については,その信用性は当然低く評価されることになり,それで十分ではないかと思います。 ○井上分科会長 今の議論を整理すると,川出幹事が言われているのは,公判で証言を得るということではなく,取調べ段階で真実の供述を得るということに独自の意味,あるいは機能があるという位置付けなのでしょう。 ○露木幹事 今の点なのですけれども,別に賛成という意味ではないのですが,取調べの中で犯罪事実を明らかにするために真実の供述をするということ自体に意味があるというのは,川出幹事がおっしゃったとおりでして,例えば,共犯者が「凶器の包丁をあそこで購入して,自分が車を運転して連れて行って,そいつが刺したんです」というようなことを供述した場合にその裏付けをする。そのとおりにそこでその包丁を買ったというのをお店のレシートで確認できるとか,防犯カメラに映っているとか,連れて行った経路も全部ETCの裏付けができるとか。そういった裏付けが可能になるという意味では,捜査上は非常に有効なことがあり得ますので,それ自体に価値があるという場面は多く想定できると思います。 ○小野委員 合意をする当事者は検察官と弁護人ということになるわけですよね,協議するというか合意すると。それはそれでよろしいのですかね。 ○岩尾幹事 必ず弁護人が関与した形で合意するということは担保しなければいけないと思っております。ただ,当事者性をどうするかというのは法技術的なというか理論的な面も含めて考える必要があるのかなと。だから,被疑者を除くということ自体は不自然で,検察官と弁護人だけの合意という形にはならないのだろうと。そして,弁護人も一緒に合意書面に連署するとした場合の弁護人の立場をどう考えるのか,弁護人の固有権なのかどうなのかというと,整理としては固有権でないとする方が良いのではなかろうかと思っています。要は,包括代理権の延長線の方が良いのではなかろうかと考えており,そうすると,技術的に合意の当事者を,弁護人も当事者だと言うのか,あるいは,必要的関与者だと言うのかというのは,技術的な用語の使い方の問題になるのかなと思っております。ただし,必ず弁護人が関与するということだけは担保するということでございます。 ○井上分科会長 これまでのこの分科会の議論でも,当然,弁護人との間で話が進むだろうということに,ほとんど異論はなかったと思うのです。そういう想定ですよね。ただ,今言われたのは,法理論上は,合意する本来の権限を持っているのは誰なのかということで,それは被告人であるはずなので,こういうふうに「被告人及び弁護人」という形で書いてあるという御説明なのでしょう。 ○後藤委員 先ほどの露木幹事の発言に話が戻ってしまうのですけれども,公判で証言を得られなくても,捜査上重要な情報を得ることがメリットになる場合は確かにあるのだと思います。しかし,それは捜査上重要な情報を提供するという合意内容であって,供述証拠を提供するというのとは分けて考える必要があるのではないかと私は思います。供述証拠を提供するという合意内容であれば,それは証言をするということが前提になるべきではないかというのが私の意見です。それとは別に捜査上重要な情報を提供するという合意内容があってもよいかもしれません。 ○井上分科会長 「供述」と書いてはいけないということなのですか。 ○後藤委員 結局,その調書を証拠にすることを前提にしていることになるのではないでしょうか,こういう書き方をすると。 ○井上分科会長 それはどうですかね。ちょっと読み込み過ぎのような気もしないでもないですけれども。言葉の受け取り方なのでしょう。 ○髙橋幹事 検討課題の中身について意見を述べたいと思います。「1 合意の内容」について挙げられている「○」三つについては,従前発言したように最終的に裁判所の判断に委ねられるものなので,こういう合意の内容を設けたところで,本当にきちんとワークするのかなという疑問を持っていますので,ここは十分検討が必要と思います。   それから,「3」の「合意違反への対処等」のところの(1)の最初の「○」ですが,合意に検察官が違反した場合にどういう制限がかけられるかということで,「公訴棄却」と「合意に違反する訴因等変更請求の却下」の二つが挙げられているのですが,これは,「考えられる制度の概要」に掲げられている検察官ができる行為との対比で見ていくと,枠囲いの「1」の(2)の「公訴を提起しないこと」に合意した場合に,合意違反があったときには公訴棄却になるということですかね。次に,特定の訴因で起訴するよと言っていながら違う訴因にした場合については,どうなるのでしょうか。 ○岩尾幹事 まず,公訴棄却をする場合としてどのような場合があるかというと,「考えられる制度」の「1」の(1),(2)にメニューがあるわけですが,これは「ア」から「カ」の全てについてそういう場合は考えられるのだろうなと思います。不訴追合意の場合,起訴しないという合意をしておきながら起訴したということになりますので,それは公訴棄却をするのが適当でございます。例えば,特定の訴因や罰条による公訴を提起するという合意の場合でも,それと異なる訴因や罰条により公訴を提起した場合は,髙橋幹事が当分科会の第3回会議で言われていたように,訴因変更命令というような形の違う方法もあり得るとは思いますけれども,公訴棄却をするという方法も採り得るのではなかろうと思います。   公訴の取消しの合意の場合には,それに違反して取り消さなかったということが合意違反として考えられますし,訴因の罰条の撤回・変更の請求の合意の場合には,合意に従った請求をしなかったということが合意違反として考えられます。それから,即決裁判を申し立てる旨の合意をしておきながら,公訴提起と同時に申立てをしなかったということ,略式命令の請求をする旨の合意をしておきながら,略式命令の請求をせずに公訴の提起をしたということが合意違反として考えられると思います。  他方,合意に違反する訴因等変更請求の却下というのは,「イ」に関連するものに限られるのかなと思いますが,特定の訴因及び罰条により公訴を維持するという合意があったときに,その合意と異なる訴因及び罰条へと変更を請求したというときには,公訴棄却をする必要はないわけで,訴因等変更請求を却下すれば足りるということになるのではなかろうかと思われます。 ○髙橋幹事 そうすると,このメニューに挙がっている(2)の「キ 求刑において特定の科刑意見を述べること」について合意をして,それに違反した場合は,どういう効果が考えられるのでしょうか。 ○岩尾幹事 これは特別に公訴棄却という形で公訴権の行使を否定するような効果に結び付ける必要はないと思っています。そもそも特定の科刑意見を述べること自体が処分的な行為をしているわけではないということからそうなるのだろうと思います。ただし,求刑合意があって,かつ,それに違反する行為であるということは,裁判所にきちんと顕出されなければいけませんので,合意違反の求刑がされた段階で被告人・弁護人側から合意に違反する行為だということが主張され,元々の合意の中では求刑が何年だったということが明らかにされることを前提に,裁判所としては合意時の検察官の科刑意見はこうであったということを踏まえて量刑をされることで足りるのではなかろうと思っております。 ○井上分科会長 その点も,より重いサンクションとして,公訴を棄却するということも,理屈の上ではあり得ると思うのですけれども,そこまでの制度ではないということなのでしょうかね。 ○川出幹事 検討課題「1」の「合意の内容」についてですが,先ほど髙橋幹事がおっしゃったように,確かに,ここで挙がっているものはいずれも,最終的にはそれを認めるか否かが裁判所の判断に委ねられることになるもので,その意味で両当事者が意図したとおりの結果になることは保障されていません。ただ,現在の運用を見る限り,求刑以上の刑の言渡しがなされる場合というのがそれほどあるわけではないようですし,また,即決裁判手続の申立てとか略式命令の請求についても,ほとんどの場合は,裁判所によって認められているのだろうと思います。   そうした運用が,今後大きく変わるとは考え難いので,制度として担保されたものではなくとも,実際上の効果としては,こうした内容の合意も,被告人側に合意をして協力する誘因として働き得るだろうと思います。そうしますと,被告人側の期待に沿わない結果になることがあり得るからといって,制度そのものを作る意味がないとまで言う必要はないと思います。実際,外国,例えばアメリカなどでも,検察官が,求刑において,特定の科刑意見を述べるということは,合意内容として認められており,それが機能していないことはないと思いますので,そこに挙がっている三つについても,検察官が合意できる内容に入れておくということで良いのではないかと私は思います。 ○井上分科会長 この三つの中には質が違うものがあり,求刑は飽くまで検察官の意見であって事実上影響を与え得るというものですけれども,即決裁判手続の申立てと略式命令請求は,それがないと手続が動かない。その意味で法的な意味付けはちょっと違うのだろうと思うのですけれども,この辺は弁護人あるいは被告人サイドとしてメリットがあると見るかどうか。小野委員にお伺いしたいと思うのですけれども。 ○小野委員 この人の立場からすると,それ自体メリットはあり得るのだろうと思うのですが,私もあまりよく理解していなくて申し訳ないのですが,例えば,この人がこういうふうに合意をしましたということで略式命令になって終わりましたと。この人が合意に基づいて他人の刑事事件の証人として証言したと。ところが,そちらの法廷では「これは嘘だ。信用できない」となることはあり得るわけですよね,本人が嘘を言っていたと。そうしたときに,この略式命令は仕方がないねということなのですか。この仕組みは,そういう仕組みなのですか。 ○井上分科会長 略式命令が確定してしまったら,どうしようもないではないですか。 ○後藤委員 関連して質問ですが,今,小野委員が言われたようなことが問題になるのは,検察官が先に約束を履行した場合ですね。検察官の方が先に約束を履行するということが実際にあるでしょうか。 ○小野委員 約束の履行とはちょっと違う観点で言ったのですが。つまり,本人はそうしゃべりましたと,当初供述したとおり,これは真実だとここで合意されたものとして,それで略式命令で終わってしまったとしてですよ。略式命令にさせない,終わらせないとかいう選択はあるのかもしれませんけれども。結果的に,後で他人の刑事裁判で同じ証言をしましたと。つまり,合意違反はないのだけれども,この証言は嘘だと,あるいは,ほかの証拠との関係で信用できないと判断されたら,それはもう仕方がないね,この略式はもうけものだねということになる仕組みなのかということなのです。 ○井上分科会長 それは,異なった裁判所が異なった評価をしたというだけのことなのではないでしょうか。 ○岩尾幹事 単純に違う裁判体が信用性がないと判断した場合と異なり,後で決定的な裏付け証拠が出てきて,明らかに合意時の供述が虚偽でしたということになれば,それは真実性担保の問題としてこれからまた議論されるとは思いますけれども,罰則を設けるかというような議論になっていくのだろうと思っています。 ○小野委員 罰則を設けるかどうかというのは,別の仕組みの中で解決するしかないということであると,そういう考え方ですよね,この仕組みはね。 ○露木幹事 検討課題の「2」の司法警察職員の関与についてなのですけれども,この資料に「送致事件において」と書いてあるのですけれども,送致前の段階はどういう扱いになるのでしょうか。例えば,警察が在宅で被疑者を調べていて,その過程で共犯者の関与について供述を求めたいという場合に,検察官がこの制度を利用することはあり得るのではないかと思うのです。その場合には,まだ在宅調べですから送致していないということになるわけですけれども,これもここに言う「関与するものとするか」という,このテーマの対象になっているということなのでしょうか。 ○岩尾幹事 ここは検討課題の中での記述なので,厳密な意味で,現在送致されているか未送致かということを分けて,「送致事件」と書いたわけではありませんけれども,元々未送致の段階で協議・合意の対象になり得るのかという点は疑問です。検察官が別個独立に独自捜査をしていて,その過程の中で協議をするということはあり得るのかもしれませんけれども,警察だけが捜査をしている場合には,通常は送致の前から警察を飛び越えて検察官が協議・合意をするということはあり得ないと思います。ただ,仮に,そのような話が万一来たとしたら,検察官は,送致後以上にきちんとした形で,警察,第一次捜査機関との間で,そういった合意をするのが適当な事件なのかどうなのか,また,適当な段階にあるのかどうなのかということは,協議しなければいけないという認識は持っております。 ○井上分科会長 ほかの検討課題もありますので,これくらいにして,次に,「4 合意が成立しなかった場合の取扱い」から「6 その他」までについて,御議論いただきたいと思います。   これらの検討課題のうち「4 合意が成立しなかった場合の取扱い」については,これまで言及はされたのですけれども,あまり深く議論されていませんし,重要な点ですので,この点を中心にして,もちろん「5」,「6」についてでも結構ですので,御意見を頂ければと思います。 ○小野委員 先ほどもちょっと出ましたが,協議においてなされた供述の関係なのですけれども,いろいろな経過で合意に至ることはあると思うのです。例えば,弁護人が被疑者といろいろ話をしていて,こういうことがあるのだと,では,そちらの方に持っていこうかという経過もあるかもしれないけれども,捜査官が取調べをしている中でそういう供述が出てきてということで,そこは取調べなのでしょうね。それをずっとやっていると。それがいずれ協議に発展していくという経過なのだと思うのですね。そうすると,どこまでが協議で,どこまでが取調べなのか,そこはどこかで截然と区分けできるのかできないのかというところが,こことの関係で問題となってくるような気もして,そこのイメージが私にはよく分かっていないのです。 ○岩尾幹事 協議の過程というのはそれまでの取調べの段階とは明確に区別する必要があろうと思っています。まず,協議の段階も常に弁護人が関与すべきだと思います。協議の過程においては具体的な恩典を示したりすることもありますし,協議を始めたら合意の成立という方向に向けて進んで行きますので,被疑者は,合意が成立した場合にどういう効果が生じるのかということについても,いろいろな説明を受ける必要があるということで,協議の開始の段階は弁護人が付いていなければ弁護人を選任してもらって,きちんとした形で協議の開始をするということになろうかと思います。   そして,協議の開始後にどのような形で供述が得られるのかという問題ですが,そもそも検察官がどのような協力が得られるか分からないままの状態で恩典を提示するということは構造上考えられないわけで,結局そこの段階では「どのような供述ができますか」ということを確認していかなければいけないということになるのだと思います。その確認の方法としては,弁護人が「被疑者自身はこのようなことを知っていて,このような話をすることができますよ」という形でまず最初に言ってくるということも大いに考えられると思いますが,検察官としては,弁護人の話だけでそれに乗ってよいのかどうかというと,なかなかそういうわけにはいかないと思います。   だから,原則弁護人が同席している場で,直接,被疑者にも供述を求める,ただし,取調べ手続とは別個の手続とした上で,供述を求めるという手続は不可欠になるのだと思います。その供述を基に,比較的短期間ではありますけれども,できる限りの裏付け捜査をして,その供述が真実なのかどうなのかということをある程度見極めた上で,初めて合意の成立に至るのだろうと考えています。そして,ここの合意が成立しなかった場合の協議においてなされた供述の取扱いを議論する意味は,今言ったような構造上,先に被疑者の側からどのような供述ができるかということを言ってもらわなければいけないという仕組みになっていますので,先に被疑者が言う,しかし,言った後で必ず合意に至るかというのは別問題で,合意に至らない可能性もある。   そうした合意が不成立のときには,協議においてなされた供述は証拠として用いてよいかどうかについて取扱いを決める必要があるのだろうと思います。その証拠の使用制限は,この場合はどのような趣旨・目的で課される使用制限かということをよく考えなければいけないと思いますが,今申し上げたように,これは協議が円滑に,損なわれることなく進んでいくという形を担保するための証拠の使用制限だと思われますので,その範囲に見合った効果を付与するのが適切だと思っております。これまでも若干使用制限について議論がありましたが,合意違反の場合には,仮に被疑者との関係で派生証拠まで含めて使用を制限するという制度を採ったとしても,合意不成立の場合には協議の過程で出た直接の証拠に限定して使用を制限するというのが良いのではなかろうかと考えています。 ○露木幹事 今の使用制限の問題は,「6」の(2)の「捜査への影響」とも非常に関わりの深い問題だと思うのです。直接得られた証拠の使用が制限されるものの,派生証拠は制限されないという御説明だったのですけれども,例えば,「共犯者が拳銃で撃って,その拳銃を川に捨てた,自分は見ていました。」というような供述があって,その裏付けをしたところ,そのとおり拳銃が発見されて,それは真実の供述であるということが裏付けられて,ただ,本人が恩典に不満があって協議は不成立になるとしたときに,直接得られた証拠の使用制限と言いますと,その供述ということになるのでしょうけれども,供述どおり発見された拳銃はどうなるのでしょうか。 ○岩尾幹事 派生証拠ですので,それについては使用制限はかからないということになります。 ○露木幹事 そうすると,直接得られた証拠の使用制限と言ってみてもあまり意味がないかなという気もするのです。供述が真実であるかどうかということを見極めなければいけないということでしょうから,必ずその裏付け捜査が行われて,裏付けの事実があるかないかということが判明するわけですね。その部分は全部派生証拠だということになりますと,結局のところ,さして使用制限はないということになるのかもしれないですけれども,そういう理解でよいかどうかなのですが。 ○岩尾幹事 今申し上げたような目的の範囲内で使用制限をかけるという制度だと理解するなら,そういう狭い範囲で十分ではないかと思います。特に第三者との関係で使用制限を設けるかどうかという点に関しては,慎重に考える必要があるのだろうと思っています。 ○井上分科会長 理屈としてはもっと広い範囲で使用制限をかけるということも選択肢としてはあり得るわけですね。そのどれが良いのか。直接の供述自体に限るのか,派生証拠まで含めるのか。派生証拠といっても,供述に基づいて発見された証拠は正しく派生証拠ですけれども,裏付けの過程で違う情報が得られることもある。そこまで含めるのかという問題と,もう一つは,本人との関係に限るのか,第三者との関係にまで広げるのか。そういうちょっとディメンションの違う問題がここに入っていると思うのですが。 ○小野委員 弁護人がいて,検察官がいて,被疑者もいるというところでの協議の中で,「実際あなたどうなの」みたいなことで被疑者に更に聴取すると,それは取調べではないという仕切りなわけですね。そうすると,そこでの供述というかしゃべったことは,そもそも証拠という理解なのですかね,証拠ではないという理解なのですかね。「協議においてなされた供述の証拠使用」という言葉がよく分からないのですけれども。 ○井上分科会長 取調べに応じて供述したものだけが証拠になるわけではなく,結果として供述性を持てば証拠とすることもできるわけです。それをそういう使い方はしないようにするかどうか,そういう問題ではないでしょうか。取調べではないわけでしょう,協議の過程ですから。 ○岩尾幹事 協議の過程で聞いた供述を証拠化するかどうかという問題はまた別途あるのだろうと思います。通常,弁護人が立ち会ってどのような供述ができるかと言っているときに,それを更に調書として証拠化するということは,合意を成立させるためだけに関して言えば必要不可欠なものでもないわけです。ただ,それを証拠化した方が良いかどうか,それが双方にとって得策かどうかという判断はそれぞれあり得て,弁護人の了解の下で証拠化するということは考えられないわけではない。そういう意味では,取調べに関する調書の作成についての規定は,ここで言う供述を求める行為についても準用される部分は当然あるのだろうなと思います。ただ,一般的にはこの段階では証拠化はされないのだろうと理解しています。 ○後藤委員 今おっしゃる証拠化をするとなると,最初におっしゃった取調べと協議ははっきり違うのだというところが怪しくなってしまうおそれがありますね。もし,そこで得られた供述も証拠化するとなると,それも取調べの一種になりかねないので。 ○井上分科会長 証拠化と言えばですね。記録を作るかどうかという問題でしょう。 ○岩尾幹事 基本的には上申書を作るのとあまり変わらないと思います。上申書も証拠になるという意味では,そこで作られた書面も証拠になり得るということだろうと思いますが。 ○井上分科会長 恐らくここは,合意が成立しなかった場合の協議の過程でなされた話,供述とも言えるものの取扱いが一番究極の問題であり,そこから遡ってそれをそうしない場合とか,する場合にどういう形で記録するのか,あるいは,記録しないのかという問題なのではないですかね。 ○露木幹事 質問なのですけれども,前にちょっと議論が出ていたと思いますが,検察官が協議をしている間,警察がその事件について被疑者の取調べをする,あるいは,別の事件でもそうなのですけれども,これは制限されてしまうという理解でよろしいのですか。 ○岩尾幹事 それは,法的にどうするかという問題とは別に,どうあるべきかということを考えると,協議をしている対象事件そのものについて同時並行的に被疑者の取調べもしているというのでは,協議手続と取調べ手続を分けたことが意味がなくなってくるのだろうと思います。ただ,全く別の事件について事情を聴くということを一切否定しなければいけないかというと,そこまでの必要性はないという考え方も十分あり得るのだろうと思います。 ○井上分科会長 「捜査・公判協力型協議・合意制度」についての議論は,今回はここまでとさせていただきます。   それでは,次に,「刑事免責制度」についての議論に入りたいと思います。   まず,配布資料7-3の内容を事務当局から説明してもらいます。 ○吉川幹事 それでは,資料7-3「刑事免責制度」を御覧ください。これまでの資料からの主な変更点を御説明いたします。   まず,「考えられる制度の概要」について御説明いたします。   「1 刑事免責制度」につきましては,これまでは,裁判所又は裁判長が証言命令を発することによって証人の自己負罪拒否特権を消滅させて証言を義務付け,それに対応して,その証言に派生使用免責を付与する制度として記載しておりました。しかし,これまでの御議論を踏まえますと,この制度の本質は,証言についての派生使用免責を制度上保障することにより,義務付けられる証言が,証人にとって憲法第38条第1項にいう「不利益」なものでなくなるという点にあると考えられました。   そのため,ここに記載したように,この制度については,証人に証言という作為義務を命じるのではなくて,証人尋問に当たり,その証言に派生使用免責を与えるという条件を付するとともに,確認的に,刑訴法第146条の規定にかかわらず証言拒絶できないという条件をも付するという制度であると位置付け,その性質につきましても,証人尋問の実施を決定する主体である裁判所が行う「決定」と考えることとして,改めてお示ししております。   次に,検討課題について御説明いたします。   「1 どのような場合に本制度を利用できるものとするか」のうち,(1)の「本制度を利用できる『一定の場合』」につきましては,当分科会や特別部会での御議論を整理いたしますと,大別して,証人が刑事訴追を受け,又は有罪判決を受けるおそれがある事項について証人尋問する場合に,その証人尋問手続の開始に先立って請求できるものとするという考え方と,証人尋問の開始後に証人が実際に自己負罪事項につき証言を拒絶した場合に請求できるものとするという二つの考え方が示されました。   そこで,「○ 検察官による請求の時期・理由をどのように定めるか。」との項目の下に,これら二つの考え方にそれぞれ対応するものとして,「証人尋問を請求するに当たり,尋問すべき事項に,証人が刑事訴追を受け,又は有罪判決を受けるおそれのある事項が含まれる場合」と「証人尋問の開始後に,証人が第146条の規定により証言を拒絶した場合」を記載いたしました。   なお,これら二つの場合は,二者択一のものではなく,制度上,両方の場合を規定することもあり得ると考えておりますが,この点についても御議論いただければと思います。   また,この点は(2)の決定の効力,つまり,本制度における決定が証人尋問の手続単位で効力を要するものとするか,それとも,尋問事項単位で効力を有するものとするかということにも密接に関連しますので,併せて御検討いただく必要があろうかと思われます。   次に,2ページ目の「2 裁判所の役割」につきましては,(1)の「裁判所の判断事項」の「A案」に記載しております「適式性」の内容を括弧内に具体的に記載するなどの加筆をいたしました。   御説明は以上です。 ○井上分科会長 それでは,「検討課題」のいずれについてでも結構ですので,御意見のある方は,御発言をお願いしたいと思います。 ○髙橋幹事 まず,枠囲いの構成については,目指す制度ということを考えると,この書き振りが非常にすっきりして分かりやすいと思います。その上で,裁判所の役割については,そもそも使用免責を与えることを検察が求めるということは,その証人について起訴を諦めるというか,起訴しないでも別の被告人の事件について真実を話してほしいということだと思うので,言ってみれば起訴裁量みたいな思想が前提になっていると思います。そうすると,「裁判所の役割」でA案,B案を比較した場合に,B案のようにそれが必要なのか,あるいは,相当なのかという判断を裁判所がするというのは,裁判所の役割としてはちょっと違うのかなと思います。飽くまでも適式性を判断すれば良いというA案が相当ではないかと思います。   それから,(2)に「職権による決定」と書いてあるのですが,裁判所が出しゃばっていって,この証人は免責を与えるべきだと職権で決めるというのは,考えている制度には全くそぐわないのかなと思いますので,飽くまでも検察官の請求を待って裁判所が判断するという構成が良いと思います。 ○後藤委員 職権の点についての意見です。これまでの議論では,検察官側が有罪立証のために免責証言を得ることを考えていると思います。けれども,逆に,例えば,被告人がアリバイ立証のために免責証言をさせたいということもあり得ますね。例えば,殺人事件で起訴されているけれども,自分にはアリバイがある,例えば,ほかの人とどこかで窃盗をしていたというのがアリバイなのだけれども,そのアリバイ証人は自己負罪拒否特権を行使して証言を拒絶するといった状況があり得ますね。そういうときのために,弁護人や被告人に請求権を認めるのは難しいかもしれないけれども,一定の場合には裁判所が職権で免責をすることができるという制度が必要ではないでしょうか。 ○井上分科会長 そこは髙橋幹事が言われたような理解とは違う理屈が必要になってきますよね。髙橋幹事が言われたのは,検察官の訴追裁量権の行使というか,公訴権行使を担っている検察官がそれを放棄するという問題として位置付けるということなのですけれども,それとは違ってきますよね。その正当性の根拠はどこにあるのですか。 ○後藤委員 有罪立証のためだけではなくて,無罪立証のためにも免責の制度が利用可能である必要があるのではないでしょう。 ○井上分科会長 その場合に,そちらの事件を諦めてこちらの事件を優先するという判断を,検察官はできないということになるのかどうか。その点を乗り越える理屈が必要になってくるように思うのですけれども。 ○後藤委員 今の事例で検察官はそもそもアリバイ証人の尋問請求をしないですね。 ○井上分科会長 そういう問題ではなく,こちらの事件は諦めるという判断を最終的に検察官がする余地がなくてよいのかという問題が出てくるだろうと思うのですね。その点を乗り越えられるだけの理屈が立てば良いのですが。 ○川出幹事 私も同じ疑問を持ったのですが,後藤委員が挙げられた例ですと,窃盗の共犯者であるとされる人に対して裁判所が免責を与えるということですから,それが行為免責でなく使用免責であっても,事実上,その人は処罰しなくてよいという判断を裁判所がするということになるわけですね。そのような判断は,本来検察官がするというのが現行刑訴法の基本的な考え方で,それを裁判所がするというのは,基本的な枠組みを完全に変えてしまうことになりますし,また,そのような判断を裁判所にさせることが妥当なのかについても疑問があります。 ○岩尾幹事 一言だけ関連して言うと,被告人側の防御と,立証責任を負っている検察側の立証というレベルの違いもあって,被告人側にとって,免責を付与してまで誰が犯人かを特定して反証するまでの必要性があるのかなという疑問も感じるところでございます。 ○井上分科会長 ほかの論点でも結構ですので,御発言のある方はどうぞ。 ○小野委員 証言を強制される人としては,民事の責任の問題とか,あるいは,言わば共犯者との関係でやはり言いたくないと,証言を強制されて免責されても言わないと,証言を拒絶すると,それに対する制裁も受けざるを得ないと,こういう立場に置かれるという仕組みですよね,この仕組みは。そうすると,その人にとっては,ある種究極の選択みたいなもので,そういうことをしゃべれば,今言ったように民事免責はないわけですから,そういう責任は問われ得ることを覚悟してしゃべらなければいけないと強制されるわけですよね。 ○井上分科会長 現行法の下でもそうではないですか。憲法第38条1項で保障されているのは刑事責任との関係なので,例えば恩赦になったとか,あるいは,刑事事件の方は確定してしまったという場合には証言を強制され得るわけで,その場合に証言すれば民事責任を負うということは覚悟せざるを得ないのですよ。 ○小野委員 ただ,ここで新たに作る制度としては,現行法を超える新しい制度としてこういうものを作られるわけですから,どういう場合にこれが利用されるのかというのは,必ずしもイメージはよく分かりませんけれども,ある意味では,日常的にと言ってはおかしいけれども,結構なものがこの対象になり得るという理解なのですかね。 ○岩尾幹事 まず,証人になる人自体には真実証言義務があるわけですね。そこが大前提になっていて,それが憲法第38条との関係で自己負罪に当たる部分があるならば,その限度で義務が免除されるという構造になっているわけです。そういう意味で,自己に不利益でなくなったという状態が作出されれば,真実証言義務が回復することになるのだろうと思います。現行法の下でも,証人自体は自己負罪とは関係のない場面であっても,ある人の犯罪事実を知っていて,それを供述すると場合によっては民事上の責任を問われるかもしれない,あるいは,その人との関係で何らかの不利益を被るかもしれないということは全く否定はされませんけれども,そういう事態があり得るから,この制度に問題があるということには直ちにつながらないのではないかと思います。飽くまでも真実の供述を公判廷に出させるということが,公判中心主義の下での的確な事実認定に資するということになるのだろうと思います。 ○露木幹事 今,岩尾幹事がおっしゃったことは,理屈の上ではそのとおりかなと思うのですけれども,前もちょっと申し上げたのですが,暴力団の場合には命懸けという部分があるわけですね。ですので,幾ら義務があるとはいえ,命まで張らせるのかというところがあると思うのです。「1」の(1)で「本制度を利用できる『一定の場合』」となっておりますけれども,そういうことはこの「一定の場合」の中で斟酌されるという理解でよろしいのですかね。 ○岩尾幹事 これも以前答えたかもしれませんけれども,この免責制度自体があらゆる場合をカバーするということには当然ならないわけで,今,減免と協議・合意と免責の三つを併せて議論していますけれども,それはいろいろな場面で使い勝手が良いときもあるし,使い勝手が悪いときもあるわけで,できる限りいろいろなオプションを持つことによって,取調べや供述調書に過度に依存しない形で供述証拠を公判に顕出させる方法がないかという中で考えているわけでございます。今言われたような暴力団から生命・身体にまで危害を被る可能性のある証人について,こういった免責制度を使って適切に供述が得られるかというと,得られる可能性は極めて低い。そうすると,検察官が免責決定の請求をしないということになるだけではなかろうかと思います。 ○井上分科会長 そういう場合でも,免責決定をして証言義務を課して,別に不都合ではないのではないですか。どうせ証言しないのだから。 ○露木幹事 そうですね。本人が制裁を受けることになるのかもしれませんけれども。 ○井上分科会長 そういう場合は実効性が上がらないだろうというだけの話ですよね。 ○小野委員 仕組みとして懸念されるのは,自分もそれに何らかの形で関わっていて,自分にとって不利益なことが含まれていると。だけど,これで免責されるのであればいろいろしゃべってしまおうと。そのしゃべってしまおうというときに微妙に事実をずらして,あるいは,ゆがめてしゃべろうというようなあれが働く可能性はあると思うのですね。本人は免責されるから,そこのところはもうちょっとこういうふうに変えて,ああいうふうに変えてみたいなことでいっても,その部分は自分は大丈夫だと。そうすると,当の言われた側と言いますか,この事件の被告人側にとって,ある意味で引っ張り込みというような事態が起こり得るのではないか,かなり想定されるのではないかなという懸念はあるのですけれども,その辺はどうなのですかね。 ○岩尾幹事 要は,派生使用免責を付与された状態では,真実を述べれば述べるほど,免責の範囲が広がって訴追の可能性は低くなる。一方,偽証罪の制裁の下で証言するわけでございますので,当然,免責をもらったことが嘘を言うというような動機付けになるとは考えられませんし,証人を公判廷に出した上で供述を求めて,それに対する十分な反対尋問をするというのが,供述証拠の信用性を判断するには最良の方法だと理解されているのではないかと思うのです。そういう意味で御懸念は当たらないような気がします。 ○井上分科会長 小野委員が言われたのは,かつてアメリカなどで,行為免責という制度,つまり,しゃべったらその事件については一切免責するという制度の場合に特に言われたことなのです。とにかくうろん(うろん員)なことでも事実とは違ったことでも言ってしまえば,その事件全体について免責されるという場合はそういう懸念も随分。しかし,使用免責の場合,供述した供述は証拠として使えないというだけの話なので,それと違う事実が,別の証拠で明らかになってくれば,それはそれとして訴追され得るのです。   引っ張り込みの危険については,この免責の場合に限らず,共犯者の立場にある人の証言一般について言える話なので,それは別問題だろうと整理しています。 ○後藤委員 確かにおっしゃるように,これは行為免責ではなくて使用免責を考えているわけですね。そうすると,先ほど髙橋幹事がおっしゃったような,検察官の訴追裁量のようなものだという捉え方は適切でしょうか。それは検察官にとっては,証拠利用について放棄なので,訴追裁量とは性格が違うものではないかと思います。その続きで言うと,裁判所の判断事項についてはA案,B案で言うとB案のようなものがあってもおかしくはないと思います。   それと別に,第1回公判期日前の証人尋問でこれを使うという場合についてです。現在,第1回期日前の証人尋問では被疑者とか弁護人の立会いは権利としては認められていないですね。立会いができる場合もあるけれども。弁護人の立場から見たときに,そこで免責証言をされるというときに,立会いの機会がなくてもよいかどうかという問題が起き得ると思うのですけれども。 ○井上分科会長 よく分からないのですけれども,それは免責証言に固有の問題なのですか。 ○後藤委員 免責証言は特に重要な証言になりそうです。これを第1回公判期日前にやるということは,公判ではまた違う供述になるかもしれないという想定があるわけですね。 ○井上分科会長 免責証言に限って問題になる話なのですか。 ○後藤委員 論理的にはそれに限った問題ではないですけれども,免責証言のときにその問題が特に重要にならないかということです。 ○井上分科会長 要するに,被告人あるいは弁護人の反対尋問権との関係でしょう。 ○後藤委員 そういうことです。 ○小野委員 第1回公判期日前の問題そのものが大きいと思うのですね。その時点では弁護側には基本的な資料,記録はほとんど分からなくて,そこに立ち会うことはもちろんありますし,立ち会ったこともありますけれども,では有効な反対尋問がどこまでできるのかということになると,手持ちの資料が何もない中で反対尋問を一応しましたというような形になってしまうのは,これはこれでまた非常に困るということもあって。   第1回公判期日前の証人尋問というのは本来的には立ち会っているだけでの効果,あるいは,異議を出すとかいう効果もあり得るとして,反対尋問という観点からすると非常に悩ましい仕組みなので,それこそ,ここでの使用免責であったとしても,それが証拠として本人のものに使わないけれども,こちらの方には使われるというところで,第1回公判期日前の証人尋問を使うのは非常につらいなと。被告人の弁護人としてはそれは勘弁してほしいというのが正直なところですね。 ○井上分科会長 問題が二つあって,一つは,早い段階で供述を得たい,その方が有用だということであり,もう一つは,第1回公判期日前の供述そのものを公判に証拠として出し,公判廷では証言させないという形をとるのかどうか,公判で証拠として使うためには,公判廷で証言させないといけないことにするのかどうかということ。その二つの問題が混在し議論されているのではないかと思うのです。ほかの方,いかがでしょうか。このぐらいでよろしいですか。   それでは,「刑事免責制度」についての議論は,今回はここまでとさせていただきたいと思います。   以上,「刑の減免制度,捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度」について議論を頂きましたが,これにつきましては,特別部会への報告を念頭に置いて,本日の議論も含め,当分科会での検討状況を整理し,必要に応じて,第8回分科会でも更に議論をすることもあり得べしということで,一応締めさせていただきたいと思います。   ここで,休憩を入れたいと思います。           (休     憩) ○井上分科会長 それでは,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」についての議論に移りたいと思います。   まず,配布資料8の内容を事務当局から説明してもらいます。 ○保坂幹事 資料8を御覧ください。この資料は,先ほどからの資料と同じ趣旨で,検討に資するように加筆,修正を行ったものでございます。これまでの資料からの変更点について御説明いたします。   始めに,「第1」の制度概要について御説明いたします。「1」のいわゆる中間処分の要件につきまして,これまでの資料では,中間処分の対象となる事件に関して,「一定の事件について」と記載しておりましたが,対象事件や被疑者の範囲について,より具体的に御検討いただくため,この分科会でも指摘のあった必要的保釈の除外事由を参考といたしまして,「ア」から「オ」までに中間処分の除外事由を挙げて,それらのいずれにも該当しないということを要件として記載いたしました。   また,「4」の勾留への移行につきまして,これまでの資料では,その事由につき,ここでいう「3」の(1)の事項に反した,つまり,「遵守事項に違反した場合その他一定の場合」と記載しておりましたが,罪証隠滅・逃亡の防止のためにやはり身柄拘束が必要であると認められるときにも適切に対応できるようする必要があるという観点から,考え得る引致事由及び移行事由を具体的に記載しております。   続いて,「第1」の「検討課題」について御説明いたします。   まず,「3」の「中間処分の要件」に関しまして,制度概要の「1」において中間処分の除外事由を具体的に記載したことに伴って,「対象事件・被疑者について,『考えられる制度の概要』1アからオまでのいずれかに該当する場合を除外することとするか。」と検討課題に記載しております。   また,この対象事件・被疑者の要件に加えて,制度概要で「相当と認めるとき」としております相当性の要件において,どういう事情や観点からその判断を行うことを要することとするのかという点についても具体的に御検討いただくため,「3」の二つ目の「○」にその旨を記載しております。   次に,検討課題の「5」の「中間処分の内容」につきまして,特別部会で罪証隠滅・逃亡の防止がより確実に担保される仕組みが必要ではないかという御指摘があったことなども踏まえまして,「義務の遵守をどのように担保するか」の後に,括弧書きで,「例えば,罪証隠滅・逃亡に対する制裁を設けることとするか」を追加しております。   次に,「第2」の指針規定についても御説明いたします。   規定の概要については,修正した点はございません。「検討課題」については,これまでの議論において「考えられる規定の概要」の「1」と「2」の「A案」,「B案」それぞれについて,いずれも法制上・運用上の問題や懸念が指摘されてきたところですので,それを踏まえて,一番下の「○」として,「A案及びB案のそれぞれのデメリットを踏まえ,他に適切な規定があり得るか。」という点を追加しております。   なお,この制度概要の「1」と「2」それぞれの「A案」は,青木委員から御提案いただいたものですが,本日,参考資料として配布されておりますとおり,青木委員から新たな提案がされているところです。   御説明は以上です。 ○井上分科会長 この検討事項には,「第1 勾留と在宅の間の中間的な処分」と,「第2 身柄拘束に関する適正な運用を担保するための指針となるべき規定」の二つが含まれておりますが,時間の関係もありますので,一括して議論の対象とさせていただきたいと思います。   まずは,「第1」の方から御議論いただき,おのずと「第2」の方にも話を広げていくということにしたいと思います。どなたからでも御意見を頂ければと思います。 ○坂口幹事 私どもこの制度にはそもそも反対ではありますけれども,検討せよというマンデートでありますので考えてみますに,論点で言いますと,「5」の「中間処分の内容」というところがこの制度の核心というか,問題点そのものであろうかと思っております。どのような遵守事項を定めれば罪証の隠滅や被疑者の逃亡を防止し得るのかということなのですけれども,そもそも何らかの遵守事項を定めればそういったものが防止できるという発想自体がナンセンスだと思います。と申しますのは,例えば,罪証隠滅を防止するためには事件の関係者との接触をしてはならないというような意味の遵守事項を定めるのだと思いますけれども,具体的にはどう書くのでしょうか。   例えば,固有名詞を挙げていって,誰々さん,誰々さん,誰々さんと接触してはならないというような遵守事項なのか,あるいは,もっと抽象的に事件について何らかのことを知っていると思われる人と接触してはならないという遵守事項なのか。いずれであるにしても,事件関係者と接触してはならないという意味のことを遵守事項として定めるのだと思いますが,具体的に誰が事件関係者なのかというのは誰にも分からないわけです。命じる側の裁判官にも分からないでしょうし,命じられた被疑者にも分からないでしょうし,もちろん捜査機関にも分からない。捜査はどんどん進んでいっているわけでありまして,流動しているという中で,遵守事項として一体意味があるのか。   人の場合はそういう問題を生じ得るでしょうが,証拠物の場合はより問題は深刻でありまして,凶器なり被害者から奪い取った被害品なり,あるいは犯行時に着ていた着衣なり,あるいは犯行時に使用した車なり,何か重要な証拠物が未発見,未押収であるという場合に警察は必死で探しているわけですけれども,被疑者に対してはどういう遵守事項をこういったものの隠滅の防止として定めるのか。そういうものを隠滅してはなりませんということを遵守事項として定めるのでしょうか。しかし,どういう証拠があるのかないのかということ自体が分かっていない場合に,これを完全にカバーすることはできないということで,事柄の性質上というか何というか,そもそも有効な遵守事項を過不足なく定めることは誰にもできないという意味において,こういう制度はあり得ないのではないかというのが1点目であります。   2点目としまして,今度は担保の問題ですけれども,何らかの遵守事項を定めたとして,これは担保しなければいけないわけですが,制裁を設けるにせよ,あるいは,勾留への移行なのだというにせよ,何であるにしても担保するのであれば,遵守事項に違反をしたという事実があった場合には,それが確実に発覚しなければならない。しかるべき人がきちんと知ることができるような仕組みになっていなければ,どのようなものを設けたとしても発動されないわけですから,全く意味がないと。しかし,逃げようとしているとか,罪証隠滅をしようとしているということを,誰がどうやって知ることができるのでしょうか。恐らく方法は一つしかなくて,誰かが責任を持って365日24時間見張っているという方法しかないと思います。では,誰がそれをやるのでしょうか。それは身柄を拘束しているのと何が違うのでしょうか。といったようなことを考えると,このような制度は現実にはワークする余地はないと思います。 ○青木委員 細かいことを言うよりも,まず中間的なものがなぜ必要だと考えるかということと,今の話がつながるのだろうと思いますけれども,今とにかく在宅の人がいるわけですね。その人たちがおよそ罪証隠滅するおそれがない人ばかりなのかといったら,きっとそうではないのだろうと思うのです。抽象的にはそれはあり得る話ですね。それを100%防止しようと思ったら,全部勾留しましょうということになるはずなのですね。   今,そういうことで全員が勾留されているかというと,そうではない。こういう中間的なものがあれば守れる人も一定程度いるはずで,でも,そういう人は,今もしかしたら勾留されていないかもしれないし,勾留されているかもしれない。勾留されてしまっている人の中に,こういう制度があれば勾留しなくても済むという層が一定程度いるはずだと思うのですね。そこについて全く手当てをしないで,本来,勾留というのは本当に罪証隠滅のおそれがある場合とか,逃亡のおそれがある場合,それ自体の判断基準の問題もあるとは思いますが,そこは置いておくとして,そういうことで,ほかの方法で防げるのであれば拘禁は防ぐべきであると思います。   本来,身体不拘束が原則なのだということであれば,ほかの方法で防ぐ方法というのを一つ設けないと,そういう方法であれば守れる人というものは,そういう方法がないために勾留されてしまうことになるわけですね。それは理論的にそうなのだろうと思うのです。そういうものがあったとしても守れないような人は勾留にすればよいのだし,そのようなものがなくても守れる人は在宅にすればよい。だけれども,罰則なり何らかの担保手段もつけて,そういうことであれば守るであろうという人,しかも,そういう事件でそういう場面ということで救われる人がいるのであれば,救う手段を設けておく必要があるのではないかということです。   先ほど,全然違う場面の話ですが,岩尾幹事が「いろいろなオプション」という言葉を使われましたけれども,これについてもそういうオプションがあるということが何が問題なのでしょうか。そういうことによって,極端に言えば1人でも2人でも勾留を免れる人がいれば,1人,2人のはずはないですけれども,お金も掛からないわけですし,いろいろな意味で何も問題ないのではないか。むしろこういうものがないことが問題なのではないかと思います。   身体不拘束を貫くのであれば,こういう制度はどうしても必要なのではないかというのが根本的な考え方で,罪証隠滅ということで言うと,具体的に何か罪証隠滅をしようとしている人について,この中間処分をしなさいということは誰も言っていないわけです。例えば,保釈の場合に遵守事項を定めてやっているわけですね。そういうことで,およそ罪証隠滅が防げないような事件,防げないような人については勾留すればよいだけの話なので,中間的なものがあってはならないという理由が,むしろ私は分からないです。 ○井上分科会長 そもそも論でなかなか興味深い御議論がありましたが,こういう制度が必要かどうかは部会の方で最終的に御判断いただくとして,仮に考えられるとすればどういう制度があるのか,坂口幹事の御発言は適切な制度というのは組めないのではないかという御発言として受け取るとすると,こういうふうに組めば適切に組めるということを御提示いただいて,現実的にも考えられる制度というのがあり得るのかどうか,その判断をするための具体的なイメージを部会にお示しするのが我々の役目だと思うのですね。   その点で,青木委員の方から,案を出していただいています。これについて,青木委員から,補充的に御説明いただくことがあれば御説明いただいて,この青木委員の案も含めて議論を具体的にやっていきたいと思います。 ○青木委員 前に既に案を一回出しているのですけれども,その後,ドイツの制度などについて触れる機会もあったりして,勾留と中間処分との関係を理屈の問題でもう少し考えたということと,担保手段が必要なのではないかということで,私個人としても苦渋の選択なのですが,罰則もあり得るということで,そういうものも入れたものを御提案しております。   今日の検討課題との関係で,特に新たに出されたこととの関係で言いますと,対象事件を限るべきかという点について,例えば,ここに当たらないようなものについては原則として中間処分とするということであれば,対象事件として「これは中間処分でなくてもよい」というものがあってもよいのでしょうけれども,保釈との関係でいっても,権利保釈の除外事由に当たるものも裁量保釈されるというのはあるわけですし,ここに書かれているようなものについても,在宅事件の場合もあり得るわけですから,こういう形で事件を区切るというのは必要がないと思います。   あと,違反した場合の手続についても,前は引致というところは触れておりませんでしたけれども,具体的に違反が生じた場合に,それは捜査機関に発覚する場合が多いのでしょうから,引致というのを入れたということもあります。それから,前の案との関係で言うと,担保手段も考え得るのではないかということを入れたというところがあります。   同じことの繰り返しにはなりますけれども,中間処分については,本当に勾留が必要な場合は勾留をするということで,ただ,それを回避できる場合には回避できるようにしたいということです。その場合に,遵守事項の定め方というのは,ある程度具体的なものでないとならないと思いますから,具体的に誰と誰ということが分かっている場合に,こういうものが利用されることにもなるのだろうと思います。 ○井上分科会長 大体基本的なアイデアは前の案と同じということですよね。 ○青木委員 はい,そうです。 ○井上分科会長 今回,勾留の執行猶予という形になっているのは何か特別な意味があるのですか。中間処分とどこが違うのかよく分からないのですが。 ○青木委員 要するに,中間処分,中間であることには変わらないと思うのですけれども。ドイツは保釈という形ではなくて,勾留の執行猶予という制度があるようなのですね。それは,勾留に当たるのだけれども,ほかのより緩やかな処分で足りる場合には執行を猶予して,そちらの緩やかな処分で賄いなさいという規定になっています。そういう方が,勾留代替という言い方でも良いのでしょうけれども,勾留からの移行とか,遵守事項に違反した場合などについて物事が説明しやすいかなということで,そういう形にしたということです。 ○井上分科会長 勾留の裁判をして,その執行猶予をするということですね。 ○青木委員 そうです。いつでも勾留に戻ってしまうというか,勾留が執行される状態なのだけれども,ほかの手段で勾留が回避できる限りはそちらの手段を用いなさいというような考え方です。だから,「勾留代替処分」という言い方でも良いのかもしれません。 ○井上分科会長 青木委員の御提案も含めて,事務当局で用意していただいたペーパーをベースに議論を進めたいと思います。   坂口幹事は,少なくとも罪証隠滅については組めないのではないかという御意見ですよね。 ○坂口幹事 そのとおりであります。青木委員から必要性等についての御意見がありまして,私もそれを否定するものではありません。中間的な処分があってはいけないと言っているのではありませんし,中間的な処分については,どういう制度を作ってみても有効に機能する制度はおよそないはずだと言っているわけではありません。ただ,事務当局,大変な御苦労いただいてこういう制度の提案を頂いていますし,青木委員も御提案いただきましたけれども,こういう制度ではワークしないでしょうと言っているのです。ですから,もし反論いただくのであれば,例えば,罪証隠滅についてはこういう遵守事項を定めれば完全に防げますというような御反論を頂ければ有り難い。 ○青木委員 今のは罪証隠滅の考え方の問題なのだろうと思います。抽象的な罪証隠滅を防止するといったらやはり勾留しかないのでしょうね,抽象的に言えば。逆に言うと,具体的に罪証隠滅のおそれがあるような場合には勾留すれば良いのであって,そうではなくて,一般的におそれはあるけれども,例えば特定の人と口裏合わせをするということがよく言われるわけですけれども,そういうことはしませんと,そうしてはならないという遵守事項を定めれば,それで足りる場合もあるのではないかということです。 ○後藤委員 今の議論について言えば,何事も完璧に防ごうとすると,全て勾留して,接見禁止まで全部付けなければいけないということにもなりかねません。そこはバランスを考える必要があると思います。そのために,私としては是非何らかの形でこういう中間的な制度を設けるのが望ましいと考えています。  まず一つ,事務当局の示されている囲いの中の「4」のところで,「1アからウのいずれかに該当することが判明したとき」とあるのですけれども,これは捜査の過程で罪名が変わった場合を想定しているのでしょうか。 ○保坂幹事 おっしゃるとおりです。元々,除外事由として,例えば一定の法定刑以上の事件は中間処分に付せないとしております。ところが,事後的に中間処分に付せない罪名の事件だということが分かってきたときには,本来中間処分に付せなかったはずのものなので,勾留への移行事由となるということです。なぜ除外するかということの趣旨にもよるかと思うのですが,類型的に逃亡・罪証隠滅のおそれが高いものを除外すると整理をすると,そういうことが分かってきたのであれば,それは勾留に移行していくという考え方でございます。 ○後藤委員 青木委員の新たな案はいろいろ良く考えられていると思うのですけれども,勾留の執行猶予という観念を採り入れられたわけですね。その点は前の案と違いますね。 ○青木委員 「執行猶予的」というような言葉は使いましたが,前の案は,文章には何も入っていません。ただ,理屈の問題なので,別に執行猶予にこだわっているわけではなくて,勾留との関係はどうなのだろうと考えたときに,基本的には勾留しなければならない,勾留の目的があるわけですね,その目的を達するために必要なものであって,でも,勾留の目的を達するのに,ほかの方法で,必要があれば勾留の代わりに,勾留は取りあえず止めておいて,ほかの方法でやりましょうということです。けれども,それは元々勾留をしなければならないような事情があるということなので,それを守れない場合には勾留になるということをはっきりさせた方が良いのではないかということで,こういうふうな書き方をしたわけです。勾留代替という言い方をしても良いのかもしれません。言葉にこだわっているわけでは決してないです。 ○後藤委員 確かにこういう捉え方は,本来,勾留要件がある人にだけこれが適用されるのだという趣旨をはっきりさせるためには,優れていると思います。ただ,これを突き詰めていくと,内容としては,保証金のない保釈とほとんど同じになりますね。正にドイツでの勾留執行猶予はそういうふうに機能しているのだと思います。そうすると保釈との関係が,これでうまく整理できるでしょうか。 ○井上分科会長 公訴提起後のことも検討課題になるわけですが,ただ,よく分からないのは,勾留の裁判はするわけですよね。つまり,逃亡ないし罪証隠滅のおそれがあるため,身柄を拘束する必要があるという判断を裁判所はするわけなのに,そうでありながら身柄を拘束しないでも,その目的を達成できるとしてその勾留の執行を猶予するというのはおかしくはないでしょうか。それよりは,全く別個の処分として作った方がまだ説明が付くような気がするのですけれども,それだと青木委員の大前提が崩れるということなのですか。 ○青木委員 いや,多分そこは言い方の違いなのだろうと思うのです。要するに,勾留の目的は何なのだということで言うと,罪証隠滅の防止,逃亡の防止ということですよね。そういう目的が達成できるのであれば勾留以外の手段を使いなさいという意味で,勾留そのものというか,勾留の目的の達成と言いましたかね……。 ○井上分科会長 ただ,具体的な事案において,身柄拘束しなければそういう目的は達成できないから,勾留という処分をするという裁判を裁判官としてはするわけでしょう。 ○青木委員 そういう意味では,勾留そのものではないわけですよ。本当に罪証隠滅のおそれがあり,逃亡のおそれがあったら,今の勾留に当たるようなものについてまで中間処分にしろというわけではないのです。ただ,目的がそういうことなので,より緩やかな方法でそれが防止できる場合も一定程度はあるでしょうと。そういうものについて中間的な,そこは「中間的な」でも良いのですけれども,ものによって賄えるのであれば,そういうものも採れるようにした方が良いのではないか。そうやって勾留を免れられる,拘禁を免れるという方法があるべきなのではないかということです。 ○井上分科会長 御趣旨がそうであることは分かっているつもりですけれども,制度の組み方として違和感があるということです。 ○岩尾幹事 私も同様の疑問を持っています。青木委員の御提案では,「勾留の執行を猶予することにより,勾留の目的を達することはできると認めるとき」とされていて,理念的には勾留の補充性を取り込んだと言われているのですけれども,青木委員も言われたように,一定程度のものはこういった処分でも罪証隠滅・逃亡の防止ができるかもしれないとしても,罪証隠滅や逃亡を防止できるというのは,勾留と比較してそれほど広い範囲を賄えるわけではない,そうすると,結果的には今事務当局で出している「考えられる制度の概要」と実質的にはあまり差がないものになっているのではないかという気がします。   今までも繰り返し申し上げているように,中間処分が罪証隠滅・逃亡のおそれがあることを前提とする,要は,基本的には勾留と同じ対象者をターゲットにするということになるならば,罪証隠滅・逃亡を防止する手段として,新しい「中間処分」は勾留よりは機能的には落ちるわけですから,それでも賄い切れるものというものに限定されることに必然的になっていくのではないかと思います。そうすると,その対象者をどうするかという議論の中でも,類型的に罪証隠滅や逃亡のおそれが高いとされて,現在,権利保釈の除外事由に当たるものについては,類型的に中間処分になじまないということで,今回新しく書いた「考えられる制度案」のような形で除外事由として規定するのが適当ではないかと思っております。 ○髙橋幹事 青木委員のペーパーについてなのですが,刑訴法第60条は元々犯罪の嫌疑と勾留の理由があって,あと同条には書かれていないのですが,必要性という要件も認められる場合に勾留となるのですが,勾留の執行猶予ということですと,勾留の理由もあり,かつ,必要性もあるのだけれども,それでも猶予すべき場合と,そういう意味でよろしいのですかね。何度も言ってますけれども,これまでの実務では,青木委員が想定しているようなものは,通常必要性なしという要件で切って在宅にしてきたと思うのですが,その辺りの整理がなかなか分かりにくいというのが一つ。   もう一つ,3ページになるのですが,第204条は捜査段階の被疑者勾留の条文なのですが,「検察官は勾留又は住居等制限命令を請求しなければならない」という作りになっているのですが,これもちょっと違和感があって。要は,勾留の要件は満たしているけれども,執行を猶予すると。その執行猶予の際に裁判所として何か条件を付けましょうというのが住居等制限命令ということになると思うので,最初から裸で検察官が住居制限命令を請求するというのが,制度として一貫しないという気がするのですけれども,何か特別な考慮があるのか教えていただきたいのですが。 ○青木委員 特別な考慮があるわけではないですけれども,最初から住居等制限命令を請求して悪いことはないでしょうということもあると思うのですね。それから,先ほどの関係ですけれども,本当に,勾留の必要性というところで,全て勾留しないという方向に判断されているのであれば,それはそれで一つの考え方としては良いのでしょうけれども,そうではないのがおよそないのですかということになると,それはちょっと考えにくいのですね。一定の義務付けをすれば罪証隠滅のおそれもなくなるし,逃亡のおそれもなくなるという人たちがいるであろうと。   実際の例を考えたとしても,本当に全て勾留されないという状況になっていれば良いのですけれども,かなり家庭的にもしっかりしている人とか,社会的な地位のある人で,必要性はどうなのだろうという場合でも勾留されているケースはあるわけで,そういう人たちの一部には,こういう制度があれば勾留まではしなくて済むという人がいるはずである,実際いるでしょうということなのですが。 ○井上分科会長 そこは恐らく前提のところの認識が食い違っていて,前から青木委員の思いは分かっているつもりなのですが,制度として作っていくときに,今回の勾留の執行猶予という形が,その思いに本当にぴったりするものなのかということなのですね。   私自身は,ほかに技術的に気になったところが幾つかあります。一つは,勾留の裁判が前提ですので,執行猶予の期間が満了したときには執行猶予は消えてしまうのですけれども,勾留自体は残るのか,あるいは,勾留だけですと,留置の必要がないときには検察官は直ちに釈放しないといけないことになっているのですが,執行猶予の場合,執行猶予期間が満了した場合,勾留の裁判自体は当然には失効しないので,同様に扱えるのかなどなどです。その辺を含めて,制度としてもう少し整備して案を出していただいた方が良いのではないかという気がします。   中間処分についてでも結構ですし,もう一つ大事な,第2の指針規定についても,御意見がないまま終わってしまうわけにはいきませんので,御意見があれば出していただきたいと思います。 ○坂口幹事 二つ言わせていただきたいのですが,一つは確認をさせていただきたいと思います。今,私自身もそうでしたし,全体の議論も,この制度は現在は勾留されている人に対して適用しようとする何らかの制度を作ろうとするものであるという理解でよろしいのか。すなわち,勾留の理由はあるのだけれども,必要性がないということで,勾留請求が却下されている人たちについて適用しようとしているのではなくて,勾留されている人に新たにこれを適用して,勾留しないことにしましょうというための制度であるという理解でよろしいのかということを確認したいのが一点。   2点目は,是非説明をしていただきたいのですが,先ほどから勾留されている人の中には,勾留されなくても済むはずの人がいるはずだという御主張があるのですが,私どもの実務の感覚からしますと,今,非常に勾留は厳しくて,勾留請求却下も多いですし,統計的にも却下率は近年ウナギ登りに上がっているのではないかと思うのですが,このような事件でも勾留請求は却下されてしまうのかというような事件まで却下される場合があるというのが実感です。そういう中で,勾留されてしまっているけれども,本当は勾留する必要がない人がいるのだとして,どうやって見分けるのでしょうか。誰がどうやったらそれを知ることができるのでしょうか。 ○井上分科会長 1番目の質問は問題提起として受け止めてよいですね。この分科会の最初からその点は議論になっていて,2通りの考え方がある。青木委員のお考えでは,現在は勾留が不要な人まで勾留されているので,勾留の代替処分でいける場合はそちらに移すべきだということですけれども,別の方たちの見方では,今は身柄拘束が必要だと認められる範囲で勾留しているのであり,そのことを前提にすると,今は在宅になっているけれども,本当は不安がある人たちも含まれており,そういう人たちが中間処分の対象になるというイメージになる。無論,その両極の間に,中間的な考え方もあり得て,両方に広がっていく可能性があるという捉え方もあると思うのです。この点をこの段階でこれ以上詰めようとしても,何らか結論を出せる問題ではないように思うのですね。そういう問題がベースにはあるということを部会に御報告して,委員・幹事に考えていただき,そこで議論を尽くして何らかの結論が得られるようなら,そうするということではないかと思います。   2番目の質問は,誰に対する質問なのですか。 ○坂口幹事 説明できる方がおられるのでしょうか。 ○青木委員 私が説明できるわけではないですけれども,今,現に在宅と勾留とに分かれているわけですね,現実の問題として。在宅にするかどうかという判断をしているわけですから,それとある意味同じような判断をして,ただ,もう一つ選択肢があると考えれば何も難しいことではないのではないかと考えています。   それから,先ほどの執行猶予に関して,別に執行猶予ということにこだわっているわけではないので,説明の仕方としてそういうのが良いのではないかと思っているということなのですが,ただ,考え方として,ほかの手段で足りる場合には,そのほかの手段を使いましょうねということがメッセージとしてはっきりしていれば,それはそれで,言葉そのものにこだわるつもりはないです。   そういうことで言うと,検討課題との関係で,法定刑で区別するというのは,先ほど類型的にそういうものについては中間処分を付するのが適切でないという趣旨のお話がありまして,実際に適用される場面は少ないのかもしれませんが,先ほども申し上げましたけれども,保釈の場面であっても,権利保釈に当たらなくても,裁量保釈というのはあり得るわけですから,およそ排除してしまう必要もないのではないかと思いますので。法定刑で区切るということはない形にしていった場合に,中身としてものすごく違うことを言っているかというと,必ずしもそうではないので。何らかの形でもう少しこちらも整理して,対案という形で出しても良いのですけれども,中間処分を設けるということで相当程度一致している部分はあると思いますので,是非そういう方向で考えていただけたらと思います。 ○髙橋幹事 一点だけ確認ですが。今,現に在宅と勾留とに分かれているとおっしゃったのは,例えば,同じような犯罪を行って,同じような境遇,社会的な地位にある人でも,ある裁判所では勾留にされ,ある裁判所では在宅にすると,そういう趣旨なのではなくて……。 ○青木委員 そうではなくて,在宅にするか,勾留を却下するかどうかという判断をしているわけで,別のオプションがあった場合に,そのオプションを付けるかどうかという判断も同じようにできるのではないですかと申し上げたわけです。 ○岩尾幹事 指針規定について,従来の案については,ほぼ議論は出尽くしているように思います。元々のA案は,それぞれ青木委員からの御提案であったのですが,今回の御提案だと身柄拘束の必要性の判断に関する留意事項という部分については,従前の御提案とかなり変わっているので,その点について確認させていただきたいのです。これは飽くまで指針規定という範囲の中で構想されて,それであるがゆえに見出しとしては「留意事項」となっているのだと思うのですけれども,書いている規定の仕方を見ると,「相当と認める場合に限り,その身柄の拘束を継続することができる」ということになっていて,普通,こういう規定振りのものは法的な効果を生じさせるということになるように思うのですけれども,これはどういうふうに読めば良いのかというところを御説明いただきたいと思います。 ○青木委員 恐らく現時点でもこういう判断はしていますよと言われる中身なのだろうと思うのですね。ただ,それを明示的にきちんと書いておいた方が良いのではないかということです。 ○井上分科会長 具体的な法的効果には直接は結び付かないということですか。 ○青木委員 結局,判断の問題になると思うのですね。 ○岩尾幹事 要は,勾留の裁判が出たときに,これは相当と認める場合でないから,この指針規定に照らして,勾留を認めた裁判自体は違法であるということで,準抗告の対象になるかどうかとか,保釈の却下決定に対する不服申立てにおいて,その根拠条文になるのかどうなのかということです。今は,刑訴法60条の該当性という形で判断しているのが,この指針規定自体が要件になるのかということなのですけれども。 ○青木委員 要件にしたいですけどね。 ○後藤委員 今の点は,要件というかどうかはともかく,運用をそうしなさいという条文になれば,それに反していれば違法だという論理は出てくるだろうと思います。   それから,具体的に幾つかの点を述べます。一つは,青木委員の案では,体裁としては刑訴法第60条1項のただし書に勾留の執行猶予を設けようとしていますね。勾留は重大な権利制約なので,どうしても必要なときだけすべきだという観点からすると,このようなただし書によって,勾留のある種の補充性を表現するのは優れていると思います。だから,中間処分の方の案でもそういう規定の方法を採り入れる可能性はあるのではないでしょうか。例えば,60条1項のただし書として,「ただし,中間処分で足りる場合はそちらを選択する」というような定め方はあるのではないかと思います。   それから,罰則の点については,実効性を与えるという意味では,一定の違反について罰則を設けるという選択はせざるを得ないのではないかと私も思います。   もう一つは,中間処分にしても執行猶予にしても,一旦勾留になったものを途中でそちらに変えるというような場面は想定しなくてもよいのでしょうか。青木委員の案では途中から猶予するということは想定しないですね。 ○青木委員 起訴前にそれをやると起訴前保釈のような,勾留だった形の場合にはそうなりますよね。だから,それもあった方が良いとは思いますが,今までの御議論でもそういうものは短期間のうちにどうなのだとかいうのがあるので,例えば10日間の間にそれが変わってしまうのは非常に煩雑だと思いますので,それはなくても良いかなとは思っています。 ○後藤委員 ただ,現状でも勾留の取消しという制度はあるので,勾留を取り消して中間処分にするというようなことは論理的にはありそうです。その場合の期間の計算をどうするかは問題になりますね。 ○井上分科会長 それはもう少し先の問題なので,現段階では,大きなところでまず議論を頂いた方が良いと思うのですね。この段階ではまだまだそこまで詰まっているわけではない。ただ,後藤委員の最初言われた点は,この分科会でも議論しましたけれども,そういうふうに位置付けると勾留の要件自体が実質的に変更されるという問題になるのだろうと思うのです。それで良いのかどうか。それ自体検討課題として挙がっていたので,そこは御意見が分かれるところだと思いますね。 ○青木委員 まず一つは,今の補充性をきちんと明示する形で書くかどうかというところが一つの違いで,法定刑でこれはできませんということをはっきり書くかどうかというのが一つ大きな違いでということはあると思うのですが,それ以外のところは書き方の問題でクリアできるところもあると思っています。 ○井上分科会長 お忙しい中御用意されたので,詰まっていないところは沢山あると思うのですけれども,できるだけ技術的な点にも配慮し,さらに整備された案にしていただければと思います。   先ほどの指針規定のところは,幾通りかの受け止め方があって,これ自体は飽くまで指針だということで,これに反したことが直接準抗告の理由になるわけではないという位置付けもあれば,後藤委員のように,これ自体が準抗告の理由になるという受け止め方もあり,その中間的な受け止め方,つまり,60条の解釈指針なので,間接的に60条の違反に結び付くという受け止め方もあり得ると思います。   まだ御意見があるかと思いますが,そろそろ予定された時刻ですので,この点についてもこのぐらいにさせていただきたいと思います。   この「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」につきましても,特別部会への報告を念頭に置いて,これまでの議論と本日の議論を含めて当分科会での検討状況を整理して,必要に応じて第8回分科会でも議論をすることがあり得べしということで,締めさせていただきたいと思います。   次回は,「取調べの録音・録画制度」と「通信・会話傍受」について議論を行いたいと思います。具体的な議事次第については,更に検討させていただき,事務当局を通じて,皆様に追って御連絡させていただきたいと思います。   これで予定した事項は全て終了しましたので,本日の議論を終了したいと思います。   なお,本日の会議につきましても,特に公表に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした形で議事録を公表することとさせていただきたいと思います。   また,議事録ができるまでの暫定的なものとして,事務当局において,本日の議論の概要をまとめて,全委員・幹事に送付していただくことにします。   次回の日程は,10月2日水曜日の午前10時から午後零時30分までを予定しております。場所は本日と同じこの部屋でございます。   本日はこれで閉会させていただきます。どうもありがとうございました。 -了-