法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会 第2作業分科会(第6回) 第1 日 時  平成25年9月10日(火)    自午前10時00分                          至午後 0時20分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○保坂幹事 それでは,ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会第2作業分科会の第6回会議を開催いたします。 ○川端分科会長 本日は,御多用中のところ御参集いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,まずは,「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」のうち,前回の会議で検討を行った「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」以外の検討項目について議論を行い,次いで,「証拠開示制度」について議論を行いたいと思います。   なお,本日は,あらかじめお申出がありましたので,証拠開示制度の議論については,神幹事に代わりまして小野委員に,坂口幹事に代わりまして露木幹事に御参加いただくことといたします。   それでは,本日の配布資料について事務当局から説明していただきます。 ○保坂幹事 本日は,配布資料といたしまして,新たに第2作業分科会資料12及び13の2点を配布しております。資料12は,「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」について,前回の会議で配布した資料11に,4ページ以下の「第3 証人に関する情報の保護」,「第4 証人の安全の保護」のそれぞれの記載を加えたもの,資料13は,「証拠開示制度」について,特別部会での議論も踏まえつつ,事務当局において「考えられる制度の概要」と「検討課題」を整理したものです。内容については,後ほど議論の際に御説明します。   また,参考資料として,各検討事項に関する参照条文をお配りしているほか,当分科会の第2回会議で小野委員から御提出のあった「証拠開示制度」に関する資料を再度配布しております。   資料の説明は以上でございます。 ○川端分科会長 それでは,早速,本日の一つ目の検討事項である「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」についての議論に入ります。   この検討事項に関しては,まず,前回からの積み残しである「第2 被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」について議論を行った後,「第3 証人に関する情報の保護」,「第4 証人の安全の保護」について,順次検討を行いたいと思います。   それでは,「第2 被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」について,配布資料の内容を事務当局から説明していただきます。 ○保坂幹事 資料12の3ページ目,「第2 被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」を御覧ください。本日は,各制度概要案と検討課題全般について御検討いただきたいと思いますが,これまでの資料からの主な変更点を御説明させていただきます。   まず,制度概要においては,柱書きの1行目ですが,本制度における第一回公判期日前の証人尋問手続について,必要性が高い場合に限定をするという趣旨で,現行の刑事訴訟法227条と同様,対象者の供述が犯罪の証明に欠くことができないと認められることを要件とするのが相当ではないかと考えられますので,その旨の要件を追加いたしました。   また,制度概要のうちの対象者及び要件につきまして,従前,検討課題に掲げていたものを制度概要に組み入れ,「①」として,刑事訴訟法157条の4第1項第1号又は第2号に掲げるいわゆる性犯罪の被害者,「②」として,犯罪の性質等の事情により公判期日において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者としております。   次に検討課題に関しては,「1 対象者及び要件」につき,制度概要において,先ほど申し上げたとおり,「②」の類型として,この分科会で前に議論のあった性犯罪の被害者以外の犯罪被害者を対象とし,更には被害者以外の証人も対象とすることとしておりますが,異なる御意見もありましたので,対象とすべき証人の範囲について更に御検討いただきたいと思います。   また,「2 記録媒体の取扱い」という項目を新たに設けておりますが,これについては,証拠開示や訴訟記録の閲覧・謄写の場面において,本制度の記録媒体の取扱いをどのように定めるかという点を御検討いただきたいと思います。   なお,現行のビデオリンク方式による証人尋問の際に作成した記録媒体は,証人のプライバシー等が侵害されて重大な精神的被害を生じることがないよう,訴訟書類等の閲覧・謄写の例外として,刑事訴訟法40条2項や270条2項の規定により,弁護人も検察官も閲覧のみが許され,謄写はできないとされています。   資料の説明は以上でございます。 ○川端分科会長 それでは,「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」について,検討課題のいずれについてでも結構ですので,御意見,御質問のある方は御発言をお願いいたします。 ○神幹事 質問なのですが,部会20回会議でもこの文章が出ているのですが,「考えられる制度の概要」の2のところでは,調書を取り調べた後に訴訟関係人に尋問の機会を与えるということになっているのですが,この調書の取調べには当該記録媒体の再生は入るのですか,入らないのですか。 ○保坂幹事 証拠として取り調べるということですので,証拠調べの方法として,添付されている媒体については再生という方法によることになるのではないかと思いますが。 ○神幹事 その確認です。ありがとうございます。 ○川端分科会長 ほかにいかがでしょうか。どうぞ御自由に御発言をお願いします。 ○上冨幹事 検討課題1の証人の範囲について,被害者以外の者を対象とすべきかという点ですが,制度概要の1②に書いてあるような実質的な要件を満たす人であれば,それが訴因との関係で法律上その犯罪の被害者という立場になるかどうかによって区別する必要はないのではないかと思います。この制度は証人となる人が繰り返し証言を求められることによる負担を軽減していこうというものですので,ここに書いてあるような負担が本当にある人であれば,必ずしも被害者に限る必要はないのだろうと思います。   それから,検討課題2の記録媒体の取扱いの関係は,先ほど事務当局から御紹介もありましたけれども,現行のビデオリンクの場合の記録媒体の取扱いを参考にすることになるのだろうと思いますので,基本的には謄写を許さないということになるのだろうと思います。この制度の場合は,第一回公判前の証人尋問になり,その記録自体はいずれ検察官の手元に来て,検察官手持ち証拠になるので,問題となる場面はいわゆる証拠開示の場面になると思いますが,開示した場合の問題というのは現行のビデオリンクの場合と基本的には同じだろうと思いますので,そのような取扱いがいいのではないかと思います。 ○酒巻委員 ほとんど上冨幹事と重なるのですけれども,記録媒体の取扱いについては,現行に類似の制度があり,それと制度趣旨を同じくするので,取扱いはやはり同じようにすべきだと思います。   対象者について,この基本的な枠組みで犯罪の被害者以外の者でも資料に記載された要件に該当する者については,同じ制度趣旨が当てはまると思いますので,対象者にはこれも含めるのが適切と思います。ではそれはどういう人なのか,犯罪の被害者でもなくてここに当たるような人は,様々な事件類型で具体的にどのような人が当たるのかの実例を示していただくと,制度設計について今後部会で議論する際にも分かりやすいのではないかと思います。 ○髙橋幹事 制度設計との関係で申し上げます。実際にこの制度ができた場合に,被害者の方,あるいは,被害者以外の方についてもなのですが,どういうニーズがある場合に利用されるのかというのが今ひとつイメージがつきません。要は,同じ証言を繰り返しすることによる負担を防ぐということなので,例えば共犯者が多数の事件のような場合には,ある被告人の法廷で一回供述すれば,あとは各事件の審理での反対尋問だけが残るというのは分かるのですが。   とはいえ,自白事件の場合,例えば性犯罪被害者であれば,現在の運用でも通常は調書を取り調べることが多いので,第一回公判期日前の証人尋問というのをやるとすれば,それだけ負担が増える気もします。そうすると,否認事件の場合がメインに想定されるのですが,起訴があった段階では,証人尋問が必要かよく分からず,その後,弁護人の主張や証拠意見により被害者の証人尋問が必要だということになり,そうであれば,せめて主尋問だけは第一回公判前でやっておこう,そういうニーズが初めて出てくるのかなと思います。具体的なイメージがなかなか分からないため,制度設計をする上でそこを明確にしておいた方がいいかなと思いますので,その辺りも御説明いただければと思います。 ○酒巻委員 この制度の一番の核心は,気の毒な被害者が証人になる場合というのが元々の出発点ではあった。しかし,今度の制度案は,証言のたびに著しい精神的苦痛を受ける事態は,被害者証人に限らず,被害者以外で証人になる人にもあり得るだろうということを考えている。それは単に被害者保護の趣旨にとどまるものではなくて,刑事司法全体について,そういう方にも安心して一回は自己の体験した事実についてできる限り正確な供述をしていただきたい,それによって供述証拠を確保しようという趣旨ですから,この枠組みは問題ないと思うのです。   では,どういう人が対象者となり得るか。被害は受けていないけれども,とんでもない状況を見てしまって精神的な打撃を受ける,更にそれを繰り返し思い出してはしゃべることが著しい苦痛となる,そういう人がいるのではないかなと思うのです。 ○上冨幹事 具体的な事件というのはなかなかすぐに思い浮かばないのですけれども,いきさつのある事件で,事情をよく知っている人であるけれども,直接殺傷の被害に遭った人ではない人が,事件を目撃していたり,あるいは,いきさつをよく知っていて証人にならざるを得ないときに,証言する内容からして,そのことを何度も思い出して話すというのは大変だという事例はあり得るのだろうと思います。   もう一点加えると,この制度を使うのは必ずしも起訴後に限った話ではないはずで,むしろ第一回公判期日前の証人尋問の実務からすると,捜査段階での利用というのも十分考えられるのではないかなと考えて,この制度概要を読んでいました。事案の内容からして,将来証人になるかどうかは,例えば公判前整理手続をやってみなければ分からないわけですけれども,当該供述人が証人になったとすれば圧迫を受けてしまうということがあり得るのであれば,実際に自白事件になれば,その記録媒体が問題になることは必ずしもないのかもしれない,むしろ自白事件であれば同意書証としてそれ自体が出てしまうのでしょうから,反対尋問が行われないというだけの違いであって,こういう要件を満たすのであれば,ビデオも作っておくというだけの制度なのではないかなと思います。 ○髙橋幹事 例えば被害者を念頭に置くと,警察,検察段階でも取調べは受けてお話をしているのですよね。更にまた裁判所に行って同じお話をすると,その意味では物理的な負担はその時点では増していると思います。ですから,起訴前の,証人になるかどうかも分からない段階でそういう負担を掛けてしまうこと自体が被害者にとってどうなのかなと思います。それでも,被害者が「是非そうしてください」と,ここでは「同意」となっていますけれども,そういう要望があれば検討する,そういうことになるのでしょうか。 ○上冨幹事 恐らくそういうイメージなのだろうと思います。そもそも今御指摘があったとおり,供述者の同意があることが要件になるわけですから,御本人が望まないのであればこの制度は使わないということになるでしょうし,将来複数の公判で証言するリスクがあるということを踏まえてどうするかということについて本人と検察官とが意思疎通をした上で,手続を採るかどうかを検察官の立場で決めていくということになるのだろうと思います。 ○岩尾幹事 結果的に同意されて証人尋問をしないことになる可能性は確かにあるわけですけれども,それは調書だけを開示して弁護人がその信用性を吟味するよりは,DVDを見た上でより信用性について納得して同意されるということになれば,それは被害者の保護に役立つのかなという気はいたします。また,公判廷での主尋問を受けるのとは違って,第一回公判前の証人尋問ということを考えると,被害者も余り大きくない刺激の下で供述できるというメリットはあると思います。   対象者として,先ほどの凄惨な殺人現場を見たというような状況を考えたとき,例えば,単純に他人間の殺人事件よりも家庭内で殺人事件が起こったときの,その場面を目撃した子どもさんとか年少者ということを考えれば,そういうニーズはある程度あるのではなかろうかと思います。 ○神幹事 私もこの制度そのものは前からずっと反対しているのですが,警察段階で取調べが行われ,更に検察段階でも取調べが行われ,さらに,使うか使わないか分からないけれども,第一回公判期日前あるいは捜査段階において別のビデオを撮っておくということはそれだけでもかなり負担だろうと思います。それが証人尋問とした場合には,今度は反対尋問を受けるわけですから,そういう迂遠なものは要らないのではないかなと思います。その意味で,更に対象犯罪を被害者以外のものに拡大するということについても反対であります。   さらに,記録媒体の取扱いですが,対象者の名誉あるいはプライバシーの保護によって証拠開示や訴訟記録の閲覧・謄写を制限するということについては,やはり反対と言わざるを得ません。通常の証人予定者であれば,その供述調書は事前に弁護人側に開示され,被告人がこれを見て防御準備を行うことができるにもかかわらず,被告人の面前での主尋問が行われないという点で被告人の防御権に対する制約が大きいこの制度を利用する場合には,証拠開示や記録の閲覧・謄写まで制限することは断じて許されるべきではないと考えます。   さらに,通常の証人尋問では,誤導等の不適法な質問や伝聞等の不適法な証言がなされれば,弁護人が異議を述べて不適法な証言等がなされることを防止することができますが,第一回公判期日前の証人尋問を利用する場合にはそれが不可能であります。不適法な証言が録音・録画媒体を再生する方法で取り調べられた場合,事実認定の公正さが損なわれるおそれは否定できないと思います。この点において,形だけでなく有効な手立てができるものを考えるべきだろうと考えます。 ○坂口幹事 よろしいでしょうか。私は,検討課題の1点目と2点目につきまして,上冨幹事あるいは酒巻委員と同意見であります。今,迂遠であるからこのような制度は必要ないというお話がありましたけれども,よく理解できません。迂遠であるからあってはならないというのは理由にならないと思いますし,現に被害者側からはこの制度を強く望むという声が出ているわけであります。そのような声に対して,「迂遠であるから必要ありません」という対応は果たして適当なのか大変疑問です。   具体的にどのような人がいるかということについては,正に捜査実務をしておりますと,よくあるのは,岩尾幹事が御指摘になったとおり家庭内の事件,たまたま凄惨な殺人現場に居合わせてしまう人というのはままおられます。殺人事件の多くは友人,知人,家族間で起こるわけでありまして,正に家の中が現場であるという事件が多いです。となると,直接的な加害者,被害者以外に,同居の家族が居合わせるというのは非常によくあることです。   それからもう一つ,経験上思いますのは,性犯罪でありまして,特に中学生や高校生の女の子が被害者になるような事件というのは,そういう被害者は友達と行動を共にしている場合が非常に多いので,事件発生時に仲のいい友達が現場に居合わせるということはよくあります。そういう子どもたちに何度も記憶を再現させて当時の様子を語らせるというのは,捜査員にとっても心情的に非常につらいものがあります。こういう負担を和らげてあげられるならばいいだろうと思います。訴因との関係で,厳密な意味でその事件の被害者ではないにしても,そういう人たちの立場に立てば,正に自分も被害者なのだと思います。それに対して同じように配慮することの一体何がいけないのかという気がいたします。 ○上冨幹事 先ほど神幹事がおっしゃった謄写の関係で,神幹事は御理解の上での御発言だったと思いますけれども,先ほど私が申し上げた謄写を制限すべきだというのは,証人尋問調書と一体になっている記録媒体だけですので,証人尋問調書は当然謄写はでき,その上でその証人尋問の内容を撮ったビデオについても弁護人は閲覧できるという制度として考えたときに,それが大きく防御権を侵害するような開示の制限になるのかというと,必ずしもそうではないのかなと思います。 ○酒巻委員 私もそれを言いたかったのですけれども,何か誤解があるのではないですか。今ある条文と同じものを使うというだけで,証人尋問の調書については閲覧も謄写もできる。ビデオも閲覧できる。刑訴法40条に書いてあるようにビデオの謄写ができないのは,制度趣旨はお分かりだと思いますが,そのようなものがもし外に漏れるとどのようなことになるか。被害者とか証人のことをお考えになって,それでも反対しておられるのかどうか,はっきりさせた方がいいのではないかと思います。 ○神幹事 先ほど私は「迂遠」という言葉を使ったのですが,その意味は被害者にとってそれほど負担軽減にならないではないかという趣旨と御理解ください。 ○川端分科会長 坂口幹事が話された知人とか友人とかの対象者に関してはいかがでしょうか。 ○神幹事 気持ちとしては分かりますけれども,そもそもこういう制度,被害者そのものについても作っていくことがいいのかどうかという形で私たちはかなり慎重に考えていますので,更にそれを広げるのはいかがなものかという趣旨です。 ○川端分科会長 そういう趣旨だということですが,ほかに御意見がございますでしょうか。 ○髙橋幹事 先ほど神幹事が言われた第一回公判期日前の証人尋問の際には,今の制度案だと弁護人の立会権が認められていないようなので,弁護人がいないとすると,主尋問で誤導なり不適切な誘導があった場合に適切な異議が出されない,それがひいては被告人の防御権に支障が出るのではないか,そういう趣旨の御発言だったと思うのです。裁判所としてはそこをきちんと訴訟指揮で整理しようと思いますけれども,懸念として残るのは恐らくそのとおりかなと思います。   そうすると,今度は反対尋問の場面での弁護人の活動を想定すると,弁護人としてはこの点を蒸し返さざるを得ないと思います。主尋問でこう言っているけれども,あれは誤導に基づくものでといったように,単純な反対尋問ではなく,そこから追及を始めることになってしまう。そのような意味で反対尋問はかなり重たくなってしまうと,そのようなイメージでしょうか。 ○神幹事 重たくなると思います。裁判所がきちんと訴訟指揮をしていただけるのであれば,私たちもそのようなことはしたくないとは思っています。 ○川端分科会長 この件に関してまだ御意見もあろうかと思いますが,時間の関係もございますので,「第3 証人に関する情報の保護」についての議論に入りたいと思います。これについては,「1 証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」と「2 公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」の二つの検討項目がありますので,順次検討を行うことといたします。   まず,「1 証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」について,配布資料の内容を事務当局から説明していただきます。 ○保坂幹事 それでは,資料12の4ページ目,「第3 証人に関する情報の保護」の「1 証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」を御覧ください。これまでの資料からの主な変更点を御説明いたします。   「考えられる制度の概要」の「2」といたしまして,これまでに御議論のあった被告人側の請求により裁判所が代替措置の可否に関する裁定を行う仕組みを設けるということを追加いたしました。   次に,「検討課題」の「(1)代替措置を認める要件」の二つ目の「○」といたしまして,「防御に実質的な不利益を生ずるおそれ」について,どのような場合を想定するかという点を追加しております。この分科会において,証人の信用性を検討するための資料集めが困難になる場合があるという御指摘があったところですが,より具体的に,証人の氏名や住居を知らないと防御に実質的な不利益が生じるおそれがあるというのはどのような場合なのかについて,代替措置を採る検察官や,裁定を行う裁判官がどのように判断することになるのかという観点も踏まえつつ,御検討いただきたいと思います。   また,同じく三つ目の「○」といたしまして,刑事訴訟法299条1項でその氏名・住居を知る機会を与えなければならないとされている「鑑定人,通訳人,翻訳人も対象とするか」という点を追加しております。   次に,「(3)不服申立て」の二つ目の「○」といたしまして,代替措置について裁判所が裁定を行うということを前提として,その「裁判所の裁定に対して即時抗告ができるものとするか」という点を追加しております。   そして,次のページの「(4)代替措置を採った場合の取扱い」といたしまして,代替措置を採った場合に併せて問題となり得る検討課題を記載しております。一つ目の「○」といたしまして,「検察官請求証拠(弁護人への開示証拠)における氏名・住居の取扱いをどうするか」,二つ目の「○」として,「裁判所における氏名・住居の取扱いをどうするか」,すなわち,「証人尋問請求について,代替措置の氏名・住居で行うものとするか,実際の氏名・住居によって請求の上,被告人側にはこれを知らせないものとするか」,次に,「証人尋問の決定について,代替措置の氏名で決定を行うものとするか,実際の氏名で決定の上,被告人側に通知しないものとするか」,「公判調書等の訴訟記録への記載について,代替措置の氏名・住居とするか,実際の氏名・住居を記載の上,被告人側の閲覧・謄写を制限するものとするか」といった点について,御検討いただければと思います。   さらに,「(5)その他」といたしまして,制度概要の案ではなく,弁護人には氏名・住居を開示した上で,被告人に知らせてはならない旨の条件を付するという案の御提案もあったところでございますが,検討課題といたしまして,「被告人に知らせない旨の条件を付する措置の要件をどう考えるか」,そして,その実効性にも関連して,「弁護人が被告人に知らせることができる旨の例外を設けるべきか」,その他,刑事訴訟法299条の2の配慮要請とも関係しますが,「弁護人が条件に違反しないことの担保措置をどうするか」,こういった点を御検討いただく必要がありますので,その点を追加しております。   資料の御説明は以上です。 ○川端分科会長 ただいま事務当局から説明があったとおり,この検討項目については,まず検討課題の「(1)代替措置を認める要件」から「(3)不服申立て」までについて併せて議論を行い,その後,「(4)代替措置を採った場合の取扱い」と「(5)その他」について併せて議論を行いたいと思います。   それでは,検討課題の「(1)代替措置を認める要件」から「(3)不服申立て」までについて,いずれについてでも結構ですので,御意見,御質問のある方は御発言をお願いいたします。 ○神幹事 まず,代替措置を認める要件の最初の部分ですが,これは従前から話をさせていただいていますけれども,私どもとしては畏怖・困惑のおそれがある場合は対象としないという形にすべきだと思います。   二つ目の「防御に実質的な不利益を生ずるおそれ」というところですが,どのような場合を想定するのかというのは非常に難しい問題ですが,例えば,氏名が弁護人に開示されないという場合をひとつ想定してみた場合,弁護人が当該証人の氏名が分からないという状況で,証人の経歴とか証人と被告人・被害者等との利害関係の調査をすることが不可能になり,その結果,証言の信用性を減殺する事実を示す機会を失いかねないということがあり得るのではないかと思います。   二つ目として,例えば弁護人が弁護士法23条の照会手続を用いて証人の利害関係や現場不存在を立証することも不可能になるようなこともあり得ると思います。また,住居についても同様でありまして,氏名のみで人物を特定できない場合,住居が開示されなければ証人の経歴や利害関係を調査することができず,立証もできないということが起こり得ると思います。このような防御上の不利益は事前に生ずるおそれがないと判断できるような性質のものではないのではないかとさえ思います。   また,証人が虚偽の供述をして被告人を罪に陥れたという場合を想定した場合,後に被告人から損害賠償請求などの責任追及を受ける立場になると思います。匿名での証言をすることにより責任追及を免れることになれば,虚偽の証言をして被告人を罪に陥れることはより容易になるという可能性もあります。   被告人を罪に陥れる証人などそうそうあるものではないと思われるかもしれませんが,この特別部会の設立の契機となった村木委員の事件でも,検察官に迎合して村木委員を罪に陥れる証言をした証人がいたことを忘れてはならないと思います。匿名の証言で人を処罰するような制度はその意味でえん罪の危険を大きくするものであり,反対尋問権や適正手続を保障している憲法にも違反するものであります。被害者や証人を保護する必要性を考慮しても,明らかに行きすぎであり,採用の余地はないと考えます。   それから,鑑定人,通訳人,翻訳人についても,当分科会第1回会議でも述べていますが,これも匿名化をすべきでないと考えます。   それから,裁定という制度を作った場合ですが,それについての即時抗告ができるということは考えておくべきだろうと思います。   あと,裁定の内容としての別の代替措置というのはどのようなイメージかよく分からないので説明をいただければと思っております。 ○酒巻委員 今,神幹事が述べられた,この制度を作るかどうかということなのですけれども,私の理解でも,刑訴法299条の証人予定者の氏名・住居を知る機会を弁護人に与えるというのは,証拠開示というよりは,更にその前提のどの国でもある一番基本的な防御準備のための枠組みだというのは間違いないところだと思うのです。そして,神幹事がおっしゃったように,証人になる人の名前とか住居が分からないことによって,今縷々おっしゃったように抽象的に,防御準備にとって困ることがあり得るというところまでは,それも一般にこういう制度がある裏返しとして言われていることです。   一方で,この制度を作ろうとしている反対利益は,防御準備にとっての一般的・抽象的な危険はないわけではないのだけれども,自分の名前とか住んでいるところが知られることによって怖い目に遭うかもしれない,あるいは,僕は「困惑」も入れていいと思うのですけれども,自分の生命・身体の安全が脅かされるかもしれないと思うだけでも,そういうところに出てしゃべるのは真っ平ごめんだという人がいることは間違いないだろう。しかし,そういう人に対して,今考えてるような制度が存在して,守ってもらえる場合があるのだということを一般的に示すことによって,少しでも安んじて供述証拠を提供していただきたいと,そういう反対の価値があるわけで,それを合理的に調整しようというわけですね。   防御の準備というのは刑事司法にとって非常に重要なことですから,被告人の防御に実質的な不利益を生じるおそれがない場合というのは大前提なのだけれども,問題は実質的な不利益というのが具体的にどういう場合があって,もう一つの供述しやすくしようという利益と具体的に調整できるような道をもうちょっと考えてみたらどうだろうかと思います。その道の枠組みとして,一つは,今日の話題になっているように,被告人の防御に実質的な不利益が生ずる場合として具体的にどういう場合があるのだろうかを考えなければならないと思います。抽象的には名前が分からない人,どのような人か分からないというのはそうなのですけれども,当然ながら,その人の捜査段階の供述調書は開示されるわけです。個別の事案では,調書が開示されて,反対尋問の準備がそれで十分できるという場合もあるのではないか。だから,どちらも絶対的と考えないで,何とか枠組みを作って,私は不服申立てもあった方がいいと思いますし,即時抗告もぎりぎりのところでの調整を裁判所にやってもらうという意味であって良いと思います。長々となりましたけれども,どちらかを絶対視しないで,何とか調整できる枠組みをもうちょっと考えてみませんか。そのための一番重要なところは,氏名や住居が分からないと防御ができない場合というのは,具体的にはどのような場合があるのか,それについても何か対処はあるのではないかということをもうちょっと考えた方がいいのではないかと思います。 ○上冨幹事 検討課題1の関係ですが,結局,防御に実質的な不利益を生じるおそれがあれば伝えなければいけないのは,おっしゃるとおり当然なのだろうと思います。それでは,具体的にどういう場面があり得るかに関しては,本名は知らないけれどもどういう人かはよく知っている,例えば暴力団組織内の人間が組織を辞めた後に証人として法廷に出てくる場合を想定すると,元々被告人とは互いによく知っている間柄だけれども,被告人との関係ではずっと稼業名を使っていて,本名は知られていなくて,組織を辞めた後,組織と縁を切って,今住んでいる住所も被告人に知られていないというようなこともあると思います。また,ストーカーのような事件では,あえて被害者が姓を変えて暮らしていることもあるだろうと思います。   そういった場合,どういう人間かは被告人もよく知っていて,供述内容も供述調書で確認した上で,防御はきちんとできるという事案は具体的にあり得るだろうと思います。そういった場合で,実質的な不利益がない事案で,一方,証人となる人にそれを秘匿する利益があるというのであれば,こういう制度を導入する合理性は十分あるのだと思います。他方,防御に実質的な不利益があるかどうかというのは,今申し上げたような事案と証拠といった具体的な問題で,状況を踏まえてそのおそれが客観的にあるかどうかということで決めていくしかないのではないかと思います。   それから,鑑定人,通訳人,翻訳人については,実際のあてはめとして,これらの要件を満たす場合が被害者よりは少ないのかもしれませんけれども,例えば組織的な犯罪に関わるような事案で,民間の方に鑑定などの作業で協力を得ているという場合は当然あり得るわけで,それは一般の証人の場合と大きく違うわけではないのだろうと思います。ですので,実質的な要件を満たすのであれば,鑑定人などであってもこの代替措置を採ることはあり得るのだろうと思います。   なお,以前にも出ましたが,「畏怖・困惑」の問題については,特に暴力団などのことを考えると,直接的な加害ではないけれども,相手が畏怖するようなやり方で影響力を行使しようとするという例は十分あり得るのでしょうし,要件に加えておくというこの制度概要の形で部会において議論していただく方がいいのではないかと思います。 ○坂口幹事 私も上冨幹事とほぼ同意見であります。防御に実質的な不利益を生じるおそれがある場合があるというのは私も観念的には考えられなくはないと思いますが,現実問題として具体的に本当にいかほどあるのかという辺りがまだよく理解できませんので,具体例があるならば御教示願えればと思います。   「畏怖・困惑」ですけれども,是非これは入れていただきたいと思います。組織犯罪のような場合は,彼らは費用対効果を非常に巧妙に計算しますので,証人にプレッシャーを掛けようとする場合に直接身体に手を出すということは余り考えられません,そこまでする必要はないわけですから。証人の口を封じたいのであれば,畏怖・困惑させるような方法で十分プレッシャーを掛ける手段を彼らは持っているし,現にやっているということを考えますと,是非こういうものが入っていなければ制度を導入する意味がないと思います。   それから,鑑定人,通訳人の話ですけれども,確かにその言語を操る人が非常に多いとか,あるいは,鑑定であれば,DNA鑑定のような誰でもできるし,誰がやっても同じような結果が得られるというものであれば余り問題にならないかもしれませんが,少数言語であって通訳人は国内に数人しかいないとか,あるいは,鑑定であっても,最近は非常に技術が進んでおりますので,いろいろな証拠,現場周辺で得られるものがあって,その人でないと鑑定できないような鑑定をお願いする場合もあります。日本の国内の研究者で,この大学のこの先生でないとできないというような場合は,正にその人がそのような鑑定さえしなければ,あるいは,その人がそういう通訳をしなければ,被告人が有罪になることはなかったのにと思わせるような事情があるという意味で,唯一無二の証人と変わらないような立場にいる通訳人,鑑定人もいますので,こういう人たちも対象としていただきたいと思います。   実際問題,現に事件が起こってから裁判になるまでに何年も経っている場合もあるわけで,何年も経っていて組の追及から逃れて,遠く離れた誰にも分からない場所でようやく平穏に暮らしている証人というのはいるわけで,これをいざ公判ということで出廷していただくために説得する努力,負担というのは非常に大きなものがあります。渡世名しか知られていないから確かに本名も知られていない,ヤクザの間では渡世名で通じているというのはよくあることで,「本名は,仲のいい者同士だけれども,実は知らないのです」ということもよくある話です。そういう人に公判に出てもらうために,こういうものは是非あるべきだろうと思いますし,こういう制度を導入することによるメリットに対して,これによって実質的に不利益が生ずることがあるのですというのが,観念的なもの以上に実際これほどあるのだよ,量的にも質的にもというものが,果たして見合うほどにあるのかという点についてはよく理解できません。 ○髙橋幹事 まず,検討課題のうち鑑定人,通訳人,翻訳人のところなのですが,鑑定人や通訳人についても保護する必要がある場合があるというのはそのとおりかなと思います。ですが,特に鑑定人については,ごく少数の人しかできないような鑑定というのは,正にその人の専門的知見が必要になるわけで,裁判所もそうですし,弁護人としてもどこの誰がその鑑定をこれからするのか,あるいは,したのかという点に関して,名前も分からないで,本当にその人に鑑定をお願いしていいのか,あるいは,その人の鑑定が信用できるのかというのは,防御あるいは判断の関係でそれは知らないと難しいという場合も中にはあり得るのかと思います。   一方,通訳人の場合は,たとえ少数言語であっても,どこの誰かが明確になっていなくても,一定の技能さえあれば通訳は可能ですし,通訳の適格性についての判断もできますので,通訳人の場合は広く保護してもいいのかなと思うのですけれども,鑑定人の場合は,場合によっては名前を明らかにしてもらわなければいけない局面もあるのかなと思います。   それから,被告人側が代替措置に承服できない場合には,これは被告人の防御と被害者保護の利益衡量というのは非常に重要な問題ですので,やはり裁判所で裁定するという枠組みが必要であり,もしその裁定に不服があれば不服申立てを認めるという流れになるのかなと思います。 ○上冨幹事 事務当局に確認させていただきますが,鑑定人,通訳人,翻訳人というのは刑訴法でいうところの鑑定人等で,例えば捜査段階の鑑定受託者が証人として証言するときは,ここで言う鑑定人ではなくて,本来の証人という位置付けになるという整理で作られている資料という理解でいいのですよね。そうすると,中身は鑑定であっても証人尋問の場合には当然該当するという理解でいいのですよね。 ○保坂幹事 そうなのだと思います。 ○宇藤幹事 もう余り付け加えることはないのですけれども,先ほどから出ておりますように,私もこういう制度を作ることには意義があると思います。ただし,防御に実質的な不利益が生じないというのは大前提ですので,ここのところはきちんと守ったような制度にするべきです。   その上で,不服申立てのところなのですけれども,検討項目には「○」が二つありまして,別の代替措置を採る可能性もあるのかということも書いてあります。これについても,適切な方法があるのであれば,代替措置として別の方法を採っても良いのだろうと思います。それを,裁判所の裁定の内容として加えてもよろしいのかなという感想を持っています。   二つ目の「○」の即時抗告も,先ほどから出ておりますように,証人への加害等が現実的になってからでは遅いので,即時抗告という制度は認めるべきだと思います。 ○川端分科会長 今,不服申立ての件が出てきましたが,その中で別の代替措置がどのようなものかということについて,事務当局の方でもし説明があればお願いします。 ○保坂幹事 先ほど神幹事から別の代替措置というのはどのようなものかという質問がありましたので,趣旨だけ御説明しますと,元々,検察官が氏名・住居について,例えば氏名A・住居Bという代替措置を採ったことに対して,弁護人から不服申立てがあって,裁判所が裁定をするという場合に,そのA,Bが防御の観点,あるいは,加害のおそれのレベルの観点から相当でないとなったときに,本当の名前や住居を知らせなさいとするのか,それとも,もう少し防御にも配慮したC,Dのような代替措置があるのであれば,裁定手続の中でそちらを採れるようにもしておくのかという趣旨でございます。 ○川端分科会長 大体この点については議論が尽きたと思いますので,次に移りたいと思います。   次は,検討課題の「(4)代替措置を採った場合の取扱い」と「(5)その他」について,そのいずれについてでも結構ですので,御意見,御質問ある方は御発言をお願いしたいと思います。 ○髙橋幹事 「(4)代替措置を採った場合の取扱い」にも絡みますし,「(5)」のその他の制度を視野に入れた場合も含めて両方に絡むのですが,まず保護すべき対象について,今の案だと証人の氏名・住居の開示の場合だけを想定しているのですが,同じような保護の要請,つまり,加害行為あるいは畏怖・困惑させる行為がなされるおそれがある場合の保護というのは,証人だけでなく供述調書にその名前が載っていて,それが被告人に知られることによって新たな加害等が予想される場合もあり得るので,対象としては証人だけに限らず,調書に載っている被害者あるいは目撃者等で加害等のおそれが予想されるような人も広く対象に含めた方が良いと思います。   (4)の二つ目の「○」の「裁判所における氏名・住居の取扱いをどうするか。」については,証人尋問請求,証人尋問の決定については,裁判所には実際の氏名によって請求してもらって,裁判所は実際の氏名で決定すべきものと思います。捜査機関は知っているけれども,裁判所としては誰だか分からないという人について請求を受け,決定をするということは,判断者の立場からすれば,あるべきではないと思います。   そう考えていきますと,この問題は元々被害者や証人の保護をどう図るかというテーマでの議論であるところ,今,提案されているのは証人の氏名等の開示の場合の取扱いという場面に限られていますが,この場面で実際の氏名等を被告人側に知らせないという形でシャットアウト,あるいは,(5)の「その他」でいうと,この場面で弁護人にはこれを知らせるけれども,被告人には知らせないとするとしたところで,その前の段階,例えば起訴状の段階でこれが明らかになっていれば保護として不十分ですし,手続を進めていくと,先ほども触れた,証拠請求・決定での場面の取扱いの問題もありますし,最終的には判決書でも氏名等についての記載をどうするのかと,非常に広がりのある問題だと思います。その辺りも視野に入れてこの問題についてどう対処していくかということを検討していかないと,保護として一貫できないのではないかと思いますので,検討課題としては,そういう意味ではもっと広がりを持った形で検討していくべきと思っております。 ○川端分科会長 今,髙橋幹事から問題点の御指摘がございましたが,その点について何か御意見がございましたらどうぞ御発言をお願いします。 ○保坂幹事 事務当局として検討課題を整理するについて,御指摘の起訴状や判決書の点をどのように考えたのかということを御説明します。今回の制度について当分科会での検討事項とされているのは,証人予定者の氏名・住居について,異議がない限り必ず知る機会を与えなければいけないとなっている点を改めて,一定の要件の下に代替措置を採ることができるようにしようということです。これが根っこのところにあって,それに伴って検察官請求証拠であれば必ず開示しなければいけない,証人尋問決定の通知も必ずしなければいけない,そして,訴訟記録の閲覧・謄写,これは全部見せなければいけないとなっているところをどうするかという点を検討課題として挙げているわけです。   他方で,起訴状については,送達はしなければいけないわけですが,起訴状の公訴事実の記載事項として,被害者の氏名・住居を必ず書かなければいけないとはなっていないものですから,その点で言わば別個の問題,つまり起訴状に書いてしまっていては,後で隠したところで意味がないではないかというのはそのとおりなのですが,起訴状に書かないものであれば,それについてその後知らせないように代替措置を採っていくという意味で別個の問題なのだろうと考えたところです。さらに,起訴状の公訴事実に書く事柄について,法律で,こういう場合にはこういうことは書かないで良いというように規定することが本当にできるのかどうかも含めて考えると,別個の問題と整理しているところです。この点についても御議論いただければと思います。 ○川端分科会長 今の点,髙橋幹事,いかがでしょうか。 ○髙橋幹事 確かに起訴状において被害者の特定に関して何を書くべきかというのは法律上は規定されていないのですけれども,被害者等の保護という意味では問題の根っこは同じなのではないのですかね。起訴状で例えば被害者の氏名を書かざるを得ない場合に,でも一方で被告人には知らせてはいけないという要請があった場合に,法律上どういう対処ができるのか,例えば,弁護人には知らせるけれども,被告人には知らせないという立法的な担保は可能かどうか。あるいは,今回のこの案にもありますとおり,弁護人には呼称だけを知らせるとすることが可能なのか。そういった意味で,手続全体を通じて考えないといけないと思います。被害者あるいは証人の保護は,ここを防いでもほかの部分で漏れてしまうということがあれば,それは一貫していないという意見です。 ○神幹事 この問題については,今回かなり具体的な形で論点が絞られてきたのですが,同時にこの問題は,先ほど来話が出ている起訴状の問題とか判決書の問題と,結局根っこは一緒なのだと思うのです。現実問題として,起訴状の問題等についても,今,法曹三者で協議をしていろいろな意見交換をしているところでして,ここで固めてしまうのはいかがなものかと私は思っております。ただ,やるとした場合には,例えば,(4)については,少なくとも裁判所にはきちんと分かっていなければいけないよねとは思います。   (5)ですが,これについては,前に私の方から,氏名と住居両方とも弁護人に明らかにするけれども,住居は条件付きで被告人には知らせないというものがあって良いのではないかということを提案したと思うのですが,こういう案というのは,先ほどのA案,B案とは別に,C案という形で具体的な枠組みの中の選択肢の一つとして是非採り入れていってもらいたいと思っております。C案は是非きちんと入れていただきたいということであります。   例えば,証人があるグループに所属していたと証言した場合に,被告人が氏名を知っていれば,当該グループにそのような人物が存在しないと気付くような場合もあろうかと思います。そのように証言内容に虚偽があることが判明するような場合には,その機会を失う可能性があるということで問題があるだろうと思っています。   それから,被告人が証人の氏名を知っていれば,証人が敵対する人物の関係者であることなど利害関係や偏見が明らかになることがありますが,そのような機会を失う可能性もあるという意味でも,ここはやはり条件付きというものを考えていただきたいと思います。   被害者・証人の保護を最大限考慮するとしても,えん罪の危険を大きくしないためには証人若しくはその親族の身体若しくは財産に害が加えられるおそれがあると認められる場合で,被告人の防御に実質的な不利益を生じるおそれがないときに,弁護人に対し,証人の住居を被告人に知らせてはならないという条件を付すということができるようにしたらいかがかと思います。 ○川端分科会長 上冨幹事,御意見がございましたらどうぞお願いします。 ○上冨幹事 起訴状の話と代替措置の話が根っこは同じだというのは,うんと遡れば同じなのだと思うのですけれども,どこまで遡るかの話で,基本的には別の話なのだろうと思うのです。代替措置の制度の方は防御に実質的な不利益がないことがあり得るという前提で組まれていて,防御に実質的な不利益があるときは知らせなければいけないという仕組みを採っているわけです。他方,公訴事実とか訴因の機能からすれば,訴因の特定のために被害者の氏名が必要な事案であれば,それは知らせないということは逆にあり得ない話で,ここの制度で考えているような一定の例外の下で知らせないというような仕組みとは本来相容れないのだろうと思いますので,別個に考えるべき制度なのだろうと思います。   その上で,こちらの制度について代替措置を採った場合の取扱いのことを申し上げれば,現行の刑訴法299条の1項が,前段で証人の場合を書いて,後段で証拠書類の場合を書いているわけですけれども,先ほどから御指摘があったように,証人尋問のときは秘匿するけれども,それが紙に書いてあったら分かってしまうというのは制度として不完全ですので,そこは当然手当てが要るのだろうと思います。   それから,検討課題のその他の関係で,今,神幹事がおっしゃったこととの関係で申し上げると,一定の場合には被告人が氏名等の情報を知らないと防御に支障が生じる場合があり得るというのは,そのとおりだと思いますし,そのときは当然知らせるのだと思うのですが,それを弁護人の判断で知らせるかどうかを,例えば防御に実質的な不利益があるかどうかといった条件付きで義務付けるというやり方はどうなのかなと思っています。   というのは,現行の刑訴法299条の2にいわゆる秘匿要請という規定があって,その制度との棲み分けを考える必要があるのではないかと思います。仮に弁護人にのみ知らせるという制度を検討するのであれば,むしろ実質的に不利益があるかどうかも含めて判断して,不利益がないという場合には,つまり,被告人自身がその情報を知らなければいけないという場合かどうかを判断した上で,弁護人限りで知らせるという判断をするという制度にした方がいいのではないかなという感じがしております。 ○酒巻委員 言いたかったことはほとんど全部上冨幹事が言ってくださったのですけれども,その他というところに出ている,弁護人を信頼して,弁護人には基本的に知らせるけれども,被告人には知らせないというのは,あり得る制度設計ではあると思います。しかし,この制度は,弁護人から被告人に知らせたばかりに大変なことになってしまったという事態になったら嫌だなと思う人がいるだろう,その人たちも安心してもらうというところがありますので。   私は弁護士をやったことはありませんが,弁護人と被告人との間の信頼関係が弁護活動の基本だということはよく分かっているつもりです。一方で,真面目な弁護士さんが,現行法にもあるとおりこの資料は被告人には見せないように弁護人限りでとの配慮をお願いしますという制度もあるのですけれども,そういう制度の下でも,被告人との信頼関係が破綻してしまうことを危惧するとか,あるいは,被告人から頼まれてやむなくという立場に追い込まれてしまって,見せてしまい,それが被告人から外部にと,そういう残念なことがあるのではないかと想像するのです。   むしろ今検討している制度は,裁判所には基本的に知らせるけれども,場合によっては弁護士さんにも,よほどの理由があるときには知らせないこととする。もちろん防御の準備に必要なときは知らせるのですけれども。支障がないときには知らせない,そういう法的枠組みがあるということは,むしろ弁護士さんにとってもそういう枠があるのだからということを被告人に説明して,被告人に「見せてくれ」と言われても,「そこは駄目よ」と言いやすくなるのではないか。ちょっと考えすぎかもしれませんけれども,そういう制度的枠組があることが多くの関係者の利益になるのではないかと思います。理想型かもしれませんが,そういう見方もできるのではないか。 ○神幹事 全ての弁護人ではないけれども,そういう一部の弁護人がいることに対して,そういうことが起こったら困るという,その趣旨は分かりますが,ここは正に(5)の3番目の弁護人が条件に違反しないことの担保措置としてどういうことを考えるのかということになろうかと思うのです。 ○酒巻委員 その担保措置が懲戒請求とかいろいろあるのですけれども,そのようなことをしたら,弁護士倫理違反で今後直ちに弁護士ができなくなるぐらいの担保措置があれば世間も納得するかもしれないと思っている人もいるかもしれない。しかし,そういうのでやるよりは,枠組みとして,基本は弁護士の先生にもこういう場合は知らせないとした方がいろいろな意味でいいような気もするのです。 ○神幹事 私が言おうとしたことを酒巻委員におっしゃっていただいたのですが,措置請求のようなものを作って懲戒請求するということはあり得ると思います。ただ,それだけでは恐らく足りないとおっしゃるかもしれないので,そこは刑事弁護の研修とか倫理研修を徹底していくという形で弁護士会としては心掛けていくので,弁護人に知らせない場合があり得るということだけはやめていただきたいというのが私の意見であります。 ○川端分科会長 御意見としては分かりました。 ○坂口幹事 私が申し上げたかったことを,今,酒巻委員がほとんどおっしゃってくださいましたけれども,現実問題として,一部かもしれませんけれども,組織犯罪のようなケースにおいてそういうケースは起こっているわけです。この制度は組織犯罪のようなケースにおいても,証人に安心して公判に出てきてもらおうというための制度だと理解していますが,そういう人に対して,「弁護人には知らせますけれども,弁護人は被告人には知らせませんから」と説明したところで,そういう方々が安心してくださるかというと,全くの絵空事と言ってはちょっと失礼ですけれども,全然ワークしないと思います。いかなる制裁・担保措置を作ってみたところで,仮にそれが懲戒であったとしても,命をかけて公判に出てこようと,命をかけて公判に出てもらおうとする証人に対して,「懲戒がありますから」と言ってみたところで何の役に立つのかと甚だ疑問です。 ○川端分科会長 この問題については大体そういうことだろうと思いますので,次に「2 公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」についての議論に移りたいと思います。   まずは,配布資料の内容について事務当局から御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 資料12の6ページ目,「2 公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」を御覧ください。これまでの資料からの主な変更点を御説明いたします。   「考えられる制度の概要」の方は変更しておりません。   「検討課題」の「(2)秘匿を認める対象者及び要件」の一つ目の「○」の「対象者の範囲」について,特別部会で,証拠書類等に氏名が記載されている者のほかに,証言において氏名が述べられる者についても対象とするのかしないのかを検討すべきではないかという御指摘があったことを踏まえ,その旨を検討課題として追加しております。   説明は以上でございます。 ○川端分科会長 今,御説明を受けたわけですが,この点について御意見,御質問がございましたら,御発言をお願いいたします。 ○髙橋幹事 証拠書類等に氏名が記載されている者のほか,証言において氏名が述べられる者も対象とするかという点については,この人たちも保護の対象にしないとバランスを欠くと思いますので,入れた方がいいと思います。 ○川端分科会長 ほかにいかがでしょうか。 ○神幹事 この関係についても,現在,弁護人の同意を得て法廷で名前を明らかにしないという運用がされております。私どもとすれば,そのような対処で足りるのではないか,制度化までは必要ないのではないかと考えています。元々,証人が公開の法廷で顕名で証言を行うことが証言の信用性の担保などになっていて,安易に匿名の証言を認めることは許すべきではないと思います。   それから,2の②についても,「証人等の名誉又は社会生活上の平穏が著しく害されるおそれ」というのは極めて漠然とした要件でありますので,このようなものについては反対という形になろうかと思います。 ○上冨幹事 証人の氏名のほかに,証拠書類等に氏名が記載されている人として,どこまでこれを含めるかということについては,具体的な場面を考えながら更に検討が必要なのかなと思います。例えば,証人と同じように供述調書の供述者として名前が出てくる人と,別の人の供述調書とか捜査報告書の中に名前が出てくる人もいて,それぞれ利益状況は違ってくる可能性があるので,具体的にそこを更に検討していって,どこまでをこの制度に取り込むのが制度の趣旨とか必要性から見て重要なのかということを整理していく必要があろうかと思っています。   あと,この種の制度自体が必要であろうということは認められるのだろうと思いますし,防御という観点からすれば,この問題は公開の法廷だけの秘匿の問題ですので,防御との関係で利益が衝突することは特にないのだろうと思います。   公開の法廷で名前を明らかにして証言することが信用性担保になるのかどうかというのは見解の分かれるところでしょうが,本来信用性というのは宣誓と偽証の制裁で担保されていると考えるのではないかと思います。 ○川端分科会長 ほかにいかがでしょうか。 ○坂口幹事 これも実務的な立場からでありますけれども,証人の名誉の問題というのは小さくない問題だと思っておりまして,前にもあったかもしれませんけれども,例えば,ラブホテルとか,あるいは,風俗店のようなところが犯罪の現場になってしまう場合が現に多く,そういうところに居合わせてしまった人から事情をお聞きすることも捜査の中でよくあるのですけれども,皆さん「勘弁してください」ということで協力していただけない場合が非常に多いのです。そういう現実も踏まえますと,こういったものについてもこの制度の射程がきちんと及んでいるということは,非常に意味も価値もあることだと思います。 ○川端分科会長 今の点は,それぞれ制度の捉え方に関して見解の対立がある場面だと思いますので,検討事項として更に考えさせていただきたいと思います。   それでは,次の「第4 証人の安全の保護」についての議論に移りたいと思います。   まず,配布資料について事務当局から御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 それでは,資料12の7ページ目,「第4 証人の安全の保護」を御覧ください。これまでの資料からの主な変更点を御説明いたします。   「考えられる制度の概要」は変更しておりません。   「検討課題」につきましては,「3 その他」のところになりますけれども,この分科会で,諸外国でどのような証人の保護措置が採られているのかを踏まえた議論を行ってはどうかという御指摘があったことを踏まえ,二つ目の「○」のところに,「諸外国で行われている証人保護措置(その内容,法的根拠,他制度との調整,所管・実施機関,人員・予算など)について,我が国における参考とすべきものがあるか」という点を追加しております。   この点に関して,事務当局として取りあえず把握しているところを御紹介いたしますと,例えば,アメリカにおいては,組織的犯罪やその他の重大犯罪の証人やその親族等に対して加害行為などがなされるおそれがある場合に,これらの者に新しい身分を確立するための書類や住居,引っ越し費用,生活費の提供や就職の支援などの措置を講じることができるものとされており,他の政府機関はこれに協力するものとされております。ドイツにおいては,証言によって,証人やその親族等の生命・身体・財産等に危険が及ぶおそれがある場合に,一時的にその氏名等の身分関係を変える制度や,住居を移転させる制度があります。イタリアにおいては,自らが組織犯罪など一定の犯罪を犯した改悛者,司法協力者や,それ以外の特殊な証人に対して,差し迫った深刻な危険が生じていると判断された場合に,これらの者は身分の改変,居住地の変更,継続的な金銭的援助等の保護措置を受けることができるとされているところと承知しております。   ほかの国でも証人保護制度があるようですが,今申し上げた各国も含めて,制度の詳細,例えば,どのような手順で身分関係や住居を変更しているのか,どのような機関が所管して実施しているのか,その人員や予算などについては把握できておりませんし,ほかの制度との調整という点については,そもそも前提となる身分関係の諸制度も異なると思われますので,我が国において実施可能で,参考となるものがあるかどうかというのは,事務当局としては把握していないところでございます。   説明は以上です。 ○川端分科会長 今,事務当局から御説明がございましたように,ほかの制度との関わりがかなり深いものがございまして,果たして特別部会でこの問題を決めることができるかどうかという点にも関わってくると思いますので,御意見をお願いいたします。 ○坂口幹事 分科会長御指摘の点は私も理解します。現在の特別部会の人的な資源だけでこの問題を解決・設計することが適当かという問題はあろうかと思いますが,完全な制度設計には至らないまでも,この部会においても,この点について可能な範囲内での課題の整理とか方向性とか,そういう御検討を続けていただければと切にお願いする次第であります。   この部会が始まりましてしばらくした頃に福岡の視察に多くの委員,幹事の方が行かれたと思いますけれども,あの際,現地の検察官あるいは警察官からこのような制度の導入について強い要望があったのを御記憶いただいていると思います。「新時代の刑事司法制度」と銘打つのであれば,正にこのような制度は主要な検討課題の一つであろうと思われます。   あの視察に行った後,更に福岡では極めて凶悪な組織犯罪が残念ながら続発しておりまして,その後,勇気と行動を持って犯罪に立ち向かおうとした市民が顔を切られるという事件すら続発したところであります。そういったものに対処するためにも,こういった制度は是非御検討をお願いできればと思います。 ○川端分科会長 今の点ですが,具体的にこの辺まではできそうだというような案がございましたら,御提示していただいて,それを特別部会で検討するという形に持っていきたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○坂口幹事 例えば,今,事務当局からも他制度との調整が必要となろうとありまして,それはそのとおりだと思いますので,そうであれば他の制度,例えば行政上のいろいろな法規,あるいは,民事上の契約関係,債権債務関係の法規,そういったことについて専門的な知見を有している方においでいただいて,こういった制度を採った場合にどういう問題が起こり得るのか,どういう点について整理をつけなければならないのかといった論点だけでもお聴きする,それをこの部会で共有し,この部会の取りまとめの中にそういったものを加えていくという作業だけでもできるのではないかと思います。 ○川端分科会長 この点,検討させていただきます。 ○坂口幹事 是非よろしくお願いいたします。 ○宇藤幹事 この論点なのですけれども,私自身も制度としては必要なものだろうと思っております。福岡も視察いたしましたし,その際こういう制度の必要性は十分あると考えました。日本国内で,どういうふうな形で実現するのかというのは難しい課題なのだけれども,必要性はあるだろうと考えているというところでは恐らく同じだと思います。   ただし,先ほど分科会長からも御紹介がありましたとおり,このペーパーでいうと2のところに掲げられているような様々な検討課題があります。一方で,恐らくこの部会で取り扱えるものというのは,刑事手続,刑法等刑事関連に限られますので,どうしても検討は断片的なものに留まらざるを得ません。しかし,それでは,全体としてワークする制度を検討することはできません。それゆえ,課題として確認するにとどめ,検討は今後に譲るのが適切であると思います。   この部会で各方面の方々のヒアリング等を行い,論点だけでも取りまとめに加えるのが適切であるとおっしゃっておられましたし,可能であればそういうこともあるかなと思うのですけれども,継続的に意見をすり合わせるということでないと,実際にワークする制度にはならないでしょうから,今回の部会との関係では,検討課題ということで,今後適切な機会を設けて検討するということの方がよろしいのではないかと考えております。 ○川端分科会長 いろいろな可能性を事務当局と一緒に検討した上で,改めて議論させていただきたいと思いますので,この案件はこれで終えることにしますが,よろしいでしょうか。   予定した流れからしますと,区切りがちょうどいいところでございますので,ここで10分ほど休憩を取りたいと思います。            (休     憩) ○川端分科会長 再開いたします。   次に,「証拠開示制度」についての議論に進みたいと思います。   この検討事項については,神幹事に代わりまして小野委員に,坂口幹事に代わりまして露木幹事に御参加いただきます。   この検討事項に関しては,「第1 証拠の一覧表の交付」,「第2 公判前整理手続の請求権」,「第3 その他(類型証拠開示の対象拡大)」の各検討項目について順次,検討を進めていくことにしたいと思います。   まずは「第1 証拠の一覧表の交付」について,配布資料の内容を事務当局から説明していただきます。 ○保坂幹事 それでは,資料13の1ページ目,「第1 証拠の一覧表の交付」を御覧ください。本日は,各制度概要案と検討課題全般について御検討いただきたいと思いますが,これまでの資料からの主な変更点を御説明いたします。   まず,「考えられる制度の概要」についてです。証拠の一覧表の交付については,部会において,段階的証拠開示の趣旨・枠組みを前提として,どの段階で交付することとするのかを検討すべきであるとの御指摘がなされたことを踏まえて,「考えられる制度の概要」において,「A案」として,検察官請求証拠の開示後に交付を請求できるものとするというものと,「B案」として,被告人側が予定主張を明示した後に交付を請求することができるものとするという,二案を掲げております。   次に,「検討課題」についてです。「1 趣旨等」においては,この制度を採用する場合の中核的な趣旨として,「現行の証拠開示制度の枠組みの下で,証拠開示請求をするに当たっての『手がかり』として,検察官が保管する証拠の標目の一覧表を交付することによって,証拠開示請求を円滑・迅速ならしめるもの」としておりますけれども,これでよろしいかを御検討いただきたいと思います。   また,次のページの「3 請求・交付の時期」については,一覧表を交付する時期として,制度概要のA案とB案のいずれが適切かを御検討いただく際の視点といたしまして,一つ目は「制度の趣旨との関係」,次に,「段階的証拠開示制度との整合性」,すなわち,括弧内に書いてありますけれども,証拠の一覧表の交付によって,被告人側が主張を明示するインセンティブが減殺されるおそれがないかどうか,証拠と矛盾しない虚偽の弁解を作出するおそれがないかどうか,さらに,三つ目の点ですけれども,「手続の円滑な進行」,すなわち,A案とする場合に,多くの証拠の一覧表が作成・交付されないと,類型証拠開示請求の段階から証拠意見の表明や主張明示の段階に移らないことによる手続遅延のおそれがないかどうか,他方,B案とする場合に,一覧表の交付後に再び類型証拠開示請求が行われることによる手続遅延のおそれがないかどうかといった点を検討課題に追加しております。   次に,「4 証拠の一覧表の記載事項」については,一つ目の「○」とは別の観点のものとして,二つ目の「○」を加えておりますが,「記載事項が多くなることによって作成作業が多大なものとなり,手続が遅延するおそれがないか」という点を追加しております。   最後に,「5 弊害への対応」においては,不記載とすることができる事由として,どのようなものが考えられるかをより具体的に御検討いただくために,これまでの資料と同様のものを掲げたほか,「その他の弊害」として,そのほかにないのかという点を検討項目に加えております。   また,弊害事由に該当して標目を記載しない場合の不記載の仕方として,「標目の全体を記載しないことができるものとするか,弊害のある部分を記載しないことができるものとするか」という点を追加しております。具体的に言いますと,例えば,供述調書を標目として一覧表に記載する場合に,供述人の氏名を知られることにより報復を受けるおそれがあるときに,記載事項の全体,例えば,供述調書という文書の標目や作成年月日,作成者名及び供述者名を全て記載しないことにするか,それとも,文書の標目や作成年月日等は記載して,弊害のある供述者名のみを記載しないということにするかを御検討いただきたいという趣旨でございます。   御説明は以上です。 ○川端分科会長 それでは,この検討項目については,まず相互に関連すると思われる「1 趣旨等」から「3 請求・交付の時期」までについて併せて議論を行った後,「4 証拠の一覧表の記載事項」と「5 弊害への対応」について併せて議論を行いたいと思います。   それでは,「1 趣旨等」から「3 請求・交付の時期」までについて,いずれについてでも結構ですので,御意見,御質問のある方は御発言をお願いいたします。 ○酒巻委員 これは私の専門なので日夜考え続けておるのですが,まず,仮に一覧表を交付する制度がめでたくできたときを考えて,それを刑事訴訟法の授業で説明するとすれば,その趣旨は何か。部会でその趣旨自体が確定してはいないかもしれませんけれども,資料に記載されているように,基本構想は現行法の基本枠組みは崩さないということですから,その中で理論的に位置付けるとすれば,今の制度の使い勝手をよろしくする。使う方は弁護人が主であると思いますので,弁護人が現行法の証拠開示請求をする手掛かりとして一覧表があれば便利であろうと,そういう趣旨のものになると思います。   それによって,今,類型証拠開示請求や主張関連証拠開示請求といろいろですけれども,請求の前提となる,どのような証拠があるのかという基本情報をリストの形で提示する,そして,請求権の行使をより迅速・円滑ならしめる,こういう趣旨であれば,現行法の基本構造とぎりぎり調整できるのではないかと考えているところであります。それ以上のものになりますと,基本構造と衝突せざるを得なくなって,私も法学者としてはなかなか説明は難しいかなと思っているところです。そうしますと,対象事件はもちろん,多くの事件では今のままでも普通にできる場合もたくさんあるでしょうから,どうしてもリストがないと困る場合に請求していただいて,そういう場合に限るとする。   問題は,一番悩ましいのは,3番目のそういうリストが,現行法の基本枠組みと矛盾しないで提出される時期としてはどちらがいいかということなのですけれども,使い勝手のことを考えると,弁護士の先生にどちらがいいかと聞いたら,多分それは早い方がいいということになるのだろうと思うのです。ただ,早い方がいいということになると,ここにも書いてあるとおり,段階的な構造との整合性が問題にならざるを得ないでしょう。   一方で,B案を採ると,現在もう既に主張を明示していただいて,更にそれで何か役に立つものがないか探してもらうために裁判所に頼んで作ってもらうリストの制度もあるわけです。それとは別のリストとして出てくるのだろうけれども,その相互関係がどうなのだろうという点をしかと整理しなければいけないでしょう。B案を採った場合,現行法のリストの方はまた別に,別個独自な意味を持ってあるのだろうと私は理解しています。   あとは,B案のときの,やはりこういうのが後から出てきて,こういうものもあったかというので,また類型証拠開示の方に戻ってしまうという場面もきっとあるだろうなと思いまして,結局どちらも難点はある。ただ,リストを作って出すのならA案かB案かのどちらかでしょうし,どちらについても利害得失はあるので,やってみないと分からない。しかし,議論の素材としてはこういう問題があるということを部会にきちんと明確にお示しする必要がある。   リストそのものについて酒巻個人意見はまだ未定ということです。 ○小野委員 未定とおっしゃいましたが,私は勝手に,前向きな御検討をしていただいているかなと受け止めております。今,酒巻委員がおっしゃったように,やはり手掛かりということで中核的な趣旨は考えればいいのだろうと思っています。この手掛かりとしては,もちろん内容が出てくるわけではなく,どういう証拠なのか,証拠の作成日とか作成者といったようなものがあるということですから,そういう意味では現行法の類型証拠開示の仕組みが十分に機能しない場面があるときに,リストが現行法のこの仕組みが十全に機能するための道具になり得るのではないかなと考えています。   類型証拠開示のところで,証拠の存在をめぐって,あるいは,証拠の特定・識別事項をめぐって,いろいろ行ったり来たりというのが,弁護人と検察官の間で生ずることはままあることでありまして,その結果,類型証拠がきちんと出てこなかったり,あるいは,それに非常に時間が掛かるということも出てきてしまうことがある。そういう意味ではリストの交付があることによって,その手続もかなり円滑に進んでいくのではないかなと考えております。   そういうことでは,当然のことながら,いつかということになるとA案ということで考えざるを得ないだろうと思っています。B案の予定主張の明示というのも,どこまで行けば予定主張の明示と言えるのかという判断が難しい場面もあり得ると思いますので,この「予定主張の明示をした後」という書きぶりだと,かえってその辺がはっきりしない,あるいは,争いになってしまうのかなというおそれもあります。   これは,手掛かりということで考えれば,類型証拠を請求するための手掛かりということになるのだろうと思っております。酒巻委員もおっしゃったとおりですけれども,主張関連証拠開示まで行ったところでまたリストが新たに出てきて,「やはり類型証拠でこのようなものがあるのですね」みたいなことにもなりかねませんから,手続の遅延も招いてしまうのではないだろうか。そういうことで言えば,A案ということで考えることになるのだろうと思います。   それから,検討課題3の二つ目ですかね,「被告人側が主張を明示するインセンティブが減殺されるおそれ」,ここはどういう意味なのかよく分かりませんけれども,現状の運用では,現行法の主張明示は一応果たされていると理解をしておりまして,このリストが交付されることによって,これが減殺されるということはちょっと考えられないだろうと思います。段階的な開示構造ということでいうと,もちろん証拠の具体的な開示そのものは段階的な開示ということで,その仕組みそのものは特にリスト交付によって変更されるものではないだろうと考えておりますので,その辺は整合しているだろうと思っています。   それから,もう一つの「証拠と矛盾しない虚偽の弁解の作出」という点も,そもそもこういうこと自体が,現実的に客観的な証拠がいろいろあったところで,「虚偽の弁解の作出」ということがいろいろな場面で盛んに言われるわけですけれども,どれほどそういうことが現実にでき得るのか,作出し得るのかということを考えると,この想定というのは余り現実的ではないのだろうと実務的には考えておりますし,リストが交付されることによって,あれもこれもこう考えようというのは,それ自体としてはなかなか難しい,つまり,中身が分からない状態で何か作出できるかというと,ちょっとそれはないだろうとも考えております。そういうことで言えば,A案ということで十分に機能するものとしてできるのだろうと思っております。 ○髙橋幹事 小野委員の発言と大分かぶるのですが,まず趣旨に関しましては,事務当局の方で書いていただいた趣旨,つまり,「手がかり」としてこういうリスト開示の制度を作るということについては賛成です。   それから,請求・交付の時期については,私もA案の方が相当だと思います。この制度の趣旨からすると,証拠開示請求を円滑・迅速にならしめるための手掛かりとしてこういうものを設ける以上,類型証拠開示請求の前に弁護人にお渡しいただくのが良いと思います。むしろ,B案のような形で,主張明示の後にしたところで,やはりリストを見た上でこれも改めて類型証拠開示請求すべきだなと思って請求がなされると,かえって二度手間で手続が遅延するのではないかと思います。   それから,先ほど小野委員も言われていた「証拠と矛盾しない虚偽の弁解の作出」というのは,やはり証拠の中身を見てみないと,どれほど力がある弁護士でもそのような弁解はなかなか難しいかと思いますので,ここは一覧表をどういう記載事項にするかというところで,そういった弊害を生まないようにすればい良いのではないかと思っております。ということで,請求・交付の時期はA案が相当と思っております。 ○上冨幹事 検討課題2の対象事件についてですが,ここでは検察官の負担を考慮して事件を限定すべきかという形で取り上げられていますが,この点については,実際の作業の負担というか,作業量を考えた上で決めていくのだろうと思います。その意味では,この検討課題はやはり検討すべきテーマだと思います。実際に部会でもそういう御発言がありましたし,作業の負担という観点からすると,先ほどから出ている,いつ開示するのか,開示までにどのぐらいの時間的余裕があるのかという問題とか,あるいは,後ほど出てくる一覧表の記載事項をどの範囲にするのか,記載事項が多いのか少ないのか,その内容についてどのようなことを書くのかといったこと,全体としてそういう内容が決まってくると作業量が見えてくるという関係になるのでしょうから,そういったバランスも踏まえた上で引き続き検討していく必要があろうかと思います。 ○宇藤幹事 今,上冨幹事がおっしゃったように,対象事件については,実際に作業に当たられる検察官の負担というものを考慮せざるを得ないと思います。実際にこれをワークさせる制度にしなければいけませんので,そういうことを考えると過大な負担を負わせるものとなると難しいところがあるかもしれません。   あと,「3 請求・交付の時期」ですけれども,A案の方がよろしいかなという御意見が続きましたので,私自身の意見としてはまだ迷っているところはありますが,あえてB案にも支持すべき点のあることを指摘しておきます。   検討課題3の二つ目のところで出てきておりますインセンティブの点,あるいは,虚偽の弁解の点は,現行の証拠開示制度を段階的なものにしましょうというときに出てきたものかと思います。こういった理念を念頭に置いて,枠組みを崩さずにリストをどういうふうに位置付けるかということを考えますと,これは難しいところがあります。   確かにリストをどのように作るかということで,ここに掲げられている弊害を少なくする効果があるとは思うのですが,それでも役に立つリストを想定するというのですから,弊害が少なくなるといっても,限定的なものになるのではないでしょうか。 ○保坂幹事 小野委員の先ほどの御発言に関して一点だけ御質問させていただきたい点があります。先ほど,B案によった場合に,「予定主張の明示をした後に」という要件になっていると,予定主張を明示したかどうかの判断が難しいという点を一つのデメリットとして挙げられたかのようにお聞きしたのですが,そこで想定されている予定主張を明示したかどうかというのは,現行法の予定主張の明示とは別に,リストを請求するためだけの要件設定のようなものをイメージされた上で,それが難しいという趣旨なのか,そうでないにしても,リスト交付の要件とすること特有の,予定主張の明示がどの程度かどうかが難しくなるという要因がもしあるのであれば,それが何かを御説明いただけたらと思います。 ○小野委員 特にリストということで別のイメージを持ったわけではないのですけれども,要するに「争います」というのも予定主張の明示だということで良ければ,それはそれで良いのだと思うのです。ただ,裁判官によっては,更に「あれを言え,これを言え」みたいなことが結構あるものですから,そういう実務の実情を考えると,どの時点で「では,ここでリスト交付ね」と言うのかということが,ケース・バイ・ケースで,いろいろ区々になってしまうのではないかなと,そういう運用になりかねないのではないかなと,こういう意味です。 ○川端分科会長 ほかにいかがでしょうか。もう既に内容的には検討課題4の問題も出てきていますので,その点についてでも結構です。 ○小野委員 記載事項については,前のときにもちょっとお話しましたけれども,基本的には供述録取書なら供述録取書の作成日や供述者ということでよろしいのではないかと考えているわけです。そういう意味では,記載事項が特別多くなるのかということではないのだろうと思います。もちろん,私は検察官の実際の業務そのものを経験したことがないのですけれども,証拠管理という意味では,どういう証拠がここにこれだけあるという把握は当然しておられるのだろうと思いますので,リストを作る,交付するということによって,何か特別の作業が必要になってくるのかどうかについてはどうなのか,その辺,私としてはイメージがしにくい感じがしています。 ○上冨幹事 検討課題4の関係では,以前にも記載事項は一義的で裁量の余地の生じないものにした方がいいということは申し上げたことがあると思いますけれども,あわせて,新たな作業の負担が多くならないような仕組みである方が望ましいと思います。例えば,警察からの送致事件を考えるならば,現在,証拠金品総目録,あるいは,書類の目録といったものはあるわけです。そこに書いてある内容であれば,その正確性をチェックした上でリスト化するというのは,作業量としては最小限にとどめられると思いますけれども,そこから更に記載事項が増えていって,個々の証拠の内容を見ないと書けないような記載事項が含まれることになると,特に証拠の量が膨大な事件であれば,その負担というのは新たな作業として加わってくることになります。そういう意味では,形式的で裁量の余地のないものにするということと多分同じ方向で働く要素として,記載事項の問題についても負担を考えながら決めていく必要があるのではないかなと思います。 ○髙橋幹事 今の記載事項の点ですが,一義的で裁量の余地が働かないものだとすると,作成年月日,その証拠の種類,それから,供述者あるいは作成者,これらは入ってくるのかなと思うのです。   さらに,リストをもらえばどのような証拠か分かるという観点からすると,場合によっては供述事項というのですかね,あるいは,供述者の立場というのも必要になる場合があるのかなと思うのです。例えば,名前と作成年月日だけ書いてあっても,その人自体,何者なのか分からないような場合に何か書くということですが,しかし,そうすると,作業量は増えるし,一義的にそれが書けるか,例えば,目撃状況とか,更に被告人との関係とかいろいろその調書に書いてあるときに,何を書けばいいのか,いろいろ悩ましい問題も出てくるかなと思うのです。リストを求める側,あるいは,リストを作る側として,どのようなイメージを持って,あるいは,どういうのが相当かなと,その辺りはどうなのですかね。 ○上冨幹事 今の点で申し上げれば,例えば供述調書を例に挙げると,記載内容についてリストに書くということになると作業量は非常に増えると思います。対象事件をどうするかにもよるわけですけれども,請求があれば,具体的な証拠開示請求の有無にかかわらず,全ての手持ち証拠についてのリストを作るということになるわけですから,それぞれについて内容を把握しているかどうかとは別の問題として,把握している内容をリスト化するという作業は当然生じると思います。   それから,供述調書の中には一つのことだけしか書いてないわけではないので,複数のことが書いてある場合にそれをどこまで書くか,例えば「何々等」と書いたときに,どの部分を明示的にして,どこを「等」にするかというところで,そこに裁量の余地が生じるわけですけれども,逆にそれは,リストを見た側とすれば,それがミスリーディングにならないのかという問題が生じ得ると思います。以前にも申し上げましたけれども,手掛かりとしてのリストそのものの内容の完全性のようなものが,証拠開示の本体と別個に議論になるようなことはできるだけ避けるべきだと思いますので,書証であればその内容にわたるようなことをリスト化するというのは考えにくいのではないかと思います。   加えて言えば,例えば証拠物についても,採取の経緯のようなものは証拠物そのものからは分からないものなわけですから,証拠物のリストとして採取の経緯のようなものを書くというのは,証拠物の特定のためのリストとしての要素を超えてしまうのではないかなとイメージしています。 ○川端分科会長 髙橋幹事から,請求する側の立場はどうかという御質問がございましたので,小野委員,お願いします。 ○小野委員 供述調書ということで言えば,それが供述調書であるのかどうかということ,それから,供述者が誰なのかということと作成日,これでよろしいのではないかなと私どもでは考えています。   それから,例えば,押収したものがあるとして,これは前にもちょっとお話したかもしれませんけれども,「何とかと題するファイル」というのが仮にあったとして,これがどこから押収されたのかということは,会社で言えば「何々係の机」とか,そういうものは多分要るのだろうと思います。そうしないと,例えばファイルならファイルということで,それがどこのファイルだか全然分からないということは,そもそも一覧リストとしては考えにくいのではないかなと思っています。   それから,例えば,鑑定なら鑑定とした場合に,何を鑑定したのかということは分かっているのだろうと思うのです。要するに,どこそこの例えば唾液の鑑定とか,そういう標目になるのではないかなとイメージしているのですけれども。 ○上冨幹事 証拠物の関係については,そのような御要望があるのだろうなとは思うのですが,どこから押収したかというのは証拠物の情報ではないわけです。押収関連書類には書いてありますけれども,それがどうして証拠物のリストに載ってくるのかというのはもう一つ分かりにくい感じがします。   それから,鑑定書などについても,何が書いてあるかが分かるかどうかではなくて,分かるかどうかと言えば供述調書でも分かるのですけれども,そうではなくて,リストを作る目的と作業量を勘案したときに,どこまでのことがそのリストに載っていれば足りるのかという問題ですので,鑑定についても基本的には供述調書と同じような位置付けで考えるのが良いのではないかなと思っています。 ○川端分科会長 では,露木幹事,お願いします。 ○露木幹事 先ほど上冨幹事から送致記録に添付されている目録について言及がございましたので,どういうものかということをちょっと御紹介したいと思います。書類の目録ですと,供述調書であれば,小野委員がおっしゃったように,「供述調書」と標目欄に記載をして,作成年月日と作成者と供述者,あとページ数が何ページということを記載しているということですので,小野委員のおっしゃったことは大体入っていると思います。   ただ,捜査報告書については,標目は「捜査報告書」とだけしか記載がなく,あとは,作成年月日と作成者です。したがって,その記載のみから,先ほどおっしゃっているような手掛かりが得られるかどうかということは必ずしもこれから分からない場合があるのかもしれません。ただ,これは飽くまで私どもが送致をする記録のインデックスにすぎませんので,インデックスとしてはこれで十分である,作成年月日と作成者とページ数の記載がございますので,ものは特定できるわけです。ただ,中身については正にその証拠を見てくださいということですので,中身にわたる記載はないというものでございます。 ○川端分科会長 検討事項の5も含めて御発言いただいて結構ですので,お願いいたします。 ○酒巻委員 先ほど髙橋幹事がおっしゃったリストの形態について,恐らく皆さんの意見が一致している手掛かりという趣旨から言えば,おっしゃった後者はそれをちょっと踏み越えていると思うのです。ぴったり重なるかどうか分からないけれども,現行法に既に存在している,裁判官がまず証拠提示命令を出すかどうかの前提として検察官に命じて作ってもらうリストは,そのぐらい具体性のあるものでないと話にならないと思うのですけれども,それはそれとしてあるけれども,今ここで導入を検討しているリストは,そういうものではあり得ないと思うのです,制度趣旨から言うと。   そうすると,供述調書については小野委員もおっしゃったレベルでいいのだろうけれども,ほかの証拠物とかいろいろなものについては,特に捜査報告書などは,客観的な形で少なくとも何があるかだけはリストで分かるものとする。その先のどう書くかというのはまたいろいろ工夫しなければいけないと思いますけれども,制度の趣旨に立ち返ると,それ以上中身に立ち入ったものをいちいち作るということになると,もちろん作業量の問題もありますが,先ほど宇藤幹事が言った基本的な今のシステムの構造とこれを支える理念に抵触することになって,事前全面開示と余り変わらなくなってくる可能性がある,そういう批判が出てくるおそれがある。   それから,先ほどの時期の関係は,これは理念というよりは作業との関係なのですけれども,そうは言っても,警察から送られたリストを利用しつつ,ここで言うリストを作るのに相当時間が掛かるという話になると,最初の段階で手続の遅延を来すのではないかという要素と,でも,皆さんかなり多数説は,やはり早い方がいいだろうという御意見だったのですけれども,その辺は作って動かしてみないと分からないですけれども,やってみて大変なことになってしまったら批判されますから,そこはゆっくり落ち着いて考えて,時期との関係も作業量との関係も相関するということは,実務的には考えないといけないと思います。   あと,僕が弁護人だったら,そういう立派なリストを頂けると,とりあえず全部見たくなるので,いっぱい開示請求するでしょうね。頭使わず楽ですからね。それはそれでしばらくはそういうことで遅れることはあるのかもしれません。しかし構造的に公判前整理手続の争点整理と違う方向に話が進んでしまうような設計だけはやめないといけない,これも基本構想で一致していることだと思います。 ○小野委員 リスト交付というのは,弁護側がリストを交付してくださいと請求したときになるわけですから,かなり多数の事件では,もちろんそういう制度があると使いたがるという,確かにそういう側面はあるかもしれませんけれども,基本的な自白事件で情状をどうするこうするというときに,現状で証拠を開示されているところで十分にできるという事件は結構あるわけで,果たしていちいちリスト交付みたいなことになるのかなとも思っています。   それから,弊害のことについては,確かに弊害が起こり得るのだろうと思います。例えば誰それさんから調書をいつから取っていたということが分かってしまうのはまずいというようなケースがあるかもしれませんし,あるいは,誰それさんというのがここで登場するのがまずいというケースもあり得るのかもしれません。そういう意味では,そういうのは一切書かないというものではなくて,一応リストとしては存在して,ここはマスキングするということはあり得るのだろうと思います。それで最終的な証拠開示のところでもめて裁定までいくということはもちろんあるとしても,そういった弊害はあり得るということにはなるのではないかなと,それに対する何らかの措置というのもあり得るのかなと思っています。 ○露木幹事 弊害の問題ですけれども,特に捜査報告書ですと,多くの目撃者がおられる場合にその氏名などが全て列挙されているというものもあるわけです。ただ,結果的に目撃者の目撃内容が不十分で調書をとるには値しないということが多々あるわけです。そういう目撃者の方の氏名が明らかになることによって,その人が捜査にあたかも協力したということが相手方に推知されると報復の危険が生ずる,あるいは,そういう不安を持つ方が多数いらっしゃる,ということですと,以後の捜査協力の確保にも支障が出てくるということが,捜査報告書については特に顕著であろうと思います。ですので,弊害というのは,小野委員がお考えになっている以上に,私どもとしてはかなり心配している部分があるということを申し上げたいと思います。   あと,マスキングで足りるのではないかというお話があったのですけれども,例えば暴力団の拳銃の事件などの場合によくあるのですけれども,その拳銃を隠し持っていることを知っている者が非常に限られていて,その者が捜査に協力して報告書なり調書なりを作成して,それが証拠になっているということもあるわけです。ただ,実際には別の証拠によって公判請求されている,そこが直接の証明の根拠になるというときに,供述調書というものが存在しており,その供述調書というものの標目は開示されて,供述者のところだけマスキングされているということになりますと,被疑者あるいは組織側から見れば,これをしゃべったのはこいつに違いないということが特定されてしまうようなケースもあるのです。そういう場合には「供述調書」という証拠の標目自体も秘匿するということが必要になってくるケースはあるわけです。ですから,部分的なマスキングだけで対処できるものでは多分ないだろうと私どもは思っております。 ○上冨幹事 弊害の点について一点だけ申し上げます。この資料に挙げられている事由がそれぞれ具体的に弊害として考えられるのはそのとおりだろうと思いますので,これらについて認める方向での制度を検討していくべきだろうと思います。その中で,その他の弊害というのがありますけれども,その他というのはどういうものがあるかと考えてみると,例えば捜査中の余罪で,まだ捜査が進んでいるとか,あるいは,その事件の関係者,まだ逃げている共犯者についての捜査状況が載っているものがあるときに,それがリストの交付の段階で明らかになると,そちらの方の捜査に支障を生じるということが一つは考えられるかなと思います。 ○宇藤幹事 私の方からも弊害について述べます。まずは二つ目の「○」の方からお話をさせていただきます。基本的には弊害との関係で,具体的に何をマスキング等しなければいけないかということを個別に判断するというのが出発点なのであろうと思います。その点は,小野委員が先ほど言われたところはそのとおりなのでしょうが,中には全体をマスキングしないと弊害が取り除けないというものも出てくるだろうと思います。それは,初めから全体をというのではなくて,個別に考えて積み上げていった結果,やはりこれは全体をマスキングしないとまずいぞということはあるということです。   したがって,書き方としては,二択に書いてありますけれども,後の方の個別に考えていくということと前の方の話は必ずしも矛盾しないと考えております。ただし,やるのはマスキングまでで,マスキングして全部を分からないようにするのだから,標目から削除いたしましょうというところまでは少しやりすぎかなと思います。ここは隠しているのですというところは出すことになるのではないかと現在は考えています。   あと,「○」の上の方なのですけれども,弊害の中身を考えてみますと,ここでの弊害の中身というのは恐らく証拠開示をしたときの弊害とさほど距離がないということになるかもしれません。具体的には,証拠開示をして,その結果として起こってくる弊害と類似のものということを考えているのであろうと思います。そうであるとすれば,少なくとも上三つの話は適切かな思いますが,その他の弊害というものの中に,先ほど上冨幹事が言われたようなものも含めて適切かは,現時点ではまだ私はよく分からないところがございます。 ○酒巻委員 弊害の話ですけれども,私が想定したのは,リストはリストですから,中身そのものから出てくる弊害と別の弊害があるのだろうと思います。それがその他の弊害であって,その他の典型は正に上冨幹事が言ったように,こういう人が捜査のターゲットというか,進行中の全然まだ表に出ていない捜査が関連事件として行われている,しかし,そういうことは今問題になっている事件と共通しているところがあって,進行中のまだ表に出ていない捜査の状況が,そのリストから,誰が調べられているかとか,どういう調書があるかとか,捜査報告書があるかとかというところが知られるというのはやはり考えなければいけないことではあると思います。   ただ,そういうのはそれぞれ個別具体的なものだから,リストを作る方の検察官が考えて,対処方法は,宇藤幹事が言ったとおり,よほど極限的な場合は全体が相当でないかもしれませんけれども,多くはそれぞれの弊害の性質によってブロックの仕方はいろいろ考えられるだろうと思います。 ○川端分科会長 今の点はリストそれ自体から分かり得る内容についての問題ですよね。 ○宇藤幹事 そうですね。 ○川端分科会長 ほかにいかがでしょうか。今の弊害の点に関して更に何かございますか。 ○露木幹事 ほとんど出尽くしているかなと思いますけれども,例えばある事件,本件は入札妨害で,関連場所を捜索したらメモが出てきて,贈収賄に発展するというようなことはよくあることなのです。ですから,そこを捜索したことですとか,そこからメモが押収されたということが,次の捜査に展開すると,そこで証拠としての価値が出てくるわけです。ただ,入札妨害で捜索をしているものですから,事件の証拠のリストには理論上は載ってしまうということが生じ得ます。そういうものは開示をすることによる弊害ということになりますので,実際問題としては起こり得ることだろうと思います。   それから,先ほどの私の言い方がちょっと不十分であったかもしれませんけれども,標目自体をマスキングするというのは,要するにこのリストに載せないという意味で申し上げたものでして,書類目録の中に黒く塗られているけれども,何かあるのだなということが公になるだけで,あいつがしゃべったなということが推知されてしまうというケースが暴力団の場合などにはあるということであります。 ○川端分科会長 ほかに何かございますでしょうか。 ○小野委員 今の最後の点なのですが,例えば証拠の標目とか供述者とか,それこそ書いてあるけれども,全部黒くなっている,何があるか全然分からないと,そういうマスキングもあり得るのかもしれません。そこからは,誰それがこう言っているとか,こういうことがあるとかいうことは全然分かりませんが,証拠は何かあるということは分かる。それはリストに載せないということとは違うのだろうという意味で理解しているわけです。 ○川端分科会長 そうしますと,マスキングの問題はどうなるわけでしょうか。 ○小野委員 マスキングにはいろいろマスキングの箇所があり得ると思うのです。ですから,場合によっては,供述者だけのマスキングもあるかもしれないし,併せて時期の問題もあるかもしれないし,「供述調書」という標目のマスキングももしかしたらあり得るのかもしれないということで申し上げているわけです。では,黒くなってしまっているものは全部リストから外してしまえというのとはちょっと違うのだろうと思います。 ○川端分科会長 今の点について,ほかに御意見がございますでしょうか。   ほかになければ,一覧表の交付についての議論はここで終えさせていただきたいと思います。 ○酒巻委員 もう一つだけ補足です。もちろん一通り議論はされたのですけれども,趣旨は大体一致していて,結局,一覧表と言われているリストをどう書くのかというところが,これも抽象的にはある程度合意ができているような気がするのですけれども,実際にどうなるのかというのが今一つ分からないのです。そこで,部会の方に出す前に,一覧表を作る制度設計でこういうのがありますという前提としての一覧表は具体的に一体どのようなものか,それを作るにはどのくらい,これは実務的なことですけれども,現に働かなければいけない人が出てくるわけで,それとの兼ね合いでどういうものなのだというのをもうちょっと具体的に分科会レベルでも詰めるか,あるいは,どこかで詰めて,きちんと部会に御提案しないといけないと思います。一覧表の中身のイメージがずれたまま議論しても生産的ではないと思いますので,そこは事務当局等で御配慮いただければと思います。今日の議論でも既にちょっと違うイメージも出ていたようなところがありますし,一致しているところもあったように思いますので,よろしくお願いできればと思います。 ○川端分科会長 今の点は重要ですので,検討させていただいて,次の部会前の最後の回に詰めた議論をさせていただきます。 ○酒巻委員 やはり大事なところだと思いますので。 ○川端分科会長 それはよく理解できますので,そういう扱いでよろしいでしょうか。   それでは,本日の議論につきましては,特別部会への報告を念頭に置き,事務当局作成の配布資料に加筆しつつ整理をさせていただきます。   次回は,「証拠開示制度」のうち本日検討できなかった検討項目について議論を行った後,「自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方」,これについて議論を行いたいと思います。具体的な議事次第につきましては,更に検討させていただいて,事務当局を通じて追って連絡させていただきたいと思います。   それでは,これにて本日の議事を終了したいと思います。   なお,本日の会議につきましても,特に公表に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきます。   また,議事録ができるまでの暫定的なものとして,事務当局において本日の議論の概要をまとめて,全委員・幹事に送付していただくことといたします。   次回の日程でございますが,10月1日火曜日,午前10時から午後零時30分までを予定しております。場所につきましては,追って御連絡させていただきます。   それでは,本日はこれで終わりたいと思います。どうもありがとうございました。 -了-